我が家に帰還した拓也。
懐かしき朝を迎える。
第五十話 平和な買い物
拓也は朝の光で目を覚ました。
「ふあ~~~あ・・・・・・・ん?」
拓也は、いつもと違う天井に声を漏らしたが、
「そういえば、戻ってきたんだっけ・・・・・・」
すぐに理由を思い出す。
拓也はベッドから降りると、顔を洗うために洗面所へ向かう。
その途中、由利子から声がかかる。
「あら、おはよう拓也。早いのね」
「おはよう、母さん。うん、まあ向こうじゃ、早く起きる事が多かったから・・・・・」
「そう。ちゃんと自分で起きれるようになってるのは喜ばしい事ね」
「ははは・・・・・・」
母親の言葉に苦笑しながらも、拓也は洗面所へ向かった。
拓也は、洗面所で蛇口を捻って水を出し、それで顔を洗う。
そして、ふと思った。
「こうしてみると、こんな当たり前のことでも、とても便利なんだよな・・・・・・・ハルケギニアじゃ井戸まで行って水を汲んでたからな」
拓也はしみじみと地球の文明の便利さを再認識した。
拓也は顔を洗った後、テーブルについて待っていると、宏明が起きてきて、次いで信也。
そして、アイナ、シャルロット、イルククゥが起きてきた。
すると、おずおずとアイナが口を開いた。
「あの・・・・すみません・・・・・顔を洗う所は何処でしょうか?」
「あ、ごめんなさいね。拓也、アイナちゃんたちを洗面所に案内してあげて」
「わかった」
拓也は立ち上がり、アイナ達を洗面所へ案内する。
洗面所へ案内されるアイナ達だが、そこで少し不思議に思う。
なぜならば、水桶も何も無いのだ。
ただ、金属で出来た筒のようなものと、その根元に付くドアノブのような物。
「えっと・・・・・タクヤ?」
アイナは拓也に尋ねる。
「あ、そっか。これは、ここをこうやって捻ると・・・・・・」
拓也はそう言って水道の蛇口を捻る。
すると筒の先から水が出てくる。
「えっ!?なんで!?」
「水が出てきたのね!」
アイナとイルククゥは驚愕の声を漏らす。
シャルロットもその顔は驚愕に満ちていた。
「まあ、こういうわけだ。何で水が出てくるかは・・・・・・父さんにでも聞いてくれ」
拓也はそう言うと、アイナ達を促した。
朝食は、アイナ達を考慮してなのか、トーストやスクランブルエッグなどの洋食風であった。
そんな何気ない朝食風景の中でも、アイナ達ハルケギニアの人間にとっては、驚きの連続だった。
アイナは料理に興味があったため、由利子が朝食を用意する様子を眺めていたのだが、まず驚いていた物はガスコンロ。
魔法も使っていないのにスイッチ1つで火が点くのは、かなり衝撃的だったらしい。
そして、食品を保存しておく冷蔵庫。
ハルケギニアでも、食品を冷やして長持ちさせるという事は知られているが、問題は時間である。
いくら名のある魔法使いでも、昼夜休まず冷やし続ける事など不可能だ。
冷蔵庫は機械なので疲れ知らず。
冷やし続ける一点においては、限界のあるメイジなど目ではない。
更には、昨夜はあまり気にしていなかった照明器具。
ハルケギニアにも照明器具はあったが、それは全てマジックアイテムであり高価なもの。
ましてや、神原家のようなごく普通の家庭(ハルケギニアで言えば平民の家庭)に出回るような物ではない。
そんな照明器具を魔法を全く使わずに、そして簡単に手に入れられる事実に、アイナ達は大層驚いていた。
極めつけは、テレビ。
アイナ達からしてみれば、変な箱の画面に、色々な映像が映し出されるのだ。
これにはシャルロットも驚愕の表情を浮かべていた。
そんなアイナ達に拓也が言った。
「こんなことで一々驚いてると、街に行ったら身が持たないぞ」
その言葉に、
「・・・・・・い、色々と凄いね・・・・・・拓也の世界って・・・・・」
アイナはそう呟く事しか出来なかった。
由利子は、拓也、アイナ、シャルロット、イルククゥを連れて出かけることにした。
宏明と信也は留守番である。
服装は、魔法学院の制服である。
マントさえつけなければ、それなりに普通の格好だったので、そのまま着ている。
由利子が車を出してくると、やはりアイナ達は驚愕する。
「な、何これ?」
「ああ、これが自動車。話したことがあるかもしれないけど、馬の要らない馬車みたいな物だよ」
拓也が説明する。
「こ、これにも魔法が使われてないんだよね?」
アイナは確認するように呟く。
「当然」
拓也は即答した。
「ふわぁ・・・・・・」
アイナは声を漏らした。
車に乗って、街中を進む。
車の窓から見える景色に、ハルケギニアの3人は目を奪われていた。
「すごい・・・・・・なんて大きな街・・・・・・・」
「それだけじゃない。建物も大きい。ハルケギニアの城なんか目じゃない」
「きゅいきゅい。あの建物、窓ガラスが綺麗なのね」
そして、車が向かった先はデパート。
「ここは?」
アイナが尋ねる。
「ここはデパート。なんて言うのかな・・・・・・・基本的な生活に必要な物の殆どは揃ってる店・・・・・かな?」
拓也は、そう説明する。
一行が車から降りると、
「さぁ~て、先ずは洋服売場からね。う~ん、楽しみだわ~」
既にノリノリの由利子であった。
由利子は、洋服売場についた途端、アイナ、シャルロット、イルククゥを引っ張って行った。
拓也は、洋服売場の外で待ちぼうけを喰らっている。
時折、由利子と3人の声が聞こえてくる。
「アイナちゃんにはこっちの方が似合うかしら・・・・・・いえ、それともこっちかしら?」
「あ、あの・・・・おば様?」
「う~ん!迷うわ!」
だったり、
「シャルロットちゃん、ちょっと失礼」
「あ・・・・・・」
「う~ん。やっぱり眼鏡をしてない方が可愛いかしら?」
だったり、
「イルククゥちゃんは活発そうだから・・・・・・」
「きゅ!?きゅいい~~~!?」
「やっぱりラフな格好の方が似合うわね!」
みたいな声が聞こえてくる。
そんなこんなで、約2時間後。
拓也は洋服売場の近くにあるベンチに腰掛けて、待ち続けていた。
一応これでも、拓也は個人的に色んな所を回ってきて、戻ってきたところなのだが、未だに買い物は終わっていなかった。
「長い・・・・・」
思わず拓也は愚痴る。
すると、
「お待たせ~~」
由利子の声が聞こえてきた。
拓也はそちらを向いて、愚痴の一言でも言おうと思っていた。
だが、
「ッ!?」
拓也は言葉が出てこなかった。
「さあ、お披露目よ~!」
由利子は笑顔でそう言った。
アイナは白いワンピースで、前髪をヘアピンで留め、表情が良く分かるようになっている。
シャルロットは、黒のゴスロリドレス。
更には、眼鏡を外してコンタクトレンズにしている。
というか、由利子はいつの間にコンタクトレンズを買ってきたのやら。
最後のイルククゥは、白のTシャツにGパンというラフな格好。
だが、イルククゥの活発さと相まって、とてもよく似合っている。
アイナとシャルロットは、恥ずかしいのか頬を赤くして、少しモジモジしている。
イルククゥはいつも通りであったが。
拓也は、3人の姿を見て、顔を赤くした。
由利子は、ニコニコしながら、拓也に問いかけた。
「さあ拓也。3人の感想は?」
「え?ああ・・・・・・さ、3人とも、よく似合ってるよ」
拓也はちょっと動揺しながらそう答えた。
「えへへ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「きゅいきゅい」
3人は頬を染めながら微笑んだ。
因みに、由利子の両手には買い物袋が提げられていた。
今来ている服のほかにも何着か買ったらしい。
因みの因みに拓也の服だが、約10分で買い終わった。
アイナ達とはえらい違いである。
拓也の服装は、今までと似たような服装で、今の拓也のサイズに合わせたものである。
服の買い物が終わると、一行は休憩所で一旦休憩する事にした。
すると由利子が、
「飲み物買ってくるけど、何が良いかしら?」
そう聞いてくる。
「俺、コーラ」
拓也がすぐに答えた。
「アイナちゃんたちは?」
「えっと・・・・・その・・・・・・・」
アイナ達は如何答えれば良いのか分からない。
「母さん。アイナ達に聞いても分からないって。とりあえず、フルーツジュース辺りを買ってくれば大丈夫だと思うけど・・・・・」
拓也は、ハルケギニアの飲み物の事を考えてそう言った。
ハルケギニアには、炭酸飲料など無いのである。
「分かったわ。ちょっと待ってて」
そう言うと、由利子は近くの自販機に向かって行った。
拓也は、その間にアイナ達に話しかけた。
「で、地球の感想は?」
「うん・・・・・なんて言うか・・・・・・信じられない事ばっかりだよ」
「同感。それに、人々に活気がある」
「きゅいきゅい。ちょっと空気が汚くて自然も少ないけど、とっても便利な世界なのね」
それぞれの感想を述べる。
「まあな。犯罪とか、環境破壊とか。色々問題はあるけど、ハルケギニアに比べたら日本は平和なところだろうな。科学レベルも最先端らしいし」
「カガクって凄いね。魔法と違って誰にでも使えるんでしょ?」
「ああ。使い方さえ覚えれば、誰にでも使えるよ。」
アイナの言葉に拓也が答える。
「ハッキリ言って、ハルケギニアの魔法なんか目じゃない。人の英知の凄さを感じる」
「まあ、ハルケギニアじゃ、魔法が中途半端に便利だったからな。その所為で、この世界より技術の進歩が遅れてるんだろうな」
シャルロットの言葉にも答えた。
その時、由利子が缶ジュースを持って戻ってきた。
「お待たせ。はいどうぞ」
由利子はそれぞれに缶ジュースを手渡す。
「ありがとうございます。おば様」
「ありがとうございます・・・・・」
「きゅい。ありがとうなのね」
それぞれが礼を言う。
3人にはオレンジジュースが手渡された。
だが、手に持っても、どうやって飲めばいいのか分からない。
そんな3人に、拓也は実践して見せた。
「こいつはな、ここをこうやって・・・・・・」
拓也は缶の口の開け方を教える。
プシュ、という音と共に口が開いた。
拓也は、それを口に運ぶ。
「・・・・・・よく出来てる」
シャルロットが呟いた。
「それだけじゃない。この金属の入れ物も、形が全く一緒。こんなこと、ハルケギニアでは絶対に不可能」
シャルロットは冷静に分析する。
「そういえばそうだね」
アイナも缶をじっくりと観察する。
「おいおい。観察するのもいいけど、早く飲まないと温くなるぞ」
拓也の忠告にはっとなる。
アイナ達も拓也のやり方を見習って蓋を開けた。
それを飲むと、
「おいしい・・・・・」
「美味」
「きゅいきゅい。おいしいのね」
それぞれの感想を漏らす。
すると、シャルロットが拓也のコーラをじっと見た。
「ん?どうしたシャル?」
拓也は尋ねる。
「タクヤが飲んでるの・・・・・・装飾が私たちのと違う」
そう言った。
「ああ。味・・・・・っていうか、飲み物の種類が違うからな」
拓也の言葉に、シャルロットは更に興味深そうに見る。
「もしかして・・・・・飲んでみたいのか?」
拓也がそう尋ねると、シャルロットはコクリと頷く。
「まあいいけど。でも、お前たちの口には合わないかもしれないぞ?」
「それでも飲んでみたい」
シャルロットがそう言ったので、拓也はコーラの缶を差し出す。
シャルロットは受け取ると、躊躇なく口に運んだ。
「あらあら」
由利子が面白そうに笑う
「ん?どうかした、母さん?」
拓也は不思議に思い尋ねる。
「気付かないの?今の間接キスよ」
その言葉に、アイナとイルククゥがピクリと反応した。
だが、
「・・・・・・そういえばそうだな」
拓也は若干頬を染めたが、それほどのリアクションは起こさなかった。
拓也からしてみれば、既にキスはしているので、間接キスぐらいでは動揺は少なかったようだ。
それで、コーラを飲んだシャルロットの感想だが、
「不思議・・・・・口の中でシュワシュワチクチクしてる」
不思議そうにコーラを眺めた。
「でも、美味しいかも・・・・・」
シャルロットは中々気に入ったようだ。
「わ、私にも飲ませて!」
アイナがシャルロットからコーラを受け取る。
アイナもコーラを飲んだ。
「本当・・・・・どうなってるのかな?」
アイナも不思議そうにコーラを眺める。
「シルフィも!」
イルククゥもコーラを飲んだ。
だが、
「きゅい!?し、舌が痛いのね~~~!」
イルククゥには、炭酸の刺激は強すぎたらしい。
舌を出してヒーヒー言っている。
「イルククゥには合わなかったか」
拓也はそう呟いて、残ったコーラを飲んだ。
買い物が終わった一行は神原家に戻る。
アイナ、シャルロット、イルククゥは、初めての経験に疲れたのかすっかり参っている状態だった。
「ははは、3人ともすっかり疲れたようだな」
拓也は笑ってそう言う。
「うん・・・・・あんなに人が多いところも初めてだったし・・・・・・もう、驚く事ばっかり」
アイナがそう呟く。
すると、突然シャルロットが切り出した。
「タクヤ」
「ん?」
「この世界の、歴史と法律を教えて欲しい」
「え?」
「今日一日見ただけでも分かった。この世界は、ハルケギニアよりずっと人々に活気がある」
「そうか。いいけど、家に法律の本なんかあったかなぁ?」
拓也は立ち上がって探しにいく。
親に聞いたところ、法律の本は偶々あることが分かり、歴史は小学校の教科書でも載っている。
それを持って戻ってきたところ、何故か神原一家全員含めた勉強会にいつの間にかなっており、その勉強会はかなり長く続いた。
その勉強会が一区切りついたとき、大雑把に日本の法律を聞かされたシャルロットが呟いた。
「この法律を知ってると、今のハルケギニアの階級制度がどれだけ馬鹿げたものかが良く分かる。タクヤやサイトが、貴族に対してよく思わない理由も頷ける」
「まあな。ぶっちゃけていえば、ハルケギニアの法律は、王族や貴族のための法律だからな。こっちからしてみればふざけてるとしか言いようがないよ」
「ホントだね・・・・・」
アイナも同意した。
「それにしても、シャルロットちゃんって、本当に勉強熱心なのね。感心するわ」
由利子が言った。
「ああ。シャルは王族だからね」
そう拓也が何気なく呟いた言葉で、拓也を除いた神原一家が固まった。
「「「ええぇ~~~~!?」」」
そして叫んだ。
「あれ?言ってなかったっけ?」
拓也は不思議そうに呟いた。
「初耳だよ!」
信也が叫ぶ。
「じゃあシャルロットちゃんってお姫様?」
由利子がワクワクしたような表情で尋ねる。
「ま、まあ、そうなるだろうけど、王族っていうのか色々陰謀とかなんやらがあるように、シャルも過酷な人生送ってるからその事にはあまり触れないで」
拓也は小声で由利子に言った。
「そ、そう・・・・・分かったわ・・・・」
由利子は、ちょっとバツが悪そうな顔をして下がった。
由利子は話を変えるように切り出す。
「そういえば拓也、源君って知ってる?」
「え?輝二の事?知ってるけど」
「今まで忘れてたんだけど、源君が拓也が行方不明になった時に言ってきたのよ。『拓也は必ず戻ってくる』って」
「あいつ・・・・・・」
拓也は、思わず笑みが零れる。
「よければ、拓也が戻ってきたことを教えたほうがいいと思うんだけど」
「うん!お願い!」
拓也は元気良く返事を返した。
拓也は懐かしき仲間たちの事を思い出し、笑顔になるのだった。
だが、
『次のニュースです。今朝、東京都自由ヶ丘で、28歳の女性が急性貧血で倒れているのが発見されました。ここ数日で、急性貧血が多発しております。皆様も健康には十分注意してください』
この世界でも、邪悪な意思が胎動していた。
その事に、まだ拓也は気付いていない。
次回予告
デジタルワールドでの仲間たちとの再会。
輝一の生存を知り、喜ぶ拓也。
だが、この世界を覆いつくさんとする暗黒の意思が少しずつ迫っていた。
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第五十一話 仲間との再会!・・・・・そして、暗黒の胎動
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
祝!50話達成!!
いや~、ここまで続くとは思いませんでした。
読んでいただいている皆様には感謝!
と言っても今回はなんだかな~。
悪くないとは思うんだけど、良くもない。
なんて言うか・・・・・・平凡?
とりあえず服装の案を出していただいた皆様には感謝です。
次回は漸く仲間達との再会です。
では、次も頑張ります。