戦って戦って戦って

 途方もない時間を戦い続けた。

 殺して殺して殺して

 数え切れないほどの敵を殺した。
 





 だから





 その最後に正義の味方によって殺されることになったのは


 とても自然なことだと










 心の底から思った。












     ゼロの使い魔  -呼ばれし者-











 綺麗な青空。
 あの時と同じ深い蒼の下にいる。
 ああ、なんということだろう。
 まさかこの身がまた美しい蒼天の下に在れるとは。
 死後の世界など欠片も信じてなどいないし、あったとしても地獄行きになることは間違いなしという生き方だったというのに。
 それにも関わらず、今一度この空の下にあるとは。
 と、そこまで考えて気づく。
 そもそも死んだはずの俺がどうしてこんなことを考えているのかと。
 呆然としていると風にやんわりと撫で付けられて、その心地よさを感じながら死んでも感覚はあるのだなぁ、と妙なことに感心する。
 その風と共に、


「それで、あんた誰」


 というとても凛とした軽やかな声が耳に滑り込んでくる。
 そこで初めて気づいた。
 すぐそこ、ほとんど目の前といってもいい距離に一人の少女がいることに。
 そして今まで自分が空を見上げる格好でいたことに。
 ゆっくりと目線を下げて確認する。

 やはり少女だ。まだ幼く見えるが15、6位だろうか。桃色がかったブロンドの髪と、鳶色の瞳が印象的だ。
 黒いマントを纏ったその姿はコスプレした魔法少女のようにも見える。

 それにしても、と思う。
 周囲に視線を飛ばしながら状況を確認していく。
 これだけ自分の近くに人間の接近を許しながら、声をかけられるまで全く気づけなかったというのは、とんでもない失態だ。
 場合によっては殺されてもおかしくなかったというのにだ。

 そこまで考えて思った。
 既に死んだ奴が改めて殺されることを恐れる、というのはなんだか間抜けだなぁ、と。

 
「……ふむ、あんた誰ときたか」


 目の前の少女をさりげなく観察しながら話す。
 理由はわからないが、なんとなく不機嫌そうにしている。が、敵意は感じられない。

 少女の背後には同年代と思われる者達がいるのを確認。そしてもう一人、大人がいる。
 ……なんだろうか。皆同じような格好をしているところを見ると、本当に魔術師だったりするのだろうか。
 魔術師、とそこまで認識がいってやっと感じた。

 自分の足元の魔法陣と、周囲の魔力の気配に。
 これだけの気配を放っているものに気付かないとは、本当にどうかしている。
 

「その前に、そもそも君こそ誰だね。人に名を尋ねるときはまず自分が先に名乗るのが礼儀というものではないのかね」


 危険度をアップ。自身の装備を確認。静かにこの少女達の制圧法を模索。生かしたままの制圧は困難と判断。
 敵と判断した場合は速やかに殲滅に移らなければならない。
 今俺は武器の類は所持していない。素手での戦闘の場合集団の錬度によるが、幸いというべきか、大した存在はいないようだ。
 大人もいるが、身体を動かすのが得意な人間には見えない。
 

「あんたね、平民でしょうが」


 平民。そんな風に言われるのは初めてかもしれない。
 ある意味、新鮮ではあるのだが。
 なら、君は一体何様のつもりなのだろうか。


「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

「さすがは『ゼロ』のルイズ、やってくれるよ」


 後の集団の誰かがそういうと全体から笑いが溢れる。
 少女が怒鳴るように唯一の大人を呼び、何やら抗議をしているのをよそに考えを巡らせる。
 実際のところ、状況が掴めない。そもそも俺が生きていることこそが疑問だ。
 周囲の関心がこちらに向いてないのを確認して自身の身体を確かめる。
 両手には包帯によってぐるぐる巻きにされているが、感覚がる。
 身体そのものにも異常はないらしい。
 手で顔に触れてみると右目の上に布の手触りがある。
 ああ、なるほど。『これ』はそのままか。
 眼帯越しでも普通に『視えて』いるということは、つまりそういうことだ。
 わかったことはとりあえず異常がないということ。
 異常だらけのこの身に、異常がない。
 それがなによりの異常であった。

 一通り確認したところで、少女がこちらを向き、何かを諦めたかのような顔をして、


「ちょっと、屈んでくれない? 届かないわ」

「こちらとしてはいろいろ確認したいことがあるのだがね」


 仕方なく、少女の言うとおりに屈んでやることにする。
 すると少女は、


「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」


 貴族? この少女はそう言ったのか。
 そのことを確かめようとして、


「我が名はルイズ・フランソワ-ズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」


 遮られた。

 こちらが文句をつける暇もなく唇を重ねられる。
 瑞々しくしっとりとした唇だ。
 そして俺とこの少女の間でラインが形成されてゆくのが感じられる。
 左手が急に熱を持ちなにかが凝縮されていく。
 包帯をほどくと、すぐに左手の甲に見たことのない文様のようなものが刻まれる。
 

「これは?」

「ただの使い魔のルーンよ」


 教師らしき中年のメイジはこれを見て感心しながら言う。


「ふむ、これは珍しいルーンだな」


 ルーン? これが? 
 俺のもつ知識の中にはこれに該当する文字はないのだが……。

 教師が教室に帰る旨を生徒達に伝えると、踵を返し、
 そして、なんと宙に浮いた。

 これにはさすがに驚いた。
 重力制御? それにしてはなんとも容易くやってくれたが、しかし。
 教師の向かう先にある石造りの建物を見る。
 ここからではそれなりの距離があるのだが、余裕綽々のところを見ると問題はないらしい。
 それだけではない。
 なんと生徒達まで同じように飛んでいくではないか。
 可能なのか、そんなことは。
 大気に満ちるマナの量は半端ではないのだが。

 う~む、どうも、俺のかつていた世界とは世界原理そのものが違っているとしか思えん。
 ぞろぞろと飛んでいく集団を見送って気づく。
 ルイズがいない。
 振り返るとそこにいるのだが、


「君は行かないのか?」


 と聞くと、なにやら渋い顔をする。
 すると集団から、


「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」

「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」

「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」


 などと、彼らは笑いながら去っていく。
 その後姿を見送って、

  
「で、結局、どういうことなんだね?」


 説明を求めることにした。








  * * *







 
 で、説明の内容を要約するとこんな感じになる。
 ここはトリステインという国で、トリステイン魔法学院という場所らしい。
 ルイズが春の使い魔召喚の儀式で何度も失敗を繰り返した挙句に、やっとのことで俺を召喚したとのこと。
 そして彼女は今日から俺のご主人様らしい。


「使い魔? 俺がか。ならば君は魔術師なのだな?」


「? 魔術師? じゃなくて魔法使い(メイジ)でしょうが」


「メイジ、というのか。なるほど……ふむ」


 聞いたことのない国に、魔法学院。
 やはりここは俺のいた世界とは違うようだ。
 そんな気がしていたが、やはりか。
 だが、そのこと自体にはあまり驚きを感じはしなかった。
 それならそれでいいと思う。元いた世界に未練はない。
 やるべきことはやったという想いのせいかも知れない。



 だが、まあ、今考えるべきは






 この怒れる少女をどのように宥めるか


 ということなのだろう。
















  * * *


 言い訳と書いてあとがきと読む。

 私はバカだ。一体何をトチ狂ってこんなものを書いているのだろうか。
 いや、わかる。わかっているのだ。そんなものは。
 数々のSSを読んでいるうちに触発されてしまったのですな。これがまったく。
 救いようのないバカとはこの私のことですよ。
 詳しく書こうとすれば、長くなる。テンポを良くしようとすれば飛び飛びになる。
 バランスをとるのが難しいのですよ、ホント。
 素人には特に。

 それと主人公についてですが、当分の間は秘密のままです。
 主人公がだれなのかわからないままというのも悪くないと思います。うん、きっとそうだ。
 まあ、わかる人にはわかるだろうけど。
 わかった人は一人でこっそりほくそえんで下さい。