「うわぁぁ!!!遅刻だぁぁぁ!!!」

自転車で坂を疾走していく。このままじゃマジで遅刻だ!!

俺の名前は『浅羽 直久(あさば なおひさ)』。高校一年生だ。

俺は今由々しき状況にある。

遅刻寸前+遅刻数が多すぎる=進級が危うい。

つまるところ、そういうことなのだ。

だから俺は、全力で坂を疾走している。

しかし、

「おあああああああああ!?」

無理してスピード出してりゃ転ぶわけで・・・・・・・・。

この転んだ時から、俺の不思議な夏が始まったんだ。

サマー・デイズ

〜夏の日のストレンジ〜


転んだ時に鞄の中の『梅ソーダヨーグルト風味』と携帯の存在を思い出す。

転んだ衝撃で鞄は派手に吹っ飛んでいる。『梅ソーダ(以下略』は破裂していると考えて間違いないだろう。

「やべやべやべぇ〜!!!」

携帯が!!と思ったときにはもう遅い。

携帯どころか教科書、ノート、参考書にいたるまでびしょ濡れだった。

「あ〜、被害総額は甚大のもよう・・・・・・・。なんて言ってる場合じゃないよなぁ・・・・」

現実逃避をしたくなる。もう遅刻なんて頭には無かった。

時間的にも決定的かつ絶望的。もう諦めるしかない。

ここで、俺は解脱した(倫理、四法印より)。もうブッダのノリだ。

涅槃寂静に達した俺は学校をサボることにした。

学校よりも携帯だ。携帯はもの凄いことになっていた。

画面は傷だらけ、しかもびしょびしょに濡れていて電源のボタンを押しても応答ナシ。

運命のカミサマを呪ってみたくなるが、跳ね返ってきそうなので止めておく。

あいてはカミサマ。普通のノリじゃ倒せねえ。

おっと、また現実逃避してた・・・・・・(TT)

と、そのときだった。

ヴヴヴ・・・・・・・・・・・・

携帯からノイズが出始める。はっきり言って、恐い。爆発しそうな感じだ。

しかし、爆発はしなかった。代わりに、

「もしも〜し?聞こえますか〜?」

という女の子の声が聞こえてきた。

直った!?と思った。

すぐに電話に出てみる。

「はい、もしもし!?どなたですか!?」

声は動転して裏返り、我ながら情けない声だったと思う。

しかし、相手の応答も間抜けだった。

「そちらこそどなたですかっ!?」

そして俺と電話の相手は、

「「・・・・・・・え???」」

見事にユニゾンして疑問符を出したのだった。

彼女の名前は『九峪 夏樹(くたに なつき)』というらしい。

彼女も携帯が壊れていて、ノイズと共に電話がつながったそうだ。

俺たちは混乱から戻ってきたあと、自己紹介をした。

そして気付く。

「「・・・・・・テレビ電話になってる???」」

またも見事なユニゾンをぶちかましてみる。

写メール用のカメラがどうやら映像カメラの効果をしているみたいだ。

そして、映像で送られてくる彼女を見る。

彼女は、可愛かった。きっと、一目惚れしたんだと思う。

その瞬間、電話は唐突に切れた。

プツッ・・・・・・。

「あっ・・・・・・・・・・」

いくらボタンを押しても駄目。応答ナシだった。

「夏樹ちゃんかぁ・・・・・・・・。可愛かったなぁ・・・・・・・」

恋した俺の心には、夏樹ちゃんの顔が焼き付いていた。

もう会えないかもしれないと思うと、胸が締め付けられる。


会いたい・・・・・・・。


痛切に、そう思った。


この電話は、気まぐれらしい。

急につながって、プッツリと切れる。

自分たちでかけることはできなくて、かかってくることを待つだけ。

それは夏樹ちゃんも同じらしい。

全く、不思議なこともあるものだと思う。

けれど、俺はその時間が待ち遠しかった。

夏樹ちゃんに会える。

それだけが楽しみだった。

二人で他愛の無いことを話し合う。

学校のこと、部活のこと、身の回りの出来事。

楽しかった。もの凄く。

壊れているはずの携帯。

それは、俺の宝物になっていた。

夏樹ちゃんに会わせてくれて、話させてくれる。

大事な、大事な宝物・・・・・・・・・。

                                      前編  END