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[10626] 【一発ネタ】 凡人終末端  リリカルなのはStS  ティアナ憑依 TS注意【やっつけ仕事】
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/08/10 23:04
『私はもう誰も傷つけたくないからっ!
 亡くしたくないからぁっ
 だから・・・・・・強く、なりたいんですっ!』

『ワラわせる・・・茶番は終わりDA』

『ウワァァァァァァァァァァァァァァッ!
 パンツメクレェ・・・・・・』

『・・・フッ・・・チャージなどさせるものか・・・・・・』

ドッゴォォォォォンッ!!!




その日はいつものように某動画サイトで天地魔闘の構えから入るMADを鑑賞していた。

正直俺は、三期は好きくない。
19歳は少女じゃないとか、そういうことが言いたいんじゃなくて、心温まる「リリカル」はどこに言ったんだと主張したいからだ。
一期二期で期待した人が憤るのも判る。
もっとも俺は、『管理局の白い魔王』タグがつくようなMAD見て興味を持っただけにあまり強くは主張できないんだけどね。それでも、一期二期のDVDは二本ずつ買うぐらいには嵌りました。
まあだから複雑なんだ。
三期がなければなのちゃんには会えなかったんだからなぁ・・・。


『なのはさんッ!!
 っ?! バインドっ??!!』

『塵一つ残さず消滅させてやる』


おっともう風のランスターさんが消えるシーンか。
改めて思うとこいつも不遇だよなぁ。
才能の塊みたいな人間に囲まれて、焦って追い詰められて先走って粛清されて。
彼女のような人生だけは歩みたくないと思うね。うん、マジで。


そして冥王様から最後の一撃が打ち出されるシーン。
画面は『wwwwwwwwww』と草で埋まり、俺の安アパートに転生トラックが突っ込んだ。



   ◆



ドッゴォォォォォンッ!!!




全身が痛む。
天には何処までも続く青空。
地には廃墟と化した都市。
そしてその間を縦横無尽に貼られた藍色の帯。

何故だろう?
凄く見覚えがあるんだけど。
そしてそこはかとなーく嫌な予感が。



テンプレ的導入はシンプルにいこうか。

俺、死んだ。
多分、憑依中。
憑依先、凡人。
シーン、頭冷やそうかイベントの真っ最中。

結論 神様死ね。



ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
全身痛いのはなのは様の攻撃を既に一度喰らってたからか。
この攻撃でティアナさんは茫然自失。その後容赦無い追撃が入るんだよな。
い、いかんこの状況はっ!
見ると凡人から十メートルほど離れたなのはさんは、桃色の魔力光を収束し回転させている。

え?あれ俺に撃たれるの?
とっても痛そう・・・つーか絶対死ぬ!それこそ塵一つ残さずに。
直前まで見ていた動画の無惨シーンが脳裏によぎる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もう『やりすぎwwwww』とかコメントしないので許してください!


「ティアッ!!」

スバルか?!
た、頼む親友を助けてくれ。戦闘機人のお前ならできるはずだ!お前しか動ける人間はいないんだ!


「ば、バインド?!」

「そこで見ていなさい」

この役立たずがっ!


こ、こうなったら自分でやるしかない!
超高速思考でなのはさんの魔力弾が収束していく恐怖に耐えながら、両手の拳銃を持ち上げる。
じゅ、呪文はなんだったっけ?

「パ、パ、パンツメクレパンツメクレパンツメクレ!!」
カシャカシャカシャ

ぎゃぁぁぁぁあっぁ、正式名称なんか覚えてないよ。あと魔力切れしてるんだった!
無常にも軽い音を立てる引き金。


「なのはさんっ?!」

スバル、お前親友なら体当たりしてでも止めてくれよ?!
なんで見てるだけなんだ?!


ドンッ!ドンッ!ドンッ!


空間が破裂する。
俺に出来たのは、遅い来る桃色に背を向けるところまでだった。
一瞬、姉妹の四女を思い出した。

ああ、こりゃ恐怖だわ。
あびゃぁぁぁぁな顔になったのも判る。

そして俺は空を飛んだ。


「・・・・・・模擬戦はここまで。
 今日は二人とも撃墜されて終了・・・・・・」


薄れ行く意識の中でそんな言葉が聞こえてくる。

・・・お、お前なんか
なのちゃんじゃ・・・ないやい・・・・・・ガクリ


   ◆



そこは黒い空間だった。
なんつーの?精神世界的表現かな?
そこにいるのは俺と、身体の正式な持ち主である凡人ことティアナ・ランスターさんだった。
膝を抱え顔を伏せガタガタと震えている。

ははん、なるほど大体判ってきたぞ。
凡人は頭冷やそうかイベントで恐怖のあまり引きこもっちゃった。
そんなところへ死んで魂だけになった俺様憑依ってわけだな納得した。


俺は現状を理解し、ティアナの隣に腰を下ろす。
そして彼女と同じように膝を抱えガタガタと震え始めた。


なんだよ、あれ!
死ぬより怖いってあんなこというんだな!とか暢気に言ってられるか!
ああもうなんでこんなところに来てしまったの?
せめて一期か二期にしてくれればリリカルマジカルだったのに!

もうやだこんな世界。


俺たちはそのまま会話も無いまま現実から逃避し続けた。
いつまでも・・・・・・いつまでも・・・・・・。



   ◆


ティア、久しぶり。元気してた?
あまりお見舞い来れなくてごめんね。
あたしね、今度災害救助隊の副隊長になるんだよ。だからまた忙しくなると思う・・・。

・・・・・・。
あれから。・・・ティアが眠り続けて、もう五年も経つんだね。
ごめん。あのとき守ってあげられなくて・・・。
あたしティアのパートナーなのに。
ほんと・・・ごめんね。

やっぱり六課に行ったのは間違いだったかもって最近思うんだ。
あの事件の後、六課メンバーの経験不足があちこちから指摘されて即時解散を言い渡されて。今思うと、当然のことなのに誰も気付かなかったなんておかしいよね。
あたしも、あの人と同じ部隊にいられるってはしゃいで、気付かないフリをしてたんだと思う・・・。

うん。・・・あの人とはあれからずっと会ってない。
噂では前線を転々としながら各地を回ってるって。
多分、顔をあわせたら酷い事一杯言っちゃうから会わないほうがいいんだ。

ねぇ、ティア?
あのね、あたしのパートナーはあれからずっと居ないんだ。
背中の特等席はティアの為に空けて待っているんだから早く目を覚ましてよ。
今度は絶対ティアの事、守りきって見せるんだから・・・。


あ、もうこんな時間だ。
今度はエリオやキャロも連れてくるよ。
あの二人ったら最近ラブラブで中てられて困っちゃうんだ。
なんだか、あの子達に先越されちゃいそうだよ・・・フフッ♪
二人の子に「ティアナ」とかつけられたりしてね。
・・・・・名前、取られたく無かったら早く起きるんだよ・・・。



じゃあまたね、ティア。






END① 「永遠に・・・」





あとがき

三馬鹿の気分転換に一時間で書きました。
適当仕様ですいませんorz

あとEND①と書かれていますが体裁を整える為で、続きの予定はありませんのでご了承ください。



[10626] タイトルとか募集中
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/07/29 01:18
前回までのあらすじ。

天のナノライマー「チャージなどさせるものか」
俺「こんなところにいられるか!俺は俺の世界にもどあびゃぁぁあぁぁぁああっああぁぁぁぁ!!!」



ひょんなことから凡人に憑依。
だが俺は三期は範囲外なんですってばおはこんばんにちわ。


そこはまっくろくろすけな空間。
精神世界にいるのは俺と凡人ことティアナ=ランスター嬢。
ひざを抱えて目はうつろ。先ほどから話しかけているのですが何も反応がありません。

このままじゃ俺は凡人として三期を生きていかなきゃなるんでそれは避けたいです。
だってさ、ティアナって最終的に戦闘機人三人も相手にしなきゃならんだよ?!戦闘機人がどれくらい強いかは実感わかないけど、確かリミッターかかった魔王様よりも強かったはずっ。
っていうか、またあの一撃思い出してしまってガタガタブルブルブル。
あ、ションベンちびりそ。
とにかく、凡人of凡人な俺は本編介入とか望む前に死亡フラグだとか恐怖の魔王様とかをさけるのが先決なのです。
特に後者。
もし、もう一度あんな恐怖に遭うならその前に死を選ぶだけの自信はあるね。
なんたって一度死んだときのほうが楽だったしな♪


ま、まーそういうわけでティアナ嬢には復活してもらわにゃならんのです!
第一に俺の精神のために。第二に宿主の命のために。
というわけで先ほどからずっと説得しているわけなのですが。



「・・・・・・・・・」

「頑張れ頑張れ!!
 出来る出来る!!
 絶対出来る!!頑張れ!!もっとやれるって!!
 やれる!!気持ちの問題だって!!
 頑張れ頑張れそこだそこだ諦めるな
 絶対に頑張れ積極的にポジティヴに頑張れ!!
 北京だって頑張ってるんだから!!!」

「・・・・・・・・・」



なんか後半は気持ちが先走りすぎて訳わかんないこと口走ってた気がするが多分気のせいだな。
俺はあまりの強情っぷりにため息をついた。
冥王様の恐怖はそれほどまでだったんだと改めて戦慄するとともに、大丈夫なのかと不安になってくる。
そんなときだ。

~~~~♪

この精神世界のどこかから音楽のようなものが聞こえてきた。
最初は小さな音量だったのに、段々と大きくなってくる。
あれ?これどっかできいたことあるぞ?


・・・・・・ス玉ひと・・・ヲ・・・された・・・ 追いかけてもひとつおっこちた・・・♪


ってカ○マかよ!
なんでここでいきなりそれ?いやいい曲だと思うけどさぁ!

そう思っていると世界の遠く端が白く光り始めた。
俺たちを中心にした黒い世界は、白い光に浸食されていく。


ひとつぶんの「クラヤミ」に ひとつだけ残ってる♪


なんか今歌詞おかしかったぞ?
そこは「ひだまり」だろ。・・・・・・いや、そういうことか!

白は急速に黒を塗りつぶしていく。
黒がこの精神世界を表しているのだとしたら、白は現実世界だと感覚で理解できた。
つまり目覚めが近い。
そして、この精神世界に留まれるのは『ひとつぶんのクラヤミ』というわけだな。
なんでバ○プだとか色々突っ込みどころはあるけど、また俺をあの世界に放り出すつもりなのか!許さんぞこの凡人め!
この世界に引きこもるのは俺だ!お前は原作やっとけ!

世界の中心に座り続けるティアナを力づくでも放り出そうと踏ん張ってみる。・・・・・・が、ダメ!

「くぅっ、びくともしない!
 さすがはこの世界の主というわけか。」

もはや、世界は白一色に染まり目覚めは近い。
だが、動かざること山のごとしな凡人。

「このっこのっ百貫デブかよ!」

悔し紛れにその言葉を発した瞬間、今まで全く動かなかったティアナ嬢からリバーブローが突き刺さった。

「ぐはっ、聞こえてるじゃねぇか・・・」

その勢いのまま白の世界に投げ出される俺。
最後に見えたのは顔と目じりを真っ赤にして睨み付けるティアナ嬢だった。
それを見て、「可愛いかも」と思ってしまったのは何故だろうな?



   ◆

――シャマル 医務室



「あらティアナ、起きた?」

医務室に入室したとき、ちょうどティアナが起きたところのようでした。

「・・・・・・しゃまるぅ?」

どうやらまだ少し混乱してるようですね。いつもは『シャマル先生』と呼ぶのに。・・・何かおかしな響きがあったのは気にしないで起きましょう。

「えっと、ここは・・・・・・?」

「ここは医務室ね。昼間の模擬戦で撃墜されちゃったの、覚えてる?」

「・・・・・・え?」

ちょっと反応がにぶいかしら?
検査の結果、どこにも目ぼしい怪我とかはなかったから、きっと記憶の混乱ね。

「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから身体にダメージはないと思うわ。」

ティアナの脱がしておいたカーゴパンツを取りに背を向ける。

「どこか痛いところ・・・・・・ど、どうしたのティアナッ?!」

振り返った時、ティアナはベッドから滑り落ち両手で肩を抱き床にうずくまっていた。
慌てて駆け寄って問いかけてもティアナに反応は無い。
ただ

「なのは様が来る SLBでぶっとばされる
 なのは様が来る SLBでぶっとばされる
 なのは様が来る SLBでぶっとばされる
 なのは様が来る SLBでぶっとばされる
 なのは様が来る SLBでぶっとばされる
 なのは様が来る SLBでぶっとばされる・・・」


と延々と虚ろな目で呟き続けるだけだった。



   ◆

――フェイト 訓練場へと続く道



横を歩く親友の表情は暗い。
なんとかして支えてあげなくちゃと思う。

「でもごめんね。監督不行届きで・・・。
 フェイトちゃんやライトニングの二人まで巻き込んじゃって。」

「あ、ううん。私は全然。」

「ティアナとスバル、どんな感じだった?」

「スバルは・・・まだちょっとご機嫌斜めだったかな?」

「そう・・・。あれ、ティアナは?」

「それは・・・・・・」

どうしよう。
なのはにティアナの様子をそのまま伝えていいのかな?

「・・・フェイトちゃん?」

えっと、出来るだけオブラートに包んで・・・

「ああうん。ちょっと落ち込んでるみたい。
 今はスバルがいっしょに・・・


ガチャーーーーンッ!!


ガラスの砕ける不快感を伴う音が夜空に響き渡った。

「え、何?」

周囲を見渡してみると宿舎の一室、そこから不自然に室内の光がもれている。
そしてそのベランダで蠢く人影も確認できた。

「なんだろ、あれ?・・・・・・フェイトちゃん?」

訝しげな表情で疑問を投げかける親友を置いて私は走り出した。


どうして?
ちゃんとスバルには目を離さないようにと言って置いたのに。
違う。今はそんなこと言ってる場合じゃない。
お願い、間に合って!!


だが、その願いも空しくその人影――ティアナはベランダから落下した。


「ティアァァァァァッ!!」

あの声はスバルだろうか?
ベランダからもうひとつの影が飛び出してきて悲痛な叫びを上げる。


やっと、ティアナの落下地点に到着して、容態を確かめる。
よかった、生きてる!


「フェ、フェイトさんごめんなさい!
 あ、あたしちょっと目を離したときに・・・・・・。」

頭上からそんな声が聞こえてくる。
今はそんな事を言ってる場合じゃないのに!

「大丈夫!
 生きてるから、早くシャマル先生と・・・・・・ヴァイス陸曹に搬送の用意させて!」

「は、はい!」

ドタバタとベランダから顔を引っ込めるスバル。
突発的な出来事に弱いんだなやっぱり。


私は苦痛の呻き声をあげるティアナに視線を戻す。
ティアナが目を覚ましたと聞いたときは安堵した。
だけど、傷は目に見えないところにあったんだ。
ティアナはある一つの単語を耳にすると錯乱してしまうようになっていた。

「なのは」

ガクガクと身体を丸めて震えたり、衝動的に自傷行為に走ってしまう。
こんな状態をなのはに伝えるわけにはいかなかった・・・・・・、ってなのは?!

いつのまにか追いついたのか、そこには立ち尽くすなのはが居た。
わなわなと唇が震え、この現実を受け入れられないのか。

「ふぇ、フェイトちゃん。
 ・・・・・・私のせいなのかな・・・・・・?」

縋る様な声を出すなのはに、私は否定の言葉を紡げなかった・・・・・・。



   ◆



管理局地上本部最上階。

この中の一室、総司令官執務室には一日に何人もの人間が入退室を繰り返す。
だが、この部屋に恒常的に出入りする女性は三人しか居ない。
一人は地上本部総司令たるゲイズ中将の娘であり、副官でもあるオーリス=ゲイズ。
一人は、同じくゲイズ中将付きの秘書室唯一の女性秘書。


そして最後に、地上本部特別対策室室長の高町なのは三等陸佐である。



あの六課の日々が終わりを告げてから数ヶ月後のある日の夕方、高町なのはは件の部屋へと訪れていた。

「・・・・・・中将。機動六課へのベテラン魔導師の複数派遣及び予言対策班の設置、ありがとうございます。」

「約束を守っただけの話だ。対策室は計画は以前から存在したが人材がおらずに頓挫していたにすぎん。
 一般魔導師では手に負えない特殊な場面で役にたってもらうぞ。」

「もちろんです。」

「・・・・・・忌々しいものだな。
 二十年近くも勤務し続けたベテランを何人も犠牲にしてでも、貴様のようなSランク魔導師一人のほうが成果をだしているという現実は。」

「・・・・・・機動六課はそこまでひどい場所ではありません。
 あの人たちの力を六課は必要としているのです。」

「・・・・・・未だに古巣は大事か。
 ではなぜここにいる?」

「・・・・・・。
 私に出来るのは戦うことだけだって気付いたからです。
 若者を導くにはあまりにも経験が足りず、そして育てるどころか傷つけてしまいました・・・・・・。
 あの子達に必要なのは私ではありませんから・・・・・・」

「・・・ふん、まあいい。
 これでそちらの条件は全て呑んだのだ。・・・・・・」

「・・・・・・判っています。
 最低十年の地上本部勤務。及び、高ランク魔導師育成計画への参加。
 そういう取引でしたからね。」

「・・・・・・。
 判ってるなら言うことは無い。」


部屋に差し込む西日が二人を照らす。


「・・・・・・ランスター二等陸士が現場復帰したとのことだ。」

「・・・え?」

「そう報告が届いている。
 ・・・・・・まあなんだ、取引では【六課に関わってはならない】という項目は無かった。
 もし、貴様が・・・・・・何を驚いている?」

「いえ・・・・・・少し意外でしたので。」

「部下に対しての精神的フォローも上司の仕事のうちだ。
 貴様も覚えておけ。」

「了解です。
 ・・・・・・・・・それとお気遣い感謝いたします。

 ですが、いいんです。
 忘れ去られるならそれはそれで・・・。」

「・・・・・・そうか。」



二人はそれぞれの思いを抱えながら夕日を沈むまで眺め続けていた。




END②「別離」




おまけ


中将「・・・・・・今日は飲みにいくか?」
なのは「・・・・・・。私、婚約者がいるのですが。」
中将「そういう意味ではないっ。・・・ああ、全く慣れぬことはするものじゃないな」
なのは「ほんのつい最近出来たんですけどね。お気持ちだけ受け取っておきます。」

落ち込んでるところを慰めてという典型的なパターンだったらしい。

ユーノ「へっくし!」

少なくとも嫁き遅れになることだけはなさそうだ。



終われ





あとがき

相変わらずひどいよね。



[10626] 皆の心が広いなと感心することしきりw ※おまけ追加しました07/30
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/07/30 17:56
前回までのあらすじ

管理局の白い魔王「知らなかったの?大魔王からは逃げられない」
俺「だっふんだ!(錯乱中)」



凡人に憑依して早数時間。
ただいま自室で待機中。
同室のスバルは机でデバイスの掃除中だ。
だけど、先ほどからベッドに寝転がった俺(=ティアナ)をちらちらと心配げに振り返っている。

いくら壁を向いているからって気付かないと思ってるのだろうか?
・・・・・・思ってるんだろうなぁ。


とりあえずスバルは置いておいて今後どうすべきかを考えよう。

まず、大前提として俺はティアナとして生きていくつもりはないというつもりだ。
痛いのも怖いのも嫌だし、凡人と視聴者に馬鹿にされ続けたのがティアナなら、俺なんかみそっかすよ?とても戦闘なんかできるわきゃない。

ならどうするか?
一応二つほど対策を考えた。
一つ目は、精神世界のひきこもったティアナを現実世界に引きずり出す。そうすりゃ、俺はお役ごめんとなって成仏できるかもしれない。
二つ目は、ティアナになったまま危ないことは出来るだけ避ける。
こっちは具体的にはあまり考えてはいないけどね。


うーん、行き当たりばったりだな。
一つ目はいつティアナと会えるかわかんないから、基本二つ目で考えていこう。
ならまずは原作を思い出して・・・・・・ふぁ・・・・・・・・・確か、このあとはス・・・・・・カの・・・・・・しゅ・・・う・・・げ・・・・・・zzz



「・・・ティア?
 あれ、寝ちゃってる・・・・・・。
 どうしよう、起こしたほうがいいよね・・・・・・?
 ね、てぃあー・・・・・・」




    ◆



はるばーるきたーぜー ティーアのなかー♪

ちなみに「なか」と打って「膣内」と変換するPCの持ち主とはお友達になりたくはありません。オリ主です。

相変わらず暗闇の中に一人蹲る1ツンデレ。
前回は根気強く話しかけてみたけど反応がありませんでした。多分。
・・・・・・最後のほうは何故か曖昧なんだよね。

というわけで今度は実力行使をしてみたいと思います。
題して「死ねないオリ主は逃げたくて ティアナのことを思うとついπタッチしちゃうの」大作戦!
うわ、原型ねー・・・。
まあタイトルはあれだけど、今度は触って(性的な手段も含め)覚醒を促してみようということです。


まず最初は指先で肩を突いてみましょう。ツンツン。

「・・・・・・・・・・・・。」

うーん反応ありませんね。
じゃあ肩を叩いて・・・・・・ダメです。

「ティアさーん。起きないと色んなとこ触っちゃうよー?」

「・・・・・・」

よし、一応前もって宣言はしたので俺無罪。
ここからはセクハラで裁判に持ち込まれるレベルになっていきます。

背筋に指先を当ててツツーーーーーーっと。

「・・・・・・。」

むうダメか。
なら、その俯いて白日(暗いけど)の下に晒している、頭頂部を刺激してやろう。ツインテールだからやりやすいしね。

ぐりぐり。
どうだー?ここは便秘のツボだからお通じが良くなっちゃうんだぞー?

「・・・ ・・・。」

む、今ちょっとだけ反応あったかも!・・・・・・けど無かったかも。


ううーん、肋骨をつついて見ましょう。
もし感覚があるなら痛くて悶絶して間違いないもんね。
ティアの背中側にひざ立ちになって拳を前に回します。
そーらツンツン。

ポニュポニュ。

あれ?なんか感触が違ったっていうか・・・・・・もしかしてこれっておっぱお?

?!

0.005秒で事態を把握。
0.01秒後には土下座完了!

「す、すいませんでした!
 誤解なんです。本当はわき腹をつつこうとしただけでセクハラしようとかそういうんじゃないんです!
 だ、だから何卒、示談!ジダンでお願いしますっ!!」

「・・・・・・。」

ゴンゴン地面に頭突きしても反応はない。

HAHAHAなんだよ驚かせやがって!
そうだよな、物語的にもこんなことで起きるわけがないもんな。
よーし、そうと決まったらパパ、モンデヤルになっちゃうぞー!
いきなりこんな世界に連れて来られたんだ。それぐらいの役得がないとやってらんないもんね☆


ではでは背中に回りまして。

いざ、
参る!


「「ああんっ」」


へ?

俺まだ揉んでないよ?
しかも仲原の声だけじゃなく男のあえぎ声なんて気持ち悪いもんもきこえたんだけど?
そういや何だか俺の胸に刺激があったような・・・・・・。


むにゅにゅ

「「あっ・・・」」

やっぱりだ!誰か俺の胸をもんでやがる!
あと多分同時にティアの胸もだ!
なんとうらやましい!

「「・・・あ、ふぅんっ・・・・・・。」

悔しい。でも感じちゃうっ!
まさかガチでこのセリフ使う日が来るとは思わなかったぜ。
別に嬉しくないがな!



心臓が始まったとき いやでも人は場所を取る♪


世界の片隅から○ルマが流れてくる。
同時に白色光の筋が世界に広がっていく。

今回はここまでか。
条件はわからないが、ティアナはどうにかすれば反応するということが判っただけでも収穫かな?

そんなことを考えながら、俺は光に包まれた。




「ティアー。起きてよー」

目を覚ましたときに最初に目に入ったのはおっぱいもみもみスバルさんonマウントポジションだった。

お ま え か 。

とりあえず凡人チョップをお見舞いしといた。



   ◆


――なのは ヘリポート

ガジェットの襲撃。
何もこんな日でなくても、そう思わずには居られなかった。

フォワードメンバーを集めて出撃前の指示を出していく。

「今回は空戦だから。
 出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人。」

「皆はロビーで出動待機ね。」

「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ。」

「「はいっ」」

ライトニングの二人はともかくとして、ティアナやスバルの表情は暗い。
こうなったのは私の責任だ。
憎まれても仕方ないかな。
けど任務の直前に私が崩れたら、士気は成り立たなくなってしまうの。

「あぁ、それからティアナ。
 ティアナは出動待機から外れとこうか」

意識して、優しく出来るだけティアナを刺激しないように諭す。
ごめんね。
だけど今のティアナを戦闘に出したら、それはティアナ一人の怪我では済まなくなるのは明白。
私は隊長としてそれを防ぐ義務があるの。



「はい!了解です!」


「・・・・・・今夜は体調も魔力もベストじゃ・・・・・・ふぇ?」

てっきり拒絶されるかと思ったのに、笑顔で元気良くそう返されてしまい戸惑ってしまう。
それは私だけでなくそこに居た皆がそうだった。

「そのとおりです。
 体調も魔力も最低ですし精神的にもとっても動揺しています。
 いやー残念ですねー。ほんと。」

「「「「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」」」」

何故なのかな?
望んだ展開のはずなのに、そこはかとなく納得がいかないのは。

「私にはスバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも無いです。
 少しくらい無茶しても、死ぬ気でやったって強くなんかなれるわけないですもんね!」

ティアナ。
なんでそんな笑顔で自分を貶めることが出来るの?
私のほうが泣きたくなってきた。
違うの、私が伝えたいのはそうじゃなくて・・・・・・っ


「ふんっ!」

バキっ

「あぁっ!」

「「シグナムさんっ!」」

もう聞いて居られない。そう思ったとき、シグナムさんがティアナの襟をつかんで殴り飛ばした。
ティアナは鼻からを血を出して「どうして?どうして?」と呟いている。

「加減はしていない。
 まさかここまで見下げ果てた奴だとは思わなかった。
 これならまだ歯向かってくる奴のほうが可愛げがある。」

だからってそこまでしなくても・・・・・・。

「駄々をこねる馬鹿はなまじ付き合ってやるから付け上がる。

 ヴェイス、もう出られるな!」

「乗り込んでいただけたらすぐにでも!」

ヴィータちゃんに引きずられながらヘリに連れ込まれる。
だめだよ、ティアナは今何かおかしい。
このままにしておいたら大変なことになる気がするの!


「ティアナ!
 思いつめちゃってるみたい?だけど戻ってきたら
 ちゃんと御話ししようっ!」


どんどん小さくなっていくティアナを見下ろしながら叫ぶ。
ちゃんと届いてればいいけど。







高町なのはの願いどおり、彼女の言葉はちゃんとティアナの耳に届いていた。
ただ一つの不幸は、「お話し」が「OHANASHI」と認識されてしまったことである。


高町なのはは以後の生涯に於いて、このときティアナ=ランスターとその場で解り合えなかったことを悔やみ続けたという。



   ◆



――ジェイル=スカリエッティ ラボ


彼が自ら作り出した玩具の性能テストを終え、データの整理を行っていたときに通信が入った。

相手はつい数時間前に話したばかりの少女だ。


「やぁルーテシア。今度はどうしたんだい?」

『ドクター。・・・これを』

送られて来たのは映像ファイルだった。
ルーテシアの背景の海岸線の映像らしく、暗くて何が映っているかは判りにくい。

『あの人達の仲間の一人。偶然映っていたの。』

画像が拡大されて一つのバイクが映し出される。
さらに頭部に拡大を掛けフィルターを通すとそこに映っていたのは十代半ばの少女だった。
ふむ、どこかで見たことがある気がする。
が、どこだったかな?

「ウーノ、判るかい?」

判らないことは判る人間に聞くのが一番早い。
私は躊躇い無く、背後で協力してくれていた愛娘に声をかけた。

「少々お待ちを・・・・・・機動六課、フォワードメンバーのガンナー、ティアナ=ランスターだと思われます。」

はて?そんな人間はいただろうか?

「六課に所属しているタイプゼロ。そのパートナーとして登録してありますね。」

ああ、確かに存在したような気がするね。

「それでルーテシア。
 彼女がどうかしたかね?」

『少し・・・おかしかった。
 何かに追われるように怖がっていたから気になったの。』

「・・・そうか、確かにこんな時間に一人で行動するのはおかしいね。
 ・・・・・・。
 ウーノ。あそこからもっとも近くにいるのは誰だい?」

「トーレとクアットロですね。
 向かわせましょうか?」

「ああ。あの二人ならよもや遅れを取ることもあるまい。
 ルーテシアもありがとう。こちらで少し調べてみることにしよう。」

『ドクター。レリックが関係していたら・・・』

「ああ、勿論君に一番に知らせるさ。」


そうして通信は切れた。

「・・・まあおそらく大した情報は出ないだろうがね。
 ウーノ、この件はクアットロに任せようと思うのだが伝えてくれるかい?」

「はい、情報取得の手段、隠蔽などを一任させます。
 ただし、罠である可能性も考慮に入れて・・・・・・ですね。」

「ああ。
 さて、では再開するとしようか。」





この日を最後にティアナ=ランスターという人間は闇に消える。






END③「旅立ち」






おまけ


ヴァイス「・・・・・・お、俺の、バイク・・・orz」

ルキノ「駄目です。ランスター二等陸士の反応が合計で六つ。それぞれ全く別々の方向へ移動中です!」

はやて「・・・幻影の超長距離多重操作・・・・・・いや、自律行動を付与してるんかな・・・?
    どちらにしても、凄い才能や。
    なんでこれが普段できひんかったんやろな?」

スバル「ティア・・・そのためにマッハキャリバーからカートリッジを抜き取ったの・・・・・・?」

なのは「orz」

シグナム「・・・高町、そう気を落とすな。
     人間は追い詰められたとき、命の危機に瀕したときに想像以上の力を発揮するという。
     おそらく今回ソレだろう。」

キャロ(ティアナさん、そんなになのはさんが怖かったのかな?エリオ君)

エリオ(・・・・・・それ、言っちゃ駄目だよキャロ)


はやて「そういうシグナムは反省房へお送りや。
    いくら頭来たゆうても問答無用で殴るのはあかんっ。」

シグナム「orz」

ヴィータ「ちょっと待ってくれよはやてっ!
     騎士にはそのだなっ・・・・・・言葉だけじゃ何も伝わらないことってのもあるんだよ!」

フェイト「orz」←過去に同じような趣旨の発言をしたあげくSLBでぶっとばされた経験有

はやて「ヴィータも止めなかったペナルティとして、一月アイス禁止令出そか?
    近日査察がある言う話も出ているし、部隊内での暴力事件なんか不祥事の代表例やん!」

リィン「メッですよ~♪」

ヴィータ「どんな状況でも暴力は最後の手段だぞ、シグナム。」




シグナム「orz」
なのは「orz」
フェイト「orz」



ヴァイス「・・・・・・俺のバイクゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~っ!!!!」









おまけその2


④「読者の皆さんは私が才能の無い凡人にそんな慈悲深い行為を行うとでも思ってるのかしら~?」

③「メタな発言はやめろクアットロ。」

④「ごめんなさ~い、お姉さま~。
  まあ私もか弱い淑女ですので、痛いのとか怖いのは出来る限りやめてあげますわ~♪
  どう?とっても優しいでしょう~?」

③(早く帰りたい)






あとがき

「これはひどい」は魔法の合言葉♪





追伸

お前の真実はお前の心が感じたものだ!
だから他人と比べて不安になったり、逆に他人に自分の真実を押し付けたりする必要はない。
ただ自分の真実を大切にしてやってくれ!

偉そうなこと言ってる俺が一番ドキドキしてるんだけどな!
なんせこれ書いてるとき何も考えていないから受け入れられるか不安すぎるw


追伸その②

そのままの君でいてください。



[10626] お食事時を避けてください
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/07/31 23:40
前回までのあらすじ


固定砲台でググれ「OHANASHI聞かせて?」
俺「今度、うちの猫が子猫生むんだ・・・・・・『にゃんぎらす』って名前も考えたんだ。」



ハローミッド。グッバイリアル。

凡人に憑依してシグナムに殴られたりしながらなんとか生きてます。オリ主です。

毎回言われていることですが、なのはさん撃墜時の映像とか何の意図があって撮ったりしたんだろうね?
後々にドキュメンタリーでも制作する気だったのかしら管理局。
けど、無印の映像はどうやって入手したんだろ?特にユーノとの出会いシーンとか。

・・・・・・。

もしかしてなのはさんそっくりさんな子役を探してきたりしたのかな?
やべぇ、そうだったら凄く会いてぇ!


というわけでお説教が終わったらこっそり酢飯に聞きに行きました。

「ああ、あれ?
 よく出来てたでしょー。自信作なんだ!」

そう大きな胸を張る眼鏡。
なんと驚くことにあの映像はこのおっぱいが自主制作した3Dなんだと言う!

魔法すげぇ!おっぱいもすげぇ!
そんなソフトあるのか?!
なんでも給料三か月分ぐらいしたらしいが、MAD職人としていいソフトが出るとついつい衝動的に購入してしまうらしい。

才能の壮大な無駄遣いを見た!野生のネ申発見!
つーかうp主かよ!

「盗撮淑女P」という投稿者名を引き出して、必ずマイリスに入れると約束した。
なんだかこっちの世界でもやっていける気がしてきたなぁ。




   ◆



さて、例えばさ。
学校の掃除でトイレ担当になったときとかさ。
皆嫌がるけど、仕方なく女子トイレに入らないといけない事態になったときとか凄くドキドキしなかったか?

俺はした。
とってもした。

個室の中には誰もいないって判ってるのに、ああいつも皆がここに裸の尻をおしつけて、あまつさえ(検閲が入りました)してるんだなぁと思うとなんだかとってもいけないことをしてる気がするの。


まあ何が言いたいかというと。俺@女子トイレ!

プライバシーのかけらもない機動六課では安心して一人になれる個室がここだけだったという話なのだ。


高まる鼓動をゆっくりと沈め、今後の方針について重大なことを決めないといけない。
それは「ティアナに俺が憑依していることを機動六課のメンバーに教えるかどうか」だ。

まずはメリットから行こう。
一番大きなものに、戦闘に参加しなくてもよくなるだろうことだ。いくらオリ主だって言っても、素人を戦場に出す危険性は理解しているだろう。
そして第二に、カリム涙目な原作知識。これさえあればJS事件なんか起こりようがないよね?さっさとスカさん達拘束すれば危険は安全だ。

デメリットはティアナの重要性が増して色々な方面に狙われる危険性が出てくることだな。機動六課関連以外に知られたらどうなるか判らない魔法世界。
それこそ人体実験とか怖いこと一杯やってて人権どこって感じだ。
そして、危険はないが不自由な生活を強いられることも確実だ。


んで、カミングアウトするにしても問題点はある。
どうやったら信じてもらえるか?
今の俺を見て、病院が来い状態だと判断される可能性のほうが高そうなんだよなぁ。大魔王ナーノ様から受けたショックのせいで錯乱してると思われるかもしれない。


う~~~~~~~~~~~ん。


とりあえず、様子を見るか。
結局結論は現状維持という方向に決まった。
下手に動くと怪我しかねないもんな。
こうやって凡人は機を逃すという天の声が聞こえてきそうだが、気にしないでおこう。
凡人は凡人たるからこそ凡人なのだ。



ふと、ここが女子トイレであることを思い出す。

・・・・・・。

そ、そうだな。
トイレに入って用も足さずに出るって言うのもおかしいもんな。
別に尿意とか無いけど、なんかあるような気がしてきたし、我慢は身体に毒だからな!

理論武装は完了!

だ、だから、その過程で色んなモノが見えたとしても仕方のないことなのだ!!

パンツとその下のショーツに手を掛ける。

それではオリ主っ!いきま~~~~~~っす!!!


ズボッ




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
 なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!!」



   ◆



――キャロ  部隊長室



ここにいるのは八神隊長、フェイトさん、なのはさん。
そしてその中心でヒックヒックと泣き疲れた様子のティアナさん。
先ほどシャワーを浴びたので髪が濡れている。
服装もいつもの格好じゃなく、バスローブ姿だ。


「それで、ティアナは自分はティアナじゃないって主張するんやな?」

「ヴぁい、ぞーでず。」

優しく語り掛ける部隊長。
ティアナさんは小さな鼻がかった声でそう返した。

その返答に三人は戸惑った顔を見合わせます。
今まで私も短い間でしたがティアナさんと一緒に生活してきました。けれど、こんな小さな子どものようなティアナさんは想像できません。
だから、ティアナさん――いえティアナさんの中の人が言ってる事は本当なのかなと思ってしまいます。


「うーーーーーん・・・・・・・・・。
 私も不思議な出来事にはぎょうさん出会ってきたけど、こんなことは初めてや。
 なのは隊長やフェイト隊長はどう思うん?」

「・・・私は・・・ティアナが嘘をついてるようには見えない・・・かな?」

「フェイト隊長はどーや?」

「・・・・・・同じ・・・意見かな。」

「そうかー・・・・・・」

沈黙が続きます。
皆さん色々な可能性を考えているのでしょう。
ティアナさんの鼻を啜る音だけが部屋に響きます。

「・・・・・・そういえば、どうしてキャロはティアナの様子がおかしいって判ったのかな?
 そのときの事を話してくれる?」

フェイトさんが行き詰った思考を一旦脇に置きました。

「あ、はい。
 えーとですねぇ・・・・・・」




あのとき私はちょうどトイレに入ったときでした。
奥の個室から大きな叫び声がしたんです。
それで何事かと思うと、ズボンを下げたティアナさんが扉から飛び出してきて倒れました。
ティアナさんは錯乱した様子で個室の中を指差していました。
そこにあったのは・・・その・・・・・・真っ赤に染まったおトイレだったんです。







「・・・・・・つまり、突然始まった生理出血に驚いたってこと?」

コクン。
うつむいたままティアナさんが頷きます。





えーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
その後、ティアナさんを宥めてシャワーに連れて行きまして、おトイレを水洗いしました。
ティアナさんが落ち着いてから色々と聞いてるうちに、これは少しおかしいかなと思って。
生理用品について尋ねても要領を得ませんでしたので、お呼び出ししたんです。





「・・・・・・ごんなぢいざな子に世話を掛げでじまっで、悲じいやら情げないやらで・・・・・・ヒック・・・・・・」

「あっ、そんな気にしないでください!
 私も最初は凄く戸惑ったんですから大丈夫ですよ!」

ワーっと泣き伏せるティアナさんを慰めます。
心細い時は頭をなでなでされると落ち着くんですよ。
なんだかこうしていると本当にティアナさんとは別人なんだなと感じます。

「そうなん?」

「うん、キャロはちょっと早かったからね。
 夜中に始まってちょっとした騒動になったかな。」

「ワーーーッ?!
 フェイトさん言わないでって約束したのにっ!」

「・・・あ、ごめんねキャロ!ごめんなさい。」

あうあうあ~~~
あのときのことは赤面モノなんですよー。
フェイトさんに悪気はないって判ってるし、必死で頭を下げるフェイトさん。
もう、そんなにされると私が悪いみたいじゃないですか・・・・・・。



「・・・・・・えっとそれでどうしようか・・・・・・?」

「おっとそやった。
 う~~~~~ん、とりあえずカリムと連絡取ってみるわ。
 ちょい冗談と切り捨てるには真実味が迫うてるし、ティアナ?が言うてることが事実なら、レリック事件解決に大きな力になるからな。」


コクンと頷き合う隊長陣。
もしかしたら私は大きな歴史の分水領を見ているのかもしれないです。
ティアナさんの頭を撫でながらそう思いました。



   ◆



――民報クラナガン放送局


こんばんわ。
最初のニュースは、先日法官吏による不法行為の容疑で逮捕されレジアス=ゲイズ元地上本部総司令に関する続報です。
戦闘機人計画など非人道的な計画に深く関わったとされる容疑者は、ジェイル=スカリエッティを名乗る広域次元犯罪者と何らかの取引があったと取調べを受けています。

今日の午前十時過ぎ、ジェイル=スカリエッティのアジトと思われる××地区森林に捜査員が突入し、研究施設とその過程で建造された戦闘機人の一部を取り押さえたということです。

部隊の指揮を取った捜査官の発表によると、研究施設の中には人造魔導師の研究プラントやガジェットと呼ばれる自律兵器。そして、先史時代の古代ベルカの遺産と思われる巨大ロストロギアも発見されたとのことです。

当時の現職地上本部最高責任者であったゲイズ中将の逮捕から早二週間。
捜査の過程で次々と明るみに出る真事実ですが、事件の全貌は未だ見えず市民たちからは不安の声が上がっております。
今後も新たな事実が入り次第お伝えしていきたいと思います。



それでは次のニュースです。
クラナガン市立動物園でカルガモの赤ちゃんが生まれました。
訪れた親子連れの子どもたちは大喜びで・・・・・・



   ◆



――カリム 聖王教会執務室


家族向けの心温まる話題に変わったところで私はモニターを切った。

ティアナ=ランスター・・・・・・いいえ、彼のもたらした情報によって予言の大きな山場を越える事は出来ました。
最初は半信半疑ではありましたが、一般の職員では知らない秘密を突き付けられ、未来を予言されては信じるほかありませんでした。

最初の出会いから何度も協議をかさね、事実と照らし合わせやっとここまで来られたのです。

彼は先ほどまでここで百八回目の協議と事実確認を行い、今頃はシャッハに送られている事でしょう。
今の彼は教会及でも管理局でも最重要の機密です。
当然その住居もベルカ自治領のどこかとしかされておらず、詳しい位置を知る者は私を含めほんのわずかです。
不自由な生活を強いていることは自覚しておりますが、それが彼を護るためであり、次元世界を護るためでもあります。

彼も情報と引き換えに要求した、安全と自由な生活の両立の困難さは理解しておられるのか、不満は有るものも妥協してくれているようです。


ただいくつか頭を悩ます事例もあります。
それは彼のレアスキル・・・・・・いえ、境遇から来る未来の知識です。私自身は彼の能力の限界をよく理解しましたので気にしてはいないのですが、教会の幹部の中には私以上の能力だと思い彼を危惧している勢力があるのです。
私の予言に群がろうとしてきた人間にとって彼は脅威なのでしょうね。今は協力関係にありますが、いつか袂を分かち私の「お客様」を奪うのではないかとご心配な方々なのです。

彼をよく観察すればそのような人物ではないと判るはずですのにね。
いい意味でも悪い意味でも。




そう感慨に耽っていると緊急通信が入りました。
なんでしょうこんな時間に?


「挨拶は控えさせていただきます。
 ・・・・・・・・・そしてお気を確かに持ってお聞き願います!」

な、なんでしょう。
何やら物々しいですね。

「先ほど官舎で腐臭騒ぎが起こりました。
 職員の一室が厳重に施錠されており、騎士たちが力づくで解放したところその一室には職員の遺体が・・・・・・。
 自らのデバイスで喉を突いて即死、おそらく自殺だと思われ遺書も見つかっております。」

なんですって!
どうして今まで判らなかったのですか?




後から振り返ると、この段階ではまだ冷静で居られたのだと思う。




「申し訳ありません。
 ですが、事はそれ以上に急だと判断します
 
 どうか・・・・・・
 どうか・・・・・・冷静にお聞き願います。」



これ以上悪い事実が待っていると言うのでしょうか?
見れば職員も必死に冷静さを保とうとしているのがわかった。
私は深呼吸を一つとして、自分が落ち着いたことを確認してから続きを促した。



「・・・遺体は、騎士・・・・・・シャッハ。
 騎士、シャッハ=ヌエラ・・・・・・です。」




手元に置いていた紅茶のカップが膝の上に落ちた。

ああこれじゃ染みになってしまいますね。
いえ、そのまえに火傷の心配が先でしょうか?
変ですね、こんなに熱いのに「熱さ」を感じませんよ?



「・・・・・・遺書には、【我が主、騎士カリムの名誉と尊厳を不当に奪ったティアナ=ランスターへの抗議として・・・・・・

 ・・・・・・?!

 騎士カリム!
 帰ってきてください!あなたには我々を導く義務がある!!」


「・・・・・・っ!
 大丈夫です。
 ・・・・・・しかし、シャッハはつい先ほどまでこの部屋にいたのです!
 彼女はそのような理由で死ぬことなど無いですし、そんな時間もありません!
 ここから官舎までは早くても四十分はかかります。いくらシャッハでも物理的に無理です!!!」



やはり、どこか信じたくないという気持ちが強かったのでしょうね。
ですが、やはり現実は過酷でした。



「・・・・・・映像をお送りします。
 ご自分の目でお確かめください・・・・・・。」



それは凄惨極まる画でした。
白い肌は黒ずみ、眼窩は崩れ落ち、蟲が穴という穴で蠢き・・・
けれど、それは確かにシャッハでした。

喉から吐瀉物がせり上がり、机の上に広がります。

「騎士シャッハの死亡推定時は・・・・・・遺体の状態から、少なくとも七日以上前と推測されます・・・・・・っ!」


顔を背け報告する部下の声がえずく私の耳に何故だか静かに届きます。

けど、それなら・・・・・・私とつい先ほどまで彼を交えて談笑したシャッハは誰だと言うのですか?!







次の日、ベルカ自治領の山中でティアナ=ランスターが【発見】された。




END④「禍福」





おまけ

「パパー明日のお遊戯会絶対来てねー」

「ああ勿論だとも!それでお前は何をやるんだ?」

「えへへ、騎士シャッハの役なんだよ♪」

「『亡霊騎士』か・・・。すごいな、主役じゃないか!」

「うん、悪い魔女をやっつけるよ!」





『ベルカの亡霊騎士』・・・・・・それは死してなお忠義を尽くした騎士の生き様を示した美談となり、後世に永く語り継がれていく・・・・・・。







あとがき

展開予想されてもそれを踏み抜く。それが漢執筆!
コメント返し出来ておらずに申し訳ありません。



[10626] 頑張りすぎは身体に毒と自分に言い訳 ※08/04 おまけ追加しました
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/08/04 22:53
魔砲少女「あなたの胸に直撃よ!」
俺「いや、その魔砲さんは違う人だから」




凡人in凡人!
それって何てマトリョーシカ?オリ主です。

ただいま海の前でなのはさんとOHANASHIちふです。

「ティアナ・・・・・・何で正座なの?」

「これが私のOHANASHIを聞く姿勢です!Sir!」

「サ、サー?
 えっと・・・・・・けど地面硬いし、足痛いんじゃないかな?」

「お心遣い感謝します!
 ですが、どうぞ御気になさらないでください!Sir!」

もう俺の内心ビクビク。決して感じてしまってるわけじゃない。
・・・・・・死の気配は二人っきりになったときから感じているけどな!

「そ、そうなの・・・。えっとね・・・」



「無茶して危ない目にあって本当に申し訳ありませんでした!
 この償いはこの腹掻っ捌いてでも・・・!」


土下座スタイルは俺のベーシックフォーム!
なのは様の言葉を聞くだけで冷や汗ダラダラな俺は地面に額を打ち付けた後、つい切腹しちゃうんだ♪


「ティ、ティアナ?!
 駄目だよ!だ、誰かきてぇぇぇぇ!!」

「ティアだめぇぇぇ!」

「スバル?!
 それに皆も!」

「駄目だよ!ついなのはさんと一緒にいると死にたくなっちゃうのは判るけど、命大事に恋せよ乙女だよ!」

「スバルっ、それどういう意味なの?!」

「お願いー!死ーなーせーてー!」

「一人で置いていかないでーーー!!」





※現在部隊総出でティアナを止めています。
 しばらくお待ちください。





――二十分後。

息切れする魔王様。
フォワードメンバーも同じような感じだ。
もうなんか本当に申し訳ありません。
途中からスバルも俺に感化されたのかスーサイドり始めて、隊長陣も出動する事態となってしまった。
もうね、申し訳なくて頭を上げられないのよ。
ああ、また死にたくなってきた。・・・・・・て、落ち着け俺。
Be KooL Mint gumだ。


「・・・ハァハァ・・・あのね、ティアナは自分のこと凡人で射撃と幻術しか出来ないって言うけど、それ間違ってるからね。」


『嘘だっ!!』・・・・・・なんてお約束なセリフを期待してた人ごめんなさい。
俺もちょっと言いたい欲求はあったんだけど、皆の突き刺さる視線が痛くて、思わず海に飛び込みたくなっちゃいそうな俺の精神状況も察してください。

というか、ここって会話場所には不向きだよね。
下手なこと言ったら海に叩き込まれそうだもん。そう感じるのは俺だけか。さーせん。


そんなことを内心考えながらも魔王様のOHANASHIは続く。


「・・・命令してみて。モード2って。」

そう言われてクロスミラージュを渡される俺。
確か、ここで凡人の考えも間違ってなかったと慰められるんだよな。
・・・・・・けど、今の俺に出来るのか?


「・・・・・・モード2・・・・・・」

<>

変形の途中で動作不良を起こし煙を上げるクロスミラージュ。
俺は内心やっぱりなって感じだったけど周囲の面子は大慌て。
クロスミラージュに何度も呼びかけるが返ってくるのは<<ピーーーーーーガガガガガッ!グォグォングォグォン・・・・・・>>と何処か懐かしい電子音だけ。お前はどこのモデムの接続音だ?


とりあえず俺はフォワードメンバーから一時的に外されましたよ、ヒャッホー♪



   ◆




――エリオ 演習場森林区



「おう、今朝の訓練と模擬戦は終了だ。お前ら、休んでいいぞ。」

ヴィータ副隊長は息一つ乱れずにそういいました。
僕らはこんなに息が上がっているのに。やはり凄い人なんだなと実感します。


「お疲れ、皆。フォワードメンバーはお話しがあるから座ってね。
 ティアナもね。」

「サー!イエッサー!」

別な場所で訓練をしていたティアナさんとなのはさんも合流しました。
まるで映画の軍人のように直立不動で敬礼をすると僕たちの横に並びます。
なのはさんはいつものように何とも言えない表情を浮かべました。




ティアナさんが魔法を使えなくなってしまってから二週間が過ぎました。
シャマル先生や本局の魔導医が徹底的に調べても原因は判らず、ただティアナさんの頭の中から魔法に関する知識やスキルがまっさらと無くなっていることだけが判明しただけです。

チームはティアナさんを除き三人で運営していくことになり、訓練内容も大きく変わりました。
このことにはスバルさんが猛反発して、なのはさんにも食い付いたりもしたのですが、当のティアナさんの「すぐに追い付くから待っていなさい。合流したときにそのままだったら承知しないからね」という言葉で納得したようです。
こういうときにやはり二人はいいパートナーなのだと感じます。僕もいずれキャロと二人みたいな信頼関係を築けたらと思いました。

ティアナさんは魔法の基礎から勉強を始めました。
それも基礎理論やリンカーコアの魔力を感知する所からです。
以前スバルさんが「ティアは天才なんだよ。すっごい頭がいいんだから」と言った言葉どおりなのか、最初の一週間で訓練校で習う二か月分を終了させたと言います。

一度「どうしてそこまで頑張れるんですか?」と聞いてみました。
帰ってきたのは

「時間は待ってくれないからね。
 こちらの都合なんてお構いなしで事態は進んでいく。
 この先近いうちに絶対死ぬような場面が出てくる。
 誰だって死ぬような思いをするのは怖いでしょ?」

という言葉でした。
身が引き締まる思いです。


ティアナさんはあれからやはり少し変わったと思います。それはたまに情緒不安定になったり、渇いた笑いを浮かべたりすることもありますが、戦うということに関してストイックになったように感じます。

それは二日に一度四人で行う机上演習にも表れています。
ティアナさんが設定した敵に、僕たち三人が挑むという内容なのですが、同程度の強さのはずなのに僕たちは中々目標を達成できません。
時には味方を犠牲にしてでも目標を達成しようとする境地には僕たちが中々至れないのが原因のようです。

スバルさんは最初そんなティアナさんに違和感を感じると言っていましたが、今では今度こそティアナさんに勝ってやるとよく意気込んでいます。


なのはさんは・・・・・・やはりあの件を責任に感じているのか、ティアナさんのマンツーマンの指導官を願い出ました。
朝から晩まで付きっ切りで魔法に関するあらゆる講義を受けたティアナさんは「逃げる暇が無い」と冗談めかして言っています。


・・・・・・あの出来事は機動六課に色々な傷跡を残しました。
ですが、あのことがあったからこそ僕らの距離は縮まりお互いを深く理解出来るようになったのだと思います。




「おら、エリオ!ボケっとすんな!」

「ご、ごめんなさい!」

考え事に夢中になりすぎたようです。
ヴィータ副隊長に怖い顔で怒られました。

「お前、話を聞いていたか?」

「・・・・・・すいません。」

「・・・キャロ説明してやれ。」

「はい。
 えっとね、エリオ君。
 私たちのデバイスのリミッタが一段階解除されるんだって!」

「え、本当ですか?!」

ストラーダがもっと強くなるんだ。

「おう。今日の模擬戦が試験だったんだ。
 三人とも自分のデバイスは使いこなせてるようだしな。
 ・・・・・・と言いたい所だが、エリオはボケッとしてるようだから一人だけ合格取り消しだな。」

「そ、そんなぁ・・・。」

なんでこんな日に限って、訓練中に考え事なんかしたんだろう・・・。

「・・・ヴィータ副隊長、それはちょっと・・・」

「わぁってるよ。
 取り消しって言うのは冗談だが、2ndモードはこれまで以上に制御が難しいんだ!
 仕事中は絶対気抜くんじゃないぞ!」

「ハイッ!!」


そんな僕たちのやり取りを、最初はフェイトさんとなのはさんが。続いて、プッと噴出すようにスバルさんとティアナさん。ヴィータ副隊長も怖い顔をしてたのを綻ばせて。最後にキャロが釣られるように笑い出した。
僕はとても恥ずかしかったけれど身から出た錆であったし、何より湧き上がってくる喜びのせいで一緒になって笑いあった。




訓練場からの帰り道。
僕たち四人は、急遽休日となった今日一日の話題となった。

「どうしようかエリオ君。」

「うん、お休みなんて始めてだからね。スバルさん達はどうするんですか?」

「うーん、久しぶりに街まで行って遊ぼうか。ね、ティア?」

そう話をふられたティアナさんは言いずらそうに眉を寄せた。

「あー・・・・・・私は午後から座学が入ってる。なのはさんも忙しい時間縫って講義してくれるから抜け出せないの・・・。」

「あ・・・そか、ごめんティア。・・・・・・お休み、私たちだけだったんだね。」

「ばーか。
 何暗い顔してるんだ?
 私のことはいいから三人で楽しんできなさい♪」

何でも無いかのようにずんずんと道を進んでいくティアナさん。
思わず歩みが遅くなってしまった僕たち三人でしたが、お互いの顔を見合わせ、僕らの考えが一致していることを確認しました。


「あ、そうだ!
 お土産ぐらい買ってきなさいよ!」

「やーだよ♪
 私たちもなのはさんの講義受けることにしたんだから!」

「あ、ちょっとこら!重い!」

後ろからスバルさんに抱きつかれたティアナさんは抗議の声をあげます。

「僕らも2ndモードになるということなので、理論の復習をしておきたいんです。」

「それに私たちはチームじゃないですか。
 今は訓練は別々ですけど、こんなときこそ一緒に居たいんですよ!」


「・・・・・・ッ」


「・・・ティアナさん?」

「心の友と書いて【心友】よぉ~~~~~~っ!!!」

「キャッ!」

ティアナさんは突然僕たち三人をまとめて抱きしめた。
頬に当たる胸に少しドキドキして、窮屈で暑くて凄く混乱してたけど、何故か悪い気はしませんでした。





   ◆





――チンク JSラボ。またの名を秘密基地



数日前から我が家ではギスギスとした空気に包まれている。
ノーヴェはその空気のせいか振る舞いが乱暴になり壁などを壊し、陽気なウェンディやセインもぐったりとしている。
皆が皆、多少の差はあれどこの鬱屈とした空気に辟易としている。

「うっふふのふ~♪」

いや、一人だけ水を得た魚のように生き生きとしているのも居たな。


しかし、さすがにもう皆限界だろう。
わたしは直言するために、この空気の発生源となっている部屋へと向かった。




「だから何度も言ってるじゃないか!
 これは虐げられてきた科学者達の悲願なんだ。君も納得済みだったじゃないか!」

「ええ、今ではどうしてそんなことに同意したのかと後悔しています。
 もう少し現実を見てください。」

「見ているさぁ!
 このまま奴隷のように使役される様をね。
 君はこのままでいいと思ってるのかい?」

「ドクター!
 あなたはただ復讐したいだけです!それに姉妹やあの娘を巻き込むだなんて、いい大人が恥ずかしいと思わないんですか!」

「思わないね。
 もしそうなら私はこの世に生まれてはいなかっただろう。
 君たちだって自分が生まれた意味が判らない訳じゃないだろう?」



・・・・・・むう、白熱しているな。
これでは入る隙間が無い。
私は、ドクターとウーノの口喧嘩を覗き見ながらため息をついた。


「・・・チンク、パパとママまた喧嘩してるの?」

いつから居たのか・・・そこにはまだ幼い金髪の少女が不安げな面持ちで立っていた。

「ヴィヴィオ、私のことは姉と呼べと言っていただろう?
 ・・・・・・セッテはどうした?一緒に遊んでいたんじゃないのか?」

「・・・チン姉って呼びにくいの。
 セッテは考え込んじゃった。
 ねぇ、それよりパパとママ・・・・・・。」

見ると、セッテは目の前に置かれたオセ・・・リバーシ板の前で腕を組んで首を捻っている。
・・・・・・四つ角を取られ場の九割を制圧されていてはもう勝ち目はないと思うが、それもまた経験だろう。大いに悩むがいい。

「ああ、ヴィヴィオが気に病むことではない。」

左右の瞳の色が違う少女の頭を撫でる。
一体我々はいつから道を見失ってしまったのだろう?
私はこの少女がここに来た経緯を思い出していた。




聖王の器が輸送中に脱走し、途中管理局の襲撃があったものの妹達が保護に成功した。
ガジェットを何機か失いはしたようだが、姉妹たちも器も無事に帰還することが出来た。しかし問題は、基地で器が目を覚ましてから起こった。

ウーノをママと呼んだのだ。
それだけではなく、ドクターもパパと認識された。

最初は姉妹たちは笑っていたし、私も不覚にもツボに入ってしまったのだが、今思うにあの時点でウーノの中で何かが芽生えてしまったのだろう。


それから、ウーノはヴィヴィオに構い始めた。
それだけではなく、私たち姉妹に対しても母親として振舞いだした。
そんな行動に至った動機も判らないでもない。
私達、人造生命体に母としての存在は居らずたった一人で生まれて来る。
それだけに、人一倍【家族】というモノを求めるのだ。
ウーノは【母】としての役割を求められそれに答えたのだろう。
同様に、私達には【姉】としての役割が与えられ、そのことを皆嬉しく思った。
ドクターも【父】となることは吝かではなかったように見える。
ここまではよかった。
だが、【母】は【父】よりも【娘】を優先するものだということが最近になって判って来たのだ。


最初はゆりかごの接続キーであった。
聖王の器が鍵となるのだが、その際ヴィヴィオに大変な苦痛を与えることが判明したのだ。
当然ウーノはそこを改めさせた。

他にもある。
小さい頃からインスタントでは味覚が鈍くなると自炊当番が始まり、夜寝る前に本を読むのはこの姉の役割だし、風呂に入れるのはセインとウェンディの役割だ。
いつしか私たちは戦闘機人としての役割を忘れ、家庭を営み始めた。



だが、一人その暖かな空間に耐え切れない人間が居た。
それがドクターだ。



我々の創造主である、ドクターは管理局や最高評議会への恨みをはらすことを生きがいに生きてきた。
そこには我々若輩では理解できないほどの深い黒海が横たわっているのだろう。

ドクターはこのまま暖かな空間で、かつての恨み辛みをいつしか忘れてしまうことを恐れたのだ。・・・・・・と私は思う。

計画を前倒しし、決起までの時間を早めた。
そしてそこに反発したのは【母】となったウーノであった。




バタンッ!

「もう話になりません!
 私たちは実家に帰らせていただきます!」

「ああ、好きにするといい!
 二度と帰って来ないでくれ!」



突然扉が開いたかと思うと、涙で目を腫らしたウーノが飛び出して来た。

いや、実家ってどこなのだ・・・・・・?


「ああ、チンク。ちょうど良かったわ。
 皆に声をかけてちょうだい。私とヴィヴィオはここを出て行くから、ついてきたい人は急いで来るようにって。」

「・・・本気なのか?」

「ええ、もうほとほと愛想が付きました!
 あんな人だとは思ってなかったのにっ!」

ハンカチをかみ締める。
ああこういう仕草はこういうときにするのだな。

「ああ、ヴィヴィオ。ごめんなさいね。ママ達を許して・・・」

「ママ・・・苦しいよぉ」


ウーノは自己陶酔してるようで話にならなさそうだ。
私はドクターの方に希望をかける。

「ああ、チンクか。
 君も好きにするといい。
 ここに残るか、ウーノ達と出て行くか!」

ドクター、普段の腹が立つほど愉悦に浸るあなたはどこに行ったのですか?
今のあなたはふて腐れる子どもそのものです・・・。

もしかしたら、我々最大の敵はこの幼い少女だったのでは?と思えてきた。




   ◆



――スバル スバルとティアナの自室



「マイダイース マイダイース
 クリティカル値は7希望ー♪」

机上演習に使う道具を取りに部屋に戻って来た。
やはり自分が使い慣れたものじゃないと結果には納得しづらいからね。
机の中から袋と筆記具を取り出したところで、ティアナの机の上に一枚の紙片が置いてあることに気付いた。

なんだろう?昨日はあんなの無かったよね?
ま、いっか!

そう思ったとき窓から風が入り込み、その紙が宙を舞う。

「ブベッ?!」

そして私の顔に覆いかぶさった。
もー、ちゃんと重り置いとかないと飛んじゃうよ、ティア。
文鎮、文鎮・・・・・・インクの瓶でいいよね。

「あれ、これ・・・・・・読めないね?」

つい目に入ったその紙に書かれていた文字列。
それは私には読めない言語で書かれていた。

すごいなーティア。
こんな文字も練習しているんだ。私も頑張らないと。

まずは今日こそ、ティアナに勝って生き残る!
私はそう決心して部屋をあとにした。



   ◆




――??? 紙片


初めまして、という言い方もおかしいですが、こうして自分から貴方に言葉を伝えるのは初めてですね。

この文章は、貴方の記憶から言語を抜き出して書いてみましたが上手く書けているでしょうか?万が一、スバル達に読まれる可能性を考慮しました。

私はあの日からずっと貴方を後ろから見てきました。
いきなり異世界に放り込まれた貴方にとってはひどい話だとは思います。ですが、当時の私はそのことを考える力さえありませんでした。
ですが、この世界で必死に生き抜こうとする貴方を眺め続けて、やっとこんな形ではありますが意思を伝えることが出来るようになりました。

私は貴方に感謝しています。
確かにそれは私の身体ですがもう私にその資格はありません。一度生を捨てた私、その身体に戻る権利はありません。

勝手な言い分だとは思いますが、その身体を通してティアナ=ランスターを見る瞳は、もはや私ではなく貴方を見ています。スバル達が貴方を受け入れたのがその証拠です。
例え、魔法を失っても諦めない私になることは私には出来そうもありません。
貴方は私に元の鞘に戻って欲しいと願いましたが、流れた時間は戻らないのです。
今更、私が戻ったところでやはり貴方の築いたティアナ=ランスターは死んでしまうでしょう。

その身体はもう貴方のものです。どうぞご自由にお使いください。

ただ、元の持ち主として一つだけ願うとすれば、スバルやエリオやキャロ。・・・・・・そしてなのはさん達。私の大切な人たちを、ティアナ=ランスターは悲しませないで欲しいということです。
どうかよろしくおねがいします。


つい先ごろ、私の記憶とスキルをあなたへフィードバックさせ始めました。早ければ数日で馴染み、問題なく魔法を運用できることとなるでしょう。
・・・・・・そしてそのときにはもう私は居なくなっています。


ありがとう。そして、さようなら。


名を失った私から ティアナ=ランスター へ向けて。














「・・・・・・あの、馬鹿女・・・・・・っ」



   ◆



ミッドチルダ西部 エルセア地方
ポートフォール・メモリアルガーデン

ナカジマ家やランスター家の墓も存在するその墓地の片隅に、その簡素な墓標はあるという。






T=Lanster

0059 ~ 0075


[馬鹿女。さっさと帰って来い]







その墓標には毎月必ず同じ日に、花が添えられていたと言う。





END5「郭公(カッコウ)」







あとがき

おまけを待て!













おまけ①(判る人にしか判らないネタでごめんなさい)

――ある日の机上演習


ティアナ「じゃあ皆振り終わったわね?
     一番行動が早いのは誰?」

エリオ「はい。
    怪人インセクターと同じフロアに入り攻撃します。」

ティアナ「じゃあダイス振って。」

エリオ「てぃっ!・・・・・・やった、ダイスの目は12だから・・・」

キャロ「・・・・・・エリオ君のファンブル値って12だよね。」

ティアナ「魔剣使いが不運っていう都市伝説。あながち迷信じゃないかもね・・・・・・。」

スバル「エリオは確か幸運の宝石ももう使っちゃってたよね・・・。」

エリオ「あぅぅぅぅ。仕方ありません、最後の幻想舞踏を使います!
    これでサトリが発動するから絶対命中ですよね?」

ティアナ「怪人に絶対回避は・・・無いわね。ダメージ頂戴。」

エリオ「56発です。一回廻ったからおかげです。」

ティアナ「ううーん、そこそこ痛いわね。
     じゃあ次、敵の⑨ね。
     こいつは執拗にスバルを追いかけてくるから・・・・・・
     エア・ダンスを使用して移動力を挙げて、レゾナンス・フィストで攻撃!」

スバル「え、それって?!」

キャロ「スバルさんと同じ戦法・・・・・・?」

ティアナ「そう。⑨はスバルと見た目も使っている武器も瓜二つよ。
     当たったわね、じゃあここから何を使うでしょうか?」

スバル「・・・・・・憤怒?」

ティアナ「さすがいつも自分が使ってると理解が早いわね。今までGMのバランス散々ぶち壊してくれた恨みを味わいなさい!
     プラーナもありったけ乗せて・・・一回転・・・二回転・・・三回転・・・!」

エリオ「な、何回クリティカルしてるんですか?!」

ティアナ「ふっふっふ~♪五回廻って、ざっと177発よ!」

スバル「ゲッ、ひどいよーティアー?!」

ティアナ「ふん、いつもボス相手にあんたがしていたことじゃない。
     ほらさっさと防御しなさい。」

スバル「ふぇ~~ん、キャロ~。防御魔法頂戴~。」

キャロ「あの、それがですね・・・。防御魔法の射程外なんですけど・・・・。」

スバル「ええ?!」

ティアナ「いつも馬鹿みたいに突出してるからよ。
     ほら、さっさと防御しなさい。死んだ?死んだわね?」

スバル「・・・死にました。70点もオーバーキルしといて生きてるわけ無いじゃん!
    この、鬼!悪魔!なのはさん!」

ティアナ「ぐっ!それを言うんじゃないわよ!
     ・・・・・・ほら、どうせラウンド終了時にクローン使ってギンガさん来るんでしょ?
     スバルはダイス目悪いからまだいいけど、ギンガさんになってから走り出すんだから、私の方が可哀想よ・・・・・・。」






キャンペーンラスボス「・・・・・・勤務中に遊んでいる部下を持つ上司の方が可哀想なの。」



脱兎!・・・・・・が、駄目っ!

四人でOHANASHIされました。

















おまけ②  実家?



今日は長らく顔を合わせていなかった姉が突然やってきました。
けれど、その妹達や娘まで連れてきたからもう大変です。

②「・・・・・・で、姉さん。これは一体何事?」

①「それがね、ドゥーエ、話を聞いて頂戴!ドクターったらね(以下延々と愚痴り続ける)」

②「うん、うん、大変だったわねー(我が姉ながらうざっ!)」




⑪「わー、ふかふかベッドっすよー!でっかーいっ!」

⑦「枕下に紙製の直方体を発見。記憶データに該当なし。展開を始めます。」

聖王陛下「・・・風船かな。膨らませれる?」

⑦「お任せください。」

⑨「こ、コラ!何で遊んでるんだ!
  セッテ、そんなものに口をつけるな!この馬鹿!!」

⑦「馬鹿・・・。馬鹿って言った奴が馬鹿。そうウェンディに教わりました。」

⑨「だぁぁぁぁ、そういう意味じゃねぇ!こ、これはだな、ひ、ひひひひひひに・・・。」

⑪「むっふ~♪どうしたんすかノーヴェぇ?
  そんな真っ赤になっちゃって♪」

⑨「ウェンディッ、てめぇっ知ってやがんなっ?!」




⑥「じゃじゃーん!
  下着の棚に隠し箱、発見!
  何が出るかな?何が出るかな?」

⑫「・・・これは、なんでしょうか?」

⑩「・・・マッサージ機って書いてあるね。他のカラフルなコードがついたのはドゥーエ姉のオプショナルパーツかな?」

⑧「ドクターの趣味とは違うよ。恐らく市販品。
  今回線に繋いでメーカー会社に検索を・・・・・・」



バンッ!!!

②「・・・・・・お前ら、死にたい奴だけしゃべれ・・・・・・っ」

⑥~⑫『ごめんなさいドゥーエお姉さま』




ピーンポーーン

②(てめぇら、絶対しゃべんなよ)

⑥~⑫コクコク
聖王陛下「はーい♪」



ガチャ

②「あーらすいません、騒がしくしちゃって。
  ええ、今妹達が来ているんです。はい♪
  本当に申し訳ありません。よく言って聞かせておきます。
  まあ♪そう言って頂けると助かりますわ~お優しいのですね♪
  それでは少しの間だけですがご迷惑をおかけします。
  はい、それでは・・・

  え?・・・・・・今度お食事をですか?
  ええ、お気持ちはありがたいのですけど・・・何分時間が不規則な仕事ですので・・・。
  では次の機会にということで・・・はい、それでは失礼致します~~~♪」

ガチャ・・・パタリ





②「・・・・・・ふぅ」


①「相変わらず、あしらいがうまいのね。
  私にはとても真似できそうに無いわ。」

②「・・・姉さんじゃなかったらぶち殺してるセリフよねそれって。
  私としては一人の男にどうしてそこまで尽くせるのかの方が疑問だわ。」





⑥(よし、話題が変わった。お前たち、静かに『遊ぼう』な)
⑦~⑫(コクンコクン)





①「だって、ドクターはすばらしい人ですもの。
  私に生きる意味を与えてくれた人よ?」

②「でも、今は喧嘩中なんでしょ?」

①「・・・・・・・・・・・・・・。
  ・・・・・・。
  ・・・。

  ・・・・・・・・・・・・・・・でも、好きなの。」


②「やっぱあんたら出て行け!」







おまけ②のおまけ


聖王陛下「ママー、このオバちゃんだれー?」
②「お、オバッ?!」


お約束すぎて没にしました。











おまけ③ 一方その頃地球・・・・・・じゃなくてラボでは


④「ドクター、次の開発が待っていますよ~♪
  ほら、元気を出して・・・」

Dr.「あ、ああ、そうだね。
私は研究さえ出来ていればそれで満足な人間のはずだ!
   HAHAHA、何を落ち込む必要があるのか?」

④「その意気ですわ、ドクター!
  ウーノ姉さまなんて居なくても、ドクターのサポートは私がしっかりしますから大丈夫ですわ~。」

Dr.「・・・ウーノのサポートか・・・。
   ・・・・・・最近、ウーノが作ってくれた味噌汁を飲んでいないなぁ・・・・・・」

④「ドクタァァ?!」




③「おい」

⑤「なんだ?」

③「何故私がここにいる?」

⑤「暴走したクアットロを止められるのは、ドクターやウーノそれにドゥーエを除けばトーレだけだからな。
  私もそれに付き合っているのだ。そうぼやかないでくれ。」

③「ぼやきたくもなる。
  こんな茶番に付き合わされればな。」

⑤「茶番?
  それはどういう意味だ?」

③「そのままの意味だ。
  ドクターも実のところ家庭という物に飢えている。ただ、そんなことを認められないのだろう。
  ・・・いや、順番が逆か。
  ドクターが求めだしたからこそ、我々姉妹もそれに続いたのだな。
  ・・・・・・もっとも、ウーノは少々毛色が違うようだが。」

⑤「ふむ・・・例え、ドクターと言えど自分の意思が他人の操作されていると言うのは気持ちのいい話ではないな。」

③「別に珍しい話では無いだろう。
  天然の人間でさえ、親の教育という名の洗脳を施されるのだ。
  他人に影響されない人間はいない。
  要はそれとどう付き合っていくかという話だ。」

⑤「ふむ・・・・・・。」

③「おそらくお前が持て余している感情はドクターのものと同じだろうな。
  植えつけられた欲望。
  ただ、それの為だけに生きていたドクターが新たな欲望を見つけてしまった。
  相反する二つの欲望の中でどちらを優先すべきか?
  ドクターは今葛藤中なのだ。」

⑤「話は理解できたが、茶番と言うことは姉にはこの葛藤の行く末が見えているのか?」

③「ああ。」

⑤「お聞かせ願おう。」

③「簡単な話だ。
  我等姉妹のほとんど家庭を求め、ウーノに付き従った。
  我々とてここにいるとは言え、実質向こうだろう。
  ドゥーエがどう考えているかは判らないが、反対しているのはクアットロ一人だ。
  これでは結果は見えている。」

⑤「・・・我々はドクターの内面を表すバロメイターと言う訳か。
  少なくともクアットロ側で無かった事に感謝すべきだな。」

③「我等最初の四人はドクターの因子を深く受け継いでいるからな。
  クアットロはドクターの稚気が色濃く出たのだろう。
  そう考えると哀れな話だ。
  あいつには貧乏くじを引かせてしまったな。」

⑤「われらは、大人になり損ねた男の物語か・・・」





それから数ヵ月後。
突如としてミッドチルダに出現した巨大な戦艦型のロストロギアはあっという間に衛星軌道上に到達する。
そして、管理局が対応策を取る暇も無く次元世界へ消えたと言う。
以後、この通称「ゆりかご」が歴史の表舞台に表れる事はなかった。

その一連の事件の関係者は、管理局の目が届かぬ管理外世界で少々大きめの家庭を営み始めただとかなんとか。



おわっちゃれ









あとがき その②


もうネタ尽きてきましたよ。

というわけでネタ探しの一環も兼ねて、読者からの質問や謎に答えるコーナーとかやったら皆怒るでしょうか?
寒いし駄作になるから却下だとか、どうせ元々駄作だからやっちまえだとか、御意見募集します。

とりあえず、今回は賛成か反対かだけでお答えください。
  

何を語り、何を語らないかを選択することが進化だとかこの間やったゲームで言ってた気がします。
まあそういうこと。

  



[10626] 今回はそのうち書き直すかもしれません。ジ○スラックコワイ(ガタガタ
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/08/10 02:19
前回までのあらすじ

エースオブエース?「フフフフフフ‥ ははははははなのっ!」
俺「何を笑ってるンだ!?」
エースオブエース?「あなたの負けなの。いま確認してみたがティアナの精神は絶望の引力に引かれて消える。オリ主の頑張り過ぎなの!」
俺「ふざけるな! たかが凡人一人、キモオタが引き出してやる!」
エースオブエース?「バカなことはやめるの!」
俺「やってみなければ分からん!」
エースオブエース?「正気なの!?」
俺「都築ほど急ぎすぎもしなければ、三期に絶望もしちゃいない!」
エースオブエース?「Forceの連載は始まっているの!」
俺「オリ主の名は伊達じゃない!!」


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・無理でした。orz






凡人に憑依してもう二週間です。
生き残るために魔法を習う傍ら、ティアナ嬢復活の為に奔走しております。



――やあマイケル、どうしたんだい?そんな暗い顔をして?

――ああボブか。ちょっと聞いてくれよ、どうやらうちのワイフが浮気をしてるようなんだ・・・。

――なんだって!日本人の美人妻だと自慢していたのに。

――しかも相手は弟のようなんだ。ああ、もうどうしたらいいか・・・。

――OH~~~、なんてことだいマイケル。同情するよ。
  しかし、どうやって君は奥さんが浮気してるって知ったんだい?

――・・・簡単なことさ。
  日本人並の僕のウィンナーじゃ、ワイフのポリウレタンな処女膜は突き破れないからさ!

――ダッチワイフ(オランダ妻)なのに日本製とはこれいかに。

――やっぱり奥さんは日本人に限るよ♪
  我侭は言わないし、オリエンタルだし。ただ、男は立ててくれるのにアッチは自分で勃起てないといけないのが難点だね♪

A-HAHAHAHAHAHAHAHA!!(ここで観客の笑い声)





「・・・・・・・・・。」






とっておきのネタを披露と出したのに、ティアナ嬢は無反応だった。
あるぇー?
飲み会でこのネタするとドッカンドッカンなのになぁ・・・。


さて、今日もやってきました精神世界。
一体何をしているかと申しますと、ティアナ嬢の反応を引き出そうとしています。
こっちの声が聞こえてるかどうかもはっきりしない現状では、まず外の意識を向けてもらわないとならないわけですよ。
以前は、タッチ(性的な意味で)とかしてたわけですが・・・・・・セクハラとかで訴えられたくないの。後から思い出して血の気が引いたよ、ほんと。

え?憑依オリ主だから別に問題ないだろって?
いやいやいやいや、お前らよく考えてみろよ!
もし、こんな状態でえろいことしてることがばれたら頭冷やされるんだぞ?
ティアナに俺の行動は包み隠さず丸裸と思われるのにそんな恐ろしいことができますかってんだ!
そこ、チキンとか言うな!

というわけで、某聖人を誘惑する悪魔さんから発想をもらって、笑いを取りに行く作戦を実行しています。
正直成果は芳しくないが、今はこれしか思いつかない。

それでは俺の闘争の記録を、ある歌のパロディで楽しみください。






ティアナ嬢が微笑まない  歌詞:オリ主



気がついたら下ネタに走る
そしていつも同じ後悔する
諦めずにアメリカンジョークに挑戦するけど、全く反応無いよ
オリ主も一人いれば楽に漫才・コントできるけど
何回演っても 何回演っても ティアナ嬢が微笑まないよ
あの鉄面皮何回演っても壊せない
うしろに回ってπタッチしてもいずれは頭冷やされる
コロッケさんも試してみたけど世界が違えば意味が無い
だから次は絶対笑わすため俺は『時そば』だけは最後までとっておく

気がついたら時間ももう少ししかない
そしていつもそこでおっぱっぴー
諦めずに視線上げるまでたどり着くけれど、すぐに○ルマ流れる
ネット環境があれば楽に神のMAD見せれるけど
何回捜しても 何回捜しても 冥王動画しかないよ
白い魔王タグ何回やっても外れない
時間を置いて検索かけても増えるのはパンツレスリング
F5連打も試してみたけど鯖落としちゃ意味が無い
だから次は絶対笑わすため俺は『饅頭怖い』は最後までとっておく

旧ボキャ天を見れば楽にシブ知2・3ぐらい出せるけど
何回演っても 何回演っても ティアナ嬢が微笑まないよ
魔王の恐怖何回演っても崩せない
たけし軍団ドリフ欽ちゃんウンナン紳助ミスタビーン
爆笑問題も試してみたけど俺が偽じゃ話術無い
だから次は絶対笑わすため俺はエガちゃんの真似は最後までとっておく


(演奏終了)



「次は絶対腹のそこから笑わせてやるから覚悟しとけよ!うわぁぁぁぁぁぁん!」

去り際にそう泣きながら捨て台詞を吐く俺。



そしてたった一人となった暗い精神世界の中で

「プッ」

と凡人が思わず噴出したとか噴出さなかったとか・・・・・・




   ◆



――ヴァイス ヘリにて移動中


折角のガキ共の休日は潰れ、俺ものんびりとオーバーホールにでもしゃれこもうと思ってたところでの出撃命令。
全く、敵さんってのはこっちの都合を考えちゃくれないねぇ。あたりまえのことだが、つくづく実感するぜ。


『ほんならヴィータはリィンと合流。協力して海上の南西方向を制圧』

「南西方向了解ですぅ!」

『なのは隊長とフェイト隊長は北西部から。』

「「了解。」」

八神隊長による指示は的確に飛んでくる。
伊達にこの歳で長を任されるだけの実力はあるってことか。


『ヘリの方はヴァイス君とティアナに任せてえーか?』

おっと今度はこっちだ。
ま、それでも俺も最年長の自負ってもんがあるから、若い奴らが安心できるようにどっしりと構えてやらなきゃな。

「おまかせあれぇ!」

「・・・・・・。」

『ティアナッ』

「あ、はい大丈夫です!やれます、やってみせます!」

『・・・・・・そうかぁ。ヴァイス君よろしくなぁ。
 レディ二人をちゃんとエスコートするんや。』

「はっはー!それはそれは光栄の極み♪」

『いい返事やな。・・・・・・それじゃあギンガは地下で四人と・・・・・・』


ちょっとわざとらしすぎたか?
だがまあ命のやり取りになるような場面ではこれぐらい陽気の方がいい。そこらへんは部隊長も判ってるようで、ちゃんと合わせてくれたみたいだ。

俺は操縦桿を握りながら片手でミラーをアイツに向ける。
・・・・・・まだしょげたままか。

本来ここでヘリに乗っているのはシャマル先生のはずだったが、今はフォワードチームでアイツの代わりに指揮を取っている。
そして、自然とこちらであの女の子の面倒をみる役目はアイツに任されることになった。
だが、そのことを何故か拒み結局半ば無理やりにヘリに連れ込まれたらしい。


「ティアナ。」

「は、はい!」

「ティアナは、あれから初めての出撃だと思うから不安だと思うの。
 けれど、この子も不安な気持ちで一杯だったと思うから守ってあげるんだよ!」

「は、はい!」


なのはさんも気に掛けてるようだ。
俺はよく知らないが、二週間ほど前の事故でアイツが魔法を使えなくなったことを、なのはさんは自分のせいだと感じているようだ。
冷たいようだが、それは見当違いってもんだぜ。結局はアイツ自身の問題だ。一度覚えたことは中々忘れない、原因があるとすればあいつの心の方だな。

<>

「おっと、悪いストームレイダー。
 なんでもねぇよ。」

・・・俺が言えることじゃねぇか。まあそうだよな。
立ち直り方があるっていうならむしろ俺の方が教えて欲しいってもんだよ。結局、自分の力だけであがき続けるしかねぇんだ。
俺に出来るのは同情だけなんだな・・・・・・。

・・・・・・。
いかんな、思考が暗い方向にいってる。
こういうときはもっとほかの事考えねぇと。


そういえば、なんで俺なのはさんを『なのはさん』って呼んで、向こうは『ヴァイス君』って呼ばれてるのかねぇ?
一応俺の方が年上なんだが・・・。
やっぱ初対面のときにエースオブエースってことで思わずさんづけしてしまったことが原因かぁ?
そのせいで向こうも俺のこと年下だと思われたんじゃなかろうか?
けど、ハラオウン提督も『クロノ君』だからなぁ。・・・・・・なんていうか判らない人だ。




「それじゃ行って来るです。
 ヴァイス陸曹もよろしくですよ♪」

「うぃーす!」

「ストームレイダーも二人を守ってあげてくださいです!」

<>


リィン曹長が出て行った後、ヘリ内には俺とアイツと女の子だけとなる。

「・・・ヴァイスさん。」

「おう、なんだ?」

あれ?こいつ、いつもは俺のことは『ヴァイス陸曹』って呼んでなかったか?
細かいことだが妙に気になった。

「あのですね、もっと高度を落として敵に狙われないように飛ぶことは出来ませんか?」

「はぁ?
 いきなり何を言い出すんだ?」

先ほどまでむっつりだったティアナ=ランスターは、冷や汗を浮かべ追い詰められた表情で席の斜め後ろに立っていた。
おいおい、一体どうしたっていうんだよ?
なんでこいつは死ぬ前の兵士みたいな顔してんだ?!

「それは数の子がっ・・・・・・いえ、あのですね、海上の敵は囮に思えてならないんです。
 となると敵の狙いは、現場に残されたと思うレリックか、このヘリとしか考えられません!
 もし、長距離砲撃を撃たれたら防ぐ手段はありません!」

言ってることは判らないではない。
だが、それはまだ推理の段階だ。現時点では、外に出たら隕石が直撃して死ぬ確率を考慮する行為に等しい。

「駄目だ。
 市街地での低高度飛行には特別な状況と許可が要る。」

「けれどっ!」

「一番確実なのは、出来るだけ飛ばして狙われる時間を短くすることだ。もっとも本当に敵がこっちにいたらの話だがな。
 お前の言いたい事は判ったから、席に座れ。」

「・・・はい。」

素直に従うか。
精神的に不安定になってきているか?
なのはさんたちがいなくなったせいで抑えが効かなくなってるようだ。

「ロングアーチ、そういうわけなので予定より早く着く事になりそうだ。」

『ロングアーチ了解。無事な帰還をお待ちしておきます。』

「おう。」



はぁ、またしょげてやがる。
ここはいっちょ励ましてやるとすっかね。

「けど、お前。やっぱり指揮適正あるんじゃねぇか?」

「・・・え?」

「海上の敵が囮の可能性考えたんだろ?
 目の前の戦いだけじゃなく、その背後の意図を読み取るように意識できるのが、指揮官としての一歩目だ。
 お前は確実に成長してるよ。」

「だ、だけど、魔法が・・・・・・」

「スランプに陥るときってのは誰にだってあるんだ。
 なのはさんだってそういう時期があったって知ってるんだろ?
 お前もそれを乗り越えられれば一皮剥けられるさ」

・・・・・・そう思わなきゃ俺もやってられないしな。

「そういうことじゃなくてですねっ!」

「いいから聞けって。
 一歩下がれば視点が広がる。
 それは出来ること増えるが、同じように今まで見えていなかった出来ないことも見えてしまうようになるってことだ。
 そういうときは、何をすべきじゃなくて、何が出来るかを考えてみろ。」

「自分に出来ることです・・・か?」

「おう、どうせ人間一人にできることなんざたかが知れてるんだ。
 ならせめて後悔しないように最善を尽くすしかないんじゃねーか。そう俺は思うぜ。
 ・・・・・・。」

・・・・・・落ち込むのはそれからだ。
お前はまだこちら側に来るのは早すぎる。








だが、俺は根本的な勘違いをしていたことに後に気付く。
このときのこいつは会話が成り立っているようで、未来の恐怖に怯えて震えていただけだった。


「・・・・・・私に出来ること、俺に出来ること、ティアナ=ランスターに出来ること・・・。」

アイツはブツブツと呟きだす。
その光景は決して見ていて気持ちがいいものとは思えない。
なんだ、何をしゃべっている?しっかりと言葉は聞き取れないが、不吉な雰囲気がさっきからビンビンしてくる。

「このまま何もしないままがいいのか。10番が砲撃するのは確実。
 だが魔王は間に合う。けれど、『ギリギリセーフ』?」

「お、おいっ・・・」

「駄目だ駄目だ。既に未来は変化している。同じ結末を辿るとは思えない。
 数の子の狙いはレリックとヴィヴィオ・・・。これがある限りフラグは消えない。
 なら・・・・・・俺の出来ることは・・・・・・」

ついに自らの両肩を抱き、ガクガクと震え始めた。


「・・・・・・あった!俺に出来ることが。
 しかし、俺に出来るのか?だが確実に生き残るにはそれしかない。
 ヴィヴィオには聖王の鎧がある。死にはしない。
 レリックも暴走するのは魔法ダメージだけだ。」

「おいっ!ティアナ!!」

「・・・・・・いやだ、死ぬのはいやだ、死ぬような思いをするのもいやだ・・・・・・
 なら、これが確実。誰も死なない。④はそう言っていた。
 ・・・・・・もうこれしかないのか?」


駄目だ、聞こえてない!
今俺はここを離れられない。

「ロングアーチ!なのはさん!
 アイツの様子がおかしい!すぐに来てくれ!」

『こちらロングアーチ!
 グランセニック陸曹、詳しい状況を報告してください!』

『ヴァイス君!・・・うわっクッ!
 どうした・・・のっ!』

「そ、それがだな、あいつの様子がおかしくて・・・」

『ティアナが?!』

『それだけでは判りません!詳細な情報を提出してください!』

「ああ、だからなっ・・・・・」

次の瞬間、ヘリの機内に風が舞い起こった!
何事かと思って振り向いた先には、レリックのケースを脇に抱え、ヘリの後部ハッチを開放しているアイツがいる。

待て、何をするつもりなんだ?!


俺は操縦席に座りながら、ケースをヘリから放り投げるのを見ていることしか出来なかった。


   ◆


――ディエチ 狙撃ポイント


「ディエチちゃーん。ちゃんと見えてる~?」

「ああ、遮蔽物も無いし空気も澄んでる。
 ・・・・・・よく見える。」

廃棄都市区画と青空に支配された視界。
その中の小さな黒点を拡大していく。
ほら、妙に角ばったヘリだ。資料と同じ。
これなら、ローターの回転数まで正確に観測できるよ。しないけど。

「でもいいのか、クアットロ。撃っちゃって?
 ケースは残るだろうけど、マテリアルの方は破壊しちゃうことに・・・。」

「ウフフフフ・・・」

クアットロのこの笑い方はいつ聞いても好きになれないなぁ。なんだかバカにされてる気がする。

「ドクターとウーノ姉さま曰く、あのマテリアルが当たりなら、本当に聖王の器なら砲撃くらいじゃ死んだりしなから大丈夫。だそーよ♪」

「・・・ふーん。」

人間を殺してもいいのかって質問のつもりだったんだけど、あたしたち戦闘機人はそんなことは気にしないのが普通なのか。


クアットロはウーノからお嬢の救出を頼まれてるみたいだ。
あたしは指揮なんか興味ないから、射撃体勢に入る。
・・・・・・あ。
イノーメスカノンを包んでた布、飛んで行っちゃった。肌触りとか結構気に入ってたのになぁ。

キュキュキュ・・・・・・キュキュ。

あれ?さらにヘリを拡大してみてるんだけど、後部ハッチが開いてる?
あ、誰か出てきて・・・・・・何か放り投げた・・・?


「・・・あれは・・・・・・レリックケース・・・?」

「え、ディエチちゃん。今なんて言ったの?」

「・・・うん、レリックケースが。」

「レリックケースが?」

「今落ちてる。」

「落ちてる。・・・・・・って、うふふふふ。まさかそんなことがあるわけがウェエエエェエェェェェェ??!111」

クアットロうるさい。

「な、なんで黙って見てるのよ?!」

「ちゃんと教えた。」

失礼な。

「・・・そういうことじゃなくって、ああもうっ!
 セ、セインちゃん、今どこ?!すぐに向かって欲しいところがあるんだけど!!」

『え~~~、クア姉妹使い荒すぎ~』

「いいから、言うこと聞けよ!・・・・・・もとい聞きなさい。
 今座標ポイントを送るから・・・・・・。」

「・・・あ」

「今度は何?!」

「マテリアルを抱えた人間がハッチから出てきた。」

「い、一体どうするつもりかしら?
 空に逃げられたら砲撃しにくいわね・・・」

「あ、落ちた。」

抱えていた方の人間がよろけたかと思うと、そのまま真っ逆さま。
マテリアルの方はかろうじて引っかかってるみたいだけど。

「ちょっとー!?
 なんで、計画通りにいかないのよー!!」

日頃の行いが悪いからじゃないかな?



そう思っても口には出さないディエチの優しさだった。




    ◆



――ティアナ 訓練場





「うん、すっかり勘を取り戻したみたいだね♪」

そう頷くなのはさん。
よかった、やっとこれでスバル達に合流できる。

「じゃあ、これから遅れに遅れたモード2の訓練に移るよ!」

「え?」

「スバル達はもっと先へ進んでるから急いで追い付くよ!」

「は、はい!」




あの日、自らの殻に篭っていた最後の日。
死の恐怖。痛みの恐怖。自由落下の浮遊感。人としての倫理。
様々なプレッシャーに耐え切れなくなった彼は、私を黒の世界から追い出してしまった。

当時は、いきなり現れた迫る大地に必死でモード2を起動し、ビルの壁面に突き立てることだけに集中していた。
あのときはさすがに肝が冷えたけど、なんとか生きて助かった。

そう、私はいつの間にか「生きる」ことを当然と思えていた。
きっと彼の生きる姿に感化されてしまったのだろう。

今、彼は私の中で眠っている。
かつての私がそうであったように、黒い世界の中心に膝を抱えて蹲っている。
私は一言お礼が言いたかった。
「ありがとう」と伝えたかった。
けれど、その言葉は未だ彼に届きはしない。


「ティアナ、じゃあラスト行こうか。
 このシチュエーションの達成目標を述べて。」

「はい!
 孤立した状況で、敵の高ランク魔導師が健在。
 目標は負傷した仲間を発見し、安全圏までの退避です。」

「うん、じゃあ始めるよ。」

「いつでもどうぞ!」

「あ、ちなみにこれがスバル達と合流できるかの試験になるから頑張ってね♪」

「え?えぇぇぇぇぇ?!」

「ほら、もう始まってるよ!」

「うわっ、そんなぁぁぁ」



今はそう彼がしたように、なんとか彼の反応を引き出そうと勉強中だ。
そして私は二度とあのときのように、自らの殻に閉じこもらないように心を強く持つようにする。
いつか彼が自らの力であの殻を破れたときに、出迎えてあげたい。
この世界は確かに危険なところもあるが、それだけじゃない。綺麗なところも嬉しい事も楽しいこともたくさんあるって教えたい。







そう、思うのです








END⑥「リバーシゲーム」








おまけ


――ルーテシア JSラボ


少女は広い研究所である人間を探していた。
それは少女の最愛の人物であり、長い時間求め続けた人間だ。


ルー子「母さん!」

メガヌ「ルー!どうしたの、そんなに息を切らせて」

ルー子「・・・母さんを探していたの。ガリューも一緒だったんだ。」

メガヌ「ええ、車椅子押してくれてたのよね。」

ガリュー「コクリ」

ルー子「どうしたの?ここってドクターの研究室・・・。」

メガヌ「ええ、彼にも長い間お世話になったことだし、その『お礼』をちょっとね。」

ガリュ「コクリ」

ルー子「・・・だったら私も」

メガヌ「いいのよ。ここを旅立つ時にちゃんと挨拶しましょうね。」

ルー子「え、母さん大丈夫なの?」

メガヌ「ええ、後はしばらく空気の綺麗なところで療養すれば動けるようになるらしいわ。
    だから、引越しの準備はお願いしてもいいかしら?」

ルー子「うんッ♪」





――研究室


Dr.「いやはや、台風一過と言うか母はつよしというか・・・」

①「ドクター、今頭を壁から抜きますので舌を噛まないようにお気をつけください。・・・フンッ!」

④「いや~~~ん、なんですこの研究室の散らかりようは?!
  まるでここだけ竜巻でも起こったようですわ~♪」

③「メガーヌ・アルピノの仕業だ。
  ドクターの所業が許せなかったらしくてな。・・・ひどいものだ」

Dr.「いやいや、彼女はこれでも手加減したのさ。
   相変わらず娘の意思はこちらが握ってるし、娘が犯罪者に加担したということは公表されたくないだろうしね。」

④「ふ~~~む。
  けれど、意外でしたね~。まさかナンバーⅩⅠのレリックが二つ存在するとは思いませんでしたわ~~~。」

①「あのあとドゥーエに調査を頼んだ結果、どうやらⅩⅠのレリックを埋め込まれる予定だった聖王は双子でしたようです。ドクター。」

④「一番最初に手に入れたレリック。それ故に、お嬢様に対する保険として用意したというのになんて不運なんでしょう。」

Dr.「いや、むしろこれは彼女が起こした【奇跡】だろうね。彼女の熱意が不可能を可能にした。そう考えた方がロマンチックじゃないかぁ?」

①「そのとおりです、ドクター」

④「('A`)」

③「・・・・・・」

⑤「・・・・・・」

③「・・・いたのか」

⑤「・・・ああ。何事かと思ってな。」


④「それでドクターいかがいたします~?
  あの娘を縛る策はまだいくつかありますけど?」

Dr.「それは野暮というものだよクアットロ。
   これは彼女たち母娘が起こした奇跡。それでいいじゃないか。
   我々とて、世間的に見れば不可能に挑む道化達だ。ならば、奇跡は存在すると証明してくれた彼女たちを祝福するとしよう。
   ウーノ、お別れパーティーの用意は頼んだよ。」

①「はい、ドクターの御心のままに」

④「・・・む~~~」

Dr.「不満かいクアットロ?」

④「いいえ、ドクターの決めたことなら従いますわ。」

Dr.「私はね、私と君たち姉妹の絆は決してあの母娘に負けるものではないと考える。
   では、私たちにも奇跡は起こせるというわけだ。こう考えると愉快だろう?
   だからこそ、この奇跡を我々の手で壊しちゃいけないんだ。判ってくれるね君なら。」

④「不本意ですがわかりましたわ。
  姉妹の結束を固めるいい材料にするんですね。」

⑤「クアットロ、それは・・・っ」

Dr.「まあ、受け取り方は人それぞれさ。
   大事なのは我々が共に同じ目標を持っていること。そして願いは必ず叶うということ。皆がそう考えられればいいじゃないか?」

①「ドクター。ケーキは苺とチョコどちらがいいでしょうか?」

Dr.「そうだねぇ・・・」




⑪「はいはーい、ウェンディはチョコ希望っすー!」

⑨「ば、馬鹿!苺に決まってるだろ!」

⑦「サンクロースが乗ってるのを希望します」

⑥「いや、まだそういう時期じゃないし・・・」

⑫「レモンタルトを」

⑧「ディードと同じものを。」

⑩「シンプルにチーズケーキかな」

⑤「・・・・・・お前たちいつから聞いてた?」

③「全く、・・・・・・・・・花火は当然刺すんだよな?」

④「・・・・・・お姉さま?」

③「い、いいではないか。こんなときぐらい!」

Dr.「トーレの言うとおりだね。
   縁起物だし、いっそ皆頼もうか。」

①「・・・ドクターがそう仰られるなら。
  貴方たち、注文するのは構わないけれど、ちゃんと残さず食べるんですよ。」

⑥~⑫「は~~~~い♪」

③(・・・・・・は~~い //// )




すかりけ は今日も平和。






あとがき

アンケートは継続中です。
詳しくは前回ごらんください。

あとタイトル早くつけろとお叱りの声があったので即興で考えました。


しかし、我ながら今回はひどい


追伸:今回のENDは前回と対になっていたりします



[10626] 休日はBADEND多発警報が出ています。お出かけの際は十分ご注意ください
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/08/10 23:07


――グリフィス 管制室



『ロングアーチ!なのはさん!
 アイツの様子がおかしい!すぐに来てくれ!』

「こちらロングアーチ!
 グランセニック陸曹、詳しい状況を報告してください!」

『ヴァイス君!・・・うわっクッ!
 どうした・・・のっ!』

『そ、それがだな、あいつの様子がおかしくて・・・』

『ティアナが?!』

「それだけでは判りません!詳細な情報を提出してください!」

『ああ、だからなっ・・・・・ああ、これを見ろ!
 ストームレイダー!』


送られてきた映像に映っていたのは、ヘリのハッチを開放しレリックのケースを蹴りだすランスター二等陸士の姿だった。


「だめです、レリックケース。落下します!」

「それよりもランスター二等陸士だ!
 聞こえるか、ランスター二等陸士?!
 貴官は何故そのような行為を為した?応えろ!」

『そんなことはとっくに俺が聞いてるんですよ!
 おいっ!一体何をしてるんだ!』

帰ってくるのはグランセニック陸曹の怒声だけだ。
少し、黙っているんだ陸曹!


『・・・・・・死ぬなぁ。
 死ぬのはいいけど痛いのやだなぁ・・・・・・
 あいつらが狙ってるのは、アレとコレ。
 ・・・・・・やらないと俺が死んじゃうんだよねぇ・・・・・・だからしょうがないんだなぁ・・・・・・。』


「ランスター二等陸士、応答ありません!
 保護された子供を抱き上げました!
 ・・・こ、これは、まさかさっきのレリックと同様に・・・・・・っ?!」


その瞬間、六課のメンバー全員に絶対に見たくない光景が脳裏に浮かぶ。


「ヴァイス先輩、止めてぇぇぇぇぇ!」

クラエッタの悲痛な叫びが上がるが現実は非常である。

『無茶言うな!俺は操縦桿握ってるんだぞ!!』

「くっ、高町一等空尉間に合いますか!?」

『話しかけないで!あと149秒!!!』


駄目だ!いくら高町一等空尉が全速を出しても間に合わない。

映像では、少女を抱き上げたランスター二等陸士がハッチに辿り着いていた。

「ティアナ、お願い!話を聞いて・・・っ!」


『・・・・・・ごめんなぁ。
 俺、そこまで強くはなれないんだ。
 結局のところ自分が一番大事だし、他人にあげられる優しさなんて余ってない・・・。いつも自分のことで精一杯だ。
 ティアナだったら・・・・・・多分お前の事どんなになっても守ったんだと思う。
 けれどな、お前が理不尽に思うように、俺も同じような思いを抱えているんだ。
 恨んでくれてもいい、だからちょっとだけ・・・・・・痛い思いをしてくれるか・・・・・・?』


ランスター二等陸士は縁で、一瞬躊躇ったかに見えたが、抱いた少女から腕を解いた。
落下していく少女の身体。


思わず皆が目をつぶった。



『グッ!!!・・・・・・ハァ・・・ハァ・・・。
 【ギリギリセーフ】ってこういうことを言うんでしょうねッ!』



少女が大地の染みとなった光景を想像していた僕達にとってその光景は予想外だった。

少女の身体は一本の細い腕によって吊り上げられており、その腕はランスター二等陸士の胸から生えている。
陸士の顔は苦痛に歪み、その腕と少女を必死で振り落とそうとする。


『シャマル先生ッ!』

『ごめんなさい・・・。クッ・・・・・・旅の鏡を移動中の対象に使うのには時間がかかったのっ!
 ティアナ、暴れないで!』


『でかしたでっシャマル!』

管制室から歓声があがる。
だが、状況が好転したわけじゃないのは、シャマル医務官の表情から推測できた。

「シャマル医務官。そのまま、ヘリのハッチを閉じることはできますか?!」


『ちょっと・・・くっ、厳しいかも・・・・・・。
 せめて、ティアナが大人しくなってくれたら・・・・・・、あ、もうあんまり持たない・・・・・・ッ?!』


『シャマル先生頑張って!』『お願い耐えて!』

フォワードメンバーやロングアーチからの応援が飛ぶが芳しくは無い。

「高町一等空尉、あと何秒で到着できますか!」

『・・・・・・あと72秒!』

ぐっ、駄目か!
もうこの方法しかないのか?!

『・・・・・・シャマル医務官。ランスター二等陸士へのリンカーコアへの接触攻撃を命じます。』


『グリフィス君ッ!』

『そ、そんなぁっ』


「現状で二つの命を救うには、シャマル医務官のリンカーコアへの接触による意識を奪うことです。」

ランスター二等陸士には既に我々の声は届いていなかった。
そして現状で、陸士以外を傷つけることなくそれが出来るのはシャマル医務官だけだ。
母の言葉が記憶の底から蘇える。

【いい?グリフィス。
 上に立つ者の一番大事な仕事はね、責任を取ることなのよ。
 例えどんな理不尽な任務を与えられても、そうやって部下を守らなければならないの。
 そのことを忘れないでね。】

ごめんなさい、母さん。
あなたの顔に泥を塗ってしまうこととなりそうです。



『却下や、グリフィス君!』

「八神部隊長?!」

『それは私の役目やよ。
 シャマル、部隊長命令や。責任は全部あたしが取る!」

『おいっ、はやてっ!!』

「現在六課の指揮権は僕にあり、部隊長はただの一魔導師でしかありません。」

そう、この場の総責任者は僕なんです。
八神部隊長には、六課を指揮するという大任があります。
どうかそのことを忘れないでください。

『そんなんいうたかて!
 ・・・・・・アホ。かっこつけおって・・・・・・。」

『あ、あの、もう手が痺れて・・・・・・』




シャマル医務官。
部隊長補佐として命令します。
ティアナ=ランスター二等陸士を速やかに無力化してください。
尚、この命令の全責任はグリフィス・ロウラン准陸尉にあります。




   ◆




――ヴァイス 海岸線沿いに建てられたモーテルの一室。



ん?なんだ起きてたのか?

目が覚めたとき、最後の一戦を終えた時から感じていたぬくもりは消えていた。
視線を下側に向けたら、一糸纏わない姿で長く濡れたオレンジの髪を拭いている女が見える。


ああ、さっきまで見ていたのは夢か。


あのときのアイツは今ほど女らしさは感じず、乳臭くてラグナと同じように妹のような位置づけだった。


「なぁに?そんなにじろじろ見て。」


視線を感じても隠そうとしないあたり、俺の調教の成果が出てきたって事だろうか?
・・・・・・俺は恥じらい持ってる女の方が好きなんだがなぁ。

「はぁ、こんな関係あんたとだけよ。
 そのことを光栄に思ってよね。」

へいへい。

曖昧に頷きながら、携帯をチェックする。
どうやらラグナはもう寝たみたいだな。
最近はこいつと会ってるのを見透かされてる気がするんだよなぁ。
『お兄ちゃん。いつ彼女さん紹介してくれるの?』
だもんなぁ。

俺たちの関係が果たして健全な交際と言えるかと問われれば、首を捻らざるを得ない。
六課を出て、リンカーコアの治療を行いながら地上勤務を続けるティアを俺は放って置くことは出来なかった。
それはやはり他人事だとは思えなかったからか・・・・・・。

いや、理由なんて判ってる。
こいつを慰めてる振りをして、結局は自分を慰めてただけの話だ。
それでも何回か密会を重ねるうちにずるずるとこんな関係になっちまった。
今更、俺たちは離れられそうも無いほど深いところまでくっついちまったんだよなぁ。

愛や恋なんて口にする柄じゃねーが、必要に迫られて出来た関係っていうのが実のところ最も正確だろう。
情はそれなりにある。が、このままでいいのかと思わないでもない。まあそこそこに複雑なんだよ、これが。


「ねぇ、スバル達はどうしてる?」


気になるんなら自分で連絡しろよ。あいつら待ってんだぜ?


「・・・・・・・・・。」


判った判った。だからそんな顔すんな。
ちびっこどもは元気だぜ。けど、お前のことは心配してる。
着信拒否してるんだってな。


「だって、私と話してるとこ見られて悪い噂立ったら困るし・・・・・・。」


そう思うならそこんとこちゃんと伝えてやれよと俺は思うんだがねぇ。

・・・・・・。
こいつにはあの事件で「幼女殺し」との噂が局で断続的に立てられている。当然六課でも情報規制は張ったが、どこかしらから漏れるもののようだ。
口には出さないが、今の部署でも肩身を狭くしているのは想像に難くない。


ん、おい待てよ。俺なら悪い噂立てられても構わないっていうのか?

「私の処女奪ったんだからそれぐらいいいでしょ。
 航空武装隊のプレイボーイさん?」

ば、馬鹿、それは先輩達が勝手につけた渾名だ。
今はお前しかいねーよ。
へ?
アルトはただの後輩だ。ここ数ヶ月会ってねーよ。
おい、何でそこで『アルト可哀想・・・』なんだ?
全く、お前は俺をどうさせたいのか・・・・・・。


思わず溜息が出る。
年月が経つ度に可愛げってもんがなくなってくるなぁ女って奴は。
ラグナには真っ当に育って欲しいぜ。ホント。

そんな切実な願いを祈ってると後ろから抱き付いてきた。
おいおい、明日も俺仕事なんだぞ?これ以上残業させるつもりか?


「・・・・・・どうして。」

ん?

「・・・・・・どうして、貴方は私から離れて行かなかったのかな?」


・・・・・・。
・・・。
・・・・・・・・・あのときのお前を一番身近で見ていたからな。
相変わらず、記憶は戻らないんだろ?


「・・・・・・うん」


あのときのお前はおかしかった。それこそ別人みたいにな。
それが何故かは判らないが、一人ぐらいお前の理解者がいてもいいんじゃないか。そう思ったら、当てはまるのは俺しかいなかった。・・・・・・それだけの話だ。


「・・・・・・そう・・・か。」


ああ、誤解すんじゃないぞ?
ナカジマやガキどもも想いは同じだ。つーか多分俺より重い。
ただ、どう接すればいいか判んなかっただけだ。お前だって、壁作ってただろ?


「・・・・・・。」


・・・勇気はまだ出ないか。
なら、そうだな・・・・・・いっそ子どもでも作るか。


「はいっ?!」


こら、殴るなっ。
つーかだな、俺も親父とお袋に早く嫁入れろってせっつかれてるし、お前がいる限り別の女と長続きするわけねぇから、選択肢は一つしかねぇだろ。
あと扶養控除とかも入ってくるしな。
いてっ、悪かったそれは流石に冗談だけどよ・・・・・

そんでお前は仕事一旦やめろ。
今の状況で続けても何一ついいことなんかねぇ。
自分で今の状況変えれるって言うなら何も言うつもりはなかったけどよ、そろそろ俺も我慢の限界だぜ。


「・・・・・・もうちょっとロマンチックな言葉はないの?」


今のお前には勿体無さ過ぎるな。
精精女を磨いて、思わず口説きたくなるよういい女に成長しやがれ。

こうシグナム姐さんみたいなおっぱいばいーんみてぇな・・・・・・・・・ここは怒るところだぞ?
おい、何、泣いてんだ?!


「・・・・・・ランスターの墓に入ってくれるなら受けてあげる。」


泣きながらも要求だけはしっかり通すのな。
やっぱ女ってこえー。

はぁ、ラグナに怒られるだろうなぁ。



いつかこいつとの子どもを連れて、六課の奴らと再会できる日は来るだろうか?
とりあえず、元を取るためにベッドに押し倒した。
夜はまだまだ長い・・・・・・。




END⑦「抹消」






あとがき

メガミマガジン読んだらヴァイティアの妄想が止まらなくなった。
だからこうなった。
後悔はしていない。

エリキャロもいいよね!



[10626] 自分の文章力の低さに絶望する日々
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/08/19 15:45
前回のあらすじ

しゃまるぅ「私のこの手が緑に燃える!オリ主を潰せと、轟き叫ぶ!旅の扉!ぶっこ抜き、フィンガァァァーッ!・・・・・しまった、外しちゃった☆」
俺「鬼の手消滅エンドですね。わかります。」
凡人「いや、こんな状態でいきなり元に戻されても困るんですが・・・すごく」





はぁ~~い、皆さんおはこんばんにちわ。
今日もいつものように精神世界からお送りしております。
実は、この間から記憶から本編を動画形式で抜き出せるようになりました。
ところどころ、MADの印象が強いせいで歪んでるところとかありますけどねぇ。頭冷やそうかのシーンとか【天地魔闘】とかルビ振られていたり、声がマサキさんだったりと。
まあこうやって動画にすると整理されて、行動方針を決めやすくなるんだ。
まあちょっと過激な内容なので引きこもり凡人には見せられませんがね。

さて、何故本編を見直しているか?いや何故今精神世界にいるのか、から説明しないといけないな。
実は今リアルでは、ヘリ内で休日イベントの真っ最中なのです。
いつ十番ちゃんが砲撃してくるかガクガクブルブル状態で、精神的に参ってたところに凡人悪魔ちゃんが耳元で囁いてきました。

「あいつらが狙ってんのは、レリックとヴィヴィオでしょ。
 だったら二つとも捨てちゃえばわたしらは安全よ!」

いやいやいやいや、いくらなんでもあかんでしょそれは。
そう思っているともう一人の凡人悪魔ちゃんが囁いてきます。っていうか、俺の中には悪魔しかいないのか?!

「大丈夫大丈夫、ヴィヴィオは聖王の鎧があるから落ちても死なないわよ。」

そ、そうなのかな?
いや、確かに四番さんもそう言ってたけど言ってたけど・・・・・・
なんだかそう思えてきた。

凡人大魔王様「けど、ヴィヴィオポイ捨てしたらNANOHAさんに頭冷やされるの・・・・・・。」

そ、そうだ!
未来の大魔王後継者様に粗相をしたりなんかしたら、頭吹き飛ばされかねないぞ!
だ、だが、なのはさんも必ず間に合うと決まったわけじゃないし、未来の命よりも今の命って言葉もあるし・・・・・・あああああああああああああああああああ・・・・・・orz




と、まあ多大な精神的負荷をかけられた結果思わず引きこもっちゃいました☆
んで、本編見てたわけですがヴィヴィオは三期の貴重のリリカル分ですねぇ。
なんていうかこの娘がいないと、三期見続けるの辛かったのよ。頭冷やそうかでは、あんだけネタにされたせいもあって切ろうかどうか本気で迷ってたからなぁ・・・・・・。

・・・・・・。

・・・そうだな。
ここはやっぱり『リリカルなのは』だから奇跡は起きるって信じなきゃいけないよな。
大丈夫、俺の嫁のなのちゃんなら間に合ってくれるさ!
なーんて言って見ちゃったりなんかして。
はは、これぐらいいーだろ?

ちょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとガクブル状態なのですが、物語的に美しい方向にするためにやせ我慢することにしよう。
んでもって念のためって言ったらあれだけど、ヴィヴィオを手元に抱いておくことにする。もしかしたら、聖王の鎧とやらが俺もろとも守ってくれるかもしれないからね!
じゃあ俺はヘリの片隅でヴィヴィオを抱いて震える作業に入るのでまた次の機会に会いましょう。



俺は反応の無いティアナ嬢に一声かけてから、精神世界を後にした。
ティアナ嬢は少しだけ頭を下げて頷いたように見えた。
今回はあんまり時間無かったが、次の新ネタで成果が出ればいいんだけどなぁ。




俺はやはり気付いていなかった。気付かない振りをしてた。
この世界に俺が介入したせいで、もはやリリカル分など残っていなかったことを。
そして『次』などどこにもありはしないことも。



   ◆



殉職報告書


所属 時空管理局 本局古代遺物管理部 機動六課 スターズ分隊
殉職者 故Teana Lanster 二等陸士 ID:JMB047321-046559864
責任者 機動六課部隊長 Hayate Yagami 二等陸佐 ID:XTF01241-015214279


死亡年月日及  新暦七十五年七月四日
場所死亡区分  廃棄都市第八区画 旧オイリアIC跡
死因 失血死 詳細は添付された死体検案書にて
状況
重要参考人をヘリで護送任務中、長距離より物理破壊攻撃を受け墜落。直接の死因は背中及び脚部に多数貫通したヘリの破片による失血死。
事件ファイル:bnjn0540×××××××××××××××× を参照。
備考 二階級特進の必要性を認め、これを申請する。

上記の相違無きこと証明す

新暦七十五年七月八日
報告者 Nanoha Takamachi 一等空尉 ID:STX01220-015214229



   ◆




――ヴィヴィオ=ランスターの作文より


私にはママがいっぱいいます。
一緒に暮らしている、はやてママ。後見人のカリムママ。
私の保護者だったなのはママとフェイトママ。
そして、一番最初のティアナママです。

実はティアナママとはお話ししたことはありません。

少ししか覚えていませんが、私は小さな子どものときに事故に遭いました。
ヘリの墜落事故。
事故が起こった当時、私は眠っていましたが気が付いたとき一面は焼け跡だったのを覚えています。
けれど、私は誰かに抱きしめられていました。
その腕はとても温かで、護ってくれていると心が伝わってきたのです。
だから私は泣き叫ぶ代わりに、ママ?と尋ねました。
ティアナママは一瞬困ったような顔をしましたが、微笑んで頷いてくれたんです。

それがティアナママの最初で最後の思い出です。



私の命は大勢の人の命に護られてきました。
そしてその殆どの人が、もう亡くなっています。

その人たちに感謝すると同時に、私もいつかあの人たちのように大切な人を護れるような大人になりたいです。
まだまだ道は遠いですが、お空で見守ってくれているママ達に胸を張れるようにがんばります。


終わり



END8「神の眼 人の生」






あとがき

次回は今回の空白時間です。もう少々お待ちください。
それからアンケートありがとうございました。
色々考えた結果、シーンをリクエストする方式でやろうと思います。
もし希望などがありましたら感想欄で
例)【シーンリクエスト:ティアナがお笑いを勉強するところを希望】
  【キャロのPCのクラスを教えて】
と言う風にお書き願います。
絶対にお答えできるとは言えませんが、出来るだけ応えたいと思っております。

それではまた次回。



[10626] END8 拡張ぱわーうpキット 前編 也。
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/08/24 16:47

――チンク 地下道


「くそっくそっ!あいつら全員ぶっ殺してやる!
 チンク姉をこんな目に遭わせやがって!」

身体が熱い。
本来なら痛みを感じるところであろうが、熱さがそれを覆い尽くしてくれる。
おそらく既に痛みの許容量を越えたせいだろう。脳が痛みをカットしてくれているせいでこんなにも穏やかな気持ちを抱ける。
そして、それは私はもう保たないことを意味している。


「ノーヴェ。もういい、そろそろ降ろしてくれないか?」

私を抱えて走行していた妹に声をかける。

「駄目だ!早くドクターに見せないと!」

ああすまん。だが、もう間に合わないだろう。
割れた卵を元の状態に戻すことはいくらドクターでも不可能だ。

「お前の顔が見たいんだ。背負われていては見えない。
 頼む降ろしてくれ・・・。」

「けどっ!」

ノーヴェは立ち止まりはしたものの、なかなか私を降ろしてくれそうには無い。
ノーヴェが迷っていると横合いから声が掛かった。タイプゼロに瀕死に追い込まれたこの姉を助け出してくれたセインだ。

「ノーヴェ、おろしてやんな。
 チンク姉、それでいいんだよね?」

「ああ。」

セインはもう気付いているか。
そして自分のやるべきことも理解している。
私は安堵の息を吐いた。



ドクターによる宣戦布告がなされる、少し前。
私はタイプゼロファーストを鹵獲し、ウェンディに引き渡していた。
そこへ現れたセカンド。
ファーストを無傷で確保できたことで驕りも私にあったのだろう。妹達を先へ逃がし、足止めを行おうとしたところでこのような無様な姿にされてしまった。その上、妹に助けられては姉としての面目は丸潰れだな・・・。

「ギン姉を・・・・・・ティアを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

セカンドのそれは悲痛な叫びだった。
ディエチの砲撃により死亡した者がいるとは聞いてはいた。おそらく、その者の知り合いか友人だったのだろう。
恥ずかしい話ではあるが、私はセカンドと向き合うまで我々が仇となっていることなど思いもしなかった。そして、初めて直面する大切な者が奪われる悲しみと怒りは、私が恐怖するに十分なものであった。

硬直しきった私の身体にセカンドの拳が突き刺さる。
おそらくあれは我々のような戦闘機人に対抗して作られたものなのだろう。私は全身のフレームが砕け散る音を聞いた。
さて、あと何分持つか・・・。



経緯を振り返るのをやめ、私は二人の妹達に目を向けた。
ノーヴェは涙と鼻水を流し必死に呼びかけてきている。ああ、そんなに泣くな。これでは心配で逝けないではないか。
セインはと言うと、涙をこらえ姉の言葉を一言一句として聞き漏らさんとしている。偉いぞ、やはりお前は私の次の姉だ。


「・・・ノーヴェ。」

「な、なんだ、チンク姉。どこが痛いんだ?!」

「お前は口は悪いが、誰よりも姉妹達を大切に思ってる。どうかその気持ちを忘れないでくれ・・・・・・。」

「な、なんでだよ!なんでそんなこと言うんだよ!?」

「・・・セイン。」

「はい。」

「お前とも長いな。」

「私が生まれてからかれこれ十二年だからね。」

「お前のやり方でいい。妹達のことを頼んだぞ。」

「合点♪このセインさんにお任せください!」

「セインもっ!チンク姉は死ぬようなこと言うなよ!!」


仕方の無い奴だ。
お前は生まれたときから姉が面倒を見たせいでお姉ちゃん子だったな。

「ノーヴェ・・・どこにいる?お前の顔が見たい。」

もう真っ暗だ。
夜空に浮かぶ月ほどにしか光が見えない。

「・・・チンク姉、目が見えて・・・っ。
 ここだよ!ここにいるよ、ノーヴェはここにいる!」

「あ、ああ・・・・・・やっと見えた。
 ノーヴェ、セカンドや彼女達を恨んではいけないぞ・・・」

「ど、どうしてだよ!
 あいつらのせいでチンク姉はっ!」

「彼らとて、大切な誰かの為に戦っているんだ・・・。
 故あって道は違えてはいるが、そこにある思いはお前と同じだ・・・。姉は最期にやっと気付けた。
 お前は姉よりも早く気付いて欲しい。・・・そうすればまた違う道も開ける・・・・・・。」

「わかんねぇよ・・・・・・そんなのわかんねぇよ・・・。」

「判るさ。・・・・・・お前とセカンドはやはりよく似ている。
 姉の言葉を信じろ・・・・・・」

ああ、もう感覚が無い。
姉は言うべきことを全て伝えられただろうか?
他の姉妹達の顔ももう一度見たかった・・・

だが、戦闘機人として生まれてきてこのような安らかな気持ちで死ねるとは思わなかったな。
生まれてから今日まで十五年の日々が目蓋の裏を巡っていく。
ああ・・・悪くない人生であった・・・・・・

・・・・・・姉は幸せ者だったぞ・・・・・・



「・・・チンク姉・・・?
 おい、目を開けてよ!死んじゃ嫌だよチンク姉!・・・・・・チンク姉ェェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!!!」



【ナンバーズⅤ チンク  スバル・ナカジマの振動破砕拳を受け一時間後に死亡】



    ◆




――アルト ???




「おい、アルト!しっかりしろ!」

「重傷人なんですよ!道を開けてください!」

あれ?ヴァイス先輩だぁ~。
目が覚めたんですねぇ。よかったー。
けどなんで逆さまなんですか?
ああ、そっか私ベッドに寝かされて運ばれてるんだ。


フォワードメンバー三人を前線に送り届けて、帰還しようとしたところで戦闘機人にヘリごと撃墜されて・・・・・
・・・・・・あ、ごめんなさい先輩。ヘリ・・・壊しちゃいました。

「馬鹿っ、そんなのどうだっていいんだ!
 お前は大丈夫なのかよ!」

馬鹿ってひどーい。
先輩ってばいつもそんな感じで・・・けどやるときはちゃんと決めて・・・。

知ってましたか?私、ヴァイス先輩に憧れていたんです。
いつか私も先輩みたいになりたくて、ヘリのライセンス取ったんですよ?

それで・・・・・・ちゃんとこなせれば、勇気出せるかもって思って頑張ったんですけど・・・・・・最後の最後で油断しちゃったみたいです。反省。

「馬鹿野郎!俺なんかよりももっとすげぇ奴はたくさんいるだろうが!
 こんな、こんな俺なんかより・・・・・・っ!」

そうかもしれませんね。
けど、あたしに勇気をくれたのはヴァイス先輩なんですよ?

先輩は疲れてお休みしてるだけなんです。
時が来ればきっとまたいつもの先輩にもどれますよ。

ああ、これから手術なんですね。
あの先輩・・・・・・ちょっとだけ勇気をもらえますか・・・?
いつかみたいに、頭を撫でて・・・・・・ふぁあ?


「・・・・・・がんばったな、アルト。本当によく頑張った。」


や、やるならやるって言ってからやってください!
けどなんだか勇気湧いてきました。ありがとうございます。

「ああ、俺も自分がやるべきことが見えてきたぜ」

そうですか。えへへ、やっぱ先輩はそうじゃないと。
それじゃあ行ってきます。先輩。

「ああ、またな。」





それは死の間際に見た幻影か。
アルト・クラエッタ二等陸士が発見された際、その表情は驚くほど穏やかなものだったという。
そして、死亡推定時とほぼ同時刻。
二ヶ月近く眠り続けたある男が目を覚ました。


【アルト・クラエッタ二等陸士  帰還中にナンバーズ・ディードの強襲を受け撃墜及び死亡。】



   ◆



――セイン ゆりかご玉座



見つけた!
玉座にはやはり聖王の器が縛り付けられていた。

「・・・こいつを連れて行けばっ」

教会と取引が出来る!
こんな拘束具なんか私の能力使えば簡単簡単。ほら出来た。
けれど、ゆりかごの構造はディープダイバーを使いにくくさせるみたいだ。見つからないように慎重に脱出しないと。

私は器を抱えて静かに走り出した。



ドクター、ごめん。
これが裏切りだって自覚はあるんだ。
だけどチンク姉の言葉を思い出して、私が姉妹のために出来ることは何なのか考えた結果なんだ。

ノーヴェはセカンドに対する殺意をもう隠そうともしない。
他の妹達もチンク姉の死にショックを受けている。

私は『姉ちゃん』だから。
妹達を守らないといけないんだ。
許してもらおうなんて思ってない。
・・・だけど、いつかは判ってくれるよね・・・?


「あ~ら、セインちゃん?
 そんなに急いでどこにいくのかしら~ん?」

「げっ」

よりにもよってメガ姉かっ!

「や、やっほー・・・クア姉・・・。
 ・・・ちょ、ちょっと忘れ物しちゃってさぁ・・・・・・」

「も~ぉ、仕方の無い娘ねぇ。
 それで忘れ物は見つかったかしらぁん?」

「う、うん。
 それじゃあ、私はもういくね・・・・・・」

さっさと退散するに限る。
ゆりかごさえ出れれば、私のディープダイバーに追い付ける者なんていないのだから。

「じゃあ、お姉ちゃんの忘れ物も返してくれるかしら?
 その腕に抱えた聖王の器ちゃんをね」

ピタッ

・・・・・・やっぱりばれてたか。

「・・・ねぇ、クア姉。
 クア姉はドクターの計画がうまくいくと思ってる?」

「さぁ、どうかしらね?
 ドクターは遊び好きだから、いくつか計画に穴があるのよねぇ。
 まあ五分五分と言ったところかしら?」

「だったらっ!
 ・・・私達がそれにつきあわなくてもいいじゃん。
 私はもう姉妹が死ぬところなんか見たくは無いんだ!」

「お馬鹿さぁん。
 ・・・私達が何のために造られたか忘れたの?
 ナンバーズとはドクターの夢を実現させるための道具なのよ?」

「・・・どんな理由で生まれたとしても、どう生きるか決めるのは自分自身だよ!
 ・・・・・・見逃してクア姉。
 姉妹で戦いたくは無いんだ・・・。」

「・・・・・・しょうがないわねぇ・・・・・・。」

驚いたことにクア姉は道を譲ってくれた。
絶対にありえないと思っていたのに。

「仕方ないでしょ。私は後衛型で、しかもセインちゃんは聖王の器を持っているんですもの。
 聖王の器を無傷で確保することなんて私には不可能だもの。」

「クア姉・・・。」

「けれど、見逃すわけじゃないわ。
 すぐに他の姉妹達にも連絡するから頑張ってお逃げなさい。」

「ありがとう、クア姉!」

心の中でメガ姉なんて言っててごめん。
見直したよ!

そう思い、走り出そうとしたところでクア姉の呟きが耳に入った。





「本当にセインちゃんたらお馬鹿さぁん♪」





――衝撃。

肩から斜めに真っ二つにされたような感覚。
足がもつれ地面に器もろとも転がってしまう。
何?
何にやられた?!
GDなら識別は姉妹全員が出来るはず!
何より、一撃で私を戦闘不能に追い込むようなことは不可能だ。


「・・・・・・私はねぇ、あなたやウェンディのような戦闘機人にはいつも疑問を持っていたの。
 戦いの道具に心や個性なんて無駄なんじゃないかしら?って」


く、クア姉・・・?

横倒しになった世界の中で、一人の大男が姿を現す。
あれはクア姉のシルバーカーテン・・・・・・今まで隠れていた・・・?
けど、あいつは・・・・・・

「ゼ・・・ゼスト様・・・・・・?」

いつも、ルーお嬢様とアギトさんと一緒にいたはず男だった。
どうしてクア姉と一緒にいるの?
疑問が浮かんでは消えていく。

「だからね、ゼスト様に協力をお願いしたら快くお受けしてくれたのよぉん?
 これが、余計な心や個性を一切排除し命令だけをただ従順にこなす真のレリックウェポン!
 セッテちゃんに次ぐ最高傑作よ!」


「そんな、嘘だ・・・。
 ゼスト様がクア姉のお願いを聞くわけが無い・・・・・・。」

けれど、ゼスト様は私の言葉には一切反応しない。
その瞳には何も映っていなかった。

「そこは頼み方しだいと言うものよ。
 ゼスト様はぁ、ルーお嬢様を目の前で操って差し上げたら簡単だったわ。
 自分から身代わりを申し出てきてくれましたのよ。」

そ、そんな、ひどい・・・。

「・・・いらつくわね、その目つき。
 ゼスト。もういいから壊しちゃいなさい。
 ドクターには事情を話せば理解してくださるでしょうしね。」

頷いたゼスト様は、動けない私に向かって槍を振り上げる。


「クア姉っ!!!」

「ごめんねぇ、セインちゃん。
 クアットロお姉さまはあなたのこと・・・・・・大ッ嫌いだったのよぉ♪」


「っ?!・・・・・・IS発動!ディープダイバーッ!!」

鈍く湿った音が響いた。
それに続くかのように哄笑がゆりかご内部に伝わっていく。
いつまでも、いつまでも・・・。




   ◆




――ディード 廃棄区画



オットーが捕まった。
その情報を受信した瞬間、私は飛び出していた。

クアットロ姉様の静止する声は聞こえる。
だけど頭には入らない。
半ば無意識に回線を全て閉じた。
これで、オットーを助け出すことに集中できる。
私はさらに速度を上げた。

おそらくオットーを捕らえたのは、緑色の騎士と守護獣。
六課官舎を襲撃した際に合間見えた二人でしょう。
ならばこちらの対応も同じ。
隙を見て守護獣を一撃で撃破。
その後オットーを確保し、逃走。
あの騎士は立ち上がりが遅いでしょうから、十分です。
わざわざつきあってあげる意味はありません。

見えてきた!


光のスパイクと翠の糸に拘束されているオットー。
それをしたのはやはり予想通りの二人。

一旦ビルの陰に入って機を伺う。
ウーノお姉様からガジェットの支援が来れば十分だ。
どうかそれまで頑張ってください、オットー。



時間が・・・・・・過ぎていく。
ウーノお姉さまとは連絡が付かなくなった。
仕方なく、周囲から自律モードに入ったガジェットを確保してきたが、戻ったときにはあの二人の騎士だけでなく武装局員の姿も多数見える。

駄目、これでは戦力が足らない。
けれど、このまま手をこまねいていても状況は悪化するばかり・・・・・・。
打って出るべきか否か・・・。

経験の足らない私では判断が付かなかった。
だからだろう。
一人の武装局員がもたついたオットーに過敏に反応し、地面に組み伏せる。
苦痛に顔を歪めるオットー。
私は飛び出していた。








――ザフィーラ 同時刻



「この大人しくしろ!」

「待ってください!完全に拘束していますから手荒なことはやめてください!」

武装局員とシャマルの言い合いの声が響く。
きっかけは拘束した戦闘機人が移動する途中、膝をついたことが原因だった。
そのとき到着していた武装局員は慌てて地面に押さえつけ、バインダをかける。
それに対しシャマルは静止させたのだ。

まあ、大の男が見た目だけとはいえ女子供にムキになり、力づくと言うのは見ていて気持ちのよろしいものではないのは事実だがな。


つい先日、その見た目だけは女子供の戦闘機人にたやすく撃破されたことを思い出し思わず顔をしかめてしまう。狼の顔だが。
二度とあんな不覚は取らん。
そう気を引き締めた。


故に、再びあのときの二刀流の戦闘機人が強襲をかけてきても慌てずに初撃を防ぎ、逃げ道をふさぐことが出来た。
視線を交わすまでもなくシャマルは既に動き出している。
私の攻撃は戦闘機人の動きを制限するためのものだ。
本命は選択肢を狭められた先に設置されたシャマルのバインドである。
我々が何の対策もしていないとでも思っていたのか、目に見えて焦りが表情に浮かびあがる戦闘機人。
その時点で勝敗は決していた。



・・・・・・はずである。
我々に油断もミスは無かった。
その証拠に二人の戦闘機人も驚愕と困惑の表情を浮かべている。

それは二刀流の戦闘機人を追い詰め捉えたと確信した瞬間であった。
突如として両方の戦闘機人が蹲る。始めは何か攻撃のプロセスかとも考えたが様子がおかしい。
戦闘機人の二人は自らの胸を押さえのたうちまわる。その目は既に我々を見てはおらず、突如として発生した身体の違和感に混乱している。おそらく、かなりの苦痛が神経を侵してるであろうことが傍目にも判った。

一体何が起こっているのか?
当然の疑問を一旦思考の脇に置き、拘束を開始する。
調べるためにも捕らえるためにも必要な行動だった。
しかし、その次に目に入った光景に自らの目を疑ってしまう。


彼女達の胸から赤い結晶状の輝石が出現していた。
あれは『レリック』?!
何故だ?何故戦闘機人に埋め込まれている?!
彼女達から出現したレリックは赤い魔力を間欠泉のように噴出し始める。

「・・・これは・・・・・・レリックのメルトダウン?!
 駄目・・・・・・皆、逃げてっ!!」


もはや間に合わないことは判っていた。
だが、シャマルは言わずには居られなかったのだろう。
私はせめて我が主にこの光景を伝えることに全力を尽くす。



――――我が主 八神はやてよ
      我らは常に御身の傍におります
        例え幾星霜 次元の彼方 輪廻を何度巡ろうとも 我らが主はそなた一人
          これは世の不変の真理です

         再びご用命を申し付けられる日を 我らはいつまでもお待ちいたします――――






その赤いきのこ雲は、その日クラナガンのどこからでも確認することが出来たという。



【八神シャマル 主任医務官  レリックによるメルトダウンにより消滅】
【八神ザフィーラ  レリックによるメルトダウンにより消滅】
【ナンバーズⅧ オットー レリックによるメルトダウンにより死亡】
【ナンバーズⅩⅡ ディード レリックによるメルトダウンにより死亡】








――ディエチ ゆりかご玉座の間前の扉


こちらへ接近中の対象を発見・・・・・・ついに来たかっ!
ISヘビィバレル展開。初撃で決める。

拡大されていく敵映像。
だが、その姿は予想外のものだった。



「どもーっす!
 よかった、いきなりロックオンされかもってヒヤヒヤしたっすよ?」

こちらへ向かってきたのはナンバーズⅩⅠ、私の妹でもウェンディ。
姉妹達には全員IFFが掛かっているはずなのにそれを切っている。
あやうくこのまま撃ってしまうところだった。

「・・・どういうこと?ウェンディは地上部隊の掃討のはず。
 なんでここにいる?」

「うっひっひ。
 実はセインを探してるっすよ。見なかったっすか?」

「・・・見てない。
 セインはドクター達の護衛のはず、ここに居るわけが無い・・・。」

そう告げるとウェンディはいつものおちゃらけた雰囲気を消し去り、胸に手を当てる。

「・・・・・・。
 ・・・そうっすか。失敗したんすね、セインは・・・。
 ならあたしがその任務を引き継ぐしかないすねー」

「ウェンディ、一体何を言って・・・?」

「まあまあ、いいじゃないっすか。
 ちょっとここ通らせてもらうっすよ。」

思わず行く手を塞いでしまう。
それほどまでに今のウェンディは不審だった、

「駄目だ。この先は聖王の間、そこの番人が私の役割だから。」

「うーん、あたいらでも駄目なんすか?」

「敵の幻術かもしれない。IFFを切ってる相手を通すことは出来ない。」

あちゃー、けどドクター達に居場所知られるわけにはいかないっすからねー。
そんなことをブツブツと呟くウェンディ。
実のところあれが偽者だとは思えない。ライディングボードは本物同様の動きだし、言動が不明瞭すぎてあたし達の目を欺く意味を為していない。
だけど、今のウェンディを信用する気にもなれないことは事実だった。


「しょうがないっすねー。
 ディエチ、あたしはもうドクターの計画を1抜けたを決めたっすよ。」

「・・・え?」

「もうドクターの計画につきあわされるのは真っ平ごめんだと言ったんすよ。」

「・・・裏切る気か?」

「ディエチも思い出してみるっすよ!
 チンク姉は何故死んだのかを。
 あたしはもう姉妹から犠牲を出すのは勘弁っす。
 セインが教会騎士と接触して、戦闘機人は保護してもらうよう渡りをつけたっすからもうこんなことはやめようっす。」

「あたし達はドクターの駒だ。
 命令に逆らうことは許されてはいない・・・。」

「あたしら夢も希望もないっすから生みの親に従い続ける気持ちも判らなくはないっすよ。
 けど、大切なモノはあるっす。
 チンク姉はそのことを教えてくれたじゃないっすか。」

ほんの数時間前に姉妹とドクター達でチンク姉を弔ったことを思い出す。
皆――ドクターでさえも、沈痛な面持ちで安らかな死であることを祈った。
あのとき既に、あたしたちの心はばらばらになっていたのかもしれない。

「・・・だめだ。
 ウーノやクアットロがそれに従うはずが無い。
 チンク姉は姉妹が争うことなんて望んでいない・・・・・・と思う。」

「・・・同じものを見ても違う考え方をする・・・・・・っすか。あたしら、本当に人間みたいっすねー♪
 まあ、駄目だといわれても通らせてもらうっすが」

「駄目だ、ここは通さない!」

脇を抜けようとするウェンディにイノーメスカノンを構える。
咄嗟の反応だった。
だがそれでもウェンディ怯まない。

「・・・・・・これは、ここを通るなら力づくでも押し通れ・・・・・・って意味っすか?」

ウェンディはライディングボードの砲口をあたしに向ける。
十メートルほどの距離でお互いに砲口を向け合う形となった。

「・・・本気?」

「ナンバーズ1の砲撃屋はどちらか?
 それをここでハッキリさせるのも悪くないかもしれないっすよ・・・・・・」


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」



ウェンディは本気だ。
あたしを倒してでもこの奥を進むつもりだろう。
真っ向からぶちあたって、撃ち勝つのは十中八九あたしでもある。
けれど、それではウェンディは無事ではすまない・・・・・・。そのことを考えると、どうしても引き金を引けなかった。


「・・・・・・。」

「・・・いいんすか?」


気が付けば砲塔を下に降ろしていた。
気持ちで負けた。それが要因だ。

「・・・・・・あたしにはウェンディを止められない。
 けれど、ドクター達はどうするつもり?」

「教会の管理下に置かせて貰って管理局には手を出させないっす。
 多分、ゆりかごの研究者として迎えられると思うっす。」

そう、それなら・・・。
とてもドクターが大人しくしているとは思えないけれど、妥協点としては悪くは無い。
そう考えたときだ。


『駄目ですよーディエチちゃん。
 裏切り者を見逃したりなんかしちゃぁ。」

空間にディスプレイが浮かび上がる。
そこに映っていたのはクアットロだった。

「どーせ、クア姉のことっす。ずっと、聞いていたんでしょ?」

『ええ、もっちろぉん♪
 いけないわーウェンディちゃん。私達を裏切るだけでなくディエチちゃんまで唆すだなんて』

「別にそんなつもりはないっすよー。
 まあそういうことなんで、陛下は頂いていくっすよ♪」

スタスタとウェンディは進んでいく。
私はその背を追うことも止めることも出来ない。
そこにクアットロの命令が飛ぶ。

『ディエチちゃん。
 ウェンディを止めて頂戴。
 ドクターの悲願を止められるわけにはいかないの。判るでしょ?』

猫なで声に身震いがする。

「けど、クアットロ。
 ウェンディの気持ちも考えてあげて欲しい。
 あたし達はただ命令を聞く。それだけの存在でいいのかな?」

セッテ程機械然とは振舞えない。
セインやウェンディのように個性を確立することも無かった。
なら、あたしは人として生きるべきか機械として生きるべきか・・・・・・あたしはずっと迷っていた。
このままじゃいけないって気持ちはあるけれど、どうしたらいいか判らないんだ。


『・・・・・・。』


「ちゃんとウェンディの話を聞いてあげようよ。
 どうしたら皆が納得できるか話し合って・・・・・・」


『・・・はぁ、やっぱりディエチちゃんもなのねぇ。』

「・・・え?」

『実はねー。先ほど、オットーとディードが蒸発したって情報が入ったわ。
 うわぁ、こわーい♪』

・・・え?
クアットロは今なんて言ったんだろう?
オットーとディードが蒸発・・・・・・死んだってこと?
嘘、まさか、どうして・・・?
どうしてあの二人が死なないといけないの・・・?


『可哀想にねー♪
 私もあの二人には目をかけていたのにこんなことになって悲しいわー。
 けど、あの二人の自業自得ですしねー。』

「どういうことっすか、クア姉!
 なんで双子が死ななきゃならないんすか?!」

『うふふのふ♪
 実は私より下の妹達には、最終メンテナンスのときにレリックが埋め込まれているのでしたー♪
 ウェンディちゃんみたいに裏切る娘が出ることを予想してたのねー。
 任務中に二人以上のレリックを埋め込まれた戦闘機人が一定以上の距離まで近づくと、暴走する手はずとなっていたのでしたー。』

「嘘っす、そんなの!
 あのドクターが自分の作品を灰燼に帰すような真似するわけないっす!」

あまりのことに思考が停止してしまっていた私の代わりに、ウェンディがクアットロの言葉を否定する。
その言には説得力があった。
確かにドクターの最高傑作であるあたし達を破壊するとはとても思えない。

『あーら、ウェンディちゃん。
 私はあなたのことずーっとおバカさんだと思っていましたけれど、なかなか鋭いのねぇ。』

「ど、どういうことっすか?まさか?!」


『御明察~♪
 あなたたちにレリックを埋め込んだのはこの私。クアットロお姉さまでした~!
 正解者には金銀パールをプレゼント~♪』


「・・・・・・どうして?」

『だぁ~ってー。
 兵器は命令を聞いて殺しまくってナンボでしょう?
 命令拒否するような兵器に意味はなし。ましてや、仲間を囚われたからって冷静さを失うなんて減点よねぇ?』


それだけの・・・・・・それだけのことで、オットーやディードは死んだ?
なら、あたし達は今までどうしてこんなことを・・・・・・


「クア姉っ?!
 アンタって人は、どこまでっ!」

怒声を上げるウェンディ。
だけどクアットロはそれを軽く受け流す。

『それよりいいのかしら?
 レリックが埋め込まれたのはあの二人だけじゃないのよぉ~?』

「ま、まさか?!」

『AMF高濃度下だから連鎖反応が加速するのは若干遅れていたようだけど・・・・・・そろそろ始まる頃じゃないかしら?』

そう言われると胸に違和感がある。
血液が胸を中心に加速していく感覚・・・。

『オットーやディードちゃんの花火は綺麗だったわー。
 きのこ雲が真っ赤な放電現象で染まって、さながら世界の終わりのよう・・・・・・。
 あなたたちもそうなるのかしらねぇ?』


膝を突くウェンディ、表情が苦しげに変わる。

「今すぐ、解除するっすよ!」

『別に外してあげてもいいんだけれどねぇ・・・、そうねぇ

 [申し訳ありませんでしたクアットロお姉さま。これからはお姉さまの命令だけ聞く、お姉様の人形であり奴隷として振舞います。
  どうかこのウェンディをご自由にお使いください]

 と這いつくばってお姉さまの足に口付けするのなら考えてあげてもいいわよ?』


・・・・・・。


「へっ、冗談きついっすよクア姉。
 そんな気があれば元々こんなことしてないっす。」

加速していく苦痛に耐えながらも、そう気丈に笑うウェンディ。

「クアットロ、お願いだ。
 もう誰かが死ぬなんて嫌なんだ。あたしならなんでもするから解除してくれっ」

『お優しいわねぇ。
 そんな家族想いのディエチちゃんのためにいーいことを教えてあげましょう。
 レリックがメルトダウンは、ミッション中に生存している姉妹が一定距離まで近づいた際に発生するの。
 
 だから、片方を殺せばもう片方だけは助かることが出来るわねぇー♪』


予想外の言葉だった。
なんで、なんでそんな残酷なことが思いつくんだ。

「どうしてだクアットロ。
 ドクターはそんなこと望んでいない!」

その言葉にクアットロは少し頬に指を当てて考え込むが、再び邪悪な笑みが浮かぶ。

『ドクターの才能には尊敬していますわぁ~。
 けれど、もう遊びがすぎると常々考えていたのよ。
 本当に自らの目的を通したいならより冷酷に、より残虐に振舞うべき。そうでないからきっとチンクちゃんは死んじゃったんでしょうね。
 だからこそ、ゆりかごには私がやってきたの。
 ゆりかごさえあれば、勝ちは決まったも同然。
 その後、おなかの中のドクターはゆっくりより完璧にこのクアットロママが育てて差し上げますわ。
 今更、ドクターの意向など気にはしないのよぉん?』


「・・・・・・馬鹿げてる。」

「やっと、わかったっすか。ディエチ。
 クア姉は結局、自分の思い通りにならないのが目障りなだけっす。
 子どもなんすよ・・・・・・クッ?!」


『まさか、ウェンディちゃんにそう言われるとは思わなかったわぁ。
 まあいいでしょう。ディエチちゃん、もし生き残っていれば新たなドクターと共に桃源郷への旅へ同行することを許してもいいわ。
 それじゃあまた会いましょう。
 い き て た ら ♪・・・・・・プツン』


好き勝手なことばかりを並べて回線は閉じられた。






数分後、ゆりかご内部に微震が発生する。
突入していた武装局員は何事かと身構えたが数十秒後には停止した。
そこで散った二つの命の存在を知る者はいない。・・・・・・哄笑する一人を除いて。


【ナンバーズⅩ ディエチ レリックによるメルトダウンにより死亡】
【ナンバーズⅩⅠ ウェンディ レリックによるメルトダウンにより死亡】
 


   ◆



――キャロ 廃棄区画



ああ、私死ぬんだね・・・。

身体は動かせないけど、駆け寄るエリオ君とルーちゃんの顔を見て理解してしまった。
不思議なことにあまり悲しくは無い。
ただ、エリオ君たちを泣かせてしまったことだけが心残りかな。

あのとき、彼に気付いていたのは私だけだった。
それは、ルーちゃんとガリューをアギトの協力もあって、やっと説得出来たときだった。

空に出来た一つの黒点。
視界に入った瞬間には、既に私の腕はエリオ君の背中を突き飛ばしていた。
けれどその後のことはあまり覚えていない。
多分、胸から血が吹き出てることから攻撃を受けたんだと思う。


「キャロッ!」

ああ、エリオ君は無事だね。よかった。
あの攻撃はエリオ君を狙ったものだったから、間に合うかどうか微妙だったんだ。


「・・・・・・ゼ・・・ゼスト・・・、どうして・・・・・・?」

「だ、旦那?!本当に旦那なのか?!」

視線を横にずらすとそこには黒い騎士がいた。
その人の持っている槍の穂先から赤い血したっている。ああ、この人だったんだ私を殺したのは・・・。
ルーちゃんやアギトはあの人知ってるみたい。知り合いなのかな?

ゴフッ

「キャロッ!しっかりして!」

大丈夫だから。だから、そんなに悲しい顔をしないで。
そう伝えたいのに、出てきたのは他の言葉だった・・・・・・。


「ねぇ、エリオ・・・君。ゲホッゲホッ
 フェイトさん、褒めてくれるかな・・・・・・?
 キャロは頑張ったね・・・・・・って抱きしめてくれるかな・・・・・・?」


「あ、当たり前だよ!
 ふぇ、ふぇイドさんが褒めてくれないわげないよ・・・っ!
 だから、キャロ、一緒にフェイトざんのどころに・・・・・・」



「・・・えへへ、嬉しいなぁ。

 ・・・エリオ君、笑って。最期に見るエリオ君の顔が泣き顔じゃ嫌だよ。笑顔でお別れしよう。ね・・・・・・?」
 
「・・・・・・最期って、キャロッ?!
 フェイトさんに褒めてもらうんだよ・・・っ?だから・・・だから・・・っ」

「・・・・・・お願い。笑って・・・・・・。」

「・・・・・・こ、ごれでいい・・・かな・・・・・・?」

「・・・うん、かっこいいよ・・・♪
 ・・・・・・今まで・・・・・・ありがとう、え・・・り・・・・・・お・・・・・・・・・・・・く・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・キャロ・・・?
 キャロっ?!・・・・・・キャロォーーッ!!」
 




私は、ずっとひとりぼっちなんだと思ってた。

だからフェイトさんがおかあさんになってくれて嬉しかった。
エリオ君と兄妹になれて楽しかった。
皆と友達に同僚になれてもう泣きそうになるぐらい幸せでした。

みんな、ありがとう。





ねぇ、キャロ。
ひとりぼっちのキャロ。
そんなに泣かないで。
もうあなたは一人じゃない。
見て、大勢の人の笑顔に囲まれる未来があなたを待っている。
だから安心して眠りなさい。

――はぁい。


【キャロ・ル・ルシエ三等陸士 レリックウェポン・ゼストの攻撃からエリオを庇い死亡。】



    ◆


――オーリス・ゲイズ 長官室



『よくも・・・よくも、キャロをぉぉぉぉぉっ!!!』

『やめろっ!旦那は操られているだけなんだっ!』

『邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!』




敵から送られてきた映像。
そこには、思わず目を覆いたくなる光景が映っていた。

若くして散る少女の命。
仲間を失い激昂する少年の姿。
目の前の現実を直視できない少女。
あがくことしかできない、人形のようなデバイス。
そして・・・


「ゼ、ゼストさん・・・っ」

八年前に死んだと思っていた父の友人が生きて動いてる姿に、私は驚きを隠せなかった。


ゼスト・グランガイツ・・・・・・それはかつて犯罪者の施設に突入し、帰らぬ人となったはずの男の名だ。
当時遺体は見つからなかったものの、出血量など遺留状況から彼はKIA認定される。

生きてるはずはないと思っていた。
ではこの映像に映っている男は誰だと言うのだ?!
二十年は老けたかと思わせる容姿ではあるが、それは確かにゼストさんだった・・・。
何故、彼が生きていてそして年端も行かない少女を殺害し、尚も少年に対し刃を向けているのか。
疑問は次から次に湧き上がり、脳を埋め尽くしていく。
そして遂に飽和に達した疑問は、私の喉を通り父に発せられた。


「ゲイズ中将っ、一体これはっ!」

「・・・・・・ッ」


父は私の言葉など意に介さずに、ただ映像を睨みつけ続けていた。
その様子に私の苛立ちは加速し、さらに言及の言葉を続ける。

父の秘密主義的な部分は任官してからずっと感じていた。
父が何か公に出来ないことを行っていることは、地上本部である一定以上の階級に属している者ならば、大小の違いはあれ感じていた。
それでも誰も父を告発しないのは、父が主導する計画が効果を発揮してきたからであり、確かな証拠が見つからなかったからである。

本局の捜査官が私のところへやってきたこともあった。
おそらく、中将の秘書にして実の娘ならば何か知っているのだろうと思ったのだろうが、結局はムダ骨に終わる。


父はずっと一人で戦ってきたのだ。


それは局員を護ると同時に、今日のような事態に陥った時のためであろう。
犯罪者から通信により、既に父から指揮権は奪われている。
混乱の中であっても、かろうじて地上部隊が稼動出来ているのはこのためだ。

私はそのことを誇らしく思うと同時に、苛立ちを隠せない。
父を慕ってくる者は、私やゼストさんを含め大勢いたはずだ。
なのに何故たった一人で戦い続けたのか。
私達に廻されるのは、精々が書類改竄程度で計画の全容を知らされることは無い。
例え発覚しても、中将の指示であったと証言すれば執行猶予がつく程度のものである。
そんなに我々は信用できなかったのかと、ずっと問い詰めたかった。
私達は、父と罪も罰も共有したかった。
共に、同じ未来を描きたかった。
護られたくなど無かったのだ!



溜め続けてきた想いは言及となって父にぶつけてしまう。
それを何度繰り返しても父からの返答は無い。
もはや、しゃべり疲れて最後の言及になろうかという時に、父の重く大きな拳によってデスクが叩かれた。


・・・・・・っ?!
身体がすくみ上がる。
幼き日、勝手に父の書斎に忍び込んだ後の衝撃が脳裏に蘇った。
怒られる?!
そう身構える私であったが、やはり父の視線は私ではなく映像へと向けられていた。


「・・・・・・どこまで・・・・・・どこまで、邪魔をするというのだ・・・・・・ッ!」


いつものように激しい激昂の声ではなかった。
深く静かな嘆き混じりの怒りの言葉。
父が本当に恐いのはこういうときだ。
こんなとき、父は既に覚悟を決めているのだから。


ガタリ・・・

「オーリス、後を頼む。」

「どこへ行こうと言うのですか!あなたには職務があるはずです!」

立ち上がった父の目の前に立ちふさがる。
駄目だ、このまま父を行かせてならない。
脳内の警笛がそう告げている。


「もはや、俺に出来ることなど無い。
 指揮権を取り上げたのはお前ではないか。生意気に育ちおって。」

「あなたには、責任を取るという最後の大仕事があります!
 逃げることは許されません!」


こんな詭弁で父は止められまい。
父が死ぬことで自動的に全ての責任は押し付けられることはほぼ確定しているのだ。
・・・・・・ああ。
私は気付いてしまっている。
父が死ぬために行こうとしていることを。


「・・・俺を待っている男がいるのだ。
 道に迷っているのなら、俺から出向かなければならん。
 それがあいつに対する責任なのだ・・・・・・。」


カツカツと横を抜ける父を止めることはもはや出来なかった。
困らせてしまう。迷わせてしまう。
それでも結局父は私を振り切って行くのだろう。
なら、止めるのは父の余計な負担となってしまう・・・。

振り向かないまま、父が部屋の扉を開く音がする。
父との最後の記憶がこんな無力感に満たされたものになるとは思っていなかった。
私はこれから何度もこの時間を思い出し、後悔することになるのだろう。
なんとひどい男だ。
好き勝手に思うがまま生きて、家族の気持ちなど顧みることの無かった、最低の父親だった。
だからこそ、行ったと思った瞬間にかけられた言葉は予想外だった。



「・・・・・・母さんにすまないと伝えてくれ。
 それからオーリス、お前は私のようになるなよ・・・・・・。」



腰から崩れ落ちた。
あふれ出す涙が止まらない。

「・・・お、お父さん・・・ッ」

ずるい。ずるいずるいずるい。
最後の最後で父親に戻るなんてずるすぎる。
・・・・・・これじゃあ、恨めない・・・。

涙を振り払い、父の背を追いかけよう。
この気持ちを伝えなければならない。
あんな最後じゃ悲しすぎるから。


脱げかけのローファーを脱ぎ捨てて、ストッキングのまま立ち上がる。
せめて、後姿だけでもっ!

それが私の最後の思考。


気が付いたら、赤い地面の下で横倒しになった世界で小さく遠くなった父の背中を眺め続けていた。

「あの人はもう帰らない。
 私としましては、機密にもっとも近づいていた貴方を始末することで任務は完了です。
 今までありがとうございました。」

空中から聞こえてくるそんな声を聞きながら、私の意識は闇に落ちた。



【オーリス・ゲイズ防衛長官秘書 ナンバーズ・ドゥーエの暗殺により死亡】



    ◆



――なのは 聖王の間



『陛下のママを殺したわるーい悪魔がそこにいます。
 あの悪魔を殺したら、きっと陛下のママも帰ってきますよ』

「・・・ティアナママ。帰ってくるの・・・?」


あの戦闘機人の言葉とコマンドでヴィヴィオの身体が変化していく。
そして、最後にはスバルや・・・・・・ティアナと同じぐらいの少女になっていた。
これが、聖王の鎧?いや、レリックの作用!


「あなたが・・・・・・ママを殺したの・・・?」

「違うよヴィヴィオっ!私だよ、なのはママだよ!」

「・・・・・・ひっ、違う・・・。私のママはティアナママだけ・・・。
 あなたなんかママじゃないっ!」

「はっ・・・・・・それは・・・っ」

「・・・ティアナママを・・・・・・返してっ!」


膨れ上がる魔力。
まさかここまでヴィヴィオが魔力を内包しているだなんてっ!
それにあの娘、きっと私が認識できていない。
今、ヴィヴィオのママはティアナだけなんだ・・・。


ティアナを失ったときの光景が蘇る。
ヴィヴィオを命を捨ててまで護ったティアナ。
私の教え子で・・・・・・初めての殉職者。

本当にあと少しで助けられていた。
前日に一時間早く寝ていれば・・・、出撃前の講座の最中に一度休憩を入れていれば・・・コンディションは違ったかもしれない。
一秒に足らない時間が、一人の命を奪い、一人に大怪我を負わせ、そしてまた今、一人の女の子の運命を作用する要因となっている。
もう、あんな・・・目の前で落下していくヘリなんか見たくはないからっ!

絶対にヴィヴィオは助ける。
ティアナが護った命を失わせないっ!
だから、お願いティアナ。力を貸して。

それは都合のいい解釈。
ティアナが力を貸してくれるとは限らない。
むしろ私を恨んでいると思うの。
それでもいい。
どうかヴィヴィオを助ける間だけでいいから、お願いティアナァッ!



「レイジングハートッ、ブラスターリミットⅡ!」

「・・・ティアナ、ママを・・・返してぇぇぇぇぇぇっ!!」





螺旋を描く桃色の虹色の魔力。


悲劇は未だ終わる気配を見せない・・・・・・。














あとがき

実はEND8は今回と次回の話を入れて完成となります。
本筋としてはティアナママが軸だったので余計なものは極力省いた結果でした。

後半は出来るだけ早く投稿します。
ネタは鮮度が命と言いますしね!

けれど仕入れたらすぐに投稿してしまいたくなるのもまた人情なのです・・・



[10626] END8 拡張ぱわーうpキット 中編 也。
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/09/10 01:24
――ゼスト 廃棄区画




「いつ・・・ま、で・・・・・・そう・・・している・・・つもりだ・・・・・・っ」

・・・ペチン。


それは弱弱しい拳だった。
胸を我が槍に貫かれた状態で動けただけでも僥倖なのだろう。
避ける必要も無い最期のあがき。

だが想いが詰まっていた。
自らを見失っていた俺の目を覚ますには十分なほどの。



「ゼスト・・・俺はっ・・・・・・俺は・・・・・・」

崩れ落ちようとするレジアスの身体を抱きとめる。

ああ・・・・・・もうこの死は覆らない。
俺がこの手で殺したのだ。

心臓を完全に刺し貫かれたレジアスはあと数秒で息を止めるだろう。
俺にはただ伸ばされたレジアスの手を取ることしか出来なかった。

「俺は・・・お前のようになりたかった・・・・・・強く・・・正しく・・・・・・。」

そんなことはない。
俺は迷ってばかりだ。
そしていつも・・・間に合わない。
今このときのように・・・。

「本当に強いのはお前だ・・・っ」

このときになって痛感する。
魔導師としての強さでもなく、局員としての強さでもない。
危険を承知で踏み込むことの出来る強さ。
人としての強さがお前の強さだ。

「・・・・・・馬鹿・・・者・・・が・・・・・・。」

薄く笑ったかと思うとレジアスの腕から力が抜けていった。

「・・・・・・レジアス。」

最期に何を思ったのだお前は?
どうして笑って逝けたのだ・・・。
臆病者の俺にはとうとう解らなかった。






「・・・・・・だ、旦那。」

「・・・ゼスト。」


槍を抜きレジアスの亡骸を横たえたところで、ルーテシアとアギトから声が発せられた。
おそらく半信半疑なのだろう。
現に俺は少女とレジアスを目の前で殺し、先ほどまでガリューと騎士の少年と追い詰めていたのだから。
ガリューと少年は常に臨戦態勢を解く気配を見せずに、こちらを警戒し続けている。
そして少年の目に宿るは涙と憎しみだ。

「旦那、旦那なんだよな?」

探るような声。
それに頷くとアギトの表情は目に見えて明るくなる。


「旦那ぁ~~~~!」

「来るな!!」

こちらへ来ようとするアギトを一喝する。

「どっ、どうしてだよ?!」

「先ほど槍に触れたときに解った。
 俺の洗脳は一時的に克服しているに過ぎん。
 時が来ればまた活性化する。」

そして再び自分を取り戻すことはないだろう。


「・・・ゼスト・・・。」

ルーテシアは聡いな。
おそらく俺が考えてることを理解したのだろう。
ルーテシアを助け出すという役目はもう意味を為さない。
そして、スカリエッティを止めるまでに意識が持ちはしないだろう。
俺は存在するだけで被害を出す可能性が高い。


「・・・アギト、俺を討ってくれ。」

「なんで、なんでだよ!?
 何か他に方法があるかもしれないだろう!」

「・・・・・・もう、俺の為すべきことは・・・・・・一つだけだ。」

無手の構えを取る。
クアットロの言によると俺の身体はもうぼろぼろで手を加えると崩れ落ちるほどだと言う。
おそらく洗脳は槍を通して行われたのだろう。



「駄目です!
 あなたは死なせません。生きて罪を償ってもらいます!」

騎士の少年であった。
目を腫らし、それでもまっすぐこちらを見据えている。

「・・・少年。俺が憎くは無いか?
 仲間を殺した俺を、自らの手で討ちたくは無いか?」

「っ?!」

「・・・・・・仲間の恨みをその腕で晴らせ。
 お前にはその権利がある。」

少年は最初戸惑っていたようだが、少女の亡骸に視線をやりふっきれた表情を浮かべる。

「・・・・・・それでもっ!
 キャロはそんなことは望んでいない!
 きっとあなたに罪を償ってもらって、生きて欲しいって思うはずです。
 あなたはルーやアギトにとって大切な人だからっ!」


まっすぐな瞳をしている。
おそらくいい騎士になるだろう。

「・・・少年、覚えておけ。
 騎士とは自らの正義と自らの弱さに戦い続ける者のことだ。」

俺は自らの弱さに負けた。
友を信じられずに、己を信じられずに、理由をつけて諦めていた。
そして未だ未練にまみれた亡霊だ。

そうなってくれるな。


「アギトっ!」

「判ったよ旦那っ、ユニゾン・イン!」

戸惑う少年にアギトがユニゾンする。
白と赤のバリアジャケットが黒と紫に反転していき、髪も赤から象牙色へと変化する。

「アギト?!」

『・・・旦那は、旦那はもう長くもたねぇんだ。きっと裁判は成り立たない・・・。
 だから、・・・・・・せめて、騎士として誇りある最期をあげたいんだ。
 ・・・・・・頼むよ。』

言葉の途中に鼻を啜りあげる音が漏れてくる。
・・・すまん、アギト。

「ガリュー、あなたも。」

ガリューはその言葉に頷き武装を再び展開する。
ルーテシア、ガリュー。
お前達にも世話をかけてしまったな。

問答が幾度か続いたが少年もしぶしぶ納得し、こちらへ槍を構える。

「いいのか?」

「・・・判りません。あなたをここで倒してもいいのか・・・。
 だからこれから悩み続けます。
 答えなんか出ないかもしれませんけど、それでも自分が選んだ選択ですから。」


・・・・・・そうか。
俺やレジアスは、結論を急ぎすぎたからなのかもしれないな。
一度の出来事で自分と他者を縛り、それ以上考えることをしなかった。
イエスかノーかでしか相手を計れなかったのだ。


まさか、ここに至って気付けるとは思えなかった。
ならばもはや思い残すことは無いっ!









    夢を描いて未来を見つめたはずが
    いつの間にか随分と道を違えてしまった
    本当に守りたいものを守る
    ただそれだけのことの何と難しいことか

    いい空だな
    俺やレジアスが守りたかった世界
    間違えてもやりなおせばいい
    お前達は間違えることを恐れないで進んでくれ



【レジアス・ゲイズ中将 レリックウェポン・ゼストの攻撃により死亡】
【騎士ゼスト・グランガイツ 自らの危険性を認識しエリオらに討たれる】



    ◆



――ノーヴェ 廃棄区画 高架上


澄み渡るほどの青空。
あごの下を風が吹き抜けていく。
後頭部には暖かな段差。
そして視界の上部を占める豊かな胸部装甲。

目が覚めたとき、あたしはⅩⅢ番目に膝枕されていた。
視界横にめぐらすとハチマキがいる。
あたしと同じようにⅩⅢ番の膝をマクラに穏やかな表情で眠っていた。
身体はもう指一本動かない。
あたしはようやくこの状況を悟った。




ああ、あたしは負けたのか。
チンク姉の仇を取らないといけなかったのに。
そのためにⅩⅢ番目も引っ張り出して二対一で挑んだのに。
チンク姉の痛さを味あわせるために、ⅩⅢ番目のデータから得た振動破砕を左腕に組み込んだと言うのに・・・・・・。

それでも負けた。



目頭が熱くなってくる。
どうして、どうしてなんだ?!
チンク姉の葬儀で絶対に仇を取るって誓った。
あたしの命をかけてこいつを殺さなきゃいけなかったのに、こいつは生きてあたしも生かされ続けている。


・・・ごめんなさい。
・・・ごめんなさい、チンク姉・・・。

涙腺が決壊する。
必死で涙があふれ出さないように目をつぶるのに、頬を伝う熱い水滴は量を増していく。
泣くってことは負けを認めるってことだから、絶対に負けたくなんかなかったのに・・・。
涙は止まらず呼吸も不規則にえづき始めていく。
結局口をへの字にしても止まらずに、あたしはせめて泣き叫ぶに至るのを必死にこらえることしか出来なかった。

それから十数秒が流れただろうか。
ふわりと目蓋の上に暖かな掌が載せられた。丁度、涙を隠すようにだ。
・・・・・・ⅩⅢ番?
不思議と穏やかな、暖かで何もかもさらけ出してしまいそうな気持ちになる。
今まで覚えのない感情に戸惑っていると、幼子に語りかけるようにゆっくりと言葉が発せられた


「・・・・・・あのねスバル、この子が言ってたの。」

な、何を・・・?

「ちゃんと判りたいって。
 あなたがお姉さんのことを、どれぐらい大切に思っていたのかを。
 ちゃんと自分の犯してしまったことと向き合いたいって言ってたの・・・。」

なっ?!
「そ、そんなことをしても、しても・・・チンク姉は帰ってこないっ!
 今更善人ぶるなっ!」

「・・・・・・。そうかもね。」

目蓋を手で隠されたまま、ゆっくりと頭を撫でられる。
忌々しいことにチンク姉のことを思い出してしまった。

「・・・この子の友達も、この間の事故で死んでるの。
 ずっと悩んでた。本当はその友達を助けられたんじゃないかって・・・。」

どこかで聞いて覚えがある。
こいつらの中で一人犠牲者が出たって・・・・。
だ、だけど、だからってチンク姉が死んで言い訳がない!
あたしの大切な存在をこいつらが殺したってことには変わりがないんだ!


「・・・・・・だから、いっしょに考えようって。
 どうすればよかったのか。どうすれば大切な人を失わずにすんだのか・・・。
 きっと何か方法があったはずだからって・・・。」

慈しみに溢れた言葉。
そんなこと今更判ったところで何になるというのか。
頭ではそう結論付けているのに、心の方が大きく揺れる。

「・・・チンク姉って言うんだ。
 チンク姉が死んじゃったからあたし・・・・・・」

気付けば懺悔する様にしゃべりだしていた。
泣きながら・・・・・・えずきながら・・・・・・。

「いいよ、思ってること、溜め込んでたモノを全部しゃべって。」




あたしは救助隊が来るまでⅩⅢ番目、いやギンガ・ナカジマにチンク姉との思い出を語り続けた。
ギンガは時々相槌を打ちながら聞き続けた。
その度にあたしは、チンク姉を好きだったことともう二度と会えないことを再確認して泣いてしまう。
そんなあたしの頭をただギンガは撫で続けてくれた。



絶対に判り合える事なんて無いと思っていた。
だから戦って奪うしかないんだと思っていた。
なのにこうしてギンガはチンク姉のことを判ろうとしてくれている。
ハチマキも同じなんだろうか?

あたしはハチマキ、スバルに勝ってどうしたかったのかもう判らなくなってしまっていた。
ただ、殺すだけじゃきっと足りない。
謝らせたかった?――口だけの謝罪なんかいらつくだけだ。
あたしは一体何のために戦ったんだ?

もやもやとした想い。
いらつく。そして不安定になる。
そして気付いた。
こいつも仲間を失ったときは同じ気持ちだったんじゃないかと。




こいつが目を覚ましたときに最初に尋ねる事ができた。
決してチンク姉のことを許すつもりはないけど、こいつは多分あたしよりも一つ先のものを見たんだ。

どこまでも続く青空の下、あたしはもう一度チンク姉を思い出し泣いた。



【スバル・ナカジマ二等陸士 JS事件から半年後、戦闘の後遺症により他界する】
【ギンガ・ナカジマ陸曹 スバル・ナカジマ二等陸士に保護される】
【ナンバーズⅨ ノーヴェ スバル・ナカジマ二等陸士に保護される】



    ◆




――ルキノ アースラ操舵室



『次元航行部隊の到着まであと179分。
 巨大船の軌道ポイント到着まで、・・・・・・26分。』

シャーリーさんからの通信は機動六課の面々に絶望を届けた。
既に幾人も戦死者も出し、親友のアルトの反応もロストしている。生存は絶望的だろう。
つい先ほど会話してた人間に、もう会えない。
それでも身近に迫る死への恐怖を必死にやり過ごしながらここまで来ていたんだ。

約二時間半。

その事実は私達の心を折るには過剰すぎた。
足元がぐらつく感覚。
一体、何故今まで頑張ってきたのだろうか?
多分、皆同じ気持ちだった。


長い長い沈黙の後に、私の下に秘匿回線が届いた。
・・・・・・グリフィスさん?

そのとき私は正直回線を開くのが億劫になっていた。
もう何をしても間に合わない。
二時間半もあれば、あの巨大船は地上に主砲を発射し悠々と降伏勧告まで行うことが出来る。
ミッド政府がどのような結論を下すかはわからないが、一つだけ判ることがある。

私達管理局が負けたということだ。
大勢の犠牲を出しながらも、大切なモノを護れなかった・・・・・・。


「・・・ルキノです。どうしましたか?」

『ルキノ、部隊長との協議によりある決定が為されました。
 落ち着いて聞いてください。
 我々はこれより×××××によって×××××を××××し××××しますっ』


だから、グリフィスさんから伝えられた事を最初は理解できなかった。
ありえない。
常識外の一手。


「無理です!」

即座にそう返した。

『・・・・・・・・・。
 もうそれしか方法はありません。』

事も無げにグリフィスさんは言う。
何故だろう?普段のグリフィスさんなら絶対にそんな案など納得しないのに。


『・・・・・・いいですか、ルキノ。
 ミッドチルダ100億の人間を護ることが出来るのは僕らだけなんです。
 それだけじゃない、ここであの巨大船が軌道ポイントに到達してしまえば次元世界全体の平和に関わる事態になるんだ。』

そうかもしれない。そうかもしれないけど・・・・・・っ。
納得できない私に対しグリフィスさんは、いつものように冷静に言葉を紡いでいく。
こんな時にまでなんでそこまで冷静に振舞えるんだろう?
そう思うと苛付きが募っていく。
度重なる戦場のストレスと絶望、間髪入れずの無茶な要求を味わい、思わず声を荒らげてしまった。





「だからって、無茶すぎます!
 アースラで突貫し、敵主砲を物理的に破壊するだなんてっ!!!!!」

『これは決定事項だ!ルキノ・リリエ二等陸士ッ!!!!』





普段聞くことのないグリフィスさんの大声に心臓が飛び出しそうになる。
それでもやはり納得は出来ない。


あの巨大船の装甲はアースラのそれを遥かに上回る。
質量的にも構造的にも劣るこのアースラでは主砲にダメージを与えることは出来ない。
加えて、あのガジェット群をどうやって突破するかも課題だ。
アースラは退役が決定しているので、既にアルカンシェルは使えない。
このままではただ、アースラを犠牲にするだけだと必死に説得した。

グリフィスさんも考え込み、撤回してくれるかと思ったとき回線に割り込みがかかった。



『ならば、その道は我々が築こうっ!』


この声は・・・シグナム副隊長?!
正面モニターにはアースラ前面でこちらに背を向けたシグナムさんが表示される。
けれど、普段のともリィン曹長とユニゾンしたときとも違う、艶やかな紫色の騎士甲冑に四本の炎の翼。


「シグナム、副隊長・・・・・・そのお姿は・・・・・・?!」


『心強い増援が来てくれた。
 グリフィスッ!』

『はい。』

『我々がアースラの衝角(ラム)となって突入口を造る。
 最大船速で遅れるなっ!』

『わかりました。・・・・・・どうか頼みます。御武運を』


敬礼をするグリフィスさん。
それに頷いたシグナム副隊長は、見たこともないほどの炎の大剣を顕現し視界内に移るガジェットを消滅させる。


『行くぞ、アースラッ!!』


加速していくシグナム副隊長。
私は思わず操舵席の手すりに手を這わす。

子供の頃の憧れだった。
初めてこの艦に配属されたときは夢のようだった。
そして数日前からこの席に座っている。

蘇る思い出の数々。
けれど、そこにいたのは私とアースラだけじゃなかった。
親友、同僚、上司、後輩・・・。
様々な人たちとの思い出が詰まっている。
今この時も、その人たちは命がけで戦ってるんだ。

幼い日々。
私は女の子なのに次元航行艦に憧れた変な娘だった。
きっかけはニュースで見たとっても綺麗な管理局の女性艦長。
勿論メカメカしい艦のかっこよさにもあったけれど、あんな綺麗な人が私達を護ってるんだと驚いて夢中になって調べていくうちに、いつのまにか私もあんな風になりたいと思っていた。

そう、この艦は誰かを護るための船だ。
ここで動かずに博物館に飾られることをこの艦は望んじゃいない。

コンソールに手を置く。

最後の仕事、一緒に頑張ろうね。




聖女の名を冠する船は最後の航海を開始する。
船首には炎の精霊を灯火に、背には港たる母なる大地。
地上の護り手達はそれを見上げ次々と左手を目線に掲げていく。
そこにあるのは老兵に対する純粋な感謝と哀悼であった。

歴戦の老婆は朽ち果て行く姥捨て山から華々しき戦場に今一度蘇る。
自らの死に場所はここだと言わんばかりに・・・・・・




   ◆



――なのは  ゆりかご 玉座の間



ヴィヴィオは立ち上がる。自分の力で。
対して私はレイジングハートを支えに立ち続けるのがやっとだった。

「・・・なのはママ?」

かけよるヴィヴィオの頭を撫でる。
あまりゆっくりもしていられない、上昇が減速したといってもまだ艦隊の到着時間には大きな時間差が存在した。
これをなんとしても埋めないと、ミッド全てが人質に取られてしまう。


「・・・いい?ヴィヴィオ。
 この道をまっすぐ進めば絶対に誰かが助けに来てくれる。
 一人で行けるよね?」

ブラスタービットの基点をヴィヴィオに変更する。
道案内と護衛ならこの子達だけでも大丈夫だろう。

「なのはママも一緒じゃないとダメっ!」

スカートの端をヴィヴィオに掴まれてしまった。
不安げな表情。
ヴィヴィオが目覚めて始めて出会ったときと同じだ。
悟られてはいけない。
私は彼女の頭を撫でて意識的に笑顔を作る。

「ごめんね。
 なのはママはもうちょっとだけお仕事をすませないといけないの。
 すぐに追い付くからね♪」

「・・・・・・でも。」

「大丈夫。ヴィヴィオは強い子だもん。
 ティアナママと同じだね。」

私は何か言いかけようとするヴィヴィオを笑顔で切り捨てた。
それは私が小さな頃からずっと言われ続けてきた言葉。
こう言えば、『いい子』は絶対に逆らえない。

・・・・・・ずるいなぁ、大人って。
親の立場に立ってつくづく実感する。
・・・・・・ごめんね。



見えなくなるまでヴィヴィオの背を見送ったところで、支えにしていたレイジングハートの柄が地面を滑った。
踏みとどまることも出来ずに、前のめりに倒れてしまう。
よくヴィヴィオが見えなくなるまで持った。思わずそう自画自賛してしまう。

自分の身体が限界を超えていたことはよく判っていた。
ブラスターシステムの完全開放。
あの事故以来、歪に繕われた私のリンカーコアでは制御しきれないことは明白だった。

あはは、フェイトちゃんにあんなに釘を刺されてたのになぁ。
きっとすんごい怒られちゃうんだろうね。
フェイトちゃんだけじゃない、はやてちゃんやヴィータちゃんにシャマル先生。もしかしたら、教え子達にも怒られてしまうかもしれない。
教官が教え子に怒られるなんて駄目だよね。
頭を抱える事態のはずなのに、思わず笑いがこみ上げてくる。

・・・早く、怒られたいの。




腕を突っ張らせて、うつ伏せから仰向けに転がる。
ちょっと呼吸が楽になったかな?
少し身体を休めたら、あの戦闘機人を逮捕してゆりかごの上昇を完全に止める方法を引き出さないと。
ヴィヴィオは助け出せたけど、それで帰る地上が無くなってたら意味は無い。



ヴィヴィオとの戦いの最中、何度も意識を失いそうになるたびに浮かんできた教え子の姿。
強くて不器用な心の持ち主。
教え子の中でも一番出来が悪くて、だからこそ私の教えられること全てを伝授して最高の弟子になるはずだった。

ヴィヴィオの何度も何度も涙ながらに訴えていた「ママを返して」という言葉が胸に突き刺さる。
目をそむけていたことを自覚するしかなかった。
ティアナを殺したのは自分だと。
けど、だからこそここでヴィヴィオを失うわけにはいかない。
そのティアナが命を賭して護ったヴィヴィオをここで失っては、ティアナが無駄死にと称されてしまう。
それだけは絶対に許されない。


犯した過ちは消えることはない。
生き続ける限り背負い続ける。
罪の重さと戦い続けるしかない。
だから、ティアナ・・・私を許さないで。
最後まで諦めずに、生き抜いて見せるから・・・・・・それまで・・・・・・っ!


私は虚空に浮かぶティアナの幻影を眺めながら、しばしの眠りに落ちた。





あとがき

遅れてごめん。さらに後編じゃなくてごめん。
今、最終調整中です。書きたいシーンがありすぎるのですが、全部書いてると本編越えそうな感じにorz



[10626] END8 拡張ぱわーうpキット 後編 未完也。
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/10/07 07:48
F――アギト ゆりかご外壁部



「ウォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


激しく上がる火花。
金属の切断音が腕を伝う。
振動を無理やり押さえ込み、身の丈五倍はあろう炎の大剣を支え続ける。
一瞬でも気を抜けば、その瞬間力の均衡は偏り弾き飛ばされてしまうだろう。
圧倒的な力と質量差。
あたしたちと聖王のゆりかごの間には、埋めることの出来ない力の差が存在していた。


くそっくそっ、どうしてだよ!?
あまりにも理不尽な現実に涙が溢れてくる。
だがそのことが幸運だった。
涙を拭った先の視界に高速で向かってくる、いやあたし達の方が高速で移動している先にガジェットが存在したからだ。
この速度で激突すればお互いにばらばらになることは明白だった。

「シグナムッ!避けろぉぉぉぉ!」

「ハァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

警告を告げるがシグナムに声は届かない。
目の前のゆりかごにしか意識が向いていない。このブレードハッピーがっ!
あたしは背中の翼の一本に魔力を注ぎ込み、無理やり機動を変える。
次の瞬間、強烈なGが身体に掛かり景色は高速で後ろに流れていった。
途中、離脱し切れずにゆりかご甲板に数度頭や手足、肩口をぶつけた痕が痛む。
それでもなんとか姿勢制御を行い、十数回転の後にやっと静止した。


「アギトっ、何故離脱などした?!」

「それはこっちのセリフだっ!
 後先考えずに突っ込みやがって、死ぬところだったんだぞ!」

「その程度の覚悟がなくてはあれは斬れまい・・・。」

不満の声をあげるシグナムにあたしは怒鳴り返す。
全く何を考えているんだ?
死んじゃったら全部御終いだって言うのに、命を粗末にするな!
何度もそう声を上げるが、シグナムはそれを聞き流し背中を向けているゆりかごに対してその剣を構えた。

なんで騎士って奴はどいつもこいつも自分の命を軽く扱うんだよ?!
ゼストの旦那もそうだった。
自分の身体を労わるってことを知らずにずっとあたし達に心配をかけ続けて、結局はあたしやルーテシアを護る為に死んでいってしまった。
旦那の気持ちは解らないでもない。
あれがあのとき取れるベストの選択だったことも事実だ。
けど、騎士って生き物は自分が死んだ後に残された者のことに鈍感すぎる!
あたしはそれが堪らなく悲しいし、悔しいんだ。

「・・・・・・。
 アギト、ユニゾンを解け。」

突然、シグナムからそう声がかけられた。
ど、どういうつもりだよ?いきなり・・・。
そう思ったが、言葉の端から感じる言い知れない重圧を感じ、ユニゾンを解かずにはいられなかった。
シグナムは私が出たことを確認して数歩分の距離を前進し、背中を向ける。

「侵入口は私一人で造ろう。
 お前まで分の悪い賭けに挑む必要は無かろう。」

「な、なんでそうなるんだよ!
 確かに何度もトライして駄目だったけど、二人で無理なら一人じゃもっと無理だろ?!」

「私は騎士だ。
 全てを捨ててでも主の命を実行するのが私の務めである。
 だが、お前を託した騎士ゼストはそのようなことを望んではいないだろう。」

「だったら、シグナムはどうなんだ?!
 あんただって、あんたの主だってあんたに・・・死、死んで欲しいとは思ってないはずだ!」

そうだよ。
誰だって自分から死にたいと思っている奴なんか、一部の自殺志願者以外いない。
なのになんでシグナムもゼストの旦那も、もっと自分を大切にしないんだ!

「・・・・・・『ベルカの騎士は三度死ぬ』。この言葉を知っているか?」

聞いたことが言葉だった。
あたしは無言で首を振る。


「一度目は実際に死んだときだ。肉体を失ったとき、ベルカの騎士は最初の死を迎える。
 二度目は死後、その名を汚されたときだ。名誉を失ったとき、ベルカの騎士は二度目の死を迎える。
 最後の死はその名、その存在を人々に忘れ去られたときだ。記憶も語り手も失われた騎士は真の死を迎える・・・・・・。

 言っていることは解るな?」


やめてくれよ。
そんな寂しい笑顔をこちらへ向けないでくれ。
止められなくなっちゃうじゃないか。

「人はいずれ死ぬ。それは騎士とて例外ではない。
 故に騎士はその生き様で語るのだ。」

お前のように我らのために泣いてくれる人間がいる。だから我らは死地に赴くことが出来るのだ。
最後にそう付け加えられた。

旦那も同じ気持ちだったんだろうか?
自らの手で引導を渡した恩人の顔を思い出す。
旦那は最後に笑っていた。
満足して死ねたんだろうか・・・?

いや、違う。
旦那はまだ生きている。
あたしやルールーの胸の中で。
旦那が生きているかどうか、誇りある騎士だったかどうかはあたしの生き様で判断されるんだ。
なら、恩人の名を汚すわけにはいかない。
烈火の剣精が大恩人、騎士ゼストの名はあたしが語り継ぐっ!


「待てよ、シグナムっ」

「なんだ?・・・・・・っ!アギト?」

「ユニゾン、イン!」

困惑するシグナムに対し、あたしは笑う。

「へへっ、一人よりも二人の方が生き残る確率が高いだろ?」

「アギト・・・・・・感謝する。」

ああ、解る。
シグナムの心が高揚していくのが。
あたしとシグナムの鼓動がしだいに重なっていく。
そして、完全に重なった時にかつてないほどの力を感じた。

「っ?!・・・・・・これは・・・」

「ああ、かつて私達は共に戦った時代があるのかもしれないな・・・。」

次々へと記憶野に収められていた、戦術が開放されていく。
凄い・・・・・・これなら本当に、あのゆりかごをぶった切ることも可能かもしれない。





背中でアフターバーナーを点火しゆりかご正面へと回り込んだ。
眼下には悠然と向かってくる聖王のゆりかご。
きっと、時間的にもうラストチャンスだろう。
今回を失敗したら、アースラは突入のタイミングを失ってしまう。

危機的な状況。
だが、もうあたしの心に怯えは無い。
死ぬことが恐いわけではない。もっと大切なものに気付いたからだ。

「アギト・・・。」

「なんだ、シグナム。」

「私は元々はただの守護騎士プログラムだ。
 ただ命令に従うだけの存在だった我らだが、主を得て仲間を得て随分と変わった。」

「・・・・・・。」

「・・・知り合いも増え、大切な者も増えた。
 そしてその者達にも友人や家族、大切な者たちが存在する。
 我らは人と人で繋がっているんだ。」

「・・・ああ、あたしも旦那やルールーと繋がっている。」

「誰かを失うということは、めぐり巡って自分の大切な者が悲しむということだ。
 そして、アレはその災厄の象徴だ。」

「ああ、絶対に許さねぇ。」

手に顕現させるは炎の大剣。
駄目だ、こんなものではまだまだ足りない。
もっと、もっとだ。
開放されていく術式に検索をかける。
より強く、より大きな力を求めて。
そして、記憶の底の底でソレを見つけた。

『自決術式』

自らの命と引き換えにかつてないほどの力を引き出す術式。
例え死に瀕してでも名誉を護るための力だ。

「アギト、構わぬ。やってくれ。」

ああ、そうだったな。
お前はそういう奴だった。だったら、あたしも付き合うぜっと!
『術式展開』
制御しきれないほどの炎が身体の中心部から上がっていく。
それを整流させるのは私の役目だ。

「シグナムッ!」

「ああ、判っている!」

こちらの意図を理解したのかシグナムは腕を天に掲げる。
炎は腕から吹き上がり、やがて炎の剣へと収束していく。
だが、これでもまだだ。
命をもっと燃やすんだ。
より太く・・・より長く・・・・・・どこまでも伸びていく炎の柱はアースラの全長を越え、遂にはゆりかごの全長へと迫る。

天を割らんばかりのこの炎を見てそれが剣だと思う者はいないだろう。
だが、それは確かに剣であった。
何故ならその剣の振るい手であるあたし達がそう証明するのだから。


「いくぞ、アギトッ!」

「ああ、喰らいやがれぇぇぇぇぇっ!!!」






        『天地一閃』




 

その日、不安気な面持ちで空を見上げ続けていた市民達は急に空が暗くなったことに驚きを隠せなかった。
だが曇天の下、災厄の象徴たる巨大船に炎の大剣が振り下ろされたとき、皆が皆心に奮い立つものを感じたという。





――はは、あたしもやればできるじゃないか。

ゆりかご上部を縦に焼き裂いた跡を宙を舞いながら確認する。
これであたしらの名も語り継がれるのかな・・・。
なぁ、シグナム。・・・・・・ゼストの旦那・・・・・・。

突貫をかけるアースラを横目に見ながら、アギトはそんなことを思った。


【融合騎アギト ゆりかご強襲任務後反応をロスト。行方不明】



   ◆


――ヴィータ ゆりかご駆動炉





「ひどい様だな。」

「シグナムほどじゃねーよ。」

あたしとシグナムはそう言い合い、血反吐を吐きながら笑いあった。
ゆりかごの駆動炉の連絡通路。そこに二人して大の字に寝転がってだ。


それは突入してから一時間ほど経過したときだった。
この船が大きく揺れたかと思うと、壁天井が割れその隙間からシグナムはポーンと降って来た。
一体何の冗談かと思う。
鈍い音を立てながらゴロゴロと傍らまで転がって来る様は、とてもシグナムだとは思えなかった。
だがそれは間違いなく我らヴォルケンリッターの将だった。


「手首から先はどこに落としてきた?
 いくら六課が遺失物を扱ってるからって、守護騎士プログラムは届けられてねーです。
 それにその格好はなんだ?」

「なに、通行料として喰われただけだ。」

黒こげとなりボロボロと崩れ落ちる腕を掲げて見せられる。
誇らしげに笑う様を見て思わず呆れた。

「あと、この姿はだな・・・
 無茶に付き合ってくれる戦友を一人得た。お前達のようにな・・・。」

あの騎士に付き従っていた融合騎が思い出される。
そこにどんな経緯がそこにあったかは解らない。
だが、シグナムがそう話すってことはあたし達の仲間になったってことだ。


「今はどうしてるんだ?」

無言で首を振った。
・・・・・・そういうことか。

「・・・どんなに感謝してもしきれんぐらいだ。」

ポッカリと開いた天井を見上げてそう言う。
随分とスケールの大きい奴だったんだな。
気が合いそうなだけに、残念な気持ちは募る。

「・・・ちゃんと話とかしたかったんだけどな。」

「縁があれば、また機会はあるだろう。」

「そうだな。」

それがいつになるかは判らない。
来世になるかそのまた来世になるか。




「お前の方こそどうだ?」

「シグナムほど派手じゃねぇよ。
 与えられた仕事をきっちりこなしてるだけだ。」

頭を起こして、連絡路の先の赤く光る巨大な正八面体の水晶を見据える。
砕け散ったグラーフアイゼン。満身創痍で立ち上がることすら出来ない身体。
・・・それでも。

「あたしとアイゼンの一番の得意分野、知ってんだろ?」

未だ健在な駆動炉。
だがあたしが見ているのはそこじゃない。
その表面に浮かぶ一つの黒点だった。

「破壊と粉砕か。」

その一点からピシリと亀裂が入る。
一つ、また一つと放射状に広がっていく黒線。
やっと始まったか。
亀裂が全体に廻りきった次の瞬間、駆動炉は無数の星の屑となって弾ける。


「ざまーみやがれ」

なのは、だから言ったろ?
鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン。
砕けねぇ物なんぞ、この世にねぇ・・・てな。
だけどわりぃ、あたしはここまでみてーだ。
助けに行けなくてすまん・・・・・・。



あたしとシグナムの身体から光の粒子が漏れ出てくる。
脳裏には初代リィンの最期が思い出された。
もう持ちそうもねーな。

「なぁ、シグナム。
 あたしら一生懸命生きれたよな。」

「ああ。」

「騎士として護らなきゃならねーもん護って、
 人間としても限りある生を使い切ることができた。
 リィンに感謝しねーとな。」

「フッ、そうだな。
 闇の書の一部だった頃には思いつきもしないほど、この十一年は充実していた。」

「だからあたし、あんま思い残すことねーんだ。
 そりゃはやてのことは心配だけど、今のはやてなら何だって乗り越えられるだろうってな。」

「・・・・・・お前もか。」

「おう。
 なんでだろーな。からっぽなのに、すっごい一杯詰まってる。そんな気分なんだよ。」

「私に文学的表現を求めるな。だが、その気持ちは解らないでもない。」

視線は交わさない。
きっとあたし達は同じ気持ちだってことは知っているから。



「じゃあな、シグナム。」

「ああ、まただ。ヴィータ。」



【八神ヴィータ三等空尉 駆動炉を破壊後、消滅】
【八神シグナム二等空尉 ゆりかご強襲揚陸任務により消滅】



   ◆


――グリフィス アースラブリッジ



僕は静まりかえったブリッジで一息ついた。

誰一人いない空間。
僕はこの小さな国の王様だった。


ヴィヴィオが助けられても、駆動炉が破壊されてもこの巨大船は速度を落とさずに上昇し続けた。
明らかになった予備の非魔法エネルギーによる駆動炉の存在。
僕達はある一つの方法により、それの破壊を試みる。
アースラのエンジンを臨界まであげ自壊させる。ありていに言うと自爆だ。
そしてその認証のために、八神部隊長か僕が残る必要があった。


艦長席に深く腰掛ける。

後悔はしていない。
誰が考えても残るべきは僕だった。
むしろ嬉しかったといってもいい。
ずっと部隊長に付き従っていた僕にとって、六課では常に自分の存在価値を疑問視し続けなければいけなかった。

オーバーSランクが統べる肝いりの部隊。
常識から考えればトップが若い人間なら、その副官は例え魔導師でなくともベテランが務めるべきだった。
だが、実際に採用されたのは経験不足である僕だ。
六課のその性質上、身内で固めるのは仕方なかったのかもしれないが、これでは誰でも良かったと言われてるような気がした。
だからこそ、僕は六課内で精力的に働いた。
出動や出張の多い部隊長に代わり、六課を廻して来たのは僕だと自負できる。
だが、やはり部隊長の付属パーツのようにしか自分を見れなかった。
例え僕がいなくなったとしても、組織としては都合のいい人材がいなくなっただけで、代わりを見つけてくれば事足りるのだから。


だからこそ、この状況は待ち望んだものだった。
この任務は部隊長では出来ない。
僕が適正だったと言うことでやっと自分で自分を認められるような気がしたのだ。

だけど一つだけ気がかりがあるとすれば、彼女の泣き顔が脳裏から離れないことだ・・・・・・。


残りわずかな時間を感慨に耽っていると、通信が入った。

『・・・・・・よぉ、ご機嫌いかがですか?部隊長補佐殿』

グランセニック陸曹だった。
彼はこんな状況にも関わらず、いつものように笑みを漏らしていた。

「そうですね、悪くはありませんよ。
 それよりどうかしたのですか?何か問題でも?」

彼は今ヘリで他のルキノや部隊長達と共に脱出の手はずを整えているはずだ。

『なぁに、こちらの準備は整ったのでね。
 女を二人も泣かせた色男の顔でも最期に見ておこうかと思いまして。
 いやはや、勲章ですねぇ。』

ニヤニヤとこちらの顔を見る陸曹の視線は僕の頬に集中している。
一体何を?そう思い、送信されてる映像をこちらにも表示してみるとそれは一目瞭然だった。

頬の片方には真っ赤なもみじ。そしてそのもう片方には真っ赤なルージュの跡がある。
それぞれ、ルキノとシャーリーの仕業だ。

思わず溜息が出てしまう。
最期の瞬間だというのに中々の脱力具合だ。

『おっと、消したらいけませんよ。
 冥府の門の鬼もそんな顔なら見逃してくれるかもしれませんしね。』

「そのまえに僕は父に張り倒されますよ。
 この親不孝者がってね。」

『まあそいつはしょうがないっすね。』

全く他人事だと思って・・・。
ふとグランセニック陸曹の額に汗が浮き出てるのに気付く。
彼は病院から直でこちらに合流したはずだ。
それに、先ほどからずっと右手が腹部に添えられたままだった。


「陸曹もしや、」

『・・・他の奴らには内緒っすよ?』

そう片目を瞑る陸曹。
そこにどんな想いがあるのかは判らない。
だが、彼なら彼女達を絶対に地上まで送り届けてくれるだろう。
その確信が出来た。

「ヴァイス・グランセニック陸曹。彼女達を頼みます。」

椅子から立ち上がり、敬礼する。
自分で言うのもなんだが、敬意と感謝。そして信頼からきた自然な行動だった。

『オーライ。
 勿論であります、部隊長補佐殿。』

敬礼を返す陸曹は決してその言葉を違えないだろう。
僕らは笑い合い通信を閉じた。

『男同士の約束』

ふとそんな言葉が浮かんでくる。
物語の中だけでしか成り立たないと思っていたが、そんなことはない。
今までそこまで信頼出来る人間に出会えなかっただけの話だ。
幼き日に読み聞かされた童話の登場人物、セリヌンティウスもこのような充実感に浸っていたのだろうか?



ヘリが離脱し、安全圏まで退避するまでの間自らの人生を振り返っていた。
自らの使命を見出し、尊敬できる上司、友人、愛する女性を護れた。
唯一心残りがあるとすれば、母を一人残していくことだけだ。

申し訳ありません、母さん。
お叱りはいずれ・・・・・・。


僕はゆっくりとアースラの『キングストン弁』を開いた。



【グリフィス・ロウラン准陸尉 アースラ自沈任務の為ゆりかごに残る。行方不明】



    ◆



――ヴァイス ヘリ操縦席



強化ガラス一枚を隔てた機外で、戦闘機人セインは下から上へ上昇していきあっという間に見えなくなってしまった。
俺は思わずコンソールを殴り、怒鳴っていた。

「あの大馬鹿野郎がっ!!
 姉妹が助かっても、お前が帰ってこなくちゃ意味が無いだろうが!」

すれ違い様に見えたあの満足気な笑みが気に食わない。
どうして諦めてしまったんだよ!



脱出直前に交わした世間話が脳裏に蘇ってくる。

『私はね、姉や妹達が無事ならそれでいいんだ。
 きっとドクターやほかの姉妹には恨まれると思う。だけどね、死んじゃったらそんなこと関係ない。
 逆に言うとね、生きてさえいれば仲直りする機会はいつだってあるんだ。』

そう湯気の出る紙パックのコーヒーを保持しながら、そいつは言う。
とんでもない力を持っていると聞かされていた戦闘機人だが、こうしている姿は同年代の少女とあまり違わない。そのことに多少なりともショックを受けた。

『だからあたしは絶対に陛下を、あんたたちがヴィヴィオって呼んでる子を地上へ送り届けないといけないんだ。
 そのための道が無いなら、あたしが造ってみせる。
 このセインさんと、ISディープダイバーでね。』


あのとき、アースラの強襲によって敵主砲を破壊することには成功したが、同様にアースラは離脱できないほどゆりかごの破片に埋もれてしまっている。
そして魔法を使えない状態の部隊長達は頼れない。
選択肢はヘリでの脱出しかなかった。
だが、それにも問題は存在する。
脱出経路だ。
アースラの脱出口は、ゆりかごとの衝突の際に半壊しておりヘリが通過できるだけのスペースはなかった。
ゆりかご内の通路が広いといっても、ヘリが飛び回るのには狭く何より脱出経路を探しているうちにヘリの限界高度を突破してしまうだろう。
そこへ現れたのがセインだった。 


セインの能力でヘリごとゆりかごをすり抜け離脱する。
まるで子どもの立てた絵空事だった。
だが、俺たちはその絵空事に賭けるしかなく、そしてアイツはそれを見事に達成した。
セイン自身が犠牲となって・・・・・・。

セインはIS発動するためには外側から視認した方が成功率は高く、そして今まで発動してきたものより、ヘリは遥かに大きく重いと言っていた。
その結果、誰もセインがヘリの外から能力を発動させることを止める者はいなかった。・・・・・・誰も止められなかったんだ。
一応はゆりかごからの離脱完了と同時に、ヘリ内に退避する手はずとなっていたが、結果は見てのとおりだ。



こうなることは判っていたはずだ、ヴァイス・グランセニック!
セインが背中に怪我を負っていたことも、見て見ぬ振りをしたのはお前だろうが!




肩に手を置かれる。
誰だ?
ルキノやシャーリーは、補佐殿との別れのときに眠らされている。ヴィヴィオも同様だ。

「・・・部隊長、なんですか?
 さっきのことでしたら大丈夫ですが・・・」

思わず怒鳴ったことを指摘されると思ったのだが、それは違った。


「私はもう何もできへん・・・だから、ヴァイス君。
 皆の命、あんたに預けたでっ!」


力強い言葉だ。
俺なんかよりも遥かに重い重圧の中、こうして部下を励ますことも出来る。
この人はどこか他人頼りな部分を感じていたが、ここに来て化けたらしい。
こういう上司の下でなら、部下は限界を超えた力を発揮できる。



「・・・勿論ですよ。俺はそのためにここに来たんですから。
 アイツに出来たことが俺に出来ないなんて先輩の名折れっすからね。」


眠り続けていた俺を叩き起こしたアルト・・・。
全く俺も現金なモンだぜ。
女の顔で目が覚めるなんてな。

せめてアイツの憧れた『先輩』でいてやらねえと。

それにアイツだけじゃない。
この事件はあまりに人死にが出過ぎている。
部隊長もそれに耐えてるんだ、俺が男を見せないでどうするんだよっ!


戦友達との約束を果たせ。
このヘリを安全確実に地上まで送り届けるのが俺の役割だろうが!
俺は気を抜けばどっかへ飛んでいってしまいそうな意識をもう一度引き締めた。







・・・・・・地上はまだ遠い。



【ヴィヴィオ・ランスター 機動六課によりゆりかごより保護される】
【八神はやて二等陸佐 ゆりかご強襲任務より生還】
【リインフォースII空曹長 ゆりかご強襲任務より生還】
【シャリオ・フィニーノ一等陸士 ゆりかご強襲任務より生還】
【ルキノ・リリエ二等陸士 ゆりかご強襲任務より生還】

【ヴァイス・グランセニック陸曹 ゆりかご強襲任務より帰還後出血多量により意識不明となる。すぐさま病院に運ばれるが、搬送中に死亡が確認される】
【ナンバーズⅥ セイン アースラクルーの脱出に協力するも、その途中事故により空へ投げ出される。二週間後洋上より遺体が回収される】



 ◆


――ルーテシア ラボ



「ウーノが用意してくれたこの脱出路を使えば、廃棄都市の地下道へ出れるはずさ。」


ドクターが壁面に触れたかと思うと、空気の抜ける音と共に地面を掘りぬいた壁に見えてた場所に深淵が口を開いた。
おそらくドクターの言ってるとおりここを抜ければ安全に脱出できるのだろう。
隠し事はしてもあからさまな嘘は言わないのがドクターの数少ない美点だったと思うから。

けれど、何故だとも思う。
私達はドクターを裏切って、エリオとともに母さんを助け出しに来たはず。
もうここには、私とドクターしか残らず自分達の生死が大勢に影響しないと判っていてもだ。
ガリューが両手で保持している母さんの生体ポッドに視線を送る。これはドクターの協力がなければ持ち運び自体が不可能だった。
その上、崩壊の進む基地からの脱出路まで教えてくれるなんて・・・。

罠・・・・・・ではない。
本人の気質と、今更そんなことをしても無意味だということは明白だから。

もう一つ気になることがあるとすればドクターの表情。
今までののらりくらりと人を嘲る様な含み笑いがそこにはない。
憑き物の落ちた様な。
こんな比喩表現丁度当てはまる、穏やかな笑み。
今までドクターのそんな表情は見たことがない。
強いて言えば、私やアギトと夢見たいな明るい未来を語った時のゼストの苦笑に似ている・・・かな。



「・・・・・・なんでドクターは、そこまでして・・・くれるの?」


なんとなく、ここで聞かなかったら後悔する。
そんな予感に突き動かされて聞いてみた。

「ふむ・・・・・・まあ、一言で言えばお礼みたいなものかな?」

お礼?
それに私達?
疑問符を浮かべる私に頷くと、ドクターはさてどこから話したものかと呟きながら思考をめぐらし始めたようた。
そして一通り考えを纏めたのかこちらを向く。

「・・・私はね、ずっと自分自身の存在について知りたかったんだ。
 生命操作技術もゆりかごも戦闘機人もその為の道具でしかなかった。」

まあそれなりに愛着は持っていたがねと付け足すドクターの言葉を私はすぐには理解できなかった。
私にとってドクターはドクターで、そうと言うしかない。
けれど、ドクターにとってそれではだめだったのかな?

「考えても見たまえ・・・。
 『人は一人では生きて行けない』
 これは美辞麗句として普段使われるが、我々人造生命体にとってなんとも残酷な言葉だと思わないかい?
 絆と言えば聞こえはいいが、人は誰かと関わらずに生きてはいけない。
 だが、残念ながら我々人造生命体が生まれながらに持っている絆は創造主とのだけのものだ。
 そして、我々は道具として生まれ心など不要。命令にただ従うだけの存在が求められることがほとんどだ。」

・・・なんとなく判る。
ナンバーズは皆私によくしてくれた。けれどそれはどこか、ドクターの命令に従ってるだけのように感じていた。


「管理局の・・・いや、我々と言う存在を言葉の上でしか知らない民衆は疑問に思ってるだろう。
 どうして、我々はどんな命令でも聞こうとするのか。命令に抗おうとは思わないのかと。
 答えは簡単だ。
 我々は命令を聞くことでしか、絆を保つ術を知らないからだ。」

「・・・・・・っ。」

何故か急に胸が痛んだ。

「クアットロやセッテはその顕著な例だろう。
 自らを機械と見なし、余計なことは考えずにただ命令を聞くだけの存在となろうとした。」

「セッテは判るけど・・・クアットロも?」

「ああ、彼女が生まれたばかりの話さ。
 だが様々な矛盾に出会ううちに機械としての自分を保てなくなったらしい。
 だが、我々は人として生きていくことも困難だ。
 道具と見なされ酷使されることで、精神は磨耗し人間性は壊れていく。
 人ではなく、機械でもなく。
 人造生命体は常にその矛盾を抱え続けることとなる。」

ああ、それは私も同じだ。
ドクターのお話は私にも当てはまる。
私にとって母さんが絆そのものだった。
母さんのためと言われれば私は何だってしただろう。
本当は、言葉さえ交わしたこともないのに、母さんだと教えられた言葉だけを頑なに信じ続けて・・・。


「私は自分が何者なのかずっと知りたかった。
 人なのか機械なのか、アルハザードの落とし子のクローンとして生まれた私は一体何者なのか?」

ドクターの気持ちは私にはよく判らない。
けれど、どことなくドクターも不安だったのかもと思わせた。
私にとっての母さんを、ドクターは探そうとしていたのかもしれない。

「・・・・・・答えは出たの?」

ドクターは肩をすくめて苦笑する。

「・・・・・・さぁ、どうだろうね?
 君やFの遺産の二人を見ていたら、私自身も一つの命。ただ、それだけでいい気がしてきたんだ。
 何を目的に生み出されたか。どこの誰に作られたかということよりも、その命でどう生きるか。
 そう考えると不思議なことに、今までの暗鬱としていたものから解き放たれたような気がしてね。
 今は凄く爽快な気分だ。
 だからこそ君達には感謝しているのさ。」

そこに至るまでの経緯は私には判らない。
少なくとも以前会った時のドクターは恨みと妄執に囚われていたと思う。
きっと、エリオとエリオの大事な人がドクターの心を溶かしたんだ。
私は、瓦礫の下敷きになって見えなくなってしまった二人に深く感謝した。



「ドクターは行かないの?」

「ああ、私が舞台に居座ることを望んでいる者はいないだろう。
 それに彼らの傲慢に裁かれるなど真っ平ごめんさ。」

冗談めかすドクターに私は一抹の寂しさを感じる。
ゼストとドクターも私の記憶の中で最初から居た人物達だ。寂しくないと言えば嘘になる。

「君が無事、地上に辿り着ける事を祈ってるよ。ルーテシア。」

「うん、ドクターは?」

「私は最後の後片付けが残っている。
 目的の一つを果たしたとはいえ、やはり管理局は忌々しい存在であることには変わりないし、彼らに私の作品を弄繰り回されるというのは気分のいい話ではないからね。
 ああ、そうだルーテシア。これを・・・。」

何かを思い出したかのように、ドクターは白衣のポケットから小さなメモリを取り出し私に手渡した。

「これは?」

「もし、何かの縁で私の娘達に出会ったときは渡して欲しい。
 まあ私の遺言のようなものさ。」

私はそれを両手で握り締め大事に閉まう。

「絶対に・・・絶対に、届けるから・・・っ!」

「そう大したことは書かれていないさ。
 『私のことはいいから、好きに生きろ』と書いてあるぐらいだ。あの子達はきっと私の言葉など無くても実行できるだろう。」

それでも、ナンバーズにとってドクターは大きな存在だと思うから・・・。
私は心に誓った。





ルーテシア達を見送った後、私は断続的に崩壊の進む基地を見渡した。
既に生者は私一人だ。
トーレもセッテも、Fの遺産の二人ももはや生きてはいないだろう。
私は両の掌のデバイスを起動させる。

結局のところ私は私でしかない。
それが私の出した結論だった。
ならば最期まで私らしくあろうではないか。

「ふむ、まずはFの遺産二人のエンバーミングから始めようか。」



【フェイト・T・ハラオウン執務官 潜入中に基地の崩落により死亡】
【エリオ・モンディアル三等陸士 ハラオウン執務官を救出に向かい基地の崩落により死亡】
【ジェイル・スカリエッティ 基地の崩落により死亡】
【ナンバーズⅠ ウーノ ヴェロッサ・アコース査察官に逮捕される】
【ナンバーズⅢ トーレ 行方不明】
【ナンバーズⅦ セッテ 行方不明】
【ルーテシア・アルピーノ 行方不明】
【ガリュー 行方不明】
【メガーヌ・アルピーノ准陸尉 行方不明。基地内に資料は残されていたものの、それらしき遺体は発見されず】







あとがき

本製品には重大な欠損が出ていることが先ほど判明致しました。
出来るだけ早く修正パッチを配布致しますのでどうかそれをお待ちください。

タイトル詐欺ごめんorz




[10626] END8 拡張ぱわーうpキット 修正パッチ
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/11/02 05:42
――クアットロ ゆりかご最深部管制室



昔々ある島に一人の少年が居りました。
そこはとても狭い世界で少年は退屈していました。
けれど、大人たちはそんな少年の訴えを聞き入れず仕事に没頭します。
いつしか少年は外の世界を夢見るようになりました。

そんなある日のことです。
島に一人の少女が迷い込んできました。
家に帰りたいと泣く少女に、少年は『絶対に自分が君を帰してあげる』と約束します。
そして、少年は島の奥深くに眠っていた空飛ぶ船を発見し、島から少女と共に脱出したのです。
そして長い旅の果てに彼らは少女の家に帰り着き、二人でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。





初めに視界に映ったのは真っ白な髪の毛だった。
チンクちゃんかしら。
起き抜けで朦朧としていた私の回路は、妹のようで実際は姉のような妹の存在を弾き出した。
・・・馬鹿なことを。
彼女の死は私自身がしっかりと確認している。
何より、このゆりかごに搭乗しているのは私と極数名。その中に白髪の者などいない。

口に加えていた布切れを吐き出し、ゆっくりと上体を寝台から起こした。
心配していた強化フレームの歪みや生体パーツの不具合も起こっていない。
大雑把な身体チェックを終え、鏡の代わりに反転モニターを起動した。

あらあら、ずいぶん酷い顔ですこと。
思わず自分の顔だということも忘れて、そう哂ってしまった。
栗毛色だった髪は真っ白に脱色され、肌は青褪め頬はこけ、目の下には大きな隈ができており、まるで死人のようだ。
確かに面影はある。
だがかつての自分とは十年以上も老けたようにも見えた。


私はそれも仕方ないかと考え直す。
聖王の器が奪われ、私自身管理者権限を失い、
加えて、主副の圏内用駆動炉は完全に破壊され、主砲さえも失った。
絶望的な状況と言っていい。
事実、一度は諦めかけた。

だが、それでどうなるのだろうかという疑念が湧き上がってきた。
私達は犯罪者と処分され、世界は生命をすり潰しながら緩やかに衰退していく。
・・・・・・なんという惨めっ!
数え切れないほどの時間と労力、何よりドクターや姉妹の殆どを失っても何も成し遂げられず、人間によって好き勝手に裁かれるなんて!
悔しかった。
どうせ、彼らには私達の理念など理解できない。
低次元な自らに都合のいい解釈で歴史を欺き、したり顔で憐れみの言葉を吐き出すのだ。
私はどうしてもそれが許せなかった。


だからだろう。
ふと思い出した、私がこの世界に生まれてごく初期にドクターから与えられた絵本。
よくある冒険譚のようで、物語として山場も隠喩もなく不完全な歪なお話。
何故こんな子供心に見てもつまらないお話をわざわざ製本するのか不思議に思っていた。事実、私より下の妹達は一度聞かされただけで放り出していた。

今ならば判る。
あれは私達のルーツの物語。
『島』とはすなわち『アルハザード』
『空飛ぶ船』はこの『聖王のゆりかご』
そして『少年』とはアルハザードの落とし子、またの名を『黄金の標 スカリエッティ』
ドクターのオリジナルを意味していた。


私はこの話を思い出すと同時に大きな賭けに出る。
もし、あの話が事実だとするのなら、『少年』はゆりかごでこのミッドに降り立ったということ。
つまり、『少年』は聖王の器であった可能性が高いということだ。
元々ゆりかごは古代ベルカにおいてもロストロギアとして扱われ、行方が不明だったと記されている。そのことも、アルハザードにあったとするならば説明が付く。
『少年』に聖王の血が流れてるとするならば、ドクターにも、そして私の胎内で小さく脈打つドクターのクローン体にも聖王の血が流れているということになる。

ドクターには胎児であっても、聖王の器になってもらう。
成功する可能性は限りなく低い。
例えレリックの埋め込みに成功しても、拒否反応で死に至ることも十分に考えられる。
だけど私達が勝利する可能性はそこにしかなかった。
ゆりかごのコントロールを奪い返し、速やかに軌道上へ移動する。
例え駆動炉を失っていたとしても、邪魔な重量さえ掃えば第二宇宙速度に至るのは可能だという演算も出た。

もう迷いは無かった。



私は一つ溜息をつく。
今思い出しても処置の時間は永劫とも言える拷問の様に感じられた。
元聖王の器があれだけ泣き叫んだのも無理は無いとは思えるほどに。
脳がパンクするほどの激痛と異物感。
舌を噛み切ってしまいそうで、手近にあった布切れをかみ締めた。
意識が混濁し、目的を忘れて逃げ出しそうになり自ら手足も拘束した。
どれほどの時間がかかったのかはわからない。
だが、一つだけはっきりと判っているのは私は賭けに勝ったということ。
今私の下腹部では熱く生命の鼓動が蠢いてるのが実感できる。
だとするならば、この反転モニターに映っている変貌も誇らしく思えてしまう。

・・・・・・もうこんな思いは二度とごめんですけどね。



あの濁流のような痛みを乗り越えたからか、不思議と心は澄み切っているのを私は実感する。
思わぬ副産物に苦笑し、私は詰みの一手に取り掛かった。
失ったもの。自らの手で壊したもの。
今になってその尊さが少しだけ理解できる気はする。
だからこそ私は負けられない。
この戦いを無意味にはさせない。


さぁ、愚かなご主人様お歴々。
今まで可愛がって頂いたお礼として私達からのプレゼント、どうか受け取ってくださいまし~♪



   ◆


――ミッドチルダ西部 エルセア地方  とある少女の記憶


その日は朝から慌しかった。
クラナガンから遠く離れた私達の街でも避難警報が発令され、小学校に両親と移動した。
大人たちは体育館に集まって、ラジオや携帯テレビに耳を傾けている。
私は同級生の子達とおしゃべりしてたけど、ふとこんな時に限って大騒ぎするアイツの姿が無いことに気づいた。

「こら、危ないから外に出たらだめだ!」

「ごめんなさいっ。すぐに戻ってきますからっ!」

先生の制止の声を振り切って渡り廊下を走る。
あのバカはきっといつものところに決まっている。



「あれ?オマエも来たのか。」

のほほん。
慌しい世界情勢を全く気にせずにそんなことをのたまうコイツに私は拳骨を振り下ろした。

ここは特別校舎の最上階。
その中の一室には観測用の全天周モニターがある。そんなに大きくは無く、一人用のものだが魔導師か魔力炉を起動すれば月のクレーターまで観察できる優れものだ。
こいつは台風のときも地震のときも注射から逃げるときもここにいたことを私は知っている。
なぜなら、こいつが何か問題を起こすたびに先生達は私に応援を要請するからだ。
全く家が隣で昔からの顔見知りってだけで、なんで私がこんな苦労をしなきゃいけないのよっ!

「いってぇ~~~。
 むう、何するんだよ!」

涙目で不平を垂れるコイツは、私の苦労を全然理解していない。
あーもう、私が優等生じゃなかった絶対何回かこいつを殺していたわね。

「うっさい!
 一体こんなところで何やってんのよ?!」

大人達は大騒ぎして、実際にクラナガンじゃ大規模なテロが起こってるのに。
そ、そりゃぁ、私だって詳しいことはよく判んないけど、大変な状況だってことは理解しているつもりよ。
けど、コイツはそんなこと全く気にせずに興味を持ったことなら状況を考えずに夢中になる。そしてその大半がどうでもいいくだらない事ばかりなのだ。

同級生によくからかわれもするが、その度に決意する。
結婚相手にはこんなガキっぽい奴じゃなくて、大人の男性を選ぼうと。

百三十二回目の決意を新たにしていると、手招きされた。
先程までのことなどとっくに忘れたいい笑顔で誘うコイツの笑顔を見ると思わず脱力してしまう。
こちらが腹を立ててることが馬鹿らしい気分にさせてしまうコイツの笑顔は卑怯だと思うのよ。うん。



「はぁ・・・・・・一体何なのよ。とにかく満足したらさっさと下に戻って怒られなさいよね・・・て、きゃっ?!」

いきなり手を掴まれて引っ張られた。
うわ、ちょっと近いってばっ!
ひゃぁっ、息当たるっ!
大人一人分のシートに子ども二人は微妙に狭い。
私は膝の上に無理やり乗せられて、上半身を背中から抱きしめられる。

突然の奇行に、女の子コミュニティーでゲットしたレディース誌情報が脳内をかけめぐる。
え?ええ?!
私達まだ幼年学校なのよ?!
た、確かに最近の子どもは早いって言うけど、私は結婚するまでそういうことしないって決めて・・・って何言ってんのよ馬鹿!私の馬鹿馬鹿っ!


「・・・・・・何やってるのさ?
 それよりほら、見てみろよ。ここならあのでっかい飛行船もよく見えるだろ♪」

とりあえず、一人困惑していた私を冷めた目で見つめるコイツに肘打ちを繰り出しておいた。
デリカシーが無さ過ぎるのよ。

気を取り直して指差された方を見ると、テレビで見た大きな飛行物体が拡大して映し出されていた。
すごい・・・・・・あんなに大きかったんだ。
それはあちこちに焦げ跡のようなものが見えたがそれでも上昇を続けている。

私はただ純粋にその光景に目を奪われていた。
ああ、今回だけはこいつが夢中になるのも判る。
背後で痛みに悶絶している奴の存在を頭から追い出し、その悠然な姿を眺め続けた。
それはテロリストの兵器と言われてもぴんとこずに、例えあちこちが破損していてもどことなく気品のようなものを感じさせている。
私達の文化とは全く別の産物。そう直感で理解できた。
だからだろうか、こうやって眺め続けても新鮮な感覚が続いている。

「・・・な、凄いだろ?」

「・・・うん。」

痛みの悶絶からようやく復帰したのか、我が事のように自慢げな様子も気にならない。
私達は時間を忘れ見入っていた。



それからどのくらいの時間が経っただろうか?
最初に見たときから三分の一ぐらいまで小さくなった飛行物体のはるか手前に、何か光るものが見えた。
最初は見間違いかなと思ったが、キラ・・・・・・キラ・・・・・・と間隔を置いて何度か瞬いている。
流れ星かな?けどこんな昼間に?

「ね、ねぇ、あれって何かしら?」

答えの出ない疑問を背中に向けてみる。
そいつはつい最近目覚めたばかりの魔法を手早く使いながらモニターによく判らない情報を表示させていく。

「・・・・・・。」

「ねぇ、ちょっと。」

話しかけても返事は無い。
それだけならいつものように殴れば済むことだけど、今まで見たことも無いような真剣な表情に思わず押し黙ってしまう。
・・・・・・こんな顔も出来たのね。

モニターに再度視線を戻すと、もうその光ははっきりと見えた。
白色の光球はゆっくりと大きくなっていく。ううん、もしかして近づいてきてるの?
私がその光景に見惚れていると、このシートに引っ張り込まれたときのように今度は引っ張り出された。

そいつは私が文句を言う前に私の手を握ったまま走り出す。
手を握ったのなんて何年振りかな?
年齢と共に深くなっていく性別の谷を思い出す。

廊下を走りぬけ、階段を二足飛びで駆け下りていく。
その間も手は硬く握られたままなので、当然のことながら踏み外してしまう。
踊り場で鼻を強打するかとも思われたが、強く抱きとめられた。
さらに速度の遅さに業を煮やしたのか、抱っこされる。
憧れていたブライダルお姫様抱っこなんかじゃなく、上半身を肩に担ぐような山賊持ちにむしろ近い。
それでも、線の細い印象が強かったコイツにこんな力があったとは思わず感心してしまう。
いや、もっと気にするところがあるだろ私と思わず内心にツッコミをいれた。

ああだめだ。
今日はなんだかこいつにペースを握られっぱなしだ。
頬が熱くなることに気づかないフリをしながら、私はことさら不満げに叫びをあげた。

「ちょ、ちょっと。いきなり、どうしたの?
 あれは一体何なのよ?」

「・・・・・・て来る。」

駆け下りる足音と耳元を抜けていく風の音に邪魔されて、後半の言葉しか聞き取れない。
下手に動くと二人そろって、イケダ屋を再現してしまいそうで振り向くことすら躊躇してしまう。
私は唯一出来ることである、声を張り上げた。

「何が、来るのよ?!」


「飛行船がここに落ちてくるんだっ!!」



次の瞬間轟音が響き、校舎全体が揺れ、私達は何がなんだかわからないまま階段を転がり落ちた。





その日エルセア地方は地図上より消滅する。
高度1200kmより切り離された聖王のゆりかごの一部区画は、落着と同時に地下80mまで岩盤をえぐり、周囲一体を素粒子にまで分解した。
死者四百万人。行方不明者十四万人を数える新暦以来最大の人災となる。
五十年の歳月が流れた今でも、これに勝る規模の被害は記録されていない。


   ◆



――ゆりかご最深部管制室


眼下に見下ろすは蒼き惑星ミッドチルダ。
無数の生命を育んできたその惑星は美しい。例え、その地表に小さくないきのこ雲が確認できたとしても。
そんな美しい光景をバックに最後に残された者たちは殴り合っていた。


「手間取らせやがりまして、魔力が使えないあなたに何が出来るというのっ!」

「それでも・・・ハァハァ・・・・・・あなたを、止めないといけないからっ!」

ガスッ・・・ガスッ・・・と、両者は思いを拳に載せて振り抜いていく。
その拳を身体で受けるたびによろめくが、なんとかこらえ返礼とばかりに拳を振り上げる永久運動がそこにはあった。



「なんでこんなことをっ?!」

その片方、高町なのはは右拳をフック気味に頬へ穿つ。
もはや彼女にエースオブエースと呼ばれ空を駆けた頃の優雅さは無い。
バリアジャケットは解除され、デバイスも弾き飛ばされ部屋の端に転がっている。
・・・魔力の結合を完全にシャットアウトするゆりかごの防衛機構。
埃と血にまみれ、管理局の茶色の制服をずたぼろにしながらも、尚裸足で立ち上がろうとする女がそこにはいた。


「グッ・・・、この場でそんなセリフが出てくるから自分の傲慢に気づかないのよっ!」

もう片方、クアットロは彼女の拳を避けようともせず仰け反った。
だがそれをたたらを踏んでこらえ、高町なのはの鳩尾に左拳を打ち込む。
こちらも満身創痍という井出達だった。
胎内に聖王の器を抱えた際にISは使用不可能となり、コンディションも最悪に近い。
故にだろうか、かつての人を小馬鹿にしたような笑みは崩れ落ち、ただただ目の前の存在を打ち倒さんと必死となっている。


ゆりかごは既にミッドチルダの重力圏を抜け出し、二つの月の交差点へと慣性航行中である。
ここから半径千キロで存在している生命体は高町なのはとクアットロのみ。
両者はたった二人で戦っていた。


「ガハッ?!・・・・・・ハァハァ、傲慢?
 それは罪も無い人たちを傷付けるあなた達のこと!」

吼えるなのはの言葉は、更に歪んだ笑みを浮かべさせる。

「ギィッ!・・・罪も無い人間?
 無知であることに甘んじて、考えることをやめた生物なんて存在自体が罪なのよっ!」

「グッ!・・・それは違う!」

「どう違うと言うの!
 暴力こそ、最大の意思表示方なのは明確ですわっ!」

「人間には言葉があるから。例え、傷付けあわなくても分かり合うことは出来る!」

「もしかしてそれが『お・は・な・し』ですかぁ?
 見ない振り聞かない振りをしていながら、事が終わればどうして話してくれなかったのと同情してっ!
 自らの罪悪とすら向き合えない豚が知的生物として振舞う事こそが罪なのよっ!」

「けれど、人間には優しさがある。
 完璧じゃないかもしれないけれど、皆誰かの優しさを受けるからこそ、自分も人に優しさを与えることが出来るの!」

「ならっ!
 そのお優しいエースオブエース様は、ここで一体誰に対し拳を振るっている!
 ドクターの怨念に、私達の不遇に、誰が優しさを与えてくれた!?
 全てが終わった後に、自らが壊した相手に手を差し伸べるのが、あなたの言う『優しさ』だというのっ?!」

「・・・・・・それはッ?!」

一瞬なのはの身体が硬直する。
次の瞬間、クアットロのハイキックがなのはの側頭部を捉えた。
戦闘機人の攻撃を生身で正面から受けた身体は、勢いを殺しきれずに部屋の端まで転がっていく。


クアットロはその様子を見届けながらも、舌を打った。
彼女にとって、『優しさ』や『愛情』などいわゆる人間にとっての美徳を表す言葉は忌避すべきものだったからだ。
なのに、激昂するあまり聞き様によってはソレらを請うような発言をしてしまったこと。
クアットロは自らの短気と不覚に苛立った。

一方なのはは未だ混乱の最中にあった。
視界外からの攻撃もだが、彼女の言葉が胸に突き刺さる。
分かり合えれば争いなど起こらないという理念と、自らの行動との矛盾。
彼女の物心ついたときから向き合ってきた疑問であった。
だが、高町なのはの高町なのはである所以は、このような矛盾に打ちひしがれる事なく、自らのなすべき事を本能で理解するところである。

故に高町なのはの心は砕けない。
今回も砕けた奥歯を床に吐き捨てながら、立ち上がるのであった。





この時点で勝敗は明らかである。

高町なのはは魔力は結合できず、武器はその身一つ。加えてその全身の骨には無数の罅が入っていた。
立ち上がるだけでも、いや呼吸するだけでも激痛が走っているはずである。

一方、クアットロもひどいものではある。
処置後でISなど戦闘技能を使えないのに加え、先程から胎内に納めているスカリエッティのクローン体のエネルギー要求量は増していく一方で、このままではクアットロ本人の生命維持に支障が来たす事が予想された。
だが、生まれついての頑強な強化フレームと高速思考は例え生身の殴り合いと言えども、巨大なアドバンテージとなる。
何より、クアットロの最大の味方は時間である。
ゆりかごが月軌道上に到達することが勝利条件であるため、それまで耐えればいいと言う心理は有効に働いていた。


これらの要因が複雑に絡み合い、クアットロの胸に一つの誘惑が浮かぶ。
それは『高町なのはを心理的にも屈服させ、敗北を認めさせたい』と言う稚気であった。
元々、戦闘機人最初の四人はスカリエッティの因子を受け継いでいる。
そんな中、クアットロがスカリエッティより色濃く受け継いだのは、遊び心や稚気と言う物であった。
もしここにいたのがクアットロ以外の戦闘機人であったのなら、歴史は我々が辿る道とは大きく変わっていただろう。

何はともあれ、ここがクアットロにとっての、次元世界にとっての大きな分水領であったことは想像に難くない。




「・・・・・・実のところ、」

立ち上がるのがやっとで、肩で息をするなのはは、クアットロのそれまでとは一変した静かな語り口に視線を上げた。

「私は人間が憎いというわけではありませんわ。
これでもロールアウト当初は、自らに与えられた使命に埃を持っていましたの。」

「・・・・・・使命?」

「ええ、人間のために生まれ、市民の生活を護り、支え、散っていく。
 ドクターは別の思惑がありましたけれど、最高評議会から教えられた私の使命には胸が熱くなるのを感じましたわぁ♪」

「・・・・・・。」

困惑するなのはの表情を満面の笑みで確認して、クアットロは更に語り続ける。

「けれど、世の中のことを学ぶにしたがってある疑問が湧き上がって来ましたわ。
 果たして人間は、私達が仕えるに値する主人なのでしょうか?・・・とね」

「・・・・・・仕える・・・?・・・・・・主人?・・・・・・一体何を言って・・・・・・」

「フフ・・・♪
 だってそうでしょう?
 一向に改善しない治安。人間自らによって引き起こされる次元災害。
 私達戦闘機人はこれらを解決するために生み出されたというのに、ご主人様はくだらない感情でそれを捨てようとするんですもの。
 衰退の道を辿っていることを自覚しながら、何の対策も取らないというのは生物として欠陥品。
 断言しましょう、人間は誰かに管理されなければ生きていくことすら出来無いのですわ!」
 
なのはは駆け出す。ただ激情のままに。
度重なる激戦で精神のトリガーは緩みきっていたことに加え、クアットロは彼女の大切な人々を侮辱した。
後先も考えずに、拳で以って黙らせる。
そんな行動を起こさせるには十分であった。


「管理だ何て・・・人間は機械とは違う!」

「同意ですわっ!
 機械の方がまだ優れているっ!不合理の塊である人間などっ!」

再び激突する両者。
錯綜する拳には命を。言葉に魂を。
対峙する背中には彼女達の歴史を。
自らの存在を証明せんが為。相手の存在を否定せんが為。
彼女達は最期まで戦い続ける。

「その答えが戦闘機人?!
 生命を弄ぶなんて許されることじゃないっ!」

「感傷に支配されるから合理的に判断できなくなるのですわっ!
 百人を救う為に一人を犠牲にすることと、一人を救い後の百人を見捨てること!
 それともあなたは、人々全てを救えるとでも言うつもりなのっ?!」

「犠牲になった人はどうなるのっ!
 最初から誰かを犠牲にする考え方は間違っているっ!」

「戦闘機人を生み出した『管理局』が言えたことかぁぁぁぁぁっ!!!!」

大きく振りかぶったクアットロの拳は、最大速に達する前になのは左手で受け止められる。

「・・・しまっ?!」

不用意に感情任せになってしまったクアットロに対し、なのはの右手が振りぬかれた。



「・・・・・・あなた達の事情はよく判らない。
 だけど絶対に私達が究明して、法廷で明らかにしてみせる。
 あなた達だけに罪を、犠牲を強いたりなんかはさせない!だから・・・っ!」

先程まで繰り返されていた鈍い音ではなく、パチンと甲高い音が響く。
歯を食いしばっていたクアットロは、左頬から背筋に伝う軽い衝撃に始め困惑する。
だが、なのはの右手が握り締められた拳ではなく平手だったことに気付き、更に怒りは加速する。

「・・・・・・私を、憐れむなぁっ!!!
 私は感謝している!こんな醜い世界に生まれたことを!
 安っぽいヒューマニズムで私の誕生を否定させたりしないっ!」

感情のままにクアットロはなのはに掴みかかり押し倒す。

「・・・・・・グッ?!
 ・・・あなたもスバル達のように、普通の女の子として生きられたかもしれない!」

「いつ、そんなモノを望みましたか?!」

仰向けに転がった痛みで動けないなのはに、クアットロは圧し掛かる。
腹の上にまたがりマウントを取ったところで残虐な笑みを浮かべた。

「・・・・・・弱肉強食。
 古来より強者が支配者として君臨した原初の法則。
 だけど安心なさい。
 これまでとは何の変わりも無い。
 ただ支配者が代わるだけのこと。
 むしろ今までの人間達より遥かに善政を布いて見せます。
 さぁ、あなたには新たな王の誕生を祝福し讃える栄誉を与えますわぁ♪」

膝で腕を押さえられたなのはに身動きをとることは出来ない。
言外にクアットロに要望に応えなければ、今までの戦いとは一線を画する一方的な暴力が行使されることが示されていた。

「・・・・・・あなたもヴィヴィオと同じ。
 助けを求めたときに与えられなかった・・・。だけど、こんなことをすれば、また誰かの・・・・・・っ」

高町なのはの訴えに、クアットロは先程までの歪な笑みを抑えた。

「・・・・・・。
 この状況でまだそんな世迷言を仰りますか。
 あなたは死ぬのが怖くないのですの?」

クアットロにとってそれは純粋な疑問だった。
生命として、自分の自己保全は最重要な命題だと思っていた。
だが、高町なのはは命乞いをしない。
なのはは数秒考えた後に答えた。

「・・・・・・怖いよとっても。
 けど、あなたを止めないとと思ったら、止まらなかったの・・・」

「・・・・・・。
 高町なのは、あなたに敬意を。
 あなたは愚かな人間などではなく、こちら側の者でした。
 私は生涯において忘れることは無いでしょう。」

厳粛な言葉。
長い時間戦い続けてきた両者にしか判らないモノがそこにはある。

「違うよ。
 確かに私達は間違えもする。
 けれど努力し続ければどんな間違いも治せるんだよ。」

「だけど、そこには強い意志が必要。
 あなたの域まで達してこそ意味があるというもの。
 私は人間全てがそうなれるとはとても思えない。
 ・・・・・・これ以上の問答は無粋でしょう。


 さようなら・・・高町なのは。」


クアットロの拳がなのはの顔面に突き刺さる。
すぐさま右腕を引き抜き、続けて左腕が叩き込まれていく。
右・・・左・・・右・・・左・・・。
何度も何度も振り下ろされる。
周囲には引き抜いた際に飛び散った、折れた前歯や血反吐が散乱している。
それでもクアットロは止まらない。
これは彼女が本来持っている嗜虐趣味ではなく、純粋に高町なのはを思いやってのことだった。
抵抗されずに、出来るだけ苦しませずに高町なのはを殺害しようとした場合、このような凄惨なシーンとなっただけである。
故にクアットロは笑わない。
能面のような無表情で拳を振り下ろし続けた。










それからどれぐらいの時間が経っただろうか。
クアットロはようやく拳を下ろした。
高町なのはの身体は既に攻撃に反応せず、完全に脱力している。
顔の方は描写するのが躊躇われる様であるとだけ言えよう。

クアットロは息を整えながら、彼女との戦いを振り返る。
あまりにも失うものが大きい戦いだった。

「・・・私はただ道具としてこの能力を全力で使えればそれでよかった。
 道具として生まれ、道具として壊れる。
 もし、そう出来たならなんて満ち足りたものだったでしょうか?
 だけど、倫理だか道徳によって産みの親、そのまた産みの親もろとも私達は悪と断じられた。
 道具に善悪など不要だというのに、余計な理を持ち出す人間に支配者たる資格はないと私は確信したのですわ。」


クアットロが心中のうちを吐露していく。
今にして、なのはとの会話は貴重なものだと実感していた。

「もし、あなたのような強い人が私の使い手であったならば、別の可能性・・・・・・共に戦える可能性があったかもしれませんわね・・・♪」

なのはの頬だった場所に手を副えながら発した言葉を、自らの心中で打ち消した。
戦いは大勢を決したとはいえ、唯一の勝利者であるクアットロに課題は山積みであった。
もはや、夢だけを見て決起したときとは違う。
彼女には勝利者の義務が存在した。

だからこそ、彼女が発した言葉は弱音と言っていいだろう。
誰に聞かせるでもない。
これより支配者となって君臨するための、自らから甘えを捨て去るための最後の弱音。
当然ながら返答があるとは考えていなかった。



「・・・・・・ヒュー・・・・・・ヒ・・・トハ・・・アナタハ・・・・・・ドウグナ・・・ンカ・・・ジ・・・ナイ・・・・・・ヒュー・・・・・・」

一瞬の逡巡。
困惑と喜び。


「あなた、生きてっ・・・・・・っ?!」


それらは一瞬の出来事だった。
クアットロがなのはに顔を寄せようと上体をかがめた時、真上から桃色の閃光が二人もろとも貫く。
クアットロには何が起きたか理解できなかった。
だが、なのはの目には今まで何の反応も示さなかったレイジングハートが、エクセリオンモードで自分もろともクアットロの下腹部に突き刺さるところを映っていただろう。


「・・・ガハッ・・・ゲボッ・・・ゴホンゴホン・・・っ!
 ・・・・・・レ、レイジングハート・・・。
 マスターの登録・・・を、初期化・・・・・・。今までありがとう・・・。」

レイジングハートの金色の刀身がなのはの吐き出した血によって染まっていく。

『NO! My Master is NanohaTakamachi,Forever』

「あはは・・・仕方ないな・・・。我慢してくれて・・・あ・・・りが・・・・・・」

レイジングハートのコア部分から罅が広がっていき、遂には粉々に砕け散る。
この高濃度AMF下を判りやすく例えるなら、潜水艇も届かぬ深海の高圧下に等しい。
そんな環境で魔力運用すると自壊するのは自明の理であった。
その一度きりのチャンスは見事に成功する。
マスターとデバイス、双方の犠牲を以って・・・。



「・・・ゴボッ、こんな手を残していたのですわね・・・。
 それに・・・・・・まさか・・・死んだフリとは・・・」

血に染まったクアットロの下腹部。
そこからは虹色の魔力が噴出している。
子宮の胎児が無事ではすまないことは一目瞭然だった。
それでもクアットロは零れ落ちた魔力を必死でかき集め子宮に戻そうとするが、そんな労力の甲斐無く魔力は拡散していった。

「・・・わたしも・・・死んだとおも・・・・・・た・・・。
 ・・・・・・レイ・・・ハー・・・・・・きどう・・・・・・いっかい・・・きり・・・・・・だから・・・・・・」

「・・・もう、しゃべらないでいいですわ。
 嗚呼、私達の・・・負けですわね・・・・・・。
 勝ちたかった・・・・・・ですわぁ・・・・・・」

クアットロの身体がなのはの上に崩れ落ちる。
不思議なことに、クアットロは満足げな笑みを浮かべていた。
なのははそんなクアットロの頭をヴィヴィオにするようにゆっくりと撫で続ける。
いつまでもいつまでも、最期の時間まで。


「・・・ごめんね、なのはママ約束守れなかった・・・」

その呟きをクアットロは静かに聴いた。











新暦75年9月19日 17時58分
次元航行艦隊による砲撃により巨大船―通称『聖王のゆりかご』は消滅する。
その三時間後非常事態宣言は解除され、事態は一応の収束を見せた。

この事件はその首謀者の名前よりJS事変と呼ばれ、後の何十年にも渡る暗黒時代の幕開けとなる。



   ◆



【高町なのは一等空尉】 行方不明。後に死亡扱い。
聖王のゆりかごに最後まで残り、ゆりかごと共に次元航行艦隊の砲撃により蒸発したものと思われる。
新暦77年3月15日に死亡届が受理される。


【フェイト・T・ハラオウン執務官】 死亡
ジェイル・スカリエッティのアジトで遺体が発見される。
遺体には修復した痕が見られ、死亡した後に何者かによってエンバーミングが施されたものと思われる。
彼女の遺産は生前の遺言により全額孤児支援基金に寄付された。


【エリオ・モンディアル三等陸士】 死亡
フェイト・T・ハラオウン執務官と同じく、アジトで遺体が発見される。
エンバーミングらしきものが施されたのも同様。
彼の遺体はモンディアル家に引き取られることとなる。


【キャロ・ル・ルシエ三等陸士】 死亡
任務中に敵人造魔導師の攻撃を受け死亡する。ほぼ即死であった。
身寄りの無かった彼女は、ハラオウン家とモンディアル家の厚意によりエリオ・モンディアルの墓の隣に葬られる。
召還竜であった、フリードリヒとヴォルテールは事件収束時には既に姿を消しており、その後も発見されずにいる。


【八神 シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ】 消滅
プログラムである彼女達は再び夜天の書の中で眠りについたと思われる。
八神はやてが再起動を試みるも、未だ復活の兆しは見えない。


【グリフィス・ロウラン准陸尉】 行方不明。後に死亡扱い。
アースラ自沈任務の為ゆりかごに残り、艦と運命を共にしたものと思われる。
彼の母は葬儀の際涙を一粒も見せなかったという。
彼の墓は、アースラが沈んだ時の空がよく見える、海岸沿いの丘の上にひっそりと立てられている。


【ヴァイス・グランセニック陸曹】 死亡
JS事変より数週間前に追った怪我が元ですぐさま病院に運ばれるも死亡する。
不思議なことに彼のライフデータを見ると、ゆりかごより脱出し地上へ到達するまでの最後の五分間。
このとき既に彼は死亡しており、心臓も動いてなかったものと思われる。
この逸話は大空で死ぬために生き返った男の物語として、空を翔ける者達に長く語り継がれることとなる。


【アルト・クラエッタ二等陸士】 死亡
護送任務中、ナンバーズの襲撃を受け死亡。
死後、彼女の父親が『不当に危険な任務に従事させた』として管理局を相手に訴訟を起こすこととなる。
この係争は十数年後彼の父親が死亡するまで法廷で争われた。


【レジアス・ゲイズ中将】 死亡
JS事変の際、謹慎していたところを抜け出し敵人造魔導師に殺害される。
当時ゲイズ中将は複数の公職法違反の嫌疑がかけられていた。
彼の死亡時における逸話は、彼を殺害したのがかつての親友だったということもあり、今でも様々なジャンルで描かれている。



【ジェイル・スカリエッティ】 死亡
アジトにてスカリエッティらしき焼死体が見つかり、死亡と断定される。
アジトに残されていた他の遺体には須らくエンバーミングが施されていた。
当時残されていた人間の中でそのような技術を持つ者は彼しかいないため、スカリエッティの所業と推測されている。
現在残ってる資料でも、彼の行動は謎に満ち、何故彼があのような行動を起こしたかは様々な説が存在する。
人がその答えを出す日はあるのだろうか?


【ナンバーズ ドゥーエ】 存在自体が不明
一部資料に残されているだけで、存在したかどうかも不明である。
現在の主流の説では、ステルス仕様の戦闘機人として製作されたものの、生命維持に問題が生じ破棄されたというものである。
この後に、電子線仕様のクアットロがロールアウトしていることが、この説を後押ししている。


【ナンバーズ トーレ・セッテ】 死亡
アジトの分解槽にて二人分の戦闘機人らしき強化フレームが発見され、それらが彼女達だと断定される。


【ナンバーズ クアットロ】 行方不明
聖王のゆりかごにて管制についてたと思われるが、ゆりかごが消滅したため不明。


【ナンバーズ チンク】 死亡
地上本部襲撃の際に追った負傷により死亡。
彼女の墓標はアジト近くの森の中に設置されている。


【ナンバーズ セイン】 死亡
ゆりかご強襲組の脱出に協力するも、空に投げ出される。
遺体は洋上より回収され、教会によって手厚く葬られた。
事前に交わしていた聖王教会との協議によって、残された戦闘機人には
生涯に渡って教会の支援が行われたという。


【ナンバーズ オットー・ディード】 死亡
当時の管理局員の証言より、埋め込まれていた彼女達のレリックが暴走したものと思われる。
だが、何が要因で暴走が発動したかは不明であり、また暴走した地域は魔力汚染がひどく封鎖され続けている。


【ナンバーズ ディエチ・ウェンディ】 行方不明
ゆりかごに移動したのを最後に消息は途絶えている。


【ゼスト・グランガイツ】 死亡確認
局員により人造魔導師として洗脳されていたのを発見、確保は困難と判断され同意の上で活動を停止される。
元々彼は既に死亡していた遺体を回収して作られたレリックウェポンという位置づけとなる。
故に彼の生涯が汚されることは少なく、悲劇の人物として同情を集めた。


【融合騎 アギト】 行方不明
ゆりかごを切り裂いた際、ロードであるシグナムと共に行方不明となる。
シグナムのみは夜天の書により消滅が確認されたが、彼女がどうなったかは定かではない。
例え生き残っていたとしても、ゆりかご内では生存は絶望的だろう。





【八神 はやて・リィンⅡ】
六課解散後、管理局を辞職。
NGOを設立し救援活動を行いながらも、ヴォルケンリッターの復活を試み続ける。
ヴィヴィオ・ランスターを引き取ったのも彼女ではあるが、年々増える酒量にヴィヴィオの後見人であるカリム・グラシアは頭を悩ませることとなる。


【スバル・ナカジマ二等陸士】 死亡
JS事件から半年後、戦闘の後遺症により他界する。
ノーヴェ・ギンガとの戦闘の際、振動破砕による攻撃を受け続けたのが直接的な原因であった。
本来は一ヶ月との診断であったが、延命治療と家族の献身的な介護によりその命を半年まで延ばす。
最期は家族や友人に看取られ、JS事変に深く関わった者としては安らかに迎えることとなる。


【シャリオ・フィニーノ一等陸士】
六課解散後は本局に復帰。
結婚と離婚を繰り返しながらも、定年まで勤め上げる。
多くの執務官を補佐し見送ってきただけに、本局内部で一大派閥の中心となることも出来ただろうが、本人はただのお局さんとしてのポジションを保持し続けた。


【ルキノ・リリエ二等陸士】
六課解散後は本局に復帰。次元航行部隊の配属となる。
JS事変を忘れようとしてか鬼気迫るまでに仕事に打ち込み、遂には艦隊旗艦の操舵主にまで至る。
だが大きな動乱の時代、アイケイシア地方の治安活動に赴いた際中規模な次元災害に巻き込まれ、乗艦していた旗艦「アースラⅡ」とともに撃沈する。
享年24歳。


【ギンガ・ナカジマ捜査官】
妹であるスバル・ナカジマを見送った後、陸士部隊に復帰する。
養子として迎え入れられたノーヴェ・ナカジマと共に、悪化する治安情勢を改善しようと奮闘した。
父であるゲンヤ・ナカジマはそんな娘を見て、嫁ぎ先があるのだろうかと大層心配したらしい。


【オーリス・ゲイズ三佐】
実の父の犯罪行為、そして最高評議会の告発などを行いJS事件の真相を白日の下に晒す。
自らも実刑判決を喰らいながらも、その後政界へ進出。
後に創設される『次元世界共同体』の立役者となる。


【ナンバーズ ウーノ・スカリエッティ】
自らの罪を認め、司法取引により捜査協力後無人世界に隔離される。
その世界で一子を生み落とし、この頃から自らをウーノ・スカリエッティと呼称し始めた。
だが初期型の戦闘機人である彼女は、十分なメンテナンスを受けられないことと、代替の利かない部品の磨耗によって衰弱していくこととなる。
JS事変から十三年後、息子をヴェロッサ・アコースに託し生命活動を停止する。
ちょうどその日はJS事変が終結した日と同じ日であった。


【ナンバーズ ノーヴェ・ナカジマ】
事変後、更正の意思を見せた彼女はナカジマ家に迎え入れられることとなる。
ノーヴェ本人は固辞したものの、ギンガ・スバル両姉妹の強い薦めにより断りきれなくなったと言うのが真相のようだ。
彼女は遅かりしながらも暖かい家庭に触れ、人間として生きていくこととなる・・・。


【ルーテシア・アルピーノ メガーヌ・アルピーノ ガリュー】行方不明
スカリエッティのアジトから脱出したと思われる彼女達の行方は依然として判明していない。
だがJS事変より数年後、ある次元世界の歓楽街。
その売春宿の周辺で、特徴的な紫水の髪をした母親を車椅子に乗せた母娘が確認されたという。
局員は確認の為に現地に赴くも、既にそれらしき人間は姿を消しており、その後も彼女達らしき情報は入ることは無かった。






【ヴィヴィオ・ランスター】
またの名を黄金の聖王様とした崇めたてられる彼女は、八神はやてと共に救援活動を行っていくうちに多数のシンパを抱えることとなる。
当時大規模な動乱の時代、多くの次元世界が孤立主義をとりつつある中、融和を唱える彼女は希望として映ったことだろう。
だがそのことが原因で、次元世界を二つに割る『Golden Grau』大戦(公式には聖王紛争)に繋がるとは皮肉としか言えないだろう。




【ティアナ・ランスター】 死亡

彼女に関する資料はあまりにも少ない。
彼女の存在を示すものの殆どは、聖王陛下のお言葉を通してだけである。
だが、今回入手した情報には興味深いことが記されていた。
ティアナ・ランスターが聖王陛下と出会う数週間前、当時職員であった彼女は訓練中の事故により意識不明となってしまう。
そして、その事故を境に彼女にはしばしば奇怪な言動が現れ、またあるときは未来の出来事を予知して見せたという。

もしかすると、彼女は何らかの託宣を受け、聖王陛下と後の未来をその生命でもって守ったのかもしれない・・・。







   Episode Ⅰ 【Jail Scaglietti】 完











・・・・・・Boooo!

『本日は当館をご利用くださり真にありがとうございます。
 お出口は一番・三番・五番となっており、お足元暗いので十分お気をつけ退室ください。
 次の放映は午後一時四十分からとなっております。
 またのご利用を心よりお待ちしております。

 本日は当館を・・・・・・』













あとがき

お待たせして申し訳ありません。
とりあえず、これでEND⑧は終了となります。
次回最終回予定ですが。いつ書くかは未定だったりします。
次は放置しっぱなしの三馬鹿か、今回のさらに補足話になるのか・・・・・・。
何はともあれ、お付き合いくださりありがとうございました。




[10626] END8番外編 【あの『Cradle-Ara』総監督に突撃インタビュー!】
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c
Date: 2009/11/10 03:51
先週より各次元世界で公開の始まった『Cradle-Ara EpisodeⅠ Jail Scaglietti』。
その総監督に突撃インタビューを行いました!
今年度興行成績一位(暫定)の秘密&
この映画に監督が込めたテーマとは?
本誌が徹底解剖しちゃいます!




――インタビュアー(以後略):本日はお忙しい中、取材に応じていただきありがとうございます。そして、公開から一週間で今年度興行成績1位とはおめでとうございます。

監督(以後略)「ありがとうございます。自分でも信じられないんですけどね(笑)今は各地の舞台挨拶などで飛び回っていて、着ていく服の洗濯も追いつかない状況しかみえません。あ、こんな格好でごめんね(笑)」
注:監督は取材を受けた際、作業用らしき黒のジャージでした。


――監督が今作を作ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

「きっかけは、ひいおばあちゃん・・・シャリオ・フィニーノの三十回忌でしたね。
 三十回忌ということもあって、結構大勢の人が集まってたのですが、その場の流れで『リリカルなのは』シリーズ(*1)の鑑賞会をする流れになったんです。」

(*1:管理外世界に生まれた少女【高町なのは】の、魔法との出会い、友達との出会いを描いたお話。子供向け番組として新暦の時代制作された。
 主人公のモデルは高町なのはその人で、これは彼女の幼少期の実話が元となっている。
 A`sはその続編にあたる)

――確か、フィニーノ女史は無印とA`sの監修を務めておりましたよね。

「実はその数日前、遺品の中からその続編と思われるものが発見されたんです。
 一つは映像作品、もう二つは漫画原稿の形でありました。おそらく、ひいおばあちゃんが自作したものだと思われます。」

――ええ?!本当ですか?

「はい。それでお客様と一緒に鑑賞したのですが、鑑賞し終えたときどうにも複雑な気持ちをいだいてしまいまして・・・・・・。」

――というと?

「その映像作品、StrikerS(以後StS)と仮題されていたのですが、JS事変を題材としたものなんです。
 ただ現実とは違い、StSは事変をなぞらえながらも奇跡的にほとんど犠牲も出ずにハッピーエンドとなる『If』を描いたものでした。
 きっとひいおばあちゃんは、皆が幸せになれることを夢見て製作したのだと思います。」

――そちらは公開されないんですか?

「ええ勿論そういう声もありましたが、これを果たしてリリカルなのはシリーズの続編として世に送り出していいのかとふと思ってしまったのです。
 知ってのとおり、リリカルなのはの無印とA`sは実話を元にした作品です。
 ですが、StSはいわゆる仮想戦記にあたり、単純に続編として出してしまえば子ども達に対して誤解を与えてしまうのではないだろうか?そんな危惧を感じたのです。」

――気にしすぎじゃないですかね?(笑)

「あーまあそうかもしれませんね(苦笑)
 ただ、今の子ども達にJS事変について包み隠さず伝えなければいけないのも事実なんですよ。
 確かにあれは悲惨な事件です。
 けど、その時代をそれぞれの思いで生き抜き、または散っていった人たちがいるから今の時代があるんだとボクはひいおばあちゃんから伝えられました。そのとおりだと思います。
 StSを公開するにしても、そういった背景を知ってから観賞して欲しいと思い、今作を作ろうと決意しました。」


――百年以上も前の出来事なので、色々と苦労されたのではないですか?

「ええ、何せ当時の関係者はその殆どが他界されています。
 第一部の登場人物の中で今もお元気な方と言えば聖王陛下・・・。
 あとは、行方不明となっている八神はやてさんぐらいでしょうか?ご無事で居て欲しいのですよね。
 まあそんなわけで、JS事変を伝えるには本当にギリギリのタイミングだったわけです。これより後になると更に風化が進みますし、今までの作品は情勢が不安定なせいで資料が充分に揃いませんでした。平和な今だからこそ、製作する意味があるんです。」


――聖王陛下の名前が出ましたが、監修に名を記されてありましたね。

「はい。正直、聖王陛下がいなければこの映画は完成しませんでした。
 なんせ、当時の生き証人ですからね。
 細部まで詳細に証言していただきました。
 あの方には感謝の念が絶えません。」


――それで、アリエッティ元ミッドチルダ首相も協力されてるとか・・・。
  こう言ってはなんですが大丈夫だったのでしょうか・・・?

「スポンサーも同じ心配をされていました(苦笑)
 私は祖母の縁でお二人に子どもの頃からお世話になっているのですが、元々お二人は仲良しなんですよ。
 確かに聖王紛争では袂を別つしかなかったお二人ですが、幼少期よりまるで御姉弟のように過ごされたと聞いております。
 これ以上言うとネタバレになるので控えますが、第三部『Golden Grau』はお二人から拝聴した非公開エピソードをふんだんに使ったものとなる予定です。どうぞお楽しみに。」

――その前に第二部ですね(笑)

「そうでした(笑)」


――さて、映画の中で気になったところをお聞きします。
  ズバリ!オーリス・ゲイズ女史はドゥーエだったのでしょうか?!

「あーどうなんでしょうねぇ?
 元々、ゲイズ女史が晩年出版した自伝に書かれていたことがアイディアの元なんですよ。
 調べたところ確かに、JS事変前後で人が変わったように見受けられるのですが、それも時勢や当時唯一の肉親を失ったことを考えればおかしいことでは無いと思います。
 彼女自身も自分が別人で、それも何故か戦闘機人なのではないか?と自伝の中で言っているので、遺族の了解を得て、盛り込みました。」

――では監督は信じてないと。

「可能性の一つとしてはあってもいいと思います。
 スカリエッティならばあるいはそんな別人に成りすます能力も作り出せたかもしれません。
 ですが、その後何十年もなりすますことはどう考えても不可能でしょう。常識的に考えて。
 ただ、そんな可能性を考えることが歴史を学ぶ醍醐味だとも思います。」


――ルーテシアの最後に関してはかなりショックな描かれ方でしたが、やはりそういう意味なんでしょうか?

「ああ、あれはですね。
 そういう目撃情報が残されていたことと、実際に身寄りも後ろ盾も無い少女が生きて行く為には裏社会ぐらいしか無いと思います。
 ただ、娼婦として生活していたかについては私もよくわかりません。職業差別と言う訳ではありませんが、ルーテシアなら荒事関連(用心棒や傭兵など)でも十分生計を立てられるでしょうから。そこらへん誤解を与えるような描き方をしてしまいましたねえ。
 一つ確かなことは、スカリエッティから彼女に託された『遺言』は長い旅を経てジェイル・アリエッティ元首相に辿り着いたということです。
 この『遺言』によって、次元世界は危機を脱するわけですが、そこらへんは第二部で。」


――シグナムとアギトが使っていた技ですが。

「『天地一閃』ですね(笑)
 あんな技があったらいいなぁと思いまして。」

――それだけですか?

「それだけです(笑)」


――それではラストバトルについてです。
  おそらくこの映画一番の見せ場で、私も思わず手に汗握って見入ってしまいました。

「ありがとうございます。」

――あの彼女達の相容れない主張。
  それは劇中にも言われてきたとおり彼女達の人生そのものですが、元となったモデルは存在しますか?

「あれはですね、皆自分の中に持っているとモノだと思って書きました。
 その中でも、支配されたいとか支配されたくないと言う感情は中々表には出てきにくいものです。それこそ、彼女達みたいに、生命全てでぶつかり合わないと自覚できない感情なんじゃないでしょうかね?」

――最後のクアットロの言葉。あれはどういう意味なんでしょう?

「劇中のクアットロは本当は誰かに支配し尽されたかったんですよ。
 そしてやっと主人に相応しい人を見つけた。
 けれど、そのなのはは人が人を支配するなんてことをどんな形であっても許せない人間でした。
 彼女の主張もまた、社会生活の中で足かせになりかねないんですよ。
 クアットロにとっての勝利とは、なのはにその主張を撤回させることだったのでしょう。
 ただ、そうやって妥協したなのはにクアットロは価値を見出せないでしょう。クアットロにとってなのはは『折れない』ことが魅力的なわけで、そんな彼女を『折る』ことを目標を立ててしまった時点で、クアットロの勝ちはありませんでした。」

――クアットロと言えば、あまりに非人道過ぎるという意見がありますが。

「レリック爆弾の件ですね。
 あれは、私が考えるに姉妹達を『機械』の枠に押し込めようとしたのでしょう。
 クアットロの考える戦闘機人の幸せとは、何も考えず『機械』であり続けることだと予測しています。
 クアットロがセインやウェンディを苦手とし、セッテや双子に愛情を注いだというのもここらへんが原因ではないでしょうか?
 もっともクアットロ自身が自らの『機械化』には失敗しておりますし、ノーヴェやウーノの証言から決してクアットロは姉妹達を嫌ってたわけではないと思います。おそらく、セインやウェンディは手の掛かるドラ娘的な感覚だったのでは無いでしょうか?
 クアットロにとって残念なことは、決起までに彼女達の矯正を終えられず、また情勢から非情の判断を下さなければならない事態に陥ったことでしょう。
 もっとも、彼女に殺された機人やそれに巻き込まれた人々も相応の主張があると思いますが、ここでは割愛させていただきます。これはあくまで私個人のクアットロ観ですね。」




――よく解りました。
  そろそろ時間ですので、最後に読者の方へ向けて一言お願いできますか?

「ああもうそんな時間?
 えーと・・・・・・、
 EpisodeⅡ『The END of Administrative Bureau』は先日クランクアップいたしました。ただ今、総力で編集作業中です。
 EpisodeⅢ『Golden Grau』の撮影も始まり順調に遅延中(笑)
 この作品を見て、壮大な時代の流れを一片でも感じとっていただけたら幸いです。
 それでは皆さん、映画館でお会いしましょう!」


――今日はありがとうございました。

「こちらこそー」
 



[10626] タイトル未定その①
Name: 痴話詐欺離散◆3cc6d3fb ID:31053af0
Date: 2010/04/28 22:52


「おばあさん、大丈夫ですか?」

駅の構内から出て、最初に目にしたのは杖をつきながらよろよろと歩く年配のご婦人の姿だった。
人通りが多い表通りを時折通行人にひっかかりながら歩いている。その遅い歩みに、人々は邪魔だと目で語りながら誰も手を貸そうとはしなかった。

普段の私なら声を掛けただろうか?
ふとそんなことを思う。
制服を着ていたならいざ知らず、今は私服での職務中である。本当なら連絡を入れていた隊舎へ真っ直ぐ向かわなければ行けない。
きっと母さんならどんな時でも助けちゃうんだろうな。
けれど、私は考えてしまう。
世の中には困ってる人はいくらでもいる。そんな人達を目に付いた端から助けていては、まともな生活を送ることはできない。
だから、そういう時は見なかったフリをしてる。邪険な視線は向けないが、誰もそこに居ないように振舞うんだ。
ある意味それは、邪魔者扱いする人々よりひどい行為なのではないかと考える。
だけど、他にどうすればいいのか。今はまだ答えが出ていない。

そんな私が手を差し伸べたのは、ひとえに憤りからだったから。
何に?と問われても困るけど、おぼつかない足取りで進み、ぶつかった人々に必要以上に頭を下げ、相手は舌打ちしながら過ぎ去っていく。
そんな光景を私は許すことは出来なかったんだ。



「・・・誰、ですか?」

手を取って支えたところで、婦人から思ったよりも若い声が返ってきた。
ぱっと見たところ普通のおばあちゃんだったけど、実はそうでもないのかな?

「あの、見ていたところ足が不自由な様子。
 余計なお世話かもしれませんが、もしよろしければお手を引かせていただきますか?」

意識して笑顔を浮かべる。
母さんは笑顔はコミュニケーションの第一歩と言っており、私もこれには賛成している。
急に現れた私に警戒心を与えるなという方が難しいのだ。
まあやり方は詐欺をお仕事にしてる人達と一緒だけど、やったほうがいいと思っている。
だけど、おばあちゃんの反応はちょっと予想外だった。


「こんな老いぼれに手を差し伸べてくれるなど申し訳ないことです。」

先ほどまで通行人にしていたように、おばあちゃんは今度は私にペコペコと頭を下げ始めた。
ああもう、こんな姿を見たくないから声を掛けたのにっ!
そこまで考えたところで違和感に気付いた。
私はおばあちゃんの脇から手を取っているのに、おばあちゃんは正面の誰もいない空間に対して頭を下げているのだ。

「ですが、どうか放って置いてください。もう帰るところですので・・・。」

「あ・・・・・・」


点字ブロックに沿いながら歩き出すおばあちゃん。
だけどその先にはガタイのいいお兄さんがいて・・・

「キャッ?!」

思いの外可愛らしい悲鳴をあげて尻餅をついた姿を見て、お兄さんは忌々しげな視線を向ける。

「チッ、前見て歩きやがれ糞ババア!」

「すいません・・・すいません・・・」

確かに不注意はおばあちゃんの方にあった。
けれど、今の物言いはあんまりではないか!
ましてやこのおばあちゃんは・・・。

「ちょっと、あなた!」

「あっ?なんだよアンタ?」

立ち去ろうとするお兄さんを呼び止める。
思わず怒声だった為、何事かと周囲の目が私達に集中した。
だけど、お兄さんはどうして呼び止めたのか、そしてどうして私が怒ってるのか本気で理解していないようで、疑問符を頭上に表示している。

「おばあちゃんに謝って!」

ようやく合点がいったのか、めんどくさげな溜息をついた。
更に私のボルテージは上がっていく。

「知るかよ、ババアが勝手にぶつかってきたんだろうが!
 関係ない奴がしゃしゃり出て来るな!」

もう話は終わったとばかりに立ち去ろうとする男の腕を掴む。
あ、だめだ、我慢難しいよ?

「あの・・・私のことはいいですから・・・。」

おばあちゃんはすっかり萎縮して、なんとか私を宥めようとしているけど、もう私を止める材料にはならなくなっていた。

「ほら、ババアもそう言ってるしもういいだろうが!」

力づくで手を離そうとする男の腕を握り締める。

「よくない!
 元はと言えば、お兄さんがいけないんだよ!」

「ああっ?
 なんで悪いのは俺なんだよ!いいかげんにしねぇと、管理局に突き出すぞ!」

絶対に納得がいかんと言わんと、私だけでなくおばあちゃんにまで声を荒らげるお兄さんに堪忍袋の緒が切れた。
内ポケットから支給制の手帳を取り出し目の前につきつける。

「その管理局が私なんだよ!」

「なっ?!」

「・・・・・・っ」

・・・・・・あはははは、驚いてる驚いてる。
もうどーにでもなーれ。
私服行動中とかそんな事実、一切忘れています。思い出したくなんかありません。

「ほ、本当に局員かどうかも怪しいもんだ。
 それにだなっ、管理局だろうと横暴は許されないんだぞ!」

一瞬怯んだ物の、すぐさま鼻息荒く反論してくるお兄さん。
制服だったらもっと説得力あったのに。と、思ったがサイズが合わないあの制服じゃ逆効果かもしれない。
喜び勇んで着てみたら母さん達に笑われてしまった過去が甦る。私も、スタンダードな陸士部隊の方がよかったなぁ・・・。
・・・・・・。
あーもうっ!そうじゃなくて!
過去の汚点を脳裏から振り払う。
どうして私がここまで言ってるかまだわかんないのっ?!


「おばあちゃんはねっ、目が見えないの!
 点字ブロックの上に立っていられると、ぶつかって当然だよ!」


ああ、最低だ・・・・・・私。








「・・・局員、さんだったんですね・・・・・・。」

「・・・はい。あ、でも、今日は休暇で、たまたま手帳を所持していただけなんです・・・」

自分でもよく判らない言い訳をしていく。

あれから、結局なんだかんだでうやむやになってしまった。
お兄さんは「だったら盲導犬でも連れていろ。悪かったよ!けど、俺のせいだけじゃないからな・・・」と謝罪なんだか文句なんだか言い訳なんだかよく判らない言葉を吐きながらその場を後にした。
追いかけようとしたものの、おばあちゃんに止められてしまう。
見ると、周囲には人だかりが出来ており、こんな場所に一人残していくのは酷かなと思えた。

私がしたことはおばあちゃんをさらし者にしただけだった。
おばあちゃん自身に頼まれていないのに勝手に私が暴走してしまったのだ。
それでもおばあちゃんは私に何度も何度もお礼を言って、そのことで私の内心は沈み込んで行ってしまう。


その後、おばあちゃんの手を引いて現場を後にし、現在はバスの発着場まで来ている。
途中、嫌がるそぶりは見せたものの押し切ることに成功した。
時刻表を確認した所、おばあちゃんの乗るバスはギリギリ出てしまっていた。
きっとさっきの事が無ければ間に合っていたんだろうなと思う。・・・はぁ。
一瞬、改めておばあちゃんに謝罪しようかとも思ったが思いとどまる。
先ほどの件から察するに、私が謝るせいでおばあちゃんを萎縮させてしまうだろうから。
そして、なんとなくそのままにしておけなくて、おばあちゃんと一緒に次のバスを待っているしだいだ。
・・・静寂が続く。


「・・・・・・。」

「v、・・・・・・局員さん。ごめんなさい。私のせいで・・・。」


無言もNGなの?!
このおばあちゃん、想像以上にめんどくさいよ?!
特に話題も無く沈黙が続いちゃっただけで、謝られてしまった。
何か、話題はと考えながら腕時計にちらりと目をやる。待ち合わせの時刻はとっくにすぎている。
相手方には謝罪の連絡をこっそりしているけど、あとで何かしらの埋め合わせをしておかないと・・・。


そこまで考えてようやく話題のとっかかりを見出した。

「あのね、おばあさん。実は私、人探しにここへ来たんです。
 もし、よろしければ協力してくださいませんか?」

「・・・・・・はい、私にできる事なら・・・。」

よかった。
これで少しは心を軽くして欲しいんだけど、難しいかな?

「そんなことないですよ。えっとですね・・・」



その名前は私達にとって忘れられない名前。
愛憎が複雑に入り混じって未だになんと形容すれば解らない感情。
故に私達は彼女を探し続ける・・・。











『ティアナ=ランスター』と言う名前に心当たりはありますか?











スバルは自室への扉を開いた。
現在の時刻は21時前。当然、日は落ちきっているのだが灯りをつけることなくソロソロとベッドへ向かう。
廊下から漏れる光を頼りに、二段ベッドの下へたどり着いたところでそこに膨らみがあることが確認できた。
スバルは自ら予測が正しかったことを知り、ゆっくりと塊に被せられていた毛布をめくるのだった。




「アイナさん、やっぱりここでしたよ。」

極力声の大きさを絞って廊下に伝えた。
アイナさんは胸を撫で下ろした様子で、私と同じように薄明かりの中下段ベッドを覗き込む。

「あらあら、よく眠っていますね・・・。」

そこに居るのは身体を丸めて眠る少女。
私達はその無垢な寝顔に思わず顔を綻ばせてしまった。
子どもの無防備な表情を見ると、自然と護ってあげたくなってしまう。
多分生き物としての本能なんだろうな。
けど、何時までも和んでばかりも居られない。

「起こすのは可哀想だからこのまま運んじゃいましょうか。
 アイナさんはうさちゃんお願いできますか?」

ヴィヴィオの傍らに鎮座していた彼女の相棒を拾い上げるのを確認しながら、腕を身体の下へと差し入れる。
うわ、軽いなぁ。
思ったより重力が仕事をしてないことに驚きながら、起こしてしまわないように腕の中へとかき上げる。だけど、その途中で急に抵抗が加わった。
見ると、ヴィヴィオの小さな両の掌はシーツをギュッと握りしめている。
困ったな、このまま運べないこともないけど、その分揺れて起こしちゃうかもしれない。かといって無理に引っ張のも起きてしまう原因になりそうだ。
しばしの間どうしようかと考えていると、アイナさんが状況を察し優しく手を開かせようとしてくれた。
だけど、余程強く握り締められているのか一向にシーツを放す気配はない。
本当、どうしよう・・・?

「・・・・・・んんっ。」

二人して悩んでるうちにヴィヴィオはむずがってしまった。
あわわ、起きちゃったかな?
一瞬、起き抜けに泣き出してしまうことも危惧したけど、それならまだ良かったかもしれない。
少なくとも考え込んでしまうことは無かったのだから。


「・・・・・・ティアナ・・・さん・・・。」

その呟きは胸に深く刺さった。






あの日から二ヶ月と少しが経った。
だけど、ティアナはまだ帰って来ない。

ヘリに砲撃された瞬間、ヴィヴィオとヴァイス陸曹と共に脱出したのは確認されているけど、現場跡にはヴァイス陸曹しか残っていなかった。
おそらく敵の戦闘機人に追われたんだと思う。実際にヴァイス陸曹がそれらしき存在を目撃していたから確かだ。
すぐさま捜索任務に移行したものの、展開されていたAMFにより満足に動けなかったことも事実。
そして約五時間後。ようやくAMFの影響が小さくなったときに発見できたのは、廃ビルの一室のロッカーの中で泣き続けるヴィヴィオと名乗る少女と、救難信号を送り続けていたクロスミラージュだけだった。

ティアナはどこに行ったのか?それは未だに解らない。
クロスミラージュに記録されたデータでは、赤髪の戦闘機人に執拗に追い回されたことが判明している。
ヴィヴィオを狙っていることをティアナは察した。そして、ヴィヴィオを抱えたままではいずれ捕まってしまうだろう事は明白。だから、ヴィヴィオを隠して自分が囮となってヴィヴィオから引き離そうとした。
なのはさんたちはこれが最有力と考え、皆もそれには同じくだった。
だけど、ティアナがどうして今日まで見つかっていないのか・・・・・・あまり考えたくは無いけど、もう生きてはいないとしてもどうしてその死が隠されたのかは未だに判明していない。

その日から私達も周囲を全力で捜索したけど、そのビルの周囲2kmにティアナとものと思しき血痕が転々と残されていたことと、複数の戦闘現場らしき地点ぐらいしか解らなかった。
そして機動六課による捜索行動の期日は締め切られ、私はそれに食い下がって独房入りとなったりもした。
今はお父さん達が全力で行方を捜そうとしているからそれを信じて待つだけだ。納得なんか出来っこないけど、なのはさんに『ティアナが護ったヴィヴィオを放り出すの?』と言われてしまい、反論できなかった。

きっと、捜査官経験の無い私が加わっても足手まといになるだけだ。私は何も出来ない自分に言い訳したかっただけなんだ。
なら私は、スバル=ナカジマにしか出来ないことをしよう。
ティアナが帰ってきたときに笑われないように。
少しでも成長したところを見せれるように。
そう思えるようになったのは、ここ一月のことだ。







「あの、アイナさん。私のポケットに手を入れてもらえます?」

落ち込んでばかりも居られないよね。
よしっ、と気合を入れなおし、まずはヴィヴィオをちゃんと護れるようになろうと思う。
この腕の中で眠る女の子を泣かせないことが今夜の目標。

「あ、そっちじゃないです。はい、スカートの右側の・・・・・・うわわわ、奥っ、それは奥過ぎますよぉ!」

両腕でヴィヴィオを抱えたままだったので思わぬ刺激に身体が揺れる。
他人にポケットまさぐられるのがこんなにくすぐったいものとは思わなかった。


「・・・ん、んしょ。・・・出ましたけど、コレは一体・・・・・・?」

「それをヴィヴィオの手に握らせてください。」

半信半疑と言った表情のアイナさん。
けれど掌に触れたあとあっさりとシーツを放し、代わりにソレを握ったヴィヴィオにはさすがに驚いたみたいだ。
・・・ヴィヴィオもティアナの帰りを待っているんだね。
だから、クロスミラージュ。
ヴィヴィオの傍にいてあげてね。

一度、ヴィヴィオの掌の中でオレンジ色の光を点滅する。



「それじゃあ行きましょうか。なのは隊長達が待ってますし。」

そうして歩き出そうとしたときだった。
突如隊舎内に鳴り響く警報。


『西部にガジェットドローン出現。状況は一級警戒態勢に移行。各員は所定の配置に着き速やかに指示を待て。
 繰り返す・・・』


「ヴィヴィオをお願いします!」

アイナさんにヴィヴィオを渡して走る。
ガジェットが出てきたってことは、戦闘機人達が動いてる可能性も高い。
なら、ティアナの情報も手に入るかもしれない!
私は緊張と同じぐらいの期待を胸に隊舎の階段を飛び降りる。






この後、私の願いは叶えられる事となる。
それ以上の絶望と共に。




   ◆



「と、父さん落ち着いて!」

受話器のスピーカーから聞こえてくる怒号にも似た大声に、私は先ほどから感じてる頭痛を強く感じ、眉をしかめた。
一旦耳から離し、相手にようやく言葉として意味がある程の落ち着きが戻るのを待ってから、会話を再開する。

「・・・うん、スバルは大丈夫。命に別状は無いって。
 今は眠ってるから、今夜は入院して明日の朝精密検査を受ける事になってる。
 私も今夜は付き添うつもりだから・・・。
 うん・・・。
 うん・・・・・・。
 ・・・だから、・・・今父さんが来ても何もできる事はないんだよ?」



スバルと共に夜間出動し、戦闘機人との戦闘で意識を失い病院にかつぎこんだのが二時間前。
私はスバル達とは別行動してたため戦闘の詳細は解らないが、急を要する容態ではないととりあえず胸を撫で下ろしたのがつい先ほどのことだ。



『けどよぉ・・・。』


スピーカーから漏れ出る愛すべき父の言葉は酷く頼りない。
幼き日からその背中をとても大きく感じていたのだけれども、今は電話の向こう側で項垂れている丸まった姿しか想像できなかった。

一瞬、母さんを喪った時の父の姿が浮かぶ。
あのときの私とスバルはただ泣くだけだったが、父は涙一つ流さずに、粛々と葬儀を執り行っていた。
能面のような無表情。
思えばあの日から父の頭には白い穂が生え始め、物事に動じるようなことが無くなった。
きっとそれは私達が居たから。
たった一人で私達を護っていかなくちゃならなくなったから、それに見合うだけの振る舞いをしようと父さんも必死だったんだ。
父のそんな態度は、思春期の少女に若干の距離を感じさせ、私にいつまでも子どものままでいられない事を教えてくれた。

・・・・・・いつの日か父も居なくなる。それは避けられない運命。
なら、スバルを護るために強くならなければ・・・・・・。

・・・・・・と。
子どもじみた感情だとは判ってるけど当事は本気だった。
それは同時に、

ふざけて
一緒に悪巧みして
母さんに見つかって
頭を掻きながら言い訳して
私達の分まで怒られてくれた

初めて出会った異性への想いは、母の戒名と共に墓碑に封印された。
なんてことの無い通過儀礼。
事実、今この時まですっかり忘れてしまっていた。
それほどまでに、父さんは完璧に『父親』をこなしていたのだから。


・・・・・・なのに。

「・・・プッ」

『・・・ギンガ?』

電話口でもはっきりと解るしょげように、思わず噴出してしまったのを誤魔化しながら早口でまくし立てていく。

「あ、ごめん。
 あー、・・・ゴホン。
 とにかく明日になればスバルも目が覚めるし、多分大丈夫だとは思うけどもし精密検査の結果で入院が伸びるようなら、改めて準備が必要なの。
 父さんが慌てたっていいことなんか一つも無いし、今夜はぐっすり寝て明日・・・ともう今日ね、の朝一に来て頂戴。
 ここ数日徹夜続きで寝て無いんでしょ。
 目の下にクマ作ってたら逆にスバルに心配されちゃうよ?」

『お、おう・・・スマン。』

あれほどまでに頑なに纏われていた【父親】の仮面はボロボロと崩れ落ち、代わりに今剥きだしとなってるのは【父さん】の素顔。
だらしないけど、お世辞にもかっこいいとは言えないけど・・・・・・私達をしっかりと愛してくれた人を私は実感した。

「それからね、日が出ても正面玄関は開いてないから、裏口の守衛さんに・・・」

母さんには勝てなかったけど、私達は三人で【親子】になれたってことかな。
そんなことを注意事項を伝えながら考えていた。



『・・・・・・ああ、それとな。』

病院のロビーの静けさにそろそろ病室に戻ろうかと言う頃合、先ほどまで仕事の連絡事項を告げていた父さんが、声を潜めるように呟いた。

『こいつは、言おうかどうか迷ったんだが・・・・・・』

かなり歯切れ悪い物言い。
それは現状でも迷っている最中であることを示している。
なんだろう?
父さんがこういう言い方するなんて珍しいな。

「何?・・・・・・言いにくいことなら無理に言わなくても・・・・・・」

『いや、・・・・・頭の片隅にでも留めておいてくれ。
 こんな情報、役に立たないに越したことはないからな・・・・・・。』

今頃、思い悩んだ過程が眉間に刻まれているのだろう。
そして父の前置きから、胡散臭くそしてきな臭い話であることが察せられた。

『こいつは資材課の連中から聞いた話だ。
 そいつは今、公開陳述会の設置のために走り回ってるんだが、地上本部の地下倉庫に由来不明の貨物が毎日少しずつ増えて行ってるらしい。
 気になって送り先を調べると存在しない番地でな・・・。』

「・・・・・・そういうことならウチにもあるんじゃ・・・?
 別にロストロギア関連じゃないんでしょ?」

そう、これだけならよくある話。
地上本部の人材不足はこういった面に現れているのは局員にとって周知の事実だ。
施設の倉庫を漁っていたら、奥からインテリジェントデバイスが飛び出してきたなんて眉唾な話も存在する。

『まあそうだがな・・・。
 あとは、本部内で海の悪口をここ数日全く聞くことがなくなったり、三日前に急遽予定に無かった対テロリストシミュレーションが組み込まれたりって話だ。
 細かいのになるともっとあるが、おかげで本部の奴ら妙にピリピリしてやがる。』

上司がしきりに有給を薦めてくる。食堂のおかずが一品増えた。レジアス中将がトイレ掃除を?!etcetc
一つ一つは些細なことだけど、父さんはそこに引っかかってるのかな。
けど、もしそれらに繋がりがあるとしたら・・・。

「解ったよ。私の方でも気付いたことがあったら連絡するね。」

『ああ、それと危ないと思ったら真っ先に逃げろよ。』

「・・・・・・三佐、私も陸士なんですよ?」

敢えての敬語。

『・・・・・・無理は、しないでくれ。お前も、スバルもな。』


そこにどれだけの想いが込められているのか。
解っているからこそ、『父さんも』という言葉を続けられなかった。



   ◆




『グッ!・・・・・その身体、戦闘機人?!』

『うっせーよ。あたしはお前にぶち殺しに来たんだ。ぺちゃくちゃ喚くな!』

薄暗い会議室、その壁の一つに掲げられた大きなモニターによって室内は照らされている。
室内にいるのは五人。いずれも機動六課の隊長格であった。
いずれも硬い表情のまま無言でモニターを凝視している。

映像の中の登場人物は主に二人。
一人は皆がよく知るスバル・ナカジマ二等陸士。
そしてスバルと機動戦を繰り広げているスバルによく似た赤髪の少女。
時折、画面奥をエリオやキャロ、他の戦闘機人らしき少女が横切るものの、この映像の主役は完全にこの二人だった。



空色と金色のベルトが交差し、薄明かりの中火花が飛び散り、そのたびに轟音が響く。
素人目には互角に見えるかも知れない。
だが観察している隊長陣には両者の差をはっきりと理解できていた。
それはひとえに戦闘経験だ。
両者の身体スペックが同等の場合、勝負を決するのはその運用に因る。
例え同じ動作を行ったとしても、スバルは経験より二手三手先を無意識で感じ取り、意識を次の動作へと動かしている。
対して、相手の戦闘機人は目の前の事態にしか反応が出来ていないため、行動がワンテンポ遅れてしまう。さらにこれを補おうとし、限界を超えたパワーとスピードが要求され、その負荷は身体へ蓄積されていった。
結果、一見互角に見えていた戦況はしだいにスバルへと傾いていく。一手の遅れを取り戻すための負担が、その次の一手を防げなくなり、やがて戦闘機人の少女は目に見えて動きが鈍り始めていった。


『くそっ、認めねえぞコンナノッ!』

少女は自分でも判っているのか、一旦インファイトから身を退き弾幕を張りながら距離を取ろうとする。
だが、スバルが許すはずがない。
当然のごとくリボルバーナックルが右肩にめり込み、少女は壁際まで転がっていった。

『投降してください!
 あなたには聞かなきゃいけないことがあります。』

立ち上がろうとついた片手の手の甲の上に乗せられるマッハキャリバー。
加えて視線を上げた先の目の前には回転を続けるリボルバーナックル。
完全な【詰み】であった。


『てめぇ、本気出してなかったな・・・』

呻く様な呟きに、スバルは一方的な質問を行う。

『答えて下さい。
 アノ日、廃棄都市であなたが出会った局員は・・・・・・ティアナはどこへ行ったのかを・・・』

『・・・・・・。』

戦闘機人の少女は、その真っ直ぐな視線に耐えられないように逸らし、しばしの沈黙が場を支配した。




ここで映像は一旦停止される。
皆の視線はリモコンを手に取ったヴィータに集中する。

「ここまではよかった。
 多少身内びいきなところもあるが、フロントアタッカーとして必要最低限なことはこなしてる。
 まあ最後は減点だがな・・・。」

溜息交じりな評価に周囲は同意する。

「そうだね。
 犯人確保を最優先しなかったのはセオリーには反してるけど、戦闘機人モードを意思の力で抑え込んでたことも考えるとよく我慢したと思う。
 ねぇ、なのは?」

「・・・・・・。ヴィータ副隊長、続きをお願いします。」

「お、おう・・・。」

同意を求める同僚に、高町なのはは無言で答えた。



高町なのはの態度はティアナ=ランスターが行方不明となってからも変わらなかった。
時に厳しく時に優しく。人々はその態度に最初は心強く感じていた。
だが、一人で居るとき、または人と一緒に居るときも無言が続く時間が少し増えた。
そしてそんな時間、なのははひどく禍々しい目をしている。
部下達はほとんど目にすることはないが、ここにいる隊長陣はどうしても目にする機会が多くなり、それでも指摘することが出来ずにいた。
先ほどフェイトが話を振ったのも、なのはがそんな目をしているのをなんとかして止めたかったからだ。だがそれは功を奏さない。
なのは本人は薄闇で判らないだろうと考えていたが、声音まで偽ることは出来なかった。




「あー・・・・・・問題はこの後だ。」

ヴィータは意識して動揺を抑えながら映像を再開させる。



『誰が教えるかよ、このマヌケ、がぁあああああッ!』

映像の中の戦闘機人の少女は圧倒的な不利な状況でも逃走しようと試みるが、マッハキャリバーに右手を踏み潰された痛みに、言葉の途中で悶絶する。

『やっぱり知ってるんですね。
 抵抗は無意味です。仲間にも速やかに投降を促してください。』

淡々と定型文を告げるスバル。
スピーカーからはスバルの声が鮮明に聞こえ、先ほどまでの他の戦闘もほぼ終了していることを示していた。
本来ならこれで任務は完了している。
だが、実際にはそうでないことをモニターの前の五人は知っている。

・・・・・・ソレハ コマルナ・・・・・・

男とも女とも取れない電子音声。
突如背中側から聞こえてきた声にスバルは慌てて振り向き、次の瞬間トラックに跳ね飛ばされたかのように壁に轟音とともにめり込んだ。




「「「なっ?!」」」

ガタッと思わず席から腰を上げる音が会議室に響く。
ヴィータは苦虫を噛み潰すように言葉を紡ぐ。

「・・・この時だ。コイツが何も無い空間から現れたのは・・・っ」



ソレはヒュルヒュルと風鳴りの音とともにゆっくりと土煙の中から現れる。
背はそんなに高くない。だけど、全身を覆うようなもっさりとしたローブに身を包み、その顔は男なのか女なのか・・・いや、人間なのかどうかすら窺い知れない。

ローブは壁に埋め込まれたスバルを一瞥すると、戦闘機人の少女に近づいていく。

『・・・誰が助けてくれって頼んだよ!
 ・・・・・・。
 ・・・解ったよ、クソッ!』

少女は一度は激昂したものの、地面を殴り発散したのか大人しく立ち上がる。


『スバルさん!』

エリオのローブの人物に対する背中からの強襲。
だが、ストラーダが命中しようとする次の瞬間、エリオは先ほどのスバルと同様に、真横からのベクトルが加わり吹っ飛んでいく。


「・・・エリオッ」

「実際、この後やりあったんだがコイツの攻撃はやっかいだ。
 見えねーせいで、どんな武器なのか魔法なのか判別しにくい。一見したところ腕を振るのが攻撃の起点になってるみてーだが、それにもフェイント入れてきやがる。
 ちょっとばかし、ひよっこどもにはつれーだろーな。」

映像の方では、ヴィータの詳言通りヴィータとローブの人物との戦闘に移っていく。
だが、見えない攻撃に責めあぐねるヴィータは中々距離を詰めれないようだった。

その後、そのまま時間が過ぎ、戦闘機人の援軍が仲間達とそのローブの人物を回収したところで映像は途切れた。


映像が終了したことで会議室に明かりが灯される。
だが、面々の表情は暗いものとなっていた。

「『謎の敵』に『謎の攻撃』か・・・。漫画じゃあるまいし・・・。」

「戦闘機人とは違ったのか?」

「ああ、あたしも一人この前に相手してたけど、戦闘機人の攻撃は協力な分素直だ。だから読みやすい。
 だけど、こいつは一言で言うとイヤらしい。
 あたしに対しても、ぶちのめすってよりも仲間が来るまでの時間稼ぎって感じだったしな。」

「今後、その人にスバル達は勝てそう?」

「・・・・・・正直厳しい。
 あいつらは三人とも根が真っ正直だからな。」

「外道な手使われたら、心理面から崩れるか。」

「場面場面で、エリオやスバルを盾にするように移動してたしなー・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

皆が皆、脳裏に浮かんだ言葉を飲み込む。
それは言ってはならない言葉。
ティアナは未だ見つかっていないのだから。




「じゃ、じゃあ、今後こいつが現れたら副隊長以上が優先的に対処するってことでえーな?
 シャーリーに映像の分析頼んどくから、各自こいつの、特にこの見えない攻撃の特性について頭に叩き込んでおくこと。
 そしたら、解散!」

皆がはやての言葉に頷き席を立とうとしたところ、はやての胸元からコール音が鳴る。

「ちょっ、ごめんな。ちょい待って・・・。
 グリフィス君、どうしたん?」

相手は彼女の副官だった。
モニターに映し出された彼は、そこに他の隊長陣がいることも確認する。

『よかった、隊長たちもまだそちらにいらしたのですね。
 とにかくTVを付けてください!どのチャンネルでも構いません。無いならラジオでも・・・!』

彼が慌てるということはよっぽどのことなのだろう。
察したフェイト、今まさに退室しようとしていた会議室のモニターを再度灯し、放送局に切り替える。

「一体何が?
 事件ならTVより先に通報が来るはずやし・・・」

「お、映ったぞ。
 ・・・・・・誰だ?」


モニターに映ったのは二十台と思しき女性。
物静かな印象でスーツ姿を晒している。


『プロパガンダです!
 ジェイル=スカリエッティの!
 次元世界の主要な放送を電波ジャックしているんです!!』



   ◆



『次元世界にお住みの市民の皆さん、こんばんわ。
 私はウーノ=スカリエッティと申します。
 最初に皆様の生活に無断でお邪魔したことを謝罪いたします。
 ですが、どうしても皆様に伝えなければならないことがありこのような手段を取らせていただきました。

 皆さんは戦闘機人という存在をご存知でしょうか?
 旧暦の時代より研究されてきた人型の戦闘兵器のことです。
 ですが人の手で生命を造り、人の手でその生命を弄びあげくに捨ててしまうことなど、とても許されることではありません。

 何故こんなことを言うのかというと、私自身・・・そして私を製作した科学者ジェイル=スカリエッティもまた、忌まわしき戦闘機人であり人造生命体であるからです。
 きっと今、皆様「誰が?」とお思いになったと思います。
 私達の製造を指示した人物、それは企業や犯罪組織ではありません。
 最初は信じられないかもしれませんが最後までお聞きください。

 戦闘機人を作り出した存在、すなわち管理局最高機関の評議会、及び最高評議会を告発するために私は今皆様の目の前にいるのです!

 彼らは違法科学者を捕らえる一方、その科学者達の懐柔し、長年に渡って違法な研究を続けてきました。
 そして今もまた、たくさんの人に造られし生命が、評議会や最高評議会、違法な科学者の勝手な都合でその生命を散らしていってるのです。

 

 私達もまた、彼らの指示の元、多くの犯罪行為に手を染めました。
 けれど、私達にも意思があり、人間として生きたいと切に願っております。
 どうか皆さん、私達に罪を償う機会をお与えくださるようお願い申し上げます。



 そして、管理局地上本部の方々へ。
 二日後の正午、地上本部タワー正面にジェイル=スカリエッティ以下全戦闘機人は投降し、保護を求めます。
 ただし、過去私達のような存在が闇から闇へと葬りさられたように、最高評議会の干渉があることをとても危惧しています。
 つきましては二日後の正午までに、地上本部タワーより地上本部メンバー以外の可能な限り立ち入り禁止を求めます。
 私達の安全が確保されたことを確認ししだい、最高評議会らの容疑を証明する証拠を提出いたします。


【犯した罪は裁かれる】

太古より普遍の真理として語られるこの言葉が偽りでないことを私達は祈っております。
 それでは皆様、よき夜を・・・・・・』





あとがき

リハビリがてら思い付きネタを投降してみます
時系列的には、前回と同じくヴィヴィオとの第一次接触からの分岐となります

(つД`)トリップ忘れた


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