目の前に広がるのは赤い海・・・・・・
 
隣ではアスカが寝ている・・・・・・いや、死んでいる。
 
沖のほうでは崩れ落ちている巨大な人の顔。
 
 
「ここは、なに?」
絶望の中、碇シンジは誰ともなく問い掛ける。
「ここは何なの?」
 
「ここはあなたが望んだ世界そのものよ。」
シンジの言葉に答えるのは、綾波レイ。
 
「綾波?ここが?僕が望んだ世界?」
「そう。どこまでが自分で、どこからが他人なのかが分らない、曖昧な世界。
どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている、脆弱な世界。」
 
 
 
「違う・・・・・違うよ。
こんな世界なんか・・・・・・僕は望んでない!!」
泣きながらその言葉を否定するシンジ。
 
 
 
 
 
 
 
「なにを願うの?」
レイはシンジの隣に座り優しく問い掛ける。
 
 
 
 
 
 
「もう一度・・・・・・」
しばしの静寂のなか意を決したようにシンジがしゃべりだす。
「もう一度だけやり直しを・・・・・・・
そして、今度こそ、今度こそはみんなを・・・・助けたい。
何よりも・・・・君を!!」
「碇君。」
「そのための力も!!」
「それがあなたの願い?」
「うん。」
 
 
 
 
 
 
「わかったわ。」
しばらく考え込んだあとに口を開くレイ。
「ありがとう、綾波。」
「でも・・・・」
「でも?」
「私も行く。碇君一人につらい思いはさせないから。
それと私があげられるのは知識だけ。
力は過去に行くために必要だから。」
すまなそうにつぶやく。
そんなレイを見てにっこりと笑ったシンジがレイの手を握る。
「十分だよレイ。」
「碇君」
ほほを染めるレイ。
レイもその手を握り返してくる。
「あっ・・・・・・」
その手を引き寄せレイの体を抱くシンジ。
「レイ。」
「いか・・・・シンジ君。」
 
 
 
 
 
エヴァンゲリオン〜Return to the past〜
序章 〜出会い〜
 
 
 
 
 
 
 
 
しばらくの間お互いの体温を感じている二人だが・・・・・・
「お取り込み中、悪いけどさ・・・」
「えっ・・・・わっ!!」
いきなりの訪問者に驚きレイと離れるシンジ・
レイは少しむくれている。
「お邪魔だったかな?」
突然登場しのはシンジと同年代くらいの少年。
中性的な顔立ちに肩まで伸びている黒々とした髪。
一見見ると女にも見える。
「そう・・・あなたは邪魔・・・・・」
シンジとの抱擁を邪魔されたので怒っているレイ。
「悪いね。で?」
少しも悪びれてない様子で話す少年。
「はっ?」
「だから、どうなってんの?」
少年が再度聞き返す。
「なにがですか?」
シンジはわけがわからなく聞き返す。
「だから、この世界はいったいどうなったのって聞いてるんだよ!!」
少年は聞き返されたのが不満らしく口調を強める。
少年のきつい口調におされ気味のシンジ
 
 
 
 
 
「じつは「サードインパクトが起きたわ」
シンジの台詞をとってしまうレイ。
「ちょ、ちょっとレイ!」
いきなりそんなことを言ってもわかるはずないだろうと目で訴えるシンジだが・・・
「やっぱりか・・・」
少年は動揺もなくその言葉を受け止める。
「「えっ?」」
驚く二人。
「君達はこれからどうするんだ?」
唐突に少年が聞いてくる。
「えっ?あの、これから過去に行ってやり直そうと・・・・」
 
「そうか。」
しばらく考え込んでしまう少年。
 
 
 
 
 
「あの?」
 
「なに?」
 
「なぜ、サードインパクトをご存知なんですか?」
レイも疑問に思っていたことを聞く。
「俺も経験があるからな。」
 
「なっ!!」
驚愕する二人。
いったいどういうことなのかと思いをめぐらせるシンジとレイ。
「どういうこと?」
レイは鋭い目線で少年を見つめる。
 
 
 
少年は考えたあと二人を見つめる。
 
「そうだね。君たちには話してもいいかもね」
 
 
そして少年は話し始める。
 
自分はエヴァのパイロットだったこと・・・・・・
 
この世界はすでに4回目だということ・・・・・・
 
 
「どういうことなんですか?それって変じゃないですか!!」
 
「落ち着け。説明してやるから」
興奮するシンジをどうどうと落ち着ける。
レイは相変わらず少年のほうを睨んでいた。
 
「最初から全部説明するよ。」
「はい」
「ええ」
 
 
少年は深呼吸をし話し始めた。
 
 
「まず、僕もサードインパクトを体験したことがある。
そして、世界はこれで4回繰り返されている。」
 
「意義ありです。」
シンジがはいっと手を上げる。
「説明しますよ。
今回のサードインパクトは君を中心につまり・・・・・・そういえば、自己紹介してないな」
いまさらすることではないと思うがと感じるシンジ。
「きみ、名前は?」
 
「綾波レイ」
 
「君は?」
 
「碇シンジです」
 
「ふむ、綾波レイさんに碇シンジ君か」
 
「あなたは?」
人に名前を聞くときは自分から名乗るものだろと目で訴えているシンジ。
「俺はショウ。苗字はないんでショウとだけ呼んでくれ」
 
「はい」
 
「で、話を戻すけどいいかな?」
 
「お願いします」
真剣な表情のシンジ。
それに見とれているレイ。
 
「つまり今回のサードインパクトは碇シンジ君。君を中心に起こった。
そして君はこの世界から過去に戻り未来を変えようとしてる。
間違いないよな」
 
「はい」
答えるシンジの目は決意に満ちていた。
「それと同じ事を俺もしたんだよ」
 
「だからどうやって・・・・・あれっ?・・・いや・・・・・でも・・・」
混乱するシンジを落ち着かせ話を続けるショウ。
「わかるかな?
つまり、君の生きていた世界ではすでに3回のサードインパクトが俺を中心に起こされていたんだ」
 
「でも、なぜ3回も?」
 
「はじめて俺が起こしたサードインパクトのあと、俺は君と同じ事を願った。
みんなを助けたいと・・・・・・・
大切な人を守りたいと・・・・・」
ショウの目は悲しみに満ちていた。
シンジは今の僕の気持ちとおんなじだと心で共感をかんじていた。
レイの表情も幾分和らいできた。ショウの中にシンジと同じものを見た気がした。
この人も苦しんできたのだなと・・・・・
「でも、だめだった・・・・・」
ショウは顔を伏せる。
涙がこぼれ落ちる。
 
「だめだったって?」
 
「だめだったんだよ・・・・・
止められなかった・・・・・・
そして、同じ過ちを繰り返してしまった・・・・・」
声を震わせながら苦しそうにつぶやくショウ。
 
 
そっとショウの手に自分の手を重ねるシンジとレイ。
 
「落ち着いて。ゆっくりでいいから・・・・
少しづつでいいから・・・・聞かせて」
レイがショウの頭をなでながらやさしく言葉をかけてやる。
 
「・・・・・・うん・・・・・」
シンジとレイの手を握り返しながらうなづく。
 
話しているうちにシンジまでもが涙をこぼしていた。
 
 
シンジの世界とショウの世界は根本的には同じだがまったく違う世界だということ。
シンジの世界に綾波レイはいたが、ショウの世界にはそんな人はいない。
しかし、使徒などは同じでゼーレやゲンドウなど補完計画をやろうとするものはいた。
エヴァもあった。零号機や初号機、弐号機もありエヴァシリーズもあった。
同じネルフと言う組織もあった。
違うのは人だけということかもしれない。
ファーストチルドレンはいたが綾波レイではなく、セカンドチルドレンもちがう。
だが、ネルフの総司令ゲンドウの存在はあった。
 
 
一回目は強制的にエヴァに乗せられそのまま流されていった。
 
二回目は委員会の計画は阻止したが、ゲンドウの計画は止められなかった。
 
三回目はゲンドウの計画は止めたが、委員会のほうを止められなかった。
 
そして、四回目。
自分の存在しない世界になっていた。
平凡な家に生まれていた。
ネルフのことは知っていだが、自分がパイロットではなかった。
 
「俺は、この世界に希望をもっていたのかもしれない。
俺じゃうまくいかなかったから、ほかのやつなら何とかしてくれると思った。
他力本願って言われるだろうけど、そのときの俺はただ戦いに疲れていた。
自分ひとりではどんなにがんばっても無理だって感じていた。
だから、この世界のエヴァに乗る人に希望を見ていた。」
苦しそうにシンジ達を見つめるショウ。
シンジとレイは押し黙っていた。
なんと声をかければよいかわからない。
ショウはこの地獄をもう3回も味わっている。
精神が崩壊してもおかしくない・・・いや、自分だったらとっくの昔に壊れているだろうと思った。
さらにショウは話しつづける。
「そして、殺したんだ・・・・・・大切な人を・・・・・・何回も・・・・・
・・・・・・守りたいと思った人を・・・・・俺・・・・は・・・・殺し・・・・・て・・・・・・」
最後のほうはもはや声にならなかった。
レイがショウを抱きしめる。子供を抱く母のように・・・・・・・
 
ショウはさらに話し出そうとするがシンジがそれを止めた。
「もういい!!もういいよ!!」
ショウはシンジの目を見つめて首を横に振った。
「言わせてくれ」
ショウの目は涙であふれながらもしっかりとシンジの目を見つめてくる。
 
 
「わかった。でも、つらくなったらすぐ止めてもいいんだよ」
「そう、やめてもいいわ」
レイもシンジの考えに同調する。
 
「ありがとう。
でも、大丈夫だから・・・・・・聞いてくれ」
 
自分を落ち着かせ再び話し始める。
 
「たぶん、4回目の世界は俺にとって安らぎでもあり・・・・・・罰でもあるんだ」
 
「どうして?」
レイがやさしく聞き返す。
 
 
「確かにこの世界では戦いはなかった。
・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・・俺が好きだった人も・・・・守りたかったみんなも消えてしまっている」
シンジとレイがはっとする。
確かにショウとシンジの世界で生きている人が違うなら、僕達がここにいるはずもない。
シンジにとっては知っている人でもショウにとっては知らない人ばかりなのだ。
ショウ知っている人たちはどうなったのだろう?
 
「3回目のサードインパクトが終わった後、俺は心身ともにズタボロだった。
もう・・・・・すべてがどうでもいいと思えてきた・・・・・・。
だからだろうな・・・・・一回目のときは絶対みんなを守るって・・・・・思ったのに・・・・・
・・・・・・自ら・・・・どうでもいいと思ったりなんかしたから・・・・・その罰だよ・・戦いを放棄する代わりに大切な人を失った・・・・・自業自得ってやつだよ・・・・・ハハ・・・・ハハハ・・・・」
乾いた笑い声が響く
「そんなことないよ!!」
即答で否定の言葉を繰り出すシンジ。
「だって、がんばったんじゃないか!!僕なんかよりずっと!!
あんな苦しい目に何回もあって、逃げ出したいと思うのは当然だよ!!
僕ならきっと耐えられないよ。君はやり直そうと思って、みんなを守ろうと思って・・・がんばってきたんじゃないか!!
そんなのおかしいよ!!なにが罰なの?わかんないよ!!」
 
「シンジ」
 
「シンジ君」
ショウも綾波もぽかんとしている。
「僕と行こうよ」
 
「えっ?」
 
「僕と一緒に行こう。一人で無理な事だって力を合わせれば大丈夫だよ!!
この世界には君の知ってる人はいないかもしれないけど・・・・・・・・
君を好きになる人はいるさ!!君が好きになる人もいると思う。だから・・そんなに自分を責めないでよ」
 
「シンジ」
シンジの言葉に圧倒されているショウ。
「シンジ君の言うとおりよ」
シンジの言葉にレイが続く。
「私たちと行きましょう」
 
 
 
 
「ありがとう。
・・・・でも、どの道いっしょに行くつもりだったんだけどね」
 
「そうなんだ」
 
「どんな世界だろうがこんな結末はあんまりだからね。
これで終わりにしよう」
 
「そうだね」
ショウはいつのまにか笑顔に戻っていた。
悲しみを感じさせない笑顔に。
 
「そういうことなら僕も力を貸したいところだけどね」
何の前触れもなく現れた少年・・・・・・
「カヲル君!!」
であった・・・・・・
「久しぶりといったほうがいいかな?」
「何しにきたの?」
レイが冷たい目線を突きつける。
「そう睨まないでくれよ」
レイの視線にたじろぐカオルこと渚カヲル。
「カヲル君も一緒にいってくれるの?」
シンジはかなりうれしそうだ。
そんな様子をレイはジト目でみつめている。
「いや、僕はいけないよ。レイが行くのなら代わりにこの世界を見届けておかないとね」
人なつこい笑顔でわらう。
「そうなんだ・・・・」
見るからに落胆ぶりをしめすシンジ。
「もし、君達の行く世界で僕がいたらこれを渡してくれないか」
カヲルはシンジに小さい赤い玉を握らせた。
「これは?」
「僕とシンジ君の絆の証とでも言っておこうかな」
「わかった、必ず渡すよ」
「うん、気をつけてね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「じゃあ、準備はいい?」
シンジがほかの二人に聞く。
「かまわないわ」
 
「ショウは?」
 
「確認するけど、特殊な力は使えないよ、レイもね。
過去に戻るだけで精一杯だから。
俺はちょっと準備があるから君たちとは別の場所に行く。
第2使徒までには間に合うと思うからそれまでがんばってね」
 
「準備って」
 
「俺たちが知識を持ってるからって決定的なのは戦力差だ。
それを補うためにね。
フォースチルドレンとしていくことになると思う」
 
「特殊なことはできないんじゃないの?」
 
「それは君たちだけ。
俺は今まで何もしなかったわけじゃない。
ちょっとしたことはできるさ。
期待して待ってろ」
 
「わかった。カヲル君この世界を頼むよ」
「わかったよシンジ君」
「それじゃ、レイ」
 
「うん」
レイがこくりとうなづく
三人の間に小さな光が出てきた。
光は次第にシンジ達を包んでいく
 
 
そして、世界にはカヲルが残った。
「願わくば、彼らに神のご加護をって変な言い方だけどね・・・・・・・気をつけてね、シンジ君」