日常を満喫する拓也たち。
その時、ルイズは・・・・・
第四十三話 二重奏の心
今日は朝からルイズの様子がおかしい。
起きる時間になってもルイズが部屋から出てくる気配がない。
拓也とアイナが如何したのかと首を傾げていると、誰かが廊下を駆けてくる。
「サイトォ~~~~~~~~~~~!!ご下命が来たぞ!我が水精霊騎士隊に、陛下のご下命だ!!」
駆けてきた人物、ギーシュはそう叫んでルイズの部屋に飛び込んだ。
拓也とアイナもギーシュに便乗してルイズの部屋を覗いた。
そこにはベッドの横に座り込んで元気のないルイズと、それをなだめているシエスタ。
そして、飛び込んできたギーシュに驚いている才人であった。
「ご下命?」
才人が尋ねる。
「そうだ!ルイズと、我ら水精霊騎士隊に直々のご下命さ!ああよかった!罰こそいただかなかったが、陛下の御不興を買ってしまったかと戦々恐々としてたんだ!」
「お前の何処が戦々恐々としてたんだよ。馬鹿騒ぎをしてたくせに」
「そんな意地悪を言うなよ。顔は笑っていても、心中穏やかじゃなかったんだぜ。とにかく、そんな僕の心配は杞憂だったみたいだな。僕たちに対する、陛下の信頼は揺るがなかったというところだね」
「で、姫様はなんだって?」
「とにかくお城に来てくれとのことだ。ああ、参ったなぁ。また授業に出れないではないか!」
嬉しそうにギーシュは身震いした。
才人はなんだか迷うような仕草をする。
しかし、すぐにデルフリンガーを背負った。
「他の皆は?」
「とりあえず、僕と君とルイズ。それと、強制ではないが、アイナとタクヤにも出来れば来て欲しいそうだ」
「ルイズはいい」
「え?何でだい?」
「行くわ」
すっくと、ルイズは立ち上がった。
「無理すんなよ。調子が悪いんだからよ」
「調子が良かろうが悪かろうが関係ないわ」
「一体、どうしたんだね?」
ギーシュが怪訝な顔で2人を見つめる。
拓也とアイナも、2人の様子がおかしい事に疑問を持っていた。
「いや、こいつな?今、呪文が・・・・あいでっ!」
才人が説明しようとした所で、いきなりルイズに股間を蹴られ、才人は悶絶した。
「・・・・・・・余計な事言わないで。姫様は何かお困りなのよ。私が行かないでどうするのよ」
その時、窓から1羽のフクロウが飛び込んできた。
「あら。トゥルーカス。どうしたの?」
そのフクロウは、ルイズに一通の封筒を手渡した。
「ルイズ様にお手紙です」
「手紙?」
ルイズはその手紙を読み始めた。
一瞬顔が輝いたが、再びその顔が曇っていく。
みるみるうちに蒼白になっていった。
「どうしたんだよ。誰からの手紙だよ?」
返事はなかった。
ルイズはその手紙をポケットにねじりこむと、着替えるためによたよたと歩き出した。
拓也とアイナ、ギーシュは、一旦部屋から出る。
「それで、君たちはどうするのだね?」
ギーシュが2人に尋ねた。
「何故か分からないけど、ルイズの様子がおかしかったから、心配だし。私も行くよ」
アイナが即答した。
「女王様の依頼だと、才人さんがルイズに振り回されるだろうからな。俺も行くよ」
拓也もそう言った。
「おい、お前、ホントに大丈夫なのかよ」
才人はルイズにそう尋ねたが、ルイズは答えない。
きゅっと唇を真一文字に結んで、黙々と馬に跨った。
そんな時、
「才人さん」
拓也達が姿を見せた。
「拓也か」
「俺たちも行きますんで、俺がヴリトラモンで乗せていきますよ」
拓也がそう言った。
確かにヴリトラモンならば、馬で行くより相当早い。
「そうか、助かるよ。ルイズ!拓也が乗せてってくれるってさ!」
才人はルイズに呼びかけるが、ルイズは心ここにあらずといった風情である。
馬に跨ったまま、1人先に行こうとしている。
「おいルイズ。馬で行かなくてもいいだろ。運んでくれるって言うんだから、拓也に乗せてって貰おうぜ」
才人かそう言っても、ルイズは馬に鞭をくれて走り出す。
「なんだあいつ」
才人が首を傾げていると、上空からシルフィードが降りてきて一同の前に着陸した。
「何だよ、お前たち」
見ると、シャルロットとキュルケが乗っている。
「私も行く」
そう言ったのはシャルロットであった。
「この子、窓からあなた達を見かけたら、すぐに飛び出していくんだもの」
キュルケが両手を広げていった。
「な、何でお前が?・・・・・って、拓也がいるなら当然か」
少々驚いたものの、すぐに理由に思い至り落ち着く。
「それじゃあ、乗せてってくれるって事か?」
シャルロットは頷く。
「んじゃ、お言葉に甘えるとしますか」
才人達がシルフィードに乗ると、シルフィードは勢いよく羽ばたいて、空に駆け上った。
眼下を見ると、ルイズは前のめりになって、必死に馬を走らせている。
ほうっておくわけにもいかず、才人はシルフィードに話しかけた。
「シルフィード、あいつも乗せてやってくれよ」
「きゅいきゅい」
嬉しそうにシルフィードは鳴くと、降下してルイズと跨った馬を一緒くたに銜えあげた。
銜えられた馬は驚いて、ヒヒーン!と鳴き叫んだ。
シルフィードは器用に長い舌を動かし、ルイズだけを背中に放り込んだ。
そんな乱暴にされているというのに、ルイズときたら文句を言うわけでもなく、肩を抱いてぶるぶると震えているではないか。
「ん?どうしたの?この子」
キュルケが不思議そうに呟く。
才人も不思議に思ったが、ルイズが自分から話してくれるまで、そっとしておこうと決めた。
王宮に到着した一行を、待ちわびていたのは、随分と悩んだ様子のアンリエッタであった。
「ようこそいらしてくださいました。あなた方にお頼みしたい事があるのです」
「どのようなご用命でございましょうか?」
膝をついたギーシュに、アンリエッタは頼みごとを打ち明けた。
「アルビオンの虚無の担い手を、ここに連れてきていただきたいのです」
「ティファニアを?」
才人が驚いた声で言うと、アンリエッタは深く頷いた。
「・・・・・・やはり、虚無の担い手を1人で住まわせておくには参りませんから。それに彼女はアルビオン王家の忘れ形見だし、つまりはわたくしとウェールズさまの従妹ではありませんか。やはり放っておくわけにはいきませぬ。ルイズ、あなたを襲ったように、いつ何時ガリアの魔の手が伸びるやもしれませぬ。本来なら、ウェールズさまが保護するべきでしょうが、アルビオンはまだ戦争の傷跡が深く残っている状態。ならば、少しでも余裕のあるトリステインで保護する事にしたのです」
「彼女は1人じゃありませんよ。孤児たちも一緒に暮らしてるんです。ティファニアは彼らのお母さん代わりなんだ」
「ならば、その孤児たちも連れてきてください。生活は保障いたしましょう」
「・・・・・・わかりました。それほどにご心配なら、連れてきますよ」
「ありがとう。お願いするわね」
アンリエッタは深いため息と共に、椅子に肘をついた。
その様子に、才人は首をかしげた。
「なにかご心配事でもあるんですか?」
「いずれ話します。今は急いでくださいまし」
「船で行ったら時間かかるよなぁ・・・」
才人が呟く。
すると、
「あ、俺がエンシェントグレイモンで運びますよ」
拓也が言った。
「いいのか?」
「ええ。エンシェントグレイモンなら、シルフィードより速いです。それに、体力もどの程度消費するか調べておきたいので」
「そうか、ならお願いするよ」
アンリエッタはシャルロットに気付き、その手を取った。
「ガリアの姫君でございますわね。いずれ改めて、あなたのご境遇と今後の身の振り方を相談させてくださいまし」
シャルロットは小さく頷く。
「帰りには、ロサイスまで船を用意させましょう。とにかく、早くアルビオンへ向かってくださいまし」
アンリエッタは深く悩んでいる様子で、そう一行に告げた。
才人は、ルイズとアンリエッタを交互に見つめた。
仲良しの2人が口を利かないのは珍しい。
お互い、心ここにあらず、といった風情である。
それほどに心悩ます事態が、2人の心には渦巻いているのだ。
数時間後。
一行は既にウエストウッドの村まで来ていた。
エンシェントグレイモンは、ほんの1時間足らずでアルビオンに到着した。
その際、拓也はかなりの疲労感を感じた。
戦ったわけではないが、やはりエンシェントグレイモンは、体力の消費が普通の進化に比べてかなり多いらしい。
「こ、ここがその、胸が不自然なハーフエルフが住むという村だな」
そわそわした声で、ギーシュが言った。
「そう言い方すんなよ」
「君が言ったんじゃないかね。そのハーフエルフの少女の特徴を教えてくれと言ったら、耳が長い。あと『胸がおかしい』って」
「あなたたち、こそこそなにやら話していると思ったら、そんなよからぬ会話をしてたってわけね」
キュルケがにやにやしながらからかうような調子で言った。
「だ、だってコイツが、どうしても特徴を聞きたいって言うもんだから!」
「僕の所為にしないでくれたまえよ」
「でも、ほんとにその子、胸がおかしいの?あたしとどっちがおかしいの?」
キュルケが自分の胸を持ち上げた。
「し、知るか」
ちょっと照れたように、才人は言った。
一行はガリア行きの時と比べたら、随分と砕けた雰囲気であった。
今回の任務は、ティファニアを連れて帰ってくるだけである。
面倒な事は、精々ティファニアを説得する事ぐらいであろう。
危険な事はない、といった雰囲気が、一行の態度を明るいものに変えた。
しかし、ただ1人、ルイズだけはずっと黙りこくったままである。
キュルケが才人をつついた。
「ねえサイト。ルイズ、一体どうしちゃったの?朝から変よ。黙っちゃって・・・・」
その言葉を聞いた拓也とアイナも2人の会話に聞き耳を立てる。
「いや・・・・・実はな」
才人は、ルイズが精神力が切れて、魔法が全く使えないという事を打ち明けた。
「まあ!精神力が!」
「しっ!声が大きいよ」
才人は前を歩くルイズに聞こえないように、声を潜めた。
「あらら、じゃあゼロのルイズに逆戻りってわけ?でも、爆発すらしないんじゃ、さらに重症ね」
「言うなよ。気にしてるんだから」
「でも、そっちの方がいいんじゃない?」
キュルケが、真顔で言った。
「何でだよ」
「あの子に“伝説”なんて、常々荷が重いって思ってたの。あたしぐらい楽観的のほうが、過ぎたる力にはちょうどいいのよ」
そうかもしれない、と才人は思った。
才人は懐かしい村を見回した。
ウエストウッド村は殆ど変わっていない。
森の中に立てられた、こじんまりとした佇まいの素朴な家々を見つめる。
ティファニアの家は、入り口からすぐのところにあった。
藁葺きの屋根から、煙が立ち上っている。
「お、いるみたいだな」
「いやぁ、こんな簡単な任務でいいのかねぇ。何時もの苦労に比べたら、なんだか拍子抜けしてしまうよ」
ギーシュが鼻歌交じりに言った。
「もう、ほんとにお前ってば緊張感がない男だな」
「君に言われたくないな。というか最近の君はおかしいぞ」
「俺が?」
「そうさ。副隊長になって張り切る気持ちもわかるがね、なんだか妙な使命感に振り回されているように感じるよ。昔の君はもっとこう、適当だったじゃないか」
「そうか?」
「ああ。もっと気楽にいきたまえよ。気楽に!あっはっは!」
ギーシュは大声で笑った。
「そんな油断してるとね、碌な事が無いわよ」
キュルケが言った。
「望むところさ!悪魔でも化け物でも何でも来い!さてと、この家だな」
そう言って、ギーシュがティファニアの家の前に来た時、
「さっきから、何の騒ぎだ?」
ティファニアの家の裏から、サジタリモンが顔を出した。
「ひゃあっ!?」
突然顔を出したサジタリモンにギーシュは驚き、
「ああぁっ!サジタリモン!」
拓也が指をさして叫んだ。
「なっ!テメェは!?」
サジタリモンは拓也を見て身構える。
拓也も身構えた。
「拓也!知ってるのか!?」
才人が尋ねる。
「はい。コイツはデジタルワールドの盗賊です。ハルケギニアでも2回ほど見かけてますけど」
それを聞くと、才人も身構えた。
「この村に何しに来たんだ!?」
才人はサジタリモンに向かって叫んだ。
「はん!そんなこと、教えてやる義理はねえっ!!野郎共!出て来い!!」
サジタリモンが叫ぶと、手下のケンタルモン達が何処からともなく現れる。
拓也と才人はデジヴァイスを構え、他の面々は杖を抜く。
そんな一触即発の雰囲気が高まり、今にも弾けそうな瞬間、
――バンッ!
と、ティファニアの家の扉が勢いよく開き、
「うるさいよ!一体何の騒ぎだい!?」
1人の女性が叫んだ。
それを見た一同は固まる。
「あ、姐御・・・・・」
サジタリモンは申し訳なさそうに呟く。
「フーケ」
シャルロットが呟いた。
その人物は、かつて拓也達と戦った盗賊、土くれのフーケ。
「な、何でテメエがここに!?」
才人が叫ぶ。
「それは私のセリフだよ」
フーケも威圧するように言った。
才人がデルフリンガーを抜き、フーケも杖を構えた。
その瞬間、
「やめてぇっ!!」
ティファニアが2人の間に飛び込んできた。
「何で2人とも戦うの!?サイト!剣をしまって!」
「で、でも・・・・・」
「マチルダ姉さん!この方に手を出してはダメ!」
「マチルダ姉さん?」
才人はフーケを見つめた。
人違いかと思ったが、その鋭い目と、意志の強そうな顔は、紛れもなくかつてそのゴーレムと戦った、土くれのフーケである。
フーケはどうしたものかと、とでもいうように、才人とティファニアを交互に見つめた。
それから、参った、とでもいうように首を振る。
「仕方ないね」
才人も、しぶしぶと剣を鞘に納める。
「ありがとう」
ティファニアは、サジタリモン達にも話しかける。
「サジタリモンたちもやめて」
「御嬢がそう言うなら・・・・・」
サジタリモンも身構えていたからだから力を抜く。
「あんたたちも随分と久しぶりだねぇ。先ずは旧交を温めようじゃないか」
フーケが、疲れた声でそう言った。
ティファニアの家に入り、フーケと一行は暫く睨み合っていたが、まず、痺れを切らしたのかフーケがどかっと椅子に腰掛けた。
「あんた達も、杖をしまって、先ずは座りな。長旅でつかれてるんだろう?」
一行はどうしようかと顔を見合わせたが、キュルケが「そうね」と呟いて腰掛けたので、仕方なくそれに習う。
「ねえティファニア。何でこいつらと知り合いなのか、話してごらん」
ティファニアは、許可を求めるように才人を見つめた。
才人は頷く。
ティファニアはフーケに説明した。
アルビオン軍を食い止め、大怪我した才人を助けた事。
迎えに来たルイズとも知り合いになったこと。
「ああ、じゃああれはあんたたちだったのかい。7万のアルビオン軍を2人と一匹の竜が食い止めたっていうのは」
才人は頷いた。
「ふふ、やるじゃないの。少しは成長したようだね」
フーケは笑った。
「じゃあ次はこっちの番だ。お前とティファニアは、どうして知り合いなんだよ」
フーケの代わりにティファニアが、才人達に説明した。
「いつか話したことがあったよね。私の父・・・・・財務監督官だった大公に仕えていた、この辺りの太守の人がいたって」
「ああ」
「彼女は、その方の娘さんなの。つまり私の命の恩人の娘さん」
「何だって!?」
才人は驚いた。
「それだけじゃないの。マチルダ姉さんは、私たちに生活費を送ってくださっていたの」
才人は何か言おうとしたが、フーケに遮られた。
「おっと。あんた、わたしの前職は言わなくていいよ。ここじゃ秘密で通ってるのさ」
「サイト、マチルダ姉さんが何をしていたのか知ってるの?」
ティファニアが、身を乗り出して尋ねてきた。
「ん?あ、ああ・・・」
「教えて!絶対に話してくれないのよ!」
フーケは、じろりと才人を睨んで言った。
「言ったら殺すよ」
才人は仕方なく、苦し紛れの嘘をついた。
「・・・・・その、宝探しっていうか」
「トレジャーハンター?かっこいい!」
「まあ、そんな仕事をしていてね。こいつらとはその、お宝を取り合った仲なのさ」
ほっとしたように、ティファニアが言った。
「だから仲が悪いのね。ダメよ。仲直りしなきゃ。ほら、乾杯しましょ」
ティファニアは、戸棚からワインとグラスを取り出した。
仇敵同士の、奇妙なパーティが始まった。
パーティと呼んでいいのか微妙な飲み会のあと、才人はティファニアにトリステインに来ないかと打ち明けた。
ティファニアは最初渋っていたが、孤児たちも生活を保障するという言葉と、なによりフーケの同意があったため、それを了承した。
フーケはティファニアが眠った後、サジタリモン達にティファニアの護衛を頼み、1人立ち去った。
その後、拓也は床に付いていたが、話し声が聞こえ、目を覚ました。
「どうして、あんたは私の前で泣かないの?」
ルイズの声である。
「どうしてって・・・・」
才人の戸惑った声が聞こえる。
「どうしてあんたは、私に本音を打ち明けてくれないの?」
才人は考える。
「ねえ、どうして?」
ルイズの問いに、後ろから小さな声が聞こえた。
「使い魔だから」
「タバサ」
ルイズの後ろに、いつしか小さな青髪の少女が立っている。
いやいやをするように、ルイズは首を振った。
自分に言い聞かせるような声で、ルイズは言った。
「そう。その通り。タバサの言う通りなんだわ。だからあんたは、私が傍にいると、帰りたいと心の底から思わない。いや、思えない。こっちの世界に、いなければならない理由まで作り上げて、あんたは私の傍にいようとする。いや、させられている」
「違う、それは違う。それは・・・・」
才人は悩む。
ルイズの言葉を否定しきれなかった。
「そんなこと聞かれても・・・・・」
「さっきの話を聞いて、一つの事実を思い出した」
シャルロットが呟く。
「事実?」
「使い魔は、主人の都合のいいように“記憶”を変えられる。記憶とは、脳内の情報全てのこと。あまり故郷の事を思い出さないのもそう」
そこまで聞いて拓也は身体を起こした。
「じゃあ、才人さんが異様に文字の習得が早かったのも・・・・・」
拓也は呟く。
「拓也!」
才人は驚いた声を上げ、シャルロットは頷いた。
シャルロットは言葉を続けた。
「“使い魔のルーン”は、あなたの心の中に『こっちの世界にいるための偽りの動機』を作ったのかもしれない。あなたは本当の気持ちをごまかされている可能性がある。“こっちの世界で何かしたい”。そう思わされることで、本当の気持ちが見えなくなっているのかもしれない」
才人は驚いて言った。
「そんなの有り得ねえだろ!だったら拓也はどうなるんだ!?俺は昔から拓也のことを知ってる!今の拓也は昔と変わってない!」
「その効果は時間が経つに連れ強くなる。使い魔が徐々に慣れ、最後には主人と一心同体になるのは、そういうこと。あなたの変化が現れだしたのは戦争が終わった後から。タクヤは、その頃に一度契約が解除され、使い魔でなくなっている。再契約したのもつい最近。使い魔のルーンの効果が殆ど現れていないのも、恐らく再契約まで時間が空いたために、以前の契約の効果が薄れたから」
「おいおい、そんな、自分が自分でなくなるなんて、そんなことが・・・・・」
才人がそう言ったら、デルフリンガーの声が響いた。
「まあな、自分のことは、自分が一番分からんもんさ」
次に拓也が口を開いた。
「才人さん、正直に言います。最近の才人さんは、皆が言うように変わりすぎてます」
「俺が・・・・変わりすぎてる?」
「はい、俺もデジタルワールドを旅して、確かに成長したと自覚していますが、俺の根っこの部分は変わってないと思います。仲間たちだって旅の最後も本質は変わってないと感じました。ですが、才人さんはおかしい。才人さん自身の本質から変わってきてる気がするんです」
気付くと、その場の全員が目を覚ましていた。
「確かに、最近の君はおかしかったな。妙に生真面目というか・・・・・」
ギーシュがうーむと悩みながら言った。
「まあね。主人に似たのかも、なんて思ったわ」
キュルケも呟く。
アイナにいたっては、移動中のルイズと同じように顔が蒼白になり、なんともいえない表情をしていた。
「シャ、シャルロット・・・・・・今の話・・・・本当なの・・・・?」
アイナが震えた声で呟いた。
シャルロットは頷く。
アイナは更に顔色を悪くする。
ルイズが目の下を擦りながら言った。
「だって、再会してからのあんた、少しおかしいもの。なんだか妙な使命感に目覚めちゃって・・・・・そんなのあんたじゃないわ」
「でも・・・・・でもな。それはこう、なんか上手くいえないけど、別にそれほど変でもないっていうか・・・・・・うーむ」
「サイト、それ、本当なの?」
「ティファニア」
すっかり眠っていたはずのティファニアも、才人の傍にきて言った。
「わかんねえ。自分がどうなのか、自分じゃよくわからねえ」
皆に見つめられ、正直にそう呟くと、ルイズがティファニアの方を向いた。
「ねえ、ティファニア。あなた、記憶を消せるじゃない。その部分を消す事は出来る?使い魔のルーンが作った才人の心の中の、『こっちの世界にいるための偽りの動機』を消す事が出来る?」
「分からないけど・・・・・・」
「出来るだろうさ。“虚無”に干渉できるのは、“虚無”だけだ」
「おいおい、人の心に勝手な事すんなよ!」
才人は叫んだ。
「ねえサイト」
「何だよ」
ルイズは決心したような顔で才人に告げた。
「あんたの心の中には、2つのメロディが流れてる。認めたくないけど、それはやっぱり本当なのよ。何時までも、そんな二重奏を続けさせるわけにはいかないわ」
困ったような声で、デルフリンガーが言った。
「でもな、娘っ子・・・・・その部分を消したら、お前さんへの気持ちも無くなっちまうかもしれないんだぜ」
「いいわ」
ルイズは、きっぱりと言った。
涙を拭いながら、ルイズは気丈に言い放った。
「め、迷惑だもん。す、好きでもない男の子に言い寄られるなんて酷い迷惑だわ。勝手にナイト気取りでおかしいわよ。ほっといてよ!」
「ルイズ・・・・・お前・・・・・」
「ほら、さっさと魔法をかけられて、元のあんたに戻るがいいわ。元のあんたに戻ったら、帰る方法を探しなさい」
「ルイズ!」
ルイズは駆け出したが、一旦立ち止まり、俯いて言った。
「私、お手伝いがしたいけど。今の私じゃ無理ね。本当のゼロのルイズじゃ・・・・」
ルイズはそれだけ言い残すと、部屋を飛び出して行ってしまった。
駆け寄ろうとした才人の腕を、キュルケとギーシュが掴んだ。
「離せよ!離せ!」
「僕はね、君を友人だと思う。だからこそ、こうした方がいいと思うんだ」
「あたしも同じ気持ちよ」
2人は珍しく真剣な顔で頷きあう。
それを見ていた拓也の手をアイナが掴んだ。
「アイナ?」
「・・・・・・タクヤも・・・・・ティファニアの魔法を受けて・・・・・」
アイナは、涙を流しつつ、震える声で言った。
「タクヤも使い魔のルーンの影響を受けてる・・・・・・だから、効果が現れていない今のうちに・・・・・・」
アイナはそっと拓也を押し出した。
「ナウシド・イサ・エイワーズ・・・・・」
虚無のルーンが響く。
「ハガラズ・ユル・ベオグ・・・・・」
「ティファニア・・・・」
見ると、真剣な顔をしたティファニアが、才人と拓也に向かって虚無のルーンを唱えていた。
「ニード・イス・アルジーズ・ベルカナ・マン・ラグー・・・・・・」
呪文が完成する。
拓也と才人の意識が薄れ、2人はその場に崩れ落ちた。
次回予告
罪の意識を感じ、拓也と才人の前から去るアイナとルイズ。
自分の本当の気持ちと向き合う拓也と才人。
だが、それは突然現れる。
アイナ達の前に最凶最悪の敵が今蘇る。
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第四十四話 復活!最凶の敵!!
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
四十三話完成。
で、祝20万PV突破!!
ここまで来るとは自分でも予想外。
最初は、1話辺りのPV数は3000ぐらいだったはずですけどね。
読んでくれている皆様には感謝感激雨あられ(古っ!)。
それで今回なんですが、まあ、出来はそこそこ。
前回に比べれば遥かにマシ。
まあ、基本原作通り。
ちょこっと弄くっただけですね。
にしてもマリンエンジェモンの出番がなかったな。
ともかく、次回の敵は何でしょうね。
楽しみにしててください。
では、次も頑張ります。