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[10207] 【完結】異世界で親友のために下世話焼く男の話 【転生モノ・ギャグ風味】
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/09/12 20:22
ネタとオチだけ思いついて勢いで書き始めたという当作品。
なんだかんだで12+1話で完結しました。読者の皆様に感謝(/ω\)



それから、ツッコミ少ないので説明しておくと、

タイトルは「下世話(げせわ)」と「下(ここでは下品とか下半身とか)+世話」掛けてます。


……そういうことにしておいてください(´・ω・`)




【警告っぽいナニか】

取り扱ってるネタがネタだけに、

「ハーレム・男性ひとりに対して複数の女性との関係」

を嫌悪する方は、閲覧を控える事をお勧めします。


また、実際そういう表現が無い(予定)ため、
期待されるとガッカリすること請け合いです。



読者のみなさんの暇つぶしにでもなれば、幸いです。



#090829 引越しに伴い、#1と分離してみた。



[10207] #1 どうやら俺は、主人公ではないようです
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/29 06:02
[#1]

ここに訪れている読者諸君になら、「オリ異世界転生モノ」で俺の置かれている状況説明は済むと思われるので、とりあえず今は割愛する。


さて、ここで問題です。


俺の友人に、すっげーいい奴(♂)がいます。
代わりに死んでもいい。とまでは言わないが、腕の一本ぐらいなら。程度に思えるぐらい、いい奴です。

で、当然ながら、そんな彼を想いを寄せる人々(♀)も、ひとりやふたりじゃありません。いっぱいいます。
それが、みんながみんな、美人で良い娘なんだよ。


で、いい奴(♂)といい娘達(♀)に幸せになって欲しい。って思うの、おかしくないよな?




異世界で親友のために下世話焼く男の話

#1 どうやら俺は、主人公ではないようです




それなりに平和が維持されているけど、やっぱりどこかで魔物が暴れてたり戦争があったりする、お約束的な中世ファンタジー世界に転生した俺がいました。

しかも、弱小ながら地方領主(残念ながら貴族では無いが)の次男坊。

転生者補正で俺TUEEEEEEEとか、領地経営マンセー的な夢見たりとか。
そんな時期が、俺にもありました。


結論から言うと、何の補正も無かったりするんだわ。これが orz


まぁ前世記憶とか、同年代の子供に比べればアドバンテージはあったので、3歳にして辞書を引きながら王国法を読んでみたり、5歳にして学術書を読んでみたり、誰も知りえない科学知識なんかもあったりして、『神童』とか称されてたりもした。

でも、現領主たる親父と、後継者たる兄貴は健在な訳で。



うん。領地経営に口出したら疎まれちゃった。てへ(はぁと)


で、「『神童』と呼ばれた我が子・弟の才能を伸ばすのが親・兄の責務」とか、厄介払いっぽい感じで、14歳になるのと同時に遠く放れた王都の学校に入れられてしまいましたよ。
貴族とか豪商専用のハイソ学校って奴に。

そこで出会ったのが、件の友人。

彼も俺と似たような境遇で、地方の没落貴族の息子でしかも同い年。はじめの頃は無駄にライバル意識なんかも持ってたりしてたんだけどな。


いや、相手が完璧超人だと、戦意すら失せるわw


夜は誰よりも遅くまで起きていて勉学に励み、朝は早く起きて武術の鍛錬。授業は誰より熱心に受け、人付き合いを欠かさない。

誰にでも優しく、気が回り、驕る事無く、笑顔を絶やさない。

甘いマスクと柔らかそうな癖毛が女性に好評。


そんな完璧超人な彼に対し、


変に大人っぽい性格(まぁ、精神年齢で言えば40歳近い訳だが)、政治経済分野への知識偏重。

裏で変に策練るタイプだが、人当たりが決して良い訳ではない。

容姿に至っては十人並とか。


という、補正とか全く無い俺のスペックではどう考えても太刀打ちできないのである。


まぁ、元々彼から喧嘩を売られていた訳でもないので、方針転換は容易に成功。

同い年で似たような境遇。って事で、俺は簡単にアイツの友人にはなれたんだが、地位とか財産しか彼に勝るところの無い、アイデンティティに乏しい馬鹿な奴らのやっかみは受けているらしい。

亡き母の形見のロケット(空飛ぶアレじゃないぞ?肖像画とか入れるような、蓋付きの小さな首飾りな)を傷付けられた時には

「別にたいしたことじゃないよ」

とは言っていたが、人知れず泣いていたのは知っている。

無論、それをやった馬鹿野郎には、俺がコッソリ「学校の歴史に残るであろう赤っ恥を掻かせる」という素敵な制裁を加えてやったのだが。


そんなこんなで今、俺はアイツの「悪友」というポジションにしっかり納まっていたりするのである。





背はちょっと高めだが、そんなにノッポと言う程は高くは無く。

体格は悪くは無い。剣術と馬術の鍛錬で鍛え上げられた、実用的でしなやかな筋肉が無駄無くついている、決してマッチョではない締まった体。

悪く言えば中性的な女顔なのだが、ベビーフェイスというか甘いマスクというか、常に絶やさぬ涼やかな笑顔と、前向きな性格から生まれる強い意志を持った瞳が、彼の魅力を引き立てる。

やや癖のある柔らかそうな栗毛を、ちょっと襟首にかかるぐらいの長さで小奇麗にまとめている。

それが、件の俺の友人、アデルの外見上のスペックである。

これでさらに、文武両道な人格者とか没落こそしているものの男爵家の嫡男とか。
それなんて完璧超人? って奴である。


「そういえば、先日の下級生の女の子との話は、どうなったの?」

どうやら、この目の前の完璧超人さんは、俺の事なんか気に掛けてくれているようですが。

いや、俺はまぁ、性格的にも容姿的にもバックボーン的にもアレなので、正直諦めているからいいのだけれど。

それにアレは、そんな浮いた話ではなく、ただ単に俺の得意分野である政治経済に関する質疑応答。みたいな内容でそれっきり。である。

「うーん、今度こそは脈あると思ってたんだけどねぇ」

首をひねるアデル。そんなさり気ない仕草でさえ、俺とは違いサマになる。

見た目平凡スペック、アデルがデンドロビウムとかキュベレイmkIIなエース機であるなら、ザクIIとかGMな俺とは大違いだ。

というか、俺の事なんか心配している暇があったら、ご自身に好意を示している女の子達をデートに誘うなりしなさい。悪いこと言わんから。


……まぁ、一事が万事こんな感じでなのある。

俺が影で手を回してやらねば、草葉の陰で涙する女の子を量産しかねない。
こいつ、自分のスペックを自覚してないからな……。







#090711 初稿
#090711 誤字修正とか。
#090817 冒頭文若干修正とか、こっそり誤字修正とか。
#090829 冒頭文と分離してみた。





[10207] #2 「ハーレム in 異世界」計画発動
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/17 20:22
[#2]

さて、まずは皆に誤解無きように説明をしておきたい。

俺には「寝取り寝取られ大好き属性」は無い。全くもって無い。

大事なことなので2回言いました。

あと、女性の方々には石投げつけられそうであるが、ハーレム状態でモテモテウハウハが大好きなのだ。
某総統代行風に言えば「諸君、私はハーレムが好k(ry」なのである。


さて、諸君らに質問。


諸君の好きなラノベ・ゲーム・漫画etc.で、魅力的なヒロイン達に囲まれ、モテモテの主人公(♂)がいる作品を思い浮かべて貰いたい。
そこで諸君達は、何を望むだろうか?

その主人公に自分を投影し、偽りのハーレム気分を味わう。ふむ。まぁ、それもいいだろう。

だが、本当にその作品を愛しているのであれば、「主人公とヒロイン達全てが揃った、幸せな日々を送る姿」を夢想しないか?

あくまで、そのヒロイン達の幸せは、その主人公とくっついて幸せな日々を送ることであろう。

だが、一夫一妻制という、たかだか数百年のうちに定着した「常識」のせいで、残念ながら二人以上の女性が主人公と結ばれることは無い。悲劇が待ち受けているのである。

今、俺がいる世界では、貴族とかいうお偉いさんであれば「血筋を維持するため」という理由で複数の女性と結ばれることが、合法的に可能なのだ!


……些か興奮しすぎたようである。失礼。


今、俺の目の前に、愛すべきヒロイン達と主人公が、リアルで存在しているのである。しかも合法的にハーレム構築可能な主人公が。


悲しいかな、俺は主人公ではない。

領主の息子とはいえ貴族ではないし、そもそも嫡男でもない。さらに、俺にはそんな魅力など皆無であることは流石に自覚している。

だから。と言う訳でもないのだが、ここは是非我が友人に、俺の叶わぬ夢であり漢の浪漫であるハーレムの主となって貰いたい。と夢見るのである。


夢は君に託すぞ。アデルよ。(血涙)





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#2 「ハーレム in 異世界」計画発動




放課後、若草の生え揃う川べりの土手に、ふたり寝そべり雲ひとつ無い青空を仰ぐ。

学校から寄宿舎までへの道に面した場所であり、いくらか見知った連中も遠巻きに見かけなくも無い。
だが、特に俺の奇行は今に始まった事ではないので、遠巻きながら生暖かい視線が届くだけで、俺達に声を掛けよう。という輩はついぞ現れない。

春のうららかな日差しと、萌えいずる新緑の清々しい香りを含んだそよ風が心地良い。


……シチュ的には、放課後友人二人で草むらに寝そべり、熱く未来を語る。ってな感じである。


「あと1年か。短いようで長いな」

「でも、長いようで短いぞ」

アデルの何気ないひとことに、俺が答える。

そう、卒業まであと1年なのである。計画遂行までに残された時間は、長いようで短い。

「確かに。
 あと1年で学べる事学んで、病床の父上に代わって領地を治めなきゃいけないし。ね」

うちの殺しても死ななさそうな親父殿と違い、アデルの父親は体を壊し、病床にいながらにして政(まつりごと)を行っているらしい。

当然補佐の人間もいるのだろうが、学問を修め立派になって帰って来る跡取りを、一日千秋の思いで待ちわびているのは想像に難くない。

他人の不幸を喜ぶつもりはサラサラ無いが、アデルが領地を継ぐのも、そう遠くない未来のはずである。


俺は勢いをつけて半身を起こし、アデルの方へ振り向く。

「ま、学校出たら、お前の実家の領地経営手伝ってやるよ。
 金稼ぎの手法だけはお前に勝てるつもりだし、一応田舎では『神童』呼ばれてたんだぜ。俺」

俺の言は、つまり、俺の実家を差し置いてタダ同然で彼の実家を手伝う。という宣言に他ならない。

「いいのか?そんな事言って」


彼の反応は当然なのだが、俺にも都合って奴がある。例の計画以外に。

「いいんだよ。どうせ兄貴が家継ぐんだろうし、親父だってあと10年は殺しても死なないよ。
 逆に言えば、下手に領地に戻って兄貴との確執作る方が怖い」


出る杭は打たれる。

素直に領地に帰って手伝うのはいいが、それで疎まれ嫉まれるのならば、赤の他人の土地で有無を言わせないだけの「確固たる実績」積んで帰郷した方がいい。

最悪、兄貴に謀殺されるしな。悲しいけど、それが上流社会の現実なのよ。

アデルの顔も曇るが、まぁ、この辺は言わなくても判るんだろう。貴族だし。


「でだ。話は変わるが、本命。誰よ?」

うむ。突飛なような気もするが「気まずくなった話題転換のための無茶振り」と考えれば、実に自然な切出しである。
自画自賛。

気まずそうな表情から、半ば自嘲的な微笑に代えたアデルが答える。

「いや、今の僕に、そんな余裕無いよ。
 正直好意寄せてくれるのは嬉しいし、それに答えたいとも思うけど。
 せいぜい、今の僕にできる事と言えば、彼女たちを失望させないように真摯に振舞うぐらいだよ」

うわー、好意を好意で返しながら進展無しとか。どんだけお預け状態なんだよ。

コイツ、天然なのか計算ずくなんだか判らんが、女誑しの才能あるわ。


だが、このままではイカン。枕を涙で濡らす女の子を量産するだけだ。
それは俺的にNGである。


「アデル。お前に敢えて言おう。
 惚れた女全員抱え込んで、幸せにしてやる。ぐらいの気概あってこそ漢である。と」

その辺に生えていた、白い小さな花を根元の方から引っこ抜き、手に握り締めながら力説する。
うん。コレは大事なことです。


さらに敢えて言いたいのだが、これは俺の心の中だけに留めておく。




俺の叶わぬ夢であり、漢の浪漫である。と。





まぁ、アイツの意識改革はこんな感じで徐々に洗脳もとい説得していけばいいとして、だ。
どちらかというと、女性陣の意識改革が必要不可欠な訳だ。

計画がうまくいってアイツの元に女の子達が集まったとして、そこで女の子同士が反目しあっていたら、せっかくのお膳立ても台無しである。

世の中には、嫉妬で板ばさみにあって「だが、それがいい」という奇特な輩もいるようだが、俺的には正直ゴメンである。
多分アイツも御免蒙りたいはずである。毎日が修羅場とか。

そこで、足しげく標的である女の子達の下に通い、「アイツとの仲を取り持つ」という名目の元、さりげに洗n(ry を繰り返しているのである。



政治の世界とは、根回しの世界なのだよ。マンドクセぇ事に。






#090711 初稿
#090817 こっそり誤字・改行修正

【作者の言い訳】


「ハーレムスキーが、自分のじゃなくて友人のハーレム構築して悦に浸る」というデムパを受信した。
そして勢いで書いた。

おにゃのこ達との絡み(XXX板的な展開は無いよ!)は、次話から。




[10207] #3 伯爵令嬢・エリーゼさん
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/17 20:20
[#3+0.1]

確か彼女とアデルとの馴れ初めは、
「不埒な輩共に誘拐されそうになったところを、単身乗り込んだ彼に救い出される」
という、吟遊詩人もびっくりなシチュエーションである。

そりゃ、惚れるなという方が無理であろう。


アイツに言わせれば

「婦女子を守るのは貴族たる男子の役目。当然だろ?」

との事なのだが、それでも素人さんじゃない輩と5対1とか。
剣の達人でも無いんだから、正直御免蒙りたい。

だが、アイツはそれを何の気負い無しにやってのけるのである。そこがシビレる憧れる。
流石はエース機。ザクIIとかGMな俺とは大違いである。


閑話休題それはさておき


今日のターゲットは、伯爵令嬢ことエリーゼさん。

(俺の中で勝手に決めた)正妻候補さんである。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#3 伯爵令嬢・エリーゼさん




今、故あってエリーゼ様と対峙している訳なのだが。


肩口まで伸びた、ふんわりとウェーブの掛かった艶やかな髪。
小さく整った鼻に、表情豊かで長い睫毛を湛える両瞳。
ルージュでも指してるのだろうか?艶やかでほんのり赤い唇を割って発せられる声は、凛として涼やか。

やもすると折れそうとも錯覚してしまうほっそりとした体格ながら、出るところはしっかり出ていて、飾り気の少ない上品なシルクの白いドレスを持ち上げ自己主張している素晴らしいプロポーション。

物腰は柔らかく、生まれながらの教育の賜物から生み出される気品。


たおやかにして清楚。そんな形容が当てはまる、見事なお嬢様っぷりである。

個人的には白いワンピースに麦藁帽子が、物凄い似合うんじゃないか。と。


「で、ですね。
ここはやっぱり、イニシアチブをガツンと決めるべきかと」

「ガツンと。ですか?」

小首をかしげ、こちらを見つめる仕草ですら様になる。
やはりお嬢様はイイ。すごくイイ。萌え~。


ちなみに、ターゲットである彼女達との接触にも、かなり気を使っている。
何せ、まかり間違って俺と変に噂が立とうものなら、あのアデルのことである。「お幸せにね」とか言いかねん。

それ、ターゲットに対するBAD ENDフラグと言っても過言じゃないですから!


「やはりここは正攻法で、一緒にどこかに出かける。というのはどうでしょう?
ふたりきりで」

「一緒に……ですか?」

始めは虚ろに俺の言葉を反芻するものの、その意味を理解して頬を赤らめる。
早い話が「YOU! デート誘っちゃいなYO!」という意味である。

ここで俺は、エリーゼ様のために用意してあった「フラグ成立プラン」を提案する。


「口実は、そうですねぇ……
『エリーゼ様個人が、アデル個人へまだお礼をしていないから礼をする』ため。
ってのはどうでしょう?」

先日の誘拐騒動に関しては、伯爵家から男爵家へという形で、既に礼は成されている。
そのためアイツの性格から、再度「お礼」と言っても固辞されるのがオチである。

そこで「被害に遭い、救われた当の本人からの礼」という形で改めて。という見事な口実を使うのである。

……ここまで言われたら、流石のアデルも断れないだろうし。


「お礼……。
そうですね。確かに、私自身から彼自身へのお礼。というのは今まで忘れていましたわ!
でも、具体的にどのようなお礼をしたら宜しいのでしょう?」


うし、掛かったっぽい。
ならばここで切り札を出して、一気に畳み掛けるしかあるまい。


「ティエーヌ湖畔。なんてどうでしょうかね?」


ティエーヌ湖畔。まぁ、早い話がこの近辺でのデートの定番コースである。

しかもご丁寧に「ここを訪れるカップルは結ばれ、末永く幸せに過ごすことができる」という伝説まで付いているぐらい、定番中の定番。

……この前下見に行ったら、その手の記念品売り場とか出店とかあるんだぜ?


当然、恋する乙女であるエリーゼ様が、そんな事を知らない筈も無く。
ただでさえ赤らんでいた顔が、漫画みたいに真っ赤になる。おもすれー。

両掌を頬に沿え、上の空で「騎士とお姫様」とか「永久の約束」とかブツブツ言ってるが、夢見る乙女なんだから仕方あるまい。萌え~。


「では、詳細をお話しましょう」


ただ、いつまで経っても呆けられていてはキリが無いので、この辺で再起動願うことにしたのだが。



[#3.1]


伯爵家の御令嬢……エリーゼ様から「個人的に、僕個人へのお礼をしたい」と声を掛けられ、今度の休日を空けておいて欲しいと要請された直後、その意味を取りあぐねていた僕は、偶々見かけた親友に声を掛ける。

「これって、デート。
 ……みたいなものだよねぇ?」

こんな事を気兼ね無しに相談する事ができるのも、この学校では彼ぐらいのものだろう。


「いや、それは“そのもの”だろ」

常識的に考えて。と呟くように付け足され、彼から返される。

うーん、やっぱりそうだよねぇ。

正直、今まであまり女性との付き合いの無かった。いや、修学途上の若輩者の身としては、意図してそういった関係を避けていたというのもあるのだけれど。
いざ当事者となってみると、心穏やかではいられない。というのが、偽らざる今の心境だ。


「ま、今更無視したり断ったりなんてできんだろ。
 むしろ当日は、お前がエスコートするぐらいの気分で行ったらどうだ?
 そっちの方が気が紛れるんじゃないか?」

確かに今から断ったり。なんてのはできないだろう。
その意味では、彼の言うとおり主導権を自分で握ってしまう。というのも悪く無いのかもしれない。

そんな事を考えていたら、何やらニヤニヤしながらこちらを見ている彼。

「えーっと、笑い事じゃ無いんだけど?」

うーん、正直、こういう場面では彼に勝てたためしがない。


「ま、死にはしないから、てきとーに頑張れ」

……と、彼の提案を安易に受け止めていたら、当日ちょっと後悔する羽目に遭ったのだけれども。





表向きは「アデルと彼女の応援」という事になっているが、実は俺の自己保身も兼ねていたりする。

まず、彼女がアデルの正妻になれば、伯爵家からアデルの実家である男爵家へのテコ入れがあるのは想像に難くない。

何故なら、伯爵家の領地は海に面していないが、男爵家は海に面している。
しかも、おあつらえ向きに、隣接こそしていないものの伯爵家と男爵家は近い位置にある。
そして、男爵領は海に面しているので、資金さえあれば港を増築開発できる。

……あとはわかるな?


その辺を、あれこれやり取りするのは俺の役目だとして、だ。

アデルは綺麗な嫁さん貰えるし、彼女は惚れた男に嫁ぐ事ができる。
伯爵家は港を利用して貿易できるし、金の無い男爵領は伯爵の資金援助で港を拡張できる。貿易のお零れだってあるだろう。
そしてそれを取り仕切った俺は名声を得て、実家に帰ったときも邪険にされないされにくい。

と、みんながみんな幸せになれるのである。


うむ。趣味と実益を兼ねた、我ながら完璧なシナリオである。



……上手くいけば。なんだけどね。


#090711 初稿
#090817 若干加筆(#3→#3.1)



[10207] #4 材木問屋の娘・カティナさん
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/07/12 18:47
[#4]

「ふむ、これは……想像以上に素晴らしい」

思わず頬が緩み、呟きが漏れる。

自作の望遠鏡(まだ凸-凸レンズな望遠鏡が主流で上下反転するので、凹レンズ作らせて自作した)で、ボートの上で何やらイイ雰囲気になっている二人を確認。

今、エリーゼさんが頬を軽く染めながらアデルに手渡しているのは、俺が入れ知恵して作らせたサンドウィッチだ。
アレが彼女の手作りだと更にポイント高いんだが、召使いにでも作らせたんだろうな。多分。

気分は「イベント絵ゲットだぜ!!」な感じ。と言えば、諸君らにもご理解頂けるだろうか?


今はまだヒロインひとりだが、ここは是非とも全ヒロイン絵コンプ&ハーレムエンドへと突き進んで欲しいものである。

というか、是が非でも俺がそうさせるんだが。


「ママー。あのお兄ちゃん、変な筒 目に当てて笑ってるよ?」

望遠鏡も知らんのか。……お子様はコレだから困る。

今日のティエーヌ湖畔近辺は天候に恵まれ、春のうららかな日差しが降り注ぎ、柔らかいそよ風が優しく頬を撫でる。絶好のデート日和である。


「ママー。わたしもアレ見たい」

……お子様よ、空気を読め。

ああそうか、穏やかな日差しの下でのデートならば「木陰で膝枕」という重要なイベントを失念していたな。実にうっかりだ。
まぁ、今回は時期尚早。次回への宿題としておこう。


家族連れなども賑わう、ある休日の昼下がり。
平和なひとコマである。


「指差しちゃいけません!」


……人が幸福な思索に耽っているというのに、さっきから外野が騒がしくてイカン。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#4 材木問屋の娘・カティナさん




次のターゲットは、とある田舎の材木問屋の娘。カティナさん。


彼女の実家は、他に産業が無いので森の樹を切って売る。という、俺に言わせればアホな領主の代名詞みたいな奴の使いっ走りにされている。

何も考えずに樹切ったら、森無くなるじゃん? 馬鹿なの? 自分の首絞めたいの?
文明レベルが低い状態では、森は重要なリソース源なんだぞ?
森丸裸にしたら、洪水とかの原因にもなるんだぞ?

表現が辛辣になっているのは、ちょいと彼女の実家に探りを入れてみたら、どうも収益の殆どを前述のアホ領主が吸い上げ、尚且つコキ使っているらしいという事が判ったからである。

まぁ、悪用すればそのぐらいの権力あるからな。地方領主。
現に「地方領主の次男坊」が言っているのだ、間違いは無い。

で、経済的に無理してでも娘を王都の学校に入れたのは、このアホ領主に目をつけられる前に、せめて。という、涙ぐましい現実があったりする。


あの天真爛漫な女の子が、アホ領主の餌食(になるかも)とか、あり得んだろ。



……という事で、下世話ながらとっとと想い人とくっつけちまおう。という話なのである。





同世代の女の子より、さらに頭半分ほど低い小柄な体格と健康的な肉付きの肢体。
腰まで届くほどの長い髪を、首当たりから三つ編みにしているため、活発に動き回る彼女と共にその髪の毛も大きくピコピコと動き回る。

出るべきところはちょびっと寂しいが、それでも女性特有の柔らかい曲線美を形成しており、コレはコレでアリである。
うん。むしろコレぐらいでもいい。

クリッとした瞳にちょっと丸みのある可愛らしい小鼻。表情豊かにその形を変える眉。
思わず頬擦りとかしたくなる、柔らかそうなほっぺた。

常日頃から活発に動き回り、他の女の子たちとも笑顔で接する行動的な女の子。と思われがちだが、その実内気なところもあり、未だに想い人にその想いを伝えられていない。


これが、今俺の目の前にいるカティナという女の子のスペック。

天真爛漫・元気溌剌でありながら、庇護欲を誘う小動物的な。
そんな形容が似合う、愛らしい少女である。

俺的には、どうしてこっちの世界にはホットパンツが存在しないのかと、神様に小一時間問い詰めたいところではあるのだが。


「うーん、ここは古来より伝わる正攻法で行くべきだろ」

「正攻法?」

小首をかしげて、小動物のように怯えるような目つきでこちらを見るのは反則だと思います。カティナさん。


彼女の方から話しかけてきたりとか、「変わり者」の称号が定着しつつある俺に、未だにふつーに接してくれたりとか。

そりゃ俺だって、ほんのひと時は夢を見た時期もあったさ。男の子だもん。

ただ、アデルの姿を目で追ってたりとか、アデルの前だといつもと違って無口になる様とか、それとなく(というか、かなりバレバレだが)アデルのこと聞かれたりとかね。

「アデル君ってモテるよね。
今、付き合っている人とか、いるんだろうなぁ」

「昨日アデル君と一緒に出かけてたみたいだけど、どこ行ってたの?」

「アデル君って、どんな本好きなのかな?」


流石に察するさ。無駄に人生経験だけは長くないですから。

……こ、これは汗なんだからねっ! な、泣いてなんかないんだからねっ!!



回想終了それは置いといて



今日のテーマは「カティナからアデルへの告白イベント発生」。ズバリこれだ!

ぶっちゃけ、普段から彼女の方から「将を射るための馬」として俺に接してくれていたおかげで、今回は仕込みがひじょーに楽だったり。


「うむ。良くぞ聞いてくれた。
やはりここは、その想いを文にしたためて、手渡すのが一番だな」

早い話が「YOU! ラブレター書いて送っちゃえYO!」って事である。

彼女の、活発的に見えて実は引っ込み思案な性格を考えれば、いきなりデートに誘い出すとか、面と向かって告るとか、無理だろうし。

いや、ラブレター手渡しも結構敷居高いんだが、「赤面しながら頭下げて、上目遣いに見上げながら両手で恋文突き出す」シチュは外せんだろう!

……っていうか、屋内でも土足だから下駄箱無いし。
おかげで「放課後、伝説の樹の下での告白」案は、10秒で頓挫してたりする。


話を戻そう。

それが彼女にも判ったのか、

「えっ!ええ~~~~っっっっ!!」

瞬時に顔を真っ赤にして、そのクリッとした瞳を大きく見開く。

こっちの世界の女の子の初心な事ったら、「見た目は少年・中身はオヤジ」な俺には最高のご褒美ですよ。
リアクション萌え~。


「そそそそれ、多分無理。絶対無理!」

はわはわしてる彼女のリアクションを、このまま楽しんでいてもいいのだが、時は金なり次の仕込みなんかもあるので、やや惜しいものがあるが次に進む。


「うーむ、となれば
『彼の部屋で手作り料理を披露して、その後はムフフ』とか
『自分に大きなリボンつけて「プレゼントは ワ・タ・シ(はぁと)」』とかもあるのだが、
こちらは素人さんにはお勧めできんしなぁ」

右手を顎に当て、左手を右手に沿え、所謂「考え込んでいるポーズ」を決める。
仰々しく言うのがポイントだ。

いや、正直そこまでされるとドン引きの可能性もある訳だが。
敢えて(彼女にとって)不可能な選択肢を並べることによって、「はじめの提案が一番マシ」という状況に追い込む。

冷静に考えれば判る事なんだけど。ま、今の彼女じゃ無理でしょ。


「そんなの無理無理無理無理!!」

さらにヒートアップして、首を左右にブンブン振り回す仕草まで追加された。
……このままだと、目を回して倒れかねんな。

流石に心配になってきたので、そろそろ畳み掛けるか。


「ま、男ってのは好意寄せられて、悪い気はしないもんなんだよ。
特に、カティナみたいに可愛い女の子からは。な」

端から聞けば口説き文句みたいだが、まぁ、脈はないのは判ってるし(涙)

言ってる俺もちょっと恥ずかしいモノがあるが、逆にこんな事を言って後押ししてやらないと、実は尻込んだりするのを知っている。

なんつーの?手間のかかる元気な妹みたいな?


「とりあえずさ、面と向かって言いにくい事でも、手紙にならできるだろ?
当たって砕ける覚悟ぐらい無いと、始まらないぜ?」

実際に当たって砕けられては困るのだが、そこはそれ。


「うー」

頬膨らませて睨みつけるのはいいんだけど、ラブレター書くのは確定な?

俺は、前もって用意してあった詩集2冊を彼女に手渡す。

「とりあえず、これとこれ。どっちも有名な宮廷恋愛劇作家の詩集な。
言い回しとか、適当に真似しておけば、それっぽい文章にはなるぞ」


きちんとラブレター手渡しで受け取るように、あとでアデルのほうにも根回ししておかねばイカンね。



この数日後、上の空なカティナさんを心配したアデルが彼女に声を掛け、それで動揺した彼女が手荷物ブチ撒けて転倒。それを拾う最中に二人の手が触れ合う。

というお約束なイベントが発生していたが、当然、そのシーンもリアルタイムで鑑賞させて頂きました。


うーん、眼福眼福。





さて、こんなカティナさんであるが、彼女がアデルとくっつく事によって、俺にもささやかながらメリットがある。

正直、彼女の実家はそんなに裕福とは言えない材木問屋である。
だが、よく考えて欲しい。建築・造船共に、材木は必須なのである。

俺はいくつもの計画を用意して、とにかくアデルの男爵領を開発し、収益を上げようと画策している。
1stターゲットである伯爵令嬢エリーゼさんとの婚姻以外にも。だ。

そうなったとき、あるいはその過程で、どうしても材木というのは必須なのである。


現代社会で鉄鋼や原油が必要とされるように。


こんな時、足元見られて高く売りつけられるよりは、身内だからと少しでも安く仕入れられれば、あるいは単にボッタクられないだけでも、それに越した事は無いのである。


アデルは可愛いお妾さん得て、彼女はアホ領主に目をつけられる前に、惚れた男の元で家庭を築くことができる。
彼女の実家は「男爵家にコネがある」という名声と、男爵領でもっとマシな商売を始める機会を得る。
男爵領は自領の天然資源を保持したまま、少しでも安く木材を入手できる。
そして、経費が少しでも浮けば、俺が目指す実績を上げやすくなり、ひいては俺の名声にもつながる。

と、いいことずくめなのである。



まぁ、例によって上手く行けばなんだがなー。









【作者の言い訳】


突発的に投稿してみたものの、後になって「需要あるんかいな?」と軽く凹みもしたけれど。

想像以上に好評で正直安堵した(/ω\)


好感想だけではなく、内容・表現・文体への批評とか、「萌え度足りねぇYO!」とか「説明冗長で読みにくい」とか。
ひとつ思うような所があれば、是非とも今後の参考にしたいので、ご意見頂ければ幸いです。



#次の更新は一週間以上後になりそうdeath。





[10207] #5 地方領主の長女・レヴィさん
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/29 06:08
[#5]

じきにカティナさんによる「ラブレター作戦」が実行に移されるのも、時間の問題であろう。
さらにエリーゼさんは、次のデートの約束を取り付けたそうである。
意外にやるな。お嬢様。

まぁ、それはいい。


だが、一方で俺に関係する女性といえば、例の下級生の女の子ひとり。というのはどうなのか?

ショートボブに牛乳瓶底もかくやという丸眼鏡。

もしかして美少女なのでは?とか思って観察してみるも顔逸らすし、可愛げがあればいいんだけど愛想無いし、色気も無いし。

さりげなく世間話振ったら無視されるし、万が一という期待に胸膨らませて名前聞いただけなのに、逃げられたしっ!!!!


その辺がエース機と量産型MSとの差である。と言えば、それまでなんだけどね(涙)


「やっぱりあの娘、君に気があるんじゃない?」


アデルよ、お前には 本 当 に そう見えるのか?
だとすれば、正座させて小一時間ほど説教したいのだが。激しく。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#5 地方領主の長女・レヴィさん





さて、今回のターゲットであるレヴィさん。
俺と同じように、弱小地方領主の娘さんな訳だが、とってもびみょーな立場にいる。

とある田舎の領主の一人娘として生まれ、現領主である父親の命に従い、王都の学校までやって来て猛勉強。
やがては家督を継いで、次期領主になる予定だったんだ。


うん。過去形。


というのも、レヴィが学校に行って親父さんが羽目を外したのか、十数年来の第二子誕生。
しかも男の子。

この瞬間、彼女の立場は微妙なものに変わった事は、想像に難くないと思われる。

で、一時的に精神的に荒れてたレヴィの支えとなったのが、例によって例のごとく、件の人物アデル君。



君、なんでそんなにフラグ立てるの上手いの?

俺のところには、訳判らん女の子しか来ないのに(涙)







「私には、貴方に用は無いんだけど?」

女性にしては高めの、俺よりちょっと低い程度の上背に、武術・馬術鍛錬で鍛えられたスレンダーな肢体。
今でこそ剣術演習用の革と綿で作られた胴革鎧(キルボアール)に隠されちゃっているけど、大きすぎず小さすぎず、神が女性のみに与えた美しい曲線を誇る、その双房。

肩より上で綺麗に切り揃っている、癖の無いサラサラの亜麻色の髪。
大きいながらも鋭い双眼。薄いながらも小ぶりで艶やかな唇。

意志の強さを表すように、やや太目ながら流れるように鋭く整った眉を尖らせ、胸の下で腕を組み、斜に構えてこちらを睨みつけているという、

のっけから拒絶オーラ全開なこの女性が、件のターゲット。レヴィさんである。


「ちょいとアデルの件で。な」

基本的に「アデルの悪友」である俺が、あいつの名前を出せば一発な訳だが、レヴィは他の女性陣とは一味違う。

目を閉じて、嘆息ひとつ。


「いっつも彼の名前を出せば、私が食いつくと思わないでよね」

台詞は相変わらずだけど、見開いた目つきが好奇心丸出しのソレに変わる。
まぁ、はじめの頃はとっつき難かったが、慣れれば面白いモンではある。


そう、所謂ツンデレさんなのである。


クールビューティ。と呼んで差し支えないその容姿でツンデレとか。似合い過ぎである。
彼女と話をする度にいつも思うんだが、髪伸ばしてツインテールにしてくれねぇかな……。


「いやね、この前に休みの日にアデルがだな」

今回の作戦はこうである。「対抗心を駆り立てて、デレ比アップ」みたいな?
ただ、ここから先は匙加減が非常に難しい。

「エリーゼ様と一緒に居たんだわ。“ティエーヌ湖畔”で」

“ティエーヌ湖畔”というキーワードでレヴィさんの表情が固まる。

詳しくは二話ほど前に語っているので説明は省くが、とどのつまり「二人が定番のデートコースにいた」という意味である。


「だ、だからどうしたって言うのよ?」

口調こそいつもと変わらないが、声はかすかに震え、目も潤み始めている。
うむ。別に彼女を泣かせたり意気消沈させるのが目的ではない。フォローも入れるかね。

「んー、ただ、例の“誘拐未遂事件”あったしな。
 そのお礼。って口実らしいぞ」

まぁ、その口実使わせたの、何を隠そう俺なんだけどなw

つまり、アデルとエリーゼさんが一緒にティエーヌ湖畔に行ったのは事実だが、始めからデート口実じゃなかったんだよ。という事を言いたい訳である。

というのも、始めからデート口実であれば「何OK出してんだゴルァ」とアデルに矛先が向かいかねないし。


「……お礼じゃ、仕方無いわよね」

その理由に納得した。というよりは自分を納得させようとしているレヴィさん。
だがね、申し訳ないんだが、今日はそれじゃ困るんだわ。


「うん。お礼なら仕方ないよなぁ。
 例え、これで一歩先んじられたとしても。だ」

ここは敢えて嫌味ったらしく。
彼女の尻に火が付いてもらわねば、時期的にもそろそろ困るので。


「べ、別に競争とかしてる訳じゃないわ」

口を尖らせて、拗ねる様子も可愛らしい。
まぁ、上から目線を確保できれば。の話なんだけどね。

こっちとしては競争というか、張り合っていい意味でエスカレートして欲しいんだけど。

「まぁ、流石に相手が悪いとしてだ。
 さらに、エリーゼ様から“次回の約束”されたらしいよ」

「さっきから何が言いたいのよ!」


俺を含めた殆どの人間に対して、一事が万事、こんな感じである。
「ツンデレ」なんてモノを知っている俺ならともかく、アデルとかに理解はされてはいない。と思う。

ちなみに、アデルに対してだけは

「違う環境では公正な勝負ができない」と言いながら、アデルに貴重な本を貸したりとか、
「実家から大量に送られてきて困る」と言いながら、明らかに手作りのクッキー持ってきたりとか、
「風邪をうつされたら困る」と言いながら、薬をわざわざ郊外に調合してもらいに行って手渡したりとか。

誰がどう見ても、見事なまでのツンデレさんなのである。

まだ、こっちの世界的には500年は先取りしてるんじゃないのか?


普段からツンツンしているレヴィさんだが、こんな態度しか取ってくれない彼女の事が別に嫌いなわけじゃない。

むしろ、「素直じゃないなー」と考えれば可愛いモンであるし、彼女の置かれている特殊な環境が今の彼女を作り上げたと考えれば、同情のひとつもしたくもなる。
個人的には非常に似た境遇に居るので、是非とも幸せになってもらいたいのである。

ま、デレはアデルのために取っておいてあげてください。


「いや、このまま何もしなかったら、居場所すら無くなっちゃうんじゃね?って話」

俺の計画的にはそんな事はないのだが、このまま変に意地張ってアデルとすれ違ったままだとなぁ。


「じゃあ、どうすればいいって言うのよ?」

要は、だ。
ちょっと前衛的過ぎるのですよ。レヴィさん。


「今更、単にエリーゼ様と同じ事しても二番煎じだしさ。もうちょっと素直になったら?
……いっそのこと、『好きだ』ってズバッと気持ち伝えちゃうとか」

顔を真っ赤にして口をパクパク。貴女は金魚か何かですか?
それとも、この期に及んでまだ自分の気持ちがバレて無いとでも思ってたのかね?


ふっふっふ。周囲の目は誤魔化せても、この俺の真理眼(色恋沙汰限定)は誤魔化せはしないのだよ。


その後、居た堪れない空気になっちゃったのと、次に剣術演習の時間がある。という事で、その場は解散。

このあと、剣術の演習で俺をコテンパンに叩きのめして上機嫌になったレヴィが、今度はアデルに挑戦して体勢を崩し、転倒を防ごうとしたアデルに抱えられ、真っ赤になる。
という、お約束イベントを披露してたりする。


直後の、野次喝采の音頭取ってたのは俺ですが何か?



え、俺? 剣術はからっきしなんだよ。なんか文句あっか!!(泣)






まぁ、レヴィの場合、ある程度アデルとの仲を取り持ってやって、彼女の実家に根回しすれば勝手に話が進む可能性が高い。
その意味では、他のターゲットよりも非常に気楽。

なにせ、相手は男爵家の跡取りであるし、嫌な話だが、レヴィはこのまま彼女の実家に残っていれば後継者問題の火種になりかねない存在だからだ。

彼女の実家にとって、男爵家との強力なコネができて尚且つ厄介払いができる。というメリット満載の話だからである。それが正妻ではなく愛妾だとしても。



だがな、世の中ギブアンドテイクって言葉があってだな。
こっちにも利益誘導させて貰っても、バチは当たるまい?


方針としてはこうだ。


男爵家に嫁ぐにあたって、相応しい持参品として、金銭ではなく人材を要求する。
服飾・調理・書記・調薬のできる人間をだ。

ちなみに、ド田舎である地方なんかでは、これらのスキル持ちは領土に1・2人。下手すると0人とかいう事もあるぐらいレアである。

田舎なんかだと、領土内での労働力の殆どが一次産業に従事してるしなー。


レヴィの親父さんがただの馬鹿なら、金が出ないことを喜んで放出してくれるだろうし、頭の良い人間なら将来的な自領へのデメリットに頭を悩ませつつ、娘を追い出すように嫁がせる罪悪感と男爵家とのコネを天秤に掛け、そう簡単に断ることはできないだろう。


人材が手に入る。という男爵領のメリットもあるが、それ以上に「嫁いだ彼女が不自由しないように」という親心を演出してやることができる。

実際にレヴィの親父さんが、彼女をどう思っていようがいまいが。



これぐらいやってやれば、レヴィの溜飲を下げてやれるのかねぇ。







#090827 こっそり改行とか修正

【作者の言い訳】

尚、ツンデレからツン取ってどうすんだYO! という苦情は受け付ける(´・ω・`)





[10207] #6 女教師・ミシェリさん
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/17 20:24
[#6]

「モテモテだな。親友」

もうね、ニヤつきが抑えられませんwww


エリーゼさんの再デートに始まり、カティナさんの恋文手渡しとか、今さっき発生したレヴィさんの「教室で堂々告白(でも口調は喧嘩腰)」とか、いろんなイベントが。

当然、全てリアルタイムで堪能させて頂きましたとも。ええ。


シャワシャワシャワと、遠くで蝉が合唱する声の聞こえる、とある初夏の日差しの強い日。
こっちの世界の夏は、日本みたいに湿気が無いのが非常にありがたい。

味噌や醤油が恋しくなるときもあるけれど。

風でもあれば非常に過ごし易いのだが、残念ながら今日はそれも無く。
こんな日は、窓の外から容赦無く照り付けてくれる太陽が恨めしい。


「なぁ、僕に隠し事とか、無いか?」

夏の暑さからなのか、それとも自身の精神を磨耗するイベントのせいなのか。
机に突っ伏し、ちょっと憔悴しているアデルから、ジト眼で核心を突いた質問を投げかけられる。

まぁ、普段から「YOU! 全員と付き合っちゃいなYO!」とか言ってる俺が一番怪しいしな。


だが、残念だったな。
既に回答のテンプレはできているのだよ、明智君。


「いや、確かにモテモテ君の事に関して、相談に乗ってやったりしたことはあるけど。
それを、直接お前に話す訳にもいくまい?」


嘘です。全部俺がシナリオ書いてます。
だが、全ては君と、君を想うおにゃのこ達のためなのだよ。



……もしバレても、笑って許してやって欲しい。うん。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#6 女教師・ミシェリさん




今日のターゲットはミシェリさん。20代半ばの独身。当学校の若き教師の一人である。

女教師と生徒の禁じられた関係。
ふたりっきりになって、手取り足取り個人授業とか。ハァハァ。

年上のお姉さんと魅惑のシチュ好きの俺としては、コレは絶対外せねぇっ!!


……今日は必要以上に気合が入ってます。K I A Iです。


さて、このミシェリさん。この学校で唯一「魔術とはなんぞや?」と、魔道に関する講義を行ってくれる人です。女魔道士です。

うん。みんな忘れてると思うんだが、今俺がいるこの世界は、所謂中世ファンタジー世界なんだ。魔法だって存在したりする。


え、俺? 全然才能ありませんが何か?

ここは○グ○ーツじゃないんだよ!無問題なんだよ!!(泣)


ただ、彼女が当学校にいる経緯が
「女で若造の癖に生意気だから、魔術研究と全く関係ない適当な仕事押し付けてやる」
と、魔術研究に全く関係ない、言わば窓際に回されたらしいのですが。

世間一般が地位やら財産やらつまらない事に囚われているのに対し、せめて象牙の塔は。とか思っていたら、こっちはこっちで名誉やら序列やらにこだわってるとか。

世知辛い嫌な話である。


閑話休題。


で、婚期も逃し(俺的には全く無問題なのだが、こっちの世界で20代半ば。というのは「行き遅れ」らしい)、このまま魔道士としての成功も無く埋もれて行くのか?という時に、颯爽と現れ、心の隙間を埋めたのが例によっt(ry アデル君である。


君、守備範囲広いね。


……俺も人のこと言えないけどな。






肩甲骨に届くまで伸びた、癖の無い艶やかなストレートの黒髪とか。
ルージュの乗った、厚みのあるセクシーな唇とか。
物憂げでやや垂れ下がった目じりに、右の眼の下には泣き黒子とか。

ちゃんと出る所は出てるけど、どちらかというとスレンダーでスラっと伸びた腕脚とか。普段はローブを纏っているため判りにくいが、特に腰から脚にかけての曲線美とか。

飾り気の無い小さな丸レンズの眼鏡をちょこんと鼻に乗せ、レンズ越しではなく眼鏡の上の方から上目遣いに覗き込んでくる仕草とか。
脚を組みかえる。というさり気無い仕草なのに、10代の小娘には出せない大人の魅力ある一挙手一投足とか。


うん。俺的に超どストライクなんだ。


残念ながら、俺の彼女さんにはなって貰えないけど。
正確に言うと、歯牙にも掛けられませんでしたけど。ええ(涙)


「いつも思うのだけど」

片腕で頬杖付いて、嘆息交じりに吐き出す何気ない台詞ひとつでも、やっぱり大人の女性は違うね。実にイイ。

「君に、何か利点でもあるの?」

「いえいえ。殆ど。
強いて言うなら……趣味を兼ねた無償奉仕みたいなものです」

実は、領地経営の視点からすれば、彼女のように魔道士連中の横のつながりの無いフリーな魔道士というのは非常に貴重なのだ。

魔術が使える人間がいると何かと便利。というのは、なんとなくご理解頂けると思う。
ただ、彼ら魔道士を人材として活用しようとすると、いろんな弊害もあるのもまた事実。

うん。組合(ギルド)的なモノの干渉受けまくるんだ。


やれ人材育成用の「塔」建築に出資しろだの、ほれ研究費出せだの、それ我々は真摯な求道者であり世俗の争いには関わらないだの。

まぁぶっちゃけ、雇うにはデメリット多杉。


でも、そういった魔道士の組合から爪弾きにされた彼女なら、そんな干渉受けることも無い。あっても突っ撥ねられる。

そういった打算もあるんだが、それは俺の都合だしな。
正直今は関係ないので、横に置いておく。


「趣味。ねぇ。
でも正直、私なんかが入り込む隙間、無いような気がするのだけれど」


他の若々しい女の娘達と違って、ミシェリさんとの会話は「間」が多い。
このなんつーか、まったりとしてしつこくない時間の進み具合が、なんとも心地良いのである。
大人同士(俺の外面は少年だが)、落ち着いて話ができる。というモンである。

あー、俺も早く可愛い嫁さん貰って、しっとりというかしっぽりというか、大人の時間を過ごしてぇ(泣)


「うーん、流石に伯爵令嬢を差し置いて。というのは無理だとは思いますが。
ただ、アイツは懐は広いですからね。傍にいるぐらいで四の五の言う奴じゃないですよ」


少し、間が空いて。嘆息しながらミシェリさんが呟く。

「せめて歳の差が無ければ。って思うわ」

いや、それは違いますよ先生。
歳の差は、絶対的な戦力差では無いのであります。


「歳の差。と言いますが高々7年とか8年とか。
人生40年も50年もすれば、大した差じゃなくなりますよ」


そうなのである。

いくら若くて綺麗な想い人と結ばれようとも、何十年も経てばジジイとババアなのである。


まぁ、絵面としてはあんまり思い浮かべたくないのだが、幸せな人生を送っていればいずれは否応無しにそうなる。
そう考えれば、たかだか7・8年の歳の差。と言うしかあるまい。

もっとも、目の前の女性がそれを言わせるだけの魅力があるからこそ。の台詞ではあるのだが。


「随分と、気の長い話ね」

それにだ。
年上の女性にリードされて○○○とか△

(※ 只今、XXX板的妄想が繰り広げられています。
 良い子の皆さんは、お花畑のイメージでお楽しみください)

×とかは外せないじゃないか!!

既に中身はオヤジな俺では、真の意味でこのシチュを堪能できないのが、残念でならん。
転生ついでに記憶も……消えたら、それはそれでダメぢゃん。


「やはりここは大人の魅力で……」

俺が言いかけたその時、奥の方からドクダミとクサヤと納豆を混ぜたような、強烈な匂いが漂ってくる。


ヤバいっ! タイムアウトかっ!!


「あ、ゴメンなさい先生。
用事があるんで、詳しくは次回。という事で」

中途半端な仕込みで心残りだが、「アレ」を飲まされるわけにはイカンのだよ。


後ろ髪引かれる思いで、別れの挨拶もそこそこに先生の部屋から脱出したのである。






「いつもアリガトね」

奥から、トレイに2つマグカップを乗せて部屋に入ってきた女生徒に礼を言う。

ソバージュの掛かった長い赤毛を揺らし、口元をうっすらと持ち上げて私に対し軽く頭を下げる。
元々前髪が長く目元は良く見えないが、どうやら微笑んでくれているようだ。

この女生徒・ターナは、この学校で数少ない魔道士としての資質ある娘で、実質上私の弟子に当たる。


「……お茶……した……」

彼女がトレイに乗せて持ってきたマグカップからは、湯気と共にしつこい客を撃退した異臭が放たれている。

この匂いが漂ってくると、いくら話の興が乗っていても即座に逃げ出す事から、以来、望まざる客を追い返す時には、彼女に煎れさせるようにこっそり指示する事にしている。

最近では、私の指示無しでも、彼に対してはコレを持ってくるようになったのだけど。


「でも、それ、私も飲めないわよ?」

鼻を摘みながら、トレイの上のソレを指差す。

脱兎の如く逃げ出した彼ではないが、私も飲めと言われれば逃げ出したくなる。それがこの異臭を放つ液体・シュテラ茶である。

なんでも、それなりに貴重な薬草を発酵させたもので、健康促進に非常に良いらしいのだけれど、それ以上にこの異臭はなんとかならないモノだろうか?
良薬口に苦し。を通り越して、精神的にダメージを受ける事この上ない。


「……健康に……良い……」

事も無げにズズズっとシュテラ茶を飲むターナ。


……できれば、ソレの処分も別の部屋でやって貰いたいのだけど。









#090720 初稿
#090817 【作者の言い訳】一部隔離(感想版へ)



【作者の言い訳】


主人公以外の視点をはじめて書いてみた。

#5で変態という名の紳士っぷりが減速気味だったので、ちょっと再加速させてみたよ。




[10207] #7 学者の娘・セシルさん
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/17 20:28
[#7]

日本とは違って湿度が低いため比較的過ごし易い、ある初夏の晴れた日。

アデルとエリーゼ・カティナ・レヴィの4人揃って、白樺の木陰で一緒にランチ。
という、美味しいイベントが発生してましたよ。

アデルが少し所在無さげだったのは、可笑しくもあり初々しくもあり。


「馬に蹴られたく無いんで、とっとと退散させてもらうわ」

邪魔しちゃ悪いね。と退散しようとしたら、アデルに無言の抗議をされたので、

「まぁ、気苦労があるのは判らんでも無いが、
貴人たるもの、寄り添う麗人に愛情を捧げられなくてどうするんだ?」

貴婦人のために無償の愛を捧げるのは、確かおフランスの騎士道だったか。
ぶっちゃけ、その辺をおもいっきり曲解させて吹き込んだりしてるわけですが。

女性(達)の想いに答えるのも、男の甲斐性というものなのだよアデル君。

多分ね。


苦労して根回ししたおかげか、女の娘3人の仲も良好な様子。
なんつーの? 花も恥らう乙女達が笑顔で寄り添う絵って、いいよね。

このイベントを機に、エリーゼ様とレヴィさんがそれなりに料理のできるカティナに対抗心を抱いたらしく、身分の壁を越えて一緒に料理の勉強を始めたとかいうのは後の話。


うむ、良き哉良き哉。

「ハーレム in 異世界」計画。実に順風満帆である。



……と言いたい所なのだが、離れた木陰でソレを眺めて、小さく溜息つく少女がひとり。

今回のターゲットである、セシルさんである。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#7 学者の娘・セシルさん




随分と癖のある赤毛を大きなリボンで左側から下ろしているだけなのだが、優雅にウェーブしていたりするためボリューム感ある髪。
無造作に左右に分けているだけの前髪の隙間から、優しげでいて儚げな光を湛えた瞳が覗く。

小さいながらもツンと尖った形の良い小鼻。微笑んでくれればきっと形良く曲線を描くであろう唇。
しかし、とある事情から、彼女が表情豊かに微笑んでくれるとかいう事がまず無いのが残念ではある。

そして視線を首から下に下ろせば、ややぷっくりというか柔らかそうな肉付きが、単にスレンダーな女性には無い健康的なエロスを感じさせてイイ。
そして何より、かなりの大きさなのである。ダイナマイトなのである。それが彼女が動くたびに揺れて、とても眼福なのである。

ちなみに、俺の鑑識眼ではEはあると踏んでいる。


こう、ひとり静かに佇んでいる事が多い女の子ながら、実は脱いだら凄いんです。みたいな?
ギャップ萌えー。


この目の前の女の子・セシルさんなんだけど、詳しくは後述するが故あって学校では親しい友人がいない。
集団心理的なアレなのか周囲からは阻害される傾向にあるし、本人も判ってるから無理に関わろうとしない。という悪循環。

結果、殆ど孤立している。という状況だったりする。

そんな中、彼女を心配して手を尽くし、彼女の心を開くのに成功したのが、例にy(ry アデル君である。

いや、俺も半分は手伝ってた筈。なんだけどね?(泣)


「今度、アデルがちょっとしたお茶会を開きたい。
って、言うんだけどさ」

「…………」

まぁ、大抵彼女と話をすると、ほぼ一方的に俺が話して終わる。
一応、うなずいてくれたりとかリアクションはあるのだが、


「で、親睦を深めるというか……」

「…………」


セシルさんが置かれている状況は、彼女の親父さんの存在に負う部分が大きい。
というか、殆ど全て親父さんの存在のためと言っていい。

彼女の親父さんは、一応この国でも1・2を争う程著名な政治学者である。
というか、多分「こっちの世界」の歴史に残るんじゃないのか?と思えるぐらい最先端の政治理論を構築しているお方だったりする。

かくいう俺も、セシルの親父さんの若かりし頃の著作物を「こっちの世界」での幼少期の暇つぶしに読んでた事もあったりするが、ソレはまた別の話。

まぁ、現代日本人的感覚を持つ俺に言わせれば、至極まっとうな常識の範囲の書物だったと思うんだけど、問題は「こっちの世界」が未だに封建主義的な政治体制をとっている事であり。


いや、流石に「自由市場原理」とか「小さな政府」とかは早すぎると思うんだ。


おかげで、組合(ギルド)やら利権やらで守られている豪商からも、司法権すら握る領主・貴族といった支配者層からも、煙たがられ疎まれ干されてる。
というのが、今のセシルの親父さんの立場だったりする。

さらには、豪商やら貴族やらを親に持つ子供らが集まっているのがこの学校であるために、親父さん同様に煙たがられたり疎まれてたりするのがセシルさん。
という、如何ともしがたい状況であるのだが。



つーか、彼女自体に何の落ち度も無いじゃん?



確かにセシルの親父さんは豪商貴族にとっては目の上の瘤なのかもしれないが、彼女自身が何か悪い事をした訳ではない。
そもそも、セシルの親父さんだって別に豪商貴族を廃したい訳ではなく、単に状況に即していない机上の空論状態の理想を掲げてるだけだ。

そんなつまらない理由で、彼女と他の人との壁ができてしまっては俺としても非常に困るし、何より不本意なのである。


不本意。って所、これ大事ね。


そこで一計を案じ、今回、アデルがホストとなっておにゃのこ達+αを招く。という、ちょっとしたお茶会を用意させた。

その仕込みが、今終わったところ。


「また何か、変なこと企んでるんだろうけど……。
それはいつもの事だよね。君の場合」

「変なこととは失礼な。
言っておくが、他人を貶めるような事は行っていないぞ。
……以前、自業自得で赤っ恥晒した馬鹿はいたがね」

俺だけでなく、アデルにとっても今のセシルさんの立場には心痛めるものがあるので、快く(?)この一計に加担して貰えた。

ちなみに、茶葉もお菓子も俺が入念に調べ上げ、全員の嗜好に合わせたものを用意するように、アデルに吹き込んである。


真の策士とは、自分が発案した事を表に出さず、他人をあたかも自身の意で動いているように思い込ませて動かすものなのだよ。


……あー。

こんな事やってるから、誰にも評価されないんだね。
今気付いたわ。俺 orz



閑話休題それは置いといて


無論、そこにセシルさんを呼んであるのである。

ちなみに、事前に彼女が来るのを知っているのは、俺とアデルだけだったりする。






「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

質素な木綿のドレスの左右の裾をつまみ上げ、ひざを曲げて軽く会釈するセシルさん。
所謂「儀礼用お嬢様お辞儀」という奴だ。

彼女のその動作自体は何の非も無い、至極作法に則ったものである。
しかしながら、彼女の登場と同時に会場の空気が固まる。


「……」

ちなみに、流石に教職にあるミシェリさんと、貴族のご令嬢であるエリーゼさんは動じてなかったみたいだけど、カティナさんとレヴィさんはどんな態度を取っていいものか硬直してたりする。

さらには、口さがない輩は、小さな声で彼女を非難するような事を漏らしていたりもするが、そいつらの顔は覚えたから後でシメる。
具体的には「何故か赤っ恥を晒すような不幸な出来事が起こる」よ?何故か。

俺の地獄耳から逃げられると思うなよ?


「……」

彼女に対する理不尽な拒絶。

それが現状であり、打破すべき壁である。
それに対し、唇を硬く閉ざし、瞳からは光失い俯くセシル。

正直、数人の馬鹿はこの場でブン殴ってもやりたい所なのだが、お偉いさんの子息令嬢相手に対してそんな事もできず。
そもそも、この状況を打破するのは、今回は俺の役じゃない。


勇者様は、満を持して登場しないとな。


「セシル、おめでとう」

そんな空気の中、前に進み出たアデルが笑顔で彼女の両手を取る。

「お父上が、国への功績から褒章を賜ることになったんだって?
凄い事じゃないか」

セシルの親父さんが豪商貴族に疎まれていても、国家に対して利益を出してきたのもまた事実。それに、王国といっても決して一枚岩ではない。
王家に対して反発を見せているような豪商領主らへの牽制の意味も込めて、紆余曲折を経て今回の褒章と相成ったらしい。

で、アデルにセシルさんへの祝辞を贈るように吹き込んだのが、俺だったりする。


「……あ、……」

始めは単に硬直しながらアデルを見上げるだけだった彼女だが、徐々に顔には朱が差し、瞳には光が宿り、唇は柔らかい曲線を描き始める。
何より、同情じゃなくて評価して貰えている。というのが、彼女の心を掴んだらしい。


「あ、ありがとうございますっ!!」

顔を赤らめ瞳を潤ませ、見上げるようにアデルを見つめるセシルさん。

うーむ。そんなにガッチガチに緊張してたら、作法の先生からダメ出し食らうぞー。
まぁ、俺もそっちの方面は得意じゃないがね。



今回たまたま「セシルの親父さんが褒賞を賜る」という情報を入手し、今回の一計を案じた訳だが、ホストであるアデルがセシルさんを真っ当に扱う。となれば、他の女性陣やら水増し用に呼んだ+αもそれに従わざるを得ないよねー。
という空気を作るのが、今日のミッション内容だったりする。


「俺、今までセシルさんの親父さんのこと、勘違いしてたよ。
なんつーか、凄い人なんだね」

我ながら白々しい台詞ではあるのだが。
これが呼び水になって、他のおにゃのこ達から声掛けて貰えればいいんだがね。

ちなみに、今回のお茶会に呼んだ+αの中には、俺が用意したサクラも若干名配置させてたりするので、俺に続いて白々しい台詞がいくつか並んだりもしたわけだが。


いや、情報操作って計略の基本だし。






「……の詩集は、情景描写が良いですよね。
特に、空気の匂いを感じさせる所が好きなんです」

どうやら、ある程度周囲と打ち解け、詩集とかの話で盛り上がってるっぽい。

その後のセシルさんや女性陣の反応から察するに、今日のところは成功。と言っていいらしい。
今まで片隅で感情を殺すように佇んでいただけのセシルさんの、屈託無い笑顔が見られただけでも、今日は収穫だと言えるだろう。


うん。おにゃのこの二心無い笑顔はイイ。


今日はまだ取っ掛かりに過ぎず、今後もお互いの好感度上げるイベント計画しないとイカンのだろうけど、とりあえず今回はセシルさんの笑顔が報酬。という事でいいか。







ちなみに、件の下級生の女の子だが、アデルやら外野が期待してるような色っぽい事態には全く進展せず。
さらには、仲が良くなったり悪くなったりという変化も無く。

ただただ二週間に一回の割合で発生している、謎イベントのままなんだけど?



ねぇ、何コレ?



俺、何かフラグ立て忘れたの? 生殺しなの?

それとも何かの罰ゲームなの?(泣)









#090731 初稿
#090817 【作者の言い訳】部分隔離(感想板へ)


【作者の言い訳】

セシルのプロットが固まらず、メイドさん→苦学生→海賊の娘さん→学者の娘さんと3回書き直した罠。
書き直してこの程度とか。

絶望した! 文才 筆力の無さに絶望した!!
#良く考えたら、文才言うのもおこがましいレレルですよねー(/ω\)

最近、めっきり影の薄い当事者アデル君を絡ませてみた。
そしたら、今回の当事者のセシルさんの出番が減った不思議(´・ω・`)



[10207] #X もうひとりの黒幕さん
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/02 21:45
[#7.5]

あー、やっちまった。


「あー、マジ悪ぃ。
これ、渡しとく。んじゃ」

「あ、うん。ありがとう」

どうやらストロベリーなひと時を、俺が訪れた事で邪魔したらしい。正直スマンカッタ。
でも、なんだかんだでヤル事やってるねー。と、ひと安心してみたり。

ほんの僅かに息を乱しながら扉を開けたアデルの肩越しに、部屋の中を伺う。
中には、顔を真っ赤にして俯き、向かい合った一組のソファーの対角線上に位置するように離れて座るミシェリさんとレヴィさん。

いや、そんな座り方してたら「今まで別の位置にいましたよ」ってのバレバレなんだけど?

俺の中では非常に意外な組み合わせの二人なのだが、まぁ、そんな事もあるだろう。
そして中で何が行われていたのか非常に気になるのだが、そこまで探りを入れるのは野暮という物。


え?「エロ絵ゲットだぜ! ウッハァァァァァァァァ!!」じゃないのかって?
そこまで俺、ダメ人間じゃないッス。こう見えても俺は紳士なんだYO!


いまさら信じて貰えないかもしれないけど、マヂで。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#X もうひとりの黒幕さん




まぁ、なんだ。
今回、アデルのための「ハーレム in 異世界」計画実行はお休みである。

今回は、今までの経緯の幕間というのか、番外的なお話。
俺と、もうひとりの黒幕さんの話だったりする。


うん。今までのシナリオはあくまで「原案・脚本・監督=俺」なのだが、「協賛・エキストラ動員」的なバックアップ役がいたりする。

ついでに言うと、いくつかのアイディアを頂いていたりするんだわ。特にセシルさんの件とか。


「さて、君の言うとおり餌はバラ撒いておいたぞ。
 次はどうすれはいい?」

ポニテにした軽やかで艶やかな金髪を揺らし、ビスクドールもかくやという白い肌をやや上気させ、あまりにもささやかな胸を張りふんぞり返るように高らかに宣言する、目の前のすんげー乗り気なこの女性。

スーパー(残念な)お嬢様・ヒルダ様。

なんと当学校に在籍している中では最高爵位、公爵令嬢様であられられる。
ちなみに学業優秀で当学年では主席。さらに王位継承権も5番目ぐらいとか。

もう、どんだけー。


そよ風に揺らぐ、黄金もかくやと言わんがばかりに輝くライトブロンドの髪。
スラっと筋の通った鼻。小さく鋭くまとまった顔の輪郭。
孔雀石マラカイト色の瑞々しい輝きを湛えた瞳。流れるような長い睫毛に、細く整った形の眉。

エリーゼさんも見た目モロ「お嬢様」なんだが、ヒルダ様のそれとはレベルが違う。
もうね、こっちは「お姫様」って言って過言じゃないレベルだったりするのだよ。
傍目には。


うん、そう。傍目になんだ。


傍目には至宝の女神像もかくやという、恐ろしいほどの造形美を誇る彼女ではあるのだが、なんか堅っ苦しい口調といい、高圧的な態度といい、残念すぎる胸部(Aすら怪しい)といい。

美人さんなのに、萌えとか色気とかが壊滅的に無いのである。

少しはエリーゼさんとかミシェリさんを見習ってもらいたいものである。



まぁ、そんな事思っているのをほんのちょっとでも表に出そうものなら、不敬罪で断頭台の露と化しそうだから黙ってるけどな。






彼女との馴れ初め……はい、調子に乗りましたゴメンナサイ。
出会いは、優等生のアデルが、親の爵位とかしかアイデンティティの無いバカボン共にイビられていた際に遡る。


アホどもに耐え兼ねた俺が、

「お前らじゃなくって親父さんが地位高いのに、暢気だね。
 地位高い。って事は、それだけ責任ある地位にある。って事じゃね?
 他人貶めてる暇があったら勉強すれば?」

的な発言(無論、地位を盾に俺までイビられたら堪らんので、バカボン共には即座に理解できない高度な揶揄で隠匿してだが)で嫌味を言ってやったその時に、たまたまその台詞を聞かれたりしたのである。


どうも、「地位の高い人間は、地位に準じた責務がある」という俺の意見に、共感するものがあったらしい。

公爵令嬢で王位継承権も第5位とかじゃ、俺の露知らぬ苦労もしてるんだろうし。


で、俺の立ち位置は、早い話が彼女の「お気に入りの遊び相手」って感じなのかね?
お偉いさんにコネができる。という意味では、ありがたい事この上ないけど。

ちなみに、正しくは「ヒルデガルド=デル=ルーセレント=ヴォン=エルドワール」様(「ルーセレント」「エルドワール」の二つが苗字つーか家名な)なのだが、何故か略称で呼ぶことを許されるという、非常にありがた迷惑な栄誉を賜っていたりもする。


つーか、人前で呼べねぇよ。貴族でもない俺が。

男爵家嫡男である、アデルですら許されていない事なんだぜ?


という事で、彼女との接触は非常に肩がこる。
というか、いつ地雷を踏んで断頭台の露と化すか。という恐怖を背負いながら行わねばならない。

それでいて無視なんかできない。という、不条理極まりない死亡フラグ満載の爆弾イベントなのである。






「計画はこの学校でできる範囲では、およそ8割程度発動。
 もはや成功したと言っても過言ではない状態です。
 あとはむしろ卒業後に、どれだけ滞りなく計画を進められるか。ですね」

ヒルダ様へ対する口調も「それこそ同年代の友人と接するのと同じように、フランクに」とか命じられたんだが、いや、無理ですから。
そんな地雷踏みたくないですから。

という訳で、「親しき仲にも礼儀あり」程度な口調で許して貰っている。

このレベルですら、本来払わねばならない礼をざっくばらんに欠いている状態であり、第三者に聞かれたらどうしよう?と、すげー冷や汗モノではあるのだが。


「ふむ。ここまで面白いように話が進むと、逆に落とし穴があるのではないか?」

形の良い眉をひそめ、顎先に人差し指と親指を当てながら考え込むヒルダ様。


「いや、そもそも敵対勢力がいる訳でもないですし、この計画で損をする人間も、基本的にはいないはずですから。
 そういう意味では、不確定要素は概ね『良い方』に転がると考えて宜しいかと」

そりゃあ、伏魔殿たる王宮とかなら権謀術数も飛び交っているのだろうが、ここは平和な学校である。

俺の回答に納得できないのか、あるいは彼女自身思うところがあるのか、彼女が次の発言をするまでに暫しの時間を要した。


「では、私の方も本格的に動くこととしよう。
 まずはエリーゼの婚礼と、レヴィの実家への働きかけだな。

 伯爵家へは、まず私自身が手紙を認(したた)めよう。
 そうだな、あくまで学校の同級生として、友人の幸せを願う。という形であれば、圧力としても無理はあるまい。
 そもそも例の誘拐未遂事件があるからな。伯爵としてもそれほど異存はあるまいよ。

 目下の最大の問題は『塔』の干渉だろうが、ミシェリ女史本人が職を辞す。と言うのであれば、『塔』の輩も手出しはできまい。
 無論、手を出すようなら私が全力をもって叩き潰すがな」


なんつーの?
いつの間にか、何故か俺よりノリノリのヒルダ様が出来上がってたりしたのである。



……正直、彼女もアデルに目を付けたのか?と思い、畏れ多くも確認してみたこともある。

彼女も候補に加わると、エリーゼ様を正妻にしようという俺の計画が破綻するので。


「ん?ああ、あの男爵家の長男か。
 あの程度の男であれば、近衛に所属する婿候補に何人かいるぞ?」

確かに、近衛騎士団には式典における立ち回りとか所謂見た目が重視されることが多いため、容姿も入団の基準にはなっているのだが。
何人か婿候補にいるとか、それをアッサリ言えるヒルダ様の立場を改めて思い知らされた一幕だったりする。

加えてさらには、

「私の婿となると、少なくとも伯爵位かそれに準じる功績を挙げた者に限られるだろうな。
 当然、君や、君の友人程度では話にならない」

との事です。俺も含めてアウトオブ眼中です。

まぁ、逆に気があったりしたら物凄く怖いんですが。
いつ断頭台の露と化さねばならないのか? というデストラップ的な意味で。


そしてやっぱり、未だに彼女がノリノリな理由がさっぱり判らんのである。



……やっぱ貴族って、根っからの謀略好きなのだろうか?





+


「誰も不幸にならず、皆が幸せになれる陰謀」


それを彼の口から聞いた時、私の全身に衝撃が走った。

それこそ物心付く前から、否応無しにあらゆる種類の権謀術数に巻き込まれて過ごして来た私にとって、陰謀とは私の全てを奪おうとする悪意であり、あるいは私の全てを守るための刃であった。

それは「幸せ」などとは程遠い、人の業が生み出した呪詛。


学校内で下手な人間を使い(あれでは、素人以外には諜報活動をしているのが筒抜けである)、いろいろ調べ回っていた彼を締め上げ、白状させた結果。
彼の口から出たのが、例の言葉である。


だが、それはあくまで他人が押し付けた幸せの定義であり、決して本人の望むものとは言い切れないのでは?と質問したこともある。

「ま、幸せになれば、笑って許してくれるかと」

彼の故郷の言い回しで「終わり良ければ全て良し」なのだそうだ。

それは、為政者としての重要な気質……結果として最良のものが得られるのであれば、過程における損害を省みるべきでは無い……にも繋がる、重要な概念である。

たかが地方領主の次男。と侮っていたが、中々に有望な人物らしい。



「友の幸せを築くための、幸せな陰謀」は、とても心躍るものである。

かつては自らの策謀で命を落とす、あるいは失脚する者に対し、深い自戒の念に陥った事もある。それが火の粉を払う、自己防衛の行為であっても。
しかしながら「幸せな陰謀」では、人が傷つく事を恐れる必要が無い。また、いつしか不感症になっていた自らの心を傷つける事も無い。

故に、誰への躊躇無く全力を以って当たる事ができる。


彼のやり方を見ていると、もう少し上手い方法が無い訳でもない。と思う。
しかし、今回の首謀者は私ではない、あくまで彼である。
私はあくまでサポートに回り、彼の計算外の部分を埋めてやるようにすれば、概ね計画どおり話は進むだろう。

「幸せな陰謀」に加担することで、このような爽快な気分になれるとは思っても見なかった。
その意味では彼に感謝しているし、恩は返してやらねばならないだろう。


だが、私に言わせれば彼のやり方はまだまだ甘い。いや、隙だらけと言って良いだろう。
確かに「敵」のいない今回は十分に通用するだろうが、今後彼が権謀術数の世界で生きていくには致命的。と言っても良い。


ここはひとつ、私が教育してやらねばな。



……そう、これも彼の言う「幸せな陰謀」なのだ。











【作者の言い訳】


ようやく主要人物全て登場。
うん。ょぅι"ょ成分は無いんだ。ゴメンな(´・ω・`)


#本当は9+1話予定だったんだけど、あと1,2話ぐらい増やす……か?





[10207] #8 没落男爵家の嫡男・アデル君
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/09/12 20:17
[#8]

休日といっても、俺個人として特にやる事がある訳でもなく。

夏も真っ盛りの、法廷で「太陽が眩しかったから」とでも証言したくなるような影濃い日差しの元、そういや宮廷恋愛モノロマンス小説(とどのつまり不倫モノエロ小説だが)を取り寄せるように頼んでたなー。と思い出し、街の書店で目的のブツを回収しホクホク顔で岐路についていた時の事である。


「これなんか、……どうかな?」

「うん。似合うと思うよ」

「こちらなんてどうです?」

「うん。とても素敵だね」

おや、あれはカティナさんとセシルさん、そして我らがアデル君じゃあーりませんか。

このクソ暑いというのに、あんなに密着しちゃって。まぁ、仲睦まじいものである。
さり気にセシルさんってば、アレは伝説の「当てているんです攻撃」ですか!?
いや、実に羨ましい限りだったり。


貴族やら領主やらの支配者階級とか、お金が唸っているような豪商の子息令嬢が多いウチの学校では、しがない材木問屋と貧乏学者を親に持つカティナさんとセシルさんは、境遇が近いせいか今ではかなりの仲良しさんになっていたりする。

まぁ、ウチの領地もアデルの家も、そんなに羽振りが良い訳じゃないんだが。


どうやら、銅細工なんぞを並べている露天商で、装身具を物色している模様。
金銀パールじゃなくって、銅ってところがびみょーにランクが下がっていて泣かせる所であるが。

銅というと10円玉のイメージが抜けないのだが、磨けば光るんで「こっちの世界」ではそれなりに装身具としては人気があったり無かったり。


「主人。この二つ貰うよ。いくらになるかな?」

「あ、そんなつもりじゃ」

「そんな、今日はただ見繕ってもらおうと」

アデルの申し出に断りを入れつつも、顔をわずかに赤らめ満更ではない二人。


「いや、こういう場面では男に見栄を張らせてくれないかな?
 それに、女性のために出費するのも、甲斐性のうちらしいしね」

そこを、女殺しの爽やかスマイルでたたみ掛け、止めを刺すアデル君。



うむ。俺の 洗脳 教育が行き届きつつあるか。
実に良い傾向である。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#8 没落男爵家の嫡男・アデル君




さて、今更ながら説明は不要だと思うが、今回のターゲットは我らがモテモテ君であるアデルその人である。

容姿端麗、文武両道、人当たりも良く家柄も良い。と、まさにモテモテの要素の塊と言っていい人物である。
実家にあまり金が無いのが珠に瑕。といった程度か。


今まで数ヶ月に渡って裏で色々手を回してきたのだが、この期においてのアデル君の態度に関しては、些か懸念を抱かずにはいられない。
嫌がっている。というと語弊があるが、未だに煮え切らないというか、おにゃのこ達に対する態度が今ひとつ消極的なのだ。

コイツ、やるときはやると言うか、努力家で猪突猛進というか、重いコンダラもとい思い込んだら一直線なキャラなのに、女性関係に関しては及び腰。という、訳ワカメな性格してるからなぁ。

もっとも、はじめから「俺様モテモテでウハウハだぜグヘヘェ」とかいう輩だったら、ハナから助力しようとする気すら起きない。という意味ではジレンマでもあるし、もしかすると女性陣から言わせれば「消極的な中に見せる優しさがイイ」という事なのかもしれない。


まぁ、俺的には漢らしく「俺に惚れてくれている女性たちを全員、俺の手で幸せにしてやる!」ぐらいの宣言をブチかますぐらいに、なってもらいたいのである。






「アデル、俺だ」

今日は事前に偵察済みなので、先日のような愚は犯さない。

当然のごとく部屋にはアデルひとり。先日のようにイチャイチャしていたであろうストロベリー空間に割って入る。という事は無く。

で、当然のように部屋に入り、ソファーに浅く腰掛ける。


「で、今日は何を企んでいるのかな?」

目が笑っていない笑顔でツッコミ入れてくるアデル君。

なんか最近、とみに警戒されているような希ガス。
親友に対してその態度は酷いと思うんだ。うん。


「企んでいる事に関しては否定はしないが、そろそろエリーゼ様の誕生日なんでな。
 ここはひとつ、俺が入手した情報を提供しようかと」

まぁ、とりあえず有益な情報を吹き込むに留める。

いや、いくら俺だって、いつもいつも全ての行動が陰謀に繋がっている。という訳じゃない。
そんな奴がいるなら、是非ともお目に掛かりたいモノである。怖いもの見たさと言う奴で。


「いや、そこは否定しようよ……」

まぁ、そんなどうでもいいツッコミは置いておくとして、後日に控えたエリーゼさんの誕生日に送るプレゼントに関する有益な情報なんぞを吹き込む。
エリーゼさんお付きの侍女をスイーツで買収し入手した、貴重な情報に感涙するがいい。


「そこでさらに“君をずっと幸せにしたい”とでも添えてやれば、そこで感極まって滂沱すること間違いなし。なんだがな」

「……そういう君はどうなのさ?
 “お慕いしてます”なんて言われて、好意を寄せてくれる女性に自信を持って“君をずっと幸せにしたい”なんて答えられるのかい?」

別にいつもと変わらぬ事を言ったつもりではあったのだが、何か薮蛇を突付いたらしく、珍しくアデルが反論する。

確かにそれを言われると辛い。
だが、どこをどう見ても平々凡々な俺と、どこをどう見てもチートキャラとしか言い様の無いオマエと、同列に扱うのがそもそもの間違いだろう。

旧ザクでは、連邦の白い悪魔は倒せんのですよ。
……ククルス=ドアンとかいうシヴい例外はいるがな。


「まぁ、俺にもそう言ってくれる相手がいれば。な。
 ……いないけどね」

その前に、相手がいませんとも。いませんともさっ!!

お前と違って、俺にはそんな殊勝な事を言ってくれるおにゃのこなんか寄って来ないんじゃよ!
おにゃのこにモテたいでござる!イチャイチャしたいでござる!!

……泣くぞ!


「えーっと……? ゴメンナサイ」

うむ。判れば宜しい。




紅茶でも淹れ、場を仕切りなおす。
「そっちの世界」にいた頃に凝っていたので、それなりにイイ感じで出ているはず。香りも良い。

見目麗しいおにゃのこ達じゃなくって、ムサイ野郎が淹れた茶でスマンな。


「……相変わらず、いろんな事そつ無くこなすよね。料理洗濯繕い物まで。
 普通、家督を継がないにしても、領主の家の者ともなれば行わないような事を。自然に」

「いや、単に色々趣味で手を出してるだけだ。
 ……時間だけは人よりあったんでな。
 むしろ、学問剣術馬術その他諸々そつ無くこなす優等生に言われると、嫌味でしかないぞ。ソレ」

軽く応酬してやって、自ら淹れた紅茶を口に運ぶ。
ミルク・砂糖は元より、香料すら入れないのが俺のこだわりだったりするが、まぁ、どうでもいいか。……ふむ。いい茶葉だわ、コレ。


「趣味、ねぇ。
 で、僕に色々入れ込んでるのも趣味だったりするのかな?」

「うむ。趣味だ。
 ……言っておくが、男色ソッチの気は無いぞ」

いや、本当はそれなりに得にはなる予定なんだがね。俺的にも。
だからこそ色々と裏で動いているんだが、だからといってそれが動機の全てとも言い切れない。


やっぱり、コイツとおにゃのこ達に幸せになってもらいたい。ってのが原動力なのかなー。
と、改めて思う。



……もしかして俺って、人格者だったりするのか?






ここ数ヶ月で、僕を取り巻く環境は一変した。と言って良いだろう。


「まぁ、そこで“幸せにできる”とか言う奴は、よっぽどの自信家か世間知らずか、あるいは嘘つきなんだが」


以前から、何人かの女性達とはそれなりには接点があったのだけれども、この数ヶ月で随分積極的になったりで、正直対応に困っていたりもする。

僕としては、好意を寄せられて嬉しくない訳でもないし、無論嫌な訳でもない。
ただ、未だ何一つ成し遂げていない若輩者の僕が、このまま彼女たちを受け入れる事が彼女の幸せに繋がるのか?という懸念が離れないのだ。


「それでも、敢えて“幸せにしてやる”って言ってやる事って、大事だぞ」


僕だって彼女たちを“幸せにしてやる”と言ってあげたい。
けれども、悲しいかな何の実績も持たない若造にとって、その言葉は非常に重いことぐらいは判っているつもりだ。


「例え嘘だろうと、死ぬまで貫き続ければ真実になるさ。
 ……どっちかというと、その態度自体が大切なんだがな」


いつも思うのだが、彼は本当に僕と同い年なのだろうか?と、愚にも付かない疑問を抱いてしまう。

確かに変な趣味というか、変に裏に回って色々画策し、悦に入る。という変わり者ではあるけれど。
それに目を瞑れば、学者もかくやという非常に多岐に及ぶ学術知識を有し、その言葉には哲学者もかくやという人生の真理が紡がれている。
まるで、何十年も知識の探求に費やし、人生を歩んできた賢者のようでもある。


そして何より、非常に達観しているのである。


自分の能力を最大限に使いながらも、決して多くを望まない。
人を制する力を持ちながら、決して前に出ようとしない。
自分個人に確固たる自信と信念を持ち、地位財産に執着しない。


父上、領民、そして彼女達の期待に答えようと、明日すら知らず足掻いている僕とは雲泥の差だ。
その意味では、飄々とした彼の生き方を、羨ましいとも思う。


「ま、俺に恩返しをしてくれると言うなら、是非とも彼女たちを幸せにしてやってくれ。
 お前自身が幸せであれば、尚良いがね」


恩返し。なんて彼は茶化して言うけれど、彼の助言のおかげで人間関係が円滑になっている部分もある。

ふと、彼自信の幸せって何なんだろうな? とか思ったりするのだ。







#090809 初稿
#090817 〆の部分を若干直してみた(/ω\)


【作者の言い訳】

「アデルがあんまり乗り気じゃない」のを気にされてた方が結構いたようなので、洗脳 説得過程というか、びみょーに勘違いしてるアデル君視点からひとつ、追加してみますた。





[10207] #9 淑女たちの単奏曲
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/29 05:58
[#9]

「ほらそこ! サボってるようならあと10週追加するぞ!!」

このクソ暑い炎天下に、グラウンド……と言っても、整地されたトラックがある訳ではなく、主に馬術訓練のために整地された広場を、延々と走らされてたりする俺ひとり。

なんのイヂメですか?


「お前はただでさえ才能が無いんだ、せめて死ぬ気で努力ぐらいしろ!!」

と、とんでもない事を抜かしているのは、我が学校の剣術師範であるコーネリア女史。

代々騎士を輩出している体育会系の家系の方で、女性でも門戸を開いている近衛騎士になり損ね、当学校で教鞭を振るっているという経歴を持つ。

御歳26。と(「こっちの世界」では)やや微妙なお年頃の女性だが、グラマラスにしてクールビューティという、結構たまらんお方である。
ルックス的には全く問題は無い。

問題は、そのあまりのスパルタ式教育方針というか、ドS教官っぷりで、噂ではソッチの方向に目覚めちゃった生徒が若干名いるとかいないとか。


無論、「騎士くずれ」「なりそこない」は禁句。つか、マヂで死ねる。

俺は。いや、俺だけじゃなくこの学校の生徒全員が、コーネリア女史にその類の暴言吐いて、全治8ヶ月の重症で留年を余儀なくされた奴を知っている。


「なんだ、やれば出切るじゃないか。
 ……サボってたな? あと10週追加!!」

……女性でも、教師でもなければヒィヒィ言わせてやるというのに。




「……まぢで……ちぬ。ボ ス ケ テ ……」

グラウンドの片隅で、大の字になってぶっ倒れてる俺。
もう、土で汚れるとかそんな場合じゃないッス。ちんでしまいますよマヂで。


「うーん、愛の鞭。って奴じゃないの?」

いつもの復讐(?)か、見下ろすように笑顔でとんでもない事をのたまわってくれるアデル君。


いつもなら小一時間説教とかそんな感じだけど、今そんな余裕無いッス……。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#9 淑女たちの単奏曲ソナタ




気付けば、いつもアデル様の横に自然に存在していた彼。
正直、彼のその立場に軽く嫉妬した事もあったのですが、あまりにもお恥ずかしい話なので伏せておく事にします。

そんな彼が「ひとりで」私に干渉してきたのは、まだ肌寒い、春のある日だったはずです。


「やはりここは正攻法で、一緒にどこかに出かける。というのはどうでしょう?
 ふたりきりで」

当初は、そんな事すら思いもよらなかったがために、赤くなったり青くなったりと、今にして思えば随分とお恥ずかしい姿を晒してしまいましたが、彼の提言に沿って実行に移してみた結果、今までよりも遥かにアデル様にお近づきになる事ができました。

それ以降、彼は度々私の前に現れています。


「若鶏とナッツのギュイソース掛け。これがあればアデルも……」

「現男爵様は、今でこそお体を壊されているものの、狩りが非常にお好きで……」

確かに、彼の助言、あるいは彼のもたらす情報は有益なもので、私とアデル様の仲を取り持つのに一役どころか大いに役立ってきたのは事実です。


付き合い始めて判った事、いえ、以前から想像はしていたのですがそれ以上に、アデル様は優しく、知的で、事細やかに気の回る素敵な方でした。
先日の私の誕生日には、私がアデル様に話していなかったはずの、今は亡き母との想い出深い「ルーデリカの花束」を贈られ、非常に感激した程です。

だからこそ、あまり評判の宜しくない彼と一緒に居る理由が判らず、アデル様に直接尋ねてしまった事もあります。


「うーん、僕の持っていないものを、持っているから。かな?
 あと、ちょっと変な趣味があるけど、存外頼りになるしね」

その際に、アデル様の表情を、ほんの少し曇らせてしまいました。
いけません。失態です。

信頼置く友人を疑うような事を聞いてしまい、あの時ほど自らの迂遠な行動を後悔したことはありませんでした。
……アデル様は笑って許してくださいましたが。

確かに、お互いに補い合う。という意味では必要な人物なのかもしれません。
特に、アデル様に無い負の部分を補う。という意味で。


……ただ、前々からどうしても気になる点がひとつ。
何故、彼は私に肩入れをするのでしょうか?

彼の目的は一体何なのでしょうか?






以前からアデル君と一緒にいた友人。周囲からは「変な奴」とか言われているみたいだけど。

変だけど面白い人。うん、そんな感じ。
不思議と、嫌悪感は感じなかったんだよね。

後々になって気付いたんだけど、どうも彼は「地位とか財産を盾に威張り散らしている人」が嫌いらしくって、そういう人に限って凄いイタズラをするらしい。
それで、そういった人々にあまり良く思われていないらしい。

確かに変な人だけど、悪い人じゃないんだよ?
わたしの一方的な質問に答えてくれたりとか。

「アデル君ってモテるよね。
 今、付き合っている人とか、いるんだろうなぁ」

「昨日アデル君と一緒に出かけてたみたいだけど、どこ行ってたの?」

「アデル君って、どんな本好きなのかな?」

……今思えば、無遠慮過ぎたかなぁ。とも思うけど、ちょっと苦笑いはしていたけど色々と教えてくれたし。

わたしに兄がいたらこんな感じなのかなぁ。とか、同い年の彼に対して失礼な事を考えてみたりしたこともある。


「とりあえずさ、面と向かって言いにくい事でも、手紙にならできるだろ?
 当たって砕ける覚悟ぐらい無いと、始まらないぜ?」

周囲の目とか、他の女性に遠慮しちゃってとか、……それ自体、自分の中で踏ん切りが付かなかった事への言い訳だけど……躊躇していたわたしを後押ししてくれたのも、結局彼だったし。


ただ、ひとつだけ疑問がある。

わたしは彼に何か特別な事をしてあげた事は無い。でも、彼はわたしとアデル君の仲を取り持ってくれたり、色々とアデル君の事を教えてくれたりする。


うーん、そこまでしてわたしの手助けしてくれる理由って、なんなのかな?






今でも思い出したくは無いのだけれど。
あの時の私は、暗に「必要無い」と言われて自暴自棄になっていたのだと思う。

父から送られた一通の手紙。

そこには、簡単に言えば「後継者たる弟が生まれたので、私が領地を継ぐ必要は無い。良家に嫁ぐための準備をしろ」との旨が記されていた。


今まで、父の、領民の期待に答えるべく努力してきた私の努力は何だったの?

私は、ただ後継者の代用品でしか無かったの?


そんな中、私を助けようと……安っぽい同情でも憐憫でも無く……したのは、アデルと彼の二人だけだった。


アデルはそれこそ親身になって、苦しみを理解しようとし、一緒になって考えてくれた。
その優しさに救われたし、愚直さに癒されたと言っていいと思う。


一方で、彼の指摘はことごとくが核心を突いていたし、言い換えようの無い事実だった。

核心を突いていたが故に、当時の私は反発した。

言い換えるなら「正論だけに癇に障る」と言ったところ。
……あまりにも子供じみた反発。反抗期の子供と同じレベル。なのは自分でも判っている。


今思えば、確かにアデルの優しさは私の傷を癒してくれたと思う。

けれども、彼のやり方も決して間違ってはいないのだろう。

ただ、それは同年代の女性を労わるための優しさではなく、父が娘を叱る優しさと同じレベル。
なんで同い年の人間にそんな心配をされなければならないのか?と反発心だけが先行するけど。

……おかげで、未だに彼と反りは合わない。


「今更、単にエリーゼ様と同じ事しても二番煎じだしさ。
 もうちょっと素直になったら?
 ……いっそのこと、『好きだ』ってズバッと気持ち伝えちゃうとか」


それ以上に問題は、何のメリットも無いはずの彼が、何故私を焚きつけるような真似をするのか?


彼の真意が未だに読めない。

私はもう、人に利用されるような目には遭いたくないから。






今まで色恋沙汰とか、自分に関係無いと思って避けていたせいかもしれない。
簡単に言うなら、年甲斐も無く年下の男の子……アデル君に惚れてしまったのだ。

コニィ(剣術を教えているコーネリアの愛称)に知られたときは、それこそ鼻で笑われたりもしたけど。


でも、仕方ないじゃない。「恋って理屈じゃない」のだから。
今は鼻で笑っているけど、多分、きっと貴女だって判る時が来るわよ?


ただ、歳の差やら私の立場やらあって、正直諦めていたのだけれど、もうひとりの男子生徒が私にちょっかいを出すようになった。

始めのうちは、彼も身近な「大人の女性」に対してちょっかいを出してくる男子生徒の一人。でしかなかったはずだ。


ただ、そんな男子生徒の中でも、彼だけは浮いた存在だった。


「大人びた」程度の生徒なら、たまにいてもおかしくは無い。

それどころか、まだ成人していない子供のはずなのに、『塔』の狸共を相手にしているのと同じ雰囲気を、彼から感じてしまうことがあるのだ。

彼自身は潜在魔力は殆ど無く、魔道士としては三流もいい所なのに、一流の魔術の才能とそれ以上の姦計に長けた狸共と、同じ雰囲気を。である。

ただ「感じる」事を、馬鹿にしてはいけない。
魔道士というのは常人に見えない力を操るため、見えないモノを見、見えない手を持つ存在なのだから。


「歳の差。と言いますが高々7年とか8年とか。
 人生40年も50年もすれば、大した差じゃなくなりますよ」

そもそも、そんな台詞は20年も生きていない人間の言う台詞じゃない。
おそらくは、何らかの文芸作品からの引用なのだとは思うけれど。


最近はターナという気の利く助手のおかげで、「彼と二人きり」という状況は避ける事ができるようになった。

彼の何が悪い。という訳ではないのだが、どうも狸共と同じ雰囲気を持つ彼が苦手なのだ。

これこそ、コニィに本気で笑われてしまいそうなので黙っているが。


そして、魔道士として常人よりも遥かに発達した「勘」がはっきりと警告している。


……絶対、何か裏に目的があるはずなのよねぇ。






父が学術の徒という事もあるのだけれど。
家計には決してゆとりがある訳でもないのに、私をこの学校に通わせてくれている両親に、感謝こそすれ不平不満など一度も抱いた事は無い。

私は、そんな父を尊敬していたのだけれど、世間一般……少なくともこの学校の生徒の間ではそうではなかったらしい。

……両親の期待と、周囲の拒絶との板挟みとで、追い詰めかけられていた私に救いの手を差し伸べてくれたのが、アデルさんだった。


「この黒い本で良いのかな?」

図書室で、少し上の段の本を取ろうと、そのまま背伸びして取ろうか、踏み台か脚立でも借りてこようかと逡巡しているときの事だった。

その時の、ちょっと困ったような笑顔は未だに忘れられない訳で。


私が周囲から疎外されているのを知って、尚且つそれに拒絶や嫌悪を示さなかったのは、アデルさんが初めてだった。

「僕にできることなら、いつでも相談に乗るから気軽に声掛けてね?」

今思えば、慈しむような優しい眼差しを目にしてしまった時から、私の恋は始まっていたのだと思う。


そしてもうひとり。
いつものように、アデルさんの横にいる彼。

「あ、もしかして親父さんって『自由市場と経済』の著者の?」

うちの父の著作物を読んだ上で、

「まぁ、言ってることは間違っては無いんだけど、時期尚早だよなぁ」

空気がなんとかとか小さく呟いていたが、肯定とも取れる意見を言ってくれた人間。というのは、彼が始めてだった。

父が聞いたら、きっと涙を流して喜んでくれるだろう。


そんな彼だが、概して同級生の評価は良くは無い。
特に、良家に名を連ねる人とか、裕福な家庭の人ほど。

そういう意味で私に同情でもしてくれているのかとも、あるいは単にアデルさんとの付き合いで。とも思っていたのだが、どうも様子が違うらしい。

ただ、その本意がどこにあるのかは、今の私には判らない。


彼は決して悪い人ではない。

でも、良い人とも言い切れないと思う。


だって、良い人が(いくら相手の性格が悪いからといって)手酷い悪戯を仕掛けたり、その結果を陰から見てほくそ笑むとか。

しないですよね?






「ぶえっぅくじぃ」

さっきのシゴキでかいた汗でも冷えたのか、派手にクシャミを一発。


「風邪かい?
 夏風邪は長引くから、早めに養生した方が良いよ」

「んー、あー。
 多分大丈夫だと思うんだがな」

ただ、「こっちの世界」の医学水準考えると、悪化した際の治療というのはかなり絶望的である。
金さえ出せばマシな治療行為受けられるけど。

ここは原始的ではあるが「栄養取って安静にする」のが一番効果的かつ確実だろう。
安いし。


……今日は早めに寝るか。



意外にも早く彼女達の疑問が晴れる機会がやってくるのだが、そんなことは露知らぬ、暑い夏のある日の出来事だったりする。







【作者の言い訳】

主人公の一人称視点以外を想定していなかったがために、今更になって色々とボロが出てる希ガス(´・ω・`)


次話(#10)とその次(#11)で終幕となりますので、あと暫しお付き合いのほどを。

嘘ついちゃった。ごめんなさい(´・ω・`)




[10207] #10 淑女たちの交響曲・前編
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/29 05:58
[#10]

朝夕には秋の気配を漂わせているものの、昼間はまだ暑さの残る晩夏のとある日。

「あ、あの……。
 クッキーを焼いたのですが、試食して頂けますか?」

俺を待ち構えていたのか、木陰から歩み出る人影ひとつ。

ワンポイントの刺繍の施されたハンカチを広げ、その上に載せた数枚のクッキを差し出しながら上目遣いで俺を見上げる、栗毛のツインテールを揺らす小さな丸眼鏡の似合う美少女。

き、き、き、


キタ―――――――(゚∀゚)――――――――!!


とうとう俺にも春が来たのだ!


いやいや待て待て。
これは例によって「アデル様のお口に合うと思いますか?」とかいう孔明の罠かもしれん。

だがしかし、そんな事でメゲてはいけない。
それにまだ、そうだと決まった訳ではないではないかっ!


クッキーの小山をむんずと掴み、一気に口の中に詰め込む。

モシャリモシャリ。ふむ。
焼き加減といい、サクサク感といい、絶妙に抑えられた甘さといい、店に出しても恥ずかしくない出来栄えである。

「ふむ。おいひはったほ」

「そ、そうですか。それは良かったです」

冷や汗を浮かべながら、怪訝そうな眼差しでこちらを見上げる彼女。

男らしいところを見せ付けようとして、ちょっと度が過ぎたかもしれない。
反省反省。


驚かせてしまったのか、それとも緊張のあまり言葉が出ないのか、特に言葉無く俺を見つめる彼女。

それならエスコートしてあげなきゃイカンよね。とか考えていた矢先、


「……そろそろの筈なんですが?」


ん、何が? と思うのとほぼ同時に、急に意識が朦朧とする。
立っていることすら困難になり、即座に膝立ちになる。


「あ、あの、毒ではないそうです。
 ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」


意識を保とうと顰(しか)めっ面になった俺の表情に驚いたのか、慌てて逃げ出す彼女。


謀ったな孔明。と思いつつも、謝りながら逃げるぐらいなら名前教えてほしいなぁ。と、端から見たら全然緊迫感の無い事を考えるのを最後に、俺の意識は途切れたのである。





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#10 淑女たちの交響曲シンフォニエ・前編




「……あぢぃ」

お約束の台詞よりも先に出たのは、暑さで目が覚めたことに対する不満。

ふと周囲を見渡すと、斜めに切り立った板張りの壁……というより天井だろう。
机やら椅子やら箪笥やらが高く積まれ、うっすらと埃を被っている。

窓は開いて風を取り込んでいるものの、篭った熱気は簡単には抜けず、暑い。

どうやら、天井裏の一室のようである。


日の傾きから察するに、俺が意識を喪失していたのは、たかだか小一時間程度のようだ。
……丸一日経過していた。とかいうオチでなければ。



そして俺は、クッションの無い、左右に肘掛のある木製背もたれ椅子に座ってる。

クッションが無いから長時間座っているとケツが痛くなる欠点があるが、まぁ、ふつーの代物である。



問題は、俺の手足がロープで椅子に固定されている事なんだが。


「お目覚めかしら?」


さらに問題は、エリーゼ様を始め、ターゲットたちが集結して俺を取り囲んでいる事なんだが。



……もしかしなくても、バレました?



「さて、ではこれより『第一回、不埒者を糾弾する会』を開催したいと思います」

音頭を取り、取り仕切るのはエリーゼさん。
まぁ、この面子なら無難なところではあるのだが。

えーっと、顔は笑ってるけど目が笑っていないし。とても不穏なタイトルが付いているのですが?


「もしお望みなら、未来永劫貴方に関して裁く必要が無くなる様にもできるんだけど?」
ドーンと仁王立ちしつつ指を鳴らしているレヴィさん。

やはり彼女も、微笑みながら目が笑ってない。
暴力反対。あと、女性が指を鳴らすのは良くないと思います。節太くなるよ?


「えーっと、まだ自分の置かれている立場、判ってないのかな?」

俺の目の前に、人差し指を突きつけるミシェリさん。

俺、SMは趣味じゃないんだ。特にMは。
束縛羞恥プレイぐらいまでは許容範囲だとしても、その指先でビリビリ言ってる電撃とか、ソッチ系は正直遠慮願いたい。


「えーっと、皆様。本日はお日柄も良k」

ガコンッ!

後方から頭上への衝撃を受け、ふと振り返ると詩集(ハードカバー)を手にしながら、例によって目が笑っていない笑顔のセシルさん。痛ひ。


「下手に冗談とか言わない方が良いよ?」

台詞だけだと俺を気遣ってくれているようにも思えるが、例によって目が笑っていない笑顔のカティナさん。
その、後ろ手に持ってる猫じゃらし(?)は何に使うのでせうか???


「とりあえず現状は把握して頂けました?
 では、私たちの質問に答えてくださいね。正直かつ簡潔に」


エリーゼさんが俺に、有無を言わせず無慈悲な一言を投げかける。

そりゃあもう、この上ない笑顔でこう、ニッコリとしながら。






「……という訳で、実は俺は異世界から生まれ変わりなのdぐぇ」

スコンと良い音立てて、詩集(ハードカバー)の角が俺の頭上に落ちる。


「さっき言われませんでした?」

セシルさんが、例によって目の笑っていない笑顔d(ry
ヒドイ。本当の事言ったのに。


まぁ、そこはそれとして、一番重要な事を聞いておかねば。

「で、何がご不満なのかね?」

そう、まずそこから確認しないといけない。
つーか、俺、皆さんに不都合与えるような事した記憶が無いのだが?


暫しの逡巡の後、胸の下で腕を組んだエリーゼさんが、一歩前に踏み出す。

椅子に座った視線の高さだと、その、なんだ。
丁度目の前に、良い感じで強調された二つの膨らみが……実に眼福である。


「別に、誰か一人に取り入って裏で手を引く。程度ならそれほど気にもしなかったのですけどね。
 この5人全員に、しかもそれぞれ他の人間には判らないように、用意周到に秘密裏にしてまで干渉する理由が判らないのですよ。
 ……そこまでする貴方の目的とは、一体何なのですか?」


理由、ねぇ。

「俺がアデルの親友だから。さらにはここにいる5人の事が嫌いじゃないから。
 という理由じゃダメか?」

周囲を見渡す。が、どうやら納得して頂けていない模様。
うーん、下手に本当の事言っても、さっきみたいに殴られるだけだろうしなぁ。


「うーん、じゃあ、アデルのコネで男爵領で仕事に就いたときに、金儲けができるから。
 ……と言う理由でどうでしょう?」


なんか全員から白い目で見られてるし。


「どうでしょう?って、わたし達に聞いてどうするのよ?」

カティナさんのツッコミも御尤も。


「その辺詳しく聞かせて貰いましょうか?」

えーっと、ミシェリさん。密着してくれるのは非常に嬉しいのだが、そのビリビリも密着させるのは止めて欲しい。

……どうやら、拒否権は無さそうで。






「……と言う訳で、アデルはモテモテで幸せ、みんなも幸せ、俺も実績積むことができて幸せ。という計画があるのだよ」

という訳で、仕方無く「男爵領開発計画」を暴露する。


「へぇ、私たちをそんな風に利用しようとしてたんだ?」

詰め寄ったレヴィさんが無表情のまま、椅子ごと持ち上げんがばかりの勢いで俺の襟元を締め上げる。

ちょ、チョークチョーク。頚動脈極まってますってば!!

……意識……が……。


「ちょっと待って、レヴィ」

流石に見かねたのか、止めてくれたのはセシルさん。
ありがとう。君の優しさは忘れない。


「その説明だと、私とレヴィに干渉している理由が無いんですよね。
 ……まだ何か隠してませんか?」

前言撤回。優しく無かったよ orz


「へぇ、この期に及んで隠し事なんて、随分余裕ねぇ?」

「あまり手荒な事はしたくは無かったのですが、ここまで強情だと実力行使に出るしかありませんよね?」


どうやら、薮蛇と言うか、火に油を注いだと言うか、地雷を踏んだと言うか、


とにかく、俺、ピンチっぽいよ?






[10207] #11 淑女たちの交響曲・後編
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/08/29 05:59
[#11]

俺は耐えた。頑張った。
でも、

「蜂に刺されるより痛いビリビリ」

「猫じゃらし(?)くすぐり地獄」

「シュテラ茶おかわり3杯」

とか。

耐えたんだ。頑張ったんだ。


でも、もう折れても……いいよね?





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#11 淑女たちの交響曲シンフォニエ・後編




『……』

5人の視線が、痛い。


俺は、この視線の意味を知っている。

かつて、「前の世界」で昼休みに課長と先輩と、お世話になったAV女優の話に花を咲かせていたときの、周囲の女性社員の目。


「最低」
「変態」
「死ねばいいのに」


うん。ズバリこれだ。


まぁ、女性の前で得々とハーレムに対する情熱を語ったりとか、某総統代行風に演説をブチかましたりもすれば、そうなるんだけど。



「……ふぅ」

この、痛い沈黙を真っ先に破ったのはセシルさん。

「悪い人だとまでは思っていませんでしたけど」

嘆息交じりに続ける。

「そんな馬鹿馬鹿しい理由で暗躍されてるとか。
 正直、……あきれ返るの通り越して、感心すらしてますよ」

うむ。偉大な俺様をもっと褒めたまえ。


「褒めてないから」

ミシェリさん。魔道士として「勘」が発達しているのは判るんだけど、地の文にツッコまないで欲しい。
あと、その指先のビリビリも。


「で、この馬鹿の陰謀は放って置くとして、この後どうするの?」

「……譲ったり引いたりする気は、無いですよ?」

「わたしも……嫌だよ?」

なんか嫌な雰囲気を醸し出しながら対峙する、レヴィさんとエリーゼさんとカティナさん。
俺に言わせれば最悪の展開に成りかねない雰囲気に。


「もちつけ諸君、争いはイクナイ。ラヴ&ピースがいちbヘごらっ」

俺の仲裁は、口へと突っ込まれた猫じゃらし(?)に阻害される。

嫌じゃん嫌じゃん! 修羅場なんか見たくないんじゃよ!
包丁とかノコギリENDなんかリアルで見たくないんじゃよ!



「ちょっと待って」



そんなオウガバトル勃発を止めてくれたのはミシェリさん。

「譲るだの引くだの奪うだのいう話は置いておくとして、
 ……正直今の状況に、不満のある人っている?」

流石大人の意見。現実というものが判っていますよ。
いいぞいいぞ、もっとやれ。


「元々私などでは、そもそも家の格式が違い過ぎますし」

その辺は親譲りなのか、頭の回転の速いセシルさんからも援護射撃。
ちょいと考えれば判る事だが、下手に正妻争いなんぞしようものならエリーゼさんの一人勝ちになりかねんのだよ。


「この馬鹿の思い通り。
 っていうのが、気に入らないけどね」

とうとうレヴィさんからの呼称は馬鹿固定ですか。
いや、別にいいんだけどね。


周囲の空気に押されてか、最も優位に立っているエリーゼさんも

「まぁ、私の父も愛妾の3人や4人は抱えていますからね。
 どこの馬の骨とも判らぬような女との寵愛争いをするぐらいなら、気心知れた皆さんとお互い仲良くやっていったほうが、気楽ではあります」

残り4人の存在を肯定する発言を。


それはともかく、どんどん話が都合良い方に流れてきたぞ?
……これも日頃の根回しの積み重ねか。

うむ。偉いぞ。昨日までの俺。


そして、椅子に縛り付けられた俺を放置しての、小一時間程の作戦タイム。
最中、「協定」とか「維持」とか聞こえてきたんだが、最悪の事態は……避けられたのか?






「さて、『第一回、不埒者を糾弾する会』の結果を言い渡します」

エリーゼさんが笑顔で、俺に判決を言い渡す。


「貴方には、今後も私達に全面的に協力して頂く。という事になりました」

そういえば誰か偉い人が言ってたよね、


「但し」

笑顔って、“肉食獣が獲物を見つけたときの表情に由来する”って。


「今後、私達への隠し事は一切無し。事前に私達に話を通しておくこと。
 ……異存は、ありませんよね?」

エリーゼさんを筆頭に、5人の肉食獣の笑顔の前で、カクカクと首を縦に振るしか選択肢が無かった訳で。


「宜しい。
 では、これにて『第一回、不埒者を糾弾する会』を閉会したいと思います」


……そこ、「弱っ」とか言うな!



「はぁ、馬鹿馬鹿しい」

「帰って寝ます」

「なんか疲れた……」

皆一様に煤けた様子で、俺のことを一瞥だにせず部屋から退出する女性陣。

どうやら俺は、生きのこることに成功したらしい。


オーケー兄弟ブラザー。今の俺の状況を整理してみようか?


「監禁」



「尋問」



「説得成功」



「無罪放免」



いや、違うな。



「陰で暗躍する策士」



「俺の嗜好がバレる」



「使いっぱしり」



こ れ だ !


どうやら俺、使いっぱしりに降格したっぽいよ?





……あと、誰かこの縄解いてくれませんか?






未だ残暑厳しいとは言え、夕刻にもなるとかなり涼しい。

部屋の窓を開け放ち、窓辺で頬杖をつき物思いに耽る美少女ひとり。
孔雀石マラカイト色の瞳に映る夕日は赤く輝き、白磁のように白い肌は夕日に赤く染められている。
そのライトブロンドの髪は風に揺らぎ、夕日に染められてまさに黄金の輝きを放っている。

画家であればその一瞬をカンバスに閉じ込めようとしたであろうし、異性の同級生達は彼女への想いを募らせた事だろう。

その台詞が聞こえないのならば。であるが。


「意外に……合法的に睡眠薬の調達を行うには、難があるのだな」


今回使用した睡眠薬の調達の手間を思い出し、思わず眉をひそめる。

公爵家の名前を出せば簡単だったのだろうが、「家の者が不眠に悩まされている」とあらぬ噂が立つ可能性等を考慮し、匿名での入手を試みたのだが、これが存外に手間が掛かったのである。

彼は、秘密裏に話を進めるつもりだったのだろう。
しかし、当事者達の協力の意思があってこそ、謀(はかりごと)というものは成功率も上がるのだ。


故に、私はわざと彼女達に情報をリークした。
ついでに、彼女達が尋問をしやすいように、彼に睡眠薬を盛って屋根裏に拘束したりもした。


今頃、彼女達に問い詰められ、冷や汗を流しながら彼女達への対応に追われている頃だろう。
この機会に、是非とも「人は利によってのみ動くにあらず」と言う事を、身をもって思い知っておくと良いだろう。

それに、今回酷い目に遭うとしても、せいぜい数人の女性に白い目で見られるようになる程度。
なに、命に関わる事でもあるまい。


「お嬢様。何か良い事でも御座いましたか?」

私にとって「そこにあって当然」の初老の男性が微笑みながら佇む。
公爵家の執事の一人であり、私の世話役である爺(じい)である。

顔に出しているつもりは無いのだが、それこそ生まれてこの方ずっと私の世話をしてきた爺には、どうやら私の鉄面皮は通用しないらしい。


「良い事……うむ、良い事。だな」

その呟きはむしろ、爺に語りかけるよりも自身への確認だった。
そうだ、これも彼の言う「幸せな陰謀」なのだ。

そもそも彼は勘違いしているようだが、対局者のいない盤上遊戯チェロットほど味気無いものは無いのだぞ?


「ならば、祝杯。というのは如何でしょう?
 エザリアの良いワインが入っております」

爺がいつもと変わらぬ、静かで優しげな口調で語りかける。
そうだな、ワインを片手に私の……彼のではない「幸せな陰謀」の結末に想いを馳せるのも悪くは無い。


「任せる」

私の返答を聞いた爺は、静かに頭を下げ、部屋を後にする。


最近、秋の気配を感じさせ始めた、涼やかな夜風の吹き込み始めた窓を閉めながら想う。



……どうやら今夜は、良い夢が見られそうだ。







【注記みたいなもの】

盤上遊戯チェロット = なんつーか、チェスみたいなもんだと思ってくだせぇ。




【作者の言い訳】

ごめんなさい。わたくし嘘をついてしまいました orz

本来、1話予定の話が長くなったので、2話に分けたYO。


……次が最終話です。いや、今度こそ本当に。





[10207] #12 異世界で親友に世話焼かれる男の話
Name: けん・さいとー◆ce0b94da ID:7ade008e
Date: 2009/09/12 20:15
[#12]

クッションの無い樫製の背もたれ椅子に、手足が縄で縛り付けられている。


俺の目の前に立ち、無言で本を突きつける少女。
どうやら本を読んで欲しいらしい。が、手が縛り付けられていては、頁をめくる事すらままならない。

「えーっと、……縄、解いてくれないかな?」

牛乳瓶底もかくやという丸眼鏡越し故に視線は確認できないが、多分俺を凝視したまま本を突き出すのみ。
何この放置プレイ?


「……お茶……どうぞ……」

声のする方を向くと、ソバージュの掛かった長い赤毛を揺らし、手にはトレイに乗せられたマグカップを持った女の子がこちらに歩み寄ってくる。
前髪が長く、目元が見えないために表情は良く判らないが、口元から察するに哂っている様だ。

「……健康……良い……飲んで……」

強烈な異臭のするその液体を、身動きできない俺の口に注ぎ、事もあろうか鼻を摘む。
ギャー。ゲロマズす!! 青汁の比じゃないよ!! 八名さんボスケテー!!!!


「ふむ、まだ耐えるというのか?
 そんな君のために断頭台を用意しておいた。これでズパっと逝ってくれたまえ」

断頭台の横で、紐持ちながら無い胸を反らせてふんぞり返るヒルダ様。
クイっと紐を引くと、断頭台の上から巨大な刃が落ち、断頭台にセットしてあった案山子の首が、スポーンと吹っ飛び俺の足元に転がりつく。


「死にたくないなら、死ぬ気で特訓しろ」

相変わらず無茶な事を仰って下さるのは、剣術師範のコーネリア女史。

右手に握ってるのは鞭でしょうか?
非常に良くお似合いの武器だとは思うのですが、人に向ける武器じゃないよ、それ。
皮どころか肉まで裂けますから! SM用の鞭はそんなに長くないから!!

コーネリア女史が大きく腕を振りかぶり、俺に向けて振り下ろす。


「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




自分の上げた悲鳴で目を覚ます。



あ、夢か。
なんか、すげー嫌な夢を見てたんだが。



……あれ? 思い出せん。


どうやら、精神の防衛機構が思い出すことを拒否してるっぽいよ?





異世界で親友のために下世話焼く男の話

#12 異世界で親友に世話焼かれる男の話




あれから約1年。今俺は紆余曲折を経て、男爵家の「自称・政務官」として納まってる。
肩書き無いのも寂しいし、名前負けしてもアレなので、びみょーなラインで。

俺たちが卒業し、男爵家領地へ到着すると同時にアデルへの家督相続が行われ、先代……アデルの親父さんは隠居して、現在、マッタリとしてしつこくない過ごし方を堪能している。

ま、体悪くしてるみたいだし、ゆっくり養生してくださいな。


うん。まぁ、ここまでなら想定の範囲内だったんだが。


いきなり「男爵の相談役」、つまり事務方として筆頭クラスの権限を与えられ、旧来の家臣達が俺をサポートするとか言い出す始末。

いや、そこで普通「若造ごときが政務に口を出すな!」とか「どこの馬の骨とも判らん若造に、領地の事が任せられるはずが無い!」とか、確執あるべきじゃないの?

私生活レベルでの相談役 兼 下っ端書記あたりから、どうやって成り上がってやろうかとか画策していた俺が、まるで馬鹿みたいである。


さらには、ほぼ同時に伯爵家から令嬢エリーゼさんの嫁入りの話と、港の使用許可と開発資金提供の話が一緒に来たりもしたし、レヴィさんの実家から愛妾として彼女を迎え入れて欲しい旨の便りなんかも来たりした。


いや、それなんてご都合主義?

とか思っていたのだが、どうも公爵令嬢にして王位継承権第5位とかいう、ちょっと残念な(特に胸とか)スーパーお嬢様・ヒルダ様が暗躍していたらしい。


確かに、あの人が「圧力掛ける」とは言っていたし、こっちとしては、あれこれやる前にお膳立てが整って楽チンではあるのだが。



……いや、結局あの人、一体何やりたいんだ?



+


「どうぞ」

部屋の主、アデルからの返事を待って部屋に入る。

当初の計画通り。いや、計画よりもかなり前倒しで、アデルの右腕として辣腕を振るい、いくつかの経済立て直し計画を軌道に乗せ、近隣からは「百年に一度の奇才政治家」という評価を頂いていたりする。

……天才じゃなくて奇才。ってのが物凄く気になるのだが。


つーかこっちの世界、経済収支に関する概念がドンブリすぐる!
簿記準一級舐めるな!キャッシュフローとかグラフにして親切丁寧に説明するぞゴルァ!!

セシルの親父さんに複式簿記の事をチラッと手紙で書いたら、いたく感心されていた模様で、その次に送った手紙が下手な複式簿記入門書になっていたとかいう笑い話もあるぐらいなのだ。


それはともかく。だ。

ここまで派手に実績を積んでおけば、実家に帰ってもそう簡単に「処分」されるような事もあるまい。
あるいはこのまま、この男爵領に骨を埋めるのも悪くは無いし。

なにせ、ここには俺の「現実と化した理想」があるからな。


「……二人きりのときぐらい、普通に話してくれていいよ」

「ん、そうだな。俺も面倒臭ぇし、単刀直入に。
 現在、防衛戦力増強は着々進行中。まぁ、どちらかというと、奴さんに手を出させないための妨害工作がメインだな。
 戦争なんて、無いに越した事は無い」


隣の「戦争だけが取り得」の脳筋成り上がり子爵が、最近羽振りの良くなってきた男爵領うちの利権を根こそぎ奪おうと、軍事的な準備をしている。
とかいう、きな臭い情報が入ってきてたりする。

どうも隣の脳筋さん。「英雄」とか呼ばれて戦争の手腕に絶対の自信を持ってるようですが、


脳筋如きに、戦争の大義名分与えてやると思ってるの?

税を搾取するしか能の無い子爵領そちらさんと、いざとなれば領民総動員して総力戦可能になってる男爵領うちの継戦能力との差を舐めてるの?

怖いのは電撃戦だけなんだけど、防諜どころか各種工作活動し放題なの判ってるの?

その前に、この俺が脳筋なんかと正面切って戦闘なんか繰り広げるとでも思ってるの?

馬鹿なの? 死ななきゃ治らないの?


……という訳で、「8代先まで子孫領民に墓に石投げつけられるぐらい、歴史に残る赤っ恥をかかせる罠」を発動させるため、絶賛暗躍中である。


「あ、そうだ。先日の公爵家からの手紙だけど、君にも宜しくと書いてあったよ」

あのスーパー(残念な)お嬢様め、「宜しく」だけかいっ!

まぁ、むしろ宜しくお世話になっている訳なので、返事を書けと言われても「こちらこそ恐縮です」としか返しようが無いんだけど。






その後、取り留めも無い話で軽く盛り上がる。
この時だけは男爵と家臣では無く、以前の悪友同士に戻れる貴重な時間だ。

だが、そんな時間が長く取れる訳でも無く。
扉をノックする音で中断される。


「政務官殿。馬車を待たせてあります」


扉を開けて入ってきたのはデアドラさん。
俺達の二つ前の学校の先輩であり、代々男爵家に仕えるの騎士の家系の娘さんである。

成績優秀のまま卒業しながら、仕官先も無く家で暇していたようなので「優秀な人材が在野とか勿体無い」と、三○志のノリで登用。
表向きは男爵代行として動く事も多い俺に見た目だけでも。ということで、秘書兼護衛としてアデルに頼んで付けて貰った。

正直、生真面目というか堅物というか、キッツイ性格は正直勘弁して欲しいのだが。

「そんな事を言わなければ、私とて、もう少し穏便に対応できるのですよ?」

言わなくても、商人に怪しい薬を取り寄せさせたり、仕立て屋にエロ衣装を仕立てさせたりするだけで怒るし。

「そう思うのであれば、真面目に仕事をしてください」

いや、俺、仕事は真面目にしてるぞ?
仕事も、仕事以外も、手を抜かん主義だからな。

「ですから、その労力を仕事に回してください……」


そこへ空気を読んでないアデル君の、例によって的外れ発言。

「ふたりとも、なんだかんだ言って仲良いよね?」

「違います!」「違うから!」

全力で否定させていただきますとも。ええ。



まぁ、話の腰は見事に折られちゃったし、次の仕事のためこの辺でお暇させて頂きますかね。

「これから港の新設備の視察に行って来るけど、なんかついでに用事とか。無いか?」

アデルは黙して首を横に振る。

「んじゃ、奥さん達と仲良くやれよ」

今日も素敵なプレゼント用意してやったし、明日から数日は港町にいるだろうから苦情も届かんしな。


俺はアデルのほうを振り返らずに、手だけ振ってその場を去った。






部屋に残されたのは当男爵領の領主である、アデル男爵ひとりである。

「……な陰謀。か」

部屋の主の発した呟きは、他の誰に聞かれる事も無く、静かに石壁に吸い込まれた。





さて、アデルの嫁さんたちと俺との関係も一応触れておこう。


あの「椅子に縛り付けられての尋問」以来、軽蔑の眼差しで見られるようにこそなったものの、一応は友好的である。

まぁ、彼女達に不利益は被らせてないしな。


で、エリーゼさん相手に

「この『全裸よりエロいスケスケビスチェ』があれbほわちゃあ」

と、ティーポッド(アレ結構値が張るんだぞ)を投げつけられたり。


カティナさん相手に

「この南蛮渡来の秘薬があれば、朝までノンストップ抜かずのsぐぶへぼぅ」

と、鳩尾へイイ一撃を食らったり。


レヴィさん相手に

「この『殿方を悦ばせる67の夜の絶技』さえ読mへぶおべぐはぁ」

と、右フック → 左アッパー → 右ストレートという見事なワン・ツーフィニッシュ食らったり。


ミシェリさん相手に

「この『海軍制式陣中衣エロ魔改造ver.』をビシッっと身に纏「ウマトの呪い針よ、汝に宿りて激痛を成せ ~ 呪いの針千本 ~!!」いでいぢであsl」

と、激痛のあまり怪しい踊りを披露したり。


セシルさん相手に

「このリボンだけを身に付けて『今夜は私を食・べ・て(はぁと)』とか言えbあわびゅ」

と、詩集4冊による乱れ撃ちを食らったり。


まぁ、こんな感じで踏んだり蹴ったりではあるが、概ね友好的な関係を築いていたりする。
なんだかんだで、使ってもらっているみたいだいし。追加注文もあるし!!


最近、彼女達の「仕方ないから使ってやる」的な反応と、次の日の「しょうもないモノ押し付けられた羞恥心と、やる事やって満足しちゃった充実感が入り混じった」表情を見るために、下卑た世話焼くのが楽しかったりするのだ。


大抵数日後に、目の下に隈作ったアデルから苦情が来るのだが。

「家庭円満こそが、領地安寧への第一歩なのだよ」

この一言で、いつも片付くし。


アデルの寿命はちょっと縮むかもしれないが、皆幸せそうで何より。
まぁ、終わり良ければ全て良し。という事で許してやって欲しい。






さて、俺の華やかな活躍とか、実は下町ではおばちゃんにはモテモテだったり(経済状況が良くなったから……なのか?)とか、積もる話はいくらでもあるのだが、
俺が「異世界で親友のために下世話焼く話」はこの辺で終わりにしようと思う。

別の機会があればその時はその時だが、その際には御清聴頂ければ幸いである。


それではっ!































僕の自己紹介については、とりあえず「オリ異世界領主モノ」と言えば概ね判って頂けると思うので、この場では割愛させてもらう。


僕の友人に、とてもいい奴(♂)がいる。

同じ王都の学校を卒業し、つい先日父の跡を継いだばかりの僕を、公私共にサポートしてくれる言わば右腕のような存在。
まぁ、彼女達に変な入れ知恵するのが困りモノではあるのだけれど。

彼のためなら死んでもいい。とまでは言わないが、腕の一本ぐらいなら。と思えるぐらいいい奴なんだ。


彼は否定しているけど、彼に好意を寄せているらしい女性達が存在する。

皆ひと癖もふた癖もあるんだけど、そもそも彼自身が「来る物を拒まず。全ての女性を受け入れて幸せにしてやる。ぐらいの気概あってこそ漢」って日頃から言ってるしね。


さて、本題。


そこでなんだけど。



彼と、彼を慕う女性達の幸せを願うのって、悪い事じゃないよね?





    異世界で親友のために下世話焼く男の話 ~ 完 ~















【作者の言い訳】


やぁ(´・ω・`)


オチはあるけど山なし意味なし。そんな作品の最後まで良く来たね。

いろいろ貴重な意見は頂いていたんだけど、このオチだけは変えるつもりは無かったんだ。ゴメンな。

あと、当初からオチに期待してた方々に。
こんな程度のオチで正直スマンカッタ(´・┏┓・`)


「ネタとオチだけ決まっていた話」を勢いで10+なんだかんだで3話分。
大筋だけ決め、色々方針転換なんかもしながら肉付けしてみた。

「10話」というのは、「途中で投げ出さず、飽きる前に書き終えることのできる分量」と勝手に設定しただけで、それ以上の意味は無かったり。

うん。「ある程度のボリュームのSSを最後まで書く」のが最大の目的だったんだ。


という訳で、注文を受け付けるでもなく店じまいなんだ。ゴメンな。



ただ、当作品への批評ツッコミ叱咤激励は、現在構想中の次回作に活かされると思われます。
……多分。



最後に、

当作品を最後まで読んでいただいた皆様に、多大なる感謝を。


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