家族と共に学院で生活する拓也達。
しかし、学院に迷惑にならないよう、住む家を探すことにするが………
第六十三話 演劇、アルビオンの剣士たち!
現在、拓也や才人の両親達と信也は、学院の使用人の寮を使わせてもらって生活している。
しかし、多少の手伝いはしているとは言え、ほぼ無償で生活の空間を提供してもらっていることに、現代日本人の彼らは、悪い気がしていた。
そこで、拓也と才人は、ガリア戦役の一騎打ちで稼いだお金で、家を買うことにした。
そして、休日。
拓也達は街に来ていた。
街に来たメンバーは、拓也、アイナ、才人、ギルモン、ルイズ、シエスタ、リースと拓也と才人の両親達+信也とチビモンだ。
因みにシエスタかリースには、住む家が決まった時には、ハルケギニアの事をよく知らない両親達のサポートの為に、住み込みで働いてもらおうかと考えている。
売りに出ている家や屋敷を回り、ある程度の情報を仕入れた後、それらを纏めて何処に決めるか相談を始める。
現在の場所は、『魅惑の妖精』亭だ。
昼間はただの宿としかやってないので、スカロンに訳を話して店の一部を貸してもらったのだ。
家を決めるために、話し合っていると、
「ねえ、サイト………」
ルイズが才人に話しかける。
「何だ?」
才人が聞き返す。
「何か、私達注目されてない?」
ルイズが、店の入り口を指しながらそう言う。
そう言われて視線を移すと、ルイズの言うとおり、店の外には見物客がたくさんいた。
「………そう言えば………街中でも、ジロジロと見られてた気が………」
アイナも思い出したように呟く。
すると、
「それは当然じゃない」
スカロンが話に割り込んできた。
「スカロン店長。 当然ってどういうことですか?」
才人が尋ねる。
「あのね、サイト君は、今や救国の英雄様じゃないの」
スカロンがそう続けたとき、見物客の中から、一人の中年女性が飛び出してきて、才人の前で跪いた。
「え? 何?」
突然の事に才人が驚いていると、
「あの………貴方様はもしや、陛下の水精霊騎士隊副隊長、ヒリーギル様では………?」
「や、ヒラガですけど………」
問われた質問に才人は名前を修正しつつ肯定する。
その言葉に、見物人からどよめきがわく。
その迫力に、その場にいたメンバーは思わず身震いした。
「お会いできて、か、感激です! 平民出身ながら、数々の大手柄! あなたは私達の太陽です! 是非是非、この子の名付け親になってくださいまし!」
そんな風に叫ぶ女性の後ろから、商家の也をした男性が飛び出してきて、才人の手を握る。
集まった人々は、次々に才人の活躍を褒めそかした。
「アルビオンでの退却戦!」
「虎街道での大活躍!」
「そして、リネン川での百人抜き! あなたの活躍を聞いて、我らトリスタニア市民はどれだけ勇気付けられたことか!」
「いや、十人とちょっとですけど………」
凄まじい尾ひれがついた活躍話を修正する才人。
「それでも大変な事です! 貴族を十人も抜いただなんて! いや、今では貴方様も貴族なわけですが!」
住民たちの熱狂振りに圧倒される才人。
アルビオンの活躍で名が知れ渡り、今回のガリア戦役で、人気に火が付いたようだ。
群がる民衆に弾きだされる格好になった一同。
「これでわかったでしょ? 今やサイト君の人気は、このトリスタニアじゃ凄いんだから。 たぶん、一人じゃ街を歩けないぐらいにね」
そう言うスカロン。
「な、なんでいきなり、こんな大人気に………」
ルイズが思わずそう呟く。
「それに、戦争での活躍って意味なら、タクヤもサイトと同等なんだけど………何でタクヤには何も無いのかな?」
アイナがふと疑問に思う。
すると、スカロンはコホンと咳払いをすると、
「ルイズちゃんと、アイナちゃんの疑問の答えは、両方ともアレよ」
食堂の壁に張られた広告を指差した。
それは、演劇の公演ポスターだった。
演目を見て、一同は目を丸くした。
「………アルビオンの剣士達?」
ポスターには剣を持ち革の胴着を着込んだ立派な偉丈夫の男と、火竜に跨り、赤い鎧を着た年若い青年が剣を片手に、恐ろしい格好をしたアルビオン兵に立ち向かう様が描かれている。
どちらの人物も、どっかの誰か達とは、似ても似つかない。
「……も……もしかしてこれって………」
拓也が呆気に取られながら、そう呟く。
「どうせだから、皆で見に行く?」
一同は、冷や汗を流しながら頷いた。
「悪辣非道なアルビオン軍め! かかって来るがいい!」
目の前で繰り広げられる歌劇を、拓也達は呆然と見つめていた。
剣を握った黒髪の役者と、赤い鎧を着た役者が、竜の着ぐるみや、貴族の格好をした役者たちを前に立ち回りをしている所である。
「敵は七万! だが、我らは二人! しかし、神と始祖ブリミルはトリステインをお見捨てにならなかった!」
そんな風に叫ぶ役者を見て、思わず才人は突っ込んだ。
「七人じゃねえか」
「そんなに舞台の上に乗るわけないでしょ」
そんな才人に突っ込むスカロン。
「この祖国の危機に、親愛なる女王陛下は我らを遣わされた! 風の剣士、ヒリーギル・サートーム!!」
黒髪の役者が剣を掲げて叫ぶ。
「ヒリーギルの無二の戦友、炎の竜騎士! カナーバル・タカーナー!!」
続けて、赤い鎧を着た役者も剣を構えて名乗りを上げる。
「風の剣士て」
「名前が凄い事になってるわ」
才人とルイズ。
「炎の竜騎士って………」
「多分、俺が進化したアルダモンと、才人さんのメガログラウモンが噂の中で混ざりに混ざってああなったんだろ?」
アイナが呟き、拓也が額に手をやりつつ答える。
舞台の才人と拓也役らしい男たちは、次に剣を振り回した。
舞台の着ぐるみや、敵のメイジ役の役者たちが、その剣を受けて、ばったばったと倒れていく。
1人倒れるたびに、観客からは猛烈な歓声が沸く。
そのほとんどは平民であった。
やがて、場面の舞台は移り変わり、拓也役の役者の一人舞台になる。
先ほどと同じように、敵役の役者たちをばったばったと切り倒していく。
すると、敵役に真っ黒な鎧を着た男が現れた。
「おお! 貴様は、我が宿命のライバル! 一騎当千の猛者! 漆黒の竜騎士!」
大げさに叫ぶ拓也役の役者。
それを見て、拓也は更に頭を抱えた。
「宿命のライバルが一騎当千って……遠まわしに自分も一騎当千だって自慢してるようなもんじゃねえか……」
そんな拓也に、
「ね、ねえ、タクヤ。 あれってもしかして………」
敵役の人物に、思い当たりがあったのか、アイナが尋ねてくる。
「ああ……多分、ブラックウォーグレイモンだろ………元々“漆黒の竜人”って呼ばれてたから、これも、噂の中での伝言ゲームで変わっていったんだろ」
そう言いつつ、呆れ果てる拓也を余所に、舞台の二人は戦い始める。
まるで学芸会のチャンバラ劇のような殺陣を繰り広げる役者達。
「貴様との決着! 今ここでつける!」
「ふん! 返り討ちにしてやる!」
そんな言葉を交わしつつ、剣を交える。
そして、決着。
2人の役者がお互いの腹を剣で貫いた振りをした。
「………ふん……相打ちか…………悪くない」
漆黒の竜騎士役の男がそう呟き、先に倒れる。
「ぐふ………ヒリーギル………」
そう言って倒れる拓也役の役者。
すると、出を見計らって、才人役の役者が舞台に駆け込んできた。
「ッ! カナーバル!」
才人役の役者は拓也役の役者に駆け寄る。
「カナーバル! しっかりしろ! カナーバル!」
拓也役の役者の体を揺する。
「うっ……ヒリーギル……」
拓也役の役者はそう呟くと、
「すまん。 ヒリーギル。 俺はここまでだ」
「死ぬな! カナーバル!」
拓也役の役者は弱々しく右手を持ち上げる。
才人役の役者は、その手をしっかりと握った。
「死ぬなよ、ヒリーギル」
そう言い残して、力尽きた演技をする拓也役の役者。
「カナーバル!? カナーバルゥゥゥゥゥッ!!」
やや大げさに叫ぶ才人役の役者。
すると、拓也役の役者が使っていた剣を握って、才人役の役者は立ち上がった。
「うぉおおおおおおっ!! 許さん! 許さんぞアルビオン軍め! よくも我が親友を!!」
そう叫んで二刀流で駆けていく。
再び舞台が移り変わった。
「……ひどいチャンバラ劇だな」
切ない声で才人が感想を述べた。
「俺が勝手に殺されてるし」
拓也も何とも言えない表情で呟く。
「批評家にはえらい酷評されてるけど、市民たちには大人気なの」
そう言うスカロン。
宏明を始めとした地球組は、呆れかえって何とも言えないようだ。
しかし、シエスタだけは違った。
シエスタは、劇と才人を交互に見つめながら、頬を染めてうっとりとしている。
「サイトさんが出てますよ。 ほら。 ほらほら。 やん………私のサイトさん、とうとう舞台の上にまで出ちゃいましたわ」
「俺達じゃないよあれ………別の何かだよ」
「わぁ。 かっこいい! あんな風にしてアルビオン軍をやっつけたんですね」
才人の抗議も無視して、シエスタは劇に見入っている。
舞台の上の才人役の役者が、とうとう最後のメイジを打ち倒した。
すると、興奮した観客たちが立ち上がり、大きな喝采を送る。
「す、すごいわね………」
ルイズが観客の熱意に気圧され、ポツリと呟いた。
劇が終わった後、才人は被っていたフードをさらに深く被って劇場を出た。
すると、才人の肩に才助がポンッと手を置く。
「まあ、元気出せ。 あの劇は微妙だったが、親としては、まあ、子供が自慢できるのは嬉しいものだ」
その言葉に、才人の瞳からほろりと涙が零れる。
才人にしても、あの劇は、ある意味衝撃的だったようだ。
一同は、才人の事がばれない様に、そそくさとその場を立ち去ろうとした。
しかし、
「おや! ルイズたちじゃないか!」
聞き知った声が響いた。
そちらを向くと、シュヴァリエのマントを羽織ったギーシュだった。
その後ろには、水精霊騎士隊の面々も見える。
ルイズは、厄介な奴らに見つかったと言わんばかりに才人を押しやり、その場を離れようとする。
だが、才人の人気を知らないギーシュ達は、一同を追ってくる。
「おいおい! どこに行くんだ! 聞きたいことがあるんだよ! サイトとタクヤはどこに行ったんだ? やっこさんたち、今朝から姿が見えないんだ!」
拓也も、自分の名前が出されるとややこしいことになると思い、才人と一緒に引っ込もうとする。
続けてレイナールが呟く。
「ルイズ、アイナ。 知ってるなら教えてくれ。 早いところサイトとタクヤを見つけ出さなくちゃならないんだ。 驚くなよ! 良い城が見つかったんだ!」
水精霊騎士隊の言葉に、住民たちが反応する。
ヒリガル・サイトンだのヒリーギルだの妙な呼ばれ方をしているが、発音は似ている。
ルイズとアイナは惚けることにした。
「し、知らないわ。 そんなやつ………」
「わ、私も、タクヤとは別行動だから、今は何処にいるのか知らないよ………」
二人は苦しい言い訳をする。
しかし、
「おや? そこにいるのはサイトとタクヤの父君と母君じゃないか」
レイナールが両親達を発見する。
「だ、だめっ!」
ルイズとアイナは食い止めようとするが、ギーシュは両親達に近付いて行ってしまう。
更にそこで、妙に目ざといマリコルヌが二人を発見してしまう。
「おや! サイトにタクヤも。 何だ、二人ともいるじゃないか!」
そして、才人に飛びつき、フードを上げてしまう。
周りにいた人々から、嵐のようなどよめきが沸いた。
「こ、このお方が、かの水精霊騎士隊副隊長、サイトン・ヒリギットさまで?」
「いかにも」
マリコルヌが頷くと、市民たちが一斉に群がり始めた。
「祝福を! 祝福をくださいまし!」
「お手を握らせてください!」
もみくちゃにされる才人。
それを見た拓也は、進化して才人を救出するかと考えていた時、
「こらぁ! 何の騒ぎだ! ただちに解散しろ!」
聞き覚えのある怒号が響いた。
見れば、騎士団が通りの向こうから駆けてきたのである。
最初市民は反抗していたのだが、チェルノボール監獄に叩き込むという脅しで、市民たちは散り散りになる。
市民を追っ払った女騎士、アニエスは才人の前に来ると口を開いた。
「なんだ、お前たちか。 ちょうどよかった」
「おかげで助かりました。 え? ちょうどよかった?」
アニエスは才人に一通の書状を手渡した。
「これをお前たちに届けに行くところだったのだ。 トリスタニアにいたおかげで、手間が省けた」
「何ですかこれ?」
才人は受け取りながら尋ねるが、その手紙に、トリステイン王家の花押が押されていることに気付く。
「陛下のお召だ。 ただちに宮廷に参内しろ」
こうして、急遽王宮に向かうことになったのであった。
次回予告
呼び出された王宮で、才人は領地を受け取ることになる。
そして、その領地を見に、現地を訪れるが………
次回、ゼロの使い魔と炎の使い魔
第六十四話 才人の出世
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
第六十三話の完成。
何とか一週間で書けた。
演劇の内容いろいろ追加してみた。
如何でしょうか?
それ以外に特筆することは特になし。
では、次も頑張ります。