コルベールとキュルケの手引きにより脱出したアイナ達。
アイナ達はシャルロットの救出へと向かう。
第三十八話 シャルロットを救え!アーハンブラ城の戦い!
城から脱出したアイナ達を、森の中でシエスタとモンモランシー、イルククゥが迎える。
そこで、
「それにしても、どうして私たちが捕まってるって、分かったの?」
ルイズが疑問を口にする。
「そ、それは~、その~・・・・」
イルククゥの言葉は歯切れが悪い。
「なあ、イルククゥよ」
デルフリンガーが喋りだす。
「主人から正体を明かすなって言われてるんだろうが、そろそろいいんじゃねえか?お前さんが言わねえなら、俺がバラしちまうぜ」
デルフリンガーがそう言うと、アイナがイルククゥに言った。
「デルフリンガーの言うとおりだね。イルククゥ」
続けてキュルケが言った。
「そうね。どの道このままシャルロットを助けに行く上で、あなたの正体を明かした方が後々やりやすいと思うわ」
「なんだ。嬢ちゃんたちは知ってたのか」
「当然よ。シャルロットの親友だもん」
キュルケが胸を張って言う。
「も~!お姉さまから喋っちゃダメっていわれてるのに~!」
イルククゥは、少々ヤケになった。
それと共にイルククゥの体が輝く。
そして、そこにいたのは、
「きゅいきゅい」
シャルロットの使い魔、シルフィードであった。
「シ、シルフィード!」
ルイズが思わず叫んだ。
「シルフィードは韻竜なの」
アイナが言った。
「韻竜?絶滅したんじゃなかったの!?」
「ここにいるんだから、絶滅してないんじゃない」
キュルケがそう言い。
「そういうことなのね」
シルフィードが頷いた。
アイナとキュルケ以外は呆気に取られていたが、すぐに気を取り直す。
そして、一つのつてを頼りにチクトンネ街へを足を向けた。
シャルロットは目を覚ますと、そこはとある部屋の一室だった。
「目覚めたか?」
声がするほうに顔を向けると、ビダーシャルがいた。
部屋の入り口付近に置かれたソファに座り、本を読んでいた。
咄嗟に杖を探すが、何処にも見当たらなかった。
こうなれば、抗う術は無い。
シャルロットは、ゆっくりとベッドから下りる。
「あなたは何者?」
「ネフテス老評議会議員・・・・・いや、今はただの“サハラ”のビダーシャルだな」
「ここは何処?」
「アーハンブラ城だ」
「母は?」
「隣の部屋だ。まだ目覚めていないが」
とりあえずホッとする。
「私たちを如何するつもり?」
「水の精霊の力で心を失ってもらう。その後は“守れ”と命令された」
シャルロットは一瞬で理解した。
ビダーシャルは、以前の母と同じようにするといっているのだ。
「今?」
「特殊な薬でな。調合に10日ほどかかる。それまで残された時間をせいぜい楽しむがいい」
「あなた達が、母を狂わせたあの薬を作ったの?」
ビダーシャルは頷いた。
「あれほどの持続性を持った薬は、お前たちでは調合できぬ。さて、お前には気の毒をするが、我もとらわれのようなものでな。これも“大いなる意思”の思し召しと思って、諦めるのだな」
シャルロットは立ち上がると、部屋の窓に近付いた。
眼下には何人もの武装した兵が見える。
この城に何人いるかは分からないが、杖が無い以上、母を連れての脱出は不可能だろう。
「私の使い魔は?」
「あの韻竜か?逃げた」
シルフィードの正体を見破っていたことにはシャルロットは驚かなかった。
シルフィードが逃げたという事には安心したが、それは魔法学院の皆に自分が捕まった事を知らせたに違いない。
シャルロットは唇を噛んだ。
キュルケや、アイナの顔が浮かぶ。
出来れば助けに来ようなどとは思わないでほしい。
一国に喧嘩を売るような真似はしないと思ったが、ふとシャルロットはガリアへ向かう前のアイナの言葉を思い出した。
『助けが要るときはいつでも言ってね。絶対に協力するから』
「アイナ・・・・・」
ポツリと、アイナの名を呟く。
その時、
「一つ、我からも質問がある」
ビダーシャルがそう言った。
「何?」
シャルロットは素っ気無く答える。
「お前の母の心はどうやって取り戻した?お前たちの技術では、あれの解除薬を作ることは不可能だ」
シャルロットは暫く黙っていたが、ポツリと呟いた。
「・・・・・・覇竜の涙」
それを聞いたビダーシャルの顔色が変わる。
「覇竜・・・・だと?」
覇竜の存在はエルフの間でも大きな意味を持つようだ。
「どのようにして手に入れた?」
「あなたには関係ない」
シャルロットはビダーシャルの質問を切り捨てた。
その様子を見たビダーシャルはこれ以上は無駄と悟ったのか部屋を出て行った。
アイナ達は、夏季休暇の時にアルバイトをしていた『魅惑の妖精』亭に身を潜めていた。
スカロンとジェシカに経緯を説明する。
「友達を助けるために貴族の位まで捨てるなんて、馬鹿っていうか、あんた達らしいって言うか」
ジェシカは、呆れ半分でそう言った。
才人達は苦笑する。
「でも、これから如何するつもり?」
マリコルヌがそう言った。
「ああ。周りは兵で一杯だ。ここを抜け出るのは容易じゃないぞ」
ギーシュもそう言う。
ギーシュの言うとおり、街中は兵が一行の行方を捜索している。
その時、
「ガリアへは陸路で向かおう」
コルベールが、そう言った。
「コルベール先生」
全員がコルベールに注目する。
「皆、この地図を見てくれ」
コルベールが地図を広げて、説明を始める。
「まず、私がオストラント号を反対側のゲルマニアへと向かわせる。すると、王宮の連中は、我々がゲルマニアからガリアへ侵入すると勘違いして追跡するだろう」
「その裏をかいて、私たちは陸路で国境を越えるってワケね」
キュルケがコルベールの言葉を引き継いだ。
「ああ」
コルベールも頷く。
「旧オルレアン公の領地へ向かう。そこにミス・タバサの実家があるそうだ」
「何か、手がかりがあるかもしれないってことですね?」
「きっと、何か見つかるわ」
コルベールの言葉に、才人とルイズも同意する。
「ちょっと待ってよ!まさかアンタ達、ガリア王国まで行こうっていうの!?」
「女王陛下にそこまで逆らうなんて、貴族の位を無くすどころか、大変な事になっちゃうかも・・・・」
ジェシカは驚愕し、スカロンは首が切られるジェスチャーをしながらそう言った。
その言葉に、マリコルヌはたじろぐが、
「それでも行きます」
アイナがハッキリと言った。
「ああ。だってタバサは俺たちの友達なんだ」
才人が、
「大切なお姉さまなのね」
イルククゥが、
「2人といない親友よ」
そしてキュルケが、そう言い、皆が頷く。
皆の瞳に迷いは無い。
「はあ~・・・・馬鹿につける薬は無いか」
ジェシカが呆れ、
「仕方ないわねえ~。ジェシカ、ちょっと手伝って」
スカロンが立ち上がりながらそう言った。
「えっ?う、うん」
ジェシカもスカロンの後を追い、2階へ上がる。
「でも、先生。オストラント号を囮に使うには、一度、王宮へ戻らなければなりませんね」
「ああ。脱獄したタイミングを考えれば、オストラント号が荷担した事は一目瞭然。きっと、見張りがついていることだろう」
「じゃあ、どうするの?」
コルベールの言葉にルイズが立ち上がって尋ねた。
すると、コルベールは笑みを浮かべ、
「オストラント号は、私に任せて、君達は急いでガリアに向かいたまえ」
そう言った。
「ジャン!?それ本気で言ってるの!?」
キュルケが心配そうな声で叫んだ。
「先生1人を、そんな危ない目にはあわせられません!」
才人も立ち上がる。
「ええ!そんなこと出来ないわ!」
ルイズも叫んだ。
「待ちたまえ!今、一番危ない目にあっているのは、ミス・タバサだ。言い争いをしている時間は無い!」
キュルケは、その言葉を聞き、悲しそうな目をして俯いた。
「はい・・・・」
その言葉を理解した才人は頷く。
「うむ」
コルベールが頷いたとき、
「先生!僕、先生にお供します!」
「オストラント号の操縦も手伝えると思うし、きっとお役に立ちますよ!」
水精霊騎士隊のレイナールとギムリが名乗り出る。
「君達・・・・・すまない・・・・」
コルベールが2人に礼を言った。
その時、2階から何かを持ってスカロンとジェシカが下りてきた。
「皆~。お待たせ」
「何よそれ?」
ルイズが2人が持っているものが何なのか尋ねる。
「前にド貧乏な旅芸人の一座が食事と引き換えにって置いてったのよ。今の服じゃすぐに捕まっちゃうしね」
スカロンが説明する。
「じゃあ!」
何を言いたいか理解した才人が嬉しそうに尋ねた。
「これで変装して、ガリア王国なり何処へなりへと行っちゃいなさい」
「その代わり、絶対にお友達を助けてくるのよ」
ジェシカとスカロンの言葉に、
「お2人とも、すまない」
コルベールはお礼を言った。
そして、男子は1階、女子は2階で着替える。
才人は、割と普通っぽい青年の格好。
だが、いつも来ているのがパーカーなので随分と雰囲気が変わっている。
ギーシュは付け髭をつけ、袋を担いだ商人のような格好に。
マリコルヌはピエロだ。
特に、マリコルヌのピエロが似合いすぎて、才人とギーシュは爆笑している。
そこへ、女子組が下りてきた。
男子は思わず顔を赤くする。
モンモランシー、キュルケは踊り子の格好。
イルククゥは、白いドレスのような格好をしていた。
ルイズと、アイナは頭巾を被った街娘のような格好だ。
全員の準備が整った事を確認すると、2組に別れ、それぞれが行動を起こした。
ガリアのとある場所で、蝶型のガーゴイルを通じてシャルロットの様子を窺っているシェフィールド。
周りには、溶鉱炉や、釜戸が無数にある。
そのシェフィールドに声をかける人物がいた。
「おお!ミューズ!余のミューズ!!」
その声にはっとなって目を開けるシェフィールド。
その男は鮮やかな青髪に、整った顔、体格の良い体。
「お待ちしておりました!ジョゼフ様!」
シェフィールドが跪く。
この男こそ、シャルロットの伯父であり現ガリア国王ジョゼフである。
「例のものが完成間近と聞いてな。このようにとんで参ったのだ。それにしても、ここはずいぶんと暑いな」
ジョゼフのその言葉に、シェフィールドは説明を始める。
「熱や音を逃さぬようにこの建物を頒布で覆っております。無数の釜戸に加えて、溶鉱炉までありますので・・・・」
2人は歩きながら奥を目指している。
「構わぬ!それより、例のものは何処だ!?」
ジョゼフはまるで、楽しみなものを待ちきれない子供のような言葉でシェフィールドを急かす。
「ここでございます」
シェフィールドに案内された先には大きな扉があった。
シェフィールドが手をかざすと額のルーンが輝きだす。
巨大な扉はゆっくりと開いていく。
ジョゼフは、そこにあったものを見て、目を見開いた。
そこにあったものは巨大な人型。
赤い目が不気味に光っている。
「おおっ。これがヨルムンガンドか」
ジョゼフは、歓喜の声を上げる。
「ミューズよ!これは何時動くのだ!?」
「はっ。試作型は6体。その全ては最終段階に入っておりますゆえ、数日中には」
「6体か。1体に集中させればどの程度早くなる?」
「は。全ては最終段階に入っております。差が出来るのは最後の鎧の装着のみ。他の5体との差は、せいぜいが数時間にございます」
「それでも構わぬ。私はこれが動くところを、1分・・・・いや、1秒でも早く見たいのだ!」
「かしこまりました」
シェフィールドは頭を下げた。
変装したアイナ達は、荷車を引きつつ国境へ向かっていた。
荷車を引いているのはギルモン。
但し、色は青。
エンは荷物の中に隠れ、ギルモンは、ペンキで色を塗り替え誤魔化している。
色を塗るときは、大層嫌がったが。
間も無く国境を越えるという時、検問が見えた。
「僕達が国境を越えると知って、検問してるんだ」
ギーシュがそう言い、
「如何しよう?きっと見つかっちゃうよ。そしたらまた牢屋に入れられて・・・・・」
マリコルヌが弱音を吐きながら、首が切られるジェスチャーをする。
「シッ・・・・落ち着けって。俺たち変装してるんだ。そんなに簡単にばれやしないさ」
才人が落ち着かせるようにそう言った。
「いい?皆、できるだけ普通に振舞うのよ」
キュルケの言葉に全員が頷いた。
「よーし!お前たち!止まれ!」
当然の如く、国境に近付くと、兵士たちに止められる。
そして、軽く全員の顔を確認される。
皆は緊張で固まっていたが、
「旅の芸人一座か・・・・・ま、いいだろう。通れ」
その言葉に安堵する。
「あ、ありがとうございます」
才人は礼を言った。
そして、国境を通り過ぎようとした時、
「そこのデブッチョ!待て!」
マリコルヌが呼び止められる。
兵士が近付いてくる。
マリコルヌは焦りに焦っていた。
そして、マリコルヌの顔を見ると、
「落したぞ」
そう言って、マリコルヌの鼻に、赤い付け鼻を引っ付けた。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
怯えていたマリコルヌは涙目になりながら礼を言った。
何だかんだで国境を越えることが出来た一行は山を越え、ガリア王国へ辿り着いた。
そして一行は、シャルロットの実家の近くで情報を集める事にした。
そして、ここはとある酒場。
なにやらオルレアンの屋敷から女を連れ出すだのなんだの愚痴っていた傭兵に、キュルケが得意の色仕掛けで情報を得ようとしていた。
少し離れたテーブルでその様子を見ていた一行は、キュルケの手腕に驚いている。
「タバサの家の近くで情報を集めるってことを思いつけてもああいう風に実行できるのはキュルケぐらいよね」
呆れ半分、尊敬半分でモンモランシーが呟く。
「男心を知り尽くしてるもんなぁ」
「あそこまで行くと、もはや才能ね」
才人とルイズも同意する。
数分後。
「アーハンブラ城よ」
傭兵から情報を聞き出したキュルケが言った。
「シャルロットのお母様が連れて行かれた場所。シャルロットもそこにいるわ」
「アーハンブラ・・・・ガリアの東の端ね」
「やれやれ、また山越えが必要だな」
「山なんて、いくらでも越えてやるさ。行こう!タバサを助けに!」
才人が締める。
その頃、アーハンブラ城では。
シャルロットに見守られていたシャルロットの母が目を覚ました。
「う・・・・シャルロット?」
「母様!」
シャルロットの母は身を起こす。
「ここは?」
「アーハンブラ城です。母様」
シャルロットはことの経緯を説明した。
「そう・・・・・あの薬が出来るまで後10日程度しかないの・・・・」
シャルロットは俯く。
シャルロットの母は、そんなシャルロットの頭に手を乗せる。
「諦めてはダメよシャルロット。最後まで望みを捨てないで」
シャルロットの頭を撫でながら、母はそう言った。
シャルロットは、不安からか涙を流す。
「安心して、あなたは私が守るわ。シャルロット」
シャルロットの母は、シャルロットを抱きしめながらそう言った。
8日後。
一行はアーハンブラの城下町に到着していた。
宿屋の一室で作戦会議を開いている。
「マリコルヌに遠見の呪文で見てもらったところでは、城にいる兵の数は、ざっと100人ぐらい。シャルロットとお母様の安全を第一に考えると、この作戦しか無いと思うの」
キュルケが、皆に言う。
「私が眠り薬を作れるだけ作るって事は分かったわ」
モンモランシーがそう言い、
「僕が酒を買い占めてきてその薬を混ぜるってのもね」
ギーシュが頷く。
「でも、どうやって100人いっぺんに酒を飲ませるんだ?」
才人が最大の難問を口にする。
「あら?私たちが今来てる格好って何かしら?」
「何って・・・・旅芸人だけど・・・・」
「そう、だから、私たちで踊って気を引いて、お酒を飲んでもらおうって寸法よ。どうかしら?」
「なるほど・・・・それなら何とかなるかも知れないな」
「それじゃ、今夜決行ね。マリコルヌは引き続き、城の様子を探って。アイナとイルククゥは、モンモランシーを手伝って頂戴」
キュルケがテキパキと指示を飛ばす。
「それで、エン。あなたにも大事な役目があるわ」
「え?」
「あなたって確か学院の外壁を自由に駆け上っていたわね?」
「う、うん・・・・」
「だったら、私たちが城の兵を集めたら、シャルロットの居場所を探してほしいの」
「え?」
「私達の芸が始まったら、先ずはシャルロットとお母様の居場所を。そして、できればシャルロットたちの杖の在り処も」
エンはキュルケの話に食い入る。
「そして、兵が眠ったら、合図として火の玉を揚げるわ。それが見えたら、シャルロットたちを外に誘導してほしいの。それが上手くできれば、強敵が出てきたときも、2人を連れて逃げることが出来る可能性も上がるわ」
「わかった」
エンが頷く。
だが、
「ちょっと、私には何も無いわけ!?」
名前を呼ばれなかったルイズが怒った声で叫んだ。
「あなたと才人は休んでて」
「こんな時まで意地悪するの?そりゃ私の事嫌いかもしれないけどさ・・・・」
ルイズはそう言うが、
「嫌ってるんじゃなくて認めてるのよ」
「え?」
「皆には言わなかったけど、実際はどんな敵と戦うか分からないわ。あなたを頼りにしてるの。その伝説の力をね」
その言葉に才人とルイズは驚愕した。
「あ、あなた虚無の事を?」
キュルケはルイズの手を握り、
「先祖の非礼は謹んでお詫びするわ。この非力なわたくしに、どうかあなたの聖なる力をお貸しくださいますよう・・・・」
そう答えた。
「や、やめてよ、先祖が如何こうだなんて・・・・・私はもう、貴族の名前は捨てたの・・・・そうよ。今はただの『ゼロ』のルイズなんだから」
キュルケはそれを見ると、笑みを浮かべる。
「ルイズ。あなたって本当に・・・・」
そう言ってルイズを抱きしめる。
「ちょ、ちょっとぉ!?」
「ねえ、この件が終わったら、ゲルマニアにいらっしゃいな。メイドとして雇ってあげるわ」
「ふ、ふざけないでよ~」
仲の良い言い合いは続いた。
そして、その夜。
アーハンブラ城を任された貴族と交渉し、公演を許された一行は、アーハンブラ城へ入る事に成功した。
荷車の中に隠れていたエンは、兵士が集まってくると、折を見て抜け出した。
辺りは暗いため、外壁に上っても気付かれる事はない。
やがて、踊りが開始されると、エンはシャルロット達の捜索を開始した。
城の外壁を手も使って、まるで獣が地面を走るように登っていく。
窓を一つ一つ確認していくが、古いと言っても城だ。
部屋は無数にある。
だが、人間の数倍の感覚を持つエンの聴覚が、とある話し声を耳にした。
「旅芸人の一座が慰問に来たそうだ。見物したければ特別に許可するが?」
エンには聞いた事の無い声であった。
だが、
「必要ない」
その声にエンは敏感に反応した。
間違いなくシャルロットの声であった。
「心を失わせる薬は、日の出を待たずに完成する。お前達がお前達でいられるのも、あと僅かだ」
「情けは要らない」
ビダーシャルはその言葉を聞くと部屋を出て行く。
そんなシャルロットを、母は抱きしめた。
その様子を、声を聞きつけたエンは窓の外から覗いていた。
「よし。見つけた。後は杖を・・・・・・」
エンはシャルロット達の部屋を見つけ、場所を覚えると杖を探すために再び外壁を伝って移動を開始した。
が、意外とあっさり見つかった。
杖は、隣の部屋に無造作に置かれていたのだ。
エンは、窓から侵入すると、杖を持って外で待機する。
キュルケからの合図を待った。
十数分後。
広場に集まった兵士は、1人残らず眠りこけていた。
「そろそろいいわね」
キュルケは、合図の火球を空へ打ち上げた。
「ホントに兵士はあれで全部?」
モンモランシーが疑うように尋ねる。
「大丈夫さ。もし残っていたとしても僕が・・・・・」
ギーシュがそこまで言ったとき、
「お前たち。何をしている?」
城の入り口へ続く階段の上に男が立っていた。
ビダーシャルである。
「いきなりお出ましね!」
キュルケは杖を振りかぶる。
その時、
「ダメなのね~!」
イルククゥが叫んで止めようとした。
だが、キュルケは火球をビダーシャルへ放つ。
火球は一直線にビダーシャルへ向かって行き、
そのまま跳ね返ってきた。
「えっ!?」
キュルケは突然の事に驚愕し、反応が遅れる。
「キュルケ!」
咄嗟にアイナが火球を放ち、相殺する。
「無駄な事だ」
ビダーシャルは静かに告げる。
その耳を見て、一同は驚いた。
「エ、エルフ・・・・・!?」
ギーシュが驚愕した声を上げる。
「お姉さまを攫ったの、あいつなのね・・・・・・お姉さまを返してなのね!」
イルククゥが叫んだ。
「あの時の韻竜か・・・・・はるばる助けに来たのか?だが、それに報いてやる事は出来ない」
ビダーシャルはそう言うと、呪文を唱え始める。
「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を撃て」
城壁を形作る無数の石が剥がれ、弾丸のように一行に襲い掛かる。
「舐めないで欲しいね!」
「どっかへ行っちゃえ!」
ギーシュとマリコルヌが呪文を唱える。
土と風が迫り来る無数の石礫を吹き飛ばした。
「「やったぁ!!・・・・・えっ?・・・・ええっ!?」」
2人は一瞬歓喜の声を上げるが、すぐに唖然とする。
ビダーシャルは石を集め、10メイルほどの球状の物を作り出していた。
それを2人に投げつける。
ギーシュとマリコルヌは、悲鳴を上げて逃げる。
ビダーシャルは、手を上げ、再び攻撃しようとした。
その時、
「やめろっ!!」
才人がデルフリンガーで斬りかかった。
だが、光の壁のようなものが現れ、才人は弾き返される。
「ぐぁっ!?」
才人はうめき声を上げて地面を転がる。
「サイト!?」
ルイズが駆け寄った。
「立ち去れ。蛮人の戦士よ。お前では決して我に勝てぬ」
ビダーシャルは才人にそう言い放つ。
「サイト、今の何?」
「わかんねえ。まるで、見えない壁があるみてえだ」
ルイズが疑問を口にし、才人も分からないという。
その答えをデルフリンガーが答えた。
「ありゃ『反射』だな。あらゆる攻撃を跳ね返すえげつねえ先住魔法だ。その覇竜刀にかかってるものと同じさ」
「何だって!?」
「まあ、魔法のレベルとしちゃあ、覇竜刀にかかってる『反射』の方がすげえがな」
「それなら!」
才人は立ち上がって、覇竜刀を抜いた。
「うおおおおおおっ!!」
覇竜刀で斬りかかる。
しかし、やはり光の壁に阻まれる。
だが、その時、ビダーシャルの顔色が変わる。
「ッ!?その剣は!?」
その瞬間、互いに吹き飛ばされる。
才人は勢いよく地面を転がり、ビダーシャルは立ったまま数メイル後退する。
「デルフ!効かねえじゃねえか!」
才人はデルフリンガーに怒鳴る。
「バカヤロウ相棒。いくらその剣の『反射』が向こうより凄かろうと、相棒が向こうの『反射』の反動に耐え切れなきゃ結果は似たようなものだ!」
デルフリンガーがそう言った。
その時、
「答えろ、蛮人の戦士よ。その剣、何処で手に入れた?その剣には大いなる精霊の力が宿っている。お前如きが使っていい剣ではないぞ」
才人は立ち上がる。
「この剣は借り物だよ」
「借り物だと?」
「確かにこの剣は俺のじゃない。けど、俺があいつから借りたものだ。いつか俺があいつに返す」
才人は再び覇竜刀を握り、ビダーシャルに突っ込んだ。
一方、合図を確認したエン。
「合図だ」
エンは、窓枠につかまり、勢いをつけ、窓を蹴破る。
「ッ!?」
シャルロットたちは一瞬警戒した。
だが、
「やあ、助けに来たよ」
エンがそう話しかけた。
「あなたは、エン!?」
シャルロットが驚いた声で尋ねてくる。
エンは頷き、
「皆も来てる。さあ、早く脱出しよう」
2人に杖を差し出す。
2人は杖を受け取ると、頷いた。
「うおおおおおおっ!!」
才人は何度目になるか分からない突撃でビダーシャルに斬りかかる。
その度にお互いに弾き飛ばされている。
だが、才人は毎回地面を転がっているのに比べ、ビダーシャルは、多少吹き飛ばされて入るが、転んですらいない。
いつかは、才人の体力が尽きる。
「如何すればいいのよ!?」
ルイズの叫びにデルフリンガーが答えた。
「なに言ってやがる。お前さんはもう知ってるはずだぜ。先住魔法を解除する方法を」
そう言われ、ルイズがはっとなる。
「『解除』ね!」
「詠唱しろルイズ!俺が時間を稼ぐ!」
「うん!」
ルイズは頷き、詠唱を開始する。
そんな2人を目掛け、無数の石礫が飛んでくる。
「うおおおおっ!!」
デルフリンガーと覇竜刀の二刀流で石礫を防ぐ。
ギルモンも、ファイヤーボールを放つ。
だが、才人とギルモンだけでは対処できない。
そう思われたとき、
「フレイム・アロー!!」
無数の炎の矢が石礫を砕いていく。
「アイナっ!?」
才人が驚く。
「私たちがいるって事も、忘れてもらっちゃ困るわ!」
キュルケもそう言い、魔法で石礫を防ぐ。
それに次いで、ギーシュが、マリコルヌが、モンモランシーが、ルイズを守るために魔法を唱える。
「皆・・・・」
才人は呟く。
「サイト、確かにシャルロットは私達の友達だよ。けどね・・・・」
アイナが一旦言葉を切り、
「ルイズやサイトも、私達の友達なんだよ」
そうハッキリと言った。
「そういう事よ」
モンモランシーが同意する。
「友人を見捨てる事は、貴族として・・・・いや、男として恥だからね」
ギーシュが頷き、
「水臭いよサイトたちは」
マリコルヌが笑う。
そして、ルイズの詠唱が完成した。
「俺にそのディスペルをかけろ!」
デルフリンガーの声にルイズが杖を振り下ろす。
デルフリンガーの刀身が輝きだした。
才人は覇竜刀を地面に突き刺し、両手持ちでデルフリンガーを構える。
キュルケが、アイナに呼びかけた。
「アイナ!サイトの道を作って!強力なのを一発頼むわ!」
「わかった!」
アイナが頷き、呪文を唱えだす。
アイナの杖が掲げられ、火球が膨れ上がっていく。
「サイト!」
「おう!」
アイナが叫ぶと同時、才人が駆け出す。
「フレイム・スフィア!!」
巨大な火球が放たれる。
才人は、その後ろに付き、駆ける。
「無駄な事を」
ビダーシャルは、迫り来る火球を見てそう呟く。
だが、その火球は上方へ逸れる。
「何?」
怪訝に思ったビダーシャルだが、そのすぐ後に才人が切りかかってきた。
「無駄・・・・何っ!?」
余裕の表情を浮かべていたビダーシャルだがすぐに驚愕の色へと変わる。
『解除』がかかったデルフリンガーの刀身は、『反射』の障壁を切り裂いていく。
「シャイターン・・・・・これが世界を汚した悪魔の力か!」
敵わぬと見て取ったのか、ビダーシャルは指輪に封じ込められた風石が発動する。
ビダーシャルは浮き上がった。
「悪魔の末裔よ!警告する!決してシャイターンの門へ近付くな!そのときこそ、我らはお前たちを打ち滅ぼすだろう!」
空へと消えていくビダーシャルを見ながら、才人達はへなへなと地面に崩れ落ちた。
ホッとすると同時に、気が抜けたのである。
精神力を使い果たしたルイズは地面に倒れて寝息を立て始めた。
ギーシュがポツリと呟いた。
「この僕がエルフに勝った。信じられない」
「別にアンタが負かしたわけじゃないでしょ」
とモンモランシーが言った。
「けど、皆がいなかったら危なかった。皆の力で勝てたんだ」
才人が、倒れたままのルイズを抱き起こしながら言った。
その時、
「皆~!」
城の中から、シャルロットとシャルロットの母を連れたエンが現れた。
「エン!シャルロット!」
アイナが叫んで駆け寄った。
「お姉さま~!!」
イルククゥがシャルロットに抱きつく。
「シルフィード・・・・」
「良かったのね、きゅい」
イルククゥは笑顔でシャルロットを抱きしめる。
そのまま、シャルロットは皆に視線を向ける。
皆は笑みをシャルロットに向けている。
アイナとキュルケが前に進み出た。
「キュルケ・・・・・アイナ・・・・・」
シャルロットは2人の名を呟く。
アイナは笑みを浮かべ、
「言ったでしょ?助けが要るときは何時でも言ってね、って」
続いてキュルケが、
「私も言ったはずよ。世界中を敵に回しても、私はあなたの味方でいるって」
2人の言葉を聞いたシャルロットは、瞳に涙を滲ませる。
「・・・・皆・・・・ありがとう・・・・」
シャルロットは、涙を流しながらそう言った。
一同は笑顔になる。
そんなアイナ達を、双月は優しく見守っていた。
次回予告
シャルロットの救出に成功したアイナ達。
だが、国境寸前で、再びシェフィールドの襲撃を受ける。
襲い来る鋼の巨人ヨルムンガンドと、レナモンの完全体、タオモンの前に窮地に立たされるアイナ達。
だが、エンが失われた記憶を取り戻すとき、アイナを護る炎は蘇り、才人とギルモンの真の究極進化が目を覚ます!
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第三十九話 蘇る炎。舞い降りる聖騎士。
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
三十八話完成!
ノリにノッてハイペースです。
さて、今回の物語は、アニメ8割、原作1割、オリジナル1割って所ですかね。
それなりに上々の出来栄えだと思います。
多少の手抜きは目立ちますが・・・・・・
ですが、次はいよいよ拓也復活!
いや~漸く来たよ。
では、次回もお楽しみに!