『破壊の杖を』取り戻し、学院に帰還した拓也達。
フーケも捕まえ一件落着。
さて、この先に待つものとは?
第七話 舞踏会の夜。地で輝く灯、月夜に舞う風。
6人は、学園長室でオスマンに報告をしていた。
「ふむ・・・・・ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・・・美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」
そう言うオスマンに、コルベールが尋ねた。
「一体何処で採用されたんですか?」
「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのじゃが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」
「・・・・で?」
コルベールが続きを促す。
オスマンは、照れたように告白した。
「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」
「・・・・なんで?」
理解できないと言った口調でコルベールが尋ねる。
「カァーッ!」
オスマンは目をむいて怒鳴った。
年寄りとは思えぬ迫力である。
すると、オスマンはコホンと咳ををして、真顔になった。
「おまけに魔法も使えるというもんでな」
「死んだほうがいいのでは?」
コルベールは、ぼそっと言った。
オスマンは、軽く咳払いをすると、コルベールに向き直り、重々しい口調で言った。
「今思えば、あれも学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。居酒屋でくつろぐ私の前に何度もやってきて、愛想よく酒を勧める。魔法学院学院長は男前で痺れます、などと何度も媚を売り売り言いおって・・・・・終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる?とか思うじゃろ?なあ?ねえ?」
その言葉を聞き、コルベールは嫌な汗を流す。
実はコルベール、ロングビルことフーケにオスマンが言った事と似たような手口にやられ、宝物庫の壁の弱点について教えてしまっていたのだ。
コルベールはそれを思い出し、オスマンに合わせた。
「そ、そうですな!美人はそれだけで、いけない魔法使いですな!」
「そのとおりじゃ!君は上手いことを言うな!コルベール君!」
そんな2人を、拓也達6人は呆れた様子で見ていた。
そんな冷たい視線にオスマンは気付き、咳払いをすると、厳しい顔つきをして見せた。
「さてと、君達はよくぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り返してきた」
誇らしげに、拓也と才人を除いた4人が礼をした。
「フーケは、城の衛士に引き渡した。そして『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」
オスマンは一人ずつ頭を撫でた。
「君達の、『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」
アイナ、ルイズ、キュルケの3人の顔が、ぱあっと輝いた。
タバサだけはいつもの無表情だったが。
「本当ですか?」
キュルケが、驚いた顔で言った。
「本当じゃ。いいのじゃ、君達は、そのぐらいの事をしたんじゃから」
ルイズは先程から元気が無さそうに立っている才人の事を見つめた。
「・・・・・オールド・オスマン。サイト達には、何もないんですか?」
「残念ながら、彼らは貴族ではない」
才人は言った。
「何もいらないですよ」
続いて拓也が、
「俺は元々、自分の責任を取っただけですし」
そう言った。
オスマンは、ぽんぽんと手を打った。
「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り、『破壊の杖』も戻ってきたし、予定通り執り行う」
キュルケの顔がぱっと輝いた。
「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました」
「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」
4人は、礼をするとドアに向かった。
だが、拓也と才人は動かない。
それに気付いたアイナとルイズが立ち止まる。
「先に行ってていいよ」
才人が言った。
拓也も頷く。
心配そうに見つめながらも2人は、頷いてドアへ向かう。
と、その時、
「そうじゃ、ミス・シンフォニア」
オスマンが、アイナを呼び止めた。
「はい、なんでしょう?」
アイナが立ち止まり、振り返る。
「少し残ってくれんかの?聞きたいことがあるんじゃ」
「はい?わかりました」
3人が部屋を出て行く。
アイナが学院長に向き直った。
「それで、聞きたいことというのは?」
アイナが、オスマンに尋ねる。
「その前に、サイト君といったかな?」
「はい」
オスマンに声をかけられ、返事をする才人。
「すまないが、ミス・シンフォニアとの話が終わるまで部屋から出ていてくれんかの?君も私に聞きたいことがおありのようじゃが、それはミス・シンフォニアの後で答えよう」
「わかりました」
才人は頷き、部屋から出る。
「俺は良いんですか?」
部屋に残った拓也が尋ねる。
「君は、ミス・シンフォニアの使い魔じゃ。問題なかろう」
そう言うと、オスマンはアイナに向き直る。
「それで、ミス・シンフォニア。君に聞きたいことというのは、君のメイジとしてのレベルについてじゃ。なに、答えたくなければ答えなくてもよい」
「私のレベルですか?」
「うむ。私はコルベール君から、君のレベルはラインメイジと聞いておるのだが、君の使い魔を見る限り、どうしてもラインメイジとは思えんのじゃ。良ければ、君の口から教えてもらいたい」
アイナは、少し考え込む。
そんなアイナに、拓也は声をかけようとする。
「アイナ・・・・」
「タクヤ、私は大丈夫・・・・」
アイナは決心すると、真剣な表情になる。
そして、口を開いた。
「私は、『火』のスクウェアです」
「な、なんですとっ!?」
コルベールが声を上げて驚愕した。
それもそうだろう。
スクウェアといえば、王宮の魔法衛士隊の精鋭クラスである。
12歳でそのレベルだ。
驚かないほうがおかしい。
だが、オスマンは、ほっほっほと軽い笑みを浮かべている。
「なるほど。スクウェアならば、君の使い魔の強さにも納得がいく。すまんの、確かめたかっただけじゃ。下がってよいぞ」
アイナは一礼すると、ドアへ向かい、部屋から出て行く。
入れ替わるように、才人が部屋に入って来た。
「さて、君達には、私に聞きたいことがあるのじゃったな」
拓也と才人は頷く。
「言ってごらんなさい。出来るだけ力になろう。君らに爵位を授けることは出来んが、せめてものお礼じゃ」
それからオスマンは、コルベールに退室を促した。
わくわくしながら才人の話を待っていたコルベールは、しぶしぶ部屋を出て行った。
コルベールが出て行った後、才人は口を開いた。
「あの『破壊の杖』は、俺達が元いた世界の武器です」
オスマンの目が光った。
「ふむ、元いた世界とは?」
「俺達は、この世界の人間じゃない」
「本当かね?」
「本当です。俺はルイズの、拓也はアイナの『召喚』で、こっちの世界に呼ばれたんです」
「なるほど。そうじゃったか・・・・・・」
オスマンは目を細めた。
「あの『破壊の杖』は何処でてにいれたんですか?」
拓也がそう尋ねる。
「あの『破壊の杖』は私の命の恩人の形見じゃ」
オスマンはため息をついて答えた。
「形見という事は、その人は既に・・・・・」
「死んでしまった。今から、30年も昔の話じゃ。30年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、あの『破壊の杖』の持ち主じゃ。彼は、もう1本の『破壊の杖』で、ワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。怪我をしていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、看護の甲斐なく・・・・」
「死んでしまったんですね・・・・・」
拓也が確認するように、オスマンの言葉を続けた。
オスマンは頷く。
「私は、彼が使った1本を墓に埋め、もう1本を『破壊の杖』と名づけ、宝物庫にしまいこんだ。恩人の形見としてな・・・・・」
オスマンは遠い目になる。
「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。『ここは何処だ。元の世界に帰りたい』とな。きっと、彼は君と同じ世界から来たんじゃろうな」
「一体、誰がこっちにその人を呼んだんですか!?」
才人は焦るように尋ねる。
「それはわからん。どんな方法で彼がこっちの世界にやってきたのか、最後までわからんかった」
「くそっ!せっかく手がかりを見つけたと思ったのに!」
才人は、左の手のひらに右の拳を打ち付けて嘆いた。
「才人さん、仕方ありません。他の方法を探しましょう。大丈夫ですよ。どうにかなりますって」
拓也は、異世界の経験が少ない才人にそう言って元気付ける。
オスマンは、才人の左手を掴んだ。
「お主のこのルーン・・・・」
「ええ。こいつも聞きたかった。この文字が光ると、何故か武器を自在に使えるようになる。剣だけじゃなく、俺達の世界の武器まで・・・・」
オスマンは、話そうかどうか、しばし悩んだ後、口を開いた。
「・・・・・・これなら知っておるよ。ガンダールヴの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」
「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。『破壊の杖』を使えたのも、そのお陰じゃろう」
才人は首を傾げた。
「・・・・・・・どうして、俺がその伝説の使い魔なんかに?」
「わからん」
オスマンは、仮説のことは伏せることにした。
「わからん事ばっかりだ」
「すまんの。ただ、もしかしたら、お主がこっちの世界にやってきたことと、ガンダールヴの印は、なにか関係しているのかもしれん」
「はぁ・・・・・・」
才人はため息をついた。
元の世界に帰るためのあてが、すっかり外れてしまったからである。
「力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。私はおぬし等の味方じゃ」
オスマンはそう言うと、才人を抱きしめた。
「よくぞ、恩人の杖を取り返してくれた。改めて礼を言うぞ」
「いえ・・・・・」
才人は疲れた声で返事をした。
「おぬし等がどういう理屈で、こっちの世界にやってきたのか、私なりに調べる心算じゃ。でも・・・・・」
「でも、なんです?」
「何もわからなくても、恨まんでくれよ。なあに。こっちの世界も住めば都じゃ。嫁さんだって探してやる」
2人は、オスマンの言葉に苦笑するしかなかった。
食堂の上の階が、大きなホールになっている。
舞踏会は、そこで行なわれていた。
拓也と才人は、バルコニーの枠にもたれ、華やかな会場をぼんやりと眺めていた。
「ほんっと俺たちには、場違いな所ですね」
拓也がポツリと言う。
「貴族って奴は、派手好きなんだろ」
才人ははき捨てるようにそう言って、グラスに注いだワインを一気に飲み干す。
「お前、さっきから飲みすぎじゃねえのか?」
才人の横に立てかけられたデルフリンガーがそう言う。
「うるせえ。家に帰れるかもって思ったのに・・・・・思い過ごしだよ。飲まずにいられるか」
普通なら拓也は止めるが、才人の気持ちも分からんでもないので、何も言わなかった。
ホールの中では、キュルケがたくさんの男に囲まれ、笑っている。
キュルケは、先程才人に、「後でいっしょに踊りましょ」と言っていたのだが、あの調子では何人待ちになるのかわからない。
黒いパーティドレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘している。
アイナは、友人とおしゃべりを楽しんでいる。
それぞれが、パーティを満喫しているようだった。
ホールの壮麗な扉が開き、ルイズが姿を現した。
門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~~~~!」
才人は息を飲んだ。
パーティードレスに身を包み、いつもと雰囲気の違うルイズに声が出なかった。
主役が全員揃ったことを確認した楽士たちが、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。
ルイズは、多くの貴族の男達のダンスの誘いを全て断り、才人がいるバルコニーに近付いてきた。
ルイズは、酔っ払った才人の目の前に立つと、腰に手をやって首をかしげた。
「楽しんでるみたいね」
「別に・・・・・」
才人は眩しすぎるルイズから目を逸らした。
「おお、馬子にも衣装じゃねえか」
デルフリンガーがそう言う。
「うるさいわね」
ルイズはデルフリンガーを睨むと、腕を組んで首をかしげた。
「お前は踊らないのか?」
才人は目を逸らしたまま言った。
「相手がいないのよ」
ルイズは手を広げた。
「いっぱい誘われてたじゃねえかよ」
才人は言った。
ルイズは答えずに、すっと手を差し伸べた。
「はぁ?」
「踊ってあげてもよくってよ」
目を逸らし、ルイズはちょっと照れたように言った。
いきなりのルイズの台詞に、才人は戸惑った。
「踊ってください、じゃねえのか?」
才人も目を逸らした。
暫くの沈黙が流れた。
ルイズがため息をついて、先に折れた。
「今日だけだからね」
ルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を曲げて才人に一礼した。
「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」
そう言って、顔を赤らめるルイズは、可愛くて、綺麗で、清楚であった。
才人はふらふらとルイズの手を取った。
2人は並んで、ホールへと向かった。
「今、完全に俺の存在忘れられてたな」
才人のすぐ横にいたにも関わらず、完全に存在を忘れられていた拓也はそう言葉を洩らした。
拓也は外に向き直り、飲み物を口にする。(拓也はノンアルコール)
「おでれーた!相棒!てーしたもんだ!」
デルフリンガーが感心した声で言った。
「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見たぜ!」
才人がぎこちないながらも、ルイズと一緒に踊っている光景を見て、デルフリンガーがそう言う。
「完全に蚊帳の外だな、俺」
拓也がそう誰に言うでもなく呟く。
「オメーさんは踊らねえのかい?」
デルフリンガーが拓也に話しかける。
「ダンスなんか知らねーし。第一、俺はまだ11歳だぞ。そんな子供と踊るような貴族がいると思うか?」
そう答える拓也。
「少なくとも1人はいると思うがな」
そんな事を言うデルフリンガー。
「ほ~。そんな貴族様が何処にいる?」
「オメーさんの後ろにいるぜ」
「はい?」
拓也は、デルフリンガーの言葉に振り返る。
そこには、
「・・・・・アイナ?」
パーティドレスに身を包んだ、アイナが立っていた。
アイナは顔を赤くしながら、
「タクヤ・・・・その・・・よければ踊ってくれないかな?」
そんな事を言ってきた。
「え?俺?」
思わず拓也は聞き返した。
その言葉に頷くアイナ。
「な、何で?」
「・・・・私と年齢的につり合うのって、タクヤしかいないじゃない」
顔を真っ赤にしながらアイナは言う。
「あ~。なるほど」
それを聞いて納得する拓也。
だが、拓也は知らない。
今アイナが言ったのは拓也の世界の基準であり、此方の世界では、余り歳の差には拘らないという事を。
10歳差の婚約者も普通にいるのだ。
アイナの年齢でも特に問題は無かったりする。
その事を知らない拓也は、
「まあ、いいけど。でも、俺、ダンスなんか知らないぞ」
「私に合わせてくれればいいから」
アイナは拓也の手を取り、ホールへ向かった。
拓也は、ぎこちないながらもアイナに合わせステップを踏む。
拓也がようやくダンスに慣れてきた頃、アイナが口を開いた。
「タクヤ、今日はありがとう」
「え?」
突然言われたお礼に、何のことか首をかしげる拓也。
「タクヤのお陰で、私、やっと自分に自信が持てるようになってきた」
アイナはそう言った。
拓也は、そのことかと納得すると、笑みを浮かべる。
「言っただろ。アイナは凄いメイジだって」
「・・・・それでも、最初はあのゴーレムに怯えてただけだった。私がゴーレムに立ち向かえたのは、タクヤのお陰だよ」
「俺の?」
「うん。タクヤが私の想いを確かなものにしてくれた。タクヤが私を励ましてくれた。そして、タクヤが私に本当の勇気を教えてくれた」
「そんなことないさ。勇気を出して立ち向かったのは、アイナ自身だ。俺はちょっとアドバイスをしただけだよ」
「でも、タクヤがいなかったら、私はきっと立ち向かえなかったと思う。だから、ありがとう」
「・・・・・そこまで言うなら、どういたしましてと言っておくよ」
「うん」
その後は、静かにダンスを続けた。
アイナの顔がずっと赤かったのは、お酒のせいという事にしておこう。
やがて舞踏会も終わり、拓也達は部屋に戻ろうとしている途中だった。
廊下を歩いていると、コンコンと窓を叩く音がした。
「何だ?」
拓也は気になって窓を開けると、
「きゅい」
目の前にシルフィードがいた。
「シルフィードか。怪我はもういいのか?」
「きゅい、きゅいきゅいきゅい、きゅいきゅい(お姉さまに、水の治癒魔法をかけてもらったから、もう大丈夫なのね)」
「そうか。で、何か用か?」
「きゅいきゅい(ちょっとついてきて欲しいのね)」
「俺にか?」
「きゅい(そうなのね)」
シルフィードは頷く。
「まあ、別にいいけど」
そう答えると、シルフィードは飛んでいく。
「なんだったの?」
アイナが拓也に尋ねる。
「なんか、シルフィードが俺についてきて欲しいってさ」
「ふ~ん。着替えの時間もいるから、丁度いいけど・・・」
「じゃあ行ってくる」
拓也はヴリトラモンに進化し、シルフィードの後を追った。
シルフィードは、学院から少し離れた森の上に滞空していた。
ヴリトラモンが、シルフィードに近付く。
「それで、何の用なんだ?」
シルフィードは暫く黙っていたが、口を開いた。
だが、その口から聞こえてきたのは鳴き声ではなく、
「あ、あのっ、いきなり呼び出してゴメンなさいなのね」
おもいっきり人間の言葉を喋っていた。
ヴリトラモンは少し驚きつつ、
「何だ。お前、やっぱり喋れたのか」
ゴーレムとの戦闘のとき聞いたシルフィードの声は勘違いではなかったと確信した。
「ゴメンなさいなのね。シルフィ、韻竜っていう人間の間では絶滅したって言われてる種族なのね。お姉さまは、シルフィが韻竜ってばれるとややこしいことになるから、普通の風竜のフリをしろっていってたから、本当なら喋っちゃだめなのね」
「じゃあ、何で俺に喋ってるんだ?」
シルフィードの説明にヴリトラモンは聞き返す。
「お礼を直接言いたかったのね」
「お礼?」
「ゴーレムから助けてくれたのね」
「ああ、その事か。・・・・だったら別に喋らなくても、俺はルーンの力で竜の言葉も理解できるから無理に喋る必要もないだろ」
「それはその・・・・・気分の問題なのね。・・・・・・それに・・・・」
「それに・・・・何だよ?」
シルフィードは、ヴリトラモンをじっと見つめている。
その時だった。
「グオォォォォォォォ!」
獰猛そうな鳴き声が聞こえた。
「何だ!?」
ヴリトラモンは、鳴き声が聞こえたほうを見る。
そこには、全長10メイル位の竜がいた。
「あ、あれはワイバーンなのね!竜種の中でもかなり獰猛な部類に入るのね!」
シルフィードが叫ぶ。
「何でそんな奴がこんな所にいるんだよ?」
「稀に群れから逸れた個体が人里に迷い込むことがあるのね!」
シルフィードはかなり焦っているようだ。
シルフィードはまだ子供であり、成竜のワイバーンは相当な脅威である。
「グオォォォォォォ!(餌だぁぁぁぁぁぁ!)」
ヴリトラモンは、鳴き声の意味を理解する。
「餌って俺達かよ」
ヴリトラモンは構える。
「シルフィード!下がってろ!」
言われたとおり、シルフィードは下がる。
ワイバーンは雄たけびを上げ、襲い掛かってきた。
「はあああああっ!」
噛み付こうと口を大きく開けた頭部を、ヴリトラモンは右腕で殴りつける。
「グオッ!」
ワイバーンは怯み、その隙にヴリトラモンは、ワイバーンの尾を掴む。
「うおおおおおおおおっ!!」
そのままヴリトラモンはワイバーンを振り回す。
「はあっ!!」
そして、その勢いを殺さず、地面に叩き付ける。
ワイバーンはもだえ苦しむが、それでも起き上がり、敵意を向けてくる。
その様子を見ていたシルフィードは、
(凄いのね。成竜のワイバーンを完全に圧倒してるのね)
驚きながらそう思っていた。
その時、突如ヴリトラモンが炎に包まれる。
(何!?なんなのね!?)
そして、シルフィードは見た。
夜空を切り裂く、赤き流星を。
「フレイム!ストーム!!」
炎を纏ったヴリトラモンがワイバーンに向けて突進する。
そして、それはワイバーンを貫いた。
断末魔の叫びを上げ、絶命するワイバーン。
やがて、炎が全身に燃え広がり、ワイバーンの身体を焼き尽くす。
それを空から見下ろすヴリトラモン。
「・・・・許せよ」
自分が奪った命に黙祷をささげた。
シルフィードは、双月の光に照らされたヴリトラモンの姿に完全に心奪われた。
(もう確実なのね!昼間の気持ちを確かめたくて呼び出してみたけど、これはもう間違いないのね!)
シルフィードは心の中で叫ぶ。
(お姉さま。シルフィ恋したの!人間でありながらどんな竜よりも逞しい炎の竜になれる御方に!)
「きゅ~いきゅ~い!」
シルフィードは思わず鳴き声を上げる。
まるで歌うかのように。
そんな様子を不思議に思っていたヴリトラモン。
だが、これから波乱の日々が待ちうけようとは、この時のヴリトラモンこと拓也は想像すらしていなかった。
次回予告
フーケの騒ぎも解決し、また平穏な日々に戻るかに思えた魔法学院。
だが、今までの騒ぎは単なる序章にしか過ぎなかった。
拓也を尋ねる青髪の美女。
それに対抗するアイナ。
拓也の波乱に満ちた日々が今始まる!
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第八話 女の戦い勃発!?シルフィードのプレゼント
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
第七話完成~。
やっと一巻分が終わりました。
でも、出来は微妙かな~。
とりあえず、アイナとシルフィードを平等にしたつもりなんですけど、シルフィードのほうが目立ってるかな?
やっぱり、バトル以外はネタが思いつきにくい。
結局はバトル(いじめ?)を入れたし。
結構ベタな展開でしたが、まあ、前回出せなかったフレイムストームを出せたから良しとしましょう。
炎を纏って体当たりは、アニメでは無かったと思いますが、ゲームのバトルクロニクルでは対空攻撃としてあったので採用。
余談ですが、そのときの技名が何故かコロナブラスターになってました。
それで、この先どうしようかと思っているのが、アニメの使い魔品評会とウェールズの生死。
結構悩んでますが、頑張って書いていきたいと思います。
では、次も頑張ります。