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[1122] マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第42.5話から
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/22 17:25
2005年1月23日……日本近海、作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 今回は焔の説明だけです。




 焔が今回の作戦説明を行なう為ブリーフィングルームのスクリーンの前に第28遊撃部隊全員が座っている。
 一応作戦説明は事前に何回か受けていたが第28遊撃部隊は最下層到達の確率が一番高くまたそれを期待されている部隊なので、作戦前に立案者の焔自身が最終調整した詳しい作戦を説明するのだと言う。




  まずは準備段階だ。マレーシアから日本は遠いので一端大島とその近海に全戦力を集結させる。補給砲弾もそこに置いておき、戦術機部隊も全機そこで待機する。

 フェイズ1は戦艦による絨毯爆撃だ、地表敵戦力の80%以上を殲滅させる、今回は降下兵団が使えないのでとにかく砲弾・ミサイルを大量に持って来ていて運用する戦艦もアリーシャ旗下の艦隊以外を掻き集めて来た。
 特にALMによるレーザー級の殲滅は最優先で行なう、一端ほぼ0%まで減らしそれ以後もALM専用艦でハイヴから出て来るレーザー級を殲滅する。

 レーザー級が一端殆んど殲滅されたらフェイズ2に移行する。
 まず降下式の質量投下爆撃でハイヴのより内側へ侵入路を作り出す。再突入殻ほどの運動エネルギーは得られないので爆薬も併用する。この発射機構は既に大島に設置してある。
 そして通常弾頭によるハイヴ周辺の砲撃で出てくる敵の殲滅をしつつ補給物資が入ったコンテナを打ち上げ戦場にばら撒く。
 大島からの戦術機隊の海上移動も行ない始める、敵が足止めされている間に戦術機母艦を足場にしつつ本州に上陸、補給後をしつつ指定地点に集結する。
 この時にA-6イントルーダー専用潜水艦を改造した潜水艦で潜水したまま陸地付近まで行き、そこから補給物資を撃ち出す。日本人部隊はこの補給物資の運搬も担当する
 
 終結が完了したらフェイズ3に移行する、フェイズ3は伊勢原市方面から囮の遠隔操作部隊を送り出す。これは事前に説明したとおり、第3世代戦術機の採用で不要になって保管されていた取り潰される前だった旧世代の戦術機だ。
 伊勢原市方面に陣取ったマレーシア戦線の戦術機が直接操作する、操作システムはシミュレーターを応用したもので自機の操作システムと連動できるので乗っているのと同じ様な感覚で遠隔操作できるので存分に囮をやってもらう。

 囮部隊が敵を十分引き付けたらフェイズ4に入る、日本人部隊が相模原市方面より接近し突入部隊はハイヴ潜入地点へ、その他の部隊はその周囲を防衛する。なおもしもレーザー級の生き残りがいた時の為に先頭を行く部隊の何機かには試作鏡面装甲を施した改造多目的増加装甲を装備させる。

 ハイヴ突入地点に集結したらフェイズ5だ、突入路確保部隊が突入し第15層までの道を確保、補給線を構築する。その間突入部隊は補給をすませてから突入を開始する。その他の部隊は周辺の防衛を継続。

 第15層確保時点でフェイズ6に移行、突入路確保部隊は補給線維持部隊として機能させ、突入部隊が15層より下へ突入を開始。

 損傷率50%(850機)突破時点でフェイズ7に移行する、損耗が激しい部隊は補給線の維持、それ以外は囮となり突入部隊を援護するため全部隊ハイヴに突入する。

 そして損傷率80%(400機)を突破した場合フェイズ8へ移行、補給線の維持を放棄し全部隊突入を開始する。

 最後フェイズ9は反応炉破壊後、全部隊脱出を開始。その後戦艦による新型のミサイル型坑道破壊爆弾をベント内に撃ち落とし、ハイヴの横抗を全て焼き尽くす。
 残った戦力でBETAの地上戦力を殲滅させ作戦終了だ。
 
 なおもしもの時の為S-12はマレーシア戦線の戦術機にも全機搭載してある。そして戦術機に搭載してある自決用の爆薬は仲間の遠隔操作からでもスイッチを入れられるように設定できる。
 遠隔操作スイッチをオープンにするかは各自の自由だ、オープンにしなければ自分でスイッチを入れない限り爆発はしない事をよく頭に入れておけ。
 このS-12はホールを3分の1は確実に吹き飛ばせる威力がある事も頭に入れて置けよ。
 
 以上だ、それから今回の編成も載せておく。

 なお今回の作戦に参加する部隊はこの作戦の為に便宜上組まれたものである。
 細かい指揮は各隊に委ねられる。




作戦旗艦
特殊戦艦:ヴァルキューレ 艦隊指揮官:アリーシャ大将
同乗 作戦総指揮官(便宜上、この作戦の発案者なので)・鳳焔
同乗 情報統括官及び第28遊撃部隊CP将校、エルファ・エルトゥール大尉

アリーシャ旗下艦隊
第1艦隊・戦艦×5
第1艦隊旗艦・ブリュンヒルデ
ゲルヒルデ
オルトリンデ
ヴァルトラウテ
シュヴェルトラウテ

アリーシャ旗下艦隊
第2艦隊・戦艦×5
第2艦隊旗艦・ヴォータン
ヘルムヴィーゲ
ジークルーネ
グリムゲルデ
ロスヴァイセ

第3艦隊・戦艦×5
旗艦・スクルド 
スケグル 
フリスト
ヒルド  
ゲンドゥル

第4艦隊・戦艦×5
旗艦・レギンレイヴ
ゲイレルル
ランドグリーズ
ラーズグリーズ 
エルルーン

第5艦隊
特殊改造戦艦×5(補給物資コンテナ射出、ミサイル型坑道破壊爆弾射出)
旗艦・ミスティルテイン
グリンブルスティ
フレズベルク
ヘルヴォル
スルーズ

第5、6艦隊
戦術機母艦×10(作戦時は足場用)

第6、7艦隊
補給艦×10(砲弾補給用)

潜水補給艦×5
(潜水したまま陸地付近まで行き、そこから補給物資を撃ち出す。A-6イントルーダー専用潜水艦を改造した潜水艦)





戦術機甲部隊

日本人1687 マレーシア戦線1188
遠隔操作無人機1188  全機(4063)



日本人部隊

第1突入部隊(第28遊撃部隊)(7機)
武御雷:フェンリル01・月詠 真那
武御雷:フェンリル02・白銀 武
不知火:フェンリル03・鮎川 千尋
不知火:フェンリル04・御無 可憐
不知火:フェンリル05・柏木 晴子
不知火:フェンリル06・ヒュレイカ エルネス
甕速火:フェンリル07・白銀 響
(なお作戦中の呼称は0は抜かす)

第2~30突入部隊(348機)
戦術機甲中隊(12)×29
共通呼称:ベーオウルフ

(共通呼称:中隊ナンバー:個人ナンバーで言う)
ベーオウルフ1411なら
(突入部隊)ベーオウルフ、第14中隊のナンバー11という意味

第1~30突入路確保部隊(360機)
(突入路確保後は補給線維持部隊として機能)
戦術機甲中隊(12)×30
共通呼称:ファフニール

第1~9戦術機甲連隊(972)
戦術機甲連隊(108)×9
共通呼称:ニーズヘッグ




(マレーシア戦線は囮だけが参加、遠隔操縦者は後方待機)

マレーシア戦線(1188)(1188)……計2376機
第10~17戦術機機甲連隊(864)(遠隔操作戦術機864機)
戦術機甲連隊(108)×7……遠隔操作戦術機(108)
共通呼称:ヘイムダル

第1~2戦術機甲師団(324)(遠隔操作戦術機324)
戦術機甲師団(324)……(遠隔操作戦術機324)   
共通呼称:スキールニル






 第1投稿はインターミッションです、
 設定とか結構無茶苦茶です、攻略作戦非常識てすかね……?
 母艦の上を渡って行くのは元ネタがあります、せっかく戦術機なんだからこんなのもいいかと……
 ちなみに名称は完全に私の趣味です。全部解った人がいたら凄いです。あとアリーシャのファミリーネームも……、ヒントはドイツ人。



[1122] Re:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第43話 幕間
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/22 12:03
2005年1月24日……大島付近、作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ




 早朝……作戦開始数時間前、


 船の甲板上で厚木方面を見詰める武、ブリーフィングも終わり後は作戦前に戦術機に乗り込むだけだ、空いたその時間を使い武は静かに海の向うを眺めていた。

 別に意味は無かった、ただなんとなく……、明確な意思や作戦に対する決意などするでも無くただ海の向うを眺めていたのである。
 だがそんな武に声が掛かる。

 『な~に、黄昏てんのさ白銀。』
 「柏木……、別に……ただ落ち着いてるのが落ち着かなくてな。」

 声を掛けた柏木は武のその言葉に笑いの顔を浮かべる。

 『なにそれ?』
 「こういう時は少しくらい緊張するもんなのにさ……、妙に落ち着いてんだよな。だかけど何も考えないでじっと待っているのはつまらないし、それで……。」
 『遠くを眺めていたんだ?……ははは、なにそれ。やっぱり白銀は面白いや、それにそんな風に構えていられるなんて強いね。』
 「よせよ、単に鈍いだけかもよ?」

 武は肩をすくめておどけた様に言う。

 『自分で言うかな……。でも、鈍いってのは当っているかもね。』
 「何がだ?」
 『ふふふ……、秘密だよ。』

 武の疑問に含み笑いをして答える。
 そして柏木は数秒海を見詰めまた武に視線を戻した。

 『ねえ白銀、今回の作戦でもし私を置いてかなくちゃならないような状況になっても迷わず先へ進んで。』
 「柏木!突然何を?」
 『白銀は優しいからね、無理矢理にでも危険に陥った誰かを助けに引き返そうとするだろうけど今回はそんな事している暇はないよ。』

 「それは……」

 『勿論私も白銀が脱落したら迷わず置いてくよ、けど一番反応炉まで行けそうなのは白銀だよ……。今回の戦いには今後の未来が係っている、攻略が成功して地下基地に行って新たな発明が出来れば戦術機の力は上がる、死亡率も少しは下がる……そうすれば弟達が助かる確率も上がるかもしれない。』
 「柏木、それがお前の戦う理由なのか?」
 『う~ん、ちょっっと違うかな?』
 「違う?でも今お前……」
 『確かに弟達の為って言うのもあるんだけどね。』
 「じゃあなんなんだよ?」
 『それって結局は自分の為なんだよね。』
 「自分の為……って?」
 『弟達が死ぬ事で一番嫌な思いをするのは私なんだよね、だから私はその「嫌な思い」を感じたくない為に戦うんだ。それって結局は自分の為に戦ってるって事でしょ。』

 柏木のさばさばした物言いに武は言葉が詰まる。

 『私って薄情だよね、自分が嫌な思いをしたくない為に弟達を出しにしている』
 海の方に目線を逸らし呟くように言う柏木、そんな自虐的な柏木に武は思い余って反論する。

 「でもそれって結局は弟達の為にもなるだろ、別に自分の為でもいいじゃんかよ、どっちも一遍にできちまうんなら。」
 『……ふふふ。白銀は優しいね。』
 「そうかなぁ。」
 『またまた、謙遜しちゃって。それに気楽なキミと話してると悩みなんかどうでも良くなってきちゃうよ。』
 「悩んでも解決しない事はあるだろ、そういう時は行動あるのみ。今回の場合は要するに勝てば問題無しっ……てことだな。」
 『あはははは、やっぱり白銀は変わってるよ。』

 お互いに晴れやかな顔になった2人。
 柏木は話す事はもう無いと言うのか踵を返してそのまま船内への扉に歩いていってしまう、武は慌てて声を掛ける。

 「柏木!俺はお前を犠牲にはしたくない。」

 それは先程の言葉への回答か自身の願いか。
 その声に柏木は顔だけ此方を向き一瞬だけ慈愛を含んだ笑いを浮かべ答える。

 『そっか……。私もそう簡単に死ぬつもりは無いよ。だから白銀、今回の戦い何としても成功させようよ。』

 それは武に向かって言った言葉か自らに言い聞かせたものか……。
 そのまま柏木は船内へ続く扉の向こうへ消えていった。


 武がそれを見届けた直後、扉がまだ閉まらない内に扉の奥で何か話し声がする、しかし籠って聞こえない。恐らく柏木と誰か他の人だろう。 そして次の瞬間にはその「誰か」は扉を開いて武の前に姿を見せた。

 「よう、響」

 その人影が誰か分かると片手を上げて挨拶する武、響はそれを見て複雑そうだった顔に若干の笑顔を浮かべた。そして聞こえないような小さな声で呟く……。

 『お兄ちゃん……』

 駆け寄って来て武の横に並ぶ、同じ様に海の方をとりとめもなく見詰めながら暫らく立ち尽くす。白銀も暫らく何も言わなかったがやがて優しげに声を掛けた。

 「不安か?」
 『うん……、けど怖くはないよ。』
 「ハイヴに突入するんだぜ、大丈夫なのか?」

 武は若干本当に心配そうに、しかし大部分は挑発的に響に聞いてみる、案の定負けず嫌いの響はその言葉に乗って来た。

 『私だってみんなと一緒に戦って来た仲間なんだから!これは武者震いよ、全然大丈夫!!』
 「武者震いか~~、へぇ~~。」
 『キーーー、何よ何よ!そのバカにしくさった様な声は!!!』
 「はははは、それだけ元気があれば大丈夫だな?」
 『…………んもう、武大尉のバカ……。』

 上目使いで武を睨みつける響、しかし全然恐くない、むしろ可愛くて微笑ましい、への字に引き結んだ口がまた印象的なアクセントだった。

 『なんか色々話したいことがあったのに全部すっ飛んじゃった。』
 「そうか?」
 『そうよ……。もういい!』

 響は怒って踵を返しつい先程入ってきた扉に向かう。そして扉を潜る時に一言。

 『武大尉……。』
 「なんだ?」

 『ありがとう……』

 そのまま扉の向うに姿を消した、残された武は暫らく面食らっていたが……。
 「まったく……、素直じゃないよなぁ。」
 ポツリと呟いた。


 それから自分の横手にある通路の陰の方に向かって言う。

 「月詠さんはどう思っているんですか?」

 一見何も無い通路、しかし武は見えない向うにある気配を確かに感じていた、それは自分がとてもよく知っている気配だったから。
 通路の陰から月詠が姿を現す。

 『気付いていたのか。』
 「ええ、気配がしましたから。」
 『そなたも成長した様だな。』
 「師匠が良いですからね、しごかれましたよ。」

 しばし見詰め合った後軽く笑う、お互いの軽口に双方共気を抜かれたのか……。
 そのまま武の方に近付いてきた月詠が武の正面で止まる。

 「どこから見ていたんですか?」
 『つい先程だ、響少尉が来た辺りだな』
 『……それにしてもそなたが人の気持ちを紛らわせられるとは意外だったな。』
 「そんなご大層な事じゃないですけどね、まあ年長者としてあれくらいは……。」
 『そなたは年長者でも中身の半分は子供だろうに。』
 「あ…酷ぇ。そんなに子供っぽいですか?」
 「いや、所々で子供の気質が混じっているということだ。」

 月詠と武はとりとめもない話を続ける、2人には作戦に対する明確な緊張や恐怖はない、勿論心の内にその思いはある……しかし2人はそれを自分でコントロール出来るくらいの能力を既に持っている。


 やがて作戦開始時間が近付いてくる。
 月詠は一端話を終えた後少し黙考してから武に話しかけた。

 「白銀……」
 「なんですか?」


 「今回の戦い、私の命の半分をお前に預けよう。」

 月詠の言葉に一瞬戸惑うも次の瞬間直ぐにその意味を理解した、そして驚愕と嬉しさが込み上げて来る。

 (月詠さんは俺の事を認めてくれている、信頼してくれている。)

 命の半分……半分は自分自身で守り抜くがもう半分の命の命運を武に預けると言う事だ、即ちそれは己と相棒2人で1つとして戦い抜くと言う事だ。

 「じゃあ俺の命も半分月詠さんに預けますよ。」

 武は静かに自分の心臓を押さえる、月詠も自分の心臓に手を置く、そして2人は互いの目を見詰めながら心臓の上に置いた右手を相手の心臓の上に置く。

 そこから、その右手から自分の心臓の鼓動半分が相手に移りゆく様な……そんな錯覚があった。

 いや……感覚は錯覚でもその誓いは確かなものだ、2人は1つ……自分を守り相手を守る……バラバラだった2人が完全に1つとなることで今此処に究極の「衛士」が生まれた。




 2人で1つ、1つで2人、それは悪しき敵を滅する破邪の力と成りうるのだろうか……
 



[1122] Re[2]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第44話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/22 17:46
2005年1月24日……大島付近作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ




 朝……作戦開始時刻




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 『……4、3、2、1、0、作戦開始です。』

 エルファのカウント終了に次いで作戦開始宣言が成される、アリーシャは待ちに待ったと言わんばかりに盛大な笑みを浮かべながら全攻撃艦に通信を繋ぐ。

 「さあ! 待ちに待った狩りの時間だ。これからの数時間、貴様らは膨大な量の砲弾を撃ちまくってBETAを攻撃できる。
 いいか!貴様ら私の下で働くんなら少しも弾を無駄にするな、場所とタイミングは私が指定するが照準は貴様らだ。ならば見せてみろ、そして全ての弾をBETAの上に叩き込んでみせろ!!!」

 その怒号に近い命令に全攻撃戦艦の艦長は揃って「了解」の返事を返してくる、それに満足げに頷いたアリーシャは一転して静かに命令を下す。


 「全艦攻撃開始。」




大島……第28遊撃部隊


 「すげぇ……」

 武はその光景に見入ってしまう。
 此処からでも聞こえる物凄い轟音、対空迎撃を行なう光線級のレーザー、それに撃ち抜かれて撒き散らされる重金属蒸気、そして尽きる事無く撃ちこまれるALM。
 飽和絨毯爆撃……聞いていたのと見るのではまるで迫力が違う、その様は正に圧巻の一言だ。

 「うわぁぁ……」

 響も声も無くそれを凝視している。
 その他の者も皆似た様な状態だった。

 だが……これはまだ始まりに過ぎないのだ。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ



 『地表の敵レーザー級65%撃破、重金属蒸気による重金属雲の展開完了。』

 エルファの報告が無くともアリーシャは手元のモニターで戦況を把握して適切な指示を出す。

 「第1艦隊から順に通常砲弾に切り替えろ。第4艦隊はそのまま戦況を見てALMを撃ち込め。」
 『第1艦隊了解、ブリュンヒルデから順次砲弾の切り替えを開始します。』

  第4艦隊は対レーザー級用のALM専用運用艦隊になっている、特にランドグリーズ、ラーズグリーズ、エルルーンの3艦は現状で砲弾はALMしか積んでいない。
 第1艦隊が通常砲弾に切り替わると次いで第2艦隊も通常砲弾に切り替わって行く、艦隊から途切れる事無く発射されていく砲弾は80㎞離れた厚木に着弾していく、要撃級(グラップラー級)や突撃級(デストロイヤー級)などのBETAは着実に数を減らして行く。 




大島……第28遊撃部隊


 第1艦隊が通常砲弾に切り替えた後、更なる絨毯爆撃が展開される。

 「こりゃ凄い……」
 「壮観……と言って良いのでしょうか?」

 鮎川と御無さえも身震いしそうな程の轟音だ、レーザー級の攻撃を警戒し遠方に待機しているとはいえ……雷鳴のような音が絶えず響いて来る。

 「そろそろだ。」

 ヒュレイカがポツリと呟く、その呟きは骨振動システムを通して凄まじい轟音の中でもやけにハッキリと武達の頭に響いた。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 『地表敵戦力の80%以上を殲滅、レーザー級残り5%、作戦はフェイズ2に移行します。質量投下爆撃を開始。』

 まず大島より質量投下爆撃用のコンテナ式爆撃弾が発射される、これの原理は突入殻と同じだ。正し突入殻程の運動エネルギーは得られないので、その分を補うため中に戦術機の替わりに爆薬が入っている。

 「第1、第2艦隊は門(ゲート)周辺に砲撃を集中しハイヴから出て来るBETAどもを叩け。第3艦隊はそのまま周辺のBETAを砲撃、第5艦隊は出て来るレーザー級に臨機応変に対処せよ。
 また並行してミサイル攻撃で生き残っている要塞級(フォート級)を撃破しろ。」
 「第5艦隊、コンテナ式爆撃弾着弾後に補給物資コンテナを射出せよ。地表のレーザー級はあらかた殲滅したがまだ地下に潜んでいるはずだ、第4艦隊は引き続き警戒を続けろ。」
 『第5艦隊了解、コンテナ式爆撃弾着弾後補給物資コンテナ射出発射します。』
 『第4艦隊了解、地表に出で来るレーザー級は片っ端から撃ち抜きますぜ。』

 それから少し後遙か上空からロケット噴射の加速と重力落下による加速を得たコンテナ式爆撃弾は音速を超えたスピードでハイヴモニュメントの周囲に着弾した。
 着弾し加速の衝撃を存分に撒き散らした後、コンテナ後部に搭載されていた高性能爆薬が爆発し着弾場所の破壊を広げる。

 『コンテナ式爆撃弾着弾、全50発中モニュメント付近への着弾は24、その内地下茎に到達した数は8つ。』
 「事前のデータと照らし合わせると突入に最も良いのは……この4つか。」
 エルファと同様のデータを見ながら焔が呟く。

 「はい、相模原方面でもっともモニュメントに近い地下茎です。」
 「という事は……ここだな。よし、ここを突入地点とする。」

 焔が指し示したのはモニュメントから3番目に遠い所にできた大穴だった。1番近いほうが良いのでは?とも思われるが、地下茎は真っ直ぐ下に伸びているわけではない、複雑な構造の地下茎構造を斜めに下っていくので道順によってはとても遠回りになる事さえある。
 焔は事前に手に入れたデータと照らし合わせもっとも最短距離で最下層まで到達できる道順がある所を突入口に選んだのである。

 「エルファ、情報に突入地点のデータを加えてくれ。」
 その焔の言葉にエルファは全部隊に突入地点の情報を配信する。

 『よし、全戦術機部隊は移動を開始しろ。補給用の噴射剤は各自持参しているな?足場にする戦術機母艦にも噴射剤は大量に積んであるので足りなくなったら活用しろ。』
 『こちらフェンリル。了解した、移動を開始する。』
 『ベーオウルフ了解した、移動開始する。』
 『ファフニール了解、全機移動開始する。』
 『ニーズヘッグ了解、移動開始。』
 『ヘイムダル全機行動開始する。』
 『スキールニル命令確認、これより移動を開始します。』

 全戦術機がブーストユニットによる噴射を使用し海へと躍り出ていく。
 そしてそれに続くが如く通信が入る。

 『こちら第5艦隊、補給物資コンテナを射出します。』

 その通信が終わる所で第5艦隊から補給物資コンテナが射出される。第5艦隊は補給物資コンテナ射出とミサイル型坑道破壊爆弾射出の為に改造された特殊改造戦艦だ。
 発射された補給物資コンテナは戦場のあちこちにばら撒かれる、この散布も大まかな場所は焔とアリーシャがBETAの展開や戦術機の展開、それに砲撃範囲などを考慮して戦場全体に効果的にばら撒かれている。

 『よし、フェイズ3開始前までに前に出る。全艦補給を開始しろ、弾はまだまだ無数にあるが調子にのって撃ちまくるなよ。計画的にしかし惜しむ事無く……この加減が大事だ、それと分かっているかと思うが連続射撃による砲身の焼き付きに気を付けろよ。補給終了後に本州に接近する。』

 現在はレーザー級を警戒して厚木ハイヴから約80㎞地点の大島付近に居るが、戦術機が展開するとなるとより迅速で正確な砲撃が必要となってくる、レーザーの脅威も薄れたので艦隊はハイヴへ接近するのだ。




大島……第28遊撃部隊


 『よし、全戦術機部隊は移動を開始しろ。補給用の噴射剤は各自持参しているな?足場にする戦術機母艦にも噴射剤は大量に積んであるので足りなくなったら活用しろ。』
 焔からの通信が入る、移動開始の合図だ。

 「こちらフェンリル。了解した、移動を開始する。」
 月詠が事務的に了解の返事を返す。

 「よ~し、移動開始だよ。」

 鮎川がまず始めに機体の動力を入れ稼動させる。
 28遊撃部隊の周りでも戦術機が次々と機動を始めている、武達も機体をアクティブに持って行く。

 「まず藤沢市に上陸して噴射剤の補給と新たな補給物資を持って一端集結する。」

 月詠が簡潔に作戦を確認する。
 日本人部隊は藤沢市、マレーシア部隊は平塚市に上陸する……なお囮の旧世代戦術機は既に平塚市の方に運搬済みだ、武は詳しくは知らなかったが何処かに隠蔽して置いてあるらしい……そこでまず噴射剤の補給をする、この噴射剤は武達が今も持っている。
 そして噴射剤の補給を終えると今度はエンジンの補給燃料を持つ、この補給燃料も事前に其処に置いてある。その後一端終結して迂回しながら相模原市を目指す、なおこの時潜水補給艦から撃ち出されてあった補給物資コンテナを手分けして持って行く、このコンテナは突入時に使用する重要な補給物資だ。

 「先に行くぞ。」
 「お先に白銀。」
 「じゃあ先に行くね。」
 鮎川と御無に続いてヒュレイカと柏木と響も飛び立っていく。それを見送っていた武も最後に飛び立つ。

 「じゃあ行きましょうか。」
 武は月詠に声を掛ける。
 「承知、だが白銀……」
 「なんです?」
 「海に落ちるなよ。」
 月詠のその言葉に出鼻を挫かれる武、これは不意打ちだ。思わず情けない声で抗議してしまう武。

 「月詠さん~、俺ってそんなに信用ないですかぁ?」
 「冗談だ。」
 それに微笑んで返す月詠、白銀はそれに驚愕する。

 「冗談!?(あの月詠さんが!)」
 (あの真面目な月詠が戦闘中に冗談を言うなんて……)
 「ふふふ、では行くぞ白銀」
 飛び立って行く月詠、思考が停止していた白銀は呆然とそれを見送った……、がハッと気付いて慌てて追いかける。

 「ちょっ、まってくださいよ月詠さん!」

 凄い勢いで飛んで行く武御雷、また多くの戦術機が噴射炎の軌跡を残し飛んで行く。




 現在フェイズ2消化中
 戦艦隊……本州近辺に向けて海上移動開始。
 戦術機部隊……本州集結地点に向けて海上移動を開始。
 BETA……地表のBETA80%を撃破、レーザー級2%残存率以下。 



[1122] Re[3]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第45話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/24 17:18
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




藤沢市…第28遊撃部隊


 大島から本州への海上移動は全部隊なんのトラブルも無く渡りきった。
 日本人だけで構成された部隊は藤沢市に到達、マレーシア戦線の部隊は平塚市に到達した。

 「噴射剤の補給は終了したな、一端全機集結してから相模原市に向かう。」

 「「「「「「了解」」」」」」

 月詠の行動確認を兼ねた命令に了解の意を返す。
 海上移動の後、武達は作戦前に指定されていた場所に赴いた。
 エンジンの追加燃料パックと試作鏡面装甲を施した改造式多目的追加装甲が作戦前に置いてある場所で、他の部隊の分も各所別々に隠すように置いてある。(ただし鏡面装甲盾は数が少なく持つ部隊が限られている。)
そこで持っていた噴射剤パックを使い噴射剤を補給し空いた場所にエンジンの燃料パックをマウントした、その後改造式多目的追加装甲を持って集結場所に赴く。
 集結場所には既に他の部隊も続々と集まってきている、武達もその集団の中に入り全部隊集結終了の時を待つ。
 やがて全ての隊の集合が終わると武達の様な改造式多目的追加装甲を持った部隊を先頭にして部隊は相模原市方面に移動を始める。ハイヴ周辺に近付くと危険なので大和市を通り抜ける道程を進む。


 「「「「「「「……………」」」」」」」


 普段なら作戦行動中にでも気楽に喋っているであろう武達も無言で進んで行く、しっかりと口を結んでいるその様は声を出したらBETAに見つからんとでも言わんばかりだ。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 「日本人部隊は藤沢市に集結を完了、現在相模原に向かい進行中、所定の通り大和市を通過する道程を取る模様です。」
 「マレーシア戦線部隊も平塚市に集結を完了、各機囮の戦術機との同調を完了、待機地点となる厚木境界まで進行を開始しています。」

 エルファの通信でも窺えるようにフェイズ2は順調に進行中だ、しかしまだまだ作戦は始まったとは言えない、戦術機部隊が戦場に突入してからがこの作戦の本番なのだ。

 『全艦停止せよ、一時ここで様子を見る。戦術機部隊の展開に合わせ前進して行く。』

 アリーシャが前進していた艦隊を一時停止させる、現在は補給艦だけで砲弾の補給を賄っている為余り前進させ大島から離れると補給が大変になるからだ。
 今現在戦術機の足場として使用した戦術機母艦も全て弾薬運搬船とする様に用意を整えている。
 戦術機隊が展開し始める時改めて前進を始めるのだ。

 『敵が少なくなってきたので砲撃間隔を開けろ、先は未だ長い砲身の焼き付きを回避する為交替で砲撃を行い砲身を休ませろ。休めるのは今だけだぞ戦術機が展開し出したら休む暇は無いと思えよ。』




厚木市・伊勢原市境界……マレーシア戦線部隊


 ある程度の時間が経った後、マレーシア戦線の衛士で構成された部隊は伊勢原市方面の厚木市の外れに集結を完了した。
 集結完了の旨を伝え、暫らく待機した後にエルファから通信が返って来る。

 『日本人部隊が目的地に集結完了、これよりフェイズ3に移行します。ヘイムダル隊、スキールニル隊は囮の部隊を突入させてください。』

 「よし、これより囮部隊を突入させる。」

 各戦術機は自機の操縦システムを囮の旧世代戦術機の操縦システムと同調させる。これは従来の遠隔操作システムと違って囮機の中で実際に操縦している間隔で操作できる、欠点として自機が動けなくなってしまうがかなりの遠方からでも正確に操作できるので場合によっては活用できる方法だ。
 なお遠隔操縦システムは今回の場合囮の旧世代機をベースに同調させる、従ってXM3の機動は反映されないのでOSとCPUの違いによる機動の阻害は発生しないようになっている。

 激震、陽炎、F-4ファントム、F-15イーグル、殲撃8型など遠隔操作された第1・第2世代の戦術機1188機が戦場に突撃して行く、役目を終え再生利用を待つばかりだった筈の老齢たる戦士達の華々しき最後の戦場だ。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 マレーシア戦線部隊が集結を終え、やがて日本人部隊も相模原の集結地点に到達した。
 エルファは焔の合図で次のフェイズへの移行を通達する。

 『日本人部隊が目的地に集結完了、これよりフェイズ3に移行します。ヘイムダル隊、スキールニル隊は囮の部隊を突入させてください。』

 『よし、これより囮部隊を突入させる。』

 マレーシア戦線部隊より返信があり、直後に囮の戦術機部隊が戦場に突撃して行く。

 『現在地で艦隊を固定、これより以後戦術機援護砲撃は精密砲撃を主体とする。相模原方面の制圧砲撃は門(ゲート)周辺砲撃をそのまま継続、伊勢原方面はハイヴまでの道を開けろ、敵を誘い出すため門を1つ完全開放する。そして両隣の門2つの制圧砲撃も緩和する、ただし門の場所だけだ、その周辺に制圧砲撃を掛けろ。
 第4艦隊、開けた3つの門よりレーザー級が出てきた場合だけALM砲撃を行なう事を許可する、その他の場所は依然警戒を続けろ。』
 『こちらレギンレイヴ、第4艦隊了解した。』

 戦術機の集結に合わせて艦隊も前進を終了していた、本州の直ぐ近辺で艦を固定する。戦術機の援護砲撃をする場合は着弾地点を限定する為により精密さを求められるので艦を固定するのだ。
 そして伊勢原方面に囮の戦術機が進行するための1本の道を作り出す、更にハイヴ内の敵を大量におびき出す為にわざと1本出口を用意してやる、ハイヴ内のBETAはその門に殺到して出てこようとする事は確実だ。
 しかし1つの入り口では出てこれる数は限られる、その場合BETAは何処に向かうか……両隣の門から出て来ようとするだろう、両側の砲撃を緩和すれば尚更だ、しかし外に出られても今度は門から少し離れた周囲の砲撃密度が上がってる、後から後から出て来るBETAはその砲撃に呑まれていくであろう。




伊勢原市方面……マレーシア戦線囮部隊


 戦闘が始まっていくらか時間が経つが門から出て来るBETAの勢いは止まらない、後から後から怒涛の様に押し寄せて来る。
 旧世代戦術機とは言え出て門から出て来るBETAを一方的に相手取ればいいので今の所は持っているがそれも時間の問題だ。
 さらに囮の効果が出てきたのか周囲の門からのBETAの進行密度が格段に跳ね上がった。制圧砲撃は正に神業の如く正確なタイミングでBETAの上に降っているが、数に物を言わせ砲撃が途切れた合間を縫って囮部隊に接近してくるBETAが増えて来ている、ある程度接近されると砲撃支援は出来ない、だが砲撃密度を上げようにも他への制圧砲撃は緩められない。
 囮部隊なので消耗する事は前提条件としてあるが……。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 「不味い……、敵の数が多すぎて対処しきれん。」
 「ああ、どうやら予想より敵の総数が多いみたいだね。」
 「他の門を押さえる為にもこれ以上の支援砲撃は回せん、密度を上げようにも現状の砲撃支援は芸術的なバランスで成り立っている、これを崩すことはできんな。」

 想定より敵の総数が多い、レベル3のハイヴの規模なら過去のデータから見ても現状の制圧砲撃で抑えられるはずだ、確実を期して砲弾をそれこそありったけ持ってきたし運用する戦艦も当初の予定より多く掻き集めて来た……。
 更にそれを指揮しているのは「先読みの魔女」との名声名高いアリーシャ大将で運用している中には「世界一の砲撃艦隊」と言われるアリーシャ旗下の「ワルキューレ艦隊」も含まれている、勿論その他の艦もマレーシア戦線を支えてきたつわもの達だ。
 現状これ以上の対処は正直できないであろう。(アリーシャ旗下艦隊はワルキューレ(9人の戦乙女)の名がそれぞれ振られていて艦長も全員女性だ、ただヴォータンだけは男性の艦長が務めている。最初はヴォータンが艦隊旗艦になる予定だった様だが……)

 「ここは現状で日本唯一のハイヴだ、恐らく平均よりは多数BETAが潜んでいると予想してそれを踏まえて作戦を立てたが……、どうやら私の予想は悪い方に外れたらしいな。」

 焔が髪をガリガリ掻きながら忌々しそうに呟く。
 しばらく考え込んでいたがやがて顔を上げエルファに話しかける。

 「よし、もう少し敵を引き付けておきたい所だがこのまま囮部隊が壊滅しては意味が無くなる。
 エルファ大尉、全軍にフェイズ4への移行を伝えてくれ。」
 「了解しました。」

 焔の要請にエルファは疑問を挟む事無く応じる。

 『全軍に通達、これよりフェイズ4に移行します。囮部隊は現状維持、日本人部隊は突入口への接近を開始してください。』


 少し間が空いたが返事が返って来る。

 『フェンリル了解、これより進攻を開始する。』
 『ベーオウルフ了解した。』
 『ファフニール命令受諾、進攻開始します。』
 『ニーズヘッグ了解。』

 戦域図のマーカーが移動を開始する。
 その通信終了に合わせてアリーシャが命令する。

 『部隊が突入口近辺に着いたら砲撃を中止しろ、だがギリギリまで砲撃は続けろよ。』

 先も述べたとおり砲撃は味方が近くに居ると巻き込む恐れがあるので使えない、アリーシャが指揮する艦隊は正確無比な砲撃精度を誇るが故にかなりの至近砲撃が行なえるがそれでもある程度の距離は必要なのだ。




相模原市方面……第28遊撃部隊、日本人部隊


 じっと身を潜める様に待機していた武達の元にエルファからの通信が入る。

 『全軍に通達、これよりフェイズ4に移行します。囮部隊は現状維持、日本人部隊は突入口への接近を開始してください。』

 「なに……?」

 その通信に月詠は一瞬驚きと疑問を浮かべるが直ぐに気を取り直して返信する。

 『フェンリル了解、これより進攻を開始する。』

 通信後機体をアクティブに持って行く、BETAに発見されないようにエンジン出力などを極力落としていたのだ、武達や周囲の日本人部隊も機体を稼動させて行く。

 「随分早いな、まだ当初の作戦開始予想時刻じゃないよな……」
 「何かあったのかな?」
 「白銀、響、戦場で全て上手く事が運ぶと考えるのは命取りだ。予定はあくまでも目安、臨機応変に対処しなければ生き残れんぞ。」

 武の疑問の声と響の不安そうな声にヒュレイカは戦場の理を諭す、長く戦場で戦って来たヒュレイカは上手くいかない作戦と言うのを幾つも体験して来た、それゆえにこの言葉は現実味があって重い。
 武と響は最初にしっかりと計画された長い作戦行動を取った事が無い為、今回の出来事で少し不安が出た。
 しかし2人ともヒュレイカの言葉で直ぐにこの状況を受け入れた様だ。




 「よし、では行くぞ。試作鏡面装甲を持った部隊を前面に突入口へ接近する、我々もその一部だ、先頭で敵を排除しながら進攻するぞ。」

 「「「「「「了解」」」」」」

 武達を含む試作鏡面装甲を持った戦術機を先頭に日本人部隊は進攻を開始した。
 ある程度進むと砲撃の轟音が機体にも響いてくる、更に周辺に無数に散らばっているBETAの死骸が目に付いてくる、響はその量に思わず感心してしまった。

 「凄い轟音、それにBETAの死骸。」
 「アレだけの砲撃密度だからね、今の相模原方面の地表でのBETA残存率は10%を切っているよ。」
 「柏木中尉の言う通りだ、最初の飽和絨毯爆撃とミサイル攻撃で地表のBETAを一掃、その後門への制圧砲撃で蓋をしているからな。」
 「へえ~~。」

 ヒュレイカの説明に響はしきりに感心する。一応作戦内容は暗記しているが実際に現場で説明されるとその中身も一押しだ。

 「みなさん、レーダーに反応です。」
 「どうやらお客さんみたいだぜ、どうする月詠さん。」

 武が月詠に判断を委ねるが顔は笑っている、月詠がどう答えるか解っているのにわざわざ聞いているのだろう。
 「他の部隊に被害を出すわけにもいかん、幸い少数だ私達が引き付けて片付けるぞ。」

 「「「「「「了解!」」」」」」

 多目的追加装甲を側にいた機体に預け敵中に突撃していく武達、生体金属のお陰で格段に速くなっている武達は止まる事なくBETAを屠って行く、後方より味方部隊も援護射撃をして着実にBETAを片付けて僅か数分で全滅させた。
 そしてその後何回かの小規模な戦闘があったがどれも同じ手で全滅させてしまった。




 そして……




 「もう直ぐ突入口に到着するね……。」
 響の「ゴクリ」と唾を飲み込む音がやけに大きく響く。

 (いよいよか……)

 武も流石に武者震いが起きる。
 ここからだ……。
 今まで1機の被害も無く順調に行っていた……、しかし此処からが本当の戦いの始まりなのだ。

 (何人生き残れるか……)

 今武達の後方に続く日本人部隊、その何人が生き残れるであろうか……。
 そして自分達もその範疇に含まれているのだ。

 『これより突入口への制圧砲撃を中止します、また当初の想定よりハイヴ内のBETA総数が多いです、どうか気を付けてください。』

 エルファの通信が入る、もたらされた情報は明るい情報ではなかったが、ここまで来た以上四の五の言っていられない。
 その時秘匿回線で月詠から通信が入る。

 「白銀……」
 「なんですか?」
 「いや…………、必ず勝利するぞ。」
 「ええ、やってやりましょう。」

 何かを言いかけたが、それをやめただ一言を口にする、その一言には万感の思いと意思が込められているのが感じられ武も全ての思いを込めて返事を返した。


 部隊が突入口へ接近する、それに合わせて支援砲撃が止む、接近スピードまで考慮に入れ味方を巻き込まない砲撃範囲ギリギリの所で止ませる腕前は流石としか言いようが無い。

 「見事ですわ。」
 「私も同じ制圧射撃担当として尊敬しちゃうね。」
 御無は感心し、柏木はその腕前を褒め称える。




 『前方、突入口よりBETAの反応あり。しかし砲撃と重金属粒子の為個体の特定が不可能です。』

 エルファからの通信で武達はレーダーを見る、確かに突入口中よりBETAが這い出て来ているがレーダーがぼやけて種類と明確な個体数が特定できない。

 (10、15体程か、これ位の数なら……!!!)

 月詠は中行き成り物凄い悪寒に襲われた、血の気が引き顔が真っ青になった様な感覚がする、月詠は気付かなかったがヒュレイカや他の者も同様に悪い予感に打ち震えていた。


 (なんだ……、なんだこれは!)


 その予感は一行に治まらない、いやどんどん強くなっていく。

 (これは何か悪い事の前触れだ……、なにが起ころうとしているのだ……。)

 恐らく原因は突入口から這い出てきたBETAだ、月詠は自身の勘を信じている、今まで戦場で培ってきたモノは絶対の信頼に足る第6の感覚となっている。
 レーダーでは無く外部モニターカメラを最大望遠にして砲弾着弾と重金属粒子によるスモークの向こうにいるBETA集団を見る。

 (なんだ……、あの光……)

 スモークの向うで鈍く発行する光……、自分はアレを見た事がある、だが脳がその情報と現在の状況を一致できない。

 (光線級の低出力レーザー照射の光、だが機体にレーザー照射警報は出ていない……)

 だがそこで思考が途切れた、最悪の一歩手前まで膨れ上がった悪寒は月詠の全ての思考を吹き飛ばし、今まで培ってきた戦士としての経験がその一言と行動を叩きだした。


 「鏡面装甲構え、全機散開!!!!」


 ある者は反射的に回避に移り、ある者は鏡面装甲を構え、ある者はその場に立ち尽くす。




 次の瞬間空間を引き裂くレーザーの光がその場を通過した。






 現在フェイズ4消化中
 戦艦隊……本州近辺で固定、精密制圧射撃中。
 マレーシア戦線部隊……伊勢原市方面で囮を遠隔操縦中
 日本人部隊……突入口付近、謎の敵と交戦中
 被害……マレーシア戦線:0
     囮部隊:670/1188 被害518機
     日本人部隊:不明/1687



[1122] Re[4]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第46話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/30 03:29
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




相模原方面突入口近辺……第28遊撃部隊、日本人部隊


 「くっ……」

 武自身も悪い予感に打ち震え月詠の行動とほぼ同じ事をしていた、そして月詠の声とほぼ同時に試作鏡面装甲付きの多目的追加装甲を構えた。
 28遊撃部隊の他の仲間もほぼそれと同じ様な経緯を辿り鏡面付き多目的追加装甲を構える。
 前方より照射されたレーザーは多目的追加装甲に付けられた試作鏡面装甲に反射させられる、そのまま……時間的には5秒にも満たなかったが多目的追加装甲の裏でレーザー光の照り返しを受ける武達にはとてつもなく長い時間に感じられた。

 照射されている間にも周囲の状況を確認する、マーカー消失・バイタル消失は7、衛星からの情報で発射されたレーザーは14と確認されたのでおよそ半数が撃ち抜かれた事になる。
  
 「なんでだ!レーザー照射警報は間違いなく鳴っていなかった。」

 武は盾の後ろに隠れながら叫びを上げる。
 レーザー級が発射するレーザー光には初期低出力照射が発生する。戦術機は装甲表面でそれを感知し警告する機能があるのに今回はその警報が鳴らなかったのだ。

 「今はそんな事を考えている時ではない、とりあえずあやつらを倒すぞ。」

 レーザー級がいる突入口まではまだ随分距離がある。戦術機のブースト全開行動ならそう時間は掛からない距離だが36㎜や滑空砲では届かない距離だ。

 「幸い鏡面装甲の盾があるからね突っ込むかい?」
 「ええ、3回照射される内には到達できるでしょう。」

 だが事態はそれでは終わらなかった、更なる脅威が押し寄せる。


 「みんな大変だよっ!!!」


  響の切羽詰った声に皆がレーダーを見る、スモークも大分薄れレーダーもクリアになって来たので詳細が映し出されて来たが。

 「本気かよ…・…。」
 「まいったね……。」

 ヒュレイカと柏木が下唇を噛む。
 レーザー級だ、マグヌスルクスが下からうじゃうじゃ上がって来ている、ルクスも少々混じっている。
 しかも既に第2波が地上に上がって来ている。
 (やばいっ、さっきの攻撃は……)
 武の中の警戒心が先程の警報が鳴らなかった攻撃に備えろと言っている。

 「全機!各個に回避運動を取れ。」

 月詠が叫ぶ、照射警報が鳴らなかった事を踏まえて武達は咄嗟に鏡面装甲を構える。
 そして第2波のレーザーが照射された。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 「レーザー照射による被害6、レーザー級さらに地上に上がってきます。」

 エルファの声が響く。努めて冷静に装ってはいるが動揺は隠し切れない。

 「ばかな、なぜレーザー級が!」

 焔が叫ぶ、陽動は完璧だったはず。
 (まさか……読まれてたのか!)
 とにかく打開策を模索する。
 「アリーシャ、支援砲撃は!」
 「準備はしているが飽和砲撃するには戦術機と敵の距離が近すぎる、それにALMは装填・発射を抜かしても着弾までに2分は掛かる!」
 第4艦隊の3艦は折り悪く装填中だ、BETAの総数が増えた弊害か。いや……だれもこの場面で敵のレーザー級の待ち伏せなど予想できなかった、綿密な予想を立てる焔やもしもの時の為常に速射できる砲をスタンバイして置くアリーシャさえもがそれを予想できなかったのだ。
 「くっ!」
 それでは間に合わない、上がって来るあの光線級の数では砲弾による味方被害を覚悟して撃っても着弾までにかなりの被害がでる。

 「レーザー照射警報は鳴りませんでした。ログを検索しましたが機体装甲表面に照射反応がありませんでしたのでレーザー発射寸前まで照射は受けなかったものと思います。」

 エルファが早口で説明する。
 それを聞き焔の頭に1つの仮説が浮かんだ。

 (やつら学習したのか!)
 その一瞬で焔の頭の中で今回の出来事の一連の仮説が組みあがる。
 (まずレーザー級を突入口に伏せていた事、これは陽動を読まれていたか、偶然突入口に上がってきたか、もともと近くの広間に存在していたかだ。
 そしてタイミングだ、待ち伏せていてしかも制圧砲撃が途切れるタイミングを狙っていたとしか思えない、戦術機の攻撃が届かない程の遠方でなおかつ制圧砲撃が行なわれない距離。この短時間でそれを把握したのか……。
 そしてレーザーの撃ち方、初期低出力照射を探知させられてる事を何らかの形で知ったのか……、そして初期照準を「何も無い空間」に照射してレーザーを発射する寸前か発射した瞬間に照準を標的に向ける。強引な方法だが不意打ちには最適だ。)

 焔は悪態をつき戦況画面を凝視する。
 原因が解っても今彼女に出来る事は何も無い。

 「第2波照射されました。」

 (くそっ!)
 エルファは努めて冷静に振舞って報告をする。
 焔はその報告を聞き心の内で何も出来ない自分を悔しがるのだった。




相模原方面突入口近辺……第28遊撃部隊、日本人部隊


 「被害は、くそぉっ!」
 「下からどんどん上がって来るよっ!」

 武が叫び響がレーダーを見て悲鳴に近い叫びを上げる。
 既に突入口の下はBETA反応で真っ赤だ、ルクス・マグヌスルクス合わせて200近くは居る。

 (どうする……このまま突撃しても集中照射を喰らう事は確実、鏡面装甲は接近するまで持たない。)

 武は必死で考えをめぐらすがいい対処法が見つからない。
 敵は少しずつだが確実に上がって来ている、時間差で上がっているので照射インターバルの時間は余り無いだろう、そうなれば集中照射を受ける事は確実だ。

 (被害覚悟で全機突撃して攻撃……これしかない!)

 敵の懐に飛び込むには囮を多くして照射を散らすしかない。被害を考えれば今後の作戦行動の為にも薦められない方法だが現状これしか手が無い。
 武も月詠も柏木も響も御無もヒュレイカも全員同じ事を考えた。


 ただ……1人だけ全く違う事を考えた者がいた。

 下からの無数の増援を認めた瞬間彼女はレーザーの被害にあった戦術機から「ある物」を抜き出しそして手に持った04式突撃機関砲を捨て鏡面付き多目的追加装甲を手に取った。


 そして両手に持った鏡面付き多目的追加装甲を前に構え一陣の風となってレーザー級が跋扈する突入口へ突撃を開始した。


 武は自分達の横を駆け抜けていったモノが何か解らなかった、脳がそれを理解するのを拒絶したのか……敵陣に向かって突き進んでいくその戦術機が誰の者かを。
 周りの者が通信で何かを言っている、人の名前……そうだ、あの戦術機、あの不知火に乗っているは!


 「鮎川大尉!!!」


 突撃を敢行したのは鮎川大尉が乗る不知火、鏡面付き多目的追加装甲を2つ構えブーストユニットを全開噴射にして突っ込んでいくのは間違いなく鮎川の不知火であった。

 「大尉いぃぃーーー!!!」

 響が泣きそうな声で叫んでいる、思わず飛び出そうとしていたが柏木とヒュレイカが止める。

 『第3波、来ます!』

 エルファの報告に武達は追加装甲を構えて回避行動をとる、柏木とヒュレイカも響を後ろに庇いながら追加装甲を構える。
 そして第3波が照射された。
 だが照射されたレーザーの半分以上は鮎川機に集中する。
 鏡面装甲は前にも言ったようにまだ試作段階だ、現在でもマグヌスルクスの4~6回の照射で使い物にならなくなる。
 それが20本近くのレーザー照射を集中して受けているのだ、しかし鮎川は構わず前進する。


 「うおおぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 自分の全てを全力で籠めたような凄まじい咆哮を上げつつ前進し、そのレーザー照射を乗り切った。
 しかしレーザーの照射が終わる寸前に右手に構えた鏡面装甲が溶解し多目的追加装甲が爆発を起こす、寸前にそれを察知した鮎川は追加装甲を投げ捨て爆発によるダメージを回避した。

 そして更に前進する鮎川、武はそれを見て自分も突撃しようとしたが……
 「まて白銀。」
 月詠の静止に激昂する武。
 「どうしてだよ月詠さん、鮎川大尉だけ突撃してるんじゃ!俺達も一緒に「白銀!」
 武の激昂を月詠の静かな声が遮る、その声は武の叫びよりも小さかったというのに武は声に籠められた気迫に抑えられて押し黙ってしまった。
 「大尉の意を汲んでやれ……」
 月詠自身悔しそうなやるせなさそうな声で言う、武はその意味を図りかねた。
 そこにエルファの通信が入る。

 『敵第4波、来ます!』

 既に18機程の戦術機がやられている、第1と第2は上がって来た個体数が少なく試作鏡面装甲のお陰で、第3波は鮎川のお陰で被害が少なかったがこのままでは……。
 「白銀、不知火の右手を見て見なさい。」
 だがその通信にも構わずに御無は静かに鮎川の機体を指差し武にいった。
 彼女は先程から一度も鮎川機から目を逸らしていない、その全てをその目に焼き付けるようにレーザーの回避中でもじっと鮎川機を見詰めている。
 「右手?」
 御無の声に鏡面付き多目的追加装甲を構えながら鮎川機を最大望遠で映す。

 その右手には……

 「S-13(エス サーティン!!!」

 そうS-13……しかも既に2本連結されている。それが示す事はつまり……


 「自爆する気かよ!!!」


 そう鮎川は自分が突っ込んで自爆するのが最善の方法だと一瞬で考え付き躊躇いもなく実行に移したのだ。
 確かにあのまま全機突撃していれば100機以上の被害が出ていたであろう、現在は試作鏡面装甲を前に出し防御に専念しているお陰で被害は少ないが……。
 御無も月詠もヒュレイカも柏木もそれが解っていたので動かなかった、自分達も突っ込んで鮎川の行動の成功率を上げる……という選択肢もあったが彼女と御無の背中がそれを拒否していた。
 御無は……、鮎川との付き合いが長い彼女には、彼女がこの後の反応炉攻略戦を自分達に託した事が否応なく理解できてしまったのである。
 自分達は反応炉破壊の要、これ以上戦力を減らすわけには行かない。別に御無は自惚れている訳ではない、これは純然たる事実、焔が自分達に生体金属を授けたのもそれを知っているからだ。
 だから彼女は目を逸らさない、自分の親友の最後を目に焼き付ける為に。


 「そんなっ、そんなのって!鮎川大尉いぃ~~~~~~!!!」



 武の叫びと同時に敵第4波が鮎川機に集中する。


 「う……ぐぅ……くそおおぉぉぉっ!!!」

 鮎川の叫びが聞こえる。
 左足の先が消滅し、さらに左手に構えた鏡面装甲が耐え切れず融解し爆発する。
 その爆風が機体を煽り体勢を崩させるがそれでも構わず前進する。
 爆風に煽られつつも強引に前進しながらその言葉を叫んだ


 「死して……、死して尚屍拾うもの無し!!!!」


 だがその叫びと同時に鮎川機に少しの時間差で放たれていたレーザーが照射される。


 「いやぁぁあああぁぁ、鮎川大尉いいぃぃいいぃぃぃ!!!」


 それを見ていた響の空間を引き裂くような絶叫が通信を通して響き渡る。
 数条のレーザー照射を無防備に受けた鮎川の乗る不知火はボロボロになり墜落し崩れ落ちる。何とか空中で体勢を整えようとしたのか着地しようとしていたのか、両足で膝を付き手を下にした赤ちゃんのハイハイの時の様な格好で地面に落ちていた。
 だがあちこちが融解し欠けている、左足は膝から下が消滅しているし、左上半身が大きく抉れて消滅してしまっている。
 あと少し、突入口まであとほんの少しの距離。
 もう数秒の全力噴射で到達できる……、この墜落場所はそんな所だった。

 『鮎川機大破、エンジン停止、CPUも機能停止、機動は不可能です。……だめです衛士強化装備も破損、さらに搭乗者の左上半身のバイタルが消滅……、心臓停止……。』
 『くそっ、鮎川。』

 エルファの涙を堪えるような声の報告と焔の悔しがる声が聞こえる。
 御無程ではないが焔も鮎川との付き合いは長かったのだ。

 月詠は後悔していた、自分は状況を読み間違え判断も誤ったかもしれない……と。
 あの時敵の新しい戦術を目の当たりにして必要以上に警戒してしまった、そして今後の反応炉破壊の為の突入作戦の事を考え兵力の消耗を抑える為鮎川大尉の行動に全てを託してしまった。
 (あの時武の言ったように被害を覚悟で全機突撃を敢行していれば……。) 
 現在の被害は18機、だがこれは試作鏡面装甲を前面に押し出し防御に徹している事と鮎川が囮になったお陰だ、敵は殆んどマグヌスルクスで既に100体以上が上がってきている、現在第1照射より30~35秒、1波に付き約25体、あのまま全軍で突撃していたら接近するまでに80~125照射を受けていた計算になる、ましてやレーザーは貫通するので突撃する場合はそれも考慮にいれなければならない。
 あの時全機突撃していたら被害は大きくなっていただろう、しかし……

 「チクショォッ、月詠さん今度こそ行かせてもらいますよ!」
 武はそう言って機体を突撃させようとするがそれを遮るかのようにエルファの通信が聞こえた。

 『敵第5波、来ます!』

 その通信の少し後にまたレーザーが照射される。
 1番最初に撃った個体が照射インターバルを終え最照射して来た。更に下から上がって来たマグヌスルクスも多く今回は照射が多い。
 試作鏡面装甲を持つ者は最前列で追加装甲を構えレーザーを防御する。
 照射された敵レーザーは途中にあった鮎川機を無視して直進してくる、機体反応も生命反応もなくなったので捨て置かれたのだろう。


 だが……、その時……


 『そんなっ!』

 エルファの驚愕の声が通信から聞こえた、その時武はエルファの我を無くした驚愕の声というのを始めて聞いた。
 武に限らず全員が何事かとエルファを見る。その間も敵のレーザー照射は続く……。

 『鮎川機再起動!そんな、そんなはず……。』
 『何があったエルファ!』

 鮎川機再起動と聞いて焔がエルファに噛み付くように状況を聞く。
 その時武達は全員望遠カメラに映った鮎川の乗るボロボロの不知火の様相から目が放せなかった。

 『CPUもコンピューターも停止してるのに……、鮎川大尉の心臓も間違いなく停止しています。なのに……機体が……エンジンが!』

 エルファは理解できない事態を目の当たりにして悲鳴に近い声を上げる。
 機械の故障などを考慮してあらゆる側面から情報を取得した結果操縦者は間違いなく心停止しているし意識もない、さらに機体も動力を含めコンピューターなども殆んど死んでいたはずだ。

 だが動いた……敵のレーザー照射が終わる瞬間鮎川の乗る不知火は確かに起動し立ち上がった。
 そしてエルファの叫びに同調したかのように鮎川機は再び突入口へ全力突撃していく。
 満身創痍の不知火は確実に敵集団との距離を詰める。
 後から出てきたレーザー級が迎撃しようと照射を始めるがもう遅い……。
 元々至近距離だったのだ、たとえ前程のスピードが出ずともほんの……ほんの3秒足らずの最大加速で勝負は着いた。
 敵のど真ん中に倒れこむように墜落した不知火。

 そして……

 その瞬間武と月詠は確かに鮎川の声を聞いた。頭の中に響いたその声は幻聴でも思い込みでもなく確かに鮎川が発した言葉だと2人には実感できていた。

 (2人とも……後は頼む、お前達ならハイヴ攻略だけじゃなく人類も救えるかもな……。)


 そして爆発。


 1本でS-11程の破壊力のS-13は2本連結する事により相乗効果で絶大な威力となる。
 レーザー級約200体を飲み込んだ爆炎のドームはその場に居た全てを跡形も無く消し飛ばした。
 後に残ったのは静寂、艦隊から発射された砲弾の着弾音が響いているだけで誰も何も微動だにしない……。

 今起こったことは夢か幻か、武や響もそれが実感できないでいた。
 その静寂の中月詠は静かに瞑目した。
 自分は鮎川を犠牲にした、彼女の決意に甘え反応炉破壊の為に被害を抑える選択をした。
 そして鮎川は見事に仲間を守った、これから起こる反応炉破壊の為の戦い、しいてはこれから先の未来の為に……。
 だが後悔はしない、鮎川は自分の意思でその命を燃やし尽くしたのだ、ここで月詠が鮎川の死を自分の所為だと後悔したら彼女の意思を侮辱する事となる。

 (死して尚屍拾うもの無し……。鮎川大尉、日本人として衛士としての貴女の志、そして魂、見事でした。その志、我らが引き継ぎましょう)

 月詠は目を開ける、そして全回線で言葉を発する。


 「死して尚仲間を守るためその身を燃やし尽くした偉大なる衛士、鮎川千尋大尉に無上なる尊敬と感謝を!
 死して尚屍拾うもの無し……自らで体現せしめたその志、我らこの胸の内に引き継ぎ日本の民として衛士として最後の時まで死力を尽くし戦い抜く事を貴女の偉大なる魂に誓いましょう。
 総員敬礼!!!」

 一時、戦場と言う場所を忘れ全員が敬礼し全員が涙した。

 日本人衛士全員が、御無が、柏木が、響が、ヒュレイカが、武が、そして月詠さえもが堪えきれずに涙を流していた。
 その位鮎川の死は正に衝撃的な死だった。
 アレは奇跡でも何でもない、必然の出来事だ。死して尚仲間を守ろうという絶対なる意志が生んだ最後の命の輝き、死した体をも意志と思いで動かし仲間を救う為にその身を費やした。
 精神が死を克服する、人間は心停止とてからも少しの間脳は生きているという、だが今回の出来事は……。
 鮎川だけでなく機体も死んでいた、なのに機動した……意思は物に宿ると言うが鮎川の愛機、戦術機「不知火」は鮎川の意思に答えたのであろうか。
 
 そして極短く敬礼を終える。感謝と敬愛の念は尽きない……しかしここは戦場、そしてまだやらなければならない事が残っている。彼女の遺志を……願いを無駄にしない為にもここは何としても勝利しなければならない。
 月詠は涙を振り払い声を上げる。


 「皆の者、行くぞ!何としても反応炉を落とす。鮎川大尉が見せた死を超える我ら日の本の国の衛士の力、存分に発揮し死力を尽くす!」


 その月詠の言葉に全ての日本人衛士が声を上げる。
 彼らの心は1つ「反応炉破壊」、ただ1つの目標に突き進む武士(もののふ)の集団。

 そして反応炉攻略戦が始まる……。

 後の歴史はこの戦いの事を「屍の無い戦い」と呼ぶことがある、そして鮎川千尋の死が後の衛士に多大なる影響を与えた事もまた周知の事実だった。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 ここでも鮎川の死を目の当たりにした焔、そしてエルファやアリーシャ、周りに居た者達も全員敬礼を行なった。

 (千尋……。お前は愛国心の塊の様な奴だった……最後の最後まで国や友の為にその命を使うとは、お前は正に日本人の鑑だよ。)

 焔は鮎川が国の友の為に躊躇無く命を捨てられる奴だと知っていた。もちろん最後の最後まで諦めない不屈の闘志が有る事も知っていたが、その時が来れば迷わないという事を知っていた。
 だから今回の事もある程度は納得が出来てしまった。勿論友人を失った事は悲しい……けど親しいからこそ彼女の行動が理解できてしまうのだ。
 それは御無も同じだろう、鮎川も御無も焔もその日本人であるという心根は同じだから。

 「焔、1つ聞いて言いか。」
 その時アリーシャが焔に声を掛ける。
 「なんだ?」
 「『死して尚屍拾うもの無し』とはどういう意味だ、私は日本語は普通に喋れるが難しい言葉などは知らない意味も多い、それに翻訳機も訳せなかった。」
 「それは私もお聞きしたいです。」

 アリーシャは日本語が一通り普通に喋れるしエルファに至ってはかなりの知識を持っている、しかしその2人もこの言葉の意味を知らなかった。そして翻訳機(これは衛士強化装備にも標準装備されている。)もこの言葉を変換できなかったのだ。
 『それは俺達も聞きたい。』
 『私達もです。』
 更に他の艦長やヘイムダル、スキールニルなどのマレーシア戦線部隊の者もそれに同調してくる。
 焔はその意味をマレーシア軍の全員に向かって話す。

 『「死して尚屍拾うもの無し」大元の意味はそのまま「我が死んでも死体は残さない、だから死体を見取る者もいない」という意味だ。
 昔は違う意味もあったんだがBETA戦争中にその意味は変わった、余り知られていないが我々日本人が自爆を決意する時に唱える……決意表明の様なものだ。』
 「自爆を?」

 『そう、自爆を決心する時の言葉、この言葉には3つの違う意味がある。』
 『まず1つ目が「我が死んでもBETAに死体を利用させない」という、自分が仲間を傷つける可能性、BETAに利用される可能性を示唆して自爆を決意させる意味。』
 『そして2つ目が「我が死体さえもBETAを倒す事に使えるだろう」という、死力を尽くして戦った後に来る「死」という絶望、死体という無力なモノに成り下がりかける自分に自爆と言う最後の武器を見出させる意味。』
 『そして3つ目が「我が死さえも仲間の為に使えよう」、自らの死、つまり自爆という行動で敵を減らす事で、仲間を助け命を救える可能性がある事を示唆する意味』


 それはなんて壮絶な決意なのか……、聞いていたマレーシア戦線の者達は全員戦慄した。
 これは一歩間違えれば狂信的な言葉に捉えられる、自身を洗脳する言葉の一種だ。
 しかし鮎川大尉の死を見た彼らは違う意味に取った。
 これは決意の言葉だ。
 自らの命さえも仲間の為に燃やし尽くすというその意思。

 その意思を見たマレーシア戦線の者たちはこの言葉の意味を聞きどう感じたのか、それはこの戦いで証明されるであろう。 




現在フェイズ4終了
戦艦隊……本州近辺で固定、精密制圧砲撃中。
マレーシア戦線部隊……伊勢原市方面で囮を遠隔操縦中
日本人部隊……突入口に到達
被害……マレーシア戦線:0
     囮部隊:435/1188 被害753機
     日本人部隊:1663/1687 被害25機






今回とにかく難産でした。
 配置とか距離とか秒速とか……。
 一応、矛盾が無いように概算してますが……
 まあフィクションだと思って許してください……



[1122] Re[5]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第47話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/24 21:01
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




相模原方面ハイヴ突入口……第28遊撃部隊、日本人部隊


 フェイズ5への移行、エルファによってそれを伝えられる前から日本人部隊は既に行動に移っていた。
 まず突入路確保部隊であるファフニール隊が突入口より内部に突入した。
 先頭の部隊は燃料気化爆弾によって広間(ホール)の小型種を殲滅してから、数に物を言わせ少なからず存在した大型種を撃ち倒し広間を制圧して行く。
 陽動によって敵の数が少なくなっているとはいえその制圧スピードは迅速であった。

 それもそのはず、鮎川大尉の死により今彼らは死ぬ事を恐れていない。「反応炉破壊」というただ1つの目標に一丸となって立ち向かって行くその様は正に狂気の一歩手前とでも言えるかの如くの苛烈さだ。
 悪鬼羅刹も逃げ出すような気迫で彼らは突き進んで行く。
 確保した広間には後続が、運んできたコンテナに入れられた補給物資を持ち込み簡易中継基地とする、第15層に構築予定の簡易前線基地までをこの簡易中継基地で繋ぎ補給線維持の為の拠点として活用するのだ。
 ニーズヘッグ隊は周囲の防衛を行なう、ハイヴ内の敵をなるべく誘き寄せるために既に門(ゲート)への砲撃は半分停止されている。門を開放しておかないとBETA全てがハイヴ内の部隊に向かっていってしまう可能性があるので門を開放してBETAを外に出やすいようにしてやるのである。
 門から這い出してきたBETAがニーズヘッグ隊に向かってくる、艦隊からの精密砲撃で大半の敵は倒せているがそれでもまだ沢山のBETAが部隊に向かって来ている。
 ニーズヘッグ隊は防衛と囮の意味を込めて果敢に応戦を始めていた。


 ベーオウルフ隊は突入口近辺で装備の換装をしている。
 周囲では艦隊砲撃とニーズヘッグ隊が彼らを守っていた。
 突入路確保部隊が第15層を確保した時点で彼らは其処から更に下層に向かって突入を開始する。
 15層までを確保するとはいえ恐らく満足に補給はできないだろう、だから突入仕様の重装備に換装するのだ。
 彼らの意思は不退転、行ったら戻ってこれる可能性は殆んど無い地獄への片道でも躊躇なく飛び込んで行く意思をその身に宿す。
 焔の見解ではフェイズ5の時点で20層より上のBETAは艦隊砲撃で殆んど殲滅できるだろうがそれより下層にはまだ無数のBETAが潜んでいるだろうと予想している。
 BETAが跳梁跋扈する残り14層、それを突っ切る為彼らは入念に準備を行なう。


 「響ちゃん、大丈夫ですか?」
 鮎川の死に涙していた響に御無は優しく声を掛ける。

 「御無中尉は悲しくないんですか?」
 響は涙声で御無に質問を返す、御無は響よりも鮎川との付き合いは長かった筈、どうして自分に優しく声を掛ける余裕さえあるのかが不思議だった。

 「勿論悲しいです、千尋と楓と私……3人とも小さい頃からの友人でした。」
 「じゃあ!……なんで……。」
 「それは覚悟していたからかも知れません。」
 「覚悟?」
 「千尋……いえ、鮎川大尉は人一倍愛国心が強かったです、仲間や国の為なら何時自分の命を投げ打ってもおかしくないほどに。それは私と朝霧少佐も同じ、だから私達は誓いました、本当にどうしようもない時は己の命を投げ打つ事を厭わないと、そして残った者がその志を引き継ぐと。」

 御無の言葉は静かに響の心に染み渡る。
 「悲しみはあります、ですがそれを思うのは全てが終わった後。今は託された志を遂行するのみ、我が盟友の魂は我が内に在り……響少尉、鮎川大尉の意思を貴女も引き継ぎなさい、それはとてもとても重い事ですけど。
 死したる盟友の魂、英霊となりて我が内に宿りその志を共に果たすだろう……我が一族に伝わる古い言葉です。」

 響はその言葉を胸に刻んだ、そして涙を拭いとる。
 (そうだ……、大尉の志を無駄にしちゃいけない、ここで私が泣いも悲しんでも何にもならない……。あの時……家族やお兄ちゃんが死んでしまったあの時、私は泣くだけだった、憎むだけしか出来なかった……。でも今は、今は違う……私は……私は戦える!)
 瞳に力が戻る、その奥底に決意の光を宿らせた眼差しを見て御無は軽く微笑んだ。


 「白銀……。」

 月詠はモニターでずっと武を見ていた、以前の経験から武がこのような時酷く落ち込む事が解っていたからだ。
 しかし武は月詠の声を聞き死したる鮎川大尉に向かい敬礼をして見せた、そして今も装備の換装を黙々と行なっている、しかし月詠にはその平静な態度の下で武の心が悲鳴を上げているのが感じ取れていた。

 (あやつ、無理をしているな。)

 白銀武という人物を理解し始めていた月詠にはそれが解っていた、だからなのか……思わず声を掛けてしまったのだ。
 月詠の呼びかけに武器の換装を一端中止して此方を向く武。
 月詠はその武を見て一応は安堵した。
 目が死んでいない、以前目的や答えを見失った時、沈み込み暗鬱としていた白銀は濁った泥水の様な目をしていた、しかし今の武の瞳の中には強い意志が在る、それは目標や使命を持った人間の目だと月詠は知っていた。

 しかし……
 「どうしたんですか月詠さん?」
 何事もないように普通に接してくる武。

 「いや、少しな……」
 らしくもなく思わず言葉を濁してしまう、しかし白銀はそれで月詠が何を言いたいのか察したようだ、笑顔を……無理矢理作った様な笑顔を浮かべて月詠に語りかけて来る。

 「ああ……、大丈夫ですよ。そりゃあショックで悲しいですけど泣き喚いたってどうにもならない事は解っています、今の俺に出来る事は鮎川大尉の遺志を継いで反応炉を破壊する事だけ……、だから俺は戦います。」

 その物悲しい無理矢理の笑顔を見て強き想いが月詠を苛んだ。
 無性に……白銀が愛おしく感じた、今すぐ白銀の元にいって抱きしめてやりたかった。
 初めて自覚した想い、白銀をこの身で癒して……自らの想いで包んで……。
 その一瞬月詠は全ての事を忘れ去っていた、悠陽殿下の事も、冥夜の事も、自らの志の事も、今の状況も。

 (私は……、お前を……お前の事を……。)

 自らの心を侵食する激しくも苦しい想い。
 だが、月詠は今の状況を思い出しその想いを強引にねじ伏せた。

 (今のは……なんだ…………。)

 生まれて初めて「異性への愛」という感情を一瞬でも自覚した月詠は混乱の最中にあった、今の感情を気の迷いとして忘れようと首を思いっきり振る。

 (くそっ……、私は何をしている!今は戦いの時だろう!!!)

 自らを律し先程の感情を胸の奥に仕舞い込む、そして何時もの月詠へと戻って行く。
 だが「想い」は一時的に心の奥へ仕舞い込んだだけ、一度自覚した想いはもう消える事は無い……。
 行き成り押し黙って、行き成り首を大きく左右に振った月詠を武は不審げに見ていた。
 やがて顔を上げた月詠、もう既に何時もの月詠に戻っている。

 「そうか、今はそれでいい。これが終わったら後で存分に話を聞いてやる。」
 「それは光栄です。」

 1人で塞ぎこむより人に吐露した方が良い、その心遣いに武も感謝して微笑を返す。

 「終わらせましょう……絶対。」
 「ああ、人の力見せてやろうぞ。」

 一時的にでも活力を取り戻した武、そしてその武の漆黒の武御雷のそばに立つ月詠の真紅の武御雷。ただ隣に立っているだけだというのに寄り添いあって見えるのは果たして気のせいなのか。

 そして突入部隊の全ての準備が完了する、人間のBETAへの決死の反撃は既に始まっている。



 
作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 『ファフニール隊、第4層を制圧。後続による第2層までの中継地点構築を完了。』

 エルファの通信が響く、現状解説と戦域図は全部隊にリアルタイム配信される。

 『第3、第5艦隊は現状のまま伊勢原方面の囮部隊を援護。
 第4艦隊、レギンレイヴ、ゲイレルル、ランドグリーズは通常砲弾に換装、ラーズグリーズ、エルルーンはALMのままレーザー級に備えろ。
 ヴォータン、ヘルムヴィーゲは武器換装中の突入部隊へ近付く敵を狙え。
 ジークルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイセは各艦任意に防衛展開中のニーズヘッグ隊を援護。
 第1艦隊は相模原方面の門から這い出てきたBETAを撃ち倒せ!』

 アリーシャの命令が艦橋に響き渡る。命令と同時に手元の戦域図と艦隊の状態を表した表示、戦術機にも使われる思考統計を統合制御するシステムを応用した思考投影システムにより各艦に命令を与えていく。
 BETAをハイヴ内から誘き出す為門への直接砲撃を中止した、その為地表にはBETAが溢れ展開した部隊と交戦を始めている。

 今まではただ命令していれば良いだけだった。だがこの状況、味方が展開する、敵が動くこの戦場での一点を狙う精密砲撃、それこそがアリーシャの真価が発揮される状況だ。

 「先読みの魔女」まさにその名の如く、不規則に変化する戦場において味方を避け正確に敵に砲弾を叩き込むその神業的な所業、それこそが世界一との名声名高いアリーシャとその旗下艦隊の真価であった。
 順調に作戦が進行していたその時


 「えっ……。」


 突然エルファが驚愕の声を上げる。

 「なんだ?」
 なにか不味い事が起こったのかと突入口付近の拡大戦域図を凝視していた焔はエルファに視線を向けた。

 「それが、マレーシア戦線部隊が戦場に向かって突撃を開始しました。」


 「なんだって!!!」


 焔はその報告に面食らう。
 自分の想定外の事が次々と起こる、戦場ではそれは当たり前の事だが。焔は指揮官ではなく研究者であったがその変は心得ていた、しかし流石の焔も今回の戦場は色々ありすぎたのだろう。
 焔は通信をマレーシア戦線の部隊に繋ぐ。

 『おいっ、どうしたんだ?なぜ突撃を開始した。』


 その通信に即座に返信が返って来る。

 『あんなものを、あんなものを見て我々がジッとしていられるかっ!』

 ヘイムダル隊の隊長が叫ぶ、それを皮切りに様々な通信が入ってくる。
 『私達は戦士、戦う事、守る事こそが宿命。彼女の死に様こそが我らの本懐。』
 『此処で何もしなかったら我々はいい笑いものだ。』
 『そうだ、クソッタレのBETAどもに俺達人間の力というものを見せてやる!』
 『人類の未来の為に、後の者達の為に、この命ここで燃やし尽くします。』
 『戦う場所は自分で選ぶ、そして此処が私の戦場。』
 『大陸で生き残ったこの命、どの道惜しくは無い。』
 『武士(もののふ)の魂、確かに我らの心に響いた。』


 様々な通信が入る中エルファが叫ぶ。

 『マレーシア戦線部隊各機体、自決用爆弾の遠隔操作スイッチが全てオープンになっています!』

 「クックックックッ……」

 焔は突然含み笑いを始める、やがてそれは盛大な笑いへと変化していく。

 「クックックッ、ハハハッ、ハァッハッハッハッ……!!!」

 艦橋に響く焔の甲高い笑い、その笑いには可笑しさではなく誇らしき響きが内包されていた。

 「千尋!お前の遺志は、志は……、動かしたぞ……とてつもなく大きなものを動かした!たった1人で1188人もの心の内を塗り変えた。」

 焔は通信機に向かって吼える。

 『勝つぞ、この戦い何としても勝つぞ。人の命の力、BETAどもにみせつけてやれっ!!!』

 アリーシャも同意見だ、不敵に笑って命令を発する。
 『第5艦隊、わざわざ死地に飛び込む素晴らしき我が同胞達にプレゼントだ。伊勢原方面に補給物資コンテナを射出、場所はこっちで指示するから盛大にばら撒け。』




相模原方面ハイヴ突入口……第28遊撃部隊、日本人部隊


 その通信を武達も聞いていた。

 「大尉……。大尉の遺志は我々日本人だけではなく全ての戦士の魂を揺り動かした。」
 月詠が感慨深げに瞑目する。

 「くっ……、大尉。」
 「うう…………。」

 武と響は感動で言葉が出ない、握り締めた手が震え涙が頬を濡らす。
 「今回だけじゃないよ、これからずっとこの志は受け継がれていくんじゃないかな……。」
 「『死して尚屍拾うもの無し』狂気なる名言……、昔聞いた事はあったがまさか実際に目撃する事になるとはな。」

 「人は誰かの犠牲無くしては生きていけないもの、我々は幾多の先人の犠牲の上に戦っていられる、なればこそ自らも人の為に戦うのが道理。」

 「俺達は大尉の志を継ぎこの作戦を成功させる、その結果得られる技術は未来の人々を救うことになる……、そう言う事ですか。」

 涙を拭いた武は月詠の言葉を自分的に解釈する。

 「この場合はそうであろう。だが白銀、違えるな……志を継ぐのはそうたやすい事ではない。」
 「そうです、志とは自らだけでなく次の者にも受け継がせるべきもの。」
 「御無中尉?」
 「人から受けついだ志は自らの志と混ざり合いまた次の者へ受け継がれていく。志とは目的や目標、信念・志操、そして愛情……遙か昔から脈々と受け継がれてきた人々の心の在り方、それは日本人全体のものでもありまた1個の個人のものでもあります。」

 「白銀よ、そなたに志はあるか?」
 「それは……、正直解りません。」
 「今はいい、だが鮎川大尉から受け継いだ志を自らの志に置き換えるな、そなたにはそなた自身の志が在る筈だ。まだ解らなくともいつか必ず解る時が来る、そしてその時こそそなたの中に宿った大尉の志がそなたの志と交じり合おう、それを次の者へ繋いで行くのだ。」

 武は考える、自らの心の内に在る1番強い思い「冥夜を慧を守ること」それは目的であって志ではない、では自らの「志」とは何か……。


 (いくら考えても浮かんでこない……か、やっぱり月詠さんの言う通り今の俺には解らないのか。)

 どんなに考えても自らの「志」が思い浮かばない武。
しかし武は知らなかった、既に自分が「志」を持っている事を、その言葉を口に出した事があると言う事を。
 そして武の志は何時か地球の未来をも救っていく事になるであろう。




 『マレーシア戦線部隊、伊勢原市方面より戦場へ突入開始、囮の戦術機操作をオートへ。
 ファフニール隊第10層まで制圧、後続による第8層までの中継地点構築を完了。
 ニーズヘッグ隊突入口を中心に防衛展開、被害41機、
 BETAの一群更に地表に出現、現在地表戦力10%まで増大中。』

 『よ~し。突入部隊、地下への突入を開始しろ、第15層確保時点でフェイズ6に移行する。』
 
 その通信に武達は気を引き締める、装備の換装は終わった、いよいよ突入開始だ。


 『フェンリル了解、これより突入を開始する。』


 そして戦闘は更に激しさを増して行く。




現在フェイズ5消化中 
戦艦隊……本州近辺で固定、精密砲撃中。
戦術機部隊……2821/2875
マレーシア戦線部隊……伊勢原市方面に突撃開始
日本人部隊……フェンリル:ハイヴ突入開始
       ベーオウルフ:ハイヴ突入開始
       ファフニール:ハイヴ第10層到達
       ニーズヘッグ:防衛展開中

被害……マレーシア戦線:0/1188
     囮部隊:335/1188 被害853機
    日本人部隊:1633/1687 被害54機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:344/348 被害4機
     ファフニール:352/360 被害8機
     ニーズヘッグ:931/972 被害41機






難しい所が終わって乗っています、どんどんいけるぜ!
衝撃はまだ終わりません。



[1122] Re[6]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第48話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/25 19:33
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




ファフニール隊……ハイヴ地下第15層


 いよいよ制圧目標最後の広間(ホール)今までの通り燃料気化爆弾で小型種を一掃し大型種の殲滅に入った、だが多くの増援が来て制圧は難航していた。

 『くそうっ、敵の援軍が多い。』
 『15層は大丈夫のはずじゃなかったのか!』
 『想定よりBETAの数が多いって言ってたでしょ。』
 『幾らなんでも多すぎる!』

 焔が当初予想した「20層まで比較的安全だろう」と言う予想は、これまた焔が言った「予定より敵の総数が多い」と言う事実によって破られていた。
 15層で一気に敵の増援が襲来し先頭の制圧部隊は苦戦していた。
 戦術機2個中隊による1機につき5門の04式突撃突撃機関砲の制圧射撃は出て来る敵を片っ端から倒していくが……。

 『きゃあああーーーーー!!!』

 一時的な敵の異常増大によって突撃級ルイタウラに制圧面の一角を突破された、そして1機の戦術機t@
巻き込まれ追突される。

 『0205!』
 『大丈夫か!』
 『くそっ、足が潰された……』
 『脱出しろっ』

 だが動けないファフニール0205機に戦車級エクウスペディスが殺到する、そしてその間にも他の大型種が制圧射撃中のファフニール02・03中隊に迫ってくる。


 『全員離れてっ!!』


 0205からの裂帛の気合。

 『……全員後退っ、下がれ。』

 その気迫に彼女の意思を見出した02隊の隊長命令で全ての戦術機が射撃を続けながら低高度ジャンプで一気に後退する。
 大量のエクウスペディスに取り付かれた0205、しかし彼女に恐怖はなかった。

 『私の命、お前らどもに食われるほど安くは無いよ!』

 言葉と共に起爆スイッチを入れる、起動したS-12(エス・トゥエルブ)の熱量は爆心地の0205機を中心にファフニール02・03中隊に迫っていた幾多の大型種を飲み込んでいく。
 やがて爆炎が収まったその場所には大きく抉れたクレーターだけが姿を残していた。
 そしてまた湧き出てくるBETAとの戦闘が再開される。




伊勢原方面……マレーシア部隊


 艦隊砲撃を潜り抜け迫ってくるBETA達。ハイヴ突入部隊の援護の為そのBETA達を相手取るマレーシア部隊の面々。

 『あんな密度の艦隊砲撃を潜り抜けてくるとは。』
 『多い多い言うけれど流石に多すぎるぜ。』
 『文句言ってんじゃないよ、次行くよ。』

 BETAの一群を倒し次の集団へ。

 『ヘイムダル6023、こちらヘイムダル4007以下、援護するよ。』
 『ありがたい。』
 『ぐああぁぁぁ!』
 『どうした?』
 『6026が!メデュームにやられた。』

 4007の視線の先にはBETAの一群の中、メデュームの前腕に貫かれた戦術機の姿が見えた。
 『くそっ、死ねっBETAども』
 4007以下は04式突撃機関砲を構えその集団に突撃しようとしたが……、それを遮るように6023から通信が入る。
 『まてっ、6026が何か言っている……』
 その声に4007は通信感度を上げる、通信から微かな6026の声が聞こえてきた。

 『は……な…れ……ろ、こい…つら……みちづれ……だ…。』

 その声にハッとする4007と6023。

 『退避っ、離れろっ!!』

 瞬時に離脱した瞬間ヘイムダル6026を中心に爆炎の嵐が吹き荒れ周囲のBETAを飲み込んだ。




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 『マレーシア戦線部隊伊勢原方面へ展開、BETAとの戦闘を継続中。
 ニーズヘッグ隊も依然として相模原方面で敵との戦闘を継続。
 ファフニール隊第15層を制圧完了、後続による第15層の簡易前線基地を構築中。
 突入部隊は装備の換装を終え現在第15層に向かって進行中、数分で15層に到着します。』

 エルファの通信に焔は一時首を捻る、そして考えがまとまったのかエルファに命令を下した。


 『スケグル、フリストはヘイムダル2に接近しているルイタウラを狙え。』


 「突入部隊が15層に集結した時点で各隊の突入を開始しろ、最短進行ルートはフェンリル隊に任せるが出発は中盤だ。
 それとマレーシア戦線部隊の一部も突入するように指示しろ、希望した部隊だけでいいのでそれを突入部隊として加える。」


 『ジークルーネ、ロスヴァイセ、ニーズヘッグ3の左側面に展開中の集団に砲撃。』


 その命令を忠実に伝えるエルファ。
 『第15層付近に突入部隊終結後フェイズ6に移行、突入路と順番の指示は此方で出します。
 またマレーシア戦線部隊で突入に志願する部隊は連絡してください、此方で調整して以後の行動を指示します。』
  
 エルファと焔のやり取りの合間にも、後ろではアリーシャの絶え間ない砲撃指示が各艦に飛んでいる。

 『各隊被害増大中、自爆者多数……いえ、全ての衛士が自爆しています。』

 エルファの報告に思わず武者震いが起きる焔……。
 全て……、日本人だけたらともかく「全ての衛士」が……。
 (死して尚屍拾うもの無し……、千尋お前の志は皆に受け継がれたぞ。)




ハイヴ第15層……第1突入部隊:フェンリル


 エルファからの通信の少し後、武達はベーオウルフ隊の一部と共に第15層に到着していた。

 「シミュレーションとは迫力が違う……。」
 「迫力なんてもんじゃない、あちこちからBETAの息遣いが溢れているぜ。」
 「白銀のいう通り、ハイヴ自体が1個のBETAって言う説もあるくらいだからね。」
 「さしずめ我々はBETAの腹の中ってところだろう。」
 「柏木中尉、ヒュレイカ中尉、怖い事言わないでくださいよ!」

 話をしながら広間に入った皆に向かい月詠がある地点を指し示す。

 「全員あれを見よ。」

 月詠が指し示した先には大きくクレーター状に抉り取られた場所が数箇所存在していた。

 「あれは……、爆発の後、しかも6つ……。」
 「ということは……」

 響と武が呟く。
 武はそのクレーター状の穴がどのようにして出来たかは確信がもてていたが、確認するように月詠に聞いてしまっていた。

 「誰かがあそこで自爆したという事ですね。」
 「BETAの総数が当初の想定よりも遙かに多いそうだ、ここを確保するにも相当な激戦が繰り広げられたのであろう。」
 「人は誰かの犠牲無くしては生きていけないもの、我々は幾多の先人の犠牲の上に戦っていられる。」

 月詠の言葉に白銀はポツリと先程自身が言われた言葉を繰り返した。


 「白銀……」
 「俺達が此処に何事もなく立っていられるのも誰かの犠牲があったおかげ、こうやって実際に人の死の痕跡を見ると月詠さんの言った言葉の意味が実感できますよ。」
 「そうだね、今も地上では私達の負担を軽くする為に皆がBETAを引き付け戦っているんだよね。」
 「だからこそ我々の使命は重いのです。」


 「「「「「「………………」」」」」」


 皆一様に沈黙する。責任の重圧に圧されているのではない、自らの使命を反芻しその成功を硬く決心しているのだ。

 『これよりフェイズ6に移行します。全部隊の突入ルートを指示します、ベーオウルフ15まで突入を開始してください。なおフェンリル隊は最短距離を行くためベーオウルフ隊がある程度進行した後に突入を指示します。
 また突入路確保部隊は補給線維持部隊として機能、以後ファフニール隊は補給戦線の維持に務めてください。』

 『なお現在損傷率15%、被害総数379機、残り2496機です。』

 突如入ったエルファの通信、その内容。
 「これって……」
 その内容に響は困惑し恐縮する。
 「最初に突入するベーオウルフ隊はある意味囮だね、彼らは敵を引き付け本命は私達を含め後から突入する。」
 「犠牲になる可能性が大きい部隊を見送るのは答えるよな、しかも俺達の囮の為に。」
 「白銀は優しいね、でも作戦を確実なものにするには必要な事なんだよね。」
 「解ってるよ、ただ……な……。」
 「彼らには自らの役目の意味が知らされている、それを承知で行くのだ、我らはその行為を意味あるものとする為に何としても作戦を成功させねばならぬ。彼らの死が尊いものとなるか無駄な犠牲に終わるかは全て我らに掛かっている。」
 「だから……、何としても最下層へ到達して反応炉を破壊いたしましょう。」




作戦旗艦:特殊戦艦ヴァルキューレ


 『フェンリル隊突入を開始しました。ベーオウルフ15までが先行、現在の最下到達層はベーオウルフ04が21層に到達。
 フェンリル隊の突入と同時にベーオウルフ15以降も突入を開始、なおマレーシア戦線からの志願部隊も臨時編成を行い突入を開始。』


 『ブリュンヒルデ、オルトリンデ、ニーズヘッグ7の後方へ砲撃。グリムゲルデ、ロスヴァイセ、ヘルヴォル、スルーズは弾薬の補給。』


 「やはり当初の予定より損傷が激しい、マレーシア戦線の衛士が参戦してくれて助かったな……これも千尋、お前のおかげか……。」

 焔は戦況の推移を見詰めポツリと呟く。やはりBETAの総数が予想より遙かに多すぎる、マレーシア戦線の衛士が参入したが被害は大きくなる事は確実だろう……。




ハイヴ第19層、広間……第1突入部隊:フェンリル


 突撃してくるルイタウラを飛び越えそのまま空中で敵の後側を射撃、着地地点にはメデュームが密集……、ブースト噴射で機体を押し上げながら方向転換用補助ブーストで機体の向きを上下逆にして天井に着地、そのまま下方に36㎜をばら撒く。
 横合いからのヒュレイカ・御無の不知火の射撃と合わせ下にいたメデュームを一掃、そのまま向きを変え着地する。


 そして次の層へ……


 「柏木、さっきの機動すごいじゃないか。」

 20層へ向かう横坑(ドリフト)の途中武が興奮して柏木に通信を繋ぐ、先程の空中機動はそれを得意としている武から見ても高度な技だった。あの限られた空間の中で補助ブーストだけの力で上下を入れ替えるたのだから。
 「まあ、長く白銀と一緒にいればあれ位はね。」
 何時もの笑顔で当然の様に言う柏木。
 しかし傍で聞いていた月詠は思った、柏木は状況判断とそれを背景にした援護射撃は1番の腕を持っている、しかし操縦技術は部隊内では1番下の響の上。……まあ響はまだまだ未熟なので上と言っても相当に上なのだが……。
 しかし空中機動能力は武・月詠に次いで3番目に上手い、恐らく武との付き合いが長くその空中機動との付き合いも長いからであり、その時がまだ発展途上の時期だったので素直に取り入れられた事も影響しているであろう。

 「おしゃべりはここまでだ、焔博士が当初敵の存在を予想した第20層、今までの比ではないと思え。」

 ヒュレイカの言葉に皆気を引き締める、そして横坑(ドリフト)の敵を排除しながら第20層へ。
 突入の前に念の為燃料気化爆弾を2発投げ込む、真っ直ぐに飛んで行った爆弾が広間の中で熱風と衝撃波を振りまく。

 「ゆくぞっ!」

 衝撃波が収まると同時に月詠の号令、全員は無言で追従する。
 広間に入った瞬間に天井から大量のエクウスペディスの襲撃、ハイヴ内では良くあるパターンの攻撃なので冷静に対処、全員はエレメントを保ち回避しながら上空に向かって広範囲散布式銃弾砲を発射する。
 〈パァン〉という何かが破裂するような発射音と共に大量の歩兵重機関銃用サイズの弾が霧の様に広範囲に前面散布される、天井から落ちてきたエクウスペディスの半分以上はその弾丸で撃ち抜かれた。
 さらに04式突撃機関砲のセレクターを特殊弾へ、広範囲散布式銃弾砲は弾数が少ないので後に備えて節約しなければならない。
 地面に落ちたエクウスペディスに銃口を向けて引き金を絞る。撃ち出されるショットシェル、吐き出された数十発の弾(実包)は空中で破裂して小型の小弾をばら撒きエクウスペディスへと降り注ぐ。
 それを見届ける事無く方向転換し背後に迫っていた大型種に相対する。

 そしてそのまま乱戦にもつれ込んだ。



 幾ばくかの後……、柏木は最初に入ってきた入り口付近で響と組んで戦っていた。
 2人とも中距離以上の射撃タイプなのでこの狭い空間では常に動いて戦っている、この時柏木は少し離れた所で戦っている響を援護しながらBETAを相手取っていた。


 その時も別に油断していた訳ではなかった、しかしそれは不運と言っていい出来事だったのか……。


 響の後ろに迫っていたメデュームに36㎜を叩き込み、後ろから接近して来たメデュームの前腕の攻撃を横に回避しながら36㎜の弾丸を叩き込む、その時にチラッと響の方を確認したが……。

 「……不味い!」
 なんと先程弾を叩き込んだメデュームが起き上がって前腕を振り上げていた、後ろから接近していたメデュームに気を取られてトドメを刺し切れなかったのか、たまたま丈夫な個体だったのか、当たり所が悪かったのか……。
 響は真後ろに迫る脅威に気付いていない。
 (トドメを差し切れなかったか……)
 後悔しても結果は変わらない、今は対処を考える。
 だが対処法が見つからない、後ろからのメデュームの前腕を横に回避した際に響の前方に来てしまっていた為射線上に響機が存在していて射撃による排除が出来ない。

 (あれしか無いか……)
 通信で警告している暇は既に無い、響を助けるにはたたった1つの方法しかない、今の事態は自分の責任……躊躇わずそれを実行した。

 ブースト噴射を全開にして甕速火に突撃、そのまま追突して弾き飛ばす。あわよくばそのままの勢いで前進を続け前腕を回避しようとしたが少し甘かったようだ、幾ら生体金属に換装したといっても戦術機は重い、その突撃の衝撃で一瞬の停滞が生れてしまった。


 (まいったねこれは……)


 甕速火を突き飛ばした所為で機体はメデュームの方に向いてしまっていた、自分の機体に向かってくる左の前腕、斜め上方……機体やや後方から横殴りに襲ってくるそれを至極冷静な目で見詰めている自分、心に余裕があるのに体はまったく動かない、思考伝達速度の方が神経伝達速度より遙かに速い事をこの身で体感するとは……とさえ考えてしまっていたのに。


 〈バキャンッッ〉


 金属と何か硬いものが打ち合わされる甲高い耳障りな音と共に柏木の乗った不知火は凄い勢いで横に吹き飛んで行き広間の壁に激突した。




現在フェイズ5消化中 
戦艦隊……本州近辺で固定、精密砲撃中。
現在損傷率23%
戦術機部隊……2232/2875 被害総数643機 

マレーシア戦線部隊……伊勢原市方面に突撃開始
日本人部隊……フェンリル:ハイヴ第20層到達
       ベーオウルフ:ハイヴ第25層到達(最大)
       ファフニール:15層までの補給戦線維持
       ニーズヘッグ:防衛展開中

被害……日本人部隊:1335/1687 被害352機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:294/348 被害58機
     ファフニール:292/360 被害66機
     ニーズヘッグ:745/972 被害227機  
     
     マレーシア戦線部隊:897/1188 被害291
     ヘイムダル:642/864 被害222機
     スキールニル:255/324 被害69機
     囮部隊:124/1188 被害1064機



[1122] Re[7]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第49話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/27 01:02
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




ハイヴ第20層、広間……第1突入部隊:フェンリル


 自らの機体に凄い衝撃が加わり突き飛ばされた、機体がオートで体勢を立て直そうとする傍ら自らも培われた経験が思考を凌駕し反射的に姿勢制御をフルに使い機体を着地させる。
 着地した時点でやっと現在の状態に思考が追いつく、そしてそのまま自らを突き飛ばした原因を見極めようと前方を見た。

 しかしそこで見たのものは……

 自分が存在した場所の丁度真後ろで体中穴だらけになり紫色の体液を振りまきながらも左の前腕を振り抜いた状態のメデューム、そしてその直線上を吹き飛んで行く不知火。


 あれは……、あの機体は……。


 「柏木ぃーーーーーー!!!」

 通信から聞こえたのはお兄ちゃんの声、焦りと必死さが混じり合った絶叫。


 なんで……なんで……、なんであそこにいた私が今ここにいて柏木大尉の不知火が吹き飛んで行くの……?
 【ソレハワタシガタスケラレタカラ】

 なんで私が無事なの……?
 【ソレハカシワギチュウイニツキトバサレタカラ】

 なんでこんな事になったの……?
 【ソレハワタシガヨワイカラ】


 「うあああぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」

 一瞬の思考の後、柏木を殴り飛ばしたメデュームに5門の04式突撃機関砲を向け無茶苦茶に撃ち放つ。
 そうしないと押し寄せてくる幾多の感情で自分の精神がどうにかなってしまいそうだった。
 「怒り」という明確で単純で他の思いから転化しやすい感情。自身の心を苛み、攻め立て、後悔の念で破壊しようする思いを全て怒りに変えて憎き相手に叩き込む。
 それは一時的な心の自己防衛システムだった。
 相手が穴だらけになり崩れ落ちた所でその激情が過ぎ去る。

 「ハアッハアッハアッハアッ」
 (私は……私は……私は……)

 一時の激情が沈静化しある程度冷静になってくると様々な感情が混在しどうしようもない程に自らを責め立てる、響は自らが柏木を殺す要因を作ってしまったと考えていた。


 しかし……。

 「……響ちゃん……」

 微かな声が通信から聞こえた。
 ……これは……、この声は!

 「柏木中尉!!!」

 微かに通信から聞こえて来たのは間違いなく柏木の声、ハッとして柏木が飛んで行った壁の所を見ると柏木の乗る不知火が武と月詠の武御雷に守られ立ち上がっていた。

 「よかった……良かったよぅ……。」
 それを見た響は感極まって子供の様に泣き出してしまった。後悔の念は消えていなかったが柏木が無事だった事がとてつもなく嬉しかった。

 「こらこら泣かないの、突っ立ってないで……ヒュレイカ中尉や御無中尉に迷惑掛けっぱなしだよ。」
 優しく微笑みかけて来る柏木、柏木が生きていてくれた事に感動しながらも響はその言葉にハッとして周囲を確認する。
 自機の周囲でヒュレイカと御無が動かない自分を守るように戦っていた。
 慌てて機体を動かし戦闘態勢を取る。
 そして自らを守って戦いながらも柏木との会話を続ける。
 無事な柏木を改めて見て響は心底安堵した、自分を助けた為に柏木が亡くなったなんて事になったらとても自分を許せそうになかったからだ。

 「でも……無事でよかったです。」

 まだ涙声の響に柏木は苦笑する。
 しかしそれも仕方ないか……と思う、自分自身もあの時は間違いなく「死んだ」と思った。いや……普通なら死んでいる、そう……普通だったら。

 「まったく……、生体金属様様だね。」

 おどけた様に言う柏木。
 あの瞬間……、ブーストを噴射したままに甕速火との衝突で空中に一瞬停滞した機体の胸を横殴りにされた不知火はそのまま吹飛んで行き広間(ホール)の壁に激突、殴られた衝撃で意識が朦朧としていた柏木は自分が死んだかとさえ思っていた。
 そこへ武が近寄ってきて不知火に取り付こうとしていたエクウスペディスを掃討し、月詠と協力して柏木機を守りながら大声を掛けて叩き起こしたのである。
 起きた後直ぐに機体の状態を確認したが殴られた所が大きく陥没し機体が所々歪んだ位で機動するには問題は無かった。さすがにこれには驚いた、従来の戦術機では間違いなくコクピットが潰されていたか衝撃で機体が破壊されていただろう。

 柏木は生体金属の柔性や弾力性が衝撃を逃がしてくれた為かとも思っていたが……。
 実は武達は知らなかったが焔の思い付きによる改良によりハイヴ攻略戦直前に新しい改造が加えられていたのであった。
 それに空中で攻撃を受けた所為で地面との抵抗が発生しなかった事と一瞬停滞したとはいえ機体やや後方から、つまりブースト加速していた方向に力のベクトルを加えられ吹き飛ばされた事も幸いしたであろう。

 新しく付けられていた装甲はとりあえず「連層生体装甲」とでも呼べば良いのか、コクピット前面を覆う装甲が生体金属を使った特殊な装甲に換装されていたのである。
 原理は至極簡単で金属寄りの硬質タイプと柔軟タイプの生体金属を一定の厚さで交互に重ね合わせただけである。硬質性と弾力性が合わさった装甲は衝撃を跳ね返す力と吸収する力が混在する。
 更にコクピットと連層生体装甲の間に所々ジェル状のショクアブソーバーを流し込んである。

 ……が、実は理論だけで効果など一度も確かめてない……しかも重ね合わせただけという取りあえずの未完成品、「まあ装甲強度的には普通の場合と一緒だから無いよりは有った方が良いかな~~」位の軽い気持ちで取り付けられたのだが……、結果的に今回柏木の命を救った事で未完成品でも十分効果は証明されたようである。

 まさに色々な要因が重なり合った奇跡の生還であった。


 そして……、


 その後第20層のBETAが一通り掃討された時に柏木が切り出した。

 「ごめんみんな、私はここまでだ。」
 「柏木!!!」
 武は驚愕する、……が武もそれは仕方の無いことだとは理解していた。
 「いくら生体金属が丈夫だといってもダメージは大きかった、このまま下層に行ったら足手纏いになるからね、私はここから15層に戻って補給線の維持に手を貸すよ。」
 見た目には大丈夫そうだが機体はかなりのダメージを負った、このままいけば足手纏いとなり仲間を危険に晒す事もあるだろう。
 だから柏木は苦笑して言ったのだ、仲間に迷惑をかけない為に。
 しかし武には柏木が、最後まで着いていけない事でとても悔しそうに思っている様に見えた。
 彼女も戦士としての意地がある、今の状態を顧みたギリギリの妥協点としての今回の選択なのだろう。
 無理矢理進んで仲間に迷惑を掛けることも戦線を離脱する事も……どちらも柏木には受け入れられない選択だった。
 
 「了解した、柏木中尉……そなたの武運長久を祈ろう。」
 「死ぬんじゃないよ。」
 「ご無事で。」
 「死ぬなよ、柏木。」

 皆の激励の挨拶、そして……

 「柏木中尉……、すいませんでした。」
 しおらしく謝る響、それを見て柏木は笑った。
 「いいよ、あれは私の責任でもあった、響ちゃんが気にする事じゃない。」
 「でも……。」
 逡巡する響に優しく語り掛ける柏木。
 「いいんだよ。」
 「…………はい。」
 それを受けて一応納得する響、しかしその顔には憂いの影が付き纏っていた。
 
 そして柏木は上へと引き返して行く。
 それを見送ってから響達は21層に向かう為横坑(ドリフト)に突入する。


 だが暫らくして……

 敵が途切れた時急に響が立ち止まった。
 「どうした響少尉?」
 月詠が不審そうに尋ねる。

 「あの……私も引き返します!」

 響は最初こそ小さな声だったが後半ははっきりと意見を述べた。
 「なんだって!」
 「…………」
 それを聞いた武は驚愕し月詠は瞑目する。御無とヒュレイカは周りを警戒しながら静かに聴いている。

 「さっきので痛感しました、今の私の実力ではこれより下層は足手纏いになります。白銀大尉と月詠少佐、御無中尉とヒュレイカ中尉のエレメントに私が加わるとバランスが崩れる事もそうです。
 私へのフォローは現状無駄でしかありません、これから先私のスピードに合わせる事も部隊の進攻を遅くする原因となるでしょう、私はここで引き返し柏木中尉と共に補給戦線の維持に務めます。」

 これは響の本心であった、勿論自分の所為で損傷を負った柏木を手助けしたいという思いもあったが、響は自分の実力不足を痛感していた。
 自分は弱くは無い、むしろ同年代に比べれば格段に強いと自負している、しかし武達の強さにはまだ全然に届かないのだ。エレメントが解かれ部隊のバランスが崩れた今1人だけ実力の弱い自分の存在は確実に足並みを崩す、弱い自分に合わせて得られる事は何も無い。
 引く事もまた勇気なのだ、例え自爆するにしても悪戯に死ぬ事は勇気でも何でもない。これでもそこそこ強い自信はある、だから自分は出来る事をするのだ。

 響は月詠の目をじっと見詰め力強く発言する。睨みつけるような月詠の眼光、心の奥底の隅々まで覗かれる様な視線だったが響は目を逸らさず睨み返すようにその目を見詰める。
 数瞬の停滞後月詠は納得したように首肯した。

 「解った。では響少尉、貴様は柏木中尉と合流後第15層に戻り補給戦線の維持に尽力せよ。」
 「はっ。白銀響少尉、柏木中尉と合流後第15層に戻り補給戦線の維持に尽力します。」

 見事な敬礼と復唱を返す響。
 武は響に通信を繋ぐ。
 「響……。」
 響は少しだけ砕けた雰囲気で武に激励をする。そして他の2人にも……
 「白銀武大尉、後をよろしく頼みます。」
 「御無中尉、ヒュレイカ中尉も御武運を!」
 武はそんな響に苦笑して片手を上げる、御無とヒュレイカも無言で片手を上げた。
 
 「死ぬなよ!」
 「武大尉こそ!」
 最後に気軽な言葉の応酬をしてから響は第15層まで引き返していった。


 そして4人になった第28遊撃部隊は更なる下層を目指す。




ハイヴ第27層、広間……第1突入部隊:フェンリル


 第26層でビーコンを拾った武達、第27層にある武達の通過地点にそれは置いてあった。

 「補給コンテナ……。」

 肉質の生体細胞で覆われているコンテナ、地表に撃ち落とされるコンテナの半分以下しかないがそれは確かに補給物資の入ったコンテナであった。
 事前に説明されてたとはいえ実際にハイヴの中にこの補給コンテナが有る事が不可思議だった。

 しかしこの補給コンテナは先行したベーオウルフ隊が命を掛けて運んだもの、何人もの犠牲の上に自分達へ託された至上の宝であった。
 最初に潜水艦から発射され陸地に打ち揚げられた補給コンテナの中にこれは含まれていた。
 ファフニール隊が構築している15層までの補給戦線で使われているコンテナとは形は一緒だがコンテナの材質と運用目的は違う。
 このコンテナは先行したベーオウルフ隊が1中隊につき2個運搬して行った、先行したベーオウルフ隊の目的は囮とこの補給コンテナの運搬、なるべく下層までこの補給コンテナを運ぶ事こそが彼らの使命の1つでもあったのである。

 後から来る真打の突入部隊の為の補給物資、これはBETAに破壊されないようにコンテナ自体が珪素で出来ていてその上から培養されたBETA細胞で覆われている。補給コンテナを危険に晒さない為ビーコンは運搬していた戦術機に着けられていたが……。
 戦いながらもビーコンの発信源を探すと広間の隅から発信されている、そして其処には見た目には何も無い、ビーコンだけ其処に置いたのか。
 そして周りには3つほどの自爆した後がある、恐らくこれ以上の進攻は無理と判断し補給コンテナとビーコンを置いて散って行ったのだろう。



 彼らの魂に無上の感謝を捧げながら武達は早速補給を開始する。
 最初に御無とヒュレイカが周囲を牽制し武と月詠が補給を開始した。

 片方の補給コンテナを開ける。これ1つで約1小隊分の補給が出来るように作られていて、中身は噴射剤とエンジン燃料、04式近接戦闘長刀が各4つずつ、04式突撃機関砲が8丁、36ミリ予備弾倉×20、120ミリ予備弾倉×10、散布式銃弾砲弾倉×8、となっている。
 噴射剤と燃料の補給、長刀の取替え、全ての04式突撃機関砲を取替え予備弾倉も手早く補給し終えた。
 そして次に武と月詠が牽制に周りヒュレイカ達が補給を開始しようとした……。


 その瞬間……。


 「離れよっ!」「離れろっ!」

 月詠とヒュレイカの声が同時に響き渡り2つのエレメントはそれぞれ別の方向に離脱した。
 何時の間に現れたのか天井から大量のエクウスペディスが振ってきた、さらに分断されたヒュレイカと御無の後方の横孔からBETAが押し寄せてくる。
 武と月詠は通路側だがヒュレイカと御無は広間の中心で囲まれてしまっていた。

 「先に行けっ!」
 突如ヒュレイカから通信が入る。
 「でも、中尉!」
 「こいつらを突破するには時間が掛かりそうだ、幸いお前達は下層へ続く横坑の前にいる。」
 「此処にはもう1つ補給コンテナがあります。私達なら大丈夫ですわ、行ってくださいませ。」
 大量のBETAに囲まれた2人は背中合わせになりながらも果敢に敵を撃ち倒して応戦している。

 「白銀、行くぞ!!」
 「でも、中尉達が!」
 「仲間を信じよ、我らの使命は1つ。」
 「そうだ、行け、白銀!」
 「行きなさい、白銀大尉!」
 逡巡する武、しかし次の瞬間には決意を固める。

 (託された思い、仲間を信じる心、だから俺は!!)
 「すみません……、反応炉は必ず破壊します!!!」

 武は武御雷を下層へ続く横坑へ向ける、背後では絶え間ない銃声が鳴り響くが最早振り返ることは無い。



 信じている、2人は絶対に死なない、だから……!!!



 「行きましょう月詠さん、目指すは最下層。このまま突っ切りましょう。」
 「承知。既に背後顧みることあたはず、ただ突き進むのみ。」


 そして武と月詠は第28層へ突き進む…… 


 『損傷率50%突破によりフェイズ7へ移行します。
  損耗が激しい部隊は補給線の維持へ。
  その他の部隊はハイヴに突入し囮となりながら突入部隊の援護を行なってください。
  臨時編成は各隊の指揮官に一任します、どうか御武運を。』 




現在フェイズ7に以降中 
戦艦隊……本州近辺で固定、精密砲撃中。
戦術機部隊……1441/2875 総被害1434機 損傷率50%突破

日本人部隊……フェンリル:ハイヴ第28層前
       ベーオウルフ:ハイヴ第30層到達
       ファフニール:補給線維持
       ニーズヘッグ:補給線維持及び突入口周辺の防衛、第15層以下への突入。
マレーシア戦線部隊……補給線維持及び突入口周辺の防衛、第15層以下への突入。

被害……日本人部隊:877/1687 被害810機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:142/348 被害206機
     ファフニール:164/360 被害196機
     ニーズヘッグ:565/972 被害407機 
 
     マレーシア戦線:564/1188 被害624機
     囮部隊:1188/1188  全滅
     ヘイムダル:408/864 被害456機
     スキールニル:156/324 被害168機




 前回良い所で切ってしまいました。
 柏木は無事です、ご都合主義的展開だけど一度はやりたい大道シチュエーション。
 深くは言いません。
 では次話で。



[1122] Re[8]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第50話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/26 13:17
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




特殊戦艦:ヴァルキューレ


 『フェンリル01・02第29層突破。
  ベーオウルフ25、第31層で足止めされています。
  ベーオウルフ18からの通信途絶、全機の自爆反応確認、全滅です。
  損傷率60%突破。』


 『ブリュンヒルデ、ニーズヘッグ4の左翼集団に精密砲撃!』
 『これより全艦を補給戦線の維持に回す、精密砲撃用意。』


 喧騒の中、焔が合間を縫ってエルファに現状を聞く。

 「どうなっている?」 
 「フェンリル01・02は第29層を通過。
  砲弾消費率が65%を超えました。
  損傷率60%突破、被害は1754機、残り1121機です。
  なお光線級による54機の消滅以外はその全てが敵を巻き込み自爆しています。」

 その報告に不安を覚えながらも感動に打ち震える、全て……全ての戦術機が自爆して果てるとは、鮎川の死はここまで戦士の心に影響したのだろうか。
 (そうだ……、なにを不安になる。今の私達は負けん、必ず勝利する。)
 戦域図を見詰め不敵に笑う焔、その顔には勝利への希望が見えていたのか……。




ハイヴ第30層、広間(ホール)……フェンリル01・02


 大量に襲い掛かってくるエクウスペディスを肩部散布式銃弾砲とショットシェルで蹴散らしながら突き進む、シミュレーターで実践したが如く既に無視できる大型種は回避に専念し極力相手をしない。
 しかし敵の数が多すぎるのでシミュレーターとは違い、道を切り開く為に何回かの戦闘を余儀なくされている、その為進行速度が思ったように出ない。

 『損傷率60%突破』

 エルファの報告に焦りが募る、あと4層……たった4層の道のりが果てしなく遠い様に思える。たった2人の行軍、信頼する相棒とのそれに不安はあらねど押し寄せるBETAの数にこの世界でたった2人だけになったような孤独感を武は感じていた。

 「ちっ、じゃまだぁ!」

 前方の出口に密集しているエクウスペディスに全武装を叩き込む、一瞬のうちに弾け飛ぶエクウスペディスの真ん中を武と月詠の武御雷が通過する。
 放っておくとあっという間に新手が群がって道を塞いでしまう、この辺の階層では足を止めるのは命取りだ。

 「ピッピッ」

 その時レーダーから音が聞こえた、久しく聞いてなかった反応音を懐かしく感じてしまったがこれは……。

 「戦術機が2機、このまま行けばこの先の横坑(ドリフト)で合流するぞ。」
 そう戦術機、味方の反応だった。
 このBETAだらけの下層域で味方の戦術機反応を捉えられるとは、ここまで来ているのが自分達だけではないと知り武は思わず嬉しくなってしまう。

 「識別反応は……、ベーオウルフ2901とヘイムダル1001……。」
 「突入部隊とマレーシア戦線突入志願兵か、番号からして中隊長と連隊長だな。」
 「ということは随分な腕利きって事ですか。」
 「ここまで降りてきたのだ、間違いなかろう。」

 その事実に武は興奮する、自分達の他にも最下層を目指して戦っている者がいる事に。
 幾多のBETA集団の中を2人だけで突っ切っていると何時しか自分達だけしか残っていないのでは?進んでないのでは?と無意識の不安に苛まれていたらしい。仲間が生き残っている、自分達と同じく反応炉を目指している事は送られてくる情報で理解していることだが……、情報だけを確認するのと実際にそれを体感するのは感じ方・喜びもまた違うのであった。
 直ぐに横孔の分岐合流地点に到達する、相手も此方を確認しているはずだ。

 「合流するぞ!」

 月詠のその言葉に期待を膨らませつつ前進する。


 「イャッホーーーー!!!」


 通信機から聞き覚えのある声、そして横坑の二股の合流地点で姿を見せた戦術機は……。

 「EF-2000タイフーン!不知火!それにこの声!!!」

 思わず叫ぶ、そして通信画面に姿を見せたのは……。

 「よ~う、ミラクルボーイ。こんな所で会うとは奇遇だぜぇーー!」
 「ご無事で何よりです御二方。」
 「ウォーカー大尉!榎本中尉!」
 「成る程、そなた達であったか。」

 こんな所でも陽気なウォーカー大尉とやっぱり礼儀正しい榎本中尉に驚き笑ってしまう武。
 そして月詠は下層まで到達した衛士がこの2人だということに納得している、この2人の実力は折り紙付きだ。

 「月詠少佐、他の御方達は?」

 榎本中尉がやや控えめに聞いてくる。その態度は、もしかしたら……のことを考えて此方を慮っての配慮だろう。

 「此処までは追従出来なかったが全員無事だ、上層で今も戦っているであろう。」
 月詠は簡潔に答える、生きている事さえ伝えられれば十分だと判断したのか。

 「そうですか、それはよかったです。」
 榎本中尉は安堵した顔で言った。
 だがその顔には少し陰が差している、武はその訳に直ぐに気付いた。月詠は先程彼女が中隊を率いていたと言った、だが1人だということは恐らく中尉以外は全滅したのだろう、それを思うと武は榎本中尉の心中を慮って胸が痛んだ。
 ウォーカー大尉も1人だと言うことは恐らく……、そういうことなのだろう。


 「即席小隊だ、このまま一気に突き進んじまおうぜ!」
 「そうですね、地上戦力の疲弊度も上がっています、急ぎませんと。」

 前方から体当たりで襲ってくるルイタウラを壁横走りで回避しつつ前進する、シミュレーターで一緒に訓練した事も多々あって、ウォーカー大尉と榎本中尉も月詠と武の傍から見れば常識はずれな無茶苦茶な機動も慣れたものだ、キッチリと同じ様な機動で回避している。

 前方に第31層の広間の入り口が見える、4人は即席のフライト(FLIGHT)を組みつつ突入した。
 第31層広間に入った瞬間に大量のエクウスペディスが殺到してくる、もう何回も繰り返した方法、散布式銃弾砲の複数回射撃で敵を押し返しショットシェルで穴を開けつつブースト噴射で突き抜ける。
 そして広間に躍り出る、下方を36㎜で掃射しメデュームを牽制しながら下降、ルイタウラを足場に再度ブーストジャンプ、機体の下半身を振り子にした重心移動と補助ブーストで機体を半回転捻りさせ天井に着地、そのまま天井を蹴り前方へ、先程と同じ様に下降しつつ下に36㎜をばら撒きながらブースト噴射で前進、そのまま周りのBETAを掃射で牽制しながら出口やや前方に着地、すかさず前方に散布式銃弾砲を両側4回ずつ発射、出口を塞いでいたエクウスペディスのカーテンに穴を開けショットシェルをばら撒きつつ突き抜けた。

 この機動、何回ものシミュレーター訓練で見出した広間の最短通過方法だ。
 武や月詠クラスの空中機動能力になると限定的な空間であるハイヴ内は上下左右の壁でさえ地面と同じ感覚になってくる、補助ブーストがあるお陰で横穴の限定的な空間でさえ自由自在に向きを変えつつ移動できるのだ。

 下層に入ってくるとBETAの数が極端増えるので狭い横孔の方が突破が難しくなってくる、その為広間を極短時間で突破する為の方法を模索した、それが今回の方法である。
 スピードを殺さずに入り口より低高度ブースト突破で突入、ある程度前進したら着地(この時敵に囲まれない為掃射と出来たらルイタウラを足場にする)しそのままブーストジャンプで前進しつつ空中で向きを変え天井へ、そして天井を蹴りブースト前進しつつ出口へ向かう。1回で距離が足りなかったらもう1回同じ事をやればいい。
 ただしエクウスペディスの妨害などで上手くいかないこともあるがその辺は臨機応変に対処する。

 今の所この方法が広間最短通過方法であった。

 ちなみに先程柏木の機動を賞賛したのは、彼女が機体の下半身を振り子にした重心移動を使わずブースト噴射の勢いと補助ブーストの制御だけで機体の向きを変えたからである。(勿論武と月詠もできる。)
 武達は32層へ向かう横穴へ侵入する、最早無駄口を叩いている暇さえ無い程にBETAが襲い掛かってくる、全員は無言で戦っているがお互いのフォローは確実にこなしている、統合情報戦術分配システムと即時情報共有可能な戦域データリンクのお陰もあるだろうがそれは強固に裏打ちされた戦士としての経験による共感もあったのだろう。
 そしてその時エルファからの通信が聞こえた。




特殊戦艦:ヴァルキューレ


 「損傷率70%突破しました。」

 エルファの声に焔は即座に反応し力強く叫ぶ。

 「よし、これよりフェイズ8に移行、全軍突撃開始。」

 「了解しました。」
 そしてエルファは全軍に通達を開始する。

 『全軍に通達、損傷率70%突破により作戦はフェイズ8に移行。
  補給線の維持を放棄、全部隊ハイヴに突入してください。』

 そこで焔が通信を加える。
 『最下層を進行中の突入部隊は現在第31層を通過した、全軍彼らの援護を行なえ、少しでもBETAどもを引き付けろ!
 付近のベーオウルフ隊は引き続き下層を目指しつつ彼らの援護に回れ。』

 一気に言い終えた焔はエルファに現状の細かい報告を聞く。
 「……で、どうなっている。」
 「はい。砲弾消費率が75%を突破、戦術機隊残り842機です。」
 「突入部隊は?」
 「ベーオウルフ隊残り86機です。」
 「少ないと見るか多いと見るか……」

 その報告に焔は考え込む、しかしどう足掻いてももうどうしようもない、後は戦術機隊の力を信じるのみだ。

 「信じましょう、彼らの……人の力を。」

 エルファの言葉に焔はクスリと笑って戦域図を見詰めた。




ファフニール24……第14層


 『きゃああああ!』
 『2411!!』
 『助けてっ、エクウスペディスがっ。』
 大量のエクウスペディスに取り付かれる2411。
 『落ち着け!』
 『いやぁ、死にたくない、死にたくない!』
 『2411!くそっ近づけない。』
 『あああああ、いやああ。』
 『2411、死体を晒すか!我らの志、貴様も見たはずだ。』
 『ああ、私……私……。』
 『逝け、我もすぐ逝く。』
 『あああ……お前ら……お前らなんかにいぃぃぃ!!!』
 叫び起爆スイッチを入れる、その業火はその周辺に存在したエクウスペディスを軒並み飲み込んで消滅させた。
 『許せ……』




ヘイムダル4……突入口周辺


 『そっちに行ったぞ気を付けろ。』
 『死ねぇ!』
 『ぐわああぁぁぁ!』
 ルイタウラに追突される4107。
 『4107、大丈夫か!』
 『くそっ、手が動かねぇ、思考システムも死んでる。』
 『4107、早く!敵が集結しているぞ。』
 『だれか、誰か起爆スイッチを押してくれ!』
 『しかし4107。』
 『俺はもう駄目だ、早く!』
 『くっ、くそおおおおお!!!』
 遠隔操作で起爆スイッチを入れる。
 『ありがとうよ……』
 そして4107は周辺のBETAを消し飛ばし消滅した。

 


ベーオウルフ26……第32層 


 『隊長、大変です。フェンリル隊に向かい敵の大群が!』
 『くそっ、生き残ってるのは4人だけか。』
 『このままでは防ぎきれません。』
 『フェンリル隊の所まで敵を通す訳には行かん。』
 『どうすれば……。』
 『2602、副隊長として皆を率いよ。』
 『隊長は!』
 『私はこの先の横穴で敵を抑える。』
 『1人でですか、無茶です。』
 『この通路を塞いでしまえば随分な遠回りをさせることが出来る。』
 『塞ぐ……、隊長!』
 『これしか手は無い。』
 『しかし……!』
 『今の我々はフェンリル隊を全力で援護するのが任務。2602、貴様は私の代わりに2606と2611を率いてフェンリル隊を援護しろ。』
 『りょ……了解しました。』
 『泣くな……、大丈夫だ、この死は無駄死にではない。』
 『うう……』
 『フェンリル隊が必ずや反応炉を破壊してくれるだろう、だから我々は此処で命を賭けられるのだ。2602、私はその為にお前達にも死んでくれと命令しているのだ……。』
 『我々の志は1つです、その為に命を賭けましょう……。未来の為にこの命が役に立てる事……、無上の喜びです。』
 『スマン……不甲斐ない隊長だったな。……では行け、必ずやフェンリル隊を反応炉へ。』
 『了解しました。……先に向こうで待っていてください。』
 最下層へと向かっていく2602・2606・2611。
 『月詠様、後はお頼みします。……副長、結局私は……。』
 そして迫り来るBETAの大群。
 『さあこい有象無象ども、此処は通さんぞ。』

 


特殊戦艦:ヴァルキューレ

 
 『ラーズグリーズ、エルルーン、ALM残弾0。グリムゲルデ、ロスヴァイセ、フリスト残弾0。』
 『くそぉ、消費率が80%を超えた、まだ湧いて出て来るのかBETAどもめ。』

 アリーシャが非常識な量のBETAを罵る。
 そこにエルファの歓喜を含んだ声が響いた。


 『損傷率75%突破、残り751機。
  フェンリル隊が最下層・第34層に到達!!!』


 『よしっ!』

 その報告に艦橋にいたものが沸き返る。
 あと少し……、あと少しだ……。
 しかしその時不審な通信が届く。

 『え……、何を言って……、通信が……。』
 「どうしたエルファ?」
 「同じく最下層に向かうベーオウルフ24からの通信ですが、雑音が酷くてよく聞き取れません。」
 「聞き取れるか?」
 「感度を最大にしてみます。」
 そうしてもう一度通信を受信して聞く。


 『はい……、えっ!なんですって!!!』

 行き成りの驚愕の大声に側にいた焔は驚く。
 「どうしたエルファ、何があった!」
 「それが……で……が……と……。」
 「……!不味いそれでは……が、フェンリル隊に通信は?」

 砲弾の発射音ではっきりとは聞こえなかったが何か不味い事態が起こった様だ。
 「試していますが電波状態が悪く繋がりません。」
 「繋がるまで頼む。」
 「全力を尽くします、……が現状では難しいでしょう。」
 「くそっ、……最早あいつらの腕を信じるしかないのか。」
 そして戦域図のフェンリル01・02のマーカーを見詰める焔は呟く。

 「気を付けろよ……。」
 その呟きには切なる願いが籠められていた。




現在フェイズ8進行中
戦艦隊……本州近辺で固定、精密砲撃中。残弾20%
戦術機部隊……751/2875 総被害2124機 損傷率75%突破

日本人部隊……フェンリル:ハイヴ第34・最下層到達
       ベーオウルフ:ハイヴ第33層到達
       ファフニール:全機ハイヴへ突入
       ニーズヘッグ:全機ハイヴへ突入
マレーシア戦線部隊……全機ハイヴへ突入

被害……日本人部隊:412/1687 被害1275機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:83/348 被害265機
     ファフニール:102/360 被害258機
     ニーズヘッグ:221/972 被害751機 
 
     マレーシア戦線:339/1188 被害849機
     囮部隊:1188/1188  全滅
     ヘイムダル:232/864 被害632機
     スキールニル:107/324 被害217機




 とうとう50話行ってしまいました。長かった……。
 次の次辺りで厚木ハイヴ戦は終了です。
 最後の方にも仕掛けがありますよ~~。     



[1122] Re[9]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第51話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/26 13:55
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




ハイヴ第34・最下層……フェンリル01・02
           ベーオウルフ2901・ヘイムダル1001


 武達は最下層に到達、反応炉がある大広間を目指し突き進んでいた。

 「次のカーブを越えたら大広間の入り口が見えるはずです。」
 「いよいよ大詰めってやつかい!」
 「此処に到達するまで幾多の衛士が犠牲となった……。」
 「その人達の為にも、負けられねぇ!」

 それぞれの思いを胸に4人は敵を蹴散らしながら最後のカーブを曲がる、後は大広間まで一直線、現在はウォーカーと榎本がトップで次に月詠、殿に武……という陣形で進攻している。
 戦術機のエンジンを全開にしトップスピードを保ち、途中で襲撃してくるBETA達は36㎜を掃射しながら低高度ジャンプか壁を走って回避し突き進む。
 直ぐに大広間の入り口が視認できた。

 「見えたっ!」

 武の喜びの声が聞こえた、しかしその声には最後の大仕事を遂行しようとする真剣さが抜けていない、まだ本格的に浮かれる訳には行かないのだ。

 「一気に突入しましょう。」
 「反応炉は直ぐ其処だぜ!」

 榎本とウォーカーも意気込んで突入しようとしている。
 月詠もその気持ちは一緒だった、彼女は外部カメラを最大望遠にして今まで幾多の衛士達が挑み、届かなかった・到達できなかったその場所を目に焼き付けるように睨みつけていた。


 だからこそ気付いたのか。

 (……なんだ?)

 微かな違和感、気付かない程の違和感だが彼女の戦闘経験から培われた勘はそれを最大限に警告させた。レーザー級の事で今回のBETAを無意識の内にでも警戒していた事もあっただろう。

 (入り口が狭くなっている?)

 急いで事前に観測された地形図を出して周囲の地形と照らし合わせてみる、するとそれがはっきりと確認できた。
 なぜかこの通路を含め大広間に繋がる2つの横坑(ドリフト)は少しずつ狭くなっている、丁度円錐の様に……そう極端な集束ではないが確実に狭くなっていた。
 そして大広間への入り口はもっと狭くなっている、その為横孔と大広間入り口の両側に戦術機が隠れられるくらいの間が出来ていた。
 己の勘が最大級の警告を鳴らす。


 「気をつけよ!何かある!!!」

 「「「!!!」」」


 入り口への突入の寸前、月詠の警告が響く。
 3人は瞬時に警戒心を最大限に引き上げた、例え根拠の無い警告・訳の分からない行き成りの警告だったとしても歴戦の衛士の警告、其処には確実な危険が迫っている事が窺えた。
 そして大広間入り口に差し掛かった瞬間……

 「ーーーーー」

 風を切る様な音を立てて前方から「何か」が物凄い勢いで飛んできた。


 「散!!!」


 月詠の号令を聞かずとも全員は即座に両横に回避、入り口と横孔の壁との間に機体を飛び込ませた。

 「ガキャンッ!」
 「くっ」

 完全には回避できなかったのか、月詠の武御雷の左足先に「何か」が突き刺さる。
 そのままウォーカーと武は左側、榎本と月詠は右側の壁に身を躍らせた。

 「くそっ、今のはなんだぁ!」
 「何かを撃ってきたようです。」
 「まさか!BETAはハイヴを傷つけないんじゃなかったのか。」

 武達は壁に隠れながら叫ぶ、今まで通過して来た方向よりBETAが進攻してくるが36㎜の掃射で接近を阻止する。

 「全員これを見よ。」
 月詠がその映像を全員に回す、月詠機は外部カメラを最大望遠にしたままだったので「何か」を発射した「モノ」をカメラに捉えていた。

 「シィーット!これは……」
 「メデューム?いや……」
 「新種か!!!」

 そのBETAはメデュームソックリだった、しかし決定的な違いがあった。
 それは尻尾?にあった顔の様なものが無くなって替わりに硬質そうな西洋剣の形を模したモノがくっついている、そして……

 「胸が開いている?」

 何体かその個体が並び、その胸が開いて一斉に此方を向いていた。
 前方の顔の様なモノの下、胸に当る様な部分がメデュームより広くなっている、そしてそこが開いていて何かの発射機構の様なものが備わっていた。

 「恐らく此処から先程の何かを発射したのだろう、此処の入り口が狭くなっているのは入ってくる場所を限定してそれを当て易くする為であろう。」
 「でもBETAがハイヴ内で射撃をしてくるなんて!」
 「白銀、その事はひとまず置いておけ、今はどうするかだ。」

 武の持つ困惑は月詠も同じとする所だ、しかし今はそれを考える時ではない。
 時間が無い、それに後方からはBETAが更に押し寄せてきている、36㎜の掃射で抑えているとはいえ此処に留まるのも限界があるだろう。
 その時急に戦術機の稼動音が響き渡る、これはエンジンの全力機動音だ。

 「何を?」

 武がそう思って声を上げた瞬間、ウォーカーと榎本の両機は勢いよく飛び出していた。


 「ウォーカー大尉!!!」
 「榎本中尉!!!」


 武と月詠の驚愕の声がシンクロする。
 2人は躊躇いも無く大広間の入り口に身を躍らせるた。

 「後は頼むぜミラクルボーイ、奇跡を起こしてくれよ!」
 「月詠少佐、我が命で道を切り開きましょう!」

 瞬間、襲ってくる「何か」、しかし2機は腕を前面でクロスさせコクピットを守りながらブースト全開で前進、そのまま大広間へ突入する。
 武達の耳に「ヒュン」とも「ビュン」とも聞こえる風切り音と「ドキャッ」「バキャッ」という何かを撃ち貫く音が連続で聞こえる。

 「ウォーカー大尉、榎本中尉!!!」

 武はその音を聞き大声で名前を叫ぶ、しかし……しかし……。

 「耐えよ白銀、2人の志、その身に刻め。」

 月詠は瞑目してその音を聞いている、しかし手は硬く握られ震えており、唇は引き結ばれ口から血が滴っていた。
 武も解っている、ここは耐えるしか無い事を、自分達の使命を……2人の託した願いを。
 ウォーカーと榎本は密集する新種のBETAに突撃して行く。
 地上で戦っている者達の為に此処で時間を食う訳にはいかない、反応炉破壊の為にも武と月詠を損傷させる訳にはいかない。
 だからこそ自分達が……、それに……。

 「最初の一撃で致命傷を食らうとは不覚でした……。」
 「へっへっへ、俺も焼きが回ったぜ。」

 先頭を走っていた2人はその分敵に近かった、そしてその為に一瞬回避が遅れた。
 月詠達に心配させない為に戦闘情報を誤魔化していた、戦術機はともかくとして乗っている衛士が
致命傷だったからだ。
 榎本は腹部に大穴が開きコクピットは血まみれ、既に動くのも億劫だ。
 ウォーカーも胸に一発もらい既に意識が遠い。


 「最後の命の灯火、未来を切り開く為に燃やし尽くしましょう。」
 「我が死に様に一遍の悔いはなしってなぁ、ハッハッハァッ!」


 幾多の「何か」に撃ち貫かれ穴だらけになりながらも2人は機体を前進させ新種のBETA集団に突入、そのまま起爆装置を起動した。
 隊長機である榎本機に搭載されたS-13とウォーカーの機体に搭載されたS-11が起爆する。
 2つの戦術核クラスの爆発は、武達が進入してきた為にそちらの方角へ集結していたBETA集団を飲み込み根こそぎ消滅させる、その為大広間は一時的にBETAがほとんど存在しない空白地帯となった。
 その隙を見逃す手は無い。


 「行くぞ白銀!」
 「うおおおぉぉぉ!」


 気合一閃、2人は大広間に全力機動で突入する。
 2人の命を賭した行動で反応炉までは一直線に進める、だが此処は最下層、既に反対側の入り口より新たなBETA集団が進入してきている。

 「ここは私が引き付けよう、行け白銀!」

 己の機体からS-13を引き抜き武に渡す月詠、そして彼女はそのまま反転して敵集団に相対した。

 「直ぐに終わらせます!」

 S-13を受け取る傍ら一声掛けて白銀は反応炉へ向かう、月詠が心配だったが自分が囮をやると言っても彼女は引かないだろうし今更問頭する時間も無い、それが最善の方法だった。
 武はBETAの存在しない大広間を一直線に進み反応炉を目指した。
 
 月詠は現状を確認。自分達が入ってきた入り口とその丁度反対側の入り口よりBETAの大群が押し寄せて来る、片方だけでも多いのに両側とは流石に多すぎた、BETAも反応炉を壊されまいと必死なのかレーダーの反応では後続が次々と押し寄せている……。

 「白銀の下には行かせん、ここは一歩も通れんと思え!」

 この数を相手にするのは流石に無謀だが不退転の意志で進入して来るBETAの大群を待ち受ける。

 その時……


 『せやああぁぁぁぁぁ!!!』


 通信機から見知らぬ声が聞こえた、レーダーに反応……これは!

 「ベーオウルフ2602・2606・2611!」

 ベーオウルフ26突入部隊、その3機が反対側の横孔からBETAの大群を突っ切ってこちらに向かってくる。
 だがその突撃は無謀、途中で2606、2611の生命反応が消える。しかしその援護を受けたのか2602が更に入り口付近に接近して来る。


 『隊長の遺志を…!此処は通さない。我が命は、友の命は貴様等を防ぐ為の贄となろう!!月詠様、後をお頼み申します。』


 その言葉の途中で2606・2611のS-12が起爆、そして言葉の終わりと共に2602のS-11が起爆した。
 その爆発は反対側の大広間に続く横孔を吹き飛ばしその通路を塞いだ。更に近辺にいたBETA集団も巻き込んでいく。


 戦いの傍らその光景を目撃した月詠。

 「何処の誰とも知れぬが無上の感謝を。その志、その願い確かに聞き届けよう。」

 誰もが……誰もが戦っている、今の者も自分達に後を託す為にその命を燃やし尽くした。
 反対側の入り口が塞がったお陰でBETAの進入路は片側だけとなった、それでもきつい事に変わりは無いが随分と対応しやすくなったのは確かだ。
 自分達が通って来た入り口から進入してきたBETAの大群と激突する、止まるのは命取り、常に動き敵を撹乱し数を減らして行く。
 しかしBETAは後から後から押し寄せてくる、直ぐに周囲を取り囲まれてしまった。
 それでも何とか持たせていたが多勢に無勢、段々と押し込まれてくる。

 何とか敵を凌いでいたその時……


 〈ガクンッ〉


 着地した瞬間左足首の関節が崩れる

 (しまった!)

 先程「何か」を受けた方の足だ、今まで大丈夫だったし機体損傷の表示も破損表示だけだったので装甲で止まったかと思っていたが電気系統か何かの内部構造に異常があったか……足首の関節が動作不良を起こした。
 崩れ落ちる武御雷にメデュームの前腕が迫る、月詠は咄嗟に機転を利かせ左手でそれを受け流そうとする。


 〈バキャンッ〉

 しかし流石に無理があったのか左腕が根元から千切れ飛び前腕が機体に直撃した。
 崩れ落ちた体制のまま機体を激しく打たれ月詠の武御雷は勢いよく仰向けに倒れこんだ。
 咄嗟に左腕で動きを幾らか逸らしたためか生体金属のお陰か……、装甲は陥没し激しいショックを受けたが月詠自身は無事だった。

 「くっ……」
 急いで機体を立て直そうとするが……。

 「動かん……、おのれっ!」

 フレームが歪んだか電気系統の故障か……、動力は伝わり動きはするが動作が鈍い、素早い動きが出来なかった。応急処置として電気系統のシステムを立ち上げて再設定しながらバイパスを通すが……。
 相手の動作の方が速い、あちらは前腕を振り上げてから打ち下ろせばいいだけなのだ。
 敵の前腕が振り上げられる、他のBETAも此方に迫ってきている。


 「無念……。たける……タケル……武!!!」


 最後まで諦める事はしない、今も機体を動かそうと再設定を続けているが間に合いそうも無い。
 その最後の瞬間浮かんだのは、悠陽でも、冥夜でも、母でもなく、白銀武だった。


 「武……私は……そなたを……」


 そしてメデュームの前腕が振り下ろされようとした……

 その瞬間……


 「真那ーーーーー!!!」


 切なる絶叫と共に漆黒の鬼神が飛び込んで来た。





現在フェイズ8終了
戦艦隊……本州近辺で固定、精密砲撃中。残弾15%
戦術機部隊……630/2875 総被害2245機 損傷率78%突破

日本人部隊……フェンリル:ハイヴ第34・最下層到達
       ベーオウルフ:ハイヴ第33層到達
       ファフニール:全機ハイヴへ突入
       ニーズヘッグ:全機ハイヴへ突入
マレーシア戦線部隊……全機ハイヴへ突入

被害……日本人部隊:412/1687 被害1344機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:65/348 被害283機
     ファフニール:88/360 被害272機
     ニーズヘッグ:184/972 被害788機 
 
     マレーシア戦線:287/1188 被害901機
     囮部隊:1188/1188  全滅
     ヘイムダル:199/864 被害665機
     スキールニル:88/324 被害236機

    

 
とうとう……とうとう……。
苦節51話、武に「真那」と……月詠に「武」と、呼び捨てにさせる事が出来ました。

え……内容の話し?
前の話でチョイ約で出した名も無きキャラが何故か大活躍……、脇役も頑張っています。
幾多の協力の果てに今の状況があるのです。

という事で次回「反応炉破壊」をお楽しみに。
  



[1122] Re[10]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第52話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/27 16:45
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




特殊戦艦:ヴァルキューレ



 『ピーーーー』

 様々な情報を処理していたエルファの元に最重要コードの連絡が入る。
 「これは……」
 すぐさま間違いが無いかどうか複数の手順を踏んで確認、その結果間違いなくこの連絡がフェンリル02から発信されたものだということが確認された。
 最下層からの通信は現在非通知状態だがこの連絡方法は通常の電波を使っていないので問題なく届く、ただし音で知らせるだけの一方通行の通信だが。

 「フェンリル02からの特殊信号受信、反応炉にS-13設置完了、タイマーにより数分後に爆発。」

 その知らせに艦橋が沸き返る、中には気が早くも感極まって涙する者もいた。

 「よし、最下層付近の部隊を避難させろ。」
 「フェンリル01と02への連絡はどうしますか?」
 「あの2人なら大丈夫だ、必ず自力で脱出してくる。」

 エルファの疑問に焔は力強く答える、ここまで戦い抜いてくれた2人だ、きっと無事に脱出してくるだろう。
 焔はそう信じていた。

 (無事で出て来いよ2人とも。)

 そして最下層付近からの退避命令が出された。

 『反応炉にS-13の設置を完了、これよりフェイズ9に移行します。最下層付近の部隊は撤退を開始してください。』




ハイヴ第34・最下層……フェンリル01・02


 武は一直線に反応炉へ向かう、ウォーカーと榎本の命を賭した行動のお陰で数10体程のBETAを相手取っただけですんなりと反応炉に到達できた。
 反応炉にはこれまた数10体のBETAがエネルギー補給の為にへばりついていた、武はそれを見て蜜に群がるカブトムシを連想してしまったが頭を振ってその想像を否定した。
 36㎜の掃射によってへばりついていたBETAを撃ち落とし2本連結したS-13の設置を開始。
 BETAに気取られないように事前に焔に指定されていた場所に設置しタイマーを設定する、自分達が退避する時間を稼がねばならないからだ。
 設置後に装甲の裏側にパック状にして貼り付けてあったBETA細胞で覆って隠匿し其処を離脱する。
 爆発までそう時間はない、何より1人でBETAの大群を相手取っている月詠の事が心配であった。

 月詠が敵を食い止めている方向へ向かって全力で移動を開始する、幾ら月詠でもあの数のBETAを相手取るのは相当苦戦するはず、逸る気持を胸に月詠の元を全力で目指している時……その通信が聞こえた。


 『無念……、たける……タケル……武!!!』


 〈ドクンッ!!!〉

 その悲痛な声……いや、心の底から自分を求めるその叫びを聞いた瞬間……武の心は沸騰し弾け飛んだ。

 真紅の武御雷が見えた、仰向けに倒れBETAに遠巻きに囲まれている。左腕はなく胸部は陥没し動きも鈍い、正に満身創痍の状態であった。
 その真紅の武御雷に向かって側にいる1体のメデュームが前腕を振り上げている、それを見た武の心は深遠の闇の如くに深く沈み澄み渡った。

 (死ぬ……月詠さんが死ぬ? ……そんな事はさせねぇ、やらせねぇ!!!)

 その瞬間、思考がクリアになり全てがスローモーションになって行くように感じる。


 (お前らなんかに殺させねぇ、それは俺のモノだ、俺の大切な人だ!!!)


 更に聞こえて来た小さな呟き。


 『武……私は……そなたを……』


 その瞬間武は……、何かを超越したのか……

 左手に持った04式突撃機関砲を斉射しながら右手の04式戦闘長刀を左の肩口に引き絞り力を込める、メデュームの前腕が振り下ろされようとするその場所に全力で飛び込む。


 「真那ーーーーーーーーー!!!」


 愛しき者の名を叫びながら裂帛の気合を込め右腕を振り抜く、ブースト噴射と機体重量移動で発生する力と腰部の回転モーメントによる力を余すところなく全て右腕に集約させただ一刀の斬撃に込める。

 〈斬〉!!!

 その一閃は打ち下ろされようとしていたメデュームの前腕甲殻を下から3分の1程の場所で綺麗に切り抜いた。
 斬られた腕はそのまま振り下ろされるがその先に甲殻の前腕は既に無い。
 「斬鉄」しかも「片手の斬鉄」を放ったのだ。
 今まで両手でも満足に出来なかった技を此処に来て体得したのか、切れて隠された能力が発現したのか……。
 04式戦闘長刀を振り抜いた状態のまま勢いが止められず敵の輪の向うまで飛んで着地した。そのまま反転し36㎜を精密射撃で撃ちながらBETAに接近し輪の中へ斬り込む。
 斬り込んだ時に左手に持った04式突撃機関砲が焼きついた、これまでの戦いでパイロンの04式突撃機関砲も両方焼きつき除装している。
 背中の真ん中のウェポンラックから04式戦闘長刀を取り外し左手に装備する、そのまま月詠の武御雷を守りながら敵を相手取る。

 その様は阿修羅とも羅刹とも例えられよう、腰部の04式突撃機関砲で牽制しながら両腕に持った04式戦闘長刀でBETAを斬り飛ばしていく。
 斬鉄を完璧に習得したのか、甲殻部分でもまるでバターを斬るように簡単に斬り抜いた。
 ほとんど無心で、次から次へと押し寄せて来るBETAを月詠を守りながら斬り捨て続ける。
 どの位の時間が経ったのか……、それはほんの数分だったがとてつもなく長い様にも感じられる密度を持った数分であった。


 その数分が経ち、やがて……。

 「く……、」
 月詠は機体のシステムを書き換え武御雷を何とか起き上がらせる、だがその動作は普通の動きとは言えない、何とか動いている状態……と言った所だ。

 「白銀!」
 戦っている武に通信を繋ぐ、その通信を受け月詠の声を聞いた事で、集中によるトランス状態だった精神が普通の状態に戻る。
 「月詠さん!大丈夫ですか。」
 武は長刀を振り抜きながらもモニターに目を走らせ月詠の事を見た。
 「ああ、怪我は無い……だが機体の関節部が満足に動かん、脱出は困難だろう。」

 「それは……」
 武はこの状況に困惑するが、月詠は少し考え込んだ後に武に自分の考えを切り出した。

 「白銀、そちらに乗り移る、出来るか?」

 突然のその言葉に面食らうが自らの思考ももそれが最善の方法だと結論を弾き出す。
 「え……、あ……ハイ。……出来ます、手順は……。」
 素早く手順を月詠と打ち合わせ早速実行する。
 月詠は自機の背面装備の04式突撃機関砲をオートにして前面左右掃射で固定、更に左手の機関砲も左オート掃射で固定する。
 武は左手に持った04式突撃機関砲を右に掃射しつつ月詠の武御雷に向かい合うように前面より急速接近、懐に飛び込み機体の右腕を前に出しハッチをオープンにする、左右の月詠機の腰部から突き出た04式突撃機関砲の発射音がうるさかったが些細な事だと無視する。 月詠もそれに合わせハッチをオープンしそのまま武の武御雷の右手に飛び乗る。武は手早く右腕を引き戻し、月詠はそのまま武の武御雷のハッチに飛び込んだ。

 武は遠隔操作モードで月詠機の射撃を一端中止し自機と背中合わせにさせた後、またオート掃射状態戻し固定する。
 背面を月詠機、前面を自機で掃射しつつ月詠と相談する。

 「もう爆発まで時間がありません、どうします?」
 「面目もない、私を助けるために……。」

 武の質問に月詠は無念の様相で悔恨する、しかし武は気にしていない、むしろ月詠が無事だった事、自分が助けられた事に心底安堵していた。

 「いいんですよ、自分の半身を助けるのは当然でしょう。」
 作戦前の言葉……、武の言葉でそれを思い出した月詠は根拠の無いその言葉に不思議に納得してしまっていた。

 「そうか……お前はそういう奴だったな。」

 そう……これこそが白銀武。この不思議な強さと、限りない優しさと、明確な根拠も無く無謀とも思える溢れる勇気こそが……。

 (冥夜様……今なら解ります、貴女様がこの男に愛を注いだ訳が。)

 月詠は覚悟を決める。
 (そうだ……、ここで死ぬ訳には……諦めるわけにはいかん。)
 まだやる事が、やり残した事が多々ある。冥夜や他の皆のためにもここで白銀共々死ぬわけには行かない。

 「いまから横孔(ドリフト)を戻っても爆発の余波に巻き込まれる、となれば方法はただ1つ。」
 月詠は上を見上げる。
 「ええ、それしか無いでしょう。」
 武も合わせるように上を見上げる。主縦坑(メインシャフト)の遙か上空に開いた穴「孔(ベント)」、脱出口はそこしかない。

 「出口まで約1㎞、問題は噴射剤が足りるかだが……。」
 「機体が軽くなっていますからね、それに途中で補給も出来ましたし……ギリギリって所でしょうか?」

 縦抗最大深度約850m・地表構造物(モニュメント)約150m、噴射剤とエネルギー変換による噴射を併用してギリギリというところだ。
 どちらにしても時間が無い、BETAを牽制している機関砲も熱がこもり始めているし弾もそろそろ切れる。
 武と月詠は急いで脱出の準備を始めた。


 幾つかの計算などを終える、その後……


 「よし、では固定するぞ。」

 1番最後に月詠が武の体の前に座り体をベルトで固定した。急上昇によるGなどの対策の為体を固定しなければならないが2つも席が無いため武の体の間に挟みこまれるように座って固定する方法を取ったのだ。

 しかし……

 (や……やわらかい…………)

 武に包み込むように座った月詠の体、普段感じられるしなやかさや強靭さなどからは想像が出来ない程のやわらかさと温もりが衛士強化装備を通してさえ感じられた。
 戦闘中だというのに不謹慎だがそれも仕方ない……男の性というものだ。武自身健全な成人男性でしかも既に女の体を知っている、既に1年もご無沙汰なので相当に色々溜まっていたのだろう、更に悪い事に明確な自覚は無くとも自分が愛情を向ける相手ともなれば尚更だ。

 (うう……我慢我慢、色即是空、煩悩退散……)

 無理矢理にでも煩悩を鎮める。

 「よし、行くぞ。」
 武の事情など欠片も解っていない月詠は意気込んで言う。
 「はい、行きましょう。」
 何とか平静を取り戻した武もそれに合わせる。
 だがその前に……
 武は遠隔操作で月詠の武御雷の全ての04式突撃機関砲と背面ラックの長刀、肩の散布式銃弾砲、さらに取り外せる各種装甲を全て除装させた。

 「何をやっている?」

 その行動に月詠は懐疑を向け声を荒げる。しかし武はそれを聞きながらも作業を継続、更に自分の機体の装甲と肩部散布式銃弾砲も外しつつなんでもないことのように言った。

 「何って、勿論持っていくんですよ。」
 「持っていくだと! そなた正気か?」

 上方へ飛ぶのに月詠機の機体重量は邪魔にしかならない、月詠はそう考えたが……。
 「ええ、ブーストは問題なく使えますからね、月詠さんの武御雷は軽くなっていますからトータルで考えるとブーストの数が増える分得です。」
 そこまで言うと武は一旦間を置く

 「それに……」
 「何だ……?」
 「俺がそうしたいから・・・…、この武御雷も月詠さんの一部でしょう、だったら一緒に助けないといけないじゃないですか。」

 その言葉に月詠は衝撃を受ける。月詠は軍人、こういう時は感情を抑えて効率を優先してしまう、しかし白銀武という男はこんなにもあっさりと月詠の願いを実行してしまう。
 この武御雷は思い入れのあるものだ、悠陽殿下から直々に製作許可を賜り、友人の焔が1から作り上げ、そして数々の戦いを共に戦って来た相棒だ。

 「お前という奴は……。ふふふ……分かった、全てお前に委ねよう。」
 (そなたに無上の感謝を。)

 月詠は全てを達観した、自分はこういう所では白銀武に敵わないと……。白銀武とは可能性の塊なのか……そんな事を考えながら武に極上の笑みを返し了解の返事をする。
 その心からの笑みに武は赤面して顔を逸らす、それを誤魔化すように作業を継続する。 
 全ての装甲の除装が終わると月詠の武御雷を正面が正対するように抱え込んだ、もう既に弾はほとんど無く周囲ににBETAが押し寄せている。

 「行きますよ!」

 武がそう言ってスロットルを全開にしようとした瞬間、武の両手の上に月詠の手が乗せられる。

 目線は合わずとも一瞬絡むその視線。
 (そなたを信じている。)
 その瞳の中に確固たる信頼の光を見た武、乗せられたその手から月詠の共に在ろうとする気持ちが伝わってくる。
 36㎜の弾が切れ手に持った突撃機関砲を投げ捨てる、そして気合一閃。


 「うおおおぉぉぉ!!!」


 咆哮と共にスロットルを全開、遠隔操作で同調させた月詠機と合わせてブーストを最大噴射する。
 圧倒的なスピードで急上昇して行く2機の武御雷。

 「く……うう………」
 「ぐ……くぅ………」

 急激な上昇加速による強いGに2人の体はギシギシと悲鳴を上げる。
 だが耐えなければならない、既にカウントが始まっている、爆発まであと少し。

 100、200、300、400……どんどん高度は上がっていく、それに併せて噴射剤の量も加速度的に減っていく。

 「白銀! このままでは噴射剤が足りん、失速するぞ!!!」
 物凄い轟音の中、骨伝導で月詠の声が頭の中に響く。

 500、600、700、800、900……
 あと少し……、という所で噴射剤がなくなった。

 しかし武は諦めない、エネルギー変換による噴射を全開にする、しかしこれは本来補助的な噴射で機体を垂直に上昇させるようなエネルギーは無い。


 「あきらめるか、あきらめるかよぉ!!!」

 しかし武は諦めない、地表構造物内側の壁を駆け上がる。地表構造物が少しだけ傾斜していることを利用してエネルギー変換によるブースト噴射の後押しを得て駆け上がって行く。


 「ピーーーーーー」


 警告音と同時に最下層で爆音、S-13の爆発。
 爆発のエネルギーの一端が孔を通って駆け上がってくる、このままでは数瞬と経たずに飲み込まれる。

 しかし出口まであと……


 「うおおおぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!」
 「いけぇぇええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 武の手とその上に乗せられた月詠の手に力が籠る、スロットルレバーを壊れるほどに押し上げ全開にする。

 駆け上がる、駆け上がる。

 〈ボヒュンッ〉〈バキャンッ〉
 武の武御雷のブースト2つが耐久限界を超え火を噴く。しかし構わない、あと少し……あと少し……。

 そして空中に躍り出る。

 すかさず遠心力を利用した方向転換で月詠機のブーストを背後噴射になるように操作、飛び出た勢いのまま前方に加速する、その背後を爆炎の業火が駆け上がっていく。

 「間一髪ってところですか。」
 「そなたの無茶には寿命が縮む。」

 ピンチを切り抜け思わずホッとして軽口を叩き合う。
 そしてそのまま落下していく。
 既に武機のブーストは火を噴いて危険なので切り離す、月詠機のエネルギー変換によるブースト噴射で減速しながら地上へ。

 そして地表構造物の孔から吹き上がる爆炎の業火を背に真紅の武御雷を抱えた漆黒の武御雷は降り立った。  




現在フェイズ9進行中
戦艦隊……本州近辺で固定、門(ゲート)制圧砲撃中。残弾10%
戦術機部隊……520/2875 総被害2355機 損傷率81%突破

日本人部隊……フェンリル:反応炉破壊完了・脱出完了
       ベーオウルフ:全機脱出完了
       ファフニール:全機脱出完了
       ニーズヘッグ:全機脱出完了
マレーシア戦線部隊……全機脱出完了

被害……日本人部隊:273/1687 被害1414機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:39/348 被害309機
     ファフニール:57/360 被害303機
     ニーズヘッグ:171/972 被害801機 
 
     マレーシア戦線:247/1188 被害941機
     囮部隊:1188/1188  全滅
     ヘイムダル:172/864 被害692機
     スキールニル:75/324 被害249機



     
 マブラヴ時代から思いついたこの場面、武と月詠の2人乗り、そして脱出。
 ちなみに地表構造物の中は想像です、打ち上げに使われているので中は加速のための螺旋状の溝が入ってる?
 とりあえず少し傾斜してる……というので中も少し斜めになっているかと。

 切れた状態でしたが武の「俺のモノ」発言が……。
 武の正確はEXとアンリミとオルタで微妙に違うので少し掴みにくいです。
 この世界の武は熱血属性がプラスされています。
 後書き文章が纏まらない……。ということで次回でハイヴ攻略戦は終了です。

 後がまだ色々残ってるけど、では次話で。



[1122] Re[11]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第53話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/28 22:14
2005年1月24日……厚木ハイヴ攻略戦




 「最深部付近より撤退してきたフェンリル04・06とベーオウルフ隊が第15層で撤退支援を行なっていたフェンリル05・07・ファフニール隊と合流し無事に脱出を完了。
 全ての突入部隊の撤退が完了しました。」

 その報告に焔は一瞬安堵の表情を見せるが安心は出来なかった、まだ1番肝心な2人が脱出していない、報告をしたエルファも2人を心配しているのか最下層域を映すレーダーをじっと見詰めていた。

 「フェンリル01と02のマーカーは補足出来ていないか?」
 「はい、依然最下層へのレーダー及び通信は使用不能です。」

 その事実に歯噛みする、最下層から上は問題なく通信が通じるのに補足出来ないという事は2人がまだ最下層に留まっているという事だ。
 もう爆発まで2分を切っている、今から上層に向かっても爆発に巻き込まれるだろう。

 しかし……

 それは“普通なら”だ、あの2人は普通の衛士ではなくどんな状況下にあっても諦める事はしない。だから焔は考える、あの2人ならどういう手段を取るか。
 (上か……)
 答えは1つ……それしか思い浮かばない、2人なら絶対にその道を取るだろう。

 「あの2人の事は良く知らんが大丈夫だろうよ、多くの人々の協力と衛士の礎があったとはいえ人類最初の偉業を成し遂げたのだから。」

 思案気に腕を組み難しい顔で戦域図を見詰める焔に向かい後ろで同じ様に手元の戦域図を眺めていたアリーシャも意見を述べる。
 現在はハイヴ内から全機が脱出したのでBETAが地上を目指してくる、それを防ぐため艦隊砲撃は再度門(ゲート)の封鎖制圧砲撃を行なっている状態だ。
 彼女の部下は優秀なのでそのくらいの事は指示しなくとも良い、そのため今のアリーシャは細かいところを修正指示するだけで余りやる事が無いのだった。

 「人類最初の偉業か、確かに今回のハイヴ攻略戦はBETAとの大戦史において歴史に残るものとなるだろうが……。」

 焔はやや沈んだ声で言う、G弾無しの純粋な戦力でハイヴを攻略した今回の戦いは確かに初の偉業だろう……ただしアリーシャが言ったように犠牲が大きい事もまた事実なのだ。
 それでも焔達は後悔しない、今回の勝利は皆の礎あっての事なのだ、この戦いを後悔すると言うことは望んで散って行った彼らの死を侮辱することに等しい。

 当初想定外の事態も考慮して作戦を練った焔だがその予想さえ上回って厚木ハイヴのBETA総数はフェイズ4.5クラスに匹敵している、彼らの礎なくして今回の勝利はありえなかった、事実ハイヴの中は突入した衛士達全てが自爆という最後の攻撃を行なってくれたおかげでかなりのダメージを与える事が出来ている、依然BETAは多数存在するが彼らの行いなくしてフェンリル隊は反応炉に到達できはしなかっただろう。


 最後の攻撃……故にそれは「自決」ではなく「自爆」。
 後に託すための犠牲……故にそれは「死」ではなく「礎」。


 焔達はその行いを胸に刻む。

 『爆発まで1分を切りました。』

 その声に我を戻した焔は通信機に向かって全機に通信を送る。

 『現在も地表で戦っている全ての衛士諸君、歴史的瞬間が始まる……人類がBETAに打ち勝ったその瞬間を目に焼き付けろ、そしてこの勝利を導く為に礎となった全ての衛士の志をその胸に刻み込め!
 我らは負けん……負けてなるものか! 幾多の礎を築きそれを土台にまた礎を築く、それを何度も何度も繰り返し人類は此処まで来た、我らが今此処でBETAに勝利できたのは幾多の人々の命によって得られ形作られた数々の「礎」があったおかげだ。
 この勝利は我々だけの勝利ではない、人類の戦いの歴史……その全てがあったからこその勝利だ!
 この戦いを生き抜いた者達よ、我らもまた何時か未来への礎となるだろう、その時まで戦え……戦って戦って戦い抜け! 1人ずつのちっぽけな礎が積み重なってこそこの勝利があった、ならば更に幾多の勝利を重ねよ、人類の強さは絶対なる力などではない、負けない事、諦めない事、そして不屈の闘志を次の者に託し戦えるその志と知れ!!!』

 『S-13起爆!』

 焔の言葉の終わりと同時に起爆の合図が全軍に響く。
 まだ武と月詠は脱出してこない、しかし焔は・戦場に居る第28遊撃部隊の皆は心配していなかった、「2人なら必ず脱出してくる」……と信じていた。
 戦場に居た者達はそれを感じていた、大地の鳴動……地表構造物(モニュメント)を駆け上がってくる音を。


 そして……。

 戦闘中の者も地表構造物から吹き上がった爆炎に一瞬目を奪われ……それを目撃した。

 遙か上空、地表構造物から噴き上がる爆炎を背後に浮かび上がるシルエット、それは破邪の炎を従えた鬼神の様相か……。
 ブースト噴射で減速しながら降り立ったその武御雷に、抱えられていたボロボロの真紅の武御雷が寄り添うように地面に立つ。

 噴き上がる爆炎を背に威風堂々と立つ傷だらけの武御雷、漆黒と真紅のそれは正に鬼神、この世の不浄を破邪の光で取り払うという神の威光かとも思えるほどの存在感を有していた。

 「鬼神……」「武神だ……」「雷の化身」「雷神」

 通信からそんな言葉が次々と聞こえてくる、その戦場に存在した衛士達は戦闘を継続しながらもその2機に注目していた。
 だが更に大きな爆音が響いた瞬間彼らは正気を取り戻し戦闘を継続させる。
 そしてその停滞していた戦場で脱出してきた2機に近付く戦術機があった。
 
 「脱出は無事に出来ましたが……。」
 「地表ではまだ戦闘が継続中だな。そなたの武御雷は動けるか?」
 「……激しい戦闘はきついですね、足の駆動系がかなりやられていますしエネルギーもブースト噴射に軒並み使ってしまいましたからね。」

 地表に降り立った武と月詠は急いで現状を把握する、反応炉を破壊したとはいえBETAはまだ残っているのだ。
 先程のエネルギー変換によるブースト噴射でエンジンエネルギーはほぼ空、ブーストも全壊。地表構造物を無理矢理気味に駆け上がった所為で足の駆動系もガタガタ、さらに装甲は全て除装してしまっている、月詠の武御雷も言わずもがな戦闘行為など行なえない。
 ……焔に連絡を入れようか悩んでいた時通信が繋がり大きな声が聞こえた。

 『お兄ちゃ~~ん!!』

 『響!』『響少尉』
 通信からの声に合わせて向こうから響の甕速火が近付いて来る、あちこち傷だらけではあるが五体満足の様子であった。そして響の接近と同時に広域通信が入る。

 『これより坑道破壊爆弾を投下します、今から送るエリア内に存在する戦術機は至急避難してください、くりかえします……』

 通信と同時に戦域図に危険域エリアが表示される、地下茎構造(スタブ)周辺一帯が危険地帯となっていた。つまり地下茎構造水平到達半径の6㎞全てが危険域とされている、武と月詠が今居る場所も当然危険地帯に該当する。
 武は近付いてくる響に通信を送った。

 『響、聞いてるか?』
 『感度良好、聞こえるよ。』
 『通信を聞いたな、とりあえず後退するぞ。お前は月詠さんの武御雷を運んでくれ、おれの機体は走るだけで精一杯だからな。』
 『了解、それでは月詠少佐お運びします。』
 『すまない、響少尉。』

 近付いた響は月詠の武御雷を抱え込み低高度ブーストジャンプで武に合わせながらその場から後退する、武は無理をしない程度のスピードで後退を開始していた。

 『さあ、トドメの一撃だ! ミスティルテイン・グリンブルスティ・フレズベルク・ヘルヴォル・スルーズ、ミサイル型坑道破壊爆弾射出スタンバイ…………撃てぇーーーーー!!!』

 第5艦隊、補給物資コンテナとミサイル型坑道破壊爆弾を撃てるように改造された特殊改造戦艦艦隊、その5つの艦より放たれるミサイル型坑道破壊爆弾。
 地下深くで爆発させれば数発で坑道内を軒並み爆炎で埋め尽くす程の威力があるが飛行スピードが遅すぎるし非常にデリケートで搭載数も少なく生産コストもバカ高いというトドメにしか使えない兵器である。
 しかし欠点も多い故に威力は高い、先述の通り数発撃ち込めばハイヴの地下茎構造(スタブ)を巡り全てを焼き尽くし吹き飛ばすであろう。
 戦場を後退していく武・月詠・響、彼らの戦術機モニターには坑道破壊爆弾着弾までのタイムリミットが表示されていたが飛行スピードの遅さゆえ余裕で後退できる程の時間があった。

 「それよりみんなは無事か。」

 武は少し焦ったように響に皆の安否を聞く、ここに響だけしか姿を見せなかったので柏木はともかく御無とヒュレイカの事が心配だった。

 「みんな無事だよ、ただし御無中尉とヒュレイカ中尉の不知火は半分以上壊れているし、柏木中尉の不知火もほとんど全壊しちゃったけど。」

 極普通に答えた響に武と月詠は安堵した、機体はともかくみんなが無事なら何も言うことは無い。
 3人はそれぞれの細かい情報を交換しながら後退する。
 響はあれから柏木と合流して第15層でずっと戦っていたらしい、最後は撤退する突入隊の支援のため15層に踏みとどまって最後に後退してきた御無とヒュレイカと生き残りのベーオウルフ隊の者と共に地上に脱出してきたようだ。
 ただ地上に出た時点で柏木の不知火は機能停止し、響が援護しながら乗機が半分以上壊れていた御無とヒュレイカが引きずって後退したらしい。

 「白銀、響少尉、来たぞ。」

 話していた響と武は月詠の警告にレーダーに目を向ける、ミサイル接近警報……他の戦術機が捉えたミサイルの映像が統合情報戦術分配システムにより武達の機体にも送られてくる。
 各艦から2本、計10本のミサイル……それはミサイルというより太く長い棒のような物体であった。それがゆっくりと着実にハイヴの孔(ベント)を目指している。


 やがてそれが孔の中に消えていく、そして……

 物凄い爆音轟音激震……主縦坑(メインシャフト)の中に投下された坑道破壊爆弾着弾は最下層に着弾し起爆した。
 凄まじいまでのエネルギーが爆炎となりてハイヴ内を突き進む、連鎖的に爆発したすべての坑道破壊爆弾着弾も同じ様にその破壊エネルギーを振りまきその爆炎は一瞬のうちに地下茎構造全てに行渡り門から噴出した。

 全ての門から爆炎を噴き出しつつハイヴはその上にいたBETAを巻き込んで崩壊していく、地下茎構造の存在した場所の地面はひび割れやがて地下に呑まれていく、まるでアリ地獄の巣の形の様に円錐状に地面が一気に陥没していくさまは正に圧巻の一言であった。
 崩落に巻き込まれない位置にいたBETAと戦っている者も含めその光景を見た全ての者は涙した。
 中には敬礼しつつ感涙の涙にむせぶものもいる。

 勝利だ……、まだ掃討戦が残ってはいるが人類の勝利だった。
 全員心の内で思った、先程焔が言った通りこの勝利は人類の戦いの歴史故の……人々が積み上げてきた礎による勝利だ。

 礎となり散って行った者達よ……見よ! この勝利はあなた達が作り上げたのだ! そして我々が勝ち取ったのだ!

 戦闘に参加した全ての者達は過去の英霊達に向かい感謝と勝利の言葉を捧げていた。


 その後、戦艦の全ての残弾を駆使した精密射撃と掃討戦によってBETAを全滅させこの戦いは幕を閉じた。

 
 厚木フェイズ3.5ハイヴ完全破壊。(実質的BETA総数はフェイズ4.5クラスに匹敵した。)
 その偉業を成し遂げるために礎となった者、衛士2875人中・死者2447人。突入部隊であるベーオウルフ隊は僅か28人しか生存者がいなかった。

 そして光線級のレーザー照射による消滅者52人以外の全ての衛士、2395人その全てがBETAを巻き込み自爆して果てた。
 鮎川千尋大尉の死を筆頭に続いたこの死に様は狂信的とも取れる最後でもあった。
 しかしこの世界の衛士達は違う意味で捉える、その志はやがて日本全ての衛士に受け継がれそして他の人種の心根をも変えていくことになる。後の歴史家はこの戦い、鮎川千尋の死から世界改変の第一歩が始まったとするものもいるようだ。

 この後この戦いを差して「屍の無い戦場」と呼ぶ者がいた、そして「死して尚屍拾うもの無し」……この志は後の出来事に大きな影響を与えていく事になった。 




新種のBETAについての報告書
遭遇したベーオウルフ隊の戦闘記録と月詠機の脚部に残された物質から得た情報である。


迎撃級(インターセプト級)
チャリオッツ(CHARIOT)
全長20m 全幅28m 全高14m

 要撃級に分類された新種のBETA、メデュームの改良種であるとの見方が有力。
 今まで確認されなかっただけで開戦当初からハイヴの最下層防衛についていたとの見解もある。
 大きさと機動力、基本的能力はメデュームとほぼ同等であるが全体的に防御力が上がっている。
 ただ尻尾にあたる所にあった顔のようなものの変わりに「西洋剣」状のものが付いている。この剣は要塞級グラヴィスの尾節にある触手同様ほぼ360度をカバーして攻撃を仕掛けてくる、前腕と連携されるとかなり厄介であり、後ろからの接近も危険。唯一の救いは伸縮による射程距離が短い事である。
 さらに最大の特徴はその射撃武器である。
 顔の下、胸に当る部分に発射口がありそこから針(ニードル)状の物質を高速で飛ばしてくる。これは連射が出来、さらに速度もあるので戦術機の装甲を易々と貫いてくる。ただ体の中に格納してある分しか弾がないので連射するとすぐに弾切れを起こす。さらに発射前に前腕を広げて胸を反らすような動作があるので注意すれば回避はできる。
 ただ最大の問題はこの針がハイヴ内で発射出来る事だろう、光線級のレーザーと違い、この針はハイヴの生体組織にめり込むとそのまま吸収され破損箇所に同化する物質なのでハイヴ内を傷つけない、主に広間(ホール)に集団で配置され敵(戦術機)が進入してくるタイミングに合わせて、入り口に向かって針を大量に発射し敵を撃破する…というハイヴ内での最悪の迎撃兵器となった。
 現在の所ハイヴ最下層付近の防衛用BETAだといえるのが救いと言えば救い。
 ただし今後このBETAがハイヴ内各所に配備されればハイヴ攻略が困難になる事は確かな事であろう。
 また今後実弾系の射撃武器を持つBETAの出現も考慮に入れなければならない。




フェイズ9終了(作戦成功)
戦艦隊……艦隊集結完了 残弾0%
戦術機部隊……428/2875 総被害2447機 損耗率85%

被害(死者)……日本人部隊:228/1687 被害1459機
     フェンリル:1/7 被害1機
     ベーオウルフ:28/348 被害320機
     ファフニール:43/360 被害317機
     ニーズヘッグ:151/972 被害821機 
 
     マレーシア戦線:200/1188 被害988機
     ヘイムダル:140/864 被害724機
     スキールニル:60/324 被害264機




 今回歯が痛いのとか色々あって文書が変かも知れません……。一応見直しはしてますが思考が普通じゃないので(でも何かやってないと……)
 今回で厚木ハイヴ攻略戦は終了です。
 次回はインターミッション的話、少しだけ懐かしい面々の登場です。
 その次が……焔パートか武・月詠パートです。
 
追伸)部隊損害率は「損耗率」でいく事にしました。以前の話のことは気にしないでください、機会があったら修正します。



[1122] Re[12]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第54話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/11 19:17
2005年1月24日……夕刻、アラスカ戦線・最前線基地




 「ようやくこちらでの体制も纏まってきた、後方支援の状況も安定し喜ばしい限りだ。」
 「将軍代行、ならばそろそろ前線からお下がりください。」
 「何を言う朝霧少佐、我々が率先して民を守らないでどうするというのだ、信頼なき指揮官に部下や民はついて来てはくれんぞ。」

 アラスカ防衛線、日本軍が任された地区の最前線基地の1つに将軍代行・御剣真貴の姿はあった。
 彼は常に先頭に立ち見本となりて味方を率いるタイプの人間だ、かといって自分の立場をわきまえていないか……といえばそうも言えない、その為側にいる人間は彼の扱いに物凄く心労を裂く事となる。
 人に迷惑をかけない事も信条としているので物理的な弊害は無いが……とにかく疲れるのだ。

 そして今現在その心労を患っているものは「朝霧 楓」少佐、誰あろう第28遊撃部隊の元隊長であった。
 彼女は後方に護送された後アラスカに渡り療養していたがその経歴を買われリハビリを兼ねて真貴の軍事関係のデスクワーク補佐に抜擢された、その後この基地内での教導隊の隊長として選抜され今に至るのである。

 その時前方から走り寄って来る物がいた。その者は真貴の前で停止し敬礼をして言った。

 「真貴様、鳳焔博士からの通信で至急お越し願いたいとの事です。」
 「焔が? ……この頃連絡を寄越さんと思っていたら一体なんだ急に。伊隅少佐、用件は聞いていないのか?」
 「はっ、ご本人を連れてきて頂きたいとの事で至急お呼びに参った次第です。」

 真貴を呼びに来たのはA-01の伊隅みちる少佐であった。
 第207部隊はA-01部隊に臨時編入されて今まで戦って来ていた、焔の話や冥夜の事でオルタネイティブ計画や207部隊の事を知っていた真貴は、彼女達のその戦いぶりもあって直属部隊の1つとして引き入れたのであった。

 現在はこの前線基地で実戦と朝霧少佐の下で訓練する傍ら焔が開発した新型兵器の先行実用試験などをやっている。

 「何時も言っているがそんなに堅苦しくしなくて良い、所詮私は将軍代行……分家の御剣の更に末端の私が将軍代行に選ばれる方がどうかしていたのだ。」
 「それは悠陽殿下が貴方を選ばれたから、実際貴方の手腕は見事だわ。」
 「そうです、尊敬に値する者には自然に畏敬の念が出る物です。」
 真貴の言葉に2人は真顔で答える、この将軍代行はそれ程に信用できる人柄を持っていた。
 「わかった、しかしプライベートな所では普通にしてくれ。よし……では行こうか。」

 観念したように妥協案を出した真貴は反論される事が想像できたのか有無を言わさず通信室に向かって歩き出していってしまった。


通信室

 「よう真貴、元気だったか。」
 「相変わらずだな焔。3ヶ月ぶりになるか、今まで何をやっていた?」
 「それを今から話そうと言うんだ、心して聞け。」

 通信室に入って気安げに挨拶を交わす、その後真貴は軽い質問として何をやっていたか聞いたのだが焔が急に真剣な態度に改めたので自身もそれ相応の態度を取った。

 「実は今日、日本厚木ハイヴの攻略戦を行なってな……。」

 ……がそれは焔の一言で一気に瓦解した、信じられない言葉を聞いて顎が落ちた様に口を開けて固まってしまった。後ろに控えていた朝霧少佐と伊隅少佐も同様な状態だ。

 「それでつい4時間程前にハイヴの完全破壊に成功した。」
 「それは本当か焔!」
 坦々と喋っていた焔に真貴は通信画面越しに食って掛かる。
 「私がこんな嘘言うわけないだろう。」
 「何で黙っていた。」
 「言ったらお前の事だ、絶対参加すると言い張るだろうが。」
 「当たり前だ! 我が日本に出来たハイヴの攻略戦、指をくわえて見ていられるものか!」
 「だから黙っていたんだ。真貴、お前にはアラスカの民を守る仕事があるだろう、まだまだ盤石な体制にもなっていないのに遠征なんか行なえるのか?」

 その焔の言葉に真貴は怯む。そこを突かれると何も言えない、確かに彼には此処で守らなければならない民がいる、それに体制が整っていなかったのも確かなのだ。

 「それは分かった。しかし……人類最初のG弾無しでのハイヴ破壊を成し遂げるとは。」

 真貴は瞑目し言う。
 「破壊」、一言……たった一言の結果だがそこに行き着くまでにはどんな苦難があったであろうか。それを……その礎となった者達の事を考えると万感の思いが込み上げてくる。
 後ろでは朝霧少佐と伊隅少佐も瞑目し同じ事を心に思っていた。
 「では今からその戦闘記録を編集したものを全世界に放送する。(既にBETAの姿は一般公開されている) 真貴、基地内の者をブリーフィングルームに集合させろ。」


食堂

 「あ~~っ、やっとあの難物新型ブーストを極めてきたって感じだわ。」
 「確かに慣れるまで大変だったけどね。」
 「私達も苦労しました。」
 「それでもボク達はまだ良い方だよ~、ある程度慣れていたからね。」
 「あれもタケルさんが考案したものですからねー。」
 「涼宮中尉も苦労してましたわね。」
 「そうそう、最初の頃はよく墜落してたよね。」
 「あはははは!」
 「速瀬大尉! 笑わないでください。」
 「こらっ茜、怒鳴っちゃダメでしょ。」
 「う……、ゴメンなさいお姉ちゃん。」

 A-01と207部隊の者達は訓練が終わってから食堂で一時の休憩を取っていた。
 ……とそこへ基地内放送が入る。

 『衛士全員は至急ブリーフィングルームへ集合、他の基地内関係各員は最寄のモニターか通信施設で指定のチャンネルを……』

 「集合だってさ。」
 「何かあったのかなぁ?」
 「行って見なければ解らないわよ。」
 「それもそうね、では行きましょうか。」
 「おっ、この頃小隊長ぶりが板に付いてきたね~。」
 「そうそう、この頃は伊隅少佐とも対等に渡り合っているからねぇ。」
 「速瀬大尉、宗像大尉!」
 「まあまあ千鶴さん、お2人も褒めてくれてるんですよぉ~。」
 「小隊長と言っても……まあいいわ、行きましょう。」
 「それじゃレッツブリーフィングルームへ!」
 「テンション高いねぇ。」


ブリーフィングルーム

 「「「「「「「「えっ!!!」」」」」」」」

 その放送が始まった時A-01と207部隊を含む全ての衛士は驚愕した。
 だって……。

 「ハイヴの破壊……」
 誰かが口に出す、その信じられない放送内容を。

 『本日早朝より始まった日本厚木ハイヴ攻略戦はハイヴの完全破壊によって人類の勝利に終わりました…………』
 『ハイヴ――それもフェイズ3.5……BETAの総数に到ってはフェイズ4.5クラスに匹敵するハイヴをG弾無しで攻略したこの偉業は……』

 「凄い……。」
 誰かがポツリとポツリと驚愕の声を出している、中には既に感極まって涙を流しているものさえいた。

 『なおこの反応炉破壊は、最下層到達の為の最有力候補として選ばれた部隊の一員が見事に成功させました。今から名前を読み上げます、作戦部隊コードネームはフェンリルです。』

 『フェンリル03、鮎川千尋大尉……彼女は死亡されましたがその詳細はこの後の作戦説明で詳しく説明します。』
 「千尋……」
 千尋の死を知った朝霧大尉は静かに瞑目する。

 『フェンリル05・柏木 晴子中尉』
 『フェンリル07・白銀 響少尉』


 「「「「「「「ええ!!」」」」」」」
 「はっ晴子っ!」


 茜が柏木の映像を指差し、A-01と207の皆が声を揃えて驚く。
 余りの驚愕にその後の白銀響の「白銀」には気付かなかった程だ。

 「ちょっとまって……柏木さんが居るということは……」

 207隊の3人はその可能性に気付いてモニターをにらめつけるように注視しながら放送を聞く。

 『フェンリル04・御無 可憐中尉』
 『フェンリル06・ヒュレイカ エルネス中尉』

 「響、可憐、よかった無事で。」
 朝霧大尉は千尋の事に悲しみながらも他の2人が無事だった事は心底嬉しかった。

 『以上5名は仲間を先に進めるために途中階層に留まりました、次の2名が最下層に到達して反応炉を破壊した衛士です。』

 そしてその衛士が紹介される、この放送を見ている全ての市民は全人類初の偉業を成し遂げた衛士を見ようと注目する。もちろん衛士達や軍関係者も固唾を呑んで見守っていた。

 『フェンリル01・月詠 真那少佐』

 「月詠!!」
 「「「月詠隊長」」」
 御剣真貴、そして月詠直属の部下である神代巽、巴雪乃、戎美凪も揃って驚愕した。

 そして最後に……

 『フェンリル02・白銀 武大尉』


 「「「「「えええ!!!」」」」」
 「白銀!」「タケル!」「タケルさん!」


A-01・207の全員は今度こそ大声を上げて驚愕した。
 その声に周囲の衛士が何事かと一瞬彼女達に注目したが直ぐにモニターに視線を戻した、A-01や207隊の皆も周囲を見渡して気まずげになっていた。

 「た・た・タケルさんがぁ~、凄いです~。」
 「凄いよ、凄いよタケル!」
 「本当に……白銀は……。」

 しかしそれでも3人は興奮を抑える事が出来なかった。 そして放送は続いていく……。

 鮎川千尋大尉の死に様を……志を知った。
 幾多の衛士の死に様を知った。
 礎となった者達が勝ち取った勝利の意味を知った。

 放送が終わる頃には日本の衛士は皆涙を流していた。この放送を見た多くの兵士や市民もその内容に感動していた。


 2005年1月24日、厚木ハイヴ攻略戦。
 人類はその戦いの全てをその胸に刻んだのだ。




追伸)ちなみに最下層での出来事は武と月詠の武御雷の映像とログを使用してあったが、流石に2人の告白まがいの恥ずかしい会話は焔によって密かに編集されていた。(このテープは焔が大事に保管してあるらしい)








 もう少し簡単に短く書くつもりだったんですが少し長くなりました。
 久しぶりに他のオルタキャラを書いたので会話が難しい、各キャラの声を聞きながらセリフを考えていました。
 特徴ある話し方のキャラは良いけど、文だけだとセリフ的にかぶるキャラがいるんですよね……、声を聞くと全然違うんだけど。

 ちなみにこの世界ではオルタネイティブ5以後にBETAの事は一般公開されているという設定です。
 これは住民に状況と衛士達の戦いぶりを見せる事で、統一意識や危機感――それによる物資の供給の円滑化などを見込んでの事です。
 (オルタでは一般公開されてなかったけど……軍事機密だから?)

 人の主義思想は多々あります、オルタ本編でも言われていますがBETA殲滅という大きな目標があっても人類は色々な思想のしがらみがあって戦力を統一できません。
 それがどうなるのかは今後の出来事で……。



[1122] Re[13]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第55話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/04/30 03:57
2005年1月25日……夜―東京地下秘密基地。




 厚木ハイヴ攻略戦終了後、残存部隊を纏め無事な部隊を再編して周囲の警戒をしつつ世界へ向けた放送の準備が進められた。

 翌日……つまり今日は昨日から続いたハイヴ断片調査が引き続き行なわれ、その後帰還するマレーシア戦線の衛士と艦隊などの後方支援者との簡易の別れの式典が行なわれた。

 その後武達は地下基地へ向かう、厚木ハイヴ攻略戦の日本人生存者228(武達と焔を入れると235人)は焔の案内で幾つかある入り口の1つで地下基地中心地点付近でもある皇居近郊の入り口から地下基地へ入っていった。

 焔から基地の案内や各施設の使用方法、各部屋の割り当てなど基本的な事と使用マニュアル(一々質問に答えるのがめんどくさかった焔があらかじめ作っておいたらしい。)を渡された。

 武達の戦術機は全機とも簡単には直りそうもない酷い有様だった。1番軽傷だった響の甕速火でさえ関節部の異常負荷などで分解修理行きだ。(生体金属はまだ完璧ではないので)
 柏木・御無・ヒュレイカの不知火はほぼ全壊に近く、月詠と武の武御雷もパーツ取替えと分解修理が必要な状態だった。
 どうせ当分は此処に籠るので、戦闘する事は多分無いため取りあえずは武と月詠の武御雷を修理して後は追々直していく事に決まった。




 そして夜……。


 割り当てられた部屋で1人考え事をしていた武の元へ月詠が訪ねてくる。
 武の部屋をノックしても返事がなかったため、月詠はそのまま武の部屋に入室する。
 ベッドに腰かけ無言で俯いている武。月詠は暫らくそんな武を見詰めてる、武が何に悩んでいるか察しがついているからだった。

 「鮎川大尉の事、そして死んでいった衛士達の事か……」

 静かに言葉を発した月詠、その声に反応し武は顔を上げる事無く喋りだす。

 「彼らが望んで礎になっていった事は承知しているんです、後悔はあるかもしれませんが彼らの礎がなければ今回の勝利が無かった……それが解っているから理不尽だと叫ぶ事もしません――やってはいけない事なんです。」
 「そうだ……彼らの死は礎と成る為に自らが選び勝ち取った名誉の戦死だ、疑問に思う事は彼らのその誇りある死を侮辱する事に等しい。我らはただ彼らの死を誇りそして悲しみを噛み締め耐えよ。」

 己が理想に殉じた衛士達の事を思うとやるせなき思いがこの胸を苛む、しかしその悲しみに耐え忍び彼らが繋いでくれた未来を戦い、自らが新たな道を作り上げ次に託す……。それこそがそなたに解ってほしい事なのだ、武!
 言葉に出してと、心の内の両方で武に訴える月詠。しかし武は俯き答える、膝に置いた両手は額の下で硬く引き結ばれ僅かに震えている。

 「解っているんです、でも俺は……俺はそんなに強くない。」

 搾り出した言葉は静かに空間に浸透していく。

 「解っているのに納得できない、俺はそんなに沢山の人の死を受け入れる事に耐えられないんです。俺は……俺は……、まだこの世界の事情が受け入れられないんです!」

 泣き出しそうな声で叫ぶ武に月詠は困惑する、これは何時もの武ではない、白銀武という男は何時だって明るく陽気に振る舞ってきたのだ、自らが落ち込んだ時でさえ他人の事を心配していた……。なのに今の武にはその余裕が無い、ただひたすらに自らの内面を月詠にぶつけている、これではまるで……泣き喚く子供そのものだ。
 こんな時何時もなら叱り飛ばしてでも活を入れるのだが今の武はそんな事ではダメだと月詠は思った。
 そんな事ではこの問題は解決しない、これは白銀武という人間の根幹的部分の問題だ、彼の考え方が変わらない限りこの問題はずっと付いて回る、そして彼の根幹部分故にそう簡単に解決する事は出来ない問題なのだ。

 白銀自身が答えを出さなければ……。


 (白銀……。今のそなたに私ができる事は無いのか……。)

 必死で思考を巡らすが現在の白銀武の状態を正常に戻す方法は思い浮かばない、先述の通りこれは白銀自身の内面の問題、外からの刺激ではそれを揺り動かす事しか出来ない、だから月詠は話を聞き見守ることしか思い浮かべられない。
 月詠はそれでも自分にも何か手助けできないかと必死で考えていた、なぜそんなに必死で白銀を助ける方法を考えているのか理解する事もなく……。

 その時不意に武は顔を上げる、泣き出しそうなその顔は迷子になった子供の様でも……寂しくて母を求める幼子のようでもあった。
 その時、武の精神は積み重なった葛藤で最早限界であった。普段普通にしてても、納得したように感じていても、武の心には小さな歪みが少しずつ出来ていたのだろう。

 心に限界が来て精神の均衡を失い壊れそうになった武の心は、自らが無意識に好意を寄せている愛しき女性に逃げ道を求めた。それは武が知る月詠の本質的優しさに母性を求めた結果なのだろうか……。


 武は語る、自分の秘密を……背負ってきた思いを。

 「俺は……この世界の人間じゃないんです…………

 月詠は黙して聞く、その荒唐無稽な話を……。

 とても信じられるような話ではない、しかし月詠はそれが事実であると根拠も無く確信してしまっていた。
 武は軽い所があるがこんな嘘を言うような男では無いのを知っていた、泣きそうな子供の様に必死で喋る武の真摯な言葉には嘘など一片の欠片も無いと信じられた。
 彼が既に死亡しているという情報が存在したこともそれで説明が付いた、「この世界の白銀武は死亡している」。自らも確認した故にその話は真実として月詠の心に受け入れられた。

 「もうよい……もう解った、それ以上は!」

 泣きそうな顔で必死に喋る武が痛ましく見ていられなくて、喋るのを止めるように声を荒げる。
 しかし武は喋るのを止めない、もう本人も何を言っているのか分かっていない程に心が千路に乱れていたのだ。


 「だから俺はこの世「んん……!!!」

 なぜ……なぜそんな事をしたのか?
 止めたいと思った、この悲痛な告白を……悲鳴を上げる武の心を癒してやりたいと思った。
 心の底から湧き上がってきた愛しいと思う感情、それが月詠を突き動かした。


 「んんん! んん…んんん……」

 なおも暴れる武を押さえつける。重なった唇を介して伝わるお互いの呼吸が熱く脳内を焼く、その頭から伝わって全身に行き渡る痺れるような甘い微熱が月詠の体を火照らせる、胸の内から溢れ出す想いがその微熱と混ざり合い末梢神経の先端までをも蝕んでいく。


 「んん……ん……ん…………。」

 互いの呼吸が混ざり合い口の中に充満する、武は月詠からほのかに香って来る甘い匂いに脳を痺れさせ体を弛緩させる。
 大人しくされるがままになって月詠のやわらかい唇の感触にその身を委ねた。
 それから暫らく2人の熱い接吻は続く、唇を合わせ吐息を混ぜ合わせるだけの稚拙な接吻だったが武にとっては極上の、月詠にとっては生まれて始めての行為であった。


 やがてゆっくりと離れる月詠。武は名残惜しげに感じていたが、その一方で信じられないというような目で月詠を凝視していた。

 「月詠さん、なんで……。」

 まだ月詠の温もりが残る自分の唇に手をやり、今の出来事が現実だったのか確かめるような仕草をしながら月詠に疑問をぶつける。
 月詠はこの世の全てを優しく包む見込むかのような慈愛の表情を浮かべ微笑む、今の彼女には羞恥や戸惑いといった感情が見受けられない、ただただ自らの心を占める感情に素直に従って行動していた。


 「お前の事を愛しいと思った、癒したい、支えたいと思った……ただそれだけだ。」


 「ただそれだけって……。」

 武の目の前に立ち上から顔を覗き見ている月詠、正対した瞳を互いに見つめあい語り合う。

 「私は軍人一辺倒で生きてきた不器用な女だ、この想いがどんなものかは理解できたが伝える術が分からなかった。だから思ったことを実行した……それだけだ。」

 「それって……。」


 「解ってる、そなたには冥夜様と綾峰殿がいる、解っているのだ。」

 月詠は感情の奔流を曝け出す。幾ら軍人一辺倒だからといって正常な女性だ、自らの胸の内に宿るこの想いの正体には気付いていた、しかしそれを自覚するわけには……認める訳にはいかなかった。
 現在はそうでなくとも将軍直属の護衛と言う大役を賜るもの。それがどうして恋にうつつを抜かしていれようか……。
 いや……それは言い訳だ、守護隊の中には結婚してる者もいるし恋人がいる者もいた。自らが恋をしてはならないという掟や縛りなど何処にも無い。
 その想いを否定してきた訳はただ1つ。白銀武は主(あるじ)たる冥夜の想い人だと言う事、そしてもう1人綾峰慧という想い人が居ると言うこと。
 冥夜が居ない今自分が懸想していい相手ではない、ましてや武が月詠の想いを受け入れてくれる保障など何処にも無い、あの2人は心も体もとても美しい女性だ、月詠は女性としての自らに自身が持てなかった。もし想いが通じたとしてもそれは冥夜に対する裏切りになる、綾峰に対しても申し訳が立たない。

 「それ故この気持ちから目を背けてきた、必死に自覚しないよう己に言い聞かせてきた。
 ……しかし……しかし……。 
 そなたの……そなたの弱さを見て思ってしまった、溢れてきてしまった。愛しいと……側にいたいと……支えていたいと……そなたを愛していたいと!」

 激情を武に叩きつける月詠、武と目線を合わせる両目からは涙が溢れ頬を濡らしている。 
 溢れ出る想いは押し留める事は叶わない、ましてや一度自覚してしまった想いは最早忘れ去る事などできない。
 そこに居たのは実直な軍人であった月詠少佐という人物ではなく、ただ自らの想いに悩む「月詠真那」という名の儚げな女性の姿であった。

 (ああ……、なんて綺麗なんだ。)

 武は月詠のその様をただ黙って見詰めていた、言葉が出なかった。涙を流して激情を叩きつけてくる月詠がとても綺麗だと思った。

 (ごめん……浮気しないって言ったのにな……。冥夜……慧……。俺はこの人の事が好きだ、愛しちまった。)

 遙か宇宙の彼方を行く自らの2人の伴侶に謝罪する。
 武は此処に至って自覚した、月詠と同じく以前からその気持ちは心の中に存在していた、だが白銀武が白銀武と言われる所以か、月詠は気付かない振りをしていたのだが、武は本当に自覚していなかったのだ。
 しかし月詠の告白を受けその想いが顕在化した、自らの心の内に育っていた想い、白銀武は月詠真那という女性を愛している……と。

 もちろん冥夜と慧の事を忘れる訳が無い、2人への愛は変わらない。しかし武は月詠「も」愛してしまったのだ、八方美人とも優柔不断ともいえる行為だが白銀武という男は「本気」で全員とも平等に愛しているのだ。


 「あ……、んん…………」

 涙を流し俯く月詠を引き寄せ口づけをする、軽いついばむ様なキス。月詠は涙に濡れたその顔に驚きと戸惑いを浮かべた。 
 戸惑う月詠をそのまま抱き寄せ腕の中に収める。

 昔の自分からは考えられない行為だが、これでも結構経験は積んでいて女性の扱いには慣れている。ただしそれは「恋人」という自分の愛しい人にしか発揮されないが。

 深く抱き寄せた為に互いの顔が互いの肩の上で隣り合う。お互いの体温が交わりお互いの心臓の鼓動が複雑な2重奏を奏でる。
 月詠は武の体温と心臓の鼓動を感じて、激しくなる動悸とお互いの気持ちが包み込まれ混じり合う不思議な感覚を自覚していた。


 「俺も月詠さんの事が好きです、愛しています。」

 隣り合い互いの顔が見えない状態で、武はすぐ横に存在する月詠の耳にそっと告げる。それを聞いた月詠は一瞬、体に電流が走ったように震えた。
 「嘘」や「信じられない」という言葉は出てこなかった。白銀武という男はこんな時に嘘は言わない、人を傷つけ落胆させるような言葉は吐かない。
 白銀武が「愛している」と告げたのならそれはまごうことなき真実なのだ。そしてその言葉を違える事は無い、武は冥夜も慧も月詠も皆平等に愛してくれるだろう。

 だから月詠は受け入れた、その武の想いを素直に受け入れた、甘えてしまった。

 この気持ちに嘘をつく事は出来ない、無かった事にも出来ない、捨て去る事なんて出来はしない、だったらもう受け入れるしかないではないか。


 (冥夜様……慧殿……。私に……月詠に白銀武という男を貸してください。貴女達が帰ってくるその日まで、この男を愛する事を許してください。)

 それでも……月詠はやはり主たる冥夜と先達たる慧に遠慮してしまう。自分が彼を愛するのは2人が帰還するまで、2人が武の元へ帰って来たら大人しく身を引こうと考えた。

 もちろん武は冥夜と慧が帰ってきても変わらず月詠を愛する気であったが……。月詠は自らの実直で誠実な性格故に冥夜達が帰ってきても武を愛し続けることは出来ないと思った。
 自分は最初白銀武を嫌ってさえいたのに、後から来て2人と対等な場所に収まるのはどうしても良心の呵責が許さなかった。
 しかし自らの想いも捨てられない。
 だから妥協した。それが言い訳だと、程度のいい誤魔化しだと理解していてもそれしか道は無かったのだ。


 「白銀……。武!!!」

 最初は試すように小さく、しかし一度口に出すと止まれなかった。

 「んん……ん……!」

 どちらともなく口づけを交わす、それはやがて激しい接吻となり互いは情熱に身を焦がす。
 体が火照り止らない、お互いの体温が混ざり合い心臓の音がシンクロしていく、それをもっと強く感じようとお互いの体を引き寄せ強く強く抱きしめる。

 「んん……んはぁ……〈クチュリ〉……ん……」

 何時の間にかお互いの口の間で情欲をそそる音が響き始める、2人は舌を絡め合い更に激しい接吻を続ける。
 やがてそれは何時の間にかお互いの口の中で舌を絡め唾液を混ぜ合わせる淫事となっていった。

 武も月詠も溜まりに溜まり、ここに来て一気に顕在化したお互いの気持ちを抑える事など出来ようはずがない。こういう行為は始めての月詠も戸惑う事無くその欲情に溺れていった。
 そして女を知っている武は「雄」として、愛するものに対する接吻という情交に始まった行為を抑える事が出来るはずもなかった。

 「きゃっ!!」〈ドサッ〉

 月詠をベッドに押し倒す、綺麗な髪の毛がベットに広がる光景がとても扇情的に映り武の情欲はますます高まっていく。
 押し倒した月詠の上に覆いかぶさり激しく接吻をする、最初は戸惑い抵抗していた月詠だがやがておずおずと手を武の背中に回してその行為を受け入れた。


 そして2人は夜の闇の中で互いに愛を確かめ合うのだった。






 今回、ストロベリってます、激甘です、アダルティーです、少女漫画を地でいってます。口から砂糖を吐かないよう気を付けてください。
 いやー、何か私こういうの書くの大好きっポイ? 書いてる時は非常にのっていました。
 しかし書き終わってから読み返してみると……、口から砂糖を吐きそうなくらい甘い。
 最後の方なんか18禁スレスレで書き直して下側を削除してまいました。てへっ……。

 実は今回このシーンは2パターンあったのです。
 今回のと、色々あって激情に任せ月詠を抱いてしまい翌朝にその行為を後悔するが月詠に受け入れてもらい結ばれる……というパターンです。
 ですがこれオルタの冥夜押し倒しシーンと被るし、何より武が月詠に後ろめたさを持ちそうなので此方のパターンにしました。2人の関係は対等で行きたいので。

 次は多分ギャグ色が強くなります。
 武との事を隠そうとする月詠だが女の勘と観察眼は誤魔化せません、色々な人にからかわれる月詠……という話しになるかな?
 では次話で。 



[1122] Re[14]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第56話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/01 04:26
2005年1月26日……東京地下秘密基地




武の部屋


 「ん……なんだ……?」

 早朝トレーニングを日課としている月詠は毎朝早くに目を覚ます。(大体の衛士は早起きだ)
 何時もと違い、覚醒する直前から自分が何か温かいものに包まれている感覚を感じて疑問を覚えゆっくりと目を開けて現状を把握する。

 (……白銀? ……そうか、昨日私は……。)

 後ろで自分を抱え込むように眠っていたのは全裸の白銀武であった、そして武の体にすっぽりと包まれる様に横になっている月詠自身も何も着ていない。

 (私は……抱かれたのか、武に……。)

 昨日の事を思い出そうとする。自分と武は昨日此処で愛し合った、お互いの全てを曝け出して快楽を貪りあった、月詠自身その行為は始めてであったが途中から尽きる事無い愛しき想いと快楽の波に飲まれていったのだった。

 (これが……、女の喜びというヤツか……)

 武の事を想うだけで胸の奥が熱くなる、昨日の情交を思い出すと体がその快楽を思い出す、そしてこの大きな体に身を預け縋ってしまいたくなる。
 他の者の話を聞いてそういう感情が有る事は知っていたが、まさか自分がそんな感情を知る事になるなんて思っても見なかった。


 「ん……んんっ、……あ……月……真那。」

 月詠の気配を感じたのか武が覚醒する、先程の月詠と同じ様に現状を把握してから声を掛けてきた。
 いつもの様に月詠と呼ぼうとしたのを言い替える、昨日想いが通じ合った時から2人は互いを名前で呼び合っていたのだった。

 「おはよう武。」
 「おはよう真那」

 何気なく挨拶してから2人は赤面した、なんだか解らないが物凄く恥ずかしかったのだ。
 その恥ずかしさを誤魔化すように月詠が語りだす。

 「実は私は悠陽様と一緒に宇宙に上がる筈だった。」
 突然脈絡もない事を話し始めた月詠に武は不思議な顔をする、しかし何か話したい事があるのだろうと大人しく聞くことにした。
 「しかしあのクーデター事件で悠陽様は強くおなりあそばされた。そして宇宙には危険少なく最早私が護衛として付いていく事に大きな意味などなかった。
 そして友人だった焔が地球に残ると聞き私は更に悩んだ。
 そんな時、武……そなたの事を知ったのだ。」
 「俺の事?」
 「そうだ、自らの乗船の権利を冥夜様に譲ろうとしている事を聞き私は安堵した。冥夜様が安全な宇宙に上がれる事は無情の喜びであった、そして例え会えなくとも悠陽様のお側に冥夜様が存在できる事は何と幸運な事であろうと。」

 月詠は自らの体に回され、己の目の前にある武の手を両手で包み込む。

 「お前の覚悟を知った、愛するものを助けて自らは地球で戦う事を決めたお前の決意を。そしてお前が綾峰殿の為にもう1つのパスを探している事も知った。」
 「冥夜様は頑固で誠実なお方、自分だけ宇宙に上がる事は望まないだろう事は簡単に想像できた。だからお前に私のパスを送った、自らの逡巡を断ち切る意味も含めて、私は白銀武に協力して冥夜様を宇宙に上げる事にしたのだ。
 そしてお前と同じ様に愛するものの為にこの惑星(ほし)で戦い続けようと。」

 「やっぱりあのパスは真那がくれた物だったのか。」

 感慨深げに武は頷く、実はあのパスの送り主の正体には大体予想がついていたのだ。
 月詠と親しくなるまではその可能性を思い浮かべられなかったが。
 最初は悠陽直属の護衛である月詠が地球に残っている事が不思議だった武であったが、自分が手に入れたパスが彼女の物だと仮定したら不思議に納得できていた。

 「有難う御座いました、あのパスのお陰で冥夜と慧を宇宙に上げられた。」

 それが冥夜の、ひいては悠陽の為であろうと結果的に2人とも宇宙に上がれたのだから……武にとってはその結果だけで十分に嬉しかったのだった。

 月詠はそれを聞くと照れくさくなったのか武の腕の中から抜け出しベッドから降りて立ち上がる、だが立ち上がって歩き出そうとした瞬間に不意に足を止めた、そのまま前を見ながら武に声をかける。

 「よもや前世の約束が果たせようとは……。」
 「世界を渡った俺が言うのも何ですが、前世の事を思い出すなんて信じられませんよ。」

 返事を期待していたわけではなかった、しかし思わずがな武から返事が返ってきて月詠は驚愕した。
 昨日の情交の時、武の精をその身に受けた瞬間、弾けたように前世の最後の記憶が脳裏に甦った。本当に最後の最後、2人の約束の部分だけであったがその記憶は鮮明に脳裏に焼きついている。
 この様子だと恐らく武も同じ様に思い出したのだろう。

 「今生では絶対幸せ……とは約束できませんがずっと側にいて月詠さんを愛しますよ。……冥夜と慧もですけど……。」
 「抜かせ……。だがその心遣いには感謝しよう。私も常にそなたと共に在ろうぞ。」

 やはり武は武だ、その言葉に月詠は呆れる反面嬉しくもあった。
 そして冥夜と慧が帰って来るまで常に武の側にいて一緒に支え合おうと誓いを立てたのだった。
 そしてシャワーを浴びる為に仕官用の部屋に備え付けの簡易バスルームに入って行く。
 残された武は布団と部屋に残る月詠の温もりの余韻を、暫し味わっていた。




医務室・薬品庫


 あれからシャワーを浴び服を着た月詠はそのまま医務室へ向かった。
 武とは別れ際の軽い挨拶だけだったが、それだけでもなんとなくくすぐったい気持ちになっていた月詠は色々と思い悩んでいた。

 「愛している」という感情は定まったが、そこはそれ……恋愛経験地0の月詠は様々な自分の感情が理解できず持て余していたのだった。
 とりあえず自己解析は置いておき、医務室に入り目当ての薬品を探そうとしたが……。


 「お……、おはよう真那。どうしたんだこんなに朝早くから……確か生理はもう少し先じゃなかったか?」

 医務室を通り薬品庫に入ろうとした時、横合いから声を掛けられる。行き成り天敵に出くわしてしまった、しかも何気にアレな事を話しかけてくるし……。まあ部隊の体調管理も担当している焔だから知っているのは当然だし、なにより長い付き合いだ

 「いや、今回は別の用事だ。」

 極めて平静を装い返事を返す。心の中で最大限に警鐘が鳴り響いていた、自分の目的を悟られてはならない。付き合いが長いからこそ分かるのだ、焔は油断がならない……と。

 「ふ~~ん。まあいい、ちょっと待ってろ。」

 そう言って焔は薬品庫の中に姿を消す、月詠は困惑しながらも「待っていろ」と言われ動くに動けずにじっと待ち続けた。
 1分も経たないうちに焔は薬品庫から出てきて此方に歩いて来た、月詠の少し前で立ち止まり持っていた「それ」を放って寄越す。
 慌てて受け取る月詠、それは茶色い強化プラスチックの錠剤が入った小瓶だった。

 「何だこれは?」
 月詠は困惑して瓶を見ながら焔に訪ねた。しかしここで気付かなければならなかったのだ、いや……もうこの時点で既に事は手遅れであった。


 「情事後用の経口避妊薬。」


 スラっと答えた焔の言葉に月詠は瓶を凝視しながら〈ビシッ〉と固まる。そして〈ギギギギ……〉と音を立てそうな様子で首を焔の方へ向けた。

 「な……ななななな……」

 恐らく「何でこんな物を渡すのだ!」とか「なぜ分かった!」などと言いたかったのだろうが、動揺しまくって言葉が出てこなかったようだ。
 そんな月詠に構わず焔は坦々と説明する。


 「その1・歩き方が変。」
 医務室を横切るのを横から見ていたが、何時も美しい姿勢で歩いている月詠が明らかに何か庇うような歩き方をしていた。まあ焔だからこそ気付けたのだが。

 「その2・顔が幸せそうだった。」
 他の人から見れば何時もと同じ様に見えただろうが、長年の付き合いがある焔の場合は違った。 表情が昨日までと明らかに違って感じた、これは女の喜びを知った顔だと……好きな男と結ばれた顔だと直感的に解った。

 「その3・髪の毛を乾かした後がある。」
 これもよく観察しないと解らない事だが、ドライヤーなどで乾かした髪は一時的に独特の質感を持つ、科学者の観察眼を持つ焔には一発で解った。

 「以上の結果から推論。……で、相手は? って聞くまでも無いか。う~む、真那までもを陥落させるとは……これは本格的に白銀恋愛原子核の研究を始めなければいかんか……?」


 訳を並べ立てた後、焔はブツブツと考え込み始める。……とそこでやっと月詠は茫然自失の状態から復活した。
 物凄く恥ずかしくなって焔に食って掛かる。

 「ほ……焔ぁっ! お……お前「よかったな。」


 「え……!?」


 ……がその途中で焔の声に遮られた。その声は先程までのからかう雰囲気など微塵も無く、とても慈愛と友愛に満ち溢れた声であった。月詠はそれ故に怒声を中断して戸惑ってしまう。
 焔はそんな月詠を優しげな瞳で見詰めて語り続ける。

 「一応親友として心配してたんだよ、お前は不器用なヤツだからな。だから白銀に興味を持った事はいい傾向だと思っていた、段々本気になっていくお前を見ているのは楽しくもあり嬉しくもあった。」

 「焔……。」

 「真貴には悪いがお前が好きになったのが白銀で良かったと私は思うよ。あいつはお前のような堅物には丁度いい相手だ……まあ既に恋人が2人も居るが。
 白銀はある意味一途である意味博愛主義者だ、恋に対しては真剣だがその対象が複数にもなってしまう、しかし複数でも皆平等に深く愛する……複数に一途という矛盾した愛、しかしそれは本気の愛。」

 こうして聞くと確かに白銀武というのは変わっている、あるいは恋愛専用の人間的器が大きいのか……。

 「親友としてお前の幸せを祝福するよ……。」
 「焔…………。」

 そんな焔に月詠は感動する、やはりなんだかんだいっても2人は無二の親友なのだ。

 ただ……
 (からかいがいもあるし絶対面白い事が起きるからな……ククククッ)
 ……とロクでもないことを考えているのも焔が月詠の天敵たる所以でもあるのだった。




2005年2月4日……地下秘密基地。

 
 この日マレーシア戦線より出発した研究員13名、整備員75名、基地要員25名の計113名がこの地下秘密基地到着した。
 彼らはマレーシアで焔の助手を務めていた日本人の研究員と整備士が主でハイヴ攻略成功後様々な補給物資と一緒に此方へ向かっていたのであった。彼らの参入で基地駐屯人数は348となる。

 更に厚木ハイヴ攻略戦参加者の生存者全員が1階級昇進した。本当は2階級昇進させる位の手柄であるとの意見もあったようだが、死んで2階級特進した者と同じでは不味いので、今後手柄を立てたら問答無用で1階級昇進させるということで可決した。

 また武が恒例の夜の話しの時に、月詠に自分の秘密を話した事を焔に報告した。




食堂


 シミュレーター訓練後全員で食事を取る武達、今までは保存食だけであったがオーストラリア政府より数々の補給物資と人員が到着したため、久々に普通の食事にありついていた。

 「あ……月詠さん。」
 「これか、……ほら。」
 「有難う御座います。」

 武の声に少し考えテーブルから合成醤油を武に手渡す月詠。何時もの光景のようだが観察眼鋭い乙女にとってその光景は多分に問題のある光景であった。

 (月詠さん、固有名詞が無いのにさも当たり前のように手渡してるし……以心伝心? だいたいここ最近変……いや怪しい、怪しすぎる! 仲が良いとかそういうことじゃなくて……そうっ、自然――自然なのよ!)
 「お兄ちゃんと月詠さん最近仲が良いですね~~。」

 響が内心の疑問というか心の叫びそのままに「ジト~」とした目で2人をねめつける。

 「そうか? 前と変わらないと思うけどな?」
 「私も別段態度を変えた覚えは無いが。」

 2人は内心はどうあれ極自然に返事を返す。
 この2人の事だ、あるいは本当にそう思っているのかも知れないが……。しかし、こう……滲み出る幸福感? の様なものが響には感じられたのだ。


 しかし忘れてはならない、此処には白銀をからかい場を引っ掻き回す事を得意とする究極の御仁が居ると言う事を。……そして人生経験豊富な大人の女性を舐めてはならなかったのだ!!

 そして究極の連続爆弾投下が始まった。


 「でも2人っきりの時はお互い名前で呼び合っているよね。」

 〈ピキッ!〉
 空気が凍った。
 〈ギシッギシッ〉と、壊れた人形の様に武と月詠の首が回り目線が柏木に向く。
 ((何で知ってるんだーー!))と目線が訴えている。
 それの目線の意味を察し柏木は言った。
 「意識してる時はいいけど慣れて来ると自然と言葉に出てくるからね。それに基地通路は意外と狭いのだよお2人さん。」

 〈ゴゴ……!〉

 その言葉に呆然と過去を反省する2人であったが、その横からヒュレイカの追加攻撃が来る。


 「そういえば武が夜中に月詠の部屋に入っていくのを見たな。」
 〈ビシッ!!〉
 凍った空間がひび割れた。

 〈ゴゴゴゴ……!!〉


 そして更にトドメの追い打ちが御無の口から発せられた。
 「早朝に武さんの部屋から月詠中佐が出て来るのも目撃しましたわ。」
 〈パキパキッ!!!〉
 ひび割れた空間が剥がれ落ちていく。

 〈ゴゴゴゴゴゴゴ………!!!〉

 この間武と月詠は2人して置物の様に硬直して最早何も言えなくなっていた。
 そして最後の……究極の一撃がその場に投下される。


 「そういえば……月詠、この間渡した情事後用の経口避妊薬はどうだ? 体に合わなかったら私が調合してやろう。」

 〈パッキーン!!!!!〉
 凍った空間が崩壊する。
 この確信犯的な一言が全てを吹き飛ばした。

 「ふふふふふ……。そう……そうなのね……うふふふふふふ。」

 ゆら~りゆらりと俯きながら体を揺らす響が不気味な笑いを口に乗せる。
 武と月詠は……特に武はこの危機的状況にエマージェンシーコールが鳴りっ放しだった。
 (晒し者っ、晒し者かよ! 俺が一体何をしたーー!!(ナニをした。)
 改めて回りを見回すと……
 (何だ!……なんだその笑いはーーー!! お前ら全員グルか? 確信犯かーーー!!!)
 この状況を作り出した4人はニヤリ笑いでこちらを眺めている、はっきり言って……言わなくても絶対楽しんでいるのは一目瞭然であった。
 響はゆっくりと武に近付いてくる。武は椅子から立ち上がるが恐怖でその場に硬直していた。
 やがて響が目の前までやってくる、そして武を見上げて一言。

 「死ね!」

 …………それを最後に武の記憶は暗黒の彼方に沈んだ。 
 この後1人残った月詠が色々な目にあったのは皆さんの想像に任せて割愛しておこう。

 ちなみに2人の仲は図らずも(というか強引に)白日の下となったので、この日を皮切りに武と月詠は皆の前でもお互いを名前で呼ぶようになっていった。



  
夜……焔の研究室


 (足りない……、あと少し何かが足りない……。)
 薄暗い研究室で1人頭を捻る焔、彼女は今研究に行き詰っていた。
 (生体金属も鏡面装甲も完成はしたが……まだ何かが足りない、そしてエンジン……。くそっ私の頭では此処までが精一杯か)

 あるいは香月夕呼なら……。天才という言葉を嫌う焔だが別の意味で……つまり本当の意味で「天才」と呼べる人物が香月夕呼博士であった。
 焔と夕呼はどちらもトンでも思考をしているがその思考形態は違う。
 例えば大局を見据える時、焔は勘に頼って予想する場面があるが夕呼は全てを計算ずくで予測する。
 「其処」に行く過程で突拍子も無いことをやるので夕呼の方が勘に頼っている様に見られるが、彼女は全てを綿密に計算・把握して、全てが「其処」に集約するように行動している。
 焔はどちらかというと積み重ねる方だ、一つ一つを消化して確実に次を見据える。しかし彼女は秀才故に大局的な事情の全てを見通して計算する事は出来ない。それでも予想が外れないのは、膨大な情報量と計算、そしてそれに裏打ちされた予測の勘があるからである。
 焔は自分が夕呼に敵わない事を理解している、しかし恐ろしい才能と努力によって「其処」に追い付いている事も理解しているのだ。

 (夕呼が言っていたオルタネイティブ4の完成しなかった理論……、そして私が考えている何かが足りない理論。)
 (足りない時は他から持ってくるのが上策だが…………まてよ……他?)

 ハッと顔を上げる焔、その顔は険しかったが新たな光明を見出した驚きとも知れない表情が溢れていた。

 (出来るか……夕呼の言っていた事を踏まえて……。因果は薄れているがまだ繋がっているはずだ……、と言う事は「門」を開いてやれば……)
 (まて……、帰りはどうする……薄れた因果を辿るには……。)
 (そうだ……、道標を持っていけばいい。できる……出来るぞ!)

 快哉する焔、どうなるかは解らないが道は一応開けた。
 そうしてこの夜より「その」準備に取り掛かったのだった。






 部隊内公認の仲になりました……というか無理矢理暴露されました。
 記憶が解けたのは……壮大な事情の伏線の1つです。今は余り気にしないでください。……というか突っ込まないで。(まあこれは伏線とも言えないけど)
 次はとうとう、とうとう……。
 では次話で。


追伸)感想板の方に武器の質問を投下しました。
 第4世代戦術機の装備になりますので、よろしかったら意見をお願いします。



[1122] Re:メイン登場人物  67話現在
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/22 14:26
【第28遊撃部隊】
 現メンバーは6人、それに参謀の焔とCP将校のエルファが加わる。
 小隊クラスでは恐らく現在世界で1番強力な部隊、厚木ハイヴ攻略戦の報道により一躍有名となった部隊でもあり世界中の人間がその存在を知っている。
 焔のお陰で常に最新・最高の装備を使用できる、また新装備の使用試験なども行なう。 
 実は「第28遊撃部隊」とは便宜上の名前で、その実は混戦部隊。全員以前の部隊の所属のままである。
 帝国軍遊撃隊第28小隊・国連軍A-01特殊部隊・国連軍第207部隊・帝國斯衛軍守護隊第1大隊・国連軍第476小隊に所属する衛士達の混戦部隊。

                   
【白銀 武】22歳 少佐 武雷神(漆黒)・カスタム仕様
 オルタネイティブ5発動後より、愛するべきものを守れるようにと常に己を高めていった。
 その過程で月詠の強さに目を付けそれを模倣する。その結果、己の得意な空中機動と接地機動を織り交ぜた変化自在の多角的戦闘方法を開発していった。
 月詠との共闘でそれに更に磨きをかけ、近接戦闘の極意なども学んでいく。
 お調子者で鈍感気味なところは変わらないが(恋人限定で)女性の扱いには一部慣れてきている。また楽天的な性格がなりを潜め、生きる事に真剣になっている。
 マレーシアでの戦いの中で月詠と対等と成りたいが為に自分を無理矢理に成長させようとしていたが、EX世界から帰還した後の月詠の説得により、ありのままの自分で生きる事を決意する。その所為か最近は自然体で以前の様に楽天的になっているが、人間的には前以上に成長している。
 不思議な人間的魅力と求心力を持つ部隊のムードメーカー。
 強さは未知数、世界トップクラスの衛士の実力は甲乙付け難いので正確な所は解らないが、最上位クラスの腕前を持つ。しかしまだ月詠の実力には及ばない。


【月詠 真那】25歳 中佐 武雷神(真紅)・カスタム仕様 
 義に厚く、理に厳しい実直な軍人。
 幼馴染でもある悠陽殿下と冥夜に対し忠誠を誓っている。
 武に対しては嫌疑の目を向けていたが、共に戦う内にそれは信頼へと変わりやがて愛情へと成長していった。
 EX世界でのまりもとの会話により、自身の武に対する想いを確固たるものとした。しかし一時的に忘れる事にしたとはいえ、心の内では冥夜に対する複雑な感情が渦巻いている。
 焔とも幼馴染なのだが真面目な性格故大概からかわれている。
 衛士としての練度はトップクラスだったが武との共闘でますますそれに磨きがかかっている。
 世界でも確実に最高位の実力を持つがまだまだ発展途上。
 悠陽の護衛となるべくして己を磨き続けてきた努力の人であるが、訓練生時代から御剣真貴に1度も勝てなかった事で己に疑問を抱き挫折しかけた事があった。(武と激戦を戦い抜いてきた現在は、同条件でも互角以上に戦えると確信している)
・帝國斯衛軍将軍守護隊第一大隊隊長(実質的に征夷大将軍の直属護衛)
・冥夜の警護の為便宜上帝国斯衛軍第19独立警護小隊


【鳳 焔】(おおとり ほむら)女 29歳 (権限的には大将クラス)
 帝国斯衛軍第一技術開発室長、香月博士の友であり永遠のライバルと言われているが専門分野が違うのと本人達がそういう事に拘らないためそんな事実はない、意見交換のメル友兼自分の研究の根幹にかかわらない趣味の分野での共同開発者。月詠の古い友人。
 若くして1開発室を任されているだけありかなりの頭脳の持ち主、香月博士のトンでも理論を理解できる事からもそれが伺える、ただ正確はカラッとした姉御肌。主に戦術機とその関連品の開発が専門で武御雷・不知火の設計にも関わっている。
 オルタ5発動後は移民に誘われるもこれを辞退、地球に残った者のため常に新たな技術を提供することを自身に誓う、月詠が地球に残った心情の一端は彼女の決意の影響があった。
 日本脱出の時に武と合流、以後専任のメカニック兼開発者となる。
 武考案のXM3の改良を手掛けたり新兵器を開発したりと功績は多々。
 厚木ハイヴ攻略戦の立案者でもある。
 第4世代戦術機、武雷神(ぶらいしん)や叢雲(むらくも)・霧風(きりかぜ)・業炎(ごうえん)などを作り上げる。
 第4世代戦術機の量産化計画の傍ら、武と月詠がEX世界から持ち帰った技術情報を利用して、既存の兵器を改良したり新たな兵器を次々と作り出している。
 また、詳細は不明だが「エスペランサ」計画なるものを密かに始動させた。(恐らく戦略級兵器の製造計画だと思われる)


【柏木 晴子】22歳 大尉 業炎(コーラル&ブルー色)・カスタム仕様
 戦略単位で戦場を把握できる、広い視野と柔軟な頭脳を持つ指揮官タイプの人間。しかし本人はその才能を遠距離攻撃と支援攻撃を行う事に専念させている。その為、第4世代戦術機・業炎の性能も相まって柏木の射撃能力は最早神業レベルに達している。(的確な判断を下し、効果的に射撃を行なう能力)
 この頃は響が成長してきたため、部隊や戦場全体のフォローに専念するようになって来た。
 冷静で、割り切った考え方をしているが明るく人懐こい性格のため周囲とトラブルになることは少ない。
 相変わらず武をからかって遊んでいる。
 その武の事をどう思っているのかは未だに謎、好意は抱いているようだが……。
 総合的な強さでいえば御無と同等。(接近戦なら御無、遠距離戦なら柏木)


【白銀 響】(しろがね ひびき)18歳 中尉 叢雲(白群色&黒)・業炎寄りのカスタム仕様  
 この世界の元の武の実妹、極度のブラコン…11歳の時のBETAの侵攻時東京に居て無事だった、武と純夏と家族が死んだ事で仇をとろうと帝国軍に入隊。特別衛士養成教程を志願した。
 厚木ハイヴ攻略戦で皆との実力差を痛感し日々厳しい訓練に励んでいたが、最近その才能を開花させ始めている。
 今まで射撃を中心とした接近戦寄りの戦闘スタイルだったが、柏木とエレメントを組むうちに自分の特性を見極め、中距離戦主体の戦闘スタイルへと変更した。柏木を師として、戦域把握を織り交ぜた中距離での3次元空間射撃戦闘を主体とし訓練しているが、強い適正を見せている。(その為乗機の叢雲は業炎寄りの射撃戦使用としている。)
 武に対し複雑な感情を抱いている。
 同年代の衛士と比べればその実力は段違いに強く、最近は更にその実力を伸ばしている。


【御無 可憐】(おとなし かれん)24歳 大尉 霧風(銀鼠色&蘇芳色)・カスタム仕様
 黒髪黒目の典型的日本美人で寡黙で聡明、だが生れが戦国時代から続く将軍家お抱えの忍者集団の末裔、BETAが現れる前まで暗殺などの陰の仕事を行なっていた。先祖伝来の技を継いだ彼女は無音殺人(サイレントキリング)の達人、表向きは名のある剣術指南所だったので正統な剣術も得意で、刀を使った近接戦闘も超人級な腕前、音無しの可憐と呼ばれる。
 最近は武の剣術と格闘の腕前が上がってきたので練習相手として互いに訓練をしている。
 切れると物凄く口が悪い…海兵隊式の罵詈雑言が飛び出す。下品な男が嫌いで、しつこく言い寄ってきた男の玉を蹴り潰したこともある。
 性格がつかめない不思議系の人物だが面倒見は良い。
 接近戦能力に秀でていて、霧風の性能を余す事無く振るうことが出来る。


【ヒュレイカ・エルネス】 インディアナ系日系アメリカ人 26歳 大尉 叢雲(赤&青い薔薇と紫の狼のマーキング)・カスタム仕様
 幾多の戦場を生き抜いてきた物凄く優秀な戦士。
 過去3人の親しい人物に命を救われた。
 友人の形見の不知火を使い、今の乗機の叢雲を造ってもらった。もう2人のトレードマークだった青い薔薇と紫の狼のマーキングも同様に付けてある。
 月詠とはライバルとして親友として付き合っている。
 インディアナ系1・日系1・アメリカ系2の混血人種。  
 強さはNo.3、だがその強さは月詠に匹敵する(真っ向からの強さではなく、戦場を生かしたなんでもありの勝負ではほぼ互角)、世界でも最高位の腕前でとにかく生存能力と圧倒的な戦闘経験から生じる危機把握能力が優れている。
 ユーラシア大陸戦線四天王の1人。(他称)


【エルファ・エルトゥール】 アジア系と白人の混血(詳しくは不明)24歳 赤と金が混じったような髪とエメラルドグリーンの知性的な戦士の瞳。 
大尉 CP将校(コマンド・ポスト・オフィサー)
 統合情報管理官、第28遊撃部隊専属のCP将校として焔にスカウトされる。
 実は訓練校時代にやむなく戦場に参加してそのままなし崩しに軍学校にも行かずに戦場叩き上げで来た人物(勿論独学で勉強もしてきた)なので戦場での知り合いら裏の権限やら……とにかく肩書き以上に権限が強い人物。
 だがその能力は優秀の一言に尽きる、彼女の誘導で全滅を免れた部隊がいくつもあり、戦場の女神として崇められている、「ピンチの時は総指揮官より彼女の誘導に従え」というのは皆の暗黙の了解になっていて、上も彼女の能力ゆえにそれを黙認している。
 だが本人は至って普通の女性(やや気が強いが)物事を冷静に見れるが、心の中は熱い。
 何人もの死をモニター越しに見詰めてきた彼女の瞳は、戦場に出ずとも戦士の様相と化している。


【御剣 真貴】(みつるぎ まさき) 26歳 征夷大将軍代行 武雷神カスタム(青)
 煌武院悠陽の従兄で地球での征夷大将軍代行を任された人物。母が真実を貫き高貴に真っ直ぐ育つ様にと名づけた己の名前を何よりも誇りにし、名に恥じぬよう常に切磋琢磨して自身を磨いている清廉潔白で実直な人物、それだけに彼の信奉者は多い。訓練生時代、月詠と同じ部隊に所属していて無二の親友であり戦友でもあった。
 衛士としての腕前は月詠より上だったが現在はどうか不明。
 現在はアラスカ戦線で総指揮官の役を担っている。
 月詠真那の幼馴染で彼女に恋心を抱いていたが言い出せないでいた。


【アリーシャ・フォン・ビューロー】大将 28歳  ドイツ系(シルバーの髪)
 マレーシア戦線の艦隊指揮官の1人で厚木ハイヴ攻略艦隊総指揮官を務めた。
 アメリカ艦隊からスカウトが来るほどの実力を持つ艦隊指揮……特に砲撃戦の天才。
 「先読みの魔女」などと呼ばれている。
 旗下艦隊であるワルキューレ艦隊ともども世界最強の砲撃艦隊と呼ばれる。


【朝霧 楓】(あさぎり かえで)31歳 少佐 武雷神カスタム(赤)
 将軍家に縁の深い系譜、普段は清廉潔白で優しいお姉さんという感じの人だが、武曰く「軍人モード」へ入ると厳しい指揮官へと変貌する。腰まで伸ばした黒髪、身長は平均的。
 東京への撤退戦の最中負傷、そのまま民間人の医師団と共に後方へ移送される。緊急臨時措置として白銀を大尉に野戦任官し部隊を引き継がせた。
 怪我が治った後はリハビリを兼ねて御剣直貴達の補佐官として働いていた、その後アラスカ基地の教導隊指揮官に任命される。
 その人柄故に多くの衛士の尊敬を受ける。
 アラスカでは材料が足りないので「特製(特性)ジュース」の被害にあった人は未だにいないようだが……。


【ミナルディ・エルトリア】 フランス人とドイツ人のハーフ 25歳 中尉 F-22Aラプター
 ヒュレイカの自称親友…近接格闘から遠距離射撃戦まであらゆる状況に対応できるオールラウンダー。気は優しくお姉さん系の性格だが動作は機敏、現実主義者でもあり戦闘では冷徹な判断を下す事もある。
 物凄い強運の持ち主で選択系の賭け事に滅多に負けない。
 現在は南米戦線に参加している。
 何時の間にか誰かからラプターを巻き上げたようだ。


【鮎川 千尋】(あゆかわ ちひろ) 26歳 大尉(2階級特進して中佐) 不知火
 姉御肌で竹を割ったような明瞭活発な性格。少々気まぐれなですらりとした流麗な体格をしている、接近戦では無類の強さを発揮しどんな役割も的確にこなす。
 実力では朝霧隊長よりも上、不断の努力と意思がその揺るぎない強さを形成する。
 彼女は孤児で将軍家の人間に孤児院より身請けされ育てられた、そのため誰よりも日本という国を人を愛している。武も彼女と意気投合し衛士として信頼し尊敬する。
 焔博士が新兵器完成のために提唱した日本皇居地下研究施設奪回作戦で新しく建設された厚木の
フェイズ3ハイヴへの進攻作戦に参加。
 その時残した言葉、「死して尚屍拾うものなし」の一言は以後の衛士の自爆率をほぼ100%にした。



[1122] Re[15]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第57話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/03 01:18
2005年2月9日……地下秘密基地・焔研究室




 ここ数日間で武と月詠の日常は大きく変化を遂げた。
 変化といってもそれは心情的な事や己が自由にくつろぐ時間だけであったが。
 ただ……お互いの認識が変わる事でここまで毎日の生活の様相が変化する事は月詠にとってとても新鮮であった。

 あのお互いが結ばれた日――26日から今日まで毎晩、武と月詠は体を重ねていた。
 月詠自身は最初こそ躊躇したのだが武が毎晩部屋にやってくるので、武と月詠の関係が皆に暴露されたあの4日に焔に恥を忍んで相談したところ

 「男という物はそういうものなのさ、好きあってる男女でそれが想いが通じた直後なら当然だ。特に白銀は色々溜まってたみたいだからねぇ。」
 としみじみと断言されてしまった。
 そして返すように一言。
 「まっ、真那も本気で拒絶してないところを見ると嫌じゃないんだろう?」

 それを聞いて赤面した。
 実の所その通りであった。

 抱かれるのは嫌いではない。……いや、むしろ武の腕の中に抱かれるのはとても心地良い。
 普段は「女」というものを余り見せない様にしている月詠だが、その時は一時の快楽と自らの想いに身を委ねてしまう、それは女としての幸せを享受する甘美な行為であった。
 焔はその顔を見て納得するように“ウンウン”と頷いた。

 「いやいや、我が親友に春が来たことは誠に喜ばしい限りだ。真那の母上殿が知ったら何と言うか……。くふふふふふふっ……。」

 自らの言動からその出来事を想像して不気味な笑いをする焔、しかし聞いていた月詠はその事に思い当たり……今まで本当に忘れていたのかそれとも考えないように無意識に思考を逸らしていたのか……顔が恐怖で真っ青になった。

 (こ…こんな事が……男にうつつを抜かしているなんて事が母上に知られたら……。こ……殺される……。)

 月詠の母親は五摂家の1つ煌武院の出身者だ、父は御剣の出身者で余り身分の高い者ではなかったが数々の戦功を立て、それを見初めた母が結婚して月詠が生まれた。
 母は悠陽の母親とも仲が良く、それゆえ月詠は悠陽と幼馴染となり、母の勧めもあって彼女の護衛となる事を誓った。
 また父方の御剣とも仲が良くそれ故真貴とも既知であった、悠陽の妹の冥夜が御剣に預けられたのも月詠の母の進めあってこそであった。
 母は厳格な女性であったがそれだけではなかった、自身が体験して来た人生の機微を実体験として話してくれたり、料理や手芸・裁縫など戦いに必要な事だけでなく色々な事を教えてくれた。
 母は父を愛し献身的に接していたが、父は何より責任感が強く常に戦場の矢面に立つ人であり、それ故母を愛していても家に帰ってこれることが少ない、それ故母の鬱憤は溜まりに溜まっていく。
 そして父が戦死して以降にその鬱憤が爆発したのか、男にうつつを抜かすなと月詠に説法するようになったのであった。

 そんな母に今の月詠の状態が知れたら……。

 確実にヤバイであろう事は最早明確であった。
 その後月詠は焔に何とか母上には報告しないでくれ! と必死で頼み込み、焔が「どうしようかな~」と、あからさまに月詠をからかうという出来事が繰り広げられた。
 一応その場は収まったが……。月詠は胸の内にその大いなる不安を一時的に封印したのであった。人それを「問題の先送り」「現実逃避」と言う。




2月9日


 その日武と月詠は昼食が終わった時に焔に呼び出された、ここ5日間姿を見せなかったので研究が忙しいのかとも思ってはいたが姿を見せた焔の顔は普段の溌剌とした顔が嘘の様に憔悴していた。
 月詠がどうしたのか聞いてみると

 「柄にもなく連日徹夜しまくったからね、あんまり寝てないんだよ。」、と大きなあくびをしながら答えた。
 成る程……見ると焔の目の周りには薄暗い色の隈がくっきりと現れている。

 「んじゃ、眠いからとっとと説明を始めるぞ。」
 そのあくびで出た涙を右手の指で拭いながら左手の指でプロジェクターを操作してスクリーンに何かを映す準備を行なう。
 そして武達の方を見て至極真剣に切り出した。

 「実はな……、研究が行き詰っているのだ。」

 「ええ!」「…………」

 その第一声に武は驚愕の声を発し、月詠は無言で焔を見詰める。それに構わず焔は話し続ける。
 「生体金属はほぼ完成した、鏡面装甲も実用段階まで漕ぎ着けた……しかし循環再生反応式エンジンが完成できない、いや……試作品は出来た……しかしどうしても何かが足りない。そして鏡面装甲も後1歩理論を詰められる感じがするんだが思いつけない。
 今のままでも十分使えるだろう……しかし私の科学者としての思考と勘がまだ改良の余地はあると訴えている、しかし私にはそれが思いつけない……後1歩何かが足りない。」

 焔は悔しそうに……本当に悔しそうにその言葉を口にしている。……多大な犠牲を払って此処まで来た、しかし出来たものは何かが足りなかった。自分の理論が後1歩足りなかった事、そしてその「あと1歩」が思いつけないことは科学者として人間としてとても悔しくて堪らない。


 「じゃあ、研究は完成しないんですか?」

 武自身も必死な様相で焔に問いかける、月詠も何も言わなかったが視線が武と同じ事を語っていた。
 それに対し焔は首を振る。

 「いいや、手は有る。この世界に無いのなら……思いつけないのなら他から持ってくればいい。」
 「他……ってそんな所あるんですか?」
 そんな武の疑問に焔は焦燥した顔にもニヤリと笑みを浮かべて言った。

 「あるじゃないか、何時もお前が話してくれているだろう。」
 「!……って……まさか!!!」
 「そうだ、お前が元居た世界からだよ。」

 その言葉に武は声が出ない程に呆然としてしまった。今更元の世界の話題が此処で出ようとは……余りに意表を突き過ぎだった。
 「既にお前の世界に行く方法は考えてある、準備もほぼ整っている、明日にでも出発してもらうぞ。」
 更に追い打ちをかけるようにとんでもない事を言う焔に向かい、武は現実に立ち返りそのまま焔に食って掛かる。

 「どうやってですか!? というか本当にそんな事が出来るんですか!!??」
 「それは私も疑問に思う、世界を越えるなどと言う事が本当に可能なのか?」

 黙って話しの内容を消化していた月詠も、流石に荒唐無稽に感じたのか焔に詰問する。
 「ああっ! 説明してやるから離れろ静かにしろ。」
 詰め寄ってきた武を振り払う、武は説明をすると言う事で大人しく焔から離れた。
 それから焔はプロジェクターを操作し何かの図と映像を映し出しながら説明を始めた。


 「白銀、因果導体という言葉を知っているか?」
 「因果導体?」
 「やはり夕呼は話していなかったのか……。いいか、因果導体というのは接続された並列世界間の因果の相互的やり取りを媒介する存在のこと。並列世界間の因果の通り道なのでこう呼ばれる。」

 「「…………」」

 武は真剣に話を聞いている、昔の自分なら全く解らなかったろうが様々な勉強をした今なら、少しだけ意味は解るのでなんとなく何を言っているのか理解できた。
 月詠は自分の介入する余地は無いと、黙って聞いて話を理解する事に全力を傾けている。

 「夕呼の推論ではお前がこの因果導体になっている。」
 「俺が? ……なんでそんな事に。」
 「詳しい事は私にも解らん(ここは嘘、焔は本当のことを知っているが鑑純夏の事を伏せるためあえて誤魔化した)、お前がこの世界に来た要因の1つにG元素が関わっている事までは解っている。恐らく明星作戦などのG弾の爆発で時空振動が生まれ、それが原因でお前の居た並列世界との道を開いたのだろう。なぜお前が因果導体となりこの世界に飛ばされてきたのかは解らないが。」

 「「…………」」

 「世界は矛盾を嫌う、お前がこの世界に呼ばれた事、存在できている訳は既にこの世界の白銀武が死亡して存在しなかったからだ。もし白銀武がこの世界に2人居たらどちらか片方……つまり異物のお前を世界は不純物として消そうとするだろう、それ以前にお前がこの世界に入る前に弾き飛ばされるがな。」
 「この世界に存在できても、それでもお前はこの世界の住人ではない。因果導体としての向うの世界の繋がりがあったお陰で(鑑純夏のお陰でもあったが)この世界で消滅する事は免れていたが何故か解らないが急に因果の道が薄れてきた。」

 「お前、身に覚えの無い記憶が浮かんで来たと言っていたな?」
 「はい……。そうですが……。」
 武は思い出す、確かに柏木との存在しないはずの記憶を思い出した事を。

 「それは因果の道が薄れた為に道が拡散し他の並行世界の記憶と接触した所為だ、そのお陰で因果媒体としてのお前が他の並行世界の記憶を取り込んだ。」
 「並行世界の記憶……。」
 「そうだ、ありえるかも知れなかった可能性。1つの選択肢で分岐した世界。」

 (あれが……、あれがありえたかもしれなかった? 柏木との……)

 思考に沈みかける武だったが直ぐに次の焔の説明が始まる。
 「しかし何故か今のお前は安定している。他の世界の記憶に接触するくらい不安定になったならば何時この世界から抹消されても、元の世界に戻されてもおかしくないはずなのに……だ。その訳は解らんが……まあ安定してるのだから良いだろう。」


 「それでどうやったら向うの世界に行けるんですか?」

 段々話が怪しくなってきたので武は質問してみる。
 「お前がこの世界に飛ばされた原理と一緒だ、G元素の干渉反応を使って向うの世界との門(ゲート)を開き道を作る」
 その説明に2人は驚愕する。

 「G元素の干渉反応だと!」
 「それってG弾みたいなのを爆発させるんですか!?」

 「似ているようで違う。戦術機に制御用の装置を組み込み、S型爆弾の様に戦術機内で反応爆発させG元素の干渉波を作り出し重力フィールドを形成する。
 爆発と言っても干渉波とエネルギー波が出るだけだ、熱エネルギーなどは全て内向きに集束するので心配ない。
 そのままフィールドを重力制御して負の質量を使い内向きのエネルギーを作り出す、そしてブラックホールを作る要領で内向きの干渉波を利用して門を形成、それを重力制御で固着させ向こうの世界への扉を開く。
 弱まったとはいえ向こうの世界と因果導体として繋がっている白銀がいれば道を開くのは至極簡単だ、元々ある因果の通り道を広げてやればいいだけなんだからな。」

 「それって大丈夫なんですか?」
 「実験は何度かした、フィールドの形成と門の構築は出来たから白銀がいれば理論上は向こうの世界と繋がるはずだ。それとG元素による人体汚染も戦術機のコクピットに対策をしておいたから問題はない、G元素も直ぐに干渉波に変換されるしな。」

 「理論上は……ですか……。」
 心配するような顔の武に焔は真摯な瞳を向けて言う。

 「これはお前の協力が無いとできない事だ。危険はあるかもしれないが現状で打てる手は打っておきたい。プライドも捨ててでも……どんな手を使ってでも、死んだ者達の為にこの研究は完成させなければならない。だから白銀……頼む……これはお前にしか出来ない事だ。」

 頭を下げる焔を武は見詰める。腹は最初から決まっていた……武自身は焔を信用していたし、それが必要ならば迷わず行くつもりであった。
 武が口を開こうとした時、不意に焔が顔を上げ思い出した用に言った。


 「そうだ……。今回は真那にも白銀と一緒に言ってもらう事になる。」
 「え……!」
 「なに……!」
 その言葉に武は口を開きかけたまま固まった。まさか自分に話が振られるとは思わなかった月詠も驚愕して焔を凝視した。

 「な……なんでですか? なんで真那が一緒に行く必要が……。」
 「帰りのためだ。」
 「帰りの……ため……ですか?」

 「そうだ、先程も言ったようにお前は現状安定しているが因果が薄れている事は変わりが無い、それは言い換えれば因果導体となったお前を通して繋がっているこの世界と向こうの世界の繋がりが薄れていると言う事だ。
 お前は元々向こうの世界の住人だ、この状態でお前が向こうの世界へ行ったら向こうの世界の認識に固着される、そして此方の世界からは弾き飛ばされることとなり2度と此方の世界に返ってこれなくなる。……まあお前が向こうの世界に帰りたいというのなら話は別だが。」

 焔は試すようにそう言う。白銀武がそんな事を容認する訳はないと解っているのに……。彼はこの世界の存在では無くとも、既にこの世界の住人。愛するものも守るべきものもいるこの世界に帰ってこぬはずがない。
 「じゃあ……、帰ってくるために真那が必要な訳は?」
 案の定、武は帰ってくることを前提に話を進めている。

 「真那は道標だ。この世界に帰ってくるためにはこの世界と繋がりのあるもの……人間が丁度いい。月詠真那という存在はこの世界で生まれた人、つまりこの世界との繋がりがしっかりと固定されている。薄れた因果の道の門を開き向こうの世界へ行く事になってもその繋がりは途切れずにいるだろう。
 つまり真那は命綱だ、向こうの世界へ行った白銀武が月詠真那というこの世界への繋がりと共に戻ってこれるようにするために。お前の事情も知っているし人選にはもってこいだ。」

 そして月詠に視線を向ける、月詠は心得たように頷いて言った。
 「解った、私も武と共に向こうの世界とやらに行こうではないか。」
 「いいんですか……?」

 武は月詠に問いかける、まだ前の癖が抜けきってないのか、丁寧語になってしまっている。
 「構わん、それで研究が完成するならば幾らでも協力しよう。」
 その言葉の後、微笑しながら付け加える。

 「それに……。そなたの元居た世界を見てみたい……という事もある。」
 「真那……。」

 武は感動して月詠を見る、そして見詰め合う2人……
 「あー、ゴホンッ。続きを話してもいいかなお2人さん?」
 ピンク色なフィールドを展開しそうな2人に、焔は呆れて声を掛ける。2人はやや慌てて目線を外し了承の意を告げる。

 「向こうの世界に居られる期限は、因果の道が薄れている事で世界間の情報流入が極少なくなる事、こちらとあちらの世界の違いによる世界の認識力の誤差修正に掛かる時間を考慮すると……最長で14日、まあ7~10日以内に帰ってくるのが妥当だろう。
 14日を過ぎると世界の修正力や因果の流入などロクでもないことが起こってくるだろう。特に同じ世界に月詠真那という同一人物がいる影響がどう出るかが解らん……。出来るだけ10日以内には戻って来い、最長でも14日だ、忘れるなよ。」

 2人は揃って頷く、その後武がまた焔に質問を切り出す。
 「それで……俺達は結局どうすればいいんですか。」
 「お前達は向こうの世界の巨大財閥の御剣と知り合いなんだろう。」
 その質問に武は頷く。
 焔には詳しく……そして月詠にも向こうの世界の事情はある程度は話してある。

 「お前らの武御雷に此方の世界の技術が全て入った情報媒体を渡すから向こうで解析してもらって此方に無い技術を片っ端から持って来い。
 武御雷にありったけの情報蓄積媒体を乗せておく、とにかく全部だ……どんな些細なものでも構わん、空想とか妄想とか現実不可能そうな技術企画書でも片っ端から持ってきてくれ。」

 「……それは……解りましたけど。やってくれるかな~、久しぶりに訪ねていって……。」
 「そこはお前に任せる、とにかく頼むぞ。此方の情報は自由にしてくれて構わないと言っておけ……ただし節度は守れと忠告はしておけよ、明らかにオーバーテクノロジーが混じっているからな。」
 
 そして2人は夜までG元素と次元干渉などの理論を頭に詰め込まされる事となった。




深夜……月詠の部屋。


 「…………お前の元居た世界か……。」
 「どうした……。」
 「いや……、BETAがいない世界とはどのような世界かと思ってな。」
 「人間同士の戦争や自然汚染もあるし、まったく平和で綺麗な世界という訳じゃない。……でも俺の居た日本は確かに平和な所だった。」
 「そうか……。私はたとえどんなに酷い有様になろうともこの世界を愛している、されどそなたの言う平和な世界というのにも心引かれ見て見たいと思ったのも事実だ。一度はこの目で見てみたかったからな……、今回の事は良い機会であったか……。」
 「向こうの世界の事、少しは案内できると思います……。きっと驚愕しますよ……。」
 「そうか…………。どうした?」
 「……俺は……この世界も向こうの世界の様な緑溢れる世界に戻したい……。」
 「武……。」
 「冥夜が慧が…俺達の子供が……そして真那が……、平和に暮らせる世界にしたい。」
 「ああ……、してみせようではないか。いつか必ず平和な世界に。」
 「そうだな……、共に戦い抜こう……未来のために。」


 そして物語は翌日へ……。






月詠とその両親の設定は完全にオリジナルです。
というか、この世界自体並行世界なんですけどね。

とうとうトンでも設定開始。
2003年時、オルタをプレイして妄想して設定をした幻のシナリオ!
異世界に行った主人公がマシンと恋人引き連れて数年後に一時帰還……これぞ男の……SF・ファンタジー好きのロマンです!!! ←すいません壊れています。
 一応帰還の方法はオルタの設定取り入れて練り直しましたが……はっきり言ってこじつけに近いです。
「ありえねぇー」という叫びは置いといて、どうぞ心の広い目で見てやってください。
 「これは番外編」……という認識でも構いません。

今回の焔の説明は鑑純夏の事を話さないために色々隠し事をして話しています。
それとこの説明は私が設定しているこのSSの根幹設定と方向性は一緒ですが内容は違います。
あくまでもこの場で武を納得させる為の焔の説明と思って読んでください。
一応それらしく書きましたが。大半はそれらしいこじつけです。
 では次話で。



[1122] Re[16]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第58話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/05 11:18
2005年2月10……夜、横浜基地跡・裏山




 あれから1日、武と月詠は横浜基地跡……爆心地のクレーター中で基地裏側の丘があったと思われる付近で待機していた。
 向こうの世界での出現場所と時間は此方の世界の転移場所とほぼ同じになるというので、武は深夜に近い時間に白陵柊学園に転移する事に決めた。
 そのため2人は武御雷で横浜基地跡まで来ていたのだった。
 部隊のみんなには秘密にしなければならないのでコッソリと抜け出してきた。焔も何かあったときの為に自分の武御雷に乗って付いてきている。
 BETAと遭遇する可能性も捨て切れなかったが、厚木ハイヴには付近のほとんどのBETAが集結していたようで、現在関東近辺にはBETAはほとんど存在しない。
 小規模の集団に遭遇しても、焔の武御雷はスピード性能に特化させているので余裕で逃げられるであろう。

 昨日焔に徹底的に使用法と理論を叩き込まれた武と月詠は所々戸惑いマニュアルを確認しながらも準備を進めていく。
 帰りも2人で何とかしなくてはいけないので焔に頼る訳にはいかない。
 制御システムを起動させ、G元素反応爆弾の起爆反応をアクティブに持って行く。緊急時の動作パターンを複数、機体のコンピューターに待機させ全ての準備を完了させた。
 そして、世界間転移の途中で離れ離れになったら大変なため両方の機体の掌をがっちりと互いに組み合わせる。

 「よ~し合格だ、何も問題は無い。実験結果から導いた理論通りならこれで転移が出来るはずだ……ただし途中の調整に気を付けろよ、戦術機のコンピューターに入力した制御システムが自動でやってくれるが、緊急時はマニュアルで臨機応変に対処しろ。」

 安心出来るか出来ないか微妙な言葉を吐く焔。しかし武と月詠はリラックスしていた、何だかんだいって焔の腕は信頼している。


 「じゃあ行ってきますよ。」
 「後の事は頼むぞ。」
 2人はそう言って片手を上げて軽く敬礼する、焔も不敵な笑いでそれに答える。

 「ああ、皆には上手く誤魔化しておく。そうだな……新婚旅行にするか? それとも愛の逃避行がいいか……。」

 「焔!!!」「博士!!!」
 瞬間湯沸かし器の様に真っ赤になった武と月詠が吼える。

 「あっはっは、分かってる分かってる。……じゃあな、元気で行って来い。」

 その返事に合わせて、先程アクティブに持っていった武御雷の中でG元素爆弾が反応爆発を起こす。
 内部からのエネルギーと干渉波が交じり合いフィールドを形成していく、それを制御システムで操作する。グレイ・シックスが負の質量エネルギーを振り撒き空間を内側に歪曲させていく、それを更にグレイ・イレブンでの重力制御で操作・固着させ門を開く。
 凄まじいエネルギー奔流の中で武は自分が元居た世界を思い描く……。既に記憶は過去の物だが、それでもあの平和だった日々の思い出は色褪せない。



 特に……

 「そういえばあっちには純夏がいるんだよな……。」

 懐かしい……、こちらの世界には既に存在しない純夏……。
 他の者はこちらの世界でも会っているが(鎧衣の性別は別として)純夏と会うのは……

 「3年と4ヶ月振り位か……。元気にしてるかなー、今何やってんだろ?」
 ふと考えてしまった、もう直ぐみんなにも会えると言うのに。

 「突然いなくなった俺の事どう思ってんのかなー。怒ってるだろうな……、今の俺を見たら何を言われるか……。きっと……」

 そんな事を考えていた……。
 月詠はそんな武をジッと見詰めていた。
 色々な表情を作る武……。きっと元の世界に想いを馳せているのであろう……。

 門が開く……機体が重力の波に引かれて暗黒の奔流の中に飲み込まれていく……。月詠は操縦桿を握りこむ、そして握り合わせた機体の掌を更に強固に引き結んだ。
 離れないように、強く……強く……。

 「武……。」
 機体が暗黒に飲まれ沈む寸前月詠は声を掛ける。
 「?」
 無言でこちらに顔を向ける武に……

 「愛してる。」

 私が付いている……側に居る……だから心配するな……不安になるな……と。
 その言葉への返事を聞く事無く、武と月詠の意識は深遠の闇に落ちて行った。




???


 よく分からない空間……。全てが闇の空間。
 宇宙でもあり。神秘が蔓延する場所でもあり。何処でもないところ。
 意識は混濁としてハッキリしない。
 しかし解る。通るべき道が。目指すべき門が。
 進む進む進む。そして更に進む。
 懐かしい。帰ってきた。違う……。
 俺は……。俺は……。
 「武!!!」
 そして意識が弾け飛び……。




???


 「武! 起きたか……。」
 通信越しに誰かの安堵したかのような声が聞こえる。

 ここは……。

 ハッキリしない頭を強く振って無理矢理意識を覚醒させる……。
 (そうだ! ここは……。)
 「真那、無事だったか。」
 「ああ、どうやら無事に着いたようだが……。武……外を確認してくれ、本当に此処が武の元居た世界なのであろうか?」

 月詠の質問に武は急いで周りの状況を確認した。
 そこに見えたのは……。

 「白陵柊学園…………。それに……。」
 白陵柊学園……。緑がある丘……。住宅街……。それでは此処は。

 「多分間違いない。俺が元居た世界だ……。」

 似たような同じ世界でない限り、ほぼ間違いなく武が元居た世界……学園の裏側であった。周りの様子に少し違和感があるが3年も経っているのだ、少しは変わりもするだろう。
 「そうか、無事に着いたか。」
 その月詠の言葉に武はハッとする。今自分達は武御雷に乗っているのだ、見つかって色々騒がれたら不味い。

 「機体を屈ませて!」
 言いながら自らの武御雷を屈ませる、それを見て月詠も同じ様に武御雷を伏せるように屈ませた。学園は離れているとはいえ住宅地の近く、夜の闇にまぎれてはいるが何時見つかるとも限らない。
 武はそう思い立ち迅速に行動を開始した。

 「何とか連絡してくるから真那は機体を頼む。」
 「解った、何かあったら通信で呼ぼう。」

 ハッチを開放しながら月詠の返事を聞く、そのまま戦術機の腕を中継して地面に降り立つ。
 とたんに顔に吹き付けるやわらかな風は優しい草葉の匂いを運んでくる。
 (前こにの世界に居た時は全然気付かなかったのにな……)
 武は走り出しながら考える。
 緑が少なかった世界に居た所為か……感覚が鋭くなった所為か……やけに自然の状態が感覚に引っかかってくる。
 そしてそれと混じりあい、この世界独特の空気のにおいが武には感じられた。

 裏の丘から白陵高校に潜入し事務室を目指す。3年振りだというのにちゃんと場所を覚えていて、何故かそれが少し嬉しかった。
 鍵や警備システム等は簡単に外していく、今の武にとってそれ位は朝飯前だ。
 事務室に潜入し職員名簿を探し出してから電話番号を検索する。

 「えーーと、あったあった。良かったーまだ在籍してて。」
 職員名簿から夕呼先生の名前を見つけ出す。3年も経っているので既に在籍していない可能性もあったがどうやら大丈夫だったらしい。

 「よしよし、それじゃ早速。」

 事務室の電話を借りて夕呼先生の家に電話を掛ける。非常識な時間だがこの際緊急事態だし……。
 そもそも、武の言う荒唐無稽な出来事を話すのに夕呼先生がいた方が絶対有効だ。あの人は世界が違っても似た様な事をやっているお人だし。
 御剣に連絡出来そうな人も夕呼先生しか思い浮かばない……、まりもちゃんじゃ何か色々大変な事になりそうだし……。
 〈トゥルルルルルル、トゥルルルルルル……〉
 随分長くのコールの後に……。




香月邸



 〈トゥルルルルルル、トゥルルルルルル〉

 「うるさい……。」

 誰だこの非常識な時間に電話なんか掛けてくるヤツは……。
 先程新しい論文を一纏めにして私はベッドに入ったばかり。
 それを狙ったかのようなコール音、ハッキリ言ってウザイわ……。
 〈トゥルルルルルル、トゥルルルルルル〉
 しかし待てども待てども鳴り止まぬコール音に流石の夕呼も折れた。

 「あーーハイハイ、出ればいいんでしょ出れば。」

 半場自棄気味に怒りを振り撒きながら受話器を取る。
 取った勢いそのままに受話器に向かって声を張り上げる。

 『ちょっと! こんな時間に誰よ!』
 『…………』
 暫らく無言、不審に思っていると……。
 『よかった、通じた。』
 何処かで聞き覚えのある声……。
 『夕呼先生! 俺です白銀武です。』
 そう白銀……って!!!
 『白銀っ! あんた白銀武!!』
 『はい、間違いなく本人ですよ。良かった~。』
 その声に思わず切れる、「良かった」ですって。
 『何が「良かった」よ! 3年間も何やっていたのお前!』
 『ああいや……今の良かったはそう言う意味じゃなくて。』
 『どうもこうも無いわ、説明しなさい今すぐ!!』
 『説明はしますが……、その前に頼みがあるんです。』
 『頼み~~。』
 『時間が無いんで、お願いします。説明はその後で幾らでも。』
 『……まあいいわ、後でキッチリ説明してもらうわよ。それで頼みって?』
 『ええと……。冥夜か月詠さんに連絡付きます?』
 『御剣と? 付くけど……。』
 『じゃあ今から言う事を伝えてくれますか……』




御剣財閥


 (ハア……)
 今日も1日が終わりました。
 (冥夜様ももう直ぐ大学をご卒業あそばされる、そうなりましたら……)
 冥夜は武が失踪してから、あらゆる手段を使用して身柄を捜索したが結局御剣の力を持ってしても見つけ出す事は出来なかった。
 随分と塞ぎこんだ冥夜を心配した祖父は結婚を先延ばしにして大学卒業まで待つ事にした。
 冥夜は結局そのまま、同じ様に塞ぎこんでいた純夏と同じ大学に進み今を過ごしている。
 しかし大学を卒業すれば強制的に結婚ということになるだろう。

 (武様……。貴方様は今何処に御出でになるのでしょうか。)
 その時侍従の1人が月詠に電話機を差し出す。

 「月詠様、香月夕呼というお方からお電話が入っています。」
 「香月教諭から……どのようなご用件で御座いましょうか?」
 白銀武の関係者故に定期的に連絡を取るが、それ以外に余り接点は無いのだが……。
 不思議に思いながらも受話器を取る。

 『はい、御代わりいたしました。月詠で御座いますが。』
 『…………』
 『…………! 誠で御座いましょうか!!』
 『はい………』
 『はい……承知いたしました、では直ちに手配いたします………』
 『…………』
 『他のお方も……承知いたしました、では……』

 暫らく話をすると月詠は急に顔色を変え真剣な表情で話を続け始めた。
 そんな月詠を周囲の侍従は何か重大なことが起こったのかと、やや不安げに見詰めていた。
 やがて電話を切った月詠は大声で周りの侍従達に命令を発する。

 「誰か! 冥夜様を起こしあそばされよ、大至急に!!! それと大型のトレーラーと防水シートを大至急準備せよ、急げ!」

 その命令を受けた侍従達は流石に御剣の一流侍従と言えばいいのか、すぐさまに行動を開始した。
 それを当然の事と月詠は早速夕呼に伝えられた事を手配し始める。

 (情報を漏らさない信用の置ける人達……。これは御剣ではなく冥夜様直属の月詠の私兵を動員いたしましょう。)
 (そしてトレーラーで運搬いたさねばならない大型の物を完全に隠匿できる場所……、御剣も把握していない所となりますと……。仕方がありません、急遽工場か倉庫を秘密裏に買収いたしましょう。)

 伝えられた内容は御剣本家にも内容を明かさないように……との事であった。
 それらの条件を整えるために月詠は迅速に奔走を始めた。




白陵柊学園


 連絡後……約40分が経過した、武は念のため自機の元へ一旦戻り足元で待機している、月詠は周囲を観察しながらレーダーを見ていた。

 「武の言った通りここは平和な世界のようだな。」
 周囲を観察していた月詠が感心したように武に話し掛ける。
 「戦争・貧困・犯罪・汚染……この世界も色々問題はありますけどね。それでも確かに日本は平和な国ですよ、今考えれば俺は確かにこの国が好きでした。……離れてからしかその大切さを実感する事が出来ませんでしたけど。」

 ここに居た時は毎日が普通に過ぎて平凡な日々を送っていた。冥夜が転校して来てからは日常とは掛け離れてきたが……それでもこの日々が続いて行くと信じていた。
 しかし向こうの……日常が崩壊した世界へ行って始めて、こちらの世界で味わっていた安全な日常の大切さが分かった。

 「日本に将軍が存在あそばせず軍隊も無い、正に違う世界か……。」
 「でも極近い世界だと聞いています、BETAがいなければ恐らく同じ様な平和な世界になっていたんじゃないと思いますよ?」

 「そうか……。ん……?」

 月詠が何かに気付いたようだ。話を中断してレーダーを注視する。

 「武、動体反応が3つこちらに接近してくる、恐らくそなたの言っていた者達であろう。」
 「分かった、出迎えに行って来る。真那はさっきの様に此処で待機しててくれ。」
 その言葉を残して武は向かってくる面々を出迎えに行くのだった。




白陵柊学園正門前


 白陵柊学園の正門前に2台の超大型特殊トレーラーと1台の長大なリムジンが到着した、そのリムジンより降り立つ面々。

 「ここで武が待っているのであろうか?」
 「香月教諭のおっしゃった事が真実でありますれば。」
 「私じゃなくて電話して来た白銀。まあ声は本人に間違いはなかったわよ……多分。」
 「多分とは心もとない……ですが背に腹は代えられませぬ。」
 「月詠の言う通りだ、私はどんなに些細な情報であろうともそれが武に関わる事ならば徹底的に調べて見たい。」

 降り立ったのは冥夜・月詠・夕呼の3人だった。
 夕呼から電話を受けた後月詠はまず特殊大型トレーラーの準備を指示し冥夜が起きてくるまでの20分間で白陵近くの工場の買収を行なった。
 その工場の改修と白銀に関わる者の収集を神代・巴・戎の3人と他数名に指示し、起きてきた冥夜に事情を説明して部下の運転するリムジンでトレーラーを引き連れ出発。途中で夕呼を拾ってから白陵柊学園に向かったのであった。


 (武……武……そなたは本当に……。)

 どれ程探しても発見する事は叶わなかった武、その武が連絡をしてきたというのだ。冥夜の心の中は月詠からその報告を受けた時より逸る気持ちで溢れそうであった。

 その3人に近付く人影……
 武は向こうから見えない所で一旦止まり3人を観察した。

 (冥夜はやっぱり綺麗になっているよな~、っても向こうでも見ていたし……。月詠さんは……確かこっちの月詠さんの方が年上なんだよなぁ、夕呼先生共々全然変わってねぇし。)

 冥夜はやはり綺麗に美しく成長していた、向こうの冥夜の様に女の色香は無いがそれでも極上と言っていいほどの美女であった。
 こちらの世界の月詠は向こうの世界の月詠より年上のはずだが依然と余り……というか外見的には全然変わりが無い。夕呼もそれは同じであった。
 それらを確認した武は歩を進める。


 「よっ! 3人とも久しぶり。」

 そして3人の前に件の人物、白銀武は本当に3年振りなのかと思える程気楽な挨拶をしながら姿を現した。
 月詠と夕呼はその挨拶を聞き、目線を動かし姿を認めた。そして何かを言おうとしたがそれよりも……

 「ばかばかばかっ! 武!! そなたはなぜ突然に居なくなったのだ、なぜ私に黙って姿を消した!! 私が……私がこの3年間どんな気持ちで過ごしたか、どんなにそなたを想い心砕いたか……。 私だけではない純夏も、珠瀬も、榊も、彩峰も、鎧衣も、そして月詠・香月教諭・神宮司教諭も……みんな、みんなそなたの事を案じておったのだぞ!!!」

 武の姿を声を一時も忘れた事の無かった冥夜は、それが……その姿が成長していても……白銀武本人だと解った。
 それまでの、3年間溜まりに溜まった思いの丈をぶつける様に武の元に飛び込んだ冥夜、武の胸の中で両手で胸板を叩きながら嗚咽混じりの叫びを上げる。
 武はそれを優しく包み込みされるがままになっていた、夕呼と月詠も冥夜の気が済むまで待っているつもりのようだった。

 「ごめんな冥夜、本当に御免。俺も消えたくて消えたわけじゃないんだけどな……、心配させた事は事実だしな……。」

 武はそんな冥夜に優しく声を掛ける。
 転移した事は偶然だった、こちらの世界に連絡手段が無かった事も事実であった。それでも冥夜達を心配させていた事には心が痛んだ、突然に居なくなった自分を今でもこんなに心配してくれているとは。

 (……本当に御免。でも……俺は……)


 その後一通りの激情を叩き終えた冥夜はその温もりを惜しむように離れる、そして改めて武の姿を注視した。

 「武……そなたは随分と逞しくなったな。いや……それ以前にその奇妙な格好は何だ? そなた一体今まで何処におったのだ?」

 成長した分を差し引いてもあの頃より格段に逞しくなった体、そして奇妙な格好。今まで発見できなかった事も相まってそれは大きな疑問であった。

 「それは私も是非聞きたいわね白銀。3年間も行方不明になって、突然に電話してきて来てこんな夜中に私を叩き起こして。納得の行いく説明をしてくれるんでしょうねモチロン。」
 「3年間も冥夜様の心苦しめたその所業、いくら武様といえど万死に値します。納得のいく答えであらせなければ不肖この月詠……それなりの覚悟がございます。」

 3人……特に月詠と夕呼の迫力に武は戦々恐々だった。
 慌てて取り繕うように言葉を述べる。

 「あ……あの、話は後にしてもらっていいかな? とりあえず運んでほしい物もあるし……話は落ち着いてからでもいいだろ?」

 その言葉に冥夜は反論しようとするがすかさず月詠がフォローに回った。
 「そうでございますね。他の皆様方も確保した工場へ集合させるように指示いたしましたので、お話は皆様揃ってからの方が良いでございましょう。冥夜様も香月教諭もそれでよろしいでしょうか?」
 「……そうだな、皆も話を聞きたいであろう、私は良いぞ。」
 「私もいいわよ、ここは寒いし……落ち着いて話せる方がいいわ。」

 月詠のやんわりと提示した妥協案に2人も同意する、そしてそれを聞いていた武は月詠に指示を頼む。

 「それじゃ月詠さん、トレーラーをグラウンドに入れてくれませんか。」
 「承知いたしました。」
 武の頼みに答え、月詠はトレーラーを白陵柊学園のグラウンドに入れる指示を出す。

 「それじゃあ俺達も行きましょう。」

 それに合わせて武もグラウンドへ向かう、その後に3人は続いた。
 グラウンドに到着した3人に目を向け、武は月詠に話し掛けた。

 「あの~月詠さん、秘密厳守の約束の方は大丈夫ですか? 御剣や他の者に知られたら不味いんですけど。」
 「それならば大丈夫です、ここに連れてきたのは冥夜様直属……つまり私の私兵、たとえ御剣本家だろうとも秘密は漏らしません。どうかご安心を。」
 「武、一体何を隠しておるのだ? 御剣にも正体を見せられぬ物なぞ。」
 「まっ……どうせ直ぐに分かるわよ、その為に此処にトレーラーを運び込んだんでしょ。」 



 その夕呼の言葉に苦笑した武は皆の前で通信機で話を始める。

 「話は終わりました。…………ええ、はい……見えていますか? ……そうです。じゃあゆっくりとお願いします。」

 行き成り虚空に向かうように誰かと喋り始めた武に3人は不審な表情を向けるが……。

 武が体の向きを裏手の方に向け手を上げる……。
 3人は揃ってそちらの方を見て……


 そして驚愕した。


 「な……なんだあれは!!!」
 「あれが……?」
 「成る程、これは他に見せられないわね……」

 冥夜はただただ驚愕し……。
 月詠は落ち着きを装いながらも驚愕の表情を浮かべ……。
 夕呼は納得し好奇心をあらわにしながらも驚愕の色を隠せないでいた……。

 そこに出現したのは2機の鬼神。
 この世界に存在しないはずの技術で作られたもの。
 日の本の国に伝わる神の名を模した名がつけられた戦術機。
 夜の闇の中、蛍光の光に映える漆黒と真紅の武御雷が威風堂々と其処に存在していた。







 武のUL月詠への口調は普通の言葉と尊敬語が混じっています。
 これはクセというか武が月詠を信頼してるのと、恋人として接しているのが混じっているからです。

 今回これを書く前にEX2プレイして口調と雰囲気の勉強したが……。
 改めてやってみるとオルタと全然違います。
 冥夜と月詠は声と喋り方が全然違います、別人クラスに違います。
 EX世界では冥夜は皇女口調で月詠は臣下口調なんですよね。
 オルタだと……、ヤバイこんがらがってくる。
 EX冥夜・EX月詠・AL月詠の書き分けが大変、でも悠陽とAL冥夜がいないだけましか……。
 
 この世界は「元の」世界で武があれから居なくなった世界です。

 実は第2部の中~終盤の何処かで武と月詠がG弾の爆発の余波に巻き込まれもう1回別の並行世界に転移してしまうという設定があります。
 そこは「白銀武」が存在する別の並行世界(EX本編の世界)で、何と時空振動の余波で門(ゲート)が開いたままで、武と月詠だけでなくBETAまで転移してしまい御剣の後押しを経て武と月詠がそれらを倒していき、それを見たEX白銀武が成長していく……
 という相変わらずのトンでも設定です。

 でも今、この転移する世界をファイナルエピソード(FEX)の世界かそれと同じ並行世界にしようと画策中……。
 FEX世界の場合はBETAを見て記憶を取り戻した武が……とかやれるし。
 FEXソックリ世界なら武を落とした月詠に冥夜と悠陽が詰め寄って「白銀陥落の秘訣」とか聞いたり……。
 まあ書くとしてもまだ先ですがね……、ていうかそこまで書けるか?
 それ以前にこんな設定で書いていいのか?

 それでは次話で。 



[1122] Re[17]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第59話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/04 11:36
注)この話よりEXとULの月詠を分ける為、ULの方を「真那」、EXの方を「月詠」で統一します。

2005年2月11日……白陵柊学園




 グラウンドから入ってきた(真那の知る常識的なリムジンよりやや)長大なリムジンと2つの超大型トレーラー、そして白銀武と3人の人影。
 先程通信機越しに冥夜の叫びを聞いた真那。その叫びは白銀武の存在がこの世界の冥夜にとって・他の者にとってどんなに大切な存在であるかを垣間見させた。
 真那はその事を脳裏に留めながら武御雷の外部カメラを望遠モードに持っていきその3人の顔を注視した。


 (冥夜様……、やはり武の言っていた通り似通っている。しかし……。)

 武からこの世界では悠陽殿下に当る人は既に故人となっており、存在するのは冥夜だけと聞いていた、そしてその冥夜が真那がいた世界の冥夜とそっくりだと。
 確かに似通っていた、顔の作りはそっくりであり真那が知る冥夜と見た目には相違は無い、しかし……。

 (やはり別人だ、育った環境が違えばこうも違うものなのか……。)
 自分の世界の冥夜を良く知る真那にとって、今モニターに映るこちらの世界の冥夜は全く違う人物、同じ心と顔を持った別人だと認識できていた。
 勿論根本的な部分は変わらないだろう。しかし、顔付き・体付き・動作、全てが自分の知る冥夜と違っていた。

 そして……

 (香月副指令、副指令との接触はほとんど有りはしなかったが……。)
 香月副指令とはほとんど接点が無かった、しかしそれでもモニターに映る夕呼とは別人だと認識できた。

 (目だ……、あの全てを見通すような鋭い眼光が無い。)
 香月副指令は好奇心を湛えた瞳をもしていたが、その大半は全てを見通すような鋭い眼光……それは未来を見詰める目線、未来を勝ち取るために戦う戦士の目であった。
 だが今自分が見ている夕呼の瞳の奥には好奇心の塊しか見えない、それは純粋なる科学者……知識を探求する者の目であった。

 最後に……

 (あれが……この世界の「私」か。)
 「月詠真那」。自分との同一存在、違う世界の自分。
 自分に瓜二つな彼女の事はよく解らなかった。自分と違う存在だという事は他の2人と同じく実感できた、しかしその目に宿る光が……そのあり方がよく解らない。
 真那は暫らく、この世界の「月詠」の顔を凝視していたがやがて目線を外した。

 (考えても解らんか……。)
 見ただけでは解らない、とりあえず自分と違う存在だと解っていればそれでいい……一応そう納得した。



 〈ピピピピ〉
 少しの時間待機してるとやがて通信が入る。

 『話は終わりました。』
 「そうか、もういいのか?」
 『ええ』
 「では武御雷を動かすのだな?」
 『はい、頼みます。』
 「どうすればよいのだ?」
 『ここにあるトレーラーが見えていますか?』
 「ああ、確認できている。それに接近すればいいのだな。」
 『そうです。じゃあゆっくりとお願いします。』

 至極簡単なやり取りの後武の通信が切れる、真那は遠隔操作で武の機体を、そして自分の機体の動力をアクティブに持って行きゆっくりと武御雷を立ち上がらせる。
 そしてそのまま武達の方へ向かい静かに歩を進めだした。




白陵柊学園グラウンド


 冥夜・月詠・夕呼の3人は驚愕して「それ」を凝視していた。3者それぞれに驚愕とは違う感情……疑問と疑惑と好奇心……を瞳に宿しながらゆっくりとこちらに向かってくる「それ」を目で追っている、そんな3人を武は苦笑して見ていた。

 (そりゃ~ビックリするよな~。行き成りこんな機械が現れたら。)
 こちらの世界にこのサイズの2足歩行機械は存在しない……少なくとも武が居なくなった時までは存在していなかった。
 ましてや武御雷の威風堂々とした様相にはその驚愕の度合いも一押しだろう。
 驚愕する3人を代表するように冥夜がその疑問の口火を切った。

 「武、これは……一体なんなのだ?」
 その質問に武は「それ」の方を軽く見上げて言った。
 「戦術機」
 「戦術機?」
 「そう、戦術歩行戦闘機。名を武御雷」

 「たけ……みかづち……。」

 冥夜は武と同じ様に近付いてくる2機の武御雷を見上げる。
 「どうやって動かしているのよ、あれは?」
 更に横から夕呼が質問してくる。
 「俺の仲間が中で操縦していて、もう1機を遠隔操作してるんです。」
 「仲間……でございますか?」
 「武の仲間……、ではやはりそなたは何処かの組織に……。」

 月詠と冥夜がその言葉に反応する、冥夜は口の中で武に聞こえない様に言葉を呟く。
 武が居なくなった時に可能性として高かった推論、何処かの秘密組織の隠蔽という事が考えに浮かんだためだ。
 そんな2人に構わず武と夕呼の話は続いていく。

 「やっぱりもう1人誰か居るのね。」
 「夕呼先生にはお見通しですか。」
 「少し考えれば解る事よ。2機の見知らぬ2足歩行機械、そして此処に1人居る白銀。」
 「やっぱり夕呼先生に最初に連絡を取って正解でした。」
 「私はいい迷惑だったわよ……まあ、面白くなってきたから帳消しにしてあげるわ。後でキッチリ説明してもらうわよ。」

 その時夕呼が武に見せた表情は、人間と魂の契約を取り結んだ時の悪魔の微笑みと言われても納得できそうなほどに怖い笑みであった。
 その笑みに脂汗を滲ませながらも武は月詠に対して次のお願いをする。

 「それじゃ月詠さん、これをトレーラーに乗せますから固定して外から解らない様に防水シートを掛けてくれませんか。」
 「それは……しかし……。」
 「良い月詠、言う通りにせよ。」
 「しかし冥夜様!」
 「例え3年経とうとも武は武、目を見れば私にはそれが解る。武が嘘をつく事や人に危害を加える事などありはせぬ。」

 事情は後で説明してくれると言った、その言葉に嘘偽りは無いと冥夜は確信していた、そして武から危険が感じられない事も。何故か……? それは冥夜にもハッキリとは解らなかった、しかし冥夜は今の武の本質が昔と変わっていないことを直感的に理解していた。

 「ですが……。は……冥夜様の御心のままに。」
 逡巡していた月詠であったが敬愛する冥夜の頼みだ、断れよう筈もない。冥夜へ危険が降りかかる可能性も否定できないがその時は……自らの命に代えても冥夜様を御守りいたしましょう……と、そう決意した。
 「では武様、あの戦術機と言う機械をトレーラーに載せてくださいませ。」
 「解った。すまないな、冥夜、月詠さん。」
 武は軽く手を上げて2人に礼を言うと、また虚空に向かうように誰かと話を始める。



 「それじゃあトレーラーに載せて下さい、……ええ、膝立ちで。ワイヤーで固定してもらいますが重心移動をオートに設定しておいて置いてください。それじゃあお願いします。」
 その武の言葉が終わると戦術機……真紅の武御雷はトレーラーに慎重に足を載せていく。
 ゆっくりと……重量の掛け方を調整して、屈んだ姿勢のまま片方の膝をトレーラーに載せる。次いでもう片方の足をゆっくりと載せそのまま手を膝横に付いた前傾姿勢の膝たちの状態でトレーラーに載った。
 次いでもう1機の漆黒の武御雷を同じ様な要領でトレーラーに積載して行く。

 武を含めた4人はそれを好奇心と不安を含めた目でジッと見詰めていた。

 2機の積載が終了すると月詠は何時の間にかトレーラーの周囲に待機していた自らの部下である侍従達に命令を下す。
 命令を受けた侍従たちは、積載された武御雷を固定して防水シートを掛け更にワイヤーで固定していく、その手際は武から見て恐ろしく的確で迅速だった。さすが月詠さん直属侍従、どんな事でも完璧だ……と感心してしまった。
 ものの5分足らずで固定が完了してしまった、正にプロ級の業だ、向こうの世界の熟練戦術機整備員の腕前に匹敵する……一体どんな侍従教育をされているんだろうか? 激しく疑問な武であった。

 「固定は完了いたしました。」
 「うむ、では参ろうぞ。」
 「そういえば何処に運ぶんだ?」
 「町外れの工場を買い上げました、私的な資金を使用して現金買収しておりますので足が付く心配はございませぬ、ご安心を。」
 「いや……。私的な資金……買い上げ……? 久々だけど相変わらずのスケールだな。」

 自分が戦術機を隠匿できる場所を確保してくれるように頼んだのだから有り難かったが……。そのスケールの大きさは3年振りに味わうが相変わらずのようだった。
 「ほらほら! 寒いんだから早くしなさいよ。」
 呆れているというか感心している武に夕呼が急かす。どうやら知的好奇心を揺さぶった興奮が過ぎた事で現実の感覚が押し寄せ、この寒空の下にいるのも限界らしい。
 4人はリムジンへ乗り込む。依然一文字鷹嘴が運転していた超大なリムジン程ではないがそれでも普通のリムジンよりは長かった。
 武は冥夜と向かい合わせに、月詠は冥夜の横、夕呼は武より少し離れて座る。

 全員が座った後計ったようにリムジンがゆっくりと発進する。
 「今更だが武、先程の武御雷とやらに乗っていた仲間というのは一緒に乗らなくて良いのであろうか?」
 リムジンが発射した直後に不意に冥夜が武に質問する。
 「何かあった時の為に待機しているってさ。」
 「何か? あの武御雷とやらが危険に陥る事がそうそう起こりうるのか?」
 「どんな時でも戦士は万が一の事態に備えるべき……それが当たり前だったしなぁ。それにそういう所は堅物だからな……。」

 武は真那の事を思い出して苦笑する、それがやけに嬉しそうに見えて武を見詰める冥夜は何となく面白くなかった。
 「白銀、その奇妙な服はやっぱりパイロットスーツのような物よねぇ。」
 「これですか。ええ、そうですけど……。」
 「ふ~~ん。」

 先程から黙って何かを考えていた夕呼は突然に質問してその答えを聞くとまた思考の内に没頭してしまう。
 きっと今夕呼の頭の中では様々な情報が飛び交っているのだろう。
 (夕呼先生の事だから俺がどうしてたかも大体予想が付いているんじゃないかなぁ。)
 こっちの世界ではまりもに「夕呼は天才」位にしか聞いていなかったが、向こうの世界では夕呼の天才振りが十二分に発揮されていた。
 根幹部分が同じならばこちらの夕呼もやはりまりもの言う様に「天才」なのであろう。

 それきり4人は黙り込んでしまった。

 冥夜は「みんなが集まってから」という手前約束を破る訳にはいかん……と持ち前の高潔さの為話を切り出せなかったし、月詠は冥夜を差し置いて発言はしない。夕呼は思考に没頭しているし武は色々気まずくて自分から話を切り出せない。
 武御雷の中の真那も成り行きは武に任せて、自らはジッと沈黙を守っていた。




町外れの工場



 あれから数分、4人はジッと沈黙を保っていた。冥夜はソワソワし、月詠は油断なく武を注視している、夕呼は時折指で空中に何かを描いていて、武はその沈黙に固まっている。
 重苦しい数分間だった。
 その時月詠が不意に何かに気付いたように顔を上げる。

 「皆様方、到着したようです。」

 連絡も受けなく外も見ないでどうやって知ったのか……武は激しく疑問だったがこの際どうでも良かった。今の一言で重苦しい雰囲気が一気に霧散したからだ。
 そのままリムジンは大きな工場に入っていく、既に中はある程度掃除済みらしい、工場にしては綺麗なものだった。
 月詠の直属侍従が何人いるかは解らないが30分足らずでここまでやるとは……相変わらず底が知れないと思った武であった。
 そのままリムジンが停止したため武はドアを開け周りを見ながら外に降り立つ。



 その瞬間……



 「タケルちゃん!!!」「白銀君!!!」「たけるさん!!!」「白銀……!!」「タケル!!!」「白銀くん!!!」



 懐かしい声が聞こえた。どうやら工場の内観に夢中になっていて反対側への意識が疎かになっていたらしい。 
 その場で反対側に体を向けさせる、月詠さんが気を利かせたのか何時の間にかリムジンは後方に消えていた。

 (純夏・委員長・タマ・彩峰・尊人・まりもちゃん)

 純夏以外は懐かしいとも言えないが、この世界のみんなに会うのは本当に久しぶりだ。
 まりもちゃんは全然変わっていなかった、尊人は少し背が伸びたみたいだが相変わらず女の子と見間違えられそうな顔だ。
 タマも向こうの世界と同じで少し背が伸びてほんの少し女らしくなっている、……がこちらの世界のタマはやはり姿はネコ?
 委員長・彩峰も向こうの世界と変わらない、2人とも年相応に成長して女らしくなっている、委員長が髪を下ろしている以外は向こうの世界と差異はなかった。

 そして純夏は……

 (他の皆はある意味見慣れているけど、純夏は新鮮だよな~こうやって見ると……。) 
 やはり年相応に美しく成長している、冥夜と方向性は違うが間違いなく美人の部類に入るだろう。髪が少し長くなっているがアホ毛は変わっていない、今もピコピコと動いている。

 感動した……確かに純夏にあえた事は嬉しかった。
 向こうの世界に行って暫らくしてから純夏の事を愛しいと思う様になっていた、あの当時はたまらなく純夏に会いたかった。
 でも今は……狂おしいほどの渇望は無く、ただ懐かしいと思った。
 だって自分はもう純夏を求めていないから、もっと大切なものが存在するから……。
 大切な友達……大切な幼馴染……仲の良い人……。

 「よう、久しぶりだなみんな!」

 そんな皆に冥夜達に会った時と同じく、やはり気楽な感じで片手を上げて挨拶をする武。気楽と言うか……本人は湿っぽい挨拶や大仰な挨拶は苦手な為に普通に挨拶しているだけなのだが。

 そんな武に皆は少々唖然とする、そして次の瞬間反応が分かれた。

 委員長は拳を固めブルブルと怒りだし。
 タマは泣きそうな顔になり。
 彩峰は同じ様に片手を上げて挨拶を返してくる。
 尊人は嬉しそうな顔になり。
 まりもは心底ホッとした表情だ。


 そして……


 「た~け~る~ちゃ~ぁぁ~ん~~。」

 純夏は泣きながら怒りに震えるという器用な反応をとっていた。
 武はそんな純夏に危機を覚える。3年経っても、戦士として成長しても、体は純夏の恐怖を覚えていたらしい。

 「こぉ~の~お~お~ば~か~も~の~!」

 腰を捻り回転させ左の拳を引き絞る。
 (こ・これは! まさか!!!)
 そう……あの幻の必殺!!


 「今まで……なにをやっていた~~!!!」


 どりるみるきいふぁんとむ!!!

 武はそれを回避しようと足を動かそうとするが過去の恐怖が肉体を支配し足が動かない……。BETAとの戦いで培った動体視力は迫ってくる左手の軌跡まで読み取れているというのに。
 (くっ……、南無三)
 らしくもなく祈りながら回避は諦め腹筋に力を込める。

 そしてインパクト!!


〈ドンッッ〉
 「あれ???」
 「おお!!?」


 しかしその幻の左は鈍い音を立てて武の腹筋に阻まれた。
 左手を振り抜く前に肉の壁に止められた純夏、彼女は驚愕して武を見上げた。
 驚いていたのは武も同じだったが……。常識的に考えれば実践仕様で鍛えた、成人男性の力を入れた腹筋に女性の一撃が通じるはずもない、この結果は当然だ、ましてや今は衛士強化装備を身に着けている、防御は完璧だ。
 しかし衛士強化装備を通してでも衝撃が伝わるとは……いくら純夏の一撃が規格はずれだからといっても外れすぎだ。(普通の女性じゃ〈ボスッ〉です、まちがっても〈ドンッッ〉なんて重い衝撃音は出ない。)
 武は心底安堵した、何か少しだけ向こうの世界での苦労した出来事に感謝してしまった。南無……。
 そんな事は知らない純夏は悔しそうに唇を引き結び泣きそうな顔で武を見上げて言った。

 「ニセモノ。」
 「なにぃ!!」
 その言葉に思わず昔の様に突っ込む武。
 「タケルちゃんがギャグキャラよろしくお星様にならないなんて……そんなのニセモノだよ!!」
 「お前は一体俺を何だと思っている。」
 〈ズビシィ〉チョップ
 武の軽い一撃……のはずだが、今の武が昔の感覚で「軽く」打てば……
 「あいたっっ。う~~酷い、酷すぎる、久々に会ったっていうのに思いっきり殴るなんてひどすぎるよぉ~~。血も涙もないこのタケルちゃんの所業、最早許すまじ!」
 「え~い、軽い一撃でそんなに騒ぐな! うっとうしい。」
 「軽い! あれが軽いですってぇ!! キィ~~~、この暴力人間、薄情野郎、タケルちゃんのバ~カバ~カ!!」
 「うるさい、このバカ純夏。」
 「バカって言った、今バカって言ったよぉ! バカって言う人は自分がバカなんだからね!!!」
 「黙れこの超弩級バカ! 先にバカバカ言ったのは自分だろうが。」
 「うわ~~ん、酷い……タケルちゃんが酷いよ~~。」


 「「「「「「「「………………」」」」」」」」



 行き成り漫才宜しく言い合いを始めてしまった2人に対して他の8人は最早何も言えずにそれを傍観する事しか出来なかった。

 「この2人本当に3年振りの再会なんだろうか?」……と激しく疑問に思ってしまうのも無理はない。しかし皆何処かで解ってもいた、この2人にとってこのバカみたいな過去日常であったやり取りこそが再会の挨拶なのだと。
 それは間違ってはいなかった。純夏は既に涙で前が見えない程で泣きながら言い合いを続けている、武も武で純夏のバカな言い合いに付き合っている。今の武ならば少しくらい文句を言われたって昔の様に向きになって反論する事は無いはずなのに……。

 そしてその言い合いは暫らく続き、他8人はそれを周囲で呆れたように・微笑ましそうに見詰めていたのであった。






 皆の武の名前の呼び方がカタカナ・平仮名なのは昔のタケル的に呼んでいるからです。
 冥夜・月詠・夕呼の3人が武と呼ぶのは武の変化に気付いて対応しているからです。
 間違いではありませんのであしからず。
 キャラのセリフというのは難しい……。執筆速度が2分の1程度に落ち込みます。
 実はこの辺の内容は深く考えていません、設定上は幾つかあるのですがほとんどノリです。
 おかしかったらご勘弁の程を……余り酷いようなら修正しますが。  



[1122] Re[18]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第60話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/04 12:34
2005年2月11日……町外れの工場




武御雷コクピット


 「武の幼馴染……。鑑純夏か……。」

 武御雷の中で待機していた真那は武と皆のやり取りを通信機越しに聞いていた。
 真那にとって聞き覚えのある声の中、1つだけ聞いた事の無い声。
 やがて武と言い合いを始めたその声に思い当たる人物は1人しか居なかった。
 「鑑純夏」向こうの世界では「白銀武」と共に死んでいる少女、そしてこちらの世界での武の幼馴染。
 彼女とのやり取りでの武の声は向こうの世界では聞いた事の無い程に明るく楽しそうな声であった。

 〈ズキンッッ〉
 何故か解らなかったが胸が痛かった。焦燥と不安……寂しさと悲しみ……、あの2人の声を聞いているとそれらの感情が胸を苛んでくる。

 (くっ……、なんだこれは。)
 胸を押さえる。苦しい……切ない……

 真那の脳裏に昔部下に聞いた話が甦る、あの頃は気にもしなかった話し。
 (自分の恋人が他の女と仲良くしているとこう……切なくて胸が痛くなってくるんですよ。)
 (ば~か、そんなの嘘に決まってるだろ。単なる比喩だよ、比喩表現。)
 (それは先輩が本気の恋愛をした事が無いからですよ、本当に好きなら嫉妬に身が焦がれますよ、狂ったようになっちゃいますよ。)
 (ふ~~ん、そんなもんかねぇ。)
 (身を焦がすっていいますけど、本当に胸を中心に体中が痺れた様になるんですよ~。)

 …………あの当時は自分もそんな話は信じていなかった。
 しかし……
 (よもやこの身で味わおう事になろうとは……。)
 胸が痛い、苦しい、体が痺れたように火照っている……正に話しの通りではないか。
 笑ってしまう、己が恋と言う感情にその身を焦がされようとは。

 (これが嫉妬という感情……。武……)

 通信機からはさっきの場面からは一転して武とその仲間達を交えた談笑が聞こえてくる……。そしてやはり1番多くに鑑純夏の声が聞こえてくる。
 そしてそこには、世界が違うとはいえ、本人ではないとはいえ冥夜と慧まで居る。
 (容姿が似通っているだけでこの有様、あのお2人が帰還した時私は……)
 その先は考えたくは無かった、少なくとも今はまだ……。真那はその暗い感情を己の胸の内の奥深くへ封印した。
 だが……もう一方の感情の隆起は抑えられなかった。真那は生涯で初めて己の欲望に負けた……この切ない想いをそのまま抑え付けていれば気が狂ってしまいそうだったから…。

 『武!!!』

 通信機へ叫ぶ。しかしその次の瞬間真那はハッとしたように我に返る。
 (私は……、何をやっている……自らの欲望に負けて武の友との再会に水を差そうとは……。)
 そして真那は武との会話の最中も自らの心の葛藤を抑え、平静を保とうとしていた。




工場内



 純夏との漫才の様な再会劇が終了した後、武達は集まって再会の喜びに沸きかえっていた。
 純夏がそのまま怒涛の勢いで話し始めてしまったので周りの皆もそれに便乗した。とりあえず武に関する事情は後回しになったようだ。
 あの頃のと変わらないノリ、タマは元気だし、尊人は人の話を聞かないで突っ走るし、純夏は暴走する、冥夜はわが道を行き、委員長はそれらを纏めようとする、そしてそれを彩峰がからかって結局委員長もバカ騒ぎに巻き込まれる、そんな俺達を見てまりもちゃんが諦めたように号泣する。


 昔の白陵柊の教室で毎日の様に繰り広げられていたバカ騒ぎ。
 武は一時昔の自分に立ち戻っていた。
 その時の皆の話しによると……

 純夏・冥夜・委員長・タマの4人はそのまま白陵大へ進学したらしい。
 純夏はそのまま進学、特にやる事も見つかっていないそうだ。
 冥夜は祖父から結婚を強要されていたが大学卒業まで延ばされたそうだ、その為純夏と同じ白陵大に通う事にしたらしい。
 タマは相変わらず弓道をやっているみたいだ、なんでも国体だか何だかの凄い大会にも出る予定だとか……、集団視線あがり性は克服できたのだろうか?
 委員長は弁護士を目指しているそうだ、正にぴったりだ。
 彩峰は昔は看護婦を目指していたそうだが今は医者を目指しているらしい、近くの医大に通っているんだとか……ビックリした。1番ビックリしたのは委員長だそうで、当時そのまま彩峰を連れて医者に駆け込もうとしたらしい。その後、彩峰の勉強の面倒を見て新たな友情が芽生えたとか芽生えなかったとか……。
 尊人は一応白陵大に在籍しているが何処かに出かけることが多いんだと。
 そしてまりもちゃんと夕呼先生は相変わらず白陵柊で先生を続けているみたいだ。

 とりあえずみんなが武の居なくなった後の事を話していた。その中で1番話したのは純夏だった、武が居なかった3年間を埋めるようとするような怒涛の勢いで話を続ける、他の者も純夏に遠慮したのか必要な事だけを話した後は所々口を挟む程度になっていった。
 武が居なくなった直後の事に始まって大学試験の事に入学後の事、そして冥夜がやらかした超弩級マジボケの事やタマの弓道の試合、新しい友達や…………とにかく話しは尽きる事は無かった。
 そんな話しの途中で……

 『武!!!』

 そんな悲痛そうな声が聞こえた。
 武自身は忘れていた訳では無かったがやはりみんなとの再会に浮かれていたのか……。
 「ちょっと待ってくれ!」
 話を続けていた純夏と皆に慌てて言う。
 「どうしたのタケルちゃん?」
 「ああ、ちょっと呼ばれてるんでね。」
 「呼ばれる……誰に?」
 そんな純夏を無視して虚空に向かうように通信機で話をする。

 「どうしました?」
 『何でもない……』
 「何でも無いって……、それじゃどうしてあんな声を出したんですか?」
 「ちょっと白銀君?」
 そんな武を不審がって問い詰める委員長。ちなみに相手からの声は骨振動システムで直接内耳に送られるので他人には聞こえない。  
 『そなたは気にせず話を続けよ、私は此処で待とうぞ。』
 「そんな訳には行きませんって。……まあそろそろいいかな?」
 後ろでは冥夜が皆に武の仲間の事を説明している。
 それを聞きながらも武は月詠の方を見ると言った。

 「月詠さん、すいませんが固定を外してくれませんか。」
 「解りました。〈パンッパンッ〉」
 武の頼みに月詠が頷き手を打ち鳴らす。すると何処からか湧いて出てきた侍従達は、固定した時と同じ様に素早く拘束を外していく。
 他の皆はその大型トレーラーと荷台の物が気になっていたのか武と同じ様にその作業を見守っていた。

 「今固定をはずしています、もう少し待っていてください。」
 『……了解した。武……』
 「なんですか?」
 『いや……、なんでもない。』
 「……そうですか。解りました、では。」

 先程の悲痛な声、そして逡巡、どちらも真那にとっては珍しい態度だ、武は心配したが本人が何でも無いと言っている以上今はそれ以上は追及できない、武はとりあえずそれらを思考の端に追いやり固定の解除作業を見守った。
 そして拘束が解かれ「それ」を覆っていた防水シートが取り払われる。


 「「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」


 6人全員が驚愕に止まった。
 ……1秒……2秒……3秒……4秒目で1番最初に復活したのは尊人だった。やはり顔は女顔だろうとも心は男なんだろう、興味津々の様子だ。
 「うわぁ~~、ロボットだ~~。スゴイ! 凄いよ!!」
 そして次に彩峰とタマ。彩峰は余り深く考えないで現実を受け入れ、タマは驚愕するだけで余計な事を考えていなかった。
 「……………………おお!!!」
 「フニャ~~~~~~~!!!」
 そして純夏は難しく考える事を丸投げした。
 「タケルゃんタケルちゃん! なになになにアレ!! ねぇアレな〈ズビシッ!〉」
 詰め寄ってきた純夏に一撃。
 「ウザイ。」
 「うううう……、この……この……「「なによあれはーーーーーー!!!」」
 約30秒……常識人な委員長とまりもちゃんには衝撃が大きかったらしい、純夏の憤怒を掻き消しての大絶叫であった。
 「白銀君! 説明してくれるんでしょうね!!?」
 「あぅあぅあぅ…………」
 訂正、まりもちゃんには声が出なくなる程にインパクトありまくりだったようだ。

 皆が武をねめつけている、その眼光は「さあ! きりきりと説明しろ!!」と言葉に出さなくても良い位明確に物語っていた。
 代表した訳ではないだろうが夕呼が一歩皆の前に出て言った。

 「じゃあそろそろ説明してもらおうかしら白銀。」
 その後ろでは皆が「ウンウン」と同意するように頷いている。
 武はそんな夕呼に苦笑して言葉を放つ。
 「夕呼先生の事だからもう大体解ってるんじゃないですか?」
 「予想は付くわ、全ての事情を集約させれば導き出される答えは極少数。」

 「「「「「「「え!!!」」」」」」」

 夕呼のその言葉に月詠以外の皆が驚愕して夕呼の方を見る。
 「でも私は確信が欲しいのよ、教えてくれるんでしょ?」
 夕呼はこの出来事を楽しむような瞳でジッと武を見詰める。他の皆も武を一心に見詰めている、その目線は「速く教えろ!」……と言わんばかりだ。

 「解りましたよ。」
 そう嘆息して通信を繋いだ。
 「すいません、聞いてましたか?」
 『ああ、全て聞いていた。』
 (さっきの変調は直ったのかな?)
 「大丈夫ですか。」
 『何がだ?』
 「さっき少し変だったじゃ『なんでもない!』
 「でも……」
 『大事無い、そなたの心を煩わせるほどではない。』
 「そうですか……。じゃあ……降りてきてもらっていいですか?」
 『良いのか?』
 「いいですよ、どうせ何時かは降りてこなきゃならないし。」
 『…………解った、トレーラーを降りてからハッチを開ける。』

 そして武は通信機から意識を外すと後ろの皆に声を掛ける。
 「赤い方が動くけどみんな動くなよ。」
 その声に皆が頷くか頷かないかの瞬間に真紅の武御雷が動き出す。
 ゆっくりと……一旦機体を軽く持ち上げ伸ばした方の足をトレーラーの外に置く、次いで膝を付いていた方の足を移動させトレーラーの横……つまり武達の目の前に機体を膝立ちのまま移動させた。
 皆は目の前に膝立ちで佇む真紅の機体を、驚愕を主体とした各人様々な感情が入り混じった表情で見上げる。
 そして皆の注視を受ける中、その機体のコックピットハッチが動く。

 「さあ……いよいよご対面ってわけね。」
 「「「「「「「「…………」」」」」」」

 貰ったプレゼントを開ける時の、好奇心旺盛な子供の様な夕呼の声、残り8人は無言だ。
 開ききるコックピットハッチ。
 そして中から出てきたのは……。
 「やっぱりね……思ったとおりだわ。」


 「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」


 その人物を見て納得した夕呼。そして先程の武御雷を見たときよりも、更に驚愕の度合いが高く硬直する面々。

 「月詠!!!」
 冥夜は武御雷の上に居る真那と月詠を驚愕の表情で交互に見比べる。その月詠も驚きで真那を凝視して固まっている。
 真那は衛士強化装備で髪を下ろしていたが、やはり顔の造形は此方の世界の月詠と瓜二つであった。
 両者の視線が交差する。
 しかし一度中から見ていて、予備知識というか心の整理がついていた真那は直ぐに目線を外すと膝立ち状態の真紅の武御雷より降り立った。
 そして武の方に向かって歩いてくる。他のみんなは幽霊でも見るような表情で真那を見て、月詠と交互に見比べている。

 (やっぱりビックリするよなぁ。俺も向こうの冥夜達を見た時はビックリしたけど、今回は同じ人物が2人揃ってるんだもんなぁ)
 そんなみんなを苦笑して見詰めながら武は近付いて来た真那に声を掛ける。

 「紹介しますか?」
 「いや、構わぬ。中で聞いていたので大体解る……」
 武の気安い質問に否定の意を示しながらも驚愕で未だに立ち直れない面々を眺める、そしてある1人の前でその目線が止まった。武もそれを見て納得したように言う。

 「え~と、彼女が俺の幼馴染の鑑純夏です。」
 その言葉に純夏の肩がビクンと震える。純夏はアワアワして武と真那と月詠を順に見詰めた。
 「ああ、声は聞いていた。成る程、彼女が……。」
 その純夏を見る真那の表情は色々と複雑そうだった、抑えつけたとはいえ先程の己の葛藤がまだ心の中で渦巻いていたから。
 そんな心の弱さを埋める為か真那は心持ち武の方に寄り添った。

 「同一存在の証明……因果量子の発生……世界分岐の……」
 皆はまだ再起動しない、夕呼は1人でブツブツ言っているし……。
 武がそんな皆に声を掛けようとしたその時……。

 「「「真那様」」」
 懐かしき3バカの声が響いたのだった。

 




 何か全然進まない~~。
 皆の進路は私の創作です。
 では次の話で。

 ちなみに胸が痛くなる、体が痺れたような感じになる……というの本当です。医学的にも証明されています。私も何人かに体験を聞いたことがあります。

追伸)第4世代戦術機に設定を追加しておきました。
設定だけ見ると何かメチャクチャ強そうだけど……結局は数の暴力の方が強いんだよなぁ。



[1122] Re[19]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第61話 EX編へ
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/08 14:08
2005年2月11日……町外れの工場




 「「「真那様」」」

 懐かしき3バカの声が響く、どうやら皆が武御雷と真那に集中しているうちにすぐ側まで近付いて来たようだった。
 そして3人は何時もの通り月詠さんに……アレ?

 「あれ、真那様……どうしたんですかそんな奇天烈な格好で?」
 「そうですね~~、それに~後ろのロボットもです~~。」
 「なんかのコスプレですかーー。」

 そして行き成り3人で半分しゃがんで円陣を組み話しだす。本人達はヒソヒソ喋っているつもりらしいがハッキリ言って丸聞こえだ。
 「しかもなんか何時もより若い?」
 「若作りですのね~~。」

 〈ブチッッ〉

 (やばい……後ろですごい音が……。)
 その時月詠の方を向いて円陣を組んでいた神代が本物……こちらの世界の月詠に気付いた。
 「まったく、真那様もお年を考えないと。」
 「四捨五入しないでも~すぐに30歳ですの~~」

 〈ブチブチッッッ〉

 後ろでは色々とヤバイ状態に成りつつあり、それに気付いてる神代は必死で2人を止めようとしているが、慌てているのか声が出ていない。
 「これだから未だに処女なんだよなぁ。」
 「というより~~、出会いが~無いんです~~。」

 〈ブチブチブチッッッッ〉

 もう後ろはデンジャーでダンガーになっています。神代は2人を説得するのを放棄し1人逃亡に入りました。
 「やら二十(はた)ならぬ……やら三十路っ?」
 「いかず後家ですの~~。」

 〈プッッチ~~~~~ン〉

 あ……臨界点突破。
 「巴……戎……。普段貴方達が私をどう思っているかがよく解りました。」
 「「あ゛……真那様が2人???」」
 2人はやっと本物の月詠に気付いたようだ、そして本能的に危機を察したのか後退った。
 「やだなぁ真那様聞こえていたんですかぁ。」
 「今のは~もちろん冗談ですよ~~。」
 「そうそう「お黙りなさい!!!」」「あ~ん、なんで私までー。」
 物凄い一括に2人は直立不動となる、そして何時の間にか神代も捕獲されていた。ああ……いとあはれなり……。

 そして月詠さんの大説教が始まった。
 女性は年齢の事を言われると切れるというが……余程腹に据えかねたのだろう、封印せしヤンキー口調が所々で出てしまっている。
 ふと横を見ると真那が唖然としてそれを見ていた。
 「せ……世界が違うとはいえ……、栄誉ある将軍直属の帝國斯衛軍守護大隊の衛士が……。」
 (まあ……、向こうとこっちの人物の本質は基本的には同じ、こいつらも「一応」優秀なんだよなぁ。でもそれ以外の優秀さをこっちの世界では全部「バカ」につぎ込んでるもんな。)
 何気に酷い分析の白銀武であった。
 そして周囲では月詠の激昂でやっと皆がショックから回復してきたらしい……。


 数分後……。皆のショックが抜け切って、月詠の説教が終わると、全員は改めて武と真那の周囲に集合した。
 侍従の計らいか何時の間にか椅子が用意されていて全員はそれに腰かける。
 「コホンッ……。じゃあ白銀君、きちんと説明してもらうわよ。」 
 「そうだよタケルちゃん! 私達がこの3年間どんな思いで過ごしたか……キッチリハッキリ全部全て包み隠さず完全に綺麗さっぱり説明してもらうわよ!!!」
 (純夏よ、意味が思いっきり重複してるぞ……)
 思わず心の中で突っ込んでしまう武。
 「そうだな、私も先程からそれが気になって仕方がならぬ。皆が揃ったらと約束した故、今こそ全てを話してもらおうぞ、武。」
 「ボクも知りたいよ、あのロボットの事!」
 (いや、ロボットの事か? 俺の事はいいのか?)
 「白銀の秘密…………教えて……。」
 (こっちの世界の彩峰は相変わらず謎だ……本当に知りたいのか?)
 「わ……私は、当時の担任として聞く権利があります!!!」
 (まりもちゃんはてんぱってるし……)
 なんかもうシリアスさが台無しだった。

 (まあ、それが俺達だもんなぁ……)
 たとえ3年経ってそれぞれ成長したとしても、変わらないものがあるのは良い事だった。武自身も一時的に昔に戻ったようで心が軽くなっていた。

 懐かしき思い出、懐かしき友……。

 武は何時の間にか目に涙を浮かべていた。
 「た……タケルちゃん、どうしたの!」
 純夏の声で気付き涙を指で拭う。
 「ああ……みんなに久しぶりに会えたのが嬉しくって、向こうじゃ色々あったからなぁ。」
 (武……。そなたは一体何処で何をしていたのだ……?)

 冥夜や純夏が心配そうに見詰める中武が弱々しく答える、そんな武を見かねたのか真那が寄ってくる。
 「武、そなたにはどんな時も私が付いている、共に2人で支え合って行こうと誓い合ったではないか。」
 「そうだな、ありがとう真那……。」
 純夏や冥夜達への複雑な思いや自身の想いへの葛藤、そして武の弱々しさに真那は場所もわきまえずに武に縋りついてしまった。
 そして恋人以外には鈍感一直線の武も周囲の状況も考えずそれにまともに答えてしまう。

 しかし目の前にはみんなが揃っている事からして……


 「「「「「「「「「「「ピキッ」」」」」」」」」」」


 色々やばい事になる訳でして……。

 「な…な……な、なによタケルちゃん! その女はなんなの、さっきから聞こうと思ってたけどなんなのなんなのよーーー!!! 3年間も私達を心配させておいて自分は恋のアバンチュールしかもそんなに綺麗な月詠さんソックリな人とピンクでラブラブ雰囲気醸し出しちゃってキーーーータケルちゃんのバカバカバカこのムッツリスケベエロ大魔神いーよいーよどうせ私なんか朝目覚まし代わりになるから仕方なく付き合っていた便利な幼馴染で飽きて必要なくなったから路傍の石の如くポッてすてられたのよーそうなんだよーエーーーン。」
 「す…純夏……」
 最早止められない純夏の暴走、そして

 「武!!!」
 「ハイッ」

 その声に思わず直立不動になってしまう、なんかヒシヒシとヤバイ感じがした。
 「その者が月詠とどの様な関係かは分かりかねるが、そなたを案じ心砕いたこの3年間という長き時間……。その間のそなたの所業が色香に迷い溺れ、あまつさえ我らに連絡の1つも出来なかったなどと、よもや言うまいな?」
 〈チャキッ〉っと皆琉神威の鯉口を切る音が聞こえた。その後ろでは皆の声が響いている。

 「あれはニセモノだーー、真那様じゃないーーーー!!!」
 「そうです~、真那様はあんな乙女チックな表情はいたしません~~!!」
 「たとえそれが白銀武だろうと恋人がいるのはこの世の不条理だ!!!」

 (3バカよ……、懲りていないな。)
 冥夜越しに聞こえた3バカの声にピンチにも関わらず思わず突っ込んでしまう。
 そしてその話題の人、月詠さんは……
 「…………………」
 真っ白になっていた。

 「タケルちゃんのバカーーーーーバカバカバカーーーー」
 「ムッツリ白銀………」
 「いやーー、この惨状を何とかしてーーー。」
 「うわ~~、すごいねこのロボット!!」
 「フフフフフ、不順異性交遊はダメよ~~、白銀君~~。」
 〈チャキッ〉「さあ、武! 返答次第では我が皆琉神威の錆にしてくれよう。」

 (ああ……まりもちゃん。何とかして欲しいのは俺の方だよ。)

 こちらの世界に来てからこっち、段々この世界に居た頃に退行して行ってる情けない武であった。やはり人は周りの環境に引きずられるのであろうか?

 「で? あんたはやっぱり並行世界から来たの?」
 「はい、因果の道筋によって接続された並列世界と聞いています。」
 バカ騒ぎにも関わらず1人平然と横で真那と話をしていた夕呼、その一言で皆の行動が止まった。どうやら耳だけは正常に機能していたらしい。
 大人しく席に着く面々、武への追及より知的好奇心……というか夕呼の話を聞く方が手っ取り早いと思ったのかもしれない。
 「並行世界……成る程、パラレルね。まったく別の世界ではなく因果によって直結された極々近しい世界。同一人物が存在する……しかしこの世界に無いものがある世界。」
 「あの……香月先生?」
 「要するにこの月詠そっくりな人物は此処とは違う世界、即ち並列世界からきたって訳よ、そして勿論一緒に来た白銀武もね。そうなんでしょ?」
 「ええ、まあ……。確かに俺は別の世界に行ってました。」


 「「「「「「「「「「別の世界~~~!!!」」」」」」」」」


 夕呼と武のやり取りに驚愕の声を上げる皆、月詠さんは表面上は落ち着いているが目が見開かれている。
 「さあ、それじゃ今度こそ全部話してもらいましょうか。」
 そんな皆を尻目に夕呼は武に話を促す。後ろでは今度こそ全員静聴する構えだ、それを見て俺はあの日……向こうの世界で目が覚めた時からの話を皆に話し始めた。


 途中皆の突っ込みもなく(というか驚愕で声も出ないようだった)クーデター事件の終わりまでの出来事を話し終えた。
 「信じられん……、しかし姉上が生きている世界……。」
 冥夜は自分の姉の事を考えている様だった。
 「あの……タケルちゃん、私が死んでるって本当なの。」
 純夏が小さな声で聞いてくる。他の皆がいるのに自分だけが存在しないのが他の世界とはいえ心細いのか、それとも他に思う所があるのか。
 「ああ、俺は夕呼先生……じゃなくて香月副指令からそう聞いたぞ。」
 (こっちの世界の夕呼先生と分けるために呼び方を変えないと解りづらい)その武の言葉に側で聞いていた真那が付け加えて言った。
 「城内省のデータによれば「白銀武」と「鑑純夏」は1998年のBETA本州侵攻の時に生存が確認されず死亡認定されたようだ。」
 その言葉に俯く様に考え込む純夏。

 「それで、その後オルタネイティブ4とやらを成功させたの?」
 「いえ、結局150億個の並列処理コンピューターを手のひらサイズにする理論が完成せずに計画は中止され結局オルタネイティブ5が発動しました。」
 「オルタネイティブ5?」
 夕呼先生は俺の言葉にまたブツブツ言い出し、代わりに委員長が聞いてくる。
 委員長の事だから「信じられない!」とか言いそうだったが、後から聞いたら「証拠を2つも見せられたら信じないわけにはいかないでしょう。」と言われた。
 「G弾集中投入によるハイヴ殲滅作戦と他星系移住作戦、通称戦略名「バビロン作戦」」
 「他星系移住作戦?」
 「そう、全人類で選抜された約10万人を地球から脱出させ、大量のG弾でBETAに最終決戦を挑むという最終作戦。」

 「そんな……地球を見捨てたの!」
 「それは……酷い。」
 委員長が激昂し彩峰が静かに怒る、ああ見えて彩峰は実は結構熱いヤツだ。
 「まあ俺も当時はそう思ったけどな。けどその時既に地球の半分以上はBETAに制圧されていてどっちにしても危険な兆候だった、ある意味移住作戦も人類が生き残る手段の1つだったんだよ。」
 「そんな……。」
 「けど、色々あって計画は変更された。当初はアメリカが計画していてG弾使用作戦が主体で、移住作戦は国連や帝国等に対しての表面上の計画でおまけのようなものだった、だけど……。」

 そこで真那が引き継ぐ。
 「クーデター事件で将軍職本来の権限が返上された悠陽殿下はその意を汲み親愛なる日本国民の、しいては地球に生きる全ての人々の為にその計画を変更しあそばされた、G弾投下は曲げられなかったが何時か地球を救う手だてが生まれる事を信じて、全面投下と反攻作戦を取り止めにし人類は抵抗継続作戦に専念する事にあいなった。」
 「そして移民船団出発から1年、俺達は未だに戦い続けているって訳さ。」

 そしてまた続きを話し始める。
 「む……、世界が違うとはいえ私は私。やはり武に目を付けるとは流石だな。」
 「…………恥ずかしい。二股なんて白銀……鬼畜だね。」
 なんてお言葉を貰ったり……。

 「子供ですってーーーー!!!」
 「不順異性交遊はだめよーーー!!!」
 なんてって……(まりもちゃん、俺もう20歳過ぎてます……。)

 「へ~~、タケルに妹が居たんだーーー。」
 という……(どうでもいいが尊人が女性だった事になぜ誰も突っ込まないんだ?)

 途中様々な絶叫が響いたが概ね無事に……武は後で色々大変な目にあいそうだが……説明は終了して行った。


 あらかた説明が終わった時は皆言葉が無かった。
 「タケルちゃん、色々大変な目にあったんだね。」
 「そうだな、我らは本当の戦争など経験した事がないので解らぬが……そなたの目を見ればどんな苦難の道を歩いてきたかは窺い知れる。」
 既に俺は向こうの世界での出来事を後悔していたりはしない、確かに色々大変だったけど得たものも沢山ある。
 それでも2人のこの言葉は嬉しくて心に沁みた、失われた日常の象徴の様なこの2人……。特に向こうの世界には存在しなかった純夏に言われるとその感動も一押しだ。

 「それで白銀はこっちの世界の情報が必要なんだ。」
 夕呼の突然の言葉に流石の武も目を丸くする、夕呼は何となく得意そうだった。
 「あんた既にこっちの世界に帰って来る気なんて無かったんでしょ、それが並列世界の移動なんて事をやってまでこっちに無理矢理帰ってきたって事は何かそうしなければならない事情があったからね。」
 「ええそうです、焔博士がどうしても理論が完成できないから向こうの世界の理論が欲しいと言って俺達を飛ばしたんです。」
 「焔? ……ひょっとして鳳焔。」
 「ええ、知っているんですか? 向こうの世界では知り合いだと聞いていましたが。」
 「知り合いと言うか……。」
 その時、月詠さんが横から注釈を入れる。
 「鳳焔博士は機械工学の天才と呼ばれ我が御剣財閥の援助を受け数々の発明をしているお方です、現在の機械工学……特に宇宙開発関連の新発明の多くは彼女が手掛けておりゆくゆくは我が御剣財閥も他国に劣らない程の宇宙関連のプラットホームを展開できる事でしょう。」
 「ああそうそう、あいつは私とは別の意味で反権威主義的でアナ―キーだからね。学会などにはあんまり出てこないのよ。」
 向こうの世界では帝国斯衛軍第一技術開発室長だった、こちらの世界では御剣に雇われている……というか協力関係を結んでいるらしい。

 「それで……。冥夜と夕呼先生に頼みがあるんだけど。」
 武は申し訳なさそうに切り出す、夕呼は既に何を言われるか解っているようで面白そうに冥夜とのやり取りを見ている。
 「向こうの世界の技術情報を提供するからさぁ、その技術情報に含まれないこちらの世界の技術情報を調べてくれないか?」
 「……それは無論構わぬが。月詠!」
 「はっ、可能ですが御剣本家にばれない様に行なうには……。」
 「この武御雷の事がばれなければいいですよ、どうせ向こうの世界の技術は提供するし。」
 「だそうだ、ならば良いな月詠。」
 「冥夜様のご命令とあらば。」


 その後みんなと色々話をした後に武は月詠にデータを渡した。

 そして一時解散となり、武達はここの工場の仮眠室に泊まることになった。その際武が真那と一緒の部屋に泊まることに色々と波乱が起こったがそれは読者の想像に任せて割愛しておこう。


 武達は仮眠を取りその日の朝を迎える事となる。

 外伝・EX編1日目へ








なんか色々てんぱってます。
 全然進まない……。
 間の会話などは皆さんの脳内妄想に期待します、頑張ったんですが……すいません。
 冥夜と純夏で手一杯です、月詠vs真那は後ほど。
 そしてEX世界編では会話を多用します。行間補完は皆さんの脳内妄想に頼ってしまいますがなんか永遠に進まなそうなので……。
 時間と技術が欲しいよぉ。

追伸)あと設定の感想、良かったらください。なんか変な所とかあったら……、色々頭捻って考えましたがどうも不安です。



[1122] Re[2]:オリジナル戦術機  
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/06/26 12:18
再編集中……



[1122] Re[2]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 1日目
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/06 14:31
2005年2月11日……朝・町外れの工場




 武達は幾つかのグループに別れ備え付けの部屋(少し改装済み)で仮眠を取っていた。
 早朝、純夏は色々な出来事があった興奮から早く起きてしまい思わず昔の感覚で、近くの部屋で寝ていた武を起こしに向かってしまった、ある事をド忘れして。
 ノックもなしに力いっぱいドアを開いて声を掛ける。

 〈バンッッ〉「タ~~ケ~~ル~~ちゃ~………………

 その光景を見て1秒・2秒・3秒・4秒……、ドアの音で起きた2人、そして武が顔を上げる。
 その瞬間……


 「うぎゃ~~~~~~~~~~~!!!!!!」


 大絶叫が響き渡った。
 「どうしたのだ純夏!!」
 「何々何が起こったの?」
 「純夏様いかがいたしました!!」
 「ふにゃ~、純夏ちゃんどうしたの~!」
 皆がバタバタと駆けてくる、昨日の話しの最中は余りの衝撃的事実に結局ほとんど喋らなかったタマも1日経って復活したようだ。

 そして皆が武の部屋へ駆け込んでくる、そこには……
 「う~ん、なんだよ純夏、うるさいぞ。朝の訓練もあるからちゃんと起きるってぇ。」
 「う……ん、なんだ今の大絶叫は……。御無大尉が響中尉の訓練でもしているのか?」
 武と真那が一緒のベッドで寝ているわけで……しかも両者裸で。

 アレはいたさなかったようだが裸で寝るのは習慣なのだろうか? そして武は寝ぼけて世界が混じっているし。

 「タタタタタケルちゃ~~~ん、な・な・な・何やってるのよぉ~~~!!!」
 「きゃっ……エッチ……。」
 「あきれて物も言えないわ……。」
 「…………羨ましい。武と同衾とは…………アレは??」
 「(平常心……平常心です……。あれは違う世界の自分、私ではありません……)」
 部屋の入り口は阿鼻叫喚の嵐だった、純夏の超絶暴走のお陰で朝から修羅場ランラン状態であった。

 その後一波乱あり、全員が戻って暫らくした後。

 〈コンコンッ〉「タケル、私だが少し良いか?」
 〈ガチャッ〉「ん……冥夜か、どうしたんだ?」
 ちょうど着替えが終わった所で冥夜が部屋に尋ねてきた、武は扉を開けて冥夜を迎え入れる。
 「すまないな、少し話がしたくてな……その……。」
 「武、私は先に行って待っているぞ。」
 「ああ、解ったよ。」
 武の後方をチラッと見るその視線、何となくその視線の意図を察した真那は部屋を後にする。武もそれが解ったのかすんなりと承知した。
 出て行く真那に深く一礼した冥夜はそのまま部屋の中に入ってくる、そして着替えた武の腰を見て言った。(ちなみに武は国連軍の服で月詠は帝国軍仕様の服です。)

 「先程見かけたが、やはりそれは皆琉神威か……。」
 「ん……ああ、冥夜の持ってるのと同じか?」
 「ああ、文様以外は外見は寸分変わらぬ。」
 武と冥夜は自らが持つ皆琉神威を持ち上げ並べてみる、武の持っている皆琉神威は文様の意匠が
片側だけ帝国を表した意匠になっている、その他は冥夜の持つ皆琉神威の外見と寸分違わなかった。
 〈シャランッ〉2人は示し合わせたように皆琉神威を抜く。そして抜いた片手を前に出し正中線に沿って立てる。
 2人の前に立つ寸分違わぬ刀身、しかし刀自身がもつ雰囲気は違った。武の持つ皆琉神威は、そう……なんというか……。

 「なるほど、向こうの世界の私は今もそなたを守っているのか。」
 「え……。どういう事だ冥夜?」
 「そなたの持つ皆琉神威には私の皆琉神威には無い人の意思の力が感じられる、そなたにそれを託した者の魂と想いが込められているのだ。」
 (冥夜……。)世界が違えど冥夜の言う事だ、その言葉はとても嬉しかった。
 「そしてもう1人の意志も感じられる。その皆琉神威からではないが、混じり合って1つの確固たる想いとなりそなたを包み守っている。」
 その言葉にハッとして自分の手首を見る、そこには皆琉神威と同じく既に自らの一部となった慧お手製のリストバンドがあった。
 それを見て誰の物か察したのか冥夜が頷く。
 「向こうの世界の私と彩峰は余程そなたを愛していたのだろう。人の想いが宿る物は霊格を持つに至る、物理的干渉を引き起こす程の力は無いが……されどそれは確実にそなたを守っている。」

 その言葉に武は泣きたくなった、冥夜・慧・真那……自分はずっと彼らに支えてもらっていたのか……。
 (弱いよなぁ……、俺って。)
 戦闘能力は強くなった自信がある、覚悟も随分定まった……。だけれども、結局自分は今も彼女達にその心を支えて貰っているのだ。

 「サンキュー冥夜、お陰で大切な事が分かったぜ。」
 「そうか……。その悩み私には分からぬが……いや、言っても詮無い事か。」
 冥夜は何かを言いかけて止める、その顔は複雑な様相であった。
 「時間を取らせた、すまなかったな。今頃は月詠の手で食事の用意が出来ている頃だろう。」
 踵を返し部屋を出て行く冥夜、武は冥夜の表情に一抹の心のしこりを感じながらも後を追って部屋を出た。




朝食時


 月詠達侍従によって何時の間にか大型のテーブルと各種料理が用意されていた、いったい何時用意したのか? 相変わらずな対応の早さだった。
 御剣家侍従教育プログラムを向こうの世界の軍隊に導入したら無敵の……と途中まで考えて、武はあまりにも怖いその想像を頭から掻き消した。
 とりあえず席に着き皆で挨拶してから食事を始める。

 「……!!」「……これは!!!」

 「ど……どうしたの白銀くん?」
 「タケルちゃん?」
 「武、真那殿、何か気に入らぬ食材でも入っていたのだろうか?」
 正面付近に座っていたまりもちゃん・純夏・冥夜が心配そうに語りかけてくる、他の面々も驚いた表情で2人を見ている。
 「いや……久しぶりに食ったけど美味いなぁと思って。」
 「こんなにも美味いものを食べたのは幼少の時以来だ。」
 武と真那はその味に思わず涙が零れていた。懐かしい味だった……忘れていた本物の味、大いなる地球の恵みの食感であった。
 「確かに一級の食材と料理人を使って調理しているが……、極普通の献立だぞ?」
 「はい、ご飯と味噌汁、目玉焼きとベーコン焼き、海苔に卵、鮭の焼き身、極普通の一般家庭の朝食風に仕上げましたが。」
 「本物の肉を食べたのは凄く久しぶりだったもんでな、向こうじゃ合成食材ばっかだったから本物の味を忘れちまってたよ。」
 「たとえどんなに料理の腕を上げようとも所詮合成食材、やはり本物には到底及ばぬと言う事か……。」
 「この味を授けてくれた数多の命に感謝しましょう、俺達にはその義務がある。」
 「そうだな……、我らだけこの様な上等なものを食するのは気が引けるが……。この糧は幾多の生命の犠牲の上にあるもの、無駄にする事は生命に対する冒涜……ありがたく頂いておこう。」
 あの頃は残す事や食べ物を無駄にする事にほんの少しの罪悪感も覚えなかった、しかし生命の大切さを知った今ではそんな事は欠片も出来ない武。そしてその気持ちはあの世界で長く生きてきた真那の方が更に顕著な感情として在った。

 「そうか……、そなたたちのいた世界ではもう……。」
 冥夜が言葉を濁す、だが皆も昨日の話しからそれは分かっていた。先進国の弊害としてよく口にされる食材を無駄にする行為、武達の様相にそれを再確認させられた皆は食べ物の大切さの認識を心に刻むのであった。
 
 そして食事後に武が月詠に切り出す。
 「そういえばあのデータはどうなりましたか?」
 あれから武と真那が協力し武御雷の中からこちらの記録媒体にデータを吸い上げた、月詠と夕呼はその記録媒体を何処かへ持って行ったのだが。
 「向こうの焔博士がおっしゃられたようにあれらのデータの中には明らかなオーヴァーテクノロジーが含まれています、例え御剣本家といえども一気に公開するには危険ですのでこちらの世界の焔博士の研究所に運び込みました。」
 「こっちの焔博士の所に?」
 「はい、香月教諭がおっしゃられるには……あのお方は面白い事に目がない性格なのでこの情報を見せて説明すれば例え雇い主にでも喋らないだろうと。それにあそこの研究所は設備は一級で機密レベルも最高ですので。」
 (なるほど、それで夕呼先生の姿が見えないのか。)

 「データの仕分けは概算で6日もあれば終了するそうです、データの整理・移行も含めまして8日間で完了すると言っておられました。」
 それは朗報だった、焔はなるべく10日以内には帰ってこいと言っていたので期限を割らないのは僥倖だろう。
 武と真那は安堵したが皆は複雑そうな顔だった、昨日は雰囲気的に問い詰める事が出来なかったがやはり武がこのまま向こうの世界へ行ってしまうのは納得が出来ないのだろう。
 しかし武にとってこの世界は「戻ってきた世界」なのだ、そして向こうの世界が彼にとって「帰っていく世界」既に武の中で心は決まってしまっている。
 皆も何となくそれが解っているのでそうそう簡単に切り出せないのだろう。だが他の面々はともかく冥夜と純夏だけはその心情に深い想いがある様子であった。


 食事が終わった後、武は真那を案内する傍ら3年振りにこの町を歩いてみる事にした。
 その際問題になったのが服である。
 武と真那の服をどうするかは当初色々と悶着があったが、極シンプルにジーンズと長袖の真っ白でラフな服、それにジャンパー風の上着という所で落ち着いた。
 武としても真那に色々着せてみたかったが町を案内するのにそんな大仰な服は要らないだろうとラフな格好を選択した。
 そして冥夜・純夏・尊人が案内に立ち町を歩く事になった。

 委員長・彩峰は大学の講義があり、タマは弓道の方に顔を出さなくてはいけないらしい、まりもちゃんは学校だ。
 ということで柊町をブラブラする事になった武達。
 まずは武の家から回ることになった。

 ちなみに武の両親はどうしたかと言うと……月詠さん曰く、
 「武様のご両親は……武様が行方不明になった時にお知り合いになった鎧左近様と意気投合してしまって、それから世界中を駆け巡っております。その……現在はアマゾン流域で確認されたのを最後に行方が分からなくなっています。」
 なんて事を言われました。

 それからションベン公園と白陵柊を経由して町に出た。
 その人の多さや猥雑さに驚愕を浮かべていた真那を引っ張りまわし町中を歩いた、とにかく今日は歩く事を中心にしたので何処にも寄らずにただただ町を散策して回った。
 街中では武と真那の2人は目立っていた、なんというか存在感が違うのだ、やはり体験して来た人生の違いによる生きる事に対する思想の違いの差だろうか?
 武は雑多な町の中を歩くのは予想以上に楽しかった、人が沢山歩いているのが何処となく平和に感じられた。

 「こちらの世界は平和だな……。」
 「ここはそれだけしかないけれどそれが1番のものなんですよね。」
 「ああ、こうやって感じていると良く解る、何気ない日常こそが至福の時なのだ。」
 
 2人の会話は静かだ、それは何かを達観してしまい懐かしむような雰囲気だった。
 武と真那にとってこの日常の光景は未来に求める憧憬なのだろう。そして望むべく勝ち取るべき未来の姿なのだ。
 様々な所を巡り今日一日は平穏に過ぎていった、今日一日はゆったりと歩いていたかったのだ。

 「何もない」ただそれだけがこんなにも貴重な時間だと、2人が実感できた一日であった。









 EX編は大変です……いや、シャレじゃなくて。全然進みません。
 モチベーション保つのが大変なのでこちらは外伝形式に移行します。
 滞在日程は8日間、1日目は特に何もないので……終了です。
 ぶつ切りオムニバス調になってしまいます、しかもEXキャラは余り出ません……出すと終わりません、色々と。(冥夜・純夏は出ます。)
 各自脳内補完してください。ああ……そんなに期待しないでっっ。
 2日目はゲーム、3・4・5日目が旅行、6が御剣訪問? 7が月詠と真那、8が冥夜と純夏との別れ……になっています(設定上では)   
 



[1122] Re[20]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第62話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/08 22:51
2005年2月18日……UL世界




 元の世界に帰還した武達はそのまま焔の元に行き手に入れたデータを渡した。
 幾多の未知なるデータ、特に因果律量子論の情報は重要なものであった。
 早速研究に入る焔、そして武達は仲間達と合流した。
 居なかった間はどうやら外国の研究所に資料を取りに行っていた事になっていたようで軽い詮索を受けただけで済んだ。しかし柏木に「新婚旅行?」とからかわれて一悶着あったが……。

 その後はただひたすら訓練と焔が出してきた仮想機体をシミュレーターで運用評価する事の繰り返しだった。
 そして3月25日に第4世代戦術機第1号の「叢雲」試作型が完成した。
 この叢雲の実機でのコンバット・プルーフ(戦闘証明)と運用評価を繰り返し、その情報を元に改造を繰り返し、第4世代戦術機の性能と信頼性を確固たる物としていった。

 更に4月21日 第4世代戦術機「武雷神」「霧風」「業炎」の試作型が完成。
 この武雷神もコンバット・プルーフと運用評価を繰り返し行なう事となる。
 そして調整と改良が一通り終わった4月27日、武が搭乗してのシミュレーターによる運用評価試験が行なわれる事となった。




4月27日……シミュレーター仮想戦闘・運用評価試験


 『こちらCP(コマンドポスト・指揮所) 、フェンリル02調子はどうだ。』
 「こちらフェンリル02、システムオールグリーン、マスターアームスイッチオン、何時でもどうぞ。」
 『了解した、ではこれより運用評価試験に入る。仮想敵はクーデター事件の時のF-22Aラプターだ。得られた能力データを平均均一化した機体が5機。撃破方法はどんな手段でも構わん、全機撃墜したところで戦闘終了だ。』

 焔がふざけて実践さながらに通信をしてくる、どうやら雰囲気を大事にしたいらしい。武も苦笑しながらそれに合わせて通信を返している。
 武が現在待機している仮想空間上のステージは森林内の廃墟だ。周囲は森で覆われていて、その中に破壊された小規模の町がある、森や瓦礫は基本的に障害物だが上手く利用すれば様々な利点が有る、衛士の腕と機体能力両方が試されるステージだ。

 「フェンリル02了解。いつでもどうぞ」
 『ではこれより運用評価試験を開始する。』

 その言葉と同時に警戒レベルを戦闘モードへ切り替える。
 (まずは……何処に隠れるか?)
 武雷神はBETAと戦う為の戦術機だ、よってステルス性能は余り考慮されていない。体の各所に設置されている全天高速捜索が可能なレーダーにより、各種探知やレーダー警戒受信を行なうので探知や警戒の能力は優れているが。
 そのためまずは相手から身を隠す事をしなければならない、もっと広範囲で障害物が無い場所なら機動力に任せて相手を撹乱できるのだが、この狭い場所では5機のF-22Aラプターを相手に正面対決は危険だ。
 相手の戦闘開始地点は自機から離れた所だが油断は出来ない、音を極力立てないように歩いて移動する、相手のレーダーを誤魔化すために障害物を盾にして慎重に移動する。

 現在は外部カメラの映像をそのまま網膜投射しているので戦術機外部のカメラで捉えた映像がそのまま頭の中に入ってくる、しかも映像が情報処理もされているので、ちょうど普通に人間の目で見ている映像に戦闘情報が映し出されるという奇妙な感覚だ。
 更に肩部後方に付いている外部カメラで後方を直接見たり、センサーで捉えた情報をそのまま映像化したり……と色々な事が出来る。

 そのまま探索し丁度森林と町の境目に丁度良い場所が存在した。周囲からの隠匿率が高く町全体を見渡せるポイント、前方に障害物が少ないのもいい。
 武は左手に05式36㎜(電磁)突撃機関砲・右手に04式近接戦闘長刀を持ち、自機を膝立ちに屈み込ませ側の瓦礫に身を寄せエンジン稼働音も最小限に押さえてシグネチャー(あらゆる雑音)を消すと待ちの姿勢に入った。


 (さあ……どうするかな……?)
 実際にコンバット・プルーフと運用評価を行なった事で武雷神のスペックの高さは理解している、F-22Aラプター5機を相手にしても恐らく完勝できるだけの性能は有るだろう。
 だがそれは『乗りこなせれば』の話しだ。第4世代戦術機……こと武雷神は強力すぎるのだ、現在も含め1番の敵は『機体のスペック』、まあこれも強力過ぎる故の問題なのだが。
 勿論武は武雷神を乗りこなしている、ただし総合的な仮想戦闘は今日が初めてだった。

 〈ピッピッピッ〉「レーダー反射か。」
 機体表面からのレーダー警戒受信が発せられる、ESM(電子支援装置)での解析で様々な計測結果が出てくる。
 しかしここで障害物に近接して動かなければ、相手は目視しない限りはこちらを視認できないだろう。
 ジッと待ちに徹する、やがて少しずつ相手のレーダー探査の距離が縮まってくる。
 F-22Aラプターのステルス性能は優秀だが武雷神のレーダー探知能力も優秀だ、それはやはり対BETA戦を見据えてのものだったが。

 (ファイブカードか……即応性がある陣形だな。)

 敵はファイブカードで左翼よりこちらに接近してくる、前後の2機が目視できる視界の約100度ずつをカバーし360度警戒、中央の1機が司令塔兼各機支援を行なうのだろう。
 敵編隊はそのまま接近し、森と町の境目に沿って進行しだす。
 (上手いな、あれなら奇襲を受けても待ち伏せを受けても即時対応できる。)
 シミュレーションの仮想敵ながら優秀らしい。この場合彼等にとっての敵は武が現在やっているように森と町の境目に伏せている可能性が1番高い、かといってその他の可能性も捨てきれない。
 ならばその境目を端から目視探査していけばいい、更に全周囲警戒によって何処からの奇襲も即時対応できる。堅実で確実な方法だ。

 (さてどうするか……)
 考える時間は余り無い、時間がたてばそれだけ選びうる選択肢が減っていく。
 現在の武器は最低限、長刀・36㎜電磁突撃機関砲・そして……。
 武はそれに思い至り、主腕は見えないのに思わず確認するように自分の左手を見た。

 (そうだ……これがあったな……。)
 多目的装甲武器「烈風」、武御雷と霧風の基本武装。クセのある兵器だが扱いをマスターすれば十二分に有効な兵器となりうる。
 そうと決まればあとは実行するだけだ、武は注意深く観察しながら相手の動きを読みそして待つ。

 最初に撃破するのは指揮官機、つまり中央の機体だ。正面に来たら噴射全開で突っ込み叩き斬る、相手まで距離があるが新型の跳躍飛翔(噴射)装置は機体軽量化も相まって物凄い初期加速を発揮する、対処を始める時には既に相手は終わっているだろう、後は臨機応変だ。
 そして敵編隊が待機地点前方――機体直線上に位置した。


 (行くぜっっ!!)

 初動と同時に循環エンジンを全開――同時に跳躍飛翔(噴射)装置のエネルギー変換装置を全力稼働させ同時に噴射剤を燃焼。
 〈ピーーー〉機体が瓦礫から出て跳躍姿勢をとった時に敵に捕捉された、しかし相手はまだこちらに対応できていない。そのまま噴射全開……両側計8つの主噴射口から変換されたエネルギー噴射と噴射剤燃焼によるアフターバーナーが同時に噴出し、壮絶な勢いの推進力として機能する。

 「ぐ……う……」
 跳躍姿勢を取っていた機体が一気に空中に押し出される、その絶大な加速力は気を抜けば直ぐに意識がブラックアウトしそうな程だ。だがそれを気合で捻じ伏せ機体を操作する、相手はやっとこちらを向いた所。急速接近しながら思考制御を交え右主腕を操作して04式近接戦闘長刀を構える、武雷神の力と甲殻ブレードなら片手でもF-22Aラプターを両断できる。
 相手がやっとこちらを向ききった所で既に零距離、噴射での加速を乗せて一閃――中央の指揮官機をすれ違い様に両断した。

 噴射停止を思考命令しながらそのまま足を地面に接地させるが勢いが殺しきれない、もう一度ロールを加えながら軽く跳躍、そのまま前方の大木に両足を着地させ腰を沈めながら脚関節の衝撃吸収装置と体の捻りを利用して衝撃を逃がす。
 その際中、体を捻ると同時に左手の多目的装甲武器「烈風」の刃を出しつつブーメランの要領で左主腕を勢いよく動かし投擲、補助腕に接続された烈風は甲殻で出来た鎖を引き出しながら空中を突き進んでいく、それを確認しながらも勢いを殺し尽くした自機を着地させる。

 烈風が先程撃破したF-22Aラプターの真上に進んだ所で熱焼夷手榴弾を遠隔操作で切り離し、更にそのまま左主腕を動かし保持していた36㎜電磁突撃機関砲で前方後の敵を狙いつつ思考制御で補助腕を動かし烈風の機動を前方手前の敵目掛けて修正する。

 自動補正を利用し36㎜を斉射しながら滑空砲を射撃、その時同時に烈風が前方手前のF-22Aラプターにインパクト――烈風の周囲を覆う甲殻ブレードが相手にめり込む、直後36㎜弾と滑空砲から発射されたAPFSDS弾が前方後のF-22Aラプターにインパクトし破壊、それと同時に先程切り離した熱焼夷手榴弾が炸裂し辺りを火の海に変えた。そして前方手前の敵に突き刺さった烈風を、熱焼夷手榴弾を置き土産に切り離して手元に引き戻す、その1秒後にそのF-22Aラプターは火に包まれた。

 ここまでの工程で7秒、一気に3機のF-22Aラプターを撃破した。

 ここで編隊の後方に位置していた2機の相手は、36㎜チェーンガンを構えつつこちらに振り向いたが、既に周囲には熱焼夷手榴弾によって発生した1000℃近くの炎が渦巻いている。2機は堪らずに後方に跳躍しながらも36㎜を放ってきた。
 武はその行動を予測して噴射跳躍で前方に緊急跳躍し、自機の右手――手前にいた相手の頭上から36㎜を斉射して叩き込む。左にいた1機は回避されたが手前のF-22Aラプターは穴だらけになり撃破された。

 左に避けた敵は上空の武に向かって36㎜チェーンガンを撃ってくるが、武は跳躍装置の方向転換補助噴射と主噴射口の推力偏向ノズルを使い巧みに機体を空中転換させる。武の変態飛行と曲芸飛行は新型跳躍装置の力で更に進化したようだ。新型に「飛翔」と付いた名称は伊達ではない、この跳躍装置は極めれば戦術機を正に「飛翔」させるのだ。

 進路を巧みに変えつつ敵に急速接近、接近戦が嫌いな敵は堪らずに後退しようとするが既に遅い。ナイフエッジ(機体を90度真横にする)の様なマニューバーで機体を傾け、大木を蹴る緊急方向転換を2度繰り返し敵の真横に躍り出る、敵を照準捕捉した武は危なげなく36㎜の弾丸を叩き込んだ。


 そのまま着地して通信を繋ぐ。

 「こちらフェンリル02、敵全機のキル(撃破・撃墜)を確認。」
 『こちらCP、よくやったフェンリル02。黄金ダイヤモンド柏葉剣付騎士十字章ものの功績だぞ。』
 「なんですかそれは?」
 『ドイツ最高位の勲章だよ、現行最新鋭機との戦績がキルレシオ(撃墜比)5:0、これは間違いなく勲章ものだぞ白銀。』
 「スペック的には十分可能だったんです、これは造った博士の功績ですよ。」
 『いやいや、謙遜するな青年よ。周りで見ていた衛士達も解っているさ、この第4世代戦術機は機体性能を引き出せてこその「最強」だとな。』

 今回の演習は基地内の衛士全てに放映されている、皆第4世代戦術機の運用評価に参加しているのでこの演習の事は気になっていたのだ。厚木ハイヴ戦を生き残った日本衛士達はこの第4世代戦術機の凄さを肌身で実感していたのだった。

 「分かりました、それじゃあシミュレーションを終了します。」
 『ああ、他の3機の運用評価演習も終わったし後は完成まで煮詰めていくだけだ、期待していろよ。』
 既に人口のレーザーを使ってだが鏡面装甲の実用試験も完了している、後は機体をより完璧に仕上げるだけだ、それで第4世代戦術機は完成する。

 「ええ、完成した実機でのコンバット・プルーフを楽しみにして待っていますよ。」


 そして運用評価試験は終了した。








 ああ……石を投げないで。
 すみません、でもやっぱりこっちは今までのテンポがあって書き易いです。
 EX編もちゃんと書いています。
 今回第4世代戦術機完成をすっ飛ばしました、でもこれには色々訳が……。
 後になったら解ります……多分。
 次かその次辺りで第1部が終了です。
 そして部隊は第2部、アフリカ戦線へ。
 では次話、多分……EXだと思うけど、どっちかな?

 今回軍事用語を少し入れてみましたが……、解り難いですかね?



[1122] Re[3]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 1日目
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/15 23:40
2005年2月12日……EX世界




 2日目、武達は再度町に出ていた。
 今回は様々な店などを回ろうと言う事で、色々な所を見てる。向こうの世界には娯楽関係の施設などが子供向けの玩具店位しかない、そのために過剰とも言える装飾や施設に真那は終始驚いていた。……まあ驚きながらも良く観察して理解しようとしている様は真那らしかったが。
 そして昼食を軽く食べた後で尊人の案内でゲームセンターに行くことになった。尊人に案内されたその建物は以前の武達が遊んでいた場所とは違う所であった。

 「懐かしいなこの雰囲気、この騒音。」
 「ここはどんな施設なのだ?」
 「ええ……と、コンピューターを使った遊び等をする所ですよ、簡単なシミュレーターみたいな物もありますね。」
 「なるほど……。」
 その建物の前の騒音に懐かしさが込み上げてくる、あの時はこの音を聞くだけでワクワクしたものだ。そしてゲームの筐体に乗っていると自分が特別強く――まるでヒーローになったような感じがした。
 向こうの世界で戦術機に乗った時もそんな感覚だった「リアルバルジャーノン」なんて面白半分に乗っていた時の記憶、今思い出せば余りにも子供っぽくて苦笑してしまう……というか無茶苦茶恥ずかしい。

 戦争と言う現実を体感した今はそんな事は無い……が、久しぶりにやってみたくなるのも現代生まれの性なのだろうか?
 「それじゃ尊人、バルジャーノン久しぶりにやるか?」
 その武の言葉に尊人は得意そうに胸を反らし人指し指を左右に振りながら言った。
 「タケルぅ、バルジャーノンはもう古いよ、今は「スーパープラネット」の時代だよ。」

 「スーパープラネット?」

 聞きなれない言葉に疑問の声を上げる。
 「そう、今や世界中にネットワークが広がる対戦ゲームだよ。」
 「へぇ、世界中か……そりゃすげぇな。」
 「確か御剣財閥がスポンサーのはずだよ。ねぇ冥夜。」
 「うむ、あのバルジャーノンというゲームシステムなどは御剣のシェアの拡大に使えると月詠が申してな。あの当時御剣財閥が近々全国設置を開始する予定だった広域ネットワークに乗せての全世界規模での対戦ゲームを造ろうとしたのだ。もっともゲームの開発自体は一般公募で技術提供を募り優秀だった所に開発を任せたのだがな。」
 「私も鎧君もテストプレイしたんだよタケルちゃん。」
 「純夏が~~?」
 「うむ、私も一緒に行なったぞ。」
 「へぇ~~ほぉ~~、それはそれは。」
 そんな2人を半眼で眺める武、冥夜はともかくとして純夏がまともにプレイできたのかが非常に怪しかった。
 その顔を見て憤る純夏。

 「よし、じゃあ行こうタケル!」
 しかしそんな武達にも関わらず相変わらずマイペースに事を進める尊人。
 武達は毒気を抜かれたようになり、大人しく尊人に次いで店内に入っていった。


 店内に入るとカウンターがあった。その奥では大きな空間があり、その中心――円形上に出っ張った台の上で、恐らく対戦ロボットだろう立体映像が映し出されていた。円形状の出っ張りの周囲には幾つかの筐体も見える。
 「おお~~、すげぇな! 本格的だなぁ。」
 「確かに、戦術機シミュレーターの映像に似ているな。」
 そこで映し出されていた立体映像は本物の映像ソックリに迫力満点であった。
 「それだけじゃないよ、このスーパープラネットは自分で機体を作れるんだよ。」
 「自分で作る?」
 「パソコンを使ってね。幾つかの企業が出している市販機体を基本に改造してもいいし、零から自分で組み上げてもいいし、制限内なら好きな事が出来るんだよ。」
 「おおお!それじゃ自分の機体が好きに作れるのか。」
 「そうそう、タケルもやりたくなったでしょ。」
 その言葉に武は頷くが、ハッと気付きそれを言葉にする。
 「でも乗る機体はどうするんだ?」
 「それは私に任せろ、月詠!」
 「はっ、なんで御座いましょうか。」
 相変わらず行き成り出現する月詠。
 「武の入会手続きと乗機を用意せよ。」
 「……少々時間が掛かりますがよろしいでしょうか?」
 「別にいいですよ、解説とかも読みたいし。」
 「解りました、では。」
 そしてまた何処かへと消える月詠。


 その後武達は公開対戦を見たり解説書などを見たりで40分程を過ごした。
 そして……


 武と真那の2人は筐体の中に居た。

 「真那、大丈夫か? 月詠さんが「真那様も是非一緒に」って言うから乗ってもらったけど。」
 「先程の解説書を見たが基本的な操縦システムは戦術機とそう大差は無い、大丈夫であろう。」
 本当は武だけプレイする筈だったのに月詠さんは強引に真那も乗せてしまった。心配だったが戦術機シミュレーターと似ている所為かそう混乱は無いらしい。
 『登録機体を読み込みます…………許容範囲内、エラー無し……機体を表示します。』

 そのガイド音声に次いで表示された機体は……
 「ってこれっ!!」「武御雷……」
 そう……それは正に武と真那の愛機である漆黒と真紅の武御雷そのものであった。
 「成る程……、月詠さんも中々やるな。多分こっちの世界の焔博士か夕呼先生辺りに頼んだのか……。」
 ここは御剣が出資している、……と言う事はデータのやり取りも融通が利くと言うことだ。遊び半分かどうか知らないがこれはデータ採取の意味も含めた実験だろうか?
 「スペック的には劣っているがな、確かに武御雷だ。」
 表示されたデータは確かに本物の武御雷には及ばない、しかし内部構造などは正に武御雷そのものだあった。

 『ステージセレクト、外部からの設定確認。タッグバトル形式、ステージは地球・荒野・基地後及び町後、状況は異星生物侵略・個体数及び出現制限無し・戦闘レベル5、ステージ目標は制限時間を生き残る事。選択した内容によるゲーム難易度はレベル10』

 「状況がまるっきり向こうの世界だな、しかも尊人のやつ最高難易度かよ……。真那、いけるか?」
 「要は敵を倒し続けて生き残れ、という事だろう。」
 『全ての工程を終了、それではステージ開始です。』

 ガイド音声と同時にバイザーに包まれた視界が暗転する、次の瞬間には……自分が本物の機体に乗っている……というリアルな映像に移り変わっていた。
 乗っていた筐体も操縦システム以外は(武達の場合は)戦術機のコクピットの映像に移り変わっている。
 「こりゃあ本格的だなぁ。」
 「感覚的にはシミュレーターに近いか……、衛士強化装備が無いので体感質量などまで誤魔化す事は出来ていないが。」
 戦術機のシミュレーターは衛士強化装備のお陰で体感の度合いまで本物そっくりに感じられるが流石にそこまでは行かない、しかしかなりの本格的リアルさだった。向こうとこちらが並列した世界なのでこういう技術も似るのかもしれない。

 そしてゲームが開始された、迫ってくるのは「いかにも」な感じの生物。ゲームレベル最高度に相応しくその数と勢いは壮観であった。
 最初こそ操縦方法の違いや反応速度の違いに戸惑った2人ではあったがそこは歴戦の戦士、瞬く間に操縦法を学習し反応速度の違いなどを自己調整し適応した。
 完璧で理想的なエレメント――たとえ戦域データリンクが無くとも……長い間共に戦い続け、そして想いを通わせた2人は阿吽の呼吸で群がる敵を撃ち倒し・斬り倒して行く。
 その状況はそとの巨大スクリーンや立体映像機にも表示されていた。さらに各センター間の情報で『現在最も凄い戦闘』として、全てのセンターに実況中継されていた。

 「う~わ~~! タケルちゃん凄い凄い!!」
 「タケルだけじゃないよ。真那さんも凄いし2人の連携はもう最高だよっ!!」
 純夏と尊人はただただその凄さに目を見開き興奮していたが冥夜は違った。
 無限鬼道流を習った……実戦ならずともそれに近いものを知っている冥夜にとってあの戦い方・強さは驚愕と畏怖と憧憬に値するものであった。
 あの戦い方は、殺し合いを知っている者の強さ、死を知っている者の強さ、そして生きる為の強さ……健全で平穏な生活を営む者にとっては終ぞ縁が無い「強さ」であった。
 今やってるのは所詮ゲーム――仮想空間上の出来事、しかしこれが実戦だったならば……あの2人はどんな鬼神のごとき戦いを見せるのであろうか……冥夜はその戦いを余さぬようにジッと注視していた。

 「ゲームレベル10はクリアしたプレイヤーが数少ないって解説に書いてあったけど……確かにこれは普通じゃきついかな?」
 「なんの訓練も受けていないものには確かにな、ここまで大挙して押し寄せてくると対処が難しいだろう。」
 エイリアンには数種類いて能力も弱点も全く違うし個体能力も最高値でただの雑魚ではない、そして大挙して間断なく押し寄せて来るのは確かに普通のゲーマーではクリアするのが難しいだろう。
 しかし武と真那は厚木ハイヴを突っ切った猛者、しかもハイヴ突入を想定した似たようなシミュレーター訓練は何時もやっている、このくらいの難易度なら十二分に対応可能であった。
 やがて制限時間を超えゲームが終了する。

 『制限時間を切りました、作戦は終了。撃破個体数3264、最高記録を更新しました。』
 そのガイドアナウンスにその戦闘を見ていた者達が沸き返る。4人組プレイでも攻略が難しい状況で2人組みで――しかも最高記録を叩き出したのだ、それも当然だろう。
 「まあまあだったな。しっかしゲームも3年たって進化したなぁ、向こうのシミュレーターと同じ位凄ぇよ。」
 「新人教育プログラムよりは難易度が高いな、そなた達の世界ではこんなものも娯楽の内なのか?」
 「これはどちらかと言うとチャレンジステージで普通はもっと簡単ですよ、楽しみを求める人と難度を求める人……両方いますからね。」
 今回のステージは危機感とか再現性は及ばないが、衛士訓練生から上がってきたばかりの新人衛士が行なう初期シミュレーター訓練プログラムの上を行く難易度だった。
 ゲーマーの中には敵を倒して爽快感を得たい者と難易度を求めるものが居るが今回のステージは後者のゲーマー用のステージなのだろう。

 『タッケルー、次行くよ次っ!』
 その時外部通信で尊人から通信が入った。
 「連戦かよ、まあ結構楽しいからいいけどな。」
 「私は構わんぞ、反射神経の訓練にはなるからな。」 
 現在ステージセレクトは尊人に一任している、武達が自分で決めても良かったのだが尊人と純夏が自分達で決めると主張した。純夏はともかくとして尊人は常連らしいのでステージセレクトを任せたのだ。

 「タケルちゃ~ん、今度は乱入サバイバルだよ~。」
 「乱入サバイバル?」
 「今度はさっきと違って人が乗ってるって設定のマシンが相手のサバイバルなんだよ。けどプレイヤーの乱入もOKでね、戦績が大きくなってくると周りのターミナルに「戦闘戦績増大中」って紹介され始めて、そうなるとどんどんプレイヤーの乱入者が戦闘を仕掛けて来るんだ!……あ、プレイヤーが相手の時は通常の敵は出て来ないから。」
 (要するにコンピューターとプレイヤーを相手にしたサバイバルか……)
 尊人の説明に、つまりは勝ち続ければ良しと言う事……と至極単純に納得した武であった。

 そして新たな対戦が始まる。








 ごめんなさい、すいません。
 EXの方はスランプです、ネタはあるんだけど言葉が出てこない。
 3.4.5日は纏めます、……ので2日目は2話。
 ちなみに「スーパープラネット」の元ネタ、分かる人には分かりますよね。「九朗」の設定は戦術機のコンセプトと似ています、他の機体も第4世代戦術機などの設定に多大な影響を及ぼしています。
 バルジャーノンで無いのは当初の設定どおりです。ていうか3年経ってるし……2じゃ味気ない。 後は趣味? まあ戦術機をゲームで出したかったというのもあるけど。
 次の話は50:50出来ています、EXか本編で。



[1122] Re[4]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 1日目・2
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/10/18 19:21
2005年2月12日……EX世界

 『ステージセレクト、外部からの設定確認。タッグバトル形式、ステージは地球――地形・障害物の制限無し、状況は乱入バトル、戦闘レベルは不確定、ステージ目標は無し――両機体が撃破された時点かギブアップした時点で終了。ゲームレベルは不確定。』
 『通信状況の設定を行なってください。』
 先程と同じかと待っていたらガイドアナウンスからこちらへの質問が来た、画面からマニュアルを出して見てみると、どうやら対戦時に相手からの通信をどうするかの設定らしい。とりあえず「通常通信不可」に設定しておき、相手からの受信だけ選択可能にしておく。
 『全ての工程を終了それではステージ開始です。』
 先程と同じ様にバイザーに包まれた目の前が暗転してステージが始まった。
 相手は有人設定の無人機、最初は各社が販売しているノーマル機体が散発的に出てきた。しかし撃破を重ねるごとに敵の出現数が増えてきたり、強力なカスタム機、大型の機体などバリエーションが増えてくる。
 「新たな敵を6機確認した、今度は編隊を組んでいるぞ。」
 「とうとう連携しだしてきたか。どうします、障害物の多い方に行きますか?」
 「まだいいだろうが……。そうだな念のため移動しておくか。」
 「そうですね、相手の思考ルーチンも徐々に強力になってますし。」
 現在のステージは地形に制限は無いらしくエリアごとに様々な地形があった。
 そして敵のレベルも段々上がっていくと見える、武達は今後の事を見据えて障害物の多い地形に移動を開始した。まだまだ余裕だったが戦場で生き残るには臆病な位慎重な方が丁度いい、臆病すぎても行けないが。
 移動しながら6機の敵を36㎜突撃機関砲で片付ける、すると視界の片隅に新たな警告が映った。
 『敵4機――プレイヤー有人機。』
 「どうやら我々と同じ様な有人機体が来るようだな。」
 「乱入者ってやつか。どうします、編隊を組んでいるようですが?」
 「敵の力量と装備が分からんが……セオリーどおりにブレイク(編隊解除)させ各個撃破するのが妥当だろう。」
 「分かりました、じゃあ俺が突っ込みますよ。」
 「いや――フラットシザース(平面機動挟撃)の方が良いだろう、敵編隊はアローヘッド(弓矢の鏃)だ両側面から一気に近付いて挟撃する。」
 「了解、それじゃあ俺は左で。」
 そして散開していく2人。
 ……この後この編隊を危なげなく倒す、そして更に出現する敵機やプレイヤー有人機を次々に屠っていった。
 「「「「うぉおおおーーーー!!!」」」」」
 外では武と真那の戦闘に全員が釘付けだった。既に戦闘レベルは11に達し、乱入者も継続的に戦闘に参加してくる――それなのに次々と敵を倒し続ける2人は久しぶりの派手なステージだったからだ。
 更に2人の武器が近接戦闘長刀と突撃機関砲(3門)だけというのもその人気に拍車をかけていた。レーザーやミサイルなどを使わずあえて射程の短い武器だけ、しかも滅多に使われない近接武器を有効に使っている、そんなこのゲームでは独特の戦闘スタイルが珍しいのだろう。
 「やっぱりタケルはスゴイねぇ。」
 「うん、いけいけぇータケルちゃん!」
 純夏と尊人は相変わらずはしゃいでいる、しかし冥夜は目を鷹の様にしてジッとその戦闘を見つめていた。
 〈ピピピピ〉
 新たな警告音と共に情報が寄せられてくる。
 『敵2機――プレイヤー有人機、接続は橘町支店』
 先程からどんどん有人機の相手が増えて来ている、USAなど外国からの接続も来ているほどだ。
 「新たな敵が来たぞ。」
 真那の言葉と同時に敵の姿を最大望遠で捉えた。しかしその敵機の姿を見た2人は驚愕して目を見張った。
 「あれはっ不知火!!」「もう1つは吹雪か?」
 「いや……ディテールは良く似ているけど両機とも細部が違う。」
 「それにしては似すぎている、偶然か?」
 「解りません……。もしかして焔博士か夕呼先生の仕込みか?」
 現れた2機の敵は向こうの世界の戦術機――不知火と吹雪にそっくりな機体であった。偶然にしても細部は違えどディテールが似すぎている。
 武は試しに通信回線を受信オンリーにして開いてみた。
 『ホラホラっ行くわよ茜!! 久しぶりのつわものよ、相手にとって不足はなし!!!』
 『水月先輩張り切りすぎですよ、いい年して。』
 『なによ、せっかく一時帰国した可愛い後輩との親交を暖めようと言う私の熱意が解らないの?』
 『先輩の場合自分が遊びたいだけでしょ。』
 その聞き覚えの有る声は……
 「速瀬大尉――それに涼宮茜……。」
 「知り合いか?」
 「ええ……知り合いというか……1人は向こうの世界での知り合いですがもう1人はこちらの世界では面識がありません。」
 涼宮茜とは面識があったが速瀬大尉とはこちらの世界では面識が無かった、並列世界だから他の面々がこの世界にも居るはずだったがまさかゲームの中で邂逅しようとは。しかも乗っている機体が不知火と吹雪そっくりとは……世界の繋がりの不思議を見たような気がした
 茜機―吹雪は武へ、速瀬機は真那へ向かってくる。武と真那も一騎打ちの体制に入る。
 茜機と速瀬機から自立誘導弾が発射され2人に迫る、それをアフターバーナーで横に加速しながら振り切れない物を点射の要領で撃ち落していく。
 その間に茜機は36㎜を掃射しながら武機に接近して来る、それを予想していた武は主脚を使い低高度ジャンプからの横飛び――距離をとりながらも36㎜の斉射を返す。しかし茜機もたいしたものでそれを見事にかわして見せた。
 再び距離をとる両者、そして再び急接近する。
 ある程度近付いた所で茜機が自立誘導弾を8発撃ち放ってきた、集中射撃だけではなくある程度の距離を置いた射撃、傍目には乱射したようにしか見えない弾もあった――しかし武には解った、これは綿密に計算しつくされた射撃だ、逃げる方向は後ろ……しかも限定された範囲しかない。
 (戦闘センスも経験も戦略性も良い、しかし……)
 武は噴射跳躍装置を全開にして前進へ突進した。
 相手は十二分に強かったがそれでも向こうの世界の涼宮茜には及ばない、しかもこちらの茜には「死への恐怖」がない、いっそ潔いまでの思い切りの無さが不足していたのだ。
 先述の「臆病な位が良い」と言うのと矛盾していそうだがそうではない。物事には常に裏と表が有る、どうしようもない危険な状態も上手く活用すれば活路を開く道となるのだ、「ピンチの裏にチャンスあり」とは誰が言ったものか。
 飛行して来る自立誘導弾の間を霞め飛び茜機へ肉薄――相手もなんとか対応しようとしていたがそのまま戦闘長刀で叩き斬った。
 着地した後に真那の方を見ると丁度同じ位に速瀬機を撃破したようだった。
 「中々に強敵でした、そっちはどうでしたか?」
 「こちらも存外強敵であった。向こうの世界では何処の所属だ?」
 「国連軍A-01特殊部隊所属・速瀬水月大尉です。」
 「そうか……、いつか向こうでも手合わせしてみたいものだ。」
 「強敵ですよ、負けず嫌いですし。」
 「ふふふ、それは重々楽しみではあるな。」
 
 その後武達は次々と敵を打ち倒し続けとうとう最高記録を塗り替えてしまった。だが何時までも勝ち続け戦闘が終わらないのでその少し後にギブアップして戦闘を終了させた。
 各方面から色々詮索が来たが冥夜と月詠が御剣の特権でそれを押さえつけてくれたので大事には至らなかったのが幸いだった。
 その後にまた町の散策を続け工場の方に戻った。
 そしてその夜は皆で話を交えながら色々と呑んだり食べたりと騒いだ。最後にはまりもちゃんが酔って暴走し皆が次々と投げ飛ばされていったが、武と真那は早々に自室に避難してヨロシクやっていたようであった。






 2日目終了、3.4.5は少し纏めます、1話になるか2話になるかは未定です。
 水月と茜がでてきましたが……、他のキャラは多分出てこないかな? 私「季節」はやった事ないし……。
 ではでは。



[1122] Re[21]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第63話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/11 07:43
2005年4月27日……焔研究室




 武雷神の運用評価演習が終わって少し経った頃に焔に呼ばれ研究室に赴くとそこには月詠もいた、どうやら2人に話が有るようであった。
 そして焔は薬らしき物が少し入った小さな強化プラスチックの小瓶を渡しながらとんでもない事を言った。

 「老化防止薬ぅ~~~!!!」

 「そう、老化防止約。ただ先に言っておくが「延命薬」ではないからな。」
 焔が出してきた小瓶を眺めながら武は胡散臭そうに言う。寿命に関することは人類不変の夢だがそれだけにいくら焔の発明と言えどすんなりと信じる事が出来なかった。
 そして焔はその不審そうな声を聞いて、武の変な思考を訂正しようとと再度薬の名前を言うのだった。

 「白銀の元居た世界では遺伝子関係の技術が豊富に発達していたのでな、こっちの世界の技術とBETA伝来の技術を合わせて何とか作成できたのだ。……ただし作成には結構な量のG元素が必要なため量産どころか数を作るのも無理だがな。」
 武達の元居た世界では遺伝子解析が既に終了して、その遺伝子などの全てを読み解けば人が何時病気にかかるかや何時死ぬなどという内面的要因が全て判明すると言う。武達の世界は近い未来、病気は「治す」ものではなく「予防」する時代に移り変わるだろう。
 この薬はそんな数々の技術とBETA伝来の技術で作り上げたものであった。

 「これは真那の為に作ったものだ。」
 「私に?」「真那に?」
 「そう――真那は現在25歳……既に人間として成熟した年齢だ、今はまだいいがこれから年を取る事に徐々に肉体の老化による衰えが出てくるだろう。」

 「「…………」」

 それは武と月詠、2人ともが実感していた事だ。武はまだいいが月詠は現在が最善期でこれから肉体の老化は徐々に始まっていくだろう。
 「これは人間の老化現象を止める為の薬だ。詳しい原理は割愛させてもらうがとにかく老化を、ある一定の年齢まで防止させる効果がある。」
 「そりゃあすごいじゃないですか、戦士としての最善期の体を保っていられるなんて。」
 「確かに……、しかし大丈夫なのか そんな自然の摂理に反するような事をして。」
 「勿論肉体に副作用が行かないように最大限に注意は払っている、そもそも原理自体は体での作用を応用したものだからな。ただし……老化が始まった時にどうなるのかは解らん。」

 「老化が始まった時?」

 「この薬の効果は最低で40歳程度、最高で50歳程度で切れるだろう――その時にどうなるかは未知数だ、そのまま死んでしまうかも知れない、一気にそれまでの分の老化が進むかもしれない、徐々に年を取る可能性も有る……ようするに40歳以降の事は保障できないのだよ。」
 武と月詠は黙り込んでしまう、つまり40歳までは最善期の肉体を維持できるがそれ以降はどうなるか保障出来ない訳だ。
 「ちなみにヒュレイカは既に飲んだよ。」

 「解った、貰おう。」「真那!!!」

 その答えに月詠は即座に答えを出した、武は驚いて月詠の方を向く。
 「15年も経てば地球は救われているか滅んでいるかのどちらかしかない、ならば私は人類が勝つ方にこの身を賭ける。」
 月詠の意志は硬いようだった、バーナード星系に旅立った悠陽殿下や冥夜達が地球に駆けつけるのは時間が掛かる。片道2年半、向こうで既に移住の準備が整っているとはいえ足固めの時間を考えると最低でも7年は掛かる。
 「分かった、じゃあ俺も25歳になったら飲みます。」
 武も腹を決めた、人類の勝利に賭け40歳までという期限付きの最強の武器を手に入れる事にしたのだ、月詠の言う通り人類はどう頑張っても15年以上は持たない――現状ではだ……このまま何処か1つの大国が陥落すれば10年は持たないだろう。
 (そうだ……人類が勝利するまで何としても持たせて見せる。)
 そして武は新たに自らへの誓いを立てたのであった。


 その後5月2日に叢雲・霧風・業炎の完成形が出来上がる。そしてコンバット・プルーフと戦闘証明を更に繰り返し5月11日には現行ではほぼ完璧に仕上がった。
 次いで5月12日、焔は武達と他数機の機体製作に着手し始めた、この他数機は武達の要望があった為でもあった。
 そして5月28日に武達各人の専用機が完成、そのままコンバット・プルーフと戦闘証明――そして試験を繰り返す日々が続いた。




6月10日……ブリーフィングルーム


 第4世代戦術機の調整と改良もほぼ終了し、昨日辺りから一息ついていた、しかしその日――次の作戦の概要を説明するのでブリーフィングルームに集合するように焔から連絡があった。
 武達はブリーフィングルームに集合し1番前――スクリーンの前の席に揃って腰を下ろした。

 「次の作戦はアフリカ戦線の援護だ、。アフリカ大陸はユーラシア大陸に直結していて開戦当初からBETAの侵攻を受けている、そのため現在既に国土の半分近くに侵攻されその3分の1は完全に支配権を掌握されてしまっている。しかしそれでもまだアフリカ戦線は維持されている、それは何故か分かるか?」
 焔の質問に響が答える。

 「アフリカには世界有数の産油国(アルジェリアやナイジェリア・リビア)や鉱物資源、天然ガスの産出国があり、その恩恵を受けている大国はアフリカを落とされる訳にはいかなかった。そのためEUやアメリカは油田などを守るために援助を惜しまなかったからです、もちろん見返りとして石油や鉱物を貰いますが。」

 「良し正解、アフリカ戦線のBETA非支配地域が上下に分断しているのはこのためだな。北の砂漠地帯にはアルジェリア・リビアという世界有数の油田地帯がありモロッコ・チジェニアなどではリン鉱石や鉄鉱石、マンガンなどの鉱物資源も豊富に取れる、このため北部は分断されながらも世界の国々が協力し何とか死守している。
 特にリビアは激戦区だ、エジプトは既に完全にBETAの支配域なのでサウジアラビアのフェイズ4規模のハイヴから送られてくるBETAの脅威に晒されている。サハラ砂漠を含めた砂漠地帯は見通しが良すぎて光線級の脅威が上がる為でもある。現在は戦況はやや有利だが、それもオルタネイティブ5時のG弾の攻撃でハイヴが損傷を受けBETAの侵攻は弱まっているためではあるがな。」

 「このアフリカ戦線の主力の大半はマレーシアと同じユーラシア大陸の生き残りが締めている、それに現地兵と派遣された国連軍だな、先程も言ったように各国が支援しているので装備は充実している、ゲリラ戦法と最新の装備がここまでこの激戦区を支えてきたのだ。
 アフリカ戦線とマレーシア戦線は同じ境遇ということで硬い同盟で結ばれている、新人教育施設の建設や艦隊の派遣など援助は惜しんでいない……ま見返りも多いがな。
 今回、第28遊撃小隊に行ってもらううのは第4世代戦術機の実戦機能試験……と言えば聞こえはいいが実際には第4世代戦術機の性能を見せ付ける事だ。砂漠地帯での鏡面装甲の実証性を目にすれば光線属種に悩まされるアフリカ戦線の上は飛びつくだろう。そうすれば戦力が充実し、砂漠地帯・サバナ地帯・ステップ地帯などが多く光線属種を排除できなかったチャド・ニジェール・マリ・モーリタニア・西サハラの奪還の可能性も上がる、あそこらの地域は膨大な鉄鉱石・ウラン・石油・リンがほぼ手付かずで埋まっている、これが採掘できるようになれば人類の生存年数も上がるだろう。」

 一気に説明を聞き終えた武達は今の情報を頭の中で反芻してよく吟味していた。
 視界が良すぎる所為でレーザー種の脅威が大きい平原地帯、砂漠は丘陵があるからまだしもサバナやステップ地帯は最悪だ、多脚戦車などによるALM運用などで何とか凌いでいるがそれもきつい。

 つまりそんな所で鏡面装甲――ひいては第4世代戦術機の力を皆に見せ付けろ……と言う事だ。レーザーさえどうにかなれば歴戦の猛者が集まるアフリカ戦線、BETAに反撃する事も出来るようになると言う事だろう。
 そして大陸中央の大鉱脈を奪取できれば資源不足も少しは解消し人類の生存年数も僅かに上がると言う事だ。

 「基地の有る前線はナイジェリアと中央アフリカ、それを統括するカメルーン基地。そしてウガンダとケニア、それを統括するタンザニア基地。そしてコンゴ、アルジェリア、リビアの前線基地。」
 「お前達には空輸で行ってもらう、12日にシンガポールへ到着しその後13日の昼頃に中央カメルーンの前線基地に到着予定だ。熱帯雨林気候は今雨季だしカメルーンも南部は南西モンスーンの影響で大雨季の時期だ、大雨や高温多湿でのデータもちゃんととれて丁度いいが気をつけろよ、大雨の中――しかも密林での戦闘は勝手が違う、まあヒュレイカが密林での戦闘経験があるらしいから大丈夫だとは思うがな。」

 確かに熱帯や亜熱帯気候の雨季はバケツの水をひっくり返したようだと言うし、それに併せ初めての密林での戦闘となれば気は抜けないだろう。
 しかも……

 「更に新種のBETAも発見されている。」


 「「「「「「!!!」」」」」」


 声に出さないまでも皆驚愕する、キメラ級・インターセプト級に次いでの新たなる新種、ここに来てここまでBETAに変化が来るとは……。
 「私はBETAは外敵に合わせてその個体を確定するものと考えている、現に光線属種や兵士級は後から用途に合わせて製作された種だ、G弾でのハイヴ破損や厚木ハイヴの陥落――ここに来てBETAの人類への対応が変化してきたと思っていいだろう。
 新種のBETAは地球上の生物を模倣している、その他――戦略などに今の所大きな変化は無い。しかしBETAに思考能力は無いが、オリジナルハイヴには指揮官型BETAユニット、上位存在が居ると予想される――この上位存在はBETAを統括し知性も有るとされているが、もしこの上位存在が人類の事をもっと学習して対策を練ってきたら将来的にBETAが戦略的行動を取る事も示唆されている、今大丈夫だからといって安心できん。」

 BETAの上位存在、戦略的行動……頭の痛い話だがまだ今は関係ない、武達はとりあえずアフリカ戦線と新たなBETAの資料に目を通しだした。
 そして12日、武達はアフリカ戦線に向かった。


 新型BETA3種確認
 ・潜伏級(ピット・フォール級):スパイダー(クモ)・大型種
 ・狩猟者級(ハンター級):ウルフ(オオカミ)・中型種
 ・殲滅級(ジェノサイダー級):マンティス(カマキリ)・大型種

 なお今回の新種発見により各BETAの大きさを基準化する。
 (全長・全幅・全高の差によりある程度種別を考慮する)
 ・5×5(m)以下を小型種(対人級)
 ・10×10(m)前後を中型種
 ・15×15(m)以上を大型種
 ・40×40(m)以上を超大型種   


 第1部完








 やっと第1部が終わりました……といっても色々端折っちゃいましたけど。
 これから世界激闘編に行くのですが、新たなBETA……地球上の動物や架空の生物、兵器などを基にしたオリジナルBETAが結構出てきます……。
 アンリミ時の設定だったから好きにやれてたけど、オルタでBETAが出てきたからなあ~~。マブラヴの雰囲気を壊すような事はしたくないので設定には気をつけます……からどうか心の広い目で見てやってください。
 この動物型BETAも伏線の内なのですよ、私のマブラヴ設定フォルダの中にある「真実(裏設定)」のメモ帳……メチャクチャ凄い設定が書いてあります、我ながらよくここまで壮大な事を考えたもんだと……色々な意味で。
 第3部で皆さんを驚愕させる事が出来るようにこれからも頑張ります。(以前言ったように執筆速度は段々遅くなりますけど。)



[1122] Re[21]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ アラスカ編・1
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/13 23:40
 2005年6月13日……アラスカ、日本軍前線基地




 『A-01部隊、朝霧楓少佐、至急第9納庫へ集合してください、繰り返します……』
 朝の訓練が終わろうかという時間に突然に響き渡った集合命令に対し、ブリーフィングルームで訓練の検討を行なっていた207小隊の3人は首を捻った。
 「なんだろうねー?」
 「第9格納庫は新設されたばかりでまだ使われて無ない筈よ、そこに集合なんて確かに変だわよね。」
 「そうですね~、呼ばれたのが私達と教官だけですし~。」
 他の基地でもそうだが、アラスカでの日本軍基地は元からあった基地を利用している。しかし幾つかある基地に日本軍の全てが収まりきれるはずもなく、各基地は増設を繰り返してきている。この基地も当初は40機収納できる格納庫が4つしかなかったが、基地の増設と共に格納庫の増設も行なわれた。(現在8×40で320機が駐屯している)

 第9格納庫はつい先日完成された格納で現在は使用されていない。日本軍がアラスカに移住してよりカナダに衛士訓練学校が建設されたが、そこから日本で移住以前から衛士訓練を受けていた衛士が卒業したので、新たに基地駐屯衛士が増員・再編されることとなり、基地の増設もされたのである。その為、3人は不思議がったのだ。

 「まあ……ここで考えてても答えは出ないよ、行ってみないとね。」
 「そうですわね。」
 その時後ろから宗像大尉と風間中尉に声を掛けられる。3人がその声に振り向くと、ブリーフィングルームに訓練を終えたA-01の皆が入ってきた。
 「あっ、みなさん訓練は終わったんですか~?」
 「ええもうバッチリ、快勝快勝!」
 「そうなんだ、よかったですね。」
 「確かに、我々だけでも確実に最後まで到達出来るようになったのは良い事だな。」

 第207部隊はA-01に臨時編入されているが、部隊単独での訓練もたまに行なっている。今日はA-01部隊が単独で厚木ハイヴ突入シミュレートを行なったようだった。
 「ただし誰かさんが撃破されなければねぇー。」
 「ヴ……、悔しい……言い返せない。」
 「茜はもう少し周りを見た方がいいわよ。」
 「涼宮大尉の言うとおりだな。思い切りがいいのは良いが良すぎるのも問題だ、所詮1人ではできる事は限られてくる、軍隊での強さとは自己の強さで決まるわけではない、他人との――部隊連携において自分の役割を完璧にこなす事こそが強さなのだ。」
 「はい、解りました。」
 何かを考える様に頷く茜、横から美琴が伊隅少佐に質問する。
 「じゃあ速瀬大尉とかはどうなんですか?」
 「自分の役割を完璧にこなすと言う事はまず第1に撃破されないことだ、部隊に穴が開けば連携が崩れそれだけ他の部隊員の負担が増える、それは作戦の成功率に大きく影響するだろう。速瀬はそれが解っている、一見無謀に見える突撃も部隊全体から見ればそこを起点に行動を起こしやすい場所を狙っているだけだ。危険ではあるがそれが突撃前衛の宿命でもある、そしてその突撃は仲間を信頼してこその突撃だ、最前衛が穴を作り・中衛が撃破し・後衛が援護をする、そしてそれを昇華してこそ最強の部隊が作り上げられるのだ。……もちろん個人の力量の底上げも重要だがな。」
 その言葉に考え込む207と茜、しかしそれを断ち切るように伊隅は言った。
 「考えるのもいいが先に第9格納庫に急ぐぞ。」
 そう言って衛士強化装備のまま歩き出す、ほかの面々も呼び出しの事などを話題に上げながら第9格納庫へ歩を進めた。




第9格納庫


 皆が第9格納庫に到着した時、入り口付近には既に朝霧少佐が到着していた、そしてその横には征夷大将軍代行・御剣真貴の姿も見えた。皆は整列し伊隅少佐が敬礼を掛ける。

 「A-01部隊、命令により集合いたしました。……それで、どのようなご用件でしょうか?」
 突然の集合命令、伊隅も気にしていたのかやや性急に真貴に向かって訪ねる。
 「それがな、私にも分からんのだ。」
 その真貴の答えに朝霧と伊隅の両名は目を丸くして驚愕した、勿論後ろにいたA-01の面々も。征夷大将軍代行とは基地司令を兼任するこの基地で1番偉い上官なのだ、その真貴が知らないというのは正しく晴天の霹靂であった。
 「分からない……ですか?」
 「うむ、私も先程突然に呼ばれたのでな。まあ焔からの荷物と言う時点で詮索を諦めているが……。」
 「成る程、それは解ります……。」
 「はあ……?」
 焔の友人である2人は、人を驚かす悪戯好きの性格をよく知っていたので既に達観してしまっていたが、焔という人物を知らない伊隅などはよく解らない顔をしていた。

 そこへ整備員長が駆け寄ってくる。
 「真貴様、搬入準備終わりました。」
 「うむご苦労、それで我々を呼んだ訳はなんなのだ?」
 「はっ、専用機体らしいので目録の方に記載されていた名前の方々をお呼びしました。」
 「専用機体?」
 「はい、私もビックリしましたが……焔博士の目録によれば中身は新型の戦術機らしいです。」


 「新型だと!?」「「!!!」」
 「「「「「「「「新型!!!」」」」」」」」」」


 その整備員長の言葉に全員が驚愕する。そしてその驚愕とほぼ同時に格納庫に「それ」が搬入されてきた。
 「うわ~~」「凄いです~~」
 タマと美琴は子供の様に目をキラキラさせて「それ」を見詰め、他の面々も驚愕と好奇心の目で「それ」が搬入されて来るのを見詰めていた。
 4種類の戦術機、全体の造りは武御雷と不知火に類似しているがどれも見た事が無い機体である、数は10機……ちょうどここにいる人数と同じ数の見知らぬ戦術機がハンガーに搬入されてきたのだった。

 「まったく、焔のヤツは何時も何時も……以前衛士のデータを欲しがったのはこのためか。事前連絡の1つもよこさんとは。」
 「まあ……機密事項に抵触する事でもあったのでしょう。」
 「いいや、あやつは絶対確信犯だ。分かっててやってるに決まっている。」
 「……そうでしたわね。」
 朝霧の希望的発言を真貴は一刀の元に切って捨てる、朝霧も焔の性格的に自分の発言の内容がありえないと分かっていたかがっくりと首を落とした。
 そんな哀愁と諦めが漂う2人を、伊隅はなんともいえない目で見詰めていた。

 搬入が終わると整備員長が目録を取り出し読み始める。
 「焔博士の目録をお読みします、よろしいでしょうか。」
 その発言に全員が頷く、真貴までもがその目に好奇心の光を湛えていた。
 「搬入されたのは新型である「第4世代型戦術歩行戦闘機」です。」
 「「「第4世代!?」」」
 誰ともなしに疑問の声が上がる。てっきり第3世代戦術機の新型だと思っていたのだろう。
 「はい、全く新しい技術で造られた最新鋭機です。マニュアルは後ほどお渡ししますがハッキリ言って……いえ、これは実際に見てもらった方が良いでしょう。」
 整備員長は説明の途中で言葉を濁す、全員はその意味深な発言にますます想像力を書き立てられた。


 「右から第4世代戦術機:武雷神、青が真貴様・赤が朝霧少佐・黒が伊隅少佐。そして第4世代戦術機:霧風、これは速瀬大尉。その横が第4世代戦術機:叢雲、榊中尉・鎧衣中尉・宗像大尉・涼宮中尉。最後が第4世代戦術機:業炎、珠瀬中尉・風間中尉となります。」

 皆は今言われた自分の機体になるという戦術機をそれぞれ見詰めていた。それを見て一旦言葉を切った整備員長は目録の続きを読み上げる。
 「武雷神は強化改造型、叢雲は標準型、霧風は近接戦闘型、業炎は遠距離型となります。また今回搬入されてきた機体は、白銀少佐の進言で各員に合わせて焔博士が直々に造られた特注品であり、強化改造も施してあるそうです。」

 「白銀が!?」「たけるさんが!?」「タケルが!?」

 207の3人はその言葉に驚愕する。
 「はい、今回の第4世代戦術機の理論や技術などには白銀少佐と月詠中佐もご協力していたそうです。」
 「にゃ~~~!」「へぇ~~~!」「白銀がねぇ。」
 「月詠もか? なるほど……」
 2人はますます驚愕の度合いを濃くし、委員長は半信半疑気味に驚愕する。真貴も月詠の名を聞いて何か思うところがあったらしい。
 「それで、これには何時乗る事が出来るようになるのだ?」
 そこで今まで黙って話を聞いていた伊隅が整備員長に質問する。後ろで責付いている速瀬と茜を見かねての事だろうか? 2人の顔は新しい玩具を貰った子供のようで「早く乗りたい」オーラが溢れ出ていた。

 「個人のデータは約1ヶ月前の物を参考にしていますので各機体からのデータの移行と調整を合わせれば昼過ぎ……そうですね、2時頃にはシミュレーターでならば使用が可能です。実機となりますと我々の整備把握と寒冷使用の調整、その他諸々を含めまして3日は掛かります。」
 「シミュレーターならば可能なのか?」
 「はいそれは確実に。実機のほうは寒冷地での使用や改良機の実機での動作保障など運用評価する事がありますのでそれをまず確認してもらいます。この第4世代戦術機は実戦未経験らしいのでデータ収集の意味も込めて運用をお願いしたいそうです。」
 「なるほど、我々は運用実験も兼ねているということか?」
 「いえ……動作保障はされていますので単純にデータ取りですね。一応は仕上げてあるそうですが、まだまだ改造の余地はあるそうです。」
 その言葉に少し考えて頷く伊隅、自分達で乗ってみないと最終的に何とも言えないが白銀がコンバット・プルーフをしたのなら一応は大丈夫かと納得したようだ。

 「ああ、マニュアルアルを持ってきたようです、失礼。」
 その時向こうから2名の整備員が厚い本をそれぞれ持って近付いてきた。それに気付いた整備員長は伊隅に言ってから、その2名の整備員に指示を出す。それを受けた2名の整備員はそれぞれにマニュアルを渡してからまた向こうへ去っていった。

 「私も最初に見た時は目を疑いましたが、このマニュアルに記載されているカタログスペックの数値は全て運用評価で叩き出した信用が置ける数値だそうです。シミュレーターへの調整が終わるまでは、このマニュアルを見て機体性能などを把握しておいてください。」
 カタログスペックという物は大概その数値を下回る物だが、焔は完璧主義というか嘘が嫌いなため評価試験などで得られた実際の数値しか載せていなかった。
 皆は好奇心が抑えられない様子でマニュアルを開いた。最新型――しかも第4世代戦術機という位だ――例え戦う為の機体であっても、新しい玩具には興味が湧く。


 「え゛え゛え゛え゛え゛!!!」


 そしてその時――逸早くマニュアルを開き中を見ていた、速瀬大尉の何とも言えない驚愕の叫びがその場に響き亘ったのであった。








 全面改訂終了。と言う事でアラスカ編です。
 実はこれ63話でほんの少し伏線が出ています、勘のいい人はもしかして分かったかも?
 色々書いていますが……ではでは。



[1122] Re[22]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第64話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/09/27 18:01
2005年6月12日……アフリカ上空。


 現在武達第28遊撃小隊(6人だが便宜上小隊呼称で統一、作戦上は小隊規模と認識)は現在アフリカ上空にいた。
 なお今回焔は付いてはこない、循環再生エンジンの製作調整が出来るのは現状焔しかいないため日本の地下基地で循環エンジンの量産と鏡面装甲の量産マニュアル作製、そして他の基地での循環再生エンジンを量産するための研究を続けるそうだ。(勿論他の研究もだ、現に武達の戦闘記録などは全て送れといってきた。)
 武と月詠――それに第28遊撃小隊は一躍有名となったので、焔が一々交渉しなくても融通が利くようになったことも有る、また――今後(まだまだ後だが)CP将校としてエルファも部隊に参加してくれる事になっていた。
 レーザー(属)種からの攻撃を警戒して、一旦南大西洋に抜けてから回りこむようにして飛行し沿岸部のカメルーン山を盾に低空飛行で進入、その後地形を盾に低空飛行を続け、中部のアダマワ高地を抜けたところから始まる北部ステップ地帯を、極北州に位置するマルア基地めざしNOE(匍匐)飛行していた。
 現在はもしもの時の為に戦術機内で待機中である。(ちなみに武達は第4世代戦術機用の05式衛士強化装備を着用している。)
 〈ガクンッ〉「操縦士なにがあった!」
 もう少しでマルア基地に到着しようと言う所で急に輸送機が高度を落とした、月詠は何があったのかすぐさまパイロットに通信で問いただす。
 『ナイジェリアとの国境付近にBETAの一群が侵入してきている、といっても国境基地のミサイル射程圏内にワザと誘い込んだらしいがな……レーザー種の数が存外多いそうなので更にギリギリのNOE飛行に入る。』
 その言葉を聞いた月詠は一瞬黙考して状況を整理、次に目を開け通信越しに皆を見渡した。
 「俺はいつでもいいですよ。」
 「私も別に構いません、やれます!」
 「是非もない初陣です。」
 「まっ、初戦には丁度いいんじゃないかな。」
 「……ということだ部隊長殿」
 「よし。……やはり初陣は派手に行きたいか?」
 意味深に口を歪めて不敵に笑う月詠に対し、皆は揃って右手の親指を上げていた。
 『操縦士、聞こえるか。』
 『なんだ……トラブルか?』
 『いや――我々は交戦部隊の援護に行く、飛行安全限界距離まで近づけてくれないか。』
 『なにぃ……本気か?』
 『ああ部隊員一致の可決でな。行けるか?』
 『こちとら30年飛ばしてるんだ、超至近距離まで運んで行ってやるよ。』
 『しかしそれでは危険が大きい。』
 『ああ……いいっていいって、俺が大丈夫と言ったら大丈夫だ――プロの言葉を信じとけって。』
 『了解した、それでは頼む。』
 
 そして数分後……
 『敵集団の横に着けたがここが限界距離だ。』
 『十分以上だ。そなたに無上の感謝を。』
 『はっ、いいって。行ってきな、死ぬんじゃないぞ。』
 その言葉と同時に背後カーゴベイが開く、武達は順次ロックを外し外に飛び出していく。
 『フェンリル01・月詠 真那、武雷神――出る!』
 『フェンリル02・白銀 武、武雷神――出るぜ! サンキューな、オッサン。』
 『フェンリル03・ヒュレイカ エルネス、叢雲――出る! 勇ましき戦友に感謝の言葉を。』
 『フェンリル04・御無 可憐、霧風――出ます! ありがとうございました。』
 『フェンリル05・柏木 晴子、業炎――出るよ! 感謝します。』
 『フェンリル06・白銀 響、叢雲――出ます! ありがとう、おじさん。』
 最後に響が出たのを皮切りに輸送機は急速旋回して去っていく、ここはもうほとんどレーザー種の射程圏内だったからだ。
 武達は機体をエネルギー変換噴射で噴射跳躍させホライゾナルブースト(水平噴射跳躍)に移行し、そのままスーパークルーズに入った。
 「衛星からのデータリンク確認、前線部隊が戦闘を開始したようだ。」
 「レーザー種の方は大丈夫なんですか?」
 響が心配そうに自機に表示されたデータリンクを覗き込むようにする。
 そんな事をしなくても網膜に情報を投影すればいいのに? ……と思う武であったが響としてはつい感覚でやってしまうのだろう。
 「その辺は歴戦のつわもの、どうにか対応しているようだ。」
 「後方支援が充実しているしね、これも各国の出資の賜物かな。」
 柏木の言う通り6脚式多脚戦車やミサイル式ALNなどの後方支援が充実しているため大量のALMが使用されている、そのため今の所光線級の被害はないらしいが……。
 しかし油断は出来ない、今は重金属粒子に覆われているお陰で被害がないがそれが切れたら一気にピンチに陥るだろう、ここはステップ地帯で地平線の向こうまで平原が広がっている。
 現在交戦部隊は敵の数が多すぎて前衛に足止めを食らい後方の光線級に肉薄できないでいる、このままではALMが尽きる方が先になってしまうだろう。
 「真那、エネルギー噴射全開であと5分。」
 ヒュレイカが月詠に告げる。この2人存外仲がいいらしくもう既に名前で呼び合っている、なにか色々あった様だがそれは置いておこう。
 (第4世代戦術機のエネルギー変換噴射によるスーパークルーズは最大時速300㎞/h前後は行く、噴射剤を使いアフターバーナーを吹かせばもっとスピードは出るが後の為に噴射剤は温存しておくのがセオリーだ。)
 防衛軍の専用周波数が不明なので月詠は広域通信を利用し呼びかける。
 『交戦中の防衛部隊、聞こえるか?』
 『……なんだ!』
 『こちら第28遊撃小隊、これより貴殿らの援護に入る。戦域データリンクをお願いしたい。』
 『援護!? この際素性はどうでもいいか……ちょっと待ってろ……これか! ……どうだ?』
 その言葉と同時に戦術機内のモニターに戦域図が表示される。現在戦況は互角だがALMの残弾がどんどん減っている、このままではいずれ光線級のレーザーをまともに食らう事になる。少しでも戦力が欲しいという事で、素性の説明もしてないのに簡単にデータリンクを受けられたのだろう。
 通信周波数などを受け取った月詠は広域通信から通常通信へ切り替える。
 『繋がった。現在敵の横合いから接近中だ、我々はこのままレーザー種の群れに突撃して蹴散らす、貴殿らは私達に構わずそのまま攻撃を続けてくれ。』
 『レーザー種に突っ込む! おいおい、正気か?』
 『こちらは大丈夫だ、接触まで残り2分。』
 『分かった、お前達がいいってんなら任せよう。』
 その言葉と同時に通信が切れる、待機状態になっているので回線を閉じただけのようだが。
 「アブレスト(横一列)で突撃する」
 「アブレスト?」
 「なるほど、第1照射はわざと受けろって事ですか。」
 「デモンストレーションと性能確認を兼ねて……ですわね。」
 月詠の指示した編隊に響が疑問の声を上げる、この場合にもっとも相応しくない隊形だからだ。
 しかしその他の者はその隊形を取る意味が解った。要するにわざとレーザー照射を受けて鏡面装甲の力を防衛軍に見せつけろと言う事だ、さらに実戦での機能確認も出来て一石二鳥だ。
 ちなみにこれは事前の実験で鏡面装甲の実用性と安全性を十分に確認してある事と、焔の要請があったためだ。第4世代戦術機の機動性を持ってすれば恐らくレーザーを回避しきれるだろうが、最初に鏡面装甲のインパクトを見せつけなければ、第4世代戦術機の必要性を植えつける事が弱くなってしまう。普段は間違ってもこんな無茶な事はしないが、1発なら確実に安全なので月詠も焔の提案を許容したのであった。

 響も武と御無の言葉でそれが解ったらしい。そして武達はそのままアブレストに移行する。
 「第1照射を受けきった後、水素燃焼加速(オーヴァーブースト)で一気に距離を詰めて後は各自エレメントで光線級を蹂躙しろ。」
 「「「「「了解」」」」」
 残り後1分……そして遠くに戦場が見えてくる。
 『おいっ! そのままじゃレーザーのいい的だぞっ!!』
 閉じていた回線から先程の男の怒鳴り声が聞こえてくる。
 〈ピーーーー〉その声と被さる様に警告音。鏡面装甲表面が初期低出力レーザー照射を感知したのだ、そしてその警告音と同時に初期低出力レーザー照射の感知によってオートで鏡面装甲が起動する。
 鏡面装甲はフィールドが発生していなければ真の効果は発揮できない。エネルギー消費が激しいので普段はフィールド発生システムは起動していないが、鏡面基盤が初期低出力照射を感知するとオートで起動するように設定されている。もちろん手動でいつでも機動できるが。
 「来ます!!」
 「集中連続照射を受けないよう気をつけろ!!」
 ヒュレイカの警告が響く。鏡面の寿命は光線級は約50秒の合計照射、重光線級は約18秒の合計照射であるが連続照射を受けると限界融点突破の過負荷で3倍近い速さで鏡面の限界融点に達してしまうので近い場所に集中照射されるのは避けなければならない。
 御無とヒュレイカの警告の直後、重光線級マグヌスルクス数十体からレーザーが発射され空間に光条が走る。空間を引き裂き視認する間も無く直進し、その高温により目標を溶解させる――人類にとって1度発射されたそれは避けえること難しい脅威であった。
 ……しかし、今回は違った。
 照射されたレーザーは武達の乗る第4世代戦術機の鏡面装甲表面で消滅させられる。エネルギーフィールドの干渉で弱められたレーザーが鏡面で散らされ、その散らされたレーザーが歪曲され反射される、そしてそれが再びフィールドに干渉され消滅するのだ。
 その工程では鏡面装甲基盤がフィールドを稼働する〈ヴゥヴゥヴゥヴゥ〉という小さな稼働音しか音が出ない。戦術機の機動音を考えればそんな小さな音は瑣末な音に過ぎず、事実上音は出ていないに等しい。
 『なにぃ!?』
 通信から驚愕の声が聞こえる、向こうの戦場からこちらを見ていたのだろう。しかし驚くのも無理はない、レーザーの直撃を食らってやられると思った味方が何の被害もなく無事だったのだ。見ていた者は装甲表面でレーザーが掻き消えた様に見えたことだろう。
 武達は全員1機につき3照射程の同時照射を受けたが、ブーストの加速を上手く使い機体に受けるレーザーは1条だけに留める。この神業的空中回避機動も新型跳躍装置あっての芸当であった。
 「よしっ、行こうぜみんなっ!!」
 「承知。」
 「全機、水素燃焼加速!!」
 「あはははは、みんな張り切ってるね。」
 敵の第1照射を受けきった武はその興奮から声を上げる、突撃命令を発した月詠も柏木も他の皆も例外なく気分が高揚していた。
 今まで散々に人類を苦しめ・悩ませてきたレーザー種のレーザー攻撃を無効化したのだ、その興奮の程も窺えようと言うもの。皆はこの第4世代戦術機が普及した時の事を想像し、新たな希望の出現に胸を躍らせた。
 水素燃焼加速によりブーストに圧縮され溜め込まれた水素が一気に燃焼され、一瞬音速に達しようかとするほどの爆発的な推力を生み出す。そしてその推力を起爆剤に加速し、一時的に全開の倍近いスピードを搾り出して前進する。
 「ぐ……くぅ!」「んっ……んんん……」「キツイ……ねぇ……」
 対G構造と新型衛士強化装備でも殺しきれない圧倒的なGの負荷が肉体に掛かる、第4世代戦術機はその機動性故従来の戦術機より格段にGの負荷があるので対G構造も格段に強化されているのだが、それでもこの水素燃焼加速は強烈なGで体が押しつぶされそうになる、熟練衛士でも気を抜けば意識が持っていかれるだろう。
 そしてその驚異的な速度で瞬く間にBETA集団の後方――レーザー種の密集地帯に肉薄する。それに気付きマグヌスルクスだけでなく、先程は前方の防衛隊を間断なく攻撃していたルクスもが武達を狙うが、初期低出力照射を受けた時点で既に敵レーザー種の集団中央に突入していた。
 そこからはもう狩り放題であった。レーザー種は味方誤射を絶対にしない、敵集団中央に突入した武達に攻撃を加えられるはずもなく円陣を組んだ武達の36㎜突撃機関砲の全方位射撃の前に次々と撃破されていく。
 中には保護膜を下ろすマグヌスルクスもいたが、滑空砲から発射されるAPFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)や甲殻弾はそれもものともせず次々と撃ち倒す。
 円陣周囲――突撃機関砲射程内のレーザー種を倒すと、武達はエレメントを組んで各個撃破に切り替える。各個とは言ってもいつ何時不測の事態が起こるかも解らないので、セオリー通りに部隊間連携を保つように戦う。空中へ跳躍するとレーザーの良い的になるので接地機動だけの機動攻撃であったが、レーザー種は直接攻撃能力を持たないし、他のBETAは前線で防衛部隊が引き付けているので何も問題は無かった。
 レーザー種の数が少なくなると武達は戦い方を3次元的な高速機動攻撃に切り替える、個体数が少なくなった事で味方誤射を誘発する射線が取りにくくなる為である。これは普通なら危険な行為だが光線級の数が減った現状ならば何も問題は無い。それは第4世代戦術機の機動性を持ってすれば単発のレーザー照射ならば噴射加速で回避する事が出来るからだ、これは光線級の自動追尾能力が第4世代戦術機の機動性に追従できないからである。また少しくらいの集中照射や連続照射を受けても対処の仕方では高確率で回避が可能だ、もしレーザー照射を受けても鏡面装甲が機体を守ってくれる。
 鏡面装甲はあくまでも保険であり、第4世代戦術機の真価はやはりその異常なまでの機動性能なのであった。
 武達はあっという間に200体近くいたレーザー種を殲滅してしまう。腰部突撃機関砲と、両主腕パイロンも合わせた6門での射撃は、絶大な制圧面を作り出す。第4世代戦術機は腰部の補助腕など、最初からこの攻撃形態を取る事を考慮しているので、機動面に対しても付加が少なく戦い易いのだ。
 レーザー種を全滅した後、武達は防衛部隊の援護に回るべく準備を開始する。
 武・月詠・ヒュレイカ・御無は腰部突撃機関砲を背後――後ろ向きの状態に戻して、右手に持った05式電磁突撃機関砲を背面真ん中のパイロンに保持していた04式近接戦闘長刀と取り替える。
 そして響と柏木は腰部突撃機関砲はそのままに、右手の05式突撃機関砲だけ戦闘長刀と取り替えた。
 そして武達は防衛隊の援護に向かったのだった。 


初期小隊装備(全機共通)
右手:05式電磁突撃機関砲
左手:05式電磁突撃機関砲
背面パイロン
左端:04式突撃機関砲
右端:04式突撃機関砲
真中:04式近接戦闘長刀
予備マガジン(500発)
腰部弾薬ラック:片側4つ
甲殻弾:右×2 左×2
通常弾:右×2 左×2

計4000発
背面弾薬ラック
APFSDS弾(10発)×2
ショットシェル(150発)×2



[1122] Re[22]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ アラスカ編・2
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/14 04:54
2005年6月13日……アラスカ、日本軍前線基地




 「え゛え゛え゛え゛え゛!!!」

 その何とも言えない驚愕の悲鳴に、周囲の皆は何事かと速瀬の方を見る。
 「なにこの嘘みたいなスペック! ぇえっ!! レーザーを無効化ぁ!?」
 速瀬は「信じられない」という表情を浮かべ、マニュアルをバラバラ捲っては斜め読みし、更に驚愕の声を張り上げる……という行動を繰り返している。
 そんな彼女を唖然と見ていた面々も、速瀬の驚愕の叫びに聞き捨てならない単語が幾つも混じっているのを聞いて、あわてて自分の持つマニュアルに目を戻す。
 そして暫らくパラパラとマニュアルのページを捲る音が響く、その間――それを見ている皆の口からは、速瀬の様な叫びは上がらなかったが、驚愕と感嘆の声が絶えなかった。

 「確かにこれは……叫びたくもなる。」
 「そうですわね……。」
 堅実的で冷静な判断を下せる宗像と風間は何とか驚愕の感情を自制していたが、そのスペックの高さに感嘆の意を籠めていた。
 記載されているスペックは第4世代戦術機の各機体の平均スペックと各専用機体のスペック両方で、その両機と「不知火」のスペックを比較対比したグラフも載っていた。平均スペックだけでも第3世代戦術機「不知火」を凌駕しているのに、各専用改造機のスペックは正しく飛びぬけて高かったからだ。

 「冗談……という訳ではないのでしょう?」
 「私も俄には信じられません。このスペックはハッキリ言って強力すぎます。……いえ、使用されている技術からして異常です。」
 そのマニュアルを見て現実主義者的思考の伊隅は書いてある事を事実と判断する一方で、やはり何処か信じられなく真貴にその真偽を問いただすように声を掛ける。彼女は焔という人間を知らないからであり、そのデータが信用に値するかどうかイマイチ確信が持てなかったのである。それは委員長の方も同様であった。

 真貴はそんな伊隅と委員長の心情を察し、苦笑いをしながらも懐かしむように焔の事を述べた。
 「あやつは悪戯好きの困ったヤツだがこういう時に嘘は言わぬ、先程の整備長の言葉にもあったが戦闘証明で出された数値なら信用が置けるであろう。」
 「でも確かにこの内容は傍目には信じられませんけど、とりあえず午後のシミュレーターで乗機して確認するしかありませんね。」
 真貴の言葉に伊隅が取りあえずは納得しようとしている所で、朝霧が何か達観したように発言する。このマニュアルに記載されている数値がどれだけ信用が置けようとも、実際に自分で確かめてみなければ納得はできない、今ここであれこれと想像しても頭を無駄に回転させるだけだ。
 4人が話しているそこに先程の整備員長が駆け寄ってくる、そして真貴と朝霧、伊隅に何かを告げ少し話した後、また向こうへ走り去っていく。
 そして伊隅は1つ頷くと真貴の顔を見て小さく「よろしいか」と口にする、それを見た真貴は小さく頷いた後に後ろを向き歩き出した。歩いて行く真貴をに軽く敬礼し、伊隅はその場で振り向く、そこでは相変わらずA-01の皆が千差万別の表情を浮かべたり喋ったりしてマニュアルを見ていたのだった。
 それを見て相変わらずの彼女達に少し苦笑した後、真面目な表情を作り号令を下す。

 「注目!」
 流石と言うべきなのか、その一言で喧騒はピタリと止み、全員姿勢を正し伊隅の方を注視する。
 「これより1335(時)まで各自マニュアルの読解に努めろ、整備員や仲間と相談してもいい、とにかく完璧に頭に詰め込んでおけ。」

 「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 「1340に格納庫で新型衛士強化装備を受け取り着用、そのまま1355までに第6シミュレータールームへ集合しろ。なお昼食は消化の早い栄養強化補給食か戦闘時用の補給飲料のみにしておけ、Gが半端ではないらしいからな。では一時解散する。」

 「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 そしてA-01(207もA-01に臨時編入されている。)の皆は時間までマニュアルの読解に努めるのであった。




第6シミュレータールーム


 あの後各自マニュアルを頭に叩き込み、軽い昼食(栄養補給)も済ませ指定時間内にシミュレータールームに集合していた。
 ちなみに第6シミュレータールームはまだ下地が出来ただけでシミュレーター筐体は設置されていなかった、しかし今そこには新しい筐体が設置されている、これが第4世代戦術機と共に搬入されてきた第4世代戦術機用の新しいシミュレーター筐体であった。設置自体は極簡単に調整を入れれば3時間程度で設置が終われる様に簡略化されている。

 「それにしても帝国軍仕様の衛士強化装備を着る事になるとはね。」
 シミュレータールームで伊隅を待ちながら全員は新しい戦術機や装備の事に話しの花を咲かせていた。その中で宗像が隣にいた風間の姿を見て感慨気に言葉を発する。
 「ずっと国連仕様の強化装備だったから妙に違和感が……。」
 「確かにそうですよね~、動きやすさは変わらないんですが~。」
 「ボクは結構好きだな、カッコイイし!」
 「おっ鎧衣、いいこと言うわね。私も結構気に入ってるんだわ。こう……いかにも鎧って感じでさぁ、ヴァルキリーズの戦装束に相応しくない?」
 「まあ、デザイン的に凝っている事は認めますけど……。」
 「なによ~、茜は気にいらないの?」
 「いえ、そんな事は無いです。」
 「ふ~ん、へ~え、そう?」
 あわや速瀬の茜への追求が始まるか……という所で伊隅が涼宮を伴ってシミュレータールームに入ってきた。全員は即座に整列して挨拶代わりに軽く敬礼する。

 「よし揃っているな。各員のデータは既にシミュレーターに入力済みだ、これから直ぐにシミュレーター試乗に入る。」
 「よっしゃ!!」
 伊隅の言葉に速瀬はガッツポーズ付きで歓声を上げる。それを伊隅は「仕方ないやつめ」という目で、涼宮は「もう水月ったら」……という子供の悪戯を寛容するような、嗜めているのか笑っているのか微妙な表情を見せていた。
 「先程真貴様と朝霧少佐と共に私も試乗してみたのだが……」(近衛軍専用のシミュレータールームがある。)
 「え~~、隊長もう乗られたんですか~。」
 「隊長、先に楽しむなんて横暴よ!」
 「こらこら速瀬、そんな顔をするな。他の者もだ、解説しなくても直ぐに乗れる、暫し待て。」

 そこで伊隅は一度全員の顔を見渡す、伊隅がこれをやる時は重要な話しに移行する時と皆知っているので即座に場に静寂が戻る。
 「先に乗ったのは、隊長として機体の性能等を把握しておく必要があったからだ。それで乗ってみて分かったのだが、この第4世代戦術機は気が抜けないと言う事だ、特に私達の乗る機体は特注の上に強化改造されている、不知火の……第3世代戦術機の感覚で乗ると間違いなく失敗する、私も意識して注意していたが半分意識を持っていかれた。」
 「ええっ! 隊長が!?」
 声を上げた茜だけでなく他の皆もそろって驚愕に顔を染める。あの……超一流の伊隅少佐が意識を半分持って行かれるとはいったいどういう戦術機だというのか。

 「これは戦術機と考えるな、戦術機の形をした全く新しい兵器だと思え。カタログスペックの通りノーマルの第4世代戦術機でさえ不知火の性能を軽く凌駕する、お前達の乗る強化改造済みの専用機はそれこそ不知火の2倍以上の性能がある、まずは普通に乗りこなすことから始めろ。」
 その言葉に皆は沈黙する、新しい戦術機と聞いてはいたが何処か気楽に考えていた事も事実だ。しかし初乗りとはいえ、伊隅少佐でさえ満足に振り回せないとは……認識を改めなければならなかった。
 そしてA-01の皆はシミュレーターに搭乗したのであった。




システム起動・オールグリーン。


 その表示に次いで皆は戦術機のコクピットの中に居た。マニュアルで確認はしていたが第3世代戦術機のコクピットより幾つかの変更点がある、基本的な仕様は変わらないが新しいスティックやボタンなどが増設されているのだ。皆は1つずつそれを確認していく、マニュアルで覚えたのと実際に触って確認するのではやはり臨場感に違いが出る、ここでしっかりと位置を把握しておかなければならない。

 現在皆の乗っている戦術機は現在膝立ち状態で固定されてる。

 「いいか、第4世代戦術機は第3世代戦術機に比べ補助腕の増加などで操作が多様化しているが思考制御でそれらの操作を補っている。第3世代戦術機と同じ様に機体操作だけでも十分に運用可能だが、思考面での機体制御を駆使してこそその真価が発揮される。
 そして思考制御と合わせて新たに採用化されたシステムや新型装備、機体特性なども十二分に把握しろ。そうだな……ではまず網膜投射と情報投影でメインカメラ(戦術機顔の目の部分に付いているアイカメラ)の映像を直接見てみろ。」

 その伊隅の命令に従って、マニュアルで覚えた操作を実行する。
 「うわっ、なにこれっ!」
 「外が直接見えるわね……。」
 網膜投射と衛士強化装備による体内器官への直接情報投影により、目の器官や脳に戦術機のメインカメラで捕らえた映像が直接投影され、戦術機のメインカメラが捉えている映像をあたかも自分の目で見ているように捉えることができるのである。しかもそれは感覚的なものでちゃんとコクピットの中の状態も通常の視界として見えている……つまり通常視界と投影視界が2重に見えていると言う何とも不思議な感覚だ。

 「よし、では戦闘情報を映し出してみろ。」
 「ふにゃあ~、なんだか自分の目じゃないみたいですぅ。」
 「目に直接情報が映し出される感覚よね。」
 メインカメラに直結し見ている映像に、直接戦闘情報が映し出されてくる。生身の自分の視界の片隅に残弾やレーダーが映し出される感じだ。思考制御でモードを操作でき、モードを変えると半透明になり背後の景色と重なって見えるようになったり、映し出される情報を増やしたり消したり、拡大したり縮小したりと実に多彩なことが出来る。
 他にサーモグラフィーの映像にしたり、レーダーの反射音で捉えた立体物のモデリング映像など、自分の視界をレーダーの情報と直結するという事までできるのである。更に視界だけでなく音響センサーの情報を骨伝導を使い直接聞くこともできる。

 「では次は背後……そうだな、肩部のカメラに視界を切り替えろ。」
 「これはまたなんとも……。」
 「前を見ながら後ろを見る……という感じですわね。」
 これは映像を背後のカメラに切り替えたのだ。第4世代戦術機にはメインカメラ他、死角がなるべく無いように機体の各所にカメラが設置されている、この機体各所のカメラの映像も直接投影で見ることができるのである。
 ……しかし人間の目に近いメインカメラはともかく、1つしかないカメラの映像を脳内処理するとはいえ2つの目で見るのは最初混乱する。しかも背後を見るなど普段ありえない視界で見るため慣れないと気持ち悪くなったりもする、なので慣れるまでは戦場では使わないことだ。

 「これらを使えば自身の視界が戦術機と同等になり、より即時的でリアルな映像として見ることが出来、戦術機をより人間と同じ感覚で動かすことができる。そしてそれは思考制御を行なう際に人間と同じ感覚で考えられると言うメリットもある。また、この直接投影の視界でも視線と思考制御で自動ロックオンが可能だ、ロックオンした目標は思考制御で腰部機関砲などに射撃命令を出せばオートで狙いを付けて撃つ、主腕との操作が同時にできるので実に便利な機能だな。」
 新型インターフェイスによる投影視界と視線ロックオン、そして思考制御は3つバラバラでも有効に活用できるが、3つ揃ってこそ真の価値があるのだ。

 「だがこれだけに頼ってはならない、それというのも戦闘時はメインカメラから目が離せなくなるからだ。この直接投影で見れる映像は1つだけだ、他のカメラの映像を見るにはカメラの切り替えを行なわなければならなく同時に2箇所を見ることができない。直接投影だけでは左右や背後の死角までをカバーする事はできないのだ。
 ではどうするか? これは従来と同じウインドウ方式を使う。直接投影をしても2重になってコクピットの中も同時に見えるだろう、これは戦術機の操縦のためとウインドウ情報を見れるようにするためだ。直接投影の強さは「深度」で表される、深度が大きい……つまり深いほど直接投影はよりハッキリと表され、深度が小さい……浅いほど直接投影は薄くなる。この深度が0になると従来の第3世代戦術機と同じ操縦方法になる。
 なお従来のウインドウ形式でも視線ロックオンは可能だ、(外部カメラが捉えた)ウインドウに表示されている敵やレーダーの光点に視線を合わせ思考制御でロックオンを命令すればオートロックオンされる。これは直接投影でも可能なことだが、地面や岩場など視線を合わせて思考制御すればどんな場所でもロックオンが可能だ、勿論ロックオンの解除も思考制御で簡単に指示できる。更にロックオンされた敵は思考制御による兵装選択と射撃命令で自由に攻撃できる、ただし射程距離などを十分に考慮に入れろ、それと武器の稼働範囲などで攻撃できない敵はエラー表示される、それも考慮に入れて置け。」

 皆黙って伊隅ま説明を聞いている、マニュアルにも基本説明は載されていたが、やはり直接乗って確かめてみた伊隅の説明を聞くのは重要だ。実戦で使ってみる場合の感想を交えた説明はためになる。

 「直接投影は思考制御と従来のウインドウ形式と併せれば物凄く便利なシステムだ。最初は深度の設定――つまり直接投射とウインドウ形式の使用比率の調整が難しいだろうが、深度設定と視界の切り替えは一瞬なので慣れてくれば思考制御で簡単に最適な使用比率にすることができるようになる。
 思考制御とは「操縦者が思ったことをコンピーター(戦術機)が実行するシステム」で、これは操縦者の操縦情報や(機体)機動情報をコンピューターなどに蓄積し――「今操縦者が思っている事」をコンピューターが感知すると、蓄積された情報から「今の操縦者の思考に1番近い行動」を拾い出しそれを統合させて最適な行動として実行するのだ。つまり我々が戦術機に乗って様々な行動をすればそれだけ戦術機は賢くなり行動もスムーズになっていくと言う事だ。」

 伊隅は説明を終えるとウインドウ越しの皆を見渡す、皆は難しい顔をしているが何とか理解はしているようだった。それを見届け次の号令を出す。

 「解ったな……。よし、では戦術機を動かすぞ。」
  
まだまだ初乗り教習は続く。








 え~と、A-01を使った第4世代戦術機教習です。伊隅教官?
 作中での網膜投射というのは実際に使われています。ただし脳内や感覚器官に情報として投影する方法はまだ確立されていません。ただ機械を埋め込めば可能なようですが……そこら辺は詳しくないので。
 映像が2重に見えるのは片方が戦術機のコンピューターを媒体にしているという設定です。脳からの視覚神経へのバイパスに戦術機のコンピューターからのバイパスを直接繋いで、戦術機のカメラが捉えている映像を視覚情報と一緒に脳内に送り込む……むぅ、言葉では上手く説明できません。まあ……そういうものだと思っていてください。
 では次話で。 



[1122] Re[5]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 3日目
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/12 00:15
2005年2月12日……EX世界




 後一足。
 たったそれだけで相手の領域に足を踏み入れる事となる。始めた時はそれぞれの間に3メートル以上の空きがあった、開始からこれまで相手である武は「待ち」の姿勢で動いていない。

 今日の武と真那の朝の訓練を目撃して武に勝負を持ちかけたのは冥夜の方だった、そして今仕掛けているのも。いや……攻防は対等であった、武は御剣特性の模擬刀を体は自然体にしてやや右下段気味に無造作に構えている――そもそも武が習っている剣術は戦術機で活用することを前提にした剣技だ、本格的な対人剣術も習っているが、対BETA戦では抜刀術などは余り活用する術がないので武は抜刀術を余り活用しない、その為抜き身で構えている――静と動、傍から見れば冥夜が攻めて武が守りに回っている様に見える……しかし攻めているのは主に武の方であった。

 2人とも特性や性格的に積極的攻撃を得意とするタイプだ、事実2人の習っている剣術は「待ち」ではなく「攻め」の特性が強い剣術である。
 だから見ていた月詠は開始早々積極的攻防が始まるかとも思った、しかし武はその場で構え1歩も動かなかった。冥夜は抜刀の構えで様子を見たが、暫らくすると摺り足で接近を開始した。
 武と自身が構え対峙し合った時、冥夜は恐怖を感じた。

 朝見た武の剣技の冴は素晴らしかった、技は自分の方が上だと見えたが実戦経験による活用度は明らかに武の方が上であった。真那との対戦では最初こそ「剣術」であったが、最後の方の対戦は勝負では最低限の剣術の基本を抑えた一見無茶苦茶な攻防にしか見えなかった。しかし無限鬼動流という実戦流派を学んだ冥夜にはその攻防の凄さが見て取れた。
 お互い常に相手の最低3手先まで読んで戦っている、1つの動きが3つ4つ先の自分と相手の動作の事までを考えて連動させている、そしてその判断を瞬時に尽きる事無く繰り出している……それは考えて出来ることではない、莫大な実戦経験から弾き出される反射にも近い行動だ。
 そして冥夜は武に「試合」ではなく「勝負」を持ちかけたのだが。


 (よもやこれ程とは……。)

 隙が無いわけではない、いや……自身の剣技ならば攻撃することは容易だろう。しかし怖い……今武は自分を殺すつもりだ、命のやり取りを行なってきた武の剣技は相手を「喰う」事に特化している、たとえどんな状態からでも自己を生かしつつ敵の命を狙ってくるであろう。

 (あと半足……)

 あと少し足が入ればそこは相手の領域、柄を握る右手の意識が鋭敏化する。
 勝負は3手、それ以内に決めなければ自分は斬られるであろう。武の経験に裏打ちされた処理対応能力は自分の能力を遙かに超える、自身の経験から4手目で致命的な対応の遅れが出ると予想。
 息吹の要領で肺の空気を大量に押し出し、そして大気を体に取り込む。空気だけではなく世界に遍く「気」をも共に取り込んで。そして体を一瞬弛緩させる、全ての力を抜き一瞬の緩みを作り、空気の様に軽く……しかし確かな力強さを持って……。

 「ふっ!」

 一足飛びに武の領域へ飛び込んだ。
 右足の一歩と同時に左に下げた鞘から刹那の一閃、しかしそれは武の剣に阻まれる。武は右に下げた両手をそのまま捻るようにして顔の前に待ち上げ模擬刀の刃を下にして刀身の峰で防御、刃と刃のインパクトの瞬間、襲ってきた刃を跳ね返すように外に押し出しながらそのまま上段からの斬り下ろしに持って行く。 
 冥夜は左に打ち払われた勢いを左足の屈伸で吸収し、その力を溜めバネの要領で腰ごと打ち上げる、その動きと連動させ流れた模擬刀をやや強引に真上に振り上げ、左の肩目掛けて打ち下ろされる武の模擬刀を横から打ち据えた。
 そのまま柄を握った両手を右腰横に移行させ刃を相手に向ける。先程の打ち上げの時力を溜めた右膝はやや外側を向きつつ程よい角度で曲がり、そして左の膝も右膝の向きと同じ方向に曲がり足も踵が浮いた状態、体はやや前傾。
 相手の模擬刀は左に流れている、そして狙うは防ぎ難い点の攻撃。

 (ここだ!!)

 左の踵を地面に着け左の膝を深く曲げ力を溜める、それと連動し右膝も深く曲がり力を溜め、体も深く前傾し折れ曲がるようになる。そして左足を軸にして右足で地面を蹴る、その瞬間左膝・右膝・腰の捻りの力を全て上半身に余す事無く伝える、そして右足を前に出す勢いと連動し上半身が捻りこまれ更に力が集約。最後に一歩前に踏み出した右足を起点に、腹に付け構えた両手が全ての勢いと力を集約された腰部の捻りと上半身の動きによってカタパルトの様に全身全霊の力を伝え打ち出された。

 狙うは鳩尾、突きという攻撃で1番避けられ難い場所。そこを目指して模擬刀を突き出す。
 既に冥夜には手加減をする理性など残っていなかった、ただただその強さに戦士として体が反応していた。刹那的な攻防の中見ゆるは煉獄の情景、ここで倒さなければ……全身全霊を込めなければ次に死んでいるのは自分だとイヤでも理解できた。それ程に今の武は恐ろしかった。

 しかし次の瞬間冥夜の模擬刀は跳ね上げられ、その首に武の模擬刀が添えられていた。
 既に殺気は無く、その模擬刀も武も恐ろしくは無かった。冥夜は跳ね上げられたままの自分の腕を下ろす、その腕は未だに痺れが続いている。

 「流石だな……まさかあのような手で破られるとは。」
 冥夜は感嘆の意を籠めて武の剣技を褒めた。
 あの瞬間……武は左に流れた模擬刀をそのまま右に傾け、突き進んでくる冥夜の模擬刀の刃にその柄を叩きつけて斜め上に跳ね上げたのだ。あの刹那の状況下で瞬時に判断し、高速の刃に柄を叩きつけるとは並大抵の度胸や技量ではかなわない、それは正に驚嘆に値する技量であった。

 「冥夜も流石だ、あの最後の突きは本当に死んだかと思ったぜ。」
 「そなたの剣気に当てられ理性が飛んでいたようだな……すまぬ。」
 「いいって、真那や御無大尉とやる時は何時も何時も死にそうだからあれ位どうって事ない。」
 武は軽く苦笑する、彼女達は剣を鍛えてくれるのは良いが共に実戦主義で大変なのだ。
 その苦笑に何を見たか冥夜は納得したような顔をする、武の過去を振り返る表情には哀愁が漂っていたためだ。自らも厳しい剣の始業を積んできたものだ……師はともかくとして。
 「うむ、お互い良い勝負であったな。……それにしても、やはり実戦を生きてきた者はこうも成長するものなのだな。」
 「それって3年前の俺が情けなかったって事か?」
 「3年前のそなたとは実力が比べ物にならぬ……と言う事だ。あの頃のそなたはあれでよかったのだ、まあ……今でもそれは変わらないが。」
 「まあ確かに体力とか戦闘力は段違いだけどな。」
 冥夜は言外に今でも武が好きだと言っているのだが相変わらず鈍い武は気付かない。側ではそんな冥夜を見て月詠が「おいたわしや。」と嘆いていた。

 〈ガチャッ〉……とその時、工場の通用口の扉が開いて数人が顔を見せた。
 「タケルタケル~~、出来たよ~~。」
 「たけるさ~ん、できましたよ~~。」
 タマと尊人が手をブンブン振りながら大声で叫ぶ。その後ろから委員長と彩峰が疲れたような、それでいて満足気な顔をして出てくる。
 「珠瀬・鎧衣、終わったのか?」
 「榊様・彩峰様、大丈夫で御座いましょうか?」
 「うんうん、完璧だよ~。」
 「はい、完璧です!」
 「色々あって疲れたけど、何とか普通に仕上がったわ。」
 「白銀には勿体無い……。」
 冥夜は先に出てきた2人に聞き、月詠は普通の感性を持っていそうな2人に確認を取る。どちらも無難な答えが返ってきたので恐らく大丈夫でしょう……。と一応胸を撫で下ろした。

 そして開いた通用口の向こうより純夏の声が聞こえる。
 「大丈夫ですよ……綺麗ですから……。」
 「しかし私はこういう服は余り……。」
 そういいながら純夏が、次いで真那が姿を現す。
 その姿を見て固まっている武に向かって、純夏は得意そうに胸を反らして言った。
 「ど~~お、武ちゃん。私達のコーディネイトは。」
 言葉もなく自分を見詰める武に向かって、真那はやや横を向き恥ずかしげに言葉を紡ぐ。

 「その……やはり変か? 軍に入ってからは普段着など余り着たことがなくてな……。」
 ビシッとしたスーツに身を包み、顔全体を際立たせるような薄い化粧はその美麗さを際立たせている、普段何もしないでも美人なのに化粧と合わせてこんな格好をされると……言葉では言い表せない程に美しい。武はスカートから伸びる2本の脚の流麗なラインや、薄く紅を塗った唇、そしてその少し照れが浮かんだ顔から目が放せなかった。

 「あ……ああ……いや……その……。綺麗だ、すげぇよく似合ってる……。」
 「そ……そうか……。」

 それでも超絶朴念仁と言われた頃より少しは成長したのか、我に返り賛美の言葉を口にする。それを聞いた真那はますます照れてしまう。お互い何となく照れて両者の間にほのぼのとした空気が漂う。
 純夏は膨れ、委員長は呆れるなど、他の面々はそんな2人を様々な種類の生暖かい目で見守っていた。

 「コホン!」

 突然の月詠の強い咳払いに対峙していた武ち真那は覚醒する。月詠はそれが同一存在の他人とは分かっていても、自分と同じ顔の人物がラブラブ空間を形成しているのを見て色々な葛藤があったようだった。
 「武様、真那様。出発のご用意が整っております。」
 「あ……はい、分かりました。行こうか真那。」
 「分かった、この格好は少し心もとないがそなたが大丈夫と言うのなら問題はあるまい。」

 何の話をしているのかと言うと、実は武が真那にユーラシア大陸を見せてあげたいといいだし旅行に行く事になったのだ。
 それはそれですんなりと意見が通り月詠に協力してもらいプランは出来たのだが……それを目敏く横で聞いていた純夏が、月詠の「お召し物はどういたしますか?」と言う質問と真那の「何時もの服装で良い」と言う答えを聞き、その余計なことに情熱を燃やす魂に火がついたようであった。
 悪乗りした他の面々を巻き込んで、月詠に服その他諸々をそろえてもらい大コーディネイト大会が開かれたのである。
 武は勿論外に追い出され、服のことなど分からなかった冥夜と、それに追従した月詠も参加はしなかった。そして武と2人は暇な時間を消化する為に、冥夜の要望もあり模擬刀での真剣勝負を行なっていたのであった。

 降りてきた御剣のヘリコプターに乗り込む武と真那。2人はこれより3日間、向こうの世界では失われたユーラシア大陸の各所を巡るのであった。








 いやホント、3・4・5はあまり書くことがありません。今回も導入部で終わってしまっていますし。
 多分次で纏めて行っちゃいます。6日と8日が長くなる模様。
 ちなみに私は現代系の被服センスが致命的にありません、友人になった人に必ず一回は絶対言われます。(悪くは無いのですが……、センスが無いらしいです。)
 格好には気を使うけど服装には気を使わないからかな?
 まあということで真那様の服装は各自脳内妄想補完してください。



[1122] Re[6]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 3・4・5日目
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/15 23:43
2005年2月13日……EX世界、ユーラシア大陸




 「歴史教程で写真を見たことはあったが……。」
 真那は遙か彼方まで続く城壁の上で幾度目かの驚嘆の意を含んだ言葉を発した。その目は地平線の彼方まで続く巨大な建造物の姿から離れない、向こうの世界では永遠に失われてしまった情景の1つに目を奪われていたのだった。

 「万里の長城」、武と真那はあれから御剣の飛行機に乗って中国へとやって来ていた。
 武が真那にユーラシア大陸で何処が見て見たいか聞いて見たところ、歴史教程で写真を見たことがあるというのでまずここが第1候補に上がったと言う訳だ。


 「人間の英知と自然の大観が見事に重なり合った雄大な地形、事実は往々にして予想や又聞きの知識より上を行くというが……この壮大さ――臨場感は実際に見なければ感じ取れまい。」

 真那は目を細めて、遙か彼方の城壁とその後ろに重なる景色を眺めつける。その顔には喜びや歓喜、そして何かを誇る様な表情と共に憂いや悲しみの表情までもが同時に混在していた。
 ユーラシア大陸――向こうの世界では既にBETAに侵食された大陸、ほぼ全てが不毛の地と成り果てているだろう地域、この景色は向こうの世界では2度と見られないのだ。

 歴史を学習した時はそれなりに悲しいとは思ってもやはり他人事の様な感覚であった、それは他の大陸の事情だからと言う事もあったのかも知れない。しかしこうして実物を見て、それがもう2度と戻らない情景であると知ると、やはり大きな喪失感と共に悲しみが押し寄せて来る。
 人類が築き上げてきた歴史の1つ、出自や過程はともかくとしてその建造物が人類にとって誇るべき偉業であり英知の賜物である事は確かなのだ、なればこそ――この大陸にあったそれらの建造物や神秘に比する自然が破壊されてしまった事は、ただただ無念である事に他ならなかった。

 城壁の上で佇む真那の後姿、その表情は窺えないが声の調子から悲しみなどの感情が伝わってくる。武はその寂寥感を誘う真那の姿に心が締め付けられ、その雰囲気を払拭するように何気なく語る様に声を掛ける。

 「俺は向こうの世界で実際にユーラシア大陸の現状を見た訳じゃないから分かりませんけど、横浜や厚木ハイヴ周辺なんかの現状から大体どうなってるかは予想が付きますからね。」
 「私も大陸へ行った事は無い、だが映像や写真としては知っている。あれは正に不毛の大地、核の炎によってそのことごとくが灰燼と帰し、そしてBETAの地ならしによって何も無い大地へと代わって行った……。」
 「でもその行為がなければ今の俺達は無かった、色々な「もしも」の考え方があるけど結局今があるからこそ過去の行動は間違ってなかったと俺は思います、核を使わなくても結局はユーラシア大陸はBETAの手に落ちていた――なら核によってBETAの侵攻が遅れた事を僥倖に思わないとならないんじゃないですか?」


 その武の考えを聞き、唖然した表情と納得した表情が入り混じった視線を武に向ける。

 「…………」
 「なんですか?」
 「いや、やはりそなたは我等と何処か違うな。我等は核を使わなければならなかったことを悔恨するが、そなたはそれを良かった事だと言う。」
 「だって結果的に良かったから今があるじゃないですか。過去があるからこそ今がある、もちろん今より良い状態を作れたかもしれませんが……今より悪い状態じゃない事を喜ばなければならないと俺は思います、歴史が辿ってきた道は過去の人達が未来の為に築き上げてきた道筋ですからね。」

 武は本心からそう思っていた、以前は過去の人達に対して言いたい事も不満もあった、しかし自らがBETAと戦うようになり世界の現状を知るにつれ、人々の心を知るにつれ、過去の出来事を受け入れられるように考えられるようになったのだった。
 過去は変えられない、もしもう1度過去をやり直すとして果たして今より良い現状が作れるのかは大いに疑問だ、核を使わなかった場合人類がそう持ち堪えられたとは思えないのだ。

 「ふふふふ、なるほど……そなたは……ふふふふふ、」

 月詠はクスクスと笑いながら思った、自分達は被害や威信に目を向けすぎて大切な事を見落としていたのだと。過去は悔恨する物ではない、過去を受け入れなければどうして今があると言うのか……築き上げてきた物は決して間違ってはいない、たとえ他にやりようがあったとしても……もっと他に最善の道があったとしても……、通ってきた道があるからこそ今があるというのに。

 「まさかそなたに説法されようとは思わなんだ。」
 「説法と言うか……そんな大層な考えじゃないんですけどね。」

 真那は実にしみじみと言葉を紡いだ。武はそれを見て少し照れる、柄にもない事を言ってしまったと言う思いはあったが嘘偽り無い本心だったから……それが真那に解って貰えたのが嬉しかったのだった。


 そして武と真那はその後各地を回った、向こうの世界では既に無い景色や建造物。2人ともそれらを熱心に見続けた、これ以後最早2度と見ることは叶わぬ風景……様々な感情を携えつつその短い旅は続いたのだった。


そして最後の日……



 帰りの飛行機の中、真那は向かい合わせに座る武に話を切り出した。今までどうしても聞きたかったことがあったのだが、今回の旅行で美しい世界の1部を見て聞く事を決意したのだった。

 「武……、そなたはこの世界に未練は無いのか?」

 武が向こうの世界へ帰る事は真那も疑っていない。武の性格から冥夜や慧の事を捨てる事は絶対に無いと確信できていたし、自身も――戦友として、パートナーとして共に未来を目指して歩んでいる事による共感がある。

 しかし……だからこそ聞いておきたかった。それは余計なことかもしれない、必要の無いことかもしれない、武自身が解決する想いで自分が関わるべきではないかもしれない……だが真那は知りたかった――真那自身、何故そんなにも知りたいのか明確な訳は分からなかったのだが。恐らくそれは愛しい人を案ずるだだの「女」としての想いだったのだろう、ただ知りたい、側で支えたい、癒してあげたい……理論的な感情ではなく、純粋で一途な想いが真那を突き動かしていた。

 武は行き成りのその言葉に面食らっていたが、少し考えると柔らかな雰囲気を纏いつつ言葉を紡ぎだす。

 「未練があるかと言われたら「無い」とは言えません、こっちの世界には俺が18年近く生きてきた証が存在する。純夏・冥夜・委員長・タマ・彩峰・尊人・まりもちゃん・夕呼先生・月詠さん、それに両親や今までの友人・知り合い、俺に関わった人達……全部を残して去っていくのはやっぱり辛いです。」

 「…………」

 「でも俺は向こうの世界で大切な物を手に入れた、こちらの世界も俺にとっては大切ですがそれは広域的な意味だけです。冥夜、慧、2人の――俺の子供、そして真那……向こうの世界で手に入れたものは俺にとって何にも変えがたい大切な物。だから俺は戦う、命を掛けて未来を掴むために……真那も大切な物のために戦っているだろう。」

 「ああ、私は未来の為にお前と共に戦い抜く事を誓った。」
 「その誓約を違える事はないですよね?」

 「そうだな、それは私の唯一無二の信念であり誓い。……そうか……私は馬鹿な質問をしたな。」

 「いえ……、心配してくれて嬉しかったです。真那はあんまりそういう感情は見せないからな。」
 武は心から嬉しそうに微笑む、真那は恋愛の事に関しては武以上に不器用なので今回の様な感情を露にする想いは純粋に嬉しかった。
 真那はその言葉に瞬時に真っ赤になり照れる、こういう言葉に余り耐性が無いのだろう……しかしその顔は嬉しそうでもあった。

 「な! 馬鹿者……。」
 「ははははは。」

 真那の子供の様な癇癪に武は可笑しくなって笑う、そして飛行機のキャビンに2人の甲高い声が響き渡ったのであった。


 結局武はその後も真那からかい続けた、そして恥ずかしがった真那の一撃で地べたに沈んだのはまあ……お約束だろう。








 短い……というか結局書く事が無かった、月詠に過激な反応は期待できないですからね、あまりやりすぎるとキャラを壊してしまうし。月詠はあくまでクールっぽく行きます、基本は……ですが、私の月詠像は色々と複雑なんですよ。
 EX編は基本的に短編なので。短く行くつもりでいましたが……。う~ん、アイデアがでたら追加もしたいけど……。



[1122] Re[7]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 6日目
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/15 23:45
2005年2月16日……EX世界




 こちらの世界に来て今日で6日目、最初は戸惑う事が多かったが武と共に様々なものを見て行くにつれ、なんとか普通に対応できるようになってきていた。
 基本的には向こうの世界と変わらないと思うのだが、思想や環境・辿ってき歴史が違うだけでこうも差異が出るのは大変興味深い事であった。
 
 武は現在側に居ない、今日は純夏達こちらの世界の友人と共に出かけている。武達は今日皆で遊びに行く予定を立てていた様であった、しかし自分が居れば気を使う事もあるだろうと自身はここに残る事にした。純夏達は「遠慮せずとも」と誘ってくれたが、武は我が意を汲んでくれたのか極あっさりとそれを承諾した。
 武があっさり承諾してくれたのは実に僥倖であった、武は頑固と言うか、強引と言うか……妙に逆らえない気分にさせる気質を持っているからだ、カリスマ……とは少し違うのだが何故か人を惹きつける。私も自身の感情に反しながらも何度かその気質に惹かれている、不可解な現象ではあったがそれも武の才能なのだろうとこの頃は思える様にもなってきていた。


 私は現在、滞在場所として提供させて貰った倉庫の自室でインターネットと言う広域通信網のを使い様々な情報を閲覧している、この時間を有効に使いこちらの世界の様々な情報を視て見たいからだ。

 最初に日本の歴史を調べた、こちらの世界と向こうの世界で決定的に違う事、BETAの有無以前に決定的に違う事が辿ってきた歴史だ。向こうの世界にBETAの襲来が無くともこちらと向こうでは明確な差異ができる事は必然だ、特に大東亜戦争後の主義思想などの差異は明確すぎる程であった。
 私は自分の生きてきた日本が好きだ、生きている限りは色々と不満に思う事も多々あるが……それでも私は日本と言う国を愛し誇りに思っている、しかしこちらの様な日本も好きになった事は事実だ。もちろん忌避したいような事も多々ある、そういう意味で言えば向こうの日本もこちらの日本も完成された国とは言い難いが……。

 BETAを駆逐できた後に日本と言う国を再建するとしたら、向こうの日本とこちらの日本……両方の良い所を合わせた国を作れたらどんなにか素晴らしい国になるだろう……と私は夢想してしまったのであった。


 その後も様々な雑多な情報を閲覧し続けた。そして何時間かの時が過ぎた時、私の背後で人の気配がした事に気付いた。
 椅子から立ち上がりその者と正対する、互いに無言……これまで避けてきたがやはり1度は話し合わねばなるまいか。

 「向こうの世界の冥夜様はお幸せでしょうか?」

 月詠の第1声はそれだった。内心で少々笑ってしまう、違う人間なれど冥夜様を案ずる気持ちは一緒かと。

 「その場に居なかったので私には分かりかねるが……白銀武に出会った事で間違いなく冥夜様も悠陽殿下も救われたのだと思う。それに……母からの受け売りで私自身には実感できぬ感情だが、女にとって相思相愛の者の子供を授かるのは1番の幸せなのではないのか。」
 私は嘘偽り無い思いを口にする。

 「そうですか……。こちらの世界の冥夜様も武様を愛していらっしゃいます……いえ、心の支えと言っても良いで御座いましょう。私は冥夜様に幸せになってもらいたいと思っています、しかしながら武様は既にお相手を選ばれてしまいました。
 いえ……詮無い事ですね、侍従である私が此処で何を言っても仕方の無いこと、選んで決めるのは当人達にしかできない事なのですから。」

 目の前の月詠はそう言って目を伏せる、冥夜様の幸せを願う身として言いたい事は多々あるのだろう、しかし彼女は自分が此処で何を言っても仕方が無いことを承知している、だからこそ口を閉ざしたのか。


 「もう1つ聞きたいことがあります。」
 暫らくして顔を上げた月詠のは私の目を見て言った。

 「何故冥夜様の想い人である武様を好きになったのです。」

 その口調は純粋な疑問と咎めるような想いが入り混じっていた。数日前の話で私自身冥夜様を大切に想っている事を彼女は知っている、そんな私が冥夜様の大切な人である武に懸想しているのが信じられない――あまつさえ思いを通わせている、それは冥夜様の想いを考えれば彼女にとって到底寛容できない行為なのであろう。

 それは今の私の心にも少なからず存在する思いだ。
 私は冥夜様の事を大切に想っている、その冥夜様を裏切るような行為はしたくは無い……、しかしながらも私は武の事を愛してしまった。一時はこの胸の底に押し込め、気付かぬように封じ込めた想い……、だが少しでも自覚してしまった想いはやがて溢れ出てこの胸を満たし、とうとう無視できない程に自身の心を蝕んで行った。

 私は自身の心を蝕む武への想いを捨て去ることが出来なかった、冥夜様への裏切りにも等しい行為なのに……理性では解っていても女としての己の心は武を欲した。そして結局私は武と想いを通わせる、「冥夜様がご帰還されるまで」という言い訳がましい理由を立ててまで。だから今は……今はまだこの想いにその身を委ねていようと思うのだ。

 そして私はなぜ冥夜様を裏切るような真似をしてまで白銀武に想いを寄せたかを嘘偽り無く正直に答える。


 「解らない。」


 「解らない……?」

 「なぜわざわざ冥夜様の想い人である白銀武を好きになったかは私にも明確な理由は解りはしな、しいて言うのなら共に命を預け戦って行く内に好きになっていった……と言うのが妥当だろう。」
 「本当に解らないのですか?」
 「当初は武の事を不審に思っていた、だが武は冥夜様や悠陽様を救ってくださり、冥夜様の想い人となって、その後共に戦う仲間となった。」
 「共に戦って行く内に愛情が芽生えたと?」
 「そうだな……。私は軍人一辺倒で生きてきた、だから恋とか愛と言う言葉は知っていてもそれがどういう感情かは知らなかったし興味もなかった、この身は悠陽殿下や日本の為に尽くす事に何の疑問も抱いてはいなかったのだ。
 だが……そんな風に思っていたのに私は白銀武と言う男を好きになって行った、そして次第に深く愛する様になる。なぜか? ……そう聞かれても私自身答えられん、何時の間にか愛してしまったのだ。――女だから――私自身信も信じられなかった事だがそれが最大の理由なのであろう。」

 人が人を好きになるのに理由や理屈は必要無い、そして女が男を好きになるのにもまた明確な答えは必要ないのだ。理由や理屈、欺瞞やいい訳を幾つ並べ立てようとも事実は事実として受け入れるしかない、それは人間の本能に基づくあやふやでそれでいて確固たる感情なのだから。

 「そうですか…………。その感情は私には解りかねます、貴女は本当に私とは全く違う人物なのですね。」

 環境が違えば性格も変わる、月詠には月詠の真那には真那の生きてきた道がある、互いに譲れない願いや想いがあり互いに生きる目標も道筋も違う、身を焦がすような恋をした事が無い月詠には真那の抱える想いや葛藤は理解できない。月詠は真那のことを少なからず自身と重ね合わせて見ていた、先程の咎めるような口調は冥夜に不義を働いた真那の行動が許せなかったのであろう、しかし今のやり取りで互いが全く異なる人物だと実感したのだった。

 「冥夜様を大事に思っている事は同じな様だがな。」
 「ですが貴女にはそれ以上に大事な方がいらっしゃいます。」
 「悠陽殿下のことか。」
 「はい、こちらの世界の悠陽様は冥夜様が幼少の砌に事故に遭いお亡くなりあそばされました。私は悠陽様とは面識がありません、その時点でもう既に私と貴女では大きな違いがあるのでしょう。」
 「確かに私は冥夜様より悠陽殿下の事が大切なお方だ、悠陽殿下は我が日本国を背負って立つ征夷大将軍の地位に在らせられるお方、そしてなにより私の幼少の頃よりの友人でもある。しかしその悠陽様が心砕かれ大切に想うからからこそ冥夜様もその役目以上に等しく大切なお方なのだ。」

 悠陽殿下を守る立場にいながら、幼少の頃から姉妹の様に側にいて育ってきた悠陽殿下が心砕かれる冥夜様は私にとっても妹の様な存在、だからこそ任務以前の自身の感情により冥夜様を大切に想うのだ。

 「人柄や性格は違えども根本では同じ所もあるのですか…………解りました、失礼をして申し訳ありませんでした。」
 「いや、構わん。私もそなたとは一度話しをしてみたいと思ってはいたからな。」

 殊勝に頭を下げる月詠、真那もそれでこの話は終わりとばかりに返答をする。


 そしてこの儀式の様なやり取りはその幕を閉じたのであった。
 しかしその後も2人の話し合いは暫らく続いていた。
 
 「ふふふふふ……。」
 「どうしたのだ急に?」
 「いえ、あの子供のようだった武様があんなに立派になられたのが未だに信じられなくて。」
 「そんなに子供っぽかったのか? いや、私が最初に会った時からも随分と芯の無い軽い男だとは思っていたが。」
 「そうで御座いましょう、全くあの時も武様は……。」
 「ほうほう。それで……?」
 「鑑様と冥夜様のお弁当を……。」
 「あやつめ……何を考えていたのだ!?」
 「本当に何を考えていたので御座いましょか? いえ、武様の事ですからきっと何も考えていらっしゃらなかったと思いますが。」
 「そうなのか?」
 「ええ、当時は深く考えずにその場のノリと反射だけで受け答えをしていましたから。あの時も……。」
 「こう言ってはなんだが……馬鹿だな。」
 「ええ、それにこれは鑑様からお聞きした事なのですが……。」
 「…………」
 「…………」

 その後数十分間以上にわたり月詠の「白銀武、嬉し恥ずかし赤裸々体験暴露ツアー」が開催され真那はその全てを余すところ無く聞いていた。
 当時の白銀武のバカッぷりを聞いた真那は呆れて言葉も出なかった。
 現在もお気楽的な性格は窺えるが……当時の片鱗は見受けられない、この3年で人間的に大きく成長したことが原因であろうが。
 ともかくとして2人の話し合いは無事に? 幕を閉じたのであった。








 EX編は最初と最後しかキチンと決めてませんで……。ここも書きながら考えていたのですが……書きたい事があるのに言葉に纏まらないというのはもどかしいです。
 前に続いて結局進まなかったのでこのまま纏めてしまいます。う~ん、まだまだ未熟と言う事でしょう、今はシナリオ風に書いていますが描写も段々できるように頑張りたいです。
 足りない所は皆さんの脳内妄想補完に頼らざるを得ない未熟な私ですが……忙しい中でもなるべく精進いたします。
 UL世界の方はちゃんと進められるのになぁ……なぜだろう??



[1122] Re:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第65話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/06/18 20:33
2005年6月14日……中央アフリカ南部、熱帯雨林




 「まずいねぇ……日が落ちてきた。」
 鬱蒼と茂る背丈数十メートルにも及ぶ熱帯植物、その合間から見える空は薄っすらとオレンジ色に染まりだしている。

 現在第28遊撃部隊はアフリカ南部の熱帯雨林の中に居た。
 あの国境線の戦いの後カメルーンの統括基地に到着した武達。手続きや状況把握・地理の学習などで何日か滞在してからリビアの前線に向かう予定であったが、中央アフリカ南部の駐屯地の1つから連絡が途絶えたとの通信が入った。

 アフリカ戦線は元々多民族国家であり、国として1つに纏まってはいなかった。そこへBETAが襲来し、各国はなし崩し的に戦いへ移行した。そのためアフリカ戦線は当初バラバラに戦っていたのだが、国土の4分の1が支配されると危機感から各国は同盟を締結し協力してBETAと戦うことになった。また前線や戦闘地域が一定していないため、中央の北部地域や北部では安全な地域というものが無い。
 以上の事やその他の要因、何よりも辿ってきた歴史とその必要性に、アフリカ戦線では「ゲリラ」と言ういわゆる「歩兵部隊」が存在する。このゲリラ部隊は国家が組織する軍隊ではなく、民間人が寄り集まって出来た部隊で、その構成員には女・子供も多く存在する。彼らは民間人ながらも軍隊として認められ、マレーシアやEU・アメリカなどから提供される新兵器や原始的な罠や武器を使い実に勇敢にBETAと戦い続けてきた、――世界で1番BETAとの対人戦が上手いのはアフリカの民間人部隊――というのは世界の共通認識である。
 「強い」ではなく「上手い」――正面から闘えば正規の軍隊には劣る、正式な訓練を受けていないのでそれは当たり前だ。しかし彼らの戦いは「どんなことをしても勝つこと」そして「生き残る」事に集約される、人間ではなくBETAを相手取るのにそれは最適な条件なのだろう。

 そしてそのゲリラ部隊の駐屯地の1つから連絡が途絶えたのだ。(村が丸ごとゲリラ部隊という事もある、この場合「駐屯地」とは「ゲリラ部隊の滞在場」という意味。) BETAの侵攻警戒や今は雨季という気候条件で、確認が取れていないのに付近の駐屯地からは捜索部隊が出せない。
 という事で、密林での行動経験と第4世代戦術機の動作確認の為に武達・第28遊撃小隊が確認の役を買って出たのである。
 直ぐに出発して真っ直ぐに駐屯地へ向かったが、そこは既に壊滅しており人っ子1人存在しなかった。しかし人間の死体が極少数しかなかった事と、食料や武器弾薬がなくなっている事を踏まえて、雨林の中へ撤退したとしてそのままゲリラ部隊の捜索を続行、現在までに小規模のBETA集団と2回遭遇したがそれ以外の収穫は無かった。

 「やっぱりレーダーだけじゃ不味いんですか?」
 その言葉に響が反応し不安そうにヒュレイカに質問する。
 「そうだね、やはり有視界は大切だ、自身の経験と勘は時に機械にも勝る、機械と人間の両方が合わさってこそ最強足りえるんだ。それに日が落ちると益々友軍の捜索が困難になる、センサーやレーダーは「サイン」を見つけてくれないからね。」

 「サイン?」
 「ああ知ってます、それって言葉の代わりをする目印みたいな物でしょう。」
 「ああそうだ、よく知ってたな武。「サイン」はジャングルや迷路のような所で、一度通った所の確認や、後続の仲間に対する連絡などに使う。地域や種族によって色々なバリエーションがあるが法則性は何故か世界共通だ、これは象形文字の思想に由来していると言うが……まあそれは定かじゃない。――とにかく、レーダー探査と並行して有視界でそれを探していたんだが、日が落ちてくるとそれも見つけにくくなるからね。」
 「へえ~~。」
 ヒュレイカの言葉に感心する響。「サイン」は古来から軍隊でもよく使われていたが、近代化が進み通信機が進化するにつれ使われなくなった物で響が知らなかったのはこのため、しかしこの密林でのゲリラ戦ではよく使われる連絡手段である。相手がBETAなので「サイン」を解読される心配もないので目に付くところに気楽に設置できるのだ。
 ちなみに武が知っていたのは向こうの世界の漫画やアニメの知識である。

 「でも弱りましたわね、捜索範囲が広すぎて部隊が発見できません。森林での対人レーダーや通信レーダーの精度は低いですし、音響センサーも音源センサーもあまり役に立ちません。」
 森林では葉っぱが風で擦れる音や生物が出す音で雑音が酷く音関係のセンサーが役に立ち難くレーダーも利き難い。それでいて捜索範囲は膨大だ、中央アフリカの国土面積は62万2984km2で日本の約1.7倍、駐屯地間の捜索範囲だけでもかなりの範囲となる。

 「駐屯基地は壊滅していたし中継地点にも通過した痕跡は無かったからね、地道に探していくしかないよ。ここがジャングルじゃないことが唯一の救いだよね。」
 「まあなぁ、森を焼き払うわけにはいかないしなぁ。」
 柏木の発言に武がぼやくように追従した。わざわざ密林や雨林で戦闘を行なうのはそこを守るためだ、ユーラシア大陸をBETAに占領された現状、アフリカやブラジルの森林地帯は世界規模の自然環境保全を支える大きな要だ、ここをBETAに蹂躙されれば世界規模で自然環境が激変する、アメリカやEUが援助しているのは何も資源のことが全てではないのだ。


 「……ん!」
 「どうしたヒュレイカ?」
 その時不意にヒュレイカが空を見上げる、月詠の声にも答えず目を細めてジッと空を注視する。
 「来るぞ。」
 「何が?」
 何が来るのか疑問に思った武達が揃って上を向いたその時、凄まじい勢いの雨がその場に降り注いだ。

 「きゃあっ!」

 その勢いと轟音に思わずビックリして声を上げてしまう響。
 「こりゃまた……。」
 「話には聞いていたが凄いな……。」
 柏木と月詠も驚嘆して周囲を見渡す。
 捜索を開始してから今まで、運良く雨に降られなかったが現在中央アフリカの南部熱帯雨林は雨季に入っている、この激しい雨も日常のものだった。
 「不味いな……これは一晩中続くぞ、ますます捜索が困難になる。」
 「分かるのか?」
 「ああ、経験から言ってな。雲の流れや風の温度、そして経験の3つがあれば大抵天気のことはわかるのさ。」
 「へぇ、こんどコツを教えてくださいよ。」
 「経験以外なら教えてやれよう、気象関係の基本的な事が解っていればそう難しいことではない。武の頭でも十分に理解できるぞ。」
 「何か言外に俺の頭が悪いって言ってません?」
 「良くは無いであろう。」
 「あっ真那、ひでぇ。っていうかこの頃みんなで俺を虐めてません?」
 「あはははは、武ってばからかいやすいからね。」
 暗鬱な雰囲気を吹き飛ばすような軽快な会話、どんな時でも前向きなのは28遊撃小隊の良い所でもあるが、その中心はやはり武にあるのだろう。武がいるとどんな場面でも何とかなってしまいそう思えるようになる、皆が武の前向きな考えに引っ張られるのだ。それは白銀武という男の潜在的な才能なのかもしれない。

 ちなみに呼称が変わっているのは厚木ハイヴ戦こっち、皆の親密度が上がった所為だ。何時の間にか皆親しく呼び合うようになっていた、響は年少なのでさん付けしているが。

 「待ってください!!」
 その時、御無の鋭い声が響いた。皆は一瞬のうちに戦闘モードへ切り替わり、武と月詠は左右を警戒しながらも御無に問いかける。
 「どうした?」「どうしました?」
 「動体反応が……捉えました。2時方向約6㎞地点に100個規模の極密集した動体反応を確認、この大雨で精度が落ちていますが多分間違いないでしょう。しかし……。」
 「どうした?」
 「個体反応が前方より流入し増えていきます……。どうやら交戦中のようですね。」
 「じゃあ直ぐに助けに行きましょう。」
 「俺も響に賛成です、いきましょう。」
 その言葉に少し考える月詠。
 「元よりそれが我々の使命。ヒュレイカ。」
 「分かった、先導は任せときな。」
 「頼む。」
 この中で森林地帯や雨林での戦闘経験があるのはヒュレイカだけだ。ただでさえ勝手が違うのに現在は日が落ち始めているし、なにより前も見えないほどの大雨だ、更に歩兵部隊との連携も考慮しなければならない、経験がある者に任せるのは当然であった。動体反応より1㎞前方の地点。

 「止まれ!」
 武達はヒュレイカを先頭に低高度水平噴射跳躍で動体反応のある地点を目指していた。しかしその1㎞前方でヒュレイカはその場に停止し着地した。
 「早く助けに行かないと不味いんじゃないですか?」
 「そうですよ、こんな所で立ち止まるなんてどうしてですか!?」
 武は純粋に疑問に思って質問する、月詠が安心して任せる位にヒュレイカの能力は高い、そのヒュレイカが意味も無く停止するはずが無いと解っているからだ。響はやや焦り気味に怒鳴るように質問する、優秀だとは言っても若さが競ってこういう時にまだまだ大局的なものの見方が出来ないようだ。そういう意味では武は既に――種類的な戦場経験が薄いため、戦略的・知識的経験はまだまだだが――ベテラン衛士の域に達しているのだろう。

 「まずは連絡からだ、データを貰わないと怖くて近寄れないからな。」
 「ああなるほど、そういうことか。」「???」
 ヒュレイカの言葉に武は訳が解ったようだったが、響はその理由が解らないままであった。ヒュレイカはあらかじめ教えられていた通信周波数と、念のため広域周波で通信を行なう。

 『こちら第28遊撃小隊、BETAと交戦中のゲリラ部隊聞こえるか。』
 何回かの呼びかけの後、通信回線の方から返事が返ってくる。
 『こちらボルカ村ゲリラ部隊、隊長のダナンだ。』
 『通じたか。我々は中央アフリカのゲリラ戦線より要請を受けたカメルーン基地より派遣されてきた。貴殿らの現状確認と必要ならば援護も任務に含まれる、現在戦闘中のようだが援護は必要か?』
 『ああ頼む、敵の数が多すぎる。』
 『ならば戦域データを送信してくれ、味方のトラップでやられたくは無いからな。』
 『解った、直ぐに送る。』

 「うわっ、なにこれ!!」
 「へぇ、なるほど、これじゃうかつに近寄れないよね。」
 送られてきた戦域データにはおびただしい数の罠が仕掛けてあった、クレイモアやSSR(小型スパイラルランサー)などの近代的武装を使った罠から、落とし穴や丸太落としなど原始的な罠までそれこそ千差万別に仕掛けてある。そしてこれらの罠、一見無秩序に仕掛けてあるように見えるが実はかなり計算されて仕掛けられている。BETAはそれこそ数で攻めてくるので、正面から戦わず自分達が逃走しながら戦えるように計算されて配置されているのだ。
 この雨林にはそれこそこの様な「罠」が仕掛けられた場所が無数にある、BETAとの遭遇戦や防衛戦に備えてゲリラ部隊が仕掛けて置くのである。彼らはBETAとの戦闘ではまず逃亡し、この罠地帯にBETAを誘い込み少しずつ撃破していく。数で攻めてくるBETAに人間がまともに正対すれば直ぐにやられるのは自明の理、地形と罠と連携を上手く使った巧みな戦闘方法、それが「世界一上手い」と言われる歩兵部隊の戦闘方法なのである。
 これまで武達がこの罠に引っ掛からなかったのは、ヒュレイカが「罠」の場所を示す「サイン」を見つけて巧みに避けて行軍していたからである。
 ちなみにこの雨林には大型種のBETAは入ってこない、これは大型種が雨林では役に立たないためでBETAの方もそれを学習したためであろう。雨林では大型種は動きを限定される、進路や動作が予想しやすく恰好の的なのだ、そのため密林や雨林では小型種の方が脅威なのである。

 『衛星でのデータリンクを確認した。現在我々はその場から7時の方向1㎞地点に待機している、どうすればいい?』
 『我々はこのまま後退するので横合いから攻撃を仕掛けてくれ、場所はこちらが指示する。』
 『OK了解した、じゃあ指示してくれ。』
 戦域データリンクにポインタが表示される。ボルカ隊の移動に合わせ逐次場所が移動しているのが確認できた。

 「これより低高度連続噴射跳躍にて目標地点に移動しボルカ隊の援護に入る、注意することは2つ……」
 「罠に気をつけろ。フレンドリーファイヤ(味方誤射)をするな。……でしょう。」
 「その通り、この雨で視界がほぼ無く敵味方識別信号も無い。レーダーやセンサーを最大限に使って注意して行動しろよ。」
 ゲリラ部隊は個人で敵味方識別信号を出していない、さらにこの激しい雨と雨林で視界は最悪を通り越して最早直ぐ目の前も見えない状態だ。

 「先導する、行くぞ!」
 「騎兵隊の登場だ、ってね。」
 ヒュレイカが先導役を兼ねて飛び立ち、その後に柏木が続く。そしてその他の皆も次々と飛び立って行くのであった。


初期装備

(雨林射撃戦・遠征行軍用重装備仕様)
右手:05式電磁突撃機関砲
左手:05式電磁突撃機関砲
右上腕:クレイモアラック(指向性クレイモア×4)
左上腕:クレイモアラック(指向性クレイモア×4)
右手パイロン:弾薬ラック(500発甲殻弾マガジン×4)
左手パイロン:弾薬ラック(100発散布式銃弾砲弾薬パック×2)
右脚(膝上):クレイモアラック(指向性クレイモア×8)
左脚(膝上):クレイモアラック(指向性クレイモア×8)
右脚(膝下左右):弾薬ラック(500発通常弾マガジン×3・×3)
左脚(膝下左右):弾薬ラック(500発通常弾マガジン×3・×3)
左肩:肩部広範囲散布式銃弾砲×100発
右肩:肩部広範囲散布式銃弾砲×100発
腰部(左):弾薬ラック(200発ショットシェルマガジン×2 500発通常弾マガジン×2)
腰部(右):弾薬ラック(200発ショットシェルマガジン×2 500発通常弾マガジン×2)
背面右パイロン:04式突撃機関砲(冷却ユニット装備)
背面左パイロン:04式突撃機関砲(冷却ユニット装備)
背面中央パイロン:04式近接戦闘長刀
背面:弾薬ラック(滑空砲10×4 200発ショットシェルマガジン×2)








 前の場面から飛んでますが続きです、必要ない部分はスパーンと切りますので。
 今回から雨林戦です、雨季なのでほぼ雨が降っていると考えてください。
 最後の装備は雨林用重装備です、第4世代戦術機は軽いので少し位重装備しても大丈夫。しかもあれはフル装備ではありません、その他にもまだまだ色々な装備バリエーションがあります。
 弾薬はもっと詰めるけど機関砲の焼き付きがありますからね……、弾だけ持ってても意味が無い。
 では次話で。



[1122] Re[24]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第66話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/16 18:28
2005年6月14日……中央アフリカ南部、熱帯雨林




 送られてきた戦域情報を元に罠のある場所を回避しながら低高度跳躍を2回、既にヒュレイカと柏木は射撃地点定めて着地している。この場合逃げるボルカ隊を追うBETAを横合いから攻撃するのでボルカ隊を起点としてBETAを半分包み込むようにに傾斜配置を取る、最初の跳躍時にヒュレイカから陣形のポジショニングは送られてきているのでそれを頼りに射撃地点を定めて着地する。

 逃げるボルカ隊に1番近い所――起点となる所に御無を配置、合図があればいつでも逃げるボルカ隊とBETAの間に機体を割り込ませられる地点、機体特性・接近戦能力・機体操作の繊細さの各種を考慮すればそこが適任だ。
 そしてその斜め後ろ横に柏木が配置される、ボルカ隊に迫る小型種BETAを撃ち倒すのが役目で、射撃と状況判断が1番上手いので、ボルカ隊に迫るBETAを優先順位を見極め、味方誤射無く的確に撃ち倒してくれるだろう。
 その斜め後ろ横にヒュレイカ、雨林などでの戦闘経験が豊富なヒュレイカはどんな状況にも的確に対応・援護する司令塔の役割を果たすのだ。
 そしてその横に響・武・月詠が並ぶ。武と月詠は外周から襲い掛かってくるBETAを撃ち倒す役目も担っている。

 武は3回目の跳躍の後、指示されたポイント付近で射撃地点を定めそこ目掛けて着地。着地後に機体情報と周囲の情報を確認し、クリアーした後に視覚投影を切り替え視界をサーモグラフィックモードにする。外部カメラと連動したサーモグラフィーが捉えた熱源映像が戦術機のコンピューターで処理され、衛士強化装備からその情報が視覚視野とそれを処理・認識する脳内機関に送られ、たちまちの内に武の視界が熱源映像に切り替わった。

 (レーダー情報の投影と普通視界を併用するのは相変わらず変な感覚だな。)
 今武の視界は外を捉えている戦術機頭部のアイカメラの熱源映像とコクピット内を見る通常視界が2重に存在している、投影深度は10の内の5で丁度どちらも半分ずつの比率で等しく見えているのでどちらもハッキリと認識できる状態だ。外の通常視界とコクピット内の通常視界ならともかくとして、普段見慣れないレーダー情報を映像化したものを通常視界と並行して映されるのは未だに慣れない武であった。

 コクピット内の複数のウインドウには各種情報や各部外部カメラの映像が映し出される、それを一々見るのは――特に外部視界投影と併用すると情報量が多すぎて処理し切れなかったりパニックに陥ったりするので、戦術機コンピューターが情報を統合処理して優先度や必要度が高い情報をピックアップする。更に搭乗者の思考を読み取り、その時搭乗者に必要な統合処理・関連付けした情報を優先度を付けてウインドウや網膜内に階層提示するのである。

 この統合処理や情報のピックアップ、関連付けや優先度提示などは思考制御と連動しており、搭乗衛士の操縦情報蓄積や思考蓄積、思考・行動パターン蓄積により進化して行く。衛士の行動蓄積ゆ思考蓄積が溜まれば、それだけその衛士の「操縦情報」や「行動情報」など個人の「クセ」や「動作形態」「思考形態」「行動パターン」「思考パターン」などが蓄積され、統合処理などがよりスムーズになって行くのである。


 熱源映像で周囲を捉える。視界の中に人の形をした熱源とそれに迫る2種類の熱源が映り熱源横に目標までの距離などの各種情報が表示される、情報とシルエットより兵士級ヴェナトルと闘士級バルルスナリスの2体と確認。
 オートロックオンを設定してあるのでシルエットを視認した時にコンピューターが自動で2体のロックオンを完了、そのまま両主腕に1丁ずつ保持している05式電磁突撃機関砲をそれぞれの目標に向けつつ精密射撃と5連パーストモードを思考選択。主腕が上がりきる前に警告として最初の射撃宣言を告げた。これは周囲に注意を促す為の射撃開始の合図だ、BETA戦――特に数が多い小型種相手では一々宣言している暇など無いのだが最初の警告位は入れるのである。

 『02エンゲージオフェンシヴ』

 その宣言の終わりと同時に両手腕が上がり切る、そしてコンピューターがBETAに向けた両主腕を自動補正しロックオンした目標2体をそれぞれ自動捕捉する。

 『フォックス3』

 思考選択ではなく手元の操縦桿のトリガーを引く。両主腕に保持した05式電磁突撃機関砲から撃ち出される36㎜の弾丸 機関砲のバースト設定の通りにキッチリと5発が撃ち出されボルカ隊に迫っていた2体のBETAを撃ち貫き引き裂いた。

 〈ピピピピ〉
 息つく間も無く数匹のBETAが視界に入ってくる、遠方の敵は先程の要領で、近い敵はショットシェルで纏めて撃ち倒してゆく。
 〈ピッピッピッ〉「後続か……、バースト点射じゃ対処しきれないか……、もう少しボルカ隊と引き離したいしな。」
 更に視界の右端に警告マーク、視界外を示す矢印と共に敵名称・距離・個体数などの様々な情報が表示される。武は視界(頭部)と視界内に入ってくるBETAを狙う主腕をそのままに、機体を右斜め側に向け視界外で情報として捉えたBETAをコンピューターに任せ目標選択。次いで腰部の04式突撃機関砲2門を兵装選択して、目標選択したBETAにオートロック射撃命令を下そうとするが、視界内隅に「豪雨によるレーダー精度低下の為ロックオン射撃の精度70%まで低下」と表示された。
 遠距離なのでサーモグラフィーの情報だけでは捉えられないのだが、他のレーダーを併用しようにもこの豪雨でレーダー精度が下がり射撃精度に影響が出ている。

 (密集率は高い……なら大丈夫か。)
 情報によると小型種BETAの密集率は高い、数を撃てば良い状況なのでこの際少しくらいの命中率の低下は関係ない。武はオートロックからの掃射を指示し射撃命令を下した。
 両腰部の04式突撃機関砲から掃射される36㎜の弾丸は豪雨の中を切り裂いて迫り来るBETAに命中していく。視界内の欄外敵情報データやコクピットのウインドウ内情報がBETAの撃破状況を伝えてくる中、武は主腕の05式突撃機関砲での射撃に意識を戻しバースト点射を継続、取り逃がしたBETAは後続に任せればよいのでとにかく視界に入ってくるBETAを片っ端から撃ち抜いていくのだ。
 その傍らで視界隅に腰部突撃機関砲の状態と敵集団の情報、撃破情報などの戦闘情報が統合処理され必要な部分だけが映し出されてくる。その情報を見てとりあえず現状を維持することに決めた武は手元のウインドウで仲間達に意識を向けながらもBETAの駆逐に全力を尽くすのだった。


 柏木は武と違い3連バースト点射で確実にBETAを仕留めていた。彼女は敵味方入り混じった状態でボルカ隊に襲い掛かる小型種BETAを4つの突撃機関砲の精密射撃で正確に素早く撃ち倒して行く。蓄積情報が射撃に特化されている為にコンピューターの射撃関係の能力も豊富・正確で、柏木は状況確認を的確に行いボルカ隊へ襲い掛かるBETAの脅威度を的確に把握しそれを撃破しているのだ。この敵味方が乱雑に入り混じった状態で、味方誤射など1度も起こさずに素早く敵を撃ち倒して行く様は正に芸術的な手腕であろう。
 やがて全てのBETAを撃ち倒し終わる、敵後続は味方が倒しているのでこれ以上のボルカ隊への敵接近はないだろうと判断し指示を仰ぐ。

 「ボルカ隊とBETAの引き離しは終了したよ、これからどうする?」
 「わたくしの方も終了しましたわ、指示をお願いします。」
 「後続はまだ数が多い、どうやら付近のBETAが集結しているようだな。このままではボルカ隊の方にも敵が向かってしまうぞ。」
 柏木や御無・月詠の報告に、そのままヒュレイカは少し考え指示を下す。

 『ボルカ隊、聞こえるか?』
 『聞こえる、取りあえずは無事に引き離せた、礼を言う。』
 『礼を言うのは早いぞ、どうやら付近のBETAが集結しているようだ。我々は貴殿らを防衛したいが何処かに集結してくれないか?』
 『解った、200m後方に集結する。それでいいか?』
 『上等だ、終結後にまた連絡する。』
 「全員聞いたな、これより味方終結後にそこを起点として半円陣形(ハーフ・サークル)を取る、ただし可憐は後方で遊撃、晴子は中央で左右から後方に掛けての遊撃、いいな。」

 「「「「「了解」」」」」

 その命令と同時に各自は敵を牽制し遅滞行動を取りながら後退を開始した。

 やがてボルカ隊の集結が完了する、その時には武達も迫り来るBETAを牽制しながら直ぐ側まで接近を完了させていた。
 『集結は完了した、これからどうする。』
 『後方と周囲警戒の為に後方と中央に1機ずつ配置して残りは半円陣形にて前方から迫ってくるBETAを殲滅する。後方には警戒用にクレイモアを設置するので指定範囲内に接近するな、もしもの時は脱出ルートを後方に開けておくのでそこから脱出しろ。』
 『了解、我々は独自に防衛体制を取る、そちらも気をつけろ。』
 『第28遊撃小隊了解した、幸運を祈る。』

 「よ~し。可憐・晴子聞いたな、後方外周にクレイモアを設置してくれ。その他の者は半円陣形
に移行して接近してくるBETAを片っ端から迎撃!」

 「「「「「了解」」」」」

 そして各自は行動を開始、武達は半円陣形――左端にヒュレイカ、その横に響、右端に月詠、その横に武という迎撃陣形を取る。御無と柏木は外周にクレイモアを設置、この指向性クレイモアはセンサーが内蔵されているので設置型としても活用できる。設置を終えた2人は先程言われたポジションに移行、御無は後方で機動遊撃、柏木はボルカ隊の横――陣形中央付近で遊撃射撃に回る。

 「前面の敵総数は多いが対処できないほどではない。」
 「こちらも大丈夫です、前面制圧は順調です。」
 「横からも散発的に襲ってくるけど問題ないぜ。」
 「今の所は後ろに回りこんだ敵が居ないから私は横面に集中できるけどね。」
 小型種は数が揃わなければそう脅威的な敵ではない、現在は集まってきた小型種が集団になっているとはいえ散発的に襲ってくるだけなので対処が比較的簡単だ。


 「こちら02、給弾に入る。」
 「01了解。」「06了解しました。」
 武は両手の突撃機関砲の通常弾が少なくなってきたので給弾に入る、まず腰部のマガジンホルダーを操作して1つ分離させるように迫り出させる、次に通常弾のマガジンを排出しその空いた空間を腰部弾薬ラックの迫り出したマガジンホルダーに叩きつける様に押し込む、〈ガチン〉という様な音がして視界隅に「マガジン接続完了」の報告が出て残弾に弾薬総数が加算される。
 これで給弾完了だ、反対側の機関砲も同じ様に給弾する。
 この給弾機構は現在の様に両手撃ちをしている時や戦闘中などにスムーズに弾薬を給弾する為に装備された機構である。腰部のラックのマガジンが少なくなったら、空いている時に他の場所にある弾薬ラックからマガジンを移動しておけば何回でも使う事が出来る。叩きつけてはめこむ給弾方式は腰部だけでなく他の場所のラックでも出来るが、姿勢などを変化させなければならないので腰部ラックでの給弾が基本的な方式となる。
 また突撃機関砲にはマガジンの外付けスリットが存在するので、戦闘前に予めマガジンを外付けしておくという方法もある。取り回しが難しくなるが弾薬補給の手間が要らないので迎撃戦には便利な機構なのだ。背面パイロンに接続したまま腰から出して撃つ方式の場合は大抵、このスリットに予めマガジンを接続しておく、固定武装になるので取り回しの難しさはあまり関係なくなるのと戦闘中の給弾が大変な事がその大きな要因である。

 「02、給弾完了。」
 「01了解、こちらも給弾に入る。」   
 「06了解しました。」「02了解。」
 お互いのカバーをして給弾しながら次々とBETA集団を殲滅させていく、横から接近しようとするBETAも柏木と御無が余裕を持って倒していた。


 だが……、暫らくして敵の総数も少なくなってきた時に「それ」はやってきた。

 〈ピーーーー〉「なに……」
 警告音と同時に遠方にBETA反応、識別は……。
 「やばい、噂の新種のお出ましだよ。」
 「個体識別名ウルフ、安直なネーミングだなぁ。」
 「まっ、分かり易くていいんじゃないかな。」
 「確かにそうですわね。」
 「もうっ、どうして皆さんそう気楽なんですか!!」
 「響中尉、気楽過ぎるのもいかんが気負いすぎるのもいかん、何事も平常心が大事だ。戦闘中は少し興奮するくらいが丁度いいが。」
 新種が相手だというのにやはり何処か余裕がある28遊撃小隊の面々、狩猟者級ウルフは前方10時方向から集団で迫ってきている。

 『第28遊撃小隊聞こえるか?』
 『感度良好、どうした?』
 『ハンター級のウルフが来た様だが奴らとの戦闘経験は?』
 『いや、これが初戦闘だ。』
 『そうか、奴らは我々も手を焼いている、ライフル弾も聞かないのでクレイモアかSSRでしか倒せない。奴らは頭が良くて狡猾だ、俊敏さだけなら闘士級バルルスナリスと同等だが4つ足なので旋回能力が高い、更に木を利用して空中からも攻撃を仕掛けて来るし必ず集団戦法を仕掛けて来るのも厄介だ、今までのBETAとは一味違うから気を付けろよ。』
 『了解した、忠告を感謝する。』

 ヒュレイカは通信を切って皆の顔を見渡した。
 「……と言う事で皆気を付けろよ。この豪雨でセンサーが鈍いから空中からの攻撃は特にな。」
 「了解、来ますよ!」
 「念の為にクレイモアを補助碗にセットしておけ。」
 「はいっ、解りました。」
 月詠の言葉で補助碗にクレイモアをセットする面々、1度しか発射できないが腕に付ける場合は銃弾砲より発射自由度が利き高威力なので切り札的攻撃として使用できるのだ。


 そして第28遊撃小隊は新種BETA、狩猟者級しの戦闘を開始した。








 長くなりそうな予感の雨林編、多分3話位で終わるはずですが……。
 次は新種のBETAです、いや……名前でどんなんかは分かると思いますけど。
 では次話で



[1122] Re[8]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 7日目・1
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/23 09:29
2005年2月16日……EX世界




 武と真那がこちらの世界に来てから7日目、御剣の研究所に行っていた夕呼から「データが纏まったから記録媒体を持って来なさい。」と連絡があった。
 記録媒体は武御雷の中に積んであるので外して持っていかなければならなかったが「焔が実物を見たいといっているし他にもやりたいことがあるから全部持ってきなさい。」との事で、結局武御雷ごと全てを持って行く事になった。

 リムジンを運転してきたのは一文字 鷹嘴であったが、彼は武と真那に対しても普通に挨拶をしただけで終わった。
 そして現在武達は武御雷の載った2台のトレーラーを引きつれ、長大なリムジンに乗り御剣本家内にある研究所を目指していたのだった。




 「見えてきたぞ、あれが我が御剣の本家だ。」

 長大なリムジンの中で思い思いに話しに興じていた面々は、その冥夜の声に揃って窓の外を見る。


 「おおぉ~~スゲェ~!!」
 「ホント、大きいねー。」
 「凄いですねぇ~。」
 「無駄に大きい…………」
 「その意見には賛成だわ。」

 皆がその敷地の広さと屋敷の大きさを見て驚嘆する。中でも純夏は子供の様に興奮し、窓の外を見ながら隣に座った武の肩を〈バシバシ〉と叩いている。

 「タケルちゃんタケルちゃん!! 一体東京ドーム何個位入るかなぁ?」
 「さあな……10個は入るんじゃないか?」

 今回のこれからの出来事を色々と思案していて他の事を考えるのが面倒臭いのか、かなりいい加減に答える武。その淡白な反応に対し、純夏はぷっくりと頬を含ませて剥れる。

 「むぅ~~、ちゃんと答えてよぉ~。」
 「俺は今他の事を考えるので忙しいんだ、そう言うことは冥夜か月詠さんか委員長に聞け。」
 「ちょっと、御剣さんと月詠さんは納得できるけど何で私なの?」

 「……ガリ勉。」

 武の一言に疑問を挟む委員長、しかしそこに彩峰がボソッと一言。そして暴走する委員長……何時もの黄金パターンである。

 「むきぃ~~、ガリ勉は貴女の方じゃない!!」


 「…………おお!」


 委員長の切り返しに目を丸くして〈ポン〉と手を打ち合わせる彩峰。
 「あははははは、今じゃ勉強量は彩峰の方が上だからね。」
 「慧ちゃん勉強一杯頑張りましたからねぇ~~。」
 「うむ、確かに彩峰の努力の程は私も頭が下がる思いだ。あれほどの努力をする意志の力はそうそう見れるものではない。」

 「……実力?」

 彩峰は尊人とタマと冥夜の言葉に首を傾げる、しかしよ~~く見てみればその顔がほんのり赤くなっている事が窺えた。褒められて少し照れているのだろう。
 現在は頭の良さ……という点では現在は同等の彩峰と委員長だが、頭脳的な格差と覚える知識の量的に勉強時間は彩峰の方が多いのだった。
 武は、当時の授業をサボっていた彩峰の様子からは想像も出来ないその事実に、心から感心して彩峰の事を賞賛する。本人の反応に一抹の疑問を残したが……。


 (何故に疑問系?)「へえ……、彩峰も頑張ってるんだな。」
 「ま……、私もそれだけは認めてあげるわ。」
 「とか何とかいってぇ~~、彩峰さんが合格した時に泣いて喜んでたクセに~。」

 「なっ、鑑さん!!!」

 「熱い抱擁だったね……〈ポッ〉……。」


 「あ・あ・あ・彩峰ぇ~~~~!!!」


 思い出したくも無い恥ずかしい秘密を純夏に暴露されうろたえる委員長、しかし更に彩峰の止めの一言が投下される。当時のことを思い出し頬を染めて(絶対わざと)恥ずかしがる彩峰に、委員長の怒りは沸点に達した。


 目的地が見えたというのに皆の馬鹿騒ぎは終わらない。その反対側――大きく離れた所で女の秘密の話をしていたまりもちゃんと真那が、その馬鹿騒ぎを聞いて皆の方を見ていた。

 「新宮司殿、皆は昔からああなのか?」
 「ええ……悲しい事に。白銀くんが居た頃は連日の様に何時も何時も何時も何時も……。」
 目を丸くして皆を見ていた真那が、昔の皆をよく知るだろうまりもに問う。そのまりは昔を思い出し哀愁を漂わせた。なんか知らずに涙が出てきそうな不憫な日々だった……(ああっ私って不幸。)


 「ふふふ……」
 「……どうかしたんですか?」
 「いや、武も最近は随分真面目になっていたのだが、その反面どこか不自然さが拭えなかった。だがああやって心から笑う武を見ていると、やはりあやつの本質は、何処か無垢な子供を思わせる自由な心にあるのだと私には思えたのだ。」

 真那は極自然に屈託無く笑う武の姿を見て微笑んだ。向こうの世界での武は、段々と子供の様な所がなりを潜め、真面目な性格へと変化し、頼もしく感じられるようになってきたが、その分真那には昔に無かった不自然さが感じられるようになってきていた。

 今の武には、最近纏っていた真面目な雰囲気が窺えないが、その反面とても自然な状態に見えていた。それはやはり、今この状態が白銀武という男の真の姿だと言う事なのだろう。
 しかしその事実こそが真那にとっては辛いことだった。

 「あやつを支えると誓っておきながら、結局私は武の心を完全には癒してやれなかった。お互いに支えあっていると言う事は実感として感じられていた、だが今のあやつを見ているとそれがどんなに中途半端なものだったのかと……自分が情けなくなってくる。」


 向こうの世界で武と想いを交し合った真那は、武の傷ついた心を支えると誓った。そして真那は過去を振り返り……まだ自分がこの想いに無自覚だった頃から、武の事を戦友というカテゴリに当て嵌めて支えていたという事を感じた。……自身は無自覚だったが、深なる心は無意識にでも武の事を案じ、支えていたのだ……と。


 それ故に真那は、武の不自然さも何時か拭い去る事が出来るだろうと思っていたのだ。

 しかし今の武を見てそれがどんなに甘い考えだったのかを痛感した、自分は白銀武という男の本質を理解できていなかったのかと……。
 人間の本質はそう簡単に変わるものではないのだ、白銀武という人間の、子供の様な自由な心は正しく彼の本質であったというのに……。自分は武を支えるどころか、彼が心を偽っているのさえ気付いていなかった。真面目な武を彼の成長の証と肯定し、あの不自然さを自分が取り除けるとさえ思ってしまっていたのだ……。


 ……そんな風な事を考えながらうな垂れる真那を見ていたまりもは、内心ちょっとビックリしていた。凛々しくて如何にも軍人然とした真那にこんな女の人らしい一面があった事が……。

 (白銀くんが彼女を大事に想っているのは見ていて分かっていたけど……。ふふふ、2人とも真剣に愛し合っているのね。)


 武の恋人が3人居るのとかは確かにビックリしたが、武が真那の事を真剣に愛しているのはまりもには見て取れた……薄幸の恋愛歴でも。そして今、真那の心の内を知って、まりもは2人がお互いを愛し想い合っている事が実感できた。
 更に真那の苦悩の原因である武の事情も手に取るように分かった、伊達に武に振り回されて苦労してきた訳ではないのだ。

 (まったく……白銀くんもしょうがないわね。)

 1つ嘆息すると、まりもは優しく――諭すように真那に声を掛ける。ここは自分があのお馬鹿な元教え子の心の内を暴いて、お互いの誤解を解いてやらなければ……と。

 「真那さん、白銀くんが真面目に振る舞っていたのは彼自身の所為であってあなたの所為ではないのよ。」

 「だが私が……」
 「違う違う、そうじゃなくてね。白銀くんが真面目に振る舞っていたのは、あなたと対等になりたかったからだと思うわ。」

 「私と……対等に?」

 「そう、私は少ししか貴女と接してないけど、それでも貴女が高潔で素晴らしい女性だと言う事は分かるわ。白銀くんもきっとそう思っている、だからこそ彼は貴女と対等になりたかったのよ。
 男の見栄って事よ、きっと白銀くんは貴女に子供みたいに見られるのが悔しかったのね。」

 まりもはクスクス笑って皆で馬鹿騒ぎをしている武を見る。真那は訳が分からずそんなまりもを見詰めていた、恋愛に疎い真那にとってまりもの言っている事は全くと言っていい程に理解が出来なかったのだ。


 「男の見栄……ですか?」


 「そうよ、男の子はね、好きな女の子に恰好良い所を見せたいものなの。ましてや白銀くんは年下でしょう、だから余計にね、背伸びをしたくなっちゃうのよ。白銀くんはそうやって無理矢理に自分を成長させようとしていたのね、だから無理している様に見えた。貴女に追いつく為に焦って、自分を偽って、そして無理矢理に「真面目な自分」という偽りの自分を形作っていく、無理が出てくるのは当然だわ。」

 (あやつが……武がそんな事を……。)

 真那と武が日本脱出の際出会った時、最初に出合った時よりは随分成長していたが、それでも子供の様な底抜けに明るい性格は確かに健在であった、では何時からそれが消えて行ったのであろう……。

 「それでは結局、武が無理をしていたのは私の所為なのだな……。」
 「それは違うわ真那さん。これはね、白銀くんが全面的に悪いのよ、真那さんの事を信じたくても男のプライドがそれを許さない……こんな良い女性が真剣に愛してくれているのに、男の子ってのは変な所で意地っ張りで見栄っ張りなのね。
 ねぇ真那さん、貴女はどんな白銀くんが好きなの、どんな白銀くんで居て欲しいの?」

 急に真剣になって聞いてきたまりもに真那は姿勢を正す、そして今の質問の答えを……自分自身が想い描く、白銀武という男を想像する。


 (私は武の何処に惹かれて好きになった……?)


 真那が知る様々な白銀武という男の記憶を思い浮かべてみる。武御雷の搬入時の最初の出会い、クーデター事件での出来事、日本脱出時の再会、マレーシアでの日々、人の死に落ち込む武、厚木ハイヴ攻略戦…………。


 様々な記憶が浮かんでくるが自分が武の何処に惹かれたのか、明確な答えは得られない。そんな一生懸命に思い悩む真那に対して、まりもは微笑んで優しく言葉を掛ける。

 「分からない?」
 「はい、明確な理由と言うのが思い浮かびません。」
 先程までは対当の立場で話し合っていた2人であったが、今の関係は教師と生徒の関係に変化していた。恋愛に疎い真那は経験豊富? なまりもの話を真剣に聞き、生徒役に徹している。

 「真那さんは真面目な振りをする白銀くんが無理をしていると感じていた、そして今の――自由気ままに振る舞う白銀くんを自然な状態と思っている。つまり貴女にとっての「白銀武」という人間像は、今この場で自由気ままに振る舞うあの姿だということでしょう?」

 そのまりもの言葉に深く考えを巡らせた真那はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 「はい、先程も申した通り白銀武という男は、無垢な子供の様な自由な心を持ち……それでいて揺るぎない強さと、何故か人を惹きつける不可思議な雰囲気を持つ男です、そして同時に弱さや情けなさも持ち合わせている。」


 目を瞑りその一つ一つの言葉を噛み締めるようにしながら紡ぎだす真那、それは自身の大切な物を人に誇る様な……強き確信を持った優しさと慈愛に満ち溢れた言葉であった。


 そんな真那にまりもは意を得たと言わんばかりに声を掛けた。

 「真那さん。今の言葉、それが貴女が白銀くんを好きになった理由なのよ。」
 「しかし今のはあやつの人柄であって……。」
 「それで良いのよ、人を愛する理由に明確な答えは必要ないと私は思うの……。今貴女が言った白銀武の人物像は、長い間白銀くんと共に過ごして培ってきた貴女自身のもの――それは言い換えれば貴女が好きになった「白銀武」自身でもあるのよ。
 貴女は今まで共に過ごしてきた「白銀武」という人物に惹かれたのであって、白銀くんの性格や顔に惹かれたわけじゃないでしょう?」

 まりもの言葉に衝撃を受ける真那、その指摘は今まで気付いているようで気付いていなかった自身の心の奥底に存在した言葉にならない想いを明確にさせた。恋愛に疎い真那は、武を支える事だけに感けていて自身の気持ちを浮き彫りにさせることはなかった、いや――恐らく意識的に考えないようにしていたのだろう。それは冥夜に対する罪悪感の表れだったのかもしれない、もし自分がこの胸の底に存在する武への強い想いを完全に自覚して肯定してしまえば、それは完全な裏切り行為となってしまうから……後戻りは出来なくなってしまうから。

 しかし今のまりもの言葉で、自身が意識的に避けてきた秘めたる感情を浮き彫りにされ、明確に自覚する事と相成ってしまった。胸の内が疼く……止め処もなく想いが溢れてくる、一度決壊してしまった堤防は流れ始めた激流を止める事は出来ない――ならば今この胸の内に溢れ出(いずる)感情も押し止める事が出来る訳はないではないか……。




 (ああ――そうだ……、私が武に惹かれたのは共に命を懸けて戦ってきたからでこそ、背中を預け合い、命を――魂を共有し、共に未来を切り開こうと約束を交わした……。互いを曝け出した我等に言葉や理由などは必要ない……、私は……私が好きになったのは……。)




 自覚した――もはや引き返すことは出来ない。だって気付いてしまったから、悠陽殿下や冥夜様以上に自分は武の事を愛しているのだと……この胸の内の半分以上を締める想い、もう武は己の半身も同然なのだと……。
 確信した真那は居住まいを正しまりもに向き合う、その目には先程までの不安の色はなく確固たる力強さに満ち溢れていた。未だ後ろめたいことはある――武を愛するのは冥夜が帰還するまで――という思いも健在だ。しかし……冥夜が帰還するまでは、自分は何事にも縛られることなく全身全霊をもって武を愛すると誓いを立てた。冥夜達が帰還した時に己がどうするかは……その時に決めればよい、それまでは……。

 「神宮司殿、道を示して頂き感謝の言葉もありませぬ。」
 「やだ、いいのよ。今のはちょっとしたお節介だから。」
 「それでもです。忘れてしまっていた大事な事を貴女に思い起こさせて頂いた、そして己が取るべき道をも指し示して頂いた、これで我が心の内に混在した迷いの多くが払拭されました。」
 「そう、だったら嬉しいかな。……元の世界に帰ったら、白銀くんに今の貴女の気持ちをそのままぶつけてみなさいよ、ただでさえ男っていうのは意地っ張りで恰好付けたがりなのに、それに加えて白銀くんは朴念仁でしょう、その位ストレートに在りのままをぶつけなければきっと何時までもそのままよ、馬鹿な男の目を覚まさせてあげなくっちゃ。」

 真那の丁寧な言葉を払拭するように明るく笑って喋るまりも、それに釣られてか真那も笑いを浮かべながら話を続ける。

 「ふふふ、そうだな……確かにあやつは朴念仁だ。」
 「そうでしょう、学生の頃もねぇ……」

 そしてまた武の事を中心に話しに花を咲かせていく2人であった。


 元の世界に帰った後、真那が武に自分の気持ちをぶつける話は……また別の機会に語るかどうかは定かではない。








 まっててくれた方は(居たらですけど)すみません、やっとEX編が出来ました。文書が確り書けな
くて何回も書き直したのですが……もう色々開き直りました。文章的に変な所があるかもしれませんが……。

 え~と、ほんとは研究所まで行く筈だったのに何故かリムジンの中のみで終わってしまいました。まりもちゃんの恋愛教室が……。
 最後のナレーションで出た元の世界に帰った後の話は構想は出来てるんですが……書くかどうかは微妙です、ただ書くとすればラブラブアダルティーになる事は確実でしょう。
 7日目は3話構成になるかな……、とりあえず最後の帰還までの構想は出来ています。最後の最後の出来事は皆さんを納得させられたら良いな~と思います。
 ヒントは「月詠さん大活躍?」 



[1122] Re[9]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 7日目・2
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/05/23 22:17
2005年2月16日……EX世界、御剣本家・研究所




 御剣本家の正門を通り過ぎてから延々と……、そう――敷地内に入ったにも関わらず、長い間リムジンは走行を続けていた。皆との馬鹿騒ぎを続けつつ武は、純夏の言葉ではなかったがいったい東京ドームが何個入るのか? と疑問に思ってしまっていた。
 そして正門より少なくとも15分以上は走っただろうか? やっと目的地の研究所であろう建物の前に到着したのであった。


 皆は車外に降り立ち、強張った体を思い思いに伸ばしたり屈伸させて解きほぐす。いくら破格に広いリムジンとは言えども、長時間体を曲げていれば疲れる。
 武と真那も同様に並び立ち体を解しているが、その目線は鋭く周囲を観察していた。

 「気付いているか?」
 「ああ、物凄い防衛兵器の数だ。拠点防衛用の重機関銃やクレイモアトラップなどが巧妙に隠されていますよ。」
 「途中隠蔽されていたがミサイル発射口やミサイル迎撃用のバルカンファランクスらしきものも確認できたぞ。」

 武と真那はリムジンの中で話をしながらも無意識に外を確認していた。これはいざという時の為に地形把をするという、戦士としての条件反射的なものであったがその収穫? は大きかった。あるわあるわの防衛用兵器の山、全て巧妙に隠してあったが武と真那には難なく発見できていた。
 
 「御剣の権力の前には銃刀法違反も黙認か……。この中は治外法権だなぁ。」
 「4つ程銃口がこちらを狙っているぞ、どうする?」
 「あーー……、冥夜!」


 武は少し考えた後、向こうで月詠と話しをしていた冥夜を呼ぶ。その声に気付いた冥夜は月詠との話を打ち切ってこちらに歩い来た、その後ろからは当然の様に月詠も追従してくる。

 「どうしたのだ武?」
 「いや、4つほど物騒なもんが狙いを付けているから出来れば外してくれないかな~なんて。」
 「ほう……、やはり防衛システムの事が分かるのか。しかし……、月詠!」
 武の言葉に感心する冥夜、しかし次の瞬間には顔を顰めて月詠に厳しい声を掛ける。

 「はっ!」

 「武達は客人として登録してあるはずだ、どういうことだ?」
 「少々お待ち下さいませ。」
 月詠は無線機らしき物を取り出し何処かへ通信を入れる、そして幾つか言葉を交わした後にまた冥夜達の方へ向きなおる。

 「どうやら真那様の登録情報が同一人物として私の情報と混同され、監視システムが不審人物とてマークした模様です、現在調整を……ああ、唯今完了いたしました。」

 月詠の言葉に合わせるように、武と真那はこちらに向いていた銃口が外されたのを感じていた。

 「ああ、スッキリした。やっぱり狙われてるってのは感覚的に落ちつかねぇ。」
 「すみません武様・真那様、こちらの不手際で御座いました。」
 「許せ武・真那殿、そなた達に不快な思いをさせた。」
 「別に良いって2人とも。今回のは不可抗力だからな。」

 月詠の謝罪するが武は手を笑って手を振る。今回の出来事は誰にも予測できなかったことであるし、武自身も実害はなかったので全然気にしてはいなかった。もちろん真那も気にしてはいない。


 それでも申し訳なさそうな顔をしている月詠と冥夜に対し、これでこの話はお仕舞い……と武はそのまま皆を促して歩き出してしまう。

 「さっ行こうぜ、向こうで純夏達が待ってるぜ。」
 そして武達は向こうで待っていた純夏達と合流し工場へ向かうのだった。 




工場内


 「うわ~~凄ぉ~~~ぉい!!」


 工場内へ入った途端、純夏が大声で叫びを上げる。武がその顔を見ると、目は好奇心に輝き、周囲を忙しなく行き来していた。

 「流石に御剣の中でも最先端の技術を研究していると言う工場ね、設備が半端じゃないわ。」
 委員長も感心したように言う。ここの工場で研究や製造が行われている物はいずれも最先端の中でも最新の――まだ未発表の技術らしい。月詠さんから、武達は特別に入れるように取り計らったが、くれぐれも此処で見たことは他言無用だと念を押されていた。


 ……ちなみに先程車内で武が聞いた事だが、委員長は大学でも何らかの委員長をやっているらしい、武が委員長と呼んでも本人を含め誰も訂正しなかったのは、委員長が未だに委員長だからだろう。


 皆が感心してキョロキョロと周囲を眺めていると、前方から2人の人物がこちらに向かって歩いてきた。2人とも白衣らしき物を纏った人物、1人は皆もよく知る香月夕呼であったが、もう1人は見たことが無い顔だった、武と真那を除いて――。

 そのもう1人の白衣を着た人物が、こちらに近付きつつ声を掛けて来る。その目は好奇心の光を湛え、武と真那の事を観察していた。

 「へぇ、分かってはいたけどこうやって実際に見るとまた感慨深いモノがあるねぇ、月詠が2人居るってのは……。ふ~ん、なるほどなるほど、因果量子と並列世界の関係性か……となると存在個体の関連性が……」

 「あの……、鳳博士……。」
 目の前で自分の思考に没頭してしまった人物に、月詠にしては珍しく、やや躊躇するように声を掛ける。その声に反応して、目の前の人物は思考を中断して顔を上げた。

 「おお、スマンスマン。どうも始めまして皆の衆、私がこの工場の責任者兼研究主任の鳳焔だ、以後宜しく。」

 その挨拶の後、皆の反応を確かめる事無く、焔は武と真那の前まで近付いて来る。
 「あんたらか、並列世界からやってきたって言うのは?」
 「俺は元々こっちの世界の人間ですけど、並列世界から来たというのは事実です。」

 世界は違えども同じ様な性格をしているらしく焔の方には変な気遣いや謙虚さがない、その明け透けな質問に武は苦笑して答える。そしてその答えを聞いた焔は納得したように頷いた。 

 「いやいや、まさか他の世界の自分からメッセージを受け取る事になるとは、人生とはこれだから面白い。まったく、夕呼の研究も捨てたもんじゃなかったって事か。」
 「私は根拠のない事は言わないわよ。」
 「まっそれもそうか。」
 「それより早く始めましょう、時間は惜しいのよ。」
 「準備は出来ているよ、あとはセットして始めるだけだ。」
 「あの……いったい何をやるつもりですか?」

 夕呼と焔の2人の話し合いに不穏な空気を感じた、この2人が揃っていると絶対に平穏無事では済まないだろうな~~……と確信してしまっていたが、一縷の望みを懸けて聞いてみた武であった。
 しかし……一縷の望みと言うのは、極僅かだから一縷と言うのであり、その望みは大抵は叶わないものである。もちろん今回も例に漏れず。
 
 「データ取りに決まってるでしょ白銀。」
 「そうそう、実際に稼動時のデータを取らないと。データ無しでも出来るけど面倒くさいからね。」
 「必要なものはこちらで揃えといたわよ。」
 「だから遠慮なく思いっきりやれ。」
 「と言う事で行くわよ。」
 「後ろの演習場だ、トレーラーの方は既に運んでおいたぞ。」

 武の一縷の望みは儚く砕かれた。そして陰謀が……武にとっては陰謀としか思えない事態が着々と進行して行ってしまっている。いや……もう確実です、この2人は揃うと強引さも2倍になるようです。

 そして武は、売られていく子牛の様に全てを諦め2人の後を付いていくのだった。もちろん後ろで話を聞いていた他の面々も――。




演習場


 演習場までの道程でこれからやる演習のことを含め色々と話し合いを行なった。ちなみにその話の中で分かった事だが、こちらの世界では月詠と夕呼と焔は直接の面識は無かったそうだ。月詠が焔に初めて出会ったのは、焔がここの研究所に真似かれた時で、夕呼は焔の事を学会で見かけたことがあるくらいで今回の出来事まで直接の面識は無かったらしい。向こうの世界でのそれぞれの関係を話すと3人とも少し複雑な顔をしていた。
 しかし6日前に初めて会ったにしてはしては夕呼先生と焔博士のコンビネーションが合い過ぎでは? ……と思う武であった。やはり類は友を呼ぶのか?


 武達が演習場に付いた時には既に、トレーラーからシートと固定具が取り払われ、武御雷のその巨体が姿を現してた。

 「設計図では見ていたけどやはり本物は迫力が違うね。しかし――見れば見るほど芸術品だ、機能美の塊だね。それに向こうの世界の私はデザインの好みも同じ様だ、この外観は実に良い。」

 焔は感心したように武御雷を見上げていたが、その瞳には興奮の色が隠せなかった。やはり機械工学に関わるものとして戦術機には心惹かれるのであろう。性能を追求して作られた機体は緻密な設計とバランスの上で成り立っている、例えそれが戦う為の性能追求とはいえ、機体が美しい事にはかわりはない。更に武御雷は視覚効果も考慮して造られているので余計にその傾向が強い。

 焔以外の他の面々も、改めて武御雷の機体を近くで眺めていた。


 そして同時に、少し離れた傍らでは、武と真那が2人で話し合いをしている。
 「ここまで強引に事が進んじゃってるけど、真那はいいのか?」
 「私は構わん。第一言って聞くような人ではなかろう?」
 「そうだよなぁ、世界は違えどあの2人だもんなぁ……。
 「それにシミュレーターを含め6日も戦術機に乗らなかったのは訓練生時代以来だからな、実は少し生活に違和感が出来て仕方が無かったのだ。」
 「俺もそうだな、感覚が鈍ってなければ良いけど。……それにしても、戦術機に乗らなければ落ち着かないなんて、戦闘好きって訳じゃないのに因果なもんだよなぁ。」
 「BETAとの戦い、そこには常に勝利か敗北の2択しかなく、絶えず死の危険を孕んでいる。その為常に己の戦闘技術を維持していなければ不安で堪らない、だからこそ我等は鍛錬により己を更に高みへと切磋琢磨させる事でその恐怖を打ち払う。
 その落ち着かなさは肉体が不安を訴えている証拠だ、鍛錬を中断することによって生命が危機に陥るかもしれないことを警告しているのだろう。」
 「何回もの戦闘によって体がBETAの脅威を「死への危険性」として認識しちまったっていうことか。」

 衛士が常に鍛錬して己の戦闘技術を高める1番の理由は大体「死にたくない」からだ。そして己の鍛錬不足には常に限りない不安が付き纏うが、それは自身の死への恐怖だけではなく戦友や守るべきものを失うかもしれない不安を孕んでいる。衛士にとって、BETAに勝利する為に自己を高める鍛錬は、それらの不安と恐怖を打ち払うためにも欠かせない行為なのだ。




 それから暫らくして、焔から声が掛かり2人は武御雷に搭乗する事となる。その際、武御雷内に満載してあった記録媒体を取り外して研究員に渡した、データの移行は彼等に任せておけば大丈夫だそうだ。

 搭乗した2人は、機体の中で置いてあった衛士強化装備に着替えた後で通信回線を繋ぐ。

 『こちら白銀武、機動準備完了、通信回線繋ぎましたよ。』
 『よしよし、通信回線を通してこちらから各種設定を送る。』

 その言葉どおり、各種設定情報が送られてくる。情報で提示される機械やシステムなどは、即席で作ったとは思えないほど良い出来の物だった。

 「これ程の物を作るとは流石だな。」
 「世界は違っても2人の天才ぶりは変わらないみたいだな。」
 感心しながらも2人は備え付けのコンソールを引き出し、設定を調整する。

 『それと隣のトレーラーの荷台に演習用に作った装備が載っている。』
 
 何時の間にか――恐らく武と真那が搭乗している間にだろう、1台の大型トレーラーが側に止まってて、その荷台には戦術機用の近接戦闘長刀と銃のパーツであろう部品が幾つか置いてあった。

 「これは……75式か?」
 『これってどうしたんですか……?』
 『造ったに決まってるでしょう白銀。』
 『情報を整理する間に時間は合ったからな。刀の方は材質もスーパーカーボンを主体とした物で、75式近接戦闘長刀と全く同じ物だ、正し刃は潰してある。銃のパーツは先程の設定情報の中に取り付け方が載っている、そのパーツで戦術機内にインプットされているシステムを利用する事が出来る。
 仕組みとしては、まず銃口の方に取り付けるパーツから常に照準レーザーか照射される。トリガーを引くとその照準レーザーを介し連続的に強いパルスが送り出され、そのパルスを機体表面のレーザー照射警報装置が感知すると警告を出す……という仕組みだ。』
 『へえ~~、よくこんなもの造れましたね。』
 『データがあったし、これらは十分既存の技術で製作できるものだからな、それより早く取り付けろ。あと機体稼働のデータの方はリアルタイムで指定した場所に送信し続けろよ。』
 『解りました。』

 焔の要請に大人しく従う武。向こうの世界とは違う人物だとは解っていても、何故か逆らえないのはやはり身に付いた習慣ゆえだろうか? あの自信に溢れた声を聞くと、何故か逆らえなくなってしまうのであった。




 全ての設定を終えた武と真那に焔から「演習場内なら何をやっても良い、こちらは大人しく見学しているから最初は好きに暴れてくれ。あと噴射剤の方も用意してあるから遠慮なく使え。」と通信が入った。ちなみに演習場といっても、コンクリートなどで製作された場所よりも地ならしされただけの場所などの方が面積が広い、今も武達はコンクリートで舗装された場所の1番隅に居て、目の前には広大な地面が広がっている。

 「肩慣らしに近接戦闘でいきましょうか?」
 「そうだな、75式も有る事だ、存分に斬り結ぼうではないか。」
 
 武達は言いながら、背面ラックより04式近接戦闘長刀と04式突撃機関砲を外す。これで装備しているのは右手に握った74式近接戦闘長刀と、演習用装置を付け、マガジンを抜いて背面ラックに装備した04式突撃機関砲の2つだけとなった。


 2人はそのまま焔達から離れた場所、演習場奥で互いに長刀をやや右下に構えたまま向き合う。


 2・3・4……暫らくの間動きがなかったが、これは互いの出方を見ているのではなく単に集中力を高めているだけだ、武と真那にとってお互いのクセや戦い方は手に取るように解る。
 
 しかし、それを見ていた冥夜達にとってその睨み合いの時間は手に汗握るものだった、皆身を乗り出す位に体に力が入っている。そんな中、剣術や闘術を修めた事がある冥夜や月詠には、武御雷の機体より恐ろしいまでの強力な闘気が立ち上っているのが感じ取れていた。


 そして10秒を超えた所でその均衡は崩れ、壮絶な近接戦闘が開始された。








 次のも一応は出来ていたので、直しを入れて投下します。しかし、う~ん……ちょっと色々……やっぱり何処か変? また気付いたら改訂するかもしれません。

 実はこの話、この回だけだと話的意味が余りありません。……次の話と併せての話ですので次話も楽しみに(している人が居たらですが)していてください。

 あと戦術機内にコンソールが在るかどうかは悩んだのですが、まあカスタム機(焔作)には付いている、または後付した……という事にしておいて下さい。
 では次話で。 



[1122] Re[25]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第67話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/06/06 09:42
2005年6月14日……中央アフリカ南部、熱帯雨林




 「ちっ……頭がいいってのは嘘じゃないみたいだな。」
 「必ずフライト(小隊)単位の攻撃を仕掛けてくるのは確かに厄介だ。」

 飛び掛ってくる狩猟者級ウルフを撃ち倒しながら武と月詠は言葉を零すように言う。
 ウルフは必ず4体の小隊を組んで襲ってくるが、その小隊が中隊の1部として機能しているので更に始末が悪い、運が悪ければ左右前より12体同時に襲われることもあるのだ。こちらも連携してお互いをカバーしているので普通に対処できているが、ウルフの集団を個人単位で相手をする場合非常に厄介な敵だろう。特に今は雨林の豪雨の中、レーダーの利きは最悪でセンサーも利き難い、ハッキリと頼りになるのはサーモグラフィーだけなのでどうしても近距離戦になってしまうのだ。

 「やっぱり本物の狼の習性をそのまま利用しているみたいだね。」
 「それってやっぱりまずいですよね。」
 「地球上の生物を模倣したという事ですから、BETAにも知識らしき物があるのは分かっていた事ですがその知識を人類に対し有効に活用されると……。」
 「その事は今は考えるべきではない。私達はただ戦い、勝ち抜く事しか出来はしないのだ、なればこそ常に全力で戦い続けるしか道は無い。」

 柏木の言葉に響と御無が将来への不安を口にする、地球上の生物は生態系に則り最適な条件を模索して進化してきた物だ、力無きものは淘汰される……その生存競争を生き残ってきた生物を基にしているこれら生物型のBETAは、生き残ってきただけの能力という下地を持っている非常に厄介な敵だと言う事だ。もしそんなBETAが地球に溢れたら、これらを基にしてもっと強力なBETAが作られるようになったら……そうなれば人類の苦戦は必至であろう。

 しかしその変化を押し止める事は人類には……ましてや個人ではどうにもならない事だ、武達は現状ただただ力の及ぶ限り戦い続け勝ち続けるしか道はない、だから月詠はその2人の言葉を今は自分達が考えるべきではないと断じたのだった。


 〈ピッピッピピピ〉「武! 来るぞ。」
 「ちぃいっ!!」

 センサーの感知に次いで、月詠の注意を促す声と同時に左右前から1体ずつ同時にウルフが襲い掛かって来たが、武は冷静に――そして瞬時にこの3体に対処した。

 資料やボルカ隊の証言から皮膚が硬いと解っていたが、向こうの世界の技術を取り入れて作られた新型の36㎜弾は十分以上に通用している。
 向こうの世界の近代兵装は、こちらの世界と違い対人戦・対兵器戦に特化している、多くのメーカーがある為にその種類やバリエーションも豊富で、「多様性」「種類」という分野ではこちらの世界を圧倒していた。焔はそれら向こうの世界の近代兵器の技術や発想を大いに利用して、こちらの兵器を改造したり、新型兵器を創り出しているのだ。

 まず狙いを定める事無く腰部機関砲2門を掃射、2体のウルフは撃破したが左の1体に回避される。ウルフは素早く頭がいいので走行中の場合精密射撃をしてもこの様に弾丸を回避される場合がある、なので地面を走ってくる相手はショットシェルで動きを止めるか、腰部の突撃機関砲で攻撃し回避した所を……


 「喰らえよっ!」


 主腕の突撃機関砲で、回避して動きが止まった所を狙い撃つ。フルオートでハーフトリガー分(およそ15~20発)撃ち出された36㎜弾は停滞していたウルフの肉体に発射弾数分の穴を開けた。

 〈ピーーー〉「甘いっ!」

 敵接近警告と視界隅への緊急情報表示。普通なら緊急行動として機体が過去の搭乗者の行動を検索して、この場合に最適な対処行動を幾つかピックアップして統合し、出来上がった緊急対処行動を実行しようとする。
 しかしこの攻撃が分かっていた武はそのオート緊急回避行動を思考でキャンセル、予めスタンバイしておいた最大集束した散布式銃弾砲を空中から襲ってきたウルフ目掛けて撃ち放つ。集束した銃弾は空中でウルフに命中、皮膚の硬さで致命傷は与えられないが大きな傷を負わせ叩き落す事には成功する、そして落ちたウルフに36㎜を叩き込んで止めを刺す。

 「パターンが読めれば何処から来るのかも大体分かるってな。」

 武達は何回かの攻防でウルフの習性は大体把握していた。ウルフほぼ必ず4体纏まった行動を取る、だから4体揃っていなければ何処かに伏兵が潜んでいるというのは自明の理で、その場合伏兵が襲い掛かって来るのは戦略的に背後か空中でしかない、今現在は背後と言う選択肢はないので残るは空中しかなく、来るのが空中と分かっていれば相手が多くない限り対処は至極簡単だ。


 「しかしまんま狼の狩猟パターンを基本にしているな……アレ? ということは……やべぇ!!」

 空中から襲ってきたウルフを危なげなく倒した武は、本物の狼の習性のことを考えていたのだが、急に何かに思い当たり慌てて通信を入れる。


 「真那!」


 「何だ、武?」
 「相手が狼って事は群れで行なう狩猟の鉄則として……。」

 そこまで言ったところで月詠もそれに思い至ったのかハッとして声を上げる。


 「伏兵か!!」


 〈ズガンッ〉

 その月詠の言葉に合わせた様に背後で炸裂音が響き、視界隅に状況報告が表示される。同時に戦域図を表示しているウインドウ内、爆発したクレイモアのあった場所に御無機が捉えた多数のBETA反応が表示されていく。


 「クレイモアの爆発!」「ちぃっ、回り込まれたか!!」


 「後方に熱源反応探知、ウルフの集団を確認しましたわ。」

 御無の厳しさを含んだ声が通信から響く。
 狼は非常に頭が良く群れでの狩猟を得意とし、狩の時には伏兵を置き追い立てた獲物を確実に仕留める、武の懸念通りこのBETAもその性質を受け継いでいるらしい。

 「陣形を変える、可憐は穴が空いた所に切り込んで囮となりウルフの流入を阻止、晴子は可憐の援護に徹しろ。優先順位は陣形内に入ってくるBETA、ボルカ隊へ被害を出すな。」


 「「了解!」」


 「私と真那は側面からの敵を警戒しながら正面の敵に当る、武・響――お前達2人は正面の敵を片っ端から撃ち倒せ。」


 「「了解!」」


 ヒュレイカの号令でポジションをそのままに役割を変更する、御無と柏木の援護が無くなったのでヒュレイカと月詠が側面の警戒を強化せねばならず、前方のBETAを迎撃する武と響の負担が跳ね上がった。
 しかし熟練の2人であるヒュレイカと月詠は側面を攻撃しながらも的確に武と響の援護を行なう。武も足を止めての拠点防衛は得意とするところではないが、それでも熟練の域に達した攻撃で確実に敵を撃破して行った。そして響も援護を受けながらであるが問題無い程には戦えている、厚木ハイヴ戦で実力不足を痛感した響は猛特訓を繰り返しかなりのレベルアップを果たしていたのであった。




 後方では御無がウルフの目標を自分に向ける為に遭えて接近戦を挑む、腰部の04式突撃機関砲を背面に戻し後ろ向きにセットし、装備している烈風の刃を全て出して穴が空いた場所から流入してくる敵集団に斬り込んだ。
 両手の05式突撃機関砲を掃射しながら敵集団に突撃する、横から飛び掛ってくるウルフに左手を打ち払い補助碗に装備している烈風で斬り付ける、相手が斬り裂かれ跳ね飛ばされた所にそのまま左手の突撃機関砲を掃射し、36㎜の弾を叩き付け空中で撃破する。同時に思考制御で背面パイロンの04式突撃機関砲を可動射撃、可動式のパイロンは2丁の突撃機関砲を薙ぎ払うように動かし背後から迫ってきたウルフ数体に36㎜の弾を叩き込んだ。更に続けて左足を軸にして後ろに1回転、後ろ上段回し蹴りを放ち背後上空から襲い掛かってきたウルフに、脚部補助碗にマウントしている烈風の刃を叩き付ける、その最中にも両手と背面の突撃機関砲で敵を撃ち倒し続けていく。

 正に旋風、回転行動を主体とし群がる敵を薙ぎ払うその動きは一瞬の停滞も見られない。停滞が無いと言う事は迷いが無いと言う事である、それは幾多の修練の上に積み上げられた途轍もない実力とそれを信頼できる絶対の自信によって成り立っていると言う事であり、御無の実力の高さを否応にも見せ付けている。御無の超人的な近接戦闘能力は第4世代戦術機のインターフェイスや処理能力・機体能力も相まって、無駄なく流麗に一瞬の迷いも無く、敵を撃破し続け行くのだった。


 「う~~ん、これは私の出番は少ないかな?」

 その後ろでは柏木が御無の援護とこちらに抜けて来るウルフの撃破に務めていた。しかし旋風の様な御無の猛攻に、ウルフはほとんどが撃破されていくので仕事は楽だった。だが御無も柏木が的確に援護してくれるのと撃ち漏らしの撃破をしてくれているお陰で心置きなく戦っていられるのであり柏木の援護が無くても良い訳ではない、柏木もそれは十分に理解しているので先程の発言はただの御無の猛攻を賞賛してのものだろう。
 やがて2人は陣形内のボルカ隊に1人の被害も出さずに伏兵のウルフを全て撃破するのであった。



 
 武と響の2人は絶えず襲ってくる小型種BETAとウルフの猛攻に手を焼いていた。特にウルフは皮膚が硬く急所が装甲殻に覆われているので散布式銃弾砲は最大集束をしても致命的ダメージは与え憎いし、ショットシェルも効き難いので通常弾か甲殻弾で止めを刺さなければならない。動きが素早く弾も回避される場合があるので、ショットシェルで動きを止めてから通常弾で仕留めているが、他の小型種と一緒に迫ってくると非常に厄介で始末に終えなくなる敵だった。

 今もエクウスペディスと同時に1中隊が襲い掛かってくる、エクウスペディスは散布式銃弾砲で対処しウルフは腰部の突撃機関砲からのショットシェルで攻撃し、撃破出来なかった個体を36㎜で薙ぎ払っていく。

 「06給弾!」
 「01了解。」「02了解。」「03了解。」

 敵の多さに突撃機関砲の弾薬が残り少なくなった響は給弾を開始する、通常弾とショットシェルのマガジンを思考制御で切り離し腰部の弾薬ホルダーに叩きつけて新しいマガジンを填め込んでいく。その間も響機の腰部突撃機関砲は射撃を繰り返し、月詠と武は響の援護を重点的に行い、ヒュレイカは武の援護を重点的に行なう。

 「06給弾終了。」
 「02了解。」「01了解。」「03了解。」

 響は無駄なく迅速に給弾を終了し戦線に復帰、その後も暫らくは同じ様な感じで迎撃戦闘が続いていたが、一時的に敵の飽和度が増大し一斉にBETAの集団が襲い掛かって来た。


 「響!!」


 武の方は何とか対処できていたが、響の乗る叢雲に武以上にBETAの集団が群がっていく。しかし自機の寸前までに迫ったBETA群に対し響は慌てる事無く、右腕補助碗に装備したクレイモアを向けて起爆させた。
 迫り来るBETA集団に向かい、他のBETAから採取された甲殻片と金属片が撒き散らされる。このクレイモアは1発限りの使いきりだがその分威力は絶大で、迫り来ていたBETA集団を含め射程範囲内前方に存在したBETAの殆んどを薙ぎ倒した。

 「うわ! 凄ぉい。」

 クレイモアコンテナの方は使用経験があったが、単発で高威力のクレイモアを実戦で使うのは今回が初めてであったため、その余りの威力に驚いてしまう響であった。

 その後直ぐに、後方に回り込んだウルフを全て倒した御無と柏木が再び前方の援護に加わり、迫り来る全ての敵を倒したのだった。


 「こちら02、付近にBETA反応無し。」
 「06確認完了、どうやらこれ以上の増援は無いみたいです。」
 「こちらも確認した、警戒レベルを下げてもいいだろう。」
 「ふう……。疲れました。」
 「俺もだよ、味方を守っての迎撃戦は気を使う。」

 武達は敵の攻撃が途切れてから暫らくしても気を抜かずに周囲を警戒し続けていた、豪雨でレーダー・センサーの信用度が低くなっているため暫らくは気が抜けなかったからだ。しかし既に3分以上は経つがBETA反応は見受けられないのでヒュレイカは戦闘警戒を解く事にしたした。

 「それにしても厄介な敵だったよねあの新種。」
 「弾を避けるのは流石に勘弁して欲しいぜ、ショットシェルも効き難いし、倒すのが難しいとは言わないけど手間がかかって嫌な敵だよなぁ。」
 「それに必ず4体纏まって攻めて来ますしぃ。」
 「まあでも動きがパターン化しているから読み易いのは救いだよね。」
 
 「柏木大尉の言う通り読み易い事は事実だが響中尉の言っている事もまた事実、手強いともいえるが対処法もある事は我等にとっては良い事だ。だがそれは戦術機に乗っている場合であって、歩兵にとってはこの狩猟者級は大いなる脅威であろうな。」
 「散布式銃弾砲が効かないんじゃ歩兵用の重火器も効果が薄いだろうからね、小型種相手の様には行かないだろうさ。」

 中型種に分類されるウルフは今の所アフリカ大陸でしか見られなく、特に雨林や森林に多く出現する、その為ウルフは対人用に作られたBETAだと推測できる、事実歩兵(ゲリラ)は非常にウルフに手を焼いている。体長が5~14mあり皮膚も硬く急所は甲殻で覆われていてとても素早い、歩兵用の装備では致命傷を与え難い。
 ただ、明確に効果がある武器はSSR・クレイモア・携帯対戦車火器などの高威力の物しか無かったが、新種BETAの出現を受けて最近は歩兵用銃器の甲殻弾も出回ってきたので何とか対処できるようになってきているのだ。


 そして警戒態勢に移ってから3分経った所で安全性は一応確保出来たものとしてヒュレイカはボルカ隊へ通信を送った。

 『こちら第28遊撃小隊、敵の殲滅を確認した。』
 『こちらダナンだ。今度こそ礼を言わせて貰おう、援護を感謝したい。』
 『その言葉はありがたく受け取っておくさ、それよりこれから何処に向かう?』
 『この先に3日程行った所にバルヌ村という拠点がある、俺達はそこを目指していた。』
 『解った、ではそこまで護衛に付こう。』
 『いいのか?』
 『あんたらの今の装備じゃ次の襲撃に合うと厳しいだろう、これも任務の内さ、気にしないでいい。』
 『……重ね重ねすまないな。』
 『いいってことさ、行軍はそちらの足に合わせ私達は周囲を囲う形で追従する。』
 『了解した、……それでは10分後に出発する。』
 『解った、では通信を終わる。』

 通信を閉じたヒュレイカは確認するように皆を見渡す、武達もその視線に返すように頷く。


 その10分後、武達はボルカ隊の周囲を警戒しながらバルヌ村へと出発したのだった。


 BETA報告書
 
 狩猟者級(ハンター級):ウルフ(オオカミ)
 中型種 全長5~14m、5~7mが平均 全幅・全高は全長によって違ってくる。
 アフリカの雨林や森林においての対人用として創られたと思われるBETA。
 体形は普通の狼とほぼ変わらないが、顔に付いているのはBETA特有の赤い目で、それが4つ付いている。(9m以上の個体は6つ付いている) また口が耳の辺りまで大きく裂けていて禍々く鋭い牙が並びその顎の力はエクウスペディス以上、4足の攻撃力も非常に強力であり、その爪と歯は甲殻と同じモース高度15以上の物質でできている。
 皮膚が硬くなっていて歩兵用の重火器では効果的なダメージを与えられない、また大型の個体は急所部分が甲殻で覆われている。
 探知能力は優秀で一度捕捉されると何処までも追って来る、その際に他のBETAを呼び寄せるので非常に厄介。発見されたら周囲のBETAを呼ばれる前に即座に倒さなければならない。
 非常に頭が良く狡猾で本物の狼と同じ様な狩猟形態を取り攻撃を仕掛けてくる。更にとても素早いので精密射撃をしても弾を避けられることもある。
 基本的にスコードロン(中隊・12体)で行動しており、攻撃の際も常にフライト(小隊・4体)単位で12体纏まって攻撃を仕掛けてくるので注意が必要。
 群れの力関係によって大きさが違う。平均的な大きさは全長5~7m、小隊長クラスが8~9m、中隊長クラスが10~12m、連隊長クラスが13~14m。








 難儀しました。今回色々実験的な書き方を試したりしたので時間が掛かった……その割には余り何時もと変わっていませんが。
 第1部では余り目立たなかった面々が活躍しています、戦術機にも個性が出てきましたからね。
 では次の話で。



[1122] Re[26]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第68話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/09/27 19:45
2005年6月19日……カメルーン統括基地




 武達第28遊撃小隊は、ボルカ隊との合流時の戦闘以後は、BETAとの遭遇戦もなく無事に彼等を目的地のバルヌ村へと送り届ける事ができた。
 武達は彼等に感謝され意気投合し、バルヌ村までの3日間ずっと喋り明かしていた。世間話も多かったが、その話題の多くは密林やジャングル、雨天時での戦闘方法や知識など戦闘関係の教えを請うのが大半で、武達は彼等からそれらの戦闘知識を大いに学んだ。
 バルヌ村到着前に迎えを寄越して貰っていた武達は、村に到着後別れを済ませ直ぐにカメルーン統括基地へと向かって飛び立った。そして基地到着後、関係各所への報告や、整備関係の手続きを済ませた後、直ぐに休眠へ入ったのだった。




そして翌日――6月19日。

カメルーン統括基地、第28遊撃小隊専用臨時ハンガー


 武達全員は朝食後に、第28遊撃小隊に割り当てられた専用ハンガーにやってきた。
 この専用ハンガー、基地司令が態々第28遊撃小隊の為に用意した場所である。第4世代戦術機は従来の戦術機とは少々異なる整備方式な為に、焔がその旨伝えて色々な方法を使い(コネとか、第28遊撃小隊のネームバリューとか、データ譲渡とか色々)基地の、普段は余り使われない小ハンガーを借り受けた。
 昨日帰還し、整備を頼んだ際、ここの責任者より「色々報告がありますので、明日の朝食後に集合してください。」と言われたので、現在ここに集合する事となったのであった。




 「おはようございます皆さん」
 武達がハンガーに入るとそれを見とめ、1人の白衣を着た女性が挨拶しつつ近寄ってくる。
 
 「おはようございます、峰島主任」
 その女性に向かい響が元気一杯に挨拶を返し、皆もそれに続く様に挨拶を返した。


 峰島 玲奈(みねしま れいな)・エルツベルガー。日本人とドイツ人のハーフで25歳。焔の右腕にして自称・他称『第1の弟子』、整備者兼研究者。

 もともと研究者だったらしいが、動作を自分で確かめないと気が済まない性格なため、自分で機械を弄くり性能を確かめている内に、何時の間にか整備にも精通してしまっていたという……ある意味、焔そっくりな人物である。まるでそれが当然の様に焔に出会い押しかけ弟子に納まった。焔も弟子の件はともかくとしてその腕を買っており、研究・整備両方の副主任を任せている。礼儀正しい人物だが、研究・整備関係の事になると性格が変貌するという困った性質をもつ女性だ。
 色素が薄い黒髪を、首の所で縛っている髪型を何時もしている。身だしなみもそれなりに気を使っていて、ドイツ人の血もあり、色白の艶やかで透明感のある肌が特徴的な美しい人物だ。整備の時は、整備汚れに塗れた整備服を着ているのでその限りではないが……働く女性は美しいとでもいうのか、そんな恰好でも美しさは損なわれない、ある意味特異な人物である。
 今回の出張では、焔がこちらにこれない為に、代理として2番目に知識が豊富な彼女が整備スタッフを率いて随伴して来ているのだ。


 彼女は挨拶を受けながら皆の側まで来ると、余計なことは省き話を切り出す。この、礼儀を失わない中での変な遠慮の無さも彼女の美徳の1つであった。

 「皆さんが任務に赴いている間に、焔主任からの荷物が届いています」
 「それって、調整がずれ込んだから後で送るって言ってたやつか?」

 武が玲奈に質問する。確認と言うより、ふと気付いて何の気なしに口に出した様であった。日本出発前に、新たに開発・改良した武器の幾つかに調整の不具合が見つかり、急遽全武器の確認と再調整をすることと相成ったのである。調整終了後にこちらに送られてくる手筈になっていたのだが、武達が任務に赴いている間に到着していたらしい。それを証明するように玲奈が説明を続ける。


 「はい、新たな兵器と補給物資の数々です。それともう1つ、開発していた兵器1セットが完成し、こちらに送られてきています」
 「それって使えるのかい?」
 「動作確認は終了しています。運用評価も出来る限り済ませ、一通りの動作保障も確認しています。目録と使用説明書、仕様解説書と同時にそれらのデータも渡しますので付いてきてください」

 送られて来る筈だった武器は、武達も運用評価に参加して、十分に動作確認をしてあった。しかし、新たに送られてきた武器の方は武達はまったく関わっていないので、ヒュレイカが確認したのだ。
 完成して動くだけでは、動作に信用が出来なく、戦場では危険で使用が躊躇われる。焔の事だから、その辺は万事抜かりは無いだろうが……それでも聞いてしまうのは戦士の性であろう。




 質問に答えた後に歩き出した玲奈に、全員も追従して歩き出した。その間にも彼女の説明は続く。

 「今回は戦場での運用評価と特殊環境化でのデータ収集などの他に、新兵器を売り込む事も目的の一つです。その為、現地の部隊に使用してもらうように、新装備は複数輸送されてきています」
 「無料で配るなんて大判振る舞いだなぁ」
 「戦場では新兵器が嫌われる傾向が強い。無料で配って、一度その能力を体感させるのが目的なのだろう」
 「それって試供品ってことですか?」
 「あははははっ、試供品……響ちゃんナイスな表現だね」

 響の何気ない一言に柏木が笑いを零す。
 そんな風に楽しげに話をする武達に向かって、先頭を歩いていた玲奈も苦笑しながら説明を加える。

 「配るのは大半が研究段階で出来た実験機で――もちろん完成品同然に仕上げてありますが――採算的にはそう損はないのです。それよりも、効果を実感してもらって、現場の声を反映させれば急激かつ爆発的に売れることになるでしょう、そちらの方が此方としては色々な意味で良いんですよ」




 そんな話をしながら……程なくハンガーの隅、書類やら設計図やらが乱雑に――それでいて綺麗に区分けされ――積まれた、作業机らしき物の前に辿り着いた玲奈は、その中から分けてあった各種資料を武達に配る。
 そして、それら資料をそれぞれに受け取った武達は早速中身を確認していく。戦力把握は戦士にとって重要なことの1つだが、それ以上に新しい装備に興味が尽かない事も事実なのだ。


 資料に書かれている事柄を読んで確認していく。

 【04式突撃機関砲改良型】
 【04式支援突撃機関砲改良型】
 【36㎜爆裂弾】(バーストブリット)
 【120㎜甲殻片内蔵榴弾】
 
 04式突撃機関砲の改良型は現在も武達が使っている物だ。
 36㎜爆裂弾と120㎜甲殻片内蔵榴弾も04式突撃機関砲の運用評価と並行して各種試験等を済ませてある。




 そして……




 「あれ……?」
 そこに書いてあった言葉【EFFレーザー防御装甲シールド】(大・小)の文字を見て疑問の声を上げる武。
 「どうしたのですか?」
 「いや……これ……??」
 
 武が発した疑問の声に応じて、武が見ていた資料を覗き込む玲奈。そして武が指し示した箇所を見て納得したように言った。

 「ああ、鏡面装甲のことですか」
 「ですよね、名称が変更になってるのはどうしてなんですか?」
 
 玲奈の言葉で「やはり……」と納得する武。【EFFレーザー防御装甲シールド】とは鏡面装甲で出来た盾の事で、以前の名称は【鏡面装甲シールド】となっていたはずだった、疑問を覚えたのはその名称が変更になっていた為だ。
 玲奈が周囲を見ると、他の面々もその訳を聞きたそうにこちらを注視していたので、その疑問に答える。

 「EFFとは『Electromagnetic force(電磁力)the field(フィールド)』の略です。皆さんも知っているとは思いますが、『鏡面装甲』とは試作段階時からの開発コードネームのようなもので、その流れで今まで『鏡面装甲』という名称を使用してきましたが、今回第4世代戦術機の量産化にあたって、正式な名称を付けようと言う事でこの名称と相成りました。また、『生体金属』も正式名称が『生体的合成金属』となっています」


 玲奈の説明を受け納得する皆、名称についてはそれ程拘りが無かったので、すんなりと事実を受け入れた。

 第4世代戦術機の量産計画は、武達がアフリカに出発する直前に目処が立っていた。循環再生エンジンは、今の所焔以外は生産と調整が不可能なので、日本地下基地の工場を循環エンジン専用の生産工場にして、それ以外はマレーシアの工場で生産する事となり、以前から焔配下の技師による技術指示は着々と進んでいたのだった。現在生産ラインの製造を行なっており、あと1ヶ月もしない内に第1期の量産機体群が完成するであろう。


 また、第4世代戦術機に使われている『生体的合成金属』も進化してきて、現在は旧世代戦術機――特に第3世代戦術機――の金属部分を全て『生体的合成金属』に換装させる計画も持ち上がっている。

 1体の戦術機に使用されている金属から、3体分の『生体的合成金属』が生成可能で資源節約にもなる。更に重量も軽くなるため機動力も上がり、防御力・関節稼働スピードの上昇、整備の簡略化など、改修費用を差し引いても効果が期待できるからだ。(『生体的合成金属』は現在、培養技術と加工技術が進化し、取得したBETA細胞に手を加えながらより良い状態に加工しつつ、更に金属を混ぜ合わせ加工し続け、より性能の良い『生体的合成金属』を生み出す試みが日々研究されている)

 ただ、CPUは最新型を使用しているが、コンピューター(AI)とエンジンはそのままなので、金属部分をそのまま『生体的合成金属』に換装したのではバランスがメチャクチャになる。その為に現在焔が、武器の開発とエンジンの生産と並行して、各第3世代戦術機の再設計を行なっている。

 また、第4世代戦術機でも使われている、内蔵バッテリーと外付けバッテリー機構を取り入れ、【EFFレーザー防御装甲】をコクピット周辺だけ取り付けるようにしている。コクピット周辺だけでも短時間の完全レーザー防御ができれば、衛士のレーザーでの即死率が大幅に下がるだろう。


 マレーシア戦線では再設計のその際、訓練兵用機体である04式吹雪の数が使い回しできる程に増えて来たので生産を縮小し、それに変わる1段性能が上の主力機体の生産に踏み切った。その主力機体は付与曲折あって、『不知火』が採用されることになる。吹雪と同じ日本製機体という事で、機体変換しても操縦系統や機体操作の感覚の違いを最小限にすることが可能な為だ。

 『不知火』と言っても……焔が、第4世代戦術機開発や向こうの世界から得た新技術を多々取り入れ再設計した『最新型不知火』で、もはや外観以外中身は別物の機体である。『生体的合成金属』『コクピット周辺のEFFレーザー防御装甲』『バッテリー機構』『可動式背面3本パイロン』『腰部補助碗』を基礎設計に組み込んだ。更に、コクピット以外の装甲部分に新型の耐熱複合装甲を採用し、その上に対レーザー蒸散塗膜加工を施し、更にその上に新型のレーザー偏向拡散粒子を敷くことで、通常部の対レーザー防御力も底上げされている。

 これらを見ると高価そうな機体だが、第4世代戦術機が高価な原因――その値段の2分の1近くを占める『循環再生エンジン』と『コンピューター(AⅠなど)』が使用されていないので、そうそう高価にはならない機体だ。




 そしてその説明の後も資料の確認は続いていく。
 次に来たのは問題の新型兵器であった。

 【電磁加熱砲】
 【120㎜爆裂榴弾】


 耳慣れない兵器に戸惑いを隠せない面々であったが、資料の閲覧と玲奈の説明で新型兵器の事を理解していく。
 そして説明の後に全員は思った――焔の兵器開発能力は益々パワーアップしている、このままではどんなトンでも超兵器を創り上げるか分かったものじゃない――と……。この時の皆の想像はあながち間違いではなかった。既にこの時、焔の頭の中では物凄い計画が発想されていたのだ。他にも、未だ実現不可能ながら超兵器の構想が練り上げられていく。
 焔はリアリストである傍ら、酷く子供っぽい非現実的な発想が大好きな面も持つ、その2つが絶妙に絡まりあって、現実的・実用的でありながら一歩先を進んだ超兵器の数々を生み出す事が可能なのだ。




 その後、資料の確認と玲奈による細かい補正説明と質問返答が終了して解散となり、武とはそのまま月詠の部屋へと足を運んだ。
 そして部屋に着いて直ぐに、そこで武が少し躊躇する様子を見せながら月詠に話を切り出した。

 「その……真那……」
 「なんだ、そんなにどもって。何時ものお前らしくもない」

 向こうの世界からの帰還後、まりもの助言の通りに武と話し合った月詠。互いの気持ちを正直に・ありのままにぶつけ合い、気持ちを確認し合った2人は、より自然に接しられる様になり、武も以前の様な自由奔放さが戻ってきていた。
 それらの性格の中での、憎めない遠慮のなさは武の美徳と言うか、不思議な性質の1つであったが、この時の武はその何時もの遠慮のなさが見られなくて不思議だったのだ。まあこの後、ただ照れてどもっていただけだと直ぐに判明するのだが……。

 「あのな……、ここの飯は不味いだろ」
 「ああ、確かに美味くはないな。食べられない程ではないが」
 
 武は実は舌が肥えている、元の世界では御剣家の一流料理人、月詠、純夏などの人物が作り上げる美味い料理を食べ、そしてこちらの世界では京塚のおばちゃんの料理を食べてきた。そして、その合い間などに学生食堂の料理や、レーション、野戦基地での食事など、不味い料理も食べてきた。その為に、美味い料理と不味い料理の格差の違いを良く知っているのである。

 マレーシア戦線は良かった、あそこは戦線が一応安定していて余裕があるため、食事にも気を回しており、食堂の食事は平均以上に美味かった。そして日本の地下基地では、焔が拘り一流の料理人を呼び込んだ為に食堂の料理はかなり美味かった。
 しかしここ、アフリカ戦線では食事にまで気を回す余裕がないのか、単に無頓着なだけなのか……食事が不味い。武も軍人だ、任務で何日もレーションなどで過ごすこともあり少しくらいの不味さなら十分耐えられる。しかし、待機時の余裕がある時位は美味い飯を食いたいと言うのは……武の切実な願いであり、だからこそ、真那に今回の提案を発したのであった。

 「だからな……その、飯を俺達で作らないか?」
 「なんだと?」

 その思わぬ提案の言葉に、月詠は一瞬自分の耳を疑った。彼女らしくもなく、ハッキリと聞いた言葉を再度聞き返してしまう位に……。

 「いや……その……俺にも料理を教えてほしいんだよ」
 「お前が料理を……か?」
 「ああ、一通り平均的には出来るんだけどな、やっぱり真那や京塚のおばちゃんのようには上手く出来ないからなぁ」
 
 武は一応料理が平均的に出来る、向こうでは必要に迫られて、こちらの世界では主に美琴に仕込まれた、そのため蛇もカエルも捌けるし、レーションも一通りは工夫して調理可能だ。まあ、平均的というのは『料理の適正』であって『レパートリー』や『創作工夫の上手さ』ではない、その為に教えを請いたいと言っているのだが。
 
 「まあ1番の理由はやっぱり、真那の美味い料理を毎日食いたいって事なんだけどな。でも食わせて貰うだけじゃ悪いし……俺も料理の練習をしたいから、手伝いついでに教えてもらおうと思って」
  
 「な……そなた……」

 月詠はその武の発言に顔を真っ赤にして恥ずかしがる。『美味い料理を毎日食いたい」という言葉は捉えようによってはプロポーズ的な意味を持つ、この場合武はそんなこと全然意識していないのだろうが……それが解っていても恥ずかしがらずにはいられない。


 そして月詠はその羞恥を押し隠し、体裁を取り繕うように武に聞き返す。

 「その……私の料理を食したいと言うのは解った、その事は大いに感謝しよう。しかし、「料理の練習をしたい」というのは何故だ? 礼に欠ける発言だが、お前のイメージ的に料理をするという事が連想できぬ」
 「ははは、まあ確かにそうだよな。別に深い意味は無いんだ、ただの思い付き……って感じかな? 今言ったみたいに真那だけに作らせるのも悪いし、時間もあるから料理くらいは覚えてもいいかなってな」

 その答えに、羞恥という毒気を抜かれたのか納得したのか……月詠は嘆息する。

 「はあ……解った……。料理の件は承知した。正し、此処の基地でも他の基地でも、司令と食堂の責任者に許可を貰ってからだ」
 「ありがとうな真那。まあ許可の件は大丈夫だろ、俺達なら少しくらい無理を言っても」
 「解っているかと思うが、無闇に権力を振りかざすのは良くはない」
 「その辺は解ってる、大丈夫だって。調理場の一角を貸してもらうだけで無理難題を押し通すわけじゃないからな」

 基地の調理場は、基地要員の人数に合わせ結構広めに造ってはあるのだが、調理人不足と皆が一斉に食事をしに来る事は無いこともあり、結構場所が空いている。これはどの基地も大抵同じなので、武の言っているようにそんなに無理難題と言う訳ではないのだ。


 そうして2人は自分達の食事を自分達で作る事となったのであるが……。後に、この事は色々な波紋を巻き起こすことになる……しかし、本人達はその可能性に微塵も思い至ってはいなかったのであった。




追伸)尚、今回の整備と改修の時に、焔の要請で武と月詠の機体にパーソナルマークを描くことになった。右肩の文字は焔の発案で決まっていたが、左肩の絵柄は自由にして良いと言う事で2人が自分達で考えた。
 武の機体は右肩に真紅の塗料で『武』の一文字、月詠の機体は右肩に漆黒の塗料で『真』の一文字。 そして左肩の意匠は両者共に『皆琉神威』。下に鞘、上に抜き身の刀身の配置で、両方が上向きにクロスした凝った意匠である。
 そして、大腿部部分の腰部前面装甲に『雷神』の文字が書かれる様相となっている。



[1122] Re[10]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 7日目・3
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/06/14 22:54
2005年2月16日……EX世界、御剣本家・研究所




 冬場に相応しき硬質で冷ややかな風が肌を撫でて通り過ぎていく。空は雲が少ない晴天で、気温が低い冬といえども肌にそれなりの温もりを与えてくれる。少し厚着をしていれば十分に外で活動できる過ごし易い空模様であった。




 しかし、その温もりの中で肌が粟立つ。




 「凄い…………」


 その言葉を口にしたのは誰であろう……。目の前で演舞の様に舞い戦う2体の武神に見入る面々は、攻防の苛烈さ故、その身に戦慄と恐怖という寒気を覚えていた。
 打ち合い、離れ、また打ち合う。行っている動作は基本的にはこの3工程だけだ。だが、武と真那が操る『戦術機』という機械が取り行なうこの3工程は、武御雷の威容も相まって、正に2体の鬼神が舞い踊るが如くの様相であった。


 「「あっ……!」」

 手に汗を握りながら、暫らく2体の武御雷の剣戟を、瞬きも忘れる程に瞠目していた純夏と尊人が揃って声を上げる。

 何回目になるかという74式模擬長刀での回避と打ち合い。その時の打ち合いの後も今までと同じ様に、再度の長刀での攻防に持ち込まれるかと思われた。
 だが、長刀を打ち合った後に飛び退った真紅の武御雷は前に出ずバックステップのように後退、その過程の中、左手で背面の04式突撃機関砲を抜き取り、流れるような動作で前方に銃口を向けてトリガーを引いた。
 弾は撃ち出されずとも、射撃判定を出すパルスレーザーは発射される。
 漆黒の武御雷は真那機がバックステップを行なったタイミングで回避行動を開始し、自らも背面より04式突撃機関砲を抜き取っていた。
 横に回避運動を行いながらも、突撃機関砲を真那機に向ける、しかし真那もその行動を予測して、回避運動を取りながら銃口を武機の回避予測地点に瞬時に移動させてくる。
 武と真那は、長くエレメントを組んで共闘しているために、互いの『呼吸』や『タイミング』などを熟知している。故に、互いの機動を予測しなくとも経験で理解しているので、次の行動が解ってしまうのだ。銃口を相手に追従させるのではなく、機動予測地点に先回りするように移動させ、狙いを付けることが可能。
 だから、2人の攻防は2次元的な動き――接地機動の場合、直ぐに回避運動の選択肢に限界が来てしまう。両者が銃撃戦を織り交ぜて戦えば必然的に3次元的機動――即ち『空中機動』を織り交ぜた戦いになるのだ。

 武機と真那機が空中戦を織り交ぜた戦いを展開し始める。2人の戦術機での空中機動能力は向こうの世界では間違いなく最高水準、跳躍装置や回転モーメントを十二分以上巧みに駆使した機体制御を行なう空中戦闘機動は、正しく芸術の様に、観戦している面々を圧倒し続けた。




 演習場の隅で、武と真那の操る武御雷の模擬戦闘を観戦する面々は、例外なくその苛烈な攻防に目を奪われている。そしてその中で、各自が浮かべる視線の色と思考の種類は各々が違っていてた。

 純夏・尊人・千鶴・慧・千姫・まりもの6人は、驚愕や興味などを主体とした思考が主になっている。それは、日常にはないものに対する物珍しさや、非日常に類する非常識さを見ているが故のことであろう。
 まりもの場合はそれに加えて、向こうの世界で武が辿った苦難の道を憂い、元教え子を心配する感情もあった。

 対して夕呼・焔・冥夜・月詠の4人は、また別種の思考を持っていた。
 夕呼と焔は科学者としての視点で観察している。手元には、先程戦術機とリンクさせたノートパソコン状の機械を持ち、それに送られてくる情報と武御雷の模擬戦闘を、好奇と研究心が入り混じった目で観察している。

 そして冥夜と月詠は、戦いを知る者としての視点で両者の模擬戦闘を観察していた。
 2人には戦術機の動作原理や操縦方法などは解らない。しかし、今目の前で展開されている鬼神もかくやという戦闘能力を得るには、練習ごときで到達する事は絶対に不可能だと確信するに至っていた。
 両者の強さは、激戦を繰り返してきた強さだ。死線を潜り抜けてきた強さだ。そして死を運ぶ戦場の、情け容赦ない現実を知っている強さだ。
 冥夜と月詠には、本当の意味でそれらを正しく理解する事はできない。だが、自らも死合に近い戦いを経験した者として、武と真那の戦闘を鋭い目で観察していた。


 「なるほど、聞いた話から推測出来てはいたが、こうやって現実の一端を見てみると向こうの世界が相当に危機的状況だということが良く解る」
 
 そんな中、突然に焔がポツリと呟く。その声は、皆に聞かせようと意図した訳でもなく、普通に発声された筈であるのに、戦術機同士が上げる激しい戦闘音の中でやけにハッキリと皆の耳に届いた。
 
 それを聞いた皆は、最初その意味を解りかねた。だがもともと聡い面々、少しの黙考後にその意味に思い至った。

 武と真那がこの世界に来たのは、新しい兵器や戦術機を作る為のデータを求めてのことだ。それは暗に、今の戦術機や兵器ではBETAという敵に勝つ事は難しいという事である。
 勝つ事ができないという事は、後はズルズルと疲弊していくしかない。そして皆が聞いた向こうの世界の状況は決して楽観視できるものではない、いや――今はまだ現状を保っていられるが、恐らくそれがあと10年は持たないだろう事は、話を聞いただけの皆にも容易に想像出来た。最大限に持ったとして15年も経てば地球は滅亡してしまうだろう。
 つまり、それだけ向こうの世界は危機的状況なのだ。
 たとえ武と真那が、この世界からデータを持ち帰り新兵器が創りだされても状況は厳しい事は変わらないだろう。


 「武……」
 「武ちゃん……」

 冥夜と純夏は、そして他の皆はその事実に何を思ったのか。憂いた瞳の奥に在る光は、その心の内を示すが如くに風に煽られる炎の揺らめきのようであった。




 模擬戦闘から続いて、各種データを取る為に様々な行動を取り行った。
 そして一通りのデータ採取が終了した後、用意された物でエンジン燃料と噴射剤の補給を済ませた武と真那は、皆の下へ降り立つ。
 その際に、武は早速元の仲間に囲まれてしまう。そして焔と夕呼は、細部を真那に聞きながら、データの検証を行ない始めたのだった。ちなみそれらの外で、まりもは皆を、月詠は冥夜を見守っていた。




 そしてそれらの話が一段落し……




 「では次は私を一緒に乗せろ」

 ……と焔博士がのたまいやがりました。


 「無理無理無理、無理です! 第一なんで乗るんですか?」
 
 唖然とする皆の中、冷静だったのは夕呼と武の2人だけだった。
 夕呼はここ数日で焔の性格を理解していたのだろう。そして武は、向こうの世界での焔の突拍子の無さを幾度も体験していて、それに対する反応が掛け合い漫才のボケ突っ込み的に進化していたのだ! つまり条件反射?

 「ふん、真なる知識を求めるならそれには経験が不可欠だ。机上や脳内だけの理論や知識だけではそれは空想や妄想となんら変わりはしない。実践と経験があってこそ知識は生き、そして確固たる技術が確立されるのだよ。」

 それに対する返答はやはりというか、向こうの世界の焔と全く持って同一的な反応だった。
 胸を張った強気な発言で、己の考えが間違いなく正当だと、限りない自信を持っている。彼女は、間違いを間違いと素直に認められる反面、正しき事は絶対に曲げないという頑固な性質も持っている。
 ともすれば傲岸不遜と思われがちな強引な性格だが、その技術力と人格故にそれらは『しょうがない』の一言で苦笑されるだけである。そしてそれこそが、彼女の人徳であろう。

 
 「でも衛士強化装備も無いのに」
 「ああそれなら大丈夫だ。ちゃんと私用の物を作っておいた」

 最後の抵抗として衛士強化装備の有無を挙げてみせる武であったが、それでも焔の邁進を防ぐことは叶わなかった。というか、『あの』焔がそんな分かり切った事の対策を立てておかない筈があるだろうか。いや、絶対にない。

 「もういいです、好きにして下さい」
 
 ガックリと項垂れ、観念する武。結局世界が変わっても武は焔には勝てないのであった。




 そんなやり取りの間中、皆はそれを大人しく見守っていたが、その中で冥夜だけは何かを真剣に考えていた。彼女は2人の掛け合いの暫らく前から目を瞑り黙考を続けていたが、焔の「一緒に乗せろ」の一言を聞いた直後に目を開け、武と武御雷を見比べながら何かを思い定めていた。
 そして2人の掛け合いが終わった後に、武に数歩近付いてその正面に立った。
 
 「武、私も共に乗せてはくれぬだろうか」
 「冥夜様!」
 「冥夜?」
 
 月詠は諌めるように声を上げる、そして武は困惑するように冥夜に声を掛ける。その中で、武の目を真摯に見詰める冥夜の瞳は瞬きすら拒むような力強さと頑強さが窺える。武は冥夜のその瞳から目が離せなかった。
 2人が見詰め合う中、冥夜を諌めようと一歩前に出た月詠は怯んだ。冥夜は武にだけ意識を向けている筈なのに、漏れ出す『気』の力が月詠を寄せ付けない。冥夜が武に放っているのは己の『決意』を乗せた気の力、その余波が周囲に拡散しているだけであるのに、感じられる力のなんと強いことか……。

 逡巡したのは一瞬、月詠は直ぐに元の位置に戻り武と冥夜のやり取りを見守る姿勢を取った。
 冥夜の教育係兼メイド長として、月詠は冥夜の事をそれなりに熟知している。こうなった冥夜が意見を曲げる事は
滅多に無い事も過去の経験から知っていた。だからこそ冥夜を信じ、大人しく引き下がったのだ。

 そして冥夜と見詰め合う武も、既に彼女を乗せることを良しと感じていた。
 思わず心の中で「しょうがないなぁ」と苦笑を浮かべてしまう。なぜ冥夜が戦術機に乗りたいなどと言ってきたのかは解らないが、武はそれが冥夜の強さに起因するものだと確信していた。
 それは向こうの世界の冥夜と愛を交しあい、お互いを良く知ったからこそ解ること。だって今目の前で己の意志を叩きつけてくる冥夜は、例え世界が違えども根本は同一人物だと受け入れてしまえる説得力を持っていたのだから。
 武は柔らかに微笑すると、冥夜から目線を外し、顔だけ真那の方を向いた。


 「真那、予備の零式強化装備貸してくれ」
 「ついでに装着の手伝いも頼むよ」
 「あ~~、済まない、ということで頼む」
 
 今回衛士強化装備は3着持ってきていて、現在着ているの物を除外すれば予備は2着、1着貸しても問題は無い。更に真那と冥夜は体格的には同等なので等級サイズは同階位だろう。少しくらいの誤差も強化装備側の微調整で何とかなると武は踏んで声を掛けた。
 そしてそれに便乗するように頼み込む焔。まあ確かに初見・マニュアル無しで衛士強化装備を着るのは難しい、資料を全く見たことの無い冥夜は特にそうだろう。武はガックリと気を抜きつつ真那に頼み込んだ。

 「分かった、取ってこよう。装着の手伝いも了承した」

 強化装備の件に関しては、真那も少しの思考で武と同様の結論に達したのか直ぐに了承し、装着の方も快諾した。
 その場で身を翻し自らの乗機のコクピットに向かっていく。コクピットに入り込んだ真那は、直ぐに予備の零式強化装備を持って出てきた。

 「じゃあ付いてきな、装着えは向こうでするから。」
 真那と冥夜に声を掛けつつ歩き出す焔、その足は先程出てきた工場の方に向かっている。冥夜と真那、そして冥夜に付き従う月詠が焔と共に工場の中へと向かっていくのだった。


 そんな冥夜達を見送りながら、武の近くに居た純夏は溢すように、
 「強いね……冥夜は」
 と憂いと羨望を籠めた表情をしながら言った。

 「なんだ急に?」

 武が首を傾げて聞き返すが、純夏は「なんでもない」と言い、そのまま黙り込んでしまった。
 不審に思った武であったが、無理に聞き出すことも無いと思い結局は追求しなかった。
 この時、純夏には冥夜がなぜ「一緒に乗る」などと言ったのかが大体解っていた。親友として、女として、そしてライバルとして……同一人物を核とした似た様な心を持つからこそ、互いが考える事を何となく理解することが出来るのであった。
 そして同時に、冥夜が取ったその方法を自分が行なう人が不可能な事もまた解っていた。
 純夏が同じ様な事を言っても武は絶対に反対しただろう。武が冥夜の要求を受け入れたのは、冥夜に戦術機に乗れるだけの下地があり、それだけの覚悟が見えたからだ。

 純夏には冥夜に匹敵するほどの身体能力は無い、そして死に臨む戦いへの覚悟も知らない、だから絶対に確実に武は反対する。自身と武の事を良く知る純夏には十二分にそれが理解できていたのだ。
 だが純夏は冥夜を羨望はするが悲観はしない。純夏は冥夜ではない、想いは同じでも心は違う。『心』とは自身である、その人に対する想いが同じでもその想いに至るまでのプロセスや表現方法は千差万別に違う。愛を表すのに例え同じ様な行動を取ったとしても、それに内包される『心』もまた違うのだ。
 他人と同じ心は無い、だからこそ、だからこそ…………。




 それからしばらくして、装着を済ませた冥夜と焔を含む4人が帰ってきた。
 焔は堂々としていたが、冥夜は少し恥ずかしがっている。武達は既に余り気にならなくなってはいたが、現代に生きる者にとっては衛士強化装備のデザインはやはり恥ずかしいものなのだろう。

 冥夜と焔は2人とも零式衛士強化装備を装着していた。

 因みに、焔が自分で強化装備を作ったのはその体格故だ。彼女の身長は女性としては平均的だが体格が細めである。彼女自身は行動派で力仕事などもちょくちょく行なっているので、恐らく体質的なものだろう。それ故真那に強化装備を借りるという選択肢は取れない、サイズが合わなすぎるのだ。だからこそ自分で自分の強化装備を製作した。


 「おお、似合う似合う。流石冥夜だな」
 武は手放しで褒め称える。向こうの世界では99式を着た冥夜も十分に凛々しく似合っていたが、やはり日本的なデザインの零式の方が冥夜には映える。以前からそう思っていた武は、この度それを確認できて大いに満足した。
 
 「本当! 冥夜カッコイイよ」
 「でも恥ずかしい……」
 「う……確かに恥ずかしさは否めぬな」

 そして武の賞賛に続いての尊人と慧の言葉に冥夜は更に赤面した。着ている分にはそうそう気にはならないが。面と向かって言われるとやはり恥ずかしい。
 更にそのままその場で他の面々に囲まれて質問攻めにされてしまう冥夜であった。


 その間に、武は真那と共に武御雷の元へ歩き始める。

 「焔女史は私の機体に乗ることになった、冥夜殿は武の機体に搭乗したいと言っていたからな」
 「それは大体予想通りだな」
 「両人と相談したが、余り激しい事は不可能だろう。体の間に座ってもらい3点ハーネスで固定する。そして微速歩行から始め、相談しながらフェイズを進めていくのが妥当だろう」
 「システムや投射はどうします?」

 話しを続ける間に各機体に到着しコクピットに乗り込み、そのままコンソールを引き出し設定変更を開始する。

 「投射は両人に合わせよう、どうやら本格的に戦術機の操縦を体感したいらしい。従って我々は各種情報とサブウィンドゥだけで操縦する、システムを慣性制御・姿勢制御・バランサーの動作制御系に最大限に割り振り後は全て情報系に回す」
 「機体動作を最大限オートにしてマニュアルで調整補助して機動する、メインカメラ使用不能時の操縦方法ですね」

 戦術機は基本的にスタンダード設定で全ての曲面での運用が可能だが、やはり戦場ごとに設定をカスタマイズした方がスムーズに運用可能だ。従って熟練兵の場合は必ずと言って良い程に設定変更を熟知している。僅かな誤差が生と死の境目になりえる場合も多々存在する、生存の確率を少しでも上げる事は衛士にとって重要な事であるのだ。
 それは勿論、武と真那も例外ではない。第28遊撃部隊の全員は皆、焔からの講習を受けてかなりの腕に達している、それこそ裏技的な設定まで可能だ。

 そして今回も早々に設定変更を終了したのであった。



[1122] Re[11]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 7日目・3
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/06/18 20:35
2005年2月16日……EX世界、御剣本家・研究所




 コンピットに乗り込んだ当初は物珍しさもあり、周囲を観察するのに余念がなかった。戦術機戦闘機という名称から、戦闘機の様なコクピットを連想していた冥夜にとって、予想より意外に広いそこは多大に興味を刺激される場所であった。
 その中にある機器の詳細をあれこれと武に聞いて回る冥夜。その行動には好奇心も含まれていたが、その多くは武に関わる事情を少しでも知りたいという心が取らせた行動でもあった。
 しかし、現在冥夜は最優先事項として、自らの心臓の鼓動を抑えることへ最大限度に当たる労力を注ぎ込んでいた。
 冥夜が搭乗しているのは戦術機という戦闘兵器、その中でも『武御雷』という名を持つ機体。
 いや――それは良い、ここにいる事は自分から望んだことなのだからその点は何も問題は無い。それより何よりも、今現在進行形の1番の問題は座っているその場所なのだ。
 
 「冥夜、どうだ? ハーネスがきついとか」
 「い……いや、問題はない」
 「そうか、微調整してるからもう少し待っててくれよ」


 そう、今冥夜は武の腕の中に居る。正確には武の足の間に座り、後ろから体を包み込まれるような体勢だった。固定用の3点ハーネスの所為で冥夜の肉体が武の体に密着しているので、衛士強化装備の薄い皮膜越しに武の肉体の体温と心臓の鼓動がハッキリと感じられている。先程から自分の心臓は常より激しい動悸を刻んでおり、それが武にも伝わっているかと思うと羞恥に顔が赤くなる。
 そんな風に心揺らがせる冥夜を尻目に、武は冥夜の激しい鼓動を感じているは確かな筈なのに気にもしないのか、平静を保って冥夜の脇の下辺りから腕を出してコンソールを高速で叩いる。キータッチに合わせ、目の前に表示されているウィンドゥ内で細かい文字が高速で流れる。冥夜には全然理解できない文字の羅列、ふと横を見ると右肩の上――至近距離に武の顔、その真剣な眼差しに更に鼓動が早まる。
 武は変わった、『男子三日会わざれば活目して見よ』と言うが3年の時は長く、正しく別人の如き成長だ。今目の前で難解な設定を行なっている姿などは、あの当時の武からは想像すら出来はしない。生きる為に、守る為に必要だった強さ、それらはやはり苛酷な世界に生きてきた証であろうかと思うと、武の辿ってきた軌跡を想像し、冥夜の心は千路に引き裂かれたような痛みを覚えるのであった。
 だがそれでも……それでも武の本質は変わりは無かった、少し大人びてはいるが、どこか子供っぽさを髣髴ほうふつさせる自由気ままな性格は昔のままで、それは冥夜にとって武が生きていてくれたことと同等に嬉しいことだった。



 
 「よし、設定完了。じゃあ始めるけどホントに大丈夫か?」
 「ああ、構わん――覚悟は出来ている。それに先程、焔女史から特性の酔い止め薬と調整薬を頂いた。現時点で可能な対策は全て行ない準備は万端だ。」
 
 気合を入れつつも、体の余分な力を抜きリラックスする冥夜を見て、「それなら大丈夫か……」と呟きながらコンソールを叩き続け設定を微調節していく武。
 響いてきた優しさを含んだ武の声。それは徒の呼びかけであったのに、その声を聞いた冥夜は不思議と心が落ち着いていく。つい先程まで羞恥心を刺激していた武の体温も今は逆に心地よく、そのの肉体は自分を真綿の様に優しく――それでいて力強く包み込んでくれているように感じられた。未知のものに対する不安は確かにあったが、その温もりのお陰で、今の冥夜は何が起きても大丈夫と信じられた。
 暫らくして終了したのか指の動きが止まり、武はシステム立ち上げシークエンスを開始する。


 「立ち上げ完了。シークエンス開始。システムコネクト。投射開始」
 「うっ」
 
 武は態々工程を声に出して伝えてくる。それは不安を感じている冥夜に対するためだろう。
 今回は冥夜に戦術機の操縦を体感させるというのが目的なのでシステム設定が特殊だ。
 直接映像を見せる為に、視覚系のデータを冥夜の着る衛士強化装備接続させる。そして動作制御系はオートで最高値に設定し、その補助と機体機動を武が担当するので、それらのデータは武の着る衛士強化装備と接続させる。また環境データは両者と接続させている、これは冥夜の場合が周囲の状況を感じられるようにするため、武の場合は操縦に必要なためである。


 「どうだ冥夜、周囲の状況が見えるか?」
 「あ、ああ……凄いなこれは」

 痛みや衝撃などは皆無であったが、初めての接続により今まで生きてきた中ではとんと味わった事の無い、奇妙な未知の奔流に感覚的なショックを受けて思わず声を上げてしまう。物理的な痛みではないので衝撃は後を引かず一瞬で過ぎ去っていったが。
 武の掛け声もあり、直ぐに落ち着きを取り戻す冥夜。送られてくる未知なる感覚での情報流入に酔いそうになるが、頭の中で少しずつ整理しながら段々と現在の状況を確認していく。
 
 目の前に広がるのは演習場の風景、視界の端には真紅の武御雷や純夏達の姿も見える。高い地点で下を俯瞰するのは慣れていない冥夜にとって物凄い違和感のある視点ではあったが、情報連結による一体感の所為か直ぐに気にならなくなってくる。その後、視界横に表示された環境データを確認することも直ぐに慣れ、取りあえずは落ち着いた。




 「武、良いぞ、一通りは理解した。体の方も何も問題は無い。」
 「じゃっ動かすぞ。最初は微速歩行から始めるけど気持ち悪くなったら直ぐに言ってくれよ。動作制御系は最大に効かせてあるけど元々の揺れが半端じゃないからな。酔い止めで抑えられるのも限界があるし……」
 「そんなに随分と揺れるのか?」
 「まあな。俺は最初から平気だったけど、揺れるのは確かだな。慣れりゃあどうってこと無いみたいだけど……まあ百聞は一見にとも言うし、とにかく動かすぞ。」


 重低音と共に機体が微振動を始める。その音は数秒を刻むごとに大きくなっていき、やがて規則正しいアイドリングに似たうねる様な音を発するようになる。武の言葉によればこれが戦術機の主機エンジンの駆動音なのだという。先程までは低出力状態だったので音が聞こえなかったようだ。

 エンジンが駆動すると共に、機体が大きく揺れる。外の景色を見ると、ほんの少しだけ後ろに流れ始めている。本当にゆっくりとだが、戦術機が歩行を開始しているのだ。
 冥夜は、後ろに少しずつ流れていく景色や視界の端で変化する情報を興味深く眺めていた。ふと見ると、視界の隅に同じ様に微速歩行している真紅の武御雷が確認できる。真那と焔のペアも機動を開始したのだろう。

 武は時々冥夜に確認を取りながら歩行スピードを上げていく。微速歩行から通常歩行までは何の問題もありはしなかったが、走り始める段階になるとかなり揺れが大きくなってくる。
 冥夜はその大きな揺れの中で歯を食いしばって耐えていた。乗りやすくなるようにシステムから微調整して、武が最大限操縦に気を使っている、それでも戦術機の揺れというものは並ではない。実際に冥夜の三半規管は酷い状態で、込み上げてくる眩暈や嘔吐感と必死に戦っていた。酔い止めを飲んでいてこれだから、その揺れの酷さが窺い知れよう。そして何時の間にかそれに慣れてしまう衛士、いや――人間の適応力にも非常に感嘆してしまう。
 襲い来る酩酊感の中、それでも……それでも冥夜は根を上げなかった。冥夜は知りたかった、どうしても此処で知っておきたかったのだ。武が辿った道程を、武が感じている世界を、戦術機という兵器の能力の一端を。
 それは徒の自己満足でしかないことは解っていた。そんな事を知っても、武が置かれていた苛酷な状況を真の意味で理解することは絶対に不可能なことも先刻承知であった。
 それでも冥夜は知りたかったのだ。なぜか? それは彼女が武を愛するが故にこそ、戦う者が故にこそ、そして御剣冥夜であるからこそ。
 冥夜が冥夜であるが故に、彼女自身の心故に――その真意は冥夜本人にしか理解できない。ただ、同じ様な想いを抱える純夏だけは、僅かながらにその心を理解できているが。




 「大丈夫か冥夜?」
 「平衡感覚以外はな。もう少し激しく動かしても問題は無いぞ武」
 「本当に本当か?」
 「しつこいぞそなた。私も苛酷な事態というものにはそれなりに慣れている。遠慮なく振り回すがよいぞ」

 武は暫らく緩急を付けながら武御雷を走らせ続ける、その間にも酷い揺れは冥夜を襲っていた。冥夜はその中にあって、武道を嗜んでいるが故か生来の特性か、徐々に揺れに適応しだしていた。武が声を掛けた今の時点ではまだまだ完全対応は出来ていなかったが、それでも最初よりは随分とこの揺れに適応を済ませていたのだ。
 自らの状態を表すが如く強気な発言で武を促す。武は少し呆気に取られるように苦笑した。少しくらいの無理や無茶は甘んじて受け、何かを押し通す性格の冥夜。それを思い出したからなのか……それでも武は彼女を信用していた。自己に関する無理や無茶を押し通す冥夜ではあったが、その反面彼女は自らの失態で他人に迷惑を掛ける事を嫌う。もし自らの手に余る事態に陥る危険があれば、冥夜は迷わず自ら身を引くか、他人に助けを求めるだろう。自己の弱さを知り、それを容認することもまた、強さの1つ。冥夜は頑固で中々に無茶を認めないが、それでも己の限界を見極められる。
 だから今回も、冥夜が『大丈夫』と言っているならばそれはまごうことなき真実なのだ。




 「それじゃあ戦闘機動に移るからな。何か問題があったら直ぐ言えよ」
 「承知……」

 ショックに備え、口を噛み締めて体全体を臨戦態勢に保つ冥夜は、言葉少なく答えると再度口を噛み締め閉ざした。準備万端で待ち構える冥夜の姿勢を確認した武は、武御雷を戦闘機動に持っていく。先程までの走行がマラソンでの走行状態ならば、現在の状態は短距離での疾走だ。


 「っ!」
 
 更なる振動の増加ではあったが、冥夜は先程と同様に耐え忍ぶ。主脚での移動は、武御雷の場合全力でも270㎞/h前後。この位の加速度ならば、戦術機の耐Gシステムと衛士強化装備を合わせれば、負担を感じさせないように軽減できるので重力圧のことは問題ではない。
 冥夜の状態からまだ余裕があると見て取った武。その判断を裏付けるように、冥夜の瞳は風に逆巻き燃え盛る激しい炎の様に強き意志を宿し続けている。そんな冥夜に再度苦笑した武は心の中で少々の嬉しさを覚えていた。
 やはり世界は変われど生きてきた道は違えど冥夜は冥夜。その本質は、鋼の如き強靭さの中にしなやかさを併せ持つ、芸術の様に打ち上げられた大業物の日本刀の如し。自らの愛した冥夜ではなくとも、その姿を見られた武の心中には喜びがあった。
 更にスピードを上げていき、直ぐにアフターバーナー未使用での最大疾走スピードにまで達した。
 冥夜は流石に堪えている様で、既に声も無く必死で揺れに耐えている。しかしそれでも音を上げないのは驚愕の一言に尽きた。いくら酔い止めの薬を飲み、最大限に配慮しているからといって、初めての戦術機搭乗でこれだけの機動を耐えられるのは凄い。訓練生上がりの新人衛士でさえ、初めての搭乗では音を上げる者が居るというのにだ。


 (ったく、やせ我慢しやがって……)

 武は流石に限界かとも思ったが、冥夜の瞳にはまだ意志の光があった。思わず心の中で、愚痴るように呟いてしまう。しかしその愚痴は、微笑ましい悪戯を見守る母親のような心境からでたものであり、同時に「しょうがねぇなぁ……」と心の中で笑いながら呟いていた。
 
 「跳躍回避行動いくぞ。かなりきついから気合入れろよ冥夜!」
 「…………」

 躊躇いは一瞬、疾走から回避運動へ移行するべく冥夜に注意を促す。冥夜は既に声を出す余裕も無く唇を引き結び耐え忍んでいる。
 それでも小さく頷いた冥夜を確認し、武は回避運動を開始する。


 「ぐっっ!」

 疾走からの側面跳躍。その急激な方向転換による加重変化で一気に体を押し潰された冥夜は、肺の中の空気を大分吐き出してしまった。
 しかし武はそれにも構わず、間髪居れずに続けての跳躍回避行動に移行する。冥夜の望みである為に遠慮はしない、限界ボーダーラインの見極めは、バイタルの面でも経験の面でも確実にこなせるからだ。
 2度めの跳躍は飛んできた方向へ逆戻りのように跳躍、3度目の跳躍は後方、そして4度目が右斜め前方。
 間断なく続く跳躍行動に必死で耐えていた冥夜ではあったが、4度目の跳躍で意識がブラックアウトしかけた。連続的に位置を変える加重移動には耐えられなかったのだ。
 これは当然といえば当然だ、先程は主脚での加速の場合『戦術機の耐Gシステムと衛士強化装備を合わせれば、負担を感じさせないように軽減できる』と述べたが、これはあくまでも単調的な加速の場合のみだ。訓練を受けていない者が連続的な加重変化に耐えられるものではない。むしろ加速状態での急激な方向転換に4度も耐え切った冥夜を褒めるべきであろう。
 冥夜の体が弛緩したことを感じた武は、すぐさま機体を注意深く停止させた。


 「カハッ……ハァハァハァッ」

 衛士強化装備と耐Gシステムが備わっている戦術機では、あの程度の機動は訓練を受けた衛士ならば問題なくこなせるのだが、基礎訓練も受けていない、ましてや初搭乗の冥夜にとって、今回の連続跳躍による回避行動はかなり応えたようだった。

 「ゴメン。やっぱりきつかったか?」
 「いや、あれで良い。遠慮なき機動をとる事は私が望んだ事だ、そなたは気にするでない。それよりも次の工程に移ってくれ」

 それでも直ぐに立ち直る所は流石の一言に尽きる。その瞳はやはり光を失ってはいない。意識を失い掛けるほどの状態を味わったというのに、再度間断無く挑戦していくその心意気は、彼女の心底に武士もののふの心が存在する事を感じさせる。

 「少し休んだ方が良いんじゃないか?」
 「いや……心配してくれるのは在り難いが問題は無い。再度遠慮なく振り回してくれて構わんぞ」

 心配を振り除け力強く答える冥夜に、武は降参するように再度の武御雷の起動を開始する。

 「それじゃあ跳躍装置での飛翔にいくけど、加速度とそれに比例して加重が凄いから意識を持ってかれないように気合を入れとけよ。」
 「先程で十二分に思い知った。そんなに心配しなくとも大丈夫だ」
 「ははは、わりぃわりぃ。そうだな、冥夜なら大丈夫だ」
 「そなたのその根拠のない自信は昔から代わらぬな。まあ――今はその激励が在り難い。その言葉、真実として遠慮なく受け取っておこう。」

 軽快に笑い声を上げる武に対して嘆息する冥夜。だがその口から漏れる根拠の無い自信は間違いなく己を後押してくれる。冥夜としては、そこまで言われてはその期待に答えぬ訳には行かない。それに、信じてくれている人が居るという事は想像以上に己の活力となる。ましてやそれが好意を抱いている相手ならば尚更――



 
 その後冥夜は、自己に耐えられるだけの戦術機機動を存分に味わった。
 体力の限界まで乗り続け、武御雷から降りた時には意識の混濁が原因でそのまま倒れ伏してしまったほどにだ。
 
 だが冥夜は一応は納得していた。何百分の一程度でも武の辿ってきた苦難の道程を知りえることが出来たのだから。
 真の意味での恐怖も、脅威も、絶望も……冥夜は知らない。そしてBETAという敵性体のことも知り得ることは出来はしない。自分が知ることが出来るのは本当に僅かな程度でしかない。

 だが冥夜はそれでも良いと……その手段があるのならば、その情報を僅かでも知りたかったのだ。

 冥夜が知りえたその心。それは冥夜だけにしか解ることはない……



[1122] Re[27]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第69話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/06/29 19:49
2005年6月22日……リビア油田基地




 リビア戦線。世界に幾つか存在する激戦区の中で、もっともBETAの進行が激しい場所。
 エジプト・スーダン・チャド・ニジェールと周囲全てがBETAの支配圏に囲まれ、更にエジプト方面――サウジアラビアに存在するフェイズ4ハイヴより大量のBETAが雲霞の如く押し寄せて来る。
 油田に併設された防衛基地を拠点として各油田を守りながら、砂漠という劣悪な環境の中で戦い続ける衛士達。思想はどうあれ支援を行なう各国の後押しも手伝って、彼等は戦線を死守していた。
 カメルーン統括基地より移動し、20日にリビア統括基地へ到着した武達第28遊撃小隊。最前線の油田基地に配属される予定だった武達も、リビア戦線統括基地で統括司令官への報告の後に出発、22日には最前線に到着したのであった。




 「スキルビッツァ・フォン・マルムスティーン、第1大隊の隊長だ。で、こいつが副官の……」
 「ディアーネ・アルトゥネイシアと申します。ご高名な第28遊撃部隊の方々と共に戦えることを嬉しく思います」
 最初に挨拶してきたのは日本人の髪質よりやや繊細な感じを持つ黒髪に、ダークグレイの瞳を持つ男だった。年は見た目20代中盤で背は武と同等。白人系の端正な顔立ちをしているが肌の色は黄色人種系に近い。特徴は悪餓鬼を彷彿させるその好奇心を湛えられないような感じの表情で、造形美でいえば美しい部類に入るであろうその顔がやけに子供っぽく見えていた。
 そしてその隣にいた、柔らかい挨拶をしてきた女性は恐らく20代前半。茶色がかった金髪に、海を思わせるブルーアイ。背は隣のスキルビッツァより頭1つ分小さく、顔はややアジア系が混じった白人顔をしている。


 「私は、リアネイラ・フィル・エルムハーランド。第2大隊の隊長をやっている、宜しくな」
 3人目に挨拶してきた人物は一風変わった容姿をしていた。髪はダークゴールドで白人系だが、顔や肌は白人系とアジア系が入り混じっている感じだ。肌は薄いが茶色がかっているのでアジア系の方が血が強いのだろう。そして最大の特徴はその目だ、右目がエメラルドで左がスカイブルー、つまりオッドアイ。

 「何か聞きたそうだね、お嬢ちゃん?」
 「えっ、やっ、その、え~~と……」

 物珍しそうな視線でリアネイラの瞳を凝視していた響は、突然に声を掛けられて酷く慌てる。手をパントマイムのようにカクカクと動かして混乱しているその様は中々に滑稽で、思わず感心して見入ってしまう程だった。他の皆も生暖かい目でその様を見守っている。

 その瞳を見ていたのは武もであったし、他の4人も多分同じ様であっただろう。それでも響に声を掛けてきたのは、彼女が無遠慮とも取れるほどにジッとその瞳を興味深げに凝視していたからだ。
 武も好奇心旺盛で、興味を示した物事に関しては往々にして、十分子供っぽい反応を見せる。だが、まだまだ若輩ながらそれなりの人生経験を積んだ成年、幾らかの分別は付いており、無遠慮にジロジロと凝視することは流石に無い。
 対して響は、そういう類への配慮や、感情の機微に疎い。
 復讐から始まり修行の日々を送っていたので自ら積極的に他人と接する機会が余り無く、朝霧楓に出会うまではほぼ一匹狼の状態であった。人との関わりを極力削ぎ落とし、対話を欠いた生活の日々は、確実に響の精神を歪にさせていた。朝霧楓達の情操教育によって人並み以上に普通の感情を取り戻したが、1度失われた感情や時間は少なくはなかったのだ。だから響は、人間として1人立ちしている反面、人の機微を窺うことや、人との繊細な付き合いというものが不得意なのだ。
 特にこういう場面では咄嗟の判断や気遣いが出てこない。好奇心旺盛なのは彼女の持ち味でもあるので、それは一種の性格的な要素としても取れるだろうが……。


 「くっくっくっ、そんなに慌てなくとも怒りはしないよ」
 くつくつと笑うリアネイラに、響はホッとして肩の力を抜く。

 「私の母親はイギリス人。父親の事は母から聞いたことしか知らないが混血人種だったそうだ。……で、この容姿は私が遺伝子異常で生まれてきた結果、両親それぞれの特性が一遍に出てきちまったって訳さ。ああ、遺伝子異常と言っても肉体的にはなんの問題も無いからね」

 遺伝子異常は未だに詳しい事が解っていないのが現状だ。ただ、アルビノ系の異常は総じて、体力が無い・日光に弱い、など肉体的に問題が出る。リアネイラの場合は、交配に際しての遺伝子の交わりに異常が出て、父親側が持っていた複数の人種の特徴が同時に出てしまったのが原因だそうだ。それでも、母親は混じり気の無い純粋なイギリス人だったために、イギリス系の特徴が多く出たらしい。
 そう言われてみればなるほど、大元の下地はアングロサクソン系の顔立ちをしている……と武他は納得した。


 「それじゃ、改めてよろしくな。新兵器も含めて色々期待しているぜ」
 「ああ、こっちも宜しく頼む」
 「取りあえずは歓迎するよ。それから後は戦場での働き次第だね。ま……データ通りなら大丈夫だろうけど」
 「期待に沿えるよう努力しよう」
 
 メンバーの一通りの紹介が終わった後、代表して武とスキルビッツァ、そして月詠とリアネイラが互いに握手を交わす。
 …………
 …………
 …………
 …………
 …………
 「何やってるの?」「武?」

 何時までも握手が終わらない武とスキルビッツァ。それをいぶかしんだ面々の内、柏木と、疾うに握手を終えた月詠が疑問の声を発する。
 その声が聞こえただろう2人は依然として握手をしたままの姿勢を崩さない。声の方に顔を向けるどころかピクリとも反応しないで、互いの瞳から視線を外さない。周囲の声が一切聞こえていないようだ。
 その様相に更に困惑を強めた面々は、本腰を入れて2人を注視する。
 2人のその顔は、表情が平静を装いながらも真っ赤に色付き、その手や腕には太い血管が浮き出てピクピクプルプルと小刻みに震えていて……


 「パカーン!」「おぐぅっ!」
 「スパーン!」「のわっ!」


 その場に漫画チックな快音が響き渡る。
 武達の様相から事情を悟った月詠とディアーネが瞬時に接近、持っていた物で脳天を一撃したのだ。
 その見事な素っ破抜きは見ていて惚れ惚れとしてしまう程で、ハリセンを持たせてもう一度お願いしたい位の腕前だった。
 重ねて厚くなった書類を丸めた物で頭を思いっきり叩かれた武はともかく、書類を挟み書き込む為の硬いボード――しかも縦攻撃を喰らったスキルビッツァは2度と御免だろうが。
 武も下敷きを縦にした一撃を喰らったことがあるが、あれは痛かった。下敷きより質量のあるボードが手加減無しに振り下ろされ脳天直撃するその痛さは…………推して知るべし。
 
 「いっつぅ~、何するんだディア」「何すんだ真那? 突然」
 「何するんだじゃありません! まったく、子供みたいな事をして」
 「貴様は一体全体何を考えている!」

 怒りも顕に詰め寄ってくる2人に対し、武とスキルビッツァは少し考える素振りを見せてから互いの目を合わせ頷く。


 「だってなあ……」
 「何ってなあ……」

 「男の挨拶?」「お約束?」
 
 阿吽の呼吸で同時にお馬鹿な答えを返す2人。この時、両者の気持ちはシンクロしていた。お互いに何処か深いところで通じる所があったのだ。互いに手を取り合い、そのことを喜び合う……本心も混じってはいるにはいるが、半分以上は演技っぽく。

 
 「「おお……マブダチよ!!」」

 
 だがその体を張った演技は、正しく『体を張った』演技だった。お互い同類に出会った事で、後から来る災厄に予想が付いているけどやめられない程にはっちゃけていたのだ。
 こんな事をすれば、火に油を注ぐような事態になるのは明白。
 迫り来る圧倒的恐怖に、顔は笑っていても唇はカラカラに乾き汗がダラダラと噴出してくる。だったら最初からやらなければいいのに……それでも止められないのが『性』というものなのか――




 ピーーーーー(検閲が入りました。暫らくお待ち下さい)




 とりあえず「お仕置き」が終わった後、武達は3人から基地の案内を受けていた。
 (因みに、月詠の武に対するお仕置きは極々普通のものではあったが、ディアーネのスキルビッツァに対するお仕置きは凄惨だった)

 この基地は油田採掘場に併設された基地で――と言っても、採掘場に隣接している訳ではなく少し離れた場所に建設されている。基地に置いてある火薬類が爆発して、油田に引火したら目も当てられない惨事になるからだ。
 立地条件は最悪に近く、基地と言ってもプレハブ式の建物をその場で補強した物で、最低限の居住性しかない。
 補強した事で風が入ってこない事と、冷暖房完備な事は幸いだが。
 水は地下水を汲み上げていて、電気はケーブルを引っ張ってきている、太陽光ソーラー発電と風力発電も併設していて、文句を上げ連ねなければ最低限といえど見た目ほど居住性は悪くはない。

 建物はともかくとして、防衛には力を入れている。此処はリビアの中でも南端ややエシプト寄り、エジプト・チャド・スーダンともろに隣接している危険地帯だからだ。各国が提供してくる最新鋭の兵器や物資の補給も最優先で回ってくる。配属部隊も多く、その大多数が歴戦の勇士で構成されている。

 国土の90%がサハラ砂漠とリビア砂漠(リビア砂漠は、リビア・エジプト・スーダンにまたがるサハラの東部分にあり、典型的な熱暑沙漠)に覆われているリビアは、戦術機にとっては戦い難い場所だ。
 砂漠と言っても何も砂ばかりではない。砂漠には、砂沙漠・土砂漠・礫砂漠・岩石砂漠・塩砂漠と多彩な種類があり、皆が想像する砂だけの砂砂漠は少ない方だ。(岩石砂漠のうち、礫に覆われているものを礫砂漠と区別する。この岩石・礫砂漠が砂漠全体の約90%を占める)
 そして砂漠という名称も、砂は「石が少ない」と取られることから、砂漠の実態である「水が少ない」を連想させる「沙」という字を用いた沙漠という表記も散見されることがある。

 武達が駐屯する油田基地はリビア南南東、リビア砂漠とサハラ砂漠が交じり合った場所に存在する。基地が建設されている場所は礫砂漠だが、右前方周囲は砂砂漠と礫砂漠が3対1の割合で混じりあった地形、左前方周囲は高い岩山が屹立する岩石山脈地帯となっている。
 広く障害物がない砂漠――特に砂砂漠・礫砂漠では、戦術機での戦闘が困難なこともあり、子爆弾内蔵の拡散弾頭式ロケットミサイルでの広域殲滅が基本戦術になっている。補給輸送が困難な砂漠の中で、戦術機部品よりも優先してロケットミサイルが運ばれてくる位だ。(戦術機部品や兵器は各国の支援や輸入に頼っている。ロケットや一部の兵器が国内生産されている)
 ロケットミサイルは全部隊に満足に行渡るように生産・輸送されているが、それも月単位の補給で、月末になると度重なるBETA襲来で各基地のロケットの本数が乏しくなってくる。数年前の戦術転換で、より効果的に敵を殲滅可能になったとはいえそれでも苦しいのは変わらない。それを補う為に戦術機部隊が存在するのだが。

 基本的に、ロケットミサイルで広域殲滅→戦術機で残敵掃討の運びとなる。これもロケットを節約する為だ。
 ここに居る衛士達は、大概は歴戦の勇士なので残敵掃討で機体を壊す者は滅多にいない、偶に疲弊部品を取り替えるくらいで戦術機関連の補給は武器弾薬が大半だ。
 大変なのは2~3月に1度あるBETAの大攻勢の時位で、その他は死人も故障も滅多に出ない。


 リビア戦線の詳しい説明を受けながら、武達は基地を回っていく。
 ある程度の案内と説明が終わった時を見計らったのか、御無が質問をする。


 「それではやはり、出撃回数は多いのですか?」
 「いや、多いには多いが昔程じゃないね。バビロン作戦によるG弾の集中投下でハイブも相当傷ついたらしく、BETAの進行頻度は極端に低くなった。それ以前は流石にきつかったねぇ……大体週に2回位の頻度でBETAが押し寄せて来るわ」

 昔を懐かしむように目線を何処か遠くへ彷徨わせるリアネイラ、スキルビッツァとディアーネも同意するように頷いた。

 「ロケットミサイルの補給も追いつかず、戦術機の部品補給も手が回らない状態でした。一時期、戦術機稼働率が50%近くまで落ち込んだことがあります」
 「あの時は本気マジでやばかったぜ。故障したのや、部品が足りなくて組みあがらない戦術機からパーツをかき集めてやっとこさ半分の稼働率を維持していたからな。あの時に比べりゃあ今は天国よ、装備が揃っていることの幸せを噛み締めつつ日々を過ごしているってもんだぜ」

 今の差異に対し、大口を開けて昔のことを笑い飛ばすスキルビッツァ。
 それを見る武達は複雑な心境だ。一笑に付して大声で笑い飛ばしているが、その過去は言うほど易いものでは無かった筈だ。稼働率50%とは100機あれば50機しか使えないこと。今よりも敵の数が多く、ロケットでの敵掃討が満足に望めなかった時に、砂漠という劣悪な環境の中50%の戦力でBETA集団と戦う……当時『この世で最大最悪の地獄の戦場』と呼ばれたリビア戦線。その戦線を戦い抜き今も戦い続ける戦士達、そして死して礎を築いてきた戦士達に、武達は心の中で深く尊敬の念を籠めた敬礼を送った。




 各施設の案内が終了し、機体の調子を見るのと、新兵器の受領確認の為格納庫に向かう途中でそれは起きた。

 『戦闘衛星が敵の接近を感知、第1級非常事態宣言を発令。総員は直ちに第1種戦闘配置に付いてください。敵の規模より、本進攻は大攻勢と認定。戦術機部隊と多脚戦車部隊の編成は従来の装備で統一、各部隊の判断で順次発進して下さい。繰り返します…………』

 基地に第1種戦闘配置の警報が基地に響き渡る。
 スキルビッツァ等3人は、世界共通の第1級非常事態警報を聞くとすぐさま格納庫目掛けて駆け出し始めた。この辺は流石歴戦の勇士、切り替えが早い。もちろん武達も遅れる事無く後に続いていた。

 格納庫に飛び込みすぐさま衛士強化装備に着替え始める。周囲は俄かに騒がしくなり始め、武達の他にも次々と人が飛び込んできて着替えを始めていく。
 戦術機の固定台周囲では、整備員の怒号が飛び交い……はしない。戦術機整備の喧騒の中では人の声など容易に掻き消されてしまう、一々大声を上げるにしても咽が馬鹿になること受け合いだ。だから整備員は骨伝導の集音・発声マイクを使用する。これならば確実に音が聞こえる・伝わる、だから彼等の周囲には大声は必要ない。
 彼等は傍目に見ると黙々と――まあ、それは傍目に見るとであって、通信を介してはやはり怒号の中で戦術機のスタンバイを続けていた。

 
 「持ってきた新兵器は事前に貰ったカタログスペック通りか?」
 「後、操作性。信頼性と耐久性も」

 着替えながらもスキルビッツァとリアネイラがこちらに訪ねてくる。新兵器は彼等の部隊が使うらしく、玲奈が事前に資料を回してあった。その兵器の事を確認したいのだろう。
 
 実際に『新兵器=強い』と思われがちだが、現場の人間にとっては必ずしもそうではない。その図式が当てはまるのは、使用者がその新兵器の十分な習熟期間を置いた場合になる。
 習熟した旧型の兵器と初見の新型兵器では、明らかに前者の方が好まれる。1秒単位の短い時間を争う戦闘の中では、慣れていない――即ち、取り回しに手間が掛かる兵器など邪魔以外の何者でもないからだ。

 兵器に求められるのは『実用性(操作性)』『信頼性』『耐久性(整備性)』カタログスペックからでは、これらの感覚は真に掴むことが出来ない……やはり、資料の数値だけを見るより、実際に使用した者の感想は百の重みがあるのだろう。それが熟練者ならば尚更――


 「大丈夫大丈夫、全然問題ねーって。特に突撃機関砲は以前の04式と殆んど変わらねぇよ」
 「新型弾の方も問題ないね。以前の04式でも新型の04式でも問題なく使えるよ。」

 武は接近戦や三次元空間での高機動戦闘を行なう見地から、突撃機関砲の取り回し感覚について。柏木はもっとも多くの射撃練習や、製作工程での試し撃ちを行なっている立場から……己の見解を述べていく。
 
 「レーザー防御シールドは1度我々で実演しよう、流石に予備知識無しでの使用は不安が残ろう」
 
 月詠や皆も、着替えを続けながらも新装備についての各々の感想を返して行った。
 暫らくそれらを聞いた3人は一瞬黙り込み思案したが、何回か納得するように頷く。

 「ぶっつけ本番になっちまうが使ってみるか。突撃機関砲は最低限04式と思っていれば差し支えねぇし、レーザーシールドも実演してくれるっていうなら問題ない」
 「そうだね、強さとは戦闘力だけにはあらず……。あんたらの『強さ』――信用しよう」

 片や地獄の戦場を生き抜いてきた戦士、片やハイヴ最下層反応炉の破壊を成功させた戦士。互いに初見なれど、音に聞こえた風評やデータは十分に信頼に足るものだった。
 だからリアネイラ等は武達を信用し、新たな兵器を手に戦場に赴くのであった。 






 武は種火状態だった自機のエンジンを再燃焼させ、システムのチェックをしながら横目で周囲を観察する。
 目の端に移るのはクーデターでも目撃した『F22A-ラプター』が数機。その機体にマーキングされているのは大きな鎌を持った死神の意匠で、側の機体にはその意匠の下に縁取りされて1-1・1-2・2-1という各数字が見える。

 『アメリカ軍傭兵部隊』正式な所属でありながら正式な所属でないアメリカ軍部隊。正式名称は無く、ただ死神部隊、傭兵部隊、そしてコールサインを取って「ブラッディパーティー」と呼ばれている。先程の3人が所属しているのがこの部隊だ。

 アメリカ軍では、軍としては当たり前だが規律や秩序を重んじる、上官の命令に従うのは至極当然のことである。だが往々にして、天才肌の者や、異端な実力者は性格に問題がある。つまり軍という社会の中には馴染む事が出来ない。
 そういう者はさっさと除隊させればいいのだが、少し頭の回るある上層部の人物が周囲の者に提案した。「実力のある者を使わないのは勿体無い、その力が国外に流れるのも問題だ。だったらいっそ皆纏めて傭兵部隊にして国外に派遣し自由に戦わせよう」というようなことを。
 つまりは「実力があっても、性格その他に問題のある者は、一箇所に纏めて派遣部隊として外国で戦ってもらおう」ということだ。傭兵扱いならば軍としての差し障りは無いし、問題が起きても簡単に切り離せる。
 こうして、アメリカ軍所属でありながら傭兵部隊であるという異色部隊が完成したのだ。(現実には徒の傭兵部隊だが、バックにアメリカが居るのは公然の秘密らしい。つまりは建前)
 構成は5個大隊180人。コールサインは「ブラッディ」。実力は一級品だが性格に問題ある者が集められた部隊。 ここに所属している者は少なからず性格に問題があるのだ。先程の3人も含めて――




 『柏木大尉には電磁加熱砲を運用してもらいますので、それを主体とした装備一式を選択してもらいます。それ以外の皆様は各自好きな様に装備弾薬を選択してください。
 砂漠戦仕様への転換も既に終了しています。先の砂漠の戦いでの教訓も踏まえて、より効果的な防塵処理を施して置きましたが、100%の動作保障は致しかねます。そこの所を常に頭に留意して置いて下さい。』
 
 システムチェックの途中で玲奈主任から通信が入る。焔とは違い、余計な口を挟まずに坦々と各種連絡事項を皆に伝えていく。
 武達はそれと同時に送られてくる交戦予測地域のデータを、装備弾薬の選択を整備員に指示してから頭の中に詰め込んでいった。
 防塵処理の件は注意して置けば問題ないだろうと結論付けた。玲奈の腕は焔に次いで信用している、100%と言い切れないのは第4世代戦術機が現状、1度しか砂漠での交戦経験がない為だろう。ここで戦闘を続けている戦術機は、長い戦いの中で砂漠戦に特化するように改造され続けてきた。武達の第4世代戦術機にも、その改造技術を事前に教えてもらい流用しているが、砂漠の中での動作保障は1度しかない。

 そもそも先の戦闘は遭遇戦であった。焔が、事前に貰った資料を見て施していた砂漠運用を見越した改造があったからこそ普通に戦えていたが、終わった後不具合が続出した。
 今回はその事と過去の改造データを合わせてより完璧に仕上げてあるだろうが……。実戦での運用は多分に未知数なので『完璧』とは言わないのだろう。



 
 それから10分後――武達第28遊撃小隊は熱砂の海に身を躍らせていくのであった。



[1122] Re[28]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第70話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/07/01 23:36
2005年6月22日……リビア油田基地より150㎞圏内




 『敵集団は南東より基地右前方の砂砂漠に進攻するルートを取っており、現在基地より150㎞付近を進攻中。データより迎撃地点は80㎞地点に決定。先行した部隊は迎撃地点の選定をお願いします』
 『こちらシロッコ大隊、了解した。迎撃地点の選定に入る、付近の気象データを送ってくれ』
 『多脚戦車部隊、戦闘地域に向かって問題なく進行中』
 『基地の防衛準備完了。迎撃システムオールグリーン』
 
 あちらこちらで様々な通信が交わされていく。流石に慣れたもので、その遣り取りには微塵の迷いも無駄も無い。何回もの戦闘によって洗練されてきただろうシステムは、歯車が噛み合うが如く着々と迎撃準備を進めていく。


 「流石だね」

 ほぅ、とヒュレイカが感嘆する。指揮系統に乱れや停滞が出ないのは末端までもが自分の役割を心得ている証拠だ。それを証明するように、司令部からは時折修正と情報提示の通信が入るだけで、最低限の命令しか出されていない。

 「国連軍の一般部隊ならこうは行かないよね。」
 「帝国軍でもここまでの錬度を持つ一般部隊は幾つあるでしょうか……」 

 迎撃地点に向かいながら通信を聞いていた、柏木と御無のそんな呟きに、近くを飛んでいたリアネイラが声を上げる。

 「ははは、そりゃあ当たり前さ。ここは地獄の最前線、津波のようにBETAが押し寄せて来る中での戦いは否応無く結束力や錬度を高めていく。ここで戦っている者達は、戦いの中で死と言う篩いに掛けられ生き残ってきた、正に洗練されたつわもの達! そんじょそこらの部隊とは格が違うよ。」

 この基地では現在週に約1度はBETAが攻勢を仕掛けてくる。1ヶ月で大体4回、1年で最低52回。それだけの戦闘を繰り返してきたのだ。そしてこの基地では1年間戦い続け生き残った衛士が、総数の3分の2以上存在する。幾ら装備が最新で充実しているとはいえ、それだけで弾き出せる数値ではないのは明白だ。その要因が何処にあるのかは最早言うまでも無いだろう。


 武達は水平噴射跳躍(飛翔)ホライゾナルブーストで目的地に向かう。新兵器のセットアップやその他諸々と準備があったので、新兵器を扱うブラッディ隊のメンバー数人と後から遅れて出発したのだった。この数人は、ブラッディ隊の中でも特に秀でた能力を持つ実力者で、全員F-22Aラプターに搭乗している。武達も含めスーパークルーズ可能な機体なので、後からでも時間差が空く事無く、迎撃地点に到着するのであった。




迎撃地点……基地より80㎞地点。




 その周囲は起伏に富んだ地形だった。その中で、味方が陣取っている場所は地形的に他の場所より高所に存在し、そこから前方一帯の低い地形を一望できた。風上側に急斜面を作る『マンハ』と呼ばれる砂丘の上に陣取っているのだ。
 高い所から低い所を狙い打つというセオリーを取れつつ、少し下がればレーザーに狙われない為の大きな壁が前方にある。味方の前方は60度以上はある急斜面で、敵の進攻を妨げる役目もこなすという、正に理想の迎撃ポジションだ。両翼からの敵進攻にさえ注意して置けば城砦の役目としては秀逸な場所だろう。

 武達が到着した時には、既にその場所では各部隊が迎撃展開をほぼ終了していた。
 後から到着した武達はとりあえず機体を後方に待機させ、同行したブラッディ隊の者達と共に戦域図を眺めて戦術を練る。


 「今回は2・3ヶ月に1度の頻度であるBETA大攻勢の日だ。敵はメデュームを中核とした1群をルイタウラが先導している形で、後小型種がわんさか。その後ろにグラヴィスが数十対、更に後方にルクスとマグヌスルクスの集団が控えている。そしてその集団が3つ。2つはロケットミサイルで一掃、俺達は中央の集団を迎え撃つ形となる。まあ、何時もと同じだな」
 「従来の戦法で殲滅可能ですが……」
 「せっかく新しい兵器が来たんだ、今後の為にも一丁此処で新しい風をいれないとねぇ」


 戦域図を眺めていたブラッディ隊の3人は、BETAの陣容が従来のものと大差ないことを確認する。このままだったら既に確立されている迎撃戦法で殲滅は十分可能だ。だが今回は此方側に新要素が存在する。戦法に変化を与えるには十分以上な効果を持つ新兵器。 
 ブラッディ隊の3人も他の面々も、この新兵器の力を試してみたかった。特にレーザーを数回、補給すればそれ以上に防御できるシールドは魅力的だ。
 現在使われているシールドは2001年から配備された物で、【耐熱装甲材】の上に【対レーザー蒸散塗膜】を敷いた、第3世代戦術機の装甲からスピンオフしたブロック式の長方形の盾であった。この盾は一片が嵌め込み式のブロック構造になっていて、レーザー照射された部分を外して組み替える事で使い捨ての部分を極力なくした盾である。(レーザーを防御するだけなので、強度は必要なく、ブロック構造でも問題無い)
 ただ、このブロック構造はあくまで盾の素材の無駄をなくす為であり、組み替えは格納庫で整備員の立会いの下入念に行なわなければならない。戦場では一度レーザーを防御すると、もう使用に多大な危険が付き纏ってくるようになり、実質使い切りの盾ということになる。
 だからこそ、数回のレーザー防御を可能とする【EFFレーザー防御シールド】は、戦略に大きな幅を与える新兵器として期待が大きかった。

 現在は戦線が膠着しているが、それはバビロン作戦によるG弾の攻撃によってハイヴが損傷し、BETAの進行頻度が低下したからこそだ。G弾投下から既に1年以上の時が経っている、何時ハイヴの修復が終わり以前の様な攻勢が始まるとも限らない現状では、それを打破する方法は砂漠で水を望む程に渇望すること。
 そしてその現状を打破する事が出来る装備を武達が運んできた。淀んだ空気を掻き消すが如く、新しい風を招き入れるには正に絶好の機会だった。


 武達とブラッディ隊の間で取るべき戦法が決まると、展開待機している各隊にその旨を伝えていく。新戦法は従来の戦法にプラスαする形で汲み上げたので、今までの迎撃体勢が大きく崩れることもなく、新戦法が上手くいかなかった場合のリスクも最小限だ。各隊の隊長・隊員たちも好意的に同意してくれた。

 そして各隊が若干の陣形変更を行なった後に、武達とブラッディ隊も迎撃配置に付き、展開は滞りなく終了した。そのまま各員は作戦開始時間まで、緊張を孕みながらも体を休める。武達もリラックスして作戦開始を待つのだった。




 作戦開始までは数分間の猶予がある。武はシステムを待機モードに設定した後にシートに身を預ける。コクピット内は冷房が効いているお陰で快適だが、外気温は40度を超えている。――もし冷房がなかったら戦闘前に蒸し焼きになってお陀仏だよなぁ――と詮も無い事を考えながら、通信画面の1つに目を向けた。
 
 そこに映るのは自分にとって愛しい女性。
 愛しいというと『1番』という単語が付くものだが、武にとって愛しい人は3人存在する。我が事ながら常識外れだとは思ってはいるようだが、3人共に同じ位愛しく大切なのだから是非も無い。
 男女比率が女性に傾いている現在、武の様な状態の男性は世界中で多々存在する。状況的にも、このような状態は黙認されるべき事で、実際に男女交際に関する制限は帝国軍でさえ取り払われている。(一夫多妻制度が世界中で公認されている)
 しかしながら一夫一妻の形態を取っていた国々――特に倫理観が強固で、女性の貞淑さが強い日本は、中々その思想が受け入れられない……というか、未だに一夫一妻を固定観念としている。そんな中でも一夫多妻や恋人を複数持つ男性も居るには居るが、それは極少数派である。しかし、その訳は過去の観念が定着しているからであり、決して一夫多妻の考えに否定的という訳ではない、一夫多妻の人物も誹謗中傷を受ける事無く平静に暮らしていける。要するに、現在の状況を鑑みれば納得はできるが、自分たちが実践するには抵抗が在るということだ。

 その状況に居る武でさえ、過去の倫理観によって、未だに少々恥ずかしい。後悔や卑屈な気持ちなど微塵も無く、自分が3人を愛している事に幸福と喜びを感じている……のだが、それでも恥ずかしいというか、公認されているのに自分の状態が常識外れだと感じてしまう思いが存在するのだ。
 まあ……そんなこんなで、3人共に愛している武。彼にとって3人に優劣を付ける事は適わなく、全員共に『1番愛しい』と想っているのであった。


 通信画面に映る自らの恋人は凛々しい顔を崩さずにコンソールを叩いている。その姿に見惚れて、思わず顔が緩んでしまうのが自分でもハッキリと解った。我ながらベタ惚れだなぁ……と自らに呆れ半分、感心半分が入り混じった感想を抱いてしまう。


 近頃の武は、戦闘時に月詠への映像通信を常にオープンにしているのが当たり前になっていた。

 統合情報戦術分配システムを効果的に使う為、戦闘時は各部隊・各機体が情報連結し易いように常に回線がオープンに設定される。その為に部隊間での通信は、一方通行なら殆んど制限無く使用でき、同部隊内ならば相手の許可無く通信を普通に繋ぐことも可能だ。戦闘時にはプライバシー云々より、情報の滞り無い伝達が何よりも優先されるからである。機密度の高い会話時は秘匿回線を使用することも可能だが。
 通常、戦闘時や緊急時以外は音声回線で呼びかけてから映像回線を開くのがマナーとなってはいるが、同部隊間では余り遠慮が無い。相手が秘匿状態の時以外は好き勝手に通信を繋ぐものだ。
 
 武は月詠との映像回線を開きっぱなしにしているが、通信を繋げば相手の方でもそれと解る。それでも何も言ってこないので、1度本人にその事を聞いてみたことがあるのだが、その時の返事は「今更そんな些細なことを気にするか馬鹿者」と言われた。
 その時は訳が解らなかったが、焔曰く『武の目線は何時も月詠を追っているからな。それに大抵は2人一緒にいるからして、今更通信画面越しに見られる位は気にならんだろう』ということだ。
 その言葉を聞いた後、過去の自分の行動を省みて思わず真っ赤になってしまった武。自分が相当月詠に『いかれている』のがありありと実感できてしまったのであった。




 彼女は現在、首の後ろ辺りで一括りにした髪型で戦術機に搭乗していた。時間がある時は団子状に結い上げるのが常だったが、緊急出撃をしてきた現在はその間も無かったのか無造作に束ねたままだった。普段とは違う髪形をした月詠の雰囲気に、武は新鮮な気持ちでそれを眺める。
 その間コンソールを、その美しくしなやかな指で流れるようなタッチで叩き続けていたけていた月詠だったが、やがて納得したのか1つ頷くとコンソールを仕舞う。その後、携帯食や予備の衛士強化装備などが収納されているスペースから紐を取り出した。
 それを認めた武は通信回線を一方通行から相互映像通信に切り替える。

 「なんだ、縛っちまうのか勿体無い」

 心底残念そうな声は、それが通常の人物ならば心を揺さぶるように訴えかけただろうが、生憎と慣れていた月詠は横目でちらりと一瞥をくれただけで、震度1にも満たない揺れさえ起こすことは叶わなかった。
 髪を縛りなおす為に、一旦背後で髪を括っていた紐を解いた状態の月詠は、そのままやや憮然とした表情と、その表情に見合う口調で、少し答えに窮するような質問を発する。
 
 「縛らなかったら戦闘の邪魔になろう。それともそなたには、それ以外にこの髪型が何かの益になるとでもいうのか?」
 やや目を細めて此方を睨め付けつつ放つ、その呆れを多分に含んだ質問に対する武の回答は、月詠の想像の斜め上を行っていた。
 「俺の目の保養」
 
 にんまりとした表情で発せられたその言葉は、月詠にとって晴天の霹靂だった。武からの回答など期待してはいなかったが――そもそも困らせる為に出した質問だったのだが――返って来た回答は、余りにも欲望に忠実で、それでいて嘘偽りなどが入る予知が無くて……月詠は呆けて、一瞬思考が停止してしまった。
 呆れ半分、その言葉に籠められた武の想いに恥ずかしがったのが半分。要するに武は『綺麗だから見ていたい』と言っている。それくらいの意訳は出来る程に、月詠は武の事を理解しているのだが、こういう時はそんな自分が恨めしい。言葉どおり素直に受け取っておけば呆れるだけで済んだのに、その裏に隠された意図まで読み取って態々羞恥を感じてしまったのだ。


 「やっぱり真那は髪を下ろしていた方が綺麗だからな。後ろで纏めた髪型も新鮮味があって良いし、衛士強化装備の時に髪を下ろしていることなんて滅多に無いからもう少し堪能していたい」


 そして更にストレートな追い打ちを掛ける武。臆面も無く言ってのけた武の言葉によって、月詠の心を焦がすが如く羞恥の炎が直走る。以前にも、自身の美貌を褒め称えるお世辞は男性から受けたことがあったが、動揺した事などとんと無かった。それなのに今! この、自らの胸の内より尽きる事無く湧き上がってくる想い!
 嬉しい――途轍もなく嬉しく、そして恥ずかしい。踊り燃え上がる歓喜の炎は、愛という燃焼剤を糧として益々その勢いを増し、自らの心を肉体を情熱という高温で焼き焦がしていく。
 その中に混じる羞恥は、嬉しさを感じて抑えきれない喜びを感じてしまっている己自身に対しての感情だ。

 最初の方で、戦闘が始まる直前にこんな浮ついたことを言ってのける武に対し、叱咤する気持ちも浮かんでは来たのだが、それは瞬く間に他の感情に塗り直されてしまった。

 普段は露骨に表に出さないが、自身は武のことを深く愛しているのは紛うことなき事実。彼の腕に抱かれている時は、女として生まれてきた幸福に酔いしれている。
 『愛という光なき人生は無価値なり』という格言が存在するが、武と出会い互いに想いを通わせた事は、月詠にとって正に新たな光明を見出したとも言える人生を激変させた出来事。戦いと忠誠に尽くした日々を生きてきた月詠にとって、それは第2の人生の始まりと言える程に衝撃的なことであったのだった。


 羞恥に顔を赤面させ喘ぎ動揺する月詠、そしてそれを優しげな……それでいて悪戯っ気を含んだ眼差しで見詰める武。しばらくその構図が続いていたが、突如通信から堪えきれなくなって漏れ出した苦笑や笑い声が聞こえて来る。

 「くっくっくっくっ、あんたら最高だよ、最高!」
 「戦闘前の一時の清涼しょうりょう。堪能させて頂きました」
 「あはははは、武も色々と罪な男だね」
 「不潔、気障、女誑し、八方美人、女の敵!」

 次々と映像通信をオープンにし、好きな事を並び立てる面々。どうやら一方通行で通信回線を繋ぎ、武と月詠の遣り取りを覗いていたようだ。
 先程も言った通り、部隊内での通信は特に制限を設けない限り自由に繋ぐことが可能だ。そして現在第28遊撃小隊は通信に制限を掛けていない。そんな中、武と月詠の両者は秘匿回線も秘匿警告をも出さず話を続けていたわけで……他人の恋路に興味があるのは、世界中の女性の普遍的共通認識。その例に漏れず、この両者の恋模様は他の面々にとって見逃せない興味の対象に位置されている。この覗いてくれと言わんばかりのシチュエーションでゴシップ大好きな面々が黙っている訳はなく、必然的に今回の会話も皆で静聴することと相成った訳である。


 「な……な……な…………!!」
 「はぁ……。おまえ等な~~!」

 羞恥で赤面を晒しながら、口をパクパクと金魚の様に開閉させて声も出ない月詠と、手で顔を覆い呆れて項垂れる武。そんな両者に構わずに姦しい爆弾トークは続いていく。


 「これはあれだね『愛は障害にあうごとに、ますます成長する』ってことかな? 3股の武の恋は色々問題ありそうだからね。まあでも『愛は人を大胆ならしむ』とも言うし、積極的なのは良いことだよね」
 「武さん真那さん、『男子は己を知る者のために死し、女子は己を愛する者のために容づくる』とは古い格言ですが、微力ながら私もその為に誠心誠意を籠めてお手伝い申し上げます。武さんを鍛え上げ、真那さんを見目麗しく教養豊かな女性に仕立て上げて見せましょう」

 目を細めながら態々格言を使い芝居がかって喋る2人。その様はあからさまに面白がっていて、多分にからかいを含んでいるのは明確すぎている。だが、余りの衝撃に正常な思考が取り戻せていない月詠はそれも解らず混乱が続いている。
 そんな中、武は最早諦めてこの事態を静観する事にしたようだ。今まで散々からかわれてきた武は、こういう時の女性の団結力と強引さを良く知っており、それらに対抗する事が如何に無駄な努力であるのかを十二分に知り尽くしていた。現在は静かに事態の推移を傍観しながら、月詠の狼狽振りを堪能している。


 「諦めてください月詠中佐。我々女にとって、人の恋路は何よりの娯楽なんです。例えそれが誰のものでも……例え上官のプライバシーでも。人の恋路は秘密を暴いて白日の下に晒すのが帝国軍の伝統であり、唯一黙認された上官侮辱罪なのです!」

 オイオイ響よ……思わず武は心の中で突っ込んでしまう。少女漫画チックに、左手は胸に、右手は開いて空に掲げて、悲劇の主人公を気取って芝居がかった仕草をしながら口上を述べるその様は、完全に悪乗りしているらしい。
 しかしその仕草より、喋った内容の方が問題だ。何だその伝統は……帝国軍の実態とはいったい。

 「例えどんなに直隠しにしても人の恋路は白日の下に晒されるが必定。そう……『他人の恋路は蜜の味!』」
 舞台劇のクライマックスが如く、目を伏せて決めポーズを取りながら叫ぶその様は、最早突っ込みどころ満載過ぎて突っ込む気にもなれない。色濃い気疲れと哀愁を漂わせながら、武は乾いた笑いを浮かべて呆れていた。

 「『恋は錠前鍛冶屋を笑う』そして『愛する所に目あり』 結局何時かはばれるものさ。それが遅いか早いか……ただそれだけのこと」
 そして経験則なのか演技なのか判断がし兼ねる表情で、呆れている武とまだ復帰できない月詠に労るような声を掛けるヒュレイカ。フッと溜息を吐きつつ遠くに視線を彷徨わせるその様は沈鬱な哀愁を漂わせている。
 彼女は軍隊歴が長い、きっと色々あったのだろう。少しだけシンパシーを感じる武であった。


 なんかもう色々と収集が付かなくなってきた中で、武は諦めの境地に居た。デトリタスが降り積もるが如く虚無感が圧し掛かってくる。今は本当に戦闘前の一時なのか激しく疑問が湧き上がってくる始末で、広域設定で表示された戦域図に映し出されている敵のマーカーが、唯一現実を感じさせてくれていた。




 その直後、作戦開始の通信が響き渡り、結局この事態は有耶無耶のまま幕を閉じたのだった。
 だが、誰がやったかは敢えて名言はしないが、通信ログは保存されて焔の手に渡った。それを見た彼女の笑い声が響き渡ったのは言うまでもなかろう。 
 そして月詠の各員への報復がどうなったかは……皆様の想像にお任せしよう。
 とりあえず今日の教訓を糧に、今後月詠は、武と2人での会話の時は秘匿回線を使用することを硬く心に誓うのであった。








 今回、格言(ことわざ)とネタを多く使っています。
 格言は日本以外のものもありますが、まあ……解ると思います。もし、解らなくて訳を知りたいという奇特な人がいましたら感想版の方にその旨書いてくれれば答えますので。
 ネタは……、コクピットで髪を縛り直すのとか、他人の恋路は蜜の味とか、例え上官のプライバシーでも~とか……色々です、凄いマイナー作品から引っ張ってきてますので。元ネタは秘密です。



[1122] Re[29]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第71話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/07/08 19:26
2005年6月22日……リビア油田基地より150㎞圏内




『敵右翼集団115㎞圏内に到達。基地よりATACMS発射します』
 
 基地よりの通信でATACMSが発射されたことが報告され、それに次いで新たな通信が入る。

 『ATACMS発射確認。多脚戦術機隊、MLRS発射開始』
 
 武達が乗る第4世代戦術機に搭載されている多機能ディスプレイ、その1つに現在表示されている広域戦域図の表示により、ATACMSに先行する様にMLRSが発射されるのが確認できた。前方に16機の多脚戦車より発射されたMLRS192発が先行し、その後に基地より発射されたATACMS24発が続く。

 
 MLRSは1ユニット6発、基本2ユニット装填で運用される12連装227mmロケット弾発射兵器。射程32kmのM26ロケット弾を順次発射。弾頭部にはM74(対人対物用)644個の子爆弾が搭載されており、タイミングよく目標上空で散布され絶大な面制圧力を発揮し、目標着弾地点は1両あたり全弾(12発)発射すると7728発の子爆弾が着弾する事となる。
 そしてATACMSは射程が160kmのM39地対地ミサイルで950個の子爆弾を搭載している。因みに、平地では多脚戦車ではなく車両に搭載されることが多い。

 高度より16発ずつの集団に分かれ推進する192発のM26ロケット弾が、敵後方のレーザ属目掛けて着弾を開始する。最初の16発は全て迎撃されたがこれは計算の内だ。レーザーの迎撃により内部に仕込まれている重金属粒子が気化し付近の大気中に急速に拡散する。蒸発し切れなかった子爆弾もそのまま地面目掛けて着弾、そのまま敵を巻き込みつつ爆裂して内部に含まれた重金属粒子を振り撒いた。更に次の16発、その次の16発も同じ様な様相で重金属粒子を振り撒いていく。
 この重金属入りのM26ロケット弾は、最初の36発が迎撃される確立がほぼ100%になるので、迎撃されるならいっその事重金属粒子を満載させれば良いのでは……ということで製造されたものだった。試験的に実戦に投入されてみたが、当初の予想に反して以外に効果が大きかったのでそのまま正式採用されて今に至るという訳だ。 
 そして次の16発からが子爆弾内蔵のロケット。最初の36発よりやや遅れて連続発射されたM26ロケット弾は、重金属粒子が十分に空中散布された頃合を見計らったかのように接近して空中で分離を開始する。
 重金属粒子の散布が十分ではない事や他の問題も多々あり、幾らかのロケット弾は撃ち落されるが、1集団12発の内9発程度は644個の子爆弾を空中で散布し目標群を攻撃、レーザー属や前方のBETA集団に襲い掛かる
 そして更に、M26ロケット弾に次いでATACMSがBETA集団に着弾を開始。22800の子爆弾が雨霰の様に降り注ぎ瞬く間に敵集団を殲滅した。

 多脚戦車部隊はロケット発射後、速やかに次弾を装填。同時進行していた左翼の集団にも同じ様な攻撃を開始。左翼の集団も右翼と同様に、問題なく殲滅させた。


 残りは中央の集団のみだったが、保有ロケット本数の兼ね合いで後は戦術機部隊が片付けなければならない。1ヶ月の長期に亘る戦闘によって基地のロケット所持数は減少しているからだ。
 ロケットを使い切らないのは有事に備えての経験則である。過去大攻勢が連続で起きた事が3度あった、事前の大攻勢でロケットを大量に消費していたその時の被害の多さは目も当てられないくらいで、ロケットの最低限の備蓄は基本的な事として規定された。BETAの波状攻撃を受けて、戦術機の稼働率が軒並み低くなった時の切り札としても使用できるからだ。
 補給がある月初めまであと9日、備蓄分とは別に残り本数は存在するのだがその間に何があるか解らない現状、基地指令はもしもの時を考えてロケットを温存する事にしたようだ。この基地の戦術機部隊が群を抜いて優秀な事も計算してのことだろう。
 ともかくとして、BETA集団の迎撃が始まるのであった。

 


 『敵集団接近』

 ディアーネの簡素な報告が通信で響き亘る。各戦術機は待機姿勢を解除し、予め細かく決められていたが如く整然と迎撃陣形を形作る。各員の動きはバラバラなのに、命令が無くとも最終的に綺麗に終局するのはそれだけ多くの実践を潜り抜けてきたことを否応無く実感させた。

 『それじゃ打ち合わせどうりに』
 「ああ、任せておけって!」

 片手を上げるスキルビッツァにサムズアップして答える武。両者は、どうやら互いのある一部の嗜好が似通っていると本能的に察知したらしく、短時間で途轍もなく仲が良くなっていた。類は友を呼ぶというが、まるで十年来の友人の様に阿吽の呼吸を見せている。
 そんな両者に頭を抱えるのは、互いの恋人兼保護者?(ストッパー?)の2人。月詠とディアーネは、此方も互いの顔を見て、何とも言えない苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ合う。『目は口ほどにものを言う』の至言の如く、その目は「お互いに苦労するな(しますね)」と無言の遣り取りを交わしていた。




 全機が迎撃陣形を形作ってから数分後、標準域のレーダーにもBETA集団の反応が表示される。砂丘上部に設置されたプロープから送られてくる拡大映像には、砂塵を巻き上げながら猛進してくるBETA集団がハッキリと映し出されていた。

 『全機、自立誘導弾・ALM照準』
 
 武達以外の各機体は、自立誘導弾発射システムとALMコンテナを両肩に1つずつ装備している。各発射装置に内包されている自立誘導弾とALMミサイルが敵後方のレーザー属に照準される。
 後方のレーザー属は3つの集団に分かれて進軍しているが、照準を合わせのは中央と右翼の集団。データリンクによって各機の情報を共有させ、ムラが無いように照準されたALMはディアーネの号令の下で一斉に発射された。

 『ALM、撃てぇー!』
 
 ALMコンテナには6発×3列の弾が搭載されている。発射口は6個、つまり一度に発射されるALMは6発。各機体から発射されたALMは、搭載された推進剤を消費しながら後方のレーザー属に向かって突き進んでいく。
 その殆んどが途中で迎撃されたがそれは予想の内、そもそもALMは迎撃されるのが前提で、目標に着弾してダメージを与えるのはおまけ程度の効果しか考えられていないのでこれで良い。
 プローブからの映像で、重金属粒子が拡散したことを認めたディアーネは次の命令を下す。


 『自立誘導弾、てぇー!』

 ALMミサイルに次いで各機体から発射される自立誘導弾4発ずつ、それらは空気を切り裂きつつ左翼の集団へ発射される。
 左翼に発射するのは、自立誘導弾が重金属粒子の中を飛べないからだ。
 半数近くが左翼集団のレーザーで迎撃されるが、残り半数は目標に向かって突き進む。中央と右からもレーザーが発射されるが、その多くは重金属粒子に阻まれ減衰し、自立誘導弾を撃ち落すまでは行かなかった。
 砂漠戦で多く使われる自立誘導弾は、敵や障害物に命中すると金属片を周囲に振り撒く炸裂弾頭弾だ。今回発射された物も同様で、レーザー属に命中した物も、外れて地面に命中した物も、爆発の力で金属片を振り撒きつつ周囲に被害を与えていく。左翼集団の半数近くのレーザー属が、自立誘導弾の炸裂に巻き込まれ倒れていった。


 これで中央・右翼・左翼のレーザーを一旦殆んど使い切らせた事になる。ルクスの照射インターバルは12秒。この機を逃がさずに全機は素早く行動を開始、敵のレーザーが収まるか収まらないかの絶妙なタイミングで全戦術機が砂丘の上に躍り出た。


 『よっしゃ、今だ野郎ども! 撃て撃て撃て! 撃ちまくれぇ!』

 先行した者も、スキルビッツァの威勢の良い声に反応した者も、全員が砂丘の上で一瞬の内に盾を構えて横隊を取り、装備した突撃機関砲で120㎜滑腔砲を照準、重金属の充満する後方、中央・右翼へ連続で撃ち放った。
 120㎜滑腔砲より放たれるは榴弾。横風の多い砂漠では滑腔砲の弾は直進し辛い為に、遠距離を狙う場合命中率が低くなる。それを解決するのが榴弾で、近接信管を使えば命中しなくとも破片でダメージを与えられるのが強みだ。更に多くの敵を巻き込める利点がある。榴弾の破片は、中程度ならば装甲の薄い軽戦車の装甲を貫通できるほどの威力を持つ。ルクスは防御力が貧弱で、マグヌスルクスも照射粘膜さえ破壊できれば良いので、榴弾の破片でも十二分に効果が期待できた。

 レーザー属の集団が存在する後方は、滑腔砲の有効射程距離からは幾らか離れた場所であったが、そんな榴弾の特性のお陰で有効射程外でも十分に効力を発揮している、レーダーの中に表示されたレーザー属の反応が次々と消滅していくのが確認できた。


 「う~ん、景気がいいねえ。これは私も気合入れないとね」

 その集団の中央付近では柏木の機体、業炎の姿が見えた。射撃モードに移行していることを示すように、その状態で下ろされるバイザーが顔の部分を覆っており、各種センサー等を内蔵した6本の細い目のような形を模した機器は、様々な色の光を放ち不気味に明滅を繰り返し、禍々しい印象を放っている。
 第4世代戦術機中、特に射撃に特化させた業炎には、様々な特殊装置や専用の火器管制システム等、射撃に関係する機器が多く搭載されている。顔面のバイザーは、それらを1度に使用する時に使われる情報集積装置。6つの目の様な機器が様々な情報を1度に観測している。もちろんそれだけではなく、他の場所に設置されている機器も情報を集積していた。


 その業炎が装備しているのは新兵器の【電磁過熱砲】。装薬の燃焼ガスに外からエネルギーを加えて加熱、急激に膨張させて高い初速を得る。そして更に、ガスがプラズマ化しているので、これをさらに電場・磁場で加速・拡張させて砲弾を撃ち出すことも可能な、2段階の撃ち訳けが出来る120㎜滑腔砲である。
 そのプロセスを行なう為の必要電力を賄う為に、交換自由なカートリッジ式のバッテリーを4本同時にセット可能だ。このバッテリーは、第4世代戦術機にも内臓されている最新型のバッテリーをカートリッジ式にしたもので、従来のバッテリーと同程度の大きさで、それ以上の大容量蓄電・大容量放出が可能な優れものだ。
 更に弾薬カートリッジの装填選択で、数種類の弾を局面によって選択して砲身内部に送り込む事もできる。

 但し、一応通常運用が出来るまでには完成しているが、未だに発展途上の試作段階の兵器ではある。
 大きな問題は、電磁加熱機器の大きさと砲身の長さだ。
 電磁加熱の技術は、未だ実現できたという段階で細かい調整が出来ていない。エネルギーを膨張させた時の威力が制御しきれていないのだ。過ぎたるはなんとやらで、威力が大きすぎて逆に弾道が安定しない欠点を抱えてしまっている。つまり、現在の電磁加熱砲は砲身を伸ばす事でブレる弾道を直線に無理矢理調整している状態なのだ。電磁加熱機器の大きさは言うまでも無いだろう。
 将来的目標には、電磁加熱機器の小型化、そしてエネルギーの安定化、又は余剰エネルギーの効率使用と、それによる砲身の短縮化が上げられている。もちろん他にも色々改良点はあるのだが……。
 武達は峰島に、最終的には肩部装備式のキャノン砲として運用できるようにするのが目標と聞いていた。


 外形は左右ほぼ対象の型となっている。これは右持ち、左持ち両方で運用できるようにする為だろう。前方の砲身付け根の後ろ部分と、後方の電磁加熱機器の上部に保持部分があり、後方の保持部分にはトリガーも設置されている。上部に保持部分が設置されているのは、腰溜めに吊り下げて構える運用法を取るからだ。射撃の反動を押さえ込む為と、移動しながらの素早い射撃をする為には吊り下げ式の方が使い勝手が良い、大きさ的にもそうだ。
 砲身先端部分に伸縮する折り畳み式の2脚が存在し、膝立て撃ちや台置き撃ちも可能だ。


 柏木機の装備は、両手に電磁加熱砲を右に吊り下げるように保持、左手を胴体の前に出し砲身の取っ手に、右手は後方の取っ手を保持して、足を斜めに開き膝をやや曲げて構えを取っていた。前に出ている横を向いた左手の補助碗には【EFFレーザー防御シールド】の小型版も装備されている、胴体の前を横に覆ったシールドは多目的追加装甲より一回り小さい。
 そして右腕補助碗には弾薬ラック。更に肩にも弾薬ラックが装備され、滑腔砲の各種弾薬が満載されていた。




 「う~ん、なんか今一? 接地圧・摩擦係数と、地対流に関係した現象は、影響に関する補正を自動算出して調節しているからいいとして何が悪いのかな?」

 先程から軽快に射撃を続けていた柏木は、射撃に即する『満足感』が今一に欠けていた。達人の弓が上手いのは、射る前に命中しているのが感覚で解るからだと言うが、柏木の様な射撃の才能がある者もその手の感覚が存在する。柏木の場合、撃った時の反動などの感覚で命中の是非等が大体解る。勿論徒の感という訳ではなく、多くの経験やその場で得られる情報に基づいた、確固たる感覚であるが。

 「照準補正は試し撃ちで済ませたし、装置のズレや故障は出発前の点検で調査済み、見逃しも水嶋主任の場合ほぼ在り得ないからこの場合は除外、あとは……」
 
 高速思考で原因を探る。射撃に特化している柏木は、射撃に関する思考回転も他の者より圧倒的に速い。幾つもの可能性を弾き出し、瞬く間に該当しそうな原因を探り当てた。


 「そうか、射撃抑制! 砂漠の対流現象に合わせて自動補正しているから普段とタイミングがズレてるんだ」

 『射撃抑制』とは、火気管制内に存在する、姿勢制御と連動した、射撃タイミングを補正するシステムだ。
 実戦で生死を賭けて戦う者は極度の緊張状態に陥る。死の恐怖や、戦いの緊張に駆られた者はベストタイミングより早めに火気の掃射を実行してしまうものだ。その『焦りによる武器の早撃ち』これを回避する為にこのシステムが存在する。
 早撃ちのタイミングなどは状況や個性での違いがあるので、本人のデータを集積・サンプリングして、火気管制システムにデータとして入力して置く。あとは、時々の状況によりコンピューターが僅かなタイミングのずれを自動補正してくれると言う訳だ。
 
 柏木が感じた違和感は、この射撃抑制のタイミングのずれだった。
 射撃抑制システムは、射撃データのサンプリングを元にしてタイミングを補正する。しかし、現在戦っているフィールド――つまり砂漠での戦闘経験は1度しかない。1度の戦闘でも、普通に撃つ分には違和感が出ないほどのデータ収集は完了していたのだが、柏木は狙撃専門……僅かな違和感も鼻に付く。
 砂漠は様々な顔を持ち、時々で地形や気候の状態も変化する。集積データが少ない現状では、それらのデータに合わせて臨機応変に補正することが出来ていなく、結果僅かなずれが発生したのだった。


 問題を発見した柏木は迷う事無く射撃抑制システムを切った。本人としては、補正が無くとも正確な射撃が出来ると思える程には自分の射撃の腕を信用していたからだ。
 そして1発、撃ち放った弾は違和感無く自らが想い描いた場所へ着弾した。

 「よしよし、上出来上出来」
 
 満足げな笑みを浮かべながらももう1度射撃を行い、完全に『勘』をものにする。その時点で11秒、都合5発の榴弾を撃った柏木は後方へ機体を下がらせるのだった。



[1122] Re[30]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第72話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/07/09 00:26
2005年6月22日……リビア油田基地より150㎞圏内



 
 スキルビッツァ達が砂丘の上に向かったのと時を同じくして、柏木を除いた武達5人も行動を開始していた。
 自立誘導弾が左翼後方のレーザー属郡に飛んで行くのに合わせて、機体を稼働させる。

 「よし、まずは左翼集団だ。生き残った光線属を殲滅する。自立誘導弾の着弾に合わせて集団左に着地、そのまま蹂躙するぞ!」
 「「了解!」」
 「気合を入れるのはいいが砂に足を取られるなよ2人とも」
 
 ヒュレイカの冷やかしを尻目にして、自立誘導弾の後を追うように次々と砂丘の上から身を躍らせる。跳躍飛翔装置ブーストを吹かし斜め上に急上昇、太陽を背にした後、目標地点までの自由落下を開始。
 砂丘の上で全力射撃を繰り返す友軍、その友軍目指して猛進するBETA群。それらを眼下に納めながら、武達は左翼集団の左側に機体を落下させた。
 着地の寸前にブースト噴射で衝撃を緩和しながら、まだ自立誘導弾の炸裂が続く左翼レーザー属群に榴弾を叩き込む。だが、敵もそうそうやられてばかりはいないとばかりに、射撃を行なわなかったのだろう個体が着地の瞬間を狙ってレーザーで反撃を繰り出してきた。
 照準された武の機体にレーザー照射警報が響き渡る。

 「ちっ!」
 
 絶妙なタイミングで照射を貰った武は思わず舌打ちする。ブースト噴射で衝撃を緩和したとはいえ、着地の瞬間――しかも足元は柔らかい砂だ。下層には礫が溜まっているので際限なく埋まる事は無いが、それでも重量落下直後は十分に足を取られ、次の行動に支障がでる。
 このタイミングではレーザーを回避できないと瞬時に判断した武は、左手補助碗に柏木機と同様に装備したEEFレーザー防御シールドを照射箇所を中心として構えを取った。


 『危ねえ!!』 

 砂丘上で射撃を行なっているスキルビッツァが此方の様子を見ていたのだろう、シールドを構えるモーション中に切羽詰った声が聞こえてくる。レーザー防御シールドのスペックを知ってはいても、1度も見た事の無い現状、身に付いたレーザーへの脅威認知度がその声を上げさせたようだ。

 その声を聞く武はもちろんとして慌ててはいない、既に電磁フィールドも展開されている。レーザー防御シールドの効力を良く知る武は、至極冷静にシールドで守られた武雷神の中で次の行動へ即座に移れるよう、機体を砂から脱出させる準備を整え続けていた。

 やがてルクスからレーザーが照射され、瞬きを擦る間も無く目の前に構えたシールドにレーザーが命中するが、プラズマを纏った電磁フィールドで確実に分解・吸収され、シールドに塗布されているガラス類似物質で残りの熱量を奪い去られた。
 その様は傍から見れば、まるでレーザーが掻き消えているような光景に見えるだろう。


 『おおお!! スゲェーすっげ~! 見ろ見ろ見たかよオイっ!』
 『隊長!! よそ見してないで真面目にやってください』
 『何だよ、お前も見ていただろ。』
 『指揮を執れって言ってるんです!』
 
 何だか愉快な言い争いが聞こえてきて思わず口が歪んでしまったが、機体の体制が整った所で一気に斜め前方に飛ぶ。補修できるとはいえシールドは温存するに限る、何時までも照射を受けている理由は無い。
 
 『でも確かに凄い。あの防御力……まして補修剤とバッテリーを切らさなければ戦闘中でも修復可能。戦略の幅が広がるな』
 『それは私も認めます。あれが……全機後退! 隊長!!』


 前方に飛んだ武は、そのまま月詠達に合流して左翼レーザー属群の殲滅に入った。
 その時点で丁度12秒が経過――砂丘上の友軍が後退に入る。海の波が引くように、綺麗さっぱりと鮮やかに後退して見せた手並みは流石の一言に尽きるだろう。

 『よっしゃ、当初の予定通り次のミサイル発射後に俺達も出るぞ』 
 『くっくっくっ、腕が鳴るねぇ。レーザー属を思う存分撃ち殺すなんて久しぶりさねぇ』
 『ヤバイ……突貫マニアの血に火が点いたか?』
 『隊長! 今度こそ隊の指揮を執ってください。っていうか執りやがれ!』
 『ハイ! トラセテイタダキマス』
 『掛け合い漫才はそこまでだ。グラップラー級とデストロイヤー級御一行様の団体がお出ましだよ!』
 『総員突撃機関砲構え! 全力射撃! 敵を寄せ付けるな、薙ぎ払え!』


 レーザー属を倒し続ける武達の元に聞こえて来る通信に、第28遊撃小隊の皆の意識は凍りの彫像のように固まってしまっていた。流石に戦闘行動は継続し続けていたが……。

 「「「「「「………………」」」」」」
 
 「私……」

 皆の無言が続く中、それを叩き割るように響がポツリと言葉を溢する。

 「非常識なのは武少佐だけで、こんなに賑やかなのは私達の隊だけだと思っていたけど……」

 それを継ぐようにヒュレイカ。

 「居る所には居るものさ……規格外な奴等が――」

 更に柏木と御無のコメントが入る。

 「類は友を呼ぶ……至言だね」
 「ひょっとして遠い親戚ではないのですか?」

 そして最後に……

 「もしかしなくとも、武との何時もの遣り取りも傍から見ればあんな風なのか?」

 投げやりな感じで皆に問いを発するのは月詠。今だ激しい戦闘中なので脱力したりはしないが、そうで無かったならばそのまま突っ伏して顔を隠していたかっただろう。嫌な現実を受け入れるのを拒んでいるが如く、思いっきり否定してほしそうな顔を浮かべている。だが、『馬鹿な遣り取り』ではなく『何時もの遣り取り』と、極自然に日常的出来事と認識している彼女は、色々と染まってしまっている証拠だろう。


 そしてやはり現実は厳しかった。というか真実は既に明白だ。

 「「「「「うん(ああ・ええ)、あんな感じ(だ・です)」」」」」

 満場一致で同意権だった。僅かながらの逡巡も否定も無く。
 その一言にげんなりとする月詠ではあったが、今更武の性格は変えられない。ここは諦めて、大人しく現実を受け入れるのだった。




◇◇◇
 一方、砂丘の上から後退したスキルビッツァ達は、押し寄せてきたBETA群を薙ぎ払っていた。
 急斜面を駆け上がってくる内、大型の要撃級と突撃級は斜面から平坦な頂上に乗り上げる際、僅かながら腹を晒す。突撃級の柔らかい下部は弱点以外の何物でも無いし、一時無防備な状態になるこの恰好の機会を逃がす謂れは無い。
 各員は全力で斜面を上がってくるBETAに36㎜の雨を降らせ、撃ち落されたBETAはそのまま斜面の下に転がり落ちていく。砂丘横から回り込むBETAも少なからず存在したが、そちらも今の時点では問題なく殲滅できていた。

 『迎撃、順調です』

 ディアーネは現状を見て冷静に報告を下す。
 だが、このままでは何時か押し切られる。敵の物量は圧倒的に此方を上回る。次第に積み上がっていく同属の残骸を乗り越え、砂を崩し迫りくるだろう。横から迂回してくる敵も同様、次第に裁ききれなくなってくる、砂丘は何処までも続いている訳ではない。
 
 『とは言っても、このままじゃ何時もの通り押し切られるぜ。早々にレーザー属を殲滅させなけりゃあならん』
 
 そしてそれは毎回のこと、全員が解っていることだ。
 敵が流入してくれば回避機動を取らざるを得なくなり、その時にレーザー属が残っていれば、苦戦は必死となることも。
 砂漠では砂に足を取られる為に主脚での移動が困難だ。緊急の回避機動等は必然的にブースト噴射に頼らざるを得ないためにレーザー属に撃ち抜かれる確率が高くなる。だからこそレーザー属の早期殲滅は確実にこなさなければならない。

 だが、今の彼等には常に無い余裕があった。
 その訳は新装備があるからだ。先程効果の程は確認した、あれなら十分行けると――シールドを持つブラッディ隊の数人はレーザー属を早期殲滅できることに皆心の高ぶりを覚えていた。因みに、ブラッディ隊の装備しているレーザー防御シールドは、旧世代戦術機が使用することを前提とした大型のタイプで、多目的追加装甲を一回り大きくした形をしている。


 『全機、敵後方の中央集団にALM照準! てぇー!』

 戦場にディアーネの裂帛の号令が響き渡る。突撃機関砲を撃ちながらも、自動照準に任せたALMミサイルは、先程と同様にレーザー属目掛けて突き進んで行く。次いで自立誘導弾が敵後方右翼集団に向けて撃ち放たれた。

 『よっしゃ! 行くぜ者共、俺に続けえ!』
 『私達も行くよ! 積年の鬱憤、今此処で晴らしてやりな!』

 自立誘導弾の着弾に合わせて飛び出していくブラッディ隊。盾を持っているのはF-22Aラプターに搭乗している隊の実力者、各6名ずつ、計12人。鋭角なフォルムを持つ猛禽が熱砂の大空に羽ばき獲物を狙う。
 
 『レーザー照射警報!』
 『慌てるな、照射された機体はフィールド展開。シールドを確りと構えろ』
 
 突貫最中に数機がレーザー照射されるが、そこは隊の中の実力者。リアネイラの忠告を聞くまでも無く、至極冷静にシールドを構えレーザーを凌いだ。目の前で掻き消えるレーザーに興奮を隠せない面々のボルテージは最早止まりようも無く上昇し続ける。
 
 『ははははっ。最っ高だぜ! さあさあさあっ行くぜぇ』
 
 興奮も最高潮に達したブラッディ隊の面々は、獲物を狙う肉食獣そのままに猛然と右翼のレーザー属群に踊りかかった。積年の恨みを晴らすが如く、過剰にも思えるほど36㎜の弾をばら撒いていく。12の猛禽は、これ以上無い御馳走に狂喜乱舞し、猛然と哀れな生贄を貪り散らし続けた。無茶苦茶に暴れる中でも、そこは実力者、仲間と連携し効果的に敵を撃ち抜いて行ったが。
 そして数分も経たずに右翼集団を平らげたブラッディ隊は、そのまま中央集団に襲い掛かる……積年の飢えは今だ凌げはしないとばかりに――

 『まだまだまだまだ! こんなもんじゃ私の鬱憤は晴れないよ』
 『こちらブラッディ2-03。同感だ、行きましょうぜ隊長』
 『ブラッディ2-05。私も撃ち足りません、女の恨みは怖いことを思い知らせてやりましょう』




 ブラッディ隊が繰り広げる、半狂乱の人間を彷彿させるその攻勢を見て、左翼集団を殲滅した後に中央集団に取り掛かり始めていた武達は唖然とする程に感心していた。

 「なんか私達の出番は無し?」
 「余程鬱憤が溜まっていたのでしょう」
 「うわ~、凄すぎる。でもちゃんとレーザーは防御しているんだよね。」
 
 響が言う通り、彼等は半狂乱に見えながらも時折飛んでくるレーザーを的確に防御している。新兵器を確実に使いこなしているのは明白だ。その手腕は流石としか言いようが無い、実力者は順応性の高さも折り紙付きだということだ。

 「感心してないで早々に殲滅させるぞ。今回はBETAの数が多いようだ。砂丘で迎撃を行なっている友軍も長くは留まっていられないだろう。」
 
 月詠の嗜めを受けるまでも無く腕は動いていたが、武達は散った気を今一度引き締め、戦闘に集中しだす。敵味方が入り乱れているので榴弾の使用は中止し、36㎜のみでレーザー属を屠っていく。
 右翼より襲い掛かったブラッディ隊12人、左翼より武達5人、誰もが一騎当千の衛士達の集団に接近されたレーザー属に止める術がある筈も無く、後方中央集団のレーザー属群も程なく殲滅させられた。


 『こちらブラッディ1-01、敵レーザー属の殲滅を完了。何時でも出てきて構わないぜ』
 『レヴァンテ隊以下了解した、敵の進攻が予想以上に激しい。押し切られる前に防衛線を放棄、これより機動戦に移る』

 従来よりBETAの個体数が多い今回、レーザー属も殲滅したので安全を取り、余裕を持って機動戦に移る事に決定したようだ。
 機動戦と行ってもここは砂漠、旧世代機は噴射剤の制限もあるのでそうそう激しい機動は取れない。小・中隊単が複数固まった集団で射撃→敵が至近距離まで接近してきたらブーストを使い部隊単位で回避→再集結して射撃……というのが通常取られる戦法となる。

 跳躍飛翔装置と循環エンジンの組み合わせで、噴射剤の縛りが無い第4世代戦術機に搭乗している武達は唯一の例外で、各機連携を取りながらブースト噴射を巧みに使い後方より襲撃を開始しているが。


 『10時の方向で砂嵐が移動中、留意しておいて下さい』

 友軍が順次砂丘を放棄し始めた時にディアーネの通信が全軍に入る。
 その通信に疑問を思ったのは武達だ。

 「砂嵐……どうして砂嵐に気を付けるんだ?」
 
 確かに戦術機に取って砂嵐は厄介なものだが、そうそう警戒する程ではないだろう? と武は思う。少しずつ此方に接近してきてはいるようだが、今後の予測進路も踏まえれば警戒する程に接近することは無いはずだ。
  
 「いいえ、砂嵐自体には余り脅威はありません」
 「じゃあ何が?」

 武の疑問に答えたのはリアネイラだった、彼女は予想の斜め上を行く回答を口にする。

 「BETAさ、砂嵐を隠れ蓑にBETAが接近してくることがある」
 「BETAって……奴等がそんなことをしてくるんですが?」
 「本能でやっているのかどうか知らないが、砂嵐に紛れて衛星の目を誤魔化した事があるのは確かだ。留意しておくに越したことは無い」

 同時、戦術機内のウィンドゥディスプレイに過去の事例データが転送されてくる。恐らくディアーネ大尉だろう、良く気が利く人だ……と思いながら、戦闘継続しつつ横目でそれを大雑把に閲覧した。それによれば過去数回、砂嵐の中よりのBETA襲来が起こっているらしい、確かに気を付けないとならないようだ。


 砂嵐の事を確認し、了解の旨告げた後は、敵の殲滅に力を入れる。
 敵の数は多かったが、こちらの錬度は並ではない。至極順調に撃破を続けていた。
 暫らくして、戦場は段々と最初に陣取っていた砂丘より前進し始めていく。後方で殲滅したレーザー属群の居た場所を最前方として、最初に陣取った後方の砂丘から見て、丁度中間エリアとなる場所の入り口ラインに差し掛かっていた。
 
 低高度で連続噴射跳躍を繰り返しつつ敵を倒し続けていた武と月詠も、他の者と同様にそのラインに近付いてきていた。
 BETAを屠りながら少しずつ前進を繰り返す。次の狙いは、レーザー属の射線の邪魔にならないようにするためだろう、後方両翼から戦場に進攻してきていた要塞級だった。途中で合流した要塞級の集団はかなりの数に上っていた。

 「左翼より進攻してくる要撃級はミストラル隊にまかせ、我々は後方より進攻してくる要塞級を相手取る。奴等に雪崩れ込まれると厄介だからな、足止めに行くぞ」
 「足止めと言わず殲滅と行こうぜ。俺達2人なら例え200体以上居ても大丈夫だろ?」
 「……ふ、違いない」

 要撃級100体単位の殲滅を、そこらにお使いに行ってくるような気安さで簡単と言い切る武。
 それを聞いた月詠は、誇張も夢想も無く、自分達2人ならば殲滅は可能だと思考する。新機体の性能もあるが、それ以前に自分と武の衛士として錬度は高い。そして2人のコンビネーションはその強さを飛躍的に向上させる。例え第3世代戦術機に乗っていたとしても、2人揃えば200体クラスの要塞級の集団を殲滅して見せる……と心の中で慢心無く自負した。
 まあ、戦場で実際にそんな事はやらないが。戦い始めれば直ぐに友軍が駆けつけて来るだろう事は確実であり、200体以上の要塞級と2機だけで戦う場面などは、それこそ皆無に等しいだろう。ハイヴ内を突っ切った自分にとっては同じ様な経験をしたことになるが――
 次の訓練時、シミュレーターで挑戦してみても良いか……とも思う。 
 最後の含み笑いは、それらを含めて考えた月詠の苦笑であった。

 
 中間エリアとなる場所の入り口ライン、実際には見えないそのラインまで後数10メートルという所へ着地した2人は、その場で新たな弾丸カートリッジを装填し、迫り来る要塞級に向けて長距離の跳躍を行なおうとした。

 その最中、2人の周囲に降り立つ戦術機1個小隊。どうやら、BETAの突貫を回避して散開した部隊の1つのようだった。
 小隊中の1機が武達の前方、ラインを幾らか超えた所に着地する。悲劇はその場所で起こった。

 「なっ……にっ!」

 武が驚愕の声を上げるが、咄嗟に『それ』を見た場合無理からぬことだろう。
 着地した戦術機はそのまま砂の中に埋もれた……いや、着地した場所が陥没したと言った方が良いだろう。
 丁度後方に位置していた武と月詠は、その瞬間を余さずに見ていた。
 着地した瞬間、戦術機の左足部分の砂が流砂の様に崩れ落ち、その場を陥没させる。その時点では左足が滑り落ちただけだったので、脱出する事は可能だっただろう。跳躍装置を全開にすれば、更に容易だった筈だ。
 現に目の前の戦術機は噴射を始めていた、にも関わらず脱出する事は叶わなかった。
 2人はその場面をハッキリと視認した。駆け上がろうとした戦術機の左足に巻き付いた白い物体を。
 第4世代戦術機に搭載されたAIが、その場所に強い関心を寄せる搭乗者の思考を感知して、自動的に該当箇所を拡大する。望遠で拡大された白い物体は、燦然と照り輝く日の光を受け、プリズムが光を反射するように光輝いていた。
 (糸……?)
 武にはそれが糸に見えた。艶があり、絹を髣髴とさせるその物体が戦術機の足に巻き付き、その機体を穴の奥へ引きずり込んだが為に、脱出が叶わなかったのだ。
 戦術機より搭乗者の恐怖に駆られた悲鳴が響き渡る。
 
 「うわあぁあぁぁぁ~!!」
 「武!」
 「解ってる!」

 驚愕に呆然としていたのも一瞬なら、月詠の裂帛の一喝に我を取り戻してから機体を跳躍させるまでも一瞬。2人は引き摺り込まれた戦術機を救出する為に機体をその場所付近に着地させる。
 そのまま主脚を使い接近しようとするが……

 『待てっ! 近付くな!』

 スキルビッツァの強い意志を籠めた大喝に、接近しつつあった機体を即座に飛び退らせた。砂漠戦の先達である彼の忠告は、この場合何よりも優先する。そしてその判断はやはり正しかった。

 『迂闊に近付くと巻き込まれる』
 
 抑制したその声は何よりの重みが在った、恐らく同じ様なことをして飲み込まれた者が以前にも居たのだろう。
 
 「でもっっ! そうしたら救助は……」
 『だめだ。今の所、ああなったら助ける術は無い」

 今だ聞こえてくる悲鳴を聞き、響が切なる声で訴える。人の死には慣れていても、死を容認する事はできない。可能性があるならば助けたい……だが、そんな思いも空しく、スキルビッツァは力無く首を振る。彼のその体も遣る瀬無い無力感に打ち震え、目の前の光景を焼き付けるように凝視していた。苛酷な環境で戦い抜く戦士達は仲間意識が強い、例え違う部隊、違う国の者でも、背中を預け合う以上は揺るぎ無き戦友、その死は痛ましく心を傷つける。

 「だけどまだ! ……なに……あれ……?」

 それでも反論を繰り出す響。彼女は、急いで引き上げればまだ助けられると思っていたのだろう。だがそれは見ていなかったからだ、知らなかったからだ。
 武と月詠はこの時点で解っていた。事前に熟読した資料を思い出し、この相手が何であるのかを、戦術機を引き摺り込んだ物質がどんなものなのかを。
 そして反論を繰り出した響も、その最中に『それ』を見た。それが切欠となり思い出した、繋がった、事前に読んだ資料の内容と目の前の光景が。

 逆円錐――擂鉢状に陥没したその場所に引きずりこまれた戦術機を包み込むようにして巻きつく白い物体。空中に放射されたそれは、ふわふわと漂って如何にも頼り無さそうな印象を与えるのに、戦術機に付着すればその瞬間に強固な戒めと成り代わる。ほんの僅かな時間で、白い繭のような形を成す戒めに戦術機は捕われてしまった。
 後方周囲でBETAを相手取っている戦術機部隊の面々も、それを目撃する。

 「柏木!」
 「……っ、駄目。さっきから狙ってるけど、戦術機が邪魔をして射線が取れない」

 上から、新兵器の電磁加熱砲で穴の中心を狙い撃てればと柏木に呼び掛けてみるが、帰ってきた返事はやはり予想通りだった。
 部隊散開後、高さがある砂丘の上を転々としながら、戦場を俯瞰しつつ的確な援護を繰り出していた柏木。彼女の援護は射撃・砲撃だけではなく、戦場把握による情報提供も大きな役割を果たしていた。彼女自身の戦場把握能力と、業炎に搭載されたコンピューターの性能が相まった結果だ。
 今回の事も、気付いた彼女が助ける機会を窺っていただろう事は確実だ。
 それを予想していながらやはり聞いてしまうのは、小さな希望にも一縷の望みを賭ける人間心理というものだろう。

 
 『モンスーン13! イドリーバ!』
 『うあぁぁぁっちくしょう! 隊長ぉお! 俺はもう駄目です、撃って下さい。最後にこいつを道連れにして逝きます』

 イドリーバという男の絶叫に、呼び掛けたモンスーン部隊長の無言で逡巡する。決断は1つしかないのに決められない。懇願されたからといって、己の部下の死を決断する事は容易なことではないからだ。だが、既に彼が助かる道は無いのは事実、なればこそ勇気ある部下の、死に対する裁決を下すのも部隊長の務め……彼は断腸の思いでその嘆願を受諾した。
 イドリーバ中尉の乗る戦術機は物凄い速度で穴の底に引きずり込まれ、既に半分以上が埋まっている。もう時間が残り少なく、惑っている時も無い。搭載している残りの自立誘導弾6発、その全てを穴の中――戦術機を標的に照準した。
 武と月詠も含め、至近距離に居た者は後方へと退避する。


 『イドリーバ中尉! 汝の魂、偉大なるアッラーフの下へと召されよ!!』

 絶叫交じりの祈りの下、自立誘導弾が発射される。
 その自立誘導弾が着弾する間に、イドリーバ中尉の最後の言葉が響いた。
 
 『偉大なるアッラーフよ! 我が生涯の聖戦(ジハード)をその御身に捧げよう。我は来世(アーヒラ)は望まず、替わりに願わくば同胞達の聖戦に神の祝福を!!』

 命中した自立誘導弾は戦術機主機に引火、誘爆し、煉獄の情景を一時この世に顕現させた。
 その爆炎は、人の命を糧とした燦然たるエネルギー。火は生み出し滅ぼす……戦闘中の者も、一時その情景に目を向け、命の篝火をその目に焼き付けつつ敬礼を送った。



[1122] Re[31]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第73話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/07/23 07:49
2005年6月22日……リビア油田基地より150㎞圏内



 
 戦場での死は日常の1つだ。命を賭けた戦いに身を置く者ならば誰もが覚悟し得なければならない最後であり、決して逃れ得ることは叶わない無情たる現実の可能性として存在する。命の遣り取りを常とする戦場での死は、誰の上にも分け隔てなく訪れよう。
 だがしかし、死を決定付ける要因は様々であるが、回避することができる手段も多々存在する。
 状況、錬度、援護、兵器の性能・状態、敵の強さ……死という現実を左右する事情は多様だ。状況によっては強い兵士があっさりと戦死することもあれば、弱兵がしぶとく生き残ることもある。
 こうやって見ると、死と生の可能性という物はシュレティンガーの理論に近いのかもしれない。
 『フタを開けてみるまでは判らない』実際に死を決定付ける要因は千差万別に変化する。流動する事情に際して、時々で判断を下す自分や味方や敵の思考や行動を確率で表すことや予想することなど、人間という矮小な存在にとっては土台無理な話だ。
 『運が無かった』『状況が悪かった』『敵が強かった』『錬度が足りなかった』『精一杯戦い抜いた』……戦場での仲間の死に対して理由付けを行なうのは、そんな理不尽で突然な死に対して自分に納得を付ける為の最適な手段なのかもしれない。
 一時でも、戦場で起こりえる死という事情を当然の事と容認し、割り切らなければ戦い続けることは困難になってくる。更に仲間の死に対して、その場で嘆き悲しみ手を止めれば、次に待っているのは己の死だ。
 故に、死に対する各人の反応や折り合いは様々。
 戦いの中で生ずる死に対する心構えも、兵士としての試練や覚悟の1つなのかもしれない。




◇◇◇
 戦術機の爆発が収まろうという瞬間、そこを中心とした前半円の周囲数箇所で、ほぼ同時に砂の陥没減少が起こった。陥没と同時、砂が間欠泉の様に吹き上がり周囲に飛び散る。 

 武は友軍の死に心を痛めていたが、同時に状況の推移を冷静に観察していた。戦場の中、死に対して感傷的になりすぎ自己を見失っては、自らの死も招きかねない。悲しいのは事実だが、戦闘中は無理矢理にでも意識を押し込め割り切らなければと己を律していた。
 以前の自分――まだ本格的に戦い始めた頃の自分は、人の死に対して一々大げさ過ぎるほどに感傷的になっていたが、今の自分は感情の抑制が出来ている、少なくとも戦闘中に気を散らす事は無い。
 そんなことに慣れてしまった自分に嫌気が差したことも在ったが、今は昔の苦い思い出となっている。(月詠に言わせれば、一時抑制しているだけであり、熱血で感傷的に過ぎる性格は全然変わってはいないと言われるだろうが……知らぬは本人ばかりなり)
 
 『手の空いている者は出て来ると同時に弾を叩き込め!』
 
 スキルビッツァの鋭い声が通信越しに聞こえてくる。穴の1つに向かって自らも突撃機関砲の照準を合わせており、それに続くように付近に居た武・月詠・響、後ろで他のBETAを相手取っている部隊以外も同様に、突撃機関砲の照準を合わせた。その部隊の中には、先程戦死したイドリーバという衛士の部隊仲間であったモンスーン隊の面々も含まれている。

 吹き上がった砂が全て落ちきったタイミングで擂鉢状の穴の中より、潜伏級が這い上がってくる。敵の足が穴の淵より上に掛かった瞬間に号令一閃、36㎜と120㎜APFSDS弾が雨霰のように降り注ぐ。仲間の仇とばかりに過剰な程叩き込まれた弾丸の洗礼は、BETAの姿をはっきり視認する間もないほど瞬く間に、原型を止めない塊へと姿を変えさせた。
 
 「やった!」

 響は周囲に気を配りながらも新種BETAの撃破にホッと気を抜き喝采する。だがそれだけでは終わらなかった。

 「いや、まだだ」
 「くるぞ!」

 月詠の響への警告と合わせる様に、武が注意を促す声を張り上げる。
 同時、今撃破した数箇所より更に後方周縁で、先程と同じ現象が複数連続する。
 
 『ちっ、こんなに隠れてたとは。過去最高新記録だねぇ』
 『今までは様子見。試験期間は終わり本格的に投入を開始してきたということでしょうか?』
 『さあ……BETAの考えていることなんて解らないね。ただ、未だ馬鹿なのはありがたい事だよ。これで効果的な戦術を執られたら目も当てられないからね』
 
 陥没した穴の数――即ち潜伏級の出現個体数は過去最高新記録だったが、リアネイラが言う通り潜伏級は未だに戦術が確立していないようで、効果的な配置や運用がまるでできていない、恐らく新種故に運用のノウハウが無いのだろう。
 元にした生物本来の性質だけでは、本能的な反応しか期待できないのは自然界を見ても明らかだ。
 人類にとってそれは良いことではあったが、知っての通りBETAは学習する。いつか本格的な運用を執られる前に、何らかの対策を練ることが必要だと皆は感じていた。


 次々と穴を這い上がって姿を現す潜伏級……元になった生物は蜘蛛。

 「うえ……気持ち悪い」
 「おぞましさ、此処に極まりけりってか?」
  
 その姿を見た響は、嫌悪感に思わず目を逸らす。
 姿形は大別して2種類、アシナガグモ科とオオツチグモ科――解りやすいように言えば、女郎蜘蛛とタランチュラ(タランチュラは俗称、形はメキシカンファイアーレッグに近い)に酷似している。
 事前に見た資料で、その容姿を知ってはいたが、実際に生で見てみるとその不気味さが一掃に際立つ。
 マグヌスルクスなども、構造のデタラメさや不気味があり不愉快な容姿をしているが、こちらはまた別物だ。
 人類が太古の昔から抱いていた根源的な恐怖、未知のものではない既知のものに対する知り得た畏怖や嫌悪感を感じさせる。
 ヒュレイカが眉を潜めて掃き捨てた言葉が、容姿を表す全てを物語っていた。


 事前に焔から受けていた説明では、この2種類の潜伏級は蜘蛛数種類の特徴を織り交ぜたハイブリッドだと言う。
 穴を掘って(潜って)潜伏するのはトタテグモやキムラグモに見られる特徴に近い。川を横断する為に水の中を潜ったこともあり、その性質はミズグモのものだ。
 網を張らずに生活する徘徊性のクモには歩脚の先端に吸盤状の毛束があり、糸で巣を作る造網性のクモでは大きい爪2本と小さい爪1本があるが、このBETA蜘蛛両種はその両方の性質を備えている。
 更に両種共に使い方が異なるが、強い毒液(溶解液)を持ち、糸を使う。
 明らかに1種で数種類の特徴を併せ持っている蜘蛛型BETAだ。


 『総員距離を取って撃ち倒せ、なるべく近付くな!』
 『出来る限り正面に立つのも控えてください。各自散開して迎撃を!』

 スキルビッツァとディアーネの警告と同時、大土蜘蛛タイプの潜伏級がこちらへと接近を開始した。

 ――速い――瞬間的な加速力、即ち瞬発力は突撃級より上……8本の足を巧みに動かして高速で接近してくる。 その容大きさと容姿も相まって、迫力と威圧感は満点だ。気の弱いものならそのまま逃げ出してしまうかも知れない程に。


 現在タランチュラと呼ばれている種類はオオツチグモ類。南アメリカ産の蜘蛛で、全身に毛が生えていて、いかにも恐ろしそうな様相をしている。
 徘徊性の蜘蛛で、体も大きく足も太い、この大土蜘蛛タイプのBETA蜘蛛も同様だ。足は女郎蜘蛛タイプより短いが体が大きい、足を広げた大きさは縦35m・横30m以上にも達する。
 口に付いている牙のような突起――獲物に突き刺して、毒を注入する鎌状になった鋏角(きょうかく)――の下に、鋏角の下面で下唇を形成する歩脚状の『触肢』が存在するが、原始的種な蜘蛛の特徴として、この触肢が歩脚と区別できない程に大きい、4対の歩脚が5対に見えてしまう程だ。


 徘徊性蜘蛛は、糸を使わずに獲物に飛び掛って捕食する種類が多い。このタランチュラも同様で、機動力と瞬発力が高いのはその為だろう。
 武と月詠は一旦飛び退りながら射撃を見舞わせる。
 
 近付くのは不味い、8本の巨大な足は、巻き込まれれば戦術機でも容易に吹き飛ばされる程に強靭で力強い。先端に付いている爪も鋭く、厄介この上ない凶器だ。
 更に大土蜘蛛タイプは強酸性の溶解液(消化液)を巧みに扱う。口から水鉄砲の様に射出する方法と、霧の様に噴霧する2種類の射出方法を取ってくる。正面に立つのも危険な行為だ。
 
 「くっ、速い! 旋回能力も並じゃない」
 「落ち着け、距離を取りつつ左右から挟撃する」
 「了解、右からいくぜ」

 8本の歩脚を巧みに扱い方向転換するので旋回能力も異様に高い、一方からの攻撃では直ぐに正面に相対され、突進か溶解液の洗礼を喰らう可能性がある。武と月詠は、左右からの挟撃を仕掛け、一方を向いた瞬間に後ろから攻撃を仕掛ける戦法を取った。因みにレーザーシールドは既に外して後方に置いてきてある、機動戦でシールドの存在は幾らか枷になるからだ。
 月詠が左から前方に移動し囮となり、その動きに合わせて武が右から後方に回りみながら36㎜通常弾を叩き込む。
 1トリガー分発射された弾は、全てが確実に大土蜘蛛タイプの外腹に命中し、赤黒い液体を撒き散らした。
 2人は、弾を発射した時には命中を確信しており、倒したかとは一瞬思ったが、初めて相対する新種……油断は出来ないと気を抜かずに構え続ける。動物型の生命力の強さは、従来型のBETAよりも数段上だ。自然界に生きる生物の特徴をそのまま受け継いでいる中でも、特に厄介な要因の1つとして注意しなければならない。


 『気を付けろ、腹部は無防備で柔らかいが致命傷は与え難い。即効確実に仕留めたいなら頭胸部を狙え!』
 『頭胸部は甲殻で防御されています。口の部分から弾を叩き込むのが効果的ですが正面に立つのは危険ですので、足関節を破壊してそこから弾を捩じ込んで頂くのが効果的です』

 射撃終了とほぼ同時に聞こえてきたスキルビッツァとディアーネの忠告の声を耳にしながら、2人は『やはり』と思い眼前の場景を見ていた。
 外腹を穴だらけにしながらも大土蜘蛛タイプの活動は止まらない。
 しぶとい生命力、自然界の生存競争に打ち勝ってきたその力、原型となった生物の特徴そのままを色濃く受け継いでいる。地球生物型BETAで恐ろしいのは、個々の種族が持ち得る特殊能力もあるが、1番に厄介なのはその生命力なのかもしれない。


 「忠告感謝する。武、聞いたな?」
 「要するに急所を破壊しろってことだろ、だったらそこにぶち込んでやるまでさ」
 
 生物型BETAには生存に必要な内臓器官という物が、元となった生物本体と比べると意外と少ない。徒動き、壊し殺すだけが行動理念のBETAにとって、動くのに必要な重要器官は、エネルギーを循環させる心臓に当たる核があれば暫らくは十分な位だからだろう。
 したがって、生物型BETAを即効確実に仕留める為には、心臓――つまり核を破壊すれば良い。
 もちろん、大きな損傷を与えるだけでも十分だが、それだと暫らく生きて動く可能性もあるので、憂いを無くすには確実に止めを刺すことが望ましい。
 
 「そなたの簡潔明瞭な理解には頭が下がるな。まあ良い……第4世代戦術機の機動性ならば捉えられることもあるまい、先程と同様、2機の周囲旋回機動で相手を幻惑しながら臨機応変に対処していく」
 「解った。前面から来る要塞級はどうする?」

 話をしながらも、先程弾を叩き込んだ大土蜘蛛タイプの周囲で旋回機動を開始する。跳躍装置のサイド噴射口や偏向ノズル、そして反動を使った主脚での跳躍等を巧みに使い、対象を中心とした円周機動を行なうその様は、従来より此処で戦闘を繰り返してきた部隊の面々が思わず感心を表す程だ。砂の上での機動戦術を短時間の内にものにしている。
 
 「メイストーム中隊とカタバティック中隊が向かっている、問題はなかろう。我々はブラッディ隊と共に潜伏級を殲滅する。丁度良い具合に援軍も到着したようだ」

 拡大戦域図にマーカーが2つ飛び込んでくる。

 「遅ればせながら参上仕りました、私も応対を開始いたします」
 「向こうは1段落着いた。私もパーティーの仲間に入れてもらうよ!」

 後ろで、他の部隊を援護しながら要撃級と突撃級を相手取っていた、ヒュレイカと御無が合流する。
 そのまま、ブラッディ隊と共に戦っていた響の方に向かって合流していくのがレーダーで確認できた。
 
 その間にも事態は推移していた。
 潜伏級を中心とした円周機動を数周行なった2人、何回か溶解液を水鉄砲の様に噴射されたが問題無く回避する。タイミングを掴んだ2人は、その時点で行動を開始、月詠が脚関節の付け根に36㎜を叩き込み、動きが一瞬止まった所で、武が120㎜APFSDS弾を口より頭胸部に撃ち込んだ。
 頭胸部は甲殻に守られているが、口の部分はほぼ無防備。抵抗少なく螺子入ったAPFSDS弾は、潜伏級頭胸部内で存分に破壊エネルギーを振り撒き、大土蜘蛛タイプの核を破壊し即死させる。
 蜘蛛の目の部分――BETA特有の器官、赤い光が明滅していた目から急速に光が失われていったのが確認できた。


 丁度この時点でヒュレイカと御無がやってきたのだった。
 2人の参戦に合わせて武と月詠も次の獲物目掛けて移動を開始する。
 
 潜伏級は意外と手強いが、数が余り多くないので今の所被害なく倒せていた。第28遊撃小隊以外は、大体4機以上で囲んで36㎜と120㎜APFSDS弾を見舞っている。
 潜伏級は着々と数を減らしていった。
 中でも、1番の撃破率を誇っているのは柏木である。高い砂丘の上で俯瞰しながら獲物を定め、斜め下に向かい電磁加熱砲の2段撃ち――プラズマ化したガスを電場・磁場で加速・拡張させて砲弾を撃ち出す――を放つ。絶大な加速力を加えられた120㎜APFSDS弾は、甲殻を貫き内部の核を破壊し、1射1体確実に葬り去っていく。


 「よし、これなら大丈夫だな。後は残りの『きゃあああぁぁぁ!!』なんだ!」
 『ちっ、捕まったか!』
 
 これなら殲滅も時間の問題かと思った矢先に、問題が起きた。
 後方に控えていた足長蜘蛛タイプの潜伏級に相対していた戦術機の1機が糸に捕まっていた。
 
 此方の女郎蜘蛛(アシナガグモ科)タイプは、腹部は長い楕円形、黄色と水色の横帯模様をしていて内腹に赤い部分が存在する。歩脚は黒色で、細く長い、体はタランチュラタイプより小さいがその分歩脚が長いので、歩脚を広げた全長はこちらの方が少し大きい。
 足長蜘蛛タイプの元になった蜘蛛は女郎蜘蛛。巣を作る造網性の蜘蛛がベースの為か、積極的な動きは大土蜘蛛タイプに及ばないが、瞬発力が圧倒的に上だということが資料に載っていた。
 そして糸を操る能力が上手い、大土蜘蛛タイプも糸を使うが、こちらは圧倒的に巧みだということだ。
 悲鳴を上げた戦術機の左足には、その糸が確りと絡まっていた。

 『サーシャ!』
 
 その機体はブラッディ隊の一員なのだろう、リアネイラが声を荒げる。
 あのままではヤバイ――先程巣に引きずり込まれた戦術機を見ていた武は、一瞬でその結論に達する。?まった彼女を助ける為に自らも戦術機をそちらに向かって稼働させながら、その名を呼ぶ。
 今確実に彼女を助けられる力と技量を持ったその人物を――。

 「柏木!」「柏木大尉!」

 同時、同じ事を考えていたのだろう月詠の声も重なり響く。
 その2人の声に答えたのは、慌てず騒がず冷静に……何時もと変わらない柏木だった。
 
 「今度は大丈夫、助けて見せるよ」

 期待され、状況が押しているこの状況下でも、変わらない冷静さと胆力を発揮できる柏木はある意味大物だろう。傍から見れば冷静沈着で機械のような人物に見えるかもしれない。
 だが武も月詠も、同部隊の他の面々も全て知っていた。柏木は冷静で、割り切った考え方をしているが、その心の中に熱い魂を持っていることを。
 今も心の奥底では、サーシャという人物の身を案じ、助けることに全身全霊を注いでいるのだろうと。


 悲鳴が聞こえた時点で、現場の状況を注視し分析した柏木は、その場に1番合った行動を選択した。
 電磁加熱砲の弾丸カートリッジスロットの中にセットしていた3つのカートリッジの中から、今まで使用していなかった瞬発信管式の120㎜爆裂榴弾を選択し装填。武と月詠の声が聞こえ終わった時点で照準を終了、そのまま足長蜘蛛型の尻尾部分――腹部後端に存在する出糸突起(糸疣)目掛けて、1段加速(装薬の燃焼ガスに外からエネルギーを加えて加熱、急激に膨張させて高い初速を得る)で撃ち放つ。

 放たれた120㎜爆裂榴弾は、糸を吐き出していた出糸突起に命中、瞬発信管で即座に炸裂し、内部に満載されていた液体爆薬に火が点いた。
 撒き散らされる外殻の破片と爆炎の洗礼、糸は炎に包まれ瞬時に焼き切れ蒸発した。そして盛大な爆発は、BETAの肉を抉り取り、破片が肉を食い破る。
 破壊の嵐がその場を席巻していた。


 「うわっ、相変わらずすっごい威力!」
 
 響の一言が表すとおり、音も威力も派手な弾だった。
 それでも効果的なのは間違いない。
 撃ち倒すより抉り飛ばす、柔らかい部分が多く、鈍い生物型BETAには此方の方が効果的かもしれなかった。


 捕まっていたサーシャは、糸が焼き切れた瞬間即座に後退、安全圏まで一旦離脱した。主脚に絡まった糸を短刀でこそぎ落としながら通信を繋げてくる。
 
 『ご迷惑をお掛けしました。柏木大尉も、ありがとう御座いました』
 「いいよいいよこれくらい、困った時はお互い様だよ」

 サーシャの謝辞に明朗活発な態度で笑い返す柏木。

 『サーシャ、十分注意しろと言っていただろう」
 『面目次第もありません……』

 リアネイラは若干憤りながらも、その顔の中には安堵の表情を見せる。仲間の迂闊さを嗜めるが、それ以上にサーシャが助かった喜びと安堵が大きいのだろう。サーシャ自身もそれを解っているかのように項垂れ反省の意を示した。




 ……爆発の直後、通信機から聞こえて来た声。
 
 「120㎜爆裂榴弾及び36㎜爆裂弾(バーストブリット)を携帯しているものは弾種を切り替えろ、どうやらそちらの方が効果が高そうだ」
 
 先程の爆裂弾の効果の程を見た月詠が、生物型への有効性を認識したようだ。今まで、使い勝手が良い従来の弾種を主に使用していた為に、携帯していた爆裂弾を使うことが無かったが、多大な有効性が認められた今使わない手は無い。
 武達以外で爆裂弾を携帯していたブラッディ隊の面々は、件の2種の弾を撃つのは初めてだったが、だれも逆らわなかった。むしろ、今の威力を見て積極的に活用しようとしている。特にスキルビッツァとリアネイラは嬉々としてカートリッジを交換していた。
 盛大な派手さが気に入ったのだろうか……武は『何とかに火薬だな』と詮も無い事を思い浮かべにんまりと含み笑いを浮かべていた。

 月詠が周囲の相手を一時抑えている間に、左手に装備した05式突撃機関砲の特殊弾カートリッジスロットからショットシェルマガジン、滑腔砲カートリッジスロットから120㎜APFSDS弾が詰まったカートリッジを外し、それぞれに36㎜爆裂弾と120㎜爆裂榴弾のカートリッジを挿入する。
 武の後、月詠も即座にカートリッジを交換、そのまま戦闘を再開した。


 戦場のあちこちで、液体爆薬の炸裂音が響き渡る。
 120㎜爆裂榴弾の中には、柏木が使ったような相手の体表面に接触した瞬間に炸裂する、瞬発信管を備えた種類も存在するが、大抵は少しの時間差――相手の体内で炸裂する着発信管を備えている。36㎜爆裂弾も同様だ。
 相手の体内に潜り込み、内部で炸裂し破壊の力を撒き散らす。

 口内に叩き込み、体内で炸裂させる。
 脚関節に着弾させ歩脚を吹き飛ばし、傷口部分から36㎜通常弾を頭胸部へ撃ち込む。
 柔らかい部分に撃ち込んで、動きを止めるまで削り飛ばす。
 第28遊撃小隊とブラッディ隊は、着々と潜伏級の数を減らして行く。

 前方より迫っていた要塞級、後方に居た要撃級、突撃級も数を減らし、このまま行けば後少しで戦闘が集束するかに見えた――。


 だが……
 だがしかし……ここで終わらない。
 まだ戦いは終わりはしなかった。
 怒涛の展開が戦場という狂気の場を席巻する。
 それは事前に示唆されていた可能性では会ったが、戦う衛士達にとってはやはり来て欲しくは無いものであった。



[1122] Re[32]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第74話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/07/23 08:35
2005年6月22日……リビア油田基地より150㎞圏内




 それらが現れたのは、戦闘も終結に向かっていた矢先であった。
 突如として砂嵐の中より現れるBETAの1群。
 今までの経験から、出現の可能性が有る事は解っていたので慌てる事はなかったのだが、襲ってきたBETAが問題だった。
 【殲滅級】(ジェノサイダー級)――極最近確認された、最新の地球生物型BETA種。
 ここに駐屯している部隊も、戦った事は1度しかないという。
 
 武達が事前資料で確認した情報では……
 蟷螂を元にしたBETA
 近接格闘能力大、接近戦闘はなるべく回避せよ
 装甲は貧弱だが敏捷性が高く要注意
 などの情報が記載されていた。
 
 戦闘能力はかなり高く、殲滅級と名付けられたこともその脅威を意識しての事だと聞いていた。
 純粋な身体能力だけではなく知能もそれなりに高い為に、厄介この上ない歴代最強クラスのBETAとして認知された個体。
 因みに、生物型BETAの名称は、余り統一されてはいない……というか捻られている。
 例えば、潜伏級は【ピットフォール(pitfall)】と呼ばれているが、pitfallは正しくは『落とし穴』で、潜伏は
hidingやlie latentだ。
 殲滅級も【ジェノサイダー】と呼ばれているが、殲滅は『exterminate(エクスターミネート)』であり、ジェノサイドの意味は『計画的に絶滅させようとすること』『集団殺害』『集団殺戮』である。だから、殲滅級は【殺戮級】とも言われる。
 これらの意味の差異、何かの謂れがありそうだが、実は何て事は無い……名付け主である焔の趣味である。
 色々突っ込みたい所はあるだろうが、気にしてはいけない。彼女の思考(嗜好?)はだれも理解できはしないのだから。


 後方残りのBETAは他の部隊に任せ、第28遊撃小隊とブラッディ隊は今まで戦っていた戦場より前進し、迫り来る殲滅級に相対する為に防衛陣を組んで待ち構えていた。既に予備のロケット弾はありったけ撃ちこんである。
 砂塵を巻き上げて突撃してくる殲滅級。
 従来のBETAだったらこのまま前進してくるだけだったろう。防衛する方も、射程内に入った敵に掃射すれば事足りた筈である。
 だが、この殲滅級は従来のBETAには無かったある大きな特徴を備えていた。
 それこそ、相手取る人類にとって厄介な問題を――。




 敵殲滅級は防衛陣を敷く武達の前方4000m付近に差し掛かった時、その半数近くがその場に停止した。残りは変わらず前進を続ける。
 停止した約半数の殲滅級は、丁度人間が2本足で立つように直立すると、その背中の羽を広げ羽ばたく。
 そう……羽である。
 他のBETAには見られない特徴、即ち『飛翔すること』。
 飛翔といっても、体の大きさと羽の相対的大きさの関係故に、そう高く長く飛んでいられる訳ではない。バッタなどの跳躍を彷彿させる程度の飛翔能力しかなく、飛翔距離も確認されただけでは、最高約5000m程度が最高だと言う。
 
 それでも厄介な事には変わりない。特に、地面を俊敏に駆けて近付いてくる1群と、飛翔して飛び掛ってくる1群が、近いタイミングで同時に攻撃を仕掛けてくると非常に厄介極まりなくなる。
 その俊敏さと飛翔行動で突撃し、強力な接近戦能力で陣形を蹂躙する様は、正しく殲滅者……。


 武達は迫り来る新たなる脅威との戦いを開始する。


 最初に襲い掛かってきたのは、地面を駆けてきた1群であった。
 こちらの集団は、36㎜の掃射と120㎜榴弾で大半は撃破することに成功する。
 後退戦闘を行ないながら正面に集中砲火して弾幕を張る。敵は前を行く個体を盾に、その影に隠れながら着々と間を詰めてきたが、普通よりは個体数が少ない故に、このまま射撃を続ければ此方の防衛陣に届く前に何時か殲滅できそうだった。
 何事も無ければ……の話だが。

 『対空射撃!』

 集中砲火によって前面の敵約半数近くを薙ぎ払った時点で、空中よりの襲撃がやってきた。 
 ディアーネのかなり切羽詰った声、今まで何処か泰然としていた余裕が微塵も無くなっている。その声に先駆ける様に防衛線を構築していた戦術機の半数は、先駆けて空中への榴弾射撃をしていた仲間に習うよう、予め決められていた通りに射撃を開始した。
 だが、この射撃も1掃射が限界だった。
 空中の敵を集中して撃ち落とせば正面が抑え切れなくなる為に、地上攻撃を優先した結果だ。現在の殲滅級は経験不足の為か、飛翔してくる個体は後退によって着地点のズレを誘うことが出来るが、正面から進撃してくる敵は勢いが付いているので恐ろしい、結果的に此方の撃破を優先することとなり、空中から襲撃してくる個体群へは、最低限の榴弾射撃と、接近時に着地点を修正して戦術機隊へ直接襲い掛かってくる個体を優先して撃ち落す事となっていた。
 弾幕を半分上へ振り分けた為に、抑えきれなくなった正面の殲滅級。
 ある程度の数を撃ち落すが、それでも次々と空中より突撃降下してくる殲滅級。
 陣形を保ったまま後退戦闘を続けていたが、足場の悪さ故にそれもままならない。陣形を揺さぶられ、合流した殲滅級が機動力に物を言わせ一斉に襲い掛かってくる、撃ち落し切れなかった空中からの固体もだ。
 2面攻撃に晒された防衛陣は、すぐさま部隊を後退させる。
 
 『総員後退!』
 
 リアネイラが絶叫もかくやと言わんばかりに声を張り上げる。
 以前の戦いの教訓で、何時かこうなる事は予想できていたた為に、部隊には最低でも小隊単位で纏まって行動しろと通達してある。今の状態で取り得る対策は可能な限り施した。
 だがそれでも、リアネイラの心は汚物の混じったスモッグの如く鬱屈していた。
 敵は強力だ――ブラッディ隊が幾ら一騎当千の衛士ばかりでも、幾らかの戦死者を覚悟しなければならない程に。

 『皆、無事でいなよ……』

 リアネイラは、戦術機を後退させながら、仲間の安否を気遣い小さく呟いたのであった。




 敵が寸前まで迫ってきたあの状況下で、陣形を崩されたとはいえ整然と後退を行い体勢を立て直したブラッディ隊の錬度は賞賛の一言に尽きるだろう。通常の部隊なら、迫り来る敵の威圧感と恐怖にパニックになり、あのまま敵に煽られて壊走してしまう所だ。
 隊は後退しつつ小隊単位で連携を取りながら、再度簡易的に防御陣を構築する。先程構築したような立派な防衛陣では無かったが、それでも小隊単位で固まった集中射撃は襲い来る殲滅級に有効な効果を上げていた。
 だが、その防衛陣も砂上の楼閣に等しい。
 防衛陣を1度崩され、敵に至近距離まで詰められた現状、迫り来る敵を圧倒する程の火力集中が出来ない。従来の大型BETAからは考えられないほどの敏捷性に、敵の進攻の激しい場所は段々と押し切られ、遂には食い破られる。
 その食い破られた場所を中心に敵が更に流入。部隊は止む得なく散開し始め、遂には混戦の様相と相成って行く。




 「くそっ、抑えきれねぇか!」
 
 武は、流入してきた殲滅級を舌打ちをしながら回避した。
 防衛線に参加し、突撃機関砲を掃射していた武達の付近を敵が食い破って流入してきたのだ。
 奴等は、そのまま手当たり次第に友軍に襲い掛かって行く。
 もちろん武達の方にもだ。
 
 (やるしかないかっ)
 
 第4世代戦術機の機動性ならば、この混戦を抜け出すことも出来るが仲間を見捨てて退く気は微塵も無い。ならばあとは襲い来る敵を倒すのみ。接近戦に備えて、左手の05式突撃機関砲は腕の下――小指が在る側の腕――通常は格納されているパイロンに取り付けてあり、補助碗には烈風も取り付けてある。
 右手に保持していた05式突撃機関砲を瞬時に放り出した武は、そのまま左肩越しで背中に左主腕をやり04式近接戦闘長刀を掴みジョイントを外し、その動作と合わせるように両腰に下ろした04式突撃機関砲をマウントしてある背面パイロンを、格闘戦の邪魔にならぬように背中側に上げ戻す。

 
 「はあああぁぁぁ!」
 
 04式近接戦闘長刀を背中から左の肩越しに抜き放つ、肩口まで抜いたところで右手でも柄を握り、そのまま眼前に振り下ろされようとしていた殲滅級の左鎌での振り下ろし攻撃に向かって叩きつけた。
 1合。
 相手の鎌を弾き飛ばす。
 長刀は大幅に勢いを殺されたが、構わず両手で右下に振り下ろしながら右足を曲げる。
 そのまま手首を返し、曲げた右足を軸に沈み込ませた体全体をバネの様に跳ね上げ、その力を利用して腕を振り上げた。
 2合。
 正面より振り下ろされようとしていた、左の鎌を弾き飛ばす。
 殲滅級は俊敏さはあるが、力は戦術機の方が幾らか上らしい。両手で持った長刀を勢い良く叩きつければ、相手の鎌を振り払う事はそう難しいことでは無い。
 飛翔することからも推測できるように、殲滅級は他のBETAに比べれば軽い。素早い敏捷性も、その軽さが原因だ。
 姿形は、外見が違っているが、大体の様相は武が見慣れている典型的な緑の蟷螂が巨大になったもの。
 移動する時は通常の蟷螂の様に這い蹲るような恰好だが、戦闘形態時は上体を起こしている。体を起こした殲滅級は戦術機よりほんの少しだけ全高が上で、その様は丁度蟷螂が鎌を振り上げ、相手を威嚇する時のようだ。
 
 2合目を弾き飛ばした武は止まらない。
 「お前の手は知っているぞ」と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべ、振り上げていた長刀を、左横に打ち下ろした。
 3合。
 普通ならばありえざる3合目の激突音。
 鎌の付け根、やや下より生えているもう1対の剣の腕。
 そう……殲滅級は、地球生物型BETAだが、正しくは『地球生物改造型BETA』なのだ。
 2本の鎌と、2本の剣。
 4本の凶器。
 戦術機を容易に切り裂く必殺の刃が間を置くことを許さずに間断なく襲い掛かってくる。
 飛翔……
 敏捷性……
 その2つも脅威だが、殲滅級真の脅威は、この息も吐かせぬ連続攻撃にこそ在るのだ。

 4合目を長刀の峰で打ち逸らす。
 此処までで2秒にも満たない時間……。
 刹那の攻防に、集中した武の感覚が更にクリアになっていく。体感できる周囲のスピードがスロー再生の様にゆっくりと流れ、その瞬間視界の端に、最初に打ち払った右の鎌が再度襲って来ようとしているのが確認できた。 それを見た武の思考は弾け飛ぶように次の己が取りうる行動を取捨選択していく。

 (守ったら押し切られる……其処ぉっ!)

 此処で守勢に回ったら、再度同じ様な事を繰り返すだけだ。そうなれば周囲の殲滅級に介入され何時か押し切られる。


 ――積極的攻勢は最大の防御――


 相手の動きが良く解らない現在、1人で相対する場合、少なくとも3体同時に掛かってこられれば容易に捌ききれなくなる。2体同時でも、殺すのに手間が掛かるだろう。時間を掛ければ他の敵が襲い掛かって来て、倒される可能性が跳ね上がる。
 だからこそ、武は攻め続け、一瞬一殺することを選び取った。

 相手が振り上げた右の鎌の下に、自らの機体を飛び込ませて行く。

 「はあぁっ!」

 気合一閃――すれ違い様、右薙ぎの一撃で、相手の胴体部分を真っ二つに切り裂いた。
 その際、踏み込んだ武雷神のメインカメラに、相手の顔部分が肉薄。
 戦闘形態を取った相手の全高は戦術機と同等。蟷螂の目の部分、BETA特有の赤い光と至近距離で交差した武は、その眼球も光彩も無い徒の赤い光が、確かに自分を捕らえ追っていたのが不思議として感じられた。
 その時、一瞬確かに相手の意思のようなものを感じた気がして、纏わり付く、執念を含んだ様な眼光の名残を振り払う。
 生物の形をしているとはいえ相手はBETA。恐れも戸惑いも逡巡も感じてはならない。
 武は気合を入れ直し次に襲い掛かってきた相手に対応する。


 「以外と手強い、連携して行くぞ」
 
 2匹目を倒したところで、月詠からの通信があった。簡潔な言葉の合い間に垣間見えた顔は少しばかり顰められている。武も同じ様な心境だ。倒せない相手ではないが、現状ではすれ違い様に倒して行ける程楽な相手でもない。
 要撃級や突撃級は単体でも容易に撃破可能だが、殲滅級は一筋縄では行かない。特に今のような混戦時では余計にだ。武や月詠は1人でも相手をし続ける自身は在るが、今は敵を殲滅することが優先……撃破の効率を上げるのが第1だ。
 そういう事もあって、武は目で同意の意を示した。それを受けた月詠も頷きを返し、まるで予め決めていたかのように接近し、連携を開始する。
 どちらかが相手を引き付けている間に、もう一方が攻撃。単純明快な攻撃方法だが、他のBETAを相手取る時と同じく効果は抜群だった。
 殲滅級は2方向同時に知覚して入るようで、そこを見れば他のBETAより手強いというのは確かなことのようだ、同時に攻撃を仕掛けても対応されてはいる。
 だが、動きを読み、誘い込んだりタイミングを読んで攻撃をすれば倒す事は造作も無かった。
 例え動きを知覚され、対応されても、それ以上の攻撃を叩き込めば問題は無い。
 武と月詠のエレメントは、隙を突いて長刀で切り裂くか、突撃機関砲の弾を叩き込んで次々と殲滅級を屠っていく。




 『カテルア!!』
 
 10何匹目かの敵を倒した所で、通信から悲壮な声が響き渡った。
 見れば1体の戦術機に殲滅級が4体群がっている。
 ――だめだ、致命傷――
 武が判断するまでも無く、その戦術機は終わっていた。
 4体の殲滅級の剣腕が数本突き刺さっている。その内2つはコクピット至近を貫いており、搭乗者はどう見ても即死か致命傷だ。助ける余地も無い。
 叫びを上げた友軍機――F-35ペレグリーに搭乗する彼女もそれが解っていたのだろう、バイタル反応も確認した筈だ。瞬時に距離を取り友軍機諸共に36㎜の弾雨を見舞う。
 その攻撃に3体が血の海に沈んだが、戦術機の陰に居た1体は生き残った。振り上げた鎌で、盾にした戦術機を肩口から袈裟懸けに2つに切り裂く。

 (なんつー切れ味だ!)

 武は、やや引き攣り気味な声を心の中で上げる。
 資料でも確認していたが、相手の鎌は、こちらが使っている04式近接戦闘長刀と同じ様な原理で作られている。つまり切れ味は、自分たちが実体験している程に抜群だという事だ。例え戦術機の装甲でも易々と切り裂いてしまう。唯一の利点は、相手が日本刀の原理を良く解っていないで使っている為に、付け入る隙があるという事だ。
 剣の方も、甲殻と同じ様な物質で出来ている。こちらは色が薄く、白色濁りの透明色だ。刀身部分は西洋剣に代表するブロードソードの様な形をしている、違うのは剣先が鋭利に尖っていることだ。用途も違い、西洋剣の様に、叩きつけるという感じではなく、鋭い切れ味も持つ。先が尖っている為に、今友軍機がやられたように、刺突にも注意を払う必要がある凶器だ。


 最後の1体を狙い撃つ友軍機だが、相手は素早いフットワークで巧みに回避する。その僅かな合い間に、友軍機目掛けて他の殲滅級が襲いかかってきた。

 (不味い……!)
 
 他の面々は、殲滅級の相手をするのに一杯一杯で、彼女を援護できそうもない無い。
 あのままではやられる……。
 武は咄嗟にそう思い、月詠と共に友軍機の援護に向かう。
 今までの戦いで武の見る所、ブラッディ隊の面々は近接格闘戦能力が優れている。ハイヴ内での格闘戦を視野に入れていないアメリカ軍は日本程の近接格闘戦訓練は行なわないのだが、ブラッディ隊の面々は何故か近接格闘戦能力が異常に高い。恐らく、長くアフリカ戦線で戦っている為に、アフリカ所属衛士達の訓練と同等のことをしていたのだろう。元々戦闘能力が高い者が集まってくるので、個人のスキルが高いこともあるかもしれない。 
 しかしながら、それは飽く迄も標準より少し高いレベルでしかない。
 近接戦闘長刀を所持していない彼等では、肉薄されて超至近距離の近接格闘戦を挑まれれば対処しきれなくなるだろう。白兵戦を行う為のナイフを一応所持しているが、殲滅級相手には心許無い。

 彼女は今、3体の殲滅級に迫られている。
 近くに友軍の機体は無く、エレメントの一方も殺された。援護を受けられない彼女が殲滅級3体を相手にそうそう持つとは思えない。
 もはや一刻の猶予も無し、武とそれに追従する月詠は友軍機の援護の為に戦術機を進める。
 途中、空中より殲滅級が襲い掛かかってきた。
 羽を若干広げ、両鎌を振り上げて降下してくる殲滅級に、武は突撃機関砲を向ける。
 
 「邪魔だ!」
 
 爆裂弾を6発、同時通常弾をワントリガー分斉射する。
 空中から下降してくる殲滅級に避ける術は無く、通常弾でズタズタにされ爆裂弾で撃ち落された。
 武はそんな敵に一瞥もくれずに前進を続ける。
 今この時も、彼女のピンチは続いているからだ。今は例え一瞬でも時間が惜しい。襲い来る敵を倒しながら前進を続けて行く。


 その間にも、彼女は必死の攻防を続けていた。
 3体同時に襲い掛かってきた殲滅級。1番前方にいた個体の鎌を飛び退りながら横へ回避し、同時に36㎜の斉射で薙ぎ払う。その個体はそれで沈んだ、だがその後ろから直ぐ様2体目が襲い来る。
 振り下される鎌に対し、咄嗟に手に持った突撃機関砲を叩きつけ軌道を変化させ事無きを得る。叩きつけた事で半分まで裂けた突撃機関砲を最後尾から襲い来る殲滅級に投げつけ隙を作り、再度飛び退った。
 息吐く暇も無く、2体の殲滅級も追いすがってくる。

 『くっ、やらせないよ!』

 絶望的な状況下で己の気概を奮い立たせる為だろう、吼えるが如く気丈な声を上げる。ナイフシースからナイフを抜き取り両手に装備、腰部の突撃機関砲を再度襲い来る殲滅級に向けて撃ち放つ。
 しかし、前方の殲滅級は、両腰よりの激しい弾雨を喰らいながらもそのまま前進を続けた。防御力は弱い為に、確実にダメージはある筈なのだが恐ろしいまでの生命力を発揮している。生きているかは謎として、勢い付いた惰性のままに打ち下ろされた鎌を必死の思いで両手のナイフで弾き飛ばす。
 そのタイミングを狙ったように、穴だらけになった個体の陰から襲い掛かる最後の1体。
 右前方から襲い来た、振り下ろされた左の鎌は何とか振り戻した右手のナイフで防御したのだが、その右腕を下から跳ね上げられた左の剣碗に肩口から斬り飛ばされた。
 舞い上がる右腕。それを確認するまもなく、次いでもう1つの右の剣碗が突き出される。
 彼女はコクピット付近を狙ったそれを右膝を沈み込ませ懸命に回避した。結果何とか即死は免れたが、左胸部を刺突され多大なダメージを追う。
 突き刺さった剣腕はそのまま抜けない、そして更に間の悪い事に、新たな殲滅級が、左から1体が駆けて、右から1体が降下して襲い掛かってくる。
 状況は絶望的だ……右腕も無く、縫いとめられ、両側には襲い来る敵。この状況を絶望的と言わずして何と言おうというのか?
 
 『アイビス!!』
 『アイビス大尉!』
 
 彼女のコクピットの通信機から聞こえる切羽詰った声。隊長であるスキルビッツァの声と副官であるディアーネの声だった。この状況を見れば焦り声を上げるのも当然の事だろう。
 周囲の友軍は、援護に向かえる距離には居たが、他の殲滅級への対処の為に陣形を易々と崩す訳には行かなかった。現状で彼女への援護は不可能な状況だ。
 しかし、この絶望的な状況下で彼女は諦めては居なかった。
 昔彼女自身が経験した大事故に比べれば……1度死と地獄の如き情景を垣間見たことがある彼女は、この状況下にあって冷静だった。魂までも凍らせる死の恐怖を身を持って味わったことがある彼女は、死に対してとてもとても臆病で……それ故に、死に対して反発的で生に執着していた。
 吐き出されるは、魂を燃え奮え上がらせる、裂帛の雄叫び。


 『あの大惨事で唯1人生き残った、生かされた自分は死ぬ訳には行かない。こんな所で易々とお前等如きに殺されて――たまるかーーー!!!』


 雄叫びを発しながら前方、剣碗を突き刺している個体に向かい両腰の突撃機関砲を撃ち放ち、同時に腰を回転させ左主腕を右に勢い良く動かす。体を捻った事で、左胸に突き刺さった剣碗が機体を外側に向かい斬り裂いていくが構いはしない。
 そのまま、数瞬前に斬り飛ばされ跳ね上げられた右腕――落ちてくるその右腕の手首を左手で掴み、そのまま体ごと左腕を限界まで右側に捻り力を一瞬溜め……「たまるかーーー!!!」の声と共に力いっぱい薙ぎ払った。
 全力を持って打ち払われた斬られた右腕は、凶悪な鈍器となり、右側上空から襲い掛かって来た殲滅級の胴体部分に命中し、その個体を勢い良く殴り飛ばした。
 右腕は、若干勢いを殺されたが、更にそのまま薙ぎ払われ続けられる。
 前方で36㎜弾を喰らって討ち崩れる固体の上空を、斜めに通過し左側へ。
 左から襲い掛かってきた殲滅級の顔面に命中させる。
 左側の個体はそのまま吹き飛ばしたが、相手の執念か……飛ばすのが若干遅かった為に、振り下ろされた鎌が、左腰部下部分を深く切り裂いて行った。


 『ハッ、ハッ、ハッ……』

 大きく息を吐くアイビス。
 あの一瞬で凄まじいまでの攻防を繰り出したのだ、当然息も切れるだろう。
 彼女にとって今の一瞬は、途轍もなく長く感じた一瞬である筈だった。時間的にすれば、10秒近くしか経っていないというのに。
 命懸けの攻防の末に何とか生き残ったが、既に機体は満身創痍だった。
 左胸部は外側まで大きく斬り裂かれ、クレバスの様な裂け目が広がり火花が散っている。
 右腕は根本から切断され、左腰は深く傷つき左足は殆んど動かない。
 腰部に装備していた突撃機関砲を取り外し支えにして、左膝立ちで機体を支えているのがやっとの状態だ。戦闘はもう無理だろう。無茶をすれば、機体が爆発してもおかしくない状態だ。


 だが、そんな満身創痍の機体が見逃される筈も無く新たな殲滅級が接近してくる。
 アイビス機は諦める事は無く、応対しようとするが、既に機体の大部分が死んでいる。左胸部を切り裂かれた為か、残った左腕も満足に動かなかった。

 ――やられる――

 アイビスが、その場を見ていた友軍機が……だれもが思った中で、しかしその瞬間は来なかった。
 アイビス機の至近にまで肉薄した殲滅級に撃ち込まれる36㎜の弾。同時、飛び込んできて彼女の機体の前に立ちはだかりながら、もう1体を斬り裂く漆黒の機体。

 「騎兵隊の登場だぜ!」
 
 この時、援護が間に合って余裕が出来た武は、初めて映像通信をアイビス機に繋いだ。
 「え……え……?」と小動物の様な感じで目をクリクリと見開くアイビス。一転して死の窮地から救われた自分の現状が今一脳内に浸透していないようだった。事態の推移が激しすぎたのが原因だろう。
 そこへ繋がる、もう1つの映像通信。彼女を落ち着かせるように聞こえてくる、賞賛を含んだ落ち着いた声。

 「そなたの戦い、見事だった。命を懸けながら、命を重んじる為に戦う……誰にでも出来る事ではない。その戦いへの気概は賞賛に値しよう。此処は我等に任せて退くが良い、そなた程の心構えと腕を持つ衛士を失うのは惜しい」
 
 この時の月詠は、心から彼女に感服と賞賛の意を送っていた。
 あの絶望的状況下で諦めない心、生への執念、(友人の)死を受け入れながら生を渇望する戦いへの気概、命の尊さを知るが故に死を忌避しながら受け入れている心。直接に聞いたわけではないが、通信越しに聞こえてきた彼女の叫び声と、その戦いぶりから、月詠自身が感じたことだった。
 彼女は何か大きな事を背負って戦っているのだろうと。


 『あ……あの……』
 『アイビス!』
 『はっハイ!』

 月詠からの通信へ赤くなりながらしどろもどろに何か言葉を返そうとオタオタと視線を彷徨わせていたアイビスであったが、スキルビッツァの大声に「ひゃっ」と肩を竦めてから姿勢を正した。上官の大声で、やっと正常な思考を取り戻したようだ。
 
 『機体の損傷が激しすぎる、後退しろ』
 
 その冷静な声に、一瞬俯いたアイビスであったが、次の瞬間には顔を上げ、顔には戦士の面差しを張り付かせていた。事態の推移の激しさに一時パニックに陥ってたが、此処は戦場、彼女は戦士、直ぐに冷静な思考を取り戻す。

 『了解しました。アイビス・ヒュペリオン大尉、後退します』 

 宣言した彼女は、そのまま後退を開始する。
 幸いにも跳躍装置には損傷が無かった為に、右足と支えの突撃機関砲を使い、ブースとト噴射で器用に後退していく。
 月詠はそれを安全圏まで見届けた後に、再度武と組んで殲滅級を屠っていくのだった。




◇◇◇
 戦闘終了後……。
 
 『何人殺られた?』
 『我が隊が3人、リアネイラ隊が2人、大破が1、中破が5です』
 『5人死亡、廃棄が1か……この前のジェノサイダー級襲撃時に2人死亡。1ヶ月の間に計7人とは、ここ2年間でもっとも酷い被害だなぁくそったれ!』

 殲滅級の死骸が散乱する戦場の中、戦術機の中で舌打ちしつつ遣る瀬無い怒りを吐き出すスキルビッツァ。敵は殲滅したが被害が大きすぎた、強兵を誇るアフリカ派遣傭兵部隊が1度に5人も死亡するなど、ここ2年間では初めての事だった。
 それだけ相手が強く、厄介な敵だったのだ。
 更に言えば相性と地形も悪かった。ここが平地で、足場が安定していればもう少し違う展開も出来ただろう。
 相手が近接白兵戦闘を行なってくるのも問題だった。スキルビッツァ達は、超至近距離での格闘戦に対して標準以上の訓練は行なっていたが、錬度が高いとは言えないからだ。


 『他の部隊もピット・フォール級相手に3人やられています』
 『まったく、レーザー属に対する対策が出来たかと思えば次の難題とはね……』
 「そうですわね。殲滅級……確かに手強い相手でした。数が少ないのが救いでしたが、個体数が多ければ更に被害が増えていたでしょう。」
 「ううう……、それに肉薄されると戦いにくくてしょうがないです。中距離戦闘型の私としては、接近戦闘は避けたいのに……近接格闘や白兵戦闘なんて以ての外です!」
 
 響が『ウガ~~!』という擬態語が聞こえてきそうなリアクションで憤りつつ文句を振り撒く。その横のウィンドゥ通信では、柏木も『ウンウン』と頷いている。
 中~遠距離タイプが得意な2人は、接近戦も白兵戦も可能な限りは避けたいところなのだ。
 とは言え、柏木も響も、接近戦・白兵戦共に標準以上の実力を持っているが……単に好みの問題なのだろう。
 しかしながら、今言われた響の発言の意は、スキルビッツァ達には重要なことだった。
 
 『白兵戦はともかくとして、我々も接近戦闘と近接格闘の錬度を上げないとな。一応それなりに訓練はしていたつもりだったんだが……殲滅級相手じゃ肉薄されると脆すぎる』
 『弱点が見事に浮き彫りにされたからねぇ。今までは良かったけどこれからはそうも行かないということだ』
 『幸いにも丁度近接格闘のスペシャリストがいらっしゃいます。今の時点では、教えを乞うにこれ以上の人材は他に無いでしょう』
 『と言う事で、頼むよツクヨミ中佐。あとオトナシ大尉も』

 図々しく感じる程に屈託無く頼み込んでくるリアネイラ。一応彼女はこれでも真剣に頼み込んではいるのだが、生来の明朗活発さと潔い思考が相俟って、まったく『お願い』と感じられない。日本語名の発音が上手く行かずに、下手なカタカナ調になっていることもその要因に拍車を掛けていた。
 もちろんのこと、彼女が真剣なのは月詠には解っていた。昔の彼女ならその態度に色々反発したりもしたかもしれないが、今は良くも悪くも見本が近くに存在していて、更にその見本と長い時間を共にしている。要するに色々染まってしまっている――じゃなくて、理解があるということだ。

 月詠と御無はその申し出に了解の意を示した。彼女等にしても友軍が強くなってくれる事は、戦力的に心強いことだから歓迎する。更に、一緒に訓練すれば部隊間の仲も深まり、連携の呼吸も掴み易くなる、一石二鳥という訳だ。

 今此処に、後に『鬼教官』として恐れられる臨時教官が誕生したのであった。
 彼等はこれから知る事となる……新人時代の教官の扱きが、如何に生暖かいものであったのかを――




◇◇◇
帰還の途で……

 『それにしても不可解だな……』
 『行き成りなんだい?』

 基地への帰還途中、急に思い出したようにポツリと溢したスキルビッツァの言葉に、リアネイラは不可解そうに質問した。
 スキルビッツァは、その質問を無視するかの様に暫らく口を引き結び何かを懸命に考えていたが、やがて疑問点を皆の脳裏に染み渡らせるかのように、重々しい口調でゆっくりと喋りだした。

 『いや、BETAだよ、BETA。最近の奴等の動きは不可解すぎる――何故今になって新手のBETAが次々と出てくる? キメラ級やインターセプト級だけならまだ納得できた、だが生物型BETAの出現は明らかに何かあると思える。今になって何故出現した? どうして地球型生物を基にしている? 不思議に思うだろ?』
 『それは……』 
 『確かにねぇ……。そちらはどう思ってるんだい?』
 「我々の見解も同様だ。それに、私達以外にもその点は様々な所で、重要視足る問題点として注目されている」

 リアネイラに意見を求められた武達。まず月詠が代表して此方の見解を述べる。
 武達も、今までのBETAとは一線を化す生物型BETAの出現に、不可解な疑問を感じていたのは同じだった。

 「でもBETAの思考なんて解らないからね」
 「過去、BETAの思考を研究する計画は全て失敗に終わりました。その問題は今だ解決致しておりません」
 「要するにお手上げ……誰も何も解らないってことだろ」
 「でも推測はできるんじゃないかな? ハイヴを破壊されて戦力の補充を図ったとか?」
 「BETAに司令塔らしきものが存在するだろうという可能性は高いといわれてるし……それが命令したのかな?」 『色々意見があるが、タケルが言う通り結局真実は闇の中ってことか……』

 様々な意見が出るが、結論はやはり出ない。知り得ている情報が少なすぎて推測することすら難しいのが現状だ。そもそも専門家でも無い武達に解るべくもない。

 「その辺は研究者に任せとけば良いだろ。私達が心配しても何も解決しやしないよ」
 『ですが、地球型生物の能力を模倣されるとなると、今後厄介な能力を持つBETAが出てこないとも言い切れません。毒・電撃・超音波……自然界には使い方次第で強力な凶器となる能力を持つ生物も数多く存在します。それら強力な能力を持つ生物型BETAが生まれてくれば、大きな脅威となる事は確実でしょう」

 ディアーネの言葉に、再度皆の間に沈黙が降りる。
 自然界の生物には、様々な能力を持つ生物が数多く存在する。ディアーネが懸念しているのは、その能力をBETAが効率の良い兵器として活用して来る可能性があるということだ。
 既に潜伏級が、溶解液と糸という形で使っているので、その可能性は低くは無いだろう。
 将来的に手強い敵が増える可能性は大きい。

 
 此処に来てのBETAの変化。
 どのような要因から発生したのだろうか?
 人類の戦いにどのような影響を及ぼしていくのだろうか?
 今はまだ――それは人類の誰にも解る事は無い。



[1122] Re[33]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ 第75話
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/07/26 16:06
注……この話は72.5%妄想で出来ています。

2005年6月27日……リビア油田基地




――「武、髪伸びたんじゃない?」――

 全ては柏木のこの一言から始まった。




 昼食時の話題の中で発言された、何気ない一言。
 その時は特に何事も無く時間が過ぎ去り、恙無く昼食タイムは終了した。
 解散後、皆は思い思いに散っていく。
 今日は、週に1度と定められた休養日。肉体維持の為に、午前中は皆自主的に訓練をするが、午後は各人が自由に使える、週に1度の半日自由な曜日であった。この休みは、22日の戦闘結果に際して浮き彫りにされた弱点である、近接格闘能力を鍛える為に、新しく訓練シフトを組んだ時に定められたものである。まあ、曜日自体は前からあった休みの日と変わらなかったのだが。
 武も一旦部屋に帰りベットで寝転んで考え込む。

 (さて、何をしようかな? 自主訓練じゃ味気ねぇし、真那を誘って遊ぶか……本でも読んでるか……)

 実は読書も偶にする武。
 この世界に来る前は、読書の「ど」の時も知らないような有様だったが、戦術機や戦術・歴史の勉強をして行く内に、中々読書も好きになっていた。
 とは言え、勉強以外で自主的に本を読むような事は極少ない。隊の皆に進められた本を、真那の読書に付き合って読む位である。
 何をしようかと、天井を見ながら何と無しに考えていると、部屋のドアが叩かれた。

 「武、居るか?」
 「ああ、いるぜ~」

 部屋の外より月詠の籠った声が聞こえてくる。存在の有無を確認する声に、ベット上で弛緩させた体より虚脱した声を発して返事をした。吐き出されたのは何とも気の抜けた声である。

 「武……休みだからといって日中から気を抜き過ぎだ」
 
 そんな気の抜けた武に文句を言いながら月詠が部屋の中に入ってきて、ベッドの上で弛緩している武に目を留めると、呆れたように溜息を吐いた。
 だが武は、呆れる月詠には構わずに用件を聞く。共に同部隊で戦い始めた当時なら、月詠の武を咎める鋭い眼光に飛び起きて姿勢を正す位だったが今は慣れたものだ……というか、2人の関係が変化して、双方共お互いに対して寛容になった。
 
 「……で、何の用だ? 皆で何かするのか? それとも訓練でもするのか?」
 「いや、そうでは無い。この後時間はあるか?」
 「別に何も予定は入っていないけど」

 月詠はふむと納得すると、
 
 「ならば5分後に第1水場すいじょうに来い」

 と言い残し、武が質問する間も無いまま、早々に部屋を出て行ってしまった。


 「第1水場?」
  
 残された武に残ったのは大きな疑問だけだった。
 第1水場とは、言わば水を使う施設が集まった場所だ。
 この油田基地は、地下水を汲み上げている為に水は制限無く使えるが、濾過システムや配管その他諸々の問題で水場を幾つかの箇所に纏めてある。
 即ち第1から第3水場、格納庫には特別に配管が通っているがそれは除く。
 この水場の中に、シャワー、洗面台、洗濯機、給湯室とそれに付随する休憩場など、様々な施設が存在するのだ。
 そんな所に呼び出して何をしようというのか?
 甚だ疑問に思う武であったが、今ここで考えていても埒があかない。
 
 (ま……行ったら分かるか)

と気楽に考えながら、5分後に到着するように第1水場に向けて歩を進めるのだった。




◇◇◇
第1水場

 第1水場に到着した武は、中に入って月詠を探す。
 水場と言うのは区画的な物言いの事で、そこにある施設はシャワー室やトイレなど、施設毎に区切られている場所が多い。入り口に立っただけでは全体を見渡す事は不可なのだ。
 幾つかの部屋を覗き歩き、洗髪室の中で月詠の姿を発見する。
 
 「よっ、来たぜ。それで何をするんだ?」

 何かを支度していた月詠は、武の声で振り向き、そのまま武を促した。

 「来たか、ではここに座れ」

 首と目線だけで「ここ」を指示する。
 洗髪室の中に月詠を認めた武は、これからされる事に対して大体の予想を立てていたが、その指定された「そこ」と用意されている各種道具を見て、自分が抱いていた予想よりも事態が上を行っている事に気付く。
 指定された其処は、美容院で髪を切る時に座る散髪台だったのだ。
 武は最初、月詠は髪を洗おうとしているのだと思っていた。しかし、髪を洗うだけなら、座ったままで髪が洗える洗髪台で済む。散髪台に座れといっている現状、やはり今から行なうのは、

 「ひょっとして髪を切るのか?」
 「この状況でそれ以外の何に見える。柏木大尉の言っていた通り、お前の頭髪は少々伸びすぎだ、ここ数日は髭も剃っていないだろう、無精髭が見苦しくてかなわん」

 恐る恐るといった感じで疑問を口にする武だが、その疑問の内容は、そのまま実に正鵠を射た答えだった。
 そもそも月詠の言う通り、散髪台に散髪用具が揃ったこの状況で散髪以外の何をすると言うのだろうか?  
 武はここ数ヶ月散髪をしておらず、髪が伸び放題の状態で髭も10日以上剃っていない。元々髭が薄く少ない武であったが、10日以上も放置すれば流石に見苦しい。
 髪を切って髭を剃れと言うのも頷ける話だ。

 だが、武が思っている1番の困惑というか疑問はそれではない。切るのはいい、剃るのも構わない、何時かやる事だしそれはそれでOKだ……しかし――。

 「真那、髪の毛切れるのか?」

 そう、1番の疑問はそれだった。
 向こうの世界でも、横浜基地やマレーシアに居た頃も、専門職の人に散髪して貰っていた為に、武の中では「散髪=専門職」という図式が成り立っていた。
 その為に、月詠が散髪することが出来るという事に驚愕していたのだ。
 彼女は不可能な事を、人を巻き込んでまで無理矢理やろうとはしない。なので、ここでやると言うからには出来るのだろう。だがしかし、それでも今一信じられないというか、唖然として聞き返してしまったのだ。

 「料理と同じで母上に教え込まされた。専門職とまでは行かないが、整える位なら可能だ」
 「へぇ~、凄いな。料理だけでも意外だってのに、散髪まで出来るなんて」
 「貴様は私を――いや……いい、大体予想は付く。」

 武の失礼な物言いに反発する月詠だったが、疑問を提示する前に首を振りつつそれを掻き消した。聞かなくても、武が自分をどういう風に見ていたか解るような気がしたからだ。
 まあ、その予想はあながち間違ってはいなかったのだが……。

 怒ったと思ったら、溜息が出そうな程に気落ちするという、落差が激しい感情の揺れを見せる月詠に対し、武は不思議そうに首を傾げていたが、やがて「じゃあ頼む」と言って散髪台に座った。


 座った武に対し、月詠はまず首にタオルを巻き、次いでその上から防水シートを首に巻き付け体を覆って行く。
 行程は従来の散髪と同じなのに、それを月詠がやっていると言うだけで、物凄くこそばゆく恥ずかしい。時折首筋に触れていく彼女の指の感触も、恥ずかしさを助勢させていく。
 武は赤面しながら、硬直して成すがままにされてしまう。
 その後月詠は、防水シートを巻き終え、武をシートに寄り掛からせシートを倒した。
 
 「水が入らないように注意はするが、飛沫が飛ぶかもしれないから気を付けておけ。後、顔は不用意に動かすな。痒い所が在ったら口に出して言えば対処する」
 
 シャワーのノズルを引き出し、水の勢いを調節しながら注意を促す。
 武は声を出さずに僅かにコクリと頷いた。
 シートに寄り掛かった後に倒された事で、硬くなっていた体が大分リラックスしたようで、既に体の力は抜けている状態だ。頭の上で流れているシャワーの音が、やや夢見心地に聞こえてくる。
 
 「では始めるぞ」
  (冷たっ!)

 開始の合図と共に冷たい流水が掛けられ、豊富に伸びた頭髪に染み渡る。その水の冷たさに、思わず首をすくめてしまったが、月詠は気にせずに続ける。
 数ヶ月間掛けて伸び続けた頭髪が、水を含み重量を増して垂れ下がるのが、頭皮の感覚で判った。
 その水を含んだ髪を、月詠がシャワーを持っていない右手で解きほぐしながら、手櫛で梳いて行く。
 最初は水の冷たさにビックリし、意識をそちらに集中していた武であったが、頭髪を梳いていく月詠の指の感覚に段々と神経を集中され、水の冷たさも気にならなくなって行き、やがて快感が肉体を満たす。

 
 洗髪剤で頭を洗われる段階になると、武の夢見心地指数は最高潮に達していく。その細いたおやかな指が、意外な程力強く頭皮をマッサージする感覚に、神経が快感で溶けているような……気持ち良さに体中の筋肉が弛緩し切って、クリームを泡立て器で混ぜ合わせるかのように、グルグルと感覚が回っていた。
 その快感の中、武は薄目を開けて自分の頭髪を洗う月詠を見る。

 寝転がる自分の左隣に立ち、頭を抱え込むような体勢になって洗っているので、顔が丁度武の顔を覗き込むような配置になっていた。
 武と月詠も他の皆も、アフリカ戦線に来てからは、風通しの良い作業着風の長ズボンと白いシャツ風の半袖服を着用していて、今目の前に見える月詠も、白地の半袖服姿で、髪を背中で1つに纏めている。
 顔の上に丁度、白い薄手の服を押し上げる豊満な胸が目に入るが、武はその胸見て性的欲求よりも、むしろ何か不思議な温かい記憶の片鱗を思い出した。
 
 (ああ……なんか知らねぇけど懐かしいなあ――)

 目の前で揺れ動く月詠の顔と、真剣な――そしてどこか幸福と慈愛に満ち溢れたような顔、武は何処か……何故だか解らないが、涙を誘うような懐かしさを感じる。
 男は常に母性を求めるもの。武も、慈愛に満ちた月詠の中に母性の煌きを感じ、自分が生まれて来た母の胎内を思い出していたのだろうか?
 この時月詠も、武の無垢な反応に対して、確かな愛情と慈愛に満ちた本能的な保護欲を感じて、両者の今の関係は正に、母と子のそれのように思えた。
 与え、受け取る――表す形は違えど、互いに満ち足りた至福の時間。
 頭髪を洗い終わり、剃刀で髭を剃り落とす段階に至るまで、武と月詠はその静かな一時を満喫し続けたのだった。




 髪を洗い終わった後は、タオルで軽く拭いてからドライヤーを少し当てられた。
 月詠は武の髪が半乾きになった所で散髪台の椅子を上げ、武が座る形に戻った後に、髪を拭いたタオルで防水シートに付いた水滴も拭い去る。
 この時点で、武の意識は通常の状態に復帰してはいたが、まだ少し夢見心地気分が抜け切っていなかった。シートに背中を預け目を瞑っている。
 そんな余韻に浸る武に構わず、月詠はその髪に鋏を入れていく。
 武は目を瞑っていた為に、耳元でチョキチョキカチャカチャ鳴る鋏と櫛の音が、余計にはっきりと感じられこそばゆかった。

 暫らくの間無言の時が続く。武は、時折髪を止めるクリップの様な物を付け替えながら、鋏と櫛を器用に操り髪を切っていく月詠を、目の前に据え置かれている鏡で見ながら感心して見ていた。
 整える位と言っていたが、その腕は専門職に引けを取らないほどと感じられ、思わず見入ってしまう。淀み無く、まるで魔法か何かでそうと決められたかのように操られているその動きは、手品か何かを見ている時の如くに武の目を捉えて放さない。
 こそばゆい……何時もやられている事を、月詠が行なっているというだけなのに。、

 「何か――知り合いにやってもらうってのは変な感じだな」
 「そうなのか?」
 「ああ、妙に恥ずかしい。こんなのは初めての感覚だ。専門職の人に切って貰うのはそうでもないのにな」
 「そんなものなのか? しかし初めてと言うが、冥夜様や彩峰殿にはしてもらわなかったのか?」
 「冥夜も慧もこんな事はしなかったなぁ……というか、やれるかどうかも分かんないし。例え出来たとしても恥ずかしくてやってくれないんじゃないかなぁ?」

 しみじみと思う。冥夜はあれで中々不器用だし、慧は器用だが極度の恥ずかしがりやだ。自主的にはやらなかったし、例えやってくれと頼んでみても果たしてやってくれたかどうか……。
 武の脳裏に「練習だ!」と言って周囲を阿鼻叫喚の渦に巻き込んでいく冥夜の姿と、羞恥で真っ赤になって伝説のSTA(スペース・トルネード・アヤミネ)を己に見舞う慧の姿が幻視された。
  
 「恥ずかしい……か。私は母上の教えで、好いた男には自己の愛を尽くせと育てられた為に、こういう行為には余り羞恥は感じられぬな。母上が父上に献身的な愛情を注いでいたのを見て育った所為もあろう」
 「ふ~ん、俺の両親とは大違いだな。あれ? でも、真那の母さんって、帰ってこない親父さんに文句言ってたりもしたんだろ?」
 「母上の持論は『男女は平等であり対当でありながら、その愛の形はまた違う』だ。男と女が持つ愛の形は違うが、立場的には同等だと言う事らしい。もっとも、前にも言ったとおり父上が亡くなってからは、私に『男にうつつをを抜かすな』と口を酸っぱくして言っていたがな。」

 それを聞いて、へえ……と武は思った。
 武は月詠と付き合い始めた当初、月詠が軍人然とした性格だったので、武の元居た世界の常として(漫画などの知識だが)恋愛音痴な性格かとも思っていたのだが意外とそうでもなかった。恋愛経験値は0なので中々恥ずかしがりやだが、自分の思いは素直に口にするし、恋愛関係も中々に積極的実行型であった。
 何故かと常々思ってはいたが、今の話を聞くにどうやら彼女の母親が行なった教育の賜物らしい。
 料理・洗濯・縫い物等々、およそ家事に分類される仕事はほぼ完璧、それ以外の女性に必要だと思われるスキルも、殆んど水準以上が満たされている。まるで花嫁修業を行なった女性だ。これで戦いも無く淑やかだったら、大和撫子を地で行っていただろう。

 ――まだ見ぬお義母さん。どうも有難う御座います――

 白銀武は、月詠に教育を施したまだ見ぬ義母に、心の中でサムズアップと感涙の涙を送った。……何というか気の早い男である。

 今回のこともあって武は、世界は違えどやはり月詠さんは月詠さんだった事を改めて実感した。当初は向こうの世界の完璧メイドである月詠さんと余りにも違うギャップに驚いていが、やはり根は同一人物……世界の繋がりを強く感じた武なのであった。 




 「ほら、出来たぞ」
 
 雑談を交わしながら時が過ぎ、散髪は恙無く終了した。
 目の前の鏡に映る自分の髪型は以前のものと変わらない。月詠の手によって、伸びた自分の髪が以前の髪型に戻っていく光景は中々に不思議で感慨深かった。

 「有難うな真那。いや~、さっぱりしたぜ」
 「ふふふ……、やはりお前はその髪型が似合うな」
 「???……そうか? 俺としては長い髪形も結構気に入っていたんだけど……まあ、鬱陶しいからこっちの方が良いか。それに今更髪型変えるのも何か違和感あるしな」
 
 道具を片付けながら言う月詠に、切られたばかりの頭髪に手をやりながら謝礼を返す。
 恋人に切ってもらったということもありその喜びは一押しで、随分と元に戻った髪型にご満悦だった。
 そのまま暫らく待ち、片付けが終わった月詠に対しこれからの予定を尋ねてみる。

 
 「これからどうする? 訓練にでも行くか、別のことをするか……」
 「まて、まだ終わってはいない。こっちに来い」
 
 月詠は、武の手を引いてその場所から移動する。
 散髪台の後方、広めのソファーの所で武の手を放し、そのソファーに膝を揃えて腰を下ろす。
 そして、自らの太股付近を軽く叩きながら唐突に言った。

 「良し、いいぞ」
 「……はい?」

 武は思わず間抜けな声を上げてしまった。
 いや……現状を踏まえれば月詠が何をしたいかは大体解る――というか男として解らいでか!! という状況だったのだが、驚天動地の出来事に武の思考回路はショート寸前。

 ――ツクヨミサンハナニヲイッテイルノカナ?――

 目の前の現実が今一飲み込めていなかった。
 まあそれも仕方が無いのかも知れないが……それにも関わらず現実は加速していく、走り続けるメロスの如く。
  
 「何だ? どうしたのだ?」
 「あの……、今から一体何をするので御座いましょうか?」
 「耳掃除に決まっているだろうが。頭を洗ったら耳を掃除するのは基本だぞ。それに貴様の場合は、耳掃除や爪切りなどはめんどくさいと言って疎かにしてそうだしな。良い機会だから、この際徹底的に綺麗にしてやる。……ほら、早くしろ」

 御丁寧に聞き返す武に「何を当然な」という表情をする月詠。武はその答えにたじたじになり目を逸らす、彼女の言うとおり、武は耳掃除や爪切りをさぼりがちなのは当たっていた。
 そんな挙動不審な武を促すように、再度早くしろとばかりに膝をポンポンと軽く叩く。
 武を見詰める月詠と、その眼光から心持ち目を逸らす武。
 両者の間に停滞が起きたまま、数瞬が過ぎる。
 月詠は、武の態度に埒が明かないとばかりに、実に無造作に戸惑う武の手を引き寄せた。武はあまりな早業に、抗うすべなく引き寄せられる。

 「うっうわっ、ちょっとま……真……」
 「動くな。大人しくしていろ、子供でもあるまい……いや、ある意味子供か?」
 「俺は子供じゃねー!」
 「だったら大人しくしていろ。膝の上で頭を動かすな」

 月詠は慌てる武に構わずに武を引き寄せソファーに寝転がせる。その動作は実に巧みで淀みが無く、子育てに熟練した母親を思わせた。武自身大きな子供のようなものなので丁度良いのかも知れない。
 武はその行為をされるのに多大な恥ずかしさを感じていたが、月詠は平気な様だ……と傍目には見えたが実はそうでもなく、よく見れば頬が薄っすらと赤いのが見て取れただろう。
 一方、月詠の太股に頭を収めた武は、羞恥と緊張と幸福と歓喜と……とにかく大変だった。
 膝枕――それは男が一度は憬れる禁断の行為。
 既に月詠とイヤンでウフンな関係の武であったが、膝枕はまた別格だ。
 そう……膝枕とは、男にとって至上のロマンなのである。
 膝枕で感じる羞恥は、他の羞恥と一線を隔し、魔性の囁きの様に人を虜にする。
 その場所は、桃源郷であり、パライソであり、全て遠き理想郷アヴァロン!! 


 武を膝の上に乗せた月詠は、色々な意味で大変な武には気付かずに、竹の耳掻きで耳垢を刮ぎ始める。
 切ったばかりの髪の毛を無意識なのか、時折撫でながら耳掃除をする月詠のその姿は、正しく聖母の如し様相であった。
 咽を掻かれて薄目になった猫のように、武は弛緩してその感触を堪能している。時折、刺激でビクッと体を反応させてはいたが、それ以外は至って大人しい。
 両者無言の時が過ぎていく。
 そのまま2人は、今という至福の時を、存分に堪能したのであった。




追伸というかおまけ?
◇◇◇
扉の向こうで……

 「柏木隊長、私はもう我慢できません! 砂を吐いても宜しいで御座いましょうか?」
 「許可するよ、響中尉」
 「いやいや、確かにあれは当てられるね」
 「ええ、青春ですわね」
 「一緒に料理しているのを見ていても思ったが……あれは天然なのか? いや、それよりも! ディア、是非俺達も!!」
 「寝言は死んでから言って下さい」
 「うう、ひでぇ……。愛が足りねぇ」

 「それよりも柏木大尉、そのハンディビデオカメラはどうしたんだい?」
 「ああ、焔博士からの支給品。武と月詠中佐のスクープ場面撮影用にって渡されたんだ」
 「博士、侮り難い御方ですわ……」

 何時の間にか、柏木を中心にして確りと覗きが行なわれていた。
 



[1122] Re[12]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 8日目・1
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/10/18 19:19
2005年2月17日……EX世界、御剣本家


 目の前の扉を見詰めつつ、幾許かの時が経過していく。
 胸の内を茫洋と満たす葛藤が、時を追う毎に募り心を苛んでいく為に、目の前の扉を開けるのを躊躇してしまう。
 苛む想いを確固たるものとして掴みたい現われか、胸の前で祈るように握りこんだ手。その手先を、目の前の扉に伸ばそうとしては、引き戻すという動作を、何回も繰り返してしまっている。
 まるで目の前の扉を開ければ、その先は引き返せない事情があるとばかりに――事実彼女は、自分でも理解してしまっている事実、それを確かめに此処に来たのだ――決心は千路に乱れ、行動に移れなかった。
 「はぁ……解ってはいるんだけど」
 ――そう。覚悟を決めて、確認する為に、受け入れる為に、話を聞きに来たというのに……いざとなると――
 「なるほど。想う心が同質なら、考えることもまた同じと言う訳か」
 溜息を吐き、幾度目かもしれなく肩を落とす純夏。実行に移せない、勇気の無さに落ち込むその後ろより、この数年で心よりの親友となった人の、落ち着いた声が聞こえてきた。
 純夏は、驚くことも慌てることも無く、ゆっくりと振り向く。
 心の何処かで、こういう状況になるだろう事を予想していた。
 冥夜の言った通り、同質の想いを抱える自分の親友なら、きっと同じ様な行動に出ると思っていたのだ。
 「冥夜も……、武ちゃんに話を聞きに?」
 「無論だ。既に事は確定しているとはいえ、それでも我が心は思い悩み、自身を苛み蝕んでいく。この詮無く空虚な悩みに、何がしの決着を着ける為にも、別離の前にきちんとした話し合いをしたいと思った故な」
 「そう、冥夜は強いね……私は例え、ちゃんと話を聞いたとしても、到底納得できそうもないよ」
 はにかみながら言う純夏。しかし冥夜はそんな純夏に対し、やや顔を顰めた、哀愁漂う表情で反論する。
 「勘違いするでない純夏。私とて、そうそう簡単にこの想いに決着を着ける事など出来はしない。ただ私は、想いを引き摺った故に、決心を固めている武の気を引き、旅立つ武がこの世界に後を引くような思いを残させたくないだけだ。私の我が侭で武を困惑させるなど、それこそ望む事では無い故な」
 「ふふふ……、それが強いって言ってるのよ冥夜。武ちゃんの決心を尊重して、なんの憂い無く送り出す為に自分の想いを押し込める事までする。私にはそんな凄い事はできないよ……。私はきっと、泣いて縋っちゃう。感情の赴くまま、この想いを抑え切れない……。武ちゃんを困らせちゃう」
 「純夏…………」
 泣きそうな表情になる純夏に、冥夜は掛ける言葉を見つけられない。
 思いの丈も質も同等だ。武を愛する感情は、両者共に相手に負けないと自負している。
 しかし、両者の性格以外で、武に対する感情が――純夏と冥夜が抱える、武への思い出の中でも、決定的に差があるものがある。
 「ずっとずっと一緒だったのに、これからもず~~と一緒だと思っていたのに……。冥夜が来て不安になったりもしたけど……。だけど例え武ちゃんと冥夜が一緒になっちゃっても、武ちゃんと私は…………。なのに! なのにこれから一生、死ぬまで武ちゃんと会えなくなるなんて! 武ちゃんが居なくなっちゃうなんて! 私は……私には……」
 「純夏……。そうだな、そなたは武の幼馴染。一生会えなくなるその辛さは、私より幾重にも圧し掛かろう」
 泣き崩れそうになる純夏を、抱きかかえるようにして包み込み支える。自らの胸の内で涙を目に溜める純夏の体が、細かに震えているのが感じられた。
 純夏は武の幼馴染、恋慕云々の前に、培ってきた年月の重みが圧し掛かる。それは冥夜には無い、両者が兄妹のような、親友のような関係で結びつき過ごしてきた、何よりも代えがたい思い出の日々だった。
 その日々を持つが故に、純夏の感じる悲しみは、また趣が違う。
 抱える思い出や思慕の量で、悲しみの量が変化するとは言えない。冥夜が抱える武への想いの強さは、純夏の抱えるそれに、負けず劣らずのもの。
 だが、敢て記すならば、その「幼馴染として過ごした年月の重み」故に、純夏の武に対する感情の質は、更に複雑な様相と化し、純夏の心を苛むのだ。
 そのままの状態で、幾許かの時が過ぎる。冥夜の腕の中で落ち着いた純夏は体を放し、少し無理をしながらも、見詰める冥夜に対して照れたようにはにかんだ。
 「ごめん……もう大丈夫。……行こう。こうしてても、なんにもならないしね」
 「そうだな、では武に話を聞きに行くとしよう」
 言いたい事もあったが、それを押し込んで納得したように頷く。今此処で冥夜が言っても、所詮如何にもならないことだ。
 純夏と冥夜は、目の前の扉――武と真那に宛がわれた部屋のインターホンを鳴らす。
 ここは、御剣財閥の敷地内にある秘密研究所、その研究所に関わる人員の為の宿泊施設。
 宿泊施設と言っても、此処は御剣本家。その建物は、実用性を追求したのか華美ではなかったが、やはり一級品の出来で、各種施設や部屋の調度品も充実している。言うならば、ちょっとしたホテル並みである。
 昨日この研究所に来た一行は、今日の夜に行われる、武と真那が行う世界移動の現場にそのまま同行する予定の為、此処に泊まる事となり、空いている部屋を宛がわれたという訳だ。
 尚、部屋は完全防音なので、先程純夏と冥夜が騒いでいたように、外で何をしても、部屋内部の人は殆ど気付かない。気配や物音に敏い武と真那が、部屋の外の2人に気付かないのもこの為だ。
 軽快な音が鳴り響き、そしてその音の余韻が残る内に、部屋のドアが開かれ目当ての人物が顔を覗かせた。
 「冥夜、純夏。よう、どうした?」
 「あ……武ちゃん…………」
 屈託無い、良い機嫌を窺わせる顔を見せる武。その表情を直視した純夏は、つい先程勇気を振り絞って固めた決心の心が、たちまちの内に霧散してしまった。話を切り出す種として浮かべていた言葉や話題が弾け飛び、心に真っ白な空白の情景を作り出してしまう。
 そんな純夏を若干不思議がった武だったが、純夏の様相を敏感に察知した冥夜やが直ぐ様にフォローの言葉を発して話を続けた。
 「済まないが少しよいか? 話がある故に、時間を割いて貰いたいのだが。もし今都合が悪ければ、後で都合をつけてくれれば構わぬが」
 「話? 別に用はないけど……」
 此方を見ずに、目線を彷徨わせて何処となく挙動不審な純夏。常よりも真剣な表情で此方を見据えてくる冥夜。2人を見る武は、最初こそ気楽げだったが、その様相に何かを感じ取ったのか、次第に顔を不振下に歪め、やがては真剣な表情になる。
 冥夜の言い様に反して重大な用件と確信した武は、すべき事も無かったので、直ぐ様に2人を部屋に招きいれた。
 未だ心の安定を欠く純夏の手を取って、部屋の中に入る冥夜。そこで彼女は、部屋に立つ真那の姿を認めた。
 同時、その姿を認めたであろう純夏の体が、ビクリと大きく揺れ動く。
 今の彼女にとって真那の存在は、不安材料としては一番の位置にある。未知の世界の冥夜と慧の存在も、心に不安や葛藤の陰を呼び起こさせるが、今目の前に、実物として其処にある存在程、確かな現実として状況を認識させてしまう。純夏にとって今の真那の存在は、武を向こうの世界に繋ぎ止めている楔の一部――心が罵るままに悪く言ってしまえば、愛する武を奪った恋敵、武を奪い連れ去ってしまう女性なのだ。
 勿論の事、全ての始まりの要因としては、武の異世界への転移現象が、諸悪の根源……そもそもの原因なのだとは解っているのだが、今目の前に『武の恋人』として存在する真那のことを、燻る感情の捌け口として認識してしまう
。純夏は、真那のことで心苦しく思ってしまう以上に、彼女の事を全ての原因と貶めてしまう弱く薄汚い自分の心が怖かった……それ故に、真那の存在に不安を覚えたのだ。
 その当事者の真那は、冥夜と挨拶を交わした後、武に説明を受ける傍ら、そんな純夏を視界に納めていた。
 「……という訳なんですけど」
 「分かった、ならば私は出ていよう。そうだな……では、焔博士と香月教諭の所にでも経過を聞きに行って来る。そなたも、別れに際して積もる話も多々あろう。私は今日一日其処で過ごしているので、他の者達とも納得の行くまで語り合うことだ」
 他にも幾つか言葉を交わしながらも、部屋を出て行こうとする真那。部屋を追い出すような形を取らせてしまったと言う冥夜の謝辞を受け流し、次いで純夏と顔を合わす。一旦確りと互いの目線を合わせた彼女は、黙って頭を下げ、そのまま部屋を出て行く。
 その後姿を見送った純夏は、真那の目線から感じた彼女の意志の光に、自分の抱える後ろ暗い感情の全てを見透かされているような気分に陥いって、激しい自己嫌悪に襲われてしまった。
 実際真那は、冥夜と純夏の醸し出す雰囲気や一連の事情より、ある程度の2人の心の内を見透かしていたのだろう。
 「武ちゃん……あのね」
 「ん……」
 「やっぱり、もうこの世界には戻ってこないの?」
 心に吹き荒れ襲い来る、自己嫌悪の念を振り払うようにして、純夏は武に声を掛ける。そして、その振り払う感情の勢いのままに、一番聞きたいであろう事――肝心で確信的な質問を、武に言い放った。
 何処かで答えを感じているであろうその問いだったが、やはり確りと武自身の口から聞きたかった――そうしなければ、到底納得できないから……。
 でもやっぱり、答えを聞くのは怖かった。だってそれを聞いてしまえば……自分はきっと、どんなに悲しくても、自分の気持ちを押さえつけて納得してしまうから。だって、自分は武ちゃんの、一番の理解者だったのだから……
 「ああ、向こうに戻ったら、自分の意志では2度とこっちの世界には戻ってこない」
 少し困ったような顔を見せたが、直ぐに真面目な顔で純夏と冥夜を見詰め言い放つ。
 ――ああ、やっぱり――
 その答えを聞き、浮かべた武の表情を見た純夏は、自らが思った予想通りに確信してしまった。
 解ってしまうのだ、自分は白銀武という男の人の事が解ってしまう。
 武が本気だということを。どんなことがあっても、自分の意志を曲げないということを。そして自分は、そんな武ちゃんが好きで、彼の事を心から応援してあげたくなってしまうという誇り高くも悲しい事実を。
 好きな故に、彼の邪魔をしたくない――離れていってしまう彼を繋ぎ止めたい心の横に、彼の願いを心から応援する自分の心が存在する。それはなんという二律背反だろう……。縋りつきたい心と、見送る心が等しく混在するその矛盾。
 「もしかしたら、また必要に迫られて来させられるかもしれないけどな。でも、自分の意志でこっちの世界に戻ることはもう無い。俺はもう、向こうの世界で生き抜いて、向こうの世界で骨を埋める事を誓った。だから……未練は残るけど、この世界の事は、思い出の中に仕舞う事にする。忘れる事は無い、大切な思い出としてな……」
 「やはり決心しているのか……」
 冥夜の言葉に、はにかみつつも理由を述べていく。
 「向こうの世界に行って最初の頃は、未だ戻る心算があったんだ。俺を向こうの世界に転移させた原因を探して、それをなんとかしてな。だけどその内、仲間達との絆が出来て、向こうの世界を救いたいと思うようになっちまった。今考えれば馬鹿な話だけど、BETAを駆逐した後に、こっちの世界に戻る心算だったんだ。でもその内、冥夜や慧のことが好きになっちまって、こっちの世界へ帰ろうとする心が薄れていく。オルタネィティブ5が発動して以降は、そんな気も殆どなくなっちまった」
 「そして子供が出来たのが決定的か……」
 「そうだな、父親という存在になって……子供を見た訳じゃないから実感は出来なかったけどな。それでも確かに、『母親と子供を守らなきゃ』っていう覚悟が出来た。俺の大切な人達が、平和で暮らせる世界を作ろうと、心に誓った。けど……今思い返せば、其処でも俺の決心は未だ甘かったんだ。俺は元々平和な世界の住人、愛する者達の為に、命を賭けて『戦う』って事がどういうことか、未だ解ってなかった」
 「命を賭けて……戦う……」
 ぽつりとその言葉を繰り返す純夏。平和な世界に生きる彼女にとって、その言葉は知っているけど知らない言葉。武はそんな純夏の呟きに頷くと、噛み砕くように心の内を吐露し出す。純夏にその言葉の意味を伝えるよう……。
 「命を賭けるってことは命を投げ出すことじゃない、その行為は、覚悟を決めることに等しいって俺は思う。失敗したら、大切なものを失ってしまう。それは隣で戦っている戦友を始め、家族かもしれないし、恋人であるかもしれない。その恐怖があるが故に、人は自らの命を賭けられる。命の危険を前面に晒しながら、それでも大切なものの為に、その場所で戦い続けられる勇気――命を賭けながらも、守る為に、戦い続け生き抜くことを諦めない。そして、もう如何しようもなくなる、最後のその瞬間まで、逃げる事無く命を燃やし尽くす事。そんな覚悟が、『命を賭ける』って行為だと、俺は思うんだ。……俺はそれを、色々な人に教えられた」
 武は其処で、冥夜と純夏の目を見詰め直す。その瞳がたたえる光は、彼の決意の程を、余す事無く2人に伝えようと、力強い意志の如く輝き煌いていた。
 「朝霧少佐って人が見せた、体を張ってさえ自国の民を守るという覚悟。鮎川元大尉って人が起こした、命を賭けた末の奇跡――そして託された願い。ウォーカー元大尉と榎本元中尉も、命を賭けて未来への未知を切り開き、そして俺達に後を託していった……。厚木のハイヴ攻略戦では、2447人の衛士が未来の為に命を賭けて散っていったし、その他の様々な戦場でも、それは同じ事。俺は、彼らと肩を並べて戦った者として。後を託され、願いを背負った者として、逃げる訳には行かない。あの世界を見捨て、忘れることなんて出来はしないんだ。だから……ごめんな2人共、俺は行かなくちゃならない、あの世界に帰らなくちゃならない。あの世界は、俺の命を賭けられる、掛け替えの無い大切な人達が生きる世界だから」
 全ての思いを乗せ、2人に訴える武。
 冥夜や純夏にとって、真実に理解しがたいことなのかもしれない。しかし、2人には知っていて欲しかった、理解して欲しかった。自分が何故、あの世界に帰るのか、あの世界で骨を埋める事を誓ったのか――我が侭かもしれないが、2人には納得して貰いたかったのだ。
 今武が言った事を、胸に刻み反芻する冥夜と純夏。
 確りと此方を見詰めてくる、武の真摯な視線を受けつつ、2人も武のそんな想いを何処かで感じていた。
 元々、既に覚悟はしていた事だ。白銀武という人物をよく知っている2人にとって、武の考えが変わらないということは先刻承知。此処に来た目的は、武の抱く考えを聞き、自己の抱える想いや葛藤に折り合いを付けるためだった。
 今、武の抱く考えを聞いたことで、目的の大部分は達成できた。後は、己の抱く感情に、折り合いを付けることだけ、それだけなのだ……。
 「武……」
 「ん……?」
 「私はそなたが好きだ」
 「冥夜、何を突然?」
 行き成りの告白。そして、武の疑問にも構わず話を続ける冥夜。
 「そなたの元に来て以来、日々想いを募らせ、その想いは強まって行くばかり。そなたが、突然に居なくなってしまった以後も、その想いは変わらず、今もそなたを想う心は変わらない」
 「冥夜……」
 「それを……それだけは覚えておいて欲しい。そなたの一生に、御剣冥夜という女が居た事を、私がそなたを想っていたことを。私は一生、死ぬまで忘れはしない、そなたのことを、白銀武の事を――」
 「私も! 武ちゃんに覚えていて欲しい」
 「純夏……」
 冥夜の言葉に続くように、俯いていた純夏も顔を上げて、訴えるように言葉を紡ぐ。
 「武ちゃんとの思い出、一生大切にするよ。だから武ちゃん……武ちゃんも覚えていて、私の事、忘れないで。武ちゃんが私の手の届かないところに行っちゃうことは……、他の人のことを好きになっちゃったのは悲しいけど、武ちゃんが自分で選んだ道だもんね。私は、武ちゃんが私を覚えていてくれるだけで満足だよ。武ちゃんのこと、応援できるよ、行っちゃうのも我慢できるよ……だから……」
 本当はそんな事は無い、武ちゃんが居なくなっちゃうと考えただけで涙が溢れる。でも……想いを告白してくれた――真摯に話してくれた武ちゃんを困らせたくはなかった。
 縋り付いて行かないでと泣くことは簡単だ。己が抱える、想いという形の容器は、湛えた涙でその器を満たしていて、少しの衝撃を加えるだけで、その器からは涙が溢れ出すだろう。
 でも、それでは駄目だと心が訴えていた。
 武と対等に成る為に、立派に成長した武に相応しい女として。
 それは意地かもしれない、見栄かもしれない、誇りかもしれない。或いは、唯武を困らせたくなかっただけなのか……。
 永遠の別離を確認する為の儀式のような話し合いの中、最初から覚悟は決めていた御剣冥夜と鑑純夏は、それ故に涙を見せることはなかったのだった。
 
***

 「出てきたらどうですか?」
 冥夜と純夏が部屋を出て行って暫くした後、入り口近くの物陰に向かって声を掛ける武。するとその陰から、1人の女性が音も無く姿を現す。
 「やはり気付いておりましたか」
 「ええ、向こうでは気配に気付けないと、命の有る無しに関わりますからね。それにしても、冥夜に付いてなくていいんですか?」
 「冥夜様も、今は鑑様と2人きりになりたいでありましょうし、武様とも少し話がしたいと思いましたので。……それにしても、やはり武様は見違えるように御成長なさりましたね」 
 そう言いながら近寄ってきた月詠は、武の正面に立ち微笑む。
 「そうですか? まあ、色々ありましたからね。話、聞いていたんでしょう」
 「ええ、大変な道筋を歩んできたようで。目の光が、3年前とは全く違っていますから。今は……22歳で御座いましたか。体も心も逞しく御成りになって……今の武様ならば、この月詠でも気を惹かれてしまうところです」
 「ははっ、月詠さんにそういわれると、何だか嬉しいですよ。あの当時は、悪ガキっぽく扱われていましたからね」
 「それは、武様がそのような態度ばかり取るからいけなかったので御座いますよ」
 「確かに、あの当時の自分は、今思い出すと無性に恥ずかしいです」
 苦笑しつつ、そっぽを向き頬を掻く様な仕草を取る武に、月詠は昔の面影を見て微笑む。こういう仕草を見ると、やはり大元は、自分の良く知る白銀武だと実感する。
 「今も大元の性格は、余りご変わりありません様ですが。でもそれだからこそ、武様は魅力的なのでしょう。その奔放で嫌味の無い自由な性格が、人を惹きつけて止まない……先程も言った様に、今の武様は貫禄が備わったお陰で男気が増し、立派に成っておられます。向こうの世界の冥夜様、彩峰様、それに『私』が惹かれたのも、納得出来る所です」
 「そう言われると照れますね。今になって振り返って見ると、俺自体はそんなに出来たやつじゃないと自分でも思っているんですが……。冥夜や慧だけでも不思議なのに、真那まで俺の事を好きになってくれて……。こうやって考えてみると、改めて幸運な男だなって思いますよ。凄い出来た女性が、3人も想いを寄せていてくれる――俺なんかには勿体無い位です」
 「ふふふ。そう思えるからこそ、彼女達も武様に惹かれたのでしょう。そのお気持を大切にして下さいませ」
 「有難う御座います、月詠さん。本当に……色々すいませんでした」
 冥夜の事で、自分は責められても良い筈なのに、優しい言葉を掛けてくれる月詠。武は、万感の思いで頭を下げる。今まで彼女が、冥夜や純夏にも、色々便宜を図りつつ、支えてくれただろう事にも感謝の念を込めて。自分が、その努力に報えない――冥夜の想いに答えることが出来ないことを。
 「よいので御座います。私は唯、冥夜様の御意志を尊重するのみ。冥夜様が既に答えを出している今、私はそれに従うだけで御座います。今までのことも、冥夜様の事を思えばこそのこと、武様が気にする事はありません」
 「それでもですよ……。これからも、冥夜のこと、宜しくお願いします」
 「それは私の至上の願いで御座いますよ武様。この月詠、身命を持って、冥夜様に御仕えし、手助けしていく所存です。それに、冥夜様の御親友である、鑑様の事も御任せ下さいませ。武様は、心置きなく旅立たれますよう」
 頭を下げる武。月詠の好意に心からの礼を送る。
 後ろめたい気持ちは無かったが、心残りではあったのだ。だが、その気持ちを汲んだのか、心置きなく旅立って下さいと、背を押してくれる月詠の心……その心が、途轍もなく嬉しかった。
 人に押し付けるような形となってしまうのはやるせないが、1つを選ぶ武にとって、もう1つを如何にかする余裕も方法も無い。武は、月詠のその心使いに甘え、挨拶をして踵を返し、部屋を退出して行く彼女に、深く礼を送り続けるのだった。
 ……そして、月詠もまた、武との話し合いによって、1つの決心を心に決めるのだった。



[1122] Re[13]:マブラヴafter ALTERNATIVE+ EX編 8日目・2
Name: レイン◆b329da98
Date: 2006/10/19 13:40
2005年2月17日……EX世界、白陵柊学園・転移地点


 向こうの世界へ転移する分には、此方の世界のどの場所から転移しても大丈夫そうだが、焔曰く『特異点のなんちゃらかんちゃら』『通過してきた道があ~だこ~だ』等で……。要するに、『転移してきた場所は、道の軌跡が残っているので、安全性と確実性が高い』と言う為、転移してきた地点から帰還することとなる。
 転移の為の全ての準備を終えた2人。
 真那が見守る中、武は皆との別れの言葉を交わし、今……最後の挨拶を交わしていた。
 「武さん、ほんとにお別れなんですね……」
 「武と会えなくなっちゃうなんて、寂しいよ」
 「ははっ、有難な2人共。たまは弓道頑張れよ、上がり性を克服すれば、絶対に世界で一番の腕前になれるぜ。尊人も元気でな、お前とは何時までも親友だと思ってるぜ」
 「はい……頑張ります!」
 「ボクも、何時までも親友だと思ってるよ武!」
 握手を笑顔を交わし、次の人へ……。
 「委員長の活躍が見れないのは残念だな。負けるなよ」
 「当たり前でしょう、私を誰だと思ってるの」
 「堅物……?」
 「彩峰、医療事故起こしても庇ってあげないわよ」
 「儚い友情だね……」
 「ははは。彩峰なら、そんな事故万が一にも起こさないって」
 「目指すは世界一の名医?」
 「なんで其処で疑問系なのよ。……ま、私達2人の事は心配しなくていいわよ。白銀君が居なくても、立派にやって行けますからね」
 相変わらずの彩峰節に、毒気を抜かれる委員長。そして委員長らしく、強気な態度で別れの言葉を言ってくる。
 だが、その言葉に含まれる気持ちは、惜しみない友情の念だった。
 「頼もしいな委員長。彩峰も、頑張れよ」
 「絶対に、究極のヤキソバパンを作り上げてみせる……!」
 最後に惚けるのは、やっぱり彩峰らしく笑いを誘った。
 そして、次の別れへ……。
 「まりもちゃん……色々とお世話になりました。迷惑ばっかり掛けてましたけど、先生に教わった高校生活の思い出は忘れません」
 「やだ、良いのよ白銀くん。そりゃあ、色々大変だったのは本当だけど……。私もあなたに教えることが出来て、楽しかったわ、有難う。最後に、先生って呼んでくれて嬉しいわ」
 太陽の恵みを受けて咲き誇る、向日葵のような笑顔。この人の授業を受けられたことは、本当に良い思い出だったと感極まる武だった。
 そして、次へ……。
 「夕呼先生、焔博士、色々な協力、本当に有難う御座いました」
 「なあに、良いってことよ。私も色々貴重な体験をさせて貰ったしね。向こうの世界の私に宜しく言っといてくれ」
 「貴重な体験って事は確かにそうね。私の仮説が立証された訳だし、感謝してるわ白銀。あなたにとって、本当の戦いはこれからでしょう、頑張りなさいよ」
 「はい。俺は絶対に、諦めたりはしませんよ」
 夕呼のらしからぬ激励の言葉に、確かな覚悟を持って答える。
 そして……
 「月詠さん。こんな事を俺が頼むのは「解っております武様。冥夜様と、鑑様の事――御心配なさらぬよう」
 武の言葉を遮って、力強く断言する月詠。
 武はその言葉に、深く深く感謝の念を捧げた。
 「有難う御座います、月詠さん」
 「いいえ武様。これは私にとっても、成さねばならないことなのです。冥夜様と……恐らく鑑様も、その必要性が御出来になることでしょうから……」
 「必要性……それって?」
 「いいえ、武様はお気に為さらずに。それよりも――」
 月詠の不可思議な断言の言葉に、頭を傾げる武。必要性が出てくるとはどういうことだと考えるが。しかし、その思考は、月詠の言葉によって遮られ、忘却の彼方へと消えていく。彼女が示した先に居る、2人の姿を見た為に。
 武は、2人の側へ歩み寄り、顔を合わせる。
 2人の顔には、表面上迷いの色は無い。武を困らせずに送り出そうと決めた、その心のままに。
 そんな2人の心の内を知らぬ武は、極自然に声を掛けた。
 「これで本当のさよならだ。2人とも、元気でな」
 「ああ……武こそ、息災で。そなたの無事と、向こうの世界の平和を願っている」
 「私達の事、忘れないでね。私も武ちゃんの事、ずっと忘れないよ」
 「大丈夫だ。2人のこと、みんなのこと、忘れたりはしねぇ。生き抜いて、地球を平和にして、寿命で死ぬまでずっと覚え続けているさ」
 「ふふ、武らしい。これでお別れだな……」
 「ああ、お別れだ」 
 最後の最後――本当に最後の触れ合い。万感の想いを籠めた抱擁を交わし、別れの挨拶を交わす。
 「さようなら、武ちゃん。今まで楽しかったよ」
 「俺もだよ純夏。お前と一緒に生きてこられて、嬉しかったぜ」
 そして、純夏とも抱擁を交わし――最後に、3人で笑顔を交し合った。
 「じゃあな、2人とも。それにみんな。みんなの事は、忘れたりはしないぜ」
 最後にそう言い残し、武は歩き出す。
 既に後ろを振り返る事無く、武御雷へ向かって。
 「良いのか?」
 「ええ、後悔はありません。未練は有りますが、俺が選んだ道です」
 「そうか……。ならば良い」
 未練はある。あるが、それはどうしようもないことと、割り切った。選べる道は1つ、そして自分の選んだ道は、皆と交わることは無いのだから。
 武御雷に乗り込み、セットアップしてあったシステムを立ち上げる。既に準備は全て完了してあったので、操作1つで転移シークエンスが始まった。
 その様子を皆が見上げているのが、確認できる。
 重力波動の渦に飲まれていく中、武は最後に、皆に向かって武御雷の右主腕をサムズアップさせ、最後の挨拶を気取る。
 そして、その腕を最後に、武御雷は暗黒の次元の向こうに、飲み込まれ消えていったのだった。

***

 武達が消えて暫くの間は、沈黙が続いた。
 やがて、その寂しさを確認し、紛らわすかのような会話が交わされる。
 初めは、武が居なくなってしまったことに実感が湧かなかった皆であったが、話を続ける内に、じくじくとその現実感が押し寄せ、寂しさを募らせていった。
 特に純夏は、武を困らせまいと耐えに耐えていた涙が溢れ出し、顔を歪ませ嗚咽していた。
 そして冥夜も、武が去ってしまった虚脱感に、頬を涙で濡らしていたのだった。
 だが、そんな2人の側に近寄り、月詠は冥夜に声を掛ける。
 月詠のその表情は、何か重大な事を決心し実行しようとする、覚悟を決めた様相だった。
 「冥夜様」
 「なんだ月詠?」
 「これを御覧下さい」
 月詠の鬼気迫るような、静かな迫力を湛えた様相に、冥夜は何事かと顔を巡らす。その視線を確認した月詠は、持っていた箱を冥夜の目前に掲げ、その蓋を静かに押し開いた。
 「なんだこれは?」
 其処に入っていたのは、1本の試験管状の容器。箱の中は冷気で充満されていて、その中央に、件の容器が、確りと安置されていた。
 「これは、武さまの精子で御座います」
 「な……せい……。いや、武のだと!!」
 「え……!?」
 月詠の直球な言葉に、顔を赤らめさせる冥夜だったが、次の瞬間には驚愕して月詠に聞き返す。同時、それを聞いた純夏も、涙に濡れた表情を上げ、月詠の持つ箱を凝視する。
 「武様の精子を、最新の技術で保存してあります。私達が行うと、用途に感づかれる恐れがあった為、焔博士と香月教諭に頼んで、秘密裏に採取して貰いました」
 淡々と言う月詠の言葉に、段々と理解の色を示し驚愕の度合いを深めていく冥夜。色に疎い冥夜と言えども、この状況で月詠が何を言いたいのかは、解り過ぎる程に、解ってしまう。
 そして、月詠が述べた言葉は、その予想を裏切らない、そのままの言葉であった。
 「冥夜様、この精子を使えば、武様の御子を御生みになる事が可能です」
 武の子供。確かに、最新のテクノロジーを駆使すれば、それは可能だ。体内受精も、体外受精でも、武の子供を生むことは可能だろう。しかし――。
 「駄目だ……確かにそれには心動かされる。だが私は、次期御剣家党首の妻となる者、未婚の母となる訳には、お爺様の意向に背く訳には――」
 冥夜は、御剣家を背負って立たなければならない。先延ばしにされているとはいえ、結婚の話はほぼ決まっており、その人物を当主として、御剣家を盛り立てて行かねばならないのだ。
 これは現当主であり、絶対の力を持つ冥夜の祖父、御剣雷電の決めたことであり、冥夜はそれに逆らうことはならない。冥夜にとって、御剣家の家人としての務めはそれ程に重いのだ。
 だが、月詠はそんな冥夜を諭すように、焚き付けるように言い放つ。
 「冥夜様。私は、冥夜様に幸せに生きて貰いたいと想っています。そして、冥夜様にとっての幸せとは何かを考え、私が出した結論がこれであるのです。冥夜様の御意見も聞かず、そして武様をも欺き行動に移しましたことは、如何様にも罰して構いませんが、それでも私は、冥夜様の幸せがこれにあると思い行動に移したのです」
 「それは間違い無い、間違いは無い月詠。だが私は、御剣の家人としての役目を……」
 「冥夜様!、恐れながら申し上げます。冥夜様は、御剣家を纏める覚悟がありますでしょうか?」
 「なに!?」
 「私は、冥夜様ならば、御剣家を纏められると信じております。聞けば向こうの世界では、冥夜様の姉君の悠陽様が、征夷大将軍として国の威信を示したと聞きました。例え育った環境が違うとはいえ、冥夜様も同じ遺伝子を持ち、そして一角の人物であると私は確信しています。その冥夜様が、御1人で御剣家を治められない筈がありません。勿論、様々な苦労はあるでしょう、困難が襲い掛かるでしょう――ですが、冥夜様ならば、それを乗り越えられると信じております。不肖この月詠も、誠心誠意、全てを掛けて、冥夜様を手助け致す所存です。だからどうか冥夜様、己の願いを貫いてくださいませ。苦労ある道なれど、冥夜様にとっての幸せの道を歩んで下さいませ」
 「月詠……そなた…………」
 「雷電様が、冥夜様への干渉を控えています現在、今の内に子供を作ってしまえば、後は色々と遣り易くなると思います。雷電様も御慈悲ある方、出来た子供を無闇に堕胎させろとはお言いになさらないでありましょうし、冥夜様の決意が本物ならば、その意志を汲み取ってくれると思います。その道が険しくなるのは確実なれど、私は冥夜様ならば、確実に出来ると信じております」
 真摯に見詰める月詠の瞳の奥に、覚悟の煌きを見とめる冥夜。この行為が、雷電に対する明確な背信行為と解っていて言っている、正しく覚悟の進言だった。冥夜は、その覚悟と紡がれる言葉によって、思いが頭の中に氾濫する。
 月詠の言う事は、願っても無い事だ。出来ればそうしたい。苦労を背負う覚悟を負っても、武の子供を、武が居た証を宿したい。此方の世界のことは、既に武の感知することではなく、例え子供を作ったとしても武本人には迷惑は掛からないので、子供を作ること自体に躊躇は無い。だが、やはり祖父からの命令が、柵として纏わり付き最後の枷となる。
 「私は、私は武の……御爺様の……」
 究極の選択に、迷い戸惑う冥夜。
 そんな冥夜を見越した様に、月詠は目線を移し純夏へ話を振った。
 「それと……勿論の事、鑑様も御望みならば、武様の御子様を御産みさせることが可能でありますし、もし御産みになるならば、私達が全力で御援助させていただきます」
 「えっ……あの、月詠さん?」
 内容に戸惑う純夏に、噛み砕いて説明するが如く、月詠は落ち着いた声で語り続ける。
 「こんな風に言うと、打算的な考えとなってしまいますが、同じ境遇の方がいらっしゃれば――それが冥夜様の御親友の鑑様ならば、冥夜様も色々と安心御出来になるし、互いに励まし合いながら生きて行けると思うのです。鏡様ならば、特別な柵は無いので、きっとこの提案を受け入れて、武様の御子様を授かりになると確信している上での考えです。厚かましいかとは想うのですが、どうか冥夜様を御助けになっては頂けないでしょうか」
 直接的に言ってしまえば要するにそれは、子供を作ることからその後の援助まで、全てをバックアップする代わりに、冥夜の物理的な、心情的な、様々な事に関する手助けをしてくれということだ。
 勿論、月詠はそんなに直接的な事を考えて言っている訳ではない。冥夜と純夏は互いに親友なので、同じ境遇の者として互いに助け合って生きて行けると思っているし、それならば、月詠には如何しようも出来ない冥夜の様々な不安も、純夏と共にあることで払拭・軽減可能だと思っているのだ。
 最初は惚けた様にしていた純夏も、言葉が浸透して意味を考えるにあたって、それら月詠が言いたかったことが飲み込めてきた。
 純夏が、武の子供を欲しいと思うのは、間違い無く正解だ。武以外の子供などは考えたこともないし、今目の前にその手段があるのならば、迷う事無く欲しいと思う。そして、今目の前には本当にその手段が存在するのだから。
 例えどんな苦労を背負うことになろうとも、武の居た証を残し、女として好きな人の子供を生むという夢を実現させたい。
 そして、冥夜を手助けし、共に生きていくことも、喜んで受け入れることが出来る。
 援助をしてくれるというのは有り難い。子育てにはお金が掛かる、父親が居ない女が1人で子供を育てて行くのは大変なことで、援助してくれるのは大いに助かるのだ。だが、それは副次的なことで、やはり一番の理由は、親友の為だということだ。
 もし武の子供を生む場合、冥夜が辿るであろう道筋は困難の連続であろうと、純夏でも容易に想像できる。その道が、辛い道筋であろう事は確実だ。
 でも、それでも冥夜には、武の子供を授かる幸せを掴んで欲しい。
 見る限りでは――いや、冥夜が武の子供を欲しいと思っていることは確実だ。ならば、その願いを叶えさせてあげたい……叶えて欲しいのだ。同じ境遇、似た心情の者として、冥夜にも是非願いを叶えて欲しいのだ。
 経営的な事は自分には手助けできないが、その代わり、心情的なことならば幾らでも助けてあげたい。自分も大変かもしれないが、それよりもより大変な冥夜を助け、共に生きて生きたいと思う。
 「うん、いいよ月詠さん。私は武ちゃんの子供を生む。そして、冥夜と共に助け合いながら生きて行く」
 「純夏!!」
 「冥夜……。私には解るよ、冥夜は武ちゃんの子供が欲しくて欲しくてたまらないと思っている。本当はもう、答えなんか出ているって」
 「それでも……それでも私は!」
 「私はいいと思う、今回くらい甘えちゃいなよ冥夜。冥夜は、今まで色々頑張ってきて、これからも頑張っていかなきゃならないんだから。月詠さんだって、私だって、冥夜の幸せを望んでいる、手助けしたいと思っている。冥夜が当主となっても、きっと立派にやっていけると私は信じている。だから、願いを叶えて冥夜。好きな人の子供を生むことは、女にとって一番の幸せなんだから。例え一番偉い冥夜の御爺さんでも、文句は言わせないよ! もし反対するようだったら、私がガツンといってやるから」
 「その時は、この月詠も、雷電様に首を差し出す覚悟で直訴する所存です」
 握りこぶしを振り上げる純夏と、深々と礼をする月詠。その2人を見て、冥夜やはとうとう感極まってしまった。
 「良いのか……本当に私は、甘えてしまっても良いのであろうか?」
 「あなたなら大丈夫よ御剣」
 「ボクたちも、応援してるよ」
 「あんまり力になれないかもしれませんけど、私達も出来る限りお手伝いします」
 「頑張れ……2人共」
 展開を見守っていた、仲間達も、励ましの言葉を掛けて後押しする。
 「わ……私達も、精一杯御仕えしますっ」
 「一生懸命~努力します~」
 「失敗は多いですけど、誠心誠意頑張りますので」
 「神代、巴、戎、お前達……」
 月詠の部下3人も、誠意を込めて進言する。
 それら皆の心尽くしを受けて、冥夜は涙を浮かべながらも心を決める。自らの道を選び取る。
 「済まない……皆に心からの感謝を。私は、私は武の子供を生みたい、そして共に生きて行きたい。その為に私は、御剣家当主として生きて行く。月詠、恐らく多大な負担を掛ける事になろうが……」
 「先に行った通り、すべて承知の上です冥夜様。この月詠真那、全てを掛けて冥夜様に御仕え致します」
 「本当に済まない、心よりの感謝を。それに純夏……」
 「ふふっ、良いよ冥夜。私は――私達の幸せはこれなんだから、一緒に生きて行こう」
 「ああ……一緒に――」
 2人共に、天を見上げる。星が瞬く夜空に映るのは、既に居ない、愛する人の面影か……。
 向こうの世界に行ったであろう、武の事を2人は思い、そして誓う。
 「2人共、絶対に幸せになる」……と。
 
◇◇◇
追伸
 白銀武の事に関してだが、両親に説明を行って了解を取った。そして後に、ゲームセンターでの記録等を盾に、白銀武がその時生存していた事を証明。その数日前に遡った婚姻届を偽造した事を報告しておく。
 そして白銀武は、その数日後に事故で死亡したことにされ、両親もそれを承知して葬式まで出していたので、アリバイは完璧となっていた。こうして、世間一般への誤魔化しは成ったのだ。
 結婚したことになったのは、冥夜か純夏か、はたまたどういう手段を使ってか両人か……それは皆様の御想像に御任せしよう。
 唯、2人は苦労はあったが、幸せに生きて行った事だけは記して置く。


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