安らぎの場所へ 〜I wanna return to the Eden〜








<第一話 〜選択〜>


初号機が第十二使徒の虚数空間に取り込まれて十数時間・・・

ディラックの海の中で眠っているシンジの意識は自らの深層心理の世界へと沈んでいた。





夕暮れ時の電車の中。

シンジとシンジの幼いときの姿をした子供が電車の両側のイスに向かい合って座っている。


「楽しいことを数珠のように紡いで生きていけるはずが無いんだよ・・・・・・特に僕はね」


幼い姿をしたシンジの口から言葉が紡がれる。

「楽しいこと見つけたんだ・・・





 楽しいこと見つけて、そればっかりやってて、






 何が悪いんだよ!」



そのシンジの叫びと同時に夕焼けの色に染まった電車の中に一人の少年が現れる。





「悪くないよ」





「えっ!」

シンジはいるはずのない第三者の声に驚いて振り向く。

「そうだね。むしろ今までつらいことを数珠のように紡いで生きてきたと言ってもいいんだから」


「君は・・・誰?」


シンジの視線の先には銀髪の少年が立っていた。

目の色が紅い、だが容姿は全くといっていいほどシンジと同じだ。


その少年は現実感の乏しい今の光景の中、強烈な存在感を示している。


「僕は君だよ。碇シンジ、それが僕の名前だよ。まあ、便宜上同じ名前は戸惑うだろうから・・・碇シンということにしておこうか。名前を呼ぶなら、とりあえずシンと呼んで」


シンジ、その前に座っている幼いシンジ、そしてちょうど三角形になるように立っている銀髪のシン。


銀髪のシンが口を開く。

「君の目の前に居る幼い姿のシンジは、いわば鏡に映った君さ。君が虚数空間、影に入ったことは覚えているだろう?その幼い姿のシンジは、君の精神が鏡に映ったようなものだよ。君の中に入り込んでいる使徒の干渉が、僕達には幼い頃の碇シンジと認識されているといってもいい」


「君は誰だい?」


シンジが銀髪のシンジに向けた質問を、今度は幼いシンジが繰り返す。

「言っただろう?僕は碇シンジさ。ただし、イレギュラーではあるだろうけどね・・・・・・さて、君の役目は終わったよ。そろそろ出て行ってもらおうか」

そういうと銀髪のシンジは幼いシンジに触れる。

その瞬間、幼いシンジは掻き消えるように消えた・・・

「な、何をしたの?」

目の前で自分の幼いときの姿をした子供が掻き消えて、目を見開いた。

「出て行ってもらっただけだよ。この電車は君の深層心理が生み出している君の世界だからね。そこから出てもらっただけ。使徒からの干渉がなければ君の精神が映し出されることはないよ。さて、君に話したいことがあって僕はここへやってきたんだ。聞いてくれるかい?」


「な、何を・・・?」



「逃げたくはないかい?今の状況から。自分を道具としてしか見ようとしない父親から。使徒と戦うことを強要するネルフから。他の君を傷つける全てのものから・・・・・」

銀髪のシンジの指先がシンジの頬に触れる。


「君に逃げる場所をあげるよ。どうだい?誰も傷つけることも無く、また誰からも傷つけられることのない世界が・・・欲しくない?」


唐突に銀髪のシンジの口から紡ぎだされたその言葉に抗いがたい誘惑を感じた。

目の前の人物を普通なら信用できるはずが無い。

一体何故そんなことを言い出すのか・・・その理由さえ、いや、目の前にいるこの人物のことさえ何も知らないのに・・・

だが、それにもかかわらず、信用してしまっている自分が居る。

心の奥底から、この少年を信じようとしてしまいそうな感情が湧きあがってくる。


抗いがたい誘惑を感じている自分をシンジは自覚した。


「ど、どうゆうこと?」

かすれた声で尋ねると銀髪のシンジは答える。

「言葉どうりの意味だよ。君も気づくべきだ。いや、見ようとしていないだけかな。自分が父親に捨てられ、だた利用されているだけだということに。そして、ネルフも君を道具としてしか見ていないことに。君が信頼している葛木ミサトでさえ、君を道具として見ていることに」

銀髪のシンジからスラスラと言葉が紡がれる。

「ち、違う!ミサトさんは・・・」

「何も違わないよ。ミサトさんは確かに君を家族として扱っているかもしれない。でもね、君に死ねと命令する立場の作戦部長であるミサトさんが、パイロットである君やアスカを、家族として扱おうとする考え自体が欺瞞に満ちているだろう?家では家族として扱い、ネルフではパイロットとして道具として扱っている。どちらが本当なんだろう?パイロットとしての君だから家族として扱われているんだよ。否定できないだろ?」

「・・・」

否定できない・・・

”サードチルドレン監督日誌”ミサトがつけているだろうそれが頭に浮かんだ。


「君の周りには君を傷つける存在が多すぎる。だれも君に優しくしてくれない。誰も君を助けてくれようとしない。誰も君自身を見ようとしない。だから・・・・・・君が傷つくことのない世界をあげよう」

銀髪のシンジはシンジの前に手を差し伸べる。

「この手を掴めば、君に真実を伝えよう。周りが君に伝えようとしなかった真実を。僕が君だと言った意味も理解できるだろう。そして、誰も傷つけることもなく、誰からも傷つけられることのない世界へと導こう」

シンジは差し出された手をじっと見つめ質問する。


「この手をとったら・・・」


「この手を取れば、君は真実を知ることができるだろう。それを知れば、皆が君を道具としてしか見ていないことを理解できるだろう。そして、それら全ての嫌なことから逃げることもできる。何も知らないのは嫌だろ?」

「・・・」

シンジは俯き、両手をしっかりと握り締めている。

「手を取らなければ今のままだ。何も変ることはない。何も知ることはないし、ただエヴァのパイロットとして、道具として見られ続けるだけだ。ちなみに手をとり、僕がさっきいった世界に行っても、君が嫌だと思えばちゃんと戻ってくることができるよ」

「・・・本当?」

「戻ってこれるということがかな?もちろんだよ。死ぬということではないからね。ただ、真実を知って、それでもなお戻ろうとは思わないだろうけどね」

「・・・」

「君しだいだよ。真実を知り、自分の置かれている本当の立場が知りたければ・・・手を取るべきだ。そしてその真実から逃げられる場所へ連れて行ってあげるよ。どうする?」


「な、何故?何故僕にそんな話をするの・・・」


「僕も逃げたいからだよ・・・僕を傷つける全ての物からね」

余裕が浮かんでいた銀髪のシンジの顔に、何もかもあきらめたような色が浮かんだ・・・













それが決め手となった・・・
















シンジは手を取る・・・・・・
































そして、初号機は膨大なエネルギーを放出した。

レリエルの虚数回路を実数に置換できるだけの・・・・・・




























第3新東京市・・・

そこでは今静かに影である球体の使徒が存在している。

零号機と弐号機が作戦に向けて、直径600メートルの使徒の本体である影の円周部に待機している。

現存する全てのN2爆雷を投下するために、数十機の航空機が使徒の直上を目指す。



ドゴッゴゴゴゴッゴゴゴゴッ・・・・



作戦開始60秒を切った瞬間、使徒の本体である影が音を立てて割れる。

「何が始まったの!?」

アスカの悲鳴のような叫びをよそに、影が波打ち、隆起し、割れ続ける。



「状況は!」

作戦指揮車両の中でミサトが叫ぶ。

「わかりません!」

「全てのメーターが振り切られています!」

オペレーターの日向とマヤが報告する。

「まだ何もしていないのよ」

リツコが呆然と誰にとも無く呟く。

「まさかシンジ君が!?」

「ありえないわ。初号機のエネルギーはゼロなのよ!?」

ミサトの推測を即座に否定する。

そう、ありえないのだ。エネルギーは尽きているはずなのに、っと。



その会話の間に使徒の影であるはずの球体が震えだし、ゼブラの表面が黒く変る。



その黒く変色した球体から、真っ赤な血を帯びた手が突き出し、使徒の血が噴き出す。


全ての者が驚きの声を出すことしか許されない中、初号機は咆哮をあげながら両手で球体を引き裂き、姿を見せた。

真っ赤な血の色に染まった姿。

あぎとを開き、目を光らせて……



そのまま、使徒の体を両腕で左右にちぎっていく。



ブチッ……ブチ、ブッ……ブチブチブチブチブチッ!!


辺り一面に、ホースから噴き出す水のように、赤黒い液体が激しく飛び散る。

「私・・・こんなのに乗ってるの・・・」

アスカは自らが乗るエヴァという存在に初めて恐怖を抱く。

レイは全てを見届けようと無言でその光景を見続けている。


「何て、何て物をコピーしたの・・・私達は・・・」


呆然とリツコが呟く中、初号機は球体を粉砕し降り立つ。


真っ黒な、影の上に。


初号機に踏み潰された影は……氷のように細かな破片となって、一斉に空中に舞い上がった。



ぶわぁぁぁっ……と、黒い破片が、無数に宙を舞う。

その中で……血の噴水を浴びながら、初号機は立つ。



ヴゥォオォヴォォォォオオォオオォオオォオオオォオォォォォォォォォオオォォォオ……ッッッ!!!



それは、異様な光景だった。



半透明な2枚の赤い羽根が舞い上がる……赤黒い血の雨を浴びて。



異形の生物が、赤黒い血を纏い仁王立ちで、咆哮をあげている。














<後書き&戯言>

どうも、ラグシードです。

まあ、今回の話で逆行物だとはっきりわかったわけですが・・・

後半はTV版を文章化しただけですね(汗)

しかも今回、少し短いですね(爆)

始めのプロット段階ではもう少し分量があるかな?と思ったんですが、書いてみると、あら不思議(謎)

次の話はけっこう量が出てくると思います。

しかし、銀髪のシンジがカオル化しちゃってますね〜、それにプロローグとかなり性格が変っちゃってます。

まあ、理由がないこともないんですが・・・まあ、サードインパクトにより得た知識と、シンジの目的にたいする希望のためと思ってください。

次話からはオリジナル要素が色濃く出てきます。(たぶん)

お付き合いください(読んでくれている人・・・いるんだろうか?)



ちなみにこのシリーズではシンジより活躍する人物が出てくる予定です(爆)

まあ、4話ぐらいから活躍しだすでしょう(これもたぶん・・・)

拙い(つたない)文章ですが、楽しんでいただけるとうれしいです。

予定では10話を越えるか越えないかぐらいの分量ですので、できるだけ早く完結させるつもりです。

まあ、話の数を増やそうと思えば増やせますが、それは書いている途中の気分次第と言うことで。

では、第二話 〜道標〜 でお会いしましょう。

02/03/16

presented by ラグシード