暗闇の中に、一人の少女が静かに降り立つ。
夜風が少女の金色に輝く髪を揺らし、たなびかせる。
手には黒い斧を持ち、背には髪と共にはためくマントを羽織っていた。
その少女の傍らには、赤い毛並みをした狼が控えていた。
少女は傍らにいる狼に話しかける。
「ロストロギアは……この付近にある」
少女は確認するかのように、探し物を口にする。
「形態は青い宝石、一般呼称はジュエルシード」
右手に持つ斧の、刃の根元にある黄色い宝玉がキラリと光った。
「そうだね……直ぐに手に入れるよ」
そして少女は飛び立つ。
「待っててね、母さん」
直ぐに少女の姿は見えなくなった。
――オオオオオオオオオンッ!!――
静かに眠る海鳴の街に、狼の遠吠えが響いた。
「~♪」
なのはは上機嫌だった。
店は破壊されてしまったが、保険は降りることになった。
昨夜抱きしめて一緒に眠った大魔王は、とても美味しかった。
そして今、なのははもっと笑顔になっていた。
「ふふっ……うふふふふっ……」
いつものなのはを知っている人が見たら、気持ち悪いと言いたくなるような、不気味な笑みを漏らしていた。
始まりは今日の朝。
なのはの携帯電話に掛かってきた一本の電話だった。
『もしもし、なのはちゃん?』
「あ、すずかちゃん。どうしたの?」
なのはの携帯に掛けて来たのは、なのはの幼馴染であり、親友である月村すずかだった。
『どうしたのじゃないよ。なのはちゃん、お店壊れたんだって?』
「さすがに早いね」
『だからなのはちゃん、落ち込んでるんじゃないかって』
「確かに落ち込んだね……」
一晩たった今でも、なのはの内にはあの思いがグルグルと渦巻いている。
『そんななのはちゃんを元気づけようかと思って、家にご招待しようかと思うの』
「すずかちゃん……ありがとう」
なのはを慰めてくれようとしているすずかに、なのはは込み上げてくるものを感じる。
「あ……でも私、店の後片付けとかあるから今日は……」
『そう? 残念だな。
お仕事の関係でお酒を貰ったんだけど、私はあまり好きじゃないから。
珍しいお酒みたいだから、なのはちゃんにどうかなって思ったんだけど』
「……何て名前?」
『えっと、ちょっと待ってね……』
ごそごそと何かを探す音が、携帯を通してなのはの耳に伝わる。
『あったあった。えっと、「村尾」って書いてあ――』
「行く」
そしてなのはは、いつものようにタクシーに乗って、移動していた。
そんな、時折含み笑いを零すなのはに、質問したくなった人がいた。
タクシーを運転している運転手だ。
「えらいご機嫌やね、店長」
「そう? わかる?」
ふふふと笑うなのはに、運転手は汗を流す。
「な、なあ店長。店が壊れたのは悲しいことやと思うけど、自暴自棄になったらあかんよ?」
「そんなんじゃないよ。
確かに、お店が壊れたのは悲しいけど、いつまでも引きずる訳にもいかないからね。
今日は別の件だよ」
「そうか」
その言葉に、運転手がひとまず安心する。
そして話題を変えようと、明るい声で話しかける。
「そういえば、これから行くとこって、あの馬鹿でかい屋敷持ってる月村やろ?
店長がそんなとこと繋がりがあるなんて思わんかったわぁ」
タクシーを運転しながら、なのはに疑問をぶつける。
「あそこに住んでる人とは、小学校からの付き合いなの。
それに、私のお兄ちゃんが婿入りしてるから、親戚になるのかな」
「へぇ……。小学校ってことは、ここらでいうと、聖祥大附属かな?」
「そうだよ」
なのはは頷く。
運転手は羨ましそうな声を出す。
「わたしは公立やったからなぁ。
もしわたしが聖祥に通っていたら、わたしもセレブにお茶を飲めたんかなぁ」
自虐的に運転手は笑う。
「どうだろうね。でも八神さんなら、きっと仲良くなれると思うよ」
なのはは苦笑する。
運転手はふとあることに気付く。
「そういえば店長は、これからどうするん? 店が壊れたんやったら、そのままやとニートまっしぐらやろ?」
「しばらくは本店の方を手伝うことにするよ。
でも厨房には入らせてもらえないから、ウェイトレスくらいしかないと思うけど」
「厨房に入らせてもらえないって……仲悪いん?」
なのはは首を振る。
「いや、仲はいいよ。
でもお母さ……本店の店長はね、お菓子を作るのが好きだから、自分の仕事を取られるのが嫌なんだよ。
私も同じだから、その気持ちはよく分かるしね」
「そうか。仲がええんやったら、それでええんよ。やっぱり家族は、仲よしさんが一番やからな」
運転手は笑う。
「そろそろ着くで、店長」
「いつもありがとう、八神さん」
「気にせんでええよ。それより……」
「うん。いつもどおり、お代はケーキの無料券でいいかな? お店があんなだから、しばらくは使えないと思うけど」
「オッケーや。店長のとこのケーキは美味しいからな。それぐらいどおってことない」
運転手はグッと拳を握り、親指を立てる。
なのはは正直に言われた言葉に、思わず赤面する。
「ありがとう」
そして月村の屋敷に着いたなのはは、タクシーから降りて、運転手に窓越しに話しかける。
「それじゃ、八神さん」
「ああ、わかっとるよ。いつもどおり、客が居らん暇な時は、翠屋の近くをグルグル回っとくから」
「うん、またね」
そして去っていったタクシーに手を軽く振る。
そしてなのはは月村の大きな門を見上げる。
「待っててね、すずかちゃん。『村尾』」
どうやらなのはの中では、親友と酒は同列に扱われるようだ。
あとがき
ついにフェイトが登場します。
あと今回、あの人らしき人が出てきましたね。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>大魔王って焼酎本当にあるんだ…
あるみたいです。
>ドンペリゴールド,ロマネ・コンティ,大吟醸,コニャックときたら仕方ない。ああ仕方ないだろうよw 笑い事じゃないだろうけどね。
なのはさんの怒りが有頂天に達するのは仕方がありません。
>けど、トルネードバスターとか……原作より遙かに強力そうだな。
回転してる分、原作より強力にしています。
>残った酒は大魔王かよ。酒に対するなのはの愛を見た。
むしろなのはに対する酒の愛。
>そして、地球系でも高ランクじゃないゲンヤさんのこともたまには思い出してあげてください
スバルによれば「魔力ゼロ」らしいです。
なのでゲンヤの先祖に魔法使いはいなかったんじゃないかと思ってます。
>普段から店と家をタクシーで移動してたんでしょうか?
今回は疲れていたのと、落として割らないように安全を期してタクシーに乗っただけです。
>一体移動にどれだけ金掛けてるんですかね? このブルジョワめ
道楽で店やってる人にそんなことは今さらです。
>譲れないものって酒蔵かよ!
譲れないのは酒蔵ではなく、そこに溜めこんだ秘蔵の酒の数々です。
>さっき、更新のオチ読んだ時に吹いた俺の『白玉醸造 魔王』を返してください。
逆に考えるんだ。
それは一話でなのはさんが飲んでいたあの魔王だと考えるんだ。
つまり間接キ(ry
>流石のなのはさんも森伊蔵は持ってなかったかwww
今から村尾を飲みに行きます。
>てかなのはさん、美由希さんの結婚式用の秘蔵の酒って……麗しきは姉妹愛、ということですか。
実は高級酒を飲む口実を作りたかっただけだったりして。
>コネで揃えたとかどんだけ貢がせたんだろう・・・?
集めるのにコネを使っただけで、ちゃんとお金は支払ってます。
>大魔王wwwww。たしかにあまり高い物ではありませんが良い酒です。安酒ではありません。
なのはさんは生き残っていてくれたことに感動して言ったので、例えあれがワンカップでも同じことを言いました。