ハルケギニアに戻り、才人たちと共にヨルムンガンドを撃破した拓也達。
その後………
第五十八話 復活の好敵手!!
拓也達が、ヨルムンガンドを倒した後、進化を解いて戦車の所に戻ってくると、ルイズと平賀夫妻が向き合っていた。
「あ、あの………あなた達が、サイトのご両親なんですか?」
ルイズが、おずおずと言い出す。
「ああ。 君がルイズちゃんだね。 話はアイナちゃん達から聞いている」
才助がそう答える。
ルイズは一度俯くと、
「………この度は、お2人の元からご子息であるサイトを連れ去ってしまった事……このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、心よりお詫び申し上げます」
礼儀正しく、そう謝罪をした。
だが、
「ルイズちゃん。 先ほども言ったが、君の事はアイナちゃん達から聞いている。 貴族としてのプライドが高く、素直じゃないが悪い子じゃないと………今の謝罪も本心だろうと私は思う。 でも、私達が聞きたい謝罪は、そのような貴族としての形式に沿ったものじゃない。 アイナちゃんは、神原さん達に会った時、形振り構わず、床に頭を擦り付けてまで本心からの謝罪を行なった…………」
才助はそう言う。
「父ちゃん! ルイズは!」
その言葉に、才人は慌ててルイズを弁護しようとするが、人美に遮られる。
「理由は如何あれ、あなたは私達の元から才人を連れ去った。 突然子供が行方知れずになった親の気持ちがあなたに分かる?」
人美は、ルイズに向かって突きつけるように言葉を放つ。
「……………」
ルイズは俯く。
「別に君にそこまでしろとは言わないが、君自身の謝罪の言葉を、私達は聞きたい」
才助がそう言うと、ルイズは顔を上げる。
その目には、涙が浮かんでいた。
そして、勢い良く頭を下げる。
「あのっ……本当にごめんなさい! もう、なんて言っていいのか………! 本当に……本当にごめんなさい!!」
ルイズのその言葉に、才助は笑みを浮かべると、頭を下げているルイズの頭に手を乗せる。
「その言葉が聞ければ十分だ。 それから、私達からもお礼を言わせてくれ。 才人の面倒を見てくれて、ありがとう」
才助の言葉に、ルイズは驚いた表情で顔を上げる。
ルイズからしてみれば、罵倒され、殴られる事すらも覚悟していた。
それを、逆にお礼を言われるなど思っても見なかったからだ。
ルイズは、何故と言いたげな顔で才助を見上げる。
「これもアイナちゃん達から聞いた事だが、召喚とは相手を指定出来ないそうじゃないか。 それを踏まえて、事故に遭ったと割り切り、君から本心の謝罪があればそれで許すつもりだったよ。 何より、才人が無事だった。 私達は、それ以上何も望まないさ」
才助は、そう笑いかけた。
「な、何て心の広い御方だ………」
ギーシュは、そのやり取りを見て、なにやら感動していた。
その後、一行は報告をする為にアンリエッタの元を訪れる。
アンリエッタは、戻ってきた拓也、アイナ、シャルロットと、神原一家と平賀夫妻の姿に驚く。
だが、ルイズとアイナから経緯を聞くと、アンリエッタは宏明達に、今まで拓也と才人を何度も戦いに巻き込んだ事や、国を救ってくれた英雄であるという事を説明し、しっかりとした謝罪まで行なった。
更に、宏明達の身柄の安全と生活に必要な援助も約束する。
そして、アンリエッタは聖戦を止める為に一度トリステインへと帰還するのだった。
「わたくしが不在の間、くれぐれも自重してくださいね」と釘をさして。
だが、アンリエッタの気遣いも空しく、派手な出来事が数日後に起きてしまうのである。
虎街道の戦いから2週間以上が経ち、カルカソンヌの北方に流れるリネン川を挟んで、ロマリアとガリアの両軍が対峙して3日が過ぎた。
これまでに、ルイズが才人の記憶……というより妄想で、少々のトラブルが起こったが、特に問題なくここまで侵攻することが出来た。
だが、このリネン川で膠着状態に陥ってしまい、睨み合いが続く。
その両軍の間で飛び交うのは互いを罵倒し合う言葉。
当然、貴族には沸点が低い奴が多いので、それで始まるのは中州での一騎討ち。
勝った者が自軍の軍旗を立て、自軍の士気が上がり、負けた方は悔しがり、すぐに次の挑戦者が現れるといった具合だった。
その様子を呆れた様子で見ていた拓也と才人、輝二を含めた水精霊騎士隊。
因みに、神原一家と平賀夫妻は、カルカソンヌの下方にある丘でアイナやルイズ達と共にこの場所の様子を窺っている。
信也のチビモンもブイモンに進化したので、アーマー体ならそんじょそこらの貴族には負けないだろう。
更に、スクウェアであるアイナとシャルロットもいるので、もしロマリアがおかしな行動に出たり、デジモンが急に現れたりしても、拓也達が急行するだけの時間は稼げるだろうという考えで、拓也達は傍を離れている。
そして今現在、中州を占領しているのはガリアの貴族である。
すると、才人が気付いた。
「あれ? ギーシュ何処行った?」
水精霊騎士隊の隊長であるギーシュの姿が見えない。
マリコルヌが指さした。
ギーシュが川縁に立って、小船で中州に向かおうとしている。
「あのバカ」
才人が思わず漏らす。
「ホントに目立ちたがり屋だなあ。我らの隊長殿は………というか、飲んでるな、ありゃ」
ギムリも切ない声で言った。
「向こうの相手は、こっちの貴族を3人も抜いたんだぜ」
「あれは確か、西百合花壇騎士、ソワッソン男爵だ。 豪傑で有名な貴族じゃないか。 殺されるぞ」
中州に立つガリアの貴族を見て、レイナールが呟く。
それを聞くと、才人は思わず駆け出し、ギルモンが続く。
「あっ、才人さん!」
拓也は一旦輝二に振り返ると、
「すまん輝二! 何かあったら皆を頼む!」
そう叫んだ。
「わかった。 行って来い」
輝二は頷きつつそう答える。
拓也はそれを聞くと、才人の後を追った。
才人は川に入り込み、ギーシュの小船に乗り込む。
続けてギルモンが飛び込むように乗って来たので、小船は激しく揺れ、船頭は慌ててバランスを取る。
更には、
「このアホギーシュ!!」
フライで飛んできた拓也が、その勢いのまま、ギーシュの顔面に飛び蹴りをかます。
「ぷぎゃ!?」
ギーシュはそれで倒れ、小船は更に激しくゆれ、船頭は船がひっくり返らないように必死である。
ギーシュは、蹴られた事を気に留める様子もなくむくりと起き上がると、
「やぁサイトにタクヤ。 助太刀してくれるのか」
そんな事を言う始末。
見れば、ギーシュの左手にはワインのビンが握られており、その顔は真っ赤っか。
何処から如何見ても酔っ払っている。
「何やってるんだよ! 『わたくしが不在の間、くれぐれも自重してくだいね』って姫さまから言われてるだろ!!」
才人は思わず怒鳴る。
すると、ギーシュは身もだえして、
「そうだな。 そうかもしれん………でも、見ろサイト。 ここに集まったロマリア、ガリア両軍の姿を! ここで一発カッコいい所を見せてみろ! 僕と水精霊騎士隊の名前は、子々孫々まで語り継がれるようになるぜ!」
そんな事を言う。
「死んだら元も子もねえだろうが!」
「それもそうだが。 ま、君達も来てくれたし、そうそうまずいことにはなるまいよ」
ギーシュは、特に心配ないだろうという口調でそんな事を言った。
「才人さん。 マジでほっときましょうか?」
拓也が、割と本気で尋ねる。
「そういうわけにもいかねえだろ」
才人は、頭を抱えつつそう呟いた。
小船の上で、そんなやり取りをしていると、中州の貴族から罵声が飛んだ。
「なんだ? 勝てぬからといって、今度は3人か? 使い魔まで連れ出しおって。 流石は臆病者のロマリア人だけのことはあるな!」
それを聞くとギーシュは、不敵な笑みを浮かべて叫ぶ。
「僕達はトリステイン人だ! なに、お前達無礼なガリア人に、多少の礼儀を教えてやろうと思ってね」
「俺らは違うけどな」
才人はそう言うが、勿論誰も聞いてはいない。
「トリステイン人だと? ロマリアの腰巾着め! よおしかかって来い! ガリア花壇騎士、ピエール・フラマンジュ・ド・ソワッソンが相手をしてやる! 誰が先だ? それとも3人いっぺんか!? どちらでもいいぞ」
それを聞くと、ギーシュは重々しく才人に向かって頷いた。
「副隊長。 出番だ」
「俺かよ! かっこつけたいんじゃなかったのか!?」
ギーシュの変わり身に、思わず突っ込む才人。
「すまん。正直飲み過ぎたようだ」
ギーシュはそう言うと、臆面もなくゲーゲーとやり始めた。
双方から、笑いとヤジが飛ぶ。
才人は、仕方なく1歩踏み出した。
「名乗れ」
相手がそう言う。
「トリステイン王国水精霊騎士隊、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ」
才人が名乗りを上げると、相手の顔が驚愕に染まる。
「アルビオンで7万を止めたという、あのヒラガか?」
「いかにも」
相手の言葉に才人は頷く。
すると、相手はギルモンと拓也に視線を移す。
「噂では、赤い竜と赤い亜人が共にいたと言う………そして、赤い亜人の正体は、10歳程の子供………たしかカンバラだと聞いたが…………」
「………俺の事まで噂になってるのかよ」
相手の言葉を聞き、拓也は思わずそう漏らす。
拓也は、進化が解けたときに近くにいたのは少数の兵だったので、自分の事まで噂になっているとは思っても見なかった。
拓也のその言葉で、確信を得た相手は、自軍に振り返ると、
「おーい! 諸君! 聞いてくれ! この方達はあの、“アルビオンの英雄”らしいぞ!」
そう叫ぶ。
すると、ガリア軍から猛烈な歓声が飛んだ。
どうやら、拓也と才人の名前は、ガリアでも知れ渡っているらしい。
敵味方問わず、英雄には礼が尽くされるものだ。
すると、ガリア軍の方で何やら騒動がおき、少しすると、もう1隻の小船が中州に向かって進んできた。
その船には、ガリアの貴族が乗っている。
「我が名はジョット・フレイ・ド・サンド。 かのアルビオンの英雄カンバラ殿とお相手できるとは光栄至極。 子供とて侮りはせぬ。 いざ!」
と、いきなり名乗りを上げて、拓也と対峙するガリア貴族。
「俺まで強制参加かよ………」
拓也は思わずうな垂れてそう呟くが、言って聞きそうな相手ではないので、仕方無しに覇竜刀を抜いて、地下水を持つ。
才人も、ソワッソン男爵と戦い始める。
拓也が構えると、拓也の相手はファイヤーボールを放ってきた。
拓也は覇竜刀で受け、ファイヤーボールを跳ね返す。
「ぬおっ!?」
相手は驚きつつも、咄嗟に避ける。
「エア・ハンマー!」
拓也はエア・ハンマーを唱え、相手の足元に打ち込む。
砂煙が舞い、相手の視界を塞ぐ。
そのまま、拓也は接近し、刃を返した覇竜刀を横薙ぎに振るう。
が、それより一瞬早く相手がフライを唱えて飛び退く。
「チッ!」
拓也は舌打ちして追撃をかけようとした。
だが、
「くっ!?」
覇竜刀が突如として重く感じ、見てみれば、地面が盛り上がり、覇竜刀を包んでいた。
「もらった!」
相手が杖にブレイドを纏わせ、斬りかかって来る。
拓也は覇竜刀を抜こうとするが、相手の方が一瞬早い。
そのまま、相手の杖は振り下ろされた。
「「…………………………」」
一瞬の静寂の後、
「がはっ!」
肺の中の空気を吐き出し、倒れたのは相手の貴族であった。
見れば、拓也は覇竜刀を手放し、右手で相手にボディブローを打ち込んでいた。
相手の敗因は、拓也の攻撃手段が地下水による魔法と、覇竜刀による剣技だと決め付けていた事だ。
だが、拓也は寧ろ、剣技よりも格闘術のほうが経験値が高い。
アグニモン、ヴリトラモン、アルダモン。
基本的に、これらは炎と格闘を主として戦う。
カイゼルグレイモンは大剣を使うが、進化頻度は前の3つの方が高い。
故に、拓也は格闘術のほうが得意なのだ。
更にはスピリットを同調させている事により、その拳は相手を悶絶させるには十分すぎるほどの威力を持っている。
相手は、白目をむいて気絶している。
その時、銃声が響き、才人が相手をしていたソワッソン男爵の杖が粉々に砕け散った。
才人が銃で相手の杖を撃ち抜いたのだ。
相手はそんな精度の銃に驚き、膝をつく。
ロマリア軍から大きな歓声が沸き小船に乗り込んだ兵隊が駆け寄り、才人に軍旗を手渡す。
「じゃあ、これはここに立てるね。 とりあえず、俺らの勝ちと。 あなた達は旗を持ち帰ってください。 お疲れ様でした」
呆然と膝をついているソワッソン男爵に才人は告げた。
しかし、そんなソワッソン男爵にギーシュが駆け寄り、いきなり縛り始め、同じように気絶している拓也の相手だった貴族も縛る。
「な、何してんだお前?」
そんなギーシュに才人が尋ねる。
「おいおい! 彼らは君達の捕虜だぜ! 大人しく帰すバカが何処にいる!」
ギーシュはソワッソン男爵といきなり交渉を始める。
「2人で4千!」
「高い。 2千だ」
「3千」
「……く。 足元を見おって。 よかろう」
ソワッソン男爵は、川岸に向かって指を突き出した。
すると、袋を積んだ小船がやってきて、そこから下りた従者風の男が恐々と才人と拓也の前に皮袋を3つずつ置いた。
それを確認すると、ギーシュは2人を解放した。
「なんじゃこりゃ?」
才人はギーシュに尋ねる。
「何って、身代金に決まってるじゃないか」
「身代金?」
「ああ。 負けて捕虜に取られたんだ。 釈放して欲しかったら身代金を払うのは当然だろう」
ギーシュは嬉しそうに才人の肩を叩いた。
皮袋の中には、金貨がギッシリと詰まっている。
「じゃあ儲かったし帰ろうぜ。 アホらしくなった」
才人がウンザリとそう呟き、拓也も同意するように頷くが、
「おいおい、そういうわけには行かないよ」
ギーシュがガリア側の川岸を指差した。
ガリアの将軍が、
「あいつらを倒せ! 誰でもいい! 倒した奴には1人三千エキューだ!」
興奮してそう叫ぶ。
貴族達が、我も我もと群がり、小船の奪い合いを始めていた。
「おやおや、男爵に伯爵………ありゃ、コンヴァレ侯爵のお坊ちゃんだ! 君達、上手くやれば一晩で城が建つぜ」
ギーシュの言葉通り、金と名声に目が眩んだ貴族の相手を、拓也と才人は次から次へとすることになった。
とは言うものの、腕に覚えのある相手は少ないらしく、拓也の拳や蹴りを喰らって気絶したり、才人に剣で杖を断ち切られたり、銃で粉々にされたりして次々と尻尾を巻いて帰っていく。
既に拓也も才人も10人以上の貴族を抜き、合計で3万エキュー以上も稼いでいる。
水精霊騎士隊のメンバーは、金儲けの為にそれぞれ仕事を始める始末。
輝二はその様子を呆れながら見ていた。
だが、体力的にも限界が近付き、現在は食事休憩である。
才人は、もうやらないと言い張っていたが、ギーシュに何やらルイズを金で懐柔する方法をチラつかされ、結局は口車に乗ってしまい、後一回の決闘を決める。
その様子を見ていた拓也は、相変わらず流されやすいですね、と内心呟くのだった。
ギーシュが最後の一回の決闘をガリア側に伝える。
ガリアの貴族達は最後の2人を決めるのに揉め始めた。
やがて、最後の2人が決まったようで、現れたのは、黒い鉄仮面を被った長身の貴族と、これまた貴族らしい小太りした貴族。
水精霊騎士隊のメンバーは、片方は当たりだけど、片方は外れだな、等と口にしている。
そして、鉄仮面を被った貴族は才人と、小太りした貴族は拓也と対峙する。
決闘が始まった瞬間、小太りした貴族がエア・ハンマーを放ってくる。
拓也はそれを跳躍して避け、そのまま空中で足を振り上げると、
「おらっ!」
相手の脳天に踵落としを放った。
「ぷげっ!?」
小太りした貴族は、変な悲鳴を上げて気絶する。
「あら?」
余りの手ごたえの無さに、拓也は声を漏らした。
ふと横を見ると、才人と相手の貴族が鍔迫り合いを行なっている。
拓也には僅かに聞こえたが、何やら小声で話し合っているようだ。
すると、一旦互いを弾き合い。
もう一度ぶつかり合い、再び鍔迫り合いの状態になる。
そして、もう一言二言言葉を交わすと、才人が相手の杖を弾き飛ばした。
「参った!」
相手の男は膝を付く。
ギーシュが身代金の交渉に入ろうとするが、才人がもう終わったとギーシュを制し、男の従者が才人に近寄り、皮袋を置いた。
ギーシュが中身を確認すると、銅貨だけだったので、ギーシュは思わず叫ぶが、才人が強引にギーシュを黙らせ、才人はその鉄仮面の男に騎士の礼を取る。
相手も、ガリア騎士の礼を返し、小船に乗って去っていく。
因みに、拓也の相手からはたんまりと身代金をふんだくったギーシュであった。
やがて、水精霊騎士隊が用意した机などを片付け、川岸に戻ろうとした時、
――ザワッ
空気が重くなる感覚がした。
瞬間、小船の方を向いていた拓也と才人が、バッと後ろを振り返る。
才人も、この空気の変化を敏感に感じ取ったようだ。
「な、何だ?」
才人が思わず漏らす。
「この押しつぶされるような空気は………」
拓也も、凄まじいプレッシャーを感じている。
2人は、空を見上げる。
「おや? 如何したんだい2人とも」
この空気の変化に気付かないギーシュ達が怪訝な表情で尋ねる。
「……………来る」
拓也が呟く。
その瞬間、空の彼方から黒い影が急降下してくる。
その影は、拓也達がいる中州にものすごい勢いで着地し、砂煙を巻き上げる。
「「ぐっ!」」
「「「「「うわぁ!?」」」」」
拓也と才人は予め予想していたのでその衝撃に耐えるが、水精霊騎士隊は、突然の出来事に悲鳴を上げる。
すると、
「やっと見つけたぞ!!」
砂煙の中から声がする。
「この声はっ!?」
拓也は聞き覚えのある声に驚愕する。
砂煙が晴れていくと、そこには漆黒の鎧を纏った竜人。
「まさか、ブラックウォーグレイモン!? でも、その姿は!?」
だが、その姿は拓也の記憶にあるものとは違っていた。
以前のブラックウォーグレイモンの鎧は、全体に丸みを帯びていて、イメージ的にも鎧という感じだった。
だが、現在のブラックウォーグレイモンは、全体に角張っており、イメージ的にも鎧というより、装甲と表現したほうがピッタリの姿。
更に、感じる威圧感は、以前のブラックウォーグレイモンを遥かに上回る。
そして、その変化は、拓也にも覚えがある変化だった。
「もしかして……Ⅹモード!?」
拓也は思い当たる言葉を口にする。
ブラックウォーグレイモンは、拓也を見据える。
「やっと見つけたぞ。 貴様を……俺の“敵”を!」
ブラックウォーグレイモンはそう言った。
「ブラックウォーグレイモン………生きていたのか」
拓也もそう言った。
「俺はあの時、お前の炎に飲まれて消える筈だった………」
ブラックウォーグレイモンが話し出す。
拓也は、それを黙って聞く。
「俺は、強き者との戦いを望み、俺より強き者に倒されるなら本望だと思っていた………だが、あの炎の中、消滅していく自分の身体を見て、俺は思った。 負けたままで死ねないと…………こんな悔しい気持ちのままでは消えたくはないと!………生きたいと!! 強く! 強く思った!!」
ブラックウォーグレイモンの言葉に、水精霊騎士隊のメンバーは尻込みしてしまう。
「そして気付いた時、俺はこの姿となっていた。 その時俺は気付いた。 死を覚悟した所で本当の力は手に入らない! 本当の力とは、生きようとする時にこそ手に入るものだと!! そして、俺は貴様を探し続けた! 貴様を超える事で、俺は昔の俺を本当に超えることが出来る!!」
拓也は、その言葉を聞くと、自然と笑みを浮かべる。
「へっ! 面白い! 相手してやるぜ!!」
拓也はデジヴァイスを構える。
「ハイパースピリット! エボリューション!! うぉおおおおおおおおおおおっ!!」
拓也は5種のスピリットで進化する。
現れるのは焔の鎧を纏いし紅蓮の竜戦士。
「カイゼルグレイモン!!」
カイゼルグレイモンは、ブラックウォーグレイモンと相対する。
「フッ、貴様も新たな進化を手に入れていたか………望むところだ!」
ブラックウォーグレイモンは嬉しそうな声を上げる。
「才人、輝二。 この戦い、かなり派手になりそうだ。 みんなのカバーを頼む」
カイゼルグレイモンは、才人と輝二にそう継げる。
2人は頷き、デュークモンとマグナガルルモンに進化すると、ガリア側とロマリア側の前に陣取る。
水精霊騎士隊は、既に退避済みである。
「往くぞ! カイゼルグレイモン!!」
ブラックウォーグレイモンがそう叫んで突撃し、
「うぉおおおおおおおおおおっ!!」
カイゼルグレイモンも、龍魂剣を振りかぶって迎え撃つ。
――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!!
激突した瞬間、まるで爆発のような衝撃波が2体を中心に起こる。
その衝撃で、中州は陥没し、川は、下流側は水が全て吹き飛び、上流側は川が逆流している。
横方向の水は上空に舞い上げられ、両軍に滝のように降りかかる。
しかも、その衝撃はリネン川の川岸の両軍にすら襲いかかろうとしていた。
だが、
「ロイヤルセーバー!!」
「マシンガンデストロイ!!」
デュークモンとマグナガルルモンが、必殺技でその衝撃波を相殺する。
「おおおおおおおおおおっ!!」
「はぁああああああああっ!!」
――ガキィ!! ギィン!! ガキィン!!
ドラモンキラーと龍魂剣が何度もぶつかり合う。
その度にシャレにならない衝撃波が両軍を襲うので、睨み合いどころではない。
暫く打ち合っていると、上流へ逆流していた川が、鉄砲水のように一気に流れてきた。
だが、打ち合う2体の周りには、衝撃波によって水が避けるように流れていく。
ブラックウォーグレイモンは、一旦間合いを取ると、両手を上に掲げる。
すると、川の水がブラックウォーグレイモンの頭上へ集まっていく。
それに対し、カイゼルグレイモンは、龍魂剣を展開し、ブラックウォーグレイモンへ向ける。
そして、
「ポセイドンフォーーーース!!!」
ブラックウォーグレイモンは、頭上に集めた超圧縮水弾を投げつけ、
「炎龍撃!!!」
カイゼルグレイモンはエネルギー化した刀身を撃ち出す。
両者の必殺技は、お互いの中心で激突し、
――ズドゴォオオオオオオオオオオオン!!!
大爆発を起こし、水弾が弾け、両者、両軍に降り注ぐ。
2体は、お互いに、にらみ合っていたが、
「やめだ」
ブラックウォーグレイモンはそう言って突如構えを解いた。
「何っ!?」
カイゼルグレイモンは驚愕する。
「どうやら貴様は、周りが気になって戦いに完全に集中できないようだな。 そんな貴様に勝っても嬉しくはない………それも、貴様の強さの1つなのかもしれんがな。 この勝負預けるぞ」
ブラックウォーグレイモンはそう言うと、ガリア側に向かって飛び去る。
「ブラックウォーグレイモン………」
カイゼルグレイモンは、好敵手の復活に、複雑な想いを抱くのだった。
次回予告
鉄仮面の騎士、カステルモールの手紙を受け取るシャルロット。
だが、ロマリアにも不穏な動きが見られる。
ロマリアの非情な策がシャルロットに迫るが………
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第五十九話 シャルロットの覚悟
今、異世界の物語が進化する。
オリジナル(つーわけでもない無茶設定な)デジモン
名前:真・ブラックウォーグレイモン(Ⅹ)
属性:ワクチン種
世代:究極体
種族:竜人型
必殺技:ガイアフォースZERO、ガイアフォース、ポセイドンフォース
ブラックウォーグレイモンが、生きたいという純粋な思いでX進化した姿。
色こそ黒いがワクチン種に変化している。
正と負の両方の力を有している為、戦闘力は通常のウォーグレイモンXやブラックウォーグレイモンXを凌ぎロイヤルナイツと同等以上の力を秘めている。
尚、Xモードで復活した時、完全にデジモンとして再構成されたため、存在するだけで空間を歪ませる事は無くなった。
あとがき
第五十八話の完成。
そしてブラックウォーグレイモンの復活(+厨二病な追加設定)。
いや、少なくともXモードにさせないとカイゼルグレイモンとは戦えないでしょう。
輝二も今回活躍してません。
とりあえず、輝二の活躍はもう少し先です。
何かこの小説はカオスだなぁ………
最初の頃が懐かしい。
まあ、ともかく最後まで続けられるように頑張ります。