舞い降りたのは黒い外套

 全ての輝きを拒絶するかのような漆黒

 召喚の余波に靡くその姿は

 まさに翼の如く




 一切の妥協を許さないその黒を




 わたしは確かに










 美しいと感じた











      ゼロの使い魔  -呼ばれし者-









 
 召喚後、私達二人を残して誰もいなくなった草原で話し合ったがあまり収穫はなかった。
 既に授業を受けるどころではなくなったので話を続けるためその後は場所を私の部屋へと移す事にした。

 道すがら簡単に学院の説明をしてやるが、特に反応が返ってきたりはしなかった。
 その代わりか、周囲を見渡しているのがわかった。
 ここの学院で働いている平民以外では、一般の平民がわざわざ街からやってくることもない。
 石で出来たアーチの門をくぐり、学院の中に入り、自分の部屋に向かう。

 部屋の中に入り、やっと一息つくことが出来た。
 正直、今日はしんどかった。
 ほとんど成功することのない魔法は、やはり今日もいつもどおり失敗した。
 家族や姉妹は皆優秀なのに、わたしだけはどうしようもないくらいに落ちこぼれだった。

 はあ、やめよう。鬱になる。
 目下の問題は後にいる黒尽くめだ。
 ベッドに腰掛け振り返る。
 
 目の前の真っ黒い片目の男をにらみつけるが、男はまったく取り合わず窓際に移動。
 そのまま窓の外を見ている。
 

「ちょっと、ちゃんときいてるの?」

「ああ、聞いているとも。この距離で聞こえないはずがないだろう」


 なんというか、この男は最初からまともにとりあう気はないようだ。
 小バカにされているというか、そもそも相手にされていない気配が滲み出ていて頭にくる。
 召喚に失敗しまくった挙句、やってきたのがこんなのではたまったものではない。


「それにしても、月がふたつもあるというのは不思議なものだな」

「なによ。そんなの当たり前でしょ」


 この世界ではなんてことのないことに感心してるみたいだけど、一体どこの生まれなのだろう。
 今に至るまで、こいつは自分のことはほとんど何も言ってないのだ。
 月がひとつしか見えないところにでも住んでいたのだろうか。


「それで、あなたなんて名前なのよ。どこの生まれ? 私の使い魔なんだから、ご主人様の言うことに答えなさいよ」


 そこでやっとこいつは月からわたしに目を向けた。灰色の瞳は静かな光をたたえている。
 どこまでも透明だけれど、底を見通すことが出来ないくらいに深く、重い。
 ぞくり、と背筋が震えるのを感じた。
 今までにわたしが見た、いかなる目とも違う。
 わたしでもわかるくらいにこの男は違っている。
 それがわかるからこそ強く迫ることが出来ないでいるのだ。
 

「生まれは日本という国なのだが、もちろん君が知っているはずもないだろう」

「ニホン? 聞いたことがないわね。じゃあ名前は? なんていうの?」


 そこでこいつは少しだけ、ほんとうに少しだけだけど表情を崩した。
 呆気にとられているような、苦笑を浮かべているような、そんなあいまいな表情。
 名前を聞いただけなのに、なぜそんな顔をするのか。


「そうか……。知らんのか」

「なによ。わたし何か変なこと聞いた?」


 静かに首を振り、


「いや、君が知らないのも無理はない。この世界で俺のことを知っているものなど、誰一人として存在するまい」


 腕を組み、また窓の外に目を向ける。


「かつての世界では、俺が名乗ることなどなかったのでな。俺の前に立つ者は俺が名乗るまでもなく知っていた」

「なによ。あなた有名な人だったわけ?」

「有名といえば有名だったのだろう。ある意味では世界で最も知られた存在だったのかもしれん。しかし、名前か……」


 ふむ、とひとつ頷くとなにやら考え始めた。
 名前くらいでなぜ悩むのだろうか?
 わたしがじっと見ていると黒い男はやがてうむ、と頷く。


「そうだな。では、便宜上クロノと名乗っておくことにしようか」

「なにそれ。まるで偽名みたいじゃない」

「名前などとうの昔に捨てていてな。二つ名でいいなら、いくらでもあるのだが」


 名前がないと言いながら、まるで気にするそぶりすら見せない。
 なんなのだろう、こいつは。


「まあいいさ。そんなことは重要ではない。今考えるべきは我々の関係ではないかね?」


 自称ご主人様、とクロノ(偽名?)は言った。
 なんだとこのやろう。
 私が主人でなければ、誰が主人というのか。


「なによ。その態度は。わたしがあんたを召喚したのよ。わたしに従う義務があんたにはあるのよ!」

「知能のない犬猫ならともかく、俺が君に従わねばならない理由がわからんのだがね。このルーンも特に強制を強いる類のものではないようだしな」


 壁に寄りかかりながら、わたしを小バカにした調子で、ふふん、と笑う。
 それが実に様になっていて、余計に頭にくる。
 無意識のうちに手をぎううぅぅと握り締める。


「聞くところによれば、帰る方法もないようだし、なんとも非人道的な儀式だよ」


 君もそう思うだろう? と暗にわたしのことを虚仮にしてくるところは最早殺人級といってもいいくらいにむかつく。
 少なくとも性格は最悪に違いないとルイズは確信した。


「あんたねぇ!! どこの片田舎から来たのか知らないけど、貴族に対する口の聞き方ってものをしらないの!?」

「そんなものは知らん」


 実にあっさりきっぱりといわれた。


「じゃああんた、今日からどうやって生きてくつもりよ!? わたしに養ってもらうしかないでしょうが!」

「幸い、言葉は通じるようだしな。どうにでもなるさ。君とは違う」



 ぐわっと立ち上がり、ルイズは


「だったらさっさと出ていきなさいっ!!」


 と言おうとして、喉元まででかかった言葉を飲み込む。
 もしこれで本当に出て行ったらどうなるか?
 その場合、使い魔を連れていないことに直ぐに気づかれるのは間違いない。
 何度も失敗した挙句に召喚できたのは片目の性格最悪真っ黒男ときた。
 その使い魔に一日もたたずに逃げられたとしたらどうなるだろうか?
 ああ、想像するだけでも恐ろしい。
 『ゼロ』のルイズだけでも自尊心を著しく傷つけられているというのに、その上で更なる悪名をいただくことになるのは文字通りいただけない。
 そんなことになろうものなら、故郷の家族に会わせる顔がない。
 というか、いっそ首を吊るしかないだろう。

 プルプル震えながら内から沸き起こる怒りに耐えるルイズのその姿はどこか可愛らしい。
 そしてそれ以上に面白かった。 


「……とりあえず、あんたは私の使い魔なの。そう決まったの。わたしの言うことは聞きなさい」


 はらわたを煮えくりかえすマグマをなんとかクールダウンさせて疲れたように言う。
 クロノは毛布を手にとって具合を確かめている。


「まあ、俺としてはどうでもいいのだがね。君に資格があるならば、なにも言わずとも、力を貸してやるとも」

「資格? なにそれ? どうすればいいわけ?」


 ごろりと床に転がり、背中を向けるクロノ。


「気にするな。今の君はそれを欠片も持ってはいないのだから」

「ちょっと、それどういう意味なの?」

「考えるだけ無駄だということさ」


 クロノと同じようにベッドに入っていたルイズはがばりと起き上がるが、返事は返ってはこなかった。
 代わりにパタパタと手を振るだけだった。

 なによ、この黒尽くめ。
 ホントにむかつく。
 平民なんかにいいようにやりこめられるなんて。
 毛布を頭まで被って、ひとりゴチる。

 誰にも笑われることのない立派なメイジ。
 貴族は、ほぼ全ての者がメイジだ。
 貴族ならば、誰もが当たり前に持っているものを自分だけが持っていない。
 そのことからくる焦燥感は誰にも理解することは出来ない。
 せめて笑われることのないだけの力が欲しい。

 


 『ゼロ』のルイズ




 わたしに付きまとう呪いのごとき二つ名。
 この呪縛から解き放たれることが出来れば、どれだけ幸せなことか。


 目尻に浮かぶ微かな雫を手で拭う。

 
 クロノと名乗る、主人を主人と思わぬ使い魔らしからぬ使い魔。
 

 或いは、私には相応しいのかもしれない。
 『ドット』はおろか、ろくに魔法を使えない無能な魔法使い。
 

 ああ、もうやめよう。どんどん悪い方に傾いていく。
 こんなことではいけない。
 わたしは誇り高き、ラ・ヴァリエール公爵が三女ルイズ・フランソワ-ズ。


 いまだめでも


 いつかはきっと―――。













  * * *


 言い訳と書いてあとがきと読む

 どうも、スケアクロウです。
 二話目です。全然進んでないですね。はい。
 でも、出会いは大切ですし。
 二人のたち位置とかいろいろ。
 原作部分の取り扱いが難しいですな。知っている人はいいけれど。どうしたもんか。
 それとルイズ。この子、どうしよう。
 私には女の子の気持ちなんてわからんですよ。
 困った困った。
 心理描写はほどほどでいった方がいいか。
 序盤の見せ場まではこんな感じ。盛り上がりません。
 
 これからいろいろ書き方試してみようと思うんで
 見苦しかったらごめんね。
 以上。