「うぐぅ……」
空を見上げる。
今にも雪が降りそうな、鉛色の空。
まだ、来ない。
「遅いよ……」
呟いた言葉が、白い息と共に消えてく。
昔っから、そうだった。考えてみると、いつもボクが待たされてたような気がする。
あ……。
空から、ちらちらと白いものが落ちてきた。
何気なく、手のひらを広げてみる。白いものは、その手のひらの上に落ちて、すっと消えた。
……雪なんだ。
もう一度、空を見上げたけど、白いものはそれっきりだった。
「……うぐぅ」
何となく、悲しくなってくる。それを紛らそうと、ベンチに座ってみる。
ひんやりと冷たい。その冷たさが、また悲しくなる。
もじもじと、座る位置を変えてみる。でもやっぱり冷たい。
「よう、不審人物」
いきなり、声をかけられた。
「あ……」
逢ったらすぐに文句を言おうと思ってたけど、なぜだか言葉が出なかった。
「いやぁ、まいったまいった。まっすぐ来ようと思っていたんだが、捕まって強制労働させられてたんだ」
「きょ、強制労働?」
「祐一大げさだよ~。掃除当番だっただけだよ」
祐一くんの後ろから、名雪さんがのんびりと声をかけてきた。
「こんにちわ、あゆちゃん」
「あっ、名雪さん。こんにちわっ」
ベンチから立って、ぺこりと頭を下げる。
「さて、と。それじゃ祐一はちゃんと送ったから、わたしは帰るよ。あゆちゃん、あとはよろしくね~」
そう言って、名雪さんはくるっとボク達に背中を向けた。
ちくっと胸が痛い。
だって、名雪さんが祐一くんのこと好きだって判るから。
でも、ボクも祐一くんのことが大好きで、でも名雪さんのことも好きだから、どうしても切なくなる。
「どうしたんだ、うぐぅ娘」
この人は、そんなボクの悩みなんてどうでもいいんだ、きっと。
ちょっと恨みがましく見上げる。
「お? もしかして遅れたことを怒ってるのか?」
「そうだけど、それだけじゃないよっ」
「なにがなんだかよくわからんぞ」
そう言って笑う祐一くん。
「……もういいよ」
考えたってどうしようもないことだし。
ボクは、祐一くんの腕を引っ張った。
「それじゃ、行こうっ!」
「あ、こら引っ張るなっ!」
商店街はクリスマスイルミネーションで飾られてた。
「もうすぐクリスマスだねっ!」
「そういえばそういう行事もあったな」
いつもの調子の祐一くん。
「うぐぅ……」
クリスマスって言えば、恋人同士のメインイベントだって名雪さんも言ってたのに。
「どうした?」
「もういいよっ!」
「ったく、何かりかりしてんだ?」
暢気な祐一くんに、何となく腹が立ってくる。
「なんでもないよっ」
そう言ってから後悔する。
「ご、ごめん……」
「……ふぅ」
祐一くん、ため息をつくとボクに視線を向けた。
「たい焼き食いに行くか?」
「えっ?」
「あ、それとも、今日も食い逃げにチャレンジするのか?」
「しないよっ! ちゃんとお金持ってるよっ!!」
こうやって、すぐにボクをからかうんだ。
本当に、なんでこんな変な男の子好きになっちゃったんだろう?
判らないけど、でも大好きだからしょうがないんだよね。
「行こっ、祐一くんっ!!」
数日後、とうとうクリスマスになってしまった。
今年は、秋子さんのところでみんなが集まってクリスマスパーティーをすることになった。
「それじゃ、みんなが元気でクリスマスを迎えられましたことをお祝いして、乾杯」
「かんぱーい!」
チン
グラスを合わせて、パーティーが始まる。
「今日はお招きいただきまして、ありがとうございます~」
「あーっ、それ真琴のフライドチキンっ!!」
「マスタードなんて、人類の敵ですっ!」
「うにゅ……けろぴーはここ……」
とってもにぎやかだった。
みんなが笑顔で、そして何より、ボクもその中で一緒に笑えてることが、一番嬉しかった。
そして、そのパーティーも一番盛り上がっていたとき、祐一くんがボクの後ろからぽんと頭を叩いた。
「あゆ、ちょっと」
「……え?」
カラカラッ
サッシを開けて、ベランダに出ると、満天の星空が広がっていた。
「わぁっ、すごいね祐一くんっ」
後ろからは、1階で続いているパーティーの賑やかな声が聞こえてくる。
ボクは、手すりにしがみつくようにして空を見上げていた。
「やっぱ、寒いから戻る」
「祐一くんが誘ったくせに~。もうちょっとだけいようよ」
「10秒」
「短すぎるよっ!」
「それじゃ3分」
「うん、それでいいよ」
ボクはもう一度、夜空を見上げた。
と、祐一くんが言った。
「なぁ、あゆ」
「えっ?」
ボクが振り返ると、祐一くんはポケットに手を突っ込んだ。
「そうだ。これ……」
祐一くんは、包みをポケットから引っぱり出した。
「あゆにやる」
「えっ? ボクに?」
ちょっと驚いて、ボクはそれを受け取った。
「うぐぅ……。嬉しいよ、ボク」
「な、何も泣くことないだろ?」
「うん……」
ボクは、涙をぽろぽろとこぼしながら、笑った。
「でも、涙が止まらないんだよ」
「……ったく、大げさな奴だな」
「あ、でも……」
ボクは、ふっと視線を落とした。
「ボク、祐一くんにあげられるようなプレゼント、持ってないよ……」
「……そうだな」
祐一くんは夜空を見上げた。そして言った。
「碁石じゃないクッキーなら、もらってやるぞ」
「うぐぅ……」
ボクがまだクッキーちゃんと焼けないって知ってるくせに……。
と、祐一くんは、ボクの頭にぽんと手を置いて言った。
「来年は、期待してもいいか?」
「えっ?」
「あゆのクリスマスプレゼント」
それって……?
「祐一くん……」
ボクは、笑顔で大きく頷いた。
「うんっ!」
「さて、戻るか」
祐一くんはぶるっと身震いを一つすると、背中を向けた。
「祐一くん!」
後ろから、ボクは声をかけて、そのまま背中にとびついた。
「メリー・クリスマスっ!」
das Ende
あとがき
ボクのクリスマス 99/12/16 Up