領地持ちになった才人。
その頃、ガリアでは……………
第六十五話 重火器激突! マグナガルルモンVSセントガルゴモン!!
シャルロットの即位祝賀園遊会が近づいた頃。
ガリアの首都リュティスでは、新王宮が完成していた。
シャルロットは毎日せっせと政務に励んでおり、少しずつ、それでも確実に平等な国への基礎作りを進めていた。
シャルロットにとっては、新王宮が完成したことについては特にこれといって興味はなく、王宮を建築した者たちにお疲れ様と思ったぐらいだ。
尚、ちゃんと働いてくれた者たちには、シャルロットからしっかりと報酬が払われている。
時折報酬を横領しようとする者がいるので、そういった者達には貴族平民関係なく、平等に罰が下されている。
現在のシャルロットの王としての評価だが、貴族からの支持率は約5割とあまり良くはない。
しかし、平民達の支持率は9割以上を誇っており、平民に限って言えば、恐らく歴史上でもトップクラスの支持率だろう。
これも、平等な国作りを進めた結果である。
しかし、平民有利に見える政策を多く取りすぎたため、一部の調子に乗った平民が暴徒化。
今までの鬱憤を晴らすかのように貴族を襲撃する事件が発生した。
これをシャルロットは自らが王軍を率いて暴徒を鎮圧。
暴徒の首謀者を始めとして、暴徒を先導した者たちには重い罰を与え、襲撃に参加した者達にもその罪に応じて罰を与えた。
その際、シャルロットは首謀者に問われた。
「陛下は平民の味方ではなかったのか?」と
それに対して、シャルロットはこう答えた。
「勘違いしないで。 私が目指すのは皆が平等な国。 私は、貴族有利の法を排除しているだけで、平民を優遇しているつもりはない。 あなた達がやったことは、理由は如何あれ罪。 罪を犯した者は、貴族も平民も関係なく、平等に罰を与える」と。
優遇も冷遇もしない。
今まで虐げられてきた平民からすれば、一見非情なようにも思えるが、変なところで温情を与えてしまうと、それこそシャルロットが掲げる平等な国作りを根本的な所から崩してしまう。
その為に、シャルロットは心を鬼にして首謀者達を処罰した。
その為に本当に極一部だが、平民の中にもシャルロットを支持しない者は存在する。
そういったトラブルが有りながらも、シャルロットはジョゼフやイザベラの助けもあり、毎日を乗り切っている。
そんな一日を今日も乗り切り、夕食を終えたシャルロットは完成した王宮の自室にやってきた。
横にはイルククゥもおり、部屋に入ったとたん、
「ふわ~~~~、お腹いっぱい。 ではシルフィは寝るのね。 女王様」
そう言って自分の寝床に潜り込んでしまった。
シャルロットのベッドの上には、昼間女官が持ってきた沢山の服が置かれていた。
即位祝賀園遊会は着替えが多いため、何着ものドレスを選ばなければならない。
面倒な事だと思いつつも、着るものはしっかりと選ぶつもりでいる。
その理由はあった。
部屋の机の上にある書類には、即位祝賀園遊会の出席者の名が書かれている。
その中のトリステイン王国の出席者の中に、外交官としてルイズと才人の名があり、同行者としてアイナと拓也の名もあった。
シャルロットは、恐らく自分との交友から任命されたのだろうと推測する。
ただ、拓也やアイナでは歳が若すぎるため同行者とし、今や英雄と名高い才人やルイズを外交官として任命することで体面を保つことにしたのだろう。
シャルロットにとって、拓也達に会うのはガリアの戦争終結以来だ。
女王である前に恋する乙女であるシャルロットにとって、拓也と会えるのは、想像しただけで心が躍る。
シャルロットだけではなく、イルククゥも同じだろう。
拓也達が来ることはまだイルククゥも知らないため、明日教えてあげようとシャルロットは微笑みながら寝床で寝息を立てるイルククゥに目をやる。
そこでシャルロットは思い出した。
自分の護衛を買って出てくれている輝二も、拓也の友人だ。
顔には出さないが、見知らぬ世界で少なからず寂しさを感じているだろうとシャルロットは考える。
「コージにも、明日教えてあげよう」
そう呟き、そろそろ寝ようとベッドに横になろうとした。
その時だった。
カンカン、と窓がノックされた。
シャルロットは、なぜ窓からノックが聞こえるのかと怪訝に思う。
窓の外はカーテンがかかって見えないが、バルコニーがあるだけのはず。
ガンガン、と先程よりも強いノック音が響く。
シャルロットは杖を握り、警戒しながら窓に近付く。
静かに近付き、シャルロットは無言でカーテンを捲った。
窓ガラスの向こうに居たのは………自分だった。
シャルロットは一瞬、ガラスに写った自分の姿かと思った。
しかし、直ぐに違和感に気付く。
服が違う。
そして何より、窓枠の向こうに彼女は立っている。
だが、彼女の顔は自分と瓜二つ。
動揺がシャルロットの心を揺さぶる。
そして、そのせいでシャルロットの警戒心を途切れさせてしまった。
隣の窓から別の影が侵入したことに、シャルロットは気付くのに遅れる。
杖を握られ、シャルロットは漸く反応した。
振り返った先にあった顔は、ジュリオだった。
「あなた………ッ!?」
「こんな真夜中に、あなたのように高貴な女性の部屋を訪れるにしては、無作法だったと存じますが…………」
ジュリオが喋っている最中に、シャルロットは体を捻り、ジュリオの腹に蹴りを叩き込もうとした。
しかし、ジュリオは身を捻ってそれを躱すと、手に持った布をシャルロットの顔に押し当てようとした。
その布には眠り薬が染みこませてあり、それを嗅ぐと、『眠りの雲』を受けたのと同じように即座に眠ってしまう。
蹴りを入れようとしたシャルロットは体勢が悪く、そのまま布を顔に押し当てられてしまうかに思われた。
しかし、
「そこまでだ!」
窓ガラスが割れる音と共に、長い棒状の物がジュリオの布を持った手を弾き飛ばす。
「くっ!?」
ジュリオは、痛みが走る手を押さえながら、咄嗟に飛び退いた。
そして、何者かが窓を蹴り開け、シャルロットを守るようにジュリオの前に立ちはだかった。
「何!? なんなのね!?」
窓ガラスが割れた音で、イルククゥが飛び起きる。
そして、イルククゥは目にした。
シャルロットを守るように棍を構える輝二と、手を押さえて輝二を睨みつけるジュリオの姿を。
尚、輝二の棍は、得意武器と聞いたシャルロットが輝二に与えた物である。
「大丈夫か?」
輝二はジュリオから視線を外さないまま、シャルロットに問いかける。
「ありがとう。 助かった」
シャルロットも最低限の言葉で返す。
輝二はジュリオの顔を睨みつける。
「お前は…………確かロマリアとかいう国の神官………」
輝二は、以前の戦争で見覚えのあるジュリオの顔を記憶から引っ張り出す。
「君か………まさか気付かれるとは…………」
ジュリオは少々驚きを感じさせる声で呟く。
「気付いたのは俺じゃない………が、こういう事に関しては敏感な奴が一緒にいるんでね」
『へへっ。 俺の手柄っスよ』
輝二の懐から声がする。
拓也から預かっていた地下水だ。
ジュリオが目を見開く。
「そうか。 インテリジェンスナイフ地下水…………君が持っていたのか…………誤算だったよ。 てっきり、タクヤが持っているとばかり思っていた」
ジュリオが悔しさを滲ませながら呟く。
「それにしても………」
輝二はジュリオに注意を向けたまま視線を窓の外にいる人物に向ける。
よそ見は戦闘中には命取りではあるが、輝二自身も警戒している上、いざという時には地下水に自分の体をコントロールしていいと許可している。
不意打ち対策は万全だ。
輝二はシャルロットそっくりの人物を見る。
「シャルロット…………お前、双子の姉妹でも居たのか?」
あまりにそっくりな為、輝二はそう問いかける。
シャルロットは首を横に振り、
「聞いたことは無い…………でも、ある程度予想はつく」
そう言った。
「そうか………」
彼女の詮索は後回しにし、輝二はジュリオに集中する。
すると、ジュリオは窓に向かって歩き出し、
「出来れば穏便に済ませたかったけど、こうなった以上手段を選んではいられないな」
上空からテリアモンが飛んできてバルコニーの手摺に着地する。
「ジュリオ!」
ジュリオも跳んで手摺の上に立つと、後ろに軽くジャンプした。
テリアモンも同じように後ろに跳び、重力に引かれて落下する。
「お兄さま!?」
シャルロットそっくりの人物が驚いてバルコニーの手摺に駆け寄り、下を覗く。
すると、
「マトリックスエボリューション!」
進化の光が満ちた。
「何だと!?」
輝二が驚愕の声を漏らす。
「テリアモン進化!」
テリアモンとジュリオの身体が一体化。
究極体へと進化する。
城のような巨体に、各部に内蔵された数多の重火器。
パワー重視のマシーン型デジモン。
「セントガルゴモン!!」
城の高さにも匹敵するほどの大きさを持つセントガルゴモンが、バルコニーを見下ろす。
「チィ! 奴も究極体になれたのか!」
輝二は棍を手放し、デジヴァイスを取り出した。
「ハイパースピリット! エボリューション!! うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
輝二もセントガルゴモンに対抗するために進化する。
セントガルゴモンがパワーと防御力重視の固定砲台だとすれば、こちらは高機動高火力を持った高速移動砲台。
「マグナガルルモン!!」
マグナガルルモンがシャルロットがいるバルコニーを守るように立ちふさがる。
大きさの差は、片や城ほどの大きさ。
もう片方はせいぜい5メイルといったところ。
子供と大人以上の差がある。
だが、
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
マグナガルルモンがブーストを噴かし、セントガルルモンに突撃する。
「なっ!?」
驚くことに、マグナガルルモンはセントガルゴモンの巨体を上空へと押し上げる。
超越形態のマグナガルルモンは、並の究極体を遥かに超える。
例え相手がパワー重視の究極体でも、そう簡単には力負けはしない。
王宮の上空でマグナガルルモンはセントガルゴモンから離れ、間合いを取る。
「「…………………」」
そして、僅かに上空で睨み合った後、
「マシンガンデストロイ!!」
「バーストショット!!」
お互いの武装を乱射した。
ミサイルや弾丸が飛び交う。
武装の数で勝るセントガルゴモンと、一発一発の威力で勝るマグナガルルモン。
2体の間で無数の爆発が入り乱れる。
「おおおおおおおおおおおおっ!!」
「はぁああああああああああっ!!」
互いに負けじと次々と武装を乱射する。
その時、セントガルゴモンが数発のミサイルを中央のぶつかり合いを避けるように両側から回り込ませるように発射した。
「何っ!?」
マグナガルルモンが声を漏らす。
真正面のぶつかり合いでは互角でも、武装の数の差ではセントガルゴモンに分がある。
それをジュリオは見極め、中央を避けるようにミサイルを撃つようにセントガルゴモンに指示したのだ。
ジュリオの目論見通り、両側からの攻撃に対処出来なかったマグナガルルモンはミサイルに直撃。
爆発に呑まれる。
「やった!」
セントガルゴモンは声を上げるが、
「チィ!」
爆煙の中から、大したダメージを受けていないマグナガルルモンが舌打ちをしながら飛び出した。
「そんなっ!?」
セントガルゴモンは驚愕する。
だが、それも当然である。
マグナガルルモンは、カイゼルグレイモンと比べて、総合能力では互角だが、スピードと手数で勝る代わりに一撃の威力と防御力で劣る。
しかし、それはカイゼルグレイモンと比べてであり、マグナガルルモンは過去、それも初めて進化したばかりの時、デジタルワールドのデータを吸収する前のケルビモンの攻撃をまともに受けて、無傷で防ぎ切った事実がある。
ケルビモンも普通の究極体を上回る力を持っており、それを無傷で防ぎ切ったマグナガルルモンの防御力も相当なものだ。
故に、いくら通常の究極体を上回るセントガルゴモンの攻撃とは言え、たった数発のミサイルで致命的なダメージが入ることはありえないのだ。
「フッ………どうやらまともな撃ち合いではそちらの方が上のようだ…………ならばっ!」
マグナガルルモンは真正面からのぶつかり合いでは不利と判断し、作戦を変える。
ブーストを噴かし、セントガルゴモンの周りを円を描くように回り始めた。
セントガルゴモンは、マグナガルルモンを目で追うが、マグナガルルモンはスピードをどんどん増してゆく。
その時、セントガルゴモンの背中が爆発する。
「うわっ!?」
セントガルゴモンはよろけ、思わず攻撃された方を向くが、
「うわぁっ!?」
今度は向いた反対側から攻撃を受けた。
マグナガルルモンの姿は、最早速すぎて、セントガルゴモンの周りに水色の線が円状になっているようにしか見えない。
攻撃は徐々に激しくなり、360°全方位から攻撃を受けている。
この攻撃方法は、輝二のかつての宿敵、ロードナイトモンのスパイラルマスカレードを元に考えた攻撃だった。
ロードナイトモンは、マグナガルルモンを上回るスピードを持ち、縦横無尽に駆け巡り、反撃の隙を与えぬまま相手を切り刻む。
輝二は、それをマグナガルルモン風にアレンジし、超スピードによる全方位からの射撃、言わば『スパイラルデストロイ』とも言うべき新たな必殺技を編み出したのだ。
それを受けるセントガルゴモンも、ただやられているわけではなく、当然無数の武装で反撃を試みるが、ミサイルは撃ち落とされ、弾丸は全て素通りして、全く効果を上げなかった。
攻撃を受け続けるセントガルゴモンもダメージが蓄積していく。
このまま行けば、あと少しで進化も解除されるだろう。
だが、その時思わぬことが起こった。
セントガルゴモンが反撃しようとした瞬間、別方向からマグナガルルモンの攻撃が当たり、標準が狂ってしまった。
そのまま数発のミサイルが発射される。
そのミサイルの矛先は…………
「しまった!!」
マグナガルルモンは攻撃を中断し、フルブーストでミサイルを追った。
そのミサイルの先には、シャルロットとイルククゥ。
そしてシャルロットに似た人物が居るバルコニー。
「うおおおおおおおおっ!!」
マグナガルルモンは、ギリギリでミサイルを追い越し、2人を庇い、背中にミサイルを受ける。
「ぐうっ!」
マグナガルルモンは声を漏らす。
すると、
『セントガルゴモン!』
ジュリオがセントガルゴモンに攻撃を指示する。
「いいのジュリオ!? あそこにはジョゼットも………!」
思わず聞き返すセントガルゴモン。
『大丈夫だ。 彼は避けないよ…………絶対にね』
確信を持ってそう言うジュリオ。
少し躊躇したが、パートナーの言葉を信じ、セントガルゴモンは攻撃態勢を取る。
「ジャイアントミサイル!!」
セントガルゴモンは、両肩から巨大な2発のミサイルを発射する。
それは、一直線にマグナガルルモンに、ひいてはシャルロット達が居るバルコニーに向かってくる。
「お兄さま!?」
シャルロット似の人物が攻撃してきたセントガルゴモンに驚愕する。
迎撃は間に合わない。
マグナガルルモンはそう判断すると、3人を庇う態勢を取る。
この攻撃を喰らえば、マグナガルルモンでも大ダメージは必至だろう。
だが、マグナガルルモンに、輝二には逃げるという選択肢は存在しない。
マグナガルルモンは覚悟を決めた。
その時だった。
「飯綱!!」
何処からか管狐を模ったエネルギー波がミサイルを貫き、撃ち落とした。
『何っ!?』
ジュリオは驚愕した声を漏らす。
「今の技は……」
マグナガルルモンが、攻撃が来たであろう方向を向く。
そこには、城の塔の頂上に立ち、長く美しい髪を靡かせた神人型デジモン。
シェフィールドとレナモンが進化したサクヤモンがいた。
「サクヤモン!」
マグナガルルモンが叫ぶ。
「ロマリアか………ここまで形振り構わないということは、かなり余裕が無くなっているのね」
サクヤモンがそう呟く。
『バカな!? 何故!?』
ジュリオがサクヤモンを見て驚く。
サクヤモン………シェフィールドは、ジョゼフと一緒に死んだと思われていた。
それが生きていたのだ。
『さあ? なぜでしょうね? 少なくとも、あなた達の敵であることは間違いないわ』
シェフィールドがそう言うと、サクヤモンは錫杖を構える。
「むん!」
マグナガルルモンもサクヤモンの横に並び、気合を入れ直す。
『く………』
「どうするの? ジュリオ」
ジュリオは明らかに自分達の不利を悟っていた。
マグナガルルモン1体でも明らかに部が悪かったのだ。
そこにサクヤモンまで加わっては、こちらの勝機は殆ど無い。
『……………撤退だ……テリアモン』
「でも! ジョゼットが!」
『彼らなら彼女を悪いようにはしないだろう。 だが、ここで僕達が捕まったら、誰が聖下を支えるんだ?』
「ッ……………わかった」
セントガルゴモンは背を向け、王宮から離れていった。
「退いたか…………」
マグナガルルモンは、それを追おうとはしなかった。
深追いは無用と判断したのだ。
マグナガルルモンはバルコニーに降下し、進化を解くと共にバルコニーに着地する。
「怪我はなかったか?」
輝二は3人にそう聞く。
「大丈夫」
「きゅい! 大丈夫だったのね!」
「…………」
シャルロットとイルククゥは答えたが、シャルロット似の人物………ジョゼットは、信じられないと言った表情でセントガルゴモンが飛び去った方向を見ていた。
「……………シャルロット。 彼女は………」
輝二がシャルロットに訪ねようとした所で、シャルロットが彼女に向かって歩いていく。
その事に気付いたジョゼットは、困惑した表情でシャルロットの方を向く。
「………………あなた、名前は?」
シャルロットが問いかける。
「…………………ジョゼット」
沈黙の後にポツリと呟いた。
「あなたは…………」
シャルロットが何か言いかけたところで、
「シャルロット!? 無事!?」
部屋の入口が勢いよく開き、オルレアン夫人を始めとして、ジョゼフ、イザベラが駆け込んでくる。
「母様………私は無事です」
バルコニーから部屋に戻ったシャルロットの姿を見ると、オルレアン夫人は思わずシャルロットを抱きしめた。
「ああ! 良かったシャルロット! あなたにもしもの事があったらと思ったら、もう………」
涙を滲ませながら抱きしめ続けるオルレアン夫人。
その時、
「母様。 母様にお尋ねしたいことがあります」
シャルロットが口を開く。
オルレアン夫人は、シャルロットから離れると、
「尋ねたいことですか? 一体何を………?」
不思議そうに首を傾げながらそう聞く。
「母様…………彼女に心当たりはありませんか?」
シャルロットはそう言いながら、未だにバルコニーに困惑した表情で立っているジョゼットに目をやった。
オルレアン夫人もシャルロットの視線を追い、ジョゼットの姿が目に入る。
その瞬間、驚愕の表情に変わる。
「シャ、シャルロット…………彼女は……?」
オルレアン夫人は動揺を隠せない震えた声で問う。
「ロマリアの神官が連れてきました。 どうやら、私と彼女をすり替えるつもりだったようです」
シャルロットは事実と自分の予想を交えて説明した。
「お、おおお………!」
オルレアン夫人は膝を付き、両手で顔を覆って泣きながら首を横に振る。
「やはり………そうなのですね………」
オルレアン夫人の様子を見て、自分の予想が的中したと確信したシャルロット。
「彼女は…………私の妹なのですね…………?」
シャルロットは、確信を持ってそう尋ねた。
「……………あなたが生まれた日のことです」
オルレアン夫人はポツリポツリと話しだした。
「6227年のティールの月、ヘイルダムの週、エオーの曜日、午前8時の事です…………私は…………“2人”の娘を出産しました………」
やはりと思ったシャルロット。
そしてジョゼフもある程度予想がついていたのか対して驚きは無かった。
一方、輝二とイザベラは驚愕の表情を浮かべている。
「………ですが、ガリア王家の紋章に刻まれた交差した2つの杖は、かつてその王冠をめぐり、争い、共に斃れた何千年も前の双子の兄弟を慰める意味が込められています。 そう、ガリア王族にとって、双子とは禁忌なのです。 わたくし達には、選択は2つしかありませんでした。 どちらかの命を絶つか、それとも、決して人目の触れない場所へ送るかです! そうするより他は選べなかったのです! わたくし達には、王族であることを捨てることすら許されませんでした!」
オルレアン夫人は、懺悔するように声を絞り出す。
それを聞いたシャルロットは、杖をギュッと握り締める。
「こんな所にも…………今の制度の犠牲者が…………」
そう呟きながら、シャルロットは俯く。
そして、顔を上げると、
「そんな決まり、私が今この場で潰す!」
そう宣言する。
そして、ジョゼットの方を向き、
「あなたは私の妹。 あなたはここに居ていい。 何も心配することはない」
そう優しく声をかける。
しかし、
「で、でも…………いきなりそんなこと言われても…………」
困惑するジョゼット。
「わ、私………私…………どうすればいいかわからない!」
どうすればいいか分からず、ジョゼットは部屋を飛び出してしまう。
「待って!」
思わず後を追おうとするシャルロット。
しかし、
「待て」
輝二の手がそれを遮った。
驚いて輝二を見るシャルロット。
「ここは、俺に任せてくれないか?」
輝二が言ったことに、何故と思うシャルロット。
「今のあの子の気持ちが一番わかるのは…………多分俺だ」
「コージ?」
俯きながらどこか懐かしむような表情で輝二の言葉にシャルロットは声を漏らす。
「似てるんだよ。 今のあの子の状況が、1年前の俺に………」
そう言って、輝二は部屋を出た。
そして、何となく思う方向に、足を向けた。
輝二が向かった場所。
そこは中庭だった。
綺麗な星空と双月が見える、静かな場所だった。
そこにジョゼットは空を見上げながら立っていた。
「ここにいたんだな」
輝二はジョゼットに声をかける。
「…………あなたは……」
「源 輝二。 輝二でいい」
自己紹介から始める輝二。
「何故………ここに?」
「何となく、今の君をほっとけなくてな…………俺には、今の君の気持ちが良く分かる」
「えっ?」
輝二の言葉に、ジョゼットは声を漏らす。
「突然、双子の姉がいると言われて頭では信じられない。 でも、心は…………魂はそれが本当だと理解してしまう…………それでもどうすればいいかわからない…………そんな所か?」
輝二の言葉に、ジョゼットは驚いた表情をする。
殆ど当たっていたのだ。
「……………俺の両親は………俺が物心着く前に離婚した」
「えっ………?」
突然話しだした輝二にジョゼットは困惑する。
「俺は父親に引き取られ、兄弟はおらず、俺を生んだ母さんは死んだと聞かされていた。 それからしばらくして、父さんは別の人と再婚した。 だけど、俺はその人を母さんとは呼べなかった………」
輝二は遠い目をしながら話を続ける。
「そして1年前、俺は仲間達と一緒に旅に出る機会があった。 その旅の中、俺は、自分の双子の兄だという男に出会った」
「ッ!?」
「俺は信じられなかった。 それでも魂は理解してしまった。 その男は俺の兄さんだと。 多分、その時の俺の気持ちは、今の君の気持ちと殆ど同じだと思う………」
輝二の言葉に、ジョゼットは言葉が出なかった。
自分と同じ体験をした人が、こんなにすぐ近くにいた事に驚きを隠せない。
「兄さんは、母さんのおばあちゃんが死ぬ間際に、双子の弟が居ることを聞いたそうだ。 そして、俺を生んだ母さんが生きていることも、その時に知った」
「………………」
ジョゼットは、黙って輝二の話を聞いている。
「俺にはどうすればいいか分からなかった。 突然兄弟が居ると言われても、どう接していけばいいかも分からなかった。 兄弟が居る仲間に話を聞いたりもした」
「それで………どうしたんですか?」
「何もしていないさ」
「え?」
「特別なことは、何もしていない。 ただ、気にかける。 最初はただそれだけでいい」
「…………気にかける」
「自分で自覚は無くとも、兄弟の絆っていうものは、ちゃんとそこに在るんだ。 だから気にかける。 そこから始めていけば、自ずと答えは出る」
ジョゼットは自分の胸に手を当てる。
そして、今度は自分から話しだした。
「私は、物心ついた時から、セント・マルガリタ修道院というところで生活していました。 そこは海に囲まれ、外の世界から完全に隔絶されていましたが、特に不自由は無かったので生活に不満は無かったんです。 それに、待つ楽しみがありました。 竜のお兄さまを待つという楽しみが…………」
竜のお兄さま?と輝二は一瞬考えるが、直ぐにジュリオの事だと思い当たった。
「私は、竜のお兄さまが大好きでした。 竜のお兄さまが来る日が近付く度に礼拝堂でお祈りを続ける程に…………」
それは、何も知らない少女に芽生えた初めての恋心。
「それがつい先日、竜のお兄さまが私を修道院から連れ出しました。 そして、いかなる時も外してはならないと言われた聖具をお兄さまは外しました。 そうしたら、私の顔がこの顔に変わったのです」
輝二は顔が変わったという話で少々驚いたが、魔法の世界なんだしそれもアリかと思い直した。
「私は竜のお兄さまの役に立ちたかった。 竜のお兄さまの近くに居られれば、他はどうでも良かった。 さっきまで………そう思っていました」
「……さっきまで?」
「あの時、竜のお兄さまは、私が居ることも構わずに攻撃をしました。 その時、私の中の何か大事なものが、粉々になってしまったんです」
先程、ジュリオはジョゼットが居るのに攻撃を仕掛けた。
それが内心ショックだったのだろう。
「アイツの事だ。 俺が絶対に逃げないと確信を持っていたんだろうさ」
輝二はそう言う。
「それでも…………それでも信じたくなかった。 お兄さまが私を巻き込んでまで攻撃しようとするなんて………」
ジョゼットの声は、既に震えている。
「…………私は………利用されていただけだったんでしょうか…………?」
ジョゼットはポツリと呟く。
「ジュリオ自身はわからない…………だが、“ロマリアという国”としては、利用するつもりだったんだろう。 あの国は、人の心を簡単に利用するとシャルロットが言っていた。 復讐心、忠誠心、劣等感、果ては恋心まで…………ありとあらゆる心を利用して、自分たちが思うとおりに世界を動かそうとしているらしい…………」
輝二の言葉に、ジョゼットの瞳から涙が溢れた。
自分の中の恋心が、ガラガラと音を立てて崩れていくことを感じた。
「やっぱり………私は利用されていただけだったんですね…………」
「ジュリオ自身の気持ちは分からないがな」
「いえ、いいんです。 あの時、確信してしまったんです。 お兄さまは………私の事を本当に愛していたわけじゃないって…………」
ジョゼットはボロボロと涙を流す。
それを見た輝二は、
「我慢する必要はない。 泣きたい時には泣けばいい。 俺は向こうに行っている」
そう言って、輝二はジョゼットに背を向ける。
すると、その背にジョゼットが縋り付いた。
「ごめんなさい………今だけ……今だけでいいんです…………背中を…………貸してください………」
震える声で懇願するように呟くジョゼット。
「…………好きにしろ」
輝二はその場で立ち止まり、振り向かずに言った。
そして、
「うあっ…………うあああああああああああああああああああっ!!」
ジョゼットの慟哭が中庭に響いた。
次回予告
即位祝賀園遊会に出席するためガリアへ向かう拓也達。
だが、拓也達と入れ違いになるように謎の2人組が屋敷を襲撃する。
信也とブイモンが応戦するが、異常な強さを持つメイジに窮地に追い込まれる。
だがその時、新たな絆が進化を呼ぶ!
次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔
第六十六話 豪勇進化!エクスブイモン! 疾風進化! スティングモン!
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
第六十五話の完成!
はい、予告通り原作をマシンガンデストロイで粉々にしました。
色々改変(改悪?)しまくりです。
でもって序のように輝二にフラグ立っとります。
でも、ジョゼットの気持ちがよくわかるのは、輝二しかいないと思います。
この物語では、ジョゼットはルイズと会っていないので、原作ほどジュリオに対してヤンデレ(?)てはいません。
でも、自分ごと攻撃されればショックは受けるでしょう。
次回は予告からもわかるとおり主演を信也とリースでお送りいたします。
さて、お楽しみに(出来る人はしてください)。
では、次も頑張ります。