安らぎの場所へ 〜I wanna return to the Eden〜










<第三話 〜邂逅〜>




初号機が拘束されてある実験用ケイジ・・・
そのケイジに隣接する実験室は、今喧騒に包まれていた。
当然決まった初号機のシンクロ実験の準備の為に、マヤを含むネルフスタッフが忙しそうに働いているためだ。
その後ろでは、準備に追われているスタッフに指示を出すリツコの姿があった。
指示を出すリツコの隣りでは、することのないミサトが実験室から見える初号機を眺めていた。

「どうしたのかしら?急にシンクロ実験をしてほしいなんて・・・それも初号機に直接乗ってだなんて・・・」

初号機が肩の部分で拘束されて立っている空間、その側面に位置する実験室の中でミサトが呟く。
アスカとレイは、今日は特に何もない、と言ってあるのでこの場にはいない。
このシンクロ実験も突然決まったため、彼女達は知らないだろう。

「今日の朝、急にシンジ君に頼まれたのよ。何かシンクロ率が上がりそうな予感がするって言ってたわ」

マヤ達スタッフの作業を見ているリツコが、ミサトの言葉に返事をする。

「シンクロ率が上がりそうな予感?そんなのわかるの?」

「たぶん判らないわよ。上がりそうな予感がするっていっても、ただの気持ちの問題じゃないかしら?」

「じゃあなんでリツコはシンクロ実験してるのよ?」

「そうね・・・。あえて言うならシンジ君がやる気になっているからかしら?」

「何それ?」

「シンクロ率はメンタルなものに影響されやすいからよ。 それにちょうど初号機の点検が終わったところだから、色々とデータを取ってみたかったのよ。 ちょうどいいよかったわ」

つい先日、レリエルの虚数空間を脱出する時の初号機の暴走。
それ自体が初号機に何らかの影響を与えた訳ではない。
むしろ素体は完璧に正常な状態にあった。
しかし、暴走したからには原因を突き止めようとしなければならない。
そのための点検である。
そのついでに、リツコは色々と手をかけた。
データが欲しいのはそのためであったりする。

昨日一日かけて初号機を調査・メンテナンスをしていたのだ。
それが今日の昼頃、やっと終わった。
ちょうど初号機の起動実験をしたいと思っていた所に、シンジの申し出は渡りに船だった。
今回のシンクロ実験には、リツコ達にとってはメンテナンス後の起動実験の意味合いが強い。
まあ、シンはそれらを考えて今日の朝に頼みに行った訳だが・・・

リツコの言葉を受け、ミサトがポツリともらす。

「そうね・・・もう二度と暴走しないことを願うわ」

そんなミサトの呟きに答えず、リツコはシンクロ実験を始める。

「さあ、始めるわよ。マヤ、準備は良い?」

「はい!」

「シンジ君?準備はいい?」

マヤの返事で準備が整ったことを確信すると、リツコはプラグ内で待っているシンに話し掛けた。








「ふぅ・・・綾波にも料理の本を渡したし・・・もうすることはないかな・・・」

外ではリツコ達がシンクロ実験のための準備に追われている。
そんな中、LCLに満たされた空間の中に、シンの溜息まじりの独り言が消えてゆく。。
これからしようとすることに何の気負いも感じさせない。

  もうすぐだ・・・

シンはLCLで満たさているプラグ内で、一人目を閉じ、その時が来るのを待っている。
少ししてプラグ内にリツコの声が響く。

「シンジ君?準備はいい?」

準備が整ったようだ・・・
リツコの声が聞こえ、閉じていた目蓋を開ける。

「はい。いつでもどうぞ」


     さあ、還ろうか・・・

     リリンの母たる存在リリス、そのコピーたる初号機の中へ・・・

     そして僕にとっての安らぎの空間となるべき場所へ・・・

     エデンへ・・・









「シンクロスタート!」

リツコの合図と共にシンクロがスタートし、実験室のスタッフはデータを集めるために忙しなくなる。

「シンクロ率上昇中、30%・・・45%・・・60%・・・」

マヤの声が順調にシンクロ率が上昇していくことを知らせる
・・・しかし・・・

「75%・・・90%・・・せ、先輩、シンクロの上昇が止まりません!」

マヤの悲鳴のような声が実験室に響き渡る。

「なんですって!!シンクロカット!急いで!!」

「・・・・・・だめです!信号拒絶!制御不能!」

「電源落として!」

「外部電源切断、止まりません!」

「どうして!動けるはずないのに!!」

「シンクロ率、 尚も上昇中!・・・100%を突破!!まだ上がり続けます!!・・・120%・・・・・・200%・・・。プラグ内からの情報、途絶えました!映像、入りません!」

「映像の回復、急いで!」

ピーー

「・・・シンクロ率・・・400%・・・」

高い機械音が実験室に響き、シンクロ率が400%に達したことが告げられた。

「モニター・・・回復します・・・」

マヤの沈んだ声が聞こえる。
モニターに映ったプラグの中からは、シンジの姿は消えていた。






暗い暗い闇の中・・・
そんな空間の中にシンはいた。
初号機に取り込まれたシンだ。
そのシンは、その空間を支配する闇の中を悠々と漂っていた。

「さて、母さんはどこかな?」

シンは瞼を閉じ、集中する、
ゆっくりとあたりの気配を探り始める。
その次の瞬間、僅かな感触を捕らえた。

「ん?あれかな?」

目的の気配は簡単に見つかった。
それもそうだろう・・・
この空間に存在している者は、碇ユイと碇シンジ、いやシンだけなのだから。
この空間ではシンジとシンは別個に存在している。
言わば魂のみが存在できる空間だからだ。
肉体と呼べるものはLCLに還元され、生命のスープと呼べる状態となりプラグ内に存在しているだろう。

シンがこの空間でユイを簡単に見つけることができた。
その訳は、サードインパクトの時、シンは心の本質を理解するに至っているからだ。
だから心の壁、ATフィールドも使える。
しかし、加粒子砲などは使えない。
S2機関を持たないから、単純にエネルギーが足りないからだ。
しかし、ATフィールドはエネルギーとはまた別の問題だ。
全ては心の問題。
リリンである人類も元は持っていたもの。
いや、人を形作るだけの微弱なATフィールドは今も持っている。
もちろん使徒のようには使えない。
しかし、使う機会はなかったが、今のシンには使うことができる。
サードインパクトにより、シンはその心の本質を理解するに至ったからだ。
ATフィールドにS2機関は関係ない。
全ては心。
そんなシンにとっては、この心の中とも言える空間でユイを探し出すことは造作もないことだった。
この空間では心が全てを決めるのだから。

再び瞼を開いたときには、すでに目の前に彼女がいた。
距離も、時間さえも意味を成さない空間、そんな空間だからできる芸当だ。

「母さん、ひさしぶり。いや、はじめまして、かな?」

シンは目の前に眠る人物の額に手を当てると、ゆっくりと自分の力をそそぎ込む。
程なくして、目の前の人物はその瞼をゆっくりと押し上げた。
その人物、碇ユイに対してシンは言う。

「おはよう」




シンの声に軽く反応したユイは、辺りを見回す。

「………こ…ここは?それに・・・貴方は・・・誰?」

「ここは初号機の中です。そして僕の名前は碇シンジですよ、今はシンだけどね」

「……え?………し、シンジ?」

ユイは戸惑ったようにシンの顔を見る。
息子の名前を発したその少年の顔を・・・

「ええ」

「ほ、本当にシンジなの?」

「ええ、もちろん。母さんが取り込まれてから10年が経ちましたからね、成長はしてますよ」

「ど、どうして?」

「どうして?」

「どうしてシンジがここにいるの?」

そう言いながらも、徐々に………そう徐々にではあるが、次第に状況を把握してきているのだろう事は、シンジの目で認める事ができた。
聡明なその頭脳は、今様々な推理を展開しているのだろう。
しかし、シンはあっさりと答えを言う。

「貴女と同じように初号機に取り込まれたからですよ」

「そ、そんな・・・」

「まあ、貴女の時のように受動的ではなく、能動的にだけどね」

「えっ?」

「まあ、とりあえず僕から聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

「えっ、でも・・・」

「僕が聞きたいことを聞けば、母さんが知りたいことに全て答えてあげるから」

「・・・わかったわ。それで何?」

「と、その前に・・・」

シンはユイの額に向けて手をかざす。

「えっ!?何?」

「動かないで。ただ額に触れるだけだよ」

そう言うと、訳がわからないといった顔のユイの額にシンジの手が触れる。



時間として、一分くらい経った後・・・

「ん〜、なるほどね。結局母さんもエヴァを造る為に利用さていただけか」

シンジはユイに触れることにより、ユイがどれだけ真実を知っているかを知った。
この空間だからこそできることだ。
結局ユイも制限された情報しか知らされていなかった。


   セカンドインパクトが人為的なものであるとはユイは知らない。

   ただの調査中の事故として、アダムの覚醒によって、セカンドインパクトが起きたとしか知らされていない。

   ただ、エヴァを造るように仕向けるために、アダムとリリス、そして使徒の存在を教えられただけに過ぎなかった。
   

ユイの知っている事とは、エヴァを造るために必要であろう情報、ただそれだけだった。
シンジはユイの額から手を離すとユイに聞いた。

「ねえ、少し聞きたいんだけど・・・母さんは何故エヴァを作ったの?使徒を倒すため?」

「私はエヴァを造ったわ。でも、それは来るか来ないかわからない使徒のためだけではないわ」

たとえゼーレでさえ、確実に使徒がくるとは信じきっていなかった。
そのため、ユイもアダムとリリス以外の使徒の存在には半信半疑だったのだ。

「じゃあ何のために?」

「エヴァは使徒をコピーして造ったけど、そこには人の意思が込められているわ。ただコピーしただけではないの。いえ、コピーしきれなかったっていうのが正しいのかもしれないわね。使徒のコピーであるエヴァは半永久的に存在できるわ。それこそ太陽と月と地球があるかぎり・・・。私はエヴァを造る事によって人の生きた証を残したかったの。その中に宿る人の心と共に・・・・・・」

「エヴァを造ったのは、ゼーレや周りの思惑とは、また違った理由があったんだね。人の生きた証を残すため、という」

「ええ」

「ということは・・・・・・エヴァのシンクロ実験のときには、すでに取り込まれることがわかっていたんだね?」

「ええ。結果、シンジを残していってしまったわね。ごめんなさい、シンジ」

「ふふふっ」

「?」

「あの時、本当は父さんからも、そして母さんからも僕は捨てられていたんだね。それだけは確認しておきたかったんだよ。あの赤い世界でいろんなことを知ることができたけど、母さんだけは判らなかったんだよ。個であり全である世界に母さんは居なかったからね」

「何を言っているの?シンジ」

「これが僕の歩んできた人生と、そして母さんのしたことの結果だよ」

シンジはそう言うと、もう一度ユイの額に手のひらで触れた。
その瞬間、ユイに大量の情報がシンジから流れ込んできた。
シンが歩んできた人生と、あの赤い世界で手に入れたほぼ全ての情報をユイに流し込んだ・・・・・・
ユイの心が壊れないように、ゆっくりと・・・

  





   それは嘗てシンジの体験した事だった。

   幼年期に捨てられ、泣きながら去り行く父の背中に縋って追いかけるシンジ。

   それから、実の父親に、自我が薄弱に育つように密かに監視がつけられていた。

   新しい環境に馴染めず、萎縮する少年は周りにとって格好の虐めの対象になった。

   自分の殻に閉じ篭りながらも、父親からの呼び出しに一縷の望みを賭ける

   しかし、それはあっさりと裏切られることになる。

   そして巧妙に選択肢を奪われ、他に何もないのに自分で選んだように誘導される。

   戦地に赴く脆弱な少年は紙一重の勝利を収めながら、次第に傷ついていった………

   身体も、そして心も………

   
   だが、そんな中でも少年シンジにとっては嬉しい事もあった。

   ミサトやアスカと言った、家族を得た事。

   血の繋がりなど無くても暖かい家を持ち得た事だった。

   そして………綾波レイとの出会いであった。

   自分以上に、自分の父親に近いレイに、嫉妬の感情もあった

   が、それよりもどんな命令にも淡々と従う少女が気になった。

   月明かりの下での笑顔にも魅せられた。


   辛い事は確かに多くあったが、ココに来なければ得る事の出来なかったモノもあったのだ。

   碇シンジは確かにココで、生きると言う事を実感していたのだった。


   しかし、それも長続きはしなかった。

   戦いが激しくなるにつれ、被害も拡大して行った。


   戦いの中で、初めて出来た親友の片足を奪った。

   自分に抜かれた、太陽のような少女が心を壊した。

   そして、月のような少女が自分を庇って死んだ。


   だが、死んだと思われた少女が生還した事に喜んだ………………

   が、その少女は自分は別人だと、三人目だと言った。

   喜びが在っただけに喪失感は一層大きかった。


   そしてその少女の隠された秘密を知ってしまった………

   そして嫉妬に狂った女が矛先が、自分に振り向かなかった男の息子に向く。

   許容範囲を遥かに超える事実に少年は押しつぶされた。


   結果、理解出来ないものとして少女を避けてしまったのだ………………

   例え何人目だとしても『綾波レイ』で在る事に違いないと言う事に気づかずに………


   そんな中少年は、こんな自分の事を好きだと言ってくれる者を得たのだ。

   どん底の状況で、そのような存在に縋ってしまう少年を責める事は出来ないだろう。


   しかし、その新しい友人も失う事になる。

   友人、渚カヲルの正体は、使徒であったのだ。

   結局、シンジ自らの手でカヲルを殺した。


   既に、この時にはシンジの心は崩壊寸前だった。

   そして決定付ける事件が起きる・・・戦自の侵攻である。

   戦自によって行なわれる無差別の虐殺の中で、姉とも言える存在だったミサトを失う。

   そして地上に出てみれば、量産機に食い散らかされた弐号機の残骸。


   完全に心が壊されたシンジの絶叫が、狭いエントリープラグの中に響いたのだった。

   そして、さらに追い討ちをかけるように、白い巨人、リリスがシンジの前に現れる。

   リリスの、白い巨人が綾波レイや渚カヲルの顔に変化する。

   恐怖というきっかけにより心を壊されたシンジを依り代として・・・




   そして、サードインパクトが起こる・・・




   全ての生命がリリスへと回帰し、全ての生命が原初の水に溶けた。

   文字通り、そこは天国のようだった。

   肉体という殻を捨てた意識の集合体。

   個であり全である世界。

   他人が居ない、誰に傷つけられる事も無い。


   でも、そんなのどこか違う。

   傷つける他人も居ない変わりに、自分も居ないんだ。

   だから違うと思った。


   そしてシンジが気づき、目にしたものは、自分とアスカ以外存在しない世界だった。

   絶望するしかなかったシンジは、逃げる場所を求めて、過去へと遡った。

   そして、レリエルに取り込まれた、その時間軸の碇シンジと接触。

   数日を経て、今へ至る。






ユイは何も言うことができない。
理性という器の許容量を遥かに凌駕している情報だったのだ。
シンジの今までを追体験するというようなものであり、また完全な追体験よりはある程度客観的な情報だった。
だが、それにより逆にシンの人生が、ただ誰かに利用されるだけの存在にされていることがはっきりとわかってしまった。

天才と呼ばれた女性の頭の中で、与えられた情報をすさまじい速さで処理されているのだろう。
そして同時に、人は信じたくない情報を与えられると呆然とするもの・・・
碇ユイも・・・ただ呆然としていることしかできなかった。

しばらくして、ユイは急にシンに迫ると、シンの顔を両手で挟んだ。
シンはユイの目をまっすぐに見つめ優しく微笑む。
そして、ユイの頬を伝う涙を親指で拭う。

「シンジ・・・シンジ・・・シンジ、シンジシンジシンジ・・・」

ただそれだけを繰り返しながら、涙を流すユイをシンはやさしく抱きしめる。
シンはただ優しくユイの髪を撫で続けた。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・・・・」

シンジに抱きしめられながら、ユイはそれだけを呟くことしかできなかった。









その頃、初号機の外では・・・

「どうゆうことよ!シンジ君はどうなったのよ!?」

目の前でシンジが消えていったことに、ミサトは激しく動揺していた。

「溶けてしまったわ・・・」

「溶けっ・・・どうゆうことよ!」

「シンクロ率400%とは、初号機とシンジ君の自我の境がなくなるということよ・・・シンジ君は初号機に取り込まれてしまったわ・・・」

パァン!!

「なんとかしなさいよ!あんたが造ったんでしょ!!」

ミサトの平手がリツコの頬に炸裂し、感情の爆発とともに言葉が放たれた。













シンの記憶を垣間見、またシンジがサードインパクトで得た知識をシンジから得た。
今のユイはシンの持っている知識を全て持っているといってもいい。
しかし、ユイにはシンのようにATフィールトは展開できない。
知識として得ても、依り代となったシンとユイには明らかに違いがある。
知識を得ただけで、プロ選手にはなれないということだ。

しかし、サードインパクトの知識が問題なのではない。
ユイが取り乱しているのは、シンの記憶。
特に幼児期の記憶に対してだ。
シンは自ら体験したことを、その裏でどういうことが動いていたのかをサードインパクトによって知った。
つまり、依り代となるように密かに監視され、誘導されていたことを・・・
シンは全てが終わってからそのことを知った・・・
しかし、ユイはシンジの孤独な幼児期、つらい少年期をまざまざと見せ付けられ、それと同時にゲンドウのシンジへの仕打ちを知った。
言わば二重のショックを受けている。

今のユイには、シンジの過去が全て自分のせいのように思えてしまうのだろう・・・
事実、いくらかはユイのせいであり、またきっかけを作ったのは紛れも無くユイだから・・・


しばらくして、ようやくシンに抱きしめられ、

「母さん、落ち着いた?」

「ええ、ごめんなさい。落ち着いたわ」

「じゃあ、僕の話を聞いてくれる?」

「その前に、一つ聞いていい?」

「ん?何?」

「貴方も確かに私の息子・・・だけど・・・この時間の、この世界のシンジはどうしてるの?」

「ああ、シンジ君なら僕の中で眠りについてるよ」

この空間に来たときには、別個に存在していたが・・・
今はシンの魂が、シンジの魂を包み込んでいる。

「中に・・・?何故?」

「この空間に入って、母さんを見つける前に、全ての真実を教えたからだよ。約束だったからね」

「そ、そんな・・・」

「まあ、最後の決め手は、母さんの言葉だね」

「えっ?」

「10年前のあの時、母さんは初号機に取り込まれるのがわかってたんでしょ?
 結局父さんに捨てられる前に、母さんに捨てられたのと同じ意味だからね・・・
 まあ、強すぎるショックに僕の中で寝込んでるって感じだね。立ち直れるかな?」

シンジの魂はシンに包み込まれている。
それはまるでシンジの魂を保護するかのように・・・

「・・・」

「ここに居れば、時と共に癒されていくと思うよ、たぶんね。
 そのことは母さんが心配してもしょうがないから、それより僕の話を聞いてくれないかな?」 

「ええ、わかったわ。それで何?」

「この初号機の中から母さんをサルベージする」

「えっ?でも、それじゃあ、エヴァが動かなく・・・」

「問題ないよ」

「ど、どうゆうこと?」

「僕がここに残るからさ」

「そ、そんな・・・駄目よ!絶対に!」

「何故?大丈夫だよ。僕なら出ようと思えば、いつでもここから出れるよ。僕の記憶を見たんだから、僕にはそんなことは簡単だってわかってるんでしょ?」

「あっ・・・」

「そして、僕がどんな思いでここへ来たのか・・・わかる?」

静かなシンの問い・・・
それにユイは答えられない・・・
はっきりとはわからない。
しかし、シンジから得たもので、聡明なユイの頭脳は的確な推測を示していた。

「・・・」

「僕はもう疲れたんだよ・・・母さん・・・」

搾り出すような声・・・
そんなシンの言葉に、ユイは何も言えない・・・

シンからユイへ・・・

伝わったのはシンのこの時代に戻ってくるまでの全て。
どんな思いで中学までを過ごし、どんな思いで使徒と戦ったか・・・
そして・・・サードインパクトの結果、自分の歩んできた時、それらがゲンドウの掌の上に存在したしたことを知ったとき・・・
その時の・・・苦しさ・・・

そして、この時代に戻ってきてから、シンがしたこと。
しかし、戻ってきてからのシンの思考はユイには伝わっていない。
何を思い、すぐには初号機の中へと来なかったのかは・・・ユイには伝わっていない。


シンの全てといっていいことをユイは知った。

そしてユイは思う。

あれだけの過去を持てば・・・誰でもシンと同じ結論に行くのではないか・・・

人は・・・そこまで強くない・・・

ユイには、今シンジが望んでいることはわかる・・・

穏やかな世界・・・
誰も傷つけることなく・・・
誰からも傷つけることの無い世界・・・

つまり、母たる存在リリス、そのコピーたる初号機の中で眠りにつくこと・・・

「この世界の碇シンジも僕と同じモノを望んでいるよ。既に僕達は半ば同化してしまっている・・・僕の記憶を全て見せた・・・それから得たのは同じ結論・・・同じ絶望・・・」

「・・・」

ユイにはどうすることもできない・・・
シンの記憶を見たからには・・・

しかし、一つ不可解なことがあった・・・
絶望し安らぎを求めているのに、何故2日をかけてミサトやレイに会ったのか・・・
すぐにでもここへ来ることができたはずなのに・・・

そのことを聞きいてみると、シンは穏やかな、そして少しだけ寂しそうに一言呟いた。

「そこまで無責任なことはできないよ・・・」

ユイはその言葉を正確に汲み取った。
例え全てに絶望しても、レイやミサト達には死んで欲しくないのだろう・・・
いや、見捨てなくないのだろう・・・

ユイはシンの言葉に少しの安堵と絶望を覚える。
シンの心が荒んでいない事に安堵を覚え・・・
そして・・・ユイの頭脳に閃いた一つの仮説で絶望が生まれた。

『そこまで無責任なことはできないよ・・・』

つまり、今ここにシンがいるということは、シンはすでに外のことに関してはもう関わる気がないということだ。
自分の責任は果たしたということ・・・
しかし、今のままではシンの記憶と大差なく時間は進んでいく。
ならば、どうなのか・・・


碇ユイのサルベージ


それでシンは全てから解放される。
同じ未来は辿って欲しくないが、だからといってシンが何かをしようという気はほとんどないのだろう。
では、どうするか・・・
全てを人に託せばいい・・・
託すことができる人がここにいる・・・
碇ユイという人に・・・
シンは全てをユイに伝えた。
これでユイをサルベージすれば、ユイは必ず動く。
未来を変えるために・・・


「僕の持っている記憶と情報の全てを母さんに渡した。あとは母さんに任せるよ」


この一言で、ユイは自分の推測が当たったことを理解した。
次の瞬間、ユイの体はシンジの元から離れて、浮遊感を感じた。
暗闇の空間の中、ユイとシンジの距離は徐々に上と下へと離れていく。

「シ、シンジ!」

「がんばってね。綾波のこと・・・よろしくね」

そして、シンジのその言葉を最後に、ユイの意識は途絶えた。










「シンジ君の初号機からのサルベージ計画を指令に提案してくるわ・・・」

叩かれた頬を抑えながらリツコは言う。

「せ、先輩!シンクロ率が急激にさがっています。」

指令に許可を得ようと、実験室から出ようとしたとき、マヤの叫びが響いた。

「なんですって!」

「シンクロ率、330%・・・・・・240%・・・・・・160%・・・」

人の姿がだんだんと浮かび上がってくる。

「・・・・・・100%・・・90%・・・・・・81.4%で安定しました」

しかし、モニターに映ったプラグ内の映像に映った人物は・・・碇シンジではなかった・・・

「い、碇・・・ユイさん?」

リツコの声が、実験室の部屋に静かに響いた・・・







<後書き&戯言>

ラグシードです。

いきなりですが、すいませんm(__)m

かなり文章が雑です。かなり前の投稿から間が空きました。もしかしたら話の流れがちゃんと一本になっていないかも・・・

内容もプロット段階で考えたことを詰めただけで、推敲などしておりません。

結構ごちゃごちゃと書いてしまったような気がします。

とりあえず、今回の話で中盤戦突入です。

が、しかし今現在、改訂したいと本気で思っています。

こんな稚拙な物を読んでくれている人がいるのかどうか・・・

いたとしても、数人かもしれないとか思ってしまう今日この頃・・・(それはそれでいいんですけどね・・・)

そんなことを思ってしまうほど、自信がありません。

どこからか沸いてきてくれればうれしいんですが・・・

さて、次の話からはかなりオリジナリティーを発揮できると思います。

たぶん・・・おそらく・・・(この辺に自信のないことがありありと出てきています)

なんとか頑張っていきたいと思いますので、読んでくださっている方、見捨てないでくださいm(__)m

感想を書いてやっても良いという方、Arcadiaの方の掲示板にでも書き込んでくだされば、お返事を書かせていただきます。

ただし、傷つきやすく打たれ弱いため、アドバイスなら歓迎ですが、非難だけとかいうのはご勘弁を。

非難が多ければ、投稿中断ということになると思いますので・・・(私は根性無しですので(-_-;))

非難するなら・・・いっそのことこの作品は無視してください(T_T)

では、次回 第四話 〜姉妹〜 でお会いしましょう。

02/09/21

presented by ラグシード