[#7.5]
あー、やっちまった。
「あー、マジ悪ぃ。
これ、渡しとく。んじゃ」
「あ、うん。ありがとう」
どうやらストロベリーなひと時を、俺が訪れた事で邪魔したらしい。正直スマンカッタ。
でも、なんだかんだでヤル事やってるねー。と、ひと安心してみたり。
ほんの僅かに息を乱しながら扉を開けたアデルの肩越しに、部屋の中を伺う。
中には、顔を真っ赤にして俯き、向かい合った一組のソファーの対角線上に位置するように離れて座るミシェリさんとレヴィさん。
いや、そんな座り方してたら「今まで別の位置にいましたよ」ってのバレバレなんだけど?
俺の中では非常に意外な組み合わせの二人なのだが、まぁ、そんな事もあるだろう。
そして中で何が行われていたのか非常に気になるのだが、そこまで探りを入れるのは野暮という物。
え?「エロ絵ゲットだぜ! ウッハァァァァァァァァ!!」じゃないのかって?
そこまで俺、ダメ人間じゃないッス。こう見えても俺は紳士なんだYO!
いまさら信じて貰えないかもしれないけど、マヂで。
+
異世界で親友のために下世話焼く男の話
#X もうひとりの黒幕さん
+
まぁ、なんだ。
今回、アデルのための「ハーレム in 異世界」計画実行はお休みである。
今回は、今までの経緯の幕間というのか、番外的なお話。
俺と、もうひとりの黒幕さんの話だったりする。
うん。今までのシナリオはあくまで「原案・脚本・監督=俺」なのだが、「協賛・エキストラ動員」的なバックアップ役がいたりする。
ついでに言うと、いくつかのアイディアを頂いていたりするんだわ。特にセシルさんの件とか。
「さて、君の言うとおり餌はバラ撒いておいたぞ。
次はどうすれはいい?」
ポニテにした軽やかで艶やかな金髪を揺らし、ビスクドールもかくやという白い肌をやや上気させ、あまりにもささやかな胸を張りふんぞり返るように高らかに宣言する、目の前のすんげー乗り気なこの女性。
スーパー(残念な)お嬢様・ヒルダ様。
なんと当学校に在籍している中では最高爵位、公爵令嬢様であられられる。
ちなみに学業優秀で当学年では主席。さらに王位継承権も5番目ぐらいとか。
もう、どんだけー。
そよ風に揺らぐ、黄金もかくやと言わんがばかりに輝くライトブロンドの髪。
スラっと筋の通った鼻。小さく鋭くまとまった顔の輪郭。
孔雀石色の瑞々しい輝きを湛えた瞳。流れるような長い睫毛に、細く整った形の眉。
エリーゼさんも見た目モロ「お嬢様」なんだが、ヒルダ様のそれとはレベルが違う。
もうね、こっちは「お姫様」って言って過言じゃないレベルだったりするのだよ。
傍目には。
うん、そう。傍目になんだ。
傍目には至宝の女神像もかくやという、恐ろしいほどの造形美を誇る彼女ではあるのだが、なんか堅っ苦しい口調といい、高圧的な態度といい、残念すぎる胸部(Aすら怪しい)といい。
美人さんなのに、萌えとか色気とかが壊滅的に無いのである。
少しはエリーゼさんとかミシェリさんを見習ってもらいたいものである。
まぁ、そんな事思っているのをほんのちょっとでも表に出そうものなら、不敬罪で断頭台の露と化しそうだから黙ってるけどな。
+
彼女との馴れ初め……はい、調子に乗りましたゴメンナサイ。
出会いは、優等生のアデルが、親の爵位とかしかアイデンティティの無いバカボン共にイビられていた際に遡る。
アホどもに耐え兼ねた俺が、
「お前らじゃなくって親父さんが地位高いのに、暢気だね。
地位高い。って事は、それだけ責任ある地位にある。って事じゃね?
他人貶めてる暇があったら勉強すれば?」
的な発言(無論、地位を盾に俺までイビられたら堪らんので、バカボン共には即座に理解できない高度な揶揄で隠匿してだが)で嫌味を言ってやったその時に、たまたまその台詞を聞かれたりしたのである。
どうも、「地位の高い人間は、地位に準じた責務がある」という俺の意見に、共感するものがあったらしい。
公爵令嬢で王位継承権も第5位とかじゃ、俺の露知らぬ苦労もしてるんだろうし。
で、俺の立ち位置は、早い話が彼女の「お気に入りの遊び相手」って感じなのかね?
お偉いさんにコネができる。という意味では、ありがたい事この上ないけど。
ちなみに、正しくは「ヒルデガルド=デル=ルーセレント=ヴォン=エルドワール」様(「ルーセレント」「エルドワール」の二つが苗字つーか家名な)なのだが、何故か略称で呼ぶことを許されるという、非常にありがた迷惑な栄誉を賜っていたりもする。
つーか、人前で呼べねぇよ。貴族でもない俺が。
男爵家嫡男である、アデルですら許されていない事なんだぜ?
という事で、彼女との接触は非常に肩がこる。
というか、いつ地雷を踏んで断頭台の露と化すか。という恐怖を背負いながら行わねばならない。
それでいて無視なんかできない。という、不条理極まりない死亡フラグ満載の爆弾イベントなのである。
+
「計画はこの学校でできる範囲では、およそ8割程度発動。
もはや成功したと言っても過言ではない状態です。
あとはむしろ卒業後に、どれだけ滞りなく計画を進められるか。ですね」
ヒルダ様へ対する口調も「それこそ同年代の友人と接するのと同じように、フランクに」とか命じられたんだが、いや、無理ですから。
そんな地雷踏みたくないですから。
という訳で、「親しき仲にも礼儀あり」程度な口調で許して貰っている。
このレベルですら、本来払わねばならない礼をざっくばらんに欠いている状態であり、第三者に聞かれたらどうしよう?と、すげー冷や汗モノではあるのだが。
「ふむ。ここまで面白いように話が進むと、逆に落とし穴があるのではないか?」
形の良い眉をひそめ、顎先に人差し指と親指を当てながら考え込むヒルダ様。
「いや、そもそも敵対勢力がいる訳でもないですし、この計画で損をする人間も、基本的にはいないはずですから。
そういう意味では、不確定要素は概ね『良い方』に転がると考えて宜しいかと」
そりゃあ、伏魔殿たる王宮とかなら権謀術数も飛び交っているのだろうが、ここは平和な学校である。
俺の回答に納得できないのか、あるいは彼女自身思うところがあるのか、彼女が次の発言をするまでに暫しの時間を要した。
「では、私の方も本格的に動くこととしよう。
まずはエリーゼの婚礼と、レヴィの実家への働きかけだな。
伯爵家へは、まず私自身が手紙を認(したた)めよう。
そうだな、あくまで学校の同級生として、友人の幸せを願う。という形であれば、圧力としても無理はあるまい。
そもそも例の誘拐未遂事件があるからな。伯爵としてもそれほど異存はあるまいよ。
目下の最大の問題は『塔』の干渉だろうが、ミシェリ女史本人が職を辞す。と言うのであれば、『塔』の輩も手出しはできまい。
無論、手を出すようなら私が全力をもって叩き潰すがな」
なんつーの?
いつの間にか、何故か俺よりノリノリのヒルダ様が出来上がってたりしたのである。
……正直、彼女もアデルに目を付けたのか?と思い、畏れ多くも確認してみたこともある。
彼女も候補に加わると、エリーゼ様を正妻にしようという俺の計画が破綻するので。
「ん?ああ、あの男爵家の長男か。
あの程度の男であれば、近衛に所属する婿候補に何人かいるぞ?」
確かに、近衛騎士団には式典における立ち回りとか所謂見た目が重視されることが多いため、容姿も入団の基準にはなっているのだが。
何人か婿候補にいるとか、それをアッサリ言えるヒルダ様の立場を改めて思い知らされた一幕だったりする。
加えてさらには、
「私の婿となると、少なくとも伯爵位かそれに準じる功績を挙げた者に限られるだろうな。
当然、君や、君の友人程度では話にならない」
との事です。俺も含めてアウトオブ眼中です。
まぁ、逆に気があったりしたら物凄く怖いんですが。
いつ断頭台の露と化さねばならないのか? というデストラップ的な意味で。
そしてやっぱり、未だに彼女がノリノリな理由がさっぱり判らんのである。
……やっぱ貴族って、根っからの謀略好きなのだろうか?
+
「誰も不幸にならず、皆が幸せになれる陰謀」
それを彼の口から聞いた時、私の全身に衝撃が走った。
それこそ物心付く前から、否応無しにあらゆる種類の権謀術数に巻き込まれて過ごして来た私にとって、陰謀とは私の全てを奪おうとする悪意であり、あるいは私の全てを守るための刃であった。
それは「幸せ」などとは程遠い、人の業が生み出した呪詛。
学校内で下手な人間を使い(あれでは、素人以外には諜報活動をしているのが筒抜けである)、いろいろ調べ回っていた彼を締め上げ、白状させた結果。
彼の口から出たのが、例の言葉である。
だが、それはあくまで他人が押し付けた幸せの定義であり、決して本人の望むものとは言い切れないのでは?と質問したこともある。
「ま、幸せになれば、笑って許してくれるかと」
彼の故郷の言い回しで「終わり良ければ全て良し」なのだそうだ。
それは、為政者としての重要な気質……結果として最良のものが得られるのであれば、過程における損害を省みるべきでは無い……にも繋がる、重要な概念である。
たかが地方領主の次男。と侮っていたが、中々に有望な人物らしい。
「友の幸せを築くための、幸せな陰謀」は、とても心躍るものである。
かつては自らの策謀で命を落とす、あるいは失脚する者に対し、深い自戒の念に陥った事もある。それが火の粉を払う、自己防衛の行為であっても。
しかしながら「幸せな陰謀」では、人が傷つく事を恐れる必要が無い。また、いつしか不感症になっていた自らの心を傷つける事も無い。
故に、誰への躊躇無く全力を以って当たる事ができる。
彼のやり方を見ていると、もう少し上手い方法が無い訳でもない。と思う。
しかし、今回の首謀者は私ではない、あくまで彼である。
私はあくまでサポートに回り、彼の計算外の部分を埋めてやるようにすれば、概ね計画どおり話は進むだろう。
「幸せな陰謀」に加担することで、このような爽快な気分になれるとは思っても見なかった。
その意味では彼に感謝しているし、恩は返してやらねばならないだろう。
だが、私に言わせれば彼のやり方はまだまだ甘い。いや、隙だらけと言って良いだろう。
確かに「敵」のいない今回は十分に通用するだろうが、今後彼が権謀術数の世界で生きていくには致命的。と言っても良い。
ここはひとつ、私が教育してやらねばな。
……そう、これも彼の言う「幸せな陰謀」なのだ。
【作者の言い訳】
ようやく主要人物全て登場。
うん。ょぅι"ょ成分は無いんだ。ゴメンな(´・ω・`)
#本当は9+1話予定だったんだけど、あと1,2話ぐらい増やす……か?