買い物から帰った直後、『土くれ』のフーケのゴーレムが宝物庫を襲撃しているのを見かけた拓也達。
ゴーレムを倒そうとするものの、逆に宝物庫に穴を開けてしまい、フーケに『破壊の杖』を盗まれてしまった。
さて、拓也達はどうするのか?
第六話 アイナの勇気。咆哮!ヴリトラモン!!
フーケの襲撃から、一夜明けたトリステイン魔法学院では大騒ぎになっていた。
秘宝である『破壊の杖』が盗まれたからだ。
「それで、犯行現場を目ていたのは誰だね?」
オスマンが切り出した。
「この4人です」
コルベールが自分の後ろに控えていた4人を指差した。
アイナにルイズにキュルケにタバサの4人である。
拓也と才人も傍にいたが、使い魔なので数には入っていない。
「ふむ・・・・君たちか」
オスマンは興味深そうに才人を、そして拓也を見つめた。
「詳しく説明したまえ」
ルイズが進み出て、説明を始める。
「あの、私達が城下町での買い物を終えて、この学院に帰ってきたときです。大きなゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけていたんです。私達は何とかくい止めようとして、使い魔達がゴーレムを倒すことには成功しました。ですが、その隙にアイナが大きな土の腕に捕まってしまったんです。アイナを助けている内に、黒いローブを着たメイジが宝物庫に開いた穴から中に入って、何かを・・・・・、その『破壊の杖』だと思いますけど・・・・、盗み出した後、倒されたゴーレムの土を使って、一回り小さなゴーレムを作って、それに乗りました。ゴーレムは城壁を越えて歩き出して・・・・・その後を、ミス・タバサが風竜で追っていたんですけど、最後には崩れて土になってしまいました」
「それで?」
「後には、土しかありませんでした。肩に乗っていた黒いローブを着たメイジは、影も形も無くなっていました」
「ふむ・・・・」
オスマンは髭を撫でた。
因みにルイズの言ったことに嘘は無い。
宝物庫の穴を開けたのはアグニモンだが、先程の説明には、「ゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけていた」と言っただけで、ゴーレムが穴を開けたとは言ってない。
そんな事を言えば、どんな責任を取らされるか、分かったものではないからである。
説明していたルイズは、内心冷や汗ものであった。
「後を追おうにも、手がかり無しというわけか・・・・・」
それから、オスマンは、気付いたようにコルベールに尋ねた。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその・・・・・・朝から姿が見えませんで」
「この非常時に、何処に行ったのじゃ?」
「どこなんでしょう?」
そんな風に噂していると、ロングビルが現れた。
「ミス・ロングビル!何処に行っていたんですか!?大変ですぞ!事件ですぞ!」
コルベールが興奮してまくし立てる。
ロングビルは落ち着いた態度でオスマンに言った。
「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」
「調査?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこの通り。すぐに壁にフーケのサインを見つけたので、これが国中を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」
「仕事が早いの。ミス・ロングビル」
そして、コルベールが慌てた調子で促した。
「で、結果は?」
「はい。フーケの居所が分かりました」
「な、なんですと!?」
コルベールは素っ頓狂な声を上げる。
「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」
「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」
「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません!」
ルイズが叫ぶ。
オスマンは目を鋭くして、ロングビルに尋ねた。
「そこは、近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」
「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」
コルベールが叫んだ。
だが、オスマンは首を振ると怒鳴った。
「馬鹿者!!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上、身にかかる火の粉を己で振り払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは、魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!」
ロングビルは、まるでこの答えを待っていたかのように微笑む。
オスマンは咳払いすると、有志を募った。
「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」
だが、誰も杖を掲げようとはしない。
困ったように顔を見合すだけであった。
「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!?」
オスマンは更に言うが、誰も杖を掲げない。
しかし、一つの手が上がった。
「あの、俺、行きます」
手を上げてそう言ったのは拓也。
その行動に全員が驚く。
「拓也、なんでお前が?」
才人が尋ねる。
「一応、その宝が盗まれた原因を作ったのは俺ですから」
「如何いう事じゃ?」
拓也の答えに疑問を持ったのか、オスマンは拓也に尋ねる。
「ええ。宝物庫に穴開けたの、俺なんで」
その言葉に、ルイズ達は、「何でバラすのよ」といった表情になり、他の教師達は驚愕し、ここぞとばかりに拓也に責任全てを擦り付けるために、言葉を続ける。
「貴様、フーケの仲間か!」
「貴様の所為で我らが学院の宝が!」
などという言葉を拓也に浴びせる。
そこに、
「止めんかっ!!」
オスマンの怒号が響き、教師達は黙ってしまう。
「少なくとも、フーケの仲間という事はないじゃろ。そうだったとしたら、こんな所で名乗り出るなどという真似はしないはずじゃ。それで、君はミス・シンフォニアの使い魔の少年じゃったな。先程言ったことをもう少し詳しく教えてもらえんかの?」
オスマンに言われ、話を続ける。
「はい。俺はフーケのゴーレムを倒すために攻撃したんですが、俺が思ってたほど防御力は無くて、ゴーレムを貫いた勢い余って、宝物庫の壁に穴を開けてしまったんです。その後にアイナが捕まってしまったので、宝物庫の穴から離れてアイナを助けに行った隙にフーケが宝物庫に侵入したんです」
そう言うと、1人の教師が拓也に言った。
「貴様!何故その場で宝物庫を守らなかった!」
「ですから、アイナが捕まったからですって」
「だから、何故秘宝を守らなかったと聞いている!その場にはミス・シンフォニアの他に貴族が3人もいたのだろう。何故秘宝を優先して守らなかった!?」
拓也は、その言葉に少しカチンと来た。
「俺は秘宝がどんな物か知りませんがね、秘宝だろうが国宝だろうが、仲間の命の前には俺にとっちゃガラクタ同然だよ!」
「ひ、秘宝がガラクタだと・・・・・」
「これこれ、止めんか」
一触即発な雰囲気を、オスマンが宥める。
「ガラクタは言い過ぎじゃが、命と物、天秤にかければどちらが重いか言うに及ばんじゃろ。どうも貴族たちは命を軽視しすぎていかん」
「しかし、オールド・オスマン・・・・・・」
「それに彼は、ミス・シンフォニアの使い魔じゃ。使い魔が主を優先して助けるのは当然じゃろ」
「・・・・・・・」
その教師は何も言えなくなってしまった。
拓也は別にアイナが主だったから助けたわけではないのだが、それを言うとまた面倒なことになると思ったので黙った。
「それで、君は何故名乗り出たんじゃ?」
オスマンは話を戻し、拓也にそう問いかけた。
「まあ、普通に解決するなら黙ってようかな~、とは思ったんですけど、誰も解決しようとしないんじゃ、自分で責任とって解決するしかないでしょ?」
拓也は周りの教師に向けた嫌味も含めてそう告げた。
「ふ~む・・・・」
オスマンは髭を撫でながら考える。
その時、
「ったくしゃ~ね~な。俺も行くぜ」
才人が頭を掻きながら、そう言った。
「才人さん?何で?」
「弟分が行くんだ。兄貴が行かなくてどうするんだよ?」
才人はニヤリと笑ってみせる。
「ありがとうございます」
拓也は礼を述べる。
その時、俯いていたルイズがすっと杖を掲げた。
「ミス・ヴァリエール!?」
シュヴルーズが驚いた声を上げた。
「何をしているのです!?あなたは生徒ではありませんか!ここは教師にまかせて・・・・・・」
「誰も掲げないから、使い魔達が行くと言っているのではありませんか。そして、私は貴族でメイジです。使い魔だけを行かせるわけにはいきません!」
そのルイズを見て、才人はポカンとした。
ルイズが杖を掲げているのを見て、キュルケはしぶしぶ杖を上げた。
「ツェルプストー!?君は生徒じゃないか!」
コルベールが驚いた声を上げる。
「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」
キュルケはつまらなそうに言う。
キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。
「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」
キュルケがそういったら、タバサは短く答えた。
「心配」
キュルケは感動した面持ちでタバサを見つめ、ルイズも唇をかみ締めてお礼を言った。
「ありがとう・・・・タバサ・・・・」
そして、杖の先が震えながらも、もう一つの杖が掲げられた。
「アイナ!?」
これには、拓也も驚いた。
「お、お前、無理すんなよ。唯でさえ昨日怖い目にあってるんだから・・・・」
拓也がそう言うが、
「わ、私も、友達を守りたい・・・・・それに・・・・自分に嘘はつきたくないから・・・・」
拓也は1週間前の決闘のときの、アイナの想いを思い出した。
「・・・・・・・・」
そうなると、拓也は何も言えなかった。
そんな様子を見て、オスマンは笑った。
「そうか。では、頼むとしようか」
「オールド・オスマン!私は反対です!生徒たちをそんな危険に晒すわけには!」
「では、君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」
「い、いえ・・・・私は体調が優れませんので・・・・・」
「彼女たちは敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
教師達は驚いたようにタバサを見つめた。
そのタバサは、返事もせずにぼけっと突っ立っている。
「本当なの?タバサ」
キュルケも驚いている。
「ルイズ、『シュヴァリエ』って?」
才人はルイズに尋ねる。
「『シュヴァリエ』っていうのは、王室から与えられる爵位としては、最下級なんだけど、他の位の低い爵位と違って、純粋に業績に対して与えられるものなの。つまり、実力の称号ってことよ。私たちの歳で持ってる人なんて滅多にいないわ」
「そうなのか」
そう話している間にもオスマンの言葉は続く。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
キュルケは得意げに髪をかきあげる。
そして、ルイズが自分の番だと言わんばかりに胸を張った。
だが、オスマンは困っていた。
褒めるところがなかなか見つからなかったのだ。
コホン、と咳をすると、オスマンは目を逸らしながら言った。
「その・・・・ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いているが?しかもその使い魔は!」
それから才人を熱っぽい目で見つめた。
「平民ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」
オスマンは思った。
(彼が、本当に伝説の『ガンダールヴ』なら、土くれのフーケに、遅れを取ることはあるまい)
更に、コルベールが興奮した調子で、オスマンの言葉を引き取った。
「そうですぞ!なにせ、彼はガンダー・・・・・」
オスマンは慌ててコルベールの口を塞いだ。
「むぐ!はぁ!いえ、なんでもありません!はい!」
オスマンは落ち着くと言葉を続ける。
「そして、ミス・シンフォニアは、現在このトリステイン魔法学院で最年少の生徒であるにも関わらず、成績優秀な優等生であり、ミス・ツェルプストーに及ばないながらも、中々の火の使い手であるラインメイジと聞いておるが?更にその使い魔も、スクウェアクラスの炎の使い手であり、先程の報告が正しければ、フーケのゴーレムを破壊したのは、ミス・シンフォニアの使い魔じゃ」
教師達はすっかり黙ってしまった。
オスマンは威厳のある声で言った。
「この4人に勝てるという者がいるなら、一歩前に出たまえ」
誰もいなかった。
オスマンは、拓也、才人を含む6人に向き直った。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
「「「「杖にかけて」」」」
アイナ、ルイズ、キュルケ、タバサの4人は、直立して真顔になり、そう唱和した。
「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」
「はい。オールド・オスマン」
「彼女たちを手伝ってやってくれ」
ロングビルは、頭を下げ、
「もとよりそのつもりですわ」
と、告げた。
6人は、ロングビルを案内役に、早速出発した。
馬車といっても、屋根無しの荷車のような馬車であった。
襲われたとき、すぐに、外に飛び出せるように、という理由らしい。
道中、キュルケが御者を買って出たロングビルに、何かと話しかけようとして、それを止めようとしたルイズと口論になっているが、拓也はそれよりも、隣のアイナを気にしていた。
アイナは、馬車に乗ってから殆ど喋っておらず、座ったまま俯いている。
よく見ると、その手は微かに震えていた。
「アイナ・・・・怖いのか?」
拓也はアイナに話しかける。
「・・・・うん・・・少しね」
アイナはか細い声で呟く。
「恐怖を感じるのは仕方ないさ。誰だって、怖いときは怖い」
「うん・・・・・タクヤは・・・・本当に怖かった時・・・・どうしたの?」
「俺か?・・・・・デジタルワールドでの事だけど・・・情けないことだけどさ・・・逃げようとしたよ・・・・仲間を見捨ててさ・・・・」
「え!?」
アイナが驚愕の表情を浮かべた。
少なくとも、今まで見てきた拓也からでは、想像もつかなかったからだ。
「それで・・・・どうしたの?」
「・・・・逃げた先・・・闇のトレイルモンに乗ってたどり着いた所は、俺がデジタルワールドに行く前の時間の人間界だった。その相手の幻にすら怯えていた俺は、デジタルワールドに行くという運命を変えるために、過去の自分を追った。けど・・・・段々と、今までデジタルワールドでやって来たことを思い出していってさ・・・・最後には過去の躊躇していた自分を後押しした・・・・・そこで、分かった・・・・いや、思い出したんだ。逃げてちゃ何も変わらないって。確かに、怖いときは怖い。でも、そこで逃げずに、その恐怖に立ち向かう勇気が大切なんだ、って」
「恐怖に立ち向かう・・・・勇気・・・」
拓也は頷く。
「アイナ。アイナも勇気を持っている。でなきゃ、ここにいるはずがない。アイナに足りないのは自信だけだ」
「・・・・・・・・」
アイナは、その言葉を聞き、考え込む。
「アイナ、もっと自信を持つんだ。アイナは俺を、伝説の炎の闘士を召喚した凄いメイジなんだからな」
「タクヤ・・・」
一行を乗せた馬車は深い森に入っていった。
暫くして、馬車から降り、徒歩で森の小道を進んでいると開けた場所に出た。
真ん中に廃屋がある。
7人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめた。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ロングビルが廃屋を指差して言った。
タバサの作戦で、先ず、偵察兼囮役が廃屋の様子を確かめることになった。
「で、偵察兼囮役は誰がやるの?」
そう才人が聞く。
タバサは、
「すばしっこいの」
と答える。
すると、全員が才人を見た。
「え?俺?拓也じゃねえの?」
「あれは色的に目立つ。変身したときも光るから、ばれる可能性がある」
タバサの答えを聞き、仕方ないといった表情で、才人はデルフに手をかける。
才人の左手のルーンが光り、身体能力が上がる。
才人はすっと、一足跳びに小屋の傍まで近付いた。
窓に近付き、恐る恐る中を覗き込む。
だが、中に人がいるような気配は無かった。
才人は暫く考えた後、皆に誰もいなかったときのサインを送る。
全員が恐る恐る近寄ってきた。
「誰もいないよ」
才人は窓を指差して言った。
タバサが、ドアに向けて杖を振った。
「罠は無いみたい」
そう呟いて、ドアを開け、中に入っていく。
キュルケと才人と拓也とアイナが後に続く。
ルイズは外で見張りをすると言って、後に残った。
ロングビルは、辺りを偵察すると言って、森の中に消えた。
小屋に入った拓也たちは、手がかりが無いか調べ始めた。
そして、タバサがチェストの中から、
「破壊の杖」
なんと、『破壊の杖』を見つけ出した。
タバサはそれを持ち上げると、皆に見せた。
「あっけないわね!」
キュルケが叫んだ。
それを見た拓也と才人が呆然としている。
「あ、あのさ・・・それが本当に『破壊の杖』なのか?」
拓也が驚きながらも尋ねる。
「うん。宝物庫を見学したときに見たことがあるから、間違いないよ」
そう答えたのはアイナ。
拓也と才人は近寄って、『破壊の杖』をまじまじと見つめた。
そして、互いに顔を見合わせる。
と、その時、
「きゃああああああああ!」
ルイズの悲鳴が響く。
「どうした!?ルイズ!!」
才人が叫び、一斉にドアに振り向いたとき、小屋の屋根が吹き飛ぶ。
そこには、巨大なフーケのゴーレムの姿があった。
「ゴーレム!」
キュルケが叫び、タバサが即座に反応した。
自分の身長より大きな杖を振り、呪文を唱える。
杖の先から巨大な竜巻が巻き起こり、ゴーレムにぶつかっていく。
しかし、ゴーレムはビクともしない。
キュルケが胸にさした杖を引き抜き、呪文を唱えた。
杖から炎が伸び、ゴーレムを火炎に包むが、ゴーレムは全く意に介さない。
「無理よこんなの!」
キュルケが叫ぶ。
「退却」
タバサが呟く。
キュルケとタバサは一目散に逃げ始めた。
アイナに至っては、恐怖で身体が動かない。
才人はルイズの姿を探す。
ルイズはゴーレムの背後に立っていた。
ルイズが呪文を唱え、ゴーレムの表面で小さな爆発が起こる。
それで、ゴーレムがルイズに気付いて振り向いた。
小屋の入り口から才人は叫んだ。
「逃げろ!ルイズ!」
「嫌よ!あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとはよばないでしょ!」
そう言うルイズの目は真剣だった。
ゴーレムはルイズを狙うか、アイナを狙うかで迷っているようだ。
「あのな!ゴーレムの大きさを見ろ!お前があんな奴に勝てるわけねえだろ!」
「やってみなくちゃ、わかんないじゃない!」
「無理だっつの!」
才人がそう言うと、ルイズはぐっと才人を睨みつけた。
「あんた、言ったじゃない」
「え?」
「ギーシュとの決闘のときに言ったじゃない。下げたくない頭は下げられないって!」
「そりゃ言ったけど!」
「私だってそうよ。ささやかだけど、プライドってもんがあるのよ。ここで逃げたら、ゼロのルイズだから逃げたって言われるわ!」
「いいじゃねえかよ!言わせとけよ!」
「私は貴族よ。魔法が使えるものを、貴族と呼ぶんじゃないわ」
ルイズは杖を握り締めた。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
ゴーレムはルイズに狙いを定めたらしい。
ゴーレムの巨大な足が持ち上がり、ルイズを踏み潰そうとした。
ルイズは呪文を詠唱し、杖を振るが、ゴーレムの表面で小さな爆発が起こり、僅かに土がこぼれただけであった。
才人はデルフリンガーを構えると飛び出した。
ルイズの視界に、ゴーレムの足が広がった。
ルイズは目を瞑った。
その時、烈風のごとく走りこんだ才人が、ルイズの身体を抱きかかえ、地面に転がった。
才人は身を起こすと、思わずルイズの頬を叩いた。
乾いた音が響く。
「死ぬ気か!?お前!!」
ルイズは呆気に取られて才人を見つめた。
「貴族のプライドがどうした!?死んだら終わりじゃねえか!馬鹿!」
ルイズの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
「泣くなよ!」
「だって、悔しくて・・・・・・私・・・・・・いっつも馬鹿にされて・・・・・」
目の前で泣かれて才人は困ってしまった。
しかし、ルイズが泣いても敵は待ってくれない。
振り向くと、大きなゴーレムが拳を振り上げている。
が、その時、
「バーニング!サラマンダー!!」
2つの火球がゴーレムの振り上げた腕に当たり、爆発。
ゴーレムの腕を吹き飛ばした。
「才人!!」
見ると、いつの間にかアグニモンに進化した拓也がいた。
才人はすぐにルイズを抱え上げ、アグニモンに合流する。
すると、そこにタバサのシルフィードが着陸する。
「乗って!」
シルフィードに跨ったタバサが叫んだ。
アグニモンはアイナを、才人はルイズをシルフィードの上に押し上げた。
「貴方達も早く!」
タバサが珍しく焦った調子で言った。
だが、才人はゴーレムに向き直る。
アグニモンは才人の意思を理解する。
「行け!」
アグニモンはタバサに言った。
「サイト!」
「タクヤ!」
ルイズとアイナがシルフィードの上から叫んだ。
「早く行け!」
才人が、ゴーレムを見据えたまま、そう叫ぶ。
タバサは無表情に2人を見つめていたが、腕を再生させたゴーレムが近付いてくるのを見て、やむなくシルフィードを飛び上がらせた。
「悔しいからって泣くなよバカ」
才人が小さく呟く。
「なんとかしてやりたくなるじゃねえかよ!」
才人はデルフリンガーを構え、ゴーレムを真っ向から睨み付けた。
「それでこそ、才人だな」
アグニモンが笑みを浮かべ、才人の横に並ぶ。
「行くぞ!拓也!」
「おう!」
才人がゴーレムに向かって駆け出した。
「ファイアダーツ!」
アグニモンは炎を手裏剣のように、いくつも飛ばす。
それはゴーレムの至る所に着弾。
各部を削り取る。
「うおおおおっ!」
その隙に、才人がゴーレムの右腕右足を切断する。
ゴーレムはバランスを崩し、転倒する。
だが、すぐに欠損部を再生させ、立ち上がる。
「くっ、これじゃあキリが無い!」
「相棒、ああいうゴーレムは胴体を一気に吹き飛ばさないと駄目だ」
デルフリンガーが才人にアドバイスをする。
「一気に吹き飛ばすってったって・・・・」
考えている内にも、ゴーレムが才人を踏み潰さんと足を振り上げる。
「やべっ!」
才人が飛び退こうとしたが足が動かない。
「なっ!?」
見れば、土の手が足を掴んでいた。
上を見れば、視界いっぱいに広がるゴーレムの足の裏。
(やべえ・・・・・死「伏せろ!才人!!」くっ!・・・)
死を覚悟した瞬間、聞こえたアグニモンの声に、咄嗟に身を屈めた。
そして、
「ぐおおおおおおおっ!!」
聞こえた声に顔を上げれば、巨大なゴーレムの足を必死に支えるアグニモンの姿があった。
「ぐうっ!・・・に・・・逃げろ・・・才人!」
余裕が全く無い声で叫ぶアグニモン。
才人はすぐに足を掴んでいた土の手を剣で切り裂く。
才人はゴーレムの足の範囲から離脱する。
「拓也、今助けるぞ!」
才人は、デルフリンガーを構え、足に斬りかかろうとしたが、ゴーレムは器用にアグニモンを押さえつけたまま、才人に拳を放ってくる。
「くそっ!」
その攻撃で、足に斬りかかる隙が無い。
才人は一旦距離を取る。
それでも、ゴーレムはアグニモンを一番の脅威としているのか、アグニモンを逃がす心算はないらしい。
アイナとルイズは苦戦するアグニモンと才人を、はらはらしながら見つめていた。
「なんとかしないと・・・・」
ルイズは、自分が出来ることを考える。
その時、タバサが抱えた『破壊の杖』に気付いた。
「タバサ!それを!」
タバサは頷いて、ルイズに『破壊の杖』を手渡す。
「アイナ!私に『レビテーション』をお願い!」
そう言って、ルイズはシルフィードから飛び降りた。
アイナは慌ててルイズに『レビテーション』をかける。
ルイズはゆっくりと地面に降り立つと、ゴーレム目掛けて『破壊の杖』を振った。
しかし、何も起こらない。
「ホントに魔法の杖なの!?これ!」
ルイズは怒鳴る。
その時、ルイズに気付いた才人は、
(あのはねっかえりめ。上で、大人しくしとけばいいのに!・・・・って、あいつが持ってる物って・・・・・)
才人は考えを巡らす。
(そうだ。アレなら何とかなる!)
才人はルイズ目掛けて駆け出した。
「サイト!」
「貸せ!ルイズ!」
才人はルイズから『破壊の杖』をひったくる様に受け取る。
「使い方が、わかんない!」
ルイズが叫ぶ。
「これはな・・・・こう使うんだ」
才人は、『破壊の杖』を掴むと、安全ピンを引き抜いた。
リアカバーを引き出す。
インナーチューブをスライドさせた。
ふと才人の頭に、自分は何故こんなもの扱えるのか、という疑問がわくが、今はそんな事を考えてる余裕は無い。
チューブに立てられた照尺を立てる。
ルイズはその光景を唖然としながら見ていた。
そして、用意が整ったところで、ゴーレムを狙おうと標準を合わせようとした時、それより僅かに早く、ゴーレムが行動を起こしていた。
ゴーレムが、周りをゆっくりと旋回しているシルフィードに、左腕を向ける。
そして次の瞬間、ドンッ、という音と共に、ゴーレムの腕がシルフィードに向けて発射された。
「きゅい!?」
突然のことで、シルフィードは完全に虚を突かれた形となり、反応できなかった。
腕を諸に受け、その衝撃で、乗っていたアイナ、タバサ、キュルケは振り落とされる。
振り落とされた3人は『レビテーション』を唱え、何とか無事に着地する。
だが、シルフィードを掴んだゴーレムの腕は、そのままゴーレム本体に引き寄せられ、元の腕の位置に戻った。
「シルフィード!」
タバサが叫ぶ。
「きゅい!きゅい!」
シルフィードはもがくが、抜け出せそうにない。
「やべえ!アレじゃあ、シルフィードを巻き込んじまう!」
才人は構えていた『破壊の杖』を一旦肩から下ろす。
「くそっ!コイツじゃ破壊力がありすぎるし、タバサやキュルケの魔法も効かない。どうすりゃいいんだよ!?」
才人が叫ぶ。
タバサもキュルケも打つ手が無い。
(一体・・・・・どうすれば・・・・)
アイナがそう思った時、アイナの脳裏に、馬車での会話が思い浮かんだ。
『確かに、怖いときは怖い。でも、そこで逃げずに、その恐怖に立ち向かう勇気が大切なんだ』
「恐怖に立ち向かう勇気・・・・・」
アイナはポツリと呟く。
『アイナも勇気を持っている。でなきゃ、ここにいるはずがない。アイナに足りないのは自信だけだ』
「自信・・・・」
先程のルイズ、才人、アグニモンの姿を思い出す。
『私は貴族よ。魔法が使えるものを、貴族と呼ぶんじゃないわ。敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!』
魔法が使えないのに、巨大なゴーレムに一歩も退かなかったルイズ。
『悔しいからって泣くなよバカ・・・・・なんとかしてやりたくなるじゃねえかよ!』
ただそれだけの理由で、ゴーレムと戦うことを決意した才人。
その才人を救うために躊躇いもせずゴーレムの足の下に飛び込んだアグニモン。
それらの行動は、見方によっては無謀と取れるかもしれない。
だが、それは全て大切なものを守ろうとする勇気だった。
アイナは決闘のとき、拓也に力の使い方を問われたときの、自分の答えを思い出した。
『私は、守るために使いたい。友達を・・・・力の無い平民達を・・・・・そして、私を愛してくれるお父様やお母様、それに妹達を』
「守りたい・・・気持ち・・・・」
そして、馬車の上で、最後に言われたことを思い出す。
『アイナ、もっと自信を持つんだ。アイナは俺を、伝説の炎の闘士を召喚した凄いメイジなんだからな』
アイナは、杖を握り締める。
「大切なものを守りたいと思う気持ち・・・・」
アイナは自分に言い聞かせるように呟き、一歩踏み出す。
「自分の力を信じる、自身・・・・・」
皆の前に進み出る。
「アイナっ!?」
ルイズ達が驚いている。
だが、今のアイナは前を見続ける。
「そして、恐怖に立ち向かう・・・・勇気!」
そしてアイナは杖を掲げた。
呪文を唱えだす。
アイナの頭上に凄まじい炎が集中され、まるで巨大な槍のように細長くなる。
それは本来、『火』、『火』、『風』のトライアングルスペル。
だが、アイナはもう一つ『火』の属性を追加し、スクウェアの威力を持ったものとなった。
「フレイム・ジャベリン!!」
その名を叫ぶと共に、アイナは杖をゴーレム目掛け振り下ろした。
炎の槍が、目標目掛け突き進む。
アイナが狙った場所は、アグニモンを押さえつけている足の膝。
アイナの放った『フレイム・ジャベリン』は、見事ゴーレムの膝を突き破り、貫通する。
その光景に、ルイズ、キュルケ、タバサは声が出なかった。
その隙を突いて、アグニモンは大きく飛び退く。
その瞬間、アグニモンは膝を付き、デジコードに包まれ拓也に戻る。
「はあっ・・・・はあっ・・・・はあっ・・・・・い、今のはやばかった」
拓也は息を整える。
アイナが拓也に駆け寄る。
「タクヤ!大丈夫!?」
心配そうな顔で声をかけてくる。
「ああ、大丈夫だ。ありがとうアイナ。お陰で助かったよ」
拓也は立ち上がる。
一旦、才人達と合流する。
「拓也、大丈夫か!?」
「はい。アイナのお陰で」
その時、ゴーレムが足を再生させ、再びこちらに歩いてくる。
「くそ、何とかシルフィードを助けないと、ゴーレムに止めを刺せねえ」
拓也は才人が持っているものに目がいく。
それを見て、少し考え、口を開く。
「才人さん」
「何だ?」
「シルフィードは俺が助けます。止めは任せました」
「は?」
拓也は皆の前に出る。
そして、一度振り向き、
「アイナ。お前の勇気、無駄にはしない!」
そして、ゴーレムを見据え、デジヴァイスを構えた。
デジヴァイスの画面に、獣の顔のシルエットが現れ、咆えると、ビーストスピリットの形が浮かび上がる。
突き出した左手に、長い帯が集まり球状となったデジコードが発生する。
そのデジコードに、デジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。
「スピリット!エボリューション!!」
拓也の身体をデジコードが包む。
だが、それは今までとは違っていた。
溢れるエネルギー、力の奔流。
「うああああああああああっ!!」
拓也は叫び声を上げる。
激しい力の奔流の中、拓也はスピリットを纏っていく。
顔に、腕に、身体に、足に。
拓也の身体にスピリットが合わさる。
アグニモンへの進化を柔の進化とすれば、これは正に剛の進化。
その名も、
「ヴリトラモン!!」
デジコードの中から現れたのは、大きく炎のようなオレンジ色をした翼を持った、赤き竜。
腕にはルードリー・タルパナを装備し、その身体全体から溢れ出る力強き闘志。
「ド・・・ドドドドド、ドラゴン!?」
キュルケが叫ぶが、驚きの余り、口が上手く回らない。
「タ、タクヤ・・・その姿は?」
アイナが何とかそう言う。
「炎の闘士のビーストスピリットを使って進化したヴリトラモンだ」
「ビースト・・・スピリット・・・・?」
「そういえば、そこまで話してなかったな。まあ、その話は後だ。先ずはシルフィードを助ける!」
そう言うと、ヴリトラモンは大きく翼を羽ばたかせる。
ヴリトラモンの身体が宙に浮き、ゴーレムに向かって一気に突っ込む。
対するゴーレムは、右腕を鋼鉄化させ、ヴリトラモンに殴りかかった。
「うおおおおおおっ!!」
ヴリトラモンは、その拳に右腕で殴りかかる。
激突した瞬間、ゴーレムの鋼鉄化した右腕は砕け散った。
「嘘だろ!?鋼鉄化した腕を砕くなんてなんてパワーだよ!」
才人が驚き叫ぶ。
ヴリトラモンの腕に装備されているルードリー・タルパナが反転し、銃口が前を向き、シルフィードを掴んでいる腕に狙いを定める。
「コロナブラスター!!」
炎の弾丸が連射され、ゴーレムの腕を破壊した。
「きゅい!?」
シルフィードは自由になるが、体制が悪く落下する。
持ち直せそうにないので、地面が近付いてくるのを見て、シルフィードは目を瞑る。
しかし、突如落下感が消え、何かに抱えられる感覚がする。
「きゅい?」
シルフィードが目を開けると、
「大丈夫か?」
ヴリトラモンが自分を抱えていた。
シルフィードは頷き、
「だ、大丈夫なのね」
そう言った。
「そうか・・・・・って、ん?」
ヴリトラモンはおかしな事に気付く。
「お前、今喋らなかったか?」
「きゅ!?きゅいきゅい!(き、気のせいなのね!)」
「そうか?」
「きゅいきゅい!(そうなのね!)」
ヴリトラモンは少し釈然としないが、才人に向かって叫ぶ。
「今だ!才人!!」
才人は『破壊の杖』を肩に担ぎ、既に狙いを定めていた。
「後ろに立つな。噴射ガスがいく。」
才人はその場にいる4人に言う。
4人は才人の後ろから退いた。
才人は安全装置を抜き、トリガーを押した。
しゅぽっと栓抜きのような音がして、白煙を引きながら羽をつけたロケット状のものがゴーレムに吸い込まれる。
そして、狙いたがわずゴーレムの胴体に命中した。
吸い込まれた弾頭が、ゴーレムの身体にめり込み、そこで信管を作動させ爆発する。
ゴーレムの上半身がばらばらに飛び散った。
ゴーレムの下半身が残っていたが、やがて崩れ去る。
昨日と同じように土の小山が残された。
ルイズはその様子を呆然と見つめていたが、腰が抜けたのかへなへなと地面に崩れ落ちた。
「サイト!凄いわ!やっぱりダーリンね!」
そう言って、キュルケが才人に抱きつく。
そこに、空からシルフィードを抱えたヴリトラモンが降りてきた。
ゆっくりとシルフィードを地面に降ろす。
タバサが駆け寄って、シルフィードの状態を診る。
「怪我はなさそうか?」
ヴリトラモンがタバサに聞く。
「骨に異常は無い。傷も擦り傷だけ。けど、無理は禁物」
「そうか。なら、帰る時は、俺がシルフィードを運ぼう」
「お願い」
そのシルフィードはヴリトラモンを見つめていた。
(きゅい~、なんて逞しい御方なのね・・・・)
シルフィードは心が熱くなるのを感じた。
(きゅい!?な、なんなの?今の気持ちは?)
ヴリトラモンはふとシルフィードの視線に気付く。
「ん?どうかしたか?」
そう尋ねる。
「きゅ!?きゅいきゅい!(な、何でもないのね!)」
「ならいいけど・・・」
その時、ポツリとタバサが呟いた。
「フーケは何処?」
全員がハッとなる。
辺りを偵察に行っていたロングビルが茂みの中から現れた。
こちらに歩いてくる。
その時、
「動くな!」
ヴリトラモンがルードリー・タルパナの銃口をロングビルに向けて、そう叫んだ。
「な、何を!?」
ロングビルは驚いた表情で聞き返す。
「ちょっとアンタ!何やってるの!?」
ルイズが怒鳴る。
だが、ヴリトラモンは、銃口を向けたまま、
「アイナ。さっきみたいなゴーレムは、術者が近くにいなくても、自動で動くものなのか?」
アイナにそう問う。
「え?えっと・・・基本的に魔法で作られたゴーレムは、術者が操るから、遠くでも操れないことはないけど。でも、動きが散漫になるから、普通は術者が近くにいるものだけど・・・」
「そうか。なら、フーケはお前だ!」
ヴリトラモンはロングビルに向かって言い放つ。
「そ、そんな!何を根拠に!?」
ロングビルは、焦った顔で聞き返した。
「とぼけても無駄だ!進化した俺は、感覚が何倍にも跳ね上がるんだ。そして、この辺りに人の気配は、俺たち以外ではお前しかいなかった。ゴーレムとの戦いの最中も含めてな!」
ヴリトラモンは言い切る。
「くっ!」
ロングビルは、一旦悔しそうな顔をすると、スッと眼鏡を外した。
優しそうだった目が吊り上り、猛禽類のような目つきに変わる。
「よくわかったね」
ロングビル、いや、フーケがそう言う。
「ミス・ロングビル!?まさか、本当に貴女が!?」
ルイズが信じられないといった顔で叫ぶ。
「そうさ。私が『土くれ』のフーケ。全く、途中までは上手くいってたのに。赤毛のお嬢ちゃんの使い魔の所為で台無しさ。『破壊の杖』の使い方も分かったっていうのに」
「じゃ、じゃあ、あなたが学院に戻ってきたのは・・・」
アイナが聞くと、
「そう。『破壊の杖』を盗んだのはいいけどね、使い方が分からなかったんだよ。だから、学院の者にこれを使わせて、使い方を知ろうとしたの」
「なるほど。けどな、今更そいつの使い方を知ったところで意味は無い」
ヴリトラモンはそう言う。
「それは、あんた達に捕まるからかい?」
「いいや。お前たちが言ってる『破壊の杖』は、もう単なる筒なんだよ」
「なっ!?如何いう事だい!?」
ヴリトラモンの言葉にフーケは驚いて聞き返す。
「コイツは単発なんだよ」
答えたのは才人。
「単発だって!?どういう意味よ!?」
「言ってもわからんだろうが、コイツはこっちの世界の魔法の杖なんかじゃない」
「なんですって!?」
「そいつは俺たちの世界の『ロケットランチャー』っていう『武器』だ。いわば手軽に持ち運べる弾が一発だけ入った大砲ってとこだな」
「そ、そんな・・・・」
才人は隠し持ったナイフに手をかける。
そのまま、鞘から抜かずにフーケに接近し、フーケの腹にめり込ませた。
「ぐっ!?・・・・・」
それで、フーケは気絶する。
才人は、皆の方に振り向き、
「フーケを捕まえて、『破壊の杖』を取り戻した。これで任務達成だな」
そう笑いかけた。
その後、気絶したフーケを馬車に乗せ、学院に戻る一行。
そして、ヴリトラモンに抱えられるシルフィードの心には、とある感情が芽生えたことを記しておく。
オリジナル魔法
とりあえず、3話のものも含めて、勝手に作った魔法を説明しておきます。
ロック・ニードル
土と風のラインスペル。
三角錐の形をした岩を作り出し、それを飛ばす魔法。
まともに喰らえば殺傷能力は高い。
フレイム・ジャベリン
火、火、風のトライアングルスペル。
大きな炎の槍を作り出し、放つ魔法。
破壊力より貫通力を重点においている為、命中率は低いが使い手によっては岩をも貫く。
次回予告
フーケを捕まえ、『破壊の杖』を無事奪還した拓也達。
元の世界へのヒントを見つけ、オスマンに尋ねる才人と拓也。
その夜の『フリッグの舞踏会』では、それぞれの想いが交錯する。
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第七話 舞踏会の夜。地で輝く灯、月夜に舞う風。
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
第六話完成しました。
正直悩みました。
今回は悩みました。
ヴリトラモンの進化で悩みました。
話の流れ的には、スライドエボリューションさせれば自然に話は繋がるんですが、やはり最初の進化は拓也から直接進化するべきだと思い、悩みに悩んだ末、今回のような流れになりました。
今回の話でやりたかったのは、ヴリトラモンへの進化。
アイナに自信を持たせること。
そして、シルフィフラグを立てることです。(笑)
といいますか、シルフィフラグを立てる方が最初に決まっていたり・・・・
これは、好みの問題ですかね。
まあ、これからどうなるかは、続きを期待しててください。
作者も最後は如何するかはハッキリと決めてないので・・・・ホントにどうなるのやら。
では、次も頑張ります。