20.退院と散財とベルカ式
予想通りの再入院―うん、待ってた病院スタッフが多かったな~なんて。どーも例の新薬、効果が従来品と比較して目覚しかったらしく、その臨床試験中の患者が行方不明になったもんだから、向こうも上へ下への大騒ぎになったようで。1週間、検査漬けの毎日を送る羽目になりました。
「いやまったく心配しましたよ。せっかく退院した患者が事件などで死亡なんてのは御免こうむりたいですから。」
そうは言ってもままならないのが世の中ですが、とやや安堵した表情で告げてくるのは主治医のバルカ・レクター博士。普段はレクター博士と、地球では不穏極まりない通称を持ってはいるが、人は食わない。もっとも、人を食ったような態度はよくとるらしいが。
「今までそんな経験も?」
その言葉に、ややまじめな顔でレクター博士は答えた。
「管理局員の方がほとんどですな。最近は治安も良くなりましたが、昨日退院した人間が翌日には重傷で運ばれてくるなんて、ざらでしたので。それはそうと、検査結果のほうですが。」
一応アースラで出てた薬で、現状維持は出来ていたらしく、病状の悪化はなし。細胞の代謝に干渉する薬なので、逆に薬が途絶えることで代謝低下などの反動も予測されたけれどそれもなかったようで。若干の細胞の腫瘍化も見られたが、そこも簡単な処置でOK(地球じゃいちいち外科手術になりそうなところだが)。病状経過もいいから、腫瘍化を抑えるために効果を落とした薬を処方された上で退院となりました。時間にして10時半。
「どこか寄って帰られますかな?」
レクター博士の問いに軽く答える。
「そうですね、家族も皆来てる事ですし、少々買い物などをして行こうかと。」
「確かアルトセイムにお住まいでしたな。ふむ、それでしたら南部海岸ライン沿いをお勧めしておきますか。あの辺は高級ホテルや建築中のマリンガーデンなどがありますから、治安面を大分重視されているようで管理局のパトロールも多いですよ。」
大型デパートもありますし、と、おそらく「常連の」管理局員から聞いたであろう情報をレクターは披露してくる。ふむ、同じ南部地域、横の移動で帰りは楽そうだ。クラナガンの南に位置するこの病院からも移動しやすいし。
待合室にいた皆と合流する。
「どうだったよ、プレシア。」
アルフが状況を聞いてくる。
「症状の悪化はないそうよ。薬も弱めのものを出してくれたから、あとは気長に、てところでしょうね。」
「それは良かったです。それはそうと、この後どうします?」
ほっとした表情を見せつつも、聞いてくるリニス。彼女には心配をかけっぱなしだ。もっとも、一番心配をかけている相手は、フェイトだろうが。
「とりあえず買い物でもしていきましょう。家のほうも色々と入用でしょ?」
そう言って、リニス同様にほっとした顔をしているフェイトの手をとった。
「どこに行くの?」
「ドクターのお勧めの、南部海岸ライン沿いに行ってみるわ。大型デパートもあるようだから、食材とかもなんとかなるでしょ。」
聞いてくるフェイトに、そう答えておいた。
レールウェイで南に1時間、やってきましたミッドチルダ南部湾岸地域。クラナガン近くの湾岸地域は開発されきっているか、廃棄区画のような荒廃しきった有様だが、ここの海は違う。やや高層気味に作られたレールウェイの駅からでもその海は、そして一部の砂浜は見えた。少し距離も遠いが、開発中のマリンガーデンらしきものも見える。しかし、その風景に反して、レールウェイの南部行き終点駅であるここの名前は、「南部湾岸地区」という素っ気無い名前しかなかった。見える風景も、規則正しく開発されたような街並みと建築中のビルや家屋、整備中の新たな施設と、味気なさが多く、整った街並みも、やや人が少ないように感じた。きっとここは、管理局設立以前に一度更地になるまでの戦渦に見舞われたのかもしれない。この土地が持っているはずの名さえも消えるほどの。
「あれがレクター博士の言っていたマリンガーデンね。まだ建築途中だそうだけれど、一部利用できる施設もあるようだから帰りに回ってみるのもいいかもしれないわ。」
駅構内の立体映像からの情報から、そのように提案する。オープンは来年になるが、レストランや喫茶店等飲食店関係はすでにオープンしており、東アクアラインも既に開通していてアクセスは可能なようだ。
「ミッドにもあんな海があったんだ。」
おそらく海鳴の海と比較したのだろう、フェイトがそう言った。アルトセイムからほとんど出たことのなかったフェイトにとっては、いわばこれが「故郷の海」になるのかもしれない。故郷はアルトセイムだが。そういう意味では、事件のために「アリア」に着けなかったのは良かったのかもしれないが・・・あっちはあっちでリベンジマッチが必要だ。次は地球に行く為のダシになりそうだけれど。
「ふーん、あの砂浜、再生したんだ。」
情報パネルを見ていたアルフがそう告げた。どれどれ、と見てみると、確かに、最低限の区画整備の後に手をつけたのが、砂浜の再生らしい。部分的には砂浜が自然に再生していたところもあったが、残りは人手が入っている。やはりこの辺は荒廃のさらに一歩先まで行ってしまった地域だったようだ。
「それで、どちらに参ります?ちょうどお昼時ですし、レストランを探すのもいいでしょうけれど。」
時間にして12時過ぎ。リニスの発言どおり、食事もいいかもしれないが・・・
「お昼は少し時間をずらしましょ。多分、混んでるわ。」
というわけで、昼はちょっとずらして買い物の一部を先に。選んだのは海岸沿いの大型デパート、フィリーズ。ちなみに27階イベントホールでの催し物は「ベルカ文明展」だった。あとで見ておこう。まずは定番の地下階、食料品売り場だ。移動の足が公共交通機関しかない以上、全て配達してもらうしかないが。
「意外と安いものですね。」
とはリニスの言葉。
「アルトセイムは個人商店ばかりだから。おまけが付く事が多い以外は、こういった大型店の方が有利なのは仕方ないわね。」
そうはいっても、アルトセイムの商店の製品は地産地消そのものだから、鮮度と季節感では圧倒的に有利だ。種類の豊富さなどでは、おそらく仕入れが農業用に開発された次元世界、というデパートには敵わないが。せっかくだから普段は目にしない食材を、といった感じに様々な生鮮食品をリニスは籠に放り込んでいく。肉。牛肉、豚肉、鶏肉、鴨肉、鹿肉、熊肉、猪肉、竜肉・・・竜肉!?犬と猫を入れないだけましなのか。というか犬と猫もあるのが恐ろしい。野菜。通常の3倍はあるカボチャはアルフに持たせた籠にどうにか収まった。キャベツにレタスは普通。トマトはプチトマトも普通のトマトもどちらも入れた。巨大な白菜、パイプを加えた水兵の絵がある缶詰に入ったほうれん草、投げれば刺さりそうな人参、聖王教会印の入った袋に収まったじゃがいも。グリーンピースは缶入りのために中身は良く分からない。調子に乗ってその隣に並んでいた長ねぎとたまねぎをアルフが入れようとしていたがそれは止めておいた。それがために家ではシチューなどに若干味が足りないのだが、その辺は仕方ない。乳製品についてはアルフはそこそこ慣れているので問題はないが。まあ、使い魔になってから体質の変化もあるだろうから大丈夫かもしれないが、危ない橋を渡ることもない。
「ちなみに同じ理由でチョコレートも食べないように。」
ただ今の発言でアルフがリアルorzしました。けっこう好きだったらしく、ちょこちょこ食べていたようだ。時折アルフが調子を崩していたのはそれが原因か。とりあえず、我が家はチョコとたまねぎは厳禁と。実はねぎ類は危険らしくニラ・にんにくも駄目らしい。これはリニスも同じである。リニスの場合チョコレートは問題ないが。
牛乳にチーズ、別世界で採れたらしい紅茶葉、パスタ、オリーブオイル、ワイン、卵、小麦粉、パン粉、パン自体は近場のベーカリーで買うのでパス、あとは果物か。りんご、オレンジ、ぶどうは駄目なのでパスしてメロンは・・・なんかいいや。スイカもあるが気分が出ない。なんでもあるはないのと一緒って感じだな。イチゴにキウィ、etc、etc・・・。
「こんなところですかね。」
たっぷり1週間分は籠に放り込んだ為に、全員のカートの籠は満杯である。
「随分と多く選んだわね。ついでに魚も見ていかない?」
そうリニスに提案してみると。
「あいにくと魚だとあまりレパートリーがなくて。」
ふむ、ムニエルくらいかな。我が家の食卓は地球圏で言うならヨーロッパ寄りな為に、確かに魚料理は少なかった。なんとなく魚のコーナーを見る。タラの切り身が並んでいる。お勧め料理まで表示されているが、表示されてはいるが・・・「フィッシュアンドチップス」。なんとなく食欲が減退する。
「どうかしました?プレシア。」
リニスも一緒になってモニターを見るが。
「あなたはこれは覚えなくていいわよ。」
あとベイクドビーンズとかも覚えなくてよろしい。これを持ち込んだのは、あの提督か?あの提督なのか?それとももっと前の漂流者か。ハラペコ騎士王がお怒りになりそうな料理の数々が持ち込まれているに違いない。まあ、それでもフィッシュアンドチップスはきちんと作ればましかもしれないが、油の選択を間違えただけで死ねそうな味になるとは思う。アフタヌーンティーの習慣は評価するが。
会計を済ませてそのまま配達の手配もする。距離も遠ければ量も多い以上、持って帰るなんて選択肢はない。しかし、普段は近場での買い物が多いとはいえ、毎回これではなぁ。車でも買うか?先に免許が必要になるが。
「車より先に船を買っているのがそもそも間違いです。」
リニスに指摘されてうなだれる。少し反省。まあ、それは置いといて。
「時間も1時を過ぎたし、上の階で食事にしましょう。」
買った食材は配達係に任せて、エレベーターで移動する。大型デパートの標準通りに、結構上の階にレストラン街が存在した。真っ先に目に飛び込んできたのは27階のイベントに合わせたらしい、「ベルカ料理フェア」。と言っても、それを出せるのはベルカ料理レストランの「アルテリーベ」だけのようだが。レンガ作りをイメージした佇まいとなっており、いくつかの両開きの窓からシックな感じの店内が見える。立て看板のメニューを、少しの間見る。ふむ、ここにするか。
「ここにしましょう。アルフが好きな肉料理も多いことだし。」
途端に目が輝き出すアルフ。とは言え、釘は再度刺さねばなるまい。翠屋では平然と食べてはいたが、やはり外食でのハンバーグは禁止した方がいいだろう。我が家ではたまねぎ抜きハンバーグを作るしかあるまい。
「ベルカってなにかな?」
フェイトの疑問にリニスが答える。
「数百年前に存在した次元世界です。大本の世界は滅びてしまいましたが、文化や技術はまだそれなりに残っていますよ。」
「ミッドの北部には生き残りの子孫が住んでいるわ。」
「へー。」
アルフも多少興味を持ったようだった。
ウェイターに案内されて席に座る。早速メニューを見てみると、ミッドチルダ語表記だけでなく、ベルカ語表記まである念の入りようだ。しかし、その内容は・・・ソーセージ料理とじゃがいも料理の多さでどうみてもドイツです。ビールが無いのが違いか。代わりにワインは数多く入っているが。とはいえ、まずは質問しなければなるまい。
「たまねぎ抜きの料理でお勧めはどれかしら?」
ウェイターの顔が少し引きつった。まあ、多種多様な料理に使われるたまねぎを抜けといっているんだから当然だろう。しかしそこは商売人、すぐに冷静に提案する。
「そうですね、いくつかお選びしましょうか?」
ふむ、おまかせもいいだろう。どちらにせよ、初めての店だ。訳の分からないものを頼んでしまうよりはいい。
「この子だけ肉料理をやや多めでお願いね。あとはお任せするわ。」
「かしこまりました、ところで、ワインはいかがでしょう?」
残念ながら、薬を常用している以上、しばらくアルコールは控えなければならない。丁重にお断りしておいた。結果、出されたものは。
レバークネーデル・ズッペ:レバーを含んだ肉団子のスープだ。幸いにしてこの店ではこのスープにたまねぎは使っていなかった。残りのスープは壊滅。
「焼肉のときとはずいぶんちがうね。」
レバーを食べて固まっていたフェイトでもそこそこ食べられるくらいに、レバー入りの肉団子にはクセがない。スープはあっさりとしていた。
ブラート・カルトッフェルン:ベーコンと茹でたじゃがいもを炒めて、香辛料を加えたもの。本来ならたまねぎも加えるのだが、今回は抜いてあると説明された。別名、ベルカンポテト。つまり、地球圏ではジャーマンポテトだ。おそらくベルカ料理レストランとしての意地でこの料理を出したのだろう。
「じゃがいもがホクホクですね。でも少し辛いかも。」
とのリニスの感想。たまねぎがない分を香辛料で補ったせいかも。
ヴァイスヴルスト:付け合せにザワークラウト(キャベツの漬物)、調味料としてマスタードが皿に載せられている。言ってみれば白いソーセージだが、これは皮を剥いて食べるとのことだ。調理法は茹でる、というよりは沸騰したお湯で温めるという感じらしく、普通に茹でると皮が破れて旨味が逃げてしまうとか。
「なんか柔らかい・・・マスタード付けてるけど辛くないな。」
肉の歯ごたえも楽しむアルフにとってはやや不満かな?ウェイターの話では、マスタードは甘めの専用のものらしい。
「ザワークラウトってのも、すっぱいけれどおいしいわね。」
アウフラウフ:野菜と肉をたっぷり積重ね、ホワイトソースをかけてオーブンで焼いたもの。一種のグラタンらしい。言葉の意味自体も「上に積み重ねていった」ということらしい。当然、たまねぎ抜きでお願いしたが。普段、どんな野菜を入れるのかは知らない。
「たまねぎ抜きだと少し間が抜けた感じになるけれど、それでもおいしいといえばおいしいわね。」
「家庭料理の一つですので、その家ごとにそれなりにレシピが変化します。」
と、水の補充に来てくれたウェイターが注釈を入れてくれた。作ってみるのもいいかもしれない。
アプフェルクーヘンと紅茶:量的にいっぱいいっぱいだろうとデザートに突入。紅茶の銘柄は分からないがそこそこの味だった。アプフェルクーヘンは言ってみればりんごのケーキだが、のせただけではなく、タルトっぽいベースでクリームやらがのった上に焼いている。しかし、アップルパイとは明らかに違うものだった。食後のケーキは至福の一時・・・大分この味覚に馴らされてしまった感じがするな。「前」から甘いものは好きな方だったが、「プレシア」になってからさらにその傾向が強くなっているのかもしれない。リンディとは違うが。
それにしても、ここは「当たり」だ。味はもちろんのこと、ウェイターにまで教育は行き届いているようだし、料理人もこちらの少々無茶な注文に対応出来るだけの力量を持っているし。それにしても少々食べ過ぎたか。
「なんだか食べ過ぎた感じ。ケーキの味がよくわからなかった。」
フェイトには大分多かったようだ。
「肉料理、という感じでなくても肉が多い、という料理が多かった気がします。」
「たまねぎ抜きであれだけ肉料理が出てくるんだから、あたしは満足だよ。」
「また来るのもいいわね。」
さて、服や装飾品でも見て回りますか。興味深いベルカ文明展もあとで見るとして。
どちらかというと装飾品関係を多く見ている感じがする。指輪にイヤリング、ネックレスにサークレット、ブレスレット。しかし、どれも購入するというよりは、参考にする、といった感じだが。装飾の多い携帯端末(見かけは腕時計だ)もあるが、やはりシンプルなのがいいだろう。少し、食指が動きそうな端末が目に入る。
「やっぱりこの辺ね。」
そう言ってリニスに示したのは、茶色のレザーバンドに腕の形状に合わせて湾曲した、長方形寄りのケースを持つ腕時計型端末だ。ケース本体は特に特徴のないステンレスカラーだが、時刻表示は本物の機構部品を持つアナログ表示。文字盤は淡いクリーム色に黒色の目盛りで構成されている。ミッドチルダ語による数字の表記が無いのも都合が良さそうだ。説明書きによると、文字盤を保護するクリスタルガラスはガラスではなく、表示モニターを兼ねているとのこと。普段は透明だが、指示を出せばすぐにでも必要な情報を表示、場合によっては空間投影さえ行う優れものとのことだ。
「端末ならすでにありますが。」
そういってリニスはいつも使っているカードタイプの端末を取り出す。まあ、それはあるにはあるだろうが、それでは味気ない。
「服に合わせたデザインのを探していたのよ。まあ、私のはデバイスで代用するからこのままでもいいんだけれど。」
リニスには、海鳴で買った服を私的な外出時には着るように言ってあった。おかげでこの場で合わせて見る事も出来る。まあ、追加で色々と同系統の服も買う必要があるが。
「そうだとしても値段がどうかしています。車が1台買えるじゃないですか。」
はて、と値段を見る。170万クレジット。ふむ、デザインやブランドがあるにしても、携帯端末にしては桁が一個多いような。
「失礼いたします、実はこちらの商品、この系統のモデルの最高グレードでございまして。」
フロアに入ったときにいらっしゃいませと声をかけてくれた、やや年配の女性店員が注釈を入れてくれる。それと同時に、ショーウィンドウからその腕時計型端末を取り出して、柔らかい布が張られたトレイの上に載せる。
「通常モデルはあくまで高スペックの端末ですが、こちらは標準スペックのストレージデバイスとなっております。詳しい説明には担当者をお呼びしますが、その前に試着などいかがでしょうか?」
にこやかに勧めてくる店員に、やや気圧された様子のリニスは無視して、了承の返事をした。ただの携帯端末ならともかく、デバイスとなれば話は変わる。リニスの技量は確かに優れているが、デバイスの有無は、今後の事件での生存性に関わってくる。
「担当者も呼んでちょうだい。標準スペックのままだと色々と不都合も出るでしょうから。」
とりあえず着けるだけ着けて見ろ、とリニスに促がす。観念したのか、店員が差し出した「腕時計」に手を通すリニス。皮ベルトを締めて、試着完了。うん、イメージ通り、シンプルでいいかな。欲を言えば、ケースはステンレスよりも銀無垢な感じの方がいいかもしれないが。と、そこへギャルソンで身を固めた店員がやって来た。細身の長身、縦長の顔にこけた頬と、神経質な印象を与える異相を、右目に掛けたアイ・ルーペがいっそう引き立てる。銀髪、ともいえるような白髪はオールバックにまとめられていた。
「いらっしゃいませ、クラーレ宝飾品店へようこそ。私、当店にて各機器を担当しております技師のクリストフです。」
と、失礼、と言いながらアイ・ルーペを外すクリストフ。なんでも時計を調整していたところだったとか。
「本業は機械式時計なんですがね、いつの間にやらデバイスまで扱うようになっていまして。」
個人用携帯端末やデバイスが普及していても、その手のものが好きな人間は多いらしく、そこそこ売れるとのこと。
「ああ、こちらの商品ですね。形態はこのままで固定されており、待機形態、デバイス形態といった区別はありません。まあ、常時待機形態とも言えますが。」
「魔力許容値はどの程度?」
「通常使用でAA、限界でS-程度ですね。それ以上は素子が持ちません。」
「Sランクに合わせて部品を交換して。」
「どう考えても無駄使いです・・・デバイスなんて自分で作れるのに。」
うん、それは分かってるよ。でも出来上がるのはシンプルだけど質実剛健、どう見てもその服に合いませんて感じがするし。落ち着いた感じの時計にしか見えないから、外出時は常に身に着けていて不自然ではない、というのが重要なんだ。
「まあ、あなたには他に作ってもらう物があるから。」
「Sランクとなりますと・・・」
主処理装置、魔力伝導回路、魔力バッファー、etc。メイン系は総とっかえになりそうだな。クリストフがあーだこーだと端末を取り出して部品検索や計算を行っているが、どれくらいになるだろう?
「処理系、伝導系等コアまわりは交換ですね。メインフレームはそのままで大丈夫ですので、大体このあたりかと。他に何かございますか?」
表示される金額は総額で205万クレジットとあいなった。
「使用魔法の問題があるので、耐電仕様の部品を使ってください・・・。」
ああ、プラズマバレットからサンダーレイジにいたるまで、どれも電撃系ばかりだった。ただ、リニスは魔力変換資質はないから使用に余計魔力食うんだけど。ふむ、と頷くクリストフ。
「耐電仕様となりますと・・・部品取り寄せとなりますので、少々お時間をいただきますが、よろしいでしょうか?」
お値段の方はおまけということで、と前置きしてから、大体1週間程の期間を提示された。それなら早いほうだろう。だが、ここで黙っていないのがリニスだ。
「使用部品ですが、チェスカー社のCZ75Dプロセッサと、ゾーン社のP220バッファーを使用するつもりでしたら組み込まなくていいです。手持ちがありますから。」
「とすると、調整も御自分で?」
「ええ、私も資格は持っていますので。基礎的なパーツも大体揃っています。」
「そうですか、それでしたら、配線周りは少し余裕を持たせておきます。えーと、そうしますと・・・」
再提示された金額は195万クレジット。プロセッサが大分値段を食っていたとのこと。ちなみにCZ75FSTプロセッサだと計算精度は上だが耐久性に劣るのでCZ75Dを使う、とリニスは言っていた。そこまで細かい型番までは「プレシア」も覚えてはいなかった。
さて、仕上がりは1週間後となったが、とりあえずリニスの「ファッション」についてはいったん完成ということで。
フェイト達の方に目を向けてみる。なんというか、こういう店ははっきり言って初めての筈なので、圧倒されている感じだな。こういったジュエリーショップの類は、やっぱり独自の建物で店を構えているところが、規模の問題はあるにせよ最上級だとは思うが、フロアの半分を店舗としているここも結構な規模だ。並んでいる装飾品の数もかなりのもので、また警備員も他のフロアに比べて巡回している人数が多い。しかし、そこはそれ、ミッドチルダのジュエリーショップ。並んでいる商品のかなりの数が精密機器を組み込まれている。純粋な「装飾品」もそれなりの数はあるにはあるが、各商品の表記からすると、どうも天然物が少ない印象も受ける。
「なんだか合成石が多いみたいね。」
そんな呟きにクリストフが説明してくれる。
「天然石は流石に少ないですよ。特にミッドチルダ産は。並んでいる天然石は、だいたいが開発レベルの低い管理世界から産出されたものです。それ以外はデザイン性を前面に押し出した合成石ものばかりです。」
「それに、最近の若い人は宝石よりも端末、って人も多いですし、実際のところ、競争相手は携帯機器店ですね。」
なるほど。
なんとなくぼーっとしている感じのフェイトに声をかけてやる。
「どう、フェイト。何か欲しいものでも見つかった?」
はっとしたようにこちらを向くフェイト。
「ううん、なんか、こういうところは初めてだから、目がちかちかして。」
キラキラにやられましたか。ここは照明も大分明るめになっているし、たとえ合成石といえど輝きを最大限に見せる努力をしているようだ。
「あたしもなんだか妙な気分だよ。」
色気よりも食い気のアルフでもですか。
「アルフにもデバイスがあったほうがいいかしらね。どう思う?」
目に付いたのはブレスレットタイプのデバイスを示しながらリニスに聞く。機能を抑えているのか、先ほどのものよりずっと安く、表記は70万クレジットだった。むしろ装飾等の影響でこれよりも高い携帯端末があるくらいだ。
「どちらかというと近接格闘が主体のスタイルですから、たしかにこんな風な、邪魔にならない形状のがいいですね。」
教育を担当したリニスがそう助言してくる。うん、そうだろう。
「え、いや、あたしはいいよ。」
なんとなく気乗りしない、という感じと遠慮が見えるアルフ。しかしだ、いざと言うときはフェイトにとって盾となるのはお前なんだぞと言いたい。
「バリアブレイクなんて特技もあるんだし、あればあったでいいと思うけれど?」
「うーん、でもなぁ、あれも結構感覚で術式を変えたりしてるし・・・。デバイスに登録してあるのを使う、ってのだとなんか違うし。」
んー?状況に応じて術式にアドリブでアレンジしているのかな?でもそれなら。
「それなら使った術式も記録するような感じでパターンデータを増やしていくといいんじゃない?確かに登録した魔法をただ使うだけ、だとあまりよろしくないけれど、登録のために術式構成を見直す、なんてことも多いから、あればあったでいいと思うわよ。」
そうなのかい?とフェイトに聞いているアルフ。
「うん、バルディッシュに登録するときに術式の無駄はぶきとかけっこうやったし、最近も何回か見直ししてるよ。」
うーん、と悩み始めるアルフ。まあ、デバイスの設定やらで苦労しそう、ってとこで悩んでいるのかもしれないが。バリアブレイクはアルフにとって特技だが、相手のバリアに直接触れなければならない、と言うのは欠点でもある。となると、欠点を補うには、処理時間を縮めることだ。デバイスは確実に、生身での処理よりも速いのだから、アルフがデバイスを使用するのはメリットの方が大きい。
世間一般から見ると、使い魔にまでデバイスを持たせるのはやりすぎ、と言うかもしれないが。なんせ、使い魔は通常、期間限定だ。
期間限定の相手に高価なデバイスなど用意する筈もない。その点ではフェイトや自分、また管理局提督のグレアムなどの「長期契約者」は変り者と言ったところか。
「せっかくだけど今は止めておくよ。術式の見直しとかやってみて必要そうだったらいうからさ。」
うーん、「戦力強化」をしておきたかったけれど、あんまり強く勧めても仕方がないか。まあ、術式を見直して効率化する、というのも強化と言えば強化だし、まあ、いいか。
「それじゃ、アルフのはまた今度と言うことで、次はフェイトね。」
何が似合うかな~と思いつつ、イヤリングやネックレスを眺める。アルフはそれでも買うのかい、などと言っているし、フェイトはええっ、と驚いている。
「フェイトにこういった物はまだ早いとは思いますが・・・まあ、感覚を磨く、という意味では何かあった方がいいかもしれませんね。」
どちらにせよ、将来欲しいものくらい出てくるでしょうし、とこちらの行動を擁護してくれるリニス。うん、教育方針としては間違ってはいないと思う。それに対してフェイトはあたふた、まあ、何だか良く分かっていない、言ったところか。まあ、はっきり言うと、この辺の物の価格等についてもいくらか知識を持っていて欲しい、というのもあるが。そこへクリストフが助言をくれた。
「指輪や、あまりサイズに余裕のないブレスレットはおやめになられた方が良いかと思われます。数年でサイズが合わなくなるでしょうから。」
ふむ、それは確かに。とするとネックレスやイヤリングか。イヤリングはちょっとな、年齢的に、華美になりすぎる気がするし、ネックレスもあまり派手なものは敬遠した方が・・・自分の好みの押し付けになるだろうか?フェイトに選ばせるのが一番いいのだが、当の本人を見てみれば光景に圧倒されているばかり。予備知識でカタログとかでも見せていれば、とも思ったが、あまり興味を持ちそうにもないしな。気まぐれにアルフにも聞いてみる。
「うーん、フェイトの好きな色が黒だから、黒っぽい何かでいいんじゃないのかい?」
黒いもの・・・宝石だとブラックオニキスや黒真珠、黒曜石などか。黒曜石はなんとなくイメージとして無骨すぎるな。試しにフェイトに選ばせて見る。
「それじゃ、初めてで迷うだろうけれど、自分の好きな色で選んでみなさい。」
フェイトが様々な装飾品をじっと見る。小粒の黒真珠をぶらさげた銀のイヤリング、円筒状にカットした黒曜石をつらねたネックレス、オニキスのペンダント、ジェット(黒玉)、テクタイト、メラナイト(黒いガーネット)、etc,etc・・・。
結局、フェイトが選んだのは、黒のチェーンで、プレートにトパーズがはめ込まれたネックレスだった。自分で選んだと言っても、納得した感じではない。クリストフの「渋いな・・・」との呟きが聞こえる。この選択にアルフ、リニスともども微妙な表情になってしまった。これではバルディッシュをアクセサリー型に改造した方がいい感じだ。待てよ?バルディッシュか。
「フェイト、ちょっとバルディッシュを貸してくれる?」
?という表情になったフェイトだが、すぐにポケットからバルディッシュを取り出すフェイト。
「はい、母さん。」
バルディッシュを受け取ると、すぐにクリストフの方へ向き直る。
「ご覧の通り、待機形態のデバイスなんだけれど、これをペンダントトップとしてネックレスを作りたいのだけれど、いいかしら?」
「こちらのデバイスをペンダントトップに、取り外し自由ではめ込む形ですね?」
さすが職人、一発でこちらの意図を汲んでくれる。
「ええ、チェーンと基部は黒色がいいわね。」
「そうですね。基部の製作もそんなに手間もかかりませんし、注意する点は作成する基部に色を合わせますので、チェーンも塗装済みの汎用品ではなく、無塗装のものに焼付け塗装を行う様にしたほうがいいぐらいですね。では、サイズを測りますので、少しお借りします。」
そう言って、クリストフはバルディッシュを受け取ると端末を再度取り出す。メジャーや定規など必要ない、計測プログラムを走らせるだけだ。わずか数秒で、バルディッシュはフェイトの手元へと戻る。
「それでは材質の方はどういたします?まあ、塗装しますから、貴金属はむしろいらないと思いますし、チタンかステンレス辺りで良いとは思いますが。」
クリストフの勧めに即答する。
「そうね、出来るだけ純度の高いチタン製でお願い。」
チタンはステンレスよりも軽いし、強度もある。合金でない限り、アレルギーも起き難いのでそちらを指定した。こちらもリニスに買ったデバイスと同日に受け取れるよう製作してくれるとの事である。
「なるほど、バルディッシュぽいペンダントじゃなくて、バルディッシュそのものをアクセサリーにしちまおうってのかい。」
アルフの言葉にようやく気付くフェイト。慣れない状況で頭が回っていなかったのか?状況についてこれなかったのだろうが。バルディッシュはポケットに入れておくのが普通だったが、それはそれで収まりが悪い。首にかけておく、というのもある意味レイジングハートとお揃いの形式になるだろう。
「ありがとう、母さん」
『Thank you,Presea.』
なんとバルディッシュまでもが礼を言ってくる。「定位置」というものがなくて居心地が悪かったのかもしれない。リニスがそんな方法もありますかと呟いているのが聞こえる。まあ、ちょっとした工夫なんだと思うけれど。
支払いはカードで、一括。デバイスなんて買ったので、額の大きさが心配だったが、そこはそれ、ゴールドカードのお力で。うん、手も震えずにすんなり出せたのは「私自身」であるせいか?ちなみに、帰ってから利用履歴調べてみたら、ろくに使ってなかった。代わりに現金取引の記録らしい、妙に暗号の多い帳簿が見つかった事に泣きそうになったが。
27階、イベントホール。ベルカ文明展ではシスターと騎士達がお出迎え。それでいいのか聖王教会。
入り口付近、まず目に付くのは聖王達の肖像画。かけられた一つの肖像画に目が行く。最後のゆりかごの聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト聖王女らしい。映像記録手段は当時からあったものの、肖像画が残される事も多かったのは、デバイス等の機器が高価だったためもあるのか。何代分かの聖王の肖像画の他、貴族や騎士の肖像画もあった。中には映像記録もあったが、詳細が不明なものがほとんど。世界消滅のあおりでまともに残っていないものが多いとか。
歴史は戦乱と平和の繰り返し。戦乱の時代の方が長い・・・とは言っても、それは今でも同じようなものだろう。流石に、使用兵器による汚染で青い空がない、なんてことは今はないが。よりによって歴史の項目に展示されているパネルは空を覆う戦船の艦隊ってのは・・・戦船もピンキリでゆりかごクラスは流石にそうなかったようだ。ところで、聖王が聖王と呼ばれる所以―覇権を争う王達の中、各代の聖王は、ただただ平和と民の安寧を希求して戦いを終わらせることを目的としていたからだそうだ。聖王のゆりかごを以ってしても、戦乱を終わらせる力足り得なかったあたりがベルカの業の深さか。ダモクレスの剣、のような例えさえ通じないほど相手を破壊することに腐心する連中が多かったのか。
「何のせいでほろんじゃったんだろうね。」
フェイトの単純な疑問にこれまた単純にアルフが答える。
「ロストロギアだろ。質量兵器も見境無しに撃ち合ってた時代だって言うし。」
「原因は今もって不明ですが、最後は大規模次元震によって複数の世界が滅んだとのことです。ベルカが存在したとされる座標付近は次元断層が多数存在するため、学会では次元干渉型ロストロギアが原因だろうと推測されています。」
真実は闇の中、ただ見える事実で推測された仮説を、シスターが説明してくれた。この展示、何と係員が全員聖王教会の司祭・シスター、さらには騎士達なのだ。まあ、美術品としての価値のある絵画や、ベルカ式デバイスを出品している為、警備も兼ねているのだとか。
歴史の最後の方には、現代のことが説明されている。ベルカ崩壊を逃れ、各世界に散ったベルカの民。騎士も多く残っていたために、新たな戦いに身を投じることも多かったが、結局のところ時空管理局の設立と共に大半がミッドチルダの地に落ち着いたのこと。自治区を形成できるだけの人口が残ったのは、次元航行が可能な戦船が多数存在した為らしい。自治政府はあるものの、どちらかというと聖王教会が政治の中心なのがなんとも。まあ、聖王を信仰している限りは、そう馬鹿な思想に染まる奴もいそうにないか。
当時の生活習慣などのコーナーはあまり大きくない。少なくとも聖王領の人間は身分に関わらず脱出できた者は多かったとの説明だったが、民衆はほとんど着の身着のままだったらしく、家具や祭りの道具などは、落ち着いた先で作り直したものばかりだとか。まあ、現状のベルカ料理のコーナーは気合が入っていたが。
「じゃがいも料理でフルコースですか・・・」
「肉でフルコースならあたしも歓迎なんだけど・・・」
リニスとアルフがげんなりしていた。
ベルカ式デバイス―ベルカ式魔法の使用を前提とし、特徴としてカートリッジと呼ばれる魔力蓄積体を撃発させるための専用機構を有するデバイスの総称―まあ、術式の演算の仕方から古代ベルカ式、近代ベルカ式と分けられる訳だが。決して、通常のデバイス2個分のコストで3個は作れるデバイスのことではない。ベルカ関連の展示でこれを見ずして何を見ろと言うのか、と言う考えは偏りすぎだろうか?
方式の説明文とともに、カートリッジ及び近代ベルカ式の剣型アームドデバイスが展示されている。こちらは現行の代物のようだ。古代ベルカ式のものは可動品も数少ないながら残っているものの、流石に地方の展示程度で貸し出せる物でもなく、展示はない。代わりに、不可動品は多数展示されている。面白いことに、強度や機構の簡略化は別にして、ベルカ式の特徴であるカートリッジシステムは、その規格がほとんど変わっていないとのことだ。
「カートリッジシステムは規格に変化らしい変化がないので、特にカートリッジそのものは近代でも古代でもそのまま使えるそうですよ。」
説明してくれているシスターはあいにくと専門ではないらしく、その説明は伝聞形だ。そばにいる騎士も、警備が主任務らしく、寡黙な印象を周囲に振りまきながら突っ立っている。まあ、その騎士自身も展示の一つと言わんばかりに「騎士」としての正装をしているわけだが。
真新しい近代ベルカ式のデバイスを横目に、不可動品の数々を見る。その全てが杖ではなく、「武器」。剣、槍、メイス、矛、トライデント、ハルバード。バルディッシュさえあった。いずれも特徴的なカートリッジシステムを持っている、と思いきや、非搭載のものもあった。逆にショートソードにカートリッジシステムみたいなやりすぎだろう、と言った様なものも。外見の破損はそんなでもないものも多く、修理して使わないのか、という質問を別の係員にぶつけては見たが、
「年代が古いものなどは洗練されていないせいか、複雑な部品構成のものも多くて、なかなかそこまで出来ないのが実情ですね。残っている可動品の維持が精一杯なんですよ。」
とのこと。これは、あとあと大変だろう。一線級のレア物デバイスが三つ加わる筈だから。
ふと、とある展示の前で足が止まる。そこにあるのはデバイスの残骸だ。刀剣型のデバイス―しかし、これは刀ではないだろう。剣と言うには片刃ではあるが、峰にはベルカ式に特徴的なカートリッジシステムがあった。刀身はその排莢部の分も残っておらず、排莢部のカバーさえほとんど砕けた状態だった。残ったカバーは黒ずんだ青に見えるが、きっともう少し鮮やかなバイオレットをしていたのだろう。デバイスコアと思われる部分は、ナックルガードにも近い、大き目の鍔の中央にあったのだろうが、そこはきれいさっぱり「なかった」。鍔の金属光沢も、今は失われており、またこれもひどく劣化している。唯一状態のいい柄は、ところどころが赤黒く変色していた。
「これは・・・コアのみ移し変えた?」
展示名は、古代ベルカ式アームドデバイス(銘不明)とある。年代計測から千年以上前のものとだけ判明しているとのこと。柄の状態から推測するに、まさに討ち死にした、と言った様相だ。
「どうしました?プレシア。」
「んー、このデバイスなんだけどね。どこかで見たと思って。」
流石に知ってますとは言えません。しかしコアが丸々抜けてるって事は、少なくともレヴァンティンは、稼動状態を続けているオリジナルということになるかも知れん。守護騎士であるシグナムに属している筈だが、闇の書に収納領域を確保しているのか?しかし、これ、少なくとも使い手は戦場で死んでるよな。それがシグナムだったのかな?ゼロから人格を組み上げたのか、それとも生きている(もしくは死んだ)人間を取り込んだのか。
「どういたしました?」
若い―若すぎるシスターに声をかけられる。就業年齢が低いのはミッドチルダじゃ当たり前だが、いいとこ12歳にしか見えん。というかどっかで見た2人組みだった。長い金髪にヘアバンドと、赤いおかっぱ頭の修道女の2人組です。
「いえね、こちらのデバイス、どこかで見たように思っただけだから。」
「そうですか。こちらのものと同型となると、かなりの貴重品でしょう。もしもみかけることがございましたら、ぜひとも聖王教会までご一報をおねがいします。」
よどみなく言葉を続ける金髪の少女。この年齢にして、大分交渉ごとを重ねている可能性もある。
「同型というか・・・「これ」のコアパーツがそっくりないところから見ると、現在まで稼動を続けているこのデバイス自身かもしれないわね。連絡先はどちらになるかしら?」
若干絶句する少女。千年物のデバイスなんてそう出ないから驚いたようだ。まあ、見れる見れないは運次第。連絡できるかも運次第。目にしたらあの世行きの危険性大だから。
「れ、連絡先でしたら、聖王教会の古代遺物保存局までおねがいします。場合によっては、部署はちがいますがわたしあてでもかまいません。あ、申しおくれましたが、今回の展示責任者のカリム・グラシアです。」
そう言ってカリムは連絡先を書いたカードを渡してくる。若干不用心じゃないかね?まあ、上手くいったら連絡はするけどね。しかし、展示責任者か・・・グラシア家も随分スパルタな。とはいえ地方回りでも、まだミッドチルダから出さないだけ優しい方か。
「今回の展示について、ご感想等ありましたら、こちらの端末にてアンケートにご協力をおねがいします。あ、もちろんお家などからアンケートページにアクセスすることもできますので、おひまなときでかまいませんから。」
おかっぱのシスターがアンケートを勧めてくる。こっちがシャッハか。
「帰ってからにするわ。まあ、感想を一つ言うとしたら・・・」
なんとなく身を乗り出す感じで耳を傾けてくる2人。うん、素直だな。
「「聖王教会入信の勧め」くらい配っていてもばちは当たらないと思うわよ。」
唖然と固まる2人。ふむ、効きすぎたか?
「プレシア、冗談にしてもその発言は悪戯が過ぎますよ。」
リニスに注意されるが、ここはあえて自重しない!
「いやいや、本当にそう思ってるから。もう少し商売っ気くらいは出さないと、下のベルカ料理専門店もベルカ自治区行きの旅行案内くらい置いておけばいいと思うし。戸別訪問までやったりして不快さを感じさせなきゃいいのよ。」
「「はあ・・・」」
いまいち釈然としない表情で生返事を返す2人。まあ、この年齢ではそれだけの商売っ気を出すのは無理か。これが20そこそこでそれなりの腹芸をこなすようになるのだから恐ろしい(金髪限定だが)。
展示のパンフレットだけもらって会場を後にする、というか、フィリーズ自体を後にした。ベルカ土産の販売もないなんて、生真面目すぎるぞ聖王教会。
「3時半ですか・・・そろそろ帰ります?」
リニスの言葉に少し思案する。そろそろ夏も近い季節だから、まだまだ日は高いが、帰りにどれくらい時間がかかるかだな。携帯端末を取り出して経路を検索する。ふむ、南部海岸ラインからレールウェイへの接続があるようだ。アルトセイムまで1時間半程か。
「ん~帰りもけっこう時間かかるわね。マリンガーデンくらい寄って行きたいと思っていたけれど・・・。」
「マリンガーデンって、まだオープンしていないんだよね。」
フェイトの言葉にアルフが続ける。
「正式オープンは来年だっけ。」
アルフは駅で見た情報を繰り返す。端末を操作してマリンガーデンの情報を表示する、やはり来年だった。遺跡観覧トンネルは途中まで入れるようではあるけれど。
「残念だけれど、今日は帰りましょう。回っていったら、家のまわりは真っ暗よ。」
また夏に来ましょう、そう言って帰ることにした。リニスは、宅配の荷物の受け取りもありますし、と続ける。それだけ条件が揃えば、フェイトは理解する子だ。それでも表情は微妙に沈みがち・・・理解は出来ても納得は出来ない、そんなところだろう。この歳の子供で理解が出来る時点でどうかしているとも思うが。マリンガーデン、または海の何がフェイトの琴線に触れているのかは分からない。ただ、見たかっただけかもしれない。
そう思ったから、帰りの列車では海側の座席を探した。アルフと一緒に海を眺めているフェイトの姿だけが、やけに印象に残っている。
さあ、休むときは終わった。デスクワークが主になるだろうが、やることはいっぱいある。長らく動かしていなかった端末を起動する。最初にやるべきことは―闇の書か。局員ではない身では、調べられることも少ないだろうが。
闇の書事件―公になっている部分は少ない。しかしながら、管理局に所属していなくても、知ることが出来る資料も存在している。「闇の書被害者の会」。直近の闇の書事件はわずか11年前に起きたのだ。機密問題は色々と絡んできても、被害者自身やその遺族の口をつぐませることは、非常に難しい。
クライド・ハラオウン―管理局提督にして次元航行艦「エスティア」の艦長。リンディの夫にして、クロノの父親。本来、それなりの順番に並んでいるべきリストのトップに彼が来ているのは、おそらく被害者遺族の希望をリンディ自身が蹴る事が出来なかったせいだろう。現役の提督さえもが犠牲になった、という事実を、被害者と遺族達は前面に押し出したいのだ。だが、欲しい情報はそれではない。リストをチェックする。検索するべきは、魔導師。特に事件を機に引退せざるを得なかった、生還者達だ。幸いにして、11年前の事件だけに老齢で亡くなっている人間はいなかったが、前の事件では守護騎士達は手加減さえもせずに蒐集を行ったと思われ、その数は非常に少ない。
「生存者はわずか11名・・・死亡者の中にはSランクも存在か。」
Sランクといえど、AA~Sランク4人がかりでやられたらしく、死亡者が出ている。これは相当気を引き締めていかなければなるまい。「大魔導師」などと言われてはいたが実戦は未経験だ。唯一の安心材料は、「今回は」命の心配は・・・駄目だ、シグナムあたりは状況が許さないと分かれば殺しにかかってくる筈だ。たとえ、それが彼女が自分に課した「禁」を犯す事となろうとも。
「出来れば、生存者に戦闘時の様子も聞きたかったけれど、今は時間もないな。」
デバイスを用意することの方が今は重要だ。そっちはおいおい調査していくしかないだろう。問題は、用意するデバイスが複数という点だが・・・闇の書「自体」の調査資料がないか探してみるものの、何もヒットしてこない。捕獲さえされていない以上、出てくる筈もない。待てよ?思うところがあって「夜天の書」、「夜天の魔導書」で検索する。今度はヒットした。早速情報を見ては見るが。
「資料保管場所がベルカ自治区、聖王教会所属古代ベルカ遺物保管庫・・・資料No0007770653・・・分類:未解読。」
がっくし。今から解読なんて間に合いやしない。全て仮定で進めるしかないか。仕方ない、デバイスの方の設計を始めるか。
端末をいじり、設計ツールを起動する。アームドは論外として、インテリジェンスかストレージか・・・相性問題や許容魔力量を考えると、やはりストレージかなぁ。魔力変換資質からして耐電性も上げとくべきだし、処理速度を考えても、やはりストレージだな。メンテナンスを考えると部品の入手のしやすさも考えないと。特注の部品なんて使うとあとで泣きを見るだけだし。ざっとデバイス用の部品を検索してみる。耐電性が高くて入手しやすいと。耐電性が高い時点でロット単位での注文、って部品も多いが、保守部品として流通の多い部品もそれなりにあるな。これはこの点を重視しても組めそうだ。最悪、一部の重要部品は自費でストックしておくことも考慮してもまあ、なんとかなりそうだな。さて、問題は外装かな。基本は杖型ベースとしても、アームドデバイスに近い強度は欲しい。仮想敵はヴォルケンリッターが烈火の将、シグナムの斬撃だ。これを受けられなければ明日はなさそう。
杖が基本。杖からの連想だとポールウェポンか。長すぎて扱えそうにないな。では、錫丈?これもちょっと長い。うーん、ちょっと短くしてみよう。最悪振り回すとして、柄の長い斧・・・トマホークか。消防用のイメージ、全金属の一体型、うん、近いイメージになってきた。こいつを両刃に。うーん、なんか違うよな。全金属、一体型。やや長めのメイスか?鈍器で強度もピカ一、技術的にも振り回すだけ、しかしちょっと押しにかける。相手が脅威に思うのは確かだが、装甲に対する突破能力も・・・ハンマー?先がやや尖り気味の、インパクトが集中しそうな。ロケットハンマー・・・グラーフアイゼンかよ。あの形状だと強度に不安が出るから、出来る限り一体成型なイメージで、長さは扱いやすいように短めでいいだろう。容量や演算能力はオーダーメイド品らしく、ぶっちゃけバルディッシュクラスは欲しいな。
しかしこれだけでは終わらない、というか終われない。もう一つ・・・こっちも重要だ。基本はストレージデバイスでいいだろう。というか「ストレージ」のお化けだ。サイズは個人が運搬出来るサイズならいい。携帯、ではなく運搬可能、のレベルでいい。その代わり、記憶容量は半端なく大容量に。これでもかってくらいに大容量に。どの程度あれば足りるのか、基準が分からないからなんとも。666ページに余すところなく術式を記録していく、と言ってもそれは蒐集した術式、過去に蒐集された分の容量を考えても、洒落にならないサイズだろう。それも貴重だが、必要なのは制御プログラム。管制のメインプログラムにユニゾン機構とそのプログラム、蒐集機能と蒐集した魔法を効率よく検索・利用する機能、ともかく重要部位を保存できればいい。自己防衛プログラムはどうしても引っ付いてくるだろうが、何、保存領域が確定したらあとから容量を削って防衛プログラムが活動できる場をなくしてしまう手もあるだろう。ともかく「夜天の書」管制プログラムの移し変えさえ出来ればいいのだ。問題は、その容量が分からないために、大容量の「ストレージ」を用意してやらなければならないことだが。部品は、携帯性を切り捨てるから、信頼性と価格を考えてデバイス用ではなく、一般の汎用システムに使われている部品でいい。管制プログラムの人格部分が動く程度の能力は持たせておいてやりたいので、一部の処理系にインテリジェントデバイス系の部品と、さらには互換性を考えてベルカ系の部品を組み込む。ベルカ系AI向け、中央処理装置はその数の少なさもあってかミッドチルダ式の物の1.5倍はする値段だが、運良く出物もあったので押えて置く。ここまでで、かかる費用は・・・意外と安い。記憶部品に安価な一般システム用部品を使うためか、複数の中央処理装置を組み込んでいるにもかかわらず、標準ストレージデバイスの5個分と言ったところか。それでも500万クレジットはするのだが、預金残高を考えると何の問題もないのが恐ろしい・・・というか、定期的に入金があるよ。いったいいくつの特許を押さえているんだ?ちょっと思い浮かべてみようとして、やめた。数が多かった、というか売った分、研究していた分も含めて記憶が洪水のように溢れてきそうになった。
と、重要なことに気付く。ここまではバックアップのための容量の確保でしかない。問題は、緊急停止機構を含む安全機構の付加だ。これは手を抜けない。同じ徹を二度踏むわけには行かない。少なくとも今度は自分の設計に従って製作してくれる、従順で誠実なスタッフがいるのだから。外部からの緊急停止機構を複数の機構で考案し、その全てを組み込むようにする。プログラム実行部には使用魔力を制限する為に、わざと耐久性の低い部品を使用する。大容量のプログラムの使用に制限がかかるよう、実行部のキャッシュ容量も抑える。さらには、このデバイス自体が保持できる魔力も制限する為に、魔力リミッターをも設ける設計とする。いかに悪名高い自己防衛プログラムといえど、魔力をCランク相当まで落とされては世界を滅ぼせまい。あとは・・・使いたくはないが、ソフトウェアのほうで自壊プログラムを用意するぐらいか。これだけ考えてみても、費用はさして増えてはいない。まあ、企業的に考えれば、人件費がかかってくるが、そこまで考える必要もないし。
などと、基礎仕様をを決めていたらリニスに見つかりました。うん?と思い時間を確認すると、緊急停止機構の基礎設計に思いのほかかかったらしく、10時を過ぎていた。
「プレシアー!」
「ああ、分かったから、そう青筋立てないで。」
とリニスをなだめつつ、そういえばフェイトにおやすみの挨拶をしそこねた、と考える。
「そうやって研究ばっかりやってるから体を悪くするんです!退院したばかりなんですからまずは休んでください!」
「分かったから、休むから。」
「まったく、今度はいったいなんだというのですか。というか考えてみれば以前の研究についても何も聞いていなかったような・・・」
おっと、それはリニスといえど聞かせる内容ではないな。まあ、半分知っているようなものだろうけれど。
「『以前』のはしばらくお休みよ。今日はちょっとデバイスの仕様を考えていただけ。」
デバイス、の言葉にリニスがのってくる。
「デバイスですか?言って下されば私が作りますのに。」
「もちろん、あなたに頼むつもりよ。ただし、頼めるのは仕事量を考えると1つだけね。」
そう言ってリニスを画面の方へ引き寄せる。
「何だと言うのですか、一体。プレシアのデバイスではないんですか・・・なんなんですか、これは。」
うまくいけばデウス・エクス・マキナになるかもしれない一品。
「インターフェースはミッド式と近代ベルカの双方に対応出来るようにしてちょうだい。可能なら古代ベルカ式もね。カートリッジシステムはいらないけれど。」
「何なんですか、これ。デバイスというより・・・保存装置?」
リニスの指摘を無視して先を続ける。「こんなもの」を作る理由なんて、聞かれたって答えられるわけがない。
「サイズはトランク程度に収まればベスト、最悪、キャスター付き旅行鞄サイズでもいいわ。いい、サイズはほとんど考慮しなくていい。これはデータの保存を最優先に考えたストレージデバイス―いえ、ただのストレージね。ただし、保存対象の術式は恐らく古代ベルカ式。容量は、ここにあるとおり、一般的なストレージデバイスの1000倍は見込んで。今のところ、予算はこの仕様で600万は見込んでいるけれど、倍使ってもいいわ。保存領域の信頼性と、緊急停止機構には特に気を使ってね。」
「なんでこんなものを。」
「必要になるのよ。きっと。」
先は見えない。見えなくしてしまったから。なら、先人の知恵というのは、取って置きたくなるものだ。
「プレシアのデバイスはどうするんですか?こちらの仕様なんでしょう。」
「残念だけど今回はよそに頼むわ。こっちだけでいっぱいいっぱいになるでしょ?」
「確かにそうですが。」
「あ、そうだ。これも用意しておかないと。」
思い出したので、メモを追加する。CVK-792-R、CVK-792-A及び周辺部品にカートリッジ一式。それにA用予備マガジンと、R用スピードローダーを複数。あとで必要になるだろう。
「これは部品を用意しておくだけだから、私がやっておくわね。」
「またベルカ式ですか。いったいどういう風の吹き回しなんですか。あれもこれもベルカ式で。」
「あいにくと、ベルカ式だけじゃ終わらないわよ?」
うん、色々と2人して駆けずり回るとしようか。とりあえず、そっちの大容量の、チェックもあるから3ヶ月で仕上げてね。
翌日、デバイスについてはよそとリニスに丸投げした分、自分は色々と奔走する。まず始めにしたことは移住に関する書類と、それに関わる諸事についての資料の取り寄せだ。資料の方はデータだが、移住関連は紙の書類だ。こういったことはデータ化しても記録を確実に残す為に書類として作成することになっている。現地貨幣への両替についても同様だ。ふむ、管理外世界であっても、移住についてはそう厳しい規制もないようだ。手続きは身元の詳細なチェックが多いので煩雑になるが。まあ、犯罪組織の構成員に合法的に移住されて、現地で組織の尖兵を勤められても困るわけだし。なお、現地協力員としての登録をしておくとそれなりの優遇なども受けられるようだ。一線を引いた魔導師が、特に管理外世界に移住する場合はこのパターンも多い。まあ、私の場合は、現地協力員、というのもあるが、別口の伝手も考えてはいるが。それは今やることじゃないし、デバイスが出来上がらないと、そっちは手を着けられないしなぁ。
各種言語資料の手配もする。日本語に英語、イタリア語は少々で。現地ではアメリカ国籍でイタリア系移民の数代目、を偽装するつもりなので、そんな感じに。実際、ミッド式魔法で英語寄りな言語を扱うことが多い分、その方が面倒が少なくていい。しかし、自分はともかく、他の皆は日本語に英語と少々苦労するだろう。早めに教えなければ。
それにしても、管理外世界だと、かかる手数料が結構多いな。ふむ、戸籍の作成などの手間があるせいかな?あと、聖祥付属への編入用書類をどの段階で入手しようかな。どっかの段階で居住物件の下見も含めてやっておかないと。
キルケーⅣの修理について、保険屋とも連絡を取る。修理見積もりについては被害調査を空港の整備関係者がやってくれているので、遅かれ早かれ額は出てくると伝えておいたが、管理局から書類が来ないことには手続きに入れないとの一点張りだ。こっちは裁判等の資料が揃わないと、出てこないだろうから待ちの一手しかない。見積もりが出来次第送るので、担当者には保険でまかなえる範囲かの確認をお願いしておくのみとした。
と、ここまでの段階で、通信が入った。通信元は管理局、数ある次元航行部隊のオフィスの一つから。
『しばらくぶりね、プレシア、元気にしてた?』
リンディからだった。仕事場・・・本局のオフィスから、だからまだ事後処理に追われているのだろう。
「おかげさまで。検査では特に症状の悪化もなくて、ほっとしたわ。」
『それは良かったわ。色々と手伝ってもらったりしたからちょっと心配してたのよ。特にうちのとこの医務官なんかが。』
「最後の方で大分のんびり出来たから、それが良かったんじゃないのかしら?」
うん、休暇、って感じだったぞ。それはさておき。
「で、連絡してきた、ってことは、何らかの進展があったの?」
『ええ、とりあえず裁判の日程が決まったから、それに出席を頼みたいのと、今回の件での感謝状と報奨金のお知らせね。日程についてはたった今データを送ったところよ。届いてるかしら?』
ふむ、端末でチェックする。受信データ、新着順に表示して・・・一番新しいこれか。その他、デバイス関連の見積もり依頼に対する返信なども色々と受信しているので、ほっとくと重要案件が埋もれてしまいそうだ。日程は・・・打ち合わせが1週間後で、初日が10日後か。本局で行うと。感謝状などについては裁判後、と。
「けっこう早く資料がまとまったみたいで何よりだわ。」
『アースラ内であらかた片付けられたのも大きいわね。あとは本局内で取り調べ担当が頑張ってくれたおかげよ。』
「とりあえずまずは1週間後ね。意外と早く再会することになったわね。」
『そうね、それと、例のビデオメール関係だけれど、手続きの方は大体終わったから、そろそろ始められるわ。』
おおう、それもあった。
「じゃ、早速撮っておかないとね。娘達にも話しておくわ。」
『それじゃ、1週間後、本局で会いましょう。総合受付にはもう話を通して置いたから、受付で私の名前を出してちょうだい。』
「分かったわ。ああ、それとちょっと用意しておいて欲しいものがあるんだけれど、お願いできるかしら。」
「なにかしら?」
「嘱託関連の書類と資料一式。」
少し驚いた顔をするリンディ。
『本気?まだ本調子じゃないでしょう?』
「すぐ出すわけじゃないわ。医者からの許可もまだ出ないだろうし。ただ、規定とかの確認もしておきたいから、早めに欲しいのよ。」
『分かったわ、用意しておく。人事にも話を通しておく?』
「お願いするわ。あなたにスカウトされた、って形式でもいいわよ。」
『それはそれで有難いわね。他には用件はあるかしら?』
「あとは今回の事件での被害証明を早めに出してもらえるとうれしいかなってところ。ないと保険屋が仕事してくれないのよ。」
『それも関係部署に伝えておくわ。空港の方から被害見積もりが上がってきてないって言うから、まだ時間がかかりそうだけど。』
「とりあえず、お願いね。それじゃ、1週間後に。」
『それじゃ、またね。』
それで通信は終了した。
後書き:
食事がらみは書いていると腹が減る。それにしても、食べたことのないものを書くことの難しさよ。ヴルストとザワークラウトしか食べたことがありません。
それにしても、オリジナル要素が増えてきました。あまり書くと整合性が取れなくなって大変なんですが、そうは言っても、「対策」を取らないのも不自然ですし。あとの問題は自分で書いたことを忘れないことでしょうか。自作品であっても、以前書いたこととの矛盾なんて簡単に生じますから、書きながら読み直すこともしょっちゅうです。