デーモンを倒す代わりに、次元の穴に飲み込まれたカイゼルグレイモン達。
そこでは…………
第五十七話 虎街道の戦い
次元の穴に飲み込まれた一同。
「くうっ!」
次元の狭間の空間の乱れに声を漏らすカイゼルグレイモン。
「離れるなよ! 違う世界に飛ばされるんだ! 同じ世界で離れ離れならともかく、それぞれが違う世界に飛ばされたら最悪だぞ!」
マグナガルルモンが叫ぶ。
その言葉に、マグナモンは信也を支えつつマグナガルルモンと手を繋ぎ、マグナガルルモンはもう片方の手でカイゼルグレイモンの腕を取る。
だが、
「うっ!」
突然マグナモンが光に包まれ、幼年期であるチビモンまで退化してしまった。
恐らく、エネルギーが尽きたのであろう。
「チビモン!」
信也は慌ててチビモンを抱きとめる。
しかし、マグナガルルモンの手から離れていた信也とチビモンは、カイゼルグレイモン達とは別方向へ流されようとしていた。
「信也!!」
カイゼルグレイモンが叫んで、信也に手を伸ばす。
だが、届かない。
「信也ぁっ!!」
カイゼルグレイモンは、悲痛な叫びを上げる。
信也の姿が次元の狭間の暗闇に消えようとした。
その時だった。
「きゅい~~!」
鳴き声を上げて、シルフィードが信也を受け止め、そのままカイゼルグレイモン達の方へ飛んでくる。
「シ、シルフィード!? 何で!?」
カイゼルグレイモンは驚きの声を上げる。
「きゅいきゅい。 何とか追いついたのね」
シルフィードはそう言う。
「タクヤ!」
「タクヤ……」
シルフィードの背に乗っていたアイナとシャルロットも顔を見せる。
「お前ら、何て無茶を。 全く知らない世界に飛ばされるんだぞ!」
カイゼルグレイモンはそう言う。
「私達は、タクヤと一緒にいればどんな世界でも平気だよ」
「ずっと一緒………」
2人はそう答える。
「それに、拓也も信也も、親離れするのはまだ早いぞ」
宏明がそう言う。
その言葉で、カイゼルグレイモンは、宏明と由利子。
更には平賀夫妻までシルフィードの背中に乗っていることに気が付いた。
「なっ!? 父さん達まで」
カイゼルグレイモンはそう漏らす。
「拓也君、折角再会できたのに、また勝手にいなくなるのは駄目よ」
人美がそう言う。
「………………」
その言葉に、何も言えなくなるカイゼルグレイモン。
「カイゼルグレイモン。 感動するのは良いが、この状況を何とかするぞ」
マグナガルルモンの言葉に、カイゼルグレイモンはハッとなって、気を取り直す。
「だが、何とかすると言っても、この状態じゃ、互いに離れないようにする事ぐらいしか………」
と、そこまで言いかけたとき、
「……ん?」
カイゼルグレイモンは、持っていた覇竜刀から光が漏れている事に気が付いた。
「何だ?」
カイゼルグレイモンは不思議そうな声を漏らすが、覇竜刀から漏れる光の粒子はどんどん増えていき、ある一定の量に達すると、光の粒子が次元の狭間の暗闇に一直線に進んでいく。
まるで道を作るかのように。
その光の道の先に、眩い光の扉が現れる。
「こ、これは!?」
カイゼルグレイモンは思わず叫ぶ。
「きゅい! 精霊達が導いてくれてるのね!!」
シルフィードが叫んだ。
「じゃあ! この光の道を辿れば!」
「恐らく、ハルケギニアに行ける!」
アイナとシャルロットはそう確信する。
「……まあ、全く知らない世界よりかは断然良いか」
カイゼルグレイモンも頷く。
そうなれば、行動は早かった。
「行くぞ!」
カイゼルグレイモンの言葉と共に、マグナガルルモン、シルフィードは、その光の道に乗り、光の扉を目指す。
最後に、カイゼルグレイモンも続いた。
マグナガルルモンとシルフィードが光の扉に飛び込み、最後にカイゼルグレイモンも飛び込もうとした時、
「……ん?」
カイゼルグレイモンの視界の端に何かが映る。
次元の狭間の暗闇の中、微かに浮かぶそのシルエット。
正十二面体をした巨大な物体。
「何だ……あれは………?」
カイゼルグレイモンは、そう呟くと同時に光の扉に飛び込んだ。
光の扉に飛び込んで、視界が光で満ちて、数瞬後。
突然視界は開け、青空が映る。
「くっ!」
突然の重力に、バランスを崩すが、すぐに持ち直す。
「ここは………?」
カイゼルグレイモンは周りを見渡す。
マグナガルルモンとシルフィードも無事なようで、近くに滞空している。
遠くを見れば、火山と思わしき山々が煙を上げている。
「アイナ、シャル。 ここがどの辺りか見当は付くか?」
カイゼルグレイモンは、アイナとシャルロットに尋ねる。
2人は周りを見渡す。
すると、
「多分、あの火山の山々は火竜山脈。 でも、ここはガリア側じゃない。 おそらくロマリア」
シャルロットがそう答える。
「ロマリアか………来るのは初めてだな」
カイゼルグレイモンはそう呟く。
「ともかく、トリスティンまで戻るか? 今の俺達は無一文に等しいし」
カイゼルグレイモンは、気を取り直してそう提案する。
「そうだね。 私もそれでいいと………」
そこまで言いかけたアイナの言葉が止まり、何かに気付いたようだ。
「あれはっ!?」
アイナの慌てた様子に、カイゼルグレイモンはアイナの視線の方向を向く。
そこには、かなり遠い場所だが、鋼の鎧を纏った巨人。
「ヨルムンガンド!? 何故だ!? ガリアがロマリアに攻め込んでるのか!?」
ヨルムンガンドの姿を捉えたカイゼルグレイモンが驚く。
だが、驚くべき事はまだ会った。
カイゼルグレイモンの驚異的な視力が、ヨルムンガンドの周りの状況を明確に捉える。
そこには、見覚えのある少年達。
「なっ!? 水精霊騎士隊!? 拙い!!」
カイゼルグレイモンは、叫んで飛び出す。
だが、距離はかなりある。
その時、
「カイゼルグレイモン!」
マグナガルルモンが追ってくる。
「カイゼルグレイモン、とりあえず、あの巨人が敵という事でいいのか!?」
マグナガルルモンはそう尋ねる。
「ああ!」
カイゼルグレイモンは迷い無く頷く。
「わかった! 任せろ!!」
マグナガルルモンはそう応えると、ブーストを吹かしてカイゼルグレイモンを超えるスピードで、ヨルムンガンドへと突撃した。
才人達水精霊騎士隊は、拓也達が消えた後、アンリエッタの命令でルイズとティファニアを連合皇国首都ロマリアまで護衛する事になった。
ジュリオの悪戯で多少の一悶着はあったが、無事に辿り着く一同。
そこで、ロマリアの教皇であるヴィットーリオ・セレヴァレに出会い、そのヴィットーリオから聖地を取り戻す為に、エルフ達との戦いの協力を要請される。
それに先駆け、“虚無”を集める為にガリアのジョゼフを倒す必要があることも教えられる。
だが、才人はジョゼフとの戦いは賛成するものの、エルフとの戦いは反対だった。
しかし、アンリエッタは何故かヴィットーリオに賛成し、人の国を守る為に、エルフを犠牲にするとまで言った。
結局話は纏まらず、暫くロマリアに滞在する事となる。
その翌日、才人はジュリオに連れられて、ロマリアで“場違いの工芸品”と呼ばれる地球から来た武器を見せられた。
そこには、拳銃や日本刀だけではなく、戦車まであったのだから驚きだ。
そして、ジュリオはこの武器を才人に進呈するとまで言ったのだ。
更に、この武器は“聖地”の近くで見つかっており、聖地には地球へのゲートがあるのではないか、とも言い出した。
才人は、ジュリオが言っている事に嘘はないだろうと判断する。
そして、自分を聖地の奪還の戦いに駆り出す為の口実であろうことも簡単に予想できた。
それでも才人はエルフの戦いに協力は出来ないと言い切った。
ジュリオは呆れながらも、才人をロマリアの町へと連れて行った。
そんな中、一緒にロマリアに来たコルベールが、ヴィットーリオに火のルビーを渡した事により、状況が変わる。
ヴィットーリオは虚無の担い手であり、再びその手に火のルビーが戻った事で新しい虚無の魔法を覚えられるようになった。
そして、覚えた魔法は“世界扉”。
地球とハルケギニアを結ぶゲートを開く魔法であった。
それを知ったルイズは、悩み抜いた結果、才人を地球へ帰す事を決意する。
そして、1日のデートの最後に、才人に眠りの魔法薬を飲ませて眠らせる。
ルイズは、“世界扉”を開いてもらう代わりに、“聖女”として、聖戦に協力する事を約束したのだ。
そして、ルイズは“聖女”となった。
だが、才人を失ったルイズの悲しみは深く、ティファニアに才人の記憶を消してもらうほどであった。
その頃、才人は夢を見ていた。
いや、夢というには現実味がありすぎる夢。
ブリミルと名乗る男性。
サーシャと名乗るガンダールヴのルーンを持ったエルフの女性。
ヴァリヤークと呼ばれる軍勢との戦い。
そして、新しき土地へのゲート。
才人は、そのゲートを潜ったところで目を覚ました。
才人が目を覚ますと、ジュリオとヴィットーリオがおり、才人は、そこでジュリオからルイズとギルモンが聖戦に駆り出されている事を知り、すぐにデルフを引っ掴んで現場に向かおうとした。
だが、ヴィットーリオによって地球へのゲートが開かれていた。
地球へ帰るか。
ハルケギニアに残るか。
才人は究極の選択を迫られる。
だが、才人が選んだ道は、ハルケギニアに残る事だった。
才人がハルケギニアに残る事を選んだ為に、ジュリオは、もし才人が地球に帰ることを選んだ時に撃つつもりだった銃を下ろした。
才人は、それでこの2人はルイズの気持ちを利用していた事を知り、とりあえずジュリオをぶん殴った。
そのジュリオから倉庫に“槍”が置いてある事を聞き、才人は倉庫へ向かった。
すると、その倉庫には、戦車が置いてあり、コルベールとキュルケが整備をしていたのだ。
とりあえず、才人はその戦車で、現場に急行することにした。
ルイズを守る、水精霊騎士隊を含めた軍勢は、火竜山脈の峡谷に作られた“虎街道”に差し掛かるところであった。
そして、そこでルイズの出した指示は、
「誰か、私の前まで敵を引っ張ってきて頂戴。 一撃で片を付けるわ」
であった。
すると、ロマリアの聖堂騎士隊の隊長であるカルロが頷き、ギーシュ達に顎をしゃくった。
「ご使命だ。 行きたまえ」
カルロがそう言う。
「僕達に、ここへ飛び込めって言うのかい?」
峡谷の奥を指差し、ギーシュはそう聞き返す。
「当たり前だ。 我々は聖女殿を守らなければならん。 君達では不可能な任務だ。 だから可能な任務を与えてやろうというのだ。 感謝したまえ」
カルロは悪びれもせずにそう言った。
流石に、その言葉には水精霊騎士隊の少年達も黙ってはいられなかった。
ギムリが杖を引き抜くと、少年達は一斉に杖を抜いた。
「貴族に“死ね”と言う時には、それなりの作法があるんだぜ。 クソ坊主」
「仲間割れしてる場合じゃないでしょう!」
そんな様子を見かねたルイズが叫んだ。
すると、意外にもギーシュが少年達を諌めた。
「諸君、杖を引っ込めようじゃないか。 ルイズの言うとおりだ。 喧嘩してる場合じゃない」
「わかったら、早く行け!」
苦々しげにそう言うカルロに、ギーシュは向き直る。
「任務に赴く前に、正直なところを言ってよろしいか?」
ギーシュがそう尋ねると、
「聞いてやろう」
カルロは、そう答えた。
「では、はっきりと申し上げるが、僕は君達のやり方が気に入らない。 そりゃ僕達はブリミル教徒だ。 ハルケギニアの貴族だ。 教皇聖下が聖戦と仰るのなら、従うまでだ。 でも、僕は多少、アルビオンで地獄を見てきた。 威勢のいいことばかり言ってる連中は、僕も含めていざという時にはからっきしだった。 だから、いまいち君達にはついていけないのさ。 なんというかな、そういうのは芝居の中だけにしておいて欲しいんだよ」
カルロは、顔を赤くするほどの怒りを覚えたが、何とか堪えた。
「結構!」
「ギーシュ!」
ギーシュの物言いに、ルイズが叫ぶ。
「ルイズ。 1つだけ約束してくれ」
「何よ?」
「死ぬなよ。 危なくなったら、全てを放り出して逃げるんだ。 サイトやタクヤが言ってただろ。 神様や名誉の為に死ぬのはバカらしいってな。 聞いたときにはなんて言い草だと思ったもんだが、今なら分かる。 死んだらご奉公は無理だぜ。みっともなくとも生き残る。 それが本当の名誉だ。 それに、君を死なせたらサイトに恨まれるからね」
「だから、タクヤはともかく、そのサイトって誰よ!?」
すると、ギーシュは傍らにいるギルモンに語りかける。
「ギルモン、いざとなったら、君がルイズを守るんだ。 引き摺ってでもルイズを逃がしてくれ」
ギーシュは踵を返すと、腕を振り上げ、
「前進!」
その号令と共に、水精霊騎士隊は死地へ向かって歩き出した。
水精霊騎士隊が敵を確認すると、敵はシャルロット救出の際、ゲルマニアとの国境で襲ってきたヨルムンガンドであった。
そのヨルムンガンドは、低い位置を飛んでいた船に飛び掛って墜落させ、風石を補給した後、左右の崖を上り始めた。
どうやら、山伝いに進軍して、味方の側面を突くつもりらしい。
それを見たギーシュは、
「しかたない。 ともかく、注意を引こう」
そう決心した。
すると、ギーシュは使い魔のウェルダンテを呼び出し、自分の髪を一房切る。
「ウェルダンテ。 もし僕が死んだら、君はモンモランシーにこれを届けるんだ。 いいね?」
そう言って、ギーシュはウェルダンテにその髪を渡す。
ウェルダンテは、目に涙を浮かべながら首を振るような仕草をした。
「笑って見送っておくれ。 僕は貴族なんだよ」
それを見ていた水精霊騎士隊の面々も、己の使い魔に自分の髪を手渡す。
家族や恋人への言葉と共に。
「レイナール、作戦を言え」
ギーシュが硬い声で言った。
「作戦? おいおい如何しろっていうんだ? 魔法を撃ちまくって注意を引いて、あとはフライで逃げる。 こっちに向かってきてくれればお慰み。 そのくらいだね」
レイナールはやや、ヤケクソ気味にそう言った。
「上等だ! 行くぞ!」
ギーシュのその言葉を合図に、水精霊騎士隊は飛び出して各々がヨルムンガンドに攻撃を加える。
ヨルムンガンドが腕に持った大砲を放ってくるが、少年達は風魔法でそれを防ぐ。
ギーシュたちは、ゴーレムで踊りを踊ったり、ヤジを飛ばしたりで挑発する。
そして、その様子はシェフィールドからも見えていた。
シェフィールドは、ヨルムンガンドに攻撃を加えているメイジたちの中に、ルイズと一緒にいたギーシュの姿を確認する。
シェフィールドは、ヨルムンガンド達にギーシュ達を追うように命令を出した。
「きやがったきやがった!」
「諸君! 撤退だ!」
ギーシュの号令で、少年達は一斉にフライで飛び立つ。
「速度差に気をつけろよ! 追撃を諦めさせるな!!」
そう叫びながら、虎街道の出口を目指した。
虎街道の入り口では、ルイズがエクスプロージョンの詠唱を完成させていた。
カルロが何やら愚痴っているが、街道の先にぽつぽつと小さな点が幾つも飛んでくる。
フライで飛ぶ水精霊騎士隊だ。
その後を2体のヨルムンガンドが追いかけていた。
「ルイズゥゥゥゥゥゥゥッ!! あとは任せたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
次々に少年達がルイズの傍を飛び退っていく。
ルイズは、迫り来るヨルムンガンドに向かって、完成したエクスプロージョンを放った。
2体のヨルムンガンドの中心に光が生まれ、膨れ上がり、2体のヨルムンガンドを飲み込んだ。
「やったか?」
カルロが笑みを浮かべる。
だが、次の瞬間驚愕の表情に変わる。
なんと、ヨルムンガンドは何事もなく立っていた。
「無傷……」
ルイズも呆然と呟く。
すると、ヨルムンガンドの口と思わしき所が開き、シェフィールドの声が響いた。
『お久しぶりね。 トリスティンの虚無。 こうやってお会いできる日を楽しみにしていたわ』
「ミョズニトニルン!」
『残念ね。 以前のヨルムンガンドなら粉々だったでしょうけど、エルフの技術で、装甲に“焼き入れ”を施したのよ。 まあ、デジモン相手には焼け石に水程度に思っていたけど、お前の魔法を防ぐぐらいの強度は有るんだよ』
心底、楽しそうな声だった。
「うわぁああああああっ!」
周りを守るカルロが、悲鳴を上げて逃げ出した。
聖堂騎士隊は、群を成して遁走する。
ルイズの周りには、誰もいなくなった。
「ルイズ! 逃げろ!!」
後ろでギーシュ達が叫ぶ。
「………私は聖女よ。 逃げられるわけないじゃない!」
しかし、ルイズは動かなかった。
その間にも、ヨルムンガンドは近付いてくる。
「援護だ! ルイズを援護しろ!!」
ギーシュが叫び、水精霊騎士隊の面々が魔法を放つ。
だが、その強固な甲冑に全て弾かれる。
ヨルムンガンドが剣を振り上げ、ルイズの近くに振り下ろされる。
ルイズはその衝撃で地面を転がった。
『お前、今まで随分と手こずらせてくれたねぇ。 ただ殺しはしないよ。 貴様が、私とジョゼフ様をコケにしてくれた分だけ苦しめてやる』
ルイズは立ち上がろうとしたが、腰が抜けて立てない。
周りのロマリア軍も、大砲での砲撃や魔法の嵐がヨルムンガンドに降り注ぐが、全く効果はなかった。
「うわぁああああああっ!! 化け物だぁああああああああっ!!」
遂に兵士達が逃げ出す。
いくら“聖戦”といえど、攻撃が効かなければどうしようもない。
だが、それでもルイズは杖を拾って果敢にも立ち向かおうとする。
「バカにしないで! 私、何度もアンタに煮え湯を飲ませてきたのよ! 今回だって、きっと負けないわ!!」
だが、その言葉は空しく響く。
『ほう。 どうやって?』
「私の魔法でよ!」
『寝言にしか聞こえないよ。 お前の魔法なんか効かないじゃないか! まったく虚無の担い手が効いて呆れるよ! お前の使い魔は如何したね? いつも番犬のようにお前の前に立ち塞がってたじゃないか。 パートナーがいないんじゃ、そこのデジモンも力を発揮できないだろう? とうとう愛想をつかされたのかい?』
「私に使い魔はいないわ! 私はたった一人で……ッ!?」
そこまで言いかけた所で、ルイズの頭に痛みが走る。
ルイズの心に、矛盾が広がる。
本当に自分は1人で勝利を収めてきたのか?
自分の横にはギルモンだけしかいなかったのか?
そして、ギーシュ達が言うサイト。
「………誰?」
思わず言葉が漏れた。
『忘れちまったのかい? それとも、本当に愛想を尽かされちまったのかい? 無理もないね。 お前は本当にどうしようもない無能だからね! ああ、この私がお前のような無能に何度も土をつけられたなんて! 全く自分が情けないよ! だけど、それも今日で最後だ。 お前が死ぬ所を、あの方に見せて差し上げる。 そうすれば、あのお方も気付く筈さ。 この世で、誰が一番なのかってね』
黒い影がルイズの心を過ぎる。
その影が、記憶の中の自分を振り払い、自分の前に立ち塞がる。
「………けて」
ルイズの口から言葉が零れた。
「たすけて」
ルイズは、自然と救いを求める声を漏らしていた。
『命乞いかい? 貴様、この私に命乞いをしているのかい?』
「サイト、たすけて」
ルイズは自然とその名前を口にしていた。
そうすれば、何とかなるような気がした。
『おやおや、とうとう詠唱すら諦めて命乞いか? まったく貴様の虚無など、我が主人のそれに比べたら、子供のままごとだよ。 虚無の恥さらしめ! 死ね!』
ヨルムンガンドの足が振り上げられる。
ギルモンがファイヤーボールを連発するも、効果は無い。
その足が、ルイズを踏み潰さんと迫ってきた。
「サイト!たすけて!!」
ルイズは目を瞑って絶叫した。
その瞬間、
――ガゴォォォォン
何かがぶち当たる音が響き、ルイズは恐る恐る目を開ける。
すると、自分を踏み潰そうとしていたヨルムンガンドの足が無くなっていた。
片足を失ったヨルムンガンドがゆっくりと後ろに倒れる。
「え?」
何が起こったのか分からず、ルイズは声を漏らす。
その時、
「ルイズーーッ!」
ルイズを助ける機会を窺っていたギーシュ達が駆け寄る。
そして、ルイズを抱え起こすと、ヨルムンガンドから離れた場所へと逃げ出した。
ルイズは、張り詰めていた緊張の糸が切れ、気を失った。
「ちょっと、下だったかな」
戦車砲の照準器を覗き込みながら、才人は言った。
敵の大きさを見誤り、狙った場所からズレた所に着弾したのだ。
才人は、照準を修正し、倒れてもがくヨルムンガンドを狙う。
そして、発射レバーを思い切り引いた。
今度は、狙い違わず88mm鉄鋼弾は着弾し、ヨルムンガンドがバラバラに弾け飛ぶ。
才人は、砲弾を装填すると、もう1体のヨルムンガンドを狙う。
残った1体のヨルムンガンドは、片方のヨルムンガンドがやられた時、岩陰に隠れていた。
だが、そのヨルムンガンドが様子を窺う為に、岩陰から顔を出した時、才人は発射レバーを引いた。
戦車砲は、2リーグの距離があっても、正確にヨルムンガンドの頭部に命中した。
『やったなサイト君!』
前部の操縦席に座るコルベールの声が、耳につけたヘッドフォンから聞こえる。
「すごいわ……2リーグは離れているのよ。 それなのに砲弾が命中するなんて………」
コルベールの隣の無線手の席に座ったキュルケが、驚いた声を上げた。
因みに、コルベールは、才人の運転を見ていて、戦車の運転の仕方をすぐに覚えた為、才人と交代して運転している。
「この“ティグレス”と言ったかな? 戦車の操縦は、あの“ひこうき”に比べたらずっと簡単だな! ここをこうすれば前に動き………」
そう言いながら、コルベールがアクセルを踏みしめると、戦車が前進し、茂みの中から姿を現す。
「この操作円盤を回せば、回頭する」
続けてハンドルを回すと、戦車は進路を変える。
「っと、姿を現しては、拙かったかね?」
コルベールが、才人にそう尋ねる。
「いえ、どっちみち砲煙で位置はバレます。 このまま突っ込みましょう。 敵をこっちに引き付けないと」
戦車は地響きを立てながら、虎街道を目指して走り出した。
ロマリア軍が、全く歯が立たなかったヨルムンガンドを2体も破壊した為、潰走していたロマリア軍から歓声が沸いた。
ヨルムンガンドが破壊される所を、シェフィールドも確認していた。
「2リーグも離れた場所から、ヨルムンガンドの装甲を撃ち抜いただと………?」
デジモンでもない存在に、そんな事が可能なのかと、シェフィールドにとって信じられないことだったのだが、そんなことをやってのける存在を、シェフィールドは思い出す。
「とうとう現れたようだね。 面白い。 決着をつけようじゃないの。 ガンダールヴ!」
シェフィールドは、感情の赴くままに、ヨルムンガンドを全て突撃させようとした。
だが、
「シェフィールド………」
シェフィールドの傍らにレナモンが現れ、声をかける。
「なんだい、レナモン!」
出鼻を挫かれたような気分になったシェフィールドは声を荒げる。
しかし、レナモンはその怒りを受け流し、
「シェフィールド、少し冷静になった方が良い。 相手の戦力も分からず突撃を命じるなど、君らしくもない」
そう忠告した。
「ッ!?」
レナモンの忠告に、シェフィールドはハッとなり、一気に熱を持った頭が急速に冷めていく。
「そ、そうだね。 アンタの言うとおりだ。 得体の知れない敵に何の考えも無しに飛び出すなんて、自殺行為もいいところだ」
シェフィールドは、自分に言い聞かせるように呟き、興奮した感情を落ち着ける。
すると、
「………感謝するよ、レナモン」
小さな声で、シェフィールドはそう呟いた。
「………フッ」
レナモンは、小さな笑みを浮かべると、木の葉が舞い散ると同時に姿を消した。
「さて、先ずは2体位で様子見だね」
シェフィールドはそう言うと、ヨルムンガンドに命令を下した。
虎街道へ向かう戦車の周りに、ロマリア軍の将兵が集まってきた。
才人がハッチから顔を出すと、馬に跨って併走する1人の騎士が、才人に呼びかけた。
「援軍感謝! あの悪魔のような甲冑人形をやっつけるなんて………! 貴官の所属を述べられたし!」
「トリステイン王国、水精霊騎士隊!」
「了解! お頼み申す! 旗が無くては士気に関わる! これを掲げられよ!」
騎士は才人に旗を投げて寄越した。
聖戦旗だ。
「なんだこれ?」
才人は、旗がどういう意味を持つか分からなかったが、とりあえず連合軍的な意味を持つ旗なのだろうと思い、才人は旗をアンテナ基部に突き立てた。
翻る聖戦旗に、ヨルムンガンドによって下がっていたロマリア軍の士気が、一気に沸騰した。
「教皇聖下万歳! 連合皇国万歳!」
才人に旗を渡した騎士は、叫びながら自軍へと引き返していく。
「諸君! 注目! 我らが聖戦に、トリステイン王国より強力な援軍だ! 臆するな! 始祖の加護は我にあり!」
だが、才人は思った。
(俺が戦うのは、信じてもいない、神様の為なんかじゃねえ)
才人は聖戦旗の上に、外した自分のマントを括り付けた。
百合紋のマントを翻させながら、戦車は疾走した。
峡谷の入り口に、ヨルムンガンドが2体現れる。
それぞれの手には、艦砲が握られている。
才人は砲塔に潜り込み、ハッチを閉めた。
再び砲手席に座り、照準器を覗き込む。
「先生! 止めて!」
ブレーキがかかり、戦車は停止する。
距離は千。
直接照準でも問題ないと、左手のルーンが教えてくれる。
その時、ヨルムンガンドが戦車に大砲を向ける。
2体のヨルムンガンドが同時に大砲を撃ってきた。
――ガィイイイイイインッ!
1発は車体前面に当たり、粉々に砕け散る。
車体が派手に震動し、激しい大音声が響き渡る。
猛烈な痺れが全身を包むが、被害はそれだけ。
戦車の装甲は、地球で言う数百年前の大砲など物ともしない。
「ボケが! 人型が戦車に勝てるわけねえだろ! 図体がでかいんだよ! 無駄に高えんだよ!」
才人はそう叫びながら発射レバーを引く。
「地球ナメんな! ファンタジー!!」
ヨルムンガンドが持っていた大砲とは、言葉通り桁違いの威力を持った砲弾が放たれる。
その砲弾は、ヨルムンガンドの身体に大穴を開けた。
もう1体が近付いて来るも、その前に砲弾の装填を完了させ、撃ち出した砲弾の前にもう一体のヨルムンガンドも破壊された。
続けざまに、現れた4体のヨルムンガンドを倒した戦車に、水精霊騎士隊の少年達は駆け寄った。
「サイトだ! あれはサイトだぞ!」
アンテナに翻るシュヴァリエのマントを見て、マリコルヌが叫ぶ。
「凄いな! 鉄の箱に大砲が付いてるぜ!」
「サイトが鉄箱のお化けでやってきたぞ!」
水精霊騎士隊の隊員達は、司令塔から顔を出した才人にしがみ付いた。
「遅れてごめん」
その熱狂に照れくさいものを感じ、才人ははにかんで言った。
ギーシュが泣きながら才人の手を握る。
「ぼ、ぼく、僕は……君が絶対来ると……だって、君はふくたいちょうおだから………」
「よせやい」
すると、
「サイトォ!!」
ギルモンが。才人の頭に飛びつく。
「うわっとと……へへっ、待たせたなギルモン」
「うん!」
ギルモンは笑顔で頷く。
ギムリが、抱えていたルイズを砲塔の上に乗せた。
「サイト、君の主人だ。 気を失っているが……まあ、命に別状はないだろう」
才人はギルモンを頭の上から下ろし、ルイズを見つめる。
白かった巫女服はドロドロに汚れ、頬には血と土がこびり付いている。
「バカヤロウ……」
才人は、ルイズの無茶を想像してそう呟く。
才人は優しくルイズの頬を撫でた。
すると、ルイズがゆっくりと目を覚ました。
ルイズの視線が才人を捉えると、
「……アンタ誰?」
と呟く。
そして、才人の手が自分の頬に触れていることに気付くと、ルイズは才人を突き飛ばす。
「ぶ、無礼者!」
それを見たギーシュ達は、あちゃあ、と言わんばかりに顔を押さえる。
「何言ってるんだ? お前……」
ルイズの反応に困惑する才人。
ギーシュが、参った参ったと首を振りながら、才人に告げる。
「どうやら、ティファニア嬢の魔法で消しちゃったみたいだよ。 君の記憶を」
「はぁ?」
ギーシュの言葉に、呆れた声を漏らす才人。
「俺だよ。 ホントに忘れちまったのか?」
才人がルイズに確認するように尋ねると、ルイズは野良猫のように唸る。
「お前なぁ……何考えてんだよ……ホントバカって単語は、お前のためにあるようなもんだね」
才人が更に呆れたようにそう言う。
「だ、誰がバカよ! 失礼な奴ね!」
ルイズが叫ぶ。
「勝手に人の記憶を消すなんて……何考えてんの?」
怒りと悲しさで、才人は首を振る。
「そうかそうか。 そんなに忘れたかったのかよ! そりゃ俺はお前を怒らせるようなことばっかりしたかもしんないけど、色々大変だったし、頑張ったんだぞ!」
才人は、怒りに任せて怒鳴りつける。
「私を怒らせるようなことしたですってぇ~~~~~~~~!」
ルイズが怒鳴る。
そんな2人のやり取りを見ていたギーシュが、首を振りながら才人に言った。
「違うよ」
「何が違うんだよ」
「君は本当に女心が分かってないな! 君の存在はそれだけ、ルイズの中で大きかったってことさ。 会いたいのに会えない。 生きているのに会えない。 そんな状態に耐えられないほどにね」
ギーシュのその言葉を聞いて、才人はハッとなった。
そして、ルイズへの愛しい気持ちが湧き上がってくる。
才人は、ルイズを見つめる。
戦車の上から飛び降りると、ルイズの手を握った。
「な、なによ……」
ルイズは顔を背ける。
「俺だ。 平賀 才人だ。 またの名を、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。 お前の使い魔だった。 忘れちまったのか? ホントに?」
「サイト……使い魔?」
先程、思わず口にした名前なのだが、今のルイズにとって、才人は本当に見覚えが無いのだ。
「なあルイズ。 聞いてくれ。 お前はティファニアの“忘却”で、俺の記憶を消しちゃったんだよ!」
「はぁ? 何で私がそんなことしなくちゃいけないのよ!?」
「そこはそれ、愛って言うんですか。 それほどまでにお前は俺のことを………その、歯が浮く言い方で言えば、“愛していた”と。 そういう事で……」
その言葉を聞くと、ルイズの目が吊り上る。
「愛していた? 誰が誰を?」
「お前が俺を」
そう言って才人が頷いた瞬間、股間が蹴り上げられ、才人は地面に崩れ落ちる。
「もう一回尋ねるわね。 誰が誰を?」
才人は痛む股間を押さえながら、
「皆! このおとぼけさんに言ってやってよ! この桃髪万年春少女が、どんだけ俺を愛していたかを!」
才人が必死にそう叫ぶ。
すると、マリコルヌがちょこちょこと駆け寄り、ルイズに耳打ちする。
「コイツ、夢見てんすよ」
周りの少年達がマリコルヌを押さえる。
「おい! ぽっちゃりぃ!」
「いや、ついネ。 仲間は多い方がいいしネ」
ギーシュが頭を掻きながら、ルイズに言う。
「まー、なんだ。 確かにサイトの言うとおりだな。 愛していたかどうかはともかく、君が魔法で彼の記憶を消してしまったのはホントだ」
隊員達も頷く。
すると、ルイズは、わかったわ、と頷いた。
「やっと信じやがったか……ほんと疑り深い女……」
「でも! 私がコイツを愛していたなんて大嘘だわ!」
ルイズが叫ぶ。
「ま、確かにそこは正直わからんな」
その言葉に、ギーシュが納得するように頷く。
「ギーシュ!」
才人は思わず叫ぶ。
「だってしょうがないだろ。 ホントに愛しているかどうかなんて、態度だけでわかるもんか」
ギーシュがそう言うと、続けてルイズが口を開く。
「だいたいねえ! はっきり言わせて貰うけど、あんたなんてぜんっぜん好みじゃないの!」
ルイズは、才人にそう言い放つ。
「そ、そんなぁ………」
才人はショックを受けた。
「うわあ、これはキツイね」
ギムリが言った。
「ア、 アリじゃないの?」
何故かマリコルヌは呼吸を荒くする。
「あんたは確かに、私の使い魔だったのかもしれない。 そして、さっき助けてくれた事についてはお礼を言うわ。 でもね……愛していたとか寝言言わないで! 私は『アクイレイアの聖女』よ! 聖なる乙女なのよ! 私の愛はハルケギニアとブリミル教徒に向けられるものであって、あんたみたいな………」
ルイズは、才人に指を突きつけ、
「オモロ顔に向けられていいもんじゃないのよ!」
そう言い放った。
「流石にこれは………立ち直れないね」
レイナールが切ない声で言った。
ギーシュは、才人に同情して涙を流す。
「………よっこらせっと」
才人はゆっくりと立ち上がる。
「いいこと? わかったら、さっさと敵を追撃しなさい。 ガリアの異端どもを残らず叩き潰すのよ。 ほら! 私の使い魔なんでしょ! さっさと仕事をする!」
ルイズは、才人を戦わせようと色々と言ってきた。
「オモロ顔か……ま、そうかもしんないけどな。 でもなルイズ。 お前はそのオモロ顔に何したか知ってるのか?」
「は? ほら! 急ぎなさいよ! 今は聖戦なのよ!」
「聖戦がどーした。 お前らの神なんて糞くらえだ」
「罰当たりな事言わないで!」
ルイズは才人の頬を叩こうとしたが、その手が才人に握られる。
そして、才人がルイズの今までの恥ずかしい出来事を暴露し始めた。
今のルイズは、才人の言う事が信じられず、喚き散らす。
だが、その瞬間、才人は衝動的にルイズに口付けた。
そして、唇を離した時、
「サイト!」
ルイズが才人の名を呼んだ。
ルイズに記憶が戻ったのだ。
「思い出したか………良かった」
「ど、ど、どどど………」
ルイズはそう口にしながら目に涙を浮かべる。
「ど?」
才人がそう尋ねると、
「どうして帰らないのよ~~~~~~~!!!」
そう叫びながら、、ぽかぽかとルイズは才人の胸を叩く。
「どうしてもこうしてもないだろうが。 お前がいるからに決まってんだろ」
その一言で、思わずルイズの頬が崩れ、自分から才人にキスをしようとした。
が、皆が見ていることに気付き、才人を突き飛ばした。
「ちょっと! 戦の最中だってのに! 何を考えているのかしら!」
「お前がしてきたんだろ! というか勝手に人を返そうとしてんじゃねえよ! 拓也も見つかってないってのに! ノコノコ自分1人で帰れるか! 第一、自分の幸せは自分で決める。 そして、今の俺の幸せは、多分ここにあると思うんだよ………」
才人がそう呟くと、2人はひし、と抱き合った。
シェフィールドは狙っていた。
才人達に隙が出来るときを。
シェフィールドの予想では、仲間との合流時に隙が出来ると予想しており、そして、その予想は的中した。
動くならば今。
「レナモン、あのチビ竜は頼んだよ」
「ああ」
シェフィールドがレナモンにそう言うと、レナモンは行動を開始する為に姿を消す。
「さあ、覚悟しなガンダールヴ!」
崖の上に3体のヨルムンガンドが現れる。
影が被ってきたので、才人達も早めにヨルムンガンドの存在に気付く事が出来た。
「ヨルムンガンド! まだ居たのか!」
才人は叫ぶが、その表情に焦りは無い。
なぜなら、最高の相棒がすぐ傍に居るのだ。
恐れるものは何もない。
「へっ、今更出てきても無駄だぜ。 こっちにはギルモンが居るんだ。 木偶人形に負けるかよ!」
才人は、ギルモンに向き直る。
「いくぜ、ギルモン!」
「おーっ!」
才人の言葉にギルモンが応える。
そして、才人はデジヴァイスを取り出し、デュークモンに進化するために、ギルモンに向けようとした。
だがその瞬間、
『させないよ! レナモン!』
シェフィールドの声が響き、気配無く近付いてきたレナモンがギルモンを蹴り飛ばす。
「うわっ!?」
ギルモンは、戦車から少しはなれた所に転がる。
「ギルモン!」
才人は駆け寄ろうとしたが、
『その一瞬が命取りだ! 潰れちまいな! ガンダールヴ!!』
シェフィールドの声がそう響くと同時に、3体のヨルムンガンドの内の2体が両手を組む。
そして、先程フネを墜落させた時と同じように残った1体が、その組んだ腕に足を乗せ、空高く跳び上がる。
上空100m近くまで浮き上がったヨルムンガンドは、重力に引かれて落ちて来る。
しかも、広範囲を潰せるように、身体を横向きにし、両手足を広げている。
一言で言えば、フライングボディプレスなのだが、全長が25メイルもあるヨルムンガンドが繰り出すそれは、シャレにならない。
重さで言えば、数十トンはあるだろう巨体が、100m近い高さから垂直落下してくるのだ。
いくら戦車といえど、耐え切れないだろう。
「くっ………! 畜生!」
才人はどんどん近付いてくるヨルムンガンドを見上げながら、そう叫ぶ。
余りの出来事に、全員が動けない。
才人ならば、1人だけガンダールヴの力で逃げ切る事も可能だが、仲間を見捨てて自分だけ助かる道を選べる筈もない。
『勝った!』
シェフィールドが勝利を確信し、そう叫んだ。
才人達は、成す統べなくヨルムンガンドの下敷きになるかと思われた。
だが、その時、
――ドゴォォォォォォォォン
垂直落下していたヨルムンガンドが、突如、進行方向を直角に変え、虎街道入り口の崖にめり込む。
いや、正確には超高速で飛んできた何かにぶち当たり、吹き飛ばされたのだ。
『「「「「「「なっ!?」」」」」」』
シェフィールドを含め、その場の全員が驚く。
才人達が、ヨルムンガンドが落下してきていた空を見上げると、そこには青い狼のサイボーグ型デジモン、マグナガルルモンが滞空していた。
マグナガルルモンは、才人達を見下ろす。
「な、何が起こったんだい?」
ギーシュが、助かった事に安堵しつつ、そう呟く。
「俺達を、助けてくれたのか?」
才人はそう言いつつ、デジヴァイスを見る。
「マグナガルルモン。 ハイブリット体(超越形態)。 サイボーグ型。 必殺技は、マシンガンデストロイとスターライトベロシティ………ハイブリット体……ハイブリット体っていやぁ、拓也が進化した奴と同じ………」
才人がそう呟いた瞬間、
「炎龍撃!!」
その言葉と共に、才人達の後方より閃光が走り、崖にめり込んだヨルムンガンドに直撃。
――ドゴォォォン!!
ヨルムンガンドは、跡形もなく消滅する。
それと同時に崖は崩れ、崖の上にいた2体のヨルムンガンドも落下する。
才人達は後ろを振り向く。
そこには、才人達の記憶にあるカイゼルグレイモンとは違うが、龍魂剣を構え、必殺技を放った体勢のカイゼルグレイモンが居た。
「あれって……ちょっと違うけどカイゼルグレイモン?」
ルイズがそう口にする。
才人が、再びデジヴァイスを確認する。
「カイゼルグレイモン。 ハイブリット体(超越形態)。 竜戦士型。 必殺技は、炎龍撃と九頭竜陣………カイゼルグレイモンには間違いない……ってことは!」
才人が情報を確認して声を上げた時、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが才人達の近くに降り立つ。
「大丈夫だったか?」
カイゼルグレイモンがそう尋ねる。
「ああ………拓也……なんだな?」
才人は頷きつつ、確信を持った言葉で問いかける。
「ああ」
カイゼルグレイモンも頷く。
「無事だったんだな! 良かった!」
才人は嬉しそうな顔をして声を上げる。
その時、
「きゅい~~!」
遅れて飛んできたシルフィードの鳴き声に皆が気付き、振り返る。
「シルフィード!」
ルイズが叫んだ。
「皆!」
シルフィードの背中から、顔を覗かせるアイナとシャルロット。
「アイナ! タバサも!」
ルイズが続けてそう叫ぶと、戦車の運転席から、キュルケとコルベールが慌てて顔を出す。
「アイナとシャルロット!?」
「本当かね!?」
2人がそう叫ぶと、シルフィードは戦車の上空に到着する。
すると、アイナとシャルロットはレビテーションを使って先に下りてきた。
「皆! 久しぶり!」
「ただいま」
アイナとシャルロットがそう声を発する。
「アイナ!」
「シャルロット!」
ルイズがアイナを、キュルケがシャルロットを抱きしめる。
「ミス・シンフォニア……ミス・タバサ………よく無事で………」
コルベールは、顔に手を当てながら涙を浮かべる。
少しして落ち着いたルイズとキュルケは、2人から離れる。
そこで気付いた。
「そういえば2人とも、その格好は……?」
「変わった服装だけど……でも、似合ってるわね」
ルイズとキュルケが2人の服装を見て不思議そうな声を漏らす。
「あ、これは……」
アイナがそう言おうとした所で、
「おい拓也。 あの2人の格好、如何見てもワンピースとゴスロリなんだけど、どういう事だ?」
才人がカイゼルグレイモンに尋ねる。
「……………母さんの趣味だ」
少しの沈黙の後そう答える。
「母さんの趣味って………まさか!?」
カイゼルグレイモンの言葉に、才人が驚愕する。
「パラレルモンに飛ばされた先が地球だったんだ。 まあ、色々あって、またここに戻ってくる事になったんだが……」
カイゼルグレイモンはそう答える。
「………そうか………なあ拓也」
カイゼルグレイモンの言葉を聞くと、才人はふと尋ねる。
「俺の母さんと父さんは……元気だったか……?」
才人は、少し寂しげに問いかけた。
「サイト………」
ルイズは、罪悪感を感じながら才人の名を呟いた。
ルイズにとって、才人をこの世界に残す切っ掛けになったのは自分なのだ。
「それは、自分の目で確かめてくれ」
カイゼルグレイモンはそう言った。
「そうか」
才人は、これが拓也なりの気の使い方なんだろうと思い、それ以上聞かなかった。
その時、シルフィードが地面に着地する。
「まあ! 帰ったら帰ったで、いきなり父ちゃんに『アレ』を喰らうかも知れないからな! とりあえず気にしないでおこう!」
才人は、沈んだ気持ちを振り払うように、そう声を上げる。
その瞬間、カイゼルグレイモンは、冷や汗を流す。
その時、
「ほう………親の気持ちも知らないでそんな事を堂々と言うとはな………」
そんな言葉が聞こえた。
「へっ?」
才人は、懐かしい聞き覚えのある声に、素っ頓狂な声を漏らす。
「ならば、お望み通り喰らわせてやろう………」
シルフィードの後ろから現れる才助。
「と、父ちゃん!」
才人にとって、約一年ぶりの再会なのだが、そんな雰囲気ではなかった。
思わず逃げようとする才人の首根っこを才助は掴む。
「と、父ちゃん! 『アレ』だけはカンベン!」
才人は必死にそう叫ぶ。
だが、才助は、
「遠慮するな。 ならば行くぞ!」
いい笑顔で才人を持ち上げる。
「約一年ぶりの……愛のっ!」
才人を仰向けにして両肩で担ぎ、両手は才人の首と膝辺りを押さえる。
「バックブリーカーーーーーーッ!!」
そして、才人の背骨を逆方向に折り曲げる。
――バキ メキ ゴキ ボキ!!
才人の背中が軋みを上げる。
「ぎゃぁあああああああああっ!! 父ちゃんギブギブーーーッ!!」
才人は悲鳴を上げた。
その様子を、呆然と見つめる一同。
「こ、こんな躾の仕方、初めて見た……」
ギーシュがそう呟いた。
暫く才人の悲鳴が響き、やっとの事で解放された才人は、力尽きたように地面に寝そべっていた。
そして、
「久しぶりだな才人。 無事でなによりだ」
才助は才人に背を向ける。
その目には涙が浮かんでいた。
「父ちゃん……」
才人はゆっくりと身体を起こす。
「才人……」
その才人の前に人美が姿を現す。
「母さん……」
母の姿に、才人は思わず涙した。
「才人、元気そうで良かったわ」
人美はそう言って才人を抱きしめる。
「母さんっ!」
才人も涙を流しつつ、人美を抱きしめた。
その時、瓦礫に埋もれていたヨルムンガンドが立ち上がる。
その時の音で、抱き合っていた才人と人美は驚いて離れると、立ち上がったヨルムンガンドを確認した。
更には、虎街道の奥から、新たに3体のヨルムンガンドが現れる。
合計5体のヨルムンガンドが才人達に迫ってきた。
「ったく、相変わらず空気を読まない奴だな。 ミョズニトニルンは」
才人がやれやれといった感じで呟く。
「母さん、ちょっと待ってて。 すぐに終わらせるから」
才人は、笑みを浮かべながら人美にそう言う。
自信たっぷりの才人の姿に、
「ええ。 気をつけてね」
人美はそう言った。
「ギルモン!」
才人はギルモンを呼ぶ。
「うん!」
ギルモンが駆け寄ってくる。
ギルモンの姿に、少し驚く地球組。
「さ、才人兄ちゃんもパートナーデジモンがいたの!?」
信也が驚いた声を上げる。
「お、信也もいたのか。 って、おじさんとおばさんも」
神原一家が居る事に漸く気付いた才人。
が、才人は気を取り直し、ヨルムンガンドに向き直る。
その時、
「信也」
カイゼルグレイモンが信也に呼びかける。
「何? 兄ちゃん」
「よく見ておけ。 デジモンとパートナーの行き着く先の一つの姿を」
カイゼルグレイモンがそう言ったとき、
―――MATRIX
EVOLUTION―――
才人のデジヴァイスに文字が刻まれる。
「マトリックスエボリューション!」
才人がデジヴァイスを自分の胸に当てると、才人の身体がデータ化される。
そして、才人の身体とギルモンの身体が一つになる。
「ギルモン進化!」
ギルモンの身体が分解され、再構成される。
「デュークモン!!」
白銀の鎧を纏った聖騎士が降臨した。
その姿に驚く地球組。
デュークモン、カイゼルグレイモン、マグナガルルモンが並び立つ。
向かってくるヨルムンガンド。
デュークモンは聖槍グラムを構え、カイゼルグレイモンは龍魂剣を展開させ、マグナガルルモンは武装をパージし、身軽になってレーザーソードを両手に持つ。
そして、
「ロイヤルセーバー!!」
デュークモンは、光り輝く槍で突撃し、
「炎龍撃!!」
カイゼルグレイモンは、エネルギー状にした刀身を撃ち出し、
「スターライトベロシティ!!」
マグナガルルモンは、光に包まれ突進する。
一瞬の閃光の後、
――ドゴオォォォォォォォォォォォォォォン!!!
大地を揺るがせるほどの超爆発が起こり、5体のヨルムンガンドは跡形もなく消滅する。
おまけに虎街道の入り口は、両端の崖が綺麗に吹き飛び、巨大なクレーターとなっていた。
「相変わらず凄いわねぇ………」
キュルケがぼやく。
まあ、ロイヤルナイツ級が3体もいるのだ。
この結果も当然だろう。
才人や拓也達を知る水精霊騎士隊の人間からすれば、当然の結果なのだが、ロマリアの人間からすれば、信じられない出来ごとである。
「うぉおおおおおおおっ!! 正に神の鉄槌だ!! ガリアの異端どもに神が鉄槌を下された!!! 見よ!! おごり高ぶるガリアの異端どもは殲滅したぞ!! 始祖の加護は我らにあり!!」
「「「「「「「「「「おおおおおおお~~~~~~~っ!!!」」」」」」」」」」
と、ロマリア軍の将兵達は激を飛ばす。
「あいつら、なんかしたっけ?」
「さあ?」
その様子を見た水精霊騎士達は呆れ返るのだった。
次回予告
聖戦が発動され、本格的な戦争状態になるガリアとロマリア。
だが、思うように進軍は進まず、膠着状態に陥る。
そんな中、始まるリネン川の中洲での決闘。
成り行きで参加する才人と拓也。
次々と勝ち進む2人だが、その時、『アイツ』が現れた!
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第五十八話 復活の好敵手!!
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
第五十七話の完成。
遅れてすいません。
先週は頭痛により筆が思うように進まなかった。
よって、手抜きが目立つ所がちらほら。
出来は、そこそこ?
才人とルイズ……っていうか、ハルケギニアの面々、マジで一年振りの出演です。
いや、長かった。
因みに才助のバックブリーカーの元ネタは武装錬金のブラボーバックブリーカーで思いつきました。
あと、信也のブイモンの進化は今のところインペリアル方面が有力です。
意見がありましたらどうぞ。
では、次も頑張ります。