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[1115] マブラヴafter ALTERNATIVE+ (修正版)
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/12/30 16:43
序章
◇◇◇

「まだ、蒼穹に輝いている……」

 冥夜は、暗き深淵の中に星が瞬く空間を視界に収めながら、その中に浮かぶ、青い色彩で彩られた美しく輝く星を見詰めて呟いた。
 人気の無い展望室の中、その場の静寂が、自らの肉体に侵食したように、冥夜はじっと動かない。青く輝く星を見詰める彼女のその眼差しにも心の中にも、複雑な思いが雑多にとぐろを巻くが如くに、渦巻き果てる事は無かった。 思いを、希望を託され地球を離れて、既に5年以上が過ぎた。いつも心に思うのは地球に残った愛する人、そして自分が守らねばならないと思っていた人々の事。
 BETAに侵食されつつも、まだ十分に美しい惑星を見る度に『自分はこんな事でいいのであろうか? 己が出来る事は無いのか?』と、心に浮かぶそんな葛藤が、冥夜を苛んでいた。
 
 オルタネイティブ5により、移民船団が地球を離れて5年が過ぎた。バーナード星へ移民した人類は確実に勢力を増やし、安定した生活を手に入れるまでに至っていた。
 
 『お前達と俺の子供が生きていればそれが俺の生きた証になる』
 あの美しい惑星を見るたびにその言葉が心に浮かび涙を誘う、あの日の選択を、別れを後悔してはいない。後悔は何も生み出さないことを知っているからだ。しかし愛しい人に会いたいという気持ちは日々心に募ってくる。
 「武……」
 思考が愛しい人を思い出し、知らず名前を呟いてしまう。愛しく思うその者の姿は、未だに鮮明に思い出せる。腕に抱かれる時のその温もりも、耳に心地良く感じた声でさえ――。しかし、思いに沈んでいた冥夜はそこで、意識を現実へと浮上させた。背後より近づく気配に気付いたからだ。いや、気配は消しているのだがこちらも剣術を嗜んだ身、相手の気配遮断能力も中々のものだったが、よく知っている気配なので察知は容易であった。
 蒼く輝く惑星を見上げて見詰めながら、後ろに迫る人物に声を掛ける。
 「慧……、私がお主の気配を察知できんと思っておるのか?」
 「…………残念……」
 全然残念に思っていないような声に、相変わらずだなと口の端に皺を寄せながらも、その場で振り向いてその人物に目を向ける。
 「ん………」
 右手だけを上に挙げ、言葉少なに挨拶をするのは「彩峰 慧」。共に同じ男を愛し、同じ様に子供を授かり、その男に強引に説得され移民船団に乗せられた、盟友であり、ある意味ライバルでもある女性である。

 「久しぶり……白銀婦人」
 「何を言う、毎日のように戦術機の操縦訓練で会っているであろうに。それに白銀婦人はお主もであろう、慧」
 白々しく軽口を飛ばす慧に、此方も素っ気無い態度で反論する。
 此処では「白銀」と名乗っている冥夜。オルタネイティブ5発動の折、日本政府により双子の妹である冥夜は色々と問題ある人物とされ地球に残されることが決まっていたのだが、冥夜の姉悠陽はこれに反発していた。しかし逆に、自分の立場が足枷となって、決定が覆せなかったのだ。
 冥夜はそれを知っていた。武によって移民船に搭乗したのだが、そういうこともあって、自身の出自を隠すため御剣という名と帝家という身分を隠し、「白銀」を名乗っているのだ。
 慧が「白銀」を名乗っているのは冥夜に対する対抗意識と、やはり愛しい人を思っての事らしい。彩峰慧という人物は、見た目の割りに純情だ。
 2人は現在同じ立場であり、共に白銀を名乗っているので、友人としての親しみを込めて互いを名前で呼び合うようになってもいる。

 「それで、一体なんの用なのだ。戦術機の訓練なら、今日は午後からの約束であったであろう?」
 『戦術機の訓練』……冥夜と慧は、何時か必ず地球に帰ると誓っている、その時の為に訓練は欠かしていない。自分達は、徒でさえ実戦を離れてしまうのだ。それに、地球に残る人たちが今も戦っているのだろう事を思うと、否応ない尚早にかわれて、何時も限界以上に過酷な訓練を行なってしまう事も多かった。
 訓練以外でも、大抵はお決まりのパターンなので、今回も心の底では気楽に思っていたのだが、今回は冥夜の斜め上を行く回答が、慧の口から飛び出て来た。
 「違う……、香月博士から迎えが来た。御剣と一緒に来いって……」
 「香月博士が!?」
 容易には信じられない人名を己が耳が聞き取った事に、冥夜は思わず聞き返してしまう。香月博士が移民船に搭乗していること自体は、他の情報を密かに探った時に確認していたが、その彼女がいきなり自分を呼び出す訳が解らなかった。彼女が自分を呼び出す事は、双方にとって少なからないリスクが伴う事を、博士は知っているだろうに。この呼び出しが、唯の昔語りであるものか――冥夜は直ぐ様に、彼女が自分を呼び出す可能性を推測し始めた。
 「そう、とにかく大至急と……」
 しかし、一瞬考え込んでみたが、自らが辿り着ける可能性は少なく、そのどれもに信憑性が欠けていた。今の自分には、隠した身分の他は何も無く、政治に関わる可能性も少ない。
 ならば後は、香月博士自身が個人的に呼び出しているということだろう。
 香月博士とは7年間会っていない。オルタネイティブ5が発動した後「MX3」搭載の不知火が彼女名義で207小隊に届けられた事を最後に全く音沙汰がなくなっていた。今は移民船団で、博士として働く役職にあることを知っていたが、これまで双方に何も接触は無かったのだ。
 その彼女が今になって自分達を呼び出すのだ、これは恐らく何か重要な用件があるのは確実。博士は無駄なことは極力しない主義、やはり歓談であるとは思えない。
 「分かった、同行しよう」
 一瞬子供のことが頭をよぎったが、このまま訓練に移ろうと予定していたので、現在は託児所に預けているのを思い出す。長時間でなければ余り心配はないだろう。慧の子供も同様に。
 結論付けた後は、唯行動するのみ。迷いや不安はかなぐり捨て、きっぱりと言い切った冥夜に、慧は笑みを浮かべて頷いた。
 「じゃ……行こう……。外に迎えが待っている」
 極力音を立てる事も無く、猫のようにしなやかに歩く慧に付いて歩きながら冥夜は心中で『何かが動き出していく』そんな確固たる予感を感じていた。
 待っていた車に乗り込む、運転席には冥夜達よりは幾分年上の女性が座っていた。そのまま展望室から離れ車が走る。ハイウェイで中央行政区に移動した後は、どこかの道をひたすらに走り続けた。

 車が走る中で冥夜は、中央行政府の国ごとに纏まって建てられた各国の建物を見て「こんなところに来てまで領土争いを行なうのか」とも思ったが、逆にそれは仕方のないことかもしれないとも思ってしまった。確固たる寄る辺がないと人は生きてはいけない、冥夜自身も自分の生まれた「日本」という国を人を愛しているのだから……。

 やがて、行政区の外れの外れに到着し、そこから地下に潜って行く。下車の後に、幾分か歩きエレベーターに乗った。そして降りた先の扉の向こうに居たのは、間違いなく香月博士その人であった。
 その人は、冥夜が入ってくると彼女に目を向けて、極なんでもないように言葉を掛けて来た。
 「久しぶりね。御剣……それに彩峰……」
 7年振りだと言うのに相変わらずな態度、本当に7年振りかと、こちらが疑ってしまう程に普通だ。しかし冥夜は、香月博士のその態度に、彼女の変わりなさを確信し安堵して、昔の通りに敬礼した。横に並んだ慧もそれに続く。
 「お久しぶりです、香月博士」
 「お久しぶりです……」
 「そうね……あれからもう、7年が経っている。あなた達も成長したじゃないの、昔から見れば見違えたわよ」
 「実を言うと、私自身がその変化に戸惑っていた位です。ですが、昔の私を知る博士がそうおっしゃって下さるのなら、私は確かに変われているのでしょう」
 「私は逆に年を取って黄昏てるっていうのに、若いって良いわねぇ」
 彼女は既に、上官ではない。しかし、冥夜も慧も、彼女に対する尊敬の態度だけは崩さなかった。しかしその中でも、過去共に戦ったという連帯感に近いものが繋がっていた。思想や手段に違いはあっても、彼女達が目指したものは同室であり、そういう意味では皆が戦友だったのだ。
 「大丈夫大丈夫……博士も十分若いまま。それに私達も、四捨五入すれば30歳」
 「まあ……気休めに受け取っておくわ」
 皆、変わった所も、成長した所も、そして変わっていない所も存在する。彩峰慧の場合、武が言う「彩峰節」は今だ変わらず健在である。もっとも、子供を持ったことで一匹狼的な性格は随分と也を潜めていたが。近所に住んでいて戦術機の訓練でも一緒である、お互いの子供も仲が良い。
 
 3人は集まった一時に気分が高揚していた。しかしその中にあっても、夕呼は感情に流される事が無い。そしてそれは、この雰囲気を感じ取り、また予測していた2人も同様であった。
 「香月博士それで――」「冥夜……」
 再開の挨拶も終わり、それでは本題は何かと聞きかけた冥夜の声に被さるように、突然横合いから声を掛けられる。その声を聞き、その人物を連想し、そしてその姿を認め、今度こそ冥夜は驚愕した。信じられない声が聞こえ、幻かと思える姿がそこに存在したのだ。思わず目を瞬かせその人物を凝視する。
 「あ……姉う……、殿下なぜ!?」
 思わず自分の心のままに声を上げそうになったが、慌てて言い直す。それを見て殿下――「煌武院 悠陽」は寂しげな顔をしたが、それを取り繕うように隠し、静かに声を発した。
 「ここの研究所を支援していますのが、私と他数人の人物なのです。今回は、香月博士より内密の通達を受け、忍び参りました。」
 その言葉に続き、不適な笑みを浮かべながら香月博士が説明する。
 「ここの研究所は、各国の有志が集まって出来た場所なのよ。地球脱出以来、常に地球の心配をしている者、人類の未来を憂いている者、愛する国や人々を助けたいという者。そんな様々な人々が、国や思想を超えて一致団結して地球救済を目指す為の組織。殿下はここの創設者の1人でもあり、最大の出資者でもあるのよ。」
 香月博士の説明に冥夜と彩峰は思わず涙を浮かべかけた、残してきた者たちのため戦う決意をした者達がいることが純粋に嬉しかった。そんな2人を見て、夕呼は肩を竦める。
 「地球救済を掲げる影の組織なんて、三文芝居のネタにもならないわ。しかも私自身がそこの総責任者っていうんだから、笑い話にもならないわね」
 「香月博士、私は貴女を信用して――」
 「ああいえ、違います殿下。私自身、この役目を与えて下さった事は、大いに感謝しています」
 「私の心が捻くれ過ぎてるだけなのです。今一度、がむしゃらに事を成し遂げようとする熱い自分の気持ちを、冷静な私自身が恥ずかしがっているだけです」
 否定しながらも、彼女はやはりその態度を崩さない。しかしそれでも、彼女は礼に頭を下げた。それだけに、この機会を与えてくれた悠陽に
感謝しているということだ。
 「殿下……。ありがとうございます」
 そしてそれを見た2人も、諸共に悠陽に頭を下げた。
 それを受けて、悠陽はそれを押し止め「私達のために戦っている人々を助けたい」と言い切る。頭を上げることはしなかったが、それは2人も同じ思いであった。
 地球脱出以来愛しい人や残してきた人々のことを思わない日は無かったから。

 「それで香月博士、私達を呼んだ訳とは?」
 事が終わると、冥夜は改めて香月博士に向き直り、話を振った。夕呼は、それじゃ本題に入りましょ……と、前置きも何もかもを省き、結論から話し始める。
 「実は以前、地球からの微弱な情報通信の断片を受信したのよ。そしてそれを正確に受け取り確認するために、私達は無人の観測機兼星間宇宙船実験機を製作して地球に向けて放った。その観測船がつい先日帰還して、地球の情報を持ち帰ったの」
 ふてぶてしい態度を取りながらも、何処か嬉しさを隠しきれない微笑を浮かべて話す香月博士の言葉に、冥夜は心が逸った。地球の情報――武は、人類は今だに抵抗を続けているのであろうか? 横目で見ると彩峰も落ち着きが無くなっている。悠陽は流石に、表面上は落ち着いて続きを促したが。
 「まずはこの映像を見てみなさい、場所は日本、皇居近郊よ」
 その言葉と共に映し出された映像は、2機の戦術機。漆黒と真紅の、背中合わせで75式近接戦闘長刀に類似した刀を構える、優美さと頑強な雄々しさを備えた機体であった。
 「「「武……御雷?」」」
 3人の声が籠る。その機体は、細部は武御雷の様相を残しながらも、全くの別の形の機体であったからだ。
 武御雷と同じようなフォルムながら、本体自体は全体的に纏まっている印象を受ける。装甲の形状なども異なっていて、主腕の手甲が無くなり、その場所にはパイロンらしきものが付いていた。左主腕の其処には、盾のような物が装着されている。
 頭部後方の角のようなアンテナも4本になっているし、腰部・肩部の装甲も形状が違っている。更に、背面パイロンが3本あり、跳躍装置の形状も違っていた。長刀に始まり、保持している武器も既存のものとは形状が違う。
 「第4世代戦術機、武雷神(ぶらいしん)と言うそうよ」
 「武雷神……ですか」
 「そう、不知火系列の機体で、実質的な武御雷の後継機。因みに名称の『武雷神』は、そのまま「タケミカヅチ」と読めるわ、先代旧事本紀で言うタケミカヅチの表記の1つから取ったんでしょうね」
 香月博士の注釈が入る。そこで悠陽は疑問をぶつけた。
 「この映像……、これらのデータはどうやって発信されていたのでしょうか?」
 「これらデータを寄越したのは私の悪友、悠陽様もご存知の帝国斯衛軍第一技術開発室長の『鳳 焔(おおとり ほむら)です」
 香月博士が坦々と説明する。
 「焔博士が?」疑問の声を上げながらも悠陽は安堵していた、彼女は自分にとっても得がたい友人でありもう一人の人物と共に3人身分は違えどお互いを友人だと思っていた。2人とも移民船に乗る権利を捨てて地球に残ったので、とても心配していたのである。
 「衛星からこちらの座標に向けて、あらゆる通信波を使用して情報を送信するようにしてあった。機械工学に関しては私以上の頭脳――流石としか言えないわね」
 笑って答える。冥夜と彩峰は、心の中で天才の香月博士に凄いと言わせるのはどんな頭脳の持ち主だろうか? と思わず逞しい想像をしてしまった。
 「そして、その情報を回収した観測船が持ち帰った中に入っていた、地球上のリアルタイム映像の1つが今の映像よ。御剣、彩峰、殿下、この2機に乗っているのは、3人が良く知る人物だったわ」
 その言葉と共に理解した、そして涙が溢れてきた。漆黒の武御雷に似た戦術機を見た時からこれが武ではないかと、訳も確信も無く何故か思っていたのだが、香月博士に聞くに聞けなくて逡巡していたのだ。しかし、その言葉で確信した。『生きていた』生きていてくれた。冥夜は最早言葉もなく涙を流していた、隣にいた彩峰も同じように嗚咽を堪えて泣いていた。
 彼の言葉や数々の思い出が蘇える。唐突に心に浮かぶ願望、この惑星に来て極力考えないようにしていた思い。『会いたい』ただその思いだけが心を占めていった。
 悠陽はそんな二人を優しい目で見ながら、もう1つの赤い戦術機に眼を向けた。
 「2機ということは、あの真紅の戦術機に乗っているのは月詠ですか」
 香月博士に目を向ける。彼女の個人的な知り合いで真紅の戦術機に乗っているのは月詠真那しかいない。月詠は焔と並んで悠陽が友人と言える人物で、3人は随分古い知り合いである。その声には、友人の無事を喜ぶ響きがあった。
 「そう――月詠真那、そして白銀武の2人。現在、人類の中でもトップレベルの腕を持ち、色々と活躍しているらしいわ。そして、2人が所属する部隊は、人類史上初めてフェイズ3規模のハイブ破壊を成し遂げたそうよ。反応炉を直接破壊したのがあの2人」
 「な…、ハイヴの破壊ですか」
 珍しくも冥夜が勢い声を上げる。人類史上G弾使用以外でのハイブの攻略は成功例がなかった。それを、あの2人が成し遂げたというのかと。歓喜と驚愕が、溢れる様に湧き上がって来る。
 「その後も、さっきの第4世代戦術機の性能もあり、数個のハイヴを攻略したそうよ。武雷神とは、2人の戦いぶりを表す噂話から取ったと言うけど、『武に猛る雷の神』の意味を持つなんて、正に丁度良い名前ね」
 焔の口から紡ぎ出される事実に、冥夜達は声も出ない程に驚愕の顔を崩せなかった。信じられない事の連続だ、持つか持たないかと考えていたのに、まさか逆にハイヴを破壊しているとは――。
 「焔の専門は機械工学と戦術機、それに関しては私より天才よ。そして彼女の考案した新技術と第4世代の戦術機、進化した新しいXM3、対レーザー装甲や新兵器の数々。白銀と月詠が焔と合流したのはまさに行幸と言うしか無いわね」
 博士が話す地球の様相に、3人は心が震え希望の光を見出す「人類はまだ敗北してはいない」と。
 しかし其処で、夕呼は若干繭を潜めた。
 「この様に、つい最近まで、人類は少なくとも対等以上にBETAと戦っていたそうよ。けれども、少し前にBETAが対応を変えてきて、現在人類は徐々に追い込まれ始めている。現在、焔が対策を練っているけど、いずれ目処が付いたら、オリジナルハイヴ攻略に踏み切ると記してあったわ」
 夕呼はそのまま顔を動かし、悠陽と目線を正面から合わせる。
 「殿下、私は様々な要因から、地球を奪還するにはこのオリジナルハイヴ攻略作戦が、最後の機会になると結論付けました。この作戦が失敗に終われば、地球の戦力は極端に削られ、例え我々が介入しても勝利は難しくなります。それに――使えるかどうかは行って確かめて見なければ判りませんが、私の持つ一手が、戦局を幾らか有利に持っていけるかもしれません。オリジナルハイヴ攻略作戦に間に合うかは賭けですが、私の意地を賭けても最速で、地球まで到達させてみます」
 既存の航法では、地球まで2年は掛かる。しかし、彼女が珍しくも『意地』に賭けて誓ったのだ。そして悠陽自身も、地球の者達を手助けしたかった。
 「……解りました、地球で戦っている人々のため、なんとしても計画を可決させましょう」
 悠陽は、決意を込めた眼差しで答えた。
 そしてそれを受けて、夕呼は晴れやかに笑ったのだ。彼女にしても、籠もる想いが存在したのだろう。
 「御剣、彩峰、勿論あなた達も地球に向かってもらうわよ。来るなといっても無理やり付いてこようとするでしょうから最初からポストは開けといたわ、2人とも中佐待遇で」
 その言葉に2人は目を見張る。
 「中佐……ですか? 最終任官は少尉ですからそれに比べたら地位が高すぎるのでは?」
 冥夜が思わず口にすると……。
 「いいのよ、あなた達2人の戦術機特性は最高値、毎日毎日2人で戦術機の操縦訓練やってるのはシュミレーターのデータも含めて調査済みよ。それに白銀と月詠の現在の階級は大佐、ただ権限的にはもっと高いけど――向こうでのごたごたがあった時の為にも、階級は高い方がいいわよ」 
 その言葉に、2人は少し考えたがその任官を受け入れた。やはりなんといっても軍隊だ、権限が高いに越したことはない。
 「第4世代戦術機――特にこの「武雷神」はスペック的にはバケモノよ。しかもこの2人の武雷神は、焔が手ずから作り出した、ワンオフの超高性能機――白銀達の操縦に機体が反応できなくなる度に改良されてきた、常に技術の最先端を籠められた機体。普通の衛士が乗ったら、それこそ手に負えない性能を誇っているわ」
 香月博士の説明に言葉を失う。まさかそんなに凄い機体とは……。
 「量産型でも、武雷神自体は初期段階で他の第4世代戦術機と一線を化すエース仕様、乗りこなせるのはそれなり以上の腕前がないとダメよ。御剣……彩峰……、あんたたち2人には最終的に、白銀搭乗クラスの性能を持つ「武雷神」を乗りこなしてもらうわ」
 冥夜と慧は、武と月詠の機体写真に目を向ける。地球で戦っている仲間が乗りこなしている機体、この戦術機は武達の戦いの軌跡が作り上げたもの。自分達が乗りこなせずして、共に肩を並べて戦う資格があろうとは到底思えない。彼等は今も地球で戦い続け、腕を上げているのだろうから。2人は『なんとしても乗りこなしてみせよう』と心に誓った。
 「これから準備に掛けるのは約1年。現在まりもが地球行きを志願した衛士の指導をおこなっているから、あなた達もそれに参加して準備を入念に整えなさい。第4世代戦術機のシミュレーターも直ぐに回すわ。地球への航程は私が何とかする、あなた達はとにかく、ひたすらに力を付けなさい」
 「神宮司教官も参加するのですか?」
 珍しく彩峰が疑問を口にする、彼女もこの計画に興奮を隠せないのであろう。
 「ええ、それに社もオペレーターということで参加するわ、まあ役職的にはあなた達2人の子供の子守ね」
 香月博士は苦笑しながら答える、『社霞』彼女の名前を聞くのも久しい、元気でいるのであろうかと思いを馳せるがすぐ会えるだろうと思考を打ち切る。
 最愛の人に会うため自分達の戦いが始まる。
 冥夜は慧を見た、彼女も冥夜を見詰めた。2人の視線が交差する。どちらも思いは同じ――2人の思考は、地球で戦っている愛しい男との別れの時に思いを馳せていた。


 そして物語は2003年、移民船団出発の一ヶ月前に遡る。





 
 投稿ははじめましてのレインです。この話はオルタプレイ後大量の設定ノートの中から引っ張り出してきたマブラヴプレイ後に書いた設定にオルタの設定を導入して書き上げたものです。今更アンリミアフターかよとも言われそうですが、この作品はオルタが発売したら新設定を導入して完璧にしようと思っていました。

 私はTRPGのゲームマスターをしていて小説の設定は大好きでしたが小説自体をかいたことがなかったのでとても大変でこれだけで3時間半は掛かりました。

 初めてですので色々と突っ込みどころ満載かも知れませんがよろしくお願いします。また恐ろしく時間が無いので投稿も飛び飛びになってしまうかも知れませんが少しずつ投下していきます。


補足説明

ルート的にはアンリミテッド後の月詠ルートです。ですが設定が色々違います。話的にはループ世界の一つとして捉えてくれたほうがよいかもしれません。まずアンリミヒロインが冥夜と彩峰の二人です(男が少ないのでこういうのも有りかと、また設定上の都合と作者の趣味)そして移民船団出発前に二人の妊娠が発覚します。

 移民船団脱出の折G弾の投下はハイヴと敵密集地帯に限定されました。後の地球奪還時のための配慮で悠陽以下地球擁護・帰還希望派が地球の人類が全滅したらG弾の全面投下を許可することで可決しました。これによりBETAの勢力が弱まり地球での戦線が持った。

 この世界の武はアンリミテッドの状態だがある要因で前のループの記憶が肉体に宿っていて、体力・知識などはアンリミ時より上(冥夜達にかろうじてついていくことができる位だった)またフラッシュバックなどの後遺症は無い。MX3は開発された、それらの要因によりオルタネイティブ5の発動が遅れたためクーデター事件が起こっている。
 月詠のこの世界での設定は帝國斯衛軍皇主守護隊第一大隊隊長(実質的に征夷大将軍の直属護衛)で少佐。悠陽の命で冥夜の守護をしていた時や、クーデター事件の時は大隊は副官が率いていた。

 また物語に深く関わるオリジナルキャラが何人か存在します。その一人が「鳳 焔」です彼女の設定は他で、オリジナル設定や戦術機なども出ますし、アンリミテッドにオルタの設定を導入するため色々と混ぜたり切り捨てたり解釈を変えたりとかなり変わるところがあります。

 ゆっくりとですがよろしくお願いします。



[1115] Re:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/04 14:22
オルタネイティブ5が発動してもうすぐ二年、移民船団出発が近づいてきた。俺達第207衛士訓練部隊はオルタ5発動後正式に少尉に任官した。

 あれから行方が知れない夕呼先生が最後に俺達に残していってくれた戦術機の不知火。乗り心地はサイコーだった。正直浮かれていたがその後初めての実戦に駆り出された。
 任官時に一通りの説明は受けていたが初めての実戦、流石に緊張した、あの冥夜でさえ緊張していたくらいだ。
 初めての戦闘は対人級を掃討するだけで終わった、未知の生物がワラワラと群がってくるのは正直心臓に悪ぃ。けど段々と慣れていった、最初は特に怖くて気持ち悪くて頭ん中がグワングワン鳴っていたが心配して通信して来てくれた冥夜と慧の声を聞いていたらいつの間にか平気になっていた。
 これが愛の力というやつか…。と戦闘後二人に言ったら冥夜は顔を真っ赤にしてうつむいていた、メチャクチャかわいかった正直その場で抱きしめようかと思ったが慧の一撃で地に沈んだ。アイツ…照れ隠しにしても容赦がねぇ少しは手加減しろよ。

 クーデター事件の後立て続けにオルタネイティブ5の発動で気持ち的に休まる場がなかったが皆表面上は普段の状態に戻ってきたようだ、俺も段々気持ちの整理が着いてきた。正直不安が残るがこいつ等と一緒なら絶対に大丈夫だと信じている。

 半年ほど経つと正式に基地守備部隊に配属され、元夕呼先生直属のA-01部隊とも知り合いになった。隊長の伊隅みちる大尉にXM3のことで御礼を言われたが正直照れくさかった。
 彼女達は流石に凄ぇ冥夜も感心していた。何回か一緒の戦場に出た後急に速瀬中尉にライバル宣言されたがなぜだか解らん?冥夜に聞いてみたら「本当にそなたは鈍感だな」と言われた。よけい解らん。

 一年経つ頃には207部隊単独での哨戒任務も任されるようになった、一応一人前と認められた…らしい。全員の連携もますます磨きがかかりもはや伊隅ヴァルキリーズに負けていないと自負しているが戦闘後にタマに言ったら「まだまだです!」と言われた。
 だがタマよ!格納庫から出て行くタマの後ろ姿に俺は声無き声をかける。
 『俺と冥夜と慧のラブラブアタックは無敵・無敗・最強無ひぃ!!!」「武ウザイ」
 横合いからの無常なる一撃にその場に沈み込む。なぜ?声に出してなかったのに
    「こ…これは、レッ・レバッ…ぐぅぅぅ」
 その場で俺は数分間悶絶していた。

 一年半、この頃になると俺達207部隊はいわゆる「エース部隊」に分類されるようになった。伊隅隊に並び横浜基地の双璧とまで言われたが少し木っ端ずかしい。昔の俺なら無条件で喜んでいたのだろうが今は色々あって素直に喜べない。クーデター事件からコッチ様々な事を知った、目の前で死んでいった人もいた。初めてそれを目の当たりにした時は正直やるせなかった。
 それ以外にも衛士の心得というものを学んだ。クーデター事件の時も思ったがこの世界の人たちは国を愛しそして人を愛している。正直俺にはまだそこまでは解らない、冥夜と慧がいるので愛する人を守りたいという気持ちは理解できるのだが。いつか俺も国を愛するという事が解るんだろうかごぅお!!!

 「武、ジャマ」正面から腰の入った抉り込むような一撃。

  「ま…まさか、ま…幻のドリルミルキー…グハッ!」

 折角シリアスに決めてたのに慧よ!それが恋人に対する仕打ちか!あいつの照れ隠しは殺人級だ、っていうかなんで考えていることがわかる

 「愛の力だね…」
 こちらを振り向きニヤリと笑って呟いた慧の声を最後に俺の意識は闇に飲まれていった…。

 そして移民船団発進の一ヶ月前、冥夜と慧の二人の妊娠が発覚した。なんと二人とも隠し通す気でいたらしい。委員長が教えてくれて助かった。内密の話があると強引に呼び出されいきなり「御剣と彩峰妊娠してるわよ」と言われた時の俺のその衝撃といったら。よっぽど間抜けな顔をしていたんだろう、今だに俺の顔を見ると思い出し笑いしてやがる。くそっ今に見ていろよ委員長!

 慧に問い詰めたら「武にばれるなんて屈辱」と言われた、うぅ…俺って一体。冥夜は素直に認めたがその後が大変だった。頑なに地球に残るという冥夜と慧を辛抱強く説き伏せた、そのおかげで何とか説得には応じてくれたが、移民船のパスは一枚しかないのでもう一枚、二人一緒でなければ移民船には乗らないと言われた。
 『お互いに同じ立場の者を残して自分だけ行けない』と口をそろえて言っている。…性格は違うけどお前らやっぱり根本では似たもの同士だよ。
 夕呼先生は行方不明で社やまりもちゃんもこの頃には姿が見えなくなっていた。正直気が引けたが背に腹は変えられないと悠陽殿下に頼ってみた…が彼女もオルタネイティブ計画には深く関われないらしく色好い返事が貰えなかった。

 そして移民船団の出発は三日後に迫っていた。







「くそっ!どうにもならないのかよっ」

 自室で声を張り上げる。壁に叩きつけた拳が痛むがそんなことは些細な問題であった。
 武はこの一ヶ月様々な形で奔走した。あらゆる可能性を試して、悠陽殿下にまで密かに直訴したが色好い成果は得られなかった。

 「あと、後三日しかないのに。チクショウ!」

 二人とも頑固だ、パスが手に入らなかったらどちらも意地でも乗らないであろう。彼女らは同じ立場の者を差し置いて自分だけ移民船に乗るという事は絶対にしない、一緒に過ごして来た武にはそれが手に取るように解る。
 しかし後三日以内に何とかしてパスを手に入れなければならない。なんといっても彼女達は妊娠しているのだ、妊婦を戦場に出す訳にはいかない…が地球に残れば二人は無理やりにでも出撃するだろう。
 それに二人とも子供を産みたいと言ってくれている。正直すけぇ嬉しい、俺も二人に子供を生んでほしい。この世界に自分の生きた証を残してほしい。
 そのためにもパスは必要なのだ、絶対に手に入れなければ。とは言うが正直自分には既に打つ手がない、現状やれる事は全てやってしまった。委員長やタマそれに鎧衣も八方手は尽くしてくれているが…

 「PXでもいくか。」

 とりあえず気分転換に何か食べる事にする、先日手を打ったのは今日の夕方まで解らないし体力をつけとかないといざという時に困る。
 廊下に出てPXに向かう、昼はやや過ぎているので部屋に戻る人達が多いが彼らはすれ違うときに敬礼していく。
 俺達207部隊はこの横浜基地では随分有名になった、実力が評価されてきたのは嬉しい…が伊隅隊とで横浜基地の双璧と呼ばれているのは正直勘弁してもらいたい、速瀬中尉が執拗に俺のことをライバル視する、すると連鎖式に涼宮茜に怨念の籠った視線で睨まれる。
 こちらも敬礼を返しながら歩いていくと前方にタマと鎧衣の後姿を発見した。

 「よう二人とも、これから食事か?」

 「あ・たけるさん!」
 俺に気づいたタマがこちらを向き挨拶する。少し前ならタマが駆け寄ってきてこちらも頭を撫でてやってたんだが最近はタマも無邪気に駆け寄ってくることはない、がタマはタマあのホニャラ~ンとした笑顔は健在だ。
 「タケル…と、大丈夫?顔色悪いよ」
 鎧衣は俺の顔色を見て心配してくれたらしい。コイツには色々世話になっている、血筋なのか妙に情報通で正直助かっている。
 「おう、大丈夫、大丈夫。鎧衣の方こそ色々と有難うな。」
 「ううん…、正直ボクの情報は余り役にたってないよ。ゴメンねタケル力になれなくて」
 逡とした顔で答える鎧衣。
 「バァ~カ、お前のせいじゃねぇよ。それよりいいのかPXに向かってたのは食事に行くんじゃなかったのか?」
 強引に話を転換する、前にも同じような事で押し問答になってしまったのでこういう時は強引に話を変えないといけない、皆頑固で責任感強いからなぁ
 「うん、そうそう。色々やってて遅くなっちゃったから」
 「そうですよ、美琴さんたらほっとくと何時までもご飯食べに行かないんですよ~。」
 タマが口を膨らましながら「私怒ってますよ」という顔で言う…が全然怖くない、何故か見ていて微笑ましくなって来る。
 「よし、じゃあ皆で行こうぜ」

 「「おー」」

 俺の提案に声を合わせて答える二人、それから皆でPXに向かった。
 一通り食べ終わった後テーブルで今後の話をしようと皆で席に着こうという時突然委員長が駆け込んできた。

 「白銀!!!」

 「どうしたんだ委員長そんなに慌てて?」
 冷静沈着な委員長らしくない慌てぶりだ、最近は部隊長としてだけでなく作戦指揮官としても板に付いてきてなんと言うか貫禄漂う女傑に成って来た、まあ慧と口喧嘩してる場面などを目撃すると根本では全然変わっていないと実感できるのだが。

 「あなたなに落ち着いているの!」

 と理不尽な事をのたまいやがりました。よっぽど慌てているんだな委員長。
 「もう、落ち着いてよ榊さん。ボク達は何が起こったかまだ全然しらないのに。」
 「そうですよー、千鶴さん。ちゃんと何が起こったか説明してくださいっ。」
 鎧衣はマイペースに、タマは慌ててフォローに入ってくれる。
 「あ…とそうね、ゴメンちょっと取り乱しちゃったわ」
 コホンと一つ咳払いをして落ち着く委員長、自分でも恥ずかしかったのか顔が赤い。

 「それで、なにがあったんだ。委員長がそんなに慌てるなんて。」

 実際ここまで取り乱した委員長は始めて見た。
  「これよ…。」
 そう言って一枚のカードを俺に見せるってこれ!

  「移民船の乗船パス!!!」

 委員長が見せたカードは間違いなく移民船の乗船パスだった俺は思わず委員長に詰め寄る。

 「って委員長!これ、このパスいったいどうしたんだ!!!」

 「タ、タケルっ、落ち着いて。」
 「あわわわわっ、たけるさん。」
 タマが慌てて、鎧衣が俺を引き剥がそうとする。やべぇ思わず我を無くしちまって委員長と同じ事ををやってしまった。
 「スマン、取り乱しちまった。それで委員長、そのパス一体どうやって手に入れたんだ。」
 「それが今朝白銀宛に送られて来たらしいのよ。」

   「「「送られてきた?」」」」

 委員長の言葉に俺達三人の声がハモる。
 「ってどこから、もしかして悠陽殿下からか?」
 俺にパスを送ってくれそうな人といえば前に頼んだ悠陽殿下しか思いつかない。
 「違うわ、差出人は不明。ただ白銀武様へとだけ書かれていたそうよ。」

 「差出人不明?」

 委員長の言葉にますます謎が増える。
 「そう。検閲の後基地指令の権限で移民船パスのIDから搭乗者を検索してみたけど名前の欄は空欄…すでに抹消されていたそうよ。政府中核のコンピューターの情報を操作できる位だからよっぽどの権力かそれに類する力を持っている人物…ということしか解らなかったみたい。とりあえず問題無さそうなのでたまたま出頭した私に預けられた訳。」
 う~ん、悠陽殿下意外で権力が高い人?ハッキリいって全然見当がつかん。
 「ねえ白銀、あなた本当に心当たり無いの?」
 悩んでいる俺を見て委員長が疑問を投げかけるが…

 「まったく見当がつかん」
 「本当に」
 「本当だ。これっぽっちも、全然まったく」

 「……解ったわ、まあいいでしょう。一応ありがたく受け取っておきなさい。」 
 彼女の顔は不満そうだったが俺の答えに一応納得したようだ。

 「やったねタケル!」
 「たけるさん!」

 タマと鎧衣は我が事のように嬉しそうだった。タマは冥夜と慧の事をとても心配してくれていたし鎧衣も八方手を尽くしてくれていた。 
 「ああ、みんなサンキューな。」
 正直感謝しきれない、皆我が事のように協力してくれていたからだ。「これが仲間っていうやつか…」前の世界ではこんな実感は恐らく得られなかっただろう。
 「ほらほら、早く御剣と彩峰の所に行ってやりなさい。今の時間なら医務室にいるはずだから。」
 委員長の言葉に我に返る、そうだ早く冥夜と慧に報告してやらないと。『これで二人とも移民船に乗れる。』俺は内心で盛大に喜んだ。

 「ああ、委員長・鎧衣・タマ、ホントにサンキューな。」
 俺は皆にそう言うと医務室に向かって走り出した、

 「たけるさ~ん、がんばって~~…」
 「タケル~、しっかりね~~…」

 タマと鎧衣の激励を背中に受けて俺は医務室に急いだ。






「子供のためにしょうがないとはいえ毎日定期健診を受けねばならぬのは大変だな彩峰。」
 「…しかたない、私達は衛士訓練もしているから体調管理には気をつけないと…」
 私の言葉に坦々と答える彩峰。武が来る前までは彩峰の人柄がよく解らなかったが同じ人を愛するようになり共に過ごす内に段々と彼女の人柄が解るようになってきた。最近は昔より良く喋るようになってきている、喋り方は相変わらずであろうが。

 「うむ、我らは母親となるのだ。たしかに産まれてくる子供の為にも体調管理は怠れん。ふふふ…」
  「?」
 私の含み笑いに彩峰が不思議そうな顔をする。
 「いや、あと半年ほどで自分が母親になるのかと思うとな…。武と関係を結ぶ前の私は国の為に殉じて行くのだと疑わなかった、今でもその気概は変わらぬがまさか自分が恋をしてましてや母親になろうとは思わなんだ。」
 「…たしかにね…。私も自分に好きな人ができて子供を身篭るなんて予想外。」
 彩峰は嫌そうに私の言葉に同意する。昔の私なら額面通りに受け取ってしまっただろうがこれは彩峰の照れ隠しである。彼女は基本的に天邪鬼で結構恥ずかしがりやだ、そのお陰で武は基地内名物になる位彩峰の照れ隠しの一撃を貰っている。

 「ふふ…、そうだな…と武!」
 前方から凄い勢いで武が走ってきた、声をかけると私達に気づいた武はスピードを落とし…

 「冥夜、慧、やったぞ!」

 そのまま私達に突進してきた、彩峰と私の肩に手を回して子供のようにはしゃぐ…が、

 「武、五月蠅い。」
 『ーーーー』なんとも形容し難い音をたてて彩峰の一撃がボディーに決まった。見るとほんのり顔が赤くなっている、私も随分恥ずかしがりやだったが何度も体を重ねたのでこれくらいのスキンシップには慣れた、が彩峰は未だに肩を抱かれた位で恥らう。こういう女らしい所は見ていて可愛らしくそしてうらやましい。
 いつもなら三分間は悶絶しているはずだが今日の武は一味違った、なんとそのまま涙を流しながら笑っていたのだ、流石に彩峰は引いていた、私も少々恐ろしかった。

「移民船のパスが手に入ったんだ、これで二人とも船に乗れる!」

 涙声で語る武の言葉に驚愕した。
 「なんだと?武、そなたどうやってパスを手に入れた。」

 私と隣で彩峰も同じように心底驚愕した。私と彩峰は地球に残り武と共に生きると決意していた。しかし武の強固な説得に一応「もう一つパスを手に入れたら」という妥協案をだした。そのために奔走するであろう武や仲間達には悪いが私は最初からこれが無理な注文だと判っていた。
 もちろん武が殿下に直訴するであろう事も計算に入れて、気が引けたが武を説得するにはこの方法しかなかったからだ。
 「それが誰かから送られてきたんだよ。差出人不明、基地指令がIDから調べたんだが名前は抹消されていたらしい。」

 「…心当たりはないの?」
 
 「いや、全然予想がつかねぇ。悠陽殿下意外で俺にパスを送ってくれる人なんて。」
 彩峰が質問するが本当に心当たりがなさそうだ。しかし…

 「ふふふ…、結果はどうあれパスを手に入れたんだ。二人とも移民船に乗ってもらうぞ!」

 武は嬉しそうに私達に宣言する、が素直に納得はできない。

 「しかし武!我ら二人はそなたと共に在りたい、この地球でそなたと共に生きていたいのだ」

 思わず声を荒げる、しかしそれを聞いた武は急に優しい雰囲気で語りだした。

 「なあ冥夜、慧。俺は前に言ったように愛国心というものが解らない、命を懸けて国を守るというの意味がだ、この国に俺の居場所は無かった。この基地に来て、207小隊の仲間になって、だんだんここが俺の居場所なんだと思える様に成って行った。それでも不安だった、自分の存在が確かなものだとは実感できなかった、冥夜と慧と愛し愛される関係になってもまだ自分の存在を確立できなかった。
 けど二人が妊娠したと知った時やっと自分の存在を実感できた。俺がここに、この世界に存在するという証をお前達がたててくれた。自分でも情けねぇと思うがやっと自分がこの世界に在ると実感できたんだ。それで心が決まった。俺は二人を…俺達の子供を守る、お前達の生きる地球が俺の守る国だ、地球を守り子供たちが生きる未来のために礎になろうと…もちろん死ぬ気は無いけどな。何時かお前達が戻ってくるときまで、BETAを地球から駆逐できる力がつくまでこの地球を守って戦いぬくさ。」

 武の言葉に思わず涙してしまう。私は…

 「解った……武…、船に乗るよ…。」「彩峰!!!」
 逡巡していた私と違い武の説得に応じてしまった彩峰に声を荒げる
 「だめだよ御剣…、武はこうなったら梃子でも動かない。説得は無理…。」

 彩峰は仕方が無いという顔で言う、解っている…武が頑固な事くらい…それでも心情的には納得できないものであろう。

 「…………解った、仕方が無かろう。条件を出したのはこちらであるしな。」

 「そうか!解ってくれて嬉しいぜっ」

 武は無邪気な笑顔を浮かべる。これで武の顔を見れるのも後三日になってしまった…いやこれが最後ではない、我々にはまだ未来への希望があるのだから…。

 「御剣…」
 「ん…何だ彩峰。」
 未来のことに思いを馳せていると彩峰が話しかけてくる。

 「今日から私達別れの前の最後の逢瀬だね…」

 「…………なヌっ……」なっなにを言うのだ彩峰はっ。
 「別れを前にした三日間…、恋人達は最後の思い出に肉欲の日々を送るんだ…」

 「あ・あ・あ・彩峰ぇ~」

 「ふふふ…武は絶倫だからね。」

 「あ…あの…彩峰さん…」
 白銀もボーゼンとして彩峰を見ている。私は羞恥で顔が真っ赤だ、内容を全面的に否定できないところが悲しい。

 「美女に挟まれた武…幸せ物だね。」

 最早武も顔が真っ赤だ、発言している彩峰までもが顔を真っ赤にしている。
 その後、彩峰の危険な発言が武の部屋に戻るまで続いたのだが…それ以降は言及しないでおこう。




   そして運命の一日が訪れた。







 導入部が長くなりそうだったので最初は武の独白日記形式にしました。色々な所で文章の勉強してますが文をつなぐのは大変ですね、ほっとくと同じようなパターンを繰り返してしまう。


マブラヴ再プレイ中ですが雰囲気がオルタと随分違います。アンリミ後なのでオルタの雰囲気に近くしたいのですが…あと口調ですねこれが一番大変。皆さん上手いですね。
 この小説はアンリミ設定で冥夜と彩峰ヒロインでの状態なのですが前半のメインは地球での戦いと武と月詠の恋愛です、要するに武三股です。次の話で冥夜と彩峰は地球を脱出し、しばらくして他の三人とも別れます。前半はマブラヴキャラは武と月詠意外出てきませんのですいません。このSSはあくまでも「月詠ルート」です。

オルタキャラは出す予定ですが……どういう風になるか?
 以後ご期待?



[1115] Re:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 設定少しネタバレ
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/17 03:06
人物

・鳳 焔(おおとり ほむら)女 28歳
 帝国斯衛軍第一技術開発室長、香月博士の友であり永遠のライバルと言われているが専門分野が違うのと本人達がそういう事に拘らないためそんな事実はない、意見交換のメル友兼自分の研究の根幹にかかわらない趣味の分野での共同開発者。月詠の訓練生時代からの友人。

 若くして一開発室を任されているだけありかなりの頭脳の持ち主、香月博士のトンでも理論を理解できる事からもそれが伺える、ただ正確はカラッとした姉御肌。主に戦術機とその関連品の開発が専門で武御雷・不知火の設計にも関わっている。

 日本脱出の時武と合流以後専任のメカニック兼開発者となる。武と月詠が長い間戦い続けていられたのも彼女の整備と新しい技術開発による所が大きい、武考案のXM3の改良を手掛け人類全体に広域発信させたりとその功績は多々、後人類生存の陰の立役者と呼ばれる。

 新型戦術機、武雷神(ぶらいしん)や村雲(むらくも)・霧風(きりかぜ)・業炎(ごうえん)などを作り上げさらに鏡面装甲や生体金属などを作り上げた。




・武雷神
 武雷神とは最初機体名ではなかった。武と月詠の二人が戦うにつれその存在は人類全体に広まっていった、二人の武御雷はもともとカスタム使用のハイスペック機であったが焔博士の更なる技術の開発と戦闘での損傷によりその機体はドンドンと改造されていき約一年経つ頃にはその機体は武御雷の姿を残しながら全くの別の機体となっていた。
そして二人の側で戦う者達はいつしか彼ら二人をこう呼ぶようになる「武御雷を超えた武御雷、雷(イカズチ)の神、武の雷、神の雷それすなわち武雷神」

 外見はともかく中身は全くの別の機体になっていた、そして焔博士はこの武と月詠の武御雷を二人の戦闘経験を生かしたまま万人向けにデチューンして調整した、これが正式な武御雷後継機「武雷神、ver00、」である。
 この後武雷神は武と月詠の成長と共にバージョンアップを繰り返していく。
また焔博士の考案で戦術機の構造特性からverUPの際新しく機体を作らなくても前のバージョンをそのまま改造したり軽く組み直したりするだけでverUPできるように設計されたり設定や組み換えで機体の戦術特性が自分好みに変えられたり(接近・白兵・長距離など)し、さらに元々武達の武雷神は有り合わせの材料を流用して作った事もあり不知火や吹雪などのパーツを流用することが出来るように機体設計と基本改造マニュアルが出来ていた。

 物資が乏しい人類の現状としてはこの機構は大変好評で以後開発する村雲や霧風などもこの改造機構は受け継がれさらに武雷神以降全ての機体のパーツは設計上無理がない所は互換性があるように規格統一された。

 また武達の機体改造のノウハウから武御雷の改造マニュアルも作られ以後武御雷改とされた。
 武の武御雷が黒く塗られた訳は冠位十二階により紫は最上、徳(オルタでは将軍に位置すると推察される)に位置するため流石に不味かろうと最下の智、黒に塗り替えた。ちなみに月詠の赤は冠位では5と6(礼)に位置する(3,4が青・帝家の縁者で赤は帝家の家臣と推察)





・鏡面装甲(Mirror side armor)(MSA)
戦闘機のステルス処理を大幅に改造した技術、光波による波動をシャットアウトする力を持つ。ブラッグの法則により光の波長と結晶構造の幅、および反射面と光線が成す角度の間の関係を利用して構成されたり、エウクレイデスの法則やスネルの法則を複雑に利用して反射・屈折・歪曲を行なう。
 だがこれだけだとレーザーがそのまま反射・屈折してしまう。
 相転移現象や空間歪曲現象などによる光波(レーザー波)の分解という併用機構を考えていたのだが、それを鏡面装甲を維持できる大きさに小さくしたり、エネルギーの消費を抑えたりする理論が出来なくて計画は頓挫していた。
 (鏡面装甲表面に維持されるフィールドにより光波の分解を行なう。空間歪曲現象など…この辺色々案がありますが……)

 マレーシアで聞いた武の向うの世界の話がきっかけでそれを発案し、基礎理論が完成する。
 鏡面装甲の発展と維持するエネルギーを多く取る為新しいエンジンの開発も併用して行なっていたがそれの完成にどうしても日本の皇居を取り戻す必要性が出てきた。(この辺まだ訳は秘密)
 その為将来脅威となる厚木ハイヴの攻略を行なわなければならなくなった。
 だが結局研究室を取り戻したがそのエンジン開発は上手く成功しなかった。
 その為ある行動を起こし、色々あって理論は完成し、鏡面装甲、新型エンジン、完璧な生体金属の3つが一気に完成した。


 BETAのレーザー光以外の波長の違うレーザーも反射できる、また光は電磁波の一種であるがこのMSAは通信対策のため光波以外の電磁波は普通に受けられるように設計されている。(あまり詳しくないので突っ込まんでくれ…)

 この装甲は随分前に原案は上がっていたが三つの欠点があった為採用は見送られていた。一つ目は非常に綿密なメンテナンスを必要とする事と少しでも傷の入った装甲は、耐性を著しく低下させ、その状態での長時間使用では一斉剥離すら起こりうること。コスト面と安全面でダメ。

 二つ目はエネルギーの問題で、光線級の射撃単発なら問題ないが集中して受けたり重光線級のレーザー照射を5秒以上受けると動力が枯渇してしまうこと。

 三つ目が重量、ミラーコーティング処理は機体装甲の上に施すが既存の技術だとコーティングの重量が機体の機動性を損なってしまうためである。オルタ本編でも言われているがBETAは光線級が全てではない、レーザーは効かないけど物理攻撃でやられましたでは本末転倒である。
 上記三つの理由からMSAはお蔵入りとなっていた、それを復活・実現したのが焔博士である。

 一つ目の解決策として出されたのが装甲のガラス類似化である。ガラスは一面では固体ではなく粘度が非常に高くなった液体であるという、そこに目をつけた焔博士は鏡面装甲をガラスに類似した特性の物質にすることにより粘度を高め装甲の結合性や耐性を高めた。また流動体であることを利用して破損部分には専用のスプレーでの応急処置や塗装での上塗りによる処置を実現し欠損部分の交換というコスト面での問題も解消した。
 またこれにより装甲が薄くなり三つ目の問題も解決した。

 二つ目の電力の問題だが鏡面装甲はまず戦術機の装甲の上に装甲基盤を載せる、この基盤は薄く作られており一センチ少ししかない、この基盤が戦術機と鏡面装甲の繋ぎの役目をはたす。
先も説明したように鏡面が破損してもこの基盤が残っていればまた上に鏡面を塗布することで再生できる、基盤一つに連結式集積回路(IC)が載せてあるので基盤が破損しても隣り合う基盤が破損した基盤の上に塗布された鏡面を維持する、そのため少しの損傷なら鏡面の応急処置で十分機能する。戦闘中に破損部分へのスプレー散布で簡単に破損部分を修復できるので大変好評で対光線級での生存率が飛躍的に上がった。

注)厳密には「連結式集積回路(IC)」ではない、既存のICとは全く違うアプローチで作られている装置・機関……まだ正式名称が決まっていないので便宜上こう呼ぶ。

 動力は基盤の一つ一つに充電式の小型電池が幾つかセットされている。これは機体の余剰動力を溜めておくためのもので機体稼動時に余剰動力がある場合は全てこの電池に動力が回わされて蓄積される。蓄積された動力は機体稼動の動力とは関係ないので鏡面装甲の維持が可能になった。
一枚の基盤にセットされている電池で光線級のレーザーを27秒、重光線級は9秒反射できる、そして先ほど述べたように基盤同士は繋がっていて一つの基盤の動力が尽きても他の基盤から動力をもらう事ができる。鏡面の寿命は光線級は約40秒の合計照射、重光線級は約18秒の合計照射であるが連続照射を受けると直ぐに鏡面の限界融点に達してしまう。


 なお基盤は光波を遮断するエネルギーフィールドを作り出す、そのフィールドを鏡面の上に展開する、鏡面はフィールドを展開・維持する膜となりそして鏡面の下にフィールドのエネルギーを伝えない為の防壁ともなる、なお鏡面が破損しても基盤から発生する遮断波がフィールドを遮断する、鏡面と基盤両方が破損した場合でも破損した基盤でも遮断波を伝道するように出来ているので余程盛大に壊れない限り大丈夫なように設計されている。(上記の通り1つくらい基盤を壊しても平気)

 基盤中央の連結式集積回路(IC)から遮断エネルギーを発生させ基盤で増幅して鏡面へ展開する。
 この連結式集積回路(IC)はオルタネィティブ計画の量子電導脳の技術を流用している(焔は00ユニットの事は知らなかったが量子電導脳……それ自体ではなくそれに関わる技術の事は知っていた、量子電導脳の事はそこから推察した)
 上で挙げている通り既存のICよりかなり違う方向性で作られておりその性能は格段に違う。
 150億個の並列処理コンピューターを掌サイズという程ではないが、かなりの性能を凝縮したICである。
 勿論基はBETA伝来の技術を使っている。
 現在の人間にも生成可能な物質。

 MSAはあくまで生存率を上げる装甲でありそれを過信してはならない。やはり最終的には衛士としての技量が生死を分ける。
 またコストや整備面などは簡略化されたがそれでもやはり装甲を施すのは大変で初期は一部のカスタム機(エース機など)意外はMSAを施した盾などを使ったりコクピットや重要部分だけに施していた。
 段々ノウハウが溜まり、焔博士が開発した武雷神や村雲など後の機体には全てMSAが施された。





 
 私は化学と科学は余り詳しくないので突っ込みどころがあっても詳しく答えられないかも知れません。すみません。

SS本編が進んできたので少し鏡面装甲の完成版の情報を載せました。
 今までネタバレするので載せませんでしたが……最初の方にオルタの設定を混ぜたので一応それらしくは見えると思います。
 あとは光波を遮断・分解する理論に説得力を持たせるだけです……それが難しいのですが。


 理論を手に入れるために○●△■に▼■すること……
 まさかオルタ本編でも私が考え夢想し、SSの設定にあった「コレ」をやってくれるとは……理由付けとか理論とかの説明が難しくなりましたが「やる事は可能だ」という事が本編でも証明されたのです。
 当時はもし書く場合この展開は受け入れられるか心配だったのですが。

 というか私はこの設定を作る時予知でもしていたのか、いや…あの部分のストーリーを練った人と俺の願望が一致していた……そうに違いない!

 という事で量子電導脳の辺りで既にSS本編で何やるか想像出来た方はいらっしゃるかとも思います。……理由と方法は既に考えています、強引な理論と方法と理由付ですけど、オルタより展開がパワーアップしています。●△■と▼◎も一緒に……



[1115] マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/12 23:32
移民船団が出発する…。                     







          
 発動から実行まで二年、二年というのが長いのか短いのかは判断に苦しむところだが俺にとっては充実した日々だった。確かに過酷な戦場だったけどそこにはタマが居て、鎧衣が居て、委員長が居て、そしてとてもとても愛しい二人が存在した。

 「冥夜……。慧……。」

 二人とは今朝まで一緒だったのだが乗船手続きのため朝から出発して行った。そのため俺は彼女達に別れを告げるため衛士装備で発着場に向かっている。先程までそこ彼処に他の人々の別れを告げる嗚咽が鳴り響いていたが出発時間が迫っているため皆戻った様だ。

 タマと鎧衣と委員長は先に別れを済ませてくると一足先に出て行った。一緒に行こうと言ったのだが

「白銀は今朝まで二人を独占してたでしょ、後から来なさい。」
「だ~め、タケルは後から来るのっ!」
「たけるさんは一番最後です。」
と三者三様に言われたので仕方なく少し後から来ている。
少し歩くと前方の発着場に冥夜と慧の姿が見える…と

「あれ…他の皆はどうしたんだ?」
二人の前に駆け寄りながら尋ねると、

「榊達は向こうだ、少々離れたところに退避している。どうやら私達に気を利かせてくれたらしい。」
冥夜が視線で向こうを向きながら答える。

 「そうか…後から来いと言うのはそういう事か。」

 どうやら三人で最後の挨拶が出来るように気を利かせてくれたらしい、『サンキューみんな!』心の中で皆に礼を言う。かけがえのない仲間だ、自分達も最後まで共に居たいだろうに…。

 「うむ…。皆に感謝しなければ…、最後の時間我ら三人で居られるのは正直ありがたい。」
「堅物の榊にしては上的だね…。」
冥夜は素直に感謝を。慧は相変わらずだ、捻くれた慧のことだから是でも感謝してるんだろう。最後の別れも嫌味の応酬になったに違いない。

 …まあとにかく……、

 「冥夜………、慧………」
声を掛け二人に近づく、別れの時まで冥夜と慧の存在を近くで感じていたい。

 「ありがとうな二人とも」

 「「???」」

 俺のいきなりの言葉に二人とも戸惑っている。
「どういう意味…」
慧が不思議そうに聞き返す

 「正直俺が戦ってこれたのは二人のお陰だよ。」

「そんなことはないであろう武…そなたは強い。共に戦っていた私達が一番よく知っている。」
「………そうだね。」

 冥夜の言葉に慧も同意する、だけどな…

 「いや…俺が弱いのは心だ、クーデター事件で悠陽殿下や冥夜、敵であった狭霧大尉の言葉までもが深く俺の心に残った。それまで俺は確固たる信念がないままだった、皆には戦う信念ががあったのに俺はまりもちゃんに教えられた衛士としての心得がなんとなく解っていた気になっていただけだった。あの戦いで衛士として人間としての心を目の当たりにした俺は自分が酷く薄っぺらいいい加減なヤツだと感じた。」

 …そう、あの事件で俺は遊び半分だった自分を戒めたのだ。

 「俺には国を愛するということは本当には理解出来なかった、だけど大切なものをみつけた。この世界で生きて戦っていく理由、それが冥夜…、慧…、お前達二人なんだ。」
俺は二人を見つめる、言葉にするたびに愛しさがこみ上げて来る。

 「ばかもの!!!それをいうなら私の方だ。」

 突然冥夜が大声を張り上げる。

 「私とてそれは同じこと、以前の私は未来を夢見て戦っていた、しかし今の私の「夢」や「希望」や「未来」それに「愛」は全て武と共に在る。武と共に道を歩んでいくのが私の望みだったのだ!!」
冥夜が涙を流し俺に詰め寄ってくる俺は彼女を抱擁する。

 「私とて慧とてそなたの迷いは感じていた、そなたがこの部隊に来てから時折妙に悲しそうにしている事、私達を見て懐かしそうに昔を思い出していること…。

 冥夜…。そうか冥夜は俺の迷いを…、慧も頷きこちらを見ている。

 「私達は武の事を知らなさ過ぎる、過去の武を独占したいという考えが心をよぎる。お前が懐かしそうに、愛おしそうに話をした純夏という女性に狂わんばかりの浅ましい嫉妬を覚える自分がいる。だから…私と会ってからの武を全て知りたかった!!!それなのにお前は………」

 冥夜の絶叫と嗚咽が響き渡る。コイツがこんなにも感情を剥き出しにしたことは今までなかった。自惚れる訳ではないが物凄く愛されていると実感できる、いつの間にか慧も俺に抱きついて泣いている。ああ…コイツも同じ想いを抱いていてくれたんだな……。

 物凄く愛おしい、出来ることならこのまま一緒にいたい…でも…。

 「……解っている…。」

 言葉を発しようとした俺を制して今度は慧が喋る。

 「…武は私達二人に願いを託してくれた。…武は優しい……、私達に安全な所で安心して子供を育ててほしいという願い…痛いほど伝わって来る。」

 慧……。

 「仲間達を残していくのは後ろめたい…、武と共に生きていけないのは辛い…。でも母親として武の子供を立派に育てたいという願いもある。だから私は行く、それが武の願いだから……。私と武と子供は何時でも、どんなに離れていたって一緒だから……。」

 「そうだな……。私達は何時でも一緒であったな…。」

 慧と冥夜の言葉に涙が溢れてくる。チクショウ!やっぱりこいつら最高だぜ!そのまま時間が過ぎて行く、しばらくすると冥夜が離れて

 「武、これを受け取ってほしい。」

 そう言って冥夜は俺の前に刀を差し出す。これは…、前の世界でも冥夜の愛刀だった…。
御剣家宝刀「皆琉神威」だ、私の代わりという訳ではないがお前に受け取ってほしい。
前になぜ悠陽殿下じゃなくて冥夜が持っているのか聞いたら皆琉神威は御剣家直系で無現鬼道流剣術を免許皆伝した者に与えられるらしい、それに皆琉神威は実戦用の剣だがもう一本宝剣の役割の宝刀が有るらしい。

 「でもこれは…「よいのだ、戦場にあってこその名刀。私の代わりにそなたを守護してくれるであろう。」
俺の言葉をさえぎって冥夜が刀を捧げる、…ここは有りがたく受け取っておこう。まったく冥夜は頑固だからな。
皆琉神威を手に持つ、不思議なことに手に吸い付くように馴染んだ。みると冥夜が苦虫を噛み潰したような顔で見ている。

「どうしたんだ?」
「いや、随分刀に気に入られておるな。私なぞ一ヶ月は馴染んでくれなかったのに…。」

 「馴染む…?刀が?」
刀に気に入られるなんて?疑問を口にすると
「皆琉神威は代々伝えられてきた宝刀…その力はただの刀と比ぶべくもない。日本古来では九十九神などと言われるものがあるが皆琉神威はまさに幾多の年月を生き、使われ昇華されて行ったのだ、刀自体に魂が宿っているとも言われている。」
冥夜の説明にビックリする、凄いとは思っていたがまさかそんなデンジャラスな刀だったとは。

「いいのか?そんなすげぇ刀を…」
「うむ。皆琉神威はそなたを使い手と認めたようだ、それに先程も言ったであろう武にもっていてほしいのだ。」
俺は頷く。冥夜の心遣い有りがたく受け取っておこう。

「ラブラブ…二人の世界…いいね……。私は捨てられるんだね?遊びだったんだ?鬼畜だね武…」

 突然横合いからオドロしい声が響く、どうやら冥夜との会話に集中してたので拗ねてしまったらしい、うぅ…ぷっプレッシャーが…。

「な…なにを。ばかなそんなことがあるはずがなかろう、そうであろう武!」
「そ…そうだぞ、慧のこと忘れていた訳じゃないぞ!」
冥夜が慌てて話を振ってきて俺も言い繕う。本当だぞ!忘れていた訳じゃないぞ。

 「……………」

 う…ジト目で見るのはやめてくれ。
「まあ武だからね。…ふ……惚れた弱み?女は悲しいね…。」
だからそのニヤリと笑ったあといかにも『しかたない』って顔で首をふるなよな!

 「しょうがない…。しかたないからあげる。」

 そう言って手を出した慧の手には…

 「これは…リストバンド?」
黒いリストバンドが五組あった。
「……………大正解。」
悔しそうに言う慧。というか最初の間は?なんでそんなに悔しそうなの?
「御剣と違ってそんなにいいものじゃないけど…、チョーカーから作った。使って…。」
スズイと押し出してくる。思わず反射的に受け取ってしまう。チョーカー?そういえば最近首のチョーカーを見ないと思ったら…。慧は意外に手先が器用だ、おそらくこれは手作りだろう。俺のために一生懸命作ってくれたと考えると思わずにやけてしまう。

 「サンキュー慧、大切に●▽◇■げばう▲!!!」
ぐほっ、ひ…さ…びさ…に慧の…照れ隠しの一撃が……、これもくらえなくなるのかと思うと少し寂しい気がしないでもないのは気のせいか?
「大丈夫か、武?」
「平気平気、武はタフだから…」

 くそ慧のヤツ…でもそんな所も可愛いんだよな…。

 「……………」

ジト目でギロリと睨まれる。
なんでお前は俺の考えていることが解るんだ!?

 …とそんなバカなやり取りを普段のように掛け合う。刻一刻と別れが近づいてきている、しかし俺達に寂しさはあるが悲観はない。

 それは………

「武…いつか必ず帰ってくる、それまで暫しの別れであろうが…いや何も言わずともよかろう。」
「…武…浮気したら殺すよ……。」

 抱きしめた二人の言葉に笑顔で答える。

 そうだ二人とも解ってくれている。これが最後では無いという事を、俺達はいつかまたこの地球ほしで再会するんだ…それまでの少しの別れじゃねぇか。

 船のサイレンが鳴る、名残惜しく腕の中から抜けていく二人、残った温もりが俺の心を震わせ涙を誘う。しかし大丈夫だ俺はお前達の帰るこの地球ほしを守り続けることを誓ったんだ。
冥夜と慧がタラップに足をかける、すると冥夜が振り向き言った、

 「武、私と慧からもう一つプレゼントがある。榊に任せてあるので後で受け取ってくれ。」

 「プレゼント?」

 「そうだこれからの戦いで武の役にたってくれるであろう。許可はとってある、私達の変わりに遠慮なく使ってくれ。」

 そういい残すと質問をする間も無く慧と冥夜はタラップを登ってしまった。

 目の前で扉が閉じる。
船は離陸準備に入る。離陸には少し時間がかかるので…
「白金!」
後ろから拡声器での声が掛かる。振り向くと目の前に委員長達の不知火が在る。
「あなたの不知火持ってきたわよ。このまま船団の護衛任務に入ること、いいわね。」
「サンキュー委員長、タマも鎧衣もありがとな!」
委員長が遠隔操作で運んできた俺の不知火に搭乗する。
搭乗して散会するところで移民船団が宇宙に向かって駆け上がっていく。


遙かな空へ消えていく船団を見上げ俺は………







「…で…委員長、冥夜と慧のプレゼントってなんなんだ?」
「この中に在るわ」
「…て…ここ、普段使われていない整備格納庫だろ?こんなところになにが…」

 「みれば解るわ…開けるわよ。」
扉が開く。不知火を格納庫に入れた後委員長に案内されて普段使われていない整備格納庫まで連れてこられた。ここに二人の「プレゼント」が在るらしいが…。

 扉が開く…中に存在したものは……

 「たっ…武御雷っ!!!」

 そう…武御雷。間違いなく帝国軍城内省斯衛軍専用機の武御雷だった。

 「黒い…武御雷」
赤い指先、所々にマーキングや赤い模様が少々入っているがほぼ全身が真っ黒だ。

 「これは冥夜に送られてきた武御雷よ」

 「って、あの紫色だった?」

 「そう紫は冠位十二階の最上位色、将軍専用機よ、もちろんカスタムの仕方も半端じゃないわ。おそらく米軍のラプターより総合性能は上でしょう。第三世代戦術機では最高峰の機体だわ。」
委員長の言葉に度肝を抜かす。将軍専用機!…なるほど、冥夜が特別扱いするなと言うのもうなずける。

 「冥夜が悠陽殿下にあなたへの譲渡を嘆願してそれが受け入れられたそうよ。ただいくらなんでも将軍機仕様だとまずいので冠位十二階で一番位が低い黒に塗り直す事が条件だったみたい。」

委員長は坦々と説明するが…
「なあ、俺みたいな一般人にいくら色を変えたといっても将軍専用機なんて渡しちゃまずいんじゃないか?」
「大丈夫じゃない?白銀は御剣の婿みたいなものなんだから、それなら半分は御剣の関係者でしょ。」

 「婿って……」

 「この機体には、御剣と綾峰のデータ、特に剣術と格闘のデータが入れられているわ。
俺の反論に構わず説明を続ける委員長。昔は一々反応していたのに、委員長も成長したなぁ…と、ついくだらないことを考えてしまった。

 「冥夜と慧の?」

 「そう二人ともこの機体に武が使いやすいよう自分の戦術機のデータをあなた用に変換・調整して入れているわ。」

 冥夜、慧…。そうか私達の代わりというのはこういうことか。
 その想いありがたく受け取るぜ!
 「二人分の想い、確かに受け取った。これからは三人一緒に戦っていこう。」

 漆黒の武御雷と宇宙にいるであろう二人に向かって告げる。漆黒の武御雷は禍々しさと神々しさを併せ持つ強大な気配を漂わせながら静かに俺を見下ろしていた。




 二話終了です。ここまではアンリミ編ですが次からはオリジナル展開となります。…といっても横浜基地がBETAに進攻されるので展開としてはオルタと一緒になりますが…もちろん結末などは違います。

 最初に言ったとおりこの話は2003年時点でプロットが出来上がっています。今はプロットを基にしてオルタの設定を導入して書いている状態です。2003年時点では横浜基地がハイヴだったとかBETAの帰巣本能とか知らなかった訳ですが。

 横浜基地が襲われたり月詠さんの武御雷が赤だったり自爆装置が標準装備だったりとオルタとの共通点がチラホラ見えます。2003年の俺よお前は未来を見たのか?(まったくの偶然です。)
 ちなみに冥夜と武の別れの台詞はある小説が元です。2003年以前に読んだものですが内容は覚えているのですが題名が出てこない?プロットからそのまま抜き出して(少し修正して)書いています。
色々とそれとなくパロッているので…そのまま載せてはいないのですが。
  では次の話で。

  



[1115] Re:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/13 19:31
注)国連軍の兵士として2年間戦っているので武達は英語が話せます。ドイツ語やラテン語なども一通り教わったという設定です。

  XM3のトライアル(BETA襲撃はなし、しかしオルタでこの戦いで死んだA-01の人は他の戦いで戦死している)とクーデター事件が起こったためオルタネイティブ5は発動が1ヶ月遅れて2004年1月24日になっています。

 月詠真那はこの世界では帝國城内省直轄・斯衛軍皇主守護隊第一中隊隊長で少佐、という設定。戦術機隊の一小隊は六人(六機)。







 2004年1月24日、移民船団が宇宙へ旅立った後G弾の投下が始まり、ハイヴやBETA密集地帯を目標に投下されされた。

 日本は佐渡島ハイヴへ3発が投下されたがそれ以外は投下されなかった。なんでも悠陽殿下をはじめとする地球帰還希望派が汚染の悪影響を考えて日本へのG弾投下に反対したらしい。残った国民に負担を強いることになるが日本の皆はほぼその考えを受け入れようだ、『国土を愛する日本人の心は一時の安全よりも優先するのか』と感心したぜ。

 G弾投下後佐渡島ハイヴの殲滅戦が行なわれた、当たり所が良かったのか一発が主縦穴内に直撃しハイヴはほぼ壊滅状態であった、そのため掃討戦は比較的簡単で俺達は佐渡島ハイヴの殲滅を確認し歓喜した。

 それからBETAの襲来もなく時が過ぎていった…。


 そして2004年4月28日……。





 「ーーーーーーー」

 「!!!!!」

 夕食が終わって部屋でくつろいでいた所に突然の緊急警報、ベットから飛び起きる。…いったいなにが起こったんだよ?

 疑問を挟みながらも皆琉神威を掴み部屋から出て格納庫に急行する、この警報はレベルMAXの超緊急事態宣言発令警報だ恐らく何かトンでもない事が起こっている!
 格納庫に滑り込むと丁度委員長も向こうの通路から駆け込んできた。

 「委員長!一体何がおこってるんだ。」

 近づくのももどかしく大声で疑問を投げかける。委員長は駆け寄りながら説明する。

 「BETAの襲来よ!かなりの数がこの基地に向かって来ているみたい。」

 BETA襲来?それはかなり不味い……急いで衛士強化装備を引っ掴み装着し始める。委員長と会話しながらも俺達は着実に衛士強化装備を装着していく、昔だったら異性の前で着替えるのはメチャクチャ恥ずかしかったが今では余り気にはならない、ましてや今は緊急事態でそんな事を気にしている暇なんてない。

 「敵は真っ直ぐこの基地を目指しているわ、確認出来た数は小型・大型合わせておよそ3000体、光線級の存在は認められず、また後方にさらに増援の気配あり。」

 「3000体……レーザー級がいないのが救いだけど…なんでレーザー級がいないんだ?」
 BETAの攻撃でレーザー級がいないのはおかしい、ましてや基地を襲うのに重要な戦力であるレーザー級がいないなんて…。

 「私に聞かれても解らないわよっ。」

 委員長の憮然とした言葉が返ってくる。今のは独り言だったんだけどなぁ。

 「タケル!」「たけるさん!」

 タマと鎧衣も駆け込んでくる。二人とも強化装備を引っ掴むと急いで装着しだした。

 「たけるさん…どうしましょう…」
 タマが捨てられた子猫のような目で俺を見つめる。この世界のタマは余り猫っぽくなかったけどこういう顔を見るとやっぱりタマは猫っポイと実感してしまう……じゃなくて、変な妄想に入った頭を無理やりに現実にもどす。
 タマの質問は委員長に振る。

 「で…どうする委員長?」

 部隊長が一番現状に詳しいので判断を任せる。タマも鎧衣も装備を装着しながら委員長に顔を向ける。
 「私も詳しい状況は解らないわ、とりあえず各自機体に搭乗後基地司令部の指示を仰ぐわ。」

 「「「了解!」」」

 委員長の言葉に皆が了解の意を示す。こういう時の委員長の判断は皆疑ってはいない。
 各自自分の機体に向かう、俺は漆黒の武御雷を眼前にして呟く

 「頼むぞ…相棒…」

 間違いなく激戦になるだろうと予想する、漆黒の機体を前に一瞬黙祷してから乗り込む。
 動力エンジンから各種機械を起動させ機体を準稼動状態にもっていく、エンジンののアイドリングが始まった時に外部から通信が入る、

 「やっほー、白銀。元気してた!」

 この緊張化においてなんとも陽気で開けっぴろげなこの声は…

 「速瀬中尉!!」
 通信相手は特殊任務部隊A-01部隊の速瀬水月中尉だった。

 「どうしたんですか…。」
 速瀬中尉は苦手だ、何故かことあるごとに俺をライバル視してくるし、みょ~にからんでくる。

 「いや、今回はたんなる挨拶。流石にこの状況で競争とか言ってられないでしょ。」
 カラカラと笑いながら答える速瀬中尉、この状況で笑っていられるのはこの人の凄いところだ、…宗像中尉によると何も考えていないだけらしいが…。

 「それは良かったです。…所で皆そろっているんですか?」
 「ええ、全員この場にいるわ……あっ!……はぁん…」
 何か思いついて手を打ち合わせた速瀬中尉の目が細まりニヤリとした顔になる、やべぇあの顔はからかいモードだ。

 「そうかそうか…ぅんぅん、白銀は茜と晴子の事が気になるんだ…。」
 「な…なんでそうなるんですかっ!」

 急に変な事を口走りだした速瀬中尉、この人はなに言ってんだ…。この状況下でこんな緊張感なしの話を振ってくるとは…思わず頭を抱えたくなる。
 「いやさぁ白銀ってみょ~~~に茜と晴子のこと意識してたじゃない?なんか私達に対するより馴れ馴れしかったしさぁ」
 もはやニシシ笑いを隠そうともしない速瀬中尉の声が響く、俺が涼宮と柏木を気にしてたのは確かだ、だがそれは前の世界の彼女達を知っていたからだが…そんなことは説明できない。返事に困っていると横合いからまた通信が入った。

 「だめだよ水月…純情な青少年をからかっちゃ。」

 通信してきたのは宗像中尉だった、普通なら天の助けと喜ぶところだがこの人の場合余計に事態をややこしくしてくれるので俺はますます頭を抱えた…が

 「全員聞け。」

 急に全回線で通信が入った、速瀬中尉も宗像中尉も瞬時に顔を引き締める。流石伊隅隊長、貫禄十分なお人だ…。
 「207小隊も聞いているな、司令から現状に付いて説明がある。心して聞け」

 わざわざ基地指令が説明するなんて…状況はよほど悪いのだろうか?
 ウィンドに指令の顔が映る、となりには涼宮遙中尉の姿も見える

 「諸君、知ってのとおりBETAの大群がこの基地を目指している、やつらの目的はこの基地を取り返す事と推測することができる。BETAには帰巣本能があるのは知っているな、佐渡島ハイヴを破壊されたBETAはエネルギーの確保のためこの横須賀基地最下層にある反応炉を狙っているのであろう。やつらにレーザー級がいないのもエネルギー不足のためであると思われる。」

 『そうか…レーザー級は結構エネルギー使いそうだもんな。それでいないのか。』先ほどの疑問の答えが見つかり納得する。

 「諸君、後方にさらに大規模の敵集団を確認した、このままではいずれ数で押しきられるであろう。………まことに遺憾ながら、我らはこの基地を放棄する事に決定した。」

 放棄だって!!!

 「そんな!戦わないのですかっ!」
 速瀬中尉が食って掛かるが

 「ここで戦って消耗しても意味がない、一端引いて味方の部隊と合流する。実はここ意外でもBETAの侵攻が始まった、防衛線は下がり続け各部隊は民間人の撤退時間を稼ぐため戦いながら後退している。ここに留まってもいずれ孤立する、横浜基地の衛士は住民の援護をしながら後退する。既に基地の職員と衛士は後退を開始した。」

 司令はゆっくりと言葉を紡ぐ、俺達全員に噛んで聞かせるように。

 「確かに自分達の家を失うのは悲しい、しかし我々が守るものは家ではない…そこに住む人である。たとえ家が無くなろうとも我らには母なる大地が、愛しき国がある。どんなに荒廃してもそこに人がいればやがて国は復活する。諸君は日本の国民を守ってくれ。」

 司令の言葉は重い、確かに親しんだ家を捨てるのは辛い…けど俺達にはそれよりも大事な守るべきものがある。皆それは解っている…速瀬中尉も俯いて耐えている。

 「諸君には特別任務を下す。」

 司令の言葉で思考を戻す、特別任務?
 「先ほども言ったとおりBETAが各地に進行中である、この基地は反応炉確保のためBETAが特出してきているが各地の戦線はまだもっている。諸君には厚木で民間人を護衛してほしい。」

 ウインドが現れ現在の状況が示される。確かに戦線が後退している。

 「山梨などの山岳森林地帯は何故かBETAの侵攻が遅いので撤退部隊はそこを通過している。また光線級がいないため船で国外へ一時脱出する者も多々いる。現在神奈川では民間人を直接護衛する部隊、厚木と相模原で時間を稼ぐ壁の部隊が存在する。厚木は激戦となるだろう、諸君はここの援護に向かってくれ。」

 BETAの侵攻は山岳森林部の侵攻スピードが明らかに遅い、これもおそらくエネルギーの関係だろうか?そのため撤退してきた民間人は迂回して山梨から東京に向かっている。

 平地部は現在小田原から厚木にかけて後退中、民間人移動速度を考慮し厚木で最低一日防衛する、その後東京防衛線の一つ川崎へ撤退し防衛任務に就くことが俺達の任務だ。ちなみに防衛拠点が置かれるのは川崎・八王子・青梅・所沢・埼玉だ。

 敵は他には目もくれず「自分達を攻撃するもの」と「人間」を殺す事を優先しだしたらしい。実際BETAが通った後でも建造物は無事だという報告が出ている。

 「この基地は自爆させる、BETAにエネルギーを与えてやる訳にはいかないからだ。私達は一足先に川崎へ後退するが諸君は厚木の民間人を頼む。どうか我が同胞を助けてくれ。」
 司令とその横に立つ涼宮遙中尉は俺達に向かって敬礼する。

 「全員聞いたな、この横浜基地は私にとっても家同然、捨てるのは辛い…が司令もおっしゃられたように私達にはもっと大事な守るべきものが在る。いくぞ…A-01部隊、207小隊!任務は民間人撤退まで厚木で防衛後川崎の防衛拠点に向かい防衛に参加。」

 「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」

 伊隅大尉の号令に九人全員の声が重なる。

 「よし!格納庫から出た後全力機動。敵をこの基地に殺到させ爆破に巻き込むためなるべく急いで離れるぞ。基地爆破は18分後、衝撃波の到達限界地点までは全力で約10分…安全距離到達までは7分だ、余裕はあるが何が起こるかわからない…気を引き締めろ!」
 その言葉を皮切りに全員が機体を起動させる。その時司令から通信が入った。

 「207小隊の諸君、君達は今までの戦績により本日から中尉に任官される。任官証明は発行できないが個人データの方は変換済みだ。」

 「え…僕達が中尉!」「わわわわわっ」「司令、よろしいのですか?」
 鎧衣とタマの慌てた声に委員長の質問の声が被る。

 「うむ…君達の戦績では妥当な所だろう。これからも頑張ってくれたまえ。」
 司令の言葉に皆は嬉しそうな顔を浮かべる。俺も顔が緩む、自分達の戦いが評価されたことはうれしいぜ!

 皆で喜んでいる所、伊隅大尉の号令が響く
 「よし、では行くぞ。まずは葉山と逗子を抜けて鎌倉まで出る、全機発進!」
 号令と共に伊隅大尉の不知火が、続いてA-01の機体が次々と発進していく。

 「私達も続くわよ白銀!」
 A-01に続き委員長が発進する、

 「いくよ、タケル」「先に失礼しますたけるさん」
 鎧衣とタマも発進していく。

 俺は一瞬この基地を振り返る。ここでは色々な出来事があった、冥夜に慧…委員長に鎧衣にタマ、夕呼先生にまりもちゃん、社、そしてかけがえのない戦友達。出会い別れ…この世界に来てから確かにここは自分の家だったのだ。

 「ありがとうな……」

 そっと告げる。

 別れは言わない、此処が物理的に無くなっても俺達の家は確かに存在するから…。そう…此処を故郷とする人が生きている限りその存在は無くならない…。

 スロットルを開き動力機関(エンジン)を回す

 『白銀武!武御雷発進する!!」

 そして彼らは自らの家を後にした。






 三話終了です。今回からオリジナル展開になります。

 次回は戦闘あり…難しそうです。

 それではまた四話で…。



[1115] Re[2]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/13 19:21
 2004年4月28日…夕方 基地爆破まで後15分






 横浜基地から発進した俺達はスロットルを全開にして飛ぶ…がしばらくして前方にBETAの一群を確認した。

 「全員止まれ!」

 伊隅少佐の号令で全員その場に停止する。接触までまだ距離があるとはいえ決断は早めに下さなければならない。(…伊隅隊は俺達と同じく全員一階級昇進したらしい。)

 「隊長、どうしますか。接触までおよそ6分程ですが。」

 すかさず速瀬大尉が質問する、さっきの撤退命令で余程鬱憤が溜まっていたらしい、なんかもう「私は突撃したいです」と目がギラギラと訴えている。ウインドウ画面には笑いを浮かべた宗像大尉と困った子を嗜めるような顔の風間中尉が映っている。ていうかこの二人にかかると速瀬大尉も形無しだよなぁ…。

 「隊長、私は敵中突破を進言します。確率は低いとはいえ敵レーザー級の存在を考えBETAを飛び越えることはしたくありませんし迂回しようにも敵は既にこちらを視認しています。時間短縮と対レーザー級の対処のため敵中突破が最善かと思います。」

 勢いよく発言したのは涼宮茜中尉だ、画面から「私突撃したいです」という目で見詰めている。さすが速瀬大尉を目指しているというだけあって思考がメチャクチャそっくりだ。

 いつも絡まれるので伊隅少佐を見詰めているのについ自分が睨まれていると感じちまう…。

 「…………榊中尉、君はどう考える。」

 少し考えた伊隅少佐はいきなり委員長に話を振る。

 「…えっ…あ、はい……私も涼宮中尉と同意見です。時間的制約とレーザー級の潜伏を考えると敵中突破が一番妥当です。この地点では反応炉の爆発に巻き込まれます、衝撃波のことも考慮して離脱距離を考えれば迂回は得策とはいえません、直進して離れるのが一番かと。」

 行き成り話を振られて戸惑ったがすかさず自分の意見を進言する、さすが委員長だ。

 「よし…、敵中突破を敢行する!ポジションは……」

 「伊隅少佐!!」

 俺は声を張り上げて進言する、少佐含め全員が何事かと俺を見詰める。特に速瀬大尉と涼宮中尉の視線なんか人を傷つけそうだ…目が「なによあんた!」と語っている。メチャクチャ怖ぇがなんとか続きを発言する。

 「敵中突破の一番手、俺にやらせてください!!!」

 その宣言に全員の顔が変わった。

 伊隅少佐と委員長は静かな顔で俺を見据え宗像・風間・柏木の三人は新しい玩具を見つけたような笑みをうかべる。速瀬・涼宮はもう視線で人を殺せそうだ。鎧衣とタマは慌てた顔をしている。

 「ちょっと!白銀…」

 「白銀、貴様はその発言の意味が理解できるのか?」

 速瀬大尉の激昂を遮って伊隅少佐が厳しく静かな視線で聞いてくる、後ろで委員長もお決まりの腕を組んだポーズで少佐と同じ様な視線を俺に向ける。

 「はい、敵中突破の場合の最前衛の重要性は理解しています。「如何に進軍スピードを落とさずに敵を突破できるか」、最前衛が敵を倒すのにとまどえば部隊全体の足も鈍り敵に囲まれます。」

 俺は恐れず進言する、周りの皆も静かに俺と少佐の話を聞いている。

 「誤解の無いように言っておきますが最前衛を志願したのは俺の戦術機が武御雷だからではありません。」

 「ほう…、ではどうしてだ…?」

 伊隅少佐の声がやや面白そうな音を帯びる、委員長も心なしかホッとした様だ…ていうか二人とも俺が機体性能に胡坐をかいていると思っていやがったな。ええい…見ていろよ、度肝を抜いてやるぜ!

 『最近は自分も成長して分別が付いたかと感じていたがまだまだだな…まあ今回は本当に自身があるからな!』心の中でそんな事を考える。

 「それは今居る全員の中で俺が一番敵中突破が速いからです。」


 自信を持って発言するがその言葉に今まで笑みを浮かべていた三人までもが危険な香りを孕んできた、タマと鎧衣は漂うプレッシャーに脅えている。

 伊隅少佐は先程より更に厳しい目で俺を見据える、その視線は心の中まで覗かれそうだ。しかし今の俺には気にはならない…何故かというと後ろめたい事がないからだ、「一番速い」これは純然たる事実だと自分で確信している。
 この三ヶ月間で俺は大幅にパワーアップした、そう…日本最強クラスの動きを研究し続けたからだ。三ヶ月前までの俺は確かに操縦が上手かった…しかしそれは表面上の上手さで…いくら上手でもアマチュアでは極上のプロにはかなわない。
 そう…あの人の操縦を見た時俺はXM3の真価を戦術機の機動の更に先が見えたんだ…。
 まだまだあの人には及ばない…。しかし追いすがる事はできた…、俺は着実にあの人に近づいている。

 「ふっ…この状況で笑みを浮かべるとは…。」

 伊隅少佐の言葉で気づく…この三ヶ月を思い出しいつの間にか笑みを浮かべていたらしい。自分が着実に強くなっていくのを実感できた日々はとても充実したものだったからな…

 「解った…、白銀…お前に最前衛を任せよう。ただし部隊の皆の命を握っている事を忘れるな。」

 「少佐!!!」「速瀬大尉…私の決定は不服か?」

 伊隅少佐の決定に速瀬大尉が反論するが伊隅大尉がそれを諭す。速瀬大尉は小さく「イイエ」と呟くと俺に目を向け…

 「白銀~~ぇ、スピード落としたら後ろから弾ぁぶち込むからね。」

 と恐ろしい事を言った。
 他の皆も同じ様なことを口々に俺に言う。
 涼宮は速瀬大尉以上に本気で撃ってきそうだった。

 最後に委員長とタマと鎧衣から部隊内秘匿通信が入る、これは207小隊内だけの通信だ。

 「た・た・た・だげるさ~ん、だ…大丈夫ですか~」
 「タケル、本当に大丈夫?」
 タマのパニックボイスと鎧衣の心配する声が響くが

 「大丈夫、大丈夫。武様を信じなさい。」
 二人に安心させるように言う…と

 「白銀…本当に信じていいのね?」
 委員長の真剣な声、コイツは部隊長だ…自分だけではなく部隊全体の心配をしている。そのため心なし顔に不安の色が出ているが…

 「大丈夫だよ委員長…。俺は無謀なことはするけど、命を失うような…ましてや仲間を危険にさらすような事は絶対しない。」

 「………そう、そうだったわね…。」
 「納得してくれたか?」
 「ええ、あなたがバカなのは十分理解してるわ。」
 「な…そりゃあヒデェよ…なあ鎧衣、タマ」
 委員長の辛辣な言葉に二人に話を振る

 「え…えぇと…」「フニャー」
 慌てて目を逸らす二人、

 「ヒデェ…お前ら俺をそんな目で見てたんだ…」
 そして落ち込む俺…ではなく、

 「ク・クククククッ、ハハハハハッ」
 「フフフフ…まったく白銀ったら…」
 「もぅ…酷いよう、二人してからかって。」
 「え・え・えっ、皆さん如何したんですかっ。」
 一人解っていないタマを置いて俺達は笑う。

 俺の事を信頼して冗談で返してくれた委員長(微妙に本音が混じっていたような気もするが?)や鎧衣にタマ本当に最高の仲間達だぜ!。

 「さて、もういいか…。接敵まであと2分…BETAが迫っている、これよりポジショニングを発表する。今回は敵中突破の特殊陣形で行く。」
 伊隅少佐…どうやら今まで待っていてくれたらしい。BETAが迫っているのにこの人も随分余裕だな。

 「まず一番手、最前衛は白銀、…お前の役目は進路上のBETAを倒しつつ前進して部隊の道を切り開くことだ。先程も言ったが一番重要な役目だ、お前がとまどれば動きが停滞しすぐにBETAに囲まれる。部隊全員の命を握る重要なポジションだ…とにかく道を作り前に進むことだけを考えろ、他は仲間を信頼しろ…。それと倒すのはメデュームにしろ、コイツが一番多いし倒しやすい。」

 「了解」

 「二番手は右に速瀬、左に鎧衣。速瀬と鎧衣は白銀に両側から近づくBETAを排除しろ、白銀の開けた道へBETAが侵入するのも防げ、白銀の斬り込みに遅れをとるな。」

 「「了解」」

 「三番手は右に榊、左に風間。榊は速瀬と鎧衣の援護と白銀の援護、開いた道のBETA侵入阻止の全てを臨機応変に行なえ、層が薄くなっている所を見極めて的確に援護するのは指揮官タイプのお前が一番適任だ。風間は白銀の進路上に入りそうなルイタウラや対人級BETAを牽制しろ。」

 「「了解」」

 「四番手は右に涼宮、左に宗像。お前達は両側からの敵の接近阻止、駆け抜ける間だけ接近阻止できればいいので無理に倒そうと思うな。」

 「「了解」」

 「五番手は右に柏木、左に珠瀬。柏木は戦場全体をみて臨機応変に援護。珠瀬はグラヴィスを近づけさせるな。」

 「「了解」」
 「私は最後尾で全体の援護と指示、殿を務める。」

 「全員解ったか」

 「「「「「「「「了解」」」」」」」」」

 全員が声を一つにする。前方のBETAの中に突っ込むというのに不安はまるでないようだ…。俺を信頼してくれているのか俺がヘマしても自分達の力で切り抜けられると思っているのか…。
 まあ両方だという事にしておこう。とりあえずは…

 「全機突撃!!!行くぞっ!」

 伊隅少佐の号令に合わせスロットルを全開…一番に躍り出る、目指すは迫り来るBETAの群れ。新生武様のデビュー戦には丁度いい相手だぜ!

 とりあえずは……こいつらを突破する、俺の評価を付けるのはそれからだ!



05話へ続く…





 うう…戦闘までいかなかった。長いので分けました、5話は戦闘です…武は強くなっています。そしてもっと強くなります…色々と…。

 では次の話で。

 今回タグを打ってみました。



[1115] Re[3]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/17 17:38
2004年4月28日…夕方 基地爆破まで後9分 安全到達距離まで全力機動で4分


 『その宣言を聞いた時「ナマイキッ!」て思った。まあアイツの操縦の腕は認めていた…あたしと互角にやりあえるくらいだから、でも「部隊で一番速い」と言われたときはムカツイた。
私ならともかく伊隅少佐より速いと言ったのだ…私だってまだ勝てないのに、それなのに伊隅少佐は白銀の最前衛入りを許可した…。私は伊隅少佐の決定に納得できなかった、何時も正しい判断をしてきたあの人が…でもその決定はやはり正しかった。
あの時互いを見詰め合った二人の間にどんなやり取りが合ったかは解らない、けど伊隅少佐は白銀の…三ヶ月前のままじゃない今の白銀の強さを感じ取ったんだ…。』

 『…ついて行くのがやっとだった…悔しかった…置いていかれないだけで精一杯だった…機体性能の差はあったがそんなものは関係ない、純粋に操縦…衛士としての錬度で敗北したのだ…!。BETAの群れを抜けた後、落ち着いた時に白銀は「まだまだだ…」と言った、「俺が目標にした人はもっと凄い」と言われた。正直信じられなかった、あれよりも凄い人が居るという事に…。
 私は…強いと言われ少しいい気になっていた自分を恥じた…衛士としてまだまだだと痛感した。けれど同時に自分が更に強くなれるという未来への指標も手に入れたのだ…。見てなさいよ白銀ぇ~、ゼッタイに追いついてやる!』


 BETAの群れに飛び込む…後ろは気にしない、伊隅少尉が気にするなと言ったからには大丈夫…仲間が守ってくれる。俺はただひたすらに突き進み道を開く!

 白銀は75式近接戦闘長刀を構えBETAの群れに突入する…その顔に恐れや不安は無い。
 右前方のグラップラー級BETA・メデュームに狙いを定め接近、メデュームの左前方に左足から着地、剣の柄を左手を下、右手を上に握り左足を軸足にして左斜め上段から右(やや下向きに)へ向け斬り下ろす、腕を振りきるのと連動して左肩部装甲が前に重量移動、肩部に引きずられ機体がやや左前に傾斜するがそのまま左前方のメデュームへ向かいダッシュ、この時右少し下に振り切った長刀の先端をU(ユー)字機動で動かしつつ右斜め下へ。 
 メデュームの左側に機体を滑り込ませつつ右足を軸足にして前進、先ほどの左の肩部の前方への加重移動を支点にして右斜め下から左上…戦術機の左肩の上辺りに刀の先端が来るように敵を右下から斬り上げる。
 前方への腕の振りで生じた運動エネルギーを右足に伝えつつ機体を前に傾斜、同時に地面を蹴る、もちろん振り上げた長刀は切り返して斬り下ろしできる状態に。次に軸足にするのはどちらでも構わない、その時の状況により臨機応変に対応する。
 やや右前方のメデュームを左上段より下へ斬る、この時敵に対し左前方・正面・右側のどこに着地するかによって刀を振り下ろす軌道からその後の動きまで違ってくる。今の俺は敵の右側に斬り下ろしざま着地する…、反撃を仕掛けてきたBETAは零…このまま突っ込むぜ!
 揺るぎない自信…白銀の顔に浮かぶ顔はまさにそれだった。

「うおおぉぉぉぉぉ!」
 そうだ…今の俺はとまらねぇ!お前らなんかに止められるかよぉ!

 …この動きはクーデター事件で月詠少佐が行なった駆け抜けざまの連続斬りや高速機動・螺旋移動だ、あの時の動きを戦術機の記録から研究した…。月詠さんの衛士としての錬度に感心した俺は実戦に出るようになり自身の錬度を高めるべく月詠さんの動きを研究しだす…しかし三ヶ月前に武御雷を使うようになり俺の機動が全然あの動きについていけないことが解った。俺はあの機動を完璧にものにしようと本格的に研究しだした。

 戦術機の専門家に頼み込んで映像を解析してもらった、それで解った事は月詠さんの戦術機の機動はまさに究極・合理的だということだ。
 「すげぇ…すげぇよ……」
 その時、俺と月詠さんの機動解析を比較して出た言葉はそれだけだった…。今までの俺の機動は「操縦」でしかなかった、幾ら上手くてもそれはどこまで行っても「戦術機の操縦」が上手いだけ…月詠さんのは「一体化」だ…そう「戦術機との一体化」。

 戦術機が高重心なことと各パーツがそれぞれがリンクしつつ互いの動きを相互補完しているとは習っていた、しかし俺はその動きを実感してはいなかった…彼女はその戦術機の特性と各パーツの相互関係の動きを熟知していて重心の上下移動や肩部装甲の加重移動や腕や腰部の振りなども計算に入れて動いていた。

 一つの機動が常に二手三手先の動きに繋がっている、月詠さんの戦術機は「止まらない」。
 戦術機の機動は常に各部パーツの重量が動きを阻害する。特に装甲は機体を振り回す。力の反作用や加重移動で機体は少ないながら静止状態を作り出す…俺は結構スムーズに動けていると思っていたが機動解析してみると極短いながら静止状態が生まれていた。XM3で動きの停滞は大部分改善されたが「重量による停滞」が残っている…。
 だが月詠さんはその肩部装甲などの重量も利用して機動している。加重移動の利用で加速し、反作用で方向転換を実行し…攻撃に入ったら離脱するまで止まらない。戦術機がまるで生身のように自由自在に無理なく滑らかに動いていく。

 まさに「一体化」、こんな事は戦術機の事を隅々まで理解していなければ出来るはずがねぇ…。

 …笑っちまう……決して自惚れていた訳じゃねぇ…。けど戦術機の操縦が上手いと喜ぶ自分が居たことは確かだ…しかしそれも所詮「操縦が上手い」だけでしかなかったって訳だ……落ち込んだ…けど
俺は立ち止まれなかった…立ち止まるわけにはいかなかった…。
 目標は目の前にある、俺はこの3ヶ月間死に物狂いで月詠さんの機動を研究しつつ戦術機の事を勉強した…。
 整備士に頼み込んでかなり専門的な所まで教わり、今なら戦術機の応急処置くらいはできるようになった…そして教わった技術を頭にしつつ月詠さんの機動をトレースした。覚えた知識を頭で理解するのと同時に体に覚えこませなければ意味がない、戦場では操作を「思い出す」という行為は致命的だ…、俺は各部の動きと連動を頭で理解し体で覚えていく。
 基礎訓練から整備士に混じって自分の戦術機を整備しながらの勉強、その後シュミレーターや実機での機動訓練…とにかく毎日ぶっ倒れるまで訓練した。

 そしてとうとう「戦術機との一体化」をものにしたんだぜ!まあ自分的にはまだまだ錬度不足と感じるけどな…月詠さんの機動には及ばない…。 
 
「32…33…34…まだだ…俺を止められるもんなら!止めてみやがれぇ!」
 そうだ……あの人に追いつくまで…そしてお前らをこの地球から駆逐するまで…俺は止まる訳には行かねぇ!
 止まらない…止まらない…動きの停滞もなく突き進む白銀。後ろから付いていく者にはそれはまさに漆黒の稲妻だった…


 「タケル…すごい!すごすぎるよ!!!」
 ボクは興奮を隠せなかった…武が最前衛をやると聞いてすごく心配したんだ…けどそんな心配はいらなかったよ。最初タケルがメデュームを三体倒すまで反応できなかった…それくらい速かったんだ、となりの速瀬大尉は流石ベテランで…二体目で反応できていた。ボクも急いで追いすがりタケルの援護に入った…

 正直私は呆れていたわ、なんて非常識なヤツ!もともと戦術機特性の高い男だったけど…三ヶ月前とは比べ物にならないじゃない!
 白銀がここ三ヶ月、陰で色々やってるのは知っていた(部隊長としての隊員の管理よ…覗いていたわけじゃないのよ!)でもこの変わり様はなによ…、陰でこそこそ特訓している白銀に触発され私達も衛士としての己を鍛えるためこの三ヶ月激しい訓練をしてきたわ…でも白銀のあの変わり様はなに!!
 今なら…今なら解るわ、香月副指令が白銀を「特別」と言った訳が…
 
 タマはビックリしました。たけるさんは舞うように戦術機を動かしています…とても綺麗です。タマはあの動きを知っています、クーデター事件で見た月詠少佐の動きです…間違いありません。あんな動きが出来ちゃうなんてやっぱりたけるさんは凄いです。えへへ…なんだか自分のことの様に嬉しいです

 207小隊の皆は武の戦術機の機動に舌を巻いていた、武の強さと特異性はしっていたハズだったがこの三ヶ月で武はまた一段と成長していた…それが嬉しくて、悔しくて、そして誇らしかった。部隊長は榊だ…しかし207小隊の中心は何時だって白銀武だったのだから。
 そしてA-01部隊の者達も……

 なんていうか…普通後ろが最前衛をバックアップして押し上げるハズなのに…最前衛に置いていかれそうになった後衛とは正直笑い話にもならないな~。
「なんて…っと」、そんな事を考えながら白銀に近づくルイタウラを狙撃して足止めする。
 私は最初こそ戸惑ったがわりと冷静だ、砲撃支援は戦場を把握してこそ…といってもこのスピードだと余り意味無いけど…。
 それにしても、

 「あれはちょっときちゃったかな?」

 速瀬大尉の動きに精彩がない…といっても動いてはいる、ただ動きが機械的だ…おそらく白銀の機動に肝を抜かれてしまったのだろう。
 「あれで意外と繊細だからね~」
 「まったくだ、終わったらお仕置きだね。」
 突然通信が届く…独り言を宗像大尉に聞かれてしまったらしい。
 私は余り動ぜずに話を続ける、涼宮や速瀬大尉なんかは宗像大尉が苦手なようだが私は相性的には悪くない、二人とも一歩引いて物事を客観的に考えるスタンスなので相手の手の内が何となく読めるからだろう…
 「でもまぁ、速瀬大尉が放心するのも頷けるよ。戦術機最終機動を見せられちゃねぇ。」
 「戦術機最終機動?それは何のことです?」
 こんどは風間中尉…皆暇してるねぇ…まああまりやる事ないし…。
 私は主にルイタウラと対人級BETAの白銀機接近を阻止しているが白銀が速すぎてルイタウラは追いつけないし対人級は速瀬大尉と鎧衣中尉が掃討してくれるし、穴が無いから臨機応変な援護もいらないし……正直暇なんだよね~。
 そんな事を頭の隅で考えながら風間中尉の問いに答える。

 「ほら、私ってここに来る前は帝国の軍属中等学に通っていたでしょう。」
 ふたりが頷く、これは入隊時の経歴調査に載っていることだ。
 「その時に話のタネとして聞かされたんだ、戦術機の理想的な機動って。」
 「理想的…ですか?」「へぇ…」
 おっ二人とも興味深々。
 「傷で後方転属になった先生でねぇ、戦術機の機動を追及していくと衛士が最終的に辿り着くのがあの白銀の機動だと話すんだ…話として教わった訳だから実際どんな動きかは知らないんだけど、戦術機と人間が一体化したような機動で今まで十人も出来た衛士がいないって…」
 私の話を聞いていた二人の雰囲気が急速に高質化した…
 「ふ~ん、白銀がねぇ?」
 「あらあら、こちらも負けてはいられませんね。」
 あははは…この二人平静を装っているけど目が笑ってないよ…。いやぁ白銀…この後大変だ、
 白銀の今後を想像して笑っているとまたもや突然通信が開く…そして幾らか怒った声が響く、

 「こらお前達、真面目にやらんか…」
 おっ伊隅少佐のおでましだ…
 どうやら戦闘中に私語をする私達を見かねたらしい、でもこの場合宗像大尉の格好の餌食だ…
 「少佐ぁ、ちゃっかり話を聞いてたクセに自分だけ好い子ちゃんですか…それに私達真面目にやってるよ…。」
 たしかにこうやって話しながらも手は動いている。会話だけ聞いているとアレだけどね…、実際外の景色は凄いスピードで流れて行ってる…。
 「私語を慎めというのだ…戦場の真っ只中でお喋りとは不謹慎だぞ貴様ら。」
 「だってさぁ…やる事少ないじゃん、白銀が速いおかげでBETA達はまともに追いつけないし。」
 「だからって気を抜くな、遊んでいる訳じゃないんだぞ!」
 「まったく…お堅いねぇ………、」
 「ええい…………………、」
 「………」
 あっはは、少佐結局お喋りに参加してるよ…。
 結局その後BETAの群れを抜けるまで彼女達の話(口喧嘩?)は続いていった……。
 
 そしてBETAの群れを無事通過した私達はその数分後に安全到達距離を通過した。
  敵中突破に2分半…どれだけのBETAがいたかは解らないけど驚異的なスピードだったことは確かだろう…。あれから皆言葉もない…まあしょうがないかもね、あんな機動見せられちゃ。
 皆白銀に色々聞きたい事がありそうだけどそんなのは後回し…私達の家の最後を見届けなければならない…流石の私も…アレ……?
 頬に濡れた感触…、アハハ…思っていたより感傷的になっているみたい…まいったね。
 目尻の涙を拭おうとした所で地響きが走る、そして…




 地響きが機体に伝わる。BETAの群れを突破した後皆無言で機体を走らせ続けた、俺もしばらく興奮していたがすぐに落ち着いた。
 安全到達距離を通過して数分後…
 今俺達は機体を止めて全員で来た道を振り返っている。やがて地響きと轟音と共にここからも視認できるほどの炎のドームが空に広がりまだ夕日の残照が残る夜空を紅に染める。
 俺達の家の最後に敬礼を送る、画面に映る全員がいつのまにか涙を流し敬礼している。

 「冥夜…慧…」

 あそこには二人との思い出が詰まっていた。この世界に来てからの俺の思い出の殆ど存在した。あそこはこの世界で俺が得た最初の居場所だったんだ…
 悲しい…すげぇ悲しい…けど…
 『存在はなくなっても残るものはある…』
 形としての想いに囚われる必要なんかない…俺にはこの世界で生きてきた証がある、空を…その遙か先にある宇宙を、そこで暮らす最愛の二人を夢想する。
 そして思い出を振り返る…、仲間…戦友…守るべき人々…倒すべき敵…

 「そうだよな…想いはここにある。」

 俺の胸には様々な思い出が存在する…嬉しい事も、悲しい事も…それは決して無くならない…想いはずっと残っていく…
 今の俺には「みんなの心の中」そして…冥夜と慧という居場所がある。
 それは異邦人である俺をこの世界に繋ぎ止める証となる…だから…



 「さよならだ……」

 
 
 国連太平洋方面第11軍・横浜基地は反応炉目指して押し寄せてきた多数のBETAを巻き込みその存在を消滅させた。




追伸)高重心による機動、重心の上下移動で生まれたエネルギーを二次元方向の移動に振り分ける動き方は現在の武術の考え方の主流の一つ。
 加重移動・力の反作用による攻撃は無手、剣術、棒術など様々に存在します。多分戦術機でもできると予想…。



[1115] Re[4]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/18 02:52
2004年4月29日…早朝 厚木




 横浜基地消滅の後、俺達は厚木の防衛線を目指し移動を開始した。鎌倉・藤沢・海老名を抜け厚木に入り防衛線を目指す。
 あの後俺は散々に絞られた…特に速瀬大尉と涼宮中尉に…。機体に乗ってて良かったぜ…そうじゃなけりゃ…ガクガクブルブル(想像が精神の限界を超えました…………)ハッオレハナニヲ!
 と……ともかく…全員の追及を辛くも乗り切った後(ある人の機動をお手本にした…で通した。伊隅少佐とタマ意外は納得していなかったが…)俺達は順調に厚木防衛線に近づいていき、あと少しという所でやっと防衛線の無線を傍受できた。

 「厚木防衛線、聞こえるか…厚木防衛線…」
 「……こちら厚木防衛線司令…,聞こえて…いる」
 「こちら国連太平洋方面第11軍・横浜基地所属A-01部隊および207小隊、基地指令の命令により厚木防衛線の援護に来た。」
 伊隅少佐……。少佐は「元」と付けなかった…。
 そうだ…そうだよな…、基地が無くなっても俺達はまだ…。
 「それはありがたい、現在BETAどもと交戦中だ…やつら正面からうじゃうじゃときやがる。」
 もう交戦してるのか…、予想以上にBETAの動きが速いな…。俺達が横浜基地で見た時にはまだ防衛線は中井町にあったってのに…。
 「では我々はこのまま前進し敵戦線の左側からBETAに奇襲をかける。」
 「いや…それよりも味方戦線の左前方より要塞級(フォート級)が47体接近中だ、そちらを対処してくれ。こちらの戦線はまだ持つがあの数のグラヴィスは対処しきれない、突っ込まれたら戦線が崩壊する。」
 「解った…フォート級を片付けたらそちらに向かう…それまで持たせろよ。」
 「心強い、大丈夫…何とか持つさ。今日の昼までもたせりゃ民間人の撤退と川崎・八王子の防衛線構築は完了する…俺達も後退できるってもんさ。ああ…俺は厚木防衛軍司令官の赤城大佐だ。」
 「A-01部隊隊長、伊隅少佐だ。」
 別れの挨拶も激励の挨拶もなしに通信が切れる。それにしてもフォート級47体って…まあ俺達全員なら時間はかかるけど大丈夫だろうけど…。

 「全員聞いたな、これより我々は敵フォート級を…
 「まってください!!!」
 おおっ!委員長が伊隅少佐の声を遮って意見を…珍しい…。伊隅少佐は怪訝な顔だ、だって委員長だぜ!この状況で「待った」を掛けるとは思わなかったんだろう。
 「なんだ…榊中尉。」
 「フオート級の相手は私達207小隊がします。A-01部隊は味方の援護に向かってください。」
 ・・・・・・・へ
 「何だと榊中尉、それは…

 「な・ん・だっ・てぇ~~~~~~~!!!」
 「えええぇぇぇーーーーーーーーー!!!」
 「フニャーーーーーーーーーーーー!!!」


 俺達は思わず大声を上げてしまう、だって…だって…「委員長が…、あの堅物で真面目で冷静で完璧主義な無茶と無謀という言葉からは程遠い存在の委・員・長・が!」
 「た…たけるさん…声にでてますぅ…」
 タマの指摘に我に帰る…鎧衣が気まずそうな顔で俺を見ていた…てヤベェ。
 「へぇ…白銀が普段どんな風に私を見ているのかよ~~~く解ったわ。」
 マイガッ、修羅だ修羅がいるよ…ヘルプミー!しかしタマと鎧衣は無常にも目を逸らす。思わず遠くの冥夜と慧に別れを述べそうになる。
 ……しかし救いはやって来た!
 「榊、私も白銀の意見…ではないがそれに賛成だ、いくらなんでも無茶ではないか?」
 伊隅少佐の言葉、しかし委員長はハッキリと意見を述べる。

 「現在味方はBETAと正面から交戦しています。赤城大佐はまだ持つと言っていましたが戦力比は五分五と分五というところでしょう、A-01部隊が横合いから攻撃を敢行すれば味方が有利になります。この場合味方の損害を…いえ、一人でも多くの衛士を助けられるでしよう。」
 たしかに…早く助けに行けばそれだけ味方が助かる…けど…207小隊だけで47体のフォート級の相手をするのは…タマと鎧衣も首をブンブン振っている。
 「それは確かだ…だが207小隊だけで47体のフォート級の相手は無理ではないか…」

 委員長の眼差しは変わらない…
 「伊隅少佐、現在我が207小隊は御剣、彩峰という前衛が抜けて戦力的には低下しています。」
 そうだ…冥夜と慧が抜けて打撃力が低下したのは確かだ…
 「しかし我が隊はフォート級47体を相手にしても勝利します。」
 オイオイ委員長…その自身はどこから来る…「します」って断定かよ…
 「それは白銀がいるからか。先程の白銀は確かに凄かったが…」

 「違います。白銀「が」いるからではありません。白銀「も」いるからです。」
 「私達207小隊は二年間共に戦い続けました。この三ヶ月間で白銀中尉は衛士としてかなりの成長を遂げましたが彼の特訓に触発され我々も日々訓練し白銀に及ばずとも強くなりました。」
 うなずくタマと鎧衣…そうかお前らも努力してたんだな…。
 「先程の白銀の動きは確かに凄かったです。ですが私達はついていくことができます…機動ではついていくことは出来ませんが…、しかし私達は白銀の動きが「見え」ます、そして白銀も私達が「見える」のです。」

 タマも鎧衣も俺も熱弁を奮う委員長を凝視している…
 「個々の力は微々たるもの、しかし集まれば強くなる。私達は白銀という核を中心としたチーム。彼が強くなれば私達もそれに答えて強くなる…それが207小隊です。」

 委員長…そうか…ハハ、なんだ…そうか…そうだよな…情けねぇ、大事な事を忘れていたぜ…。

 「これは無茶でも無謀でもありません、勝利するのは必然です。」
 すげぇ…すげぇよ…委員長、サイコーだぜ!。タマと鎧衣も笑っている…そうだ、俺達は207小隊なんだ!全員で一つの力なんだ!!!
 思わず目に涙が浮かぶ…みんなサイコーの仲間だ!
 「そうか…フフフ…いいなお前達は。ならばフォート級207小隊に任せる、A-01部隊は防衛軍の援護に向かう。」
 伊隅少佐は微笑をうかべながら命令した。黙って話を聞いていたA-01の皆も何も言わない。

 「「「「了解」」」」

 207小隊はそろって敬礼し命令を受諾する、そしてその場でA-01と別行動となる。
 俺達の目指すはフォート級47体…委員長の期待に答えないとな!
 
 段々と近づいてくるフォート級グラヴィス…47体も揃うと圧倒される…普通ならな…
 「どうする委員長…」
 「いつもと一緒よ、白銀が前衛で鎧衣と私が中衛、珠瀬が後衛。今回は敵を倒すのは白銀と珠瀬、私と鎧衣はバックアップとトドメよ。」
 前衛二人がいないけどいつものフォーメーションだ。

 敵に接近…「タマ、鎧衣、委員長、たのむぜ!」

 そのまま1体目のグラヴィスの足元に突っ込む、節の付け根を斬り上げ次へ…3体目を斬った所でグラヴィスの尻尾が襲ってくるが回避…そのまま4体目を斬る。今まで斬った敵は鎧衣と委員長がトドメを刺している。
 5体目を斬った時後ろから尻尾の攻撃…しかし気にしない、統合情報戦術分配システムにより状況把握…尻尾に鎧衣の撃った120mm迫撃砲が命中し軌道を逸らす、俺はそのまま6体目を斬る。タマは俺の機動妨害になりそうなグラヴィスを排除する…7体目を斬った時タマは3体目を倒した

 一瞬…約15秒で10体、俺は斬る事だけに集中する…後ろからせまるグラヴィスがタマの73式地対地狙撃砲で傷つく、その傷に委員長がすかさず87式36mm突撃機関砲の銃弾を叩き込みトドメに背中の87式突撃砲を腰に挟み射撃・11体目、それを見届けることなく8体目を斬りさく…前方の2体のグラヴィスに鎧衣が92式多目的自律誘導弾から放ったミサイルが命中、その隙に2体とも斬りさく…タマがまた1体撃破……15体目…

 俺がどんな風に動いても全員がフォローしてくれる、だから俺は斬ることに集中する。この密集地帯で致命的な攻撃が来ても俺は動じない…統合情報戦術分配システムの情報からくるデータより今までの経験でそれが実感できる。
 ……20……30……35……40……2分もかからない内に40体のグラヴィスを撃破する。残り7体…俺達は慌てる事も無く着実にトドメを刺して行く。
 46体目を撃破あと1体……「どうだ、見たかよBETAども!、これが俺達の…207小隊の実力だぜ!!!」
 最後の1体めがけて75式近接戦闘長刀を振り上げる、
 「行けっ、白銀!!!」
 「トドメだよっ、タケル!!!」
 「やっつけて、たけるさん!!!」
 3人の激励が重なる…その声を背中に受けて俺は最後のグラヴィスを斬り裂いた…。




 場面が飛んでいますが細部まで書くと膨大な量になってしまいますので、すみません。これからも飛ぶ所があると思います。
 時間があればじっくり書きたいですが…後で追加できたら…。
 武器などはフィギィアなどを参考にしています。 
 



[1115] Re[5]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/17 20:32
2004年4月29日…10時 厚木防衛線


 俺達はフォート級47体を3分足らずで撃破しA-01部隊の援護に入った。
 全員に賞賛されたが、じきにそんな気分は吹っ飛んで言った……。
 後から後から湧いて出てくるBETAども、一端攻撃が途切れたかと思えば少ししからまた出現する…という事を何度も何度も繰り返してきた。
 厚木防衛線はミサイル車両と弾薬が豊富にあったお陰で何とか持ちこたえる事ができた。正直BETAの突進をミサイルで足止めしなかったら危なかった場面が幾つもあった。しかしそのミサイルも尽きて弾薬もほとんどが消費された…、

 「全軍撤退です。」

 赤城大佐の命令が戦場に行渡る。
 「いいのですか…?」
 秘匿回線を貰っていた伊隅少佐が通信をつないで疑問を投げかける。
 そうだよな…まだ昼には速い…期限まであと2時間はある。
 「先程、川崎・八王子より連絡が来た。住民は安全圏を抜けたとの事だ、我々の役目は終わった…あとはここから撤退し川崎防衛線にまで撤退すればいい。」
 よし…整備と休憩の時間を貰ったこともあり(俺達が一番撃破数が多いので効率低下を防ぐため優先権をもらえた、赤城大佐は優秀な指揮官だ…宗像大尉によれば「大局が見えている」指揮官らしい…)俺達はまだまだ余裕だが全体の疲弊度は大きい…恐らくあと1・2回の戦闘で戦線は瓦解するだろう、ここで撤退できるのはラッキーだ。

 「これまで少しずつ撤退準備は進めてきた、一部の部隊は既に撤退を開始したよ。」
 「なるほど、撤退時間の前倒しは予測の範囲内ですか…」
 伊隅少佐がニヤリと笑う。俺も感心していた、撤退時間の前倒しを予測しさらに迅速に撤退するために戦いながらも少しずつ撤退準備を進めていく…風間大尉の言うとおりその場だけではなく後のことまで考えて戦っていたんだ…すげぇ人だ……。

 「君達はまだ余裕があるだろ?」
 「ええ。整備と補給が十分でしたから。」
 「じゃ、君達は殿を務めてくれ。撤退時は後方が一番脆くなるからね。」
 おお…なるほど、俺達に色々便宜を図ったのは撤退時のことも視野に入れていたのか…。
 「解りました、これより部隊の殿を務めます。」
 伊隅少佐の指示で俺達は部隊の殿に付いた…。


 撤退開始から15分、敵の襲撃もなく全軍が撤退を開始し俺達も最後に後方を警戒しながら撤退を開始した、…しかし…しばらくして…

 「後方よりBETA接近!」
 防衛戦線のオペレーターから連絡が入る、あちらのレーダーの方が索敵範囲が広い。戦術機のレーダーにはまだ映っていなかったがやがてレーダーに捉えられる。
 「やばいデストロイヤー級の集団突進だ…」
 宗像大尉の声が響く…ルイタウラの集団突進はこの状況下では脅威だ、しかも戦術機のレーダーに捉えらる距離だと離脱は難しい。

 「伊隅少佐…聞こえるか!」
 赤城大佐からの通信が伝わる。
 「突撃級の追撃は予測の範囲内だ、戦術機による多目的自律誘導弾での迎撃準備は出来ている。君達は突撃級をかわしてやりすごせ、奴らは急に方向転換できないから安全だ。突撃級さえ止めてしまえば後のBETAは追いつけない。」
 おおお…ますますすげぇよ、敵の追撃まで視野に入れて迎撃準備もしておくとは。赤城大佐…あなどれぬ男よ……。おれは思わず心の中で喝采してしまった。
 「それから避けるのは右側にしてスピードは落とすな、右翼前方より攻撃して敵を左側に逸らす、君達は突撃級をかわした後そのまま全力で前進してくれ、私達も攻撃後全軍で全力後退を敢行する。」

 「了解しました。全員解ったな…」伊隅大佐の確認が飛ぶ
 「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」

 全員の声が重なる。 
 よし…このまま撤退だ……厳しい戦いだったが終わるとなるとホッと安心する。
 「白銀…最後まで気を抜かないの!」
 「そうだよタケル!」「そうですよたけるさん!」
 うぉっ、委員長・鎧衣・タマ、いきなりビックリするじゃねぇか!
 「なんだよいいじゃんか…今日はきつかったんだぜ。」
 思わず子供のように頬を膨らませて言う。それを見てみんなも気が緩んだようだ。
 「まあ…たしかに今日はきつかったわね。」思わず同意する委員長…
 「しょうがないよ…みんながんばってるんだし…」鎧衣もだ…
 「たけるさんは特にがんばりましたからねぇ~」おお!タマっ、解ってくれるか!
 三人で軽口を叩き合う。

 ………まだ…この時はこいつらとの長い別れが来る事は予想できなかった……


 「ルイタウラ接近!」
 委員長の声が響く。後ろから物凄い地鳴りを上げてルイタウラの集団が迫ってくる。
 「お~~、壮観壮観。」
 柏木の呑気な声が聞こえる、彼女の機体は俺のすぐ前だ。
 「よしこれより前進する。敵が目標地点に到達すると味方の一斉射撃が始まる、我々はその寸前で右側にブーストジャンプして敵をかわしそのまま全力機動…ミサイルを放った部隊と共に後退する。なお目標ポイントの進路上には各種地雷が多数埋められている。間違っても踏むなよ。」
 後方のBETAの進撃を止めるため前方には広範囲に亘って地雷が埋められている、右側の部隊の撤退のために一部空白地帯がある以外は全域危険地帯だ。

 「それではいくぞ!」
 伊隅少佐の号令と共に前進する、段々とスピードが上がる戦術機に後方からルイタウラが迫ってくる。ちょっとヒビッちまったのは内緒だ……。
 すぐに目標地点が見えてくる「ピーーー」という音と共に右側よりミサイルの接近を感知…ルイタウラはすぐ後方だ…伊隅少佐の怒号が響く…

 「今だっ!、飛べっっ!!!」

 その声と同時に全員がブーストジャンプに………アレ?
 ジャンプに入る一瞬、俺の目の前で何かが見える…
 なんだ…なにが…なにが見えている…?
 俺の目の前で…目の前を走っていた…誰だっけ???…
 『ハアハアハア…』動機が激しい…誰だ…そうだ柏木だ…
 柏木が機体の体勢を崩して…左のブーストが動いていない…
 故障か…あれじゃ飛べない…巻き込まれる…死ぬ…柏木がしぬ?
 その時俺の心に物凄い勢いで「何か」が入り込んで来た。

 「あははは…おもしろいねキミ。私の名前は柏木晴子。家族も冷たいって言うんだ…。そうでもないよ…。ねえ純夏ってだれ?。私なんかつまんない女だよ…。武って呼んでいいかな?。」
 なんだ…なんだこれは?…こんな記憶俺には無い!
 「愛してるよ武…ってはずかいしね!。私には似合わないかな…こんなの?。あはははは、ここで結婚しようか?。ねえ部屋…来る?。…移民船に…私が乗る?。」
 ちがう…これは俺の記憶じゃない…違う…俺の記憶…どうでもいい…助けなければ…助けてくれ…誰だ?…助けて…お前は誰だっ…。
 『ハアッハアッハアッ』物凄い動機と情報が襲ってくる、なんだこれは…解らねぇ…解らねぇけど…何故か絶対に晴子を助けなければ…アレ、俺柏木のこと呼び捨てに?
 「くそっここまでか…晴子!。ふふ…最後まで…一緒だ…。ねえ生まれ変わったら平和な…平和じゃなくてもいいや…幸せに…。」
 「おはよ武…今日も純夏に起こしてもらったの…?。ゲームばかりじゃなくてバスケで…。武に調教されたんだよ…。卒業したら…。」

 記憶が混濁する。僅か一秒いや一瞬の内に頭の中に様々な思いや記憶が駆け巡る…。アレは何時だ何所?俺の記憶…俺じゃない俺…?

 「うるさい!関係ない、柏木は仲間だ…、絶対に助ける!!!」
 何所からか漂い来る声にそう叫んだ瞬間…止まっていた時間が動き出す。
 俺はブーストジャンプに入ったまま手を伸ばし柏木の不知火の左肩と腰を掴む。体勢を崩していた不知火は右のブースト噴射によって左に流れる。掴む事と機体制御に全神経を集中させる俺は方向を修正する事が出来ない、そのまま俺の武御雷と共に左方向に飛ぶ…

 「柏木っ、ブーストを切れ!」

 とっさに声に出す、それはすぐに伝わり不知火のブーストは消える…俺も武御雷のブーストを消し一端着地する。
 「ゴメン…白銀…ヘマしちゃったよ。」
 柏木が申し訳無さそうに通信してくる。こいつの泣きそうな顔は初めて…アレ…初めてだよな?
 まだ記憶が混乱している…さっきの映像は一体…?
 謎だったが今はそんな事を考えている暇は無い…柏木に答える、
 「いいって、故障は仕方が無い。」あんだけ長く戦っていたんだ…故障の一つくらいしょうがない。
 「でも…この状況は…」更に落ち込む柏木…たしかにこの状況はちと不味い…

 「白銀っ!」「柏木っ!」「晴子!」「タケル!」「たけるさん!」「柏木中尉!」全員から通信が入る。

 「無事ね…よかった…離脱して来なかったから心配で…」委員長…心配かけちまったな…。
 「ううううう…」「よかったよ~~タケルぅ~」タマと鎧衣もな…。
 とりあえず大丈夫だったが…それより…
 この状況…前方と右はルイタウラ、更に前方は地雷源、後方よりBETAの大群。前後は論外、柏木のブーストが一つしか使えないから右は厳しい……となると。

 「委員長…、伊隅少佐。俺達は相模原に向かいます。」これしか手が無い。言うが速いか俺は柏木の機体を抱えてブーストジャンプを敢行する。
 「ええっ…どういうことよ…」涼宮中尉が訪ねてくる。
 「この場合離脱するのは相模原方面しかない…川崎に向かうとしても一端相模原に抜けた方がいい。」…相模原の戦線はまだ持っているはずだ、BETAが迫っている中で迂回して委員長達と合流するよりも相模原の仲間と合流するほうがリスクが少ない。
 「柏木もそれでいいな。」「助けられた身だからね…文句は言わないよ。」そう言って柏木は機体を制御して自分で走り出す…これで柏木の同意も得たし…委員長と伊隅少佐も冷静だ…こういう場合は二人とも合理的な判断をくだす…。

 「了解した白銀中尉…柏木中尉をたのむ。」
 「白銀…気をつけなさいね。」
 やっぱり二人とも反対しない…こういう所はさすが指揮官って感じだな。

 「解った…皆も気をつけろよな!」
 「タケルさん…」「たけるぅ…」タマと鎧衣の泣きそうな顔
 「そんな顔するなって…大丈夫だよ俺が死ぬわけない…そうだろ?」
 その言葉に二人の顔に笑顔が戻る。
 「よし、しばらく会えなくなるけど…みんな元気でな!」
 全員に挨拶する。柏木もA-01のみんなと一端の別れを済ませたようだ…。
 伊隅少佐達も俺達も全力機動をしているのでそろそろ戦術機の交信限界に達する…皆の激励が段々遠くなる。
 一端の別れ…しかしこの別れは俺にとってとてつもなく長い別れとなった。

 
2004年4月29日…16時 相模原防衛線後


 あの後相模原防衛線に到着したが戦線は既に後退した後だった。どうやら俺達と違ってなし崩し的に瓦解したらしい。部隊は散り散りになって後退したようだ。
 現在は近くの防衛線である八王子に向かっている。あと柏木の機体のブーストを機械探査で調べた結果、幸いにもエネルギーラインが切断していただけだったので俺の機体から通信して整備員から教わった裏技設定で他のエネルギーラインを直結しておいた…これで当面は大丈夫だろう。

 柏木は随分落ち込んでいたが俺が何度も「気にしてない」というとすぐに立ち直った。過ぎた事は仕方が無いと割り切れるところはコイツの凄いところだと思う…。
 現在は八王子に向かうためまず町田市を目指している。

 「白銀、前方で戦闘してるよ。」
 突然柏木が報告してくる…確認すると確かに前方で戦闘音がする。
 「よし、いくぜ柏木!」戦闘中なら味方を援護しなくちゃな…見殺しにするのはゴメンだぜ。
 「ハイハイ…熱いねぇ白銀は…」何だかんだ言いながらもちゃんと付いてくる柏木、だんだん解ってきたがこいつ冷静で割り切った考えしてるくせに心の中はみょうに熱いんだよなぁ。
 そんなことを考えながらスロットルを引き倒す、同時にカメラを最大望遠にする。戦術機6機とBETAの一群…およそ200程度が戦っていた。

 ……不知火…色が違うが…てことは帝国軍か…。国連軍では俺達の基地にしか配備されていない、必然的に帝国軍という事になる。それにF-15Eストライクイーグル?だよな…イーグルに似ているけど少し違う、恐らく派生機かカスタム仕様だろう。それに吹雪が一体…あと……
 「何だアレ?」…それを見て俺は思わず声を上げてしまった。
 「あの機体は…レッド・フルフ?」 柏木がそう呟く。
 赤い不知火、赤い機体に青と紫の線が所々に入った恐ろしく派手な不知火だ。
 「レッド・ウルフ?ってなんだそれ」「えっ白銀、知らないの噂。」
 柏木が不思議そうに訊いてくるが…
  ってそう言われてもなぁ?
 「スマン…、知らねぇ。」正直に答える。
 「へぇ…、結構有名な名前なのに…」…なるほど確かにあのカラーリングは目立つ。

 とか言っているうちに戦闘現場に近づいてくる、俺達は話を切り上げて前方に集中する。
 あともう少しで戦闘領域に到達するという時、他の機体より幾分危なげに戦っていた吹雪が敵の攻撃をかわしきれずバランスを崩す、真横からメデュームの前足が振り下ろされようとしている…
 『マズイ』俺はその吹雪を助けるべく咄嗟にブーストを敢行…敵へ突っ込んだ…


 ???
 相模原で防衛線が崩壊して私達は部隊ごとに逃げ出した。途中で国連軍の人とも一緒になり八王子へ向かう…。
 けど途中でBETAの一群と遭遇、戦闘になる。咄嗟の遭遇戦だったためみんなバラバラになり部隊間の連携がとれなかった。

 私は正規配属から一年しか経っていない。訓練校に居た頃は成績優秀で(問題児扱いだったけど)特別衛士養成教程に参加もしていた、実戦に出てからもそれなりにやってきたけどやはりベテランには及ばない。
 この時も数匹のBETAに囲まれて苦戦していた。援護なしで一対多で戦えるほど私はまだ強くない。復讐を誓った身としては自分の実力がもどかしくなる。
 …その時メデュームの前足が横から襲ってきた、咄嗟に機体を回避させるが軽くこすってしまう…こすっただけでも物凄い衝撃で機体の体勢が崩れる。急いで立て直そうとするがそれより速く、もう一体のメデュームの前足が私に振り下ろされようとしていた…

 「『死ぬ』…まだ…まだ何もしていないのに…。家族の敵も…、優しいお姉ちゃんの敵も…、大好きな…大好きだったお兄ちゃんの敵も…」
 そう大好きだった人達を殺したBETA、大好きだったお兄ちゃんを殺したBETA。私はBETAに復讐したくて帝国軍の特別衛士養成教程に志願したのに…それなのにこんな所で!!!
 私は死を受けいられなかった…でも現実に死が振り下ろされようとしている。思わず目をつぶる……でもどんなに経っても死の衝撃はこなかった。
 私はゆっくりと目を開ける、そこに見えたのは…

 「黒い……武御雷……」

 そう、漆黒の禍々しくも神々しい機体がそこに存在して私を見下ろしていた。とてつもない威圧感のある機体…しかし私はその武御雷を見て何故か大好きだったお兄ちゃんを思い出していた……。


 ふぅ間一髪…吹雪に振り下ろされようとするメデュームの前腕を斬り飛ばし胴体を切断、群がっていた数匹のBETAも同様に斬り殺す。吹雪を見下ろしてみる…どうやら大丈夫そうだ。柏木も俺と吹雪の周囲のBETAを牽制しながら近くに寄ってくる…俺は広域通信で声を飛ばす。

 「こちら横浜基地所属、国連軍第207小隊およびA-01部隊、援護に入ります…詳しい話は後にしてとりあえずこいつらをやってしまいましょう。」
 喋りながらも近くにいたBETAを斬り裂いていく…周りの5機も取り敢えずは敵の排除を優先する。この吹雪以外は全員結構な腕前で殲滅にはものの五分と掛からなかった…。

 戦闘後相手の機体から通信が入る。
 「援護感謝する、こちらは…と…おい、ひ…響…」
 通信画面に映った女の人がなにやらゴソゴソやっている。と…いきなり通信が割り込んできた。
 「あ……あのっ…ありがとうございました。私…響っていいます…」
 元気な女の子が通信に割り込んできた。恐らく先程の吹雪に乗っていた子だろう。

 「ああ…おれは白銀武…よろしくな…」と自己紹介するが…
 「う………うそ……そんな……でも名前……」なにやらこちらを凝視してブツブツ言っている。
 「あの…どうかした…」おれは恐る恐る聞いてみる…
 「お…」
 「お…?」
 そして彼女は大声で言い放った。俺を驚愕させる一言を……
 「お兄ちゃん!!!!!」



[1115] Re[6]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/18 02:46
注)この世界では白銀は香月博士に「鏡純夏は白銀武と一緒に横浜のBETA襲撃時死んでいる」と説明を受けている…という設定です。



2004年4月29日…18時 相模原・町田…県境





 『うそ!…なんで!…どうして!!!…でも…でも…間違いない。』
 そう私…白銀響にとってその顔、その声は忘れられるはずがなかった。
 『名前も一緒だし…顔だって大人の顔になってるけど…年も生きていれば丁度あのくらいで…』
 私の記憶の中のお兄ちゃんと違って成長していたけど…それは間違いなく死んだはずのお兄ちゃん…「白銀武」だった。
 助けられた漆黒の武御雷がなぜだか懐かしく思えて、お兄ちゃんを思い出して…思わず隊長の通信に割り込んでまで挨拶してしまった。
 けどその人が名乗った名は「白銀武」…私の死んだと聞かされたお兄ちゃん…成長してるけど顔も全く変わっていない。

『なぜ…どうして、お兄ちゃんは死んだと聞かされていたのに、横浜がBETAに侵攻されて…住民は逃げ出した少数意外はほぼ全滅だったって…』

 私はその時、用事で東京に出かけていた…そのため無事だった、…横浜がほぼ全滅だと聞いた時は信じられなかった。お兄ちゃんが純夏お姉ちゃんが…家族が死んだなんて…11歳だった私には信じられなかったのだ…。
 その後お兄ちゃん達の生存が確認されなくて死亡扱いになった…私はBETAに復讐を誓い孤児の無料での入寮が認められる帝国軍の軍志望者の幼年学校に入校し12歳(帝国軍の入隊受付は13歳だがその年で13歳になれば良いので)の時帝国軍に入隊、その後一年かけて成績優秀のみ受けられる特別衛士養成教程を志願したのだ………。
 なのに今目の前には成長した姿の「お兄ちゃん」が存在している……。





 「オニイチャン?」はて???今何か不思議な言葉を聞いたような…ははは…そんなわけないよな俺の空耳だよな…なあ柏木…?
 俺はその幻聴らしきものの存在を否定してみたく柏木の方を見た…。

 「なんだ…白銀、妹が居たの?」
 オウッ、ゴッドッッッ。笑顔の一発で否定されやがりましたよ……。 
 「ねえ!お兄ちゃん!!私だよ…白銀響!……お兄ちゃんの妹よ!!!」
 目の前で彼女、響と名乗る少女は更に過酷な現実を突きつける…俺の頭は大混乱だ…。
 『ちょっ…ちょっとマテ、大いに待て、いやできれば永久に待ってください…。』
 え………………と…、『い……妹ぉーーーーーーーー!!!!!!』
 脳内がやっと現実を受け入れる。確かに目の前の彼女は俺の事を「お兄ちゃん」と言った。

 『まてまてまてまて…よ~~~く考えろ、落ち着いて…。まず「お兄ちゃん」というのは俺の事じゃない、ということは…俺ソックリの人物と言ったら「この世界の白銀武」しかいない…で先程の少女の言葉が真実なら彼女は「この世界の白銀武の実の妹」ということになる。』
 まずは落ち着いてこの状況を脳内整理してみる。

 「ねぇ…なんで…私お兄ちゃんは死んだって…純夏お姉ちゃんも、父さんも、母さんも、横浜のBETA襲撃でみんな死んだって…。なんで生きてるの!!!…生きてたらなんで私に連絡してくれなかったの?」

 考えている間にも彼女…響の悲痛な叫び声が響く。
 まて…いま純夏お姉ちゃんと言った…俺だけじゃなく純夏のことも知っているとなれば間違いは無い。やはりこの世界では「白銀武」に「妹」が存在する事になる。

 ではなぜ夕呼先生はそれを言わなかった……。くっ…こういう時は本人がここに居る気になって
考えるんだ…。
 そしてその状況を夕呼先生の性格を反映して再現してみる。 以下想像…
その1・「先生…この世界の俺に妹が居るってなんで教えてくれなかったんですか? 」
    「どうせ会うことも無いだろうしお前には余計な情報を与えたくなかったからよ…。」

その2・「先生…俺に妹が居ること、教えてくれたってよかったじゃないですか!」
    「めんどくさかったし……忘れてたわ…」

その3・「先生…妹が居ること、なんで俺に黙ってたんですか!」
    「そんなこと聞かれなかったからに決まってんじゃない」

 以上脳内再現終了…。

 ………て…だめじゃん、一番信憑性が高そうな1番が夕呼先生の場合1番確立が低い…むしろ2番や3番のほうが回答としてシックリとくる……。
 よし…夕呼先生の考えは大体解った(絶対今のどれかだ!…1番だといいなぁ…)とにかく今はここを切り抜けないと、俺が別人だと証明しなくてはならない。この場合「他人の空似」で押し通すしか手が無いが……、なんとか切り抜けねぇと………。

 「ねぇ!お兄ちゃん答えてよ…「白銀!!!」

 響と名乗る少女の俺に対する叫びに先程押しのけられた女性が怒鳴り込んでくる。
 「し・ろ・が・ねぇ…私の通信を押しのけて、詳しい訳は解らんが感情のままに怒鳴り散らすとは…貴様、帝国軍人としての教育が成っていないようだな………。
 いいだろう、帰還したら貴様には地獄の教練全12セットをやってもらう覚悟しろ…なに安心しろ死ぬ事はない、それに終わったら私の特性スペシャルブレンド栄養ジュースをやろう…それで一発で元気が回復するぞ。」
 その女性はにっこりと響という少女に語りかける、前半はホントに怖かったが後半のジュースのくだりは純粋な好意がにじみ出ていた。

 だが少女は真っ青になってガタガタと震えていた。みると他の不知火も心持ち明後日の方を向いている、そんなに地獄の教練12セットは恐ろしいのだろうか?と通信画面で響という少女がブツブツと喋っている、マイクの感度を上げてみると……。

 「ジュースはイヤ、ジュースはイヤ、ジュースはイヤ、ジュースはイヤ、ジュースはイヤ、ジュースはイヤ、栄養なんていらない!、ブレンドはやめてください!、まだ死にたくない…まだ死にたく…もうしないから許して…許してください隊長ぉ~~~~。」

 ・・・・・・・・ヤバイのはブレンド栄養ジュースらしい。

 そんなこんなでどうにか落ち着いて話ができるようになった。
 「色々と失礼をしましたね。では改めて…私達は「帝国軍遊撃隊第28小隊」、私は隊長の朝霧 楓(あさぎり かえで)といいます、階級は少佐です。」
 朝霧楓と名乗った人は20歳後半くらいの黒髪を肩の下辺りまで伸ばした優しげな女性だった。
 「遊撃隊?聞いた事のない部隊だけど…」朝霧少佐の挨拶に柏木が疑問を挟む。
 「ああ…遊撃隊は試験部隊みたいなもので30小隊しか作られていません、明確な所属がなく隊長の権限で行動する独立遊撃部隊、その部隊特性ゆえに実力者が集められ装備も優先される…まあ独自といってもある程度で実際は城内省の命令で動いているんですが…。」
 なるほど…明確な所属がない分、作戦行動で臨機応変に動ける部隊なんだな…。

 「それよりその武御雷…それに…」
 う…やっぱり国連軍で城内省斯衛軍専用の機体に乗ってるのは突っ込まれるか…。
 「あなた白銀武と名乗りましたね?」
 「ええ…そうですが?」朝霧少佐は少し考えるといきなり頭を下げた。
 「あなたには御礼を言わなければ…感謝の言葉もありません。」
 「え…え…ちょっ、ちょっと朝霧少佐!、頭を上げてください。」いきなり頭を下げられ俺はメチャクチャ戸惑った。

 「あなたがXM3を開発してくれたお陰で多くの衛士が救われました。衛士の死亡率が全体的に下がったのはあなたのお陰です。」
 「そうだな…感謝してるぜ」「私も御礼を言わせていただきますわ。」
 残りの二人も通信してきて御礼を述べる。俺は激しく動揺した。
 「そんなっ…頭を上げてください、俺は提案しただけて実際に開発したのは香月博士です!」
 必死に述べるが朝霧少佐はそれでも頭をあげない。
 「いえ、あなたが居なければXM3は生まれなかった、ならばそれはあなたの功績でもあります。それに悠陽殿下をお救いしてくださった事も深く感謝しています。」
 彼女の言葉に俺は驚いた。あの事は一部の人間にしか知られていないはずだ…
 「なんで…」おれの疑問に彼女は頭を上げて答えた。
 「ああ…今この部隊にいる衛士は白…響少尉意外は皆将軍家に縁が深い家柄で、全員独自の情報網を持っているのよ。」
 なるほど…という事は彼女達は結構身分が高いということに……。
 「ああ、その武御雷はその時の褒美に悠陽殿下から賜ったのですか?」
 いきなり朝霧少佐が話を変えてくる。まともそうだけど結構飛んでる人なのかな?

 「いえ、確かに元々悠陽殿下のものなので使用の許可は貰いましたが。もともとこの武御雷は別の人のもので、その人から想いと共に託されました。」
 そう…これは冥夜と慧の心だ…脇に置いてある皆琉神威と腕のリストバンドを触る。
 「なるほど…悠陽殿下に関係ある御仁と言えば…冥夜様か、確かに冥夜様は横浜基地に所属していらっしゃったな。」
 げ…冥夜のことまで知っている。この人結構侮れねぇ…随分裏の事情を知っている人だ…。

 「そうそう…もう子供までできちゃって…。しかも二股。」

 な………なんて事を言うんだ柏木~~~、今まで黙って聞いていた柏木が突然爆弾発言をかましやがった。見ると心持ち不機嫌になっている…なんでだ?
「え…お兄ちゃんに子供!!!…ゴメンナサイ。」
 その発言に一瞬大声を上げかけた響少尉だったが、朝霧少佐の眼力に脅えて縮こまる。てかあの人、軍人モードがめっさ怖いです。
 見ると他の二人もニヤニヤしている。くっそ~恥ずかしいぜ、柏木のヤツ…。
 「なるほど…よく解った。」って何が解ったのですか…。
 しばらく何か考えると朝霧少佐は何かに納得しておれに次の…問題の質問を投げかけた。

 「それで…響はあなたのことを「兄」だと言っていますが…、私達も入隊当初から…私なんかは特別養成教程の臨時教官時代から繰り返し彼女の「お兄ちゃん」の話を聞いていますので、彼女が重度のブラコンであることは重々承知しています。その彼女が自分の兄を間違えるとは思えないのですが…軍学校で友人にからかわれハパとママは直したのに「お兄ちゃん」だけは頑なに呼び方を変えなかったあの響が…」
 ……それは色々な意味でヤバイだろう。この世界の俺よ一体どういう「お兄ちゃん」だったんだ?

「いえ…俺には妹なんて居ません。恐らく他人の空似でしょう。」
 俺は努めて冷静に発言する。ここでうろたえたりしたらヤバイ、強気にいくぜ!
「そんな訳ない!他人の空似だなんて…いくら成長してるからって私がお兄ちゃんを見間違えるはずが無い!!!」
 響は悲痛な声を響かせるとブツブツと呟き始める、俺はまたマイクの感度を上げてみる。
 「そうだ!きっと政府の陰謀よ、記憶喪失にして洗脳したのね。フフフフ…確かにお兄ちゃんはステキだけど自分のものにして子供まで産むとは…冥夜とかいう女…許すまじ。」
 オイオイ…なにか危なく逝っちゃってるよ…。

 「あ~~あ、始まった…。響の「お兄ちゃん」妄想ビジョン。相変わらず不思議空間ばらまいているねぇ…」さっき通信にでた25.6歳くらいのいかにも「姉御」な感じの人が言う。
 この世界の俺の妹はブラコンで極度の妄想癖ありかよ……。

 「いやぁ白銀。愛されちゃってるね?」「柏木…あれは俺のことじゃ無いって」
 黙って話を聞いていた柏木が突っ込んでくるがスルーする。その間に朝霧少佐がまた「教練…」と言っているがやはり「ジュース」の件で正気に戻ったようだ。それにしてもそこまで恐怖するジュースって一体?

 「 やっぱり納得できない…そっくりすぎるわ、声まで一緒なんて」
 復活した彼女はまた俺を問い詰めるが…仕方ない…ここは切り札を使うか。
 「あー、実は同じ様なことを斯衛軍の人に言われた事があってさぁ「死人がなぜ此処にいる」って」
 その言葉に少佐と響が反応を示す、よし掴みはOK。
 「それでその人が言うには、城内省のデータベースに俺と同姓同名で顔もソックリな人物の死亡リストが載っている」って言うんだ。」…俺は事実を曲解するように述べる、別に嘘はいっていない…。

 「なるほど…城内省のデータに死亡と載っているならそれはやはり…」…死んでいるということだ。
 朝霧少佐の言葉に呆然とする響、彼女も帝国軍…城内省の力を解っているのだろう。

 その時急に外部から通信が入る…そういえば残りの2機に待っていてもらったんだっけ、柏木が「レッド・ウルフ」と言った派手な不知火は実は国連軍だった。不知火が搬入されているのは国連軍では横浜基地の夕呼先生直属の部隊だけだが彼女は独自で機体を手に入れて使っているらしい。
 「そろそろいいかな…」赤い髪をショートにした女性が問いかけてくる。彼女が「レッド・ウルフ」の異名を持つ国連軍の変り種「ヒュレイカ・エルネス」中尉で…

 「そうですね、時間的にそろそろお願いします。」もう1人は蒼銀の髪を肩上まで伸ばした女性、名前は「ミナルディ・エルトリア」中尉だそうだ。ちなみに2人とも日本語は完璧らしい。

 「ああこちらの話が長引いてしまって申し訳ない。それで…」朝霧少佐が話を促す。
 「私達の部隊は散り散りになってしまってね、この状況では如何ともしがたい。この場ではあなたが一番官位が高いのでできれば我ら二人を混戦部隊として臨時編入してくれないか。」
 ヒュレイカさんの提案に朝霧少佐は考える…混戦部隊か…
 「解った了解しよう。……白銀中尉と柏木中尉!」少佐が俺達を呼ぶ、
 「えっと、なんでしょうか?」
 「君達二人も私達の部隊に臨時編入しよう。」
 その言葉に俺と柏木が驚愕する。「いいんですか?」柏木が疑問を挟む。

 「先も言ったように我々は特殊部隊である程度融通が利くし、あまり大っぴらには使いたくは無いが個人のコネもある。君たちもどこかの部隊に編入されるよりは私達の部隊に居た方がよいだろう。」
 朝霧少佐は笑って言う、それに…と
 「私の部隊は実は「実力のある問題児」ばかりが集まってしまってな、陰謀なのか偶然なのか…まあ結構すきにやれる…もちろん常識の範囲内でな…」
 そう言って方目をつぶる少佐に俺は心引かれた、柏木もいやではなさそうだし…

 「「よろしくお願いします。」」俺と柏木はそろって頭を下げた。


 これが地球奪還作戦まで地球上を戦い抜いた俺達のチーム
 「独立遊撃混戦部隊第28部隊」の結成の瞬間であり、今此処に居る全員がその最初のメンバーであった。




 オリキャラ参戦、

 白銀響…彼女は純夏的な役割です。つまりムードメーカー、ボケ担当・でもシリアスもタップリ?彼女の「お兄ちゃん」への気持ちと「武」への気持ちがどうなっていくか。(結末は一応解っているんだけど…予定は未定?)

  その他の人物も色々な生き様を持たせていますが…書ききれるか?まあメインキャラ意外でいるなぁ…くらいの気持ちで読んでください。

 色々無茶な設定が…妹はアンリミで夕呼先生が武意外のことを明言していないため「パラレルワールドならいてもありか?」と…このアンリミともオルタとも違う世界ですし。
 
 ああ…早く月詠出現パートに行きたい…恐らくあと三話くらいでしょう…だといいな…、次の九話が八王子攻防です。間の話や伊隅隊や委員長達の話を外伝として設定してあるのですが本編の方で手一杯です…皆さん好きに想像してください。


追伸)今回出てきたオリキャラはTRPG時代そして現在ではネットゲームでの友人の持ちキャラを改良したものです、性格と容姿を一部借りています。
 とくにヒュレイカは某姫様漫画の登場人物とはなんの関係もございません。友人によれば出展はもっと古い小説だとか?
 



[1115] Re[7]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/20 19:25
 間に設定上幾つか話があるのですが書いていると物凄く長くなってしまうので思い切って飛ばします、書くのは物語の主ストーリーに深く関わる所だけにしています。今後も所々飛ぶところがあるので間の話は脳内補完してください。設定やあらすじとしてなら…後から書けるかな…
 オリジナルの人物はその間に紹介されたと言う事で武は既に詳しく知っています。文中に説明は出てこないので人物紹介の方を見てください。 


2004年5月7日…11時 八王子防衛線



 「こちら第324部隊…グラップラー級の数が多い!援護を回して…」
 「左翼、187部隊だ。ルイタウラの集団が突っ込んでくる、ミサイルで進撃を止めてくれ!!」
 「くそっ機体が…た…助けて…助けてくれーーー…………」
 「こちら224了解した、ただちに援護に向かう…」
 「本部…本部…、応答してくれ!うっウギャーーーー」
 「え~い、撃て撃て撃て!!!怯むなっ、帝国軍人としての意地を見せろ!」
 
 戦線のあちらこちらからで様々な通信が飛び交う、援護を求める声、味方を鼓舞する声、断末魔の叫び…。その喧騒の中で俺は戦っている…

 あれから…独立遊撃混戦部隊第28部隊結成から7日、八王子に到着した俺達はそのまま防衛戦線に配置された。流石に俺の武御雷とヒュレイカ中尉の派手な不知火は目立っていたけど朝霧少佐は結構有名な御仁らしく、背後関係を詮索される事もなくすんなりと受け入れられた。
 進攻してくるBETAを食い止めるべく俺達は戦っていた…。

 最初のころは俺と柏木でコンビを組んで戦っていたが個々の戦い方が解ってくると、段々部隊間での連携が取れるようになっていった。
 この部隊の人達は新人の響少尉意外は皆実力のある衛士で各自が好きに戦いながらも周りに合わせていける、それぞれ自分の持ち味を生かして戦っていける…俺も好きに戦えるのは正直ありがたい。
 欠点らしい欠点といえば後衛が少ないことだろうな、後衛専門は柏木一人しかいない。響少尉は中衛、朝霧少佐も中衛、ミナルディ中尉はオールラウンダーだが専門はやはり中衛だ。後は俺を含めて4人全員が前衛…ハッキリ言ってこれは突撃仕様のパーティーだ……

 やはりというか戦い方も突撃仕様で朝霧少佐は響少尉をフォローしながら鮎川(あゆかわ)大尉と御無(おとなし)中尉の突撃を援護、ミナルディ中尉はヒュレイカ中尉を援護、柏木は俺を援護する…これが縦の陣形だ、横の援護はそれぞれが臨機応変に行なう…各自言葉が無くとも互いの連携は出来ている…まだ結成より5日しか経っていない即興の部隊でここまでの連携が出来るのは個々の実力が高いためだろう…性格は別として…





 そして今日も俺達は戦っている………






 「白銀中尉、ここは片付いたわ…。次のポイントに向かう…」

 朝霧少佐からの通信が入る、7日目のBETA進攻…この7日間で4回の進攻があったがそれはことごとく撃退してきた。今回の進攻も段々と収束に向かいつつある。
 現在俺達は左翼エリアのルイタウラを掃討している、ミサイル攻撃でバラバラになったのを各個撃破して回っていたのだ。
 あ…と…、ちなみに白銀が二人だとややこしいので響少尉は名前で呼ぶようになった。俺は彼女にことあるごとに詮索されたり睨まれたりするが知らぬ存ぜぬで通している。柏木なんかは面白がって見ているが…アイツはたまに爆弾発言をサラッと口にするからな…要注意だ…。

 「鮎川と御無は響と先に向かった、私達も行くぞ。」
 「了解、行くぞ柏木。」「はいはい」

 朝霧少佐の後を追って俺と柏木も機体を走らせる。
 柏木は俺達の部隊の後方援護を一手に引き受けている…他の人も後衛ができない事も無いのだが俺を含め性格的にも突撃仕様なので必要が無いと絶対にやらない、特にレーザー級が出てこない今は…。

 「柏木、一人で後衛引き受けて大変じゃないか…?」ふと思いたち聞いてみると…、
 「ふ~ん、心配してくれてるんだ。大丈夫、無理はしないようにしてるからさ…それよりも毎日の訓練の方が大変だよ…まあ嫌いじゃないけどね。」

 訓練…柏木が言う訓練とは、俺が御無中尉に頼んで教えてもらっている剣術と格闘術の事だ。基本が全てとは言えないがやはり長年積み重ねてきた実績というものは偉大だ、御無中尉の家は先祖代々の剣術、格闘術が伝わっていて中尉もそれを修めている、俺はその動きに魅せられて教えを請ったのだ…がなぜか柏木も一緒にやり始めた、訳を聞いたら「衛士としての自分をより高めるため」だとか…。
 「あれは確かにキツイよな…。御無中尉、清楚で大和撫子って感じなのに結構冷徹な性格してるから…スパルタ式だもんなぁ。」
 御無中尉の特訓は常に「実戦(実践)あれ」だ…気を抜くとすぐに殺られる過酷な修行だ。

 「ははは…確かにキツイよね、私は格闘戦は苦手だから余計そう感じるし…まあやらないで後悔するよりはいいけどね。」
 柏木は笑って言う、けど今の一言は重い…「やらないで後悔する」…そうだ、この先どんなことが起きるか解らない…今俺にできる事を常に全力でやらなければ…その時に後悔しても遅いんだ…。
 だから俺は自分を常に高める努力を怠らない、幸い周りの人は俺より専門分野に秀でた人が多いので教わるのには事欠かない…そうだ…俺は…「白銀!」

 思考の底に沈みこんだ俺を柏木の声が呼び戻す、やばいやばい…今は戦闘中だった…。
 「まったく…余裕だね白銀は。」笑う柏木、こいつも会った時から比べれば随分気安くなった。普段から明るいので見た目には人当たりがいいのだが、笑顔の下では結構冷静に物事を判断している…しかし最近は俺に向ける笑い顔は裏表がない…戦闘では相変わらず冷静だが…、仲間として信頼されてきたということが嬉しくなってくる。

 「スマン…ちょっと考え事をな…。戦況は来てるか…?」
 「はい送るよ…、左翼は持ち直したね…右翼は帝国軍が固めているから問題は無いよ、中央の混戦軍が押され気味だったけど敵はほぼ壊滅…随分連携が取れてきたね…。」
 左翼は帝国軍、右翼が国連軍、中央は各戦線から撤退してきた部隊を混戦部隊として配置している。 中央は帝国と国連が入り混じっていたので最初は大変だったが日に日に連携がとれていく…一つのことに従事する意識が高いからだろう…。
 本来俺達もそこに位置していたのだが部隊戦闘力が高いため遊撃部隊の特性を活かし各戦線の弱い所を飛び回っている。そのお陰で随分と有名になったが…特に漆黒の武御雷と派手な不知火が…。武御雷の事で帝国軍の人から詮索されるような事もあったが俺が「白銀武」だと解ると納得して帰っていく…どうやら俺の名前は色々な意味で有名らしい。最初の方ではXM3の事情を知っている人が色々やってきて大変だった…中には結構上の階級の人がやってきたりと…正直苦手なんだけどなぁ……。

 「今日も無事終わったぜ…委員長達どうしてるかな………」

 連日のBETAの襲撃で各防衛線は分断されている。委員長達は川崎防衛線にいるはずだが…一応朝霧少尉のコネと俺の名前で川崎の方に連絡は入れといた、返信は期待できないが俺達の無事は伝わっただろう。
 「こちら八王子防衛線司令部、敵残存なし…作戦終了です、所定のマニュアルに則り順次帰還してください、なお哨戒部隊は………」
 どうやら今日も無事作戦終了したようだ…。

 「終わったね白銀……」柏木の声が聞こえる…がその声はどこか不安を忍ばせる。
 柏木の不安も解る…このままではジリ損だ、恐らくあと1ヶ月が限界だろう…。そもそもハイブの消失でBETAのエネルギーが無くなってきていることを見越して防衛戦をおこなっているのに奴ら未だに活動しているし…疑問が浮かぶが今俺が考えても仕方が無い…俺はできる事をやるしかない…。

 「さあ…帰ろう、取りあえずはシャワー、その後でメシ食って一眠りしようぜ!」

 柏木の不安を払拭するように努めて明るく言い放つ…そうだ、取りあえずは今できる事を精一杯やっていくしかないんだ……。


2004年5月7日…6時




 夜になり俺達が臨時の兵舎として使っている病院にも明かりが灯る。あれから2時まで一眠りしその後御無中尉との訓練を行なう、その後シャワーを浴びてから飯を食うために食堂に向かっていた。

 「よう、白銀。これから夕メシか?」突然後ろから陽気な声がかかる。
 「鮎川大尉…。そうです、御無中尉との訓練がさっき終わったんで…」
 「ははははっ、よくやるねぇ白銀も…可憐のヤツは容赦がないだろう?」
 「ええ…毎回死に物狂いです…」鮎川大尉は一言で言うと「姉御」…この言葉が一番シックリ来る人で、性格も竹を割ったような明瞭活発…堅苦しいのは嫌いという江戸っ子気質な人間だ。実は遊撃部隊全30小隊の中で一番強い…格闘戦では御無中尉に劣るし、総合能力でも朝霧少佐に及ばない、しかし彼女は対戦では一番強い。
 朝霧少佐は彼女が人間として強いからだと言う、鮎川大尉は戦災孤児だったが将軍家縁の人の目に留まり引き取って育てられたらしい。そのため彼女は人一倍日本という国に恩義と愛を感じているのだという。心技体…技は及ばなくとも心と体は自分達に勝っている、未来への希望と自らの不断の努力…自身の勝利を手繰り寄せる力が彼女は人一倍強い…だから負けないのだと。
 俺は鮎川大尉を人間として衛士として尊敬した。一緒に行動すればするほどこの人はそれに足る御仁だと実感できたから………。

 「それより柏木は一緒じゃないのか?」
 「ええ…あいつは先に行ってもらいました、俺は用事があったので。」
 その言葉で鮎川大尉はまじまじと俺を見る……、

 う…な…なんだ……。

 「なるほど、柏木も色々大変だねぇ」大尉はヤレヤレと首を横に振る…一体なにが大変なんだ???
 「ところで響は何やってんだ…お前にまとわり付いてないって事は…」
 「響少尉ならシュミレーターやってましたよ。朝霧少佐がヒュレイカ中尉とミナルディ中尉と色々やらせてみたいって…」
 響少尉は俺が「お兄ちゃん」では無い事に「一応」納得したようだがことあるごとに俺に突っかかってくる、朝霧少佐は愛情の裏返しだと言うし、柏木がその様子を微笑ましく眺めていたりもするし…勘弁してくれ…と言いたい。

 「あ~~、確かに響はまだまだだからな…素質は光るもの持っているんだが…」
 たしかにまだ荒削りだが腕は悪くない、俺が言うのもなんだけどな……
 この世界に来たばかりの時を思い出す…あれから随分と時が経った…。元の世界の皆はどうしているかな…?.
 深い思考の底に沈みかけるがそれを振り払う、今はそんなことを考えるべきではない…。
 いつの間にか食堂に到着している…中を覗くと…げ、目が合った…。
 「あ……、武…中尉。」調度こちらを向いていた響少尉と目が合う。
 中には既に全員が揃っていた、どうやら俺達が一番最後の到着だったらしい。食事は各自自由に取れるのだが俺達は「部隊間の結束を高める」という理由で一緒に食べている。その中で響少尉は俺を睨んで(…朝霧少佐は「見詰めて」と言っているがどう見ても睨んでいるよなぁ…アレ…)呟いた。俺の事を呼び捨てにしたいようだが、染み付いた帝国軍人としての教育がそれを許さず結局「中尉」と付けている。それが何となく微笑ましい。

 「む……今物凄く失礼な事考えたでしょ。」

 彼女はふんぞり返ってこちらを指差し、口がぷっくりと膨らませる。
 クッ……鋭い…、顔には出していないハズ…。
「そ、そんなこと考えてないぜ。あーー…それより少尉のシュミレーションどうでした?」
 こういう場合の対処はキッパリ否定して朝霧少佐に振るのが一番だ、響少尉も朝霧少佐には逆らえないので有効な手段だ。

 「スジは悪くないですが…がまだまだ荒削りです、特に状況判断をその場その場で考えている節がありますね。」
 朝霧少佐の説明する横で膨れる響少尉…「う~だって…」などとブツブツ言っている。
 確かに状況判断は動く前に既に頭の中で弾き出しておかないと次の行動に支障がでる。俺の場合戦場全体を見て次に何をするか、そしてその次にどうするか最低二手先までを決める、戦場に変化がなければそれは変わらない…これが個人の戦術レベルだ。その動きの中での一手が機動レベル…一手の行動内では動作を臨機応変に行なうがこれは頭と体に覚えこませた反射行動だ。
 つまり戦術的状況判断は自分の一連の動作の流れを指し、その場の状況で事前に次の動作を何手か考える…これを機動レベルで…その場その場の判断でやると行動の一貫性がなくなり動きに迷いが出るし一瞬の動作の停滞なども生まれる。もちろん「決める」といっても「仮に」だ周りの状況は千差万別に変化する、戦場に絶対などはない…その判断の匙加減はやはり経験だ……。

 「接近戦も格闘戦も水準以上だ…素質もある。あとは鍛錬と経験だな…こればかりは一長一短では身につかんよ。」
 「そうですね、後衛戦闘も中々いけますがやはり中距離戦闘が一番でしょうね。」

 ヒュレイカ中尉とミナルディ中尉も発言する。この二人は普段の互いの態度を見ていると仲が善いのか悪いのか微妙だ…ミナルディ中尉が「黙ってるってことはOKって事ですよ。」と笑って言っていた、恐らくそれは真実だろう…ヒュレイカ中尉は他人を威嚇する気配がある、孤高の戦士…気高い猫という雰囲気だが性格的に姉御肌体質で面倒見がいいので慣れればとても頼りになる人だ。

 「う~~、解っているよ!それより武中尉は御無中尉との訓練どうだったのよ!」

 槍玉に挙げられてるのが自分だけだと不服に感じたのか対抗しようとしたのか知れないが響少尉が俺にも話を振ってきた。

 「まあそれなりだな」「それなりぃ~~?」

 俺の答えに不満の声を上げる。う~んやっぱりこれじゃだめか…
 「まあ日々精進・日進月歩というやつさ…と言いたいが御無中尉の特訓は半端じゃねぇからな。」
 「あははは、そうだね。特に武はしごかれてるよね。」
 「そりゃあれだ!武の素質がいいんで熱くなっているのさ…コイツがあそこまで他人のことに熱心なのはめずらしい。」
 俺のグチに一緒に訓練している柏木、そして鮎川大尉が反応する。御無中尉の頭をグリグリやる鮎川中尉、御無中尉は無表情だ…いや微妙に迷惑がっている?
 御無中尉は日本人形のような容姿をして普段の生活もそれを裏切らない。けれども…戦闘モードになると冷酷非常のグラップラーとなる、涼しい顔をして殺人級の一撃を放ってくるため訓練は結構命がけだ…柏木には優しかったのか…。見込みがあるから殺されそう…なんかそれって嬉しいのか悲しいのかとても微妙だぜ……。

 「それじゃあ白銀中尉、疲れているでしょう…。」

 突然後ろから朝霧少佐の声が…っていつのまに、さっきまで前に居たのに…相変わらず行動が突飛な人だ…。
 「あ…はい…、けど大丈夫ですよ…いつものことです、一晩寝れば治ります。」
 …確かに体中ギシギシだが過酷な訓練の後は何時もの事だ…この頃は御無中尉との訓練でもっと疲れるけど……それも一晩よく寝れば治る。
 無難に答えておく。すると少佐はスッと何かを差し出した。

 「これを飲むといいですよ、疲れが吹き飛びます。」

 「あ…じゃあいただきます。」その時俺は訓練後で咽が乾いていたので無意識になんの疑問も挟むことなく…少佐が自分のやや後ろに位置していたので確認せずに…そのコップを手に取り中身を見ないで一気に半分ほど飲み干した。
 その時俺が元28遊撃小隊だった皆の顔をもっとよく見ていたら…この後の悲劇は回避できていたであろう…。青ざめて震える顔、気の毒そうな顔、面白そうな顔………

 「ガ●△■グホ▼○ゲハァ!!!!!!!!!!!!!!」

液体が咽を通り過ぎ胃に落ちた瞬間………なんともいえない…、そう…なんともいえない衝撃が体中を駆け巡った。あえて表現するなら七色に攪拌された毒物が体の中の毛細血管の末端まで行渡りそこでギャラクシーな踊りをフラメンコしているような…だめだ…表現できない…

 「ぐおおおぉぉぉ、」

 咽を抑えてのた打ち回る、酷い頭痛と衝撃がガンガンと体を打ち鳴らしそれがピークに達する。

 「うっっっ、ガハッ………」

 手を差し伸ばしその場で悶絶する、やがて俺の意識は闇に…………………………飲まれなかった。

 『な…なぜだ…ホワイ?こういう時はそのまま気絶して次に気づいた時は次の日の朝だったりするんじゃないのかよ!!!』

 俺は向こうの世界の変な知識を総動員して訴えた。
 だが無常にも意識は無くならず断続的な…不可思議な痛みと衝撃が体に伝わってくる。
 断続的な痙攣が体を振るわせる…や、ヤバイ…ぐはぁ
 外で柏木が「大丈夫!白銀?」と声を掛けて来るが…スマン…もう駄目かも…。
 その時鮎川大尉が近寄ってきて俺の横に膝を下ろす。
 俺は大尉に向かって痙攣する手を伸ばす…。『た…たのむ…トドメを…』心の中で訴える。
 伸ばした俺の手を柏木が強く握る。鮎川大尉は「解った」というようにうなずいた…。

 『ああ…これで…やっと…』柏木を見る…。

 すまない…柏木…後は…

 鮎川大尉が右腕を軽く振り上げそれを手刀の形にする…そして一気に俺の首めがけて振り下ろした。 最後に『御免』という小さな呟きが聞こえたのを最後に俺の意識は闇に飲まれていった…。




 翌朝無事に復活したが昨日を振り返って。改めて朝霧少佐の特性スペシャルブレンド栄養ジュースの破壊力を痛感した。
 衝撃で気絶できないで悶絶が続いたのはかなりやばかった…劇物系の飲食物で気絶できないで悶絶が続くのはかなりの革新だぜ…とてもいやな革新だが…。

 何より…何より一番の不条理はあのジュースが「美味い」ということだ。…そう…アレだけの衝撃を撒き散らすのに「味」は「美味い」のだ…だから昨日も疑いもせず半分以上飲み込んでしまった。なぜ味はまともなのにあんなに…謎だ…
 しかも見た目はただのオレンジ色だ…一見しただけならオレンジジュースと間違えるだろう…「劇物ジュース」の常識を革新した新たな境地だ…確かにアレはトラウマになる………。
 不意に部屋のドアが開いた。

 「あ…白銀…起きたんだ…良かった…。」

 入ってきたのは柏木だった。
 「一晩中うなされていたから心配したよ…」
 彼女はこちらに笑顔を向けてから部屋の中にある水道でそこに置いてあった洗面器に水を入れてから
水の入った洗面器をベッド横の台に置く。
 『チョット待て…一晩中…ということはコイツ寝ないで俺の看病していたのか?』
 よく見ると目の下に隈が出来ている。

 「柏木…ずっと俺の看病していたのか?」
 「気にしなくていいよ…好きでやった事だしね。」聞くと笑って答える…、
 「ありがとうな…。」
 「いいよ、昨日の白銀はホント…ダメそうだったしね。」
 そう言いながら洗面器の水でタオルを絞る。

 キュッと絞ったタオルを畳んで俺の額に乗せる…俺の視界を遮る水で濡れた手が窓から入る光を受けて白く輝く、その白磁の芸術のような手が艶かしくて思わず…。
 やべぇやべぇ、思わず変な妄想をしちまったぜ…ここんとご無沙汰だし…。

 「白銀…どうしたの?」

 ベッドに寝ている俺を覗き込む柏木、こうやって見ると…コイツ美人だよな……なんて、思考が危険な領域に達して思わず下半身が元気になってしまう…やばい…静まれオレよ…。
 「よお白銀!復活したかっ…て………スマン、お邪魔だったみたいだな。おとなしく退散するから気にせず続けてくれ。」
 いきなり入ってきた鮎川大尉はベッドで見詰め合っているような俺達を見るとそんなことを言ってドアを閉めて出て行こうとした。

 …って、ちょっとまてぃ!

 「ちゅ、大尉!違います、誤解です!そんなんじゃありません。なっ、なあ柏木。」
 慌てて否定する。思わず柏木にも振ってしまう…。

 「そうです大尉、白銀とは夜にちゃんとやっていますのでそんなに飢えてはいませんよ。」

 なっ…ナニヲイッテルノカナ…カシワギサン
 「ふ…不潔です!」
 柏木の問題発言に俺の思考がフリーズする中、扉を押し開けて響少尉が入ってくる…
 「お…お…お…」
 「おっ?」
 「お兄ちゃんのバカーーーーーーーァァァァァァ!!!!!!」
 大声で叫びドップラー効果を残しながら立ち去ってしまう。

 「あらあら、モテモテですねぇ白銀中尉」
 続いて入ってきたのは朝霧少佐。モテモテって……、
 「はははは、青春だねぇ…。」
 「白銀中尉……若さは発散させませんと……」
 鮎川大尉といつの間にか部屋の中にいた御無中尉も加わって……
 「避妊だけはしておけ…、後は個人の自由だ…私は何も言わん…」
 「白銀中尉…三股ですか…。」
 ヒュレイカ中尉とミナルディ中尉までっ!
 …事態は混迷を深めていく………、

 「だ………だれかなんとかしてくれぇ~~~~~!!!!」

 俺の絶叫が部屋に響く…。
 この後散々皆にからかわれまくったが…何とか誤解は解けたと言っておこう……。
 
 



[1115] Re[2]:簡単な人物紹介 暫定版
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/12 15:23
 帝国軍遊撃隊第28小隊…実力はあるが問題もあるという人物が集まってしまった部隊。それが偶然か意図的に集まったかは不明、ただ個々の戦闘能力は高い。隊長の狭霧楓が戦い方は放任しながら上手く部隊運用しているのでまともに部隊として機能している。           遊撃隊は明確な所属がなく隊長の権限で行動する独立遊撃部隊、試験的に30小隊しか作られていない。その部隊特性ゆえに実力者が集められ装備も優遇される。



                         
朝霧 楓(あさぎり かえで)30歳 少佐 不知火
 帝国軍遊撃隊第28小隊隊長、将軍家に縁の深い系譜、普段は清廉潔白で優しいお姉さんという感じの人だが、武曰く「軍人モード」へ入ると厳しい指揮官へと変貌する。腰まで伸ばした黒髪、身長は平均的。




鮎川 千尋(あゆかわ ちひろ) 25歳 大尉 不知火
 帝国軍遊撃隊第28小隊副隊長、姉御肌で竹を割ったような明瞭活発な性格。少々気まぐれなですらりとした流麗な体格をしている、接近戦では無類の強さを発揮しどんな役割も的確にこなす。
 実力では朝霧隊長よりも上、不断の努力と意思がその揺るぎない強さを形成する。帝国軍内ではその俊敏な戦い方から「雌豹」とも呼ばれている。
 彼女は孤児で将軍家の人間に孤児院より身請けされ育てられた、そのため誰よりも日本という国を人を愛している。武も彼女と意気投合し衛士として信頼し尊敬する。




白銀 響(しろがね ひびき)17歳 少尉 吹雪改  誕生日11月26日
 帝国軍遊撃隊第28小隊員、この世界の元の武の実妹、極度のブラコン…11歳の時のBETAの侵攻時東京に居て無事だった、武と純夏と家族が死んだ事で仇をとろうと帝国軍に入隊。
 正式配属から1年たっていないためまだまだ粗が目立つ。




御無 可憐(おとなし かれん)23歳 中尉 不知火
 帝国軍遊撃隊第28小隊員、黒髪黒目の典型的日本美人で寡黙で聡明、だが生れが戦国時代から続く将軍家お抱えの忍者集団の末裔、BETAが現れる前まで暗殺などの陰の仕事を行なっていた。
 先祖伝来の技を継いだ彼女は無音殺人(サイレントキリング)の達人、表向きは名のある剣術指南所だったので正統な剣術も得意で、刀を使った近接戦闘も超人級な腕前、音無しの可憐と呼ばれる。武は剣術と格闘術を基本的に彼女に習う。
 実は切れると物凄く口が悪い…海兵隊式の罵詈雑言が飛び出す。下品な男が嫌いで、しつこく言い寄ってきた男の玉を蹴り潰したこともある。




ヒュレイカ・エルネス インディアナ系日系アメリカ人 26歳 中尉 不知火
 国連軍第476小隊副隊長、隊長が戦死した後撤退のため同じ場所に居たと混戦部隊として臨時併合する。物凄く優秀な軍人で既に大尉クラスの功績があるが上官との衝突が多いため未だに中尉、国連軍では珍しく刀をメインウェポンの一つとして扱い近接戦闘もこなす。
 何故か不知火に乗っていて、赤に青と紫のラインと模様の入った不知火は国連軍の名物である。皆にレッド・ウルフと呼ばれる…が本人は其の呼ばれ方が好きではない。
 インディアナ系1・日系1・アメリカ系2の混血人種。




御剣 真貴(みつるぎ まさき) 25歳 征夷大将軍代行 武御雷指揮官機…青
 煌武院悠陽の従兄で地球での征夷大将軍代行を任された人物。母が真実を貫き高貴に真っ直ぐ育つ様にと名づけた己の名前を何よりも誇りにし、名に恥じぬよう常に切磋琢磨して自身を磨いている清廉潔白で実直な人物、それだけに彼の信奉者は多い。
訓練生時代、月詠と同じ部隊に所属していて無二の親友であり戦友でもあった。 




エルファ・エルトゥール アジア系と白人の混血(詳しくは不明)24歳 
赤と金が混じったような髪とエメラルドグリーンの知性的な戦士の瞳。
大尉 CP将校(コマンド・ポスト・オフィサー)

 統合情報管理官、第28遊撃部隊専属のCP将校として焔にスカウトされる。
 実は訓練校時代にやむなく戦場に参加してそのままなし崩しに軍学校にも行かずに戦場叩き上げで来た人物(勿論独学で勉強もしてきた)、なので戦場での知り合いやら裏の権限やら……とにかく肩書き以上に権限が強い人物。
 だがその能力は優秀の一言に尽きる、彼女の誘導で全滅を免れた部隊がいくつもあり、戦場の女神として崇められている、「ピンチの時は総指揮官より彼女の誘導に従え」というのは皆の暗黙の了解になっていて、上も彼女の能力ゆえにそれを黙認している。
 だが本人は至って普通の女性(やや気が強いが)物事を冷静に見れるが、心の中は熱い。
 何人もの死をモニター越しに見詰めてきた彼女の瞳は、戦場に出ずとも戦士の様相と化し、その奥に深い悲しみの色を宿している。
 



[1115] Re[8]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/24 01:51
2004年5月8日…皇居





 皇居の奥まった一室、執務室の中に佇む3人の人物は現在の状況が表示された電子戦略図を眺めて現在の状況を確認しながら議論を交わしていた。
 「各戦線は押され気味です、このままではあと一月程度しか持たないでしょう。」
 「やはりか…焔博士、日本のハイブは消滅したのにBETAの活動が鈍らないのはなぜか解るか?」
 「推測の域を出ないがいくつか理由が考えられる…。」
 「それでいい、説明を…」

 「日本に元々存在したBETAは既に活動停止していて、今襲ってきてるのは他の大陸…この場合朝鮮・中国から輸送しているということ」
 「輸送…?ですか」
 「そうBETAは海から上がってくることもある、直接海底を歩いてくるのか、泳いでくるのか…。私の推測では大型の輸送級のBETAが存在する可能性が高い。」
 「未確認種…か…」
 「そうだ…人類がまだ確認していないBETAが何種類か存在する事は様々な情報から示唆されていた。それに対人級のように新しく創られる可能性だってありうる。」
 「なるほど…」
 「だがこの考えは今までのBETAの戦略概念からするとその可能性は低い。」
 「そもそも各ハイブの情報連結が曖昧だ、他所のハイブから兵隊を送り込み戦力補充…という方法がとられるかは微妙だね…。」
 「………………」

 「次は何らかの形でエネルギーを確保したということ。」
 「反応炉の予備でもあったのか…または人間の施設を使って電気などを活動エネルギーにしている可能性もある。」
 「電気をか…?」
 「わからん、奴らがどんなエネルギーで活動できるかは明確に解っていない。ただ捕獲されたBETAが電気反応を示したことは確かだ。」

 「最後は活動エネルギーの統一…すなわち共食いだ。」
 「共食い…なるほど、各個体に分散したエネルギーを統一するのか」
 「やつらに消化器官やそれに類するものは見つかっていない、そもそもどうやってエネルギーを補給してるのか謎なんだがな…共食いという表現が一番近いだろう。」
 「残り少ないエネルギーを共食いまでして攻勢に出ているのか…」
 「今起こっているBETAの進攻は生命危機に瀕した一種のスタンピートだと推察できる…やつらにその概念があるかどうかは甚だ疑問だが…まあ理由付けとしてそれが一番シックリくるね。」
 「ハイブを潰された奴らは新しい活動拠点を建設したい…しかし人間という邪魔者がいる…また攻撃されたら厄介だ…だから最初に駆逐しよう…とまあこういう結論が出たんだろう。それでなりふり構わずに突撃してくる、やつらにとって消耗とは戦略上あまり重要なことではない、安全を確保したらまたハイブを建設して個体数を増やせばいい…」
 「ということは…このまま…」
 「やつらは自分達のエネルギーが尽きるまで突撃してくるね…、結論から言ってこの日本に残っているBETAの総数は概算予測だがあと僅かだ、このまま凌ぎ切る事は出来るだろう…がこちらの被害は甚大になる…このまま国民を守りながら防衛戦を続ければ双方壊滅的被害がでるね。」

 「それでも日本は防衛できる…」
 「いや…違うね、BETAと違ってこちらは戦力の補充は容易にはできない…結果的には大敗だ。国民が居なかったら防衛も楽なんだろうけどね…それは言わない…いや、言ってはいけないね……。」
 「「「……………」」」
 「決断の時…か…、」
 「将軍代行………」

 「…………日本を一時脱出する…」

 「真貴!」
 「確かに日本を防衛する事は大事だ、このまま凌ぎ切れるというのなら私もそうしたい。しかし我々はその後の事も考えねばならん、焔の言うとおりここで戦力を無駄に失えば後に響く、BETAの物量は人類の比ではない、まだ先は長いのだ…。」
 「しかし…国土を後にするのは…」
 「放棄するのではない、一時撤退するだけだ…。何時の日か必ず…この日本を我らの手に取り戻す…これはそのための撤退だ…。我らはまず人命を第一に考えねばならん、民あらずして国は成り立たぬ逆もまた然り、ここで両方を求めるは愚の骨頂というもの…。今…国を守るという目的に固執し、その為に人命を疎かにして何が正道か!!まずは人命を救う。」

 「将軍………」

 「幸い、煩い老人どもは皆宇宙だ…文句を言うヤツはいない…。」
 「では………。」
 「民の脱出計画を考案する…協力を頼む…。」
 「移住先はやはり…」
 「ああグリーンランド・カナダにオーストラリア近辺だな…」
 「98年から始まった移住計画…食料事情の傍らもしもの時のための措置だったが…」
 「まさかこんなに早く「もしも」の事態が起きてしまうとは。」
 「船は足りるのですか…」
 「情報部により既に「もしも」の時のために渡りはついている。…私達がアラスカとクアランプールの最前線で敵を食い止めるのと引き換えにな…、」
 「なるほど…万事抜かりはないと…。移住民達には既に事情を説明されてますし…。」
 「ああ…彼らはこんな消極的な対策命令をを自らの志願として受け入れてくれた…祖国を離れるのも厭わず…感謝の言葉もない…。」

 「それで…お前はどちらに行く…」
 「オーストラリアの方はユーラシア大陸から避難して来た人々が多く集まる。同じアジアの民…同じ戦場を戦った者…、似たような境遇の者達だ…必然的に結束意識は高い。だが……」
 「なるほどソ連はともかく欧米人は風当たりが強い…か…。」
 「ああ…私が行けば民の結束も高まるし対策も立てやすい…向こうにも話の分かる人物がいるからな…。」
 「オーストラリアの方は何人かの兵をまわす。現地の移住民からの志願者と合わせれば事足りるだろう…。それで…焔、脱出にはどれくらい掛かる。」
 「まずは本州からの撤退だね…私の概算でいけば一週間だ…。避難が間に合わない者、東海地方から逃げてくる者、それを守っている軍人は東京湾より一時小笠原諸島に輸送してそこからオーストラリアに渡ってもらう。本州から撤退した者は一時北海道に集結…そこから順次脱出してもらう、BETAは海を越えにくい…海を挟んでなら十分持ち堪える。」

 「物資はどうだ?」
 「箱詰めにして船に括り付けていけばいいさ、なんだったら付近の島に置いといて後から取りに来ても構わんよ…」
 「それで大丈夫なのか…?」
 「心配ないだろ…私が保証するよ。」
 「心強いのか不安なのか…微妙な保障だが…まあいいだろう、向こうに食料の備蓄は十分にある…軍事用の物資だけ持っていければ事足りる。」

 「分かった…それでいこう…」
 「ああ…頼む」
 真貴は二人の目を見詰める。

 「私は国を一時後にする決断を下した愚かな将軍代行として罵られるやもしれん…しかし私はこの決断の未来に新たなる道が開ける事を…いや、皆が開いてくれるであろう事を切に願い、共に同じ道を歩まんとする所存だ。」
 「そしてこの決断が未来への導となることを…私は信じてやまない。」

 「「「……………」」」

 「わかった………私は情報をまとめてくる。また後でな…」
 「ああ、頼む。」




 焔が出て行って… 






 「ふふ…」
 「なにを笑う月詠…」
 「いや…その真っ直ぐな気性、訓練生時代と何も変わってはいないな…」
 「当たり前だ、人間がそうそう簡単に変わるものか…。」
 「恐れ多くも将軍代行の地位を賜ったのにか?」
 「賜ったのではない、押し付けられたのだ…ジジイどもに。まあ悠陽にお願いされてしまったからしょうがないんだが…」
 「相変わらず悠陽殿下には弱いな…」
 「それはお前もだろう月詠…」
 「ふふ…確かに…。だがたとえ無理やりだったとしてもお前は日本を守るためこの役目を受けた…その名前と自身の信念にかけて…そうだろう……。」

 「確かに…な、お見通しか…。」

 「いったい何年のつき合いだと思っている。」
 「そうだな……あの時は皆自由だった…仲の良い友人同士で…、今は互いの立場が邪魔をする…」
 「だが我々が共に過ごした思い出は変わりはしない…我らは仲間だろう…。」
 「……そうだな…」

 「……そろそろ私も行く。あまり気負うな…、この決断はお前一人の判断ではない…それにお前の下には優秀なる我が国の民が存在している。お前ごときの失敗などすぐに挽回してくれよう。」
 「なるほど…それは心強い、だが命令を発した者として責任はとらねばならん…」
 「ふふ…、それでこそだ、将軍代行。」
 「昔のように真貴とは呼んでくれないのか…月詠」
 「先程も言っただろう…今のお前は将軍代行…けじめは付けねば。」
 「そうか…」
 「そんな顔をするな…お前が焔と並び私の親友である事には変わりは無い。……ではな…」



 扉から出て行く月詠…




 「親友………か……。悠陽の頼みとはいえ損な役を引き受けたかな…………。」



 「月詠………俺の想いは…………。」





 そしてこの翌日…全日本国民に向けて将軍代行の演説が行なわれ、日本脱出が開始された。






 今回動きが殆んどないのでほぼ会話だけです。密室の会談…、間章です。
 なおBETAの解釈はオルタの設定を盛り込みつつ独自設定満載です。



[1115] Re[9]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/27 16:34
2004年5月9日に全国民に向けて発せられた征夷大将軍代行「御剣真貴」の日本全面撤退宣言の演説…それは日本中に衝撃をもたらした。

 国土を後にする事に反対する意見も多かったが、現状でのBETAの行動とそれに対抗した後の日本の被害、今後の戦略的予測を将軍代行が真摯に説明するにつれ皆涙を呑んでそれを受け入れた…。
 この世界では異邦人であり、まだ「国を愛する」ということが実感できない白銀にとってはあまり感慨深い想いは湧かなかった…。だが思い出深い土地を後にしないとならない悔しさは胸に残った。

 撤退宣言が発令されると白銀達軍人は一般市民が北海道へ退避するまでの時間を稼ぐため防衛線を張り続けた、市民の本州完全撤退予測はおよそ9日間…それまで防衛線を維持し続けることが軍人に課せられた命令であった。しかし軍関係者は一般市民の撤退支援を自らの使命と認識し各戦線は高い士気を得て強固な守りを見せた。
 その甲斐あって市民の被害は殆ど出ずに本州脱出は行なわれた。


 2004年5月15日…一般市民の本州脱出がほぼ終了すると軍関係者は順次北海道への撤退を開始、最後まで残っていた医療関係者と整備関係者も前線を支える軍人と共に撤退を開始した。
 武達、独立遊撃混戦部隊第28部隊も15日…八王子防衛線が放棄されると日本撤退のため東京湾を目指し各種関係者の撤退を援護しながら撤退戦を開始した。




 2004年5月16日…府中市




 八王子防衛線を放棄した武達は現在日野市を通り抜け府中市を通過中だった。
 まだ後方では各種関係者が撤退を続けているので戦線を維持しながらの後退となり撤退速度はゆっくりであった。
 「白銀、武御雷は大丈夫か?」
 周囲の警戒を行ないながら後退している武に朝霧少佐から声が掛かる、
 「ええ…動作は問題ありません。」
 「そうか…一応気をつけておけ。」
 「はい、ご心配ありがとうございました。」
 武は深く頭を下げる、それを見た朝霧少佐は「フッ」と微笑んで通信を切った。

 「う~~ん、今の所問題は出てないけどなぁ。」

 武は腕を組み唸る、武御雷は城内省斯衛軍専用機体であり一般には出回っていない、整備には専門の整備員が必要なのだ…もちろんそんな人は前線にはいない。防衛線に参加していた帝国軍の整備士に頼んで出来るだけ整備してもらったが表面装甲を外して洗浄整備したくらいで中身には手をつけていない、分解整備をしなければ故障率は上がっていく。

 「まあしょうがない、出来る範囲でできる事をするだけさ…」

 他の人達も整備を行なっているがそれも完全なものじゃない、将軍代行が前線の防衛軍に優先的に物資を回してくれているとはいえ疲弊と消耗は激しい…

 「おっ白銀、いいこと言うね。」
 「普通ですよ…どこも厳しい状況です…」
 鮎川大尉の言葉に軽口で返す、御無中尉とヒュレイカ中尉も話しにのってきた。
 「だからこそわたくし達は全力を尽くすのですわ…」
 「まったくだ……、本州から撤退すれば一息つける…それまでは戦い尽くすのみさ。」
 さらに響が乱入してくる、
 「白銀中尉は能天気なだけよっ!もっと危機感をもたない…「ピーーーー」なにっ!!!

  突然緊急通信が入るこれは……!
 「援護要請!!!場所はっ!」
 「落ち着け響!」「場所は左後方1km地点…対人級多数、2個小隊が医療部隊を守りながら応戦中だけど対人級の相手で後方より接近中の大型種に対応できない状況だね。」
 響少尉が慌てる中、坦々と転送されてくる情報を確認する柏木…さすが、冷静だよなぁ…
 柏木はどんな時でも冷静だ…でも心の中はすぐに飛び出したい気持ちで一杯なのを俺は解っている。思考はクールで心は熱い…それが柏木のスタンスだ…。

 「よし、総員急行。我々が一番近い、先行するぞ!他の部隊にも連絡。」

 付近に他の部隊はいない、俺達の部隊が一番近い…
 なんとしても間に合わせるぜ!!!
朝霧隊長の命令を待たずして飛び出していく面々…こういう所が独断専行気味で問題部隊される一因だが俺達はそれでいい……それに締める所はキッチリ締めているからだ…
 
 出力全開…すぐに現場に到着する。柏木が群がる対人級に制圧射撃を行い次いで俺達4人が突撃する、対人級を相手にする場合長刀では効率が悪いので36mm突撃機関砲を装備…掃討射撃を開始する。
 対人級のすぐ後方に大型種が接近しているが…、

 「くそっこいつらぁ~、数が多い、鬱陶しい!」

 ヒュレイカ中尉のグチが聞こえる。
 確かに対人級の数が多い…
 「カバーに入ります。ここは私達で十分ですから前衛は大型種の掃討に向かってください。」
 ミナルディ中尉の声が聞こえる、見ると両腕の突撃砲のパイロンに36㎜突撃機関砲をマウントしている。

 各戦線の防衛部隊は戦いのために戦術機に色々な改造を施した。本来なら突撃砲をマウントするパイロンに突撃機関砲もマウント出来るようにしたのもその一つだ。(ちなみにミナルディ中尉の乗っている指揮官用ストライクイーグルのカスタム機は両腕にパイロンが取り付けられている。)
両腕の4つの36㎜突撃機関砲から銃弾が飛び出る、響機と朝霧機も同じ様に加わる。

 「いつ見てもすごいねぇ。」

 鮎川大尉が思わず漏らす。
 確かに…防衛戦線でも見たがその掃討射撃はまさに圧巻だぜ…
 俺も思わず横目で眺めてしまう…
 …とかやりながらもブーストジャンプで対人級をかわして大型種に突っ込む…
 『ああ…俺も成長したなぁ…』
 なんて思う…喋りながらBETAを駆逐していくなんて…。
 …まあ今は光線級がいないおかげなんだけどな……。
 レーザー種がいると戦場の危険度は一気に跳ね上がる…それこそ喋っている余裕なんて無い。
 しばらく戦場に36㎜突撃機関砲の斉射音が響く…が、やがてそれも収まる。

 ……こちら朝霧、対人級の駆逐は完了した。そちらはどうだ…
 「こちらもほぼ駆逐した、残り僅かだ。」鮎川大尉が報告を返す、
 その報告に皆の気が和らぐ…

 …後から…この場面を思い返すたびに「この時、気を抜かなければ」と後悔の念を思い出す…
 しかし…それは…起こってしまった…。


 「隊長!!!」

 珍しく柏木が切羽詰った声を張り上げる。
 なんだ……
 柏木の視線の方向、それが目に入る…
 なんと撃破したと思っていたルイタウラが起き上がり医療部隊の方へ突撃を開始していた…、

 「くそっ!」

 コンマ数瞬早く気づいた…その場所から近くにいた、俺、柏木、朝霧隊長が機体を振り向かせる。
 柏木は射撃体勢に入っているが…
 『く…だめだ…撃っても惰性で医療部隊に突入される…それに威力が大きいのは医療部隊を巻き込む…』と考え射撃を躊躇した。
 武も長刀を構え突撃を開始しようとするが…
 『だめだ…間に合わない…』3人の中で一番遠い所にいた武はブーストで切り込んでも間に合わないタイミングだった。

 しかし…

 「ガキャン」

 嫌な音が響いた…

 一瞬生まれた静寂と停滞…目の前にある光景に皆息を呑んだ…そして
 「「「「「「「朝霧隊長」」」」」」」 
 全員が声を揃えて絶叫する…

 目の前には突撃して来たルイタウラと医療部隊の目の前でそれを受け止めた朝霧隊長の不知火…。左半身を前に出し左手がルイタウラの体に添えられていて、こちらからはよく見えないが右上半身にルイタウラの装甲殻の左側がめり込んでいる状態で止まっている。

 あの瞬間を俺は…おそらく柏木も目撃した。
 一番至近距離にいた朝霧隊長は瞬時にブーストで加速・突撃しつつ4つの36㎜突撃機関砲に装備された120mm迫撃砲を全力射撃、ルイタウラの左側に着弾させた。スピードを削がれ進路をやや右側に向けられたルイタウラは恐らくその時点で死亡していた…それでも医療部隊に惰性で突っ込んでいく…朝霧隊長はそのまま突っ込み、まず左手を相手の装甲殻の左側に押し付けそのまま前面…相手にとっての右側…に押しながらルイタウラの前面に着地、左手でルイタウラの進行を右にずらしながら装甲殻を抱え込むようにし、機体を斜めにしてルイタウラの突撃を受け止めた。

 「朝霧隊長!!!隊長っ!」

 響が通信で呼びかける。
 「おちつけ、響っ!」
 「でも…でも隊長が…」
 「まずは生存確認をしろ!御無…どうだ…」
 「…バイタル確認……生きてますわ…」
 その言葉に最悪の事態が回避できたことを喜ぶ

 …しかし…安心はできない…

 「白銀、柏木、お前らは朝霧隊長の救出。…響、お前も行け…そんなんじゃ戦えんだろ。」  
 鮎川大尉の言葉に武と柏木の2人は急いで朝霧隊長の救出に向かう。
 響も後からついてくる、顔が涙でぐしゃぐしゃだ…無理も無い…俺も泣きだしそうだぜ…
 あの瞬間、気を抜いたから…攻撃を躊躇してしまったから…武は自信の行動を酷く後悔した。

 「隊長はすげぇ…体を張って人を…守るべきものを守った…。」

 普段から「命をかける」と言うが中々できる事ではない事を武は知っている。武自信も何度も自信の命の危険に躊躇したことがある。
 それを…
 あの状況…ただ一瞬で、自身の機体を盾にしてまで人を守ったその信念…。

 「すげぇ…」

 武はこの世界に来た時その考え方についていけなかった。自己犠牲の精神…それはこの世界の状況と国の教育が育てた盲信的思考だと思っていた。
 しかし長くこの世界で戦っている内に武はその考えの間違いに気づいた。
 自己犠牲ではなく、盲信的思考でもない…それは人々の心に根付いた信念だった。
 彼らは信じているのだ…己の行いを、自身の正義を、揺るがぬ未来への希望を…
 弱き者を守る、戦友のために命を燃やす、自身の使命を貫き通す…それは何者にも犯されない、何者にも強要されない、自分自身の思い・願い・希望…。
 日本の衛士は信念を…自身の魂を心に持っているのだ。

 『俺に命をかける決意があるか…』
 『ある』とは断言できる。冥夜や慧…仲間達を守るためなら自分は命をかけられるだろう…。
 だが…知らない他人のために命はかけられない。
 それが普通だとは解っている…そこが皆と俺の決定的に違う所…愛国心が無いという事…。

 「……銀…、白銀!」

 柏木の声に思考の淵から浮上する…そうだ…今は…
 側で見るとますますその損傷具合が見て取れる、バイタルに反応があったということは無事だろうがそれでもこの破損した不知火を見ると心配になってくる。
 まずはルイタウラと不知火を離す、衝撃を与えないようにそっと離した…
 「ズドンッ」「つっっっ!!」
 分離した所でルイタウラの装甲殻と機体に挟まっていた不知火の右腕が落ちる。
 後ろで涙を浮かべながら見ていた響の押し殺した悲鳴が聞こえた。
 そのままそっと機体を横たえる…慎重に寝かした後、更に慎重にコクピットの前面を外していく…右上半身が半分以上ひしゃげて潰れているので細心の注意を払い装甲を取り除く。
 いつの間にか駆け寄ってきていた医療部隊の者達が開いたコクピットに駆け入っていく。そのまま2分位が経過した時コクピットから朝霧隊長が運び出された。

 「3人とも、BETAの全滅を確認した。降りていいぞ…警戒は他の部隊がやってくれる。」

 鮎川大尉からの通信を受けて響少尉が我先にと機体を飛び出していく、俺達も機体を降りた。
 簡易医療ベッドに寝かされた朝霧隊長に響少尉が縋り付いて泣いている。朝霧隊長はどうやら意識はあるようで響少尉の頭を優しく撫でていた。
 全員でその場所に向かう、朝霧隊長はこちらに気付くと柔らかい笑みを浮かべた。

 「ごめん…ちょっと失敗してしまったわ…」
 「まったくだ…ざまぁないね…」
 鮎川大尉のいきなりの切り返しに皆が驚く…
 「ふふ…ちょっと復帰するのは先になりそう…」
 しかし朝霧隊長は笑って返す。
 「治るんですか!!!?」響少尉は朝霧隊長に質問するが…
 「それは私から…」横から「コホン」と声がかかる、朝霧隊長を引っ張り出した女の先生だ。

 「まず…重傷ですが命に別状はありません、怪我が完治すれば衛士としての復帰も問題ありません。」それを聞いて皆安堵した…よかったぜ…
 朝霧隊長への説明を兼ねた報告が続く…
 「本人の希望もありまして酩酊感のある強い麻酔ではなく痛み止めを投与しておきました…。」
 「怪我はやはり右半身が酷いですね…右腕骨折、右足が2箇所骨折…その内1箇所は複雑骨折、右肋骨が3箇所骨折…2本にヒビ、左腕筋肉組織の破損、左肋骨1本骨折…。」
 先生がカルテを読み上げる…確かに重傷だ…
 「本当に良かったわ…いえ…これも隊長さんの実力あってこそだけど…」
 彼女の言葉に響少尉の目が??になっている…
 「まずルイタウラの突進速度が低かった事、迫撃砲と左腕で進路を右にずらしたこと、咄嗟に右腕を装甲殻とコクピットの間に入れて緩衝材にしたこと…どれがかけても今頃ペチャンコになっていたわよ…。」
 女医さんの言葉は真実だ…あの瞬間を全て目撃した俺は…あの状況下で生きる事を諦めないで最大限の努力を行なった事はもはや神業の粋だ…。

 「白銀中尉…」

 いきなり名前を呼ばれて我に帰る。
 「は、ハイ。なんでしょうか!」
 思わず緊張してしまうが隊長は…
 「特別権限で大尉に昇進させるから隊長になって。」
 「ハイッ?…………イマナンテオッシャイマシタ…」

 「だから隊長になって」

 …なんてにっこりと笑って言ってくれやがりました。

 「む・む・む・無理です…俺は指揮官には向きません…第一鮎川大尉がいるじゃないですか!!!」
 「そうです隊長、このおバカに隊長なんて任せられません。だったら鮎川大尉の方がよっぽどましです!」「何よ…白銀中尉?後ろを指差して…」
 「ほ~~う、響…私は白銀よりましな程度なのか…?」
 振り向いた先に修羅がいました。
 「メッメッソウモゴザイマセン」
 「うんうん、でも自分の発言には責任を持とうね。」「ぎゃーーー」
 「ピーーーーーーーー」しばらくおまちください。

 「あらあら元気ねぇ」「まったくです」「ホントホント」
 朝霧隊長、御無中尉…柏木まで………。

 …え…と、気をとりなおして
 「それでなんで俺が隊長なんですか。」頭を押さえ聞いてみる。
 「ただの飾り」…ってオイ!
 「ど…どういうことですか…、っていうか飾り…」
 …俺は急に押し黙る。だって…
 にこやかな顔とは裏腹に隊長の目は鋭い…
 「この部隊で指揮官に向いている人間は柏木中尉だけだわ、でも彼女はこの部隊の指揮官向きじゃない。…幸い指揮官がいなくてもこの部隊は纏まっているわ、だったら無理やり纏めるよりお飾りの指揮官を置いて後は自由に戦ってもらった方がいい。」
 …隊長の言葉は解る、柏木は状況判断に優れ、指揮官なら的確に部隊を運用するタイプだ…フォーメーション構築で真価を発揮する。
 この部隊は前衛・中衛で構成された突撃主体のチームだ…、各自が臨機応変に動き決まったフォーメーションなんて無い…基本的な型は守っているが…
 それなら………
 「なるほど…でお飾りならなんで俺なんです、それこそ誰でもいいじゃないですか。」

 「それはキミの知名度よ。」

 「知名度…ですか?」
 なんで知名度が指揮官に関係あるんだ?
 「そう、XM3を開発した白銀武という名前はある程度の融通を利かせてくれるわ、それに武御雷に乗っているのも帝国軍に顔が利くし…」
 「つまりコネを使えるように…ですか」
 「そうよ…あまり褒められた手じゃないけどね…部隊の皆を守るためには時にはそういうことも必要なの…、それに私達は国外へ脱出するわ…どんな扱いを受けるか解らない…けど、今やXM3は世界中に普及している…あなたの名前は部隊を守るために役に立ってくれるでしょう。」

 ………なるほど…そういうことか…

 不本意だが俺の名前は有名だ…XM3開発の(考案だけど…)功績があれば理不尽な命令は最低限かわせるだろう。
 …俺の名前なんかで部隊の皆が守れるなら…

 「解りました…ただホントに名目上だけですよ…」
 「ええ…あなたに部隊指揮は期待していないわ。」
 隊長の容赦ない言葉が俺の心をエグる
 …ううっ…俺の価値って……
 「…………クスン……そんなにハッキリ言わなくても…」「はははははははっ!!」
 後ろで柏木が腹を抱えて爆笑している、…くそっ…言い返せねぇ

 後ろで爆笑している柏木は置いといて隊長が任官と引継ぎの挨拶をする。
 「白銀武、現時点をもって特別野戦任官として大尉に昇進とし独立遊撃混戦部隊第28部隊の隊長に任命する。」寝ながら左腕で敬礼をする朝霧隊長…軽い痛み止めを投与しただけだから今でも幾らかの痛みがあるのだろう…しかしそんな様は微塵も見せない。
 隊長は部下に弱みを見せてはいけないと言うが…流石だ。
 こちらも敬礼を返す。
 「了解しました。白銀武、現時点をもって独立遊撃混戦部隊第28部隊、隊長を拝命いたします。」

「………」
「………」
「………」

 その後各種手続き(コンピューター上の登録だけ)を行い俺は正式に隊長になった。
 「お飾りだけどね…」(ボソッ)響少尉がボソッと呟くが気にしない。
…ああ!気にしてねぇよっ…ふんっ…。

 やがて医療部隊の準備も終わり朝霧隊長はそのま後方に輸送されることとなった…

 「あ…私も付いて行きます。」
 医療部隊出発の時に急にミナルディ中尉が言った。
 「ミナルディ、どうしたんだ?」ヒュレイカ中尉が珍しく心配そうに声をかける。
 「やはりいくらカスタムしてあるといっても第二世代戦術機、第三世代程には強度が続かなかったようです。恐らく分解整備なしの戦闘は後2度程度で限界でしょう。」
 それは……
 たしかに第二世代戦術機は強度的に第三世代戦術機に劣る…しかし…

 「そんなに違いがでるものなの?」

 響少尉の疑問は当然だ、特にミナルディ中尉の機体は指揮官用のをカスタムしたやつだ…。
 「皆さんの機動は水準を大きく上回っています…もちろん私もです。普通の機動なら問題なかったのでしょうが…機体が私の操作についていけなかったんですね。…こんなことならとっととラプターを巻き上げとくべきでした……。」
 普段は表に出ない根本的な潜在性能の差で第二世代は第三世代に及ばないということか……、後半は聞かなかったことにしよう。
 「で…どうする?」
 鮎川大尉が俺に聞いてくる…てなんで?
 「こういう時は隊長が判断を下すべきでしょう。」
 「お飾りだけどねぇ~~」
 御無中尉…くっ、響めっ!後で覚えておれよっっ!
 「わ…解りました、許可します。」
 慌てて許可を出すが…
 くぅ~~、むちゃくちゃ…緊張する…。

 「ありがとうございます。白銀隊長殿。」

 ミナルディ中尉…絶対面白がってるな…こら後ろっ!笑うな…
 後ろで全員笑い転げている、ああ…御無中尉、あなたまで…。
 俺が苦虫を噛み潰しているとヒュレイカ中尉とミナルディ中尉が二人で話を始める…あの二人なんだかんだ言いながら親友だからな…
 やがて皆の笑いもおさまり…中尉達も別れの挨拶は済んだようだ。
 皆が一列に並ぶ…別れの時だ

 「鮎川…御無…響…白銀…柏木…ヒュレイカ…」朝霧少佐が俺たちの顔を見渡す。
 「さよならは言わん、大仰な別れも必要ない…また何時か何処かの戦場で会えることを信じて…この別れを胸に刻もう。」

 朝霧少佐…

 そうだ…これが永遠の別れではない…
 何時か…またこのメンバーが揃う事を信じて…

 その言葉通りに…そのまま女医の先生に連れられて朝霧少佐は行ってしまった。
 やがて医療部隊はミナルディ中尉と護衛2小隊を引きつれ去っていく…。

 「朝霧隊長…あんたはスゲェ人だったぜ…」
 「うっうっうぅぅぅぅうぅ」

 武の呟きが風に乗る…、響少尉の嗚咽が空間に響く…
 武達はその姿が消えるまで敬礼を続けていた。






少し思うところがあり文体を試行錯誤しました。読みにくかったらゴメンナサイ、
 朝霧隊長撤退…これは予定通りです。ミナルディ中尉も一緒に撤退させました…彼女は物語に深く関わる話がないからです、…柏木が入って来たせいです。
 この話はもともと1小隊(6人)プラス月詠と博士の8人構成でしたが柏木が台頭してきたおかげで予定が狂い急遽ミナルディ中尉も撤退させ当初の予定通り8人構成に戻しました。
 これ以上は地球奪回まで主要キャラが増える事はありません。サブキャラは出てきますが…
 あと私は「締め」が苦手です。読んでると自分でも思うのですが…前半に比べて最後が…精進したいです。
 では次話で……月詠さんが出るのは次の次、13話です(たぶん)。

 ちなみに1小隊は4人ですがこのSSでは少し多くても(6人)小隊で纏めています。8人は微妙なので部隊…と呼称。
 白銀達は混戦部隊を臨時に編成し所属している…という形になっていて所属は元の部隊のままです。武は207のままだし柏木はA-01のままです。



[1115] Re[10]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/26 23:12
2004年5月19日…世田谷最終防衛線


 響が喧騒が収まった格納庫に足を踏み入れるとその姿が目に入った。
 「あ………」
 16日の夜に世田谷区の最終防衛線に到着した第28部隊は幾つかの防衛線に参加した後、つかの間の休息を貰い、その間に各機体の整備を行なっていた。
 その喧騒も一時収まった格納庫の隅で漆黒の武御雷…自分の愛機を見上げる人…

 「お兄ちゃん…」

 少女…白銀響はその姿を見つめそっと呟いた。
 彼…白銀武と合流してから3週間足らず、表面上は納得をしたものの響は今だ武の中に死んだという己の兄の面影を見出していた。
 今現在も己の愛機を見上げながら浮かべる優しい微笑…、それは響の兄が自分の大切なもの…隣に住んでいた大好きなお姉ちゃん…鑑純夏に時折向けていた微笑にそっくりだった。
 不意に武がこちらに振り向いた。入り口に佇む響に向かって声を上げる。
 「よう響少尉…、そんな所で突っ立ってどうしたんだ?」
 さっきまでの微笑とは違う明快な笑いを浮かべて…、その声に正気を取り戻した響は武の微笑に見とれていた自分を振り返って恥ずかしくなった。

 「なんでもありません!…隊長こそどうしたんです。」
 照れ隠しに声を張り上げながら武に近づく。
 「おいおい、隊長はよしてくれ。武で構わねぇぜ。」
 笑って言う武に腹が立つ…自分は兄と混同しないためわざわざ階級や役職を付けているのに…
 「いいえ、それは結構です!。それより…」
 一瞬言いよどむ…先程の武の顔が脳裏にちらつく…違う…。
 響の言いよどんだ質問をさっきまでの自分の行動に結び付けたのか武は勝手に喋りだす。
 「ああ…修理し終わったんで眺めていただけだ…。」
 「随分熱心に眺めていましたね…。」
 その言葉に武はまたも先程の微笑を浮かべる。
「…この武御雷は色々な人の想いが籠められているからな…それを想いだしていた。」

 『ズキン…』 

 その微笑に響の胸が痛む…羨ましい?…違う…この人はお兄ちゃんじゃない…優しい微笑を浮かべられる純夏お姉ちゃんが羨ましくてしかたがなかった…違う…違う…。
 胸の内の葛藤に気づかず…自分でも無意識にに押し隠し聞き返す。
 「想い…ですか?それは冥夜と慧というお二人の事ですか?」
 「そうだな…、でもその二人だけじゃない。機体に自分の戦闘パターンを入力してくれた冥夜・慧…、俺が機体を使うのを許可してくれた悠陽殿下…、そしてデータの換装や機体調整を手伝ってくれた委員長・タマ・鎧衣…、沢山の想いがこの機体には籠められている。」
 そう言いながら優しく武御雷に手を伸ばす、それはまるで愛しい女性を愛撫するかの様な優しげな手つきだった。
 響はそこに佇む漆黒の武御雷を見上げる。先程までは恐ろしく感じていた機体が何故かとても神々しく感じられた…。
 何故かは分からない…けどこの武御雷からは母性、そう…母親が愛しい子供を包み込むような暖かな母性が感じられた。響にはそれが何故か理解できてしまった。

 「そう…お兄ちゃんを守っているんだ………。」

 理解と共に突然意識下に湧き上がってくる感情…、
 嫉妬・憎悪・諦め・羨ましさ…。
 何時の時も自分はお兄ちゃんの一番ではない…武がお兄ちゃんではないことは納得している…けど感情では納得できない。自分は一番お兄ちゃんが好きなのに…何故…なんで…どうして…?

 どうしてお兄ちゃんは私のお兄ちゃんだったんだろう…?でも武なら…兄弟でない「お兄ちゃん」なら…別人でありながら兄そっくりな武なら…
 暗い感情が響の心を満たす…武は「お兄ちゃん」ではない…それを完全に認めてしまえば次に来るのは…。
 それは限りない矛盾だ…兄であって欲しくて兄であって欲しくない…、兄なら良い…けどそれじゃあ一緒になれない。兄ではない…なら自分と一緒になれる…けどそれは自分の大好きだった「お兄ちゃん」ではない…。
 限りない思考のパラドックス…でもそれに答えが出たとしてももう遅いのだ…実の兄は死んでいるし、武には既に恋人がいる…自分の入り込む余地はない…。

 響の思考は深く沈みこみ鳴動する…表面的にはそんな思いは出てこない、普段は武を「兄そっくりな人」として認識している。しかしことあるごとに響の意識の底…無意識下の領域ではそんな暗い感情が鳴動しているのだ。それを普段の響は知らない…だが無意識の想いは募り続ける…。

 「よう…少年達よ。何をやってるんだ…」

 静かに並んで武御雷を見上げていた二人の背に声がかかる。力強く自身に溢れそれでいて子供の好奇心を忘ていない…そんな不思議な力強い声だ。
 「いやあ、修理し終わったからどんなものかって…」
 「はは~ん、大丈夫だって…なんたってこの武御雷は悠陽のために私が直接指揮を執って一から作ったんだ…螺子の一本までキッチリ仕上げといたよ。」
 艶やかな腰までの黒髪に淵無の小さい丸めがね、純白の白衣をひるがえすこの女性は名を「鳳 焔(おおとり ほむら)」と言う。
 武を訪ねて世田谷最終防衛線まで来た焔はそのまま武御雷の修理を行なった。彼女は帝国斯衛軍第一技術開発室長で現将軍代行の友人でもあり、その手伝いをしていた時武の名前を見つけ自分の役目を全て片付けた後にここにやって来た。
 夕呼先生の他称ライバルで自称友人…武のことも夕呼とのやり取りで知っていたらしく、武も最初出会った時は驚いた。

 驚いたのは武だけではない…彼女は第一技術開発室長…つまりは事実上研究所で一番偉いのだ。機械工学の天才で日本の第3世代戦術機や現兵器の多数は彼女の力なくして実現出来なかったとも言われている。そんな人物がわざわざ武に会いに出向いてきたのには一時様々な憶測が飛び交った。
 焔博士は武と話した後…彼の武御雷の修理を始めた。
 焔博士は武御雷の開発者でもあり…この将軍専用武御雷を「将軍」ではなく「友人」の悠陽のために作り上げたのも彼女だった。

 武御雷は城内省が「瑞鶴」に代わる次期主力機として開発させた機体であるが、その開発は焔博士ともう一つ…城内省に付随する大企業(大空寺)が請け負い最終的に焔博士の開発した「武御雷」が採用された。
 もう一つの「瑞鶴」から作られたトライアルの機体「甕速火(みかはやび)」は武御雷に劣らぬ優秀な機体であったが製作者の趣味のため、その名の示すがごとく力強くなりすぎ安定性が今ひとつ(武御雷と比べてであって水準はこえていた)だったため武御雷が採用された。甕速火は現在50機ほどが試験的にロールアウトされ希望したベテランの衛士に配備された。現在でも30機程が稼動している。
 (ちなみに今後作られることになる「武雷神」は武自身が、武御雷の名を冠する真なる「建御雷」と呼んだ。その後作られることとなる迦具土神(かぐつち)も同様に別名で呼ぶことがあった)

 「そりゃありがたいです。連戦でコイツも疲れきってましたから…」
 「ふ~ん…。いいね…機体を生きているかの様に扱えるヤツはその機体と魂を同調させている証拠だよ…。」

 「同調…ですか?」

 武と焔の会話に響が疑問を挟む。
 「お嬢ちゃんにはまだ解らんか…、物体…機体にだって魂はある…日本は八百万の神を信仰してきた民族だ…その考え方が私は好きだからね…まあ譬えだよ…。情報蓄積によって機体はまるで自分の分身のようになってくる…ベテランの衛士はその「機体の中の分身」に人格を見出す、もちろんそれは幻想さ…。しかし機械との情報の会話はあたかも機械自身が生きているかのように感じられる…。」
 などと言われるが響にはそこまではまだ実感できない…「自分の力量がたりないから…」、自分の実力はまだまだだとは分かっている…、同年代からすれば飛び抜けて優秀な方だがこの部隊の皆は更に優秀なのだ…。
 …一応言うがこの部隊の衛士は他のベテランより錬度は数段上だ…長く一緒にいる響はそれに引きづられ上達も早い…

 「私ももっと強くなりたいです…。」
 そんな呟きが口から漏れる…
 「なんだ、落ち込んでるのか…。まあ強さなんて一朝一夕で身に付くもんじゃない、日々弛まぬ努力だよ…。私はよく天才と言われるが天才という言葉は嫌いだ…何故か分かるか二人とも」
 二人は同時に顔を振る。
 「天才なんて言葉は逃げだ…そう言って自分と成功した他人を比較する…。いいか、成功した者だって弛まぬ努力の上にそれを成し遂げたんだ…それを「天才だから」の一言で片付けられるか…。」
 「才能というものは個人差がある…それは否定しない、人には向き不向きがあるのは事実だ。私は機械工学に関しては飛び抜けて才能があった…しかし生命学はてんで解らなかったし化学も苦手だった…。
だが私は日々努力した…今の地位と実績はその努力の結果だ。…だがその結果を「天才」の一言で片付けられるのは非常に不愉快だ、私は「天才」という言葉に「羨ましい」「妬ましい」というルビが振ってあるのが見えるよ。」
 焔の痛烈な言葉に響は今一度己を省みる

 「そうですね…私にはまだまだ出来る事が沢山あります。」
 「うむ…、少女よ…日々努力だ。」焔がうなずく…
 「そうそう・・・、日々弛まぬ努力だぞ。」武も笑って言うが…

 「武大尉に言われたくありません!」

 「ぐはっっっっ!」

 強烈なレバーブローが武を襲った…
 先程まで兄の面影を追っていたせいなのか…条件反射的につい手が出てしまったようだ。
 帝国軍人として厳しく躾けられている響だが偶に武には気安く接してしまう。
 「うううっ、不意打ちとは…」武は腹を抱えてよろける、足元はガクガクだが辛うじて立っている。
 「お姉ちゃん直伝の一撃です…、っていうかなんで立ってられるんです…?」
 響は不思議そうに首をかしげる。訓練生時代、言い寄ってくる男や、彼女の才能を妬む者を幾度となく地面に這い蹲らせた隣の家の姉直伝の伝家の一撃だ…喰らって立っていた者は数えるほどしかいない…。

 「ふ…ふふふ、ふふふふふふ…。」

 腹を押さえ下を向いた武の突然の不気味な笑いに響は思わず後ずさる。
 焔は少し遠くで面白そうにニヤニヤと見物している。

 「ふふふふふふ、ふははははは…、確かに効いた…今の一撃は全国一位を狙える一撃だ…。だが、しかし…俺はいつもいつもいつもいつもいつもいつもそれこそ毎日!!!慧の嬉し恥ずかし照れ隠しの一撃をもらい続けた…世界を狙える一撃に慣れた俺にそんな一撃などきっか~~ん。

 「効いてたくせに(ボソッ)」

 「あ…あれはちょっと油断していたんだ…。」
 「ならもう一度喰らってみますか…?」

 「イイエ…エンリョシテオキマス。」

 武はブンブンと首を振って後ずさる…
 響は右腕をクイックイッと動かしながらジリジリと後退する武に擦り寄っていく…
 そして…
 その喧騒を眺めている焔は…

 「う~ん、若いっていいねぇ~~。」

 格納庫内を走り回る二人を生暖かい目で見詰めていた…。
 「え~~い、待ちなさい。こらっ…まてーーーー!!!」
 「待てといわれて素直に待つかーーーー!!!」
 「往生際がわるいわよっ、お兄ちゃん!!!」

 「結局最後はこうなるのかーーーーー!!!」
 
 続いていく喧騒…頑なだった響の態度はいつの間にか無く、武とのじゃれあいに亡き兄との思い出を重ねていた…。
 胸に秘めるのは亡き兄に対する想いか…武に対する想いか…。今はまだ響自身にも解らない…





 

 難産でした…風邪ひいたし…。妹キャラって案外難しい…。色々考え三人称にも挑戦…。
 響はただの妹キャラではありません…まだまだ先になりますが秘密があります。…っていうかそこまで書けるように頑張りたいです…。



  
 ちなみに甕速火(みかはやび)は甕速日神(みかはやひのかみ)からです。
 建御雷之男神(武御雷)と同様に「迦具土神(かぐつち)」が十拳剣「アメノオハバリ(天尾羽張)」で殺された時に、その刀身の根本からの血が岩石に落ちて生成された時に生成された三柱の神の一人です。
 火と怒り、剣の威力を称えた神名です。



[1115] Re[11]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/28 17:45
2004年5月21日


 全ての一般市民及び軍事関係者が本州より脱出し、残るは最終防衛線である世田谷・杉並・練馬を守る軍人と皇居に残る御剣真貴達だけになった。
 21日…最終撤退命令が発令され最後の軍人達も各自の判断で後退を開始。
 御剣真貴とそれを守る衛士達も彼らと時を同じく東京湾への撤退を開始した…。




 「くそっ…、なんでこんな所にBETAが!!!」
 帝國斯衛軍皇主守護大隊の一人が声を上げる。
 皇居から出発し千代田区を抜け中央区に差し掛かった所でBETAの一団にぶつかった。既に防衛戦線は解散したとはいえ、つい先程までは機能していた…、この場所にBETAがこれほどまでに存在するのは計算違いもいいところだった。
 「一体何所から湧いてきたんでしょうか?」
 「解るか!……防衛線を抜けていたか解散と同時に一直線にここを目指したか…?」
 隊の衛士が声を張り上げる…。
 実際何事もなく船に到着出来るはずだったのだ…このBETAの一団と遭遇しなければ…。
 不意の遭遇戦…それでも彼女達は選び抜かれた歴戦の勇士達…どんな状態でも油断するべくもなく、慌てずに対処した。
 帝國斯衛軍皇主守護大隊の将軍直属の部隊は2部隊存在する、総数は72…この内常時詰めているのは1大隊だけで残りは外の様々な役目に回る…が現在は全機存在していた。
 72の歴戦の勇士が乗る武御雷の力は流石で、最初に現れたBETAの一群を短時間で殲滅した。
 しかし…

 「くそっ!!新手だっ…」

 新たに現れるBETAの一群…
 「埒があかない…このまま一気に船まで行きましょう。」
 一人が叫び声を上げるように進言するが…
 「だめだ…!、まだ避難してきてる者達がいる。このままBETAを港まで連れて行ったら船とその者達の命が危ない…」
 真貴が声を張り上げる。
 「それは……」進言した者が言葉に詰まる。確かに…後続が続くBETAを引き連れて避難が完了していない港に向かえば避難している者や船に被害が出るだろう。
 …くそ…どうすれば……
 真貴も隊の者も思考をめぐらす

 …その時…
 「私がここでBETAを足止めします。…将軍達はその隙に港に避難を。」
 突然月詠からの通信が入る。
 真貴は一瞬何を言われたのか分からなかった…。いや理解は出来ていたが気持ちが否定していた…
 月詠は真貴と目を合わせ坦々と説明する…。
 「将軍代行を危険に晒す訳にはいきません…、貴方は国外へ脱出した人々の希望であるのです、しかし避難する者を危険に晒せないのも事実…。なればこそ、ここで私が敵を引きつけている間に港へ向かってもらうのが一番の良策。」

 「月詠…」

 真貴は複雑な顔をする…。彼とて自らの重要性は理解している、この場合誰かがBETAを足止めし、その間に自分を含めた残りの者が港へ向かうのが一番の策だと判断できる…が…、
 出来ればそんな…誰かを盾にする様な方法は使いたくなかった…
 だが、己の立場ゆえ…たとえ心がその策を否定しようとも…自らの信念より優先しなければならない事も存在するのだ…。
 しかし月詠がその役を買って出た…。
 ある意味真貴がこの策を否定していたのはこの為だ…この策を実行するとすればほぼ確実に月詠が名乗りを上げる事は明白であったから…。
 彼女は己の部下を死地に送ったりはしない…率先して自分がその役目を負う…、そういう人間だと真貴自身が誰よりも知っているから…。

 「だめです!!!…月詠隊長、残るのなら私が…」
 「そうです…月詠隊長は隊に必要なお方です…」

 月詠の部下…第1守護大隊の衛士達も次々に進言するが彼女の心は変わらない…。
 真貴も月詠に残ってほしくはない…しかし、長い付き合いから月詠がこういう時絶対に意見を曲げない事を知っていた。いや……知りすぎていた…。
 だからこそ…
 戦闘は継続中だ…真貴は敵の押さえを第2大隊に任せると通信越しに月詠に向きなおった…
 「月詠……」彼女の目を見詰め静かに声をかける。
 「はっ……」月詠も敬礼して真貴の目を見詰める。
 戦闘中の会話であったが、二人の間にその喧騒は届いていない…。
 「命令ではない…、共に戦ってきた戦友として言う…、死ぬな…。」
 「解った…、その言葉…ありがたく受け取ろう…。」
 真貴はどうしても月詠に命令できなかった…。それは真貴自身の彼女に対する様々な想いから自然に出た言葉であった。
 月詠もその意思を感じ取ったのか、彼女にしては素直に礼を述べた…。

 「「「月詠様」」」

 神代・巴・戒、月詠の率いた初めての部隊からの彼女の直接の部下達は自分も一緒に残ると暗に訴える…しかし彼女達も解っているのだ…月詠がそんなことを承知しない事は…それでもそう懇願してしまう。
 「神代・巴・戒……。真貴様を頼む……。」
 月詠は3人の顔を順に見ながらゆっくりと述べる…その後彼女の部下達一人一人の顔も見詰める…。
 「…………」
 全員に言葉はない…、彼女達はその目線で言葉よりも雄弁に語り合ったのだ…。
 真貴も…長く共に戦ってきた月詠の部下達も、彼女が敵を食い止めるだけではなく敵を誘き寄せ足止めしようとしている事も理解できてしまった…。

 「敵…第3波!!!来ます。」

 敵第2波を抑えていた第2大隊の声に全員が我に帰る…。
 敵の新手が間近に迫っていた。
 「相川少佐、私の部下達を頼む…」
 第2大隊の隊長に告げ…
 月詠は敵に機体を向ける…
 その背中は最早こちらを振り向く事は無い。
 真貴達は断腸の思いでその場を離れて行く…。
 最早言葉は要らない…別れの挨拶もなく次々とその場を離れる…
 月詠は背中でその気配を感じていた…

 …が何時までも残っている気配が2つ…月詠は訝しげに機体識別反応を見る。
 「どうしましたか、お二方…。」
 残ってた2機は第2大隊の者だった。どちらも月詠の先輩で歴戦の勇士だ…。
 2人は傍目には無感情に述べた…
 「同情などと思うなよ…、1機より3機の方が時間が稼げるからだ…。」
 「そうそう、港は目と鼻の先だからね…、ここで目立てばBETAの破壊目標の優先順位はこちらに移る、そうすれば港の者達の安全を守る事にもなるからね。」
 「言っておくが私達は第2大隊の者だ、あんたの命令は聞かないよ。」
 彼女達の言葉…それは本心だろう、…しかし月詠にはその本心に隠れた心遣いが嬉しかった。
 「感謝いたします…。」
 ただ一言の感謝を…。
 そして… 
 BETAの群れが怒涛の勢いで戦術機の戦闘圏内に進入してくる、彼女達は不退転の意思でBETAの群れに立ち向かっていった。






 「ハアッハアッハアッ」
 月詠は息を整える… 
 『あれからどれくらい経った…、何体のBETAを始末した…。』
 既に時間の感覚は無い、恐らく2時間は経っていないだろうが…
 最早数える事も煩わしい程にBETAを始末した…。弾薬も底を尽き、月詠の真紅の武御雷は致命的損傷こそ無いが多数の傷が存在していた。それは他の2機も同様だ。
 「くそっ、弱音は吐きたくないがそろそろ限界だね…。」
 「恐らく、…あと少しで撤退完了の報告が来ますよ…。」
 山下大尉と冬川大尉が口に出す…。
 それは事実だろう…しかし…

 「また来た…新手だ!!!」

 山下大尉が叫ぶ…、
 敵は要撃級と突撃級だけ…対人級や光線級は既に何日も姿を見せていないし要塞級もここ数日は姿を見ない…で形成された一団だ、しかし数が多い…彼女達の目論見通り付近のBETAは優先目標を月詠達に設定していたため後から後からBETAが寄って来ていたのだった。
 彼女達は鬼神のごとき様相で奮戦する。
 ……だが、

 多勢に無勢…破局は訪れる……

 連続戦闘によるほんの少しの集中力の乱れ…普段なら問題ないほんの一瞬であったが…たった3機、お互いのフォローが容易ではない状態でのこの一瞬は致命的であった。
 横合いから突撃してきたルイタウラの装甲殻が機体の右足に直撃し体勢を崩す…冬川大尉はそれでも機体を立て直そうとするが右足は最早完全に動かない。
 それでも片膝を付いた状態で7隊のBETAを葬った…がそこが限界であった。
 横合いからのメデュームの前腕の一撃、迫る前腕に彼女は無意識に長刀でのカウンターを返し…、自分を殺したメデュームと相打ちとなった。

 「ピーーーー……」

 嫌な音と共にシグナルロストの警告が響き渡る、
 月詠と山下大尉は激戦の中、同僚の死をハッキリと目撃していた…
 しかし悲しみに浸る暇もなく戦いは続く…

 だが敵の勢いは衰えず…

 山下大尉は4体のメデュームから同時に前腕での攻撃を受けた…それが偶然だったのか狙ったのかはともかく…、4本の内2本が右胸下部と左肩に直撃する。
 左腕は付け根から吹き飛び、コクピットも半分近く潰れた…致命傷を受けた山下大尉は朦朧とする意識の中で自分を死に追いやった4体のBETAを残る右腕に持った長刀で斬り殺す…がそこで力尽き絶命した。

 「ピーーーー……」

 …味方のシグナルロストの警告は何時聞いても不快な気分を運んでくる。
 月詠はBETAを屠りながらその場面を横目で目撃し、その音を聞く。
 最早自分の事に手一杯で味方を助ける余裕など欠片もなく…

 「く…許せ……。」

 何に許しを請うのか…それは考えるべきではない。彼女達は自らの意思で死地に臨んだのだ…それを自己の理由付けで謝罪しては彼女達の意思を貶める事となる…
 だからただ一言

 「許せ」と…。

 2人共最後の最後まで敵を倒す事に命を燃やし尽くしたのだから…。
 その思考も一瞬。この激戦の中、長く死を悼む時間もない…
 もはや自分一人…月詠は覚悟を決める。
 その時、待ち望んだ撤退完了の通信が届く…
 だが現状自分一人、敵に囲まれ脱出は困難…
 しかし…

 「ここで死ぬわけにはいかぬ…」

 月詠は覚悟を決める…
 ここで命を燃やし尽くし仲間の後を追うことはとても甘美な誘惑だ、
 だが月詠はそれを良しとしない…、
 なぜならば…生きて戦い続ける事こそが死せる者への最高の弔いとなり生きる者達の力となりうるからだ……
 BETAの猛攻が一端途切れた隙を狙い体勢を立て直す。
 そして月詠は単身敵中突破を敢行しようとするが…その瞬間…
 自機のレーダーに機体反応が現れる…
 それは周囲のBETAを突っ切って一直線に此処に向かって来る。

 「この反応は…」

 月詠は直ぐには信じられなかった。
 その機体識別信号は月詠の機体データに該当があった。

 『征夷大将軍専用武御雷』

 それはまさしく悠陽専用…、悠陽が冥夜に送った将軍専用武御雷の識別信号であった。
 しかもこの反応は普通の識別信号とは違い、製作者の焔博士が機体の中に埋め込んだ月詠他数名しかその存在を知らない特殊な識別信号だ…間違える筈がない…。
 その反応はあっという間に月詠の場所まで突っ込んできた…
 黒い旋風が月詠の背後に降り立つ…

 その様は…威風堂々。

 本能的にか…、BETAも一端距離をとる…。
 色は違えど正に将軍専用の武御雷であると月詠は確信した。

 「しかし…一体誰が…?」
 月詠は誰が操縦しているのか…と心の中で一瞬思ったが…。
 「…ふ……、愚問であったな…。」
 直ぐに操縦者に思い当たる。
 冥夜と悠陽は宇宙に上がったはずだ…となるとおのずと答えは導き出る。
 二人に面識があり、この武御雷を託されそうな人物など一人しか居ないではないか…。
 戦闘中にも関わらず月詠は思わず口元に笑みを浮かべた…。
 相手からの通信……聞こえて来た声は……

 「お久しぶりです、月詠さん。助けは要りますか?」

 相変わらずの馴れ馴れしい口調だ、2年経っても全く変わってはいない。
 「お前の腕が2年前より上がっているのならな、白銀武。」
 月詠も不適な笑いで言葉を返す。
 不思議だった…
 先程まで絶望的な状況で…、今もBETAに囲まれているのに…、
 それは月詠の直感だったのか…
 コイツが背中に居れば絶対に大丈夫だとなぜか確信してしまった。
 武の今の力量など全然知らないというのに…。

 「後から仲間が来ますんでそれまでの辛抱ですよ…。」
 「なるほど…それならば安心だな。」
 「あ…、ひでーーっスよ。俺の腕を疑っているんですか?」
 「当たり前だろう…貴様の腕なぞ毛程も信用していない。」

 背中合わせに言いあいながらBETAを屠る…
 二人は互いの死角をカバーしながらBETAを斬り捨てる。
 月詠にはその理由が解らなかったが武と月詠…二人の息はピッタリだった。
 それは武自身の現在の機動が月詠の動きを研究して形作られたものだからに他ならない…

 先程まで絶望的な状況だったのに…

 月詠は武の軽口に合わせて自分も軽口を返している事が信じられなかった。
 自分は戦場では実直な兵士であったのに……、
 こんな高揚感は今までで初めてであった。
 他人に背中を預ける安心感…
 今まで常に護る立場にいた月詠は、訓練生時代…真貴に対しても己の背中を完全には預けていなかった…しかし今この時は……

 一時の気の迷いだと……
 絶望的状況下での一瞬の気の緩みから生まれた一時の感情だと……
 自身にそう言い聞かせ納得させた……。
 こんな甘美な事を認めてしまえば自分は…
 しかも相手は「あの」白銀武だ…。

 …しかし…今この時だけは…
 今だけはコイツの背中を借りて戦おう…



 2つの旋風は1つの嵐となりBETAを蹂躙する。
 それはさながら雷を纏う暴風雨の様でもあった。








 やっと月詠登場。色々端折っちゃったけど…。
 色々書き方試行錯誤中です…。もう少し会話で埋めてもいいんすかねぇ…。
 間違いは生暖かい目で見てやって下さい。…気を付けているのですが…。
 では次回で…






追伸)帝國斯衛軍皇主守護大隊は「皇宮護衛官」の様なものをイメージしています。ただこの2部隊は所属はあくまで将軍です。城内省直属の皇宮護衛官も存在する設定です…恐らく出てきませんが。
 「親衛隊」では私的集団のイメージが強いので…。



[1115] Re[12]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/29 17:19
2004年5月21日…港区→中央区付近




 5月19日に世田谷最終防衛線に到着した私達の部隊は、武大尉を訪ねてきた焔博士の突貫での戦術機分解整備を受け、翌20日から防衛線に参加した。
 翌21日…御剣真貴将軍代行の、全市民及び軍関係者の本州脱出完了報告と共に最終防衛線を構築していた軍人達の脱出命令が下る。
 世田谷防衛線は港に一番近くここを抜かれると港まで一直線のため、足の遅い車両と練馬・杉並防衛線の退避を最初に行い、世田谷防衛線の衛士は本当に最後の脱出となった。

 最後の脱出という事で不安はあったが、防衛線の衛士は誰一人として不満は漏らさなかった、むしろ仲間の安全のため嬉々としてその命令を受けていた。
 それに…将軍代行直々の命令で殿を任されるのは衛士としてとても名誉な事でもあったからだ。
 勿論私も…恐怖はあったが…
 この時、武大尉は焔博士も車両部隊と共に脱出させようとしたが、本人がそれを拒否した。
 私もビックリしたけど…なんと自分の武御雷があるという。
 思わず武大尉とハモッて

 「「操縦できるんですか!!?」」

 と大声で叫んでしまったが……ううぅ…恥ずかしい…
 焔博士は
 「創り手たるもの、自分で作ったものを自分で確かめてみないでどうするんだ。」
 と偉そうに言い放った。
 博士の噂をよく知る鮎川大尉によると、彼女は自分で作った戦術機や武器などは自分で動作を確かめてみないと気がすまない性格で、好奇心の塊…子供心を忘れていない人物として有名であるらしい…。
 私がその噂を知らないと言うと呆れられた…むぅ…、帝国軍では有名な噂らしい…
 ちなみに私が特別衛士養成教程に進んだ時の事を何故か偶然に知っていたらしい。
 私を認めると、近寄ってきて…

 「おーおー、あの時の小娘か。でかくなったじゃないか!」

 と背中をバンバンと叩かれた。
 …あの時の自分の事は…
 復讐に駆られ強くなる事しか頭になかったあの頃…。
 ただ我武者羅に力を…更なる力を求めていた…、
 …お兄ちゃんを…家族を…、全てを失った…小さい子供だった私には「復讐」という目標に縋って生きるしか…、それしか「生きる」事に道が見出せなかったのだ。

 今はそうでもない…、復讐という麻薬のような感情に身を浸していたあの頃に比べれば…、朝霧隊長…当時は特別教官だったが…のお陰で…仲間も…生きる目的もできた。
 朝霧隊長は復讐の念は悪い事ではないと言った、しかしその感情に染まり続ければ待っているのは自身の破滅だけだと…。
 未来を夢見る事こそが「生きる」という事だ…過去に捕われ動けないのは…それは何の糧にもならない、自身の成長もない…。
 復讐によって過去の怨嗟を払拭するのではない、「憎悪」「怒り」というエネルギーを未来への道を切り開くのに使えと言われた…、

 おかしな考え方だ…

 …でも今は…隊長の言いたかった事が解る。
 感情というエネルギー、プラスもマイナスも…全て生きる為に、未来の為に使えという事だろう。本当の所は…隊長に聞いた訳ではないので解らない…けど私はそう決意した。
 だから…過去の事はみっともないから封印していたのに…
 焔博士があることないこと興味深々の武大尉に言いふらそうとするから…。
 流石に焔博士を殴るのはヤバイので…武大尉を懲らしめておきました。
 …ああ…帝国軍で上下関係を厳しく躾けられたのに…何故か手が出てしまう…。

 ……で結局…焔博士は自分の武御雷で私達に付いてくる事になりました。
 博士本人曰く、「私は戦闘が苦手だから逃げるのと自衛だけで精一杯だからな…」という事。
 護衛は要らないと言うけど…「逃げる事に特化した武御雷」というのも…なんだかなぁ…。 
 そして21日…私達独立遊撃混戦部隊第28部隊は世田谷最終防衛線を出発した。 
 港区に差し掛かった時には既に前面にBETAが展開しており、無駄な戦闘を避けるために千代田区方面に少し迂回して江東区の港を目指す事にした。
 そして中央区に近づいた時、急に武大尉が飛び出して行ってしまう。
 通信画面が開き、

 「知り合いがピンチだ、突っ込んで助けるから後から援護に来てくれ!」

 と…隊長のクセに1人で突っ込んで行ってしまうなんて…

 「響っ!ぼうっとしてるな。私達もいくよっ!」

 鮎川大尉の声で我に返り反射的に機体を全力稼動…
 レーダーを見ると確かに探知範囲の隅で1機の武御雷がBETAに囲まれている。
 武大尉は…さすが特別な武御雷…あっという間にすっ飛んで行く、そしてスピードを落とさずにBETAの群れに突っ込みそのまま前進…BETAの包囲網の中で孤立していた武御雷の隣まで辿り着く。

 …なんていう早業……

 呆れる位の突貫力だ…、XM3の開発者というだけあり機動力は恐らく最高位。
 そしてそのままBETAとの斬りあいに入る…、
 その時私達はやっとBETAが密集している場所の外周に到着した。
 そして…私は……それを目撃した…。

 鬼神……そう正にそこには……2体の…真紅と漆黒の鬼神が存在していた。

 望遠した画面に映る映像は…一瞬そこが現し世かと疑った程だ。
 武大尉は強い…私なんかより数段…それは認めていた。
 でも総合能力では鮎川大尉の方が強い。
 近接戦闘の経験・駆け引きではヒュレイカ中尉に及ばない…
 剣技では御無中尉に劣る
 遠距離射撃と状況把握は柏木中尉…
 空間把握と射撃は私と同等…
 つまり武大尉が優れているのは機動力関係だけで平均的には、私以外の皆と強さはあまり変わらないのだ…。

 しかし…しかしそこに存在したのは…

 「水を得た魚」という言葉があるが…
 真紅の武御雷と背中合わせに戦う漆黒の武御雷…
 片方が斬ればそれに合わせ、もう1機が出来た死角をカバーしながら斬り倒す…その繰り返しだ…ただそれだけなのに…
 …美しくて…、雄大で…、神々しくて…、その様は正に威風堂々…
 思わず操縦桿を握り締めた…、
 敵に囲まれた時の対処の仕方で…味方との背中合わせの戦いの練習も行なった。しかし背中合わせ…特に刀を使った斬りあいは余程相手の動きを熟知していないと動きに齟齬が出る筈だ。
 なのに…あの2機はまるで何年も共に戦って来たかの様に息がピッタリだ。
 互いが互いの死角をカバーし、方向転換や敵の攻撃の回避運動時も即座に反応しあっている。

 「あれは…そうか…、武の動き…どこかで見た事があるかと思ったら…」

 BETAを駆逐しながらも2機の武御雷を見ていたら、不意に鮎川大尉の声が聞こえた…。
 「どういうことですか…?」
 「ほら…、前に武…自分の機動はある人の機動を参考にしていたと言っていただろう…。」
 …確かに…前にそう言っていた…じゃあ…
 「あの真紅の武御雷がそうなんですか…?」
 そうだろうと言う鮎川大尉の声が聞こえる…
 「一体あの武御雷に乗っているのは誰なんです?」『お兄ちゃんが気にしている人なんて』
 私は何故か胸のモヤモヤが止まらず鮎川大尉に聞き返す…
 すると外周で戦っていた他の全員が戦闘中にも構わず目を丸くして私を凝視した。
 ……ひょっとして…何か不味い事を聞いちゃったのかな?…

 「響……、お前………本っっっっ当に帝国軍人か?」

 ………へ。

 「響少尉…国連軍の私でも知っている事だぞ……」ヒュレイカ中尉の呆れた声が耳に痛い。
 「…あはははははははは……」焔博士は爆笑してるし……

 うう…し…知らないものは知らないのよっ…

 「響少尉…あの真紅の武御雷の部隊章は帝國斯衛軍皇主守護隊のマークで、その中でも将軍直属の第一大隊のマーク…、そしてそれ以外の特殊なマーキング。将軍直属・第一守護大隊・赤い隊長機とくれば該当者は1人しかいないよ…。」
 柏木中尉が苦笑をかみ殺して説明してくれる。
 幾らなんでもそこまで説明されれば私でも分かる。
 帝國斯衛軍皇主守護隊・第一大隊隊長…月詠真那少佐、現在の日本の衛士の中で五指に入ると言われる人物だ。

 「あれが…」
日本で五指に入るといわれた衛士…

 「ふ~ん、そうか…。そういえば武はクーデター事件で月詠少佐と一緒に戦ったんだっけな。」
 「ほぅ…よく知ってるじゃないか…。」
 「まあ…色々と…。それにしても月詠少佐と白銀がねぇ…」
 鮎川大尉と焔博士の声が聞こえるが…
 「お三方…そろそろ話を切り上げて突破いたしましょう。」
 不意に御無中尉から通信が入る…すると流石…すぐさま思考を切り替える。
 話しながらも敵中突破を続けていた私達は既に2機の付近に辿り着いている。
 驚いた事に焔博士までちゃんとついて来ている…人は見かけによらない…
 「そうだね…そろそろ到着だ…、どうする…」
 鮎川大尉が問いかける…
 「このまま突破して合流…そのまま突破…至極単純だね。」
 「ならばこのまま突っ込むぞ!!!」
 柏木中尉の軽口に皆が同意し、ヒュレイカ中尉が先陣を切って飛び出す。
 そして私達はそのまま敵中を突っ切って、武大尉と月詠少佐と合流した。

 


 この話は裏話的なもので響視点です。
 



[1115] Re[13]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/29 17:24
2004年5月21日…中央区付近




 白銀武は月詠の機動を学習する際、自らの機動特性も解析した。
 まずは己を知る事から始めたのである。

 その際分かった事は、自分が三次元機動に頼りすぎている事だ。
 元居た世界のゲーム「バルジャーノン」では気軽にジャンプ回避をしていた…その所為か武には「三次元的な行動」に忌避がない。

 それはジャンプキャンセル、ひいては「XM3」の所為でもある。

 この世界の戦術機は着地の瞬間、致命的なスキが出来ていた…そのため三次元的な行動…すなわち「ジャンプでの回避・行動」という行為は衛士達の戦術行動の中で上位には存在しなかった…なかには忌避していた者もいる位だ。
 だが207部隊の者達も「ジャンプキャンセル」という方法により三次元行動を効果的に使えるようになって行った。

 そしてそれを更に飛躍的に高めたのが「XM3」である。
 着地のタイムラグをなくしたこのOSはまさに戦術の革新だったのだ。
 207そしてA-01部隊の者達は、その高い衛士としての実力と「XM3」、そして白銀武というお手本がいたからこそ「三次元機動」をいち早く戦術に取り入れることができた。

 しかし一般に「XM3」が普及しても「三次元機動」は中々普及しなかった。その原因はやはり「慣れ」であろう。
 偉大なる先達が切磋琢磨して確立した戦術機動…今までの教育で身に付いたそれは中々捨てられるものではないのだ。勿論…段々と「三次元機動」は普及して言ったのだが。

 武は自身の弱点とした「三次元機動への依存性」の対処として、偉大なる先達が確立した「地上での戦術機動」を勉強した。
 今までのありとあらゆる教本や記録を読み漁り、月詠の機動と自己の機動と照らし合わせたりしながら何度も試行錯誤を繰り返し訓練をした。
 そして最終的に、「地上での機動を主軸に三次元機動を効果的に取り入れる」という戦術機動を編み出した。
 漫画などでいう「紙一重でかわせ」というやつだ。地上での紙一重の回避行動はそのまま攻撃への動作に繋がる…月詠機の機動と、その地上行動の研究により無駄の多かった武の戦術機動はより研ぎすさまれていった。
 そして現在…



 
 「く………」

 大見得を切ったはいいが、ハッキリ言ってついて行くのがやっとだった。
 何度も何度も…無意識にその動きをトレースできる位、その動きを研究して反復した…しかしそれでもついて行くのがやっとだ。
 月詠の武御雷が持つ75式近接戦闘長刀が右から突撃して来たメデュームを斬り裂く、武は左に機体をスライドさせて背面をカバーしながら正面からのメデュームの突撃を斬り払う。
 更に月詠機が左に一歩動き斬撃、武はそれに合わせ右に半方向転換しながら進路上のBETAをついでとばかりに斬り裂く。

 辛うじて付いていけている…。

 響少尉は武と月詠の機動が互角だと思っていたようだが、鮎川や御無など見る人が見ればそれは間違いだと解るだろう。
 武の機動は月詠よりほんの…たった0.5秒にも満たないだろうが…遅れている。出だしのほんの僅かな時間だが…その後の機体方向の切り返し地点で追いつくので機動が遅れていくということは無いが。

 「……………」
 月詠にはその遅れが感じられていた…しかし彼女はスピードを落とすという事はしない…。

 内心驚いていた…。
2年前も白銀の機動は郡を抜いていた、なので実戦を経験した今の白銀の実力はかなりのものだろうと思っていた、……が……

 「まさか私の機動に付いてこられるとはな…。」

 思わず…思わず口に苦笑が浮かぶ。
 訓練生時代から激しい訓練に明け暮れて来た、将軍…悠陽の友人として幼い頃から育ってきた彼女はそれこそが自己の使命だと思っていた。
 そして衛士として高い実力を得た…、その実力はXM3を得て更に跳ね上がる…。
 月詠は己の能力を把握している、だがそれを、誇りも、過信も、賞賛もしない…。ただ強く…愛するものを守れるように…それだけを想い自己を磨き上げてきた。
 その自分に付いてこれるという事は武の実力は並大抵の事では無いという事になる。

 「お前を…そこまで突き動かす想い…」

 肌が粟立つ…冷静な自分らしくない高揚感だ…
 人を進化させる最強の道具は「想い」だと月詠は思っている。
 自分は最初、悠陽の為に強くなろうとした…様々な想いが募る今でもその根幹は変わらない。

 では白銀武は…。

 彼の愛する女性…冥夜と慧のためであろう…、それ以外があろうともその想いが一番強いはずだ。
 魂を突き動かす想い…形は違えどそれは大切な人を愛する感情だ…。
 今…月詠はそれを感じていた…。自分と同等に進化した実力は…自分の辿って来た道程を思い起こさせる…それの根幹にあるのは愛する人のために戦うという想い。

 月詠が背中を預けた理由…、それは彼の強さから冥夜に対する想いの強さを感じ取ったから…。
 (礼を言うぞ白銀武…、お前は冥夜様を救ってくださった。)
 ただただ嬉しかった、自分は悠陽様も冥夜様も大切だったから。
 (武人として礼は返さねばならぬ…この命は与える訳にはいかないが…同じ志を持つ戦友としてお前を認めよう、白銀武。)
 それは白銀武を…今まで何処か信用出来なかった彼を自分の戦友として認めた瞬間であった。白銀の謎など最早関係ない…共に背中を預けて戦える…衛士としてこれ以上の相互理解があるだろうか…。

 「先程のセリフは取り消してやる…、少しは戦えるようになったではないか。」
 「そりゃありがたい…、結構強くなったんですけど…少しですか…?」
 「ふん…、付いて来るのがやっとのクセに…、貴様にはその位の賞賛で十分だ。」
 (うう…、何も言い返せないぜ…)心の中で嘆く…
 相変わらず厳しいお人だ…月詠の言葉に武は軽く落ち込んだが…
 だが武は気づいていない…戦闘中に通信で軽口を述べている事事態が月詠が武の事を認めている証拠だと。

 「援軍到着~~」

 その時、鮎川大尉の通信と共に部隊の皆が到着。
 「白銀、強行突破!!!」
 柏木の声と共に、俺達はすぐさま突破陣形を構築する。
 通信を聞いた月詠も即座に武の隣に位置を取る…援軍到着からここまで1秒…
 武と月詠を先頭に楔形となり、左右にヒュレイカと御無、中央に響と焔、その後ろに柏木がきて殿に鮎川…
 月詠は限界だった75式近接戦闘長刀を捨て、後ろに居た響機から74式近接戦闘長刀を受け取る。そしてBETAの包囲網を突破していった。





 
 BETAの追撃を振り切って…

 「よう月詠…、ピンチだったみたいだが大丈夫か」
 「焔!!!なぜ貴様がここに、真貴に付いて行ったのではないのか?」
 行き成り月詠と焔博士が言いあいを始めた…後で知った事だが、月詠・焔・悠陽は幼馴染という様な間柄らしい。
 「まあ色々あってな…、それより他の皆に自己紹介でもしな。一応命の恩人だろう。」
 焔博士は巧妙に話を逸らす…「命の恩人」と言われて無視していられる月詠では無い。

 月詠は通信画面越しに皆に向かって挨拶をする。
 「皆さん、私は帝國斯衛軍皇主守護隊第一大隊隊長月詠真那少佐です、危ない所のご助力感謝いたしました。宜しくお願いします。」
 皆に向かって敬礼する。それを受けて皆も挨拶を返す。

 …そして最後に、
 「帝国軍遊撃隊第28小隊所属、白銀響です。特別衛士養成教程出身で任官1年目の若輩者ですがよろしくお願いします。」
 やや緊張して響少尉が挨拶する。

 「……白銀……響?」

  月詠は訝しげな顔をして響の顔を凝視した。響は自分が不味い事をしたかと心の中で慌てるが…
 『月詠さん…ほら…、前に月詠さんが言った「死んだ」という白銀武の妹ですよ!。』

 武が秘匿回線で月詠に通信する。しかし月詠はいぶかしんだままだ。
 (特別衛士養成教程出身という事は資料に目を通した筈だ…しかも特殊部隊所属…現に他の者の顔は見覚えがあった。それに…いや…記憶違いか…後で確認しておかなければならないな…)
 月詠はほんの暫らく考え込む…武も敬礼して固まったままの響も緊張して動けないが…

 「すまなかった、少し記憶に齟齬があってな。白銀響少尉、以後宜しくお願いする。」
 不意に元に戻った月詠に両者慌てるが響は無難に挨拶を返した。
 「それで…これからどうするのかな?」
 「港方面はBETAで埋まっているからな。」
  柏木とヒュレイカが誰ともなしに疑問を上げる。
 「今現在旭市に向かっている。」
 その疑問に焔博士が答える。
 「旭市…ですか?」響がさらに聞き返す。

 「先程の戦闘中将軍代行から通信が入り東京湾の周囲はほぼBETAに制圧されたようだ。なので旭市の近海に一隻船を待機させておくと通信が入った。」
 月詠の説明に皆が納得する。
 真貴からの通信…受信確認の返信反応を返したのは月詠機だけ…山下・冬川両名の戦死は既に伝わっているであろう。
 月詠は2人の事を思い出し暫し黙祷する。
 だがそれも一時…彼らの想いは自分の中で生きる…それでいいのだ…。

 
 
 そして一行は旭市に向かって針路をとった。

 


 日本脱出編は終了…、次回から舞台は国外へ…。
 ここまで色々駆け足でやって来ました、構成上戦闘ばっかりでしたが…次回からは日常パートも入れて生きたいなぁ…と思います。
 心理描写は難しい…。




追伸)話の上で出てきませんが…月詠は各特殊部隊の資料に一通り目を通しています。
 あと鮎川大尉、朝霧少佐とも面識があります。両名は守護隊に勧誘されましたがそれを辞退して遊撃隊に参加しています。



[1115] Re[14]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/03/30 19:36
???



 「皆…よろしく」
 「武…」「たけるさん」「タケル」「白銀」「…白銀…」
 様々な記憶が混じりあう…

 …確か俺は船に乗り込んで…
 そうだ…個室に入ってそのまま・・・
 ということは…夢の中?
 ああ…これは過去の記憶か…
 朦朧とする意識の中で武は思った…。

 場面は続いていく…

 「ついでに作ってみたのよ…」XM3…
 「…ではお願いします。」悠陽殿下…、クーデター 事件
 次世代OSのトライアル…そして…

 アレ…なんだ…これは…

 この後…オルタネイティブ5が発動して…違うのか?
 続いていくありえない記憶…

 まりもちゃんの死…、現実世界への逃亡…、00ユニットの正体、甲21号作戦、鏡純夏の配属、純夏の真実、横浜基地へのBETA襲撃、桜花作戦 、仲間の死…、そして…ありえない世界…

 なんだ…この記憶は…これは、俺の記憶なのか…。

 自分の現在の過去の記憶ではない…、でもこれは何故か俺の辿った記憶だと実感できる。

 さらに続く・・・広がる世界。

 慧と結ばれた。委員長と恋をした。冥夜に命を捧げた…。タマと共に生きた。美琴と共に死ぬまで戦い抜いた…。

 まだ…まだ続く…

 冥夜と結婚して御剣家総帥となった。千鶴と恋人同士になって彼女の母親と一緒に暮らした。タマと恋人になりタマパパと死闘を繰り広げ…。慧と結婚して…。そして純夏と…。

 ありえない世界…。

 柏木と恋人同士になった世界。涼宮茜と恋人同士になった世界。平和な世界で冥夜の姉の悠陽と結ばれた世界…。社と結婚した世界。

 そして…そして…

 場面は転換する…。ある一場面…それは一番最初に見た記憶にそっくりな世界、…桜花作戦が発動した後…そのままあのありえない世界へ移行しなかった世界…。

 武は桜花作戦後…色々あって月詠と一緒に戦っていた。
 「くそ…、ここまでか…。」
 「弱音をはくな…、と言いたいが…私も限界だな…。」
 「すみません…、冥夜も守れなかった俺に…。最後まで付き合わせてしまって。」
 「いい…、お前一人の所為ではない…。お前はよくやってくれた。」
 「でも…。それでも俺は………。」
 「そうだな…。ではもし何時か何処かの世界でまたお前と私が出会ったら…」
 「出会ったら…?」

 「私を愛してくれ…」

 「…………」
 「…いや…いい…、ただの気の迷いだ…忘れてくれ…。」
 「いや…ビックリしたもんで…月詠さんがそんな事言うなんて。」
 「私だって女だ…もし戦いが無ければ…人並みに女の幸せを享受してみたいと思うのはおかしいか…?」

 「…………」

 「実を言うとな…いつの間にかお前に惹かれていた…。共に…命を預けて戦う内、お前の事を一人の女として好きになっていった…。しかしお前は今だ純夏という女の事を引きずっている、夜中にうなされているお前を何度も見た…。それに冥夜様もお前の事を愛していた…、亡き冥夜様の手前…私の想いを伝えることはできなかった…。」
 「月詠さん…。」
 「死の直前になってしか想いの丈を打ち明けられんとは…、私も女々しいな…。」

 「いいですよ…。」

 「………なに?」
 「実は俺も月詠さんの事、好きになってました…。けど…純夏のこと…、冥夜や色々な仲間を守れなかった手前言い出せなかった。仲間を守れなかった俺が持っていい想いじゃない…。」
 「それに怖かったんです…。この想いを拒絶されるのが…。最後の戦友である月詠さんに嫌われるのが・・・。」

 「白銀………」

 「…………」
 「…………」

 「結局俺達……、最後まで素直になれなかったんですね……。」
 「背負った想いが強すぎた…。己の想いを優先させる暇間などなかった……。」

 「………」
 「………」

 「だから…、次に出会った時は…。」
 「ああ…、次に出会った時こそは…。」

 最後の時…、

 そして…それから…
 次の世界の記憶は存在しなかった………



  


 インターミッション…武の夢の中…
 この武はEXとアンリミ全てのルートとオルタ世界、そしてその後のFinal episode世界での各ルートと茜・柏木・悠陽・社ルートも経験しています、もしかしたらまりもや風間、三バカとかその他の人物も…。

 でもアンリミ・オルタ系世界での月詠ルートだけは経験していません。
 そして今の世界の一つ前の世界での約束…月詠フラグ2がONになりました。
 さて1はどこでONになったでしょう。
 今の世界で、前の世界の記憶は基本的に残っていませんが・・・深層心理では…。
 



[1115] Re[15]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/02 09:23
5月22日…旭市近海




 旭市から船に乗った武達は北海道に向かわずクアランプールを目指す事になった。
  それと言うのも焔博士が、
 「後のことを考えるとアラスカよりクアランプールの方に向かった方がいい…、あそこの兵は大陸で日本人と共に戦っている…同じ境遇で同じアジアの民…説得の事なんかを考えるとね…」
 …と要領の得ない事を言い、

 それに月詠が、
 「アラスカは真貴に任せておけば大丈夫だ…、私の力など有っても無くても同じ事だろう…。だから私はクアランプールに向かう事に異議は無い…。」
 と同意したからだ。
 これにヒュレイカ中尉も同意したので(彼女は国連軍に入る前は大陸で戦っていたらしい…)、どちらでもいい武達はクアランプールへ向かうこととなった。

 …結局焔博士の言った事の意味は追求できなかったが…。

 …この時武には…この言葉に籠められた月詠の想いを推し量ることができなかった。
 …ただ武の頭の中によぎった言葉があった…「斯衛の本領とは即ち、将軍殿下の守護であり、全てに勝る総則…」直ぐに淡く消え去った言葉だが…月詠の決断は如何程のものであったろうか…



 また、部隊指揮は月詠に任せる事になった。混戦部隊の指揮官は武のままだが…彼はお飾りということで…、月詠の方が階級も上だし…なにより指揮能力と経験が段違いだからだ。
 変則的だが月詠少佐麾下の遊撃部隊としてある。月詠が総指揮官、その下に混戦遊撃部隊、参謀兼オペレーターとして焔博士…これが陣容だ。
 結構無茶苦茶だが…、これでも大丈夫らしい…
 クアランプールを中心とした最前線は大陸の生き残りやら移民した住人からの志願兵が寄り集まっており、オーストラリアに政府の中枢が存在するが最前線の指揮は現場に任せているので暫定的に総司令官がいるだけで現場が機能していれば陣容には無頓着だという。
 
 あと現将軍代行…御剣真貴は月詠の訓練生時代からの戦友で…彼女の性格をよく知っており、焔博士月詠を挟んだ友人で、この艦のスペックを見た焔博士は、
 「どうやら私と月詠の行動は読まれてたようだね…。」
 とぼやいていた。
 武達が乗っているのは戦術機母艦「蒼龍」という艦で、第一戦術機母艦艦隊の第二戦隊旗艦空母らしい。
 艦自体も有名であり、さらに日本脱出の際かなりの機材を詰め込んだ様で補給物資が満載で、なんと基地備え付けの戦術機のシュミレーターが丸ごと運び込まれていて、統合仮想情報演習システム・IVESまで置いてある有様だった。
 艦長の黒沢と言う人も2人の指示に従うように命令されていたらしい…。
 彼の言では第二戦隊は全て最終防衛線を構築していた衛士の脱出艦として使用され、そのままクアランプールへ向かったそうだ。
 武達にとってはありがたかったが…、月詠と焔は色々と複雑そうであった。

 …なにはともあれ武達はクアランプール目指して出発した。



 そして23日朝…船の個室




 武はゆっくりと目を覚ます。
 仰向けのまま手で顔を覆う…。何か釈然としない感情が心の中を占めていた。
 「なにか…、夢の中で大切な事を思い出したような…。」
 口に出して呟いてみる…。

 『確かに夢の中で誰かと大切な約束を…。』

 その記憶を思い出そうとするが…霞がかかった様に思い出せない。とても大切な記憶だったはずなのに…、

 そう…とても大切な…

 「コンッコンッ」「白銀…起きているか?」
 その思考を遮るが如く、突然部屋のドアがノックされ凛とした声が聞こえた。
 武は思考を霧散させその声に対応する。

 「起きてますよ月詠さん。」
 「では入るぞ。」

 ドアを開け声の主…月詠が武に割り当てられた個室へ入ってくる。
 「どうしたんですか?こんなに早く…」
 「馬鹿者…。時計を見ろ、もう昼だぞ…」
 月詠の呆れた声に驚いて備え付けの時計を見る…確かに11時を回っている。
 「聞けば連戦続きだったというので今まで放って置いた、…が昼食を食べねば体も休まらんからな、こうして呼びに来た。」
 「すいません…思ってたよりも疲れていたみたいですね。」
 「自己の体調を把握しておく事も衛士の勤めだ…、無理をするのは良いが限界は超えるなよ。」

 「……………」
 「なんだ…、どうして黙るんだ…、おい…白銀!」

 武の謝罪に言葉を返す月詠…が内容はともかくその口調は以前までのような無闇なきつさは無い。最後の言葉には母が我が子を心配する時のような柔らかい微笑が含まれており、武はその顔に見惚れて思わず赤面してしまった。

 (うわ…!やべぇ……。てか今の不意打ちは反則…。スマン…冥夜、慧…浮気じゃないぞ…)

 真っ赤になった顔を手で覆い横を向く。思わず心の中で言い訳を羅列してしまう…。
 元来月詠には心優しい面も人並み以上に存在する…が衛士としての心構えや軍人としての態度でそういう面が覆い隠されており、…特に武に関してはその不審さ故にキツく当たっていた。

 …が先の戦闘でその蟠りが全て氷解した訳ではないが、戦友として武の事を信用するに至った。
 …そのため武に対して少しだけ月詠本来の心優しい性格が覗いたのだが…

 それが武の心にハードブレイクしたらしい。(ハートとハード…かけた訳ではない…。)
 初めて向けられた月詠本来の優しさに、武は初心な少年の様に反応してしまった。

 「い…いえ……、なんでもないです!!それより昼食!そう食堂に向かいましょう! 起きたばっかで流石に腹が減ってしまって。」
 「???………おかしなやつだな…。」

 慌てて話を違う方向に持っていく武…、月詠は幾らか不審そうに武を見ていたが…まあいいかと自己完結する。寝起きで惚けているのかとも思ったようだ。
 「まあいい、行くぞ。待っててやるから早く支度をしろ。」
 そう言って部屋を出て行こうとする…が寸前で振り返る。
 「そういえば焔が午前の内にシュミレーターの調整と私達のデータ入力が完了したと言って来た。どうせ暇を持て余すだろうから午後は皆でシュミレーター訓練だ…、ハイブの突入シュミレーションも出来るらしい。」

 「ハイヴの突入…ですか…。」

 武とて座学で学んでいる。今までハイブ突入での破壊任務達成率は「零」だと言う事を…。
 「そんなに深刻にならずともいい…シュミレーター訓練だ…、いずれ本当に突入しなくてはならぬ場面が来るだろうが…今回は気楽にやれ…。」
 「…………」
 月詠のその言葉に武は目を見張る。

 「なんだ…?、その驚いた顔は。」
 「…いえ…、月詠さんもそんな気楽なこと言うんですね。今までの印象で厳しい人とばっかり思っていたので…」

 「厳しい…か…。そうだな…、確かにお前には不審な所が多々あったしな。」
 軽い嘲笑を浮かべて言う月詠に武は冷や汗がタラタラだ…。

 「だがそれだけではない………」

 「え・・・…」

 急に声の質を変えた月詠に武は驚き戸惑う…
 「聞いてくれるか…。いや…貴様には話さねばならん、白銀武よ…」
 「…………」
 月詠の神妙な声…嘆願に武は居住まいを正す。
 「クーデター事件の時に私がお前に言った言葉…覚えているか。」
 「って言っても色々あって……」
 「私の通常任務任務、冥夜様の護衛任務を受けていた事だ。」
 「…………」
 心臓が一つ大きな音を立てる。

 武は慎重に言葉を紡ぐ…

 「…日が没し、帝都に夜の帳が降りる砌に備えよ…」
  
 そうだ…この言葉…、
 「そうだ…、白銀…。私は幼き頃から悠陽様の御友人として…そして護衛として共に育ってきた…。」
 「だから私は御友人として悠陽様が冥夜様のことを何よりも気に掛けていたのを知っている。」

 それは俺も解っている…。あの言葉…あの人形には色々な想いが籠められていた…。
 「だが将軍殿下の護衛として…もしもの時の為の冥夜様の役割も十分に理解していた。」
 (………それは…)
 「私が冥夜様を護衛していたのは悠陽様の御嘆願があったからだ…しかしそれは殿下にもしもの事があった時の為でもあった。悠陽様はそれを承知して私を送り出した。」
 (月詠さんもそれを知っていた…)

 「私は悠陽様も冥夜様も大切だ…、だが悠陽殿下は将軍…その護衛である私は国のため私情を捨ててその任に当たらなければならなかった。」
 (月詠さんさっきから様と殿下を使い分けてる…、それがこの人なりの想いなんだろう…)

 「あの時は斯衛の本領などと言った…だが斯衛の任務以前に私は悠陽様を御守りしていたかった…。」
 「そして悠陽殿下の死をもって冥夜様を御建てになることもしたくはなかった…、さすれば冥夜さまは深い自戒の念に身を費やすこととなったであろう。」
 (確かに…冥夜は姉のことを大切に想っていた…)

 「あの時…私がお仕えしていたのは悠陽様であり冥夜様でもあった…、それは共に国からの使命でもあり、…私自身の希望でもあった。」
 「あの時…冥夜様を切り捨てようとした事は間違っているとは思わない…。」
 「私がとった行動…言った言葉…あれが最善の行動だとは言えぬ…があの時とり得る最善の選択であったことは信じて疑わぬ…。」

 (己が意思で天命に殉じる事…。冥夜が志願しやすい様に殿下の案に賛成した事…。確かにあの時俺には月詠さんの考えが理解できなかった…。冥夜の為に死に場所を用意した事が…)
 (俺にはまだ色々と理解できない事が沢山ある…。そもそも『この世界』に育ってきた訳でないこの俺に『日本人としての心』なんかが理解できようはずがない。)
でも白銀には解った事が…解ってしまう、共感したり感じ入ってしまう部分があった事も事実だ…それは世界が違えど『日本人』だからなのか…。

 「だが白銀…。」
 「………」

 月詠がまた雰囲気を変える…先程より感じていた…そう「覚悟」のような雰囲気が和らいだ。
 「あの時はあれが最善だった…それは間違いない…。だが…あの事態を無事に乗り切った今だからこそ言える事だが……。」
 急に月詠が頭を下げる…

 「感謝する、白銀武。」

 「え……、つ…月詠さん!」

 それに戸惑う武。
 「あの時、貴様がとった行動には色々と言いたい事がある、…だがそれも過ぎたことだ。白銀武…だから今はただ無上の感謝を……、冥夜様と悠陽様を救っていただいた事…私にとってはこの上ない喜びだった。」

 月詠は深く頭を下げる…、それに戸惑う武は慌てて

 「い…いや…、ほら…あの時は…冥夜は俺の仲間で…恋人で…ってあの時はまだ恋人じゃなくて…でも両想いっぽくて……て違う……。そう…あの時は…」
 慌てて変な事を口走る武だが居住まいを正して落ち着いて言葉を紡ぐ…

 「ただ…あの時はそうする事が一番正しいと…俺の心の声に素直に従っただけです。だから月詠さんがお礼を言う事なんて…」

 「いや…言わせてくれ…。国を背負って立つ斯衛として、将軍の護衛としての私にはあの選択しか出来なかった…。」

 「だが…だが…、一人の友人として…人間としての私の心は…。…斯衛としての心の内で叫びを上げていた切なる願いは……」

 深く俯いた月詠の目から涙が零れ落ちる…かみ締めた口から漏れ出る言葉は無くとも、武には月詠の溢れ出んばかりの激情…冥夜と悠陽の無事を喜ぶ想いが感じ取れた。

 (………俺は……、俺の想いは…)

月詠の涙を見た時に武の心をよぎったのはどんな感情だったのであろうか。
 あの時も様々な想いを感じた…自分と同じ年の女性がその心に抱いた想い…凄まじいまでの覚悟…そしてそれを実現する行動…。武は正直、挌が違うと感じた。

 …だが実際には、その身はただの少女に過ぎなかった。

 いま目の前で涙を流す女性も同じだ…。心の中の感情を押し殺してまで行なった国を守るための行動…。だが…一人の人間としての心は…。

 武はその時心に誓った…、

 形は違えど自分も彼女達の想いに共感することが出来る『日本人』だ…だから武自身に出来る事をやることにしようと…

 『俺は…冥夜や慧のための自分自身が想い描く未来と、この人の…月詠さんが追い求める理想と願いの為に戦おう……。』

 それは壮大な願いだ…人は自分自身の願いを叶える事でさえ満足には出来ない…、それを…自身の人生を他人の願いの為にまで使おうなどと…。

 『冥夜…慧…、ごめんな…、お前達の事は変わらず愛している、お前達の生きる未来のために戦い抜くという願いは変わってはいない。』
 『…けど俺はもう一つ目標を見つけちまった…、この人の隣で戦う間は…この人の為に…この人と共に歩み、共に戦い抜こうと…』

 それは「好意」でも「愛」でも「同情」でもなく「友情」でもない…。そう…言うなれば、「戦士としての共感」「日本人としての決意」…ただただ純粋な「目標」そして「願い」。

 それは白銀武がこの世界に来て初めて抱いた純粋なる「日本人」としての心であった。

 …日本古来に『惚れた』という言葉がある、それは戦友や主従の関係者に「お前の為ならば死ねる」という意味で使われた言葉である。
 今の武の心境は正にそれだ…もちろん彼は「死ぬ」つもりは無い…彼は愛する2人の女と約束したから…だが武は月詠の為に「命を掛けられる」と感じ、その志を貫く事を心に誓った。
 
 「月詠さん…、解りました…。」
 武は自然に…自分でも意識しないで月詠の手を取る…

 「………」
 月詠は無言で顔を上げる…。
 「あの時…俺も今の月詠さんと似たような気持ちでした…だからあんなことをしたんです…、それがあの時の俺にとれた最善の方法だったから…。」
 「だから今の月詠さんの気持ちも解ります。…いえ…月詠さんの真摯なる想いは俺には完全には理解出来ないでしょう…、けど共感はできます…、あの時、悠陽殿下も冥夜も助かって俺は本当に良かったと安堵しました…。月詠さんはその何倍もそう思ったことでしょう…。」

 「白銀・・・」

 「月詠さんの言うとおりあの時はあれで良かったんです…。終わりよければ…じゃないですが過ぎたことは言ってもしかたがないじゃないですか…、俺達は未来の為に戦っていきましょう…。」

 そして、そっと月詠を抱きしめる…。いつの間にか武自身も涙を流していた。

 それは何に対する涙であったのだろうか…?

月詠と武はお互いに抱きしめあい涙を流す…、そこにはあるのは純粋なる想いだけ…

 「ああ…そうだな…、最早悠陽様も冥夜様も安全な宇宙の彼方…礼を言うぞ白銀武…悠陽様をそして2度も冥夜様を救って頂いた…。この命易々と捨てるわけにはいかないが…お前の盟友であり命を預けられる戦友で有る事をここに誓おう。」
 「俺も…冥夜と慧の為に…誓った仲間達の為に死ぬ事は出来ませんが…、俺の目指す未来と月詠さんが目指す未来は一緒です…。だから共に戦い抜きましょう…。」

 …ここに誓いはなった。

 戦友として……そして信頼できる相棒として……
 自身の描く未来を目指し、苛酷な戦場に身を投じていく2人の戦いが始まる……
 
 だが……今はただ……

 ただ互いに抱きしめあうだけであった。
 「……………」
 「…………」
 「………」
 「……」
 「…」
 「」
 「」
 「」
 「」









 その後武を起こしに行って何時までも戻ってこない月詠を呼びに響がやってくるのだが…
 抱きしめあう2人を目撃して大騒動になったのは
 言うまでも無い…
 「結局最後はこうなるのか~~~~~~~!!!」

 「まちなさ~~~いお兄ちゃん!!!」
 「まてるか~~~~!!」

 「私の右手が光って唸る…スケベを倒せと轟き叫ぶ!! くらえっ直伝…昇華!…ドリルミルキー…テンペスト(大嵐)!!!!!」

 「NO~~~、アームストロ~~~~~~~ング!!!!」
 
 「おーおーおー、月詠もやるねぇ。武と情熱的な抱擁をしてたんだって?」
 「っっっ…焔!!!!」




 シリアスでは終われない2人であった。







 実はインターミッションでシュミレーターの所で終わるはずだったのですが…。
 急に神が降臨しまして…予想以上に長くなりました。

 月詠が武に惚れるのは、段々惚れていく…というのもそうなのですが最初のきっかけというものがほしいと思いまして…。月詠はまず悠陽・冥夜そして国ありきですからね…何か強いきっかけがないと…という事で…クーデター事件があったという設定なので(月詠との強い接点つくるのはそこしかなかったので)それを独自解釈(歪曲とも言う)してみました。

 半ば勢いで書いたようなものなので…一応熟考してみましたが…ああ反応が怖い…賛否あるだろうな…。今後、冷めた目で見直して、おかしい所は直したいと思います。…が今は書き上げたばかりですので…。

 最後のアレは…すいませんシリアスばっか書いていたので最後に飛ばしたくなって…。
 ちなみにアームストロングは初めて月面に立った人です。ガガーリンに対抗してみました。
 なかった方がいいですかね?
 シリアスで終わるよりマブラヴらしくってこれもアリだとは思うのですが…。






 艦隊の陣容はオルタの設定は無視してください。考慮すると私もこんがらがって来るので…。
日本帝国連合艦隊の陣容をほぼそのまま利用します…。
 あと現在出ている主要登場人物以外の、いわゆるNPC的なキャラや一発キャラの名前や兵器名はどは過去の人物やものから拝借しています。解る人いるんでしょうか…?
 オルタ陣営は戦艦や戦闘機関係が多いですからね。

 



[1115] Re[16]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/02 08:53
2004年5月31日…マレーシア首都・クアランプール中央基地




 5月28日にこのクアランプール中央基地に到着した武達は然したるトラブルもなく基地に受け入れられた。
 基地指令のパラメスによるとマレーシアの標語はマレー語で「Bersekutu Bertambah Mutu」、日本語の意味に直すと「団結は力なり」だと言う。
 この基地に来た者はその殆んどがBETAに国を追われて来た者達で、オーストラリア近海に逃れた同胞を守るために戦っている。同じ境遇…同じ思いを持つ者として…そして後ろに避難している同胞を守るため一致団結して戦うのがこのマレーシア戦線での習わしだと言う。

 ここでこのマレーシア戦線の概要を説明しておこう。

 もともとはタイのバンコクを中心に戦線が敷かれていたが、ベトナム・カンボジアが相次いで陥落しそしてミャンマーが陥落したことによりBETAの進入を防ぐのが難しくなった。そのため現在のクアランプールを中心としたマレーシア防衛戦線が構築された。

 マレーシア戦線と言うが実際の最前線基地はタイのスラーターニーにある。
 シンガポール政府などや付近の住民はこの戦線が抜かれたら危ないのは自分達だと理解しており、自分達を守る兵の為にも補給物資などは十二分に回す様にしている。兵器や艦船なども数多く配備されており、近海の国も独自に艦船などを多数保有している。

 その豊富な補給物資などを利用して、BETAが進攻してくるとまずベッチャブリーからスラーターニに至る道中の一番狭くなっている所(幅約50km)をBETAが通る瞬間、近海からの艦船による絨毯爆撃を行う。
 特にレーザー種を重点的に狙う、小規模の進攻の場合それで大体のBETAは殲滅できる。大体8・9割は殺せるので後はスラーターニー基地の衛士が片付ける。
 大規模な進攻の場合周辺の艦隊全ての弾薬を使い切るつもりで放つが(その後は周辺の国からの援護の艦隊が弾薬を使い切った艦船の変わりにカバーに入るの)それでも殺しきれない時がある、そういう時はブーケットやナコーンシー、時にはハートヤイ、ソンクラーなどからも援軍を出し一大防衛線を構築する。(今上げたのは主な中心基地のある都市であり、そこだけではなく、その都市を中心として幾つか基地が造られている)

 この様にマレーシア戦線が構築されてからスラーターニーを抜かれた事はない。特に最近はG弾によるハイヴ攻撃があったため敵の進行の規模が減っている。

 クアランプールを中心としたマレーシアにある基地の主な役目は、新人衛士の教育、衛士の訓練場、兵器全般の活用実験と新兵器の試験使用、前線からの交代要員の慰安など様々である。
 バッターニーに荒野を利用した一大演習場があり、ハートヤイ・ソンクラーは新人教育課程を終えた衛士が一人前の衛士に成る為に訓練が行われる。

 ブーケット・ナコーンシーは総出撃5回以上の者(あくまでも目安、実力により変動)が常時配備される。
 そして最前線のスラーターニーでは総出撃15回以上か一定以上の実力・撃破数を持つ者が常時配備される。

 またハートヤイ・ソンクラーから回された一人前の烙印を押された撃破数0の者が実戦を経験するために送られてきたり、ブーケット・ナーコンシーからも実戦を経験させる為衛士が送られてくる。
 スラーターニーを中心とした最前線の常時配備は2000人、基地は10あり約200人ずつに分かれている。待機人数は3倍以上…つまりベテランがそれだけ居るということ…ここにいるのは大陸の戦いを生き残った者が多く混じっているからだ。
 だがそれ以外にも志願者や常時入り浸っている者などが居るので総数は大体2500人程に膨れ上がる。
 これに新人衛士や一般の衛士も加わることになる、マレーシア戦線全ての衛士を合わせるとかなりの大人数となる、つまりそれだけここの防衛が重要視されているのだ。
 (クアランプールから最前線のスラーターニーまで直線距離ではおよそ550㎞)

 以上がこのマレーシア戦線の概要である。
 そして最初の2日でこの基地に落ち着いた武達は今……




 「うおっとととと!」

 横手から飛んできた弾丸が隠れた瓦礫の目の前を掠める、慌てずに様子を見る……相変わらずレーダーに敵の反応は無い、恐らくこちらの居そうなポイントに撃って反応を見ているのだろうが……。
 「2時の方向からだ、しかし迂闊だな……無闇に撃てば居場所を知らせる事になるぞ。」
 「恐らく誘っているよ……、今のはオトリだね。早々に2機も撃墜されたので少々焦ってるんじゃないのかな?」
 ヒュレイカ中尉の言葉に柏木が意見を述べる。

 現在武達は、岩場が多い荒地で統合仮想情報演習システム・JIVESを使った演習の真っ最中だ。
 この中央基地に到着して2日…その間武達は各種手続きを済ます傍ら様々な事をした。

 その手続きなども色々とスンナリ事が運んだ……まず第一にヒュレイカ中尉の存在が大きい。
 彼女は国連軍に入る前は大陸で戦っていて、なんとハイヴの突入作戦に参加した事もあるようだ。最初は正式な軍人としてではなかったらしいが……、とにかく大陸で幾多の作戦に参加して生き残った彼女は大陸の生き残りが多いこの基地にも知り合いが沢山居て、その人達が「彼女の居る部隊なら信用できる」と色々と便宜を図ってくれた。
 そのため武達は基地の一角の各個室がある部隊用スペース(隣接格納庫付き)なども与えられた。

 あと月詠少佐、彼女は帝国軍の中では有名人であり(将軍直属の斯衛軍守護隊は帝国軍衛士にとってはエリートの集まり・憬れの部隊で、その部隊長ともなれば強さも人格も認められた衛士だから)
 先に移住してきた日本人や、俺達と同時期に日本を脱出してにここに来た帝国軍衛士の中にも彼女のファンやシンパは沢山居て彼女を中心に一大派閥を瞬く間に作り上げてしまった。
 (……派閥と言っても月詠自身にそんな気は無い…上官という立場であくまで相談役とかまとめ役に徹している……が周りからはそう見える。)

 もう一人が焔博士、彼女は機械工学ではその名を知られた……特に戦術機にかけては最先端を行く第一人者である。その立場と持ち前の図太さを発揮して部隊用スペース付属の格納庫に隣接する倉庫を徴収して瞬く間に自分用の簡易研究室を据え置いてしまった。
 有名人が3人も揃っている武達は到着2日目にして武達は既に自分達の居場所を確保してしまったのである。(ちなみにこの時はまだ武の事は基地指令しか知らなかった。)

 だがこの前線で何よりも大切なのは「実力」、そうBETAと戦うための実力こそが大事なのだ。それを確かめるため、武達は到着3日目にして新参入部隊恒例の「歓迎式実力考査」を受ける事となった。

 統合仮想情報演習システム・JIVESによる実戦さながらの対戦で新参入部隊とほぼ同じ陣容で対戦が組まれる。
 武達は月詠を入れて7人、全員が第三世代戦術機に搭乗しているので相手も同じ陣容だ。しかもヒュレイカが認めているということで現在基地に居る衛士で最強の部隊を組むと言い……それに武達も同意したので対戦相手はこの基地の最強クラスであった。
 (ちなみに焔博士はこれを知っていて2日の間に武達の機体をセットアップして各種データも入力して置いたようだ。)

 開始早々に様子見で顔を出した……本当にほんの少しだ、本来なら問題なかったんだろうが……機体(データによればラファール)を柏木が素晴らしいピンポイント射撃で打ち抜いた。

 武は柏木より射撃精度はタマの方が上だと確信していたが、それはタマの遠距離射撃力が遙か高みに存在するからである、柏木の遠距離射撃も水準を大きく上回る。
 また柏木は指揮官タイプの人間だ、冷静で頭が良い。その頭の良さを戦場把握と射撃に費やし、必要な時に自己の判断で最適な射撃を繰り出す。

 そしてこの時もほんの僅かな情報から敵の動きを察知して撃ち抜いた。

 この時、行き成り相棒を破壊された僚機は戸惑いを顕にして……恐らく自分も狙われると思ったのだろう……後退に踏み切った。
 この後退も身の隠し方など素晴らしく上手な後退であったが経験豊富なヒュレイカ中尉に詰められ、そこに判断上手な鮎川大尉が追い込みを掛け……敵は撃破された。(これもラファール)
 開始1分足らずで2機を撃破された敵は慎重になりその後暫らく睨み合いが続いたが、先程敵が撃ってきたという状況だ。

 「いや……、敵は歴戦のつわものだ、焦っているなんてたぁないよ。こちらの実力を再評価して確実に仕留める作戦に出てきたんだろうさ。」
 「じゃあ敵はてぐすね引いて待ち構えてるってことですか?」
 「ああ……恐らくね……」
 鮎川大尉と響少尉の会話……確かにこれは罠だろう……しかし…。

 「虎穴に入らずんば虎児を得ず……、動かなければ始まらないわ…。」
 そうだ…御無中尉の言う事は正しい…鮎川大尉の言うように敵は歴戦のつわもの、ここでじっとしていても何時か詰められる…もちろん対等に渡り合う自身はあるが
 これは俺達の「強さ」を見せ付けるための戦いだ……

 ならばやる事は……
そう思い武は秘匿回線で全員に意見を述べようとする……が……、

 「白銀、貴様がオトリとなって突入しろ……できるか……?」

 その前に月詠から全回線で武に問いかけが来る。最後の「できるか?」が口にニヤリとした笑みを浮かべ言っている、武にはその言葉が「お前には出来るだろう」と言っている様に聞こえていた。

 (これは……俺の機動力を信用してくれているってことだよな?)

そう……事実月詠は武の機動力を信用している、先の脱出劇の際と船上でのシュミレーター訓練で武の機動特性は自分より上だと確信していた。機動力は同等で、接近した連続機動は月詠の方が上だが三次元的な機動や空間把握能力などは武の力が抜きん出ている、先に説明したとおりこれは考え方の違いから来るものでXM3導入による戦術機動に月詠が慣れていない所為もあるのだが…恐らく武自身の天性の才能もあるのであろう。
 武は嬉しくなった…自分の言いたかった事と同じ事を月詠が考えていて。この大事な局面で自分を囮に出すという事は、その実力に至る戦士として認められている事に他ならない。

 「そう言われたら『出来ない』なんて言えませんよ。突入して敵の集中攻撃を引き付ければいいんですね。」
「そうだ、敵の位置が分かれば後は我々が片付ける。お前はしっかりと逃げ回っていろ。」
武の軽口に月詠も軽い口調で返す……2人の間には確かな信頼が見え隠れしていた。

 「む~~~う!なんか面白くない!!」

 それを見ていた響が2人に聞こえないように頬を膨らます。よく分からない嫉妬の感情が胸の中に渦巻き…だがそれが明確に理解できない…とにかくなんとなく面白くない響であった。
 それを見た鮎川と御無が顔を見合わせて苦笑する、彼ら2人にとって響は可愛い妹分でありそしてからかいのタネであった。

 「敵の配置はどう見る?」

月詠が全回線で聞く、それにまず柏木が答える。
 「2時の方向から撃ってきた囮は後退して待機……、撃った場所の両脇やや後ろに2機伏せて要撃、残り2機は高所で狙い撃ちって所かな……。」
 柏木の答えはセオリー通り、オーソドックスな答えだ……それだけに確実な陣形だが……。
 「いや、この場柏木中尉の射撃を危険視して全機共、機動迎撃に徹する可能性もある。」
 これはヒュレイカ中尉の意見だ。
 ……その後幾つか意見が上がったがこの場合どれもありそうな意見ばかりだった。
 だがどんな意見が出ても武のやる事は決まっている。最後に武が意見を述べる、

 「この場合やる事は一つだ。俺は皆の事を信用している……だから俺が突っ込んでかき回す、そして出てきた敵を迎撃する!!」

 武は全員を見渡す。その不適な笑みを浮かべた顔に全員の腹が決まる……響だけは幾らか心配そうな顔をしていたが。
 「では各自自分の得意な場所に陣を取れ、敵の陣形によって臨機応変に対応する。響少尉は鮎川大尉に付け、私は白銀が敵の攻撃を凌ぐ間にその横から正面突撃して敵を混乱させる。」
 武の提案に最早意見は無し、と月詠は突入の陣形を述べる。
 月詠が武の横から突撃するというのは武が敵の第一攻撃を凌ぎ切るのを信じているからこそである。
 それを感じた武はまた気分が高揚する。

 「さあっ!されじゃ一丁行くぜ!!!」

 その気分の高まりのままスロットルを引き絞る、高出力エンジンが唸りを上げてエネルギーを機体に伝える、そのエネルギーを推進力に変換し武の漆黒の武御雷は爆発的な推進力を得て戦場に躍り出る。
 その間に散開した仲間達は各々独自の攻撃準備を整え、月詠は武の後ろより静かに接近を始める。
 武の武御雷が先程撃ってきた弾の発射予測地点に近づく、突然右前方より36㎜チェーンガン(日本で言う36㎜機関砲)の射撃が来る、武の体勢を崩し次の仲間の攻撃に繋げる為にそこそこ避けやすいように…しかも避ける方向が限定されるように…撃って来ている。

 (うまい……けど……)

 武は紙一重でそれを左に回避する、勿論体勢を崩すような事はしない。
 その真横からタイミングを合わせ敵が接近……36㎜チェーンガン2挺の制圧射撃が迫る。

 昔の武ならここでジャンプして避ける所だが……日本衛士伝来の地上機動を学習した武は…先の射撃を左に避けた体勢…そこから左足で着地、それを軸にして右のブーストを全力噴射、機体の向きを左から向かってきた相手側に向けながら右足で地面を蹴り、そこで左のブーストも全力噴射、左前方に跳び抜ける……相手の射撃は機体後方を掠めて言った。
 だがさらに上空から3機目の機体が左手で36㎜突撃機関砲を撃ち右手で74式近接戦闘長刀を振り上げつつ急降下してくる。これは不知火だ……恐らく日本人……

 掃射による一面射撃で横への回避は危険……例え避けても敵の追撃が来る、その場合一合でも打ち合えば先の仲間の援護を喰らうだろう。
 武は腹を決める、両足で地面を蹴り右側に全力跳躍、跳躍先の岩壁を蹴り更に左前方に跳躍……後ろの3機の後方に躍り出る。

 即座に言い知れぬ悪寒が身を貫く、恐らく長距離射撃の照準として補足されたのだろう、危険を肌で感じ取れる程に武の経験は蓄積され、感覚は研ぎすさまれている。「やっぱり……」と武は思った、先の3機はあわよくば撃破しようと狙っていたが本当の狙いはこれだろう。
 この攻撃で武機を撃破してから仲間の援護をして武達のチームの残りを相手にするつもりだろうが……

 「そうそう簡単に殺られるかよ!!!」

 叫びながらレバーを倒しスロットルを引き戻す……幾つかの簡素な操作を瞬時に繰り出す、だがその操作はOBLシステムに蓄積された武の戦闘情報と統合制御され瞬時に複雑な機動を生み出す。
 遠心力を利用した空中での姿勢制御で両足が背中側から真上に跳ね上がる、その場所を一条の軌跡が通過する。逆さのまま狙撃者を認める、73式地対地狙撃砲を構えた殲撃12型が呆然と……武にはそう見えた……こちらを見上げている、まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。

 だが更に接近警報が入る、右横からミサイル…自律誘導弾が迫ってくる…その数8発。
 視界の隅に92式多目的自律誘導弾システムを両肩に構えた最後の1機・殲撃12型が見える…武は更に操作を繰り返す、ミサイルが直ぐ其処まで迫っているのに妙に冷静な自分を感じて苦笑する余裕さえあった。

 逆さまの状態から左のブーストを機体後方ほぼ真後ろに噴射し機体をその場で右半回転させながら36㎜突撃機関砲を掃射……3発迎撃、逆さを向いた武御雷はミサイルと正対、武は右のブーストを斜め下に噴射……機体が斜めに傾いたところでさらに左のブースト右より強く噴射し先の遠心力を利用した機動をとりミサイルの真上へ躍り出る、目標を一時ロストしたミサイルはそのまま直進……武は真上からミサイルを狙い撃ちし更に3発迎撃。
 通り過ぎるミサイル、武は自由落下しながら後ろから更に狙い撃ちし全てのミサイルを撃破した。

 「うっしゃあ!!!」

 思わず声を上げる武、勿論他の機体の追撃を警戒しながら……。
 一連の攻撃を奇跡的な機動で避けられた敵は一時呆然と空を見上げていた、勿論彼らは歴戦の勇士、直ぐに立ち直った……がその一瞬は武達相手には致命的であった。

 武が飛び上がった瞬間に月詠は突撃を開始、最初の3機が武を追撃できなかったのはこの為だ。

 月詠を狙い撃つ3機……だが月詠はそのまま3機の間を素通りした。
 敵が月詠に気をとられている内、まず2番目に武に攻撃を仕掛けたラファールに鮎川大尉と響少尉の36㎜突撃機関砲の射撃が命中した。

 次いで3番目に攻撃した殲撃12型にヒュレイカ中尉が乗る不知火の74式近接戦闘長刀による袈裟懸け斬りが決まる、それを目撃した敵の不知火が長刀を構えるが後ろに忍び寄った御無中尉の65式近接戦闘短刀の一撃で動力とコクピットを潰された。
 彼女は物事の死角を見つけるのが上手く今回もレーダーの穴を付いて接近していたようだ。

 一番初めに囮となったEF-2000タイフーンはそれを見て後ろの仲間と合流しようとしたが、柏木の精密射撃で打ち抜かれ撃破された。

 最後に残った2機の殲撃12型に月詠が迫る、近い敵…ミサイルを撃った殲撃12型は狙撃銃タイプの36㎜チェーンガンを撃ってくるが接地機動は武より上の月詠……更に武との共闘で培った武の空中機動を織り交ぜ最早止める事は叶わない……そのまま急速接近しながら36㎜突撃機関砲の弾を叩き込む。
 そのまま通り過ぎ最後の1機に向かう、味方の援護をしようと狙撃砲を構えていた殲撃12型は余りにも早く味方が撃破され、慌てて狙撃砲を放り出し36㎜チェーンガンを構え直す……が既に月詠は75式近接戦闘長刀を振り下ろしていた。
 
 「ピーーーー」

 「第28混戦遊撃隊が勝利条件を満たしました。作戦は終了です…」
 甲高い機械音と共に戦況を判断していた戦術オペレーターの声が響く…作戦…演習は終了した。 





 
 長くなりすぎたので一度切ります。
 マレーシア戦線の概要は……なにかおかしかったら突っ込んでください。一応地図とか良く見て調べたんですが…、
 戦闘もです。一応フィギュアを参考にしてますがおかしかったら言ってください。



 
 この世界はIF世界です。オルタ世界の歴史では死んでた人も生きていたりします。鳴海孝之と大空寺、一文字鷹嘴も生きています…元の設定では出てきますが…今後どうなるかは未定。
 鳴海孝之は結構重要な役目を負った設定だったので…オルタの設定からどう動かすか…未定。
 私は結構シビアというか必要とあらばキャラを殺します…今後死亡者は多発するでしょう。特に一発キャラは。
 人の期待を色々な意味で裏切るのが…、読者様の予想通りに行くか予想の斜め上を行くか…。書いてる本人が一番ビックリしないように書いて行きたいです。
では後編で。
 



[1115] Re[17]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/03 18:35
 ここで一度「白銀武」の強さを確認してみよう。

 彼はこの世界に来るまでは普通の高校生だった。
 ただこの世界に来訪した際、なぜか身体能力その他が底上げされていたのだが……。
 戦術機の操縦に独自の理論を取り入れ。それは香月博士によりXM3という形となる。
 それにより大雑把な機動性に関しては三次元的機動もあり飛び抜けていた。
 だが「強さ」という点では他人に劣っていた。機動以外は207の皆には敵わなかったのである。

 2年間の実戦や訓練を経て武は様々な経験をした。
 まず長刀の扱い、日本の衛士はハイヴへの突入を視野に入れ訓練する……補給が切れ弾薬が無くなった時の為、どんな衛士も最低限は長刀の扱いを叩き込む。
 そしてハイヴへの突入作戦のシュミレーション、フォーメーションや連携などの訓練、どんな相手と組んでも相手に合わせる訓練……など様々な訓練を行なった。

 武はこの2年で自分の戦闘スタイルがオールマイティーなスタンダートタイプだと定義した。遠距離射撃は苦手だが、どんなポジションも標準以上に対応できた。
 ただ好みと適正としては前衛が一番の理想ポジションだった、冥夜を中心に慧と組んだフォーメーションはまさに理想的な前衛の形であった。
 だが2人がいなくなり前衛が自分1人となると武は自分の接近戦の実力……特に格闘や剣術の腕が足りない事に気づいた。
 その為白銀は接近戦の実力を上げるための訓練を始めた。ここで過去の資料を見ている内に月詠の機動に目を付けたのである。
 そして長刀と格闘訓練と平行して月詠の機動を学習し始めた……その後何とかその機動をものに出来、そして日本脱出の際御無中尉に出会い彼女に剣術と格闘術の指南を頼んだ。

 現在武は長刀を主軸にして戦っている、それは自身の剣技を高めると共に超接近戦の機動を鍛える為でもある。
 実戦経験から見れば経験豊富な衛士に比べ武はまだまだ未熟だ。
 発展途上で、水準より上だが「完璧」には程遠い……それが現在の白銀武の強さである。




2004年5月31日…マレーシア首都・クアランプール中央基地・郊外演習場




 「パンッッッ!!!」

 威勢のいい音が響き渡る、
 武御雷を降りた武は先に集まっていた仲間の元に駆け寄り、手を上げて近づいた鮎川大尉とハイタッチを行なった。
 いつも言葉が多い鮎川大尉の無言の行動が武を評価してくれてると実感できた。
 それに釣られたか御無中尉とヒュレイカ中尉、柏木中尉も無言で武の肩に軽く手を置いていく、勿論その時合わさった目は「よくやった」と語っていた。
 響少尉もやや尊敬を含んだ目で武を無言で見詰めている、
 そして最後に……

 「……………」
 「……………」

 無言で見詰め合う2人、語り合う言葉は無くとも互いに言いたい事は伝わっていた。

 ……不意に手を伸ばす月詠……

 ……武は無言で……口元に笑みを浮かべながら……その手を握り返す……
 お互いに手を握ったまま、口元に笑みを浮かべて見詰め合っていた。

 それはほんの数秒……

 急に向こうからガヤガヤと喧騒が近づいて来る。

 「ヘーイ!ワンダフルパーティー!!!」

 集団の先頭から1人の、黒人系で30代位の衛士強化装備の男性が笑いながら大仰に手を広げて、その後方には恐らく対戦相手だった衛士強化装備の男女6人と基地指令他、見学者多数が近づいて来ていた。
 基地指令の到着に武達は居住まいを正し敬礼する。
 「ああ、いらんいらん。ここでは敬礼なんてものは形式にしか使わんよ。」
 パラメス基地指令はそう言って笑う。

その言葉に武達は手を下ろす、すると様々な人が声をかけてきた。
 「ヘーイ!すげぇじゃねぇかあんた達。」
 先程の黒人…ウォーカーという名で囮だったEF-2000タイフーンに乗っていたそうだ。
 「そうそうあの機動、まさか避けられるとはね!」
 「私達の連携も中々なのに……」
 中国人の女性2人、双子の姉妹で最後に撃ってきた殲撃12型に乗っていたらしい。
 「私なんか最初の一撃だよ!」
 茶色混じりの黒髪のアジア系欧米人、彼女は最初に撃破したラファールに搭乗。
 「俺はそれに巻き込まれたぜ!」
 中国系混じりの欧米人……彼は2番目撃破のラファールに搭乗。
 「まだまだ精進が足りないようだ…」
 渋い30代後半の中国人……3番目の殲撃12型に搭乗。
 「流石です皆様方……。……ああ月詠様……」
 キリッと挨拶した後にウットリと月詠を見詰める20代前半の日本人女性…榎本中尉は不知火に乗っていた。

 だれもが戦闘経験4年以上のベテラン衛士で現在この基地に駐在する中では最強メンバーの一角らしい。乗っていた機体で大体判別が付くが、上から平均能力、遠距離射撃、遠距離援護、近接射撃、中距離射撃、戦闘経験、近接格闘のスペシャリストが集められたらしい、全員共闘経験がありコンビネーションも問題ないそうだ。

 「いやいや、あんた達もいい腕だったよ。」
 「そうそう、囮が上等でなけりゃ結構やばかったね」
 鮎川大尉が軽く答え、ヒュレイカ中尉が同意する。

 それを聞きウォーカーが叫ぶ
 「そう!!!それだ…ヒュレイカ!あの黒い……タ…タカ?」
 「タケミカヅチです大尉。」
 ウォーカー大尉に榎本中尉が説明する、ウォーカー大尉はどうやらヒュレイカ中尉の知り合いらしい。

 「そうタケミカズチ!!ありゃ何だ?どうやったらあんな機動ができるんだ!!!、一体アレを操縦してたのはどいつだ?」
 「それはあたし達も聞きたいね、榎本が話していたツクヨミという衛士ではないんだろ?」

 「月詠様は真紅の武御雷です!!!」

 ウォーカー大尉がヒュレイカに詰め寄り、それに周りも同意しだす。榎本中尉は月詠のことで注釈を入れるのを忘れないが……。
 どうでもいいがウォーカー大尉の武御雷の発音が変なのは突っ込まないのか?と思ってしまった武であった。

 無言で武を指差すヒュレイカ中尉、対戦者とその場で成り行きを見ていた見学者全員が一斉に武に注目する。(ここからの「全員」表記は見学者と対戦衛士で武達は抜かして考えてください。)

 武はその視線の熱さに思わず後づさる…

 「ホワッツ?このボーイがそうだって……」
 ウォーカー大尉はじめ、全員が武をジロジロと眺める。
 (く、ぐぉ~~、き…緊張というか…恐ぇ~~~。って柏木!それに鮎川大尉も…楽しんでるなーーー!!!)

 その状況に耐えるのが辛く仲間に援護を求めるが……。皆…月詠まで苦笑してこちらを眺めている、特に鮎川と柏木は爆笑寸前だ……「あの2人は俺の事を全力で笑いの種にしてやがるな!」
と今更に思う白銀武であった。

 「う~~ん、さっきの勝負で部隊の実力は信じられてもこのボーイの力は信じられん…」
 「そうそう、出来る出来ない以前にあんな機動を戦術機でやろうって考え付く方が信じられないよ!」
 アジア系欧米人の女性がウォーカー大尉と共に言うが、

 「まあみんな聞け……」

 パメラス基地指令の一言で皆が彼に注目する……その光景に敬礼は要らずとも彼が尊敬されているのが武には感じられた。
 「全員彼の名前を知っているか?」
 「いいや…知らんよ?」
 中国系混じりの欧米人が言う。指令が皆を見渡すが他の者も全員首を横に振る、それを見てから指令はまた噛み含める様に発言する。

 「君の名前は?」

 「え……と……白銀武です…けど……」
 「シロガネ…タケル」
 パメラス指令の不意の質問に武は戸惑いながらも答える、それを聞いた全員はたどたどしくその名前を口の中で反芻する。

 「この名前……聞き覚えはないかな?」

 どこか面白そうにしながら皆を見渡すパメラス、全員は武の名前を口の中で唱えながら心当たりを探す。
 「シロガネ……白銀……白銀武……ってあああ!!!
 「うわっ!行き成りどうしたんですか?」
 「榎本中尉、心当たりあったんですか?」
 中国人姉妹は突然の榎本中尉の大声にステレオで反応する。

 「OS……OSよ!」
 「「「OSですか?」」
 「今私達が使っているOS!!」
 「ってXM3のことだよな?」
 「そう、その開発者は!!!」
 「え~と確か香月夕呼博士だよな?」
 「じゃあ製作提案及び原案考案は!!!」
 「え~と、え~と?確か…シ……シロガネ?」

 「シロガネタケル……?」

 時が止まる……その場の全員が武に注目する。
 「……………………」
 1秒……2秒……3秒……4秒……時が静止する……
 武はその静寂が嵐の前の静けさだと感じた、事実……横では仲間達…月詠までもが武の側を避難し、鮎川や柏木、響などは耳を塞ぎながら半笑いで此方を見ている。

 「お……お前かーーーーー!!!!!!」

 ウォーカー大尉の絶叫と共に全員が武に押しかけて揉みくちゃにする。
 「てめぇ、このやろうよくもあんなOS考え付きやがって!」
 「そうだ、戦術機の機動を極めたと思っていたのに台無しじゃねぇか!」
 「あの滑らかで繊細な動き……もうっっ痺れたぜ!」
 「そうそう、もーーー最っ高っよ!」
 「今までの戦術機の動きが亀の様に感じたわ!」
 「あの機動……まさしく戦術機の極み……」
 「生存率も格段に上がったわよーーー!!」

 後から後から、見学していた大勢の衛士や関係者が武に押しかけては言葉を放つ……武は中心で翻弄されていたが内心はとても嬉しかった。
 それまでも実感はしていたが、自分が考えたOSが遠い外国の前線で戦う衛士にも評判が良い事はその実感を更に確かなものにさせた。

 実際武はよく知らなかったが、XM3の普及で全世界での衛士の平均死亡率は様々な要因が減少を辿った、更に機動の自由度上昇などで習熟度や戦闘経験蓄積による戦術機の戦闘力の差が明確となり新人衛士の教育方針も変化してきた。

 このマレーシア戦線では既にその教育方針が確立されている、このXM3用の新教育により新人衛士の生存率……言い換えれば「死の8分」を乗り越えられる確率……が格段に上がり、その事実に新人衛士を育てて送り出す者は涙を流して喜んだという……

 この様に武の考案した「XM3」のこの世界への影響力は計り知れないものがあった。朝霧少佐がお飾りでも武を指揮官に据え、それを鮎川大尉や御無中尉が了承した訳はこれを知っていたからだ。

 「うむ……そうだ!白銀大尉達は来週から最前線のスラーターニー基地へ行くことになるが、白銀大尉にXM3の指導教官をしてもらおう。」
 「なに……指導と言っても大尉の使い方や意見を示してくれればいい、堅苦しく考えないで気楽にやってくれ。」
 「おお……そうだ!向こうの基地指令のムザッファには先に連絡しておこう。」
 騒動を生暖かい目で見ていたパメラス指令は不意に善い事を思いついたとばかりに声を上げる。騒動の中心にいる武に話しかけて返事は無くとも勝手に納得していく、この人も結構いい性格のようだ……。
 武は薄れ行く意識の中でそう思った……。

 結局この後武は散々揉みくちゃにされた後開放された、武は一躍有名人となりその後も様々な人から色々な反応を受ける…。
 ちなみに今回の演習はオーストラリア周辺の国全てに放送されていたらしい、兵士達は自分と共に戦う仲間の強さを確かめるため……一般者には自分達を守る衛士の実力を見せて安心させ、真面目に戦ってる事を示したり戦意高揚のため、また補給物資捻出の為に様々な義務を負わなければならない(納税や労働)市民に対するデモンストレーションであるらしく、市民も共に戦っているという気持ちを持たせることが戦線維持に大事だと言う。







 武を背負い部屋に戻る途中……月詠はふと思いつく、
 (白銀の成長は恐ろしく速い……そう、まるで『忘れていた何かを思い出していく』様な……)

 「ばかな……」

 頭に浮かんだ考えを振り払う……そんなはずは無い、白銀の成長が速いのは彼の才能と努力の賜物だ……それ以外の答えであるはずが無い……
 月詠は後ろを見る、すやすやと気持ちよさそうに眠る白銀は正に子供の様だ。

 それを見て苦笑する、そしてまた歩き出すが……

 衛士強化装備のお陰で背負っていられるが……白銀の体は逞しく、月詠は自分の衛士強化装備の薄い皮膜越しに白銀の……ほっそりした外見の割りに筋肉質な肉体の感触が伝わってくるのを感じていた。

 「そういえば……男に身を寄せたのはこれが初めてか……。」

 ポツリと呟く、訓練生時代真貴達と共に過ごしたが、肌を見られたことはあっても身を寄せた事は一度もなかった、月詠の隊は優秀で介護や救援などで背負われたり背負ったりした事もなかったのである。

 「男などを意識した事など無かったが……。」

 月詠は目を瞑る……自分の背中越しに白銀の心臓の鼓動が聞こえてくる、それは自分の心臓の音と複雑に絡み合い独自の音楽を奏でる、背負う胸の広さと相まってその存在は、自分の存在を絡めとりながら大きく包み込むように感じられた。
 無意識に……口にする事など無い言葉が漏れる、

 「他人の体温とは……いいものだな…。」

 呟く表情は何を語るのか……、

 それは無意識に呟いた月詠自身、
 今はまだ理解出来ない感情であった。






 難しかったぁ~~~、色々と…。
 新NPCキャラ、一応全員簡単な設定はありますが今後確実に再出演するキャラだけ名前を載せました。
 次の話は最前線行きの少し前、3日後位です。焔博士大活躍……とくればもうお分かりでしょう○●△のお披露目です。裏でコソコソ作っていたようです。

 今回の月詠の最後ら辺のセリフ『忘れていた~』はあくまで「気のせい」であってそんな事実はありません。前の世界の記憶と絡めて考えられそうですが、この世界の武への肉体的な干渉は最初に初期ステータスが底上げされ、XM3とかの記憶を受け継いだだけです。

 まだまだ「世界の干渉」は深層心理に留まっています。
 では次話…から焔博士によってこの世界の変動のプロローグが……(今までも十分変わっているが)



[1115] Re[18]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第20話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/04 14:46
2004年6月3日…中央基地演習場




 「まったく焔博士も強引です!!」

 響少尉が自機の吹雪の中で憤りの声を上げる。
 通信画面越しに頬が『プクッ』と膨れているのが怒りの表情を微笑ましくしてしまっていることは本人は気づいていないだろう、それを見た第28部隊全員が同時にそう思った。(この戦線では「第28遊撃部隊」として正式登録している。)

 今全員は戦術機に乗って中央基地に付属する戦術機用の演習場に出てきた。
 明日には前線のスラーターニー基地へ向かう、その為の準備は既に終わっており後は戦術機の搬入だけだというのに…
 搬入の直前、焔博士が急に全員戦術機に乗って演習場まで出て来いと命令したのだ。
 みんな彼女の過程をすっ飛ばす言動の突拍子さと傍若無人さには慣れてきていたので文句も言わず従った。それに博士は傍若無人だが戦術機などに関してで意味の無い事はしないとも確信していたからだ。

 ただここに来て響少尉は文句を言ってみたくなったらしい……なんといっても17歳、そういう年頃なんだろう……と武は自分の17歳の時の事を思い出してそう結論付けた。

 (そういえば皆どうしているかな……?)

 元の世界に未練はないがやはり17年生きてきた世界、そして別れたきりの友人達のその後は気に掛かる。
 (この世界に来てから3年近く、俺も21…今年の12月で22歳か……。)
過去の記憶に想いを馳せる、
(純夏はちゃんと大学へ行けてるのだろうか?冥夜は誰かと結婚したのだろうか?慧は看護婦になったのか……いや医者をめざすのかも?)
その思い出の中に武の知りえない情報が含まれているのには気付かない……

 「……大尉、………大尉ったら、んもう!」『すううーーー』

 「お兄ちゃん!!!」「うおっ!!!」
 突然の大声に現実に呼び戻される、いくら呼んでも気付かない武に響が大声をかけたのだが……。最後の掛け声が昔兄を起こしていた時のクセで「お兄ちゃん」になったのはご愛嬌だろう。
 「もう、なに呆けてたの白銀大尉。見て、なんか沢山集まってきてる。」
 響のやや不安を滲ませた声に周囲を眺めると、確かに観客席などに基地に駐在する衛士などが集まってきている。
 さらに貴賓席にもなにやら偉そうな人達がチラホラと……それに演習場に様々なものがセットされて行く、それが収まるまで眺めていると最後に焔博士とパメラス基地指令が出てきた。

 ……演習場のセッティングから何かをやらせる気だとは思うが?

 一体何をやらされるのだろう?見ると他の月詠と響以外は面白そうに事の成り行きを眺めている。
 月詠は焔の友人でこういう時の彼女の行動を承知しているのか……何も動じていない。逆に響は不安そうだ……。

 「さて諸君……色々いいたい事はあるだろうが……、これから君たちには私が考案した新兵器の実験に付き合ってもらう。」
 突然、部隊内回線で告げられる。……って新兵器!!!

 「あ…あの……新兵器って……、新兵器ですよね?」

 混乱した響少尉が要領を得ない質問をくちにするが……
 「そう新兵器、それも3つ!なに、動作実験は済んでいる、後は上手く使ってくれれば構わないさ。幸いにも丁度政府のお偉方が視察に来ている、これを見せて新装備を売り込んで制作費を稼ぐんだね。」
 ふんぞり返って言う博士。
 (視察って……絶対狙ってたな、偶然じゃないな!)

 「焔…………」

 免疫がある月詠さんも流石に呆れている、
 「なにを呆れる、これはお前達にとっても良いことなんだぞ。さあ…その銃を取って撃ってみろ、その長刀を握って斬ってみろ。」
 その言葉にとりあえず俺達は従う、外では観客向けのナレーションが入っている。
 まずは前面に並んだ銃を取る。……見た目には36㎜機関砲と余り変わりは無いが……しいていうなら発射口の形状が変化しているくらいだ。

 「目標は前面にある、要塞級グラヴィスの死骸から引き剥がした上部装甲と重光線級マグヌスルクスの胴体に似せた同程度の装甲強度である類似物質だ。BETAと思って遠慮なく撃ち込んでくれ。」
 確かに前面には今言ったものが各員の前方に多数並んでいるが…どちらも36㎜では貫通できない装甲だ、普通なら……

 隣の月詠を見ると彼女は無言で銃を構える、武もまあ博士を信用してみようと銃を構える。
 機体との情報連結などは36㎜機関砲と全く一緒だ、武は照準を合わせてトリガーを引く。独特の発射音?何時もと少々違う音を……発射口の改造のせいか?……させて弾が発射される。鮎川大尉達も次々と同様に弾を放つ。
 武が放った弾はグラヴィスの装甲に、月詠の放った弾はマグヌスルクスの類似装甲に吸い込まれ……激しい激突音を立てて……何発目かの弾が装甲を貫通した。

 撃った武も月詠も……それを目撃した観客も度肝を抜かれた。

 普通36㎜機関砲の射撃では貫通できない装甲を36㎜機関砲そっくりの銃が貫通させたのだ、それはビックリするだろう。
 月詠は無言で隣に収納してあった長刀を抜き放つ、武も同じ様に長刀を抜く……それは75式近接戦闘長刀を少し鋭角的にしたような何所から見ても普通の長刀だった。
 横目で他を見ると、鮎川大尉達が抜いた長刀は74式近接戦闘長刀そっくりであり武と月詠の長刀と少し違った。

 だがそれもこの際些細な事……武は月詠と並んで今自分が撃ち抜いたグラヴィスの装甲に斬りかかる、装甲に刃が触れた瞬間大きな抵抗があったが思ったよりスンナリと刃が入る、抵抗が大きいが刃はそのまま直進を止めずに最後まで振りぬかれた。
 グラヴィスの装甲が真っ二つになる、何とも言えない手ごたえに武は思わず自分の手を見てしまう。隣では月詠も同じ様にマグヌスルクスの類似装甲を真っ二つに両断していた。
 他の者もほぼ同様だ……長刀の種類は少し違ったが結果は同じだった。

 「「「「「うおぉぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!!!」」」」」

 観客席から歓声が上がる、貴賓席の中でも思わず立ち上がった人が見えた。
 そうだろう、今まで出来なかった事が出来た……この新兵器が普及すれば36㎜機関砲や長刀でも頑強なBETAを撃破できるのだから。

 「凄い……」「すげぇぜ……」

 月詠と武の呟きが重なる。2人はまだ手を握ったり開いたりして斬撃の感触を反芻していた。

 「一体どういう事だ焔?」「そうですよ見た目は今までと余り変わらないのに。」

 その質問に焔博士は質問で返す。
 「お前らは『矛盾』という古事の成り立ちを知っているか?」
 「知ってますよ、最強の盾と最強の矛がぶつかりあって両者壊れるってことでしょう。」
 その質問に武が答える、部隊の皆は傍聴の構えだ。
 「それがどう繋がる?」
 月詠が通信画面に詰め寄るが、
 まあ聞け……「では『毒をもって毒を制す』の意味は」……更なる質問……
 「毒を使って毒を治療する。つまり危険なものでも使いようによっては薬になると……まさか!!!」

 「そう……そのまさかさ。」

 ニヤリと不適に笑う焔、月詠も武も鮎川達もその意味が分かり呆然いや唖然とする。
 だだ1人響だけが意味を理解できないで首をかしげていた。更に先程から焔の横で聞いていたパメラス基地指令が先を促す。
 「つまりだ……、今回使った36㎜機関砲の弾丸も長刀もBETAの死骸を利用して作られているって事さ。」
 「BETAの死骸!!!」響が大声で叫び声を上げる。
 (やっぱりな……)

 「そう私は常々思っていた。BETAの技術を利用してG弾などが作られたくらいだ、他にも何かできるのではないのかと。そして目を付けたのがBETAの体の硬さ、メデュームの前腕とルイタウラの装甲殻、どちらもモース高度15度以上、しかもダイヤモンドと違って衝撃にも強い、更に戦場に無数に転がっている。いままで加工の問題があったが、それも解決した…これで大量に量産できるぞ!敵を倒して武器の材料まで手に入る……まさに偉大な発明だね。まあ加工が難しくて刀や弾丸のような単調なものしか作れないが……、些細な事だ、問題ない。」

 「ちなみに名称はそのまま、甲殻弾と04式近接戦闘長刀さ、白銀と月詠以外が使ったのは74式近接戦闘長刀の刃の部分だけに甲殻を加工した刃をつけただけだが。」
 焔博士はふんぞり返って高笑いを始める、後ろの方では観客にも今の説明を始めたようだが……

 「はははは……、まさかこういう手で来るとは。」

 鮎川大尉が参った参ったと手を上げる仕草をする。
 確かに呆れた発想だ……だけど手としてはいい、物資の限られる現状において敵を倒して強い武器の材料が手に入ると言うのは。

 「まったく…射撃を一から組み立て直さなきゃね。」

 柏木はぼやいているが嬉しそうだ。遠距離射撃で大物を相手取っていた柏木にとって今回の発明の有用性が感じ取れたのだろう。
 次第に観客席の喧騒も収まる。……漏れ聞こえるざわめきを聞くとどうやら「使えるなら何でもいい」という結論に達したようだ。

 「次はこれだ!!!」

 いつの間にか戦術機の目の前に運ばれて来たものそれは……

 「槍……いや投槍?」

 槍だった……しかも形状からして投槍っぽい、後ろになんかコンパクトだけどゴツイ装置が付いているし。

 「一体これ……いや、まあ投げて使うんだろうけど……?」

 ヒュレイカ中尉が分かっているのに思わず質問してしまう。その気持ちは理解できる、戦術機で投槍って……。
  「まあ試しに投げてみな。戦術モーションは各機体にインプットしてあるから照準までほぼオートでやってくれるハズさ。最初はそれで感覚を掴んでくれ。」
 (何時の間に……ってもう今更だよなぁ)
 焔博士の準備のよさに全員何かを達観したようだ、最初オロオロしていた響少尉でさえ表面上普通にしている。

 目の前にあった為自然に武が槍を手に取る。今度の的は随分向う……目測で1㎞やや手前という所だ。しかも今度は要塞級グラヴィスの巨体がほぼ丸ごと置いてある、比較的原型を留めている死体を用意したのであろう。
 機体にインプットされた動作で戦術機が動く、武はその機動を覚えるようにコントロールレバーに手を添える。
 やはりというかなんというか…、武の予想した通り、体操選手の槍投げのようなモーションに入る。両足を開き槍を持った右腕を後ろに引き絞る、ただ左手はやや右前面に横倒しにして右手で持った槍の先端をその上に乗せている。
 恐らく照準補正の為だろう、蓄積データが少ないので片手の支えでは初期投射機動に不安が残るため多少フォームが崩れても命中率を取ったためこんな体勢となったのかな…?と武は予想した。
 武の武御雷が左足を踏みしめる右手が更に後ろに引き絞られる……『キュイーーーーン』……

 (ってキュイーーンって)

 不意に聞こえ始めた不気味な音に武がそれを戦術機のモニターで確かめると。
 「じぇ……じぇ……じぇ……ジェト噴射ぁああぁぁーーーーー!!!」

 武がコンパクトでゴツイと感じた装置が盛大なジェット噴射を始めていた
 焔の行動の数々に色々達観して来た武も流石にこれには驚いた。
 他の面々、観客席も含めてだ。
 だが更に驚愕は続く……
 驚く武を尻目に、武御雷は投射モーションにを続ける、普通の槍投げと違い前に直線に押し出すような投射方だ。
 投射モーションの最後に近くなると槍は手の中で横への力のベクトルを加え始める、そして右手を前面に槍を投射する寸前には手の中で回転を始めていた。
 回転の力で武御雷の掌を半場押し広げた槍は、そのまますっぽ抜ける様に飛び出した……勿論回転しながら。
 投射モーション開始から投射まで1秒もかかっていない……槍は目標に向かってやや不安定ながらも直進。
 圧倒的なスピードだ、戦術機の投射という初速に乗り炸薬でのジェット噴射がそのスピードを更に加速する。

 約1秒後に目標に命中。その1秒後に槍は反対側から突き抜け……それとほぼ同時にグラヴィス内部で爆発が起き、BETAの体は半分くらいが吹き飛んだ。

 「……………」
 「……………」
 「……………」

 「ど……ドリル……、ドリルクラッシャー……ボム?」

 ボーゼンと呟く武、満場もはや言葉もない……
 「おっいいね、そのネーミング。よしよしこれで名前の候補が一つ増えたよ。」
 焔博士は静寂の中かんらかんらと笑う。
 通信画面の中の全員の首がギギギと嫌な音をたてそうな感じで回り、顔が焔の方に集中する。

 「あ・あ・あ・あれはなんだーーー焔ぁああ!!!」

 珍しく月詠が大声を上げる……人の脳は自己の常識の限界許容量を超えると暴発するというが……、いつも冷静沈着な月詠が爆発するのは凄く珍しい……少なくとも武は始めて見た。
 月詠の思わぬ暴走に、同じ様に暴発しようとしていた皆は逆に落ち着いたらしい。こちらを静観する構えだ、鮎川・柏木両名は何時もの如くだが目は笑っていない。
 通信越しでも暴走した月詠は恐かったが(武にとっては)焔は慣れているのか何所吹く風だ、さすが幼馴染という事か?

 「何かと言われても……、名前は「突撃型回転槍」「スパイラルランサー」あとさっき武が呼んだ「ドリルクラッシャー」があるが……どれがいい?」
 あっさりと説明するが、

 「名前を聞いてるんじゃない、どういう武器かを聞いてるんだ!!!」

 「そんなに怒鳴るな、……まあ確かに派手だがコスト的には見た目ほど高くない、現状では戦術機用の自律誘導ミサイル3、4発分と同等のコストで作れる。製作も量産も比較的容易だ。」
 説明を始めた焔に一応落ち着いたのか、月詠は居住まいを正し先を促す。武には心なしか顔が赤くなっているように見えた。

 (ああゆう月詠さんも新鮮だよなぁ……)
 今回の月詠の反応、焔が動じないということは何回か同じ事があったという事で……完璧超人に思えていた月詠の事が急に身近になったように武は感じた。

 更に説明は続く……
 「投槍の先にBETAの甲殻を利用した回転衝角(ドリル)を付け、それを後方に付けた炸薬で飛ばす。使い方はスイッチを入れながら敵に向かって投げる…照準は投げモーションのうちに機体側が補正してくれる。
 戦術気の投射パワーを初速に特殊な炸薬が爆発的なエネルギーを発して、槍を回転させながら最大加速マッハ2.5近くで飛ばす。(340m/秒×2.5=850m/秒) 
 ただ搭載できる炸薬の量とエネルギーバランスの関係で噴射は約2秒、直進射程距離(有効射程)も極短い(約1㎞前後)。
 たが初速からすぐにほぼ最高速度に移行して音速を超えるため、重光線級のレーザーを照射される前に敵を撃ち抜ける。先の様に要塞級の装甲も撃ち抜ける。
 現在の所射程距離と命中精度が唯一の問題点で、当面は500m圏内の対要塞級用の兵器となるだろうな。
 今の段階だと命中力がやや低下するが1㎞圏内なら確実に装甲を抜ける、重光線級マグヌスルクスの場合1.3㎞までなら大丈夫だがそこがギリギリだ、威力はともかくスピードの低下などで命中率が加速度的に落ちていく、理想射程距離は先程言った通り1㎞だ。
 その過程はまず敵の装甲や保護粘膜に接触する、回転エネルギーは推進力を何倍にも伝え敵の装甲を撃ち抜く、その際大幅に減速されるがそれでいい、減速された槍はゆっくりと進みながら敵の体内を抉る、その回転エネルギーは敵の内部をズタズタに引き裂く。
 トドメに後方の炸薬エネルギー噴射装置の上に取り付けられた接触時間差爆弾が敵の体内で爆発する。
 接触時間差爆弾は先端が敵に接触すると爆弾に取り付けられた傘が開き、その傘が敵の体に接触すると傘ごと敵の体内に爆弾が切り離されそのまま爆発するという仕組みだ。
 その後爆弾が敵対内で爆発、小型だか体内で爆発するからほぼ確実に敵に大ダメージを与えられる、殆んどこれで方が付くだろうがな。」

 一気に……一気に説明し終えた焔博士は非常に満足そうだった。

 (ひょっとして科学者って「説明属性」ってデフォ?)
 思わず考えてしまう武であった。

 しかしその内容は無視できないものだ、これが事実なら要塞級を近付かないで倒せるし、重光線級への対抗兵器ともなる。焔博士の言葉からこの兵器がまだ改良の余地が有る事が推察できる。
 要塞級グラヴィスを倒すのに普通の一般兵が使う弾丸やミサイルの量を考えるとこの兵器は価格的にも等価だ、ならば確実に安全に倒せるこの兵器を量産したほうが効率がいいだろう。
 唯一の難点はミサイルなどと違って沢山携行できないことだが、遠距離投射兵器なのでそれもあまり問題ないだろう。
 (でも最大加速マッハ2.5って……、いくら瞬間的って言ったって凄すぎだ……)と武は最後に思ったが。
 周囲の観客なんかも今見た事を興奮して話し合っている、ふと見るとパメラス基地指令はいつの間にか居ない……焔もだ……

 「あれ……月詠さん、焔博士と基地指令は?。」
 「ああ、焔なら指令と共にお偉方の相手だろう。」

 隣……といっても戦術機越しなので通信画面でだが……の月詠に聞くと貴賓席を見て告げる月詠、
 (なるほどお偉いさんへの説明か……、この3つが量産されるようになれば幾らか戦いもやりやすくなるだろう。)
武はそう考える。BETAとの戦いは常に数の暴力との戦いだ、それをどうにかしない限り戦いが「楽になる」ということはない……、しかしこの発明で幾らか戦いやすくなると思ったのは事実だった。

 「さすが他称天才。」
 「そうだな、アイツは天才という言葉は嫌いだが……まさにヤツ自身を表す言葉としてこれほど相応しい言葉は無い……性格は幾らか破綻しているのは否めない事実だが。」
 苦笑する月詠、なんだかんだ言っても焔の才能は認めているらしい……性格はともかくとして、所詮天才と何とかは紙一重?……などと思ってしまった武であった。


 
その後各自が兵器の試射を行った後、新兵器お披露目は終わりを告げた。

 武達は明日から最前線に配置される、今日の新兵器の使用記録を取りながらその有用性を確認するのも任務の内に入る……新たなる戦場……
 最前線で武達を待ち受けるものとは……。






 月詠……一瞬素に戻してみました。彼女の子供時代……焔に翻弄されまくった過去の再現として。(怒鳴る月詠をやってみたかった……これもなにかの伏線?)

 新兵器に関して色々と……

 ああ……なんか色々とぶっ飛んできましたが……。
 最初に言いますが私はとんでもない威力の兵器は作りません……あくまで現実的な威力の武器を参考に少々威力が高かったりする兵器を作って行きたいと思っています。
 この作品は武の成長、月詠との愛、仲間との絡みの他に、「泥臭い戦い」「BETAとの激戦」ということを考えています。
 ただ負けては何にもならないので常に戦力比が「人類:BETA」で「0.8:1」、「1:1」、「1:0.8」くらいになるように留めたいです。

 現在は人類側はそのままでBETAはG弾の為に戦力が大幅に低下している為戦線が拮抗しています、やや人類有利です。将来BETAが増えてくる頃には焔の新兵器が次々と世に送り出されます、だがしかし……
 という風に新兵器による「ご都合主義」ではない、新兵器があってやっとBETAの数の暴力に対抗できる……という緊迫した情勢を保って行きたいと思っています。

 ただ私は兵器全般は好きですが詳しくはないので「明らかに変だろ?」という所は突っ込んでください。私も突拍子もない設定にはなるべくしたくないので……不味いところは皆さんの突込みで考慮していきたいです。
 
 あと色々調べましたが、現在モース高度15のものを加工するには、「同じ材質で作った刃物(ダイヤモンドの刃など)」「水圧カッター」「レーザー光線」などがあるそうですが、他にもありますかね?

 では次話……前線の話です。戦術機○▲が大活躍?

追伸)スパイラルランサーの原型ははその名の通り3つの元ネタがあります。半分はオリジナルですが……



[1115] Re[19]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第21話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/05 08:12
2004年6月4日…最前線、タイ・スラーターニー基地




 新兵器お披露目の翌日、武達は早朝より前線目指して出発した。
 普通なら船で行くところ、パラメス指令長官の計らいで特別に輸送機に乗り(領内の飛行は安全である。)最前線を構築する10の基地の1つ、一番右端のスラーターニー基地に到着していた。
 武はなぜ一番右端なんかに最前線の司令部があるのか不思議に思ったが、船での輸送や脱出を考えてのことらしい……が一番の理由は一番最初に造られたからだと言う、司令部を移すのが面倒臭いというのは嘘か誠か……?

 常駐衛士最低200人の前線基地に到着した武達は着任の挨拶の為司令官室に足を向けた。
 なお焔博士は格納庫の確認と、何時戦闘が起きてもいいように戦術機搬入の指示と調整をするために輸送機を降りた所で別行動となった。

 そして指令長官室……

 「入ってくれ。」

 指令長官室の扉を叩いた後聞こえた声は武が思っていたよりも気安い声だった。
 月詠が扉を開いて入室する、武達もそれに続いて入室する。
 室内奥にある机の前にがっしりした体格の男が立っていた、年は30後半でマレーシア人のようだ。
 武達はその前に一列に整列して敬礼し、整列後月詠が発言する

 「第28遊撃部隊、現時点を持ってスラーターニー基地へ着任いたします。」

 それに目の前の司令は「キリッ」と敬礼する……がそれは一瞬だけであった。
 「了解。ああ…パラメスも言ってただろう、マレーシア戦線では堅苦しいのは無しだ。特にここは前線、礼儀なんてなんの足しにもならないからな。誰もが戦友、礼儀は自分が尊敬するヤツに向ければいい。……とと、俺の名前はムザッファ、この基地の司令官で前線の司令長官でもある。」

 ニカッと笑って告げるムザッファ司令に戸惑うものの、戦線の気風をある程度知っていた武達は直ぐに順応した。
 (月詠さんはこういうのに順応し難いと思ったんだけどなぁ)
 武は前の基地でもそうだったが、規律に厳しい軍人の見本のような月詠がこの気風に直ぐに慣れたのが不思議だった。……後で聞いたことだが月詠は「各国の軍隊の質の違い」というものを理解していて、訓練生時代大陸帰りの教官に「郷に入っては郷に従え」と教わったという。

 「この基地の者全員この前の模擬戦を見ていたし、俺はパラメスから色々話を聞いている。だからお前達の為に色々用意は整えておいた……だがここでは実戦での実力が全てだ……」
 ムザッファ司令は俺達を見渡す、全員の目を覗き込むが俺達はそんな事では怯まない……

 「いい目だ……。お前達の活躍を期待している、それと白銀武」
 「はい!」
 不敵な笑いを浮かべながらの穏やかな言葉、その後突然名指しされる
 「お前の事は色々と聞いている、XM3の使用法を教授してくれるそうだな……ここでの評判如何によって訓練生のXM3搭載戦術機訓練カリキュラムの作成協力を依頼するかもしれん……、あの機動を見た俺としては期待している。」

 「はっ!教授とはいきませんが、効果的な使い方を示す事は何とか可能だとおもいます。」

 一歩前に出てビシッと敬礼して答える武……しかし心の中では(でぇ~~、せっ責任重大……)などと冷や汗を垂れ流していた。
 後ろで「プクククッッ」「アハハハハッ」などという笑い声や、「教官?お兄ちゃんが……?」唖然とした声、「御臨終?」「適当にガンバレ…」などとうありがたくない嘲笑が聞こえた。

 最後に『ボソッ』と言われた「精々精進しろ……」という激励の言葉が冷えた心に暖かかった。

 不意にドアが開く……
 「へぇ~~い、ムザッファ!2ヶ月ぶりだ、元気してたか?」
 「お久しぶりです司令。」
 陽気な声を上げて、そしてその後ろから入ってきたのは……
 「ウォーカー大尉?それに榎本中尉も……」 
 「おうワンダーポーイ!!」
 ウォーカー大尉は屈託なく手を上げる、後ろで榎本さんもペコリと頭を下げた……月詠さんに向かって……
 それにムザッファ司令は手を軽く上げて答える。
 顔が笑っている…階級は違っても随分親しいらしい、やはりそういう気風なのだろう。……いやウォーカー大尉が特別なだけか?
 武は一時思案したがそれを掻き消すように響が声を上げる

 「どうしてここにいるんですか?」
 「どうして?お嬢ちゃん、俺は衛士だぜ!前線に戦いに来るのは当然さ。」
 「今月は私達2人の前線待機期間なのです、あの模擬戦が終わった後直ぐに船でこちらに参りました。」
 大尉が答えそれに榎本中尉が補足をいれる。
 ちなみに後で知ったことだが、3~4ヶ月で回ってくる1ヶ月の義務での滞在を「前線待機」と言い、好きで滞在するのを「前線常駐」と言うらしい。好きで居る者は大体何時も居るので「常駐」と言うのだと。

 「俺が呼んだのだ、基地の案内には知り合いのほうがいいかと思ってな。」
 「基地の案内は私が勤めさせて頂きます……このうるさいのは戦闘以外は余り約にたちませんので。」
 「おう……、俺だって戦闘とアッチ以外にも役にたつぜ!!」

 「下品……」「不潔……」

 下ネタ全開のウォーカー大尉の言動に、榎本中尉と響少尉の一言が炸裂するが本人は何所吹く風で笑っている。
 何だか不毛な言い合いが始まった……
 武達はそれをポケッと眺めている

 「いやぁ……面白い事になってきたね白銀。」
 「柏木……なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
 柏木の妙に嬉しそうな顔に武は思わず疑問を挟むが
 「そんなの色々と白銀が苦労しそうだからに決まってるよ!!」
 鮎川大尉と顔を見合わせ「ねーー!」なんてやっている。
 (聞いた俺がバカでした……。)
 不幸は集約するのか……武はこの先の己の運命を考え……られなかった。






 
 色々あってやっと格納庫まで到達した。
 正に「色々」あった……月詠はもう全面的に武に厄介事の相手を任せてしまったようだ、彼女のまともな精神ではウォーカー大尉の奇行と言動に付いていけなかった様である。

 「皆様、ここが第1主格納庫です。ここに100機の戦術機が入ります。反対側に第2主格納庫がありそちらにも100機、そして4つの副格納庫と整備専用格納庫があります。
 副格納庫は30機、整備格納庫は大破した戦術機の修理や分解整備に使用されます。」
 榎本中尉の説明を聞きながら第1格納庫に足を踏み入れる。ここに近付く時から格納庫独特の様々な喧騒が聞こえていた。

 「うわぁーーーーーー!!!」

 武達の中で1番に中を目撃した響の驚愕の声が響く。
 「へぇ……」「おーーっ壮観壮観」「確かに……」「日本かと錯覚するな」
 次いで足を踏み入れた皆の声が聞こえる、最後に月詠と武がそれを目撃する。

 「ほぅ……、確かにこれは壮観だな。」
 「すげぇ……!、」

 「吹雪だーーー!!!1.2.3……すごい30機もある!!」
 更に響の叫び、

 皆が目撃した通り、目の前には国連軍カラーの吹雪が実に左右に15機ずつ、合計30機も並んでいた。これだけ同じ機体が並ぶとまさに壮観だ…。

 「なんで!なんで吹雪がこんなに!」

 響が興奮して並ぶ吹雪を指差しながら榎本中尉に詰め寄るくらいの勢いで質問する。
  「ああ……ご存知なかったのですか?、そうですねではご説明しましょう。」
 榎本中尉はこちらを振り替える。

 「白銀大尉の考案したXM3のお陰で戦術機機動の自由度が大幅に上がりました。またそれによってOBLシステムへの習熟蓄積や衛士の熟練度による機動の差がより顕著になりました。」
 ここで一端間をとる、みんなウンウンと頷く。

 「XM3の効果を最大限に得るには第三世代戦術機が一番効果的です、OBLシステムや機動力主体の設計思想、それを考慮してXM3搭載に伴う新人衛士の育成プログラムが作られました。」
 「そしてその新人衛士育成の為に選ばれた機体が吹雪……正しくは不知火の設計を取り入れた実戦使用の吹雪後期型です。」

 ホホウ!と皆が相槌を打つ。確かに吹雪には練習機として作られた前期型と不知火のパーツを流用して実戦仕様に作られた後期型がある。

 「吹雪はもともと高等練習機として調整されていた機体です。そのバランスの良さから練習機としては最適です、更に後期型は第三世代戦術機として完成されています。
 練習機として使えそのまま実戦にも転用できる、つまり今まで機体に蓄積してきた経験が無駄にならなくコストも削減できる。戦術機としてはバランスが良くクセも無い、どんな人物にも無理なく使え、故障率の低さなど使用信頼度も高い。まさに訓練生の為にあるような理想の機体です。」

 武は「なるほど」と思った、武自信も訓練生時代に散々お世話になった機体だ、機体の扱いやすさ、信頼性は体感済みだ。XM3搭載後もクーデター事件などでその力を発揮してくれた。
 響少尉の乗る吹雪は後期型のカスタム仕様だが日本の戦線防衛の時行ったシュミレーターで、他の部隊の不知火と対等以上に渡り合っていた。響少尉の腕は1年目の衛士にしては飛び抜けているが、それを差し引いても後期型の吹雪の性能は不知火に追従すると言う事だろう。

 「えへ~~~、確かに吹雪って良い機体ですもんね、私も不知火に乗り換えるより訓練生時代の後期型をそのままカスタムして乗ってますし。」

 響少尉が嬉しそうに同意する、同じ機体に乗ってる者としては乗機が評価されて嬉しいんだろう。
 「今ではマレーシア戦線の半数近くが吹雪後期型となっています。」
 「そりゃあ凄い、と言う事は半数近く訓練生と新人衛士がいるってことか?」
 半数と聞いて鮎川大尉が驚いて聞く、
 「はい、現在1万人5千人程の……「1万5千!!!」
 響少尉の驚愕の叫びが轟く……

 「そんなに驚愕するほどじゃないぜお嬢ちゃん、このマレーシアはほぼ全てが軍事関係で出来ている。オーストラリア近辺は避難して来た人達で人口が多い、衛士は全てマレーシアで育成されるんだぜ。
 戦術機に乗れるようになった訓練生はこのマレーシア戦線に送られて来る、ボルネオ島……インドネシアではカリマンタン島と言うが……では衛士候補生がそれこそ山のように訓練に励んでるぜ!」
 ウォーカー大尉が笑って言うが……、

 (成る程、戦線が1つしかないから戦力が集中してるのか)
 武はそう判断する、事実そうなのだろう。

 「ではここにある吹雪の衛士は?」
 月詠が榎本に質問する。
 「はい、全て新人……それもハートヤイ、ソンクラーの周辺基地での最終訓練を卒業したばかりの撃破数0の新人達です。」

 「つまり……、実戦未経験という訳ね。」
 「なるほど、初々しいじゃない。」

 御無中尉とヒュレイカ中尉が遠くを見て呟く、そこには3人の……まだ響と同じ年位の衛士が話をしていた。

 (……確かに初々しい……)
 武は思わず響と3人を見比べる、年は同じ位なのに明らかに響には戦士としての貫禄というものがある、こう……滲み出るオーラとか雰囲気の様な漠然とした「もの」が違うのだ。

 (実践経験の差でこうも雰囲気が違うとは……)

 改めて感じてみて、武は過去の平和だった時の自分と今の自分がどれ位雰囲気が違うのか気になった。実戦経験者は厳しい訓練を受けた新人とでもこんなに雰囲気が違うのだ、何も知らない自分と今の自分は最早別人かもしれない。

 (でも……それでいい。)

 それでも武は今の自分が好きだと感じていた。自分で選んだ道、そして力だ……。

 「パコっ」

 ……軽い音が頭の上で響く、
 「何するんですか月詠さん……」後ろを振り向く。
 「何をだと……、貴様が1人で考え込んでいるからだろう……見ろ全員先に進んだぞ!」
 見ると確かに全員先を歩いて行っている。

 「何を考え込んでたのか知らないが……、まあいい今は行くぞ。」
 そのまま歩きだすが……不意にこちらを振り向く、

 「…………話して解決する事なら後で相談に乗ろう……。いや……いい、他人の悩みに干渉するなど愚かな行為だったな……忘れてくれ。」

 苦虫を噛み潰した様な顔で最初の言葉を否定するが、武にはその言葉が何故か物凄く嬉しかった。
 「いえ、人に話すような悩みじゃないんです、結論は既にでていますから。……でもありがとうございます、その気持ちはすげぇ嬉しいです。」

 月詠にこれ以上無い笑顔を向ける、武は何故だか無性に嬉しかった。

 月詠はその笑顔に毒気を抜かれる、そしてやや満足げな「了解した」という意味の目線を返す……が笑顔の武と目が合うと何故か先日、武を背負った時の体温と心臓の鼓動がフラッシュバックする、それは月詠の「理性」というフィルターに遮られ明確ではない漠然としたイメージとなって月詠の心を揺らした。

 その不確かなイメージにより、次の瞬間無性に恥ずかしくなった月詠。
 一瞬頭でその理由を考えるが月詠の理性は「男の温かさを思い出した」自分の思考をすぐに「ありえない事」として完全に忘却させた。
 それでも恥ずかしさは残った月詠は、不意に武から顔を背け傍目には普通にしながらも誤魔化すように前へ歩いて行ってしまう。

 「????」

 後には不思議な顔をした武だけが残された。




 活躍……戦闘まで行きませんでした、次回は…次回こそは……
 ちなみにこうゆう話の場面などは「09・ブリーフィング」と「13・軍靴の足音」の2曲が創作意欲を刺激されます。
 戦闘シーンなどでは「12・殲滅せよ!」など威勢のいい曲の方がいいのですが。

 では次話、
 「命の閃光が吹き荒れる戦場で、燃えよ吹雪!!!」

 いや種ガン調で……。一度やってみたかったんだよ~~(泣)(笑)



[1115] Re[20]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第22話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/05 23:27
2004年6月4日…スラーターニー基地、第1主格納庫




 月詠と武は直ぐに前を行く仲間達に追いつく。途中で響が立ち止まり吹雪を見上げていたからだ。
 近付くと響と榎本中尉の話し声が聞こえる。

 「この吹雪、後期型といっても少しちがいますね?それに背中のウェポンラックが1つ多いです。」
 武と月詠がその声に吹雪を見上げる。
 (確かに違うな……)
 武の知る響の乗る後期型吹雪とはディテールが違う、特に後ろのウェポンラックが3つになっているのが最大の変化だ。

 「はい、これは後期型の2002年モデルです。97年製の後期型吹雪をXM3運用で得たデータを基にXM3使用をより最適化するため最新の技術を加え作り直しました。勿論製作指揮を執ったのは移住してきた日本人技師です、他の外国製戦術機の良い所をバランスを崩さないように最適化し導入、それにより吹雪の安定性を損なわないままで不知火と同等の力を発揮できるように作り直されています。」

 「更に、背中に長刀用のウェポンラックを増設しました。ここマレーシア戦線では日本と同様ハイヴ攻略も視野に入れています、なにより私達日本人衛士の刀を使った接近戦が大陸での戦いを経験してきた熟練の衛士達やここで共に戦った外国の衛士にとりとても大事な要素に思えたのでしょう。
 特に大陸での戦いを経験している衛士にとって弾が切れた時の自衛の手段というのは切実な問題だった様で、一部の怪我で退役した新人教官を務める古参の衛士達は刀での接近戦闘の重要性を上層部に訴えそれが受理されました。
 その為マレーシア戦線では衛士候補生時代に接近戦闘や格闘、長刀、短刀の扱いなどが訓練項目に追加され、衛士になれば戦術機での訓練も仕込まれます。
 長刀が標準装備なので新型の吹雪には装備数を増やすため、専用のウェポンラックが1つ増設されたのです。もちろんメインは銃での戦いとなりますが。」

 その説明に全員半分驚愕、半分納得する。
 接近戦の重要性は確かに高い、『接近するなんて危険』と思われるが対BETA戦ではこちらの物量が少ない事が多いので大抵は否応なく接近される。補給線がしっかりしていれば良いがそうでない場合、刀の扱いが熟練していれば至近距離では銃より刀で戦った方が良い場合も多い、勿論銃で戦うのが理想的だが敵の物量の前には残弾の事も考え刀で倒せる敵は刀で倒すべきだと武達は思っている。 
 しかし外国の新人衛士が全員長刀での戦い方を学ぶというのは驚きだ。 

「おうイェ~ス!この俺もチャンバラを練習したぜ、教わったヤツからは結構いいスジしてるって言われたぜぇ~~」
 「大尉は運動神経「だけ」はいいですからね……」
 「なにを言う中尉!!俺の凄い所はそれだけじゃない!、それに1つ言うが「運動神経」に個人差はないんだぞ。」
 「ええい!そんな事知っています。このお下劣大尉!!!」
 ……この2人ははたして仲が良いのだろうか、悪いのだろうか?微妙に思う武であった。

 その時、こちらの騒ぎを聞きつけたのか先程の新人3人がこちらに近寄ってくる。
 3人はめの前に整列すると見本のような……武達から見ればぎこちなさが満載だったが……敬礼をして言った。

 「お初にお目に掛かります、ウォーカー大尉、榎本中尉。自分はハートヤイ基地衛士教練場から参りました、蔡 亜璃沙(ツァイ・アリサ)少尉です。」
 「俺は…いえ私は、嶋 煉矢(シマ レンヤ)少尉です。」
 「私は、ミラーナ・アルティ少尉と言います、よろしくお願いします。」
 3人の新人衛士は順に挨拶をする。
 どうやらウォーカー大尉と榎本中尉は新人の間でも有名人らしい。

 「おう、ボーヤ達!元気があっていいじゃないか。どうだ初めての実戦を前にして?」
 「はっ!自分は実戦でも実力を遺憾無く発揮できると思います。」
 男…煉矢少尉が元気に宣言する。それを聞いて隣の少女……アリサ少尉がそれを戒める。

 「もう、煉矢!!そんな生意気なこと言っちゃダメじゃないの。」
 「いいだろ別に……、それだけの練習はしてきたんだぜ。2年前には実戦に出れるハズだったのに新型OSの習熟とかで訓練教程に戻されて……俺達は余分に訓練したんだぜ!!」
 「だからって実戦を甘く見ないの!!もう、本当に最近生意気なんだから……」
 「なんだと……」
 急にその場で言い合いを繰り広げる2人、もう1人の少女ミラーナ少尉の視線ががニヤニヤ眺めているウォーカー大尉や鮎川・柏木コンビとその2人の間を行ったり来たりする。

 「あ…あの……、2人ともそれくらいにしといた方が……」

 おずおずと2人に声を掛けるが2人の言い合いは終わらない……、
 武達はこのひとコマでこの3人の大体の力関係は読めた……。その後の言い合いや聞いた話を纏めると次のようになる。

 アリサ少尉は18歳中国人と日本人のハーフで、煉矢少尉の幼馴染。98年の移住計画により家族ごと移住してきてもともと帝国軍の軍学校に通っていた2人は軍に志願したそうだ。

 煉矢少尉は17歳の日本人、言動からアリサ少尉の事が好きなのは明白だが、1つ年上でいつもお姉さんぶるアリサ少尉に対し素直になれないらしく、背伸びしたい年頃らしい。

 ミラーナ少尉は17歳のギリシャ系アメリカ人でここの軍の入隊時にパーティー(ちなみ新人は死亡率低下のため2人ではなく3人、前衛・中衛・後衛で1チームを組まれるらしい)を組んだらしい。
 柏木の見解によれば、密かに煉矢少尉のことが好きらしいが煉矢がアリサと両者意識はしていないが両想いのため言い出せないらしい。

 武はその時、横で三角関係?とか言って喜んでる女性陣が異次元の存在に思えてならなかった、ていうか柏木・鮎川・響はともかく御無とヒュレイカ、榎本中尉まで加わっていたのがアレだった。
 所詮女性はそういう話が大好きなんだろうか……と思う武だった。
 月詠さんが加わっていないのが唯一の救いだった。

 言い合いが収束し…………アリサ少尉がこちらを見る。
 「それよりこちらは……」
 「おう、お前達も見ていただろ。俺達と戦った第28遊撃部隊の皆さんだ!」

 「この人達がですか!」

 3人はこちらをじっと見詰める。
 (うう…アリサ少尉とミラーナ少尉の憬れに満ちた視線が痛い……)
 少女の純粋なるキラキラ目線攻撃は武のハートには堪えるようだった、すぐ隣では響も気まずそうにしている。

 煉矢少尉は逆に挑むような眼差しで此方を見詰めてくる、
 (おうおう…、背伸びしたい年頃なのかねぇ)
 (いゃあ、微笑ましいねぇ。)
 (可愛い……)
 (私にはあんな時期は無かったからな……)
 (気概があるのは悪い事ではない)
 鮎川・柏木・御無・ヒュレイカ・月詠とそれぞれの感想が聞こえてきた。

 その緊迫した?場面に向うから焔博士が歩いてくる。
 「おう、お前達!戦術機の調整はばっちりだ、新兵装もバッチリ準備しといたぞ。……ああそれから背中のウェポンラックの増設…次の戦術機の分解整備の時にこちらの技術も盛り込んで大改造するからその時にやっておくからな。」

 すでに断定口調……相変わらずの唯我独尊だ。
 「博士……大改造って……」
 響がポツリと呟く、
 「なに遠慮するな……、とお前達…どうしたんだこんな所で。」
 焔博士は響の呟きに対し豪快に喋ろうとするが、不意に新人3人を目に止めた。
 「は…はい。偉大なる先達の衛士であるウォーカー大尉に挨拶をしておりました。」
 煉矢少尉がビシッと直立不動の敬礼で答える、なんかもの凄く緊張しているし……。
 武が見るととなりの2人の少女も心なしか震えているが……博士……一体あんたは何をした……。

 「ほうほう、それより吹雪の……「ピーーーーー!!!」

 突然、格納庫内に鋭い警報が響き渡る。

 「これは……。」
 榎本中尉とウォーカー大尉の顔が引き締まる、周りの喧騒も大きくなる。目の前の3人も緊張している。
 俺達も警報の意味は半場予想は付いていた……これは……。

 「監視船よりBETAの進攻報告、衛星での確認も終了。これより前線各基地は第一次警戒態勢に移行する、BETAの進行にそなえよ。」

 (やっぱり、BETAの進攻か!!まさか来た早々敵襲とは)
 「焔、私達の機体は?」
 武の思考に月詠の落ち着いた声が被る。
 「格納庫の入り口付近」
 「分かった、全員行くぞ」
 簡潔な説明を聞くと同時に走り出す、俺達もあとに続く。

 武が走り際に後ろを見ると、3人の新人衛士は気丈にも、自分の機体に向かって走り始めていた。
 (あれなら大丈夫かな?)
 初の実戦だと言うからいざともなればどうなるか?と心配に思っていたがあれなら大丈夫そうだな……と武は思って仲間の後に続いた。

 「付近で警戒中の艦隊が終結を開始……、艦砲射撃開始まで30分……」

 俺達は放送を聞きながら衛士強化装備に着替える、そのまま機体に乗り込み待機する。
 「まったく……、着いた早々戦闘配備とは。」
 鮎川大尉がグぐちる、
 「まだこの基地の衛士が出撃すると決まった訳では…」
 「御無中尉、戦場では口に出すと不幸がよって来る……、経験則だがな……。」
 ヒュレイカ中尉が不吉な事を喋る、大陸で戦いに明け暮れた中尉の言葉だと余計に真実味がある。
 「まぁ私達は出来る事をする……、それでいいんじゃない。」
 「柏木中尉!!そんな不真面目な。」
 「まあまあ、無駄に気張ったってなんの特にもならないよ。」
 柏木の笑顔の一撃に響少尉は言葉を返せない、
 「まっ出番がきたら頑張ろうぜ。そんときゃあの新人達も出撃するんだからな。」
 「確かに、将来有望な衛士達だ。無駄に死なせたくは無い。」
 武と月詠の言葉に全員が頷く……そして時は過ぎていく。




 「艦隊は間接飽和による絨毯爆撃を開始……敵30%・40・50・65・70・80……全弾消費……、敵撃破率85%、確認できたレーザー種反応は全て殲滅…残り約……」

 艦隊飽和攻撃でも幾らか残る…ある程度数が減少すると、間接砲撃は割りにあわない為にレーザー種が沢山残っていない限り後は防衛線の衛士に任される。
 間接砲撃で仕留めた方が安全なのは事実だが将来の為にも弾は無駄遣いする訳にはいかないのだ。
 そして……数十分間後……

 「報告、BETAの最終進路を特定……迎撃はスラーターニー基地と………基地の2つに……」

 (来た……)
 武の鼓動が早鐘を打つ、戦闘は初めてでは無いのにやけに興奮する……、新しい土地だからか?

 「言霊の力ってやつかい?」
 「成るべくして成った……それだけさ……」
 「では参りましょうか。」
 鮎川・ヒュレイカ・御無が機体をアクティブに持っていく。
 「お前ら、戦闘後甲殻の回収わすれるなよ~~」

 「「「「「はい!!!」」」」」

 焔博士の通信に周り中から通信の返事が返ってくる。
 (一体いつの間に下僕をお増やしになったのだろう?)
 武は博士の行動力?が底知れなかった。

 「じゃあ響ちゃん。行こうかね……」
 「柏木中尉!!響ちゃんはやめてください、ちゃんは!」
 その緊張感の無さに月詠は思わず呟く、
 「全く…この部隊は賑やかと言うか……」
 「それでいいじゃないですか。郷に入っては郷に従うんでしょ月詠さん。」
 「ここに来る前からだ……まあいい。」
 呆れも通り過ぎいよいよ何かを達観したのか、月詠は一度首を振る。そして機体のコントロールレバーに手を伸ばした。

 「月詠真那……出るぞ!」
 「白銀武、何所へともお供いたします。」

 武は月詠の発進した後に小声で呟くと、漆黒の武御雷を駆り戦場へと足を進めた。






 基地より出発し指示された待機地点でBETAを待ち受ける。
 武達の側にはウォーカー大尉のEF-2000タイフーンと榎本中尉の不知火、そして焔博士に選抜された何機かの戦術機が並んでいた。
 全員が新兵器「(とりあえずの名称)スパイラルランサー」を携帯して待機している、その数29……とりあえず作ったのを全部投入するらしい。

 武達、投槍部隊は戦線の一番前で待機していた。
 
 新人衛士30人は戦線の一番後方に待機している。初の実戦時は後方待機で射撃援護をするのが任務だ。
 初陣での新人衛士死亡率は平均およそ5人、これでもXM3と新教育プログラム導入前より随分と減ったようだ。
 レーザー種が混じっていた時の死亡率が非常に高く、平均のうち3人位がレーザーで殺されるらしい、つまりレーザー種が混じっていなければ死亡率は30人中1人か2人だと言う。
 
 「衛星からの報告、そろそろくるよ……」
 柏木の声に全員槍を持ち上げる。
 来た……戦術機のレーダーにも探査限界域から次々と反応が進入してくる。
 後方の戦術機達が銃を構える。
 (まずは俺達の先制攻撃だ……)

 武はランサーを構える。
 統合情報戦術分配システムにより投射部隊各機の目標が重複されないよう指示される。
 衛士はそれを確認すると機体に攻撃命令を伝える。OBLシステムで思考を伝達されるとあらかじめインプットされてあった投射モーション機動を衛士に伝え相互連動に入る。
 投射機動を受け取った衛士はその通りに機体を動かす、衛士の意思とコンピューターの蓄積情報が統合制御され1つの機動……即ち完璧な投射モーションを再現する。

 そして「槍」は放たれた。

 29の槍が29体のフォート級グラヴィスに向かう、ソニックブームを発した槍は次の瞬間にはグラヴィスに突き刺さり……

 「グワァーーーーーン」

 体内での鈍い爆発音が響き渡った。
 命中27……2本は外れたがそれでも27体のグラヴィスを葬った。
 皆その威力に心の中で喝采を上げる、手放しで喜びたいが既にBETAは直ぐ其処までせまっていて、既に遠距離射撃を開始し始めたものもいる。

 「どうしましょうか?」
 「光線級はいない、エレメント(二機連携)で陣形を保ちながら各個に暴れるってのは」
 「分かった、何時もと同じ私と御無だな。」
 「じゃあ響、いくよ。」
 「は・はい!」
 ヒュレイカと御無、鮎川と響のコンビ、

 「お~う、俺もいくぜぇい!!!」
 「私は新人達のフォローをしながら戦います。」
 「私は1人あぶれるから戦場全体を見てフォローするよ、新人達のフォローもやっておくから。」
 ウォーカー大尉は前に榎本中尉は後ろに飛び出す。柏木は後ろだ、通信越しに手を上げて行く。

 「俺達はどうします。新人のフォローですか?敵の殲滅優先ですか?」
 武は自身の相棒に声をかける。
 「いずれ敵味方入り乱れる、敵の殲滅を優先しつつ新人の援護……というのが妥当だろう。」
 些かの迷いも無く言い切る月詠、武は「了解」と苦笑する。

 そして2人はBETAの集団に飛び込んで行った。 






 刀の扱いには色々意見があるかとは思いますが、まあ…マブラヴ世界の特色だと私は色付けしています。
 というか接近戦好き…、後の伏線?じゃないけどこの設定があとで生きてきます。(と思います。)

 次の話…色々あります。そう……色々…フフフフ……



[1115] Re[21]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第23話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/06 08:02
2004年6月4日…スラーターニー基地郊外、交戦地域




 月詠と武はまず後方の要塞級グラヴィスを狙う。
 ランサーで数を減らしてもまだ多数のグラヴィスが残っていた、あれが戦場に乱入されると厄介だからだ。

 機動力の違いでグラヴィスだけが後方に遅れている、普通の衛士なら集団のグラヴィスの相手など危険だが、2人の腕は普通ではない。
 特に他のBETAが全て前面に進攻しているので、邪魔が入らなくてやり易いくらいだ。更に武達には新型の武器がある。
 月詠はグラヴィスに突っ込む、足元の節から刃を入れ斬り上げる、少し硬い手応えがあったが問題なく斬れた。次いでその切り口に武の放った36㎜の通常弾が中を抉る……。
 まず1体……




 「くそ……、ええい!!」
 「なにやってるの、落ち着いて狙いなさい。」

 戦場の後方では新人3人組みが向かってくる小型種を相手に奮闘していた。
 ただ狙いをつけて撃っているだけだが、初戦闘にしてはパニックも恐慌もなく奮闘している。
 「横からメデューム接近!!」
 ミラーナ少尉が叫ぶ。

 「うおおおぉぉぉ!!!」

 突然の事態にも落ち着いて対応できてるが如何せん初戦闘……効果が余り上がっていない。
 その射撃を突き抜けメデュームがこちらに迫ってくる。

 「ちっ!!」
 アリサは74式長刀に手を掛けようとするが…

 「ガォンッッッ」

 盛大な音をたてて目の前に迫っていたメデュームが吹き飛ぶ。
 一瞬射線を目で辿ると戦場の中央……かなり向うで73式地対地狙撃砲を構えた不知火が見えた。

 (ありがとうございます。)

 アリサは心の中でお礼を言うと、また目の前に迫る小型種に銃を構えながら叫ぶ。
 「煉矢!、ミラーナ!、どうせ役になんてたたないんだからせめて足手まといにはならない様にするわよ!!」
 「うるさい!解ってるよそんなこと!!!」
 「了解いたしました。」




 陣形を戻し3人での射撃に戻った新人達を横目で確認した柏木は密かに笑った。

 (自分の初陣はもう少しみっともなかったかな……?)

 柏木は戦場の中央付近で全体を見渡しながら各機の援護を行っていた……と言っても流石にベテラン達の腕は良く、援護してるのは殆んど新人衛士達だ。
 (左のソンクヤー基地出身者で離脱者が1名……それ以外は被害なし…と。)
 柏木はこれまで味方の邪魔になるBETAを倒す傍ら15回以上は新人の援護射撃を行っていた。
 (まったまには子供のお守りもいいかな……)




 鮎川と響、御無とヒュレイカはやや前方でルイタウラの突撃を押しとめながら他のBETAと戦っていた。その前方ではウォーカー大尉が武と月詠がとり零したグラヴィスを相手どっていた。

 「うわぁ~~お、ジャパニーズサムラーイ!」

 前方での武と月詠を見たウォーカーは思わずそう叫んでいた。
 節目を利用してるとはいえグラヴィスを装甲ごとバッサリと斬り裂くのはまさに「サムライ」だ。
 新型の長刀を使っているとはいえ、そもそも刀で綺麗に斬るというのは意外と熟練した技が必要なのだ、剣術を習ったウォーカーはそれを良く知っている。
 刃の「入り」や「抜き」、刃筋の立て方、力の配分……斬るという要素には様々な要因がある。
 西洋剣は「力」で叩き切るものが多いが、和刀は「技」で「抜く」のだ……それが「斬る」という事である。

 それをどんな状態でも、様々な角度から必ず斬り抜くというのはとんでもない技術を体得しているという事に他ならない。
 「俺の獲物も残しといてくれよ!!」
 ウォーカー大尉は新たなグラヴィスに向かって行った。






 それから暫らくして、武と月詠達が敵後方のグラヴィスの集団を殲滅した頃には戦場は入り乱れた戦へと変化していた。
 最早前衛も後衛も無い、各自は連携をとってただ押し寄せるBETAを相手取っていた。

 「BETAに背中を見せるな!各チームは互いの背中を守れ…」
 アリサは叫ぶ、後方で敵の層が薄いとはいえ囲まれているのは事実だ、背中を見せればやられる。

 「くそ、残弾が……」

 煉矢の銃の残弾が切れる、予備の弾倉に切り替えるが一瞬の隙を突いて横からメデュームが迫る。
 戦場でそれを目撃した武は月詠に目で合図するとそちらに向かってブーストを利用した突撃移動を敢行、銃の弾を甲殻弾に切り替え射撃……そのまま着地しつつメデュームの振り上げられた前腕を切り裂いた。
 目の前の敵を殺した漆黒の戦術機を見た煉矢はその機体の様相に一瞬怯んだ、だがすぐに気を取り直し仲間との連携に戻った。
 それを見た武は「元気なヤツだ」と思った、月詠も不適に笑っている。
 将来有望な衛士になるかは分からないが、その気概が気に入ったらしい。
 なんとなくだが武は月詠の不適な笑いの意味を感じ取っていた。



 
 …………やがてBETAの数も減り、勝利は目前となる。それでも気は抜かなかったが全員「今日の戦闘は終わる……」と感じていた。





 
 ……その時……

 
 「……これはっ……!!!」

 戦場の隅……大きな岩陰の側に数十のBETAの反応が行き成り出現した。
 「ばかな……!!!」
 だれかが叫ぶ、その数十の中には光線級が幾つか含まれていたのだ。

 「ばかな!衛星からの被照射危険地帯警報はっ!!!」

 「岩陰で戦術機のレーダーも衛星の探査もさえぎられていたんだ!!!」

 口々に叫び声が聞こえる……それは新人衛士のものだったか……

 「チクショウ!!!やらせるかよっっっ」
 「続けっっ!!!」

 武と月詠、そして幾人かの衛士は殆んど反射的に新たな敵に向かって飛び出していた、それは戦場で培ってきた経験故の行動だった。

 「ピーーーーー」

 何人かの戦術機にレーザー照射警報が響き渡る、それを受けた衛士や側の衛士達もほぼ反射的に敵への照準を取った。
 だが運悪く……そう後方にいたのにレーザー照射警報を受けた新人衛士がいた。

 「え…………」

 煉矢はその警報を聞いた時頭が真っ白になった……
 (なんだ……どうしたんだ?この警報は……、俺どうなるんだ)
 無理も無い……初の戦闘…戦闘が収束して安堵した瞬間、受けるはずの無いレーザー照射を受けたのだ、最早彼の頭は様々な情報でパンク寸前だった。
 それでも彼の戦術機「04式吹雪」は敵の初期低出力照射を機体装甲のセンサーが感知し自立制御で回避行動をする。

 しかしそれは回避の為の行動ではない……

 光線級の追尾率はほぼ100%、確実に光線を回避する手段はたった2つ……照射元の光線級を撃破するか、BETAを盾にするしかない。後方にいた新人達の周囲には既に盾にするBETAは存在しない……
 だから照射元を撃破するしか助かる道は無い。

 戦術機が回避行動をとるのは敵がそれを自動追尾して再照準を行う僅かな時間を稼ぐためだ。
 光線級は一度は射線を外すがすぐに修正して撃ってくる、たとえ回避し続けても撃ちながら向きを変え目標を追尾する、特に重光線級の場合一度撃たれたら光速のレーザーを回避するのは不可能である。
 重光線級に狙われたら。低出力照射から回避運動までの短い時間の間に自分で照射元を撃破するか同じチームの人間が撃破するのが通常の対応だ。

 つまり重光線級に狙われた戦術機が「回避」をするのは「時間を稼ぐ」と同義なのだ。

 だがこの時、同じチームの2人、アリサとミラーナも固まって動けないでいた。



  
 「くそっ、間に合えっっ」
 武と月詠はデータリンクによって煉矢の機体のレーザー照射を確認していた。
 恐らく彼らは対応出来ないだろう……、そう考え2人の優先撃破目標はそのレーザーの照射元のBETAに絞った。

 だが更に運の悪い事に目標は一番後方……しかも重光線級マグヌスルクスだった。
 他の戦術機の攻撃によりルクスは次々と撃破されていく……しかし後方のマグヌスルクスには他のBETAが邪魔をして攻撃が届かない。

 「うおぉぉぉぉおおお!!!」「ああああぁぁぁ!!!」

 武と月詠は前面のBETA群をブーストジャンプで一気に飛び越える、上空から87式36㎜機関砲(改)の甲殻弾で狙いを付け様とするが前面のグラヴィスが邪魔で射線が取れない。 
 ブーストも最大出力で放ったばかりで再噴射まで時間が掛かる。

 (くそっ、白銀!!!)

 月詠は……このどうしようもない状況下で白銀を見た……。
 月詠自身は諦めていない、彼女は最後の最後まで足掻くつもりだった、だが無意識に……彼なら…白銀ならなんとかしてくれると感じたのか……?
 その視線を受けたのを感じたか通信画面越しに武と月詠の目が合う。

 月詠はコクンと頷いた……

 そこで武はとんでもない行動に出た、空中で頭をやや上にしたうつ伏せ状態で飛んでいる武御雷、それをその場で捻りを加えて一回転させたのだ。
 月詠はすぐに白銀の行動の意図が読めた……余りにも信じられないような手だったが、白銀と背中を預け合っていた月詠には白銀がそれを「やる」と確信できた。
 咄嗟に衝撃に備える、白銀がやりやすいように左肩を押し出す。

 「ガキンッッッ!!!」

 次の瞬間金属が打ち合う大きな音をたてて、武の武御雷は前に……月詠の武御雷は後ろに跳んだ。
 そう武はあの瞬間月詠の武御雷の左肩を蹴ってもう一度跳躍したのだ。
 2人の協力があって初めて成功した荒業だ、一瞬のアイコンタクト…それを実行する武もそれを受ける月詠もお互いを信頼してこそか……
 グラヴィスを飛び越えマグヌスルクスの背後に出た武はすぐさま甲殻弾を撃ち放った。

 しかしその行動はコンマ一瞬遅くマグヌスルクスのレーザー照射は約1秒ほど発射された。
 甲殻弾がマグヌスルクスの背後から撃ち込まれ敵は倒れるが発射されたレーザーはどうにもならない。
 武は反射的にレーダーを見たが……反応が消えていたのは……






 その瞬間……煉矢は周りがスローモーションに感じていた。

 レーザー照射警報が聞こえてから数秒、彼の戦術機のコンピューターから送られてきたデータの「照射元」の方に目線を向けると眩しい光がこちらに迫ってきていた。
 レーザー光は一瞬……だが煉矢にはそれが凄くゆっくりと見えた。

 「ああ…父さん、…母さん、ミラーナ」

 親しい人の名前が浮かぶ……そして最後に……

 「…………」
 「……………」
 「………………」
 「…………………」

 (おかしい……)

 何時までたっても意識が残ってる…、自分はレーザーで焼かれたはずなのに。
 機体を確認してみる…

 (アレ……?なんで倒れてるんだ……)

 なぜか横倒しになった機体……、横を見てみると…………

 (なんだこれ………、なんだ、なんだよこれ……)

 現実を直視するのが怖くモニターを見る。
 ミラーナが悲痛な顔を手で覆っている……叫びたくても叫べない……そんな感じだ。
 そしてモニターに表示された情報を見る……
 それは……


 『戦術機大破……搭乗者・蔡亜璃沙少尉。状態…下半身バイタル消滅。』

 「搭乗者・蔡亜璃沙少尉」

 「状態…下半身バイタル消滅」

 「うあああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」


 それは受け入れられない現実であった。






 最初に言っておきますがこれは「設定通り」です、形は違えどこれは起こる予定でした。
 けっして「贖罪」をやったからではありません。
 まあちょっと影響は受けたけど。

 今回の戦いの話のテーマは「逃れられない現実」です。
 消えない事実、助けられない命、それに武達がどう向き合うのか……
 と盛大に書いてますが私の表現力で書ききれるか

 では次回で……



[1115] Re[22]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第24話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/07 21:55
2004年6月4日…スラーターニー基地郊外、交戦地域




 通信回線から煉矢の慟哭の叫びを聞いたタケルは一瞬自らの思考の淵に沈んだ。

 (そんな……、くそっチクショウッ!俺は……俺はまた間に合わなかったのか……)
 「………………」
 (もっと早く反応していれば……、もっと速く敵を突破すれば……)
 「………銀…」
 (俺は仲間を助けられなかった……)

 「白銀!!!」

 暗い思考の淵に沈んでいた武の思考を月詠の怒声が無理やり呼び戻した。

 「何を考えてるかは大体解る……、その気持ちは少なからず私も同じだ。だが戦場では立ち止まるな!悲しみも…後悔も後にしろ、まずは敵を倒せ!!」

 その叱咤に呆けていた武の瞳に意思の光が戻る、
 (そうだ……、今は敵中……)
 撃破したマグヌスルクスの後方に着地した武だが、依然飛び越えてきた方向にBETAは存在する。見るとその敵中で月詠の紅い武御雷が戦いながら此方に向かって来る。

 (あ……、左腕……!!)

 その武御雷の左腕は動いていない……。肩部装甲があったとはいえ武御雷一体の全体重をぶつけられたのだ、流石にどこか故障したのだろう。
 しかし月詠は右腕だけで36㎜機関砲(改)を巧みに使い、敵を撃ち抜きつつ此方に接近して来ていた。
 (そうだ……、今は敵を倒さないと……、)
 心に宿る暗い感情を無理矢理に押し込め武は月詠の援護に向かう。

 月詠は白銀が動き出したのを見て安堵した。
 白銀の苦悩は解る、だが月詠はこの結果を既に受け入れている。
 あの瞬間、光線級の補足から突撃への移行……そして敵中突破は最上級の対応だった、月詠と白銀のコンビでなかったら発射までに到達する事も出来なかっただろう。 
 月詠は多くの死を見てきた、今回の事も自分の力不足を痛感しているがある意味仕方ないとすでに心は割り切っている。
 勿論悲しみや後悔はある……だが月詠は自らの歩みを止める事は無い。彼女は真に自分の守りたいもののために戦い続けなくてはならないのだから……。

 月詠は思う……白銀は人の死に慣れてはいない、彼の話では戦場での人の死を身近に感じた事はあるというが、今回の反応から恐らく本当の意味での「死の別れ」を体験したことは無いのだろうと……。
 親しい者が死ぬのは堪える、特に仲が深ければ深いほど……。今回の様に出撃前にほんの少し接触を持っただけでもだ……。

 「知り合い」「友人」「守りたかった者」……死を受け入れるのは大きな試練だ。月詠自身でさえ一番最初の「それ」は鮮明に思い出せる。
 (白銀……)
 死を受け入れるのは衛士にとっての試練だ、これは自身で決着をつけるしかない、どんな結論を出しどんな道を選ぶのかも……、月詠自身は既にその答えは出ている、彼女の生き様は確固たる指標を持って揺らがない。

 だが……
 (白銀は答えを出せるのだろうか……?)
 月詠の心は不安に駆られる
 必要以上に白銀のことを心配してしまう自分に彼女は気付かない……。
 そして2人は先の見えない感情を心の中に押し込めて戦い続ける。






 「アリサっっ!!!アリサアリサアリサ…アリサぁぁぁあああーーー」

 煉矢は不通となった通信画面に向かって悲痛な大声を上げる、焼け落ちた機体に目を向けないのは心がその事実を否定しているからか……、嵐となった画面に向かい必死で叫び続ける…

 「煉…矢…君…、もう…もう……アリサちゃんは……。」

 必死で叫び続ける煉矢に向かってミラーナは泣きながらも訴えかける。しかし煉矢にはそれが聞こえない……、いや……心が理解しようとしない。
 だがその時、

 「や…あね…ミラーナ、勝手…に…殺さないで……よ…。」

 嵐となった通信画面の向うからかすかな声が聞こえた、映像は映らないが辛うじて音声だけは聞こえる。

 「アリサ!!!」「アリサちゃん!!!?」

 その声に2人は声を上げる。しかしミラーナの声は驚愕が混じっている、あの状態で生きているはずがないからだ……。

 「ああ……でも…もう死んでるのか……、なんで私生きてるんだろ?……もう感覚が全然無いのに……」

 それは果たしてこの場合「奇跡」と呼んでいいものなのか。
 武がマグヌスルクスを撃破したことによりレーザー照射は1秒足らずで終わり、さらに射線も変化した、そのためレーザーは煉矢の04式吹雪を突き飛ばしたアリサの04式吹雪の機体下部を抉り抜く形で通過した。
 その為アリサは自分の下半身を焼かれた状態で辛うじて生きていた。しかし熱波による衝撃は衛士強化装備を吹き飛ばし上半身のほとんどを炭化させた、即死しなかったのは正に奇跡だろう。

 「アリサ…、俺……俺は……」
 「もう……、いい年して泣かないの……。」

 様々な感情が入り混じって泣く煉矢にアリサは優しく声を掛ける、先程より声がハッキリしてくる。
 (ああ……、アリサちゃんは………)
 ミラーナは理解した……理解してしまった。……これは最後の残り火だ、燃え尽きる前の一瞬の輝き。

 「ごめんね……、もう一緒にはいられないみたい。」
 「なんで……なんで俺を庇った、どうして……」
 「今まで楽しかった、生まれは1年違うけどお隣さんで……ずっと一緒で、この18年…充実した人生だった。あなたが隣にいて本当に良かった……」
 「あの時……俺が…俺がちゃんと対応していれば……」
 煉矢の言葉にアリサは答えない……、もう既に明確な意識はないのだろう…ただ自分の想いを最後の言葉に残すだけ……それだけで精一杯なのだ。

 「まってろすぐに行くから…「こないで!!!」
 「お願い……、もう最後よ……これでさようなら……」
 「アリサ……」
 「ゴメンね…私だって女の子だから……」
 見えないが自分は相当酷い様相のはずだ……今は見られたくない。
 (どうせ死んだ後に見られるけど…)
 そうだとしても意識のある内は見られたくない。
 (あ~あ、結局素直になれなかったな……)
 そのくせに最後の最後まで女を意識するなんて
(……相当重傷だ……)
 心の内で苦笑する……

 だがそれも最後だった……

 煉矢だって解っていた、理解していた。もうどうにもならないことは……
 「バイバイ、煉矢…………ミラーナの事よろしくね………」
 「………………」
 煉矢は俯いて言葉が出ない、

 「ガンバレ……」

 それが彼女の最後の言葉であった。

 そしてミラーナは最後に聞いた、アリサが最後に呟いた言葉……「愛してる」「もっと一緒にいたかった」という悲しい本心を。






 慟哭、叫び、号泣……全てが混じった嘆きの悲鳴が戦場に響く、それは別段珍しい光景ではない。BETAとの戦いの中では極当たり前に起こりうる出来事だ。
 先程隠れていた増援も殲滅し戦闘は終結した、だが誰もが言葉を発しなかった……今回の訓練生の死は色々な意味で衝撃があったからだ。
 戦場の全機が終結する、武達も終結してアリサの大破した04式吹雪の周りを囲んだ。
 ウォーカー大尉が慟哭する煉矢に声を掛けようとするが榎本中尉がそれを制した。
 そして月詠に目配せをする、月詠は一瞬考え込み「いいのか」と無言で問うが榎本は「お願いします」と無言で頭を下げた。

 「嶋煉矢少尉……聞け……。」

 月詠は共同通信回線にその声を乗せた、その場にいた全ての衛士は戦闘時の共同通信を開いていたため全員が月詠の言葉を聞いていた。
 その静かな声に、慟哭していた煉矢も、ミラーナも耳を向けた。

 「嶋少尉、蔡少尉が貴様を庇って死んだのはそれが彼女の望みだったからだ。だがその原因を招いたのは貴様の力不足が原因の一端でもある、戦場に絶対などと言う言葉は存在しないが貴様があの時なにも出来なかったのは事実だ。」

 「涙を拭け…、悲しむなとは言わん…だが貴様は衛士だ…泣くのは戦術機を降りてからにしろ。
 悲しみを乗り越え前を見ろ、過去を悔やまず未来を戦い抜け。蔡少尉は優秀な衛士だった……ならば貴様が彼女の志を背負え、過去を振り返って嘆く暇があったらその分強くなれ、そして未来で蔡少尉が助ける可能性のあった人までも助けてみせろ。
 貴様は蔡少尉に命を託された、ならば貴様は安易に死ぬ事も許されん、少尉の分まで戦い抜き、少尉が助けることの出来た数々の命を貴様がが守り抜け!」

 それはとても厳しい言葉だ、そして理不尽な言葉かもしれない。
 武もそれを聞いていた、そしてそう思った。
 しかしこれはある意味では正しいのだ

 (……そうだ、起こった過去は変えられない。)
 嘆いても起こってしまったことがどうにもならない事は解っているのだ。

 ……それを理性が理解できないだけで……

 月詠はそれで引き下がった、この場でこれ以上言葉を連ねても意味の無いことは解っている、あとは自分で答えを出すしか道は無いのだ。
 榎本中尉は目礼すると姿勢を正し敬礼する。

 「初の実戦にも関わらず奮戦し、仲間を庇い戦死した勇敢で偉大なる衛士、蔡亜璃沙少尉に対し最大の敬意と賞賛を……礼!!!」

 全員が敬礼し黙祷を捧げる。
 
 そして今回の戦闘は終結した。
 蔡亜璃沙少尉の遺体と04式吹雪は同作戦に参加した新人衛士達によって丁重に葬られた。
 同日基地で火葬が行われ、遺骨は煉矢少尉が家族の元へ持って行く事となった。




 その夜……




 月詠は武の部屋の前で佇んでいた。
 アリサ少尉の葬儀が終わってから一度も部屋を出てこない、夕食の時にも出てこなかったので様子を見に来たのだが……

 (私は何をやっているのだ……)

 本来なら放っておけばいいことだ、月詠自身この問題は自分で結論を出すしかないと解っている。
 (だがそれを助けるくらいは……)
 アドバイス位なら……、と自身に言い聞かせ部屋の前まで来たのだが、部屋の中に入るに入れず逡巡してしまっている。
 いつもの自分なら迷わず部屋に押し入り叱咤激励している所だ、……いや、そもそも口を出そうなどとも思わないだろう。

 (最近の私は何所か変だ……)

 最近自覚してきたが自分は理知的な思考や行動が鈍る時がある、そう…それは決まって白銀が関わっている時だ……。
 その事を深く追求しようとしたその時……

 「月詠少佐、ここにおられましたか……」
 「貴様は……」

 それは嶋煉矢少尉だった。その姿は憔悴していたが、鋭い刃物のように尖った雰囲気を感じる、出撃前に見せていた子供のような反発ではない、それは……そう抜き身の刃の様な雰囲気だった。

 「お願いがあって参りました。」
 直立不動の姿勢で月詠の目を見据える。
 「ほう……、一体何だ。」
 「私とシュミレーターでの一対一の戦いをお願いします。」
 月詠の目が一段と鋭くなった……が煉矢は恐れもなく言葉を続ける
 「榎本中尉に伺った所、貴女が一番強いと……最高クラスの錬度を誇る衛士だと伺いました。俺は知っておきたい、自分が辿り着ける……いや、辿り着かなければならない高みを。」

 そう言ったきり彼は動かない、月詠も彼の真意を図る……
 「…………」
 「…………」
 「そうか……、貴様は答えを出したのだな……。」
 煉矢は動かない、その目は決意を秘めギラギラと輝いている、獲物を求める狂犬のような目だが月詠はその奥に確固たる理性とそれを支える意思を見た。

 (これならば堕ちることはない……か……)

 それに……
 「分かった。先に行って待っている、貴様は後から来い。」
 月詠は歩き出す、煉矢も続こうとするが
 「いえ、俺も一緒に「いいから後にしろ……」
 と先に行ってしまった。



 「なんだ……「あ……あの煉矢君。」
 煉矢が月詠の行動に戸惑っていると、急に後ろから声が掛かった。
 「ミラーナ………」
 2人は向き合う。
 「あ……あの…、お願いがあるの……その…アリサの遺骨、私も一緒にご両親の所に届けたいの。」
 「遺骨を?」
 「うん、アリサちゃんの死は私にも責任がある……、それに同じパーティーだった者としてちゃんとご両親に報告したいの」
 「でも……それは……」
 「解ってる…、でもけじめはつけなくちゃいけない。煉矢君はもう決めちゃったんでしょ。」
 頷く煉矢……
 「だったら私も……私だって……、あの時の月詠少佐の言葉。私も背負わなくちゃ……同じパーティーだった者として。……でも私はそんなにすぐには割り切れない、だから……」
 うなだれるミラーナ、
 「解ったよ、俺だって完全に割り切れた訳じゃない、だから一緒に行こう。そして……アリサの意思を背負って未来を切り開く。」
 ミラーナは顔を上げて泣き出す。
 煉矢は未来を見据え硬く拳を握った。






 彼ら2人が去った後に武の部屋の前に佇む影が1つ……

 「お兄ちゃん……」

 響は武の事が心配で部屋の前まで来ていた。
 だが色々な思いが交錯して声を掛ける事を逡巡している。
 響自身覚えがある感情だから……
 そう……大好きだった、家族やお姉ちゃんそして……
 あの時の自分は正しく抜け殻だった、絶望して絶望して…自分も死にたくなって、そして復讐に走ることで精神の均衡を保った。
 帝国軍の養育舎(将来帝国軍に入る事を条件に最低限の生活を保障してくれる所)に入り、衛士になるために毎日倒れるまで訓練に明け暮れた。

 あの後訓練学校での臨時教官に来た朝霧少佐に出会わなければ、自分は復讐に取り付かれた戦闘狂になっていたかもしれない。
 「お兄ちゃん。」
 意を決して扉に向かって声をかけてみるが返事が無い、
 「お兄ちゃん」「コンコンッ!」
 今度は少し大きな声で呼びながら扉を叩くが、やはり返事が無い。
 少し迷って扉を開くこうとすると簡単に開いた。
 「お兄ちゃん?}
 そっと中をのぞいて見る……が人の気配が無い……電灯のスイッチを入れてみるがそこには……

 「いない……?」

 武の姿は存在しなかった。

*へ
注…番外へ、最後にお読みください






 「く……」
 シュミレータールーム、煉矢は2時間近く月詠と一対一の戦闘を行なっていた。
 結果は全敗……、それどころか攻撃判定が一度として出ていない。
 「ぐああぁぁぁ……」
 そして新たな敗北。

 「ハアッハアッハアッ…クッ…、あ……有難う…御座いました。」
 「もういいのか……」
 「はい……、今の自分と目指すべき自分がよく解りました。」
 シュミレーターの中で上を仰ぐ煉矢。
 月詠と煉矢は外に出て握手を交わす。

 「色々と有難う御座いました。」
 「いや……、道を示した者の勤めだ。この後どうする?」

 「遺骨を届けたあとで後方の訓練場に戻ります。実戦に出たい所ですが……今の腕だと無駄に命を散らしそうですから……」
 ぐっと拳を握る、それを見て月詠は納得したような顔で言った
 「いいだろう、ここで実戦に出るなどと言ったら見放す所だったが……。強くなれ……そしてお前が次に来る者達を導け、悲劇を知った者として、戦場を知った者として。」

 「は……!!月詠少佐……、ご教授有難う御座いました。」

 敬礼する煉矢。
 「私は示しただけだ、学ぶ意思を持ちそれを実行したのはおまえ自身。……覚えておけ、これからの全ての行動はお前自身の責任だ、言い訳も後悔も許されぬ、その責を他人に転嫁した時にこそ貴様の魂は穢れて堕ちる……よく覚えておけ。」

 目を瞑り過去を反芻して喋る月詠、これは彼女自身の戒めでもあるのだ。
 「……………」
 無言で頭を下げ去っていく煉矢。
 その後には静寂だけが残るが……




 「出てきたらどうだ……白銀。」

 煉矢を見送ったままだった月詠が不意に自分の後ろに声を掛ける。
 すると部屋のシュミレーターの1つから武が出てくる。

 「なんだ……、気付いてたんですか?」

 申し訳無さそうに頭をかく武。
 「私にとって気配ぐらい読むのはたやすい、それに嶋少尉は興奮して気付いてなかったようだがずっと見ていたんだろう」
 振り向いて白銀と目を合わせる、武には何時もの少し軽い雰囲気が無い。
 「急に彼が来て、次に月詠さんの登場でしたから……出るに出られなくて、それに……煉矢少尉の決意というものを見ていたくて……」

 「それは貴様が答えを出せないからか……」

 月詠の断定に武は苦笑する、全く持ってその通りだ。
 「ええ……とりあえず体を動そうと思いまして。」
 「…………」
 その言葉に月詠は武を睨みつける、
 「な……なんすか……」

 「……………」
 「……………」
 「……………」

 無言の対峙が続く。

 「解った……私も付き合おう……」
 急に目線を外しシュミレーターに向かう、武は訳が解らない。
 「あの……「貴様があの事で「自分がもう少し速かったら…」などという後悔で訓練に明け暮れようというのなら一発修正しなければならないと思ってな。」
 顔だけ後ろを振り向き言う月詠、

 「後悔ではなく前進の為の訓練なら私も付き合おう。」

 武はその言葉が無性に嬉しかった。
 「あ…でも今まで2時間も戦ってたのに大丈夫ですか?」
 不意に思い立ちそう聞くと……シュミレーターに入りかけてた月詠はこちらを向き

 「貴様……、あれ位で私の疲労が蓄積すると本当に思っているのか?」

 ニヤリと笑いシュミレーターの中に姿を消した。
 
 残った武は思った。
 「煉矢少尉……、少尉の目指す目標は遙か高みだぞ……」
 と…………



 その日シュミレーターは深夜を過ぎても稼動していた……。






 今回実感しました……私に演説は出来ません、演説の原稿も書けません。今回自分で書いてて結構大変というか微妙……。
 変に感じたらすいません、私もちょっと感じていますがこれ以上は……また落ち着いて余裕があったら直します。
 新型BETA早く出したい……けどまだ……。

 次回は武の迷いを晴らすためあるオリキャラの過去話が……、

 それでは次話で……

 下のブツは上の月詠の演説?やら考えていて脳内爆発した時、気晴らしに書いたものです。
 シリアス度台無しのバカ全開です。話の余韻なぞあったもんじゃないのでご注意を。またキャラが少し?事実と歪曲されて描写されています。





*ここからです。

 {以下この話のシリアス度を一気にぶち壊すシーンですのでできれば最後にお読みください}

 「何所に行ったのかな?」
 ふと考えてみるが…………

 響脳内妄想モード(暴走度レベル3)」

 (白銀……大丈夫か…、辛かったら私にその辛さを分けてくれ…)
 (月詠さん、ありがとうございます。でもいいんですこれは俺のもんだ……)
 武を胸に抱きすくめる月詠……
 (いいのだ、私には本心を隠さなくて)
 (私の腕の中で泣け、武……。)
 (月詠さん……、うあああぁぁぁああぁぁぁ!!!) 

 む………

 上昇中…4・5・6・7

 むむむむむ…………

 妄想肥大中………暴走度レベル8

 (ん……んん……う…んぅ……ん……)
 (ぷぁ……柏木!!行き成りなにを……)
 (決まってるだろ、白銀を慰めようと……)
 (だっだからって……こんな…、んん……ンン…)
 (やめろ柏木……、俺は…こんな……)
 (武は私のこと嫌い……?)
 (え…いや……そんな…嫌いってことは…)
 (それとも月詠さんの方が好きかな?)
 (そんなことは……多分ない……)
 (多分か……、正直者は好きだよ。)
 (柏木…………)
 (晴子って呼んで………)
 そして2人の姿は暗闇の中へ……

 「バキッ………」

 武の部屋のドアがへこむ……鋼鉄製のドア……

 お~に~い~ちゃ~ん~んんんん。
  
 ふふふ……せっかく心配して来たのに何所で何をしているのかな~~~
 左右のスイングが「シュバッ、シュビッ」と空気を切る……、幽鬼のようにユラリユラリとその場を去っていく響……

 身勝手な妄想と勘違いで巻き起こる、武への暴走は……。
 



[1115] Re[23]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第25話とおまけ
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/07 21:49
2004年6月5日…スラーターニー基地




 「おはようございます。」 「おはよう……」「おはようさん」
 食堂に入ってきた響は部隊の皆を見つけて近寄ってくる、その間目線が辺りを見回してキョロキョロと動いた。

 「白銀なら来てないよ。」
 それを目敏く見咎めた柏木がお目当ての人物の事を口にする。
 「来ていないんですか?」
 疑問を口に出す響
 「昨日の夜も来なかったからねぇ」
 「やはり未だ……」
 鮎川と御無がポツリと呟く
 しゅんとなる響
 「どうした響少尉、元気がないが?」
 そこへ月詠が食事を持って近付いてきた、
 「あ……おはようございます。ええと…武大尉が来てないんですよ。」
 月詠に挨拶をし事情を説明する、一瞬考え込んだ月詠は自分の知る情報を踏まえて話したがそれは聞き様によっては色々と問題のある発言だった。

 「昨日は遅くまで一緒に起きていたからな。流石に疲れたか?」

 「ピキッ」と響の周囲の空気が凍る、
 柏木達は普通に食事をしているが、もし第三者が目撃していたらその瞳が獲物を見つけたハイエナのように「キュピーン」と光ったことが分かっただろう。

 「お…遅くまで……疲れた……ですか?」

 もうなんか「いや~月詠さん冗談ばっかり」という心のルビが見えそうな様子の響だ。

 「ああ、一緒に随分と汗を流したな。昨日は流石に私も大分疲れた……」

 昨日の武との激しい激戦を目を瞑って思い出す、精も根も尽き果てるまで思う存分戦い抜いたのは久方ぶりだった。

 「ピキピキッ」
 「へ…へぇ……、一緒に汗を……疲れた……それは随分と楽しかったでしょうねぇ」

 響は俯きながら声を絞り出す。
 周りで見ている仲間は大体様相は解っていたが面白いので黙って見守ることに徹していた。

 「確かに……最初は真剣だったが最後の方は楽しいと感じていた、不謹慎かもしれないがな。白銀に頼まれて付き合ったのに最後は私も夢中になっていた。」

 最初の方は武が激情の全てをぶつけて挑んできた、何回もの真剣勝負……そして激戦。しかしお互いの力の全てをぶつけ合う事が段々と楽しく思えてきた、自分にここまでついてこれる衛士は滅多にいない、もちろん月詠の方がまだまだ強いのだがそれに迫る武は最高の対戦相手であった。

 「ピキピキピキッ」
 「ふ…ふふ…ふふふふ……、楽しい……頼まれて……夢中……」

 俯いた響のこめかみの血管は鬱血し、肩はブルブルと震え、拳に力が籠りギリギリと音を立てる。
 周りで見ている仲間は最早爆笑寸前だ……。

 「ああ、シャワーで汗を流した後で白銀に「またお願いします」と言われてな、是非また共に……

 「ピキピキピキピキ……………ピキーーーン!!!」

 切れた
 見事に切れた
 盛大に、容赦なく、綺麗さっぱり

 「シャーーァ~~ワァ~アァァ~~、ま~た~お願いしますぅ~~~!!!」

 響の背後には「グワッシャーン」という特殊効果が見えていた、最早怒りの沸点は我慢の限界を超えた。

 「あ~の~く~さ~れ~ぇ~~兄貴ぃぃぃいいぃ~~~!!!」
 と叫びながら武の部屋に突撃を開始する。

 「…………なんだ?深夜の白銀との戦闘シュミレーションがそんなに不味かったか???」

 突然怒りを顕にして走り去った響に月詠は疑問を隠せなかった。
 周りでは皆が爆笑している。
 柏木は腹を抱えて机をバンバン叩きながら笑っているし、鮎川はそれを更に盛大にして…既に笑い声ではなく「ヒーヒー」と痙攣している。
 ヒュレイカも御無も笑いで声が出ない。

 月詠はそんな皆を見て「?」と不思議がっていた。

 17歳の純情乙女心と無意識の説明不足、勘違いの極み此処に体現せし……。





 武は意外と早く起きた……、ほんの数時間しか寝ていないし昨日あれだけ激しく動いたのに気分は爽快だった。
 顔を洗い上半身裸のまま軽く体をほぐす。

 そして慧に貰ったリストバンドを腕に通す、左手で右腕のリストバンドの上を覆うように握りそのまま右手を顔の前に持ってきて額にくっ付け目を瞑る、そうする事で右の手首と左手に強くリストバンドの存在を感じそのまま慧の事を思い出す…時間はほんの数秒。
 次いでその右手で枕元に置いてあった皆琉神威の柄を持つ、この刀は何時も一緒に持ち歩いてる、最近は腰に差している事が多い、既に体の一部のように馴染んでしまっている。
 吸い付くように手に馴染む皆琉神威を鞘から抜き、そのまま左手も右手の下に合わせて握り手を胸の前へ、刃を目の前…体の正中線と水平に立て目を瞑る、そして冥夜の事を思い出す。

 ここまでが武の毎朝の儀式だ、冥夜と慧が居なくなってから暫らくしてし何時の間にか習慣となっていた。
 そしてそのまま皆琉神威を正眼に構える。前までは衛士訓練で習った型だったが、御無中尉と出会ってからは中尉に剣の教えを請い、その習った型を反復している。

 幾つかの型をこなし体がほぐれてくる、剣を鞘にしまおうとしたその時……
 『バァ~~ン』と音をたててドアが開けられた。瞬間物凄い殺気を感じる、武は反射的に型の1つを繰り出すが……

 「お兄ぃ……『シュバッ』
 入ってきた響の眼前に皆琉神威の刃先が止まる、両者は一時その場で固まった。

 「ななな……なんで裸なの!!!」

 さっきまでの怒りは何所へやら、響は顔を真っ赤にして叫んだ。
 (突っ込む所はそっちか……)
 武は響の眼前に伸ばした皆琉神威を引っ込め鞘に戻す。
 ……衛士として鍛えた身であり危険なんてなんのその、その17歳の乙女にとって眼前の刃より男の裸体の方が破壊力があるという事だろうか?

 その後一騒動ありはしたが無事に武の容疑?は晴れたようであった。




 
 武は部屋でぼんやりしていた、月詠の言う「答え」武には既に結論は出ている、
 「冥夜と慧…そして子供達の為に戦う」、そして「月詠の理想と願いを叶える手助けをする」
 という事。月詠の願いを叶える事は武の願いと同意義だ、そこに疑問の余地は無い。
 しかし武には今だ「何か」が割り切れないでいた。願いの為に犠牲を容認する……、それでは何かが成り立たない……しかしそれが分からない。
 「くそっ………」
 もどかしい感情が胸を焦がす。
 『コンコン』その時部屋のドアが叩かれる。

 「よっ…、邪魔するよ。」

 入ってきたのはヒュレイカだった。
 珍しい……、ヒュレイカ中尉がプライベートで武を訪ねて来た事など一度も無い。武は疑問に思って聞く、
 「どうしたんですか?」
 「なに……、迷える青年に1つ昔話をと思ってね。」
 ヒュレイカはそう言ってベッドの上、武の横に離れて腰を下ろす。
 「昔話……ですか?」

 「そう……、生涯で3回も他人に命を救われた……1人の女の話さ…。」

 白銀は何時もキツイ感じのヒュレイカがその時ばかりは普通の女性に見えた。
 漏れ聞く彼女の噂からするにその過去は壮絶なものだろう、その話は今の自分にどんな影響を与えるか?

 武は静かに彼女の話を聞き始めた。
 
 ヒュレイカ・エルネス、インディアナ系と日系混じりのアメリカ人と自称しているが多分だ、大陸の端で生れ、親に捨てられ孤児院のような所で育ち、そのまま大勢の人と同じ様に生きていく……あの時まではそう思っていた。
 それは12歳の時だった、BETAの進攻で彼女の住む所の人も避難する事になった。誘導に来た混戦軍の人達が避難を始めた矢先にBETAの襲来が始まった。
 ヒュレイカは必死で逃げたが軍は戦闘に手一杯で町の人々は次々と殺されていく、孤児院の仲間も逃げる途中次々と殺されていった。
 すぐ後ろで一番仲の良かった友人が殺された時、ヒュレイカは死にたくないと強く感じた、果たしてそれが彼女の才能の目覚めだったのか……、彼女は近くにあった建物に逃げ込む……そこにあったのだ、自らの命を繋ぐ道具が。

 77式戦術歩行戦闘機「激震」……そこは日本駐屯軍の仮の整備格納庫で整備を終えた激震が運良く残っていた、ヒュレイカは迷わずそれに乗り込んだ。
 当時は今ほど技術が発達していなく衛士強化装備が無くても動かすことは出来た、整備したてでロックもなにも掛かっていなかったのも幸運だった。
 それが動いたのは正に奇跡だった、そして彼女には「なんとなく」操縦の仕方が分かった。生きるために側にあった74式近接戦闘長刀と36㎜突撃機関砲を取って外に飛び出した。
 とにかく一直線に走った、BETAで埋まった街中を動かすのが手一杯の激震で死に物狂いで駆け抜けた。
 最後には両手を失いそれでも這って進みそして力尽き気絶した。

 ヒュレイカは1人の日本人女性に助けられた、名は大野真紀大尉、ヒュレイカは資質を認められ以後彼女の元で軍人としての知識を学んだ。
 14の時に実戦に出始め彼女はメキメキとその実力をつけていった。大野大隊は実力派部隊として有名で色々な戦場を渡った、彼女の好きな青い色の薔薇模様の入った激震は有名であった。
 しかし何年後かのハイヴ攻略戦で突入部隊の囮の為、反対側から第2階層付近まで突入するという任務……結果は失敗だった。突入部隊は壊滅し大野大隊はハイヴの中に取り残された、隊は決死の脱出を試みる、しかし次々と仲間は死んで行く、ヒュレイカの機体ももう少しで出口という所で大破したが大野隊長は機体を引きずって脱出を敢行した。
 しかしヒュレイカ機を庇い致命傷を負った大野は味方の陣に着いてすぐに事切れた。
 
 以後ヒュレイカは大陸を傭兵として渡り歩く……様々な戦場で戦い抜いた。
 その内にとても仲の良い戦友が2人できた。日本人の渡部洋子と西洋人のミナ・ハミルスだ、彼女達は所属は違ったが何度も戦場を共にし苦楽を共にした。
 その後のBETAの日本侵攻により洋子は日本に帰還した、少ししてミナも日本の国連軍基地に配属となる。その後ヒュレイカはミナの口利きで国連軍に入隊してミナとコンビを組む。紫の狼模様の入ったミナのストライクイーグルと長刀を持つ青の薔薇模様の入ったヒュレイカのストライクイーグルのコンビは国連軍内でも有名だった。

 しかし本州奪還作戦の折、BETAに囲まれた際ミナはヒュレイカの背後を守っていたがメデュームの一撃を受けて死亡した。彼女の腕では十分避けられた……しかし前面のBETAに捕らわれていたヒュレイカを守って背後で盾になった故の死だった。

 その後悲しみにくれる暇無く洋子とヒュレイカは明星作戦に参加、だが洋子はヒュレイカを庇って戦死した、コクピットから引き出された瀕死の洋子からヒュレイカは不知火を譲り受ける、同部隊の隊長の許しを経て半壊した不知火を修理して真っ赤に塗り直した、洋子の好きだった色でもあり3人の親しい人の命を貰って生き延びた血の贖罪の意味でもあった。
 そしてその上から大野の青い薔薇、ミナの紫の狼を機体に描き、その色のラインを入れた。3人の命を背負うと……彼女達の分も一体となり戦い抜こうと。

 そして国連軍で刀を好み、赤の上に青と紫の模様とラインが入った派手な戦術機乗りという今のヒュレイカが出来上がった。

 長い話だった……、
 武はその話を聞き身が震えた、凄まじい人生……自分が体験してきた事なんてこの人の体験して来た事に比べれば……。

 「白銀……私は洋子の不知火を修理して乗った時今のお前と同じく友人の死について考えた。」

 「そして出た結論は、私は3人の友人の死を背負える程強くないという事だ。」
 それを聞き武は疑問に思う……
 「ヒュレイカ中尉は十分背負ってるんじゃないですか?」
 「違う……、昨日月詠が言った通り親しい者……特に自分の為に死んだ者の死を背負うという事はその人物の生きるはずだった「未来」をも背負う事となる、そしてそれはその人物の「過去」を背負う事と同義だ。
 その人物の辿ってきた軌跡……そして未来での可能性、人の死を「背負う」というのは並大抵の事ではない。3人もの死は私には重たすぎた……情け無いがな。」

 自嘲して笑うヒュレイカ、
 「だから私は考えを変えた、「背負う」のではなく「共に在ろう」と……「その意思を共に」……だから不知火を赤く塗りマークを入れた。彼女達の想い・願い・そして希望を纏い……共に未来への道を切り開いて行こう……とな。」

 「共に……ですか?」
 「そうだ、変な言い方だがな。……彼女達や共に戦った戦友達の残した意思や願い…それらが私の意思を支えそして突き動かす。人には何か1つは譲れない想い・願いがある……死を「背負う」というのはそれらを肩代わりする事だと私は思う……。だがそれは精々1人が限界だ、人はそんなに強くできてはいない。」
 「戦場で犠牲になった者達の全ての魂は力となり私を突き動かす、それはただの自己満足かも単なる勘違いかも知れない。しかし私には感じられるのだ、死んだ者達が何時も私の……私達生ある者の背中を力強く後押ししてくれているのが……」
 ヒュレイカは涙を堪えながら話を続けていた、上を向き何かを思い出す様に……、そして急に立ち上がると部屋のドアに向かう。

 「あっ、中尉!!!」
 武が呼び止めるが……
 「話は終わりだ、既に何かを背負っているお前に私の話が参考になるかは分からないがな……。」
 そういい残してヒュレイカは部屋を出て行ってしまった。

 「………その意思を共に……か………。」
 
 まだまだ答えは出ない……。いや、人の死に答えなど出せないのかも知れない……、しかし武は自分が目指すべき「未来」への「道」を目指すための指標の1つを見つけ出した。
 まだまだ考えることは多い、納得できないことも多々ある、だが戦い続ける「理由」を目指すための道程が広がったのは事実だった。

 (ありがとうございました……)

 武は出て行ったヒュレイカに向かって深々と頭を下げた。
 部屋を出たヒュレイカはそこにある人物の姿を見つけた。

 「なんだ……、聞いてたのか?」
 「ああ、どうやら道を示してくれたようだな。」
 「そんな大層なことじゃない、昔話をしただけさ。あんたが話した方が効果があったかもね?」
 「いや……、私では叱咤激励する事しか出来なかっただろう。」
 「そう?……ま……いいけどね。」
 「大野真紀そして渡部洋子……」
 「…………」
 「どちらも偉大な衛士だった、日本人なら大抵は知っている有名な人物だ……。ミナ・ハミルトンも国連軍では有名な戦士だった……、勿論お前もな「鮮血の戦乙女」「戦闘狂(バーサーカー)そして「死神」」

 「…………」

 「先ほどの話で確信した、機体に青いバラを描き大陸の戦場を渡る傭兵、凄まじいまでの戦闘力から戦闘狂と呼ばれどんな苛酷な戦場でも必ず生還する。」
 「所属する部隊が全滅しても生き残る……それがやがて「全滅を呼ぶ死神」と揶揄されるようになる。」
 「……昔の事だよ、確かに激戦区にばかりいたから所属する部隊は片端から全滅して行った、だが私は生き残った……それだけさ。ここにいるようなつわもの達はそれが分かっているから私の事を忌避しない。」

 「そうだな……今は仲間……それで十分だ」
 「仲間……か……。良いもんだね背中を預けられる戦友ってのは…」
 「ああ……」
 「…………」
 「では、私は戻る。」
 「白銀には?」
 「今は必要ない、あいつなら大丈夫だ。」
 「……そうか。……じゃあ」
 「ではな……。」
 「…………」
 「………まったく、死ぬのは当分先になりそうだよ……みんな……」
 やがてその足音も遠ざかる。

 そしてその後には静寂だけが残された。




 そして……その日の夜、
 「よう青年、もういいのかい?」
 自分の研究室兼自室にやって来た武に声を掛ける、それを聞き苦笑いで答える。
 「はは、完全に……ではないですけど、前に進む為の答えは出せました。」
 「そうか……、それはよかった。お前は良くも悪くも隊の中心だからな、引っ張ってるのは真那の方だが……元気がでて何よりだ。」
 焔は椅子から立ち上がると部屋の隅にある机の前の椅子に腰を下ろす。

 「それにしても……、メチャクチャ乱雑っすねぇ……。」
 武はその部屋を見渡す。部屋といっても格納庫付きの倉庫だ、そこに机やらベッドやらを持ち込んだだけ、しかも周りには戦術機の部品やら武には検討も付かない装置やらどう見てもガラクタにしか見えないようなものまで多岐に亘り散らばっていたり積まれている、ちゃんとした部屋を宛がわれているのに此方に住み着いているのだ。

 「私はな、機械に囲まれていないと調子が出んのだよ。こうやって意味も無く機械に触れていると急に新しい発想が飛び出してくる、だからな……常に機械をそばに置いておきたい。私が普通の部屋で生活していたせいでその時発案できたはずだった発明がある事は世の中に対して大いなる損失だ。」

 焔は机の上に置いてあった用途が分からない機械部品を手に取り、それを見詰めて言う。
 「私は機械工学に対しては世界でも一番の頭脳を持っていると確信している。だからなその頭脳を無駄にはしたくない……勿論考える事や発明が大好きな事は事実さ……しかしな……」
 「私の発明がより多くの人達を救える、だから私は常に考え続けていたい、常に新しい技術を世に送り出したい。部屋に寝てるとな……不安になるんだよ……だから私は常に機械の側にいて考え続ける、それが私の戦いだ……。」

 手の中の機械を机の上に戻す。武にはその姿が、オルタネイティブ4が失敗した時に見せた夕呼
先生の姿にダブって見えた。
 「今だって頭の中には新しい技術の断片が渦巻いている、それが完成すれば助かる人間が何人も増えるかもしれない、レーザー級の光線を防ぐ理論だって半分以上完成している、でもまだ……まだ完成できない……私の考えでは完成出来ると確信している……なのに……「今」の私では完成させる事はできない!!このもどかしさが私を苛みそして駆り立てる、だから私はここで戦うのだ。」

 (ああ……、そうか……。やっぱり俺って……)

 段々と声を荒げる焔博士の本音を聞き武は理解した……そしてうじうじと悩んでいた自分がとてつもなく情けなく思えた。

 戦っている……誰もが戦っているのだ……、普段は飄々とした雰囲気の焔博士でさえ、こんなにも熱き想いが心の内に猛っている。
 世界を救う為にオルタネィティブ4完成を目指した夕呼先生、人類を存続させる為に計画されたオルタネィティブ5、日本の腐敗を正そうとクーデターを起こした狭霧大尉、そしてその意思を汲んで立ち上がった悠陽殿下……。
 答えも、手段もそして形さえも違ったが誰もが未来を目指して戦っていた……。
 そして解った、自分は死を受け止められなかったんじゃない、怖かったのだ……人が死ぬのが……誰かの為と心を偽りその事実から逃げていた。死を背負うことや死を容認する以前に「死」そのものを恐れていた……それは平和な世界で生まれ育った為であったのか……

 「バカなことを言ったか……忘れてくれ…。」
 「いえ……、有難う御座いました。」
 (ホントに、昨日から色々助けられっぱなしだよな……)
 月詠、ヒュレイカ、焔……皆に励まされるとは自分はなんて情けなかったのか……
 武は軽く嘆息すると居住まいを正し焔に向きなおった、新たな決意を胸に新たな一歩を踏み出す。まずは今回の訪問の目的からだ……より良い未来を目指し武は自身の可能性をさらに進化させようと誓う。

 「博士……実はお願いがあります。」

 急に態度を引き締めた武に、焔も椅子ごと体を正対させる。
 「なんだ……、さっき言ったように私は忙しいぞ。」
 暗に「つまらない提案なら即却下」と言っている様だ
 「はっ、先の戦闘でブーストの制限度の大きさを痛感しました。XM3搭載により空中での機体制御率は大幅に上がっています、より空中での姿勢制御の自由化のためブーストの改良を提案いたします。」
 先の戦闘、一度飛び上がったら空中で容易に方向転換できない不便さを恐ろしく痛感した。武自身は姿勢制御に伴う遠心力の利用などで空中での方向転換をしているが、それも制限と限界がある、ならば後は機体自体を改良するしかない、そして武が行き着いた考えがこれである。

 焔は一瞬考え込んだがすぐに武に向かって説明を始めた。
 「いつかは言ってくるかと思っていた、XM3搭載により戦術機の機動と空中での姿勢制御は格段に進歩したからね、特に白銀…・・・お前は空中機動が得意だからな。既に改良プランは出来ている、後はシュミレーターにその情報を入れてお前達の操縦に合わせ調整し、そして実際に作るだけだ。」

 「よっしゃあ!!さすが博士、頼りになる。」

 その言葉に武は破顔する、この案が成功すれば空中機動力は大幅にアップするだろう。
 「だが白銀、調整は恐ろしく大変だ、安定性を第一に考えOSと合わせて改造しなければならん。この改良ブーストは使用難度が高くなる、使いこなすにはかなりの習熟が必要となるだろうな……まあ既存のブースト能力だけ使えばただの強化ブーストとして使える様にするから問題ないが……。」
 神妙に言う焔、彼女が大変と言うからには恐ろしく大変なのだろう……
 「まずは白銀で調整してある程度安定してきたら次は……真那にでもデータの対比を取らせる、そして2人が問題なく使えるようになったら数値を平均化するために鮎川達と、あとお前が講習することになる衛士……そうだなウォーカーと榎本が良いか?……を使って数値を取る。」

 「あの……、普通に作る訳にはいかないんですか?」

 いくら何でもメンバーが豪勢過ぎる、武はもう少し普通の実力の衛士達でも平均値を取った方が良いかと質問するが
 「さっき言っただろう、このブーストは使用難度が高い、普通の腕では持て余すだけだ。腕のある衛士だけが使う事を前提に調整する、……というかそのくらいでなければ満足に使用はできん、空中での姿勢制御など人間は普通に出来ない事をやる為にはとてつもない才能や習熟が必要なんだ。」

 「そうですか……、だれでも使えるようになる訳じゃないんですね……」
 武は半分がっかりする、誰もが使えれば一番いいのだが。
 「まぁそんなに甘かぁないって事さ、これは将来への問題だね……XM3の性能は未だ未知数だからね、これからのデータの積み重ねと改良で更に進化すれば将来もっと簡単に使えるようになる可能性だってある。」

 「ホントですか!!!」

 「可能性だよ……、だが私の勘がそう告げている。」
 「よっしゃぁ!!じゃあまずはデータ取りからっすね。」
 嬉しそうにはしゃいぐ武、そしてその後深夜まで話し合いは続けられた。



 
 翌日からシュミレーターの中で悲鳴を上げる武の姿が目撃されるようになる。






 25話でした。
 武は一応の答えを出せたようです(こういう心情を書くのは難しい)
 今回武は一皮向けました。そして未来へ向かい努力を始めます、しかしその為に博士の実験体になる日々が……

 ヒュレイカの話は元の設定にオルタの設定を付け加えましたが……もうなんか凄くなってしまいました。ガンダムパターンの人生ですね。

 今回話が出てきた新型ブースト、そして新OSの影、他にも新要素は色々あります。早く出したいものです。(BETAとか機体とか)もし理論が飛んでいたら勘弁してください。 
 
 2人きりの会話は動きが無いので「」だけになってしまうのですが……間を考えてたら話が進まないのでご勘弁を。今後もこういう形を取ることはあるかと思います。

 最初のギャグはお約束?




 昨日夢を見ました。6時間足らずの睡眠だったのに体感時間は年規模の一大スペクタクル大河ストーリーでした。
 起きた瞬間衝動的に覚えていることを書き殴りました、凄い衝撃でした。私は長い夢を見る方ですがこんなに長い夢を見て覚えていることは初めてでした。
 今回から暇があったら後書きで少しそれを語りたいと思います。興味があったら読んでください。(あくまでも夢の内容そのまま書いてるので設定に突っ込まんでください)




 メインヒロインは例によって月詠、そして冥夜と柏木。
 世界観は中世っポイ?帝国と自由都市国家の反乱軍に分かれている、またレジスタンス(ゲリラ)と神殿も存在している。
 帝国は領土を広げ自由都市群は同盟を組みそれに対抗する。
 剣が主流だが魔法と銃も存在する。人々は体に魔力を帯びていて最低下の守りの力があり魔力の籠ってない銃や弓などの飛び道具は効きにくい。
 守護神器(心器)という剣に宿る巨人が存在する。
 
 悠陽皇帝の長姉で帝国皇帝代理(皇帝は病)、冥夜が妹、まりもが元帥?(将軍に命令だしてたけどどういう役職かは明言されなかった、様付けで呼ばれていた。また月詠には命令が出せないようだった。)で月詠は大将軍(神代、巴、戎の部下)、将軍に一文字鷹嘴、ラダビノッド、沙霧尚哉、イリーナ、ウォーケン、情報部が鎧衣左近
 同盟軍は委員長、タマ、彩峰、美琴、と柏木を除いたA-01部隊員。
 社霞は神殿の高位神官。夕呼は賢者兼軍師
 そして白銀武、鑑純夏、柏木晴子はレジスタンス…といっても反帝国というだけで戦闘には参加していない。

 ある日冥夜は帝国のやり方に疑問を感じ出奔する、それを追う月詠。
 森が多い地方…、一方武達は隠れていた村が帝国軍の襲撃にあい逃げ出す。帝国兵に追われる3人、武は待ち合わせ場所を指示して囮となる。その時崖に落ちそこで遺跡を発見する、その中で武は神剣…しかも世界で6本しか無い最上級の神剣、黒の雷神刀「武御雷(タケミカヅチ)」を手に入れる。

 剣によく分からない内に選ばれた武は合流場所を目指す。
 だが剣は剣と引き合うのか、武は逃亡中だった冥夜と出会う。彼女は帝国に使われないように持ち出していた、封印され本来の力を発揮できない紫の雷神刀武御雷を。
 しかしそこに月詠が追いつく、大将軍月詠が持つ剣もまた赤の雷神刀武御雷…しかも剣との同調率、実力共に最高位……2人は力を合わせて戦うが封印された武御雷と契約したばかりで同調率も低く満足に使えない武御雷、その差は歴然だった。

 しかし武は月詠の一撃に懇親の力を込めて一撃を返す瞬間、無意識に武御雷の力を解放する。共振する赤と黒、その影響で武と月詠の心は一部混ざり合いその部分を共有してしまう。
 そして撤退する月詠、武は冥夜と共に合流場所へ向かう。

 その頃柏木と純夏も離れ離れとなる、純夏は無事に合流場所にたどり着くが柏木は運悪く帝国兵に見つかる、しかしそこを通りかかった(確率理論的に自分の運命を予測してこの場にきたとの事)賢者兼軍師、香月夕呼と出会い高位神剣・紅蓮刀「不知火」を授かり帝国兵を一掃する。
 そして柏木と夕呼も合流場所へ。

 以下続く

 注……ネタではありません、「夢」で見ました、細かい所は付け足していますがほぼそのままの内容です。夢は願望の現われと言いますが……、心の中ではこんなの書きたかったのか?
 
夢の中でキャラとかはアニメ調なんですがその他は実写的なんです、しかもセリフは吹き出しでして文字として見え同時に声も聞こえて来るんですよ、不思議です。いやその時は全然違和感無いんですけどね……
 私は夢の中の登場人物の1人として出るのと第3者視点で見るという2通りの夢の見方をするのですが、この夢は第3者視点でした。
 とりあえず覚えていることを書き出したのですが膨大です、後日もし続きを書く時は細かい所を自己保管して書くので願望とか創作も混じるかもしれません。
 書くといってもついでで暇があったらです、オルタ+の方がメインです。
 



[1115] Re[24]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第26話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/10 00:09
2004年6月6日…スラーターニー基地……第3シュミレータールーム




 「ピーーーーー」
 横から6発のミサイルが接近、追尾性能を飛躍的に高めたそれは空中の漆黒の武御雷に順に接近する。
 武は1発目と2発目を姿勢制御を使った遠心力機動で回避、3発目を右新型ブーストの側面噴射を強め機体を左向けにし回避、更に左の噴射で4発目、そして迫ってくる5発目を……

 「うおーーーぉぉぉおおぉぉぉぉ!!!」

 避けようとブーストを噴射した事で機体はコントロールを外れた……



 あれから1日、焔は第3シュミレータールームを借り切って機材を搬入、新型ブーストのデータを武のシュミレーション上の武御雷にインプットして瞬く間にデータ取りの準備を完了した。

 そして3時間……武は新型ブーストをあらゆる状況下で使用し、その度に焔がデータを取り最適化する……という作業を繰り返してきた。
 新型ブーストは従来のブーストの両側面に可動式の小型噴射口(方向転換用補助ブースト)を取り付けたものだ、半球体に噴射口が取り付けられそれが(パソコンのマウスのボールのように半分だけ表に出ている)上下左右に自由に動く。

 噴射口の場所を結構取っているのにブーストの大きさが変わらないのは、ブースト全体の小型化も研究されていて、その研究により中身が少し小型化されたのでその空いた分に噴射口を捻じ込んだらしい。(ただしスペースが無くなったので昨日言ったメインブーストの強化はできなくなったと言われた)

 取り付けられたのは計12個…両側面の、先端付近、中間部、そして機体接続部付近で中間の噴射口を挟んで対に取り付けられている。
 コスト的に高価だがこれは一部の熟練者向けなのであまり問題はないらしい、ベテラン衛士向けの外側だけに噴射口を取り付けたものや、両側面の噴射口の数を4つに減らしたもの、更に一般衛士向けの外側に4つしか付いていない…などバリエーションがあるらしい。ブーストは着脱自由なので自分のレベルに合ったブーストを装着すれば良いそうだ。
 エネルギーゲインはメインブーストとは別に取ってあるので同時使用も問題ない。
 
 ただし…まだ制御に多大な問題が残っている。
 現在OSとの出力の調整がやっと終わった所だ、これから更にOSとの最適化を繰り返していく、XM3と空中機動に慣れた武だからこそ早く調整が進む、焔は今日明日中にOSとの最適化を終了させようと思っていた。
 その為武は地獄を見る羽目となる。
 またこの日からXM3の講習をやる事となった。
 講習と言っても武自身の経験と使い方を話したり、シュミレーションでの実演、ある状況下での対応の仕方などを行うだけであったが……。




 ………2日後、6月8日

 7日の内にOSとの最適化を終わらした武、満足した焔は、次に他人と対比してのOS最適化を行うため月詠を呼ぶ、
 現在月詠は一通りの説明を受けてシュミレーターの中にいた。
 「概要は分かった、それで……どうすれば良いのだ?」
 「とりあえず30分位好き勝手に動かせ、データはこっちで勝手に取る。」
 「解った、それでは始めるぞ。」
 焔と武が見守る中で月詠は機体を駆動させる、最初はメインブーストの反応を確かめていたがやがて補助ブーストを使用する。最初は1つずつ、流石に上手い……OSの最適化が行われてあった所為もあるだろうが……、全ての補助ブーストの単独使用を終えると次に複数での使用を行おうとした。

 実は武は少し楽しみだった、月詠の失敗を見るのが……悲鳴を上げるなんて事はしないと思うが、どんな反応を見せるか食い入るようにモニターを見ている。
 最初は100パーセント失敗するのが解っている、体感経験なしで補助ブーストを複数同時に使用すると最初は一気に平衡感覚を持っていかれる、特に個別制御は。
 補助ブーストは個別稼動と連動稼動が自由にできる、連動させれば制御の手間は減るが自由度は減る、個別に動かせば自由度は上がるが制御の難易度や手間は跳ね上がる。
 個別稼動をOSによる制御補助によってより使い易くするためのデータも今取っているのだ。
 そして……

 「く……、くうぅぅぅ……………」

 月詠の真紅の武御雷は空中で見事に引っ繰り返って墜落した……、流石に悲鳴は上がらなかったが……。
 歯を食いしばったまま墜落した月詠は衝撃から立ち直り、横倒しのコクピットで呟く……、

 「く……、不覚………」
 「おーい、月詠さん…大丈夫ですか?」

 心配して声を掛ける武、月詠はそれを軽く睨み質問する
 「白銀、貴様本当にこれを使いこなせたのか?」
 「ええ……一通りは、まだ試作段階なので完璧とは言えませんが空中で好きに動くことは出来ます。」
 まだまだ粗があるし個別制御は手間とOSとの兼ね合いがあり完璧とはとても言えないが一通りの空中機動は出来るようになっていた。

 「どうだ真那、使いこなせそうか?」
 焔は月詠がどう反応するか解っていて、わざと挑発的に聞いてみる。

 「こなせるかだと?白銀に使えて私に使えない道理は無い!」

 機体を立ち上がらせレバーを握る、その目は獲物を狙う肉食動物の瞳

 「見ていろ、直ぐに追いつく。」

 武をそのギラギラした瞳でねめつけた月詠は再度機体を跳躍させた。
 「おーおー、相変わらず単純なヤツだ……ん?…どうした白銀。」
 じっと動かない武……焔は聞いた、武のポツリとした一言……

 「こ……怖かった……」

 ……と…




 ……さらに3日後、6月11日

 この3日の間XM3の講習も順調に行われBETAとの戦闘も起きなかった、武と月詠は順調にデータを取りつつ新型ブーストを使いこなして行った。
 そして今日、部隊の他のメンバーとウォーカー大尉、榎本中尉が呼ばれた。説明を受けた一同はとりあえず15分の試験稼動を行ったが……

 「NO~!NONONOーー、スペシャルデンジャラスに難しいぜーーー!!!」
 「確かに……、三半規管が………」
空中機動に慣れていない2人には災難だった。ウォーカーは散々墜落し、榎本は無茶苦茶に振り回されて酔ってふらふらだ。

 「おーおーおー!久しぶりに燃えてきたねぇ。」
 「私に対する挑戦だな……これは……」
 「幼き日の修行の数々を思い出します。」
 鮎川、ヒュレイカ、御無は新たなる挑戦にやる気満々

 「白銀節……ここに極まれり…ってとこかい?」

 柏木は白銀との付き合いが古く、彼の機動を早くから取り入れてその経験が多い所為で比較的順応は早かった。もちろん例に漏れなく墜落したが。

 「むう……、難しい……。」
 そして意外なのが響だった。
 彼女は空中での姿勢制御に一番早く順応した、最初の15分でもっとも成績が良かったのが響であった。まあ……それ以降の錬度はすぐに柏木に抜かされたが。

 焔博士の見解では、予想だが響は兵器などへの適応率が人より高いんじゃないか?……と言っている。
 それからシュミレータールームは阿鼻叫喚の様相を化して行く、データを取っている焔は実に楽しそうに条件設定を弄くり遊んでいた……焔と一緒に武もミサイルや狙撃砲の発射で味方を狙うのを密かにやらせてもらい楽しんでいた。



 
 ……そして3日後、6月14日

 全員が新型ブーストを平均以上に使いこなせるようになっていた。
 ここ3日、全員シュミレータールームに缶詰となって習熟に明け暮れていた為だ。
 そして遂に新型ブーストのOSとの最適化と数値の平均化が終了した。しかもそれに伴いOSの方も進化させた。

 武達の機体制御などを元に最適化させたOSプログラム、新型ブースト対応式の機動制御最適化バージョンアップ…名付けて「XM3ver02」である。
 XM3は香月博士が武の提案を元に作り上げたOSだ、彼女は天才だが本格的に作った訳では無い(手は抜いて無いだろうが)そもそも彼女の専門は物理学だ、フィードバックシステムなどの伝達系システムには強いだろうが……他の事はまだまだ改良の余地があった。

 香月博士は間違いなく天才で専門の物理学以外の知識も多数所持している、XM3が出来たのもそのお陰だ。しかし機械系の天才、焔博士から見ればそれはまだまだ改良の余地が十分にあった。
 今回の改良点は「最適化」、武と月詠や他数名の機体から、今までに蓄積されたデータと今回の新型ブーストの制御データを元にデータを構築した。
 機体に蓄積される情報で衛士の機体制御率やOSの蓄積情報は上がっていくがOSの基本的な性能は進化しない、だから武達熟練者のデータでOSを組み直しOSの反応係数や制御率を上げ、機体やOSが蓄積した情報に対応できる様に進化させたのである。
 また武達のデータを平均化してから最適化したプログラムを移植する事でOSの蓄積情報などを増やすことが出来る。

 勿論大元だった新型ブーストの制御情報も入っている。
 これらは全て、XM3に焔博士が作ったバージョンアッププログラムをインストールすればそれに含まれている書き換えプログラムが自動的に更新してくれる。


 
 そしてその日から焔博士の新型プースト製造が始まる。
 ここで自分の手で1つ作り上げてから実際に使って改良し、後方に行った時に工場で量産の指示を出すとか……
 それに36㎜機関砲(改)の正式量産版も作ると言うし、スパイラルランサーの改良やその他各種色々と考えているらしい……

 「才能のあるやつは忙しいのだよ、ハッハッハッハ!!!」

 と高笑いしていた。


 
 続く……






 今回から話の内外で日数が飛ぶ事が多くなります。
 これから先は長いのでちまちまやっていたらとんでもない話数になってしまうのでご了承ください、ただ重要なイベントは押さえますので。

 XM3の事ですが、夕呼先生は数日で作り上げていました。まあ天才のトンでも頭脳だからそれも可能なんでしょうが……でも機械工学的などでもう少し改良できるんでは?と考えこうしました。
 ただ例によって詳しくないので内容は結構思いつき、後にもっと進化します。


 
 この話は主人公である武を追って話を進めていますがそれ以外にも色々な場面が進行しています。委員長達やA-01部隊はまだ日本の北海道だし、煉矢は後方で訓練、響は鮎川達と訓練してるし、ヒュレイカと月詠のライバル?や焔博士の兵器製作日記もあるし……。

 色々儘ならないものです。
 多分殆んど書けないのと思うので、武とその周囲だけでもキッチリ書きたいです、
 理由無き最強とご都合主義は避けて……。段々強くするって大変ですね……?
 でも今の内に強くしないと、将来来るBETAの数の暴力に負けてしまうので。






おまけ

 夕呼を伴って合流場所へ到着した柏木、純夏と合流し武を待つ。そこへ冥夜を伴って合流する武、冥夜の事で一騒動あったが…夕呼に雷神刀武御雷の事を説明される武。
 その後夕呼の提案でレジスタンスの本隊に合流する事となる。
 その頃同盟軍は帝国軍と戦闘状態であった。
 武達穏健派のレジスタンスを襲撃された本隊はこの同盟軍の攻撃に同調していた。

 レジスタンスリーダーの鳴海孝之と副リーダーの七瀬凛?(よく解らなかったが多分…)は同盟軍第2攻撃部隊長の榊千鶴と共に居た。
 現在同盟軍は帝国軍のラダビノッド将軍・ウォーケン将軍と交戦中であった、総大将・伊隅みちると、第1部隊長・速瀬月はラダビノッド将軍を抑えていた。

 榊千鶴はレジスタンスの協力を得て地の利を使いゲリラ戦を仕掛けていた。状況は有利だった、しかしそこにウォーケンが斬り込んでくる。
 榊達は迎え撃つが、高位神剣・隠密刀「ラプター」を持つウォーケンと副官のイリーナには分が悪かった。

 榊達が持つ下位神剣・氷雪刀「吹雪」と鳴海孝之の持つ上位心剣 「陽炎」と七瀬凛が持つ中位心剣「瑞鶴」では2対6でも差は歴然だった。(上・中・下の心剣の上に神剣がある。)

 しかし其処に武と冥夜と柏木が乱入してくる。 
 撤退するウォーケン達、そして武達はレジスタンス本隊と合流し同盟軍に接触する。

 続く…… 



[1115] Re[25]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第27話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/10 00:12
2004年6月18日…スラーターニー基地…夕食後




 「ふふふふふ……次は負けません!!!」
 「ヘヘン。たかがゲームだぜ、そんなに熱くなんなって。」
 怒る榎本に余裕のウォーカー

 その横では……
 「むう……、ダウト……うぁーーー!!!間違えたーー。」
 「はははっ、私に挑むなんてまだまだだね。」
 「く…、柏木中尉……強敵ですわ……」
 「私と双璧だね……、今回は負けないよ。」

 さらに……
 「くっっ、解けん………「カチカチカチ」
 「どうした真那、私は解けたぞ。」

 まだまだ……
 「それ……上がり。」
 「げぇ、嘘……」
 「UNO!!!」
 「なにぃ!!」
 
 なにをやっているのか大体お分かりだろう……、
 皆集まって遊んでいるのだ……。

 事の発端は白銀武……この頃戦士として立派になって来たが人間の本質など早々変わるものではない。
 整備や訓練、勉強も十分以上にやった、しかし彼は娯楽に飢えていた。
 ある遊びといえば子供の遊び、そして将棋やチェス、囲碁にオセロ……確かに慣れてしまえばそれも楽しかった、特にマレーシアに来てからは月詠や柏木と将棋をさすのが楽しみの一つだった。(連敗だが…)

 しかし…それはそれ……彼は元々現代人、次第に鬱憤は溜まりそして思った……無いのなら自分で作ったり広めたりしたらいいと……。
 この世界では娯楽が徹底的に少ない、BETAの襲来や情報統制の所為だろう。トランプはあったがババヌキと神経衰弱くらいしかゲームが無かったし、UNOなどは誰も知らなかった。

 武はまず始めにトランプで自分の知っている限りの遊びを広めた、そしてそれが好評だと知ると次にこの世界には無い娯楽を広めた、一部焔博士に製作依頼などしたが。
 焔が掛け合ったのかどうか知らないが、その娯楽は基地司令のムザッファも許可したようだ。 焔は武の世界の話を前からちょくちょく聞いていたが、この基地で武に娯楽の製作依頼をされてから今まで話に聞いていた物を色々独自に作り始めたらしい。

 この前はシンセサイザーの様な機械を作って武を驚かしていた。

 彼女が一番最初に武に製作依頼されたのが「UNO」と「ルービックキューブ」「15パズル」だった、焔は「パズル」というものが気に入り、部屋で考え事をする時によく「ルービックキューブ」をカチカチとやっていた。
 あと「知恵の輪」を作るのも大いに気に入ったらしい、「解けそうで解けない」という微妙さを考えるのが楽しいと笑っていた。(後にこの2つのパズルと知恵の輪は後方の一般市民にも売り出される、そして「考案者・白銀武」の名前は一般の住民にも知れ渡っていく)

 以外だったのが月詠である。
 武は月詠が娯楽に興じるのに心底驚愕した、

 「あの月詠さんが……」と……、

 将棋と囲碁を嗜むのは知っていたが……、なんと「パズル」に興味を示したのだ!
 幼馴染の焔曰くどうやら頭を使うのが好みらしい、武は月詠が難しい顔をしてルービックキューブをカチカチやっているのを見て思わず微笑ましくなってしまった。(もちろん直ぐに月詠にバレて一撃もらったが……)

 「私だって戦いのことばかり考えている訳ではない。」
 との言だ、月詠にとって娯楽はあくまで「息抜き」らしいが……。
 
 そんなこんなで、一日の暇な時間(大体夕食後)に皆で集まって娯楽に興じるのが日課になっていた。(彼らは一流の衛士でありやらなければならない事はしっかりと解っていて、遊びに夢中になって訓練などを怠けるという事はない。ムザッファ基地司令もその辺のことが解っているからこそ許可を出したのだろう。)






 翌日6月19日…スラーターニー基地、郊外演習場

 焔博士から新型ブースターが完成したとの報告を受け、武は稼動実験を行う事となった。
 自分の機体には既にXM3のver02アップデータがインストールされている、新型のブースターを取り付けられた漆黒の武御雷は外見的には殆んど変わりがなかったが、武には一回り頼もしく見えて仕方がなかった。

 「早く動かしてみてぇ!」

 という子供のような好奇心が抑えられなくて、武は演習場に向かう間ブーストの具合(初期動作不良の有無など)を確かめる為に飛び出していってしまう、テストの補助をする為に自機に乗って追従していた柏木と月詠は呆れて、

 「よっぽど嬉しいんだ、家の弟達みたい。」
 「精神修行が足りんようだな……」

 と柏木は子供扱い、月詠は未熟者扱いしていた。
 今回は正確なデータを取るためJIVESの使用許可をもらっている。
 また武の動きを良く知っている月詠と、戦場把握と射撃の名手である柏木の2人によりシビアな状況を作り出してもらい様々な状態の使用状況を確認するという手段が採られる。

 見学者と焔とその助手(基地で徴発された職員の皆さん)が演習場に到着してスタンバイする間に武は一応の訓練内容を確認……一応というのは、決められてるのは最低限の内容だけでその方法などはその場の状況と焔の気まぐれで変化するからだ。

 「うっひゃ~~、こりゃ厳しいぜ!!!」
 「はははは、容赦なく狙うからね。」
 「当然だ。手加減など微塵もせん。」
 「ぐむ……、俺大丈夫だろうか?」

 訓練内容は相当にシビアで容赦がなく、機体と新型ブースターの力を遺憾なく発揮しなければ厳しい様になっていた、まさにギリギリのラインだ。
 しかも相手は柏木と月詠……相当にハイレベルのミッションになるであろうことが簡単に予想がついた。

 「よ~し、始めるぞ!!それ1・2・3・開始!!!」

 準備ができた焔が行き成り開始を宣言する、こちらの都合など全然考えていない……まさに天上天下唯我独尊。

 「ちょっ、いきなりっすかぁ。「バシュッ」……バシュッ…って柏木ぃいいいぃぃーーー!!!

 わくわくして待っていた武だが行き成りの演習開始に流石に驚愕する、そして

 「もう少し心の準備とかってやつを……」

 ……と考えていた矢先に柏木が容赦なく自律誘導弾(ミサイル)を撃ち放った。

 迫り来る自律誘導弾に反射的に機体を横に跳躍させる、自律誘導弾は僅差で少し前まで自分が存在した地点に着弾……爆風が機体を煽る。

 恐ろしい感覚が背筋を駆け抜ける、手が反射的に左外側の補助ブーストを全て全力噴射させる。右に瞬時に機体が移動してそのまま着地、すぐ左…さっきまでの着地予測地点を弾丸が通過していく、機体が着地する瞬間を狙って放たれた弾丸……従来のブーストでは方向転換による回避は間に合わなかっただろう。

 ちらりと横目で見ると月詠が73式地対地砲を構えていた(恐らく地対地砲用の甲殻弾の試射も兼ねたのだろう)その真紅の武御雷の両肩には肩部装甲が外され92式多目的自律誘導弾システムが装備されている。

 横から柏木の不知火が接近、両手には新型の銃「04式36㎜突撃機関砲」が握られている…この銃には追撃砲に変わり滑空砲が装備されている(訳は欄外の武器紹介を参照)

 この新型の銃の試射も今日の演習の目的の1つだ。

 2つの銃から通常弾がばら撒かれる、初速の向上とそれによる発射弾数の増加により制圧力は格段に上がっている。ここは演習内容消化のため空中に跳躍して回避する。

 空中に逃れた武、しかしすかさずに月詠からの射撃…8発の自律誘導弾が機体に迫る。

 下を向いていたブーストを背後に向けさせ前面に移動、自律誘導弾は自動追従により追跡してくるがそれぞれの弾の距離が少し広がる、このほんの少しの時間差が回避率を大幅に引き上げるのだ。
 今回は新OSによる新型ブーストと機動の試験ということで迎撃武器は持っていない、全ての弾を回避しなければならない。

 1・2・3・4発目を避けた所でまたもや悪寒を感じた、反射的に次の回避行動に移る操作をキャンセルし右の内側と左の外側の全ての補助ブーストを連動稼動させやや下に噴射、機体は右前面の上方に浮き上がる、その下を恐ろしい勢いで「何か」が通過する。

 (えげつねぇ~~)

 恐らく柏木による04式36㎜突撃機関砲の滑空砲からの射撃だろう、追撃砲より速度も威力も速く撃ち出されるAPFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)は脅威以外の何ものでもない。
 しかも自律誘導弾回避中に狙って撃って来るのだ、確かに容赦が無い。

 そうしながらも瞬時に思考する、思考というより蓄積された戦闘経験が瞬時に最適な回避方法を弾き出しつつそれと平行して実行、でなければ間に合わなかっただろう。
 (機体を立て直している暇は無い…)
 既に危険域まで近接している自律誘導弾に対し武はブーストを真後ろに噴射、なんと自律誘導弾に向かって突っ込んだ、
 見ていた観客が驚愕した行動だった、しかし機体は自律誘導弾の真横を通過する、至近距離に近接したことにより既に着弾体勢に入っていた自律誘導弾は緊急接近により目標をロストしたのだ、そして次の6発目も回避する。

 (よし、凌ぎきれる!あと2は「バシュッバシュッ」っっって!!!」

 シュミレーターでは出来ていたが、実機では初めてだったので最初の回避に安堵していた所に……

 「か……柏木ぃぃいいぃぃーーーー!!!」

 柏木機が新たなる自律誘導弾を8発、こちらに撃ち放っていた。

 武は一瞬……
 (ああ……なんかこの状況、さっきと同じ)
 とか思わず考えてしまった。

 今回の演習は特殊設定として(兵器の試射と武の機動やブースト稼動のデータ採りのため)柏木と月詠の持つ武器は弾数が無制限設定にしてある。無制限といっても実際の戦闘状況を想定しているのでリロード時間などはちゃんと取られるが。

 しかしえげつない、みると月詠も04式36㎜突撃機関砲に持ち替えて此方を狙っている。回避中に狙う気満々だ……

 「ふふふ……、覚悟しなよ…白銀。徹底的に遊んであげるから。」
 「……これもまた試練。手加減はせんぞ、白銀武!!!」

 通信画面から聞こえる、面白そうな笑いと気勢溢れる声。目的は違うが2人とも何かやる気満々だなぁ~~、と他人事のように感じる。

 「た・た・た・助けてくれぇ~~~!!!」

 ああ……自分は生きて生還できるのだろうか?

 ……シュミレーションにも関わらずそう思ってしまった白銀だった。




 結局数時間の演習で被弾は自律誘導弾2発、04式36㎜突撃機関砲2丁掃射が1回、滑空砲での被弾が3回、地対地砲が1発、甲殻片内蔵・指向性クレイモアを1回くらい(戦術機用クレイモアは知識としては知っていたが使用を見たのは初めてだったので)

更に空中で月詠が行き成り04式近接戦闘短刀を2本ほぼ同時に…左右の手で手裏剣投げしてそれが1本命中した。(モーションから攻撃を予想できなかった武は慌てて回避したが1本目を回避した所で、回避地点に吸い込まれるように2本目が来て命中した。)




続く




 最初の娯楽の話、私アンリミで不思議に思ったんですが武は絶対無いなら自分で作ると思ったんですよね、でも最後まであやとりとかで遊んでいたし…武の性格なら情報統制とかなんて無視して突っ走ってたかと、後半戦術機に夢中になってたとしてもそれ以外ではねぇ……
 クリスマスとか強引にやるくらいだから作らないのは変かな~?と。材料もトランプとかなら簡単に作れるし。

 月詠さんのパズル好きは…私の趣味?いや将棋とか囲碁とか嗜んでそうだから……、娯楽は訓練生時代とか仲間とかの交流でやっていたと思うんですよ。どんな人でも心のゆとりは大切かな~と思いまして。
 彼女はこのオルタ+のなかではもう2つ出来ることがあります。その1つはこの話の中にヒントが……、私の月詠像の願望?
 でも多分…あの人に関わる話だからな…出番は遅い…(月詠唯一の天敵です)というか響が出てる時点で予想つく?

 次は武達は新しいOSの指導のためバッターニー基地へ訓練生達の指導へ(予定) 



[1115] Re[26]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第28話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/10 01:51
(注……作中で使う「彼等」は昔言葉で男女を纏めて差していま
2004年7月1日…バッターニー基地





 バッターニー基地、一大演習場があるとても大きな基地だ、ここは衛士の特別強化訓練場のような所で別名シミュレーター基地と呼ばれるほどシミュレーターが揃っている。
 実機演習のための整備格納庫と各種分析・調査機器、そしてシミュレーターと広大な演習場、それらが豊富に揃っているのだ。

 
 「それでは、紹介しよう。XM3の考案者である白銀武大尉!!諸君は1月前に行われた模擬戦で彼の戦いを見て知っているだろう……あの時の黒い武御雷だ。」
 
 「おおおぉぉぉ!!!」

 焔博士の紹介により、新人衛士……いや、まだ訓練生か?……の視線が熱を帯びる。
 憧れと期待に満ちたその熱い視線は、戦場での戦いで…曇ったり、捻くれたり、悟ったりしている衛士の眼差しと違いとても純粋だ。
 武は自分にそんな視線を向けられるのが非常にいこごちが悪く思わず苦笑いしかけたが……なんとか無難に顔を繕い、眼前に並んでいる新人衛士達に手を上げて一歩前に出た。

 (ああ……、なんでこんなことに…………)

 武は心の中でこんな事になった経緯を思い出した。




 6月26日…スラーターニー基地、司令長官室
 
 4回目の戦闘も無事終了し、武達はここでの生活にも慣れてきていた。
 新型兵器も順調に調整され、スパイラルランサーはまだ未完成だが現状使えると言う事で、ここで開発した全ての兵器が量産される事となった。

 さらに6月21日には日本の北海道より全ての部隊の撤退が完了したようだ。
 武達一般兵は、どんなに特別でも例外を作る訳にはいかないので衛星通信の個人的使用の許可は下りなかったが、焔博士が日本の御剣真貴と連絡を取り、朝霧大尉とミナルディ中尉・207部隊・A-01部隊の無事を確かめ、此方の現状の報告を頼んだ。
 それにより、武達は仲間の無事を喜び、207部隊とA-01部隊の皆も武と柏木の無事を確認した。


 そしてあと少しで武達の1ヶ月の前線待機期間が終わるという時に、第28遊撃部隊は基地司令に呼び出しを受けて出頭した。



 「は…………、新人衛士への指導と教官への指導講習?」

 「正しくは訓練生だがな、バッターニで総合教程を行っている訓練生教育課程の最終段階に至った衛士だ。ここで合格……バッターニに来る時点で水準は満たしているので滅多な事では落ちんが……した衛士が少尉任官されハートヤイ・ソンクラーに送られる。」

 既に馴れ馴れしい武の疑問に対し、ムザッファ司令はなんら気にしないで答えを返した。

 「って、俺達がですか?」
 「命令だとしても一応訳を説明してくれるとありがたいんだけどね?」
 武が再度疑問の声を上げ、鮎川がそれに便乗して発言する。隣では響も「うんうん」と首を縦に振って同意している、他の仲間も訳を聞きたそうだ。

 「勿論だ、これは命令という形を取っているが教官達からの嘆願でな。」
 「嘆願?」
 柏木が首をかしげる、月詠と焔は黙って聞いている。

 「先日のXM3のバージョンアップでな、ベテランは対応できるし普通の実力の衛士には余り影響はない……まあ新型ブーストのシミュレーションには苦労している様だが。」

 ムザッファ司令は嘆息して続きを話す

 「だが新人にはきつい、XM3ver02はお前達の平均化した稼動蓄積データを機体にインストールして最適化する……つまりは最初から実戦経験値が多い機体になるという訳だ。
 操縦者の機体制御を阻害しない癖の無い様々な実戦経験のデータが最初からあるというのは新人達にとっては涙が出るほどありがたい事だ、だがそれゆえに習熟には手間が掛かる……といっても教育と慣れと経験でなんとかなるがな……やはり最初は指導してもらった方がいい。」

 「という訳で、一度お前達に新人達への指導と指導教官へのXM3の使用方の講習をしてもらおうと思った訳だ、同じタイミングで指導教官達からも同様の嘆願も来たから丁度いいと思ってな。
 指導教官と一部の新人衛士に教えれば後は彼らが周りに広げていく、だからバッターニ演習場を拠点にお前達に指導を頼もうと思う。
 今あそこには3ヶ月間の訓練生最終教程中の衛士が120人滞在している、教官は入れ変わりで何人か来る、だからたのむぞ。」
 と言って司令は眉を吊り上げて笑った。



 …………という事で今俺達は訓練生最終教程中の衛士120人と十数人との教官の前で焔博士から紹介をされていた。

 新しい指導教官が来ると聞いたのはつい昨日で、全員とも俺達の簡単なプロフィールを教えられたようだがどうやら顔は教えられていないらしい、俺達が入った時の新人衛士達の囁き声でそれが伺えた。
 
 「紹介の前に言っておく、お前達はこれからここにいる全員に教わるんじゃない、今から詳しく紹介してやるから自分の得意分野に合った人物に師事しろ、最初の1ヶ月で1人、残りの1ヶ月でもう1人に教わるくらいが丁度いい。
 ただ白銀武の講習は全員受けてもらう、そうだな……30人のグループで2週間ずつ受けてもらう、他の講義との兼ね合いは自分達でしろ。」

 「お前らは新人だ、そしてここにいるのは幾多の実戦を潜り抜けてきたスペシャリストだ…欲張って教わってもモノにはならん、一朝一夕で身に付く技術じゃないからな。」
 焔博士の厳しい言葉に新人衛士達は緊張気味だった体を引き締める、

 「いい目だ……奴等を指導した教官達は一角の人物だったのだろう。」
 「ここでは新人教育のプログラムが確立されてるからね、教育も行き届いてるんじゃない?」

 横で月詠と柏木が囁く、確かに皆若いがいい目をしている……と武は思った。

 しかし……
 (この2人あの演習の時以来仲がいいんだよな……)

 あの新型ブースト試験の演習で共闘して以来、2人して(目的は違えど)武を虐めた共感からなのかどうかしらないが月詠と柏木は前より仲がよくなった。
 武は鮎川・ヒュレイカ・御無が『同盟を結んだかな?』『いや…不可侵条約?』『抜け駆け禁止令です……』と訳の分からないことを言って響が『絶対違う!あの2人にそんな自覚無いもん!!!……柏木中尉は解らないし、月詠少佐は少し危ないけど……』と意味不明な言葉を叫んでいた事をふと思い出した。

 「それじゃあ紹介しよう。まずは……」

 ……といって月詠に目配せする、前にでる月詠。

 「月詠真那少佐だ。」

 名前の紹介に合わせ月詠が軽く全員をねめつける、しかしそれに怯んだのは外国人衛士だけで殆んどの日本人衛士はキラキラとした憬れの目で月詠を見ていた。
 帝國斯衛軍守護隊第一大隊隊長の肩書きは移民者出身の日本人衛士にとっても憬れの的である様だった。
 月詠はその様な視線に慣れているのか平然としているが。

 「彼女は超一流の衛士だ、錬度は最高クラス……よって彼女の指導を受けるためには制限を設ける。」
 焔博士がそう言った瞬間、日本人衛士の中から落胆の息が漏れる。
 「腐るな腐るな、並みの腕では付いて行く事もできんぞ。……ということで成績の判定が全てAランク以上で更にSランクが3つ以上ある者とする。」
 この訓練生最終教程に来るには全ての訓練教程を終わらせ、なおかつ武達がやったようなチームでの総合演習をそれぞれ違う様相で3回終わらせないと来ることができない。
 必然的に此処に来るにはかなりの実力……殆んどがA判定ないと厳しい、大体1つや2つB判定があるのが普通だが……全部Aランク以上でSランク3つというのは相当ハードルが高い、恐らく10人を超えるか超えないかだろう。

 まあ特化型能力の人物は水準さえ超していたらそれでいい、月詠さんは万能型・総合型の衛士の中の実力者担当……と言う所だと説明された。
 (ランク評価はあくまでも訓練生レベル、実戦評価はまた別)

 そして次々と紹介が続いていく……

 「次に鮎川千尋大尉、彼女は先程と同じ万能型・総合型の衛士担当だ。彼女は制限は設けない……と言っても実力は最高位だ、心して師事しろ。」

 「次に御無可憐中尉、彼女は白兵戦のスペシャリストだ、剣術・格闘の得意な者は彼女に師事しろ。それと…見た目に騙されるなよ……」
 日本美人の御無中尉はお人形、大和撫子とよく言われる。普段は物腰穏やかだがその性格は意外と苛烈だ、特に溜め込む性質があるので怒っても傍目には静かにしている様に見えるが……沸点を超えると途端に爆発する、しかも意外と低めらしい。
 ……鮎川大尉の話によると、彼女は大尉待遇でどこかのエリート隊に招かれた事があるらしいのだがそこのセクハラ上司にぶち切れて全身の骨をバラバラに外して箱に無理矢理詰めて輸送車両に乗せてしまったことがあるらしい……。有名なセクハラ上司だったようで彼が懲らしめられた噂はたちまち広がり、軍隊では「箱に詰めて捨てるわよ!」という女性の脅し文句が大流行したらしい。

 「次、ヒュレイカ・エルネス中尉、彼女には生き残る手段を教えてもらえ。実戦経験は12年、大陸の戦場を経験しその間にハイヴ攻略戦や日本での明朝作戦などの幾つもの大きな戦いに参加している、彼女の経験は戦場で生き残る為に役に立つだろう。死亡判定が多くでる者は彼女に教えを乞え。」

「そして柏木晴子中尉、彼女は遠距離射撃のスペシャリストだ。打撃支援から制圧支援……どんな射撃援護でも的確にこなせる。
 彼女の一番の能力はその戦場把握能力だ、状況を把握し的確な射撃や援護を行う、これは一朝一夕で身に付くものじゃないが教わっておいて損は無い。援護は射撃能力だけではない事を実感しろ。」

 次に響が紹介される、彼女は正式な教官としてではなく相談役となってもらうそうだ。
 「次は正式な教官ではない、彼女に限っては他の人物と平行して話を聞いても構わない。」
 「白銀響少尉だ、なお白銀武大尉とは血縁上の関係はない、苗字が同じなのは偶然だ。彼女は任官1年目だが特殊部隊に配属され、そしてかなりの実戦経験がある。
 少し前まで同じ境遇だった彼女の話は為になるだろう、困っていることがあったら相談にも乗ってもらえ、同年代の実戦経験者の話は貴重だぞ。」
 響が頭を下げてから後ろに戻る、そして入れ替わるように武が前に出た。



 そして冒頭の紹介シーンに戻る…………。



 武が前に出ると同時に焔の紹介が始まる。
 「白銀大尉にはXM3の使い方を教えてもらうが……最初に私から言っておくが本人が説明下手だ、なので実演と対戦、それに伴う経験談を踏まえた話など実技を中心に教える事となるだろう。
 お前達は体でそれを覚えろ、詳しい理論や細かい運動係数などが詳しく知りたくなったら私の所にこい……ただしそんな暇があったらな。」

 そして武も後ろに下がる、最後に焔が自分を紹介する。

 「そして私が戦術機と武器などの兵器全般の改良・開発・整備を担当している鳳焔だ、正式な権限ではないが少将クラスの官位を持っている…それと鳳博士と呼ぶな、焔博士と呼べ。
 今回お前達の使うシミュレーターには新型の武器のデータが入っている、XM3や武器、戦術機の詳細が知りたくなったら何時でも来い。」

 「実機訓練は担当教官の許可の下で行え、それと今日と明日の2日間やるから誰に師事を乞うか良く吟味して決めろ。自分の特性を見極め、友人や今までの教官、今紹介した28部隊の人物にも自由に相談してくれて構わん、此処での選択が今後の自分の生死を左右すると思って慎重に選べ。」

 目の前の新人衛士達は最初の浮ついた雰囲気ではなく、真剣な目で武達を見詰めている。
 この選択が自分の一生を左右する可能性だってあるのだ、真剣にもなろう。
 
 武達は事前にこれらの打ち合わせを行っていた、26日に依頼をされてから今の紹介にあったような役割分担がなされ各自が専門の分野を教えていくことになった。
 一番困ったのが武だ、今でも勉強は欠かさないのである程度以上の知識は十分にあるが、如何せん彼は人にものを教えるのに慣れていない……というか現状下手だ。
 ということで武は実戦形式で教えていく事となり、実習プランが焔の協力により作られた、他の皆も独自にプランを作成した……まあ最低限の事で、あとは現場で臨機応変に教えていくのだが。

 そして顔合わせは終了した。

 一端解散して各自は用意を整えてから教官を選ぶ為の行動を始める、武達に相談するにしても自分の詳細なデータがなければならないからだ。
 武達はその時間を利用してバッターニー基地を探索する。
 基地の全容は皆既に把握している、何時どんな事が起こってもいい様に自分の現在居る場所を把握するのは戦士として最低限の務めだ……というか当たり前だ、危機意識が高くなると無意識の内に自分の現状を把握している、武でさえ何時の間にかそれを実行する様になっていた。







*…ここから下はギャグです。しかもネタ満載です。
本編とは思考を切り離してお読みください。



 「それにしても、骨のありそうなやつらばかりだったな。」
 「そうそう!なんか出会ったばかりの響を思い出すよ。」
 「もう鮎川大尉!!あの時の話はやめてください。」
 「朝霧少佐が隊につれて来た時はまだまだ子供でしたわね。」
 「御無中尉も!!」
 過去を知る人間というのは厄介だ、それが嫌な記憶であればあるほど……

 「過去といえば……、白銀も二股だったよねぇ……」

 「「「「「「「………………」」」」」」」

 柏木の爆弾発言に皆の動きが一瞬止まる。

 「そ・う・い・え・ば・詳しく聞いていませんでしたわね、お・に・い・ちゃ・ん?」

 響が首を「ギギギギ……」と軋ませながらニッコリと武の方に振り向いた。最近分かったが響は暴走すると武の呼称が「お兄ちゃん」になるようだ、武の事を深層心理下で無意識にでも兄と重ねているのかも知れない。

 「私も興味あるね、あの武御雷……性能的に将軍家縁の機体だろ?…って言うか将軍家縁の人物を恋人にしておきながら二股とは……、鈍感のくせにやることはやってるんだな。」
 「ふふふ……他人の恋愛話は蜜の味。泥沼最高……」
 「戦争に恋愛は付き物だからな……」
 鮎川、御無、ヒュレイカも興味心身だ。
 ……というか御無さん、少し怖いです。

 (な…なんだ……、どうして行き成りこんなデンジャラス状態に……「ふふふふふ」…かっ柏木……貴様かっ!…貴様なのかっ!!!)

 いきなり危険な立場に追い込まれた武はその元凶である柏木の笑いを聞いた……

 (こ…こいつ、この前の模擬戦といいその前といい……俺をからかって楽しんでるなーーー!!!)

 大正解………

 (くっ…、ここは唯一まともな月詠さんに……「ギャァーーーーー!!!」

 助けを求めようと月詠を見ると、体からはドス黒いオーラが立ち上っていた。彼女は彩峰の事を知っているはずなのに!

 (ふふふ……白銀武、冥夜様の護衛として今こそ詳しい事情話してもらうぞ。……時と場合によっては貴様を無間地獄の責め苦に落としてくれよう…冥夜様の手前殺しはしないがな……) 

 (目が、目が逝っちゃってます~~)

 とてもとてもとても……怖かった。

 「さあさあさあ!!!ハリーハリーハリーハリー!!!話してもらうわよ……、ね・お兄ちゃん♪」

 左右の手を「シュッシュッ」と素振りしながら武を壁際に追い詰める、最後の「お兄ちゃん」が一際優しい声だったのがとてもとても不気味だった。

 (あああ……、死ぬ…死んじまう。…………そうだ焔博士!)
 最後の希望を託して焔に顔を向けるが……

 「いや……、私が聞いた話だと五股だったような……、アレ……違った…七股だったかな?」

 トドメをさしてくれやがりました。

 (あ…あんた、なんばいっちょってくれやがりまんねん!!!)

 「「「「「五股……七股ぁぁああぁぁーーー!!!」」」」」

 絶叫が廊下に響いた。
 5人の視線、その内2つは既に人が殺せそうだ。
 「そ…そんな……あることない事……なあ?柏木…」
 苦し紛れに柏木に話を振る、2人と言うのは事実だからそれで纏めてほしいと願いをこめて……。

 しかし柏木は容赦がなかった。

 「御剣でしょ、彩峰で、榊、珠瀬、それに鎧衣、あと……「確か社…と、冥夜の姉さん。」
 さらに焔が駄目押しをしてくれる。悠陽の名前を言わなかったのは……まあ色々問題があるからだろう。
 全員の白い目が武をねめつける。

 武は……
 「………………」
 {白銀武は心に1万ポイントのダメージを受けた。……白銀武は真っ白になった。}
 ……という状態だ。

 「いやーー、部隊全部がハーレムなんて白銀もやるねーー!!」

 柏木はもはややりたい放題だ……

 「夕呼から聞いていたが……、彼女の言っていた「白銀恋愛原子核」は実在するのか?……ううむ、是非調べてみなければ!!」
 博士も好き勝手言っているし。

 そこに自失した武を挟む影が……

 「ふふふ……、遂に長きに亘る封印を解く日がやってきたわね……」
 「白銀武……、本家ではないが我が一撃……くらって果てるがいい!」

 響が左手を腰ダメにし……
 月詠が構えを取る……
 そして2人の姿が霞む……

 「くらえ、ドリルミルキー……ファントム!!!」
 「……無現鬼道流…無手秘奥義……破邪雷光・鵺!!!…………雲散霧消の露と消えよ……」

 響の容赦ない幻の左と、月詠の良く分からなかったが…連続技が順に決まった。
 そして壁に叩きつけられる武……、しかし響の伝授された技は「テンペスト」に改良されたように「ファントム」も始まりに過ぎなかった。

 「くらえ、最終奥義!!ペイン(痛み)・スラッシュ!!!」

 始まる悲劇……
 それは…まさにペイン(痛み)だった。

 「オラオラオラオラオラオラ!!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄………」

 「で…デンプシーロール………」だれかが呟く…

 左右からのパンチに浮き上がる武……、
 周りは固唾を呑んで見守っている。
 そしてフィニッシュ……

 「お前はもう……死んでいる……。」

 その言葉と同時に武は地面に沈んだ、ちょっとヤバげにピクピクしているが……。

 「ああ……、冥夜…慧……。俺はもう……だ・め・だ……」

 と手を空に伸ばして何かを掴むように握りこんでから気絶した。
 なにか凄く余裕がありそうなのは気のせいだろうか?

 ……こうして問題はうやむやのままに一応の終結を見せた。
 しかし、この問題が何時また何所で浮上するか……。

 それは誰にもわからない…………。






 武の教官生活の始まりです。……といってもここら辺はサラッといきます。
 いや…内容は書くけど、日数が飛びますあっという間に(3~5話予定)、2ヶ月が過ぎます。

 その後武達は前線のスラーターニーに常駐するようになります。
 そして6ヶ月があっという間に過ぎます、この変は内容を進める為ご勘弁を。
 幾つか飛びながら話が入り…そして11ヶ月目に日本の厚木フェイズ3ハイヴの攻略が始まります。ここは前半の山場です、色々な要素があります、熱き戦いです…新型Sなども……
 その後にはトンデモ設定が……

 5月からはチョット忙しくなるので5月前半までには此処まで行きたいです。多分60話くらい?になるか……、間のエピソードを色々削らなければもっと話数が増えます…その変は気分しだいです。

 後半のギャグ……元ネタが全部解った人は凄い…かな?(本当はロムさん口上も入れたかったんですが口上が思い浮かばず挫折……無念)

追伸)設定上どうしても不明な点が、感想板の方に質問を書いておきました。だれか分かる方、教えてください。
 切実なお願いです。



[1115] Re[27]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第29話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/11 02:33
2004年7月8日…バッターニー基地、シミュレータールーム




 6機の04式吹雪が散開してこちらを狙っている、条件は此方が圧倒的に不利…同じ機体でブーストも使えず弾も通常弾が500発、あとは04式近接戦闘長刀だけだ。

 だがしかし……
 「いい陣形だ……。しかし甘いな、素直すぎる……」

 訓練生が取ったのは素晴らしく綺麗で完璧な陣形だった、しかしそれ故に読みやすい。
 (後方より2機で接近・圧力を掛けつつ前方からの挟撃、更に左右からの射撃でトドメ、最後の一機は臨機応変に詰める……という所だな)
 瞬時に判断した月詠は最初の敵が動く寸前に射撃……そして全力機動に入る。
 機動予測進路に放たれた50発の銃弾は吸い込まれるように04式吹雪に命中し撃破した。

 共に月詠に迫るべく飛び出した僚機は行き成りの事態に一瞬慌てるが、その僅かな一瞬に月詠が接近して一刀の下に斬り伏せる。
 さらに後方より接近していた04式吹雪に精密射撃……キッチリ50発叩き込んで撃破。

 その場で機体を後ろに倒す、目の前を弾が通り過ぎた瞬間に地面を強く蹴って跳躍、足が上空へ振り上げられる…さっきまでいた場所を弾が通り過ぎる…右手を軽く地面に添えながらそのまま空中で機体を捻りつつ後方へ飛んで着地した。

 残りの3機の戦術機は動きをとめ呆然と突っ立っている。
 それも無理も無い、従来の戦術機ではとても無理な動きだ、XM3使用を前提に教育し直された訓練生でもこの動きは想定外だっただろう。
 白銀のトンでも機動を見てきた月詠だからこそ自然に出た動きだろう。

 武も月詠も姿勢制御以外のオート動作を殆んど切ってしまっている。XM3によって機動の自由度が格段に上がった現状、月詠や武のような「XM3機動」に熟練した者にとってオート機動は邪魔になる。
 先行入力とキャンセルによってリアルタイムに操作を割り込ませたり取り消したりできる事により機体の動きに自由度が出、動きのタイムラグも無くなった。
 さらにコンボによる簡易操作によって入力を簡略化させることにより高等操作を簡単に実行出きる様にした。

 XM3とは「先行入力」「キャンセル」「コンボ」を実行できるように作られたOSだが、その3つが合わさって更なる相乗効果を生み出している、さらにそれをOBLシステムによって機体に習熟させる事により「分厚いマニュアル一冊分」という戦術機の機動操作をどんどん簡略化しつつ蓄積
機動パターンを増やしていける。

 またXM3ver2は武達が蓄積した、その機動パターンが最初から機体に取り込める。つまり新兵でも高等操作がコンボ入力で簡単に出来る様になるのだ。

 「いい機体だ、もう入力したデータに対応出来ている。……なるほど高等練習機とはよく言ったものだ、このまま実戦配備しても何も問題が無い程に安定している。」
 月詠がこの04式吹雪を使い始めて5日、武御雷からデータを04式吹雪のスペックに合わせてから移して使用していたが既に違和感無く使用できている。
 乗ったのは初めてだが、マレーシア戦線がこの機体を正式採用した理由が良く分かった。

 考え事をしながらもキッチリと間を詰めていた月詠は、動きが止まっていた最初に撃ってきた04式吹雪を斬り捨てる。
 我に返る残り2機、04式36㎜突撃機関砲を撃ってくるが月詠は左右の岩場を蹴って接近し先程後に撃って来た1機にやはりキッチリ50発叩き込む。通常弾なのに50発で撃ち抜いているのは集中的に急所を狙っているからだ。

 残り1機……残弾350発
 最後の機体は遮蔽物を利用し迎撃行動に専念したが、やはり接近され斬り伏せられた。




 演習が終わり、月詠と相手だった6人、先に模擬戦が終わり見学していた6人が分析機器と映写機の側で座る、側にはホワイトボードもある。

 月詠の担当者は12人だ、この12人は2ヶ月全て月詠に指示する。そしてその間並行して武の指導を受けるのだ、武は彼らの為に別の教育メニューを組んでいる。
 それと望むなら個人的に他の人物に教わっても構わないことになった、各自己の得意分野があるからだ。ただしメインはこちらだが。
 反省会が終わり一端解散となった。各自は休んだり、今の反省点を考慮して練習したりする。

 「そういえば……白銀は上手くやっているのか……」

 白銀の事が気になった月詠は部屋を出て白銀が教えているシミュレータールームを目指す。
 自分の教えている12人も武に教わっているのだ、やはり気になるのだろう……それだけでは無いかも知れないが……

 「月詠教官!待ってください。」

 武の所へ向かう月詠を後から追いかけてきた先程の訓練生の1人が追いかけてきた。
 月詠は振り返って彼女を見る。

 七瀬凛、18歳の少女で一番の成績保持者……先の12人の中でもリーダー的な存在だ。さっきの戦闘で皆を指揮し、最後に撃破されていた。彼女は第一期の移民者らしい。

 「どうした?」
 「先程の戦闘の事で……」
 月詠と平行して歩きながら質問を始める。彼女はとても熱心で努力家で負けず嫌いだ、解らないととことん聞くし、練習する。成績が1番なのも頷ける話だ。

 「あの……先程の機動は……」
 「あれか……、あれは白銀教官に教わった方がいい。」

 凛の質問に返す月詠、実際月詠も武に教わった様なものだ。それに月詠でも教えることはできるがやはり武から教わった方がいいと月詠には感じられていた。
 月詠の事を信じているのか、その話はそれで納得したようで新たな質問をする凛
 その後も質問を繰り返しつつ進んでいく。
 やがて武のいるシミュレータールームに到着する。

 月詠が中に入ると丁度武と目が合った。
 「あれ……、月詠さん……どうしたんですか?」
 能天気な顔を向ける武になんとなく苦笑する月詠、

 「貴様の様子を見に来たのだ。」
 「それって俺の事を信用して無いんですね。」

 武は半分顔をしかめて言う、チョット寂しそうだ。
 「信用はしている……ただ気になっただけだ。」
 「ホントですか?」
 「ああ。」
 月詠の「信用はしている」の言葉に武は元気を取り戻す、いつも辛い評価をもらっているので認められている事が嬉しかったのだろう。

 「それより何をやっていたのだ。」
 「XM3の連続機動の事で……、実際にシミュレーターで実演しようと。」
 見ると、周りでは訓練生30人がシミュレーターに乗り込んでいた。
 「成る程、連動させて実際に操縦を体感させるのか……」
 ここのシミュレータールームは全部で50機あり、一機のシミュレーターを他に連動させることが出来る。教官が自分の操縦を体感させるために使う方法だ。

 「よし……、ならば私が相手を務めよう。」
 「ええ!!!」
 「月詠さんが?」

 突然の月詠の言葉に付いて来た凛の方が大声を上げる、武も驚いてはいたが顔がやる気だ。
 「相手が居た方が良いだろう、それに久しぶりにお前と戦ってみたい。」
 そう言って不適に笑った月詠はこの上なく楽しそうだった、そしてそれを聞いた武も……

 「いいですねぇ、今日こそは勝ちますよ!」
 「ふ……、心意気だけは認めてやる……」
 「あ…あ……あのぅ…………」
 突然火花を散らして2人の世界に入った武と月詠に戸惑う凛……、しかしそこに突然声が掛かった。

 「七瀬訓練兵、至急12人全員を招集しろ。貴様らにも私の動きを体感させる。」
 「え……、は…ハイ!!七瀬訓練兵、至急全員を招集します。」

 急な言葉に戸惑った凛だが、優秀な彼女は直ぐに返礼を返して行動に出た。



 
 月詠と武の04式吹雪での激戦はその操縦を体感していた訓練兵達の価値観とか常識とか色々なものを根こそぎぶっ飛ばしてしまった。
 武の生徒は武の機体の中、月詠の生徒は月詠の機体の中と、モニターに移るものも何もかもが全く同じ状態のシミュレーターの中で訓練兵達は自分達の想像を超えた戦いを見たのだ。

 彼らは興奮した、若く優秀な彼らに「落ち込む」とか「諦める」という言葉はない。自らの操縦する機体の未だ見ぬ可能性を体感した彼らは早速練習を始めた。
 先程の戦闘は全て記録されている、それを再生してまた最初から体感したり、武の機動を体感していた者は月詠の機動も体感してみたり……、
 第3者視点の映像で外からじっくりと観察したり、機体の内部駆動の状態を確認したり……とにかくあらゆる方面から動きを観察してそれを実際に行っていく。

 凛も勿論必死に月詠や武の動きを研究したりトレースしたりした。研究して解らない所は質問し、またトレースする…延々とその繰り返しを行なっていた。






 そして夜……

 夕食後月詠と武が歩いているとシミュレータールームで誰かが訓練していた。覗いてみると居たのは七瀬凛であった、丁度分析機で何か確認していた。

 「七瀬訓練兵、遅くまで熱心だな。」
 その言葉でこちらに気付いた凛はこちらを振り向く
 「あ……、月詠教官、白銀教官。はい、ちょっと興奮して。」
 困った様に苦笑しながら凛は手を胸に当てる。
 「あんなに凄い戦闘を見て、私も結構努力していたのにまだまだだったんだなって……」
 軽く目を瞑って今日の戦闘を思い出す、今でも鮮明に体が覚えていた。この興奮と自分の感情をなんとかしないと今日は眠れそうになかった。

 「七瀬訓練兵は頑張り屋だな、成績も一番だし、明るくて皆に好かれてるし。」
 武が感心する、実際彼女は明るくて誰からも好かれていて、それでいて優秀だ。訓練生全員の
リーダー的存在になっている。

 「はい、私兄がいて……帝国軍に入っていたので移民で離れ離れになっちゃいましたけど、凄く優しくて強くて優秀で…私兄のような素晴らしい人間になりたいんです!!」

 凛はとてもとても嬉しそうに言葉を紡ぐ、とても大切で極上な思い出を紐解くかのようなその発言は彼女の兄への想いの強さを否応無く実感させられた。 
 武はその笑顔に心が温かくなったような感じがした。
 だが月詠は一瞬顔を顰めた……。

 「それで何所の部隊だったんだ?」

 武が極自然に質問する、

 しかしそれは……

 凛が質問に答える、
 「はい、帝国本土防衛軍の帝都守備隊、戦術機甲連隊の所属です。」

 空気が凍った…………

 「帝国本土防衛軍……?」

 武が『まさか……』という顔をする、そして月詠が顔を半ば伏せて「やはり……」と呟いた。
 凛は突然の空気の豹変に慌てて言い繕う。

 「あ…あ、大丈夫ですよ!!全部の守備隊がクーデターに参加した訳じゃないんですから。それにお兄ちゃんはとっても心の優しい人なんです、クーデターに参加する筈ないですよ!!それに…

 尚も続けようとした凛……しかし……


 「私だ…………」


 押し殺した月詠の声が聞こえた……

 「「え……?」」

 押し殺したその声の重圧に武と凛が同時に月詠に顔を向ける。
 「…………」
 月詠は少しの間息を溜めてから決定的な一言を言い放った。


 「私が殺した……」


 「え…………?」

 「ピシッ」と凛の動きが止まる。その顔はあらゆる思考を放棄……いや、拒絶して信じまいとしている様に感じられた。

 「月詠さん?」
 「今……何て……?」

 武と凛の疑問の声が重なる、


 「お前の兄は私が殺した。」


 凛の顔を見据え言葉を発する月詠、その目は全ての事実を受け入れた覚悟の眼差しだ。

 「う……ウソ……嘘…ですよ……ね?」

 それでも信じられないのか凛は再度繰り返すが……

 「いいや、確かだ。私がお前の兄を機体ごと斬り伏せた、恐らく即死だったろう。」

 その言葉でも凛の思考は兄の死を信じられない、必死で言い訳を探している……

 「し…死亡通知は来ませんでした、だから兄は……」

 先程言いかけた事、自分が兄の生を…クーデターへの不参加を信じている理由。自分の所に兄の死亡通知は来なかった、だったら……

 「いや……、家族への死亡通知は出ていた。彼らの志を汲み、その家族の下へ感謝と謝罪と決意の意を込めて悠陽殿下直々に書き賜った書状だ。」

 「殿下が……」
 武がポツリと呟く

 「うそ……嘘よ…私知らない……そんなの見ていない。」
 「恐らく家族が知らせなかったのだろう……」

 凛の兄に対する想いは他人から見ても十分に分かる、それが家族なら……如何程の思いだったのか十二分に理解していただろう、その死を隠匿するのもまた家族の優しさなのかもしれない。

 「うそ…うそ……」

 もはや凛は呆然自室だ。
 そこへ武が横から質問を投げかける。

 「あの……どうして七瀬訓練兵の兄だって分かったんですか?」

 「あの後、狭霧大尉が事前に出した大将軍殿下に宛てたクーデター参加者の名簿が悠陽殿下に献上された。
 私はあの時撃破した者達の機体識別を全て覚えていた、そしてその名を刻むために悠陽殿下にお願いしてその名簿を閲覧した。」

 「…………」
 「…………」

 武と凛は黙って聞いている。

 「そして狭霧大尉の近くで撃破した不知火の搭乗者名に「七瀬」の名が確かにあった。帝都守備隊・戦術機甲連隊に七瀬は1人しか居ない、間違いないだろう」

 じっと凛の目を見詰めて言い切った、
 武は驚愕して2人を見ている。

 「それじゃ……、やっぱり……兄は……」


 「ああ、間違いなく私が斬り殺した。」


 真実を理解して受け入れようとする凛、それに対し月詠は容赦なく現実を押し下した。

 俯く凛……

 武が心配そうに2人を見るが口を出そうとはしない、自分もクーデター事件でその場にいた身だがこれは2人の問題だからだ、自分が口を出しても解決はしない……ならば後は見守るしか無い。

 「貴女が……あなたが兄を殺したんですね……」
 「そうだ……」

 押し殺した声に簡潔に答える月詠
 「どうして殺したんですか……」
 「殿下を守るためだ。」

 キッと眼差しを上げ月詠をねめつける凛、
 しかし月詠の態度は変わらない。

 「なんで……、どうしてクーデターなんかに…あんなに優しかったのに……」
 「優しいからこそだ……。国を愛し、国を憂い、そして自ら行動し正義を正そうとした。」

 「あなたに……、兄を殺したあなたに何が……!!!」

 「解らない、しかし私も七瀬も日本人…形は…想いは違えど…国を愛する心は変わらない。」

 凛の糾弾にも月詠は怯まない、その意思は自身に満ち溢れ自らの行いで起こった事を悔やみはしても恥じてはいない。

 「だがお前の兄がそうせざるを得なかった国を、殿下を、そして狭霧大尉を怨むな、憎悪に飲み込まれるな、見境無い怨みは人を狂わせる。
 お前は優秀な衛士だ、いずれ幾多の人の命を背負って立つ事もあるだろう、だから全ての責は私が背負おう、怨むなら私1人を怨め。
 そして将来殿下の……日本の人々の為にその力を使ってくれ。」
 
 月詠はそう言って踵を返す、最早振り返ることは無い。
 武は心配そうに凛を見るが彼にも出来ることは何も無い、仕方なく月詠の後を追った。
 1人残された凛、俯く顔からは涙が滴り落ちる。

 「お兄ちゃん……なんで……なんで……」

 彼女の嗚咽が低く響く。
 その質問に答えられる者は最早誰もいなかった。






 「良かったんですか……?」
 「そんな事は解らん、だが後悔はしていない。」
 「なんで話したんですか?黙っていれば……」
 「知ってほしかったのだ、彼女の兄の志を」
 「月詠さんが責められても…ですか……」
 「あの事件ではどちらも正義だった、結局私達が勝ったが……形は違えど日本を想う気持ちは同じだったのだ……」

 「……俺には理解できても実感は出来ません。」

 「ふ……、あの時もそうだったが……不遜なやつめ。だがまあ……お前はそれでいい……」
 「だが七瀬凛……彼女には知っておいてほしかった……。」
 「月詠さんは優しすぎます……。」
 「違う……私は……、こういうやり方しか出来ないのだ。」

 俯く月詠……

 「人を殺して…その家族に責められて、辛くない訳が無いですよ!!」

 叫ぶ武、しかし月詠はキョトンとした後不意に微笑する。

 「ふふ……貴様は不思議なヤツだな、冥夜様が惹かれたのも分かる様な気がする。」

 その顔に武は己の心臓が一気に早鐘を打つのを感じた。
 (やば……、メチャクチャ綺麗だ……。)
 不謹慎にもこんな状態で見惚れてしまった武は己を律しようと努力する。

 「今日の私は少しおかしい……何時もならこんな事は平気なんだが……」

 「いくら月詠さんが強い衛士だからって女の人なんですよ、こんな時「白銀!!!」

 己の本心からのセリフを大声で遮られ、武は少し憮然として月詠を見るが……

 「すまない……、今日はもう別れよう。」
 そう言い残すと月詠はその場を走り去ってしまった。

 「月詠さん……」
 
 呆然とする、武には訳が分からない……
 武はその場で月詠が消えた闇を見据え立ち尽くしていた。 






 ははははは、期待していた人(いるか分かんないけど)すいません。教官編(といってもすぐ終わっちゃうけど)の主役は月詠です、といっても武も絡んできますが。

 相手役は最初はオリキャラだったんだけど本編キャラの方がいいかな?と探していたら……いましたグッドな人が、しかも兄持ちでブラコン……おおピッタリ。

 ということで七瀬凛登場、しかしキャラを煮詰めるのはメンドイので名前と優秀、努力家、ブラコン属性しか使っていません。半オリキャラなのでキャラが違うと突っ込まないで……。

 殺した相手に糾弾される…ていう設定は武じゃ無理ですからね……。
 ここで白銀効果で弱くなった月詠と武が急接近しますが……終わると直ぐに元に戻ります。
 しかし心の奥に根付いた感情は少しずつ……

 では次回、白銀菌に感染した月詠の運命やいかに!




 じゃなくて……葛藤する凛の月詠への答えはいかに!    



[1115] Re[28]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第30話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/11 18:08
2004年7月18日…バッターニー基地




 あれから10日……

 凛と月詠の関係は表面上は変わらなかった、凛は質問があれば月詠に聞きに行き月詠も丁寧にそれに答えていた……ただお互いの対応が感情を廃し事務的になった。

 凛は何かに取り付かれたように訓練に打ち込んでいた、嫌な事を少しでも紛らわす為か己のどうしようもない感情を発散させる為か……とにかく毎日毎日遅くまで自主訓練に明け暮れていた。
 今日も夕食後シミュレーターを使って訓練をしていた、今は一段落して座って休んでいた。

 火照った体が冷めていくにつれて様々な思考が心を侵食してくる……
 凛の腕は確実に上がっていったが己の感情に答えが出せない、国が・殿下が・そして月詠が悪いのではないと理解はしている、でも色々な事が納得できなかった。

 『なぜ兄はクーデターに参加したのか』……その訳が解ってしまう程に凛も日本人としての熱き想いをその内に秘めていた、そもそも軍に志願したのだって家族や日本の国民を守りたかったからだ。
 自分も何時かBETAに殺されるだろう、しかし兄は……あの死に方で納得できたのだろうか?

 それも分かってる……兄はきっと満足している、そういう人だ……では自分は?

 「凛さん……ちょっといい?」

 思考の内に沈んでいた凛の頭上から声が掛かる、見上げると……

 「響中尉……」
 凛も響によく話は聞いていた、自分より1つ年下だが実戦経験がある同年代の話やアドバイスはとても貴重で為になったから……少し仲もよくなった。

 「えへへ、ちょっと話がしたくてね。隣……いい?座って。」
 「え……あ……ハイ。」
 「じゃあ失礼して……」

 屈託無く笑って言う響に毒気を抜かれ、凛は反射的に頷いた。
 それを見た響はスッと極自然に凛の横に腰を下ろす。
 「………………」
 「………………」
 「………………」
 「………………」

 暫らく2人の間に無言の間が続いた。
 やがて凛がおずおずと言葉を発しようとするが、

 「あ…あの……一体何を「私もねお兄ちゃんがいたんだ。」

 それを遮るように響が話を始めた、凛はその言葉に聞き入ってしまう。
 「大好きだった……両親も隣のお姉ちゃんも大好きだったけどお兄ちゃんはもっともっと大好きだった。」

 上を向いて懐かしむ様に語る響、凛は黙って聞いている。

 「でもね横浜が襲撃された時、みんな死んじゃった。死体は確認されなかったけど生存者にいなかったから……私は1人だけ東京に居たから無事だったのよ。」

 「私は憎かった、色々なものが。BETAを呪ったわ、自分の無力を呪った、理不尽な運命も呪った、絶望して絶望して……死のうとして、でも死ねなくて……」

 胸に手を両手を置く響、その仕草は何かに祈る様でもあった。

 「結局BETAへの復讐に走った、帝国軍の養育舎に入り狂ったように訓練に打ち込んだ、幸い才能が有ったみたいでどんどん実力が付いて行った……でもあの時の私は死人と同じだった、何も考えない、感じない……それは生きているとは言えない。
 ただ……実力が上がるたびにとても嬉しかった、だってそれだけ多くのBETAを殺せるじゃない……当時の私はそう考えていた、そしてまた訓練にのめり込む、そうやってかすかに残った精神の均衡を保っていたの……。」

 凛はそれを聞いてどう想ったのか…、月詠の言葉が思い出される……怨むな……と彼女は真剣な思いを込めて言っていた……。

 「でもある人に会って変われた、復讐の念を護るためにつかえるようになった。私と同じ様な人を出さない為に、同じ思いをする人が居なくなるように……と。」
 「あなたと私は似てる、ただその憎しみの対象が違うだけ。私は今でもBETAが憎い、それは多分永遠に変わらない……ただ私には憎しみ以上の戦う理由が出来た。」

 そう言って響は立ち上がる、数歩前に出てから凛の方を振り向く、その顔には笑顔が浮かんでいる……。

 「憎しみを忘れろとは言わない…私には言えない、でもあなたにだって大切なものが…誓った思いがあるはず。
 これはあなたが決める事……でも先達としてのアドバイス、復讐だけを求めないで……その先に待っているのは破滅だけ。」

 凛はじっと俯いて考え込んでいる、響は少しそれを見守ると納得したのか出口に向かって歩き出した。

 「こんな事くらいしかいえないけど……あなたなら大丈夫。じゃあね……また一緒に……」

 最後まで述べる事は無く響は扉の向うに消えた。
 響の言葉は簡潔なものだった、ただ自分の体験と思いを言っただけで強制や誘導などは一度も無かった、凛は彼女の言葉を半数して考え込んだ……。




 翌日


 早朝にシミュレータールームに向かう武と月詠、武は月詠を心配してあの日から早朝のシミュレーター対戦を持ちかけた、それに首肯した月詠と毎朝対戦していたのだ。

 今日もシミュレータールームにやって来たが……

 そこに凛が衛士強化装備を着て佇んでいた。
 武と月詠は入り口で立ち止まる……
 武は1つ頷くとそっと月詠の肩を押す……それは無意識の動作だった。しかし月詠はその手の感触に武の心の温かさを感じていた。
 一瞬高ぶって揺れていた心が静まる。

 (おかしいな……、何時もの私ならこんなに動揺することは無いだが)

 前までの自分なら少しは罪悪感を感じても仕方ないことと割り切っていただろう、しかし今は必要以上に心が揺れている。

 そう……他人の気遣いが嬉しくなるほどに。

 月詠はゆっくりと、しかし確固たる歩調で凛に近付く、
 そして2人は対峙した。
 目線が絡まる、お互いがお互いを見詰め合う……、緊迫した空気が周りを漂い見守っていた武にもそれが感じられた。

 「貴女の強さを教えてください。」

 いきなり凛が声を上げる、一瞬武はなにを聞いたか分からない様子だった。
 しかし月詠はその発言で口に……それと分からないくらいのほんの少しの微笑を浮かべた。

 「それがお前の結論か?」

 この時の月詠は何時もの力強さを取り戻していた、傲慢とも思える口調で凛に質問する。

 「はい……、私は強くなって兄の護りたかったものを代わりに護り抜きます!!!」

 力強く言い放った……迷いなど一切無く……。

 それが凛の結論だった、まだまだしこりはある。しかし彼女は大好きだった兄の意思を継ぐことを決意した。

 武も月詠もそれを聞いて安堵する。

 武は月詠が責められなかった事に……
 月詠は凛の心が憎しみ染まらなかった事に……
 
 1人の決意を決めた少女が誕生した。

 やがてこの少女が率いる訓練生出身の衛士達はマレーシア戦線を護る最強の盾となって行く……  






 今回で訓練生編は終わりにします。
 もう少し色々あるんですが書いてると終わらない進まない……。
 書きたかったエピソードは(当初オリキャラだったけど)書けたので、凛の結論もくどく書くよりさっぱりとさせました。

 もう少し武と月詠の絡みとか(柏木と響きの暴走とか)書きたかったんですけど……、力量不足……時間不足
 いつか落ち着いたら追加修正できるといいです。

 私は結構気分派で勢いで突っ走んないとダメなので……、やはり内容を進める事を再優先します。
 もちろん書く所はキッチリ書くし、重要な所は抑えます。

 5年間と冥夜達が来てからの数ヶ月?大体6年のストーリーなのにまだ6ヶ月……先は長いです。(
途中数ヶ月飛びますから永遠と長くなる事は無いです。)


 次はとうとう鏡面装甲に次ぐ人類起死回生の切り札の1つが出ます。(説明だけですが)
 



[1115] Re[29]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第31話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/13 00:07
2004年9月2日…クアランプール基地




 8月30日に新人教程を終わらせた俺達はクアランプール基地に戻った。
 最初の待機任務から2ヶ月、次の任務まであと1ヶ月ある為、武達は自由な時間が与えらる筈だった。

 しかし基地に着いた翌日、武達は焔博士の研究室に呼び出されていた。




 プロジェクターの前に座らされた武達は悠然と構えている焔に視線を集めていた。
 代表して月詠が発言する、

 「それで、今回はどんな用件で呼んだ?」

 その鋭い声にも焔は動じない……というか何時もの余裕を持った遊び心の様な笑いが無かった。
 その顔の示すが如く何時もより真面目な口調で言葉を出す。

 「今回お前達に課す任務は捕獲作戦だ。」

 「「捕獲作戦?」」

 鮎川と武が疑問の声を上げる。
 武は純粋に驚いて、
 しかし鮎川は違った、捕獲作戦など希少な部類に入るが珍しい作戦ではない、そんなに重要そうに告げることが疑問だったのだ。
 しかし次の一言でその疑問も氷解……いや、消し飛んだ。

 「捕獲対象は重光線級マグヌスルクスだ。」

 「なんだと!!!」「なんだって!!!」

 月詠と鮎川が驚愕して椅子から立ち上がった、他の者達も皆驚愕している。

 「正気か焔!あれの捕獲は物凄い困難を極めるぞ。」

 月詠が叫ぶ、裏の事情を良く知っている月詠はマグヌスルクスの捕獲がとんでもなく困難な事を知っているからだ、そしてそれは鮎川も御無も同様だ。

 「落ち着け、そんな事は解っている。だからお前達に頼むんだろう。」

 「「「「「「「…………」」」」」」」

 全員が熟考する、
 「これはな、我々人類が勝つ為にはどうしても必要な事なんだ。」
 「それはどういうこと……」
 響がおずおずと質問する。

 「ある新発明の為に生きたBETAのサンプルが必要だ、他のBETAは何とかなったがマグヌスルクスだけは捕獲出来ていない。」

 そこで焔は全員を見渡す。

 「この新発明を完成させる為にも、未だ見ぬ新たな発明の為にも、絶対に生きたマグヌスルクスのデータは必要だ。
 この発明は今私の頭の中にある、人類がBETAに勝てる確率を大幅に増やす事が可能な3つの発明の内の1つ、絶対に完成させなければならん。
 それにマグヌスルクスの生体データはもう1つの発明の完成にも必要だ。」

 焔は真摯な表情で語る、その内容は全員を驚愕させるのに十分な内容だった。

 「ちょっとまて、3つ……3つだと!!!」

 月詠が叫びに近い声を張り上げる。

 「ああ……、全て完成すれば人類がBETAに勝てる確率は跳ね上がる……と言っても現状での確率が…だ、明確に対比するものが無いから確実に勝てるとは言えないがな……。」

 「でも人類の強さは底上げされる……」
 「なるほど……現状打破……というより勝利の為の布石ですか……。」

 ヒュレイカと御無の期待と疑問が混じった言葉……

 「それってこの前言ってた「レーザー級の光線を防ぐ理論」ってやつですか?」

 「レーザーを!!!」

 武の質問に響が絶叫する、それはそうだ……戦場での脅威度が高いレーザーを防げるようになれば被害は確実に減る、まさに戦場の革命だ……
 全員も驚愕と期待に満ちた目で焔に注目する。

 「いや……、今回の真の目的はそっちじゃない、まあいずれにせよその理論にもマグヌスルクスの生体データは必要だがな。」

 焔はプロジェクターのスイッチを入れスクリーンに映像を映し出す。

 「説明する、見ろ。」
 その動作と言葉で全員が椅子に座り直しスクリーンの映像に注視する。
 焔は映像を切り替えながら説明を始めた。

 「お前達は戦術機の1番の問題は何だと思う?」

 「1番の問題?」

 響が首を傾げる。
 「それは金属疲労だ、そしてそれにともなう整備回数の増加、交換部品の多発。」

 武達は『確かに……』と思った。1回の戦闘で……とは言わないが2~3回出撃したら必ず分解整備をして不具合を点検しなければならない、関節部の磨耗率や接合部の破損率などが高いので点検なしの戦闘は絶対に避けたい事だ。

 「なら白銀、お前は戦術機のその問題の最大の敵は何だと思う?…これは戦術機の前身である戦闘機でも1番の問題点だった事だ……つまり未だに解決策のない厄介な敵だと言う事だ。」

 「え……俺ですか!!?…………ウーーーン?」

 焔の行き成りの質問と指名に武は慌てながらも考える。
 しかしやはり答えが出ない……、他の皆も首を捻っている。
 焔は納得したような顔で説明を開始した。



 「それはな……『振動』だ。」



 「「「「「「「振動!!??」」」」」」」

 全員の声が一致する。それは予想の斜め上を行く回答だったからだ。

 「物が振動すると、音や衝撃を発生させるため、強度の振動は構造物や人体に重大な影響として現れる。戦術機は歩くだけでも振動し、戦闘時は激しい運動を繰り返す、その振動の振幅と振動周期はかなりのものになる。

 さらに接合部分が多いため振動摩擦による劣化が一気に促進する、関節部や溶接部などの磨耗率はかなりのものだ、防振材による振動絶縁を施してあるがそれにも限界がある。

 一般的に振動はいろいろな周波数の振動が重なり合い、低周波~高周波まで広範囲な周波数成分が含まれる、これが共振を引き起こし更なる振動伝達率(共振倍率)の増加を招く。」

 焔が説明用のスクリーンの映像から目を放しこちらを向く

 「つまり振動は接合部や溶接部の癒着を破壊し摩擦による金属疲労などを一気に促進する。
 戦術機は常に酷い振動を起こして起動している、分解整備による点検と早期の部品交換が必要なのはこの為だ。」

 全員言葉も無い、それは確かに問題だ……。物資が限られる人類なのに戦術機が物資を消費していくなんて、だが戦術機を戦線から外す事は出来ない……。

 「だが安心しろ、そこで先程の新発明の話となる」

 そう言って焔はスクリーンに新たな映像を映す……



 「生体…金属?」




 柏木がポツリと呟く、確かにその映像にはそう書いてあった。

 「そう、先程の問題を一気に解決できる発明……既に8割がた出来ているがこれを完璧にする為、そして先程出たレーザーを防ぐものを作るため…どうしても生きたマグヌスルクスが必要なのだ。」

 「生体金属は金属接合部分や溶接部の癒着の問題を一気に解消できる。
 接合したい部分を接続すると自動で(1日程度)癒着し完全に融合する、それにより「接続」部がなくなり溶接の必要性がなくなる、つまり振動による接続部の磨耗がなくなる。
 さらに稼動部などの疲労率が高い接合部分も生体組織を使うことによりそれを解消できる、磨り減ってきたら新しい組織を注入して補完すればいい。

 形状記憶の性質も持たせている、生成時の形状を正常状態として核細胞に記憶させているので疲労した場所に生体組織を注入すれば勝手に元に戻してくれる。(約1日)
 急を要する場合などは促進剤を一緒に投与してやれば30~60分程度で再生は完了する、ただしその場合組織の生成が甘く疲労も早いので、後でもう一度生成さないとならん。

 BETAが材料なので倒せば幾らでも材料が手に入る、形状記憶を伴った生成が凄くめんどくさいが一度生成すれば先述の通り補完液の注入や新しい細胞を加えることで再生する、よほど破壊されない限り新たに再生は可能だ。補完液だけなら生成は極簡単なので問題は最初の形状記憶細胞の生成だけ。

 また金属比率が少ないのでとても軽い、さらに生体という特性に付属する柔性が衝撃吸収率や強度の増加という付属効果として付いてくる。」

 皆黙って聞いている……

 「最初の形状記憶細胞の生成が困難な所為で生成費用と生成時間が多くなるが1年も乗っていればお釣りが来るほどだ、整備の手間と物資の必要量が大幅に減るからね。」




 「「「「「「「……………」」」」」」」




 全員言葉も無い……これは正に夢の発明だ。

 整備の手間は減る、物資の必要量も減る、材料は腐るほど手に入る、戦術機が更に軽くなる、防御力(衝撃吸収率)が増える………いいこと尽くめだ、1つの発明でこんなに沢山の効果を得られるなんて………

 「おおおおお!!!博士っ、あんたはスゲェ!すげぇよっ!凄すぎるぜっ!!!」

 武が興奮し席を立って拳に力を溜めて叫ぶ。 
 他の皆の顔も明るい、人類の光明が少し見えたような気がしたから……

 「解ったろ、この発明の凄さが。だから完璧に完成させる為…そして今後の発明の為に何としてもマグヌスルクスを生け捕りにしてくれ。」

 焔も少し熱くなって皆を見渡して言う。

 「しかし、困難である事には変わりは無い、どうするつもりだ?」

 月詠の言葉に、焔は再度新たな映像をスクリーンに映し出した。

 「重光線級マグヌスルクスのレーザー発射回数は平均およそ10発、それを防ぐため先程言ったレーザーを防ぐ発明「鏡面装甲」を使う。
 ただしこれは未だ未完成だ…完成度は3分の1もない、本来は戦術機の装甲として開発しているが強度、重量、他にも色々解決するべき問題が多々ある。」

 スクリーンに新たな映像が写る

 「なので今回は多目的追加装甲を改造して使用する。中に燃料電池も搭載し、表面に鏡面装甲
を張る、詳しい説明は後でする。
 エネルギーと強度の関係でマグヌスルクスのレーザーを反射出来るのは同じ部分で1回、上手く使えば上・中・下で3回のレーザーを防げる。」

 また映像が変わる、武達はじっとそれを凝視している、

 「ただ未完成と言う通り色々問題もある。まず非常に重い、電池と鏡面装甲の厚さにより追加装甲の重量が倍近くなっている、取り回しには注意しろ。
 それとレーザーの反射率が99.5%のままだ、つまり入射角に対し反射角方向にほぼそのままレーザーが反射される、味方の位置と反射方向に十分気をつけろ。
 それと反射できるのも限りがある、あくまでも回避を優先しろ。」

 そこで響が質問する、それは武も考えた事だったが……
 「あの……現状その改良した追加装甲を量産する事は出来ないんですか?」

 「先程も言ったがこれは未だ未完成だ、この鏡面も本来私が想定している素材や形ではない、あくまでも今回の作戦の為に作った特別性というか間に合わせだ。
 この改良追加装甲1つ作るのに結構な費用と時間もかかる、量産には向かないないね。」

 (う~ん、いい手だと思ったのに……)
 響と武は心の中で同じ様な感想を抱いた。

 「ということで作戦は前線…今度のBETA進行時とする、それまでに鏡面付きの追加装甲の使用とフォーメーションに慣れておけ。
 マグヌスルクスを引き離し孤立させて数を減らすのは他のやつらがやる、お前達はマグヌスルクスを1体にしてレーザーを使い切らせてから捕獲しろ。」

 そして詳しい作戦の説明が始まった。






 武達の次なる作戦は人類を勝利に導く一歩と成り得るのだろうか……








 さて現状で決まっている人類がBETAに対抗する為の3つの要素の内2つが出てきました。

 振動云々というのは戦闘機好きの私が昔(アンリミ時)から考えていた事です。
 戦闘機というのは振動のせいで一回飛ぶごとに分解整備しなければならない…なら戦術機は……、ということでその答えと解決策を出してみました。

 でも所詮うろ覚えの知識なので全く全然違っていたら「そういうもの」として見てください、少しの違いなら指摘して……。

 関係ないですけど私拳銃と戦闘機大好きです。他も好きですが……
 拳銃はなんといってもチェコスロバキアの名銃「CZ75(旧型)」ですね!当時のお国事情からコストパフォーマンスを考えていない芸術品、鉄の精製度は最高級……
 短所は多いですが少しの改造でなんとかなりますし(特にグリップの改良は必須)、命中信頼精度が95%近いという正確さもいいです。生産数の少なさと輸入禁止措置により値段が凄い事に……
 ただし量産品の後期型はダメダメです。

 戦闘機はMiG-29(ファルクラム)、1977年です、なぜかって……いや私も知らない……でも何故か何時の間にか好きになっていた。ラーストチュカ(美しい女性)という愛称もいい。ミグシリーズは好きです。
 あとミラージュシリーズと同社開発のラファール、ミラージュは2000がいいです。
 イーグルとかラファーガとかスホーイも好きですけど。
 長々とすいません。




 さて段々人類は力を蓄えて行きますが……数の暴力というのは中々覆せません。
 新たな発明が出来てやっと互角……という所でしょうか、ですがBETAも後に新種を出してきたりします。

 人類の発明もあと1つ秘密なのがありますし(勘のいい人は予想がつくか?)色々考えています。
 どちらかが有利の一方的な展開にはならないので……




 では次話もよろしくお願いします。



 あと質問なんですがマグヌスルクスとルクスってレーザー何発撃てるんですか?
 原作内とかから色々予想してマグヌスルクス平均10発、ルクスが平均30発程度だと予想したんですが?



[1115] Re[30]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第32話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/13 04:34
2004年9月7日…早朝、マグヌスルクス捕獲作戦



№13



 9月7日早朝、BETAの襲来と共にマグヌスルクス捕獲作戦が始まった。
 
 作戦の第一段階として、艦隊の砲撃でBETAを殲滅しつつ一塊のマグヌスルクスの集団を目標としてこれを孤立、移動遅延砲撃(煙幕や衝撃兵器などで)を仕掛ける。
 そうしてマグヌスルクスの集団を含んだBETAの1集団を他のBETAから孤立させ海の方角へ誘導する。

 現在はこの第1フェイズが進行中だ。
   
 俺達は戦術機に乗り、日本から乗船して来た戦術機母艦「蒼龍」の中で待機している。
 この戦術機母艦で誘導地点付近から上陸して捕獲に赴く。武達7機の戦術機の他に補助物資と捕獲用の檻を運ぶ戦術機が5機乗せられていて、彼らは武達の後に追従していく予定だ。

 『皆さん、。現在作戦第1フェイズが進行中です、敵殲滅率40%突破、マグヌスルクス120体を含んだ敵集団の分離に成功。
 更に移動遅延砲撃で敵を分断
 敵本隊の殲滅率50%突破後、フェイズ2に移行します。』

 武達の目の前の通信画面で女性が状況報告をする。
 彼女は焔博士が今作戦のためにスカウトしてきた臨時のCP将校(コマンド・ポスト・オフィサー)だ。

 エルファ・エルトゥール大尉、アジア系と白人の混血(詳しくは不明)で24歳、赤と金が混じったような髪とエメラルドグリーンの知性的な瞳をしている。
 武は彼女の瞳を見た時に戦士としての強さと、その奥に淀む深い悲しみの色を同時に感じた。
 それも彼女の戦歴を知り納得した。
 実は訓練校時代にやむなく戦場に参加してそのままなし崩しに軍学校にも行かずに戦場叩き上げで来た人物で、現場の事を良く知り臨機応変に対応できるとても優秀な人物で、統合情報管理官の彼女の指示で全滅や被害を免れた部隊がいくつもあり、アイドル的存在であるという。

 上層部も彼女の能力の高さを認め、戦場での発言を認めているらしい。
 そして彼女は通信画面越でも戦士として衛士と共に戦っている。
 少女の頃から通信画面越しに幾多の死を見て来た彼女の瞳の奥には、深い悲しみの色と戦士としての光が宿っているのだ。






 「……………」

 全員流石に緊張している、今回の作戦は良く練られたものだがそれでも何処かで不具合が出るかも知れない、そうなったら作戦の難易度が格段に跳ね上がる。
 たとえ自分達の出番ではなくても気は抜けなくなっていた。

 『響少尉と武大尉は兄弟では無いのですね……』

 「「は?……???」」

 行き成りのエルファの言葉に武と響の間抜けな声が部隊内通信に響く……、しかしエルファは構わずに喋り続ける。
 『いえ、苗字が同じなので最初に資料を見た時はてっきりご兄妹だと思いましたので。』
 ふわっと顔を優しく崩し語りかける、武と響は逆に慌ててしまった。

 「い…いえっ、違います違いますっ!!血は繋がってません。」
 「そうです!全く、微塵も、これっぽっちも!!」

 両手を顔の前でブンブン振って否定している仕草は全く同じで見ていて微笑ましい。

 「くくくくく……」「あっはっはっは……」「プッ……」「クククッ……」

 他の4人もそれを見て笑い出した。
 (成る程、緊張していた空気を一瞬で変えるとは……、焔が無理矢理気味にでも強引に連れて来ただけはある……か……)

 緊張した空気が一瞬で和らいだのを見て月詠は感心し、納得した。
 エルトゥール大尉にCP将校を頼むのに、焔が軍部に随分強引な手を使っていたからどんな人物か気にしてはいたが……、どうやら噂に違わぬ人物のようだった。

 そして少しの時間が過ぎる。



 『作戦は第2フェイズへ移行、敵殲滅率55%突破。
 分離した敵集団を生体データ発信式の無人機で順調に誘導中、進行ルート上の設置地雷により敵分離集団の先頭集団を50%撃破、さらに衛星誘導によるALM精密砲撃で敵を殲滅……』

 現在の所順に作戦は進行している、誤差も規定値内だ。

『戦術機母艦・蒼龍、目標地点まで到達。第28遊撃部隊、臨時支援追従部隊・コードα、共に出撃……第1目標地点まで進軍してください。』

 出来る限り陸地に近付いた蒼龍から飛び出す、俺達28遊撃部隊とα支援隊は第一目標地点で待機して次の行動の時を待つのだ。

 「ではいくぞ。」

 「「「「「「……………」」」」」」」

 一端緊張はほぐれたもののやはり今回は重圧が圧し掛かってくる、何時もなら軽口を叩き合う皆も無言で頷き月詠に続いた。





 俺達が移動している間も作戦は続いて行く。

 『敵殲滅率65%突破、分離集団の残存兵力は20%、精密砲撃によるルクス全滅を確認。
 マグヌスルクス個体数は残り60体、規定値を下回ったので精密砲撃を中止、……これよりフェイズ3へ移行します。』

 (くそっ思ったより多い……)
 マグヌスルクスを余り傷つけると無傷の個体がいなくなるので、規定の数を下回ったら精密砲撃を中止してフェイズ3へ後を任せるのが決まっていたが……
 (敵集団20%とマグヌスルクスじゃきついよな……)
 敵の残存兵力が当初の予定より多すぎた、これでは捕獲が困難になる。

 『大丈夫です。』

 そんな武に声がかかる、
 『フェイズ3を担当するレッドスコーピオン大隊は歴戦のつわもの…特に隊長以下の隊としての結束力、錬度共にこのマレーシア戦線では間違いなく最強の部隊です。想定外の事態が起こっているなら効果的に対処しますよ。』

 何も言っていないのに武の葛藤を目敏く見つけ、状況と顔色だけで思考を想像してアドバイスをする……確かに彼女は一流のオペレーターだ、普通ならここまでは出来ない。
 
 「武、エルトゥール大尉がああ言っているのだ。仲間を信頼するのもまた共に戦う者としての務め……我らは信じて待とうぞ。」

 エルファと月詠の言葉に武も気持ちを落ち着ける。

 (そうだ……、俺は…俺達は1人で戦っているんじゃない。)

 今この時も様々な人が作戦の成功に向けて努力しているのだ……
 「大丈夫だよ白銀、果報は寝て待てって言うじゃないか。」
 「大尉、寝たらダメじゃないですか……」
 「比喩だよ、比喩!」
 「まあ…なるようになるさ。」
 「そうですわね……全力を尽くすのみです。」
 「ハイヴ突入に比べれば軽い軽い……」

 大尉と響の言い合いに続いて皆が発言する。仲間……、こうやって助け合い励ましあう事に改めて感動し、武は仲間を信じようと誓った。




 『敵殲滅率70%突破、誘導により敵分離集団は攻撃目標地点に到達。これより多脚戦車によるレーザー攻撃を開始します。』

 その声と共に戦術機のモニターに映像が幾つか表れる、それを見て響が呟く……

 「この映像は…………?」

 エルファの方に顔を向けるが、彼女は情報処理で忙しそうだ。
 だが横から皆が答えてくれる。
 「これは……恐らくフェイズ3の現場だね。」
 「レッドスコーピオン大隊の戦術機の外部カメラの映像を回しているのだろう。」
 「へえ……、エルファ大尉流石だね……。」

 鮎川、月詠、柏木が答える。確かに画面の所々に赤いサソリをあしらった部隊マーキングを施した戦術機が見えた。
 そしてその戦術機達の中央に巨大な六脚式多脚戦車が見える。
 武が照射膜を傷つけないで倒した、マグヌスルクスを利用して作られたレーザー砲を運用するために急遽調整された多脚戦車である。(詳しくは武器紹介で)
 焔博士に聞いてスペックは知っていたが……大きい。

 『敵が接近して来た、用意はどうだ。』
 『全て完了しました。後は発射するだけです。』
 『よし……ネリー、カウント0と同時に発射用意。』
 『はい……、頑張ります隊長。』
 『よしよし、俺が見ててやるからな。』
 『もう!テラードさん……!』
 『ドナー、地雷の設置は』
 『シドとカモフが終了させた。』
 『よし、ではカウント開始する』
 『10・9・8・7………』

 通信画面の向うでレッドスコーピオン大隊の通信が聞こえる、
 (どうやら地雷で敵集団を減らしてくれるみたいだな。)

 エルファの保障などがあって、信用はしていても一抹の不安はあったのだがこれで憂いは無くなった。
 (あとはフェイズ3が無事終了すれば……俺達の出番だ。……お……始まるか?)
 武が思考に沈んでいる内にカウントは0になりレーザーの発射準備が始まった。

 『EMCアクセラレーター全開』
 『1次、2次チェンバー加圧中』
 『機体コントロールをFCSへ』
 『マスターアームコントロールオン』
 『FCSアクティブモードリミッタリリース』
 『冷却ポジションをサーフェースモード』
 『パッシブセンサーブラックアウト』
 『ヒートエクスチェンジャー強制稼動』
 『バレルコイル電荷正常値』
 『レーザー照射機関にエネルギーチャージ』
 『各目標固定』
 『射撃コードグリーン』
 『CPN、VR、各アクチュエーター射撃位置へ固定』
 『ゲートリリース』

 そして一瞬の溜めの後…………

 『発射っっ!!!』

 砲頭のレーザー分散機で分散されたレーザーは直進して行く、
 モニターの中で、発射後すぐに多脚戦車の固定モードが解除されて各脚に付いているスラスターを全開にしつつ発射した高台からすべり降りるのが見え、
 その横のモニターに、設置してあった観測機の映像で進行していたマグヌスルクス30体を見事に撃ち抜いた映像が映った。

 「よしっ」「やった」「ひゃっはぅ」…………

 皆の喜びの声が聞こえる、俺も思わずガッツポーズをとった。
 通信画面に目を向ける、焔博士の言っていた通り、射撃を終えた多脚砲台のレーザーを発射した砲身は溶解してしまっている。機体のほうにも随分ダメージがありそうだ。

 『目標は撃破した、これより遠隔操作の無人機で敵を誘導しつつ撤収する。ネリー、大丈夫か。』
 『はい、ダメージはありますが走行には支障ありません、行けます。』
 『よ~~し、野郎ども!撤収だ……ケツまくって逃げて敵をおいてくんじゃないよ。ヒビッて逃げていいのは敵を誘い出した後だ!!』

 そこでエルファからの通信が入る。

 『フェイズ3によりマグヌスルクス30体撃破。分離集団残存兵力20%、マグヌスルクス個体数は30体。
 フェイズ3終了と同時にフェイズ4に移行します。』

 武と皆はグッと操縦桿を握りこむ、月詠が作戦を簡略に確認する。

 「全員準備はいいな、レッドスコーピオン大隊の誘導に合わせて出る。岩陰より出て最初にスパイラルランサーで奇襲しマグヌスルクス7体を撃破、その後メデュームとルイタウラの撃破と平行してマグヌスルクスを1体に減らす。」

 『目標設定は私が行ないます。最初の視認で無傷のマグヌスルクスを補足、捕獲対象を固定後スパイラルランサーでそれ以外の無傷の個体を優先撃破します。』

 「ということは私達が撃破しなけりゃならないマグヌスルクスは22体……きついねぇ。」
 「他の大型種の奥にいますから、一気に片付ける訳にも行きません。」
 「この鏡面付きの盾が頼りって事ですね。」
 「響少尉、いくら便利で凄くてもあまり過信しないこと……結局最後にモノを言うのは自分の腕だよ。」
 「柏木中尉の言う通りだ、生き残る第一の秘訣は自分の腕を信用する事だ……「無理」といって諦めた者から死んでいく…それが戦場という戦いの場だ。」
 「おっ、ヒュレイカいい事言うね。戦場経験が長いものの言う事は重みが違うってね。」
 「つまり全力を尽くせって事ですね、やってやりましょう。」
 「白銀……、勢いがあるのはいいが、誤って全部倒すんじゃないぞ?」
 「そんな事しませんって、月詠さん俺の事信用してるんじゃなかったんですか?」
 「能天気なお前を見ているといまいち信用できん……。」
 「そうだね……、白銀だもんね。」
 「ヒデぇよ月詠さん……、柏木……お前は……、もういいよ……」

 白銀は月詠と柏木の連続攻撃に落ち込みながら呆れている。
 重要な作戦前だというのに何時の間にかお互いに軽口を交わしている、先程まで緊張してたとは思えない程に皆自然体だった。これがこの部隊の「力」なのだろうか?

 『リモコン操作式の地雷により前面の敵を攻撃、残存兵力10%……尚も目標地点に向けて誘導中。
 本隊の敵殲滅率90%突破、これより前線衛士による戦術機戦闘に入ります。』



 
 そして幾ばくかの時間、流石に皆無言だ。武もジッと息を潜めて待つ。

 『レッドスコーピオン大隊が目標地点を通過、これよりフェイズ4に移行します。
 敵集団が目標地点に到達したら少佐の判断でスパイラルランサーの先制攻撃を行なってください、先程言った通り目標は私が指示します。』

 武達が隠れている大きな岩場は目標地点からは丁度死角になっている、レッドスコーピオン大隊が囮の役をやっているのでギリギリまで隠れていて、一気に飛び出して攻撃するのだ。

 そして敵が目標地点に到達する。

 「よし、行くぞ!!!」

 月詠の号令で全員が動力を最大出力にして機体を機動させる。
 そして武達は困難な作戦を遂行するために飛び出していった。





捕獲作戦・作戦概要

フェイズ1
艦隊砲撃による敵集団の殲滅とマグヌスルクスを含んだ敵集団の分離。
更に移動遅延砲撃によって分離集団を本隊と完全に分断。

フェイズ2
敵分離集団をレッドスコーピオン大隊が遠隔操作する生体反応データを乗せた無人機で誘導。
進行ルート上の設置地雷と衛星誘導によるALM精密砲撃で敵を削減
第28遊撃部隊、臨時支援追従部隊・コードα、出撃……第1目標地点まで進軍開始

フェイズ3
レッドスコーピオン大隊の六脚式多脚戦車(分離式大型レーザー砲装備)による射撃。(マグヌスルクス30体撃破予測)
その後目標地点まで敵分離集団の誘導継続。

フェイズ4
第28遊撃部隊によるスパイラルランサーでの奇襲
そのまま突撃して敵を殲滅しつつ、マグヌスルクスを1体に削減しレーザーを使い切らせる。
臨時支援追従部隊・コードαが敵を確保。

フェイズ5
迅速に出発地点まで後退
戦術機母艦「蒼龍」で海上へ避難

以上が本作戦の概要である。





 今回の作戦は私的に厚木ハイヴ攻略戦の予習みたいなものです。 
 新キャラ登場、実は彼女もっと前の登場だったんですが遅れました。
 オペレーターキャラ、彼女私の持ちキャラではヒュレイカと同等にかなり古参のキャラです。どんなオリジナル設定(妄想)にもオペレーターとして登場してました。
しかも途中である作品のキャラの影響を多大に受けてます。
 そのキャラは!……今回の話で登場の元ネタが分かる人は解るでしょう。
 
 今回思いっきりパロッてます。ある作品のキャラと設定を少し変えてほぼそのまま出しています。(アレンジはしてありますが、名前とかそのまま……)
 結構マイナーな作品なので知っている人は少ないでしょうが……、知っている人が見ればすぐにわかります。

 まあ許してください……今後も出てきますけど……多分。
 脇役程度ですのでキャラが物語を食う事はないです。




 最初のナンバーは……サントラ持っている人なら……





 今回のレーザー発射、解説を載せて置きます。(しかし例によって本人あまり知識なし、結構適当です。間違ってたら笑って許してください。)

EMCアクセラレーター全開、
EMC(電磁環境適合性)加速装置を全開に。(電磁耐性を全開に)

1次、2次チェンバー加圧中、
【加圧器内でエネルギーを凝縮し充填】

機体コントロールをFCSへ、
【機体のコントロールを射撃管制装置に移行して射撃モードに変更】

マスターアームコントロールオン
【主武装の封印解除し臨戦態勢】

FCSアクティブモードリミッタリリース
【射撃管制装置の限界地を新たに設定(敵への警戒解除)?】

冷却ポジションをサーフェースモード
【冷却状態を地表に合わせ最適化】
特殊な装置で機体の熱を機体表面に伝導させて放射冷却や触媒を排出して高効率な排熱(冷却)

パッシブセンサーブラックアウト、
【機体発熱(試作レーザー砲)によるセンサー強制カット】

ヒートエクスチェンジャー強制稼動、
【熱交換機(強制冷却)を全力稼動】
FCS稼働で狙撃モードになって、排熱を抑えるために特殊な排熱をしてるが、試作レーザー砲の排熱のために強制的に熱排出を行う。

バレルコイル電荷正常値
【試作レーザー砲の砲身の磁場形成状態・もしくは粒子加速器の電磁場の状態】

射撃コードグリーン、
【発射命令用のパスワード。トリガーのセイフティー解除コードが正常に認識】

CPN、VR、各アクチュエーター射撃位置へ固定、
【多関節兵器なスナイパーで精密射撃するため・射撃の反動で関節が壊れないように各関節を固定】

ゲートリリース
【砲門開放】
 



[1115] Re:焔の開発日誌……補足説明
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/13 04:43
??月??日……スラーターニー基地




ほぼ会話だけです。焔の会話は『』を使っています。




 整備格納庫にやって来た武、そこで彼は戦術機の分解整備を指示しながら作業している焔と出会った。

 「戦術機の分解整備ですか。」
 『そうだ、ついでに改造もな。』
 「改造ですか……」
 『そうだ、分解整備の度に少しずつ改造している。』
 「分解整備の度に!!」
 『体感はし難いだろうが最初に比べれば格段に強化されているぞ、月詠の武御雷なんか既にお前の武御雷と同等のスペックを持たせてある。』

 「へえ……、流石ですね。」
 『まあな、ここの改造ノウハウもあった。そもそもお前が乗っている武御雷と月詠の武御雷を造ったのは私だぞ、バランスの兼ね合いさえ如何にかなれば改造は簡単だ。』
 「そりゃすげぇ、ということは他の機体ももっと強くなるんですか?」
 『いや、言っただろ。バランスの兼ね合いが大事なのさ、不知火や響の吹雪は現状ではこれ以上改造の余地はない、お前達の武御雷は私が根本から作ったので如何にかなるが……。』
 「現状では……?」
 『まっ…色々考えてるって事さ。』
 「えへ……」

 焔の手元のパソコンを見る武。

 「それ何やってんですか?」
 『CPUの調整だよ。』
 「CPU……ですか。」
 『そう、情報蓄積が増えてきたからね。XM3との調整をしとかないとね。』
 「XM3とCPUが関係あるんですか?」
 『…………白銀、XM3はお前が考案したんじゃないのか…』
 「いや、作ったのは夕呼先生ですし、勉強したのも整備関係とか動作理論ばっかりだったし、そういうのはチョット……」

 『ふう……、いいかXM3というのはXM3という「新OSソフト」とオルタネイティブ4の副産物である「高性能CPU」が1つになって初めて真価が発揮されるものだ。
 新OSはお前が言う「先行入力」「キャンセル」「コンボ」などを自由に行なえる様にする為のもので反応係数が上がっているのはハード…つまり「高性能CPU」のおかげだ。』
 「そうなんですか?」
 『XM3ソフト単体を従来の戦術機にインストールしても満足に動作しない、逆に動きを阻害する事すらある。』

 首をかしげいまいち解ってない武、それを見た焔

 『いいか、たとえばお前の頭がOSで体がCPU…つまりハードだと仮定しよう。』

 頷く武。

 『今まで頭からの命令で体は普通に動いていた、だが頭が新型OSのXM3に変わった、そしてその頭が体に今までの限界より2倍速く動けと命令した。……体はその動きができるか?』
 「できません、体は今までのままですし……いきなり速く動けと言われても無理です。」
 『つまりそういう事だ、今までの限界より2速く動けという命令を遂行するには体を鍛えなければならない。
 戦術機の場合はCPUの能力だ、頭…つまり新型OSの2倍速く反応しろという命令が従来のCPUでは不可能、だが新型の高性能CPUでは可能になるという訳だ。』

 納得する武。

 「そうなんですか、全然知りませんでした。」
 『何事もバランスが大事と言う事だ、人間は1つを鍛えるのもいいがバランスよく鍛えてこそ強さを発揮できる。
 機械も同じ、他の機械との調和と兼ね合いが大事なんだ。
 ここで造ってる04式吹雪なんかもXM3と高性能CPUとの兼ね合いをよく研究して造られているしな。』
 「俺ももっと勉強しないとな……」
 『おうおう、がんばれ青年』

 そうして焔と武の話しは終わりを告げた。







 今回の話…、実は随分前から友人の指摘でCPUのことは解っていました、本編やって確認もしています。
 上で焔が言っている例えはその時実際に言われて説明されました。
 しかし皆さん分かってるだろ……と思いそのままCPUの事は書きませんでした。
 (04式吹雪の辺りで入れる予定だったのに……書きませんでした)
 (しかし名残で所々CPU関連を暗示する言葉が入ってはいます)

 ……が、まとめwkiの説明の「多くの人間が「OS」と言う名前に騙されがちだが」という言葉に
 「読んでる皆さん知らないのでは……」と急遽補足説明としてこの話を書きました。
 後強化された新型CPUも出すつもりです。



[1115] Re[31]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第33話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/13 17:49
2004年9月7日…朝、マグヌスルクス捕獲作戦




 岸壁の上へ着地、ここからなら前衛のBETAを気にせずに直接マグヌスルクスを狙える。
 一番最初に躍り出た月詠の武御雷を最初に武達も着地する。

 『投擲に入ってください!!』

 最後の機体が着地した瞬間、月詠の号令より早くエルファの声が響いた。
 見ると既に各機の射撃目標が設定されている、あの一瞬で観測から目標指定までを一気にこなすとは恐ろしい腕だ。
 だが驚愕する間もなく武達は投射モーションに入る、このスパイラルランサーはこの作戦の為に焔が特注で作り上げたもので射程距離などが上がっていて命中率を極限まで高める為に自動補正装置が取り付けられている。(コストが高いらしい)

 「はああぁぁぁ!!!」

 誰かの掛け声が上がる中全員がスパイラルランサーを投擲する、投げられたランサーはソニックブームを引き起こしながら一直線に目標に向かっていく

 「突撃!!!」

 投擲終了寸前に月詠の号令、武達は投擲が終了した瞬間ブーストを全開にして敵集団目掛けて突撃していく、
 各機がほぼ並列となりながら敵集団に肉薄、だがその時各機体にレーザー照射警報が響く、しかし今回は一切構わずにただ前に突き進む。

 「来るぞ!シミュレーター通りにやれ、反射と反動に気をつけて回避しろ、5秒以上照射されるな!!」

 月詠の言葉が終わるか終わらないかの内にレーザーが発射される。
 皆は鏡面付きの追加装甲を前に回避行動を取る。
 武は全開でブースターを斜めにして回避する、しかし前に突撃しながらの回避なのでやがて捕まった。

 「くうっ!」

 物凄い衝撃と反動が追加装甲に加わり機体を揺らす、シミュレーターで散々体感したが実際では色々な意味で違った、まさに生死を分ける感触だ。
 レーザーを照射されながらも回避運動と突撃を敢行する、反射されたレーザーは前方に向かうので味方への被害は考えない。第2射の前には敵集団に突撃しなければならないので速度を落とす事もしない。

 そして敵のレーザー照射が終わるその瞬間、横合いから敵集団にミサイルが撃ち込まれた。それにより他と時間差でレーザーを照射しようとしていたマグヌスルクスの動きが止まる。
 驚愕する中でエルファの通信が聞こえる、

 『レッドスコーピオン大隊の自律誘導弾による援護です、こちらのデータを覗いていた様で敵集団と作戦目標以外のレーザーを照射していたマグヌスルクス4体を撃破、残り18体です。』

 「なるほど置き土産ってやつ、気が利くね。」

 鮎川が言葉と同時に敵集団に突っ込む、続いて他の者も順に敵集団に突っ込み、当初の通り、月詠・白銀で突撃、鮎川・御無・響・ヒュレイカのフライト(4機編成)を構成、柏木は援護…という陣形を形成する。

 接近しての集団戦になればマグヌスルクスはそう脅威ではない、目標以外のレーザーは撃たせないようにBETAを盾に行動しつつ敵を撃破していく。

 響は横合いからきたメデュームに甲殻弾を撃ち込みつつ反転、そのまま後ろから接近して来た新たなメデュームに滑空砲からのAPFSDS弾を叩き込む。
 反転を追加装甲の遠心力を利用して行なう、シミュレーターで練習して来た通りにその重量を使いこなす、しかし鏡面が剥がれるので盾としては使用できない、
 片腕が完全に塞がれるので、盾を持たない右手のパイロンに04式36㎜突撃機関砲を付けて腕には04式近接戦闘長刀を持って戦っている。

 その時BETAの壁が一斉に道を開けた、

 すかさず他の3人が倒そうとするが……レッドアラーム、目標設定固体で手を出す事が出来ない。


 
『バシュッ!!』

 その状況を見て柏木が、次いで他の3人が自機の背背面装備専用のグレネードを腰から出し重金属粒子弾を撃ち放った。

 これは今回の作戦の為に作られていた新兵器で、背面装備用のグレネード型兵器で重金属粒子の詰まった弾を撃てるようにしたものである。
 これは撃った場所を中心にして重金属蒸気を拡散させる弾頭で主に地面や空中に向けて放たれる。まだ試作段階で拡散率や粒子の少なさにより戦術機のミサイルコンテナ装備式のALM程ではないが、現在の試作鏡面装甲と合わせれば確実にレーザーを防ぐ事が出来る。

 響は反射角度を考慮して追加装甲を構える、重金属蒸気で幾らか減衰されたレーザーが盾にぶつかって反射する、減衰されているからか先程のような酷い衝撃はない。

 (でも……これであと1回、気をつけなきゃ)

 レーザーを防げるのは離れた違う場所で受けて3回、しかし焔はなるべくなら2回までにしろと忠告していた。まだまだ試作段階で強度に不安が残る、というか理論自体も完璧じゃない取りあえずのその場凌ぎの兵器だからだ。

 その間にも武と月詠の2人は敵を屠っている。レーザーの撃てないマグヌスルクスに脅威は微塵もない、突撃して斬り伏せる……18体残っていたマグヌスルクスはあっという間に全滅させられた。

 「よし!、残りを片付けてレーザーを使い切らせれば完了だな。」
 「白銀、いつ何時も油断するな。戦場では少しの気の緩みが命取りになる。」

 白銀の軽口に月詠が注意を入れる、
 しかし白銀には十分以上にそれが解っていた

 (安心して気を抜いた所が一番危ないからなぁ)

 武は総合評価演習を思い出していた、あの時の「終わった」という気の緩みを突いた心理的な罠、武はそれに引っかかり生命の危機に見舞われた、それに朝霧大尉の事もある。武は軽口を叩いていても微塵も油断していなかった。

 「解ってますよ、さあ!残りを一掃しましょう。」
 「承知。」

 武と月詠は嵐となってBETAを屠る、
 他のメンバーも目標のマグヌスルクスのレーザーを順に受けながらも残りのBETAの殲滅を継続していく、



 そして短時間が過ぎ…… 

『現在10発目、それ以前の照射を考慮するとそろそろです。』

 全員が1発ずつ、武と月詠が共に2発目を受けて最初の照射と合わせて計10発。
 周囲のBETAもほぼ片付け後少しと言う所……

 「ちっ、来ます。」

 何かを感じて御無が声を上げる、その予感の如く目標のマグヌスルクスがレーザー照射に入る、

 狙われているのは……

 「響!気をつけろ。」

 鮎川の注意を受けずとも響は既に防御体制に入っていた、自身の装備するグレネード型兵器で重金属粒子を撃ちつつ照射に備える。他の面々も残りの重金属粒子弾を使って援護する。
 既に一度照射を受けているので落ち着いて対処していた、回避行動を取りながら追加装甲の使用していない下方部分で上手にレーザーを受けた……

 しかし、



 「グバンッッ!!!」



 「響!!!」「響さんっ!!!」

 照射を受けた数瞬後然追加装甲が吹き飛んで横に回避行動を取っていた響の吹雪は風に乗った木の葉のように盛大に吹き飛ぶ、
 爆破地点から随分と吹き飛ばされ墜落した響の吹雪は下半身の殆んどが吹き飛んでいた。

 「響ちゃん!!!」

 先程叫びを上げた鮎川、御無が敵を抑えつつ近寄る、墜落地点付近にいた柏木も敵を牽制しつつ近寄っていく、

 「くそっ、響!!」
 「白銀っ!、心配なのはわかっているが此処は敵を抑えるぞ。」
 「あっちは3人に任せて私達はマグヌスルクスの警戒と敵の殲滅。」

 武と月詠も響の事を心配したが目標のマグヌスルクスと残りのBETAを放っておく訳にも行かない、敵を惹き付けつつ戦闘を続行した。

 武と月詠は既に鏡面を3回使い切ってるので、新たな照射に備えヒュレイカもカバーに入る。後ろの3人に照準が行かないように常にマグヌスルクスの視界に入るように機動する。

 『大丈夫です、ショックで気を失ってますがバイタル反応は全て正常です。ただ危険ですので早急に救助を。』

 エルファの通信に全員は安堵する、しかし彼女の言う通り救助を迅速に行なわなければならない。、柏木と御無が周囲を警戒しつつ鮎川が通信で懸命に呼び掛けつつ響の吹雪に近付いて行く。



 「う……く…うう、わ…たし…は…。そうだあの時……」



 照射を受けて直ぐに、危険を感知した、そして訳の分からない感覚が襲ってきた、全ての時間が引き延ばされ、意識が奈落の底に落ち込むような感覚……全てが遙か遠くの事に感じる……

 (き…けん……、危険……逃げ…)
 (何……何なの……、危険?)
 (逃…げて……、貴女…は…必要な……)
 (なに…私が必要?……ねえ…あなたは…)
 (世界を……救う……意思…)
 (世界を救う?…私が?)
 (本能……排除……だから…干渉)
 (……………) 
 (少女……干渉…不可能……新たに…不安……干渉…つ…)
 (どういうこと……私がなんなの)
 (世界……救……よう…し…武………観……死な…いで……)

 そして意識がブラックアウト……現実に戻る、

 響自身は今の出来事を一切覚えていない、しかしそれは確実に響の生存本能に干渉していた。
 (先程の干渉の為)響は何かは分からないがとにかくこのままでは危険だと思った。今まで戦ってきた経験と勘が告げていた。

 瞬時に本能に従い行動、低高度のブースト噴射で横に回避行動を取っていた響はオートのスイッチを全て切りその場で機体の両足を振り上げ腹部にくっ付く様に揃えた後、手に持った追加装甲を放しつつ両足を揃えて渾身の力で蹴り放った。
 機体が吹き飛ぶその瞬間追加装甲は爆発を起こし、レーザーは追加装甲下方を抉り取りながら通過し響の乗る吹雪の脚も一緒に消滅させた。

 あの時、後一瞬でも行動するのが遅かったら、追加装甲の爆発とレーザー照射をまともに受けていただろう。

 そのまま意識を失い今に至る。

 瞬時に覚醒した響は自分の機体データを持ち出してハッチを開放しようとしたが歪んでいて空かない……前方から接近する鮎川機ほ視認してに通信を入れる。

 「鮎川大尉!」
 「無事だったか響。」

 通信に出た響を見て安堵する鮎川。その他のメンバーも一様にホッとする。

 「心配かけました。それで、ハッチが歪んで開かないので…」
 「解った、どいていろ」

 最後まで言わずとも響の言いたい事を理解した鮎川は吹雪のコクピットハッチをもぎ取る、ついで自分の機体のハッチを開放してすばやく戦術機の手を差し出した。敵が少なく味方が抑えているといっても安心は出来ない、行動は迅速に行なうのが最良だ。

 「すいません、迷惑を掛けて。」

 鮎川の不知火に乗り込んだ響、

 「いいってことよ、こういう時は助け合い。部隊ってのはそういうもんだろ。」

 響の謝罪に軽く答えながら機体を戦闘機動に持っていく、しかし既に大勢は決しほぼ全てのBETAは殲滅されていた。

 『念のため2分の時間を置きましたが再照射の気配はありません、捕獲を開始してください。』

 エルファの声に続き、臨時支援追従部隊・コードαが捕獲道具一式を持って来る。
 その後残りのBETAを全滅させ、マグヌスルクスの捕獲も無事成功した。

 『捕獲は成功です、このまま上陸地点まで戻り脱出してください。』

「よし、撤退するぞ。」

 エルファと月詠の号令で全機脱出を開始する。
 響は鮎川の不知火の中から、自分の機体を見た。


 (ごめん……、今まで有難う。)


 無理を言って訓練生時代からカスタムしつつ乗り続けていた機体だ、愛着はある。けど持ち帰ることは出来ない、だから響は最大の感謝を捧げた。


    
 この後武達は無事に撤退に成功する。
 こうして重光線級マグヌスルクス捕獲作戦は、終了する。

 武達の被害は響の吹雪1機のみであり、大いなる成功と言えた。







 響乗り換えフラグ発生、新しい機体は!!……武御雷じゃないよ。


 
 さて最後まで黙っていようかとも思いましたが………少しネタバレします。(少しです)

 作中に出てきた意味深な会話、あれはこの物語の根幹設定に関わってきています。
 実はこの設定、2003年にこの小説の基設定を考えた時からあったんですが結構壮大でした(よくぞ考え付いた…というくらい。)
 それがこの物語を書き始める前にオルタの設定を絡めて設定し直したら……なんか超トンでも設定に……ノート1ページは埋め尽くすくらいの膨大で壮大な設定です。
 突拍子もないですが一応辻褄は合わせてあります。今までも幾つかその設定に集約する伏線が張ってあります。

 後から辻褄を合わせるんではなく最初から全て計画……焔博士じゃないけどこれを発表することが楽しみです、あっと言って頂けたら幸い……かな?。(というか自分では結構いい設定と思っていますが、賛否ありそう。他人から見れば矛盾だらけの設定かもしれないし……そんなに凄い設定では無いかな……どちらかと言うとありふれている?…まあSSのストーリー設定は勢いとハッタリですね)



 武の存在、響の存在、柏木との平行世界の記憶、月詠との前世の記憶、鑑純夏、因果導体、オルタネイティブ4と5、冥夜と慧・その武との子供、XM3が世界に広まった事、横浜基地の爆破、更には響が妹でブラコンな事や月詠がヒロインな事まで全て1つの設定に繋がっています。

 夕呼先生が帰ってこなければこの謎は解き明かせません。それまで頑張って書き続けたいです。(もちろんそれ以降も)




では次話……少し時が経ち、研究などの為政府中枢に行っていた焔の帰還、彼女が持ってきたものとは……
 バレバレですね……くどいですが武御雷じゃないですよ。 



[1115] Re[2]:焔の開発日誌2……ギャグです
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/14 00:06
??月??日…バッターニー基地



 基本的に開発日誌は、解説かギャグです。
 キャラクターの性格が暴走しています。
 ここでの発明は本編で生かされるかもしれません。




 実機訓練を終えた武と月詠は衛士強化装備のまま格納庫を歩く、そこに焔が声を掛けてきた。

 『おう、2人とも丁度良かった』
 「なんだ焔、数日前から姿があまり見えなかったが」
 『よくぞ聞いた、実は新しい発明をしていた。』
 「へぇ、そりゃどんなのですか?」
 『今回のはインターフェイスだ』

 「「インターフェイス」」

 『そう、頭の上に着けるタイプだ(カチューシャのように装着する)』
 「だが焔。衛士強化装備には骨伝導式の受信機が導入されているぞ。」

 そう、戦場ではうるさくてまともに耳が機能しないため骨伝導システムを使用している。通信機能もある。

 「いまさらインターフェイスを新しくつくらなくたっていいんじゃないですか?」
 『ふふふ…、このインターフェイスには戦術機の思考遠隔操作システムが導入されている。』

 「「思考遠隔操作???」」

 『そう、自身の思考を戦術機のコンピューターと結合させ簡易的な遠隔操作が出来るようにしたのだ。』
 「そりゃ凄いですけど……。」
 「あまり意味が無いのではないか?」
 『確かに使い道は少ない、使い道としては遠くの戦術機を自動で呼べるくらいだな。もともと別の発明を作る過程で生まれた技術で、暇つぶしに作ってみただけだからな。』

 「暇つぶしって……」
 『まあ……、余裕も必要だという事だ。こうてう遊びが思わぬ発見に繋がる事もある、「急がば回れ」「急いては事を仕損じる」というだろ』
 「そりゃ激しく違うと思いますが……」
 「諦めろ白銀、コイツはこういうやつだ。」
 『まあまあ、とりあえず月詠、着けて見ろ。』
 「私がか……まあよいが。」
 武を置いて向うに行く2人、武はその場で待っている。

 ごそごそごそ……『そうそう、そうやって』
 ごそごそごそ……「こうか?」
 がさごそ……『おお、似合う似合う』

 「似合う??……なんだ?」

 インターフェイスに似合うも似合わないも無いんじゃ?と不思議に思った武だったが……

 『よし、出来たぞ。見ろ……』

 そうして連れられてきた月詠……

 「どうだ?」

 「……………………………」

 「どうした白銀?」

 「ね……………」

 「ね……?」



 「ネコミミーーーーー(ピンク色ーー)!!!」



 「うわっ、どっどうしたのだ」武の絶叫に驚く月詠

 ネコミミだった、誰がどう見てもネコミミだった、しかもピクピク動いてるし。
 周囲はピンク色で中が薄茶色の正にアニメ系ネコミミの体現であった。

 焔を引きずっていく武、いぶかしんで此方を見る月詠を置いてヒソヒソは話しだす。
 しかし、やはり顔の表情が動くたびネコミミがピクピクしている。

 「ど……でうしたんですかアレ!!」
 『いや、毎晩お前の世界の話を聞いているが、この前の話しでな。』

 焔は暇な時はほぼ毎晩、武の世界の話を聞いている。マレーシアに来てからの発明の多くはその話がヒントになったものが多い。

 「この前の話って……」
 『ほら、架空の世界を描き出す娯楽の事』
 「ああ、アニメのことですか。」
 『そう、その話を不意に思い出してな。たしか……「燃え」と「萌え」の違い?』
 「そんなにディープなネタをわざわざ思い出さなくても。」
 『いや、それでその話しの1つにあった「ネコミミ」をついでに作ってみようかと……』

 「んなもん作らんでください!!!」

 『何を言う、月詠のような気の強い女性があんな姿をしてるのは「萌え」ではないのか?ああいうのを見ると興奮して欲情すると聞いていたが?』
 「なんか激しく勘違いしてますね……、中年親父並みの発想だ。」
 『リアリティを追及するためにBETAの研究で培った生体知識をふんだんに利用した。』

 「そんなのに貴重な研究を利用しないでください!!」

 『じゃあお前は何も感じないのか。頬の筋肉の動きを感知して耳の動きが連動するようにした、表情に合わせて耳を自然に繊細に動かすよう調整するのは大変だったんだぞ。』
 向うで腕を組んで立っている月詠を見る焔、武も月詠をみる。

 「ピクピクピク」
 「ピクッピクッピクッ」
 「パタパタッ」

 目が放せない武……

 「………………」
 「も…………」
 『も……?』


 「萌え~~~~」


 『うんうん、そうだろうそうだろう。』

 デレッと顔が崩れる武、満足そうな焔
 気の強い月詠が可愛いピンク色のネコミミを着けているだけでも色々アレなのに……
 腕を組んで此方を睨むように見ている月詠、その顔の表情の動きと連動してネコミミがピクピク、パタパタ可愛く動くのは……もうなんか、色々アレでたまらなくブラボーだった。

 「博士!!」
 『なんだ白銀』

 「あんたはサイコーだ!!」

 グッジョブと親指を立てる武……激しくバカだった。

 そして月詠のもとへ戻って行く
 「いったい何を話していたのだ?」

『まあ色々さ、ところで……「あれ、なにしてるんだい?」

 そこに通りかかった柏木、焔の目が「キュピーン!」と光った。

 『丁度良いところに柏木中尉、これをつけてくれたまえ。』

 わざわざ仰々しく言ってネコミミ(水色)を差し出す。
 それを見た柏木は、デレッとした(本人は普通にしているつもりらしいが目が月詠を追っていた)武と月詠のネコミミと焔を順に見て「ニヤリッ」っと凄まじく危険な含み笑いを見せた。

 「なるほどね、いいよ。」

 無造作に受け取って装着する柏木、調整が微妙なので(ネコミミ連動の)焔もそれを手伝う。
 そして月詠に見入ってる武を呼ぶ。

 「白銀白銀。」
 「なんだ柏木ってぇ!」

 「ほらほら」

 こちらを見て固まった武に自分のネコミミをピクピク動かして見せる。

 「あ…あ……あ……」

 「あ?」


 「アンビリーーーバボゥーーーーーー!!!!!!」



 壊れた



 もともと猫みたいな柏木がネコミミを着けて、しかもチシャネコ笑いでネコミミをピクピク動かしてるのはもう何というかネコそのものだった。

 「ふふふ、月詠さん……」
 「な……なんだ……」

 事態に付いていけない月詠に柏木が近付いく、そして横に並ぶ。

 「白銀白銀ぇ~~」



 もう一度武を呼ぶ、そして現実に舞い戻った武は……



 
 その後、極度の興奮で武の脳細胞のニューロンシナプスは決壊しぶっ倒れた。
 医務室に運び込まれた武を見舞いに来た響が武の、この世のヴァルハラを垣間見たような至福の表情を見て一言

 「なんかすっごいムカツク!!!」



 その後そのネコミミがどうなったか知る者は焔しか存在しなかった。




 一体全体なにを書いているのでしょうか。
 始めは真面目な話だったのに。
 途中で衛士強化装備の月詠と柏木のピクピク動くネコミミを想像したら何時の間にかこんな話しに……
 色は勿論ピンクと水色、強気なネコミミ、ネコっぽい人のネコミミ。

 私は本来ネコミミ属性は無いんですが……。
 この2人はとてつもなく似合いそうです。(勿論衛士強化装備で)

 おとなしく続きを書きます。
 では……次こそは本編で。



[1115] Re[32]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第34話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/14 19:29
注)この話の月詠は私の願望が入り混じって、人によっては変に感じるかも知れませんが……仕様ということにしといて……ください。




2004年9月20日…ナーコンシー基地




 捕獲作戦終了後、焔は捕獲したマグヌスルクスと一緒にそのままオーストラリアの中央研究所に向かう。

 武達第28遊撃部隊は響の吹雪が廃棄されたため一時ナーコンシー基地にて教官をする事となった。
 響の新しい機体は、焔が責任持って高性能のものを調達すると張り切っていた。
 皆は一抹の不安はあったが、戦術機に関しては大丈夫だろうと一応納得していた。




 そして13日目の今日、焔が中央から帰還して来た。

 焔が持ってきた数々のものが格納庫に搬入される、28遊撃隊の全員は揃ってそれを横目で見ながら焔を探していた。

 「あっ博士ーーー!」

 搬入口から入ってきた焔を目敏く見つけて駆け寄っていく響、

 「あらあら、よっぽど嬉しいのですね」
 「まあ、ここ最近はまだかまだかとソワソワしていたからな。」
 「私も最初の機体を受け取る時はそうだったね。」

 御無・鮎川・柏木は駆け去って行く響を見て微笑ましく笑っている。
 月詠もヒュレイカも黙ってはいるが目を細くして笑っていた、そして武は興奮する響を見て昔を思い出していた、

 (俺も最初の吹雪が搬入された時はメチャクチャ興奮してたもんなぁ……)
 あの時の興奮は今でも覚えている、ほんの少し前の出来事の様にも随分昔の事のようにも感じられる。
 (あの時の俺はまだまだ子供だったからなあ……)

 月詠辺りに言わせればまだまだ未熟だと言われそうだが……、武は今の自分と昔の自分を比べて思わず苦笑していた。
 あの時は戦術機に乗れる事が嬉しくて他の事は正直頭に無かった、でも冥夜と慧と愛し合うようになって次第にこの世界を護りたいという意識が強くなってきた。
 そしてクーデター事件、日本人の心の強さと決意を垣間見た。
 さらにオルタネイティブ5の発動……愛する人を宇宙に送り自分は地球を護ると決意した。

 今の自分は昔の自分より成長もしたし目標もある、そして……
 (いや、それはまだ考えるべきじゃないな……)
 頭に浮かんだその考えを打ち切り皆を促す、

 「さあ、行こうぜ!!」




 
 「よう諸君、暫らくぶりだな!」

 近付く皆に片手を軽く上げて気楽に挨拶する焔、
 「そんなに暫らくぶりでもないけど、この頃毎日一緒だったからね。」
 「確かに、2週間は長かったな。」
 鮎川はともかくヒュレイカが感慨深げなのは珍しい、彼女もこの部隊は安心できるのであろう。
 月詠は目を合わせただけだったが付き合いが長い2人はそれだけで十分だった。

 「ねえねえ、焔博士!!それで私の機体は。」

 待ちきれないのか響が焔に声を掛ける。その目は期待でキラキラと輝いているみたいで、新しい玩具をねだる子供の様だと武達は感じていた。

 「まあ待ってろ…………ホラ、来たぞ。」

 その言葉と同時に一機の戦術機運搬トレーラーが搬入口から入ってくる、格納庫の奥まで来ると台を立ち上げる。
 そして立ち上がった後に機体を覆っていた防水シートを取り払う、頂上から一気に滑り落ちた防水シートの向うには威風堂々とした見慣れない機体があった。

 「うわぁあああ!!!」「へぇ……」「これはまた……趣味的な……」「見た事無いね……」「日本製の戦術機か」「うぉお!かっけ~~!!」

 各人が声を上げる、そして驚愕の声を上げたのは

 「これは……まさか!」

 「おっ……、流石に月詠は知ってたか」
 「月詠さん、この戦術機知ってるんですか?」
 「俺も見た事無いですけど。」

 月詠と焔の意味深な会話に響と武が疑問を掛ける

 「まあ……、お前達が知らないのも無理は無い。これは現在までに50機しか生産されていないからな。」

 「50!!」「って、なんでそんなに少ないんですか!!」

 「それはこの機体が試作機、いやトライアルの機体だったからさ。」
 「トライアル……ですか?」
 「そう説明するとだな……(欄外参照)……というわけさ。」
 「へえ、武御雷と同等ですか。」

 武は目の前の機体「甕速火」を改めて見てみる。
 基にした技術や機体などは同じなのでやはり全体的に武御雷と似通っている、外見ではなく「雰囲気」が…だ。

 色は帝国軍カラーで大きさは武御雷とほぼ同等、足は武御雷と違い他の戦術機と同じだ。
 腰と肩の装甲がやや鋭角的で腕と脚に鎧の様な装甲がついるため全体的に攻撃的な感じである。
 頭部は3本の角のようなモノが、中央の角が真上に、両側の角はやや短く前方気味に上を向いて生えている、顔も鬼武者の面の様なもので下半分が覆われている。
 元の色が赤なので、思いっきり鬼武者を意識して造られたのだろう。
 その他はほぼ武御雷と変わらない、焔も基本構造は一緒だと言っていた。
 
 「でも大丈夫何ですか、癖があるって」

 響は不安そうだ、彼女はまだまだ「ベテラン」というには程遠い腕だ、機体のクセを自己の技量でさばく事は戦闘中の隙になりかねない。
 「大丈夫だ、この機体は大破して倉庫で保管されていたのを私が武御雷の部品を利用して改造修理したものだがその時にちゃんとお前さんに合わせておいた。
 クセも殆んど無くなっている、色も帝国軍カラーに塗りなおしといた、この部隊には赤が2機もあるからな。」

 甕速火の標準色は赤らしいがこの部隊には赤が2機もあるので紛らわしくなるから塗りなおしたそうだ、響も帝国軍カラーの方が愛着があるのでこの色の方が良いと言っている。

 ちなみに赤とは言っても、ヒュレイカの機体はやや暗い赤で月詠の機体は艶のある紅色だ。(武の機体も黒ではなく艶のある漆黒、普通の量産塗装ではなく1から塗った特殊ペイントだ。)

 「ほれ調整はしてあるから乗ってきな、こっちデータをとって最終的に合わせにゃならんし丁度いいから好きなだけ振り回してこい。」

 「えっ、いいんですか!イェーーィ」

 焔の言葉に歓声を上げ飛び出していく響、

 「さて、じゃあ私達は高みの見物としゃれ込もうかい。」

 それを生暖かい目で見守っていた俺達に、振り向いて観測車を顎でしゃくる焔。武達も甕速火の性能に興味津々で全員一致でその案に賛成した。
 そして……





 「よろしく、新しい相棒さん。」





 甕速火の下から見上げる響、新たな力を得た響はまたも苛酷な戦いに身を投じていくのだ。




 2日後…9月20日





 基地の職員交代の為に1ヶ月に1回、食堂が閉まっている日がある、その時は各自売店で食料を調達する、武もそうしていたのだが如何せんまだ若く健康的でしかも訓練で腹が減る、夕食時間から少し経つとまた腹が減りだした武は売店の自販機に向かった。

 夜の廊下を歩いていく、武達の部屋は格納庫や食堂などの一般施設のやや近くにある、対BETA戦用の基地というのは緊急時の時の為目的の場所に行くルートが1つではない、武達の部屋の近くには格納庫や通信室などがあるため複数の通路が設けられていた。

 武はたまたまに食堂前を通過するルートを取っていた、しかし食堂前で中に明かりがついている事を目撃する。

 「なんだ?今日は食堂休みの筈なのに……」

 不思議に思って中を覗いて見る、……見回してみたが中には誰もいない、いや…電灯が点いている場所は……

 「厨房?」

 ますます不思議だった、食堂に居るだけならともかく厨房とは……今日は食堂の職員は居ないはずなのに。
 武は不思議に思って中を覗いて見る。
 そこで武は驚愕の事実を直視した。

 そこに居たのは……


 「月詠さん?」


 口の中でその名前を声に出さずに呟く、気付かれ無いように体が本能的に気配を消したのだ……何故かは本人も解らなかったが。

 そこに居たのは紛う事無く月詠だった、しかも……しかも!!


「料理してる…………!!!」


 そう月詠は厨房で料理をしていた、さらに…

 「~~~~」

 「楽しそう……」

 凄く楽しそうだった、笑顔で鼻歌らしきものまで聞こえる。武には目の前の光景が信じられなかった、阿呆のように口をポッカリ開けてその光景を凝視する。

 ここは天国か……それとも夢か?……思わず頬を抓ってしまった……痛い……結論、夢じゃない…したがって目の前の光景は現実……武はやっと驚愕した、気配を消したまま驚愕してたのはある意味とても器用というか間抜けな光景だったが。

 しかしそれも無理がなかった。

 義に厚く、理に厳しく、規律を重んじ自他共に厳しく、実直な軍人で、いつも凛々しい月詠さんが、笑顔で鼻歌口ずさみながらお料理してます……なんて実際にこの目で見なければ信じられなかっただろう。
 武はそのままジッと料理する月詠を見ていたが、

 「綺麗だ…………」

 思わず呟いていた。

 普段の凛々しい月詠も美しいが、今の月詠には別種の美しさがある。
 楽しげで躍動感のある、春の様な雰囲気……、女の可愛さとしての魅力だった。
 武は月詠が根はとても心の優しい女性である事を知っている、厳しさとか軍人としての態度を全部取り払えば目の前の月詠さんになるんじゃないかと思った。

 (ああ……これも月詠さんなんだ……)

 自分を作っていない無防備な姿、女性としての本質、これもまた月詠としての人格の一部なのだろう、そもそも気配を消しているとはいえこんなに至近距離で人の気配に気付かないなんて絶対に何時もの月詠ではない。
 何時までも見ていたかったがそういう訳にも行かない、少し動いてみるが……

 「誰だ!!!」

 やはり見つかった、幾ら気を抜いてるからといっても月詠だ、今まで気付かれなかったのが行幸だったのだ。
 武は大人しく厨房の中に入って姿を見せた。

 「今晩は、月詠さん。」
 「白銀!?……貴様ひょっとして見ていたのか!!!」

 武の無難な挨拶に月詠は驚愕し、そして慌てて食って掛かった。

 (見られたか……クソ……どうする、抹殺するか……ああ…あんな姿をこやつに見られるとは……一生の不覚……)

 なにやら物騒な考えも織り交ぜつつ食って掛かる月詠、あの無防備な姿を見られるのはとても恥ずかしかった。

 「いえ、今来た所ですよ。」
 武は努めて無表情で答えを返す。しかし心の中ではエマージェンシーコールが鳴り響いて冷や汗ダラダラであった。

 「本当であろうな?」
 「本当ですって、第一居たなら気配で気付く筈でしょう!!」

 普通に…自然に…と心の中で念仏のように唱えながら妥当な言い訳を口に出す、月詠のプライドをくすぐった巧妙な理由付けだ。

 「ふむ……、それもそうか。……で何をしに来たのだ?」

 一応納得した月詠は武にここに来た目的を訪ねる。

 「腹が減って何か買いに売店に行こうと歩いていたら食堂に明かりが見えたので、気になって覘いて見たんです。」
 この辺は本当なので正直に答える。

 「なんだ貴様腹が減っていたのか、……よし、では貴様の分も作ってやる、暫し待っていろ。」


 「ええええええっ!!!!」


 そのとんでもない言葉に武の驚愕は最高潮に達した。
 月詠はうるさそうに顔を顰める。

 「なんだ大声をだして。」
 「だって…だって……、本当に作ってくれるんですか?」

 (だってあの月詠さんが?)

 「まあついでだ、中々腕を振るう機会も無い、偶には人に作るのもいいだろう。……で、どうするのだ……いらんのか?」

 「いりますいります、是非お願いします。」

 武はブンブンと首を縦に振ってお願いした、月詠はそれを見て軽く微笑むと
 「了解した」
 と言って料理に取り掛かった。

 武は隣でその一部始終を見学する、月詠が何も言わないので良いのだろうと勝手に解釈して。
 さっきまでの様に気は抜いていない、何時もの凛々しい姿で料理を行なっているが顔が心持ち笑顔でいるのが見て取れた。やはり料理する事は好きなのだろうか?

 料理といっても合成した材料を調理しているだけだ、よっぽど下手でなければそこそこの物が出来る、だが元々合成品は味が悪いので美味く作るのは腕がいる。
 武は月詠がどんな料理を作るのかとても楽しみだった、見ていると物凄い手際がいい、プロ(武はプロの料理を見た事は無かったが)顔負けだ。軍人然とした月詠さんがこんなに料理が得意だとは正しく以外であった。

 (だが待てよ……、見た目は良くても味が最悪なんて……。ははは……月詠さんに限ってまさかそんな事はないよな!)

 一瞬とても不吉な想像が頭を過ぎったが、そもそも完璧主義の気がある月詠さんがそんな事をするはずが無い……味覚が変でなければ。

 とかなんとかやっている内に料理はつつがなく終了した。

 「出来たぞ、向うのテーブルに行く、そこの飲み物を持って来い。」

 料理盛り付けた容器をテーブルに運んでいく、武も言われた通り飲み物が注がれたコップを持って月詠の後を追った。

 そして向かい合って席に着く、電灯は此処と厨房だけ点いていた。

 「では、頂きます……」
 「あ…、頂きます…」

 月詠の挨拶に、普段は丁寧に挨拶をしない武も手を合わせて深々と頭を下げた。
 そして箸に手を伸ばす、……ふと視線を感じてそちらを見ると月詠がジッと此方を見ている。

 『…………………』

 2人の視線が交差し、お互い暫し見詰め合った……

 不意に月詠が視線をはずす、
 「どうした、食べないのか?」
 「あ……食べます食べます。」
 その声に武は慌てて箸を動かす、しかし……

 (プレッシャーが…………)

 相変わらず月詠がジッと見詰めている、やはり月詠さんでも自分の作った料理の評価は気になるものだろうか……と武は思った。

 しかし何時までもこのままでは進展がないので、試しに一口食べてみる……


 「………………」


 「どうした……?」

 一口食べたまま停止した武を見て月詠の顔がいぶかしむ、不味くはないとは思っていたがなにか問題があったか?……と一瞬考えたが次の瞬間、




 「美味いっ!!!!!!」




 武の感嘆の叫びが食堂に響いた。

 「美味ぇ、美味ぇよこれ。食堂の料理なんか目じゃねぇよ!!!」

 武は感涙にむせびながらどんどん料理を口に運ぶ、その勢いに月詠も少し驚いた。
 パクパクと勢い良く食べる武、しかし

 「う……ううう…くぅ『ドンドンッ』」
 あまりの勢いに咽を詰まらせてしまう。

 「仕方ないやつだな、ほら……」
 月詠が差し出してきたコップを受け取って咽に流し込む、しかしその飲料も程よい渋みと甘みががあってとても美味しかった。

 「くはぁ、はあはあ…はぁ……」
 「そんなに慌てて食べんでも誰も取ったりはせぬぞ。」

 息を整える武に月詠は諭すように声を掛ける。

 「いや、こんなに美味い料理を食べたのは久しぶりで。いやー、京塚のおばちゃんが作る料理と同じくらい美味いですよ。」
 「京塚曹長と……それは光栄だな、あの方の料理の味は最良だった。」
 ふんわりと笑って答える月詠、どうやら自分の料理が褒められたのはとても嬉しかったらしい。

 武は自分の心臓がドキドキしているのを隠すために新たに質問する。

 「それにしても月詠さんが料理……しかもこんなに上手いとは……。」
 「意外でした」と言おうとして、思わず言葉を濁す、それは結構失礼な言葉だったからだが……

 「意外だったか?」

 月詠はあっさりと言いたかった事を察した、しかし怒ったような様子は無い。

 「子供の頃に母上に散々仕込まれてな、「女たるもの料理の1つも出来ないでどうするのですか!」と言われた、そして私が「軍人になるのに料理の腕が必要なのですか?」と聞いたら、
 「戦は食が基本、殺伐とした戦場では美味い食事という潤いが兵に力を与えるのです、古来兵糧の所為で敗退した軍の何と多い事か……不味い軍用食も携帯食も合成材料も腕次第で兵に万物の力を与える天上の劇薬となるのです!!!」と大啖呵を切られてな……。」

 「それは……何と言うか、凄い母親ですね。」

 「だが感謝もしている、訓練生時代…萎えた気力を奮い起こすのに美味い食事は最上の要素だった、1本の携帯食料がちょっとした工夫で極限状態だった3人の仲間を3日間持たせた事もある…あの時ほど母上に感謝したことは無かった。
 美味い食事をまた味わうために死に物狂いで生き残る……まあ訓練だから死ぬ事は無いんだがあの時は極限状態でこのまま倒れれば死ぬと皆思っていたからな……たったそれだけの小さな願いや希望でもそれを目標にして人間は死力を振り絞って生き残る事が出来るんだ。」

 武はその話の凄まじさに唖然とした……が納得もしていた。

 人間は直ぐに諦めてしまう事も多いが、ほんのチョットの希望があればそれを目標にも出来るのだ……そして「美味い食事」というものは極限状態の人間にとっては何よりの希望となるだろう。

 「いいお母さんですね。」
 「ああ、父が亡くなった時も気丈に私を励ましてくれた。母のほうが父を余程に愛していたのに……」

 その話を聞いて一瞬興味を持ったが……人には話したくないことが多々あるものだ、武にだって人に話せないことがある、黙って話を聞いていた。

 「今は真貴の所に居るだろう……アイツは昔から母上に頭が上がらないからな…フフ……」

 真貴というのは将軍代行の御剣真貴の事だろう、焔から月詠と真貴と焔は幼馴染で、月詠と真貴は訓練生時代も同じ部隊でエレメントを組んだ相棒で今も互いを信頼していると聞いた事がある。

 御剣真貴……冥夜の従兄で、月詠の……


 『ズキンッ……』


 武の心臓が軋む……。

 (あれ……、なんだこれ……)

 その胸の痛みと想いは唐突に訪れた……

 (武の知らない月詠を知っている男、何回も月詠の料理を食べた男、月詠が信頼している男、月詠が信頼する友人、背中を預けあった相棒…………)

 ズキズキと胸の痛みは大きくなる、どうしようもなくもどかしい感情、黒い奔流、そして……

 (ムカツク、憎い、羨ましい、もどかしい、せつない、殺したい……奪いたい……)

 (これは何だ、この想いは……嫉妬?…独占欲?……俺の…俺だけの女に「白銀!!!」

 「ハッ!」




 ……霧散した…………





 見ると月詠がやや厳しい表情で此方を覗き込んでいる。
 「どうした、殺気が立ち昇っていたぞ」

 「俺は…………」

 一体何を考えていたのだろうか……よく思い出せない……不快な残滓を振り払うように首を思いっきり振る。

 「いえ……すいません、なんでもないです……」

 「しかし……」

 先程の殺気、白銀の様子は尋常ではなかった、月詠にしては珍しく食い下がる。
 武は追求を回避する為に努めて明るく料理の話題を振った。


 ……しかしそれがとてつもない地雷だった。


 本人は全然、全く、完璧に意識していなかった、ただの軽い冗談のつもりの一言だったが、この世界の住人……特に古風な月詠にとってその一言は正しく破壊力抜群の一撃であった。


 「いやぁ、それにしてもこんなに美味い料理なら毎日月詠さんに作ってほしいですね、これから毎日俺の為に作ってくれませんか!」




 「ガタンッ!!!」

 月詠は顔を真っ赤にして椅子から立ち上がり後ずさった。
 武はそんな月詠を不思議そうに見ている。
 ……が、月詠の思考はパニック寸前だった。




 (料理を…毎日作ってほしい……俺の為に……毎日…、俺の為!!!……毎日!!!……それは…その意味は……それって……)




 最後のほうの思考が女の人モードになっている、自分の思考の想像が限界値になって悲鳴を上げる。
 月詠の硬い思考では色事方面の想像限界は高くなかった。

 「あう…あ…うう…」

 最早オーバーヒート寸前、何時もの凛々しい月詠の姿は何所にもなかった。手は意味も無くワタワタと動いている。

 そんな月詠が不思議で武は席を立って近付くが……

 「どうしたんですか?」

 至近距離の武、
 そこで月詠の思考は限界を超えた……

 「い…いや……、私は用事を思い出した……後は好きにして構わん、食べ終わったら厨房に置いておけ……後で片付けておく……」

 顔を真っ赤にしながらそういい残して一目散に食堂から出て行った。
 限界を超えても、律儀に指示をしてから逃げていく所が正に月詠らしいといえばらしかった。

 「??????」

 残された武は不思議な表情をしながらその場に突っ立っていた。





 
 新型搬入よりもおまけエピソードの後編の方が長くなってしまった。
 前に書いていた、月詠が出来る事の1つ。
 私が夢想する月詠像……その1、料理が上手い。
 こういう強気系年上女性キャラは料理が上手いか下手かなんですよね……。
 でも私は月詠は出来ないなら努力すると思います、作中の理由もそうです、少しでも生存率を上げるため出来る事はやるんではないかと……根は優しいですからね、他人の為に努力できる人だと思います。
 ちなみに続きません、これでこの話は終了します。後日月詠は平静に武に接します(表面上は)。焔と柏木にばれて大笑いされるエピソードもあるんですが……

 次回は……迷っています。

 このまま当初のストーリーで行くか、ここで1つ山を付ける為に新種のBETAを前倒しで出すか……ほんとは出るのもう少し後なんですけど沢山種類がいるから1種類くらい出してもいいかなっ…と思いまして。



[1115] Re[33]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第35話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/16 10:09
2004年10月5日…ナーコンシー基地




焔の帰還から15日、月詠と武の関係が一時ギクシャクした事もあったが一応順調な日々が続いた。

 響は新しい自分の機体である甕速火を乗りこなすために日々努力を重ねて、通常以上に乗りこなせるようになって来ていた。

 武達も若い衛士達を訓練する傍ら焔が甕速火と共に持ってきた、新しい武器…04式36㎜突撃機関砲(正式量産版、ショットシェルが運用できる)、小型燃料気化爆弾、肩部広範囲散布式銃弾砲、甲殻片内蔵・指向性クレイモアなどを使いハイヴ突入のシミュレーションなどを行なっていた。

 そして今日も昼が過ぎ、平和な1日が続くかと思われた、




 だが…………




 「ヴィーー・ヴィーー・ヴィーー」




 「なにっ!」「えっ!」「なんだっ!」
 
 基地に突然警報が鳴り響いた。シミュレータールームで響とその訓練に付き合っていた武と月詠は突然の警報に驚愕し月詠が声を上げる、

 「これは、全機緊急展開警報!ばかな、前線が抜かれたのか!!!」

 基地の衛士全員での緊急展開迎撃の命令、即ちそれはBETAが此処まで進行してきたという事だ。
 このマレーシア防衛線が構築されてから前線が抜かれた事はただの一度も無いという、実際その防衛機構は良く出来ていて見事と言うほど穴が無い、それが抜かれたという事は正しく由々しき事態だ。

 「今まで前線が抜かれた事は無いって……」
 「とにかくいそごうぜ!」

 響の狼狽に武が発破を掛ける、ここでこうしていても埒が明かない、とにかく出撃する為に3人は格納庫へ走り出した。

 『全機第1種迎撃装備、繰り返す全機第1種迎撃装備で出撃。指定ポイントまで前進して指示を仰ぎ展開、その後の命令を待て。』

 格納庫へ到着した所で放送が入る、武も自機の武御雷に接近しながらそれを聞いていた。

 (第1種、フル装備か……相当ヤバイって訳だ。)

 第1種迎撃装備……拠点迎撃用のフル装備である、機体重量が増えるため機動攻撃には向かないが迎撃には多大な効果を発揮する装備で
 パイロン連動の04式36㎜突撃機関砲×2、背面ラックに04式36㎜突撃機関砲×2(腰の横から出して使う)、92式多目的自律誘導弾システム×2(自律制御型多目的ミサイルを36発)、手に04式36㎜突撃機関砲と04式近接戦闘長刀。

 まさに鬼の様な迎撃装備で特に36㎜突撃機関砲の5門掃射は圧倒的な弾幕を張る、それが横一列の戦術機から同時に放たれると地鳴りの様な鳴動がするのだ。
 28遊撃部隊の仲間や他の衛士達も次々に格納庫を出て目標地点(基地からやや離れた場所)に向かう、そこでは着々と迎撃準備が取られていた。

 武達もその一角に組み込まれる、指定された場所で待機した武達は部隊内回線で今回の緊急展開の話をしていた。

 「ちょっとやばい状況って感じかな?」

 この状況に際し柏木の口調も重たい、

 「やばいなんてもんじゃないよ、前線が抜かれたんだ。」
 「前線基地に居るのは皆激戦を潜り抜けた衛士、それが抜かれるとなると」
 「ヒュレイカさんの言う通り楽観などできませんわね……」
 「前線の人達大丈夫かな?」
 響が心配そうに言う。
 「それよここの心配をした方がいいぜ……」
 「白銀の言う通りだ、ここの衛士は皆戦場経験が少ない、全員が出撃回数10回未満の衛士だ、それなりに戦える者もいるであろうが私達がフォローしなくてはなるまい。」
 「戦うのが仕方ないとしても無駄に命を捨てさせたくは無いからね。」

 武・月詠の心配に鮎川も同意する、現在このナーコンシーにいる衛士は武達を除いて91人、出撃回数3回以上10回未満の平均的な戦闘経験を持つ衛士ばかりだ。




 そこへ全部隊に向けた通信が入った。




 『諸君、今回のBETA襲撃の説明を取らせてもらう事となった鳳焔だ、専門ではないのだが他に適任者が居なくてね、さて…時間が無いので手短に話す、覚悟して聞け。』

 焔の真剣な顔、どうやら事態は想像以上に深刻なようだ。

 『本日昼、何時もの如くBETAの襲撃が起こり何時もの如く艦隊迎撃を行なった、順調にBETAは殲滅され残りは8%、そしてこれまた何時もの如く戦術機の迎撃が行なわれようとした。』

 一度間を置く、そして軽く息を吸い込んでからまた続きを話す。

 『だがここで思わぬ事態が起こる、原因は不明だが前線付近に急にBETA集団の反応が現れた、艦隊迎撃の間も無く接近され、そのBETA集団は迎撃しようとした前線を突破して今に至るというわけだ、……なお8%のBETA集団は殲滅された、此処に来るのはその突破した集団だけだ。』

 (いくら突然出現したからと言ったってBETA集団の突破を簡単に許すなんて……現に他のBETAはちゃんと迎撃出来ているんだよな?)

 武それに他の衛士もそれを不思議に思ったが、その疑問は次の焔の言葉で氷解した。

 『今回前線を突破したBETA集団は…………未確認種……つまり新種のBETAだ。』

 「え…………」

 その発言に皆の思考が一瞬止まる、受け入れがたい言葉を意識が跳ねつけたのだ。
 しかしやがてその情報も現実のモノとして意識を侵食し脳に認識される。




 「「「「「「「新種!!!」」」」」」」」




 ほぼ全ての衛士が異口同音に大声を上げて叫ぶ、

 その驚愕は如何程のものであったろうか、新種の発見は95年に出現した兵士級ヴェナトル以来、新たなBETA種の出現は人類にとっての厄災と脅威となるのは確実であるからだ。

 『そう、これを見ろ』

 モニター画面に新たなウィンドウが開く、そこに映った映像は……




 「うっ…………」




 醜悪でデタラメなBETAを見慣れた武も思わず引いてしまった。それほどこの新種のBETAはデタラメな様相をしていた。

 『とりあえずの呼称は見たまま「ケンタウロス」と名付けた、戦闘様式による分類上は突撃級(デストロイヤー級)だ、その様相からキメラ種と呼ぶ者もいた。』

 それは的を得た呼称だと武は思った、ケンタウロスそしてキメラ……まさに見たままだ。
 姿形は神話上のケンタウロスに言われる半人半馬だった、しかしその体を構成するパーツがまさに「BETAのキメラ」と呼ぶに相応しかった。

 馬の下半身…しかしそこに付いている足と尻尾は重光線級マグヌスルクスのものそっくりであった、そして上半身の体は兵士級ヴェナトルの体部分をを巨大化させたもの、頭は像の鼻のような腕が付いていない闘志級バルルスナリスの頭が乗っている、そして体の前面は突撃級ルイタウラの装甲殻をプレートメイルの様に加工した様なもので覆われていて下半身も所々装甲殻で覆われていた、2本の腕も肩から肘の先まで要撃級メデュームの前腕そっくりの甲殻で覆われている(鋏の中から肘から先の腕が出ている)。

 まさしく既存のBETAの部品を寄せ集めて作り上げたようなデタラメな姿のBETAだった。

 『一気に突破されたので得られた戦闘情報は少ない、つまりこの新種のBETAとまともに戦うのはお前達が初めてとなる、どんな能力を持っているか解らない…心して掛かれ。今から得られた情報を説明するからよく聞け。』

 全員が耳をそばだてる、未確認種を相手にするのには少しの情報でもとても貴重な命綱に成り得るからだ。

 『まず、その集団突撃時の最高加速は時速230㎞/hを超える、恐らく単体の最高加速時の速度は時速250㎞/hを超えるだろう。』

 「時速250!!」

 誰かが思わず大声を上げる、だがそれも仕方ない、ルイタウラでさえ最高速は約170km/だ……80㎞/hも速いのは最早規格外の範疇だろう。

 『私達には余り時間が無いという事だ、直ぐに此処にやってくるぞ……予測進路の通りならな。』

 焔は心持ち早口で再度説明を開始した。

 『最大の脅威はその速度を生かした集団突撃だ、正面の防御はそれなりにあるし勢いが付いているから少しくらい攻撃したり倒しても惰性で突っ込んで来る、どうやら他のBETAより鈍く出来ているらしいので撃っても気を抜くな、構わずそのまま突っ込んで来る。
 そして機動制御能力、旋回能力共にルイタウラより格段に優れているので突進を回避しても油断するな。』

 『更に上半身の両腕での攻撃…2本の腕の力は戦術機の腕を引っこ抜き握りつぶす程の怪力だ、振り回す腕に接触するのも不味いが絶対に捕まるな。そして上腕を覆ってる甲殻にも注意しろ、特に肘の先から出ている突起は近距離で体を旋回する時に危険な凶器となる。
 下半身の足による蹴りと尻尾による攻撃も厄介だ、戦術機を軽く吹き飛ばす程の力がある。』

 (それって凄く厄介な相手じゃ……)

 まさに凶器の塊の様なBETAだ。




 『解っている対処法を説明しよう。まずは機動力を殺すためにも下半身を狙え、所々甲殻で覆われているが36㎜の弾幕なら問題ない、特に横と後ろからの攻撃が有効だ。
 前面は比較的多くの甲殻で覆われていて皮膚も硬質化している、しかし36㎜を集中的に叩き込めば問題ない。だが敵の集団突撃時は36㎜を叩き込んでも惰性で突っ込んでくる、滑空砲か集中射撃で足を吹き飛ばして横転させるのが一番だ。
 そして上半身だ。
 一番無防備なのは頭だが此処を吹き飛ばしても問題なく活動しているので効果は無い、したがって体を狙え、前面は甲殻で覆われているので後ろからの射撃が有効だ、36㎜でも倒せる。ただし旋回能力が高いのでやはり下半身を優先して倒した方が効率がいい。』

 皆真剣に聞いている、微かな音も無い。

 『そして最大の注意事項だ、このBETAは下半身と上半身が別々に動いている、恐らく上半身が本体だ、下半身を倒しても上半身の活動は止まらないので下半身を倒した後キッチリ上半身にトドメを刺せ、戦場で無傷な上半身を見つけたら念のため36㎜を叩き込んでおけ。』




 「……………」





 焔の説明が終わるが全員沈黙している、新たな脅威の大きさを噛み締めているのか……

 『やつらは集団突進攻撃で敵に接近し、そのまま乱戦に持ち込み戦術機を倒す戦法を取る……恐らく対戦術機専用に各BETAの有用な部分を集めて作られたBETAだろう。
 いいか、乱戦に持ち込まれたらフライト(4機編成)で対応しろ、最低でもエレメントを崩すな。
 お前らの戦いで更なるデータが得られ対策も出来るだろう、無事を祈るのは当たり前だが……お前らの死は無駄にはならん、その死は後からこのBETAと戦う者たちへの礎となるだろう。死力を尽くして戦え!』

 焔の真摯な言葉が響く、まだ若い衛士達は自身の戦いの成す意味を知り、恐怖を打ち払うべく己を奮起させる。




 「これはまた……厄介な事になったね。」

 鮎川がポツリと呟いた。

 「新種のBETAとの初戦闘……幸運なのか不運なのか……」
 「人類にとっては間違いなく不運ですわ。」
 「そしてここの衛士達にとってもね……」
 「私達も人事じゃないよ……」
 ヒュレイカ・御無・柏木の言葉に響が神妙に自分達への脅威も示唆する。

 「くそっ、これじゃ援護は難しいか……」
 「まずは自分の事だ、自身が死んでしまってはどうしようもない……私としても何とか助けたいが…な……」

 月詠と武は無念の表情をする、激戦となる……そんな悪い予感が止まらない。戦士として培ってきたその感覚は外れないだろう……ならば他を援護する余裕は少なくなる。

 「一体何人生き残れるか……」
 「死力を尽くすのみだ、それしか道は無い。」

 武の沈痛な表情、月詠は決心を込めて前を見る。
 ……死力を尽くす、自分達が1体でも多く倒せばそれだけ死者が出る確率は少なくなるのだ。




 『皆さんケンタウロスが接近中です。』




 突然エルファからの通信が入る、彼女は有能な人物であり中央の情報処理関係の仕事もしている、そのため常時部隊に在籍するのは流石に許可されなかったので、第28遊撃小隊の作戦時にだけ通信でサポートするという約束を本人と政府に取り付けたらしい。

 
 『基地からのミサイル攻撃である程度数を減らす。いいか…敵は視界に入ったら瞬く間に接近してくる、突撃されない様に気をつけろ、各機体の回避のタイミングはこちである程度の情報として出す、それを参考にして自己の判断で回避しろ!!』

 その焔の言葉に合わせてミサイルが飛んでいく、遙か向うで着弾の音が響く……そして数秒。




 「ドドドドドドドド…………!!!」




 空間を揺るがす地響きと集団で賭ける音が大気と大地を伝わって響いてきた。
 そしてレーダーに反応……速い……、
 物凄いスピードでレーダーの端からあっという間に接近してくる。

 「自律誘導弾てぇーーーーー!!!」

 ナーコンシー基地司令アレクの号令と共に、92式多目的自律誘導弾システム196機から放たれた自律誘導弾784発が敵へ向かう、そしてさらにもう1斉射…しかしケンタウロスはまだかなり存在する。

 2射目で敵の接近は至近距離へ至った、至近距離では身軽な方が良いので当初の予定の通り自律誘導弾システムをパージ(分離)する。

 そしてケンタウロスが目視距離(戦術機拡大望遠での)に入る……

 「撃てぇぇええーーーーー!!!」

 そのアレク司令の声と共に490丁の04式36㎜突撃機関砲が轟音を上げて発射された。

 その射撃の前に突撃してくるケンタウロスはバタバタと倒れるが、その多くが体を穴だらけにしながらも足を動かし突撃してくる、これが惰性での突進というやつだろう、しかもその死体が後方のケンタウロスの盾となっているのも始末が悪い。

 武達のように戦闘経験が多いものはパイロン連動の突撃機関砲で制圧射撃をしながら片手の突機関砲でケンタウロスの片足を集中射撃で破壊して転倒させている、滑空砲でも同じだ。

 しかしケンタウロスは前方の同種を盾にし、死体を乗り越え瞬く間に接近して来た。

 「散れぇっ!!!」『散開してください!!』

 アレク司令とエルファの声が重なる、
 全員は左右に散開、武達は全員右側へと回避した、




 




 物が引き潰れるような大音響が響いた、そちらを見ると……

 「うそ…………」

 響の信じられないものを見た驚愕の呟きが口から漏れる。

 戦術機が空中を舞っていた、回避が送れケンタウロスに追突された機体…追突の衝撃で半分潰れた04式吹雪が30m近く後方まで吹き飛ばされている。

 ケンタウロスの集団の一部はそのまま駆け抜け、残りは左右に向きを変え突撃してきた。

 「全員固まれ連携して対処しろ!!!」

 月詠の絶叫が響く、
 突入してきたケンタウロスとたちまちの内に乱戦となる。




 「くそぉおおおぉぉ!!!」
 04式36㎜突撃機関砲5門を斉射するが構わず突っ込んでくる、しかしその腕に掴まれて腕を引き千切られる、そしてそのまま高々と持ち上げられた

 「うわあああーーー!!!」

 右手に持った04式近接戦闘長刀を相手の装甲殻の隙間から刺し込むがその個体は構わず持ち上げた04式吹雪を放り投げた。




 04式36㎜突撃機関砲を叩き込み下半身を倒した所でこちらも腕の一撃をもらった、一瞬怯んだ所へ何かが突撃してくる。 



 
 「きゃあああーーーー」




 


 盛大な音と共に凄まじい衝撃、一瞬息が止まった……がそれが命取りだった。後方からの蹴りの一撃で追突してきた04式吹雪ごとコクピットを打ち抜かれて絶命した。




 響は一体のケンタウロスと対峙する、相手が突っ込んで来た所を横に飛んで回避、しかし相手は直ぐに方向転換…その際腕に付いている甲殻の肘の部分の突起が襲ってくる、肘から出た鋏の様な先端に貫かれたらと思うとぞっとした。
 機体を前身させる、相手の脇下に機体を沈め突起を回避しながら04式近接戦闘長刀ですくい上げる様に斬り上げ相手の前足2本を斬り飛ばしつつ前を横切る、前足をなくし地面に沈み込む相手の後ろに回り込み上下半身両方に36㎜を叩き込んだ。




 一端駆け抜けた集団がまた突撃してくる、後方にいた衛士達はそれに気付いて04式36㎜突撃機関砲を乱射する、しかしやはり相手は止まらない。何人かがその突撃の犠牲となる、そしてそのケンタウロスの集団も乱戦に突入していった。




 「あれ…?」

 その衛士は違和感に気付いた、さっき下半身を倒したはずのケンタウロス。他の個体が襲ってきたのでそちらを倒し改めて上半身にトドメを刺そうとしたら……

 「上半身がない…?」

 不思議そうに呟く…それがその衛士の最後の言葉だった。
 後ろからの「何か」の攻撃により体を貫かれた衛士はそのまま溶解液によって溶かされ絶命した。




 戦っていた武と月詠にエルファから通信が入る……その他の衛士達にも情報が行く。

 『気を付けて下さい、敵は下半身を切り離して分離します。』

 一体のケンタウロスを斬り飛ばした武はその画面に注意を向ける。
 その上半身とその下に付いているもの、
 ヴェナトルの体の下、馬の下半身に納まっていた部分に戦車級エクウスペディスの口・それと腕を太くしたような小型の腕が生えている。

 『この分離個体は上半身の2本の腕で移動、そして敵に接近すると下に付いている小型の2本の腕で体を保持して上半身の腕で敵を攻撃します。』

 また下半身と繋がっていたであろう血管のような体組織の中心、背骨の様な太い骨の真下にあたる部分から尻尾の様なものが垂れていた。

 『尻尾の様なものはグラヴィスの尾節に類似しています、先端の衝角が何かに激突した際に分泌される強酸性溶解液も備えていてある程度の伸縮もし非常に危険です。』

 「ちい……厄介な……下半身と上半身が連動してないのはこの為か。」

 『恐らくこの上半身が下半身を操っているのでしょう。』

 月詠の言にエルファが答えを推測する。




 「これで……全てのBETAが混じっているってことか!!!」




 武のヤケクソな叫びを上げる、既存の全てのBETAの有用なパーツを混ぜ合わせ対戦術機用の新種のBETAを作り上げるとは……

 「くそっ如何にかしなきゃならないぜ!!」
 「今は此処を乗り切るのが先決だ。」

 2人は更にBETAを屠るため敵集団に突撃する……



 壮絶なる激戦はまだ終わらない。






 新種のBETA、対戦術機用BETAです。

 ちなみに私は命名センス「零」そう「0」です。だれか良い名前があったら教えてくれ。

 ちなみに仕掛けはまだこれだけじゃありませんよ……
 フフフフフ……全てのBETAがヒントです。

 皆さん「まとめwki」に行ってBETAの写真を見て想像してください……不気味な外見ですよ、BETAのキメラというアイディアを元々の設定にあった「ケンタウロス型」の敵と混合させました。
 それでは次話。
 



[1115] Re[34]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第36話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/17 00:17
2004年10月5日…ナーコンシー基地郊外




 鮎川と御無は途中まで響も一緒だったのだが何時の間にかはぐれてしまったので2人でケンタウロスを相手取っていた。
 どちらか片方が相手をしている内にもう1人が横に回り込み攻撃する、このケンタウロスもBETA特有の性質……本能的な戦闘対応能力は強いが思考的な対応能力が低い事……を持っている事を利用して戦う。

 たとえば1機の場合、回り込もうとすると相手はそれに合わせて向きを変えてくるので容易には回り込む事が出来ない。
 しかし1機が囮になって戦っていると、相手のBETAは正面の相手に意識を向けもう1機の戦術機を疎かにする、近付くと足や尻尾で攻撃してくるので認識と警戒はしているようだが弱点を晒したままなので撃破は容易だった。
 
 御無が1体のケンタウロスの右前足を04式36㎜突撃機関砲の一斉射で撃ち崩す、その隙に背後に回った鮎川が上下半身に36㎜の弾を撃ち込む……前面攻撃と背面攻撃のポジションは変われど2人はこの調子で敵を撃破し続けていた。

 「ちぃ、響とはぐれちまったか。」

 鮎川が、十数体で襲い掛かってきたケンタウロスを一掃した後に何時の間にか側に響の甕速火が見られないことに気付く。

 「ええ、今まで気付かなかったとは……不覚でした。」

 歴戦の強者たる鮎川と御無も初めて戦う強敵を前にして周りの事が少々疎かになっていたらしい、響がはぐれてしまった事に今の今まで気付けないでいた。
 ……いや、レーダーではぐれた事を情報として認識はしていたのだろうが戦闘経験の無い強敵への対応で脳が戦闘集中以外の思考をカットしていたらしい、段々対策が出来上がり対応にも余裕が出来てきたので他の事に意識が回ってきたようだ。

 「大丈夫かな響のやつ。」
 「甕速火も順調に乗りこなしていた様ですし……彼女は優秀です、朝霧大尉の秘蔵の教え子である彼女を信じましょう。」

 響は朝霧大尉が引き抜いてきた……というか無理矢理連れて来た少女だった。あの時は暗い危険な雰囲気を纏っていたが、それも段々薄れて分からなくなった。
 朝霧大尉は「色々」な意味で随分響を可愛がった、そして響もそれに良く答えた。響自身は否定していたが朝霧大尉の事を「お母さん」のように思っていた様子だった。

 そして2人は次なる敵を屠りに行った。




 ヒュレイカと柏木は若い衛士の集団を纏めていた。
 左に分かれた集団は基地司令のアレクが指揮していたが右の集団は指揮するものがいなかった。
 一応戦闘経験が一番多いグループのリーダーが全体を纏めていたがそれもあまり良く指揮できているとは言えなかった。
 そのためヒュレイカと柏木は集団を2つに分けて(敵の第2派の突撃で分断されかかっていた)各機に指示を与えていた。

 「11・12そのまま前面射撃……21後ろに回りこめ、33は21の援護……」
 「47は21を援護して、52・53は横合いの敵に制圧射撃……7はそのまま……」

 2つに分断された集団を纏め上げ何とか接近させた、細かい連携は当人達に任せ大雑把に指揮をする。
 ……戦闘経験のある者が各自に役割を与えてやれば当人達はその行動に迷いを抱かずに安心して戦える(もちろんその者を信頼していれば……だが)。
 戦闘経験が少ない者は集団戦になって各自の判断で戦う時に混乱し易い、「何をしたら良いのか?」「本当にこの行動で良いのだろうか?」「味方に迷惑をかけたら如何しよう?」……と無意識に考えてしまう。

 訓練では大丈夫だったのに、実戦での恐慌状態や混乱状態になると途端に不安に駆られてくる、だから短い期間ながら今まで教官として教えて来た為に信頼されている柏木達が指示を与えていたのだ。
 適切な指示を与えられ迷いの無くなった若い衛士達は訓練で培った能力を十二分に発揮出来ていた、そして戦いに集中する事で余分な迷いも抜け恐怖も薄れていった。

 共に敵を撃ち倒しながら2人は衛士達を守って戦って行く。




 「ピーーーーーー!!!」



 突如戦場全ての戦術機に警報が鳴り響いた。
 これは………

 「レーザー照射警報!!!」

 武が叫ぶ、

 「くそっ、何所から………」

 戦場データリンクにより共有化された情報の中、初期低出力照射を受けた機体を探す……しかしその機体を探し当てた時点でレーザーがその機体を撃ち貫いた。

 『後方に光線級ルクス2体確認!』

 「ちくしょう!!!」〈ズガガガガガ………〉

 発射元を辿る所でエルファからの発射地点の情報が入る、それと同時に武と月詠も発射地点のルクス2体を確認……視認と同時に04式36㎜突撃機関砲を斉射した。
 体中を撃ち抜かれ呆気なく崩れ落ちる2体のルクス。

 「一体何所からルクスが……」
 「白銀、アレを見よ。」

 月詠の押し殺した様な静かな声の指摘に武がそちらに目を向けると

 「んなのありかよ!!」

 思わず怒りと驚きがないまぜとなった非常識を糾弾するような声を上げる、

 『全衛士に告ぐ、ケンタウロスの下半身内に光線級ルクスの存在を確認、気をつけろ……無傷の下半身には必ず36㎜を満遍なく叩き込んでおけ。』

 焔の全体通信が響く、
 後方から突撃してきたケンタウロスで、そのまま戦場に突入しなかった個体の下半身が少し離れた地点に複数転がっていた、そしてその中からルクスが這い出てくる、大体1個の下半身から2、3体入っている様だ。
 しかし余りにも至近距離で這い出して来ているので照射を始める前に焔の通信を受けた衛士の射撃で撃ち倒されている、

 「ルクスの存在は脅威だけど相手が考えなしで助かったな。」
 「しかし輸送手段としてはグラヴィスなどよりも優れている、奴等がこれを効果的に運用してくるとなると厄介だ。」
 「でもBETAですよ、……そんな難しい事してくるんですか?」

 武は月詠の心配を笑って否定しようとするが月詠は真剣に言を返す。

 「いいか白銀……グラヴィスの時はあの巨体だ、偶々乗っていただけとも言えるが今回はあんなにも狭い中わざわざ詰める様に入っていた、どう考えても「輸送手段として使った」としか思えん。
 結果はともかくBETAがケンタウロスを輸送手段として活用したというのは事実だ、ともすれば今後より効果的な戦術を執って来る可能性もある、楽観視は出来ん事態だ。」

 その言葉に武は事態の深刻さを痛感した、BETAは戦術を学習する……しかしそれは対抗するだけでBETA自身が使う事は無いと思っていた、しかし今回BETAは人間が執り得る戦術を使用したのだ……今後もしBETAが戦術を駆使し出したら数に劣る人類の今以上の苦戦は必至だ。

 「それって……」
 「気持ちは分かるが今はこいつらどもだ、やるぞ!!」

 武の逡巡を吹き飛ばすように月詠は前に出る、そろそろケンタウロスの行動パターンも分かってきたので距離を保っての攻撃から積極的な攻撃に切り替えたのだ。

 『いいか、こいつ等を一匹も逃がすな。ハイヴに戦闘情報を持ち帰られると今後の戦いが非常に厄介になる、恐らくコイツラは試作体だ……ハイヴに情報が帰らなければ正式な製造と効果的な運用は一時的にでも見送られるだろう。ここで全滅させろ!!!』

 その焔の通信に武も意識を固める、今後の対策を練る時間を作るためにもBETAへ情報を渡さないためにも此処でケンタウロスを全滅させなければ……と。



 「うおおおぉぉぉぉ!!!」

 前面から突撃してきた一団に04式36㎜突撃機関砲を撃ちながら接近、前方で地面を蹴りそのままブースト噴射して敵の真上へ躍り出る、前方への1回転の動きに合わせ36㎜の弾丸を真下を通過するケンタウロスの背中に、その勢いのまま自機が頭を下にして引っ繰り返った状態になる、惰性で駆け抜けていくケンタウロスの背中に逆さのまま36㎜の弾丸を叩き込みつつ回転エネルギーを利用して頭を上に戻す。
 そして着地……前後から襲ってくるケンタウロスの手、前面のケンタウロスの足に腰の04式36㎜突撃機関砲より射撃を食らわせつつ04式近接戦闘長刀で両手を斬り飛ばす。

 ……そこで動きに停滞が出た、高度からのブースト軽減なしの着地とその状態での斬り上げで一瞬の「タメ」が出来てしまった。

 ……しかしそれも計算済みだ。



 〈斬!!!〉



 横合いから飛来した月詠の真紅の武御雷が敵の両腕を下から斬り飛ばし、返す刀で上半身と下半身を諸共に両断した。
 剣術でいう「斬鉄」の一撃だ、甲殻で出来た……しかも日本刀だからこそ出来る1級品の極意である。同質の甲殻鎧を見事に両断していた。

 (相変わらず凄げぇ……)

 武は月詠の相変わらずの技の冴えと見事さに自身が身震いして興奮しているのを自覚した、熱く猛る激情は自身もその高みに到達したいと切に己の心に訴えている。

 「派手な事をやるのはいいが後のことも考えて行動しろ。」
 「月詠さんがフォローしてくれると信じてました。」

 咎める様な口調だが実際にはあの動きを評価している、10体以上のケンタウロスを一瞬で殲滅したのだ。月詠の言葉に素直じゃない賞賛の意味を感じ武も信頼を表す言葉を返す。
 そうしながらも2人は怒涛の勢いでケンタウロスを撃破して行く、その旋風は敵を全滅させるまでやむ事は無かった……。


 そして……


 全てのケンタウロスを撃破し念の為トドメも刺した、戦場では左右に散った部隊が固まって被害者の救助や部隊の確認をしていた。
 周りはケンタウロスの死骸と戦術機の残骸で死屍累々だ、特に戦術機はざっと見ただけでも随分な数の残骸が見て取れた。

 「くそっ!!」

 武はその破壊された戦術機を見て悔しさに打ちひしがれた、月詠は表面上は冷静にエルファに被害を確認する。

 「エルトゥール大尉、ナーコンシー基地所属の衛士の被害は?」
 『全90機中、残存は36機です。』
 「被害の仕分けはどうだ?」
 『戦術機大破による重傷者が5人・軽傷者が2人、死亡者は45人、残り2名は未だ息はありますが……もう長くはありません。』

 「そうか…………」
 「チクショウ……」

 エルファの答えに月詠と武は目を瞑り黙祷する、未だ若い衛士の半数以上が死亡した……少しの間でも彼らを指導した月詠と武は誰もが有望な若者であった事を知っていた、困難な事態に際して逃げる事無く脅える事無く勇敢に戦い抜いたのを戦いながらも感じていたのだ。

 エルファはそんな月詠と武を見て部隊内通信で28遊撃小隊の皆に声をかけた。
 『こんな事を言うのは気休めかも知れませんが死亡者の多くは左に分かれた集団です、皆さんの戦っていた右集団からの死者は14人……左集団の死者の半数以下です。皆さんは死力を尽くされたと思います。』

 それは確かに気休めだった、しかし左集団の31人に対して武達の守った右集団は14人しか死者がいなかった事も事実なのだ。

 「それでもいたたまれないねぇ。」
 「ええ、私達は全力を尽くしました……しかし……」
 「順調に行っていた中での急な被害ってのは何時でも納得できないもんさ。」

 鮎川達もやるせない思いで周囲を見渡す。

 「響ちゃん?」

 反応が無い響を案じて柏木が通信を強制的に繋ぐ、

 「…………なんで……こんな……」

 響は俯いて涙を流していた、比較的年の近い響は若い衛士達と仲が良かった、その命が今回の戦闘で一気に半数が失われたのだ……

 「響ちゃん、私にも徴兵を控えた弟達がいるからね……この事態は人事じゃない、いつ弟達にこれと同様の事が起こるかも知れないんだ……それを考えるととても心が痛む。
 けどある意味この事態は仕方ない事だ、戦う以上被害は出る、何かを守るためには結局被害を覚悟して戦わなくちゃならない、ここで散って行った衛士達は皆覚悟があったんだよ、だから戦った……戦って死んで行ったんだ。
 響ちゃんが悲しむのは自由だけど彼等の死に疑問を持っちゃダメだよ、彼等はそれを覚悟して立派に戦って死んだんだ……響ちゃんにも命を賭けて戦う理由があるよね?」

 秘匿回線で柏木は響に優しく諭す、柏木が響を優しく扱うのも自身の弟達と重ねてしまうからだろう。



 「………〈コクン〉…………」



 静かに頷いた響を見て柏木は子供を見守る母の様に優しく微笑んだ、
 (この娘は強い……大丈夫……)

 「柏木、響は大丈夫なのか……」
 心配そうな武の通信が入る、しかしその顔は他人の心配が出来る程には良くは無い。

 「心配要らないよ、何処かの誰かさんとは違って心が強いからね。」
 「そうか……、って何処かの誰かって誰だよ?」
 「さあ……気になるんだ?」

 柏木は「ニタァ~」という笑いで武を見ている。

 「そんなに気になるんだったら……教えてあげてもいいよ。」
 「イイエ、謹んで遠慮させていただきます。」
 柏木の虐めたそうな視線に武はすごすごと引き下がる。

 「ふふふふ……、そっか……それは残念。」
 「なにが残念だ、まあいい……大丈夫なんだな?」

 武は最後にもう一度響の状態を確認する
 「言ったでしょ、今のキミよりは大丈夫だよ。」
 「そうか……」
 その言葉に武は少し安堵した顔で通信を切る、憂いの1つの解消と少しの気の緩みで大分気が楽になった様だ。

 柏木は微笑を張り付けたまま嘆息して呟く、
 「まったく、子供と同じくらい手が掛かるんだから白銀ってば。一々手を焼いちゃう私も私か。」

 武に対する自分の対応に思わず苦笑していた、……とその時急に通信が割り込んでくる

 「すまんな柏木中尉。」

 「月詠少佐……、「すまん」ってどう言う事ですか?」
 突然の月詠の通信にとぼけて返す柏木、しかし顔が微笑したままなのでもしかしたら全部解ってて発言しているのかもしれない。

 「落ち込んだ白銀の気を和らげた事だ、私ではあの様にさりげなく気持ちを変える事など出来ぬであろうからな……」

 月詠の沈鬱な表情に柏木は笑った。
 「う~ん、そうでもないですよ。月詠さんが励ましてあげれば白銀は喜びますよ。」

 「そうか……しかし私では……。」
 はたから見てると恋する乙女みたいなのは気のせいだろうが……月詠は首を捻りながら思案していた。




 その後……、その場で今回の戦いで散って行った衛士達の弔いが行なわれた。
 基地司令と第28遊撃隊を除き今回の戦いに参加した若い衛士は90人、重傷者が5人・軽傷者が2人、死亡者は47人というマレーシア戦線始まって以来の大きな被害だった。
 しかし今回の戦闘記録は後に戦う衛士達の礎となりうるだろう……シミュレーターのデータに刻まれる彼らの戦いの軌跡は決して無駄ではない。

 こうして初めての突撃級ケンタウロスとの戦闘は終わりを告げた。

 今回の戦いで全滅させたお陰でハイヴへ情報が持ち帰られること無く、以後の襲撃は続かなかったが……何時か必ずこの新種のBETAの猛威は戦場で振るわれるであろう。

 それは想像に難くない現実であった。 






 月詠と柏木の会話は以後も続けようかと思ったんですが……流石にこの場面では無理がありますので切りました。

 武は結構解ってきています、割り切ってはいないですけど……きっと1人か仲間とシミュレーターで想いを発散させるのでしょう。
 でも人間早々根幹は変えられません、納得したように誤魔化しても鬱憤は段々と溜まって行きやがて何処かで爆発します、その時武は……
 
 柏木と月詠の口調再度勉強……、オルタでは冥夜が一番偉くないので皇女様口調じゃありません、その為月詠と言葉が少しカブります。冥夜との書き分けに苦労します(いや冥夜は居ないのですが)
 柏木は……不思議空間?キャラ的には彩峰なんですが言葉的には美琴なんですよね、軽い美琴口調?

 次は……どうしよう?

 誕生日ネタがあるのですが……当時月詠の誕生日と年齢は公式で出ていなかったのでこのSS設定では勝手に決めていましたが……公式設定出てないですよね?
 あとそれ以外に「熱で看病」ネタとか「白銀危機一発(一髪に非ず)」とか「月詠危機一髪」とか……

 では次回で。



[1115] Re[35]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第37話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/17 23:15
2004年10月10日…スラーターニー基地




 新種のBETA・突撃級ケンタウロス(焔が強引にこの名前で通したらしい)の襲撃はオーストラリアの中央政府のみならず世界全てに衝撃を与えた。
 この新種のBETA出現に際してオーストラリアの首脳陣は慌てたが焔の

「BETAがケンタウロスを本格的に活用するまでにはまだ時間がある」という言葉に一応の落ち着きを取り戻した。
 (オルタネイティブ5で前の首脳陣が軒並み宇宙に上がってしまったので、現在は結構若い世代が中心で中々話が解る……と焔がぼやいていた。)

 とりあえず当座の予防策として焔に考案されたのが「馬柵(ばさく)」である、今回の戦いでケンタウロスは高度の跳躍をしなかったことを受けて敵の全高に合わせ22mの馬柵を作り上げた。
 これはバラバラの状態で保管され、ケンタウロスの襲撃に合わせ進路上に組み上げられる。
 各部品は1本の太い棒の様な物で他の棒との連結用のはめ込み部分が所々に付いている、棒の中身は爆薬で地面に突き立て柵を組み上げた後に安全装置を解除すると強度の衝撃で爆発するように設定されている、この安全装置は再設定も可能なので未使用の棒は回収できる。

 さらに今回の戦いで得られた戦闘記録を基にシミュレーターへの設定も行なわれていた、データを採っているのはケンタウロスと戦闘した若手衛士の生き残りでそれを焔が纏め出来たシミュレーターデータをスラーターニー基地の衛士と第28遊撃部隊の皆が相手をする事で最終的に仕上げる事となった。




 シミュレータールームで焔が纏めたケンタウロスのデータを相手に戦っている衛士達、実際に戦った武達はともかくとして他の衛士達も最初こそは戸惑っていたがそこは激戦を潜り抜けてきたつわもの達……たちまちの内に戦い方を見出し対応していった。

 「オウ、厄介な相手だぜ!」
 「ええ、実際に戦ってみると対戦術機用BETAというその呼称も頷けます。」

 ウォーカー大尉と榎本中尉もこの基地に待機していた、2人は前線常駐者で数ヶ月につき1月しか後方へ戻らないらしい。
 武達が戦ったときは偶々その1月だったそうだ。

 「そうだねぇ、でもエレメントで対応すればそう厄介な敵じゃないよ。」
 「接近戦は余程腕に自信が無いと危険ですけど。」

 実際にエレメントで敵を相手取っていた2人、接近する事無く常に一定の距離を保って撃破する事こそが一番望ましいと十二分に理解していた。

 「あと空中からの攻撃も有効だな、背中が無防備で固まってると纏めて当て易い。」
 と武の一言、
 「着地のフォローが必要だったがな、もう少し後を考えて行動しろ。」
 しかし横合いからの月詠の無常な一言にバッサリとやられた。

 「うぐぅ」

 思わず変な唸り声を挙げる武、得意そうだった顔が一点凄い気まずそうになっている。

 「そもそも貴様はもう少し周りの事を考えろ。」
 月詠が更に追い討ちを掛けて来るが武は手を振って慌てて言い募る
 「いや、ちゃんと考えてますって。でもあの時は月詠さんならちゃんと対応してくれるって信じてました。」
 「時には人を頼るのも良いが貴様には私の援護を必要としないだけの腕があるであろう、あの場面で私の援護を必要としたのは貴様の怠慢以外の何物でもない。」
 「パートナーなんだから少しくらい助けてくれてもいいじゃないですか。」
 「私は貴様の腕を信頼しているなれば「あーあー、御2人さん。」

 突然に横から鮎川の呆れたような声が掛かる。

 「夫婦喧嘩も痴話げんかも良いけど場所を考えようね。」

 柏木が周りを示しながら言う、

 「ち……痴話……柏木!」
 「ふ……夫婦……柏木中尉!」

 武と月詠は声を揃えて叫ぶが同時に示された周りを見た、そして皆の注目が自分達に集中しているのを見て取って途端に恥ずかしくなった。

 「……………」
 「……………」

 途端に赤くなり沈黙する2人、周りの皆はそんな2人の様子を見てクスクスと笑っていた、それが武と月詠には一層恥ずかしかった。

 「あれ………」

 その時一緒に笑っていた響が急に崩れ落ちる、

 「おっ、よっ……と」
 隣にいたヒュレイカが手を出して受け止める、その際響の顔を覗き込む事になったが呼吸が荒く発汗の量が多い。

 「「響!」」「「響少尉」」「響ちゃん!」「響さん!」「お嬢ちゃん!」

 受け止めたヒュレイカ以外の驚愕の声が響く、

 「響!!どうした!?」

 武が心配そうにヒュレイカに支えられた響に近付く、他の面々も心配そうに響の側に寄っていく。

 「あ……み…んな……」

 抱き支えられた響は苦しそうに声を出したがそのまま意識を失ってしまった……
 その後響は大急ぎで医務室へと運ばれたが結局ただの風邪だと分かり、薬を貰い部屋で寝て養生する事となった。




 その日の夜……



 「コンコンッ」

 「響、入るぞ。」
 響の部屋にノックをしてから入ってくる人影、寝ていた響は薄っすらと覚醒してその人物に目を向ける。

 「お兄ちゃん…………」

 それが武だと解ると半場朦朧としていた響の意識は急に現実の世界を認識し始めた、自分の寝ているベッドに向かって歩いてくる武の姿が夢の世界の産物ではない事を確認する。
 「よう、大丈夫か?さっき鮎川大尉が覘きにきた時は寝ていたみたいだけど。」
 ベッドの側の椅子に腰掛けてこちら覗き込んで来る、その顔の近さに恥ずかしくなってしまった。

 「大丈夫だよ……、ちょっと色々あって疲れちゃったみたい。」
 ゆっくりとこれまでを反芻しながら言葉を紡ぎだす、

 「そうか……」
 武も感慨深げにそれに頷く、日本を脱出してから今まで結構色々あったが、最近の甕速火に慣れる為に努力していたのと今回のケンタウロスとの戦い……そしてその後のシミュレーターでの戦闘データ採りという連戦で疲れが累積していたのだろう。
 体が出来ている武でも結構辛い時もあるのに未だ未成熟な響が一生懸命頑張っているのは純粋に凄いと思う。

 「響は頑張るな……。」
 無意識によしよしと頭を撫でると響はくすぐったそうに目を細めた、

 「もう!子ども扱いしないでよ。」
 怒った声とは裏腹に布団を引き上げ口元を隠し照れ隠しをしていた、目だけで武を睨みつけるが全然迫力が無く武は思わず心の中で笑ってしまった。

 「……………」
 だがそのままの状態で急に静かになった響に武は首を傾げる、

 「どうしたんだ?」
 武の質問に響はぽつりぽつりとその心中を吐露する、

 「私がもっと小ちゃかった時もね……風邪引いてこうやって寝込んじゃって……、その時もお兄ちゃんとお姉ちゃんがお見舞いに来てくれたなって……」
 お兄ちゃんとお姉ちゃん……それはこの世界の武と純夏のことであろう……

 「あの時はお兄ちゃんが無駄に騒いでお姉ちゃんにぶっ飛ばされて……、そんなことを思い出したら……あんな光景はもう見れないんだと思っちゃって……」
 武はそれに何も言えることはない、自分は「この世界」には何も関わりがないから……

 しかし武の深刻そうな顔を見て取って響は慌てて言い繕う
 「ごめんなさい、風邪で感傷的になっちゃって……。武大尉は……関係ないですよね。」
 最後の方はやや言葉を濁す、武がいくら関係ないと主張してもその容姿はこの世界の武の成長した姿そのものだからだ、響も今だ全く関係ないとは思えないのだろう。

 「まあ響の昔は知らないけど今だって心配してくれる人は大勢いるだろ。」
 前の話題を払拭するように努めて明るく言い募る、響の過去は戻らない……しかし今の響を心配する者が多数いるのも事実なのだ。

 「うん……そうだね。」
 「そうそう、俺のほかにも皆お見舞いに来ていたぜ。」
 ゆっくりと頷いた響に武は笑う、その言葉を聞き響は嬉しそうに微笑んだ。
 「じゃあ、あんまり長居してもなんだからもう行くな。」
 武は席を立つ

 「あ………、うん……」

 響は一瞬何かを求めるように手を武の方に伸ばした、だがすぐそれを引っ込めて頷いた。

 「じゃあな、早く良くなれよ。」

 そう言い残して武は部屋を出て行く、後には静寂だけが残る。
 その静寂の中響は一瞬伸ばした自分の手を見つめてした。

 (寝ている間ずっと側にいてほしいって言っても迷惑だよね……)

 風邪で感傷的になっている所為か妙に物寂しく思わず側にいてほしいと願いそうになってしまった。


 
 そして響はその気持ちを押し込めまた眠りに入っていった。






 番外編の様な本編?
 次の話とセットっぽいです。 



[1115] Re[36]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第38話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/17 23:26
2004年10月11日…スラーターニー基地、武の部屋




 翌日響はすっかり元気になっていた、薬を飲んで一日ぐっすり寝たお陰で熱も下がり快調であった。
 しかし、その替わりかどうか知らないが今度は武が風邪を引いた。
 朝食の際に発覚してそのまま医務室に連行され部屋のベッドで休む事となってしまったのだ。

 そして昼食を食べ終わった後に響は昨日のお礼も兼ねてお見舞いついでに自分が看病でもしようかと武の部屋を訪れたのだが……

 「誰かいる……?」

 部屋のドアをノックしようとした所で中から話し声が聞こえた、どうやら既に誰かが中にいるらしい。

 その声は……

 「柏木中尉……」

 響は思わず呟く、そしてその呟きに乗り異様な危機感が急に首をもたげてきた。
 響の乙女注意報がエマージェンシーを掻き鳴らす。だがここで突入するわけには行かない、相手は百戦錬磨の柏木中尉……様子を見るのが得策だ!

 響は大急ぎで通信室に入る、そして以前仲良くなった基地職員の女の人から教えてもらった超裏テクを使用する。
 各部屋にある通信装置の受信側だけ強制的にオンにするという荒業だ、向うの部屋の中の話だけを拾えるという……男には絶対に教えてはならない、女の人達の間で浮気調査用に確立された脅威の裏テクである。
 響は武の部屋の通信装置を強制起動させマイクの感度を上げて話しに聞き入った。


 『……まあいいんだけどね。』
 「なんだよ柏木、それじゃ俺がいけないのか?」
 『分からなければいいんだよ、鈍感君。』
 「うぐっ、俺はそんなに鈍感じゃないぞ。」
 『あはははははは、白銀が……、へえ~~』
 「な…なんだその目はっ!」
 『いや~~、207の皆も、響ちゃんも月詠少佐も色々大変だな~~って』
 「なんだその色々大変ってのは?」
 『さあ?それは私の口からはなんとも。』
 「くっ……、お前は一体何しに来たんだ」
 『お見舞い。』
 「白々しく言うな、弱っている俺をからかいに来たんだろう、そうなんだろう。」
 『ふふふふ、分かってないなあ……』
 「何がだよ……」

 『やっぱり白銀は白銀だよ。ど・ん・か・ん・くん。』

 〈パタンッ〉

 「あっ待てっ柏木……。くそっ、訳解らねぇ……」

 そして静寂……




 「むう……!」

 柏木と武の会話を聞いていた響はご立腹であった。
 響は武ほど鈍感ではない、今の会話の意味している事も大体は理解できていた。

 「く……、これは柏木中尉の参加意思表明と捕らえても、いや……まだ解らない、けど確実に好意は持っている。」

 響は首を捻って思案する、今まで柏木の心中は謎だったが今の会話でその一部を垣間見た為色々と考えないとならなくなった。

 〈コンコン〉

 ……とそこへ新たなノックの音

 『白銀、私だ。』
 「あ、どうぞ」

 この声は……


 「月詠少佐……」


 戦慄のダークホース月詠の登場であった。

 (柏木中尉の場合お兄ちゃんが中尉に好意じゃなく仲間意識を強く持っているから中尉からの好意があっても安心だけど……)

 柏木の場合武に好意を持っているようだが武は柏木の事を仲間と思って全然そういう目で見ていないので一応は安全だ、

 だが月詠は違う。

 (月詠少佐の場合前は信頼だけだったけどこの頃危険な兆候があるのよね、しかも悪い事にお兄ちゃんも月詠少佐のこと意識してるし……)

 共に戦う仲間→信頼する戦友→背中を預け合える相棒、と月詠の武に対する評価は段々と上がってきた、しかも最近は恥ずかしがったり夫婦漫才もどきを繰り広げたりと色々危険な兆候が出てきている。
 更に武自身も月詠の事を意識しているのが頂けない、まだ明確には成ってないがその気持ちが発展して好意から愛情に成ったりするともう駄目だ。

 武は既に恋人が2人もいるが安心は出来ない、響は武が無節操な男でない事を知っている、少し軽いところがあるが基本的に他人や自分の想いを大切に出来る人だ。
 しかしその恋人は2人とも遠いところに居る。
 男と言うものは弱いものだ、女は1人でも戦って行けるが男は何処かで他人の優しさや温もりを渇望してしまう、どんなに屈強な戦士でもそれは同じだ。
 そして響は武も例外ではないと思っている、自分を優しく癒してくれる恋人が側に居ない現在、他に武に愛情を向ける女性がいて武自身もその女性に深い愛情を持ってしまったらきっとその関係を受け入れてしまうだろう。

 戦場でプラトニックとか純愛などと言っていられるのは短い間だけだ、長く戦い続けた神経は磨り減って磨耗して……側に想いが通じる人が居たらその人に優しさを求めてしまうだろう。
 だが武はそれで2人の恋人の事を忘れる事は絶対にしないだろう、さっきも言ったがたとえ戦場で優しさを求めても両者両想いでないと武はきっと受け入れない……ともすればそれは白銀武という男の優しさの現われなのか残酷さなのか。

 だから武はきっと3人共受け入れて全員を愛そうとする……いや愛するであろう事は確実だ。
 白銀武という男は基本的に情けなくお調子者のくせに掛け値なしのお人好しで(女性重視の)博愛主義者なのだから。


 『調子はどうだ。』
 「そんなに悪いわけじゃないですよ、今も意識はハッキリしていますし。」
 『それは薬が効いているからであろう、大人しく寝ていろ。』
 「響より体は丈夫ですからね。」
 『だとしても風邪は拗らせると後に響く、治せる時に素早く治せ。』
 「はいはい、分かりました。」

 『…………』

 「どうしました?」
 『いや……、最近そなたは変わったな……。』
 「変わった?」
 『初めて会った時は怪しいやつだった。』
 「うぐっ」
 『だがあの12・5事件で一部見直したのは確かだ……』
 「……あれは、」
 『そして共に戦う様になり数ヶ月……思えば奇妙な縁だ、冥夜様の想い人であるそなたと背を預け合って戦っているとは。』
 「俺も月詠さんとこんな風な関係になるとは思いませんでした。」

 『ふふふふふ……』
 「ははははは……」


 『………………』
 「………………」


 『私はそなた共に戦える事を嬉しく思う。』
 「月詠さん?」
 『そなたは悠陽様ならず冥夜様も救ってくれた、そしてそなたの考案したXM3はわが国のみならず多くの衛士を助けている。……そなたと共に戦うのはその恩返しの為だと、最初はそう思っていた。』

 「…………」

 『されど今は違う、そなたと共に戦える事、そなたに背中を預け戦うことは己にとって無常の喜びと成っている、過去何のしがらみもなくただ純粋に、共に戦える戦友というものは私には訓練生時代にしか存在しなかった……、
 私の根幹には悠陽様、冥夜様、そして国の為に戦うという意思がある。されど今の己の内にはそなたと肩を並べ戦う事に無上の喜びを覚える想いも確固として存在するのだ。』

 「月詠さん、……ありがとうございます。俺なんかの事……、俺は悠陽殿下の事も冥夜の事も出来る事をやっただけです、そして自分の想いに従って行動した……ただそれだけです。
 俺には結局難しい事なんて考えられない、出来る事を・出来る時に・精一杯やる、あの12・5事件で解ったことは結局これだけでした。」

 『良いのだ白銀武。そなたはそれで良い、なればこそ冥夜様もそなたに想いを注いだのだろう。』
 「…………そうですか。」

 『……埒も無いことを言った……。すまんな、病症の身に色々と……これで失礼する。』

 「あ……、月詠さん。」
 「白銀武、明日の朝食後に何時もの場所で待っている、それまでに風邪を治しておけ。」

 〈パタンッ〉


 「……明日こそは勝ちますよ。」






 「む…むむむむ……!!!」


 響のご立腹ゲージは臨界点であった。


 (なになになに!あのイヤン・アハン・ウフン・の甘ったるい雰囲気は……、キーーーー!!!お兄ちゃんのムッツリーーーー!!!)


 とにかく乙女思考が暴走している響。


 (月詠少佐!今のは告白?遠まわしな告白ですかーーーー!!! それともフラグ?攻略フラグONイベント……もしかしてもしかしなくても私の知らないところで他の攻略フラグも取得済みーーーーーーー!!!!(既に3つ程入ってます))


 果てしなく暴走する響であった。





 
 風邪イベント消化……月詠フラグが1つONになりました。これで(多分)4つ目です。
 ……作者が無意識にONにしてるかも知れませんが把握してるもので言えば4つ目という意味です。
 深層心理下では既に両想いっぽい2人ですね、私は砂吐く程に甘ったるいのも大好きなんですが……こういう微妙な雰囲気ってのも大好きです。(どれも好きって事よ)恋愛関係は見るのも書くのも大好き。
 
 次は、オーストラリアに行くかボルネオ島の訓練生の所か……
 イベントはまだ未消化が幾つか……、誕生日ネタは如何しよう?

追伸)鏡面装甲の設定、本編が進んできたので少し完成形のネタバレしときました。

 では次話で。
 



[1115] Re[36]:マブラヴafter ALTERNATIVE+
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/18 20:50
 何らかの要因で2重投稿になっていたようでした。
 
 
 



[1115] Re[37]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第39話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/18 22:33
2004年10月24日……ボルネオ島…インドネシアではカリマンタン島




 武達第28遊撃部隊は14日にボルネオ島までやってきた、何でも衛士訓練学校の訓練生に活を入れるのが目的らしい。
 衛士訓練学校ボルネオ島に幾つも存在する。
 基本的に武達が居た横浜基地衛士訓練学校と同じ様な体制だが育成期間などのシステムが全く違う。

 衛士は志願制で14歳から訓練に参加できる。
 正し16歳の徴兵年齢になると能力適応検査で水準以上の者は強制的に衛士訓練校に回されて来る。
 まず最初の1年で適正検査や基礎訓練や基礎知識の習得を施す、その後データによって6人ずつのグループに分けられる…このグループ分けは2人組のみ本人達の自由選択が許可される。
 そして次の半年で更なる知識、体力、技術、部隊間の連携が鍛えられる。
 ここで武達のやった総戦技演習の様なグループごとのサバイバル演習や実戦を想定した演習が種類を変えて3回行なわれる、なお1回まではギブアップが認められるが2回落ちると問答無用でもう半年訓練に回される。

 演習に受かれば今までの衛士候補生から晴れて衛士訓練生となる、そして半年で戦術機の基礎や基本的な動作・戦闘訓練を叩き込まれる。
 ここで2年、更に各種データを元に6人を更に3人ずつに分ける、前衛・中衛・後衛の能力的役割分担だがこれは必ずしも絶対ではない、前衛と後衛がスイッチする事もあるので衛士候補生は基本的にはどんな状況にも対応できるように鍛えられるからだ。
 そしてこの後1年はシミュレーターでの本格的な訓練が始まる、ここであらゆる事を叩き込まれるのだ。

 3年目終了にしてようやく衛士の卵が出来上がり彼らは自分の新品の機体と共にマレーシアのバッターニー基地へ送られる、そこで初めて実機での訓練を行い最終試験を受けるのだ。
 ここで初めて少尉任官を貰い新任衛士と成れるのである。

 シミュレーター訓練をしている衛士訓練生に活を入れるため定期的にベテラン衛士からランダム呼ばれる部隊があるがね今回は武達に白羽の矢が立ったのである。

 だが今はその話は割愛しよう、この話は上記の説明とは何の関係もない……ただそういう場所に居ると思っていてくれればいい。




 空気が凍り空間が悲鳴を上げている……そう自覚できる程に感じる絶大なるプレッシャーの中襲い掛かってくる殺気を感じ肌が粟立つ、それに対抗するように自らの体の内で練り上げた「気」を体の内側から外側、表面の皮を上に押し広げるイメージで張り巡らせる。

 でないと体に纏わりつき押し潰そうとするような殺気に本当に潰されてしまう、それは視覚的イメージからくる比喩的な表現だが事実でもある、予備知識の無かった一番最初などはその重圧に負けて地面にへばりつくように崩れ落ちた事もあった。

 今でもこの殺気と対峙する時は少しでも気を抜くとこの重圧が体を蝕む、それは重力の鎖となって体の自由を束縛し動きを阻害させるのだ。

 (くっ…………)

 手に持った摸造刀の柄を力を込めて握りこむ、合成樹脂で出来た摸造刀だが本物に似せて焔が作った特注品だ。取り回しの重量などを同じとするため中心に鉄の棒が入っていてさらにその周囲を覆っている合成樹脂にも鉄が混合してある、一番外側の層は比較的柔らかい特殊合成樹脂で出来ていて人体に命中した時の衝撃を吸収してくれるが……この人の前ではそんな機能も気休めでしかない、当たったら多分骨が砕けるか最低でも折れる。

 相手は動かない、ともすればこれは俺を鍛える訓練でもあるからだ。
 俺は今でも「斬鉄」が出来ない、一応甲殻を甲殻刀(04式)で斬る事は可能だが凄く遅かったり、刃が途中で止まったり、切った後に欠けたりしてしまう。
 だから自身を鍛える、そして俺にとってはこの人との実戦が1番の修行になるのだ。普段御無中尉からも剣の型や扱いを教わっているがやはり実戦にまさる上達手段は無い、しかもそれが最強の難敵ならば尚更の事だ。

 共に正眼の位置で剣を構える、先端がもう少しでくっつきそうな位置。



 〈すうぅううぅぅぅぅぅ〉〈こおぉおおぉぉぉぉぉ〉

 息吹、剣術で基本となる呼吸……ただ呼吸するだけでなく、吸う時は大気にあまねく「気」を吸い込み体中に行渡らせ循環させるイメージ、そして吐く時は体の中に溜まった濁った・使用した気をその奔流で掻き集めながら吐き出すイメージ……いわゆる「気を練る」というヤツだ。

 息を吸い込み高まった「気」を一度腹腔に溜めるそして……

 『ふっっっ!!!』

 それを一気に消費しながら前身、口から呼気が勢い良く飛び出すのと合わせて右足1歩で相手を射程圏内に捕らえる、既に腕は引かれ剣は手前に引き上げられている、ここから打ち下ろすだけで自分は勝てるだろう……その前に自分がやられなければ。
 相手と自分の刀の長さは同じ、リーチの差は少々あれど自分の射程圏内だとすればそこは相手にとっての領域も同然なのだ。
 左から神速の薙ぎ払いが接近してくる、右上から打ち下ろす斬撃を軌道修正しそのまま左からの攻撃の迎撃にあてる。
 特殊合成脂同士の何とも言えない激突の感触の次に強い反動、膝のバネを使い振動を地面に逃がしつつ打ち合い流れた剣先を自分の正面に、そこで左下からのすくい上げるような攻撃が襲ってくる、これも剣を打ち下ろし迎撃する。
 剣を引き戻し3度目の攻撃、今度は左上から円弧を描く様に打ち下ろす。
 相手はそれを顔の右横に立てた剣で迎撃しそのまま柄を前方に押し持ち上げつつ前身、刃の上で絡んだ俺の剣が相手の刀身が後ろに逸れるのに合わせその刃の上を滑り流れていく。
 必死で剣を引き戻そうとするが剣が後ろに流れた所で既に死に体、目の前の人がこの大きな隙を逃がすはずが無い、……と思った瞬間には既に、俺の首筋には模擬刀といえど殺気を纏って危険となった凶器が突きつけられていた。


 「参りました……」

 武は自分の目を鋭く射抜いている眼光と目線を合わせたまま静かに呟いた。
 次の瞬間には己の首筋に当っていた模擬刀が離れ、付近に蔓延していた強大なる重圧も霧散し、2人が戦闘態勢を解いた事により付近に漂っていた闘気も霧散していく。

 「反応は昨日より速くなっている、日々進歩している証拠だ、これからも精進せよ。最初の1撃と2撃目は反応としては良かったがアレでは3撃目が続かぬ、あの場合2撃目は迎撃ではなく回避にして敵の隙を窺った方が良い。」

 月詠の今の戦闘の解説を聞き自身の戦いを省みる。
 (回避した方が良いのは分かってはいるんだけど……反応するだけでも精一杯なんだよな。)

 あの時は咄嗟に打ち下ろして迎撃しただけだ、条件反射で体が動かなかったらと思うとゾッとする。
 武と月詠は戦術機でも生身でも剣術や格闘の実戦形式の試合を日々行なっている。
 武は戦術機に乗れば月詠に迫る実力を発揮できるが生身のままだと弱い……平均以上には強いのだが月詠や御無、ヒュレイカや鮎川が強すぎるのだ。
 戦術機でも立ち止まっての格闘戦や剣の勝負では武は負ける、武御雷と不知火の性能差があっても負けるのだからその実力の差が窺えよう、まあ武は機動力を中心に戦略を組み立てて行くので立ち止まっての強さは余り意味が無いのだが……それでも実力の底上げは更なる強さに繋がる。

 「今日も格闘、剣術両方共負けましたよ……」
 「されど実力は確実に上がってきている、対戦している者とすればそなたが日々成長していく様をこの身で感じられるのは嬉しい事だ。」

 月詠は武に向かって言う、仄かに笑んだその表情は太陽の光を受けてとても美しかった。

 武は思わずその顔に見惚れながら言葉を返す、
 「それは光栄の至りです、これも厳しい師匠達のお陰ですよ。」

 実際に武に格闘技と剣術を教えている御無は遠慮が無い、「体で学べ」が信条の教育はとても厳しく武は何時もズタボロになっている、月詠との実戦形式の試合も心身を磨り減らす。
 しかしその分効果は武の成長を見れば十分以上だと分かる、しかしそれも武が努力してこその成果だ、月詠もそれが解っている。

 「謙遜するでない、それもそなたの努力があってこそだ。されどまだまだ未熟なのは事実、常に自身を磨き精進せよ。」
 「解ってますって、気を抜くと後が怖いですからね。」

 顔は笑っているが内心は戦々恐々だ。
 この場合の怖いは練習をサボって叱られる事ではなく、練習をサボった為に攻撃を捌けなくなって命の危機に晒される事だ。特に御無の特訓は武の怠慢を考慮に入れていない、常に昨日の成果から算出したギリギリのラインで攻撃を仕掛けてくるので少しでも気を抜いたり練習を怠ると確実にヤバイ、「弱きものは淘汰されよ」が彼女の流派の信条なのか御無の嗜好なのか……。




 その後汗を流す為シャワールームに向かう2人、その時月詠は不意に声を掛けて来た

 「白銀、……その…今日の夕食前に…私の部屋へ来てくれないか。」

 その突然の嘆願に武は面食らう、何時もの強気な月詠にしては控えめで逡巡しているような態度もそれに拍車を掛けていた。

 「ええ、勿論いいですけど……」

 一応やる事は特に無いので了解の返事をする、後に「何をするんですか?」と聞きたかった所だが月詠の態度と雰囲気にそれを言い出せないでいた。

 「そうか……、では夕食の時間の少し前に部屋に来てくれ。」

 そう言い残して月詠はシャワールームに消えていく。

 (部屋に呼ぶって事は他の人には話せないような事だよな、でも幼馴染の焔博士じゃなくて俺を呼ぶって……いや、焔博士も呼んでいるのか?……まあ考えても解らないか。)

 色々考えが浮かんできたが所詮その時にならないと分からないので一端思考を打ち切って武もシャワールームに姿を消した。

 今日の午後は一抹の不安と少々の好奇心を抱えたまま過ごす事になった武であった。




 そして夕食前。




 〈コンコンッ〉

 「月詠さん、白銀です。」
 『入って来い。』

 ドア越しにくぐもった月詠の声を受けて武は扉を開ける、そして部屋へ足を踏み入れる。武はそこで目撃した物に驚愕の声を上げる。

 「うわっ、如何したんですかこれ?」

 部屋に据え置きの簡易テーブルの上には料理した食べ物が並んでいた、未だ湯気を立てている所から見ると作られたばかりであるらしい。

 「食堂の知り合いに協力してもらってな、とりあえず座れ……その前に手を洗って置け。」

 「あ……、はい!」

 テーブルの上の料理に目が釘付けになっていた武は我に返り、洗面所で手を洗ってから示された席に着く、頭は未だに混乱してとりあえず指示に従ったような感じだ。
 月詠も武の目の前に腰を下ろす、武がざっと目の前を見た所料理は2人分には少々多いくらいの量だった(勿論何時も御代わりしている身とすれば多すぎるという事はない量だが)

 「それで、一体如何したんですか……」
 「この料理」「俺を呼んで」語尾がどちらとも取れる質問をする武、月詠は一瞬逡巡した後に武の目を見詰めて言った。

 「実はな、今日は私の誕生した日なのだ。」



 「は…………?」


 その言葉に武の思考は一瞬全てフリーズした。

 (ちょっとマテ今なんて言った……誕生した日……誕生した…誕生日……)

 「誕生日!!!」

 脳内で言葉が結合され意味が理解された武は思わず声を上げて叫ぶ。
 武の突然の奇行にはもう慣れたのか、月詠は平静と言葉を返した。

 「何時もは1人で行なっていたのだが今回はそなたにも参加してほしくてな、こうして呼んだのだ。」

 そんな言葉に武の頭の中は色々な思考がグルグルと回っていた。
 (誕生日……、あの…あの月詠さんが誕生日を祝う為にこんな事を行なうなんて!……いや、それよりもなんで俺を?……これは何かの陰謀か!!!)

 人間ありえない事態に直面すると色々大変らしい。
 武はどうにかこうにか脳内思考を平定させると月詠に質問する。

 「あの……月詠さん、つかぬ事をお聞きしますが誕生日って……?」

 この場合「なぜ誕生日を自分を呼んで祝うのか」と聞きたかったのだが月詠は違う意味に捉えたらしい。

 「貴様知らんのか?自分の誕生した日には、産んでくれた母上や今まで自分を育ててくれた人々、そして生まれて来た事に感謝を捧げる日だろう。」


 「え…………」


 その言葉に武は自分が勘違いをしている事を思い知った、武の感覚で行くと「誕生日」は「自分が生まれてきた事、1つ大人になったことを皆と喜び合う」…という様な認識だ。
 しかし月詠の認識では「自分の誕生日だけを祝う」のではなく「自分を育ててくれた他の人々」にも感謝を捧げる日なのだ。
 元来誕生日とはそういうものだ、しかし武の居た世界の日本では「誕生日」とは「自身の生まれてきた日」それ自体を感謝する事に置き換わってしまっている。
 
 (そうか……そういう事なら納得だよな。……あれ?それじゃあなんで俺を呼んだんだ。)
 誕生日を祝う事は納得できたがそれでは自分を呼ぶ訳が解らない、さっき言っていた様に月詠1人でも構わないのではなかろうか?

 「あの……なんで俺を呼んだんですか?」
 その武の質問に月詠は首を傾げて少し黙考した、少し経って言葉を発する。

 「解らん。」

 何とも簡潔な一言だった。


 「は…………?」


 武はその言葉にまたもや驚愕した、月詠が「解らん」などという不明瞭な答えを返す事事態が信じられなかったのだ。

 「いや、そなたに私の生まれてきた事を祝ってほしかったのも事実、だがなぜそう考え実行したのかが解らんのだ。」

 月詠は眉を顰めながら言い募る。もしここに焔がいたら大爆笑していたし、柏木がいたら凄まじく怪しい笑みを浮かべていただろう、そして響は大暴走していた事確実だ。

 しかし対峙するは究極の朴念仁、やはりその隠れた気持ちにも気付けないでいた……、そして月詠自身にも……。

 「そうですか……。」
 「母上が正月や節分や雛祭りなどの行事が大好きでな、昔はよく一緒に付き合わされた者だ。軍に入ってからはその様な事もなくなったが誕生の日を祝うのだけは毎年行なっていた。」

 武の解った様な解らない様な返事に構わず月詠は言葉を募る、少しだけ焦った様にしているのが窺えた。

 「だから白銀、今回はそなたも一緒に祈ってくれ。私が生まれてきたこと、そして今の私を形作ってくれた数多の人々に、そして私をこの世に誕生させてくれた母上に。」

 月詠は真摯な表情で武を見る、それを受けて武も頷くように目線を合わせた。
 「解りました、俺でよかったらご一緒させて頂きましょう。」

 武の返事に月詠は微笑し目の前で手を組んだ、それに合わせ武も自分の目の前で手を組み目を瞑る。そして未だ見ぬ月詠の母に感謝の言葉を捧げた。


 こうして月詠の誕生を祝福する会は静かに始まった、長い祝福と感謝の祈りの後武が月詠の料理に舌鼓を打った事も一応報告しておこう。

 ちなみに月詠の年齢は武の3つ上の25歳らしい(武は今年の12/16で22歳となる)




 その日の深夜……




 「……っ、もう一度……」

 「え……?」

 「今の所をもう一度説明してみろ!」

 焔の剣幕に武は後ずさりながらも説明する。
 月詠との一時を終えた武はその後、日課になった焔への自分の世界の話を行なっていた。しかしある事を話した途端急に焔が凄い剣幕で詰め寄って来たのだ。
 説明を詳しく聞いた後黙考に入ってしまう焔。
 武は凄い剣幕だった後長く動かない焔に戸惑い声を掛ける。

 「あ……あの……、博士?」

 「ふふふふふ……」

 「……?」

 急に含み笑いを始めた焔を武はいぶかしむ、しかし焔の笑いは止まらなかった。


 「ふふふふふ、ふはははは、ははははははは!!!」


 「はっ博士!?」
 突然の大笑いに武は大いに戸惑う、しかし焔の笑いは止まらなかった。

 「ははははは、そうか!そういうことだったのか!!!なんでこんなに簡単な事に気付かなかったのか。……いや、白銀が居たからこそ此処に辿り着いたのか?」

 焔は武をジロジロ見て言い募る。
 「白銀、やはりお前はこの世界を変える為に放り込まれた何らかのファクターらしい。XM3、クーデター事件、新兵器の数々、そして今もまた!!!」

 武は驚きで言葉も出ない、呆然と焔を見詰めている。

 「お前は世界を変えた、そして今もまた世界の一部を変えようとしている。たとえそれがお前だけの力では無くともお前が居なければこんなにも早く実現しなかった事だ……いや、たどり着けるかどうかさえ定かではなかった。」

 「これで人類は簡単には負けなくなった、生体金属、鏡面装甲、そして循環再生反応式エンジン!そしてこのエンジン完成により今まで実現できなかった新たなる兵器の数々!やれるぞ、人類にはまだ生き残る術がある!!!」

 焔の喜びの大半は武には理解できていなかったが、どうやら今の話で生体金属と鏡面装甲、そして恐らく前に言っていた3つ目の発明だろう循環再生反応式エンジンの理論が完成した事が窺えた。

 「じゃあ、人類は勝てるんですね!!!」
 武も興奮して叫ぶ

 「勝てるかどうかは保障できん、しかし勝てる確率と生存年数が上がった事は事実だ。」
 焔はやはり科学者なのか感情に任せて「絶対」という保障はしない、この3つの要素があっても厳しい事は確実なのだ。

 ただ今は純粋に喜んでいたかった。

 そう……人類の生存の可能性が上がった事を……




 そして深夜……




 (これで今私の頭の中にある全ての発明の基礎理論が出来た事となる、あとはより良く改良して行くだけだ。)

(それもこれも白銀武のお陰……、夕呼に聞いた時は信じられなかったが白銀がこの世界に何らかの波紋を投げかけたのは事実だろう、夕呼はこれでオルタネイティブ4が完成すると意気込んでいたが、完成しなかったのもひょっとしたら何らかの要因による計算の内……ばかな何を考えている。)

 (だがこれで白銀武の存在価値は一気に薄れた、もう白銀武が何時死んでも……いや白銀武という存在自身が何らかの吸引力と存在の意味を持っているとしたら……)

 (夕呼に教えてもらった白銀武自身が因果導体としての役目を担っている事……それから導きだされる事は「あの」要因によって白銀武の因果導体としての役割が薄れてきている事。)

 (なのになぜだ?なぜ白銀武はこの世界に存在していられる、いや現状安定すらしている。因果が薄れた事でこの世界での白銀武の存在は不安定なものになったはず、あの少女が居なくなった事で白銀武の存在はこの世界から抹消されるか弾き出されてもおかしくない……なのになぜ……?)


 だが……その答えは出ない。






 現状生身では武は柏木と響にしか勝てません、戦術機でも機動を使わなければ勝てません。

 自分で5番目のフラグを入れてしまった月詠真那。
 月詠は不安定で未だ小さいですが武への想いを確定させた様です。
 しかしこの後はまだです、武は朴念仁ですし月詠は恋愛に疎いというかまだ無関心なので……、双方きっかけが必要です。
 あと月詠の年齢は武の3つ年上としています、2つじゃ近すぎるし4つだと微妙なので。この辺は完全に私の好みです。
 
 そして3つの基礎理論が完成しました。今回の話で鏡面装甲と(まだ解説に乗っけている「本当の完成版」ではない)循環再生反応式エンジンの基礎理論(まだ完成は出来ません)が出来ましたが……、これを完成させる為には……そして厚木ハイヴ攻略へ!

 最後の焔の意味深な言葉……、この世界にも色々あります。
 
 なお焔は横浜基地建設とBETA施設の研究にも関わっているので鑑純夏の事は知っています、オルタネイティブ4の事もある程度まで知っていますが00ユニットの事だけは知りません。
 しかし量子電導脳の事は知っているので大体の予想はついている様です。

 では次話より厚木ハイヴ攻略の為の準備が……といっても私には政治の世界なぞ書けませんので……。
 後方は焔の工作に頑張ってもらいましょう。

 厚木ハイヴ攻略とその後のトンでも設定の話しが終われば第1部(前半・人類準備編(仮))の終了です。
 ちなみに第2部(中盤)が世界激闘編で4年間の戦いです(ここはオムニバス形式で行こうかと思っています。)
 そして第3部(後半)が地球決戦編です。
 そこまで書ける様これからも頑張りたいです。



[1115] Re[3]:焔の開発日誌3……余り開発ではないけど
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/19 10:14
??月??日…???




 夜の出撃の後格納庫で焔との会話。

 「あれ、博士どうしたんですか?」
 『お前達の機体の整備に決まっているだろ。』
 「へえ、でも随分眠そうですね。」
 『今まで色々やっていてな、寝ようとした所だったんだ。』
 「今度はなにやってたんです?」
 『特別な事じゃないダウンサイジングだよ』

 「ダウンサイジング?」

 『技術進歩に伴う高密度化・小型化によって、同じ容積・重量で従来と同機能か、より高性能な物を作る事や運用コスト削減等を目的として、従来品よりも小型の機器で間に合わせる事を指して言う。要するに性能はそのままで小型化するのと性能を上げても従来のままの大きさに保つ事を言うのだよ。』

 「へえ~、じゃあ戦術機が小型になるんですか?」
 『いや、この場合は高性能化だよ。』
 「なるほど。」

 『ふあ~~あ、眠い眠い。』
 「そんなに眠いんですか?」
 『当たり前だろう、人間睡眠は必要だ。』
 「へえ、博士なら夜も寝ないで研究してそうなイメージがありましたよ。」
 『そんなに効率の悪い事私がすると思うか?』

 「効率が悪い?」

 『なんだ知らんのか、いいか徹夜というのは非常に効率が悪い事なんだぞ。』
 「でも俺の世界では夜の方が涼しかったり静かで勉強がはかどるって言う人が大勢居ましたよ。」
 『そんなのは単なる錯覚か勘違いだ、5年や10年続けて昼夜逆転した者ならともかくとしてにわか仕込みの昼夜逆転は単なる害にしかならん。』

 「そうなんですか?」
 『いいか、脳というのは夜は眠るのだ、人によって個人差はあるが10時~11時以降は完全休眠を欲する、たとえ本人が覚醒していたとしても夜になれば脳は自然に半分以上は休眠状態に入ってしまう。また疲れた脳というのは完全休眠意外では回復しない、つまり睡眠を十分に取らなければ脳は疲れたままだ。
 いいか白銀、昼…つまり日が昇って脳が覚醒している状態では脳を完全に使えるが夜は疲れた脳が半分しか使えない、どちらが効率よく物事を覚えられるかは明白だろう。』

 「それは完全に使える方がいいですよ。」

 『そうだ、つまり頭を使う物事の学習は脳が覚醒する起床から3時間以降からするのが一番効率がいい、そして夜は11時には寝て6~7時間は睡眠をとり脳を完全回復させてまた次の日へ……というサイクルが一番望ましい形なんだ。』
 「ふ~ん、でも夜になると元気になるのはどうしてですか?」

 『さあ?恐らく何らかの物質が分泌されてるという説が有力だが……。お前達が夜間の戦闘に赴
く際は脳を強制的に覚醒させる物質を使っている、脳の休眠は反射的な行動には余り影響しないのだがそれでも脳が半分しか覚醒してないのは思考などによる生存率の低下に繋がるからな。』
 「う……、全然知りませんでした、夜でも眠くならないのは薬の所為だったんですね。」

 『まあこれで解っただろう、夜間に起きている事に良い事なんてまるでない事が、人間の体内時計は正確だ、そういう風にできているのならそれに逆らわずに生きる事が上手いやり方という事だな。』

 そして話しは終了した。



[1115] Re[38]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第40話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/20 00:58
2004年10月28日………ボルネオ島




 基礎理論の完成糸口が見つかってから4日が経った、あれから焔は研究室に閉じこもり理論の完成を目指していた。

 しかし……

 (できん……。いや、生体金属と鏡面装甲は一応理論は完成した、実際に動かしても大丈夫だろう……。しかし鏡面装甲を完璧にする事とそれを効果的に運用するためのエンジンが完成できない……)
 どうしても循環再生反応式エンジンの理論が完成しなかったのである。
 (理論を完璧にするには常温での超伝導が必要だ、そしてそれを実験・実証する為には「グレイ・ナイン」が必要、そしてグレイ・ナイン無しで常温での超伝導を実行できるようにする為に「オルタネイティブ4」の実験レポートも必要。グレイ・ナインは手に入らないし実験レポートも全て私が把握してる訳ではない……)
 G元素であるグレイ・ナインを現在保有してるのはアメリカだけ、そしてオルタネイティブ4の実験レポートは……

 そこで焔は考える。
 (となれば……。両方が手に入るのはあそこしかない、だがその為には……やはり厚木にできたハイヴを攻略しなければ……だがやらなければ人類の勝利は無い……)
 そして焔は厚木ハイヴを攻略する為に様々な工作や準備を始めるのだった。




2004年11月10日


 「…………という訳で鏡面装甲をより高性能にするのと新型エンジン完成の為に厚木ハイヴを攻略が必須となった。」

 「………………」

 行き成り研究室に集められた第28遊撃部隊の皆は問答無用で焔の説明を聞かされたのだが、開いた口が塞がらなかった。

 「焔博士……、あの……それ冗談で無く?」
 「本気ですか博士!」
 「冗談でこんなに事言う訳が無かろう。」
 どの辺が「こんな事」なのかは解らないが焔は響と武の質問にスッパリと答えた。何故か手を腰に当ててふんぞり返っている様な態度の焔を周りの皆は呆れたような顔で見ている。

 「あの……、そもそもなんで厚木のハイヴを攻略しないとならないんですか?」
 「そうだ焔、グレイ・ナインとレポートの為と言うのは解ったがそれがなぜ厚木ハイヴ攻略の必然性に繋がるのだ?」
 武の質問に月詠も同意する、後ろでは皆も頷きその疑問に同意している。
 暫し両者は睨み合ったが焔は至極あっさりと目線を緩めて何時もの調子で喋りだす、その態度は今の重苦しい雰囲気の中で酷く違和感を感じさせようものだが、焔がやるとどんな雰囲気の中でも全く違和感を感じないのが不思議だった。

 「それは東京地下にある秘密研究所を使用する為だ。」


 「「「「「「「秘密研究所?」」」」」」」


 「そうだ、正確には研究所だけではなく戦術機生産工場や物資保管庫などあらゆる物がそろった秘密地下基地だ。」
 焔はペースを崩さず坦々と説明する。

 「そんなのがあったのかい。」
 「ええ……私も知りませんでしたわ。」
 「まて焔、秘密基地なぞが存在するのか?」
 鮎川と御無が感心したように言い月詠が疑問の声を上げる。
 月詠は悠陽の友人として守護隊の隊長としての権限があるが何も知らなかったからであり、鮎川と御無は独自の情報網に何も引っかからなかった情報を知った為である。

 「ああ、これは超極秘施設で知っているのは本当に極一部だ、予算も別の形で集められたしな。まあ真貴は将軍代行拝命の際教えられたようだが。」
 「でもなんだってそんな地下基地が造られたんですか?」
 首を捻る武。
 「それは正しく今の様な状況の為だ。日本を捨てて国外へ脱出した後、何時か日本に舞い戻ったその時に反攻作戦の拠点とする為。」
 「へえ~、用意がいいと言うか…先の事も考えてると言うか……でもよくそんなの造りましたね、予算とか大変だったでしょうに。」
 しみじみと言う武に焔は腕を組み厳かに言葉を紡ぐ。

 「うむ、オルタネイティブ計画と平行して進行した計画だからな……予算の確保は大変だった。だからオルタネイティブ5の予算をちょろまかしてやった……もちろんアメリカのだぞ。」


 「は…………?」


 皆の目が点になる……今なんか聞き捨てならない言葉を聞いたような……。

 「ちょっとまて焔、貴様予算を掠め取っただと!」

 一番最初に月詠が激昂しかけて声を荒げる、さすが焔との付き合いが長いので彼女の非常識にも耐性ができている。
 しかしその激昂にも焔は何所吹く風だ……これも月詠の怒鳴り声には耐性が出来ているのだろう、ああ……仲良き事は羨ましきかな。

 焔はのほほ~んとした態度で目の前で手を振り言う
 「まあまて、取ったと言ってもお達者倶楽部のご老人やお偉いさんが贅沢をする為の予算だけだ、それにばれない様にやったから問題ない。」
 とてもとても偉そうな焔、どうぞ褒めてくれてもいいぞ!……という様な態度だ。
 なんかもう月詠を始め聞いていた者はどうでも良くなってきた……、この人に常識とまともな感性を求めてはいけないのか?

 「そ・・・それで、その秘密基地に行けばエンジンも完成するんだ!」
 響がヤケクソ気味に話題を変えて最初の話に戻す。
 「ああ、あそこにはオルタネイティブ計画や日本の全ての情報、それにG元素も全種類保管されている、さらに1年以上は確実に潜伏できる蓄えもある。」
 「なるほど。」
 ヒュレイカが腕を組み頷く、そこへ……

 「ねえ、それってBETAに発見されないのかな?」

 焔の説明が切れた所で柏木がポツリと質問する、みんなそれを聞いて「そういえば!」という表情を作る。そんなに大規模な地下基地があればBETAに発見されてもおかしくないのだ。いや、普通なら確実に発見されるであろう。
 だが焔は「ふっふっふっ」と不敵に笑う、指を立てて左右に振りながら。
 「いい質問だ柏木君、しかし安心したまえ!ここは私が後から追加で設計した秘密基地、勿論BETA対策は完璧だ。」
 そうして近くにあったホワイトボードに絵を書きながら説明する、なにやらさっきよりも更に楽しそうなのは気のせいか……

 (説明好きなんですね……)
 (まあ……デフォ?)
 (アレが始まると止まらんぞ。)
 (月詠少佐!なんとかしてください。)
 (でも説明は聞いておかないとね。)

 「そこ!私語は慎むように。」
 焔先生降臨!!……みんな観念して大人しくなりました。
 それを見計らって説明が始まる。
 「まずこの秘密基地の1番内側は各種レーダーを遮断する様々な素材や防音材で出来ている、しかしBETAの探知方法は未知なのでこれは気休め程度だ。
 次の2層目はハイヴの外壁で出来ている、これは横浜基地の外壁を培養した物でBETAがハイヴを攻撃しないことを理由に採用された、まあこれもBETAが寄って来ると困るので保険として下層を覆っただけだ。
 そして珪素。」

 「珪素?」
 ヒュレイカ他が疑問の声を上げる。
 「そう、BETAは何故か静止した純粋な珪素を攻撃しない。ただし戦術機に盾として持たせてもそのまま撃ち貫くことから「静止した純珪素」だけだ、それが第3層として基地を覆っている。
 そして第4層が火山岩……そして硫黄だ。BETAは火山地帯に進行しない、数々の実験から火山地帯を意図的に避けていることが解った…多分マグマの所為だろう、そしてそれを判別している重要な要素が硫黄だ。だから第4層は硫黄を多く含んだ火山岩で覆っている。」

 そして更に説明は続く
 「この4層で隠匿しているが、厚木ハイヴは人間という邪魔者が居ないせいか他の要因があるのかは知らんが恐ろしいスピードで成長している、我々が日本を離れてまだ数ヶ月……なのにもう既にフェイズ3だ。このままでは1年以内にはフェイズ5以上に成長する、そうなったら横抗(ドリフト)がこの秘密基地に接触する……。いや、それ以前に発見されるだろう、隠匿は完璧ではないからな、奴等の進行で発見される確率はどんどん増えてくる。
 エンジン開発は時間が掛かるかも知れないのでどうしてもこのハイヴを攻略せにゃならん。」

 「あの……機材を運び出して此処で研究するわけにはいかないんですか?」
 響が手を上げて質問する、なんだか学校の授業の様になって来た。
 「いや、必要な機材が大きすぎる、運び出すのは大規模な輸送隊と設備が必要で取り外すのも結構時間が掛かる、ハイヴの目と鼻の先でそんな事をやってた日にゃたちまち襲われる。それに基地の場所もばれてしまうからな。」

 その焔の説明に皆は一応納得する、つまり鏡面装甲の完璧化と新型エンジンを開発する為にはどうあっても厚木のハイヴを攻略しなければならないのだ。


 だがしかし……唯一絶対なる問題、それは……

 「で、どうやって攻略するんだい?」
 鮎川の軽く言い放った一言、しかしそれはとてつもなく重い意味を秘めていた。
 「ハイヴ攻略」……人類は今だハイヴを攻略出来たことが無い。横浜ハイヴはG弾を2発使ったが今地球上にG弾は残っていない(アメリカは1.2発秘匿しているかも知れないが)。焔はもともとG弾を使う予定はないので通常戦力でフェイズ3のハイヴを攻略しなければならないのだが……。

 全員の「どうするのか?」と訴える熱い視線を受けた焔は口を歪めて笑った。
 「もちろん手は色々考えている、その一つがこれだ……!!!」
 そして白衣の内側から取り出したものは……、それに皆が注目する。
 それを見て取って高々と名称を読み上げようとした、

 「遠隔操作式音響探査装置、その名も「モグラ君!!!」


 〈ドンガラガッシャーーーン!!!!!〉


 こけた

 盛大にこけた

 焔が懐より取り出した装置、その名を告げようとした焔を遮って叫んだのはなんと御無だった。
 焔は床でピクピクしている、ナイスなタイミングでナイス突っ込みを受けたダメージは大きかったようだ。

 (たしかに……ド●エ△ンの秘密道具の穴を掘る「モグラ」になんとなく似てるよなあ……)
 武が思った通り、正面の黒いモニターの様なものや土を掘る手の様なものがなんとなくモグラそっくりである。
 しかしそれはあくまで「なんとなく」であり初見では「モグラ」とも思わなかったであろう、しかし御無の「モグラ」宣言でもうどう見ても「モグラ」にしか見えなかった。特に予備知識がある武には。
 
 「お……御無中尉、これの正式名称は「モグラ君!」

 何とか立ち上がった焔が正式名称を述べようとするがやはり御無に遮られた。
 その様は1つの事に執着する頑固な子供の我がままの様でもあった、そして不毛な争いが勃発した。
 武達は呆然とそれを見守っている。

 (あの……鮎川大尉、御無中尉って……)
 (ああ……あいつは変な感性持っててな、自分が可愛いと思うものには変に執着するんだよな。)
 (可愛いって……、あれがですか?)
 (だから言っただろう、感性が変だって。可愛いの基準がどうも解らないんだよ。)
 (この部隊で御無中尉が一番謎の人物だ……)
 (あいつは一見というか普段は普通なんだが、一端基準を外れると変なんだよな。)
 武と鮎川はコソコソと御無の奇行を話題に話している、その間にも焔と御無の「名称付けるぞ」合戦は続いた……しかし流石の唯我独尊も子供の駄々の様な執念には敵わなかったらしく、結局焔が折れた。


 「ああ……、もういいよ「モグラ君」で。」

 「「「「「「いいのか?」」」」」」

 御無以外6人の心の突っ込みが響いてハモる。
 月詠は焔の初めての敗北を目の当たりにして少々固まっている、どうやら余程信じられない出来事だったらしく珍しく無防備だ。過去の自分の敗歴を反芻でもしているのか……。
 焔は哀愁を漂わせながら「モグラ君」の説明を開始する。しかし先程までの元気は無く、どこか投げやりな態度だ、

 「この装置はまあ……機能は名前で察しろ、とにかくハイヴの構造をこれで調べられる。前に作ったインターフェイスの遠隔操作の知識が役に立った。」

 その言葉で武の脳裏に「ある」出来事が思い出される。

 (って、あのネコミミかーーーー!うっ思い出したら……)

 もんもんと脳内に描き出される過ぎ去りし日の桃源郷……武君は健全な男の子であったようだ。挙動不審に悶えている武を月詠・柏木・響は不思議そうに見ていた。

 「これで調べたデータを使って厚木ハイヴのシミュレーションを作るのでお前らにやってもらう。」
 焔は全員を見渡す。
 「対小型種用の装備はこの前渡したから取りあえずは今までのヴォールク・データでシミュレーションを行なえ、「モグラ君」からのデータは10日後くらいには届くだろうからそれが来たら私がシミュレーションを組むのでそちらに切り替えろ。」

 「…………」

 武達は無言で聞いている、さっきのドタバタは何所吹く風だ……こういう耐性というか切り替えの速さも武の影響なのかも知れない。
 しかし焔も平気で「モグラ君」と言っているし……ある意味達観したか、どうやら調子も戻って来た様だ。
 しかしこれ以後正式名称が「モグラ君」になったらイヤだな~、とか真面目な顔の下で思っていた武であった。
 
 「とりあえずその他の調整や準備は全て私がやる、お前達はシミュレーションに専念しろ。何かあれば逐次報告していくからな……信用してるぞ、取りあえずは頑張ってくれ。」

 軽快な一言、しかしその内容はとても重くて重大な任務である。ハイヴの攻略……人類は、武達はその難関を突破できるのか……。




 これ以後武達はハイヴ攻略の為の練習に明け暮れる事となる。



[1115] Re[39]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第41話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/20 17:34
2004年12月16日……クアランプール基地




 あれから約1ヶ月、その間にも色々あった。

 まず11月25日に「モグラ君」での厚木ハイヴのデータ取得が完了した、音響探査なので内部構造までは分からないが厚木ハイヴの全容は判明した、これでヴォールク・データと合わせての厚木ハイヴのシミュレーションが作成できるようになった。


 そして11月27日、どうやったかは分からないがオーストラリア政府が厚木ハイヴ攻略の全面的支援を行なう事を確定させたようだ。
 恐らく新兵器の事をちらつかせたのだろう、ここの政府の高官は未来の事を見据えている……と焔博士が満足げに話していたのを聞いた。
 う~む、流石夕呼先生の友人をやっているだけの事はある、凄いお人よ……


 11月28日、厚木ハイヴシミュレーションが完成した、厚木ハイヴは(全て約)
 地表構造物(モニュメント)150m
 地下茎構造(スタブ)水平到達半径6㎞
 縦抗(シャフト)最大深度850m
 主縦坑(メインシャフト)の最大直径150m
 横坑(ドリフト)の最大直径85m
 広間(ホール)地下約34層(重複している所もあるので、最短距離で34層)
 でフェイズ3を過ぎ現在も成長しているらしい。
 また孔(ベント)は開いている。
 その他の特徴として建設に力を入れているからなのか周辺の破壊状態がフェイズ2よりも低くなっている事が挙げられるな。

 そしてその日に俺達は1回目の攻略を試みた、しかし援護率100%で19層までしか到達できなかった。焔博士の言によれば本番は従来より変則的な戦略編成になるだろうからなるべく援護率が少ない状態で最下層に辿り着ける様になれとのお達しだった。


 12月6日には、新型爆弾S-12とS-13が完成した。
 S-12(エス トゥエルブ) はS-11の3分の1程の威力の高性能爆薬で、S-11よりそれなりに量産が可能らしくハイヴ攻略戦に出撃する全ての戦術機に搭載できる様に生産するらしい。

 S-13(エス サーティン)はS-11と同威力だが、2本連結することにより内部の化学薬品反応などによる相乗効果で凄まじいまでの破壊力を得る事が出来る、しかし重量と大きさの関係で1本しか積めないので相乗効果を得るには取り出してから他の機体のものと合わせて使わなければならないみたいだ。あと生産もS-11より難しい様だ。
 その為このS-13は俺達を含めた主力突入部隊……つまりもっとも反応炉に到達できそうな部隊に絞って少数が装備される事となるらしい。

 そしてこの日には援護率100%で最下層まで到達できるようになった。

 またこの頃にはマレーシア戦線の衛士の間でこの厚木ハイヴのシミュレーションに挑戦するのが日々の特訓の1つに盛り込まれるようになっていた。
 内部の様相などはヴォールク・データを基にしているとはいえ完全なハイヴのシミュレーションというのは将来の為にも良い特訓場になるんだろう。
 基地間でシミュレーターの情報連結もできるので他の基地の部隊との合同攻略なども行なわれているようだ、俺達もウォーカー大尉や榎本中尉達と一緒に攻略に挑戦した事がある。


 12月14日には、日本人作戦参加者1687人、マレーシア戦線から遠隔操作支援部隊1512人の計3199人の参加が決定し、この日から厚木ハイヴ攻略戦の準備が始められる事となった。
 作戦決行は1月の終盤になるだろうと博士が言っていた。




 そして……




 シミュレーション、厚木ハイヴ地下第30層 援護率50%


 「残り4層、3日前は此処で潰されましたけど。」
 「今回はまだ行けよう、しかしそれも皆の犠牲があっての事。」
 「そうですね、みんなの為にも今日こそは最下層まで到達しましょう。」

 ここに来るまでに既に他の全員が脱落している、武達も機体は五体満足だが既に残弾のストックがない、5門の突撃機関砲と戦闘長刀、そして両肩の散布式銃弾砲という装備が最後の命綱だ。

 そして31層の広間(ホール)に到達する。

 「とにかく突っ切るぞ、一々敵を倒していたら切りが無い。」
 「解ってますよ、行きましょう!」

 2人はスピードを緩めずに広間に突っ込む、データで構造は分かっているので迷わず出口…下層への道に突き進む。前面に群がる戦車級エクウスペディスを散布式銃弾砲から吐き出す広域散布の歩兵用突撃銃弾で薙ぎ払いながら小刻みなブーストの跳躍で大型の敵を飛び越えて出口を目指す。
 この時点(補給線の切れた最下層への突撃)では少しくらいの敵を倒しても効果がないのでとにかく前に進む事だけを考える、特に広間では大型種は殆んどブーストの跳躍で飛び越え回避できるので進行の邪魔になるのは大体小型種のエクウスペディスだけで、弾ももっぱらこいつ等だけに使用する。

 31層を抜け横坑(ドリフト)へ

 「突っ切ります!」
 「承知!」

 武と月詠は止まらない。新型ブーストを使いこなす彼らに「真下」という概念は既に無いのか、上下左右の壁を蹴り進み空中で方向転換し更に壁を蹴って進み……既存の「真っ直ぐ進む」という概念は最早欠片も見られない。
 何回ものハイヴ攻略シミュレーションで武達は補給が切れて後続がなくなった場合「最下層突入部隊は敵を倒すのは無駄だ」という事を見出していた。敵は後から後から湧いて出てくる、一々敵を倒していても時間のロスでありその時間で新たなる敵の増援を招くだけ……ならばとにかく進む事、それのみを突き詰める事にした。

 ホールでは大型種をほぼ全く相手にしない、狭いため今まで敵を相手にせざるをえなかった横抗でさえも必要時意外殆んど敵を相手にしない。
 それは武達の超人的な空間移動能力だからこそできる事であった。
 第33層の横坑で武機の右肩の散布式銃弾砲の弾が切れ背面の04式突撃機関砲の銃身が焼き付いた。前面モニターに映るウェポン状態を表す簡易表示、腰部選択兵装の突撃機関砲銃身部分は少し前に焼き付き注意のレッドマーク表示になっていたがついに点滅して耳障りな警告音と共に「銃身焼き付き」が画面に映し出された。

 それでも止まらない、月詠と武は更に突き進む。
 そしてとうとう最下層へ到達、そのまま反応炉に到着した。

 「白銀、私が敵を引き付ける。お前は反応炉の破壊を」
 月詠が自機からS-13を取り出して武に手渡す
 「解りました、ご無事で!」
 S-13を受け取った武は反応炉に突き進む、月詠は敵を引き付けながら機関砲を撃つ。

 そこで急に武から通信が入る。
 しかも秘匿回線だ、ログにも残らない。

 「月詠さん。」
 「なんだ?」
 「今日俺の22歳の誕生日なんですよ。」

 「はぁ?」

 月詠にしては珍しく面食らう。シミュレーションとはいえこんな戦いの場で何を突然言い出すのか?という驚きだ。
 そんな月詠を尻目に武は続きを話す

 「これが終わったら月詠さんの時みたく一緒に祈ってくれませんか。」

 戦いながらも飄々と話す武に月詠は怒りより眩暈を覚える。
 「貴様この様な時にそんな事を……」
 「いやぁ、急に思い出しちゃったもんで。」
 「貴様は常識という言葉を知っているのであろうな。」
 「まあまあ。……で、どうですか?」

 屈託ない武の返答に月詠はもう達観したように諦めた。
 (白銀武……、こやつのこのマイペースな性格は死ぬまで治らぬのであろうな……)

 一応言っておくが2人は共に激戦の最中だ……武は反応炉に突き進み月詠は敵を引き付けている、だが両者の戦術機コクピット内は果てし無く平和な空気が漂っている。

 「解った……ハア……(私もこやつに毒されたものだ)、正し先にこの任務を成功させるぞ。」

 「了解!よっしゃ最後の仕上げだ、行くぜ!!」


 一躍元気になって突き進む武であった。

 そうして今回のシミュレーションは反応炉破壊成功で幕を閉じた。




 その後の一幕……




 武の部屋で月詠の手料理を食べながら
 
 「そういえば……」
 「どうしたんですか?」

 逡巡する月詠に武は先を促す。

 「いや、詳しい事は聞かないとは言ったが……。そなたが死亡した「白銀武」で無いとしたら両親はどうしているのかと思い至ってな。」

 その質問に武は目を瞑り暫し過去を顧みる、そんな武に月詠はやや慌てて言う。

 「いや、詮無き事を聞いたか……」
 「いえ、詳しくは言えませんが両親は生きてますよ。多分もう会えませんけど……」
 「会えない?……いや…言えんのか。だが共に御健在ならば僥倖だ。」
 「ええ、両親や友人にはもう会えませんけどそれだけは俺も安心しています(特に此方の世界に来てからは……平和っていうのはありがたい事だと痛感したもんな……)。それに今は仲間が居ますから……」

 武の過去を思い返す微笑に月詠は何故か胸が締め付けられる様な感じがした、しかし次の「仲間」という言葉が耳に残る、それは自分と白銀の……

 「207やA-01、それに第28遊撃部隊、色々な仲間が出来ました、それに知り合いも……、昔の自分からはとても想像できませんよ。
 それに……昔は後悔もあったけど今はこんな人生で良かったと思っています、こんなとんでもない世界で大変な状況だけど俺は今この世界が大好きです……だからこの世界を、人を、愛する者を守るために戦いたい、努力したい。」

 月詠には武の過去は分からない……しかし「この世界が大好き」という武の一言にとてつもなく大きな意味が籠められているのを感じていた。
 クーデター事件の時とは違う、ここに居る白銀武は最早あの時とは別人に成りつつある。




 そう……白銀武は既にこの世界の住人なのだ。




 (ならば共に戦おう、この身が尽き果てるまで世界の為、愛する者の為に。)

 武の決意に月詠はその想いを固めるのだった。






 今回から2.3話ダイジェスト風で。
 そして戦いは詳しく書きませんでした、それは本番で……。
 既にハイヴ戦の構想は固まってます。 



[1115] Re[40]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第42話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/21 17:33
2004年12月29日…クアランプール基地




 12月24日に生体金属が完成したとオーストラリアの中央研究所に呼ばれた、完成したとは言っても未だ試作段階だそうだ。機能的には何の問題も無いのだがまだ生成コストが掛かり過ぎるし戦術機への換装や整備の為のノウハウが全然出来ていない、取り合えず俺達の機体7機分だけは生成したというのでデータ取りの意味を含めて俺達の機体を生体金属に換装させると言って来た。

 その間に俺達は今回の作戦に参加する色々な人と引き合わされた。
 この時にエルファ大尉にも始めて生身で出合った。

 そしてハイヴ攻略艦隊総指揮官のアリーシャ・フォン・ビューロー大将とも会わされた。
 最初に出会った時、俺達はとても驚いた。

 「どうした?女が総指揮官でビックリしたのかい。」

 と不敵に笑って言われた時に俺は思わず頷いてしまったくらいだ。
 ドイツ系を主体とした混血の彼女はシルバーの髪が映えてとても美しい女性だった、しかし焔博士曰く彼女は艦隊指揮……特に砲撃の天才らしい。
 先を読んで砲撃するのが未来を読んでいるのが如く神業的で「命令いらず」とまで言われていたらしい、アメリカ軍からも引き抜きがありオーストラリア政府は彼女の腕と部下からの人望を惜しみ26歳(現在28歳)の若さで1艦隊の指揮官を任せる様になったと言う。

 彼女と焔博士はとても気が合ったようで一発で友人となったらしいが……類は友を呼ぶというのかどうか知らないがアリーシャ大将も博士に負けず劣らず唯我独尊なお人の様だった。
今回生体金属が出ました。
 このSSは生体金属などトンでも設定のものが出ていますが「なるべく」実現できそうな物にしています。物語の都合上トンでも設定やご都合主義っぽいのや設定が曖昧なのも出てきますが。
 ただ私の科学・化学知識はダメダメなのであくまでも「実際にある」事情を「いかにもありそうに」組み合わせただけですのでその辺は察してください。



 
 そして5日後の30日、俺達の機体の生体金属への換装が終了した。




 研究室郊外の実験用演習地で……



 「見た目には全然かわってませんね?」
 「う~ん、確かにね。でも気配というか雰囲気がかわったかな?」
 「確かに……、金属には無い生暖かいようなプレッシャーを感じる。」

 武と柏木が首を捻る横でヒュレイカが並んだ機体を見上げる。
 見た目は変わっていない、しかし感じが違っていた。前の金属だけで出来ていた時も様々な「感じ」があったが、今回のこの感じはそれとは違うそう……

 「躍動感?それとも生命の鼓動ってやつかい。」
 「生きてるのではなく「生物的な特徴を備えている」だそうですが……」
 「でも核細胞はあるんですよね?」
 鮎川、御無、響が更に独り言の様に意見を述べる。
 「生きているか生きてないか、その境界線は曖昧だよね。」
 「生命の定義か……、この細胞も基はBETAから採取したものを研究して出来たもの、正直生きていると言われれば不快だ、されどそれも止むなしか。」

 「柏木、月詠、言ったろうが、これは「機械」だ、生物的特徴を備えたただのパーツだよ。お前らは小難しい事考えんでもいい、別に細胞が戦術機を乗っ取って反乱する訳でもないし……」

 「博士っ!怖い事言わないでくださいよぉ。」

 (なまじ知識が有る分リアルに想像できちまうよ、こぇ~~)
 響はそれを想像したのか嫌がる声を上げる、そして武は向うの世界でそんな内容のアニメや映画を見ていたせいで至極リアルにその場面が想像できてしまった。(デビル戦術機?いや生体だから参号機?)
 
 そんな2人を尻目に焔は搭乗を促す。
 「ホレホレ、早く乗れ乗れ。私はお前らの驚く顔が早く見たいのだ。」
 「博士それ悪趣味~~~」
 「ふふふ、響ちゃん。これは科学者の特権なのだよ!」
 「嫌な特権ですね。」
 「あははは、まっ解らなくも無いけどね。」
 「柏木……」
 「白銀、こういう輩は相手にするだけ疲れるぞ。」

 武の後ろから言う月詠に武は振り向いて相手の肩に手を置いてジッと目を見詰めた。

 「な…なんだ……。」

 その真摯な目にややうろたえる月詠。だが武は首を振りつつ哀れみ同情する様な声で言った。

 「苦労してますね月詠さんも……」
 「大きなお世話だ!」

 思わず強く言い返してしまう月詠、次の瞬間ハッと正気に返って取り繕ったが。



 「ぎゃははははは、白銀に言われちゃお仕舞いだね!」
 「ええい、貴様が全ての元凶だろうが!」



 馬鹿笑いし始めた焔に怒って突っ込む月詠、周りの皆もそんな2人の姿につられて笑っていた。

 (月詠さんも大分砕けて来たよなぁ)

 一緒に笑いながらそんな事を思う、表面上色々な重圧から開放されたからなのか、みんなとの絆が深まって来たからなのか幼馴染の焔が居るからか……その全てか。月詠は最近衛士としての心構えの下に押し込めた本心を覗かせるようになって来た。 
 武はその事が本心を曝け出せる程に月詠と信頼し合える様に成ったと実感できてとても嬉しかった。


 そんなこんなで武達は戦術機に搭乗した。


 「うっし、じゃあいくぜっ!!」

 気合一閃、搭乗した武は早速機体を稼動させた。レバーを押し倒し一気に前に駆けようとしたが……



 「うおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉ!!!」



 予想もしなかった手応えの軽さとスピードに機体をつんのめらせた、手足をあっちゃこっちゃに動かしながら超人的な機体制御を行い危うい所で転倒は免れたが、その様は傍から見てると下手な踊りを踊っている様でとても滑稽だった。

 「白銀……、機体重量が軽くなっていると言っただろうが。普通最初に様子くらい見るだろう、バカかお前は。」

 シレッとした焔の無情なる一言。

 「軽いったって限度がありますよ、スゲェ軽くなってんじゃないっすか!!」
 「へえ~、そんなに軽いの?」
 「おお、もう軽い軽い! 普通の感覚でやってたらこけるって。」
 柏木の声に怒ってるのか喜んで興奮してるのかよく分からない説明をする武。
 「焔、どれ位軽くなっている。」
 「う~~ん、エンジンはそのままだから……3分の2…?位かな……」



 「「「「「「「3分の2!!!」」」」」」」



 月詠の簡潔な質問に首を捻って曖昧な答えを返す焔、しかしその答えは皆を驚愕させるには十分だった。

 (3分の2って……メチャクチャ軽くなってるじゃないかよ!)

 数字の上ではそうも感じないかも知れないが戦術機は重い、t(トン)クラスの重量の3分の1と言うのは随分な重量でありそれが削減された言うのだから驚きも大きい。
 さっきつんのめった事も頷ける、何時もの感覚でやっていたら間違いなく失敗する。

 「そ……そんなに軽くなってるんですか!!!」

 響が叫ぶ、自分の機体の腕を動かして具合を確かめながら。

 「鉄と人間の肉では肉の方が軽いだろう、それと一緒だ。」
 説明とは言えない様な簡潔な説明だが言いたい事は解った、同じ容積なら鉄より肉の方が軽いと言う事だろう。

 「一応重量変化によるバランスも考慮に入れて調整してあるが……、不具合が有るかも知れんので此処でデータを取って更に調整する。まあ好きな様に動かしてみてその凄さを実感しろ、そして私を崇め奉りたまえ。アッハッハッハッ!」

 1人天狗になっている博士、皆はそれを見て「またか……」と呆れていたがこんな凄い発明をされてしまうとそれも容認してしまえる。
 まずは慎重に動かす、歩く事から始め段々と走ったりジャンプしたりと動きを激しくする。


 「動きが滑らかですわね。」
 「関節の駆動がスムーズになっている、今までの金属が引っかかるような抵抗が無いね。」
 格闘の型を試していた御無と鮎川が驚きをあらわにする。これは生体金属特有の柔性と弾力性による副次的な効果である。



 「動きも軽いです、ポンポン跳べますよ!」
 「それに駆動系に負担が掛かっていない、機体重量の削減で高度からの着地時に掛かる関節への負担が軽減され次の動作への繋ぎもスムーズになっている。」
 響とヒュレイカは跳躍を試している。軽量化で関節への負担が減った、更に生体金属の特性である柔性と弾力性のお陰で力のベクトルを逃がしやすくなった事も影響して高度からの着地の際に従来の戦術機に在った機体が沈み込むような動作……あの「ガシャコン」という音を立てる動作……関節保護の動作が非常に軽減されている。



 「なるほどね、あらゆる面での衝撃吸収能力が上がっている。柔性、弾力性による動作のスムーズ化も見逃せない効果だね、動きがより人間に近くなってきたんじゃないかな。」
 「しかし元々の目的は整備の簡略化を目指しただけであり後は副次的な効果と言うのだからな。されど我々乗っている側の衛士としてはその副次的効果の方がありがたいというのは皮肉なものか。」
 「この際細かい事はいいじゃないか、とにかく戦術機が大幅にパワーアップしたんだから。」
 「まっ、白銀の言うとおりだね。乗ってる身としては効果があれば十分以上だよ。」
 「貴様の頭は気楽で良いな、まあ確かに我ら衛士は効果があればそれでいいが……。」

 話をしながらも様々な機動を試していく、焔はそれを横目に測定の為の計器類をじっと睨んで時折自分のノートパソコンに何か打ち込んでいる。

 一通りの機動を試し動きに慣れて来た武はブーストジャンプを行なってみる、さっきの失敗を考慮して軽く跳躍噴射してみるが……。
 「ブワッ!」とした浮遊感の後機体は何時もの調子で飛び上がる……、そう「いつもの」調子だ、軽く噴射しているのに通常時の噴射と同じ様に飛んでいる。

 武は恐る恐る全力噴射に移行する、……と


 「うっ……、おおおぉぉおおぉぉぉ……!!!」



 機体が前進飛行する寸前に一瞬強いGが体に掛かりその後恐ろしい勢いでぶっ飛んでいく、慣れればそうでもない速度だろうが行き成りだと流石にビックリした様である。

 「おーおー、速い速い。」
 「概算1.5倍は出ているはずですが……」
 「焔、重力制御はどうなっている?」
 「対G性能なら上げといた、一応大丈夫なはずさ。」

 一応と言う所が心配だったが、まあ焔の事だ大丈夫だろうと月詠は上空に視線を戻す、向こうまで飛んでいった白銀の武御雷は様々な空中機動を試しながら此方に戻って来る。

 (この力があれば生存率も上がるであろうか……)

 月詠は近く行なわれるハイヴ攻略戦に心を馳せる、月詠自身もハイヴ攻略戦に参加する事は初めてだ、明朝作戦にも参加はしていたがそれもお飾りの様なものだった。
 しかし今回は違う、ハイヴの内部に侵攻……そう、其処はもうBETAの国、巣そのものなのだ。そんな所に突入すれば生きて帰れる保証は無い。

 しかし……

 (あやつとなら出来る……、何故かそんな気にさせてくれる。)

 白銀武、特徴は多々あるがそれでも幾多の衛士の1人に過ぎない筈、しかし何故かそなたと共に戦っていれば大丈夫だと思えてしまう自分がいる。
 冥夜様もそんな安心感を求めてそなたに想いを注いだのだろうか……。
 武と冥夜の関係を思う時何故か心苦しくなる月詠、その明確に自覚できない心の内は果たして如何様な想いが渦巻いているのか……。

 それまいまだ知りえない未知なる想いを抱える月詠。
 だが物語りは続いて行く。


 その日の夜焔から発表があった。


 厚木ハイヴ攻略戦は2005年1月24日に決定。
 それは偶然なのか意図したのか……
 オルタネイティブⅤ発動と移民船団出発……同日の決行であった。






 次回より厚木ハイヴ攻略戦が始まりです。
 切りがいいので次のスレッドに移行します、これからもよろしくお願いします。
 ちょっと非常識な事が増えるかも知れません。


 色々考えましてコメントは削除しました。
 結局何を言っても読者様の受け取り方しだいです
 書きたい事が伝わるように努力したいと思います。

追伸)生体金属は確かに戦術機がパワーアップしますが攻撃力は変わらないので劇的に強くなるわけじゃありません。
 機動力は大幅にあがりますが。
 


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