《終わり》
「るんるん、るるるるん、るりら〜……」
きゅっ。きゅっ。と窓を拭いていく。
わたしは館林美鈴。今週は掃除当番だけど天気がいいと掃除をしても気分が いいわね〜。
うん。やっぱり五月は五月晴れじゃないとね。
「みっちゃーん」
あれっ。誰かわたしを呼んでるな。この声は……
「ねえねえ、みっちゃん。もう掃除終わりでしょ?帰りにどっかよってかない ?」
鞄をブンブン振りながら近寄ってきたのはわたしの親友秋穂みのりだ。
「うん。いいけど。みのり、サッカー部の方はいいの?」
「きょう部活は休みなんだ。だからどっかよってこうかなってね。やっこちゃんはどこにいるの?」
「やっこちゃん」ていうのはわたしたちと同じクラスで本当は八重美喜子っていうんだけど、縮めて「やっこちゃん」って呼んでるんだ。今週はわたしと一緒で掃除当番なの。
「えーと、たしか向こうで掃除してたと思うけど……」
あっ、いたいた。
「ねえ、やっこちゃん。みのりが帰りにどっかよってかないかっていうんだけど」
「ごめーん。ちょっと今日は用事があって先に帰んなくちゃいけないの」
やっこちゃんは申し訳なさそうに手を合わせた。
「しょうがないな〜 じゃあ、また今度ね!」
やっこちゃん、用事があるとかいって帰っちゃうことが結構多いのよね。
まったくつきあいが悪いんだから〜
「どうする? みっちゃん。二人だけで行く?」
「うーん。しょうがないなぁ。二人で……あっ、ユーミだっ!」
角を曲がって早乙女優美がこっちに近づいてくる。
「おーい。ユーミ! 今日は部活休み?」
みのりが大きく手を振った。
「うん。そうだよ」
「じゃあさ、帰りどっか寄ってかない?」
「いいよ。優美も帰りにお店にでも寄ろうかなって考えてたとこなんだ」
「じゃ、いま道具を片付けてくるからちょっと待ってね」
掃除道具をロッカーにしまって、わたしたちは昇降口に降りてきた。
とんとんって靴を履き替えながらみのりに声をかけた。
「で、結局どこに行く? ロッ○リア? それともマッ○にす……」
「ぜっーーーたい、ロッ○リアだけは嫌ーーーーーッ!!」
び、びっくりしたぁ。ユーミったら急に大声を出すんだから。
振り返ると、ユーミが真っ赤な顔をしてこぶしを握り締めている。
「はあ? なんでロッ○リアをそんなに嫌がるの?」
みのりも不審そうに見ている。
「と、とにかくロッ○リアは嫌だからね。ねっ、マッ○にしよっ! 優美、ビッグマッ○が食べたいなぁ」
みのりがしょうがないなぁって感じで腰に手をあてた。
「わかったわかった。じゃマッ○にしよ。みっちゃんもかまわないよね?」
「うん。いいわよ」
別にどっちでもいっか。
ん〜……なに、注文しよっかな〜
そうだ、アップルパイなんておいしそうね。
あとはジュース……はやめてウーロン茶にしとこっか。
わたしはアップルパイとウーロン茶、
ユーミとみのりは……あ、二人ともハンバーガーを買ってる。
わっ、ユーミってほんとにビッグマッ○じゃない。
わたしたちはそれぞれ注文した物を持って二階に上がった。二階の方がゆっくりおしゃべりできるしね。
「みっちゃんって、それだけしか食べないの? よくおなかが減らないわね」
みのりが不思議そうにしてる。
「うーん。ダイエットしてるからね」
「へ? 別に太ってないし、みっちゃんダイエットする必要なんてないと思うな。優美なんてダイエットしたら倒れちゃうよ」
そう言いながらユーミはパクパク食べ始めた。
そりゃ、ユーミはバスケットでいつも運動してるし、みのりだってマネージャーっていっても、ずっと動いてるからカロリーを消費できるんだろうけどわたしは帰宅部なんだけどな……
「なんたって虹野先輩よね。美人だし家事全般こなすし、いつもみんなの事応援してくれるんだもん」
相変わらずみのりは虹野先輩に憧れてるみたい。
この話を聞かされるのは、かれこれ……何回目かわかんないや。
「ふーんだ。優美だって料理はバッチリだもん。虹野先輩なんかには負けないぐらい上手だもんっ!!」
ユーミがふてくされたようにみのりに言った。
「虹野先輩な・ん・か?」
みのりが眉をひそめた。
「うん! 虹野先輩より優美のほうがずーっとずーっと料理が上手だもんっ!」
「何言ってるのよっ!! ユーミより虹野先輩の方が上手いに決まってるじゃないっ! 」
「違うもんっ! みのりは虹野先輩が好きだからひいきしてるんだっっ!!」
わたしは、あわてて止めに入った。
「ちょ、ちょっと、二人ともやめなよ! とにかく、ユーミもみのりも落ち着きなよっ!!」
そのとき、ユーミが急にわたしを向いてすごい勢いでにらんだの。
「何よ。みっちゃんだって、お姉ちゃんが主人先輩のこと好きだから、優美を邪魔しようとするんだっっ!!」
へっ? なに言ってるの!?
「見晴姉は関係ないじゃないっっ! だいたい、ユーミってほんとうに料理がうまいの? そりゃ、虹野先輩が上手なのはみんなが認めてるけどねっ!」
「みっちゃんまで優美のことをバカにするのっっ!」
えっ!? そ、そんなつもりじゃなかったのに……
「もういいよっ!! 知らないっっ!! バカーーーッッ!!!」
ユーミはカバンをつかむと、ダッとマッ○から飛び出していった。
・
・
・
みのりがポツリと言った。
「ユーミ泣いてたね……」
「……うん」
わたしはうつむいた。
……ユーミに悪いことしちゃったな……
……あした謝らなくちゃ……
ユーミどこにいるのかな……
わたしは、次の日学校でユーミを探した。
いない……
おかしいな……クラスの子の話だと学校には来てるはずだけど……
とうとう最後の休み時間か……
これで見つからないと後は放課後だけね……あ、ユーミだ!
なかなか見つからないと思ったら、二年生の教室がある方にいたんだ。
……昨日のことあやまらなくちゃ……
でも、なんて話しかけたらいいんだろう……あれっ? なにしてるのかな? ユーミの様子がちょっと変ね。急に柱の陰に隠れると、廊下の様子をうかがってる。
……なに見てるんだろ……
わたしももう一本の柱の陰に隠れてユーミが見ているほうをのぞくと……!?
見晴姉っっ!!
そこには見晴姉が、そ〜っと主人先輩に後ろから近づいていた。
……あいかわらず見晴姉ったら何をやってるんだか……
はっ!? そういえばユーミはっ!!
ユーミはいつのまにか柱の陰から出て、早足で見晴姉のほうに近づいて行く。
あぶないっ! ぶつかるっ!!
ドッシーンッ!!
「いった〜い」
「アタタタタッ……」
二人とも思いっきり廊下で転んでいる。
主人先輩もその騒ぎにビックリして戻ってきたみたい。
「あれっ。優美ちゃんじゃないか。だいじょうぶかい」
「えへへ。だいじょうぶですよっ」
「そっちの女の子もだいじょうぶかい……って、あれっ!? どっかで会ったことなかったかな?」
そのとたん見晴姉ったらすごい勢いで立ち上がったの。
「だ、だいじょうぶ。そ、それじゃ!!」
あっというまに廊下の向こうに消えていった……
……見晴姉……それじゃ、恥ずかしがりや以前の問題だよ……
それにしてもユーミッ!!
いくら見晴姉がライバルだからってあんな邪魔の仕方はないわよっ!!
「それじゃ、優美ちゃん気をつけるんだよ」
「またです。先輩!!」
わたしは、主人先輩と話してニヤついてるユーミを捕まえた。
「ユーミ。見損なったわよ」
「あっ。みっちゃん……」
ユーミの顔が一瞬にして蒼白になる。
「無理やり転ばしてまで、ライバルの邪魔をするのね」
「みっちゃんっっ!!」
「よーくわかったわ。ユーミってそんな人間だったのね」
「きいてっっ!!」
「もう話すことはないわ。さよなら」
ユーミがなにか叫んでいたけど、わたしはかまわず背を向けた。
信じられないわっっ!! ユーミなんてもう知らないっっ!!!
わたしが教室に戻ると待ちかねたようにみのりがとんできた。
「どうっ!! みっちゃん。仲直りできた!? ……って、その顔見るとできなかったみたいね……」
「どうもこうもないわよっ!! ちょっと聞いてくれる? あっ、やっこちゃんも聞いてよっっ!!」
わたしは、心配そうにやってきたやっこちゃんも呼び寄せて、さっきの様子を話した。
「……っというわけよ。ヒドいと思わないっっ!!」
「何それーっ!! そんな事したのっっ!!」
みのりもあきれてる。
やっぱりそう思うよねっっ!! ……って、あれっ!? やっこちゃんは何か考え込んでる……
「みのり……ちょっといい?」
「えっ!? うん……」
やっこちゃんはみのりを引っ張って教室の外に出てしまった。
……なんだか、わたしだけ仲間はずれになったみたい……
次の日、朝、教室でカバンから教科書を出してると、やっこちゃんがやって来た。
「おはよう、みっちゃん」
「……おはよう」
「あのね、ユーミが昨日のことで話したいことがあるっていうのよ。会ってくれないかな」
「……話なんて無いわよ……」
わたしはそっぽを向いて答えた。
「そんなこと言わないで。ねっ、わたしの顔をたてると思って、ねっ、お願い!」
やっこちゃんは片目をつぶって両手を合わせた。
「はぁ…… わかったわよ……で、今どこにいるの?」
「廊下でまってるって」
わたしは教室の扉を開けて廊下に出た。
「ゴメンナサイ!!」
ユーミがいた。目が真っ赤になってる。
「…………」
「ぶつかったのはわざとじゃないのっっ!!」
「…………」
「優美、ぼーってなって、気がついたらぶつかってたんだよ。ねっ、みっちゃん!!」
「……嘘だわ」
「えっっ!?」
「あの状態で前にいる見晴姉が見えないわけないわ」
「みっちゃんっっ!!」
横に立ってるみのりがすごい顔でわたしを睨みつけている。
「嘘とはなによっっ! 嘘とはっ!! ユーミがこんなに謝ってるのにそんな言い方をするのっっ!!」
「……みのり?」
ポンポン。
えっ? 肩を叩かれて振り返ると、やっこちゃんがいつのまにか後ろにいた。
「みっちゃん。よく考えてみて。ユーミは一つのことに集中すると周りが見えなくなるほうじゃない。主人先輩を見たユーミが他の人が目に入いらなくてもおかしくないわよ」
「絶対わかったはずよっっっ!!!」
「みっちゃんっっ!!」
……いや、本当はわかっていた。ユーミは素直だから、あんなわざと転ばしてジャマをするなんてことするはずがない。ただ周りが見えてなかっただけなんだってことを。
でも……
転んだ時、主人先輩とうれしそうに話すユーミを見た見晴姉の表情……
悔しさと羨ましさが混じっていた……
見晴姉にあんな表情をさせたあの行動を、わたしは認めることができなかった……
「さよならっっ!!!」
「みっちゃんっ!」
わたしは、みんなの制止を振り切って廊下を走った。
……最低だ、わたし……
ユーミは自分だけが悪いわけじゃないのにわたしのことを思って涙を流した……
みのりとやっこちゃんはわたしとユーミが仲直りするために一所懸命がんばってくれた……
……わたしは何をしただろう……
ただ、自分勝手な感情でみんなの気持ちを傷つけただけだわ……
……最低だ……
ドンッ。
廊下を走ってたわたしは、誰かにぶつかって倒れそうになるところをあやうく抱きとめられた。
「廊下を走るとあぶないわよ……って、誰かと思えば美鈴じゃない」
「えっ?」
顔を上げると……
「晴海姉っ!?」
わたしがぶつかったのは白衣を着た晴海姉だった。
「美鈴……あなた、泣いてるの……」
わたし……わたし……
「晴海姉っっ、どうしたらいいのっっ!!」
涙があとからあとからあふれてきた……
「とりあえず、詳しく話を聞かせてもらおうかしら」
「……うん」
晴海姉に連れてこられたのは保健室。
いつもは嫌がって近づかないようにしてたけど、今日は素直に入ることができた。
「ふーん。そういう事情があったわけね」
わたしはこれまでのことを話し終えると、晴海姉はお茶をすすりながらそう答えた。
「でも、美鈴。あなた一つ大きな勘違いをしているわ」
えっ!?
「見晴がぶつかるのに失敗したぐらいで落ち込むわけないじゃないっ!!」
「……」
そ、そりゃ、そーだろうけど、いちおう実の妹なんだから、そこまで言われるのはちょっとかわいそうな気がするよ、晴海姉。
「ま、それはともかく、優美ちゃんのほうはできるだけ早く謝ることね。まぁ、今日は気分を落ち着かせるためにここで休んでいったら? 先生にはわたしから言っとくから」
「うん」
ありがとう、晴海姉……
放課後、わたしが教室に戻ると机の上に紙が貼ってあった。
『放課後、ユーミが出るバスケットの練習試合があるから、絶対、絶対、体育館に来ること!!! by みのり&みきこ』
……みのり
……やっこちゃん
……わたしのために
でも、わたしはその時間屋上でフェンスにもたれていた。
バスケットの試合をやってる体育館が下に見える……
……晴海姉はできるだけ早く謝ったほうがいいって教えてくれた。
……わたしもそう思う。
……みのりとやっこちゃんも、こんなわたしをまだ見捨てないでくれる。
……でも、
…………ユーミは許してくれるかな……
…………それに、なんて謝ればいいの……
体育館からは時折歓声が聞こえる。
……選手のスーパープレーが起きてるのかな。
その時、ひときわ大きな歓声が体育館から聞こえた。
きっと、とびきりのスーパープレーが起きたのね。
ここからでしか応援できないけど、今の歓声がユーミに向けられたものであって欲しい。
わたしはそう願う。
……だけど今のは歓声とはちょっと違うような感じもしたけど……
わたしは、試合が終わって体育館が静かになったのを見計らってから、階段を降り、靴を履き替えて校門に向かった。
校門に一人女生徒が待っていた。
あれは……みのり!?
「みっちゃんっ!! どこにいたのっ!!」
みのりはわたしの方へ駆け寄ってきた。
あれっ、怒ってない!?
みのりは当然怒ってるだろうと思ったけど、怒ってないし、どっちかというと顔が青ざめてる。
「みっちゃん、たいへんよっっ!!」
へっ? たいへん?
「ユーミがさっきの試合で、頭を打ったのよっ!! 今、裏の病院に運ばれてるわっっ!!!」
えっ!? ユーミが? 頭を?
「すぐ、一緒に来てっっ!!」
「う、うん」
みのりに引っ張られるように裏の総合病院に向かった。
「ど、どんな具合なの」
「わからないわ。でも、意識ははっきりしてるから、そんなに大怪我じゃないと思うわ」
よ、よかった。
病室の前ではやっこちゃんが待っていた。
わたしたちの姿を見るとふらふらっと立ちあがった。
え、やっこちゃん、泣いてる!?
「ユーミ、ユーミね……意識が戻らないかもしれないって……」
「え、どういうことっ!!」
みのりがやっこちゃんに詰め寄る。
「だって、さっきは意識がはっきりして、元気そうに話してたじゃないっっ!!」
「う、うん。あれから後、急に返事をしなくなって……調べてみたら脳に損傷があるかもしれないんだって……もし……もしそうだったら、ユーミは……ユーミは一生……」
そんな……
せっかく……
いままでのことを……
謝ろうと……
思ったのに……
「そんなのいやーーーーーーーっっ!!!!」
ドンドンドンドンドンッッ!!!
わたしは力まかせに病室のドアを叩いた。
「ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ」
ドン、ドン、ドン……
わたしの手からだんだん力が抜けて行く……
お願い開いて……
お願い開いて……
扉は閉じられたままだった……
「ごめん、ユーミ。ごめん、ユーミ…………許してもらえなくてもいいから……せめて……せめて……もう一度だけ声をきかせて……」
「ううん、許すよ。みっちゃん」
えっ!?
いま、確かに中からユーミの声が聞こえた。
ガチャリ……
やっこちゃんが扉の鍵を開けている。
えっ!? なんでやっこちゃんが鍵なんてもってるの!? いやっ、それよりユーミは!?
病室のベッドにユーミはいた。
足を包帯でぐるぐる巻きにされて天井から吊っていた。
足!? 頭はっっ!!!
頭にはなんの包帯も巻いていない。
わたしはギギギって音を立てて振り返った。
あれだけ泣いていたはずのやっこちゃんに涙の跡が無い……
「……やっこちゃん……みのり……これはどういうこと……説明してもらいましょうか……」
「はは、ははははは……い、いやぁ〜一芝居うったって言うかー」
「実はねー、ユーミがケガしたのは本当だけど、頭じゃなくて足だったのよねーー。でも、頭をケガしたっていう方が、みっちゃんが心配するかなーーって思ってねっ!」
「もうーーーっ! ……ほんとに心配したんだから……」
でも……よかった……ほんとうによかったわ……
「でも、優美うれしかったな。みっちゃん優美達のこと嫌いになっちゃったかと思ってた。でも、こんなに心配してくれたんだ」
「そうよーっ!! わたしこんなに心配したんだからっっ!!」
照れ隠しにユーミの頭をグリグリする。
「イタ〜イ。痛いよみっちゃん。もう、優美、怪我人なんだからもうちょっと優しく扱ってよ〜」
「何をいうかーーっ! 怪我したのは頭じゃないでしょ!!」
「痛い。痛い」
ユーミ、両手をバタバタさせている。でも、うれしそう。
「ほらほら、みっちゃん。それぐらいにして。ユーミ、お見舞い持ってきてあげたから」
やっこちゃんが手に紙袋をぶら下げている。
「えっ!? なに。なにっ! わぁ、アップルパイだ!」
ユーミがベッドから身を乗り出した。
「もう、足を吊ってるんだから無理しちゃだめじゃない」
「優美、これ大好きなんだ! いっただきま〜す」
はむっ。
ユーミったら、あわてて食べるとのどに詰まっちゃうよ。
「ユーミっ!! わたし明日もあさってもお見舞い来るからねっ!! 嫌だっていっても、無理やり来るよっっ!!」
わたしは宣言した。
「うん。待ってるからね」
ユーミは手を止めて、にっこり微笑んだ。
そうだっ!! わたしも明日来るときにはユーミの大好きなケーキを買って来よう!
それから一週間後……
「ユーミ! 調子はどう? ……って、あれっ? どうしたの?」
ユーミが暗く落ち込んでる……
おっかしーなー。昨日まではあんなに元気だったのにな。
はっ……まさか
わたしはあわててベッドに駆け寄った。
「ユーミっ!! もしかしてどこか具合悪いのっっ!? お医者さんよんでこようかっ!?」
「そんなに心配することはないわよ。みっちゃん」
えっ?
横から声をかけられて振り向くと横の椅子にやっこちゃんが座っていた。
……なんだか、笑いをこらえてるみたい。
「どういうことっ!! やっこちゃん!」
「ユーミったらね、ユーミったらね……」
「やっこちゃんっ!!」
ユーミが怒ったように声を上げたけどやっこちゃんはかまわず続けた。
「ユーミったらね、……太ったんだって! それも5キロも」
やっこちゃん、ついに抑えきれなくなって吹き出しちゃった。
「……やっこちゃん、それは言わない約束だよ……」
ユーミが恨めしそうにやっこちゃんをにらんだ。
「まあ、普段運動しているときと同じくらい食べてるからよ」
そう言って、やっこちゃんはユーミの肩をポンとたたいた。
わたしは遠慮がちに声をかけた。
「……ユーミ。ワッフル買ってきたんだけど……食べる?」
ユーミはキッとわたしをにらんだ。
あ、目が涙目になってる。
「……食べたくないけど、食べたい……」
「ぷはははは!」
吹き出しながらやっこちゃんがバンバン肩を叩いた。
「まあまあ、ユーミ。またバスケができるようになったらすぐ元に戻るわよ」
「ぶーーー……」
口を尖らせているユーミにわたしは声をかけた。
「ゴメンねユーミ。おわびに……」
「おわびに?」
「明日はケーキを買ってくるからねっっ!!」
「はあ〜」
バタン!
あ、ベッドにつっぷしちゃった。