『妻殺しの子供』

其れが僕に与えられた名前・・・

僕は望んでいないのに・・・

如何してこうなった?

何がこうさせた?

・・・・・・・・・

あいつか・・・

あいつのせいだ・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・コロシテヤル・・・

 


新世紀EVANGERION

紅き運命

プロローグ「邂逅」

 


〜とある山中〜

 

はあはあはあはあ・・・・・・

月すらも出ていない夜・・・

薄暗い、否、真の闇と言っても過言ではない暗さの中を一人の男が走っていた、猟犬に追われる兎の様に

たまに振り返っているのが何者かに追われている証拠だが後ろに人影は見えない

しかしそれでも男がその走りを止める事は無かった

ざざっ

ある程度走った所で男の走りが止まった、目の前の崖の下数mの所に一本の道が走っている

かなりの高さだが崖自体は緩やかな物なので下に降りる事も可能である

道が走っているのならそれは当然何処かの町に繋がっている、運が良ければ車を拾う事も出来るだろう

男は安堵の溜め息を付き、今まさに崖を降りようとした其の時だった

「・・・目標を確認、此れより殲滅する」

氷よりも冷たい感情を感じさせない声、そして其れと同時に響いた・・・

ずがあああんん!!!!!

・・・銃声・・・

ばぎいぃぃっ!!

鈍い音を立てながら吹っ飛ばされる男の右手

「うぎゃああああああ!!!!!!」

ずしゃああああ・・・・・・・・

其の衝撃でバランスを崩した男は其のまま崖を落下して行った

・・・

「うぐぐぐぐぐ・・・・・・」

驚くべき事に男は未だ生きていた、右手を失った事による大量の出血、落下の際に折れた肋骨は肺や内臓に突き刺さり、全身の骨も折れた筈なのに・・・

・・・ごきっ・・・めきばきっ・・・

驚いた事に良く見ると男の怪我が少しずつではあるが回復しつつある、彼は一体・・・

「気は済んだか屑が」

そんな男に掛けられる冷たい声

「!!き、貴様はNHの『CRIMSON DESTINY』(クリムゾン ディスティニー)!!」

其の叫び声に答える事無く、淡々と喋る追跡者

「本名松田ヒロキ、登録犯罪コード29―65、女性5名から吸血、内ニ名はNHの治療により回復、しかし残りの三名は非処女だった為、グールと化し、六名の人間を殺害した、彼女らは既に『処理』された、残りは貴様だけだ」

ちゃき

ひたりと男を見据える冷たい銃口

「NHによる特別条例により刑を執行する」

「く・・・くそおおおおおおお!!!!!!」

だっ

この短期間に回復したのか男は残っている左手を構え、追って来た存在へと襲い掛かる

「・・・失った手を再構成する事すら出来んのか・・・出来損ないめ・・・」

追跡者は溜め息を付きつつ銃を収めた

がしいっ!!

其れに気を良くした男は追跡者の首を掴み、其のまま力の限り締め上げる

しかし追跡者は仮面の様な顔に表情を浮かべる事も無く、成すがままである、そして・・・

みしみし・・・ぶちいっ!!

鈍い音を立てて追跡者の首が落ちた

「ク、ククク・・・クハハハハハハハハハ!!!!!やったぞ!!この俺があの『クリムゾンディスティニー』をやったんだ!!・・・・ひゃはっはアッはアハはハハハハハハは!!!!!」

其の高笑いは長くは続かなかった・・・

「・・・屑が・・・相手を殺したかどうかも判断出来んのか・・・」

「!!!!何!!!!」

ずるううううううう・・・・・・

何とも言えない音を立てて追跡者の首が胴体へと近付いて行く、ある程度の距離まで近付くと突然追跡者の腕が自身の頭を掴み、元あった場所に添える

くちゅ・・・ぐちゅ・・・

何度か擦る様にして合わせ、手を放すと・・・

こきっこきっ

傷一つ無い、血塗れの追跡者が其処に立っていた

「・・・ま、まさか・・・・貴様も・・・『ヴァンパイア』なのか!!」

「だったら如何する・・・」

「何故だ!!何故同族を狩る!!そして何故人間共等の手下に!!!」

「貴様如きに何故其れを説明してやらんといかん、もう貴様と喋る事は無い、消えろ」

ぶんっ

一瞬だった

「・・・・ぐぼあっ・・・」

白い手袋に包まれた抜き手が男の胸を貫いた、其の手の中には男の心臓が握られている、そして其れを・・

ぐしゃああ!!!

潰す・・・

「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

声の無い悲鳴を上げて足をばたつかせる男、しかし其れも数秒の出来事

ぼふっ!!

乾いた音を立てて男の着ていた服が地面に落ちる、其の近くにあるのは一塊の白い灰・・男だった物のなれの果て・・・

「此方『クリムゾンディスティニー』、状況終了、此れより帰還する・・・」

『此方本部、了解、・・・御苦労様『シンジ』・・・』

其の呼び掛けに答える事無く小型レシーバーの電源を切る追跡者

ぶろろろろろろろ・・・・・・・

低いエンジン音が聞こえて来る、見ると大型の装甲車のようだ、数秒後に其のヘッドライトの元に現われた追跡者の姿は・・・

「・・・月は・・・見えないか・・・」

紅いコートに身を包んだ黒髪の美しい紅瞳の少年・・・

 


〜NH(NEO HELLSING)日本支部、廊下〜

 

かつかつかつ・・・

薄暗い廊下に規則正しい靴音が響く

西暦1999年、王立国教騎士団、通称『HELLSING機関』は狂った少佐との長い戦いに終止符をうつ事に成功した、しかし其の事後処理を行おうとしていた矢先・・・

西暦2000年、セカンドインパクトの発生、其れによって未曾有の災害が起きたのは勿論だがその際にアンデッド、すなわちヴァンパイアを生産する技術が其のごたごたの際に世界中へと漏れ出してしまったのである

そこで『HELLSING機関』は犬猿の中であったヴァチカン第13課『イスカリオテ』と手を結び、国連の上位機関となり、其の名を『NEO HELLSING機関』と改めた

そして世界中の主要都市に其の支部を置き、ヴァンパイア生産技術の抹消に務めた、しかし其の一方で減る事の無い出来損ないのヴァンパイア達・・・

出来損ないとはいっても其の攻撃力は半端ではなく、普通の人間の及ぶ所ではない、しかし其れに対策出来る者は少ない

そこでNHは苦肉の策に出た、其れは人道的には許されない事ではあったが事情が事情なだけに誰も反対する者はいなかった

其れは・・・NHによる・・・

ヴァンパイアの製造・・・

NHはラストバタリオンから吸収した技術を生かし、自分達に味方するヴァンパイアのエージェントを創り出す事にしたのだ、其れは主に孤児、そして瀕死の重傷を負った者、そういった事情を抱えた子供達が選ばれた

何故なら其れなりに強い存在を作り出すには成長期が未だ来ていない子供でしか出来なかったのである

この計画により世界中に子供達のヴァンパイアが送られ、世界中の出来損ないのヴァンパイア達は其の数を減らしていった、計画を実行した者達の心に大きな罪の意識を残す事を代償として・・・

かつかつかつん・・・

立ち止まるシンジ、目の前には同僚の栗色の髪をした女の子が立っていた

「・・・何か用か・・・」

「いや、別に・・・大丈夫だった?」

「・・・あんな屑に遅れを取る訳が無いだろう・・・」

「うん・・・其れはそうだけど・・・」

「・・・他に用が無いなら其処を退け、マナ」

「あ!!シンジ!!!」

かつんかつんかつんかつん・・・・・・

「・・・シンジ・・・」

 


〜局長室〜

 

「・・・入ります」

そう言ってシンジはドアを開けた

「御苦労様、良くやってくれたわね・・・」

「・・・あの程度の屑、大した事はありません、サユリ局長」

「そう?なら何故あんな事したのかしら?」

白く、しなやかな指で報告書をペラペラと捲りながら薄っすらとした笑みを浮かべた唇で言葉を紡ぐ長い黒髪の女性、彼女が此処、NH日本支部局長兼、極東地域統括責任者、天城サユリである

「・・・別に・・・」

「そう?・・・貴方・・・本当は死にたいんじゃない?・・・」

「・・・だとしても貴方に関係ありません、局長」

「関係あるわね、貴方は此処日本支部、いえ、極東地域内でもトップクラスのゴミ処理係、そうそう簡単に失う訳には行かないわ・・・」

「・・・優秀な手駒を失う訳には行かない、ですか・・・」

「そうよ、分かってるじゃない」

「・・・」

黙り込むシンジ、其の表情からは何も読み取れない、そんなシンジを面白そうに眺めながら彼女は一枚の紙をシンジに差し出した

「・・・召喚状?・・・」

「そう、貴方を直々にご指名よ」

「・・・国連非公開組織・・・NERV?」

「そう、なにやら胡散臭い組織だけど、一応国連の組織だしね、断る訳には行かないのよ・・・」

辛そうに顔を手で覆うが其の隙間から見える口元は笑っている

「・・・拒否「貴方の最も会いたい人もいるんだけどね、其処には・・・」!!!???」

この部屋に入って初めて其の表情を変化させる事に成功した彼女は嬉しそうに悪戯の成功した子供の様な笑みを浮かべた

「・・・其れは・・・殺してもいい・・・そういう事なのか?・・・」

「・・・別に「殺すな」とも命令を受けてないしね・・・」

お茶らけたような笑みを浮かべるサユリだが次の瞬間凍り付く

「・・・ククク・・・・・クハハハハハハ・・・・・・ハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハアハハハハアハハハハ!!!!!!!!良いだろう!!行ってやろうじゃないか!!其れが貴様の望みというのなら!!!俺の事を自由に操れる人形位に思っているのだろうがな!!だが其の人形は貴様にとっては悪夢の象徴とも言える存在なのだ!!!其れを貴様が気付いた時には全ては終わっている!!!!後悔は自身の血潮の中に沈みながらするが良い!!!!!フフフ・・・ハハハハハハッハアハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」

シンジから噴出す殺気に流石のサユリも金縛りにあったかの様にぴくりとも動けない、ただただ冷や汗を流すのみ・・・

「其れで・・・何時向かえば良い?」

「・・・取りあえず三日後に第三東京市の駅前で待ち合わせ、向こうから迎えを寄越すそうよ、このばかっぽそうな女が其の迎え」

何とか平常心を取り戻したサユリはシンジに一枚のカードと写真を渡す、シンジは其の写真を一瞥しただけでぐしゃりと握り潰す、其の手を開いた時には其れは消し炭となっていた

「それじゃあ宜しくね、ああ、其れともう一つ、貴方が選んで良いから一人、此方のエージェントを連れて行って、相手にも許可は取ってあるわ」

「足手纏いだ、必要無い・・・」

「命令よ、其れに連絡係として行って貰うんだから・・・其れにスパイもね・・・」

「・・・了解・・・」

そう呟いてシンジは部屋を後にした、残されたサユリはふうっと息を一つ吐き、椅子に更に深く座り込んだ

「・・・この緊張感・・・たまらないわね・・・」

そう言いながら震える右手を眺める、暫く見やった後、ゆっくりと其の右手を自身の太股の付け根まで持って行き・・・

分厚い局長室のドアの隙間から女性の嬌声が漏れて来るのは数分後の事だった・・・

 


〜スターチルドレン控え室〜

 

きい・・・

軽い軋みを上げて開くドア、一斉に中にいた者達の視線が其方に集まる

彼等、ヴァンパイアの子供達に与えられた称号は『スターチルドレン』せめて名前だけは輝いて欲しいとの、計画に携わった者達の正直な気持ちだろう

彼らの強さは其の襟章に付いている星の数で決められ、その数は最も少ないTから最も多い]Uまで多々ある、此処でこの部屋にいる者の自己紹介とあわせて其の星の数を書いて行こう

先ずは先程シンジに話し掛けた霧島マナ、戦自の元少年兵で、脱走時に重傷を負い、後に出てくるムサシ、ケイタの二名と共にNHに収容された、能力は金属元素の操作、金属を個体、液体、気体に変化させ、自由に操る事が出来る、星の数はY

次はムサシ=リー=ストラスバーグ、マナと同じ元少年兵、炎を操り、其れを利用した拳法による攻撃に長ける、星の数は[

浅利ケイタ、風を操り、物を飛ばしたり、カマイタチを発生させて相手を切り刻む、星の数はY

山岸マユミ、長い黒髪が映える眼鏡を掛けた本好きな少女、不治の病に侵されていたがNHの誘いを受け、其の身をヴァンパイアと化す、元々サイキック能力を持っていたがヴァンパイア化した事によって其の力はかなり向上している、意外と其の能力は高く、星の数は\

そして今入って来た碇シンジである、大人でさえ扱えないような大口径の銃器を操り、其の力は未だ不明である、星の数は彼だけ特別で]V・・・

「あ!!シンジ、お帰り♪」

「お帰りなさい・・・」

「お帰り、シンジ君」

「・・・」

其々が思い思いの声を掛ける中、一人黙っていたムサシがシンジに近付いて行った

「・・・よお・・・」

「・・・」

掛けられた声の中に潜む敵対心を完璧に無視したまま、シンジはムサシの横をすり抜けようとした・・・

がしっ

「待てよ・・・」

「「「ムサシ(君)!!」」」

「五月蝿い!!お前らは黙ってろ!!」

止めに入ろうとする仲間を睨み付け、更にシンジへと突っ掛かる

「・・・良い御身分だなあ・・・流石は『スターチルドレン』の誇るエース様だぜ」

「・・・邪魔だ、放せ・・・」

「へっ、俺達みたいな小者なんぞ目にも入らないってか?」

「・・・」

「・・・なんで手前ばっかし優遇されんだよ・・・」

「・・・下らん・・・」

「・・・てめえ!!幾ら其の存在が特別だからって!!!」

どがあっ!!!

突然響く轟音、ムサシがシンジから投げ飛ばされ、壁に激突した音だ、壁には罅が入っており、ムサシの口の端からは血が流れていた

「・・・」

そんなムサシに無言で近付いて行くシンジ、無言で睨み付けるムサシに冷たい視線を向けながら言い放つ

「今度同じ事を言ってみろ・・・例え同僚であったとしても殲滅する・・・」

其処まで言うとシンジはマユミに向き直る

「マユミ」

「・・・は、はいっ!?」

「任務だ、今日から三日後に第三東京市へ向かう、お前もサポートとして同行しろ・・・」

「はいっ!」

「シンジ、私は?」

「・・・足手纏いは一人で十分だ・・・」

其の一言にマナは勿論、シンジに選ばれたと思っていたマユミもシュンとなる

「・・・準備をしておけ、俺は少し眠る・・・」

そう言い放ち、自身の個室に入るシンジ、後に只立ち竦む子供達を残しながら・・・

 


〜シンジ、自室〜

 

マナ達には眠ると言って部屋に入ったのだがシンジはその実、一睡もしていなかった

「・・・」

自身の棺桶に寝転がりながら今日の事を思い出してみる、・・・自然と口の端が吊り上るのを止める事は出来ない・・・

「・・・もう少し・・・もう少しで君の復讐が果たせるよ・・・アカリ・・・」

そう言ったシンジの視線の先には一人の少女が写っている写真があった・・・

 

 

続く・・・

 


後書き?

 

【ラグナロック】’です、今回の話は如何だったでしょうか?話としましてはエヴァ+ヘルシングですが微妙にオリジナルが入っています

シンジは他の『スターチルドレン』と違ってNHの改造によってヴァンパイアと化した訳ではありません、とある別の理由によってです

シンジを含めた『スターチルドレン』達ですが、他のヴァンパイアと違って日光や、ニンニクに耐性を持ち、シンジを別格として心臓を貫かれるか、首を切られるかしないと死ぬ事はありません、十字架も恐れる事は無く、僅かに法儀式を施した物や、銀だけが彼らに傷を付けることが出来ます

また、最後になりましたが予告などで言っている通り、この話はかなり残虐なシーンが入り、死人もかなり出る可能性があります、其れにR指定位は入りそうな性的描写もたまにはいります、そういった事がお嫌いな方は次回から読むのを止めるのをお勧めします

其れでもと言う方はこの拙い話に最後まで御付き合い下さる様お願いします

 

それでは予告編を

 

第三東京市に着いたシンジの前に広がるのは使徒にいい様に蹂躙される其の姿だった

 

そしてシンジの前にLCLの中で静かに佇む初号機・・・

 

そこでシンジは何を成すのか・・・

 

「・・・やっと会えたね・・・父さん・・・いや・・・咎人よ・・・」

 

次回、一つ目の血玉「崩壊」

 

お楽しみに・・・それでは