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[11205] ハーレムを作ろう(ゼロ魔設定、15禁程度かな)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/11 00:46
こんにちは。
ゼロの使い魔の世界の設定を使わせて貰い、最強モノで好き勝手に暮らすお話です。
・地名とか、国家体制とかをそのまま流用です。
・当分、どころかかなり先までゼロ魔の世界の登場人物は出てきません。(9/10追加、9/12、9/13修正)
・魔法に関しては、独自解釈が含まれています。(8/30修正)
・別に世界を救いません。
・主人公がぐだぐだするだけのお話です。
・途中、エロい部分があるかなと言う事で一応15禁です。
・国家体制、地名等にかなり独自解釈が含まれております。(8/28追加、9/10修正)
・異世界からヘンなお方が参られます。(8/30追加)

それで良ければ、お時間を潰して頂ければ幸いです。
感想なんぞ貰えると、更に嬉しいです。

では、よろしく

後本投稿は、ゼロの使い魔の世界の設定を使っていますので、「ゼロ魔SS投稿掲示板」に掲載しております。
ゼロ魔板から、本投稿を別板に移動する事はありません。
(10/11追加)


追加:色々感想を頂き、とても嬉しいです。
   どの程度のペースで更新出来るか判りませんが、頑張ってあげて行きたいと思います。
・人物の書き分けが旨く出来なくて、申し訳ありません。
・一遍辺りの内容が少ないので、少し整理致しました。(8/25)
・メイジのクラスの間違いを修正しました(8/26)
・9/2投稿分(新人を雇おう)を削除(9/3)
・9/6細かい語句修正を最初からメイドさんをつくろうまで実施
・9/10説明文に修正を追加
・9/12エピローグ追加
・9/12構成の変更実施
・9/13エピローグ削除
・9/13章立ての整理の実施
・9/16指摘頂いた点を何点か修正
・9/23傭兵団のメイジの系統を修正
・9/24選帝侯の誤記を修正、31話タイトル変更、アマンダの年齢不詳
・10/1固定化の魔法の間違いを修正
・10/2一応おしまい





メイド候補の設定です。
(メイドさんを作ろうをお読み頂いてから、見て頂けると嬉しいです。
 後番号は背の高い順です。)


・Angelica アンジェリカ(18才)
 栗色の髪、ポニーテール、細面、背が高い(2)、Eカップ  あまり何も考えていないように見られる。町娘、父親が商売に失敗し、借金のかた

・Selma ゼルマ(19才)
 ややきつめの顔立ち、黒髪に近い、長髪、胸は普通(C)、背(3) 没落貴族(伯爵、ヴェスターテ家)の娘、勿論借金のかた

・Gloria グロリア
 一番お姉さんタイプ、青い髪、長髪、胸は一番大きい(F)、長身(1) 貴族のお手つきで生まれた娘、領主の庇護でメイドの娘として育ったが、
 領主が亡くなり母とともに追い出され、母の病気の借金のかたに
 アルバートに悪い印象を抱いていない

・Viola ヴィオラ
 中肉中背、ショートカット、赤髪、Dカップ、背(4)、やや低め 村娘、不作の年に、借金のかたに売られる
 
・Amanda アマンダ(1×才)
 一番幼く見える、胸もBと小さめ、金髪、フワフワの髪、背は低い(5) 単に、奉公に出るだけだと思い、騙されてつれて来られた



[11205] ハーレムを作ろう(物語をはじめようその1)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/13 22:29
目が覚めると、部屋の中は薄暗かった。

うん?まだ早いのか…
やけに背中が痛い。
また、酔っ払って床にでも寝てしまったのか。
えっ…

いや、昨日酒は飲んでない。
それどころか、家にも帰った記憶がない。

タバコを吸いに喫煙ルームに向かっている途中、突然光の粒のようなものに囲まれた。
な、なんだよこれ!
目の前が眩しい位の光に包まれたと思ったら、突然身体を引きつるような痛みに襲われ…
そこから覚えていない、多分気を失ったんだろうなあ…

そこまで思い出し、ガバッと起き上がる。
アイテテテ…
身体中に痛みが走り、慌ててゆっくり動く。
筋肉痛が全身に発しているみたいだった。

「痛ってぇ…」
ブツブツ言いながらも、初めて辺りを見回す余裕が出来た。

どこだよ、ココ…
背中が痛い筈だった。
石造りの床に直に寝転んでいたんだものなあ。
回りも石造りの壁面、何だか丸い部屋みたいな所だった。

天井も高い、それも半端な高さじゃない。
上の方に窓があるようで、そこから光が入ってきていてそれで辛うじて辺りが明るい程度。

どう考えても、24階にシステム第一部が入ったビルじゃないわな…

うん?

目が漸く辺りの暗さにも慣れてきたのか俺は部屋の隅に、何か、いや誰か倒れているのに気がついた。

「おい…」

「もし、もーし…」

返事が無い。
何だかとっても嫌な予感がするが、俺は動かない身体をだましだましその男(?)に近づいた。


うつ伏せに倒れている男(?)は、伸ばした手の先に大きな杖、全身を覆うような大きなマントを羽織っていた。
うーむ、お約束通りの服装じゃないですか…

まあ、俺もネットで召喚モノや転生モノのファンタジーは好きです。
でもね、石造りの塔の中にイカにもと言う「魔法使い様」が倒れている姿を生身で目にして。
しかも、よくよく目を凝らしてみれば、なんか血のようなモノで、まあるい円に様々な文字。
判ります、魔方陣ですよね、それが書いてある。


召喚モノかなあ…
自分の服装は、カッターシャツにネクタイ。
年齢は、28才システム第一部営業グループ長
うん、転生じゃないな。

魔法使いさんが倒れているトコ見ると、どう見てもファンタジーぽいが、果てさてどういう世界なんだか…


「おい、あんた、大丈夫か?」
俺はため息を吐いて、倒れている男に手を伸ばした。






「えっ?えっ?ええええっ!!!」

ハイ、驚愕の事実に、只今絶賛パニック中です。

魔法使いさんは、息をしておられんでした。
結構お年寄りの大魔導師って感じの爺でしたが、心臓も動いてません。

やばいなあ、どう見ても死んでるよこの人…

うーむ、元々冷たいと言われる俺だけど、死体を見ても平然としてられるのって、おかしくね?

自分で自分自身の態度に疑問を感じるが、今はそれどころではない。
どうやら召喚でもされたようなのだが、その呼んだと思しき魔導師さんは、息を絶えている。
取敢えず、ココから外に出られるのか…

気を取り直した俺は、とにかく部屋を調べる事にした。



半径十メートル位の塔の隅に、屈まなければ通れない位の通路があった。
ここが出入り口らしい。
ただ、結構奥が深く、中は暗くて何も見えない。
俺は、ポケットからライターを取り出し、火を付けた。
五メートル位奥に、扉らしきものがあり、ホッとする。
しかし、そこまで行ってみて、それもすぐ落胆に変わった。

鍵が掛かっているのか、扉は押しても、引いても、まさか、スライド式って事も考えて、左右に動かしても
まったく動かない。

何か開け方がある筈だ。
一瞬、あの魔法使いが、空間転移の魔法でも使って、ここに入ってきたとしたら…

俺は、慌ててその考えを振り払った。

そんな事できる筈がない。
いや、ここに俺がいること自体、常識をぶち壊しているのだが、
それは全力で否定させて貰う。

とにかく、魔法使いさんが、鍵かなんか持っているに違いない。



うーむ、気持ちワルイ…
死体トイウモノハ、ナカナカさわり心地のヨイモノデスネ、ハイ…

冷たくなって動かない魔法使いの、身体チェックをすると、幾つかの指輪、
財布(巾着袋みたいなモノ)、小ぶりのナイフ等が出てきたが、鍵は無かった。

魔法使いなんだから、杖を振り回して、呪文を唱えて扉を開けるのかなあ…
あるいは、指にはめた指輪をキラリと光らすとか…

魔法使いの指には、右手に二箇所、左手に一箇所指輪をしていた。

「失礼します…」
手を合わせて、徐に指を持ち上げ、何とか取れにくいながらも、指輪を外す。

最後は、杖か…
とにかく、これらを試してみて、扉が開く事を祈るしかない。

手に入ったものをポケットにしまい、魔法使いの手の先に転がったままの杖に手を伸ばした。



(接続します)
えっ?
「あっ、ええっ、おわっ」
杖を手にした途端、頭の中が割れるような痛みが広がる。
慌てて、杖を振り払おうとしたが、手が硬直したように動かない。
「あっ、あがっ、ああっ…」
そして、意識がブラックアウトしていた。










うん…
どの位、気を失っていたのだろう。
元々薄暗かった部屋は、最早真っ暗で何も見えない。
俺は何も言わず、軽く手を振る。
部屋に適度な光が満ち、何も変わらない塔の中を明るく照らす。

「やれやれ…」
杖を手にしたまま、起き上がると、再び動かない魔法使い、いや、今はアルと言う名前を知っている、を見つめた。

アルバート・デュラン、元ガリア王国魔道騎士長、そして、多分希代の大魔導師。
享年数百歳、ここに眠る…か


このままほおって置くのも可哀相なので、俺は杖を手にして魔法を唱えた。
光の粒がアルを包み、そして消えて行く。
彼の構成物をマナに変換し、全てをリングの一つに収納した。


「ふう…」
もう、この召喚場に留まっていても仕方ない。
俺が再び杖を握りしめ、頭の中に術式を構成する。
今度は俺自身が光に包まれ、その場には誰も残らなかった。






アルの居城の最上階の一室、そこに俺は転移していた。
ここは彼が生前、自分の私室にしていた部屋である。
隅のカウンターの中に入り、グラスを取り出す。
氷を生成すると壁の棚から酒瓶を取り出し、オンザロックを作る。

グラスを片手に、私室のベランダに出た。
夜の帳が下りており、地上は見えない。
その代わり、満天の星空に月が二つ輝いており、それが世界の違いを示していた。

「はあ…」
キツイアルコールが喉を焼くが、今はそれすらありがたかった。

杖は、アルの外部記憶媒体だった。
言わば外付けハードディスクのようなものであり、年老いたアルが作り出した素敵アイテムである。
百五十年程生きた所で、記憶が薄れ始めているのに気が付いたアルが、それを補うために作り出したモノ。
そして、それはアルにしか使えない筈の補助機器である筈だった。
アルが亡くなった今、その杖は俺をアルと認識し、その記憶を繋いで来ている。
先ほど杖を手にした途端、接続が行われ、大量のアルの記憶が流れ込んできた。
そのあまりの負荷に、俺は再び気を失っていた。


「同位体ねえ…」
俺は、異世界に存在したアルの同位体。
言わば異世界のアル自身。
多分遺伝子分析でも行えば、99.9999%同一人物だと判断される自信がある。

ただ、年齢だけが違う。
俺は28歳に対して、アルは三百数十歳。
そして、俺はアルの転生先として召喚されたのだった。

アルバート・デュランは、稀代の大魔導師。
この世界で数千年使われている系統魔法を極め、その上先住魔法までをも使いこなす。
世界の壁を越えて他の次元世界への移動すら可能なその能力は、始祖ブリミルすらをも超えているのではと、アル自身は思っていたようだった。

しかし、そんな彼も老いには勝てなかった。
様々な魔法を使い若返りを図るが、それもここ半世紀は限界に達していた。
そこで、考え出したのが転生である。
他人に憑依したり、他人を操るのはそれ程難しい事ではない。
これは、アルにすればだが…

しかし自分の精神、所謂魂と言うモノを移すのは非常に難しい。
相手のある身体に入った場合、それは果たして自分自身なのだろうか?
相手の記憶と自分の記憶が混ざった場合、果たしてそれはアルなのだろうか?

この疑問に、アル自身も試せなかったようだった。

そこで考え付いたのは、他の世界の自分に転生すると言う方法だった。
何せ平行世界ならば、肉体はほぼ同一の人間がいる。
そちらの脳に全てを移してしまえば、例え両者の記憶の融合があっても、同一人物であり何も問題は発生しない。
ただ、通常の平行世界の自分は年齢もほぼ近い。
既に数百年も生きている以上、若返りと言う希望にあう同位体がそう簡単にいるものではなかった。


そして、アルは更に世界の狭間を探索し続けた。
平行世界が、言わば世界樹とでも言う根本が同じの大きな枝葉の世界とするならば、別の世界樹と言うべき世界、次元世界がある事を。
そして、彼は最後の一大魔法を完奏する。

数多の次元世界の中から、まだ若い自分の同位体を探す魔法を。
そして見つけた俺を、その世界からこの世界に召喚する魔法を。

稀代の大魔導師の、年齢差数百年の自己の同位体の呼び出し。
そしてそれはアルバート・デュランだから、いや、彼しか出来ない、理解も出来ない。
複雑怪奇な術式は正確に作動し、俺はこの世界に呼び出された。

アルにすれば、後は自分自身を俺の中に転生させるだけ。
最後の、彼にすればそれ程難しくない術式の構築とその発動だけ。

しかし彼の唯一にして最大の誤算は、世界を見誤った事だった。
因果律、世界の背反力、修正力とでも言うべきモノ。
勿論通常のアルならば、そんなモノ屁でもないレベルの圧力でしか過ぎない。
ただ、タイミングが悪かった。
俺の召喚の為に全力を傾け、ほぼ成功が見えたその時、世界は同一存在の重複を排除すべく二人に圧力を掛けて来た。

そしてアルは俺に転移さえすれば良い状態なので、その圧力を跳ね返すよりも、術式の構築を選択したのだった。

ホンの僅かな油断、一瞬の判断ミス。
そして、それは年老いたアルには命取りとなったのだった。

術式の発動は間に合わず、アルの年老いた心臓はその鼓動を止めた。

アルの精神は俺に乗り移る事も出来ず、ただ杖を通しての彼の記憶だけが俺に伝えられただけで終わっていた。



「何とも………重いなあ…」
杖を通じて記憶が俺の頭の中に広がるのは、何とも言えない感じだった。
それは丁度何年もあっていない友人や親戚に会った時、突然次から次へと思い出が蘇るような感触である。
まあ、意識しなければどうってことないか…

アルの記憶、いや、アルが成し遂げようとした事の重さは、俺には判らない。
彼は究極の研究者だった。

こんな人里離れた山の中腹に居城を作り、そこで思索と研究三昧の生活を続けていた。
そして、更に研究を続ける為転生を為そうとしたその思いは、今の俺には判らない。

やっぱ、若い頃の生活の違いかなあ…
アルの記憶を思い出す限り、人付き合いは上手い方ではない。
まあ、三歳の頃から神童と言われれば、それも仕方ないかも知れない。
ちなみに、リアル「まほうつかい」では無い。
ちゃんと十代に、経験者に格上げしていた。

でもなあ、その後がいけないんだよなあ。
十代で稀代の魔導師として有名になり、二十歳で魔道騎士、二十五で魔道騎士団長。
十年勤め上げた後、王の後継者争いに嫌気が指し引退。
三十五から百年近く世界を放浪し、その後ここに居を構え研究三昧。

友人がドラゴンとエルフだけって、ああ、あいつら長命だからなあ…

アルの記憶を色々思い出している内に、グラスは空になっていた。

止め止め、取りあえず寝よ…



心持ちほろ酔い気分のまま、俺はアルのベッドに倒れこんでいた。



[11205] ハーレムを作ろう(物語をはじめようその2)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/12 10:59
目が覚め、ベッドで上半身を起こした。
昨日の事は夢では無く、俺はアルの部屋にいるままだった。

そういや、会社はどうなっているのかなあ…
多分昼過ぎに会社からいなくなって、半日気を失ってたみたいだった。
今は…何時頃かなあ…

ふと魔法が使える事に気が付き、術式を組み立ててみる。
よし、これで…

流石に、あちらの世界は遠い。
魔力が大量に消費され、脱力感が襲ってくる。

それでも、何とかあちらを覗く事が出来た。
自分のアパートの部屋は特に異常は無い。
当たり前か、一日位空けた所でおかしい筈無いわな。

そのまま会社を思い浮かべ、飛ぶ。
時間は十時過ぎ。
ありゃ、まだ何も書かれてないな。
スケジュールボードの俺の名前の処には、記載が無い。
やべ、そろそろ連絡入れときゃ無きゃ…

とは言え魔法は使えても、このままでは携帯が使えない。
あれ?
俺、今どこにいるの?

何だか幽霊になったような感じで、こちらの世界を見ていたが、それってどういう事?

アルの記憶を弄り、今の現象を解析してみる。
次元の壁に穴を開け、そこから精神の一端を伸ばしているんだよな…

俺は状況を把握するや、一端自分のアパートに意識を飛ばした。

こんな事出来るのも、こっちの世界でも魔力があるからである。
しかし、アルの世界に比べるとかなり希薄ではある。
偏在でも作って、俺の代わりをさせとけば良いのだが、そこまでは魔力が足りないか…
第一、俺がこの世界との接続を絶てば消えてしまう。

こっちの世界で使い魔と言う手もあるけど、人間じゃなかったら使い辛い。
取りあえず、今はご近所さんに出っ張って貰うか…

両隣とも共稼ぎで誰もおらず、少し範囲を広げてサーチすると、一階下に専業主婦の山本さん(26歳)がいた。
そちらの部屋に意識を移す。

機嫌良く掃除機を掛けている山本さん(26歳主婦)に対して、術式が発動出来るか試してみる。

「フンフンふーん…」
山本さん(26歳専業主婦)の鼻歌が止まり、掃除機を持ったままその場に倒れこむ。
取りあえずちと身体を操らせて貰う為、意識を飛ばしたのだった。

俺は更に術式を弄くると、目の前にリアルで世界が広がっていた。
おおっ!
これが、山本さん(26歳主婦、結構美人)の身体かあ!
今、俺は山本さん(26歳主婦、胸もでかい)に憑依状態である。
おっと、いけん、いけん、早くせねば…
いや、思わず奥さんいけません的な展開を夢想してしまったが、次元を超えてそんな馬鹿な事やってる場合じゃない。
山本さん(26歳主婦)の携帯から電話と考えたが、それはそれで跡が残る。
幸い山本家には家の電話があったので、そこから会社に電話する。

「あ、あ、あ~」
声が女性だから、甲高い。
姉にしよう。
会社に電話し俺が休む事を伝え、山本さん(26歳主婦)に身体を返して、無事こちらの世界に意識を戻した。



少なとも今日一日は、こちらにいても問題は生じない。
それに今は俺の世界の座標も認識しているので、向こうに戻る事は問題ない。
だけどなあ、多分こっちには簡単に来れないんだよなあ…

魔力の多寡の関係で、術式の発動はこの世界の方がやりやすい。
例え杖を持って、即ちアルの知識を十全に利用したとしても、魔力の少ないあっちの世界では、次元を渡ると言うのはかなりハードそうだった。


三百年にも渡るアルの知識と魔法の能力を使えるのだから、このままあっちに帰っても楽しく暮らせそうなのは判っている。
だが科学が発達し魔法が否定されている世界では、色々制約も多いのも事実だった。

アルには悪いが様々な知識から、こっちの世界も結構面白そうなのだ。
それに魔法が使える、それも最強主人公並のチート能力と言うのは、中々魅力的だった。

まずは両方の世界を行き来出来るようにするのが、第一か…
俺は早速に、その準備に取り掛かった。


取り敢えず昨晩から何も食べてないので、貯蔵庫からパンと干した牛肉を取り出し口にする。
食生活はかなり貧しいなあ…
魔法を使い固定化された貯蔵庫の中には、様々な食べ物が蓄えられているが、俺の世界の水準からするとかなり貧しい部類になる。
パンも固いな…

希代の魔道士と言っても食事のバリエーションは、現代社会に劣ると言うのは中々面白い。

そのまま干し肉をかじりながら、俺はアルが研究室に使っていた一画に向かう。


ちなみに今更だが、このアルの居城には、俺以外誰もいない。
大概の事を魔法を通じて行っているアルにすれば、人と会うのも億劫だったと言うところだろうか。



研究室は、所狭しと様々な魔道アイテムが散乱する一角だ。
一応記憶があるから、何処に何があるかは把握しているが、散らかし放題と言う感じで少し萎える。

はあ、仕方ないなあ…

それでも気を取り直して、俺は探し物を始める。

確か、この辺りにあった筈だが…
おっ、あった、あった。

取り出したのは、魔石とでも言うべき宝石の一群だった。
魔力が豊富なこの世界では殆ど使う事は無く、隅の方にほったらかしたままだったが、あっちの世界に移り、も一度こちらに戻ろうとするならばこれが必須アイテムとなる。
この魔石の中に蓄えられた魔力を必要量だけ取り出し、世界を渡る訳である。

ただそのままでは、放出される魔力の量の調整が難しい。
通常は微量づつしか引き出せないし、アルの記憶によれば、一挙に放出させた時は小さなかけらでも、百メートル以上のクレーターが出来たとんでもない物質である。

理論上は核融合炉と同じような仕組みを考えつくが、今はそんなもの作っている時間も無い。
まあいつかやってみるのも面白そうだが、今は簡単な方法を組み上げる。

要は、必要な量だけ爆発させれば問題はない筈。
だから小さなかけらに分解し、特殊な容器に入れ、必要な量を叩き出す。
指向性を持たせた魔力の流れを作り出し、術式の発動と同時に爆発させれば何とかなるだろう。
最悪失敗しても、予備も含めていくつか用意しておけば、あちらの世界からの転移も何とか出来るだろう。

錬金にて散弾銃のカートリッジのようなものを作成し、それに微小なかけらに分解した魔石を詰めて行く。
あちらの世界の希薄な魔力で起動させれば、爆発的な魔力の放出が行われる仕組みが出来上がる訳だ。

結局夕方までかかり作り上げたものは、どう見ても散弾銃とそのカートリッジ一ダースだった。

あちらの世界に持って帰るものを選び、それらをリングに収納すると準備は整った。
いない間に誰かがここに入って来られるのも気に入らない為、アルが残した結界を確認する。
更に侵入者があれば、あっちの世界の俺に連絡が行くように術式を追加した。

ちなみにアルが手にしていたリングは、四次元ポケットみたいなもんだ。
あれ程の容量は無いが少なとも四トントラック二三台は収納できる優れもので、今も色々詰め込んだ。
まあ手当たり次第に使えそうなものを詰め込んだ感じだが、それも問題はないだろう。

色々用意し終わったのは、かなり遅い時間になっていた。
俺は召喚用の塔に入り、向こうの俺のアパートを思い浮かべる。
術式を構築し、溢れる光と共に俺の姿はこの世界から消えていた。







現代社会に戻った俺は、結構忙しかった。
まず、魔力の少なさは予想以上だった。
アルの世界に飛ぶ為の帰還用の魔石の駆動は、それを予想していたから問題はなさそうだが、リングの収納物を取り出すのも一苦労と言うのには流石に予想もしていなかった。


会社には速攻で、辞表を叩きつけ辞めた。
二つの世界を行き来しながら楽しく暮らす為には、用意する事が沢山あり、その準備の為には働いている暇はない。
何せあちらの世界は、剣と魔法のファンタジーの世界。
中世に近い暮らしなんか、今の俺には馴染みようがない。


生きて行くには困らないとは言え、色々難しすぎる。
例えば電気が無い。
雷等の電気的な攻撃魔法は作れるが、これでは電子レンジは動かない。
5A、100Vの電力を絶え間なく供給する魔術なんて、まあ不可能ではないだろうが、俺にはそんな術式を作る気はない。

とにかく錬金にて、形状はある程度作成可能であるが強度はどの程度のモノを作れば良いのかなんて、部品を一つ一つ解析して作るしかないのである。
それよりも貴金属宝石を売っぱらって、発電機と電子レンジ、精製したガソリンを購入して、あちらの世界に持って行く方が簡単だと言う事だった。

あちらの世界ならば魔法が自由に使えるから、何処に行くにも防御は大丈夫とは言え、それでも護身用の銃ぐらいはこちらから持って行きたい。
とにかく俺はアルの知識で知っているあちらの世界を色々見て回りたいとは思っていたが、その為に今の快適な生活を犠牲にする気はなかった。


考えて欲しい、風呂に入るのもお湯を生成して湯船に蓄える。
それをちびちび使いながら身体を洗う。
シャンプー一つとっても、成分の分析を行い錬成するしかない世界と、蛇口を捻ればお湯がでて、近くのスーパーで買ってきたシャンプーを使う世界の違いを。



と言う訳で、色々用意するのは結構大変だった。

持って帰ってきた貴金属を売る事一つとっても、そんな素性の知れない宝石類を大量に引き取ってくれる質屋なんかどこにあるんだ。
しかも日本にいる以上、身分証明の提出が求められるのに、色々な店で、同時期に大量の貴金属を同じ人間が売るなんて疑われる事はしたくない。

魔法を使い誰かに肩代わりさせる事を目論んでいたが、魔力が少なすぎてそれも効率が悪すぎた。

結局幾つかの宝石を売る事で小金を得ると、俺はその足でサウジに渡った。
七つ星の高級ホテルのスィートルームに陣取り、なけなしの魔力をかき集め魔法を使い、サウジの王族とコンタクトを取る。
勿論水の魔法で、俺を親友だと認識させてだ。

その人物を通じてある程度の貴金属を購入出来る人を紹介して貰い、そこで大々的に売り払った。

まあ良くまあそこまで出来たと思うが、いざとなればその場であちらの世界に転移出来るように用意して交渉を行ったので、何とかなったとしか言いようが無い。



何とか億単位の資金を得ると、その場で必要な資材をかき集める。
金があれば何とかなるもので、何が欲しいと言うと何処からともなく集まってくるから凄い。
それらを指定の倉庫に配送させて、後はリングを稼働させ収納する。

それも魔力の少なさの為一度には出来ず、結局一週間以上もかかってしまった。

あれやこれやで俺が考える最低限の用意が整うまでに、かれこれ三か月が過ぎていた。





俺がでっち上げた魔石エネルギー生成装置(散弾銃もどきとカートリッジの事ですが)も無事稼働し、俺は再びアルの世界に戻って来ていた。

取り敢えず私室のベランダに出て、リングから茶色の紙袋を取り出す。
リングの中はある意味固定化が掛かっているようなもので、一切時は止まったままである。
従って収納した時点の状態で、ものが取り出せる中々素晴らしい冷蔵庫代わりにもなる。

赤いMのマークが描かれた紙袋は独特のポテトの臭いが漂い、俺はにんまりと笑みを浮かべた。

ベランダのテーブルに、中のモノを並べて行く。
コーラ小、フライドポテト、ビックマック、シャカシャカチキン。
そう、マクドナルドのビックマックセット+シャカチキ。

「いただきまーす」
俺はマックにかぶりついた。

「旨い!」
目の前には白い頂きを連ねる山々、そして目を凝らせば遠くに森林が広がっている。
アルの居城はあっちの世界で言えば、ヨーロッパのピレーネ山脈の中腹に位置している。
そんな処でマックを食べると言うのは、反則かも知れないけど中々気持ちイイ…

みみっちいなんて言うなよ、俺はこれが好きなんだから…


フライドポテトを摘まみながら、俺は更にリングから本を取り出す。
出てきたのはヤマグチノボル作、「ゼロの使い魔」。
あちらの世界で今出ている分、全部買ってきたのだ。

そう、アルの記憶からここがどこかで聞いた事のある世界に非常に似ている事に気が付いていた。
系統魔法、先住魔法、始祖ブリミル、ガリアに、ゲルマニア、これらのキーワードでも想像が付いた。
ここは「ゼロ」の世界もしくは、それに非常に近い世界だった。

だけどまだ小説の時代には至っていない。
ガリアの王はジョセフではないし、トリステンも王が健在だった。
まあ王の名前とかは、多分に先代ポイから、長くても十数年後にはルイズ達が登場する可能性は大きい。




それまで、せいぜい楽しみますか!



[11205] ハーレムを作ろう(家を探そう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/13 22:29
準備が整うと、俺はアルの居城を後にした。
先ずは新しい住まい探しからはじめなきゃいけない。

アルの居城は、彼の様な隠遁者には丁度良かったのだろうが、俺には向いてなかった。
何せ、彼は独りで暮らしていたのだ。
生憎俺は、まだそこまで枯れてない。
何と言っても、俺はまだ28歳。
そんな俺が、アルの記憶と魔導師としての力があるのだ。
どれだけチート主人公、最強モノを地で行くんだよ。
あんな事やムフフな事もしたいじゃないですか。

それと、切実な問題として食事の問題がある。
とにかくあっちの世界の食事に慣れ親しんだ俺にすれば、あまりにもアルの食生活は貧し過ぎた。

毎日マックじゃ味気ない、いや、好きだけどね。


まあ魔法で何とかと言う手もあるけど、やっぱりトリステン魔法学院のマルトーさん見たいなシェフに、暖かい食事を作って貰いたいじゃないですか。
可愛いメイドにアーンとかも、男ならやりたいじゃないですか。

行き先は、ゲルマニア。
土地を手に入れ、改めて領主にでもなってみて貴族ごっこも面白そうかな程度の理由だけどね。





半年後俺は帝政ゲルマニアの首府、ヴィンドボナに辿り着いていた。
半年間もの時間を掛けたのは、色々見て回ったりした結果だった。
実際俺自身ならば、転移も可能だからどこでも行けるのだが、この世界を見て回りたいと言う欲求に勝てなかった訳だ。

取りあえずここで爵位を得て、貴族様になってムフフな生活を楽しむのだ。







アルの持っていた莫大な資産を使い、あちこち走り回って俺が手に入れたのは、北方の辺境領の一画だった。
北側に海、あっちの世界と同じく北海と呼ばれる海が広がっており、深い森が海岸ギリギリまで広がるエリアだ。

一応、海上での風雨がしのげる入り江を中心に小さな漁村が一つ。
そして、そこから海沿いに歩いて二時間程度の所に流れる小さな川沿いに開かれた農村が一つ含まれていた。

人口は両方併せても300人にも満たない、まあ男爵領としては貧弱なものだった。


そう、ひたすら荒れているのだ。
領主の館らしきモノが、丁度二つの村の中程の丘の上に建てられていたが、それも今は廃屋と言って良いほど荒れ果てていた。


流石に前領主が放蕩の末、借金まみれで売りに出されただけはあった。

それを格安で買い取った訳だが、形式上はバルクフォン男爵家に俺が養子に入り後を継いだ事になっている。
ちなみにこれからは、俺の名前は、アルバート・コウ・バルクフォンとなる訳だ。
本来は、爵位を示すフォンをコウの所に付けなきゃいけない。
しかし、あっちの世界での俺の名前の一部でも残したいと言う拘りだが、それほど問題なく認められた。
まあ金はかかったが、子細な事だ。


全てのお役所仕事を終えて、俺は初めて自分の領地にやって来た。

「これは酷い…」
元々不良債権である事は承知していたが、現実は更に酷かった。

漁村は荒れ果てており、人っ子一人いない。
いや、ボロ屋の中に気配はあるのだが、明らかに恐れているようで誰も顔を出そうともしない。
浜辺に繋がれた小さな漁船らしきものは、朽ち果てている。
いったい、どうやって暮らしているのやら。



俺は呆れ果てながら、農村に向かった。

農村も似たり寄ったりの状況だったが、こちらは村の長らしき人物が出てきただけましか。


「何か御用でしょうか?」
ほう・・・
どうやら、気概までは無くしてないらしい。
確かに不審者に対する怯えは見られるが、目は死んでない。

「ああ、新しい領主だ」
老人は、一瞬怪訝な顔を浮かべる。

「領主様がお代わりになられたのですか」
しかし直ぐに事情を察したのか、そう返して来る。

「で、貴方様は?」
「その領主だ」
流石に、老人の瞳が大きく見開かれた。






領地の視察及びあちらの段取りを済ますと、俺は早々にヴィンドボナに戻った。

領地を手に入れ爵位と言う身分が整った以上、俺は目をつけていたヴィンドボナ郊外の邸宅を購入した。
元はそこそこの貴族の別宅だったもので、森に囲まれた二階建ての立派な邸宅である。

早速封鎖結界を展開し、内外の出入りを閉鎖する。

それが済むと、あちらの世界とのゲートの構築を始めた。


これが、一番難しい。
俺一人での移動は、魔力カートリッジの利用でなんとか可能であるが、中々物騒な方法である。
何せ移動の度に、爆発するようなもんである。
とにかくこの方法は、今回使えない。

その為、予めあちらの世界に、基点となる場所を設定し、そこに用意した魔道具を設置してあるのだ。

俺は術式を展開し、二つの世界を繋ぐ。



ミクロン単位の穴を開けたようなものだが、目的には十分である。
こちらから、その穴を通じて魔力を送りこむ。
あちらに設置した魔道具に反応があり、更にその魔道具目掛けて魔力を注ぎ込んで行く。


よしっ!起動した!
こちらからの魔力供給で、あちらの魔道具の起動が感知出来ると、後は自動的に動き始めた。

やがて、ピンホールのような穴が目視出来るようになった。
そして、それは着実に大きくなり始める。


そろそろこちらからの魔力供給も、用意した魔道具に切り替える。
魔道具を駆動させると、辺りの魔力が吸収され吸い込まれて行く。



今目を離す訳にも行かず、俺は尚もその変化を注視し続けた。
目視出来る大きさになった穴、いや、穴と言うより歪んだ鏡や水面のような空間が更に大きくなる。

やがて、半径5メートル程度の大きさまで拡大した所で、俺は新たな術式を展開し、その大きさを固定させた。
後はゲートを維持するのに必要な魔力を送りこむ術式を起動し、俺は大きく吐息を吐き出した。


計算通り目の前には、召喚ゲートのようなものが開いている。
後は安全性かな?
理屈の上では、このままゲートを通り抜けれる筈。
かといって、自身が実験台になるのは遠慮する。

と言うわけで、ここに来る前に取っ捕まえた、狼を呼び寄せる。
水の魔法で精神を抑えているので、素直にゲートに突入してくれた。

特に問題も無く行き来出来る事を確認したので、俺もあちらに移動し、作業に掛かる。
これも俺が楽しく過ごす為、面倒だがやり終えねば。




翌朝邸宅に戻り待ち受けていると、車のエンジン音が響いて来た。

邸宅の正面に、機材を積んだトラックが数台止まる。

車からは現場監督らしい男が降り立ち、建物を見上げながらこちらに歩み寄って来た。


「おはようございます」
にこやかに挨拶して来るのに、俺は心の中でガッツポーズを決めていた。

そう、彼らはあちらの世界から、ゲートをくぐってこちらにやって来たのだ。

そして、その事に彼らは気付いていない。
東ヨーロッパの、古い邸宅をリフォームしに来たと言う認識だった。

わざわざ東欧を巡り、森に囲まれた古い邸宅を捜しだしたのだ。
そしてそこの建物を撤去し、こちらの邸宅の幻影を魔法で投影している。

遠くから建物が見えたとしても、車に乗ったまま、いや歩いてゲートを越えたとしても、
自分の眼で見たものがそこにある以上、誰か世界を越えたと気がつこうか。

ましてや、俺はこれを日本のトップスリーの一つのゼネコンに、アラブの王族の酔狂な特急仕事として発注した。

クオリティが要求される仕事を請け負い、こなしている一流の企業であるとの予想通り、彼らは作業要員を連れて来てる。
地元の人間では無い以上、更にこのカラクリに気がつく可能性は低かった。



「それじゃ、早々に作業に掛かります」
簡単な打ち合わせを済ませると、直ぐ様作業に掛かる○成建設の社員を、俺は満足気に見つめるのだった。



[11205] ハーレムを作ろう(メイドさんを作ろうその1)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:21
この世界に、表向きは奴隷はいない。
しかしながら借金と言う名目で、奉公に出されたり、貴族が領民に対して生殺与奪権を握っている状況である以上、制度は無くとも実質は変わらない。

ヴィンドボナの館のリフォームが終了すると、俺は早々に奴隷の収集に取り掛かった。
館に、目星を付けていたその筋の商人を呼びつける。
こちらの要望を述べ、後は待つだけだった。

金に糸目は付けないと言ったのが大きかったのか、商人は翌週には早くも八人の候補を引き連れて来た。
既に一度ここに来ている商人は別にしても、みすぼらしい身なりの八人の少女は正面の扉から中に入ると、ポカンと部屋を見つめ固まっていた。

一応クラッシックな内装に仕上げてあるが、それでもふかふかな絨毯に洒落たランプだけでも、この世界の平民には別世界にしか見えないのだろう。


簡単な解析の魔法を使用すると、八人中二人は男性経験ありと判る。
残りの六人の中から五人を選び、早々に買い取る事にする。
商人に金を渡し、とっとと帰らす。
後は不安そうな顔を浮かべ、隅に固まる五人の美少女と俺だけが残された。

それぞれの借用書に目を通し、彼女達に内容を確認して行く。

99年の雇用契約って良いのか、いや、こっちならアリなんだろうな。

出身地、年齢等の質問には、全員素直に答えて来る。
特技を聞くが、二人が料理が出来る程度だった。




ふうっと溜め息を吐き出し、黙って俺は彼女達を見つめた。
さすがに五人とも居心地悪そうに視線を逸らしながらも、チラチラと様子を見て来る。

元々メイドを侍らせ、ハーレムでもと思っていたが、実際にこうやって生殺与奪権を握ってしまうと、戸惑っている俺がいた。

お話、いや、妄想の世界が実現可能になると、我ながらヘタレとしか言いようがない。
商人にはとりあえず二十人と伝えてあるので、こんな美少女達が後十五人来る訳だ。

正に男の夢、ロマンが適う。



なのになあ…

目の前に五人もの愛らしい美少女が、物凄く不安そうな顔で俺を見ている。
それを目にすると、その気持ちが萎んでゆくのが判るのだ。

俺の貴族としての立場、アルから引き継いだ様々な力、これを使えばこの子達を自分の虜にして、ハーレム状態にする事は簡単な事だ。
だがそこでいざとなると、あちらの世界で形成された変な価値観がもたげて来る。

相手の意思を無視して良いのか…

同じ人間同士でそんな事して良いのか…

自ら幸せを掴み取るべきじゃないのか…


ごちゃごちゃ理屈を付けているが、要は単に愛されたいと言うだけなんだろうなあ…
無理強いじゃなくて、割り切って酒池肉林に浸るのは簡単だし、それはあちらの世界でも金が出来た時にやっている。

さて、どうしたものか・・・

どうやら鬼畜に徹しきれない自分に苦笑を浮かべながら、取り合えず出来る所までやるとしよう。




「お前達は、借金の片に俺に売られた。それは判っているな」

じっと黙り込んでしまわれたご主人様が立ち上がり、突然そんな事を言い出した。
今更、そんな事言われなくても判っているのに…
ヴィオラはそうは思ったが、コクリと頷ずくしかなかった。

ある時から、父と母の私を見る目が変わった。
それからやけに優しいような、よそよそしい態度に、何があるのか大体の察しは付いたが、ヴィオラもそれを言うことは無かった。
だって私の住んでいた村では、それ程珍しい事じゃなかった。
だから今年の収穫が予想以上に悪く、食事が貧相になって行く一方だった食卓が、その日を境に、少なくとも食べられるものが出てくるようになった時点で、ヴィオラにも想像はついた。

私の番なんだ…

仕方ないと思う。
だれかが犠牲にならないと、みんな生きて行けない。
それがこの村の生活。
そして運が悪い事に、その犠牲になるのが偶々私、ヴィオラなのだったのだ。

泣いた。

独りで、誰も見てない所で泣いた。
だけど、逃げる訳には行かない。
そんな事しても、また妹や村の友達の誰かがその代わりをするだけ。


商人の人が迎に来た時、父や母は涙を浮かべ見送ってくれた。
どうして、どうして、自分がこんな目に合うのだろう。
何故、みんな幸せに暮らせないのだろう。

涙がポロポロ溢れるまま、ヴィオラは商人に付き添われながら村を後にしたのだった。


幾つかの村を回り女の子の数が増えると、商人さんの用意した荷馬車に乗せられ帝都に向かった。

待遇は予想してたよりは、ましだった。
少なくともちゃんと食事は採らせて貰ったし、靴も貰った。

だけど、それだけ。
他の子もそうだけど、お互い口も聞こうとせず、夜には押し殺したようなすすり泣きが聞こえる。


判っていた。

私達、みんな売られたのだと。


99年の奉公契約だと、商人が言っていた。
頑張ってお金を貯めて、契約を買い戻せば年季は明けると。
だけど、その為には何をしなければいけないのか。

メイドとして奉公しても、給金は出ない。
だって99年分先渡しで、両親に渡っている。

両親がお金を貯めて買い戻してくれる?
うううん、無理。
そんなお金が稼げるのなら、元々売られる事も無い。



帝都に近づくにつれ、ヴィオラ達も会話を交わすようにはなる。

最初は、みんな自分の不遇さを悲嘆するばかりだった。
だけど、これからどうなるのか不安が高まるのはみんな一緒だった。

だから、知っている事を話し合った。

その中で判った事。

男の人と寝るのを仕事とする場合。
男の人からチップを貰い、それを一杯貯めれば、この奉公から開放される。

商家の手伝いだと、お金は溜まらない。
だけど、旨く見初められれば、商家の息子の嫁もある。
そこまで行かなくとも、家人の嫁と言う可能性もある。


でも、最悪は貴族のお屋敷勤め。

主人や、その息子の慰み者にされる。
子供が出来たら、追い出される。
それでなくても、一生女中としてこき使われる。



そして私ヴィオラは、ここ、貴族のお屋敷に来ている。
最悪だった。
この先、ここで一生働く事が決まってしまった。
そう、その中には…


「その仕事には、俺への肉体奉仕も含まれてるのは理解しているか?」

ヴィオラはあっけに取られ、ぽかんとご主人さまの顔を見つめるのだった。

何を言っているのだろう、この人は…
覚悟を決めている所だったのに。
態々そんな事言わなくても、判っているのに…


涙が溢れ出すのを、ヴィオラは止める事が出来なかった。






俺は、彼女達の反応を見ていた。
きつめの顔で俺を睨み付けながらも、歯を食いしばり頷く子。
確かゼルマだっけ。

頷きながらも、目が合うと、慌てて視線を逸らして下を向いてしまう子。
うん、グロリアか。

あっけに取られたような顔で、ポロポロと涙を流している子。
ヴィオラだな。

真っ赤になって、俯いてしまい、何も言えない子。
アンジェリカと言うのか。

そして、きょとんとして、周りの様子にワタワタと慌てている子。
アマンダ、しかしホンとにこの子1×歳か?

とにかく約一名を除き、ちゃんと仕事を理解しているようで喜ばしい。



先ずは、彼女達の身なりを整えねば。
それとまあ、少しは役得もあって良いよな。


「それじゃ、全員ついて来い」




に、にくたい?ほ、ほうし???
な、何の事!
何をされるの!
訳も判らず慌てていると、ご主人さまが、先立って歩き出します。
みんなそれに従うように動きだしたので、アマンダも慌ててそれに続きました。


しかし、何だか凄いお屋敷です。
正面の出入り口から入りましたけど、これって絶対私達の様な奉公人が通るような入り口じゃないです。

ここに連れられて来た商人さんと、新しいご主人さまが話している間、入り口から入った広間のような所でアマンダ達は、待たされました。
その間、周りを見ていても驚きしかありませんでした。


だって床がふかふかの布、後でご主人様が絨毯だと教えて貰いました、が敷いてあるんです。

それに表は石造りの建物なのに、中に入ると、何だか判らないもので覆われています。
色々細工が見受けられますが、アマンダにはチンプンカンプン。


しゃっきんのかたにうられた?

にくたいほうし?


何だか話が違うような気がしますが、今は恐ろしくて聞けません。
お屋敷勤めだと聞いていたけど、どうやらそれだけでは済まないみたいです。

とっても不安ですけど、私、アマンダは、慌ててみんなの後を追いかけました。






「正面が食堂、こっちに厨房と君達の部屋がある」
ご主人さまが立ち止まり建物の奥を向いたまま、グロリア達に左手で指し示してくれました。

「二階は、左手が書庫や遊戯室、右手が俺の私室と書斎になる。下は風呂場と洗濯場だ」
そう言いながら、そのまま右手に歩き出します。

「ここには、今は俺を除くと、君達五人しかいない。だから、来て早々だが直ぐに働いて貰う」
グロリアは、少し驚いてしまった。
これだけ立派なお屋敷に、ご主人様一人しかいないなんて。
えっ、それじゃ、今までどのように暮らしておられたのかしら…


一見すると怖そうな感じですけど、根は優しそうな人みたい。
それが、私、グロリアの第一印象でした。

しかし本当に変わったお屋敷です。
それに、私達の部屋?
屋敷の中に、召使の部屋があるなんて、何だか不思議な気がします。

だってグロリアが育った召使部屋は、屋敷から少し離れた粗末な建物だったのです。


母が、その屋敷のご主人様のお手つきとなって、私、グロリアが生まれました。
大家の貴族様だったご主人は、それだからと言って追い出す訳でもなく、普通に召使部屋に母を住まわしてくださり、私はそこで大きくなりました。

このまま行けば多分グロリアも、そのお屋敷に上がり、女中として働くものだと思っていました。
だけどそんな状況は、ご主人様が亡くなった事で大きく変わりました。

母と私は、後を継いだ方からごみのように追い出されてしまったのです。
僅かな蓄えしかない状態で追い出され、何とか働き先を見つけた母でしたが、先年大病を患い半年も持たず亡くなってしまいました。

その看病に疲れ、ぼおっとしているグロリアの前に突きつけられたのが、借用書だった。

母の病気の治療の為、大枚を叩いて手に入れた薬の支払い…
払える訳ありませんでした。


その結果、私、グロリアは今、ここに来ています。

一時は借金の片にされた以上、どんな仕事をさせられるのかと心配しましたが、今はホッと一安心です。

屋敷勤めなら、少なくとも幼い頃より目にしながら育ちました。
経験はこれからですが、知識はあります。


に、肉体奉仕は…


ま、まあ、ご主人さまも、それ程悪い人ではなさそうですから…






[11205] ハーレムを作ろう(メイドさんを作ろうその2:15禁注意)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/06 22:11
館の主に続いて、右手の奥に向かう。
確か風呂場だと言っていたが、くっ、早々にゼルマ達を陵辱する気なのか。

しかし、なんだこの館は?
ゼルマは不思議に思う。
壁一つ取っても、このような材質は見た事もない。

奇妙な文様の入ったタペストリーのようなものが掛けてある入り口を、主に続いて潜り抜ける。
中は更に奇妙だった。


「ここで、靴は脱いであがれよ」
く、靴を脱げと。
これは益々、そのつもりだな。
しかも、五人まとめて相手をするつもりなのか…

良かろう、受けてやろうじゃないか。
私も、十歳までは伯爵令嬢として育てられたこの身。
他の女達とは違う事を、その身に判らせてやる。
没落したとは言えこのゼルマ、ヴェスターテ家の元伯爵令嬢としての矜持、受け止めて見せよ。



壁一面に棚が並びそこに籐の籠か置いてある。
それにしてもこのような形は初めて見るものだなと、ゼルマは思った。
反対側の壁は、大きな鏡が張ってあり、錬金にて作成したにしても中々の出来栄えである。
しかし、その下の大理石のテーブルはなんだ?
いくつか小瓶が並べられているが、これは何なんだ。
ゼルマは訳も判らず、首を捻るだけだった。




「よし!全員、服を脱いで裸になるんだ」
「えっ!」、「なにっ!」、「ふえっ!」、「ハイ…」、「はあ?」
うん、それぞれ個性的な返事が返って来るのは、中々面白い。

それでもグロリアが、躊躇いながらも着ているものを脱ぎ始めると、
ゼルマが負けじと裸になって行く。

ヴィオラはしぶしぶ、アマンダは周りを見渡して慌てたように、アンジェリカは…
うーむ、脱ぎ始めたが、特に何も考えてなさそうにしかみえないんだが。




裸になるんだ~
やっぱり、恥ずかしい事されちゃうのかな?
でも、ご主人様が望んでるなら、逆らっちゃ駄目だよね。
あんまり、痛くなければ良いだけど~
隣に住んでたエリーザ姉さんは、『とっても痛いのよ、その後気持ち良くなっちゃうんだけどね』って言ってたし。
でも、気持ち良いなら、良いかなあ~

アンジェリカは、そんな事を考えながら服を脱いで行くのだった。

うわあ、グロリアさん、胸大きいなあ。
うん、これなら、アンジェリカも胸の事あんまり苛められないで済みそうで良いなあ。





うーむ、色気に欠ける姿だなあ…
胸を両手で隠し恥ずかしそうにしている娘もいるが、ゼルマのように、堂々と胸を反らしてこちらを睨みつけている娘もいる。
しかし五人の乙女達の、大胆な姿を台無しにしているのが、脱がずに身につけている下着だった。
これは無いよなあ…

全員が全員とも履いているのは、ダボタボのステテコのようなパンツだった。
この辺りは、あっちの世界とは違うらしい。
確かに恥ずかしい所を覆うし、脱衣が楽なのは判るが、あまりにも色気に欠ける気がするのは俺だけだろうか。



「あー、悪いが、それも脱ぐんだ」
全員がしぶしぶだが下着も脱ぎ捨て、ゼルマ以外は何とか手で隠そうとしている。
ゼルマは、下に生えている黒い茂みも惜しげもなくさらけ出し、こちらを睨み付けてくるので少し怖い。


しかしグロリアさん、それは反則じゃないでしょうか。
両手で胸を押さえるようにして隠そうとしているが、あまりにも大き過ぎて全く隠れていない。

何だか、アマンダが呆れたように、彼女の胸を凝視していた。


「それじゃ、服を持ってこっちだ」
もう少し鑑賞していたい気もするが、やはり早く綺麗になって貰おう。


言わなかったが、中々匂いはきつい。


「全員服はこの中に入れるんだ」
隣の洗濯場兼下着置き場に連れて行き、洗濯機の蓋を開け、それぞれの服を掘り込ませる。

五人とも怪訝そうな顔をしているが、説明はまた後で行うので、無視する。


洗剤を取り出し、投入してスイッチを入れる俺を不思議そうに見ているが、無視だ無視。


「「「キャっ!」」」
電子音が響き、洗濯機が動き出すと、何人かの怯えたような声が響く。

「魔法だ、気にするな」
本当に便利な言葉である。
全員が納得したような顔をして、黙り込んでしまった。

再び脱衣場に戻り、今度は俺が服を脱ぐ。
後ろで、緊張している気配が伝わってくる。


今はそんな気ないんだがなあ…

裸にさせた結果、全員の体から立ち上るすえた様な匂いにげんなりしており、とてもじゃないがエッチな気分にはなれない。

貴族ならまだしも、彼女達は平民である。
風呂なんか、本当に入った事すら無い可能性すらあるのだ。

匂いが凄い事になっているのも、本人らは自覚してないだろう。


「よっし!風呂はいるぞ」
風呂場へと続く扉を開けて、俺は大きく宣言した。




「うわぁ…」
「な、なんだこれは!」
「へえっ…」
風呂場を覗き込んで、様々な反応が返って来るのは中々面白い。
態々、日本の観光旅館にあるような大浴場にした甲斐がある。

しかし今の彼女達の状態のままで、風呂に浸からすなんてとんでもない。

先ずは、シャワーで徹底的に洗わねば。
良かった、シャワーブースを六つにして。

「グロリア、こっちにこい!」
全員でくっつくように固まっている五人に声を掛ける。
指名されたグロリアが少しびくつきながらも、俺の側までやってきた。

シャワーブースは一人用なので、使い方の説明を含めて、一度に二、三人までしか出来ない。
それよりも、あの狭い空間に、三人以上は匂い的に俺がきつい。


「残りはちょっとそこで待ってろ。動くなよ!」
間違って風呂に入られたら泣くぞ、ほんとに。

俺は、グロリアを誘うように、手前のシャワーブースに入る。
彼女の体が緊張で小刻みに震えているのが判るが、匂いのせいで俺はそれどころじゃない。


「いいか、ここからお湯と水が…」
シャワーの使い方を説明する。

蛇口をひねりお湯が出てきたのにびっくりするが、それを無視して調節の仕方、止め方を理解させる。


それが出来ると、次はシャンプー、リンスだ。
石鹸すらないのに、これを納得させるのは一苦労なので、実際にやって見せるしかない。


「これは、髪の毛を綺麗にする水の秘薬でシャンプーと言う。で、こっちが髪の毛をつややかにするリンスと言う秘薬だ。
 これを使って、髪の毛は常にきれいにしておくんだ。判ったな」
「は、ハイ」

目を丸くしながらも、ウンウンと頷いている。
グロリアが一番理解が早そうだったので、彼女を選んだのは正解だろう。


「試してやるから、お前は残りの彼女らに使い方を説明するんだ。俺も手伝うから」
「は?ハイ、よろしくお願いします」
更にびっくりしたように、目を見開くが、とにかく手早くすましたい。

「じゃあ、自分でシャワーの湯温を好みに合わせてみろ」
コクリと頷き、彼女が蛇口を捻る。
頭から掛かるお湯に四苦八苦しているが、何とか使い方は理解したようなのでホッとする。


これだともう一人誰か呼んで、手伝わせるか。
「ヴィオラ!こっちこい!」
ビクッと身体を震わせるが、おずおずと彼女がこちらに向かってくる。


「一人だと、シャワーでやるのが楽なんだが、今は使い方を覚えて貰うので、こっちでするぞ」
グロリアを連れて、洗い場に向かう俺の後をヴィオラが付いてくる。

「これは蛇口と言って捻ると水やお湯が出る。使い方は後でグロリアに聞け。今は手伝ってもらうからな」
「は?ハイっ!」
怪訝そうな顔も、俺が睨むとビクッとしながらも返事を返してくる。


「シャワーはここにもついている。これを捻るとシャワーと下の蛇口が切り替わる」
びっくりしているヴィオラは無視して、グロリアに使い方を説明して行く。
先ほどのシャワーで理解したのか、グロリアの飲み込みは早い。

「ひゃあ…」
適温にしたシャワーをグロリアの頭に掛けると、びっくりして身体を震わす。
目の前で、その規格外の豊かな胸がプルンと揺れ動くのには流石に、息を呑んでしまう。


いやいやそれより早く使い方、使い方。

「良し、いいか、こうやって、上を押すとシャンプーが出てくる。これはリンスや石鹸も一緒。間違えるなよ」
「ハイ!」

どうやら、グロリアは俺が何をしようとしているのか納得したようで、期待したように返事を返してくる。


「あー、残りの三人。こっちに来い!」

三人とも予期した事と様子が違うのに気が付いたのか、好奇心丸出しで近寄って来る。

俺はまずヴィオラの手にシャワーでお湯を掛け、石鹸で手を洗わせた。
ヴィオラは、お湯が掛かるのにも驚いていたが、更に石鹸の液を付けこすらさせると、泡だらけになる自分の手を見て目を丸くする。

「それじゃ今度はこれを付けて、グロリアの頭を洗うんだ」
目を白黒させながらも理解したようで、ヴィオラは手を差し出す。
その手にシャンプーを付け、グロリアの頭を洗い始めた。

「うわぁ、凄い、凄い」

「力を入れすぎるなよ。グロリア、目を瞑っていないと、シャンプーが目にしみるからな」

「えっ、は、ハイ、判りました」

「よーく泡だったら、お湯で洗い流す事、泡は全部取り去るんだ。それが済んだら、今度はこっちのリンスを髪に満遍なく付け、また洗い流す。判ったか?」

「えっ?あ、は、ハイ」

ヴィオラは泡が立つのが面白いのか、必死にグロリアの頭を擦っており、慌てて返事をしてきた。
様子を見ながら、覚えさすしかないな。


「それじゃ、アンジェリカとゼルマ、ああ、アマンダもシャワーの使い方を教えるから、付いて来い」
もう三人ともそれ程緊張せず、俺の後を付いてくる。

シャワーコーナーで、三人に交互に試さして、使い方を教える。
アマンダが一番飲み込みが早く、湯温を思いっきり冷たくしたりして、ゼルマに睨まれていた。

「使い方は、判ったな。後は実際に使いながら覚えろ。じゃ、次は頭だ。グロリアを見てたから大体判るな」

「ええっと、ちょっと無理かも…」

アマンダに遠慮がなくなって来ている気がするが、そう言われれば仕方ない。


「それじゃ、アマンダ、グロリアの横に座れ、洗ってやるから。ゼルマとアンジェリカは二人で交互に試してみろ。
 ああ、シャンプーとリンスを間違えるなよ、先にシャンプーで、後でリンスだ」



それから、暫くは交互に髪の毛を洗うのを色々指導してまわる。
ゼルマが、アンジェリカの頭を擦りすぎ、アンジェリカが目を回しかけている。
ヴィオラは案の定、三回目のシャンプーをグロリアにしていたりする。
アマンダは、リンスが出てくるのが不思議なのか、何度も何度も押して辺りをリンスだらけにする。


俺はそれらに一々注意をしながら、全員が髪を洗い終えるのを待つ。

ああ、その間に折角だから自分の頭も洗おうとすると、アマンダが洗ってくれたので、少しハーレム気分に浸れたのは秘密だ。


ただ頭が終わっても、まだ身体を洗う作業が残っている。
泡の国で、全身にソープを付けてこすり付けて洗う方法を教えたくなるが、今は汚れを落とさせなければと、我慢する。

用意してある身体洗い用の目の荒いタオルをそれぞれに持たせ、それを蛇口の下で軽く濯がせる。
それにソープを掛けて、擦り方を教えて行く。


五人とも、見よう見まねで俺のやり方をまねをしながら、身体を洗って行く。
全身が泡まみれになると言う経験は多分生まれて初めてだろう。

「うわー」とか「ひえー」とか言いながら、全身を擦り上げている。
それでも、まともに風呂に入る習慣すら無かった連中だ。
泡立ちは見るからに俺より少ない。
一回ぐらいでは落ちそうに無いくらい、汚れがこびりついているに違いない。


「グロリア、ここに座れ」
そう言って、グロリアを俺の前に座らせる。

「アンジェリカ、アマンダの前に、ヴィオラは、ゼルマの前に座って、俺がやるように、前の二人にやってやれ」


一度、身体洗い用のタオルを綺麗に濯ぎ、も一度ソープを付けて、泡立てる。

アンジェリカとヴィオラがそれを見ながら同じようにしてくる。

「二人だと、交互に洗う事で、簡単に綺麗になる。覚えとけ」
グロリアの手を持ち、泡立つタオルで擦り上げて行く。
それを見ながら、二人も同じように洗い始める。

「背中は一人より二人の方が楽だ」
そう言いながら、背中をごしごし擦り上げて行く。
流石に、肌はきめ細かく綺麗だ。

「首筋から、耳の後ろ、この辺りは汚れがたまりやすいから念入りに洗うんだ」

「ああ、顔は別の固形石鹸で洗うように、身体を洗う石鹸とはまた別だからな」

「足は、指の間、ここに汚れが溜まるから、丁寧に」
言葉に併せて、同じように洗う二人の顔は真剣そのものだった。

「最後は…、ああ、どうしたものか…」
そこまで来て、俺は手を止めてしまった。


流石に、女性の敏感な所やお尻を洗うのは気が引ける。

五人とも、ここまで来て手を止めた俺をどうしたのかと、怪訝そうに見つめている。

「アッ…」
グロリアが一番最初に気が付いたようで、口に手を当てていた。
キョロキョロ他の子達を見渡し、俺を見つめる。
逡巡するような仕草を見せたが、直ぐに意を決したように俺を真っ直ぐ見つめて直す。

「ご主人様、さ、最後の所も綺麗に洗って見せて下さい。そうしないと、私達が覚えません」
少し恥ずかしそうな口調はどうしようもない。
しかし、この判断に俺は感心してしまった。

「よし、恥ずかしいが我慢しろ。それと、ホンとはここまでは他人にして貰わないから、普段は自分でやれよ」
俺も恥ずかしい。
でも、ある種の男の憧れかも。


「いいか、ここは敏感な所だが、汚れも溜まりやすい。ちゃんと洗うように」

「アんッ…」
グロリアの両足を左右に大きく開くと、流石に恥ずかしそうに顔を背ける。

「タオルは、軽く擦る程度、後は指先に石鹸を軽く付けてひだの間を擦り、後はお湯で良く流すこと」
うーむ、流石に息子が元気になりだす。

何せ、俺の指は今、グロリアの秘所をなぞり上げているのだから。
「アッ…ああん」

しかもグロリアちゃん、悩ましい声を漏らしてくれるのだから、溜まらん。
残り、四人は真っ赤になって、顔を背けて…



いなかった。

ヴィオラとアンジェリカも、それぞれ同じようにゼルマとアマンダの股間を洗っていた。
洗われる二人は、声を漏らさないように必死に堪えている。

うーむ、いつの間にか俺は理想郷にたどり着いていたようだった。


「お尻は、タオルで擦り、指先に石鹸を少しつけて、穴の入り口付近を軽く揉み洗いだ」
「ヒャあ…」、「アッ…」、「ひうっ…」

いかんいかん、つい調子に乗って、余計な事まで教えた気がする。
まあ、綺麗になるし、楽しいから害は無いだろう。


「よし、後はシャワーで綺麗に石鹸を流して終わりだ」

「「「ヒッ」」」
そう言って立ち上がった俺を見て、一斉に嬌声が漏れる。

ああ、そう言えば、マイサンは元気に空を向いていた。


そんな声を無視したまま、グロリアにシャワーを掛け、全身を流してやる。

「それじゃ、今度は代わってやってみろ」
そう言うと、俺は再び、椅子に腰を下ろした。


何だか、どっと疲れてしまった。
まあ目の保養にはなったが、一体何をやっているのか自分でもこの展開は予想もしていなかった。

まさか、風呂の入り方を美少女達に教える羽目になるなんて…



「ご、ご主人様…」
軽く落ち込んでいる俺にグロリアが声を掛けてきた。

「うん?」
見ると、手には泡の立ったタオルを持ち、顔には満面の笑顔が浮かんでいた。

「お体をお洗いします」

「………」

勿論、隅から隅まで綺麗に洗って貰いました、ハイ。






「いいか、毎日洗えば、身体は常に綺麗なままだ。少なくともここにいる以上は、毎日風呂で髪と身体はきっちり洗うこと」

「「「「「ハイ」」」」」
五人の綺麗な返事が返ってくる。
今俺達は、仲良く湯船に浸かっている。

左から、アンジェリカ、ゼルマ、グロリア、俺、ヴィオラ、アマンダと並んで入っている。
まさに男の理想郷状態である。

手を伸ばせば、グロリアの豊かなオッパイが触れる位置であるのだが、ここに来てチキンな俺は手を出せずにいる。

と言うか今手を出せば、俺の身体を洗ってくれたグロリアは多分拒否はしないだろう。
しかしそれをしてしまえば、五人とも襲う羽目になりそうな予感がヒシヒシと感じられたのだ。

特に、最初に肉体奉仕があると言ってしまったのは俺であるだけに、そうなるだろう。

ただ、俺はそれが気に食わない。


拒否できない状況に持ち込み、頂いてしまう。
最初からそれを狙っていた筈なのだが、自分の中で誰かが「なんか違う」と叫んでいるのだ。

行きずりの金銭関係での肉体交渉ならば、あっちの世界でも何度か経験している。
好きな女とのセックスと言うのは、学生の頃に体験済みでもある。

だから別にこの五人に、そして後で増えるであろう総勢20人に、俺の事を好きになって欲しい等という馬鹿な事を考えている訳でもない。


ああ俺は、楽しんで欲しいのだ。
この五人に、死んだような目で俺とセックスをして欲しい訳ではない。
少なくもと俺と係わり合いになって、辛いと思われたく無いのだ。

うん、それはこの五人の娘達だけの話ではない。
多分、領民となった三百人の人々。
スポンサーとなった傭兵団の四十人。
そして、新たに雇い入れるまだ見ぬ美女達。

それらの人々が嫌々ではなく、「これもいいかも」と、思って欲しい訳だ。


なんと贅沢!

なんと我侭!


だけど、それが俺であり、アルバート・デュランダルから、力を受け継いだ、アルバート・コウ・バルクフォンの生き方である。

これくらい出来なくて、どこが稀代の魔術師か!


俺自身が所有する力からすれば、ほんの些細な事でしか過ぎない筈だ。

やってやろうじゃないか。

彼女達に、そう言わせてやろう。
そんな事位、たいしたこと無い。
そして楽しく暮らせれば、それで良いじゃないか。
ああ後、彼女達と楽しくエッチ出来れば、それが良いかも…





_____________________
15禁で大丈夫ですよね…



[11205] ハーレムを作ろう(メイドさんを作ろうその3)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/06 22:26
お風呂場から上がって、大きなタオル、ご主人さまはバスタオルと呼んでました、で身体を拭きます。

ふわふわして、水滴を吸い取ってくれる何だか凄いタオルです。
その大きなタオルを、胸まで覆うように身体に巻き付け、化粧台(?)の前に座るようにアマンダ達はご主人さまに言われました。

椅子は全部で三個しかないので、アマンダとグロリアさんとゼルマさんの三人が座ります。

初めて見る大きな鏡に、私が映っています。
水面なんかに写して見た事はありましたが、こんな綺麗な鏡で見る自分は生まれて初めて。
色々顔を動かすと、鏡の向こうで、同じように顔を顰める人物がいるのがとっても不思議です。

本当にここのお屋敷には、不思議な魔法の道具が一杯あります。


「これは、ドライヤーと言う魔法具だ。良いか、ここのボタンを押すと、ここから熱風が吹き出してくる」
ブーンと言う音が響き、何だか暖かい風がアマンダの頭に掛けられます。

ご主人さまが、そのどらいやと言うものを、私の頭に向けてます。
ちょっと怖くて思わず、頭を抑えてしまいました。


「こらっ!アマンダ、髪の毛を乾かすんだから、手をどけろ」

「は、ハイっ」
ビクビクしながら、アマンダは慌てて頭から手を離しました。

「いいか、結構熱い風が出るから、ある程度距離を置かないと、髪が痛むぞ。それと、魔道具なので、絶対に水で濡れた手で持たない事。水に漬けない事。ほら、お前達も使ってみろ」

どらいやと言うものを手にしているアンジェリカさんと、ヴィオラさんも、こわごわとボタンを押して、
風を送り出し始めました。


「ある程度距離を置いて、髪の毛を乾かすんだ」
言われるままに、二人がゼルマさんと、グロリアさんの髪を乾かし始めます。

「全体を浮かすように、風を中に通すように…」

ご主人さまが説明してくださるのですが、本当に不思議な方です。
魔法具一つとっても、貴重なものの筈なのにアマンダ達のような使用人にまで使い方を教えてくださるのも信じられません。

大体お風呂に入ること自体、ありえないような事なのです。


「で、ある程度乾いたら、今度はブラシを使って、髪を整える。その時は、ここのボタンを…」

不思議なご主人さまが、尚も使い方を説明してくださいます。
ブラシで髪を梳かれるなんて、本当にあり得ないような体験でした。





魔法って本当に凄いんだなあと改めて思います。

アンジェリカ達の髪もあっという間に乾いてしまい、今まで見たこと無いくらい艶やかです。
化粧台には、水の秘薬の瓶がさりげなく置いてあります。
ご主人様が自由に使って良いと言われましたが、いいのかなあ、きっと高価なんだろうけど。

でも、ご主人様が良いって言うんだから、大丈夫だよね。


「アンジェリカ、今手に取っているのが、乳液だ。肌に湿り気を与える効果がある水の秘薬。
 もう一つが、化粧水だ。肌の状態を整える秘薬だ。どっちを先に塗るのかまでは知らん。
 お前達で試して、順番は決めてくれ」

そうすると、先に乳液かな~。
判らないけど、手にとっているのが乳液だそうだから、こっちから肌につけてみよう。
手に少し取って、肌に刷り込むように塗れば良いと、ご主人様がおっしゃってたから、その通りにしてみよう。

わあっ、なんだかすべすべになるみたい。
アンジェリカ、何だかお姫様になったみたい~。






主はどれだけ資産家なんだ。
こんな貴重な水の秘薬を、私達のような使用人まで自由に使わせるなんて。
ゼルマは感嘆するのだった。

しかし、使えるのはありがたい。
化粧水は肌に染みるようで気持ち良い。
それに、匂いも中々良いものである。
往時のヴェスターテ家でもここまで高価なものは使ってなかったぞ。

まて、こんな高価なモノを使わせると言うことは、いよいよ我々を襲う積もりなのか。

か、覚悟は出来ているが…

や、やはり、それは…







「それじゃ、着替えだな。こっちに来なさい」

信じられなかった。

お風呂に入らせて貰って、貴重な水の秘薬まで使わせてくれる。
貴族様のお屋敷って、みんなこうなのかしら。

判らない。

村を出たのは、今回が初めて。
ましてや貴族様なんて、会ったことも見たことすらなかった。
だけど、ご主人様の態度は、噂で聞いている貴族様の態度とは全く違う。
だから、お屋敷での扱いも違うに違いない。

だとしたら…

貴族に嬲り者にされて、捨てられるのも…
このご主人さまならば…

違うかも知れない…






ご主人さまだけ、動きやすそうなシャツとパンツに着替えられ、グロリア達はばすたおると言うタオル一枚の格好。
とても恥ずかしいけど、ご主人さまに着ていた服を取られてしまってはどうしようも出来ません。

それにこれなら、ご主人さまがその気になられたら…
直ぐに身体を捧げる事が出来るのですから、仕方ない事でしょう。

あれ?

それならどうしてご主人さまは、服を見に着けられたのでしょうか。

グロリア達を手籠にするなら、ご主人さまもそのままの格好の方が都合が良いでしょうに。
とすると、違うのでしょうか?
やはり、秘め事は暗くなってから行うものなのでしょうか。


ダメですよ、ご主人さま…


ちょっと期待したくなるじゃないですか。

そんな事を思いながら、グロリアは一人身体をくねらせるのだった。








俺は、脱衣所から隣の洗濯場に皆を連れて来た。
大分五人の性格等も把握してきたので、早速試してみることにする。

グロリアが一番、飲み込みも早そう。
その次が、ゼルマかアマンダだと思う。

こちらに挑戦するような視線を向けてくる、没落貴族のお嬢様のゼルマが、ある程度頭が良さそうなのは、多分その生まれのせいで幼い頃からの教育を受けている為だろう。

逆に、アマンダは中々面白い。
間違いなく、騙されて連れて来られたのだろうが、それでも自分で考えて行動している。
ただ、好奇心が強すぎて、余計な事をしそうだがな。


「ゼルマ、そこの洗濯機の中から、さっきほり込んだ君達の服を取り出し、上の乾燥機に入れれるか?」

「は?乾燥機?それは何なん、あっ、いえ、何でしょうか?」
ゼルマは他の事を考えていたようで、慌てて聞き返してくる。

「ああ、服を乾かす魔道具だ。その上にあるやつだ」
いくつか並んだ、洗濯機と乾燥機の組み合わせを指差して説明する、全員が納得したように頷いている。

ホンと、魔法って便利だ。


「ハイ、判りました」
ゼルマは、納得したのか洗濯機に歩み寄る。

やはり、どの洗濯機に服をほり込んだかは、ちゃんと見ていたようだ。
迷わず二台目の前に立つ。

さて、開けれるかな…


「ご主人さま、これはどうやって開けるのでしょうか」

「ああ、とっての所をきつく握ると、上に持ち上げる事が出来る」
納得したのか、試してみて、蓋を開ける事が出来た。

ふむ、あまり無茶はしないが、確実にこなすタイプだな。


「先ほど、洗濯機にほり込んだ君達の服は、もう綺麗に洗濯が済んでいる。
 これを、上の乾燥機に掘り込めば、三十分から一時間程で、綺麗に乾く」
全員を招き寄せ、その仕組みを説明しておく。


ゼルマは、上の乾燥機の扉を開け、服を取り出し掘り込んだ。
スイッチの入れ方を教えて、洗濯に関する説明はこれで終了。

流石に何時までもバスタオル一枚と言う姿は、俺の精神に良くない。
いや嫌いでは無いですが、今すぐどうこうしようと言う気が無くなった以上MPは間違いなく削られる。

嘘だけど…


「で、こっちが服置き場だ」
洗濯場の奥の一画に、あちらの世界で仕入れた服をストックしてある。

金にモノを言わせて買い漁るのは、中々楽しかった。
おかげで、いらないものまで買い過ぎてしまい、ウォークインクローゼットをこんなところに作る羽目になっている。


「それぞれの身体に併せて、大きさが違うから、最初は俺が選ぶが、後は自分で探せよ」
そう言いながら、俺は適当に下着をより分ける。


Sサイズのパンティは、アマンダぐらいか。
Mは、ヴィオラ、ゼルマ、アンジェリカかな、Lはグロリアか。

グロリアも多分Mの範囲だろうが、一応、最初は大きめかな。

俺は適当に選んだ、パンティを渡す。
身振りで履き方を教え、後ろを向いて全員に履くように促す。

全員がごそごそと動く音が聞こえるだけだが、何だかヘンに興奮するもんだ。


「へー」、「あっ、動きやすい」、「ふむ」
どうやら、全員身に着けたようだ。


「着けたか?振り向くぞ」
全員が、恥ずかしそうに両手で身体を覆い、身をくねらせている。

バスタオル一枚より、パンティ一枚の方が恥ずかしい見たいだ。
なるべく見つめないようにしながらも、どうやらちゃんと履けたようだった。

案外アマンダ辺りが、後ろ前に履くようなお約束をやらかすんじゃと思ったが、大丈夫だったようである。



さて次はブラジャーなんだが、これは難しい。
大体着け方も判らないだろうから、ここは一番大きいグロリアに犠牲になって貰うか。


「これは、ブラジャーと言って、オッパイを覆う下着だ。着け方があるから、グロリア、悪いがこっちに」
一応一番胸が大きいグロリア用に、Gサイズのブラを選んだ。
腕を通し、着け方の説明をしながら、彼女に合わせて行く。
そこまでは、大きくなかったみたいで、大きすぎる。

「あー、大きすぎだな、わりい、も一回脱いでくれ」
きっと、鼻の下が伸びまくっているだろうと思う。

なにせ、目の前でタプタプ巨乳が揺れているのだ、男なら、男なら許される筈だ。


今度は、大丈夫みたいである。

「脇の下に手を入れて、溢れた分もブラの中にいれるようにするとだな…、あっ、着け方は自分で工夫してくれ」
真剣に説明しだして、慌てて止める。

それでなくても怪しい主人だと思われているのが、更に酷くなりそうだ。


気を取り直して、ブラをそれぞれに渡して行く。
一応サイズ違いを二つずつ渡しているので、合うサイズを選んでくれるであろう。



五人の美少女が下着を着けようとしているシーンは、中々見られるものではない。

何だか、順番が逆なような気がする。
脱がしてなんぼだろうが、服着せるなんて、どこで間違えたんだろう。




次に取り出したのは、「パニエ」と言うスカートの下に履くスカートタイプの下着だ。

これは、こちらの世界でもありそうなものなので、彼女達も違和感は少なそうだった。
ただゼルマとグロリア以外の三人は、これまで着けた事もなさそうで、こわごわだが、二人に指導されて無事身に着ける。



やっと、メイド服まで辿り着いた。

説明しながら着せていくのに、物凄く時間が掛かったようで、ホンと疲れる。
とりあえず五人用に用意した、赤みが掛かった濃紺のワンピースを渡す。


ボタンでなく、ファスナーの仕組みを教えなきゃならない。
それでも生地の肌触り、仕立ての良さに流石に全員がびっくりしていた。


後ろの編み上げになった所で、ウェスト、バストの調整が出来るので、サイズはそれ程問題なく、全員が綺麗に着飾る事が出来た。

レースのフリルを履き口にあしらったソックスを履かせ、エプロンを着けさせる。
最後に、髪留めとしてカチューシャを渡すと、漸く男の夢が一歩かなった瞬間だった。



五人の美少女が、愛らしいメイド姿で俺の前に立っている。

しかもここはメイド喫茶ではなく、本当の俺の館。

俺は彼女らのご主人さまそのものである。


この世界の環境のせいで、彼女らは俺の召使を続けるしか生きる術がない。

俺が望めば、その身体をも差し出さざるを得ない。


何と言う世界!

何と言う幸運!


やった、やったのだ、ついに俺は、リアルでメイドを手に入れたのだ!!!










あっ、靴忘れてた…




取りあえず、サンダルを履かせて、対応させたが、何ともシマラナイ話だった。



[11205] ハーレムを作ろう(オムレツを作ろう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/26 00:17
[サイド:アンジェリカ]

「靴はその内、用意するから当分は、サンダル履きで我慢してくれ」

ご主人さまがそういう声は、何だかお疲れのようです。
こんな凄い屋敷で独りで暮されていたんだから、大変だったんだー。

そうは思いましたが、これからは、アンジェリカや他の方々もいますから、きっと大丈夫です。

頑張らなくっちゃ…




ご主人さまに連れられて、今度は厨房に連れてこられました。


「色々、見慣れない魔道具があるが、まあ使い方は………… その内、覚えてくれ……」
辺りを見回して、何だかとても絶望的な顔をしているようアンジェリカには思えましたけど、きっと気のせいですよね。


しかし、ここって厨房なんでしょうか。
水瓶一つ見当たりません。
それに窯もないし、あっ、鍋はありました。
あれ?どうやって火にくべるのかしら?
えーっと、洗い場はどこかなあ。
あれかなあ…


大きな部屋に、二列に並んだ調理用のテーブル。
その二列に向きあうように、何だか洗い場みたいな台と、訳の判らない丸い円が描かれた台。
その上にはピカピカの大きな筒みたいなものが、天井から降りて来てます。

あれ?煙を表に出す仕組みかな?
町のお店なんかだと、調理であがる煙を逃がす筒があるのを見たことあります。

えっ、じゃ、あの丸い円みたいなものが並んだのから火が出るの?
まさかね?


「アマンダ!色々見ているのは良いが、下手に触るんじゃないぞ」
あっちで、アマンダさんが、こわごわと何か四角い箱に触ろうとして、怒られています。

ほんとにここは見たことも聞いたこともないような不思議なものが一杯あります。



アンジェリカが、特にどれを触るでもなく、色々見ていると、いつの間にか、ゼルマさんとグロリアさんにご主人さまが何か話してます。
何を話してるのかなあ…

でも、アンジェリカは呼ばれてなかったから、特に良いよね。

このピカピカ光る扉は何だろう?

あれ?ここは何があるのかな?


「アンジェリカ!そっちは、保存庫だ!後で説明するから、まだ入るんじゃない」
あちゃ、怒られてしまいました。
いけない、いけない。

私は、ご主人さまにペコリと頭を下げ、他の方へ見に行きました。




[サイド:俺]

あいつ、本当に何を考えてるのか。
俺は頭を下げ、またブラブラと他のものを覗き込んでいるアンジェリカを呆気に取られて、見つめていた。
怒ったのに怯える風も無い。
神経が太いのか、全く理解していないのか…


「ご主人さま?」
グロリアが心配したように、覗き込んでくる。

俺は、グロリアとゼルマの二人に、包丁のありかを教えていたのだ。
何せ、料理の経験があると言ったのは、この二人だけだったので、取りあえず刃物の監督を任したところだった。

「ああ、わりい、他の説明はまた後でしよう。とにかく刃物の取り扱いだけは十分注意してくれ」

「「ハイ!」」
二人とも、ちゃんと返事を返してくる。
中々嬉しい。


特に、ゼルマ、お風呂場から出たと思ったら、やけに力が抜けて、自然体になっている。
余程、襲われると思って緊張していたんだろうなあ。

そこまで、期待されていたのなら、やっぱ襲うべきだったのだろうか、と言う考えが頭をよぎる。
いやいや、あせらない、あせらない。

『襲いました→疲れて寝てしまう→翌朝パニック』
と言う図式が頭に浮かんでくる。

風呂場で十分懲りました。

流石に、一流ゼネコン会社のリフォームです。
金に糸目をつけないリフォームでした。

最新式の機器が、至る所に設置してある。
俺ですら、使い方を悩むようなものまであるのだ。

そんな、環境にこんな中世の村娘達を説明もなしで放り出してみろ。
翌朝、どういう事になるか、考えたくもない。

ここにある様々な、機器を壊されたらと思うとぞっとしない。

魔法があるから、何とかなるんじゃないかと思ったこともありましたが、それは甘かった。

実際、アルの居城にいる時に、あちらの世界から持ってきた発電機を解析し、それぞれのパーツに併せて錬金して組み立てた事がある。
部品を一つ一つ作る訳だから、ほぼ完璧な複製が可能だっただけに、魔法は本当にチートだと思う。
しかしながら、同じように組み立ててみたが、全く動かない。
色々組み替えてみたが、どうにもならなかった。

理由は多分に、部品の中に組み込んである簡単な制御プログラムであろう。
これが旨く複製できない。
結果として、一月掛りの解析と錬金で出来たのが、本物そっくりのガラクタ。

それ以来、俺は自分で複製する事はあきらめ、必要なものはあちらから持ってくる事にしている。
それだけに、この屋敷にあるものは、壊されるとまた同じものを買ってこなければいけない。


大体、俺独りって言うのに無理があるんだよなあ…
かと言って、二つの世界を行き来出来るなんて事、他人を巻き込める訳も無い。

メイドを雇って、毎日ウハウハで、アーンでウッフンな生活…

遠い…

果てしなく、遠い…


塩漬けの肉と野菜を煮込んだだけのスープに、そのままでは硬すぎてスープに浸してしか食べられない素敵なパン。
風呂に入ってない事を隠すために、やたらめったらきつい香りのするメイドがそれを運んでくる。
微妙な調整が聞かない、やたら熱いか寒いかだけの石造りの建物。
麗しの美少女メイドが、その熱い肉体を擦りつけて来る大きなベッド。
俺は、堪らず鼻を摘む…

そんなハーレム、やだ!!!


だからこそ、態々あちらの世界の技術をフルに使い、領館をリフォームしたのだった。

だから、彼女らに使い方を教え込む必要があるんじゃないか。

そう、判ってる、判ってるさ。

負けるもんか、叩き込んでやる。
そう、現代科学文明の素晴らしさ、文明の利器のありがたさを。




だって、そうしないと、俺が泣くしかないじゃないか…






[サイド:アマンダ]

「あ、あの…ご主人さま大丈夫でしょうか?」

何かご主人さまが一人でブツブツ言い始めたので、私達はそれを遠巻きに見ています。
アマンダは、思わず隣に立ったヴィオラに声を掛けていた。

「だ、大丈夫かな?」
ヴィオラさんも不安そうです。


「あっ、私アマンダって言います。宜しく」
「えっ、あっ、私、ヴィオラね」
「あー、私アンジェリカ、宜しくね~」

ヴィオラさんとこそこそ話していると、アンジェリカさんも寄ってきて会話に加わりました。
初めて、他の方とお話できたので、少しホッとします。

ゼルマさんと、グロリアさんは、ご主人さまの様子を心配そうに見ています。


「ここって、すごいね~、見たこと無いものばっかりあるよ」
「あっ、そうですね、凄いです。貴族様のお屋敷って、みんなこんな風なんですか?」
アンジェリカさんが、そう言ってきたので、アマンダも思っていたことを聞き返しました。

「いや、違う…と思う。私、村から出てくる最中に聞いた話とは違うから」
ヴィオラさんが、考え込むように答えてくれます。

「そうだね~、確かに町で見かけた貴族様とはご主人さま、雰囲気が違うよね~」
へえ、アンジェリカさんは、町の人なんだ。
私なんか、今まで貴族様に会った事も、見たこともありませんでした。
だから、ご主人さまが初めて見る貴族様。
そして、アマンダがこれからずうっと奉公するご主人さまです。


「ご主人さまって、どんな人なんでしょうか?」
いつの間にか、私ここで働く事になっていたのです。
99年契約なんて、ここに来るまで知りませんでした。
その、に、”肉体奉仕”までしなければ行けないなんて、思ってもいませんでした。


「うーん、どんな人~、うん、悪い人では無いと思うよ」
ニコッと笑って、アンジェリカさんが答えてくれます。
それを聞くと、アマンダも少し安心出来ます。

「どうかな?貴族様なんて、その時の気分で様々だって聞いたよ」
逆に、ヴィオラさん、脅かさないでください。
不安になるじゃないですか。





「よし、取りあえず、飯にするか」

あっ、ご主人さまが復活しました。

どうやら、食事にするようです。
そう言えば、宿を出てからもう大分時間が経っています。
朝は、宿でパンと、薄い塩味のスープを食べただけなので、小腹が空いており、ありがたいです。



「グロリア、ゼルマ、二人はサラダ担当、野菜を切ってくれ」
「アマンダ、アンジェリカ、二人でお皿の用意だ、人数分の皿と、飲み物の用意も手伝って貰う」
「ヴィオラは、俺と一緒にオムレツ作り、卵を割って貰うからな」
「順番に指示するから、先ずは俺について来い」

わ、私はお皿の用意を、アンジェリカさんとすれば良いのだ。
アマンダは、お皿の用意、お皿の用意と頭の中で繰り返すのだった。



「これが、魔法で食物を新鮮に保って置く装置だ。冷蔵庫と言う…」
ご主人さまが大きな扉を開いて、中を見せてくれました。
何だか色々な食材が入っています。

ご主人さまの指示通りに、グロリアさんが野菜を取り出します。
うわあ、なにこの野菜!

とっても綺麗です。
傷一つありません。
土すらついてないんです。


野菜を抱えて、真ん中のテーブルに戻ると、アマンダ達は蛇口の使い方を教えて貰いました。
これは、風呂場にもあったので、同じように、水が出ます。

うわあ、これだと、水を汲みに行かなくて良いからとっても便利です。

包丁とまな板の使い方を、ゼルマさんとグロリアさんに教えると、ご主人さまは残りの三人を連れて手前の食器棚へ移動です。


ピカピカな食器が並んでいます。


「サラダとパン皿、それとオムレツを乗せる皿の三種類の皿の用意。それと、飲み物を配るグラスを一人二つづつ取り出して、ここに並べるんだ」

「ああ、全部で六人分だぞ、間違えるなよ」



アマンダと、アンジェリカさんにそう命令すると、ご主人さまはヴィオラさんを連れて戻って行きました。

「じゃ、やろうか~」
「ハイ、頑張ります!」

私、張り切って返事しました。
アンジェリカさん、まるで緊張してないけど、大丈夫なんでしょうか。





[サイド:俺]

とにかく、いじけていても始まらない。
厨房を使わせて、覚えて貰うのが先決だ。

それぞれに指示を出し、今はヴィオラが俺の後ろから付いて来ている。

他の子の性格は、大体判った気がするのだが、この子だけ良く判らない。
いや、アンジェリカは何を考えているのかは判らないが、性格はああなんだろうと納得できたからな。

とにかく、ヴィオラは中肉中背、性格もおとなし目と来ては、特徴がなさ過ぎて、良く判らん。

ちなみに、胸はDはあるから、五人の中ではやっぱり真ん中目。
あちらの世界ならば、十分ちやほやされるだろうに、ちと不憫である。


「いいか、オムレツを作るには、卵と牛乳、チーズと中に入れる具が必要となる。判るか?」
「あっ、は、ハイ…」
一応返事したが、良く判ってないな。

「食べた事は?」
「えっ、あ、ありません…」
唇をかみ締めて下を向いてしまう。

ふむ、一種のコンプレックスかな。
両親に売られて、独りで訳の判らない奉公に出され、知らないものばかりに囲まれた状況に、殻に籠もっているってとこかな。

いや、契約書に売主が両親って書いてあって、出身が田舎の村だから、決め付けだけどね。


「よし、まずは、俺の言う通りにやってみろ。最初に・・・」

机の下からボールを取り出し、冷蔵庫から卵を取ってこさせる。
五人前と言う事で、10個の卵である。
それを別のボールに割り入れさせる。

その間に、冷蔵庫から具材を選ぶ。
ハムと茸、マッシュルームがあったので、それを取り出し、マッシュルームは、ゼルマのところに持って行く。
軽く洗って、スライスしてこっちに持ってくるように言うと、目を白黒させていたのが、面白い。

俺は俺で、ハムをパック(イトー○ーカドースライスパックお徳用4パック)から取り出し、刻んで行く。

ヴィオラがそれを目を丸くして見ていた。


「あ、あの、割りました」
それでも気を取り直したのか、俺に報告してきた。

「それじゃ、その中に牛乳を少し入れて、気持ち塩、コショウを加えて、かき混ぜるんだ」

「ぎ、牛乳??? こ、コショウ???」

おお、塩は判ったみたいだ。
でも、牛乳もコショウもちゃんとこっちの世界でもあったぞ。
いや、村だとそう簡単に手に入らないのかも知れない。


俺は手を止めて、冷蔵庫の前に移る。

「全員!集まれ!」

五人が顔を上げて、こちらに集まってくる。

うん、中々気持ち良い。
単純な事だけど、メイド姿の美少女が自分の言葉に一斉に従うのは、何だか癖になりそうだ。

うーむ、これが人を支配すると言う事なのか…
何か違うが、気にしない。


「こちらの冷蔵庫には、色々な飲み物が入っている。ここに入っているのは、冷たく冷やした方がおいしい飲み物だ。
 俺が飲みたいと、頼む事もあるので、どんな飲み物があるか、直ぐに覚えるように」

「「「「「ハイ!」」」」」

一斉に気持ち良い返事が返ってくる。
やっぱ、人を支配するのが快感になりそう。


「で、今使うのは、オレンジジュースと牛乳だ。アンジェリカ、そっちのグラス取ってくれ」
食器の用意をしていた、アンジェリカは、直ぐにグラスを持って来る。

「飲み物は、色々な入れ物に入っているが、これはここに仕舞う為に態とだ」
流石に、イトー○ーカドーの一リッターパックに入った牛乳を説明する方法を俺は知らん。

俺は、封を切って牛乳をグラスに注ぐ。

「「「「「おおっ!」」」」」

白い液がグラスに注がれて行くのをみんな不思議そうに見ている。

いかん、段々面白くなってきた。

「一応、味見しとけ、ほら、ヴィオラ、これが牛乳だ」
グラスをヴィオラに渡すと、おずおずと両手で受け取る。

みんなの顔を見るが、頷かれてしまっている。
あっ、泣きそうな顔になってる。
俺を見て、覚悟を決めたのか、目を硬く瞑って、一口口を付けた。

ゴクンと飲み込み、困惑の表情を浮かべ、グラスを見つめる。

「おいしい…」

何か不味いものを飲まされると思っていたのが、意外とまともな味だった事に、驚いたようだ。


「牛乳は、初めて飲む場合、慣れないとお腹が下る場合があるので、少しだけにしとくように。
 ほら、ヴィオラ、他の奴等にも飲ましてやれ」
「あっ、ハイ」

全員が、一口ずつ牛乳の味見をし、「ほー」とか「へえー」とか感嘆を零す。
そうなんだよな、牛乳すら、あちらとこちらでは匂い、味すら違う。



「ここに入っているものは、俺も飲むが、君達が飲みたい時に自由に飲んで貰ってもかまわんから。
 ああ、それと、食材を使って、料理をするのも勝手に使って良いからな」

アマンダに、後でオレンジジュースをそれぞれのグラスに一杯ずつ用意するように言っておいて、各自の仕事に戻す。

俺はグラスに再び少しだけ牛乳を注ぎ、再びオムレツに取り掛かった。


ヴィオラが卵を撹拌し、準備が整うと、俺はレンジに向かう。

用意するのは、オムレツ用の小さなフライパン。
ガスレンジならば、炎が出るのだが、流石にガスまで引くのは面倒なので、レンジはIHである。

だから、フライパンを置いて、スイッチを入れても、一寸見には温まっているかどうか判らない。
バターを取り出し、フライパンの上に落とすと、ジューっと溶け出すのを、ヴィオラがびっくりして見ている。

いかん、いかん、こんな事で優越感を持ってしまう自分が恥ずかしい。
あちらにいれば、本当に『当たり前』の事なのだが、そんな事すら驚かれてしまう為、何だか感覚が麻痺しそうである。


サラダもお皿の用意もほぼ終えたようなので、彼女らもレンジの側に呼ぶ。

「あーっと、これも調理用の魔道具だ。ここのスイッチを入れ、上にこのような調理用の鍋やフライパンを置くと、勝手に暖まってくれる」
熱くなっているものを、知らないまま手で触られ火傷させる訳にもいかない。
仕組みは、魔法だと言いながらも、危険なことはしっかり伝えておかないと。



突然のお料理教室であり、作り手も素人に近いのだが、他に専門家がいない以上、俺が教えるしかない。

「いいか、フライパンを十分に熱して、卵を必要量溶きいれる。
 そのまま、思いっきりかき混ぜ……」

ハイ、しっかり焦げたオムレツが出来上がりました。



「本当は、焦がさずに仕上げるのが良いんだがな。次ヴィオラ、やってみ」

「ええっ!わ、私ですか!」

「そうだよ、ああ、他の皆もそれぞれ自分の分は作ってみること」

「ひえっ、そ、そんな」、「ハーイ」、「よしっ!」、「ハイ」
ワタワタと慌てているのが、アマンダ。
間延びした返事を返すのがアンジェリカ。
気合を入れるのが、ゼルマ。
落ち着いた返事を返すのが、グロリア。

大分、それぞれの性格が見えてきたような気がする。


うん、ヴィオラは?
フライパンを見ながら、固まってました。

どうもこの子は、考え込みすぎるような気がする。



[11205] ハーレムを作ろう(発電機を作ろう(おまけ))
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/23 21:44
発電機ネタに感想を頂き、嬉しくてこれもあげました。
本編とは繋がっておりません。
時期は、出だし部分とインターミッションの間です。
ちなみに、どう考えても、錬金如きで、現代科学の粋を集めたモノが作られる訳は無い、いや作られて欲しくないなあと思い、書いたものです。

お目汚しですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。

以下、本文です。
----------------------------

発電機である。

ガソリンを入れて、スターターを回せば、車のエンジンの回転するような音をたてて、元気に動いている。
出力メータが直に安定し、100Vの電力を供給してくれる。
試しに、あちらの世界から持ってきた扇風機のコンセントを差し込み、スイッチを入れると快適に回り始める。
なぜに扇風機かって?
知らないよ、単に部屋に転がってたんだよ。

とにかく、これがあれば電子レンジや洗濯機も使える優れものである。
大量の電化製品をこれ一つで動かせるのか、不安だったが、一応、エアコンの三、四台は動かせると言っていたから
大丈夫だろう。

その代り、ガソリンの消費が大きいのと、音が煩い。

で、スイッチを止めて、まずは解析に掛かる。
術式を構成し、魔法を発動すると、頭の中に発電機の構成が流れ込んでくる。
中々面白い。
発電機とはなんぞいやと言う程度の知識しかない、アルが同じ事をしても、良く判らないままになるだろう。
燃焼機関位までは、理解出来るかな?
但し、電力とは何か理解出来てないと、その先は無理だ。

うーむ、それでも基盤は無理か…

いくら俺でもICの解析は不可能に近い。
でも、杖と言うチートな外部記憶媒体を上手く使えば、そのまま錬成出来そうだった。

「それじゃ、やってみますか」

一度に全部作り上げるのは、かなり厳しそうなので、まずは、パーツに分割して、錬成してみよう。
一番難しそうな、制御用の基盤の錬成を行う。
杖から解析結果を引き出し、それに術式を当て嵌め、錬金の魔法を発動させる。

用意したのは手近にあった、金の塊。
錬金の材料にするには、単一の金属が一番親和性が高いが、アルの居城にあったもので、
一番使いやすそう(しかも大量にあった)だった。

まあ、贅沢な錬金だわな…

そう思いながら、術式を発動させ、光に包まれた中で、新しい基盤が生成された。

問題なさそうだな…
あくまでも簡単な解析と見た目だけだが、一応使えそうだ。
ただ、プログラム等は錬成出来るのかどうか、自分でも良く判らない。

まあ、出来るとは思うが、かなり精度が高そうなので、今はそこまで手を出さない。

出力調整は、カーゴイルやオートマタのように、魔法で対応するつもりだ。

基盤が錬成出来たので、後のパーツを次々に錬成し、それを再び組み立てて行く。

こつこつとした作業が延々続く、地味な作業である。
良く飽きなかったものだと思うが、結局、完成したのは、一ヶ月後だった。

制御機構を魔法を使った自動人形のアレンジにて組み付け、準備万端。

ガソリンは割合と簡単に錬成出来るので、それを入れていよいよ火入れ。

「よし、スタート!」

見事動きませんでした…

うんともすんとも言いません。



一ヶ月間の努力と、金3キロが無駄な発電機モドキに変わりました。

やっぱ、あちらの世界に行って、必要な発電機を買ってこよう。







ショットガンである。

発電機と違い、これにはICも、変なプログラムも無い。
これなら、錬金にてレプリカを作る事も不可能ではない。

早速に、ベレッタDT10トライデントを手にとる。

ちなみに、この銃、アラブで色々買い付けてる時に、護身用の武器が欲しいって商人さんに話したら、タダで貰いました。

その他色々頼んだからおまけみたいなもんです。
えっ、そんな物騒なもの、おまけにもらうなって?
しらねーよ、貰ったんだもん、俺のだよ。


で、解析を開始する。

良かった、稼働部分だけで、どこにもICチップはついてない。
これなら大丈夫だろう。

マニュアル通り、分解し、それぞれのパーツ毎に錬金してみる。

特に大きな問題も無く、複製を錬成出来た。
弾薬もと考えたが、取り敢えずは、本体だけで実験である。

錬成したパーツを組み立てる。
特に違和感も無く、ショットガン一丁が完成。
手にした感じも、並べて置けば、どちらかレプリカかは、全く判らない。

それでは、そろそろ弾薬を入れて、実射に入ろう。

と、そこで流石に躊躇いが起こる。
いくら完璧な積りでも、火薬を使った銃器である以上、万一暴発等したら、危ない。
大丈夫だよな、いやいや、油断は禁物。

ゴーレムを錬成し、手に銃を持たし、俺自身は十分な距離をおいて、様子を見る。

ゴーレムに、引き金を引かす。
普通のゴーレムには出来ない、俺、アルバート・デュランの後継者だから出来る技。





暴発しました…


ゴーレムの頭…吹っ飛びました…

普通の銃の威力ではありません。

理由は何故だか、まるで想像もつきません。


とにかく、あちらの世界のものをこちらで複製するのは、諦めようと思った夜でした。



[11205] ハーレムを作ろう(トイレに行こう:15禁かな)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:22
大きなボウルに、サラダが山盛り乗せられ、テーブルの中央に置かれている。
それぞれの前に置かれた皿の上には、オムレツ。
蒸かしたジャガイモが付け合せ。
オムレツに添えられている赤いソースは、ケチャップと言うそうだ。

幾つか置かれたバスケットには、様々な種類のパンが、たくさん積んである。
サラダにかけるドレッシングと言うソースの入った瓶も幾つか用意されている。

アマンダさんが、オレンジジュースと言われた飲み物をそれぞれのグラスに注いで回っている。

工芸品のような、ガラス窓からは夕日が指し込んでいる。
そんな中、落ち着いた感じのこじんまりした食卓のテーブルを囲むヴィオラ達。

ご主人さまは、そんな様子を満足気に見ている。



「それじゃ、夕食には少し早いが、食べよう。頂きます」
ご主人さまが、手を合わせてそう言ってくるが、ヴィオラはどうすれば良いのだろう。


「ああ、こっちじゃ、こんな風習はないか」

食事を食べる時は、食材となった植物や動物へのお礼を込めて『頂きます』。
食べ終わったら、作ってくれた人に感謝を込めて、『ごちそうさま』と言うそうです。

ヴィオラ達も、ご主人さまの真似をして、全員で、『頂きます』と声を掛け、食事に取り掛かりました。



ご主人さまが、魔法で取り出したパンは、どれも出来立てみたいで、柔らかです。
中にはくるみや葡萄でしょうか、色々入ったパンもあります。

オムレツは、自分で作ったものを食べているのですが、それでも卵をこんなに一杯食べられるなんて。
それに、付け合せのソース、これも甘くて美味しい。

野菜は、見たことのあるものですが、みんな綺麗で、味も苦くありません。

ドレッシングと言うソースを付けて食べると、ピリッとするようで、いくらでも入りそうです。


こんな美味しいものを、お腹一杯食べられるなんて…

ヴィオラ、なんて幸せなんだろう…













なんか違う……………

おかしい…

ヴィオラは自問自答する。


貴族のお館に勤めると言う事。
先輩の、召使の人達から、雑用を全て押し付けられる。
お館に住む、貴族の方々に会ったら、目を付けられない様に、顔を合わせない、その場から直ぐ立ち去る。
命令されたら、すぐさま言われた事を行う。
遅れたら、体罰や酷いときは鞭打ちが待っている。
朝は、早くから起こされ、ヘトヘトになるまで働かされる。
水汲み、雑巾がけ、モップ掃除、沢山並んだ様々な美術品を一つ一つ丁寧に拭き上げて行く。

食事は、お館の貴族様達が、一番良いものを食べて、古参の召使方から、残りの良いものを取って行く。
新人の召使には、残り物、腐りかけの食事も当たり前。

病気になったら、最後、倒れるまで働かされて、ゴミくずのように捨てられる。

貴族様には逆らえず、お手つきになっても、我慢するしかない。
妊娠しようものなら、殴る蹴るの暴行を加えられ、無理矢理でもおろそうとされる。





まだ、ヴィオラ、何にも遭遇していない。

第一、先輩の召使の人がいない。
貴族の方々が、ご主人さま一人しかまだ見てない。
肉体奉仕が含まれているって言ってたのに、お風呂場で誰も襲われていない。

ご主人さま、ここに一人で住んでいたと言っていたけど、これだけ立派な屋敷に一人なんて、おかしい。

食事が、ご主人さまと一緒で、それにこんな新鮮なものばかりなんて、あり得ない。


このお屋敷に連れて来られて、全ておかしな事ばかり。

あっ、でも…、これ、実は最初だけで、本当は明日からは、馬車馬の様に働かされる。
ボロボロになるまで酷使され、肉体も陵辱され、そしてヴィオラは、捨てられてしまうんだ…




「ヴぃおら…ヴィオら…ヴィオラ!」

「あっ、は、ハイ!」

「大丈夫?」

私の顔を心配そうに、隣に座ったグロリアさんが覗き込んでいました。

「えっ?何がですか?」

「だって、貴方、パンを持ったまま動かなくなるんですもの。ご主人さまも心配されているわよ」

「あっ、す、すみません!」
私、真っ赤になって、頭を下げました。

まさか、そんな事無いわよね。
そうよ、私達にそんな手間隙掛ける意味なんて無いんだから。

ヴィオラは、そう思う。

このお館は、他の貴族様の館と違い、きっと良いご主人さまがいるせいなのよね。


そう…だよね…






あーあ、またヴィオラが固まっている。

彼女は、どうも考え込み過ぎて、周りが見えなくなるようだ。

やれやれ、困ったもんだ…





待て…



どうして、俺が困らなければなんないんだ!

おかしいじゃないか!
俺は、ご主人さまだぞ!
彼女等は、俺の自由に出来る奴隷の筈だ。
それに対して、その性格を俺が心配するのは、どう考えてもおかしいのじゃないか…






あーあ、また二人とも固まっちゃった。
ご主人さまとヴィオラの様子を見て、他の四人はお互い視線を合わせるのだった。





食事が終わり、俺は深い満足感に包まれた。

はっきり言って、単なるパン、サラダ、焦げたオムレツと言う簡単な料理だが、少なくとも俺がこっちの世界にいる間に食べた唯一に近い、まともな食事だった。
まあ、半年間近く、ハルゲニアをうろうろしたが、どこに行ってもまともな食事に出会った事は無かった。

と言ってもこれは、俺だけの問題なのかも知れない。
確かに、そこそこ大きな街には、貴族御用達の立派な店がある。
出される料理も、色々凝った調理法を使って美味しく仕上げられている。


しかし、しかしだ。
この世界には、衛生概念が無いんだ!

頼む、そんな格好で、料理は作らないでくれ!

ちゃんと手は洗って欲しい!

あの~、皿の端にこびりついているのは、何でせうか?


野菜を洗って出す。
これすら、難しい。
あっちの世界、特に日本のように、水を流しっぱなしにして、洗うなんて、どれだけ贅沢な事か。

だから、だからこそ、普通の食事を、普通に食べられ事だけで、俺は満足だった。


俺は、そんな事思いながら、コーヒーでも作ろうか、酒にするかなと、まったりとしていた。



その間、五人はお互い同士で、こそこそ話していた。

「ええっ、でも」
「お願いします。わ、私、もう・・・」
「わかったわ」


お、どうやら何かあるようだ。

「ご主人・・・さま」
「うん、何だ?」

ほう、ゼルマが代表に選ばれたか。
グロリアかなと、思っていたが、まあ、彼女でもおかしくない。

「あ、あの・・・」
ふむ、一番度胸のありそうな、ゼルマでも言い籠る事か。

「か、厠は、そ、外でしょうか」
ガチャンと、思わず前にあった皿をならしてしまった。


全く、何かあるのかと、構えた分、損をした気がする。
あ~、女の子だとまあ、仕方ないわな、聞くのも恥ずかしいだろう。

「わりい、ここ出て左。さっきの風呂場の手前に、それようの部屋があるから」

「あ、ありがとうございます」
真っ赤になりながら、礼を述べてゼルマが立ち上がる。

おーお、まあゼルマの赤くなった顔見れただけ、めっけもんだな。


「ご、ご主人さま!わ、私も」
「わ、私も!」
「あ~、私も~」
「失礼します」

あっと言う間に、部屋には俺だけがポツンと残された。


なんだか、やけに寒々しい。
どーして、女の子って、つれしょんが好きなのかね?
どうせトイレで、化粧直しながら、俺の悪口言ってん・・・




し、しまったあ!

俺は慌てて、彼女達の後を追った。
ここは、あっちの世界じゃない。


あいつらが、トイレの使い方なんか知ってる訳無かった。





「あ、ご主人さま」
俺が駆け付けた時、彼女らは、トイレの入り口で悩んでいた。

「こちらが、か、厠なんでしょうか」
流石に、ご主人さまに、そう聞くのは恥ずかしいわねと、グロリアは思った。
入り口の所に飾られた、赤と青の人形のような文様から、多分男性用と女性用に別れているのは判ったけど、中にそれらしい容器が用意されてなかった。


「ああ、そうだ。こっちが男性、こっちが女性だ」
ご主人がそうおっしゃるのを聞いて、グロリアはそっと安堵する。
間違っていたら、恥ずかしいわね。


「ご、ご主人さまあ~」
あらあら、アマンダさん、涙目で、ご主人さまにすがり付いている。
ご主人さまが慌ててますよ。

「よし!アマンダ!こっちだ!」
ご主人さまも慌てて、アマンダさんを、中に連れて行きます。
私達も、それに続きます。

「ここがトイレだ!」
ご主人さまは、三つ並んだ扉の手前側のを開くと、先ほど見た椅子の用なモノを指さしました。

やっぱり、これがといれ(?)なのね。
グロリアは、想像が当たっていた事に、ちょっと嬉しくなった。

あら、でもこれって、まさか立って使うの・・・
そんなはしたない格好で、オシッコしてる自分自身を思って見ると、どうしても、グロリアは頬が赤くなる。
第一、と、飛び散っちゃうわ・・・

あらあら、あらあらと、グロリアが、一人で悶えている間にも、事態は進行していた。




「いいか、アマンダ!ここに座るんだ!」

「違う!跨がるじゃない!こっち向きだ!」

「そう、それで、下着を脱いでオシッコがかからないようにする!」

アマンダは、パニックに襲われながら、スカートに手を入れ、パンティを下ろし、再び腰を下ろす。





固まった。





目の前に、ご主人さまが、立っている。

私、今何してる?
どうして、ご主人さまが、私を見てるの?
アマンダは、訳が判らない…
アッ…

シーンとした中に、シャーと言う音がやけにはっきりと響いた。

ああ…

あああ…

「イヤあああ!!!」








「アー、すまん、アマンダ」
あっちゃあ、やっちまったよ。
そりゃ、キツいわなあ。
モロ、オシッコしてるとこ男に見られたら・・・

まあ、実際はスカートに隠れてなーんも見えんけど。
イヤイヤ、別に俺は、見たい訳でわ・・・イヤ、興味は無い訳は・・・
そ、そりゃ、まあ、うん、男だからね、イヤまあ、って、何考えてるんだ。


それより、この機会に、使い方の説明をしとかなきゃ。
うん、そうだそうだ。
アマンダ、君の犠牲は忘れないよ。

確かに、俺の中での君のランキングは、トップになったからね。



「トイレの使い方は、アマンダの尊い犠牲で、みんな判ったな」
まだ泣いているアマンダをわざと無視して、皆を見る。

全員、コクコクと頷いている。
皆顔が赤いが、風邪か?


な訳無い。



でも、そうでも思いたくなるよ、ホンと。

「これは、水洗トイレと言って、済ました後は、後ろのレバーを捻ると、全部洗い流してくれる」
うん、アマンダも、まだ泣いてはいるが、ちゃんと聞いてるようだ。

「これは、魔法・・・じゃなくて、匠の技だ」
うん、全てが全て魔法と言うより、何か、らしいだろう。
ホンとか?

「まあ、便利なものだが、これは、まだ続きがある」

さてはて、俺にウオッシュレットの説明が、出来るか。
何か、更にヤバくなりそうな予感がするのだが…


「アマンダ、右手の壁に、匠が据え付けた操作・・・ノブ、まあ、スイッチて言うんだが・・・、とにかく、何かあるだろう」
操作バネルをなんと説明すれば良いんだよ!
誰か教えてくれ!


「へっ?あっ、これですか?」
座っていたのが、アマンダで良かった。
俺のキツイ口調に、アタフタと、パネルを・・・


お、押したぁ?




「へっ?ひゃん!」
ブーンと言う音と共に、アマンダが真っ赤に茹で上がる。


「ひゃ!ふぇ!アーン!」
アマンダ、涙目。

普通なら、びっくりして、立ち上がりそうだが、今の自分の格好をが格好だけに、耐えるほうを選択したようだった。



アマンダ、君の献身は忘れないよ。



「えーと、壁にある匠のスイッチには、下から水が噴き出す機能がしくまれている」
俺は、極めて冷静に説明を始めた。

「これは、用を足した時に、局所を洗浄する機能だ」
『あーん』とか『ひゃ』とか言う声なんか、聞こえないったら、聞こえない。

「便や小水を出した後は、どうしても、汚れてしまう。それを、匠の技は、水で洗い流す仕組みを開発してくれた」
うん、他の娘らも、真剣に聞いてくれている。

「一応、手前から、オシッコをした時、あー、男を受け入れた時、それと排泄した時の三つの方向に、水で綺麗に洗ってくれる」


「アマンダ、一番右端の、丸い部分を押せ」

「あっ!ご、ご主人さまあ!と、止まりましたあ!」
涙目のまま、喜び一杯の顔でそう言われると、物凄く罪悪感を感じる。

「局所が綺麗になったら、後は備え付けの紙、ああこれも、匠の一品で、トイレットペーパーと言うんだが、それで、濡れた所を拭き取る。判ったな」
俺は、一気に話終えて、全員を見回した。

まだ、良く判らないようだが、慣れて貰わねばいけない。

「あー、ここではトイレは全てこの様になっている。君達の健康の為にも、必ずこれを使う事」
さて、どれだけ徹底出来るか。

事実、アマンダは、そう言われ真っ青になっている。
しかし、実に表情豊かな娘だ。
ホンと、見ていて飽きない。


「それじゃ、全員一通り試してさっきの食堂に戻って来る事」
返事を背中に受けながら、俺は足早に、その場を後にした。






いやもう、何!
アマンダちゃん、可愛すぎ!
お父さんは、堪りませんよ、ホンと。
心臓はバグバク脈打って、息子は天を突く勢いです。


イヤあ、危なかった。
思わずお持ち帰りしてしまいそうに、なってしまった。
ウーム、俺自身気がつかなかったが、自分にそっち方面の趣味があったなんて。
我ながらビックリだ。



しかしなあ、彼女が一番若いんだよ!
十×歳だよ、十×!



無理だ…

いかにチキンと思われようが、同意もなく、騙すようにやっちまうのは、俺には出来ない。


俺は、食堂に戻り、椅子に座り込みながら、考え続ける。

じゃあ、本人からなら?
そりゃ、相手が望むなら、年齢なんて、関係ねー。


そう、ここはあっちの世界じゃない!
それに、あっちだって、つい最近まで、問題なかった筈。

アマンダが望めば、問題は解決だ!




でもなあ・・・

若いよなあ・・・

イヤイヤ、ハーレム作るんだったら、こう言うのもあり、だよなあ・・・



悶々とした俺の悩みは、彼女達が戻って来るまで続くのだった。



[11205] ハーレムを作ろう(館を案内しよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/26 21:44
本当に、何なんだこの屋敷は。
ゼルマは、あまりの事の連続に、叫び出したくなるのだった。

屈辱的な、お手洗いでの作業を終えて、今は皿を片付けている。

使った皿を洗う係、それを拭く係、仕舞う係に別れて手早くこなして行く。

おかしいだろ、絶対!
ゼルマは皿を洗いながら、尚も感情の高ぶりを抑えられない。

おかしい。
おかしすぎる。
信じられないような、魔道具の数々。
なんだ!匠の技って!
魔法じゃないのか?

誰が、どこで作ったんだ。
あの、柔らかなパン。
その種類。
不思議な入れ物に入れられた、オレンジジュース。
あんなに甘い飲み物なんて、没落する前ですら飲んだ記憶はない。

この皿だって、謎だ。
薄い。
ここまで薄くて、丈夫な陶器があるのか。
錬金でも、簡単に作れるとは思えない。
下手に錬成しようとすると、間違いなく割れてしまう。
なのに、普通に洗えて割れないなんて。

ゼルマは尚も思考を巡らす。
大体、これだけの屋敷に、主一人しかいない事自体おかしい。
ゼルマ自身が、皿を洗っているのも、更におかしい。

皿洗い位、雇えと言いたい。
料理は専門の料理人に作らせろ。
私達のような、一生涯奉公を義務づけられている、高価な少女を五人も買う金があるなら、まともな奉公人を雇え!」


「ウーム、やっぱりそう言うものなんかね」

「そうだ。それぞれ、専門家がいるのだから、仕事は分担するのが、正しい!」

「だけどねえ、その専門家がいないんだよなあ」

「そんな事あるか!ここは、帝都だ!ここにいない専門家は・・・ご、ご主人・・・さま」
ゼルマは真っ青になった。


いつの間にか、思っている事を口にしていたようだ。
しかも、それをご主人さまに聞かれ、問われるままに答えていたのだ。

ダメだ!
ゼルマは、目の前が真っ暗になる。
ご主人さまに、逆らった。
むち打ち!
地下室の拷問部屋に連れて行かれ、あんな事や、そんな事をされ、悲鳴をあげる。
押し潰されそうになる気力。
凌辱される美貌の肉体。
でも!
でも、ゼルマは負けない!
そんな中でも、毅然と立ち向かい、例え没落したとは言え、ヴェスターテ家の気品を示し、雄々しく立ち向かうのよ!


「さあ、ご主人さま!我に罰を!」

「いや、罰ってなにさ?」
俺は訳が判らないまま、ゼルマの顔を見つめるのだった。





食事の後片付けも、無事終了した。
何か、ゼルマのテンションが滅茶苦茶高かったような気がするが、とにかく後片付けは、無事終了した。


ガチャーン
あっ、皿を割ったな。

「あれえ?」
アンジェリカ、どうして疑問型なんですか?
あなたでしょう、皿を割ったのは。

「早く片付けて!ご主人さまに怒られるわよ!」
いや、ヴィオラ、それ違う。
ホンネがそれだと、俺は悲しいよ。


おっ、アンジェリカが来た。

「ご主人さまあ、ごめんなさい~。お皿、わっちゃいました~」
うーん、これで『テヘッ』とか言って笑えば悪女決定なのだが、口調だけだからなあ。
神妙そうに頭を下げ、怒られるのを覚悟しているアンジェリカを見ながら、そう思う。

「今度から、気をつけるように」
俺はアンジェリカの頭を軽く撫で、現場に向かう。


うわあ、ご主人さまに、呆れられたかなあ。
少しブルーになりながら、アンジェリカは、ご主人さまの後をついて行く。

こういう時って、直接怒られるより、優しく諭される方が、堪えるのよね~。
まだ1日にも満たない時間しか経ってないけど、アンジェリカは、結構ここが気に入っていた。

次から次へと、今まで見たことも聞いたことのないものが、出てくる。
次は何が出てくるのかと思うと、アンジェリカは期待でワクワクするのだった。

次は、何かなあ~
そう思いながらお皿を片付けてると、手を滑らせてしまった。
あっ、しまったとアンジェリカが思った時には、皿は机から床に一直線。
隣のヴィオラさん、真っ青になって叫んでいた。


失敗したな~
これで首はないよね~
あっ、でも、ここのお皿、みんな高そうだし。
弁償しなさいって言われたら、どうしよう~
また、借金増えちゃうのかなあ~



あれ?
今でも一生働いて、返す事になってるのに、これ以上増えたらどうなるの~。
死んでからも借金返せるのかなあ~。

アンジェリカが、そんならちもない事を考えてる間に、事態は進んで行く。


神妙な顔で、割れた皿の側に佇むヴィオラの目の前で、俺は杖を取り出した。

さすがに、五人の視線が集中するのが判る。

そういや、彼女達が屋敷に来た時から今まで、俺は杖を見せてなかったな。
大概の魔法ならば、杖を使う必要もないから、通常は、リングに仕舞ってあるからなあ。



俺はサーチの術式を展開する。
探索対象は床に散らばる陶器の破片。
こういう場合、破片は思ったより遠くまで散らばるものだから、サーチの魔法は便利だ。

全ての破片の状態を把握出来たら、次は錬金の術式を展開。
床に散らばる破片の全てが淡い光に包まれ消えて行く。

風の魔法を操作し、陶器の破片から錬成した、空気をすみやかに換気扇に逃がす。
この操作だけは慎重にやらないと、なにせ固体から気体を作るのだから、下手に扱うと、つむじ風や爆風になってしまう。
全てをやり終えた後には、爽やかな森林の香りが漂うだけだった。


うん、森林の空気の組成だけは、杖を使わないと、さすがに覚えてない。
ああ、風の魔法での空気の制御も破片の位置をいちいち覚えてられないので、杖の記憶力が役に立った。

俺は、無駄にイイ汗かいたと、呆気に取られている彼女達に、微笑むのだった。

うん、食事の後片付けも、無事に終了した。




今日はもう、掃除機の使い方を教えるのが、面倒だったので、魔法でお皿の破片を片付けたんだが、お陰で、彼女達の視線が妙に硬い。

ちょっとへこむ。


今は館の中を案内している。
明日から本格的に、働いて貰う為には、場所の把握は必要不可欠だ。
それに、今日最後の仕事をお願いしたい。

他はどうであれ、これだけはやって貰わないと、俺が困る。
まあ、ハーレムは焦らず、ゆっくり構築して行けば良い。

あっ、でもひょっとしたら、今晩忍んで来る娘がいるかもしれない。





なんと言う、メイジなんだ、この主は!
ゼルマは、上機嫌で、館の案内をしてるご主人さまを見ながら、改めて思う。

元々、この館の数々の驚異を目にした時点で、ただ者ではないとは思っていたが、実際に魔法を使う姿を見て、その考えを改めざるを得ない。

ただ者ではない、化け物だ。


詠唱速度、術式の精緻さ、錬金と言う土系統と、風の魔法の同時使用。
ライン、いやいや、ただ見てないだけだが、最低でも、トライアングル。
実際は、スクウェアクラスかも知れない。

いや、皿の破片をひとつ残らず同時に変化させた技を考えれば、その時の何でも無いような表情を考えれば…




それ以上か・・・


ゼルマの瞳が、怪しく光る。
これは、トンでもない主に奉公に上がる事になったものだ。


ゼルマの美しい顔に、妖しい笑みが浮かぶ。
主の寵愛を受ければ、そうこのゼルマの魅力の虜にしてしまえば・・・


我がヴェスターテ家の御家再興、イヤイヤ、更なる爵位も夢ではない」

「侯爵、いや公爵すら、ありうる」

「いや、それこそ…うん?」
誰かが、袖を引っ張っているのに、ゼルマは気がついた。
誰かと思えば、アマンダである。

「うん?アマンダ、なんだ?」
また、トイレだろうか?
いや、いくらなんでもそれはないだろう。

「あの・・・、声が…漏れてます」

「えっ、今話してるけど」

「違います、さっきから、口に出してました」




さっきから、口に出してました…
さっきから、口に出してました…
さっきから、口に出してました…






「エエッ!!」

ゼルマは、慌て回りを見回した。

ご主人さま、グロリア、アンジェリカ、ヴィオラ、そして、真横で見上げるアマンダ。
みんなウンウンと、頷いている。

どうしよう!
ゼルマは、真っ青になりながら、黙り込むしか出来なかった。

聞かれてしまった・・・
ゼルマの頭の中で、御家再興の夢が、音を立てて崩れて行く。




「あー、ゼルマ」

「は、ハイっ!」
これ以上ご主人さまの評価を落とす訳には行かない。
ゼルマは、空元気でも、振り絞って、はっきりと答えた。


「頑張れ… で、こっちが―――」
俺は一声掛けると、その場に崩れ落ちるゼルマを無視して、説明を続ける。

あっちから、『ご主人さまあ』と、すがり付くような声が聞こえるが、無視だ、無視。



あぶねー。
ゼルマって、そんな大それた野望を持ってたのか。

御家再興?
公爵?

イエイエ、要りません。
ご遠慮します。

領地を持って、ハーレムウハウハルート確立の為だけに、位も目立たない男爵なのになあ。


う~む、これでは、ゼルマちゃんを我がメイド達の一員に加えるのは危険か?

計画通り、使えないメイド候補は、領地に送り込み、領民の慰みモノにするか?




て言ってもなあ、俺には出来んのだろうなあ。


今日一日で、俺自身、自分がヘタレである事はつくづく思い知らされた。

計画段階では、中々素晴らしい計画だと思ったんだがなあ…
商人に、見目麗しい奴隷を集めさせる。
気に入った子は味見して、更に選別。
買い取ってから、ダメな場合は、領地に送り付け、雇った傭兵団や、領民に分け与える。
これで目標二十人のウハウハハーレムなんて、ちょろいもんだと思ったんだがなあ…

まさかなあ、俺自身のヘタレ度で、初日から躓くなんて…




「あ、あの…ご主人…さま?」
アマンダが、黙り込んだ俺を気遣って、恐る恐る声を掛けて来る。

く~~っ、これだよ!

可愛い美少女に、気遣われるなんて…

こんな事、あっちの世界でも、二十八年間なかったもんな。





ま、良いか。


ヘタレなら、ヘタレなりに、素敵なハーレム目指しませう!


「ああ、済まん、済まん。で、こっちが、お前達の部屋になる」
ふと、後ろを見ると、ゼルマが項垂れたまま、落ち込んでいる。


「ゼルマ!」
「は、ハイ!」
大きな声で呼び掛けると、パッと顔を上げ、必死そうに返事を返して来る。


「お前が、何を考えてるかは、俺は問わん!」
ここは、出来る限り、シリアスに。

「だが、今はお前は、俺のメイドだ!」
ここで、ゼルマを力強く、指さす。

「しっかりと、仕事をこなせ!」
「言われた事は、やり遂げろ!」
力強く、他の娘達にも伝わるように!


「その上で・・・」
よしっ!
ここで、表情を和らげる!
「俺を使いこなしてみろ!」


ゼルマが呆気に取られ、ポカンと口を開けて見詰めている。
他の娘達の表情も、気になるが、今はゼルマを見詰めなきゃいけない。


「いくぞ、早く来い!」
そう言って、振り返らずに歩き出す。

「は、ハイ!!」
ウンウン、上手く行ったようだ。
ゼルマも、気を取り直したようで、小走りに歩み寄って来るのが、察せられる。


「ここから向こう側が、君達の部屋になる」
俺は、頬が弛みそうになるのを、必死に堪えながら、案内を続けた。

ファーレンハイトサーガ、全12巻。
3巻で主人公が、その後のストーリーの中で、名軍師と言われる相棒を手に入れるくだり。
うん、それをそのままパクったんだけどね。


俺って、かっこよくね?



[11205] ハーレムを作ろう(部屋に呼ぼう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/26 23:37
「一応、部屋は二人部屋になっている」
扉を開けて、部屋の中に全員を招き入れる。
うん、予想通り彼女達全員が、呆気に取られている。

か・い・か・ん


何も知らない、愛らしい美少女達に、今まで知らなかった世界を、教えてアゲル。

驚愕に、喚く娘。
驚きながらも、好奇心に耐えきれず、その世界に手を伸ばす娘。
拒否しながらも、それを拒めない娘。
自らの運命として、素直に受け入れて行く娘。
嬉々として、自らそこにのめり込んで行く娘。

反応は、様々ではあるが、目覚めた娘達は、こうして大人への階段を登って行く・・・・・・



て!ちが~~~うっ!!


イカンイカン、妄想が入ってしまった。
うん?願望か?


いやいや、とにかく、彼女達が驚くのも、無理はない。

まあ、確かに従業員の部屋には見えんわな。

部屋に入って右手にバス、トイレ。
あー、ちゃんとそれぞれ独立したタイプだ。

部屋の中にはセミダブルのベッドが二つ、奥にはちゃんと、小ぶりのテーブルを挟んで椅子が二脚。

両壁面には、下段に作り付けのクローゼットが付いたライティングテーブルが一セットづつある。

窓は元々の建物の構造上、やや高めだが、それでも十分明るい。
まあ今は、もう真っ暗だけどな。

隅の一画には、小さな冷蔵庫と、電気ポット、勿論二人分のカップとグラスも抜かり無い。


まあ、ぶっちゃけ、設計段階で、二十人程度の客が長期滞在出来る部屋を用意してくれと、言ったらこうなった。

ちなみに、二階には、この倍の広さの、正式な客用の部屋まである。
あっちは、ミニキッチンまで付いた、長期滞在型のリゾートホテル。
こっちは、長期滞在型高級ビジネスホテルみたいな感じだな。

流石、ホテル建設にも実績豊かな鹿○建設、うん、大×組か。


まあ、館が大き過ぎて、スペース余りまくりなんだよ。

無駄に広い、ホールやら、貯蔵庫、武器庫まであったからな。




「あ、あの・・・ここが、私達の、部屋・・・でしょうか?」
グロリアは、驚きながらも、ご主人さまに聞かざるを得なかった。

きっと、私達の部屋なんだと言う予想はグロリアにもあった。
ここまでのご主人さまの言動を思い返して見れば、判る。

恥ずかしかったけど、一緒にお風呂に入った。
食事も、一緒に作り、みんなで食べた。

ご主人さまの頭の中には、貴族とか、平民とか言う区分なんて、意味が無いのだろう。


グロリアは、尚も思う。

この屋敷だけでも、その財力は、相当なものだろう。
メイジとしての実力も、ゼルマじゃないけど、グロリアも十分驚かされた。
ご主人さまは、ゲルマニアでの地位や身分なんて、きっと、小さなモノなんだろう。


こんなに凄いご主人さまに、仕える事になるなんて、グロリアは、予想もしていなかった。

その事に、異義はない。
うううん、他の貴族様に仕えるよりは、遥かに良い。



ただ、一つだけ気がかりなのは・・・



グロリア達って、ご主人さまの中でどのような位置付けなのでしょうか。







「ああ、ここには、これ以下の部屋はない。確かに、君達の部屋だ」
コクコクと頷く娘達。

うん?
ボカンと口を開けて、見詰める娘…
こら、アマンダ、その顔は止めろ、全く。
お持ち帰りしたくなるじゃないか!



「と、とにかく、一応二人部屋だが、今は一人づつ部屋を使ってくれ」
その場で、適当に部屋割りを決めた。
どうせ、どの部屋も同じなので、誰がどの部屋と言うのはたいした問題ではない。

問題は、どこに誰がいるかだ。
よしっ!
アマンダが、二番目、グロリアが一番奥!
覚えた!

べ、別に、よ、夜這いしたいからじゃないんだからね!





いや、スミマセン、その気満々です。


アマンダは、かわええし、グロリアは、ほら、何となく、俺への接し方優しいし。
そ、それに、お風呂で身体洗ってくれたし。

行けるんじゃね?


それに、アータ、あの胸!
お見せ出来ないのが残念です。



「ご主人さま?」
おおっと、ヤバい、ヤバい。
思わず、涅槃の境地にたどり着くとこだった。
とにかく、彼女達に部屋の設備を教えねば。







ハイ、驚愕の連続でした。

ベッドの柔らかさに、予想通り、アマンダが、跳び跳ねて下さいました。

アンジェリカ、冷蔵庫の後ろを覗き込んで、コンセント抜かないで下さい。
『エイッ!』て、あなた、確信犯でしょ。

ヴィオラ、洗面場で鏡に向かって、『なんか違う』とか、『おかしい』とかブツブツ呟かないで下さい。
怖いです。

ゼルマ、どうして説明聞かないで、俺にしなだれ掛かって来るのでせうか?
おじさんは、イッバイ、イッバイです。

グロリア、内線電話を持って、『まあ、ご主人さまから、連絡が入るのですか』と、満面の笑みで言わないで下さい。
でも、『困りましたわ、でんわの前から、動けませんね』って、真剣に悩むのは反則です。
貴女も天然入ってるのですか、ありがとうございます。
後、ゼルマをきつく睨まないで下さい。




HPを危険な程消耗して、今度は反対側の建物の二階まで、やって来た。

もう、夜もかなり遅い。

今日中に済まして措かなければならない事は、後二つ。
両方とも、主に俺の為になる事だ。
何としてでもやり遂げねば!
あっ、まあ一つは、彼女達の為にもなるかな?




こちらには、ご主人さまの私室がある。
ヴィオラは、そう最初に言われたのを覚えていた。


みんなも、それを判っているのか、ご主人さまに従いながらも、表情が・・・
固くなかった。

アンジェリカは、何が出て来るのかと、目を輝かしている。
よしっと、手を握りしめ、気合いを入れているゼルマさん。
それを睨みながら、明らかに対抗心旺盛な、グロリアさん。
皆の様子が、変わったのに気付き、ワタワタと慌てて、キョロキョロしてるアマンダ。



みんな!

判ってるの!

これから、ヴィオラ達、食べられちゃうのよ!


ヴィオラは、大声で叫びたかった。
昼前から、色々あった。
ご主人さまに、優しく扱われ、みんな騙されている。


ゼルマさんや、グロリアさんなんか、完全に、その気になってる。

それで良いの!
た、確かに、奉公に上がった以上、に、肉体関係も、含まれるけど・・・

ヴィオラには、訳が判らなかった。
なまじっか、考える時間があるだけに。

これが、有無も言わさせず、無理矢理散らされていたら、涙を流して、運命として受け入れていただろう。

そして、相手を憎みながらも、受け入れていたかもしれない。

判らない。





ヴィオラには、どうすれば良いのか。

いや、ヴィオラは気がついていなかった。
どうすれば良いのかではなく、どう対応すれば良いのかが、判ってない事に。





「ここが、俺の私室になる」
三人の娘達に、緊張が走る。
後二人は、好奇心と、困惑の二重奏だった。


ただ、扉が開かれると、全員の視線が、暗い部屋の中に注がれた。


「えっ?」、「うわっ!」、「ひやぁ!」
言い方は違えども、パチンと言う音と共に、部屋に光が満たされた時に漏れたのは、困惑の五重奏だった。

「あー、見ての通り、館の中で、一番汚い部屋だ」
俺は、頭を掻きながら、そう言うしかなかった。


だって、仕方ないだろう。
館のリフォームが終了してから、二週間近く経っている。
新しいフカフカのベッドと綺麗なシーツがあるんだから、使わない手はない。

何せ、こっちの世界に来てから、最高の住環境だ。

堪能しない訳ない。

だけど、独りでこんな馬鹿でかいベッドのシーツ替えて見ろ。
それを洗濯機にほり込んで、シワひとつない状態まで綺麗にアイロン掛けれるか?

毎日着ている服にしたって、そうだ。

この世界の普通の服装に合わせて、あっちで特注した衣装だ。

動きやすさ、軽さは段違いさ。
だけどな、その分、皺になるんだよ。
洗濯もデリケートなんだよ。


食事もそうだ。
料理も、独り暮らしが長かったから、そこそこ出来る。
だけどな、あの厨房で、独り用の食事なんか作れるか?


途中で気付いたさ、何故俺は客間に寝なかったんだろってね!

あっちなら、シーツも予備が一杯あるし、小さなキッチンも付いている。

でもなあ、ここは俺の家だぜ。

どうして、客間で寝なきゃならんのだ!!



んまあ、そんな訳で、私室は、しわくちゃなシーツと、汚れた服。
各種ファーストフードの袋やカップ麺の容器が転がる巣窟となったのでありました、まる。



「まあ、汚ないのは勘弁して貰うとして、君達の最初の仕事として、この部屋の片付けをお願いする」


「ハイ!頑張ります!」
アマンダは、元気に返事をした。

一時は、ゼルマさん達の異様な雰囲気に、何があるのかと、不安だった。
だけど、お片付けなら、大丈夫!
私でも、ちゃんと出来る!


「ハーイ、私も、頑張っちゃいまーす」
アンジェリカも、嬉しそうに、答えた。

何せ、ご主人さまの部屋を隅から隅まで探索出来るのだ。
ビックリ箱のような、このご主人さまの屋敷。
何が出てくるか、アンジェリカは期待にワクワクするのだった。


そんな元気一杯なアマンダ達の姿を見ながら、グロリアは、溜め息をそっと漏らした。
期待を逸らされ、がっかりした気持ちもある反面、安堵しているグロリア自身がいた。

いくら、覚悟を決めているとグロリアが思っていても、自分自身はまだ未経験なのだ。
怖くないと言えば嘘になる。

ダメね~


ふと、顔を上げると、同じような表情を浮かべたゼルマがいた。
あっ、ゼルマも同じなんだ。
二人の間に、奇妙なシンパシーが通じた瞬間だった。

「私達も頑張りましょ」
「ええ!負けませんわ!」
「フフッ、私もね」



全員で、ご主人様の私室のお片づけに取り掛かりました。

その中でヴィオラさんが、『なんか違う』、『アリエネー』とか、つぶやき続けているのを、皆綺麗に無視することにしたのは乙女の秘密です。(byアマンダ)




-----------没エンド(迷いました)---------------------
「私達も頑張りましょ」
「ええ!負けませんわ!」
「フフッ、私もね」

ゼルマとアマンダ、これが二人の始めての会話。

そして、これが後にハルケギニア中にその名を轟かす、

特殊傭兵団「お掃除メイド隊」の

団長と、副団長の最初の共同作業となったのは、あまり知られていない。











すみません、嘘です。





[11205] ハーレムを作ろう(歯磨きで仲良くなろう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/28 03:23
パジャマである。


寝る時の服装は、なるべく身体への負担が少ない格好が、安眠の秘訣である。
また、疲労回復の為にも、余分な圧迫を感じない服装が望ましい。


これらの条件を満たす為に、全裸での睡眠を採る方もおられるが、これは室内の温度変化、また自らの体温変動の影響を直接受ける為、あまりお薦め出来ない。


結果、快適な睡眠を得る為の適正な服装は次の通りとなる。


身体に余分な圧迫を与えない為、下着は着けない。
同様の理由で、ベルト・ボタン等の突起物を少なくする。
着替えに時間が掛かるようでは、安眠を妨げる事につながる為、着脱が容易なように、頭から被りやすいワンピース型。
生地は、保温性を保ちながらも、吸水性、通風性に優れ、尚且つ着用時の負担を軽減するため、なるべく薄く軽い素材。
身体に密着すると圧迫感を感じる為、ゆったりとしたもの。

女性の場合、ファッション性の高さも、安眠の為に重要である。


で、女性らしくフリルやタックをあしらった、上記の条件を満たしたパジャマに着替えた彼女達が、目の前にいます。





ハーレムです。

いや、その通りだけど。



まだ…だけど…



色気を最低限に押さえたパジャマなのだが、この妖艶な雰囲気は何なんだろう?

髪の毛をまとめあげ、ナイトキャップに納めた姿も悩ましい。
直接は見えない。
だけど、確かにその向こうには豊満なオッパイが控えていると、十分に感じさせる胸回り。
後ろ姿からは、お尻の辺りに優雅にまとわりつくパジャマのラインが、ノーパンである事を否が応でも強調している。



俺は、メイドときたら、やっぱし、ほら、あるじゃん。


嵐の夜に、馬を駆り館を目指す騎士。
入り口で焦ったように扉を叩く。
やがて、館の中でバタバタと走り回る音がして、扉が開かれる。
体全体から雨水を滴らせながら、騎士が、顔を出した若いメイドに、緊急事態の発生を告げる。
メイドは、驚いた顔で慌てて主人を呼びに走る。
ため息を吐き出す騎士。
そこに、完璧に身仕度を整えたメイド長が……



おっと、行きすぎた。
あー、こんな話で現れる若いメイドさんだよ。


パジャマの上からナイトガウン羽織ってさ、燭台か何か持って走り回る姿。
あれだよ、あれ。


判り辛いかもしれんけど、メイドさんの寝てる時の服装にも、俺なりのこだわり?


うん、それがあるんだよ。



でだ、部屋の片付けが終わったので、俺は彼女達を連れて、下の脱衣場に降りてきた。
俺の部屋にあった服やシーツも洗濯しなきゃいけないしね。

あ、最初に洗濯して、乾燥機に放り込んでおいた彼女達が着ていた服。
ハイ、予想通り、あちこち縫い糸が解けて、ボロボロ。

まあ、裁縫具なんかもどこかに用意してあった筈だから、何か思い入れでもあれば自分達で直すだろう。



でだ、それぞれに洗濯籠を渡し、いよいよこの日の為に用意した、俺様こだわりのパジャマを支給。
俺自身の服を洗うついでに、彼女達の、あれだ、うん、服も洗えと提案。

メイド服は、今日はそんなに汚れてないから翌日も着ていて良いが、下着はダメだ。



うん、一日一回は洗うべきだ!



それに、ブラ等のデリケートな洗濯物なんかは、ネットに入れて洗濯するなんて、高等テクニックも教えなきゃ。
べ、べつに、新品の下着より、いかにも今まで身につけていましたって言うブラの方が、価値ある訳じゃないんだからね!




ハイ、嘘です。

グロリアさんの、あの巨乳をやさしくお包み頂いた、至高の一品です。
俺はこれで、ご飯三杯はいけるね。


ましてや、横にパジャマ姿で、真っ赤になりながら話を聞いている本人がいるんですよ。


おーい!おかわり、じゃんじゃん持ってきて~



と言う嬉し恥ずかし状態です。







何やかんやで、洗濯の方法を伝授し終え、彼女達を連れて洗面台の前に移動した。


さて、本日の最後のイベントに、取り掛かろう!



俺が取り出したのは、歯ブラシ。
これで彼女達を、凶悪な虫歯から守ってみせよう!






ご主人さまが先程から、やけにハイテンションです。

絶対おかしい。
ヴィオラは、その様子を見ながら、思索にふける。

こんな恥ずかしい格好に着替えさせられた。
あまつさえ、昼前に支給された下着すら取り上げられた。

やだ、このご主人、異常性欲者だったんだ…


ヴィオラ達のような、いたいけない少女に襲い掛からず、身につけたものに興味を示す…

やだやだ、そんな人がいるなんて…


帝都に出てくる間、一緒に連れて来られた娘達の中には、そう言う貴族の性癖に詳しい娘もいた。
その娘の話は、微にいり細にいり、たった一晩だけの話だったけど、本当に詳しいものだった。

その時は話半分にきいていたけど…
やっぱり、に、匂いを嗅いだり、す、するのかしら…
あっ、でも、洗濯機に掘り込んだからちがうかも。





うううん、油断は出来ない。

あんな事や、こんな事考えてるに違いない。
ヴィオラは、頬が赤らんでいるのに、気づかなかった。







まずは、誰から行こうか?
無難な線は、グロリア、ゼルマか。

この二人なら嫌がるまい。

難易度が高そうなのは…
うん、ヴィオラだな。

この中で、一番表情が硬い。

大分慣れて来たかと思ったが、さすがに引いたか。
俺自身、ちとやり過ぎたかなと反省してる。




まあ、その代わり、それだけの価値はあった。
あったかな?


イヤイヤ考えたら負けだ!ここは、勢いで押し切るのみ!





「君達は、歯磨きを知ってるかな?」
彼女達はお互いに顔を見合わせ、首を左右に振る。

「人が、健康で長生き出来るのに最も重要な事は何だと思う?」
尚も誰も答えない。
ここは無視して、どんどん進もう。

「快眠、快食、まあ、良く寝て良く食べる事だ」
おおっ、アンジェリカが興味を持ったようだ。
顔が上がり、こちらをキラキラ光る瞳で見つめてる。

うん、彼女は余計な事するが、好奇心旺盛だからな。


「アンジェリカ、良く寝る為に役立つモノ、判るか?」
うーんと、頭を傾けて考える姿も可愛い。

「この服?」
パッと顔を輝かし、スカートを摘んでポーズを付ける。
おおっ、アンジェリカ、点数高いぞ!



「あっ、ああ、正解だ!」

危ない、危ない、思わず見とれてしまう処だった。

「いいか、このパジャマは君達が良く寝られるように、工夫されている」
得意気なアンジェリカ以外が、驚いたように頷いている。

そう、決してエッチな目的だけで、渡している訳ではないのだよ、諸君!


「是非、愛用してくれたまえ」
俺は、上から目線で重々しく宣言する。
何事もポーズは大切だ。


「でだ、これが何に役立つか、判るかな?」
俺は、手にした歯ブラシを振る。

「ヴィオラ、判るか?」
びくっと、ヴィオラの身体が震える。
どうやら、かなり恐れられているようだ。

「チョット難しいか」
ヴィオラが俯いたまま、唇を噛み締めているのが判る。

うーむ、どうしたものか。アマンダなんか、ヴィオラを気遣うように、彼女をみてる。


他の娘達は、大分慣れて来たかと思ったが、ヴィオラは逆に殻に籠もりそうな雰囲気である。
これでは、俺のハーレムウハウハ計画に支障が来たす可能性が出てきた。




「ヴィオラ、これは君の歯を健康に保つ為の『歯ブラシ』だ」

「歯ブラシ…」
うん、ヴィオラが何とか興味を示した。
ここは、勢いで押してしまおう。

「そう、皆も覚えておいて欲しい。歯ブラシとこの特殊な秘薬を使えば、君達の歯はいつも綺麗に保たれる」
あっ、秘薬ってただの歯磨き粉の事だけどね。

「そして、虫歯の無い綺麗な歯こそが、食事をおいしく食べる最も大切なことなんだ」
ちと、強引な気もするが、まあ俺の我侭の為だ。
無理矢理でも納得させるしかない。


「それじゃ、ヴィオラ、こっちに座りなさい」
俺は、ヴィオラを洗面台の前の椅子に腰掛けさせる。
座らせた、後ろの椅子に俺が腰掛ける。


「これから、歯の磨き方の講習を行う。あーっと、順番に教えて行くので、他のものは暫く見学しておいてくれ」

ヴィオラの肩に手を載せる。
ビクッと、ヴィオラが身を硬くするが、ここは頑張らねば。

俺はヘタレじゃない。
俺はヘタレじゃない。

自分に言い聞かせて、次の行動に移る。
これ位出来なくて、何のハーレムだ!

頑張れ!俺!


「頭をこちらに持たれかけさせ上を見る。うん、そうだ。そして口を大きく開けるんだ」

ええっ!
な、何をするの!
ヴィオラはパニックに陥りそうになるのを、必死に押し留める。
ダメ、ダメダメ、ご主人さまの言う通りにするのよ。

襲われるのは怖い…
だけど、ご主人さまに逆らう訳には行かない。


目を閉じ、促されるままに、口を開ける。


「も少し大きく開いて」
俺は歯ブラシに、歯磨き粉を付け、開いたヴィオラの口に差し入れた。


「いいか、飲み込むなよ。こうやって、歯についた汚れを取るんだ」

うん、やってみると中々面白い。
自分の歯を磨くのは当たり前だが、小さな子供に母親がするように歯磨きをしてやるというのも、楽しいものだ。
特に、それが美少女となると、また格段の趣がある。

目を硬く閉じていようとするが、時折気になるようでこちらをチラチラ見てくる。


俺は俺で、順番に歯を磨きながらも、身体に当てられた肩の感触、パジャマ越しに揺れる胸元を堪能できる。




そう、ヘタレの俺が無い知恵を絞って編み出した必殺技。


「歯磨きで仲良くなろう」


の発揮だった。



今の時点で、襲うのは俺には出来そうにない。
でも、やっぱり寝る前にもっとお近づきになりたいじゃないか。

そこで考え出したのが、この方法。

彼女達は、歯磨きを知っているのか?
歯磨きの習慣はあっても、歯磨き粉はあるのか?


元々、この時代の人々は口臭も気にならないのかと言う考えが、まるで天の声のように響いたのだった。


そうなると、後は早い。
実際には、特に口臭は気にならなかったが(すみませんね、口臭が気になるまで近寄れませんでしたよ!)。


一人一人に、ちゃんとした歯磨きを伝授する。
子供にやるみたいに、頭を抱えて歯磨きをしてあげよう。

頭と頭が密着する。


『まあ、なんて優しいご主人さま』
『イエイエ、それ程でも』
『嬉しい!抱いて!』







うん、ばっちりじゃないか!

完璧すぎて、涙が出てくる。





ちきしょう!
判ってるさ!

自分で言ってて、むなしくないかなんて、言わなくても判っているさ。

でもな、でもな、中々お近づきになれないんだよ!

これでも精一杯なんだよお!!!!!






「良し、終了!このまま洗面台で口を濯げば出来上がりだ」
ヴィオラの口から歯ブラシを抜き出す。

「う~~~」
何だかうめき声を上げながら、ヴィオラは洗面台に顔を向ける。
手を伸ばすと、蛇口から水が出てくるのを伸ばした手で受け止め、口を濯ぐ。



うんうん、旨く出来たみたいだな。


俺は、満足げにヴィオラが口を濯ぐのを見ていた。
念入りに何回も、何回も濯いでいるようだが、まあ綺麗になるのは問題ない。


漸く納得したのか、ヴィオラがきりっとした顔でこっちを向いた。

つかつかと、俺の方に迫って来る。
あれっ?
何か怒ってない?



「こ、この!変態性欲者!!!」

更衣室の中に、『バチーン!』と言う小気味良い音が響き、俺の頬には大きなもみじ形の痣が出来たとさ。



[11205] ハーレムを作ろう(話を聞こう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/21 00:49
「あっ…ああっ…あっ…」
ヴィオラがその場に、泣き崩れた。

他の四人は真っ青になって、俺を見ている。




ふうっと、黙って吐息を吐き出した。

あり得ない、いや、起こってはいけない事が起きてしまった。
平民が、貴族に手を上げる。

しかも、その平民は99年の雇用契約にて主の下で働くモノ。
言わば奴隷に等しい。



俺は頭の中で、この世界でのこう言う場合の対応を思い出してみた。

まあ、普通はなぶり殺しだな…

貴族に対して手をあげた。
これは、体制に対する反逆に等しい。
その場で魔法で焼かれても、誰も文句は言うまい。




表立ってはな…



相手が男ならば、問答無用で切り捨てても何ら問題ない。
殴りかかって来たから、それに対応したと言うだけで済む。

土台、メイジである貴族に平民が一対一のタイマンで勝てる道理も無い。
それが判ってて、殴りかかってきたのだから、こちらも申し開きは容易い。



しかし、若い女性が相手だと、微妙に困った事態が発生する。

『町を歩いていて水を掛けられた、問答無用で風の魔法で吹き飛ばした。
その後、彼女がどうなったかは知らない。』

これならば問題ない。


だが、ヴィオラのケースはそれではない。




頬にまだ痛みが残っている。
水の魔法で回復の術式を展開すれば、直ぐにでも納まる程度のものであるが、今は痛みがあった方が良い。

大分、浮かれすぎていたようだった。
半年以上、殆ど独りで過ごしてきて、突然五人の見目麗しい美少女と一日を過ごす。
最初に風呂入ったのが、不味かったか…

俺は、頭の中で苦笑いするしかなかった。
うん、泣き崩れているヴィオラは別にして、まだ四人が俺を見つめているのだ。
こんな場面で弱みを見せれば、今後つけ上がられる。

彼女達と楽しくやって行きたいと言う言葉に嘘は無いが、なめられるつもりも無い。

あー、でもさっきまでの俺なら、間違いなくなめられるな。
ちょっと、反省。
ヴィオラに感謝せねば、少なくともハイテンションから帰ってくる事が出来たんだから…



話が逸れたがとにかく、

『奴隷の少女に、頬をぶたれたから吹き飛ばした』

では、余りにも醜聞が悪すぎるのだ。

生殺与奪の権利を握っているだけに、表に洩れた時に他の貴族達にも舐められる原因を作ってしまう。
まあ、別に他の貴族がどう思おうが、俺には関係ないが。
一番困るのは、官吏に知られる事。
監督不行き届きにて、御家御取つぶし。
どこの江戸時代だよと言いたくなる。

それより、若い女性の奴隷一人言う事を聞かされない貴族。
女には弱い軟弱者―これはほぼ事実だな―と言うレッテルが貼られてしまう。



五人とも消してしまうか?


それが出来たら、こんな事にはなってないって。
自分で突っ込んでしまい、苦笑いが浮かぶ。

いかん、いかん、とにかく他の四人を切り離そう。




俺は、術式を展開し、ヴィオラを眠らせた。
泣き崩れていたヴィオラの力が抜け、その場に倒れ込む。

「あっ…」
アマンダがびっくりした顔で、彼女に駆け寄ろうとするが、俺の顔を見て動けなくなってしまう。



「とにかく、今日はもう終わりだ。それぞれ部屋に戻って寝なさい」
全員の顔が強張る。

しかしながら、反論するものはいない。


「それと、歯磨きだが、それぞれの部屋に同じものが用意してある。まず自分達で試しておくように」
四人とも、項垂れたまま動かない。
いや、動けないのか?


「ヴィオラの事は気にするな。まあそれ相応の罰を受けて貰うがな」
四人ともハッとしたように顔を上げる。
グロリアの口元が、何か言いたげに動くが、それも途中で止まってしまった。


「では、明日から宜しく頼む」




もう、ここから出てゆけと言われているような、ご主人さまの口調に何故かグロリアは悲しみを覚えた。


大変な事になってしまった…

他の三人と脱衣場を後にしながら、グロリアは思う。
ご主人様に手をあげる。

あってはならない事態。
平民がやってはいけない事。

他の国に比べれば、ここゲルマニアは貴族と平民の身分制度の差別は軽いほうだとグロリアは母から教わっていた。
そりゃ、街中で貴族を侮辱しようものなら、その平民は殺されても文句は言えないのは変わらない。

だけど、この国では財力があれば貴族になる事が出来る。
逆に、貴族であっても没落すれば、平民として扱われる。
グロリアは直接聞いた訳ではないが、ゼルマのような元貴族の令嬢がいる事になる。
メイジの資質の有無は問われるが、平民と貴族との差別は、噂に聞くトリステイン程ひどくは無い。

結果、何が起こるかと言えば、貴族は無闇に平民を殺せなくなっているのだ。
建前上は侮辱された貴族は平民に対して生殺与奪の権利を持つ。
何せ、身分の上のものが下のものを罰するのは、当たり前のことだから。

でも、その後がある。
罰した貴族に対して、帝都から詰問が飛ぶ場合があるのだ。

『何故、平民に侮辱されたのか?』
『貴族なのに、平民に侮辱されるような行いがあったのか?』

そうゲルマニアでは皇帝に対して、貴族の権限が強い。
国としてまとまれば、多分ハルケギニア一の大国になれる筈なのに、意見がまとまらない為、ガリアやトリステインから見下されているのだ。
貴族の権限を小さくして、皇帝の権限を大きくするにはどうすれば良いか?

その方法の一つが、貴族の粗を見つけて取り潰すことであった。

皇帝に仕える官吏達は常に目を光らせている。
何か不手際があれば、すぐさまその貴族を取り潰そうと。

これにより、貴族達の権限の縮小、それとこちらの方が重要であるが、領地の売却が可能となる。
貴族になりたい平民に高く売り付ける事が出来る訳だから、予算に苦しむ官吏には望ましい事この上ない。

平民が貴族に手を出す。
それはやってはならない事。
それを行ってしまえば、最悪その平民は命は無い。
だけど、同時にその平民を罰した貴族すら、自分の地位を失う可能性があるのだった。


だから、グロリアは悩む。
このご主人さまは、決して悪い人ではない。
ヴィオラのやった事は、罰せられてもおかしくない事。
ご主人さまには、罰する権利があり、ヴィオラが罰せられるのは仕方ない。

だけど、万が一この事が外に漏れ、官吏に知られたら。
官吏達は喜んでバルクフォン家を御取潰しにするだろう。


折角気に入りかけているご主人さまと、楽しそうな職場なのに失いたくは無いわ。
グロリアは尚も考える。

たった一つ、官吏達から逃げる手段がある。
この辺りは、グロリアは母にしっかりと仕込まれていた。
何と言っても、貴族のお手付きで生まれただけに、母はこの辺りには詳しかった。


平民でも貴族になる事が出来るゲルマニアであればこそ、許される道が一つだけある。
それは、痴話喧嘩。

男と女の関係になってしまった貴族と平民がそれだ。
その二人が、お互い手を上げたとしても、それにより罰せられる事は無い。

他の国とは違い、グロリアのようにメイジと平民の間に生まれた子供は、貴族になれる可能性のある平民なのだ。

跡取りを得るために、貴族が平民に手を出して子供を設ける。
そして、その子供にメイジの可能性があれば、跡取りとして迎え入れる。
逆ならば平民として扱う。

跡取りがいない為に、お家断絶と言う事になれば貴族は目も当てられない。
貴族同士の婚姻には家がついて回る為、子供が生まれないからと放り出せるものではない。
だから、子供の出来ない貴族は必死に平民の女性を囲う。
それでも子供さえ生まれ、メイジの才能があれば、家が続くのだから。

だからこそ、男女の仲になってしまえば、そこにはもう、貴族・平民と言う関係は無いとみなされる。

むしろ、そんな関係の中で、手を上げた貴族がいたら、周りからバカにされるだけである。

そう、痴話げんかの中での出来事は、笑って済ませるしかないのである。










こうしちゃいられない。

「みんな!後で私の部屋に来て」
黙り込んでいる三人に向かって、グロリアは勢い良く告げるのだった。











四人が出て行ったのを確認すると、俺はレビテーションでヴィオラを浮かせた。
軽く手を沿え、そのまま彼女を二階の私室まで運び込む。

ベッドに降ろし、レビテーションを解除する。
ストンと、彼女がベッドに寝転がるが、うーんと言う寝言が聞こえるだけでヴィオラはまだ目を覚まさない。


覚醒させても良いが、まあ暫くは寝かせておこう。
俺はホームバーからグラスを取り、酒を注ぎ軽く喉を潤す。

今日一日を振り返ってみる。
かなり飛ばしまくっていた俺自身に、流石に苦笑せざるを得ない。


大体、風呂入った辺りからおかしくなりだしてるよなあ…
何でも出来る。
だから、何でも独りでやる。
こっちの領地を手に入れ、世界に穴を開けて館をリフォーム。
領地のあれこれに指示を出し、物資の手配・傭兵団への連絡…

確かに、走りっぱなしだったと言えばそうとしか言えない。

それが、可愛い美少女五人に囲まれた。
しかも、自分の言うことに逆らえない立場の愛くるしい娘達だ。

こんな経験、これまである訳ない。
だからこそ、ハイテンションで接した。


それの結果が、この頬の痛みと扱いに困る美少女一人か…


苦笑いしか浮かばない。
何でも出来る。
誰にも止められない。
だから、好きに生きる。

なのに、今は一人の娘の扱いに困りこんでいる。

やっぱヘタレだよなあ…



他人の目を気にせず、自由に生きる。
これこそ憧れた生き方。
チートな力を得たからこそ、それが出来ると思ったのだった。

だけど、たった五人の娘と半日接しただけで、その思いは崩れ去ってしまった。

アルの知り合いのドラゴンが、人間の小娘にこだわる理由も、こうなって見れば判らないでもない。
まあ、アルには召還した無敵のドラゴンが、どうしてたった一人の小娘の為に命をかけようとするのか、理解は出来なかったようだが…



おっと、いけないまた話が逸れた。
現実逃避?

多分そうだろう。


とにかく!
ヴィオラの話を聞かねば!


俺は、ベッドの横に椅子を持ち込み据え付ける。
用意した水の秘薬とグラスに入れた酒を持って、そこに腰掛けると覚醒の術式を構築するのだった。










コンコンと扉をノックする音がした。
グロリアは急いで、駆けつけ扉を開く。


「こんばんわ~、失礼します」
ペコッと頭を下げたアマンダが立っていた。

「どうぞ。あら、それ何?」
「これですか~、部屋にあったんですよ、中々良いでしょう」
アマンダがパジャマの上に、ナイトガウンを羽織っていた。
薄いピンクの中々洒落たガウンだった。

「あら、こんなものまで用意してあるのかしら、どこにあったの?」
「ええっと、棚の下の段です」
グロリアも引き出しを開けて見ると、同じようなガウンときっちりと畳まれた服が入っていた。

「ああ、これね」
ガウンを取り出し、同じように身に着けてみる。

「うわあ、軽いわね。それに暖かいし」
「でしょ、でしょ、これだと恥ずかしくないですもんね」


「何をしてるんだ、お前らは?」
いつの間にか中に入ってきたのか、ゼルマが態々開いた扉をノックしながら呆れたように聞いてくる。
その後ろには、アンジェリカの顔も見える。

「あー、ゼルマさん、アンジェリカさんも。こんなガウンがあったんですよ」
アマンダが嬉しそうにクルリと回ってガウンを見せびらかす。

「ほおっ、それはよさそうなナイトガウンだな。どこにあったって?」
「ハイー、棚の下の段です」

「それじゃ、一寸私も取って来よう。アンジェリカは」
そう言ってゼルマが振り返ると、もうそこにはアンジェリカはいなかった。

ゼルマは肩を竦めると、一旦部屋に戻って行った。




全員ガウンを羽織り、再び部屋に集まった。
ベッドにアマンダとアンジェリカが座り、グロリア、ゼルマは用意された椅子に腰を下ろす。

今は、アンジェリカがちゃっかりと部屋から持ってきたカップ二つと併せて、四人分のお茶の用意をしている。
ご主人さまに言われた通り、『ポット』にお水を入れ『コンセント』をつなぎ、ボタンを押す。
アンジェリカが嬉々として用意して行くのを、残りの三人は恐る恐る見ていた。

『ティーパック』と言う物を包みから出し、それぞれのカップに入れる。
そこに、あっという間に沸いたお湯を注ぎ込み、暫く待つ。

ゼルマは、砂糖と言われた小袋を手に取りしげしげと見つめる。


「これは、一体、紙(?)なのか?それにしても薄い」
お茶に甘みが欲しい場合は、この小袋を破り中の砂糖を注げば良いとご主人さまは言っていた。
だがそんな小物でさえ、見たことも聞いたことも無いようなものばかりである。


ゼルマのそんな独白に、ウンウンとグロリアとアマンダが頷くのを他所に、アンジェリカはさっさと砂糖の包みを破りお茶に注ぎ込む。
スプーンで軽く混ぜると、あっという間に溶けて行く砂糖をアンジェリカはキラキラとした目で見つめていた。

ティーパックを取り出し、もう一回軽くかき混ぜ、カップを手に取る。

「頂きまーす」
アンジェリカが早々に口を付けるのを、残りの三人は興味深げに見つめるだけだった。

「どうしたの?おいしいよ?」
そんな皆のように、キョトンとしながらアンジェリカが言った。
三人は、慌ててそれぞれのカップに砂糖を入れた。

三人とも、言われた事は判っていたつもりだが、流石に自分から試して見るのはまだ怖かったのだ。


「ほおっ」
「あっ、おいしい」
「おいしいね~」
お互い顔を合わせて微笑みながら、まったりとした空間が辺りを包む。


不思議な事だ。
ゼルマは一人思う。

ここにいる四人、そしてご主人さまの元に残ったヴィオラも含め、五人が五人ともこの屋敷に来る前までは、会ったことも見たこともなかったのだ。
元貴族の娘と言う事で、跡継ぎが出来ない貴族の需要が高いゼルマのように、ある程度の宿で待機出来たのはまだましなのだろう。
他の四人は、どれ程劣悪な宿で待機していたのだろうか。

それが今こんな綺麗な部屋で、こざっぱりとした服装に着替え、まったりと今まで味わった事の無いお茶を飲んでいるのだ。





「それじゃ、自己紹介は今更必要ないわね」
グロリアが切り出した。


「まず、みんな、このお屋敷をどう思う?」
グロリアの問い掛けに、お互いが探るような視線を合わせる。
皆思っているのは一緒だった。


『こんな屋敷見た事も聞いた事もない。』

の一言に意見は集約された。


ロバ・アル・カリイエ、所謂東方のモノではないかと言う意見も出た。
だけど、それならば誰も見た事も聞いた事もない筈が無いと言うアンジェリカの意見に、そんなものかと皆同意する。


その次にグロリアが聞いて来たのは、
『ご主人さまをどう思うか?』
であった。

ゲルマニアの貴族とは思えない。
貴族があのような対応を取る事は考えられない。
でも、平民にも思えない。
平民、例えば裕福な商人が取るような対応でもない。
でも、悪い人には思えないと言うグロリアの意見に、結局残りの三人も頷いていた。


『見た事も聞いた事も無い屋敷』
『訳の判らない怪しい人』
『でも、悪い人ではない』

これじゃ、怪しさ満載の職場である。


だけど、最後のグロリアの意見に、皆が納得する。

「ヘンなご主人さまに、ヘンな屋敷だけど、私ここで働くのは悪くないと思うの」
「だって、他の所に比べれば、遥かにマシじゃないかしら。それにね、あのご主人さまなら抱かれても…」

最後のくだりに関しては、アマンダが一人ワタワタしていたが、今後奉仕して行くのにここは悪くない。
いや、破格の良い職場だろう。
ゼルマは考える。


それに、ばれてしまったがやはり、御家再興は目指して行きたい。」
「何としても、ご主人さまの寵愛を得て、ヴェスターテ家に往時の栄光を---」

「ゼルマさん、ゼルマさん!」
アマンダが呼びかける。

「うん?どうした?」
「また、聞こえてます」
アマンダが呆れたように答える。

ゼルマは、他の二人に目で問い掛けた。

二人とも、聞こえていたと目で答える。



「しまったぁ!!」
ゼルマの御家再興は、この癖から直さなきゃならなかった。






結局、ゼルマのお約束も見れた事で、グロリアのお茶会は円満に終了した。


グロリアは、ここで働く事に前向きに取り組みたいと思い。

ゼルマは、ご主人様の寵を得て、御家再興を目指そうと言う信念を一層強固に。

アンジェリカは、この不思議な屋敷をもっと知りたいと言う思いを更に強くし。

アマンダは、おいしいものが食べられるので奉仕先としては問題ない。
ただ、ご主人さまに、だ、抱かれるのは…
と、独り顔を真っ赤にさせるのだった。


「あっ、最後に一つ」
後片付けを済まし、それぞれが部屋に戻ろうとした時、グロリアが再び声を掛ける。

「今度は、ちゃんとヴィオラも誘いましょうね。今日はご主人さまと痴話喧嘩になってしまってダメだったけど」
グロリアの発言に、一瞬全員が黙り込む。


そう、ヴィオラの件は全員が心配していたのだった。

「そうだね~、ヴィオラちゃんも入れてあげなきゃ~」
いや、自分中心のアンジェリカを除いて…

「そうか、痴話喧嘩だな。それなら、ご主人さまの顔も立つ」
ゼルマが感心したように頷く。

「ヴィオラさん、大丈夫でしょうか?」
アマンダは素直に心配を表す。


「大丈夫、あのご主人さまだから、ひどい事はなさらないわよ。今度、皆で慰めてあげましょ」
「うん、そうしようね」
グロリアにそう言われ、アマンダが素直に頷いて、それぞれが部屋に戻っていった。



バタンと、扉を閉めてグロリアは、大きくため息を吐き出した。
何とか旨く行った。

皆、ヴィオラの件を痴話喧嘩として認めてくれた。

取り合えず、こっちはこれで終了ね…
グロリアがそう思ったとき、扉を激しく叩く音が鳴り響く。

えっ…
グロリアは慌てて扉を開けた。


「まて!痴話喧嘩とはどういう事だ」
そこには、顔を真っ赤にさせたゼルマが立っていた。


何しろご主人さまの寵愛を受けるのは、私・ゼルマだ。
それを差し置いて、ヴィオラが寵愛を受けているのは許せる事ではない。
食って掛かるゼルマに、グロリアは必死になって事情を説明するのだった。













「も、申し訳ございません…」
目が覚めたヴィオラの最初の言葉がそれだった。

覚醒の術式を展開し、彼女を眠りから呼び戻す。

ヴィオラはパッと目を開け、キョロキョロと辺りを見回した。
そして、俺と目が合うと、すぐさま謝り始めるのだった。


「ほ、本当に、すみません。も、申し訳ございません」
ポロポロと涙を流しながら、ひたすら謝り続ける。

これでは、埒が明かない。
仕方なく、俺は沈静の役に立ちそうな術式を頭に浮かべヴィオラに展開する。


少し反応は鈍くなるが、少なくとも話は聞けそうだった。

「それで、何で手を出したんだ?」
これが俺には判らない。
俺とヴィオラの関係は、ほぼ奴隷と主人の関係に近い。
そんな中で、手を上げると言う事が、どのような意味を持つか判らない筈はないのである。

「あ、あの…そ、それは…」
ふむ、理由は何かありそうだが、言い難い事なのか。

仕方ない、少し薬を使うか。

俺は、グラスに少量のアルコール、そして水の秘薬を含ませたものを用意する。

「まあ、これでも飲んで、少し落ち着け」
「あ、ありがとうございます」
渡したグラスを素直に飲み干して行く。

全部飲んだ所で、俺は術式を展開した。

彼女が飲んだ水の秘薬が、ヴィオラの身体の中で作用し始める。
どこかの国で、「水の精霊の涙」と称される秘薬中の秘薬である。
その効き目は間違いない。

水の精霊の一部とされる秘薬を体内に含めさせ、先住魔法と言われる術式を展開する事で、大概の事が可能となる。
術式の種類によっては、相手を意のままに操る事すら可能な秘薬である。


「それで、どうして手を出したんだ?」
「ハイ、実は---」

少し焦点が怪しい目つきで、ヴィオラは素直に話し始めた。






なんてこったい!
ヴィオラの説明を聞いて、俺はあきれ果てるしかなかった。

彼女は、ここに来る前から、貴族の屋敷に行くイコール襲われると思っていたのだ。
それも、知り合った他の同様な境遇の子達から、あんなことやこんなことを散々吹き込まれていた。

自分の意思も関係なく、恥ずかしい限りの目に合わせられる。
そう思い、ここの館に連れて来られていた。

それが、最初から躓く。

ここで、その場で五人が襲われると思えば、何もされないまま、風呂場に連れて行かれる。
風呂場で、裸にして襲うのだと思えば、身体を洗われるだけで終わる。

料理を作らせれば、こんな所で襲う気なんだ。

食事を取らせれば、これが最後の晩餐、この後は私達で酒池肉林。

部屋に案内すれば、やっぱりここでそれぞれの部屋を襲って回るんだ。

私室に連れて行けば、イエイエ、こっちで襲うんだ。

最後に、パジャマに着替えさせれば、今度こそ襲い易い格好に着替えてから。




そうか、ヴィオラにすれば、いつ始まるのか、いつ襲われるのかで頭の中が一杯のまま、中途半端な状態を一日中続けていた訳だ。

その結果今度こそ、しかもみんなの見ている前でと覚悟したのが、あの歯磨き。
襲われるどころか、予期した事と全く違う事態。


もう、どうでも良い、殺されても良い。
こんな中途半端な状態のまま、引き摺り回されるなら、いっその事…


ハイ、見事に俺の頬に赤いもみじが咲きました。







まあ、何と下らない理由で、ぶち切れられたものだ。





暫く考えて、俺はヴィオラの身体から水の秘薬による精霊魔法を解除する。
勿論、今までの会話は全て彼女の記憶に残したままでだ。

少しフラフラしていたが、徐々にヴィオラの意識が戻り、真っ青になって俺を見つめる。
そりゃそうだ、自分が密かに考えていた事をみんな知られてしまったのだから。

「ヴィオラ、事情は理解したが、お前は大きな考え違いをしている」
俺は徐に、彼女に告げる。

「俺はお前達全員を襲うつもりである事は、間違っていない」
コクコクと彼女が頷く。
一応、話を聞こうと言う精神状態は維持しているようだ。

「だが、大きな勘違いがある、良く聞けよ!」
まあ、俺がやろうとしているのは、一種の洗脳に近い。
水の秘薬を使い、心を露にした所で、新しい考えを吹き込むのだ。

「俺は、お前達の意思を無視して、襲うつもりは無い」
ヴィオラの瞳が大きく開かれる。
うん?そんな顔すると、中々可愛いじゃないか。
まあ、元が良いからな…
おっと、違う違う。

「お前が俺と寝ても良いと思わない限り、俺はお前を襲わない」
慌てて余計な考えを振り払い、更に彼女の意識に叩き込む。


「お、襲わない?」
とにかく、彼女からトラウマ(?)を開放しなければ話にならない。
たくっ、誰だよ彼女に要らぬ事一杯吹き込んだのは…

「そうだ、俺はお前の意思を無視して襲うことは無い」
ボロボロとヴィオラの頬から涙が毀れる。

自信は無かったが、どうやら旨く行ったようだ。
流石は、チート能力の持ち主、流石は俺。

いや、と言っても全て水の精霊おかげなんだけどね。

さて、最後まで仕込まねば。


「だが、ヴィオラ、お前は俺に手を上げた」

「あっ…」
再び彼女の表情が引き攣る。

「そうだ、貴族に対してやってはいけない事をしたのだ」

「ああっ…」
更に、彼女は顔を歪める。

「従って、それ相応の罰を受けて貰う」
ストンと言う感じで、ヴィオラの表情から剣が取れる。
罰を受ける事で、彼女なりに納得出来るのであろう。



「俺はお前を襲ってやらない!これが罰だ!」
えっと言う表情がヴィオラに浮かぶ。

「そうだ、今俺が言ったように、俺はお前がその気になるまで襲わない」
コクコクと彼女が頷く。

「そして、更に罰としてお前がその気になっても、俺はお前を襲わない。それが罰だ!」
あっ、頭を抱えてしまった。

やはり、理解出来ないか。
まあ、そうだろうなあ、俺自身結構無茶な理屈だと思う。

うん?
整理が済んだか?


「あ、あの、ご主人さま…」
おお、大分思考が戻ってきたな。
俺はヴィオラの返事にこっそりと安堵した。

「あの…それって、私、襲われないのでしょうか?」
「ああ、そうだ!お前は、罰として俺には襲われない!」
ヴィオラの質問に、きっぱりと答える。

イヤイヤ、ぜってーおかしいですよね、ハイ。
とにかく、俺から襲われると言う正しくもあるが、変なトラウマを完璧に払拭して貰わねば。

実際に、エッチするのはそんなトラウマが完璧に無くなってからで良い。



惜しいけど…

だって、絶好の機会なんだよ。

だけどヴィオラに、『自分の意思に反して襲われた』と言うトラウマを残してしまう事になるんだよなあ…




「今日はもう遅い。部屋に帰って寝ろ」

俺の言葉にヴィオラは、よろよろと立ち上がる。

「そ、それでは失礼します」
頭を下げ、扉を閉めてヴィオラが部屋から出ると、俺は大きくため息を吐き出すのだった。










一体、何をしているのだろう。
奴隷として仕入れた彼女らに、優しくして…
あまつさえ、トラウマを抱えた少女のカウンセリングもどき。


ハーレム…



改めて、グラスにアルコールを注ぎ、一人呟いてみる。

虚しい…


女を抱きたくないのかと言えば、そんな事無いと大声で宣言出来る。

愛が欲しいのと、問われれば、今更そんなものと冷笑出来る。


それなのに、実際にやっている事は何なんだ。

五人もの美少女を侍らして、その一人にすら手をつける事も出来ていない。

馬鹿だ…

救いようのない馬鹿だ…


いかん、今度は俺がどこまでも落ち込みそうだ。
とっとと寝てしまおう…





そう思って立ち上がりベッドに向かおうとした時、扉をノックする音がした。

また厄介事か?


そう思いながらも、扉を開ける。

「ご主人さま、お入りして宜しいかしら」
そこには、艶然と微笑む絶世の美女…

「ああ、入れ」
俺は言葉少なく、グロリアを迎入れた。




夜はまだまだ長そうだった。



[11205] ハーレムを作ろう(彼はいい人です(おまけ2))
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/31 16:38
以下の投稿では、メイド'sは一切出てまいりません。

主人公が、領地を得るまでのお話の一つです。
異世界のお方が出てきますので、原作との乖離は更に大きいです。
それでも、興味を持って頂けたなら、嬉しい限りです。

宜しく

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ゲルマニア南部、マルコマーニ地方。

西に行けば、ガリアに通じるアルゲントラトゥムに通じているが、主要な街道から外れている為行き来する人は少ない。

俺は、領地候補の場所見る為、ここまでやって来ていた。


自分の領地として、運営するのにそれ程大きな所は面倒である。
それに、大きくなれば大きい程、必要となる資金も大きくなる。

まあ、アルの居城には、俺一人なら一生使っても使い切れない程の金貨が蓄えられていたが、それでも限度がある。

それに、俺は自分独りが楽しく暮せればそれで良い。

その目的の為、ヴィンドボナで色々金をばら撒いて確認した所、三箇所の男爵領が候補に上がった。

一つ目は首府に近すぎ、色々と目立つ点が多いので、俺みたいないい加減な貴族候補には不向きだった。

今回やって来たマルコマーニ地方の物件は、首府からもそこそこ距離があり、目立ち難い。
広さも、村が三つある程度、人口は600人~800人。
最も、この領民の数が多いのか少ないのか、俺にはさっぱりだったが。


いけるんじゃね。
そう思って、てくてく歩いて来たのだが、まさかこんな事になっているなんて思いも付かなかった。



今いるのは、その領地候補の村Aと村Bの間の草原です。

あちこちに煙が上がり、時折火の玉、多分ファイアーボールだろう、が飛び交い悲鳴が上がってます。
辺りには、数十名の傭兵らしき連中が傷ついて倒れている。

戦闘はまだ続いているようで、今小走りに走っている丘の向こうからは、まだやり合う音が響いていた。
丘の上、向こうの方に、時折あまり見たくないような、蛇の化け物のようなものが見え隠れするのは、気のせいだと思いたい。


俺は丘を駆け上り、裾野で腹ばいになる。
そのまま、丘の向こうを伺うように、頭を上げた。

うわあ…

騎士のような鎧兜の傭兵が、馬に乗って剣を振り回している。
剣の先端からは、何か電撃のようなものが発せられているので、あれはメイジであろう。

しかし、その相手がいけない。
ドラゴンである。

空中に浮かび、その長い尻尾を振り回しながら、傭兵の剣から発する電撃を小さな手を操って防いでいる。
時折、口から火の玉が飛び出すが、それらは他のメイジ達の繰り出す、術式で防がれている。



ありゃあ、あれはダメだな。

俺は瞬時に、傭兵達の負けを悟った。


今はほぼ互角の展開のように見えるが、明らかに魔力でドラゴンに負けてしまっている。
このまま、均衡状態が続けば、いずれ傭兵側のメイジ達の魔力切れが訪れ、勝負は一瞬で決するだろう。

さて、どうしたものか。

あの傭兵団は、別に俺の知り合いでもない。
まあ、ここにいれば巻き込まれるだけだから、とっと退散すべきか。

ドラゴンがどうしてこんな所にいるのかは疑問に思うが、少なくとも俺にとってはこの物件は手をだすべきものではないと判った所で十分だ。


しかしあのドラゴン、普通じゃないな。
通常の風竜や、火竜とは違う。
いやそれどころか、ハルケギニアに通常いる、あちらの世界で言う所の西洋の竜とは違う。
どちらかと言えば、東洋の龍のイメージに近い。
いやあれは、間違いなく東洋の龍だろう。


こっちの世界には、東洋の龍はいなかった筈だが。
うん?
確か、アルの記憶で東洋の龍がいたよなあ…





ああっ!




思い出した!

俺はフライの術式を組み、その場から慌てて飛び出した。

飛び交う電撃やファイヤーボールをカウンターの術式を展開して無効化しながら、浮かんでいる龍の鼻先に移動する。


龍が怪訝そうな顔で、攻撃を手控えた。
地上でも、傭兵団からの攻撃が止まる。




「なにやってんですか?八王子さん」



龍、いや八王子さんが怪訝そうな顔で俺を見る。
「我の名を知るお主は何者じゃ?」

ああ、今の俺じゃ八王子さん(龍)は、判らないか。
「あー、すんません、俺、元アルバートです」

「うん?主はアルか?」

八王子さん(龍)が身を乗り出すように、俺を見つめる。
すみません、怖いです。

「おお、そう言えば、アルの匂いじゃの、久しいの」
八王子さん(龍)の身体全体から嬉しそうな雰囲気が広がる。

「ああ、まあ事情はおいおい説明しますから、取り合えずヒト型とって貰えません?」
「おお、いいぞ」
そう言うやいなや、少し細面の兄ちゃんが、俺の目の前に浮かんでいた。
勿論龍は、一瞬の内に消え失せる。
身に着けているものが、どこぞの仙人さんが着るようなローブと言うのが違和感ありまくりなのだが。

「ここで会ったのも何かの縁です。仲裁くらいしますから、取り合えず下におりましょう」
「助かる。我ではその辺りは苦手での」
本当に八王子さん(ヒト型)は、直情型だから、多分そのせいでのトラブルであろう。
しかし、あっちの傭兵団の皆さんが納得するような話になるかどうか。

俺は不安を感じながら、八王子さん(ヒト型、直情型)を連れて傭兵団のリーダと思しき人物の側に着地するのだった。








取り合えず終わったか。

竜が人型に変わった。
それ自体今まで見た事も、聞いた事も無い話だが、変わったものは認めざるを得ない。

おかげで膠着状態、いや、壊滅寸前だった我が団の危機も取り合えず避けれた。

助けに入ったのは、一人のメイジ。
突然飛び出してきたと思えば、竜と我々のメイジが放つ攻撃を全て防ぎ、竜の鼻先に浮かぶ。

彼が何か叫ぶと、竜の攻撃が止んだ。
そのまま、二三話しかけていたようだが、突然竜が消え、そこにはローブを纏った青年が浮かんでいた。

今、二人がこちらに降りてくる。
多分事情は、あのメイジが聞かせてくれるだろう。

私は取り合えず、部下達に負傷者の介護に当たらせる事にした。







俺と八王子さん(元龍)は、馬から下りて回りに指示を出している男性の側にゆっくりと着地した。

「あー、すみません。アルバートと言います。でこちらが、ドラゴンの八王子欣也さんです」
とにかく、事情を知らねば先に進めない。
俺はリーダらしき男に話しかけた。


「アウフガング傭兵団、団長のファイトだ。申し訳ないが、先に負傷者の手当てをさせてくれ」
ファイトさんは、自己紹介を済ますと何も尋ねずにそう言った。

俺にはその態度は非常に好感を持てるものだった。
色々聞いてきたり、文句を言うでもなく、やらねばならない事を優先する。
中々いないんだよなあ…

「ああ、手伝いましょう。ほら、八王子さんも、貴方のせいですからね」
「しかしな、アル、我にも事情があるのだぞ」
「あー、判ります、判ります。どうせ女なんでしょ、貴方の事だから。後でゆっくり伺います。今は手当てを手伝って下さい」
俺は、八王子さんの説明を切って捨て、とりあえず負傷者の集まっている方に駆けて行く。

水の術式を展開し、広域での治癒魔法を発動する。
これはあくまでも回復を早める効果しかない。

その上で、次に水の秘薬を取り出し、術式を展開し、重傷者の治癒を始めた。

何か、ブツブツ言っている気がするが、横で八王子さんも手をかざして負傷者の治癒を行ってくれている。


八王子さんも龍だけあって、魔力は相当のものである。
負傷者は、見る見る回復し、少なくとも重症で呻いている人間は瞬く間にいなくなった。


「まあ、これで大丈夫でしょう。それじゃ、八王子さんファイトさんの所へ戻りましょう」
俺は八王子さんを促す。

「アルや、我はか弱き娘御を守ろうとしただけじゃぞ。この者達が問答無用に襲い掛かってくるものだから、どうしてもだな…」
落ち着いたと思ったら、早速八王子さんが、事態の説明を始める。

どことなく、自分を庇うような言い方が、アルの記憶にある八王子さんの印象と一致するようで面白かった。





「すまない、手間を掛けた」
漸く話す余裕が出来た。
先ずは、負傷者の治療を行なってくれた事に、礼をする。
さて、事情を確認させて貰おうか。
ファイトは二人を見ながらそう思った。

片方、アルバートと名乗った方は、普通のメイジのような外見をしている。
そう、外見だけは普通だ。
もう一人、ハチオウジキンヤと言うのは、どうみてもハルキゲニアの人物には見えない。
アルバートがさりげなく言ったように、本当にドラゴンなのかもしれないな。


「いや、多分原因は、八王子さんにあるのでしょうから、これ位当たり前です」
ここは、下手に出ておく。
とにかく、事情を理解しないと、俺にはどうしようもない。

「改めて、自己紹介させて頂きます。」
「アルバート・コウ、今度この地の男爵領を継ぐかもしれないので、領地の様子を見に来た所でした」
先ずは、俺自身の事情を説明し、相手の疑いを解かねば。

「そしたら、皆さんがドラゴンと戦っているのに遭遇した訳です」
成程と言う表情をファイトが浮べている。

「で、相手をされているドラゴン、ああこちらの八王子さんと言うのですが、私の古い友人だと気がついた為、思わず飛び出してしまいました」


俺の説明で少しは納得したようだった。
最も、ドラゴンが友人と言う事で、かなり驚いているのは仕方ない。

ファイトの事情を聞くと、彼らはこの男爵領の領主の依頼で、村娘を浚ったドラゴンを退治しに来たそうである。


「しかしながら、ハチオウジと言うのか、君にはとても適わなかったな」
ファイトさんが呆れたような顔で、八王子さんを見つめる。

「いや、主も中々のものだったぞ。殺してしまわないかとひやひやさせられたわ」
ああ、八王子さん、相手の傷口に塩を塗るような事を。

「八王子さん、また村娘を浚ったりしたんですか」
俺は八王子さんを詰問する。
彼はそんな事するような龍ではないのは承知しているが、ファイトは知らないからちゃんと弁明させなければ。

「な、何を言うか、アル!我はそんな事はせん!」
「じゃあ、村娘の話はどうなんですか?」
「あれは娘御が、領主に浚われるのを嫌がって、我に助けを求めて来たのじゃ」

あー、どうやら理由が飲み込めてきた。
傾いている男爵家が、金を得る為に村娘を売ろうとしたと言うのが元だろう。

それを八王子さんが止めた。
領主は、最早どうしようもない。
そりゃ、実際に水面下で男爵領の売却の斡旋が始まっている訳だから。
ドラゴンが出るとなると、領地の買い手もいなくなる。
焦った領主は、傭兵団に退治を依頼したと。

まあ、大体こんなとこだろう。


俺が、推測を話すと、ため息を吐きながらもファイトも納得したように頷いていた。

「そうすると、一銭にもならんな…」
ボソッと漏らした言葉に、憐憫を覚えるが、俺にはどうしようもない。

一応、八王子さんに浚われたと言われている娘さんを連れてきて貰い、内容を確認した。
結果、ファイトは落胆したように帰って行った。

要員の被害は、俺と八王子さんも手伝って治療したのでそれ程ではないだろうが、装備や行程に必要となった物資等の補給は大変だろう。

まあ関係ないが、機会があれば仕事の依頼でもしてやろう。




「で、八王子さん、どうするんですか」
一応傭兵団が引き上げるのを確認してから、改めて八王子さんに俺は話を聞いた。


彼、八王子欣也は、こことは違う世界に居を構える龍である。
それが何でこの世界にいるのかと言うと、原因はアルにあった。

二百年近く前、始祖ブリミルの魔法の体系を研究していたアルは、一つの事に気がついた。

それは、召還魔法サモン・サーヴァントについてだった。
召還魔法はゲートを設け、遠方にいる幻想種や動物を呼び寄せ使い魔とするコモンマジックである。

召喚そのものは、メイジであれば誰でも出来る簡単なものだと言う認識だが、行なっている事そのものは、普通の四大系統の魔法レベルでは説明できないのだ。

使い魔となるべき生物は、ゲートに入る事で、召喚を行なうメイジの前に表れる。
これは、ゲートが転送の魔法を発動している事につながる。

そう、召喚魔法と言うコモンレベルの魔法で、一瞬とは言え二点間を結ぶゲートを設ける。
しかも、水の魔法でも難しい主に対する親近感もしくは、服従心を召喚された生物に与えることすらやってのけている。

サモン・サーヴァントの術式には、何かある。
それがアルの結論だった。

召喚魔法のルーンや術式の解析、更には召喚された使い魔に刻み込まれるルーン、そして始祖ブリミルが呼び出したと言われる四人の虚無の使い魔達のルーン。

これらの解析や様々な類推、試行錯誤の末、アルはサモン・サーヴァントの術式より、新たな二つの術式の構築に成功する。

一つは、ゲート構築の術式。
もう一つは、召喚魔法の解析により派生的に作り上げられたものであるが、水の秘薬と呼ばれる水の精霊を使う魔法だった。

後者に関しては、どこかでまた説明する機会もあろう。


問題となるのは、ゲート構築の術式である。

これにより、アルは他世界への移動が可能となったのである。



そして、ランダムに現れる様々な世界へのゲートを開いている時に、飛び込んできたのが八王子欣也さんである。

龍が神龍と崇められ、東洋の島国にて人間と共存している世界よりこちらの世界に飛び込んできた八王子さん。
知的好奇心旺盛な研究者だった八王子さんは、たちまちアルと意気投合し、二人でゲートの研究を続けた。


元々、様々な魔術の行使が可能な龍である八王子さんと、この世界でもトップクラスの魔導師であるアルとの交流は様々な成果を生み出した。

ゲートの維持魔力の低減、更に特定世界同士の座標の確定、双方向に行き来可能なゲートの展開等、これら全てが俺を召喚する時に使われた術式である。

ちなみに、蛇足ではあるが、ゲートは同一世界内でも展開が可能である。
即ち、瞬間移動に近い方法をアルは、作り出していたのである。



数十年に渡り、お互いの研究にある程度区切りがついた時点で、八王子さんはこの世界の探索の旅に出た。

それ以来、偶にアルの居城に遊びに来たりする位だったが、ここ数十年は尋ねて来る事もなかった。
アルにすれば、あちらの世界にでも帰っているのか程度の認識だったようだ。






「おお、我はこの娘御が気に入っての。暫くはここに滞在するつもりじゃ」

説明が長くなったが、八王子さんは元気にそう答えてくる。

俺は、やはりかと、ため息を吐いた。
龍は気に入った個人が出来ると、その側で一生過す事があるらしい。

龍の人生(?)は長い。
人間とは比較にならないその生の間で、めまぐるしく移り変わる人間の一生と言うのは中々面白い見ものだと言うのだ。

アルはその考えが理解出来なかったようだが、今の俺ならば概念的には少しは判る気がする。
要は、テレビやビデオのドラマを最初から最後まで見るような感覚なのではないかと。


「了解しました。それじゃ、俺は北の方でうろうろしてますので、また」
「おお、アルも達者でな」

お互い連絡を取ろうと思えば、直ぐにでも取れる。
八王子さんを傷つけられるような存在が、この世界にいるとも思えない。

俺はヴィンドボナに戻る為に、ゲートを展開する。
こちらに来る時は、てくてく歩いて来たが、帰りはもう面倒だった。

「それじゃ、八王子さん失礼します」
俺は、ゲートを潜った。



少なくとも、この領地の購入は諦めよう。
いくらなんでも、龍が住まう領地なんて、おとなしく暮したい俺には向いてない。


後は北の領地だけか…


頼むから、へんな魔獣なんか住んでるなよ。



[11205] ハーレムを作ろう(研修を始めよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/08/31 16:55
耳元で何か音が鳴っている。

アンジェリカはパチリと目を覚まし、一体この音はなあに~と考える。

昨晩、このフカフカのベッドに入り、まるで王様になったような気分で、心地よく睡眠についたのよね~。
と言うことは、今は朝だわ。

場所は、バルクフォン男爵の領館、私のいるは、その使用人の為に用意された部屋…
うん、しっかり覚えているわ~。

だけど、耳元で聞こえるこの音は何だろう?
アンジェリカは不思議に思い、漸く音のする方を見つめた。

昨晩ご主人さまが『でんわ』と言ったものが不思議な音を立てて鳴っている。
あれ~、これ鳴くんだ~

ベッドから起き上がると、尚も音を出しているそのでんわと言う魔道具に触れて見る。
音が止まる。
確か、こうだっけ~
ご主人さまのやっていた事を思い出し、顔に電話をつけた。

「もしもし、そっちは誰の部屋だ?」
声が聞こえて来て、ちょっとビックリ。

だけど、明らかにそれはご主人さまの声。

「あ~、おはようございます。アンジェリカです~」
「おお、アンジェリカか、おはよう」
うん、使い方は間違ってなかったみたい!
ちゃんとご主人さまに声が届いてる。

「他の部屋電話しても、誰も出てくれなくてな。今日の予定を伝えるから、全員で一時間程したら、厨房に来てくれ」
「はい~、判りました~」

アンジェリカは、言われた通り電話を台に戻す。
暫く見つめていたが、何も起こらないから、きっと間違ってないんだろう。

そうだ!
皆に伝えなきゃ~

ガウンを羽織り、アンジェリカはバタバタと部屋を後にした。

隣のアマンダの部屋をノックする。
バタバタと音がして、暫くすると、扉が少しだけ開いた。

「おはよ~」
アンジェリカはこちらを伺っているのが、アマンダだと気づき、元気に朝の挨拶をする。

「ああっ!アンジェリカさん!良かったぁ!」
扉が大きく開き、アマンダが抱きつかんばかりで飛び出してきた。

「うん、どうしたの~」
「ああ、アンジェリカさん、な、何か部屋にいるんですぅ!」
「もう、私、怖くて、怖くて!」
パニックになりながら、アマンダが次々と話そうとする。

「おちついて~、特に何も見えないわよ~」
アンジェリカはアマンダの後ろを見渡すが、特にヘンな所は見られない。

「ええっ、で、でも、何かブーッてうなってました」

アンジェリカは一人納得する。
どうやら、アマンダは電話の事を忘れていたようだ。
突然、ベッドの横で鳴り出したそれに、パニックに陥っていたようだった。

アマンダに説明すると、アーそう言えばと言う感じで、アマンダも納得したようだが、まだ少し不安げである。

他の三人にも、ご主人さまからの用件を伝えなきゃいけいなと説明すると、アマンダも一緒に他の部屋を回る事となった。


隣は、ヴィオラの部屋だっけ~
そう思いながらも、アンジェリカがノックする。

「はーい!」
元気な声で扉が開かれ、ヴィオラが顔を出す。
何か少し興奮しているようで、やけに元気である。

「おはよう、ヴィオラ、アンジェリカよ」
「おはようございます、ヴィオラさん、アマンダです」
アマンダは昨日の夜の事が、気になるので、少し探るようにヴィオラを見詰める。

「あっ、二人ともおはよう!貴方達、大丈夫だった?」
何があったんだろう、ヴィオラがやけに心配そうに二人を見詰めて来る。

「えっ、何か心配なの~」
アンジェリカは、アマンダの例があるので、でんわの事かしらと思いながらも問い返した。

「ヘンなモノがでて来なかった?私、やっつけちゃったけど」
うーん、とても嫌な予感がするわ~

一寸困った事になってそうね~
そう思いながら、アンジェリカは、アマンダと一緒に、部屋の中に入る。

「あちゃー」
アマンダが得意そうに指差す先には、残骸と化した電話が鎮座していた。


青くなるヴィオラを宥め、ご主人さまからの用件を告げると、二人は次の部屋に向かった。


次は、ゼルマさんの部屋だ~

ゼルマさんの部屋の扉を叩くが、返事がない。

「いないのかな~」
「いないみたいですね」
アマンダと二人でどうしたものかと顔を見合わせてる。

「おはよう、二人して私に何か用か?」
廊下の向こうから、ゼルマさんが歩み寄って来た。

「あー、ゼルマさんおはようございます」
「おはようございます~」
アマンダとアンジェリカはペコリと頭を下げ、ご主人さまの伝言を伝える。

「そうか、それでは早く用意しないとな」
ゼルマさんは気合を入れるように、そう言いながら部屋に入ろうとする。

「あっ、ゼルマさん、どこ行ってたんですか?」
アマンダが慌てて聞いた。

「うん、少し朝の鍛錬だ。建物の外回りを軽く走ってきた」
「へえ~、凄いですね~」
アンジェリカは、初めて聞く鍛錬と言う言葉に驚く。

「うん、そんな事ないぞ。ご主人さまに仕える以上、身体の鍛錬は大切だ」
そんなものなのかなあと思うが、別に意義を唱える程の事ではない。

「あっ、外はどんなですか?」
アマンダがそう聞く。
私も、それは興味がある。
アンジェリカは、こんな屋敷なんだから、外にも何か不思議なものがあってもおかしくないと思うのだった。

「あー、外か?普通に庭が広がってるぞ。ただ、何をするのか判らないが、競技場のような施設があったかな」
ゼルマさんが思い出したように言ってきた。

「えー、それってどんなものですか~」
アンジェリカの瞳がキラキラ輝く。
彼女は本当に、珍しいもの、不思議なものに興味深々だった。

一応説明して貰ったけど、良く判らなかった。
仕方なく、後で見に行く事にして、二人はゼルマの部屋を後にする。


一番奥のグロリアさんの部屋をノックするが、ここも返事がない。
暫く、二人で待ってみるが、帰ってくる様子も見られなかった。

時間もあるので、グロリアさんの事は心配だが、二人はそれぞれの部屋に戻り準備を始める事にした。











その頃、グロリアは再びご主人さまの部屋の前まで来ていた。

ゆっくりと呼吸を整える。
昨日渡された、『メイド服』と言う服装に落ち度は無い。
ハイソックスの下にサンダル、下着も上下ともちゃんと着け、スカートの下にはパニエも着込んだ。
濃紺のワンピースの上から、白いエプロン。
髪留めのカチューシャもしっかりと調整し、どこにも漏れは無い。

グロリアは再度呼吸を整えると、扉をノックした。


扉が開くと、驚いたような顔をしたご主人さまが顔を出した。

「うんグロリア、何か忘れ物か?」
そんな事言われたら、顔が赤らんでしまう。

なるべく平静に、平静に…
「おはようございます。ご主人さま。お部屋の洗濯物を取りに伺いました」
落ち着いて聞こえるように、ゆっくりと告げ、軽く頭を下げる。

「あ、ああ…洗濯物?」
ご主人さまが怪訝そうな表情を浮べている。
そこは、気にしないで、部屋に入れて下さい。
グロリアはそう叫びたいけど、ぐっと我慢した。

「ハイ、洗濯物です。失礼して宜しいでしょうか」

ヘタに馴れ馴れしい所を見せてはいけない。
あくまでも主人と使用人の立場は崩してはいけない。
それが、許されるのはご主人さまがそう望んだ時だけ。
これが、旨く行く秘訣。

グロリアは母からお手つきとなった場合の対応を、嫌と言う程教え込まれていた。


それでも、ここは何としてもシーツを回収しなければ。
万が一にも、赤いシミでも残っていて、他の召使に見られたら、恥ずかしすぎる。

「あー、洗濯物か。それじゃ、お願いするかな」
ご主人さまったら、何か気がついたように、そこで笑わないで欲しい。

少し恨みがましい表情で、ご主人さまから目を反らし、部屋の中に入る。

ベッドルームに入り、布団を跳ね除け、シーツを回収する。
見たところ、目立つ痕跡は残っていなかったので、ホッとした。

手早く代わりのシーツを整え、そこで困ってしまった。
ゴミ箱が無いのである。

確か、ご主人さまが後始末をして下さった時、何か柔らかい紙のようなものを使っていた。
それも始末しておきたいのだけど、あれは何処に捨てられてしまうのだろう。


部屋を片付ける振りして探すが、それらしきものは見当たらない。


そんなグロリアの様子を、ニヤニヤ笑みを見ながら見詰めているご主人様が疎ましい。



「あ、あの、ご、ゴミは…」
そう言いながら、顔が赤くなるのは隠せなかった。

「ああ、ゴミね。大丈夫、あれに使ったテッシュは、水に流せる。トイレに捨てたから跡も残らない」
ご主人様にそう言われ、ホッと一安心。

これで、今手に持つシーツを洗濯機とか言う魔道具に放り込んで、洗ってしまえば証拠は残らない。


「それじゃ、失礼致します」
シーツを持ち、部屋を出ようとする。

「あー、一寸待った」
ビクッと身体か震える。
今ここで、また?

べ、別に嫌と言う訳じゃないけど、他の娘に知られてしまうのは、恥ずかしい。
直ぐに、ばれてしまうのは判っているけど、それでも昨日の今日は、嫌だった。

ご主人さまが近づいてくるのを、身を硬くして待ち受ける。

「連絡事項と確認事項が一つずつ」
正面に回り込んで、指を二つ上げてご主人さまが話しかけてきた。

「一つは、後一時間弱で、全員を厨房に呼んでいる。グロリアも遅れないように」
一寸安心。
これで、多分襲われる事は無いだろう。
あっ、でも、殿方は早いときは早いとも聞いたけど…


「それと、確認事項」
グロリアの注意が再び主に向かう。

「大丈夫かい?」
ニコッと笑みを浮かべ心配そうに、様子を伺ってくる。
グロリアは真っ赤になって、俯くしか出来なかった。

「一応、水の秘薬を使ったので、痛みはそれ程酷くない筈だ。それでも、初めてである事は間違いない」
そう言って、ご主人さまの、か、顔が近寄って来ます。

「あまり、無理はしないように」
ああっ、だめ、ダメです。
顔が近すぎ…

そのまま抱き締められ、軽く唇を啄ばまれるのを、グロリアはカチンコチンに硬直したまま受けるのだった。













グロリアさんが変です。
ご主人さまに言われ、厨房にアマンダ達が集まった時には、先に来ていました。
それは良いのですが、ご主人さまがいらっしゃって、朝食の指図をされるのをどこかぼおっとした感じで見詰めていました。

朝食の準備は、皆と一緒にてきぱき働かれていたのですが、時折手を止めるとぼんやりされます。

物思いに沈むと言うのではなく、何か思い出しているようで、見ていて少し不安です。



ヴィオラさんの性格が変わりました。
と言っても、まだ会って二日目なのですが、少なくとも昨日のヴィオラさんと、今日のヴィオラさんは、全く別人のようです。
とっても元気で、明るく、一生懸命食事の用意をしています。
昨日、ご主人さまに手を上げると言う、あってはならない事を起こしてしまったのに、一体どうしたのでしょう。

心配になって、こっそり聞いてみたのですが、ご主人様から罰を受けたのと言うだけ。
それも、とっても嬉しそうに言われるので、一寸引いてしまいます。



ゼルマさん、殺気を飛ばさないで下さい。
ヴィオラさんが、異様な明るさに、怪訝そうな顔をしていた時は良かったのです。

「やったか、いや、やられたか…」
と物騒な事をつぶやいてから、ヴィオラさんを見る目が怖いです。

しかも、グロリアさんの様子がおかしい事に気がついてからは、更に怖いです。

「彼女もか、一度に二人か、ぬぬ、侮れぬ主だ…」
って、どういう事でしょうか。
とにかく、グロリアさんにも殺気を飛ばすのも、止めて欲しいです。



アンジェリカさん、ホッとしました。
でも
「あ~これなにかな~」
って言って、そこここの魔道具を勝手に弄らないで下さい。
その度に、爆発しないか、ヒヤヒヤさせられるのは嫌です。
だけど、アンジェリカさんだけは、昨日と同じで、少し安心です。



ご主人さまも、変わりました。
何だか、落ち着いた雰囲気で、アマンダ達に指示を与えてくれます。
昨日のような、どこか浮かれた雰囲気が無くなり、アマンダ的には安心です。
これだけが、唯一良かったと思える点です。




朝食は、簡単にと言うことで、パンとサラダにオレンジジュースでした。
パンにはたっぷりとバターを塗って、三種類ものジャムを用意して、自由に塗って食べられたのでした。

お昼は、ご主人さまが作って下さるそうです。
ビックリです。
使用人の為に、館の主、多分貴族様がご飯を作るなんて…

一体どんなものを作って下さるのでしょうか。
とても、とても楽しみです。


ご主人さま曰く、今日は午前中は研修だそうです。
ここにある様々な魔道具は、ハルケギニアではまだ使われていないものばかりだそうで、その使い方を覚えねばいけません。

その上でアマンダ達が、これから来る子達に使い方を教えるのだそうです。

アマンダに出来るでしょうか。


うううん、出来なければなりません。

おいしいご飯の為には、アマンダも頑張るのです!




あっ、そうそう、ヴィオラさんの電話は、ご主人さまが直して下さいました。
魔法って本当に便利ですね。(by アマンダ)



[11205] ハーレムを作ろう(お昼ご飯を作ろう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/01 23:28
研修である。


これから、目の前で興味津々な顔で俺を見つめる美少女達に、あちらの世界の科学技術の粋を尽くした各種機器の使い方を教えねばならない。

昨日の経験に照らし合わせれば、魔道具と言うだけでかなりの部分まで納得してくれるのはありがたい。
簡単な使い方と、その用途を教えれば、すぐに使いこなしてくれる。

各部屋に設けられたインターフォンにしても、まあ一台は破壊されたが、少なくともアンジェリカは使えた。

洗濯機にしても、グロリアが朝から使っていた。


グロリアの場合は使わざるを得なかったのだが。

うん、可愛いよグロリア。
涙目になりながら、
『すみません、せ、洗濯機がどうしても、言う事を聞いてくれません』
と言われた日にゃ。
思わず、もう一戦、あっ、イヤイヤ、そうじゃない、そうじゃない。


あー、グロリア、思わず顔を見つめたからって、首を傾けてニコっと頬笑むんじゃない。
思わず、もう一戦、あっ、違う、違う。

俺は頭を振り、煩悩を払う。

んな事考えてたら、また昨日と同じだ。

彼女達を愛でるのは、いつでも出来る。


今は研修、研修。

そう、いくらヘタレって言ってても、一発出来れば吹っ切れる。

昨晩、ヴィオラの事が心配でやって来たグロリアちゃん。
お話が済んでから美味しく頂きました。

で、現金なモノで悩むの止め。

そんなに焦ってハーレム作る必要もなくなった。


おいおい落として行きゃあ良い。

そう思うと気が楽なモノで、とにかく、今は目の前にある器機の使い方を教えねば。






目の前にでーんと鎮座しているのは、大型掃除機である。
俺は、これを五台用意した。

館の左右のウィング、一階用と二階用それぞれに、予備のつもりで計五台だったのだが、丁度良い。

何だか、それぞれの専用になりそうだが、まあ掃除機だし。

「いいか、これがこの館を掃除するのに使う、・・・」





ご主人さまが、掃除機と言う魔道具の説明を始めた。
アンジェリカは、ワクワクしながら、その説明に耳を澄ます。

これを使えば、ゴミを吸い取ってくれるそうだ。
何か生きてるみたい~。

長い尻尾の端で、魔力供給口、コンセントと言うそうです、そこから力を得てゴミを吸い取るのだそうだ。

そうすると、何かあっても、あの尻尾の外に出れば安全ね~

あれ?
ここには、色んな魔道具があるけど、み~んなあのコンセントから、力を得てるのかな?
うん、そうに違いない。
ドライヤーやポット、お部屋にあった小さな冷蔵庫も、尻尾がコンセントに刺さってた。

これは、チョット面白いわね。
じゃあ、館のどこかで、魔力、ご主人さまがでんりょくって言ってた、その力を供給してるんだ~

アンジェリカは想像してみる。
風石のような電力石が、光を放っているのかな~

それとも、小人さんが燃え盛る炎の中に、風石のようなモノを放り込んでるのかな~




あれ?
そしたら、どうやって、一杯あるコンセントまで魔力を送るのかな?

うーむ、不思議だね~



「・・・ェリカ、アンジェリカ」
「あっ、は、ハイ」
いけない、いけない、つい考えに夢中になっていました~

「これから、使って貰うが大丈夫なのか?」
あれ?
ご主人さまだけじゃ無く、みんなアンジェリカを見てる。
何かおかしな事、したかしら。

きょとんとして、俺を見返すアンジェリカに、大丈夫か疑いたくなる。
何度呼んでも返事をしないのだ。

アンジェリカは、きょろきょろ辺りを見回し答えた。
「大丈夫ですよ~、いざとなったらコンセント抜いちゃいますから~」
これだから、この娘はあなどれない。
フワフワしてて、掴み所がない癖に、的確に本筋を掴んでくる。

俺の買いかぶりかも知れないが、今後が楽しみなのは間違い無さそうだ。

「よし、それじゃ、掃除に掛かってくれ。アンジェリカ、アマンダ、ヴィオラが一階、ゼルマ、グロリアが二階だ」
恐る恐ると言う感じで、それぞれが自分にあてがわれた掃除機に手を伸ばす。

ああ、アンジェリカだけは、嬉々としてホースや本体をいじくっている。
それが逆に不安の要因なんだがと思いながらも、助かっているのも事実だった。

その証拠に、他の娘達も彼女に触発されるように、掃除機を触り始めた。
取り敢えず、一階はアンジェリカがいれば何とかなるだろう。
まあ、壊されても怪我さえしなければ問題ない。



「よし、グロリアとゼルマ掃除機を、引っ張ってついて来い」
とにかく、二人にエレベーターの使い方を教えねば。


荷物を二階に運ぶために、左右のウィングそれぞれにエレベーターが備えてある。
俺は、彼女達がエレベーターにどう反応するのか、少し楽しみだった。

「いいか、掃除機のような重い魔道具や、大量の洗濯物等を二階に運び上げたり、下ろしたりするための匠の技がこの館には用意されている」
俺は二人に説明しながらエレベーターを指差す。

「それがエレベーターだ」
二人は、指し示した閉じたエレベーターの扉と俺の顔を交互に見つめ、怪訝そうな顔をしてる。


主は、どうしたのか。
何もない壁を指差して、えれべーたーと叫んでいる。
大丈夫か?
ゼルマは暗雲が立ち込めるようで不安を覚えた。
もともと、尋常で無い魔道具を多量に使いこなす、異様なメイジだ。
少し位、たがが外れている傾向は…

「おおっ!」

ゼルマが失礼な事を考えている間に、ご主人さまが何かしたのか、目の前の壁が左右に開いて行く。

「こ、これは…」
「まあ!」

隠し扉か!
古来宮殿や城館には、緊急時の脱出経路が備えられている。
この館にもそんな隠し扉があるのか!」

「やはり、この主はあなどれない!」



「あー、ゼルマ、ゼルマ、残念だがそんなもんじゃない」
ハッと気がつき、ゼルマはグロリアの顔を見た。
また、やってしまったのか!
コクリと頷かれ、ゼルマは頭を抱え込んでしまった。



「とにかく、これを使って上に上がるぞ。ほら、掃除機を乗せて」
ご主人さまに言われ、こわごわながら、掃除機を引っ張り寄せて、狭い部屋の中に入りました。

掃除機二台と三人ならまだ少し余裕があるのねと、グロリアは思った。
あっ、ゼルマさんはまだどんより落ち込んでいます。

「ほら、動かすぞ」
目の前で、扉が閉まると少し怖くなり、ご主人さまにさりげなく寄り添います。

「きゃっ!」
ガクンと言う感じで動き出したので、思わずご主人さまにすがり付いてしまいました。

おおっ、あの豊かな胸が腕にこすり付けられると、おおっ!


「きゃーあー」
一呼吸おいて、反対側からゼルマもしがみ付いてくる。
ゼルマ、まず如何にも、棒読みっぽいその言葉遣いから直さないと。

あっ、ゼルマ、腕にしがみ付くのは良いのだが、あっ、う腕が、お、折れる!


エレベータがたった二階までだったので、腕は折れなかった。
良かった三階立てでなくて。








なんのかんのあったが、どうやら掃除は出来そうだった。

まあ、グロリアがコードを一杯まで伸ばして、どうしても前に行けないのをひたすら不思議がったり。

ゼルマが、案外怖がりであり、コンセントを中々抜けない事実が明らかになったり。

下に降りてくると、アンジェリカが掃除もせずに、掃除機をバラバラにしていたり。
と言っても、ホースと本体、中のゴミ袋を表に出した程度だが。

ヴィオラが、もう伸びないコードを力ずくで引っ張り、差込口を曲げてしまったり。

アマンダが長いコードに足を引っ掛け、こけたりした以外は、大きな問題も無かった。



細かい事は、気にしない。
とにかく、彼女達で掃除が可能な事は納得できたので、昼にする事にした。











昼ご飯である。


今日は俺が作ると宣言してある。
今までの食事に関しても、結局俺が指示して彼女達に作らせているのだから、同じなのだが今回は特別である。

何故なら、これはこちらの世界にはない食い物だから。

六人もいると、みんなでワイワイ騒ぎながら食するのにもってこいだから。

初めての者でも、見よう見まねで作れるから。

材料もこちらの世界でも比較的簡単に手に入るものだから。
と言っても、結局使うのはあちらから持って来たものだけどな。

キャベツ、卵、豚肉、小麦粉、水、材料はこれだけ。

後、紅生姜と葱、揚げ玉や山芋もあれば尚可。


そう!、俺は何を隠そう、生粋の大阪人でおま。

粉がない食事を長く取ると、禁断症状がでるのですよ。

レッツメイクOKONOMIYAKI!





冷蔵庫からキャベツを取り出し、半分に切って細かく刻む事をヴィオラに指示する。
ハイと元気良く答えて小走りに走って行く姿は中々可愛い。

うん、元気になって良かった。
しかし、襲えないのはやっぱり惜しいかな…

「ご主人さま、私達は何を?」
うーむ、絶妙のタイミングで声を掛けて来ますね、グロリアさん。

ニコッと笑顔を浮かべてそう言われると、ワザとだとは思いたくないものだな。


「あー、大き目のボールを出してくれ」
ゼルマが調理台の下からボールを取り出し、目顔で聞いて来る。

今朝からゼルマの機嫌が悪い。
俺に対しては、昨日よりも積極的にアプローチしてくるが、グロリアやヴィオラを見る目つきが物騒だ。
まあ、どういう意味かは判るが、今はとにかく相手にしない事だ。

「ああ、それで良い。刻んだキャベツをそこに入れて軽く水洗いしてくれ」
ゼルマがボールを持って、ヴィオラの側に移る。

その間に、冷蔵庫から生姜と葱、それと袋入りの揚げ玉を取り出し、グロリアに渡す。
「こっちは生姜、でこれが葱だが、キャベツと同じように軽く水洗い後、細かく切ってゼルマの持っているボールに入れる」
頷いたグロリアにそれらを渡す。

「アマンダ、冷蔵庫から卵を、そうだな、五つほど出して、ボールに割りいれてくれ」
「ハイ!」
いそいそと、冷蔵庫を覗き込み、卵を取り出すアマンダ。

「アンジェリカはこっちだ」
最後に残ったアンジェリカを連れ、俺は奥の倉庫を目指す。

「うわー、色んなものがありますね」
倉庫の扉を開けて、中に入るとアンジェリカが目をキラキラさせる。

そりゃ、そうだ。
倉庫には、常温で保存する食材や各種調理器具が置いてあるのだ。
大人数でパーティーを開く事も出来るほど、様々な器具がある。
一応、ここの改装が済んだ時に、手当たり次第に買い込んで運び込ませたので、まだ梱包されたままのものもある程だ。

「無闇に触るなよ」
アンジェリカが手を伸ばし掛けているのに、声を掛けるとピクリと手を止め、何事もないように手を振ってくる。

「基本的には安全な魔道具ばかりだが、使い方によっては十分怪我する事もあるからな」

「ハーイ、判りました~」
本人は自覚は無いのだろうが、語尾を延ばすような話し方にはペースを崩される。

「色々ありますね~ ご主人さまは一体どこからいらしたんですか~」
「ウーン、遠い所からとしか言えないな」
突然、鋭い突っ込みが入るから、油断が出来ない。

「ハルキゲニアでは本当に見た事も聞いた事もないものばかりですね~」
アンジェリカは、話し方に騙されてしまうが、結構好奇心が強いのは間違いない。
そして、その好奇心から正解を導き出してしまうのだろう。
まあ、そんな大層なものじゃないかもしれないが。

「知りたいかい?」
俺は彼女が正解を導き出したのか、それとも単なる疑問に思っているだけなのか、カマを掛けてみる。

「別に~、私には関係ありません~」
ふむ、普通は知りたがるものだろうに。
アンジェリカの答えに、俺は疑問の表情を浮かべる。

「私は~、こんな面白いものが次々に見られる事だけで満足なんです~」
まあ、他人を気にしないとも言えるな、彼女は。

「それに~」
アンジェリカの足が止まり、真っ直ぐに俺を見つめて来る。

「ご主人さまは、悪い人じゃないですから」
しっかりと俺の顔を見つめ、そう言うと、抱き付きそうな勢いで、側まで近づいて来た。

そのまま爪先立ちで、俺の頬に口付ける。
俺は、突然の事にあっけに取られた。

「これからも、色々面白いモノを見せて下さいね」
悪びれる風も無く、小首を傾けニコッと笑みを浮べながらそう言うアンジェリカ。


フラグか、フラグなのか…
俺の頭の中で、訳の判らない言葉が渦巻いていた。




気を取り直して、倉庫からホットプレートを担ぎ出す。
アンジェリカは、奥に仕舞ってあった小麦粉の袋を抱えている。

ヴィオラ達四人は、刻んだキャベツ、生姜、葱を大きなボールに入れ待ち受けていた。

量は目分量なので、適当だがこんなもんだろう。
早速にアマンダに卵を割り入れさせる。

その間に小麦粉をカップで取り、ポールに注ぎ込む。
卵1に対して、半カップ程度だと思うので、取り合えずカップ三杯分放り込む。
更に、同量の水と、だしの元、塩をを少々入れる。

揚げ玉の袋を開けている間に、卵が割りいれられ、ネタの準備は完了。

「誰か、かき混ぜてくれ」
揚げ玉を入れ込みながら声を掛ける。

「ハイッ!私がやります!」
ヴィオラが元気そうに声を上げ、早速かき混ぜ始めた。

その間に、他の準備だ。
冷蔵庫からケチャップとソースそしてマヨネーズを取り出し、誰か、と振り返るとグロリアが待ち構えていた。

「これをそれぞれ一対一の割合で、容器に混ぜ入れてくれ。出来たらスプーンを付けて、あっちのテーブルに運んで」

ヴィオラの下に行き、十分に混ざりあった事を確認する。
少し、水が多かったので、小麦粉をもう一カップ掘り込み、も少しかき混ぜさせる。

「アンジェリカ、プレートを持ってあっちへ。残りは皿とカップの用意を」
飲み物は何にしようか?

やはりここは緑茶かな。

「あーゼルマ、そこのポットに水を入れあっちに運んでくれ」
しまった、先にやっておくんだった。

まあ、食後のお茶で良いか。
お茶の道具を取り出しながら、周りを見渡す。
みんな、言われた事をこなしている最中で、誰もいない。
仕方なく、自分で持って行く事にする。


「ああ、ヴィオラ、それで十分だ。お玉を持って向こうへ」
「えっ、ご主人さま、お玉って?」
ヴィオラが困惑したように聞いてくる。
そうか、呼び方が違うのかな。

取り合えず、調理台の引き出しを捜し、お玉を取り出し、ヴィオラに渡す。

「あっ、これの事ですか。向こうに持って行けば良いんですね」
ニコッと笑って、ヴィオラが嬉々として、ネタの入った大きなボールを担いで行く。

ホンと、昨日のあれはなんだったんだろう。

首を左右に振りながら、余計な考えを振り払い、自分も食堂に向かう。


食堂では、アンジェリカが箱から取り出したホットプレートと格闘していた。
出したは良いが、使い方が判らないらしい。

それでもコンセントを見つけて、そこに差し込んでいるのは凄い。

残念ながら、反対側を本体に差し込むまでは想像がつかなかったようだ。

「アンジェリカ、それはここに差し込むんだ」
「あっ、そうなるのですか~」
目がクルクル忙しく回るようで、アンジェリカは面白い。

ホットプレートを設置してスイッチを入れる。
暖まるまで暫く掛かるが、肝心の肉と油が無い。

「いいか、この部分が熱くなるから、絶対触るなよ!特にアンジェリカ!」
「はーい、触りませんよ~」
少し心配だが、仕方ない。

俺は再び厨房に忘れ物を取りに戻る。
今度はアマンダがついて来た。

「ご主人さま、ご主人さま」
「うん、何だ、アマンダ?」
足早に歩く俺にペースを合わせる為、小走りになりながらアマンダが聞いて来た。

貴族に向かって、こんな風に話し掛けるのは礼儀に反しているとか言うんだろう。
だけど、俺にはこうやって話しかけてくれる事が嬉しい。

「何が出来るんですか?」
「ああ、お好み焼きと言う、東方の方の料理だ」

「へえっ!それって、ご主人さまのお国の料理ですか?」
「あっ、ああ、そんなもんだ」
「きっとおいしいんでしょうね、私今からワクワクしてます」
嬉しそうに、瞳をキラキラさせて訴えかけてくる様子は、まるでご飯のお預けをくらっている子犬のように見えた。


冷蔵庫から薄切りの豚肉を取り、アマンダにも手伝わせ適当な大きさに切り分ける。
油も忘れずに持つ。
戻るとプレートは程よくあったまっていた。

油を軽くプレートに垂らすと、煙が上がる。
同時に、アマンダ以下全員の口から、歓声が漏れた。

そこに、一緒に持ってきた菜ばしで、豚肉を広げて焼いて行く。
肉がジュウジュウ焼ける匂いに、みんな釘付けになっている。
まあ、食事を食べるテーブルの上で料理をするなんて、多分こっちの世界ではまだないだろう。

用意した皿に、焼けた豚肉を移して行く。

ヴィオラからボールを受け取り、お玉に掬いプレートに二つの丸を作る。
ボールをヴィオラの返すと、今度は焼けた豚肉を乗せて行く。

最後にボールからネタの上澄みをボールで掬い、軽く振り掛け蓋のようにすれば、出来上がり。
後はひっくり返して焼き上げるだけ。

おおっと、フライ返しだ。
俺は慌てて台所に取って返す。
今度は、ゼルマがついて来た。

「ご主人さま、何か不都合でも?」
「いや、大丈夫だよ、フライ返しを忘れただけだ」
「それでしたら、言って下されば取って来ましたのに」
うん、中々主人思いの良い発言だな。
まあゼルマの場合、元が元だけに、貴族がこんなにホイホイ動く事自体気に入らないのかも知れない。

「ああ、今度からは頼むよ」
「ハイ、喜んで」
ウンウンと頷いているゼルマ。
ただ、ガッツポーズみたいに、手を握り締めるのは止めて欲しいなあ。

フライ返しを二つ取って戻ってみると、良い匂いが食堂の中に立ち込めていた。

「グロリア、アマンダ、窓を開けてくれ」
ヴィオラは、親の敵のように、焼けているお好み焼きから目を離さない。
アンジェリカは焼き上げているホットプレートに興味深々である。

フライ返しを下に差し入れ十分焼けているかどうかを確認する。
問題無さそうなので、二つののフライ返しで、ひっくり返して行く。

「「「「おおっ!」」」」」
全員がくるっと回したお好み焼きにびっくりしている。

一寸気持ち良い。

裏返して暫くすると、出来上がり。
アマンダに作って貰ったソースを塗り、少し焦がす。

細かく切って、それぞれの皿に盛り付ける。

「それじゃ、頂きます」
「頂きまーす」
元気な唱和が帰ってくる。

「熱いから気をつけてな」
全員が恐る恐ると言う感じで、食べ始める。

「おいしい…」
「これは、中々…」
「おいしい!」
「へ~こんな味なんだ。美味しいね~」
「美味しいです!ご主人さま凄いです!」
中々好評なようで嬉しい。

俺は、二回目を焼く為に、ボールを取ろうとした。

「ご主人さま、今度は私にさせてください」
ヴィオラがすかさず声を掛けて来た。

「うん、いいぞ、大丈夫か?」
「ハイ、やり方はご主人さまのをしっかり見てましたから大丈夫です」
本当に、どうしたんだヴィオラ、やる気満々じゃないか。

俺に襲われない事がそんなに嬉しいなんて、少し凹む。

「じゃ、気を付けてやってみろ」

その後は、幾つものお好み焼きを全員が焼いてみて終わった。

今度は、忘れずに鰹節を掛けねば。
青海苔は完全に忘れてた。
買ってこなきゃ。


あまったものは、冷ましてからラップに包んで冷蔵庫にしまう。

まだ彼女達には、あちらの世界最強の調理器具を教えていない。

下手に教えると、誰かがきっと生卵を爆発させたり、金属製の皿を放り込みそうで怖いのだ。
電子レンジ、厨房に置いてあるが、悩み所の魔道具である。

ゼルマが入れてくれた食後の暖かいお茶を飲みながら、何時教えるべきかと悩むのだった。





--------------------------つながらないネタです------------------------------------------------------------
以下は、思いつきで書いたのですが、広がらないので本編には含まれないエピソードになってしまいました。
でも、やっぱり大切なモノは乗せて置きたい。
お目汚しですが、きっとこんな展開もあった筈です。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------



俺は自分で言うのも何だか、結構ヘタレだ。

こんな美少女五人も侍らして、まだ全員を頂いていない。
まあ色々あり、焦らないでゆっくり行こうと決めたので、そんなには焦っていない。

だが、それでも今の目の前に広がる風景は、思わずヘタレを返上して、この場で押し倒したくなる。

でも、出来ないけどね。

とにかく、俺の目の前には、水着姿の美少女五人。
全員ワンピースタイプ。

別にハイレグとかじゃない。
大人し目の、濃紺の水着。

だけど、だけど、若い頃からの憧れ。
セーラ服、ブルマと並ぶ三大聖典の一つ。

そう!
私は声を大にして言いたい。
スクール水着である!
コレに勝る敵はいるのか、いやいない!

しかも、しかもだ。
約一名を除いて高校生と言うのは無理があるプロポーション。
約二名は、どう考えても、胸がきつすぎるんじゃないかと言う破壊力!

その胸元には、俺の手書きだが、「ぐろりあ」とか、「ぜるま」と書かれた白い布がついている。

俺の人生に悔いなし!


とまあ、再びハイテンションになりそうな位、素晴らしい眺めが広がっています。


ちなみに、俺は半ズボンタイプの水着姿です。
パンツタイプはあまりにも危険でした。


そう、研修も一通り終わりに近づき、今回はお風呂掃除がその課題です。

うん、風呂は裸で入るものだと言うのは事実です。
そりゃ、毎日ちゃんと入ってますよ、ハイ。

イイエ、マイニチハーレムヤッテンジャナイなんて、なんのことでせう。

すみません、また浮かれてます。

とにかく、風呂のお湯は循環式の最新の設備だが、それでも一週間に一度程度の掃除は必要となる。
掃除の時間はどの程度掛かるか判らない上に、お湯に浸かる訳でもない。
従って、濡れても良い動きやすい格好で実施する。

偶々、偶々手元にあった水着のリストはスクール水着だけだった。
ごめん、また嘘吐いてました。

水着なら、やっぱりスクール水着を着せてみたいのです。

風呂のお湯の抜き方を指示して、その間にちゃっちゃと洗い場等の掃除です。

薬剤は、結構きついものなので、身体に掛からないように、注意して使う必要がある。
とにかく、水アカがこびり付いた所は、念入りに擦り、最後はシャワーで流して終わり。

五人全員でやれば、それ程時間は掛からずに終わりました。

アマンダに期待したんだけど、石鹸で滑ってコケル等のイベントも無く、何だが拍子抜けで終わってしまいました。



まあ、今後一週間に一度、スクール水着姿の美少女が見られるから我慢しなきゃ。






[11205] ハーレムを作ろう(アマンダの一日を語ろう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/04 02:21
何処からか、音が聞こえて来ます。
ああ、昨日も何だかこんな音、聞いた覚えがある…

アマンダはぼおっとしたまま、そんな事を思い出していた。

確かヘンな音が鳴り出して…
訳も判らず、怖くなって…
ベッドから飛び起き、部屋の隅で震えていたのだっけ。

ああ、アンジェリカさんが電話だって教えてくれたんだ。

そうそう、それで今日は目覚ましに使えるって、アンジェリカさんが時間を合わせてくれたんだ…



うん?
目覚まし?
うん、確かに私、今起きようとしている…
アマンダは段々頭がはっきりしてくるようだった。

と言う事は、この何だかリンリン鳴っているのは、アンジェリカさんが合わしてくれた電話の音ね。

「電話の音!」
アマンダは、ガバッとベッドから飛び起きた。

そうだ、今日は皆で朝食を作るんだ!
起きなきゃ、あっ、その前に電話、電話!

まだ響いている電話を慌てて掴む。
確か、こうだっけ。

受話器を握り、耳元にくっ付けると何か話しかけてくる。
「五時三十分です、起きて下さい…五時三十分です、起きて下さい…」
何度も何度も繰り返してアマンダに起きなさいと言ってくる。

「どうもありがとうございます」
受話器を真っ直ぐに持って、ペコリと頭を下げ起こしてくれた御礼を言う。

それでも、受話器の向こうから同じ声が聞こえてくる。


こちらの声が聞こえないのかしら。

「どうもありがとうございます!!」
今度は大きな声で叫んでみた。
だけど、やっぱり繰り返しているだけ。
聞こえないんだ…

仕方なく、受話器を戻す。
これで判るのかなあ…

電話の向こうの人が、アマンダが聞かなくなっても叫び続けているようで、少し申し訳なかった。






そうだ、こうしちゃいられない!
ご主人さまが起きてくる前にちゃんと朝ごはんの用意をしようと、昨晩グロリアさんのお茶会で話したのでした。
少なくもと、召使として雇われている以上、それ位ちゃんと出来ないと申し訳ないです。

アマンダは慌てて、洗面所に駆け込んだ。
顔を洗い、着ていたネグリジェを脱ぎ捨て洗濯籠に放り込む。
クシュン!

流石に裸になると、少し寒く感じる。
特に、昨晩お風呂場で無駄毛の手入れを皆でやったので、余計に寒い気がする。

ご主人さまが、脇の下や恥ずかしい所に生えている毛について、ちゃんと手入れする事が健康に繋がると力説されたのです。
本当は、昨日も一緒にお風呂に入って、じきじきに手入れの仕方について教えたかったみたいですが、それは諦めて下さった。

だから、五人で交互に手入れをしたのだけど、ちょっと剃り過ぎてしまったみたい。
何だかスースーするようで、変です。

あの安全かみそりとか言うのがいけないんだわ。
だって、軽く当てるだけで綺麗に毛が剃れてしまうんです。
面白くなって、みんなツルツルになるまで剃りっこしてしまいました。

そんな事を思い出しながら、アマンダは手早く新しい下着を身に着ける。
下着は毎日代えるようにと、予備も含め幾つも支給して貰いました。

このパンティと言うのですか、これには本当に驚かされます。
足から通した時の身体にピッタリとフィットするのに、違和感が物凄く少ない。

材質も、とても高価そうな生地で出来ていて、これを私達奉公人に支給するなんて、本当に信じられません。

ブラジャーと言うのは、まだ着け慣れないです。
それに、他の人と比べると、一寸悲しくなるけど、ううん、アマンダはまだまだ将来があるんです。

下穿きのパニエを履き、その上から濃紺のワンピース。
これも替えが用意されていましたが、もう一日位は今ので大丈夫だと思う。

代わりに、上に付けるエプロンを取替え、新しいのを使います。
ハイソックスを履き、カチューシャを調整して着替えはおしまいです。


バタバタと部屋を飛び出し厨房に入ると、まだグロリアさんしかいませんでした。
他の人より早く来れた事に一安心して、朝食の準備に取り掛かりました。






一通り朝食の準備が出来たので、ご主人さまを起こしに行きます。
皆で順番を決めて、最初はアマンダが行くことになったのです。


階段を上がり、二階のご主人さまの私室に向かいます。
扉をノックしましたが、返事がありません。

「失礼します…」
仕方なく、そーっと扉を開けて部屋の中に入ります。

寝室は、部屋の奥にあります。
中を覗き込むと、中央のベッドにご主人さまが眠っているようでした。

ベッドの横まで来て、ご主人さまを覗き込みます。
ダメダメです。

ぐっすりと寝ています。
緩んだ口元が半開きです。
幻滅です。

少しはカッコいいかなと思ったアマンダが馬鹿でした。

「ご主人さま、ご主人さま」
呼びかけてみましたが、全く起きようとしません。
ますます、幻滅です。

『うん、アマンダか?おはよう』
位言って、カッコ良く起きて欲しいものです。

「ご主人さま、朝です。起きて下さい」
仕方なく、ゆさゆさと揺すりながら声を掛けます。

「うーん、後五分…」
ダメダメダメです。

「ご主人さま!ご主人さま!朝ですよー!」
更に激しく揺さぶります。

「うーん、ほえっ!アマンダ?」
まだ寝ぼけているようですが、漸く起きて下さいました。

「ハイ、そうです。朝ですよ、起きて下さい」
「あー、判った…ありがとう」
「食事の用意が出来ていますので、下でお待ちしております」
「えっ!ああ、判った。直ぐ行く」

何とか、無事に起こせたので、ホッとしながら部屋を後にしました。
しかし、ご主人さまも口を開けてだらしなく寝ているのかと思うと、笑いがこみ上げてくるのを抑えられませんでした。




朝食を済まし、午前中は昨日の続きのお掃除と洗濯です。
アマンダは、ゼルマさんと一緒に洗濯に回りました。

皆の部屋と、ご主人さまの部屋から洗濯籠とシーツを回収し、洗濯機で洗います。
水洗いが殆どないのは、とっても助かります。
洗濯機も三台もあるので、それぞれに分けて洗えてとっても楽です。
洗濯物には洗う時に、ネットに入れたりしなければいけないものがあるのは、面倒ですが面白いです。

ゼルマさんと、下着を一緒に洗うかどうか相談し、申し訳ないですが、ご主人さまの下着だけは別に洗わせて貰ったのは秘密です。


昼ご飯は、スパゲッティをご主人さまの指導で作りました。
不思議な袋に入った、みーとそーすと言うものを暖めて、茹で上がった麺に載せるだけで出来上がる不思議な料理です。
ゼルマさんや、アンジェリカさんが良く似たものを食べた事あると言ってましたが、アマンダは初めてです。

それに、こんな袋に入っているのは、見たこと無いのは皆も一緒でした。

デモデモ、とてもおいしかったので、アマンダ的には物凄く満足です。
本当に、毎日どんな食べ物が出てくるか、楽しみで仕方ありません。




窓の拭き掃除や外回り等まだまだやる事は一杯あるのですが、お掃除は午前中だけで終わらせ、午後はご主人さまの研修です。

二階の左手の建物、丁度私達の部屋の上に、客間と書庫がありました。
ここは、鍵が掛かっているので中には入ってませんが、今日は書庫の奥の広い部屋でご主人さまから色々教わりました。


一番ビックリしたのがご主人さまが、東方の日本と言う国から来られた方だと教えて貰った事です。
だから、ゼルマさんやグロリアさんすら知らないような魔道具や食材が一杯あるのにも納得です。

ご主人さまは、偉大な魔法使いに召喚されこちらに来られたとの事ですが、どう言う意味なのでしょう。
日本と言う国は、ロバ・アル・カリイエより遥かに遠く、普通なら行き来が出来る所ではないそうです。
ですが、ご主人さまは魔法を使い、行き来しているとの事です。

良く判りません。

アマンダでも判るのは、その結果おいしいものが食べられると言う点でしょう。
これは重要な事だと思います。



ご主人さまのお話が終わると、その後は文字のお勉強をしました。
日本の数字と、大事な文字を習いました。

冷蔵庫に入っている様々な食材が何かは、それにつけてある小さな文字で判別するそうです。
とても大切な文字です。
しっかり覚えなくてはいけません。



頭から煙が出そうになりましたが、何とか研修を終えて夕食の準備です。
ご主人さまの指導で、食材を切ったり煮込んだりして出来たものは、予想通り見た事も聞いた事もない食べ物でした。

炊飯器と言う魔道具を使い、炊き上げた米と言う穀物。
それに、特製のソースを掛けて出来上がり。
カレーと言う料理だそうです。

少し、辛かったけどおいしく頂きました。

それと!
今日は、とっても素敵なデザートを頂きました!

アイスクリームと言うのですが、冷たくて、甘くて、舌に載せると蕩けてしまいそうなおいしいおいしいデザートです!

お皿に載ったアイスクリームが無くなった時は、思わず涙目になってしまいました。
ご主人さまが、また出してくださるとの言葉に、朝の印象を取り消す事にします。



それから、皆で仲良くお風呂に入りグロリアさんのお茶会で色々盛り上がりました。
ゼルマさんと、グロリアさんが真剣にご主人さまのお国の事を話してました。
どうして、そんなに気になるのかアマンダには判りません。

するべき仕事があって、おいしい物が食べられて、良く寝られれば幸せだと思うアマンダは子供なんでしょうか。


疑問に思って、アンジェリカさんに聞いてみました。

「アマンダはそれで良いんじゃないの~」
と笑いながら言われたので、少し拗ねてしまいます。

「ごめんね~、悪い意味じゃないのよ。真剣に悩む人もいれば、今の状況を受け入れて最善を目指す人もいるのよね~」
「だから~、グロリアやゼルマは悩む人、貴方やヴィオラは最善を目指す人、それで良いのよ~」
そう言いながらぎゅっと抱きしめられると、何だかそんな気もします。


これらかも、色々判らない事、大変な事もあると思いますが少なくともアマンダは毎日頑張って行きます。




「それでは、お休みなさい」(by アマンダ)







--------------------------------------(おまけ)-------------------------------------------------------------------


まだ、メイド's処か、館すらない頃。
こちらの世界、サウジのホテルの一室。

「それでは、もし作るとなると、後この位の費用が掛かります」
「そ、そんなに掛かるのか。これだともう一軒リフォームできるじゃないか」
「ええ、何しろ現地は比較的寒い地域ですので、温水となるとやはりコストが跳ね上がります」
「そうか、それじゃ今回は諦めて貰うか」
「それが宜しいかと」

そんな訳で、俺は庭に温水プールを作るのを諦めた。
ちくせう、本当はメイド達に水着を着せてプールサイドに侍らすのが夢だったのに…


-----かいせつ-----
プールネタを考えたのですが、そうなると温水プールにしなければ。
排水はどうなるの、魔法で特定エリアの温度を上げる?
インドアにすると、費用が凄いことになりそう。
泣く泣く諦めました。



[11205] ハーレムを作ろう(お留守番をしよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/05 00:55
電話が鳴っている。
アンジェリカに教わり、目覚ましを合わせたのだ。

もっとも、教わったと言え、ヴィオラ自身にはチンプンカンプンで、ほとんどアンちゃんが合わしたようなものだが。
それでも、鳴っている電話にだんだんはっきりして来た頭で、ヴィオラはワタワタと受話器を取り耳にあてがった。

「五時三十分です」
不思議な声がそう告げて来る。
「ありがとうございます」
お礼を言って受話器を置いた。


不思議だと思う。
ヴィオラも、声の相手が人間だとは思ってはいない。
それだと、ご主人さまが他の人はいないと言ったのが嘘になる。

第一、人ならば一日中時間を気にしながら待ち受けるなんて出来る訳ない。
きっと、妖精さんが水時計か何かで時間を計ってるんだわ。
ヴィオラは、小さな妖精がえっちらおっちら水を運び込み、時間になると何か紐のようなモノを引いてあの声を叫んでいる光景を想像して、フフっと笑みを浮かべる。



うーんと、大きな伸びをして、ヴィオラは起き上がった。
フカフカのベット、最初は慣れなかったけど、今はとっても気持ち良い。
ヴィオラは、えいっと掛け声を掛けて、ベッドから抜け出す。

朝の小用を済まし、洗面台に向う。
水道の蛇口をひねり、冷たい水にして顔を洗う。

軽く化粧水を付け、髪にブラッシング。
アマンダだと用意されていたゴム留めで、髪を束ねるけど、ショートカットのヴィオラは簡単におしまい。

こんなゴム留めまで用意してあるのが本当にこの館は凄い。
アマンダの髪で色々な結び方を試して見たけど、これがあるととても便利。
ヴィオラも髪が伸びたら使ってみたいと思う。

「おっ!ポニーテールか!」
ご主人さまがゴム留めで髪を一纏めにしていたゼルマさんを見て嬉しそうにそう言ってたけど、どう言う意味なんだろう?
こんど聞いてみよう。

ご主人さまは不思議な人だ。
最初の出会いの時に、お前達を襲うと宣言された。

それでいてあの夜、不安を吐き出させされると、罰として襲わないと言われた。
どうして襲われないのが罰になるのか、今でも判らない。
だけど、間違いなく罰を受けている間は襲われない。
ヴィオラは、それで良かった。
理由はどうあれ、少なくとも『何時襲われるのか』と、ビクビクしながら一日を過ごす必要は無くなったのだから。


だから、ヴィオラは不安が払拭された分、一生懸命働く。
そんなヴィオラをニコニコ見ているご主人さま。
本当に不思議な人だ。





朝食の準備が出来ると、今日はヴィオラがご主人さまを起こす番だ。

「大丈夫?」
グロリアさんが心配そうに声を掛けてくれる。

「うん、大丈夫だよ」
不安は無いわけでは無いが、ご主人さまは約束を破るような人ではない…と、思う。

二階のご主人さまの部屋をノックして扉を開いた。

突然ご主人さまが飛び出して来ることも無く、ホッと一安心。
やっぱり、かなり緊張しているんだ…

ヴィオラは気合を入れて、寝室に向かった。

ご主人さまが、中央のベッドで寝ている。


「ご主人さま…」
寝室の入り口から声を掛けるが、何の反応も無い。

「ご主人さま!」
少し大きな声で呼びかけるが、やはり反応が無い。

「ご主人さまあ!」
うん、今度はピクリと身体が動いた。

「ご主人さまあ!、ご主人さまあ!ご主人さまあ!」
ピク、ピク、ピクっと声に反応して身体が動く。

「ご主人さま、ご主人さま、ごっしゅじんさまあ~」
段々面白くなってきて、テンポを取りながら尚もご主人さまに呼びかける。

「ご主人さま、ご主人さま、ごしゅ…」
いつの間にか、不思議なものを見るような目つきで、ご主人さまがヴィオラを見ていた。


き、気まずい…

「コホン、ご主人さま、朝食の準備が整いました」
頭を下げ、そのまま回れ右してご主人さまの部屋から逃げ出した。

やりすぎた…







朝食の席で、ご主人さまが今日は出かけられるとの事で、五人で留守番する事となった。

夕食までに戻るので、昼も併せて皆で何か作ってみろと言われた。
ここに来るまで食事なんか作った事ないし、ここで食べさせて貰えるようなおいしい物に対抗出切るかかなり不安。

でも、ゼルマさんが、良しっと気合を入れていたのできっと何とかなるだろう。



全員で、お見送りしようと玄関でまっていると、ご主人さまが驚いた顔をされていた。

「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
五人で並んで、お辞儀をしながらご挨拶。

「あ、ああ、行ってくる」
ご主人さまの照れたような顔を見て、ちょっと可愛いと思ったのはヴィオラの秘密。


でも、皆の前でご主人さまが何か唱えると、光に包まれて消えてしまわれる。
やはり、ご主人さまはメイジなんだと改めて感心させられた瞬間だった。


「あんな魔法、見た事も聞いた事もない!」
ゼルマさんが呆気に取られてそう呟いていた。

「先住魔法なのでしょうか」
グロリアさんも驚いている。

「うーん、違うんじゃないかなあ~、多分日本の魔法じゃないかな~」
元貴族のゼルマさんや、貴族の召使の娘のグロリアさんなら、魔法について詳しいのは良く判ります。
だけどアンちゃん、どうして貴方はそんな事判るの?

それに、ゼルマさんとグロリアさんが頷いているから、きっと正しいのに違いない。

「ねえ、アン、どうしてそう思うの」
ヴィオラは思わず聞いてみた。

「うーん、なんとなく?」
どうして、疑問形なんだろう。
本当に、アンジェリカは不思議な娘だとヴィオラは思うのだった。






とりあえず、今日一日どう動くかみんなで相談する事にした。


そう言えばここのお屋敷、賊に対する守りはどうなっているのだろう。
ご主人さまと私達しかいないって聞いているので、少し不安。


「ねえねえ、ここの守りってどうなっているのかなあ」
思わず、皆の意見も聞いてみる。

「えー、守りって誰か攻めて来るんですか?」
アマンダがビックリした様に聞いてきた。
違うよ、盗賊とか物取りへの対応だよ。

「確かに、警備に関しては不安があるな。今は私達五人しかいないし」
ゼルマさんが、的確に答えてくれる。
やっぱり不安なんだ。

「私達で守るのは…無理ね」
グロリアさんも、正しいと思う。
村に住んでいる時は山賊の襲撃位しか考えていなかった。
突然襲われてしまえば、それで終わりだったけど、その前に連絡がある場合が多い。

冷たいようだけど、最初に襲われる村にならなければ、何とかなるものだった。


だけど、森に囲まれるように立っているこの屋敷は違う。
近くに村も無ければ、助けに来てくれる騎士もいない。
あっ、でも流石にこんな首府の近くには山賊は出ないか。
ヴィオラは一人で納得する。

「うーん、大丈夫だと思うけど~」
アンちゃん、どうして貴方はそんなに安請け合いするのですか?


「アンジェリカ、どうしてそう思うの?」
ウンウン、グロリアさんの質問が正しいと思うよ。

「えー、だってあのご主人さまだよ~、絶対色々準備していると思うけどね~」
あっ、そうか。

ヴィオラもそれは納得してしまう。
私達の下着まで用意するようなご主人さまだ。
館が襲われたらどうするかまでちゃんと手配しているだろう。

「それに~、もしそんな事があるなら、ご主人さま、私達をここに置いたまま出かける人じゃ無いと思うのよね~」
そうだ。
アンジェリカの言う通りだとヴィオラも思う。

まだ数日の付き合いだけど。
まだ、側によるのは少し怖いけど。
決して、悪い人とは思えない。

だから、ヴィオラ達を危険なまま置いて行く事はないだろう。

ふと気が付くと、皆もウンウン頷いていた。





今日も掃除は簡単に済ませ、厨房で食事の用意に全力を尽くす事を決め、手分けして掃除に取り掛かる。
屋敷が広いので、掃除機掛けだけでも結構時間が掛かってしまうのだ。

だけど、ゼルマさんに言わせるとこれでも小さな方だと言う事に、やはり貴族って凄いと思ってしまう。

グロリアさんは、拭き掃除や窓ガラスの清掃、そして外回りまで考えると、人数が足りないわねとぼやいていた。

もう少し人数が必要なんだろうが、ヴィオラにすれば今の五人位が丁度良い。
知らない人が増えるのは、それはそれで大変そうだった。

うん、私がもっと頑張れば良いんだよね。
ヴィオラは一層掃除に力を入れるのだった。

「ヴィオラさーん、掃除機をそんなに引っ張っちゃダメですよ~」
アンジェリカがそう言っているのも、ヴィオラには全く聞こえていなかった。





「やはり、メインとなる肉料理、それにスープは必要であろう」
貴族の料理に一番詳しい、ゼルマさんが言っている。

「そうね、ここには生野菜が豊富だから、サラダも作れるわね」
グロリアさんも、それに追加を加えてくる。

「あ、あの、私、わかりませんけど、デザートも何かあった方が嬉しいです!」
アマンダ、貴方の為に作るんじゃないのよ。
でも、昨日のアイスクリームみたいなデザートならヴィオラも食べたい。
あれはおいしかった…

「わ、私、料理は判りませんけど、力仕事なら自信がありますから、どんどん言ってくださいね」
ヴィオラに出来る事は、みんなの手伝い。
だけど、頑張る!

「お昼、どうしよう~」
アンちゃん、貴方も考えなさい!


「そうね、野菜とお肉を煮込んでスープの出汁を作りましょ。お昼は煮込みに使った野菜とお肉を食べれば良いわ」
へー、そうやって料理って作れるんだ。
何だか、簡単そう。

グロリアさんの提案に早速料理に取り掛かった。




アンちゃんに案内されて、奥の倉庫に入ってみた。
色々なものがある中、保存のきく野菜類が置いてある場所で、みんなで頭を抱えた。

「ねえ、これって野菜だよね」
アマンダが皆に聞く。

「ええ、多分そうね。でも何かしら」
茶色い丸い何かの種だろうか。
良く判らない大きな石ころのようなものが一杯入っている。

「ええっとね~、しやかいも?ううん、違うわ~じやがいもかな」
アンちゃんが箱に書いてある日本語、昨日習ったばかりの言葉を読んでいる。
凄い、凄い、ヴィオラにはまだ覚え切れてない。

「やが小さいから、『じや』じゃなくて、『じゃ』だろう」
うわっ、ゼルマさんも凄い。

「じゃ~、じゃがいもね、これは」
グロリアさんの確認の声に、アンちゃんがジャガイモを手にして、厨房に駆けて行く。
皆もその後について行った。


端に置いてある魔道具、確か『分析機』と言うものだ、その前にアンちゃんが走って行く。

「えーっと、確かこれを押せば良いんだよね~」
アンちゃんは、魔道具の扱いが上手い。
ご主人さまに言われて、直ぐに使えるようになっている。

ブーンと言う音がして、魔道具が動き出す。

ちょっと怖くて、ヴィオラは後ろに下がってる。
あっ、アマンダも下がって来た。

赤い光が緑に変わると、アンちゃんが大きな声で魔道具に話し出した。

「じゃがいも」
何も起こらない。

「じゃがいも」
あっ、今度は魔道具が話し始めた。

「じゃがいも、南米原産の地下の茎の部分を食用にするもので、加熱調理して食べられます。
 芽や緑色をした皮は食べられませんので、食べるときに取り除いてください。
 調理方法としては、茹でてそのまま塩やバターで食べるのが最も簡単です。
 煮込み料理に入れてもおいしいですが、火の通りに時間が掛かるので注意して下さい。
 茹でたジャガイモを潰し、冷やしてからハム、キュウリ等の野菜とマヨネーズで和えたポテトサラダは子供達に人気の一品です」
魔道具が、それだけ話すと勝手に止まった。

「ふーん、茹でて食べるんだ~」
アンちゃんがフムフムと頷いている。
本当に、ご主人さまのお国の魔道具は凄いです。

「じゃあ、昼はこれを食べてみるか」
「賛成~」
ゼルマさんの言葉に、アマンダが態々手を上げて賛成した。
ヴィオラも賛成なので、そっと手を上げました。







それから、皆でワイワイ言いながら、料理を作りました。

アンちゃんが、冷蔵庫や倉庫の色々な食材の名前を確認しては、分析機に話しかけてばかりしてました。
アマンダが味見ばかりしてたような気もします。
スープに、何を入れるかゼルマさんとグロリアさんが譲らずにハラハラさせられました。

カチンコチンに凍ったお肉を始めて見ました。
溶かすのが大変で、少し肉料理の味が落ちたとゼルマさんが嘆いていました。


結構大変でしたけど、とても楽しかったです。


だけど、一番嬉しかったのは、帰ってきたご主人さまが褒めてくださり、おいしいと言って食べて下さった事です。



あっ、デザートは結局間に合わなかったのですが、ご主人さまが買って来て下さいました『ケーキ』を頂きました。
一つ一つ綺麗に盛り付けられており、世の中にはこんなお菓子もあるんだと関心させられてしまいました。

アマンダなんか、もう嬉涙で大変でした。

このまま行くと、毎日何かデザートを出さなきゃいけなくなるとご主人さまが頭を抱えていたのが、物凄く不思議でした。







どうして、ご主人さまはそこまで優しいのでしょう。

それが、寝る前に思った事でした。

「お休みなさい」(by ヴィオラ)














-------------------------------------(おまけと言うか何と言うか15禁というか)-------------------------------------

それは、俺が『皆でお風呂計画』を断念した夜だった。
ヴィオラの引き攣ったような顔を見て、一緒にお風呂に入るのを諦めたのだ。

それを悔やみながら、一人寝酒を飲んでいた時に起こった信じられない出来事。

部屋の扉を叩く音がする。

まさか昨日の今日で再びグロリアが来るとは思えない。


一体何があったのかと怪訝に思いながらも、扉を開けた。

ゼルマだった。


これは、ひょっとして期待して良いのかなと内心の笑みが顔に出ないようにしながら、彼女を招き入れる。


「どうした?」
ゼルマは俺特製パジャマの上からちゃんとナイトガウンを羽織っている。
ちと見晴らしの悪いのが難点だな等と不埒な事を考えながら、ソファに腰を下ろす。

「あ、あの、ご主人さま…」
もじもじしながら、俺の前に立つゼルマ。

「うん?何かあったのか?」
言い難い事があるのか、ゼルマは躊躇いを見せていた。

「き、今日、無駄毛の処理を御命じになりました」
「あ、ああ、そうだな。まあ健康の為には大事な事だ」
本当は、自分の為だけどな。

「そ、それで…」
俺は、目顔で続きを促す。
こ、これは、も、もしかして…

ゼルマは暫く躊躇っていたが、意を決した様に顔を上げた。

「こ、これで宜しいでしょうか!」
やにわに、ナイトガウンの前をはだけ、パジャマを捲り上げたのだ。

ハイ、見事な無駄毛処理でした。
なーんもありません。
ツルツルです。

やにわに立ち上がった俺は、そのままゼルマを抱えるようにして寝室に飛び込んだ。

ゼルマの口から「アン♪」と言う言葉が漏れた時、言葉の後ろに音符が見えたのは気のせいに違いない。


-------------かいせつ--------------------------------

すみません、どうしても書きたかったのです。
無駄毛処理と連動でゼルマさんの番なのです。
でも、どうしても繋がらない…
力不足を実感しております。

ちなみに、もう一つの力不足。
アマンダとヴィオラの書き分けが上手く出来ない…
平にご容赦を。

分析機ですが、今の技術ですとありそうだなと思って無理矢理入れました。
日本語とハルキゲニア語?の翻訳はどうするのかが問題なのですが、これもご容赦下さい。
「魔法って本当に便利ですね」



[11205] ハーレムを作ろう(お仕事をしよう(おまけその3))
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/21 00:51
レオポルドは老いた身体に鞭打って、朝から領主の館までやって来た。


新しい領主が、彼の村オリーヴァを訪れたのは、ウルの月の中頃だった。
村の村長であるレオポルドは、見かけない人物の来訪に、恐れを隠しながら応対した。

領主が変わったと告げられ、やはりと思ったのは紛れも無い事実。
今度の領主様は、少しはマシなのだろうか。
これ以上は悪くはなりようがないと、自嘲気味に思いながらも、用件を聞いた。


驚いた事に、村までやって来た人物が自分で新しい領主だと告げるではないか。

てっきり、新しい領主に仕える奉公人か何かだと思っていた。


まだ若い領主様である。
勿論メイジであろうが、特に杖も持たず連れもいない。


税は酷いのかと聞いて来たが、流石に言葉を濁した。
新しい領主に代わったからと言って、迂闊に前の領主の悪口は言えない。
それでも雰囲気で察したのか、笑いながら、当分税は取らないと信じられない事を言い出したのだ。


「その代わり、苦役を申し付ける」
何故か、重々しい雰囲気でそう言うのだが、その後に照れたように笑うのが奇妙だった。

まあ、税の代わりに苦役ならばと、密かに安堵する。

今年畑に巻く種ですら足りないのに、この上で穀物を納めろと言われれば、本当に離村しか残された道はない。

「苦役は週三日、ユル、エオー、マンの曜日、一応三ヶ月。何人出せる?」
週三日、たったそれだけ、いやいや、最初は寛大な態度を示しているだけであろう。

「ハア、今は村人も少なく、精々20人程です」
「少ないな、30人は出せ、それと隣のクジニツァにも話を通しておけ。あっちは20人だ」
レオポルドは頭を下げる。

これで税が免除になるなら、安いものだ。
少なくとも、前の領主よりはマシだろう…
出だしとしてはだが…


「ああ、ちゃんと給金を出すぞ、一日一人50スゥだ」
「はい?給金?えっ、あの、苦役ですが?」
苦役は、無料奉仕である。
だからこそ、税の代わりにもなろう。
それなのにこの新しい領主様は、給金を出すと言った。

しかも、その金額が一人50スゥだと!

帝都であるヴィンドボナであればその金額も当然かも知れないが、ここは北方辺境領の僻地である。
一番近い、コウォブジェクの町でも30スゥ位だろう。


「まあ、一応苦役だからな、半額だ」
ええっ!
この領主、何を考えてるんだ!
半額で、この金額だと!
じゃ、苦役じゃなきゃ、1エキュでも出す気なのか!


「領主様」
レオポルドは、流石にここは諌めるべきだと思った。
悪い人ではない。
少なくともレオポルド自信、60年間生きて来て、人を見る目はあるつもりだ。
そうでなくては、村長なんぞ務まらん。

だが、何を考えているだ、この領主は!

そんな金を村人に持たせたら、誰も畑に出なくなってしまう。
そして、使い切った後は荒地だけが残される羽目になるのだ!

レオポルドはこの村で生まれた。
若い頃は、村を抜け出し傭兵として生きてきた。
しかしながら、イレーネと出会いその生活に見切りをつけたのだ。
密かに村に戻り、イレーネと結婚し子供も育ててきた。
だからこそ、この村がこれ以上衰退するのを見たくは無い。

「あ、アルバートと呼んでくれ、それで良いから」
領主様が、少し引き攣り気味でそう言って来る。

「判りました、アルバート様、宜しいですか、この村、オリーヴァは畑仕事で成り立っている村です」

今から思うと、何と無謀な事をしたものだ。
だが、あの時は本当に切れていた。

村人は、徴税官を恐れ家を出て来ない。
昨日は誰それがいなくなった、今日は誰それがいない、明日は誰それがヤバイ。
そんな状況がレオポルドを追い詰めていたのだろう。

殺されても構わない、いや、そんな事すら考えてなかったのだ。

ただ、ただこの状況で、信じられないような楽天的な話しを持ち出した、新領主が憎かったのだろう。



アルバート様は不思議なお方だ。
あれ程不躾に、ご意見に意義を申し立てたのに罰則は何も無かった。

それどころかお礼を言われ、給金は二人で話し合い、本人に10スゥ、村の基金に10スゥと言う形になった。
その上村人に支払う金額を直ぐに計算され、半額の180エキュを私に預けられたのだ。

「アルバート様、もし私がこれを持って逃げたらどうされますか」
「うん?逃げるの?それなら俺のいない時に頼むね、折角気に入った人を殺したくないから」
戯れに言った私の言葉に、笑いながら返すアルバート様は、本当に不思議なお方だ。




「村長、村長!」
「ええい、うるさい!なんじゃ、いったい!」
人が気持ち良く回想に浸っているのに、全く、最近の若い者は礼儀を知らん!

あれから三ヶ月、既にニイドの月に入っている。
ヘイムダルの週に傭兵部隊と荷駄隊が来るからと、その対応をアルバート様に申し付けられた。

その為に、態々毎日朝早くから領主の館に来ているのに、フランツは何を言っとるんだ。
そんな事だから、嫁の来てもないんじゃ。

「村長、村長、あれ、その荷駄隊じゃないすか?」
「何、荷駄隊が来たのか。それなら、そうと早く言わんか。」
レオポルドはフランツを叱り付け、森へと続く道を見つめた。

「だから、呼んでんじゃないっすか…」
フランツが何か言ってるが、それより荷駄隊である。

既に、何台かの荷駄が見えている。
それを警護するように騎乗の傭兵らしき人々も見えた。


「おお!無事着いたようだ。フランツ、村に知らせに走れ」
「へーい、全く人使いが荒いんだから…」
フランツがブツブツ文句を言っている。

「聞こえとるぞ!」
「へっ、すみません!」
慌てて、フランツが村へ続く道へと走り去って行く。

レオポルドは、荷駄隊と傭兵を迎える為に、館の正面に向かう。
三ヶ月の間に、館の回りもかなりさま変わりしていた。

荒れ果てていた館は、一応人が住める程度には修理を施した。

館から続く道は、石畳とは言わないが、村から館まで、そして海沿いの漁村クジニツァまでそこそこ整備が済んでいる。

そして一番変わったのは、今目の前に広がっている小さな建物群である。

簡単で良いから雨風が防げて、人が寝れる建物を40人分と言う事だった。
丘から下る道の先には、木製の建物ではあるが、そこそこ見られる家が10軒程並んでいた。

これらの事が、アルバート様から受けた苦役の内容だった。



レオポルド自信、自慢する訳ではないが、中々のものだと思う。


一ヶ月に一度程度、ここを訪れたアルバート様は、その出来栄えに喜んでくれていた。


多分、今日明日にはまたお見えになるだろう。

荷駄隊が運んでくる荷物にも興味はある。
それよりもレオポルドはアルバート様が、この先何をされるつもりなのか、それを知りたいと思う。

そんな事を考えていると、こちらに気が付いたのか、一頭の馬が列から抜けてこちらへ駆けてくる。
レオポルドは、しっかりと駆けてくる相手を待ち受ける。



目の前まで、駆け上がってきた馬からひらりと降り立った男は、辺りを見回しながら近づいて来た。

「オリーヴァ村の村長、レオポルド殿か」
年の頃なら40前か、まだ若そうな男がそう尋ねて来た。

「ああ、そうだ。アルバート・コウ・バルクフォン様から、オリーヴァ村とクジニツァ村の管理を任されているレオポルドじゃ」
「これは、失礼した。コンラート・ファイト、アウフガング傭兵団の団長を勤めている」
男は軽く侘びを入れ、頭を下げる。

全く、最近の傭兵団も質が落ちたものじゃ。
わしらの若い頃は、その位の礼儀なんぞあたりまえだったのにのお。
自分の名前を言いもせず、相手に名前を聞くなんぞ、情けない事である。

まあ、侘びを入れてきたので、少しは見込みがあるかもしれん。


「アルバート殿から話しは行っていると思う。お世話になるので宜しくお願いする」
「心得た。早速主らの住まいに案内しよう」

アルバート様から、警備と領地の整備の要員として傭兵団を雇ったと話しは聞いている。
総勢40名と聞いておるが、殆ど若い男ばかりの集団であろう。

村の娘達には、良く言い聞かせておかんとな。














領地で、これから長い付き合いになるレオポルドの爺さんとファイトのおっさんがそんな出会いをしている頃。
俺は、ヴィンドボナの屋敷から出かけようとしていた。

この館に、彼女達だけで残しておくにはいささか不安があるが、快適な生活を維持する為にはやらねばならない事がある。

外からの侵入者に関しては、殆ど心配していない。
アルが作ったカーゴイルを五体程彼の居城から持ってきたので、敷地内に無断で侵入するものがいれば、手厚く対応してくれるであろう。

それに、結界も展開してある為、無闇に入れない。
建物内まで侵入すれば、今度はあちらの世界の警報が鳴り響く。
まあ、セコムは飛んで来ないのが難点だが。


それよりも、彼女達が不安である。
アンジェリカが絶対余計なボタンを押しそうである。
ヴィオラが力いっぱい何かを破壊してしまわないか。
この二人ほどではないが、他の三人もある意味不安である。

まるで、小さな娘に対する父親のような心配をしている自分に苦笑しか浮かばない。


出かける前に声を掛けようと、玄関の前を通ったら、彼女達が並んでお見送りをしてくれた。

「いってらっしゃいませ」との、美少女達の見送りを受けて出かける。
感動の一瞬である。
ハーレムへの偉大な一歩である。


照れ隠しの為、思わず彼女達の目の前で転移魔法を展開してしまった。








杖を手にすれば、これまで訪れた場所ならば大概座標を記憶してあるので転移は簡単である。
今回も、無事領地に建っている館の私室に転移して来た。

俺は辺りを見回してため息をついた。
こちらの館には、あちらの世界の設備は導入されていない。
しかも、三ヶ月程前までは廃屋かと思うほど荒れ果てていた屋敷である。

レオポルドの爺さんに頼んで色々修理はさせているが、やはり大○建設リフォームのヴィンドボナの屋敷とはえらい違いだった。


俺は頭を振りながら外に向かう。
上手く行けば、今日にでもファイトのおっさんが自分の部隊を連れてやって来てるであろう。



コンラート・ファイトは、以前龍の八王子さんと再開した時に、アウフガング傭兵団の団長を務めていたおっさんである。
あの時、機会があれば仕事でも出そうかと考えていたが、それは以外に早く実現する事となった。

それは、土のメイジの存在である。

荒れ果てた領地の回復に、俺は公共事業の実施を目論んだ。
領民に給金を払い、道を整備させる。

あちらの世界では立派な景気回復策として長年行なわれている方法である。
レオポルドの爺さんにあれこれ指示を出し、爺さんの農村(オリーヴァ)、館、漁村(クジニツァ)の間を繋ぐ道路の整備を実施した。

だけど平民だけで、しかも中世に近い技術水準で道路の整備をすると言う事がどういうことか考えて見るがいい。
金属製のシャベルやツルハシすら無いと、出来る事は子供の土遊びに毛が生えた程度である。

仕方ないので、シャベルやツルハシは用意して、作業を行なわせたが、その進みは遅々としたものである。
ブルドーザーやローラーにて道路整備するあちらの世界からすれば、それは気の遠くなるような作業だった。


それでも、村人にすれば作業が格段に早くなったと喜ぶ始末。
まあ、公共事業なんだから、それでも良いかと割り切って作業を続けさせた。

だが、平民だけの力仕事で道を広げるのは至難の業だった。
木を切り倒し、根っこを掘り起こす。
邪魔な岩があれば、数人掛りで移動させる。
生半可な事じゃ出来ない作業だった。

ここまで言わなくても判るだろう。
土のメイジがいれば、状況は格段に良くなる。

四大系統の魔法しか使えない為、個人の魔力量にかなり影響されるにしても、錬金やレビテーションが使えるだけで作業効率は跳ね上がる。
しかしながら、貴族にそんな仕事を手伝えと言える訳も無い。

そこで目を付けたのが、傭兵団である。

傭兵団にはゼルマやグロリアのように、魔法の使える元貴族や、その落胤等平民に落とされながらもメイジである連中がいる。
実際にファイトの傭兵団は、龍の八王子さんと戦っている時に、魔法を使っていた。
ちなみに、ファイトもその系統らしく、ちゃんと魔法が使えている。

と言うことで、俺はファイトの傭兵団を雇う事にしたのだった。


幸か不幸か、俺がヴィンドボナにある連絡先でファイトにあった時、彼のアウフガング傭兵団は破産の危機を迎えていた。

元々経営が苦しかったらしいのだが、八王子さんの一件で完全に傾いてしまったのだった。
まあ、経営が苦しいからこそ、竜退治等と言うリスクの大きな仕事を受けざるを得なかったのだろう。

それが、八王子さんのお陰で、装備や魔道具等の破損は大きく、しかも依頼した領主からの支払いすらなかったのだ。
これでは解散しか道は残されていなかった。

それでも、ファイトのおっさんは今までの蓄えを吐き出し、借金をしてでも団を維持しようとしていたらしい。


そんな処へ俺がノコノコ顔を出した訳だ。
最初は、そりゃ露骨に嫌な顔をされた。
決定的なダメージを与えたラスボスの友達なんぞ会いたくも無いだろう。

お陰で不満をぶちまけるように、現状の団の財政状況を詳しく語ってくれました。


結果として、ファイトのおっさんには俺の出した条件で契約すると言う道しか残されていなかった。



まあ、おっさんにとっても悪い契約ではないので、問題は無かったと俺は思っている。


傭兵団の住居の提供も含む長期雇用契約。
この形で、契約を結んだのだが、部下の中にはそれが気に入らない連中もおり、元々40名程いた団員は半分に減ってしまった。

だがアウフガング傭兵団は、バルクフォン家専属の傭兵団として生き残る事が出来たのだった。







「アルバート殿」
おおっ、無事ファイトのおっさん着いたようだ、おっ、レオポルド爺さんもいる。
荷駄隊が到着しているのを確認しながら、新しい駐屯地(予定)の辺りまで歩いて来ると、ファイトが声を掛けてきた。

「おー、ファイト、荷物は無事か?」
「あっ、爺さんも朝からご苦労さん」
俺は、レオポルドと何回か話す内に彼を爺さんと呼ぶようになっていた。
年齢も高いのも事実だが、言う事が確かに爺くさいのだ。
まあ、今も軽く頭を下げて文句も言わないので、問題はない。


「ああ、自分達の荷物も含め荷馬車15台、全て無事到着した」
良し、今の所順調なようだ。

「メイジは?」
「私を含めて五人、土属性は三人、三人ともラインだ」
さすが、ファイトのおっさん、聞きたい事が直ぐに返ってくる。

「独身者か?」
「いや、二人が妻子持ちだ」
ファイトが力強く頷いている。
信用は問題ないようだ。

「じゃ、後で呼んでくれ。その前に---」
爺さんも含め、三人でこれからの予定を話してそれぞれの作業に取り掛かった。



誰がどの家を使うかで、少し揉めた。

傭兵団20名中、既婚者が何と14名もいたのだ。

どうやら、俺の処で雇われると言う話しに乗ったファイトの部下は、結婚しているやつが中心となったようだった。
確かに、妻子がいれば安定を求めるものだと言うのは、何処の世界でも変わらない。

とにかく家は10軒しか建ててなく、当分は館の一部に住まわせる事で話はついた。
若い夫婦ものには一軒屋を割り当てた。
中にはこちらに来るからと結婚したやつまでいるのだから、これ位の配慮は必要だ。
年配のもの、独身者は館で引き取る事とした。

普段俺はヴィンドボナの屋敷に帰る積もりだから、問題は無いと思ったのだがレオポルド爺さんが噛み付いた。

領主の館を雇われ傭兵如きが、自由に使う等もっての外と言う事だ。



一時、ファイトと爺さんの間で険悪な雰囲気になりかけた。
俺にしてみれば、丁度良い機会だったので、爺さん本人も館に住む事を提案した。

一応立場は、執事として領地の采配を振るう役割だ。

爺さんもかなり悩んだようだが、ファイトがニヤニヤ笑みを浮かべているのを見て引き受けてくれた。

今まで領民の代表として俺に接して来た立場から、今度は俺の代理として村人へ接すると言う立場の交代はかなり厳しい選択である。
それでも館が、横で笑みを浮かべている青二才(爺さん主観)に好きにされる事は我慢出来なかったようである。

「判りました!お引き受け致しましょう!」
顔を真っ赤にして、ファイトを睨みつけながらそういうレオポルド爺さんに俺は苦笑するしかなかった。


お陰で、俺はこちらの屋敷の召使等の心配をする必要が無くなったので、非常にありがたい。



なんと、レオポルド爺さんの愛妻のイレーネさんが、元貴族のお館の女官長だった。

と言うような素晴らしい展開は無かったが、それでも傭兵団の年配の奥様方には召使の経験者もいて、爺さんを助けてくれた。
あっ、ちなみにイレーネさん、元ガリアの某貴族の令嬢だったそうです。

こっちの方が、びっくりな超展開でした。
後日、ファイトも含めて三人で酒を飲んだ席で、爺さんがその馴れ初めを話してくれて判った衝撃の事実でした。




話しは逸れたが、傭兵団の連中には仮住まいと思って諦めて貰うしかない。

何せ、木製の家だ。
冬が厳しいこの地方だと、冬場の光熱費が馬鹿にならない。
いずれ本格的に、傭兵団の住居を建築しなければいけない。

今の時点で石造りの家を建てさせるのは、インフラが整っていないので却下だ。

衛生面の問題なので、これだけは譲れない。
早く上下水道だけは作らせなければ。






レオポルド爺さんが呼んでいた応援の村人も駆けつけ、辺りは喧騒に包まれた。
メイジがレビテーションを掛け、荷馬車に積んであるそれぞれの荷物を浮かす。
それを、傭兵達と、村人がゆっくりと建物の中に押し込んで行く。

一画では、火を起こし炊き出しの準備が女達の手で始まっている。
傭兵団がこちらに来る森の中で狩った鹿だろうか、肉を焼く準備も始まっている。

それ程多くは無いが、傭兵団の子供達がその周りを走り回っている。

見ているだけで、楽しくなるような雰囲気に、俺もリングにしまってあるパンを大量に提供しておいた。




そのまま一緒に騒いでいたかったが、仕事を片付けねばいけない。

手の空いている傭兵に、一台の荷馬車を引かせ、ファイトとレオポルド爺さんを連れて館に向かう。
館の左手奥まで荷馬車を入れさせ、大きな穀物倉庫の前まで運び込んだ。

傭兵を帰らせ、ファイトとレオポルド爺さんの見ている前で俺は杖を取り出し術式を展開させた。

人払いの結界を構築する術式である。
この世界の魔法とは違う事を既に知っているファイトは興味深そうに俺の詠唱を見ていた。

更に俺は、レビテーションで荷馬車に乗った200キロを超える幾つかの木の箱を空中に浮かせる。
そのままの状態で扉を開き、中に二人を招きいれた。



「こ、これは…」
レオポルド爺さんが驚いた顔で、目の前に詰まれた大量の麻袋を見つめている。


「30トンの小麦だ。あーっと…」
説明しようとして言葉に止まる。
流石に重さの単位の換算まで正確には覚えていない。

「6000リーブル位かな。その目の前にある麻袋、大体6リーブル位だから、それが1000個あるからそんなもんだ」
穀物倉庫の中は、大量の麻袋の山だった。

豊作の年でもこの倉庫が一杯になった事は、きっとなかったんだと思う。
まあ、税収として納められる穀物を一時的に保存しておく為に作られた倉庫だ。
それが、満杯になるなどと言うのは、領主の夢でしかないだろう。


驚いている二人を無視して、とりあえず浮かしている木箱を倉庫の隅に安置する。
術式を構築し、木箱が取られないように地面に固定してしまう。
ちなみに、中身はエキュー金貨である。
やらねばいけない作業があるが、取りあえず、二人に説明を済ませてしまおう。

二人の処へ戻るとまだ驚いていたが、構わず彼らを連れて倉庫を後にし、俺の私室に向かった。




二人を適当に座らすと、俺はグラスを三つ用意し、酒を取り出し注ぐ。

「ま、飲め」
「頂く」
「あっ、おう」
ファイトは慇懃に、レオポルド爺さんは普段とは違いぶっきら棒にそう言いながら。
二人とも、グラスのアルコールを一気に飲み干すと、大きくため息を吐いて俺を見つめた。

「アルバート様、説明をお願い致します」
レオポルドの言葉に、俺は頷くのだった。



二人には、ヴィンドボナの屋敷にいる彼女達に話したのと同じ事を伝えた。
俺が、東方「ロバ・アル・カリイエ」より遥かに遠い国から召喚された事。
偉大な魔導師に、様々な魔法を教わり、彼の死によりここにいる事。
俺は、自分の大切にしたいものを大切にするだけである事を。


最も、ファイトは既にヴィンドボナにいる時に、この辺りまで話してしまっている。
俺自身の態度もあるが、最初の出会いが龍の八王子さんと一緒だっただけに、ファイトにしても普通のメイジではない事には気が付いていた。

ファイトは色々俺から探り出そうと、弱いくせに俺を何度か酒の席に誘い出した。

普段は慇懃無礼と言って良いほど生真面目に見えるおっさんだが、酒が入ると全く人が変わってしまう。
特に、あの頃はアウフガング傭兵団の状態が状態だけに、かなり溜まっていたのだろう。

で、何度か機会を重ねた結果、俺は秘密を打ち明けたのだ。
酒の勢いもあり、俺はハーレム作りも含めて話してしまっていた。
『偉い!』、『男のロマンだ!』など、その時はべた褒めだった。

しかししらふになると、あれはどうかと言って来る。
本当に、困ったおっさんである。



閑話休題、で小麦の話だ。

あの小麦は、俺の国で買い付けて送って貰ったものだと説明した。









実際は、買い付けまでは正しいが、その後はヴィンドボナの屋敷のリフォームと同じだ。
ここの倉庫の出口と、あちらの世界の倉庫の入り口をゲートでつなぎ、業者を雇い運び込ませたのだ。

ちなみに、あちらの人間を使う時、俺は魔法が漏れないように最新の注意を払っている。
人の利用に関しても同様である。

あちらの人間である限り、俺はどんなに信用できても、魔法について話をする気はない。
ましてや、ゲートを構築出来るなんて、例え見られたとしても全力で否定する。
だから、この先あちらの人間をこっちに連れて来る事はありえない。

理由は簡単である。
あちらの世界は、ハルケギニアを征服出来るが、こちらからは、平和ボケした日本ですら抑えられない。
これだけの差がある。

俺が俺の好きに暮らすために、絶対にやってはならないのは、この世界の事をあちらの国家に知られる事である。
誰も知らなければ、何も出来ないが、一人でも知っている人間が増えればそれは広がる可能性がある。

リフォームにしても、誰もこちらの世界の事を知らないならば、そこに違和感を感じても、どうすることも出来ない。
しかし、こちらの世界に来てリフォームしましたと証言する人が現れれば、状況は変わってくるであろう。

そして、その先で国家に行き着けば、組織的な対応が始まる。
それが恐ろしいのだ。


逆にこっちに関しては、それ程心配していない。
普通信じないだろうし、信じたとしても俺自身で対応出来るレベルで納まる。
いざとなれば、記憶を消す、その存在そのものを消し去る等の対応方法はいくらでも考え付く。



でだ、問題となって来たのは、あちらの世界で買い付けを行なう資金調達の方法だった。

これまで、俺はアルの残した数々の宝石や工芸品をあちらの世界に持って行き、現金化していた。
しかし、それも限度がある。

誰も見た事も聞いた事もない工芸品ばかり持ち込む人物など怪しさ満載である。

一回や二回ならば、数十億の金をポンと払うような宝石商も、回数が増えれば財布の紐は硬くなる。

それに、アルの残した遺産にしても有限であるのは間違いない。
リスクは毎回高くなり、しかも先が見えている方法でのあちらの現金の入手はいずれ諦めざるを得ない。



しかし、ヴィンドボナの館にインドアプールを作ろうとするなら、必要な現金はドルであり、エキュではないのだ。

即ち、あちらの世界から、何かを持ってきて、ここハルケギニアで販売し、エキュを手に入れる。
そして、そのエキュをドルに変える方法が無ければ、大金持ちにはなれるであろうが、それはハルケギニアの文明レベルの金持ちである。

ヴィンドボナの館のように、所謂現代科学の粋を集めた豪邸に済み、メイドを侍らしてハーレムを形成するのではない。
十七世紀フランスのような、汚水と糞尿まみれの街並みから逃れようと、ベルサイユ宮殿を建築したルイ十四世のいる世界での金持ちである。

そう、俺が目指すハーレムにはその維持管理にドルが必要なのである。



長くなってしまったが、あちらの世界から持ってくるものとして俺が選んだのは小麦だった。
概算だが、大量生産が常識となっているあちらの世界と比較すると、価格は40倍以上の開きがある事が判ったのだ。

あちらの世界での小麦の値段は、小麦そのものの購入は、1トン当たり200ドル~300ドルで行なわれている。
精製した薄力粉ですら、1キロ500円なので、1トン買っても50万円である。

俺は、精製していない小麦を30トン、30キログラム入りの麻袋に積め所定の倉庫まで配送して貰う事で300万円で購入したのだ。
ゲルマニアでは、小麦は1キロ50スゥで取引されており、上手く売れれば15000エキューとなる。
いや、上質の小麦なので、更に高く売れるであろう。

簡単に手に入り、ハルケギニアでも売買が容易な品として、小麦による錬金術を目指した訳である。


しかも、1エキュー金貨の金保有量は12グラムだったので、15000エキュー金貨を鋳潰して、金地金に変えれば180キログラムとなる。
金のあちらの世界での価格は1キロ240万円程度なので、金額は4億3200万円となる。

まあ、小麦だけだとここまで金額は膨れ上がらない。
小麦の価格差と、物価の違いによるマジックであるが、俺に有利に働くマジックは大歓迎である。


結局、色々な手法を検討したが、あちらの世界に持ち込んで販売できるものとしては、金地金しか思いつかなかった。
所謂金の延べ棒である。
あちらの世界に存在しないエキュー金貨は、流石にそのまま売買出来るものではない。
錬金にてエキュー金貨から金を取り出し、金の延べ棒にして始めて、買い手がつくのである。






そこで話を本当に戻すと、今目の前にいるレオポルド爺さんとファイトのおっさんである。

この30トンの小麦をヴィンドボナまで輸送し、現金化するのをファイトにお願いするのが目的だ。

今回は、どうして30トンの小麦が倉庫にしまわれていたのかの説明は必要ない。
これまで、誰も住んでなかった館であり、俺が持ち込んだと言っても疑う理由もない。

しかし今回、これが上手く行けば、次回以降は方法を変えねばならない。


毎回、毎回倉庫に突然現れる小麦。
見事疑いの根をゲルマニアにもばら撒く事になってしまう。
俺は、疑われても気にはしないが、自分から疑惑の種を撒く気はない。

その為、今後は領地から少し離れた人気の無いエリアに倉庫を作り、そこにあちらの世界から小麦を送り込む。
これを、一旦荷馬車に積んで、領地の倉庫に搬入し、改めて売りに出すと言う方法を考えていた。

このような複雑な操作を行なう以上、この二人の協力は不可欠であり、その為俺は自分の素性も含めて、話せる内容は話した訳だ。



「一つ質問があります。アルバート様」
全部話を聞いてから、レオポルド爺さんが真剣な顔をして、俺に尋ねて来た。

「アルバート様は、『自分の大切にしたいものを大切にする』とおっしゃいました」
俺はそうだと言う風に頷く。

「その中に、この領地の領民は含まれているのでしょうか」
レオポルドは真っ直ぐな視線を俺に向け、はっきりと言い切った。

この爺さん、本当に凄い。

前にも、村人に対する給金の支払いで払いすぎだと真剣に怒ってきた。
あの時は、村長だったが、今は俺の執事または、代官に指名した後である。

それでも、地位が変わっても、オリーヴァ村を守ろうと言う心根は一切歪む事がない。

「ああ、爺さんが大切にしているものだろ。それなら、俺も大切にしたい、いや違うな」
俺は、爺さんの顔を真っ直ぐに見つめながら言い直す。

「俺は、北方辺境領、ポモージェ地方、オリーヴァ、クジニツァの領主、アルバート・コウ・バルクフォンである」
「領主であるからこそ、領主だからこそ、一番に守るべきものはそこに住む領民である事を俺は此処に誓おう」


レオポルド爺さんの年老いた顔の中の線のような眼が大きく開かれる。

そして、爺さんは深々と頭を下げるのだった。








こら、ファイトのおっさん、何横で、さも訳知り顔でウンウン頭を動かしてんだ!

なんか腹立つなあ!





-----------------------(おまけのおまけ:その頃のヴィンドボナの館)------------------------------

「まて、それは何だ!」
「えーっと、チョコレートですよ~」
アンジェリカは、ゼルマに問われて素直に答える。

「チョコレート?何ですかそれは?」
横でサラダを作っていたグロリアが興味深げに聞いてきた。

「甘くておいしいお菓子です」
「倉庫の奥に一杯ありました」
ヴィオラとアマンダが揃って答えた。

ヴィオラの手には、アンジェリカが持っている『ガーナミルクチョコレート』と書かれた紙包み、いや紙包みだけが持たれていた。
アマンダに至っては、紙包みすら持たず、その代わり口の周りに茶色い物が激しく付着している。


「おいしかったか?」
ゼルマが意地悪そうに、アマンダに聞いた。

「ハイ、とっても!あわわっ」
素直に答えてしまい、慌てて口に手を当てるアマンダ。

「み、皆さんも如何ですか」
そう言って、一枚づつ封の切っていない『ガーナミルクチョコレート』を、ゼルマとグロリアに渡すヴィオラ。

「まあ、仕方ないわね。ご主人さまも食材は何を使っても良いって言ってらっしゃったし」
グロリアが少し呆れ気味で言った。


「そうそう」、「そうですよね~」
ウンウンと頷く二人。

「食べてみるか」
そう言いながら、ゼルマは封を破る。

銀色に輝く包みを不思議そうに見ながら、黒い塊を口に放り込む。

「ふむ、これは、中々…」
「あら、おいしい」
ゼルマとグロリアは顔を見合わせ、にっこりと微笑み合う。


そんな様子を見ながら、アンジェリカは、チョコを抱えたまま、分析機の前まで歩み寄る。

ボタンを押して、ランプが付くと、早速に彼女の口から言葉が漏れる。

「チョコレート」
「チョコレート:カカオの種子を発酵・焙煎したカカオマスを主原料とし、これに砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めた食品である。
質量あたりの熱量が大きく携行が容易であることから、固形チョコレートは軍隊のレーションに同封されたり、登山などの際の非常食として携帯される。
尚、非常に高カロリーであるため、食べすぎは太ります」

「ふーん、そうなんだ」
アンジェリカは、また一つ覚えたと思いながら、次のものを探しに倉庫に向かう。

彼女は知らない。
後ろで年長のゼルマとグロリアが、食べかけのチョコを残念そうにそっと机の上に置いたのを。

彼女は知らない。
ヴィオラが食べた枚数を考えて真っ青になっているのを。

彼女は知らない。
アマンダが、太れば胸も大きくなるのかしらと考えていたのを。







「あっ、アマンダ」
「えっ、何アンちゃん」

「太っても全体が大きくなるだけで、胸は大きくはならないよ~」
「えっ、ええっ~」

アンちゃん、貴方は一体何者なのですか…


------------------------(かいせつ)-------------------------------

ハルキゲニアでの小麦の価格、エキュー金貨の金保有量は、このお話の中だけの推定です。
市民一人あたりの一年の生活費が120エキューである事から、最低賃金のレベルとして低めに見積もり300万円として類推しました。



[11205] ハーレムを作ろう(ご主人さまを起こそう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/12 12:07
さて、今日はゼルマがご主人さまを起こす番だ。

どうやって、起こせば良いか?
厨房に向かいながら、ゼルマはご主人さまの起こし方を考える。

やはりここは、軽く口付けを交わしてやさしく耳元で囁くように起こすべきか。
いやいや、そこまでするのは、はしたないと思われないか?」

「そんな事ないですよ~、ゼルマはさんは格好良いですから~」
「そうすると、やはりご主人さまにベタ惚れだと思われた方が、評価は高くなるだろうか」

「ですよね~、惚れられて機嫌が悪くなる人っていませんよ~」
「むう、それならいっそ更に大胆にすべきか?」

「あ~、それもありじゃないですか~」
「だが、大胆すぎるのは逆効果では?」

「そんな事ないですよ~」
「が、いや、えっ…」


待て、私は今誰と話しているのだ?


一人で考えていた筈なのにどうして返事が聞こえるのだ!

ゼルマははっと気が付き、横を見る。

「ゼルマさん、おはようございます~」
ニコニコしながらアンジェリカが立っていた。

「あ、ああ、おはよう」
どうやら、気が付かないうちに、アンジェリカと会話していたようだった。

「アンジェリカ」
「はい~、なんですかゼルマさん」
「私は、ご主人さまに気に入って貰いたい」
今更、隠したって仕方ない。
この際、アンジェリカにも意見を聞いてしまおうとゼルマは思った。

「ご主人さまが気に入る起こし方。アンジェリカならどうする」
「え~、そうですね~」
アンジェリカが頭を傾けて、暫く考えている。

「あっ、やっぱり、×××で、×××××じゃないですか~」
「えっ、ええっ!」
な、何と言う大胆な方法。
そ、そりゃ確かにご主人さまは気に入るだろう。
男なら、そんな起こし方されて喜ばない筈はない。

「アンジェリカ!お、お前、それをやるのか!」
ゼルマは思わず立ち止まり、両手でアンジェリカの肩を掴む。

「まさか~、そんな恥ずかしい事、出来ませんよ~」
「そ、そうか…」
ホッとする反面、ホンとに出来ないのかと疑いたくなる。
この娘なら、やるかもしれん。
まさか、く、口で、イヤイヤ考えるな、そんなは、破廉恥な事。

思わず顔が赤くなるゼルマだった。

「あ~、でも、服を脱いで裸でベッドにもぐり込む位ならやっちゃいますよ~」
「な、何!そ、それは本当か!」
ま、まさか、ここにこんな強力なライバルがいるとは。
アンジェリカ、恐ろしい娘。

「はい~、私もご主人さまに気に入って貰いたくなったら考えます~」
「そ、そうか」
まだなんだな…

ライバルが増える前に何とか寵愛を確実なものにしたいゼルマは、アンジェリカの言葉に一層悩み込むのだった。




皆と朝食の準備をある程度済ませた処で、ご主人さまの部屋にゼルマは向かう。

どうやって、起こすべきか。
食事の用意をしながらも、色々考えた。
あ、あまり過激な方法を最初から取るのはよそう。
それが、ゼルマの今の結論だった。


部屋の扉の前まで来て、ゼルマは大きく深呼吸をする。

「落ち着け、落ち着け、単に起こしに来ただけじゃないか」
ぶつぶつと呟きながら、自分に言い聞かせる。

「こないだの夜なんか、あ、あれっ?」
先日の夜の事を思い出してしまい、余計に心臓がバクバク鳴りだしてしまう。

「違う、違う、あれは御家再興の為であって、け、決してき、気持ちイイなんて」
ゼルマは、余計に顔が赤くなるばかりだった。

「ええいっ!落ち着け!負けるんじゃない!」
今の感情をそのまま扉に叩きつける。
ドンドンドンと激しく扉を叩き、力いっぱい扉を開く。

「ご主人さま!」
足早に、寝室に入るやいなゼルマは叫んだ。

さすがに何事かと、ご主人さまが飛び起きた事にも気が付かない。


「朝です!起きて下さい!」

フルフルと肩を震わし、ベッドのご主人さまを睨みつける。

「いや、起きてるし…」


「あっ………そ、そうですか…」



こんな筈じゃなかった。

寝ているご主人さまに歩み寄り、口付けを交わす。
それも濃厚な口付けを。

それに気が付きご主人さまが目覚められる。

そうしたらゆっくりと唇を離す。

そして、艶然とほほ笑みながら挨拶を交わす…

そしたら…

そしたら…



ち、違う。

こ、こんな気まずい起こし方をしたかった訳じゃない。

な、なのに、なのに

目に涙が一杯溜まって行く。

ご主人さまに気に入られたい。

御家再興も大事だが、それより今はただご主人さまに気に入られたいのに…

「ふ、フえーン!」
ゼルマは上手く行かない自分の行動に、その場で泣きだしていた。



結局、慌ててベッドから飛び出してきたご主人さまに、優しく抱き締められた。

「あっ…」
予定通りとは行かなかったけど、これはこれで嬉しいゼルマだった。






朝食には若干遅れてしまい、どうしたのかと皆がゼルマを見つめて来る。
特にグロリアの視線が厳しい。

グロリアが何か言って来る前にご主人さまが入ってきたので、ゼルマはほっとため息を吐きだした。
まさか、泣いてしまいご主人さまに慰められていて遅くなったなんて言える訳ない。

どの道、後で追求されるだろう。

「すまない、私のせいでご主人さままで遅れさせてしまった」
今は、それだけゼルマは皆に告げるのだった。



「おう、皆おはよう」

「「「「「おはようございます」」」」」

ご主人さまがいらっしゃったので、ゼルマも皆に合わせて頭を下げる。

ご主人さまが席に着かれ、改めて全員に座るように促して来た。

全員が自分の席の前に立って、グロリアと目線を交わす。
そして、グロリアの合図で一斉に席に着いた。

ご主人さまが、ほおっと感心したように驚いている。

この辺りの作法は、毎晩続いているグロリアのお茶会で決めた事だ。
まあ主人と使用人が一緒に食事を取ること事態、作法も何もないのだが、それでも形は整えようと言う事になったのだ。


「頂きます」
ご主人さまの発声に合わせて全員で唱和し、朝食が始まる。

卵料理と、サラダとパンだが、パンの種類が増えており、アマンダは忙しそうだ。


これも不思議な事だ。
チョコクロワッサンと言う、甘くて美味しいパンを口に入れながらゼルマは思う。
今朝冷蔵庫を開けると、野菜やパンが補充されていたのだ。

「ご主人さま~、このパンは何と言うのですか~」
「ああそれは、アーモンドクロワッサンだな」
アンジェリカの問いに、ご主人さまが答える。

アンジェリカの探求心は止まる事を知らないようだ。
次々に新しいパンを指差し、ご主人さまに聞いている。

ご主人さまも、律儀に答えているが、全く威厳も何も合ったものではない」





不意に静かになった。


うん?

「ゼルマ、そう言うな、これも俺なんだ」


いけない!
また口に出してしまったようだ!


「も、申し訳ございません!」
慌てて立ち上がり、深々と頭を下げるしか出来ない。


「俺ってそんなに威厳がないか?」
ご主人さまの声のトーンが変わった。
酷く冷たく、それでいて恐ろしい程に自信に満ちた言い方。

「あっ、いえ!そ、それは…」
答えられる訳ない。
ゼルマは顔から血の気が抜けるのが判る。

どんなに頼りなさげに見えても、主はメイジとしては化け物に近いのだ。
怒らせれば、どうなるか判ったものでもない。




「ゼルマ、今どう思った?」
「えっ?」
また声の調子が変わっている。

でも、今度は怒ってない。
それ処か面白がっているような雰囲気すら感じられる。

「判るだろ、俺に威厳なんか必要ないんだよ」
皮肉交じりの口調で、ご主人さまはそう言ってくる。

判る。
身体が震える程判ってしまった。

一瞬でもゼルマ自身、命は無いと納得させられたのだ。
うんうんと、頷く以外何ができようか。


「すまんな皆、恐がらせて」
「そうですよ~、食事中に止めて下さいね~」
アンジェリカが、飄々と言った。

ご主人さまとはまた違い、彼女も不思議な娘だ。
今の一瞬の恐怖を、まるで悪い冗談のように軽くいなすような言い方で吹き飛ばしてしまう。

「わ、私、パンを喉に詰めそうになっちゃいました」
その証拠に、アマンダも直ぐに会話に加わってくる。


「おー、アマンダ、すまんすまん。お詫びにこれでも食べて機嫌直してくれ」
ご主人さまが新しいデザートを取り出して、その場の厭な空気が払拭されて行くのをゼルマは見ているしか出来なかった。


「しかしご主人さま、一体これらをどこから取り出されるのです?」
気を取り直したヴィオラが話題を逸らそうと質問して来る。

「ああ~、それは私も不思議に思います~ 魔法でしょうけど、聞いた事ありません~」
アンジェリカも不思議に思っていたようだ。

そう、あれはゼルマ自身も不思議だった。
グロリアとも話したが、少なくとも四系統魔法の中にはあのような物をどこかから取り出す等と言う魔法はない。
しかも、ご主人さまはそれを杖も使わず無詠唱で行なっている。
やはり、ご主人さまのお国の魔法なのだろうか。


「うん、これはこの魔道具の力なんだよ」
そう言いながらご主人さまが取り出したのは、いつも指にはめられている指輪だった。





俺がかざして見せたのは、指に四つ着けている指輪と同じ物だった。

「ほら」
俺はそれを隣に座ったアマンダに渡した。

両手でそれを受け取ったアマンダは恐々とそれを摘み上げ見つめる。

「ほえ?指輪ですね」
疑問符だらけの困惑した表情を浮かべ、アマンダは指輪をゼルマに手渡した。


「見た目はまあ、ただの指輪だな」
確かに、普通の指輪にしか見えないだろう。
ゼルマは食い入るように指輪を見ているが、特に変わった点は見つけられないようだ。


「ふむ、ゼルマ、ちょっと指にはめてみ」
「あっ、いや、他の者も試して見るか、そうすると識別出来た方が良いかな」
「悪い、ゼルマ、ちょっと返してくれ」
俺はそう言いながら、指輪を呼んだ。

「あっ!」
ヒュンと言う感じで、ゼルマの手の中にあった指輪が俺の元に飛んで来る。

パチンと受け止めると、更に四つの指輪を出して、机に並べて行く。

「ええっと、これがアマンダ、でゼルマ、ヴィオラ、アンジェリカ、グロリアっと」
それぞれに対応するように、指輪を並べ杖を手にする。
術式を構築して、魔法を展開する。

「わ!わわっ」
アマンダが驚いたような声を上げる。
術式に反応し、指輪から光の粒のような物が溢れだしていた。

あふれ出したように見える光の粒が、それぞれ対応する娘達に向かって流れて行く。

「ひっ、あ、あれっ?」
光が彼女達にぶつかった瞬間、全員固く身を引き締めるが衝撃のなさに唖然としている。
まあ、単なるマーク付けに衝撃まで伴っては話にならない。


「うん、問題ないな」
ディティクトマジックの応用で、指輪とそれぞれとのマジックラインを確認する。



「ご主人さま、私達に何をされたのですか?」
急速に部屋の温度が下がったかのように思える冷たい声が聞こえた。
ギギギと、首を回すと、右手に座ったグロリアがにっこり笑みを浮かべていた。
し、しまった!


事前に何も言わないまま、突然魔法を発動したのだ。
怒るのも無理はない。


うん、ああなったグロリアは最強だからなあ」
ゼルマが声に出してしまう。

「だれが最強なんですか?ゼルマさん!」
にっこりと微笑みながら、グロリアの視線がゼルマに向かう。

「ああ、すまない、口に出してたか」
ゼルマが悪びれず、答えた。
ありがとう、ゼルマ。
多分今のは、わざとだ。
お陰で、俺の寿命は延びたと思う。



「ああ、皆すまない、突然過ぎたな」
苦笑を浮かべながら、俺は改めて指輪の説明を始めた。


指輪は、俺を召喚した魔導士、即ちアルの作品である。
この指輪そのものは、召喚魔法サモン・サーヴァントの応用だ。

アルは、サモン・サーヴァントを研究し、転移の魔法やこの指輪を構築したのだった。

流石に魔法に対しての知識が一番多いゼルマでも、サモン・サーヴァントと転移の魔法や指輪の繋がりには想像もつかないようだ。


「ゼルマ、召喚と転移で共通する事は?」
首を捻っているゼルマに俺は問い掛けた。


「両方とも二点間の移動です」
暫く考え込んでいたゼルマだが、パッと顔を上げて答える。


「正解!」
俺が勢い良く指差すと、ゼルマの顔が嬉しそうに微笑む。
うん、こうみると普段のキリリとしたゼルマも良いが、今朝の泣き顔やこんな笑顔も中々可愛い。


「で、この指輪だが、色々な物をどこかにしまう事ができる」
俺はそこまで話して、ふと悪戯心を覚えた。

「じゃあ、アマンダ、今までの話で共通な事は?」
まるで私は蚊帳の外と言う顔で、気楽そうに聞いていたアマンダに突然話を振ったのだ。

「えっ!あっ!あーっと、も、物の移動?」
わたわたと、慌てながらも、ちゃんとアマンダは答えて来た。

「おー、メイジでもないのに良く気付いたな、偉い偉い」
うん、この五人は本当に当たりなんだろう。
全員聡明と言えよう。


俺は再び説明に戻る。

単純に言えばサモン・サーヴァントの魔法から、ゲート構築の魔法のみを取り出す。
そのままでは一方通行であるので、双方で組み合わせてゲートとしたのが、転移ゲートの魔法。

そして、それに更に精霊の力を借りてゲートを構築せずに直接移動してしまうのが転移魔法。
この場合、ゲートに当たるものはその地の精霊の存在そのものである。

両者は基本的に同じ事をゲートの有無で区別しているが、一番の違いは転移先の座標の確定である。
ゲート構築の場合、予めゲートを開設する場所を決めておけば、座標を一から用意する必要はない。
極端な話、構築されたゲートならば、必要な時にすぐさま使える。

これに対して、転移魔法ではどれだけ移動するかを座標の形で正確に記憶しておかないと、同じ場所には転移出来ない。
うろ覚えだと、どこに出るかも判らない危険な魔法と成り下がってしまう。

まあ、俺の場合は杖に座標を記憶させているので、大概の場所については一度でも訪れた処なら転移可能である。


ここまで説明して、ふと全員を見つめる。
アンジェリカはニコニコ笑いながら頷いているが、他の四人は頭を抱えていた。

うーむ、少し、いやかなり難しかったのか。



「で、この指輪だ」
俺は、気を取り直して肝心の指輪の説明に移った。
決して、現実から目を背けた訳じゃない。


一旦ゲートを構築すれば、その維持には最低限の魔力で可能である。
指輪は、このゲートを維持しているだけのものなのだ。

ただゲートの先、転移先がユニークなのである。
転移先は、何もない空間を座標として固定してある。

彼女達には到底説明できないが、様々な平行世界、次元世界の中には時が止まった世界も存在するのだ。
そのような世界は、外部からは観察出来るが、中に入る事はお勧めできない。
自分自身が転移した途端、動けなくなる事間違いないから。

しかしながら、ゲートを設け物を送り込む、そのゲートから引き出す事は可能である。
そして、それを行なっているのがこの指輪なのである。

カーゴイルの自己判断機能のみを取り出し、指輪に刻み込む。
これにより、ゲートの維持、物品の出し入れを制御させている。

指輪の製作時に、座標を固定しゲートを設けてあるので、後は簡単な自立式の操作系だけで四次元ポケットが出来上がる訳である。

尚、あちらの世界は時間が止まっているので、転移してあちらに移したものは基本的に痛みもしなければ腐りもしない。
指輪に転送されたままの状態で転がっている事となる訳だ。


まあ、ここまで説明しても、理解出来る者がいるとは思えないが。


「へぇ~凄いですね~、じゃあいくらでもしまえますね~」
いや前言撤回、一人いるようだ。

「アンジェリカ、貴女ご主人さまの説明が理解出来たの!」
グロリアが驚いたようにアンジェリカに問う。

「うーん、何となくかな~」
その答えに、全員があっけに取られて彼女を見つめるのだった。


「いやそうでもないぞ、詰め込み過ぎると管理出来なくなる」
一応、質問されたので俺はアンジェリカに答えた。


「あっ、そうですね~限度があるんですね~」
フムフムと頷くアンジェリカ。
全員が異様なものを見つめる視線になっているのも彼女は気にも掛けてないようだった。



「と、とにかく、この指輪の機能は今言った通りだ」
悪くなった場の雰囲気を取り繕う意味もあり、俺は慌てて話を続ける。


「で、そんな四次元ポケットの指輪を人数分用意した訳だ」
俺は机の上の指輪を指差す。

「さっきの魔法で、これらの指輪に使用者を覚えさせた」
全員が驚いた顔で、お互い顔を見合わせる。

うん?
何かおかしかったか?


「あ、あのご主人さま。流石にそんな貴重な物を私達が使うのは…」
グロリアが代表するように、意見を述べてきた。

まあ確かにこの指輪があれば、その価値ははかり知れない。

物の輸送も格段に楽である。
一旦指輪にしまい、移動するだけなのだから。
しかも、長期の旅行さえも最低限の荷物以外は、食料も含めて全て指輪にしまえるのだ。

戦場でも、補給品から武器弾薬まで一切合財指輪に詰めて持って行ける訳だから、その価値は考えるまでもないだろう。


「その心配は無用だ。この指輪は誰でも使えるものではないから」
俺は自信を持ってそう言い切れるのだった。


「この指輪の運用は、四系統魔法以外の魔法が使われている」

ゲートを使った転移は、辛うじて系統魔法の範疇に納まっている。
しかしながら、指輪で使われているのは、転移の魔法である。
この違いは、精霊の力を借りているかいないかであり、指輪は勿論その力を借りているのだ。

結果として普通の人間には使えない。
俺自身は、アルとして水の精霊と契約を交わしている。
まあ、これは八王子さんのお陰でもあるのだが。

先住魔法をアルが研究していた時、どうしても精霊との契約が上手く行かなかった。
それでも、アルは力づくに近い形で先住魔法も使いこなす事は出来た。

それを見た八王子さんが、どうして精霊と契約しないのかと聞いてきたのだ。
アルは出来る訳無いと言い返したが、八王子さんは試してみようと言い出し、この世界の精霊王とも言える存在を呼び出したのだ。

神に等しいと言われる龍の言葉に、たかが精霊王如きが拒否できる筈も無かった。
多分この世界では、唯一の例外とも言える精霊と契約を交わした人間が出来た訳である。


「あー、だから普通の人間では使えない」
五人とも怪訝な顔をしている。
それはそうだろう、使えない指輪を貰ってもどうしようもないのだから。

「だけど、多分三人は使える筈だ」
そう、俺自身から水の秘薬を与えた三人なら、俺の契約の一環として精霊達も言う事を聞かざるを得ない。
ああ念のためだが、ヴィオラには前に彼女の心の拘りを吐き出さすのに使い、そのまま彼女の身体に残してある。
ゼルマやグロリアと違い、イイ事はしてないからな。


ちなみに、水の精霊の涙と言われる各種ポーションと原料は同じである。
ただ精霊との契約の有無で、その効果が大きく変わっているだけなのだ。

全員、訳も判らず怪訝な顔を浮かべている。

さて、長々と説明してきたが、これが見たい為にここまで詳しく説明したのだ。

「それじゃ、五人とも目の前の指輪に向かって手を翳し、『来い!』と心の中で強く思ってみてごらん」

全員が思い思いの格好で意識を集中させた。



ヒュンと言う音と共に、机の上から四つの指輪がそれぞれの手に飛んで行った。


そう、四つの指輪が…







「えっ!四つ!」

俺は椅子から転げ落ちるのだった。




[11205] ハーレムを作ろう(おかたづけをしよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/12 12:14
「わっ」、「くっ」、「あら」、「ほえ?」、「…」

手の中に飛び込んできた指輪を見て驚く声が四つ。
一人だけ何も起こらない事に対する無言の感想。

しかし彼女等の感情の発露は、盛大椅子から転げ落ちる俺の様子に消し飛ばされる。

素早く立ち上がり俺に駆け寄るグロリアをはじめ、皆が心配そうに立ち上がっていた。


「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、ありがとうグロリア」
差し出された手を取り立ち上がる俺に、にっこりと微笑むグロリア。

チッと言う舌打ちが聞こえたのは気のせいであろう。


「そ、それよりアマンダ、何で君が指輪を操れる?」
「ほえっ?」
俺の質問に、訳が判らないと言う顔をアマンダは浮かべた。

精霊の加護もしくは、契約がなければ人には扱える筈もない。
それなのに彼女が使えるとなると、アマンダには人とは違う何かがあると言う事だ。


「え~、操れたらダメなんですか?」
アンジェリカが不思議そうに聞いてくる。

「ああ、ダメだ」
俺の言葉に、肝心のアマンダは尚も訳が判らないと言う表情を浮かべていた。

俺は溜め息を吐き、アマンダの持つ指輪に戻れと言う意思を込める。

「あっ…」
指輪がアマンダの手の中から飛び出す。
そして、パシッと言う音と伴に指輪は俺の手の中に戻された。


「少なくとも、俺の知らない理由で使わせる訳にはいかない」

「ああ、そうですね~」
アンジェリカは気付いたようだ。
本当に、驚く程聡明な娘だ。
幾らなんでも、俺が気づけない精霊の力をアマンダが持っているならばそれを解明しない事には話にならない。



「アマンダには後で俺に付き合って貰うからな」
取り敢えずこの問題は後にして、使い方の説明に入る。



実際に指輪を使うのは素人でも簡単だ。
頭の中で仕舞おうと思えば、身体の中の水の精霊さんがそれを指輪に伝える。

指輪がそれを受け術式を発動し、ターゲットが転送される。

一応、生きている物には反応しないようにしてある。
間違って転送されたら、ぶっそうだからな。


ゼルマ、グロリア、ヴィオラの三人は、言われた通り色々出し入れして試している。
アマンダがそれを羨ましそうに眺め、アンジェリカが感心したように見ている。


一応使える事を確認出来たので、彼女達を連れて隣のホールに移る。



ああ今まで触れてなかったが、通常の食事をしている食堂はサブでありメインはその隣のホールである。
まあ、パーティーを開く訳でも無いので普段は閉じたままだ。



何も置いてない部屋の中央に、大きめのシートを広げた。
準備を整え、俺は自分が使っている指輪の二つに収納してあった様々な食材をシートの上に展開した。




「うわあ、いっぱいある!」
「凄い量だな」
「こんなに入るんだ」
機会があれば適当に買い漁ったパンやケーキ。

こちらでは手に入りにくいと思った食材等が山程ある。

結構入るから、ついつい買っちゃうんだよね。


「まあ、何で指輪を渡したかもう判ったと思うが、宜しく頼む」
そう、どこぞの青狸と一緒で収拾がつかなくなっていたのだ。

「分類して、しまうんですね~」
アンジェリカがそう言うと、残りの皆も納得したように頷く。


「アマンダ、お前は俺と一緒だ」
目の前にある見たことも無い様々な食材に、目をキラキラさせていたアマンダの頭に手を置き言い聞かせる。

振り向いたアマンダは、捨てられた子犬のような目で俺を見つめる。


「帰ってきたら、少し皆から貰え! それまで我慢しろ」
まあ、アマンダにすれば宝の山だろう。

後で食べられると言う事で何とか諦めたようだが、他の娘達も合わせて食べすぎが怖いな…

この調子だと早々にエクササイズでも………



うん!レオタード仕入れねば!

いかんいかん!
後だ後。



「じゃ、後は宜しく頼む。アマンダ、一緒について来い」
アマンダは、後ろ髪が引かれるかのように何度も振り向きながら俺に続く。

他の四人はアマンダの様子に、心配すべきか呆れるべきなのか複雑な表情を浮かべて見送っていた。








アマンダを連れて部屋に戻ると俺は、出掛ける用意をする。
俺自身の魔法で、彼女の異常(と言うかどうかそれすらも不明だが)に気がつかなかった以上、これに詳しいやつの所に連れて行くに限る。

そう、龍の八王子さんである。
彼なら、アマンダの身体にある『なにか』について適格な意見を言う事が出来るであろう。


そんな事を思いながら出かけ易い服装に着替える俺を、アマンダは見てて良いのかどうか迷うようにワタワタしている。


そういや、彼女はメイド服のままだ。

これで良いか。

そう思って足元を見ると、サンダルである。
しまった、まだ靴を揃えてなかった。

取りあえずで彼女達に配ったサンダル履きのままだ。
室内ならばそれで良いが、外に出るとなると少し不味い。



何か無いかと考えると、運動靴があるのを思い出した。
体操服とセットで揃えたのだ。




レオタードを用意するまで、体操服でエクササイズも中々良いかな。
うん、それも捨てがたい………







「ご主人さま?」
俺の手が止まっている事に気づいたアマンダが怪訝そうに聞いてくる。


「あ、ああ、なんでもない。それより靴を履き替えてくれ」
俺は平静を装い、指輪から靴を取り出す。
多分アマンダならば、このサイズで大丈夫だろう。


アマンダは靴を受け取ると興味深そうにしげしげと見つめる。
まんま学校指定の白いスニーカーだが、その作りは珍しいに違いない。


「あっ、履かなきゃ!」
慌てて彼女はキョロキョロ辺りを見回す。
多分座る所を探しているのだろう。


「その辺のソファを使って良いから」
「ハイ、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げ、俺の正面のソファに腰を下ろす姿はまるで小動物の様で中々可愛い。


だが、その後がいけない。



『なんで君は、俺の真正面で運動靴を履き替えようとしやがるのですか!』



真正面のソファに腰を下ろし運動靴を履くために足を持ち上げたら、それは中々楽しい眺めじゃないですか!

おおっ!
見えそで見えない生足が眩しい。


イヤイヤ違う、違う!


「どうだ?」
何とか履いたのか、立ち上がりその場で歩いてみているアマンダに俺は声を掛ける。


「う~ん、少しきついです」
ふむ、思ったより足は大きいのか?
それとも履き方が悪いのか。


「座ってみ」
促されたアマンダはちょこんとソファに腰を下ろす。

俺は仕方なく、いや本当に仕方なくだからな!
彼女の前に屈み込み、足のサイズを確認する。


うんうん、毎日手入れは欠かさない生足が…
いかん!
今日はどうしたんだ俺!


「う、うん、少しきつそうだな」
一回り大きいサイズの靴を取出し、履き替えさせる。


「これでどうだ?」
アマンダが立ち上がり、ぴょんと飛び上がったりしながら試している。


いかん!いかん!
至近距離でメイド姿の美少女が飛び跳ねている!


ダメだ、理性が…



「丁度いいです! こんな素敵な靴をありがとうございます」
深々とお辞儀をし顔を上げたそこには、感謝の念のこもったつぶらな瞳が俺を見つめていた。


切れかけた理性が何とか踏み留まった瞬間である。



そう、今はいくら何でも不味い。


彼女が何故精霊を操れたのか確認もしないままでは、話にならない。

落ち着け、俺!

ふうっと息を吐いて、彼女を連れて出かける旨を他の娘達に伝えに行こうとした。



「外に出るから、上からこれでも羽織っときなさい」
ふと思いつき、ついでに一緒にしまってあったジャージの上着を取出し彼女に渡す。


そう、メイドルックに赤いジャージがどれだけ破壊力があるなど考えもしないままで。





ホールに顔を出すと、四人で大量の食材の仕分けを始めていた。
三つの指輪にどのように仕舞うか、興味はあるがこれも彼女達の仕事なので好きにさせる。

四人とも、俺がアマンダを連れて来たので手を休めて集まって来る。


「これから出かけるので、昼食は適当に取るように」
色々聞きたそうな顔をしているが、今は無視して早く彼女を連れて行こう。


「アマンダ、取りあえず俺にくっつけ」
八王子さんのいる筈の村は杖に覚えさせたので、転移で行ける。

「えっ、は、ハイ」
俺が杖を出したのを見て、アマンダが慌てて俺に抱きついて来る。

あっ、な、中々、こ、これは…

それなりの心地よい膨らみが腰に押し付けられる。
赤いジャージが何だか禁断の世界に向かうようで、妖しい。


「いってらっしゃいませ」
ハッと気が付けば、四人が頭を下げている。

何ともしまらない表情のまま、俺は慌てて術式を展開するのだった。








---------------------------------おまけ--------------------------


それは、俺が「皆でお風呂計画」を断念し、ゼルマが部屋を訪れたあの日の更に数時間後。

俺を見つめながら、ゼルマがゆっくりと語り出した。




私は十歳まで、伯爵令嬢として何不自由無く育てられた。

お転婆な子供だったと思う。
いつも御付のばあやを置いてきぼりにし、庭の中を走り回っていた。

動物も大好きで、小さな頃から館にある厩は私のお気に入りの場所だった。

フリフリのドレスを着ておとなしく座って御本を読んでいる姿は私には似合わなかった。
その格好のままで、走り回る私を両親は苦笑いしながら、諦めてくれた。

動きやすいズボンタイプの服を誂えて貰い、男の子と間違われる事も度々だった。

五歳の時に、初めて自分専用の杖を貰い、簡単なコモンマジックが発動した時は、感動を覚えた。
でも、魔法はお勉強であり、私の好きな遊びじゃなかった。

だから、言われるままに練習はしたけど、どちらかと言えば、早く一人で馬に乗りたいと思っていたものだ。


そんな何も知らない幸せな生活は、十歳の時に突然終わった。


お父様が、ドラゴンに跨った騎士達に連れて行かれた。

当時は何が起こったのかも判らず、お母様に抱かれ震えているだけだった。

だけど、今なら判る。
お父様には、横領の嫌疑が掛けられたのだった。

お父様のもっとも信頼していたアルベール子爵、この人の訴えで、帝国が動いたのでした。

アルベール卿は、お父様を訴える気は無かったそうです。

帝都の西部に新たに建設されていた離宮に関して、その建築資金の用途に不明な点が多々発生していたのでした。
離宮の建築は、新しい皇帝に対する諸侯からの献上の形を取っていました。

その為、建設には監督官として、ブッフバルト公爵が任じられ、お父様はその下で実質的な監督をしていたのです。

このような豪華な離宮の建築にはありがちな事ですが、その費用は予定を大きく超え、諸侯に対して追加の拠出が求められました。

それも二回三回と回数を重ねるに連れ、疑問に思うものも出てくるのは当然です。

そうです、横流しが行われているのではと、アルベール卿は疑ったのでした。

そして、調べ上げて行く内に、多額の資金が使途不明として消えている事を突き止めます。

アルベール卿は、この事実をお父様に報告されたそうです。
そして、その翌日お父様は拘束されたのでした。

お父様がそんな事をなさる筈は無い。
それがお母様の言葉でした。

だけど、出てくる証拠は全てお父様の有罪を裏付けるものばかりでした。
アルバート卿も、色々手を尽くして下さいましたが、これが裏返る事はありませんでした。

結局、お父様は爵位を剥奪された上領地の没収、そして投獄されたのでした。

領地は当面、アルベール卿が管理する事となり、私とお母様は屋敷の片隅で生活して行く事を許されました。

ですが、六年後お父様が牢で亡くなったとアルベール卿から聞かされました。
それを聞いたお母様が、自ら命を絶ったのは、翌日の事でした。

十六才の時、私はついに両親も亡くなり、天涯孤独の身の上となってしまいました。

アルベール卿は、このまま屋敷に住んでいても良いと言って下さいましたが、最早父も母もいない屋敷に興味はありませんでした。

幸い、母方の親戚までは類は及んでなかったので、そちらにお世話になる事をアルベール卿に告げたのでした。

ところが翌朝、アルベール卿が驚くべき書類を持って私の元に来られたのです。

2万エキュの借用書です。

お父様がアルベール卿から借り受けたもので、ちゃんとお父様のサインがありました。

アルベール卿は残念そうに、私に言うのでした。

ヴェスターテ伯爵には多大の恩を感じていたと。
だから、私達をここに住まわしていた。
だけど、母も亡くなり、私が出て行くとなると、流石にこの借金は返して貰わねばならないと。

私は目の前が真っ暗になるようでした。

確かに、アルベール卿は私達に親切にして下さいました。
ですが、母は、その目つきが厭だといつもぼやいていたのです。

アルベール卿のその目つきについては、ただ母だけに向けられていたせいか、その時までは私は気づきもしていませんでした。

だけど、判ってしまいました。
アルベール卿は、母亡き今私が欲しいのだと。

母に横恋慕し、それが叶わないとなると、その娘に手を出そうとする。
最低の行いに、私はアルベール卿の申し出を受け入れる訳には行きませんでした。

結果、激怒したアルベール卿は、私を商人に売り渡してしまいます。

2万エキュで商人に引き取られた私は、ある程度設備の整った邸宅に箱詰め状態にされました。

その頃には私も、自分の価値と言うものが何処にあるのか判っていました。

元貴族の娘、これこそ高額にて取引される理由なのです。
貴族が私を孕ませれば、生まれて来る子供は間違いなくメイジの資質を持って生まれてきます。

しかも、元伯爵家ですから、家柄等にも問題はありません。

それだけに、私の買い手は中々見つかりませんでした。

二年近くもその屋敷で過ごす間、私は只管自らの肉体を鍛え続けました。
相手はメイジですから、杖も持たない私が叶う訳はありません。

ですが、閨に入る時は、メイジも杖を置きます。

そうなれば、後は力任せの勝負です。
私が、その辺りの貴族よりも力があれば。

そう、無理矢理襲われる事も防げるでしょう。

笑わないで下さい。
当時は真剣にそう思ったのです。

今なら、魔法で拘束してから襲う事すら出来るのは判りますが、当時の私にはそれが精一杯の反抗でした。

十八歳になった私を、商人は帝都の宿に連れてきました。
いよいよ売られるのかと構えていたのですが、やはり買い手は現れません。

1年近くその宿で暮らし、だんだんその生活にも飽きてきた時にここに連れて来られました。

私を即金で買い取る財力、そしてメイジとしての途轍もない力。

これは、私を魅了しました。

ひょっとしたら、もしかしたら、ヴェスターテ家の再興すら可能ではないか。

ご主人様に愛して頂いて、子供が生まれれば、そんな夢も現実になるかもしれない。
それどころか、ご主人様自身がヴェスターテ家を継いで下さるかもしれない。

いえ、勿論子供が出来て、ヴェスターテの名前を継いで貰えれば、嬉しいのは間違いありません。
でも、子供が出来なくても。
ご主人さまに奉仕するメイドの一人でも。

こうして、ご主人さまに愛して頂けるなら、今のゼルマは幸せです…










「と言う夢をみました」


「いやゼルマ、それを俺に言われても」




「叶えて下さい」
そう言って、ゼルマは再び俺の胸に顔を埋めるのだった。



[11205] ハーレムを作ろう(八王子さんはいい人です)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/12 12:26
なだらかな丘陵地帯、後方には深い森が広がっている。
更に遠方には万年雪が連なる山々がそびえ立っていた。


突然、その丘陵の一画に粒状の光の渦とでも言うべき物が現れた。

そして、瞬きする間もなくそこには二人の人間が立っていた。


「はわわ~」
男性の腰に両手をしっかりと巻き付け、足元が覚束なさげに立つ少女の口から何とも頼りなさ気な声が漏れる。

「おーい、もう着いてるぞ」
「あっ、ホントだ、あっ、わっ、わ~」
少女は抱きついている自分自身に気が付いたのか、真っ赤に顔を染めながら身体を離す。

「そこまで露骨にされると、悲しいぞ」
「えっ、いや、そうじゃないです。ご主人さまは優しいですし、美味しいものを、いえ、そうじゃ」
アマンダが、手をワタワタと振り回しながら必死になっている。
中々面白い。

「スマン、スマン冗談だ」
五人の中ではアマンダが一番からかいやすい。
まあ、一番年下のせいもあるのだろう。



「からかわれた!ご主人さまにからかわれた!」
まだブツブツ何か言ってるアマンダを放っておき、俺は周りを見回す。

丘から見下ろす草原には細い轍の後が走り抜けており、それはこの下辺りで二つに分岐していた。

先日訪れた時には、確か丘の反対側でファイト率いる傭兵団と八王子さんがドンパチやっていたんだよなあ。



「さあて、どっちかなあ」
確か村は二つあった筈だ。
あの時はさっさと引き上げてしまい、八王子さんの居場所がどちらの村か聞いてなかった。

ちゃんと八王子さんに聞いておけば良かった。


「えっ、こっちですよ?」
アマンダが左手を指差していた。

「こっちって?」
彼女の言ってる事の意味が判らず聞き返してしまう。

「アマンダの家ですけど?」

アマンダの家?
まて、どう言う事だ?


俺は八王子さんに会いにきた。
アマンダはここを自分の家のある所と言ってる。



うん、偶然だ。


広いゲルマニアの中で、たまたま八王子さんの住まいとアマンダの家が同じ土地にある。







ありえね!



俺は大きくため息を吐き、アマンダを見つめた。

多分八王子さんがなんかやったんだろうなあ。
まあ、アマンダが精霊を操れる理由が判ったから良いか。



「ほら、行くぞ!」
「ハイ!」
落ち込む俺を見て、何か間違ったかと不安そうだったアマンダだが、俺が促すと元気に歩き出すのだった。




村に着くまでアマンダに水を向けると、色々話てくれた。

父、母、弟、妹の五人家族である事。
家計が苦しくて、自分が働きに出る事になった事。
近所の街かと思ったら、なんと帝都まで行く事になってびっくりした事。
村を出る時、皆であの丘まで見送りに来てくれた事。


「あー、そう言えば、出掛ける時に、めったに顔を見ないキンヤさんも来て下さって、無事帰って来れるようにっておまじないしてくれたんです」
「お礼に行かなきゃ、こうやって顔を見せに戻れたんですから」
やっぱり、八王子欣也さんのおかげか。


きっと、守護の精霊契約みたいなものをアマンダに施したのだろう。
知らないままで、アマンダをてごめにしようものなら、俺も痛い目にあったんだろうな。


うん?


「アマンダ、キンヤさんがおまじないを掛けたのはお前だけか?」
「えっ、一緒に奉公に上がる事になった二人にも掛けて下さいましたけど?」
俺は顔から血の気が引く。


「そ、その二人は、どこに奉公に上がったのかな?」
「帝都まで一緒だったんですけど、そこで別れちゃったんです」



やばい。



もし、八王子さんが掛けた精霊契約が俺の考えるようなものなら。
彼女らに危害を加えようとすると、発動するようなものなら。


間違いなく大騒ぎになる。


最初は間違いなく血が出るのだ。
無理強いしようとそうでなくても、危害を加えようとしていると認識されるのは間違いない。
そうすると、精霊が護りに入る。
メイジが魔法を使っても敗れない障壁を形成できる娘が現れる事となる。
それも判っているだけで、二箇所で…
騒ぎにならない筈が無い。



「あっ、キンヤさーん!」
アマンダが軽く駆け出して行く。

その先には、八王子欣也さんがいつもの白いローブのようなものを纏い待ち受けていた。




「おお、アマンダ!無事戻ったか、良かった良かった」
八王子さんが、駆け寄ったアマンダの頭を撫でている。

まあ、この人(龍)は悪気はないんだよなあ。


「八王子さん」
「うん?どうした、アル?」
少し苛立った俺の声色に、怪訝そうに聞いて来る。
俺がここにいる事は不思議に思わないんですね、八王子さん。


「あー、この娘、アマンダに精霊の契約を施したのは八王子さんですよね」

「うむ、そうじゃ、村から出れば危険が一杯じゃからの」


やっぱり。


外は危険が多いので何か守りになるものをと、頼まれた八王子さんは、精霊達に彼女達の護衛をお願いしたとの事だった。

アマンダを含め、全部で五人に契約を施していた。

その内二人は近隣の街、オットブルンで奉公しており、頑張って働いているとの便りも届いていた。


だが、アマンダを含めた三人が遠くに働きに出たのか連絡がない。

両親が心配して、相談に来ており捜しに行こうかどうしようか悩んでいた。
精霊が働いた形跡もないので、危害を加えられている訳でもないだけに判断がつかなかった。


そう思っていると、アマンダを連れて俺がやって来たと言う訳だ。


「アマンダ、後で行くから実家に顔を出して来なさい」
「はい!判りました!」
アマンダはペコリと頭を下げ、掛け去っていった。


「八王子さん、その精霊の契約って襲われたりしたって働きますか」
「当たり前じゃろ、その為の契約だからな」

「じゃ、合意の上の処女喪失の場合はどうです。多分血がでますよ」
「あー、そうなると判断が難しいのお。精霊がどう判断するかは微妙じゃの」

俺は溜め息を吐き出し、アマンダの場合の事情を八王子さんに説明した。

彼女は、多分騙されてヴィンドボナまで連れて来られていた。
しかも、俺の処へ99年の雇用契約と言うふざけた契約で売られたのだ。

そして契約の中身には肉体奉仕も含まれていた。

他の二人が何処に行ったかは知らないが、同じような契約に差し替えられて売られている可能性は高い。


「むう、それはいかんの、直ぐにでも助けに行かねば」
八王子さんの周りで空気の渦が巻き起こる。

「あっ、ちょ、ちょっとまって下さい、八王子さん」
「なんじゃ、一刻も猶予はないぞ。乙女の危機じゃ、急がねばならん!」
やばい、八王子さんが龍に戻りヴィンドボナに現れたら末代までの語り草になってしまう。


「ああ、私が行ってきますので、精霊の見つけ方だけ教えてください!」
「なんと、アルが行ってくれるのか、それは助かる、感謝じゃ!」



結局、俺がヴィンドボナに戻り、二人の娘を救出せざるを得なくなってしまった。

ホンと、八王子さん本人(本龍?)は悪い龍じゃないんだけどなあ…









「う~ん、これは何かな~」
アンジェリカが、また何か知らない物を見つけてホールから出て行く。

厨房の分析機に聞きに行ったのだ。


まったく、いつまで経っても終わらないでしょ。
グロリアは目の前のパンを一つ一つ名前を確認し、指輪に収納して行きながらそう思う。

指輪に収納するのは簡単だった。
大体三メイル位の所にあるものなら、しまいたいとグロリアが強く思えば勝手に収納してくれる。

やっかいなのは、取り出す時だ。
具体的なイメージを持って思い浮かべないと出てこない。

その物の名前が判っているとイメージを思い浮かべやすくなる。
だから、名前の判らない物は確認作業が必要になる。



別にアンが遊んでいる訳じゃないのよね。
判ってはいるのだが、嬉々として走っていくアンジェリカを見ると、愚痴の一つも言いたくなる。


うううん、違うわね。

グロリアは、そっとため息を吐く。
気になる事が多すぎるのだ。

嫌な女だわ、私って…
ご主人さまを起こしに行ったゼルマの戻りが遅い事に、何だか不安を覚えた。


この指輪を使える理由に推測がついた時、アン以外四人が使える事に驚くと共に他の三人が疎ましく感じてしまった。

まあ、アマンダはご主人さまのあの驚き様からすると違うんだろうけど。

ゼルマは良い、いや良くはないけど、最初からライバルになると思ってた。
それに、私たちは元々そう言う事を望まれて雇われているのだから仕方ない。


だがヴィオラの場合は違う。
勿論ヴィオラがご主人さまとそういう関係になるのは、嫌だけど仕方ないと思う。

でも、何時の間にと考えると心が苛立つのだ。

初日の夜に、ご主人さまにしょ、あっ、ち、契りを交わして。
例え意味の無いプライドに過ぎないにしろ、自分が一番最初と思ってた。

だけど、ヴィオラの態度を見ていると、ご主人さまとの逢瀬は多分その前だ。
たったそれだけの事なのにグロリアは心がざわめく。


出掛けて行ったご主人さまとアマンダも気になる。
行き先がどこかと言うのはまあ、あまり気にならない。

それより、あの赤い上着。
外出用の上っ張りなんだろうが、鮮やかな色彩が目を引く。

私達にも支給されるのかしら?

グロリアは、自分があの赤い上っ張りを羽織りご主人さまについて行く姿を思い浮べる。
ピッタリと身体を密着させ、二人で消えて行く。


なんか、ロマンチックだわ…


グロリアは赤らむ頬を押え夢見るのだった。





まったく、グロリアは見てて飽きない。
菓子類を指輪に格納しながら、ゼルマはグロリアを見てそう思う。

普段はしっかりしていて、ゼルマ自身も含めて姉のような雰囲気を醸し出しているのに。
自分の考えに沈み込むと雰囲気がガラっと変わってしまう。

今も、さっきまでの強ばったような表情が変わり、イヤンイヤンと呟きながら身体をくねらせている。

多分、ご主人さまとの甘い逢瀬でも想像してるのだろう。
まあ、おかげで朝の遅延も有耶無耶になりそうでありがたい。



おっ、アンジェリカが戻って来た。


「アンジェリカ、今度はなんだった?」

「うーん、とっても便利そうな物?」
アンジェリカ自身が少し困惑したような表情で答えて来た。


「あのね、今ご主人さまから頂いた下着着けてるよね~」
突然何を言いだすのかと、ゼルマは疑問に思う。

グロリアとヴィオラも不思議そうに手を休めてこちらを見てる。

「あ、ああ、ブラジャーとパンティだな、着けてるが?」
中々履き心地も良いし、胸の納まりも良いから重宝している。
何と言っても乳首が服に擦れないのは、本当にありがたい。

「あー、そのパンティの方、月のモノが来たらどうするのかな~」
ふむ、確かに。

「布をあてがってベッドで寝てるしかないな」
あんな素敵なパンティを汚す訳にも行くまい。

「でね~、これを使うみたいなのよね~」
そう言ってアンジェリカが小箱を取り出した。


アンジェリカの説明に、全員が納得した。
アマンダが帰って来たら、教えるものがまた増えた。

大量の食料品に混じって、このような物が幾つか出て来るのだ。
化粧品が出て来た時は、さすがに全員の手が止まった。

パンティストッキングと言うのは多分靴下のようなものであろうが、あんなに薄くて役に立つのであろうか?


一応、ご主人さまに確認する為によけてあるが、アンジェリカは喜んでそんな物ばかり捜している。



しかし、アマンダをご主人さまは何処に連れて行ったのか?

あの様子だと、どうして指輪が使えるのかの確認である事は間違いないだろう。

四系統以外の魔法が含まれた特殊な魔道具。

ご主人さまと、ま、まぐ…
うん、考えるのも恥ずかしいものだ。
とにかく、そう言った関係になれば使えるのであろう。



しかし、ヴィオラだ。


そうではないかと思っていたが、彼女は否定していた。
嘘を付いている様にも思えないのだが?

「ヴィオラ」
やはり、本人に確認すべきだろう。

「なんですか?ゼルマさん」
野菜類をせっせと指輪に収納していたヴィオラが顔を上げる。

「ヴィオラはご主人さまに襲われてないんだよな」
「ハイ、そうですよ。ご主人さまから罰を受けてますから」
罰と言いながら、嬉しそうにヴィオラは答えてくる。


この辺りも良く判らない。
罰ならば、悲しくないのか。
私なら、襲って貰えないのは悲しいぞ。

うん、最初は痛かったが、アレは良いも…
違う、違う!
顔を赤らめながらゼルマは気を取り直す。
危ない、口に出てたら大変だった。


「では、何故ヴィオラが指輪を使えるのだ?」
改めて、ヴィオラに問い直す。

「えっ?ゼルマさんやグロリアさんも使ってますけど」
「そ、それは、ご主人さまと…」
しまった!
そんな事言える訳無い。






「ヴィオラさ~ん、ゼルマさんとグロリアさんは、ご主人さまとやっちゃったんですよ~」



時が止まる。
アンジェリカは、普通にそう言ってのけた。


「アンジェリカ!」
グロリアが真っ赤になって叫ぶ。

「なんて事を言うの!」

「え~、違うんですか~」
「そりゃ、間違・っ・て…」
ああ、グロリアが自爆だ。
本当に、プシューっと音が聞こえそうになる位真っ赤になって、その場にへたり込んだ。


こうなったらもう、自棄だ!

「ああ、まあ、そう言う事だ」
うん、開き直れば恥ずかしくなんて、無いったら、無い!
顔が真っ赤になっているのも、ほ、ホールが熱いからだ!

「ですよね~、でね~、ご主人さまと寝たら指輪が使えると思ったんですよ~」
アンジェリカも同じ結論に達していたか。

「ええっ?でも、私、やってません!」
イヤ、ヴィオラ、同性としても、その言い方はどうかと思うぞ。

「だよね~、だから三人に共通で、アンに無い事って何かあります~」
まあ、アンジェリカがいて良かった。

結局、グロリアと二人であたふたする中、アンジェリカが三人から状況を聞き出してくれたのだ。


そりゃ何度か真っ赤になって、絶句する事もあった。
何回なんてどんな関係あるのか?
アンジェリカ、そんなに目をキラキラさせて聞かないで欲しい。

グロリアが私の答えに唖然としたのに、勝ったと思ったのは秘密だ。



「水の秘薬ね~」
アンジェリカが得意げに皆に告げる。

「アンジェリカ…」
おお!
グロリアの後ろに青白い炎が見える!
本当に、今日は色々なグロリアが見れる!

「それって、かな~り最初に話さなかったかしら?」
うんうん、それはゼルマも聞きたい。

「ええ~、でも、他の可能性も検討しなきゃ~」
しかし、アンジェリカには通用しないようだ。
グロリアが諦めたように、ため息を吐いた。

「まあ、良いわ、ゼルマはどう思う?」


「水の秘薬だな、元々精霊の涙とも称されるものだ」

「そうよね、でも魔法にはこんな効果ってあるの?」
グロリアが聞いてくるのも無理はない。

「心を鎮める効果や、治療魔法の補助はきっとその役割の一部なのだろう」

ゼルマが習った魔法の知識は四系統魔法の範疇に入る使い方だけである。
だけどご主人さまは、その中に入らない魔法が使われていると言っていた。

「指輪の制御に水の秘薬の力が使われているとしたら、それがどのようなものかは、多分ご主人さま位しか知らないのではないか」
ゼルマはそうまとめる。
どの道、今の自分達の知識では、これ以上考えても判る物でもない・


「そうですよね~、全く凄い御方ですよね~、ご主人さまって」
アンジェリカの単純な賞賛に、全員が同意するのだった。








八王子さんがアマンダ達に契約させた精霊とは、なんと火の精霊だった。

「なんで、火の精霊なんかと契約させたんですか、八王子さん」
俺は頭を抱えたくなった。
水の精霊と違い、火の精霊は攻撃的な精霊である。
それ故その防御も水のように、相手を阻むと言うよりは、攻撃してくる相手を撃退するものである。
まあ簡単に言えば、水なら折れる、火なら燃やされると言う事だ。

どちらにしても碌な結果にならないが、破壊力は水よりも遥かに強いのは間違いない。

「そうは言ってもな、アル、水は主と契約しておるじゃろうが」
「ああ、そうですね、この世界の水の精霊は私との契約に縛られていますね」
この人(龍)の場合は、限度を知らないからなあ。
困った事に中間等と言う器用な事は考えていない。
八王子さんにすれば精霊は、それぞれの属性で一つしかないのだ。

まあ俺の例で判るように、精霊を呼び出しても、精霊王とか言うトップクラスしか呼び出せないのだ。

そうすると、水の精霊は俺と契約している為、八王子さん的には他の精霊にしようとなる。

結果、火の精霊に友達がいない(普通はいないが)俺には判別出来なかったとなる。


「判りました、それでどうすれば火の精霊を感知できますか」
「うむ、それならもう頼んだぞ、ほれ」

ああっ!


物凄くいやな予感がする。
特に、背中にいやな輻射熱を感じる。

俺は諦めて背中を向いた。


火がいました。

熱いです。
大きな大きな火の塊です。
ファイヤーボールとは違い丸くは無く、ただ燃えているだけでした。

「火の偉大なる精霊アータルよ、汝の力をこのものに分け与えよ」
八王子さんが朗々と、詠唱する。

「あっ、ち、ちょっと、ああっ」
火の塊の一片が、俺に向かって飛んで来てまとわり付く。

全身を炎に包まれるが、熱さは耐えうるレベルである。
いや、普通なら耐え切れない熱さかもしれないが、水の精霊との契約のせいで何とかなったのだろう。


全身を炎が駆け巡っているような感覚が暫く続く。

やがてつま先から、頭の上まで身体中を走り回っていた炎が鳩尾の少し奥辺りに納まりだすように感じられた。

そしてふっと言う感じで、それまでの感覚が消えさっていた。




「うむ、問題はなさそうじゃな」
「ち、ちょっと待ってくださいよ、八王子さん何するんですか?」
流石に俺も抗議の声を上げざるを得ない。

いや、実際に抗議して怒らせたら終わりだけどな。



「おめでとうじゃ、アル。これでお主は水と火の精霊を操る唯一のヒトじゃ」
「えっ、そんな…」
誰もそんな事望んでないんですが、八王子さん…

「普通はいないじゃろ、二つの精霊を操れるモノなぞ」
いや、それでなくても十分チートな魔法使いなんです。
これ以上、力を得ても使い道がありません。


「じゃが、気をつけるのじゃぞ、お主は世界を滅ぼせる。我のようにな」
あっ、あああっ、あーっ!
判ってしまった。
八王子さんの魂胆が。
単に、このおっさん、自分と同じような仲間を増やしたいだけだ!

ぜってーこの状況を楽しんでやがる。


「ほれ、これで娘御達の居場所は判るであろう。
 それどころか、娘御達と契約した精霊達も主の言う事をきくであろう」
そりゃ、聞くでしょうよ。

火の精霊に対するお願いと契約者としての俺の立場ならば、圧倒的に俺の方が強い。


「それじゃ、頼んだぞ、娘御達を宜しくじゃ、ほれ、行った行った」
ああもう、腹が立つ!
いつか絶対仕返ししてやる!

だけど、相手が龍だからなあ。
八王子さんみたいな化け物、俺がどんな力を手に入れても適う訳ない。
あっ、でも八王子さんも俺を倒せなくはなるか。

止め止め、考えるだけ無駄だ。

さっさと娘御を助けに行った方がよさそうだ。


俺は、ヴィンドボナの屋敷に向かって転移するのだった。


あっ、アマンダ置いてきてしまった。



まあ、後で迎えに来れば良いか。






[11205] ハーレムを作ろう(観光案内をしよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/13 22:27
本編で語られているゲルマニアの設定は、作者独自の設定です。
ゼロの使い魔とは全く関係ありません。
それをご了承の上で本文をお読み頂ければ幸いです。

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屋敷に戻ると、様子を見にホールに向かう。

「あっ、ご主人さまおかえりなさいませ」
ヴィオラがいち早く気が付き、立ち上がり出迎えてくれる。

「「「お帰りなさいませ」」」
他の三人も慌てて立ち上がり頭を下げてくる。

何だが、全員に尊敬の眼差しで見つめられているようだが、何があったんだ。

訳が判らないのは面映いが今は聞いている暇は無い。


「あー、今度は帝都に行って来るので、留守番宜しく」
「あっ、ご主人さま」
それだけ告げて出て行こうとする俺に、グロリアが声を掛ける。

「うん? なんだ」
「あ、あのアマンダは?」
おおそうか、アマンダを置いてきたのだ。

「彼女の実家に置いてきた」
「あっ…そ、そうですか」
また訳が判らん反応が返ってくる。
後で迎えに行くだけなのに、どうして皆暗くなるのだ。


「彼女の事は後だ。 今は急がなきゃならんのでな」
それだけ告げると俺は私室に駆け込んだ。

こちらに戻ったのは、服を着替える為だ。
八王子さんのように、真っ直ぐ突っ込んで奪取して去るのは簡単なのだが、後々が面倒だ。

それよりここは穏便に事を図りたい。
金で済めばそれに越した事は無い。

だから、舐められないようにそれ相応の服装が必要となる。


ドラゴンの革をなめして作られたコート。
見るからに高そうである。

やたらフリルや襞の多いシルクのシャツ。
手間が掛かるので勿論高い。

所々に宝石をあしらった幅広のベルト、バックルは金製である。
やっぱり高い、特に宝石が高い。

ピカピカに磨き上げられた革靴。
きっと高い。




本物ならば…

日本のコスプレイヤーをなめてはいけない。
探せばこの位手に入るのだ。
まあ、ベルトはこちらの本当に高いものだが。
何せ、宝石の偽者は見る人が見れば判るそうだからな。


とにかく、如何にも高そうな服装に身を包むと俺は一階に降りる。

心配そうに集まっていた四人に軽く挨拶をして、俺は光に包まれた。





帝都ヴィンドボナは大きな街である。
ガリアやトリステインの連中は認めようとはしないだろうが、ガリアの王都リュティスやトリスタニアよりも遥かに大きい。
アルビオンのシティオブサウスゴーダが有数の大都市と認められているが、そんなもの比較にならない程大きな都市である。

これは、元々ゲルマニアの建国事情からして当然と言うべき結果だった。
ゲルマニアの地で発展して来た12の都市国家が、ガリアやトリステインに対抗するようにして建国した国家である。
こちらが皇帝と名乗っているのに、下に見ようとする他国に対して張り合うように発展した国なのだ。

南東のミュッゲル湖、北西のテーゲル湖、南西のグローセル湖の三つの湖に囲まれた広大なエリアがヴィンドボナとみなされている。

元々何もないエリアに、それぞれの都市国家の中心として人工的に作られた帝都でありそれ故、広大なエリアが用意されたのである。

実質的な帝都は、その広大なエリアの四分の一程度が市街地として広がっているに過ぎないが、それでも広大である事は間違いない。


東のミュッゲル湖と西のテーゲル湖を繋ぐように流れる川沿いに街が作られており、テーゲル湖よりの河川を引き込むようにしてホーフブルグ宮殿が造営されている。
西に宮殿があり、そこから東に向かってカイザー大通りが真っ直ぐに伸びている。

道幅100メイルのカイザー大通りは5リーグに渡って伸びており、宮殿の反対側は半径300メイルの大広場で終わっている。
両側には、行政府の建物から選帝公と呼ばれる12の公爵家の別邸、更には有力貴族のマンション、豪商の本店等が立ち並んでいる。


西の大広場は、ヴィンドボナを取り囲む、シュチェチン、アイムスビュテル、アルトシュタット、オッフェンバッハ、モーリツブルグの諸都市へと続く道の基点となっている。

現実には、帝都の位置を決め、それに対して諸侯の諸都市から競うように道を伸ばした結果なのだ。
今では、はっきりとした見分けはつかないが、それぞれの道沿いに諸都市の色合いが見受けられる。

大広場を中心に、三本の大通りが同心円状に形作られている。
カイザー大通り沿いの別宅以外に、帝都の本宅として、二本目と三番目の道の間には諸侯の豪邸が立ち並んでいる。
外側に諸侯の邸宅が配置されいるのは、いざと言う時、外縁道路を抜け宮殿に素早く到着する為と言う表向きの理由。
実際は、これよりも内側だと諸侯間の邸宅どうしの距離が近すぎ、いらぬ軋轢を生むという理由があった。

結果として、一番内側の通り沿いに商店等の各種店舗が発達する事となり、現在のヴィンドボナの繁栄の元となったのだから皮肉なものである。


で、長くなったが、今俺はその一番内側の通り沿いに来ている。

火の精霊の反応から、八王子さんの村から連れて来られた娘は、今いるヴィンドボナの北東部ではなく南東部辺りにいるようだ。

真っ直ぐに彼女達の元に行くのは簡単だが、俺は彼女達を斡旋している商人を知らない。
だが、アマンダ達を俺に斡旋した商人ならば知っている。

そう、ライナルト・ヴェステマン、主に北東に広がる二つの公爵領を中心に口入屋として商売をしているヴェステマン商会の会頭である。
口入屋とは、貴族が雇用する召使や執事、商人の奉公人の斡旋等を主に取り扱う職業である。

ちなみに、俺の領地のある北方辺境領と呼ばれるエリアは、この二つの公爵領の外側にある。
コウォブジェクを中心都市とするポモージュ辺境伯の管理下の一男爵と言うのがゲルマニアでの俺の正式の立場だ。


石造りの二階建ての商館、扉の上には『ヴェステマン商会』の文字が麗々しく躍っている。




さて、茶番劇を始めますか。








―その頃の屋敷での一幕―

「アマンダ~」
ヴィオラが泣きながら叫んでいた。

「落ち着け、まだそうだと決まった訳ではない!」
ゼルマが声を強張らせて叫んでいる。
そう言いながらも、ゼルマもほぼ間違いないと思っているのは口には出せない。

「大丈夫ですよ~、きっと帰ってきますよ~」
何故、皆が大騒ぎしているのか理解出来ないアンジェリカは、取りあえず慰めの言葉を吐く。

「でも、その方がアマンダには幸せなのかも…」
ご主人さまは、アマンダを実家に置いてきたと言っていた。
ご主人さまの知らない力を持っているアマンダは、それ程危険だったのだ。
そう思えば、殺されたりしないだけましじゃないだろうか。

それに…

ライバルは少ない方が良いわよね…

今度は黒いグロリアがそこにいた。



―その頃のアマンダ―

「でねー、こんなおいしいお菓子や食べ物が一杯あるんだよー」
ポケットに常に隠し持っている、飴を弟と妹に渡しながらアマンダは母親にそう告げる。

「そうかい、そうかい、良かったね、奉公先が良い処で」
母親はニコニコしながらアマンダの話を聞いていた。

「ああ、本当に心配したんだぞ、連絡もないままだからな」
父親も良かった良かったと頷きながらも答える。

「そうなのよねー、ご主人さま、一寸怖い所もあるけど、優しくて良い人なんだよ。
 昨日もね…」

アマンダの突然の里帰りは、まだまだ続きそうだった。











「これは、これはバルクフォン卿、ようこそいらっしゃいました」
ヴェステマン商会のライナルト・ヴェステマン本人が、にこやかに立ち上がり出迎えてくれた。

一男爵に過ぎない俺に対しては過分すぎる応対である。
まあ、今現在金に糸目を付けずに、二十人からの乙女を集めてくれと依頼している。

既に、五人に対しては莫大な金額を支払っており、まだその三倍の金額が手に入る可能性があるのだ。
愛想が良いのも当然かもしれない。

勧められるままソファに腰を下ろすと、すぐさま飲み物が運ばれて来る。
この辺りの対応が上手くなければ、商売は勤まらないと言う所であろう。

ここを訪れた理由は、娘っ子の救出がメインではあるが、俺にはそれ以外の目的もある。
その為には、下手に焦らず上手く付き合わねばならない。

お茶を飲みながら、暫く天候がどうの、帝都の話題等の世間話がひとしきり続く。
年の頃では五十前後であろう。
ヴェステマンは終始にこやかな表情を崩さない。

「ところで、本日はどのような用件でお立ち寄り頂いたのでしょうか?」
俺が切り出さないと見切りを付けたようで、視線に少し鋭さを込めて問い掛けてきた。

「ああ、忙しい処、お邪魔して申し訳ない。三件程伺いたい事があったので寄らせて頂いた」
ほうっと言う表情を浮かべ、俺の話を更に聞きますと言う体勢を示してくる。

「一件は、いや二件はそちらの仕事に関連する事だな。 もう一つはお願いだ」
「お願いですか?」

「ああ、良い小麦が手元にあるので、それを売却したいのだ」
「小麦ですか、それですと流石に私共の手では難しいかと」
流石に小麦と聞いて、ヴェステマンの口元に苦笑いが浮かぶ。

「イヤイヤ、私もまさか、貴兄の店で小麦が売れるとは考えていないよ。 紹介して欲しいのだ」
「ああそうですか、やはり小麦と言うと、フリッチェ、ボーテ、ケーラー、ランマースのどこかでしょうね」
ヴェステマンが上げたのは、ゲルマニアの四大商人と呼ばれる穀物商である。
堅実な線で行けば、信用が高いボーテ商会、そして何かと黒い噂が流れるが利益が大きいランマース商会、この二つが本命である。
何とか、ヴェステマン経由で紹介状を貰えれば後々楽になるだろう。


「そうなんだが、どこが良いのかさっぱり判らん」
俺は困ったように両手を上げて見せる。

「この小麦なのだが、かなり質は良いのだ。ただ問題はゲルマニア、いやハルケギニアの何処を探しても同じものは見つからんと言う品なのだ」
俺は、ヴェステマンを商人としてはかなり信頼している。
幾つかの口入屋の社員に対して強制的な聞き取りも行い、ヴェステマンが所謂まともな商売を行なう事を確認したのだ。

「貴兄も気づいておられよう、私は生粋のゲルマニア生まれではない」
「ええっ、そうなのですか!」
うーむ、俺ではヴェステマンの驚きが本音かどうかの区別はつかない。

「ああ、実は東方の出身でね。どう言う訳か、その縁でこの小麦を裁く羽目になったのだ」
「ほおう、そうなのですか」
うん、興味は示してくれた……と、思う。

「なんでも、あちらから船で渡って来たらしい。
 私には想像もつかんが、どうやら連中は海路での連絡路を確保したようだ」
「海路ですか。 しかし北方は氷の海と聞きますが?」
よし、食いついたな。
単なる相槌ではなく質問が出たのだ、間違いあるまい。

「氷の海を渡れるそうだ。 信じられんがな、ただ今回の航海で船がどうやらもたんらしい」
「それで、小麦ですか」
流石に商人、理解が早い。

「ああ、船を作りたいそうだ。その資金だな」
「なるほど、判りました。そうなると、なるべく高く買い取ってくれそうなのは、ランマース、いや、堅実な処でボーテですかな」
やはり、同じ判断か。

「そうなのだが、ご存知のように私は一男爵だ。 両商会とも余りにも敷居が高すぎる」
「判りました、このライナルト・ヴェステマン、バルクフォン卿の為に紹介状をお書き致しましょう。
 幸い、両商会とも懇意にはさせて頂いてますので、何とかなると思います」
良し、まずは第一段階はクリアだな。
流石に、異国との商取引の可能性があると聞いて、乗ってこないようなやつは商人じゃない。

「おお、ありがたい! このアルバート、恩は忘れん」
「そんな大げさなものではありませんよ。
 しかし、どちらが宜しいでしょうかね」
ヴェステマンが考え込む。

上手く行って、異国との交易路を握る事が出来れば、その商会の利益は計り知れない。
ヴェステマン自身が、それにより直接的な利益、即ち貿易に参画する気があるならば、堅実なボーテ商会。
あくまでも口入屋として、この話を紹介したとして恩を売るならば、短期的な見返りが期待できるランマースと言うところか。

「よし、ボーテ商会が宜しいかと存じます。
 あそこは堅実ですが、その代わり確実に小麦を捌いてくれるでしょう」
「では、宜しく頼む」


まだ、二つも用件があるんだよなあ、流石にこう言う会話は疲れるわ…



二件目は、メイド達の話だ。
当初の予定では来週の中頃、こちらの言い方で言うならば、エオローの週、マンの曜日までに新たな召使候補を連れて来て貰う事になっていた。
それの確認である。

今の時点で、まだ三人しか集まっていないと言う事なので、期間を延ばそうと言う事となった。
元々、こちらも五人で手一杯なので、次の娘達が来るのを延ばそうと思っていたので問題は無い。

結局一週間、ティワズの週まで延ばす事とした。

また同時に料理人を三人程雇いたい旨を伝え、これについては二三日で連絡しますと、返事を貰った。

流石に、メイド五人で料理を作るのは、素人ばかりでは限度がある。
実際、料理本を翻訳しないといけないのではないかと考えており、無理がありすぎたと反省したのだ。
面倒だか、料理人には水の精霊にお願いし、守秘義務を守らすしかない。



さて、後は八王子さんの娘っ子の件だ。


「それで、もう一件お有りですね」
ヴェステマンは、ニコニコと聞いてくる。
ここまでは、悪い話ではない。
紹介状一枚で色々夢が見れるし、人集めの期間の猶予も得た。
その上、料理人を新たに雇いたいと言う話を持って来たのだから機嫌が悪くなる筈も無い。


「あー、言い難いのだが、五人雇った召使の内一人がどうやら騙されて連れて来られたらしい」
「なんと!」
ヴェステマンの顔が固まる。
そりゃそうだろう。
胡乱な商売をしている口入屋ではなく、信用第一の堅実なヴェステマン商会なのだ。
そんな噂が流れたら、大変である。

「書類上は何ら問題ない。 確かに契約はそうなっているし、彼女のサインもついていた」
「そ、そうですか」
最悪の事態では無い事に、明らかに安堵が見える。
ヴェステマン商会も騙されたと主張出来れば、まだましである。

「アマンダ、ああその騙された娘の名前だ、彼女に関してはどうやら私の屋敷で働く事には問題は無い様なので内々で処理できる」
「あ、ありがとうございます」
少し驚かせ過ぎたか、流石に堅実第一を標榜しているだけはある。

「でだ、彼女に聞くと、彼女以外に村から後二人帝都に来ているらしい」
「それはいけません。しかし当商会で斡旋したのは一人だけですが?」

「それはアマンダからも聞いている。
 彼女の村の長者に頼まれてな、見つけ出して連れ戻したいのだ。
 出来れば、どこから斡旋されたのか、教えて貰いたい」

ヴェステマンは、すぐさま商人の名前を教えてくれた。
ギルベルト・ゲルル、全国から人員を集めるのを主な仕事にしている口入屋だ。
しかも、私が行こうとすると、店のものを一緒に付けてくれた。

まあ、普通は仕入先は教えないが、不正が行なわれたとなれば、別と言うところであろう。

俺は、後で報告がてら紹介状を貰いに来ると告げヴェステマン商会を後にした。
そして、やけにガタイの良いネッケと言う兄ちゃんを連れてゲルル商会の元へ急ぐのだった。


ゲルル商会は、全国から人員を集めており、特に諸都市との繋がりは無い。
このような商会は多くがヴィンドボナの東側に店舗を構えている。

まあ、東側には主要都市は無く、東方辺境領があるだけなのでどうしてもこの傾向が強い。

どうやら、まだ娘っ子二人はこちらにいるようで、火の精霊の反応が強くなって来る。
どこかに売られていたら、また他所に回らねばならない所だったので、一安心である。



建物の規模は、先ほどのヴェステマン商会よりも大きなものだった。
ただ、入り口は馬車が通れる位のアーチ型の通路が建物に直接設けられており、ここが中間業者である事を物語っている。

大きな建物は、地方から集められた奉公人が奉公先が決まるまでの宿泊施設も兼ねているのだろう。
まだ小学生かと思うような子供が、水汲みの手伝いをしているのも見受けられる。
就業年齢の違いをまざまざと見せつけられるが、社会が違うのだからどうしようもない。

対応は、ヴェステマン商会から派遣されたネッケがやってくれるので、彼が親方風の男と話しているのを遠くから見ているだけだ。


どうやら話は付いたようで、ネッケが親方と一緒にこちらに歩いて来る。


「ギルベルト・ゲルル、口入屋だ」
無愛想な態度で、男が告げる。

「アルバート・コウ・バルクフォン」
俺も特に話す事も無いので、同様に名前だけを告げる。

「話は、ネッケから聞いた。アマンダだっけ、彼女と一緒に来たのはそこにいる二人だ」
俺はゲルルの指差す方を見つめる。

そこには、先ほど見かけた小学生位の子供が二人で一杯のバケツを運んでいた。









ゲルルから書類を見せて貰ったが、勿論そこには何の不備も無い。
まあ、あったらここにはいないだろう。

俺は不正を暴く事が目的ではないので、二人の金額について相談する。
通常なら、このような卸業者から一般のユーザーが商品を買える事は無い。

今回は、ネッケもヴェステマン商会から出っ張って来ている以上、ゲルルも譲歩せざるを得なかった。


流石に、あの年齢ですぐさま買い手が付く訳も無く、値段は二人合わせてもアマンダの半分も行かなかった。







俺は買い取った二人を連れて、取り合えずヴェステマン商会に戻る。
リリーとクリスティーナと言う名前の二人は、おとなしくついて来る。

ヴェステマン商会で、推薦状を受け取ると、呼んで貰った馬車に乗り込み屋敷を目指す。
流石に、二人を連れて転移は出来ない。

二人は馬車の中で、恐々と俺を見ている。

俺は、流石にこんな小さな子が働いているのを見ると、心が痛む。
子供が可愛そうと言う事もあるが、それよりこの年齢から働かざるを得ないゲルマニア、いやハルケギニアと言う社会そのものに心が痛むのだ。

いや違うな、何も出来ない自分に心が痛いのだ。



金は、ゲルマニアで暮す限りは、なに不自由ない。
力は、つい最近火の精霊の契約も得、八王子さん以外は怖いものは無い。

それだけの財力、力がありながら、このような子供達が働かざるを得ない社会を変える事は出来ない。
それが悲しい。

だが同時に、それが出来たとしても多分俺はなにもしないであろうと言う事も理解しているが為、心が痛むのだった。




「あ、あの、おじさん!」
黙り込んでいる俺に対して、どうやら勇気を振り絞ったのか、リリーが話し掛けてきた。

「うん? なんだい?」
子供達には罪は無い。
出来うる限り優しく接してあげよう。


「あ、あのおじさんが、私達がほうこうするひとなのですか?」
「あ、ああ、そうだが?」
この子達は、奉公の意味が判っているのだろうか。



二人は顔を見合わせて頷き合っている。





「「せーの! ふつつかものですが、よろしくおねがいいたします!」」







勿論、馬車の中で激しくずっこける俺がいた。


誰だ、こんな子供に碌でもない事教えたのは!


------------------------------かいせつかな-----------------------
地形は、ベルリンを元にアレンジしたものです。
宮殿は、長い時間に改築を繰り返しているので、ベルリンの宮殿群ではなく、ハプスブルグ家の王宮の名称をお借りしました。
選帝公の諸都市の名前は、地図上の地名より選択しました。
つじつまの合わない点等ご指摘頂ければ幸いです。



[11205] ハーレムを作ろう(村に行こう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:24
一時間半程掛かって馬車は漸く屋敷に着いた。

自分で言うのも何だが、こんなに遠かったのかと言うのが本音だ。
二人の娘っ子は、これだけ揺れるのにぐっすりと寝入っている。

俺は、ひたすらお尻が痛い。
馬に乗った時は、擦れる痛みと、太ももからお尻にかけての筋肉痛だった。
しかし、馬車は長時間座っている為の痛みと、いくら石畳の上とは言えゴツゴツ突き上げるような連続した痛みのせいだ。

せめて板バネ位導入しないと、馬車には乗りたくない。


今までは一人での行動が中心だったが、今後を考えると馬車や移動用のドラゴンも考えなきゃいけない。


めんどい、段々やる事が増えて行く。

ハーレム化だけなのになあ…

建物建てて、女の子集めりゃ即ハーレムと思っていたあの頃が懐かしい。
と言っても高々五日前まではそう思ってたんだよな。


苦笑いしか浮かばない。


まあ、とにかくお子様二人は無事連れて来た。
そのまま村に送り返す積もりだったが、二人と話す限りあまり帰りたがる様子は無い。

親父が酒乱で、子沢山の家族だったりして…

俺は嫌な想像を頭から振り払う。

既に日も落ちて来たので、今日は取り合えず屋敷に泊めてやるか。
あっ、そう言えばアマンダ連れて帰ってこなきゃ。

すっかり忘れていたアマンダの件を思い出し、少し慌てる。
朝連れて行って、そのまま夕方までほってあるのだから、少しヤバイかな。


「ご主人さまに捨てられた~」とか言って泣いてたら、それはそれで可愛いかも。


御者に、屋敷の正面に付ける様に指示を出し、お子様二人を起こす。

「あー、おじさん、とうちゃくですか~」
とか何とか寝ぼけながら言っているのはちょっと可愛い。
まあ、子供に罪は無いとはよく言ったもんだ。


扉を開けて、子供達を中に入れる。

俺が中に入ると、メイド四人が固まっていた。

「お、お帰りなさいませ、あ、あの…」
グロリアがハッとしたように出迎えの言葉を吐くが、その後口をパクパク動かして続かない。

まあ仕方ないわな。
こんな子供を二人も連れ帰ってきたんだから、事情も知らなければ驚くのは当然だ。

「この子等は、アマンダの村の子供だ。
 口入屋にいる所を買い取ってきた。
 ああ、頼まれたんでな」
危ない、危ない。
下手な事言うと、俺がロリコンだと思われそうだ。

「取り合えず今晩は泊まらせるので、風呂にでも入れてやってくれ。
 俺は、アマンダを拾ってこなきゃいかんのでな、後は頼む」
俺は歩き出しながら、そう言う。

「ゼルマ、夕食を二人分追加できるか?」
「えっ、ハイ、大丈夫です」
階段を登りながら、その返事を聞く。

「ああそうだ、グロリア、裁縫が得意だったよな。
 確か、ヴィオラもだな」
「え、あっ、ハイ」
「ハイ、得意です!」
グロリアは躊躇いがちに、ヴィオラは元気一杯に答えてくる。

「じゃ、アンジェリカ、風呂はお前が入れてやれ、グロリア、ヴィオラ部屋まで付いて来い」
返事も待たず、俺はそのまま私室を目指す。

半日以上もコスプレしているのは、結構辛いのだ。
しかも、馬車で一時間半の拷問付きだ。

とっとと、ラフな格好に着替えてアマンダを迎えに行こう。

「あ、あの、ご主人さま?」
「あー、一寸待ってくれ、このベルト、留め金が…」

あちら製の衣装は一応、着脱(そう、着るのではなく着脱に近い)が楽なのだが、こちらで手に入れたベルトは結構厄介だ。

「あっ、手伝います」
ヴィオラが駆け寄りベルトに手を伸ばすと、あっさり外れる。
えっ、何で?

怪訝に思いながらも、フリルが沢山付いたシャツのボタンを外していると、後ろからグロリアがシャツを脱がしてくれる。

おおっ、な、何だか力が出てきます!


「ご主人さま、着替えはどれに?」
瞬間移動か?
いつの間にか、ヴィオラが寝室の扉から、シャツとパンツ(ズボンの事だからな、念のため)を持って現れる。

「ああ、左のやつで、それと一応マントも頼む」
そう言いながらズボンを脱ごうとすると、さりげなくグロリアが前に回り込んで来る。
手早くホックを外すと、ズボンを抜き下ろされてしまう。

滅茶苦茶、恥ずかしいんですけど。
それに、乱暴モノが元気になりかけとります。

このまま、パンツ下ろされたらとってもうれし恥ずかしの状況になってしまうと思うと、元気にならない筈が無い!

「あっ…」
グロリアの顔が強張る。

「ご主人さま、あちらに…」
「お、おう!」



俺は、ズボンを足首まで下ろした無様な格好で、ソファまで移動する羽目になりました。

期待させてすまない!
靴を脱がずにズボンを下ろしたので、どうする事も出来ません!

結局、左右それぞれの靴を二人掛かりで脱がして貰いました。



かなり嬉しい状況で着替えを済ませ、俺はベッドの上に指輪から服を取り出す。
今現在、指輪に入っている中でSサイズのものだ。

と言っても、今朝アマンダに渡したジャージの上下と、体操服(ブルマ付き)位だが。

「あの子達に合うような小さな服はここにはないのでな。
 二人に、何とかサイズを合わせて貰いたいんだ」
俺はSサイズの体操服を手に取り説明する。

「下着は、一番小さいサイズを適当に見繕ってやってくれ。
 着る服は、これらも含めてこの屋敷にあるものを適当に切り貼りして良いから。
 裁縫道具は、風呂の奥に部屋があっただろ、あそこを探せば出てくる。
 あっ、魔道具は触るなよ、まだ説明してないからな」
そこまで一気に話して、二人の顔を見る。

「「判りました」」
お互い顔を見合わせ頷くと、元気な返事が返ってきた。

うむ理解してくれて、ありがたい。

「じゃ、俺はアマンダを迎えに行って来るから」
そう言うと、俺は杖を取り出し術式を展開した。

うん、やっぱり移動は魔法が楽で良いわ、ホンと。











ご主人さまが急いで二階に上がって行き、グロリアとヴィオラがそれを追い掛けて行くのをゼルマは呆気にとられたように見つめていた。

何と慌しい…

溜め息を吐き出し横を見ると、アンジェリカが二人に話しかけていた。


「ようこそ、不思議の国へ~、私はアンジェリカよ~、貴方達のお名前は~」
アンジェリカ、『不思議の国』て何なんだ。
そりゃこの屋敷はそう言われてもおかしくは無い。

しかし不思議の国で思い浮かべるとしたら昔話のお菓子の家のようなものじゃないか。
あれだと、私達は悪い魔法使いになってしまう。


全く、恐れさせてどうするんだ。


つかつかと、抱き合いながらアンジェリカを見つめて震えている二人の前まで行く。
少し屈み込み、二人と目線を合わせる。


「バルクフォン卿の屋敷にようこそ。
 私はここで召使を勤めているゼルマだ。
 君達、名前は」
二人が顔を見合わせて、頷きあう。

「あ、あの、リリーです」
「クリスティーナ」
ふむ、まだかなり怯えてるな、まあ知らない屋敷に連れて来られたらこんなもんだろう。

「先程のご主人さまの言葉が聞こえたと思うが、二人とも今日は屋敷に泊って貰う。
 明日は帰れると思うので、安心するがよい」
二人とも瞳を大きく見開き驚いた表情を浮かべた。

うん、何かおかしな事を言ったか?

「か、帰るって、どこへですか?」
「あのくちいれやさんの所でしょうか?」
「おじさんが、ご主人さまじゃないのでしょうか?」
「私達、ほうこうにきたのじゃないのでしょうか?」
「か、かえされちゃうのですか?」
「し、しっかくなんでしょうか?」
うおっ、突然堰を切ったように二人が話し出す。

「く、クリスティーナ」
「リリー」
二人は一通り話すとお互いの顔を見つめ合う。
あっ、こりゃダメだ、泣くな。

「「うわぁ~ん!」」
ゼルマがそう思ったときには既に遅く、ロビーには泣き声が響き渡った。




「ゼルマさん! 何泣かせているんですか」
アンジェリカがここぞと突っ込んでくる。

「アンが怯えさせるから、いけないんだぞ」
ゼルマも言い返す。


「二人とも何やってるんですか!」
いつの間にか、ヴィオラが二階から降りて来ていた。

「いや、アンが…」
ゼルマが説明しようとした時には、彼女は二人の前に屈み込んでいた。


「ハイハイ、泣かないの、一体どうしたの、お姉さんに言ってみなさい」
ヴィオラが、普段とは違う口調で二人に話しかけるのをゼルマとアンジェリカは唖然と見つめる。

「し、しっかくなんです~」
「ほうこうできないんです~」
二人はそんなヴィオラに泣きながらも告げている。

「えっ、誰に奉公出来ないの?」
「おじさんです」
「ええっと、ばるくふぉんきょう?」
それを聞いたヴィオラが、きっときつい表情で、ゼルマを睨みつける。
声に出さずに、くちびるが『なんか言ったの?』と動いている。

ゼルマは慌てて首を左右に振る。
ついでに手を横に動かすのも忘れない。

それ程、今のヴィオラは怖かった。


「うーん、それはご主人さまが帰ってきたら聞いてみましょ」
そう言って、ヴィオラが二人の頭を撫ぜる。

「でもね、ご主人さまに奉公したかったらね、泣いてちゃダメになっちゃうよ。
 ご主人さま、明るい子が大好きだから」
「うっ…」
「ぐっ…」
おおっ、見事に二人とも泣くのを堪えようとしている。
凄い、ヴィオラにこんな才能があったなんて。

「偉い、偉い」
そう言って頭を撫でながら、ヴィオラがアンジェリカを目で呼ぶ。

それを見て、アンジェリカもダッシュで駆けつける。
うんうん、今のヴィオラには逆らわない方が身の為だ。



「ご主人さまは、綺麗好きな子が好きだから、このお姉さんとお風呂に入って綺麗、綺麗にしてもらいなさい」
「「はい…」」
二人とも俯きながらそう返事をする。

「あっ、そうそう、ご主人さまは元気な子も好きなんだよね」
「「ハイ!」」
精一杯の大きな声がホールに響き、アンジェリカに連れられ二人は風呂場へと去って行った。







「ふう、ヴィオラすまんな」
「全く、二人してあんな子供を泣かすなんて」
「すまん、すまん、しかしヴィオラは凄いな」
実際泣かしてしまったのは、ゼルマ自身だ。
ヴィオラに何を言われても仕方ない。

「私も、妹とか近所の子供とかの世話は良くさせられたものね~」
少し悲しそうな顔でヴィオラがそう言う。

「そ、そうか、と、ところでご主人さまは?」
ゼルマは慌てて話題を逸らす。
幾らなんでも、ここに奉公に来ている以上、何か悲しい思い出もあるのだろう。

「えっ、お出掛けになられたわ。
 あっという間に着替えられて」
「ほお、どうしてそんなに急いでられるんだろう?
 何か聞いたか?」
ゼルマは、二階で何か言われていないか気になり聞いてみた。

「特に無いわね、まあ多分だけど、日も暮れてきたから早くアマンダを連れて帰って来る為じゃないかなあ」
「まあ、そんなとこかな、何せ私達のご主人さまは、優しいからな」
「そうね、優しいひとだよね」
二人は、顔を見合わせて笑みを浮かべる。

ヴィオラは思う。
確かに、あのご主人さまは優しい人だ。
だから、私は襲われる事は無い。
それは、安心出来る事であり、だからこそ頑張ろうと言う気合も湧き上がって来る。
だけど、どこかでほんの少し、ほんの少しだけ悲しいと言う感情があるのをヴィオラは気が付かない。


「ところで、二階の用は終わったのか?」
「あっ、いけない!」
グロリアと服をどうするか相談していた所で、子供の泣き声が聞こえて飛び出したのだ。
早く戻らなきゃ。

「大丈夫よヴィオラ、どのみち下の作業室でなきゃ作業出来ないから持って降りてきちゃった」
グロリアが、手に衣服を持って降りて来ていた。






一瞬の内に室内から、外へと転移は終了する。
まだ日は残っているが、余り時間はなさそうだ。
暗くなってしまうと、こちらの世界は本当に真っ暗だからな。

取り合えず、村に向かうか。
杖を手にしたままフライの魔法で、俺は急いで飛び上がった。


トンと軽く地面に着地し、辺りを見回す。

「さて、アマンダはどこにいるんだ?」
村と言っても家が固まって建っている訳じゃない。
あちらに一軒、こちらに一軒というような感じでまばらに家があるだけだ。
人影がまるでないので、どこかの家の扉を叩くしかなさそうだ。

「八王子さんもどこにいるんだ?」
全く俺が来た事くらい、気が付いているだろうに。

あっ、そうか探せば良いんだ。

八王子さんが俺を感じられるように、俺も八王子さんが感覚としてどこにいるかぐらいは判る筈だ。

「ああ、またせたな、アル、問題は無かったようじゃな」
絶妙のタイミングで、しかも後ろから声を掛けて下さるのは優しい八王子さん以外ない。
全く、態とだったら張り倒してやるのに。

「ええ、何とか俺の方で二人とも買い取りました。
 これで、精霊の契約が問題になる事もないでしょう」
「おお、助かる、アル、感謝じゃ」
「ハイハイ、良いですよ八王子さん」
俺は手を振り、何でも無いと答える。

「処であの二人、あまり村に帰りたがらないんですが、何かあるんですか」
それより、二人の事情を確認しておこう。

「さてのう?何故かのう?我にも検討もつかんぞ」
八王子さんも首を捻っている。

「どんな家庭なんですか?」
「うん、この村ではごく普通じゃの。
 両方とも親父が酒飲みで子沢山、普通の煩い家族じゃよ」



ハイ、ビンゴ!


全く持って、テンプレな家庭環境じゃないか。
そりゃ、家帰れば邪魔者扱いされそうなのは目に見えている。

仕方ない、屋敷で下働きでもさせるか。
まあ、領地で奉公させると言うのもあるしな。


「あー、大体事情は判りました。
 まあ、本人達が帰りたいと言うまでうちで預かっときます」
「うむ、大儀じゃ、感謝するぞ」
ウンウンと八王子さんは頷いている。
まあ、龍の八王子さんにすればそんなもんだ。

余りにも生きる時間が違う為、感情移入は中々難しいのだ。
我々もテレビのニュースで戦争のシーンを見ても、そこで出てきた人を助けに行こうとはしないだろう。
可愛そうだと思っても、自分には直接関係ない事と割り切って見ている。

そんな感じで、八王子さんは周りの人間の動きを見ているのだ。
幸せになろうが、不幸になろうが彼の感覚ではそれも『人』と言うモノの生き方だと言う認識らしい。


今回の件にしても、彼が興味を持って見守っている娘に頼まれなければ、『守り』も与える気も無かっただろう。
だから、与える守りも大きすぎる精霊の守りになってしまう。

「今度からは、下手に守りなんて与えないで下さいよ」
「うん、判っておる、以後は我は与えん」
龍神様のご利益が少なくなるが、それでもハルケギニアで大騒ぎになるよりはましだろう。


「あー、ところでアマンダはどこですか、連れて帰りたいんですが?」
「アマンダか、確か村の長の家におったぞ」
「どこか判ります?」
「ああ、こっちじゃ」

俺は、八王子さんに案内されて、村の長の家に向かうのだった。





村の真ん中辺りに、周りよりも大きな家が建っていればそれが村の長の家だ。
小さな村では宿屋も無いので、旅人なんかは村の長の家に行けば大概泊めて貰える。

ちゃんと金を払えば食事も作ってくれるもんだ。
旅人からは様々な情報が得られるし、村の安全対策にもなるからだ。

村の寄り合いなんかも行なわれるので、村の長の家は大きいのだ。

この村の場合もご他聞に漏れず、周りより大きな家が中央に建っていた。


俺と八王子さんがその家に向かって歩いていると、扉が開きアマンダが飛び出して来た。


「ご主人さまあ!」
手を振りながら、ワタワタとこちら目掛けて走ってくる。

「おおアマンダ、待たせたな」
俺も返事をしながら軽く手を上げた。

「お、遅かった、ハアハア、で、です…」
俺の横まで走って来るだけで、息が切れ切れになっている。
アマンダ、もう少し運動した方が良いと思うぞ。

「家族に会えたか?」
「は、ハイ、みんな元気でした」
パッと嬉しそうにアマンダが答える。

「俺の方の用も終わった。それじゃ帰るぞ」
「あっ、ちょ、一寸待って下さい」
俺が帰ると言うと、ワタワタとアマンダが慌て出す。

「どうした? 帰りたくないのか?」
もし、アマンダが村に残ると言うなら別にそれはそれで構わない。
実際、可愛いけど十×歳は俺の範疇外だからな。

「そ、そうじゃないんです。会って欲しい人がいるんです」
結婚したい人を連れて来られても、おとうさんは許しません!
何だか、そんな電波を受信した気がする。

「うん?両親なら遠慮するぞ」
逆も遠慮して置こう。

「違います! 取り合えずついて来て頂けませんか?」
そう言って、アマンダは縋るように俺を見つめる。

おお、これが有名なおねだりのポーズか、中々効果はありそうだ。
手を合わせて頼めば、更に効果は倍増すると言う。

「お願いします!」
ハイ、両手を併せて頼まれたなら断れませんよ。


アマンダに連れられて、俺は村の長の家に入った。

ドアを抜けると、広めの食堂のような部屋である。
六人掛けのテーブルが二つ広がっており、何人かの女性がその内の一つに腰を下ろしていた。

俺が入ってくるのを待っていたのか、すぐさま全員が立ち上がり頭を下げてくる。


「アマンダ、これは?」
俺は怪訝な顔をして、アマンダに聞いた。
何しろ年齢がバラバラで八人もの女性が立っているのだ。

「あの、ご主人さまの処で雇って頂けませんか?」
アマンダがそう言う。

「宜しくお願いします」
それに合わせるように声を揃え、八人の女性が深々と頭を下げる。



今日はきっと、『大凶』なんだろう。
うん、今度あっちに行ったら、川崎大師に厄払いに行こう。
いや、いっそ佐野厄除け大師まで行こうか。

俺はひたすら、現実逃避するのだった。



[11205] ハーレムを作ろう(友に会おう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/15 00:11
「アマンダ、これはどう言う事だ?」
自然と声が冷たくなる。

「えっ、あっ、あの…」
アマンダが真っ青な顔で、震えている。
もう、涙目だ。


さすがに今日はもういい加減にして欲しい。

それでなくても、馬車で一時間半に堪えているのに。
こんな問題まで抱え込みたくない。

「あー、悪いが使用人の募集は口入れ屋を通してだ、現地雇用はやってない」
俺はなるべく冷たく言い放つ。

わざわざ、ヴェステマン商会に頼んで次のメイドの面接を一週間ずらしたと言うのに、こんな人数受け入れられる筈もない。

大体、屋敷のハーレムにはお手つきを入れるつもりはない?
うん?


俺は、殆ど意識もせずに彼女達をサーチしていた。



ぜ、全員未経験者!

どうみても、三十近い女性もいるぞ!

「あ、ご、ご主人…」
アマンダが涙目で何か言い掛けるのを手で制す。

杖を取出し、今度はディクトマジック、いやある程度アレンジが必要か。
術式を構築し展開する。



「と言う事じゃ、頼むぞ、アル」



真面目な顔でそう言ってくる八王子さん。
ハイ、全員火の精霊の守り付き、鋼鉄の処女軍団でした。


絶対! このボケ龍、わざとやってる!


「アマンダ、俺に言うように八王子さんに勧められたのか?」
コクコクとアマンダが頷く。

「八王子さん!どう言うことか説明お願いしますね。」
全く、この人(龍)は何を考えてるんだ。



彼女等は、今まで八王子さんが保護していた。
一応、彼女達の護衛を火の精霊にお願いしていた。

しかし、今回の騒動でそれが出来なくなった。
幸いアルは火の精霊と契約している。

丁度良い、アルにお願いしよう。


「と言う訳じゃ、感謝じゃ、アル」
どう言う訳なんだよ、それって!


大体俺の火の精霊との契約だって、八王子さんが無理矢理だろ。

「契約せんと、二人が見つからんからのう」
ああっ、もう、人の思考に突っ込まんで欲しいなあ!


「偶然じゃ」
どんな偶然なんだよ。
ダメだ、話が続かない。


「判りました、彼女達は俺が保護しますよ。」
俺は、諦めるように頭を振りながら答えた。


「但し、俺の領地でです」
俺は顔を上げ、真っ直ぐ八王子さんを見つめる。
しっかりと言うべき事は言わねば!

「何故かいのう? 彼女達なら、アルと寝ても良いそうじゃぞ」
何を言いだすんだ、この人(エロボケ龍)は!

「主の『はあれむ』と言うのか、その一員に加えれば良いのじゃ」
さすがに、これ以上はまずい。

「判った、判った、それはまた考える!」
とにかく、このタイミングで人数が倍以上増えるのは無理だ。


「そうか、仕方ないの」

「今直ぐと言うのは無理です。月末には迎えに来ますのでそれまでは待って貰いますよ」
とにかく、受け入れるにしても準備が必要だ。

ファイトのおっさんも着いたばかりの今はさすがに場所もない。

「皆もそれで良いか」
女性達も全員頷いてくれた、あ、あれっ?

一人だけ、ニコニコしながら俺を見てる。

うーん?
どこかで見た事あるような、無いような?


(あっ、気が付いた?)
その女性の声が聞こえたような気がした。

彼女は、私、私って手を振って喜んでる。


……………
それは、今まで表に出ることの無かった、アルの記憶。
それが、突然流れ込んでくる。
杖を持ったままだった事もあり、その記憶だけは突然頭の中に鮮明に展開された。


「アリサ……か?」



「いやー、やっと気が付いたねー、もう!アルのい・じ・わ・る!」
俺は今度こそ本当に頭を抱えるのだった。















俺はアマンダとアリサを連れて、屋敷に帰ってきた。

ホールに俺が現れると、メイド姿の子供が、「ヒッ!」と叫んで掛けて行った。
多分、リリーかクリスティーナだろう。

パタパタと足音が響き、全員が集まって来た。

それに気づき、アマンダがパッと手を離す。
アリサは平気な顔で手を抱え込んだままだ。

「こらっ、手を離せ」
「あん、連れないわねえ」
しぶしぶと言う様子で、アリサが手を離すのを全員が驚いた顔で見つめている。

「あー、今後コックを務めてくれるアリサだ」
「ハーイ、みんな宜しくね-」
軽い挨拶と共に、手を振ってくれやがるアリサに俺は苦虫を噛み潰したような顔を向ける。

アリサはそんな俺に、わざとらしくニコッと微笑んで来る。

そんな事やったら、ほら、グロリアとかゼルマとかの顔が引き攣っているじゃないか。


「先に言っとく、彼女はハーフエルフだ。先住魔法は使えるし、年齢はお前達より遥かに年上だ。
 俺の師匠と俺自身の昔からの知り合いでもある」

「あら、女性の年齢は言うものじゃないわ、アル。 私はずーっと20歳なんだ・か・ら・」
一瞬怪訝そうな色を見せるが、すぐさま話題を逸らしてくれるのには助かる。

早く事情をちゃんと説明しとかなきゃな。


「明日から彼女が昼食と夕食の用意をする事になる。皆は彼女の指示で動いて欲しい」
「宜しくね-」
うん、全員あっけに取られている。
まあ、仕方ないわな。


「朝食は、今まで通り全員で用意してくれ」
「は、ハイ」、「ハア」、「判りました~」・・・
納得出来てる訳ないが、とりあえず生返事のようなものが帰ってくる。


「詳しくは、夕食の席で説明する。 今はこいつに事情を説明せねばならんので、夕食は一時間後」
俺は、アリサを促して二階に向かう。


「ああ、向こうで何があったかは、アマンダから聞いてくれ」
「アマンダ! 皆にちゃんと説明するんだぞ!」
「は、ハイ!」
直立不動でアマンダが返事をする。


まあ、皆に質問攻めにあうが良い。






ご主人さまが、二階の奥へと消え、扉が閉まる音が響いた。



「「アマンダ!」」
見事、ゼルマとグロリアの声がシンクロして聞こえた。

「あれは、あれは…」
グロリアは、口をパクパク動かして言葉にならない。

「グロリア、落ち着け」
ゼルマがそんなグロリアの肩を抱き宥める。
先にパニックになった人がいると、後の人は中々パニくれないものだ。

「で、アマンダ、説明してくれるんだろうな」
「は、ハイ! あの、八王子さんがご主人さまの知り合いで、その保護されていた女性の中にアリサさんが紛れ込んでいたんです」
一気にそこまで話して、アマンダが周りを見る。
うん、全員が疑問符だらけを顔に浮かべていた。


「落ち着け、順を追って聞いて行くから」
ゼルマは、とりあえず最初から質問を始めた。


------説明中-------


「そうか、八王子さんが村の賢者で、ご主人さまの古い知り合いだったと」
ゼルマの言葉にウンウンとアマンダが頷く。

「それで~、アマンダが~、賢者様に、八人を雇って欲しいって言うように言われたのよね~」
アンジェリカがその先を続ける。

「すると、ご主人さまが一旦断られたのよね」
グロリアが続けた。
ご主人さまは断られたのだ、これは重要よね。

「そしたら、八王子さんとご主人さまが精霊がどうのこうのと話されて、全員領地で引き受ける事となったと」
ヴィオラが纏める。

「「「「そしたら、あのアリサさんが正体を現して、ご主人さまについてきた!」」」」
全員の声が揃う。


パチパチパチと、横で話を聞いているだけだったお子様二人の拍手が響く。

あちらの世界ならば、全員でハイタッチなんか見れそうな光景である。
そこはハルケギニア、照れくさそうに全員が顔を逸らすだけだった。



「と、とにかくご主人さまの友人なのよね」
グロリアが気を取り直してそう言った。
そりゃ、遠くの国から突然こちらに呼ばれて、友達位出来るわよね。
でも、どうしてあんなに綺麗な人、しかも何だか馴れ馴れしいし。
ひょっとして、ご主人様の愛人?
いや、それどころかお、おお、奥様?
いや、それならば料理を作るなんて。
あっ、でもでも・・・

「しかし、ハーフエルフだと? 危険ではないか」
ブツブツ言い出したグロリアを無視してゼルマが危惧を表明する。

「あっ、でも耳尖ってませんよ」
ヴィオラが気づいた点を指摘する。

「わ、私、村にいた時見かけた事ありますけど、特に怖そうな人じゃなかったです」
アマンダが新たな材料を投下する。

「大丈夫ですよ~、ご主人さまですから~」
アンジェリカが根拠の無い信頼を示す。

「ご、ご主人さまは渡しません!」
そして、意味無き結論を宣言するグロリア。

「クリスティーナ」
「なあに、リリー?」
「私達も頑張りましょう!」
「うん、頑張る!」
お子様二人は、理由無き決意を固めるのだった。








俺はアリサを連れて、部屋に入ると取り合えず封鎖結界を展開する。
そのまま、二つのグラスに氷を精製し酒を入れ一つをアリサに渡した。

「取り合えず、再開を祝して」
「かんぱーい」
俺は一口飲んで、大きくため息を吐く。

「うわ、何これ、おいしー」
口にしたアルコールに、アリサが驚いた声を上げ俺を見つめている。

「バランタイン、21年ものだ、あっちでも相当する酒だぞ」
「へー、良いの飲んでんだー、あっち?」
アリサが伺うように俺を見る。

「そう、俺はアルであって、アルじゃない。別次元、異世界のアルの同位体、年齢だけは28歳のな」
そう言いながら、俺はアリサに事情を話し始めた。




アリサは八王子さんがアルの元に連れてきたのだ。

その時、八王子さんは機嫌よくサハラ上空五千メートルをお散歩中だった。

何せ龍の姿を晒すと、周りが煩くなる。
その点、人間とエルフの仲の悪いこの地、サハラにはあまり誰も寄り付かない。
だから、たまに龍として姿をさらけ出したいと思うと、ここに来ていた。

で、とおっても目の良い八王子さんは、砂漠の中で死に掛けている少女を見つけたのだ。


八王子さんが連れ戻り、アルも一緒に看病した娘がアリサだった。



アリサは、エルフの夫と人間の奥さんの間に生まれたハーフエルフだった。
エルフの里に住み、耳が尖ってないと苛められる事もあったが、一応平和に暮らしていたとの事だった。

それが変わったのが、何度目かの聖地奪還戦争。

何度やっても結果は人間側の敗退であるのは間違いないのだが、それでもエルフ側の被害が皆無と言う訳ではない。

アリサの父親であるエルフは不幸な事に、その戦乱の中で命を落とす。
その知らせを受け、母は狂ってしまった。

元々、自分よりも遥かな長命なエルフの中で暮らす短命種のストレスは相当なものだったのだろう。

そんな所に夫の戦死である。
彼女のストレスは更に高まる。

それは、夫を殺した人と言う種族に対する憎悪。

エルフの村には、耳が尖っていないのはアリサと母親だけと言う状況。

自分は年老いて行くのに、20歳前後まで成長した娘はそこから全く老けない現実。

それを毎日突きつけられ、アリサの母はおかしくなってしまったのだ。

ショックだった。
自分が居たから、母が狂った。
その事実はアリサを打ちのめすのには十分過ぎるものだった。

アリサが死のうと思うのも無理は無い状況だった。



サハラに何も持たずに突入する。
そして歩けるだけ歩き続け、気を失った所を八王子さんに助けられたのだった。



そんな全てを捨てたアリサが、全てを捨てて独り研究に打ち込むアルに興味を持つのも自然の流れだったのかも知れない。



アルは元気になれば追い出す積もりだったが、八王子さんがそれを止めた。

二人の世界を破壊しかけない壮絶な喧嘩の末、アリサは晴れてアルの居城での滞在を認められたのだった。
ちなみに、二人の喧嘩はお互い決定打が出ないまま、アルの魔力切れで終わった。

そして、三人の奇妙な同居の中、アリサはアルに近づいていった。

やがて、閨を共にするまでの関係を築くのだが、それには二十年と言う長い年月が掛かっていた。



八王子さんとアルの共同研究が終わると、八王子さんと同様にアリサも世界を見に飛び出していた。

ただ八王子さんと違い、頻繁に帰ってきてはアルに覚えた新しい料理を食べさし、しばらく生活を共にする。

そして、また別の世界を見に行き、新しい料理を覚えると帰ってくると言う緩やかな生活がしばらく続いた。

しかし、その生活にも破綻が来る。


アルの老化が顕著になって来たのだ。
元々、人よりも遥かに長命なエルフの血を引くアリサである。
百年や二百年では老いの欠片もありはしなかった。

それに対してアル自身、自分の老化を身を持って感じざるを得なかった。

それにつれ、アルはアリサと会うのを嫌がり出す。


アリサにしても、母と同じようにアルも自分を拒否するのではないか。
その思いは、恐怖以外何者でもなかった。



その結果、お互い相手を思いやりながらも段々合う事は無くなって行った。

そう、八王子さんとアルが五十年以上会ってないのと同様に、アリサもアルと会う事は無くなっていたのだった。



アルはアリサの記憶を大切な思い出として、慎重に封印して仕舞い込んでいた。

忘れてしまえば、アリサが悲しむのは判っている。
しかしながら、覚えたままだとアル自身が持たない。

結果として、杖の中に蓄えられた記憶の奥底、思い出すのはアリサとあった時だけと言う封印を施して蓄積されていたのだった。


俺は、自分が召喚されアルが死んだ事。
杖を通して流れ込んだアルの記憶の話、その後八王子さんに会うまでの経緯全てをアリサに語った。

そう、それが多分アルと最も近かったアリサに対する義務だと思ったから。
そして、同時にアルに対する最後の餞だと思ったから。



「で、ここの屋敷を買ってーーー」
「あっ、そっから先は知ってる」
アリサがそこで手を上げて話を止めた。

「知ってる?」
「うん、八王子さんに会った時に聞いたー」
どういう事だそれは?

今度は俺の疑問符にアリサが説明してくれる番だった。


八王子さんと俺が再会してから数日後、アリサはあの村を訪れたのだった。
それは八王子さんから話したい事があるとの連絡だった。

当時、東方と呼ばれる世界に遊びに来ていたアリサはそんな連絡に驚きながらも、村まで飛んで来た。

場所が良く判らなかったので、取り合えずゲルマニアの定点まで転移し、後は空から場所を探すしか無かったのだ。


ちなみに、俺と八王子さん、アリサの実力を比べれば、俺が一番弱い。
まあ、嵌め技等を上手く使えば、俺が勝つ可能性はあるが、それは他の二人も同じである。

要は、ガチで戦えば、絶対的な魔力量の差で俺が敗退する。

そんなアリサを、アルと八王子さんは弟子として鍛えたのだ。
俺としては、八王子さんとアリサの対決を見てみたいと思うのだが、この二人は絶対争わない。
残念だ…



話を戻すが、アリサは八王子さんから、アルが若返ったと言う事実を告げられる。

これだけならば、直ぐにでも俺に会いに行こうと思ったそうだが、同時にもう一つ告げられた事実がアリサを止めた。
すなわち、彼はアルであり、アルで無いと言う謎めいた言葉。


八王子さんも、どう言う事か説明出来なかった。
それじゃ様子を見ようと言う話になり、それ以来あの村に留まり俺の行動を見ていたとの事だった。





駄目だ、もう、立ち上がれない…

道理で、八王子さんが「ハーレム」の事、事細かに知ってる訳だ。
最初から盗み見してやがった。


「方法は判るでしょ」
「ああ、判る」
通常俺は水の精霊との契約に基づいて、先住魔法や他の独自魔法を展開している。
今回のどたばたで火の精霊とも契約したが、アリサはそれ以外の精霊とも友達付き合いなのだ。

アリサがお願いすれば大概の事を精霊が実施してくれる。

水の精霊に頼んだ場合は、俺が唯一の契約者であるだけに、俺に知られてしまう。

しかし、風の精霊、地の精霊、あるいはこの間までの火の精霊に頼む限りは、俺に知られる事無く観察するのは簡単であろう。


と言う訳で、俺がここの不動産を買取る所から、あちらからゼネコンを呼び込みリフォームする所。
領地で、色々作業を行っている所。
そして、新しい召使五人が来て、俺が右往左往する様まで全て知られていた。


「でね、結論出したのよ」
項垂れていた頭を上げて、俺はアリサを見る。

「面白そうじゃない!」
輝くばかりの満面の笑みを浮かべたアリサが、俺に飛びついて来た。




良い雰囲気になり、『これから!』って所で部屋の扉がノックされた。

「ご主人さま、グロリアです。 夕食の用意が出来ました」
封鎖結界をものともせずに、嫉妬の炎を燃やすグロリアさんには不可能は無かったようでした。





ちなみに後でアリサが教えてくれたが、五人を彼女達の意思を無視して襲い掛かっていたら俺の命は無かったようだ。
八王子さんに協力して貰い、二人で俺を消し去るつもりだったらしい。


それと、もっと後で聞いたが、やっぱり若くなったアルを味わってみたかったとの事である。







----------------------------だいじな、だいじな蛇足(15禁だと思う)--------------------------------
本当に、今日は長い一日だった。

八王子さんの村に行って(二回も!)、ヴィンドボナの口入屋にも顔を出し。
馬車にも揺られ、本当に疲れた。

俺はソファに腰を下ろし、オンザロックを口にしながらため息を吐く。

本当に、本当に一日で色々な事があり過ぎる。

全く、明日はのんびりしたいものだ…

……

……

……

誰も来ないか……


アリサは何処へいったんだ?
夕食前の雰囲気ならば、間違い無く来ると思ったのだがなあ…



初日にグロリア、二日目にゼルマ、昨日は無し。

アリサが来ないなら、雰囲気からしても今日位アンジェリカが来てもおかしくないかな。
ひょっとしてヴィオラが意見を変えてやって来る可能性もあるだろう。
それに、まあ来られては困るが、アマンダも。
いや、あれだけ怒られたら来れないか。
イヤイヤ、ごめんなさいって言って来る可能性も…



誰も来ない…



止めよ、むなしいだけだ。


俺はグラスを一気に飲み干すと、そのまま寝室に向かった。


あっ、ちなみにアリサは、フカフカのベッドに感激してしまい、そのまま深い眠りに落ちてしまったそうです。







夢を見ている。
それは俺自身理解できた。
グロリアがいる。
ゼルマもだ。
ヴィオラやアマンダもいる。
そして、俺の下半身に向かって顔を近づけているアンジェリカがいる。

うおっ、これぞハーレム。

当然、全員ネチョネチョ、グチャグチャである。

ああ、アマンダは駄目だろ、イヤイヤこれは夢だからいいか…

おおっ、これは!
下半身を強烈な快感が襲う。

てっ、まてっ!
こりゃ夢じゃない!


俺は、慌ててベッドで起き上がった。

被っていた高級羽根布団、足元辺りが異様に膨らんでいる。

それに、明らかにそこに誰かいるのは身体に掛かる重みで判る。
そして、それが女性であり、今とっても気持ち良い事を彼女にされているのも当然判る。

俺は布団を跳ね除けた。

「あっ、おはようございます。 ご主人さま~」
顔を上げ、ニコッと微笑みながらそう言うアンジェリカがそこにいた。

お前絶対、普通の十八歳じゃないだろ。

一体、そんな際どいテクニック、どこで覚えたんだ…




勿論、美味しく頂きました、まる。



[11205] ハーレムを作ろう(お買い物に行こう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/16 22:23
「頂きまーす」
全員の声が揃い、実に気持ち良い。

さすがに、チビッ子二人は少しずれるのは愛敬だ。


昨晩の夕食と違い、アリサがいないと変な緊張感が無い分楽だ。
まあ、アリサには慣れて貰わなきゃどうしようもないんだが。


「グロリア、ヴィオラ、上手いもんだな」
俺はチビッ子二人が身に付けているメイド服を指し示した。

大量に用意してある黒のメイド服が、仕立て直したかのようにぴったりだった。

ちなみに五人が着ているのは赤み掛かった濃紺の方だ。
素材は一緒だが、差別化を考えて二種類用意したのは正解だったようだ。

「ありがとうございます」
二人とも誉められて嬉しそうだ。

「リリーとクリス、今日から色々学んで頑張れよ!」
「ハイ、がんばります!」
うんうん、元気な返事が返って来る。


しかし、ご主人と言うより大家族の家長にでもなったような感じだな。
うん、今日の俺は機嫌が良いのでそれしきの事、気にもならない。


「あー、私のご飯はー」
全員の顔に緊張が走る。
いや、チビッ子二人とアンジェリカは、変わらないか。

「おはようございます、アリサさん、こちらにどうぞ」
グロリアが素早く立ち上がり、俺から一番遠い席を指し示す。

「えー、私アルの隣が良いなあ」
おお、グロリアとゼルマ、うんヴィオラも顔を強ばらせているな。

「アリサ、遅れて起きてきて無茶言うな、それに、俺の両隣はゲスト用だ」
「ハーイ」
渋々と言う感じでアリサが腰を下ろす。

「はい、アリサさん、おはようございます」
アリサが現われた時点で厨房にプレートを取りに行ったアマンダが、すかさずアリサの前に皿を置く。

「アマンダ、ありがとね、ああ、みなさんおはよう」
アリサがにっこり微笑んで皆を見回す。


「アリサ、あまりふざけるなよ、それでなくとも皆緊張してるんだから」
「はーい」
気のない返事を返して、アリサはフォークを玉子料理に突き立てる。


「あら、おいしい!」
一口食べてみて、驚いたように目の前のオムレツを見つめる。
あー、ゼルマガッツポーズが俺から丸見えだぞ。

「ふーん、チーズにハムね、食材もかなり良いものを使っているわね」
ぶつぶつ言いながら、ぱくぱくと食べだしたアリサのおかげで緊張した雰囲気が紛れる。

俺が再び食事に戻るのを見て、皆も食べ始めるのだった。



「ところで、今日は全員の身体測定をするからな、食事の片付けが済んだら風呂場の更衣室に全員集合するように」
しばらくしてから、俺は全員に告げる。

今日はあちらの世界に行って色々仕入れて来る積もりだ。


「でだ、その後俺はあっちの国まで買い出しに行く」
へえーともほおーとも言うような、感嘆とも驚きとも取れる声が零れる。
うん、アリサも手を止めて聞き入っている。

「でだ、一人サイズを合わすためについて来て貰いたい」
「ハイ!あたし、あたし!」
やはりアリサが一番に反応した。

「あー、アリサ、お前は今回はダメだ。
 まずはここにある魔道具の使い方に慣れて貰わねば、飯がくえん」
「ちぇー、そんなー」
ぶつぶつ言ってるが、諦めたのは判る。

「リリーとクリスもまだダメだ、それとアマンダ、お前もな」
「えっ?私も?」
アマンダがびっくりしたように聞いてくる。

まあ、行きたいと言うよりダメだと言われた事に驚いてる。

「昨日の事を忘れたとは言わせんぞ」
軽く釘を刺すとシュンと小さくなる。


「でだ、残り四人、誰か一人連れて行く」
ゼルマ、アンジェリカ、グロリア、ヴィオラの四人がそれぞれ顔を見合わす。
俺とのお出かけと言う事で行く気満々なのが二人。
ゼルマとグロリアだ。

あっちの国と言う事で興味津々なのがアンジェリカ。

何故か気合いを入れているヴィオラ。

うん、彼女の場合四人に一人と言う状況だけで力が入るのかな?


「でだ、一人選ぶのにこんなもん作った」
籤引きである。
四本の棒に一本だけ色が付いており、それを引いたものが当りとなる。


簡単な説明の後、四人に籤を引かす。

ハイ、予定通りグロリアが当りを引きました。

別に魔法でも何でもない。

こう言う新しい事する場合、大抵グロリアが最初になる。
俺のする事は、グロリアに悩む暇を与えず籤を引かす事だ。

そう、取りやすいように、少し前に浮かせた当り籤を。


ムフフ、やはり色々楽しみたいじゃないですか、特にあの胸とか、胸とか。






さて、身体測定である。

メイド達の健康管理も主人の大切な役目である!

まあ今回はあちらの世界に買い出しに行くのに、彼女達の正確なサイズを知って置く必要があるからだが。
いや、知りたいのは主に靴のサイズだけどね。

いやいや、やはり健康管理は大切!

特に館の食事はおいしいものばかり、俺もデブ専ハーレムなんて遠慮したい。
あ、いや、まあ、グダグダ理由付けしてるだけです。


目の保養と、ムフフな目的です、ハイ。


で、この日の為に用意した体重計や身長を計るあれ、足のサイズを計る器具もある。

それらを下着置場の奥からひっぱり出させている間に、一応目の検査もするのでその準備。
勿論俺は白衣を羽織ってお医者さまルック。


ああ、でも内診は無いからな。

「ふむ、この辺は痛いかね」
「あん、せ、先生、そこは」

と言うようなシチュ、ものすご~~~く憧れます。

でもな~、医者でもないのに、出来ないんだよね。
うん、嘘はつきたくないヘタレです。

うん、久々にヘタレが出たような?



「ご主人さま~、これはどこに置くんですか~」
アンジェリカの声に慌てて現実に戻る俺だった。



準備が出来たので、簡単に各種器具の説明を行なう。

体重計は今後も置いておくので、毎日チェックし急な増減があったら報告するよう念を押す。

正確な体重を計るため、それと身体のサイズを計るので下着姿になるよう指示する。

鍵は下心なんてありませんよと言う表情を如何に上手く作れるかだ。
これが難しい、何せ下心もあるんだから。

メイド達はお互い顔を見合わせて躊躇っている。
そんな中、アリサだけ着ているものをホイホイ脱ぎ捨ててあっと言う間に裸になってしまう。


「アリサ、お前下着は?」
「えっ? 着けてないけど?」
ホントこいつは規格外だ。

「ヴィオラ、奥から合いそうな奴見繕ってやってくれ」
ハイと言う返事を残してヴィオラが下着置場に走って行く。

「アリサは下着が来るまでそこで待ってろ」
「残りはさっさと脱ぐ!始めるぞ!」

まあ、アリサのおかげで全員の躊躇いが消え急いで下着姿になってくれた。



中々見事な眺めです。

ここに彼女達が来た時も同じ姿を目にしたが、今とあの時とでは俺の心の持ち方がかなり違う。
今なら彼女達の下着姿をゆっくりと楽しむ余裕があると言う処か。
うん、実績って大切だな。

まあ、チビッ子二人はおまけだ。


順番に体重計に乗って行く。
ふーん、アマンダは着痩せするタイプだな。

全員の計量が終わる頃にはアリサも下着を着け終わっていた。


「風呂に入った時に言われなかったか?」
俺はさり気なく彼女に聞いた。

「えー、何か言われたけど面倒だったから」
全く、まあ少なくとも彼女達はちゃんと俺の言った事は守ったのだ。

これが変な嫉みや嫉妬なら対策を考えなければならなくなる。


「これ良いね」
アリサが身体を動かしながら言ってくる。

「ああ、俺の国の女性用のだ、ここにいる以上ちゃんと身に付けてくれよ」
そう言って計量を促す。

しかし、エルフの血のせいなのか、アリサはメチャクチャ抜群のプロポーションである。
どこぞの虚無の担い手みたいな巨乳と言う訳でもないが、均整の取れた姿態を惜しみなく曝け出している。


これさえなきゃモテモテだろうに。


俺は、目の前で『おりゃ』とか、『そい』とか言いながら見せ付けるように様々なポーズを取っているアリサを呆れたように見つめるのだった。




体重、身長、足のサイズと計り終わり、視力検査。

これには驚かされた。

皆抜群に目が良い。

アリサは規格外なので勘定に入れないにしても、一番悪いアンジェリカですら、2.0はクリアしている。

計り方が判らないが、一番良さそうなヴィオラなんか、部屋の端に立って一番下のもはっきりと読めるから驚きだ。



最後は嬉し恥ずかし、メジャーでの各部の計測。

それぞれのサイズを計るのと同時に、連れて行くグロリアを基準にどれだけ違うかを計る。
こうすれば、彼女を基準に色々服も揃えられる。


まあ、俺的には十分各自の身体を堪能させて頂けた楽しい時間だったと言っておこう。







今回は、部屋に設置したゲートを使ってあちらの世界へ移動する。

術式を展開すると、ゲートが拡大して人が通るには十分な大きさに広がった。


「グロリア、行くぞ」
「は、ハイ…」
流石に未知のゲートを前にして、グロリアは震えている。
俺は彼女の肩を抱きかかえるようにして、ゲートを潜った。



「あっ、あれっ?」
グロリアが驚いた顔でキョロキョロ辺りを見ている。

屋敷の俺の私室とは違い、明るい室内。
大きな窓からは、カーテン越しに日の光が差し込んでいる。

「ようこそ、日本へ」
「は、はあ…」
グロリアは戸惑いが隠せない。





「おいで、ハルケギニアとの違いを見せてあげよう」
ご主人さまに、手を引かれ窓際に連れて行かれます。

「わあ!」
カーテンが引かれ、目の前に広がる光景に唖然とするしかありませんでした。

ヴィンドボナにあるブリミル教の大聖堂、ううん、あれとは比較にならない高い建物が沢山眼下に広がっていました。

「キャ!」
眼下?
そう、下に見ている事に気がついて慌ててご主人さまにしがみつきました。
建物の中なのでしょうか、こんな高い所なんて信じられません。

「ああ、大丈夫、大丈夫、ここは頑丈な建物の中だから」
それでも、私はご主人さまにしがみついたままでした。
だって、怖いのは事実ですし、こうすればご主人さまにくっついていられます。




おおっ、服の上からとはいえグロリアのむ、胸の感触が…
これは、もう頑張るしかない!

そう、わざわざチートな籤引きまでして、グロリアをこっちに連れてきた理由。
うん、じっくりとグロリアとイタシタカッタンデス。


朝のアンジェリカの過激なお目覚め。
勿論じっくりと楽しませて頂きましたが、何分朝だったので時間に制限がありました。

そりゃ、一回は致しましたが、それだけなんです。





物足りないんです。



でもまだ今の状況だと、呼びつけてイタすなんて事は出来ないヘタレな俺です。

夜まで我慢しかない。
しかも、困った事にアリサまでいる。

そりゃ、彼女なら案外昼間からでもオーケーとか言いそうだが、それはそれで他のメイド'sの視線が怖い。


特にグロリアとかゼルマとか、後グロリアとかの視線が。





で、今に至る訳です。
身体測定なんぞしてしまったお陰で、俺的に準備は万端です。


「グロリア」
俺はゆっくりと彼女を抱きしめる。
「アッ…」
腕の中で、彼女の身体から力が抜けるて行く。
唇を重ねると、グロリアも積極的に応じて来る。



ハイ、最早我慢の限界です。

俺は東京シティレジデンス、28階2LDKに設けられた寝室に彼女を誘うのだった。











「ご主人さま、これで宜しいですか?」
メイド服で連れ回して奇異の目に晒されるのは遠慮したい。

彼女に俺のシャツとジーンズを渡し身に付けさせた。
先程まで身に着けていたメイド服は忘れずに指輪に仕舞い込む。

ちなみに脱ぐ手間が無い分、グロリアの着替えはあっという間でした。


ダボダボのシャツを羽織り、腕は捲り上げています。
ジーンズもベルトで無理矢理腰に止めていますが、裾も捲り上げてます。

おお、カッターシャツ一枚でおねだりさせたくなるような姿です。


とにかく思いました。

美人は何着ても似合うと。






ご主人さまに服をお借りして、サンダルだけはそのままで表に向かいます。
この格好だと、何だがご主人さまに包まれているようで、自然と笑みがこぼれます。


「うん? どした?」
「何でもありません、フフッ」
何がおかしいのかとご主人さまが怪訝な顔をしていますが、教えてあげません。
グロリアだけの秘密にしておきましょう。


鉄のような扉を開き、外に出ます。
明るい通路の突き当たりに、エレベーターがありました。
これは、屋敷にもありましたので、知っています。

でも動き出すと、あちらのあるのより浮き上がるような感覚が強く、またご主人さまにしがみ付けました。


何でもご主人さまのお部屋は、二十八階にあると言う事です。
エレベーターが無ければ、まるで城の尖塔の上まで登るみたいに階段が大変な事になりそうです。

エレベーターから降りて、勝手に開いてゆくガラス製の扉の外に出てびっくり。




「ご、ご主人さま、本当に沢山の人がいますが今日は祭典か何かあるんですか?」
「いや、駅なんだよこれ」





グロリアが唖然とした顔で、目の前を行過ぎる人の流れを見ている。
まあ、今の時間帯ならばこの程度で済んでいるが、通勤時間帯なんか見た日にはどうなる事やら。

「行くぞ、しっかり摑まってないと、はぐれるからな」
「は、ハイ!」
返事と共に、グロリアが腕をきつく握り締めてくる。
うん、頼られていると言うのはこんなに心地良いものだったのかと改めて認識する。

決して、押し付けられる胸の感触が気持ち良いだけじゃないぞ。

今回の目的は、グロリア達の靴を買う事だ。
まあ、折角グロリアを連れてまで来たのだから、お土産代わりに服も買って帰る。


このような買い物は、一度で何でも揃うデパートが良い。
ただ、デパートは山手線に乗って数駅向こうだ。

グロリアが電車に乗れるか不安だが仕方ない。

切符を買うか、スイカにするか少し悩んだがスイカを選択。

自動改札で、切符を入れたら前から飛び出すなんて説明するより、カードをかざす方がありそうに思える。
うん、あれは魔法に近いな。



何とか自動改札は無事に切り抜け、次はエスカレーターだ。
初めてエスカレーターに乗るのはかなり難しいと、昔テレビでやってたからな。

人のいない時を見計らって、グロリアに挑戦させる。

「あっ、うわっ、わっ」
何とか無事に乗る事は出来た。
降りる時もこけそうになったが、俺が支えたので問題は無い。
周りからの視線が少し痛いが、気にしたら負けだ。




「ご、ご主人さま、ま、魔物が迫ってきます!」
「あー、済まん、これからあの中に入るんだ」
「えっ、ええっ!」




ま、魔物のお腹の中に入って移動するなんて。
ご主人さまは『電車』っておっしゃってましたが、もうビクビクものです。
電車は、私達を乗せるとすべるように飛んで行きます。

もう、怖くて怖くてご主人さまにしがみ付いた手を離せません。

あっ、でもおかげでずうっとしがみ付いてられましたから、電車さんに感謝ですね。


扉が開き電車から降りると、またエスカレーターが待ち受けていました。
でも、二回目ですから今度は何とか無事通れました。
ちょっと自慢です。

ご主人さまに頂いたカードをかざして、小さなゲートが開くのはまるで話に聞く迷宮の入り口のようです。

本当に人が多いのに目を回してしまいそうになりながら、やっと落ち着いた所に出ました。


何か宝物庫でしょうか、色々なものが棚に並んで置いてあります。
あっ、綺麗な衣装も沢山ありご主人さまの国の人って、平民でも大金持ちに違いありません。


またエレベーターに乗って、連れて来られた所には沢山の靴が並んでいました。

その靴の数から出来栄えには、本当に驚いてしまいます。



「この辺りが良いかな、グロリア履いてみ」



パンプスの中から適当に選んでグロリアの前に並べる。
色やデザインの好みは全く判らないので、グロリアを連れてきたようなものだった。

結局グロリアが選んだのは、シンプルなローヒールの黒いパンプス。
サイズを併せて人数分揃える。
それでも八人分となると、結構な量だ。

一旦それらを持ち、人気の無い階段の踊り場に向かう。
魔法を使い、指輪に靴を仕舞い込む。

元々この世界では魔力が少なく、以前に魔法を使うのに苦労した。
その経験から、考え出したのがゲート構築の魔法との組み合わせである。

やっている事は、こちらでのゲート構築の魔法の起動。
但し、ゲートそのものはミクロン単位の小さなもの。
それに応じて、屋敷に設置した魔道具が反応する。
小さな穴を通して、魔力を供給するのだ。
要は、こちら側で乏しい魔力をかき集めるのではなく、魔力の豊富なハルケギニアから魔力を供給するのだ。
これにより、最低限の起動術式に必要な魔力だけで、指輪の魔法やゲート構築は可能となった。





靴を買って頂き、次にご主人さまに連れて来られたのは今履いているジーンズが大量に置いてある所でした。
グロリアのジーンズを仕立てて貰えるとの事で、とても嬉しいのですがゼルマ達に悪い気がします。

「全員の分を揃えるから」

ご主人さまがそう言ってくれたので、少し気分が楽になりました。


「あっ、ご主人さまこれはどうでしょう」
同じように見えるジーンズでも一つ一つ仕立てが違っていて凄いです。

ご主人さまが、店の人に何か話しかけました。
すると、店の人が色々なシャツと上着を持って来てくれます。

沢山あり過ぎて、とても一つだけなんて選べそうにありません。

置かれた服を次々に着替えて、どうしても悩んでしまうのは許して欲しいです。





さすが、女の子は何処に行っても女の子だった。

店員に声を掛け、ジーンズに合う上着を適当に見繕って貰った。
段々、グロリアも夢中になり、出される上着を次々に着替えて比較して行く。

こうなると、後は何処の世界でも一緒。
店員となにやら言いながら、色々選んでいる。

しかし、凄いな、方やゲルマニア訛りのハルケギニア語(と言うのかな)、方や日本語。
どうしてお互いの意思疎通が出来ているのか判らないが、店員は次々と服を持ってくる。

結局、その中から六着グロリアに選ばし、サイズに注意しながら全員のシャツと上着を揃えたのだった。





服を買い終わり、グロリアが着替えた服以外を再び指輪に仕舞い込むと今度はスポーツコーナーに向かった。

グロリアとアンジェリカ、それと新たにやって来たアリサの三人の足が大きく運動靴のサイズが合わなかったのだ。

グロリアに運動靴を選ばせている間に、俺は店員に相談だ。

サイズを書いた紙を見せながら、大切なスポーツウェアを仕入れて行く。
そう、エクササイズ用のレオタード。

今回の俺自身の大きな目的の一つだ。

レオタードをおまけのチビッ子用の二つも含めて、八着購入。
その頃にはグロリアの靴も決まり、アンジェリカとアリサ用のも同時に購入した。



流石にグロリアの顔に疲れが見える。
まあ、こちらの世界に初めて来てこれだけ連れ回したのだから仕方ない。

一旦、屋敷に戻りグロリアを開放する事にして、俺は誰もいない一画で転送ゲートを開くのだった。


まあ、俺的には有意義なお買い物だった。
やはりグロリアの胸は偉大だと思ったのは秘密にしておこう。




[11205] ハーレムを作ろう(お仕事をしよう(おまけその4))
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/16 22:15
翌日俺は三日ぶりに領地に飛んだ。

昨日は、一旦グロリアを屋敷に連れ帰ってから、も一度あちらの世界へ転移している。
必要なものの手配や、納品物の確認等結構忙しかったのだ。


ああ、その中にはアリサのコックの服装もある。

渡してやると、嬉々として着替え夕食の時にはその格好で皆と一緒にテーブルに着いていた。

なんかもう、説明するのもめんどいので好きにさせた。


夕食はかなりまともだった。
俺のいない間にゼルマと一波乱あったそうだが、それが良い方に働いたのかメイド達との仲も朝よりは穏やかに見える。

まあ俺の前だけかもしれんが、それならそれで問題ない。

ちなみに、波乱があったのはアマンダが教えてくれたのだ。
ちびっ子ズの解説つきだ。
「ご主人さま、大変だったんですよ」
「たいへんだったです」
「いかりしんとうです」
「ゼルマさんが、アリサ姉さんの態度に怒っちゃって」
「なんだそのたいどは」
「れいぎをわきまえろー」

うん、この三人吉本でも受けると思う。
しかしなんだ、アマンダがちびっ子ズに引き摺られるように、幼児化してる。
まあこれが地なのかもしれんが、これではますます襲えなくなりそうだ。


ま、良いけどな!




とにかく、頼んだ資材が揃ったので俺は領地の館の私室に転移した。

部屋から出ると、たった三日で雰囲気が一変している。
人が住んでいるのといないので、これだけ変わるものかと感心してしまう。

挨拶してくる、傭兵やその奥さんにレオポルド爺さんのいる処を聞くが要領を得ない。

どうやら、走り回っているようだ。


しかし、一階のホールで外に行こうとしている所をようやく捕まえられた。

「おお、お帰りなさいませ旦那さま」
爺さん、俺に気付いて深々と頭を下げて来る。

「ああっ、お話は後で」
何か言い掛けるが、慌てて外に飛び出して行く。


取り敢えず、俺も後に続いた。




館の外、新に建てた傭兵ハウスの前に人だかりが出来ていた。

レオポルド爺さんはその人だかりを押し分けるように、中へ入って行く。
押されてむっとするやつもいるが、それがレオポルドだと気付くと道を開ける。


真ん中には一台の荷馬車が止まっており、その前で男が二人言い争っていた。
一人は傭兵団の一員だろう。
彼が顔を真っ赤にして相手を怒鳴りつけていた。

相手はこの荷馬車の持ち主だろう、ひたすら謝っている。


「だから、何で俺の息子だけ貰えないんだ!」
「すみません、もう無いんです」
「可哀想だろ、このせいで仲間外れにされんだぞ、どうしてくれるんだ!」
何となく、つまらない理由で争っているよな気がする。


それはレオポルド爺さんも同じ思いだったようで、ため息を吐きながら仲裁に入って行った。
周りで見ていた連中も、爺さんが来たことで仕事に戻って行く。

「な!そう思わんか!」
傭兵のおっさんも、今度は爺さんに愚痴りだしている。


まあ、直に納まるだろう。


見回すと、何人かの子供が何かを手に遊んでいるのが目に入った。
あれが問題の品だろう。

取り敢えず俺はそれを見に行く事にした。


どうやら木彫りの動物のようなものだった。

「へえ~、良く出来てる」
子供が振り回しているそれは、荒削りではあるが一応何か判るまで加工されていた。

確かに、金を払ってまで買いたいと言う程のモノではないが、この世界の人寄せの販促物としては十分な出来だった。


相手の男は商人だろうが、まだ店持ちまでは行かない巡回商人か。
大手の傘下なら、人寄せは必要ない。
都市で日用雑貨を買い入れ村々で売り歩き余剰物資を買い上げながら巡回するのを商売としている小商人である。

新しい家が建っており、子供がいたので様子見に立ち寄ったと言った処だろう。
で、手早く済ますために自分が作った木彫りの小物を子供に配ったら足りなかったと。


と言うことは、おっ、あの子か。


俺は貰い損ねた子供を捜す。
一人だけ指を加えて他の子を見てる子は直ぐに見つかった。

「坊主!」
声を掛けて、手招きする。
びっくりしながらも、おずおずと側に寄ってきた。

「坊主だけ、貰いそこねたか?」
「うん、僕だけないの」
そう言うだけで涙目になっている。

まだ世間擦れしてなくて良かった。
都会の子だと、何か小遣い稼ぎが出来るかと探るような目で見てくるのだ。


「じゃあ、おじさんが代わりにいいものあげよう、ほい」
俺はさり気なく、指輪からそれを取り出して子供の前に差し出す。

慌てて差し出した手の上にバラバラと幾つか落としてやる。


「うわ、うわっ!」
子供は驚いて自分の手の上に転がされたガラス玉を見ている。
他の子供たちも、様子に気付いたのか集まって来て覗き込む。

「うわ、綺麗!」
「えっ、何これ」
「いいなあ」


「おまえらも欲しいか?」
「うん、欲しい!」
子供達が一斉に叫ぶ。

「この子にもその木彫りの動物を貸してやれ、そしたらやらんでもない」
「うん、判った」
「ほら」
気の早い子供は直ぐに木彫りの動物を渡そうとするが、件の子供はきらきら光るビー玉を見つめたまま固まっている。

俺は苦笑を浮かべながら、子供達に、少し少なめでビー玉を渡してやる。
全員に配り終えると、子供達は取り返されたら大変とばかり、走り去って行った。


まだ一杯あるんだよなあ。


さすがに、ビー玉を有難がる程ハルケギニアの文化レベルは未開じゃ無かった。


儲かるんじゃないかと、思ったんだがなあ。
俺は自分の失敗を思いだしなから振り返る。



件の商人、傭兵、レオポルド爺さん、全員があっけに取られて俺を見つめていた。

うん?
何か変な事、俺やったのか?





「旦那さま、子供達に何をされたのですか?」
ああ、何をしていたのか見えてないのか。

「ああ、子供達にこれをあげたのだが、いけなかったか?」
まあ、他にも固まる理由があるかも知れないので、ビー玉を一個取出し、爺さんに投げ渡す。


「ガラス玉ですか」
「ガラス玉だな」
「真ん丸ですね」
爺さん、傭兵、商人それぞれの反応だ。

「なるほど、それで」
爺さんが、納得したように言った。

「ああ、そうだ、ディールだったよな、お前の息子か、彼には少し多めに渡して置いたから」
ラインムント・ディール、確かファイトのおっさんが副官として俺に紹介してくれた。
ちなみに、ファイトのおっさんは、小麦を帝都まで輸送中だ。


「それは、ありがとうございます」

うん?
まだ不思議そうな顔色が二人から離れない。
貴族がやっちゃ行けない事なのか?
まあ、後で爺さんに聞こう。


「ところで、君は商人だな、何を扱ってるんだ?」
「あっ、はい、クラインベックと言います」

「バルクフォンだ」
おっ、やはり貴族らしくない行動だったようだ。
この男も驚いている。

しかし、領民の子供に優しくしただけで驚かれるなんて、どれだけ高飛車な貴族ばかりなんだ。


「あっ、はい、日用品を商いしております」
クラインベックは慌てて俺の質問に答える。

「そうなのか、見せて貰えないかな」
「はあ、かまいませんが?」
明らかに疑い深い声でそう言って来た。

うーむ、貴族って本当に嫌われてるんだな。
まあ、難癖つけて、賄賂を要求されたり、品物を没収される等理由は幾らでも思いつけるな。

「心配するな、お前が考えてるような事はせんよ、それよりは儲かるかもしれんぞ」
俺はまだ若いクラインベックを見てニヤッと笑いかける。

クラインベックは考えを読まれた事に慌てるように、荷馬車の商品の説明を始めるのだった。




-----その頃の屋敷での一幕-----------------

一体何なんだあの娘は。

ゼルマはイライラしながら、食事の下準備をしているアリサを見つめる。
何か言われたら直ぐに手伝えるように、ゼルマはここで控えているのだ。


昨日は厨房の様々な器具の使い方を教えたのだが、その時も色々余計な事を聞いてくるのでつい怒鳴りつけてしまった。
全く、アルはどんな人だとか、優しくして貰ったか(ベッドで)なんか、答えられる訳ないだろう。

まあ、その時は素直に謝って来たので逆にこっちが驚いてしまった。


しかし、ご主人さまを『アル』、『アル』と呼び捨てするのだけは許しがたい。
対等に話しかけるのは、ご主人さまの古くからの友人であると言う事で仕方ないであろう。

しかし料理を作ると言う事は、調理人としてご主人さまに雇われたのであろう。
それならば、それなりの態度があるのではないか。

ハーフエルフと言う以上、非常に危険な存在である事は間違いない。
確かに、ご主人さまのあの桁外れな実力からすれば、例えエルフでも負ける事はないとは思う。



イヤ、身贔屓過ぎるのだろうか。


ご主人さまが脅されている?
その可能性も無きにしもあらずか?」

「それは、無いんじゃないですか~」

「うん、アンはどうしてそう思うのだ?」
また口にしてしまったようだ。
最近はもう気にするのを諦めかけている。


ここにいる限り、私の秘密は最早全員に知られてしまっているからな。


「だって、食事の時にご主人さまが窘められたら、従ってましたから~」
なるほど、アンらしい観察だと思う。
彼女はその口調に騙されがちだが、洞察力はずば抜けている。

「アンは、アリサをどう思う?」
やはりここはアンの意見を聞くべきであろう。

「うーん、ご主人さまの愛人ではないですね~」
おや、違うのか?

「私はてっきりそうだと思っていた」
「違いますよ、それなら客間に部屋は取らないでしょ~」
おお、そうか愛人ならご主人さまと同じ部屋である可能性が高い。
でも、一概にそうとは言い切れんのではないか。

「愛妾に別宅を与えるのは王宮ではありふれた事ではないか?」
「あ~、その可能性はありますね~、でも昨日ご主人さまのベッドに忍び込んだ時に違うって言ってられましたし~」
なんだ、ご主人さまに直接聞いたのか。

それだと、その可能性はなさそうだな。
何しろご主人さまは嘘はつかれない。
話せない事、話したく無い事はその旨おっしゃる方だ。











「まて!」
「え~、どこにも行きませんよ~」
アンジェリカがキョロキョロ辺りを見回す。

「ちょっとまて!」
ゼルマは自分の声が強張るのを感じた。

「アン、今何て言ったんだ?」

「違うって言ってられましたし~」
「違う、その前だ!」

「その可能性はありますね~」
「アン、貴様ワザとやってないか?」
ゼルマは顔に青筋を浮かべ、アンジェリカに詰め寄る。


「あ~、判っちゃいました?」
ありゃ、ばれちゃったと言う顔でアンジェリカが舌を出す。

「お、お前、べ、ベッドに…」
ゼルマは、あまりの事にその先が言えない。

「ええ、しっかりとご主人さまに迫っちゃいました~」




「な、な、な、なにい!」


と言うことは、アンは、こ、この前言っていた…
×××××を、く、××で……

「あ~、ゼルマさん~、ゼルマさ~ん」
真っ赤になってその場にへたり込むゼルマをアンジェリカは諦めたように介抱するのだった。





「それで、あ、アンもお手つきなのだな」
少し気を落ち着けたゼルマは、アンジェリカに確認する。

「はい~、三人目ですね~」

え~っと、グロリアさんでしょ、その次がゼルマさんで、私が三人目~
ぶつぶつとそんな事を呟きながら指を折るアンジェリカをゼルマがあっけに取られて見ている。


「アンは良く平気なんだな?」
ゼルマは余りにも普通に話すアンジェリカに、思わず聞いてしまう。

「え~、初めてでしたから、痛みはありましたよ~
 あっ、でも~、聞いていたより痛くは無かったです~」
「いや、それはご主人さまが水の秘薬を使われたからだ。
 実際、私の時もそのおかげで、続けて、あっ、ま、まあ、そう言うことだ」
慌てて余計な事を言いそうになり、ゼルマは必死にごまかす。

「あ~、良いな~、私なんか一回だけですよ~」
ぷうっと膨れながら、アンジェリカがそう返してくる。
ごまかしはどうやら通じなかったようだ。


やっぱり、朝は駄目ですね~、うん、今度は夜にでも~
でも、そうなると、何か理由が必要ですね~


ああ、何だか良くない事をアンが考えている気がする。


「それはそうと、アン、と言うことは指輪が使えるのか?」
「あっ、そうです~、使えます~」
アンジェリカが嬉しそうに指輪をかざす。

「えいっ!」
アンジェリカが指輪にしまい込んでいたものが、目の前に現れる。

「おおっ、ちゃんと使えるな……」
アンジェリカが取り出したのは、ガラス製のボトルである。

「アン、これは何だ?」
ゼルマはアンジェリカが取り出したボトルを指差す。
どう見ても、ご主人さまが愛飲している酒の瓶である。
しかも、中身は無く空の瓶だ。

「酒瓶ですよ~」
「いや、それは私でも判る」
うんうんとアンジェリカが頷いている。

「どうして、こんな空瓶を指輪に入れているのかだ」
「だって~、ご主人さまの前で指輪が使えるか試した時~、しまうものがなかったのでこれにしました~」
そうか、そう言う理由で指輪の中に入っていたのか。

「えやっ!」
空瓶が、再び指輪に仕舞われる。

「アン…」
「ハイ、なんですかゼルマさん」
「やっぱり空瓶は、厨房の裏に出すべきじゃないか?」
あそこには、様々なゴミと一緒に、似たような空瓶が置いてある。




「あっ、そうですね~」
ポンと手を叩いてアンジェリカは、厨房の裏へ走って行くのだった。


--------------------------(おまけ)------------------------
領地での最後の一文は、当初下記の通りを考えておりました。
しかしながら、これ以上広げるのは無理だと言う事で、諦めました。
終わりの見えない、このグダグタ文に決着がついたら…
「ゲルマニア豪商伝:エルンスト・クラインベック」を書いてみたいです。
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クラインベックは考えを読まれた事に慌てるように、荷馬車の商品の説明を始める。

これが後にゲルマニアでも有数の豪商に成り上がる、エルンスト・クラインベックと俺との最初の出会いだった。



[11205] ハーレムを作ろう(売り物を探そう(おまけその5))
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/17 22:25
日用雑貨と一言で表しても、様々なものが荷馬車の中には積まれている。
クラインベックに案内され、幌付きの荷馬車の中を覗き込んだ俺は感心してしまった。

人が辛うじて通れるような隙間があるだけで、荷馬車の中には作り付けの棚が設置されていた。
その棚から溢れんばかりに、上から下まで隙間なく様々なものが積み上げられているのだ。

「何を扱ってると言われましても」
クラインベックは肩を竦め俺に話し掛けてくる。

「何でもですかね?」
そう言われると、俺も頷くしかなかった。


「これは、俺の聞き方が悪かったな」
俺は荷馬車を見上げながら考え込む。


冬を越えれば、領民達には新しい作物の植え付けを始めさせる。

問題は、これから冬を越えなければならない点だった。


今のところ道路整備等の公共事業に従事させ、現金収入を確保させた。
この結果、クラインベックの様な巡回商人が頻繁にやって来ているのだろう。

これにより、狭い領地内でも物が回り初め人々が動き始める。

道を整備しても誰も通らないとなると、寂れるばかりだ。
人が行き交い、物が動いてこそ領地も活気づく。


しかし、冬になるとこの動きが止まる。
雪でも降ろう物なら、商人も訪れなくなる。

春の訪れを夢見ながら、領地は深い眠りに入る。


普通ならそれで良い。
領主が替わり、仕事も貰い来年の植え付け用の新しい作物の種子や種芋も用意されるとの噂が希望に繋がる。


だが、それではまだ足りない。
この冬の間にインフラを整備し、春の訪れと共に一斉に打って出る態勢を作りたい。


その為には、領地内の消費を冬だからと止める訳には行かない。

住民が冬の天気の良い日は買い物に行こうと思える場所がいるのだ。


そう、傭兵ハウスが十件程しかないこの地に、商人が店を構えて損はしないと思わせねばならないのだ。



一番簡単なのは、更に大規模投資を行い、近隣の村落からも人を集めてしまう事だ。
だが別に俺はここに、大都市を作りたい訳ではない。

そんな事すれば、北方辺境伯のみならず、地域の各種ギルドとの軋轢を抱え込む羽目になる。
それに、俺はレオポルド爺さんに言ったように、領民も含めた俺の知り合いが楽しく暮らせればそれで良いのだ。


で考えたのが、商人に売り上げではなく仕入れのメリットを与え、ここに拠点としての店を出さす事。

クラインベックの様な巡回商人が、ここを拠点とし物を仕入れ他の村落に売り捌いてくれないかと言う事だ。


勿論仕入れ元は俺、商人が欲しがる商品をあちらの世界から仕入れて来るのだ。




で話が長くなったが、あちらの世界から仕入れて来るものを悩んでいたのだ。

「仕入れが大変なものは、どんなものがあるんだ?」
クラインベックの荷馬車を見てる限り、俺が何を仕入れようが値段さえ折り合いが付けば買いそうである。

勿論、ハルケギニアで普通に使われているものならばと言う条件は付く。


そうとなれば、彼の欲しがるものを直接聞く事にした。


「そうですね、私が商う物で大変と言えば、まあ塩ですかね?」
「塩?」
塩ならば、海に面したこの辺りでも普通に作っているが?

「海塩は、商いが難しいんですよ。簡単に溶けるでしょ」
「と言う事は岩塩か」
「ご明察、産地が限られますから」
なるほど、密封性の強いビニルパック等ない以上、湿気に弱い海塩は取引に向かないのか。

これはいずれ、面白い商売が出来そうな案は浮かぶが、今は使えんな。


「砂糖は?」
「そんな高価なもの!誰も買ってくれません!」
そうか、仕入れる以前の問題か。
相手が普通の平民しかも農家だ、甘味料なんかよっぽどの機会でもないと手に入らないか。

そりゃ、アマンダやヴィオラの目の色が変わる筈だ。


「蜂蜜なんかは?」
「それならば積んでますが、売れ行きはもう一つですね」
塩や砂糖なら簡単に手に入るのだが中々上手くは行かないものだ。

「あー、一応聞くが香辛料は?」
クラインベックは返事もせずに首を振るだけだった。
まあ、彼が商っているとは思ってもいなかったが。

「他には」
「そうですねー、特に仕入れが難しいものですか」
クラインベックも、悩み込んでしまう。

まあ普通の農民に売るのだ、仕入れが難しいのは売れないものと同意義なのだろう。


「申し訳ない思い付きません」
答えは予想通りだった。


「ああ、ありがとう。参考になった」
「いいえ、お役に立てませんで」


「あの、私からも一つ質問しても良ろしいでしょうか?」

話を終わらそうとしたら今度はクラインベックが、尋ねて来た。


「ああ、何だ?」
「こちらの村で使われている農具はどちらで仕入れられますか?」


案外答えは意外な処から出て来るものだった。



村で使われている農具は、俺があちらのホームセンターを回ってスコップやツルハシを買い漁った時に一緒に買ったものだ。

家庭菜園用に売られていた鋤や鍬を適当に買って、レオポルド爺さんに渡して置いた。
同じような物がこちらでもあったので、それほど気にも止めてなかったのだ。


「爺さん、そんなに違うのか?」
俺は横で話を聞いていた、レオポルド爺さんに尋ねた。


「比較になりませんな」


爺さんが言うには、まず頑丈なのだそうだ。

柄に使われている木が堅くて真っすぐである。
鋤や鍬の鉄製の部分の強度も桁違いに強い。

今までの物だと、歯がなまくらになるか欠けてしまうような石でも、少々のものならなんとかなる。
それに、バランスが良く出来ており、疲労が違うとの事だった。

春に向けてもう少し手に入らないか、いつか相談しようと思っていたそうだ。




クラインベックは、これまで3ヵ月に一度程度の割合で領地を訪れていた。

三年程前からこのルートを巡っていたが、年々村が寂れて行くのを目にしていた。
このままでは、来年はこのルートを諦めざるを得ないと考えていたそうだ。

ところが先月、俺が領主になって初めて巡回して来て驚いた。

領民がこれまでのつけを払うかのように物を買って行くではないか。


理由を聞いても、領主様が変わったとしか教えてくれない。
もっとも、これは爺さんが領民に箝口令をひいていたせいだ。

村を見ても以前と違い活気らしいものが感じられる。

しかも、それは漁村の方も一緒だった。


首を捻りながらも色々頼まれたものを仕入れ、再度この地を訪れたのだ。



更に驚かされた。


道の整備が進んでいる。
領主の館も以前の荒れ果てた雰囲気が見えない。

それどころか、新たに家すら建っていた。

色々知りたい事はあったが、取り敢えず頼まれた品があるので農村に向かった。
そしてその道すがら、畑が耕されているのを目にする。

クラインベックは目を疑った。
この辺りは雪が積もるので、冬小麦の栽培は出来ない。

それなのに、この時期から耕作地を耕す理由が判らない。
畑を耕していた農民を見つけ、理由聞いてみた。

来年の為に葉っぱや土を混ぜ合わせていると言うではないか。
確かに、そんな話も聞いた事はあるが、普通はやらない。
ただでさえ大変な農作業が更に大変になるからだ。

それが、それ程嫌がってないではないか。
何でも新しい鋤や鍬を頂いて、作業がかなり楽になったとの事。

実際見せて貰った農具は、明らかにその品質に差があった。

この鋤や鍬は売れる。
それがクラインベックの結論だった。




------------------(おまけ)-------------------------
それは、いつもの朝食の席でのアマンダの発言から始まった。

「しかし、ヴィオラさん、本当に早いですね」
「そう? 気のせいじゃないの」
アマンダの問い掛けに、ヴィオラが不思議そうに答えた。
ヴィオラ自身、自分が早いとは全く思っていないのだ。

先ほど、オレンジジュースが足りないと言う事で、ヴィオラが厨房まで取りに行ったのだ。
アマンダが感心したのは、その時のヴィオラのスピードである。

「あっ、私とってくるね」
そう言って、あっという間に厨房に駆け込み、直ぐに新しいオレンジジュースの瓶を持ち帰ったのだ。
アマンダ自身にすれば、同じ事を自分がやったら間違いなくその倍は時間が掛かりそうだと思ったのだ。

「そんなに、早いのか?」
それを耳にしたアルバートは、近くに座っていたアンジェリカに聞く。

ちなみに、朝食の席順は毎日交代になっている。
今日は、右サイドがアンジェリカ、左サイドにゼルマが座っていた。
長辺側に四人、短辺側に三人が掛けられる大きなテーブルである。
三人がけの方の中央に、ご主人さま事アルバートが腰を下ろし、両側は空けてある。

後はメイド達が左右の長辺側に腰を下ろすのだが、この席順が毎日変わるのだ。
ちなみに、アリサはいつの間にかアルバートの向かいの席が定位置になってしまっていた。

「え~、早いですね~、ビューンと行って、ピューって帰ってきますね~」
アンジェリカがいつもの口調でアルバートの質問に答えている。

アルバートが何か考え込むような顔を見せる。

「ゼルマ、お前も身体を鍛えているのだから早いだろ」
何か思いついたのか、今度は反対側のゼルマに声を掛けた。

「いえ、私はそれ程早くはないかと」
優雅にナイフとフォークを操り、目玉焼きを口にしていたゼルマが、手を休めアルバートの問に答える。

一応、ちゃんとした使い方は全員が教えられたが、その通りに使っているのはゼルマとグロリア位である。
教えたアルバート自身が、これもありだと言ってフォークだけで食べるので、他の者もそれを見習っているのだ。

「しかし、ゼルマも結構体力はあるとおもうがな」
アルバートが少しからかい気味にゼルマに告げる。

「あっ、いや、体力ですか、無い訳ではありませんが」
なるべく平静を装ってゼルマは切り返すが、アンジェリカ辺りには頬が赤らんでいるのが丸判りである。
多分、オツトメの時の体力を思い出してのアルバートの発言なのだろう。

「アマンダは逆に、体力はなさそうだな」
あまり追い詰めて、危ない発言をされても困るのだろうアルバートは話題を他のメイドに振る。

「えー、これでも私体力には自身あります!」
名指しされてむきになって否定するアマンダは、まだまだお子様と言われても仕方ないだろう。

「走るだけなら、誰が一番早いのかな、やっぱりヴィオラかな?」
特に誰かに言うでも無く、アルバートが一人呟く。

「ハイ、ハーイ、私、私!」
それにも関わらず、向かいに座ったアリサが思いっきり手を振りながら自分をアピールして来る。

「お前は、普通の人間じゃないから、却下だ、却下」
「エー、それって差別だー、酷ーい」
アリサが文句を言って来るが、アルバートは相手をしない。

元々、ハーフエルフのアリサの体力が人とは比較にならないのは、短い付き合いであるがここにいる全員が納得していた。
それでなければ、水の一杯入ったシチュー鍋を片手で持ち上げるなんて芸当出来る筈もない。


「グロリアは走るのは苦手そうだな」
まだぶつぶつ言っているアリサを無視して、アルバートがグロリアに話しかける。

「あら、判りますかしら」
アルバートに話し掛けられ、嬉しそうに微笑みながらグロリアがそう答える。
そう、アルバートに話し掛けられるだけでも嬉しくなるグロリアは、彼の視線が少し下を向いている事など全く気がついていなかった。

しかも、全員がウンウンと頷いている事など彼女には些細な事にしか過ぎなかった。

「じゃあ、次に遅いのは私ですね~」
やけに嬉しそうに、胸を張りながらアンジェリカが答える。

「リリーとクリス、どちらが早いかな」
そんなアンジェリカもスルーして、アルバートはお子様'sに話を向ける。

「りりー」
「クリスのほうが早い」
お互いが、お互いを指差しているのは、全員の笑みを誘う光景だった。




「よし! 今日は体力測定をやろう!」
アルバートの言葉に、何となくまた良くない事を思いついたのではないかと不安に思うメイド達であった。





「全員揃ったな」
俺は、頬が緩むのを必死に堪える。
目の前には中々すばらしい眺めが広がっていた。

全員俺が渡した体操服に着替えて、屋敷の庭側に出て来ているのだ。
赤いジャージの上着を羽織り、その下には白い体操服。
どういう手違いか、ジャージの下だけ見つからず、ブルマ姿であるのは愛嬌だ。

べ、別にワザとジャージの下を渡さなかった訳じゃないんだからね!
体操服の胸元に、わざわざひらがなでそれぞれの名前を書いたのは、あくまでも識別の為なんだからね!
運動にはブラは不向きだからとっておくように言ったのは、あくまでも好意からなんだからね!


ハイ、説得力が全くありません。
でも、俺は幸せでした。



あっ、ちなみに元馬場を改造したフィールドの駆けっこではヴィオラが圧倒的に早かったです。
うん、やはり体操服は素肌に直接着ると、迫力がありました、まる。


--------------------(たわごと)--------------------------
し、身体測定と来たら、体力測定もしたくなったのだな…



[11205] ハーレムを作ろう(失敗しよう(おまけその6))
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/18 22:23
注意書き:本編では、ゼロ魔世界設定とは、全く離れた独自の精霊に対する解釈が多数含まれます。
それを承知でお読み頂ければ、幸いです。

--------------------------本文------------------------------------

この地に拠点を設け商品の販売をする事。
これを、農具を卸す条件として俺はクラインベックに提案した。

流石にこの地で店を構えて採算が取れるのか、クラインベックも真剣に悩み出す。

「旦那様、あのような農具はどの程度用意できるものなんでしょうか」
レオポルド爺さんが、ワザとらしく俺に聞いてくる。

「うーん、大体月に10~20本程度だな」
「ほー、そんなに手に入りますか、ではお値段はどの程度なのでしょう」
尚も、爺さんが聞いてくる。
クラインベックは耳をダンボにして聞き耳を立てている。

「あー、値段ね、それはお前が決めてくれ、あれ位用意するのに俺にはそんな手間も掛からん」
「な、なんと、そうなのですか、それではあの本数も」
ホンと、この爺さん良く言うよ。

「ああ、俺が余裕のある時に出来る本数だ」
「それでは、数を増やす事も可能なのですか?」
「うん、出来ない事はないが、やらんぞ、めんどい」
ああ、旦那様はお忙しいですからなあとか言いながら、ウンウンとレオポルド爺さんは頷いている。

爺さんにすれば店を構えて貰えれば、領民の利便性が格段に良くなると言うのは判っている。
そしてあの農具にしても、俺が自分の国から手に入れてきたものだと知っているのだ。

だから、爺さんにしてもクラインベックが店を出したくなるように、俺から情報を引き出しているだけだ。

どうやら、本数に関しては十分らしい。
まあ、今の時点でクラインベックが大量に仕入れても裁ける筈も無い。


まだ悩んでいるクラインベックを見て、俺はもう一押しする事にした。

「ところでレオポルドここで店を出さす以上、店舗を建てて貰いたい」
「ああ、それは当然ですな、直ぐにでも人の手配を致しますが?」
爺さんが、少し探るように返事をしてくる。

「後で説明しようと思ったのだが、今回建築に役に立つ資材を仕入れてきた」
「ほおう、それは楽しみです。 どんなものなのかお伺いしても宜しいでしょうか?」
本当に、爺さんは頭が回る。
これが何か商人を引き擦り込むネタになるのだと直ぐに気づいて問い返してくる。
伊達に村の長を務めていた訳じゃないな本当に。


「速乾性の漆喰のようなものだ。 あれよりは遥かに丈夫だぞ」
俺は今回仕入れてきた『セメント』について、説明を始める。

元々、今日来たのはこれも目的だったので丁度良い。

勿論、その間クラインベックもしっかりと聞き耳を立てている。


「なんと、固まると石のようになるのですか」
「ああ、砂と砂利と上手く混ぜ合わせれば、ほぼ石と同じ強度を持たせる事が出来るな」

「それですと、色々使い道もありそうですな、楽しみですわい」
ふむふむと頷きながらも、チラッとクラインベックを目で示す。
もう十分だと踏んだのだろう。


「ところでクラインベック、店を出して貰えるだろうか」


「判りました、お引き受け致します」



クラインベックは覚悟を決めたようで、深々と頭を下げる。
うん、彼はきっと良い商人になるだろう。
勿論、俺に取って都合の良い商人と言う期待もあるが。

その為にも、最後のサプライズを提供してやらねば。



「そうか、感謝する」
「あっ、イヤ手前も商売ですから、儲かると思ってお受けしたのです。
 領主様に頭を下げられては、立つ瀬がございません」
軽く頭を下げただけで、大慌てである。

「後の実務は、このレオポルドと相談してくれ。
 彼はここで俺の代官を務めている」
爺さんとクラインベックが正式に挨拶を交わす。

お互い知り合いではあるのだが、形は大事だ。


「ああ、店の建物はこちらで用意するものを使ってくれ。
 家賃は、ここでの売り上げの……
 レオポルド、何割が良いかな」
「そうですなあ、三割、いや一割位で十分ですかな」
三割で俺の視線を伺い、一割と決める辺り流石に爺さんだ。

「じゃあ、それで良いかなクラインベック」
「え、ええ、勿論ですとも!」
飛び上がって喜びそうである。
うん、三割位が家賃の相場か、一つ賢くなった。


「それでは、後で館に来てレオポルドと細部を詰めておいてくれ」
「ハイ、判りました」
クラインベックが深々と頭を下げる。
格安の家賃で、店舗が持てて、尚且つ売れると確信している農具が手に入る。
彼にとっても悪い話ではないだろう。


ただこの地の店舗単独では採算は難しいだろうが、それは農具で補って貰おう。
俺も爺さんも上機嫌で、館に戻るのだった。





三日前に頼んだ土木工事の進捗を確認する。
土のメイジが三人も傭兵団にいたので、工事はほぼ完了していた。

セメントの運び出しを爺さんに頼んだり、今後の漁村の工事計画等を話し合う。

漁村の方は、ある程度の船が直付け出来るように、港の浚渫と言うか港を造る予定だ。
それと、小麦が無事売れればその資金の一部を使い、船大工を雇い領民の船を新造するつもりだ。

今までの漁船はもはやぼろぼろで、漁に出るのも命がけになっていた。
その為には、小規模ながら造船場も作るつもりなのだ。

船大工に船を作らせるだけなら、海岸でも出来るのだが、領民の手に職を付けさせるのも大事である。
行く行くは自分達で漁船位作れる程度まで技能を磨いて欲しいものだ。


港と造船場及びそれに付随する倉庫や事務所等の様々な施設。
これに加えて、牧草の保存の為のサイロの建設や館周りのインフラ整備もある。

これだけでも、領民の冬の仕事は一杯になるだろう。



爺さんと話をしていると、あっという間にお昼になる。
午後に土木工事の仕上げに戻ってくると爺さんに告げて、俺は一旦ヴィンドボナの屋敷に戻る事にした。







一階のホールに転移すると、リリーが出迎えてくれた。
部屋に転移しても良いのだが、それだと俺の出迎えが出来ないとのグロリアからの指摘を受け、この形にしている。

たった四日で、誰も俺の転移を驚かないのだから、ゲルマニアの女性の適応力はたいしたものだ。

ちなみに、俺が出かけている間はホールにはリリーかクリスが詰め見張りをしているとの事だった。
ホールの隅に置かれた椅子にちょこんと座って待ち受けているちびっ子の姿は、人形さんのようでもあり愛らしい。


しかし、その周りにクッキーの欠片が転がっているのは少し頂けない。
今度は前にテーブルでも置くように言っておこう。



「おかえりなさいませ」
リリーの知らせを受け、手の空いているメイド達が挨拶に出て来る。

グロリア、アマンダ、ヴィオラの三人だ。
と言うことは、今日の昼食の手伝いはゼルマとアンジェリカとなる。

「ただいま、お昼の準備は?」
俺は少し不穏な空気を感じ取り、グロリアに聞いた。

「ハイ、大丈夫……です」
グロリア、その間はなんでせうか。
かなり不安に思うのですが、気のせいだろうか。

「アリサ姉さんに、ゼ、ゼルマさんが勝負を挑んだんです!」
横から、アマンダが焦りながら言って来る。
やっぱり、何かあったか。

「料理勝負です」
ヴィオラが言葉を足して来たので、少し安心する。
タイマンバトルとかやられた日には、たまったものではない。

「今日のお昼ご飯をご主人さまに食べて貰い、どちらが美味しいか決めて貰おうって、ゼルマさんが張り切ってました」
ヴィオラ、詳しい説明ありがとう。
でも、余り楽しそうには言って欲しくない。
特に味見するのが、俺って言う点で厳しい。


料理に関しては、アリサの方が遥かに経験をつんでいるのだ。
素直に考えれば、ゼルマの勝てる余地は無い。

そう考えれば、アリサが勝つのは判り切っている。
だが、お互いの性格を考えれば、ゼルマに勝たせる方が楽だ。

アリサなら、負けた事をとやかく言うことは無い。
ゼルマは単純に喜ぶだろう。


そう、それが例え譲られた勝利であれ、俺がそうした事を嬉しく思う筈だ。



…思うと思いたい…



とにかくアリサが勝利した場合、それを得意気に話すアリサの姿と、深く落ち込むゼルマの姿が思い浮かぶ。

昼食前から、胃が痛くなりそうな話だった。




俺は、メイド達を引き連れて食堂に入った。
アンジェリカが頭を下げて迎えてくれる。

アンジェリカは何か言おうとしたが、俺がそれを目で抑える。
どうせ碌な事じゃないだろう。

黙ったまま椅子に腰掛ける。

「それでは、これよりご主人さまに、アリサさんとゼルマさんの料理を召し上がって頂きます」
アンジェリカ、頼むから嬉しそうに告げないで欲しい。

アリサ、ゼルマが手に皿を掲げ食堂に入ってくる。
皿には銀色の蓋のようなもので覆ってあり、中が見えないようになっている。

あんなもの、俺は用意した覚えは無い。
どうせ、アリサが作るか取り出したのだろう。

アリサは楽しそうに、ゼルマはやや顔を青ざめさせ、俺の目の前に皿を並べて行く。

「「どうぞ」」
二人が同時に蓋を取り、俺の目の前に二つの料理が並べられた。

「ほおっ!」
俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。


アリサの皿には、肉料理が乗っていた。
程よい焼き具合のステーキである。
多分掛けられているソースがアリサ特製のレシピに拠るのだろう。


これに比べて、ゼルマの料理はオムレツである。
朝食で食べる単純な卵料理だ。







「味見する前に、言っておくぞ」
俺は全員を見回した。







「何をやってるんだ!」





ここに彼女達が来て以来、初めての俺の怒鳴り声だった。



全員の顔がビクッと震える。
アリサも、しまったと言う顔を浮かべている。

「アンジェリカ、説明しろ」
俺はアンジェリカを指名する。

「えーっと~、アリサさんの料理の仕方に~」


「ちゃんと話せ!」


俺は、アンジェリカを睨み付ける。

「あっ、ハイ! アリサさんの料理の仕方に、ゼルマさんが文句を付けて、二人の言い争いとなりました」
いつものフワフワした雰囲気すら消え去り、アンジェリカが抑揚の無い声で話す。

「その後、ご主人さまに比較して貰おうと言う事でこのような料理対決になったのです」
そこまで言い切ると、アンジェリカはぐっと口を閉じる。

俺は漸く視線をアンジェリカから離し、アリサとゼルマを交互に見た。
アリサは御免と彼女には珍しくしおらしく謝って来る。
しかし、ゼルマは唇をかみ締め、悔しそうな顔のままだ。


「ゼルマ、言いたい事があるのか」
ゼルマはハッと顔を上げ、俺を見つめる。

しばらく逡巡するが、直ぐに思い切ったのか話し始めた。

「り、料理は…ぎ、技術だけじゃなく、あ、愛情が必要だと、お、思います…」
最早半泣きの顔なのに、ゼルマは必死に話し続ける。

「アリサさんは、た、確かに、料理の腕は、す、素晴らしいと…お、思います…」
「だけど! ご主人さまの昼食を作るのに、あんないい加減な態度で作るのは、私は許せません!」
そこまで言うと、ゼルマは泣き崩れてしまう。

「で、アリサ、どんな素晴らしい料理の作り方をゼルマにみせたんだ」
「い、いや、あ、あの…か、片手で…ちゃちゃっと…」
大体、どんな態度で料理を作ったのか想像がついてしまう。

全くこいつは、どこぞのお手軽主婦か。


「いいか、曲がりなりにもお前はここの料理長を勤めるんじゃないのか」
俺はアリサに言う。

「ハイ…」
一応しおらしくお叱りを受けてくれるので助かる。

「朝何時に起きようが、メイド達にどのような口を聞こうが、俺に対してタメ口を叩こうがそれは構わん」
俺は、ふうっと吐息を吐き出した。

「だがな、昼と夜の料理だけは気を抜くな。
 態度で示してこいつらの信頼は自分で勝ち取れ」
「ハイ、判りました」
アリサは言いたい事はあるのだろうが、素直に頭を下げる。

「よし、昼食にしよう。
 アリサ、他の連中の分も持って来てくれ」
一応、これで終わりだと言う俺の態度に、全員が慌てて食事の用意に走る。

形としては、ゼルマの言い分を全面的に認めた事となるが、これは今晩辺りアリサが怒鳴り込んで来そうだ。
それはそれで気が重い。


「頂きます」
俺の合図で食事が始まる。

まずは、アリサの肉料理だ。
一口サイズに切り分け、口に放り込む。
流石に、様々な地域の料理の研究が趣味だっただけある。
濃厚なソースが厚切りのレアにぴったりとマッチしている。

「アリサ、流石に勝負となると手を抜かないな」
「ありがとうございます」
うーむ、益々気が重くなるような返事だ。

次は、ゼルマのオムレツだ。
フォークで切り分けると、ふわふわの玉子にチーズとハムが程よく混ざり合っている。
口に含むと、上手く絡み合い、中々の出来栄えだ。

「ゼルマ、上手くなったな」
「は、ハイ、ありがとうございます」
パアッと笑みが広がるのは、見ていて気持ち良い。

しかし、肉はざっと見て400グラムはありそうだ。
オムレツは、玉子が三個、いや四個か…

それでも一つも残さず両方食べた俺は密かに偉いと思う。









食べ過ぎた昼食のせいで重たい身体を抱えながら、俺は再び領地に転移した。

レオポルド爺さんと合流して、俺は最初の現場に向かう。


場所は館の後ろ側に当る小高い岡の上。
石造りの二階建程度の窓の無い建物が出来上がっていた。

「ああ、バルクフォン卿、出来ましたよ!」
傭兵団に所属する土のメイジが俺を見付け嬉しそうに話しかけ来る。

「ご苦労さん、調子は」
「全く、普段より元気な位です」
確かディールと言った筈だ。
彼はニコニコしながらそう言ってくる。

「しかし、本当に作れましたね~、自分でも信じられません」
「まあ、それが水の秘薬の効き目だからな」

「この力って今後も私が使って本当に良いんでしょうか?」
「ああ、問題ない。イヤなら何時でも解除出来るぞ」

「イエイエ、そんな勿体ない、有り難く使わせて貰いますよ」
「ああ、そうしてくれ、その分に見合った給金はちゃんと払うよう、ファイトにも言ってあるから」

「ありがとうございます」
俺はファイトが連れてきた土系統の三人のメイジに、水の秘薬を用いたのだった。

俺自身が精霊と契約しており、その契約の下で彼らがこの秘薬を飲めば精霊の魔力が使えると説明した。

勿論デメリットとして、この事を他人に話したら消えて貰う事。
傭兵団から抜ける時は、この力そのものの解除から使ったと言う記憶も消さして貰うと話した上でだ。


結局三人とも、この条件で水の秘薬を飲んだ。

元々ファイトを信じてついて来た連中だ。
ファイト本人が既に飲んだと聞かされれば反対する理由も無かった。


精霊には魔力供給と守りだけをお願いしてある。
おかげで彼等自身の感覚からすれば、無限の魔力使っているように思えるだろう。


余談だが、人間だけが精霊魔法が使えない理由がこの辺にあるらしい。

このような力を人間に持たした結果、戦争で盛大使いまくり地域の魔力を枯渇させると言う暴挙を何度も繰り返したらしい。
結果、人間と契約を結ぶ事は無くなったのだろう。

俺も程々にせねば。


話は戻すが、目の前にはディールの作品が完成している。

半径十メイル、高さ十メイル程の石造りの塔である。
ご丁寧に、外に階段が刻まれており、上の方に入り口が設けられていた。


「それじゃ、始めるか」
「あの、見学させて貰って良いですか」
ディールが遠慮がちに聞いてくる。

自分の作品がちゃんと機能するのか興味があるのか。
それとも俺の魔法を見たいのか、まあどちらもあるのだろう。

「ああ、かまわんぞ」
俺は爺さんも含め三人で階段を上がって行った。



中に入ると、今度は下に降りる階段がある。
俺は隙間一つない壁面を確認しながら下まで降りる。

床も綺麗にコーティングされており、中央に一メイル程のくり貫いた様に穴が設けられている。

固定化と強化の具合も問題無さそうだ。


「爺さん、上から見といてくれ、直ぐに一杯になるから溺れられちゃかなわん」
慌てて階段を駆け上がるレオポルド爺さん。
俺は笑いながら杖を取出し、術式を展開した。



あたりを付けていた周辺の地下水脈を操作し、この真下に集めて行く。
どの程度集めれば良いかは判らないので適当なところで止める。

そのままにしておくと地盤にどんな影響があるか判らないので、素早く地中から真直ぐ円筒形の穴を錬成して行く。

勿論壁面のコーティングも忘れない。


「うわっ!」
中央の穴を覆う地面が消えたかと思った瞬間、猛烈な勢いで水、否、お湯が吹き出した。

俺とスミスは慌ててフライの魔法を唱え浮き上がる。
もうもうと煙る湯気の中で猛烈な勢いでお湯が蓄まって行く。

俺はゆっくりと爺さんの横に着地した。


「旦那さま…」
レオポルド爺さんの視線が痛い。



「すまん、深過ぎた」
俺は自分の失敗を素直に認める。


「あっ、でもお風呂には困りませんよ、それに、ほら冬でも暖かいですし」
ディールの優しさが逆に辛い。



全く、水道を作ろうとして温泉を掘りあててどうするんだ!









結局、温泉を調べ飲料水としても問題なさそうな事を確認し当面はこのまま使おうと言う事となった。
まあ、飲料に適するかどうかは、魔法だけじゃなく、一度あちらの水質検査を受けてみようとは思う。

ただ、水道も有った方が良いのでもう一系統水路を作ってからやり直す事にした。


元の計画では、俺が地中に設けた水道管を通して、館と傭兵団の駐屯地まで水を引く。
後は、近くの川まで領民に掘らせた水路に流す予定だった。


しかし、お湯となると、川は不味い。


おかげで俺とディールは大急ぎで水路を海まで開削する羽目になった。

いくら精霊の魔力を使うとは言え、体力、精神力は自前だ。
三時間ほど掛けて海まで開削し終えた時には二人ともへとへとになっていた。


「デ、ディール、生きてるかー」
「バルクフォン卿、ライムントで良いです、あー、何とか生きてます」

「ライムント、他の二人に言っといてくれ、村の水道造りはまた後日にやるって」
「判りました~、お疲れ様です~」

俺は、爺さんに連絡するのも忘れ、その場からヴィンドボナの屋敷へ転移して行った。


--------------------------(15禁で大丈夫だよね)---------------------------------
精霊とは、魔力をエネルギー源として活動している未知の生命体らしい。
ああ、これはアルの記憶によるものだ。

その結果、魔力が溜まりやすい水、土、魔力が吹き集められる風、魔力の集まる火の精霊に区分けされる。

精霊には単体での意識はない。
その代わり集合体としては、様々なレベルで違う意識が存在するらしい。

例えば俺が契約している精霊、便宜上精霊王と呼んでいるが、それとラグドリアン湖にいる精霊は同じものだ。

ただ精霊王が、現在のハルケギニア全域の意識であるのに対して、その一部であるラグドリアン湖にいる精霊は、限定された意識と言う違いがあるだけだ。

ただ精霊王ですら、まだ限定された意識らしい。


なぜなら、魔力が時間と空間、更には次元すら越えて伝播するように、精霊の存在そのものも更なる広がりを持っている。
そして、そこには更に高次の意識が存在するらしい。

まあこの辺りは、アルの考察なので、何とも俺には言えない。


ちなみに、精霊魔法とはこの様々な意識レベルにお願いし、魔力を使い不可能を可能とする術だ。



でだ、俺が契約している精霊は、水の精霊王と火の精霊王である。

このレベルだと、より高次の精霊意識の介入でもない限り下位の精霊魔法はキャンセル出来る。



長くなったが、何を言いたいかと言うと特に何も無い。
単に気を逸らしているだけだ。


今俺の身体の下では、アリサがアンアン言っている。


昼間の件で腹を立てたのだろう、酒を飲んで俺に襲い掛かって来たのだ。


元々アルとアリサの関係は、あまりそっち方面に興味を示さないアルに対してアリサが襲い掛かると言うパターンだった。

アルに元気がない場合は水の精霊にお願いしてまで一戦に臨んでいたのだ。


まあ、アルも拒否してなかったから、問題はなかったのだろう。


ところが、俺と言う存在をアリサは受け入れる事を決めたが、そこで迷いが生じたらしい。


今までのやり方で良いのか?


悩んだ末に、昼間のゼルマとの一件もあり、酒に紛れて襲い掛かると言う強行手段に及んだ訳だ。


全く、ハーフエルフとして、人の倍近く生きていても女は女なんだろう。
ややこしい事、ややこしい事……


勿論アルと違い、アリサの見事な姿態に俺が興味を示さない訳ない。


アルコールを飛ばし、素面に戻ったアリサをやさしくベッドに誘った。





ここで止めときゃ、楽しい一夜だったんだが…

ふと、魔が差した。
アリサがやったように、水の精霊で元気になったらどうなるんだろう。
アルの記憶では、結構長く楽しんだと言う思い出があるのだ。
それに、今日は流石に三時間にも及ぶ掘削作業のせいで、身体中ががたがたである。
水の精霊を使えば、疲れも溜まらない。


そう思うと試したくならない筈はない。

精力絶倫なんて、男の夢じゃないですか!


でだ、早速水の精霊様にお願いしました。





結果、俺の下でアリサは狂喜乱舞です。

でもね、大きな問題がありました。



ちっとも、気持ち良くね~!!!



人間の身体の八割が水で出来てます。
それを精霊様が操って元気にしてるんです。

神経細胞も全て精霊様の支配下です。
結果、もの凄く感覚が鈍いんです。


そりゃあんた、拷問に近いです。
感じそうで感じないと言う微妙過ぎます。

かと言って、今解除したらどうなるんだろう。
突然快感が襲い掛かって来るのだろうか?


判りません。


恐ろしいです。


アルの記憶から、いつかは終わるのは判ってます。



彼ならこれを楽しめたのかしれません。

でも、俺には無理!







だ、だれか、たすけて~

----------------------------------かいせつといいわけのようなもの--------------------------------
・ゲルマニア北東部にて、温泉が出るのかどうかは、判りません。突っ込まないで頂ければ嬉しいです。
・精霊の使い方として、一部見苦しい点がありました事を、深くお詫び申し上げます。



[11205] ハーレムを作ろう(虚無の曜日は休日です)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:01
今朝は誰も起こしに来なかった。

べ、別にメイド達に嫌われたわけじゃないんだぞ。
単に、今日は休み、虚無の曜日だと言うだけだ。

明日は休みなので、起こさなくても良いと全員に言っておいたのだ。

同時に、今日は特に予定も立ててない。
俺自身ものんびりして過すつもりなので、彼女達にも休みと言ってあるのだ。



しかし、色々あったけど、まだ一週間しか経っていない。
それとも、もう一週間も過ぎたと言うべきなのか。

ニイドの月、ヘイムダルの週、ユルの曜日に、彼女達が来て…
まあ、あちらの暦に合わすと、八月の第二週の月曜日あたりか。

それから丁度七日間が過ぎ、八日目の今日は虚無の日と言う訳だが、その間に五人中三人の娘と…
昨晩の悪夢は、出来たら記憶から消したいが、取り合えずプラス1。


うーむ、ハーレムと言うには多いんだろうか、少ないのだろうか?
何だか、悩む展開だ。


次のメイドは、この間ヴェステマンに言って延ばしたから、9日先まで来ない。
ああそうだ多分明日辺り、コックの候補が来るだろうが、アリサが居ついてしまったので無理して雇う必要も無くなった。
多分あのヴェステマンの事だから、多分女性の候補を捜してくるだろうが、万一男なら雇わないだけだ。

まあ、調理人まで襲うつもりもないから、アリサに選ばせれば良いだろう。


しかし五人+おまけ二人だと、やはり屋敷の維持管理には少し厳しい。
掃除担当、洗濯担当等の役割分担があってこそ維持出来る規模の屋敷なのだ。

あちらの世界の最先端の技術を使ってあるので、ハルケギニアの通常の屋敷より少なくて済むのは間違いない。
それでも、外回りをする人数は無い。

掃除と洗濯だけなら、五人+おまけ二人で何とか回るか。
そうすると、外回りと窓拭き等の拭き掃除をやる人数も含めて、今の倍、十人いれば回るかな?

じゃあ、二十人もメイドを増やすと、間違いなく余るなあ…
その場合、仕事をどうするかが問題になりそうだ。





あれっ?






俺は、ぼんやりとそんな事を考えていて、ふと、重要な事に気が付いた?


俺の目指すハーレムって、何?


主人公に思いを寄せる女性達全員に手を出し、尚且つ仲良くさせるのをハーレムって言うんだよな。
その意味では、五人のメイドの内、三人に手を出して特に問題もない今の状況はハーレムだ。

だけど、後宮や大奥なんかだと、ハーレムの女性ってなーんもしてないよな。
ご主人様の寵愛を待ちながら、ひたすら自らの身体に磨きを掛ける。
うん、これもハーレムの正しいあり方に違いない。

今の今まで全く気が付いてなかったが、俺の目指しているのは前者に近いんだ。
そのくせ、人数だけは後者のイメージだよな。

二十人もの美女を侍らして、ウハウハするのも男の夢。
美少女メイドに手を出すのも男の夢。

そうなんだ、後宮や大奥を作りたい訳じゃない。
あっ、だけど複数プレイはやってみたいな。

だから、人数増やした場合の仕事を心配するんだ。


ウンウン、少し賢くなったな。
飯食いに行こ…


で、なーんも解決もしないまま、俺は着替えて部屋を出るのだった。







取り合えず、部屋を出て階下に降りる。
ホールを横切ろうとして、チビッ子二人がいるのが目に入った。


早速置かれたテーブルに向かって二人で何かしている。
勿論、俺が出かけた時に見張りをする為に用意させたものだ。
お菓子の食べかすもこれがあれば見つかり難い。



「「おはようございます」」
俺が近づいて行くと、慌てて椅子から立ち上がり挨拶して来た。

「ああ、おはよう、今日は休みだから気楽で良いよ」
二人から緊張が少し抜ける。

「何してんの?」
机の上には色とりどりの端切れが散らばっていた。

「あ、あの、グロリアさんにいただいたんです」
「ヴィオラさんもくれた」
はっきりと答えるのが、リリー、言葉が少ないのはクリスティーナ。
三日もすれば少しは判るようになって来た。

そういや、グロリアとヴィオラの二人でチビッ子の服を整えさせたっけ。
その時に余った端切れで二人で遊んでいたのか。


まあ、この屋敷には子供が遊ぶものなんて無いからなあ。
しかし、ハルケギニアでは子供は何して遊ぶんだ?

あちらの中世だと、子供も特に遊べる道具なんて何も無い世界だからこっちもそんなとこか。


あっ、そういやまだあったな。

「そうか、良かったな、じゃあ、これもあげるよ」
俺は指輪から、大量のビー玉を取り出し、テーブルに転がす。

「わ、わっ、わっ~」
「きれい…」
色とりどりのビー玉が転がって、一部は机から零れ落ちる。
二人は必死にそれらを拾っている。

「普通のガラス玉だ、余ったからあげる、じゃね」
俺は二人に手を振り、そのまま食堂に向かった。
今度、お人形さんでも買ってきてやるか。

気分は二児の父だった。





残された二人は、大量のガラス玉の処理に困り果てていた。
量が多いので、直ぐに机の上から転げ落ちてしまうのだ。

しばらく、拾っては机から落ちるを繰り返していたが、端切れで周りを覆い何とか机から落ちなくなった。

「きれいね~」
「ほんと」
二人は、漸く落ち着いてガラス玉を見つめる。
まん丸のガラス玉は、色々な色が混ざっていて、見ていて飽きない。

「あっ、これとくにきれい」
「これも、きれい」
暫くは、どのガラス玉が綺麗かを二人で比べっこしていた。

「わける?」
リリーがクリスに聞いた。
こんなに沢山貰ったから、二人で分けた方が良いのだろうか。

「ううん、ふたりのたからものにする」
クリスティーナの答えに、リリーも何故か嬉しくなった。

「そうだね、だいじにしようね」
「うん」
それから、二人は端切れを使い、ガラス玉をしっかりと磨き上げるのだった。












食堂を覗いたが誰もおらず、そのまま厨房へと向かう。
中に入ろうとしたら、歌が聞こえて来た。

「誰もしらない♪、山の中♪、二人は仲良く♪、暮すとさ~」
そっと覗き込むと、ヴィオラが歌っている。

「そして、何時までも♪、幸せに~」
どうやら洗い物をしながら、口ずさんでいるようだ。

一通り歌い終わると、そのままハミングしながら手にした野菜を持ち振り返り俺と目が合う。



「あっ、おはよう」
非常に気まずい。

特に悪い事をした訳ではないのだが、ヴィオラが俺の顔を見て固まってしまった。


「お、おはようございます」
おお復帰したのは良いが、真っ赤になっている。

「歌、上手いね」
「そ、そんな事無いです」
ああっと、更に赤くなってしまっている。

いかん、雰囲気を変えねば。

「その歌、ヴィオラの故郷の歌か何かか?」
そう言いながら、俺は冷蔵庫の方へ歩いて行く。
扉を開けながら、中を物色する。
誰も食べてない食パンがあったので、それを取り出す。

「あっ、ハイ、おばあさんに教えてもらった歌です」
何とかヴィオラも気を取り直したようで、一安心である。

「二人が幸せに暮すなんて、童話みたいな曲だな」
よし、ハムもあるな、簡単なサンドイッチでも作るか。

「そうですね童話ですよ、元は」
ヴィオラが確か野菜を持ってたな。

「でもヘンな歌なんですよ、これって」
後は、卵とバターそれとマヨネーズを出してっと。

「へえー、何が変なんだい」
一通り食材を並べると、質問に答えずヴィオラが俺を見ている。

「あ、あの、朝食をお作りになられるんですか?」
「ああ、そうだよ」
そうか、俺が食材を出していたから、怪訝に思ったのか。

「そんな事、私が作りますから、お待ち下さい」
うーむ、メイドの鏡だね。

「ああ、良いよ、良いよ、今日は休みだから、そんなに気を使わなくても」
「あっ、でも…」
こっちだと、この辺りの切り替えは難しいか。
まあ、日本でも中々出来ないところだからな。

「ヴィオラは食事は?」
「えっ、これからサラダでも食べようかと」
うん、丁度良い。

「じゃ、手伝ってくれ、一緒に食べよう」
「ハイ!」
嬉しそうにヴィオラは、返事を返してきた。


玉子を薄く焼いて、ハムと野菜を併せ、焼いたパンにバターを塗ってマヨネーズをつければ簡単なホットサンドの出来上がり。

途中でアンジェリカもやって来たので、彼女も一緒にサンドイッチ作り。
どう言う訳か、アンジェリカは勘が鋭い。

聞いてみると、何故だか今厨房に行った方が良いと思ったとの事だった。
いつもながら、不思議な娘である。



「いただきまーす」
食堂に完成品を持ち込み、三人でサンドイッチに被りつく。
アンジェリカは躊躇わずに、ヴィオラは俺の様子の見よう見真似で。

「あっ、おいしい」
「へ~、こんな食べ方あるんですね~」
二人とも感心してくれるので、俺としても満足である。

思わず、サンドイッチがカードゲームの合間に食べられるように発明されたと説明までしてしまう。
墓穴でした。

アンジェリカから、逆にカードゲームとは何か聞かれてしまい、今度教える羽目になってしまった。
トランプカードが無かったから、買ってこなきゃ。




後片付けは、二人がすると言うので俺はそのまま食堂を出る。

うん、こうやってのんびりするのも中々楽しい。

ブラブラと部屋に戻ろうとホールに差し掛かると、チビッ子二人がビー玉を磨いているのが目に入る。
朝食の前に渡したから、一時間以上磨いているのだろうか?


「楽しい?」
俺は顔も上げず、ひたすらビー玉を光らせている二人の側に寄り聞いてみた。

「ハイ、おもしろいです」
ニコッと笑いながら顔を上げるリリー、本当に幸せそうだ。
クリスティーナもウンウン頷きながら、手を動かしている。
こっちは顔も上げないままだ。

「良かった、あげた甲斐があるよ」
そのまま、行こうかと思ったが、ふと気になった。
二人ともご飯は食べたんだろうか?

「ああ、二人は朝御飯は食べたかい?」
「まだです」
「アマンダ姉さんが起きません」
ああ、そう言う事か。
それで、二人は部屋を出てここで遊んでいたのか。

ちなみに、二人はアマンダと同室である。
ベッドをくっ付けて三人で寝ている筈だ。

これでは、益々アマンダはお子様になって行く。


「それじゃ、おいで」
今ならまだヴィオラとアンジェリカが厨房にいる。
二人に頼んで、何か作って貰おう。

「あっ、でもガラス玉が…」
リリーは、ビー玉が気になるらしい。
クリスティーナも心配げに俺を見ている。

「じゃ、これに入れて持って行けば良いよ」
俺は、指輪から小さな布袋を取り出す。
前に買った酒が入っていた袋だが、中々綺麗な袋なのでそのまま仕舞っていたのだ。

「「ありがとうございます」」
二人がビー玉を袋に詰め込むのを待ち、厨房に向かう。


「あっ、おはようございます」
うん、一人増えている。
グロリアが挨拶して来た。

「ああ、おはよう」
「「おはようございます」」
俺の挨拶に続いて、後ろからチビッ子二人が挨拶するので、グロリアが一寸ビックリしている。


「おーい、ヴィオラ」
「ハイ!」
うーむ、加速装置でも付いているのだろうか、洗い物をしていたヴィオラがあっという間にこちらに飛んで来る。

「ああ、二人にサンドイッチでも作って貰えないか、二人とも朝食がまだだそうだ」
「あっ、判りました」
ヴィオラは、にっこり微笑み用意に掛かる。

「どうしたんですか?」
グロリアは心配そうに聞いてくる。

「ああ、別に問題は無いよ、休みなんでアマンダがまだ起きてないだけだ」
「もうっ、アマンダったら」
おお、グロリア姉さんが説教モードに移行しそうだ。

「まあ、アマンダを責めてやるな、ここに来て一週間、疲れも溜まったのだろう」
「でも、やはり二人を放ったままと言うのはいけません。ちゃんと言い聞かせないと」
「まあ、程ほどにな」
すまんアマンダ、俺ではお前を守ってやる事は出来ない。

どこかで、ハワワ~っと言う声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


「じゃ、宜しく」
そう言って今度こそ俺は、部屋に戻るのだった。

















うん?

だらだらと過した、虚無の曜日も終わり今は、夜も更けている。

既にベッドで寝ていた俺を、目覚めさせるモノがいる。
誰かが忍び込んできたのだ。

ああ、俺の部屋じゃない。
屋敷の敷地にだ。



屋敷を包む結界が破られたのだ。



この結界は、龍の八王子さんに教えて貰った特製のモノである。

結界外部から、近づけば微妙に方向をずらし相手を迷わす程度の効果がある。
この結果、普通の人間は屋敷には近づけない。


但し、確信を持って突破しようとすれば、エアーカッターやファイヤーボールをぶつけるだけで破られる。
まあ破られれば、今の俺のように術者に感覚が伝わるので、防犯には丁度良い。


一体誰がこんな夜中に押し入ろうとしているのか。
俺は、エリアサーチの術式を展開し、侵入者を探した。




東側の森の一角から忍び寄る人数が4人。
内、二人は反応からメイジであろう。


ふむ?

念の為広げた術式が、反対側西側に待機している連中三人を発見。
こちらは三人ともメイジだ。


どちらが本命かな?
相手に気づかれる可能性もあったが、俺はサーチの精度を上げた。


西側の三人の方が本命だった。


こちらには一人だけ、貴族然としたやつがいる。
どうやら、こいつが親玉だろう。

しかし、どうしたものか?

まず、何者かの確認かな。
一体誰が俺を、もしくは俺の屋敷を調べようと言う気になったのか。

この間の八王子さんのチビッ子の件か?
それとも、領地の件が何かあったのか。

お上の問題ならば、正面から来るであろうから、そうではなさそうだ。
まあ、裏の組織とかあるならば、お上かも知れないが。

単なる物取りならば叩き出すだけで十分なのだが、メイジを五人も用意する以上理由がある筈だ。


取り合えず、とっ捕まえて背後関係を洗いますか。





俺は寝巻きを脱ぎ捨て、動きやすい服装に着替える。



まずは、東側の森から忍び寄る四人。
転送魔法を発動させ、彼らの後ろに転移する。

そのまま、杖を掲げ水の魔法を発動。
取り合えず、処置は後でするとしてスリープクラウドで四人ともその場にお休み願う。


更に、今度は西側で待機している三人の後ろに転移。
こちらはもう少し鍛錬を積んでいるのか、一人が気がつき魔法を発動しようとする。

慌てず、カウンターの先住魔法で対抗し、すぐさまスリープクラウドを食らわせる。

結局、一分も掛からず全員倒してしまった。

まあレベル99と、レベル10前後の戦いなんてやるだけ無駄としか言い様が無いわな。



さて、貴方はどこのどなたでしょう。
どう見ても、私は貴族ですと言う御方に、水の秘薬を使う。


「名前は?」
「シュテファン・グラーフ・フォン・ベークニッツ・アルベルト」
うん、流石にフルネームは長い、要するにアルベルト伯爵様ですか。
伯爵?
結構位が高いやつじゃないか。


「何にしに、この屋敷に侵入して来た」
「ゼルマを手に入れに来た」
うん、ゼルマ?
なんで、ゼルマなんだ?

いや、元は伯爵令嬢と言ってたが、その関係者か。

「経緯を話してくれるか」
アルベルト伯爵は素直に話し始める。




しかしそれは、俺が頭を抱えたくなるような内容だった。

アルベルト伯爵とは、ゼルマが先日イタした後に夢物語として語ってくれたアルベール卿の事だった。
しかも、夢物語と言いながらも、話の内容は殆ど真実だった。


ただ視点が違う。
何も知らずに落とし込まれたゼルマの視点と、端からそれを仕組んだアルベルトの視点。

全て仕組んだ本人からの話は、馬鹿らしい陰謀談だった。


新皇帝就任祝いの為の新しい離宮の建設に絡み、ゼルマの親父さんのヴェスターテ伯爵に掛けられた嫌疑。
公金横領だが、それが全て伯爵の上司、十二選帝侯と呼ばれるゲルマニアの有力公爵の一人、ブッフバルト公爵本人の仕業だったのだ。

ブッフバルト公爵自らの公金横領、それを見つけたアルベルトが、密かに公爵と密談。
責任を全て、ゼルマの親父さんヴェスターテ伯爵に押し付けてしまおうと言う話で纏まり実行。

ヴェスターテ伯爵が、アルベルトの見つけた横領の証拠を持って血相を変えてブッフバルト伯爵の所へ乗り込むのを待ち、翌日逮捕。


誰でも疑問に思うほど簡単なシナリオだ。


ただ、それを十二選帝侯の一人である、リヒャルト・ヘルツォーク・フォン・アルトシュタット・ブッフバルトが行った。
そうとなると、誰がシナリオの稚拙さを指摘できよう。

まあ、アルベルトは絶好の機会を得て、ヴェスターテ伯爵を貶めたと言うべきであろう。


ヴェスターテ伯爵は投獄。
領地は没収、残されたヴェスターテ夫人をアルベルトが引き取り自分への好意を高める。

この辺りまではアルベルトの思い通りだったのだろう。


やがて、予定通り伯爵が獄死。
これで晴れて夫人をものに出来ると思えば、彼女が自殺。


伯爵夫人の代替として考えた娘は館を出ると言い出す。
伯爵夫人を落とす為に用意した借用書を娘に突きつけるも、彼女は永年奉公を選んでしまう。


こうなっては、簡単にゼルマを手に入れる事が出来ない。
借金のかたに彼女を売ったのが、アルベルト自身だ。

買い戻しても彼女がなびくとは流石にアルベルトも考えなかったようだ。



ここから先は実に執念深い。

彼女が育ってゆく間、買取の話が出る度に色々裏で手を回しつぶし続ける。
やがて、商人も高額での売却を諦め、一般の永年奉公(但しそれでも高いが)に組み入れる。

それも、アルベルトは裏に手を回し、購買者をつぶし続ける。
アルベルトが直接手を出しても問題の無い、弱小貴族が手を出してくるまで。



そして俺が登場する訳だ。
ぽっと出の田舎男爵、政治的なコネは一切持たない田舎者。

絶好の鴨だ。
盗賊らしい不審な連中が館に向かうのに遭遇したアルベルトは、護衛の者を連れて突入する。
哀れ、田舎男爵は賊に殺されており、アルベルトはゼルマと再開。
めでたし、めでたし。

んな訳ない。





さても果ても、どうしたものか。

アルベルト伯爵様と言う以上、ゼルマの亡き父親の領地を自分のモノとしたのだろう。
かなり上手く立ち回っていると言えよう。

一応聞いてみると、アルベルトさん今ではブッフバルト公爵の裏方を務めていると言うではないか。
簡単に消してしまうと、十二選帝侯のお一人がお出ましになると言う訳だ。

こんな訳ありのおっさん(推定年齢40代、デブ)、厄介極まりない。
ブッフバルト公爵に消されないように、様々な裏のネタは密かに隠していると言う用心深さもお持ちだ。



かなり慎重に対応しないと、ややこしい事が尾頭付きで振ってきそうな話である。


取り合えず、今晩はお引取り願うか…


俺は対応策を考える時間も必要だったので、時間稼ぎを行なう事とした。


水の秘薬はそのままアルベルトの体内に残し、いざとなれば直ぐにでも操れるようにする。
で、アルベルトも含め襲撃して来た連中に偽の記憶を植え付けて、お帰り願おう。

屋敷までやって来たが予想外に人が多かったので、本日は諦めましたと。
後、アルベルトのデブには、他にやる事が多いのでゼルマの件は時間を置いてから対応しなきゃと言う考えを吹き込んで置く。

まあ、これだけ執念深いおっさんだからそれほど効果があるとは思えないが、少しは時間稼ぎになるだろう。


全ての処理が終わる為には、一時間以上の時間が必要だった。




最近、夜のお仕事が多いような気がする…



[11205] ハーレムを作ろう(料理人を選ぼう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:02
「おかえりー」
部屋に転移すると、アリサが待ち受けていた。

「ま、一口どうぞー」
そう言って、グラスを渡される。

「ああ、ありがとう」
オンザロックを一気に煽りたい気分だが、そこまで酒には強くない。
一口飲んで、ソファに腰を下ろした。

「で、何者?」
アリサが覗いてるのは知っていたが、風の精霊経由だと、あまり情報は取れていない。
まあ、真っ暗な屋外だと、大概の精霊でも役には立たないが。

基本的に、水の精霊が情報収集には一番役に立つ。
但し本人を操って情報を仕入れたりするので、覗き見には向いてない。

一応、火の精霊が使い勝手は良いだろう。
実際、アリサが俺を見ていたのも火の精霊経由だ。

光さえあれば大概の場所の監視には向いている。
特に、この屋敷は夜でも明かりがあるので、監視には困らなかっただろう。

今は俺自身が火と水の精霊と契約してしまったので、アリサと言えども俺の許可なしで盗み見は難しい。
風の精霊は、結界を張られてしまうと風が吹かないので使えないし、土の場合はそもそも見えない。

まあ何が言いたいかと言うと、アリサも侵入者には気づいていたが、俺が動いたのでバックアップとして待機していたという事だ。
この辺りのコンビネーションは、アル譲りとでも言うべきだろう。

俺は、アリサにアルベルトから仕入れた情報を伝えた。

「ふーん、でどうするの?」
「今はまだ様子見だな」
実際八王子さんじゃないが、アルベルトとその親玉であるブッフバルト公爵を叩き潰すだけなら、然程難しい事ではない。




行って、『消す』、以上。


非常にシンプルである。

ただ、その後に謎の死体が残っている、もしくは二人とも行方不明となり、謎が残るだけである。
うん、それも悪くないかな…

今晩中に、アルベルトを消してしまい、そのままブッフバルト公爵の公邸へ向かい、彼も消してしまう。
そうすると、俺との繋がりなんぞ何処を探してもある訳ないし、誰も知らないまま厄介事も発生しない。


「いずれ、ゼルマにかたきでも討たす?」
アリサが聞いてきた。
ああ、それがあったか。


俺一人なら、消しに行くだけで良い。
しかしゼルマにとっては、両親の仇なんだよな。

「かたき討ちか…」
俺はぼそりと呟いた。

「復讐は、虚しいだけよ! 復讐は復讐を生むわ!」
アリサがワザと可愛らしい声で叫ぶ。

「あー、おもしろい、おもしろい…」
俺も気の無い声で返す。

親や子を殺されて、犯人が判っている状況で、被害者の親族にそれを言ってみろと言いたいね。
殺人犯が無罪放免で大手を振って歩いている状況では同じ事は言えまい。





「うん、ゼルマのかたき討ちを応援しよう!」
俺がポンと手を併せる。

「さんせー」
アリサがグラスを持ち上げる。

「ゼルマの復讐に!」
俺もグラスを持ち、軽く上に挙げ、そう言ってグラスを一息に煽る。

うん、盛大むせてしまうのはお約束なんだろうか。


取り合えず情報収集と、プランニングの時間が必要だと言う事で同意する。
ゼルマには、用意が整ってから話をした方がよさそうだろう。

アリサもそれが良いのではと同意する。

「じゃ、おやすみー」
そう言って、アリサが部屋を出て行く。

「ああ、おやすみ」
うん、これでやっとゆっくり眠れそうだ。




ちなみに、アリサはハーフエルフのせいか、あっちは非常に淡白である。
昨晩の馬鹿騒ぎなんてやらかした後だけに、多分一年位は襲い掛かって来ないであろう。

ああ、俺が望めば相手はしてくれるだろうが、今の状況ではあり得ない話である。
だって、メイド達がいるのに、どこにそんな必要があるだろうか…






彼女達を部屋に呼ぶ方法を考えねば…

















翌日、俺は様々な情報を集める為色々飛び回っていた。
これはと思う人物に対しては、水の秘薬を用いて話を聞く。

確実に情報は手に入るのだが、どうしても一人でやるだけに時間が掛かる。
アリサと手分けしてと言うやり方もあるのだろうが、水の秘薬を使ってとなると、どうしても俺がやる方が効率が良い。

今日の夕方に料理人候補が来ると連絡があったので、三人程から事情聴取しただけで屋敷に戻った。
まあ相手が選帝侯の一人も含まれるだけに、昨日今日でどうにかなるものでもない。
じっくり腰を据えて対応すべきだろう。




「おかえりなさいませ」
何時ものようにホールに転移すると、今日はクリスティーナの出迎えを受けた。

ペコリと頭を下げると、走って皆を呼びに行く。

「おかえりなさいませ」、「おかえりなさいませ~」
ゼルマとアンジェリカが出迎えに出て来る。

「まだ、ヴェステマン商会は来てないな」
「ハイ、まだお見えになってません」
ゼルマが答えてくる。

「アリサは?」
「はあ、用意をするとか言ってましたが…」
ふむ、また碌でもない事を思いついたのかな。

事情を聞きながら、部屋に向かう。
何でも、料理人候補が来るならば、試験をするんだとか言って、なにやら作っているらしい。
まあ、退屈はしないですみそうだ。


外出用の麗々しい服装から、一応客が来ても恥ずかしくない程度の普段着に着替える。
ちなみに誰も来ない時は、ジーンズにシャツと言う非常に楽な格好なのだが、そうも行かない。

ゼルマとアンジェリカが着替えを手伝ってくれる。

どうやら先日、グロリアとヴィオラに手伝って貰ったのを聞いて、ルールを作ったらしい。

王侯貴族になったようで非常に気分が良い。
あっ、一応貴族だけどな。


「あっ、いけません旦那様」
「良いではないか、良いではないか」
等と言う妄想を膨らませながら、手早く着替えて行く。

何時か実現したいものだ…




「失礼します」
ドアがノックされ、アンジェリカが俺を見る。
開けるように促すとワゴンを押して、グロリアが入って来た。

「うん? なんだそれは」
「お飲み物をお持ちしました」
グロリアがなるべく平然と言うが、何処となく得意そうだ。

確かに、どこぞのアフタヌーンティーみたいに、紅茶とお茶請けとして幾つかお菓子が載っている。


「へえー、凄いな、ああ、ありがとう」
ソファに腰を下ろすと、目の前に紅茶が注がれる。
同時に、クッキーとカナッペのようなものもテーブルに並べられた。

「ほお、おいしそうだな」
俺は、カナッペをつまみ上げ口に入れる。

サーモンにキャビアが載った贅沢なカナッペだ。


「うん、美味い」
「ありがとうございます」
グロリアが嬉しそうだ。

アリサが教えてくれたそうだ。
多分アルバートの国だと、こんな習慣があるのじゃないかと、作り方を教えてくれた。

アリサさんは、料理人の試験の用意で忙しいと言う事で、グロリア、アマンダ、ヴィオラの三人で作ったのだそうだ。
食材は、冷蔵庫にあったものをアリサさんに聞いて選んだ。

「お前達も食べてみ、俺一人だと味気ない」
俺の後ろで黙って見ていた、ゼルマとアンジェリカにも声を掛ける。

「あっ、私達は大丈夫です」
「あ~、散々味見しましたし~」
「こら、アン、それは言っちゃダメだろ」
「あ~、言っちゃいました~」

うん、事情は良く飲み込めました。


俺は紅茶を口に含みながら、苦笑を浮かべる。
向かいで、サーブしているグロリアも楽しそうに微笑んでいた。



「しつれいします」
うん、チビッ子が来たようだ。
アンジェリカが扉を開けると、リリーが立っている。

「お客様です、ご主人さま」
「ああ、ありがとう、直ぐ行く」
どうやら、料理人候補が来たみたいだ。

「ご馳走様」
俺はカップをテーブルに戻し、立ち上がるのだった。




ホールに降りて行くと、この間会った強面のヴェステマン商会の男、そうネッケだ、彼が五人程引き連れてやって来ていた。
そう言えば俺はホールに転移していたが、こんな風に客が来る事もあるのだから、何か方法を考えないといけないな。

客の前で転移した日にはややこしい事になりそうだ。

アマンダとヴィオラを引き連れるようにして、アリサも厨房から出て来ていた。


「やあネッケ、君が態々連れて来てくれたのか、ありがとう」
俺はまずネッケに声を掛けた。
単に用心棒を兼ねているのかと思っていたが、もう少し重要な役割もあるらしい。

「いえ、ヴェステマン本人がどうしても外せない用件が入ってしまい、くれぐれも宜しくとの事です」
「そんな気を使わないで良いと言っておいてくれ、俺如きに申し訳ない」
一通り挨拶を終え、改めて連れて来た料理人候補達に視線を移す。

男性が二名に女性が三名だ。
全員三十前後、中堅処と言ったところか。

「こちらが、経歴です」
ネッケが素早く、履歴書のようなものを俺に渡す。

厚手の紙にそれぞれの略歴が記されている。


女性三人の内、二人は貴族の屋敷での経験ありとの事。
後一人は、帝都の飲食店勤務からだった。
男性二人は、一人は飲食店、もう一人は料理修行中。
へえっ、変わった経歴もあるものだ。

女性が、貴族の屋敷務めの経験があるカーリン、レオノーレ。
飲食店勤務が、ロジーナ。
男性の飲食店勤務が、ギルベルト。
料理修行中が、マルトー。



マルトー




ふーん、珍しい名前だな、ゲルマニアでは見かけない名前だ。

マルトーね、料理人ね、年齢は二十八か、十数年したら立派な中年だよな。
料理修行中か、すると十年もすれば有数の料理人になる可能性はあるよな。

そしてトリステインで、ひょっとしたらどこぞの学園の専属コックに雇われても可笑しくないよな。


「それぞれ出身はどこかな?」

ギルベルトがニーダザクセン、ゲルマニアの北西部だ。
マルトーがストラッサン、トリステイン南西部のゲルマニアとガリアに面した地域、やはりトリステイン出身か。
カーリンがメクレンブルグ、ゲルマニア北東部。
レオノーレがドルニィシロンスク、ほう、東方辺境領か珍しいな。
ロジーナがヴィンドボナ、帝都出身者。

やはり、マルトーは限りなく黒に近いな。
と言う事は、ここは本当に「ゼロの使い魔」の世界で間違いなさそうだ。

いや平行世界と言う可能性もあったが、まさかあの小説の登場人物が本当に出て来るとは。

まあ、あまり考えないで措こう。
考えても始まらないし、どうせアリサが料理人を選ぶと叫んでいたから、彼女に任せよう。
どの道、料理人にはここを出て行くときにはあちらの世界に関する記憶は消すつもりである。

ああ、その前に確認はしておくか。

「ネッケ、彼等に魔法を使っても良いかな」
「ええっと、どのような魔法でしょうか」
流石に、貴族が魔法を使うと言うと躊躇うのは仕方ない。

「ああ、水の秘薬を用いた魔法でね、これを飲むと嘘をつくと三日三晩高熱を発して苦しむと言うものだ。
 何、死ぬ事は無い…多分…」
「そ、それは少し乱暴ではないでしょうか」
如何、少し冗談が過ぎた。

「ああ、すまん、すまん冗談だ。嘘をつくと、痺れる程度だ」
「まあ、それでしたら、本人達が了承するなら」
ネッケは彼らの顔を見る。

「あー、飲ますまでも無かったな。 ロジーナとギルベルトはお引取り願おう」
何か後ろめたい処があるのだろう、この会話だけで二人とも顔色に出ていた。

「ハイ、了解しました」
ネッケも二人の顔色を見て、気が付いたようだ。
多分、戻ってからこってりと絞られる事だろう。

「では残りの三名に、現在の料理長を務めているアリサが試験をするから宜しく」
俺は三人にアリサを紹介すると、一歩下がる。



「私がバルクフォン卿の専属コックを勤めさせて頂いている、アリサだ」
うん、偉そうに言う辺りがアリサらしい。
しかし、専属コック?
そんなもん任命した覚え無いぞ。


「これから、三人には幾つか試食して貰う、その食材に関する質問に答えるのが試験となる」
ほうほう、一応考えているんだ。

「では、こちらに来て頂こう」
ぞろぞろと、三人を連れて食堂の方へ向かって行く。
しかしアリサめ、後ろにアマンダとヴィオラを引き連れて歩いて行く姿が、滅茶苦茶偉そうに見えた。



暫く、ネッケと雑談しながら試験結果が出るのを待つ。

グロリア達が気を利かして、リリーとクリスティーナの待機用テーブルにお茶を運んで来てくれる。
椅子に腰掛け三十分程待つと、結果が出たのか全員が戻って来た。

「バルクフォン卿」
アリサがちゃんと俺に話し掛けるのを見ると、物凄く背中が痒い。

「決まったか?」
「ハイ、一人ならカーリン、二人ならマルトーです」





という事で、料理人が一人増える事となった。

マルトーには興味はあったが、やはり男性を一人だけ増やすのは抵抗がある。
万が一、アリサが一番目にマルトーを選んでいたら二人になっただろうが、一番でない以上そこまで興味がある訳ではない。


まあ、十数年後トリステイン魔法学園アルヴィーズの食堂で、日本食が供される機会を奪ったかもしれないのが、唯一の心残りだった。




ちなみに、どんな料理を食べさせたのか後で聞いた。

一つは、水の飲み比べ。
ワインヴィネガーを一滴入れた水と、酒を一滴入れた水、そして何も入ってない水を当てると言うもの。

もう一つは、魚・鳥・牛肉・豚肉のすり身を違う比率で混ぜ合わせ蒸したもの。
その中から、鶏肉の比率が高いものを選ぶと言う問題だった。

マルトーは、水は当てたが、ひき肉の蒸し料理を失敗したそうだ。
カーリンは両方とも当てた。


アリサにお前は出来るのかと聞くと、無理の一言だった。

うん、カーリンが専属コックになる日もそんな遠い日ではないと思う。



[11205] ハーレムを作ろう(水道を引こう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/22 00:08
翌日から、朝食の準備もアリサが担当する事となった。
朝が弱いとかブツブツ言っていたが、『専属コック』が何を言うかと言うと諦めていた。

専属コックに何か思い入れでもあるのだろうか?



カーリンには、早々に水の秘薬を使いこの屋敷で起こることを「あたりまえ」と取るように思い込ませた。
主に見た事無い各種家電なのだが、違和感無く受け入れるようにさせた。

お陰で自分が知らない各種調理器具がある事に驚き、必死に使い方を覚えようとてしているらしい。
この屋敷を出ると使える事が無い知識だけに、少し可愛そうに思う。
気持ち、彼女の給金を上乗せしておいたのは秘密だ。

後、衛生概念だけは徹底して教え込んだ。
新しい料理人を雇って、病気になっては始まらない。


朝食に、メイドも交えて食事する光景にかなり驚いていたが、まあ関係ない。
逆に、メイド達が気にしているようだが、今の所カーリンは純然たる雇用人だから別なのは仕方ない。

まあ、何れ慣れるだろう。


午前中は、楽しくメイド達と遊んで昼から仕事だ。
うん、スポーツブラは今度買って来よう。





先日失敗した水道作りを完成させなければ行けない。
俺は早々に気持ちを切り替え、領地へ向かう。


ちなみに、ホールでの転移は止める事とし、今度から使っていない大食堂をそれに当てる事とした。

「いってらっしゃいませ」
手空きのメイド達、と言っても今回は全員だったが、に見送られ俺は領地の私室に移る。


レオポルド爺さんと合流すると、早速に湧き出した温泉の状況を確認する。

「いやあ、風呂って気持ち良いものですなあ」
水道が引けたら使えるように、館の中にはパイプが通っていた。
特に作らせた風呂場(予定)と厨房で使えるようにしてあったのだ。

取り合えずと言う事でそのまま温泉と接続したので、風呂場が使えるようになったとの事だった。


あちらの世界の中世ヨーロッパと違い、ハルケギニアには風呂に入る習慣があった。
ただ田舎だと、風呂が無いので入れなかっただけである。

それに、俺がこちらに来てから、衛生概念はいやと言う程教え込んでいた。
身体を清潔に保つ事が如何に健康に繋がるか、爺さんには耳に蛸が出来る位に言い聞かせていた。

実際は会う度に、匂いがすると文句を言っていたせいだ。



当初の風呂の計画は、水道を引き込み用意した桶に溜める。
それを火の系統魔法で沸かして使うと言うものだった。

それが温泉を引き込んだ為に、沸かす必要も無く、そのまま風呂桶に流し込むだけで十分暖かい。
と言う事で、早速に館では風呂が完成していた。

爺さんは、一番最初に入ったと自慢げに話してくれたが、俺は風呂桶が真っ黒になったのではないかと思ったのは秘密である。




とにかく、風呂は傭兵団の連中にも好評、特に奥様方に好評らしく、駐屯地から交代で入りに来ているそうだ。
たった三日で館が温泉ランドに早変わりとは、ここの連中の行動力はたいしたもんだ。



何れ露天風呂を作り、ゲートで入り口を繋いで、メイド達と入りに来よう。
そうと決まれば早く用事は片付けて、計画を練らねば。

俺は勇んで、爺さんの村、オリーヴァへ行こうとした。


「旦那様、その前に屋敷の水道を」
怪訝に思い、レオポルド爺さんの話を聞く。

温泉が吹き出た翌日、虚無の曜日と言うのにライムントが再び貯水塔を作り出したのだ。

ライムント・ディールは、俺と一緒に水路を海まで開削した土のメイジ、ついでにファイトの副官でもある。
ちなみに、子煩悩の一児の父親でもある。


息子がガラス玉を貰った件もあるし、バルクフォン卿も喜ぶだろうと、何と二日で完成させたとの事である。
うんうん、ライムントもいいやつだな。

俺はこう言う話は好きである。
こうやって頑張るやつも好きである。

ちなみに、爺さんも好きそうである。

俺達はニコニコしながら、館の裏の貯水塔ナンバー2の処へ向かった。


ニコニコしながら現れた俺達二人に、ライムントが少し引いていたのは見なかった事にしよう。





今度は、前回程深い処まで水脈を弄らない。
前回は、水圧を上げようとするばかり、かなり深い層まで弄ったせいもあるのだ。

幾つかの水脈は、隣の温泉に混じってしまっているので、それらを慎重に切り離して行く。
と言っても精霊と交感しながら、ゆっくりと流れを変えて行くようにお願いするのだが。


暫くそうやって、準備を整えると、再び地中から水道管を一気に貯水塔まで錬成した。
温泉よりは大人しめだが、それでも水(お湯じゃない)が無事噴出し、この方法で問題無い事が証明された。

うん、今度から井戸掘り、温泉堀として出稼ぎに行こうかな。







上手く行ったのでそのまま爺さんを抱え、オリーヴァの村へ飛ぶ。
ライムントもついて来る。

オリーヴァの村では館ほど小高い丘が無いので、貯水塔そのものが高く作ってある。
また、畑への散水も考慮しているので、余計に高い位置に貯水塔が設けられている。
その結果、森の高さを超えているので、結構目立つ。


今後、噂になる可能性もあるかもしれないと言う考えがチラっと過ぎるが、まあここまで来る様な暇人も居ないだろう。



三回目ともなると段々慣れて来るもので、無事水が地上から噴出す。

「バルクフォン卿、失敗されたのですか?」
「いや、ちゃんと出来たが?」
ライムントが何を言いたいのか判ったが、ここは知らない振りで切り返す。

「いや、最初はお湯を出さねばならないのでは?」
ここで、笑いが起こってお開きなのだが、そうは問屋は降ろさない。

「おお、しまった忘れていた。 君、悪いがも一度やり直すからも一つ貯水塔を作ってくれ」
俺はオチを、俺から村の工事を行なっていたもう一人の土のメイジ、ゲリッケとか言ったな、彼に振った。

「えっ、ええっ、も、もう一つですか?」
目を白黒させている彼を見て、ライムントにニヤリと笑い掛ける。

おみそれしましたと頭を軽く下げて来るのが、とても気持ち良かった。






最後はクジニツァ、漁村の方だ。
ここも最初に来た時は、廃村かと思ったほど荒れ果てていたが、今はもうそんな面影は無い。

三ヶ月間ひたすら道路整備を行なわせた甲斐があった。
村人に現金収入が入り、目の前で道が綺麗にされて行く。

その結果、村人もまず第一に痛んだ家屋の整備に金を使い出したのだ。
ああ、勿論一番は食料の確保だったが。

食足りて、初めて回りを見回す余裕が出来る。
その結果道も綺麗になる以上、自分達の家もと言う事となったのだろう。
廃屋同然の家々は、新築ではないが補修されている。

朝一番の漁から帰った船も、古いのは古いが一応ちゃんと動くように整備はされている。
何より村には人がいた。


クジニツァの村の方が、オリーヴァと違い纏まって人が住んでいた。
農村だと、それぞれの畑との関係もあり村は割合広い範囲に家が散らばるが、漁村なので比較的纏まっているのだ。

そのせいで、こちらの貯水塔は、村はずれに作らせていた。
まあ、海沿いなので特に高い処も無いので、結局こう言う形になったのだ。

クジニツァの場合は農村であるオリーヴァと違うので、散水は考えていない。
その結果、館とオリーヴァの貯水塔の間位の高さとなっている。

俺が村の手前から歩いて貯水塔に向かったので、村人がゾロゾロ付いて来た。
爺さんが帰らせますかと聞いて来たが、そのままにしておいた。

うん、他の場所の水道が上手く出来たから、自慢したいと言う気持ちも無い事は無かった。



俺達は村人が見守る中、貯水塔の中に入り術式を構築する。
ちなみに、こちらの村にも土のメイジ、名前はナウマンと言うのだそうだ、が工事に来ていた。

館にいたライムント、オリーヴァ村から付いて来たゲリッケ、クジニツァ担当のナウマン。
三人の土メイジがそろい踏みだから、まあ俺が失敗しても何とかなるだろう。

按ずる事も無く、無事地下水が噴出して来た。
こちらの方が、オリーヴァよりも勢いが良い。

単に弄くった水脈のせいだろうが、この辺りの調整も将来の課題だ。

俺達が貯水塔から出てくると、村人達が心配そうに見ている。

爺さんが無事成功したと告げると、歓声が湧き上がった。


高々水道一つでこんなに喜んで貰えるのかと思うと、何とも言い難い。
アルの記憶があるとは言え、俺の考え方の基本はあちらの世界だ。

蛇口を捻ると水が出る事に、何ら疑いを挟まない。
だからこそ、まず水道を引こうとする俺の行いなのだが、これだけ反応が返ってくると良かったと思ってしまう。


それでも心のどこかでは、これが自己満足にしか過ぎないと訴えている部分すらある。
そう、高々400人程の領民の暮らしが向上するだけなのだ。

ゲルマニア、いやハルキゲニア全体から見れば微々たるものなのだ。


だけど、それで良いのだ。
俺は英雄でも無ければ、物語の主人公でもない。
自分が出来る事を、好きなときに好きなだけするだけで精一杯なのだ。





一人、自己満足に浸っていると、周りの声が聞こえてくる。




「あれっ? 冷たいよこれ?」
「えっ、温泉じゃないの?」
おおっと、これはビックリ!

先程の歓声は、お湯が出ると期待したものだったのでした。


俺の自己満足って一体なんだったんだろう…















館に戻り、レオポルド爺さんと今後の事を話し合う。
ライムントも傭兵団の代表代理なので、彼も一緒だ。

取り合えず上水道は出来たのだが、下水をどうするかが次の問題である。
ヴィンドボナの屋敷のように、浸透式の下水処理施設がある訳では無い。

今の所道沿いに側溝を作らせ、上水とは切り離し流れるようには整備させている。
ただ、これは道沿いの一部の住居のみ使えるものでしかない。

館と傭兵団の駐屯地、多分漁村の多くの家はこれで対応できるが、オリーヴァでは役に立たない。
家々の距離が離れており、主要道路から横道に入った処に家がある。

水道が引けたのだから、下水も引けるのではと思いがちだが、そうは上手く行かない。

何せ、水道は流れているのは水だけなのだ。
蓋すれば止まる、抵抗も少ない。

下水はそうは行かない。
特に、排泄物が問題となる。

流れないのである。


上水に関しては、適当な地点まで錬成したパイプで水を運べば、後は個人が対応出来る。
大量に錬成したパイプを渡してやり、その繋ぎ方を教えれば、水が欲しければ自分の家までパイプを繋いで行く。

これが下水となるとそうは行かない。
最も良いのは、地中に太いパイプを埋め、各家からそのパイプに水で流れ落ちるようなサブのパイプを繋ぐ方法である。


ちなみにあちらの日本のように、江戸時代から人糞を肥料に使う習慣があればかなり違うのだが、そんなものハルケギニアには無い。
人糞を一箇所に回収して、三ヶ月程度発酵させれば肥料が出来ると言うのは知識としては正しい。

しかしながら、まず第一にそんな習慣の無い世界では、誰が集めるのかから問題になる。

次に、発酵させる間の匂いがきつい。
今まで慣れた事が無ければ、「田舎の匂い」とか言って喜ぶ訳も無い。

更に、病害虫の問題が発生する。
どのような虫が発生するのか、等の知識がまるでないのに余りにもリスクが高すぎる。


とにかく村では、催せばその辺りに分け入って用を足す。
それが今までのやり方であり、何も無ければ今後もその形が続くのは目に見えている。


しかしそれでは、衛生概念が発達しないのである。
難しい事を言っているが、要は村は臭いのだ。

家畜の飼育をする以上、ある程度は仕方ない。
だが、あれは場所が決まっているのに、肝心の人間様だけ場所が限定されないのだ。



「やっぱり、穴ほってパイプを埋めていくしかないかなあ」
俺は問題を相談しながら、そう結論付ける。

「そうですな、しかし大変な作業になりますぞ、海まで引くのでしょう」
下水の流し先は海だ。

海洋汚染が生じるが、高々四、五百人の排泄物その他だ、母なる海に我慢して貰うしかない。
それに、既に俺は温泉を海に流し込んでいる。

何れクジニツァの漁民から文句が出る可能性もあるのだ。
まあ、早くある程度沖合いに出られるような漁船を作らせなければ。


「地中に、穴を通して海まで繋げるのですよね」
うん、ライムントが何か思いついたのか。

「バルクフォン卿、今回の地下水の組み上げですが、地中から地上まで穴を開けましたよね、それも一瞬で」
俺と、爺さんは思わず手を打つ。

なんだ、縦に穴が開けれるならば、横にそれを開けるのは難しい事ではない。
成程、土管に拘っていたが、最初から錬成しながら一挙に延ばせば穴が出来るじゃないか。

うん、可能だな。


こうして俺の領地は、ハルケギニアで多分初の上下水道完備の土地となる(予定)のであった。











打合せも終え、俺はとっととヴィンドボナの屋敷に戻る。
大食堂に転移して驚かされた。

広い大食堂の真ん中に、何処から取り出したのか絨毯が敷かれている。
取り合えず転移先に何もない事は確認していたが、足元まで見ていなかったので気が付かなかったのだ。

正面のホールへと続く扉の前には衝立が立てられ、扉が開いていても中が見えない工夫がされている。
衝立の横には前より大きめのテーブルが置かれ、それに向かってリリーとクリスティーナ二人が揃って座っていた。


「「おかえりなさいませ」」
立ち上がった二人が声を揃えてお出迎えである。

「ああ、ただいま、今日は二人なんだな」
テーブルに目をやりながら、二人に声を掛ける。
と言うのは、テーブルの上には端切れとビー玉、そして本が置いてあった。

「あれ? この本は?」
「あっ、あのしょこからおかりしています」
「アンジェリカねえさんがみつけてくれたの」
ああ、確か書庫を案内した時に、好きなものがあれば見てよいと言っていたっけ。

「おもしろいか?」
「「はい、とっても」」
二人が見ていたのは、学習研究社、所謂学研の「どうぶつ (ふしぎ・びっくり!?こども図鑑) 」だった。

二つの世界の比較に、真剣な図鑑よりはこのような子供向けの方が判り易かろうと手に入れた一冊だった。
ちなみに、このシリーズ、むし、くさばな、さかな、とりと全部あった筈だ。

「そりゃ良かった、他のは見たかい」
「えっ、まだあるのですか」
「たのしみですね」
どうやら、他の本はまだ見つけていないようだ。

「ああ、アンジェリカに探して貰いな、後虫に、草花に、魚、鳥とあったと思うよ」
「「ハイ、ありがとうございます」」
うんこの二人、双子でもないけど、偶にハモると楽しい。

「あっ、よびにいかなきゃ」
話に夢中で、忘れていたらしい。
二人揃って慌てて走って行く。

うーむ、どちらか一人が残る為に二人居たんじゃないのかなあ。




--------------------------おまけ(15禁にしときます)-------------------------------------


「ああゼルマ、君は字が掛けたよな、それもかなり難しい事も」
夕食の後、俺はさりげなく声を掛ける。

「ハイ、一応一通り習いました」
ゼルマが何かと言う顔で、答えて来る。

「一寸、手伝って欲しいんだ、領地向けに説明資料を作らなきゃいけない」
うん、理由としては何もやましい点は無い。
セメントの使い方の資料が欲しいと、レオポルド爺さんに言われたのも事実だ。

「ハイ、判りました」
成程と言う顔で、ゼルマが答える。

「明日、領地に持って行きたいので、少し残業になるが、この後お願い出来るか?」
うん、一分の隙も無い、おかしな点は一切無い。

「ええ、構いませんが」
「じゃあ、後で書斎の方に来てくれ、そこで作業するから」
完璧だ、書斎がドア一つで私室に繋がっている事もこれで気にならない。
良し、今晩はゼルマと…


「あっ、私も手伝いましょうか~」
おおっとアンジェリカ、何を余計な事を。

「ああ、アンジェリカも字が書けるんだな」
「ハイ、そうです~、それにご主人さまのお国の言葉からの翻訳なら、任して下さい~」
くそっ、そう言われたら断れる訳無いじゃないか。

「じゃあ、悪いがアンジェリカもお願いできるかな」
「はい~、喜んで~」
ニコニコしながら答えてくるアンジェリカ、俺はその笑顔が憎いよ今日は。





アンジェリカも加わり三名で、セメントの使い方の資料を作る。
用意した大きな模造紙に、拡大した写真を張り、その横にこちらの言葉で解説を書いて行く。

最後に、固定化を掛けて完成である。
これで、セメントを使って作業する場合の留意点がひと目で判る筈だ。

作業そのものは、三人掛りで行なったせいで一時間も掛からなかった。


「ありがとう、これで終わりだな」
「はい、そうですね」
「終わりですね~」
ゼルマが少し残念そうに、アンジェリカが何故か楽しそうに答えてくる。
俺はアンジェリカを何とか追い出せないか、必死に考える。

「でも、もう一つの手助けは、これからですよね~」
うんアンジェリカ…
そ、それは、やばくないか…

すすっとアンジェリカが身体を寄せて来た。

「アンはここでも構いませんよ~、でもゼルマさんもいるから私室にしませんか~」
おおっ!

な、何と…


『ゼルマさんもいるから』


そ、それって、ひょっとして、2対1ですか、さ、サンぴーでせうか?


「ゼルマもそれで良いよね~」
アンジェリカの問い掛けに、真っ赤になりながらもゼルマはコクリと頷く。
どうやら、アンジェリカが事前に仕込んだようだった。


アンちゃん、貴女一体、こんな事何処で覚えたんですか…




アンジェリカの実家が、倒産するまで花街の一角で日用雑貨を卸していたと聞いたのは、勿論事が済んでからでした。

-----------------------いいわけのようなもの----------------------
今回から、本編とおまけの区分を無くしました。
宜しくお願いします。



[11205] ハーレムを作ろう(出張に行こう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:03
十台の荷馬車が隊列を組み、街道を西に進んでいた。

場所は、シュチェチンからヴィンドボナへ向かう、通称メクレンブルグ街道。
街道名の由来である、メクレンブルグ領を抜け、帝都ヴィンドボナのエリアへ差し掛かろうかと言う辺りである。

元々、幾つかの都市国家が集まり国家として成立した帝政ゲルマニアは都市と都市を結ぶ街道が先に発達した。
ヴィンドボナは、その後から成立した為、それまでの主要街道から離れた位置にある。


詳しく言えば、ゲルマニアの都市国家は、トリステイン王国から見て北海沿いに北に発展した諸都市。
これには、トリステイン王国と国境を接するヴェストファーレン(リリエンタール)、その北東側のニーダザクセン(アイムスビュッテル)。
更に北海沿いに、メクレンブルグ(シュチェチン)、その上のアンハルト(コシャリン)と続いている。
*()内はそれぞれの領地の代表都市である。

ちなみに、アルバートの領地は更に北側にあるポモージュ北方辺境領に位置し、辺境も辺境である。

そして、トリステイン王国やガリア王国沿いに発展した諸都市。
上記のヴェストファーレンから南西に、ザールラント(アイレンドルフ)、プファルツ(マルシュタット)、ヴュルテンベルグ(アルゲントラトゥム)と続いている。

この国境沿いに広がる都市から更に内陸部にて発展した諸都市。
ヴェストファーレンの東に位置するアルトシュタット(アルトシュタット)。
その東南部に広がり、プファルツ接するオッフェンバッハ(オッフェンバッハ)。
その東側に、エアフルト(モーリツブルグ)、マルコマーニ(オットブルン)、シュタイアーマルク(グラーツ)と続く。

要は広大な国土に対して、北海とガリア王国とに接したL字型の都市が発展した。
そして、帝政ゲルマニアとして成立する時点で、Lの字の内側に設けられたのが、帝都ヴィンドボナである。

ちなみにヴィンドボナの東側は、国家成立時は未開拓地に近かったが、その後東方辺境領ドルニィシロンスク(クラドノ)が設けられ今日に至っている。
そして、ヴィンドボナに接する諸都市より街道が整備されたのである。


結果、街道そのものは選帝侯の威信を賭け整備された、幅10メイルの立派な石畳製である。
各選帝侯の領内では、維持管理も行き届いており、多くの荷馬車が快適に移動出来るよう様々な設備も多く見受けられた。

しかしながら、街道が帝都のエリアに入ると、それは若干見劣りするものとなってしまう。
いや、整備は選帝侯の管轄である為、馬車の速度に影響が出るものではない。

ただ、ヴィンドボナ周辺での開発が不十分な為、各種設備を維持するために十分な人がいないのである。

通常帝都へ向かう荷馬車は、隣接する領内で最後の補給を行なう。
後は、ヴィンドボナの実質的な支配圏に入るまで一日、二日補給なしで走り抜けてしまう。

また、逆の場合も、帝都を出て、一回補給すれば、選帝侯の領内まで一気に抜けてしまう。
この為、宿屋も含む各種施設が整備され難いと言う面もあった。



何が言いたいかと言うと、帝都に向かう場合その手前80リーグから40リーグ辺りが意外と物騒だと言う事である。


隊列は、鬱蒼とした森を抜け、緩やかな丘陵地帯に差し掛かろうとしていた。

前方の丘を越えれば見晴らしは少しは違うのだろうが、現在荷馬車が進んでいる街道は周辺から若干低くなっている。
両側に兵を伏せ、不意打ちを狙うには絶好の地形と言うべきであろう。


実際、丘の上に腹ばいになって隊列を監視しているものがいた。

「団長、情報通りですぜ」
腹ばいになって、荷馬車を見つめている中年の男性に、横の若造が声を掛ける。
昨晩、偵察に出ていた団員が齎した情報は正しかったようだ。

十台の荷馬車、積荷は穀物らしい。
積荷そのものは、それ程金にはならないかもしれないが、穀物は後々融通が利く。
裁き易く、保存も出来るのでありがたい。

何よりも魅力的なのは、護衛の傭兵が10人前後、メイジが一人か二人だと言う点である。

こちらは30人、メイジも四人いる。
これならば、容易に積荷を奪取できる。

「よし、俺の合図で攻撃だ」
五人程が森側から攻撃を掛ける。
それに一点歩遅れて、両側から五人が攻撃を仕掛ける。

これで馬車が走り出してくれればそれで良い。
街道の進行方向、軽い登り坂の先には、残り十五人が待ち受けている。

勿論、街道そのものも荷馬車が塞いでいる。
対メイジには、それぞれの部隊に一人ずつこちらもメイジを配している。

各個撃破の可能性もない事は無いが、この距離だ大丈夫であろう。
通常は傭兵として雇われる事を正業としているが、副業としての山賊稼業もこんな相手ばかりだと、ぼろいのだがな。

そう思いながら、傭兵団の団長は合図の手を振り下げた。






「後、二日ですね」
「ああ、とは言えこの辺りは良く山賊が出るそうだ、気を抜くなよ」
アウフガング傭兵団、コンラート・ファイト団長は、気を引き締めるように周りを見回す。

何の因果か、緩やかな丘が両側に広がり、しかも前方が上り坂となっていて非常に見通しが悪い。
こんな処で、襲われたら最悪だな…

「わあ~」
後ろから、大きな叫び声が上がる。

ちっ、やっぱり出やがった。

コンラートは舌打ちする。
素早く、馬首を巡らし後方を確認。

数名、多くても十名以下でこちらに掛けてくる傭兵らしき連中。
首に掛けていた双眼鏡を急いで目に宛がう。

装備は良い。
傭兵崩れ、もしくは傭兵そのものか。

「団長両側から」
団員の声ですぐさま左右を見回す。
まだ頭だけだが、確かに何人かいる。

これだけ、連携が取れているのだ、下手に荷馬車を走らせるのは難しい。
少なくもと待ち伏せされた以上、相手の思う壺だろう。

「ここで迎え撃つ!」
「全員、戦闘準備、俺は時間を稼ぐ!」
そう言うと、ファイトは後方に向かう。

馬車をなるべく一箇所に集めるようにしながら、団員が剣を抜き構える。
もう一人のメイジ、ヨアヒムが、なにやら呟いている。

「前方、丘の向こう100メイル、いや150か、十五人程います」
ふむ、やはり待ち伏せしているか。
後ろで聞こえるヨアヒムの声に納得しながら、コンラートは剣を鞘から抜き出す。

コンラートの持つ剣は、メイジの杖でもあるのだ。

「試してみるか…」
コンラートは、剣を突き出し、ファイアボールの詠唱を始める。

剣の先、20メイル程前方の空中に、大きな火の玉が浮かび上がる。
しかし、コンラートはそれをこちらに走り掛けてくる連中にぶつけようとはせず、尚も精神を集中して行く。

「精霊よ、我に力を…」
そう呟きながら、剣先を見つめ続ける。

「わあー、あー、あっ? えっ、ええっ!」
こちらへ向けて走り込もうとしていた連中の声が止まる。
同時に走る速度が遅くなり、最後は止まってしまった。

「お、おい、あれって、やばくないか?」
立ち止まったまま、一人が他の連中に囁いた。

全員がゴクリと生唾を飲み込み、前方で形成されるファイヤーボールを注視した。
いや、フレイムボールか?


こちらのメイジも、これに対して防御の構えを取り、いつでも魔法を唱える準備はしていた。
しかし、その彼も唖然として、それを見つめている。

「に、逃げろ!」
一人が叫ぶと、後は一斉に踵を返して走り出す。




「だ、団長… も、もう、そろそろヤバイっすよ」
精神を集中していた、コンラートはその声にハッと気が付き、自分が作り出したファイヤーボールを見た。
そこには、十五メイルはあるだろう巨大な火の玉が浮いている。

「おお! 凄いな! こんなに大きく出来るんだ!」
「団長! 何驚いてるんですか! さっさとやっちゃって下さい!」

部下の声に慌てて、敵情を見回す。
後方の連中は、なるべく離れるべく、再び森の方へ走っている。
両側の丘の上の連中は、動く事も出来ず固まったままだ。

「良し、取り合えず後ろの連中か」
せーのっと言う掛け声と共に、コンラートはファイヤーボール(超特大)を投げつけた。

ドゴーンと言う盛大な音と共に、遠くで人間が吹き飛ばされる姿が垣間見えた。







その後山賊が撤収したのを確認し、荷馬車は再び動き始める。
今回の仕事は、荷馬車に積んだ小麦をバルクフォン卿の屋敷まで運ぶ事であり山賊退治は含まれていない。

「しかし、ファイト団長、あんな事も出来るんですね」
ヨアヒムが馬を寄せて来た。

「ああ、試した事はなかったが、魔力が豊富にあるとああ言う使い方も出来るんだな」
コンラートはヨアヒムに答えながら、自分でも信じられない効果に驚きを含めて答える。

確か、火の精霊との契約だったか。

三人の土のメイジには、水の精霊との契約により魔力量の増大。
コンラートとヨアヒムには火の精霊との契約。

どちらかと言えば、防御やガテン系の土のメイジだと水が良いだろうとのアルバートの意見だった。
同様に、攻撃が主体のコンラートのような火のメイジ、ヨアヒムのような風のメイジに対しては火の精霊による契約だそうだ。

火の系統メイジであるコンラート自身に対して、火の精霊の魔力を加えるとああなった。


「おまえだと、どんな風になるんだ」
風のメイジであるヨアヒムに、火の精霊の魔力を上乗せすると、また違った使い方がありそうだ。

「そうですね、少なくともアレはまね出来ませんね」
コンラート自身が火の系統だからこそ出来る技なんだろう。

「その代わり、こう言う事が出来るようになりました」
ヨアヒムが杖を振り術式を展開する。

ヨアヒムは風系統のラインレベルのメイジだった。
風以外に、火を扱う事が出来たので、ファイアボールが使える。

但し、火の二系統の重ねがけによるフレイムボールのような強力な魔法は使えなかった。

今、ヨアヒムはファイアボールの呪文にて、フレイムボールクラスの火炎弾を形成して見せた。
それも、自分よりある程度距離を置いた空中にだ。

「へえ、これはこれで凄いな」
大きな火の玉が、空中で踊っている。

「風を操って、結構遠くでも制御出来るんですよ、それと」
ヨアヒムは、空中に浮いた火の玉をある程度遠くまで飛ばし、そのまま操って見せる。
更に、呪文を唱えると、新たな火の玉が現れる。

「複数を操る事が出来ますね」
そのまま、空中に現れる火の玉が増えて行く。

通常、魔法は一度に一つの事しか出来ない。
しかしながら、現にヨアヒムは同じ呪文とは言え、複数の事を同時に出来ている。

「途中までは、これまでの系統魔法、その先のコントロールは精霊の魔力を借りて行なってます」
ヨアヒムの説明で納得が行く。
新たな契約にて得た、火の精霊を使うと言う事で可能になったのだろうか。
多分そうだとしか考えようはない。

「ここまでですね」
結局、五つの火の玉を自由に操って見せ、それらは空中から消え去った。

「凄いな、五つも違う事を同時にできるなんて」
コンラートが感心したように、ヨアヒムに言った。

「いえ、操っているのは一度に一つだけです」
ヨアヒムに言わせると、それぞれの火の玉にこう言う動きをしろと念じれば、火の玉はそのまま動き続けるらしい。
そのような命令が通じるのが最大五つまでと言うのが、今の所彼の限界だった。

それでも、これまでに無い強力なメイジである事は間違いない。
規模が小さくなっているだけに、アウフガング傭兵団の戦力としてはありがたい限りだった。


二人して魔法談義に花を咲かせながら移動したせいか、その日は他に襲撃も無く無事行程を終了した。
予定した村の側に荷馬車を止め、野営の準備を整える。






宿屋や飼葉の補給が出来る施設が無いわけでは無いが、あまり金は使いたくないと言う団員総員の意見を組み入れ半分は野宿だ。

ちなみに、以前は仕事中は全て野営だった。



アルバート、いやバルクフォン卿との専属契約では、「出張中の旅費規程」とか言うのが定められており、宿泊費はちゃんと出るようになった。
また、「出張中の滞在費について」と言う但し書きにて、滞在費も支給されるようになった。

これは、アウフガング傭兵団に対する契約金額の支払いとは別に経費として各人に支給される。
最初契約に目を通した時は目を白黒させた規定集であるが、既にヴィンドボナからバルクフォン卿の領地まで一回出張を終えている。


副官のライムントと二人で、規定に基づき経費清算を行なった。
それをアルバートの元へ持って行くと、内容を確認した彼は笑いながら言ったのだった。

「ファイトのおっさん、これじゃ部下に嫌われるぞ」

実費を正直に記載し持って行ったのだが、規定では宿泊費は一律で支給されるとなっていた。
この結果、予算より実質的に少ない金額で収めた訳だから、結構得意げだったのは間違いない。

しかし、アルバートの意見は違った。
無駄な労力であると言うのだ。

経費の切り詰めを、全体が見渡せるコンラートやライムントが行なうのは当然であり、正しい。
しかしながら、規定で払われるとなっている部分を更に切り詰め始めると、部下の「勤労意欲」を損なうと言うのだ。

それは、「会社」が傾き出したらする事で、儲かっている間に手をつけてはいけないと言うのが彼の理論だった。
「勤労意欲」とか「会社」と言うのが何を指すのか、コンラートは知らない。

しかしながら、規定額を支給されそれを部下に支払った時の嬉しそうな顔は判った。
そんなに大きな金額ではない。

予想外の小遣いに喜ぶ顔だった。
理屈は判らないが、少なくともこれしきの金額で部下のやる気が買えるならば安いものだと言うのは良く判った。



とにかく、前回の小遣い稼ぎに味を占めた部下達と相談した結果、半分は野営で行こうと言う事となったのだ。

ちなみに、何故全て野営にしないかと言えば、アルバートから大都市では中級以上の宿に部下を泊める事。
そして、団長、副官、お付のもの二名までは、一流以上の宿の上級の部屋に泊まるようにと言う指示があった為である。

アルバートにその理由を聞く。

「うーん、リクルートと宣伝効果かな?」
と、訳の判らない答えを返されてしまった。


最初は理由が判らなかったが、何泊か大都市の一流の宿に泊まっているとこれが何を意味するか見えてきた。
一つには、アウフガング傭兵団の裕福さの証明になる。

「あの傭兵団は、常に一流の宿に泊まる」
これはイコール、信頼があるから仕事をちゃんとこなせると言う事に繋がるのだ。

二つ目は、契約者の金満ぶりの証明に繋がる。
雇い主であるバルクフォン卿は、傭兵に対してさえ十分な金額が払えるとなる。

三つ目は意外な繋がりが出来る点だった。

「泊まるだけじゃなく、ちゃんと飯食って、酒も飲めよ」
アルバートにそう言われていたので副官以下三人を連れて、宿の高級そうな食堂にて食事を取った。
多分貴族ご用達なのだろうが、誰一人こう言う処で食事した経験は無かった。

まごつきながら注文を頼み料理に関して何のかんの話していると、隣の初老の爺さんが話しかけて来た。
正直に初めてである事を話し、色々聞いていると楽しそうに話をしてくれたのだ。

結局爺さんのお陰で、それ程大きな恥を欠かずに済んだ。
別れ際に渡された名刺は、この地方の有力豪商の一人の名前が載っていたのだ。


まあそこまで凄いのはこの一回だけだが、それでも宿の酒場で酒を飲んでいると、普段の安宿とは違う情報が飛び交っている。
傭兵自体がいるのが珍しいのか、水を向けると色々な人と知り合いになるのは事実だった。


このような雇用主からの要望と、部下の小遣い稼ぎに対する要望の折衷案が、二日に一度の野営だった。



二頭立ての荷馬車が十台となると、馬だけでも20頭と言う楽しい数になる。
この馬の世話の為だけに、余分に四人雇っている位である。
傭兵以外では、馬の世話役も兼ねる御者が14人いて、総勢24名の大所帯だった。

この人数と荷馬車で野営する以上、ある程度の広さを求めざるを得ず。
しかも、安全を確保するとなると結構手間である。

だが、そこはヴィンドボナに続く主要街道沿いである。
同様な事を行う荷馬車の隊列が途切れる事は無い。

村の側には幾つかそのような場所が自然に出来ている。
その中でも森からの距離もある程度取れ、全体に見晴らしの良い場所を選んで野営の準備を始める。

御者が荷馬車を一箇所にまとめると、荷馬車のくびきから外された馬達を、適当な草原へと連れて行く。
残りのものは全員で、荷馬車のあちこちに積まれた野営道具を展開して行く。

アルバートが手配した、新しいテントは優れものだった。

錬金の魔法か何かで作られたのであろうか、耐水性の丈夫で薄い布切れでありながら十分な強さのあるテント。
中空の細いパイプを広げ中を通る紐を引っ張り繋ぎ合わせるだけでフレームが出来上がる仕組み。

これらが次々と組み立てられ、アッと言う間にテント村の出来上がりである。


最初見せられた時は、テントの布地が奇妙な模様で染め上げられているのに不思議に思った。
こうやって並べて見ると良く判る。

森を背にしたテントが目立たないのである。
魔獣や動物には効果はないであろうが、少なくとも人間の目は眩ます事が出来る。


中央に、食事に使う天幕を広げ、鉄らしきフレームで作られた小さな椅子が並べられて行く。
机も用意されており天幕の下に並べると、結構快適な野外食堂の出来上がる。


石積みのかまどが幾つか作られ、その上に鍋が掛けられる。
水はそれぞれの荷馬車の後方にセットしたタンクに蓄えられたものを使う。

アルバートから手に入れた「固形スープの素」をそれぞれの鍋に放り込んで行く。
この「固形スープの素」は兎に角優れもので、これを入れれば大抵のものは食べられるから不思議だ。

「団長、固定化を解いて下さい」
部下に呼ばれて天幕に向かう。
荷馬車の下方に作られた食材保管庫から、今晩使う分だけ取り出された生肉の固定化を解く。

団員が手早く切り分け、それぞれの鍋に放り込んで行く。
やがて村まで仕入れに行っていた団員がいくばくかの野菜を手に戻って来る。

アルバートが散々言っていたので野菜は軽く水で洗い、同様に鍋に放り込んで行く。

慌しい中、それでも息の揃った動きで、今晩の夕食と寝床が完成するのに一時間も掛からなかった。



食事が終わると、各自が思い思いの体勢で寛いでいる。
明かりは虫が寄ってくる、いざという時に敵が見えない等の難点があるので最低限に限られている。

ただ、コンラートとこの出張中だけ副官代理を務めさせているヨアヒムのテントにはアルバートから渡された、奇妙なライトが点けられている。
赤い光が漏れているのである。

確かに暗闇でも何が置かれているかはっきりと見えるのだが、少し不気味である。
しかしながら、普通のランタンとこの赤いライトの違いは、夜になれば誰でも判った。

普通のランタンの場所から暗闇は見えない。
しかし、この赤いランタンからだと、光に幻惑される事無く、暗闇が見えるのである。

便利は便利だが、野営地全体を奇妙な赤い光で照らし出すのは遠慮したいと言うのがコンラートの本音である。

兎に角、アルバートと専用契約を締結してから渡された様々な道具のお陰で、旅は格段に快適になっていた。
ただ、赤いライトだけは出来れば遠慮したいと言うのが、アウフガング傭兵団全員の共通の認識だった。






[11205] ハーレムを作ろう(監視をつけよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 23:04
帝都ヴィンドボナ、ゲルマニア随一の大都市である事は間違いない。

ホーブルグ宮殿から真っ直ぐに続くカイザーハンプトシュトラッセ。
その通り沿いに立ち並ぶ建物は、それぞれが歴史があり、建築物としても荘厳なものが多い。

各種行政府の建物さえも、様々な彫刻が施された時代を感じさせるものである。
ましてや、選帝侯の別邸となると、限られた敷地内でどれだけ意匠を施せるかお互い同士が競い合うように壮麗な建物が立ち並んでいる。

そのような華やかや一画に石造りではあるが、それ程目立つような装いも無くひっそりと建っている建物がある。

何かの行政府、それも予算の少ない弱小官庁の建物程度に見えるその建物が貴族院である。
帝政ゲルマニアに於いて全ての貴族の記録を留め置く官庁であり、表向きは単なる記録保管部門にしか見えない役所であった。




元々ゲルマニアは、人口の割りに開発すべき地域が広い。
他の強国に比較した場合、新規開拓の占める割合が大きい国家である。

ガリア王国は、東のサハラに至る前にエルフの住む地域に接している為、新たに開発すべき土地は少ない。
逆に言えば、エルフを征服してしまえば、広大な領地が転がり込む可能性があるのがガリアと言えよう。

これに対して、ゲルマニアの東は、サハラを超えて聖地に達する以前に広大な森林地帯が広がっている。
あちらの世界で言えば、ウクライナ、ロシア地域まで未開発の土地がある訳である。

勿論、あちらの世界のように何も無ければ、ロシア帝国なんぞが出来ていただろうがハルケギニアでは違った。
エルフの支配地域ではないにしろ、メイジでなければ強力な傭兵団、あるいは国軍が本腰を入れて相手をする必要がある生物が住んでいた。


亜人と一纏めにされる、人間以外の人型生物である。
それらは、オーク鬼、トロール鬼等の怪物、巨人と呼ばれる生物から、人に極めて近く時には共存すら可能なエルフや鳥人、獣人と呼ばれる生物まで様々であった。

ただ一つ共通している事は、彼らは森等の自然環境にて生活圏を確保しているのに対して、人間は畑を耕し自然環境を改変している点である。

結果、ゲルマニアの国土開発は遅々として進まない。
森林地帯の開墾を進め、東に延伸しようとすれば、あちこちで亜人との衝突が発生する。

勿論組織として人が対応した場合、これらの亜人に対しては最終的に人間側が有利になる。
しかしながら、それには長い時間が必要なのである。

軍隊を常に滞在させながら、土地を開拓出来るものではない。
そこには熾烈な生存競争の場があった。

それはあたかも、ネアンデルタール人と現生人類であるクロマニヨン人との何万年にも及ぶ生存競争の焼き直しそのものであった。
精霊魔法を扱う事が可能な亜人と、系統魔法を確立した現生人類の生存を賭けた戦いなのである。


話が大幅に逸れてしまったがゲルマニアでは、この戦いに勝利する為、系統魔法を扱えるメイジを大量に必要としていた。
そしてこのメイジの確保の為に打たれた政策が、貴族籍の売買なのである。


決して、トリステイン王国で思われているように、金の為に貴族籍が売買されているのではない。
少なくとも、政策立案当初は…

と、とにかく、ゲルマニアではこのような経緯にて皇帝による叙勲以外での貴族籍の提供のルートが確保されている。
それだけに、貴族籍の管理そのものが重視されるのは当然である。

結果、貴族院と銘々された官庁にて、新たな貴族、分家、養子縁組等の記録を一手に管理しているのである。




貴族院そのものの権限は殆ど無い。
ただ、貴族たるもの、新たな庶子、跡継ぎの生誕、結婚、死亡等に関しては貴族院に届ける事が定められているだけである。

実際、十二選帝侯等の有力貴族にとっては、世継ぎの誕生の時に、麗々しく飾り立てた数台の馬車を連ね。
王宮に、その報告を行なった後に、立ち寄るべき場所程度の認識であった。

ちなみに数年に一度程度で行なわれる、この馬車での参内は、ゲルマニアではかなり有名である。
世継ぎの出生の近い選帝侯がいる場合、産み月に近づくとこれを見る為だけにヴィンドボナを訪れるものすらいる位である。




これに対して、弱小貴族、新興貴族にとって、貴族院は目障りな組織である。
弱小貴族が資産を手に入れる簡単な方法の一つとして、貴族籍の売買があるのだ。

平民の中からメイジの才を持つものを見つけ出す。
そして、金持ちであるが魔法の才能が無い家を見つければ、新たな錬金方法が確立するのだ。

その子を金持ちの実子としてしまえば、自らの戸籍に養子縁組が可能となる。
その後分家の申請を出すだけで、新たなメイジの貴族が誕生するのだ。

この過程を経れば、自分は貴族になれなくても、家として貴族になれると判れば、ある程度の金額を支払う裕福な親は何人でもいるのだ。


貴族院が無ければ、無限の錬金方法なのだが、養子縁組はその記録が残されてしまう。
流石に、一貴族が数十件も分家を作り出せば、いくら皇帝の権限が弱いとは言え、下手をすればおとり潰しもあり得る。


貴族院そのものには、何の権限も無い。
しかしながら、このような記録をチェックししかるべき官庁に差し出す事で、貴族の無茶な行動が掣肘されていると言えよう。





「うーん、何なんだろう?」
そんな貴族院の一室、北方担当室で、女性が書類を見つめ頭を捻っていた。

「うん? 何があったの?」
女性の上長であろうか、三十台後半にしては、後頭部がコルベール化している男性が声を掛ける。

「あっ、コールさん、この記録なんですよ」
呼ばれたのは、貴族院にて主に北方辺境領からアンハルト、メクレンブルグの貴族の記録を管理している、北方担当官ヘルベルト・コールだった。

「うん、どれどれ」
その助手を務めるシモーネから渡された書類に目を通して行くヘルベルト。

記録には、今年のウルの月に養子縁組にて貴族になった人物の事が書かれていた。

「これが、何か?」
ヘルベルトには良くある、貴族籍の売買にしか見えない。
弱小貴族の資金稼ぎではなく、単なる没落貴族への養子縁組だ。
しかも領地が、北方辺境領の果ても果て、コウォブジェクの更に北と来た日には、この人物が可愛そうに思えて仕舞うほどだ。

「ええっと、貴族籍は男爵なんですよ、この人」
うん、そうだろう、あんな土地を買ってもそれ以上の爵位がある筈も無い。

「ですけど、一緒に申請された、この人のヴィンドボナの邸宅なんですけど」
シモーネが怪訝な顔をしている。
ほう男爵如き、と言っても自分も男爵ではあるが、邸宅を買うのか。

借りれよ、アパルトメントで十分じゃないか。

そう思ってしまう悲しいヘルベルトだった。


「これって、元々アードルンク侯爵の館ですよ」
「アードルンク侯爵って、去年お家騒動で御取潰しになったあのアードルング?」
思わず、ヘルベルトは聞き返してしまう。

「そうですよ、私が知っている以上、アンハルト公爵領のアードルング侯爵しかいないじゃないですか」
疑われたと思ったシモーネが口を尖らす。

「ああ、ごめん、ごめん、シモーネを疑った訳じゃないんだ」
ヘルベルトはシモーネを宥めながら書類に、も一度目を通す。

男爵のくせして、侯爵の館を買い取る…

ちくせう、どれだけ金持ちなんだ、この野郎…


反感がむくむく湧き上がるのを押さえきれないまま、更に書類に目を通して行く。

28才、まだ若いじゃないか。
出身地、ガリア。
ふむ、あっちからの流れ者か、しかし偉く思い切ったな。

ガリア王国から、北の果ての北方辺境領に領地を持とうなんて、どれだけ酔狂な金持ちメイジなんだ。

系統は、水ねえ、何か秘薬でも作って儲けたのかな?

職業、特に無し…

うん、金持ちの馬鹿息子に決定!
親が死んで遺産でも手に入り、メイジだから貴族になりたいってゲルマニアに流れてきた。

ほんでもっと、なーんにも知らない馬鹿息子が、上手い話に騙されて、身分不相応な邸宅と、辺境領に領地、これで決定!


「まあ、奇妙な馬鹿息子かなんかだろう」
頭の中で、それだけ判断してヘルベルトはシモーヌに告げる。

「やっぱそうですよねー、なーんか気になったんですよ」
シモーヌはそう言いながら、また仕事に戻って行く。

ヘルベルトも肩を竦め、自分の仕事に戻ろうとし立ち止まる。


まあ、一応「要注意新興貴族」に入れてやるか…


金持ちの馬鹿息子に、痛い目を見せてやるのも悪くないか。
ヘルベルト自身は何も権限は無いが、そうすれば一応書類が「国家安全院」に流れる。

国家安全院、通称国安は、ヴィンドボナの治安維持を行なう為の組織である。
当分監視対象にはなるが、単なる馬鹿息子だと判れば、監視は外れるだろう。

まあそれまで精々、国安の嫌がらせでも受けるが良いさ。



ヘルベルトは、手にした書類を国安行きと書かれた連絡箱に放り込んだ。


こうして、北方辺境領に小さな領地を持った弱小新興男爵、アルバード・コウ・バルクフォンに監視が付く事が決定された。

それは、ニイドの月、ヘイムダルの週イングの曜日の出来事だった。





そして、国安から派遣された、男性料理人が問答無用で送り返されてくる三日前の出来事だった。







[11205] ハーレムを作ろう(計画を練ろう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/24 22:33
それは、グロリアさんのお茶会での事でした。


アマンダ達五人は、この屋敷に来てからほぼ毎日寝る前にグロリアさんの部屋に集まってお話をしています。

最初の二三日は、部屋にあったお茶を飲んでお話するだけだったのです。
その内、厨房で好きな飲み物やお菓子を持って来るようになりました。

ああ、アリサさんが専属コックとして来られてからはちゃんと許可は貰っています。
ご主人さまが、食べたいものがあれば好きに食べて良いと言われてましたので、問題はありませんでした。

本当に、食事に関してはここは天国です。


厨房で皆で作っていた時も、凄くおいしいと思っていたのです。
でも、アリサさんが来てからは、それが更にグレードアップです。

毎日、どんな料理が出てくるのかと思うと、もう嬉しくて嬉しくて。
今日の晩ご飯も、皮がパリパリに焼けた鳥肉が出て来て、甘いソースに絡めて食べるといくらでもお腹にはいるんです。

その上、冷たく冷やした…


ああっと、話がそれました。

とにかく、お茶会です。
何時ものように、厨房に飲み物を取りに行ったら、アリサさんと新しく来られたカリーンさんがまだおられました。
二人してレシピの研鑽でしょうか、本当に料理が好きなんだと感心してしまいます。

「ああ、アマンダ、冷蔵庫にお菓子あるから、皆で食べてねー」
アマンダに気付いたアリサさんにそう言われました。

「ハイ、ありがとうございます」
私は満面の笑みで返事します。


アリサさんは、料理の合間に色々なデザートを試作するんです。

ご主人さまが手に入れて来たお国の料理が載っている本。
写真と言う本物そっくりの綺麗な絵が一杯載っている本。
アマンダも見ているだけで楽しくなるような本。

書いてある言葉はまだあまり判りませんが、とっても美味しそうな料理が一杯載ってて何時間でも見てて飽きません。

そう、その中にはデザートの本もあるんです。
そして!
アリサさん、そのデザートを試作してるんです。


完璧になれば、夕食のデザートに加えるそうですけど、アマンダにすれば今の試作でも十分過ぎます。

この時ばかりは私、ヴィオラさん並の速さで冷蔵庫に歩み寄りました。



お茶会にアリサさんの試製デザートを持って行くと、皆喜んでくれました。


お菓子を食べながら、今日あった事を話します。

その中で到らなかった点、いけなかった点を話し合い、こうしたらとかの提案したり、明日試して見ようとかの話をするのが楽しみなんです。


みなさんのお話を聞きながらアリサさんのお菓子にパクついていました。
ふと、気付くといつのまにか静かです。


「ふえ?」
グロリアさん、ゼルマさん、アンさん三人が私を見つめてます。
ヴィオラさんは、そんな様子を苦笑混じりで見つめてました。


「アマンダ~、も一回言うね~、どうして貴女はご主人さまの所へ行かないの?」
アンさんがニコニコしながら、そう言って来ました。

「ふ、ふええっ!」
突然そう言われて、私は固まるしか出来ませんでした。

そ、そりゃ、三人がご主人さまと、あ、あの、した事は知ってます。

先日、ゼルマさんとアンさんが二人だけ呼ばれた時に、グロリアさんの顔が恐かったのもしっかり記憶に残ってます。
三人がご主人さまとイタして貰えば、自分の番は遅くなるなんて、ほんの少ししか考えてません。

「いい、アマンダ!」
アンさんが何時もと違い真面目です。
恐い位、真剣です。

「ヴィオラもそうよ!」
あっ、ヴィオラさん驚いてます。


「えっ、だって、私は」
「罰として襲われないでしょ、でもねそれじゃダメ!」
ヴィオラさんの言葉を遮るようにアンさんが言います。


こんなアンさん、見たことありません。


「ゼルマもグロリアもみんな、ここの生活どう思う?」

「うん?私には不満はないぞ」
ゼルマさんが驚きながらも答えました。

「うーん、ご主人さまがもっと私の事見てくれたら完璧かしら?」
グロリアさん、ゼルマさんとアンさんを皮肉そうに見ながらそう言います。


「グロリア、今はアレは忘れて、今度はちゃんと誘うから」
ゼルマさんが申し訳なさそうに視線を逸らすのに、アンさんは本当に真剣に返します。

ビックリです。
頭がクラクラする位です。

「あっ、そ、そんな積もりじゃ…」
あー、グロリアさん、真っ赤になって自分の世界に…

「グロリアは放っておいて、ヴィオラ!貴女は?」
「えっ、うん、楽しいよ?」
「ご、ご飯!お、美味しいです!」
アンさんが、視線を私に向けるので思わずそう叫んでました。
ご飯だなんて、ちょっと恥ずかしいです。

「皆そう思うわね、私もここの生活は気に入ってる」
私の答えに、笑みを浮かべながらもアンさんもそう答えて来ました。

「アマンダは騙されてと言う理由があるにしろ、全員が借金のかたに99年の肉体奉仕付きの契約だと思えば」
そう言って、アンさんが全員を見回します。


「これ以上の生活、望めると思う?」
私はブンブンと首を左右に振ります。


そりゃ、借金が無ければ、アマンダも好きな人が出来て、結婚して、子供に囲まれて、と夢はありました。
でも、騙されたにしろ今の私にはご主人さまとの雇用契約があるんです。

これを反古にして逃げ出しても、その先にそんな夢みたいな生活、ある訳ありません。
他の皆も同じ思いで首を左右に振っていました。


「でもね、このままじゃこの生活も終わるわよ」
そう言って、全員を見つめるアンさんの瞳。


後から思えばあの目は、アンさんが悪巧みを思いついた時のものです。
でもその時は誰もそんな事思わずに、アンさんの話に聞き入ったのでした。






アンさんは、私達に判りやすく説明してくれました。

私達は、あくまでも最初の五人なんだと。
私達の部屋は、皆二人部屋であり、まだ同じような娘が入る余地がある。

しかも、部屋はまだいくつも残っている。
そう遠くない将来、『次』の娘が入って来る。


ご主人さまと一緒に食事をしている食堂はそんなに大きくない。
新しい娘が入って来た時、あの食卓から追い出される娘が出てくる。


それが誰になるのか?


今考えられるのは、そう、ご主人さまの寵愛をまだ受けてない二人。

「アマンダ、ヴィオラ、貴女達二人よ」
アンさんがビシッと私達二人を指差します。

「ふ、ふぇ~!」
そ、そんな、そしたら、美味しいご飯が、食べられなくなります!

「考えすぎではないか? ご主人さまは基本的に優しい御方だ。
 それに、五人とも指輪まで貰っている」
ゼルマさんがそう言ってくれたので少し気が楽になります。


「甘い、甘いわ、このデザートより更に甘いわよ、ゼルマ!」
アンさんは更に続けます。



アマンダとヴィオラはあくまでも、最初の可能性に過ぎない。
人数が増えたら、ゼルマ貴女も一緒よ。

貴女より、あの声が可愛い娘が現れたら。
グロリア、貴女より胸の大きな娘が来たら。
私より大胆な娘が来たら。


「そう、私達全員が今の立場を失う可能性はあるのよ!」
私達全員が言葉を無くして黙り込んでしまいます。


そうなんです。
アマンダ達はあくまでもご主人さまに雇われている身。
アンさんの言う通り、ご主人さまの気分一つで立場は大きく変わってしまうのです。


でも、それは…


「それは仕方ないのじゃない、アンジェリカ」
グロリアさんが、アマンダの思った事を口にしました。

「ご主人さまは優しい方だから、そうなったからと言って追い出すような人じゃないわ」
うんうん、アマンダもそう思います。

「それは私も同意するわ」
アンさんが答えます。

でも、その顔は何か企んでいるように見えました。


「だけど~、そうならないように~、出来ない事はないと思うのよね~」
突然、アンさんが何時もの口調に戻し、皆を見渡します。

「五人で協力すれば~、可能だと思うのよね~」


「どう?」


「のる?」



それは本当に悪魔の囁きだったのでしょう。



私達四人は全員が頷いていました。







アンさんの作戦は単純でした。
要は私達が、ご主人さまにとって無くてはならない五人になればよい。

言わばそれだけです。
全員が、ち、寵愛を受けるのは最低限です。

それに加えて、これから来るであろう娘達の上に立つ存在を目指すのです。


「目標は、五人が五人とも二階の客室よ~」
アンさんが、元気に言ってきます。

特別な存在となり、今の部屋みたいに他の娘達と同じ部屋じゃない立場にしてもらう。
そうすれば、ご主人さまもおいそれと私達を食卓から外せなくなる。

その為には五人の結束が大切だと、アンさんが言います。

「いい、一人でも食卓から追い出されようとしたら、全員で反対するのよ~。
 そうすれば、優しいご主人さまは席を変えれない筈よ~」

そして、新しい娘達にここの様々な魔道具の使い方、仕事の仕方等は絶対ご主人さまに手間を掛けさせない。
私たちが先導して教えて回る。

要は、新しい娘達とご主人さまの間に、常に私達五人が入るようにするんです。

「その為には、まず~、全員が寵愛を受けないとね~」
ニヤリ、そうニヤリと笑ってアンさんが、私とヴィオラを見つめて来ます。

「まずは、アマンダ~、今晩は貴女が行ってらっしゃい~」
「ふ、ふえええ!!」
そ、そんな…

か、覚悟も何もありません。

ワタワタと残りの三人を見回します。
ゼルマさんは、ウンウン頷いています。
グロリアさんは、少し悔しそうな表情ですが、反対まではしません。
ヴィオラは、あっ、下を向いて自分の事で精一杯みたい。

アンさんが、私の側に歩み寄ります。

「アマンダ、皆の為なのよ~」
アンさんの態度、ぜ、絶対それだけじゃないと思いました。
















アマンダは今、ご主人さまの寝室のある二階に上がって来ました。

私が、部屋でグズグスしていると、アンさんが突撃して来て階段の下まで護送されてしまいました。

も、もう覚悟を決めて行くしかありません。


あ、あれって、痛いんでしょうか?
ご、ご主人さま、私が相手で喜んでくれるのでしょうか?

頭の中は不安ばかりで一杯です。
心臓は、ドキドキ早鐘のように脈打ってます。


ゴクリと生唾を飲み込んで、そっとドアをノックします。

うん、返事がありません。
もう寝ているに違いありません。
明日にした方が良いと思います。

アマンダが部屋に戻ろうと、振り返りました。

ダメです。
アンさんが、こちらを見ています。

何時の間に階段を上がって来たのか、廊下の端で手を振ってます。
行きなさいと言う印です。

諦めて、扉に手を当てました。

「し、失礼しまーす…」
鍵も掛かっていない扉は音も無く開き、ゆっくりとご主人さまの私室に入ります。

部屋の中は暗いですが、寝室の方から明りが漏れています。

「ご主人さま?」
小さく問い掛けましたが、返事がありません。
寝てられるのでしょうか?

それならば、それでミッションⅡの発動です。
ちなみに、ミッションⅠは、ご主人さまが起きていた場合のアマンダの行動をアンさんが決めてくれたものです。

そのまま寝室に向かいます。
ベッドの横の小さな明りが点いてますが、ご主人さまがぐっすりとお休みです。

大丈夫なのでしょうか?
ミッションⅡの発動前に起きられたら、アマンダとしては対応に困ってしまいます。

抜き足差し足で、ベッドの横まで移動します。
うん、ぐっすりと、眠られておられます。

これなら大丈夫でしょう。
ドキドキしながら、ナイトガウンを脱ぎ捨てます。

裸なんです。
パジャマは着てません。

ご主人さまが起きられていた時は、目の前でガウンを脱いで抱きつきなさい。
これがミッションⅠ。

眠られているなら、ガウンを脱いでベッドに潜り込みなさい。
これがミッションⅡ。


「失礼しまーす」
小さく声を掛けて、ご主人さまのベッドに潜り込みました。

もう心臓はバクバク脈打ってます。

そおっと、ご主人さまに寄り添います。


あっ…
男の人の匂いです。

少し汗臭いような、それでいてお父さんのような匂いです。

身体をピッタリと密着させます。


これで、何時ご主人さまが目覚めても準備は万端です。


でも、ここからは、どうしたら良いのでしょう。

ご主人さまを起こすべきなのでしょうか?
それとも、起きるまでここで待った方が良いのでしょうか?


アンさんの行動指針では、ここまですればご主人さまが起きるからって言ってましたけど、良くお眠りになってます。


待った方が良さそうです。
ご主人さまの寝顔をじっと見つめます。

この人の、召使として雇われた事は、アマンダにとって良い事なのでしょうか?

うううん、違います。
きっと、もっと良い事もあったのでしょう。
だけど、逆にもっとダメダメな事もあった筈です。

だから今、目の前にいるご主人さま。
これがアマンダの今の精一杯です。

ダメダメな事、良い事、それは色々あるのでしょう。

でも、一つだけ確かな事があります。



こうしてご主人さまの寝顔を見つめ、一つのベッドに寝ていると、物凄く充足した感覚に包まれるのでした。




-----------------------おまけ----------------------------------

さすがに、アマンダさんは、存在だけで18禁でした。
と言う事で、初18禁ネタとして、×××掲示板に上げたいと思います。



[11205] ハーレムを作ろう(躾は必要です)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/26 00:44
結局、アマンダとは明け方近くまで大変な事になりました。

いやあ、若いって素晴らしいです。
最初は躊躇いもあったのですよ。

でもね、恐いもの知らずなのかな、だんだん馴染んで来たのか自ら積極的に動く動く。
うん、感情の発露が素直なんですね、おじさんは付いていくのに精一杯でした。

いや、カードゲームの話ですよ。

そう思って下さい、ハイ。


結局、ゲームを止めたのはアマンダのお腹がグーってなったせいでした。



「す、すみません!」
真っ赤になりながら、アマンダちゃんはソファで小さくなってます。

俺は自分用のコーヒー、彼女にはホットミルク、それと指輪から幾つかパンを出して彼女の前に並べた。

「お腹もすいたろ、食べて良いよ」
「あ、ありがとうございますう」
真っ赤になりながらも、アマンダはパンに手を伸ばそうとする。
たがそこで何か思いついたのか、動きが止まる。

視線を俺とパンの間をさ迷ったかと思うと、ぱっと立ち上がる。

素肌にナイトガウン一枚と言う格好で急激な動きは…
うん、これは良いものだ。


てとてとと、テーブルを回り込み、何をするかと思えば、俺の隣に座り直す。


「えへへ」
照れるている様で、それでいて、嬉しくて堪らないと言う表情を浮かべ俺を見上げて来る。

そ、そんな顔を向けられたら男が参らない訳無いじゃないですか。
俺は苦笑を浮かべながら、彼女の肩に手を回し、引き寄せてやる。

「えへ」
安心したように、俺に身体を預けニヘラと顔をとろけさすが、それも一瞬、がばっと身体を動かしパンに手を伸ばす。
パンを手にして満足したのか、再び俺に全身を預け、おもむろに食べ始めるのだった。

全く、どこの小動物なんだよ、可愛いじゃないか。
俺は、アマンダに回した手に力を込めるのだった。

静かな、それでいて満ち足りた空気の中で、ハムハムと、パンを咀嚼する音だけが響く。
一通り食べ終わり満足したのか、まったりとした空間の中アマンダが俺に持たれ掛かって来る。

顔を上に向け、俺を見つめて来たので軽く口付けしてやる。
大きな瞳が更に大きく開かれるが、直ぐに目蓋を閉じ吸い返して来た。

唇を離すと、あっと小さく声を洩らすが、それはふうっと言うため息の中に消えて行く。


そのまま、アマンダは頭をコテンと俺の胸元に擦り寄せるのだった。

「ウフフ・・・」
目の前にあるアマンダの頭を撫でていると、小さな笑い声が零れてくる。


「こんなに、気持ち良いものなんだー」
しみじみと吐かれた言葉に黙って耳を傾ける。

「アマンダ、恐かったんです」
ああ、まあそれが普通だろう。


「こんなに、ご主人さまが素敵なら、アンちゃんに言われる前に来れば良かった」
キャ、言っちゃったと言いながら、顔に手を充て恥ずかしそうにワタワタするアマンダ。



うん?


「アンに何か言われたのかい?」
「えっ、いや、な、何も」
この状況でそう言っても説得力ゼロですよ、アマンダ。
身体の強ばりがはっきりと伝わって来る。

「俺のとこ行けって言われた?」
顔を逸らせている時点でほぼ当たりか。

「それで、来たのか」
「あっ、いえ、そ、それは…」
困ったもんだ。

そりゃ、雇用契約上は俺の権利だが、無理矢理するなら時間は掛けない。


「あ、あの、べ、別にイヤだと言うわけじゃ無く、ご、ご飯が…」
アマンダは慌てて口を覆うが、ふむ、他にも何か言われたか。

仕方ないな。


俺は精霊にお願いする事にした。

今回、アマンダに水の秘薬を飲ませたので、彼女の口を割らすのは容易い。
アンジェリカ等とのやり取りを全て聞き出し、アマンダの記憶を消す。


「そろそろ、戻った方が良い」
「あっ、ハイ」
少しぼんやりしながらも、アマンダが返事を返してくる。
扉の所まで送って行き、軽くキスをする。

「おやすみ」
「あっ、お、おやすみなさいませ」
恥ずかしいのか、ペコリと頭を下げる。
そのまま、クルリとターンすると、テテテと言う感じで走りさって行った。


「ヒャー」
と興奮したような声が遠ざかって行ったような気がしたが、うん、気のせいだろう。



氷を入れたグラスに酒を注ぎ、ソファに腰を降ろす。
一口含むが、酒が苦い。


「半分強制になっちゃったなあ~」
イタした後に、アマンダは喜んでたからまだ良い。
でもアンジェリカの事だ、このままにして置くと、間違いなく次はヴィオラをけしかけて来るだろう。


せっかく良い雰囲気で進んでいたのに、なんてこったい。

俺は頭を抱え込んだ。





アンジェリカを外すべきか?
今回の様な事をまたやられては堪らない。

しかし、あの頭は捨てがたい。

五人の中で一番早くあちらの世界の各種道具を覚えている。
会話していても、先読みの正しさは飛び抜けている。

ハーレムは作りたいが、馬鹿ばかりなのは願い下げだ。
仕方ない…


どうなるかは、判らないがとにかく話をせねばならない。











朝食の後、俺は五人を二階の会議室に集めた。
書庫の奥の広い部屋である。

朝から俺が不機嫌なのは判っているようで、みな恐る々俺の顔色を伺っている。
アンジェリカだけは、理由に思い当たるようで、顔が心持ち強ばっている。

いや、俺の気のせいか?


「四日後に、新しいメイド候補がやって来る」
全員がはっと驚き、チラッとアンジェリカの顔を見る娘もいる。

アンジェリカに顔を向けなかったのは、ゼルマ、ヴィオラか。
うん、大した自制心だ。

「今までの働きを見ていて、新しいメイドの対応は君達に任せようと思っていた」
そこで、一端言葉を切り、アンジェリカを見つめる。
彼女の顔が、更に強ばる。

「昨日まではな!」
すでに、アンジェリカは真っ青だ。
他の四人も俺が何を言っているのか気が付いたようで、言葉にならない。

あっ、アマンダだけは、付いてきてないな、うん。


「アンジェリカ、やり過ぎだ」
「すみません」
素直に謝って来るあたり、大したものだ。
全く、もったいない。

「何か、言う事はあるか?」
「ありません、ただ、私が皆を乗せただけで、他の四人は悪くは無いです」
うん、下手な弁明しない所は良いな。

「グロリア、俺が何を怒っているか判るか?」
「えっ、あ、あの皆で共謀した事ですか?」
俺は首を左右に振る。

「ゼルマは?」
「無理強いした点、ですか?」

「そうだ」
「でも、それならば…、あっ、すみません出すぎた真似を」
ゼルマが何か言い掛け、慌てて口を閉ざす。

「いや、良い、続けてくれ」
ゼルマは躊躇いを見せるが、覚悟を決めたのか話し始めた。


ゼルマ達は、俺の元に売られて来たのだと。
その契約には、俺に対する肉体奉仕も含まれている。

どの道、アマンダ、そして今は罰だと襲われないヴィオラも、いずれは俺とそう言う関係にならざるを得ない。
三人は既にそのような関係を結んでいる。

後の二人がグズグズしているのを後押しするのはいけない事なのかと。


勿論、ゼルマは途中しどろもどろになりながら、ここまで話したのだ。
こんな場じゃなきゃ、中々楽しい眺めなんだが。


「いいや、間違ってないよ」
「では、何故?」
ゼルマが勢い良く聞いてくる。

「アンジェリカ?」
俺はそれに答えず、アンジェリカに振る。

「二人の意志を無視した?」
お前ねー、そこまで判ってたら、ホント焦りすぎだよなあ。
まあ、十分な情報がない分、焦るのも無理は無いけどね。


「そうだ、アンジェリカは、アマンダの意志を無視した」
俺は全員を見つめる。

「あっ、でも、私、良かったです」
アマンダ、言い方を考えろ、皆微妙な顔をしているぞ。

「結果に本人が納得したから良いって訳じゃないぞ」
場が乱れかけたが、何とか乗り切る。


「お前達は全員可愛い、綺麗だ」
全員を見回す。

「たまたま、俺には財力があり、お前達を手に入れる事が出来た」
うん、誉められて悪い気はしないだろう。

「俺はもっとお前達を手に入れたい」
うわあ、もう少し言いようがないのか、俺。

「そう、そのためには自らの意志で俺に身を任せて欲しいのだ」

「勿論、その意志は諦めや憎しみも含まれるかも知れない」

「だけど、少しでもそこに、俺に対する好意があるなら…」

「こんな嬉しい事はない」

ああ、恥ずかしい言葉の連続です。
言っててホンと三文役者ですなあ・・・


誰も何にも言わない。
あちらの世界なら爆笑ものだろうなあ。



「アンジェリカ」
「は、ハイ…」
神妙にうなだれて答えて来る。

「今日からメイド服を黒服に変える」
「あっ、ハイ」
アンジェリカはハッと驚いた顔をするが、直ぐに納得するように頷く。

「当分反省してろ」
「ハイ、ありがとうございます」
まあ、罰に感じてくれればそれで良い。


話の流れ次第では、彼女に出ていって貰う事も覚悟していたから、これで納まれば言う事無い。

「以上だ」
俺は立ち上がり部屋を出ようとした。





「待って下さい!」



黙って話を聞いていたヴィオラが引き止めた。

「うん?何だヴィオラ」


「わ、私の罰はどうしたら、撤回して貰えるのでしょうか?」
な、なんですと…
俺を含め、全員がその場に固まった。

「わ、私も、や、やっぱり、ご、ご主人さまに…」
真っ赤になって固まるヴィオラ。
どう言う心境の変化なのでせう?






俺は取り敢えずヴィオラを残し、他のメイド達を部屋から追い出すのだった。

「に、逃げてちゃダメなんです」
ぽつぽつと語りだしたヴィオラの言う事はそう言う事だった。

ご主人さまに手を上げると言う大罪を追って、その罰が襲わないと言う事で安堵していた。
その分、一生懸命仕事をこなそうと頑張って来た。

皆がご主人さまとそう言う関係になるのも、自分には罰だからと目をそらして来た。
でも、アマンダまでもがそう言う関係になって思い知らされた。


私はただただ、逃げているだけだと。


そう思うと、この罰が本当に重くなって来た。
この先も、ずうっとこのまま。

しかも、新しい娘達が入って来ても私だけ襲って貰えない。
勿論、襲われない事に安堵している自分がいる。

だけど、同時にご主人さまならと思う気持ちもある。
今日の話を聞いて、本当に辛くなって来た。


襲われると思うと、身体か震える程恐い。
だけど、このままの状態が続くのは辛い。


「だから、どうしたら、許して貰えますか?」
泣きながら訴えて来るヴィオラ。





うーむ、良く判らん。
要は、エッチするのは恐怖があるが、今の状況はこれ以上耐えられないと言うとこか?

とにかく、最初から碌でもない話を一杯聞かされて恐怖の固まりだったヴィオラだが、他のメイド達の様子から少しはそれも薄れたのだろうか?

とにかく、そう言う事なら異存はない。
五人全員クリア出来るのはめでたい、


「ヴィオラ、お前に対する罰は今朝までにしよう」
「ハイ、ありがとうございます」
嬉しそうにヴィオラが顔を上げる。
なんか、物凄い罪悪感なんですが、何故なんだろう。


「で、問題なければ、今晩部屋に来なさい」
「はい、伺います!」
そ、そんな、決意を固めるように手を握り締め返事をされると、更に違和感が募ります。




俺は、良く判らないまま、会議室を後にするのだった。








----------------------------ここから一応15禁です-----------------------------------

その夜、ヴィオラはしっかりと俺の部屋にやって来た。


「頑張りますから、宜しくお願いします!」
な、なんか違う。
そんな元気一杯決意表明される事だっけ?


取り敢えずカチンカチンに緊張しているヴィオラを寝室に連れて行く。

中に入ると、自分からベッドに向かうヴィオラ。
俺が唖然としている間に、布団を跳ね上げ、体勢を整えて行く。

羽織ったナイトガウンを脱ぐと、うん、何も身に着けていません。

そのまま、ベッドに自ら横たわり、上を向いたまま両手で顔を隠す。
あのー、色々丸見えなんですが・・・


「宜しくお願いします」


はて?
これは、何の罰ゲームなのでせう?


気を取り直して、俺もベッドに入る。
ヴィオラの緊張が伝わって来るようで、とてもやり難い。

取り合えず、彼女の場合は水の秘薬は既に飲ましてある。
精霊に痛みを和らげるようにお願いすると、俺はゆっくりと彼女に顔を寄せて行った。








ハイ、もうね、なんでしょうか、この状況?

確か、ヴィオラとイタしていたんです。
でもね、うん、彼女、変身しちゃったんですよね。

良く判らないんですけど、耳が頭頂部に伸びフワフワの毛で覆われています。
うん、ベッドの隙間から見えるのはフワフワの尻尾です。

ヴィオラ自身は自分の身体の変化に気が付いてません。
そうですか、判ります、彼女獣人だったのですね。

道理で体力はぴか一でした。

道理で、イタす事を恐れる訳です。
意識はしていないだろうけど、多分本能レベルで変化が現れるって気が付いていたのでしょうね。


で、問題は今の状況。



俺は続けた方が良いのでしょうか?




[11205] ハーレムを作ろう(秘密をばらそう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/27 17:31
どうして、こんなに忙しいのだろう。



今日は、ファイトのおっさんが屋敷に着く筈だ。
精霊にお願いし、広域でのサーチの術式を展開する。

範囲を北東に限定しエリアを広げて行くと、二つの火の精霊が見つかる。
位置関係が判り辛いのがネックだが、どうやら朝一番から移動を始めたようだ。

微かに動いている様子が感じられる。
暫くそうやって様子を見ていると大体の距離が掴めて来る。

大体、20~30リーグ辺りにいるようだ。
すると、一時間で7リーグ位だから、昼前後には着くだろう。

昼ごはんをアリサに頼まねば。
うん、一度に二十数名増える訳だから、早くしないと文句を言われる。


俺は急いで部屋を出た。

「「あ、おはようございます」」
目の前に二つの小さな影、リリーとクリスティーナだった。

「ああ、おはよう」
「ご主人さまは、おきられたのですか?」
「おきちゃったのですか…」
リリーは質問だが、クリスティーナは残念そうな感想だな。

どうやら、今日の朝起こす当番になったようだった。

「ああ、すまん、も一回寝るわ」
「えっ、ハイ!」
Uターンして、部屋に戻る。
一応、ベッドまで行き、その上に座る。

コンコンとノックの音がして、扉が開けられる。

「しつれいします」
「しつれい…」
二つの小さな声が聞こえてくる。
うん、チビッ子だな、間違いない。

「ご主人さま、おきて下さい」
「あさです、ごきしょうのじかんです」
うん? クリスティーナが得意げに、リリーを見てる。

ああ、「ごきしょう」と言う言葉を習ったのか。
おっ、りりーが少し悔しげだ。

うん、馬鹿みたいに寝た振りする為に部屋に戻った俺の行動は間違っちゃいない!
こんな二人が見れただけでも、良かった、良かった。

「ああ、おはよう、ごくろうさま」
「ちょうしょくのよういが出来ております」
「あさごはんです」
おお、今度はリリーが得意そうにクリスティーナを見返す。
うんうん、こうやって言葉を覚えて行くんだな、お父さんは嬉しいよ…


「ああ、直ぐ行く」
と、遊んでる場合じゃないな、早くアリサに知らせておかねば。

何で昨日の内に言わなかったのか、それが悔やまれる。
とは言え昨日はまだ場所の確認してなかったからなあ。



二人を引き連れて下に降りる。

「あっ、ご主人さま、しょくどうはこちらです」
俺が厨房へ向かおうとすると、リリーが目ざとく注意してくれる。
まさか、俺が屋敷で間違う筈ないだろうと苦笑してしまう。

「ああ、良いんだ、専属コックに用があったんだ」
それでも律儀に二人にそう告げ、厨房に入った。

「おはよう!」
アリサを見つけ、声を掛ける。

「あら、ご主人さまに声を掛けて貰えるなんて…」
アリサがワザとらしく、手を口に当てて言葉を止める。

「『こんな嬉しい事はない…』ですわ」
こ、この野郎、また覗いていたな…

アルの記憶を受け継いだせいか、どうしてもアリサは他人とは思えない。
お陰で、火の精霊を使い彼女が俺の様子を見ているのも放ったままだ。

勿論、昨日の会議室の時も、あんなふうに五人を連れて行くのだから彼女が覗き込むのは覚悟の上だ。
だけど、態々俺の恥ずかしいセリフを繰り替えさなくても良いだろうが、泣くぞ本当に。

「アハハ、笑うわ、本当にねー、このお茶目さん」
そう言いながら、つかつかと俺の側に歩み寄る。

「いい事、あの子達はみーんなアルには勿体無い位良い娘なのよ」
真剣に俺の目を見て、アリサはそう言ってくる。

「アルの独善に付き合って貰っているんだから、それは忘れない事ね」
「ああ、それ位承知しているさ、それに俺が無茶やりだしたら、お前止める積りだろ」
ホンとに、こいつは他人とは思えんな。
どうして、女なのかね、男なら親友の範疇に入れそうなのに。

「ちょっと、変な事考えてるでしょ」
「いいや、いい男だなって思っただけだ」
アリサはそれを聞いてニヤッと笑い返してくる。

「あら、ありがとう、貴方は女々しいおんなだけどねー」
うーん、昨日の件はかなり気に食わなかった様だ。
反省、反省、今後気をつけよう。

まあ、自分の欲求に沿うように仕向けておいて、やり過ぎたら怒るようなものだものな。



「で、厨房まで何の用かなー」
「ああ、二つほどある」
うん、この辺の気持ちの切り替えが実に男らしいと思う点だな。

「一つは、領地からの荷馬車の連中、どうやら昼前後に着くようだ」
「あらー、そうすると、お昼ぐらいご馳走してあげなきゃねー」
「ああ頼む、全部で二十数名、三十は行かなかった筈だ」
「判った、この専属コックにまかせなさい、二十人であろうとも、二百人であろうとも満足させてみせるわ」
うん、やっぱり男らしいと思うぞ。


「で、もう一つはヴィオラの件だ」
「ああ、昨晩アルがお部屋に連れ込んだ娘ね、どう、良かった?」
おや、覗いてないのか?

「馬鹿ねー、私室まで覗く訳ないじゃない、専属コックを舐めないでねー」
いやだから絶対専属コックの意味、間違っていると思うぞ。
まあ、教えないけどね。

「はあ、まあおいしく頂きました」
「うんうん、若いって良いわねー」
だから、絶対男・・・も良いか。

「でだ、ヴィオラなんだが彼女、獣人だ」
「へー、これは珍しいわねー」
アリサも目を丸くしている。

「ああ、だが多くてもクォーター、多分八分の一程の血が入っている程度だ」
「ええっと、片親で、ハーフだからー」
「曾爺さんか曾婆さんが獣人だな」
俺が先に答える。

「彼女、クラドノから更に南東の村出身だそうだ」
「あーあっちね、と言う事はヴェアヴォルフねー」
俺は頷く。

あちらの世界でも、ルーマニア辺りでは狼男や狼女は収穫の守り手として言い伝えられている地域もある。
キリスト教により悪魔の使いにされてしまうと言う歴史は、こちらのブリミル経でも同じだ。
まあ、こちらの場合は系統魔法に属さない先住魔法が使えるせいであるが。

うん待てよ、そうするとヴィオラは先住魔法が使える可能性があるのか。
早々に試した方が良さそうだな。

ちなみに、ゲルマニアの東の果ては東方辺境領であり、その彼方は獣人等の亜人の生活圏である。
それだけに、両者がぶつかる機会も多いが、ヴィオラのご先祖様のように交わる場合もあるのであろう。


「で、何で判ったの?」
「あー、それはだ、あの、さ、最中に変身したんだ」
こいつ、本当に言い難い事を平気で聞いてきやがる。
アリサは目を大きく開いて、それでも笑いを必死に堪えている。

それだけに腹が立つ。

どれ程、俺が慌てたか、そしてヴィオラを宥めるのにどれだけ大変だったか。


「まあとにかく変身はその後解けたのだが、一度表に出た以上、何か刺激があれば突然出て来る可能性は高い」
「ああそう言う事ね、用意しとくわー」

俺がアリサに依頼したかったのは、先住魔法の「変化」を起こせる魔道具の製作である。
ヴィオラには水の精霊の守りがあるので、ある程度水の精霊にお願いできる。

であるなら、エルフ特製の「変化」の魔道具を持たせておけば、いざと言う時に人間になる事が出来る。
先住魔法が使えるか確認出来れば、一番先に変化を覚えればその必要も無くなる。
まあ、それまでのつなぎだな。


「ああ、宜しく頼む」
俺は、そう言って厨房を出ようとした。

「待って、ヴィオラの件は、あの娘達には?」
「ああ正直に話すさ、何、どこぞのエルフさんと一緒に暮しているんだ、今更亜人が増えても驚くまい」
それで排斥するようなら、俺が許さない。

「そうねー、それが良いわねー、『自らの意思で誰かさんに身を任せてる』んですものねー」
思わず扱けそうになりながら、何とか食堂から退散する俺だった。


本当に、アリサは敵に回したくないやつナンバー2だけある。
やり難いッたらありゃしない。

ああ、ちなにみナンバー1は当然八王子さんです。







「おはようございます」
俺が食堂に入ると、全員が一斉に頭を下げ出迎えてくれる。
五+二の声がハモるのを聞くのは中々気持ち良い。

しかも、それが俺だけの為に為されているとなると、喜ばない奴がいるなら呼んで来い。
今日も一日頑張ろうと言う気になる。

アンジェリカはちゃんと黒服に着替えて、神妙に控えている。
ウンウン、黒服も中々可愛いじゃないですか。

しかし残念だな、これも後三日程度の命と言うのは。
その前にあの格好で、一つ…

イヤイヤ、そんな事考えてる場合じゃない。

「それじゃ、食事にしようか」
「ハイ!」
うんうん、元気な声で返事が返ってくる。
お父さんは、嬉しいよ。








食事も終わり、少しのんびりとした雰囲気が食卓の周りに漂う。
これから片付け、屋敷の掃除等、彼女らの仕事は幾らでもある。

今は、その前の少しだけの息抜きの時間なのだ。


だが、今日はそうも行かなくなってしまった。
ファイトのおっさんが来るというのも一大イベントになる。

その上、ヴィオラの件まで重なってしまった。
もう少し上手く立ち回れないかと思うが、今に始まった事ではない。

あちらで仕事していた時も、そうだよなあ。
予定は立てるのだが、大概何らかのアクシデントが発生し、全てギリギリになる。

例えアルの知識と力を得ても、やってる事は変わらないな。
俺は、俺と言う事か…

取り合えず、目の前の問題から片付けよう。



「えーっと、連絡事項から行こうか」
全員の顔がこちらを向く。

「今日の午後、領地から荷馬車で穀物が届く予定だ」
へえー、フムフム、ほー、反応は様々だ。

「護衛の傭兵団、御者を含め二十数名の連中がここに来る」

昼食は、アリサに頼んであるので、連中に提供して貰いたい。
場所は、大食堂を使うので、その準備をお願いする。


俺はまず、ファイトのおっさんの件から話を始めた。


「次は、全員の部屋を二階に変更する件だ」
「えっ」、「ハイ?」、「ええっ!」
うん、反応は様々だな。
まあ、昨日の今日でこれは当然過ぎるかな。

「リリーとクリスティーナも含め、全員二階に上がって貰う」
「アマンダは、今まで通りリリーとクリスティーナと同室」

「グロリアはヴィオラと、ゼルマはアンジェリカと同室、と言ってもそれぞれ個室はある」
まあ、二階は基本客用に広めの2LDKだから、十分以上だ。

「ちなみに、これはこの先も変わらない」
そこまで一気に離すと、全員の顔に喜色が浮かぶ。

まあ、元々その積りだったが、昨日の一件で逆に連絡が遅れたのだ。
荷馬車が着けば、傭兵団と村から着いてきている筈の御者数名の仮の部屋が必要になる。

流石に、可愛いメイド達の隣の部屋に傭兵団の連中を放り込む気は無い。
まあ水の精霊に守りを頼んでおけば、間違いは怒りようが無いが、俺の気持ちだ。

うん、俺はとっても心が狭いんだ。


「ああアンジェリカ、お前の黒服は新人が来る日までそのままな」
「あっ、ハイ、ありがとうございます」
これで、彼女が三日後に何時もの赤みがかった濃紺の服に戻る事は判っただろう。
他の四人も嬉しそうだ。





さて、ここからが本番だ。
気を引き締めて話しますか。


「リリー、クリスティーナ、暫く厨房で待ってて貰えるか、五人に大切な話があるのでな」
「「ハイ、判りました」」
うん、素直に席を立ち、厨房に行ってくれる。


二人が出て行くと俺は杖を取り出す。
系統魔法を唱え、サイレントの魔法を部屋全体に掛ける。

更に、八王子さん譲りの結界を展開してこの部屋を外部から遮断する。
これで、アリサと言えども中は覗けない。

まあ、それ程これから話す内容は他には漏らせない内容なのだ。
俺のそんな様子に全員が緊張するのが判る。





「作業を始める前に、大事な話がある」
俺は、全員をゆっくり見つめる。

アマンダ、アンジェリカ、ヴィオラ、グロリア、ゼルマ、五人の愛らしい娘達である。
考えてみれば、不思議な話だ。

容姿が愛らしい、美しいのは当然だ。
相応の金が口入屋であるヴェステマン商会に流れているのだから。

馬鹿はいらんと最初にヴェステマンに断っていたので、全員頭はそこそこ良い。
まあ、面接ぐらいしたんだろう。


だが、五人中四人まで爆弾を抱えていたとは、驚きとしか言いようが無い。





俺は徐に、彼女達に話し始めた。


「実は、全員が判っていると思うが、昨晩ヴィオラは俺と寝た」
ちょっと直接過ぎとは思うが、五人ともイタした以上、この辺りはフランクにしときたい。

事実、全員顔を赤らめている。
うん、おじさんは初々しい子は大好きです、ハイ。


「それで判ったのだが、彼女は獣人の血を引いている」
「ひっ!」
ヴィオラの顔が引き攣る。
そりゃ、そうだろう、昨日初めて知った自分の血の秘密をご主人さまは躊躇いも無く、ばらしてしまったのだから。

俺は、すぐさま水の精霊にお願いし、ヴィオラの興奮を抑えて貰う。
話が終わるまでは、我慢して貰うしかない。

「多分、彼女の曾お祖父さんか、曾お祖母さんのどちらかが、ヴェアヴォルフ、狼系の獣人だ」



俺は説明を始めた。

彼女は、昨晩俺に抱かれるまで自分がそのような存在である事は全く知らなかった。
だがそれ故、本能レベルで自らの変身が起こる可能性の高い、男女の交わりを拒否していたのだ。

それを俺と言う相手に対して、身体を許してくれたのだ。
全員が知っている事だが、獣人と知れればハルケギニアの世界では迫害される。

だが俺は彼女がそれを無意識でも覚悟しながら、俺に身体を任せた事を大切にしたい。
そんな、ヴィオラを俺は可能な限り守ってやりたい。




「そして最早俺の中で守るべき対象として、ヴィオラ一人ではなく、お前達五人全てが含まれている」
俺は全員を見回した。
ここからが本番なのだ。



「アマンダ、お前は八王子さんと知り合い、俺に抱かれた」
アマンダが視線を彷徨わせながら、コクリと頷く。

「お前はまだ気が付いてないだろうが、この五人、いや多分ハルケギニアの中で俺を除けば唯一の水と火の精霊の使い手になれる」
アマンダの瞳が驚愕で大きく開かれる。


「そして、グロリア、ゼルマ、アンジェリカ、お前達は水の精霊の使い手となれる」
「み、水の秘薬ですか」
おお流石にアンジェリカ、これだけ脅かされてもしっかりと答えて来る。

「そうだ」
俺は頷く。

「これは、俺も含めた全員を守る強い力となるが、残念ながらロマリアにいる神官共からは忌み嫌われている先住魔法だ」
この言葉が頭に入るように、俺は言葉を止める。





「そう、獣人のヴィオラやハーフエルフのアリサと同じように忌み嫌われる先住魔法だ」
流石に、全員が理解出来るであろう。
要は、ヴィオラだけではなく、全員が同じように排斥される可能性があるのだ。






だけど、話はそれだけではない。



「ゼルマ、お前は元伯爵令嬢だと言うのは全員知っている事実だ」
「ハイ・・・」
ビクッとゼルマが震えるが、それでも気強く返事を返してくる。

「お前の父、ラインハルト・グラーフ・フォン・ベークニッツ・ヴェスターテは、その部下を務めたアルベルト子爵、いや今はアルベルト伯爵。
 そして、上司に当たる、リヒャルト・ヘルツォーク・フォン・アルトシュタット・ブッフバルトに嵌められて無実の罪を被らされた」
「な、何ですって!」
ゼルマは真っ青になって、立ち上がる。


「先日、この屋敷を襲おうとしたアルベルト伯爵から全部聞き出した」
「そ、それでは、父の名誉は!」
当然、そうなるだろう。

「だが相手は、ブッフバルト公爵だ。12選帝侯の一人だ」
「あっ・・・」
ゼルマは悔しそうに、座り込む。

「今すぐと言う訳にはいかん」
俺は尚もゼルマに続ける。

「だが、ゼルマお前は俺の大切な一人となった」
ゼルマは半分期待するような、それでいて違う場合を恐れるような微妙な表情で俺を見つめている。

「そうである以上、俺の大事なゼルマを傷つけた連中を俺もそのままにしておく積りは無い」
ゼルマの瞳に見る見る涙が溢れてくる。



「時間をくれ、ゼルマ」
「十分な、準備の時間を。 そして、おまえ自身が強くなる時間をだ!」
ゼルマの愛らしい、いや、凛々しい顔に涙が伝い落ちる。



「準備を整え、その時こそ、お前の父の無念を晴らそう!」
「は、ハイ! ありがとうございます」
立ち上がり、俺に深々と頭を下げたまま動かないゼルマ。
ぽたぽたと落ちる涙を拭おうともしない。






さあて、最後の爆弾発言と行きますか。
これは態々言う必要は無いのだが、俺とすれば五人が運命共同体として結束する為には役に立つと思っている。




「グロリア」
「は、ハイっ!」
ビクッと身体が震える。
こんなシリアスな状況でも、揺れる胸をつい見てしまうのは男のサガとしか言いようが無い。


「お前は、貴族のお手付きで生まれたと母に聞かされているな」
「えっ、は、ハイ」
グロリアは怪訝な顔で答えて来る。

「お前は相手が何者か、いや、お前の父親が誰なのか知っているか?」
「えっ、私の父は、館の領主様ですが?」
少し話し辛そうだが、ここは我慢して貰うしかない。

「いや、お前の父親は、アルゲントラトゥム郊外に館を持っていたヴュルテンベルグ候の一族に連なるものではない」
そう、グロリアの育った伯爵家は、ガリアと国境を接するヴュルテンベルグ領の代表都市アルゲントラトゥムに居を構えていた。

グロリアが生まれるとしたら、十中八九ここにグロリアの母がいた時だろう。

「えっ、で、でも、どうして?」
「多分生まれて直ぐに、母と一緒に帝都ヴィンドボナの別邸に移されたのだろう、こちらでは単に他人のそら似ですむからな」
アルゲントラトゥムでは噂になるには十分なほど、ガリアに近い。

「グロリア、どうして君の髪がそんなに綺麗な青色だと思う?」
そう、彼女がここにつれて来られた時は、グロリアの髪の毛はくすんだ青色だった。
しかし、それから二週間彼女の髪は、透き通るような空の青、アクアマリンのような色になっている。

良い食事と毎日の手入れが、改めて彼女の髪をその本来の色に戻したのだった。



「ガリアの青・・・」
ゼルマがポツリと漏らした。
多分、ゼルマ自身、グロリアの髪を見て感じていたのだろう。

「そうだ、グロリア、君のその髪はガリアの王家の青だ」
それに、俺にはアルの記憶がある。
彼が若い頃、十五年間毎日のように見ていたガリア王家を象徴する髪の色なのだ。

「それは、このままでいれば、誰かが気が付く」
俺は淡々と話し続ける。

「だが、俺はグロリアも大切な一人だ」
多分、ガリアから王族の一人、それはジョセフかシャルルかどちらかの可能性が高い。
それ程の血縁でなければ、これ程の青は発現しないであろう。

「お前が父親が知りたいと言うなら、探しもしよう」
「だが、その髪の事が知られれば、危険が伴うのは言うまでも無い」
グロリアは顔面蒼白で俺を見つめている。

そりゃ、父親がガリアの王族だと言われて平然としていられる筈も無い。



「俺にとって、グロリアの父親が何者であろうと関係は無い」

「グロリア、君は俺にとって守るべき一人なんだ」



うわあっと、グロリアが泣き崩れる。
ヴィオラも、最早水の薬を使うまでも無く、平静に戻って唖然としている。

まあ、自分だけ人と違うと思っていれば恐れもしようが、これだけユニークが揃えば最早慌てようも無い。





ふうっとため息をついて、俺はアンジェリカを見る。
ビクッと彼女の身体が震える。

「でだ、アンジェリカ、昨日の事が如何にヤバイか良く判っただろ」
コクコクと彼女が頷いた。

俺もヴィオラの件が無ければ、ゼルマの話はしないし、グロリアには良い毛染めがあるのでそれで誤魔化す積りだった。
まあ、アマンダのケースは今の所そこまで危ない話ではない。


「でだ、アンジェリカ、お前は何者だ?」
彼女だけは、花街の側に住んでいた卸問屋の娘と言う以外、怪しい点は何も出てこない。
ヴィオラのように、アレの最中に変身もしなければ、俺の知らない精霊を操る気配も無い。

「わ、私は、何も無いですよ」
ブンブンと首を振って、否定するアンジェリカ。

「そうか、それじゃ逆だな」
「えっ・・・」
うん、アンジェリカが一発で判らないのは多分始めてみたんじゃないか。

「お前は俺が守る、だからお前が全員を守ってくれ」



「はい~、判りました~」
暫く考え込んでいたアンジェリカが顔一杯に笑みを広げそう答えた。


そう少なくともアンジェリカが、全員を守る事に頭を使う限り彼女はここを追い出されないのだ。
そして、それこそが彼女の望む方向なのだから。



[11205] ハーレムを作ろう(呆れられよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/28 08:47
本日は短いです。
申し訳ございません。



----------------本文--------------

「確かこの辺りじゃないか?」
コンラートは荷馬車の隊列から、部下を一人連れて先駆けしてきた。

ヴィンドボナ郊外メクレンブルグ街道沿い、北東に15リーグ程離れた地点。
アーレンスフェルデの村を過ぎて暫く来た辺りだと聞いていた。

街道から右に分岐する道がある筈だが、まだ見つからない。
コンラートは馬を止めて、渡された地図に目をやる。


水に濡れても大丈夫なように透明の何かで覆われた地図である。
見やすく持ち運びには便利である。
だが、アルバートの手書きの地図は非常に判り難かった。


地図には『ココに標識あり』と言う風に書いてある見たいなのだが、その意味が良く判らない。


「隊長、隊長、アレじゃないですか?」
一緒に連れて来た隊員が、前方を指差している。

確かに、右手に分岐する道が見えている。
その角の処に、長い棒が立っておりその先に四角い何かが見えて来た。


「おお、あれが標識とか言うものか」
成程、実物を見れば良く判る。

30サント×60サントの長方形の板に矢印が載っており、その下に「アムゲーレンゼーまで2リーグ」と書いてある。
ちなみに、アムゲーレンゼーはアルバートの屋敷のある辺りの地名だ。

確かに、あのような標識があれば迷う事は無い。



「良し、俺は先に屋敷まで行って見る、お前はここで荷馬車隊を誘導しろ」
コンラートは馬に鞭を入れるのだった。




森の中を抜けて続く、そこそこの広さの道を一気に走り抜ける。
見晴らしが広がり、少し高くなった辺りに立派な屋敷が目に入って来た。


「アルバートの野郎、なんちゅう、でかい屋敷なんだよ!」
馬を並足に戻し、呆れた顔で屋敷を見つめる。


馬鹿でかい!
それが屋敷を見た時のコンラートの感想だった。

馬車を余裕で回せるロータリーが屋敷の正面まで続いている。
雨の日でも馬車の乗り降りができる様に、玄関の前には立派な庇まで伸びている。

玄関も重厚そうな扉、二階まで繋がりそうな大きさである。
正面から左右に威圧するように、総二階建ての建物が広がっている。


全く、男爵様の屋敷じゃねえぞこれ。
正面の玄関の石段の下まで直接馬を乗りつけながら、コンラートはそう思う。

どう考えても、侯爵、それもかなり裕福なクラスの屋敷だ。



馬から降りて、辺りを見回すが誰も出て来ない。
普通このような立派な屋敷の場合、馬丁か召使が飛んでくるのだが誰も現れない。

仕方なく、玄関横の木に馬の手綱を括りつける。
軽くマントを振りながら旅の埃を払い落とし、大きな玄関の前に立つ。

呼び鈴があったので、その紐を引く。



「ハイ」
声は右手から聞こえた。

そちらを向くと、小さな女の子が横手の扉を開けて顔を出していた。
なんだ、通用口があったのか。

「アウフガング傭兵団、コンラート・ファイトだ。 バルクフォン卿にお目通り願えるか」
「ハイ、おまちください」

バタンと扉が閉まって、少女が遠ざかって行くような気配がする。
普通、中に入れてくれても良いんじゃなかろうか。

まあ、ここがアルバートの屋敷であるのは間違いないようだ。






おっ?


暫く待たされ、漸く目の前の大きな扉が開いた。
扉の向こうには、召使らしい愛らしい美少女が立っていた。

思わず視線が胸の辺りを彷徨いかけるが、必死に堪える。


「失礼致しました。 どうぞ、バルクフォン卿がお待ちです」
美少女は丁寧に頭を下げ、コンラートを向かえ入れる。

やれやれ、無事到着かな。
コンラートは密かにため息をつきながら、屋敷の中に入っていった。




「やあ、無事についたか」
玄関を入り、中を唖然と眺めていると正面横の階段から聞きなれた声が響いてきた。
アルバートだ。

「ああバルクフォン卿、長旅でした」
「アルバートで良いよ、ここには知らないやつはいない」
アルバートがそう言ってくれるので、楽で良い。

一応雇用主だからけじめをつけようとするのだが、誰もいない処でそれをやるとアルバートが嫌がるのだ。


「助かる、流石に疲れた」
「うん? 何か問題でもあったのか?」
アルバートが心配そうに聞いてくる。

「いや、旅は信じられん位順調だった、あっ、でも、二三回盗賊が襲ってきたがな」
「で、被害は無かった?」
一応の確認の為だろう、コンラートも軽く頷く。


玄関ホールの端のテーブルに案内され、マントを脱いで椅子に腰を下ろす。
流石に、走り詰めで座れるのはありがたい。

マントは、先程とはまた違う召使が素早く受け取り持って行ってしまう。
その召使も美少女であった。


グラスとワインが運ばれて来て、テーブルに置かれるのを黙って見つめる。
三人目か…

また違う召使、当然この娘も可愛い。
やはり、アルバートが言っていたハーレムと言うのは本当なのだろう。




「それじゃ、えーと、輸送の無事を祝して」
アルバートの音頭で、グラスを掲げ一気に喉に流し込む。

よく冷えたワインが、身体に心地よい。


「後、半時もすれば荷馬車が着くが、運搬人夫はいるのか」
「いや、ここにはいない、当面は荷馬車に載せたままで置いておこう」

どうやら、そのまま売りに行く積りらしい。

「当ては?」
「一応、ボーデ商会への紹介状を手に入れた」

うん、ボーデ商会なら堅実だろう。
飛び抜けて高くは無いが、そこそこの値段は付けてくれるだろう。


「しかし、偉く立派な屋敷だな」
アルバートの下で働く事が決まってから、傭兵団を纏めて真っ直ぐ彼の領地へ向かった。
だからこの屋敷の事はアルバートから聞いてはいたが、今回は初めての訪問である。

「ああ、元アードルンク侯爵の屋敷だからな」
げっ、やっぱり侯爵様のお屋敷か。

「アルバート、君は自分が男爵だと言う事をちゃんと考えるべきだ」
「うん? それってやっぱり変か?」

自覚はあったらしい。
そりゃ、男爵が元侯爵の屋敷なんか手に入れた日には、絶対睨まれる。

「ああ流石にな。 まあ君の場合、金はあるのは判っているだろうがやっぱり目立つだろうな」
「そうか、まあいざとなれば何とか誤魔化すさ、どうせ俺は東方の出だから」


いや、東方の出だからと言って、誤魔化せるもんでも無いだろう。
厄介事にならなければ良いが。


一応、情報は仕入れとくか…
心当たりに、二三声を掛ける事にしよう。




「処で、先程から美少女しか見ないのだが、彼女等はあれか?」
「ああ、その通り、中々可愛いだろ」

こいつ、嬉しそうに言いやがって。
そりゃ、俺も後10歳若ければ・・・



「で、何人雇ったんだ?」
「五人」

ほう、まだ五人か。
目標二十人と叫んでなかったかな?

「あと、三日後に五人位増やす予定だ」
「お盛んな事で、刺されないように注意しろよ」

まあ、まともに聞くような話じゃないな。
女ばかりの屋敷にするとか叫んでいたが、本当にやるとは・・・

うん、女ばかり?
待てよ、そういや誰も表にいなかったな……



「アルバート、ひょっとしてこの馬鹿でかい屋敷を五人で回しているか?」
そうだ、確か『俺のハーレムに男は要らん』とか叫んでなかったか。

「流石に無理だった。 今は調理人が後二人、それとおまけだがチビッ子が二人の計九人だな」
アルバートが苦笑を浮かべながら答えて来る。

道理で、馬丁も誰も出てこなかった訳だ。
しかし、それだとこれだけの屋敷が維持できるのか。



「屋敷の維持は出来ているのか?」
コンラートは思わず心配してしまう。

「中は何とか回している。 彼女達も頑張ってくれているからな」
『中は』か。

確かに、洗濯女や見回り、庭師等が足りなさそうだな。
アルバートは侍従は持ちたがらないだろうが、今後ヴィンドボナで活動する以上、その辺りも必要になるのではないか。



「後、一応東方の魔道具を使わせているので、ここの掃除と洗濯は遥かに楽だからな」
ほう、アルバートの秘密兵器だな。

コンラートも幾つか使わせて貰っているが、中々便利な道具が多い。


「そうか、でもいずれ外回りや庭師なんかは必要になるだろう、どうするのだ?」
「そうなんだよなあ、どうしたものか」

目の前で、ウーンと頭を捻っているアルバートを見て、呆れてしまう。
こいつ、何にも考えずにハーレムを作る積りだったのか。



「アルバート、いやバルクフォン卿、悪い事は言わん、口入屋に言って普通に雇え」
そりゃ幾らなんでも無理、いや無茶だろう。

「でもなあ、ここの屋敷には山ほど東方の魔道具を持ち込んでいて、これが知られるとかなり不味いんだよな」
うん、魔道具は所詮魔道具だろう、知られても問題は無かろう。



「何が不味いんだ?」
コンラートは素直にアルバートに聞く。
アルバートの場合、常識がずれている場合が偶に、いや多々あるからな。



「一つには、こんな便利な魔道具があるなら売って欲しいと言われた場合の対応」
そりゃ、魔道具なんだから売れない、一品物で問題は無いだろう。

「二つ目は、まあこっちがメインだがな、大概のものがこの屋敷でしか動かない」
うん?
特に問題は無いと思うが、要は持ち出しが出来ない魔道具だろうが。

「そうなると、どうしてもこの屋敷そのものが注目される。
 様子を探りに来るやつまで出て来る。
 俺は静かに暮したいだけなんだ」

いや、それってこんな馬鹿でかい屋敷を買った時点で破綻してるぞ。





「バルクフォン卿、恐れ多くも元侯爵様のお屋敷をご購入された時点で、注目は集まるざるを得ないと愚考致します」
「あっ、やっぱそう?」

「ハイ、間違い無くそうでございます」
そう言ってコンラートは手杓でワインをグラスに注ぎ、高く差し上げる。




目の前で、アルバートが頭を抱えている。
可哀そうな男だ。

男の夢、いや違う。
ハーレムを作ろう等と言う羨ましい、いやいや、邪な考えを実行に移すからだ。

そんなアルバートにコンラートが捧げる言葉はただ一言だった。





ざまーみろ!





そう思いながら、コンラートは一気にワインを飲み干すのだった。





[11205] ハーレムを作ろう(風呂に放り込もう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/09/29 00:55
私が、ガリア王国の王家の血を引く?

そうご主人さまに言われても、実感などあろう筈もありません。
ただ自慢の青い髪がその証拠だと言われれば、グロリアもそうなのかと考え込まざるを得ませんでした。

実際、客が来るからとご主人さまに、魔法で髪の色を変えられました。
今までと違う、赤み掛かったブロンズ色の髪を鏡越しに見つめると、その事が恐くなり身体が震えて来るようでした。



「うーむ、可愛い娘はどんな色でも可愛いな」
そんなグロリアの震えを止めて下さったのはご主人さまの言葉でした。

「えっ?」
「いや、グロリアは可愛いからこう言う色も似合うな」
そう言いながらご主人に優しく髪を撫でられると、不安が身体から抜けて行くようです。

「あっ…」
だから、手が離れた時に思わず声が出たのも仕方のない事だと思います。

そして、グロリアの小さな声にご主人さまが気付き肩を抱かれたのも自然な動きだと思います。
ご主人さまの唇が迫って来て、グロリアも目を閉じてそれに答えます。


うっとりするような熱い口付けに、グロリアは身体中から力が……




「グロリアさん…」



「ねえ、グロリアさん!」


「えっ? あれ?ご主人さまは?」
ここは今日から自分の部屋になる二階の一室だった。

グロリアはキョロキョロと辺りを見回すが、もうご主人さまはいない。


「グロリアさん、しっかりして下さい!」
先程でて行かれましたよとヴィオラに指摘され、頭がクラクラする。

また自分の世界に入り込んでいたようだ。


「あっ、ごめんね、で何?」
グロリアは、慌ててヴィオラに聞き返す。

どちらの部屋を使うかとの事なので、ヴィオラが選んで良いと答えておく。


「じゃ、私こっちにします!」
嬉しそうに左の部屋に駆け込むヴィオラを見て、彼女は自分の出自が気にならないのだろうかと不思議に思う。

私もそうだけど、ヴィオラのそれはかなり大変だと思う。
まさか、獣人の血が入ってるなんて。


もし、自分だったら…


そこまで考えてグロリアは、はっと気が付いた。
自分とヴィオラの問題は、ある意味同じなんだ。

獣人の血筋、王家の血筋、方向は違う。
うううん、方向すら一緒だわ。

だってどちらにせよ、二人には全く必要が無いもの。
そう、ご主人さまと仲良く暮らして行く上では、そんな事関係ない。




グロリアは、そっと唇に手を充ててみる。
もう、何の感触も残っていない。

だけど、先程の口付けは嘘じゃない。


フフっ!


グロリアは、笑みを浮かべ自分の部屋の片付けに取り掛かるのだった。







部屋の移動と片付けが終わると、休む間もなくファイト様がお越しになりました。

ご主人さまが出迎えられ、二人は玄関ホールにて話し出されます。


ファイト様は、ご主人さまに雇われた傭兵団の団長だそうです。
だけど遠めで見ている限り、まるでお友達の様でした。





それから、半時も経ったでしょうか?
荷馬車の隊列が到着し、グロリア達は更に忙しくなるのでした。






「まず全員風呂だ!ファイト、五人づつ入らすぞ、手伝え」

グロリア達は言われた通り大量のバスタオルとバスローブを用意し、風呂場から退散します。
そこからは、男の人達の罵声や悲鳴が聞こえて来ました。


それは、丁度初めてグロリア達がここに連れて来られた最初の日が思いだされます。



そして、愕然としました。

傭兵団の皆様や、御者を勤める方々が、風呂の入り口で自分の番を待たれているんです。
中から聞こえる罵声や悲鳴に戦々恐々とされてます。

グロリア、その姿を見て服装が汚いと思いました。
そして、皆様のすえた匂いに秘かに顔をしかめていたんです。



でも、でもその姿はほんの十二三日前の自分達の姿そのものでした。



毎日お風呂に入り、髪の毛まで綺麗に洗う生活。

それをたった十日と少し続けただけで、以前の普通の生活が如何に薄汚れたものであったのか。
そして、この屋敷での生活が如何に清潔なものであるかを思い知らされたのでした。






そんな事を思っていると、ビショビショになった服のままでご主人さまが出て来られました。




「いやあ、二度とせんぞ」
そう言いながら、ご主人さまが杖を取り出し一振りされます。
濡れていた服はあっと言う間に乾いてます。

「アマンダ!いるか!」
辺りを見回し彼女を呼びました。

「は、ハイぃ~っ」
呼ばれたアマンダがホールから飛び出して来ます。
彼女は、昼食の用意を手伝っていたのでした。

「風呂から上がった連中を大ホールまで案内を頼む」
駆け寄ったアマンダに、ご主人さまがそう言います。

グロリアとアンさんも控えていたのに、どうしてわざわざアマンダを呼んだのでしょう?


「お前達!この屋敷には可愛いメイド達がいるが、決して手を出すんじゃないぞ!」
先程から、私達をジロジロ見ている男の人達にご主人さまが声を掛けます。

でも、殿方の習性ですからそう言ってもお尻ぐらいなぞられるのは止まらないでしょう。


「おい、お前、ちょっとこっち来い」
やけにグロリアの胸ばかりに視線を寄せていた男の人をご主人さまが呼び付けました。

「アマンダ、少し我慢してくれ」
「ふぇ?」
アマンダはクルリと後ろを向かせられ、きょとんとしています。

「ほら、この娘の尻を触ってみ」
「えっ?」
男の人は、驚いたようにご主人さまを見ます。

「ほらほら、さっさとする!」
「は、ハイ」
男の人は、促されるままに、アマンダのお尻に手をあてようとしました。




「うわっ、あちっ!」
男の人が慌てて飛び退きました。

「このように彼女達は、魔法で守られている」
ご主人さまが、説明しています。

「軽く触れようとしても、ああだ」
確かに、余程熱かったのか、男の人は手を冷まそうと必死に風を吹きかけています。

「それ以上の事をするなよ、焼かれるぞ」
皆さんコクコクと頷かれています。



確かに、焼かれたくは無いでしょうから私達へのちょっかいは減りますね。
でもご主人さまが、グロリアの胸ばかり見ていた男の方を選んだのは偶然じゃないですよね。

そう思うと少し、嬉しくなります。



「なるほどね~、だからアマンダを呼んだのね~」
アンが納得したように頷いてます。

アマンダは、火の精霊の守りが掛かっているそうです。
グロリアを含む四名は水の精霊の守りだけです。

確かに、火の精霊の守りの方が判りやすそう。
しかし、水の精霊の場合はどうなるのかしら?

今度、ご主人さまに聞いてみましょう。





全員がお風呂を上がり大ホールに入ると、グロリア達は風呂場の後片付けです。
大ホールでのお客様に対する世話に、アマンダ、ゼルマ、ヴィオラが手をとられるので、こちらは二人でしなければなりません。

二十数名分の汚れた衣類を、洗濯機に放り込んで洗って行きます。
それとは別に、バスタオルも洗うので、洗濯機は三台ともフル稼働です。

しかも皆様の衣類は、初日にグロリア達の衣類を洗った時と同じで洗濯すれば色々と解けてしまうでしょう。
それらを、繕いちゃんと着れるように戻すとなると、今晩一晩掛かるかも知れません。



「やっぱり、五人じゃ無理があるわね」
私はアンジェリカに話し掛けました。

「うーん、そうだね~。 だけど、三日もすれば新しい娘が来るから大丈夫だよね~」
確かに、今日のようにお客様が見えられると、五人ではてんてこ舞いです。

だけど、新しい娘が来ると言う事は同時にライバルが増える事を意味するので、少し複雑な気持ちです。




「ねえ、アン? 私達って特別な存在に慣れたのかしら?」


二日前、アンジェリカが言って来た話から始まったように思える一連の流れ。
その最後が今朝のグロリア自身の出自の話。

うううん、違うわね。

ご主人さまにすれば、いずれ話す積りだった内容なのだろう。
だって、アンジェリカの一件が無くとも、私の髪は青いのだから。




「うん、絶対そうだよ~」
アンが嬉しそうに言って来ます。

「私、少し焦りすぎたのだと思う」
「えっ?」

アンジェリカが言うのは、ここでの生活を続ければ続ける程、ここが気に入ったのだそうだ。
次から次へと出て来る、知らないもの、見たこと無いもの。

一つを知れば、次を知りたくなる。
二階の書庫には、アンジェリカが見たことも無い様々な書籍が置いてある。

まだ、ご主人さまのお国の言葉は判らない文字ばかり。
これを覚えれば、あの書籍が読める。

載っているもの、書いてある事、全て見てみたい、知りたい内容。


「グロリアは、ご主人さまの国に行ったんだよね~」
アンがとっても羨ましそうに、私を見ます。

アンも行って見たいそうです。
その為には、ご主人さまに気に入られなければいけない。

「残念ながら~、胸ではグロリアには勝てないのよね~」
アンジェリカが言います。

二番ではダメなんだそうです。
一番になってこそ、ずっとここに居られる。

ご主人さまにとって意味のある存在になれると言う事らしいです。


「あっ、でもそれって、もし、もしも私より胸の大きな人が来たらダメになるのじゃない?」
私はアンに聞きました。

「うううん、グロリアはもう特別な存在なんだよ~」
アンジェリカが説明してくれました。



私が特別な存在だから、青い髪の事を隠そうとして下さる。

ヴィオラが特別な存在だから、出自を隠そうとして下さる。

ゼルマが特別な存在だから、その御家再興の夢を叶えようとして下さる。


「アマンダの場合は、特別な存在になっちゃったんだね~」
火の精霊の守りを持った女の子と言うだけで既に特別なのに、更に水の精霊の加護を受けてしまったアマンダ。




「だけど~、私だけは、何も無いのよね~」
アンが少し寂しげに行ってくる。

「そ、そんな事無いわよ」
「ありがとう、グロリア」
寂しそうなまま、それでもアンは笑みを返してくれる。

「でもね、私は特別じゃなくても、皆を、四人を守る事が出来る。
 うううん、守る事で私も特別になれるの」



「だから」
アンジェリカは言う。

今回は、先走りし過ぎて、ご主人さまの計画を狂わせてしまった。
だけど、今後はこんな失敗はしない。

絶対に、ご主人さまの先を読んで皆の助けになるように、動いてみせる。
それこそ、私がここに残れる、特別な存在になれる方法。




「だから~、グロリアも私を充てにして頂戴~」
アンが、にぱあと笑いながら、そう言ってくる。

「判ったわ、頼りにしてるわ」
私も、顔一杯に笑みを浮かべ、それに答えていた。



--------------------------かいせつのようなモノ--------------------------
感想でもご指摘頂いたのですが、流石にかなり詰め込み過ぎました。
お陰で、彼女達の影が薄れて行く一方。
と言う事で、各自のお話が続きます。
お陰で、エオローの週、オセルの曜日の長い事、長い事。
明日もまだ、この一日は終わりません。



[11205] ハーレムを作ろう(宴会を始めよう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/01 22:28
広いホールの中、白いガウンを纏った十名程度の男達が二三人づつ位で固まり小声で話している。
彼ら自身このような場違いな所に来させられ、困惑しているのだった。


しかし、そんな男達の考えとは関係なく、アマンダは言われた仕事をこなそうと必死だった。
そうお客様全員に、お飲み物を届けるのだ。

アマンダはお盆の上にワインを入れたマグカップを載せ運んでいた。
目指すは、前方三メイル、右五十サントの位置に立つ男性。

先程、風呂から上がったのかまだ手にはカップを持っていない。



こぼしちゃいけない、こぼしちゃいけない。



アマンダは小さく呟きながら、一歩一歩確実に距離を縮めて行く。

幸い、周りにいる男の人達はアマンダが近づくと皆場所を開けてくれる位親切だ。
お盆に載せているのもガラス製の華奢なワイングラスではなく、落としても割れない丈夫なマグカップだ。

しかもたった一つのマグカップしか載せていない。
よし大丈夫、アマンダにはどこにも不安要素は無い!

無事、目標の男性までワインを運ぶだけだ。



こぼしちゃいけない、こぼしちゃいけない。



ゆっくり、着実に、アマンダは進んで行く。
周りの男達は、そんなアマンダの様子を不思議な物を見るような顔で見ているだけだった。



更に部屋を見渡すと、同じようにお盆を掲げマグカップを運ぶメイドがあと二人いる。
但しこの二人は更に小さな子供である。

三人のそんな必死な様子に、誰もがなんとかしてやれと心に思うが突っ込めないでいた。
出来るのは、彼女達が差し出すカップを引きつった笑みを浮かべ受け取るたけだった。




しかしながら、それも慣れてくれば変わる。
最後には風呂から上がった三人がホールに入ろうとすると、それぞれの友人が駆け寄る。

友人は一様に引きつった笑みを張り付け、何も知らない彼らを有無を言わせず引っ張るのだった。
そして、ホールの隅まで連れて来られるのだ。

そう、そこには今しもお盆を掲げ、遠征に乗り出そうとしていたアマンダ達が待ち受けている。


「お飲物をどうぞ」
顔一杯の笑顔と共にマグカップを差し出すアマンダ。

「おのみものです」
真剣な顔で、お盆を掲げ見つめるリリー。

「どうぞ」
顔も上げる事も出来ず、掲げるお盆を見つめるだけのクリスティーナ。


「あ、ありがとう」
「ああ…どうも」
「ありがとう?」
三人がそれぞれなりのお礼の言葉を口にしながら、カップを受け取る。

アマンダの笑顔が更に大きくなる。
チビッ子二人はお互いに顔を見合わせほほ笑み合う。

勿論ホールにいる全ての男達の間にも、ほんわかしたものが広がるのだった。






ようやく全員にカップが行き渡ったので、次はお代わりの準備だ。
アマンダはチビッ子二人を引き連れ、厨房の奥の貯蔵庫に向かう。

貯蔵庫には沢山の保存が効く食材が山積みされている。
お酒等の飲み物は一番奥にしまってある。

真直ぐに奥を目指していたアマンダが突然立ち止まると違う方向に進み始める。


「アマンダ姉ちゃん?」
突然右に方向を変えたアマンダに不思議に思ったリリーが尋ねた。

「ちょっと栄養補給」
ニマっとアマンダは笑うと棚の上のメイジミルクチョコレートを一つ取り出す。

「えいよう!」
「ほきゅう!」
リリーとクリスに異存などある筈もなく、三人は仲良く板チョコを平らげるのだった。


ポケットからハンカチを取出し、自分も含め三人の口の周りを綺麗に拭き取る。

「じゃ、行こっか」
「「がんばろー」」
三人は再び奥の酒蔵を目指すのだった。


赤ワインと白ワインのボトル。
それが入った木箱をカートに載せようにも、アマンダでは持ち上がらない。

仕方なく、三人で中のボトルを一旦外に出す。
何とかカートに乗ったので、再びボトルを戻してやっと準備完了!

カートを引っ張るが、思ったより重い。
それでも三人で、力を合わせて運び始める。




「大丈夫?」
うんうん唸りながら運んでいると、前から声がした。

「あ~、ヴィオラ!お、重いのよ」
アマンダは涙目だった。
チビッ子二人の前で弱きを見せる訳行かなくて、必死に頑張ってたのだ。

「手伝うよ」
苦笑を浮かべながら、ヴィオラが引っ張り始める。

「ふえっ?」
カートが滑らかに転がり始める。
リリーとクリスもポカンと見てる。

「ま、待って、待って、ヴィオラ」

「うん?何?」
ヴィオラは、カートを引っ張りながら返事をしてくる。


おかしい。


どう見てもヴィオラが力を込めている様には見えない。

「ちょっと、止まって貰える?」

「何か忘れた?」
そう言いながら、カートが止まる。


アマンダはカートを押してみる。
やっぱり重い。
動かない事はないけど、軽々と運べる重さじゃない。

「何かあったの?」
ヴィオラが怪訝そうに聞いてきた。

「うううん、別に」
チビッ子二人もそれを見て、フルフルと首を左右に振る。

「じゃ、急がなきゃ、行くよ」
スーっと言う感じでカートが進んで行く。

「あっ、待って、待って」
慌ててアマンダとチビッ子二人は後を追った。


三人の考えは一緒だった。
うん、ヴィオラ(姉)とは喧嘩しちゃ(逆らっちゃ)いけない。










お家再興…
これが、昨日までのゼルマの望みだった。

だがそれもこの屋敷で働き始め、ご主人さまと………
以来、それ程重要な事だとは感じなくなっていた。

それが、今朝の話で大きく変わった。
父は貶められたのだった。

それも、部下であるアルベルト卿と上司のブッフバルト卿の二人の手によって。


衝撃の事実だった。
何かの間違いだとは思っており、それ故のお家再興を願っていたのだ。

それが、母と私に優しくしてくれたアルベルト卿、そして父に連れられて挨拶に伺った事もあるブッフバルト卿。
この二人の手により、ヴェスターテ家は没落したのだった。

私はどうすれば良いのか…
ゼルマは、大ホールに料理を運びながら、悩み続ける。




「ゼルマはどうしたいの?」
それは、午前中に部屋の移動を行っている時のアンの言葉。

「判らない、私は何がしたいのか」
そして、これがゼルマの答え。

「そうなんだ~、でもね、ご主人さまも言ってたでしょ~」
新しい部屋のリビングと言う空間に置かれたソファに腰を下ろしてアンが答える。

「ゆっくり考えて、ゼルマ自身の結論をご主人さまに伝えなさいね~」
アンがソファの上で、その感触を楽しむように飛び跳ねながらそう答えてくる。

「でもね~、忘れちゃ駄目よ~」
アンが立ち上がり、ゼルマの前に歩み寄る。

「ご主人さまは、ゼルマの結論を全力でサポートして下さる事をね~」
真っ直ぐにゼルマを見つめながら話しかけてくるアンジェリカ。

そう、それはきっとゼルマが聞きたかった言葉。
そして、ゼルマ自身がそうであってくれる事を望んでいる言葉だった。






大ホールには、白いガウンを羽織った二十名以上の男性が佇んでいた。
大きなお盆に湯気の上がる料理を載せて隅のテーブルに置いて行く。

「どうせ、マナーなんて知らない人が多いわねー、だからバイキングにするからー」
アリサさんがそう言って、順番に料理を運ぶように言って来た。

『ばいきんぐ』と言うのは、ご主人さまのお国の料理の食べ方だそうだ。
完成した料理を並べ、自由に取り分けて食べる方法だと言う事だ。

アリサさんは、料理に関する様々な情報を収集するのが趣味だそうで、ご主人さまのお国の料理も既に色々手掛けている。
最初に会ったときはかなり反発したけど、今では尊敬に値する人、いやエルフだと思う。

あれで、ご主人さまとの関係さえなければ…」
次の料理を取りに、空の盆を小脇に抱えて厨房に入ろうとする。

「ゼルマさん、聞こえちゃいますよ」

「うん? 口に出していたか、ありがとうヴィオラ」
そっと、調理をしているアリサさんを伺う。

うん、大丈夫聞こえなかったようだ。

今は、多くのお客様が来ている。
流石に、注意しているのでお客様の前で独り言を言う事は無いが、逆に厨房に戻ってきた時にはポロッと漏れてしまう。

気を付けなければ行けないとは思うのだが、四六時中注意しているのは難しい。

「ゼルマ、こっちの料理あがったから持って行ってー、ヴィオラはカーリンの方頼むねー」
「ハイ」
「ハーイ!」

今は、のんびりしている暇は無い。
ゼルマは急いで、出来たばかりの『焼きそば』と言う料理の皿をお盆に載せる。


「ゼルマ、仕方ないでしょ、アルとは古い付き合いなんだからー」
げっ、聞こえていたみたいだった。

アリサさんが苦笑いを浮かべながら、こっそりと話し掛けてくる。

「す、すみません…」
顔を赤らめながら、急いで厨房を飛び出すのだった。




お盆を持ってホールに戻ると、丁度全員揃ったのか、正面にご主人さまが立ちその横に傭兵隊長が控えていた。

「いいな、全員に注意事項を伝えるぞー」
ご主人さまの声がホールに響く。

ゼルマもお盆の料理をテーブルに降ろし、壁際に佇み話を伺う。


「まず今日の昼食兼晩飯は、ここに用意してあるものだ」
おおっと言う声が部屋中から沸き上がる。

一応目の前に置かれた様々な料理を、自分達が食べられるのだろうと想像していたが、やはりちゃんと言われると嬉しい。

「取り皿、これだ!」
ご主人さまがテーブルの隅に詰まれた皿を一つ掴み、見えるように高く掲げる。

「これに食べる分だけ、その大きなハサミのようなもので取る!」
「決して、テーブルの料理の前に陣取って一人で全部食べようとするなよ」
どっと笑いが起こる。

「後、ちゃんとフォーク、そしてスプーンは使え、手掴みは禁止な!」
ざわざわとざわめきが広がる。

確かに貴族の間では、今時手掴みで物を食べるのは行儀の悪い事だとなっておりするものはいない。
だが、平民の間ではそれ程おかしな事でもないのだ。

「お前ら、今来ているガウン何色か判るか? そう、真っ白だ!」
「その格好で、手掴みで食べてみろ、ええ、ガウンにその手で触るだろうが」

ああ、なるほど、ウンウンと言う同意が広がる。
でもそう言っても、ガウンを汚す人は沢山いるだろう。

「とにかく、可愛いメイド達の仕事を増やす奴は、朝食が減らされても俺は知らん」
「ナイフ、フォーク、スプーン、使えるなら箸も使いやがれ!」

ああ、そうか、とか納得するようなざわめきが広がる。

「次に飲み物だ。 一応ちゃんとした水もあるが、白と赤のワイン、強い酒は夜まで我慢な」
ぶつぶつざわめくような声が聞こえるが、傭兵隊長がジロリと睨むと直ぐに納まる。

「飲み物は、左隅、あそこにお前らに飲み物を運んでくれた、可愛いメイドがいるだろ、彼女達に貰え」
ああとか、おおとか言う声が上がる。
チビッ子メイド'sの活躍は全員が見ており、それは好意的な反応だった。


そこまで話すと、ご主人さまは傭兵団長に話を振るようだった。


「今、バルクフォン卿に言われた事さえ守れば、ここの料理は全部俺たちのものらしい」
「判りました~」、「任してください~」
等と笑いと同時に元気な返事が返ってくる。

「ヴィンドボナを出て、二十日以上の旅路に対するバルクフォン卿のお礼だそうだ、存分に味わおう」
そう言って、ファイト様とか言う傭兵隊長がカップを高く差し上げる。

全員がそれに従うまで、隊長は暫く間を置いた。

「では、我々の任務の無事終了と、バルクフォン卿の心づくしに感謝して」
そう言いながら、隊長がカップを口に運ぶ。


部屋にいる全員がそれに従い、一気に飲み干すと宴会が始まった。








ヴィオラは、貯蔵庫の奥までワインを取りに来ていた。
お代わりとして、運んだ分が物凄い勢いで消えて行くのだ。

カートを運んで来て、ワインのボトルが入った木箱に手を掛ける。

「よいしょ」
木箱は軽々と持ち上がる。

これだったら、二つ一度でも大丈夫だよね。
ヴィオラはもう一つの木箱をカートに載せて、運び始めた。

明らかに、自分の力が強くなっている。
これって、やっぱあれのせいかなあ。



ご主人さまに襲って貰った。
その最中に、ヴィオラは変身したのだ。

直ぐには気が付かなかったけど、終わってぼおっとしている時に耳を撫でられ気付いたのだ。
耳の後ろを撫でるようにされていると、何だか心が落ち着く様で気持ち良い。


あれ?


私の耳ってそんな上にあったっけ?
感覚は耳の後ろって言ってるんだが、位置がおかしい。

「あー、ヴィオラ、落ち着いて聞けよ、お前今猫耳、それと尻尾がある」
えっ、尻尾?
ああ、こうやって動いている尻尾ね……


「ええっ!」
慌ててパニックになる私をご主人さまが押さえ付けて…

抱き締められて、それでも落ち着かない私の唇を…

まだ暴れようとするので襲われて…

思い出すだけで顔が茹るほど真っ赤になってしまう。


これを何度か繰り返した後で獣人化は解けていた。
ようやく落ち着いた、と言うか放心状態の私にご主人さまが解説して下さった。


何代か前に獣人の血脈が入っていると。
一度発現した以上、極度の興奮状態になるとまた起こり得ると。

猫耳、モフモフ尻尾のヴィオラも可愛いと。

また、変身して…


いやいや、うん、後は思い出す程の事じゃないよね。
とにかく、ヴィオラも獣人だったんだ。

そう、思い返して見れば、故郷の村でやたら毛深い人も見かけた事がある。
フードで顔を隠しゆったりとしたローブを纏い、森の産物を売りに来る人。

フードから覗く手は毛むくじゃらだった。


今なら判る、あの人は獣人だと。
教会も無い小さな辺境の村だからこそ、受け入れられた人もいたのだろう。


それでも今朝突然ご主人さまが皆の前でヴィオラの事を話した時は、パニックになりそうだった。
ご主人さまの魔法で、無理矢理抑え付けられた時は涙が溢れそうになった。

卑怯だ、ご主人さまの裏切りだ。
皆に蔑んだ目で見られる。

そんな思いで一杯だった。



でも、話を聞いたら馬鹿らしくなっちゃった。
皆問題を抱えている。

それに、皆ご主人さまに買い取られた身。
今更何を言われても、その境遇に変化がある訳じゃない。


なんだ、昨日も今日もヴィオラのする事は変わらないんだ。
出来る仕事を精一杯こなすだけ。


力が強くなっているのは、より多くの仕事がこなせるんだから、ありがたい事。
あっ、でも一つ大きな違いがあった。


それはご主人さま。
もう、襲われる事を悩む必要が無くなった事。


そうだ!
朝突然、皆に話したのはやっぱり腹が立つ。


うん、責任はとって貰わないとね。
今度変身したら、それが解けるまで一杯、一杯責任とって貰おう!







宴たけなわで、何だか凄い事になっている大ホールにカートでワインを運び込む。
ワインの木箱を軽々て降ろすのを、アマンダがポカンと見ていた。

「ねえ、ねえ、ヴィオラ」
アマンダがこっそり話し掛けてきた。

「うん?なあに?」
ヴィオラは耳を寄せる。

「どうしたら、獣人になれる?」
何を言いだすんだ、アマンダは!


そう思い驚いて、アマンダの顔を見つめる。
うん、キラキラと憧れるような瞳が目の前にあった。

アマンダにすれば、獣人と言ってもこんなものなんだ。


「うーん、私も良く判らないわ、でもね」
苦笑を浮かべながら、アマンダのおでこを軽くこづく。

「少なくとも、貯蔵庫でこっそりチョコレート食べてちゃなれないわね」
あわあわと慌てるアマンダ。



うん、どうやら獣人になると、匂いにも鋭くなるみたいだった。



[11205] ハーレムを作ろう(小麦を売ろう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/01 22:28
「おはようございます、旦那さま」

うん?
今、聞き慣れない言葉を耳にしたような…

ここは?
ヴィンドボナの俺の屋敷、自分の部屋。

俺は?
アルバート・コウ・バルクフォン、ゲルマニアの男爵にして、稀代の大魔導師アルバート・デュランの同位体。

じゃあ、俺のベッドの横で言っちゃった、言っちゃったと身をくねらせて大きく揺れている胸は?
うん、麗しの最終兵器、グロリアだ。

「ああ、おはよう」
ようやく目覚めた視線に、大きな胸が飛び込んでくる。

それぞれの起こし方は違う。
だがやはり目の前でどうぞ触って下さいと、揺れ動く巨乳が一番最初に飛び込んでくるグロリアの場合は格別だ。

俺は元気に起き上がり、グロリアに熱い口付けを交わそうとして…


頭を抱えて塞ぎ込んだ。


頭がガンガン鳴っている。
ちくせう、一体昨晩どれだけ飲んだんだよ。

「だ、旦那さま! 大丈夫ですか!」
グロリアが慌てて、俺の背中をさすってくれる。

「あ、ああ、だ、大丈夫だ、ち、ちょっと待ってくれ」
俺は割れるような頭の痛みに堪えながら精神を集中する。

辛うじて、体内の水の精霊とのコンタクトを確立出来た。
後はお願いするだけだ。

スーっと痛みが消えて行く。
俺はようやく、息を大きく吐き出した。

水の精霊にお願いし、弱っている新陳代謝をしばらく代わって貰ったのだ。
生物にとって、体内に留めた水の精霊を自由に操れる事のメリットはとてつも無く大きい。

今のように、通常の身体機能を魔力で代替させる事が可能となる。


しかし最も大きなメリットは、延命だ。

生物の細胞は一部の細胞を除き、常に新しい細胞に生まれ変わっている。
部位によって寿命は違うが五、六年で、代替出来ない細胞を除けば全て入れ替わる。

水の精霊にお願いし、各細胞の機能をある程度まで代替して貰うと何が起きるか?
そう、各細胞の寿命が延びるのである。

大体五倍以上の期間の延長が可能となる。
エルフなどの亜人が総じて長命な理由がここにある。

生まれた時から水の精霊の加護を受けている為に、生物としての生よりも長生きなのだ。
アルの場合はこれに気付いたのが遅かった為、三百年強の寿命だった。

俺の場合、今の時点から加護を受けている為、果たして何才まで生きられるのかは判らん。
ちなみに、五人には水の精霊の加護を与えてあるのでこのまま行けば普通より長生きになるのは間違いない。

当分は、いつまで経っても若々しいと言う程度のメリットしか気が付かないだろうから、今のところはそのままにしてある。
別に彼女らに真実を話す積りは無い。

水の精霊の加護を解除すれば、そこからは普通に歳を取るだけなので話さない方が良いのではと思っている。
まあ、十年後位に真剣に考えれば良いかと今は思っているのだ。




「ご主人さま?」
グロリアが心配気に覗き込んでくる。

「ああ、大丈夫だ、昨日は飲みすぎたようだ」
「まあ、大変! お水お持ちしましょうか?」

「いや、もう大丈夫、それに、水よりもっと効き目のあるものが目の前にあるし」
そう言っておれは、グロリアを手繰り寄せた。







一時間後大ホールを覗くと、ファイトのおっさんがいたので、昼過ぎの待ち合わせの時間だけを確認した。
これから、ファイト達はヴィンドボナに確保した倉庫まで小麦を運ぶのだ。

今後の事は、昨晩打ち合せ済みなので今の所問題無い。


「じゃ、後で」
そう言って俺は何時もの食堂に向かう。




「おはようございます」
「ああ、おはよう」
全員の挨拶に、こちらも答える。

そこで初めて俺はグロリアが、かなり早く起こしに来た事に気づいた。


苦笑を浮かべながら、全員の顔を見る。
グロリアを軽く睨むと顔を赤らめて下を向いてしまう。

うーむ、何となく明日から皆起こしに来るのが早くなりそうだった。



そう言えば昨日は皆大変だったのだ。
今頃気づくなんて、もっと早く気づけよな。


「昨日はご苦労さん、身体の方は大丈夫か?」
多分後片付けなど大変だったろう。

「ハイ、大丈夫です!」
ヴィオラ一人が元気に叫ぶが、他の四人は少し疲れ気味な返事が返ってくる。

「午前中には全員出ていくから、その後の掃除もあるだろうが、皆頑張って欲しい」
そう言いながら、俺は杖を取出し術式を展開する。

水の精霊にお願いし、新陳代謝の代替を彼女等にも掛けて貰う。
五人だけなら、杖を使わずとも可能だがチビッ子二人もいるからな。


あっとか、えっとかの声が口々に零れる。

「これで今日一日は大丈夫だろうが、今晩は早く寝て疲れはちゃんと癒してくれ」
「ありがとうございます」

全員の、今度は元気な声に少し悪い気がする。
まあ、無理矢理働かしているようなものだからな。

今度ちゃんと埋め合わせを考えよう。


「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす!」

あっ、アリサとカーリンを忘れてた。
彼女達にも、お礼をしとかなきゃ。







昼前、俺は予め借り受けた倉庫の一室に転移した。
ヴィンドボナ市街まで馬車で一時間半程だが、この間ので馬車は懲りたのだ。

で、小麦を運び込む倉庫を借りるついでに、転移ポイントをここに設定しておいた。
外に出ると、待つ程も無く荷馬車の隊列が近づいてくる。

まあ、タイミングを見計らって転移したので当たり前だが。


「こっちだ!」
ファイトのおっさんに、手を振り馬車を誘導する。

後は小麦を降ろせば終わりだ。

一応売れるまでは念の為、ファイトの部下に警備させなきゃいけない。
後、扉にロックと固定化を掛けとけば、相手がメイジでもそう簡単には盗めまい。

御者の中でヴィンドボナで雇った連中はここで解散になるが、一応専属で働かないか声は掛けてある。
所属は傭兵団になるが、昨日の宴会がプラスに働いてくれる事を祈るばかりだ。

ちなみに御者達は一応ギルドに所属しているので、ほいほいとは引き抜けない。
希望を募り、後はギルドと金額交渉になる。

何せ、二頭立て以上の馬車を操れる特殊技能の持ち主なのだ。
交渉はファイトのおっさんに任せてあるが、決して安い金額ではないだろう。

通常高々男爵クラスなら必要に応じてギルドにその都度御者や、馬車まで手配して貰う。
まあ、半分以上俺の我儘なのかもしれないが、出来れば専属の御者が欲しい。


実際、あちらの世界で乗り心地のまともな馬車を作らせている以上、いずれ必要にもなるしな。



しかしこんな事やってると、こっちの屋敷でもまともな執事が欲しくなるな。
やはり屋敷の外回りの庭師等も必要だから、ファイトの言うように男手を雇わなゃならんのかなあ。


少し当たって見るか。





ファイトの副官代理のヨアヒムがレビテーションの魔法を掛けて、残りの連中が浮かび上がった小麦を運び込む。
その様子を監督していたファイトのおっさんがこちらにやって来る。


「またせたな」
「いんや、じゃ行くか」

大丈夫と納得できたようで、俺はファイトのおっさんとヴィンドボナの中心街に向かった。




カイザー大通りの宮殿から反対側の広場に近い所にボーデ商会の本館が建っている。

「さすがに、でかいな」
二階、いや三階辺りまで届きそうな立派な正面入り口に、俺は呆れたような声を出す。

「アルバートの国には無いのか?」
「ああ、無い事無いが、ここまで仰々しいのは少ないな」

まあ、あっちでも、ヨーロッパに行けばあるかもしれんが俺は知らない。

「気後れするなよ、バルクフォン卿!」
「ああ、判ってるって」

さあて、気合い入れて行きますか!



中に入り、受け付けで紹介状を見せる。
しばらく待たされ、やがて奥から恰幅の良い人物が出て来た。

「アルバート・コウ・バルクフォン卿でしょうか」
ああと、俺は頷く。

「では、こちらへ」
奥へ通され、更に二階へと案内される。





おかしい…
紹介状の効果があるにしろ、ゲルマニアで一二を争う豪商の本拠地だ。

一見の客を相手にする対応ではない。


初めは案内する男が、交渉相手かと思ったが、違うようだ。
二階の廊下の突き当たりに向けて男は躊躇い無く進んで行く。


ファイトのおっさんも、異様な状況に目配せしてくる。



「失礼します。 バルクフォン卿をお連れしました」
男が軽く扉を叩き、そう告げる。

「入って頂け」
まさか!
これだけ、偉そうな返事を返して来る以上は当主が待っているのか?


男が扉を開き、俺達を招き入れる。
広い部屋の奥に大きな執務机、床の絨毯も壁に架けられたタペストリーも十二分に高価だ。

後ろで扉が閉められる。
結局、商会ではそこそこの地位がありそうな男は部屋にも入らず案内だけだった。


そう、正にVIP扱い。
しかし、理由が判らない。


執務机の向うの初老の男性が立ち上がる。
先程の恰幅の良い男が当主で、こちらが執事だと言われれば信じるものも多いだろう。


だが、視線が違う。
見透かすような鋭い視線が俺を検分するように、見つめて来る。

それは一瞬、それでも一生分の運を必要とする瞬間。
その時は、何故そう思ったのか俺自身も判らなかった。


だが、それは正しかったのだろう。



「これは失礼した。 挨拶もせずに」
男の視線から鋭さが消え去り、柔らかな雰囲気が醸し出される。

「私が、ボーデ商会の代表ディートヘルム・ボーデだ。 小麦が売りたいそうだな、バルクフォン卿」
しかし、紡ぎ出される言葉に虚飾は無い。

そう、それは自分の優位を確信している、ゲルマニアで一二を争う豪商の当主らしいもの言いだった。


「はあ、確かにその積もりだったが」
ここで、下手に出れば多分一生下に見られる。

俺の営業部長としての短い体験、アルの記憶にある遠い昔の宮廷勤め、両方の感覚がそう訴えて来る。
なけなしの意地を絞り出し、俺は言葉を続ける。

「その前に、教えて貰えないだろうか?」
ボーデの眉が微かに上がる。

生意気な態度と取られたのだろうか?
いやいや、間違ってない、ここはあくまでも平静に。

「ふむ、良かろう、何が知りたい?」
暫くの俊順の後、ボーデの口から承諾の言葉が零れる。

どっと安堵しそうになる。
いや、まだだ、まだ気は抜けない。


これからが本番だ!


「貴兄は、私が来るのを予期されていたようだが」
軽く首が動いたか?

まあ、ここまで通される以上それは間違いあるまい。
それに、ヴェステマン商会から何らかの話があってもおかしくない。

「私は、男爵でしか過ぎない」
違う、これじゃない!

金持ちの男爵と言うだけでボーデが興味を持つか?
まだだ、まだ何かある!

「確かに東方との交易の可能性を示唆したが」
何?これでもないのか?


だめだ、お手上げだ。


「どうして、ボーデ商会の当主である貴兄がわざわざ会う気になられたのだ?」
ええい! これだけ聞くのに汗だくだ。

平静な振りをしていても、この爺さんには見透かされていると言う思いしか浮かばない。


「ふむ、只の鼠じゃない見たいだな」
えっ!

少しは認められたのか?


「良かろう、突然現われた金持ちの似非男爵、しかも東方との交易の可能性を示唆するなど怪しさ満点だ」
うん、それは俺も同意する。

じゃなんで、この爺さんは俺と会おうと言う気になったんだ。
益々、訳が判らん。

「一つには、国安が動いておる」
えっ、国安?

それって、国家安全院の事か?
ゲルマニアの治安維持、主にヴィンドボナ周辺の治安維持を担当している警察組織に近いものだ。

しかし、何か睨まれるような事したのか俺?

「なんだ、気づいておらんのか? 先日もヴェステマンからの斡旋に国安が忍び込ませた調査員を排除しただろうに」
「あれが、国安の人間とは気づきませんでした。 お恥ずかしい限りです」

ヤバイ、ヤバイ、なーんも考えず、弾いたけど料理人候補にそんな物騒なやつが入っていたのだ。

「もう一つは、屋敷に雇っている女達だ」
うん?
どうして、彼女達が注目されるのだ?

あー、ゼルマの件位はあるだろうが、グロリアなんか気が付くとは思えん。


「お主、本当にハーレムを作ろうとしているか?」
これがコントならば、俺は多分そこで思いっきり扱けていただろう。


何、これ、マジですか?
どうして、高々6000リーブルの小麦の売買に、当主が出てくるのかと思ったら単なる興味本位かよ。

ああ疲れた。
さっきまでの緊張が嘘のように消え、目の前のボーデの爺さんも単なる好色な爺さんにしか見えない。

まあ、少なくともボーデ爺さんの情報網は、ぽっと出の俺より遥かに凄いのは間違いない。
しかも、商売も堅実で、こんな事にも興味を示し、仲良くなっても損はないわな。


「あー、座っても良いか」
もう、ぶっちゃけよう。

下手にカッコつけてるのも疲れる。
ボーデ爺さん(もう、呼び方はこれに決定だ!)が、頷くので、俺は横にあるソファに腰を下ろした。

「なんだボーデさんも、興味本位ですか、あまり驚かさんで下さい」
ホンと、俺なんか気が小さいんだから。

「おお、すまんな、脅かす気は無かったんだが、何となく雰囲気でな」
爺さん、ニヤニヤ笑みを浮かべ、ぶっちゃけた俺を見ている。

ホンとに豪商なんて化け物だ。
それでいて、こんなノリが良いなんて、世の中判らんもんだ。


「ホンとに、緊張しましたよ。 流石に喉が渇いたので、失礼して喉を潤わして下さい」
俺は、指輪の中から缶コーヒーを取り出し、ボーデ爺さんの目の前でプルトップを開け喉に流し込む。

ボーデ爺さんの目つきが鋭いものに変わる。


「お主、エルフか?」
おお、流石に鋭い。

一発で系統魔法では無いと気がつく。
あっ、俺杖も使ってなかったから、気づいて当然か。

「いんや、まだ人間です。 但し、系統魔法以外に様々な魔法が使えますけどね」
爺さんの目が更に開かれる。

うん、少しは憂さが晴れる。

「東方と言っても、ロバ・アル・カリイエじゃないですが、俺の国では結構様々な魔法が使えましてね」
「ほう、与太話では無いと言うんだな」

流石に目の前で、系統魔法以外の魔法を見せられれば少しは信じてくれそうだ。

「与太話ではないです。 まあ、これを見て下さい」
そう言って、俺は指輪に収納した、少量の小麦を机の上にサラサラと溢れさせる。

品種改良も重ねた、あちらの世界はアメリカ産の上質の小麦だ。
こちらのものとは格段に品質が違う。

ボーデ爺さんは小麦を手に取り、確認している。

「本当にこんな小麦があるのか」
驚いたように、俺の顔を見るボーデ爺さん。

とにかく、俺にすれば話に乗ってくれそうなので、ありがたい。

「はい、取り合えず6000リーブル、このヴィンドボナに彼が運んで来てくれてます」
「良し、買い取ろう。 これなら、市価の三倍、いや五倍でも売れよう」

おお、太っ腹、ありがたいこった。
まあ、市価なんて年間を通して十倍以上変動するから、当てにはならないが。

「それと、今後上手くつなぎが取れれば、小麦もそうですが、他の物品の購入が可能となります」
「ああ、それは前提条件だ」

流石に商人、今回の買取価格には、今後の取引も行なうのが条件ですか。

「了解です。 で、さっきの質問ですが、ハーレムは作りたいですね」
「ほう、そうか、お主本気で馬鹿なんだな」

ボーデ爺さん、嬉しそうに俺の顔を見る。

「ハイ、筋金入りの大馬鹿です」
俺も、笑顔で答えていた。



[11205] ハーレムを作ろう(お風呂に入ろう(おしまい))
Name: shin◆d2482f46 ID:73ea159f
Date: 2009/10/02 10:58
確か、今日は虚無の曜日だよな。
彼女達がやってきてから、二回目の休日である。

週に一度の休みなので、誰も起こしに来ない……筈である。


確かに起こしには、来なかったようだ。
その代わり、一緒に寝てるとは…

俺は両腕に掛かる重みを感じながら、ゆっくりと目を覚ま…


両腕?


おやまあ、二人ですか。

そう言えば、ゼルマとアンジェリカが以前に二人で起こしに来た事があったっけ。
そんな事を思い返しながら、誰だろうとゆっくりと目を明ける。

そして、そのまま二度寝しようと目を瞑るのだった。





二時間後、俺は風呂場に来ていた。
一昨日、あれだけ汚されまくった風呂場も彼女達の努力ですっかり綺麗に掃除されている。



そう言えば、一番最初に風呂に入ったんだよな。

思い返してみれば、あの時点で全員、もしくは気に入った順にでも襲えばそれはそれでどうなっていたのだろう。
何といっても俺はヘタレだからなあ…

襲えなかった時点で、こんな展開を夢見ていたのかも知れない。


広い浴槽を俺はゆっくりと見渡す。
同じようにのんびりと浴槽に浸かり、目が合うとにっこりと微笑み掛けて来る、溢れるオッパイ、いや、グロリアがいる。

気持ち良さげに、にへらとした微笑みを浮かべ溶けてしまいそうなアマンダ。
うん、水と火の精霊の加護のおかげで、一番気持ち良かったのだろうな。

変身してしまい、飛び出したモフモフの尻尾を皆に触りまくられ、涙目になっていたヴィオラ。
今その尻尾を洗うべきかどうかで悩んでいる。

いや、アマンダが目を輝かせ飛び出していったから、綺麗に洗われてしまうのだろう。


均整の取れた、躍動感溢れる抜群のプロポーションを惜し気もなく曝け出しながら髪を洗っているのは、ゼルマだ。
うん、少しは恥じらいが合ったほうが、おじさんは嬉しいなあ…


そして、皆のそんな様子をニコニコしながら風呂桶に腰掛け見ているアンジェリカ。
俺が見ているのに気付き、にっこり笑いながら、ピースサインを向けて来る。

今日の一連の騒ぎの企画、演出を担当したのは間違いなく彼女だ。
一体、ピースサインなんてどこで覚えたのか。



「母の生まれが、ガリア王国なんですよ~」
うん?

なんだ、アンジェリカはガリアからの移民なのか。

「母の住んでいた村の領主様は不思議な人で~、もう何百年も生きている大魔法使いだっだそうです」
どこかで聞いた事のある人物の事を、突然アンジェリカが話し始めた。


村からずっと仰ぎ見るような高い山々が連なる山脈の中程に城館を構え、めったに顔を見せない領主だったそうだ。
領地は、アンジェリカの母の住んでいた村を含め三つほどの小さな領土。

だけど、不思議と盗賊や夜盗は襲ってこない、それはそれは平和な村だったそうだ。

「病気になった母は、良く言っていたんですよね~、あの村に戻りたいって…」
旅の商人であった父に恋をして、駆け落ち同然で村を離れた母。

ゲルマニアまで流れて来て、花街の一角に店を構えて雑貨品の卸問屋を始めた父。
小さい頃は、アンジェリカも周りの花街の女性達にも可愛がられ、そこそこ幸せだった。

だが父が他の商人に騙され、それ以降父と母は苦労の連続だったそうだ。
父に看取られて亡くなっただけ、母はまだ幸せだったと思いたい。

だけど、そんな母が話してくれた故郷の村の話は、アンジェリカの心に理想郷として残っている。
領主に納めるのは、年一回大量に焼くパンと、塩漬けの肉。

そんなに贅沢は出来ないけど、盗賊も現れない平和な生活。
飢饉の時、納めるパンが少ないと、初めて領主が現れたそうだ。

その時初めて飢饉と知ったようで、咎める所か逆に、大量のパンを村に置いて去っていった不思議な領主。
勿論、パンはそれまでに納めていたパンそのものだった。

何かあったら、きっと領主様が助けてくれる。
近隣の村々が、連続して夜盗に襲われた時も、母の村には彼らは現れなかった。

「だから、きっと領主様のおかげなのよ」
母は、そう言って本当に懐かしそうに、微笑むのだった。

「だから~、私、いつか母の村へ行ってみたいな~って、思っていたんですよ」
アンジェリカが、俺をじっと見つめて来る。

何となく、心当たりありまくりな俺としては、冷や汗が出るようで居心地が悪い。

「でも~、きっと、もう行く必要はないんですよね~」
ニコっと笑い、アンジェリカが俺に抱きついて来た。

それぞれのんびりと過ごしていた全員が、一斉にこちらを見る。

「アルバート・デュラン様ですよね、大魔法使いの」
アンジェリカが耳に顔を近づけて、小さく囁いて来た。

微妙に正しくは無いのだが、説明が面倒だ。

「う、うん、まあ、他人ではないな」
俺は、曖昧な顔をしながらそう答えるしかなかった。

確かにそんな事も、アルの記憶の中にある。
それに、そう言って喜んでいるアンジェリカの思いを壊したくも無い。

まあいつか、アンジェリカには、ピレーネの館を見せてあげよう。




「あー、アンちゃん、ご主人さまから離れなさーい」
おやアマンダ、ヴィオラの尻尾の手入れは済んだのか?

俺にしがみ付くアンジェリカの身体を離そうと、アマンダが必死に引っ張る。
離されまいと、余計にしがみ付いてくるので、俺としては中々気持ち良い。

「アマンダ、そう言う時はこうする方が良いと思うぞ」
いつの間に後ろに回ったのか、ゼルマが首に抱きついて来た。

「あっ、ああっ、ぜ、ゼルマさーん!」
アマンダが、ずるい、ずるいと叫びながらアンジェリカの反対側にしがみついて来た。

「あらあら、ご主人さまが苦しそうですよ」
うん?
そう言いながらも、さりげなく手を伸ばして来てませんか、グロリアさん。

「いい加減に、皆、離れなさい!」
その声と共に、シャンプーを必死に流し終えたヴィオラが浴槽に飛び込んで来る。

全員がキャーキャー言って、楽しそうにはしゃぎ回っている。



やっぱ、これ、立派なハーレムだよなあ。

明日、新たに何人かのメイド候補がやってくる。
だけど、最初考えていた20人の美少女によるウハウハハーレムは、無理じゃないかと思う。

この五人だけでも、十分じゃないか。
これだけ個性的な五人、その中の一人でも欠けるのは今は考えられない。

完全に彼女達五人の尻に敷かれてしまいそうな気もするが、今は考えまい。
まあ、新しいメイドにも手を出すのは、正しいハーレムライフの基本だし。










それに、一度に相手にする人数としては、五人でも十分手に余りました、ハイ。





              -----  ハーレムを作ろう おしまい  -----




------------------------後書き---------------------------

ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。


感想掲示板にも一部触れていますが、このお話は元々考えたお話の派生で出来たものです。

チート最強主人公が、ゼロ魔の世界に行ってやりたい事をすると言うお話ではあるのですが、
ゼロ魔そのものが、三銃士の世界をベースに作られているので、
それじゃ、アレキサンドル・デュマのもう一つの名作、モンテ・クリスト伯的なものは作れないのかと考えて、原案を作り始めました。

主人公は、男性じゃ無く、女性、悲恋物語(原作にはあります)は、無し。
これが基本で考え始めて、「伯爵令嬢が、奴隷に落とされ、買取られたご主人さまの支援で、復讐を果たす」と言う枠組みが出来ました。

敵役は、ジョセフ1世の下だと話が難しい、と言うかこちらは原作にかなり影響されるので、パス。
と言う事で、帝政ゲルマニア、しかも選帝候の一人を敵役としました。
時代も、直接ゼロ魔の世界への影響が少ない十数年前とし、話を考えました。


ご主人さま(勿論、アルバートですハイ)がどうやって、主人公(こちらが、ゼルマです)を奴隷とするか?
ここを考えている内に、出来たのが、メイドさんを作ろう編です。

PVが私自身でも驚く程多かった為、舞い上がりまして、続けてしまいました。

ゼロ魔掲示板に乗せるべきかどうかは悩みましたが、ゼロ魔世界の設定を流用している以上、そのままにしました。

たしかに、ゼロ魔の登場人物と殆ど関わらないのも事実ですので、ここまでのお話とは別に、このメンバーで主人公と関わるお話も出来るかなと考えております。

ただそれは次のお話、と言うか当初のメインのお話が終わってからです。

次の投稿から、名前が変わります。

一応、ゼルマ復讐編は、ほぼオリジナル(今でも設定以外はオリジナルですが)となりますので、その他板に上げようと考えております。

本「ハーレムを作ろう」は、今後面白いネタが出来たら続けて行きたいと考えていますが、取り合えずここまでとさせて頂きます。

ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
そして、これからも宜しくお願い致します。

2009.10.02
shin







[11205] ハーレムを作ろう(外伝小ネタ)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/03 01:19
子ネタです。
PON様の感想から、アイデアを思いつき、書いてみました。
続きません。
では、宜しく

-------------本文-----------------

この世界は、ゼロの使い魔の世界そのものである。

トリステイン魔法学院のコック長のマルトーがいた。
調べてみると、トリステイン魔法学院長は、やはりあのオスマンだった。

帝政ゲルマニアに、ツェルブストー家がちゃんとあった。
皇帝は、アルブレヒト3世であり、ガリア王国には、ジョゼフとシャルルと言う二人の王子がいた。

ここまで共通点があれば、疑う理由も無い。


まだ、ヴァリエール家の三女が生まれていないのか、既に生まれているのかは確認まではしていないが、間違いなく三女は魔法が使えないだろう。



それは、別に良い。

トリステイン王国がどうなっても、俺には痛くも痒くも無い。
原作が開始されればその影響を受けたくないばかりに、わざわざガリア王国から帝政ゲルマニアに移って来た程だ。


ただ、一つだけ困った事がある。
アルの記憶だ。

アルバート・デュランは、生粋のガリア生まれ、ガリア育ちなのだ。
その記憶の中には当然祖国愛らしきものもある。

そして、俺はゼロの使い魔のストーリーをわざわざ全巻集めてきて読み通してしまったのだ。
最初は良かった。

特に何も思わず、大変になるんだなあ程度の感慨だった。
だが、15巻辺りになると、もういけない。

読んでいて、何故か気分が悪くなるのだ。
しかも、ジョゼフが自殺すると、怒りは益々強くなる。

最悪は、17巻だ!
吾が偉大なるガリア王国が、くそったれロマリア如きの言いなりになって、エルフとの聖戦に同意する!!!

もう駄目だ、こんな馬鹿な歴史なんて、絶対この通りにしてはいけない。
何とかしなければ…
何とかしなければ…



そこで、ハッと気が付いた。
これは、俺の感情ではない。

アルバート・デュランの記憶の成せる技だと言う事に。

彼の記憶では、確かに宮廷争いは醜いの一言だった。
だが、それでもガリアは故国だ。

内部で争っている内は目を逸らしていられるが、外からの影響を受けるなんて、断じて許せん!




いや、落ち着こう、俺…
それは、アルの感情だって。



ヤバイ…
このままだと、いつ何時アルの感情で動き出すか判らない。

まあ、少なくともジョセフが変な事するまでは大丈夫だろう。
少なくともその辺りを読んでいる時は影響は無かった。

国王の自殺、シャルロット女王も少し憤慨を覚えたが、問題は無かった。
となると、問題はやはり他国の干渉だ。

ジョセフがアルビオンにちょっかい出すのは問題ないのに、ガリアに他国からちょっかい出されるのは憤慨する。
なんと素晴らしい故国愛。

だが、この感情が俺の行動に影響を及ぼすとなると、問題だ。




何とか、しなければ…










それは、ある日の昼下がり。
虚無の曜日と言う事で、みーんなのんびり過ごしていたのです。

すると、突然ご主人さまが、転移して参られました。


「ヴィオラ、オムツとミルクの用意を頼む!」
突然のご主人さまの声に、皆パニックです。

特に、ご主人さまが抱えている上等そうな着物の中から、泣き声が響いて来るので、それが混乱に拍車を賭けます。


赤ん坊です。
ご主人さまが、赤ん坊を連れてお戻りです。


だ、誰が相手なんでしょう。
一体、ご主人さまの過去にどのような女性関係があったのでしょう。


あっ、グロリアが行きます。
私は、とっととミルクとオムツを捜しに行きましょう。



「ご、ご主人さま…」
冷たさでは、比べようの無い冷え切った声に、ビクッと身体が震える。

うーむ、グロリアは勘違いしているな。
いや、全員そうか。


「そ、そそその…あ、ああああか…」
うわあ、声が震えて言葉にならないよ。

「赤ちゃんが何者かって言いたいんだろう」
コクコクと頭が動く。
全員が俺を見つめている。

「えーっと、グロリアの姪っ子? もしくは妹かな?」
「えっ、わ、わわわわ…」

「ハイハイ、私の姪っ子って言いたいんだろう」
再びグロリアの頭がコクコク動く。




そう、それが俺の結論だった。
ジョゼットの存在は、ジョゼフの死後明らかにされる。

タバサやイザベラすら気づいていない。
じゃ逆に、皆が知る前にこちらに連れてきてしまえば良いんじゃね。


幸い、こちらにはグロリアと言う親族、もしくは姉がいるし。

と言う事で、タバサが生まれるタイミングを計り、預けられた孤児院から速攻引っさらって来ました。


うん、これって完璧。
これで、アルも煩く言うまい。


「ご、ご主人さま…」
うん、今度はゼルマか。

「どうした?」
「あ、貴方はなんて事を!」
あれっ?

どうして、ゼルマが怒るのだ?

「判っているのですか? こんな幼子を浚ってくるなんて!」
ヤバイ、完全に人攫いだと思われている。

いや、間違いじゃないか。
どう説明すべきだろう。






結局、全員に納得してもらうのに、一晩掛かりましたとさ。



ちなみに、グロリアはジョゼットを抱いて、それはもう幸せそうな顔をしてました。
あっ、でもグロリア、母乳は出ないとおもうぞ…



[11205] ハーレム、作ってみたけれど(15禁)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/04 03:52
こちらに載せる分は、その他掲示板に掲載の「伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム」の中での内容に準拠しております。
時系列としては、前後するかもしれませんが、ご容赦下さい。




勢いだけで、書いた。
今は反省している。


---------------ほんぶん---------------


ニイドの月、ティワズの週、マンの曜日。

きょう、ぼくのハーレムに、あたらしいこうほがくる。
わーい、うれしいなー。



「ご主人さま、ご主人さま」
折角現実逃避しているのに、無理矢理引き戻そうとするのは、きっとグロリアかゼルマ、いやアンジェリカかヴィオラの可能性はある。

「ヴェステマン商会のライナルト・ヴェステマン様がお越しです」
うん、違った。

アマンダだった。
アマンダ、君も一緒なんだね。


俺が黄昏ているには、訳がある。
先日、新しいメイド候補がやってくると説明しておいた。

そして、今朝から五人は気合入りまくりなのだった。




朝、ドアを叩く音で目が覚めた。
昨日までは、ベッドまで来ていたのに、今日はどう言う訳か俺が気が付くまで扉が叩かれている。

「どうぞ!」
俺が返事をすると、扉が開きゼルマが入って来た。

「おはようございます」
何時もより声が固いのが丸判りだ。

そのまま、寝室まで入ってくると、ベッドから三メイル離れて真っ直ぐに立つ。
ゼルマは元々姿勢が良いから、その姿は様になる。

「ご主人さま、朝食の用意が整いました」
そう言って、ゆっくりと頭を下げるゼルマ。

うん、絶対何か怒っている。

「どうしたんだ?」
「いえ、別に」

否定はするけど、視線を合わせようとしない。
心当たりは、新しいメイド候補が来る件しか考えられない。

どうしたものか…

そう思いながら、俺はベッドから出る。


服を着替えようとすると、ちゃんと手伝ってはくれる。
それでも、無表情で接しようとするのが逆に困ってしまう。

ここで俺が怒れば、確実にゼルマは泣くだろう。
それが判っているだけに、俺もどうしようもない。

無言で着替えが終了し、ゼルマを連れたまま、食堂に向かう。



「おはようございます」
五人+チビッ子二人が挨拶してくる。

チビッ子二人も、五人の様子に違和感を感じているのか落ち着かなさそうだ。


「頂きます」
全員で声を揃えて、朝食を食べ始める。





静かだ…
誰も何も言わないまま、食事の音だけが響いている。





流石に、これには参った。
一通り食べ終わった処で、俺も切れる寸前まで追い込まれている。


「リリー、クリスティーナ、席を外してくれるか」
五人は引き攣った顔をしている。

チビッ子二人は異様な雰囲気を恐れるように、コクコクと頷くと脱兎の勢いで食堂を飛び出していった。





「アン、説明しろ」
俺の言葉に、やはりと言う顔をしながら、アンジェリカが話し始める。

昨晩五人全員で、新しいメイドが来る事を話し合った。
理屈では判っている。

私達全員が、ご主人さまに買われた立場である事を。
だから、新しいメイドが来るのは拒否出来ない。

そんな事する訳にも行かないし、しようとも思わない。

「だけど、私達、ご主人さまが大好きなんです」
「私も」、「わ、わたしも!」、「本当です」、「好きです」

全員が一斉に顔を上げ、そう告げて来る。
うーむ、大告白大会じゃないか…

そんなに好かれる事、やったっけ、俺。
イヤイヤ、そんな事よりも現状の理由だ、理由。

「で、それなら朝からの態度は何だ?」
そう言って、全員を見回す。

あっ、ヤバイ!
そう思った時は遅かった。


「だ、だが…」
「ご主人さまを取られてしまう…」
「ううっ」
「ぐっ」
「ふえーん」

あーあ、五人全員が泣き出してしまった。
これが、修羅場と言うやつなのか。

うん?
違うような気がする。

確か、泣く子と地頭には勝てないって、昔から言うよなあ…
立場上は、俺の方が絶対強いのは間違いない。

何せ、生殺与奪の立場を握っているのだ。
水の精霊の長寿の秘密を明かした日には、間違い無く俺から離れられなくなる。



だが、俺を取られるのが怖いって泣かれた場合には、そんな事全く役に立たない。
強制的に怒鳴りつけて、ハイ終わりって言えば表面上の問題は解決するんだがなあ。

それが出来れば、苦労はしないって…



いつの間にか、泣き声はすすり泣きレベルまで落ちて来ている。
仕方ない、出来ることからやるしかない。


「あー、判った、判った」
全員が顔を上げて俺を見る。

グロリア、縋りつくような視線を向けて来る。
ゼルマ、真っ直ぐに俺を見ている。
アンジェリカ、視線に歪みは無いが、何か考えてるなこいつ。
ヴィオラ、うん、やっぱり獣人なんだな、捨てられた子犬そのものの目つきだ。
アマンダ、うーん、表現が難しいな、どうして良いか本人も判らないと言う顔だな。


「一つ、俺はハーレムを作るのを諦める気は無い、お前達を含め、最大二十人が一つの目標だ」
うん、唇をかみ締めるような顔つきのグロリアも良いな。

「二つ、だが今すぐ二十人集めようと言うのは、諦めた、と言うか取り合えず固定はお前達五人だ」
これが、最大の譲歩かな。

「メイドは雇う。 隙あらば襲う」
おお、アンジェリカが考え込み出した。

大体何を言いたいか予想がついたのか?


「だから、お前達で俺を阻止してみろ、但しメイド達に対する嫌がらせは許さんぞ」
さあ、これでどう出て来るかだなあ…


「判りました~、要は私達の魅力でご主人さまを引き止めろ~って事ですよね~」
うんうん、アンジェリカ、流石に賢いよお前は。

「ああそうだ、言っとくが俺は水の精霊の加護があるので、体力的に出来ないようにするのは無理だからな」
まさか、精力絶倫なんて言うのは遠慮したい。
恥ずかしいじゃないか、例え事実としても。

うん、自慢だね。



「ハイ~、判りました~、頑張りま~す」
こいつは、やっぱり他の四人を誘導したな。

「アン以外はどうなんだ?」
「負けません」
さすが、ゼルマ、いつも前向きで嬉しいよ。

「頑張ります!」
ヴィオラ、頑張る気持ちだけはぴか一だな。

「やらせて下さい!」
いや、やるだなんて、そんなはしたない。
違う意味だって事は判ってるさ、グロリア。

「あ、あ、あの、ハイ頑張ります」
頼む、回りの雰囲気に流されるなよアマンダ。


「じゃ、それで良いな。 悪いが多情なのは諦めてくれ、それが俺だ」
最後は頭を下げる。

頭一つでどうにかなるなら、幾らでも下げてやるさ。


「こちらこそ宜しくお願いします」
「「「「お願いします」」」」

五人揃って頭を下げてくる。
取られるのが嫌なら、取られないように努力しろか。

うん、見事な詭弁です、ありがとうございました。


「良し、宜しく」
そう言って俺は席を立とうとした。


「あ、あの~、ご主人さま~」
ちっ、やっぱり何か要求があるのだろう。

「うん、何だアンジェリカ」
「一つお願いが~、ありまして~」
ハイハイ、どうせお前のシナリオ通りなんだろう。

「言ってみ」
「今日連れて来られるメイド候補の中から新しいメイドを選ぶのを~」
「私達に選ばせて貰えないでしょうか~」

どうせ、ヴェステマン商会が連れて来るメイド候補だから、性格以外は問題ないだろう。
別に問題は無いと思うが、どうだろう。

「ああ、まあ、構わないが、どうして選びたいんだ?」
「これからライバルになるかも知れない娘達ですから~、自分達でしっかり見ておきたいのが一つ~」
なるほど、敵を知り己を知ればとか言うやつか。

「それと~、なるべく戦いやすい相手にしたいじゃないですか~」
おーお、いつもながら、直球で勝負掛けてきますか。

「そうか、まあ頑張れ」
俺はそう言って、食堂を後にした。







何とか切り抜けたと思ったのもつかの間だった。
外に出ると、ちゃーんと、アリサが待っている。

「よっ、アルちゃん、モテモテだねー」
「うっせいよ、ホンとに」

俺はそのまま歩き続ける。

「私は、彼女らの味方するからねー、宜しくー」
ハイハイと手を振り、部屋に戻る。

全く、アリサも気に入った五人だ。
俺も悪い気はしない。

まあ、それでも隙あらば、新しい娘も頑張って、襲っちゃいますけどね。






うん、そう思っていた時期が俺にもありました。







部屋に戻ってから、さっきまで順番に彼女らが来ましたよ。


「ご主人さまが、じ、自分の、み、魅力で引き止めろって、言われましたから」
うん、恥ずかしそうに、顔を伏せながらも、胸を押し付けてくるのは、卑怯ではないですか、グロリアさん。


「ご主人さま、用意は出来てます、私の魅力を堪能下さい!」
真っ赤になりながら、言うのならそれは止めといた方が良かったのでは、ゼルマ。

幾らなんでも、下着を着けずに来るのは反則ですよ、ホンと。


「た、大変なんです、どうにかして下さい!」
ヴィオラ、何時の間に変身能力を身に付けたのですか!

いや、きっとアリサが手伝ったのだろうね。
しかも、スカートから尻尾用の穴まで開けて、完璧です、ハイ。


「私は~、技術力で~、勝負します~」
いや、それは、実力行使ですか。
アンちゃん、いや、過激すぎるでしょ、あああああ!!!!!






うん、アマンダ、君の番まで回らなかっただけだったんだね。







うれしいなあ、きょうはあたらしいめいどこうほがくるんだ……



[11205] ハーレム、作ってみたけれど(二話目)
Name: shin◆d2482f46 ID:73ea159f
Date: 2009/10/06 10:40
ヴェステマン商会がやって来たと聞き、俺は一階に降りる。

肉体的には、水の精霊の加護があるため元気そのものである。
しかし、精神的にはもうお腹一杯である。

もう良いやと考えたくなる気持ちを奮い立たせ、玄関ホールに出た。
ヴェステマン商会のネッケが今回は大勢連れて来ていた。

うーむ、まるでどこぞのオーディションである。



「何人連れて来たんだ?」
簡単な挨拶を済ませてすぐさま本題に切り込む。

「三十三人です。多分今現在ヴィンドボナにいる特殊契約者の上位クラス全員ですね」
疲れたように話すネッケ。

聞けば昨日虚無の曜日で休日の筈なのに、娘たちが大量に連れて来られたそうだ。
どうやら、ボーデ商会のせいらしい。

あの爺さん面白がって、ヴィンドボナの全口入れ屋に声を掛けたらしい。



四大豪商の一つが、そんな事の為に組織力使うなよ!

俺は頭を抱えたくなった。
俺の事を不審に思っていた国安には、爺さんが話しとくと、言ってくれた。

だけどこれじゃ疑惑は消えるだろうが、どれだけ大馬鹿者の悪評が広まるのだろう。
俺がクルツと話ながら頭を抱えている間も、家のメイド'sは、何やら準備を整えている。

「ご主人さま、準備が出来ました」
アマンダがそう告げて来た。

うん、自分まで順番が回って来なかった分どこと無く不機嫌だ。
ただ、その機嫌の悪さを俺じゃなく候補者に向けるのは如何なものか?



アマンダに案内されて、ホールに入る。
何時の間にか部屋が衝立てで、手前と奥に仕切られている。

「ハイ~、ご主人さまは奥にどうぞ~」
女の子はこっちです~って、アンちゃんノリノリです。

正面のテーブルの奥に椅子が並んでいる。
その端にはアリサがちゃっかりと座っていた。

その横にはチビッ子二人も行儀良く腰を下ろしてる。



「アリサ、お前何してんの?」
「うーん?審査員?」

メイド'sに頼まれたそうだ。
年長者として候補者を採点して欲しいとの事だった。

「この二人も?」
こっちは、子供の視点だそうだ。

何かね、もうハーレム要員を選ぶって趣旨から思いっきり逸脱している気がする。
まあどの道ここで働く以上、アリサやチビッ子二人とも仲良くやって欲しいのは事実だ。

とにかく、こいつらが何と言おうが俺が気に入ったら雇うから良いけどね。
そう思いながらも、俺はこいつ等の気に入らない娘は雇わないだろう事も判っていた。




「ハイ、それでは、メイド選抜を始めます~」
まずは印象だけで気に入らない娘がいないか選んで下さいとの事だった。

前にコック候補を選ぶ時に、俺が簡単なスクリーニングしたのを覚えていたのか?
それとも、俺が精霊にお願いして未経験者を選んでいるのに気付いていたのか?

どちらにしろ、アンジェリカらしい気配りだった。



ちなみに、俺が未経験者を選ぶのにたいした意味がある訳じゃない。
単に、新車に乗りたいだけだ。


順番に一人ずつ前を通り過ぎて行く。
全員、容姿は問題ない。

さすがに数百人の中から選ばれただけはあった。
俺が弾いたのが五人、アリサが一人弾いた。

後で聞いたら、吸血鬼は要らないとの事。
良く見とくんだった。



三十三人から、六人減って二十七人。
最大十五人の予定なので、後十二人は減らさなければならない。

何次選考までするのか、聞いた処、三次までとの事。
やれやれ、今日は一日掛かりになりそうだった。

しかしまあ、こんなに沢山候補が来るとは思っても見なかったので、仕方ないのかも知れない。
五人程度ならばきっと全員雇っていただろう。



次は書類選考及び面接のようだった。
椅子が三脚並べられ、三人づつ通される。

ネッケの持ってきた書類を、俺が見ながら判断してくれとの事。


その間にメイド'sが質問し、こちらはこちらで点を付ける。
こっちは○×式で分かりやすい。

三人に対する質問はそれぞれ一つの計三つだ。

「好きな食物は何か?」

「子供は好きか?」

「俺をどう思うか?」

である。



別に回答を聞きたい訳じゃない。
それぞれの質問に対する三人の印象を見て、○×を判定するだけだ。

結局、半数以上×が付いた八人と、出身がロマリアの一人、計九人を不採用とした。
これで十八人、まだ三人多い。



「お疲れさまでした~、最終面接は準備が必要ですので、一旦休息致します~」
まだアンジェリカは色々考えてるらしい。

○の多い順に採用していけば良いと思うのは俺だけだろうか?


「何言ってるんですか~、まだ大切な試験が残っているじゃないですか~」
アンジェリカ、一体どこからそんな知識を仕入れてくるんだ?

こればっかりは、本当に不思議でしょうがない。



遅い昼食を食べて待っていると、ようやく準備が出来たとの事。

ホールに入ってビックリ!



全員スクール水着じゃないですか!


えらく時間が掛かっていると思えば、こう言う事ですか。
十八人全員を風呂に入れて磨き上げ、水着を着せたと言う。

まあ、風呂洗いはスクール水着って決めてたから、これは大量にあったけどね。

「無駄毛の処理もバッチリですよ~」
うーむ、聞き捨てなら無いアンジェリカの言葉。

と言う事は、全員の毛を剃ったのか…
いかん、鼻血が…

いや、出ませんけどね。




衝立が仕舞われ、広いホールに十八人が二列に並んでいる。
反対側には、俺が座る席が用意されていた。

ちなみに、チビッ子二人は一応席を外されていた。
まあ、ミスユニバースみたいな選考会でも良く似た事やってるから、いても可笑しくは無いと思うのだが、ダメだそうだ。

結局、審査員は、俺、アリサ、グロリア、ゼルマ、アマンダ、ヴィオラの六人。
候補者一人一人が真ん中に進み出て、自分でアピールするとの事。


「それでは、一番の方からどうぞ~」
アンジェリカは完全に司会進行に徹していて、点は付けないらしい。

採点は簡単だ。
それぞれが、出てきた娘が気に入れば○、ダメなら×、先程と一緒だ。

今回は、○の数の多いほうから順番に採って行く。
何人まで採るかは、俺が決める形だ。


俺はざっと、十八人を見回した。
まだ名前は入っていないが、白いゼッケンが妙に艶かしい。

年齢的には、十代前半から後半まで。
それでも体格が良い娘も多いので、グロリアみたいに違和感バリバリな娘もいる。

あれは、あれで捨てがたい。
だけど、如何にもスクール水着ですと言う着こなしも中々…

うん、煩悩出まくりです。
もう、全員採用でも良いんでないかい。

でもまあ、メイド'sの言う事も少し反映して、俺を除く五人中四人まで×な娘だけは落そうかな。
そんな事を考えながら、候補者が自己アピールするのを聞くのだった。




彼女達には、お風呂に入りながら、メイド'sが色々話したらしい。

仕事が楽であり、食事が良い。
週一日休日がある。

服装は下着から私服まで支給される。
お手つきに関しては、無理強いはされない。

個室とは言わないが、部屋は設備の整った二人部屋である。


考えてみれば、彼女達候補者にすれば破格の待遇に近いのだろうなあ。
それぞれのアピールがかなり真剣です。

まあどこぞの玉の輿を狙うような娘は、そこまで真剣ではない。
しかも他の十七人が全員見ているのだから、アピールも後になる程過熱して行く。

最初は楽しんでられたのだが、後になる程俺の気も重くなる。
こんな若い娘が様々な所に売られていって、慰み者にされるのかと思うと罪悪感が付きまとう。

俺のせいじゃないとは、判っているのだが、それでも後ろめたさがどうしようもない。

「アル、これはこっちじゃ普通の事なんだからね、あんたが、特別なんだよ、間違えんじゃないよ」
うんアリサ、フォローありがとう。

こう言う所に気が付くのは、アルバートとしての付き合いが長いアリサだけある。
あれっ?

違うな、アルバートとしてではなく、コウとしての俺が悩んでいるのだ。
それにも関わらず、アリサが気が付くのか?

そりゃ、その顔見れば否でも判るさとの言葉、アリサ姉さん、さすが男だねえ。
あっ、ちなみに後で叩かれました。



結局、玉の輿狙いバリバリな娘三人を外して、残り十五人。
その内、俺に対する媚が酷いと、メイド'sに評価された五人が落選。

結局、三十三人の候補者から、十人が残りました。
ネッケさん、ご苦労さまでした。



一応、二十人には達しなかったが、取り敢えずメイド集めはここまで。
後は、普通の使用人を雇うとネッケに話をした。




何か条件はありますかとの事なので、見目麗しい女性が良いとはちゃんと言っておきました。



ネッケさん、頭を抱えてお帰りです。
ボーデの爺さんに知れたら、きっとヴェステマン商会の前に、見目麗しい庭師、見目麗しいベルガール、見目麗しいメッセンジャーガール・・・

切が無いがきっと、一杯押しかけてくるんだろうなあ。
ボーデ爺さん、俺で楽しむ気満々だもんなあ…


----------------------あとがきかな------------------------------

済みません、水着審査やりたかっただけです。



[11205] ハーレム、作ってみたけれど(爺さん来襲!)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/11/07 22:45
何時ものように朝食を皆揃って食べていると、新しいメイドが入ってきた。

登録ナンバー五番、ハイディだ。
やや背が高く、金髪が良く似合う美少女である。

胸もそこそこあり、真新しい黒色のメイド服が良く似合っている。
うん、初々しくて良いよ、ハイディちゃん。



「失礼します、ボーデ商会のメッセンジャーボーイの方がお手紙を届けに参りました」
そう言って、手紙をアンジェリカに渡す。

「ご苦労さん、ハイディ」
俺が声を掛けると、ニコッと微笑み頭を下げ去って行く。

うん、候補としては中々宜しいんじゃないかい。



「ご主人さま~、お手紙ですよ~、ディートヘルム・ボーデ様ですね~」
「うん? 何て書いてある?」

俺は手紙をアンジェリカに読ませる。
まあ、俺が新しいメイドを見てにやけているとこいつらの機嫌が悪くなる。

仕方ないって言ったら仕方ないのだが、少しはフォローせねばいけない。
俺に何か渡す時に、ワンクッション置いて彼女らが対応する等もその為の仕組みだ。

ちなみに、手紙を読ますのは信頼の印になるのだが、アンジェリカ以外どこまで気づいているか。



「えーっとですね~、時候の挨拶がありまして~、先日のメイド候補選抜大会の役に立ったかどうか不安だと言う事ですね~」
「ふうん、そうか、それならお世話になったって手紙でも書いとくか」

「あー、それは必要ないですね~」
アンが手紙を見ながら、そう言って来る。

「様子を見に来られるようですね~、今日です~」




そっからが大変だった。
お客さま、それも特A級のおもてなしをして損の無いボーデ商会の会頭が来るのである。

「アン!時間はどれだけあると思う?」
グロリアが立ち上がり、声を掛ける。

「アマンダ、ヴィオラ、手分けしてメイド全員を玄関ホールへ。私はアリサさんに、供応の準備を頼んでくる」
ゼルマは、アンの返事を聞く前に飛び出して行く。

「一時間以内、遅くとも、二時間ですね~」
アンが考え込みながら答える。

「一時間を目処にするわ。早かった場合の対応班は、誰が良いかしら?」
そう言いながら、グロリアも食堂を後にする。

「アマンダの班が良いかな~、後リリーとクリス・・・」
後を追うアンジェリカの声が遠ざかって行く。


ヴィオラとアマンダの姿はとうに無い。

ガタガタと椅子を降りる音がする。

「わたしたちも、はいちにつきます」
「つきます」
チビッ子二人が最後にペコリと頭を下げて食堂を出ていった。



「あー、コーヒーのおかわり…」



誰も残っていない食堂に、俺の声が虚しく響く。


うん、良いんだ。
み、皆、仕事熱心なんだ…


テーブルの上に乗せていた手の甲にポタリと水滴が落ちる。



あれっ、雨かなあ…







結局、ボーデ爺さんは一時間後にはやって来た。

拗ねてる俺に、謝りながらも手早く着替えさせ、メイド全員による出迎えの準備がぎりぎり間に合う時間だった。



玄関ホールの左右に黒服のメイドが五人づつ並ぶ。
俺が玄関ホールの奥、左にはグロリア、ヴィオラ。
右手にゼルマとアンジェリカ。

彼女達は俺の一歩後ろに控える。
玄関の正面扉にはリリーとクリスが取り付き、そして扉の前にはアマンダが立っている。

見事なシンメトリー、黒服メイドと、赤み掛かった濃紺の対比も見事!
カメラがあれば残したい。


演出アンジェリカ、総指揮グロリアの渾身のお出迎えである!



扉の呼び鈴が鳴らされた。
うん、今度は鐘の音か何かに替えよう。

アマンダが振り返り、こちらを見る。
晴れの大舞台に、彼女の顔も心なしか青ざめている。

俺は、力を込めて頷く。
覚悟を決めたように、扉に向かいチビッ子二人に合図を送るアマンダ。



ゆっくりと扉が左右に開いて行く。
隙間から、正面に見え出す爺さんは間違いなくボーデ商会の会頭、デートヘルム・ボーデ。

俺の合図でメイド全員が頭を下げて行く。
うん、二三回練習した甲斐もあり、タイミングもぴったり。

ボーデ爺さんの感嘆する表情が気持ち良い。



爺さんが一歩中に足を踏み入れるタイミングに併せてメイドが頭を上げる。
正面に立っていたアマンダが道を譲るように脇に動き、挨拶を告げる。

この発声に併せて全員が再び頭を下げるのだ。



「ようこそいらっちゃいま…」


あっ、噛んだ…




「いやあ、バルクフォン卿、見事だ!」
ボーデ爺さんご機嫌である。

「ああ、アルで良いっすよ、ボーデさん」
「うん、そうか、それでは、わしの事はディートと呼んでくれてもかまわんぞ」

そうは言われても、商工連の会長みたいなおっさんをそう容易く呼び捨てには出きません。
やっぱり、この爺さんはボーデ爺さんだ。

「しかしさっきの娘、アマンダか? 中々可愛いな。 どうだ? ゆずらんか?」
うーむ爺さん、噛んでしまい真っ赤になったアマンダがとかく気に入ったようだ。

「申し訳ない、ここに来た以上、彼女等はもはや売り物ではないので」
俺はやんわりと断る。

彼女達はみーんな俺のものだ、誰が売れるか!

後ろに控えているアマンダが涙目になっている。


「そうか、残念だな、仕方ないな」
うん?
ボーデ爺さん、何か考えてるな。

「様子を見にきたが、中々見事なものだな」
そのまま、爺さんメイド達を見回す。

「うん、これだけの娘達がこのように一同に介する機会はハルケギニアのどこを見てもまず無いであろうな」
それは認める。

宮中晩餐会等でこれより大勢の女性が集まる場はあろう。
花街の様に、大勢の美女が集まる場もあろう。

しかしながら全員が二十前、少女から大人の女性に変わるか変わらない段階の美少女ばかり十五人も集まっている場所はあり得ない。


「アル、多分お前が思っている事と、わしが考えた事は違うと思うぞ」
うん?
何か違うのか?




「ご主人さま?」
グロリアがさり気なく注意を促して来る。

「おっ、これは失礼、ボーデさん、こちらへ」
考え込みそうになるのを慌てて振り払い、俺はボーデ爺さんをホールへ案内した。



この屋敷をリフォームした時には、ボーデ爺さんのような、VIPのゲストが来る等想定していなかった。
親しい人物なら、私室の居間。

大勢の客ならばホールと考えていたので、この屋敷には応接室等と言うものは無い。


そこで急遽、食堂を改装した。
食事用の大テーブルをホールに移し、私室の応接セットをこちらに運び込んだ。

こんな大がかりな家具の移動もあっと言う間に出来るから、魔法様々である。





「どうぞ」
俺はボーデ爺さんにソファを勧める。

爺さんが腰を降ろすとタイミングを見計らった用にヴィオラがワゴンを押して部屋に入って来る。
いや、実際見計らってたんだけどね。



「酒もありますが、最初はお茶でも如何とおもいましてね」
俺は用意させた、日本茶を出させる。

清水焼、京焼の青磁の湯呑みに、緑茶が注がれる。
流石にこんな飲み物は見た事ないだろう。

ボーデ爺さんの眉が若干上がる。
うん、少し気持ち良い。


お茶請けには、福砂屋特製五三焼(ごさんやき)カステラ。
本当はどら焼きにしたかったが、無難な線で、カステラに落ち着いた。

甘みを押えた高級品であり、勿論こちらの世界ではまず出会えない一品だ。
どうだと言ってやりたい気分である。




「ほう、これは中々うまいな。 何と言うお菓子なのだ?」
「カステラと言います」

うん結構、俺得意げだ。



「それで、先程ボーデさんがおっしゃった、違うと言うのは?」
落ち着いた処で、先程の件を確認する。

「ああ、あれか、アルは気が付いておるまいの、馬鹿だから」
馬鹿は余計だろうが、それは。

「しかし、わしが何を思ったかは想像もつかんのだろう」
得意そうに、ボーデ爺さんが言う。

ううっ、折角お茶とお茶請けで得たアドバンテージが一挙に覆される。
やはり、この爺さん油断ならん。



「アル、お主、娘達の目を見たか?」
改めて、ボーデ爺さんが聞いてきた。

うん?
みんな、綺麗な瞳だと思うが、それがどうかしたのか。

やれやれと、爺さん首を左右に振る。
ああ、どうせ俺は馬鹿ですよ。

「出迎えの時に、顔を上げた娘達の目を思い出してみろ」
そう言われても、緊張は見えたが、特に異常は感じなかったが。

ボーデ爺さんを畏怖していたが、特に恐れている雰囲気もなかったと思うのだが…

「特に、何もおかしな点は無かったと思いますが?」

「本当に馬鹿者じゃなあ、お主は、それが異常なのじゃ」



えっ…



ああ、そういう事か。

多分普通の貴族の屋敷で、同じ事をすれば、メイド達は緊張に身体が震える。
それでも、顔を青ざめさせても失敗はしないように、必死になる。

そういう意味では、確かに、彼女達の目の色は違ったな。
一生懸命言われた事をこなそうとしていたが、必死さが違うか。

「判ったかあんな状況で、恐怖を感じない娘達がいるのじゃ、その娘たちが金で買われたと言えば普通はありえん」
なるほど、彼女達は失敗したら怒られると言う意識はあっただろう。

だがそれは、他の貴族の屋敷で失敗した場合の恐怖とは全く次元が違うだろう。
何せ、罰がおやつ抜きとか、床掃除をプラスとかだもんなあ。

普通は、鞭打ちすらありうるのが現実だろう。
だが、俺はそこまでしないものな。


「高々一週間でどうなるか、興味を持って見に来たが、来た甲斐はあったな」
ボーデ爺さん、満足そうに言葉を続ける。

先週色々手を回して、山ほど娘を集めさせた。
それを送り込んでどうなったか、ヴェステマン商会のネッケに聞いたらしい。

選抜試験のようなものを行い、前に雇った五人も含めて審査していたと言う事に、更に驚かされたようだった。
また、最後の選抜の時に、今回の候補の娘達が自分から雇ってくれとアピールしたと言う事に益々興味を引いたようだった。



「メイド達に親切にする貴族はいるが、お主ほど無駄に金を掛けてそれをやるたわけはおらんぞ」
まあ、言いたい事は判る。

こちらの世界の基準からすれば、異様としか言いようの無い事をしているのだろう。



「アル、今回の十人、何人食べた?」
「えっ、まだ一人だけですが」

「全く、それが大たわけの証拠じゃ、はよう全員食べてしまえ」
全く、こやつは何を考えておるのかのう。

そんな事を呟きながら、カステラを摘む爺さん。
確かに彼女達にすれば、俺が襲い掛かるのがデフォな筈である。

それなのに、中々襲えていない俺自身不甲斐ないとは思う。
しかしなあ、赤服連中のガードが固いからなあ…



「ふん、まあ良いわ、頑張れ」
爺さんはそんな事を言いながら、色々話をしてくれた。

俺も、自分が疑問に思っている事や、考えねばならない事を相談出来る相手が出来て、大助かりである。





「失礼します」
扉がノックされ、黒服のメイドが入って来る。

登録番号八番、ニコラだ。
今回の十人の中で、一番背が高いくせに、性格は気弱な娘だ。


「ご主人さま、昼食の用意が出来ておりますが」
頭を下げ、そう告げてくる。

「ボーデさん、ご飯食べていって下さい、色々珍しいもの用意しましたので」
「おお、そうか、それではご馳走になるかな」

まあ、この爺さんが遠慮する訳無い。
きっと、食べた分位、どこかで三倍位にして返しそうだった。

「ああ、ここではメイド達とも一緒に食べるのですが、それで良いですか」
「構わんぞ、それがお主の流儀なら、わしも付き合うからの」

楽しそうに爺さんが言う。

俺は、爺さんを連れて隣のホールに入って行くのだった。





なるべく普段通りの食事をするようにと言ってあったので、食卓は割合と砕けた雰囲気で進んだ。
どうせボーデ爺さんが、面白がって見に来ていると判っていたので、思いっきり見せ付けてやろうとしてだ。

かなり呆れていたが、これはこれで気に入ったようだ。
うん今度があるなら、その時はアンナ○ラーズとか、色々なコスプレで相手をさせてみよう。



結局、爺さん結構楽しんでいたようだ。



「アル、楽しかったぞ、また遊びに来るからな」
「ああ、構いませんよボーデさん、でも出来たら前日には知らせて下さいね」

「ああ判った、今度は連絡してからにする」
ボーデ爺さんは、笑いながら帰っていった。



「「「「「お疲れ様でした」」」」」
馬車が去って行くのを確認して、俺はメイド'sとお互いの苦労を称え合う。



まさかこれでボーデ爺さんが入り浸りになる等、その時は誰も想像もしてなかった。









ちなみに後日、ボーデ商会からは、大量の食材とメイド全員のドレスが送られて来たのはありがたいサプライズだった。




だが、露出度が高いドレスはどう考えても、ボーデ爺さんあんたの趣味だろうが…



[11205] ハーレム、作ってみたけれど(記念すべき第一号)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/10 05:02
全く、困ったもんだ。

俺はそうっと、ベッドから抜け出した。


五人がある程度牽制を込めて、俺が新しいメイド達に手を出せないように色々ガードして来ている。
一つには、俺と新しいメイドが一対一で会わないように、なるべく五人の内の一人以上が側にいるように画策してくる。

お陰で、昼間は誰かが俺の側にいる事が多い。


夜は夜で、毎晩誰かが寝室まで訪ねて来るのだ。


まあ、その時はおいしく頂くので特に問題は感じていない。
それに、昼間でも真剣に時間を作ろうとすれば出来ない問題ではない。

だから、ある程度の牽制はスパイスだと楽しんでいるのも事実だった。


だけどなあ、これは困るよなあ…
俺は、自分の大きなベッドを見つめる。

ベッドの上では、リリーとクリスティーナが気持ち良さそうに眠っている。
流石に小学生を相手にする気は無い。

確かに、効果的な方法ではあるが、何もこの二人が俺の部屋まで来て眠る事になるとは。


少し対応を考えなきゃ行けないのかなあ。
そんな事を思いながら、俺はガウンを羽織り厨房に向かった。

小腹が好いたので、久々にカップヌードルでも食べようと考えたのだ。
誰もいない厨房の中、奥の食料庫をあさり、カップヌードルカレーを見つけ出す。

お湯を沸かして三分間で出来上がり。
鼻歌でも歌いながら、待っていると人の気配を感じて俺はそちらを見た。


「こ、こんばんわ…」
おずおずと、頭を下げて入ってきたのは登録番号三番のダニエラだった。

金髪の髪に身長もあり、大きな胸も良く目立つ中々可愛い娘だ。
うん、みんな可愛いけどね。

「ああ、こんばんわ、ダニエラも眠れないのかい?」
「あっ、ハイ、す、少し、喉が渇いて…」

そう言いながら、そのまま厨房に入るかどうか迷っている処も可愛らしい。

「ああ、俺に気にせず、飲み物を持っていきなさい」
「は、はい、ありがとうございます」

俺に言われて覚悟を決めたのか、厨房に入り冷蔵庫を開ける。
中を覗き込み飲み物を選んでいる。

おっと、カップヌードルが伸びてしまう。
俺は、美少女ウオッチングを中断して、カップヌードルに手を伸ばした。


おお、出来てる、出来てる。
久々に嗅ぐ、カレーの匂いが食欲をそそる。

何時もまともな物を食べていると、偶にこんなインスタントを食べたくなるのだ。
俺は、箸を取り出しかき混ぜて、一気に口に放り込む。


ズズーっと麺をすする音に、吃驚したようにダニエラが俺を見て固まっていた。
俺は口に入れた分を咀嚼し、彼女に示す。

「カップヌードルと言うお湯を掛けるだけで、食べられるヌードルだ、倉庫に一杯あるぞ」
「あっ、はあ、そうなのですか」

フリーズしていたダニエラちゃんが、動き出す。
結局彼女はオレンジジュースを選んだようだった。

グラスにジュースを注ぎ、それを持って厨房を去ろうとするが、少し躊躇いが見えた。
うん?

これって、チャンスかな?
ひょっとして、第一号の可能性ありかな。

「これ、食べてみる?」
「えっ、良いんですか?」

何だ、色気より食い気かな。
まあ、それも良きかな。

彼女はジュースを持ったまま、俺の側まで寄って来る。
カップヌードルを渡すと、ジュースを置き、見よう見まねで箸を使って一口口に入れる。

「あっ、おいしい…」
幸せそうな顔で、ヌードルを口に含んで行く。

ふわっとした少女の香りが伝わって来る。
うん、ちゃんとお風呂も入っているようだ。

「全部食べちゃって良いよ、俺も十分食べたから」
「は、はい、ありがとうございます」

少し躊躇いを見せるが、味には勝てなかったようだ。
残りをゆっくりと食べて行く。

俺は、その間に冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、飲み始める。
カップヌードルを食べながらも、彼女の視線がこちらを向いているのが判る。

プルトップを開け、喉に流し込む。
久々の甘い味に、間違えたかなと思いながらも彼女の側に戻る。

「ごちそうさまです」
「おそまつさま」

俺の返事を聞いて、うふふっと笑うダニエラちゃん、中々可愛い。



「ご主人さまって、不思議な方ですね」
おお、やったね彼女から話し掛けてきた。

チャンスが広がる予感。
「そうか? まあ、普通じゃないかな?」

「違いますよ、こんな色々な魔道具をお持ちで、こんなに気さくな方って思っても見ませんでした」
「そうなのか? まあ、嫌われないならそれに越した事はないな」

うんうん、中々の好評じゃないか。
これはかなり脈がありそうだ。

「ホンとに、ここに来てから吃驚する事ばかりです」
「何に一番驚いた?」

「あー、そうですねー、お風呂ですか、アレには驚きました」
突然マスターメイドの方から、最終選抜前にお風呂に入ると言われた時は驚いたんですよと彼女が語ってくれる。

ちなみに、五人の事はマスターメイドと呼ばせている。
赤服では不評だったので、変えたのだ。

あんなに、お湯が一杯あって、しかも次から次へと出て来る。
シャンプーと言うのも初めての経験でしたし、湯船につかると言うのも驚きました。

それから、暫くダニエラちゃん、色々不思議体験を話してくれた。
ここは、紳士的に聞き役に回る。



「あ、あの、ご主人さま…、ご主人さまが、嫌がる娘は、あ、あの…」
おっ、やった、ついに来たか。

「うん? 襲わないって件か?」
ダニエラちゃんが、コクリと頷く。

それだけで、顔が真っ赤になっているのが中々初々しい。

「そうだよ、俺も無理してまで、襲う積りは無い」
やっぱそうなんだーと言う感じで一人納得している。

「勿論、ダニエラの許可が得られるなら、今すぐでも襲いたいけどね」
「えっ…」

さあ、サイコロの目は吉と出るか凶と出るか。
焦りすぎたか、それとも行けるのか。

「あっ、そ、それは…」
おお、白い肌が更に真っ赤になって行く。

ヤバイ、これでは否だと言われても襲いたくなってきた。
「どうかな?」

ダニエラちゃん、茹で蛸みたいに真っ赤になりながらも、無事コクリと頷いてくれました。
ありがとう、神様、今日だけは無心論者ですが、貴方に感謝を捧げます。

「ありがとう」
俺はそのまま、ダニエラの唇に口付けをする。

「ちょっと場所を変えよう」
彼女に手を回したまま、俺は杖を取り出し術式を展開する。

光が二人を包み、俺達は転移した。




転移先は、勿論あちらの世界のマンションの一室だ。
だって、五人に邪魔をされないで襲える場所って、直ぐに思いついたのがここだ。

ダニエラちゃんは、びっくりしたように辺りをキョロキョロ見回している。


「ここは、秘密の場所だよ」
そう言って、俺は彼女を寝室に導くのだった。





二人で屋敷に戻ったのは、明け方近くだった。
幸い、まだ誰も起きておらず、少しよろけるダニエラちゃんに別れの挨拶をして、俺は部屋に戻った。





チビッ子二人は仲良く寝息を立てている。
うん、非常に有意義な夜だった。


俺は二人を起こさないように注意して、ベッドにもぐりこむのだった。








ちなみに翌朝、直ぐに喰ったのはバレてしまいました。
厨房に、カップヌードルと缶コーヒーの缶、口を付けていないオレンジジュースと状況証拠が揃いすぎてました。




検察官アンジェリカの追及をかわせる程、俺も強くはなかったです。


--------------あとがき--------------

×××板に挑戦しようかと思いましたが、やはり無理でした。
と言う事で一人目です。



[11205] ハーレム、作ってみたけれど(小ネタ)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/14 23:29
10月14日、船の建造費を修正しました。

-----------------------------本文-----------------------------

俺は、アイムスビュテルまで足を延ばしてきた。

ここは、選帝侯の一人であるホルシュタイン公爵の領地であり、ヴィンドボナの北東に位置するニーダザクセン領の中心都市である。
町中に運河が張り巡らされ、帆船がその運河を優雅に進んでいる。

ゲルマニア一の商業都市と言っても過言ではなく、ここから船ではトリステイン王国、ガリア王国、そして遠くロマリア連合皇国まで。
空フネを使い、アルビオン王国までも交易が行なわれている。

五階建て位の高さに積み上げられた鉄塔にぶら下がるように吊り下げられているのは、アルビオン王国へ向かう空フネだろう。
実物を見るのは今回が初めてだが、中々面白い。

普通の船と同様に、丸い船底にする意味が良く判らないが、多分人間の習性なのだろう。
まあ、アルビオンからすれば、海に落ちても普通の船として使えるからなんだろうが、ゲルマニアでは陸に降りる事を考えても良いのではと思ってしまう。



話は逸れたがアイムスビュテルは、一大商業都市であるのと同時に、ゲルマニア最大の造船設備を誇る都市でもある。
多くの造船所があり、俺の用もここで船を手に入れる事だ。

ただ、普通の船では無く、空フネと帆船の複合したような船を作りたいと思っているので、発注が面倒だ。
幸い、この事をボーデの爺さんに話すと、それならばと紹介状を書いてくれた。




「これって、ちょっとヤバくね」
「ああ、これはかなりやばいと思うよ」
俺は同行した、ファイトのおっさんと目の前に広がる光景に唖然としたまま立ち尽くす。


ボーデ爺さんから貰った地図を頼りに、河口に沿って下って来た。
目の前には、立派な門構えの造船場の敷地が広がっている。

門の上には、『ニーダザクセン造船所』と言う看板が上げられている。
それは、どこもおかしくない。

ただ、問題なのはその向こうに掲げられている紋章だった。
赤い下地に、ギザの付いたグレーの円、どうみてもホルシュタイン家の紋章である。

うん、誰が見てもここの所有者が、ニーダザクセン候である事を疑うものはいないだろう。
まあ楽観的に考えれば、ここの造船所ならばどんな要求にも答えられそうな気はする。


「入るのか?」
ファイトのおっさんが聞いて来る。

「ああ、ボーデの爺さんに貰った紹介状は、ニーダザクセン造船所宛だからな」
「チャレンジャーだな」

「ああ、チャレンジャーだ」
ちくせう、俺もそう思うよ。

よし、船が完成したら、絶対チャレンジャーって名付けよう。






うーむ、ボーデ商会に行った時と同じ対応です。
何だか、造船所の奥に作ってある、『特別待合室』と言う雰囲気の部屋に通されました。

「やっぱり、チャレンジャーだな」
「おお、今度から俺の事、チャレンジャーって呼んでも構わんぞ」

もう涙目です。
これから出て来る人の事を考えると、胃が痛くなりそうです。

このパターンは、一回だけで十分過ぎます。
しかも、今度は十二選帝侯の一人じゃないですか。

疲れなければ良いが。
イヤイヤ、疲れまくるんだろうなあ…

ゼルマの仇のブッフバルト公爵なんて、色々調べれば調べるほど厭らしい醜聞が溢れまくってます。
それを考えると、ホルシュタイン公にしても色々あるんだろう。

しかもボーデの爺さんみたいな商人じゃなく、立派なお貴族様であらせられます。
理不尽さは爺さんとは比較に出来ないだろうなあ。




ガチャっと扉が開いて、人が入って来る。
さあ、いよいよだ。


「すみません待たせました、で、船を作りたいそうですね? どんな船ですか?」
えっ…

俺もファイトも現れた人物に呆気に取られる。
どう見ても、俺より若い。

精々二十歳そこそこ、いや、ひょっとしたらまだ十代じゃないか。

ホルシュタイン公か?
いや、俺も年齢は知らないぞ。

「ああ、まだ若いですが、ニーダザクセンのハインリヒ・ホルシュタインです、一応これでも公爵です」
「「し、失礼致しました!」」

初めて、ファイトのおっさんと声がシンクロしてしまったぜ。

「アルバート・バルクフォンと申します。 男爵の末席に名を連ねさせて頂いています」
「護衛を兼ねている、傭兵のコンラート・ファイトです、宜しく」

「ああ、宜しくお願いします、それでどんな船作りたいのでしょうか」
とても、公爵とは思えない対応が逆に不安を誘う。


「ヴィンドボナに行った時に、ボーデさんから面白い船を作りたい人がいるって聞いいて、朝から楽しみにしてたんですよ」
俺達の困惑を全く気にしないなんて、毛色の違うタイプであるが、何だか興味が非常に限定されているような気がする。
本当に、船が好きなんだろうなと思わせる態度である。




仕方なく、俺達は運んできた資料をホルシュタイン公の前に広げた。

「ほう、これは、これは」
ホルシュタイン公の目の色が変わる。

俺が態々担いで来たのは、二つの帆船模型である。

一つは、1/50の100トン程のスクーナー型の漁船。
ちなみに、これはフライング・フィッシュと言う1860年にアメリカで作られた漁船の模型だ。

もう一つは、1/96の1795トンのエクストリーム・クリッパー型の貨客船。
これも、1851年にアメリカで作られたフライング・クラウドという船の模型である。

「こちらの漁船の方は、二艘出来れば作りたいのです。 こらちの貨客船は一隻作りたいのですが…」
ダメだ、まるっきり聞いてない。

おお、これは、ここは、ふむ、こうなるのか、ほおっ…
模型を壊さないようにそうっと持ち上げながら、詳細に観察しているだけだった。


実物模型があれば、作り易いだろうと態々手に入れてきたのだが、模型そのものをかなり気に入ってしまったようだ。
まあ船を作る場合、模型を最初に作る事が多いが、もう少し大きい。

この大きさでここまで精密に作ったものだと、見ていて楽しいのは認める。
しかも19世紀のアメリカを代表する高速帆船であるだけに、その形態はこちらの帆船より若干進んでいる。



「あー、ホルシュタイン卿」
「ああ、すみません、夢中になってしまいました。 しかしよく出来ていますね。
 いや本当に、良く考えられたデザインです。
 これは作り甲斐がありそうですね」

嬉しそうに、話すホルシュタイン公に俺にしても何の異存も無い。
話は上手く纏まりそうであった。


「ですが、一つ気になる点があります」
うん?
何となく、嫌な予感がするが…

「このような、デザインの船の模型をどなたが作られたのでしょうか?
 少なくとも、私が知っているゲルマニア、ガリアの造船技師の作品とは思えないんですよね」
ニコニコしながらも、獲物を逃さない視線を感じて、俺は頭を抱えたくなる。

確かに、人当たりは物凄く良さそうだが、伊達に選帝侯を務めているわけではないと言う処だろう。


結局、俺は元々ゲルマニアの人間ではなく、東方より流れてきたと言う話をせざるを得なかった。
あちらでは、このような船が作られており、その見本を持ってきたと説明する。

また貨客船の方は、更に風石を乗せていざと言う場合に浮かす事が出来るように改造する予定と話をした。
これは、北方の航路を確立するのに、凍りついた海面を割りながら進む為であると言うと理解は示してくれたのだ。

ただ、理解はするが納得すると言う状況とは程遠かった。


「判りました、貴方のおっしゃる通りとしておきましょう」
笑みを浮かべながら、そう言う姿に隙は見られない。

うかうかしていると、本当に秘密を全て知られてしまいそうな不気味な圧力を感じざるを得なかった。

結局、値段的には格安で建造して貰える事となり、俺は造船所を後にした。




数年後、ニーダザクセン造船所の新しい形の船がハルケギニアを席巻する事になるとは俺は思いもしていなかった。




[11205] ハーレム、作ってみたけれど(そうだボモージュへ行こう)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df
Date: 2009/10/14 23:55
10月14日、前回投稿の小ネタにて船の建造費を予算内としていましたが、価格を大幅に下げました。これに併せて、前回投稿分も価格に関しては修正しております。申し訳ございません。

---------------------------本文--------------------------------

船が手に入る目処が立ったので、俺は受け入れ準備を進める事にした。

ちなみに、漁船の方は3ヵ月、貨客船は、半年程度で作って貰える事となった。
費用も格安となったので、大助かりだ。

俺にすれば帆船と言う事で、現行の船とそう大きな違いは無いと思っていたのだが、違ったようだ。
ホルシュタイン公は、同じデザインの船を作る許可が貰えるならただでも良いと言ってきたのだ。

さすがに、ただは恐いので、材料費プラスアルファで建造して貰える事となった。
公は、これなら売れると見ており、俺がそこまで信じていないだけだろうが。

ちなみに、売れたら今度はティークリッパーの模型を高く売り付けようと考えている。
何せ、あちらの世界の帆船は、速度性能の向上に関しては一日の長があるが、後はそんなに差があるとは思えないのだ。

まあ、この考えがいかに浅はかだったかは、後のニーダザクセン造船所の大躍進で思い知らされる。



と、とにかく、領地での受け入れ準備に力を入れねばならない。
俺は、ポモージュ北方辺境伯ギュンター・シュタインドルフ伯にまず会う事にした。

シュタインドルフ伯は、幸い帝都にいた。
俺は面会の約束を取り付け、早々に会いに行く。

「ふむ、貴兄がバルクフォンか奇妙な事をしておるな」
げっ!
挨拶が済んで直ぐにこれかよ。

かなり、知られているみたいだ。
新に北方辺境領に加わった、しがない男爵ごときに一体どうしてと不思議に思う。

「貴兄、領地に温泉を湧かせて何をするつもりだ、だいたい領地経営を何だと思っている・・・」
あっちゃー!


高々一男爵の面会要求に素直に応じてくれる訳だ。
如何に領地経営が大切かと言う事を延々説教されました。
トホホ…


「で、貴兄の用件は何だ!」
一通り話し終えて満足されたのか、やっと聞いて下さいました。
俺は、道の整備を進めている事を話し始める。

「ふむ、道路整備とな」
「はい、出来ましたらドルニィシロンスクまで道の整備を行なわせて貰えませんか」


領地内の道の整備もほぼ目処が立って来た。
このまま終わらせても別に良いのだが、折角傭兵団の土のメイジと村人達のコンビネーションが出来上がったチームを解散するのは惜しい。

それで思いついたのが、ボモージュの中心都市ドルニィシロンスクまでの道の整備だ。
この街道を整備すれば何かと役に立つ。

今回発注した貨客船にて、ヴィンドボナからクジニツァまで荷物や乗客を運んでみるのも手だ。
その為にもクジニツァからドルニィシロンスクまで道を整備しておいて損は無い。



「特に問題は無いが、費用はどうするのだ」
「それは、特に要求致しません。 領民に対する仕事の提供と言う事で実施しておりますので」

公は、何処からその金を持ってきたのかをそれとなく聞き出そうとしてくるが、それは話す訳には行かない。
まさか、小麦を輸入して売りましたと言うのは、船が出来てからにしたい。

とにかく流石に北方辺境伯、費用を全額俺持ちと言う訳には行かないと、20%は出してくれる事となった。
ちなみに30%は、街道沿いの各領主に負担させるそうだ。
クジニツァからドルニィシロンスクまでの50リーグ程の間の六人の男爵家で5%づつ負担させると言う事となった。

おかげで、俺とすれば予定していた金額の半分で済むと言う嬉しい結果となったのだった。



今回小麦の売却益の半分で、船と道路整備の費用に充てる積りだった。
それがなんと、四分の一以下で済んでしまった。


ちなみに、売却益の残りの半分はボーデ商会から金塊で頂く事にした。
これは、怪しげなインゴットに練成してあちらの世界で売り捌くのだ。

以前は、どうやってこれを売り捌こうかと悩んでいたが、実は魔法があちらの世界で使える方法を見つけ出したのだ。
火の精霊と契約した結果、エルフと同様に火石を自分で作ることが可能になった。

一つの魔法の発動に必要な魔力を火石としてあちらの世界に持ち込む。
以前に魔力石を必要な量だけ削り出し、それを無理矢理起動させて魔法の行使を行ったのと違う。

自分で作った火石を発動させるのだから、リスクは非常に少ないと言うか殆ど無かった。
おかげで、あちらの世界でも結構色々魔法で誤魔化す事が可能となったのだ。




ボーデ商会から金塊が届けられると、これまでの分と併せて練成にて一キロサイズのインゴットに作り変え俺はあちらの世界に飛んだ。
スイスの銀行の一つを選び、偽名での口座を開設する。

そして、このインゴットを預けるのだ。
条件として、その銀行のセキュリティを見学させて貰うとしてだ。

金庫の中まで見せてくれた親切な銀行の中で最も条件に合う銀行を選び、十キロのインゴットを預ける。
その晩、夜中に俺自身が金庫の中に転移した。

魔法にて明かりを付け、狙いのブツを捜す。
同様にインゴットを預けている者がいるのは、最初に確認済みだ。

俺のする事は単純である。
スイスの銀行の奥深くに眠っている正規の刻印入りのインゴットと、俺が手に入れた無印のものと取り替えるのだ。
一応念の為、同じように見えるように刻印は練成してあるが、やはり本物の刻印入りの方が安心出来る。

こうやって所属不明の金のインゴットを正規の刻印入りに取替え、これで晴れて換金出来る。
最後は、何時もながらアラブの王族のお出ましである。

既に過去に俺の事を親友だと刷り込んである王族に話を持ち掛け、資金を金で保有しておく事が有利だと吹き込む。
何名かの王族を集めて貰い、魔法での意識誘導の下インゴットを分配しておしまい。

ゴルゴさんみたいに、最初にインゴットを預けたのとは違うスイス銀行の指定口座にお金を振り込んで頂き、現金化完了となった。
これの良い所は、金の保有量が数百キロ増えただけで、誰一人損をしていない点だ。

スイス銀行にしても、刻印が偽者だと気がついても金の純度はほぼ間違いない訳なので大きな問題にはならない。
アラブの金持ちに渡ったインゴットは正真正銘の本物であり、しかも少し安く売却しているのだ。

まあこの方法も何度も使えるものではないのがネックだが、一回限りの方法としては問題ないであろう。
円換算で数十億円のドル口座が出来上がったが、手に入れたいものを買い漁るとこれでも直に無くなってしまう。

次に現金が必要になったらどう言う方法で換金しようか、頭の痛い世界である。




あちらの世界での購入資金を調達して漸く、俺は領地経営に専念出来るのだ。
早速必要とされるセメント、農耕具を購入し領地に転移した。

ちょくちょくこちらに来てはいるのだが、物凄く久しぶりな気がするレオポルド爺さんと現状確認を行う。
爺さんに言わせると、少し人が流れ込み始めているとの事だった。

道路整備以外にも、港の整備、倉庫の増設等も始めたお陰で、村人の生活もかなり安定した。
あまり村人が公共事業に寄り掛からないように、流入し始めたこの連中も使いたいとの事だ。

今の所そんなに人数は多く無いが、一旦雇用すれば更に流入が増える可能性は大である。
この当りの匙加減は非常に難しいが、どうしたものかと相談すると、一度実際に見られては如何ですかと提案された。

爺さん曰く、流れ込み始めた流民は傭兵団の駐屯地の外側に簡単な住居を作り始めているらしい。
俺はレオポルド爺さんを連れて、館の外に出てみた。




「おお、道がコンクリート作りだ!」
セメントを渡しておいたが、有効に活用しているのが判る。

道理で、爺さんから更にセメントが手に入らないか聞かれる訳だ。
丘の上の館から、傭兵団の駐屯地まで続く道は、全て石畳とセメントで固められていた。

所々石畳の変わりに砂利と混ぜたセメントの部分があるが、こうなると完全にコンクリート作りの道になる。
道の両側には側溝が掘られており、上下水道とは別に水が流されている。

馬車がすれ違える程広く取られた道を降りて行くと、傭兵団の駐屯地が見える。
確か前にここまで来た時は、木造の建物だけだった筈だが、今は石造りの建物が増え出している。

「これは?」
「傭兵団のメイジに対する村人からの好意です」

聞けば、道路整備に傭兵団のメイジが参加してから、作業が格段に進むようになったのだ。
何しろ、土メイジ三人は全て、精霊との契約でブーストされている。

一日魔力を使いまくっても疲れないものだから、重たいものはレビテーションで移動。
必要に応じて、道路に敷く石材の加工等大活躍なのだ。

しかも貴族として参加しているのではなく、傭兵団なので愛想も良い。
特に、土系統のメイジは傭兵団内部でも工兵的な役割が中心なので、仕事を良く理解していた。

結果として、村人は作業が楽になったので新しい住宅を建ててあげようと言うことになったらしい。
最も、作業の半分以上は、土のメイジが自分達でやったそうだが、ついでに館に住んでいた連中の家も新しく建てたそうだ。

お陰で、駐屯地が何となく町らしい雰囲気をかもし出し始めている。
道路の反対側では、クラインベックの商店の建築がかなり急ピッチで進められている。

「あれ?一軒だけじゃないのか?」
「いや、どうせ作るのなら、何件か固めて作ってしまおうと言う事になりまして、許可は頂きましたけど」

そう言われると、そうなのかと思うしかない。
何せ、飛び回っているから忘れてしまっているに違いない。

こじんまりとした住宅街を抜けると、厩舎や竜舎が見えてくる。
こちらは木造だが、立派なものが出来ていた。

その向こうには、放牧用の土地が広がっており、ちゃんと柵で仕切られている。
その柵の向こう側、端の方に何か黒い塊が見える。




「あれか?」
「ええ、あれです」

二週間前位に最初の一軒が作られ、今は五軒位に増えているとの事だった。
最初は残飯等を漁っていたそうだが、それでは困るので、道路の清掃などの雑用を行わせたそうだ。

すると、バラックがするすると言う感じで増えて、一軒だけだったのが三軒、そして先日新たに二軒増えたのだそうだ。
一体どこからそんな情報が流れるのかひたすら謎であるが、集まるのは事実だ。

「近隣の村から逃げ出したもの、コウォブジェクから態々移ってきたものと様々です」
レオポルド爺さんが顔を顰めて言葉を続ける。

「一番酷いのは、この左手の一軒です」
確かに、他のバラックよりも小さいと言うか、余った板切れで作られたそれは背が低い。




爺さんに連れられ、俺はそのバラックを覗き込む。

「だれ?」
甲高い声が響き、中から小さな子供が顔を出した。

栄養状態も良くないのが丸判りの男の子。
その後ろに隠れるように、更に小さな女の子もいる。

俺は、爺さんに視線を向け、子供だけかと目で聞いた。
レオポルド爺さんが、黙って頷く。

「何人いるんだ?」
「五人だと思います」
俺は頭を抱えたくなった。

「一番上が、多分十歳前後ですかなあ、どうやらコウォブジェクからここまで歩いて来たようです」
ヤバイ、こう言うのを見せられて、放っておく事なんぞ出来ない。



「すみませーん! なにかごようですか?」
森から猛烈な勢いで駆けてきた女の子の声が、向こうから聞こえて来た。

どうやらリーダーらしい。
俺たちがこちらに歩いて来るのを、一人が見つけ彼女を呼びに行ったのだろう。

森で食べられるものでも漁っていたのだろうが、あの森も俺の領地であり村人でも許可制で入るようにしている所だ。
厳密に領地のルールに照らせば、彼女の行為は厳罰ものなのだが…

出来る訳ないよなあ…


少女が近づくまで、俺はどうしたものかと考えながら待ち受ける。

「す、すみません、な、なにかしましたか?」
ハアハアと息を荒げながらも、健気に俺たちを見つめる少女。

果たして、何が言えようか。


「あー、別に危害は加えない、幾つか質問に答えて欲しい」
「は、はい、な、何も悪い事はしてません」

おどおどしながらも、それでも何としても他の子供たちを守ろうと言う意思だけははっきりと感じられる。
そう言えば、他のバラックからも息を潜めているような視線を感じる。

魔法を使うまでも無い。
自分達がここにいられるかどうか、心配しながら様子を伺っているのだろう。

「まず、どうしてここまで来たんだね」
「えっ、あ、あの、おんせんが出たって聞いたのです」

ああそうか、温泉の噂はあっという間にコウォブジェクにまで広がっている。
俺もそれで、シュタインドルフ辺境伯に怒られた位だ。

「お、おんせんがあれば、ふ、冬も暖かいと思いました。 だ、だから…」
成る程、このような浮浪児達にすれば、冬を乗り切るのは一苦労だろう。

「判った、ありがとう。 次の質問なんだが、どうやって食べて行くのかい?」
「えっ、あ、あの、村の人からごようをもらって、それで食べ物を分けてもらったり…」

うん、そんなに仕事は貰えないのが丸判りの回答だな。

「あ、後、森の中で木の実や食べられる物を集めています!」
考え方は正しいのだが、それでは困るんだよねえ。

「お嬢さん、あの森は私のものなんだよ。 勝手に入って採っていったら盗人になるよ」
「そ、そんな! で、でも…」

「ああ、今は良い、私が許可するから、好きに採っても構わん」
少女が絶望的な表情をして俯いてしまうので、慌てて付け足す。

「ほ、本当ですか!」
パッと顔を輝かす少女。

うん、こんな良い子が浮浪児として大きくなるのは間違いだよなあ。


「だけど、これから冬が来るけど、そうなったら、森の恵みは得られないよ」
「あっ…」

またもや表情が歪む。
あまり苛めては可哀相だ。

「でだ、君達に仕事を与えるから、家で働かないか?」
「えっ、しごと?」

「そうだ、仕事だ。 君達は何人いるのかな?」
「あ、あの五人です。あっ、まだ小さい子もいるからしごとできるかな…」

「ああ、この仕事に年齢は関係無い。 何歳からでも出来る」
俺は跪き、少女の目線に合わせて話しかける。

「仕事は、二つ」
「一つはここの守り。見た事無い人が来たら知らせてくれる事、重要な仕事だ」
少女はコクコクと頷く。

「もう一つは、君達の組織の拡大、ちょっと難しいかな? 
 ここに君達の様な子供が現れたら、仲間に引き込むんだ、監視要員は多いに越した事は無いからね」
少女は考え込む。

「あ、あの、そんなじゅうだいなしごと、子供でよいんですか?」
中々聡明な少女に少し驚かされる。

「ああ、子供じゃないとダメなんだ、大人だと相手に気付かれる」
「それと、十分な情報伝達が出来るように、勉強もして貰うが」
少女は再び考え込む。

「判りました、よろしくおねがいします」
「良かった、それじゃ頼むよ」

俺が差し出した手に、怖ず怖ずとその細い手を差出し、少女なりの精一杯の力で握り締めて来た。


「名前は?」
「アンナです」
「そうか、バルクフォンだ、これから宜しく」


五人の子供達が引っ越しの準備を整えるのを俺はレオパルド爺さんと二人で待つ。

「巧いこと言いますな」
「うん?俺は本気だが」
爺さん、全てが判っているような顔で頷いている。

俺はついでに、道路整備をコウォブジェク迄行なう事を話して、他の浮浪者も雇う事を告げる。

「しかし、向かない連中はどうします?」
「ああ丁度良い、汚物の処理の仕事の要員も欲しかったんだ、そちらに振り向けられないか?」
検討致しますとの爺さんの言葉を聞いている内に、少女を先頭に五人が出てくる。


取り敢えず、風呂か。
メイド'sもそうだが、どうやら俺は人を雇うと風呂に入れるのがデフォになりそうだった。

館に戻り、爺さんの奥さんのイレーネさんに子供達のケアを頼む。
当面は館住まいだが、孤児院じゃない、宿舎を建てねばならない。

丁度良い、八王子さんから押しつけられた火の守り付きの七人と一緒にしてしまおう。
宿舎の管理や維持と子供達の世話も含めて依頼すれば、彼女達も拒否はしないだろう。



俺は爺さんと相談しながら、新に建てる建物について決めて行く。

温泉があると言う事で、公衆浴場も作りたい。
館に露天風呂も早急に作りたい。
食堂も一軒位は欲しいものだ。
後そろそろ金属加工か、小さいながらも精錬所が欲しい。

「あー、旦那さま」
レオポルド爺さんが、俺の注意を引くように言う。

「残念ながら、旦那さまは男爵であらせられます」
いや、その通りだが?

「村が二つしかない領地に、町を作ってどうするのですか!」
うわっ!
爺さんが怒った。


仕方ない、食堂や風呂屋は諦めよう。




でも、露天風呂は館に設けたいよなあ。



----------------------だったら楽しい遠い先の話---------------------------------------

ポモージュ
帝政ゲルマニアの情報機関。当初は北方辺境伯が、選帝侯等の政治的介入を嫌い設けた防諜組織であった。
設立後直ぐに東方辺境領を含めた、対選帝侯に対する情報漏洩を防止する組織へと発展した。
その特徴は貴族、平民と言う区分に拘らず統計学的な情報処理を多用する監視機関である事であり、当時としては画期的な手法を用いた点である。
また、実質的な執行機関を持たず、監視業務に特化していた点が挙げられる。
曰く「ポモージュは見る」と言う言葉がその組織の役割を端的に表していた。
後に、その組織の有用性が皇帝に認められ帝国の組織に組み入れられて行く。
そして皇帝の権限が確立後は、対外諸国に対する防諜機関へと変貌していった。
また、初代局長が女性であった事は有名である。
初代局長:アンナ・バルクフォン




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