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[1128] マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/03/15 17:00
はじめまして通行人Aです。
はっきりいってタイトルどうりかっこいい二次創作作品になるかどうか
自信はありません。
タイトル自体未来への咆哮から引用してるだけですし。
でも完結目指してよい作品を目指してがんばりたいと思います。
なおオリキャラが主人公になりますので最強ものになってしまうかもしれませんができるだけ気をつけるのでそこらへんはご容赦を。



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/17 23:44
マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
序章
俺の名は衛。

御城 衛だ。

訳あってマブラヴの世界、それもオルタネイティブの世界にいる。

話せば長くなる、というよりわけがわからないと

いったほうが正しいのだろう。

あの日、俺はオルタをエンディングまで見て余韻に浸っていた。

俺ランキング過去最高作品だ、すばらしい作品だ。

オルタの世界で活躍してみたいとか、でも死にたくないから行きたくないとか、くだらないことを考えていた。

そんなことを考えていくうちに意識が薄れていったのだが、

次に気がついたのは俺が言葉もろくにしゃべれない、赤子の姿になってからだ。

正直わけが解らなかった。

しかもしゃべれないどころか、思考もろくにできない。

今みたいに俺として考えたりすることができるようになったのは

年が十に届いてからだ。

それまでは年相応の子供とは言いづらいが、とにかく子供思考だったのだ。

この世界にきた理由はわからないが、来てしまったものはしょうがないと割り切ることにしたのだが、

十歳になりいきなり精神年齢が上がった所為で、

おませな子どころか将来は国を背負って戦う英傑になるだろうとか、御家がでかいからものすごく期待されてしまった。

ここで俺が生まれた御家を話しておこう。

俺が長男として生まれた御城家とは、五代前に帝から直々に御城の姓を賜り代々将軍家直衛を任され、

そして帝国斯衛軍と城内省の将官、重鎮を当たり前に任された家だ。

なんで帝の直衛じゃないのか、わからんがとにかく、

そんな恵まれた環境で育ったのだが、いいことばかりではなかった。

徹底された英才教育、準戦時態勢とはいえ何時BETAに襲われてもいいように仕官教育、衛士としての体力、技術訓練。

それは生ぬるい生活をしていた俺には耐え難いことだった。

一に家のために殿下のために国のために、二に家のために殿下のために国のために、だ。

だがさっきも言ったが、十歳になるまで俺としての思考はろくにできなかった。

そのおかげでその環境に見事に順応したのだ。

耐え難きを耐え、凌ぎがたしを凌ぎ、俺は俺ではなくなったような感じだ。

実際一人称が今は“俺”になってはいるが話すときは“私”になっている。

こうしてみると冥夜みたいだなと、どうでもいいことを思いついてしまう。

話が少しそれてしまったがとりあえずものすごい家に生まれたのだ。

この家なら白銀武以上のことができると思考できるようになってから舞い上がったものだ。

しかし世の中というかなんというか何の因果かわからないが、俺の年が十五を迎えるころに急に御家が没落、

かろうじて家名が残っている状態になってしまった。

もちろん殿下の直衛の任などほぼ解任、一族の発言力どころかほぼ左遷にあい帝都にいられる状態ではなくなってしまった。

京から東京に遷都されてからもそれは変わらず、父上は94式不知火に乗り、明星作戦で戦死。

自動的に長男である俺が家督を継いだ。

正直この状態で家督を継ぐ意味など意味のないことなのだが出撃前の父上の言葉が妙に頭に残っている。

「衛よ、家が没落しても帝を…殿下を恨むでないぞ。我らの使命は殿下を将軍家をお守りすること、ひいては国を民を護ることだ

 御家が潰れようが一族が滅亡しようがそれだけは忘れるな」

あんだけ家のためにという言葉を頭にもってきていたのにいざとなったら殿下のため国のためだ。

正直いうと腸が煮えくり返りそうだった。

その所為かもしれないが“私”は家督を継ぎ御城家再興を果たそうとしているのわ。

もちろんこの世界オルタネイティブを救う事が最優先事項だが救ったあとも私は元の世界には帰れないだろう。

この世界で生を受けてしまった以上白銀武とは違うのだから。

なによりこの世界はもう私のいるべき世界なのだから。



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/12 12:46
2001年4月10日

「私は国際平和と秩序を守る使命を自覚し、厳正な規律を保持し…」

後ろから来る期待のまなざし、またはどうでもいいような視線。

「常に徳操を養い、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、責任感を持って専心任務の遂行にあたり」

政治的活動に関与せずか。

それをいきなり破っているも同然の私には、無意味な宣誓だ。

「事に臨んでは、危険を顧みず、身をもって責務の完遂に勤め、もって人類の負託に応える言を誓う!」

宣誓を終えた代表生、榊千鶴を、私は冷めた目で見ることしかできなかった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第一章


時を遡り2001年3月25日

城内省本部 とある将校の執務室

「私が国連の訓練校に入隊・・・でありますか?」


この部屋に来て雑談をするでもなく、突然切り出された。

将官…階級章ははずしている……の隣には何者か知らないが、小太りでスーツを着た男が立っている

格好からすると政府関係の者だろう。


「そうだ、幸い君はまだ我が軍の訓練校に入隊の宣誓してはいないからな、問題はなかろう」

「そうですが……国連に入隊する意味がわかりかねます。

 私は帝を、殿下をお守りするために帝国軍の訓練校に志願したのです。

 それがなぜ国連なのですか?」


私は御城家を再興するために、殿下の信頼を得る必要がある。

そのためには帝国軍、それも斯衛軍に入る必要があるのだ。


「それには勿論、深い理由があるのだよ」


将官が隣の男に視線を向けると、その男は頷き、口を開いた。


「君は元々殿下直衛をあずかる家系だろう?」

「…はい、そうですが……それがなにか?」

「そう君も将来は家があんなにならなければ、殿下の直衛になっていただろうな」

「・・・・・・」

「本当に残念なことだ」


この下郎が。

家のことを引き合いにだすな。


「それはさておき今度、国連横浜基地にとある人物が入隊することになっている」


この時期だと207訓練小隊のメンバーの誰かのことだろう。

だが、それを私に教えてどうする。

榊千鶴の警護か?それとも御剣冥夜様か?

いずれにしろ、国連のほうは白銀に任せたほうが効率がよいと踏んでいたのだが。


「その人物はな……元々殿下の直衛の家系である君なら容易に想像がつくだろう」

「御剣家のことですか?なら彼女の警護が任務ですか?」

「飲み込みが早いと助かるよ」


私の肩に手を置きながら、油が浮いた顔をニタニタ歪ませる。

眉を顰めそうになるが耐えなければならない。

ここで悪い印象をあたえては、今後どうなるかわからない。


「しかし、それは表向きの話だ」

「!?」


表向き!?

    ....
「君には姫様の警護、監視および万が一の処理をしてもらう」


まさか、そんな莫迦な!!


「莫迦な!!よりによって御城家である私に、

 そのようなこと大それたことをしろと申されるか!?

 ふざけたことを申されるのは大概にしてください!!」


“俺”なら今のようなことを言われてもなんとも思わなかっただろう。

しかし“私”にとっては死活問題なのだ。


「落ち着きたまえ御城君、万が一は起きないからこそ万が一なのだよ」


その万が一を起こすき満々のくせして、どの口でしゃべってるんだこいつは。


「それに何も只でやれとはいわんよ、それなりの報酬は用意するつもりなのだが」

「いくら銭を積まれようがお断りします」


 くるりと背を向け、ドアノブに手を掛けようとすると後ろから溜息が聞こえる。


「御家再興の約束ではどうですかな?」


その瞬間私は止まった。

何故止まった?

何故止まってしまったんだ?

ドアノブをまわすして歩いていくだけでじゃないか。

そうすればいい。

そうすればこんな胸糞悪い任務など受けなくてすむはずだ。

でもできない。

動け!動け!動け!!

時間にしてわずか数秒のことだろう。

体は確かに動いた。

だが私は意志とは反して男に向き直り、口を開いていた。


「どういうことですか?」


男は思いどうりの反応が帰ってきたことに内心、狂喜していることだろう。

口端を吊り上げ満足そうにしている。


「いやなに、この任務を受けて成功すれば、御家再興を議会どころか殿下に上申してもよい、ということですよ」


こんなに悔しいと思ったのは戦術機の模擬戦で負けて以来・・・いや、それ以上だ。

この薄汚い豚の口車にのり、殿下の妹君の監視を御家再興という餌で釣られている自分が情けない。

一方でこの話に乗った方が殿下の信頼をえられるには最も早く、12.5事件に深くかかわりやすいと計算している自分がいる。


「ああ、それにもう選択肢はこれしか残っていない。お分かりですな?」

「・・・・・・分かっています。喜んでとはいいかねますが任務を拝命させていただきます」


返事に男は大仰に頷く。

事態の成り行きを見ていた将官・・・この人もグルなのだろうが口を開く。


「では御城衛君、明朝1000に東京駅に停車している送迎車に搭乗、

 国連軍横浜基地に向かい、別命あるまで訓練生として動き、御剣冥夜を警護および監視しろ、

 なおこの任務は非公式の物だ、くれぐれも慎重にな、以上」


こうして私は政府の犬になり、御剣冥夜の首もとを狙う刃物になった。

この任務を実行するかどうか正直迷っている。

土壇場で任務放棄する気もある。

クーデターで大本が殺される可能性も高い。

それに非公式の任務なのだから、裏切っても刺客が送ってこられる程度だろう。

もしかしたらそれすらもないかもしれない。

しかし御家再興、この言葉が現実的なものとなった。

もしもクーデターで殿下に近づけなかったら?信頼を得られなかったら?

この期を逃すとあと何十年かかるか分からない。

……短慮な所為で選択肢を減らしてしまった。

人類を救う為の選択肢も狭め、なおかつ御剣冥夜という重要な人物の運命を左右することになってしまった。

御家再興、人類救済、この二つを両立をするにはどうしたらいいのだろうか?



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/12 13:05
「衛さ~ん、みんなと一緒にPXいきませんか?」


午前の訓練が終わり、珠瀬壬姫が私を誘いに来た。


「……後で行くから先に行ってくれぬか?」

「んー……わかりました。先に行ってますから早くきてくださいよ」


そういうと皆のところに駆け足でいく。

その後姿を見ておもわず溜め息をついてしまった。

私は何をやっているのだろうか?


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第一章その二


人類の未来、御城家の未来。

どちらの未来がより大事かと聞かれれば、人類の未来と答えるだろう。

しかしそれに反して、私は結果として御家再興の近道を取った。

客観的にみれば人類救済のやり方が少し変わっただけなのかもしれない。

だが私にとって殿下を裏切り、人類の救済を二の次にしたも同然だ。

……国連横浜基地訓練校に入隊し、早くも二つの月が過ぎた。

207訓練小隊B分隊に配属になった私だが、歴史を大きく変えるような出来事を

起こしてはいない。

やったとすれば私の能力をできるだけ見せつけ、隊内での士気、能力向上を促したにすぎない。

しかし、私は皆の信頼を得ているというわけではない。

積極的にかかわろうとしていないし、なにより冥夜様を避けているからだ。

万が一の場合がおきたときにできるだけ皆に心傷をあたえたくないから

他の皆も避けている。

正直つらくないといえば嘘だ。

憧れのオルタ世界の人物と仲良くやろう、というのも最初から頭のなかにあったのだから。

しかし、さっきもいったようにそれはできない。

やろうとすれば皆を深く傷つける可能性がある。

こんな風に考えていても、ろくな事はないだろう。

その予感はいま的中してしまったようだ。

通路を曲がろうとした矢先に書類の山が目に飛び込んできた。

あっ、ぶつかるな。

などと考えてる間に顔面にものの見事に激突し、書類が乱舞する。


「きゃっ」


可愛らしい声が聞こえてくる。

どうやら書類を運んでいる女性、それも正規軍人の方にぶつかってしまったらしい。

そのせいで尻餅をついてしまったようだ。

私としたことが……おっと、こんなことを考えてる暇があったら助け起こすべきか。

階級は・・・中尉か


「大丈夫ですか――中尉?」

「あいたた……いえ、こちらこそ失礼しました」


差し出した手をとりながら金髪の女性仕官は非礼をわびてくる。


「いえ、こちらがよく前を確認せずに歩いていたのが悪いのです。

 よければ書類を拾うのをお手伝いさせていただけますか?」

「はい、それではお願いします」


ドキッとした。

別に笑ったわけでもないのに私は魅了された。

その引き締まった顔はとても凛々しく綺麗だった…。

………はっ、私は今何を考えていたんだ?


「どうかしましたか?」

「いえ、別に何も」


感情のコントロールはマスターしたつもりだったがまだまだのようだ。

日々これ精進。

照れ隠しにいそいそと書類を集める。

ん?これは。

その中の一枚に見覚えがあった。

そうそれは00ユニットに関する理論文章だった。

しかし、私には理解できない数式が書かれているだけで意味を成さないものだ。

見てみぬ振りをして書類をまとめる。


「ハイ、これで最後です。でもいくらなんでも多すぎませんか?

 いくらか持ちましょうか?」

「いえ、大丈夫ですのでお気になさらずに」

「どう見ても大丈夫ではないじゃないですか。半分持ちますので」

「……仕方ありませんね。では半分お願いします」


少し困った顔をした後に承諾してくれた。

でもこれはひどい。

半分にしても、中尉の顔が見えなくなるくらいだから相当な量なのだ。

ここまでくるのに無理をしていたのは容易に想像ができる。

いくら軍人でもこの量は堪えるだろう。


「しかし中尉、よくここまで誰にもぶつからずにきましたね。

 これ、けっこうな量ですよ」

「!い、いえ別に」

どうしたんだ?

中尉は書類で顔を隠して、なにやらそわそわしている。


「どうかしましたか?」

「……いえ、なんでもありません」


私が何かしたのだろうか。

中尉はさっきからチラチラと書類を見ている。

よく見ると書類は全体的に少しよれよれになっている。

……ああ、なるほど。


「気にすることはありませんよ。そういうことはよくあることです」

「っ、ありがとうございます。ですが上官をあまりからかうのはよくありませんよ、御城訓練兵」

「了解です、中尉」


別にからかってるわけではないのだがな……ん?


「あれ?私、自己紹介しましたか?なぜ私の名を?」

「それは私が副指令の秘書官をやっているので、訓練兵のデータは見る機会がありますので。

 特にあなたは成績優秀だから覚えているんです」

「へえ、お美しい中尉に覚えていただきご光栄ですね」

「……さっきの言葉忘れましたか?」

「いえいえ、これは本音ですから」


中尉はすこし目じりを吊り上げている。

やはりからかっているようにしか聞こえないのだろうか?

しばらく雑談しながら歩いているとエレベーターホールにたどり着く。


「ここまででいいです。ここから先はセキュリティーレベルが高くなるので

 あなたのIDでは入れませんから」

「そうですか。では中尉また雑用があったのならいつでもお呼びください」


書類を渡そうとしたそのとき、


「あら中尉じゃないの?」


振り向くとそこには白衣を着た美人、香月夕呼副司令が立っていた。

副司令はつかつかと歩み寄ってきて中尉に近づく。


「悪いわね。ちょっと書類の量が多すぎたかしら?」


私の持っている書類と中尉の書類を交互に見てぼやく。


「にしても中尉もやるじゃない。書類を使って男釣るなんて」

「そういうわけではありません」

「もう相変わらずお堅い反応ね」


私はどういう反応を返せばいいのだろうか。

目を白黒させていると、副指令はこちらに向き直り値踏みするように視線を動かしている。


「容姿も悪くはないみたいだし、本当はどうなの中尉?」

「しつこいと怒りますよ」

「はいはい、わかったわよ。んで、あんたはなんて名前なの?

「御城衛訓練兵であります」

「敬礼はしなくていいから。あんたが御城か……報告は見たはなかなかの成績をだしているようね」

「はっ、お褒めに預かり光栄であります」


さっきも中尉が言っていたが副司令にも私の名が耳に入っていたか……。

さてどの程度興味を持っているのやら。


「……ちょっと聞きたいことがあるわ。ピアティフ中尉、書類は全部訓練兵にもたせて私の執務室に案内しといて

 少しやることがあるから待たせておいて頂戴」

「了解しました。では御城訓練兵こちらです」


正直、意外といったら意外だが、よく考えたら当たり前なのかもしれない。

御城の名は日本人でもしっているのは少ない。

だが組織の上層部となれば話は別だ。

殿下の元直衛、さらに没落したとなれば有名にならないわけがない。

さらに帝国軍ではなく、国連に入ったのなら副司令の耳に入らないわけがない。

何を目的に国連に入ったのか、それくらいは聞いておきたいのが本音だろう。

考えているうちに執務室前に着いたようだ。

さっきはあまり気にしなかったが、何気に命令どうり書類を

私に持たせているとは中尉、あなたは結構人使い荒いですね。

目を向けると中尉が何事もなく歩いている。

…まあいいか。

中尉がIDカードをかざして扉を開ける。

空気が抜けるような音とともに扉が開く。

机の上に積まれた書類、床に散らかっている本が目に飛び込んできた。


「……で中尉、書類はどこに置けばよろしいですか?」

「机の上にお願いします」

「ごもっともで」


こんな会話に意味はないのだが、中尉もこの散らかりようには参っているようだ。

まあ、オルタネイティブ4の研究関連のものだろうから仕方ないのだろうが。


「そこのソファにおかけください。お茶だしましょうか?」

「ああ、お構いなく」


何も訓練兵である私にそこまで気を利かせなくていいのだが。


「そういえば自己紹介はまだでしたね。わたしはイリーナ・ピアティフ、階級は中尉です。

 以後お見知りおきを」

「そんなにかしこまらなくてください。私はまだ任官すらしていないヒヨコなのですから」

「いえ、これも礼儀のひとつですから」


外国の人ながら礼儀正しい人だ。

米国は日本に見切りをつけさっさと撤退したが中にはいい人もいる。

これはどこの国でも言える事だろう。

逆の意味であの下郎もそうだ。

いや、いま考えるのはよそう。

雑談しているうちにピアティフ中尉は普段は司令塔勤務のオペレーターをしているらしい。

兼任で副司令の秘書(こちらのほうがメインみたいだが)をしており、さっきみたいな雑用を任されることもしばしばあるらしい。

いろいろと話しているうちに長い時間がたっていた。


「少々遅いですな。副司令も多忙のようで」

「もうそろそろだと思いますが」


噂をすればなんとやら、入り口が開きご本人のご登場だ。


「……もうすこし遅れてきたほうがよかったかしら?」

「副司令、冗談もほどほどにしていただけますか?」

「んもう、まんざらでもないくせに~。まあ、それよりも待たせたわね」

「いえ、それなりに有意義な時間でしたから」


その言葉を聞くと副司令はニヤニヤし、逆に中尉はキッと睨んできた。

もう少し言葉を選ぶべきだったか?


「まあいいわ。それじゃ中尉、少し席をはずしてくれないかしら」


どうやら本題に入るらしい。

中尉が出て行くと執務をする椅子に座り、手招きをする。

机の前に来いということらしい。

おとなしく言われた通りにその場に立つ。


「回りくどい言い方は面倒だから、単刀直入に聞くわ。

 御城家の人間が国連に何用なの?」

「それは愚問でしょう」

「そう確かに愚問ね」


お互いこの会話は茶番でしかないことをわかっている。

だがここからが本番だ。


「だけど御剣には帝国斯衛軍第19独立警護小隊が配属されている。

 あなたがいる価値はほぼないわ」

「でしょうね」

「ならなぜあなたはいるのかしら?不必要な警護任務に就く理由は他にあるんでしょう?」


まさかここまで直球で聞いてくるとは思わなかったな。

どうごまかすかな。

それともありのまま話して反応をたしかめてみるか?


「・・・ひとつ聞いていいですか?」

「…いってみなさい」

「その質問は国連軍としての質問ですか、それとも個人としての質問ですか?」


本当はどちらでもいいのだがあえて思わせぶりにしておくか。


「どちらかといえば個人としてね。御剣が何されようが国連にとっては一人の訓練兵に

 かまう意味はないからね」


やはりそうだろうな。

オルタネイティブ4の予備とはいえ、一人死んだところで大した損害では

ないのだからな。


「ならば一言だけ…御家再興のためです」


あからさまに不満なご様子だ。

しかし本当のことだし、嘘ではないからな。


「ふ~ん、そう、まあいいわ。さっきも言ったけど、あなたが何しようがかまわないけど

 私に害を及ぼすようなら即始末するから、そこのとこ注意しなさいよ」

「肝に銘じときますよ。他にようがないならそろそろ行きますが、よろしいでしょうか?」

「ああちょっと待って、もうひとつあるのよ」


もう話すことはないと思っていたのだが・・・なんだ?

背を向けて歩こうとしていた体を元に戻し、改めて正対する。


「神宮寺軍曹から聞いているのだけどあんた成績は優秀だそうね」


先程も同じことを言われたが今度はなんだ?

オルタネイティブ関係はありえないだろう。

特殊任務を頼まれるにしてもいささか不自然だが。


「しかし同期生とはあまり関係をもとうとしない。

 そのおかげであなたは孤立とまでいかなくても、

 信用はあまりなし」

「何が言いたいのですか?」

「別に何も、それよりこれからが本題よ。七月の終わりに総合戦闘技術
評価演習が

 あるのは知っているわね?」

「はい」

「その演習であんたには妨害工作をしてほしいのよ」


今この人はなんていった?


「妨害・・・ですか?」

「そう、妨害よ」


妨害だとなぜ・・・愚問だ。

彼女たちの素性を知っていれば当然だ。

彼女たちには前線にでて死んでしまわれると帝国との関係が悪くなる。

その為には訓練を延々と続けてもらった方がいい。

そういうことだ。


「この為にわざわざB分隊に組み込んだのですか?」

「あら、妨害する理由は聞かないのね」

「彼女たちの素性を知っていれば当然です」

「へえ、なかなか頭回るわね。まあ半分そうね。もう半分もわかるでしょう?」


無論だ。

あの下郎が裏から手を廻したのだろう。


「それで私にどの様に妨害しろと?」

「そんくらい考えなさい……といいたいけど、こればかりは基地司令の面子がかかっているからね。

 怪我をさせない程度に作戦をかき回して、チームを空中分解させる。こんなところね」


それが妥当だろう。


「了解しました」

「あっさりしているわね。まあこちらとしてはありがたいことだけどね。

 じゃあ、これからちょくちょく私のところに呼ぶことになるだろうから

 ピアティフ中尉を連絡係にするからよろしく。

 彼女のIDでここまでくるようにして頂戴」


これが狙いで中尉と一緒の時間を作ったのか。

やはりこの人は侮るわけにはいかないな。


「それとあなたは私直属の特殊部隊に登録しておくわ。

 でも名義だけだからほぼ訓練兵と変わらないけどね。

 これからよろしくね御城」


そういいながら扉に指を向ける。

出て行けということらしい。

おとなしく出て行くと入れ替わりにピアティフ中尉が入っていく。

それはどうでもいいのだが、自分でどんどん草鞋を増やしていくのはいかがなものかと思う。

今回のは履かないと、後々面倒なことになりそうだった。

それに副司令に近づるというメリットを逃すわけにはいかなかったのも事実。

幸い皆を避けていたおかげで巡ってきたものだ。

しかし良心が痛む。

いくら人類の救済の選択肢を広げるためとはいえ、仲間を欺くこと、裏切ることはつらいものだ。

白銀武がくるまでは当分こういう状態が続くのだろう。

10月22日が早く来ないだろうか……。

……そういえばPXに行くのを忘れてた。



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/12 13:14
「四分二十九秒……また記録更新だな」


丁度今、小銃の分解組み立て実習を終えたところだ。

少し前なら皆、褒めていてくれたのだが、今はそんなことはない。

だからといって妬んでいるわけではないのはわかっている。

そこまで卑しい人柄の者はここにはいない。

ただ慣れてしまったのと私が避けているのが原因だ。

避けているから積極的に声を掛けてくるわけもない。


「マモル~」


……只一人の例外を除いては。


「いつもすごいね。やっぱりコツとかあるんでしょう?教えてよ」


青い髪のボーイッシュな感じの娘、鎧衣美琴が話しかけてくる。

あの珠瀬すら私を避けはじめているのに、この娘だけは会ったときから今まで

態度を変えていない。

彼女のおかげで罪悪感が薄らがないのはありがたいことなのか、迷惑なのかよくわからない……。

とりあえずいつもの様に追っ払うしかない。


「……コツなどはわからないが、反復して練習していればいずれできるようになる。

 試し撃ちをしたいので、これで失礼する」

「あっ、ちょっと待ってよ」


無視してさっさと廊下にでていく。

傍から見たらただの素行不良者だな。

自然に顔が歪む。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第一章その三


今回で十二回目だろうか。

さして広いというわけでもない、教官室に私はいまいる。

もちろん説教のためだ。

協調性がたりないということを神宮寺教官にいわれ続けている。

教官は私に協調性、チームワークの大切さを説いてくれる。

そのことはわかっている。

伊達に英才教育を受けたわけではないのだ。


「御城!!聞いているのか!?」

「……聞いております」


教官もこの反応にはなれてしまったのだろう。

肩を落とすと目の間を揉み解し始める。


「もういい……いっていいぞ」


ぞんざいに空いた手であっちにいけと促す。

申し訳ないとは思うが、今は協調関係を築くわけにはいかないのだ。


「では失礼します」

------------------------------------------------------------

御城がでていったあと、神宮寺まりもは背もたれに体を預け、

溜め息を豪快につく。

御城衛、詳しいことは知らないが名家の出らしい。

成績優秀、人格に問題なし……とはいえないが、決して悪い人物ではないのは

長年教官をやって養った眼でみればわかる。

だがなぜか周囲に壁、それも有刺鉄線をつけて絶対に人を近づけない。

特に御剣冥夜には絶対に近づこうとしない。

私や呼び出しに現れるピアティフ中尉、香月副司令にはそうでもないのだが。

さてどうしたものやら。

------------------------------------------------------------

同時刻 PX

「それにしても御城はなぜあのような態度をとるのだろうか?」


昼食を食べているうちに突然、冥夜が話題に持ち出した。


「いきなりどうしたの冥夜さん?」

「珠瀬もおかしいとは思わんのか?」


御城の態度は少々おかしい。

それは207小隊B分隊のメンバー全員が、思っていても口に出さなかったことだ。


「これは詮索無用のルールとは違い、チーム全体の問題だと思うのだが?」

「確かにそうね。総合戦闘技術評価演習も近いし、協調性の欠如は問題だわ」


そう、これはチーム全体の問題だ。

しかし、それを抜きにしても冥夜は気にしていた。

意図的に私を避けている。

この前も彼に座学のことで、少々気になることがあって相談しに行ったのだが

淡々と議論し、終わるとさっさと逃げるようにいってしまうのだ。

その間、目をあわせるどころか顔すら見ようとしなかった。


「……協調性がないのはあたしも同じ」

「でも、慧さんはちゃんとここにいるじゃない」


鎧衣の言うとおりだ。

今彼は教官に呼び出しをされて、この場にいないが、普段も滅多に仲間と食事を取ろうとしない。


「能力はずば抜けていて、兵役の経験があるのかと問えば、父の手解きだと答える。

 それ自体に問題はないが、なぜこうも私たちに壁を作るのだろうか?」

「何か理由があることはたしかだけど……」


榊が言いよどむのもわかる。

その理由を聞く隙がない。

聞くことができても答えないだろう。

やはり私たちを避けるのは特殊任務関係なのだろうか?


「……隣いいか?」

「!?」


振り向くといつの間にか御城が立っていた。

一体何時きたのだろうか。


「あっああ、かまわぬ」

「……失礼」


椅子に座ると合成カレーを食べ始める。

今の話、聞かれたか?

場の雰囲気重くなったのを感じる。

周りは騒がしくても、ここのテーブルだけは無人の荒野みたいに静かだ。


「マ、マモル、教官のお説教はどうだった?やっぱ怒鳴られたかな」


鎧衣が場の雰囲気を変えるため話題を提供してくる。

鎧衣の存在はこういうときに本領を発揮する。


「確かに神宮寺教官には、色々言われて終いには怒鳴られたが、もう慣れたな」

「そうなの?それより総合戦闘技術評価演習近いけど、マモルは大丈夫かな?」


!!鎧衣さすがにその話題を今出すのはまずいぞ。

案の定、榊や他の皆も再度固まってしまった。

御城のほうも肩をピクッと動かした。

やはり先程の会話を聞かれていたか?


「……問題はない。それよりそちらはどうなのだ?」

「す、少し緊張しますね。初めての野外演習ですから」

「そうか……」


珠瀬の答えを聞くとそれっきり黙りこんでしまう。

またもや空気が重い。

ただ食べる音が聞こえるだけで誰も話をしようとはしない。


「ごちそうさま。お先に失礼する」


結局、空気が重いまま御城は食事を終え、席を立ってしまった。

その後も御城の話題をだすことはなく、午後の訓練が始まってしまった。

------------------------------------------------------------

やはり怪しまれているか。

PXにつくと207B分隊の皆が私のことを話していた。

あからさまに避けているからあたりまえか。

総合戦闘技術評価演習。

この難題の前に仲間の不安を片付けておきたいのだろう。

それに冥夜様が私のことに感づいているのか?

冥夜様は御城家については何も知らないはずなのだが……。

まあいい。

わかったところで私の任務のことにはたどり着くわけがない。

月詠中尉は別だろうがな。

午後の訓練を終了し、日が落ち、月が出た。

月明かりを浴びながら先日のことを思い出す。

偶然彼女らに会い、詰問をされた。

我々が殿下に直々に任命されたのに、なぜ政府がそなたまで警護によこしたのかと言う内容だ。

御城家である私が志願してもおかしくはないだろうと答えると、

凛々しい顔を厳しくし、哀れむような目で見てきた。

私を哀れむか。

たしかに哀れなのだろう。

御家再興という言葉を口にはしなかったが彼女にはわかったのだろう。

それを成し遂げようとする手段はわからずとも、私が背負っている物がどれだけ――。

やめておこう。

その先を考えるとどうにかなりそうだ。

その後、彼女は冥夜様になにかあれば貴様を殺す、と言って去っていった。

何時来るのかわからない執行命令。

裏切り行為を緻密に計算している自分。

これじゃあ、白銀武をヘタレと莫迦にできる立場ではないな。

ふ、と夜空を見上げる。

私の心のうちなど気にせずに夜空の月はきれいに輝いていた。



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/12 13:22
目の前に広がる美しい青。

小さな潜望鏡でしか見えないが、そこは美しかった。

現在、小型潜水艇を操り、とある南の島に上陸しようとしている。

海の宝石、珊瑚礁。

自由気ままに泳ぐ熱帯魚。

……とうとうこの日が来てしまった。

総合戦闘技術評価演習。

今まで養った基礎のすべて発揮し、与えられた仮想任務をこなす。

これを合格すれば、晴れて衛士としての訓練、戦術機の操縦訓練に移行する。

とはいえ、私がいる限り、絶対それはありえないのだが。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第一章その4


時間は遡る。

南の島にバカンスに行く三日前の副司令室。

私は妨害工作の打ち合わせに来ていた。

妨害工作の打ち合わせは何回か行ったが、今回はこれで最後だろう。


「確認するけど、任務とはいえあなたも一応参加者だから地形、仮想任務内容は教えられないから

 よろしく。妨害は怪我をさせない程度にしなさい。その他は自由にしていいから」

「了解です副司令」


足を組みながら椅子に座り、ペンを指で弄びながら香月副司令は言ってくる。

前回もその前も同じことを言っている。

本当はこの打ち合わせ自体は無意味なのだ。

只単に私の意志の確認を行っているに過ぎない。

実際、任務のことは確認したらほぼ話さない。

そのかわりに聞いても返ってこない私への詰問をする。

それかピアティフ中尉をまぜてからかうことをするだけだ。


「それはいいんだけど、中尉との仲はどうなわけ?」


今回は詰問もなしですか。

ニヤニヤしながら聞いている姿を見ていると、香月夕呼という人物はこんな

人柄だったろうかと首を傾げてしまう。


「まだそんな関係ではありませんよ」

「あら、まだということはそういう関係にはなりたいとは思っているのね?」


……失言だった。

この場にピアティフ中尉がいたなら凛々しい目を三角にして、私を睨みつけたに違いない。

最近では、連絡係以外にも会う機会が増え、立ち話をすることが多くなった。

しかし、今だに食事には誘えていない。

というより誘っていないのだ。

他にもっと仲良くしなければならない者たちがいるのに、

中尉だけに特別に仲良くするわけにはいかない。

そこのことは中尉もわかっているのかもしれない。


「……あんた今、仲間を裏切っているとか考えてるでしょう?」


顔に出ていたか。

いや、出してなくても副司令にはわかるのだろう。

私以上に、同じようなことをしているのだから。


「そんなこと考えてるときりがないわよ。割り切りなさい」

「…解っています」


ピアティフ中尉も同じことを言ってたな・・・やはり中尉は副司令の影響を受けてるんだろうな。

そして、心に暗い靄がかかったまま南の島に赴いたのだ。

-----------------------------------------------------------------

時は戻り、砂浜にて


「は~い、ご苦労様、やっときたわね。ハイ、これ命令書ね」

「命令書たしかに受領しました」


…おもいっきり寛いでいますね。

ハイレグを着て、シャンパンを片手に持っている。

しかし、副司令が慰安の意味も含めてこの演習に参加するのはいかがな物か…。

研究のストレスが相当たまっているのはわかるのだが、

上に立つ物として、もう少し威厳という物を持っていただきたい。

横で立っている野戦服姿のピアティフ中尉が可哀想ですぞ。

そのご本人は微動だにせず、私のことを厳しい眼差しで見ている。

……どうやら任務遂行を祈るということらしい。

私の心配もしてくれると嬉しかったのだがそうもいくまい。

ここまできて任務放棄はするわけにはいかない。

どちらにしろ、やらなければならない理由がある。

白銀が来るまで、大きく事象を変えるわけにはいかないからだ。


「御城さ~ん、装備を配るからきてくださーい」

「……今行く」

-----------------------------------------------------------------

「本作戦は、戦術機、無人兵器が使えない状況下で、

 いかにして敵地から情報収集をし脱出、本部に情報を届けることを想定した物である。

 脱出を第一優先目的にする」


神宮寺教官から今回の演習の作戦説明を受けている。

どうやら大まかなことは“次”の演習とは変わらないらしい。


「それに伴う偵察は地図中に記した敵陣地である。敵の戦力情報確認を第二目標とする」


目標破壊の変わりに偵察行動になっているのか。


「期限は144時間だ。では時計を合わせる」


仲間への裏切り行為が始まるカウントダウン。


「・・・57、58、59、60!作戦開始!」


私の裏切りが今始まった。

-----------------------------------------------------------------

場所は変わり、

城内省本部 とある将校の執務室

以前、御城が訪れた部屋に二人の人影がある。

そう御城が下郎と称した小太りの男と、この部屋の主である将官である。

二人は文字どうり密談を行っていた。


「本当に今回は執行を見送るのですか?」

「仕方あるまい。今はまだその時ではないのだからな」

「しかし、演習中の事故死が一番確実な方法なのですが……」

「それはそうなのだが、早すぎるのだよ」


肉づきのいい指、人差し指をよこにふりながら下卑た笑みを浮かべる。


「確かに演習中の事故死はもっとも簡単な処理方法だろう。

 だが時期が早すぎるのだ」


まだ早い。

その言い回しがすきなのか何回も繰り返し言う。

将官はここにきて、聞き返してくれることを、この男は望んでいるのに気づく。


「まだ早いとはどういうことですかな?」

「君も将官だろう、それぐらいわからんのかね?」


黙れ!この豚が!

将官はこの豚を好いているわけではない。

この男と組んでいる理由は利害が一致しているからにすぎない。

将軍である殿下に双子の妹、世を分ける忌児がいることに我慢ならないからである。

このことを知ったのはこの豚が持ちかけてきたからだ。

最初は不忠な輩だ、成敗してくれると激怒したが、

証拠という証拠を見せられ沈黙する。

元々将官は厳格で性格であり、しきたりを重んじ、双子を忌み嫌っていたのだ。

本来、冥夜は生まれたときに殺されてもおかしくなかった。

遠縁の御剣家に養子に出され、国連に入った。

それで殿下に、政府に心配を掛けさせるとは何事か!?

双子だということが怒りを呼んだ。

しかし殿下を憎むことは不忠だ。

なら公式には認められていない妹なら、憎んでも不忠にはならない。

ましてや心配の種を摘むことは、最高の忠義ではないのか?

こう考えた将官はこうして、この陰謀に手を貸しているのである。


「まあ、よかろう。何、簡単なことだ。

 処理はいまやると怪しまれるのだ。

 あの没落者に警護と称して張り付かせたが、斯衛に睨まれておるのだ。

 そこでいきなり殺したらどうなるか?

 あやつが殺されるだけならいい。

 だがあやつが自白剤なり、なんなり使われて、我々のことを吐かされる可能性が高いわけだ。

 あいつから喋る可能性もないとはいえんが……そこは二つ保険がきいているから大丈夫だろう」

「二つ?」

「ああ、言っておらんかったな。ひとつは御家再興。

 もうひとつは、あいつの妹をちょっと借りているのだよ」


この肥溜めが!!

いくらなんでもやりすぎではないのか!?

こやつは日本人として誇りも何もないのか!?


「話がそれたな。

 ええと、どこまで話したかな?

 ああ、そうそうばれるとまずいの下りだったな。

 だからもっと時間をおいて、マークに綻びが生じたときにやらせるのだ。

 そうすれば奴の逃亡できる可能性があがる。

 そして帰ってきたところで……ボン!だ」


手で表現しながら高笑いを始めた。

自分の描いた脚本の内容に悦にはいっているのであろう。

将官はこの時、御城に心から侘びをいれることを誓う。

戻ってきたときはお前の変わりに、この肥溜めを殺すことを誓った。

しかし最も正さなければならないことには、気づいていなかったのである。



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/12 13:33
覆い茂る草を掻き分け、ぬかるんだ地面を慎重に進む。

敵地潜入偵察任務、今回の総合戦闘技術評価演習で与えられた仮想任務。

スタートから既に3日、正確には75時間たっただろう。

時計など見ている余裕はみんなはない。

私は幼い頃に同じようなことをやらされたので、時刻を確認するだけの余裕を持てている。

父上がなんでサバイバルまでやらせるのか、意味がわからなかったが

今ならそれがわかる。

飢え、乾き、敵に見つかるかもしれないというストレスによる精神の極限状態。

これを経験しているのとしていないとでは、全く違う。

しかし、いくら経験をしているとはいえ、全く堪えないわけではない。

現に私は目を血走らせ、興奮ぎみである。

ただ欲求を理性で無理やり押さえ込み、冷静さを保つことを教育された。

そうすることで集中力を保ち、敵の襲撃や小川の水が流れる音などを聞き逃さないようにする。

それを肌で感じさせられ、私の血肉となった。

だが彼女たちはそうもいかない。

当然、こんな極限状態は初めてだし、もともと温室育ちのお嬢様たちだ。

まあ、彩峰、鎧衣はわからないが。

鎧衣を除いた彼女たちはすでに個人差はあれど、首を鶏みたいに左右に小刻みに動かしている。

傍から見て警戒しているようにもみえなくもないが、集中できていない。

証拠として、榊は掻き分けた草に足をすべらすし、珠瀬は鳥の鳴き声に過剰に反応している。

いくら私の影響で基礎能力が向上しているからといって、精神鍛錬をしたわけではないのだから仕方がない。

冥夜様も落ち着いているように見えるが、鎧衣にトラップの存在を指摘されないと気づけないくらいになっている。

……この分だと私が何もしなくても、不合格になりそうだ。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第一章その5


あれから約1時間行軍した後、小川を発見。

現在休息中だ。

水を見るなり、飛び込む勢いでみんなは川に群がった。

そのおかげで私と鎧衣が自動的に周囲警戒のため、歩哨をしなければならなかったが。

しかしこれで2日は水には困らない。

今日の食料も確保できる。

ストレスの解消により、明日以降は集中力を保てるだろう。

……これで私が妨害しなければならなくなったが止む終えない。

もしあのままの状態を放置していたのなら、脱水症状や熱中症、

はたまたストレスによる精神病になっていたかもしれない。

ましてや冥夜様がそんなことになったら、父上に顔向けできなくな……今でも十分できないか。

口を自嘲の笑みでかたどる。


「何笑っているの?」


横からの声に反射的に小銃(今回の演習での装備のひとつとして、最初から組み込まれている)を構える。

そこには彩峰が立っていた。


「……なんだ彩峰か、何か用か?」

「歩哨の交代、休んでいいよ」

「わかった。休ませて貰う」


構えを解き、銃を肩に担ぐとゆっくりと歩き始める。


「……ところでなんで笑っていたの?」


珍しいこともあるものだ。

彼女から話し掛けてくるとは、それもこの私に。


「いや、大した事じゃないさ。水が確保できたおかげで渇きを癒せると思うと、な?」

「……そう」

「話はそれだけか?ならもう行くが」


返事がない。

承諾ということか?

再び歩みを再開させようとする。


「私を含めてどう思う?」


再び歩みを止めさせられてつんのめりそうになる。

一瞬、彼女たちのことをどう思っているのかということを言っていると思った。

だが状況からすると演習での私の評価だろう。

喋るのも乾いた喉には結構堪えるのだが、口を開く。


「演習を受けている私に批評する資格などない。

 そもそも筋違いだ」

「それでも私の目からみた御城は冷静だったし、周りをちゃんとみている。

 だからあなたの意見が、残りの4日間で役に立つかもしれない」


……正直驚いた。

彩峰がここまで喋ることもそうだが、

部隊の運営のために助言を受けたいといっていることに、私は驚いている。

この演習をなにがなんでも合格したいのか。

さらにいうと意見を求めてくるほど私は信頼されているのだ。

そんな信頼されるほど私は彼女に何をしたわけでもない。

そう思うと罪悪感の波が心に押し寄せてくる。

彩峰の気持ちを・・・覚悟を・・・信頼を土足で踏みにじることを

しようとしている自分がとてつもなく汚く見える。


「……どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


最近ごまかすことばかりをしている。

それもこれも私が後ろめたいことをしているからだ。


「それはそうと批評はともかく、助言ならできる」


このくらいなら任務に支障はないだろう。

……罪悪感を薄くしようとしている自分がいやになる。


「皆もっと水の節約に気を廻したほうがいい。そうすれば3日目でこれだけバテバテにならずにすむ。

 実際鎧衣があれだけ元気なのは、そのおかげだ」

「……なるほど」

「その他にも緊張しすぎというのもあるな。肩に力が入りすぎて無駄に体力を消耗している」

「ふーん、であとはないの?」

「さし当たっては注意することは、この2点だと私は思う」


他にも色々あるがそれをいったらきりがないし、今やれといってできるものではない。

私の意見を口の中で何回も反芻しているようなので、この隙に水を飲みに行こうと足を動かそうとする。


「あっ、待って」


またしても歩みを止めなければならなかった。

彩峰よ、私に水をそんなに飲ませたくないか。

振り返り彼女の顔を見る。

すると、


「……ありがとう」


目をそらし、頬を赤くしている。

さらに目を潤ませ、指を唇にあてて…。

シュポーーーーーーー!!

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

はっ、私は何をしていたのだ。

久しぶりに“俺”のときの感情が出てきたような気がしたが……気のせいか?


「御城?」


不覚……。

私にはピアティフ中尉という女性がいながら、他の女性に目を奪われるとは。


「礼には及ばん……休息をとってくる」


その場を逃げるように川へと走っていった。

---------------------------------------------------

「冥……御剣、魚を焼くのは止した方がいい」

「なぜだ御城、焼かねば食えなぬではないか?」


この日のうちに幸運にも敵陣地の発見に成功した。

任務にとってかなり都合が悪いが。

地形探査も終え、脱出ルートも決めた。

私が妨害を行うとすれば偵察か脱出ルートのときしかない。

それはともかく今は魚の話だ。


「いいか、御剣。魚は焼くと煙が多くでる。

 それは他の肉でも同じだが、魚の場合は匂いがものすごくでるのだ。

 その匂いはキロ単位で届く。

 それに今我々がきている装備、衣服につくとかなり発見されやすくなる。

 いくらこの演習で敵がいなくても、実戦ではそれが命取りになる」


冥夜様にこのような言葉使いで申し訳ない。

冥夜様は手を顎に当て思案する。


「……言い分は納得した。

 だがどうやって食うのだ?まさか生ではなかろうな?」

「さすがに淡水魚を生で食う気はない。煮て食うのだ」

「煮る?」


私はそれに頷く。

そこで珠瀬が口を挟んでくる。


「煮るといっても鍋がありませんよ?」

「壬姫さん、それにかわるものがあるじゃないか」

「????」


さすがサバイバルの達人だな鎧衣、わかっているようだ。

鎧衣は横においていた軍用ヘルメットを手に取り、コツコツと叩く。


「これだよ」

「ああ、なるほどね」


今まで傍観していた榊がようやく会話に参加する。


「でも、誰のを使うつもりなの?」


静寂がしばらくつづく。

率先して使わせたがる者はいない。

少し考えれば当たり前である。

使ったメットの中は魚臭くなる。

かぶれば外には匂いは出ないだろうが、髪の毛が臭くなるだろうから

女性である皆はかなり嫌だろう。

もうひとつは私が一番気にしている……というか気遣っている。

いままで休息のとき意外かぶり続けたヘルメット……言わずともわかるだろう。

そんな物を出し汁されたら堪ったものではない。

以上のことから誰も立候補しない。


「煮る以外に選択はないの?」

「生は腹を壊す確立が高いし、最悪、寄生虫が腹で暴れるだろう」


魚以外は今日は獲っていない。

ならば選択肢は誰のヘルメットか、だ。

沈黙は珠瀬が立候補するまで続いた。

---------------------------------------------------

その頃、砂浜にて。

「ん~美味しい。やっぱり自分で釣った魚を食べるのはいいわよね~。

 そう思わない神宮時軍曹?」

「思いますけど……」

「もう反応悪いわね。ピアティフ中尉はどう?」

「…………」

「ちゅ~い?」

「…………」

「恋人がそんなに心配なの?」

「!!恋人ではありません」

「今頃蛇を食べているかもしれないものね~。

 それは心配するわねよね~軍曹もそう思うわよね?」

「自分もそう思います副司令」

「軍曹!」


以上砂浜の会話でした。



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/12 13:43
雨が降る中、目の前の彼女たちは立ったままピクリとも動かない。

私以外の全員がだ。

最後尾を警戒していた私だけが引っかからずにすんだ。

こうなることは最初からわかっていた。

だから後方警戒を志願したのだ。

地雷原。

彼女たちはその足で地雷を踏んだまま硬直している。

時間切れまであと30分……。

全員の地雷を解除をしている時間は到底ない。

任務……完了。

無線機を取り出し、本部にリタイアと救助要請を打診した。

ああ、やけに今日の雨は塩の味がするな。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第一章その6


基地に帰還するヘリの中、御剣冥夜は悲しみに暮れていた。

どうしてあんなことになったのだろうか。

敵地を確認して地形探索に手間をかけ、脱出ルートも決めた。

そこまではいい。

なぜあの後、あんなにもまとまっていたチームが空中分解してしまったのだろう。

そして御城。

あの者の一言ですべて決してしまったのが間違いだったのではなかろうか?

いまさら悔やんでも仕方がないのだが。

私たちの気持ちにあわせるように、ヘリは雨の中を飛んでいく。

------------------------------------------------------

私たちは小川で十分な補給をし、昨日見つけた敵陣地の偵察をおこなおうとしていた。

チームを三つに分ける事で情報収集の効率を上げることになった。

チームは彩峰、鎧衣のAチーム。榊、珠瀬のBチーム。そして私と御城のCチームだ。

御城と組みたいと皆いっていたが、榊が決めたことだ仕方あるまい。

それに榊は自分が少々集中力をかいている、ということで鎧衣を自分の相方にしたのだろう。

ともかくそれぞれの偵察地点に向かうため、一度別れ行軍している最中だ。

しかし予定よりだいぶ遅れている。

トラップやセンサーの類が、敵地に近づけば近づくほど多くなってくる。

当たり前のことだが、こう多いと解除しきれない物がでてくるだろう。

しかし私の前を行く御城は、それらを早期に発見し、無駄なく解除していってる。

昨夜もそうだが、まさか鎧衣レベルのサバイバル能力を持っているとはな。


「ポイントに到着…2時間遅れかこの分だと合流にはもっと時間が掛かるだろう」


考えているうちに偵察地点に着いたらしい。

私たちが任された地点は、地形的にヘリポートが置かれているだろう場所だ。

案の定、攻撃ヘリが3機待機している。

その周りには歩哨の役であろうカカシが立っている。


「ヘリが三機…武装は対地ミサイルを装備だな」

「ああ、それにあのカカシにはセンサーが取り付けられているようだ。

 迂闊に動くと発見されて、評価はマイナスといったところか」


御城は冷静にそんなことを分析する。


「それはともかくセンサーの種類はわからないか?」

「さすがにそれは調べなければわからないが、御剣はどう思う?」


少し以外だった。

今まで御城が他人に意見を求めていることを、見たことがないからだ。

私に……いや仲間に意見を求めてくるのは、これが初めてだろう。

それはともかく、この状況からして歩哨という時点で振動センサーは除外、

あとは音感、温感センサーが可能性が高い。


「やはり、音感、温感の複合センサーが可能性としては高いと私は思う」

「多分そうだろうな。私もそう思うが調べるわけにはいかないしな」


この演習内容からすると、陣地内部に入り込む危険を犯して情報を

手に入れることはない。

センサーの種類を特定することは、敵がこちらの存在をおしえているも同じである。


「…この地点にはこれしかないようだな。

 合流地点に行き、場所を確保しとくのがいいだろう」


御城はそういうと、大きな音を立てないように、ジャングルに消えていく。

その後を追いながらふっ、と思った。

こうして話をしている間も、面と面をあわせて会話をしていなかったのだと。

彼はやはり私を避けている。

その理由は聞きたいが今、話すことではない。

この演習を合格したら聞いて見よう。

そう決めると集中することにした。

------------------------------------------------------

パチパチと焚き火が燃える音が静かに響く。

あれから私は冥夜様と二日掛けてここまで来た。

本来ならこんなに時間が掛かるわけがないのだが、

進路上の岩山に着いたとき、道が落石でふさがっていた。

そのために山を迂回なければならなかった。

その所為で遅れ、合流地点に着いていたときには他の組はもうその場にいた。

日はとっくに沈み、これからの行軍は難しいと判断し、

6時間の休息を決定。

そして現在に至る。

焚き火に薪をくべながら、横で寝ている彼女たちを見る。

寝顔は誰でもかわいいというが、本当のことらしい。

人前では見せない無防備な顔だからだろう。

それを見て、この演習中に何回目になるかわからない黒い靄が心を覆う。

これまでは何もしなかったが、明日には実行しなければならない。

本当に自分が嫌になる。

……交代の時間だ。

立ち上がり、次の当番の榊を起こしにいく。

------------------------------------------------------

榊と彩峰がもめている。

それはいつもの光景とは違う。

原因は彩峰が独断先行し、偵察をおこなったからだ。

結果だけみれば、良いというところだが、ストレスが溜まっているのだろう。

榊はいつも以上に彩峰に食って掛かっていた。

命令もしていないのに勝手なことはするな。

……命令だけに従っていたら合格できない。

2つの意見は平行線をたどっている。

いつもならここで諌めるところだが、今回はそうもいかない。

榊は分隊長であるから命令云々のことで言い争っているのだ。

ここで部下である私が割ってはいると、もっとひどいことになるだろう。

指揮系統が無茶苦茶になってしまう、ということで。

御城もそのことはわかっているのだろう。

さっきから黙ったままずっと時計を見て抗議をしているが、それに気づく様子はない。


「2人とも、もうやめてよ」


珠瀬が涙目になりながら止めに入って、ようやく喧嘩をやめる。

それでも二人とも納得しているわけではないことは明白だ。


「5分39秒……」


御城がボソッとつぶやく。

何事かと全員がそちらに目を向ける。

時計を見るのを止め、顔を上げ、口を開く。


「今の騒ぎで無駄にした時間だ」


彩峰、榊の2人はぐっと喉を鳴らす。

2人とも時間をかなり無駄したことに罪の意識はあるのだろう。

2人とも視線を逸らしてしまう。


「それはともかく、どうするんだ?鎧衣がいうには

 迂回したほうがいいと言うのだが」


そもそも彩峰が独断で行くまで迂回をするのか

最短ルートを行くのかを議論していたのだ。

私としては副官である、鎧衣の意見を尊重するが。

彩峰の偵察の情報では、地形的に迂回するとギリギリ間に合うか間に合わないからしい。

どうするのかは榊の判断に掛かっている。

榊は自然と御城を見る。

いや私を含めた全員が彼を見ている。

彼の意見なら……。

そう期待しているのだ。

だが彼はそれに応えなかった。


「……どうした、早く命令したらどうだ?」


甘えてんじゃない、そう彼の目は言ってた。

榊もそれを感じたのだろう。

少し悲しげな顔をする。

しかし御城は小さな声でボソッといった。


「だが、時間がないことは確かだな」


この一言が榊を決断させたのだろう。

迂回策を破棄し、最短コースを通ることになった。

しかし、彩峰と鎧衣は納得していないようだった。

------------------------------------------------------

私が呟いた一言が不合格という運命を決定付けた。

“俺”のときの記憶を引きずり出し、

不合格の理由が、迂回しなかったことで地雷原にはまるということを思い出した。

しかし私がいることで大きく変わりそうだった。

迂回策か最短コースかの選択は、予想外に信頼されていた

私の言葉で選択されることになったのだ。

やはり大なり小なり、私の行動が周りに影響あたえているようだ。

ここで迂回策をとれば未来は大きく変わるだろう。

だがするわけにはいかない。

任務こともあるし、なにより白銀のことがある。

この演習には合格させるわけにはいかない。

だからわたしは決断した。


「だが、時間がないことは確かだな」


余程のことがない限り、妨害とは悟られぬ一言。

そしてひとつも強制力のない言葉。

その結果が目の前の地雷原の中で立ち尽くす仲間たちだ。

どんよりした空がみんなの気持ちを表すように雨を降らせてくる。

私は無線を取り出し、本部に連絡する。


「こちらHQどうした?」


ピアティフ中尉が無線に出る。

彼女が別にやることはなかろうに。


「207訓練小隊B分隊、救助を要請する。

 ポイントは……」

「……了解した。至急向かわせる。なお、この演習は現時点をもって終了、不合格とする」

「了解……通信を終了する」


無線をきり、握ったまま力なく腕を下ろす。

顔を上げ、空を見る。

顔に次々と雨粒が打ちつけてくる。

それにかまわず見上げる。

顔を流れる液体はやけにしょっぱかった。



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/03/23 17:54
横浜基地に帰ってきた時には皆、口が無くなったように黙っていた。

神宮寺教官には叱咤されたが、最低でも明日までは回復しないだろう。

私も同じだろう。

明日までは誰とも喋りたくない。

今口を開くとどうなるかわからない。

皆にたいする謝罪、私が受けていた任務の暴露。

それが口から出てしまわないように顎に力を入れる。

冥夜様に目を向ける。

疲れとショックの所為でいつもの端正な顔は見る影もなかった。

自分がその顔にしてしまったのだ。

そう思うと、目を逸らすことしかできなかった。

教官から解散の号令がかかり、皆それぞれの部屋に戻っていく。

傍から見れば、生ける屍に見えたことだろう。

部屋に入るが電気をつけずにベッドに横になり、今までの事を整理する。

御城家の没落、父上の戦死、御家再興の為の監視任務、国連軍入隊、演習の妨害工作。

どれを考えても落ち込むことばかりだ。

皆を裏切り、欺き、そしてこれからもそうしなければならない。

枕を手繰り寄せ、それを思いっきり壁に叩きつける。

大きな音もせずに床に落ちる。

物に当たっても意味はないのはわかってはいる。

しかし、やり切れるものでもない。

これからも私はこんな気持ちを味わうことになるのだろう。

そんなことを考えるとまた枕を投げたくなった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その1


やり場のない怒りを抱えたまま悶々としていると、扉をノックする音が聞こえる。

時計を見ると丁度、深夜、零時を過ぎたところだ。

こんな時間に誰だ?

演習のすぐ後だ、小隊の誰かだろう。

ベットから起き上がり、電気をつけドアを開ける。

返事もせずにドアを開けたので、おどろいたのだろう。

細く整った眉を動かし驚いた表情をしている。

ピアティフ中尉だ。


「……なんでしょうか?」

「……夜分遅くすまないが、連絡し忘れたことがある」

「連絡?」


中尉が上官としての口調で話すときはお仕事の最中か、真面目な話をするときかだ。

どちらもどちらだが、今回は前者だろう。


「そうだ。本当は解散してすぐに言うつもりだったが、

 あなたがすぐにいなくなったので、伝えることができなかったのでな」


どうやら気を使わせたようだ。

生真面目な彼女が命令を先延ばしすることはまずない。

私の気が落ち着く頃を見計らい、来てくれたのだろう。


「すみません」

「まあいい、では連絡内容を伝える。

 明朝1000に、副司令の元に私とと出頭せよ、とのことだ」


今回の任務の詳細を報せる為だろう。

それとこれからどうするかを決めるためだ。

小さなことだが裏の事情を知り、その片棒を担がされたのだ。

これで、はい終わり、なんてことは絶対無い。

だからといって、これしきのことで処理されるわけはない。

次の任務か、あるいは別の何かか。


「了解しました。明朝1000に中尉と共に出頭いたします」

「うむ、ではこちらから迎えに上がるから自室で待機していろ、以上だ」


そういうとクルリと背を向け、ブーツの軽快な音を立て、颯爽と去っていく。

こういう時に普通の奴なら、普通の励ましをしてから去るのだろうが、

それは苦痛にしかならないことを彼女はわかっている。

だからあえて軍人として接し、甘えを許さないということを教えている。

すごい人だ。

中尉の後姿が見えなくなるまで見送り、明日にそなえるために眠りにつくことにした。
------------------------------------------------------------
「……以上です」

「報告ごくろうさま、どう、お茶でも飲む?」


相変わらずの態度で香月副司令はお茶を勧めてくる。

ここは言わずとも知れた副司令執務室。

この部屋も相変わらずである。

ピアティフ中尉は部屋の外で待機している。


「いえ、結構です」

「……そう」


それにしてもなぜ、彼女がここにいる?

副司令の横にはウサ耳をつけた少女、社霞が立っている。

それにしてもさっきから目で見る視線とは違う視線を感じる。

それは不快な感じだ。

確かこれはリーディングとかいう能力だったはずだ。

ソ連もとんでも超人を生み出したものだ。

こうして考えていることも読まれているのかもしれない。


「この子がそんなに気になる?」


ちらちら見ているのに気づいたのだろう。

そういうと社に近づくと頭をポンと叩く。


「彼女は社霞、私の研究の関係者だからよろしく」

「よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げてくる。

彼女を紹介するメリットを脳をフル回転させて考える。

まず、この場にいるということはリーディングさせる為なのは確かだ。

ということは私の任務もすべてというわけではないが、ばれてしまう。

それを弱みになにをさせるのか?

たとえそうだとしても、逆にこれはチャンスかもしれない。

うまく立ち回れば、人類を救済する上で悪いことはないし、

あの下郎の手から妹を助け出せるかもしれない。


「御城衛だ、以後お見知りおきを」


そういうと社は副司令の後ろに隠れてしまう。

……なにか怖がらせるようなことをしたのだろうか?

そして副司令に何か耳打ちする。

副司令は顔を強張らせるとこちらを見る。


「少しここで待ってて、すぐもどるから。

 その間にピアティフ中尉から、これからのことを書いた資料を受け取りなさい」


そういうとなぜと、聞く暇もなく社をつれてさっさと出て行ってしまう。

その場で呆けていると、しばらくして中尉が入れ替わりに入ってくる。

ツカツカと歩みよってきて書類を二枚、渡してくる。

それを黙って受け取り、何が書いてあるか速読する。

そしてその内容に驚愕する。

私の妹に関する情報、オルタネイティブに関する資料。

妹があの下郎に囚われていること、それにより捜索令状がでていること、

私の任務内容、それに関係している人物名。

莫迦な……。

なぜここまでばれているのだ?

それになぜ私にオルタネイティブのことを持ち出すのだ?

いくらか予想していたことだが、あまりにも早すぎる。

驚愕の表情を隠せない。

資料を確認したのを見ると、中尉はソファに腰掛けるのを勧めてくる。

勧められるがままに腰を下ろす。

お茶はどうですかと聞いてくるが、さっき断ったこともあり、

また断った。

落ち着く為には何か飲んだほうがいいのはわかっている。

だがそれに頼ることで、今まで受けてきた訓練を無駄にしたくなかった。

意地で心を落ち着かせる。

落ち着いたのを確認すると中尉は少し驚いていた。


「…大した精神力だ」

「いえ、父上の教育の賜物です」


そう父上のおかげだ。

中尉はその言葉を聞くと頷く。

中尉も当然、この資料に眼を通しているはずだ。

私人としてではなく、あくまで軍人として彼女はここにいる。


「質問はないか?」

「副司令に直接聞いたほうが早そうなので…」

「そうか。ただひとつだけ言っておく。

 国連はこのことで軍事裁判を行う気はない。

 あくまで内密に処理をする」


少々以外だ。

国連はこのことを帝国政府に垂れ込めば、それなりに……。

いや、それはできないか。

公式には冥夜様は将軍家とは無関係なのだ。

いくらそれをネタにしても冥夜様を切り捨てればすんでしまう。

結局あの下郎の目的の達成に手を貸すだけだ。

私に対する処理だが、オルタネイティブ計画に関わる事は確かだ。

だがはっきりいうと、私がオルタネイティブ計画に編入される意味がない。

私は白銀とは違い、外の世界から来たということは知られていないはず。

戸籍はもちろんあるし、改竄もしていない。

さっきリーディングされたが、短時間でここまで決定されるものではないはずだ。

あらかじめ用意されていたのか?

しかし、なおさらおかしい。


「……ひとつ質問ができました」

「言ってみろ」

「私の処理と、このオルタネイティブ計画に関係しているのですか」


中尉は迷うように視線を動かすが、はっきりと口にした。


「そうだ……詳しいことは副司令が説明される」


それっきり部屋には沈黙が支配した。

私も中尉も沈黙したままお互いの目を見ていた。

見つめ合うと聞こえがいいが、相手の真意を探るやりとりなだけに

そんな甘ちょろい考えはない。

それがどれだけ続いたのか、空気が抜けるような音と共に副司令が戻ってきた。


「……お待たせ。資料は見たでしょうから、早速本題に入るわ」


いつになく真剣な顔をして自分の椅子に座る。

それに続き、私と中尉は立ち上がり、副司令と正対する。


「まずあんたが城内省の一部から受けていた任務についてからね。

 報酬は御家再興と妹さんの身柄の安全ね?」

「……そうです」

「やはりね……その件についてはこちらは見てみぬ振りをするわ」

「なぜです?」

「私に何の関係もないもの」


そうだこの人はこういう人だ。

利害関係にだけ重きを置く、香月夕呼という人物はそういう人だ。


「でも、次の返答次第では、それが変わるかもしれないわ」


私の返事次第で変わる。

私を処理するかしないか。

この二択が次の返事で決まる。

喉をゴクリと鳴りそうなのを止める。

ここで混乱すると最善の未来を予想できなくなる。

落ち着くんだ。


「資料も見たとおり、オルタネイティブ計画、これに参加してみない?」

「資料の通りの計画なら参加しない手はありませんね」

「私はYESはNOを聞いているの、中途半端なことをいってはぐらかすのはやめてよね」


どうやら本気のようだ。

このようなことを言った自分が莫迦みたいだ。


「答えは参加する…YESです」

「そう、なら中尉」


中尉がIDカードを渡してくる。

ここには入れるくらいのセキリティーレベルだ。


「それはこれから必要になるからもっときなさい。

 今まで以上にこき使うからよろしく…中尉悪いけど少しでてくれる?」


ピアティフ中尉は一礼すると部屋から出て行く。

部屋には私と副司令だけになった。


「理由を説明してもらえますか?」

「そのつもりよ」


ピアティフ中尉には知る必要のない理由。

一体なんだ?

私を計画にいれるメリットは?

任務を放棄せずに放置するのはなぜか?

答えを知っているのは彼女だけだ。


「まずはあんたの任務を放置する理由を話すわね。

 簡単に言えば、それを阻止するのは簡単だし、帝国に恩を売ることもできる。

 でもやるなら徹底的に根っこを掘り出さなければならないのよ。

 根っこを残して放置すれば、また生えてくる。

 だから今はあんたを見逃すのよ」


それはそうか。

さっきの見てみぬ振りと言うのは嘘だ。

実が熟してから帝国に垂れ込み、政府ではなく、殿下に恩を売るつもりなのだ。


「だから御剣を殺すことはやめてもらうわ。

 でも任務を続けている振りをしなさい」

「なるほど、釣りですか?」

「そう、それも大物釣りね。

 ついでに協力の報酬として、

 御家再興は約束できないけど、妹さんの安全確保はどう?」


これほど嬉しい申し出ははじめてだ。

だがはっきり言って胡散臭いところもある。

私に恩を売って何の意味があるのか?


「なぜそこまで私に肩入れするのです?」

「肩入れとは見当違いね。

 いいでしょう、なぜここまで破格の条件を出しているのか教えてあげる」


やはりオルタネイティブ計画、これに大いに関係しているのだろう。

私は副司令がなぜ私を引き入れたい理由を、全身を耳にして聞いた。
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「……以上よ」


その内容ははっきり言って意味がわからなかった。

わかったことといえば、私が社霞を初めとするESP能力者のリーディングを受け付けないこと。

また、妹にもその素質がある可能性があること。

要約してしまえば、私と妹を計画に組み入れることで研究対象にすること、

つまり見逃してもらう代わりに、モルモットになれということらしい。

私はつくづく運がないらしい。

それを聞いた後、私は部屋に戻り、またベットに横になった。

仲間をこれ以上裏切らなくてよくなった。

だが今度は妹を巻き込んでの研究対象。

私はいいが妹まで巻き込んでしまった。

脳裏にあのシリンダーが思い出される。

妹がああなる可能性がある。

御家再興という言葉に釣られた為にここまでひどいことになってしまった。

こんなことなら御家再興など望むのではなかった……。

一度あるいてしまった道を引き返せない。

この時私はそれを激しく実感した。



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/03/24 23:54
腕にのしかかる書類の重み。

何時もならその重さに負けて、ぶちまけてしまう。

台車を使って移動しようとかと考えていた時もあった。

でも今はその心配はいらない。

なぜなら、書類の量はいつもの半分くらいしかないからだ。

隣で無言で歩いている彼が半分持っているからだ。

私が彼を見つけると、彼は私が上官となのだが、嫌な顔ひとつせず手伝ってくれる。

誤解しないで欲しいので言っておくが、命令したことはあまりない。

……何回かはあるが。

それはともかく私としては大助かりだ。

彼には後で、御礼としてPXでなにかおごってあげよう。

そんなことを考えながら書類を運んでいく。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その1.5


演習での妨害工作、次の日の彼の特殊任務の暴露、

そして、オルタネイティブ4への編入。

彼、御城衛は、大きな精神的苦痛を立て続けに受けることとなった。

軍人なら耐えられて当たり前、そんぐらいでヘタレて莫迦じゃないの?などと言う輩もいるだろう。

だがそんなことをいう奴は、心無い奴か只の莫迦だと、私は思う。

彼は立ち直ったとは言いづらいが、自身が招いた結果に背を向けず、

歩き始めていることは確かだ。

彼が計画に組み入れられたときは酷かった。

体調こそ崩していなかったが、誰とも話をしないし、話し掛けても片言でしか話さなかった。

以前にも増して、人が近づくことを拒否していた。


『こういうときには近づくことは逆効果よ』


副司令が私にいった言葉だ。

自身で立ち直らなければ、この先同じことを繰り返すだろうということらしい。


『今は静観することが一番、だけど立ち直ったそのときは、傍にいてあげるのもありよ?』


さすが副司令、こういうときも、私をからかうのをやめなかった。

あれから一ヶ月、彼は歩き始めた。

一歩一歩、歩き始めた。

座り込んで、衰えた足でふらつきながらも歩き始めた。

彼は何を思って、何を決めたのかわからない。

だけど確かに彼は、二本の足で誰の助けを受けずに歩き始めたのだ。

そんな彼を私は尊敬してしまう。

私は副司令の秘書官でエリートコースを歩んできた。

だがそんな肩書きや通ってきた道は、彼が歩み始めた難路をみれば楽なもんだ。

確かに彼は愚かな選択をし、厳しい道に入っていった。

一時は歩みをやめて座り込んでしまった。

しかし、彼は背を向けようとはしなかった。

座り込んでも正面を見続けたのだ。

そしてまた歩き始めた。

私では到底真似できないだろう。

座り込むどころか倒れてしまい、二度と起き上がれないかもしれない。

……少々彼を持ち上げすぎたでしょうか?

ともかく彼は尊敬に値する兵士なのです。

それはさておき、彼を副司令室に連れて行くため彼の元に急ぐ。

連絡係はいまだ続いている。

彼にIDを与えたのだから、私が迎えにいく必要はないのではと聞いたが、


『一応、彼は訓練兵だし、基地内放送で呼び出しをして、207以外の部隊に知られたくない』


というのが理由だそうだ。

それなら次の呼び出しを決めて、おけばいいではないですかといえば、


『こちらの都合がついたら、呼び出すようにしてるから無理』


だから私を使うらしい。

それ以上追求すると、またなにかいわれそうなので引き下がった。

日が傾き、空は赤くなり始めている。

この時間なら、彼はPXで207小隊の仲間と食事を取っているだろう。

彼は立ち直ってから人を避けることをしなくなった。

する必要がなくなったのが原因だろう。

今ではそれなりにコミュニケーションをとっているらしい。

副司令、不機嫌そうな顔でいわく、


『最近まりもが上機嫌な日が多い』


らしい。

それはいいことなのではないだろうか。

まあ、次回の妨害工作を彼に任せるには不都合なのだろうから、

当たり前といえば当たり前なのだ。

夕日が射し込むPXに着き、彼の姿を捜す。

いつもの席に彼らはいた。

五人の若い女性達に囲まれながら、合成緑茶を飲んでいる。

すでに食事を終えて、ゆっくりと談笑している。

それを見ると顔に笑みが浮かんでくる。

でも胸の中の水面に雫が落ちる感じがする。

自分でもよくわからない喩えだがこういう感じなのだ。

それはともかく呼びにいかなければ。
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地下に下りていくエレベーター。

それに私達は乗っている。

高速エレベーターのわりには静かなものです。

横にいる彼は階層表示を見つめている。

PXからここまで、あまり話をしていない。

話をしても全部仕事のことばかりだ。

私が軍人として、上官として付き合いすぎたからこうなったのかもしれない。

彼は私を上官としてしか見ていないのだろうか?

そうだとしたら、私はどうすればいいのだろうか?

だけど彼の前でそういう態度をみせてはならない。

上官は部下に弱いところを見せてはならない。

常に強気で挑むべし。

特に女は只でさえ嘗められる。

気持ちで負けたら、一生負け犬だ。

士官学校時代、教官に骨の髄まで叩き込まれた。

それを今まで実践してきた。

そしてこれからも続けていくだろう。

だがそれが今つらい。

少しネガティブになっているとエレベーターは副司令室があるフロアにたどり着く。

この通路の一番奥に副司令室がある。

通路を歩いている間も口を開くことはない。

もうすぐ扉についてしまう、何か話さなければ。

しかし言葉が出てこない。

あと十メートル。

なにか……私としての言葉を。

五メートル。

出ない。

三メートル。

脳が命令しても軍人としての私が止めてしまう。

一メートル。

もうすぐ扉のセンサーが反応して開いてしまう。

三十センチ。

もう間に合わない。

そう思ったときに彼は足を止めた。

なぜだろう?

彼は何を思ったのか振り返り、私のもとに歩み寄ってくる。

いつの間にか私は足を止めていて、彼との距離が開いていたようだ。

私を無視して入っても何も問題ないのに……。

まさか……。

彼は私の前にくると口を開く。


「どうしましたか中尉?」


……期待した言葉ではなかった。

なにを私は期待しているのだろう。

そんな言葉が掛けられるわけはない。

私と彼は上官と部下。

特別な関係でもなんでもないのだ。


「なんでもありません。早くいきなさい」


彼はその言葉に眉を顰める。

私の様子がおかしいのに気づいているようだ。

でもそれに甘えるわけにはいかない。


「私にかまう暇はないでしょ?早くいきなさい」


どうせ私は軍人で彼の上官だ。

彼にかまって欲しいなんて考える方が莫迦だったのだ。


「……わかりました」


そう言うとクルリと背を向け、再び扉に向かっていく。

これでいいんだ……これで。

こちらも背を向けてエレベーターに向かう。

その私の背中に、


「中尉!」


彼の声が掛かる。

足が止まってしまう。

一体なんだろう。

でも振り向きたくなかった。

振り向かない私の背に、それでも彼は声を掛けてきた。


「これだけは言わせて貰います。

 他の皆は私が自力で立ち上がったと思っているでしょうが、

 私はあなたのおかげだと思っています」


この人は何を言っているのだろう。

私のおかげ?


「あの晩、あなたが訪れていなかったら、私は他の人に甘えていたでしょう。

 そして立ち上がることはできなかったはず……」


私は只連絡係としていっただけ。


「だからこの一言を送ります……ありがとう、そしてこれからもよろしく」


……。

……。


「最後、為口になっていますよ」

「失礼しました。では失礼します」


後ろで副司令室に入っていく音が聞こえる。

私はどうしたのだろう。

さっきから涙が止まらない。

嬉しい。

そうこれは嬉しいのだろう。

だから涙が出るのだ。

私は廊下で暫く泣く事しかできなくなった。



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/02 20:31
私は立ち上がることができた。

何をしていいのかわからなかった。

だがこれだけはわかった。

甘えるな。

これだけは確かだ。

妹が研究対象になるか、このまま命を散らすかの二択しかない。

これが現実だ。

私はその二択から逃げるのはやめた。

どんな結果がまっていようとも、逃げることだけはやめようと決めた。

しかし、どちらを選んだとしても悪い結果しかないだろう。

それに私は耐え切れるのだろうか。

逃げるのをやめたとしても、その結果に私は耐え切れるのか?

それはわからない。

でもその結果だけは受け入れなければならない。

受け入れなければまた同じことの繰り返しだ。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その2


妹はあれから二ヶ月たっても、今だ保護されていない。

あの下郎はよほどうまくに隠しているらしい。

保護されてもモルモット、されなければ命が危ない。

私としてはどちらがよいのかわからない。

だがその二択を決められるのは私ではないのかもしれない。

妹はもうすぐ徴兵対象になるが、成績が優秀なため士官学校に入学できるといわれていた。

エリートコースに入り、後方にいられるというのに、

あいつは


『父上やお兄様のように衛士になり、殿下を護衛できるようになりたい』


などといって、斯衛の訓練学校に入隊希望を出したほどだ。

そんな妹をもったことと、こんな兄を誇りに思っていてくれることは素直に嬉しい。


『命があればよいという単純な問題ではない。

 生きているのと、生かされているのとではまるで違う』

『そこに意思があるかどうかが問題なのだ。

 それが反映できるかが問題なのだ』


冥夜様がいった言葉。

直接いわれたわけではないが、“俺”の記憶に確かに存在する。

この選択に当てはめていいのかわからない。

だが似たような状況だ。

……。

考えれば考える程混乱する。

どちらにしろその時にならなければわからないのだろう。

そして私と妹が組み込まれる計画。

オルタネイティブ4。

オルタネイティブ3の成果を引き継ぎ、

半導体150億個分の処理速度の並列コンピューターを作り出すこと。

私が教えられたことはこの程度だ。

だが私はこれ以上のことを知っている。

正確には“俺”の記憶に存在している。

00ユニット、機械の体に人間の魂を宿らせた生体コンピューターと呼べるもの。

オルタネイティヴ3計画の成果を踏まえ、

リーディングとプロジェクションというESP能力の付加、

グレイ・ナインでできた量子電導脳という世界最高のコンピューターをもち、

人間には真似できない優れた処理能力がもつ。

“俺”の記憶にある被験者、鑑純夏に外見と中身を技術的に可能な限り、似せられている。

他にも色々とあるがざっとこんな物だ。

そんな計画に私は組み込まれた。

ESP能力を受け付けない体。

リーディングとプロジェクション。

プロジェクションの方はよくわかっていないが、

リーディングは受け付けないことはわかっている。

社霞があの時に困惑していたのはこのためだ。

この不思議な能力を研究する為に私を組み入れ、妹も組み入れられる予定だ。

副司令がいうには私のこの能力は、なにかしらの能力を制限するリミッターのようだと推論している。

そのリミッターの副次作用として、リーディングに対して壁のような役割を果たしているそうだ。

だがその制限している能力については、今だに解っていない。

自分でもそんな能力があるなんて、伝えられるまで解らなかった。

しかし、体が自然とリミッターを働かせるくらいだ。

能力を抑えなければ、私は壊れてしまうのだろう。

妹にも可能性があるわけだ。

この未知の能力が妹に無いことを祈ることしかできない。

実験体は私だけで十分だ。


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考え事が長かったおかげで、久しぶりの休日の半分を部屋で過ごしてしまった。

だが無駄なことではないはずだ。

さて今日も副司令に呼び出される可能性は高いだろう。

それまで何をしていよう。

……体を動かすのも悪くはないか。

そう考え、早速訓練校のトラックに足を向ける。

戦意高揚目的の広告が張られている通路を歩いていると、

榊が歩いてくるのが見えた。

彼女はこちらに気づくと歩みよってきた。


「あら、奇遇ね」

「奇遇も何も同じ基地に所属しているのだから、会う機会も多かろう」

「そうね。でも基地内でも会わないことも多いって聞いたわよ?」


そういえばそうだ。

以前にそんな話を小耳に挟んだ気がする。


「それよりも、あなたは何をしているの?」

「私はトラックに走りこみにいこうと考えていたのだが…そちらは?」

「私は教官のところに行こうと思って」

「なにかやらかしたのか?」

「違うわよ!只、今後の訓練の予定確認よ」


まあ、それはそれはいいだろう。

冗談が通じない奴だ。


「次の訓練はなんなのだ?」

「それを今から聞きにいくんじゃない」


榊は大袈裟に溜め息をつく。

そこまで大きくリアクションをとらなくてもいいだろうに。


「……御城って以外に莫迦?」


後ろからいきなりの莫迦発言。

むっとしながら振り向くと、そこには207小隊きってのヤキソバ魔人が立っていた。


「いきなりきて莫迦発言はいただけないな」

「怒った?」

「私は怒ってなどいない」

「……やっぱり莫迦?」


……。

……。

彩峰よ、いつかこの屈辱を倍返しにしてやる。


「それはそうとお前は何をしてるんだ」

「御城をからかっている?」

「何故疑問系なんだ。ついでにいえばからかうな」

「からかうほうがついでなの?」


揚げ足をとりおって。

なんともいえない悔しさがにじみ出てくる。


「そろそろ私行くわね」

「ん、ああ」


その場を逃げるように榊は早歩きで去っていく。

やはり彩峰が原因なのだろうか。

榊と彩峰の関係修復は、私がすることではない。

それは白銀にやってもらわなければな。

そう私は思っている。

……また考え事をしてしまった。

最近こういうことが多くてなっていかんな。


「で、彩峰はなにするんだっけ?」

「これから自主練習をするつもり」

「私もそのつもりだったから一緒に行くか?」


彩峰はそれに頷くと私と肩を並べ、トラックに向かった。

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演習の不合格から二ヶ月。

私、御剣冥夜は次の演習に備え、日々精進している。

休日の今もこうしてトラックを走っている。

訓練で汗を流しただけ、戦場で血を流さずにすむ。

神宮司教官の受け売りだが、それは今まで散っていった者達が残したことだ。

その者たちが残したものを無駄にするつもりは毛頭ない。

それをわかっている者は私以外にもいる。

徒手での近接格闘訓練をしている二人に目を向ける。

彩峰と御城だ。

二人は最近格闘術について議論したり、こうして模擬戦を行ってる。

私もそれに加わることも多い。

あの演習を不合格になってから御城は一ヶ月程、以前にも増して他人を寄せ付けなかった。

御城は不合格は自分の最後の呟きの所為だと、思い込んでいるみたいだった。

だが彼はそれが間違いだと自力で気づいたようだ。

それから彼は人を避けなくなった。

以前なら彩峰と一緒に自主訓練などしなかったろう。

だが私に対しては一歩引いているところがある。

もしやとは思うが、私の出生の秘密を知っているのかもしれぬ。

しかし、それにしては腑に落ちないことがある。

私の生まれが将軍家であることを知っているなら、あのような態度をとるのはおかしいだろう。

もっと月詠のような態度をとるだろう。

だが以前に比べたら雲泥の差か。

少なくとも顔を見て話すようにはなってくれた。

次の総合戦闘技術評価演習まで一ヶ月。

それに向けて精進あるのみ。

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自主訓練の後、ピアティフ中尉がきて、副司令に呼び出しをされた。

それで副司令の部屋にやってきたはいいが、なんでまたこの人がいるのだろう。

鎧衣左近。

帝国情報省外務二課に所属し、私の極秘任務を暴いて見せた、敏腕の諜報員だ。

なぜここにいるのかと問えば、扉の前にたったら開いた、という。

“俺”の記憶でいっていたような気がする。

それはともかく相変わらず、人の話を聞かずにドードー鳥の生態系について話し始めた。


「ドードー鳥とはそもそも……」

「それはともかく、私の妹のことはどうなんですか?」

「せっかちだね、御城衛君、人の話をちゃんと聞きなさいと教わらなかったのかね?」


あなただけには言われたくないのですがね。

副司令はそんなやりとりを気にした様子もなく、椅子に座り足を組んでいる。


「進展なしだね。

 余程用心深いようでね、彼の自宅にいるのは確かなのだが

 屋敷の人間は見たことがないというのだよ」


やはりそうか。

簡単に見つかるくらいなら、人質をとったりはしない。

奴は見つからない自身が会ったからこそ、妹を拉致したのだ。


「では君への用事は済んだからさっさと帰ろうかね、

 はいこれを」

「……いつもすみませんね」

「いえいえ、お土産とは他の人にあげるからお土産なのですよ、では」


もう副司令への用事は済んだのだろう。

私に小さなトーテムポールを渡すと音もなく立ち去っていく。

……この前の土産はエアーズロックの近くの小石だったな。

などと、どうでもいいことを考えたりする。


「で、本題はなんですか?副司令」

「鎧衣もいってたけど、あんた、せっかちね」


私はそんなにせっかちなのだろうか?

少し反省の時間を作る必要があるようだ。


「まあ、それよりあんたの能力のことだけどね。

 リミッターを解除することにしたから」

「ああ、リミッターの解除をするんですか……って、さらりとすごいこといいませんでした?」

「あら、そんなに意外かしら?」


いきなりすぎて、まともに言葉も返すこともできない。

白銀がくる前に私は壊れてしまうのだろうか?

それは神のみぞ知る、といったところだった。



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/03/29 13:29
リミッターの解除。

私自身を壊しかねない能力を抑える為に、自然と掛けられて抑止力。

それを副司令は取っ払うと言った。

あの後、私は驚きを通り越し、茫然自失状態になってしまった。

気がついたら、なにやら怪しい薬品が大量にある部屋に……なんてことはなかったが、

その代わりに変な機械が立ち並ぶ部屋に案内されていた。

副司令の説明によると、私のリミッターを解除するには、

脳が体に命令をだす時の、生体電流と同じ波長のものを脳に流し込むことで

外れるかもしれないという。

それはいいのだが、私の許可なしにはずすことになっているのだろう?

結局、私の意思はお構いなしに実験は開始された。

なんだが最近、私は冗談のような人物になってきていないだろうか?


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その3


……。

……。

私は生きている。

壊れてもいないし、別段おかしいところもない。

しかし、実験に失敗したわけではない。

むしろ大成功したそうだ。

あれだけ自分が壊れることを恐れていたが、

いざ解除してみても、あまり実感がわかない。

副司令いわく


『あんたの能力自体はESPかPK(自然発火能力やサイコキネシスなど)だろうから、

 あんたがいきなり壊れることはないし、リミッターを解除しても使い方がわからないから

 能力が発現していないだけよ』


だそうだ。

あれだけ思いつめていた、私はなんだったんだろう。

だが妹もそうだとは限らないだろう。

ましてや私の能力自体、まだわかっていないのだ。

これから壊れるようなことが起きる可能性は比較的に高いだろう。

副司令もそこは厳重に注意してきた。

それにESPならともかくPKは人に直接的な害を及ぼす可能性が高い。

今日のところは様子見ということで帰されたが、正直、気が気でない。

今は消灯時間を過ぎている為、人に会うことはないだろう。

だが明日は違う。

人が活動時間とする日が昇っている時間帯は、人という人が活動しているだろう。

……私は何をびくびくしているのだろう。

私らしくないな。

普段どうりに振舞えばいい、只それだけだ。

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起床ラッパの音が鳴り響き、テンコを終えて、朝食をとりにPXへ赴く。

いつもと変わりない光景、顔見知りの上官に挨拶をし、京塚曹長に背中を激しく叩かれ、

207分隊の皆も集まり朝食をとる。

何もかもいままでどうりだ。

こうしているとリミッターを解除したことを忘れてしまいそうだ。

しかし、会話をしていると何か違和感を感じる。

この違和感は何だ?


「マモルさん、なんでそんなに不思議がっているんですか?」

「ん、顔にでていたか?」


思わず顔を手で触ってしまう。

何が変なのか、漠然としすぎていてわからない。


「顔に出ていたわけじゃないんですが、なんとなくわかったんですよ」

「珠瀬のいうとおりだな。いつものそなたの腹は読めぬが、今ならなんとなくわかる」

「そうね、確かに今日は御城が考えていることが、なんとなくわかるわ」


ぬう、いつもは考えていることを読ませぬようにしているのだが、

なぜ、ここまで今日は読まれるのだ?

まさか彩峰はともかく鎧衣にまで見抜かれているのか?

彩峰と鎧衣のほうに目を向ける。

彩峰を見るとあの演習の時に魅せた表情が浮かんでしまった。


「マモル~、なんか変なこと考えてない?」

「変なこと?」

「なんか漠然としないけど、慧さん関係だと僕は思うんだけど……」


おかしい。

絶対おかしい。

鎧衣がここまで読心術を高めたというのか。


「そんなわけなかろう、なあ彩峰?」

「……っぽ」

「……何故そこで赤くなる」

「事実だから?」

「さあ、どうだろうな」


はぐらかしたが、皆信じていないことは目を見ればわかる。

ここは早々に退散したほうがよさそうだ。


「はじめにいっとくが逃げる出ないぞ、御城」

「先手必勝とはやりますな、御剣殿」

「そうでもない。あらかじめお主の行動を予測しておけば容易い事だ」


行動まで読まれている。

かなり深刻な問題だな。

早々になんとかせねば。

それから訓練まで心のうちを読まれぬよう、

あらゆる手を使ってごまかし通した。

-------------------------------------------------------

午後の訓練、ラペリングロープで倉庫の南側の外壁を降りていく訓練だ。

略してというわけではないが、ラペリングという。

勿論、皆そんなことは知っている。

以前に校舎の壁を降りようとしたところ、教官にみつかり、大目玉を食らったことがある。

しかし、先程から鎧衣の様子がおかしい。

顔は熱っぽく、呼吸もやや荒い。

注意するべきか?


「鎧衣、大丈夫か?みたところ苦しそうだが」

「ああ、うん大丈夫」


そう答えるが傍から見ても大丈夫ではない。

しつこく休むよう忠告するがいうことを聞かない。


「第一これくらいでへばってたら、前線で戦えないよ」


む、正論だ。

私自身父上に、風邪を引いたときに訓練をさせられたことがあったから、

強くでることができない。


「マモルもそういう経験があるでしょう?」

「ああそうだな」


また心を読まれた。

今日は本当にどうしたのだろうか?

とにかく気をつけるよういっただけで終わってしまった。

---------------------------------------------------------

「では降りかたはじめ!!」


最初は慎重にかつ、迅速に降りていく。

十五メートルの壁をぴょんぴょんと飛びながら降りていく。

右隣の彩峰は順調のようだ。

だが左隣の鎧衣は少しふらついているようだ。

やはり風邪のせいか?

だがロープの動きがおかしい。

滑らかにすべっているのだが滑らか過ぎる。

それを気にしつつ降りる。

そして残り六メートルのあたりで、金具を閉め忘れている光景が浮かんでくる。

まずいと思ったときにはすでに四メートルのあたりだ。


「鎧衣!ロープが外れるぞ!!」

「え、あれ?」


とき既に遅し、ロープは蛇のようにすべり、空中を舞っていた。

真ッ逆さまに落ちていく鎧衣。

私はとっさに壁を斜めに蹴り、左手を伸ばす。

辛うじて上着の裾を掴むが、遅かった。

直接、コンクリートの地面に残り三十センチというところで激突はしなかったが、

逆に私が掴んだところを支点に壁に頭を打ち付けていた。

そういう私も無理な体勢で鎧衣の全体重を左腕で支えた為に、少々痛めたようだ。

先に降りていた皆と神宮司教官が近寄ってくる。

鎧衣をゆっくりと降ろすと、私も左腕をかばいながら降り立つ。


「鎧衣、大丈夫か?!彩峰、救護班を至急呼んで来い!

 榊は応急処置を行え、残りの者も交代でおこなえ」


神宮司教官が皆に色々指示を出している。

彩峰が呼んできた救護班がすばやく鎧衣を担架に乗せ、足早に去っていった。

その中で私は無理やりとめなかったのを悔やむことしかできなかった。

---------------------------------------------------------------

暗い通路をひたひたと歩く。

この通路が決して暗いわけではない。

私の心が暗いからそう見えるのだろう。

私は止められるものを止められなかった。

それが脳に焼き付いたようにジリジリと痛み続ける。

隣を歩いているピアティフ中尉は、さっきから厳しい顔をしている。

私の心内がまたもや読まれているのだろうか?

今朝から変だとは思ったが、なぜこんなに心内を読まれるのだろう。

思い当たることは、私の能力しか思い当たらない。

だがどんな能力なのか?

鎧衣が落ちたときに浮かんだ、あのイメージも関係あるのか?

いつもならすぐに着く、副司令の部屋も今は遠く感じる。

しかし、いくらそう感じても、着くものは着いてしまうものだ。

副司令の部屋の扉はいらっしゃいませ、といわんばかりに開く。

いつもどおり椅子に座っている、副司令が目に入ってきた。


「何立ち止まってるの?早くこちらに来なさい」


入り口にたったままでいたので怪訝に思ったらしい。

歩みを再開させ、机の前まで行く。

中尉も副司令の横に着く。

また私の心が読まれてしまうのではないか?

そう考える恐怖が込み上げてくる。


「何恐れてるのよ?それはともかく鎧衣のことは残念だけど、なんか変わったことあった?」


また見抜かれた。

いつもなら副司令という人の洞察力は、これくらい見抜いてしまうと思うだろう。

だが今は能力への恐怖と、わかっていながら鎧衣を助けられなかったことで

心の土台がグラグラと揺れている。

それはともかく今日は妙に心が読まれること、鎧衣を助ける前に浮かんだイメージのこと。

副司令はすべて聞いた後に、ぶつぶつとなにかいいながら、端末を取り出すと

カタカタとキーを叩き始める。

これが始まったら解散していいという、暗黙の了解があったのだが今日はそうもいかない。

今日みたいに私の心が裸も同然で、放置されるのは冗談ではない。

それをわかっているのかいないのか、それとも単に集中していて気づいていないのか。

副司令は作業に没頭している。

かなり時間がかかるだろう、と思っていると端末を叩く音がやむ。

そして顔をあげると晴れ晴れした表情で私を見てくる。

研究の成果がでた時の研究者は、皆こういう顔するのだろうか?


「わかったわよ~あんたの能力。前例がひとつだけあったわ」


前例があった?!

これは喜ぶべきことだ。

前例があるなら対処の仕方もわかるだろうし、

何より妹も研究対象からはずされるかもしれない。

そんな喜びも読まれてしまったのか、副司令はニヤリと笑う。


「残念だけど前例があるとはいえ、その前例はろくに研究できないうちに死んじゃっているから

 サンプルは多いほうがいいから、妹さんをリストからはずすのは無理ね」

「っ、」


思わず舌打ちをしてしまう。

その前例者は悪くないが、もう少し研究されていろと思ってしまう。

……私は何を言っているのだ。

仮にも御城を名乗っている私が、そのようなことを考えてしまうなど、恥知らずもいいところだ。


「そんなに思いつめないの。

 それであんたの能力はね、異常なプロジェクションよ」

「プロジェクション……ですか?

 ですがあれは、そのイメージを記憶と関連付けられないと汲み取れないはずでは?」

「そうね、だからあんたは異常なのよ。

 その汲み取れないはずのものをあんたは、情報の塊にして渡しているのよ」


いっている意味がよくわからない。


「プロジェクションいうのはそもそも、ESP能力者同士やBETAと会話せずに

 意思疎通するためのもの、つまり俗にいうテレパシーってやつね。

 ここまではわかるでしょう?」


コクリと頷く。

副司令の横に立っている中尉はいつのまにかいなくなっている。

多分情報閲覧のランクが上がった為に外に出されたのだろう。

頷くのを確認し、副司令はさらに続ける。


「だけど普通の人に、これは通じない。

 なぜなら普通の人間にはプロジェクションで送り込まれたイメージを

 言語に意訳できないから。

 しかし、あんたのプロジェクションは違う。

 あんたのはイメージを自動翻訳してから送る、つまり相手に意訳させること無く、

 ダイレクトにイメージを伝えることができるから、普通の人にも通じるわけ」


正直、唖然としてしまう。

そんな能力は私になぜ備わっているのか。

三流どころか素人が書いた小説の設定のようだ。


「だけどやはり普通の人にはそれが頭の中に叩き込まれても、

 無意識にそれを消去しようとする。

 それの所為で漠然とした物に変わってしまうのよ」

「それはわかりましたが、なぜそれが垂れ流し状態なんですか?

 それで鎧衣の時のは?」

「垂れ流し状態なのはあんたがその制御になれていないだけよ。

 そこらのことは社に教えてもらえばいいわ。

 それと鎧衣の時のイメージは推論でしかないけど聞く?」


当たり前だ。

プロジェクションのことはわかった。

だがあのイメージが浮かんだ時のことがどうも気になる。


「もちろんです」

「そう、簡単にいえば、プロジェクションの副産物ののひとつよ」

「また副産物ですか?」

「そうね。

 だけどね、リミッターの時とは比べ物にならないわよ。

 プロジェクションを行うときに、頭の中で計算が行われるのよ。

 その処理速度が社が1とするとあんたの場合は2~3くらいなのよ」


嘘だろ?

あの社霞だって飛びぬけてすごいというのに

それを上回る処理速度を持つなんてありえないはずだ。


「一応いっとくけどあんたはリーディングの才能は全く無いからね」

「それはありがたいですね、人の頭の中を覗かれるのは嫌だということを

 今日、嫌というほど味わいましたから」

「続けるわよ。

 それでその処理速度は五感で入ってきた情報……第六感もはいるかもしれないわね。

 とにかくその情報を処理している、そして処理し終わった結果がイメージとして浮かぶのだと思うわ」


平たく言えば未来予知なのだろうか?

それがあれば目先の危険は回避できるだろう。

しかし、それを次の瞬間、全否定された。


「いっとくけど未来予知とは違うわよ。

 あくまで計算による結果なのよ。

 つまり取り入れた情報が間違っていたら、結果も全く違うものになる。

 それに頼って行動したら、痛い目に会うでしょうね」


つまりこの能力は頼るべき物ではない。

そう暗にいっているのだ。

自然と拳を握り締める。


「説明は以上だけど、もうひとつ面白い物を作ろうと思うのだけど、どう?」

「面白い物?」

「そう面白い物、うまくいけば御家再興にも役に立つかもしれないわよ?

 それとこれは妹さんには関係ないわ」


しばらく忘れていたその言葉。

私を狂わすことになった言葉。

悪魔のリンゴを差し出してくる。

それを私は。


「いいでしょう。協力します」


またもや安易に手にすることにした。



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/04 00:34
しんと静まり返った部屋。

十月の後半ともなれば、朝は冷えるものだが

基地内、それも仕官用の個室ともなれば、防寒はちゃんとしている。

そのおかげで寒くて起きられないということは無い。

起きられなかったとしたら、厳つい顔をした上官にこっ酷く説教されるのだが、生憎、私は受けた事が無いが。

それはともかく起きなけばならない。

ベッドから起きると電気をつけ、顔を洗う。

これで眠気の大半は吹き飛んでしまうものだ。

そして、何気なく机に視線を巡らし、そこの置いてある小さなカレンダーを捉える。

十月二十二日。

ついに運命の日が来た。

忘却の救世主がこの世界に誕生する日だ。

しかし、彼がループした後なのか、前なのかわからない。

それを一日で見極めるのは困難だろう。

起床ラッパにはまだ時間はあるが、確かめに行くべきではないだろう。

もしループ後なら、その場に行って無用な混乱を起こしかねないだろう。

だが最短で、半日後にはその混乱に遭遇すると予想している。

私が存在している以上、必然なのだから。

そこで、ふとあることに気づいた。

私はなぜ、何のためにこの場にいるのだろうか?

人類救済の補助をするため?

半年前まではそうだったし、今もそのつもりなのだが、今この場に、国連にいる理由はなんだ?

……そうだ、御家再興のためだ。

そのために冥夜様のお命を狙う、卑しき男に成り下がっている。

それを副司令、引いては国連に知られ、国連の犬にされた。

任務は継続させられつつ、妨害工作、果てはモルモットにされているのだ。

そのどれにも関わっているのは妹という存在だ。

妹……この世で唯一残っている肉親だ。

前にも述べたが私のことを誇りに思っているといっていた。

だが今妹に聞いてみたらどうであろうか?

妹が誇れるような兄か?御城の名に恥じぬ行動をしているのだろうか?

私は御城家の誇りを失ってしまったのかもしれない。

……妹は今頃どうしているのだろうか?

あいつは純粋な奴だったから騙され、あの下郎に捕まってしまったのだろう。

薄暗い牢屋に入れられ、屈辱に耐えているのだろうか?

それとも無事に助け出されて、保護されている最中なのか。

目をつぶって思考に没頭するが、耳に起床ラッパの音が流れてくる。

……少々長く考えすぎたか。

上着を着用し、点呼をとる為に廊下に出る。

妹も大事だが、今は目の前の事柄に全力を尽くさなければならない。

妹に関しては鎧衣左近殿にまかせるしかない。

そう……信じて待つしかできないのだ。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その4


同日、大日本帝国 帝都 東京のとある訓練場。


とある少女がこの訓練校で日々精進している。

丁度今、訓練校のトラックを10キロ走りぬき、それから装備をつけてまた10キロを走っているところだ。

彼女は呼吸のリズムを崩さぬように黙々と走っている。

その後ろに見えるのは竹刀をもった女、彼女の教官がその様子をただじっと見ている。

怒鳴ろうともせず、ただ走っているのを観察している。

しかし、彼女の後ろには他の4人の訓練生仰向けになって倒れこんでいた。

いずれも脳天に赤い痕が残っている。

そのもの達は走っている少女と同年代の者達だ。

途中で脱落してしまったために竹刀で脳天に一発決められたのだ。

そして、彼女だけが残って走っているというのが現状である。

それもようやっと終わったようだ。

彼女は弾む呼吸を整えながら、敬礼した。


「教官殿、走り込みをただいま終了しました」


教官はそれを聞いても何の反応も示さない。

少女は知っていた。

教官が反応しないときはなにか追加の訓練を命令するときだ。


「今日はいい日和だな……そう思わない?」

「はい、自分もそう思います」

「なら空を仰がねば空に失礼だろうね……腹筋百回なさい」


やっぱりきた。

空が見えるよう寝転がり、腹筋を始める。

教官はそれを見ると呟くように、だけどしっかり少女に聞こえるように言った。


「それと地面にキスもしなきゃね……腕立ても百回ね」


今日の教官は機嫌が悪いようだ。

何が原因かはいわずともわかろうものだ。

--------------------------------------------------------------------

少女は教官に申し付かった追加訓練をこなし終わった後、のびている少女達にバケツいっぱいの水を叩きつけるようにかぶせていた。

それも一人一人、全身全霊をかけてだ。

そう、彼女は怒っているのだ。

水をかけられた少女達はバネ仕掛けのようにぴょこんと起き上がる。

……ひとりは鼻に入ったのか苦しいそうにむせている。


「「「「なにするんですか?!」」」」

「なにするんですかじゃないですよ。

 途中で倒れられると困ります。なぜなら私に全部付けが回ってくるんですから」


一見怒っているようには見えないが、こういう人は顔には出さないだけで、

目はしっかりと怒りの炎を燃えさからせている。


「まあまあ、付けが回ろうともそれだけあなたが鍛えられるんですから、問題なしですよ~」

「全然よくないんですけど」

「それは置いといて、腹減ったから飯食いに行こうぜ!」

「「異議なし!!」」


EX世界の三馬鹿よろしく、目を怪しく輝かせ走り去っていく……あっ、この場合は四馬鹿か。

ん?なんでこんなことをしっているのだろう?

それに彼女達と三馬鹿は別人だし、あれれ?

それはともかく、そのまま土煙を立てながらPXに直行していく同期生を見ながら、少女は思わず突っ込んでしまう。

走れるじゃないですか。

---------------------------------------------------------------------


PX――そこは軍人にとって楽しみの一つである、食事をまっとうすることを主目的にした(私にとってですが)場所である。

そこで少女、私は同僚の同僚たちと昼食を食べています。


「ところで、んぐ、さあ、もきゅ、あたし達って、もしゅ、こんなに早く、ゴク、徴兵されたんだろ?」


グロテスクになった合成野菜が口の中でわさわさしているのが見えてしまった。

う、気持ち悪い。


「はしたないから食べながら喋るのをやめてください」

「あんたはどこのお姫様だよ、ったく、んでどうなのよ?」


どこのお姫様か……。

そろそろ自己紹介させていただきます。

私の名前は柳、御城 柳と申します。

将軍家の直衛をあずかる、誇るべき一族の娘、それが私です。

……のはずなのですが、今は“元”がついてしまいます。

それは諸事情により御家がぼつらくしてしまったからなのですが……

いつの日か、お兄様か私が御城家の誇りを掛けて殿下の直衛として返り咲いてみせます。

それはそうと同僚に返事を返さねばなりませんね。


「前線の兵士は不足はしているでしょうが、私達が徴兵された理由は前におじ様に聞いたことがありますわ」


そう私はお兄様が帝国軍に入隊されてから、言伝を頼まれたという小太りの男が屋敷に現れたのだ。

そして、斯衛軍とは別に直衛部隊の募集をしているらしいと伝えられた。

それを聞いた私は何の疑いもせずに着いてきて、ここに入隊したのだ。

ここは帝国軍でも屈指の帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊が所属している基地なのだ。

それを見て私も、ああなりたいと心躍らせたのだった。

しかし、基地でも私達の姿はとても奇異なものらしく、連隊のみなさんはよく首を傾げていたみたいだった。

だけど訓練を積むうちに、それらの視線を感じなくなったのだ。

それはそうと徴兵された理由をいうと、どうも納得いかないようだった。

それはそうと、もう数日で戦術機の訓練に移れる。

これでお兄様が誇れる妹になれる。

そう思うと教官のしごきなど物の数ではない。

御城家の誇りに掛けて、かならず一人前の衛士になってみせますよ、お兄様。

----------------------------------------------------------------

「ん?」

「どうしたの?」

「ああ、なんでもない」


なにか感じたが気のせいか?

それを気にしつつ、走るのを続ける。

私の能力もこの一週間ばかりで大分抑えられるようになった。

さすがに垂れ流し状態をずっと続けるわけにもいかないだろうし、

何より私自身が嫌だから、社霞を師として仰ぎ、この一週間は目から血を流すほど訓練した。

だが、血の涙を見た社は気絶してしまったのだ。

それから私の顔を見ると逃げ腰になってしまい、再度コミュニケーションをとるのが大変だった。

さらに副司令には社を襲ったと勘違いされるは、

ピアティフ中尉に誤解されて白い目で見られ、誤解を解くのに相当苦労した。

……一方、未来計算の方は匙を投げそうである。

昨日の模擬刀での訓練で、一回使ったのだが、間違った計算をして彩峰に左脇を打ち込まれそうになってしまった。

その他にもこれといって役に立っていない。

しかし、副司令は夜な夜な私を呼び寄せて奇妙な機械に座らせてデータをとっている。

何に使うのか皆目検討がつかない。

それはそれで気になるが、今は白銀だ。

彼は今日ここに来たのだろう。

昼の訓練の途中で、神宮司教官から新しい訓練兵が来る、と伝えられた。

その名は白銀武、彼は“特別”ということも聞かされた。

今日こなければ二日後だったのだが、これを聞き、“俺”の記憶どうりなら素人も同然の役立たずがくる可能性は低い。

いや、確実に救世主となりうる人物が降誕したのだ。


「小隊集合ッ!」


噂すればなんとやらご本人のご到着らしい。

訓練を中止し、駆け足で教官の下に集合する。

そこには茶髪で優しそうな目をした男、白銀武が立っていた。


「207小隊集合しましたッ!」

「よし……では紹介しよう。

 新しく207小隊に配属された白銀訓練兵だ」

「し、白銀武です。よろしくお願いします」


私を見た瞬間にあきらかに動揺した。

間違いなさそうだ。

彼がこの先やろうとする行動をできるだけ手助けをするつもりだが、

私もやることがあるので、手助けできる回数は少ないだろう。


「見ての通り男だ。

 しかもこの時期にということで驚いただろうが、

 とある事情によりこれまで徴兵免除を受けていた者だ」

「色々ありまして……今後ともよろしく」


色々か……確かにいろいろあったんだろうな。

オルタネイティブ5の発動、それによる恋人の別れ……おそらく地球の人類は滅亡してしまったであろうことを目のあたりにしたことも。

彼が体験したことは私には想像がつかない。

だが、“俺”の記憶がそれを知らせてくれるかぎりできる手を使い、人類滅亡を阻止してみせよう。

白銀……お前一人ではないんだからな。

それから訓練が終わりPXに集合することになった。

----------------------------------------------------------------


「それにしても“特別”とはどういう意味なのだろうな、御城?」

「特別に莫迦な訓練兵ではないか?」

「……御城さん、それ笑えません」

PXに着たはいいが、白銀は榊につれられ竜宮へ……ではなく基地の案内をしにいった。

まったく必要ないのだろうが、この世界では初めてなのだから仕方あるまい。


「御城、変なこと考えてた?」


……また抑制し損ねたらしい。

さてどこまでイメージが伝わってしまったのだろうか?


「竜宮って浦島太郎?」

「ご想像におまかせする」


どうやら白銀云々のところは流れなかったらしい。

早く抑制を免許皆伝をせねば。

そんなことを考えているとPXの入り口にデカイ眼鏡を発見する。

あれは榊と白銀か、思ったよりも早く案内が終わったらしい。


「白銀さん、榊さん、こっち!」


桃色の髪を揺らしながら、珠瀬は二人に呼んでいる。

それを見ていて毎回思うのだが、髪が猫耳に見えて仕方ないのだが

どうしてそんな結わえ方をするのだろう?

それはそうと二人はこちらにきて椅子に座る。

私はそれからしばらく黙っている事にした。

白銀はさっきから私のことを気になって仕方ないらしいがあえて無視する。

そうこうしている間に話は鎧衣がのぼっていた。

そこで話が止まってしまう。

皆は私のことを気に掛けてくれているのであろう。

だから安心させるように言葉を選んで口にした。


「気にするな。鎧衣のことはもう整理がついている。

 これ以上気にするようなら、鎧衣に申し訳がたたん」

「……余計な気を廻した。許すがよい」

「ああ」


207小隊全体にいえることだが、精神力に関してはまだまだ未熟だ。

無論私も含めてだ。


「それはそうと白銀、お主の“特別”とはどういう意味なのだ?」

「特別?……どういう意味だ?」


しまった単刀直入にいいすぎて下りの部分を忘れていた。


「ええと、それは神宮司教官からあなたが“特別”と聞いたからよ。

 だから私達はそれに期待しているわけよ」


榊よナイスフォロー。

今度、眼鏡のスペアを進呈しよう。


「そうだ。だから私たち……ひいてはこの国の、この水の星のためになる“特別”なのだな?」

「……そうだ……少なくともオレはそういうつもりだ」

「それは頼もしいな」

「頑張りましょうね、白銀さん」


やはりその決意は私がいてもいなくても変わりないか。

なら私も協力をできるだけしよう。


「私たちはその特別の意味する所までは詮索しない。

 だが、当然期待する」

「香月博士と神宮司教官のお墨付きだから、きっと大丈夫だよ!」

「……だといいけど」


私も太鼓判を押すがなんか複雑な気分だ。

以前の私も最初はこんな風に期待されていたのだろうか?

私が任務を引き受けなければ白銀のように・・・・・・。

その後、総合戦闘技術評価演習の話がでてきてそれからお開きになった。

私は白銀武に嫉妬しているのだろう。

まだわからんが私と互角かそれ以上である可能性は高い。

そして、白銀の恋愛原子核……っだったか?

それはともかくその人間関係を気づくであろう事も、私は嫉妬しているのだろう。

……私もまだまだだな。

この程度のことで嫉妬していては身がもたない。

日々精進すべし、渇ッ。

しかし、左近殿、妹の行方を早く見つけ出してください。

なにやら嫌な予感がしてきました。

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ん~柳ちゃんがホイホイついいてきてくれたおかげで、ことはうまく運ぶし、あそこに隠せばそう簡単にみつからない。

情報省の奴らはなにか嗅ぎつけているようだけど無理無理。

あそこはあの男の紹介でやったものだし、正式に入隊させているから、

見つかったら見つかったでごまかせる。

年齢がどうたらこうたらいってきたら、御城の奴が無理やり創設させたでOK。

私の計画は順調そのもの、まさにパーフェクトプロジェクト!!

笑いが止まらんわ!!

ある男の日記より抜粋



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/03 00:50
時刻22:00 副司令室


「少しやつれたようですな」

「ほっといて頂戴、これからの話は関係ないでしょう」

「いやいや、何度も言うようにあなたの美貌が損失するのは、人類の損失ですからな」

「そんなことより、あいつらの動きはどうなの?」

「今はまだ、議会を抑えておりますので大丈夫かと……。

 しかし、それも長くはないでしょうな。

 計画がスタートしてはや六年、そろそろ安保理も痺れを切らしてますからな」

「……そう」


オルタネイティブ5推進派、日本主導のオルタネイティブ4とは全く違うBETA殲滅計画。

米国の主流な考え方が反映しているといってもいいだろう過激な計画だ。

1995年にオルタネイティブ4がスタートし、六年たった。

だがいまだに成果は何もない。

これが原因でオルタネイティブ5を推進するべきだ、という声が大きくなってきている。

早く何とかしなければ……。


「その話もいいですが、クリオネの生態系の話はどうですかな?」

「しなくていいわよ」

「クリオネとはそもそも……」

「本題にいい加減にはいりなさい」


この男はいつもくだらない話をしようとする。

諜報員としては超一流なのだが、マイペースすぎるのが傷だ。


「御城 衛君、彼のことですよ」

「あいつがどうしたの?」

「彼の妹、柳さんが見つかっていることを知らせなくてもよろしいのですかな?」


そんなことか。

彼は確かに優秀なモルモットだ。

兵士としても優秀、人柄もそこそこ、だが御家再興という言葉を使えばコロッと動く、そこが最大の欠点だ。

私は鎧衣の言葉に鼻を鳴らしながら答える。


「言ってもいいけど、言うだけ無駄よ。

 結局のところ、私達が保護するのは、不可能なんだからね」

「いやいや、彼もそろそろ痺れを切らしてきているいるみたいですしね。

 まあ、博士が言わないのであれば、それはそれでいいでしょうがね」


私が言っているのは嘘だ。

言わないこと自体になんのメリットもない。

ただの冗談なのだから。


「嘘よ。只いってみただけ、明日にでも呼び出して言うわ。

 でも実験に非協力的にならないかどうか心配なのよ」

「彼は大丈夫でしょう」

「やけにはっきりいうわね?」

「いやいや、長くこの仕事をやっているとわかるものですから。

 それに若いころの私に似ている気がするのですよ」

「……そう」

「できれば彼のような息子が欲しかったですな」

「はいはい勝手に言ってなさい」


こいつの話に付き合っていると夜が明けちゃうわよ。

だから追い払うように手を振るうのは当然の行為なのだ。


「今日のところは品切れですので、また後ほど。

 はいこれを社霞さんに」


手に土産を手渡して、さっさと出て行ってしまう。

いつもくだらない土産を置いていくのはやめて欲しいわね。

今日は……木彫りの熊の置物?

あいつさっきクリオネの話をしてなかったっけ?


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その5


人類の救済、御家再興、このことを考えるのは何回目だろう。

目的があれば、人は努力できる。

この言葉はつい先程、白銀が冥夜様に言っていたものだ。

それに冥夜様は簡潔でいい言葉だといった。

盗み聞きしていた私もそう思う。

私には目標が二つある。

どちらを優先して目指すべきか、それともどちらかを切り捨てるべきなのだろうか?

そうしたら当然、御家再興を切り捨てるべきであり、悩むこと自体愚考だろう。

だが私は悩んでしまっている。

白銀が人類を救ってくれるのなら御家再興に力を入れるべきだ、と考えてしまう愚かな自分。

人類の未来より、かつての栄光を取り戻すということの方が大事というのは、

我ながら実に哀しいことだ。

あの時、月詠中尉があのような顔をしたのも、今の私の心を予見していたためであろうか?

……糞!

私は何をやっているのだ。

八つ当たりに通路の壁を殴りつける。

そこに張ってあったポスターに拳のあとがついてしまう。

壁に八つ当たりすること事態みっともないことだが、それを気にしてはいられないほど苛立ちが積もっている。

こんな姿を冥夜様や他の仲間が見たらなんて言うだろう。

自嘲で顔が歪む。

馬鹿馬鹿しい、まるで見られることを期待しているみたいではないか。

もう一発ポスターに描かれている兵士の鼻面に拳をお見舞いする。

負荷に耐え切れずにポスターはついに破れてしまった。

……これは始末書を書かなければならないな。

場違いなことを考えていると、先程呼び出しを受けたことを思い出す。

ピアティフ中尉に先に行くようにいって、それから二人を見かけたのだ。

まさか、白銀との顔合わせではあるまいな。

だとしたら最悪だ。

今顔をあわせると八つ当たりをしてしまうかもしれない。

なにも苦しむようなこともなく、のうのうとこの世界にきた野郎だと罵りそうだ。

むろん、白銀は十分苦しんでいるのはわかっている。

そうあいつは悪くない、自分がすべて悪いのだ。

こういう精神状態の時は頭を冷やすのが一番いいはずだ。

呼び出しの時間まであと少しだが、夜風にあたってから行くほうがよさそうだ。

赤くなった拳をさすりながらのろのろと歩き始める。

-----------------------------------------------------------------

どうやら予感は外れたようだ。

冷静に考えれば簡単ことだ。

この時の白銀は信念こそあれど、中身がついていってない、副司令の言葉を借りれば、ガキなのである。

そう考えると私は随分と買われているらしい。

最初からオルタネイティブの情報の大半を掲示し、内側に引き込んだ。

モルモットとして使い潰すから話しても問題ないと判断したのだろうか?

いずれにしろ本人しかわからないことだ。

例えそうだとして、こちらも利用すればいいだけだ。


「今回の用件はなんです、またデータ取りですか?」

「それもあるけど、先に白銀の事よ」

「白銀ですか?」

「ええそうよ。彼はあなたの目から見てどう思う?」


白銀のことか……。

正直にいいすぎると彼のことを知っていることがばれかねないな。

言葉は慎重に選ぶべきだな。


「そうですね……はっきりいって異常ですね。

 教官に聞いたところ、彼は兵役の経験はないといいますが、

 そのことに目を瞑ってもそれ相応の訓練を受けているとしか思えませんね」

「ふ~ん、そう」


“俺”の記憶抜きにした正直な意見をいったのだが反応は淡白だな。

まずったか?


「なら、見張りなさい」


そうきたか、私を白銀と引き合わせない理由はこれにあるのか。

それにしても監視する意味はあまりないような気がするが、そこら辺は副司令の考えがあるのだろう。


「……見張るのはいいですが、何を報告するのでしょうか?」

「その前にひとついっとくわ。彼はあなたと同じくらいのレベルのIDを渡したわ」

「……それで?」

「あら、以外ね」

「なにがですか?」

「なにか反応があると思ったのに反応しなかったからよ」

「副司令がこういう話を持ちかけるときは、驚きの一つや二つ覚悟していますから」


本当は知っているから驚くわけがないからなのだが、そんなことを死んでもいうわけにわいかない。


「そう……それでなぜ渡したかというのは、わかるだろうから省略するわ。

 それで彼が莫迦なことをしないように監視する、つまり機密に関わることを喋りそうになったら

 全力で止めなさい、それが任務よ」


また任務か……。

なぜ私にはこういう任務ばかり回ってくるのだろうか?

しかも副司令の様子を見る限り、まだ任務がある様子だ。

白銀のことはあくまでついでなのだろう。

聞きたくはないが聞かないわけにもいかないだろう。


「で、他にもあるんでしょう?」

「あら、察しいいわね」

「半年も副司令の部下をやっていればその位わかりますよ」

「頼もしいわね。なら気兼ねなく、別の任務を伝えるわ。

 こちらのほうが重要度が高いからそこのところ注意しといて……率直に言うわね」


驚くような

呼吸の音、心臓が刻む鼓動、全身に流れる電流。

体のすべてを把握できるほど全身を耳にする。

副司令の次の言葉を計算するんだ。

体の動き、手の動き、口の動き、眼球の動き、場の空気、全ての要素取り入れる。

システムオールグリーン。

一番回路計算開始……計算完了。

イメージを投射します。

そこで私はその場でつんのめってしまった。

なんでこんな真面目な雰囲気なのにこんな結果がでるんだ?!


「……あんたなにやっているの?」

「いえ、すいません。計算したのですが、あまりにもありえない結果が出てきたもので」


真面目な雰囲気をぶち壊しにしてしまった。

でもいくらなんでもこんな結果はありえないはずだ。

そう取り入れた情報にあやまりがあったはずだ。

そうに決まっている。


「で、計算の結果は何なのよ?」

「こればかりはどうかご勘弁を……」

「だめよ。貴重な研究資料になるから言いなさい」


うっ、そう言われると逃げ道がないではないではないか。

副司令……幻滅しないでくださいね。

私は大恥をかく覚悟で言うことにした。


「仕方ありませんな……。

 副司令が言おうとした任務の内容は……」

「内容は?」


いざ言うとなると恥ずかしすぎるではないか。

咳払いをわざといれ、落ち着こうとする。

顔が火照って赤くなっているのがわかる。

ええい、もうやけだ。


「任務の内容はピアティフ中尉とこ、恋仲になれ、であります!」

「……」


いってしまった。

ああ、我が妹よ。

こんな莫迦な計算結果を口にした兄を誇りに思ってくれるか?

沈黙する空間。

私は今すぐに部屋を出たい気分だ。

副司令も呆れているのか、うんともすんとも言わずに、私を凝視している。

呆れられて当たり前だろう。

どうか副司令よ、哀れむような眼差しを私に向けないことを祈ります。

時間にしてわずか十秒たらずだろう。

副司令はあいた口を一回閉め、再び開け声を紡ぎ出した。


「あんた壊れてるんじゃない?」


面目ないです。

私は穴があったらはいって埋めてもらいたいです。

だが次の言葉が耳を振るわせたときは耳を疑った。


「なんでそんなことが計算できるわけ?

 言おうとした言葉を寸分たがわず当てられるわけ?

 まったくもって意味不明だわ」

「はい?」


今この人はなんていいましたでしょうか?

寸分たがわず正解?


「正解……なのですか?」

「そうよ、こっちが信じられないわよ。

 でも、貴重な資料にはなりそうね」

「そんなことより、任務内容の意味がわかりません!!」


私らしくもなく、大声を上げ、机の上に乗り出そうとしている。

副司令はさも楽しそうにニヤリと笑っている。

いかん落ち着くのだ。

こういうときの副司令は、取り乱す相手をからかって遊ぶ方法を考えているのだ。


「意味はそのまんまよ」

「……では理由はなんですか?」


副司令は私が落ち着いたのを見ると、さも残念という顔になる。

とりあえず回避に成功したようだ。


「理由は簡単さっきの白銀の件に関係するのだけど、

 白銀にあんたがオルタネイティブに関係していることを知らせないためなわけ。

 中尉に連絡係やらせているけど、それだともろにばれるでしょう?

 なら、個人的付き合いで会っていることにすれば、問題は解決するわけよ」

「なら、恋人にならなくてもいいでしょう」


いきなりそこまで関係になるのはいかがと思うし、なにより白銀以外の皆は知っていることだ。


「あんたもまんざらではないんでしょう?」

「……さあ、それはどうでしょうね。任務に私情を挟む気はないので」

「あら、そうなら恋人関係ということにしても問題ないわね?」


しまった。

言葉を選んだつもりが自ら墓穴を掘ってしまった。

不覚。

さらに第二射が私を襲う。


「そういうことでいいわね、ピアティフ?」


後ろに振り向くとそこには見慣れた人影……イリーナ・ピアティフがそこにいた。

今までの会話全部聞いていたのだろう、表情こそ変えていないが顔の色はうっすら桜色になっている。

中尉なら反対してくれるはずだ。

そうに決まっている。

そうであって欲しい。

そうですよね?

そして中尉の口が開かれる。


「別にかまいませんが、いきなり恋人というのはどうかと思うのですか……」

「ピアティフもそんなこというの?

 仕方ないわね……じゃあそれの一歩手前ということでよろしく」


中尉は期待通り援護してくれたが、どうしてもそういう方面にもってきたいらしい。

おそらく研究のストレスを発散させているのだろうが、私からすれば迷惑なのだが……。

副司令は中尉を呼び寄せると内緒話を始める。

わざわざ人の前で内緒話をしなくてもいいじゃないですか。

どうやら話は終わったようだが中尉は怒っているのか顔を真っ赤にしている。

副司令、からかいすぎるとそのうち火傷しますよ?


「ああ、そうそう、このことは神宮司軍曹に伝えておいたから榊たちのことは気にしなくてもいいわよ」


そこまで用意周到に準備してましたか……。

逃げ道を塞がのは相変わらず早いですな。


「もうひとつ話があるんだけど、中尉には悪いけど外に出て頂戴」


中尉は言われるがままに扉に向かって歩いていく。

なにやらその足取りはぎこちないようだがどうしたんだ?

ピアティフ中尉が扉の向こう側に行くのを確認すると、副司令は真面目な顔になった。

どうやら今の話もおまけだったらしい。

これから話す内容はとても重要なことは確かなようだ。


「あんたをオルタネイティブ4に入れた理由、その条件……当然覚えているわね?」


それは当たり前だ。

私がとても貴重な能力をもっていて、それを研究する為に引き入れたのだ。

妹もその対象になっている。

そしてモルモットになる代わりに条件として、妹の保護を約束したのだ。

今考えると私にものすごく不利な条件だと思うのだが、あの場に逃げ道がなかったのだから仕方ない。


「勿論ですが、それがどうしたんですか?」


副司令はひとつ深呼吸をして私を凝視する。

明らかに眼の力が強くなった。

私の挙動をすべて見逃さないために鷹のような目をしている。

そしてその口から音が発せられる。


「その条件だけど、果たせそうにないのよ」

「……どういうことですか?」

「あなたの妹は一応見つけ出したわ。

 だけど、保護するのには場所がわる過ぎるのよ」


場所が悪すぎる?

あの下郎の館に捕まっているのではないのか。


「一体どこに捕まっているのですか?」

「正確には捕まっているわけじゃないのよ。

 彼女の居場所は帝国軍の訓練校に特別挺身隊候補生として入隊しているのよ」

「特別挺身隊ですか?!なぜそのような隊にいるのですか?!」


特別挺身隊、大東亜戦争でいう神風特攻隊のような物だ。

突撃前衛をさらに突き詰めたポジションだ。

いやポジションというのもおかしいだろう。

この部隊は味方のためにBETAに向かってS―11で自爆し、

進路、または退路を確保するという戦術を前提として運用される部隊なのだ。

明星作戦以前に運用されていたのだが、今は解体されて存在しないはずだ。

だが現実として妹はそこに所属しているという。


「多分あんたに命令を出した奴がそうさせたんでしょうね。

 随分と頭がいいやつよ。

 あんたが国連を頼っても、帝国軍に所属させてしまえば国連は手を出せない。

 出せば、引き抜きだのなんだので帝国軍に大きな借りを作ることになるわ。

 当然国連はそんなリスクをおってまで引き抜きたいわけじゃないわ。

 だから手を出さないというわけよ」


もっともな理由だ。

私個人の願望で国連が動くわけがない。

メリットがあったからこそ、今まで動いてくれたのだ。

だがデメリットの方が大きくなれば手を引くのは当たり前だ。

私はまたあの下郎の命令を聞かなければならなくなったわけだ。


「で、あんたはどうするの?

 利害関係がなくなった以上、私に協力する必要がなくなるわけだけど」

「いいえ、協力させていただきます。

 一度した盟約ですし、まだ国連とのパイプを失うわけにはいきません。

 なにより人類の未来の為には必要なことでしょう?」


副司令はそれを聞くと目をすばやく瞬くと驚いたような表情をする。

そんなに意外だったか?

私としては言ったように、国連との繋がりを失くすのはあまりにも愚かなことだ。

繋いでおけば、いざというときに役に立つ。


「意外って顔をしてますね。そんなにおかしいですかね」

「ええそうね。あーあ、鎧衣が言ってた通りね」

「鎧衣?ああ、左近殿ですか」

「あいつがあんたのことは心配ないっていっていたのよ。

 私はあんたがさっさとやめるかと思っていたけどね」


彼がそんなことを言ったのか、そんなに顔をあわせているわけではないが

仕事柄そういうのに長けているのかもしれない。


「それに御家再興だけが目的じゃないのね」

「一応私も人類の一員ですから」


そう私も人類の一員だ。

御城の人間も人類の一員であるはずだ。

-------------------------------------------------------------------

顔なじみの伍長に礼を言うとゲートの外に出る。

そこからは桜が並び立つ坂がある。

そこを下りながら、星を眺めることがここにきてからの日課になった。

まあ、任務の都合上これない日も多いが、それでもくることをやめようとしない。

空で瞬く星はBETAが侵略してきているのを一時でも忘れさせてくれる。

『衛よ、家が没落しても帝を…殿下を恨むでないぞ。我らの使命は殿下を将軍家をお守りすること、

 ひいては国を民を護ることだ─────』

父上の言葉を思い出す。

だけど最後のほうの言葉が思い出せない。

なぜだろうか?

星は瞬くが私の疑問には答えてくれはしなかった。

だがそんな星に願おう。

私が下郎をなんとかするまで、妹よどうか無事でいてくれ。



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/04 02:12
白銀武がきて隊の中の雰囲気が明らかに変わった。

悪い方向にかわったわけではない。

むしろよくなったはずだ。

207分隊の皆は、私が引っ張っていたときよりも活き活きとしているようだ。

それは少し考えれば当たり前のことだ。

皆を避け、能力だけを見せつけ、私を目標にさせたやり方。

皆に遠慮なく近寄り、能力をみせつけ、目標でありながら自らもその輪に加わるやり方。

これだけいえばどちらが結束力を高め、より強くなるのは明白であろう。

私は自分がやってきたことの結果のひとつを見ているにすぎない。

私は白銀に嫉妬している。

そう嫉妬しているのだ。

自分のやってきたことを棚に上げ、あいつばかりがよい人間関係を築きあげるのに嫉妬している。

それはとてもみっともないことだ。

だが、頭でわかってはいるが、時にそれを抑えきれないのも事実。

現在、PXで食事していてもそれを感じてしまう。

こうして考えていることが能力の所為で、思考が垂れ流しになっていないことを祈ってしまう。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その6


「……守りたい物……ちゃんとあるか?」

「え?」

「詳しく言う必要はないけどさ……そのために命を

 賭けられるような、そういうものあるか?」


突然の質問。

白銀はこの世界の人間なら大半の人が持っているだろう事を聞いてきた。

しかし、その質問は存外に私の心を大きく揺さぶった。

私が守るべき物は将軍家、それは御城の家にとって当たり前のことだ。

そうであるはずなのに……なぜこんなに揺れ動くのだろう?

守りたい物……御城の家名?妹の命?

少し考えただけで、この二つが鎌首をもたげてくる。

どれもあっているような気はするが、間違っているような気もする。

御城家の者としてではなく、私としての守りたい物はなんなのだ?

……そうか、白銀に嫉妬しているのは人間関係だけではなかったのだ。

たとえ立脚点がスカスカでも、その信念だけは本物だ。

そして、その信念さえ失い、屍の如く失ったものを捜し歩いている自分。

白銀は私が失ったものを持っている。

だから私は嫉妬しているのだ。

みっともないものだ。

思考に埋没している間に真面目な話は終わってしまったようだ。


「榊のこと、委員長と呼んでいいか?」

「……はあ?」

「冥夜、たま、彩峰、御城……というのが俺の希望だ。

 オレのことはタケルでも白銀でもいい」

「開き直ったな……」


……そういえば、こんな行事もあったな。

まったく、呆れて言葉もでない。


「……御城と私だけ、普通」

「名前で呼んでやろうか?」

「…………いい」 「謹んで辞退させてもらう」

「ん?」

「どうした白銀?」


白銀は何かおかしいのに気づいたように、首を傾げる。

何か疑問に思うようなことをいった覚えはないのだが?


「もしかしたらオレが御城と会話するの初めてなんじゃないか?」

「……そういえばそうだな」


思い返してみても、白銀がきてから数日間、言葉を交わした記憶がない。

それは彼に嫉妬心を抱き、近づこうとしなかったからだろう。

それに任務のこともある。

だが、彼のサポートをしようと決めていたはずなのに、私はなにをやっているのだろうな。


「なら改めて自己紹介をしよう。

 私は御城 衛。

 見ての通り貴様と同じ、今は珍しい男の訓練兵だ。以後よろしく頼む」

「よろしくな。

 いや~、オレは新入りだし……評価演習の前に、早く打ち解けたいって言うのもあるし、

 背中を預け合う戦友なんだから、親近感があった方がいいと思うんだ」


それには賛成したいが、残念だがこれ以上の関係を作ることはできないことに気づく。

そう、下郎の任務が有効になってしまったことを思い出したのだ。

だがいまさら築いた関係を壊すのは皆に怪しまれる。

着かず離れず、これが妥当だろう。

白銀のことに関しては直接サポートができない。

副司令に頼もうにも、それはそれで怪しまれる。

やりずらいことこの上ない。

その後もとんとんと話は続き、話は盛り上がったようだ。

私と彩峰は参加していなかったがな。

----------------------------------------------------------------------

御城 衛。

前の世界では存在しなかった男。

能力はオレと同じ位……いや、それ以上だろう。

少なくとも基礎能力の上ではあいつのほうが上だろう。

その所為なのか、委員長たちの能力がオレにかなわなくとも、以前より各段に強くなっている。

しかし、チームワークは以前と同じくらいだ。

一体どういうことなのだろうか?

先生に一応言ったが、以前の世界とは少し違う世界とだけ言っただけで片付けられた。

だがこの世界の歴史も以前と変わりない。

美琴も予定通り、復隊した。

授業内容も変わらない。

いや、近接戦闘の訓練は訓練刀からナイフに変わっていたが……どうなのだろう?

その訓練で彩峰と御城のペアをみて見たが、あれはすごかった。

前の世界では彩峰とは最終的に精進しあって、なんとかやりあえるほどにはなった。

そして今はオレのほうが経験を積んでいる分、基礎能力向上を除いても有利に戦えるだろう。

そう思っていたが、それは少々楽観的だった。

オレの相手の冥夜も気を抜くとやられてしまう位の技量があった。

だがこちらとて伊達に経験を積んでいるわけではない。

腕こそ上がっているが、体力は以前より少し上がっているだけだ。

息切れを起こしては休ませるように会話をする。

そうすることで自分が精神的に落ち着くことができ、相手の癖を読むことで撃退した。

だがさっきも言ったが、あの二人は異常だ。

彩峰と戦っている御城は余裕こそないが、互角以上にやり合っている。

その彩峰はオレが本気になってようやく互角になるぐらいだろう。

だが御城以外の皆は、格闘能力以外はオレには遠く及ばない。

御城に関しても狙撃は苦手でオレよりも劣る、というよりも射撃全般はオレのほうが上だ。

基礎能力が上といっても、総合的にはあいつの方が上というだけなのだろう。

一時はオレが皆を引っ張ることができるのかと疑問に思ったが、

むしろ御城より上の分野があるおかげで、オレのほうが皆を引っ張っている感じだ。

御城が引き立て役になったおかげで、隊の中の信頼は以前より格段に上がった。

それに気になることは美琴のことだ。

怪我したのは変わりないが、どうやら御城が助けようとしたらしい。

そのおかげで頭を打って脳震盪を起こした程度で済んだ。

普段は無愛想で皆と関わりを持とうとしないあいつが、

そんなことをするとは意外だが、悪い奴ではないのだろう。

そういえば、皆が胸の話をしていたときにひとりそっぽを向いていたな。

それを彩峰がからかっていたっけな。

しかし、その後の総合戦闘技術評価演習の話のときは空気が重かったな。

少し思い出してみるか……。

------------------------------------------------------------

「……チームをまとめきれず、一人の部下を信頼しすぎた無能な分隊長、

 指示に従わない部下、見切りをつけて独断した部下……主にこれが理由」

「さ、榊さん……」

「ど、どうしてそんなことわざわざ言い出すの?」


榊……今ここで確認する必要はなかろう。

白銀にあのことを教えてどうするんだ?

あの忌まわしき私の裏切り行為を。


「……一部違うね。

 最後はあんたの指示に従って、地雷原の餌食になった。

 御城の所為にするべきじゃない」

「彩峰さんまで!?」

「鎧衣は迂回するべきだと言っていた。

 鎧衣の勘が尊重されるべきことは事前に了解済みだと思っていたのだがな……。

 確かに御城の一言に過剰に重視したの確かだ」

「冥夜さんっ!」


皆があそこまで私を信頼していたのは任務の遂行上、嬉しい誤算だった。

だが私としては悲しむべきことだったが……。

さりげなく、怪しまれない程度に釣り糸を垂らし、結果はみごとに釣り上げてしまったのだ。

それはともかく、白銀は“俺”の記憶にあるとおりに極論を述べた。

もちろん皆の反応も記憶どおりだったのだが、どうも覚えていることにむらがあるみたいだ。

覚えているところとそうでないところがあって正直、引き出しにくい。


「――――命令に従う云々は当然だ。

 しかし、いついかなる場合もそこで思考を止めてよいわけではない。

 そなたの言う、『自分がリーダーになる』という事を実践するには、

 自分がその先を考える必要がある。

 そなた程の者が、この矛盾を看過しているとは思えないが……」

「……」

「……私が言いたいのはそれだけだ」


冥夜様は白銀の甘さを見事に看破した。

しかし、それと同時に皆の甘さも露呈したわけだ。

話は結局、今は仲間感覚でいいということになり、解散することになったが

私は少し白銀に話をしようと近づいた。


「ご高説ごくろうだったな」

「……嫌味かよ。文句あるなら聞くが?」


警戒心をもたれてしまったか。

まあ、彼の事情を知れば仕方あるまい。

私は両手を上げ、降参のポーズを取る。


「すまない。

 少々物言いが偉すぎたな、許されよ」

「それはいいけど、何か用か?」

「いや何、用というほどのこともないさ。

 それより君のほうが私のことを気になっているんじゃないのか?」

「!?」


何故それを、って顔をしている。

顔に出やすい人間が上に立つのは難しいと思うぞ。

しかし、ここで私の正体をばらすわけではない。

本当に少し話をするだけだ。

ほんの少しだけ……。


「私の一言が演習を不合格にさせた……ということが気にならんのか?」

「……それは気になるが……いきなりどうしてだ?」

「伝えたいことを先に言えば、私の二の舞になるなということだ」


私は何を言っているのだろうな。

こんなことを言わなくてもなるはずがないのに。


「どういうことだ?」

「め……いや、御剣がいったであろう?

 私の一言を皆が過剰に重視したということを」

「……ああそうだな。それで委員長が地雷原にいくような命令を出す後押しになったとか……」


私は後悔しているのだろう。

その後悔を後悔しきれないから他人にもらしている。

何も白銀のためにいっているわけではない。

自分に免罪符を手にさせたいだけだ。


「彩峰は庇ってくれるが……あの一言はもらすべきではなかったのだ」

「……」

「そうすればそうは―――いや、やめておこう」

「……中途半端なところでやめるなよな」


中途半端でやめるのはよくないが、これ以上私の弱さを見せるのはよくない。

そもそも嫉妬を抱いている相手にこんなことを話してどうするのだ?


「すまんな。

 だが言いたいことは信頼を裏切るような言動をするな。

 もしそういう言葉をいったらその重責から逃げるな。只それだけだ」

「……」


そういって背を向け自分の部屋に歩いていく。

白銀がこっちをじっと見ていたがそれで振り返る気も起きない。

私は莫迦なことをいった。

自分で実行できていないことを説教してどうするんだ。

みっともない事この上ない。

--------------------------------------------------------------

通路を歩いていると向こうに人がいるのに気づく。

月詠中尉だ……。

何用だ?


「久しいな御城訓練兵」

「約半年ぶりですね……中尉。今夜は何用ですか?」

「……今夜は星が綺麗だ……少し付き合うがいい」


ここでは話せないことか……。

逢引の話ならうれしいのだが、別の中尉が怖いので話を受けることはないが、それとは別だろう。

ゲートを通るわけにはいかないので施設の裏の木下にいくか。

すぐに施設裏、坂の上の木下についた。

この木の下で告白すればなんとやら、この場合は関係ないができたら

それにあやかってみたいものだ。

その木下に立ち、月詠中尉は髪をなびかせ、こちらに振り向いてくる。

髪が月の光を反射させ、中尉の美貌もあわさり、神秘的な雰囲気を感じさせる。


「白銀武……奴は何者だ?」


やはりそうきたか。

私の任務の仲間だと思っているのだろう。

しかし、中尉が私の任務をしっているはずがない。

そこで左近殿の顔が浮かぶがそれを否定する。

中尉がそれを知っているのなら、知ったその日に武御雷に乗り、私を殺しに来るだろう。


「彼がどうしたのですか?」

「惚けるでない。そなたの仲間であろう?」

「仲間?言っている意味がわかりません。

 彼とは初対面なのですが……これは本当のことですし、

 彼のことを聞かれても何も知りませんよ?」

「そなたはあくまで惚けるきか?」

「しつこいですね、確かに彼は兵役未経験ながら、

 英才教育をうけた私と同じくらいの能力をもっていますが、

 彼は私とは一切関係ありません。」

「……」


こればかりは本当だ。

私は彼を知っているが、彼は私を知らない。

関係があるわけでもない。

彼が下郎と関係あったのならこっちが詰問しているところだ。


「用がそれだけなら帰りますよ?」


背を向けるてその場を去ろうとする。

歩を進めようとしたとき、


「御城よ、非礼を詫びる。

 そなたを疑ってすまなかった。白銀とやらがきてから少々神経過敏になっていたようだ、許されよ」

「いえ、私が国連にいる時点で疑われて当然ですので……」

「考えてみれば御城の者が将軍家に弓を引くはずがない。

 御家のことは残念だがそなたなら乗り越えるだろう。

 では今後も冥夜様をよろしく頼む」


そういって私の横を通り過ぎていった。

冥夜様をよろしく頼む……か。

月詠中尉には悪いが今はできない相談だな。

御城の者が将軍家に手を出すはずがない、私もあんな口車に乗せられなければそうだったろう。

胸が串刺しにされたように痛む。

父上、私はどうしたらいいのでしょうか?

御城の名に傷をつけているのではないでしょうか?

心の叫びは誰にも届くことなく、胸の中で響くことしかなかった。



[1128] Re[8]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/05 02:27
基地全体に響き渡る警報。

非常召集のサイレンだ。

今日は11月11日。

佐渡島ハイヴから旅団規模のBETAが進軍してくる日……

なのだが非常召集がかかるまでそれが起こることを忘れていた。

正確には“俺”の記憶に日付まで入ってなかったのだ。

なんとも不便なものだ。

先程まで静かだった通路は今や戦場と化し、走ってそれぞれの部隊の

ブリーフィングルームに向かっている。

こんなことを考えている私だがけっして立ち止まっているわけではないのであしからず。

全速とはいかないまでも、器用に人の合間を縫って目的地に最速で向かっている。

この戦いの結果は解り切っているのだが、軍人たる者、最善を尽くすのみ。

いの一番に着いてみせようぞ。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その7


いの一番着いたので教官に褒められた。

だが、そんなことはどうでもいい。

予想どおり防衛基準体制2が発令され、自室待機を命じれた。

今は張り詰めた空気が流れる通路を歩いているところだ。

しかし、一歩一歩足を踏み出すたびにその張り詰めた空気に違和感を感じる。

張り詰めている中にどこか弛緩した空気も流れている所為だ。

“俺”の記憶を検索したところ、後方基地という名目の所為で士気が低下、全体の練度は下がり、

堕落していることが確認できた。

多く見積もってもあと十年。

たった十年しか人類は持たないというのに、なぜこうも楽観してられるのだろうな。

そんなことを考えながら歩いていると、私の部屋の前に誰かが立っているのが見えてきた。

金髪の女性仕官、イリーナ・ピアティフ中尉だ。

最近彼女を直視することができなかったおかげで、いつもより彼女の容姿が綺麗に見えた。

会うことは会うのだが、まともに顔をみることをしなかったせいだろう。

これもそれも副司令の所為なのだがな。

彼女がここにいるということは………新たな任務か。

BETA進行の件は今からだと遅いはずなので、別の件なのだろう。

まったく副司令はいつも予想外のことを押し付けてくる。

しかもそれが無理難題なのだから性質が悪い。

中尉は私に気がつくと小走りに近寄ってきて、書類を押し付けるように渡してくる。


「一体今度は何ですか?」

「説明はその書類に記載されている。

 時間がないので読みながらついてこい」


有無言わさずに背を向けると、急ぎ足で歩き出した。

どうやらことは急をようするらしい。

書類を用意しているということは、当初は丁寧に命令を伝えるはずだったのだろう。

だが、それが予想よりはやくことが起きたということだろう。

それでこのように通常ではやらないような手段を使って時間短縮を行っている。

その証拠に中尉の言葉がいつもの軍人口調よりきつくなっている。

A-01との共同任務かと思ったが、時間的におかしいので違うのだろう。

その確認の為に書類に眼を通し始めた。

そこに書かれていたのは予想外でかなり性質の悪い任務だった。

先程いったばかりだが、副司令の任務は楽な任務はないのだと再確認したのだった。

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中央作戦司令室に着くと副司令とラダビノット基地司令がなにやら話をしている。

会話の断片を聞くに内容まではわからないが、どうやらA-01の話をしているようだ。

聞き耳を多々ている私に気づいたのか、副司令はこちらに来いと手招きをして呼び寄せる。

私は歩み寄り、隣に立つ基地司令に敬礼をする。

基地司令の答礼を確認すると敬礼を解き、副司令に向き直る。

あの任務を本当にやらなければならないのだろうか。


「副司令、召集に応じ、只今到着しました」

「ご苦労。早速だけど作戦内容の確認からいくわ。

 書類に記載されていたように、横浜に進路を取っているBETA達の行動予測を行ってもらうわ」


本当に無茶苦茶だ。

いくら未来予測計算ができるとはいえ、BETAの行動を予測しろというのだ。

幾人の人が挑み、成し得なかったことをいきなりやれというのは無理な話だ。


「今回は社と組んで作戦行動を行うことになるわ。

 オペレーターはピアティフ中尉を就ける。

 今から15分後に超低高度高速輸送艇を使って戦場に向かい、指揮車両で私の直轄部隊A-01と合流、護衛してもらうわ。

 でもその部隊は別任務を行っている最中だから、1人しか護衛に回せないから敵が近づいてきたら

 指示を待たずに離脱しなさい。生き残ってデータをここに届けるのが最優先事項よ」

「了解しました……ですがその超低高度高速輸送艇とは?」

「これはオルタネイティブ4の為に立案、開発されたものの一つとだけいっとくわ。

 ……VTOLだから降下作戦はしないから安心して乗って頂戴」


いや、BETAのいる戦場で航空機に乗ること自体不安なんですが……いっても無駄か。

それにしても社のリーディングを使ってより、情報を手に入れることで計算の精度を増すか。

リミッターを解除した効果により、私が意図的に壁を取り払うことで、

社のプロジェクションを受け付けることはすでに実験済みだ。

それやったのがつい2日前。

白銀が佐渡島のことを伝えたのが数日前だとするとよく考え付いたものだ。

伊達に天才をやっているわけではないようだ。


「時間がないわ。社は既に機内で待機しているから急ぎなさい。

 ……言い忘れてたけどこの作戦から任官までの間、臨時階級として少尉相当の権限をあたえるわ。

 強化装備は機内に備え付けてあるからそこで着替えるように。とにかく急ぎなさい」

「了解!!」


敬礼をかるくすると、背を向け先に行っているであろう中尉に追いつく為に走り出した。

少尉相当か……任官したと同じだけの権限をあたえるといっても形式上のことだろう。

護衛の衛士に命令を与えられるのは最低少尉以上でなければならないし、

中尉がきてくれる以上、私から命令を出すことはないだろう。

そう考えながら輸送艇に急いだ。

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「香月博士、あの者の能力は真のものなのかね?」


飛び立つVTOLをモニターで確認しつつ、基地司令ラダビノット准将は確認する。


「……実験結果は良好でしたから、最低でも今後の行動の目処にはなります」

「そうか……オルタネイティブ4の最初の成果と認識してもいいのだな?」

「そうですね、少なくとも計画の延命処置としては効果的だと思われます」


そう、この作戦自体は延命処置にしかすぎない。

本当のオルタネイティブ4には微々たる成果にしかずぎない。

それは香月夕呼という人間には成果と呼ぶにもおこがましいことなのかもしれない。


「しかし、それも作戦が成功したらの話ですがね」


冗談めかしに言ってはいるが本当にそうなるかもという疑念が頭にある。

だが、司令は年配特有のゆったりとした動作で頷き、彼独特の重みのある声を、その喉からつむぎだす。


「そのためのA-01部隊……といえばいいのであろう?」


夕呼は自然と微笑み、三日月の形になった口を開く。


「司令はよくわかっていらっしゃるようですね」


戦乙女の一人にこの作戦の成否がかかっている。

彼女が最良の未来を示すことができるのだろうか?

香月夕呼は科学者らしからぬ行為だが、戦乙女と御城に静かに作戦の成功を祈った。

-----------------------------------------------------------

「着陸地点の確保を確認、これより着陸態勢に入る」

機内通信で連絡が入る。

決して広くない座席で私は隣に座る少女を見ている。

背は小さく、髪の色と透き通るような白い肌のおかげで儚げな印象を受けるその少女も私をじっと見ている。

それを離陸からずっとやっているのだ。

搭乗員からは見詰め合っていると思われているが……実際見詰め合っているようにしか見えないが、

プロジェクションで会話している為に口を開いていないからそう見えるのだ。

その所為で時折前から顔を覗かしてくる中尉の鋭い眼が非常に怖い。

その双眸は鷹の目の如し。

……一応これがウォーミングアップなのだが……今度は説得するのに何日かかるだろう?

それに他の人たちの視線が痛い。

ひそひそと話し声がする。

社によれば、変態なんじゃないのか、とか、なにやら怪しい花園を突っ走っている人もいるとか。

そんなことはお構いなしにBETAに打ち落とされることなく、無事に着陸することができた。

機内から降りるとそこには一体の戦術機、不知火と指揮車両が待機しているのが目に入ってきた。

私は戦術機に乗りたいのだが、いくら実機での操縦経験があるからといっても総戦技演習を終えていない以上、

乗せてもらえないらしい。

英才教育を受けてきたからといっても特別扱いはなしか。

無理を言っても機体が用意できないのだから仕方がないのだが。

私達を下ろすと、VTOLはさっさと飛び立ちその場を離脱していった。

BETAの優先破壊目標の第1位である空間飛翔体である以上、仕方がないのだが、

それでもいやな感じがする。

飛び立って見えなくなるのを確認すると指揮車両に乗りこんだ。

そこには機械がたくさん増設されており、座る席以外は足場ほとんど確保されていない。

いかにも急ごしらえで作った物といわんばかりの光景が広がっていた。

とにかく座席に座ると操縦、オペレーターなどの各ポジションに皆を座る。

私と社も専用の席に座る。

座り心地を確認する間もなく、護衛の不知火から通信が入ったことが伝えられる。

車両長はてっきり中尉がなるものだと思っていたのだが……なぜか私がやることになった。

階級的に問題があるはずなのだが、副司令の指示らしい。

なんでも、これも実験の一環で、戦闘中に指示を出しながら能力を発揮できるかが今回の第2優先事項とのこと。

書類には記載されていなかったのだが、1枚目しかなかったので2枚目以降に記載されていたのだろう。

それはともかく通信をせねばならないな。


「こちらに映像を回してくれ」

「了解」


網膜投写式というのはいつみても便利なものだ。

網膜に直接映るということが、子供の頃に驚きすぎて頭をシートに打ち付けてしまったものだ。

そんな思い出に浸っていると再びその驚きを再現してしまいそうになった。


「こちらヴァルキリー8、通信状態は良――――」

「築地殿!?」

「はあ!?………って御城君じゃない!!」


そう彼女は3ヶ月前に訓練校を卒業した207A分隊に所属していた築地……下の名前は忘れてしまった。

とても失礼なことなのだが接点があまりないため苗字と顔くらいしか知らないのだ。


「なんであなたがここにいるわけ?」

「それは……機密事項だ。悪いがこれ以上はいえない。それにこのことは他の隊員には黙っていろ、いいな?」


映像の彼女はむっと口をへの字に曲げた。

わかりやすい反応だ。

しかし、なにやら思いついたようで口元をだらしなく歪めるとその内容を話してくる。


「御城君って訓練兵でしょう?なら上官にそんな口を利いていいのかな?」

「生憎、少尉相当の権限を貰っているし、作戦中は私のほうが立場が上だ」

「ええ~なにそれ~!」

「そんなことより早く移動するぞ。

 敵にこの場所は知られているだろうから……このポイントまで移動する。

 道中護衛をよろしく頼む」

「……了解」


そして通信を切り、一息つくと周りから奇異の視線が注がれているのがわかる。

くっ、あまりの驚きでまわりが見えなくなっていた……不覚。

照れ隠しに咳払いをすると指示を出し、予定のポイントに移動を始めた。

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戦場にはいまだに師団規模のBETAが展開しているのが

前線の部隊から送られてきた情報からわかる。

私達が場所は安全……とはいいきれないが作戦を遂行するには申し分ないポイントにいる。


「……ヴァルキリー8聞こえるか?」

「こちらヴァルキリー8、どうかした?」

「これから作戦を開始する、警戒を強めてくれ」

「ヴァルキリー8了解した…がんばってね御城君」


そういうと通信をきってしまった。

私が今回の作戦の要の1つとは知らないだろうが、応援は有難い。

副司令の信頼を強めるため、人類の勝利、オルタネイティブ4の為に

この作戦を失敗できない。


「社、準備はいいか?」

「準備……問題なし」


口でわざわざ確認するとは私は相当緊張しているようだ。

落ち着く為に深呼吸を1回する。

そして心の導火線に火をつけた。


「作戦を開始する!!

 ピアティフ中尉、システム起動準備」

「了解!メインコンデンサ起動、システムチェック……オールグリーン!起動準備完了!」


システムが起動すれば、私は機械の一部になりながらこの車両の指揮を取らなければならない。

社も同じようなものだろう。

彼女もリーディングとプロジェクションを同時にやるのだ、相当な負荷がかかるだろう。

だが、ここで躊躇うわけにはいかない。いくら無茶なことでもやらねばならないのだ。


「システム起動!」

「システム起動します!」


機械特有の低い起動音が鳴り響くのと同時に私の頭の中はイメージで溢れ返った。

まるで背中が折れ曲がり、股間の間に顔をだせるような……とにかくごちゃごちゃで気分が悪い。

それを防ぐ為に壁を出すわけにはいかない。

さらにデータリンクによる戦場の映像もとりいれ、もう一つの方法、計算でその不快さを消すしかない。

この処理を完璧にこなさなければ―――――。

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どのくらいの時間計算し続けたのだろうか?

まだ一分もたっていないよう気がするし、丸一日たった気がする。

だが外界の声を聞く限り、まだ十分しかたっていないようだ。

だがそんなうつろな感じは耳からはいってきた情報により、覚醒させられた。


「地下より震源多数!!」

「――なに!?数は?」

「連隊規模だと思われます」


まずい、いくらA-01に所属しているとはいえ、護衛一機で100以上のBETAを相手にするのは無理だ。


「帝国軍前線司令部まで全速後退!!コード911を司令部に伝達しろ!!」

「了解!こちら――――」

BETAの接近による恐怖と興奮で計算を誤る可能性がでてきた……計算を一時停止するか?

…………だめだ。

それでは実験にはならない。

副司令はこの状態の実験結果も欲しいのだ。

だからこそ私にこの車両の指揮権を渡したのだ。


「後退間に合いません!!敵地上に現れます!!」

「!!砲撃手、機関砲起動して迎撃しろ」

「りょ、了解」


激しい振動が私達を襲う。

車両だからスウェイキャンセラーがついていないという事もあってとてつもなく揺れる。

そして正面スクリーンには土ぼこりを纏った青いハンマーみたいな腕を持つ、要撃級が映し出される。


「砲撃手、何ぼさっとしている!弾を撃ち込め!」

「う、うわああああああああ!!」


車体を後退させながら機関砲を打ち込む。

だがその腕に阻まれ、有効弾はほとんどない。

そして奴はその腕を振り上げ叩き潰そうとしてくる。

っ、やられる。

覚悟を決めたとき、目の前のBETAは横から飛んできた飛礫によりミンチになった。

それに唖然としていると網膜に映像が入ってくる。


「何してるの!?ここは私が引きつけるから、早く後退して!!」

「っ、築地少尉すまない。全速で後退!!」


後退しながらスクリーンに映る不知火を車体が反転して見えなくなるまでみていた。

36mmを連射しながら戦うその姿を私はもう一度見たいと強く願った。

その支援として少しでも役に立つように今しがた計算を終えた、BETAのデータを築地に向かってプロジェクションで送った。

それが私にできる最大の支援だった。

         ・
         ・
         ・
         ・

そして私達が前線司令部にたどり着いたときには築地は……星になっていた。



[1128] Re[9]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/09 02:51
「先生!」

「騒がないの。聞こえてるわ」

「いろいろ……ありがとうございます」

「……あなたがお礼を言う必要はないわ。あたしの興味でやったことなんだから」

「それでも、いいんです!これで大きく歴史は変わりますよっ!!」

「……はしゃいでいるわね」


来るとは思っていたけど、こちらの都合もおかまいなしに唐突にきて子犬のように……

いや、玩具を与えられたガキのようにはしゃいでいる。

こいつには他人のことを気遣うだけの精神が不足しているだろう。

まあ、その分扱いやすし、こいつの無邪気といえばいいのか、そういうところが長所なのだろうけど……今は少々うざったい。


「あなたは嬉しいかもしれないけどね……」

「…………もしかして、あまりうまくいってないとか?」

「……忙しいから出て行きなさい」

「……わかりました」


そういうと背を向けどこか釈然としない様子でドアをくぐって部屋を出て行く。

あの様子だと社のところにも行きそうね。

あの子も今は疲れているから相手するのも大変でしょうに。

中途半端に物事を知っている奴ほど、勘違いな行動をおこす。

その為の保険は掛けているのだけど……こちらも今は少々ケアが必要なようだ。

思わず溜め息を一つついてしまう。


「もう、でてきてもかまわないわよ」


そういうと本棚の影からゆっくりと男がでてくる。

御城だ。

その顔はやつれ、生気が足りない様を如実に語っていた。

それでもこの男は背筋を伸ばし、他人に気取られぬようにしようとしている。

……この男には色々苦労を掛けている。

だがそれをやめて楽はさせてやらない。

それだけの情報を彼に与えているのだから死ぬまでこき使うつもりだ。

彼は私の前までくると先程と同じ様に背を伸ばし、私の言葉を待っている。

本当に無駄口をたたかない男だ。


「今の会話の意味がわかる?」

「……わかりかねます」

「そりゃそうね……まあいいわ。とりあえず、任務ご苦労様。

 あなたが持ち帰ったデータをじっくり解析させてもらうわ」

「そうですか」


これは重症だわ。

さっきから片言返事しかしてこない。

疲労と精神的負担で喋ることに残った精神力をさく余裕がないようだ。

今日は別の任務の話を持ち込むべきではないわね。

急ぎの任務でない以上、明日に廻すべきだ。


「……報告は明日でいいわ。

 明日の迎えにはピアティフを廻すから、それまでゆっくり休みなさい」

「今日は随分と優しいですね」

「研究が終わっていないのに壊れてもらったら困るからね。

 あんたは大事な研究対象だし、それに―――」

「それになんですか?」

「それに使える手駒だからね」


そう使える手駒。

今のところ未来情報は白銀、それを元に実験を円滑に進めさせる御城。

少し言い方に語弊があるかもしれないが、十分に利用価値がある。


「副司令らしいですね……では私はこれで」


苦笑いをするとそのまま部屋から出て行く。

その背中をみながらふと思う。

次の任務を少し改善して効率をよくしてみるか。

思い立ったが吉日、さっそく端末を操作し始める。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その8


オルタネイティブ4の延命の為の出撃。

彼、御城 衛は初めての実戦を経験した。

彼が将来乗るであろう戦術機ではなく、指揮車両だったが実戦を潜り抜けたことには変わりはないだろう。

そういう私も彼と一緒に搭乗し、彼の指揮下で作戦を遂行した。

初めての指揮ということもあり、適切な指揮を出せたとはいいずらい。

だがそれでも彼は恐怖で押しつぶされることなく、催眠にも頼らずに指揮を執った。

これだけでも十分な成果だ。

少なくとも私はそう思う。

あれから一日たった今、彼は普段と同じように訓練に励んでいるはずだ。

さっきから少々褒めすぎているかもしれないが、

同期の戦友が目の前で散ったのを見ても普段どおりに振舞うことができる彼はベテランの兵士みたいだ。

……普段どおりといっても無愛想で無口なのだから気づきにくいだけなのかもしれない。

今日の夕方に食事にでも誘ってから副司令のところに行こうかしら?

……やっぱり止めと置こう。

彼はそんな同情を欲しがるような人じゃないし、なにより自分がそれに漬け込むようなことはしたくない。

彼のことも大事だが、今は目の前の作業に集中しないと……。

そう思い目の前の端末の操作を早める。

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なんか昨日の霞は元気がなかったな……。

ものすごく眠そうでふらふらしていて、壁にぶつかってはあが~といっていた。

先生が不機嫌だったことと関係があるのだろうか?

それに今朝の御城も少し様子が変だった。

彼も寝不足みたなのでどうしたと聞くと

『昨日のことで興奮して眠れなかった』

と答えるだけだ。

それ以上追求するのも変なのでこっちが引っ込んだが、何かあるのか?

午前は座学中心なので目立ったポカをやることはなかったようだ。

しかし、御城は体を動かすことだけでなく座学のほうも半端ない知識を持っているようだ。

とある例題で複雑な山岳での行軍での補給線の確保の仕方を見事に言い当てた。

オレもそれなりの知識があるがあいつ以上の答えを出す自信がない。

それであいつのことを冥夜に聞いたところ、例の不可侵でよく知らないらしい。

唯一つわかっていることは小さい頃から軍人である父親にしごかれていたという事だ。

こういう座学をしこまれたってことは軍の上級仕官なのだろう。

少なくとも佐官以上のだ。

まあそんな親にしごかれればああなるわな。

無愛想で無口、おまけに他人との接触を拒むときた。

まるで男版彩峰だ。

まあ彩峰ほど不思議オーラをだしてはいないが、似た者同士だろう。

だから訓練でペアを組むことが多いのだろうか?

何度目か数えていないがこうしてPXで食べていても、無言で箸をすすめている二人が目に入ってくる。

しかも好物が似ているようで彩峰は焼きそばで、御城はざるそばだ。

まあどちらも合成食品だからそんなに美味しくないだろう。

でもざるそばなんてメニューにあったっけ?


「武聞いておるのか?」

「ん?ああすまない、ボーとしてた。それでなんだっけ?」

「先程の御城の意見をどう思うのかといったのだ」

「御城の意見はとても理に適っているけど、まるで実戦を経験しているみたいだから不思議なのよ」


委員長もそう思うのか……。

オレが言えた義理じゃないが確かにそう思う。

先日まで理に適ったことはいっても実戦を経験したことのある感じはしなかったんだけど。


「確かにオレもそう思うよ。今までそんな感じはしなかったけど今日のは……なあ?」

「でも、貴重な意見であることには変わりないと僕は思うんだけどな~」


美琴が珍しく話をあわせてくる。

ってこの話を続けているから当たり前か。


「…………私の意見がそんなに重みがあるか?」

「はい、御城さんの今日の意見は重みがありましたよ」

「今日だけなのか……」

「そ、そういうわけじゃありませんよ。特に今日はってことですよ」


今まで黙っていた御城が口を開くなり落ち込みやがった。

本当によくわからない奴だ。

それを見てタマは慌てて言い繕っている。

しかし、御城の肩が小刻みに揺れはじめているのに気づく。


「く…く、くははははははははははは」


突然の笑い声にオレを含め皆ぎょっとしている。

一体なんだ?


「はははは……いや、すまない。珠瀬があまりにも思ったとおりの反応をするのでついな?」

「か、からかっていたんですか!?」

「すまない、すまない」


御城ってこんなお茶目な一面もあったんだ……。

意外な一面を見て皆固まってタマと御城、彩峰以外は固まっている。

彩峰が何事もないようにやきそばを咀嚼している音が妙に響いていた。

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午後訓練も終了し、食事も終えた。

日は沈み、あたりは影が支配しようと手を伸ばしている。

そこに抗うかのように明るい金色が存在している。

ピアティフ中尉の髪がその金色だ。

散歩に出かけようとしたのだが、副司令の呼び出しかかったようだ。

少しはゆっくりしたいものだが、昨日の報告を後回しにしてもらっただけでもありがたいことだっただけに

これ以上の文句は只の我侭だろう。


「思ったより元気そうですね……」


今日は軍人口調ではなく少々当たりもやわらかい。

昨日の出来事を心配しているのかどうかはしらないが、彼女も昨日のことで思うところがあるのだろう。

そう自分を納得させるとこちらも柔らかい口調で返すべきだろうと思い口を開く。


「心配してくれるのですか?」

「そうだ…といえばどうします?」

「いやはや、参りましたな。

 それにしてもそのような口調で私に話されるのは久しいですな」

「……おかしいか?」

「いえいえそういうわけではありませんから、軍人口調にしなくてもいいですよ」

「そうですか?」

「そうですよ」


まるで言葉遊びだな。

あったときもこんな感じで話していたような気がする。

お互い軍人だから、部下と上官だから仕事中はこの話し方はしない。

それを決めてからこの半年、結局仕事以外で会う機会なんてなかった。

だから久しぶりなのだろう。

だが懐かしんでばかりもいられない。

副司令が呼んでいるから時間もあまりないはずだ。


「それはともかく副司令がお呼びなんでしょう?」

「そうですね……では御城臨時少尉、副司令がお呼びだ。

 今から私と共に出頭する。着いて来い」

「了解」


あっという間に軍人口調に早変わり。

しかし、顔は笑ったままだ。

短い間の個人としての会話。

それだけでも私は傷ついた心を癒えるのを感じることができた。

そのまま通路をあるき、エレベーターに乗る。

地下に行く為に低い駆動音ならし降下を開始する。

彼女は昨日の出来事に触れようとはあまりしなかった。

最初の一言だけで済ませてくれたことを感謝している。

横にいる彼女に顔を見るとこちらの顔を見ているのに気がつく。

目があうとお互い目を逸らしてしまう。

……なんか気まずい。

何か話題を出さなければ……。

しかし、エレベーターは目的地着いてしまう。

その大きな口を開くと二人して下を見ながら出て行くことになった。

そのまま副司令の部屋についてしまう。

彼女は出頭するといっても部屋の外で待機していなければならないらしい。

そのまま私は中尉に礼をいい、部屋に入ることにした。

……何故こんなに私は残念がっているのだろうか。

部屋に入ると一番初めに目に入ってくるのはUNと書かれた国連の旗、

大きな木でてきた机。

そして副司令その人だ。

私は何時もの様に机の前に立ち、彼女の言葉待つことにした。


「一応もう一度いわさせてもらうわ。任務遂行ご苦労様。

 あなたのおかげでいいデータが取れたわ」

「いえ、任務を果たしただけですから」


そう私は任務を果たしただけだ。

築地殿を踏み台にして生き延びたに過ぎない。


「そう……それとはまた別の任務をしてもらうことになったから」

「…………」


また任務か……私にはもうそれしかないのだろうか。

思えばここにきたのも自分の意思のようでそうではなかったし、今もこうして任務といいながら

都合いいように使われているんじゃないか?


「任務内容は―――――よ」

「?よく聞こえなかったのですが」

「もう一度だけいうわ。任務は207分隊を何がなんでも合格させなさい」


私はその時、耳を疑ることしかできなかった。



[1128] Re[10]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/09 20:19
副司令の命令、207分隊を絶対合格させろとのことだ。

白銀武がこの任務にとは関係なく合格させようとするだろうから、それに気づかれぬ形で支援せよとのことだ。

こんなに気が楽になる任務は初めてではないだろうか?

いつも後ろめたい任務だった……前回は違ったが同期の築地殿のことを大っぴらに悲しむことができなかったから同じような物だ。

そういえば前回の計算結果を副司令は教えてくれなかった。

なんでもこれ以上はそれを教えて垂れ流されたら困るということらしい。

それをいったら私に教えたオルタネイティブの機密はどうなるのですかと問えば、

教えたものは仕方がないし、もし垂れ流すようなことがあれば――――。

それはともかく楽しくといえば変だが、楽に任務ができる。

私はそう思っていた。

副司令の命令を聞いたその直後に渡された手紙に期待を粉砕された。

その手紙とは言わずとしれた下郎、名は北見 権蔵からであった。

内容は暗号ともいえないような陳腐でわかる奴が見ればわかってしまう危険きまわりない文だった。

要約すれば、ただの執行命令書だ。

莫迦な諜報員からこの手紙をもらったらしい。

やり方は私に成りすました別人がその手紙を受け取ったらしい。

事前に左近殿が諜報員が来ることを副司令に教えていて網を張ったそうだ。

それに見事に嵌り手紙を奪取したというわけだ。

手紙を見た瞬間に妹の命のことが脳を支配する。

実行しなければ、御家再興が……妹の命が……。

御家再興はこの際どうでもいいが、妹だけは・・・・・・妹だけは。

この手紙を見た副司令が今回の任務を立案したのはこういうわけがあったからだ。

冥夜様を殺さずかつ207を合格させる。

私は妹はどうなるのかと副司令に食って掛かるが、左近殿がどうにかするといっていたから安心して

任務に当たりなさいといってきた。

安心して任務にとりかかるなどできようはずがない。

しかし、命令違反して冥夜様を亡き者できようはずがない。

私はどうすればいいのだ?

左近殿を信じて待つしかないのか?

その悩み引きずったまま、南海の孤島に出発することになった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その9


浜辺での作戦会議、二度目の総合戦闘技術評価演習。

皆にとって正真正銘のラストチャンスだ。

私にとっては運命の分岐点だ。

将軍家を殺め、鬼畜にも劣る賊の烙印を受けるか、左近殿を信じ妹の無事を祈りこのままの道を行くか、二つに一つだ。

皆私の葛藤を知るはずもないだろうし、私がそれをいったとしても不幸自慢にしかならないだろう。

だが決断しなければならないことであることは確かだ。


「地図を見る限りだと、全員で一カ所ずつ回る余裕はないね」

「3つに分かれましょう」

「だが編成はどうする?」

「そうね」


今回は7人だ。3、2、2で別れるのだがその編成が問題なのだ。


「オレは美琴とこの地点に行く」

「えっ?」

「あ、ずるいー!私が一緒に行きたかったのに~!」

「ちょっと勝手に決めないでよ」


珠瀬よ、皆の気持ちを代弁してもらってありがとう。

私は残念ながら違うがな。

榊の意見は正しい。

まあ、その後白銀は強引な意見で美琴と組むことになった。

白銀の能力と未来知識ならひとりで全然平気なはずなんだがな。

美琴以外は皆残念がっているぞ、朴念仁白銀君。


「で、私達の組だけど……」

「榊分隊長」

「御城?あらたまって一体何?」

「悪いが私は単独で動きたいのだが……」


単独なら色々と都合がつく、絶対合格させるにしても……殺すにしても。

合流するまでの間にそれを決める、というのが本音なのだが。


「それはだめよ。編成が偏ったとしても単独で動くことは危険だわ。

 メリットがよくわからないし、デメリットの方があきらかに大きいわ」

「やはりそうか……その調子でしっかり頼む」

「?ええ」


私の意見にはもう流されないか……信頼はある程度あるが隊長としての自覚がそれを排除したのだろう。

良いことではあるが動きづらくなった。


「編成は私と御剣のふたり、彩峰、珠瀬、御城の三人でいくわ。

 それでは装備を再確認後に順次出発する」


よりによって冥夜様と別れることになろうとはな。

……喜ぶべきことなのだろうが、喜べない。

糞、何かに八つ当たりしてしまいそうだ。

そんなことを考えていると肩に手を置かれた。

振り返るとそこには彩峰が立っている。


「……どんまい」

「何がだ?」


もしやばれたか?


「意見却下されたこと」

「別にかまわないさ」


深く考えすぎているようだ。

彩峰が気づくはずがない。

私が垂れ流していない限り絶対そうだ。


「装備確認終わったから逝くよ」

「……最後の方の漢字が違うような気がするが?」

「それは気のせい」

「…………」

「そ、それはともかく二人とも行きましょうか?」


珠瀬よ、これからいろんな意味で迷惑かけるかもしれんがよろしく頼む。

頼める立場でもないか。

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前回もそうだったがジャングルの中は気が滅入るほど暑い。

それに生い茂った草はトラップを仕掛けるのを容易にしている。

それをいちいち解除しないと先に進めないのは苛立ちを覚えるのに助長している。

苛立ちを覚える原因は他にあることはわかっているが、今はそれを考えるのをやめるしかない。

でないと目の前の二人に当り散らすという醜態をさらすことになる。


「御城さん、トラップ解除終わりましたよ」

「……了解、先に進むか」


いつの間にか、珠瀬が私の近くまできていた。

彼女は愕然としている私に気づかずにもと来た道を歩いている。

彼女が接近していたことにまるっきり気づかなかった。

私はそこまで集中できていない……つまり何も考えようとしない方法で悩みから目をそむけているのだ。

だから今も集中しているつもりでも何も考えていないから集中できていない。

……私は何を意味のわからないことを考えているんだ。

そこまで私は追い詰められているのか?


「御城さーん、早くしてくださーい」


催促の声がかかってしまう。

本日何回目になるかわからない自分への罵倒を心の中で呟いた。

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昨日も今日も散々だ。

只イライラしている事しかできなくなってきた。

目的地に着き、夜襲を仕掛けて爆破してもその苛立ちはまぎれなかった。

手に入れ、分解して持っているライフルを叩きつけてめちゃめちゃにしてやりたかった。

そんなことをできるわけはない。

副司令の命令もある。

だけどそれがどうした?

冥夜様を殺せば、楽になれるし、妹も助かる。

そんな危険な考え方も既に当たり前のように思考をするのを許してしまっていた。

さっきから前方を歩いている二人の女性もこちらをちらちらと見るようになっていた。

夜の闇にまぎれても隠し通せないほど苛立ちを覚えている。

ついに彼女達は足を止め、こちらを振り返った。


「……なにそんなにいらいらしているの?」

「…………なんでもない」

「そんなわけない。見ていればわかる」


何でこんなに詮索してくるんだ。

私をイライラさせるだけだというのに。


「み、御城さん、休憩しましょう。疲れてイライラしてるんでしょう?」


珠瀬は私を気遣って言ってくれているんだろうが、大きなお世話だ。

普段の私ならそんなことは思いもしないだろうことを平気で考えてしまっている。

ならば口から出てくる言葉はそれに準じたことだ。


「……黙れ」

「えっ?」

「少し黙れといったんだ」

「ど、どうしてぇ」


やめろ。


「私のことはほっといてくれ、それにお前が私を心配する余裕あるのか?」

「っ!!」


やめろ、やめてくれ。

私の口を誰か閉じさしてくれ。


「私はお前にし!?」


言葉を続けようとした瞬間、彩峰の拳が私の左頬を見事にとらえ、木の幹に叩きつけられる。

幹に体を預けながら彩峰のほうを見る。

彼女に冷静な部分が彼女に感謝の言葉を送るが口から出たのは全く正反対だ。


「やったな……只で済むと思うな」


彼女は珠瀬の為に殴った。

怒りの表情を浮かべていてもおかしくないのだろうが、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。

だがそれでも頭が冷えるにはいたらなかった。

分割されたライフルを投げ捨てると突進し、直前で止まって低い軌道の足払いを掛ける。

しかし、彩峰はそれを予期していたらしく足払いを回転しつつ跳躍してかわすと、そのまま左から回し蹴りを放ってくる。

私はそれを右腕を添えながら左腕でガードする。

そして反撃しようとするが彼女は着地すると回し蹴りの勢いを利用して、そのまま右拳で私の顔面を狙ってくる。

仕方ないので反撃しようとした腕を引き戻し、顔面をガードする。

腕に衝撃が走り、低い姿勢だったために背中から地面に倒れこんでしまった。

まずいと思い倒れこんだ勢いを利用して飛び起きるが、すでに彩峰は私の目の前にいた。

繰り出される右ハイキックを防ぐ暇もなく頭蓋にヒットし、よろめいた隙に肘が鳩尾に当たり、

悶絶しようと屈み込んだところでとどめとばかりに顎を蹴り上げられた。

足は地面から離れ受身を取ることもできず、なすすべもなく地面に叩きつけられた。

……完敗だ。

今まで訓練で負けたこと無かったのだが喧嘩で完膚なきに叩きのめされることになるとは……。

顎にもらって暫く立てそうにない。

気絶していないこと自体不思議だ。


「……私の完敗だな」

「……そうだね」


彩峰は背を向けるとすたすたと私が投げ捨てたライフルに近づいていくとそれを拾い上げた。

私を置いて行く気か……当たり前だな。

彩峰は珠瀬のところに歩み寄り、座り込んでいる彼女を立たせた。

そしてこちらに振り向く。


「いつもの御城だったら勝てなかった」

「…………」

「でも自分を見失って只の暴力装置になっている御城には何度やっても勝てるよ。

 何でイライラしてるのかわからないけど、それに負けているうちは私じゃなくても勝てるよ」

「……いつになく饒舌だな」

「……」

「先に行け……すぐに追いつく。それに珠瀬」

「……はい」

「こんな格好で言うのもなんだが、すまなかった」

「…………いえ、いつもの御城さんに戻ってくれたからいいですよ。

 先に行ってますね。行こう彩峰さん」


足音が遠ざかっていくのを聞きながら今までの自分を鑑みる。

私が一番不幸だ。

私ほど苦悩している人間はいない。

なんて醜いことを考えていたのだろう。

私はいつの間にか妹の命がどうのと考えているうちに自分を見失って勝手に暴走していた。

妹の所為にして自分だけを考えていた。

私には妹をどうすることもできない。

それが現実だ。

将軍家である冥夜様を殺すことは死んでもできない。

それも現実だ。

私には左近殿を信じることしかできないのが現実だ。

そういえば妹はどんな私を誇っていたのだろうか?

妹は御城の教えである将軍家を守るということを誇りにしていた私を誇っていたのではないか?


『衛よ、家が没落しても帝を…殿下を恨むでないぞ。我らの使命は殿下を将軍家をお守りすること、ひいては国を民を護ることだ

 御家が潰れようが一族が滅亡しようがそれだけは忘れるな』


ああそうだ。

父上が言っていた言葉の最後はこうだった。

妹もこの言葉を聞かせたときに真っ先に賛成したんだ。


『ねえ、お兄様』

『ん?なんだ』

『もしも、もしもだよ?私と将軍様のどちらかしか助けることができなくなったらね。

 将軍様を助けてあげて』

『……何故……だ?』

『将軍様はこの国の太陽なの、太陽が無くなったら暗くて何も見えなくなる。

 地面に生える草が枯れてしまうの。

 死ぬのは嫌だけどそれでも太陽のためなら嫌じゃない。

 光を与える太陽、その光を浴びる草を守ることが御城の誇り、私の誇りなのよ」

『…………』

『それに太陽があれば夜は星を輝かせてくれるから、私が死んでも輝くことができるでしょ?」


当時は賛成できなかった意見だった。

今もそうだと思う。

でも枝と枝の間から覗かせる星の輝きは確かにそれだけの価値があるような気がするよ。

誇りか……。

私もあの星のように輝ける誇りを取り戻すことができるだろうか?



[1128] Re[11]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/13 02:00
月明かりに照らされる木々や草花たち。

草花といってもシダの類の物がほとんどだが、そんなことはどうでもいい。

今は彩峯たちに追いつく為に、暗くて見えづらい足跡や草を掻き分けた跡を目を細めながら

決して見失わぬように勤めていた。

見ていて気づいたことだが、草を掻き分けた跡を見るとやたらと丁寧に掻き分けている。

私が歩きやすいように、追いつきやすいようにしてくれたのだろう。

こんな気遣いをしてくれる仲間になんてことを言ったのだろうか。

……悔やんでも仕方がない、今は言葉よりも行動で謝ればいい。

それから頭を下げて謝罪するのも遅くはないだろう。

そう考え、歩く速度を早くする。

虫き声が鳴り響く中を歩いていると、影が目の端に映る。

ゆっくりとそして静かにそちらを振り向き、茂みに身を隠し、その影が何か確認する。

背の高い木々の中で、比較的背の低い木の下に私に背を向けて立っている影はどうやら人、

つまり207分隊の誰かだろう。

ここからの目測で背格好を見るに……多分鎧衣だろう。

一瞬左近殿が脳裏に過ぎるが、頭を振って思考の隅に追いやる。

私は信じることにしたのだから、これ以上の思考を自分を追い詰めるだけだ。

茂みから立ち上がると到着を報せようと近づいていく。

しかし、その距離が五メートルになっても気づかない。

仕方ないので肩に手を掛けると――――。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


とんでもない声量で叫び声がジャングルに響き渡った。

そこまではいい。

その叫びと共に先程肘打ちされた鳩尾に、再び衝撃が走る。

振り向き様の肘打ち……訓練兵といえどもさすが軍人、見事なり。

鳩尾を押さえ、悶絶しながら地面に倒れこんだ。

……久しぶりの土の味を味わったな。

冗談抜きで口の中に土の味が広がっている。

鎧衣は肘打ちを決めた格好で私を見下ろし、目を瞬かせている。

状況を的確に認識できたらしく。暗くてよくわからないが相当慌てているようだ。


「マ、マモル~大丈夫、死んじゃだめだよ生きてよ~」

「か…勝手……に…殺すな。いつ…から私……が…冗談担当に…なったんだ」

「敵襲!?鎧衣、状況報告を……ってなにやってるの?」


皆バタバタと現場に急行してきたものの、私を揺すりながら謝る鎧衣に悶絶する私。

はっきりいって状況は飲み込めなくて当たり前だろう。

鎧衣の声が響く中、私は説明しようとしても鳩尾が痛くてそれもままならない状況が暫く続いた。

誰か的確なフォローを頼む。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その10


私が合流に遅れた理由を彩峰が意図的改竄していてくれた。

私の暴走の件を珠瀬と口裏をあわせてごまかしたらしい。

独断専行による単独行動を行なった結果、合流に遅れたということだ。。

当然、榊は猛烈に怒ったが、合流が夜の中にできたおかげで休息時間中だったことを理由に

処分は合格したあとに皆で行なう事になったとか。

……彩峰と珠瀬には頭を下げても下げたりないほどの感謝をしなければならない。

暴走したことを言ってもっと厳重な処分を行なうことができるはずだが、それをせずに独断専行ということにしてくれた。

いつもの私に戻って欲しい為だろうか。

そうだとすればその期待に応えて何時もどおりの私にならなければならないだろう。

皆の背中を見つめながら湿った土をゆっくりと蹴りながらそう思う。

それはそれとして白銀は少し焦っているように見える。

無論私の所為だ。

私が遅れたせいでいらぬ焦りをあたえてしまったらしい。

私の弱さが憎憎しく感じる。

なぜ苛立ちを抑えることができなかった。

なぜ彩峰と喧嘩をしたのだ。

糞、どうもすぐに自分を悪いほうに追い詰めてしまう癖があるらしい。

それだからあの件が起きたのだから、これは直すべきだろう。

思考をしていると時間は早く過ぎていく物だ。


「……千鶴さん!」

「どうしたの?」

「前方に崖を発見したよ!下に川が流れている」


いつの間にか“俺”記憶にある、崖にたどり着いたようだ。

活字での記憶でしかしらない物だが、実際見てみると自然にできた代物でないのがわかる。

この演習の為に工兵がスコップで掘って作った人口の崖と川だ。

川の水嵩は歩いて渡れそうだがこの天気だ。

空を見上げればどんよりとした雲が覆っている。

雨が降れば湖とつながっているおかげで大増水する可能性がある。

そうなっては榊たちが入手したラペリングロープを使って渡ってもロープの回収は難しい。

この後の記憶が擦れていてよくわからなくなっている。

肝心なとこで役に立たなくなるとは……こうなったら白銀が頼りだ。

彩峰がスルスルと崖を上り、向こうの木に結びつけ始めると、予想したとおりに雨、演習妨害名物スコールが降り始める。


「雨っ?」

「えっ!?何でだ!?」

「え……?」

「あ、いや…………」


どうやら白銀の反応を見るに雨が降るのは予定外のようだ。

そう思ったのだがしばらくすると妙に落ち着いているのに気がつく。

忘れていただけで本当は予定通りなのだろうか。

白銀が落ち着いているのを冥夜様は眉を顰めていぶかしんでいる。

普通の兵で実戦経験を積んでいるならともかく、訓練兵である白銀が落ち着いているのは皆の目から見たら異常なのだろう。

私も彼に関する知識がなければそうみてはずだ。

冥夜様はそれが気になったのかずっと彼を凝視している


「ん?どうした、冥夜?」

「いや……そなたが不思議でな」

「え?」

「落ち着きすぎているというか……何か、自信のような物を感じるが……?」

さすが冥夜様、洞察力は上に立つものの必須事項なことだけあって飛びぬけている。

私も見抜かれぬよういろんな手を尽くして誤魔化していたのだが、今後もそれが通じるかわからない。

一方の白銀は肩をすくめて気のせいだというとさっさと向こう岸に渡り始める。

慣れた手つきでぶら下がっていく様は、サルの見たいなのだが私達もやってる間はそう思われていることだろう。


「御城もなぜそこまで落ち着いていられるのだ?」

「……そんなに落ち着いているように見えるか?」


いきなり私に話を振るとは思わなかったが、その驚きを押し殺し平静を保っているように見せる。


「落ち着いてるも何も平静そのものだぞ?」

「なら、成功しているようだな」

「成功?」

「そうだ。いつか指揮を取る立場になるかもしれない……いやそうなろうと思っている。

 だから己が動揺を悟られぬようにせねばならぬ……この先は言わずともわかるであろう?」

「…………」


声を掛けられた時の驚きを隠したのは本当だがこの雨のことでの動揺はない。

白銀が予定通りの行動だから落ち着いている。

私はその落ち着きを見て落ち着いているのだ。

指揮官云々は前回の任務のことでそう痛感したからだ。

私が恐怖と興奮で取り乱し、それが部下に伝わり不安がらせてしまい、危うく指揮車両ごと皆の命を潰してしまうところだった。

築地殿が助けてくれたから助かったが、代わりに築地殿が犠牲になった。

自分がもっと落ち着き最善の指揮をとれていたら築地殿は助かったかもしれない。

たんなる自惚れかも知れないが、そう感じたのだ。

だから私は冥夜様にそういったのだ。

私の言葉を吟味しているのか顎に手をやり、考え込んでいるようだ。


「……さきにいっている」


それにしても、冥夜様に敬語を使わないというのは失礼な気がするが

決して悟られてはいけないのが任務の―――――。

……今は考えてはいけない。

本日で二回目の思考をやめるとロープを握り、手先に神経を集中した。

--------------------------------------------------------

皆が渡り終えると雨は勢いを強め、川は増水してロープの回収を困難にしていた。

そのことで今は意見が真っ二つに割れている最中だ。

空を見上げても雲は依然として健在だ。

議論はしばらく雨が止まぬことを前提に進んでいるようだ。


「白銀は?」

「ああ……考えていた」


白銀に意見が求められる。

私もまだ意見を言っていないが、考えがまとまっていないので後回しにしてもらったのだ。

白銀の意見を参考にするのも一興かもしれないな。

指揮官たる物すばやい判断が必要とされるのだが、それがまだできぬとは、私もまだまだ未熟なようだ。


「……川の水が引くのを待とう」

「えっ……!?」

「本気か!?」

「雨がいつ上がるか、わからないんだよ?」


当たり前の反応といえば当たり前だろう。

この状況で雨が止む可能性は低いと、皆思っているのだ。

私もこの意見を聞くまでそのように考えていたのだ。

私は言われて初めて止む可能性を考え、皆が色々と文句を言っている横で上空を視界にいれ能力である計算を使い始めた。

次に増水した川に目を向け情報を取り入れる。

……計算の結果はすぐに済み、結果が脳裏に映し出される。

その結果5時間以内に止み、増水が収まる確立が高いことがわかった。

これを白銀は知っているということなのか?

だとすれば予定通りの出来事ということなのだろう。


「シートがあるっていっても、みんなが雨宿りできるだけの大きさもない。

 このままだと雨に体力を持って行かれるのも分かってる……でも、待ったほうが良いと思う」

「…………」


かなり強引な説得だ。

頭が固いものなら感情で今の意見を却下する者いるだろう。

だが私を含めそういった者はこの場にはいないだろうから、効果は抜群だろう。

しかし、効果が抜群だからといって強引であることにはかわりはない。

案の定皆は賛成しかねている様子だ。

下を向いて考え込んでしまっている。


「よしわかった!じゃあ、タイムリミットを決めよう」

「タイムリミット?」

「4時間だ。スコールが止んでも、川の増水が収まるまではタイムラグがある筈だ」

「……4時間か」


なかなかうまいタイミングで譲歩した意見を出すとは……なかなか話術を心得ているようだ。

私は感心しているが感情的には褒めたくない。

だが白銀は有効なことをいたのだから素直に認めるだけの心の広さは持っているつもりだ。

この場は嫉妬というなの感情を無理やり押さえつけた。


「その間にライフルかロープか決めておけば良いしいいし」

「なるほど……」

「そういう考え方もできるけど……でも、それって楽観的過ぎるんじゃない?」

「だが、ライフルを使わずにロープを回収できるのは、悪いことではないのも確かだ」

「そうすれば両方とも使えるからね」


総合的な判断からすると白銀の意見が最善に思えるが、判断は榊がすることだ。

……前回の演習はその判断を半分私に任せた所為であんなことになったのだが、今回もそれと同じことをしないで貰いたいものだ。


「さ、委員長どうする?」

「そうね……」


さてどの意見に決めるのか。

私は榊の言葉を耳をそばだてて待った。


「…………」

「どうした委員長?」


さっきからこちらを……私をちらちらと見ている。

嫌な予感がする。

それを怪訝に思ったのか白銀も榊の視線を追い、私につながっているのを確認する。

そして榊にもう一度視線を戻すと疑念が混じった声色で榊を呼ぶ。


「……委員長?」

「……まだ御城の意見を聞いてないわ、決定はその後でも遅くはないわ」


その言葉と共に皆の目が一斉に私に向けられる。

鎧衣と珠瀬のどうなるのだろうかという目。

白銀の動揺した目。

榊の望みを託したような目。

そして彩峰と冥夜様の焦ったような目。

その中で最後の彩峰と冥夜様の目が一番気になった。

私はその意味が分かった。

また同じことを繰り返すことはしたくないし、今回は何が何でも合格させるのが任務だ。

それを抜きにしても合格させたい……いや私が合格したいのだ。

だからといって表面上は意見を求められているだけだから、突き放すようなことはいえない。

沈黙が支配する中で思考を巡らし、私が考え付いた最善と思われる意見を口にすることにした。

------------------------------------------------------------------

御城に意見が求められた。

あいつが今まで意見をいっていなかったことを忘れていた。

あいつの意見次第でオレの意見が却下されてしまうかもしれない。

委員長が最後まであいつに意見を求めなかったのは、あいつがもっとも信頼できる奴だからだろう。

視線が集中する中であいつは考え込むように右手で顎をさすっている。

そしてその右手を離すと貝のように閉じていた口を開いた。


「……基本的に白銀と大差がないが、私の考え付いた意見はまっとうなものじゃない。

 なぜならこの演習の意味がないような考え方で答えを出したからだ」

「この演習の意味がない?」

「そうだ。この演習の意味はわかっているだろうから省くが、私がなぜライフルとロープを両方必要だ考え付いた過程に問題があるんだ。

 ……この演習では用意されている物、すべてを利用しなければクリアできないようになっているはずだ」

「……確かにそう仕組まれているだろうな」


それはそうだろう前回も砲台のレドームを壊すのにライフル、橋を補強するのにロープが必要だったのだから。

だがそれをいって何になるんだ。

御城はオレの返事に頷くと続きを話し出す。


「そこで考えたのだが、ロープを今ここで使っている。

 私の言ったことだけだとロープはこの先は必要ないように感じるだろうが、これが罠だと……私は考えた」

「罠?」

「そう、罠だ。この時期のこの辺りは頻繁にスコールによる雨が降っている。

 そこでこのような増水しやすい湖に直結した川を作り、ロープを使いやすい状況を作り上げる。

 まあ、増水していなければ使わなくても済むだろうが、現に私達は使っている。

 それでロープを回収が困難になった。

 深読みしすぎなのであろうが、ここでライフルを使用させようとしているのでないかと考えたのだ。

 つまりこの先はライフルを使用するような状況が必ず起きると私は考えたのだ」

「でもそれではタケルのとは違って、慧さんや冥夜さんと同じ意見じゃない?」


まだ話の続きがあるのか?

でなければオレと同じ意見にはならないだろう。

案の定続きを話し始めた。


「これから話すことは先程の憶測よりもさらにひどいものだし、私達の状況を当てはめただけだから穴だらけだが、言わさせてもらう。

 ここでライフルを使わずにロープを回収することは不可能だろう。だがそこが罠なのだと私は思う。

 先程言ったようにロープを使わずに渡ったとするとロープを使う機会がなくなる。

 だがこの演習の特性上使わずにクリアするのはありえないわけだ。

 ならこの先にロープを使わないと困難な障害が存在することになる。

 なら両方もっていったほうがいいと考え至ったのだ」

「…………」


……はっきりいうと穴だらけすぎて賛成しかねる部分が多すぎる。

それが証拠に御城らしくない意見だとみんな困惑している。

だが御城の意見であっていることもある。

だけどこれで委員長を説得するとなるとデメリットでしかない。

一体どうなるんだ!?

委員長の方を見ると物凄く悩んでいるようだ。

あんな意見を出されれば決めかねてしまうのも仕方がないだろう。

数分してようやく整理ができたようで眼鏡を押し上げながら口を開いた。


「……白銀の意見を採用して、4時間の休憩を取る!各チーム二十分交代で歩哨に立つこといいわね!?」

-------------------------------------------------------------------------

私は雨に濡れながら歩哨を行なっている。

なるべく濡れぬよう木下に立ってはいるが、雨は冷たく体温を容易に奪っていく。

だがその雨も段々弱くなっていくのが目に見えて分かる。

私の計算結果よりも大分早い……まだまだ精度が甘いか。

それとも情報収集の時点で間違った情報を取り入れたか。

どちらにしてもあまりいい結果ではないな。

左のほうから足音が聞こえてくる。

歩哨交代の時間か?

そう思いそちらに目を向けると彩峰がゆっくりとこちらに来るのを確認する。

私はそれを確認すると手を挙げて軽く挨拶をする。

それに応えてなのか彩峰も右手を上げ挨拶を返してきた。


「どうした、歩哨の交代時間か?」

「……同じチームだから違う」

「それもそうだな」


昨晩のことで気まずい感じはしない。

むこうは殴って当たり前のことをされたのだから、気まずいものなど最初からないはずだ。

あるとしたらこちらだが、それを理由に逃げ回ることはしたくない。

だからこうしてなるべく何もなかったように振舞っているのだ。


「さっきの意見無茶苦茶だね……わざと?」

「やっぱり分かるか?」

「じゃなきゃ、あんな意見いうような奴は頭おかしい」

「……それもそうだな」


それはそうだろうな。

白銀があんなに自信たっぷりにいったから、あわせたのだがその合わせ方自体に問題がありすぎた。

榊の件がなかったらあんなにわけの分からない意見をいわなかったのだがな。


「それで榊の様子は?」

「御城のおかげで自分の判断で決めたと思っているから良いいとおもう」

「そうか……」


どうやら白銀のおかげで私に頼るという甘えから、榊を救ってやることができたみたいだ。

あそこまで莫迦な意見をいって納得されたら、危うく道化になってしまうところだった。

沈黙が暫く続き、雲に切れ目ができ始めた。

その間から山吹色の光が漏れ始め私達を二人を照らした。

昨晩のことを言わなければならないな。


「彩峰……昨晩のことだが」

「別にいいよ」

「えっ?」

「御城を殴り倒せたから」

「……正確には蹴り倒されたのだがな。次からはそうはいかんからな」


次は暴走ではなく訓練か純粋な真剣勝負のときだ。

その時は昨晩の醜態をさらさずに勝負をしてみたいと武人の心がうずく。

だが彩峰は驚きの表情を作るとそれに準じた言葉を発する。


「……また暴走する気?」

「そんなわけあるか!!」

「おお怖い怖い」


遊ばれているのか……いや遊ばれているのだろう。

その後も皆の所に行くまで彩峰にいじられることとなった。

私はこんなことがしたかったわけではないぞ。

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国連軍横浜基地 中央作戦司令室


端末をいじりながら、本日何回目になるのかわからない溜め息をつく。

同僚にも何回も中尉されたが止められないものは止められない。

なんで副司令は今回の総戦技演習に連れて行ってくれなかったんでしょうか?

私もバカンスを楽しみたかったのに。

それにあの人の傍に……私は何を考えているの!?

御城君は私とは上官と部下の関係以外にないんだから。

そう、そうに決まっている。

それ以上の感情があるわけじゃないのよ。

頭を振る……というか振り回してその思考をやめようとする。

この三日で作戦司令室では男っ気なしだったピアティフ中尉の熱愛疑惑がかかったのはいうまでもない。

もちろんその噂を流したのは副司令なのだが。

それはそれでいいのかもしれない。



[1128] Re[12]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/15 23:56
煙に群がる蜂の集団。

蜂といってもそんな生易しい物ではなく、一匹でも人の体にあたれば、その部分を根こそぎ奪ってゆく鋼の蜂だ。

コンクリートの地面を穿ちながら、その魔の手を伸ばしていく光景は死というものを連想させるには十分だ。

その先にいる白銀にはまさにその死というものが、現実として近づいているのを誰よりも実感しているに違いないだろう。

私もBETAに潰されそうになったときに味わった恐怖。

それと同等のものが白銀に襲い掛かる。


「ダケル下がって!!」


鎧衣のの切羽詰った叫び声。

それに応えるように雄たけびをあげながら前進する白銀。

白銀の足元に鋼の蜂が突き刺さり、コンクリの破片を撒き散らしながら穴をあける。

しかし、そこで前進をやめはしない。

そこで止まってしまったら、文字通りに蜂の巣にされてしまうのは目に見えているからだ。


「こっちだ!」


冥夜様が自分達のいる安全な場所へと誘導する為に声を張り上げる。

白銀は前傾姿勢で、皆を襲い掛かるといわんばかりの勢いで飛び込んできた。

白銀が隠れたおかげで、鋼の蜂たちは目標を見失うと巣からでてくることを止めた。

その後に残ったのは白銀の極度の緊張を内包した呼吸音と岸壁に打ち付ける波の音だけになった。


「あそこの半島に砲台があるみたい!あそこから砲撃していたよ!」


珠瀬は砲台があとおもわれる半島を指差しながらそう言ってくる。

実際その方角から実弾を撒き散らしていたのだから、そうなのであろう。


「生きている砲台があっただなんて……」

「……ヘリ、逃げてった」

「どうしよう……」

「まだ、任務達成したことにはならんのであろうな……」

「……任務はあくまで脱出だから、そうだろうな」

「はあ……」


皆思い思いの言葉を喋るが、どれも落胆の色を隠せない。

私もそのなかのひとりに入っている。

副司令である香月夕呼から与えられた任務は、207B分隊を合格させることだ。

しかし、落胆する理由は別にある。

御剣 冥夜を殺すことによる御家再興、人質に取られた妹の無事。

将軍家を守ることが御城の家の者であるという前に、自分の誇りであったことを思い出した為に

今回は鎧衣左近を信じて任務放棄を決意した。

この任務を早く終わらせ副司令に妹の情報を手に入れたかったのだが、この砲撃により先延ばしになったので落胆したのだ。

落胆している中に聞き慣れぬ電子音が鳴り響く。

音を頼りに音源を探し、目を向けると榊が持っている無線機から聞こえてくるのがわかった。

榊はそれを手に取り応答する。


「はい、こちら207B分隊」

「あ~みんな生きてる?」

「……」


無線から聞こえてくる声の主は副司令で間違いないだろう。

白銀はその声を聞くと沈黙の表情の中にわずかに苦笑いを浮かべる。

彼のことだから、この仕業が副司令のものなのを知っているのだろう。


「隊に損害はありません」

「そう、よかった。それはそうと、ちょっと予定が狂っちゃったわ

 撃たれたからもう分かっているとは思うけど、そこから北東の方向に見える半島の砲台が、何故だか稼動しちゃってるのよね」


抜け抜けと嘘を並び立てる副司令、この人のすごいところの一つとして、

まるっきり嘘と分かるようなことを臆面もなく言い放てるところだろう。

御城は嘘が嫌いな為、誤魔化すときは沈黙するか、当たり障りのないことをいうだけだ。

軍隊に籍をおいているうちは嘘をつかなければならない時がくるだろうことはわかっている。

だから副司令のように潔癖というものをかなぐり捨て、汚れを纏わなければならないと思っている。


「そちらで制御はできないんですか?」

「無理。自動制御だから。困ったわね~」


まるで大したことではないと言わんばかりの言葉に御城は、ビーチに横になりながら連絡している

副司令の姿が脳裏に思い浮かべ、思わず溜め息をついてしまう。

それを彩峰に冷たい目で見られて、咳払いで誤魔化した。

その後に新たな脱出ポイントを伝えられた。

そのポイントは砲台の真後ろであった。

有無言わさずに通信を切られ、榊もそのポイントに行く難しさがわかっているのか表情を硬くして皆に振り向いた。


「……というわけよ、皆」

「了解」

「……冥夜は案外平気そうだな」


白銀が指摘したとおりに冥夜様は顔色もよく、比較的落ち着いている様子だ。

腕を組み目を瞑りながら言葉を続けてくる。

冥夜様が自分の考えを伝えるときに取る癖だ。

半年も一緒にいれば各々の癖が分かってくるものだ。

しかし、皆も付き合いが浅い白銀の癖だけはわかってはいないだろう。


「最後まで油断してはならない……そう思って演習に臨んでいたからな。

 そなたこそ、先程より顔色がよいぞ?銃撃で血行がよくなったと見える」

「よしてくれ。まあ、あまりに順調だったから、何かあると思ってたんだ」

「ふふふ……さすがだな」


やはり白銀は一目置かれる存在であるのは間違いなさそうだ。

付き合いの悪い私が言うのもなんだが、皆から面と向かって褒め言葉を貰ったことがない。

私は確かに信頼はされているのだろうが、言葉にしてもらわないとどうも信頼できない性質なのかもしれない。


「それにしても、博士らしいやり方だよね」

「……オレもそう思うよ」


副司令やり方か……。

あの人が本気をだしたらこの程度ではすむはずがない、前回の演習も私と冥夜様を遅らせる為に

わざわざ崖を爆破までして道を塞いでしまうほどだ。

私が最後に最短ルートを行かせることを予測して時間を削らせる、彼女を敵に廻したら生き残る自信が湧いてこない。


「長居は無用だわ。E地点に急ぎましょう」

「そうだね……砲台も黙らさないといけないし、急いだ方がいいね」

「タケル、移動するぞ。ここに止まる意味はない」

「行くよ~」

「……ああ」


私はその時の白銀の顔は焦ってように見えた。

何かを悔やむように手を握ったり開いたりしている。

鎧衣が焦るなと声を掛けると間に合わせてみせると気合も十分に答えた。

だが一瞬、私を睨みつけるように見てきたのを確認した。

私がいることによる未来の変化への警戒か。

私が合流に遅れたことにより、不安定要素として警戒しているのだろう。

その視線を無視して砲台に見つからぬようにジャングルにまた足を踏み入れることにした。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第二章その11


海原の向こうに美しい夕日が私達を照りつける。

妹は夕日よりも朝日のほうが好きだと言っていた。

理由は教えてもらえなかったが二日前に思い出したあれのほかにないだろう。

――――左近殿よろしく頼みます。


「海はきれいだなあ……」


夕日を見ながら警戒を怠っていた私だが、それよりも場違いな言葉が聞こえてくる。

白銀のおかげで私が夕日に見とれていたのを気づかれずに済んだみたいだ。

隊列の中央を行く榊は足を止め、睨むとはいかなくても厳しい表情をして白銀に向き直った。


「……何を言い出すのよ突然!気を抜かないで!」

「ただ眺めている訳じゃない。海側から攻撃される可能性だって捨てきれないだろ?

 オレはそれを警戒してるんだ」

「……」


白銀は海を指差しながらそういうが、榊は少し困惑している。

海側からの攻撃がきた時点で空路、海路は塞がれ完璧に包囲された証拠である。

奇跡が起きない限り脱出することは不可能、つまり作戦失敗を指している。

警戒するにこしたことはないが、できるなら実戦でそういうことにはなりたくない。

この作戦では砲台が稼動したおかげでその可能性ができてしまった。

その可能性を考えていなかった榊はだから困惑してしまったのだ。

そして気づけなかった自分を戒めたくて仕方がないのかもしれない。


「……そうだ!たま、何か見えないか?おまえが一番目がいいんだからさ」

「そうですね…………あれ?」


偶然なのか、事前に知っていたのか、珠瀬がレドームを発見した。

白銀が注意を呼びかけたのだから後者であることは疑いようのないことだ。

しかし、ここまで的確なタイミングで注意を促すことができるとは、未来の記憶をそうとう覚えているようだ。

私の場合はもっとぼんやりしている。

最近ではそのぼんやりとしたものがさらに形を失っていくのを感じる。

このようなことが起き始めたのはリミッターを解除したときからだ。

解除したために“俺”の記憶が失われていくのと、能力を手に入れたのとではどちらがメリットが上なのだろうか。

それはともかくライフルを使いレドームの破壊を行なうことになった。

しかし、私が演習中にやったことの付けがここになって現れようとは夢にも思わなかった。

珠瀬が狙撃準備に入ろうとしていると白銀が口を開いた。


「オレ達が狙撃手の近くにいる必要はない。散開して周囲を警戒しよう」

「そうね。さっきの砲撃で、私達の位置が把握された可能性もあるしね」


白銀の判断は正しいのだろう。

珠瀬のあがり症のことを配慮し、皆を遠ざけて少しでも集中できるようにするのはいい判断だが

珠瀬が軍人として、狙撃手としてはそれはいけないことだ。

本来なら狙撃手には観測手が着くのだからあがり症は治さねばならぬものだからだ。

しかし、私はなぜ珠瀬のあがり症を知っているのだろうか?

―――そうだ、“俺”の記憶にあったのだ。

この演習が始まってから記憶の劣化が急速にに進んでいるらしい。

それはそうと珠瀬がぷローンで構えを取ると、タイミングを計り始める。

皆、警戒をしながら固唾を呑んで見守っている。

そして珠瀬が目をかっと見開き引き金を引いた……だが銃声がしない。

珠瀬も焦ったのか何回も引き金を引くが、弾が発射される様子はない。

皆呆然と……白銀はありえないとばかりに目が飛び出しそうなほど見開いている。

そういう私も弾が発射されないのはなぜかと、頭の中で何度も同じ疑問を繰り返している。


「……貸して」

「えっ?は、はい」


彩峰が珠瀬からライフルを受け取ると分解を始める。

訓練よりも早くそして的確に分解していくとその手が途中で止まる。

そしてスコープだけ取り外すと分解したまま銃自体を投げ捨ててしまう。


「ちょっと彩峰!何をしてるのよ!?」

「……引き金とハンマーが連動しなくなってる。だからいくら引き金引いても弾はでない。

 それにここでの修理は不可能」


そういうと一瞬だけと珠瀬を見るとすぐに視線を戻す。

私は脳裏に一昨日の晩、暴走したときのことを思い出す。

預かっていたライフルを乱暴に投げ捨てて彩峰に向かっていった。

そうあのときにやってしまったのか?

それほど強くやったつもりはないがライフルを破壊するには十分な威力だったのだ。

私がライフルを壊してしまった……。

私という存在が白銀の知っている未来を確実に変えている。

これは挽回できる範囲なのであろうか……。


「……仕方ない。センサーに引っかからぬように死角を通って、砲台を直接たたくしかあるまい」

「そうね……センサーがあると分かっただけでも収穫ね。

 砲台を沈黙させるのに手間がかかるけど壊れたライフルでは役に立たない物ね。先を急ぎましょう」


白銀は口も利けぬほどのショックを受けているらしい。

これで原因が私にあるとわかったなら、殴り殺されてもおかしくないだろう。

皆残念そうだが、センサーの死角を地図で確認すると移動を開始する。

私も移動を開始しようとするが、それを止めるように肩を掴まれる。

振り向くとそこには白銀がいた。


「……なんだ?」

「お前は何者だ?」


合流での遅れと今回のライフルの件、ライフルは私だと分からないだろうが関係しているということを

うすうす感ずいているらしく、私が工作員でないかどうか疑っているのかもしれない。

実際問題そうとしかいいようがないが、ライフルの件は事故なのだが言い訳のしようがない。


「何者とはどういうことだ?」

「……すまん、忘れてくれ。うまくいかないことが多くてイライラしてたみたいだ」


そういうと彼は小走りで先に行ってしまう。

私もそれに続き走りながら、この演習での行動を悔やむことしかできなかった。

白銀のサポートどころか邪魔をしているだけじゃないか。

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センサーの死角を通り、腐った橋をロープで補修し渡リ終えた。

現在は砲台を無効化しようと彩峰と鎧衣の二人が挑んでいる最中だ。

それに従い他の皆は休憩と歩哨の交代を行ないながらひたすら待っていた。

私は今は休憩中で、草原に横になりながら青空に浮かぶ雲を眺めている。

ライフルの一件が頭から離れず、冥夜様の暗殺、妹の命に関することの三重奏でまたもや暴走しそうだ。

彩峰に二度と暴走しないと大口叩いといて結局はこれだ。

そんな自分がつくづく嫌になる。

頭の上から草を踏む足音が聞こえてくる。

そして目の前にピンクの髪が飛び込んできた。


「珠瀬か」

「御城さん、どうしたんでしたんですか?元気ないですよ」


行軍中は態度に出さないように気をつけていたのだが気づかれたか?


「なんでそう思う?」

「ん~なんとなくですね考えてることが分かるんですよ。

 前にもこんなことがありましたよね?」


垂れ流し状態!?

まずい、任務の内容まで知られてしまったか?


「だってライフルのことが気になっているんでしょう?」


どうやら杞憂だったようだ。

ライフルの件が絡んでいるのは間違いではないし、それも原因の一つなのだから。

将軍家は一族郎党皆殺しにあったとしても守り抜くもの、妹もそれを望んでいるはずだ。

それにまだ左近殿が失敗するとは限らない。

彼の能力は超一流なのだから、信じて待つと決めたのだ。


「御城さん?」

「……すまんその通りだ」


ネガティブな思考をするのはやめようとも決めたのに、まだそれが実行できていない。

私は本当に未熟だ。

傍から見れば皆の足を引っ張っているようにしか見えないだろう。


「ライフルが壊れたのは御城さんの所為だけじゃ、ありませんよ」

「そんなことはな―――私だけじゃない?どういうことだ」


私がライフルを乱暴に扱ったからああなったんじゃないのか?

珠瀬はやっぱりと言わんばかりに肩をすくめると、私の横に同じように寝転んだ。

このまま丸くなって転がると本当に猫のように見えるのではないだろうか。


「実を言うとですね、引き金が連動しなくなったのは私の所為なんですよ」

「…………」


珠瀬の所為だと?

私が乱暴に扱った後にまた何か壊すようなことをやったのだろうか。

私以上の扱い方をするとなると、ライフルで岩を叩き続けることぐらいしないだろう。

珠瀬の細腕でそのようなことをできるわけはないし、そんな馬鹿げたことをするはずがない。

では何をやったのか。


「御城さんがライフルを投げ捨てたましたよね?皆と合流してから分解して何か異常がないか調べたんですよ」


珠瀬の目に涙が溜まり始めている。

それを耐えるかのように言葉を紡ぎだしていく。


「その時点で異常はなかったんですよ。でも組み立て直すときにハンマーを取り付けるのを忘れてそのまま……」


言い切ったときにはもう涙と鼻水でぐしゃぐしゃに顔が歪んでいた。

私は莫迦だ。

自分の所為だと内に溜め込んで勝手に暴走して、またそれを繰り返そうとしていた。

それに珠瀬も同じように内に溜め込んでいたが、私が元気がないのを見るとあなたの所為じゃない、

私の所為だから元気を出してと励ましていてくれる。


「……珠瀬の所為ではない。本をただせば私があんなことをしたからだ」

「でも、でも」

「でももすともない。私達二人の所為だろう?なら二人でその重りを背負えばいい」


私の悩みは二人で背負うことはできないが、この件だけは仲間と共に背負っていたい。

仲間を散々裏切った私だが、仲間の為に行動を起こすのは初めてではないだろうか。


「交代の時間だ。このことは二人で罪を償おうではないか、だから気に病むな

 それに珠瀬が元気がないと皆気が滅入ってしまうだろう?」

「……そうですね。鎧衣さんがいない今ムードーメーカーは私だもんね。御城さんありがとう」

「よせ、礼をいうなら私のほうだ」


珠瀬は起き上がり、榊たちのところに駆け寄っていく。

その背を目で追いながら私もいつまでも、うじうじ悩むのはよくはないと何度目かの言葉を繰り返す。

今は左近殿を信じるだけだ。


「……心配の必要はないようだな」


起き上がろうと背中を地面から離したところで、青い髪を地面につくぐらい伸ばした凛々しい女性が話しかけてくる。

冥夜様だ。

冥夜様は珠瀬と同じように私の横に腰掛けると溜め息を一つつく。


「溜め息をつくほど心配してくれたので、くれたのか?」


危うく敬語を使ってしまうところだった。

冥夜様は怪訝な顔をして不思議がったが、それを言及はしなかった。


「タケルとそなたはこの隊の要だ。心配しないわけがなかろう」

「白銀はともかく私はなにもしてはいない。それどころかこの演習では足を引っ張っているだけだ」

「そなたはそうやって自分を卑下すのをやめたほうがよい。癖になってそのうち壊れてしまうかもしれぬぞ」


こうやって一緒にいると避けていたにもかかわらず、今まで私という人物を見ていてくれたことを実感してしまう。

冥夜様は結った髪を掻き揚げながら私に顔を向け微笑む。

私にそうような顔を向けるのはもったいないことだ。


「それにしてもそなたは初めて私の目を見て話をしたな」


言われてみて初めて気がついた。

冥夜様と話すときは顔を見て話すことはあったが目と目をあわせて話した覚えはない。

それは目を見られることでやましい事がばれてしまうのではと、無意識にやっていたことなのだろう。

―――仲間とはいいものだ。

こうして心配をしてくれるし、一人で解決できない悩みでも仲間となら解決できる。

それが打ち明けられなくとも話していると解決策を見出すことができる。

傷つけるからといって避けていた自分が恥ずかしい。

思えば自分が傷つくのが怖かっただけなのかもしれない。

私は横にいる冥夜様を見ていると、珠瀬にしてもそうだがそう思えてしまう。


「そうかもしれないな……ところで悪いのだが」

「なんだ?」

「歩哨に行かなければならないので行ってもいいか?」


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「回収ポイント確保!散開して全方位警戒!」

「回収機は!?」

「目視範囲内に機影なし!」


夕日も沈みかけ空が茜色から変わろうとしている刻限に回収ポイントと思われる地点に辿り着いた。

そこにはヘリが着陸できるだけの広さがある舗装された場所があった。

しかし、そのポイントには回収機であるはずのヘリはおらず、発炎筒も見つからない。


「状況終了!207B分隊集合!!」


どこからともなく神宮司教官が現れ、集合を呼びかけてくる。

状況終了ということは演習の終わりを指している。


「只今を以って、総合戦闘技術評価演習を終了する。ご苦労であった」


思ったとおりに演習の終了を宣言してくる。

これで私の任務も終了、あとは左近殿働き次第で私と妹の運命は決まる。


「評価訓練の結果を伝える」


白銀は安心していたのか力を抜いていた体に再び緊張を走らせた。

皆もこの結果次第で兵役を下ろされるか下ろされないかがかっているから緊張で体を緊張させている。

私も形だけでも緊張したような面持ちを作るが、任務の内容からして落とすことはまずありえない。

それに国連軍の大事な交渉材料を手放すはずはないのだから、ここまで合格は当たり前なのだ。

それを知っている私は神宮司軍曹の意図していることが分かっている為、これを茶番だと思ってしまっている。

知っているということは、かならず幸せになるということでないということがよくわかる。

最初に評価されるべきことを褒めちぎり、一気に減点対象をいいつのり不合格だと思いこませる。

その話術はさすが副司令の友人をやっているだけあって見事だ。

今度から話術のご教授をしてもらおう。


「――まりもちゃん!」

「――まりもちゃん……?」


白銀よ……その勇気に免じて砂浜にいるであろう、副司令に便宜をはかっておいてやる。

いくら焦っているからといって上官に向かってその呼び方はないだろうに。

そういえば副司令が白銀は感情のコントロールができていないといっていたが本当にそのようだ。

演習で見せたあの冷静さは予備知識があったからなのだろう。


「まあ……いい。白銀、今日のところは見逃してやろう……めでたい日だからな」

「「「「「―――えっ!!」」」」」

「おめでとう……貴様らはこの評価演習をパスした!」


思ったとおりやはり合格のようだな。

第一優先目的は脱出、いかなる経緯があれ、結果として目的を達成すれば、それは『正しい判断だった』と言うことになる。

教官はそういった。

演習での任務は確かに終了した。

暗殺の件は任務放棄をした。

これででる結果は私の目的を達成できるのだろうか?

それは何度も言うように左近殿が握っている。


「ダケルとマモルはどうして浮かない顔をしてるの?ただのクリアじゃないよ!?一日も早いんだよ!?」

「いや……喜んでるよ。ただ、ちょっと疲れただけだ」


白銀にとってはこれからが本番なのだ。

これからの頑張りによって人類の未来が変わる。

だからこそ手放しに喜べないのだろう。


「御城さんも笑ってくださいよ」


ここは冗談でも言って笑わすべきだな。

私も辛気臭いままでは皆も素直に喜べないだろう。


「そうだが……遅れたときの処罰を思うと、どうしても笑えなくてな。ん、どうした?」


皆一斉に肩を寄せ合ってぶつぶつと相談を始めている。

もしや、忘れていたのか?

ということは藪蛇ではないか!


「そういえばそうだったな御城」

「御城、処罰はしっかり受けなければね」


冥夜様も榊もとてつもなく邪悪なオーラをだしながらゆっくりと近づいてくる。

怖い、怖すぎる。


「二人とも落ち着け、処罰は明日に廻せばよかろう」

「それでもいいけど、マモルの身がもたなくなっちゃうよ?」

「そうですよ~御城さん」

「覚悟しろよ御城」


後ずさりをしながら離れようとするがドンと何かに背中にぶつかる。

ぶつかった物は柔らかく、弾力があるものだ。

恐る恐る後ろを向くとそこには彩峰が立っている。


「御城、大胆だね」


この状況下でさらりと誤解するようなことを言うのか!?


「違う、断じて違うからな」


言い訳をするがと既に遅かったようだ。


「皆の物!この破廉恥優男に天誅を下そうぞ!それかかれ~」

「冗談ではないわ!」


白銀の号令と共に私を捕獲するべく獣の如く向かってくる。

背中にいた彩峰は取り押さえなかったのは何故だか分からんが、傍観するために座り込んでいる。

助ける気もなしですか。

それにしても皆疲れているはずなのになぜここまで走れるのだろうか?

誰か助けてくれる猛者はおらんのか?

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「あはははははっ、えいっ!えいっ!」

「…………えいっ、おかえし」

「御剣さんも、えいっ!えいっ!」

「むっ、やったな。ならば、これでどうだ」

「うわっ、私にまで!?」

「鎧衣さんもくらえっ!えいっ!」

「きゃっ、つめたいよ~」


日本の時期は冬なのだが、南の島に冬など存在しない。

だから水着の女性達が黄色い声を上げながら、水の掛け合いをしているのはおかしいことではないだろう。

教官も今日ばかりは豊かな肢体を存分に晒しながら休暇を楽しんでいる。

白銀は砂浜で貝殻収集にいそしんでいる。

多分社がいっていたお土産探しをしているのだろう。

副司令は前の水着とは違うが同じぐらいの露出度のものを着用し、シャンペンを飲みながら極楽、極楽、といったような感じだ。

私といえば……頭には軍用キャップ、両手には釣竿。

昨日は何とか逃げ切ったが今日にその付けが回ってきた。

副司令からも直々に命令を下してきたので逃げ場もない。


『昼食のおかずを人数分釣ってきなさい』


かつてこのような命令を遊びで出した軍人がいたであろうか?

そもそもなぜ釣竿があるのだ?

榊が立案し、副司令が承認する。

副司令の乗りのよさがなければなあ~。

釣竿置きがあればもう少しのんびりしていられるのだが、そんな物はないと一刀両断された。

明日はこれは筋肉痛になる……おっと餌に食いついてきようだぞ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!三匹目フィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシュ!!」

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城内省本部 とある将校の執務室


静かな部屋にはいつもならここの部屋の主か、豚のような男しかいない。

今日は豚はいないが、厄介な男がこの部屋にいる。


「どうしましたかな少将?」

「……なんでもない」

「風邪を引いたなら早めに温かくして寝たほうがいいですよ?」


この人の話を効かない男、鎧衣左近はとてつもなく厄介だ。

帝国情報省外務二課、この男が勤めている職場の名前だ。

外務課でありながら、内部である私のところに来たという事は計画がばれているということなのか?

この男は表情から何も読め取れぬように偽りの仮面を常につけている。

情報を引き出そうとするならば口からださせなければならない。


「私に何のようだ?」

「温かくして寝るなら湯たんぽが―――」

「そんなことは聞いていない!!」

「御城 柳、この名前をご存知ですかな?」

「!?」


この男、急に話を変えて核心を着いてきた。

ふいを突かれた所為で知っているといわんばかりの表情が顔に浮かんでいるに違いない。


「ご存知のようですな」

「……それがどうしたのだ。没落した御城家の人間を知っていて何が悪い」

「いや、悪いとは言ってませんよ。只その家の者が影に取り付いてるし、

 本人に至っては今は存在するはずのない部隊に入隊している。その部隊の設立許可をだしたのがあなたということですしね」


すべてがばれている。

あの豚のことも知っているのだろう。

ここでおとなしく捕まるべきか?


「私を捕まえに来たのか?」

「いやそんなつもりはありませんよ。戦略研究会……これもご存知でしょう?」

「唐突に話題を変えるとはな。……それも知っている」

「それにあなたの部下が入っていますね?はてこれから何をするのでしょうな」


この男は一体どこまで知っているのだ。


「国防省に内務省、それにここ城内省、貴方ほどの階級を持つものまでとは豪華ですな」

「一体何が望みなんだ」

「膿を取るならどのような犠牲を払ってでも取り除きましょう。殿下のために貴方は必要なのですよ」

「…………」


望みを聞いたが答えず、代りにこちらを煽るような発言。

この男は何が言いたいのだ。


「北見氏も膿の一つですからな。ここは一つやってみませんかな?」

「いいだろう。本題を話してみたまえ」


私は彼の話を一語も聞き逃さぬように全身を耳にした。



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/21 23:00
「……つまり、基本動作の殆どはコンピューターが補佐してくれるということだ」


神宮司教官の声が私の鼓膜を震わせる。

先日までのサバイバルが嘘のように教室で座学を受けている。

しかし、座学の内容が戦術機の機体構造や運用目的など、衛士になるためのもっとも基礎的なことになっているのは

総合戦闘技術評価演習を無事合格した証拠に他ならない。

……左近殿からの連絡は今だにない。

それを思い出す度にそわそわするが、あの人のことだからひょっこりと顔をだし妹は無事だと伝えてくれるはず……。

頭を軽く振って思考をやめると視線をモニターの方に移す。

モニターの青い画面には戦術機が映し出されている。

その戦術機はF-4Jファントム、日本の型番でいえば77式撃震が移されている。

型番が示すとおり77年に日本が米国からライセンスを取得生産をはじめ、現代でも改良して量産を続ける信頼性の高い機体だ。

実機を教育のときに乗ったことがあるが、その重厚な装甲はコクピットに座った私を十分に安心させてくれた。

しかし、この機体はすでに旧式であり、国連軍の主力も同じく米国製のF-15Eストライク・イーグルになっている。

最強の第二世代戦術機と名高く、日本の次期主力、第三世代戦術機である94式不知火の設計の参考になった機体だ。

それはそうと神宮司教官の声が凄みを増してきたようだ。


「――――何千倍の跳躍力を、何千倍の腕力を、何千倍にも研ぎ澄まされた感覚を、何千倍もの防御力を、ちっぽけな貴様達に与えてくれるのだ」


モニターから目を離し、教官に目を向ける。

教官は今までの座学では、見せたことのないほどの力をその目にあるだけかき集め、私達に注いでいた。

皆もその視線に答えるように自然と背筋がのび、力がみなぎってきたかのように胸をはった。


「貴様らにできることはただひとつ。一日も早く操作に熟達し、人類の敵BETAを打ち滅ぼせ!」

「――はい!」

「ヤツラをこの地球から駆逐しろ!」

「――はい!」


皆が声をそろえて教官の言葉に応える。

この瞬間は作戦行動をとっているときのように興奮し、仲間意識を強く感じる。

人類が一丸となってBETAに立ち向かえると思えるのだ。

だが実際は政治だなんだので、必要最低限の連携しかできていないのが現状だ。


「午前の講義は以上。解散。基本操縦マニュアルは1日1回、必ず目を通せよ」

「――はい!」

「午後は強化装備を実装して衛士適正を調べる。

 各自昼食は1時間前に済ませ、ドレッシングルームに集合せよ。以上――解散」

「――はい!」


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その1


「ねえねえ……このマニュアル全部覚えなきゃいけないのかな?」

「ま、乗っているうちに慣れるんじゃないか?」

「だといいなあ……ボク、こんなのさすがに覚えられないよ」


早速我らがマイペース王がマニュアルの話を出してくる。

まあ鎧衣の意見は私と白銀以外の全員の意見だろうことは、隣にいる珠瀬の表情をみればわかる。

それに応える白銀の意見は正鵠をいているといっていいだろう。

先程も述べたが父上の教育を受けていてこのマニュアルを使ったことがあるが、操縦して覚えたほうが楽だった。

習うより慣れろとはまさにあのことだったのだろう。

妹も父にマニュアルを渡されたときには、目に涙を溜めながら私のところまで来たこともあった。

妹は戦術機に乗れるような年ではなかったので、父上の意地悪だったのだが、妹はそれをすべて暗記してしまったのだ。

あの時は家族どころか使用人たち全員を驚かせたものだ。


「さ、PXに行きましょう」

「あ……うん!」

「なんだよ委員長?やけに嬉しいそうじゃないか」

「言われたでしょ?一時間前までに昼食を済ませておけって」

「戦術機適正を調べるんだもんな?」

「そうそう、さ、ご飯食べに行こう」


――――ああなるほど。

先程からやけに嬉しそうなのは、皆は衛士訓練校の伝統を白銀に実践するつもりなのだろう。

衛士訓練校の伝統。

それは適正検査前に大量の食事を無理やり食べさせ○○させるというとても軍隊らしい伝統だ。

私も父上にやられたがたまたま適正が高かったため、少し頭が痛くなった程度で吐くまではいかなかった。

そのときに父上に

『何で腹じゃなくて頭が痛くなるのだ?普通は腹だろ』

と言われたのだが、私もそう思った。


「皆も意地が悪いな」

「そういうお前も嬉しそうだぞ?」

「ご飯ご飯……」


207B分隊女性陣は嵌める気まんまんのご様子……ん、まてよ。

私に知らせていないということは私も白銀と同様に対象に入っていたのだろうか?

ということは何をするのかは決まっている。

横にいる白銀に目配せをしながら軽くプロジェクションを行なう。

このくらいなら本人が自分で感づいた程度にしか思わないだろう。

案の定、白銀もお前もかというような目をする。

それに頷き標的を選定するよう訴えかける。

白銀はそのいたずら心全開の目で女性陣に目を向けると……その先には冥夜様がいる。

私は一瞬拒もうと思ったが、このくらいの戯れなら問題ないだろうと思い頷いてしまう。

……私もいつの間にか白銀の考え方に少し毒されたのであろうか?

それはともかく白銀は獲物に狙いをつけてその魔手を伸ばした。


「な!?」


冥夜様は突然肩を掴まれて、たたら踏むと同時に驚愕の声を上げる。

白銀は邪悪な笑みを浮かべながら引き寄せるとその表情のまま語りだす。

しかし、その表情は少しやらしいと思うのだが、私もそんな表情をしてはいないだろうか?


「どうも冥夜は、今日のメシを腹一杯食いたそうだ」

「な、何だと!?」


焦りと不安が冥夜様の顔を見る見るうちに覆っていく。

女性陣も皆驚愕の表情を浮かべているようだ。


「御城、一緒に冥夜をPXまで案内してやろう」

「……了解」


白銀の言葉に私もニヤリと笑いながら了承の言葉を送る。


「たまには悪いが冥夜のために、メシを取ってきてやってくれ。京塚のおばちゃんにおねだりして超大盛りでな!」

「…………」


白銀が色々な指示を出すが何が起きているのか皆はまだ理解できていないようだ。

嵌めようとしていた二人に唐突にふられた嵌め話。

まだ頭の処理速度が追いついていないのだろう。

そこにますます焦った声が冥夜様の口から飛び出してくる。


「ち、ちょっと待て!そなたは一体何をするつもりだ!?それに御城もなぜこちらに近づいてくる!?」

「私は知らされてなかった。つまり私を……この先はもうお分かりですな、御剣殿?」


手を伸ばし白銀が掴んでいる反対側の肩をがっしりと掴む。

本来女性に軽々しく触るのは失礼だし将軍家とあればなおさらだが、冥夜様は特別扱いを嫌う。

だから仲間としてなら仕方がない。

そう、仕方がないのだ。


「あんたたち……もしかして……」

「そなたら、榊達の奸計の矛先を私に向けさせようと――」


白銀と私は目をあわせるとまたしてもニヤリと笑い、首を振る。


「「――人聞きの悪い。オレ(私)はそんなことしてないぞ……なあ、御城(白銀)…………わっはっはっはっはっは!!」」

「お、おのれ~~!た、謀ったなッ!?」


見事なまでにユニゾンしていうと最後には二人で高笑いを始めてしまう。

しかし、ここまで息が合うとは思っていなかった。

嫉妬を抱いている相手なのに意気投合できる。これが仲間というものか。

これからは好敵手として認識すれば、気が楽になるだろうと心から思うのであった。

そこまで沈黙していたほかの皆も、私達に矛先がもう向けるのは不可能だと分かり、

私達と同様にニヤリと邪悪な笑みを顔に張り付かせる。


「ううううう――!?」

「さ、冥夜さん、行こう行こう」

「よっ鎧衣ッ?」

「タケルさん、大盛りってどのくらい?」


白銀は爽やかな笑顔を作ると、これまた爽やかに応える。

あの表情の切り替えの早さを今度師事してみようか?


「最低2倍だ」

「おばさんに一杯おねだりしよっ!」

「珠瀬ぇ~!そなたまで!!」


満面の笑顔を浮かべる珠瀬に対して冥夜様は怒りの表情を浮かべていく。

そこに追い討ちを掛けるように榊がこれまた笑顔で冥夜様に告げる。


「御剣は何も心配することないのよ?これは名誉ある衛士訓練校の伝統なんだから」

「榊!そなた分隊ちょもがっ」


冥夜様が文句を言おうとして開いた口を唐突にふさがれる。

その塞いだ手は私と白銀の後ろからのびていた。

後ろを振り返ると彩峰が立っていた。

彩峰は目を線のように細くすると開いているほうの手でドアを指さす。


「……レッツゴー」

「あびゃびべぇぇ~《彩峰ぇぇ~》!!」


彩峰の号令と共にまるで拉致するようにPXに向かうこととなった。

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左を見ても乳房、右を見ても乳房、前を見ても乳房、そして上下を見ても……さすがにそれはないが

羞恥心を最大限に引き出されるだろうデザインをしている強化装備をきた207B分隊の女性陣が目の前にいる。

その中の約一名はお腹が少々膨らみ気味なのだが、いわないでいるのが一番だろう。

なんか今日の私は冗談のような思考ばかりしているのは気のせいだろうか?


「これから貴様達の戦術機適性を調べるが…………」


この場で唯一強化装備を着ていない女性、神宮司まりも軍曹が説明を始める。

しかし、困ったことになった。

私が戦術機に乗ったことがあるなんていえるのは副司令くらいだ。

神宮司教官は私の家のことを詳しくは知らないはずだが、訓練をしていたといえば信じてもらえるだろう。

だが、207分隊の皆はそうはいかない。

いきなり信じろといっても信じるわけないだろうし、只でさえ成績が優れているのに

ここで戦術機を乗ったことがあるなんていえば、不干渉主義とはいえ怪しまれるだろう。

いくら任務を破棄したからといって、今までその目的でこの場にいたのだから追求されて漏らしてしまえば、

月詠中尉と三人の少尉が武御雷に乗り全力で殺しに来るだろうことは、容易に想像がつく。

まあ死んでも口を割らないが、垂れ流しが起こる可能性がないわけではないので用心にこしたことはない。


「それでは榊1号機、御剣2号機、残りの者はその場で待機!」


冥夜様、あれだけやっといてなんですが、胃の中のものを戻さなぬことをお祈りいたします。

数十分後……。

今、私の目は死屍累々という言葉が似合う光景を映している。

現在シミュレーターに搭乗している、鎧衣、白銀を除く全員が手すりに寄りかかっている。

さすがに軍人たるものが座り込むわけにはいかないので、皆必死に立とうとしている。

それはともかく私の件はどうしたものか……。

開き直って乗ったことがあるから無駄ですといったほうがいいだろうか?

というかそうしないと、いんちきで最高記録を更新してしまうだろう。

機械特有の駆動音が空気が抜けるような音と共に停止する。

考えているうちに白銀たちの検査が終わったようだ。

鎧衣はともかく白銀は全然平気なようだ。

皆も白銀の異常と思えるくらいの平気な態度に困惑しているようだ。


「次、御城1号機に搭乗しろ」

「…………」


白銀のことを気にしている暇はなしか。

さてどうしたものか……。

言い訳を何するか考えながらシミュレーターに搭乗し、各計器類慣れた手つきで起動し、ヘッドセットを繋げる。


「……やけに手馴れているな?」

「っ!?」


しまった。

ここは本物の戦術機のコクピットではないのを一瞬忘れていた。

ここはあくまでシミュレーターであり、パイロットの様子は操作室から丸見えなのだ。

言い訳をしても通じそうにない。

仕方ない副司令の名前を使わせてもらうしかない。


「……伊達に副司令の下で働いているわけではないですし、家が家ですからね」

「――そうだな。なら聞くが、戦術機の訓練を受けたことがあるのか?」

「シミュレーターどころか実機に乗ったこともありますからね。あ、でも実戦で乗ったことはありません」

「…………」


それっきり黙ってしまう教官。

さすがに戦術機に乗ったことがある訓練兵を見たことがないから、どう対応しようか決めかねているのだろう。

それが当たり前なのだから仕方がないことだ。


「軍曹、お困りのようですね」


網膜に投影されている画像に変化が起こる。

教官の後ろに人影が映っている。


「……中尉、何か御用でしょうか?」

「香月副司令からの命令書とその付属書類を届けに来ただけだ」


その人影は教官の頭に隠れて、見えないが副司令関係なのだから彼女だろうと予測がつく。

神宮司教官が命令書を受け取る為に立ち上がり、彼女に近づいたので網膜にはその人影だれか映し出されることとなった。

変わった分け方をした金髪、凛々しく少し釣り上がった目が印象的な美人、イリーナ・ピアティフ中尉だ。

教官は命令書を受け取るとそれを確認する。

それをしている間に中尉はこちらに近づいてくる。実際にはモニターに近づいてくるのだが。

座席に座ったようで顔がこちらにしっかりと映し出された。


「……久しぶりだな少尉」

「この場でその階級で呼ぶのはなしですよ中尉。この部隊ではまだ訓練兵ですし、あくまで任官までの臨時ですから」


軍人としてここにいる以上、砕けた態度をすることはないだろう。

それでも中尉が仕事中に挨拶をしてくることは正直意外だった。


「それはそうと私はどうしたらいいんでしょうかね?」

「大丈夫だ。そのためにあの命令書を預かってきたからな」


中尉は後ろを指差しながらそういうと少し口元に笑みを咲かせる。

その指の先にいる教官は命令書を読み終わった様でこちらを伺っている。


「中尉、もうよろしいでしょうか?」

「……なんですか?その目は」

「いえ、なにも。とりあえず命令を実行しようかと思いますが、かまいませんね?」

「勿論だ。では、私は失礼する」」


中尉はそういうと画面から消え、入れ替わりに教官が入ってくる。

教官はどこか釈然としない面持ちでいるのがわかる。

命令になにか不服でもあったのだろうか?

教官は手元の機械をいじるとシミュレーターを起動する。

そして仮想空間がヘッドセットを通じて網膜に投影される。


「御城いいか?これから命令書の内容を伝える。

 お前の訓練データは香月博士がお前の実家から取り寄せてくれるらしい。

 だが白銀に貴様の立場を教えてはならない以上、ここで訓練をおこなったことにしなければならない」


それはそうだろう。

白銀にはいまだにオレと互角ぐらいの実力を持つ訓練兵としか思っていないだろう。

怪しまれているとしても副司令直属とは思われてはいないのだから当たり前だ。


「そこでお前には訓練をやってもらうのだが、ただの揺れを体感するのは意味がない。

 だからこれからやってもらうのは動作教習応用過程Fをやってもらう」

「データ取りですか?」

「……その通りだ。特殊任務を任されるその実力を見せてもらうぞ。なお、次の訓練から皆と同じスケジュールでやるからそのつもりで加減しろとのことだ」

「了解」


これからは加減してやれといわれたが、白銀がいるからその必要はなくなるかもしれないが今は集中するべきだ。

シミュレーター内部が街の風景を映し出していく。

第3世代戦術機を操るのは初めてだがどのくらい私は動かせるのだろうか?

さてさて、約一年ぶりの操縦だがどの程度できるか、試してみますか!!

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「へえ~あんたなかなかやるじゃないの。これなら実戦に出ても平気なんじゃない?」


ここに来るのも何回目になるのだろう。

ハイヴの竪穴を利用してできた、この横浜基地でも重要な区画にある副司令の執務室。

今日の訓練結果を読んでいたのか、最初の話題がこれだ。


「それほどではありません。話に聞くA-01の方々には遠く及びませんよ」

「ふーん、謙遜は日本人の美徳いわれているけど、あまりしすぎると気分悪くさせることがあるから注意しなさいよ」


確かにそうかもしれない。

この前にも同じようなことがあったことを思い出す。

何時ものようにゲートを出て散歩に出かけようとすると、伍長が私のことを耳にしたらしく少し褒めてきたのだ。

それを謙遜し続けると怒ったわけではないが、自己を過小評価しすぎるのはよくないことだと説教されたのだ。


「まあ、確かにまだ彼らには届かないにしても、この基地の腑抜けたちには十分勝てるでしょうけどね」


副司令は背もたれに1回体を預けると天井を見つめる。

それは伸びだったのか姿勢を元に戻し、またこちらに顔を向ける。

だいぶバカンスの余韻を残すなんて副司令に限ってはないだろうから、研究のほうが行き詰っている所為でストレスがすぐに体に影響を与えるのだろう。


「それはそうとこの前の任務でのあんたが計算した結果がわかったわ」

「…………」


築地殿が命を燃やし、私達を守って散っていったあの戦場。

そこで私がやっていたことの結果が無駄であったかそうでないかが分かるときがきた。


「で、結果だけど期待した程度しか結果はでなかったわ。でもそれでも十分だった。

 BETAの移動進路はここ横浜基地だったのは当然覚えているわよね?」

「はい」

「だけどそれは阻止をした。それはいいわ。わかったことのひとつとしてBETAは一度群馬で身を隠そうと考えていたこと」

「……BETAが身を隠すですか?」


過去のBETAの行動からすれば、理解しがたい。

“ ”記憶から何かあるかと思い引き出そうとするが、もう棚の中身はほとんど残っていない。

そのような細かいものどころか、大きなこともわからなくなっている。

はっきりとわかることといえば、白銀のことだけだ。


「そうよ。あのあたりの火山活動が怪しくなってきているからその調査か、休眠して私達の目を欺き、

 ハイヴからの増援を待ち挟撃するつもりだった。 私は後者だと思うわ」

「何故後者なのですか?」

「世界でもゴクまれに人類が使っている戦術に酷似したものをBETAが使っているケースが過去に3件報告されているのよ。

 そこにあんたがもってきたこの資料、これが本当ならBETAが戦術という概念を持ち始めたということ。

 これに早急に対処する必要性がでてくるわけよ。BETAに対する戦術が大きく変わってくるわ」


BETAが戦術を使ってくる。

これほど恐ろしいことがあるのだろうか?

集団突撃戦術しかしてこないからこそ、人類はいままで対抗してこれたのだ。

それに陽動が入っただけでも恐ろしいことになるのに……。


「それ以外にわかったことはないけどこれだけでも大きな収穫だわ」


副司令はそういうと組んでいる足を組みなおす。

私はこの能力をもったことに最初は不幸をだと思った。

妹もこの実験に参加させられるだろうが、私以上にひどい扱いを受ける可能性が低いぶん安心できる。

そしてこの収穫は人類にとって重大なことだろう。

何しろ相手が実践してくるまえに知っていれば対策を立てることができるのだ。

副司令は私の反応を眺め、観察していた。

そういう時は次の言葉にどう反応するのかを観察する為の観察だと、私はそう思っている。


「で、もう一つの用件なんだけど、あんたの妹さんのことよ」

「っほ、本当ですか!?」


待ちに待った左近殿からの妹の情報。

その内容は吉とでるか凶とでるか……。


「それで妹は……無事なんですか?」

「無事といえば無事ね。少なくとも肉体的にも精神的にも傷一つついていないわ」


おかしい。

なぜここまで遠まわしにいっているんだろうか?

妹の生命は無事ということは確かだ。

傷いついていない以上それしか考えられないだろう。

副司令は目を細めながら私の反応を引き続き観察している。

まるで猫が鼠を見ているようで気分が悪い。

私の反応を観察しているということ、さらに命は保障されているということは……。

以前もやったように5感から入ってくる情報をすべて取り入れ計算を始める。

……そうかわかったぞ。


「副司令」

「何?」

「妹は現在どこにいるんですか?副司令の言い方から推測するに無事だが帝国軍からは動いていないといっているようですが?」


私の言葉を聞くと、副司令は満足そうに笑う。

どうやら今回の計算も真に迫っていたらしい。


「あなたの計算能力には本当に驚かされるわね。日に日にスキルが向上しているようね。

 ええ、その通りよ。彼女を保護していない、保護できない場所にいるんだからそれは当たり前ね」

「いまさら帝国軍を辞めさせることは不可能、なら黒幕をどうするしかない。と言うことでしょう?」

「その黒幕、北見をどうするか。その話をあんたの妹の所属してる部隊のお偉いさんに話を持っていったわけよ。

 それで詳しいことはわからないけど、とりあえず北見を嵌める算段がついたと同時に

 妹さんには手を出さない、出させないことが決定したわけよ」


つまりあの下郎を嵌める為に、そのお偉いさんが下郎を説得し時が来るまで芝居をうつという事だ。

これで私は冥夜様のことを堂々とお守りすることができる。

そして妹も時期が来れば解放され、斯衛への道を進めるだろう。

そのときになったら妹に家督を譲り、今までの無礼を詫びると同時に冥夜様の護衛に専念しよう。


「ま、そういうわけだから、あんたには今まで以上に働いてもらうからね」

「了解しました。今までのご協力感謝いたします」

「よしてよ。あんたと私の利害が一致していただけなんだから。第一妹さんが抜けた分の実験はあんたにやってもらうんだから」

「ふ、覚悟はできていますよ」


これで御家再興の問題は妹任せになってしまうが、あいつならやってくれるはずだ。

国連に所属している以上、私が御家再興をかなえることはできない。

なら御城の家の誇りに掛けて冥夜様をお守りし、人類を勝利をもたらす為に戦うのみ。

そんなことを考えていると副司令はいきなりシリアスな顔を崩しだす。


「あら、覚悟は十分なの?そう~じゃあ早速実験しましょうか」

「はっ?」


そういうなり机においてあったボタンを押す。

一息置いて、執務室のドアが開いて誰かが入ってきた。

ピアティフ中尉と社だ。

彼女達は私の横に肩を並べて立った。

一体何をするんだ?


「い、一体何をするんですか?」

「簡単よ。あんたの計算能力を使ってピアティフの喋ろうとすることを予想してもらう。

 んでその正解、不正解を社のリーディングで読み取ってもらう。その間ピアティフは一切喋っちゃだめよ」

「それはいいのですが、何故中尉なんですか?」


私の質問に昼間に私がしていたような邪悪な笑みに三割増ししたような顔を副司令はする。

困惑して中尉のほうを見ると、彼女も私の顔をみていたらしく目があうと逸らしてしまう。


「あら、中尉じゃ不満?」

「そうではありませんが……」

「やっぱり彩峰あたりがよかったかしら、南の島ではそれはそれはすごかったわね?」

「!!」


とんでもない殺気が横から発せられる。

ギクシャクと首を動かすとそこには何時と同じ顔をした中尉が立っている。

だがその背景には幻なのか、青黒いオーラが漂っているのが見える。

こちらに顔を向けてくるとと、そのオーラがどんどん広がっていくのがわかる。

中尉が何か言おうと口を開くが、副司令にそれを止められる。


「だめよピアティフ中尉、貴方が喋っちゃたら実験にならないじゃないの?」


副司令、貴方は鬼ですか。

あえて私に中尉の言葉を代弁しろと?

正解を言ったとしてもアウト、不正解を言ったら激アウト。

社に目を向けるとすでにリーディングしていたのかウサ耳をがくがく揺らしている。

すまない……。


「ほら早く当ててみなさいよ?それとも怖いなら別の話題にしましょうか?」

「べ、別の話題でお願いします」


ますます、中尉のオーラが強くなるが、顔は何時もどおりなので余計怖い。


「なら、あんたが演習にいっている間のピアティフの行動を当てて見せるとか?」

「ふふふふふ、副司令ッ!?ななななな、何故それを!?」


その言葉を聞くと中尉の背中の青黒いオーラは瞬時に霧散した。

変わりに顔が赤くなったのが見える。

なんか今度は別の意味でやりづらいのだが。

また社のほうをみると今度はウサ耳をパタパタと動かしている。

その表情は変わらないがやや顔が上気しているようだ。

……あえてつっこまないでおこう。


「あら、司令室ではかなり有名なことよ。そうじゃなくても涼宮中尉に帰ったときに早速おしえてもらたっんだけどね~」

「涼宮中尉ですか!?」

「ええそうよ。彼女も――――」


いつもの中尉らしくない取り乱し方だな。

軍人たるもの常に冷静であるべしだったか?

だが人は人であり続ける限り、こういうこともあるさ。

……この言葉に深い意味はないのだがな。

地下だからわからないが、今日の夜空も綺麗な星が瞬いてるのだろうな。

中尉の取り乱しっぷりを見ながら、社にプロジェクションでそう問いかける。

それに社はウサ耳を動かして答えてくれた。



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/12/08 23:38
朝早く目が覚める。

そのこと朝起きること自体は問題ない。

今日は私達用の練習機が搬入される。

これが只の戦術機、撃震ならそんなに気にしなかったのだろう。

だが第三世代戦術機、吹雪が搬入される。

初めて見る機体に私は胸を躍らせ、子供のように興奮して早く起きたわけだ。

この程度で興奮するとは……せめてもう三十分は遅く起きたかった。。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その2


ハンガーの厚い装甲版の天井を睨みつけるように搬入されてくる強面の紫の機体。

帝国軍城内省斯衛軍専用第3世代戦術機であり、撃震の改造機である瑞鶴に変わる斯衛軍の次期主力機だ。

この機体には階級や立場により様々なカラーバリエーションがあり、その中にはカスタムチューニングを受けているものもある。

下から黒、白、黄、赤、青、紫となっている。

黒は武御雷の配備が遅れており、瑞鶴のほかにも不知火、吹雪などが配備されている。

白は精鋭部隊である斯衛軍の中よりさらに選び出されたものにその色を与えられる。

その上の赤はその中でさらに優れたものを上層部や将軍五摂家による会議により選定し、

選ばれたものには白のパイロットを指揮する部隊隊長に任命される。

私の知っている範囲では第5帝都城警備大隊を率いる紅蓮少佐、第7独立警護小隊の川副中尉、第17戦術機甲小隊の七瀬中尉。

そしてここ国連軍横浜基地にいる第19独立警護小隊の月詠中尉だ。

私の父も赤の不知火を駆り、戦場で将軍家をお守りしたらしい。

青の武御雷は五摂家、つまり将軍家が乗り込むカスタム機である。

煌武院(こうぶいん)、斑鳩(いかるが)、斉御司(さいおんじ)、九條(くじょう)、崇宰(たかつかさ)、

この五大武家から征夷大将軍を選出されることから五摂家と言われている。

その五摂家が戦場に赴く際に使用されるのが先程もいった青色の武御雷だ。

そして私の目の前に搬入されてきたこの紫の機体は日本人からすれば青以上に特別な色だ。

元来日本では、紫という色は高貴なものとして扱われている。

その高貴な色を纏うに値する存在。

それは現征夷大将軍であられる煌武院悠陽殿下をおいてほかにない。

その高貴な機体がここに何故搬入されるかといえば、冥夜様の事情をしるものなら驚きはしても意外ではない。


「御城」


武御雷を見上げていた視線を横にむけると、そこには夜空に輝く天の川のように美しい緑色の髪を伸ばした女性、月詠中尉がそこに立っていた。

その背後には部下であろう三人の女性が立っている。

彼女達とは初対面であり、名前もしらぬが中尉の部下ということは相当の腕前なのだろう。


「月詠中尉ですか……後ろの見慣れぬ女性達は?」

「私の部下だ。左から神代 巽、巴 雪乃、戎 美凪だ。皆階級は少尉であり、皆私と同じ斯衛でそれ相応の腕をしている」


彼女達の一人――神代 巽少尉が一歩前に進み出る。

彼女は他の二人より髪型は大人しいがよくみると眉毛が二つに枝分かれしている。

彼女は雰囲気から察するに三人のリーダー格のようだ。


「神代 巽少尉です。彼の御城家の方とあえて光栄であります」

「止して下さい。私は任官もされていない、訓練兵ですよ?」


そういうと今度は隣の後ろ髪を武威字のようにしてまとめた女性、巴 雪乃が前に出る。


「貴方は斯衛の者なら誰でも目標にする御城 瑞堅のご子息ではありませんか」


次は三人娘、最後のお団子に縦巻きロールの髪型の女性、戎 美凪が巴の横に並ぶ。


「階級はこの際関係ありません。私達斯衛の者には貴方は将軍家の次にお慕いするべき方なのです」

「「「ですから、階級は気にせずにお話ください」」」

「…………」


驚きのあまりに言葉が出てこない。

父上はこれだけの人望をもっておられたのか。

彼女達は私という人物を見てはいないが、御城の人間を、父上を目標としてくれるのは素直に嬉しい。

私も将来父上のようになりたいと思うが、斯衛軍にはもう入れないだろう。

そこが残念だが少しでも父上に近づくけるようにこの国連で、副司令の元で頑張ろう。


「……御城、それぐらいはかまわん……とはいわんがそんなに下でにでる必要はないではないか?私もそなたの父を尊敬しているのだ。

 それとも御城を名乗るものとして実績を上げないうちは尊敬されるべきではないと思うのか?」


月詠中尉の言っていることも一つの理由だ。

御城の家の者だからといって上官に敬語を使われるのは違和感があるし、実績をあげていないのにこの扱いだ。

それにいままで先祖に顔を見せられないほどの行為をしてきたのだ。

彼女達に尊敬されるのは正直胸が痛む。

だが彼女達の思いを無下にするわけにもいかない。

私の心情はどうあれ、会話くらいならかまわないだろう。


「わかりました。そちらが敬語を使われるのはかまいませんが、こちらも体面というのもありますから、敬語で話します。かまいませんね?」


三人はしばし、顔を見合わせるとこちらに顔を戻す。

どうやらお互いの顔を見ただけで意思疎通ができるくらいに人間関係が良好らしい。


「「「わかりました。御城殿、これからよろしくお願いします」」」

「こちらこそお願いします」


お互いの親交を深めていると月詠中尉が肩を叩いてくる。

何事かと思い彼女を見ると指をハンガーの階段のところを指差している。

そちらの方に視線をむけると白銀と冥夜様を先頭に207B分隊の面々降りてくるのが目に入ってきた。

中尉が207の皆に私が斯衛軍と親しくしているのを見られるのはまずいと思ったのだろう。

実際見られてはまずい。

冥夜様は私の家柄をよくご存知ではなし、折角仲間と思われているのに護衛の従者がいる堅苦しい思いをさせかねない。

また白銀には副司令からいわれているとおりに特務についていることは知られてはならない。

なので中尉たちと親しくしていると関係なくとも何かと疑うだろう。

只でさえ南の島の件があり、一度は疑われたのだ。

なら見つからぬように隠れるの賢明だろう。

中尉はそこまでは知らないだろうが、冥夜様のことを今は第一と考え私に知らせたのだろう。

幸い彼女達は武身雷に目が言っていて、下にいる私達に気づいていない。

中尉達に軽く頭を下げ礼をいうと失礼だと思いながら武御雷の足の後ろに隠れる。

隙あらばそのまま逃げてしまおうと思う。


「……そな――不思――だな」

「――方が――やつだぞ」


遠すぎて会話が断片的にしか聞こえない。

聞こえないとどうしても気になってしまうのが人間というものなのだが、この状況で聞きに出て行くのは愚かしいことだ。

だが大きな足音が近づいてくる。

ばれたかと思い身構えたがそうではないらしい。


「うわぁ~武御雷だー!」


どうやら珠瀬が興奮して武御雷に近づいてきたらしい。

だが私は微笑ましいと思う前に顔を青ざめさせてしまう。

珠瀬がこのまま武御雷に触ろうものなら間違いなく斯衛の者なら激怒し、殴り倒すだろう。

そういう私もこうして隠れているがあとで月読中尉に何をされるかわかったものじゃない。

そう思いこっそりと覗き見ると案の定、中尉の顔は厳しく、珠瀬を射殺さんばかりに見ている。


「たま、ちょっと待て!」

「え、どうして?」

「いいから触るのはやめとけ」

「あ、そ、そうだねぇ~」


白銀が察してくれたのか珠瀬を止めて呼び戻してくれた。

冥夜様はなぜ白銀が珠瀬を呼び戻したのかわからないといったような顔をしている。

そこに白銀が月詠中尉を指差してながら何かをいうと冥夜様の顔が複雑になる。

先程ははっきりと聞こえたのは少し大きめの声でいったからであり、普通の声の大きさに戻ったので聞こえない。

月詠中尉が冥夜様に近づき何事かいう。

するとその返事に驚いたのか大きな声を上げる。


「冥夜様!私どもにそのようなお言葉遣い、おやめ下さい!」


それに呼応するように神代少尉が前に出る。

その顔は三人とも恐れ多いといったように困惑している。


「そうです!斯衛の者はいかな階級にあっても、将軍家の方々にお仕えする身でございます!」

「…………」


冥夜様もそのことを察してくれたのか、咎めようとはしなかった。

それからも時折、大きな声を上げるときにしか会話の内容がわからず、中尉達は出て行ってしまった。

去り際に白銀を睨んでいったのは以前に私に白銀が不振だと詰め寄ったことからだろう。

その後に続くように白銀以外の面々もこの場を後にしていく。

白銀は一人残り、武御雷を見上げている。

む~これでは出て行くにも出て行けぬではないか。

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しかし、白銀もよくあんなに冷静でいられるものだ。

あの後もう一度月詠中尉が訪れ、白銀を詰問した。

通常の神経の持ち主なら斯衛軍に睨まれるだけで足が竦むというのに、彼はそれどころか挑発するようなものいいをしたのだ。

白銀という人物が活字の時と違い、現実としてみる分偏見的な部分がなくなっているようだ。

副司令がいうには白銀は子供のようなやつだというが、ああいうところを見ると下手な大人よりも立派に見える。

しかし彼の世間的な考えは極端で偏見的なところがあるし、かといって間違ったことをいっているわけではない。

この極端なところが私の白銀像の形成を滞らしている。


「御城!!」

「ん?なんですか教官?」

「いくら実機の操縦経験があっても訓練でぼうっとするな!!あとで私のところに来い!わかったな!」


やってしまったか……。

私としたことが不覚。

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御城 衛。

白銀が来るまで207A、B両分隊あわせ、個人能力はトップをキープ。

数ある教え子のなかでも彼は飛びぬけていた。

その理由は彼の父による英才教育によるものだと聞いている。

香月博士による情報封鎖により、詳細はわからない。

だがそのおかげでこれだけの成績を収めている。

しかし、入隊当初は素行不良とまでいかなくとも仲間との馴れ合いとでも言いあらわせばいいのか、

とにかく人付き合いを嫌い、B分隊の面々と信頼関係を築けていたのか疑問だった。

それが原因かどうかはわからないが前期総戦技演習にB分隊は失敗する。

A分隊はこのときに合格し、今では衛士として活躍しているだろう……。

話を戻すがこのときを前後に御城の人付き合い方が変わる。

積極的にとはいかないが仲間と一緒にすごす時間が長くなったようだ。

そのおかげかどうかはわからないが、部隊の全体の練度が著しく上がる。

また、御城の能力の伸び悩みがあったが、格闘では彩峰と御剣が、射撃では珠瀬と榊が、メンタル面では鎧衣が競争相手となり

彼の能力を伸ばすいったんとなったようだ。

教官としてみても才気あふれる教え子達だとこのとき感じだ。

そこに白銀の入隊。

これにより御城並の能力を持った人物の登場により、さらに競争するようになる。

人間関係も彼の馴れ馴れしさがよい潤滑油となりさらに仲間意識が芽生えたようだ。

そして見事に後期総戦技演習に合格。

そして戦術機の操縦訓練に移る。

御城は訓練をしたことがあるらしく訓練兵としても正規兵となんら遜色ない成績をたたき出した。

しかし、白銀は異常だった。

初めての操縦にもかかわらず(本人の自称であり経験がある可能性が高いが)訓練課程の最短記録を五日も塗り替えてしまった。

この記録は今後誰にも抜けないだろう。

御城のことをかいていたつもりがいつのまにか逸れたが、今後彼らの伸び白をどこまで伸ばせるのか、

それが楽しみだ。

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翌日 国連軍横浜基地
「ぬう~」


訓練中の惚け。

私が弛んでいるのであろうか……。

先日とは違い、今日は惚けなかったのだが先日のことを根にもたれたのだろう。

今日の座学のあとのしごきは厳しかった。

今は副司令の呼び出しがかかり、ピアティフ中尉と共に歩いている。

207の皆は私が副司令直轄の特殊部隊だと忘れている。

ピアティフ中尉はなぜか皆がいないときを見計らってきているようで、それが長く続いたおかげで皆は忘れてしまったのだ。

その本人の中尉といえば……ご機嫌ななめのご様子。

副司令の無茶苦茶な事件のことをまだ根に持っているようだ。

しかし、今は別のことが気になる。

何時もなら副司令の執務室に向かうはずなのだが、今日は別のところに向かっているみたいだ。

この通路の道筋からして印刷室のはずだが……まさか、いや、もしかして。

その印刷室につくとピアティフ中尉は入り口の机に置いてある大量の書類を指差し一言。


「執務室まで運ぶのを手伝いなさい」


初めて会ったときの書類の量を凌駕する山を指差す中尉に私は従うしかなかった。

               ・
               ・
               ・
中尉は手に少しだけ書類を持ち楽そうな顔で横を立っている。

現在地下に向かうエレベーターに搭乗中。

腕には視界が塞がるほどの書類の山を運んでいる。

しかし、このエレベーターで物思いに耽ることが多い気がする。


「どうかしました、御城少尉?」

「……書類運びも任務に含まれているのですか中尉?」


今日は軍人口調ではなく、親しみが湧くような丁寧口調で話しかけてくる中尉。

彼女は機嫌直しのつもりで私に大量の書類を持たせているのだろう。


「もちろんですよ。機密書類だから一般兵に見られるとまずいのですからね」

「書類を落とすからですか?――ふぐっ!?」


中尉は私の足に丈夫である軍用ブーツを踏みつけるのではなく、弁慶を蹴りつけてきた。

そのためバランスを崩し危うく書類を落としそうになる。

何とか痛みに耐え姿勢を保つと中尉に講義するように目を向ける。

だが中尉はフンっと顔を背けてしまう。

いつものことながらそうしている間に目的地に着いたようだ。

またもやご機嫌を損ねた中尉はずんずんと進んでいく。

こちらは書類のせいであまり速くあるけないのだがそれをあえて無視している。

女性の機嫌を損ねるのはよくないのわかっているが現実派難しいものだ。

だがその歩みも唐突に止まる。

危うくぶつかりそうになるが、なんとか踏みとどまり、抱えている書類の横から顔を出そうとする。

すると中尉はいきなり副司令の執務室のドアではなく、手前の脳みそ部屋に続くドアに押し込められる。

書類が一部床に落ちてしまい一緒に入ってきた中尉に文句を言おうとするが、人差し指を私の唇にあててきた。

黙れということらしい。

そして書類を拾うように身振り手振りで伝えてくる。

私は憮然としながらもその指示に従い、書類を集める。

十秒ほどでそれをすませると中尉はドアを開けて顔だけ出し、通路を伺っている……何かあったのだろうか?

安全を確認したのか、彼女は溜め息をつくと私に向かって手を合わせながらこう言った。


「ごめんなさい」

「それはいいのですが、一体何があったんですか?」

「ええとですね。簡単にいうと白銀訓練兵が副司令のところにいたということです」


危なかった。

白銀とニアミスをするところであった。

危うく私が特務についていることがばれてしまうところだった。

彼女の機転に感謝せねばならないが、その後の扱いはひどいですよ。


「中尉、感謝します、が言葉遣いが素に戻ってますよ」

「む、そうです、じゃない、そうか?」


中尉はなにやら不満顔で1回咳払いをすると副司令の部屋に入っていった。

今後白銀の行動を把握してからここに来るようにしたほうがいいだろう。

そう考えながら、書類の山を抱え後に続いた。

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昼下がり様々な戦意高揚のためのポスターが貼られた通路を足早に歩く。

皆がまつPXへと向かうのだが昼食を食べる時間が後20分程度しかないから急ぐのは当然のことだろう。

それと副司令に言われたことが気になっている。

副司令がいうには私の能力の使い方を変えてみるらしい。

私の能力といえば、

1プロジェクション

2未来予測計算を行うための異常な処理速度

この二つだ。

今までの実験以外の使い方は正直、私の頭では思いつかない。

今夜の実験にそれを教えてくれるそうだが、副司令のことだから凡人では思いつかない能力の利用方法なのだろう。

考えをまとめるといつの間にかPXについたらしい。

立ち止まって皆を探そうとすると、なにやら二人の少尉が向かってくるのに気がつく。

PXを出て行くのかと思ったが、二人の目は私をとらえているのだからそれはないだろう。

どうやら逃げ場はないようだ。

そうこうしているうちに男と女の二人の少尉は私の目の前で立ち止まる。

不本意ながら軽く敬礼をする。


「おい、訓練兵」


答礼もなしか。

この少尉たちは一体何のようで私に声を掛けるんだ。


「少尉殿、私に何かご用でしょうか?」

「お前らの隊はあそこにいるので全部か?」

「8人ではないのか?」

「私を含め総員で7名です」


人数を確認して一体何を聞きたいのだろう。

この二人は衛士みたいだがそれとなにか関係があるのだろうか?


「だったら、ハンガーにある特別機……帝国斯衛軍の新型は誰のだ?おまえらの中の誰か用だと聞いたが」


そうかそういうことか。

武御雷はこの基地に既に月詠中尉たちの4機が配備されている。

そこに紫の機体がきたとなれば、気になって仕方がないのだろう。


「……残念ながらお答えしかねます」

「ああ?これは命令なんだよ……いいから答えろ」

「――恐れながら少尉、これ以上の詮索はおやめになったほうが賢明かと存じますが?」

「おまえ誰に向かって口を聞いているのかわかっているのか?」


そういうと男の少尉が私の胸倉を掴みあげる。


「さあ、どうなんだい?」

「これは忠告ではなくあくまで助言です。少尉殿も日本人ならあの機体がここにあるということ。

 それを一介の衛士が興味本位で詮索なさるということは彼のお方を愚弄するも同じこと……。

 いまならまだ間に合います。ここは穏便に引いてもらえないでしょうか?」

「「…………」」


日本人ならば殿下の名を軽んじて軽率な真似をするはずがないだろう。

ことの重大さが伝わったのか私の胸倉を掴むのをやめる。


「その衛士に一つだけ伝えておけ」

「……何でしょうか?」

「あまり調子に乗るな、BETAを徹底的に叩くのは俺らだけで十分だとな……おいいくぞ」


そういうと二人の少尉は私の横を通り、PXから出て行く。

やれやれ服に皺がよってしまったが、丸く収まったのだからよしとするか。


「マモルさ~ん、大丈夫ですか?」


どうやらことの一部始終を皆は見ていたらしい。

そこで私ははっとする。

このイベントは本来なら白銀が仲裁するはずだということを思い出す。

正確に言えば思い出したのではなく残りわずかな引き出しの中身を見たらあったのだが、月詠中尉と白銀の関係に多少かかわりがあるのだ。

その機会を私は奪ってしまったのだ。


「それにしても御城はすげえな。オレが絡まれてたら間違いなく殴りあいになってたぜ」

「…………」

「ん、どうした?」


このイベントを逃したことに白銀は大した危機感を持っていないようだ。

なら、未来に大きな影響を与えるような重要なことではないのだろうか?


「いや、なんでもない。それより食べる時間がないので急いでお膳をもってこなければ……」

「あ、それならボクにまかせて」


鎧衣はさっと京塚曹長のところにむかっていく。

こういうときにあの行動力はありがたいものだ。

皆もとの席に戻り始め、それに続こうとするが冥夜様に呼び止められてしまう。


「なんだ御剣?」

「……一言だけ謝罪させてもらう。すまない」

「――何を謝罪されているのかさっぱりわからないが……まあ謝罪は受けとっておく

 それよりも空腹で死にそうだからだからいかせてもらえぬか?」

「ああ、すまぬ」


白銀の出番を奪ったようで嫌な感じだがこれはこれで私がとくをしたのでよしとするか。

その後白銀発案、『珠瀬1日限定分隊長計画』がめでたく発動することになった。

本当にめでたいのかわからぬがな。

-----------------------------------------------

こっそりこっそり隠れて通路を見てみれば、そこには赤い斯衛の人と白い銀がなにやら仲良く話している。

頭の中を覗けば青黒いこと話しているようで実を言うとほんのり赤みがさした白いことを話ている。

これは城の番人にはなすべきなのかもしれない。

頭の中だけの会話で伝えるべきだとおもう。

なぜか知らないけど告げ口しなければならない気がする。

ただそれだけ。

あっそうだ。こんど秘書官の中尉にもバカンスの時の城の番人のことを話そう。

それがいいと私は思います。

……なんか私のキャラクターが変わっていないかな?


以上 社霞の思考、大雑把すぎる意訳からでした。

注意、この思考はあくまで大雑把なすぎるものであり、実際の思考とはかけ離れているところがただ存在しています。
   くれぐれもそこら辺を誤解しないでください。



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/25 23:27
オレはこの日を待ちに待った。

オレが考案し、先生が開発してくれた新型OSの実機搭載。

その評価テストを今日、この演習場でやっている最中だ。

抜群の連携をもつ冥夜達のチームを圧倒的し、見事にそれを実証して見せた。

このとき御城がチームに加わらなかったのを疑問に思っていたのだが、それを些細なこととして気に掛けなかった。

彼は七番機内で待機命令を出され、あまりとしか見ていなかった。

先生もそのつもりなのだと、オレは勝手に思っていた。

そして冥夜達を倒し、演習を終了しようとした矢先にそれは起きた。


「状況終了!全機作戦開始位置まで――」

「それはだめよ、まりも~」

「……?……!!御城機、待機命令はどうした!?」


オレはなにがなんだかわからなくてレーダーを確認したら、そこには07と08の表示がされていた。

予備機まで出している。

07は御城だとして、08には誰が乗っているんだ?


「いいのよまりも。これから追加演習をしてもらうんだから。榊、聞こえてる?」

「はい!何でしょうか?」

「聞いてのとおり、これからあんた達のチームにあの二機を相手してもらうわ。

 いっておくけど、あの二機にはあんた達と同じOSを積んでるから油断すると痛い目に会うからよろしく」

「は、博士!!」

「了解しました。榊分隊、これより追加演習をおこないます」


追加演習こんなの前にはなかったぞ!?

……いやそれをいったらOSもなかったんだから、これも歴史の変化のせいかもしれない。

それより新型OS搭載した吹雪二機、そのうちの一人は御城だ。

これは簡単にはやらせてもらえそうにないな。

そしてオレ達の三機の吹雪はうなりを上げその二機に向かっていった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その3


真っ白な壁、真っ白な床、真っ白なベッド。

どこもかしこも汚れ一つない部屋。

ここはICU、つまり集中治療室。

そこのベッドに横になっているのは御城 衛。

演習中に過度のストレスにより、危険な状態となりここに運び込まれた。

それをガラス越しに見ている。

私はそれを副司令から聞き、ここに来るように促された。

副司令の話ではこの処置は大袈裟すぎるらしい。

今は只単に脳に負荷がかかりすぎたために一時的にブレーカーが落ちただけなので時期に目が覚ますが。

実験が彼にどの様な影響をもたらしたのかデータをとるため、名目上は治療としてデータをとっているのだ。

こうしてみると彼がモルモットとして扱われているのをあらためて認識してしまう。

そんな彼に私は……そろそろ仕事に戻らなければならない。

彼のことは心配だが私は軍人だ。

彼一人のことで軍務に支障をきたすことは許されない。

なにより彼がそんなことを望んでいるはずがないだろうし、私が歩み彼が歩んできた道をこちらから抜け出すのはもってのほかだ。

そう考えると私はくるりと背を向けて、ICUを後にした。

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御城が倒れた。

演習中に過度のストレスを受けて、現在ICUで治療中。

原因は不明だ。

私がタケルたちに負かされて、あの奇妙な動きに困惑しているときにきた追加演習。

その演習に御城は参加していた。

私達のチームはこの演習には参加できずに演習場から離脱した後、その戦いは始まった。

タケル達の新型OSを積んだ(後で聞いた話だが)三機に対して、御城も新型OSを搭載しているが二機だ。

これではランチェスターの法則に従うなら、御城には勝ち目はない。

それに相手はタケルだ。

善戦こそしても御城が負けることはわかっていた。

誰もがそう思い、私もそれを疑ってはいなかった。

だがそれは勘違いだと御城は演習場の皆に知らしめたのだ。

私は遠くにいたのでレーダーでしか確認できなかったが、3分ぐらいするとマーカーが減りだした。

それは御城の方の08、無人機だと思っていたがそうではなかった。

それは04、彩峰のマーカーだった。

この時点では彩峰が油断したのかと思っていたが、それは違った。

次に消えたのは榊だった。

ここで初めて御城のチームが押しているというのがわたったのだが、私達残りの者は驚愕するしかなかった。

モニターを神宮司教官につなげても、教官もその様子をみて顔を厳しくし、計器とにらめっこをしていた。

後で榊たちに聞いたが、只一言


『もう戦術機が空飛ぶわ、一機が隠れたと思ったらすぐに飛び出てきてその機体がすぐに反転してくるわ。

 あれはもう常識どころかこの世のルールを無視しているとしか思えない』


あのタケルでさえそうこぼすほどだ。

それだけ完璧な連携を仕掛けたということを神宮司教官も言っていた。

後に機体反転のやりかたは二機を一機にみせるようにあらかじめ潜んでいたということがわかった。

片方の08は自動操縦らしいのだが新型OSを搭載しているからといってあれはおかしい。

だからそれと同時に皆、こう思っていたに違いない。


『あれは絶対人が乗っていたにちがいない。じゃなきゃあんな機動をできるわけない』


タケルの戦術の機動もそうだが、自動操縦に似たようなことをされたらこう思うしかないだろう。

だが演習の終わりはあっけなく、そして気が抜ける展開で幕を下ろすことになる。

御城チーム全機、機能一時停止。

タケルはその隙をつき、瞬く間に二機を沈黙させた。

だが勝ったはずのタケルは釈然としなかったのか、御城機にコールを掛けだのだが、返事をせず、仕方なく近づきコクピットを空けてみると

その中には吐血し、ぐったりとした御城がシートによりかかっていた。

このときに片方は無人機だったことがわかり、さらに今回の演習が不可解なことになったのだ。

そして現在に至るのだが幸い大したことはないらしい。

吐血もただ口の中を切ってそれが外に流れただけで、ICUから軍病院に移送されることなく彼が目覚め次第、

軽いカウセリングと投薬をうけて退院するらしい。

ともかく大事に至らずに済んで何よりだ。

だが演習でのことが気にかかる、もう少し詳しくタケルたちに話を聞いてみるか……。

そう思い自室待機中だが部屋をでて、タケルの部屋へと向かった。

---------------------------------------------------------

時間は少しさかのぼり、演習場にて


相手は御城だ。

オレと互角かそれ以上かもしれない優れた操縦技術をもつ、衛士見習いだ。

まりもちゃんがオレと御城を207の二本刀と独り言をいっていたの立ち聞きしたらしい。

嘘か真かわからなけど、それだけ実力があるということはたしかだ。

油断したら即やられる。

それを委員長も彩峰もよくわかっているようだ。

さっきから表情を引き締め、網膜に移された情報をしきりに確認している。

オレもレーダーや周りの景色を油断なく確認する。

さっきまでレーダーに移っていたマーカーは消え、事実上の有視界戦闘になっているが、この状態は長くは続かないだろう。


「白銀、こちらから仕掛けてみる?」


委員長がそう提案してくる。

だしかにこのまま膠着していても無駄に時間を浪費するだけだ。

それにこちらは三機いる、一機を囮にしてもまだ2、2でやることができる。

それにこのOSは動いて何ぼなんだ。

じっとしていても宝の持ち腐れにしかならない。


「……そうしよう、彩峰たのめるか?」

「……もち、まかせて」


04と書かれた彩峰の吹雪が開けた場所に躍り出て仁王立ちする。

しかしあたりは静寂が支配し、一向に出てくる気配がない。


「……でてこない」

「こんな見え透いた手じゃでてこっ!?彩峰!!上だ!!」

「えっ!?」


突然ふってくるペイント弾の雨。

その飛礫は彩峰の機体めがけ貪欲に襲い掛かった。

だがそれを辛くも避ける彩峰、伊達に新型OSを搭載しているわけではない。


「私と06で追撃、08を撃破する!!

 04は07を捜索、釘付けにしておいて!!」」

「「了解!!」」


現れないと思ったら突然現れた。

しかも着地を狙ってくださいといわんばかりの大ジャンプをしてだ。

何かおかしい……しまった!!


「委員長まずい!!これは陽動だ!彩峰が狙われてる!!」

「えっ!?」

「きゃぁぁぁぁ」


コクピットに彩峰の叫び声が響き渡る。


「どうしたの04!?」


委員長が呼びかけるが通信はつながらず、代わりにまりもちゃんの声が聞こえてくる。


「彩峰機、コクピットに被弾、致命的損傷、大破」


よりによってコクピットに被弾したって!?

コクピットに被弾するってことはたまたま当たったか、狙撃使用の36mmを使ったかゼロ距離射撃しかない。

あの彩峰の叫びぐあいからゼロ距離で乱射したにちがいないだろう。

糞、なんてことしやがる。

08を追っているのに2機で追いかけてんのに追いつけねえ。

オレはついていけてるが、委員長のほうは少しづつ離されてる。

御城ならともかくなんであの機体があんな機動ができるんだ!?


「委員長離れたらまずい。一旦合流するぞ!」

「りょ、了解」


一旦追うのをやめ、委員長と合流し、連携可能な状態で周囲を警戒する。

周囲はさっきと同じように静まりかえり、レーダーからも07、08が消える。

くそ、ハンター気取りかよ。


「……糞、あいつらこのままゆっくりと料理するつもりのようだぞ」

「白銀落ち着いていきましょう。まだ数の上では同等だわ。やりようによっては勝てるわ」

「だけどどうすんだってまたきた!?」


今度も単機で突進してきた。

機体ナンバーは07御城だ。

36mm連発しながら上空に舞い上がり、太陽を背にし降下し始める。

委員長と一斉正射するが、太陽のせいでロックオンできずに弾は見当はずれのほうこうに行き外れてしまう。

それでも慌てずに08を警戒しながら着地を狙う為に後退し、銃を構えなおす。

いざ着地というところで撃とうとすると奴はオレがしっているとんでもない機動をしだした。

それは元の世界で横浮きといわれているバルジャーノンの機動方法だ。

着地の瞬間にブースト吹かして一時的にホバー状態にして機体を横に滑らせるという技法だ。

この技をつかうと被弾率がかなり落ちるが、ブーストの残りを非常に気を使う技なだけに多用するものは余程のすごい猛者以外は使っていないのが普通だ。

それを使って射線上から姿を消し、再びビルの陰に隠れてしまう。

オレと委員長はあっけにとられて動きが鈍っている。

隠れた相手が間をおかずに反転してくる。

どうやったらそんな機動ができるんだ!?

そこを狙われた。

今隠れていたビルから突然なにかが飛び出てくる。

それはオレの弾幕を抜けて委員長に向かっていった。

委員長もオレと同じように弾幕を張るがそれを抜け、ナイフを取り出しそれを一閃、二閃させる。

ナイフは模擬用なので戦術機を傷つけることはないので安心だが、ダメージ判定は下されるものだ。


「榊機、メインカメラおよび、機関部破損、致命的損傷、大破」


委員長までやられちまった。

今度はオレの番か……。

委員長を倒した機体はゆっくりと振り返り、銃を構えた。

相手もオレのことを知っているのか妙に慎重だ。

やはり、二機で挟撃するつもりか?


「なら!!」


操縦桿を前に倒し、相手に向かって突進させる。

二機相手に動かないやつはいない。

それにオレの後ろに回りこんでいるんだったら、こちらから突っ込んだほうが相手のペースを乱せる。

相手の吹雪はオレが突進してくるのを確認すると、意外にも少しも怯んだ様子も見せずにあちらも突進してくる。

お互い36mmを打ちまくる。

このまま行けばお互い被弾がおおくてなってオレにはふりだ。

だから御城お返しだ!!

足元のペダルを思いっきり踏み付け、ブーストを全開にし、空中へと舞う。

そして灼熱の太陽を背に銃弾を避ける。

思ったとおり、相手の吹雪は銃弾を撃ってもあたらないことを悟り、慌てて遮蔽物へと隠れようとする。

だがもう遅い。

御城のときは遮蔽物が多くこちらも被弾しなかったが、ここは彩峰が立っていたような開けた場所だ。

一番近くの逃げ場でも撃破するには十分過ぎるほどの距離がある。


「うおぉぉぉーーーーーーーーーーー!!」


御城がやったように銃弾を雨あられと発射する。

その弾は次々と青色を黄色に彩っていくかに見えたが、突然射線に遮蔽物が出現する。

それはビルの残骸だ。

それに阻まれている一瞬に相手の吹雪は後退をやめ、逆に前進し、こちらの死角に入る。

まずい。

着地のタイミングを見透かされて十字砲火を浴びせられる。

だが、またしてもオレは御城の真似をすることにした。

着地と同時にブーストを吹かし、操縦桿を倒しながら、ブーストキャンセル。

36mmを投げ捨て側転をする。

我ながら見事に、そして華麗に弾を避け、またブーストを吹かし、ナイフを装備しながらNOEで突進する。

そして相手に向かってそれを投擲、二本目を取り出しさらに一閃。

ナイフは銃口を見事に捕らえ、暴発の判定を下し、右腕は使い物にならなくなる。

そして最後の一線は見事に機関部を撫で切った。


「08、右腕全壊、機関部破損、致命的損傷、大破」

「うしっ!」


そして08を盾にしながら体勢を整える。

こちらは36mmを投げ捨てたから残りはこのナイフと長刀だけだ。

圧倒的に不利であることは確かだ。

だがまだまだいける。

まだ、御城が残って――ん、御城が残っている?

慌てて撃破した吹雪のマーキングを確認すると、そこには08と白で描かれていた。

さっき隠れてすぐに飛び出したのはそこに待機していたからか。

どおりで反転が早すぎるはずだ。

そこに現れる07こと御城機。

あちらは36mmをもっているならなぜ、姿を現したのか……答えはすぐわかった。

御城は36mmを投げ捨てると挑発するように長刀を正眼に構える。

正々堂々勝負ということか……?

俺達がこれからやろうというのは戦争なのにこんな時代錯誤のような真似をするなんて……。

粋な奴じゃないか!!

実戦でこんなことをしたら即死亡だが模擬戦だから……いや、彼なら実戦でもやりかねないだろう。

同じ国連軍だからこそ、戦士として純粋に勝負がしたいのだろう。

ここであえて勝負に乗ろう。

こちらもナイフを捨て長刀を構える。

実戦とは違う雰囲気、お互い次に動いたときが勝負の終わりが来るのがわかっている。

一撃必殺。

一刀両断。

模擬刀だがそれなりの衝撃がある。

だがそんなことを気にするのは相手を切り倒したあとでいい。

永遠に続くかと思ったその時間。

だが勝負は二人が望んだ形では終わらなかった。

御城の機体が構えた長刀が少しづつ下にずれてくる。

くるかっ!?

だがそのまま長刀を下ろす、というより落とすと機体制御が切れたように膝をつき停止する。

呆気にとられてしまうが、すぐに御城にコールを送るがつながる様子がない。

機体を近づけ、コクピットを強制解放するとそこには血を吐き倒れている御城を発見した。

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目を覚まし、一番初めに目に入ってきたのは真っ白な……白衣だった。

その白衣が副司令の背中だと気づくが、なぜ私がここにいるのかよく思い出せない。

起き上がり、あたりを見回すとそこには大小様々な機会が並べられ、そこからのびるコードは私にとりつけられていた。


「あら、気がついたみたいね」

「……私は一体どうしたんですか?」

「……覚えていないみたいね」

「……私は確か演習をやっていて、それで彩峰を撃墜してそれから……ええと、白銀と一騎打ちをしようとしたのか」

「結構覚えているじゃないの?正直驚きだわ。あのシステムがバグッた時は冷や冷やしたわよ」


システム……そうだオルタネイティブ4のおまけとして作られたものを私がテストを兼ねて演習で使ったのだ。


「システムXM……あんたには扱えると思ったけど、あと少しOSにもあんたにも調整が必要な用ね」


システムXM。

簡単にいえば、衛士不足の今あまった戦術機を使い、遠隔操縦でエースパイロット並の機動を実現するという無茶な計画だ。

これはオルタネイティブ4でも、パイロットが一分と負荷に耐えられないし、

なによりもそんな実現不可能なものに時間を廻すよりも、本題に力を費やしたほうがいいとゆうことで破棄されそうだったものだ。

そこに私がやってきた。

副司令は私の計算、つまり演算処理能力に目をつけた。

パイロットにかかる負荷、それはデータリンクと専用のOSを通して遠隔操縦をおこなう為に膨大な量の情報を計算するときにおこる。

常人ではこれをおこなうのはほぼ不可能、ESP能力者は辛うじてできるぐらいだ。

しかしそのESP能力者は遠隔操縦をするので、一杯一杯で複座型にしなければ役に立たなかった。

それでは普通に操縦したほうがいいというわけで頓挫したのだ。

だが私はそのESP能力者の最高峰の社霞の倍の処理速度を持つ、ならば実現可能ではないだろうか?

白銀が考案した新型OSもあり、それが実現不可能ではなくなった。

そして計画は復活し、私がテストパイロットに選ばれたのだが……。


「でも今日の結果を見る限り、いくら処理速度に優れているからといっても一機が限度じゃ役に立たないわ」

「……それはそうですね」


そうだいくらこれを実現できてもたった一人で、二機操れても戦局にはなにも影響しない。

ならば別の計画に予算を廻したほうがいいだろう。

しかし頭でわかっていても悔しさがこみ上げてくる。


「でも、別の視点からこの計画を立て直せればあるいわ……」

「どういうことですか!?」


この計画をさらに踏み台にして何をするのだろうか?

副司令はニヤリと笑うと私に近づき手に持っていた書類をばさりと置いた。


「これを見ておきなさい……少なくともその中身を実現するのにあと二週間はかかるわ。

 それが実現すればあなたは英雄になれるわ」

「…………」


副司令はゆっくりと、そして楽しげに靴をならしながら立ち去っていく。

私は出て行くのを確認して、その書類を確認する為に一ページ目を開いた。

それは今までの実験結果から導き出された私の能力の詳細。

それから導きだされるオルタネイティブ4に関する利用方法。

二ページ目は今までの実験を発展改良し、実現可能性が高い改良計画。

三ページ目はこれからのスケジュール。

特に私は二ページ目から目を離すことができなかった。

これが実現されれば、確かに英雄にもなれるかもしれない。

私はそんな能力が本当に宿っているのか?

疑問が頭からはなれなくなった。



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/04/29 20:42
朝日が昇り、そして沈む。

日にちが過ぎるということはこれの繰り返しに過ぎない。

私達が何を使用ともおかまいなしに時は過ぎる。

私が疲れようと白銀がトルクレンチを投げつけられようとそれは変わらない。

だがそれは決して無意味ではないはずだ。

私がこうして朝から首を鳴らすほど疲れることは意味があるはずだ。

システムXMの失敗からはや一週間たち、新たな計画がスタート。

引き続き被験者として計画に協力している。

計画は順調に進んでいるようで、副司令は上機嫌な顔をして、しばらく休暇を与えてくれた。

これ以上焦っても完成は早くはならないそうだ。

確かに焦ったところでバグだらけのシステムを作り、この前の演習のようになったらたまらない。

白銀たちにはものすごく心配されていたみたいで、退院してすぐに訓練に参加するといったら全員休んでろの一点張りだった。

そこを副司令の退院許可証を見せてなんとか納得してもらったが、神宮司教官に早めに訓練を上がれと言われてしまった。

これ以上皆に心配を掛けるわけにはいかない。

だからこそ慎重にシステムを完成させなければと思う。

まあ実際は研究者の皆さんや整備班が開発をおこなっているので、私は色々コードがつながったヘルメットをかぶり計算を行ったり、

その状態で未来予測を行うなどデータを取るのに協力するだけなのだがな。

それは置いといて白銀のことだ。

先程トルクレンチを投げつけられたといったが、あれはやれやれといった感じだった。

嫉妬のオーラを背景に白銀にレンチを投げつける女性陣。

その嫉妬の相手が社霞ときた。

彼女がこの前珍しく相談しに来たと思ったら、食事であ~んしてあげるのは常識かと問うてきた。

そうだ、恋人同士ではしばしばあることだといった。

だが“そうだ”の部分しか聞かずに私の目の前から消え去っていたのだ。

……それがこのような形で現れるとは、驚きを通り越して呆れてしまった。

珠瀬は何時もどおりあわあわしていたのだが、彩峰もそれに参加していなかったのが以外だった。

だが決して無反応ではない証拠にラチェットレンチを手に持ち、それに目を馳せ怪しく微笑んでいた。

恐っ。

白銀に弁護を頼まれたのはそのときだ。

さすがに彼女達が大人気ないと思い、肩をすくめ、苦笑いを浮かべながら弁護する為に口を開いた。

だが声を出そうと瞬間にソケットレンチとドライバー、さらに先ほど彩峰が持っていたラチェットレンチが顔面に飛んできた。

危うく直撃しそうになったのを即座に軌道計算し、自分でも神業と思える速さでキャッチした。

実験のせいで計算速度が日に日に上がってきているのだが、このようなことで役に立つとは嫌なことだ。

それから女性陣に文句を言おうとするが神宮司教官がやってきて話はお流れになった。

さらに教官は私に


『そんなにたくさんレンチをもって何を整備するんだ?』


といってくれた。

……神宮司教官、もう少し察してください。

物思いに耽っていると耳に起床ラッパの音がはいってくる。

考えながら着替えていたら、結構な時間がたっていたらしい。

いそいでズボンのベルトを締めると点呼を取る為、通路にでた。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その4


「明日の市街戦演習は負けないからね覚悟しなさい」


食事中に明日の実機演習について話していたら、榊がそう宣言してくる。

まあ、そんなことよりも京塚曹長の作った合成ざるそばは何度食べても食い飽きない物だ。

夏に一回だけ特別メニューとして出されたのだが、意外に好評だったらしく今はPXの裏メニューとして存在している。

私も今日は即効でPXに来て京塚曹長にこっそりといって出してもらったのだ。


「ちょっと何かいいなさいよ!」


裏メニューについて考えていたのだが、榊の言葉に誰も反応しなかったようだ。

食事に同席している鎧衣と珠瀬に視線を向けるがいるはずの場所に二人は座っていなかった。

食事に夢中になるあまり二人が席を立っていたのに気がつかなかったようだ。

そうすると榊は私に向かって話していたことになるな。

少し悪いことをした。


「すまん。食事に集中しすぎて聞いてなかった。で、あらためて聞くがなんだ?」

「――御城のチームに明日の市街戦演習で負けないっていったのよ」

「そうか」

「そうかって、それだけ?」

「……他にいうことがあるか?」

「むきーーーーー!!」


眼鏡のせいで普通より大きく見える目を三角にして悔しがる榊。

付き合ってられん……む、そばがなくなったか。

なら最後にそばつゆを飲まなくてはな。

お湯はどこかなっと。

それはともかく榊が悔しがっているのは昨日の演習で私のチームに負けたからだ。

昨日は二機連携での訓練で私は鎧衣と組、冥夜様は珠瀬と、榊は彩峰と組んだ。

だが榊のチームは連携がうまくいかずに全敗してしまった。

前々からわかっていたがこの二人は反りがあわないようで、戦術機に乗っていてもそれは変わりないようだ。

二人がうまく連携を取れるようになれば、私も一方的に任すことはできないだろう。

それどころか、負けることもありえる。

だがそれはどのくらい先のことになるのやら。

そうこうしている間に榊は席を立ちさっさとどこかにいってしまう。

……少し相手にしてすればよかったか?

その後鎧衣たちがお湯をもって戻ってきてくれたので席を立たずにすみ、当たり障りのないことを話していると

珍しい方がこちらに歩いてくるのが見えた。

白銀だ。

私と実験と違い、白銀の任務は真昼間にやることが多い。

一応私の実験のこともいっとくが、私の方は夜に行うことが非常に多いために疲れが溜まり始めている。

しかし白銀にばれないようにやるためなので仕方がない。

それとは関係ないが最近の白銀は社霞との夫婦ごっこをするのが当たり前なのだが、その社が今日はいない。

白銀は軽く手を上げて挨拶をしてくると私の隣の席に座る。

その一連の動作を私を含め不思議な目で見つめていると、白銀もそれに気づいたのか怪訝な顔をする。


「あれ、霞さんは?」

「ああ、霞は今日から別々にメシを食うことになった」


その言葉に先ほどの視線の意味がわかったのか晴れ晴れとした顔で答えてくる。

社がここにいる間は私とプロジェクションでアドバイスをして女性陣にささやかな復讐を楽しんでいたのだが

それも今日で終わりのようだ。

迫り来る工具の数々、あれは本当に嫌な物だ。

話している間に榊のことが持ち上がり、私が冷たくしたのをネタにされて困ったのだが、

鎧衣にどこで聞いたのかと問い詰めてみれば、遠くからでも唇の動きをみてわかったらしい。

……へんなスキルばかり左近殿から吸収しているようだ。

冥夜様も席に着き、残りは彩峰がきていないだけになった。

そのうち来るだろうとそばつゆをすすっているとPX備え付けのテレビから気になるニュースが流れ始めた。


「──火山活動の活発化に伴い、昨夜未明、帝国陸軍災害派遣部隊による不法帰還者の救出作戦が行われました。

 現場では大きな混乱もなく、14名全員が無事に保護されたと……」


火山活動か……。

帝国陸軍が動いだのか?

今の帝国軍にそのような余裕はないはずだ。

だから私はこの仕事は国連に回ってくると思っていたのだが……帝国軍も無茶をするものだ。


「──を含む中部地方は、第一種危険地域に指定されており、民間人の居住は許可されていません。

 しかし、確認されているだけでも、帰還を強行した元住民が……」

「…………」


このニュースを聞いているのか冥夜様は厳しい顔でこれを聞いている。

それとは正反対に白銀は口元に笑みを咲かせている。

それを見る冥夜様の視線は刃物のように細く鋭くなっている。

このニュースの真実を知っていれば、当然の反応だろう。

それとはおかまいなしにニュースは流れ続ける。


「……再三の避難勧告にも応じない不法帰還者の扱いに関し、内務省の一部からは、放置やむなしとする意見も上がりましたが、

 帝国議会は国民の生命財産の保護を第一とする立場を、あくまで貫くべしと、これに応じず……」


この後に続く言葉とは違い、私は強制退去をおこなったに違いないと考える。

冥夜様も同じはずだ。

それでも嬉しそうに笑っている白銀をみると、こいつが副司令に頼み込んで帝国軍を動かしたように見えてしまう。

少し考えすぎだろうか?

その答えを引き出そうと“俺”の記憶を検索するがもう真っ白な空間しか残っていない。

これでは確かめられない。


「なんだ……そなた嬉しいそうだな」

「ん?……そうか?」

「……なんだニヤニヤしおって……まさかあのニュースを見ての事ではあるまいな?」

「なんだよ、人が助かったっていってるんだぜ。しかも……混乱もなかったって……おまえ喜ばないのかよ?」


冥夜様はやはりというべきか白銀につっかかる。

私もニュースの裏の真実をわかるものとして白銀の態度は許せない物を感じる。

私も落ち着こうと汁がなくなったお椀に湯をいれ、それを飲んで落ち着こうとしている。

冥夜様も最初は注意くらいにしようと考えていたのだろうが、段々とお二方はヒートアップしているようだ。

珠瀬も鎧衣も口を挟むことができずに縮こまっている。


「帝国軍人は国民の生命財産を守るために在るのだ。そのために危険を冒すのは当然だ」

「それは原則論だろう。今は、個人の意思を優先すべき時じゃない」

「そうやって誰もが国のためと言いながら、力無き者に負担を強いてきたのだ。力ある者が力の使いどころを弁えておらん」


私には冥夜様の言葉に心当たりがある。

今こうして私が国連軍にいるのもその力を無用に振るっている、あの下郎がいるからだ。

これは左近殿に聞いた話だが、私の家、御城家没落した原因がそこにあるらしい。

当時、父上は殿下に信頼されており、かなりの発言力を持っていた。

それをよく思わない一部の者が明星作戦での米軍介入を推進するものと呼応して、父を失脚させたらしい。

その中にあの下郎もいたのだという。

それが真実なら捨て置くことはできない。

時がくれば、首をたたっ切ってやる。

それはそうと二人の口論は最高潮に上っていた。


「オレ達がすべきことはなんだ?住民の望みを叶えることか?」

「それも含まれる」


冥夜様が住民の望みを叶えることを肯定したとき、白銀はキレた。

テーブルに両手を叩きつけると顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。


「それが人類の存亡をかけた戦争をやってるヤツの言うことか!」

「…………」

「お前が言っているのは、民間人の言い分を優先した結果、作戦が失敗しようが人類が滅亡しようがかまわ――ぶふっ」


悪いな白銀。

白銀の言葉が途中で途切れたのは私が立上がり、彼の襟首を掴み投げ飛ばしたからだ。

白銀はそのまま、カウンターのところまで投げられ激突する。

いくら温和な私でもこれ以上、殿下の妹君を罵る貴様を許しては置けん。

周りは何事かとこちらを振り返っているが、かまわず座り込むようにカウンターに寄りかかる白銀の前に進みでる。

頭の中ではこれで営倉入り決定だなと考えるが、冥夜様の心を思えばどうということはない。


「痛えな……御城なにしやがる」

「ご高説どうもありがとうといったところだな。その礼だ」

「なんだと!?」


私はなんで挑発してるのだろうか?

投げる前に落ち着かせればいいのに、こうして挑発している。

これじゃあ、殴り合いの喧嘩になることは確実だ。

だが一旦開いた口は簡単に塞がるものではない。


「大体お前が意見を述べるときは極論ばかりだ。聞いてうんざりする。私が説教するのはおかしいだろうが、言わせて貰おう。

 お前何様だ?人の意見を全否定できるだけ偉いのか?そう思ってるんだったらささっと国連から出てけ。

 そんな意見を述べるやつには国連には必要ないと私は思う。少なくとも私の前から今すぐ消えろ」

「…………」


ああやってしまった。

結局のところ私も白銀と同じことをいっている。

私は他人に説教できるくらい偉くもないのにこんなことを言っている。

白銀の言っていることは極論だが、正論なのだ。

それに納得できないからといって全否定、これでは白銀と大差ない。

自己嫌悪したくなっていると隣に人がいるのに気づく。

そこには朝食を持った彩峰がいた。

その顔は驚きの所為か目が大きく見開かれ、泳いでいる。

私の目と目が合うと食器をカウンターに置き、走り去ってしまう。

今のやり取りで気を悪くしてしまったのか?


「タケル……彩峰を追いかけてくれ」

「え?」


振り向くと後ろには冥夜様がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。

先ほどの気圧された態度はなりを顰め、落ち着いているようだ。


「言い争うつもりはなかった……御城を含め、周囲の者に不快感を与えてしまったらしい」

「…………」

「御城のほうは私がいっておくから、彩峰をたのむ」

「……ああ。じゃあ……ここ、頼む」


白銀はこちらを一瞥すると彩峰をおって通路へと駆け出していった。

その後を目で追って見ていたがなんか消化不良のようにすっきりとしない。

白銀が通路の角を曲がって見えなくなるのを確認すると席に戻ろうとする。

しかし冥夜様に呼び止められしまう。


「……何だ?」

「何だではない……まったくそなたにしては珍しいぞ」

「……私も反省しているさ。あれはちょっとやりすぎたと思う」


冥夜様は溜め息を一回つくと口の中で何か呟く。

だがそれは小さすぎて私には聞き取れなかった。


「それとな……御城……すまなかった」

「……謝ることじゃない。御剣を助けるのは当然のことだ」


あくまで私にとっての当然のことだがな。

しかし将軍家に謝られるのは恐れ多いというかなんというか、困ってしまう。


「……当然のこと?」

「それより、こちらこそ話をややこしくしてすまない。私が口論なのに暴力で解決しようとしてしまったんだ。

 とても褒められるようなことではない」

「…………」

「もうすぐ、訓練の時間だ。さっさといかないと教官にどやされてしまうぞ」

「……それもそうだな。では先にいっているぞ?」


皆が訓練に参加しに行くのを尻目に彩峰が置いていった食事に手に取ると先ほどの席に足を向ける。

私は彩峰の残した朝食を処理する為だ。

それにしてもこの量を時間内に処理できるのだろうか。

非常に不安だ。

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PXでの件は結局処分なしといったことですんだ。

なしというわけではないが、教官の鉄拳制裁ですまされるなら安いものだ。

神宮司軍曹の鉄拳……副司令がいっていたが伊達に富士教導団にいたわけではないようだ。

それはともかく、副司令の呼び出しもないので久しぶりに桜並木に散歩しに足を運んでいる最中だ。

だけ経験上こういうときに限って何かあるんはずだ。

それを警戒しながら歩く自分を想像すると珍妙な姿が浮かんできた。

それを頭を振って忘れる。

しかし心配したことはおこらず無事にゲートまでたどり着くことができた。

ゲートには常時、二人の警備兵が勤めている。

時間交代しているのでたまに違う警備兵が立っているのだが、今日は結構仲のいいアフリカ系とアジア系、二人男の伍長だ。


「伍長、お久しぶりです」

「おお、あんたか。最近きてなかったけどどうしんだ?」

「いや、戦術機の訓練になってから忙しくなって、ゆっくりと星もみることができなくなったんですよ」

「戦術機の適正パスしたのか、いやーこれで上官風ふけなくなっちまうな」

「まったくだ」


二人は最初、私のことを変わりモンの訓練兵だとからかっていたが、顔をあわせているうちに国連の先輩として

英才教育では学べなかったことを教えてもらった。

私にとって神宮司教官を第二の師とすると、彼らは第三の師だ。

社霞にプロジェクションを教わったが師というより、兄妹感覚だったので数えていない。


「まだ任官されていませんのでまだまだ上官ですよ」

「お、そうか?なんならPXから合成コーヒー貰ってきてくれよ」

「ちょ、それはあんまりですよ」

「冗談だ。冗談」


三人で星空の下で笑いあい、今が戦争中であることを忘れておおいに語り合った。

この時間が貴重であり、早く戦争を終わらせて当たり前の時間にしなければならない。

妹にも早くこの時間を提供できればいいのだが……もう少しまっていてくれよ。

----------------------------------------------------

大日本帝国 帝都 東京のとある基地


一つの部屋に眼鏡をかけた男と将官が立っている。

片方の男は左近殿と会談したあの少将だ。

眼鏡をかけた男は真面目な顔つきをしている。


「――わかっているな。あと数時間ではじめるぞ」

「わかっております……ですが閣下自ら、ここにこられるのは少々軽率ではないでしょうか?」

「このあとにとある参戦者にも激を送らなければならないのでな」


少将はくるりと窓際まで歩くと自嘲の笑みを浮かべる。

その笑みの意味がわからず、眼鏡の男は怪訝な顔をする。


「いや、そちらのほうが主題だろうな。なにせ参戦者には君の下についてもらうのだからな」

「……その者は一体何者なのですか?」

「一言でいえば、今は亡き萩閣殿と同じように迫害されし者だ。ここに来るようにいっておいたのだが……どうやらきたようだな」


扉をノックする音が部屋に響き渡り、誰かが扉の向こうにいることを告げてきた。

眼鏡の男はそちらに振り返り入ってくるものを値踏みしようと目を細める。


「入ってきたまえ」

「――失礼します」


扉が開き、少将が待ち望んだ人物が入ってきた。


「少将……こちらの方は?」

「紹介しよう。こちらは――だ。今回の件に大儀を見出してくれた優秀な衛士だ。君の片腕となってくれるだろう」

「……確かに優秀な方のようですね」


その後に三人で決意を言葉で確かめ合うと多数の足音がする通路に躍り出ていった。

数時間後には二人は強化装備を着用し戦術機に、一人は作戦室の中にその姿を確認した。

12月5日午前0時00分。

彼らの戦いが始まった。



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/02 23:48
一閃。

鋼の巨人が同じ姿をした鋼の巨人に向かって手にもった長刀を横なぎにする。

光と見まがうその一閃は胴と脚部を物別れさせ、一つの花を作り出す。

その光は傍から見ると美しい光景に見えるのかもしれない。

だが一人の命が散って生まれたその光を美しいと感じることは爆弾魔かそれに類する戦争快楽者だ。

幸いこの光景を作った張本人の鋼の巨人、第三世代戦術機不知火の衛士はそのどちらでもない。

その衛士の瞳には悲しみが揺れている。

揺れに揺れ、揺れに揺れ、やがてその揺れを大儀という名の免罪符で覆い尽くし、謝罪する。


「これも殿下のため……国のため……そして民のため、貴官らの死を無駄にはしません。

 安らかに星となり空から見守ってください……」


謝罪をすませると衛士は通信を開き、部隊の者に告げる。


「ウインド1からウインド隊各機へ。敵機殲滅を確認した。全機、次の目標へ移動する」

「ウインド2(3、4、5)了解」

「全機遅れるな!」


そういうと次なる戦場へと駆け抜けていく。

不知火は衛士である主人の操作に忠実に応え最大速度を維持し、目標に向かって突き進む。

その先に今は敵である同胞を葬るために。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その5


冷たく漂う空気。

仕官専用の部屋は防寒はしかっりしているが、この時期となるとそれなりに冷えてしまうらしい。

先ほどまで見ていた悪夢のせいでかいた汗を拭かないと風邪をひいてしまいそうだ。

そう悪夢だった。

大日本帝国、帝都東京が炎に包まれ、戦術機同士が争っている。

それも帝国軍同士がだ。

同胞の血で染めたように紅蓮の炎で照らされたビル。

同じく血に濡れたように照らされた戦術機。

まさに地獄としかいえない光景。だが幸い夢だったのが救いだ。

まさか正夢ということはないだろう。

しかしその考えも変わりかけている。

悪夢で飛び起き、落ち着きかけていた午前4時に掛かった総員起こしのせいだ。

悪夢を見た後の何時もとは違う生活の始まり、軍隊という場所が不安を煽る。

抜き打ちの演習可能性もあるのにネガティブな考え方にどうしても傾いてしまう。

……部屋に一人でいるのは精神衛生上よくないみたいだ。

私はそう思い扉を開けて通路に出る。

しばらく通路を歩いていて行く当てもないことにいまさら気がつく。

悪夢のせいで思考力が落ちているせいなのかもしれない。

行く当てもなくぶらぶらと歩いていると前方に大きな眼鏡をかけた女性が見えてきた。


「あら、御城こんなところで何をやってるの?」

「榊か……ただ散歩しているだけだ」

「……一応聞くけど、今自室待機なのわかってるわよね?」


……忘れてた。

ぬ~やはり思考能力が低下しているのか?

榊は目を細めてこちらを観察するように見た後、呆れた顔をする。

どうやら図星なのを見破られたらしい。


「忘れてたでしょう?」

「面目ない。そだがそちらもそうではないのか?」

「私は白銀が部屋にいるのか御剣と見に行こうとしてたのよ」

「その御剣はどうしたのだ?」

「さっさと先に行っちゃたわ。何を焦ってんだか知らないけど妙に急いでいたわ」


冥夜様が急いでいた?

……ああそういうことか。

だがこの先を口にしないほうが華だな。

白銀で思い出したが昨日の件で謝らなければならないだろう。

冥夜様のことで頭が血が上ったせいもあり、少々やりすぎた感じがする。

それに今謝っておかないといけない気がする。


「私も同行しよう」

「別にかまわないけどどういう風の吹き回し?」

「なにたいしたことではない。昨日の件を謝罪をしとこうと思ってな」

「ふ~ん、まあいいいわ。なら一緒に行きましょう」


榊は納得したのか納得していないのかよくわからない顔をしてつかつかと歩いていってしまう。

私が何か変なことを言ったのか?

それはともかく白銀の部屋を目指し通路を進む。

ふと白銀が任務についていて部屋にいない可能性を思いつくが、それは取り越し苦労だった。

白銀の部屋の扉の前で冥夜様と白銀本人がなにやら話し込んでいるを見つけたからだ。

私と榊はそこに近づいていき、榊が口を開く。


「――御剣、白銀はいたの?」

「いたも何も、タケルが今日の市街戦演習に参加したいと――」

「おう、委員長久しぶりだな……あと御城もな」

「私には昨日あっただろう?」


私を見るなりいきなり態度が硬化したようだ。

昨日の今日だから仕方ないが露骨に気まずい雰囲気をだされてもこちらも切り出しづらいではないか。

私も意識しないと喧嘩腰で喋ってしまいそうだ。


「ああそうだな……」

「まあ別にかまわないが……それより市街戦がどうのとかいってなかったか?」


そういうと白銀は私の顔をまじまじと見つめてくる。

男が男の顔を見つめてくるのは正直気持ちがいい物ではない。


「い、一体なんだ?」

「いや昨日はすまなかったと思ってさ」


正直意外すぎて私も白銀の顔をまじまじと見てしまった。

あの一回決めたり自分が悪くないと思ったら曲げない、頑固な白銀が先に謝ってきた。

まさに驚天動地の心境だ。


「いや、俺も少し言い過ぎたかなって、そのせいで気を悪くしたのならこっちが謝らなきゃいけないだろう?」

「……少し訂正したいとこがあるがまあいい。こちらも投げたりして悪かった。とりあえず仲直りだな」


私は白銀に手を差し出し、握手を求める。

さっきの言葉からすると白銀は自分の意見を考え直したわけではないのだろう。

だがそれを指摘してまた喧嘩になったらまずい。

この場はこちらが譲歩して和解するべきだろう。

白銀は差し出した手を気恥ずかしそうに握ると仲直りした。


「まったく、総員起こしが掛かっているのに……暢気なものね」

「榊、暢気とは失礼だぞ。チームワークこそ重要なのだからこの場での和解は決して暢気なものではないぞ。

 例え男同士見詰め合っていたとしてもだな……」


心に頭をレンチで叩かれたような痛みが走った。

男同士で見詰め合う……ぐはっ。


「め~い~や~、お前はそんな目でオレたちのことを見ていたのか~」

「いや、それはだな。その、ええい!榊も何かいってくれ」


冥夜様に向かって地獄亡者の如く近づいていく白銀に危険な物を感じたのか榊に助けを求める。

だがここはお約束といえばいいのだろうか。

榊は飛び切りの笑顔を作り、冥夜様に向かっていう。


「嫌」

「榊ーーーーーーーーー!!」

「冥夜覚悟しろーーーーーーーーー!!


襲い掛かる白銀。

脱兎の如く逃げようと振り返り、走り出そうとする冥夜様。

私も何時もなら白銀に呼応するのだが、冥夜様のホモ発言が私の心を深く傷つけた為、今回は参加不能だ。

このまま走りだし、私の目の前から消え去るだろうと思っていたそのとき――。

突然けたたましく鳴り響く警報。

非常体勢を報せる赤いランプが点灯。


「防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は完全武装にて待機せよ。繰り返す、防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は完全武装にて――」


防衛基準態勢2とは上から二番目に高い戦闘態勢だ。

このレベルが発令されたということは敵はすぐ近くにきている。

それかそれに準ずる危険が迫っているということだ。

一瞬BETAかと思ったが、今朝の総員起こしを考えればそれはおかしいと思い直す。

なら一体何が……!!

今朝見た悪夢が頭を過ぎる。

それはないそれはないそれはない。

頭で必死に否定する。

同胞殺しを喜んでやるようなヤツがこの国にいてたまるか。


「タケル、御城何やっている!!」

「ああ……」


白銀のほうを見てみると驚きと焦りが半々になった顔をしている。

その顔からは私の知りたい答えは引き出せそうにない。

少なくとも白銀はこの警報の正体をしらないということだけはわかった。

なら、副司令のところにいくべきだろうか?


「タケル、御城!!」

「冥夜、悪いっ、オレ、夕呼先生の所へ行かなきゃ!!」

「ちっ」


私らしくもなく舌打ちをしてしまう。

これで副司令のところにはいけなくなった。

いまだに白銀には知られるなといわれている。

この命令がもどかしいと感じたのは今日が初めてだ。


「わかった!!」

「教官に伝えておくわ!!御城は――」


榊は寸前で言葉を飲み込む。

私がプロジェクッションで私が特務についていることを思い出させたからだ。

あくまでプロジェクションだから他人の記憶をいじったわけではなく、私の記憶を一部送っただけだが思い出すのには十分だろう。

その結果が直前で言葉を飲み込んだ行為がそれを表している。


「――はやくきなさい」

「すまないすぐ行く。白銀もはやくこいよ」

「わかってる!!」


全力でブリーフィングルームに向かう。

その胸には大きな不安ととてつもない恐れを抱きながら。

-----------------------------------------------------

簡単なブーリーフィングが済み、今は白銀の到着を待っている。

訓練兵の部隊は実戦参加をすることがないと神宮司教官は考えているのだろう。

実際それは正しい判断だ。

しかし、私は知っている。

副司令にとってこの部隊はもう只の訓練部隊ではないということを。

新型OSの運用評価、さらに私と白銀を加えたら機密をぎっしり詰め込んだ特務部隊の出来上がりだ。

それに話を聞くにこの部隊はA-01部隊に編入されることはもう決まっている。

つまり実戦を経験させてふるいにかけることも考えられる。

だが今はそんなことはどうでもいい。

簡単なブリーフィングでは帝都で叛乱が起きたということしか知らされていない。

どこの部隊が叛乱をおこしたのか説明されなかった。

教官が悪いわけではないが苛立ちをおぼえてしまう。

周りをみても皆同じように苛立っているようだ。

特に榊、冥夜様、そして意外にも彩峰がイライラとした雰囲気をかもし出している。

榊と冥夜様はわかっているが、なぜ彩峰が……。

そう思っていると入り口の扉が開き、白銀、副司令、ピアティフ中尉の順に入ってきた。

白銀は私の横に来るがその顔は何かを考え込むように厳しい顔をしている。


「みんなおはよう」

「――敬礼!!」

「敬礼はやめてって言ってるでしょう……はいこれ。つかめている限りの状況よ」

「簡単なブリーフィングなら済んでいますが……」

「いいから、見なさい」


それから予想したとおり、訓練部隊には似つかわしくない内容を書いてあるだろう書類を受け取りその内容に教官が驚いた。

それから国連太平洋方面第11軍司令部から厄介な通達があったと副司令は教官を呼びよせた。

そして教官はこちらにきてその内容を口にする。


「たったいま、在日国連軍の今時状況への対応が決定した」

「…………」

「国連安全保障理事会は、相模湾に展開中の米国第7艦隊を国連緊急展開部隊に編入することを決定した。

 約2時間後の7時00分、正式発表される。

 それに伴い、同時刻より、当横浜基地は米国軍の受け入れを開始する」

「まさかこんなに早いとわね。まったく……ピアティフ中尉、ラダビノット司令につないで」

「お待ちください」


ピアティフ中尉をちらりとみると当たり前のことだが完璧に軍人モードになっているようだ。

それからも教官から現在入手している帝都の最新情報を伝えてくる。


「最新の情報によると、最後まで抵抗を続けていた国防省が、先程陥落した。

 未確認ではあるが、帝都城の周辺で、斯衛軍とクーデター部隊との戦闘が始まったという情報もある」


よりよって帝都城まで侵攻を許したのか!?

……いや当たり前か、先程の話では帝都守備隊が蜂起したのだから当たり前だ。

さすがは帝都守備隊といったところか。

味方のうちは頼もしく、敵となればこれほど強い敵はそうはいないだろう。

話はさらに進み仙台に臨時政府が立てられ、討伐部隊を編成中。

日本の主力は甲21号に対する防衛線に送られているのだからこれから抽出する気だろう。

そこに我ら国連軍が穴を埋めるために派遣されるのだろう。


「また、クーデター首謀者は帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊所属の沙霧尚哉大尉と判明した」


沙霧大尉!?

斯衛軍なら間違いなく赤を授けられるぐらいの腕前と噂されているあの沙霧大尉が首謀者か……。

面識こそないがその人柄は誠実で誰からも尊敬されるであり、私も帝国軍に入ったら常々あってみたいと思っていたのだ。

いまでこそ国連軍だがいまでもそれは変わりない。

彼ほどの人物がなぜクーデターなどと……。


「また……臨時政府は……クーデター部隊により、榊首相を初めとする内閣閣僚数名が暗殺されてことを確認した」

「――っ!?」

「――!!」


そのときその場の空気は凍りついた。

内閣の殺害、すなわち榊の父親の死亡、つまり殺されたということだ。


「沙霧大尉自ら、首相以下の閣僚を国賊とみなし殺害したそうだ」

「……っ!」


彩峰はそこで息を飲んだ。

だが私を含めこの場にいるものはそれを気にする余裕はなかった。


「榊……お父上のご逝去、謹んでお悔やみ申し上げる」

「いえ……今は任務中ですから……」


痛々しく見える榊の背中。

だがこれでわかったことがある。

閣僚を国賊呼ばわりすること。このクーデターの狙いはあの下郎のようなヤツらを排除するためにおこしたのだ。

その国賊に榊の父親が選ばれたのは残念だが、彼らはこの日本を浄化するために立ち上がったのだ。

同じ日本を思うものとしてはその決意は十分にわかる。


「副司令、始まるようです……いかがなさいますか?」

「回線開いて――まりも、始まるわよ?」


ピアティフ中尉が副司令に何か確認する。

それを聞いて先程まで電話で司令と話していた副司令はこちらに戻ってきて神宮司教官につたえる。

それに教官は頷くとこちらをみながら厳しい顔をして告げてくる。


「クーデター部隊の声明が放送されるようだ」


それを聞くと白銀は榊に向かって気遣うように呟く。


「委員長……」

「――黙って、声明が始まるわ……」

「…………」


今話し掛けても逆効果のようだ。

慰めは時と場所が肝心なのかもしれない。

少なくとも今はそのときではないのだろう。

それがわかったのか白銀は黙り込んだ。

榊が言ったように声明がモニターに映し出され始まった。


「親愛なる国民の皆様、私は帝国本土防衛軍守備連隊所属、沙霧尚哉大尉であります」


モニターに映る白い服を軍服を着た眼鏡の男。

そう彼こそ沙霧尚哉大尉本人だ。


「皆様もよくご存じの通り、我が帝国は今や、人類の存亡をかけた侵略者との戦いの最前線となっております。

 殿下と国民の皆様を、ひいては人類社会を守護すべく、前線にて我が輩は日夜生命をとして戦っています。

 それが政府と我々軍人に課せられた崇高な責務であり、全うすべき唯一無二の使命であるといえましょう」


それからも天元山の強制排除を事務的におこなったこと、その人たち辛うじて風雨が凌げる程度の仮設住宅に押し込められ、

罪人も同然の扱いを受けていることを訴えた。

そしてそれが氷山の一角に過ぎず、殿下のご尊名において遂行された軍の作戦のほとんどが政府や軍にとって都合のよいもので

守るべき国民を蔑ろにし、その奸臣たちは殿下に伝えていないということを熱弁した。

私も少なからず思っていたことが沙霧大尉の口から飛び出してくるのを聞いているとますます彼らの気持ちがわかってしまう。

沙霧大尉の演説は最高潮に達したところで、彼は一息ついいた。

……なんだ?


「ここで我々憂国の烈士に感銘を受け立ち上がってくれたうら若き衛士を一人紹介したいと思います」


……一体誰だ?

政府の官僚の子供か?


「彼、いや、彼女の家は将軍家の守護を帝から直々に賜り、彼女の父上までそれが続きました。

 だがそれも先程話した奸臣たちに謀られ、父親は明星作戦で特攻を命じられ戦死、家も没落しました。

 しかしそれに挫折することなく彼女は帝国軍に入り、私達に手を貸してくれました」


まさか、そんな莫迦な!!

そのような逸話を持っている家はこの世でたったひとつしかない。

モニターに映る沙霧大尉の横に歩み寄ってくる少女。


「ご紹介しましょう。彼女の名は御城 柳。

 殿下を直衛を任せられるもっとも信頼すべき守り手です」


カメラの前に立つ真っ白な軍服を着るその姿は間違いなく……私の妹、御城 柳であった。


「我が名は御城 柳。諸外国政府、在日国連軍、及び米軍第7艦隊に告げる。

 この問題はすでに混乱は収束に向かいつつある。これは帝国の内政問題であり、今後の干渉は内政干渉とみなす。

 繰り返していう。事態は――」


私は声にならない叫び声を上げた。



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/07 21:05
「……うわっ、すごい匂い。こんなんで着座調整してたら、窒息しちゃうよ」


格納庫に着いて発した第一声は美琴のこの言葉だった。

色々とものすごい衝撃を受けたブリーフィングから約3時間。

強化装備を着用して、吹雪の着座調整をする為にここを訪れた。

塗料の独特の匂いが蔓延している。

その塗料が使われているのはオレ達の吹雪だ。


「……実戦塗装ってことか……目立つマーキングを潰しているんだな」

「本当だ……機体番号も濃いグレーで書いて、目立たなくしてあるね……」

「BETA相手には関係ないが……相手が人間だからな。見えにくいに越したことはないからな」


……この国連色の機体じゃ意味を疑うけどな。


「……出撃の可能性は十分にあるということね」

「そのようだな」


……前は、こんなことは起こらなかったのに。

今は寄り道をしている場合じゃねえのに!

国が……それだけじゃねえ。

人類がすべてがBETAとの戦いに結束しないといけないはずだ。

なのに……何がクーデターだ……余計なことしやがって。

それに御城のこともそうだ。

さっきの声明で姿を見せた女の子は御城と名乗った。

御城なんて大層な苗字はそうそういないはずだから、親類に間違いはないはず。

その証拠に御城は先程からオレ達、特に冥夜と委員長を避けている。

御城のいたほうを見るがいるはずの場所にはおらず、その姿を確認できなかった。


「あれ?御城はどこに行ったんだ?」

「……あそこ」


彩峰が指差す方向を見る。

その先には階段を降り、整備班のおっちゃんと話している御城の姿が見える。

……やはり避けているな。

吹雪は実弾装備を施されていくのを眺めながら考える。

皆は例の不干渉主義で立ち入った話をしないが、オレは委員長にもいったようにどんどん干渉していこうと思う。

御城が黙り込んでいるのは委員長に負い目を感じているのと、冥夜を避けていることから殿下関係のことなのだろう。

御城の家は元々は将軍家の直衛を任された名家だという。

その家の出身なんだからたぶん冥夜の護衛のために派遣されたのだろう。

だとしたらあいつの基礎能力の高さも頷ける。

しかしそれはそれだ。

あいつの身内がクーデターに加担している以上、警戒すべき相手だ。

身内なんだからこうなる前に説得しろっていううんだ。

……ああイライラする。

何かに八つ当たりしたくなるが、皆に迷惑を掛けるだけだからやめておこう。

そう思っていると後ろから重々しく慌てたような足音が聞こえてくる。

振り返るとタマがあわあわと、見るからにバッドニュースを持ってきたということがわかる顔をしてやってきた。


「たたたた大変ですです~!外が大変なことになってます~!!」

「え?」

「大変なこと?」

「基地のまわりに帝国軍が…………」

「!!」


帝国軍だと!?

一体どういうことだ!?

それを聞いたとたんに自然と格納庫の外へと向かって足が動いていた。


「――ちょっと白銀、どこに行くの!?待機命令中よッ!」


後ろで委員長が止めるのが聞こえるがそんなことは関係ない。

この目で確かめる必要があると思ったから足を運んでいるんだ。

強化装備の靴底がならす重々しい足音を鳴らしながら、オレは外へと目指した。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その6


格納庫の重々しい響き、着座調整が終わった今、ここにいるのは邪魔だということで皆は出撃要員待機所に行った。

私も行くべきなのだが、榊にもう少し着座調整に時間が掛かるといって強引にここに残った。

もちろん着座調整に時間が掛かることは本当だ。

XMシステムの取り外し、その代わりに応急処置として以前使った戦域情報収集システムの簡易型の搭載。

これを昨日から行っているが新型OSとの調整もあってなんこうしていたのだ。

その理由の他にもここに残っていたいというのが本音だ。

榊と話したこと自体、相当精神力を要したのだ。

我が妹がクーデターに参加するとは……。

妹らしいというよりも御城家の人間らしいといったほうが適切だろう。

確かに現在の視点で見れば、とてもおろかしいことだろう。

そこら辺は白銀が苛立っているのが証拠だ。

だが日本人として、長い目で見ればこれほど意義があるものはここ50年で起きなかったことだ。

妹とは御城の人間として参加するのは当然といえよう。

吹雪から降り、一番奥に立つ紫の巨体の足元まで歩き、その強面を見上げる。


『我らの使命は殿下を将軍家をお守りすること、ひいては国を民を護ることだ御家が潰れようが一族が滅亡しようがそれだけは忘れるな』


妹はこの言葉に託された将軍家への想い、日本のすべての人を守ろうとする精神を見事に受け継いだのだ。

だが悲しいかな。

それを本来実践すべき頭首である私は国連で手をこまねき、代わりに妹がその役目を果たす。

そして私と妹は謀らずとも敵対することとなった。

身内が外道へと堕ちるとき、その介錯は身内の物がすべきこと。

この言葉は日本の古い家で今でも伝えられているものだ。

嘘か真か五摂家が過去に実践したことがあるらしい。

ならばと私の先祖も御城家の家訓の一つとして取り入れたのだ。

この言葉の通り、私も妹を手に掛けねばならないことになる。

しかし私は国連軍であり、軍隊の規律を破って出撃するわけにはいかない。

ならば手に掛けることなくことが済むかもしれないと望んでいる自分もいる。

……私は妹を殺したくはない。

すべては私の所為だ。

私の愚かな言葉一つで妹の行く道を曲げてしまった。

ならば妹が死ぬならば、その責を私の命で償えばいいではないか。

そのかわりに妹が生き延び、殿下の元で……。

だがそれが愚かしいことか気づいてしまう自分の頭のよさに絶望する。

妹がそんなことで生き延びて喜ぶのか?仮に生き延びたとしても御城家が二度と殿下の直衛に戻ることはかなわないだろう。

殿下に許しを請えばあるいはと思うが、そのような恥を我ら御城の家の者がするはずもないし、されるのも許さないだろう。

結局八方塞がりだ。


「そこで何をしている?」


振り返るとそこには強化装備をきた月詠中尉がそこに立っていた。

あの美しい髪は今は一つにまとめられており、帝国斯衛軍の衛士としてそこに立っていた。

何をしているのかと問われてみても答えられない。

しかし言わなくてもわかっているのだろう。

声を掛ける口実を作りたかっただけなのだから。


「……まあいい。そなたの妹君のことだが……私は大変立派だと思う」

「……随分と単刀直入にいいますね」

「回りくどく言ったほうがよかったか?」

「いいえ」


いきなり妹を褒めてくると皮肉っている思うかもしれないが、彼女はそういうことをする人物ではない。

少なくとも日本人として誇ることができることならこのように褒めるだろう。


「しかしその行動を愚かしいことだと断ずるものがこの基地にいる」

「…………」

「白銀武……ヤツから目を離すことができぬ。そなたのことも警戒はしているがそれ以上に危険な人物だ」


やはりだろう。

白銀にしてみればクーデター自体が無駄なこと、時間の無駄だと考えているはずだ。

妹もクーデターに関わっているし、榊の父親を間接的にだが殺している。

だから私もそこに一枚かんでると月詠中尉は考えにいれてるし、白銀もそうだろう。


「で、中尉が警戒している私に危険人物である白銀を見張れと?もしかしたらグルかもしれませんよ?」

「……私も冥夜様の護衛についているものだ。冥夜様に危害が加わるようならそなたといえど切って捨てるのみ」

「……そうですか。なら安心してください。私は白銀と繋がってはいないし、沙霧大尉たちとも繋がっていません」

「……ならいいがな……判断をくれぐれも誤るでないぞ」


そういうとつかつかと出口に向かって歩き出していく。

やはり見透かされていたようだ。

判断を誤るなか……。

何が誤りなのかわからない。


「殿下ならおわかりになるのだろうか?」


そう紫の巨体に話し掛けてみるが答えは返ってくるはずもない。

しばらくそうしていると整備班の一人に声を掛けられ、再び調整に没頭するのであった。

----------------------------------------------------------

中央作戦司令室


何普段はそれほど忙しい場所ではないが、今はまさに戦場、それも最前線となっていた。

どこの誰がいったかわからないが情報こそこの世の最大の武器といった。

まさにその通りである。

私も端末を行使して確認済みのものから、未確認のものまでまとめていく。

伊達に副司令の秘書官をやっているわけではない。

その中の情報で気になったとものがあった。

御城 柳。

今回のクーデターで重要な位置にいる女性……いや少女と行ったほうがいいだろう。

彼女はこの基地にいる御城 衛の妹だ。

先日、鎧衣左近が敵上層部と話をつけたと思った矢先のこの事件。

彼はどれだけ苦しんでいるのだろうか?

しかし、鎧衣左近はこのことを予見していたのではないだろうか?

もしかすると今回のこの決起、妹さんのことも含めたのも彼が仕組んだことなのかもしれない。

そうすれば敵の上層部が簡単に退いたことも辻褄が合う。

副司令も知っているのかもしれないが、計画に好都合なことなら何でも看過するだろうことをわかっている。

だからこそ有能であり、オルタネイティブ4を主導しているのだ。


「ピアティフ中尉、それをまとめたらこれを副司令に届けてきてきださい」


薄いピンク色を髪をした同僚の一人が書類の束を机においてくる。

私が副司令の秘書官だから副司令宛のは私が届けなければならない。

それに彼女のIDではここは入れても副司令室にはいけないのだ。


「……わかりました。運んでおきますよ」

「では頼みますね」


彼女はもと来た道を戻ろうとするが、何を思ったのかこちらにもう一度近寄ってくる。

一体なんだろうか?


「言い忘れましたけど……彼氏のことであまり思い詰めないでくださいね」

「な、な、な、な、な」


ウインクしながらそういうと逃げるように小走りで立ち去ってしまう。

自分の顔が熱くなっていくのがわかる。

まわりから見たら一発でわかってしまうだろう。

でもなんで赤くならなきゃならないのだろう。

彼のことは心配だけどけっしてそんな関係ではない……はずだ。

いや、それともまわりからはそう見えるのだろうか?

そう考えるともっと顔が熱くなってゆく。

今はこんなことを考えてる場合じゃないのにーーーーーー!!

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すでに日は落ち、時間も18時を過ぎている。

いまだクーデター鎮圧の報も、帝と殿下のクーデター支持の直命も下っていない。

基地のまわりを包囲する帝国軍も動きはない。

帝都ではいまだに膠着状態が続いているのだろう。

待機所で待機している私達も張り詰めた雰囲気の中、過ぎていく時間を時計の針を見ることで確認している。

まわりの皆も黙したまま時がくるのをまっている。

もちろん出撃の命令を待っているわけではない。

そんなことを考えているのは私を含めて絶対にいない。

扉が開く音が聞こえてくる。

先程出て行った鎧衣が帰ってきたらしい。

扉のほうをみると榊も一緒にいるのが見える。

……何事だ?


「――みんなハンガーに集合よ」

「――えっ?まさか……」

「出撃命令か!?」


…………。

そうなのか?


「ちがうよ、火器管制装置の微調整だって」


ほっとする私。

その程度ならお安い御用だ。

殺し合いの準備をするからといって出撃するよりましだ。

白銀は彩峰を呼ぶために後から来るという。

私もあのときになぜ息を飲むほど驚いたのか聞いてみたかった。

もしかしたら彼女もクーデターと何かしらの関係があったのかもしれない。

だが今は調整に向かわなければならない。

白銀になにか話すのだろうから心のケアにはなるだろう。

待機所を出て皆と共に格納庫に向かった。

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まさかこの男がそのような人物であろうとは……。

将軍家の直衛を任される御城家。

その存在は私が知るところではなかった。

その末裔が私のすぐ横を歩いており、クーデターの幹部のひとりの身内であろうとは……。

ちらちらと私が見ているのに気づいたようだ。

こちらに顔を向けると一瞬躊躇いをみせた後、口を開く。


「……冥夜様、なんでございましょうか?」

「ッ!!」


ショックだった。

昨日まで共に鍛え、悲しみ、笑いあい、励ましあった仲間に他人行儀のように敬語を使われた。

皆もそれに驚いたのか足を止め、私達の方を見る。


「――なぜそう他人行事なのだ!?」

「――私にとって将軍家縁の者を蔑ろにすることはできません。斯衛の者と同じです」


月詠達と同じ……。

理屈では理解できる。

だがそれは感情が否定してしまう。


「ならん!それはならんぞ!」

「…………」

「そなたはそれでいいかもしれぬが、それは私が許さん……。

 そなたの素性はわかった……だが仲間としてのそなたはどうだったのだ?

 これまでの私達に対する態度嘘だったのか?私達を欺いていたというのか?」

「…………」

「嘘ではないといえ!御城!!同じ時間を共有した友だといってくれ!!」


私は自分が自分でないような気がした。

過去を振り返っても今日ほど叫んだことはないだろう。

これまでの人生で二回目の叫び。

私のことと榊のことがごっちゃになって出てきた叫び。

それが届いたのか御城は閉ざしていた口を開いた。


「……嘘ではない。嘘であってたまるものか。

 冥夜さ……御剣達のことは戦友、それも最高のものだと思っている。それに嘘、偽りはない。

 クーデターのこと、妹のことには私は一切関知していない。榊には申し訳ないと思っている。だがこの責任はかならず果たす」


榊を見ながらそう口にする。

榊の目は涙があふれ始め、それを見せまいと背中を向ける。

珠瀬も鎧衣も同じように嬉しいのか悲しいのかわからない顔でいる。


「だがお主達は私をまだ仲間だと認めてもらえるのか?御剣を御剣と呼んでいいのか?」

「……当たり前だ(よ、だよ)!!」

「……そうか……ありがとう」


こうして私達は和解した。

だがそれも束の間、むこうから走ってくる人影が見えてくる。

神宮司教官だ。


「お前達、すぐにブリーフィングルームに集合しろ!!」


このときはなにがなんだかわからなかった。

その後ブリーフィングルームで伝えられてのは……出撃命令だった。

月は輝く、星も瞬く。

人間はそれにあわせるように地上に星の光を生み出すのか?



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/07 20:43
12月5日 21時42分 箱根新道跡。


実戦装備、実弾を装備した7機の吹雪と撃震、そして4機の武御雷が箱根新道跡を時速40キロでゆっくりと行軍している。

戦力にして約一個中隊程度だ。

月詠中尉たち斯衛の実力を考えると実際の数よりも戦力的には高いだろう。

それもいいが先程いったように私達は現在箱根新道跡を通り、芦ノ湖に存在する塔ヶ島半島に向かっている。

ここには殿下の離れ、つまり別荘城である塔ヶ島城があり、その警護のために進軍している。

皆は後方警護任務だと安心しているようだが、私と月詠中尉達は違う。

この塔ヶ島城の秘密を知っているものならここの警備を任されたという意味の重大さのおかげ楽観的な気持ちになれはしない。

なぜならこの城は只の離城ではないのだ。

ここは日本各地に存在する帝都城直通の緊急避難城なのだ。

この城の地下には帝都城に極秘建造されている地下鉄道の出口の一つがある。

それは殿下が脱出された場合、ここに来る確立があるということだ。

……副司令も難しいことばかり任せてくれるものだ。

突然通信回線が開き、網膜に教官の顔が映し出される。

思考に没頭しすぎたためか少々驚いてしまった。


「00より01、02。先行した威力偵察部隊の報告によると、作戦区域に敵影なしということだ」


……今のところは、だな。

沙霧大尉だけならここに戦力を割く心配はないだろう。

だが御城の家の者である我が妹がいるのだからそうもいかないだろう。

これからさらなる警戒を促す必要がある。

このことを教官に言った方がいいだろうか?

……いや、だめだ。

おいそれ帝国の最高機密を教えてはならない。

いくら作戦のためとはいえ、殿下に関することを言うわけにはいかない。

それにまだここから脱出をしてくるとも限らないのだ。

ここの他にも無数に出口があるのだから機密をもらす必要はない。

万が一そうなったとしたら、私と中尉たちが全力で殿下をお守りするだけだ。


「予定通り屏風山を抜け旧関所跡まで前進。

 塔ヶ島半島を確保の後、AB各分隊は所定のの位置につけ。私は支援車両と共に旧関所跡にCPを設営する。

 尚、偵察情報は更新毎に各自データリンクにて確認せよ――以上」

「01了解」

「02了解」


ちなみに私は今回A分隊長を任されなかった。

榊がいるのだから当たり前だが、教官が私の素性を知って隊全体のことを考慮した結果だろう。

ついでにもしものときに私を三人ががりで足止めし、B分隊と合流、鎮圧する為だろう。

隊全体に再び訪れる息の詰まるような沈黙。

先程仲間だと確認しあったと後でもやはり複雑な事情のせいで気軽に話せないのだろう。

そういう私もそうなのだがな。


「なあ、箱根って温泉がたくさんあるって知ってるか?」


突然、響き渡る暢気な話し声。


「みんなで入るか、温泉。……オレは一向にかまわないぜ?」


白銀だ。

彼はこの雰囲気を和らげるためにわざと暢気なことをいっているのだろう。

ムードメーカーというのも難儀なものだな。

ここは私も乗っとくべきかな。


「07より06へ。貴様の不埒な行為は許せんが、温泉に入ることには異存なしだ。その時は一杯飲み交わそうか?」

「こちら06、反応してくれてありがとよ。酒か……案外悪くないかもな」

「だろ?」

「03より06、07へ。静かにしなよ。作戦中じゃないか」

「こちら06。硬いこというなよ」

「だめだってば、もう切るよ?」


鎧衣が反応したか。

榊はまだ立ち直れていないようだな……。

肉親の死の直後の作戦なのだから致し方ないか。

私は妹のことが心配だが個人的な感傷に浸っているわけにはいかない。

一人の迷いが隊の皆の命を奪うかもしれないのだ。

妹のことは後でいい。

それに妹は帝都にいる以上私と対面することもないだろう。

帝都で戦闘が始まり、その結果妹が死んだとしても受け入れなければならない。

今はそう思っていればいい。

そう今だけは……。


「00より207各機。先程帝都で戦闘が始まった」


この一言が私の胸の中で反響した。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その7


同日 22時25分 塔ヶ島離城


雪がしんしんと降ってきた。

まるでオレ達が乗っている吹雪と掛けて降ってきたわけではないだろうし、本当の吹雪にはならないだろう。

…………。

ここはこんなに静かなのに……帝都では人間同士が殺し合ってるんだ。

戦闘の光もみえないし、銃声も聞こえてはこない。

ここにいる限りは、帝都が戦場になっているなんて想像もつかない。


「とうとう降ってきたな……」

「ああ」


冥夜も平然としているように見えるが、内心は帝都のことが気になりまくっているはずだ。

こうして見ているといつもの精悍さがないのがよくわかる。


「しかし意外だったよ。この辺の自然がBETAの占領地だったのに蹂躙されずに残っているなんて」

「…………」

「……冥夜?」

「……ああ……」


…………“前のこの世界”の冥夜がこんな反応をしたことは1度だけだ。

記憶の限りでは……天元山の噴火のときだ。

でも、あの時はもっとイライラしたかんじだった。

今はどこかこころここにあらずって感じだ。

その後、この城を守るために斯衛軍が篭城したことを聞かされた。

冥夜も言っていたが城を守るためだけに孤立したというのは度が過ぎている。

しかし……弾薬や食料はどうしたのだろうか?

この話を冥夜は余談だったと話をやめようとしたが、これはそんな与太話ではない。

今の状況とは違うが、やり過ぎという点が見事に合致している。

冥夜に秘匿回線を開き言いたいことを言おう。

そう思い秘匿回線を繋げる。


「ばか者っ……作戦行動中に勝手に秘匿回線を使うとは……」

案の定秘匿回線を開くと叱責が飛んでくる。

たくっ“前のこの世界”のお前に聞かせてやりたいよ。


「わかりにくくなるからストレートに聞くぜ?いいな?」

「……かまわん……なんだ?」

「これはオレの勝手な想像だが、お前は――」


それから冥夜が決起軍の心情が理解できることをききだした。

オレもそれは理解できる。

だけど今こうしてBETAと戦っているのにあえて人間同士の戦いを起こす連中の心理がわからない。

彩峰から聞いた沙霧大尉の根本的な決起理由、彩峰の親父の光州作戦での命令違反。

それは民間人の退避を優先して結果的に命令違反を犯して投獄された。

投獄されたことに義憤を覚えた沙霧大尉。

冥夜が言っていることもわかる。

でもそれは……人類がどうなったのかを……オレが見てきた悲惨な未来を知らないから言えるんだ。

オルタネイティブ5の発動。

地球に残った人類の絶望的な戦い。

地球を脱出した人々だって無事に到着したのすらわからない。

そんな絶望的な未来を知らないから……。

この思いをそのまま言葉にしたわけじゃないが今の現状が良いことではないと冥夜に語った。

冥夜もそのことはわかっている。

なんか確認しあっているだけのような気がした。

その中で出てきた帝国が国連との関係強化が日本を蝕むというものが出てきた。

少なくともそう考えているものがクーデターを起こしたのだという。

政治や軍の効率化のために国民を蔑ろにし、将軍家を傀儡に貶めた政府を許してはおけないのだろう。

この世界の日本のあるべき姿に戻す為。

御城の、おそらく妹だろう少女も同じなのだろう。

そうすると御城も同じようなことを考えてるに違いない……。

殿下の直衛の家系となればなおさらだ。


「声明ででてきた女の子は……御城の妹でいいのかな?」

「……本人からそう聞いている」

「あいつの妹もすげえ立派なことをしてるんだと思う。だけどわかっちゃいねえ。

 それは世界を……他の国を人たちを納得させられるか!?」

「もういい……」

「オレだって日本を守りたい。でも日本だけ助かっても意味ないだろ」

「……わかっている」

「ひとりの力じゃ自分の命も守れない。だから日本を守るには世界を守るって言うのじゃだめなのかよ?」

「やめてくれタケル……もう十分だ!!」


…………。


「私とて悩んでいるのだ……」

「…………」

「何が正しいことなのか、わからないときがある」

「…………」

「軍のやり方にも理はあるのだ……それはわかっている。しかし、それの所為で日本が瓦解している気がするのだ」

「それはさっき聞いたぞ。だからそんなこと――」

「話をちゃんと最後まで聞いてくれ。これは御城が言っていたことだが……

 このまま政府がこのような方針を続けるようなら、日本は……人類は負けるといっていた」


このままの方針を続けていると日本が人類が負けるだって?

クーデターを起こして戦力を消耗しているのに起こさなかったほうが人類は負けるなんて馬鹿げた話だ。

この戦いで消耗している人員と時間の無駄だとわかっていないのか?


「そんな馬鹿なことがあるか。これだけ戦力と時間を失わずに済むほうがBETAに勝てる見込みはあるだろう」

「……御城もそう考えることもできるが、日本が内なるものが瓦解しては数があってもそれは烏合の衆に過ぎぬといっている。

「…………人との戦いでは3本の矢は折れぬかもしれぬがBETAの前では無力。なら折れぬにはどうしたらいいか?と問われた」

「で、冥夜はなんて答えたんだ?」

「3本でだめなら4本。4本でだめならば5本でまとまれば言いと答えた。そしたらこう言われた。

 数でBETAと戦うのは無理だ。ならどうすればいいか?

 私なら1本、1本の矢の中に鉄を仕込み、さらにその3本を束ねるとき中心に鉄の棒を入れると答えた」


言っている意味がよくわからない。

第一これでは屁理屈じゃないか?


「……一体どういうことだそれは?」

「意味は一人一人の人間に信念があれば強くなり、その信念をもった人が集まれば大きな信念……大義が生まれ大きな鉄の柱となり集団を支えるであろう。

 そういった意味だそうだ。もちろんこれは御城が独自に考えたことだ。私もこの考えを聞き、そなたの考えも聞き、そして悩んでいるのだ」


つまり結束の仕方が違うといいたいわけか。

日本はあるべき姿の日本として結束するか、日本の姿が“元の世界”みたいに国連と協調して戦うかということか。

でもオレは納得できない。

いうならば長期的な目で見るか短期的に見るかの差なんだろう。

御城の考え方は長期的考えだ。

現在の人類はそんな猶予がない。

オルタネイティブ5これがもう20日で起きてしまうんだ。

そんな悠長なことをやっている余裕はないんだ!!


「……迷っているならやめた方が良い」

「…………」

「オレ達は帝国軍じゃない……国連軍だ。何を優先すべきか悩むんなら……軍をやめろ」

「…………」

「……悪いが御城の言いたいことはわかる。だが納得はできない」

「…………」

「先ずはBETAを倒して戦争を終わらせるべきだろ?人間同士のいざこざなんて、その後に好きなだけやればいい」

「……納得できないぬと言うのなら……そう簡単に断ずるでない」

「どういう意味だ?こんな無駄な――」

「やめろと言っている!!……これ以上話し合っても意見の押し付け合いにしかならぬ」


もう限界か。これ以上話ても……何もならない。

失敗した。話を聞いて理解しようとしたつもりがいつの間にか説得になっちまった。

でも御城の考え方……いや、御城家の考え方がわかっただけでもよしとするか。

BETAを倒して人類の敗北を阻止する。

これだけは絶対ゆずれねえ。

こうして話は後味が悪いまま終わってしまったが、少なくとも冥夜にはオレがどれだけ人類のことを考えているのかは伝わったはずだ。

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12月6日 01時50分 塔ヶ島離城、芦ノ湖側


榊が指揮するA分隊、帝都の戦闘が始まってからはさらに空気が重くなった。

誰一人は話そうとしないまま日付が変わった。

榊や私がいるせいだけではない。

彩峰がその雰囲気をつくりだしているのだ。

基地にいるときからそうだったが、白銀と話してから少しはよくなったと思ったが、戦闘開始を聞いたとたんにまたこうなった。

話し掛けようにもそういった雰囲気でもなく、話せばなにかが壊れそうだ。

それも気になるが、冥夜様……心の中ではこう呼んでもかまわないだろう。

その冥夜様が指揮するB分隊は離城の正門付近を警備しに行っている。

我々A分隊は丁度城をはさんで反対側の芦ノ湖が一望できる屋敷でいう、庭園にあたる場所を警護していた。

できるなら正門を警備したかったが教官の指示なのだから仕方がない。

一応任官まで少尉相当の指揮権を持ってはいるがあくまで特務についたときだけなので意味がない。

思わず溜め息をついてしまう。

重苦しい雰囲気の中、榊から通信が入る。


「01からA分隊各機へCPから召集命令を受けたわ。私は02御剣と一緒に出頭する」

「一体どういうことだ?」

「帝都の戦況に変化があったみたい。CPは現在これを最優先処理をしているわ」


帝都の戦況に変化?

つまりどちらかが劣勢にたたされているとかそういうものなのか?


「ともかく私はCPに向かうわ。警戒を怠らないように、以上」

「07(03、04)了解」


01と濃いグレーで書かれた吹雪がブーストを吹かしながら後方へと下がっていく。

いっちゃ悪いが榊がいなくなって少しは空気が軽くなった。

彩峰と私この2人が榊を意識していてだめだったのだからその榊がいなくなったのだから当然だろう。

……なんか榊が悪者のようないいかたになってしまった。

それよりも警戒を怠らぬようにまわりの情報を集めておくか……。

そう思い簡易型情報収集システムを起動する。

これは社を使わずに戦術機で集められる情報(もちろん私の6感も含め)を集めて何か怪しいもの、敵機を発見するシステムだ。

BETA用のシステムとしては不合格だが今回の任務には的確だろう。

……副司令はあらかじめこの叛乱のことをしっていたのだろうか?

機械の電子音がコクピットに響き渡り情報収集を終えたことを伝えてくる。

それを元に計算、統合をはかる。

その途端、頭の中で警報が響き渡った。

急いで吹雪のメインカメラを動かし、湖の水面をみる。

そこには不自然気泡が湖底から吹き出ているのが見えてきた。


「04から07へ……御城どうしたの?」


突然の挙動に驚いたのか彩峰が通信を送ってくる。

暢気に構えている暇はない。


「各機散開しろ!!敵だ!!」

「えっ……!!」


言った途端に湖から水柱が立ち上る。

それは派手な音をたてながら水面から岸へと着陸する。

黒く重厚感のある装甲、ずんぐりとしていて腕が長く固定武装による重武装を誇る機体。

81式強襲歩行攻撃機、海神(わだつみ)。

米国が開発したA-9イントルーダーの帝国使用の水陸両用戦術機だ。

この機体は揚陸地点の確保などに使われるため、太平洋や日本海に配備されており、第1世代戦術機だが火力の面では現行兵器の中でも群を抜いて高い。

だがなぜ芦ノ湖なんかにりるのだ!?

その答えはすぐにわかった。

肩のミサイルポッドに書かれた“烈士”の2文字、クーデター部隊のものだ。

それが4機岸に上陸し、その場に停止する。


「――国連軍機に告ぐ。我に攻撃の意図非ず。繰り返す攻撃の意図非ず」


数の上では下回っている……しかもこちらはまだ訓練兵ばかりだ。

人を殺す覚悟など私以外はできてはいまい。

妹を殺す覚悟がなくともそれくらいの覚悟は父上が教育してくだされたときからとっくに覚悟はできている。

彩峰と鎧衣は銃口をこそ向けてはいるが恐怖で固まってしまっている。

ここで戦闘を仕掛けるわけにはいかないか……?

とにかく通信だ。


「07御城からCP……07御城からCP――敵クーデター部隊と遭遇!!繰り返すクーデター部隊と遭遇!!指示を求めます!!」

「CPから07――落ち着け何があった?」

「クーデター部隊と思われる海神一個小隊が芦ノ湖より上陸、現在睨み合いを行っています。敵の意図はわかりませんが攻撃はしないといっています」

「っ!すぐに増援を送る。それまで戦闘行為を禁ずるいいな!!」

「03、04聞いたか!?間違っても弾を撃ち込むな!!」


増援を送るか。

それならまず負けることはない。

ここの地下列車を使って内部から帝都城を制圧するつもりなのか?

それにしてもなぜ内地に動きの鈍い海神を送ってきたのだ?

こんな足の遅い機体が潜水母艦もなしに陸地を歩き、芦ノ湖に潜伏した。

撃震なり陽炎、不知火を送ってくればいいはずだ。

そのほうがここを確保するのが早いはずだ。

考えている最中に突如鳴り響く銃声。

銃声のした方向を見ると03と書かれた吹雪から主兵装である36mmが海神にむかって乱射されいるのが見えた。


「03鎧衣なにをやっている!ってもう遅いか……04、鎧衣をカバーしろ」

「04了解」


恐怖に飲み込まれて指に掛かったトリガーをひいてしまったか。

これでは帝都で起きている開戦のきっかけと同じではないか。

そうこうしている間に海神はこちらを指差すように腕をあげる。

一見何をやっているのかと思うのだろうが、この機体の特性をしていれば頷ける。

腕に装備された6連装36mmガンポッドが火を噴いた。

4機合わせて計48門の銃口が弾幕を形成する。

この至近距離で直撃をもらったら瞬く間にぐちゃぐちゃのジャムになってしまう。

普通の機体ならものの数秒でそうなっていただろう。

だが私達の機体は違う。

瞬時に後退、回避行動をとり射線上より離脱。

弾は空しく何もない空間に突き刺さる。

白銀の開発した新型OSのおかげだ。

機体が思うように動く。

訓練中では感じなかったこの軽快さ、実戦の緊張感がそれを高めているのだろう。

鎧衣もなんとか正気に戻ったのか訓練と同じような機動をしている。

先程の恐慌が嘘のようだ。

相手は城を傷つける気がないのかミサイルを撃ち込んではこない。

こちらが殿下の別荘を盾にしているようで卑怯だがこの場は仕方あるまい。

相手はこちらの高機動に翻弄され徐々に弾幕に穴が開き始める。

今しかないな。


「04、一気に接近して長刀でこれを撃破する。03、バックアップ頼むぞ」

「……04了解……」

「ま、03了解」


長刀を装備、ブーストを吹かし、弾幕の穴に向かって機体を滑り込ませすばやくNOEで接近。

弾が直撃すればそれまでだ……が幸い被弾せずに海神の前にいくことができた。

相手の目の前に着陸する私の吹雪。

それを恐れるように後退しようとする海神。

……許すが良い。

謝罪しながらも躊躇せずに長刀を払い機体を真っ二つにする。

振り抜いた勢いを利用し右前方に移動、そのままもう一体へと間合いを詰め、縦一文字に文字通り真っ二つにしようとした。

だが縦一文字にしたのがまずかった。

重装甲の機体にやったため刀身は後少しというところ腰の部分で止まってしまう。

その一瞬の停滞を突かれた。


「御城!!」


その声に反応して振り向くとそこにはミサイルをの射出口が向けられているのに気がつく。

しかし、回避行動は間に合わない。

彩峰がその海神に切りかかるがどうやら間に合いそうにない。

ミサイルが発射されこれまでかと思った。

四肢を切り倒され地べたに這い蹲る海神。

私に向かって直進してくるミサイル。

そのミサイルが突如爆発四散する。

先程切り倒した海神の爆発に巻き込まれぬように離れる。


「05珠瀬から07御城へ。御城大丈夫ですか?」

「……こちら07御城。助かった、機体に被弾なし。私も怪我一つしていない」


しかしミサイルをピンポイントで打ち落とすとはな……さすが極東一のスナイパーだ。

コール音が耳の中で響き渡る網膜に映し出された情報からCPからということがわかった。


「CPから207各機……警戒態勢解除。続いて戦闘態勢にいこうせよ。

 先程殿下が脱出されたとの情報があった。そして今ここに殿下がおられる。

 06を中心に円壱型陣形で全周囲警戒――別命をまて……それとA分隊」


殿下がいるというだけで驚きなのだが……先程命令違反を犯してしまったのだからな。

お叱りがあって当たり前だろう。


「……今回は営倉入りまではしないでおいてやる。とにかくよく生き残った。

 帰ってからの訓練厳しいから覚悟しておけよ?」

「了解であります!!」

「各機、これから始まるのは殺し合いだ!覚悟を決めろ!以上!」


これから始まる危険な逃亡戦。

私は今日始めて人を殺した。

だがこんなことで挫けてはいられない。

でなければ先程切り殺したものたちに申し訳が立たない。

殿下をお守りしなければ御城の名を語る資格なし。

しかしそれは妹との殺し合いをしなければならないことも意味する。

…………。

空から降る雪は雪明りで紅く輝く刃を少しづつ覆い隠していた。



[1128] Re[8]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/21 00:18
時を遡り 12月5日 4時33分 帝都


白刃が男の項に食い込む。

瞬きをしている間にその男の首は空を舞い血の道筋を作り上げる。

その凶刃を振るった少女、御城 柳はその光景に目を細める。

御城家ををだました罪、今ここでその命をもって償わせた。

男の首――北見権蔵の首が床に落ちゴロゴロと転がる。

転がる首は口から舌をだらりと伸ばし、先程まで命乞いをしていたとは到底思えないほどの静かさを保っていた。

私はそれを一瞥すると刀を一振りふるして血を振り払う。

だがそれでは刀に付いた血は取れず、懐から白い布を取り出してそれを拭う。

殺人にたいする罪の意識はない。

いやあるのかも知れないが今はかまってはいられない。

殿下のために国賊のひとりを私の私情と大義で処罰したにすぎない。

1人殺したくらいで泣く心など今は必要ないのだ。

これからはもっともっと多くの人を殺す。

それも同胞である帝国軍たちを相手にだ。

泣くのは殿下をお助けした後でいくらでも泣けばいい。

だがそれまでは……。

…………お兄様、あなたも帝国軍におられる以上、近いうちにお会いするかもしれません。

そのときは……。


「御城少尉」

「……はい」

「任務執行ご苦労様。次は声明の準備のために――」

「そうですか。なら行きましょう」


誰かがやらねばならない。

国がたたねば御城が立つ。

私は死体に背を向けて刀を鞘に納める。

そして血の臭いがが立ち込める場所を後にした。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その7


時は戻り 12月6日 3時00分


「――4時方向から機影多数!稜線の向こうからいきなり――!!」


くっ、敵機の展開が速すぎる。

先程クーデター部隊を足止めしていた帝国軍が突破されたばかりだというのにこの速さは異常だ。

やはり妹の情報が殿下がここにくる確率が高いと踏んであらかじ準備していたのだろうか……?

……現在、伊豆スカイライン跡を南下し、国連軍第11艦隊が停泊している白浜海岸を目指して煌武院 悠陽殿下を護衛している最中だ。

進撃してくる敵の部隊はそれぞれ東名がE1、小田原厚木道路跡の部隊をE2と呼称し、帝国軍を突破した部隊はおそらくE2から分離したE3だ。

教官の話ではE1、E2のどちらかに冷川料金所を抑えられたら包囲されて殿下を奪取されてしまうだろう。

逆にここを突破すれば敵は追いつけなくなると予測されている。

たしかに私もここにある情報で計算したところ突破すれば逃げ切れる可能性は高い。

だが心に付きまとうこの不安はなんなんだろうか?


「――全機兵器使用自由ッ!各個の判断で応戦!06の生存を最優先にせよッ!!」


殿下を守るため再びこの手を汚さねばならぬか……。

今は皆私の殺ったことを気に留める余裕はないのか私に対する態度は……少なくとも通信越しでは違和感がなかった。

自分が殺されるかもしれないという極限状態。

いくら催眠処置を受けているとはいえ精神への負担は軽くはないだろう。

殺されるとわかれば生物なら生存本能を優先させる。

この極限状態が私にとっては助けになった。

いくら覚悟を決めているとはいえ、仲間に少しでも白い目で見られるのはつらいことなのだ。


「――ただしッ!!無闇にこちらから仕掛けるな!向こうは迂闊に手出しできないはずだ」

「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」


――白銀、殿下を頼んだぞ。

貴様は殿下をこの戦場から一分でも早く離脱させなければならないのだからな。


「――国連軍及び斯衛部隊の指揮官に告ぐ――我に攻撃の意図非ず。繰り返す――攻撃の意図非ず」


あの海神部隊と同じか……。

やはり殿下がここに脱出するの知っていたとしか思えない。

……柳よやってくれるな。

さすが御城家始まって以来の才能を持つと言われていただけはあるな。

私も英傑になるだけの潜在能力があるといわれていたが妹はそれを越える存在になるかもしれないと父がぼやいていたのを思い出す。

すべてにおいてというわけではないが少なくとも指揮能力に関しては妹のほうが年下ながらも上だった。

将棋で遊んでいても勝った覚えがないのがその証拠だ。

その才能が実戦で活かされているとなると冷や汗が止まらない。

やはり御城家の頭首は妹がなるべきだ。

だがそれも叶わぬ願いなのかもしれないな。

……ええい!!今はそんなことを考えているときではない!

戦闘に集中するんだ。

操縦をしているあいだは視線を逸らすわけにはいかない。

代わりに唇を強く噛み、気を集中させる。

一筋の血が噛んだ箇所から流れるが拭う動作も今は無用だ。

横の敵機を視界におさめつつ36mmをいつでも反撃できるように油断なく構える……が。

コクピットに響き渡る警告音。

メインカメラを正面に向けるとそこにはUNKOWNと表示された戦術機たちが群れをなして押し寄せてくるのを映し出した。

レーダーには何も反応がなかったんだぞ!?

なのにすでに36mmの有効射程範囲に入られているなんて……。

妹はどんな手を使ったんだ!?


「バカヤロウ――ロックオンするな!殺されたいのか!」


誰がロックオンしたのかわからないが、ともかくその声と共に正面のマーカーがフレンドリー……つまり友軍であることを示した。

戦域情報を確認するとそこにはUSの66の文字が確認できた。

米国軍かッ!


「こちらは米国陸軍第66戦術機甲大隊――」


あの見慣れない機体は……F-22Aラプターか!?

米国の最新鋭第三世代機をこの戦場に持ち込むとは……本気のようだな。


「――速度を落とすんじゃない!早く行け!」

「ここは任せろッ」

「――207リーダー了解!」

「作戦に変更はない。安心していけ」

「207各機――隊形を維持し最大戦闘速度!」

「「「「「「「了解ッ!」」」」」」」

--------------------------------------------------

同日3時37分 伊豆スカイライン跡 亀石峠


コクピットの中にいる限り戦闘の音は聞こえては来ない。

補給を受けている最中だから戦術機が歩くときにでる軋む音も聞こえない。

米国軍が防衛線を構築して守ってもらっているからこういったことも可能なのだ。

その静かなコクピットの中で私は目を瞑り、考え事をしていた。

――初めての実戦。

私はまだ人を殺してはいない。

シミュレーターの的や無人の戦術機じゃなくて間違いなく生きている人が乗っている機体。

芦ノ湖から現れた海神を迎撃したときは何も考えられなかったけど私は人を殺していたかもしれないのだ。

1体はうまく接近戦を仕掛けることができて行動不能にできる程度にできた。

2機目もそうできるかもしれないと思ってそうした。

だけどその所為で御城が危なくなった……。

相手を傷つけつけないように慎重にやったせいで起きたタイムロス。

その間隙をつかれ、もう一体の海神は御城にミサイル攻撃を行ったのだ。

避けられないタイミングだった。

直撃すればいくら戦術機でもただですむわけがない。

御城が死ぬかもしれない。

コールナンバーなんて無視して叫んだ。

私のせいでこれ以上死んで欲しくない。

止められたかもしれないクーデターで仲間を失いたくない。

その願いが天に届いたのか、珠瀬がミサイルを狙撃してくれたおかげで助かった。

……その後ミサイルを撃った海神の戦闘能力を奪い、行動不能にした。

でも……これでよかったのかな?

人を殺すのは確かに忌避感があるけど、仲間を失ってまで守り通すべきものなのか?

……少なくとも御城は答えを出しているみたい。

躊躇することなく海神2機を縦横にそれぞれ両断。

パイロットは即死なのは誰の目にから見ても明らかだった。

…………。

やめよう。

これ以上考えても自分を追い詰めるだけだね。

総戦技演習で私が御城にいったことを思い出す。


『でも自分を見失って只の暴力装置になっている御城には何度やっても勝てるよ。

 何でイライラしてるのかわからないけど、それに負けているうちは私じゃなくても勝てるよ』


私はイライラはしていないし、暴力装置でもない。

私の冒した罪で自分を押しつぶそうとしているもうひとりの私。

私はそのもうひとり私に負けそうになっているのだ。

……あの人からの手紙、私との関係すべて白銀に話した。

白銀はすべて黙っていたことを許し、共犯になってくれるといってくれた。

私を信頼してくれる仲間を……かけがいのない人たちを失いたくない。

少なくともそのためなら人類同士の戦いでも戦える。

……御城ってすごいな。

私はこれだけ考えを巡らしてこれしか答えを出せないのに、その答えに実戦を経験する前から知っていたような行動。

本当は苦しんでいるかもしれないけどそれを出そうとしない強さを持っている。

……総戦技演習の時は違ったかな?

白銀も白銀で色々悩んでいるみたいだけど大丈夫だと思う。

白銀も強い人だから……。


「――207戦術機甲小隊各機に告ぐ」


屈強そうな男の声がコクピットに響き渡る。

どうやら出撃時間みたいだ。

目を開け操縦桿を握り直し、米国軍指揮官の話に耳を傾けた。

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同時刻 同場所


「月詠中尉が随伴しているということは……そなたの部隊にも武御雷が配備されているはずなのですが……」
……現在殿下をオレの機体に乗せて護衛任務についている。

今は補給作業中なのだが、殿下がなにやら聞きたいことがあった用で話をしているとこの言葉が出てきた。

その言葉に驚きを覚えないわけにはいかなかった。

“前の世界”もこの世界にも配備された武御雷。

月詠さんの言動、冥夜の態度に殿下のこの言葉。

決定的だ。

前に冥夜が私を見てなんとも思わないのか――みたいなことを言っていたのは……こういうことだったのか。


「……白銀?」

「――あっ……武御雷ですね?紫の」

「はい、先程話した私の専用機です……見あたらないのですが何故でしょうか」


あの武御雷は将軍専用機だったのか。

だとすると、これはもう親戚とかいうレベルじゃないだろ。

多分この人と冥夜とは姉妹か何かだろう……。


「白銀」

「は、はいっ」

「そなたは……初めて会ったとき、私を冥夜と呼びましたね」

「……はい……」

「冥夜が……御剣冥夜がこの部隊にいるのでしょう」

「はい……」

「ではなぜ、武御雷が見あたらないのですか?」


なんか答えづらいな。

冥夜が訓練兵だから特別扱いは無用といったことを告げると殿下はどこか納得したような表情をした。

……でも寂しいような悲しいような目をしている。

月詠さんじゃにけど……冥夜が武御雷に乗っていないって事は、この人の厚意を拒んだって受け取られてもしゅうがないだろう……。

その後殿下と冥夜のはっきりとした繋がり、どの様に思っているかすべて聞かされた。

距離が離れていてもちゃんと分かり合っているなんて……まるでドラマみたいだ。

殿下に渡された人形。

姉妹で楽しく過ごした証。

幼いときとはいえ泣き叫んでもまで別れを拒んだときまで共に遊んだ品物といっていた。

これをちゃんととどけなければならない。

そして冥夜と殿下を生きて会わせたいんだ!

政治なんか関係なく、姉妹としての時間を持ってもいいはずだ。

そう決意して米軍指揮官の声――ウォーケン少佐の通信に集中することにした。

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同日 4時04分


彼我の撃墜比は7:1.

7の方が米国のラプター、1が帝国軍の不知火だ。

もちろんイーグルや撃震もいるがこの2機と比べることが一番いいだろう。

……悔しいが不知火とラプターの性能差は歴然としている。

今は頼もしいが敵になれば……いや、米国の事情を知っているならBETA殲滅後に敵になるのは明白だ。

それはそれとして私達207戦術機甲小隊はウォーケン少佐の指揮下に入り、再び南下を始めた。

だが戦況は優勢を維持してはいるが油断はできないと少佐は言っていた。

私もそう思う。

相手の数は圧倒的なのだから可能性としては十分ありえるし、このまま妹が何もしてこないわけがない。


「――ハンター1より部隊各機へ。旧三島市街、136号線跡を進軍してきたと見られる敵部隊が、冷川料金所跡に到達した」


……包囲突破の重要ポイントを押さえに来たか。

戦術としては当たり前のことだが……いささか展開が速すぎる。


「――174戦術機甲大隊が現在交戦中だ」


どんな手段をもちいたのかわからないが妹の戦略眼のなせる業なのかもしれない。

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冷川料金所周辺


鋼の巨人達が飛びように目の前を進軍してくる。

その機体には読めないが“烈士”の2文字が腰部装甲に書かれている。


「――ジャップのタイプ94……凄い数だ!!」

「押さえろッ――頭を押さえろッ!!」


大隊36機の内十数機が決起部隊の進軍を抑えるために突出していく。

この部隊の米軍機はストライク・イーグルだ。

ラプターには及ばない物のその性能は不知火にもやり方によっては十分脅威になるだけの潜在性能を秘めている。

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一方決起部隊……。

米国が誇る最強の第2世代戦術機ストライク・イーグルか。

ざっと視たかぎり大隊規模はいるようだ。


「F-15E36!思ったより多いぞ!」


同士が注意を促してくる。

確かに想定したよりも10機ほど多いみたいだが……そんなことは些細なことだ。

沙霧大尉が言っていた頼もしき部隊がくるし、米国軍は後ろに注意をしていないのだから。


「……問題ありません。むしろ好都合――全機続け!」


2機連携をしているイーグルを標的に定める。

そして私は頭の中のトリガーを引いた。

瞬間なんともいえない高揚感がうまれ、目の前の出来事の先が見えるようになった。

……1機は右に15メートル移動後射撃をする、もう1機は私の後ろに回り込もうとするのか。

ならやることは決まっている。


「ウインド1からウインド隊各機へ。左の機体は私の後ろに回りこもうとするはずだ。それを蜂の巣にしろ。もう1機は私がやる」

「2(3、4、5)了解」


早口に命令を伝えると愛機である不知火を見えた動きの通りに敵機へと近づける。

するとこれまた見えたとおりに敵は機動をとる。

ここまでは順調だ。

でもこの先の行動を変える必要があることを十分わかっている。

ここで撃墜されて終わりなんてことは嫌ですからね。

不知火に相手の着陸予想地点に全力で近づく。

その間に長刀の柄に手を掛け、着いたと同時に全力で切り上げる。

イーグルは急制動をかけるが間に合わないことはすでに計算済みだ。

こちらに弾を撃ち込もうとするがろくにそれも間に合わない。

そのまま刀の勢いと機体の突っ込んでくる勢いで、腰部から胸部をそのまま真っ二つに切り分ける。

イーグルの残骸はそのまま後方に流れ、爆発する。

1機撃墜。


「あらそっちも終わったんで~すか?」

「相変わらず柳は仕事速すぎだろ」

「それに正確すぎるほどの敵機の動きの読み……」

「……敵じゃなくて本当によかった」


レーダーを確認するともう1揆も撃墜されたようだ。

訓練校からの付き合いである私の部下。

部下といっても命令するとき以外はこのように上官もなにもない。

いくら階級が同じでも私がこの追撃部隊の隊長なんだからもう少し敬って欲しいんですけどね。

通常では任官間もない少尉が隊長になるなどありえないことだ。

しかし、この決起部隊において私は特殊な立場にいる。

だからこうして少尉でありながら大隊規模の部隊を指揮しているのだ。


「貴方たち今は戦闘中ですよ。私語は慎んでください」

「はい、は~い。柳を怒らせるとろくなことないから私語をやめま~す」

「怒られるから話すのやめるのか?」

「そのまえに死ぬの嫌」

「……異議なし」


……もういいです。

こんな地獄でありながら緊張感をもたない馬鹿の集団をまとめるのは苦労します。

だけど彼女らもこの決起に進んで参加したれっきとした“烈士”なのだ。

衛士としても腕は一流。

帝都での戦闘でも私の指示した事をミスすることなく完璧にやってのけているのが証拠だ。

それはともかく、こちらの数に押される形で相手は山間部に防衛線を張るつもりか後退を始めている。

だけどそれはこちらの読みどおりです。


「……富士教導団御一行のご到着」


レーダーで確認すると1個中隊がこちらに近づいてくるのを確認する。

……そろそろね。


「ウインド3、信号弾用意」

「へいへい、ねんであたいが信号弾の係りなんだか……発射用意完了!」

「発射!!」


打ち上げられる信号弾。

それは夜空に黄色の輝きをもたらした。

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「!?信号弾だと」


戦闘空域上空に輝く黄色の光。

閃光弾に近いそれは友軍があげたものではないようだ。

先程富士教導団を相手にしていると入ったところにこの信号弾。

冷川を突破すれば敵は追撃不能になるはずだった。

だがこの信号弾は一体何だ?

それはすぐに皆が知ることになった。


「――冷川料金所跡に敵機出現だと!?どういうことだ!索敵はとうにすんでいるはずだ」


冷川料金所跡に突如出現した決起部隊。

その部隊は海神だ。

……芦ノ湖で戦ったあの小隊は途中で分離して威力偵察をする為のものだったのか!

さらに駄目押しするように後方からも追撃部隊の到来を警報が告げる。


「ハンター9及びハンター13――諸君の中隊は先行し、敵の排除と包囲網完成を阻止せよ」

「――ハンター9了解」

「――ハンター13了解」

「ハンター1よりハンター5へ君は2小隊を率いてここに止まり、追尾してくる敵部隊を叩け」

「――ハンター5了解」


素直に凄いとしかいいようがないな。

少佐の指揮もそうだが、ラプターの性能がだ。

冷川にいる一個中隊はいる海神の弾幕掻い潜って次々に撃墜しているのが確認できる。

残った部隊も3個小隊で倍を相手にしても全く引けを取っていない。

……このまま抜けられるか?

----------------------------------------------

「抜けられたですって!?」

「そんな……」


冷川を抜けられた……料金所跡に伏兵として待機させていた海神部隊を突破するなんて予想外すぎる。

……私のミスだ。

敵の機体、ラプターの性能を甘く見すぎた。

でも今ならまだ間に合うはずだ。


「まだです!ウインド隊各機突貫して追撃を続行する!」

「んな無茶な……でも悪くはないね」

「確かにそうで~す。どうせこの決起が失敗したら銃殺です」

「なら死ぬ覚悟で突撃すればあるいは……」

「突破可能、異議なし、全機我に続け」

「ウインド4、お前が柳の台詞をいうな!」


こんなときでも馬鹿騒ぎ……これから行う愚かな行為でもついてきてくれる底なしの馬鹿だ。

私の……御城家の意地だとわかっているのだろう。

しかし文句を言わずに着いてきてくれる。

ならそれに甘えさせてもらいましょう!


「ウインド1から各リーダー。ウインド隊はこれより突貫します。指揮は変わりにキャンサー1に引継ぎ、

 指示にしたがってください。御武運を」

「キャンサー1了解!米国の豚どもはまかせとけ、殿下を頼むぞ!」

「アイリス1了解!ささっと殿下をお助けするんだよ!」


次々に送られてくる激励の言葉。

……頭の中のトリガーを引き、ラプターを睨みつける。

米国や国連のやつらに好き勝手にさせてなるモンですか!!



[1128] Re[9]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/20 16:50
…………。

…………。

一体なにがどうなっているのやら。

冷川料金所を無事突破した。

これからNOEで谷側を移動しようとした矢先に20706を中心に全方位警戒。

ここに足を止めることとなった。

1分でもはやく離脱せねばならぬ状況なのに足を止めなければならない理由……。

殿下に何かあったに違いない。

いくら無礼な白銀とはいえ殿下に危害を加えることはないだろう。

病にかかっているという話も耳にしたことがない。

後考えられるのは主に戦術機に乗ったときに起きる加速度病くらいだろう。

それが一番可能性のあることだ。

…………イライラする。

確実に殿下の身に何かが起きているというのにこうして周囲の警戒しかできないとはッ!

……いや、私ができることはこれしかないのなら全力でこの任をまっとうせねばならない……。

上官の会話を傍受したくなる衝動を理性で押さえ込み情報収集に努める。

ウォーケン少佐が判断したようにここは比較的に守備に適している地形だ。

山に囲まれ敵が攻めるのは困難な土地になっている。

追撃部隊が来たとしても敵がここに入ってこれる数は制限されるので各個撃破が可能だ。

最悪包囲されたとしても友軍がくるまで時間をかせぐことができる……むろんそんなことにはなって欲しくはないがな。

だがその可能性も低い。

これまで稼いだ距離なら追撃部隊は推進剤の関係上物理的に追いつくことはできないはず。

それにこの先に帝国軍の基地もなく決起に呼応した部隊は来ることはない。

危険は去ったはずだ……。

だがなんなのだ!?さっきから感じる圧力は!

警戒に努めるのはいいのだがなんともいえない圧力、使命感が襲ってくる。

集めている情報にも不審データはない。

レーダーにも視界にも敵機の影も形もない。

だが北の方……さっき通ってきた道から感じる強い意志。

執念じみたものを感じるのだ。

しかもそれがここに近づいてくるのがわかる。

……行かなければならない。

その執念を確かめたいのかそれを放つ人物に会いたいのかわからないが。

殿下をお守りするのには……違うな。

殿下を御守りするという使命とは違う使命、御城家の私としての使命が行かなければならないと告げているようだ。


「ッ!07御城何やってるの!?」


榊から通信が入ってくる。

機体が歩くときに発生させる、大地を踏みしめる振動を感じた。

どうやら無意識に操縦桿を倒して前進をしていたようだ。

だがなぜだか止まる気がせず、そのまま前進する。


「と、止まりなさい!!」

「…………」


榊の声を無視し、なおも前進を続ける。

…………2回目のの命令違反だな場違いなことを考えてしまう。

やらねばならぬときがあるとしたら、今まさにそのときだと理性ではなく本能がそれを告げる。


「07御城ッ!!何をやっている持ち場に戻れ!!」

「……御城だと?」


会議中のはずの神宮司軍曹からも叱責が飛んでくる。

会議を中断させてしまったか……。

ウォーケン少佐が私の名を聞いて不審に思っているようだが、いずればれることだ。

今はそんな些細なことは気にしていられない。

殿下には申し訳ないが今は目の前の危険……システムが敵がきた情報を伝えてくる。


「……敵がきました」

「何?」

「数は5機、いずれも不知火……先程の決起部隊ですね」

「こちらでも確認した……あの防衛線を突破してきたとようだな……だが5機ならこちらの戦力でも十分に対処できる。

 ここは我々の部隊にまかせ――訓練兵なにをやっている戻れというのがわからないのか!?」


叱責が飛んでくるのは当たり前の行動をしている私。

普段なら決してこんなことはしない。

敵であるはずの5機の不知火。

まだなにか話している通信を無理やるきり、吹雪をその5機に近づけるためにブーストに火をつけた。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その9


「なんだあの吹雪?単機でやりあおうっていうのか?」

「見たところ国連軍機のようですね~」

「何か意図があっての行動か……」

「只の馬鹿」

「……ウインド4、おめえはいちいち人の台詞をパクルな!」


私達が防衛線を突破して殿下を拉致している部隊を発見した直後に国連色の吹雪が単機で接近してきたのだ。

正直面食らって初動が遅れてしまったのだが、幸いといっていいのか先手を取られることなく……といっても仕掛けてくる様子がないのだ。

相手が仕掛けてこない理由として考えられるのは……降伏か交渉のどちらかだろう。

もしくは陽動だろうが周囲にそれらしき反応はないし、谷潜む敵部隊の数は合っている。

……まさか殿下が直接きたのですか!?

しかしその考えを瞬時に否定する。

例えあったとしてもあちらからの通信がなければおかしい。

あちらも殿下が最優先で守るはずなのだから安全を確保してからことを起こすはずだ。

いずれにしてもこちらから無闇に仕掛けることができませんね。


「ウインド1から各機。そろそろ私語を慎め」

「「「「了解」」」」

「これより相手に対して通信をかけてみます」


そういいながらパネルを操作して全回線通信を試みる。

どうでもいいが私の言葉遣いが命令形とですます口調に変化するのを皆はどう思っているのでしょうか。

そんな下らないこと思考を頭を振って頭の隅に追いやる。

そして一呼吸おいて通信を始めた。


「――国連軍及び斯衛部隊の指揮官に告ぐ――我に攻撃の意図非ず。繰り返す――攻撃の意図非ず」


もはやこの戦いで当たり前の前口上から話し始める。

この言葉はもはや効果がないことは先刻承知ずみだが、万が一殿下を傷つけるようなことになってしまっては先祖に……お兄様に顔向けできない。


「そこの国連軍機、そこで止まりなさい。繰り返しいうようにこちらに攻撃の意図はない。

 すみやかに煌武院 悠陽殿下を引き渡し、即時退去せよ」

「…………」


通信を一向に返してくる様子はない。

やはり簡単には応じるわけないですか……。

かといってこちらが攻撃の意図がないといってしまった手前、仕掛けることもできない。

だが単機できた吹雪はその場に停止してこちらの指示にしたがったようだ。

しかし油断はできない。

レーダーを確認すると谷の中から敵の戦術機が3機でてきている。

あの吹雪は単に偵察にきてたまたま鉢合わせしたのかもしれない。

そして今一度こちらの指示にしたがい援軍をまって仕掛けてくるか……。

いずれにしろ使うしかない。

頭の中のトリガーにそうっと指をかける。

そして躊躇うことなくそれを引こうとするが――。

空から聞こえてきた轟音にそれを中断する。

メインカメラを後方の空に向けるとそこには輸送機が大群をなしてやってくるのを確認する。

敵味方識別を走らせるとそこには帝国軍671航空輸送隊と表示させる。

沙霧大尉……か?

操縦桿を握っていた手を離し握り拳つくり思いっきり太ももに振り落とす。

強化装備のおかげで痛みは全くないが悔しさだけは降り積もっていく。

大尉が直接乗り込んでくる自体は最終手段……つまり私の指揮した追撃戦は失敗したことになるのだ。

この手で殿下をお助けすることができないなんて……ッ!!

悔しがっているうちに沙霧大尉は空挺作戦の展開を始めていた。

次々に降下する“烈士”の2文字が書かれた不知火たち。

私は愛機のメインカメラで何気なくまわりを見つめると同じようにメインカメラを動かしていた先程の吹雪と目が合う。

そのメインカメラから感じるのは何かを迷っているということだ。

いまさら何を迷うことがあるのだろうか?

何故かそれが無性に気になった。

目が離せないとはこのようなことなのでしょうか。

あの吹雪が……それに搭乗するパイロットが気になる。

このクーデターでも訓練の実弾演習のときはなかったのに……なぜあの吹雪だけがこんなにも気になるのだろう。

人を殺すことに悲しみを覚えないことはない。

恐怖も感じたこともある。

だがそれはすべて押さえ込めていたはずだ。

今頃になって人を殺すことに恐怖が滲み出してきたのだろうか?

それとも単に顔も声も聞いたことのないあの吹雪のパイロットが気になるとでも言うのでしょうか?


「――国連軍指揮官に告ぐ。

 私は、本土防衛軍、帝都守備第1戦術機甲連隊所属の、沙霧尚哉大尉である。直ちに――」


沙霧大尉の60分の猶予休戦の申し入れ、煌武院 悠陽殿下の名で履行されること。

これに従い私達も包囲に参加すると同時に補給をうけることとなると伝えられた、がッ。

あの吹雪に気になる理由をどうしても確かめておきたい。

だがいきなり相手に詰め寄るのも怪しすぎる。

……考えても仕方ない怪しまれてもかまわない。

そう思いできるだけあの吹雪に私の不知火を近づける。


「柳、何やってんだ?一時休戦だろうが」

「わかっています。だがあの吹雪がどうしても気になるんです。あなたたちは先に下がってください」

「ああん?……仕方ねえな。だけどオレは残るからな。2機連携を崩すわけにはいかないからな」

「……好きにしてください」


他のウインド隊は皆後方に下がっていくのを確認する。

相手の吹雪もそれを見ても微動だにしていない。

まるでこちらを待っているかのようだ。

いや違いますね。

間違いなく待っているのだ。

それを確信すると外部スピーカーをオンにして話し始める。


「我が名は御城 瑞堅が娘、御城 柳である。そこの吹雪のパイロット名はなんと申す!!」

「…………」


四の五いわずに聞きたいことを聞くのが一番。

だが名を聞くのが最初だろう。

しかし少々非常識すぎたかもしれない。

その前にこれから殺すかもしれない相手の名前を知ること自体が常識を逸しているだろう。

その証拠に後ろのウインド2こと九羽 彩子は口をあんぐりとあけている。

いちおう彼女は口が悪いけど私と同じれっきとした女の子だ。

……なんでここで紹介してるんだろう?

それはともかく相手の反応はどうだろうか。

相手も面食らってしまったのか返答がない。

……まずったかな?

しかし心配することなかったようだ。

耳をすませると声が聞こえてきた。


「……名を……しっ……てどう……す……のだ?」


声がかすれてよくわからないがどうやらなぜ名を聞くかと聞いているようだ。

しかし律儀にこちらの問いかけに答えてくれるとは……。

私も莫迦だけど相手も莫迦のようだ。


「名を知ってどうするのだ?」


黙っていると今度ははっきりとした声で問いかけてくる。

しかしどこかで聞いたような声……。

考えるよりも先に答えなければ礼に失する。


「なぜ単機で目の前に現れて戦闘もせずにいる国連軍の衛士がどういった人物かと思ってな」

「……そうか。名を名乗ればいいのだな」


さっきよりも声量が上がってますます聞き覚えのある声だとわかる。

しかしそれと同時に聞き覚えがあるどころか1年前まで共にすごしていた家族の声ということがわかってしまう。

嘘、嘘、だってあの人……お兄様は帝国斯衛軍に志願したはず。

間違っても国連に入ってるはずがない。

そう今聞いた声は他人の空似。

お兄様であるはずがない。

しかしそのような願望はもろくも打ち砕かれた。


「我が名は御城 瑞堅が息子、御城 衛。そなたの兄であり御城家7代目現当主である。

 親愛なる妹よ、このような再会の仕方は真に残念である。……今は敵同士だこれ以上の語らいは無用であろう……失礼する」


そういって吹雪は谷のなかへと消えていった。

お兄様……お兄様が国連軍に……なぜ国連軍……。


「柳!一体どういうことだよ!おい!聞いてるのかッ!」


彩子が通信で怒鳴っているが答える気が起きない。

そのまま通信を切り、手で顔を覆うことしかできなかった。

--------------------------------------------

休戦に応じては30分たった。

妹との最低な再会をした時間から経過した時間でもある。

吹雪から降りて来るはずのない歩兵を警戒している。

この部隊の皆は妹が包囲している部隊にいることを。

外部スピーカーで話したといってもそれほどの音声ではなかったのと谷とは距離があったたので

妹との会話が聞こえなかったようだ。

だが少佐が私を見る目はあきらかに変わっている。

命令違反をした上に御城の名を聞かれたことにより素性が知れたせいだ。

あえて追求しなかったのは混乱に混乱を呼んで士気を下げることを危惧した為だろう。

だがいずれはスパイの疑いで追求されるはず。

……たった一つの間違い。

そうたった一つの間違いでここまで人の人生は狂ってしまったのだ。

あの時間違わなければ。

あの時こうしていれば。

IFの世界私にとって望んでも決して手に入るものではない。

白銀は未来の知識を持っているが、未来が変わりきってしまった今となってはそれも意味がないはずだ。

……決断のときが迫っている。

妹との死合。

私の手で殺すか。

それともうまく助けるか。

それとも今は考え付かない第3の選択しか。

いずれにしろどれかを選ばなければならないだろう……。

手にした栄養剤を注入し終わって一息つく。

不意に後方で枝が折れる音がする。

足元に置いといた拳銃を慌てずに足ですくって手に持ち相手に向かって構える。


「撃つなよ。オレだオレ」

「……白銀か……何用だ?」

「用って程のことじゃないけど……」

「なら帰って休んでいろ」


そういって私は白銀から視線をはずして背を向ける。

……私も相当まいっているようだ。

普段ならこのくらいのことで無下に扱うことはないだろうに。


「あ、おい……すまねえ本当は聞きたいことがあったんだ。リラックスさせようと思ったんだけど無神経だった」

「……こちらこそすまん。少々イライラしているのでな。許せ。で、用とは何だ?」


大体予想はつくがあえてあちらから質問させよう。

こちらからベラベラと話す必要はないのだからな。


「……あの声明に出ていた女の子のことだ。あの子は――」

「私の妹だ」

「ッ!!」

「あっさり喋ったのがそんなに意外か?別に隠すつもりはないのだがな」


心の中で自嘲する。

さっきまで知られたくないと思っていたくせによくも嘘をつけたものだ。

嫌いな嘘を言ってまで自分を強くみせている……なんとも滑稽なことだ。


「ちなみにその妹は今包囲している部隊にいる。先程確認した」

「……単機で出て行ったときにか?」

「そうだ」

「……それはいいとしてどう思う?」

「どう思うとは何に対してだ?」

「妹さんがクーデターに参加していることをだよ」


やはりそれを聞きにきたか。

予想していたとはいえ、少々無神経すぎなのではないか?

そこが長所であり短所でもある。

他人の事情に踏み込みすぎるのは火に油を注ぐような物だぞ。


「教える義務も義理もない」

「なんだよそれ?」

「……お前はたしか香月副司令の直属だったな?」

「……ああ、それがどうしたんだよ」

「あの人の下についているならならわかるのではないか?私も会ったときに色々といわれたのだからな」

「…………」


私も副司令の直属のものだと知られる可能性があるかもしれないがこの程度なら問題ないだろう。

なんか私が説教しているみたいで嫌な感じだ。


「……私の考えは御剣に聞いたか?」

「……ああ」

「ならそれを元にすればわかるだろう?これ以上話すことはない。わかったなら歩哨に戻れ」

「……わかったよ。変なこと聞いてすまなかったな」


遠ざかっていく足音。

あのまま話し込んでいたら殴り合いの喧嘩になっていたのは目に見えている。

先に手を出すのは勿論私だ。

何が正しいのか正しくないのか、そんなことは今はどうでもいいが、妹のことを殺すのかと問われれば間違いなくそうなっていただろう。

…………。

まさかと思うがあの男……今の調子で他の皆のところに行ったのではなかろうな?

なんと余裕のある男なのだろう。

無神経も本当に場合によりけりだな。
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白銀がいなくなり、10分はたっただろうか?

警戒を疎かにしない程度に自己の問いに深く考える為、目を瞑り地べたに座して集中している。

だが今だに答えは見つかっていない。

この問いには考えても答えは出ないものなのだろうかという疑念も自然と生まれてくる。

そこにまたしても右後方から接近する気配を感じる。

この洗練された気配……斯衛軍のものだな。

それに足音からわかる重心のかけ方からすると……神代少尉か。


「神代少尉……何か御用ですかな?」

「御城殿……殿下がお呼びです」


殿下への拝謁。

これほどの衝撃は妹の決起軍参加に勝るとも劣らないものだった。

神代少尉の言葉を頭の中で反芻しながら空を見上げる。

そらに輝く星は光を失い始めている。

夜明けは近い……私の闇もこれで明けてくれればいいのだが……。

それは天上に住まう者達だけが知っているのかもしれないな。



[1128] Re[10]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/22 10:45
御城 衛サイド


「――御城、ここへ」

「……は」


恐れ多くも殿下の傍に片ひざをついて座る。

今、目の前に殿下がその身を木に預け、横たわっている。

煌武院 悠陽。

大日本帝国の事実上の頂点である政威大将軍殿下であり、このお方を守護するのが御城家の使命である。

この方の姿を見たのはこれで2度目だ。

だが1度目は遠目から父上にあのお方が将来将軍になられる方だと教えられたときなので事実上は初対面である。


「そなたが御城 瑞賢殿のご子息ですか……」

「そうでございます。御城家7代目当主、御城 衛であります。この度の拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極に存じます」

「このまま話す非礼を許すがよい……身を起こすと少々辛い故に……」


殿下が口にするようにその顔は血の気がひいて少し青ざめている。

……やはり強化装備なしでの長時間の戦闘機動はお体に障ったようだ。


「いえ、殿下が少しでも楽にできるならそのほうがよろしいので……」

「そうですか。時間がないゆえ、本題から入らせてもらいます。

 ……決起部隊の声明にでたあの女子、そなたの妹君と見るがどうなのですか?」

「……真のことでございます。我が妹に相違ありません」

「やはりそうでしたか。……してそなたはどうするつもりなのですか?」


……回りくどいいいかたも茶番劇も必要としないものいい。

よけいな挨拶程度の会話もない、詰問のような言葉のやりとり。

私は考えもまとまっていないものを答えさせられようとしている。

私はこの場で回答した言葉がそのまま直に実行することになるような気がした。

いや、殿下は命じはしないだろう。

だが殿下にいった言葉を翻すことはありえないことは私自身がよく知っている。


「……やはり即答はせぬか……少し安心しました」

「……?」

「この場で一族の掟に従うといったなら、そなたは私への忠心からその言葉を翻すことはないでしょう。その言葉がたとえ心からの言葉でもなくてもです」


見破られていたか……。

どうも私は一定以上の洞察力をもっている人から考えていることを読まれるようだ。

それとも思考を垂れ流しているのだろうか?


「そなたは今迷っているようですね。なら原点を顧みること……立ち止まる勇気を持つのです

 そして……自らの手を汚すことを、厭うてはならないのです」

「…………」


私の原点……


『衛よ、家が没落しても帝を…殿下を恨むでないぞ。我らの使命は殿下を将軍家をお守りすること、ひいては国を民を護ることだ

 御家が潰れようが一族が滅亡しようがそれだけは忘れるな』


この父上の言葉がそうなのであろうか?


『将軍様はこの国の太陽なの、太陽が無くなったら暗くて何も見えなくなる。

 地面に生える草が枯れてしまうの。

 死ぬのは嫌だけどそれでも太陽のためなら嫌じゃない。

 光を与える太陽、その光を浴びる草を守ることが御城の誇り、私の誇りなのよ』

『それに太陽があれば夜は星を輝かせてくれるから、私が死んでも輝くことができるでしょ?』


思い出される妹の言葉……。

この二つに共通する点は将軍を守るという誇り。

私も今でも持つ将軍を守るという絶対の信念。

そしてもう薄れてしまった御家再興。

……どれも妹の命を天秤にかけるような事柄を含んではいない。

私は妹に何をしてやりたいのだ?

命を助けて絞首台に上らせたいのか?

己の手で名誉ある死を下して誇りを守ってやりたいのか?

殿下はさらに続けていう。


「道を指し示そうとする者は、背負うべき責務の重さから目を背けてはならないのです。

 ……そなたは確かに辛いでしょう。だが命があればよいというものでもありません。生きているのと生かされているとではまるで違います」


…………。

この言葉は冥夜様が白銀がいった言葉のはずだが……。

冥夜様と話したことも会ったことないはずだ。

……さすがは双子ということか。

…………生死は関係ないか。


「……これでは命じているようですね。それに先程いったことと矛盾していますね……此度の非礼をお許しを」

「いえ、殿下が私ごときの為に心をいためる必要はありません。貴重なご助言ありがたくご頂戴させえてもらいます」

「御城……私が説いたことがすべてではないゆえ、それだけで物事を判断し道を誤ってはいけませんよ」

「……了解しました」

「ではこの場にて他の者が来るのをお待ちなさい。いま白銀に呼びに行かせていますから」


見方によっては余計に混乱してしまう意見だったが、少なくとも私には1つわかったことがある。

それが正解なのかはわからない。

しかしその答えは私を半歩進むことができたような気がする。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その9.5


御城 柳サイド

コクピットのハッチを開放し、その上に座したままお兄様がいるであろう谷を見つめ続ける。

同胞を殺めたときには感じなかった衝撃が電流の如く駆け抜けた。

私はお兄様が斯衛士官学校に入ったと思っていたのに……。

そもそも国連軍ではなく帝国軍として来てくれれば九羽さんにも心配をかけずにすみました。

普通の帝国軍ならともかくまさか国連軍に入っているとは悪夢のようです。

国連軍にはいって殿下の直衛などできるわけがないじゃないですか。

……でも何か理由があったのなら……。

そう、そうに決まっています。

あれだけ殿下の直衛を……御城家再興を望んでいたお兄様が国連にはいるはずがありません。


「……ウインド4魅瀬よりウインド1柳へ。時間」


そんなことを考えてくると耳に片言でしらせてくる声が入ってくる。

彼女はウインド4魅瀬 朝美という子だ。

彼女は他人が言おうとしている台詞を拝借、というより盗んで先にいってしまう癖がある。

その他はこのように片言で話してくる子だ。

……なんでまた紹介しているんだろ?


「了解……コクピットに戻るますよ」

「そうで~す。ちゃっちゃと戻って殿下をお助けしましょう~」

「ウインド2志津からウインド5。作戦中は私語は禁止よ」

「いいじゃないで~すか。志津ちゃんはだから渋いって言われるんです~よ」

「……名前、梅……ぷっ」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」


……なんかうるさくなってきた。

ウインド2志津 梅。

名前が見ての通りおばあちゃんくさくてコンプレックスを抱いている。

それ以外は私の副官を務めてくれる優秀な人だ。

でもってウインド5こと伊摩 元気。

変なところで伸ばし言葉を使う名前の通り意味わからないほど元気な女の子だ。

……だからなんで私は仲間の紹介をしているんですかね?

やたらとうるさい声がコクピットの中で反響しているがそれも突然聞こえなくなる。

それをいぶかしむと同時に特殊回線の文字がでてウインド3九羽が映し出される。


「少しいいか?」

「いいもなにも問答無用で秘匿回線を開いといてなにを言ってるんですか?」

「わりいー、わりいー……いきなりで悪いんだがよ。さっきのあいつ……あのその……兄貴なんだろ?」

「……そうですね」


私の言葉につんのめるかのように首を前に倒す九羽さん。

なにか私変なこと言いましたかね。


「……あっさり認めるなよな。調子狂っちまったよ。あ~ともかくやれるのかってことを聞きたかったんだ」

「心配ご無用。そのことならとうに覚悟はできています」

「はっ?じゃあなんでさっきは――」

「国連に入っていたのに少々驚きすぎただけです。あのお兄様が国連にいること自体が死ぬほど驚きでしたから」

「し、死ぬほどかよ!?……ああもう!!とりあえず命のやり取りに関してはなんら問題はないってことなのか?」


問題がないわけえはないですが……もとよりその覚悟できている。

国連に入っていることは予定外ですが、殿下を御守りしているのならそれも問題はない。

それどころか好都合かもしれない。


「……不本意ですが、お互い殿下を想っての行動です。兄は殿下の直衛を。私は殿下を国連の手から取り戻す。

 どちらも御城家の考えに沿っての結果です。なら死合うことも必然……どちらかに迷いがあれば落ちるだけですから」

「…………そうか。おめえがそういうなら、オレからはいうことはなにもねえよ。通信切るぞ」


通信が切れ先程の喧騒がまたコクピットに響き始める。

強化装備についている時計機能を起動させ時刻を確認する。

あと5分か。


「ウインド1からウインド隊各機。そろそろ静かにしろ。もうすぐ国連の回答がくる全機警戒態勢に移行せよ」

「「「「了解」」」」


騒ぎ声は一斉にやみ、表情も“烈士”のものへと変わる。

ふざけるときはふざけるがやるときはやる。

奇妙なほどメリハリがキチンとしている我が部下たち。

戦闘中もふざけるときがあるが、それは第6感というべきものが危機がないと判断したときだけだ。

しかしなぜだか私の部隊は皆そういったことを感じるという。

まったくわけがわからないものだ。

…………時間か。

レーダーに3つの戦術機のマーカーが出現する。

今までマーカーを消していたのだが……どうやら交渉に応じるつもりのようだ。

それかこれは陽動で別働部隊が動いているかだ。

ともかく国連がどう動くかによって決まってくるわね。

戦闘になるかそうでないか、または御城家の運命が……。

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時は少し遡る。

御城 衛サイド


殿下の突然の労い。

そして殿下自らの出陣宣言。

それを無礼な口調ながら必死に止めようとするウォーケン少佐。

殿下を止めるべく冥夜様が役割のひとつである影武者の役を買って出たこと。

わずか10分で驚きが連続することとなった。

その間は言葉を発することができなかった。

殿下が出陣なさると聞いたとき、先程私に説いた言葉が自身への激励だったのだろう。

それに気づかぬとは……私も未熟だ。

などと反省をしている間に話はどんどん進んでゆく。


「説得の大任、何卒……何卒、御裁可戴きますよう……」

「……わかりました。そなたに任せます」

「――は。謹んで拝命いたします」

「…………そなたであれば……或いは私より至妙に、彼の者達を説き伏せるやも知れませんね」


……たしかに冥夜様なら仮にも軍人として生活していた分、殿下よりも沙霧大尉たちを説得できる可能性が高い。

だがウォーケン少佐の顔を覗うとまだ反論をしようとしている事は明白だ。

日本人の精神的な考えからすれば、これが最も被害が少なくなるやりかたのはずだが、

米国人である少佐にはわからないことだろう。


「ウォーケン少佐、如何でしょう。この者の案であれば、そなたにもご助力願えますか?」

「畏れながら殿下……改めて反対させて頂きます」


ウォーケン少佐いわく、説得に成功するという確証がない。

失敗した場合の強行突破は護衛の為の戦力の分散、そして将軍搭乗機の露見の確率が高まること。

ならば戦力を集中した中央突破の方が成功確率が高いということだ。

やはり少佐は日本人という物がまだわかっていないようだ。

だが仕方あるまい、我ら日本人の精神は世界でも有数の不思議なものらしいから理解するには日本人と暮らさなければならないだろう。


「数字で考えれば、確かにそのようですね」

「理詰めで固められる部分は可能な限り固める……数字が全てではないにしてもだ」

「少佐の意見に異を唱えたわけではありません。むしろ訓練兵を替え玉に使う事で、

 少佐の作戦の成功率を引き上げることが可能ではないかと考えます」

「かまわん、続けろ中尉」

「は……まず、この訓練兵――」


月詠中尉が冥夜様を訓練兵と呼ばねばならない状況。

さぞお辛いでしょう中尉。

それは置いといて月詠中尉の話を要約すると。

説得できたならそれでよし、できなければ殿下のふりをしたまま注意を引き、殿下を逃がす。

その間決起軍は殿下を手に入れれば逃げるものを追うことはしないだろうとの事だ。

仮に冥夜様が捕まっても殿下は無事に横浜に脱出しているので問題はなにもない。

そうなにも問題はない……冥夜様の事情を知らないものはだがな。

止む得ぬか……。


「では少佐、作戦を如何なさいますか?」

「うむ――」


……ここのタイミングしかない。

冥夜様を守ることを進言するのはここしかない。

殿下を御守りするのが私の努め、その身を守ることだけが使命ではないはずだ。

殿下の心も守れずして何が御城家だ。

お互い面と向かって姉妹だと言葉を交わせないお二方だ。

この作戦で殿下は比較的安全……ならば冥夜様を護ってもいいのではないか?

……本当はこちらが本音なのかもしれないが……戦う前に妹ともう一度話ができるかもしれない。

それで私の心を決めたいのだ。

そう思いいざ口を開こうとするが……。


「――質問があります」


私のすぐ横から声が出された。

私の隣にいるのは……白銀だ。

……このにいるもので揺れに揺れている人物は私の他には彼しかいない。

冥夜様を見捨てることにかもしれないこの作戦でなにか思うことでもあったのだろう。

しかし、そんな身勝手質問を教官……神宮司軍曹が許すはずがない。


「――白銀ッ!貴様――」

「――かまわん軍曹。あの訓練兵……多少気になっていたのでな……」

「……少佐?」


意外に少佐が軍曹に待ったをかけた。

少佐が気になるようなことをなにかやらかしたのだろうか?


「何だ?言ってみろ、白銀訓練兵」

「月詠中尉に質問があります。中尉は御剣訓練兵の案に賛成のようですが、理由をご説明戴けないでしょうか?」

「先刻、私が少佐に申し上げた理由を聞いていなかったのか?」

「……昨日、基地を取り囲む帝国軍を見て中尉が仰った事を……よく思い出してください」


……昨日のこと?

そういえば私が格納庫で調整をしている時に月詠中尉が白銀のことを話していたが……白銀との会話でなにかあったのだろう。

それから月詠中尉がなぜ殿下の元に駆けつけなかったのかという理由を中尉は話してくれた。

日が没し、帝都に夜の帳が降りる砌に備えよ。

殿下の直命であるこれは斯衛の総則を無視せねばならない命令だ。

それに人には生まれながらにして授かりし天命を背負うものが入る……冥夜様のことだ。

その中には己が天命に殉ずることも厭わない者がいる。

その者たちは他人の価値基準で評されたとしても足元が揺らぐことはない。

他人の価値基準にて為すべき事をできぬようなら、それはその者にとって死より辛いことではないかという。

月詠中尉はそう思うといった。

……私もそうだと思う。

そう私もそうであらねばならないのだ。


「さて……もうひとつ、私が御剣訓練兵の提案に賛成した理由は――」

「――中尉、もう結構です。もう、わかりました……お手数をかけてすみません」

「気が済んだのか、白銀訓練兵?」

「はい。ありがとうございました」


……白銀、何か掴んだようだな。

表情を見ると何かを掴み取ったがありありとわかり、目の輝きが数分前とは段違いに増している。

私も掴めてはいないが掴むものが見えたような気がする。

ウォーケン少佐の顔を見ると彼もまた何かを掴んだようだ。

私達日本人を見る目があきらかに変わっている。


「しかし……不明瞭な言い回しが多く、難解な話だった」

「は。申し訳ございません」

「……それが日本人特有の情趣なのか……それとも意図的にカモフラージュされたものなのか……」

「お好きなようにご判断ください」

「……まあいい。私にも参考になる部分が多くあったからな」


今の話の日本人特有の精神は極端すぎるが、この場にいる日本人にはぴったりと当てはまるだろう。

なら問題なしだ。


「御剣訓練兵の案を採用する」

「!!」


驚きに彩られる場の空気。

理由は私が睨んだとおりに月詠中尉の話が日本人の精神面を理解するのにわかりやすく、なおかつこの任務で最良だからだ。

アルフレッド・ウォーケンという男は伊達に少佐という階級についているわけではないようだ。


「では作戦概要の確認に入る。作戦の最優先目的は殿下の無事脱出である。これはすべてに優先する。

 まずは隊編成。全部隊を本隊と囮部隊の二手に分ける。本隊は殿下の搭乗機と護衛機で編成する」


先刻逃した発言の機会……それを挽回するには次の囮部隊の編成に口を挟むしかない。

軍記違反だろうがなんであろうがやるしかないだろう。


「囮部隊は御剣訓練兵搭乗機と真実味を付加するための直援機の編成とする。

 では、囮部隊の編成だが、直援機の――」

「――少佐!榊訓練兵、直援に志願致します!」


またしても口を開く前に別の声が先に志願を告げる。

今度は榊が軍記を破り、口を挟んだようだ。


「……軍曹、君の訓練部隊は、志気が高いのは結構だが、教育がなっていないようだな」

「――申し訳ありません、少佐!」

「――少佐!発言を許可してください」


三度開いた口を閉じなければならなくなった。

今度は……また白銀だ。

糞、どうしてこう皆、私が言おうとするのを阻止するように口を開くのだ。

白銀の話を要約すると自分の機体が敵にマークされている可能性があるからそれに冥夜様を乗せるべきだということ。

それに即応が可能ということだ。

続けてその任務に軍曹が志願するが却下されてしまった。

結局白銀の志願理由を聞いた後にその案を採用された。


「――白銀訓練兵のタイプ97で作戦を実行する」

「――りょ、了解しました」


このままでは私が囮部隊に参加できなくなってしまう!!

ここで口を挟まなければッ!

だがその必要がなくなってしまったようだ。


「少佐、ひとつ提案があります」

「中尉……今度はなんだ?」

「斯衛の直援は真実味を上で必要です」

「戦力的には苦しいが……その口ぶりではそれだけではないだろう?言ってみろ」

「白銀訓練兵のほかにもう一人訓練兵を直援に連れて行きたいのです」

「……なんだと?」


まさか中尉は私を連れて行くつもりなのか?

これで軍記を破ってまで発言を強行しないですみそうだ。

中尉、心からの感謝を。


「そのものは先刻の声明で現れた少女御城 柳の実の兄であるもの。御城訓練兵を連れて行くべきだと考えています」

「!!やはりそうだったか、御城と聞いたときおかしいと思ったのだが……それは却下する」

「……スパイ疑惑ですか?」

「その通りだ中尉。今この場で拘束するべきだ。今までの戦闘で情報を漏らしていた可能性が高い。そのような人物を直援にあてるなど自殺行為だ」


……やはり無理か。

拘束どころかこの場で射殺されても文句は言えない立場だ。

なのに直援を志願しようとしても無駄だったか……。

いくら中尉が説いてくれても少佐が首を縦に振るわけがない。

……むね――。


「少佐、御城訓練兵を替え玉の直援にまわしなさい」

「!?殿下なにをおっしゃいます」

「そのものは代々将軍家の直衛を勤めてきた家のもの。その名を汚すようなスパイという下劣な行為をするような人物ではありません。

 その者の妹であれそれは変わりはありません」

「ですが――」

「真実味というなら斯衛のものが付く以上に御城家の者が付いている方があります」

「……わかりました。御城訓練兵」

「はっ!!」

「貴様も直援にあてるが無用な通信をするようなら警告なしで射殺する。それでもいいな?」

「一切承知しました」

「では囮部隊の編成は3機。白銀訓練兵のタイプ97。直援は御城訓練兵の97に月詠中尉のタイプ0とする。御剣訓練兵は白銀機に搭乗」

「「「了解」」」

「殿下……これで御裁可いただけますか?」

「はい……」


…………。

殿下申し訳ありません。

かならずやこのご恩をお返しします。

殿下への敬礼の後、各自の戦術機へと向かう。

今晩はやけに長く感じる。

だがそれもあと少しだ。

妹とへの対応。

それを決めたとき私は後悔をしないだろうか?

……いや、しなような選択を取らねばならないのだ。

そう御城家としても自分にとっても悔いのないような道を……だ。



[1128] Re[11]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/05/28 23:31
九羽 彩子サイド

あの国連の撃震強かったなあ。

殿下を取り戻すことはできず、オレは撃墜された。

そして横たわる不知火の中で脱出もせずに別の戦いをこうして見ている。

お互いの天命が下した避けられぬ戦い。

政治というなの陰謀に巻き込まれた兄妹。

天命なんてものを背負わなければ仲良く暮らしていけたはずの家族。

両雄文字通り一歩も引かない互角の戦闘。

金属と金属がぶつかり合う甲高い悲鳴。

一合、二合と何度も何度もその場にたったまま切りあい続ける。

戦術機や生身でも絶対にありえない戦い方……。

絶対といったが現実に目の前で行われているのはありえないはずの戦闘。

しかしそれには美しさが秘められていた。

お互い刀の軌道がわかりきっているかのように最適の攻撃を行っている。

防御ではなく攻撃、つまり受けるのではなく刀同士をぶつけ合うような攻撃しながらの防御。

まるで手を取り合って踊っているように錯覚してしまいそうだ。

不知火と吹雪。

弾は撃ちつくし、残るは近接戦闘。

その近接戦闘は美しく、馬鹿げた戦いでもある。

……それにさっきから聞こえてくる叫びは声はなんなんだよ!

頭に直接響く声が自然と涙を流させる。

戦いあう2人の声は戦場に立つものに哀を訴え続ける。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その10


御城 衛サイド 数十分前の出来事の回想

「――殿下がお召しの国連軍機およびその衛士の随伴は認めよう。しかし何故もう一機国連軍機が随伴するのか?

 随伴機が2機というのも殿下のお言葉なら従おう。だが先刻申したように国連、米軍が立ち会う義理はないはずだ」


決起部隊には当たり前の発言。

この場にいる日本人なら彼らの主張は理解するには容易のはずだ。

現在、沙霧大尉と偽殿下こと冥夜様の謁見の交渉をしている最中であり、冥夜様が乗っている白銀機は白銀が随伴するかしないか少しもめた後、随伴の許可が下りた。

だが私のことは許可するのを躊躇しているようだ。

殿下がお召しの白銀機、赤色の武御雷、そして私の乗るなんの変哲もない吹雪。

素性はただの国連軍機、沙霧大尉が不自然に思っても仕方ないことだろう。

私が名乗りを上げれば済む話だが生憎、許可ない通信は一切禁止されている。

ここは月詠中尉に任せるしかない状態……というわけで沈黙を保っていることしかできない。

だが月詠中尉ならやってくれるだろう。


「これもまた殿下の思し召しである。この国連軍衛士を直衛にあてたいということだ。それに――」

「――それになんだ?」

「――我々を包囲している部隊に御城 柳という少女はおられるか?」

「確かに彼女はここにいるが……殿下がお会いしたいと仰せられるのか?」

「それもあるが、それ以上に殿下が柳殿に会わせたい者が、あの国連軍機に乗っている」

「……国連軍に殿下が気にかけるような御仁がいるとは……してそのものの名は?」

「私から紹介するよりも直に聞いたほうがよろしいだろう。……柳殿を通信にだせるか?」

「……すぐに回線をまわす。しばし待たれよ」


そういうと一時的に回線が途切れる。

まさか直に妹と会話をできるよう場を設けてくれるとはな……。

しかもおおっぴらに通信をできるよう交渉の流れをコントロールするとはたいしたお人だ。

そう思っていると当のご本人から通信が入る。


「聞いていたな?これより貴様の妹ととの通信になる。納得がいくまで……とまではいかんが話をするがよい」

「中尉、あなたに心からの感謝を……」

「……殿下のご命令だ。感謝をいわれるいわれはない」


まあ、当たり障りのない反応だろう。

しかし、いつウォーケン少佐が私に弾を撃ちこんでくるかわからないがこちらが不利にならないような会話をすればいいだけの話だ。

だが華が咲くような会話は望めはしないだろう。

おそらくお互い御城家としての顔で対面することになる。

ならば血の華が咲くこともあろう。

……殿下の手前そのようなことにするつもりは毛頭ないが……万が一ということもある。


「通信の準備ができた。お互いの陣営のことを考慮して秘匿回線ではなく、この周波数での通信とする。よろしいか?」

「こちらも準備はできている……では御城、あとは貴様しだいだ」

「ッ!!御城だと!?」


沙霧大尉が通信の準備ができたことを告げたが……月詠中尉の口から出てきた言葉に驚きを隠せないようだ。

……運命の選択の答えを見つける時が来たか。

どうかこの場で得られる答えが誤りではありませんように……。


「はじめまして沙霧大尉……御城 衛少尉であります。若輩者ながら御城家7代目当主を務めさしてもらっています。

 此度の場を設けてもらいお礼を申し上げさせてもらいます……が今は我が妹との対話の時間であるため挨拶はこれくらいにさせてもらいます。……聞こえているな妹殿よ」

「――勿論ですよ、お兄様。いえ、この場はでは衛様とお呼びすべきでしょうか?」

「どちらでもかまわないが……先刻申したが此度の対面まことに遺憾である」

「こちらこそ残念です……。しかしなぜお兄様が……御城ともあろう者が国連軍にいらっしゃるのですか?」

「……御城家の為だった……が今は少し違う……」

「それではなんですか?」

「…………」


私の愚かな行為を墓の下までもって行かなければならない。

打ち明けて妹に殺されることを望むこともできるが……国連の機密もあるし、何よりも妹の中の立派な兄を傷つけたくない。

……逆だな。

私が傷つきたくないのだ。

言うにしても言わぬにしても、妹を傷つけるのは明白なのだから意味のないことだ。


「言わないのですね。なら、これ以上話すことはありません。……通信を切りますよ?」

「……少なくとも殿下の為ではあるがな」

「……通信きります。沙霧大尉、交渉の続きをお願いします」

「……一切、了解した」


妹はそういい通信が切れ、再び謁見の確認をすることとなった。

とにかくこれで決まった。

殺す殺さないに関係なく、いざ戦闘となれば間違いなくぶつかり合うことになるだろう。

それが過去の選択が導いた結果、今の会話でももっとうまくできたはず。

なら、なぜこうなったのか?

答えはわかりきっている。

だから胸の奥でループするだけだった。

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白銀 武サイド そして現在

冥夜の説得の声を遮り、轟く咆哮。

目の前の決起軍の不知火が劣化ウラン弾により蜂の巣になり爆発炎上、何がなんだかわからないままことが次々とすすんでいく。


「――応答しろハンター2ッ!?テスレフ少尉ッ!攻撃を中止しろッ!」

「――やめろっ!やめてくれっっ!」


ウォーケン少佐と冥夜の叫びが、オレに状況を理解させる。

コクピットから外に出ようとする冥夜の腕を掴み無理やり引き戻し、ハッチを閉める。

それでも冥夜はオレの腕を振り払おうともがいている。


「タケルッ、行かせてくれ!まだ……今ならまだ間に合うかもしれないっ!」

「バカ言うな!もう手遅れ――ッッ!」


この場にいる不知火は残り2機、沙霧大尉と御城の妹のトップ2だ。

そのうちの妹のほうがこちらにメインカメラを向け、こちらを捕獲しようと腕を伸ばしてきた。

済んでのところでそれを察知しバックステップで逃れる。

だがなおも追いかけようとしてくる。

この状況で向こうができることは1つ、殿下の奪取だけなのだから執念深くなるのは当たり前だ。

だがそれゆえにこちらに銃器を向けてはこない。

長刀などの近接武器でしか確実に無力化できないおかげで銃撃を受けずにすむのはありがたいのかそうでもないんだか。

どちらにしろ悪い状況には変わりはない。

敵の不知火が腰を沈め戦闘機動を取ろうと身構えたときオレの目の前に割ってはいる機体がきた。


「――白銀ッ!早く殿下を連れて離脱しろ!」

「御城ッ!」

「何をしている早くしないか!!」


あいつ……実の妹と殺し合いをするつもりか!?

目を泳がせると御城とは別に沙霧大尉の目の前に、月詠さんが牽制するために立ちふさがっている。

レーダーを確認すると決起軍が動き出したのがわかる。

……今は御場の事を考えてやれる状況ではない。

操縦桿を握りなおしながら冥夜に半ば叫び声でいう。


「――早く簡易ジャケットを付けろッ!!」

「だがッ……」

「――オレは生きてお前を殿下にあわせるんだよ!!死なせてたまるか!!」

「ッ!!」

「それにオレたちが早く離脱すれば御城のヤツが実の妹と殺し合わなく済むんだ!」

「ぐ……」


冥夜は苦虫を噛んだような顔をすると口をつぐみ黙って簡易ジャケットを付ける。

チクショオォォォ!

チクショオォォォォォ!

何でこうなっちまうんだよ!

もうすこしだったじゃねえかよ……!?

皆死なずに済んだじゃねえかよ!

肉親同士が殺しあうようなこともなかったじゃねえか!?

こんチクショオォォォォォォォォォ!!


「――全機に告ぐ――作戦を第2シーケンスに移行ッ!兵器しよう自由!!」「――白銀ッ!来るぞ!」


地獄の包囲網突破戦の戦端が開かれた。

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複合視点

 1つの銃声が地獄を作り上げる。

過去の戦争でも探せばいくらでも見つかるケース。

戦史の教科書にも載っている語句ありふれたものだ。

そのありふれた物を207訓練部隊の面面はそれを現実に体感することになった。

20701こと榊千鶴は歯がカチカチなるのを必死に顎を閉めてかみ殺し、目の前の敵を迎え撃とうとしている。

神宮司教官は訓練どおりにやればうまくいくと言ったが自信がない。

それも彩峰も同じはずだが彼女は少なくとも顔には表していない。

それどころか何か覚悟を決めたようにその瞳は冷たく燃え盛っていた。

なんでそんな自身が湧いているのか考える暇もなく通信が入る。


「――よし、プランA第3フェイズに移行ッ!」

「第3フェイズに移行した!全機散開ッ!平面機動挟撃ッ!!」

「――了解」


迎え撃つ相手、“烈士”と書かれた不知火を00、01、04訓練部隊の吹雪が包囲して銃撃を浴びせる。

だがその不知火、ウインド隊のひとり志津機はなんなくそれをかわす。


「――外したッ!?」

「そんなもので私を撃墜できると思いですかッ!?」


志津は相手が実戦なれ、あるいは覚悟がたりないと見抜きあえて機体を前面に出して囮となった。

そして後ろから来る皆に撃墜させる。

確かに彼女達は決起が始まって1回も仕損じたことはない。

だがそれが彼女の油断を誘った。

最後の弾を跳躍してかわしきり、反撃しようと照準を合わせる。


「国連の飼い犬達!これでおわ「志津避けろーーーーーーーーーーーーーーーー」えッ――?」


その言葉を聞いたとき反射的に操縦桿を動かし機体に回避運動をとらせるが、跳躍して空中にいたのがまずかった。

わずかにメインカメラに映った光芒がこちらにめがけて飛んでくる。

ああ、そうか相手は目の前だけじゃなかったんだっけ。

避けることもできずに無情にも120mmという大玉がコクピットに直撃、さらに主機関部に命中し爆発炎上する。

それを見ていた千鶴は弾が飛んできた方向を見ると、そこには国連カラーの撃震が銃から煙を立ち上らせながら立っている。


「――軍曹!?」

「――良くやったな。うまくおびきだしてくれたおかげだ」

「……」


彩峰は褒められたのだが納得いかないような表情をする。

だがそんなことはおかまいなしに事態は進行する。


「お前達は新OSの特性を生かし、とにかく逃げることを考えろ」

「「――了解」

「――次が来るッ!気を抜くな!」


九羽は志津機が爆発四散したところを凝視していた。

志津がやられた……。

名前は渋くてそれをつつくと顔を赤くして面白かったヤツだった。

衛士としての腕もよく、副隊長として時には柳より的確な指示も出してくれた。

だけど始めての判断ミスで戦死しやがりやがった。

九羽は訓練校のことを思い出しそうになるが頭を振って感傷に浸るのを防ぐ。


「梅ちゃんがやられちゃったのです……」

「…………」


元気のヤツも何時もの間延び口調がなくなっているし、魅瀬のやつは呆然としている。

指揮権の委譲に従いウインド3である自分がこの場にいないウインド1に代わり、しかっりしなければならない。

目に力をいれ涙をこらえ、口元を引き締める。


「手前らしっかりしやがれ!泣いてる場合じゃねえぞ!」

「でも、でも梅ちゃんが……」

「でももストもねえ!あいつは殿下を助けるために逝ったんだ。ならオレ達がしてやれるのは殿下を助けることだ。

 泣くのはその後でいい。日本の新生に先駆けて逝ったやつを想うなら成すべき事を成し遂げるぞ!!わかったな!?」

「……ウインド4了解。国連邪魔、突破する」

「…………ウインド5了解で~す…………梅ちゃんの想い成し遂げてみせるよ」

「よーし、とりあえずあの国連の奴らを突破するのが、先決だがそう簡単に抜かせてもらえそうにないな……」


それに今回は柳の指揮もない。

だけどオレは身短い間だったけどあいつの采配を見てきたんだ。

あいつにできてオレにできないはずがない。

そう思っていると九羽の頭の中に奇妙な感覚が芽生えてくる。

九羽はそれがなんなのかわからないが妙な高揚感が湧いてくるのを感じた。

あいつの過去の統計的動きから計算すれば……。


「全機、3対3だがマンツーマンでやる必要はねえ。突破できるんだったら他のヤツ無視して殿下に直行しろ!」

「「了解!!」」

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鎧衣、珠瀬サイド

「――正面、来てます!4機ッ!?」

「――やるしかないよっ!」


目の前に迫る不知火。

必死に36mmで応戦するが弾はかすりもせずに距離を詰められる。

マーキングが視認できるほど近づきもうだめかとおもったそのときその1機の不知火が四散する。


「――ひよっこ共、大丈夫かッ!」

「は、はい」


不知火を撃破した米国軍のラプターがこちらを気遣ってか通信を入れてくる。

最新鋭機ラプター、7:1の撃墜比を誇るだけのすごい機体ということをいまさらながら実感するのだった。


「これ以上下がるなっ!上がって合流しろ」

「「りょ、了解」」


だがそのすごい機体は返事をかえした次の瞬間に四散する。

訓練兵を気遣っての行為が仇となり、銃撃を受け撃墜されてしまったのだ。

だがそれは鎧衣たちも同じだ。

足を止めた文字通り鴨を駆る為に不知火たちは弾幕を集中し始める。

恐怖に飲まれて機体を満足に動かせない。

私達殺されちゃうのかな?

恐い、恐い。

恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い。


「ああ……あぁぁぁぁぁ」

「――壬姫さんっっ!!」


再び目の前に迫る不知火。

だがまたしてもその機体は四散する。


「――うぅぅ……?」

「戦場でボーッとしない!目の前に敵が来たら撃つのよ!」


助けてくれたラプター。

その搭乗者は今はなきフィンランド出身のイルマ・テスレフ少尉だ。

戦災難民で米国の国籍を手に入れるために軍に入隊している女性だ。

先刻、友達感覚で話ができてそのまま仲良くなったのだ。

そんあ人に助けられ感極まって涙目になりながらその名を呼ぶ。


「――イルマ少尉ッ!」

「ここは私達が何とかするから、あなたは早く合流しなさい!」

「は、はい!ありがとうございます」

「――壬姫さん、大丈夫ッ!このまま20700に合流するよ」

「は、はい……え?」


移動しようとすると接敵のアラームが鳴り響く。

一体どこから!?

レーダーとメインカメラからの情報を頼りに敵を探ると、2機の戦術機がこちらに近づいてくるのを確認する。

だがそれは2機とも敵ではなく1機はUNつまり国連機、あれは07御城機であるのを確認する。


「次から次へと!!」


それをイルマ少尉も確認したのかそちらに援護しようと近づいていく。

そのとき通信が不意に開かれ御城の怒鳴り声が聞こえてくる。


「馬鹿者!!近づくんじゃない!!」


援護すれば楽になるし、ラプターなら1機相手ならそう手間はかけないはず……。

しかしなんとなくだが、相手の衛士にはイルマ少尉では返り討ちにあう。

そんなことが連想させられた。

そして通信がオープンになっているのかその不知火から声が聞こえてくる。


「殿下を侮辱した下劣なの米国人め、謁見を邪魔するだけではなくこの戦いも邪魔立てするかッ!

 御城の名において成敗してくれる!!」


あれは御城さんの妹……?

ということはあのまま謁見が失敗した後、ずっと兄妹で殺し合いをしていたの!?

それはともかく御城さんと戦っていた不知火はその機首をラプターに向け、長刀を装備する。

だがイルマ少尉も簡単に接近させないつもりかラプターの機動力を駆使し、立ち位置を頻繁に変えながら銃撃する。

だけどその弾丸は山に突き刺さるだけでかすりもしない。

まるで撃つ場所がわかっているかのように完璧すぎるほどの回避行動をとっているのだ。

だがわかっているのは撃つ場所だけでなく、次にどこに移動するのかわかってようにじわじわとその距離を詰めていく。

私達も援護しているがそれに怯みもせずに前進していく。

そしてついにラプターを完璧に捕捉、目の前に立ちふさがる。


「くッ!」


イルマ少尉も接近戦にきりかえ、その右足の尖った膝を突き上げると同時にその足のブースター吹かす。

直撃すればいくら戦術機の装甲とは大ダメージを受けるだけの威力を備えている一撃。

だがそれすらも華麗ともいえる動きでかわし背後にまわる。

そして――


「これで終わりです」


背後から袈裟懸けに切り、イルマ・テスレフの乗機はその操縦者とともに爆発、四散する。

その爆炎に照らされる不知火は悪鬼を連想させられる。

イルマ少尉が……やられた……?


「イ、イルマ少尉ーーー!!」

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九羽 彩子サイド 冒頭と少し違う見方。

…………。

完全に負けた。

2機の吹雪は大したことなかったが、あの動きはこちらの計算以上だった。

だから足止めされたまま硬直状態に陥り、殿下に近づくことができなかった。

それにオレが相手にしていたあの撃震……。

性能は不知火のほうが上なのにそれに腕も自信があった。

だけど負けた。

オレが負けたのと同時に魅瀬も元気のやつもやられた。

通信はいかれてて連絡がとれないから、生きているのか死んじまったのかもわからねえ。

今わかることはオレが生きてることと、目の前ので戦いが行われていることだけだ。

頭の中で響き渡る声がオレをこの戦いを見ることに義務を感じさせる。


《斯衛に入らずして何が御城ですか!?国連なぞに入って殿下のためになるとは到底思えません!!》

《…………》

《今回はたまたま殿下のお傍にいることができたからよいものの、この戦いが終わったらどうするのですか?》

《…………》

《なんとかいったらどうです!!いや、答えろ御城 衛!!》


このとおり一方的ではあるが兄妹喧嘩をしている。

喧嘩といっても命のやり取りのレベルでやっているのだからその重みは格が違う。

御城という名の誇り。

他人からは理解されにくい誇り。

お互いこの世で最後の肉親を殺そうとしてまで守ろうとする誇り。

兄貴の方がわからないが柳のヤツはものすごく大切にしていた。

それを帝国軍にはいらずに国連に入ったことが生かしておけないほど許せないのだろう。

お互いの獲物をぶつけ合いながらの会話。

しかしそれももう限界のようだ。

吹雪のほうが段々と押されていくのが傍目から見てもわかる。

原因は出力の差。

いくら吹雪が優秀な機体とはいえ練習機として設計された物だ。

なら初めから実戦を想定された不知火に性能が負けているの道理。

まして不知火の簡易型と呼べる代物ならなおさらだ。

だが兄貴のほうもわかりきっている様だ。

長刀と長刀がぶつかり合うと今まで踏ん張っていたのだがあえてそれをやめて派手に吹き飛ばされる。

普通は倒れこんで王手なんだが、あの吹雪は異常な動きをしだいした。

なんと後転宙返り、つまりバクテンをしだしたのだ。

吹き飛ばされながらブーストを吹かし大きく跳躍、仰向けに飛びながらその態勢を四肢とブースターを使い、まるで軽業師のように着地、再び長刀を正眼に構える。

長刀をはなさずに重心調整に使ったのだからその技術は神がかっているとしかいえない。

その動きに柳も驚きのあまり追撃も忘れて刀をふりきった態勢で止まっている。

そしてまた頭の中に言葉が流れ始める。


《……ならば答えよう。私の行った愚かな所業を……》

《?愚かなこと》


兄貴が何か話す気になったようだ。

オレはそれに耳を傾けるため……といっても頭の中に響いてるのだから集中といったほうがいいか。

ともかくそうするため目を瞑った。

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御城 衛サイド

私は覚悟して語った。

あの下郎の甘言に乗り、冥夜様の命を狙ったこと。

柳が人質扱いだったこと。

国連のでの暮らし。

オルタネイティブ関係のこともすべて話した。

これが私の選択の答えだ。

先程よりこの戦闘の結果を何度も何度も計算しても敗北の二文字しか出てこない。

この結果はわかりきっていたことだ。

私と妹の技量は互角。

だが武器の性能差があり、なおかつ副司令が見立てたように私と同じ計算能力をもっているらしい。

それにより私がアドバンテージを失い、どんなに足掻こうが勝てないということがわかった。

だがそれにより私の選択が決まった。

妹、柳を生き延びさせる。

副司令は妹をサンプルとして欲しがっていた。

ならばこの場ですべてを話し、柳に副司令の保護を受けてもらう。

そして新たな戸籍を作ってもらい御城家とは違う、新たな御城家となり、オルタネイティブ4での成果を元に殿下の直衛を目指してもらう。

これならば妹も納得してくれるだろう。

私は多分妹の手で殺されるだろう。

私が死ぬ瞬間にプロジェクションでこの考えを伝える。

汚いかもしれないが私の兄としての最後の願い、妹なら聞いてくれるだろう。


「…………お兄様」

「なんだ?」

「お覚悟を」

「ふむ」


柳は長刀を脇構え、静かに私と対峙する。

やはり私の所業は許せぬか……だがそれでいい。

私は正眼から最も得意とする構えである突きの構えを取る。

本来ならこの長刀は突きには向いていない。

BETA相手に突きなどしている暇があれば切り払ったほうが早いからだ。

剣術においてもっとも殺傷能力が高い型だが、この構えをもってしても計算によると勝てない。

だが武人としての最後、全力を出し切って散ろう。


「……いきます」

「……来い」


互いの戦術機はその鋼の足を踏み鳴らし、距離を詰めていく。

新型OSのおかげか若干こちらのほうが繊細な動きをしているが、ただそれだけだ。

お互いブーストを吹かし最終加速に入る。

瞬く間に縮まる間合い。

私は機体ごと突進するように、柳はブースト途中でキャンセル大地に足を着き踏み込み、長刀を龍が天に昇るが如く振り上げてくる。

そして兄妹の殺し合いは勝負が付いた。

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イリーナ・ピアティフサイド

中央作戦司令室での仕事はまだ休むことなく行なわれている。

日本の征夷大将軍が帝都から脱出し芦ノ湖で発見、207戦術機甲小隊に護衛され海路に移動するべく伊豆半島を移動中だ。

しかし私は今任せられているのは別の部隊の状況確認だ。

あの人が心配。

だけどあの人なら大丈夫という思いその想いを塗りつぶす。

そしてひたすら軍務に没頭してその塗りつぶしたことも忘れようとする。

だがその行為を無駄にするようにことが起こった。

何時もの通り愛用のインカムに手を添えながら通信をしているとそれは起こった。

通信を終えて添えていた手をどけるとマイクの部分にピシッとひびが入ったのだ。

この程度なら通信はおこなえるし、笑い話にもできるだろう。

だけどこの現象が私の心に不安の色を混ぜてきた。

……大丈夫ですよね御城君。

無性に時間が気になり時計を見るともう夜明けの時間だった。



[1128] Re[12]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/03 04:30
マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第三章その10アフター


白銀 武サイド

「――気をつけぇぇっ!!」


横浜基地に駐屯する国連軍兵士、衛士、歩兵、衛生兵とわずにすべてといってもいい数がこの場に集まっている。


「――捧げぇ……筒っ!!」


大日本帝国征威大将軍、煌武院 悠陽殿下を帝都へとお帰りになるのをお見送りする為、

この戦いで戦死した者達への鎮魂の為の銃声が山吹色に染まった空に響き渡る。

……やっと……終わった……。

そしてオレは……まだ生きている……。

これであと2、3日もすれば、世間にこの事件が起きる前と変わらない“この世界”の日常が戻ってくるだろう……。

それがたとえ表向きだけであったとしても……。

この事件で失ったものは、あまりに大きく、そして深かった。

委員長の親父さん……榊首相。

……ウォーケン少佐。

……沙霧大尉。

……逆賊として殺された閣僚達。

……帝都の市民。

……多くの兵士達と戦術機。

そして…………そして…………仲良くやっていけたはずの兄妹、御城 衛、柳。


「っ…………!」


オレたちが無事に脱出した。

委員長、彩峰、たま、美琴、冥夜。

そしてまりもちゃん。

そう、御城だけが戦場に取り残された。

決して見捨てたわけではない。

皆で通信を送り、早く戻って来いと催促した。

だけどあいつは――


『先に行け。私にはやらねばならないことがある』


とかぬかしてその場に残りやがった。

まりもちゃんも命令違反だから戻れといって怒鳴ったが


『懲罰は覚悟の上です……帰ったらご指導お願いします』


……カッコつけやがって……結局戻ってこなかったら指導もクソもないだろうが……。

そしてオレたちは無事に友軍と合流し、海路でこの横浜へと脱出した。

皆、御城を待っていたいという想いを必死に押さえながら。

…………。

流された血が、全て無駄だった……とはいえない。

そのおかげで得られたもの……そのおかげでやっとわかった。

オレは人類を救うために、自分の手を下すことを恐れずに、オレにしかできないことをやるんだ。

3つの世界を知っている唯一の“日本人”として。

それがこの事件のおかげで見つかった……オレの“立脚点”なんだ。

……無理にそう考えることで失われた命……仲間の、御城の命に価値を見出そうとしているのかもしれない。

でもあの兄妹の戦いを“仕方なかった”の一言で片付けたくない。

……これで……いいんだ。

……ただひとつだけ、どうしても悔やまれる事がある。

ウォーケン少佐、沙霧大尉、御城兄妹達が……あそこで命を落とす必要はなかったように思う。

戦端の切っ掛けとなった米軍機の狙撃。

本人が戦死したから真実は闇の中だが、帝都の戦闘が始まった状況から比較して陰謀勢力の仕業と見るのは考えすぎだろうか……。

沙霧大尉達が死に場所を求めていたからとはいえ、殿下を始め、いろいろな因縁のある人たちの前で逝く必要はなかった。

それに何度もいうようにこの世で血を分け合った兄妹が、2人が信奉した殿下の目の前で血を流す必要はなかった。


「…………」


もう、軍隊の命令が絶対だ、無駄なことをしている暇はないはずだ、なんて軽はずみに言えない。

今回のことは強烈すぎて忘れられない、忘れられるわけがない。

この戦いが決して無駄ではなかったことを忘れてたまるか!


「――207訓練小隊――気をつけぇぇっ!!日本帝国征威大将軍 煌武院 悠陽殿下に対し――敬礼!」

「楽にしてください」

「――休めッ!」


殿下のありがたきお言葉、労い。

御城のMIAについての励ましはなかった。

先程からオレは戦死――KIAとして語っていたがまだ現段階ではMIA――戦闘中行方不明だ。

だがあの場に残ったということは十数機残っていた不知火を相手にたった1機で相手するということだ。

それに……あいつは妹戦っていたんだ。

もし、生きていたとしても2度とオレたちの前に顔を出さないだろう。

それが御城だからな。

そして殿下は冥夜に対する個人的な会話もひとつもせずに去ってゆく。

美琴も親父さん関係でMPに連行されていった。

……多分大丈夫だろう。

まりもちゃんから解散を宣言された。

……そうだ。冥夜にこの人形を渡さなきゃ……。

オレは施設に戻ろうとする冥夜の後を追いかけた。

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鎧衣 左近サイド 帝都 東京のとある基地


「失礼します……どうやらもうお休みのようですね」


ここは沙霧大尉が所属していた基地の高級士官用の執務室。

そこに訪れたのはトレンチコートの似合う奇人、鎧衣 左近だ。

そこには仕事をしている軍人の姿はなく、代わりに頭から血と脳漿を垂れ流した男が机に突っ伏していた。


「閣下、最後は潔かったようですな……では私も暇ではありませんのでお約束の物を拝借させていただきます」


そういうと手袋を嵌めた手で男の死体を少しどける。

そして机の引き出しを開き書類の束を抜き取る。

手袋を一旦外しその中身を念入りに調べると、目的の物と確認した。

そしてそれを懐にしまいこむと何事もなかったようにその部屋から出て行く。


「やれやれ……娘のような息子に迷惑をかけているだろうが……大丈夫だろう。ん?息子のような娘か。

 まあそれよりも彼のことは8割方副司令の思い通りに動いた。いやはや美人は皆末恐ろしいものだ」


通路をひゅうひゅうと歩きながら懐にしまいこんだ書類をなであげる。

その行為はまるで小動物を愛でるかのような動きだった。

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神宮司まりもサイド

「ラダビノット司令官に対し――敬礼ッ!」

「――休め」


事件から4日が経過した。


「突然ではあるが、ただ今より、国連太平洋方面第11軍、横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊解隊式を執り行う」


隣に立つ大尉はそう告げる。

今日は私の元から教え子達が巣立っていく日。

1人かけてしまったが……それでも5人が飛び立っていく。

事件後の調査で御城を捜索したが、機体は四散して死体も見つからなかった。

妹の機体も同様だが、御城の吹雪の前で撃墜されていたことから相打ちになったのだろう。

兄妹が一緒に逝けたことがせめてもの救いか……。

当然、教え子の207の面面は生きているはずという淡い期待をもっていたはずだ。

だがそれは現実という刃物で無残に引き裂かれた。

あと2、3日すればMIAからKIAと変更されるだろう。


「――基地司令訓示!」

「――気を付けぇっ!」

「楽にしたまえ……」


そして今日という日を迎えることとなった。

6人並んでの解隊式は……もうかなわない。

白銀の横に1人いるはずだった空間。

隙間なく整列してもその空間に私は幻影を見てしまう。


「訓練過程終了、晴れて任官というめでたい日だ。

 本来であれば、諸君の門出を盛大に祝ってやりたいところであるが……

 先日の一件もあり、日本国民の感情に配慮した事を理解して欲しい」


司令の訓示を聞いている皆は嬉しいそうであり、悲しそうでもある。

今回の事件、訓練兵にはあまりに衝撃的なことだった。

彼女達にはここで挫折せずに未来へと走ってもらいたい。


「――隣人とそれに連なる人々に思いをはせよ。明日も在るか否かは、諸君らにかかっているのだ。

 座して手に入れられるものはなにもない。命をかけて掴み取れ。

 それがどれだけの気概を必要とするか……諸君は先の作戦で嫌というほど感じたことであろう」


脳裏に浮かぶのはこの戦いで散っていったものたち。

ウォーケン少佐、沙霧大尉、御城兄妹。

彼女達には御城の顔がおもい浮かんでいるのであろう。

皆涙を流すのを必死に耐えている。


「――手のひらを見たまえ」

「…………」

「その手で何を掴む?」

「…………」

「その手で何を守る?」

「…………」

「拳を握りたまえ」

「…………」

「その拳で何を拓く?」

「…………」

「その拳で何を倒す?」

「…………」

「……最後に……極めて異例な事ではあるが……諸君の任官に際しお言葉が寄せられている。

 日本帝国征威大将軍、煌武院 悠陽殿下からの御祝辞、心して賜りたまえ」


極めて異例な事、殿下からの御祝辞。

207の傷ついた心にどう響くのであろうが。


『此度の働き、誠に大儀でありました。

私の迷いを正そうとする若者達の強き意思を、この身を以って知る事が出来、嬉しく思います。

しかし、幾つもの命が散り、二度と帰らぬものとなった事は悲しく、わが身を裂かれる様な思いです。

願わくば、天に召されし彼等の御霊が安らかならんことを。

先人達はこの国と民と大地を慈しみ、それが永らえる事を願ってきました。

その先人の想いは、この地に暮らす全ての人に託されているのです。

その想いを果たす事が、今の世に於いて並々ならぬ事ではございましょう。

しかし、一人ひとりが為すべき事を為し、相克を乗り越え、力を合わせる時、果たさざるものなど在りはしないでしょう。

皆様が正しき道を歩まれん事を、切に願います。

そして我が心は如何なる時も、そなた達と共に在ります』


司令が殿下からの御祝辞を読み終える。

その時その場にいたものは、なんともいえない安心感というべき安らぎを得た。

私も同じだ。


「……昇任に際し、殿下よりお言葉を賜るという名誉は、諸君自身の手で掴んだ栄光である。

 また、この度の急な昇任は、先日の将軍救出作戦に於ける諸君等の目覚しい活躍と作戦成功への

 貢献が評価された結果であることを付け加えておく……以上である」

「――気を付けぇぇっ!ラダビノット司令官に対し――敬礼ッ!」

「引き続き、衛士徽章授与を行なう」


徽章を渡せば彼女達は私の階級を越え、少尉になる。

いままで叱りつけたり、敬語で話されていたりしたのが逆転するのだ。

そう思いながら徽章を持ち、司令の横へと歩いていく。


「榊千鶴訓練兵」

「はい!」


順番に呼ばれ教え子達が次々と少尉に任官されていく。

彼女達に教える事はもうない。

女子の任官が終わり、男子の列に……今となっては1人だが白銀の番がまわってきた。


「白銀武訓練兵」

「はい!」

「ただ今をもって、貴官は国連軍衛士となった。……おめでとう少尉」

「はい!」

「…………」


白銀……最後の最後でやってくれたな。

そこは敬礼を返すところだ……。

前言撤回……白銀だけは基本から叩き直す必要があるみたいだ。


「……少尉。ここは敬礼を返すところだ」

「――は、はっ、失礼しましたッ!」


またやってしまったという顔をして慌てて敬礼する白銀。

御城と違って一般の礼儀がなっていないのは相変わらずだな。

反発することが多かった2人だが隊の中での同性はお互い一人だけ。

それなりに仲良くやっていた。

……よそう。

今はあいつのことを考える時じゃない。


「――徽章授与を終了する」

「……がんばりたまえ」

「――気を付えぇぇっ!ラダビノット司令官に対し――敬礼ッ!

 以上をもって国太平洋方面軍第11軍、横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊解隊式を終える」


入隊から約8ヶ月。

総戦技評価演習での挫折。

白銀の急な入隊。

二回目での総戦技評価演習の合格。

新型OSのテスト。

そしてクーデター。

長いこと教官をやっているがこれだけの波乱を経験した訓練兵は初めてだ。

……式を終えて教官であった私が最後に告げる言葉。


「――207衛士訓練小隊――――解散ッ!」

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イリーナ・ピアティフサイド


ひび割れたマイクの部分を交換した愛用のインカムに手を添えて今日も軍務に付く。

あの事件の混乱も収束し、警戒態勢も解かれて通常の軍務につくことになった。

オルタネイティブ計画も滞りなく進み、副司令がついに00ユニットの設計に成功。

技術部総出で開発をしているところだ。

一週間もすれば完成し、調整にはいるだろう。

……一仕事終えたのでコーヒーでも飲みにPXにでも行こう。

早速それを実行すべく椅子から立ち上がろうとする。

その拍子にコンソールの脇に避けていた書類の束が床に落ちてしまう。

それをすぐに拾おうとするが、拾おうと伸ばした手が躊躇するように1回引っ込めてしまう。

だが拾うわなければならない。

あらためてそれに手を伸ばし拾い上げる。

そしてその書類の表紙に書かれた字が目に飛び込んでくる。


【極秘 XMNシステム typeM開発計画書】

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九州 帝国軍北熊本基地

「……今度の補充兵は使えるのか?」

「……副司令は間違いなくつかえると太鼓判を押していたし、書類を見る限り立派なもんだ」


ここは九州戦線。

地獄の一丁目に値する甲20号ハイブから来襲するBETAを迎撃する最前線だ。

ここは帝国軍基地だが俺たち自身は国連軍衛士だ。

俺の指揮する部隊はちょっと特殊で、世界中の前線を渡り歩いている風変わりな部隊だ。

横浜基地に威を構える香月 夕呼博士の直属の部隊のせいなのだからそれも仕方ないだろう。

それにこの部隊は損耗が激しく、中隊なのにすでにオレと相棒のふたりしかいないといった状況だ。

それなのに人員補充はこれが1年振りときたのだから使える、使えないは二の次になっている。

ともかく頭数が欲しいのだ。

そう思っていた矢先にきた人員補充の報。

その人員を乗せた輸送機を迎えるために愛機に乗って滑走路で警戒にあったっているのだ。


「……そうか……副司令がそういうならたしかなんだろうな」

「それに頭数がなければこれ以上部隊としての存続が危ういぞ」

「オレとしてはそれのほうがいいんだけどな」

「……それはいうな。第一、この任務を終了すれば元に戻れると通達があっただろう?」

「……そうだな……ん?きた見たいだぞ」


レーダーに映ったそれをメインカメラの倍率を上げて、前方上空に見える黒点をみる。

たしかにそこには小型の輸送機がただでさえ低い高度を下げて着陸態勢に入っているのを確認する。


「さて、任官早々のひよこ御一行の到着だな」

「……慎二、あまりいびるなよ」

「おいおい、オレがそんなにひどいことするように見えるのか?」

「うるさいデブジュウ」

「た、孝之。その渾名やめろよな。新人達に誤解されるだろうが!」

「今は任務中だ。コールナンバーで呼べ。それと通信は切るぞ」

「おいまてそういうお前も――」


通信を一方的に切ると部下であり、親友の平 慎二の姿が網膜から消える。

……そういえば、オレもあいつを名前で呼んだっけ?

まあ、いいか。

徐々に輸送機の輪郭がはっきりしてくる。

オレ、鳴海 孝之の新しい部下になる不幸な新人。

この任務だけで俺も含めて何人生き残れるだろうか?

できるなら誰も死んで欲しくないが……それは叶わぬ望みだろう。

オレの心とは正反対に青々と晴れ渡る空から舞い降りてきた輸送機から通信が入り、それに返信する為に通信をオンにした。



[1128] Re[13]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/03 16:52
マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第3章その10アフターおまけ


御剣 冥夜サイド 時は少し遡り 包囲網突破後の現場調査にて

真っ黒に炭化した木々。

その原因である火災を引き起こした鋼の残骸たち。

私はそのうちの1つの前に立っている。

あの事件から2日たち、現場調査の為にかりだされ、私達が包囲されていたこの地に再び訪れることになった。

国連カラーの鮮やかな青に塗られた残骸。

他の戦術機の残骸よりも一際目立つカラーリングは見間違うわけがない。

そしてそれがどういう意味を指すのかもわかり、もしかしたらという望みも断たれた。

…………。

実戦は死人が出て当たり前だが……まさか訓練兵のうちに味わうことになろうとはな……。

せめて愛した妹と一緒に逝けたことがせめてもの救いか。

そなたは会ったときから……その前から私の素性を知っていた。

やはり月詠みたいに私の警護の為に派遣されたのか?

……いかなる理由があろうとも、そなたと競いこの腕を磨けたことを誇りに思う。

競うとも言うのもいささか変かもしれないな。

なにせ、そなた一人だけ飛びぬけていたから私達は引っ張られていたからな。

1回目の総戦技評価演習でも落ち着いており私達にアドバイスを送り、榊をサポートしてくれたな。

結局不合格だったが、今となってはあれはあれでよかったのかも知れぬな。

あれのおかげでチームというものがわかり、皆も結束することを学んだ。

そして白銀という男が来たということだ。

あの不合格がなければ…………おかしなものだ。

あれだけ暗い思い出だったのに今となっては良き思い出に変わってしまうとは……。

戦術機特性を検査するとき、そなた達の奸計の獲物になって腹が膨れて苦しかったぞ。

新型OSのテストのとき、そなたが倒れたことは皆心配したぞ?

…………。

御城、日本の守護を……BETAの駆逐は我々にまかせて妹君と一緒に安らかに眠ってくれ。

そして私は背を向けその場を後にした。

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珠瀬 壬姫サイド 同場所

イルマ少尉……。

御城さんの妹さんに撃墜されたラプターの残骸の前に花を持って立っている。

正直、妹さんを恨んでいるのかもしれない。

クーデターを起こして日本を混乱させた彼女達を、イルマ少尉を殺した彼女に黒い感情を抱いている。

だけど彼女はこういう恨みをかってまで殿下のため、日本のために立ち上がった。

御城さんもそれがわかっていたから私達についてこなかったのかもしれない。

イルマ少尉が死んだのはたしかに悲しむべきことだけど、そういったことをやり遂げた彼女たちを恨むのはやめよう。

月並みだけど恨んだって死んだ人は帰って来ない。

私がイルマ少尉にやってあげられることはBETAを倒して、彼女の故郷フィンランドを取り戻すことだ。

…………。

それじゃあ、さよならです。

イルマ少尉、お父さんと一緒に安らかに眠ってください。

そういってラプターの残骸の元に花を添えた。

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榊 千鶴サイド 先祖代々の墓の前

これで帰る場所はなくなったわ……。

父の御骨が入った墓の前で手を合わせ、静かに冥福を祈る。

けっして仲が良かったわけではないが、それでも肉親が死ぬということは悲しいことだ。

それを私自身が身をもって体感した。

……今回人の死を体感したのは私だけではない。

207訓練小隊の皆がそうだ。

仲間である御城の死。

まだMIAではあるがあの状況では望みは薄いだろう。

彼が死んだと決め付けるのは早いのかもしれないが、先日の現場調査では絶望的だ。

1度に知人が2人もなくした。

帰るべき場所をなくし、守るべき友を1人失った。

……行かなくちゃ。

父も御城も私がめげている姿を見たくないはずだ。

総合戦闘技術評価演習でも御城で隊長役割を教えてくれた。

部下に不安を見せてはならない。

たとえそれが苦楽をともにした仲間であっても、強く、強く、胸をはっていなければならない。

私はそれを実践してみせるから安心して逝ってください。

……最後に……本当に最後にするから……弱さを見せていいわよね、御城?

私はへたりと座り込み、手のひらに顔を埋めて静かに涙を流した。

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鎧衣 美琴サイド 営倉の中

MPに聞かれることは父さん何をしているか、どこにいると思うか。

みんな父さん関係のことだ。

でも彼らが知りたがっていることは、何も知らない。

この営倉の中で鉄格子が填められた窓から差し込む夕日の光をみながら物思いにふける。

父さんの安否。

マモルの安否。

2人の安否が二重奏の如く頭を駆け巡る。

……こんなボクでもこんなに悩むことがあったんだね。

もう現場調査は終わったのかな?

ここを出た時にマモルがひょっこり顔をだして


『鎧衣……お前何をやらかしたんだ?』


なんて聞いてきたりして。

……父さんとマモルがあったらどんなことになるんだろうな。

父さん……マモル……生きているよね?

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彩峰 慧サイド 横浜基地 施設裏の坂の上の木下

風に乗って飛んでいくあの人のからの手紙。

もうこの世にいない愛しかった人からの手紙。

それを破り、風に乗せた。

その紙片は手紙を書いた主の下に戻っていくかのように高く、高く、夕日の色に染まる空へと舞い上がる。

それを追って顔を上げる。

雲がまばらにあり、そのひとつひとつが違う形、色をしている。

あの大きい塊はあの人みたいだ。

あの小さいけれど綺麗に赤く染まっているのは……御城かな。

でも御城は雲より星の方が好きだったような気がする。

あの人もよく夜空を見上げていたっけ?

1度に大切な人を2人も失った。

2人とも救えず、守れなかった。

あの時仲間だけは守りたいと思ったのに……そう思ったのに……。

…………。

御城……私、強くなるよ。

力でも心でもとにかく強く、守ることができるぐらい強くなるよ。

だから夜空でも夕空でも、あの人や妹さんと一緒に好きなところで見ててね。

そう決意を固めて一歩踏み出した。



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/09 20:55
御城 衛サイド

全力同士のぶつかり合い。

私の繰り出す全身全霊の突き、妹の放つ昇竜の如き切り上げ。

計算結果は私の敗北で決まっている。

死ぬ覚悟はできている。

あとはプロジェクションのタイミングだけだ。

そうタイミングだけのはずだった。

ぶつかり合うたった1秒前に計算による未来予測の結果が勝利の2文字に変わった。

それが何を意味するのかわからないうちに、激しい衝撃が機体全体に電流のように駆け巡りコクピットを揺らす。

その揺れが収まる前に私は火に包まれて死んでいるはず……。

しかし私は火に包まれてはいないし、機体の損害状況が次々と強化装備を通して網膜に映し出されていく。

左腕部切断、脚部駆動系停止その他もろもろ――。

損害を見る限り攻撃を受けたのは確かだ。

いずれも行動不能な損傷をうけていてさらにあと1回何か衝撃をあたえれば爆発四散してしまう。

だが今はそんなことどうでもいい。

メインカメラはしんでいて通信もままならない。

幸いハッチはあけられそうだ。

緊急脱出用の強制解放のボタンを押そうとすると――。


《お兄様……》

「!!」


頭に直接響く声がした。

プロジェクションによる念話とも言うべきESP能力者同士の会話方法。

その能力で妹の声が聞こえてきた。


《柳、生きているのか!?》

《……それより兄様、どうして私との戦闘を続行されたのですか?》

《それは――》

《くすっ、野暮な質問でしたね。お兄様は優しいですからね……考えていることもわかりましたよ》

《…………》

《でもそれは聞けません》

《なぜだ!?》


突然やな予感が押し寄せてくる。

落ち着いた柳の話し声……落ち着きすぎているのだ。

まるで燃え尽きそうな炎が猛った後の消えるまでの小さな火みたいではないか。

急いで強制解放のスイッチを押す。


《このクーデターが成功しようがしまいが1つだけ決めていたこと……》

《すぐそちらにいく。だからはやまるな》

《はやまるもなにもありません。なぜなら――》


金属が軋む音を響かせながらハッチが徐々にあいていく。

冷たい空気が飛び込んできて顔を凍てつかせる。

そして飛び込んできた光景は……。


《もう危惧されているような状態になっているのですから……》

「!!」


私が繰り出した突きがものの見事にコクピットをとらえ山に押し付けるように縫いとめていた。

長刀が裂いた装甲の隙間からわずかに赤い血潮が垂れている。

ハッチを開けて助け出そうにも、長刀が刺さったままなのでハッチは開けられない。

それでも何かできることがあると思い、吹雪から駆けるように降りると柳の不知火の損傷状況が見えてきた。

両腕の間接という間接は火花を散らし、見るからに稼動不能……おそらく無理やり刀の軌道を変えたせいだろう。

コクピットは先程と同じように長刀が突き刺さり、血が長刀を伝って雫を垂らしている。

そして私の吹雪同様いつ爆発してもおかしくはない……こんなこと望んだことではない。


《右腕切断、右脚切断、腹部裂傷……私の負った傷は致命傷です。むしろ即死にならなかったほうが奇跡ですね》

《……………………》

《最初からお兄様に殺されることは予定に入っていました。まさか国連にはいっていたとは思いませんでしたけどね》


最初から死ぬつもりだった……だと?

強化装備の力をフルに生かして不知火のコクピットへとよじ登っていく。


《……私は御城家の者として責務をはたさんと決起しました。でも、その道は外道。

 たとえいくら周りが許そうとも……殿下が許されたとしても1度道を踏み外した者が正道に戻ることができましょうか?

 同胞の血で染まった腕で胸を張って殿下に仕えることできません》

《なら、私もそうだ。私も許されぬことをしてきたのだ。こんな私が生きてお前が生きられぬ道理はない》


ハッチ前にたどり着く。

長刀が刺さって装甲にできた裂け目に手をさしいれ、隙間を広げようとする。


《……確かにお兄様は愚かなことをなさいました……がまだ生きるべき正道が残っています。

 この場で死ぬよりも生きて国連のオルタネイティブ計画を遂行するという正道があります。

 だけど私に残された決起軍の幹部としての正道は死だけです。》


強化装備の力をもってしても裂け目は広がらない。

そこからはいまだに血が出てきている。


《……それでも……それでも……お前には生きていて欲しいのだ……!!」

《…………計算によると、もうじき機体は爆発します……離れてください。それに先程言ったようにこの怪我では助かりません》

《…………わかった。お前が歩んだ道は決して愚かなものではないぞ……さらばだ》

《……御城の家を頼みます》


コクピットから離れ、降りるというより落ちるようにして不知火から離れていく。

自然と涙があふれるてくる。

目の前がゆがみ転んでしまわぬように必死にそれを手で拭う。

助けようとした際に付いた、まだ温かい柳の血が涙と混じり顔を赤に彩る。

走りに走って徐々に後ろに見える機体が小さくなっていく。

息を切らしながら計算を続けようとする能力を強制的にオフにする。

そして……轟音。

不知火は吹雪を巻き込み、2機分の爆風が吹き荒れる。

しかし、その風はなぜか妹の笑顔を脳裏に浮かばせた。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その1


九羽 彩子サイド

狭い座席に座っていると体が痛くなってくる。

オレたちの一世一代の決起が終わってはや3日。

この3日間、状況が飲み込めないでいる。

……いや、わかろうとしていないだけなのかもしれない。

柳が死んだ後、それを待っていたかのようにやってきた軍隊。

わけもわからないまま拘束されて営倉入り。

そして3日たったこの日に小さな輸送機に詰め込まれて1時間。


「彩子ちゃ~ん、お話なんかしよ~よ」

「だぁーうるさい(棒読み)」

「……魅瀬でめえ……いちいち人の台詞を先に言うんじゃねえ!」

「不可抗力」

「んなわけあるかというか、意味不明だ!!」


女3人よればなんとやら……一応、女のオレがいうのもなんだがな。

つうわけでこいつらも生きて拉致され、ここにいるわけだ。

口では迷惑がってるけど正直、生きていてくれて嬉しい。

こいつらも同じらしくこうやって絡んでくるんだ。

2人とも柳が死んだことは知っている。

オレと同じであの戦いを見ていたそうだ。

柳の死はたしかに悲しいし、考えただけで鬱になりそうだ。

だけどあいつも沈み込んだウインド隊なんて見たくないだろう。

馬鹿騒ぎをしてこそのウインド隊……あいつが好きだった部隊だからな。

だがそんな騒がしく狭い空間にはもう1人だけ存在する。

同じ狭い座席に身動きひとつせずに目を瞑り眠っている男……御城 衛、柳の兄貴だ。

眠っているのは多少語弊があるかもしれない。

目を瞑っているが起きている……つまり、寝たふりだ。

こんなにうるさくしているのだから当たり前だ。

だが起きてきてこちらに入ろうとはしない。

それも当たり前……自分が殺した妹が指揮していた部下、しかも妹と同じくらいの年齢なら尚更だ。

ショックで塞ぎこむとまではいってはいないけど……人との関わりを避けているようだ。

とにかくああだこうだオレ達がいっても効果はないだろう。

そう思っていると奥のコンパートメントから国連の男性仕官がでて来てこちらに向かってくる。

そして怪訝な顔をしたオレ達の前までやってくると、手にした書類をむっつりとした顔で渡してくる。

兄貴を見ると既に起きていて書類を受け取っていた。

……やっぱり寝たふりだったようだ。

あいつのことを見ているとこちらの視線に気づいたのか、視線をこちらに向けてくる。

目と目があった。

だがそれも一瞬すぐに興味をなくしたように手元の書類に目を向け、読み始める。

……単純にその仕草がむかつく。

口をへの字にしながら振り返ると、そこには何時もならへらへらした顔ではなく、妙に難しい顔をしている元気の顔があった。


「おめえら、何難しい顔してんだ?」

「……彩子ちゃ~ん、書類だよ書類~」

「はっ?」

「……書類の中身、見たほうが早い」


書類の中身……?

そういえば見てなかったな。

この2人が難しい顔するってことは相当厄介なもんなんだろう。

何気なく書類に記載されているものを読み進めていくと……厄介どころではないということがわかった。

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鳴海 孝之サイド

「ようこそA-01部隊へ」

目の前に直立不動で立つ1人の青年に3人の少女たち。

4人とも真新しい黒い国連軍の制服を着ている。

だが青年のほうはそうでもないが、3人の少女たちは表情が硬い。

まあ、無理もないか……。

3人が3人とも帝国軍……それも先日鎮圧されたクーデターに参加していたものたちだ。

資料によると撃墜されて救助を待っていたところを拘束、3日間営倉にいれられ、今日になってここに連れてこられた。

その間、輸送機に乗っている間に書類で説明した以外は何も教えられていないようだ。

青年……御城 衛は副司令の元で任務に当たっていた分予想できていたのか、落ちついている。

だが少女たちはいきなり国連軍に入隊、特殊任務部隊に入れなど言われて、了解しました……というわけがない。


「オレはこの中隊の中隊長を務めている鳴海 孝之中尉だ。

 A-01とは手元の資料の通り、オルタネイティブ第4計画を完遂させるため、それに特化した作戦のみを遂行する専任即応部隊だ。

 国連軍が表立って関与できない作戦であっても、超法規的措置により派遣される。

 ……元々連隊規模だったが損耗激しくいまや2中隊しか残っていない。その内のひとつがオレの指揮する部隊だ。

 そして君達はその部隊に編入される衛士……というわけだ・・・・・・」

「…………」

「各自、これから自己紹介をしてもらうが……その前に紹介しておこう。

 オレの横に立っているのは副隊長の平 慎二中尉だ」

「平 慎二だ。よろしく頼む」


慎二は敬礼をして新人たちに挨拶をする。

勿論彼女達も軍人なのだから答礼を返してくる。


「まあ、こいつの趣味は危ないから気をつけといたほうがいいぞ」

「おい、孝之!!」

「わかったわかった。……ああそ言い忘れたがこの部隊では部隊外以外、堅苦しい態度はなしだ。

 ……それでは左から順に自己紹介を始めてくれ」


そういうと3人の少女のひとりが一歩前に進み出る。

ボーイッシュな感じの女の子だ。

どこか知り合いの女と似ている感じで……そこそこ発育がいいみたいだ。


「九羽 彩子少尉です……すみませんがひとつ質問していいでしょうか?」


……ああ、やっぱりそうくるのね。

横に立つ慎二に目を向けると、同じようにこちらに目を向けてきた。

その慎二の目は言った。


{許可してもいいんじゃないか?}


でオレの返答は


{自己紹介が終わったあとだ}

{了解}


というわけで会話終了。

合計タイムはコンマ3秒。

最高記録達成=やっほーーーーーー!!

……何言ってるんだろオレ……しかも男同士の目の会話なのに……またあいつにからかわれちまうよ。


「……鳴海中尉?」

「……質問は全員の自己紹介の後にしてくれ」

「はあ……?」


なんか上官としての威厳を激しくなくしたような気がするが気のせいだろうか?

……いかんいかん、弱気になるな鳴海 孝之。


「では次」

「はっ!伊間 元気少尉であります」

「……魅瀬 朝美少尉であります」


妙に元気な女の子、寡黙な不思議オーラをだした女の子。

……なんか妙にレパートリーが多い気がする。

それはともかく最後の自己紹介は――。


「御城 衛少尉であります。よろしくお願いします」


敬礼しながらの自己紹介だが、なにか欠けているような目をしている。

また隣に立つ慎二を見る。

慎二の顔は歪むのを耐えているような表情をしていた。

この慎二の表情はオレは見たことある……いや、オレ自身に向けられたことのある表情だ。

……2年前のあの事件――。


「鳴海中尉……?」

「!!」


……今はブリーフィング中だ。

物思いにふけるときじゃない。

あの事件をいまさら振り返ったところで何になるっていうんだ。

それにあれはもう解決して彼女も無事じゃないか。


「ああ、すまない少々疲れが溜まっているようだ……。さっき質問があるといったがなんだ、九羽少尉?」

「は、はい。元々国連軍である……御城少尉はともかく、なぜ帝国軍のである私達が……いえ、なぜ私達が選ばれたのですか?」


予想どおり質問だが、オレも慎二もその質問には答えられない。

なぜなら……そんなお偉いがたが決めたことなど知るわけがないからだ。

ましてあの副司令の考えていることを理解しろというほうが無理だ。

だがひとつだけ知っていることがある。

それこそこの隊がオレと慎二だけで約1年も無茶としかいえない任務をやっていた理由だ。


「……私はそれについては知らされてはいない。ひとつ言えることは超法規的措置、

 またはオルタネイティブ計画の原則によって派遣されたということだ」

「オルタネイティブ計画の原則?」

「正確には原則ではない。基本的にオルタネイティブ計画を主催する国、つまり日本が計画に使う人員、装備、費用を全面負担する。

 過去の計画を推進した国もでも同じように負担している。国連軍が帝国軍に人員提供を要請してそれを受理、派遣ということだ」

「…………」

「先程知らないといったがひとつだけ知っていることがある」

「……一体何ですか?」


ブリーフィングルームは緊迫した空気で満ちていく。

オレと慎二が……今はいない前隊長が必死になって、無茶な任務でもやり遂げようとした理由。

それをこの新人……あらたな幽霊たちに教えてやらねばならない。

できるなら教えたくない。

だが教えなければならない。

例えそれが戦場で死につながるとしてもだ。


「この隊の中隊の通称……といっても隊内だけだが……わかるか?」

「……わかりません」

「エインヘリャル中隊だ」

「エインヘリャル?」

「北欧神話の中にでてくる戦乙女ヴァルキリーが集める魂、戦場で戦死したものたちの魂だ。

 そしてこの魂たちは来るべき最終決戦のために戦死者の館で日々鍛え続けられる……そういうことだ」

「!!つまり私達は……!?」

「……そう死んでいることになっている……今頃KIA認定もすまされているはずだ」

「そんな……それでは……」


驚愕を通り越してショックのあまり、同じ言葉を何度も呟き始める九羽少尉。

そして段々と目に涙を溜め始めたのだ。

他の2人の少女たちも同じように目が潤み始めている。

だが御城だけは悲しむわけでもなく、むしろ逆に笑いをこらえるように手で口を押さえて肩を上下に揺らしている。

……やはりそうか。

御城の笑いを見て、さっきの考えが確かであることを認識した。

オレは慎二に目配せする。

慎二は瞬時にオレの意図を察して一歩前に進み出る。

そして胸を張り、腹筋に力を入れて声を絞り出す。


「全員!気を付けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


その一声の前に呆けるような訓練をつんできた兵はこの場にいない。

涙を浮かべ、頬に流れるのを必死に耐え直立不動の格好をとる鋼の少女たち。

死んだということにされ、憤る前に涙を流す弱き心を鋼で覆う。


「これより隊規を教える。全員、復唱せよ!!」


【弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け】


…………。

2年前にも明星作戦でBETAに機体を破壊されて殺されかけているときに、

助けてくれた赤い不知火が、震え上がっていたオレ達に向かって獣のように戦いながら叫んだ言葉だ。

正確にはもっと小難しいことを言っていたような気がするが、オレ達が思い出せる断片を繋ぎ合わせて作り、この部隊の当時の隊長に提案したものだ。

死人である隊の者に任務を遂行し続けることでオルタネイティブ4を成功させ、

光あふれる世界に戻ることができる、という希望を本当の死のあふれる戦場であげた……魂の咆哮。

隊長はものすごく気に入ったようでそれを笑いながら採用してくれた。

こうして隊規など存在しなかった部隊に鉄を鍛える炉の中の火が灯った。


「……オレ達は生きている。生きているのだから生き続ける義務がある。

 たとえ死んていると指差されて言われようとも、オレ達の体には血潮が流れている。

 強き心を持て!できなければ鋼で心を覆え!生への渇望がない限り、日の本へと戻ることはできるはずがない!!

 立ち上がれ!!気高く生きろ!!そして戦え戦士達よ!!」


オレは慎二の前へと進み出て柄にもなく、熱弁を振るう。

自分で言っていてくさいどころか莫迦とも取れる熱血演説。

神宮司教官が聞いたらもっとましな言葉を考えろと言われるだろうな。


「っ……ぅ……ぅぅ……」


だが3人の少女達に思いは届いた。

再び涙を流し始めるが、先程とは違う意味のものだ。

彼女達はたしかに弱い。

だがその弱さは炉に入れられる前の鉄鉱石のそれだ。

それゆえに炉に入れ、鍛え上げれば心を守る鋼の籠も必要ではなくなるだろう。


「…………」


しかし、御城には通じたのかどうかわからない。

御城のほうを見れば、さっきとは違う笑みを口元に浮かべていた。

だが笑いといっても声を上げたり、肩を揺らすような物ではない。

さっきの笑い方は自虐的と言えるものだったが、今回の意味は自嘲とでも呼べるものだろうか?

……いずれにしても任務に支障が出ないうちに片付けなければならないか。


「……この隊規を胸に刻み、任務を遂行しろ。そして生き返って見せるんだ。

 ……他に質問がないなら基地施設の案内にするが?」

「……隊長~」


以外にも涙を袖拭いている3人娘のうち……伊間少尉が手を上げて発言許可を求めてくる。

こればかりは予想していなかったが、なんだ?


「なんだ伊間少尉?」

「堅苦しい態度はなしってどういうことで~すか?」


…………。

…………。


「元気。質問の順番をオレより先にしろよな」

「……雰囲気台無し」


九羽少尉、魅瀬少尉……心の代弁ありがとう。

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御城 衛サイド

陽が沈み、その残滓が空の向こうに消えようとしている。

関東地方と違って九州はまだ暖かい。

おかげで寒い思いをしなくて済んでいる。、

そういう私はブラブラと何のあてもなく外を歩き回っているしだいである。

基地施設の案内も終わりっても、まだうろうろしているのはそれなりに理由があるからだ。

まず心の整理からはじめることにしたので、じっとしているよりも動いているほうが頭が回るのでこうして歩いている。

認めたくない妹の死。

急な任官、転属。

KIA認定された兵士が配属される奇妙な部隊。

これについて詳しく鳴海中尉に聞いたところ、存在するもう片方の中隊はこちらのことを知らされていないそうだ。

だがあちらの中隊長だけは知っているかもしれないといっている。

なんでもあちらの隊長は副司令の右腕を務めているくらいオルタネイティブ計画の機密を知っているらしい。

鳴海中尉は左腕何ですかと聞くと、彼は笑ってそれを否定した。


『そんなに信頼されているなら補給をもっとまわしてくれるはずだ』


なんでも1年近く人員補給がなかったらしい。

その間たった2人で任務をこなしていたそうだから戦術機の操縦技術、指揮能力は脅威的だ。

それを指摘したら少し沈んだ声でいった。


『任務といっても他の軍に混じっての任務が多かったら、そいつらが変わりに犠牲になっただけだ』


彼もまた誰かを犠牲にして生き延びたらしい。

だからこそあの隊規を謡っているのだろう。

しかし私は生きる気力がない。

妹を殺して生き延びて、さらに死人扱いされてまで生き延びてどうするのだ?

私に生への渇望などない。

望んでいるのはガランドウの胸を抱いて眠れる死地だけだ。

死体は死体らしく墓の中で暗闇を見つめてればいい。

もう私に守れるものなどこの世に存在しない。

人も誇りも自分自身でさえも……。

殿下でさえ、もう守ることはかなわない。

こんな惨めな生になんの意味がある?

そう思いながら空に輝き始めた一番星を見上げるのであった。



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/21 23:05
香月 夕呼サイド

オルタネイティブ第4計画 00ユニット開発経過報告書。


typeK:擬似生体ボディ完成率85%

     滞りなく進んでおり明日中に完成予定。

     人格メモリーグレイ・ナインにインストール完了 ボディにいつでも搭載可能、タイプMのデータ移植も同時に成功。 

問題点 :社霞によるリーディングをおこなったところ、思考といったものが殺意、憎悪、嫉妬?といったような

     負の感情がルーチンワークのように繰り返されており、ボディに入れ次第調整が必要。


typeM:擬似生体ボディ完成率42% 

    資料不足、ESPでの干渉の拒否により身体データの取得の遅れにより、開発の遅延。

    人格メモリーの複製は完了。これによりオリジナルの若干の劣化を確認。またコピーに成功したものの若干の性能低下が認められる。

問題点 ;上記のように社霞によるデータ収集、身体データ不足により、開発が遅延。これにより帝国軍へ再度の資料提供を提案。

     また、人格メモリーの複製によるオリジナルの劣化が発生。これ以上の複製処理、および放置は不可能。

     早急にグレイ・ナインへのオリジナル、コピー、両人格メモリーのインストールを提案。


                                            以上 本日の経過報告終了


「……本命は滞りなく順調。予備の方は遅延か……まあ、特に問題はなしね」


丁寧にまとめてある書類の束を椅子の背もたれにゆったりと身を預けながら目を通す。

オルタネイティブ第4計画、最大にして最高の到達点であり、人類史上最大最強の対BETA兵器。

その名も00ユニット。

私はついに辿り着いた……。

白銀の世界の私の力を借りたとはいえ辿り着いたのだ。

なにかこうぽっかりと胸に空いたところが気になるがともかく理論を完成させて辿り着いたのだ。

これでオルタネイティブ4が中止されることはないし、人類の反撃を始めることができる。

ここまで来るのにどれだけの犠牲を払ったことか……。

……あいつのほうはどうなっているのかしら。

九州にいるあいつの報告によると妹の死が余程ショックだった様だ。

まったく、情けない。

よくあれで一族の長をやっていけるものだ。

そんなことでは、眠りについている彼女も浮かばれないだろう。

鎧衣の奴もアフターケアなしで雲隠れしてしまうし、小さな問題がどんどんと積み重なっていく。

……まあ、御城を鳴海のやつがどうにかするだろうけど、任務が終了すればいやでも立ち上がるだろう。

任務の成果があいつを立ち上がらせる……凹んだときの為にそう仕組んだのだから。

たとえそれが憎悪であったとしてもだ。

机の端にある受話器に手を伸ばし、中央作戦司令室のピアティフに連絡をいれる。

2、3回呼び出しコールがなったあと、回線がつながる音と共にピアティフの声が聞こえてくる。

「何でしょうか、副司令?」

「整備班に九州に送る機体のシステム搭載、および整備を早めて明後日には搬送を済ませるようにいって頂戴」

「わかりました」

「ああそうそう、ユニット搭載はくれぐれも慎重に扱ってと念を押してね」

「……了解。そう伝えておきます」

「頼んだわよ。じゃよろしく」

受話器を元に戻しながら思うが、最近整備班の負担が増えてきている。

XM3しかり、XMシステムしかりだ。

司令を通して国連本部の方から整備兵をまわしてもらって負担を軽減して入るが、これ以上の人員補充は難しい。

どこの戦線も前線、後方共に人員の損耗は悪いのだ。

いくらオルタネイティブ計画を優先するからといっても無理な物は無理なにだから仕方ない。

帝国軍は例の事件の混乱から脱したが、次の作戦のための準備で忙しいため人員の支援は難しいだろう。

まあ、それでも何とかなっているうちはいいわ。

戦局も食料も心の余裕も……人類に残された時間は少ない。

そう思い指示を出すために再び受話器に手を伸ばした。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その2


御城 衛サイド


「元気……これなんつう機体だ?」

「私も知りませ~ん」

「……右に同じ」

私たち死人がいる九州の地に送られきた戦術機たち。

現在、私達用の戦術機が搬入されると九羽たちに知らされ、半ば強引につれてこられたのだが

彼女たちは思わぬ機体に多少脱力気味になっている。

ここは九州という地方名が示すとおり日本国内だ。

そのはずなのだが……目の前の機体を見るとどうにも寝ぼけているのかと思ってしまう。

この機体は陽炎、撃震といった旧式でないのは確かで、第3世代機なのも確かだ。

だが日本製の吹雪、不知火とは全く違う国連カラーに染められた姿。

不知火たちと同様、装甲は極力軽量化されており、高い戦闘機動を誇るようだ。

そして1番の特徴は機動に支障のない程度に大型化されたブースターだ。

それが腰部に備えられ、ここからでは見えないが後ろ腰にプロペラントタンクがとりつけられているようだ。

私の覚えではこの航続距離を重視した設計はアラスカ・ソビエト軍の戦術機のだ。

「Su-37 ジュラーブリク」

パッと後ろを振り向くとそこには鳴海中尉がいつの間にか立っていた。

「アラスカ・ソビエト軍がF-15 イーグルを参考にして設計された第3世代戦術機だ」

「……なぜソビエトの機体がここに?」

その問いに鳴海中尉はやれやれといった仕草をしだした。

一見人を馬鹿にしているのかと思うが、単に説明するのが面倒なだけなのはこの数日間でわかったことだ。


「なぜって言われればオレと慎二の機体もそうだから……じゃ、納得しないだろう?」

「当たり前です」

「九州にくる前はユーラシア北部で任務に当たっていて、そのときに支給された機体がジュラーブリクだったんだ。

 それでなぜかそのまま返納せずここの戦線に異動、中隊の機種をそろえる為に取り寄せたってことだ」

「…………」

妙な話だ。

補給のことを考えても、わざわざソ連から取り寄せる意味がないし、こちらには不知火がある。

どっちの機体も優れた機体だが、日本の戦場なら不知火のほうが優れている部分が多いはずだ。


「やっぱり変だと思うか?」


考えが顔に出ていたのか鳴海中尉はまた話しかけてくる。


「オレも整備やらなにやらデメリットが多いはずが、なぜ遠くの地から取り寄せたのか?

 部隊の機種あわせなら不知火で統一したほうが遥かに合理的だ。ではそれを曲げでもなぜ取り寄せたのか?」


私が疑問に思っていることを次々に口に出してくる。

その答えを知ってるような素振りを見せおり、それを口にしようとしていた。


「それはだな――」

「ソ連が最近資金難に陥っていて、装備を外国向けに売り出し始めている。 それを国連が買って時期主力機候補に持ち上げようとしている……だろ?」


鳴海中尉の後ろからゆっくりと現れ、台詞を奪う平中尉。

鳴海中尉は説明を奪われて不満顔で振り返り、文句を口にし始める。


「慎二~、人の台詞をとるなよな~」

「情けない声だすなよな。それにお前の言ってることは憶測だろう?他に理由があるかも知れないじゃないか。

 それよりオレとしてはSu-47をまわして欲しかったんだけどな」

「ありゃ無理だろ。機密云々で公開されてるデータも限定されてるだろう?あれに比べればまだ米国のF-22Aの方が可能性あるぜ」

「そうだけどよ……なんだかんだいってこの機体に乗って1年以上たってるだろう?

 いまさらコクピットのレイアウト変わるのも面倒だしな」

「まあ、その話も新型まわってきたときのことだがな」


盛大に溜め息をつき始める2人。

結局なぜジュラーブリクがまわされたのかわからずじまいだった。

私も溜め息を1つつくとこれから愛機になるであろう戦術機の方に目を向ける。

だがその足元にりる九羽達と目があってしまう。

あちらも目があったことを口実にこちらに近づいてくる。

口をへの字に曲げ、眉間に皺を寄せている。

何故そのような顔をしているのかわからないが、1つだけわかることがある。

彼女たちの機嫌取りをしなければらないということだ。

そう思っている間に彼女たちは私の元まで来ると口を開く。


「なんで不知火じゃねえぇぇんだ!!」

「そうです~よ」

「右に同じ」


この後鳴海中尉と平中尉が私にしたように同じ説明をもう一回することになった。

……それにしてもこの基地は居心地が悪い。

帝国軍の兵士たちの視線が通路を歩くたびにちくちくと刺さってくるのだ。

好意や敵意が半々したような視線は常にこの国連の制服と日本人というステータスに突き刺さる。

帝国軍の兵士からすると日本人でありながら帝国軍に入らずに国連に入った者は毛嫌いする傾向がある。

だが12.5事件以後、国連が殿下を助け出した為に以前よりマシになった。

この国では殿下は国民の心の支えで、それを助けたのだから好感度が上がってしかるべきことなのだ。

しかしこの戦線ではそうはいかない。

彼らは帝都からもっとも離れた戦線なので殿下を助ける任務につけなかったのだ。

自分たちは出撃できなかったがゆえの嫉妬が敵意とばり国連軍に向けられる。

一方で殿下を助けてもらった好意が確かに存在する。

その2つが混ざり合い、なんともいえない背中が痛いのやらむず痒いのかわからない居心地の悪さを感じさせるのだ。

それにジュラーブリクなどという機体がこの基地に入ってのだから、この先どうなることやら。

横浜基地にいる月詠中尉もこのような気持ちを味わっていたのだろう。

元気にやっているのだろうか?

……ふっ、おかしいものだ。

生きる気力がないといっていたのに他人の心配事をしているとはな……。

これも同じ境遇に立たされている少女たちの影響なのかもしれない。

彼女たちは柳の死や今の境遇に折り合いをつけたようで、確実に足を前に出して歩み始めた。

だが私はまだ足を止めている。

私はこれでいいのかと自問する。

自問すればするほど答えははっきりしているのだが、歩みを再開する勇気がない。

柳を殺した罪を置き去りにするようで後ろめたいのだ。

……殿下、私は逃げているのでしょうか?

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月詠 真那サイド 横浜基地にて

冥夜様の心は滝のように血の涙を流しておられる。

御城を失い、神宮司軍曹を失い、また一人と、いつ死ぬかわらない最前線へと赴いていった。

志を同じくする友、自身を鍛えてくれた師失った。

そして今度は最愛の人であろうあの男が……。

…………。

人はいつか死ぬ。

だがそれを経験するにはあまりにも早すぎるのではないだろうか?

近頃切迫した状況が人の運命を加速させているとしか思えなくなってきた。

夜空に輝く星の下で夜風にあたり、廃墟を見下ろしていてもそれは止まらないのだろう。

風になびくこの髪のように。

……殿下の命により、もう少しで護衛の任を解かれてしまう。

この場に御城がいれば安心して去ることができただろう。

だが奴は死に、その血筋も絶えた。

神代たちもその死に対して天に向かって敬礼をしたほどだ。

父と同じ立場に立てずとも同じくらいの武勇を果たした。

それに対する礼らしい。

もしも生きていれば彼の者を斯衛軍にはいれるよう働くことをいとわなかったのだが……。

殿下も御城のことを多少なりとも気にしておられたので、人員交換ということで入ることもできただろう。

……奴は生きている。

公式には死んだことになっているが、戦場を去るときに感じた気が私にそういう考えを植えつけている。

たしかにやつの死を直接見たわけではないし、状況からすると生存の可能性は低い。

だがゼロではない。

理詰めで固められる部分は固めるだけ固める。

ウォーケン少佐の言葉だがその理詰めで固められない部分があるように思えてならないのだ。


「……まだ、やつに向かって敬礼するのは早そうだな。御城お前は空にいるのか?

 それともこの地上に生きているのか?生きているのなら、かならずこの地に帰ってくるが良い」


敬礼しようと上げた腕を下ろし、開いた手を握り締めた。

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鳴海 孝之サイド

専用の通信回線をひらくためIDとパスワードを端末を操作して入力する。

すると画面に呼び出し中の文字が表示される。

何時もすぐに出るということはない。

副司令も00ユニットの完成が目前となれば当たり前のことだろう。

推測が正しいのを肯定するように画面はいつまでたっても変わらない。

ここで席を立ってさよならするわけにはいかない。

もしそうすれば良くて重営倉、悪ければ銃殺、いずれにしても洒落にならないこと請け合いだ。

5分ほど待っただろうか?

今だ画面は呼び出し中を表示したまま変わる気配がない。

もう緊張も解けてしまい、あくびしようと口を開けようとすると急に画面が変わる。

慌てて顎を閉じた為に舌を思いっきり噛んでしまった。


「待たせわね……何やってるの?」


口を押さえて悶絶するの必死に抑えようとするがあまり効果はない。


「きにゅせずに続けてくふぁさい」

「……わかったわ。あまり時間をさけないから用件はさっさと言っちゃうわね。御城のやつはまだ立ち上がれないの?」

「……初日は絶望していた感じでしたが、元々強い精神力の持ち主のようで、ここ数日で立ち上がりかけてますね」

「……そう。なら任務についても支障はないということね?」

「はい。ただ――」

「ただ?」

「あと一歩踏み出すことができていません。隊の者……特に例の3人には積極的には近づいていないようです。

 近づきたがっているけど、近づけないといった感じです」

「それは困るわね。彼女たちとの仲が良ければ良いほどいいんだけど……鳴海?」

「はい」

「何をしてもいいから仲を取り持ちなさい」

「何をしてでもですか?」

「軍規違反だろうが、非常識だろうが、打てる手を使いなさい。わかったわね?」

「りょ、了解」

「頼んだわよ」


副司令はそういうと画面はぷっつりと切ってしまう。

通信時間は5分に満たないだろう。

待たされた時間よりも短いが彼女からしてみれば長く時間を取ったほうだろう。

御城を意地でも3人と仲良くしてもらわなければならない。

でなければ次の任務は半年を通して行なってきた任務の総仕上げの任務だ。

これを成功させなければ死んだ隊員やオレたちの身代わりになって死んでいった戦友たちに申し訳が立たない。

それにオレを好いてくれた二人の女性に会えなくなってしまう……。

最後は私的なことだったな。

ともかくあいつらの仲を取り持つことか。

……とりあえずひとつの部屋に4人を長時間閉じ込めてみるか?

後に慎二とばったり会い、オレの考えをいうとしばき倒された。

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????サイド

世界が暗い。

何も見えない。

でも気分はいい。

私の仕事はまだ?

私の仕事はまだ?

暗い中で私は私を見続ける。

他人は私を見続ける。

そんな気がする。

……考えるのは疲れます。

仕事が来るまで私は眠りにつきましょう。

何も聞こえず、見えず、感じない夢の中へ。



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/17 23:26
イリ-ナ・ピアティフサイド

目の前を派手に舞う書類。

私は尻餅をついたまま、ひらりひらりと落ちてくるそれを呆然と眺めている。

その光景を隣に立っているピンク色の髪を長く伸ばした女性が手に書類をもって呆れた顔をしてみている。


「……ピアティフ中尉、これで何回目でしたっけ?」

「……9回目ね」

「もてもしない量を一度に持とうとするからですよ?」

「……ごめんなさい。涼宮中尉」

「……私に謝っても仕方ないじゃないですか。シャキッとしてくださいよ」


涼宮中尉は呆れた表情を引っ込め、少し心配したような顔にかえる。

彼女が言うとおり、自分では持てない量の書類を一運んでいるせいで書類を落としすぎている。

そのせいで書類は少し皺がよってしまっている。

……また副司令に小言を言われるわね。


「それにしても無理して運ばなくてもいいじゃないですか?この量だと男の人に手伝ってもらわないなら、

 分割して運べばいいじゃないですか?」


彼が九州に極秘に派遣されて、早6日。

そう、彼がこの基地からいなくなってから6日だ。

書類を運ぶときにいつも隣にいた青年は今いない。

彼に頼って印刷室と副司令の部屋を往復することもなかった。

しかし、彼がいないことを忘れて書類を多く持ってしまい、分ける相手がいないことに遅まきながら気づくが

意地になってそのまま運んでいるのだが……結果は見ての通りだ。

それはともかく00ユニットが完成した。

それに呼応して例の機体もモスボール処置が解かれ、整備調整に入っている。

いずれも順調……と思われたが00ユニットの調整が難航していて、副司令は例の作戦に間に合わせるには

何か重要な要素が必要だとかぼやき始めて、再び苛立ちが積もり始めている。

その他にも九州のほうに一任された最新のXMシステム……XMNシステムも順調とはいいがたい。

悪いとは思うが私はこのまま廃案になってもいいと考えている。

あれが完成すればあの人が……御城君が傷ついてしまう。

そう思うだけでなんというか、胸がこう……締め付けられる感じがする。

彼との距離がそうさせるのだろうか?

…………。

しかし、私は軍人だ。

上の命令は絶対、それも人類を救うための重要なことを1仕官の私情で潰すわけにはいかない。

……確か彼の所属する部隊の隊規……弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け。

だったかな?

後半部分は良くわからないが、弱き心をの部分は私もよくわかる。

私も鋼で心を覆うべきなのかもしれない。


「ピアティフ中尉、早く書類を片付けますよ」


気がつけば涼宮中尉が書類を掻き集めはじめている。

散らかした本人が片付けないのはどうかと思うので私も手を動かし始める。

徐々に書類を集めて積み重なっていく。

何気なくその中の手に取った一枚の書類に目を走らせる。

その内容に私の頭の中は真っ白になった。


「どうしました、ピアティフ中尉?」

「……く……」

「?」

「くくくくくくくくく…………彼は一体全体なにやってるんですかーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ど、どうしたんですか!?」


私の握った一枚の報告書。

その内容が私の脳を白熱させているのだ。

九州で彼は一体……あの隊は一体何やってるんですか!?


「その書類になにか問題でも……見せてください」

「だめだめだめだめだめだめだめだめ!!機密書類だから絶対だめ!!」

「????」


その書類を隠すように他のを集めて重ねていく。

帰ってきたら絶対に引っ叩いてやる!


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その3


御城 衛サイド 時間を1日戻し、九州の地にて


これ以上の精神攻撃を受けるのは耐え難い。

目の前の光景を見てそう思うしかない。

足元には酒瓶、缶が少なからず転がっている。

そのさらに先にはつまみが散乱し、その置くには平中尉が倒れている。

現在14:00……つまり陽が上っているうちの酒盛り……重大な軍規違反、

隊全員での愚かなで駄目人間まっしぐらなことを我らが中隊は行なっている最中ということだ。

もしBETAが出現しようものなら何もせずに全滅ということになりかねないのだが……。

……こんなところを帝国軍に見られたらどうしようか?

それどころか自分の首を心配したほうがいいかもしれないな。

そもそもなぜこうなったかというと――。

2時間前。

鳴海中尉がブリーフィングルームに集合するように呼びかけてくる。

PXに食べに行く途中だったが至急集合との事で昼を抜いて集合したのだ。

そして、隊員全員集合してからの一言が


「これより酒盛りを始める!!」


だったのだ……。

勿論私は反対した。

九羽や伊間、魅瀬にしても酒を飲ませるような年ではなし、なにより軍規違反だ。

だが中尉は


「副司令の命令だから反対意見は却下。ここの基地司令に話は通しているので一応問題ない」


副司令……正気ですか?

…………というわけだ。

首の心配をしなくて済むといったがどうしても心配してしまうのが人間というものなのだろうか?

しかし、昨日のシミュレーター演習でも妙に私と3人娘を引き合わせていたし、今日もこれだ。

……なにかきな臭いな。

それはともかく今をどうやって乗り切ればいいのかを全力で考えることが先決だ。


「しょ~う~い~、のみゅペースおちてま~すにょ~」


そうやって声を掛けてくるのは元気印の伊間少尉……だ。

見る限り完璧によっている。


「ああ、すまない」

「さ~け、うまい飲むがよろ~しです。にゃいら中尉も寝てないでおきゅてくだしゃ~い」


そういって彼女は平中尉をゆすって起こそうとする。

しかし、彼は一向に起きる気配をみせないが、それは当たり前だ。

だが酒で酔いつぶれたのではない。

彼はある攻撃により気絶させられたのだ。

その攻撃とは……。


「痛い、痛い、ギブギブ……」

「魅瀬少尉!!オレの台詞をとらないで……ってキャメルクラッチはやめろーーーーー上官命令だ!!」


それを聞くと魅瀬は悩むように首を傾げる。

状況を説明すると、腹ばいになっている鳴海中尉の上に魅瀬が乗りその手を首に掛けている……以上。

鳴海中尉もあの態勢でよく話すことができると感心してしまう。

それはともかく魅瀬は首から手を離し、中尉の上から一時的にどいた。

そう、一時的にだ。


「少尉、わかってくれたか……って魅瀬少尉なんでまた乗っかるのかね?」

「……キャメルは中尉がお気に召さないなら、えび固めならどうです?」

「いや、どうといわれても……」

「それに酒盛り終わるまで無礼講問題なし、任務了解?」

「ちょっと日本語がおかし、ぎゃ」

「ぎゃーーーー(棒読み)痛い、痛い、ギブギブ」


平中尉の場合キャメルの時点で泡を吹いて気絶したのだが……鳴海中尉どこまで耐えられるだろうか?

私も助けに行こうかと思うのだが、こちらも厄介ごとに巻き込まれているためにそれができない。


「御城よ~話し聞いてくれよな~。私だって女なんだからな~」


3人娘の最後のひとり九羽 彩子が私に引っ付きながら延々と絡んでくるのだ。

この娘はカラミ酒……ただ酔うだけならましなのだが、こういう酔い方をするのは厄介だ。

振り払えば泣き出し、相手にすれば面倒で、話を聞いているふりをすると体をくっつけて気を引こうとする。

全員が全員そうではないのだが、この少女はそういった酔い方をするのを身をもって味わっている。

……というか、何故私に絡むのだ。

そんなことを考えていると視界に白い光が瞬いた。

その方向を見るとえび固めをされたまま、カメラを構えている鳴海中尉の姿が飛び込んでくる。


「……中尉なにやってるんですか?」

「任務完了……ぐヴぁ」

「鳴海中尉死んだ?……眠い、寝る」

「…………」


なにがなにやらわからない。

伊間のやつもいつの間にか平中尉を枕にして寝てるいる。

床に転がる酒瓶見ると、2時間という短時間でよくここまで飲めたと思うほどの量なのだから酔いつぶれても仕方あるまい。

……が


「御城~オレはよ~オレは……男っぽいとかいわれるけど女なんだぞ?」

「わかっているから離れてくれないか?」

「いいじゃね~か。それとも女に抱きつかれるのは嫌なのかよ~?それともオレを女としてみてないからなのか~!?」


…………どうやって穏便に離れてもらおうか。

こうしていて本当に銃殺にならないのか心配してしまう。

そう思って私はハッとする。

私は自分の命を心配している。

その事実が私を激しく動揺させる。

私は逝きたいのではなかったのか?

しかし、今はっきりと生きたいと思ったのだ。

一週間も立たぬうちに柳の死を軽んじはじめているのか!?

そう思うと今まで飲んだアルコールが一気に蒸発したような気がした。


「御城どうした?」

「……いや、なんでもない」

「……柳が逝っちまったこと考えてたんだろう?」

「!!」


体を引っ付けていた酔っ払いは急に真面目な口調になる。

だが顔は上気しており、目も視線が少し揺らいでいる。

酔っている……はずだ。


「……違う。この状況をどうす――」

「いつまで足止めて地面眺めてるつもりだ?」

「っ!意味がわからないな」

「地面眺めてあいつはそんなところにはいえねぞ。あいつは死んだら星になるっていってたんだぜ。

 いつまでも地面に寝転がってるわけねえだろ」


柳はもういない。

私は足を止めて柳の死を見ているだけだ。

あいつが帰ってくることはないことはわかっている。

だがその場にいれば死んだ柳に何かをしてやれるはず、そう思っているのかもしれない。


「死んだ奴……同胞にやってやることはわかってるんだろ?柳の奴も自分の死を見続けろといってないし、

 むしろオメエがあいつの死は愚かなことじゃねえっていったろ?」

「!!」

「オメエの心の答えははなから決まってるんだよ。いつまでその道に……入んないで足踏みしてんだ……

 それに御城家のさい……くぅ」


先程までハキハキと話していた九羽は急に眠りだしてしまう。

……燃え尽きる炎のように瞬間的に力だったようだ。

……柳の死を軽んじているのではなく、ただ未練がましいというだけなのだろうか?

それに答えはもうでている……彼女たちはその道に入り、柳の死に折り合いをつけた。

私も入ることが許されるんだろうか?

……この隊の皆、鳴海中尉、平中尉の上官2人。伊間、魅瀬、九羽の3人の少女。

私が守るべきものなのだろうか?

それに207の皆、社、副司令……そして心の奥に映る金髪の女性。

柳の死ばかりに気をとられて忘れていた大切な守るべき人々。

殿下や柳だけ私の全てではない。

それに御城家の再興。

九羽はそれが柳の望みだといいたかったのだろう。

私に抱きつきながら寝ている九羽の髪を撫でながら感謝するのだった。

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社 霞サイド 妙に変?に意訳している思考より

秘書官の中尉。

真っ赤、真っ赤、真っ赤……ウサ耳が小刻みに震える。

城の番人に対して真っ赤に真っ赤に燃えている。

一枚の写真に城の番人と誰かが写っている。

そのもう一人に対しても真っ赤、真っ赤。

……こういうときのことを白の銀はなんていってたっけ?

あっ……私の心が青色になってきた。

……秘書官の中尉、行っちゃった。

…………。

白の銀は帰ってくる。

城の番人も遠い地から帰ってくる。

かならず、かならず、きっと、きっと。

それまで会話を続ける。

返事が返ってこなくとも、私は話し続ける。

たくさん、たくさん、聞こえているかもわからないのだけど。

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鳴海 孝之サイド

「あんた……無茶苦茶ね」

副司令の通信機越しの一言目はそれだった。

無茶苦茶と評したのは昨日の酒宴の事なのは確実だろう。

報告書を作成したときにやりすぎた感があったが過ぎたことは仕方ないと思い、痛む腰をさすりながら例の写真といっしょに提出したのだ。

昨日の今日で提出したのだが最優先で届けたのか、副司令の手元にもうついたらしい。


「いや~軍規違反でもなんでもいいといわれたましたし、例の作戦を行なうのにも時間ありませんからね……」

「……まあ、咎めるつもりはないわ。ちょっとピアティフが――」

「ピアティフ中尉がどうかしたんですか?」

「――なんでもないわ。それより御城のやつはどうなの?報告書を見る限り成功のようだけど……」

「もう大丈夫だと思います。それにしても彼はタフですね。オレのときは遙が……涼宮中尉が怪我したときはあんなに早く立ち直れませんでしたよ」

「……意外ね」

「はっ?」

「あんたが私より先にあの事件のことを話すのがよ」

「……オレもあいつに少し感情移入しているみたいですね。だからといって任務に私情は挟みませんが」

「そう、それならいいわ」


副司令は満足そうに顎をなで上げて始めた。

ストレスの原因が1つ解消といったところなのだろう。

あの事件……。

総合戦闘技術評価試験で涼宮 遙が両足を失った事件……幸い擬似生体で日常生活に支障がない程度に回復したのだが、

それでオレは自暴自棄になりかけていた。

精神的に参っていたにもかかわらず、オレはA-01へと入隊することになり、あの赤い不知火と出会ったのだ。


「鳴海、ご苦労様。後は任務を完遂しなさい。そうすれば貴方達を死者から生者に戻してあげるから」

「言われなくてもわかっていますよ……」

「……そろそろ大東亜連合による甲20号目標に対する定期間引き。甲21号作戦のおかげでなしになるはずだったのを

 無理やり実行させるんだから、失敗したら生ける屍どころか死んでもらうからよろしく」

「……生ける屍のままで死ぬわけにはいきませんよ。実験データはかならず持ち帰――XMNシステムは完成しているのを証明して見せます」

「……頼もしいわね。期待して待ってるわよ」


通信がいつものようにきれ、副司令の姿は画面から消えた。

XMNシステム……いくたの挫折を経験してようやく完成したのだ。

実戦で使えないはずがない。

オレ達をかならず日のあたる世界に導いてくれるはずだ。

……そのためにも新人4人に明星のことを聞かせておくべきだな。

より作戦成功率をたかめる為に……オレのすべてをあいつらに伝えるんだ。

-----------------------------------------

????サイド

近い。

近い。

仕事の時間は近い。

BETAを殺せる。

殿下を助けられる。

人類を助けられる。

typeKも活動を開始した。

私を満たす液体が交換された。

目覚めは近い。

他人が私を見ている。

私も他人を見ている。

他人が他人を見ている。

それも私は見ている。

私は私を見ている。

私も私を見ている。

もう少し、もう少しで世界を見ることができる。

……でもやはり考えるのは疲れます。

仕事がくるほんの少しの時でも私は眠りましょう。

何も聞こえず、見えず、感じない夢の中へ……。



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/06/22 01:04
鳴海 孝之サイド 明星作戦回想

目の前に群がる大小さまざまのBETAども。

蜂の巣にしようが、切り刻もうが無限とも思える数で次々と迫ってくる。

そんな状況で全員が生還するなどありえない。

それを示すとおり、中隊長は既に死んでおり、12機中オレを含めて残り3機しか残ってはいない。

遙が大怪我をしてしまったことを忘れた。

水月が励ましてくれたのも忘れた。

自分がヘタレだということも忘れた。

また1機先任少尉が死んだ。

すでに新型兵器の設置は終了しており、退避勧告も出されている。

最後に残った親友と共に必死になって戦場から抜け出そうと足掻く。

頭をかち割ろうと思うほど恐怖し、腕は自分の首を折ろうと操縦桿から手を離そうとしている。

死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい…………生きたい生きたい生きたい、生きたい!!

相反する二つの渇望が頭を駆け巡る。

そのせいなのか頭には理解できない数式が浮かんできてごちゃごちゃに頭をかき回す。

愛機の不知火は要撃級に幾度となく殴られて装甲が剥がれ落ち、両腕の間接は酷使しすぎて火花を散らしている。

推進剤の残りもわずか……慎二も似たような状況だ。

……もうだめだ……死のう。

生ある限り最善を尽くせ、決して犬死はするな……たしかヴァルキリーズの隊規だったかな?

ははは……オレにはそんなご大層なことはできませんよ、伊隅中尉。

要塞級が3体ほどゆっくりとこちらに近づいてくるのが見える。

ああ、これでもうお終いだな。

さっきまでの恐怖や生への渇望は嘘のようになくなり、最後の静けさのように頭がクリアになっていく。

要塞級が近づいてくるにつれ、要撃級や戦車級などの中小のBETAたちは大名行列が通るかのように避けていく。


「これがオレの死へのバージンロードってか?まったくBETAも洒落たことをしてくれるぜ」


慎二は軽口を返せないのか通信でうんともすんともいわない。

最後の会話は独り言か……。


「君のような若い者が死ぬことを受け入れるにはまだ早いぞ」


突如慎二ではない声が鼓膜を震わせた。

誰だ!?

その声の主を確認する為に要塞級に向けられていたメインカメラを動かそうとしたとき、一体の要塞級の節目に大穴があいた。

それを確認した次の瞬間、要塞級の首が重力に引かれ、落下を始めていた。

友軍だと気づいたのは2体目の要塞級がミンチにしている、傷つきながらもどこか偉大さを感じさせる赤く染められた不知火を確認してからだった。


「見ての通りもう先が長くない老人から、若い君に1つだけ忠告しておこう」

「な、なんですか?」


またもや初老特有の厳格さを備えた男の声が送られてくる。

通信をしながら今も要塞級に取り付き蛇のようにまとわりつきながら戦っている。

だが戦い方はともかく、戦うその姿は歴戦の勇士を髣髴させた。。

初老の男は戦いの中で一呼吸おくと口を開いた。


「戦場では弱き心は鋼で覆え、生きるという意志を最後の最後まで武器として振るえ、さすれば未来が見えてくる。

 …………老いぼれの忠告はこれだけだ。ワシが時間を稼ぐからはやく離脱しなさい……若い炎をここで消すのはまだ早い」


情けないことにオレと慎二は言われるがままに礼も言わずに戦場を離脱した。

そのときは深く考えることをができず、彼と一緒に脱出しようとも考えられなかった。

数分後、新型兵器G弾が爆発した。

爆発自体には巻き込まれなかったが、オレ達は衝撃波に巻き込まれて機体が大破、気絶してしまった。

そして目覚めるとそこはエインヘリャル中隊への入隊の辞令が届けられていた。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その4


御城 衛サイド

私を包み込むような感覚。

まるで誰かに抱きつかれているように錯覚するコクピットの中。

甲20号定期間引き作戦に向けての最終調整、その動作確認の為の実機演習を行なっている。

この定期間引き作戦はハイヴに巣食うBETAを一掃する為の物ではなく、こちらに攻めてこないよう数を減らすのが目的だ。

だがこちらも戦力が消耗するのだから、時間稼ぎの作戦であるのはいなめないだろう。

それはともかく演習のことだが、さすが吹雪と違い、ジューラーブリクは初めから実戦を想定しているので

初じめて乗ったときは反応速度が段違いなのに少々驚いていた。

大型ブースターが生み出す爆発的な推進力、直線的な機動性なら不知火を上回る。

だがその分小回りの部分でイーグルには劣らずとも不知火には少々劣っている……のか?

不知火には乗ったことがないので九羽たちの意見を聞いだだけなので、どの程度劣っているのかはわからない。

……それにしても初めて乗ったときも感じたことだが、このジュラーブリクという機体……何か変だ。

機体の挙動には問題はなく、むしろ良好なのだが……誰かに抱きつかれているようだ。

しかし、決して不快な物ではなく……むしろ安らぎを感じるのだ。


「エインヘリャル4より3へ。どうだソ連製の機体は?」

「ん?九羽か……」

「オレじゃ何か不都合でもあるのか?」

「いや……調子は良好、いつでもBETAを血祭りにあげられる状態だ」

「おうおう、頼もしい限りだねぇ~」


からからと上機嫌に笑いだす九羽。

彼女のほうも調子は上々といったところか。


「九羽、少し聞きたいのだが……」

「なんだ?」

「このコクピット、なんか変な感じがしないか?」

「ああ~言われてみればそうかもな……口ではうまく言えねえが……こう……」

「抱きつかれている……もしくは包まれてる感じか?」

「そうそう、それだ!でもよう外国の機体に乗っていて緊張してるからじゃねえのか?」

「……ん~そうかもしれんな」

「そうにきまってるじゃねえか、深く考えすぎなんだよ」


そうか……気のせいか。

しかし、雰囲気だけではなくコクピットのレイアウト自体がそういった感覚を助長させている。

少し狭いのだ。

今まで乗っていた吹雪に比べてせまっ苦しいというわけではないが、余裕のあった部分になにか詰め込んで広かったのが狭くなった。

そういうふうに私は分析している。

その何かとは多分……XMシステム絡みだと、私は睨んでいる

だが九羽や鳴海中尉も同じようにせまっ苦しいコクピットなのだから、首を傾げざるへない。

あのシステムは1度失敗してからの改良案でも量産化するようなことはまだ書いていなかったし、

量産しても適正者が妹以外に確認ができていない。

システムを操るのに九羽たちに適正があるとも思えない。

しかし、その適正があれば、もしくは適性がなくとも操れるようになっていれば、私の考えている問題は問題ではなくなる。

……私が行なってきた実験データの数々の集大成と副司令は言っていたが、それだけではないようだ。

その新たな要素が何なのか私にはわからない。

この抱きつれているような感覚はそれに関係するのだろうか?

……これ以上の推理は危険だ。

大きな作戦前に余計な疑念を抱き、それが原因で部隊全滅という自体にはしてはならない。

いずれわかることだ。

そう自分に言い聞かせて、思考をやめた。


「……御城少尉、何難しい顔してんだよ?気のせいだといってるだろ?気・の・せ・い」

「そうだな。気のせいということにしておこう」


九羽が心配……というより小さなことでうじうじしてんじゃない、といわんばかりの顔で強調してくる。

年下にまで注意されるとは少々なさけないかもしれないな。


「九羽ちゃんだめ~じゃん」

「そうそう……だめだめだね」


いきなり通信に聞きなれた声が割り込んでくる。

2人の声は例の少女たちの声だ。

他のものと通信をつなげてはいなかったはずだが……。


「てめえら盗み聞きしてたのか!?」

「盗み聞きもなにも私達の通信を終えた後も繋いだままにしてたのは九羽ちゃんだ~よ」

「……ップ」

「!!!!!!!!!!!」

「それに最後の受け答えなんて見てられな~いよ」

「最後のあれ……この前の宴会のことを指すと見た」

「!!!!!!!!!!!」


この前の宴会?

…………あ。


「愛しい彼に抱きついて♪」

「……オレは女だと声を掛け♪」

「だけど彼は困り顔♪」

「気を引こうともっと体を摺り寄せる♪」

「「そして愛しい彼の胸の中でめくるめくる夢の中へ~♪」」

「だああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーやめてくれーーーーーーーーーーーー!!」

「…………」


……あ~そんなつもりは毛頭ないのだが、どうやらからかうためのネタにされてしまったようだ。

まあ九羽が起きるまで胸を貸していたのは事実なのだから仕方ないことなのかもしれない。

3人でギャアギャアと色々まだ話しているが、こちらに話を振られる前に通信をきってしまおう。

が、切ったそばから通信が入ってきた。

仕方ないと思い回線を開くと網膜には鳴海中尉が映っていた。


「どうした、そんなに驚いて?」

「いえ、何でもありません。で何用ですか?」

「な~に機体の調子はどうかと思ってな」

「さっきも九羽少尉に同じこと聞かれましたよ……良好です」

「そうか……ならいい……通信は以上だ」


……?

やけに気になる引き方だったが……まさかな。

PiPi。

ん?今度は全体回線か。

今日はやけに演習終了後の通信が多いな。

回線が繋がり再び鳴海中尉の顔が映し出される。


「エインヘリャル1より部隊各機へ。機体をハンガーに固定後、17:00にブリーフィングルームに集合せよ。

 話はそこでする。1秒でも遅刻したやつは機体の装甲を磨いてもらうからな、以上」


やれやれ、作戦前の最終確認か。

……いや、この部隊の最大の目的であるなにかを発表するのかもしれないな。

それがXMシステムという可能性が大いにある。

いや、それは私の勝手な推理だからそれが正しいとも限らない。

だが重要な話をするのは変わりはないだろう。

そう思いながら機体を格納庫へと滑り込ませた。

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九羽 彩子サイド

明星作戦での鳴海中尉の体験談、赤い不知火。

柳からはざっと聞いただけだが、時期が一致しているのとその作戦に参加した帝国斯衛軍でも赤が参加したのはあいつの親父だけだったという。

鳴海中尉を救ったのは何の因果だろうか。

だがその因果がその息子を吸い寄せたのかもしれない。

その息子御城 衛がこうしてこの部隊に籍を置いているのは運命といわずしてなんといえばいいのか。

決して幸福な因果とはいえない。

だが息子達に教えられなかった最後の教え(少なくとも柳は知らなかった)がこうして受け継がれたのだ。

それだけじゃない。

その教えが鳴海中尉たちを今まで生かし、これからも支え続けてくれるだろう。

どこの親父も背中がでっけえよ。

BETAの本土侵攻で死んだオレの親父もでっかかったなあ……。

ははは、しんみりしちまった。

思い出しただけで泣いちまうなんてなさけねえ。

目に溜まり始めた涙を袖でぬぐう。

……それはそれとしてオレたちの部隊の特務といえる本任務を言い渡された。

甲20号作戦においてかならず全機生還すること。

これは最優先とする。

最初は言ってる意味がただの諸注意みたいなものだと思った。

だが鳴海、平の2人の中尉は同じ事をもう1度言った。

しかし、聞こえてくる言葉は同じだった。

なぜそれが最優先なのかと元気が問いただしたところ、機体に積み込まれている新型兵器を回収するためだそうだ。

データだけではなく、ユニット自体が最重要なのだがなんでも到底、人では運び出せないものらしい。

なんでも聞くにこの新型兵器を完成させるためにこの半年間、任務に邁進していたそうだ。

それにこの作戦を終えれば、生ける屍から生者に戻れると……香月副司令だったかな?

ともかくお偉いさんが元に戻してくれるそうだ。

だが国連軍であることはかわりはないらしい。

それが不満なのだが、人類を救う計画に選ばれたっていうのも悪い気がしない。

まあ、うまくいけば帝国軍に戻れるだろう。

なんにせよ、この新型兵器のテストを成功させるしかないっていうのがオレたち全員の願いだということはわかった。

今はそれだけで十分だ。

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御剣 冥夜サイド

武が帰ってきた……。

ベッドに横たわりながら痛む拳を撫でさする。

香月副司令から極秘任務を受けて最前線へと旅立ったと聞いた1週間前、

元207小隊B分隊のものは驚愕と悲しみに顔を引き歪ませた。

無論、人前ではないが誰もが自分の部屋で枕に涙したことだろう。

実際私もほんの少し泣いてしまった。

今もこうしてベッドに横になりながら目に涙を溜めている。

だが決して恥じることのない涙であるのは確かだろう。

この涙を流させる感情を止めることができない……止めたくない。

このまま寝付き、朝起きればまた武の顔を見ることができる。

私にとってそれがどれだけ大切なことだったのかこの1週間で嫌というほど味わった。

もう離れたくない……!!

大切な人を失うのは2度で十分だ。

涙を腕で拭い視線を巡らしてみる。

すると机に置かれた簡素な人形がおかれているのが見えた。

それは姉上と共に過ごしたことを示す人形。

武が姉上の想いと一緒に届けてくれた何にも換えがたい大切な人形だ。

ベッドから起き上がり机に近づき人形を手に取る。

姉上も武の近況を知りたがっているのではないだろうか?

「……姉上、ご報告します。

 白銀 武が無事生還して帰ってきました。

 姉上をお守りした男なのだから当たり前なのかもしれませぬ。

 お忙しいでしょうからご報告はこれくらいにしておきます」


人形に語りかけることで姉上の耳に届くわけはないが、こうした行為が大切だと思う。

……くす。

武に見られたら意外だといわれかねないだろう。

御城にしたって同じだ。

御城か……。

そなたが武を守ってくれたのか?

もしそうならば、そなたに心より感謝を。

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香月 夕呼サイド

……目の前にあるバイタルモニターを冷ややかに見つめる。

新しい反応が起きたのは確かなようだ。

00ユニットは完成し、あとはデバックと調律を終えるだけとなった。

その作業も難航していたが白銀が帰ってきたおかげで大幅に前進しそうだ。

あとはもうすぐ始まる甲21号作戦での性能評価試験で問題なく作動すれば

オルタネイティブ4の目的は達成したことになるだろう。

だがそのまえに新たに取り入れた拡張機能の有効性のテストが気になる。

あれがあれば、伊隅たちに掛ける負担も減ることだろう。

XMNシステム……これも白銀がいなかったら頓挫していたものだ。

あいつは何気に救世主をやっているところが驚きだ。

あいつも一皮剥けて感情だけの馬鹿ではなくなったようだし、そろそろこちらの情報もあげてもいいだろうか?

……それも明日の様子を見てからにしたほうがいいかもしれないな。

まだ00ユニットの姿を見て動揺しているようだしね。

それにしてもこちらはいつになったら目覚めるのかしら?

もう一方のバイタルモニターを見て反応があるかどうか見る。

だが起動はしているものの目覚めていない。

つまり、端末で言う省エネモードといったところだろう。

何かの拍子にフルに稼動するかもしれないし、一生しないかもしれない。

typeMは劣化させてしまったのが原因と考えられている。

まあ、死に掛けのところを無理やり生かしていたのだからそれも仕方がない。

性能もtypeKと比べて劣る。

しかし、欠陥品とも呼べるこれはまだ利用価値がある。

甲20号の戦いで目覚めなければ、21号でtypeKを使って実験すればいいだけだ。

そして人知れず廃棄してしまえば誰も心に傷を負わなくて済むだろう。

…………。

ふと自分の腕に巻いている腕時計を見る。

……今頃は戦術機母艦に搭載される時間か。

鳴海、御城……できるなら成功させて戻ってきなさい。

そして私を撃ち殺しにいらっしゃい。

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????サイド

悲観的に現実を見れば、悲観的な現実になる。

楽観的に現実を見れば、楽観的に見た分だけ悲観的な現実に。

現実的に現実を見れば、現実は良くもなるし、悪くもなる。

ようは心持しだい。

なにも見えないけど私は存在する。

なにも聞けないけど私は存在する。

なにも感じないけど私は存在する。

だから私は絶望しない。

それが現実だから。

typeKも受け入れた。

なら私が受け入れられない道理ない。

夢から徐々に目をさます。

私はもうすぐ覚醒する。

まどろみから抜け出し、光あふれる世界に私は誕生する。

……もうすこし、もうすこし、手を伸ばせば届く。

絶望させようと牙を剥く闇からの脱出路が私の前へと現れた。



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/01 16:42
御城 衛サイド

潮の香りがささくれ立った心を鎮めてくれる……。

現在、私は夜空の下で戦術機母艦アドミラル・クズネツォフに部隊と共に甲20号目標に向かっている。

その甲板で戦闘直前の興奮した心を鎮める為に海を眺めているわけだ。

だがその意味もあまり意味がなく、かえって武者震いを起こさせている。

まだ見ぬこの先にあの忌まわしきモニュメントが聳え立っていると考えると、人類の一員としてBETAを倒さなければと感じさせる。

今回の作戦が攻略が目的ではないとはいえ、まわりに集まっている大東亜連合軍も早々にこのハイヴを潰したいだろう。

そうすれば大陸奪還の橋頭堡が確保され、甲19、18号と攻略可能になるだろう。

だがさっきも言ったように今回の作戦は攻略作戦ではない。

甲20号ハイヴに直接侵攻するのではなく、その手前の陸で迎撃にでてきたBETA軍を間引きするのが目的だ。

まわりに集まる戦艦や空母の総戦力を考えても攻略など不可能だ。

ここに集まっている戦力は決して少なくはない。むしろ1つの作戦としては大規模な部類に入る。

しかし、それは人間を相手にする戦争での話だ。

空母に収められる機体は全部で16機。

ここには戦術機だけでも6個連隊、これだけでもすでに空母を30を越えている。

その他に機甲部隊は3個師団は投入されているのだから艦隊だけでも口をあんぐりと開けてしまいそうだ。

大東亜連合軍の約5分の1の部隊が間引きの為だけに駆りだされるのだ。

これだけの戦力を投入してもハイヴは攻略は不可能なのだから、この次に行なわれる甲21号作戦はどれくらいの規模の部隊が投入されるのだろうか?

鳴海中尉がいうに国連軍との共同作戦なので少なくとも、ここにいる部隊の3倍は下らないはずだという。

この作戦での私達の任務が達成されれば、その作戦に投入されるかもしれない。

それも死人としてではなく、公的にも生きた人間として参加できるのだ。

……焦るな。

ここで焦って任務を失敗すれば、そこで終わりだ。

生きて再び横浜の地へ……。

さて、作戦開始まで数時間は睡眠に費やさねばなるまい。作戦時に疲れて動けませんでは話にならないだろう。

強化装備着用時の独特の足音を響かせようと足を踏み出そうとすると、向こうから似た足音と共に矢って来る人影が見つけた。


「御城、眠れないのか?」

「平中尉ですか……」


その人影は我らが部隊、副隊長の平 慎二中尉だった。

中尉はこちらにゆっくりと近づいてくる。

その顔は戦闘前にして余裕をもっていることを笑顔という表情であらわしている。


「……なんか残念そうな顔してるな。オレだとなんか不都合でもあるのか?」

「ええ、どうせなら鳴海中尉に来て欲しかったですね」

「嘘つくな、本当は九羽に来てもらいたかったんだろ?」


私の冗談をその上を行く冗談?で見事に返されてしまう。

伊達に副隊長はやっていないということか。


「九羽は関係ないでしょう」

「あれ、そうなのか?オレはてっきりあのくらい小さいやつが……って冗談だからその握りこぶしおろせよ」

「……で中尉はなんでここに着たんですか?まさかオレを冷やかす為じゃないでしょう」

「まあ、そうだな。月並みだけど眠れないから夜風にあたりに来たってやつだよ」

「……意外ですね」

「……お前まさかオレたちが緊張しないとでも思ってるのか?だったらそれは間違いだと認識しておけよ。

 オレたちだって人間なんだ。食ったり、クソしたりするし、恐ければ震えちまう。

 まあ、部下の手前ではそれを無理やりそれを押さえ込むんだけどな。だから今もこうしてここにいるわけだ。

 おっとこの話は九羽たちには内緒にしておけよ?」

「わかっていますよ。平中尉が実戦前にブルってたなんていいませんよ」

「どうやったら今の話がそう聞こえるんだよ?」

「ははは……」


中尉は呆れた顔で私を見ているが、目を見ると笑っているのがわかる。

実戦前のこうやったやり取りが隊の仲間意識を高めて、隊全体の生存率を上げるのかもしれない。

それを実践するために中尉はここにやってきたのではないだろうか?

中尉は呆れた顔を元に戻すと安堵したような表情を浮かべて口を開いた。


「もう大丈夫みたいだな」

「…………妹のことは折り合いつけましたから」

「調べたときは孝之経由でお前の経歴を聞いたときはビックリしたし、大丈夫かと心配したんだからな?

 まあ、立ち直ったようだからよしとするが……念のために催眠処置しておくか?」

「いえ、不要です」

「ならいいんだが……さっき九羽たち3人を処置してきた」

「…………」

「ちょっと興奮しすぎだったからリラックス程度の軽いやつだけどな。

 まあ、対BETA戦は初めてだし、あいつの所属部隊だったのが原因だろうな。軽い刷り込み見たいなのがされているみたいだ」


……柳と九羽たちが所属していた部隊。

帝国軍特別挺身隊。

戦術核そうとうの威力をもつ高性能爆弾、S-11を常時装備する神風特攻部隊だ。

突撃前衛をさらに突き詰めたもので狂気としか言いようのない部隊だ……。

単機で敵陣の真ん中に特攻し、S-11を使い自爆し、味方の進路、または退路を確保するという戦術を前提として運用される部隊なのだ。

明星作戦以前に運用されていたのだが、今は解体されて存在しない部隊だった。

だがあの下郎が妹を人質にする為、九羽たちを巻き込み部隊を創設した。

そして何も知らないまま歪んだ教育を受け、心に何かしらの暗示がかかったのだろう。

だが、クーデターでは特にそういった行動は起こしてはいなかった。

ならばBETAに反応する類の暗示、BETAに特攻しろ、BETAを1体でも多く巻き込んでの自爆をしろ、などだ。


「まあ、暗示っといっても12.5事件前に取り除けなかった部分が少し顔を出した程度だから作戦には支障はないそうだ。

 ここにきて作戦中止するわけにはいかないしな。最悪――いや、なんでもない」


最悪、彼女達を切り捨てるのも止むなし……またはその行動を止めることなく自爆させるのだろう。

仲間を切り捨てるのを善くは思っていないようだが、特務部隊というの非情さが見えたような気がした。


『任務といっても他の軍に混じっての任務が多かったら、そいつらが変わりに犠牲になっただけだ』


鳴海中尉がいった言葉が今になって、背筋に寒気を感じさせた。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その5


九羽 彩子サイド 空母自室

出撃まであと数時間、平中尉に催眠処置を受けさせられて興奮していたのが嘘みたいに心が落ち着いている。

やっとBETAを相手にこの腕を振るえるっていうのに情けねえ話だ。

甲20号間引き作戦。

朝鮮半島に位置する日本にとって2番目に脅威となるフェイズ4に分類されるハイヴだ。

しかし、今回は直接攻略ではない。

いくら新型兵器のテストだといっても目の前にハイヴがあるのというのに攻められないなんて、生殺しもいいところだ。

新型兵器か……。

どんな兵器だがわからないが、とにかくこんな大規模戦力をそろえてまでテストするというのだからすげえものなんだろう。

でも昔は暗号解読器が新型兵器って言われてたくらいだからな……オレたちの戦術機にのせるんだからそういった類のものなんだろうか?

……だとしたらなんとなく脱力しちまう。

やっぱり新型兵器っていうとこう派手にズバーーーーってやったり、ドッカーーーンってやつと相場は決まってるだろう。

しかし、戦術機に搭載されてるくらいにコンパクトなんだからそれはないだろうな……。

噂じゃあ荷電粒子砲を戦術機に持たせようなんてものもあるんだから、どうせならそっちにしてもらいたかったぜ。

まあ、文句言ってもしゃあないし、この任務をこなせば元どおりになるんだから失敗しないよう頑張りますか。

……といっても寝付けねえ。

興奮が収まったと思っていたけど目が冴えちまってる。

仕方ねえ、ちょっくら夜風にあたりにいくか。

ベッドから抜け出し、扉を開けて甲板へと向かう。

時々顔見知りの整備班に眠れないのかと冷やかされたが、適当に挨拶を返して目的の場所へと向かう。

出口について甲板に踏み入ろうとすると向こうに2つの影があるのに気づいた。

2つの影はともに国連軍強化装備をきているそれも男性用だ。

そうすると鳴海中尉か平中尉、御城のやつしかいない。

背丈や物腰から判断すると平中尉と御城のようだ。

平中尉にはお礼もいわなきゃいけないと思い声を掛けようと1歩踏み出そうとすると


「……暗示と……12……なかった部……少し……作戦に支障……ないそうだ……」


怪しげな会話の断片が踏み出そうとした足を元に戻させた。

その場に踏みとどまり強化装備の音量調整を最大まであげて2人の会話を盗み聞きすることにした。

音声は鼓膜を大きく振るわせ、先程よりもはっきりと聞こえるようになる。


「今回の任務、成功すればよし。だが失敗すればあとはないだろう。オレたちの部隊は元々死人で構成されてるんだ。

 利用価値がなくなればハイヴ突入の任務に割り当てられてS-11で即自爆させられるだろう。元々軍隊の数に数えられていない部隊だ。

 それくらいは当たり前に切り捨てるだろうな。それにブリーフィングでもいったがS-11が今回装備されている」


……はっ?S-11?

そんなこと聞いた覚えはないぞ。


「……孝之が暗示のことを考えて九羽少尉たちには話さないことにしたといったな?

 彼女達がS-11をキーワードに暗示が動き出す可能性がある。それで貴重なユニットをまるまる3つ失うわけにはいかないからな。

 任務が失敗したらオレたちの機体は機密保持のためにS-11で自爆させられるが、その前に失うわけにもいかない。

 彼女達に秘密を作るのは申し訳ないがneed to know……知らなくていいことは知らなくていい。

 成功さえすれば知らなくとも問題はないし、余計なプレッシャーを与えることもないからな」

「……勿論彼女達には秘密にしますよ。中尉がいったように知らなくともいいことがあるし、

 任務遂行に不安があればあらかじめ手を打ったほうがいいですからね。しかし、この場でこれ以上の話をするのはまずいです」

「そうだな。彼女達が寝付けずにここに来る可能性もある以上このへんでお開きにしたほうがよさそうだ。

 御城少尉、明日はヨロシク頼むぞ」


2人がこちらに向かって歩いてくる。

暗示ってなんだよ?S-11で自爆?

ハイヴ突入任務でもないのに?

オレは2人に見つからぬように急いでその場をあとにした。

自室につくと乱暴に扉を閉めてベッドに飛び込み、シーツに包まる。

動揺する心を胸に秘めながら……今聞いた会話が夢であることを願いながらオレは眠りにつこうとした。

-------------------------------------------

大東亜連合サイド

「……定期間引き作戦か。定期的に戦力を失わなければならぬとはなんと非効率なことだと思わないかね?」

「BETAのこれ以上の進軍を抑えるには仕方がないことです」


大東亜連合艦隊総司令官、李提督は副官にむかってぼやく。

副官は立場上、その意見に賛成するわけにもいかないのであいまいに答える。

この定期間引き作戦を実施するのは何回目だろう。

いくら攻撃を加えてもどの国の軍隊もハイヴを陥落させることができない現実。

大陸奪還の為に部下を何回送り出し、何回死なせたことか。

息子も戦術機に乗って統一中華戦線で戦死した。

私の後を継いで高級仕官になることを望んでいたのだが、国土を自らの手で取り返して見せるといって聞かなかったのだ。

後方にいればまだ、生き残ることもできただろうに。


「さて今回の戦いでどれだけBETAを狩ることができるだろうな」

「国連軍の新型兵器の出来次第でしょう」


李提督はいつも聞くときはこのようにBETAをいくら殺せるかと聞くときは

どれだけ将兵が死ぬだろうかと考えているのを副官はしっている。

だから副官は国連の新型兵器の話を持ち出した。


「新型兵器ね……それにしたってオルタネイティブ計画の主軸ではないのだろう?」

「しかし、横浜基地の香月副司令は太鼓判を押していますが……」

「そもそもそれが怪しいのだ。太鼓判を押しているのなら開発者本人が来ればいいではないか」

「……これ以上、この場でその話はよろしくないかと」

「む、すまなかったな。オペレーター作戦開始時刻は?」

「あと3分です」

「全艦に通達、定期間引きだろうと手を抜くこと、大東亜の誇りを落とすものなり、BETAを殲滅するつもりであたられたし、だ」

「了解」


李提督は中国人だが、大東亜連合は亜細亜圏の国を複数統合したものゆえに中華の誇りとは言わなかった。

複数の民族が一丸となって向かうのに反感をかうような真似をするわけにはいかないからだ。


「作戦開始時刻まであと30秒、カウントダウン開始します」

「作戦開始と同時に軌道爆撃が開始される。敵の迎撃が終了次第全艦一斉砲撃開始せよ」


今回は定期間引きだから再突入殻での戦術機の増援はない。

ならばこの面制圧ですこしでもBETAの数を減らさなければならないのだ。


「3、2、1、0。作戦開始します」

「軌道上からのAL弾頭の砲撃を確認、光線級の迎撃が開始されます」

「重金属雲発生!敵レーザー減衰確認、迎撃がやみました」

「よーし、全艦砲撃開始せよ!!」

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御城 衛サイド

大規模な面制圧……。

実際聞くと見るとでは全然違うとつくづく思ってしまう。

AL弾頭による重金属雲による守りを利用し、さらに光線級の充電時間をついての面制圧。

これだけで光線級はどのくらいやられたのだろう。

少なくとも展開していたBETAたちに大きな打撃を与えただろうことは想像するには難しくない。


「すご~いです~ね」

「初めて見る」

「…………」


いつもの3人の少女は騒ぎはじめる。

伊間や魅瀬は何時の通り、調子は変わっていないようだ。

少々興奮しているようでこうして部隊内通信を送ってくる始末だ。

だがそのうち3人の中で1人、九羽はその光景をただ黙ってみているだけだ。

何か様子がおかしい。

中尉たちも伊間たちを注意しながらもそれを感じているらしい。

昨日までなにも変わったところはなかったのだが……。

いずれにしろここで放っておくわけにはいくまい。

彼女と話をするために通信回線を開く。


「エインヘリャル3からエインヘリャル4へ。どうした気分でも悪いのか?」

「…………」

「エインヘリャル4、返事をしろ」

「…………」

「エインヘリャル4、九羽少尉!!」

「あ……なんでしょうか」

「なんでしょうかではない。作戦はもう始まっているんだぞ。それでは生きられるのも生きられんぞ」

「……わかってるよ」

「……そうか。処置したいのなら中尉に頼むがどうする?」

「必要ねえよ。こんなところで死ぬつもりはねえし、この程度で根をあげたら柳に顔合わせられねえよ」

「そうだな。お互い生き返って見せようじゃないか」

「当たり前だ!」

「ふ……通信は以上だ」


どうやら心配はなさそう……でもないがいざとなれば私がフォローに入ればいい。

S-11で九羽を自爆なんてさせはしない。

暗示で動こうとしてもその兆候を逃さず計算し尽くしてやる。

柳の戦友を……柳と共に生きた記憶を持ったものを失ってなるものか。


「さて、お喋りはそこまでにしておけよ。オレたちもそろそろ命がけの上陸が始まるんだからな……。

 おっとお祈りくらいはしてもかまわないぞ?」

「エインヘリャル2からエインヘリャル1へ。死人のオレたちが神様に祈ってどうすんだ?まっさきに成仏させられちまうよ」

「そうで~すよ中尉(棒読み)」

「む~魅瀬ちゃん人の台詞とらないで~よ」

「……先手必勝?」

「いや、オレに聞かれても困るぞ魅瀬少尉」


魅瀬が平中尉に何故か問いかける。

ぬう……今のやり取り……なんとなく彩峰を思い出してしまった。

彩峰と魅瀬で会話させたらみすてり~な空間が出来上がるに違いない。


「そろそろコールサインで話すようにしろよ。いくら副司令お墨付きの堅苦しいのなし法令があるとはいえ一応軍隊だからな」

「おまえが言えた義理かよ……」

「うるさいデブジュウ」

「な、孝之おまえ……!!」

「コールナンバーで呼びたまえ、エインヘリャル2」

「くっ!」

「「デブジュウ?」」

「いや、なんでもないぞ少尉たち。気にするな。うんうんそれがいい」

「はいはいはいはい!本当に遠足気分はそこまでしろ!出撃カウントがはじまるぞ」


いや、あんたが煽ったんだろうが……。

という突っ込みを心の中だけで言う。

……おちゃらけた雰囲気でなあなあになっていた雰囲気が瞬時に切り替わる。

伊達に柳の部隊にいたわけではないらしい。


「統合作戦司令部より入電、全機発艦せよ!繰り返す、全機発艦せよ!」

「エインヘリャル1了解。全機、オレについて来い!!」

「「「「「了解!!」」」」」


空母の甲板に並び立つ6機の戦術機がブースターを吹かし次々に離間していく。

こうしてオレたちの生死を決める戦いが始まったのだ。

---------------------------------------------

????サイド

…………。

私は守るこの基地もその中にいる人たちも。

戦場で戦う人たちも私が守る。

もう目は覚めた。

もう少し、もう少しで出口に辿り着ける。

それまでまっててください。



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/01 16:43
????サイド


《増援はまだか!いつまでも持ちこたえられんぞ!》

《私の腕が腕が腕が……ぎゃああああああ》

《タイガー3、タイガー2の援護に回れ!カバーは私が入る!》

《こちらHQ了解した》


戦場の歌が聞こえる。

仲間が来るまでと奮戦する衛士、戦術機に小型BETAが取りつき、生きたまま食われる痛みに対して最後の叫びを上げるもの、

仲間が孤立しないよう気を配る隊長、そして前線からの支援砲撃要請を了解する海の上のオペレーター。

とても悲しく、痛々しい歌声たちは違いはあれどひとつの感情が含まれている。

生きたい……勝ちたいではなく生きたいだ。

戦友と生き抜きたいという感情が自己を叱咤し、その戦友もまた仲間を叱咤する。

生への渇望が仲間を助け、その仲間の生への渇望が連鎖して連携という名の力を生み出す。

しかし、それもBETAという異形の者達に喰らい尽くされていく。

生への渇望だけでは足りないのか?

仲間を生かすために自らを犠牲にすることもまた力を与えるだろう。

だが戦闘が終わった後、誰もが1度は思うはずだ。

あの時もっと力があればあいつは死なずにすんだはずだと。

だがそれは人は傲慢という。

自惚れるな、お前1人のせいであいつが死んだわけではない、あいつが死んだ意味を考えろと、そういった言葉で仲間を叱咤する。

無論、それは悪いわけではない。悪くないからこそ立ち上がり、人は成長する。

死した同胞を思い、さらなる力を手にする……どこの戦場でも聞くことができる美談だ。

だが美談の数だけ犠牲がでており、悲しみがあふれている。

その悲しみは戦友に力を与えるが、残された家族、友人、恋人、いずれにしろ大切な人が心に哀の文字を刻み付けられる。

それを乗り越えてこその成長といえばそれまでだが、もしもだ。

もしも戦場で戦っている最中に力が手に入るとなるとどうなるだろう?

戦友の死で成長する分を以上の力を……戦友を死なせないだけの力を手にすることができるのなら、悲しみは少なくなる。

悲しみが減れば、戦果も飛躍的に上がり、BETAを殲滅できる。

そんな夢のようなことを実現するのが――。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その6


御城 衛サイド

「ハイヴからかなり離れているのになんだよこの数は!?」

「切がないで~す」

「平中尉、2時の方向から要塞級出現しました!」

「放っておけ!今は要撃級の排除に専念しろ!」

「エインヘリャル1よりHQ――弾がこころともない一旦下がらせてくれ」

〔HQ了解、3分後の支援砲撃で後退を開始してください。代わりの部隊をその間に向かわせます〕


支援砲撃まで3分、この数を相手にするのは骨が折れるどこの話ではない。

大東亜連合との共同作戦とはいえ、最初に懸念したとおり数が違いすぎる。

新型兵器のテストをするはずなのに今だに新型兵器の起動準備に入れないのが現状だ。

スイッチ1つで事が済めば、もう起動させているのだが、機密の問題から6機の戦術機がそれぞれの端末にパスワード入力をしなければならない起動しないのだ。

戦闘が始まる前にその作業をすればよかったのだが、戦場の真ん中でやらなければデータが取れないという理由で前線まで持越ししていたのである。

しかし、その判断は間違っていた。

最初の接敵からすでに30分たっているのだが、引っ切り無しに増援が来る為に起動作業に入れないどころか、弾の補給もできないのだ。

よこから沸いてきた要撃級に92式多目的追加装甲で顔面を粉砕、もう片腕にもつ36mmを接近するもう一体に打ち込む。

一息もつかずに行なわれる先が見えないマラソンバトル、精神的にかなりきてしまう。

こういった場合指揮官を潰して混乱したところを脱出するのが定石だが、生憎BETAにそのようなポジションを持った個体は存在しない。

するのかもしれないが、私の計算をもってしてもその特定は不可能だ。

それ以前に迫ってくるBETAの動きを予測するので精一杯で、そういったことに手が回らないのだ。

しかし、その一方で仲間の動きは逐一計算に入れている。

いつどこで援護射撃をいれるのか、背後にBETAが接近していないか、常に気を配っている。

その上で気づいたことがある。


「ああもう!地面からポコポコポコポコ沸いてきやがって、手前らはぼうふらか!!」


エインへリャル4、九羽の動きがいつもより変なことに気がついたのだ。

作戦前も様子が変だったが、今はそれに輪を掛けて変だ。

何時もなら単独で戦うとはしない彼女だが今日はやたらと敵に突っ込むのだ。

彼女は口調や見た目からは想像しにくいが、連携を重視して戦うタイプの衛士なのだ。

我が中隊では突撃前衛などの特化したポジションは採用されていないが、それに準えていえば迎撃後衛が適している。

だが中隊の前衛不足のために私とともに前衛を受け持っているのだ。

前衛といった意味で言えば彼女の動きはおかしくはない。

だが私との2機連携で後ろを任せているというよりもなりふりかまわずに突っ込んでいるように見えるのだ。

もちろん私達を前衛を支援する後衛の四人もやや戸惑っているようだ。


「九羽ちゃ~ん、前にですぎだよ」

「……下がったほうがいい」

「……んの割にはしっかりサポートしてくれるじゃねえか」

「そういう問題じゃないよ~」

「そうだぞエインヘリャル4、そろそろ時間だ砲撃に巻き込まれたくなかったら下がれ」

「了解」


36mmを正射しながら徐々に後退を始める6機のジュラーブリク。

数十秒後にはそれらが戦っていた戦場には雨あられと砲弾が着弾していった。

光線級が地上にいないおかげで着弾率は良好、次々に君の悪い地の花を肉片とともに咲かせ始めた。

……こうして下がってみてみるとあれだけのBETAが群がっていたのかと息を飲んでしまう。

あれだけの大群を見たのは……新潟防衛線のとき以来だ。

大量のBETAに囲まれた私達を逃がす為に単独で挑んだ築地というなの同期の少女。

彼女にいまさらながら敬意を送りたくなった。


「よし、この隙に1キロさきの補給ポイントに向かう。この場はスネーク隊に任せる。全機、最大戦速で向かうぞ」

「「「「「了解」」」」」


--------------------------------------------------------

九羽 彩子サイド

S-11。

ハイヴ突入任務を受けた部隊がかならず装備する高性能爆薬の名称だ。

その威力は戦術核に相当し、頑強なハイヴ壁面も粉砕する。

だがこの爆弾は攻撃には使われることは少ない。理由としては威力がありすぎるためだ。

閉鎖空間に近いハイヴ内で使えば、部隊行動をしている戦術機たちはその火により瞬時に全滅してしまう。

地上は幾分かましだがその爆発半径が広いため、それもむいていない。

それではこの兵器を使うときはいつなのか?

それは自分の生存が絶望しされたとき……つまりBETAを道連れにする為の自爆に使われるのだ。

次の作戦の為にハイヴに損傷を与え、さらにBETAを一体でも多く道連れにする。

その様はまさに太平洋戦争末期に組織された神風特攻隊に近いものだろう。

たしかに未来へ望みを掛けて少しでも相手に損害を与えることは理に適っているし、

オレ達が参加したクーデターでも沙霧大尉が似たようなことぼやいていたらしい。

オレ達もその覚悟で参加した、それはいい。

先程神風特攻隊のようだといったがオレ達元ウインド隊から見れば、美談にしか聞こえない。

さっきもいったがそれが悪いわけではないのだ。

オレ達は本当に神風を行なう部隊へと育てられなければ、この美談を美談として見ていただろう。

特別挺身隊。

この部隊に騙され、所属さえしていなければ……。


「九羽少尉、交代だ」

「……ああ、ゆっくりと補給させてもらうよ」


平中尉が補給の交代を伝えるために通信を送ってくる。

だが彼の顔を見た途端に昨夜の会話が思い出され、ぐちゃぐちゃと脳みそをかき回すような不快感を与えてきた。

平中尉は鳴海中尉の判断でS-11が装備されていることをいわないといった。

確かにオレ達は暗示を訓練校にいるときから徐々にかけられていた。

あの感情が希薄な鬼教官は日々の訓練で気づかれることなく、1日1日と精神を犯して神風衛士を育成したのだ。

オレ達がそれに気づいたのは戦術機訓練をしていたときにトレンチコートを着込んだ変なおっさんが訪れたときだった。

それからオレ達をスカウトしたデブがオレ達を騙していたことを告げられ、クーデターに参加することを決意することになる。

話が少し逸れたが、鳴海中尉の判断は部隊長として間違ってはいない。

実際S-11と聞くと心が反応して、体を動かそうとする。

前進せよ!前進せよ!そしてボタンに拳を叩き込め!

暗示が除去されたはずなのに頭蓋の中で声が反響する。

《休むな!休むな!機体に傷がついてもかまうな!自爆するのに機体の無事など必要ではない!》

教官の姿をしたやつが鞭をオレの体に叩きつけながら命令してくる。

……やめろ。

《なにを迷う?貴様は殿下の為に何かしたいのではないか?》

……違う。自爆したって何にもならない。だからやめてくれ。

《なにが違うんだ?そのような迷いが沙霧大尉を殺したのだぞ。あのとき国連の部隊を突破していれば大尉はしななかったし、

 クーデター成功していたのだぞ?もましてや君の良き戦友だった志津も死ぬことはなかったのだ》

そんなわけあるか!あの時はS-11もなかったんだ!

《なにを言うのだ。少なくとも君が戦闘にたっていれば志津は死ななかったはずだ。君なら跳躍することなく避けきっただろうに

 ああ、かわいそうな志津 梅よ……この臆病な少女の所為で君は死んだのだ。それに今もS-11がありながら味方の活路開かない。

 ああなんと嘆かわしいことだろう》

……もうやめろ。

《新型兵器の死守という名目で押さえつけている悲しい刃。存分にそれを振るって散ればいいものを》

……やめろ……やめろ……やめてくれ。

《拳を振り下ろすだけじゃないか?さあ、さあ、さあ!さあさあ!!》


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

---------------------------------------------

御城 衛サイド

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

コクピットに突如響き渡る叫び声。

網膜に映るエインヘリャル隊の面々の中で一人顔を手で覆い隠しながら絶叫する者がいる。

その絶叫をしているのはボーイッシュという言葉がぴったりの少女、九羽 彩子だ。


「エインヘリャル4、どうした!?」

「オレは……オレは……オレは……自爆なんてしたくないんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ッ!?」

「S-11もっていても使いたくないんだ!だから頭の中で叫びのはやめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」


顔を手で覆いながら頭から何かを追い出そうとするように上下左右に滅茶苦茶に振り回している。

その様子は錯乱していると誰が見てもあきらかだ。

時折指の隙間から見える双眸は瞳孔が細まり、そして何かに脅えるように虚ろに揺れていた。


「エインヘリャル4、九羽少尉!落ち着け!」


鳴海中尉がなんとか落ち着けようと声を掛けるが一向に落ち着く様子を見せない。


「S-11なんて!S-11なんて!」

「九羽少尉、落ち着けS-11がどうしたんだ!?」


鳴海中尉の言葉を聞くと絶叫はぴたりと止み、無茶苦茶に振っていた頭も止まる。

そして徐々に顔を覆っていた手をどけていった。

そこにはいつも男口調を話、ときおり少女らしく純朴な笑顔を浮かべていた顔ではなく、憎悪と絶望を湛えた負の表情が張り付いていた。


「S-11がどうかしただって?それは中尉が1番知ってるんじゃないですか?」

「……まさか……」


平中尉が息を飲むのが聞こえてくる。

まさか昨夜の会話を聞かれていたのか?そう平中尉は言おうとしたのだ。


「オレ達が所属した部隊のことを知っていれば隠して当たり前だけどさ、でもさ……ほら信用されてないって事だよな?

 ああそのとおりだろうな。S-11がこの部隊全員に装備されてるってオレ達、元ウインド隊のやつらには教えてくれなかったんだからな!!」


ひとり問いかけ自己完結し始める九羽。

自爆したくないという願いが急速に逆のベクトルへと走り出したようだ。

錯乱を通り越して精神の平衡を失いかけているのだ。


「……九羽ちゃん、どういうこと?」

「どういうこと?」


もと特別挺身隊の2人も目が虚ろになりだした。

連鎖的に暗示を引き起こしているのか!?


「どういうこともなにも、言葉の意味どおりだよ。オレ達は任務が失敗したら自爆させられるんだよ。

 ははは、おかしいよな~死人が棺桶の中でもう一度死ねっていってるんだぜ」

「そうだね、おかしいね」

「ふふふ」


まずい。

これでは集団でS-11を使ってしまう。新型兵器の起動もできなくなってしまい、彼女らの命も失ってしまう。

そんなことをさせるわけにはいかない。柳の友人をみすみす失うわけにはいかないのだ。


「中尉!早く彼女ら3人に処置を!!」

「ッ!!わかった!」

「!!」


鳴海中尉は急いで通信回線を強制的につなげていく。

秘匿回線B。

戦場で恐怖に飲まれて動けなくなった兵士に使われる強力な後催眠暗示キーだ。

多少の状況判断能力の低下をともなうが戦えなくなるましなので、新兵などによく処置と称して使われることが多い。

今回の場合本来の用途とは違うが、少なくとも正気に戻せる可能性は高いはずだ。

だが私が処置という言葉を使ったのがまずかった。


「処置だと!?オレを自爆させる気だな。そうはさせるか!!」


魅瀬、伊間の2人はそれほど症状がひどくなかったおかげですんなりと秘匿回線Bの催眠を受け入れるが、

九羽少尉はいきなり全回線をカット、データリンクすらも切断し始める。

すべての回線を切断、拒否することで遠隔操作を防ごうという魂胆なのだろう。

こちらが自爆させる気がないにせよ、催眠を防ぐと点でも有効な手段だが、こちらからすれば状況が悪くなっただけだ。

それを裏付けるように九羽のジュラーブリクが長刀を装備し、鳴海中尉の機体に切りかかったのだ。

その攻撃をかろうじて92式多目的追加装甲でそれを受け止める。


「やめろ九羽少尉!!」


中尉が説得を試みようとするが全回線を切っているので聞こえるわけがない。

中尉は九羽機を押しのけると同じように長刀を装備する。


「んん……!?一体どうしたんですーか!?」

「!?!?!?」


催眠を聞いた2人はどうやら正気に戻ったらしく、目の前の光景をみて戸惑い始める。


「全機、九羽機を押さえ込め!!九羽少尉は錯乱している。取り押さえた跡に直接回線で秘匿回線Bで正気に戻すぞ」

「「「「りょ、了解!!」」」」


5機のジュラーブリクが1機のジュラーブリクを中心に囲い込む。

魅瀬、伊間の2人も戸惑いながらも状況を理解して36mmをはずして取り押さえる準備をしている。

じりじりと包囲を狭めていく。

そしてそれに呼応するかのように九羽の機体が動いた。


「九羽ちゃんがくるよ!朝美ちゃん!!」

「……92式で挟み込んで押さえつけるよ」


2人は追加装甲を使い長刀を防ぎながら押さえ込むつもりのようだ。

2機のジュラーブリクが突進してくる1機へと向かっていく。

だが九羽のジュラーブリクはこの最前線ではありえないことをしだしたのだ。


「!!うそ~」

「制限高度をギリギリで飛んでる」


そう九羽は光線級の照射で撃墜されない為の制限高度をギリギリまで飛び上がり2人を交わしたのだ。

2人は制限高度を恐れてそれほど高く飛ばなかったのをいいことにまんまと包囲を抜け出した。


「全機、追撃だ!このままでは本当に自爆しかねない。それだけは絶対にさせるな!」

「九羽ちゃん……」

「絶対に止めてみせる」


2人の少女は九羽機を悲しい目でみながら最大戦速で追いかけ始める。

その中で平中尉は思いつめたような表情をしていた。

まあ、無理もない。私との会話のせいでこうなってしまった可能性がある以上責任を感じているのだろう。

実際私がそうなのだからな。


「…………自分の責任は自分でつけるか」

「そうですね平中尉」

「御城……オレのせいでこれ以上仲間を失いたくない。孝之も同じだ」

「わかっていますよ。だからあの3人に話さなかったというのも理由に入っていたのでしょう?」

「そうだ。だから尚更な?」

「そうですね……いきましょう!!」


対BETAの戦いにおいてあってはいけない内輪もめ。

それを急いで収束する為に5機のジュラーブリクはブースターを命一杯吹かして仲間を追いかけ始めた。



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/14 00:35
九羽 彩子 2001年 春 帝都東京にて

「御城?変わった名前だな」

柳が自己紹介を終えたときのオレの最初の一言はそれだった。

聞きなれない尊大さを感じさせる名字。

挨拶をするときの一連の動作、言葉遣い、どれをとっても育ちのよさを物語っていた。

上流階級のお嬢様。

それが御城 柳という人物の第一印象だった。


「そうでしょうか?」

「そうだ~よ」

「右に同じ」


伊間、魅瀬の2人も同じことを思ったみたいだ。

だが先程自己紹介を終えたばかりだというのに2人共、もう打ち解けてしまうとは余程馬が合うらしい。


「ん~私は当たり前に名乗っていたのでそういうことは考えたことありませんでした」

「ふ~んそうなの……私は志津といいます。以後よろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

「おい、名字はいいとして下の名前はどうしたんだよ?」

「私は柳といいますが?」

「おめえじゃなくて、ええと志津だっけ?おまえだよおまえ」

「…………」


ありゃ?黙り込みやがった。

志津と名乗った堅物そうな女は急に態度を硬化させた。

顔をみるとあまり話したくないといった表情を浮かべている。

その顔をみると伊間と魅瀬のやつが志津のやつにそろそろと擦り寄っていく。

そして2人で志津を挟み込むようにして肩を捕まえる。


「志津ちゃ~ん、相手がちゃんと名乗ったんだからそちらもちゃんと名乗らなきゃねえ~」

「右に同じ」

「あう、あう、あう、あう」


硬化した態度は口からうろたえたような情けない声を漏らし始める。

一体なんだあ?


「それそれ早く話したほうが楽にな~るよ志津ちゃ~ん」

「右に同じ」

「……笑わないでくださいよ」

「ん~笑わないよ」

「んー笑わない(棒読み)」

「……最後の肩が棒読みなのが気になりますが、いいでしょう」


志津はそういうと気分を落ち着けるように深呼吸を1回する。

たかだか名前を名乗るだけなのになにをそんなに緊張するのだろう。

そんなことを考えていると少々大袈裟に肩を上下させてから口を開き、その名前を紡ぎだしはじめた。


「……う……め……」

「もっと大きな声で」

「声で」

「~~~~~~。志津 梅。志津 梅よ!!」


その名前を聞いた瞬間、オレの中で何かが弾けた。

梅、一昔前にこんな名前あったような気がするが、この時代にそれも同世代の少女がこの名前だとは……。

梅には悪いがこれは笑わずにいられない。


「……梅♪」

「……渋」

「くっ……」

「ぷッ……ははははははははは」

「……だからいやだったんですよ!幼いときから梅昆布とか梅ばあちゃんとかいわれて笑われたから

 今回は秘密にして志津と言われるようにしたかったのに~」


この後見事なほど泣きに入った志津を2人で……オレと柳だ。

伊間と魅瀬のやつはずーオレ達の横でいじめっ子の如くしつこく名前のことをはやし立てたのである。

まあ、すぐに泣きから怒りに変わった志津に鎮圧されたがな。

……あの時は楽しかった。

特別挺身隊のことも知らず、死人扱いされて生きることもせずにただ……。

ただ殿下のためにと仲間と語り合ったあのときが……。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その7


御城 衛サイド 再び時は現代へ

「九羽機との距離、200!!依然距離は縮まりません!!」

「絶対にこれ以上離されるな。なんとしてもBETAと接触する前に取り押さえるんだ」


地上を時速500を越える超速度で土埃の尾を引きながら駆け抜ける戦術機たち。

推進剤のことも考えずに大型ブースターをフル稼働させて、九羽機に追いつこうとしている。

推進剤の燃える音は私の心……エインヘリャルたちの心を代弁するように猛り狂っている。


「九羽ちゃんはやく正気に戻ってよ~」

「右に同じ……だけど機体性能は同じ、地形は平坦。これじゃあ追いつけない」


魅瀬のいうとおりこのままでは追いつくことは不可能だ。

足を止めるにしてもその場合は武力行使……発砲することになる。

だが鳴海中尉はそのようなことをするなと厳命した。

理由としてはやはり新型兵器を無事持って帰ることだろうし、誰も好き好んで仲間を殺したくはないのだ。

ただ闇雲に前進している戦術機1機を集中砲撃すればものの数秒で沈黙するだろう。

運良く機体が四散しなくてもこの速度で地面を転がれば、中の衛士はどうなるなど想像するには容易だ。

それに搭載されている新型兵器もただではすまない。

そういったことから発砲許可をださないのだろうし、私のESP能力プロジェクションを使って説得を試みさせているのだ。

私の能力を知っていたのは副司令が教えただろうからいまさら驚きはしないが……私が説得するには欠点がある。

通常のESP能力者はプロジェクションのほかにリーディングを行なえるが、私にはその能力はない。

プロジェクションで伝えてその返事を聞くということができないのだ。

一方通行の会話ほど人は忌避をしたがるものだ。

現に九羽は機体を止める気配を一向に見せてはいない。


「進路方向5キロの地点に師団規模のBETA群確認!ななな、鳴海中尉~」

「落ち着けエインヘリャル5…………エインヘリャル3説得のほうは効果は期待できそうか?」


効果は期待できます、もう少しお待ちください。私はそういいたい。

彼女を救うためにそういいたいが、このまま進めばBETAの群れに突っ込むことになる。

乱戦になれば追いつくこともできるだろうが、彼女を捕まえる為には足を止めなければならない。

群がるBETAの中で足を止めればタコ殴りにあうのは必すだ。

隊全体のことを考えれば私情で言うべきことを捻じ曲げるべきではない。

そう自分に言い聞かせて口を開いた。


「望みは薄です……九羽少尉……エインヘリャル4に説得は現時点では不可能です」

「……だろうな。これ以上穏健策を取っている時間はない。発砲による強制停止を行なう」

「「えっ!?」」

「おい孝之!!」

「…………くっ!!」


BETA群の確認をした時点でそれは決定していた……いや、なにもなくともあと1分もしないうちに命令されていただろう。

この進路で時速500キロを越える速度で移動していれば、いずれハイヴに突入してしまう。

今までこの速度のおかげで戦闘という戦闘をせずに突っ切ってきたが、ついに迎撃するBETAと正面から対面したのだ。

これ以上の時間はないとはそういうことだ。


「ただし、あくまで足を止めることが目的だ。絶対に撃墜してはならない」

「「「「…………」」」」


通信越しでもわかる安堵の溜め息。

悲観的な空気は少しの間払拭されるが、絶対撃墜するなという部分に緊張しないわけにはいかない。

網膜に映る皆の顔は緊張と覚悟で顔を強張らせ、瞳は陽炎のように熱く揺らめいている。


「作戦はシンプルだ。九羽機のここの部分……大型ブースターの方翼を一機の狙撃により撃ち抜く。もちろん誘爆の可能性があるが

 幸い破壊されたら パージされるよう設定がされてある。戦術機を開発したお偉いさんに感謝しなくてはな。

 だが腰部のプロペラトタンクには決して撃ち込むな。撃ち込んだ途端にボン、だ」

「…………」

「……ブースターを破壊した後のことだが、当然片方の推力を失った機体はバランスを崩す。バランスを整える為には当然地に足をつけるわけだから減速する。

 その隙に3機で捕まえにかかる。残りの1機は狙撃の補助、及び取りこぼしに注意する。転倒の可能性もあるがそれを防ぐ為に3機でやる。

 以上だ。言い換えるなら撃って助けてめでたしだ。どうだシンプルだろ?」


確かにシンプルだ。撃って、捕まえて、終わり、なんて簡単にいくはずがない。

狙撃だけでも高速移動している標的、さらにこちらも高速移動をしているのだから命中する確率はきわめて低い。

これだけの悪条件で命中させられるとしたら……私が知る限り珠瀬だけだ。

彼女なら宇宙から飛来してくる駆逐艦すら打ち落としてしまうだろう。

だがこの場に彼女はいない。

私達エインヘリャル……単独で戦う意を持つ者達に相応しい、自分との戦いをするしかないのだ。


「では人選を行なうが――」

「中尉!魅瀬 朝美少尉、狙撃に志願します!!」

「……仲間思いも結構だが……できるのか?」


魅瀬は友人を救出すべく志願をするが、鳴海中尉の反応はやや固い。

魅瀬の技術、経験の重要なふたつの要素とも先任の2人には劣るのだから、隊長として作戦成功率を1パーセントでも上げておきたい以上、却下するのが妥当なところだろう。

私の射撃技術も2人の中尉に及ばないので選考からはずされるはずだ。

消去法で選べば伊間も同様の理由で却下、鳴海中尉は隊長なので捕まえる3人の中に入るだろうから、平中尉が自動的になるはずだ。

はずなのだが……。


「できるかできないかじゃありません。私はやるんです!」

「……心意気は確かなようだな……魅瀬少尉、貴様が狙撃を担当しろ」

「「「!?」」」

「了解です!!」

「補助は御城、お前がつけ」

「!?りょ……了解」


言葉を発した本人と魅瀬を除いたこの場にいる人は彼の言葉の真意を理解できなかった。

技量で劣る魅瀬を狙撃手にして、なおかつ私を補助に回す理由が思いつかなかったのだ。

理由を探すために脳内の情報を素早く正確に閲覧していくと、それを見つけた。


「残りのオレと平中尉、伊間少尉は捕獲任務にあたる……御城少尉、お前が補助に回る理由はわかっているな?」


私は返事の代わりに顎を軽く引いて頷くことで返答する。

高速演算能力、私のそれがこの作戦の鍵を握っている。

最近では未来予測にしか使っていないこの能力だが、本来は高速演算はそれ1つをするための能力ではない。

社と共に任務に当たったときに使った情報の高速処理……未来予測の分類にはいるがこれも演算処理のおかげである。

吹雪でのXMシステムテストでは演算能力を生かして、もう1機の戦術機を有人機と変わらない動きをさせた。

そして今回の作戦はその基本となる高速演算で、困難な照準あわせをデータリンクを通して計算するのが私の役割というわけだ。


「……時間がない以上、即刻始める。各自配置につけ!!」

「「「「了解!!」」」」


皆の声が1つに重なり、心も重なる。

先程必ず助け出すと言った平中尉には悪いが彼女を拾う役割で助けてもらうしかない。

だがそんなことは杞憂だったようだ。

通信を切る前に平中尉は確かに私に視線を向け、目でこういった。

どんなことがあっても九羽をこの機体でとらえてみせると。

-----------------------------------------------------------

魅瀬 朝美サイド

静かとはお世辞にもいえないコクピット。

ジュラーブリクの全速移動を行なっているのだから当たり前のこと。

コンピュターで補正を掛けているとはいえ、視界も土埃で良好とは言いがたい。

そこで赤外線のモニターに切り替えるが、全力機動をしているおかげで機体の冷却が不完全なのか、熱で識別できない状態になっている。

あきらめて通常の画面で狙いをつけることにする。


「エインヘリャル6……いや魅瀬、私の能力のことは聞いたか?」

「……聞いた」


柳の兄、衛の特別な能力……高速演算。

なんでも未来予測まで行なえる代物らしい。訓練の時やBETAの闘い方を見ても全く無駄がないのはその能力のおかげなのだろう。

衛兄のことは孝之中尉に聞いたのだが、信じられなかった……というのはどうでもいい。

嘘でもなんでも今は彩子を助ける為なら何だって利用する。


「……柳もその能力もってたの?」

「……ああ、私よりも優れていたかもしれないがな」

「そう……なら心配ないね」


その言葉で柳もっていた能力、血を分けた兄妹の能力を疑うことを忘れる。

どうでもいいといったがやはり心の中では疑っていたのだ。

これから私の手で命運が決まるとなれば仕方ないのかもしれない。

九羽 彩子を救う、それが私の任務なのだから。

彼女には借りがある。彼女は知らない借りが。

彼女を救うことが借りを返すことになるはずだ。

あたしの台詞を奪う癖に付き合ってくれたこと……それに報いるならいまだ。

……幼少の頃から他人が言おうとしたことを先にいうことが何よりも楽しかった。

先読みをして、それをいうと皆はすごいといって、笑顔で喜んでくれたから、あたしもそれに答えるように調子に乗ったのだ。

でも初等部に入るまでは誰もが笑ってくれたが入った、途端にそれは逆転した。

周りの友達も成長するにつれて、それが異常と映るようになったのだ。

皆からはやがて煙たがられ、終いには完全無視といったような村八分のようなことがずっと続いた。

中等部に入り続いた。やめれば済むはずなのにあたしはそうしなかった。

幼少の頃のあの快感を忘れたくなかったのかもしれない、嫌がられてもやめられない。

そんな状況がずーっと続いたある日小太りの男があたしをスカウトしにきた。

なんでも殿下の直衛を極秘で募集しているらしい。その証拠といて軍部の正式な書類を見せられた。

……後に偽者とわかったのだが、あたしは丁度いいとおもいおもいきってその話に乗ったのだ。

母も父も他界しており、叔父夫婦は反対するどころか極当たり前のように厄介ばらいをした。

三流小説のような展開でもそれはそれでいい、そう開き直り訓練校へと赴いたのだ。

そこでウインド隊の皆に出会ったのだ。

元気とは子のことはうまくやれると直感的思い、自己紹介を終えたときにはなぜか親友みたいに仲良くなれた。

でも彼女の台詞をとるということをしなかった。彼女は先読みしてもおもしろくなさそうだったからというのが理由だろう。

だから今もこの先にも彼女の台詞をとることはしない、そう決めたのだ。

しなくても楽しめるならいい。

でも欲求というのは抑えられない時がある。それが彩子と会話をしているときに噴出した。

彼女は最初は目をぱちくりして呆けていたが、2、3回先読みしたらついに怒り出した。

彩子との関係は終わった。

そう判断してあたしは次の日から彼女から離れようとしたのだが、彼女は何事もなく話しかけてくれた。

そしてまた怒った。毎日それの繰り返し。だけど嬉しかった。あたしは煙たがられずに付き合ってくれる彼女に一方的に感謝したのだ。

村八分にあわない、それだけでなく快感を嫌わずにえられることが彩子がもたらしてくれたからだ。

……………。

中々定まれらない照準があたしを焦らせる。

こうして照準が定まるまであと何秒かかるのか?早くしないとBETA群に突っ込んでしまう。

それではS-11で自爆してしまうではないか。

あたしも暗示にかかりかけたからわかるけどあれは生半可なことではとけない。

秘匿回線Bの催眠で相殺したからこそ、こうして正気でいられるのだ。


「御城少尉、照準はまだ?」

「まだだ、土煙が激しくて乱数が混じりすぎているんだ!」


内心でおおきく舌打ちをする。

早くしないと彩子が……という思いがあたしの鼓動を早めるのだった。

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九羽 彩子サイド

後はBETA群に突っ込んで拳を振り下ろし自爆するだけ……。

3キロ先のBETA群に向かってまっしぐら。

S-11の威力があればオレも痛みを感じるまもなく死――。

――死ぬのかオレは?

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。

死ぬのは嫌だ!!

でも自爆しなくちゃ……。

ああああ、頭が頭がぁぁぁ!!

そうだ考えることないじゃないか、考えなければ楽になる。

後は体が反応してくれるはずだ。

全ての思考をシャットアウトしてゆく。

基地の隔壁をどんどん閉じていくような感覚がどこか気持ちがいい。

そして最後の隔壁が閉じてゆくとき、それを阻止するように声が聞こえた。


《ウインド3!!九羽 彩子しっかりしなさい!!》

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横浜基地にて

「副司令!至急、研究室へきてください!」

「……落ち着きなさい。なにがあったの?」

「は、はい…………typeMのバイタルデータに急激に変化が現れたのです」

「……あの白雪姫が?それは目覚めたということなの?」

「いえ、眠っているのに起きているんですよ!ですから副司令が直接みてください。我々では見当もつきませんよ」

「わかったわ……すぐいくからデータの収集を怠らないでね」


香月夕呼はそういうと受話器を元の位置に置くと白衣を手に取り地下の研究室に急いだ。


「……まさかXMNシステムに反応しているのかしら?……だとしたら好都合ね」

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御城 衛サイド

頭蓋の中で響き渡る不協和音がこめかみの辺りまで伸び上がってくる。

照準は簡単な物と思っていたが、簡単どころの話ではなかった。

土埃……土煙が乱数となり安定した数式を導けなくしているのだ。

戦術機が巻き上げる土埃は熱を放っており、それが乱数となっている。

混沌としたこれらの要素は安定した混沌の法則を見つければ、計算を今すぐにでもできるが、焦りがそれを困難にしている。


「御城少尉、照準はまだ?」

「まだだ、土煙が激しくて乱数が混じりすぎているんだ!」


私らしくなく大声を上げてしまう。

八つ当たりも同然のこの態度に自分でもうんざりした。

魅瀬も私と同じ気持ちは同じはずなのに落ち着いているように見せているのだ。

なのに私だけが態度に出すなどなんて失礼なことだろう。

そんな雑念を頭の隅に押しのけると数式を導くのに全力を注ぎ込む。


「BETA群まであと3キロで~す!!」


落ち着け私。

距離など関係ない。関係ないのだ。

計算を早めろ、自身を端末と化させろ。余計な思考を捨てて己を孤高の機械だと思うのだ。

五感が徐々に薄れていき、六感のみが稼動しているような錯覚に襲われる。

いやこれは六感じゃない。これは人間がようする感覚じゃない。機械の感覚なんだ。

人間が感じる感覚はすべて数字という情報で処理をする。

そこは暗くて寂しいけど、計算するにはもってこいの場所だ。

…………。

だがなんかここにはいてはいけない気がする。

ここは確かに計算に取り組むにはもってこいの空間だが、同時に人がいてはいけない空間という感じがする。


《そうですよ。お兄様》

《!?》


今の声は!?


《お兄様はいつもそうやって内側に引きこもってしまうんですから……いけませんね》

《柳!柳なのか!?一体どこにいるんだ!?》

《どこってあなたの心の中……というわけじゃありませんよ》

《はぐらかすな、生きているのか!?》

《それは後回しです。今は九羽さんを助けるのが先決でしょう?》

《そうだが……》

《乱数に手こずっているのでしょう?ならここの数式をこうして……》


私の中で数式が次々にどうやって書き換えればいいのかが浮かんでくる。

……プロジェクションか。


《後は計算するだけですよ兄様》

《すまない……だがどうやってこの式を?》

《……それも後です。もうひとりの私が九羽さんを説得していますが、時間稼ぎにしかならないでしょう。

 正気に戻すには秘匿回線Bしかありませんからね》

《……もうひとりの私?》

《お兄様時間がありません。はやくこの世界からでますよ》

《ちょっとまて……うわぁぁぁぁ!!》


目をカッと見開くとそこには土埃をあげている九羽機の姿が映っているのが目に飛び込んできた。

次に鼓膜を振るわせる平中尉と鳴海中尉の声が飛び込んでくる。


「新型兵器が起動した!?パスワードも打ち込んでいないんだぞ!!」

「新型兵器起動率65パーセント!順調稼動中で~す」

「なにがどうなっているんだ……。これが副司令が言っていた特別なことなのか?

 ……まあいい。システム起動したのなら好都合だ。エインヘリャル6、照準はいいか?」

「照準はまだ……いいえ、ロックオン完了いけます!!」

「よーし撃て!!」


そして36mmの劣化ウラン弾が打ち出され、ゆっくりとブースターに吸い込まれていく。

まるで時の流れが遅くなったようだが、着弾してからの流れは速かった。

被弾したブースターはパージされて爆発し、機体のバランスを崩す。

間髪いれず3機の戦術機が確保に向かうが、ことが起こってしまった。


「!!うそ~~~~~~~~」

「しまった九羽機が転倒してしまうぞ」

「御城機、貴様も参加しろ!!」


九羽の機体が横に大きく傾いたのだ。

あの体勢からでは自力で立て直すのは難しい。

私も取りこぼしに備えて機体の体勢を整える……がさらに驚くべきことが起きた。

九羽機のメインカメラ一際輝いたと思うと機体をもとの体勢までもっていったのだ。

そして3機の戦術機の腕、計六本に包み込まれるように捕まえられる。


「……秘匿回線Bの処置を確認。九羽ちゃんは脳の過負荷で気絶したようで~す」

「無事に助けることはできたがどうすんだ?新型兵器のデータ収集はろくにしていないが……孝之?」

「問題ない。システムが起動した以上、今回の任務はほぼ完了した」

「……どういうことだ?」

「ともかく撤収だ。司令部と秘匿回線で通信を行なうのでしばらくオレに通信を入れるな」


……仲間を無事に助けられたのいうのになぜかわからないが、よくわからない。

なにがよくわからないのかわからないが、わからないのだ。

…………。

そうだ、柳はどこだ?あいつは確かに話しかけてきたのだ。

ならば生きているに違いないが……この無人の荒野のどこにいるというのだろうか?

生体センサーを起動しても人間らしき反応はない。

やはり私がみた白昼夢なのだろうか。


《に……さま》

《!!柳か、柳なのか?どこだどこにいる!?》

《……シートのウシロ》

《ヨジのホウコウ》

《ジュウイチジのホウコウ》

《ハチジのホウコウ》


一度にたくさんの明確ではない声が聞こえてくる。

それもすべて柳と感じ取れる声で別々の方向をいっているのだ。

レーダーで確認してみるとそこにはエインヘリャル隊の皆がいる方向だということが確認できる。

そして最初のシードの後ろという言葉……まさかっ!?

操縦を自動に切り替え、後ろの新型兵器のユニット部分に強くプロジェクションをしてみる。

すると反応が返ってきた。


《にいさま》

《柳……新型兵器というのはお前のことなのか》

《……YES。私達はXMNシステムtypeMまたは00ユニット量産型ともいいます。にいさま

 私は複数存在します。鋼の体を手に入れて戦場を見渡し、戦術機を操作をサポートするシステム、それが私達です》


私はその返事を聞くと号泣した。

妹、柳がたしかにいきて存在することに対して泣いたのか、それとも絶望のあまりに泣いたのかわからないがとにかく泣いたのだった。

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量産型00ユニットサイド

戦場の歌が聞こえる。

歓喜の声が聞こえる。
《どこの部隊がこの指示を出しているんだ!?的確な敵の動き方への対処法……なんにしても助かるぜ!!》

《ベイルアウトしてもうだめだと思ったのに、脱出ルートが見える!これなら助かるかもしれない》


私達がやった計算で戦場に歓喜の歌が流れだす。

無事に脱出していく大東亜連合軍。

私達の役目は無事に果たした……。

でもこれ以上のサポートは無理なようだ。

私達は欠陥品だから……この戦場全体のサポートは初めてにして最後になるだろう。

あくまで私達はtypeKの補助にすぎない。オリジナルにも劣る。

後の容量は全部あの機能のために取っておこう。

typeKとオリジナルが操るXGの為に……。

機能停止、セーフティモードに移行します。

……また星が見れたらいいな。



[1128] Re[8]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/16 17:22
九羽 彩子サイド

目の前に広がるのは戦術機独特のコクピットの風景ではなく、清潔さを感じさせる磨き上げられた鋼鉄の天井だった。


「知らない天井だ(棒読み)」

「……んなことはいわねえよ」

「……そう」


ここまで清潔に保たれているところといえば軍隊でもそう多くはない。

医務室か高級仕官の執務室のどちらかしかないが、オレが後者の場所にベッド付きで寝ているわけがないので

後者ということになる。

なんでここに寝ているか思い出せないほど馬鹿ではないが……あまり考えたくない。


「…………」

「気にしないほうがいい」

「えっ?」

「気にしないほうが無理かもしれないけど、それでも気にしないほうがいい。私も同じ条件なら多分なってたから」

「おめえのような呆けたやつはならねえよ」

「……そうかも」

「…………」

「はい、これ」

「なんだ?この紙は?」

「KIA解除許可証」

「マジか?」

「マジ」

「……オレがサインしてもいいのかよ」

「いいんじゃない?任務は成功したし」

「…………」

「納得いかないなら死んだままでいれば?」

「いや……書くよ」

「そう……ならこれも」

「なんだ?」

「始末書」


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第四章その8


御城 衛サイド

甲20号定期間引き作戦は一応の成功を収めた。

我々国連が開発した新型兵器……XMNシステムが起動、その性能は起動した時間から各戦域の損耗率は激減させた。

戦闘で最も難しいとされる撤退戦をほとんど戦力を消耗せずに成功させ、機体を失い緊急射出した衛士も奇跡ともいうべき生還率を記録し、

その結果をみて大東亜連合の司令官も感激のあまりに涙したという。

それから北九州基地に帰還して鳴海中尉に通信室によばれたのはすぐのことだった。

通信室に呼ばれる理由はわかっている。

死人ばかりの部隊、部隊として数えられていない部隊に通信を送ってくるのはA-01頭と相場は決まっている。

そして通信室につくとそこには鳴海中尉とモニターに映った香月副司令がいた。

軍隊お決まりの敬礼で挨拶を済ませようとするが、副司令はそういったことを面倒だといっていたのを思い出すと

敬礼をしようとした腕を力を抜き下ろした。

それを見ると鳴海中尉は副司令に会釈して部屋から出て行ってしまう。


「久しぶりね御城」

「お久しぶりですね……かれこれ約10日ぶりですかね?」

「まあそうね。思ったより元気そうね……ここに呼ばれた理由ぐらいわかるでしょう?」

「……鳴海中尉もここにいたということは新型兵器……いや、妹のことですね?」

「そこまでわかってるのね……ということは彼女達が目覚めたわけか。鳴海には悪いけど00ユニットの機密を教えるわけにはいかないから

 出て行ったもらったわけだけど、何か聞きたいことはある?」

「……00ユニットそれも量産型とは何か?XMNシステムについてと妹がなぜたくさん存在するのか、ということですね」

「オルタネイティブ4のほとんどを教えることになるけど……かまわないわね?」


あくまで体裁を整える形で副司令は確認を取ってくる。

無論私は聞かない気など毛頭ない。

躊躇なく頷くと副司令は淡々と語り始めた。

何の面白みない(私にとってだが、科学者からしたら興味が尽きない話だろう)をこの後1時間に渡って話し始めたのだ。

一部には聞いたことのある話が……どこで聞いたのか分からないが混じっていた。

00ユニット、「機械の体に人間の魂を宿らせた」、オルタネイティヴ4計画の核となる存在。

生態反応0、生物的根拠0、そして非炭素系擬似生命体。

これによりBETAから生命体として認識されコミュニケーションをとれる存在ということ。

オルタネイティヴ3計画の成果を踏まえて開発されたためリーディングとプロジェクションというESP能力をもつ。

量子電導脳という世界最高のコンピューターをもち、人間には真似できない優れた処理能力がある。

その気になれば世界中のコンピューターにハッキングし支配下に置くことが可能。

といったとんでも兵器……まさに人類最終決戦兵器だ。

その量産型であるXMNシステム、だがシステム自体は私が担当していたXMシステムの発展型にしか過ぎない。

私の演算能力を使って色々と模索していった結果、戦域未来予測をしやすいように改良したらしい。

それが先日甲20号でみたもので結果は、当初の予想通りだったらしい。

だがこれだけでもすごいことなのに、まだもう1つ機能が備わってるのだという。

無人戦術機甲部隊の編成。

私がおこなった実験をもとに00ユニット用に開発された完璧な無人部隊だ。

そのお披露目が甲21号作戦らしい。

…………。

そして、妹のことだが……。

妹は生きていたのだ……朝日の中で爆発する不知火の中にはいなかったのだ。

あの時は国連の歩兵がいたのかは分からなかったが極秘に妹の回収……死骸でも構わないもののを命令していたらしい。

そしてついでに私達を確保した。

あとは予定通り、00ユニットの生産をするだけになった。

だがここにきて問題がでたのだ。

00ユニット開発データを元に量産をしたのはいいが、コピーによる劣化という自体が起きてしまったのだ。

それによりオリジナルは起動はしているが自閉モードに入ったように眠り続ける羽目になったという。

コピーした妹の分身もシステムに組み入れたはいいが起動はしない。

ならどうすれば起動するのか?

そこで副司令は賭けに出ることにした。

妹に近しく、親しい関係をもつ私と九羽たちに近づけて目覚めさせる。

人の意思を感じさせることで起動させようとしたのだ。

そのために複座型に換装できるアラスカ・ソビエト軍のジュラーブリクを取り寄せて急遽、ユニットを乗せたわけだ。

ODLの浄化問題はまるまる交換するという事で無理やり解決した。

失敗すれば面倒ごとは廃棄すればよし、成功すれば原案を見合わせずに実行する。

そしてそれは見事に成功したわけだ。

副司令はここまで話がすすむと自嘲の笑みを浮かべた。


「鳴海は本当によくやってくれたわ。九羽の錯乱を利用できるまでになるとはね」

「……どういうことです?」

「……あいつはS-11を装備していることを九羽達に教えていなかったわね?

 彼女達の暗示を誘発する為にわざと隠したのよ」


一体どういうことだ?

隠したのは誘発をしない為ではなかったのか。

平中尉との会話を聞かれたのも偶々だったはずが……。


「疑問に思わないの?隠すだけなら最初からS-11の存在なんてあんたにも平にも教えなければいいんだからね」


確かにそうしたほうが情報漏洩の可能性を立つ上では確実なことだし、理に叶う。

だが九羽たちの耳に届かせるには不都合、そういったところでは説明がつく。

いわれてみれば気がつくが、どうしても腑に落ちない部分があるのだ。


「しかし、副司令。私と平中尉との会話……これはもう聞いていますよね?」

「ええ」

「それにより、九羽少尉の耳に入ったとありますが、あまりにも偶然に頼りすぎている気がします。

 もっと確実にするならS-11の存在を最初からいったほうがいいたくありませんが成功率は高かったのではないでしょうか?」

「……そういえばあんたは知らなかったわね。確かに偶然に頼っていた一面もないことはないわね。

 だけど鳴海は偶然たよったわけではないのよ。なぜなら彼はあんたと同じだからね」

「!!!!」


私と同じ……つまりESP能力……高速演算能力を持っているということなのか!?


「以前あんたと同じケースが過去にあるといったわね?」

「……確かにいいましたが……その人は既に死んでい――!?」

「そうよ。公式に死んでいるわ。あんたがいる部隊全員はね」


……そういうことか。


『残念だけど前例があるとはいえ、その前例はろくに研究できないうちに死んじゃっているから

 サンプルは多いほうがいいから、妹さんをリストからはずすのは無理ね』


あの言葉は真実ではなかった。

だが嘘ではないが、真実でもない。

手元においてじっくりと研究できないから私と妹を引き入れたのだ。


「鳴海はプロジェクション能力を利用して平に九羽の面倒を見させ、その後九羽にも目が冴えるように興奮するように戦いのイメージを送り、

 そしてあんたにも同様のことを気づかれずにやった。本当は鳴海自身が平の代わりをするつもりだったようだけど、臨機応変に対応したみたいだけどね」

「…………」

「未来予測を行なえばもっと簡単に事が進んだかもしれないけど、

 でも鳴海は未来予測計算は使えないからしかたないことね。私だったらもっとスマートにやったでしょうけどね……」


未来予測は使えない?

ならば異常なプロジェクションしか使えないのか……。


「……どう?私と鳴海を殺したくなったでしょう?」

「殺したくない……といえば嘘ですね。九羽の心をもて遊び、妹を分裂させて戦術機に押し込めた。完璧に機械としてね。

 でも、2人生きていただけで嬉しいとも思っています。それに心から喜んでやっているように思いません。

 少なくとも鳴海中尉は悲しんでいますからね」


鳴海中尉はここを出て行く前に私をチラッと見ていた。

その目を見た私には到底喜んでやっているとは……下郎のような人物とは思えない。


「妹……たくさんいますが彼女達と会話できるだけでもよかったのかもしれません。どちらにしろ死んでいたのでしょうしね」

「……たしかに出血多量で死に掛けていたし、助からなかったけど、直接殺したのは私よ?」

「だとしてそれは介錯してもらったと思います」

「……随分と温いわね」

「いえ、見返りと償いは要求しますから」

「ふん、言ってくれるわね。……御城、1つだけ言っとくわ」

「……なんでしょうか?」

「……あんたの妹の体は機械だけではないわ」

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鳴海 孝之サイド

「無事に任務終了ご苦労うだったわ。約束どおりあんた達のKIA認定を解除するわ」

「…………」


2年間続いた死人生活もようやく終わりを告げた。

晴れて故郷である柊町に……白稜の丘に戻ることができるのだ。

あの丘に置いてきてしまった2人の女性にようやく会えるとなると自然と涙が目の縁に溜まってしまう。

だが別の意味をこの涙は内包しているのはオレだけしか知らない。

ここまで来るのに多くの先輩、部下を失った。

彼らが成し遂げて欲しいと願ったことを叶えた嬉し涙、オレのせいで生きている奴らを殺してしまった後悔の涙、

そして部下を利用して生き返ることを優先した愚かな自分への罪の涙。

いろんな意味を内包した涙が頬を伝って塩の味を舌に感じさせる。


「ああーもう、漢泣きは通信が終わったあとにしなさいよね。生き返ったからといっても、これから先本当に死ぬかもしれないのよ?

 前から甲21号作戦のこともいってあるでしょうが?」

「すみません、おもわず感極まって……。それそうと私達はこれからどうしますか?横浜基地に帰還するのか、

 それともこのまま母艦と一緒に佐渡島に向かいますか?」

「あんたとしては前者がいいんでしょう?」

「まあ、そうですが……効率的を考えるならこのまま向かったほうがいいでしょうし……」

「そうね……悪いけど横浜基地には来るのは後回しにさせてもらうわ」

「ははは、副司令は甘くないですね」

「そりゃそうよ。私が甘くなったときは世界の終わりが来た時だと思いなさい」


副司令……ありがとうございます。

副司令は彼女達にぬか喜びをさせぬ為にあえて遠ざけてくれたのだ。

その他にもオレ自身の覚悟を決める期間を設けてくれた……それが副司令なりの優しさなのだ。

御城たちには後ろめたさを感じるが、個人としては嬉しく思っておこう。

次の甲21号作戦で生き延びれば……オレは彼女達に堂々と会うことを許すだろう。


「副司令が甘くならないように頑張らせていただきますよ。……で、次の作戦はやはりXG-70bの直衛ですか?」

「それは伊隅達、ヴァルキリーズに受け持ってもらうから違うわ。あんたの隊には――にいってもらうから」

「……副司令」

「何?」

「本当に甘くないですね」

「だから言ったでしょう?私が甘くなったときは世界の終わりが来た時だと」


さっきの副司令の優しさは幻だったのかもしれない……。

軍隊の任務には私情は挟まない……副司令はまさにそれを実践してくれるとは頭が下がる。

……オレは情けないことに横浜基地へと早々に帰還したくなった。

慎二、御城、九羽、伊間、魅瀬……すまないが次はもっと過酷な任務になりそうだ。

……それに水月、遙、絶対生き残って会いに行くからな。



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/07/24 00:35
白銀 武サイド

「B小隊は進路を切り開く。隊形は楔壱型!BETAと接触しても散開するなよ。立ち止まるな、常に動き続けるんだ!」

「「「了解」」」

「ヴァルキリー・マムより中隊各機――

 大隊規模のBETA群接近中。1時の方向距離4500」

「ヴァルキリー8バンデッドインゲージ!」

「ヴァルキリー3よりC小隊各機、戦闘のデカブツからやるぞ」


心臓の音が戦術機の踏み鳴らす音と重なったような奇妙な感じを覚える。

ここは敵の本拠地ハイヴ、この巨大な要塞を人類はいまだかつて陥落させたことがない。

それどころか中間層まで辿り着くのが関の山といったのが現状だ。


「ヴァルキリー・マムより中隊各機――中隊規模のBETA群接近中。10時の方向距離2000」

「ヴァルキリー1より全機に告ぐ!H-48の『縦坑』からB-7の『広間』に抜ける。

 ミサイル攻撃を合図に噴射跳躍――以降兵器使用自由!」

「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」

「――B小隊続けッ!――突撃前衛の名を汚すんじゃないわよッ!」

「――ヴァルキリー3より制圧支援全機!――攻撃開始ッ!」


A、B、C各隊がそれぞれの役割を果たす為に動き始める。

操縦桿を握る腕が武者震いなのか、それとも恐怖のためなのかわからないが震えてしまう。

……大丈夫だ。催眠処置も受けたし、神宮寺軍曹、まりもちゃんの2人が教えてくれたことがオレを支えてくれている。

オレ達は今日でハイヴ最高到達距離を伸ばさなければならないんだ。

人類が勝利するためにも、世界を救うためにも、そしてなにより……純夏のためにもな!


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その1


御剣 冥夜サイド

初めてのハイヴ突入シュミレーションを行なったが、結果は中間層を突破したところで全滅してしまった。

私としては残念だが、先任の方々は初めて中間層を突破したということで大きな成果だと喜んでいた。

だがひとり浮かない顔をしていた人がいたのだ。

突撃前衛隊、B小隊隊長の速瀬水月中尉だ。

速瀬中尉はやはり最後に撃墜されてしまったのが不服なのだろう。

記録を塗り替えたからといっても死んでしまっては意味がないのだから、その表情にも頷けるし、私も同意見だ。

……武。

そなたのことが心配ではあるが、今日のシミュレーター訓練の様子を見る限り、特に問題はなさそうだな。

BETAを前にして錯乱してしまうかと思ったが、バイタルデータを見る限り緊張していただけみたいだから安心した。

独特の操縦技術も健在、突撃前衛の役割も始めてのはずなのに十分に機能していた。

まさに突撃前衛が天職ともいえるポジション……水を得た魚のようだった。

天才とはやはり武のような人物のいうのだろう。

だが私も負けて入られない。武と共に肩を並べて戦う者として、守られる存在ではなく共に刃を振るえるように強くならなければ。


「御剣さん、難しい顔してどうしたんですか?」

「ん?ああ珠瀬。なに今日のシミュレーター訓練の反省点を考えていたのだ」

「そうだね。確かに中間層を突破したことはすごいけど、全員で生還しなくちゃ実戦だと意味がないもんね」

「ハイヴ最深部確保、そして全員生還」

「それが当面の目標ね。それに白銀が帰ってきたんだから負けられないわ」


皆も現状に満足しないで少しでも上を目指そうと頑張っている。

これも武のおかげなのだろうか?

……いやそれだけではない。

今までその御魂を散らしていった者たちのおかげなのだ。

先にA-01に入隊し、散っていった207A分隊の同期たち。

12.5事件で亡くなった沙霧大尉、ウォーケン少佐、御城兄妹。

そしてXM3トライアル中のBETA襲撃事件で神宮寺軍曹。

あの武も彼らの影響を少なからず受けたに違いない。

帰ってきた武たしかに心配ではあったが、前にも増して男、といえばよいのかその……背中かが大きく見えるのだ。

……いかんな。これが前に月詠に言われた“惚気”というものなのだろうか?

何分こういった経験は初めてなのでよくわからないが愛するということはこういうことなのだろう。


「――御剣さん!」

「ッ!どうした珠瀬」

「はやくPXにいかないと並ばなくちゃいけないですよ?」

「ああ、そうだな。ではいくとしよう」

「そうですね。ところで……」

「?まだなにかあるのか」

「なんで顔を赤くしていたんですか?」


…………。

私は色んな意味で未熟なようだ、月詠。

熟達するまで日々精進するべし。

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イリーナ・ピアティフサイド

「需品部にキーホルダー用の留め金を受注するのですか?……白銀少尉関連ですか、わかりました。

 そのように手配します」

「頼んだわよ。手に入らなかったら、代用できる物なら何でもいいから受注して」


副司令からの通信が何時ものようにすぐさま切れる。

科学者らしく一分一秒でも研究、00ユニットのチェックをしたいのだろう。

私としてもその熱心さは見習いたい物だ。

……しかし、子供のように色恋沙汰に首を突っ込んでからかうのはやめて欲しい。

もっとも子供らしさを残している者の多くは馬鹿か天才のどちらかに分類されるのだから、世の中わからないものだ。

勿論、副司令は後者ですけどね。

どこかに子供っぽさがない大人な天才はいないだろうか。

そんなことを考えながら端末を操作し、需品部の端末に各在庫のリストを請求する。

期限は2、3日しかないので需品部になければ、帝都のメーカーから直接取り寄せるしかないだろう。

誰かが端末の傍にいたのだろう、予想よりも早くリストが端末の画面に表示された。

リストを順に見ていくとキーホルダーの在庫が残っているのが確認できる。

それを確認すると私はすぐに書類作成を開始する。

この手の書類は嫌というほど作成したので、ある程度自動化しており、少し文を変えてそれを印刷するだけだ。

あとは印刷室にいって書類データを印刷、そして書類に直筆のサインを加えて提出するだけだ。

……そこで私ははたと気づく。

この程度のことに書類を印刷せずとも電子書類で済ませることができるではないか。

無駄な労力を使ったことに少しだけ後悔するが、この程度のことでへこたれてなどいられない。

幸いここから需品部まで少々離れている。

需品部に渡しに行くついでの散歩と思えばいいではないか。

そう思いデータの入った、IDカードとは別のデータカードを取り出すと席を立ち上がる。

つかつかと小さな靴音は他の同僚が奏でるプラスチックのタイプ音に、少しだけアクセントを加える。

途中コーヒーをもった同僚の女性にすれ違い、軽く会釈をして挨拶をすませる。

いつものならそのまま通り過ぎるのだが、何気なく彼女を目で追っていく。

そしてその女性は手に持ったコーヒーを端末に向かう男性に手渡したではないか。

男性はその女性に笑顔を浮かべながら礼を述べている。

笑顔を向けられている女性は顔をかすかに赤くして、これまた笑顔を浮かべた。

その光景からすぐに目を離し、急ぎ足で部屋をでた。

通路を歩く足音は先程アクセントを加えたときよりも、やや大きくなっているのに気がついているが、

理由がわからないもやもがそれをやめさせようとしない。

すれ違う人々は何事かとこちらを振り向いてくるが、急ぎ足の為に誰もが声を掛けることができずにいる。

もやもやが胸中を熱し続けている。

あの光景のなにに対してこのような気持ちになったのだろうと自問するが、その答えは既に出ている。

でているからこそやり場のない力をこうして八つ当たりのように足音で発散させているのだ。

印刷室の標識がみえるとそのままの速度で突進するように入っていく。

印刷機の前になにやら困った様子をしているピンクの髪の毛をした女性仕官がいる。

彼女は私を見つけるとなにやら話しかけてくるが今は耳に入らない。


「中尉、今印刷機の調子がわる……」

「どいてください」


これだけイライラしているのによく敬語が使えたものだと、後になって感心してしまったのは別の話だ。

とにかく、そのまま乱暴に印刷機を操作し、データカードを差込口にいれてスタートボタンに拳を叩きつける。

女性仕官はぎょっとして私を丸くした目で見るが、次に印刷機が問題なく稼動したことにさらに驚いたようだ。

滑らかな動きで印刷された書類を1枚とると、さっさとその場から出て行こうとする私の前に人が立ちふさがる。

それは先程困った様子をしていた女性仕官、それも知り合いだった。


「ピアティフ中尉はすごいですね。拳一発で印刷機を直しちゃうんですから」

「いえ、直そうとしてやったわけではないので、褒められても困ますよ涼宮中尉」

「格闘能力があれば困ったときも十分対処できるから、うらやましいですよ」

「……格闘能力なら文官出身の私より涼宮中尉のほうがすごいでしょう?」

「あれ、ばれちゃいましたか」


彼女は軽く舌をだして拳で軽く頭を叩いた。

その仕草はどことなく可愛らしさをかもし出している。

自分がやったら間違いなく似合わないだろう。


「それよりピアティフ中尉」

「なんです?」

「なんでイライラしているんですか?」

「…………」


イライラしている理由、それは先程のカップルを見てしまったからに決まっている。

気になる人がすぐ傍いる。話せば笑ってくれるし、怒ってもくれる。

それを実現しているあの同じ階級の2人に嫉妬していたのだ。

だが彼が傍にいても程度は違えどイライラしていたはずだ。

私と彼とでは階級が違うこの基地内で公私を分けることなど、私には難しい。

自然と部下と上官の関係で事が進んでしまう。

一度だけそういったことができたがもう一度できるかは自信がない。

それにあの2人が白銀少尉達と姿がかぶって見えてしまうのだ。

相思相愛……お互いを必要としている。

こんなに不器用な自分にイライラしてしまうのだから、なんとも情けないことだ。


「……はぁ~、また例の想い人関係ですか?」

「むっ」


またといわれると24時間彼のことしか考えていないみたいではないか。

……1日3時間くらいは考えているかもしれないけど。

それはともかく“また”と言われることは不本意だ。


「失礼ですね。私にも別のなや――」

「嘘つかないでください。ここ数日の中尉の挙動をみていればわかりますよ」

「…………」

「ダンマリしないでください。彼とうまくやっていないようですけど、その彼はきっとあなたのこと思ってくれていますよ」


……先日見た報告書についていた写真……少女が御城少尉にくっついていたところを見て、そうは思えないのだけど。

目の前の彼女は信じきっているようだ。


「なぜそう思うの?」

「この時期くらいにうまくいかないのは仲が深まってきたからなんですよ」

「????」

「だからここで振ったりしないでくださいね?」


ウインクしながら涼宮中尉はそう自信満々にいってくる。

私と彼は仲が深まるような距離に立ち入ったことはないし、どうせ私の片思いに決まっている。

日本人は総じて異国の人……特に白人を嫌っているはずだ。

ここは国連軍基地だからそういった風当たりは小さいが、彼は帝国斯衛軍を目指していたのだから、

当然白人である私は上官としてしか見ていないだろう。

相手が日本人じゃないと涼宮中尉はおもっているからそういえるのだ。

……まあ、その場合彼女の経験はものすごく役に立つだろう…………鳴海中尉も幸せなお人だ。


「助言ありがとう涼宮中尉。私も回りに八つ当たりするなんてだめね……今後気をつけるわ」

「前にも言いましたが、いつでもご相談に乗りますので」


彼女に手を振って別れを告げると需品部に向かって歩き始めた。

……このあとあの子のところに行かなければならない。

でも私では約不足だろう。彼じゃなければだめなのだから。

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白銀 武サイド

…………。

目の前のオレとこの世界のオレとを混同している。

ウサギ作戦はうまくいったのか?

まだ渡したばかりだからなんともいえないが、あきらかに変化が現れている。

今日の純夏は昨日とまでと違ってオレをオレと認識し始めた。

頭痛と憎しみの発露を繰り返しながらも必死にその違和感と戦っていた。

だがまだ訓練にとらわれているところがたぶんにあるのも確かだ。

今日の接しかたで問題はなかったであろうか?

あんだけ混乱したら負担も多きはずだし、純夏が壊れてしまうのではないだろうか?

……いや、先生が作ったものだそう簡単には壊れるはずがない。

それにこれからまたそれについての説明があるはずだ。

そのために夜遅く、暇のない先生が呼び出しをするはずがないと断言できる。

間違いなく純夏関係だ。

訓練といえば速瀬中尉も鬼だった。

あっちは撃震でこっちは不知火だからといっても単独斥候でさらに風間少尉を落とせだもんなあ……。

結局できなくて飯抜きにされてしまった。

まあ、涼宮を落としたから明日の分までは大目に見てくれたからよしとするけど。

そんなことを考えていると先生の執務室の前に辿り着いた。


「失礼します」

「あら、意外に早かったわね」


何時ものように悠然と椅子に座り、書類を吟味している先生が目に入る。

今日の書類の量はいくらか少なめのようだ。


「――鑑の様子はどう?」

「サンタウサギの効果があるのかないのか、明日以降になって見なければなんともいえないです」

「まあ、そうでしょうね」

「それで今回はなにを聞くんですか?」

「せっかちね。男はもうすこしドンと構えて話を待つものよ?じゃなきゃ嫌われるわよ」

「は、はあ」

「まあ、冗談はさておいてあんたに見せたいものがあるの。ついてらっしゃい」


先生の執務室よりもさらに深く、セキリティレベルが高い区画へと降りていくエレベーター。

お互い無言のままエレベータは深く深く降りていく。

この無言は気まずいとかそういったものではなく、決意みたいなものが先生から発せられており、オレが戸惑っているのだ。

純夏のほかにもまだ重要な機密があるとでもいうのだろうか?


「さて着いたわよ」


エレベーターが開き、目の前に鋼の通路が広がった。

ここは……どうやら研究ブロックのようだ。

先生はその通路にある扉の内の1つの前に立ち軽快にパスワードを入力してゆく。

そしてあとはENTERキーを押すだけとなったところでオレのほうに目を向けてきた。


「いっておくけど、ここをみたら私を殺したくなると思うけど……どうする?」

「…………」

「いまならまだ引き返せるわよ?」

「なにをいまさら言ってるんですか?オレはもう逃げないっていいましたよ」

「……そうね。ならいくわよ」


最後のキーを叩くと赤いランプが消え、青いランプが変わりに点灯する。

鋼の扉はその総重量に関係なく、軽快に扉が開いた。

そしてその中に入り、電灯に電気が走るとそこには――。



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/05 02:47
白銀 武サイド

「はい……あ~ん」

「…………」

「……なんだいらないの?」

「…………」

「……いいよ私が自分で食べちゃうから」

「…………」


昨日のあれは一体なんだったんだ?

いや、誤魔化すな。

既に頭でわかっているし、目で見たこと自体が答えなんだ。今更誤魔化して逃げてどうするんだ。

それに今は目の前のこと……純夏のことに集中するんだ。


「武ちゃん……どうしたの?風邪でもひいたの?」

「……あ、ああ。ごめん純夏。ちょっと考え事していたんだ」

「……御剣さんのこと考えてたの?」

「!いや違うぞ」


今、純夏が冥夜の名前を口にした。

純夏はこの世界では冥夜とあっていないはずなのに……オレからリーディングしたのか?

いや違う。リーディングしたならオレが考えてることなんて筒抜けで、間違ってはずすはずがないんだ。


「御剣さんといえばこの前……一緒にサバ味噌定食、食べたよね?」

「――え?……そう、だっけ?」

「あれぇ……違ったかな……榊さん達も一緒だったと思うんだけどな」


……サバ味噌定食……サバ味噌定食……あ。

そうだ、思い出した。霞がオレと同室で生活していたときの毎朝オレにあーんして食べていたのがサバ味噌定食だった。

“この前”なんてつい最近まで脳みそになっていた純夏にあるわけがない。

仮にこの世界のオレと食べたことがあっても“この前”なんていうのはおかしい。

しかもこのご時世にサバ味噌定食なんて贅沢な物を食べられるのは軍隊ぐらいしかないだろうし、

委員長たちと食べたなんてことはこの世界でも霞と食べたときだけだ。

つまり霞が純夏に伝えていたことを自分の記憶としているんだ。

……まいったな。なんにしても結果は変わらなくなっちまった。

純夏の言動から“この世界”の純夏の記憶を知ることがほぼ不可能になっちまった。

今後精神を安定させた純夏に、霞がリーディングしても、そのときに見えるのはごっちゃになった断片的な記憶だけだ。


「おかしいなあ……間違ってたのかな?」


これでいよいよ、今目の前にいる純夏を見て対応しなければならない。

霞関連のことで少しはやりやすくはなったけど、難しいことにはかわりない。


「……深く考えるのや~めた。頭痛くなっちゃうし」


……頭痛のおこる原因はわかっているみたいだし、下手に突っ込むとまた発作が起きるのも恐いな。


「やっぱり私の勘違いだった?」


考えるのをやめたといっときながら拘ってる。まずいな。ええいこうなったら話をあわせるしかない。

半分は嘘じゃないんだから問題ない。


「――あっ、ごめん!そんなこともあったな。今思い出したよ」

「え~~!タケルちゃん、ひど~い」

「ごめんごめん、悪かったよ」

「……別にいいけど……タケルちゃん」

「ん、なんだ?」

「……うん……ヤナギちゃん起きたかな~?」


…………。


「はやく訓練しに戻らなくちゃ……。行こうタケルちゃん」

「ごめん、この後すぐシミュレーター実習なんだ。だから一緒にはいけない」

「え~~!?私も訓練するんだから一緒にすればいいじゃない」

「そんなわがまま言ったら、今度から昼飯も一緒に食べられないぞ」

「む~……じゃあ……しょうがないか」

「ああ、仕方ない」

「……タケルちゃん」

「今度はなんだ?」

「訓練の時に電源切っちゃ駄目だよ?」


電源?

戦術機の主電源を切るなってことを言っているのか?


「わかった……だいいち、そんなこと危ないことするわけないだろ?」

「ヤナギちゃんと……ううん。なんでもない」


ヤナギ……さっきから純夏がいっている、その名をもつモノを昨日、オレは見た。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その2


白銀 武サイド 昨日 研究ブロックにて


鋼鉄でできた扉は電気の力により、重さを感じさせず、軽快に開いた。

目が暗闇になれておらず、目の前は真っ黒にしか見えない。

いや、奥のほうに何か小さな青白い光源が確認できる。

そこに何かあるのかわからないが、その近くにはベッドと思わしきものが置いてあるのがわかる。

それに目を凝らしていると、目が慣れてきたのか誰かが寝そべっているのが見えてきた。

もっとよく見ようと目を細めると、まばゆい白い光が天井から降り注ぎ目をくらませてしまう。

先生がパネルを操作して蛍光灯に電機を走らせたのだ。


「……これしきのことで目をくらませて、よく衛士なんてやってるわね」

「衛士でも不意を衝かれれば、目がくらみますよ」

「ふん……それより周りをちゃんと見たらどうなの?」

「周り?」


オレは閉じようとする目を無理やりこじ開けて周りを確認しようとする。

視界がぼやけてよくは見えないが奥のベッドのほかに壁際にずらっとベッドが並んでいることに気がつく。

ベッドといっても奥にある人が眠るようなベッドとは違い、戦術機を整備するのに使われる整備用ベッドみたいなもののようだ。

そこに寝かされているのはこれもやはり人型のもののようだ。

ぼやける視界が元に戻っていくにしたがい、徐々にそれが何なのかがわかっていくと同時に息が止まった。

そこにあるのは人型のものではない……人そのものだったのだ。

それだけだったらオレもここまで驚きはしない。

ベッドに寝ているのはオレがよく知っている人だったのだ。

長く伸ばした青い髪、引き締まった凛々しい顔、刀を持ちオレを尊敬していてくれる仲間、


「冥夜ッ!!」


整備用ベッドに寝ているのは色々なコードに接続……拘束された裸体の御剣 冥夜がそこにいた。

オレは駆け寄り、拘束から解放しようと手を伸ばすが、後ろから延びた手がそれを止める。


「何するんですか、先生!?なんでここに冥夜がこんな格好をして……」

「もう一度、落ち着いて周りを見てみなさい。あなたにはもう答えは教えているはずよ?」


オレはその言葉に操られるようにあらためて周りを見回すとそこには……。

彩峰、委員長、たま、美琴、207B分隊の皆。

さらに伊隅大尉に速瀬、涼宮、宗像の3人の中尉に風間、涼宮、柏木の3人の少尉、A-01の全隊員がここにのが確認できた。

一体ここは何なんだ!?

なんで皆死んだように眠ってッ!?

死んだ……よう……に?

…………。


「先生……皆なんでここにいるんですか?……いや、これも逃げですね。ここは保管庫ですね?」

「……頭の中で情報が繋がった見たいね……あんたの質問に答えるならYESよ」


そうここは保管庫だ。

ここにいるのは本物の冥夜たちじゃない。


「00ユニット人型保護端末……すでに全員分つくっていたとは聞いていませんよ」

「でも、あるということは覚悟してたんでしょう?」

「先日の話から導くと容易ですからね」

「……本当まあよく成長した物ね」

「先生、茶番はこの程度でいいんじゃないですか?オレが先生を殺したくなるようなことはこれではないんでしょう?」

「そうね。00ユニット……鑑 純夏の件があるからこの程度ではびくともしないくらいわかってるからね。

 ……奥にベッドが見えるでしょう?あそこに今日の本題があるのよ」


そういうと先生はここに来たときに唯一光を出していたベッドのところに歩み寄ってゆく。

オレもそれに従い、そのベッドへと近づいていくが、そこに横たわる人物の背格好を見て眉根を寄せることになった。

どこかで見たような……冥夜たちとは違い裸体は晒していないが女性だ。

……そういえば冥夜達の裸だったっけ?

冥夜たちは訓練兵用の強化装備でみたが裸だとそれはそれでいいものだし、なにより速瀬中尉達もなかなか……。

はっ、オレは何を考えているんだ!シリアスなこの雰囲気なのに馬鹿なことを考えるな。

先生に気づかれないように自分の腿をおもいっきりつねる。

涙目になりながらもベッドの横に立ちその顔を覗き込むと驚愕した。

この世界における唯一の男の友人といっても差し支えない仲間、御城 衛。

彼は12.5事件において伊豆の山中で戦死した。

オレたちがその最後を見届けることは叶わなかったが、それを見届けたであろう人物がこの世でただ一人だけ存在した。

それはこの世で最後の肉親で愛してやまなかった妹、12.5事件クーデーター部隊幹部 御城 柳。

彼女はおそらく尊敬する兄と相打つになり死んだと判断されたはず……。

その彼女が今、オレの前にいるのだ。


「…………」

「あまりの驚きに声もないのね」

「先生、彼女は00ユニットなんですか?」

「……そうよ。それに彼女は既に起動しているわ」

「あの状況でよく確保できましたね……」

「……実行部隊の話によれば、被害甚大だったようだけどね。なんとか生きているうちに確保できたわ」

「彼女をなぜ00ユニットに?」

「あなたがくる前から素体候補に選ばれていたし、00ユニットの予備が欲しかったからよ」

「…………」


木っ端微塵に吹き飛んだ不知火からは遺体も発見されなかったのは既に救出されていたから……。

ならば相打ちになったとされた御城は生きているのか?


「先生、御城のやつは……どこにいるんですか?」

「……今は九州にいるわ」

「……そうですか」

「……近日中に00ユニット評価試験があるわ。だから鑑の他にもこの子がいるということを教えておきたかったのよ。

 それに御城のやつも参加するわ。ちなみにこの子のことはあいつも知っている。

 でもあいつの任務は直衛ではないの。だからあんたが変わるに鑑と一緒に守りなさい。それが人類にとっての最善にもつながるわ」


先生に対する殺意。

この世界に戻ってきて既に何回目になるだろうか?

純夏の時に既に2回ほど腹が煮えくり返ったはずだ。

今もこうして煮えたぎっている。

おかしなことだと自分で思う。

12.5事件の時はあれだけクーデーター部隊に対して怒りをぶつけていたのに、今は志望者の彼女の為にオレは怒っているのだ。

……違うな。遠方にいる仲間、その妹だからこそ怒っているんだろう。

ここで御城なら先生を殺すのだろうか?答えは否だろう。

今のオレならそれがわかる。

そう思っていると部屋の入り口のところで空気が抜けるような音がした。

振り向くとそこには先生の秘書官をしているピアティフ中尉がそこに立っていた。

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イリーナ・ピアティフサイド

「…………」

「…………」


真夜中の副司令の執務室。

その中でお互い向かい合ったまま、目の前にあるコーヒーを一口も口にせず沈黙を保っている。

彼の名は白銀 武。

XM3開発者にして将来を期待される新人衛士、さらに00ユニット調律をまかされた男だ。

彼は207分隊出身で彼とは同期で、唯一の男同士ということもあり友人関係にあったはずだ。

だがうまくいかないことも多くあったようで周りをはらはらさせたこともあったらしい。

そんな男が私の目の前にいるわけだ。


「ええと……中尉?」

「……なんだ?」

「いきなりで悪いんですが、なぜあなたが御城 柳の……00ユニットの調律を?」

「……私は彼、御城 衛少尉と任務を行なうことが多く、接点が多かったので彼との記憶を多く共有してからだ」


この基地では207分隊のものも該当するが任務の性質上、私が最有力だ。


「一緒に任務を?」

「……そういえば少尉は知らなかったな。副司令から必要なことならある程度機密を話してもよいとされているから話そう。

 御城少尉と組むことになったのは――」


それから私は今まであったこと(彼の国連に来た理由はいっていないが)やXMシステム開発のことなど極秘事項をつらつらと述べていった。

すべて話し終わったときにはすでに2時間もたっていることを時計が示していたほど長く濃密な話となったのだ。


「……随分と御城少尉はオレ達に隠れて色々とやってたんですね」

「白銀少尉も人のことはいえないと思うが?」

「それはそうですね……でっ御城少尉は今も九州でそのXMシステムのテストを?」

「一応テストは終了。次回の運用で本格投入される予定だ」

「まいったな。あいつは家や殿下のことばかり考えてるやつだと思ってたけど、ちゃんと大局を……世界をみてるんですね」

「……なんだなんだ。嫉妬してるのか?」

「違いますよ中尉。オレはあいつの一側面しか見てなかったんだって思いましてね。自分がいかに小さかったか思い知らされます」

「なにを馬鹿なことを言ってるんだ。彼も白銀少尉のことを褒めていたこともあるんだぞ?」

「そんな馬鹿な」

「いいえ、謙遜する必要はない。その証拠に同期皆はそなたを尊敬しているるだろう?」

「はあ……そうなんでしょうか?」

「そんな調子だと伊隅大尉にどやされるぞ。もっと自分に自身を持つことだな」


2時間に渡るシリアスな雰囲気は霧散し、いつの間にか談笑することになってしまった。

これが彼がいっていた白銀少尉のいいところなのだろう。

日常を彼は緊張した中でも提供してくれるそんな才覚を。

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香月 夕呼サイド 時は元に戻る

手にしたノートをぺらぺらとめくる首を傾げる。

どれを読んでも意味がわからない。

このノートは御城の遺品整理(と称してあいつが下郎と称していたやつの調査)をしていたとき見つけたものだ。

社に見せてもそれらしいことは会話では言わなかったらしいし、垂れ流し状態のときにリーディングしても出てこなかった単語。

御城の部屋にあったこのノートに書かれていることは全く持って意味が不明だ。

日記にしては片言のように単語が並べられているだけのページが一枚だけ。

甲21号、00ユニット、カク坐など甲21号作戦のことを話したことは九州にいるときがはじめてだ。

スパイとも考えたがそれにしては作戦内容は全く記述されていない。

ならあいつお得意の未来予測を使ったのかとも考えた。

だがそれもスパイのときと同じで却下する。

あいつがこんなことをするならなにか意味があるはず……。

この3つの単語のほかにもかかれた単語を考察すれば何か得られるのでは?

甲21号作戦前だというのにさらに厄介ごとが増えるとはね……。

体どころか脳みそが何個あっても足りないわよ。



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/06 13:20
白銀 武サイド

失われていく余裕。

時が進めば進むほど、人類という種の存続が困難になっていく。

そして、ごく当たり前のように日常という温かく、自然と笑顔でいられる時間を奪っていく。

人間相手の戦争なら和議というものが存在するが、人間でない物を相手にそんなことはできもしない。

それ以前にやつらは、オレ達を生命体として認識していないのだから。

BETA……。

奴らは異星系炭素生命体にして侵略者の呼び名だ。

BETAを倒そうと人類はかれこれ50年以上戦っている。

だがいまだに勝機は見えず、苦戦を強いられている……。

夕呼先生の話によれば、このままあと10年で人類は敗北するということだ。

だがオレは……人類は決してそれを受け入れるわけにはいかない。

それに何時までもやられっぱなしじゃないんだ!

その証拠がいま目の前で告げられるようとしているのだから。


「――諸君も知っての通り、本日未明、国連軍第11軍司令部及び、帝国軍参謀本部より、“甲21号作戦”が発令された」


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その2


御剣 冥夜サイド

「――作戦第3段階に移行。両津湾沖に展開した、アイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、イリノイ、ケンタッキーの5艦を基幹とする

 国連太平洋艦隊と大和、武蔵の2隻を中心とした帝国連合艦隊第3戦隊が砲撃を開始。

 同時に帝国海軍第4戦術機甲戦隊が旧大野を確保。続いて国連軍機甲3個連隊及び、戦術機甲5個連隊からなる“エコー部隊の順次揚陸――」


……なんと凄まじいまでの数であろうか。

ここまでの話で帝国軍は既に弾薬貯蔵の半分、さらにそう戦力の半分をこの作戦に投入するというではないか。

帝国軍は戦術機部隊10個連隊……数にして約1080。

国連軍はその半分の5個連隊だが、それにしたって最前線……それも大規模な基地2つの駐屯部隊に相当する約540機も参加するのだ。

BETAの数に対抗する為にこちらも、それ相応の数で対抗する……。

姉上も本気だということか。


「――増援を2つに分断に成功後、作戦は第4段階に移行する。

 爆撃を終え、軌道上を周回中の国連宇宙総軍艦隊より投下される、第6軌道降下兵団が再突入を開始。

 佐渡島に降着した後“甲21号目標”内部に突入、第2目的の達成を目指す」


作戦の第2目的……BETA施設の占領、若しくは可能な限りの情報収集……いずれにしろ困難なことには変わりない。
「突入部隊の第4層への到達を確認後、ウィスキー部隊が順次突入、“甲21号目標”の占領を目指す」


……甲21号も横浜基地のようにするつもりなのだろう……要塞化するのだろうか?

どちらにしろ甲20号への橋頭堡とすることにはかわりがない以上、全力を尽くす以外にあるまい。


「なおこの降下部隊にはA-01部隊が投入される」

「!!」(全員)


……まさか我々がハイヴ突入任務を受け持つことになろうとは。

責任重大、訓練での成果、己の存在全てをぶつけるにはもってこいの任務だ。

少し体が震えてしまうが、これは武者震いだろう。

……まてよ。

伊隅大尉が今朝ブリーフィングでが、直接的なBETAとの戦闘ではないと言われた。

今朝の言葉とラダビノット司令の言葉とでは矛盾がでてしまうではないか。

その疑問は次の司令の言葉と共に解けると共に、私を再び驚愕させることとなった。


「しかし、君達第9中隊が投入されるのではない。現存するもう1つの中隊……第0中隊が任務あてられる事になっている」

「も、もう1つの中……隊?」

「第……0?」


鎧衣や珠瀬が驚きのあまり、やや狼狽して部隊の名前を反芻する。

……私も司令がいっていることが信じがたい。

現存するA-01部隊は既に私達伊隅乙女中隊しかないはずなのだから。

その証拠に速瀬中尉たち先任仕官たちも驚きの表情をみせている。

が、伊隅大尉とタケルだけはあらかじめ知っているかのように平然している。

……機密のレベルが違うということか……need to know。

必要なことは必要なときに知ればいい、伊隅大尉の言葉だが、まさかこのような形で理解することになろうとは……。


「いきなりのことで諸君も動揺しているようだが……香月博士、説明を頼む」

「わかりました。あなたたちには黙っていて悪かったけど、聞いての通りA-01にはもう1つの中隊が現存しているの。

 彼らはあなたたちがこれから守る新型兵器とは別のものをテストしてもらっていたのよ。

 まあ、あなた達に教えなかったのは、ちょっと複雑な事情があるから割愛させてもらうわ。

 中隊といってもいまじゃあ1個小隊に1分隊になっちゃってるけどね。

 それで本作戦の彼らの作戦コードはA-01d小隊としておくわ。だけどコールはエインヘリャルだからよろしく。

 ……任務の性質上、戦場であう確率は低いでしょうけどね」


エインヘリャル……たしか戦乙女ヴァルキリーに魂を回収された死人兵の呼称だったか?

我らヴァルキリーズと掛けて命名されたのであろうか。

詳しくは知らぬが、この戦況で生き残っている部隊であるからには、精鋭部隊に違いない。


「それで彼らはその新型兵器をもってハイヴに先行して情報収集をおこなう。そしてそれらのデータを元にハイヴ攻略を円滑にすすめるということ。

 あんたたちの新型兵器がそのデータの処理も担当するから責任重大よ。伊隅、新型兵器の説明に入る前に任務説明をして」

「はっ」


そういうと大尉が副司令の横から一歩進み出ると、手元にもったリモコンでモニターを操作する。

するとウィスキー、エコーの両部隊の動きと同時にA-01のものが映し出される。

降下兵団の話もそのときに説明された。

いくら地上を制圧したとはいえ、ハイヴ内の敵の数は未知数、危険も高いはずだ。

話によれば我々が突入するのは最後。

それまで彼らは持つのであろうか。


「さて、いよいよ我々の出番となるが、降下部隊のハイヴ突入作戦の成否により、我が隊の任務も変わってくる。

 突入部隊が制圧に成功した場合、我々も新型兵器と共にハイヴに侵入し、d小隊と合流、情報収集にあたる。

 逆に失敗した場合、新型兵器の攻撃により、ハイヴとその戦力を無力化する事になる」


新型兵器で無力化?

ここまでの話を聞く限り、優れた情報収集性能にさらに単独でハイヴを制圧することができる兵器ということになる。

一体どんな兵器なのだろうか?


「その後A-02、新型兵器の防衛機構を発動。新型兵器の直衛をそれに任せ、我々はウィスキー部隊と共にハイヴに突入。

 BETAを掃討しつつ、先行突入したd小隊の――」

「……救出ですか?」


思わず声のでどころを見てしまう。

声を発したのは……彩峰だった。

寡黙な彼女がなぜ発言したのかわからないが、上官の説明に口を挟むのはまずい。

だが、大尉は何事もなかったかのように説明を続ける。


「――d小隊のもっていた新型兵器及びその運用データの回収を行なう。その後新型兵器による情報収集任務に移行する。

 作戦終了後は、48時間以内に横浜基地に帰還する」

「…………」

「今の内容と、作戦に於ける撤退の手順については、強化装備にデータを落としておくので、各自移動中に確認しておけ。

 風間と鎧衣は打撃支援装備で出撃だ」

「「はい」」


……基本的にハイヴでの戦闘は考えられていないというわけか。


「では、これより副司令から、我々が護衛する新型兵器について、ご説明いただく――副司令」

「はいはい」


その後私達はその新型兵器、XG-70b凄乃皇弐型の性能に驚愕することになるのだった。

全長約100メートル、荷電粒子砲装備、ラザフォード場による重レーザー級からの攻撃の無力化。

そして、最小で4個小隊、最大で大隊規模の無人戦術機を自動操作される防衛機構。

しかもそのどれもが、エース級の腕前となんらかわらない動きをするそうだ。

どれをとっても人類の切り札だと思わざるえない性能だった。

これさえあれば日本は……人類はBETAに勝利することができる。

そう私は確信したのであった。

……それはいいのだが、ブリーフィングを終えた後のタケルの身辺整理の話……。

まさか本当に隠し撮りなどしているわけではないだろうな?

それと宗像中尉に対するあの反応……まさか、いやそんなことは、でももしかすると……。

……私は何を考えておるのだ!

作戦に集中せねばならぬというのに……。

それにあの晩の赤毛の女性が妙に気になってしまう。

……速くハンガーにいって機体のチェックをしなければ。

そう思い、皆の後を急いで追うのであった。

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月詠 真那サイド

「この世に割に合う役目はなど存在しない……か。我ながら妙なこといったものだ。これもあやつの影響なのかもしれんな」

白銀少尉が去った後、私も去ろうとしたがそれを止め、夜の廃墟を見下ろしている。

今の独り言は白銀少尉に向かって言った、私なりの冗談だ。

だがこの言葉を私が知る者たちに当てはめると、奇麗に当てはまるのに気づいたのだ。

その中に私もはいっているのだから、斯衛という役目が自分でも割りに合っていないと思っているのだろう。

本来なら自分を戒めなければならぬと思うが、あいつのとやり取りが自然とそれを払拭させる。

割りに合わない役目に不満を抱いているどころか、心より喜んでやっているのだからそれぐらい思ってもいいではないか?

心が私に微笑みながら言ってくるのだ。

私でもこんな心をもてるのかと少しくすぐったい感じがする……。

だが月明かりに照らされた廃墟を目にすると、自然に心を引き締める。

自分のわずかな変化が嬉しいが、今はそれを喜ぶ時間ではないのだ。

……後ろから気配が1つ接近してくるのを感じる。

それも軍隊でも精鋭といっても過言ではない空気をかもしだしている強者だ。

白銀少尉が戻ってきたかと思ったが、いくつもの修羅場を乗り越えただけが持つ独特の雰囲気からその可能性を排除する。

まっすぐ向かってくるところからして、私に用があるようだが……狙いは冥夜様か?

何にしても排除しておくに越したことはないだろう。

距離はおよそ十数メートル。

静かに拳を握り締める。

残り8メートル。

全身の筋肉を弓の弦のように引き絞る。

残り5メートル。

この距離なら渾身の飛び蹴りを見舞える。

いざ参る!!……と実行しようとした瞬間にその声は私を脱力させた。


「月詠中尉五部沙汰してますかな?」

「…………鎧衣課長なぜあなたがここにいるのですか?」

「いやはや、いつ見ても天の川の如く美しい髪とその美貌はよろしいですな」

「……鎧衣殿」

「長居はあまりできませんのでね。少しお耳を貸していただけますかな?」

「……いいだろう」


独特のペースは追われていても健在か。

その鎧衣殿が小さく、そして頑丈そうな金属ケースをコートの中から取り出すと私の胸へと押し付けるようにして渡す。

そしてこれは何だと言わぬうちに、小声で耳元に話してくる。

その内容は――。


「それじゃあ中尉。これで私は失礼させていただきます。殿下に宜しくお伝えください」

「ああ、これと一緒に渡せばよいのだろう?」

「ええそうです。今回はお土産はなしということで……では」

「…………冥土の土産ならいらんし、置く場所に困るからいらん」


そして、瞬きをする間に鎧衣殿の姿は消えていた。

作戦前だというのに鎧衣殿も無茶を言ってくれる。


「神代、巴、戎 !いるな?」

「「「はっ!月詠中尉」」」


物陰から3人の斯衛がでてくる。

神代、巴、戎 、私の優秀な部下達だ。


「緊急の報告をしなければならぬがゆえ、これより殿下に謁見しに行く。謁見の手続きとヘリの用意を!!」

「「「了解しました!!」」」


このような夜分に恐れ多いが……私も明日生き残れるかどうかわからぬ。

なればこそ無礼を承知で渡さなければなるまい。

他ならぬあやつの為に。

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社 霞サイド

もうすぐ純夏さんの出撃。

白銀さんも出撃する。

遠い遠い空から御城さんも出撃する。

そして、この人も……。

目の前に横たわる少女に意識を潜り込ませるが、やはり何度も試したように展開された壁にぶつかり、

それ以上の侵入を許そうとはしない。

あきらめてまた現実へと意識を引き戻すと、そこには何時もと変わりない眠りについているお姫様がいる。

御城 柳、あの人の大切な家族。

私と純夏さんの関係に当てはめていいのかわからないが、あの人からすればそれだけ大切な人だ。

私もこの人に親近感を感じる。

純夏さんとには及ばないがお話すれば仲良くなれる……と思う。

この人とお話したい。

純夏さん、私、あなたの3人で綾取りをしたい。

でも、どうやったら目を覚ましてくれるの?


「どうして目を覚まさないのですか?」


そう問いかけるがその口から漏れてくるのは息を吸ったり、吐いたりするか細い音しか聞こえてはこない。

…………。

白銀さんはもう海の上かな?

社は天井を見上げてそう思う。

ここにいるとありえないことだが白銀、御城の2人が同じ場所にいるんじゃないかと思うのであった。



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/10 22:34
煌武院 悠陽サイド

「……月詠、ご苦労でした。もう下がりなさい。そなたは本作戦の先方を務めるもの……

 彼の方を守りとうさねばならぬがゆえ、準備を怠ってなりません」

「はっ、承知しております」

「月詠、冥夜は……いえ、なんでもありません。下がりなさい」

「……では、これにて失礼します」


後ろで障子が閉まるのを軽い音がなったことでそれを認識する。

もう刻限は子に入り、普段なら床についている。

だが、月詠が戦場に赴く前にどうしてもということで会ったのだ。

そして、会ってみれば鎧衣に会ったというではないか。

その際に私が手に持っている書類を手渡し、再び姿を消したという。

12.5事件以降、姿をくらましたと思えば横浜基地に現れるとは、つくづく面白い殿方ですこと。

ですが、その問題の書類を見るに興味深いものではあるが、緊急性はないものと思うのだが……鎧衣も渡せるタイミングがここしかないと踏んだのだろう。

月詠も無事生還する保証がないがゆえに、ここにきたのだ。

遺品整理の際にこれを処分されかねなかった為。

甲21号作戦……あなたにはもう護衛はつけられません。

私としてはつけてやりたいのですが、国を思えばこそのこと。

あなたならわかってくれるでしょう。

白銀、御城、そなた達が冥夜の力にならんことを……。


「失礼します……殿下、明日は早いのでそろそろお休みになりませぬと……」


侍従長が私の体を気遣ってか、休むように促してくる。

明日は早いか……帝国軍の同胞たち、国連の盟友たちの朝ははやい。

その内の幾人かは明日を見られなくなるのであろうか……。


「わかっております。そなたも早く床につきなさい。私の朝が早いのならそなたも同じことですから」

「もったいない御心遣いです。私のような者のことより、ご自分の体を考えてください。……ではお休みなさいませ」


再び障子が閉まる軽い音が耳の中に響く。

肩にかかる長く伸びた己が髪を撫で付けながら、窓の向こうに見える天の海を見上げる。

この星の近海には国連軍という魚達が泳いでいる。

その周りには幾億もの御霊が漂っているに違いない。

……数々の戦いに散っていった英霊達……この作戦が成功するようお祈りください。

それに答えるかのように流れ星が1つ尾をひきながら流れた。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その4


ここは宇宙……。

重力から解き放たれ、自由奔放に飛べる束縛のない空間にして、多くの英霊が眠る墓場だ。

今まで何人もの戦士たちが重力の井戸に入り込み、BETAの巣窟に入っていったことだろうか。

いずれもハイヴ攻略という目的は果たせず無念のうちに死んでいってしまったのだろう。

なんにしても私達はそれを行なう為にこの空間に身をおいているのだから。


「それにしても無重力というのは心地よいものだな」

「はあ?おめえ……頭おかしいんじゃねえのか?」


私の発言にいきなり頭おかしい宣言をしてくるのは九羽だ。

以前とは違い、日常と同じように元気一杯私に絡んでくる。

ここに来る前も何気なく聞いてみたのだが、その時も何か吹っ切れたように清々しい私を馬鹿にしたのだ。


「頭おかしいとはどういうことだ?」

「この体がふわふわした感覚がいいなんていうのがおかしいてえんだよ」

「別にいいじゃ~ないですか~。私はいいとおもいま~すよ」

「平中尉の心の中……九羽少尉も元気になったのはいいけどうるさい」

「って魅瀬少尉。勝手にオレの心を語らないでくれ」

「……平中尉」

「へ?」

「作戦中後ろに気をつけてくださいよ」


……話の趣旨がずれているのだが、あえて指摘しないでおこう。

コクピットはモニターを切っていて馬鹿話しかすることがないのだから、仕方ないのだが……一人言もいえぬとはな。

モニターの電源を切っている理由としては再突入殻に戦術機を格納している為に、モニターを移しても地球が見えないというのが理由だ。

余計な電力を消費しないという点でもこれはうなづけることだろう。


「A-01の諸君も士気は十分といったところかな?」


突然通信が開かれ、網膜に一人の男が映し出される。

私達を送り届ける艦隊の旗艦を務める再突入型駆逐艦夕凪の一文字艦長だ。


「いきなり通信回線を開いてくるとはどういうことですか一文字艦長?」


鳴海中尉が出撃前の緊張でイライラしているのか、やや不機嫌に問いただす。

それに対して困った顔をする一文字艦長。


「いやな、暗いところに気分が滅入ると思ってな。いいモンを見せたかったのだが……余計なことだったか?」

「……すまん艦長。少しイライラしていたものだからな。で、そのいいものとは?」

「百は一見にしかず、見てみるほうが早い……ってな」


一文字艦長の言葉と共にヘッドセットを通してモニターが起動、そこには我らが母星、青き地球が映し出されていた。

吸い込まれそうなほど澄み切った青。

大地がよりも海のほうが圧倒的に広いと聞いたことがあるが、一文字艦長の言うとおり百は一見にしかずとはこのことだ。


「す、すげぇー(棒読み)」

「……人の感想をこんなときにぱくるんじゃねぇよ!」

「まあ、そうかっかするな」

「御城、おめえはだま――おおっ、あれは日本じゃねえか!?」


九羽が叫ぶと同時に私もモニターを食い入るように見る。

そして雄大な大陸の横に寄り添うように弓状列島があるのを確認できた。

あのような小さな国が我が祖国……だが誇るべき国なのはたしかだ。

だが国のことを考えるとおもわず自分がちっぽけな存在になったような気がした。

誰だが忘れたが宇宙にでた者がいった。


『宇宙からみた大地に国境など存在しない』


12.5事件のときに白銀がいいたかったのはこういうことではないのかと深読みしてしまう。

彼がそこまで考えていなくても国連という存在はそういったものを体現する為の組織であり、私の目指すものとは別の意味で誇るべきことだ。

……白銀もたしかA-01部隊で00ユニットの直衛担当だったはずだ。

人類が求めてやまなかったオルタネイティブ4の集大成……柳を越える真の00ユニットの力を見せてもらおうか。

なんとしても守りぬけよ白銀 武!


「目の保養ついでに耳の保養もいかがかな?……これより大日本帝国征威大将軍、煌武院 悠陽殿下から甲21号作戦に対する訓示が行なわれる。

 国連宇宙総軍艦隊に告げる。全員拝聴の用意せよ」


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白銀 武サイド

殿下のお言葉を聞くのはこれで3度目……。

この一ヶ月間はオレの生きてきた時をすべて足しても、良くも悪くも足りないくらいの経験を手に入れた。

そして、これからもその経験は、この世界を救うまで続けられるはずだ……。

だが、今回で終わらせる。

今回でこの世界を……人類の手に勝利を掴ませてみせる。

オルタネイティブ4、純夏達00ユニットの力で……。

人類の反撃はこの甲21号作戦で始まるんだ!!

その狼煙を殿下自らが上げてくれたのだから、オレはそれにこたえなければならない。

絶対にしなければならないんだ。

人類の為に……純夏のためにも。


「白銀、肩に力が入りすぎているようだが、もっと楽にしろ」

「そうよ、白銀。まだ、面制圧も始めてないんだから、いまから力入れてたら本番でミスしちゃうわよ?」

「伊隅大尉、速瀬中尉……」


そうだ。

オレ達の出番はまだまだ時間があるんだ。

月詠さんたち帝国軍、ウィスキー隊が正面陽動を成功させてからなんだ。

初めての実戦でしかも、反攻作戦だからって、ちょっと力が入りすぎたのかもしれないな。

もっと楽にしなければ……。


「そうだぞ白銀。愛しの速瀬中尉の前でいいところを見せようと息巻いていても、本番でミスしたらかっこ悪いぞ」

「――って宗像中尉!!」

「なんだ白銀、図星か?」

「違います!!」

「……昨日もそうだったけど、こうはっきり言われると殴りたくなるわね」

「ああ、そうか。柏木のほうか。昨晩遅くに2人っきりで何をやっていたかと思えば、愛の告白か」

「「「「「ッ!!」」」」」

「だ・か・ら宗像中尉!昨日と同じパターンで話を続けないでください」

「そういう白銀君も昨日と同じパターンで話してるんだけどね……で晴子的にどうなの?」


す、涼宮!?

これ以上話をややこしくしないでくれ~。


「ん~私は別に好かれるのは構わないけど……私が白銀を好きになるんだったら、白銀の頑張り次第なんじゃない?」

「「「「「!!」」」」」

「「「おお~」」」」

「よかったわね、白銀少尉」

「風間少尉、これ以上からかわないでください……」


なぜこの部隊は女性ばかりなんだ……。

伊隅乙女中隊、00ユニットの素体候補者を集めた部隊とはいえ、男性比率が一割に満たないなんて酷過ぎ。

207分隊のときは御城がいてくれたから助かった面があるし、冥夜たちはこういったからかいはしてこなかったからな~。

……宇宙にいるあいつの隊はやっぱり女性ばかりなのか?

そうならあいつは真面目だから苦労してるんだろうな。

もし、想いを寄せられているにしても鈍感だから全く気がつかないで、相手を四苦八苦してるんだろう。

その相手にこの場で成功を祈ろう。


「楽しいお喋りはいいが、そろそろ宇宙が忙しくなるころだぞ。モニターでそれを確認するのも一興だからな。

 全機、国連宇宙総軍艦隊の勇姿を確認しろ!」

「了解(全員)!」

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少し場面変わって宇宙

「ん?」

「どうしたの九羽ちゃん?」

「いや、なんか、こう声援が聞こえたような気がして……」

「……御城病が移ったの?」

「はぁ~?……って……ポッ」

「九羽、伊間少尉!爆撃が始まったんだから、力を入れろといわんが惚気も程ほどにな」

「平中尉!!」


「……オレの部下はなんでこうおふざけが好きなんだろう?」

「……隊長が隊長だから」

「どういう意味だ魅瀬少尉?」

「宴会、ギブ、ギブ」

「…………いいかげんに忘れてくれ」

「嫌」


「……作戦前に隊長自ら何やってんだか……はあ」



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/22 14:37
2001年 12月25日 8時56分 佐渡島沖

大和艦長 田所サイド


「――小沢提督、安倍です。第2戦隊信濃以下各艦、戦闘配置完了。後は攻撃命令を待つばかりであります」

「うむ……貴官らは本作戦における地上戦力の先鋒だ。心して任務に当たられよ」

「――はっ、畏まりました」


通常通信から流れてくる安倍君と小沢提督の作戦間際の会話。

どうやら安倍君も私と心構えは同じらしい。


「安倍君、随分と逸っているな」


通信機から流れてくる声は戦艦武蔵艦長の井口さんだ。

やれやれ私に話しかけてくるとは井口さんも安倍君もこの作戦に対する気持ちは……いや日本人の気持ちは1つということなのだろう。

私は返答すべく、通信機に手を伸ばしマイクを取り出した。


「我々も、似たようなものだよ、井口さん」

「ふふふ……確かに」

「あの島が奴らの手に落ちた日……あの日も我々はここに居たのだからな」


艦橋から望めるほど大きく、禍々しいモニュメントがあの日を鮮明に思い出させる。

井口さんもそれを思い出したのか、通信機から聞こえてくるその声は、苦渋にまみれたものだ。


「ああ、今でもあの日は夢に見るよ……忘れる訳が無い」

「まさか生きてこの日を迎えることができようとは……夢にも思わなかった」


目を閉じればあの地で散った同胞たちが鮮明に浮かんでくる。


「あの日、この地で失われた幾多の命に報いる為にも、必ずこの作戦を成功させねばならない。

 BETAを叩き出し、あの島を……我が国土を我らの手に取り戻そう。先に逝った者達も見守っている」

「うむ……そうだな」


瑞賢……明星に散った貴官も、烈士だった娘と共に戦友として見守っていてくれ。


「――国連軌道爆撃艦隊の突入弾分離を確認ッ!!」

「――!」


来たか!!

遠くに見える佐渡島の上空にサーチライト見まがう、多数のレーザーが照射され、瞬く間に爆炎が青い空に赤を生み出す。


「敵の迎撃を確認ッ!!」

「重金属雲の発生を確認ッ!!」


次々とオペレーター達の報告が上がってくる。


「第2戦隊AL弾砲撃開始ッ!!」


敵の2次迎撃を行なわせる為の囮の砲撃が開始され、佐渡島上空は真っ黒な霧に覆われた。

レーザーはその霧……重金属雲によってレーザーが減衰されている様が、離れたここからでも観測できる。

ふふふ、安倍君に負けてられんな。

さて我々人類の反撃をとくと見せてくれるわ。


「全艦砲撃準備完了!!」


この報告を受けた1秒後に佐渡島沖に展開する全艦隊からは1つの魂の叫びが通信機を揺るがした。


「全艦、目標に照準合わせ――ってぇ!!」
マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その5


全体サイド

「全艦最大戦速――全スティングレイ離艦せよ!」

「HQより全てのスティングレイ隊に告ぐ、橋頭堡を確保し、残存BETAを掃討せよ」

「スティングレイ1より各機――海兵隊の恐ろしさ奴らに思いしらせろ!全て蹴散らせ!!」

「――了解ッ!!」


海では海兵隊が駆る海神の大部隊が橋頭堡の確保の為、BETAを掃討するために発進していく。


「HQよりウィスキー揚陸艦隊、上陸に備えよ。繰り返す、上陸に備えよ」

「旧河原田本町一帯の面制圧を完了。連合艦隊第2戦隊、旧八幡新町に向けて砲撃を継続中」

「スティングレイ隊上陸開始!」


その海神――その名に恥じぬ海の神々たちが一歩一歩砂を蹴り、侵略者達を己が身に持つハリネズミの如き重火器で次々と粉砕していく。

まさに人類の反攻に恥じぬ大行進だ。

そしてその大行進を束ねる1人が次の反撃の狼煙を上げるべく、通信を入れる。


「スティングレイ1よりHQ――上陸地点を確保、繰り返す、上陸地点を確保!」

「ウィスキー部隊、各機甲師団の上陸を開始せよ――繰り返す、ウィスキー部隊、機甲師団の上陸を開始せよ」

「帝国軍、戦術機甲師団の各隊は順次発進せよ!」


その連絡を待っていた部隊は次々とあらかじめ決めていた段取りどうりに行動を開始した。

戦車に乗る者たちも戦術機に乗る衛士も心はひとつにまとまっている。

BETAを倒せ、佐渡島を我々人類が住む地へと回帰させろ!

そして、国連軍に最大の支援を!!

米国に敗れて約半世紀……12.5事件をへて帝国軍はかつてないほどその士気は高まっていた。

殿下を救った国連軍たち、さらに国連開発の新型兵器の存在も発表された。

日本人の誰もが国連を馬鹿にしていた。

日本人で国連に入るやつは売国奴だという帝国軍人も多かった。

だがそんな国連に入ったやつらが殿下を守り通したのだ。

国連に入っても日本人としての志は失われていなかった……。

殿下を救ってくれた恩義、今まで差別していたことの謝罪、そして日本の為、人類の為に帝国軍は佐渡島ハイヴ殲滅に向けて燃えに燃えていた。

だがBETAもそう簡単にはやらせてはくれない。


「スティングレイ1よろHQ――支援砲撃を要請!ポイントS―52―47!重光線級が接近中だ――戦術機母艦が危ない!!」

「――HQ了解」


支援砲撃要請を打診するがそれはやや後手に回った。

先程空に向けて放たれていた光の柱が、今度は海に浮かぶ戦術機母艦たちを襲う。

その内の1つ、戦術機母艦高尾が集中砲火を受けその胴体を溶かし、炎上させる。


「高尾大破!!」

「高尾に残っている戦術機を至急発進させろッ!第2照射来るぞ!!」

「高尾艦載機は直ちに離艦、佐渡島に上陸せよ!」


次々とリフトが上げられてゆき、撃震、不知火といった主力戦術機16機がブースターを吹かし、佐渡島へと飛び立っていく。

その内の何機かは強力無比の光の前に撃墜されてゆきその数を減らしてしまうが、

海岸に辿り着いた戦術機たちはその手に持つ武器を存分に操り、海神たちの弾幕に加わりさらに濃密にしてゆく。

または背に装備された長刀を手に装備し、前進しながら次々と切り倒してゆく。


「クラッカー隊全機ついて来いッ!奴等を片っ端から掃除するぞ!クラッカー3ついて遅れるなよ!」

「隊長!なんでいつもボクにだけ言うんですか!?」

「それだけ吼えられれば、大丈夫だなクラッカー3」

「クラッカー4までそんなこというの!?」

「クラッカー1も4もからかいすぎだぞ!上陸は始まってるんだぞ!」

「わかってるよクラッカー2……ではいくぞ!」

「「「了解」」」


支援砲撃が次々と弾着し、それを合図にしたかのように後方にいる戦術機部隊も次々と飛び立ち始めた。

それはまさに海神の行進を援護する鳥達のようだった。

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白銀 武サイド 作戦開始から76分

「帝国連合艦隊第2戦隊は依然健在、現在砲撃を継続中」

「ウィスキー部隊、旧八幡新町及び旧河原田本町を確保!部隊損耗7%!」

「ヴァルキリーマムより各機――エコー揚陸艦隊は現在、最大戦速で南下中。戦域突入まで――」

「揚陸艦隊の被害甚大なれど、作戦続行には支障なし!轟沈81、うち戦術機母艦49、大破52……」


やはり上陸が始まった途端、被害がとんでもないことになっている。

特に揚陸のために島に近づいた揚陸艦と戦術機母艦の被害が目立っている。

戦艦クラスの対レーザー装甲があるわけじゃないから仕方がないとはいえ……。

作戦とはいえ……こうして味方がやられているのを黙って見てなきゃならないのは……きついぜ。

月詠さんに3馬鹿、大尉の妹さんは――。


「ヴァルキリー1より中隊各機――エコー艦隊の両津港上陸も近い。各機緊急事態に備えろ。

 ウィスキー部隊の母艦は、沿岸部からのレーザー照射でかなり沈められている。いつでも発進できるようにしておけ」

「了解!(全員)」


何もしないうちに船と一緒に沈められるのはまっぴらだ。

オレは00ユニットを……純夏を守らなきゃならないんだからな。


「――HQからエコー艦隊。現時刻を以って作戦はフェイズ3へ移行。砲撃を開始せよ!」

「――HQよりエコー揚陸艦隊。全艦載機発進準備!繰り返す全艦載機発進準備!」


来た!!

オレ達が乗っている戦術機母艦大隈の艦内にアラートが鳴り響き愛機の不知火がリフトにより甲板へと姿を現す。

今までデータリンクからの画像だったのが、不知火のコクピットにリアルタイムの攻防が映し出される。


「――エコーアルファ1よりHQ!全艦載機の発進準備良し!」

「――HQ了解。全機発進せよ!繰り返す、全機発進せよ!」


その命令がエコー部隊全戦術機に瞬時に伝えられる。

なので当然オレ達にも聞こえる。

そして、大尉の気合の入った出撃命令がオレの鼓膜を震わせた。


「行くぞヴァルキリーズ!全機続けぇッ!」

「了解ッ!(全員)」


その号令を合図に戦乙女達が空を舞った……オレは男だがな。

エコー部隊全戦術機の先頭を進み、先導する姿は他の部隊にはまさしく勝利の女神に見えた。

男であるオレがいうのだから間違いないだろう。

迫り来るレーザーに怯むことなく、上陸地点の確保を行なっていたサラマンダー隊に合流する。

殆ど差もなく次々と他の部隊も合流し、部隊数がそろうと北上を始める。

オレ達ヴァルキリーズは別行動だが、彼らの健闘がこの作戦で重要であることにはかわりはない。

……間違って全滅なんてするんじゃないぞ。

目だけで彼らを見送ると不知火に全力機動を掛ける。

大尉達も動き始めたのに突撃前衛のオレが先頭を行かなくてどうするんだって、理屈だ。

それに速瀬中尉に怒られかもしれないしな。

……なんて冗談もいっている暇もなさそうだな。

向こうからは突撃級を先頭に見渡す限りのBETAが、こちらに接近してくるのを確認する。

その殆どがエコー主力部隊にむかっているが、決して少なくない数がこちらに向かってくる。

それを見て取った宗像中尉率いるC小隊が1度前に出て、支援射撃を始める。

出鼻を挫かれたBETAの群れに伊隅大尉のA小隊、強襲前衛中心の火力で敵を撹乱。

そしてオレ達速瀬中尉率いるB小隊、突撃前衛が群れの中を縦横無尽に駆け巡り、一気に掃討する。

訓練どうりの――それ以上の動きで敵を蹴散らしてゆく。

いける!心配していたBETAへの恐怖も感じない。

オレはまだ人類の為に戦えるんだ!

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御城 衛サイド 作戦開始から184分

「ウィスキー全隊損耗率33%。エコー全隊損耗率13%。共に作戦に支障なし。

 帝国軍もよく踏ん張ってくれるな。降下するオレ達とってありがたいことだ」

「そうだな……。ヴァルキリーズの方はどうなんだ孝――エインヘリャル1」

「いたって順調……むしろ速いくらいさ」

「そうか……」

「それよりも遂にオレ達の出番だ。先程フェイズ4に移行を宣言された。後数十秒で降下開始だ。喋るなら今のうちにしておけ」


フェイズ4に移行……。

ハイヴ突入部隊の降下開始の段階、それはこの作戦の大きな分かれ道となるのだ。

私達突入部隊がハイヴ制圧を成功させれば、A-02は情報収集に専念するだけ、

失敗すれば……つまり私達が死ねばA-02の荷電粒子砲でハイヴを焼き尽くす。

できれば前者でこの戦いを終わらせたいものだ。

そんなことを考えていると通信が入ってくるのに気づいた。


「おい、御城」

「……なんだ九羽か」

「オレで悪いのかよ!この――」

「それよりなんか用があったんじゃないのか?」

「うっ……そうだった」


相変わらずいじりがいのある奴だなこいつは。

魅瀬と伊間がふたりしてからかうのもわかる気がする。


「ええと……その……死ぬんじゃねえぞ」

「?」

「ともかくオレの許可なしに死ぬのは許さんねえからな!!」


九羽はそういうと通信を切ってしまう。

通信も唐突だったが、用件も唐突だった。

返事をする前に通信を切ってしまうし、よくわからんことをいうものだ。

……そうか、前回のことをまだ気にしているから心配掛けまいと適当に声をかけてきたのかもしれないな。

あいつなら克服できている。私は彼女をそう信頼している。


「エインヘリャル2より3へ。どうだ調子は?」

「平中尉……こちらはちょっと体が硬くなっていますよ」

「初めての降下作戦だから無理もないだろうな。オレと孝之は1度経験しているから大丈夫だとおもうが……

 お前よりむしろ嬢ちゃんたちのほうが心配だ」

「……ハイヴですか?」

「そうだ。軍医の話ならもう大丈夫なはずなんだが、どうも心配でな。S-11が引き金にならんともいえなくもない。

 ハイヴ突入となればなおさらだ」

「……大丈夫ですよ。あいつがついていてくれますから」


XMNシステム、柳がついていてくれれば万が一はおきないはずだ。


「あいつ?」

「いえ、なんでもありません。それより降下開始のカウントダウンが始まっています。通信は終わりにしましょう」

「……そうだな。じゃ無事地表で会おう」

「了解……」


通信が切れ、網膜に映るのは青い地球と降下開始のカウントダウンだけとなった。

A-02は現在新潟県のあたりを飛行中か……。

柳……決して死ぬんじゃないぞ。

お前の分身たちはオレが守ってみせるから、無事横浜基地で会おうな。


「3、2、1、0、全艦降下開始!再突入殻を分離のタイミングを誤るな!」


一文字艦長の掛け声と共に徐々に視界に赤色が現れ始める。

機体と大気による摩擦熱による赤色。

私の心の色を表しているといっても過言ではないほど、奇麗に輝いている。

これで撃墜されればそこまでの人生、ここで終わるわけにはいかない。

全てを賭けてでもこの作戦を成功させて見せる!

駆逐艦はしばらくして私達を切り離し、地表へと送り出していった。

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九羽 彩子サイド 作戦開始より約227分 佐渡島ハイヴ深度470m付近

「――ザウバー1よりCP。第13層N21『広間』を確保――繰り返す、第13層N21『広間』を確保」

「――CP了解。引き続き『主縦抗』を目指し進軍せよ」

「――後続の状況が知りたい。有線データリンクがうまく機能していない――」


記録更新まであと41mか……。

例のシステムを使っても約30分でこの速度でしか進めない。

……システムもがんばってるんだろうが、もう少し早くして欲しいもんだ。

新型兵器とはいえこの程度のスペックなのだろうか?


「エインヘリャル4からエインヘリャル1、もう少し進軍速度上げられないでしょうか?」

「……不安なのはわかるがもう少し落ち着け。私達が先行したからといって全軍がついてくるわけではないんだ。

 それにこの層のデータ収集を終わらせるのもオレ達の仕事だ」

「A-02の支援ですか?」

「そうだ。こうしている間にもシステムが司令部とA-02にデータを送り届けているんだ。もう少し我慢しろ」

「エインヘリャル4了解」


機械も機械なりに苦労するということか……。

まあ、オレが代わりを務めたとしたら頭がパンクするだろうから我慢するとするか。

そのときコクピットに喧しいほどの警告音と真っ赤なランプが点灯する。

いってえなんだ!?

瞬時に原因のデータが網膜へと映し出され、その内容に驚愕する。

そして、それを伝えるべく鳴海隊長へと通信をいれる。


「エインヘリャル4よりエインヘリャル1へ!!軍団規模を越えるBETAが下から進軍を開始!次々と各部隊に向かっています!」

「エインヘリャル5より1へっ、敵が新しい縦抗を掘って接近中です~!後方でも同様でこのままじゃ囲まれます~!」

「落ち着けエインヘリャル5!前方はどうなんだ?」

「前方はまだ敵の接近に時間がかかりま~す。なんにしても後方のL大隊と合流するには時間がありませ~ん」


おいおいやべえよ。

推定固体が4万を越えるって、この数どころか地上にいる部隊でもやべえじゃねえか。

オレ達どうすればいいんだよ!?


「――エインヘリャル1よりレザール1。L大隊の状況は?」

「こちらレザール1。全力後退してもそちらからのデータからして、間に合わない。このままだと袋にされてしまう」

「……少しでも生き延びる可能性を高めるならL大隊と合流したいが……それは無理そうですね」

「だがどうする?話している間に後退したほうが可能性を高められるだろう?」

「……いや、手はあります」

「なに?」

「L大隊には申し訳ありませんが、この場にいる部隊だけなら生き延びる可能性を上げられる策です」

「ほう……聞かせてもらおうか」

「私としても不本意ですが……」


一体全体どうなっちまうんだよ!?

この状況で生き延びるなんて無理があるぜ!?

こんなことになるんだったらあいつに伝えるべきだった。

宇宙でそのチャンスがあったのに……死にたくねえよ。

----------------------------------------------------------

イリーナ・ピアティフサイド 作戦旗艦最上

「!!」

このデータは……。

嫌だ、信じたくない。


「ピアティフ中尉……?どうしました?」

「……ピアティフ報告はどうしたの?」


声を掛けてくる2人の女性。

片方は動揺している私に何かと声を掛けてきて、もう1人はそんなの動揺を無視して報告を求める。

副司令……その冷たさがいまはありがたいです……。


「報告します……。ハイヴに先行突入した全部隊との交信途絶……A-01d小隊とも交信できません。

 おそらく全滅したと思われます……。最後の交信により4万以上のBETAの存在を確認。

 その際、新しい縦抗を掘っての包囲攻撃をおこなったとのことを打電してきました……」

「……畏れてたことを始めたということね。提督至急、重光線級の再出現も考えられます。艦隊のAL弾換装の許可を」

「わかりました……きゃつらめ、まだこれだけの数を温存していたとは……」

「ピアティフ、全艦隊にAL弾換装を至急させなさい」

「……了解」


私のせいであの人以外の将兵を死なすわけにはいかない。

少なくとも悲しむのは今じゃない。

今はこの仕事を最優先に……。

あの人は生きているはずだと、今はそう思うことにした。



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/21 17:01
白銀 武サイド

「――B小隊、BETA掃討完了!」

「――同じくC小隊掃討完了」

「よし、各小隊レーザー照射を警戒しつつ集結しろ」

「「――了解!」」


…………。


「それにしても、また速瀬にしてやられた。3匹も持って行かれるとはな」

「こっちもB小隊に2匹食われましたよ大尉」

「いや~、部下が良くやってくれましたから」


散り散りになった戦乙女が徐々にA小隊の元へと集結していく。

そんな中で各小隊の隊長たちは緊張をほぐすように雑談会へと洒落込んでいる。

それが悪いどころか新人であるオレ達にとってありがたいことなはずだ。

だが、今はそんな大尉たちの態度が恨めしい。

先程いったように、大尉達が部下を気遣っているのはわかっているし、ありがたいことだ。

けどハイヴ先行突入部隊が全滅……つまりD小隊の全滅がはっきりと認定され、再び御城の戦死が決定されたのだ。

戦場でささいな迷いでも命取りになる。

だから大尉達も平気なように振舞っているのかもしれない。

だけど、そういった態度がD小隊の全滅を他人事のように気にしていないように見えて、オレの気持ちを沈めてしまう。


「これでB小隊の新人共も一人前の突撃前衛といった所ですか」

「ふふふ……速瀬のお墨付きがやっとでたというわけだ」

「訓練の評価がいくら良くてもアテになりませんから~。全て実戦踏んでからですよ」

「――だそうだ。白銀」

「…………」

「――?どうした白銀」

「……いえ、なんでもありません宗像中尉」


宗像中尉はオレの態度を怪訝に思ったのか、なにやら大尉に目配りする(あくまで網膜に映る画面内でそう見えた)と

大尉も頷くように顎を引いた。

ああ、やっちまった。

案の定、次々と通常回線が切れてゆき秘匿回線が開かれて網膜には大尉だけが映るかたちになった。


「白銀……BETAに対してやはり拒否反応がでているのか?」

「……いえ、BETAに関しては問題ありません」

「なら、その顔色はなんだ?BETA関連のほかに私に思い当たるとしたらハイヴ突入部隊のことしかないのだが……?」


さすが大尉、わかってるじゃないですか。

さっきの態度はやはり平気なふりをしているだけ……少なくとも気にしていなかったわけじゃないんだ。


「大尉には隠し事はできませんね」

「お前がわかり安すぎるんだ」

「……違いありませんね。ハイヴ突入部隊に参加していたD小隊……やはり全滅したんですよね?」


この程度御城がD小隊にいたというレベルの機密事項なら大尉になら話しても問題ないはずだ。

それにあいつがまた死んだことを大尉には知っていて欲しい。

あいつが死にながらも生きていたことを知る人が少なすぎるのは悲しすぎる。


「状況からしてまず間違いないだろうな」

「そのD小隊にオレの知り合いがいたんですよ」

「…………」

「でそいつは12.5事件で死んじまったと持ってたんですが、先日せんせ――副司令から知らされたんですよ。

 あんたの任務にも関係してくるからってね。でもまた会う前に死んじまって……今は悲しんじゃいけないってわかってるんですが

 同じA-01なのにヴァルキリーズの皆はたいして気にしていない……本当のことはわからないですけど、それではあいつが浮かばれないと思うんですよ」

「なるほどな……。D小隊のことは残念だが、速瀬たちには寝耳に水なんだろうな。私以外にD小隊……0中隊のことを知っているのはいないのだからな。

 あったことも聞いたこともない部隊が全滅しても戦況が悪くなった程度なのだろう。その分下手に知ってる分お前は辛いというわけだ」

「はい」

「だが甘ったれるな。貴様は悲しんでいるだけでいいが、それが隊全体の不安要素だということを忘れるな」

「……すみません」

「わかったならその顔をどうにかしろ。通信は以上だ」


はあ……オレは何をやってるんだ。

大尉だって妹さんが心配で仕方ないのにオレだけ“不幸ですよ”って顔をしてどうする。

今は戦闘に集中するんだ。

純夏を御城の妹を守るのがあいつの弔いにもなるし、人類の反攻にもつながるんだ。

だから……甘ったれるなオレ!!


「――大尉見てくださいッ!」

「――どうした風間」


通常回線に戻った途端、冷静ながらも切迫す多様な風間少尉の声が聞こえてくる。

今度はいったいなんなんだ!?


「――ハイヴ周辺のBETAが……こちらに向かっていますっ!」


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その6


御剣 冥夜サイド

重金属雲による灰色の空で閃光が止め処なく咲き誇っている。

いつのまに換装したのかわからないがAL弾頭弾のおかげで着弾率は上々といったところだ。

だがそれでも一向にレーザーが天に向かって撃つのが途切れない。

この分なら光線級は少なくとも100以上の数をそろえているにちがいない。

帝国、国連両軍の備蓄の半分をつかって掃討したレーザー級がまだこれだけいるとは……。

あらためてハイヴ攻略戦の恐ろしさを実感した。


「――HQよりヴァルキリーズ1。艦隊の砲撃支援は順調。されどA-02支援の為、光線級を最優先撃破目標にし、掃討せよ」

「ヴァルキリー1了解」


やはりレーザー級が最優先目標か……。

だが、いくら支援砲撃が行なわれているとはいえ、我々だけで止められるのか?

武達も不安なのか仕切りと状況を無意味に語り合っている。


「――全員良く聞け状況を説明する」


大尉!


「敵本隊の進攻速度は約60km。突撃級はで形成された前衛は約90kmで先行している。

 敵本隊は14分後、前衛は約10分後に我々がいるこの防衛線に到達する計算だ。

 そしてA-02砲撃開始地点は2000m後方。敵前衛が2分で到達できる距離だ。

 この地点はブリーフィングで説明したとおりA-02の防御、攻撃にむいている谷になっている」


そうA-02が多方向からレーザー照射を受けぬ為、そして姿勢変更なしで砲撃を開始できるから選ばれたのだ。


「だがこの場所はA-02だけにではなく我々にとっても都合が良い。作戦を説明する――」


作戦は至って簡単、谷のくぼ地に隠れながらレーザーを防ぎ、その間機体の電源をオフにして前衛をやり過ぎし、後方からA、C小隊でこれを殲滅。

そして、それを合図に我々B小隊が敵本隊に突撃――C小隊が我々とともに光線級を狩るというわけだ。

さすが大尉だ。

短時間でこれだけの作戦を立案するとは……大尉から学べるところはありすぎるくらいありそうだ。


「――さぁてあんた達、作戦は聞いての通りよ。訓練どおりやったらぶっ飛ばすからね!?」


ふふふ……さすがは速瀬中尉、こんなときでも調子は変わりはないか。


「――中尉……ここは普通、『訓練どおりにやれば大丈夫!』とか言いませんか?」

「――この状況でそんな眠たい事言う訳ないでしょ!訓練以上の事やんなさい。良いわね!?」

「「了解」」


……訓練以上のことをやれば生き延びられる。

そのままの意味を中尉はいいたかったのであろうか。

それを戒めとして中尉は胸の中に潜む恐怖心と戦い今まで生き残ってきたのだろう。

ならば私もそれに習い戦おうではないか。

武……そなたも負けるでないぞ!

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御城 衛サイド

本来、地下というものは人が住むところではない。

土竜や蟻といった獣や昆虫の類がコミニティーを築いている場所である。

最近の学説ではもっと深いところに細菌やバクテリアが人間では住めないような温度の土の中にコミニティーを作っているらしい。

だがそんな例を出すまでもなく、我々は人外の侵略者を目の前にすればいるのかもしれないと思うだろう。

BETA。

宇宙の彼方からの侵略者達の巣ともいうべく本拠地に我々は乗り込み……そして、孤立した。

だが我々は生きるのをあきらめていない、いないからこそかろうじて生き残っているのだ。


「ザウバー3!――だ!」

「了解!」

「ゴースト1、各隊を率いて先に進め!殿は我々が務める」

「ゴースト1了解。そちらも敵増援が来る前に掃討、設置しろよ」

「こちらエインヘリャル6データ受信。前方からの敵増援は約7分、後方13分、新たな縦坑、横坑は確認せず。設置時間に問題なし。

 設置後は最大戦速で敵を無視してすれば爆破範囲から離脱可能です」

「ザウバー1了解。エインヘリャル1、3、4で残りのBETAを掃討、残りはゴースト隊と一緒に前進。

 S-11設置はレザール隊が行なえ」

「エインヘリャル1了解」

「レザール1了解」


新たな指示を受け、戦車級から要撃級までの中小BETAを36mmで粉砕してゆく。

……残弾はもう少ないか。

兵站がないのだから仕方ないし、長刀や短刀で残弾を節約してきたがそれももうできなくなってきた。

それにしても後どれだけ降りればいいのだろうか?


「――こちらエインヘリャル1、BETA掃討完了。レザール1そちらはどうだ?」

「――こちらレザール1。後はタイマーを起動するだけだ――設置完了。さっさと離脱しようぜ?まだまだオレ達は進めるんだからな。

 まさしく新型兵器さまさまって感じだぜ」

「――全く持ってその通りだな。他の大隊にもこれがあれば生き残れていたかもしれない」

「――よせ。それを言ったら切がねえからな。なんにせよオレがこうして生きていられるのは、そいつのおかげというのは変わりないんだ。

 それにオレ達が記録塗り替えたんだから、自慢できるんだぜ?」

「――そうだな。残りのS-11も残り少ない。慎重にかつ大胆にいかなければな」


鳴海中尉はあえて口にしないか。

生きて帰ればということを……そして新型兵器、柳の性能がやや落ちていることを。

――私達が深度470m地点で包囲されたとき、鳴海中尉は1つの策を提案した。

柳が得たハイヴデータを使いS-11を設置しつつ前進する。

なぜ後退ではないのかというと私達のいる部隊の包囲とは別に、後ろのL大隊を包囲しようとするBETAがいたことにより

掃討してのS-11の設置が不可能であるということ。

そして何より中間層に近づいていたことにより後退するよりも前進して反応炉に一体でも多く近づけようというのがその理由だ。

その作戦は成功し、大隊は半分に減りながら……設置が間に合わないという理由で自爆した者達のおかげでここまで辿り着けた。

データが示すならばあと、300m。

今までどおりのペースで弾を使っていたら残弾は100m地点で底をつく。

反応炉に近づく分BETAとの遭遇率が高まるのだから200mでなくなる確率も高い。

それが私の計算能力でおこなったものだから信憑性は高いはず……だ。

そして肝心の柳のことだが――


《御城、システムの調子はどうだ?》


頭の中に鳴海中尉の声が響き渡る。

鳴海中尉がプロジェクションを使えるとわかった日から、機密や重要な話はプロジェクションで話をすることになっている。

秘匿回線を使わずとも肌の触れ合い回線を使えるのだから、これほど防諜に適したものはないだろう。


《……やな――システムの性能は以前低下したまま、今も私がサポートして情報収集を続けています。

 任務継続には支障ありませんが、原因は不明のまま。副司令に直接みてもらうしかありません》

《それも生き残ってからの話か……調子がよければ地上との通信も切れずに済んだのだが、仕方ないか……反応炉にたどり着ける確率は?》

《現状のままの戦力なら30%。これが半分になれば5%、我らD小隊だけなら2%です》

《以外に高いな》

《ですが、あくまで今までの敵の平均戦力と遭遇率からですので、実際は現戦力でも1割をきると思われます》

《……1個小隊で反応炉にたどり着ける可能性は?》

《……犠牲をいとわなければ、犠牲を出さないための戦い方よりも3%上がりますね》

《ザウバー1には悪いが……》


犠牲になってもらうか。

私達D小隊を全員生かすとなれば、仕方ないが味方を餌にするのは胸が痛む。

実際L大隊を見捨たときも胸が痛んだのだ。

鳴海中尉は私達が入る前このようなことをやっていたというが、心を殺さなければ……人という部分を殺さなければやっていけない。

エインヘリャル中隊は死人の部隊というのは皮肉であったに違いない。


「――こちらザウバー1。エインヘリャル1、レザール1ごくろうだったな。着いて早々悪いが、前進を急ぐぞ。

 前方のBETAどもの接近が予定より遅いらしいんだ。一気に距離を詰めて混乱しているうちの突破したい」

「――エインヘリャル1了解」

「――レザール1了解」


前方のBETAの集結が遅れている?

やはり柳の調子がおかしいのか。

とそのとき途轍もない衝撃がハイヴ全体を揺るがした。

ハイヴそのものが崩れかねないその衝撃は戦術機を転倒させかねないほどだった。


「どうした!?S-11が爆発したのか!?」

「そんなはずはない!まだタイマーには3分も余裕があるんだぞ!」

「この振動元は……上です!主縦坑方面……モニュメントからこの振動がきています!」

「本当かゴースト3!?ということは……」

「もう1つの新型兵器……XG-70bによる砲撃しか考えられねえだろ」


九羽の一言が全体のコクピットに静かに木霊した。

最初は沈黙が支配し、柳が拾ってきた情報が上がるにつれて次々に歓声を上げてゆく。


「うおぉぉぉぉ!!やったぜ!やったぜ!遂にオレ達はやったんだ!!」

「見ろよこのデータ!モニュメントが吹っ飛んじまったってよ!ざまあみやがれ!」

「やったぞアリサ……人類の切り札がお前の仇を取ってくれるぞ……」


ザウバー、ゴースト、レザール、その他の生き残りの部隊は次々と通信回線を歓喜の色で彩ってゆく。

エインヘリャル中隊の皆もそれに便乗するわけではないが、それぞれの心を打ち明けてくれる。


「朝美ちゃ~ん~」

「元気泣き過ぎ」

「そういうお前もな」

「……む」

「九羽少尉、そういうお前もそうだぞ?」

「!!これは……心の涙です。平中尉」


やれやれ嬉しすぎて、自分が泣いているって自白してるじゃないか。

そんな九羽のジュラーブリクに近づき、肩に手を置いて一言いってやった。


「……こんなときくらい泣いてもいいんじゃないか?」

「御…城…ううう……」


これで生還率が格段に上がったはずだ。

スペックに違わぬ攻撃力……白銀、よく守り通してくれた。

作戦が終わって会えたなら礼を言わして――。

再び襲う衝撃。

どうやら上では第2砲撃が行なわれたらしく、またモニュメント跡を中心に振動が確認される。

今のでどれだけのBETAを葬ったのかと想像しながらデータへと目を馳せる。

前方のBETAが接敵する地点に辿り着こうとすると予想だにしないことが起こった。

上方に警戒するようにと警告音が鳴り響きそれを確認しようと全機が上にメインカメラを向けると……。

そこには亀裂が入った天井が網膜へと飛び込んできた。

そんな……莫迦な。

いくら荷電粒子砲の威力が凄まじくとも衝撃地点からハイヴ外壁まで距離があるはずだ。

だから崩れるはずはない、そう思っていた。

だが私の計算がミスをしていたとしたら?

そこでふと思い出す、相手BETAが縦坑や横坑を掘ってこの通路に侵入しなかったことを。

あれはここの壁面が脆く通路が塞がってしまうからではなかったのか?

それに考え付いたときには3度目の衝撃……S-11の衝撃が天井を崩壊させた。

ゆっくりとゆっくりと暗黒の世界が広がってゆく。

だがそれを受け入れたくないと体は反応して、全力噴射でその場を離脱しようと試みた。

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白銀 武サイド

なんでだよ。

なんで凄乃皇が……純夏が各坐するんだよ?

機体各部に以上はないのに……昨日見た限り純夏におかしかったところはなかったはずだ!?

これからもう何回か砲撃した後に防衛機構を発動して、オレ達が御城の敵討ちをするんじゃなかったのかよ!?

純夏!純夏!純夏!純夏!純夏!純夏!

どうか無事で会ってくれよ!!



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/27 17:28
マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その7


白銀 武サイド

一体何がどうなってるんだ!?

荷電粒子砲は問題なく発射されていたのに……純夏は元気だったはずだ。

何が原因で、どうやったら凄乃皇がこんなところで各坐しちまうんだよ。

激しく動揺しているオレに秘匿回線独特の通信開始音が鼓膜を振るわせる。

――って秘匿回線!?

そして網膜に映し出されたのは海上で指揮をとっている先生だった。


「――せっ、先生!」

「――白銀、聞こえてるわね?」

「一体何がどうなってるんですか!?凄乃皇は……なんかあったんですかッ!?」

「XG-70bの機能は全て正常。なのに再起動コードを受け付けないのよ」

「――ッ!」


再起動!?それじゃあ純夏が――00ユニットが機能停止したって事か!?


「――再起動って先生!00ユニットは……純夏は――純夏はどうなったんです!?」

「再起動を試みているのはXG-70bの主機よ。00ユニットじゃないわ」

「…………!」


そうか……とりあえずは一安心だ。


「ただ、無事とも言える状態でもないわ。遠隔操作で再起動できない理由は、00ユニットが自閉モードに入っているからよ」

「――自閉モードッ!?なんなんですかそれは!?」

「人間にたとえれば気を失っているような状態よ。死ぬような話じゃないから少し落ち着きなさい」


――ッ!クソッ……純夏のことだから、つい取り乱しちまった……。

00ユニットの事情を知っているオレに、わざわざ先生が直に繋いできたんだ。

何か特別な命令があるはずなのに、余計な説明をさせて時間を無駄にさせちまった。


「すみませんでした。で、オレは何をすればいいんですか?」

「00ユニットタイプKを――純夏を回収して戦域を離脱しなさい。戦術機の2人乗りはお手の物だったはね?」

「――えっ!?」


脳裏に浮かぶ断片的な記憶。

天元山、冥夜、2人乗り、コクピットでの情事。

そして、殿下を乗せての逃避行。


「この戦場でXG-70bの次に安全なのは、あんたの機体だからね」


殿下の時みたいに簡易ベルトに固定して行くのか。

……でも今の記憶は“前の世界”のものなのだろうか?

今は忘れたほうがいい。任務に集中するんだ。


「――凄乃皇はどうするんですか?」

「作戦プランRに従って、予備の00ユニットを使っての再起動を試みるわ」

「――再起動って、御城の妹を使うんですか!?確か凄乃皇は単座でしたよね?」

「そうよ」

「なら彼女は一体どこにいるんですか?」

「――凄乃皇の中よ。彼女は凄乃皇の一部だからラザフォード場に巻き込まれてミンチにならないからね。

 椅子には座ってないけど、棺桶みたいな箱に彼女は接続されているわ」

「でも、彼女はまだ目覚めていないんでしょう?なら一緒に連れ出したほうが……」

「XMNシステム――防衛機構を操作するには問題ない。すでに実験積みよ。ただし、凄乃皇自体の操作はできなかったけどね」

「ならなおさら……」

「白銀。あんた何か勘違いしていない?彼女はあくまで予備なのよ。メインの鑑さえあればまだ立て直せるの。

 失敗すればML機関を操作させて自爆させればハイヴを吹き飛ばすことも可能。私としては何ら困ることはないわ」

「――自爆!?彼女ごとG弾みたいに消し飛ばすって言うんですか!?」

「BETAが知的生命体である可能性がある以上、XG-70bを鹵獲されるわけには行かないでしょう?」

「――なら彼女に操作を……いや、それは無理だっていいましたし、動かせるなら再侵攻を開始したほうがいいですからね」

「そうよ。時間がないから後の質問は伊隅に説明し終わってからにしてちょうだい。……繋ぐわよ」

「……はい」


今度は秘匿回線が解かれ、通常回線につながれる音と共に大尉の顔が現れる。

こんなときでも大尉は落ちついた様子を変えることなく通信を待っていた。

……やっぱり大尉はすげえや。オレなんか諸に動揺しちまってあたふたしてたっていうのに、

内心動揺していてもけっして表に出さないなんてそうそうできるもんじゃない。

それはともかく説明を聞かなきゃ。





作戦はオレが純夏を回収した後、伊隅大尉が管制ブロックに移動、御城妹を着座させる。

その後外に待機している機体で戦域を離脱。

御城妹が目覚めれば、補給を受け次第再出撃、じゃなければそのままハイヴを消滅させる。

防衛機構は目覚めれば使うだろうし、目覚めなければ使えずに今回は放置するだろう。

正直言うと彼女が目覚めることはないと思う。

先生もそう思っているからわざわざウィスキー、エコーの両部隊の撤退をさせているんだからな。

後心配なのは大尉の脱出のタイミング、そして大尉が彼女の姿を見たときだ。

この任務は純夏の姿……00ユニットの正体を知られることになるし、12.5事件の主謀者の1人がそうだ知れば動揺は避けられないだろう。

でもそれは大尉の精神力を信じることしかできない。

……それにしてもその防衛機構につかわれる無人戦術機は一体どこにいるんだ?

海上にはもう戦術機を乗せた母艦なんて存在しない。

本土から直接くるのか?宇宙は再突入型駆逐艦は基地に帰還しているはずだし……どこにあるんだろうか?

……ああもう!オレは何でこう雑念が多いんだ!

今は純夏の回収を行なうのが目的なんだから、目の前のことに集中しろ。

凄乃皇のメインハッチの中で本日何回目になるかわからない集中という言葉を反芻する。


「――焦るな白銀、リフトは作動中だ。もう少しで上がってくる」

「はい……」


リフトが上がってくる時間がもどかしい。

だが大尉に言われたとおり落ち着かなければならないんだ。

オレが取り乱してしまったら、00ユニットを全く知らない大尉を激しく動揺させてしまうだろう。

オレと大尉は精神年齢は同い年……少なくとも生きてきた時間量は同じなのだからそれ相応の態度ださなければならない。

リフトがここに近づいているのを知らせる赤いランプに警告音がなり始める。


「そろそろだな。白銀、回収準備だ」

「…………」


赤いランプと警告音がオレの記憶に残る“元の世界”の純夏を思い出させる。

バスケットゴールに押しつぶされ、コートに広がる鮮血。

その赤の中に広がるもう1つの赤……黄色のリボンで束ねた純夏の髪……。

落ち着け白銀 武!落ち着け白銀 武!落ち着け白銀 武!落ち着け白銀 武!

大尉のように落ち着け、柏木のように第3者のような感じで任務を全うしろ。

ここで焦って事態を悪化させてはならないんだ!

だ か ら 落 ち 着 く ん だ 。

…………。


「……白銀……?」

「……いえ、大丈夫です大尉。落ち着いていますから」

「……そうか」


そうこうしている内にリフトが迫る音が警告音を霞ませながら近づいてくるのが聞こえてきた。

そして赤い髪がひょっこりとリフトから現れた。

背もたれにぐったりともたれかかっているのが後ろからわかるほど弱弱しい気配を漂わせてくる。

……本当に大丈夫なのだろうか?

死んでいるなんてことはないよな?


「――純夏……00ユニットの回収作業にはいります」

「そうなったのは原因が不明だから慎重に扱いなさいよ」

「了解……大尉、回収作業を始めましょう」

「…………」


……やはりショックは相当大きいみたいだ。

00ユニットのことは最高機密どういった性能を有していることくらいしか聞かされてはいないのだろう。

箱型の機械がでてくるのかと思っていたのが人……それもこんな女の子がでてきたのだから仕方ない。

オレだって初めて聞かされたときは茫然自失しちまったくらいだからな。


「……大尉?」

「……その少女が……00ユニット……なのか?」

「……それはお答え……いえ、そうです。彼女が00ユニット、人類の切り札です」


大尉なら00ユニットのことを知っても問題ないだろう。

知られるのがだめなら先生も大尉をここに寄越さなかったはずだ。

前に、大尉になら何を話しても大丈夫だといっていたし……この際下にいる彼女のことも話したほうがいいだろう。

それを口にしようと声を出そうとするが、大尉の様子がおかしいのに気づく。


「…………そうか……。そういうことだったのか……」

「?……大尉?」

「…………」


まさか自分達が00ユニット候補だってことに気づいたのか?

いや、それはありえないだろう。昨日、それを知っていたなら考えられないような話をしていたからな。


「……許してくれ。驚きのあまりつい……分不相応な情報に首を突っ込んでしまった。

 need to know なんて教えておきながら……済まなかった」


やはり夕呼先生が教えていなかったのか……だからここにきてneed to know なんていいだしたんだ。

先生は大尉を信頼していないわけではないけど、大尉が頭が言い分色々と推測してしまう可能性が高い。

そしてそれが疑心を生めば今後やりづらくなる……先生も慎重なことった。

……まあ間違いではないかな。


「――時間を無駄にしたな。回収を急ごう。私も手伝う」

「いえ、大尉。大尉はこのままリフトで管制室に急いでください。

 そこにはもう1人いますから……彼女がこの作戦の成否を握っています。だからそちらをお願いします」

「わかった。ゼロ……彼女をしっかり守ってやれよ」


それをいう終わると同時にしたかる突き上げてくるような振動が伝わってくる。

これは今日経験したことのある振動だ……。

そう思っていると風間少尉が回線をつなげてきた。

向こうからはこちらの映像はみれないはずだから、一瞬純夏を隠そうとした行動が恥ずかしいがそんな時ではない。


「――大尉!師団規模以上のBETA群が地下を移動中!前回の出現時と波形が一致しています!」


ちぃ!佐渡島には一体どれだけのBETAがいるっていうんだ!?


「――どこだ!?出現予測は!?」

「作戦域の広範囲に渡っています!恐らく、ウィスキー、エコーの両回収艦隊に反応していると思われます!」

「――ヴァルキリーマムからヴァルキリーズへ。佐渡島全域にBETAの出現を確認!」


佐渡島ハイヴの統計値はとっくに過ぎてんだぞ!?

あれだけ吹き飛ばしてもくるっていうのはどういうことだよ!!

大尉の矢継ぎ早の命令により大尉、冥夜、柏木そしてオレを除いた全戦乙女たちがルート確保の為に先発してゆく。

その後姿を見ながら愛機へと純夏と一緒に乗り込むのだった。

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イリーナ・ピアティフサイド

事態は悪いほうへ悪いほうへとひたすら流れてゆく。

ほんの少し前は人類の勝利を疑わなかった最上の艦橋も、敗戦ムードへと逆戻りしていた。

後ろから聞こえてくる副司令と小沢提督の話し合いも撤退に関する話で持ちきりになっている。

00ユニット回収ルートである真野湾一体はBETA群に抑えられようとしており、ルートの再検討をおこなっている。

私もこうして副司令に全軍の展開状況とBETAの出現分布を重ね、さらに本土側の動きも調べている。

集まるデータはけっして良いものではないが、敗戦一歩手前になってもいまだ戦線を維持しているところが、この作戦に参加した衛士たちの意地を感じさせる。

そしてデータを集め終わると副司令に声を掛ける。


「――副司令、3番モニターに回します」

「ありがとう……?おかしいわ」

「たしかにおかしいですな……」

「佐渡島全域に発生したはずのBETAが積極的に攻撃をかけていないわ……これはどちらかというと守備に徹して――

 いえ、少数のBETAは積極的に攻撃をかけている?まるでこれは陽動……唯一出現していない地域は……SEエリア?」

「この構えは我々で言う撤退に近いですな」

「なら奴らは凄乃皇……いえ、00ユニット蹂躙しながら本土へと侵攻する!?前回からしてもその進路は横浜基地……提督!」

「ぬう奴らめどうあっても我々の切り札を潰したいかッ……!副司令、ここは我ら連合艦隊にお任せください!」

「どういうことですの?」

「第2戦隊を真野湾に突入させ、一時的に当初のルートを確保します。この際プランRは待っていられません。

 まことに不本意ですが全軍撤退完了後プランGに従い自爆させるしかありません。

 本土防衛に関しては我らではどうしようもない以上本土に連絡して第2防衛ラインの警戒態勢を最大にし、戦力の集中をはかるにしても間に合いますまい」


どうやらプランRは破棄、プランGに移行するようだ。

これで地下で彼が生きていようとも関係なくなった……。自然と端末を操作する速度が上がり、キーを叩く強さが増してしまう。

私は壊すように強く端末を操作しながら各戦線の状況を逐一確認する。それを見る限り光線級の数は多数確認されているのがわかる。

……白銀少尉がここに戻ってくるのは厳しい。

現実的なデータばかり画面に表示され、どれも希望を持たせるようなものはない。


「安倍君……頼んだぞ」


その言葉を合図に第2戦隊が真野湾に徐々に侵入していく。

モニターには第2戦隊がレーザー照射を潜り抜けて行く様が映し出されている。

そして戦隊が真野湾に侵入直接砲撃有効射程内に入ったときその船体は……ほぼ無傷だった。


「ほぼ無傷での湾内侵入……奇跡だわ」


あの副司令すらも驚愕のあまりモニターから目が離せないでいる。

それだけ彼らはとんでもないことをやってのけたのだ。

大和魂……それが奇跡と呼べる事柄をやってのけたのかもしれない。

そしてその大和魂をもった漢たちは古の艦隊決戦思想を思わせる巨大な砲身を陸地に向けてゆき……火を噴いた。

それと同時に00ユニットを乗せたA-01後発組みがこちらに向かって発進する。

こうして第2戦隊が奮戦している間も戦況は刻々と変わってゆく。

しかし彼らの必死さは陸で撤退中の部隊に力を与えているのを感じる。

ウィスキー部隊の盾になっている斯衛軍第16大隊……突き詰めていえば指揮している帝家縁の方がそれを強く感じているのであろう。

只でさえ損耗率が低い斯衛部隊が損耗していないのだ。

……彼らはわかっているんだ。

なら私もわからなければならない。

白人である私が彼らの心を――ッ!!


「敵BETA群動作停止!!」

「ピアティフ!一体何が起きたの?」

「わかりません。敵は完全に動きを止めて攻撃もしてきません!」


私が原因を調べている間に新たに報告が入る。


「――副司令!防衛機構へのアクセスができました!」

「――よくやったわ!それで!?」

「現在覚醒プログラムの立ち上がりを待っているところです」


っ!?ということは彼女が目覚めたということなの?

白銀少尉たちもいま到着したということらしい。

こんな土壇場に目覚めるなんてなんてヒーロー気質の女性なのか……全く軍……人には向かないわね。

しかし、そんな楽観した思いは瞬時に吹き飛んでしまう。


「――ふっ……副司令ッ!」

「――どうしたの?」

「Sエリアに2個連隊規模のBETA群出現!進路はA-02各坐地点!!

 さらに大東亜連合より通達によりますと師団規模のBETA群が海底より佐渡島に向けて進撃中とのことです!」

「!!何ですって!?」

「馬鹿な!別のハイブからの増援だというのか!?」


悪いときには悪い報告が続くもの……。

追い討ちをかけるように涼宮中尉が報告してくる。


「――SWエリアで第2戦隊と交戦中のBETA群南下を開始しましたっ!」


さらに伊隅大尉からも悪い知らせが……。


「――副司令!プログラムがフリーズしました!反応ありません!」


彼女は目覚めたわけじゃないの!?

なんでこんなときになっても目覚めないの?

副司令も焦るまいと冷静を装い、矢継ぎ早に指示を出してゆく。

生き残ったスティングレー、サラマンダーの海神部隊と潜水艦で敵増援を迎撃。

伊隅大尉は自爆装置を起動させている。

艦橋には敗戦どころか母国が滅んでしまうといった雰囲気が濃厚になってきた。

だがそうはさせまいとここにいるオペレーターは普段の能力以上のことをやってのけている。

まだ……まだ私達は負けたわけじゃない!!

だがそんな覚悟をあざ笑うかのごとく、最悪のことがが涼宮中尉より報告される。


「A-02周辺から2個師団規模のBETA群が出現中ッ!」

「馬鹿な!佐渡島ハイヴには一体いくらのBETAがいるというのだ!?」

「――予測進路……出ます!」

「くっ……!予想通りの本土上陸……本土防衛隊の集結は間に合わないわね……」

「A-02に接触!」

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御城 衛サイド BETA出現より少し前

真っ暗だ。

ここはどこだろう。

私は死んだのだろうか?

はは、BETAに殺されるならいざ知らず土に埋まって死んでしまうとは情けない。

だが自分が呼吸をしているのを強く感じる。

なら生きているのだろう。

徐々に霞む目が本来の機能を取り戻してゆく。

すると偶然か機体が生きている機能を立ち上げ始めた。

損傷状況……メインカメラ左側面大破、脚部全損、左腕大破、右腕中破、上半身が装甲がボロボロになってはいるがかろうじて機能している。

本当にかろうじてだ。

下半身が土砂で完璧に埋まっていて上半身だけそこから顔を出しているというわけだ。

これでは助かったなんていえる状態ではないな。

コクピットは開かないし、強制射出も不可能。通信装置も死んでいる。

メインカメラが右だけ生きているとはいえ、腹ばいなので見えるのはハイヴ壁面だけ……。

だれが無事なのかは全然わからない。

プロジェクションで鳴海中尉に呼びかけようにも彼の存在がどこにいるのかわからないときた。


《お兄様》

《……柳か……でどの柳だ》

《お兄様の後ろの柳ですよ》

《なんだ?死ぬ間際にお喋りでもしたくなったか?今まで散々不調で呼びかけても話さなかったくせに》

《ふふふ……そう拗ねないでください》

《拗ねてなどいない》

《まあ、そういうことにしておきましょう。それでお兄様はこれからなにがしたいですか?》

《お前が用があるんじゃないのか?》

《私の用はこれを聞くことです》

《死ぬのにしたいことがあるのか?》

《……死にたいのですか?》

《そんなわけがあるか。私は生きたいさ。だが現状からして――》

《お兄様、それがあなたの悪い癖。すべて現状だけで物事を決めてしまう。だから自分を追い詰めてしまう状態を作り出してしまう》

《…………》

《その点白銀さんは未来を見据えていますわ……まあ感情的なところが多少ありますけどね》

《……白銀は……あいつはすごい奴さ》

《何をいまさら。お兄様も十分すごいですよ。後はその意志を前に向けるだけですよ》


そう柳は微笑んできた。

それにこの戦場で必死に戦っている金髪の彼女と重なる。


《お兄様は生きたい……そしてまた皆に会いたい。特にこの……私の義姉様になるかたに》

《お前!!私の頭を除いたのか!?》

《除くも何も私が話し掛けるまで垂れ流し状態でしたよ?》

《ぬぐ!?……それはいいとして義姉様はまだはやい……告白すらしていないんだし……その、相手の気持ちも考えなければ……》

《だから何も聞いていない現状で全て決めないでください!!》


なにがなんでも私をくっつけたいのか妹よ……。

義姉さまになるかもしれない女性か……書類を危なっかしそうに運ぶちょっとドジな面を持ち、一方で上官として厳しく接し、時には助けてくれた女性。

そんな彼女を残して私はどこに行ってもいいんだろうかという疑問が浮かぶ。

私は“否”と答えたい。いや、答えるべきなのだ。

そうだ、御家再興の為にも……人類の為……仲間の為……妹の為……そして愛しい彼女の傍で私は……生きたい!!


《……もう一度聞きます。生きたいですか?》

《……ああ生きたい。生きてあの人に会いたい……人種が違えど胸に宿るほのかな火は同じ……私の思いを彼女に告げたい!!彼女と添い遂げたい!!》

《……よくできました。ではそれを叶えられるよう力を……眠っている私を目覚めさせましょう……いきますわよ私達》


これは夢なんだろうか?

後方で低くうなる柳。

やや発光して見えるのはファンタジーの見過ぎだろうか?

急激に遠ざかる意識の中そう思うのだった。


《……お兄様、オリジナルに伝えてくださいい。義姉様に失礼のないようにと……量産型にして欠陥品の我らに残された全ての自我を賭けて……私よ目覚めて》



[1128] Re[8]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/08/29 22:39
御城 柳(オリジナル)サイド XG-70管制室

……外部より膨大な情報の流入を確認。

情報検閲開始……確認完了。

御城 柳の自我形成プログラムと確認、インストール開始……インストール完了。

立ち上げの為に再起動を開始する。

……何日、何週間、何ヶ月、何年眠っていたのだろう?

私が機械になったあの日から、私が分裂したあの日からどれくらい立ったのだろう?

目覚めてみたら浦島太郎ということはないだろうか?

私の知る時から数百年立っていて、BETAに滅ぼされていたり、タイプKが人類の勝利に導き世界の再建が終わっているかもしれない。

だがそんなことを思ったのはほんの少し、現在の時間はデータとして私に教えてくれる。

12月25日。

ああ、浦島太郎ではなく白雪姫のほうか。

でも私を目覚めさせたのは王子様ではなく、私なのだから唯の寝坊といったところでしょう。

……バグチェックを開始……グリーン。

思考にノイズはない。私としての機能は良好。

XG-70との接続状況、未接続状態。

XG-70は私が戦場を駆けるための鋼の体……コピーの私達は戦術機だったけど、この大きな要塞のような体もなかなかよさそうだ。

だけどまだ接続していないから動かせない。

動作作動の確認……腕部、脚部、胸部、腰部、頭部、オールグリーン。

五感の全ても問題なし。

私が起きるにしたがってやることはまず、聴覚の起動……。

ノイズが数秒流れたあと誰かの声が聞こえてくる。

私のほかにもXG-70の中にいる……?タイプKでしょうか?

だが私の感覚がそれを人だと認識している。


「――敵の構成は突撃級と戦車級、要撃級――レーザー種は認めず」

「――伊隅、プランDに変更よ。至急A-02を放棄して戦場を離脱しなさい」

「ですが、副司令、それでは敵に――」


この場にいる何か言いかけたときに凄まじい衝撃が襲ってくる。


「――数十体の突撃級がA-02に激突しています」


なるほどそういうことですか……それにプランGの放棄……私を自爆させようとしたのですね。

まあ、役に立たない兵器は捨てるしかありませんから仕方ありませんけど。

……要塞級まで出現を始めたか……ならゆっくりしている暇はない。

全システム起動……私はゆっくりと目を開けるなんて時間が勿体無いことをやめ、カッと目を見開き、体を棺桶から瞬時に起き上がらせる。

傍からみれば死体が急に起き上がったのかのように気味が悪かったに違いない。

現に伊隅と呼ばれていた女性はこちらを何事かと振り向いた途端に口を半開きにして狼狽していますからね。

だがそんなことにかまっている暇はない。


「……失礼します」


そう一言いうと彼女を座席から軽くどけるように押しやった……のだが吹き飛んでしまった。

……パワーセーブの値の見積もりが甘かったようですね。

それより今は体の起動から始めなければ……。

座席に腰掛けると意識をXG-70へと潜り込ませる。

システムは全てオールグリーン、タイプKが乗っていたのだから当たり前でしょうね。

下で小うるさいく体当たりをして繰るやるらのせいで脚部装甲が歪み始めているが、フィールドを展開すれば問題なくなるだろう。

それに私担当だった防衛機構は……おっ?既に機体はこちらに向かって降りてきている?

……ああ、先程アクセスしてきたときに誤動作を起こしていたのですね。

でも今回はよい方向にミスが起きたのでいいでしょう。

視界の外で何かが動く気配がする……先程吹っ飛ばしてしまった伊隅とかいう女性だろう。


「……っ貴様が……00ユニットなの……か?」

「……不満でしょうが、そうですとしか答えられませんので」

「……こちら伊隅……副司令、00ユニット予備が起動しました」

「……なんですって?」


なにやら通信を始めたようだが、もはや聞いてはいない。

外で守ってくれている女性を救うべく私は行動を開始せねばならない。

それに後ろの女性を早く降ろさないと荷電粒子砲が撃てない……。

ともかく回りにたかる人類の敵を吹き飛ばすことにしましょう。

意識を集中し、私はXG-70とひとつになった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その8


柏木 晴子サイド

戦場で死に物狂いで戦う兵士達。

次々と仲間がやられて最後には主人公が孤立してしまう。

だが人を感動させるタイミングで援軍が駆けつけて敵を退け、主人公も無事に生還を果たす。

戦意高揚ドラマのよく使われるシーンだ。

だけどこれには致命的な落とし穴がある。

現実ならこのタイミングで援軍が来るはずがないこと。

もう味方がいない戦場に援軍など無意味だし、味方を全滅させるほど勢いに乗った敵を相手にするには分が悪いのだから。

まあ、意味があるときはあるんだけど……それは絶対死守しなければならないなにかがあるときだ。

……その落とし穴があるワンシーンに今現在直面している。

数百のBETAに取り囲まれて、孤立無援の中の大立ち回り。

あ~あ砲撃支援の私がこんな役割を受け持つなんて割に合わないな~。

この役割は白銀とかの突撃前衛がやることなんだけどな……そんな文句も大尉を助けるためには黙っとかないと……ねっ!

損傷した私の不知火は自立戦闘モードで戦わせ、大尉の機体で凄乃皇にぶつかり続けている突撃級を排除しようとする。

だが、数が多すぎて対処しきれないずなおかつ要撃級がと戦車級が次々と迫ってくるのだから自分の身も危うい。

無人機と連携しながらなんとか戦ってはいるが、生き残るのが精一杯といった状況だ。

そこで私に近づく要撃級を撹乱させようと無人機をBETAの群れへと突進させる。

……最悪やられても人がいないんだから大尉が脱出するだけの時間が稼げるはずだ。

36mmを突撃級に次々と打ち込み少しでも衝撃でたたら踏むことを防ごうとするが、後方の爆発に私の計算が甘かったことを痛感させられる。

不知火を振りむかさせるとそこにはカブトムシの幼虫に赤い足を十本はやしたような巨体……要塞級が進撃してきているのを確認した。


「――要塞級出現ッ!――大尉、急いでくださいッ!」

「…………」

「大尉!?応答してください、大尉!!」

「…………」


連絡がとれない!?一体どうゆうことなの!?

まさか凄乃皇内でなにかあったんじゃ……!?


「――ヴァルキリーマム、大尉との連絡が取れなくなりました!大尉の状況を知らせてください!!」

「ピ……ガ…ガガガガガ…………」


まさか……最上まで大陸からの敵増援でやられたなんてことはないよ……ね?

レーダーでそれを確認しようとするが、レーダーまでも砂嵐が起きたようにノイズが酷く確認ができなくなっている。

そんな私の動揺をよそに要塞級の衝角は容赦なく襲い掛かってくる。

回避に回避を重ね、何とか生き延びようとする。

……白銀はこんなのを20も相手にして生き残ったっていうの!?

ははは……かなわないなあ……白銀ならこんなときどういうかな?

……多分、大尉の生存も信じて私の生還も信じて疑わない人だから何が何でも生きろっていうんだろうな。

ん……?

凄乃皇の周りが光って……る?

そして、それに気を取られた隙をつかれた。

紅い色の帯、そしてその後方の先端につく禍々しい衝角が視えた。

恐ろしく器用に操り私へと死の一撃を見舞おうとしている。

それは避けられぬはずの一撃……のはずだった。

だが……かわせないはずの死の一撃を、私は避けていたのだ。

考えてもわからなかったこと、副司令に説明されるまで全く理解できなかったこと。

避けたときには私はこう思った。生きるって本能は奇跡を呼ぶものなんだな~って。

そんな我ながら間の抜けた思考は時間の流れをゆっくりとさせることはなく、回避した私に突撃級が襲い掛かってきた。

自分自身がおこなった操縦技術に戸惑いを覚え、呆然とした私に交わせることはできなかったが92式多目的追加装甲でそれを受け止めることができた。

……もしこれが私の機体だったら……と思うと背筋が凍る。

だがBETAは攻撃を緩めるようなことはしない。

突撃級をかろうじて受け止めた私だったが、突撃の衝撃は凄まじく弾き飛ばされてしまった。

そして弾き飛ばされたその場所は――凄乃皇の足元だった。

先程発光していたように見えたそれは今も確かに発光していた。

しかし、光っている原因がすぐにわかった。こう近くで見てみると装甲が細かく震えているのがわかる。

重金属雲が薄くなりできた切れ目から降り注ぐ光が振動する装甲にあたり、乱反射したせいでそれが発光したように見えたのだ。

ここでふっと気がつく。

装甲が振動しているってことは主機が起動してその振動が伝わったということ……ならそこから導き出される答えは……。


「凄乃皇が再起動したってこと!?」


なら中にまだいる大尉は無事ってことだ。

なんらかのトラブルなのか凄乃皇の起動のせいなのかわからないが電波障害が起きているのであろう。

ならCPやHQに連絡が取れないのも頷ける。

が警告音がコクピットに鳴り響いた。

網膜になんらかの映像が映し出されるが、それよりも目の前のことのほうが私の気を引かせた。

さっき経験したばかりなのに……突撃級が群れをなして視界を埋め尽くしてきた。

思わず目を瞑り少しでも迫り来る恐怖から逃れようとする。

そして数秒おいて、途轍もない衝撃が不知火の全身を震わせたのだった。

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イリーナ・ピアティフサイド

「伊隅!応答しなさい!伊隅ッ!!」

「だめです。ジャミングらしきものがかけられていて、A-02一帯は交信できません!」


突然の交信途絶。

伊隅大尉に何かあったのかと思ったが、柏木少尉との交信も途絶したのだからそれはおかしい。

早急に原因は突き止められて、ジャミングがかけられているということがわかった。

だがどこの軍がそんな不利になるようなことをするのか?

いくらオルタネイティブ5推進派がいるとしてもここで邪魔をするのは利点があまりない。

00ユニットは既に回収済み……もっとも仕掛けてる奴らはしらないのかもしれないが、XG-70を破壊しても

横浜基地に予備があるのだから無意味。

逆に証拠を突き止められれば窮地に陥るのは向こうのほうだ。

だから人間からの妨害はないといってもいいだろう。

後は新種のBETAかも知れないということだ。

今回のBETAは明らかに変だということが、今もこちらへと進撃してくる大陸からの増援の存在が決定づけた。

ここで新型BETAの投入があってもおかしくはない……そう副司令と提督も見解は一致した。


「――せ……副司令ッ!!伊隅大尉と柏木少尉は!?」


CICに広がる一人の男の声。

その声の主は若干幼い顔立ちをしていて、それに不釣合いなほど鍛え抜かれた体をもつ男、白銀少尉だ。

オルタネイティブ4計画でも重要な位置にいる彼は00ユニット、鑑少尉を無事持ち帰ってきたのだ。

その報告をしにここにきたのだろう。


「白銀……もう少し落ち着きなさい。ここはどこだかわかっているでしょう?」

「!……すみません……状況は?」

「わからないわ」

「わからないって……!?」

「謎のジャミングがかかっていて伊隅たちと連絡とれないの、原因を調べてはいるけど、おそらくは新型のBETAだと思うわ」

「やつら情報戦も仕掛けてきたってことですか!?」

「静かになさい。まだはっきりと確認されたわけではないわ。だけどその可能性を考えてこちらは動いているのよ」


副司令のいうとおりだが、現状でできることといえば各戦域からそれらしきBETAの目撃情報を調べるくらいしかない。

しかし、それも効果的ではなくそれらしき個体は確認されてはいない。

データを調べれば調べるほどそのようなBETAは目撃されていないということがわかるのだ。

既存の種と全く同じ姿をしているのか?

……それともやはり人為的なものなのか?

後ろで白銀少尉が救出の為に再出撃を求めてはいるが、こうなった以上エコー艦隊よる砲撃でXG-70を吹き飛ばすしかないだろう。

それが伊隅大尉を殺すことになろうと人類の未来の為にはやらねばならない。

副司令はそういう人だ。

白銀少尉はやはり納得がいかないのか抗議するが、論されるのも時間の問題だ――!


「XG-70の上空より機影多数!!」

「!?一体どういうこと?ピアティフ!」

「これは……あきらかに国連のマーカーです……識別は……A-02α!XG-70防衛機構が起動している模様!」

「そこのあなた!安倍艦長に連絡急いで!」

「再突入殻、迎撃されつつも地表へと激突します!」


モニターには光線級による迎撃が行なわれているが、第2戦隊の直接砲撃によりA-02α、無人戦術機甲大隊を結果的に支援することにつながっている。

もし安倍艦長があそこで撤退していたら残存したはもっと多かったはず……そしてA-02αは光線級により、蜂の巣にされ一機も降下できなかっただろう。

……しかし、座標上で最後にXG-70が確認された地点はあの爆撃からギリギリ大丈夫だが……柏木少尉は大丈夫だろうか?

…………。


「白銀!状況が変わったわ。A-01再出撃!急ぎなさい!」

「は、はい!」

「涼宮中尉!速瀬に伝えておいて!」

「了解!」

「香月副司令、エコー艦隊からも出撃できる戦術機は全て出撃させましょう。ウィスキー艦隊も撤退をやめて敵の増援を足止めさせるよう手配します」

「提督……」

「再びやってきた勝機……ここで体制を立て直す時間はやつらにつけいらせるもも同じ。敵の光線級が少ない今戦わねば対策をとられるやもしれません」

「……お願いします。ピアティフ!伊隅との連絡は!?」

「少々お待ちください。ジャミングがもう少しではれそうです。あと2分ほどお待ちください」

「わかったわ。繋がりしだい教えて」

「了解」


今回の作戦は一体なんなんだろうか。

ピンチに陥ったと思ったら勝利したと喜ばされ、またピンチに陥りまた勝機がやってきた。

これでまたピンチに陥ることがありませんように……。

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柏木 晴子サイド

ん~これってやっぱり奇跡なのかな?

天から降ってきた質量弾の雨あられ……あれのおかげで助かったのだけど……BETAの死骸に助けられたのも事実。

突撃級の群れに押しつぶされそうになったとき、奴らの後方で何かが落ちてきた。

それの衝撃波で突撃級たちは皆ミンチになり、その衝角だけが追加装甲にぶつかってきたのだが、そのお後が問題だった。

その一発だけで終わりではなく次々と回りに落着してきたのだ。

着弾時の破片で穴だらけになっていてもおかしくなかった状況で私を救ったのは、皮肉にも突撃級のモース硬度15を越える頑丈な衝角の山だった。

世界一頑丈な携帯シールド、それが飛んでくる破片から私の不知火を守ってくれたのだ。

それでその嵐が終わったときにも機体は無事だったというわけだ。

それと空からは次々とさっきの質量弾……再突入殻を放ってきた張本人が降下してきたのだ。

レーダーも正常稼動を始めたらしく、彼らの所属が映し出される。

ん~とA-02α?……ええと確か無人戦術機の部隊のコードだったとおもうけど……。

そうこう考えているうちに目の前に2機の戦術機、ストライク・イーグルがなにやら大きな大砲を私の機体へと差し出してきた。


「なに?これを使えってこと?」


使い物にならなくなった追加装甲を投棄しながら言っても無駄と知りながらもぼやく。

案の定、戦術機からは返事はなかったが、別の通信が届いた。


「柏木……無事か?」

「大尉!大尉も無事だったんですか!?」

「ああこちらは無傷……とはいえないが、任務に支障はない。ともかくそれを使え」

「これは一体なんなんですか?」


以上に長い砲身、巨大な口径……こんなもの戦術機が撃つような代物じゃないことは一目瞭然だ。


「それは1200mmOTHキャノン……超水平線砲だ。原理を説明している暇がない。帰ったら副司令に存分に説明してもらうといい。

 その兵器は超長距離射撃で直接ハイヴを攻撃するのを前提とした兵器だが……まあここも副司令に説明してもらえ。

 ともかくそれを使って近づいてくるBETAを皆殺しにしてやれ。ただし3発だけだから注意しろ。

 それ以上は砲身が持たん。予備の砲身も持ってきてはいるがそれも同じだ。交換にかかる時間は5分。

 XG-70に予備のコンピューターが接続し終わるまでの約10分間、なんとしても守りきるんだ!

 副司令から速瀬たちとエコー艦隊から2個中隊を援軍として出してくれる。それに周りには大隊規模の無人機がいるだろう?」

「それはいいんですが無人機なんて本当に頼りになるんですかね?数だけが頼りなんて言わないでくださいよ?」


そういうと同時にまるで聞いていたかのように一斉に無人のイーグルたちが私の不知火をにらめつける様にメインカメラを向けてきた。

うへぇ~恐い恐い。


「大丈夫だ。副司令が開発したシステムを信じろ。私も無人機の1機を拝借して戦列に復帰する」

「了解!」


そういっている間にやっこさんたち土煙を立てながらやってきましたね。

……でもこれを撃つのに反動はどうすんだろう?

そう思っていると前にいた2機が私の後ろに回りこみがっしりと背中を掴むと固定してくれる。

どうやら戦術機2機でこの反動を殺すらしい。

ともかくやるしかないか!!


「照準は……あれだけ数がいればいらないね。距離は関係なし……いけぇぇぇぇ!!」


それはちょっとした凄乃皇の荷電粒子砲のような快感だった。

文字通りまっすぐ突き進んでゆく弾は音速を超えてBETAたちへと襲い掛かり……そのまま止まることなくBETAの群れを貫通した。

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白銀 武サイド

「なんだありゃあ!?」

再び不知火で出撃したオレ達がまっすぐ凄乃皇を目指していたのだが、途中にBETA群がおり、強行突破することになったのだが

それを楽にする出来事が起きた。

谷の中から突如として現れた一条の光、荷電粒子砲とは違う小さな光がBETAの群れへと突っ込んだかと思ったら、

一直線にBETAの血の花が咲き乱れたのだ。

BETAの群れを一直線に駆け抜けたのだから一気に何十体のBETAを葬ったのだろうか?

もしあれが谷の中に入り、纏まったとなれば百単位でBETAを倒すことができるだろう……。

それにしてもあれは一体なんなんだ?


「白銀!ボヤッするな!この隙に新穂ダム跡に防衛線を構築するぞ!!XG-70が起動し終わるまで時間を稼ぐんだ!」

「了解(全員)!!」


その返事と同時にレーダーに見慣れないマーカーが谷から出現しだす。

A-02α……無人部隊か!

どうやら機体はストライク・イーグルのようだ数は24機、2個中隊が次々と展開し防衛線を構築してゆく。

それはとても無人機とは思えない展開のはやさだった。

そしてこちらが合流するとそれにあわせるように陣形を変えた……ここまでくると中に人が入っていると疑いたくなる。

だがあの機体たちからは全く生命反応が観測されないのだから本当に無人兵器なんだ。


「……来る!全機使用兵器自由!弾はまだまだあるから遠慮なくくれてやりなさい!無人機なんかに負けるんじゃないわよ!」

「C小隊、B小隊を援護するぞ!A小隊は私の指揮下に入れ!」


速瀬中尉対抗意識バリバリだな。

まあ、無理もないか有人のこっちが無人に負ければ特務部隊としての面子に関わるんだからな。

無人機なんかに負けてられねえ。

オレだって伊隅乙女中隊の一員なんだからな!!

不知火に全力機動をかけさせながら、2度目の閃光を合図に攻撃は開始された。

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スティングレイ1サイド

「――HQ、どうゆうことだ!?海底のやつらはまだまだいるんだぞ!ここで撤退したらやつらは……」

「――問題ない。新型兵器の再起動に成功、やつらを陸上におびき寄せて焼き払う。撤退はスティングレイ、サラマンダー両隊に厳命だ」

「――了解!野郎ども聞いたか?海兵の仕事は果たした。また真打のご登場だ!!最大戦速で現海域より離脱する!」

「了解(全員)!!」


クラッカー3サイド

……ボクはどうしたらいいんだろう。

隊の皆が死んで、1人だけ生き残っちゃって戦いもしないで母艦に戻ってきちゃった……。

頼みの新兵器も使い物にならなくなっちゃったていうし……まさかG弾を使うなんてことはしないよね?


「おい……かよ?」

「?」


なんだろう?

また格納庫がうるさくなってきたな。

収容が終わってもう離脱するだけなのに?

機体の傍でへたり込んでいるボクの前をひとりの整備員が通りかかったの引き止めて聞いてみると……。


「なんでもあの新兵器が復活したらしいんです!またあのすげえ光線で増援のBETAを焼き尽くしたって話ですよ!

 それにハイヴ制圧の為に再出撃が始まったのがその証拠です。少尉も早く準備に入ったほうがよろしいですよ」


ハイヴ制圧の為に再出撃?

逃げ出したボクが戦ってもいいの?

……ボクは隊長達の仇を討っていいんですよね?

ボクは足腰に力を入れゆっくりと立ち上がる。

そして再びボクは撃震に飛び乗った。

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九羽 彩子サイド

「あと少しだ!あと少しで届くんだ!全機なんとしてもエインへリャル2を突破させろ!」

「ぐわ――」

「ゴースト1ーーーーーーー!!」


なんでまだこんだけBETAがいるんだよ!?

統計値はとっくに越えてんだぞ!?

クソッ、クソッ、クソッ……。

何の為に御城を見捨ててきたんだよ……なんで平中尉が自爆しなきゃならないんだよ!

オレがすればいいじゃねえか!?

一度はなくしかけた命をここで使わなくてどうすんだよ!

なんで……なんで?

なんでを連呼するオレに中尉はこういった。


『お前よりオレのほうが操縦技術も経験も上だし、お前のようなこど――若いのを生かせるわけにはいかないだろ?

 それにここで女を死にに行かせるなんて男であるオレが許す分けないだろう?

 孝之は孝之で会わなきゃいけない奴らがいるし、他の部隊の奴は腕が不足している。これ以上条件が会う奴といったらオレしかいないんだ」

『……だからって自爆しなくてもいいでしょう?皆で突破すれば――』

『……何度も言っているがそれは無理だ。残弾がもう少ないんだ。S-11も後1発。これしか手はないんだ』

『でも、でも』

『……でももすともない!九羽少尉隊歌を斉唱しろ!!」

『!!――弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け……』

『声が小さい!!』

『弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け!!』

『そう、それでいい。お前は生きろ。生への渇望の刃が折れようともオレは人類の未来の為にそれを振るいたいんだ。

 九羽、御城はまだ生きてるかもしれない。これが終わったら回収してやれよ」

『……わかりました』

『よし、通信を終えるぞ』


……クショー、チクショー!!

死なせてやるもんか!平中尉も生きなきゃ駄目なんだ!

ジュラーブリクはオレの気持ちに答えるかのように性能をフルに使ってBETAたちを葬ってゆく。

だが世の中そううまくはできていないようだ。


「こちらエインヘリャル2、突破完了!これより反応炉に向かう」

「ザウバー1了解!全機後退を開始するぞ!」

「まてよ!オレ達だって突破は……」

「エインヘリャル4!!慎二の覚悟無駄にする気か!?」


鳴海中尉……!

ああ誰でもいいから平中尉を止めてくれよ。

誰でもいいから早く……お願いだから……。


《呼んだ?ウインド3?》


そのときそれはやってきた。



[1128] Re[9]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/09/03 21:31
鳴海 孝之サイド 戦術機母艦アドミラル・クズネツォフ艦内

「はあ……」

「ハア……」

お互い何回目になるのかわからないため息をつく。

甲21号作戦は大きな犠牲を出しながらも作戦目的を遂げることができた。

ハイヴ制圧の報が通信回線に流れたとき、幾万もの歓声が戦艦、戦車、戦術機の全ての装甲を震わせた。

G弾なしでの人類初のハイヴ攻略……礎となった人々がなし得なかった人類の反撃の狼煙。

その歴史的な作戦を成功させたこと、日本を脅かす刀を除いたこと、大陸への足がかりを手に入れたこと。

喜びは人それぞれだがBETA大戦で初めて皆が戦いの後で笑い会えることができることにどれだけの価値があるのだろうか?

それは……後から振り返ってもわからないだろう。

わからないこそ価値があるものではないか?

なんてオレは何をいっているのだか……。

それはそうとなぜため息をついていたかというと――。


「孝之……」

「なんだ慎二?」

「なんでオレッてこう生き延びるんだろうな?」

「……生きているってだけでいいことじゃねえか」

「……格好がつかなくても生きているほうが価値があるか……。あ~あ、オレの覚悟っていつも無駄になるなあ」

「そんな覚悟無駄になったほうが――って何回目だろうなこの台詞も?」

「さあな。少なくともお前が彼女たちを思って溜め息をついた回数よりは少ないぞ。……ところでお前、どうすんだ?」

「……なにが?」

「とぼけんな。速瀬達のことだよ。あんときに声かけなくて良かったのかよ?」


あのとき――ザウバー1から後退命令が出た時に後方から巨大なものがやってくるのをレーダーが捉えた。

こんなところに要塞級が出現したかと肝を冷やしたのだが、冷静にマーカーを見るとそこにはA-02とA-01と表示されていた。

オレたち生き残り全員は呆気にとられ、機体を後退させるがままにし、それに入れ替わるようにA-01第9中隊が前に出た。

他にも無人戦術機部隊がXG-70の前に展開していたが、それには目を向けることをしなかった。

たった一機の戦術機……02とペイントされた不知火に目を釘付けにされたのだ。

強気に前に出て、BETAの攻撃をかわし反撃する様……。

オレはやつを……彼女を知っている。

訓練の時もああやって前に出て、突っ込み過ぎだって神宮司教官に窘められてたっけなあ。

オレがそれを慎二に格納庫で面白おかしく脚色して話したらどこからかスパナが飛んできて……強化装備を着ててよかったとあれほど感謝したことはないだろう。

……そんな思い出が一瞬にして鮮やかに蘇った。

後退して補給を受けつつ慎二に作戦中止命令を出していたときに通信が入った。


「――こちらヴァルキリー1、第0中隊の隊長貴官か?」

「――こちらエインヘリャル1、そうであります大尉殿」

「どうやら無事のようだ――いや、不謹慎だったな、すまない」

「いえ、エインヘリャル2まで失わずにすみましたから……よく駆けつけてくれました」

「気にすることはない。それが任務だったのだからな。まあそちらとこちらの新型兵器も無事だったのだからお互いよくやったものだ」

「……これから我が隊は撃墜された部下の機体を回収しにいきますが、そちらは?」

「こちらは確保した反応炉を破壊するためのS-11の到着を待たなければならない。だが、貴官の隊の回収も任務に入っている。よって回収任務に1個小隊を随伴させたいと思うのだが……」

「かまいません。同じA-01ですし、戦力的に不安があるといわれればありますからね」

「ならB小隊をそちらに回そう。――速瀬!」

「何でしょう大尉?」

「!!」


青い髪、同じ色の澄んだ目。

それが私を捉える前に通信を無理やりきってしまう。

相手に対してとても失礼だが……慎二に根回しておかなくては。

秘匿回線で慎二に通信を入れる。


「エインヘリャル1から2へ。今後A-01第9中隊を含む全ての部隊に対しての通信はサウンドだけにする。これは厳命だ」

「……いいのか?」

「……いいな?」

「……エインヘリャル2了解。……ひとつだけ言っとくけどな、いつまでも逃げられると思うなよ?」

「…………ああ」


クソッ、オレはこの時の為に生きてきたんじゃないのか?

なのになんでいまさら逃げなきゃならないんだ!?

……あいつは涙を流して喜ぶだろうが、オレはその流れる涙とつりあうような男じゃないと思っているんだ。

いままで軍務のせいにして、散々他の人を犠牲にして生き延びてきた卑怯な自分を見せるのが恐いんだ。

……そして御城を無事我らで回収したが、その間水月とは一切喋らなかった。

いや、喋るには喋ったが声色を気取られぬように誤魔化しながら任務のことだけを喋り無駄な会話は切り捨てた。

機密を盾に御城と機体及びシステム回収、それらも全てもB小隊に見せずやった。

当然水月はそれに対していい印象は持たなかったようだし、オレもそう思う。

そして、この戦術機母艦アドミラル・クズネツォフが到着するまでそれが続き、オレ達は部隊全貌を不透明なまま帰還したのである。

――そしてここで慎二にこれからのことを聞かれているというわけだ。


「……どちらにしろ横浜基地に着任するんだ。それまでに覚悟は……決めておく。オレがどれほどの価値があるかわからないけど、

 あの2人にとってはそれだけの価値があるって思っておくよ」

「……それならいいけどな。ともかくその言葉を信じる。この2年間の生きる意味の集大成、無駄にするなよ」


わかっているよ慎二。

お前の信頼を裏切るつもりはないし、オレの心も裏切るつもりはない。

オレは2人に会う。それがオレのけじめであり、始まりなんだと思えるから。

……ああそういえば、御城のやつもそうではなかったっけ?


「……そういえば御城はどうしてる?」

「医務室で寝てるよ。傷はたいしたことないってさ。頭を軽く切った程度だ。九羽が横で看病しているよ」

「……あいつもオレと同じような立場だったな……元207小隊、おそらくそいつらもA-01に所属しているんだろ?」

「神宮司教官の教え子ならそうだろうな。まあ、お前ほど馬鹿はしないと思うがな」

「うるさいデブジュウ」

「なんだと思春期!?」


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第五章その9


御城 衛サイド

『お兄様~』


柳が息を切らしながら私へと近づいてくる。

慌ててどうしたんだろうか?


『そんなに慌ててどうしたんだ柳?』

『私ね、私ね、お父様に褒められたんです!』

『何を褒められたのだ?」

『ええとええと……』

『少し落ち着け、深呼吸して……吸って……吐いて……」

『すうぅー……はあぁ……』

『吸って……吸って……吸って』

『すうぅー……す、すう……ズ、ズ、ゲホゲホ!お兄様!」

『柳も訓練を始めたんだからこんなことに引っかかるな。っで、何を褒められたんだ?』

『むう~……まあいいでしょう。ええとですね。衛より才能があるんじゃないかっていわれたんです』

『……そうか』

『なんですのその反応は?もっと起こるかと思ってましたのに』

『怒るも何も柳のほうが才があると私も思っていたからな。いまさらって感じだ』

『むむむ、ならお兄様も褒めてくれればいいのに……』

『ほう、褒めればよかったのか?……柳も御城家の誉れとなるだろうな。頭を撫でてやる』


そういいながら柳の頭を髪を乱さぬように撫でる。

柳は少し嬉しそうに頬を緩めるが、表情を少し怒ったように引き締めて撫でていた私の手をそっと退かす。


『お兄様、女性の髪にむやみやたらに撫でるのはおやめくださいね?これは殿方の常識です』

『む?お前もそんなことを気にする年になったのか?」

『こういうときだけ子供あつかいしないでください!』

『ははは』


父が生きていて、柳が00ユニットではなかった楽しかった日々、それを私は今見ている。

だがこれは夢なのだと自覚すると意識は現実へと引っ張られていった。

……頭が重い。

覚醒しきっていない頭で目を開けずにいるとそれを感じる。

頭を軽く打ったからこうなったのだ冷静に考える。

次にここはどこかと考える。背中にはやわらかく戦術機のコクピットではないことがわかり、ベッドではないかと推測する。

服装は強化装備から病院服へと着替えさせられている。

……どうやら医務室にいる。つまるところ戦場から回収されたってことだ。

そこまで状況把握すると目をゆっくり開け、眼球を外気にさらけ出す。

暖かい空気が目をもう一度閉じさせようとするが、それに耐えぼやける視界が直るのを待つ。

横には見慣れた人影が座っているのが見える。

その人影は私が気がついたのを見ると心配そうにこちらを覗き込んできた……九羽だ。

その唇はなにか言葉を発しようと開くが少しの躊躇いの後、何も発せずに閉じることになった。

だが私を覗き込む目を見れば何が言いたかったのかがわかった。

……そうか柳がまた助けてくれたんだな。


「九羽、作戦はどうなった?」

「……作戦は反応炉の破壊に成功、目標を達成。オレ達も誰一人かけることなく新潟に向かっている」

「そうか……」

「…………」

「九羽」

「なんだよ?」

「言いたいこと……泣き言でも愚痴でも言いたいことを言うがいい。それを聞くことだけなら私でもできる。

 溜め込むより出したほうがいいときもあるからな」

「……ありがとう。でもいい」

「どうしてだ?」

「これ以上お前のまでかっこ悪いところ見せたくないからな」

「そうか……」

「あ~あ柳みたいに強くなりてえな」


柳のようにか……。

あいつは本当にすごいやつだ。

それをつくづく感じる夢で見たあの時よりも大きく気高く、そしてなにより強く生きている。

機械仕掛けの体になろうと自分を見失わない。

自分の不幸を嘆かずそれと戦う。私も見習うことが多い立派過ぎる妹だ。

だがなぜだか目の前の女性、九羽が柳と重なった。

自然と手を伸ばしその髪を撫でてしまう。

それに驚いたのか九羽は目を見開き、同時に顔を赤くした。

しばらくされるがままにしていたが、我にかえったのか撫でていた手を掴んでやめさせた。


「……子供扱いはやめろ……それに女の髪をむやみにさわるな」

「微妙にいうべきことが連れ手いるような気がするが……」


柳と同じことをいうとはな……。

柳と九羽は似たもの同士だったということか……性格も見た目も違うというのに奇遇なことだ。

見えるはずのない空を見上げ目を細めるのであった。

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白銀 武サイド

「ああもう第0中隊のやつなんだってぇの!?あの態度!同じA-01とはとても思えないわよ!あーーーーーむかつく!!」


戦術機母艦で帰還中、ブリーフィングルームで突如その声が響き渡った。


「水月少し落ち着こうよ」


涼宮中尉が宥めようと必死に……傍から見ると駄々こねる子供あやすお母さんのようにしている。

それをオレ達は何事かと見ているわけだが、B小隊のオレ、冥夜、彩峰はその理由がわかっている。


「やっぱり速瀬中尉もそう思うのか……」

「タケルもやはり不快だったか?」

「ああ、その通りだな冥夜。同じA-01であるオレ達にいくら機密のためでもあの態度はないだろう?」

「だが、あの者たちにも事情があるだろうし、何よりあの状況下で気が回せなかったのであろう」


……オレ達は凄乃皇があったから浮かれていたけど、その間あいつらは死にたくない一心で戦っていたんだ。

ハイヴで孤立する。オレが経験したのよりも何十倍の恐怖と戦っていたんだろう。

なら、精神的消耗も想像を絶するものなのだろう。


「……それはそうだけど、他にもなんか別の……個人的事情がありそうだった」

「ん?彩峰それはどういうことだ?」

「……さあ、単なる感」

「お前なあ~」

「あんたたちもあいつのことどう思う!?」


速瀬中尉がA、Cの両メンバーに煮えたぎる怒りをぶちまけ終わったのか今度はこっちに来た。

さすがにこめかみに青筋は浮かんではいないが、余程きているらしい。


「どう思うと言われましても……」

「何!?あいつのことがムカつかなかったとでもいうわけ1?」


……だめだこれは。下手に相手をかばうとこちらが痛い目にあいそうだ。

助けを求めるため大尉や涼宮中尉に視線を送るが、大尉は肩をすくめ、涼宮中尉はごめんといわんばかりに手を合わしてきた。

はあ、どうやってこの場を収めることができるのだろうか。

……あの場に御城がいたはずだ。あの場で隊長になんとか言ってくれれば良かったのにと、この場にいない友のせいにするオレだった。

速瀬中尉の怒りは新潟に上陸してからぶちまけることはしなくなったが、ピリピリした雰囲気は横浜基地につくまで収まることはなかった。

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????サイド

なんでどうして?

ちゃんと教えたはずなのに……。

なんであんなことを考えるの?

……わからない、わからないよ。

誰か……誰でもいいから教えてよ!!



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/09/10 13:33
御城 衛サイド

日付はもうすぐで25日から26日になろうとしている。

甲21号作戦が行われ、成功し佐渡島を奪還した。

その日付から1日がたとうとしている。

夕刻のニュースでは甲21号ハイヴを制圧、佐渡島奪還が日本全土……そして世界各国に報じられた。

この時ほど地球が震えたことはなかっただろう。

この横浜基地も完璧なハイヴ制圧を聞き及ぶとどこから持ってきたのかシャンペンを飲むはかけるはの大騒ぎとなった。

無論軍規に違反する行為だが、こんなときまでうるさく言うものはいるわけもなく、基地中が沸きに沸いた。

……明日、27日には帝都で佐渡島で死んだ英霊たちを弔う国葬が開かれるそうだ。

その国葬で殿下直々に今回の作戦に参加したものたちに礼を述べられることが発表されている。

私もそれを見ていたいのだがそうもいっていられない。

あの副司令のことだ、またオルタネイティブ4の集大成00ユニットの活躍により作戦は成功。

慌てふためくオルタネイティブ5推進派を潰す絶好の機会を逃すはずがない。

作戦を終えたばかりで疲れている私を呼び出すのだからほぼ間違いないはずだ。

もうお馴染みとなった通路を歩き、エレベーターを降りてまっすぐ副司令室へと向かう。

副司令も最上から帰ってきて間もないというのに……お忙しい方だ。

そう思いながら副司令室と通路隔てるドアを開ける。

そしてそこにはいつもの通りの態度で副司令、香月 夕呼が机の向こうに座っていた。


「生還おめでとう……とでも言えばいいかしらね?」

「帰ってきてそうそう冗談ですか副司令?」

「相変わらず口が減らないようね。まあいいわ……任務ご苦労様」

「そして新しい任務ですか?」

「いいえ、今回はあんたに聞きたいことがあってね」

「?柳のこと、システムの報告書なら明日に提出しますが……?」

「それはリーディングの結果を解析しているから後回しにしてもかまわないわ。それより聞きたいのは……これはあんたのものでしょう?」


そういって副司令は机の引き出しから何の変哲もないノートを取り出した。

そのノートは私の記憶がPXでも売っているなんでもないもののはずだが……。


「PXでも売っている唯のノートではないんですか?」

「……言い方が悪かったわね。これはあんたの部屋にあったもので中身は筆跡からするとあんたが書いたものなのよ」

「?それは持っていたのは覚えていますが、なにを書いたまでは覚えていません」

「…………これには1ページだけ、しかも3つの単語しか書かれていないの。しかも誰もが絶対知りえない情報をね」

「いったい何が書かれて……いや私が何を書いたんですか?」

「惚けているわけではなさそうね。書いている単語は甲21号、00ユニット、各坐、この3語よ」

「私が書いたにしては妙ですね……」

「あたしもそう思うわ。未来予測でそれを書いたならもっと細かく書くだろうし、どこぞのスパイでもそんな間抜けなものは情報として送ったりしない。

 その点でこんなもの覚書のようなものは役に立たない。少し気になったから夢でみたものを書いた。

 まあ、私から言わせれば因果律量子論的にいえば無意識に未来情報を引き寄せたってことなんだろうけど、

 そんなことあんたに言っていないから夢ですませでそのまま忘れたってところでしょうね。

 ……でもね、逆にあんたの能力考えれば、これを私に報告しないというのはほんの少しだけ気になった。

 そしてこの覚書が今回の事象に当てはまる……今後の作戦を考えればこれは無視できないことなのよ」

「……私により高度な未来予測ができるということですか?」

「そうかもしれないし、違うかもしれない。もしそうならあんたと同系統の能力を保持している彼女もそれができる可能性がある……。

 しかも00ユニットなのだから今後のすべてが予測できてしまうかもしれない……どちらにしても放置はできないわ」

「また実験ですか?」

「……いえ、やそれはしないわ。そんな時間はないし、たまたま当たっただけかもしれないレベルでは実験なんて大層なことはできないわ。

 まあ、今後そんなことがあったら報告しろということよ……今日はもういいわ。明日……もう今日ね。

 今日中第9中隊にあんたたちを紹介するからそのつもりでいなさい」

「……了解しました」


私にそんな高度な未来予測ができるのか?

……まさか、そんなことができたのなら柳を救えたはずだ。

それ以前に私は帝国軍で斯衛軍を目指し、下郎に唆されることなく日々をすごしていたに違いない。

そんなことを思いながら出て行こうとすると背中に待ったがかけられた。


「言い忘れたけど00ユニットと会えるのはもう1回夜が更けてからよ」


それに私は顎を引いて答えることにした。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その1


白銀 武サイド

清々しい空気、肺にたっぷり吸い込みそれを堪能する。

口から入ってきたそれはオレの気分を落ち着かせ、今日の体がどの程度が肺活量で推し量る。

次に鼻で吸い目の前に置かれている今日のエネルギー源の数値を頭の中に投射する。

そしてかっと目を見開き、右手に持った箸を戦場へと出撃させる……が。

オレの狙った合成エビフライは横からやってきた敵増援に掠め取られていく。


「オ、オレのエビフリャーがあ~~~~~~~!!」

「……白銀遅い」


オレのエビフリャー……あらためエビフライを口に放り込み満足そうにしている張本人、彩峰が注意してくる。

というか注意するなら先にしろ。


「彩峰、貴様オレのおかずを食いながら涼しい顔でいうな」

「……ぱちくり」

「口でいうな」

「ところでエビフリャーって……エビフライですか?」

「珠瀬、どうせ白銀語なんだから突っ込まないの」

「ははは、タケル語も久しぶりに聞いたね」

「うむ、武の奇妙な言葉を聞くと帰ってきたという感じがする」

「そ、そうか?」


そういえば最近マジとかいうことなくなってきたような気が自分でもするな。

なんか感慨深いな~。


「白銀語?千鶴、それって何?」

「白銀がたまに使う私達では理解できない奇妙奇天烈な言葉のことよ」


委員長、オレがいた世界では日常で普通に使っていた言葉なんだがな……エビフリャーは違うけど。


「方言とは違うの?」

「明らかに違うわ。“マジ”って意味はわかる?」

「“マジ”?……う~んっと……魚かなんか?」

「違うわ。本気って意味らしいのよ。全くもってどうやったらそんな言葉ができるのか……」


委員長はやれやれといったようにこちらを一瞥して肩をすくめる。

……単純にその態度はむかつくんですけど。

こちらも反撃しようと口を開くがその前に意外な人物から援護射撃があった。


「でも“エビフリャー”は白銀語ってわけではないかもよ茜?」

「え!?」「どういうこと晴子?」


委員長はびっくりしたのか眼鏡がずり落ちそうに……なってはいないが驚いている。

涼宮は今聞いたこととは正反対の意見に興味があるのか聞き返している。

まさかオレの言葉だけでもここまで話題がひろがるとはな……驚きだぜ!


「エビフリャーていうのは旧名古屋あたりにの方言……とはちょっと違うけど、その地域の人がエビフライって言うと、

 他の地域に住んでいる人から聞いたらエビフリャーって聞こえるんだって。だから似非名古屋弁っていうらしいよ」


おお柏木ナイスフォロー。

オレはお前ができるやつって信じてたよ。

柏木の説明にほうと頷く皆の衆、これでオレを馬鹿にできないな!特に委員長。


「……それはわかった。でも白銀がいったから白銀語でいい」

「なぬ!?」

「そうだな。彩峰がそういうのだからそれでいいのかもしれないな」

「冥夜まで!?」

「まあとにかく、白銀が言った意味不明な言葉は白銀語に認定、それでいいわけね?」

「異議なし(白銀除く全員)」

「ひでぇ~」


クソ~援護してくれた柏木までも賛成するとは……オレが男だから悪いのか!?

あいつがいれば論理的にかつコンパクトに仲裁してくれるはず……しかも男だからいざってときは味方になってくれるはずだ。

今日のブリーフィングで紹介すると先生がいっていたけどもっと早くしてほしかったぜ。

……でも柏木が生きていてくれてよかった。

ひとり大尉のところに戻っていったときは死ぬほど心配したけど、次にあったときは馬鹿でかい砲身を備えたもん持ってきたときはびっくりしたぜ。

1200mmOTHキャノンだったか?

確か“前の世界”でたまがHSSTを撃ち落としたやつじゃねえか!って、今になってまた驚いちまったじゃねえか。

……なんか今日は興奮しすぎているのかもしれない。

自分が歩んできた道がようやって人類を救うということに具体性を持たすことができたからかもしれない。

ここで浮かれてちゃいけないってわかってはいるけど、今は素直に喜んでいたいんだ。

戦友と友に人類の反撃を祝って……。

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イリーナ・ピアティフサイド

Su-37 ジュラーブリク。

今目の前で四肢を無くした鋼の巨人の正式名称だ。

他にも01から05まで書かれた同型機がここのハンガーに固定されオーバーホールされているところだ。

立て続けに大規模作戦を遂行したのだから、どんなにうまく操っても機体にかかる負荷はごまかせないことを物語っている。


「派手に壊してくれたようね。まあ、胴体部が無事ならシステムもそんなにダメージは負ってはいないだろうけど……」


私より少し前で手元の書類をめくりながら独り言をいっているのは香月副司令だ。

私と副司令がここにいる理由は第0中隊、エインヘリャル中隊が使っていたXMNシステムの調査及び整備のためだ。

普段はツナギ、野戦服または強化装備を着たものしか滅多にはいってこないので、私達のようにC型軍装でここにくるものは珍しいのだろう。

その証拠に整備兵……とくに男の人たちの顔に喜色が浮かべている。

ある意味では嬉しいが明らかに破廉恥な視線を送ってくるのは不快でしかたない。

……早くここから出て行きたいというのが本音だ。

だがそうするわけにはいかず、こうして黙々と副司令の指示をメモし、今後のスケジュールを組んでいく。

目の前の巨人達は背中にホースやコード類が接続されてゆく。

ホースはシステムのコアを満たしているODLの交換を、コードはコア部分からのデータの吸出しを行っている。

コア部分の被験者のことを考えると複雑だが、私がどうこうできる話ではない。

彼もそのことは承知済みであり、折り合いもつけているので今更騒いだとしても迷惑がかかるということはわかりきっている。

なら、私は見守るだけと決めることにしたのだ。

副司令がシステムの調査を終えたときは傍目からはわからないがやや渋い顔をしていた。

システムの性能の低下がやはりおきていたらしい。

元々いわくつきの欠陥兵器なのだから仕方ない。

それに人格を無理やり複製したのだから劣化して当然なのだ。

メンテナンスすればそれなりの性能は戻るはずだがそれ以上期待できないだろう。

そんなときに女性特有の騒がしさがこちらに近づいてくるのを耳にした。

そちらの方向を見るとそこには機嫌悪そうな速瀬中尉たちがこちらにやってくるところだった。

まあ、機嫌が悪いのは先頭の速瀬中尉だけなのだが……その他に宗像、涼宮の2人の中尉、風間少尉となぜか白銀少尉がいる。

白銀少尉は速瀬中尉の怒りのはけ口にされるためつれてこられたのだろう。

その証拠に怒鳴られているのが彼だけだ。

昨日涼宮中尉がいっていたが、第0中隊の態度が悪くて頭にきたらしい。

それで彼らの機体が搬入されているのでそれを見に来たというところみたいだ。

ボーッとそれを見ていると副司令に早く行くわよと催促されその場を去っていくこととなった。

……少しだけ話を聞いてみたかったけど仕方ないか。

やむ得ずその場入れ違いに軽く敬礼してさって行く私。

去り際に少しだけ聞こえた会話はこうだ。


「ジュラーブリクなんて使って……本当にやつらって日本人なの?」

「間違いないよ水月、A-01は日本人の人材を集められて結成されたからね。例外はないと思うよ」

「……確か九州で戦っていたと聞いたのですけど……どうなんです?」

「あら、宗像。例のあの人が気になるわけ?」

「……そうとって貰って結構です」

「あら……可愛くないわね」

「私の話はいいですから、速瀬中尉のほうはどうなん――」


私が聞こえたのはここまでだ。

そういえば隊長の彼は確か例のあの人だったはず……どうやら私以外にも“再会”のイベントがおきそうだ。

……でも私は上官だし、A-01部隊に所属していないからその場で喜びを表せられないんだろう。

それに……どうせ片思いだしね。

遠くで聞こえるA-01部隊の声が少しうらやましくなった。

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九羽 彩子サイド

国連軍が誇る極東方面軍最大規模の基地である横浜、九州の防衛の要である北熊本基地よりも施設は充実しており、

オルタネイティブ計画の中枢であることをオレ達に実感させた。

鳴海隊長、平中尉と御城は元々ここの基地出身なので古巣に戻ってきたって感じで感傷に浸ってたなあ。

ってことは知り合いがこの基地に可能性が高い、というか、なんでも御城たちが卒業した訓練学校はA-01人材育成機関だったらしいから、

可能性どころかもろに再会が果たされるだろう。

……オレにはもう魅瀬と元気しかいねえけど、あいつにはちゃんと再会を喜べる戦友がいる。

おそらく志津のやつを撃墜したやつがその中にいるだろう。

恨む気持ちはないといえば嘘だが今は人類の未来を守るための戦友だ。

戦友を恨むようなことはしない、頭がよかった志津と柳のやつだってそういうに決まっている。

……ああもう!これから第9中隊に会うのにいきなり湿っぽくなってんだ

ここの基地司令パウル・ラダビノッド准将とA-01頭にして基地の副司令である香月夕呼の後ろを歩きながら頭を振ってその考えを振り払った。

毅然としているはずの鳴海隊長のほうを見てしっかりしようとすると……オレは唖然とした。

明らかに落ち着きがなく手を握ったり開いたり、歩き方もぎこちなく進むのをためらっているようだ。

その横で平中尉がまるで逃げ出さないようにするかのように見張っていた。

御城のほうは一応落ち着いているが、やや緊張しているようだ。

……これからオレ達はどこにいくんだろうか?

戦場なのか?

この考えはある意味では間違いなかったのかもしれないと後で知ることとなる。

目的の地であるブリーフィングルームが見えてくると2人とも覚悟?を決めたのかいつものように冷静になった。

オレもそれを見て最終確認にネクタイはしまっているかどうかチェックする。

急いでそれを済ませるとオレ達はその入り口へと入っていった……。



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/09/16 17:07
イリーナ・ピアティフサイド

「A-01両中隊の諸君――困難な任務であったが、よくぞ達成してくれた。私は諸君らを誇らしく思う。

 両部隊ともひとりも戦死者を出さずよくやってくれた。諸君らの働きは世界各国に発表されるべきことだが、

 オルタネイティブ計画に名を連ねるものにはそのような贅沢は許されない。公式には帝国、国連の連合軍がハイヴ制圧に成功としかされ――」


A-01。

オルタネイティブ第4計画、香月副司令直属の特殊任務部隊。

残存する全ての隊員、19名がここにいる。

ラダビノット司令直々の言葉に皆耳を傾けている……が、その内の約半数は集中できていないことがわかってしまう。

速瀬、涼宮、鳴海の3人の中尉。

意外なことに第0中隊の3人少女も驚きが現れている。

そして、第9中隊新人の5人の少尉と……あの人。

それぞれ理由は違えど瞳が揺らめいている。

話を聞こうと集中しようとするが、逆に気になってしまうという悪循環。

だが、視線だけは司令に固定しているのは軍人としての矜持なのだろう。


「――人類は僅かずつであるが、確実に勝利に近づいている。だが、その道は長く険しい。

 これからも数々の難局が待ち受けている事だろう。だが、数々の死線を潜り抜けてきた諸君であれば、それも克服できる筈だ。

 諸君の一層の奮戦に期待する」

「――はい!(全員)」


司令はその返事を聞いて満足げに目を細めた。

そしてとその目を私に向けてあれを言うように促してきた。

私は司令の横に立ち手に持っているものを落とさぬように慎重に持ち上げ、それを与えられるものの名を呼んだ。


「――A-01第0中隊隊長、鳴海中尉」

「――はっ!」


鳴海中尉は何かに耐えるように……戦うために前に進み出る。

それを強いまなざしで射抜き、重い言葉をつむぎだす司令。


「本日只今をもって、階級を大尉に昇進する。貴様の今までの戦功及び甲21号作戦における働きが認められてのことだ。

 これからも階級に負けぬ奮戦を期待する」

「――はっ!」

「……貴様の第0中隊は一部の機密を解除する。第9中隊と親睦を深めるよう努力しろ。欠員の補充は次の作戦に間に合わせるよう手配中だ。宜しく頼むぞ」

「了解しました!!」

「――以上だ」

「「――敬礼――っ!」」

「……伊隅、彼らのことはピアティフ中尉に教えてあるわ。後のことは頼むわね」

「はっ」


…………第0中隊の欠員補充…………。

彼女達しか考えられないだろう。

それより今は目の前のことを済まさなければならない。


「ピアティフ中尉、説明のほうを宜しくお願いします」

「……わかりました伊隅大尉。鳴海大尉と隊員はこちらに」」


紹介するのと昇進するのと少しややこしいことがあったが、すんなりと第0中隊の面々が前に出てくる。

緊張していた人たちはゆれていた視線がそれぞれ見るべき人へと向けられている。

鳴海中尉は速瀬、涼宮の2人の女性に。その2人は鳴海中尉に。

第0中隊の3人の少女は御剣少尉に。

第9中隊の6人、御剣、彩峰、榊、珠瀬、鎧衣、白銀(彼は存在を知っていたので動揺は少ないみたいだが)に。

そしてあの人は私……ではなく元207B分隊の皆に視線を向けている。

わかっていたことだけど……わかっていたことだけど……その視線が私に向けてくれることを……私は望んでいた。


「……こちらが隊長の鳴海 孝之大尉。次に平 慎二中尉。次に――」


私の心とは裏腹に口からは流暢に隊員の紹介がつむぎ出されていった……。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その1.5


鳴海 孝之サイド

……一通りの自己紹介も終わり、オレは2人の女性の前に立っている。

その後ろでは茜ちゃんがこちらをじっと見つめており、その横で慎二が見守っているといった形だ。

目の前の2人……水月、遙と視線を交錯させる。

水月……そんなに目に涙を溜めないでくれよ。話しづらいじゃないか。

遙……抱きつきたいなら来いよ。こんな情けない男の胸ならいつでも貸してやるから。

永遠とも思える長い死人生活……彼女達も同じだけの時間を歩み、容姿も心も変わっている。

だが、何も変わらないのはその目に宿す光……。

純粋でそれでいて燃えるように熱い想い……それだけはあの頃となんら変わってわいない。


「孝之……」「孝之君……」

「水月……遙……」


日の光が当たることのない道を腐る体を必死に守り、辿り着いた場所。

オレの心は度重なる戦火で煤けた。

体は動くたびに軋み、腐っていった。


【弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け】


鋼で覆って煤けた心を消し炭になるのを防ぎ、生きたいという想い……愛する人たちに会いたいという願いを刃にして戦った。

赤い不知火の衛士から学んだ言葉がオレをここまで導き、オレの想いが戦うことを選ばさせた。

そしてその結果……オレは願った場所へと辿り着いた。


「遙……」

「……生きていたんだね孝之君……あ、今は上官だったね」

「そんなことは気にしないよ、遙。オレはオレなのは変わらないから……」

「孝之君……」


頭を拳で小突く仕草は子供っぽく、愛らしさを感じさせてくれる。


「髪伸びたな……」

「どう、少しは大人っぽく見えるかな?」

「……まだまだ色気が足りないと思うぞ」

「もう、孝之君の馬鹿……」


涙を指で拭きとり、笑顔で答えてくれる遙。

訓練時代、神宮司教官にしごかれては影で泣いて、立ち上がって、また泣いて――。

足を大怪我して一時は歩けなくなると思われたのに挫けず、また立ち上がった見た目とは裏腹の強い女性。

そんな彼女をオレは愛しく思える。


「……孝之」

「……水月」

「生きてるなら……生きてるなら、連絡くらい……よこしな…さ…いよ」


オレの胸を痛みを感じさせるくらい強く叩く青い髪に青い瞳の女性……。

名前につく“水”に違わぬ容姿をしているオレを想ってくれるもう一人の女性。

いつも馬鹿をやっては笑って突っ込んでくれる女性。

それがこいつ速瀬 水月だ。


「……すまない」

「てっきり死んだと思ってたんだからね……墓参りだってしちゃったし……その時間をどうしてくれるのよ……?」

「……すまない」


2度目のすまないを言ったところできた左頬の衝撃。

水月の平手打ちがオレの頬を赤く染める。

それを見舞った本人は手を下ろして今度はオレの胸板へと倒れこんできた。


「……あやまらないで」

「……す……ただいま水月」

「お帰り……孝之」


オレは水月を両の腕でそっと包み込んでやった。

----------------------------------------------------------

御城 衛サイド

頬に走る衝撃。

総合戦闘技術評価演習で彩峰に叩き込まれた時以来の重く、心に響く一撃だ。

1回、2回、3回……。

5つの拳が頬に叩き込まれる。


「御城……生きていたなら……」

「御城さん……」

「マモルのばか……」

「…………1回だけ」

「御城……そなたは……いや、何も言うまい」


これがそれぞれ拳を叩き込んでくる前の一言だ。

榊、珠瀬、鎧衣、彩峰、冥夜様。

容赦のないとにかくおもく、おもい一撃ばかりだった。

そして最後が目の前にいる男。

時には歩をそろえ馬鹿騒ぎをし、時には反目した戦友……白銀 武が拳を握り締めて立っている。


「久しぶりだな……少しは男前になったな?」

「お前もどうだ?冷えた肌には丁度いい暖かさだぞ?」

「……そりゃあ遠慮しとくよ。オレもやられたことあるんでな」

「そんなこというな。こんな体験2度もできるのは珍しいぞ」

「……ともかく歯を食いしばっとけ」


ニヤリとお互い笑い会う。

そして笑みを引っ込めた次の瞬間には私の頬は激しく揺れた。

脳震盪を起こさないように打ち所を選び、なおかつ威力を落とさない見事なおもい一撃……またひとつこいつはでかくなったのだな。

痛む頬が自然と笑みを象る。

そして私は当然のようにあいつの頬へと拳を叩きこんだ。

あいつもそれを当然のように頬でその一撃を受けとめた。

拳に伝わる硬いようで柔らかい感触。

白銀はそれに耐え切ると笑顔で腕を差し出し、私もそれに合わせるように腕を交差させた。


「痛ぇじゃねえか馬鹿野郎」

「それはこっちの台詞だ大馬鹿者」

「「「「「…………」」」」」


周りの女性陣はやや呆けたようにこちらを凝視している。

さっきまで同じように殴っていたのに……私と白銀のやりとりはそんなにおかしかっただろうか?


「……皆、ボーっとしてどうしたのだ?」

「っ!いや、ね。なんかすごいなあ~とおもってさあ」

「うむ、これが漢の友情というものなのかと思って感心してしてしまった」

「やっぱ御剣さんもそう思う?男の人っていいですねえ~」

「御城も熱いところがあったのね」

「……燃えてるね」


……要約すると男の友情はいいってことでいいのであろうか?

以前聞いたことがあるが、女性というのは男のこういった友情表現に憧れることがあるらしい。

なんでも女性同士がやっても周りから見るとあまりいい絵にならないそうだ。

……たしかに女性同士の殴り合いはみたくないな。

そういえば、鳴海中尉達はどうなったのであろうか?

周りを見渡すと鳴海中尉は……これ以上見ているのは野暮だろう。

平中尉も同じ意見らしく少しはなれたところで第9中隊の女性陣……伊隅大尉といったか?

それと緑の長髪の女性に落ち着いた雰囲気の赤毛の女性と談笑している……やりますね平中尉。

残りの3人……九羽たちはこちらを見たまま固まったままだ。

私達のやりとりが余程衝撃的だったのだろうか?

……!そういえば彼女はどこだ!?

私は最も重要なことを思い出し、あらためて周りを見回すが……。


「う~んと元B分隊の御城君だよね?」

「というか間違いないでしょう茜」


いつの間に近づいたのか顔見知りの女性2人が傍に来ていた。

確か……涼宮と柏木……だったか?

築地殿と同じ元A分隊のメンバーだったはず……。


「久しぶり――といってもほとんど話したことなかったっけ?」

「そうだな柏木殿、なら自己紹介しておいたほうがいいだろうな。我――いや、御城 衛だ宜しく頼む柏木少尉」

「へえ、名前覚えててくれたんだ。私は柏木 晴子。柏木でも晴子でもどっちでも好きな呼び方で呼んで。あと堅苦しいのはここの隊ではなしだよ?」

「そういえばそうだったな……」

「あら、そっちでもそうなんだ。私は涼宮 茜。あそこで……ちょっと取り込んでいるピンクの髪をした涼宮 遙中尉の妹だからよろしく」

「……宜しく頼む」


それから挨拶もそこそこ早くも親睦を深めることに成功した。

まあ、白銀の影響で男である私も溶け込みやすい環境になっているのであろう。

甲21号作戦の話が持ち上がり、ハイヴでどう生き残ったのか聞かれたが機密扱いなので答えることができないことが多かったのだが、

それでもオルタネイティブ計画に名を連ねるものたちとして認め合っていることが口調でわかった。

これから友に戦うものたち同士の信頼……心地良いものだ。

……って彼女はどこに!?

金髪のあの人を探そうと部屋の隅々まで目を走らせると……いた。

部屋の出口付近で腕を組んでこっちじっと見つめている。

相変わらず公私混同はしないようで軍人としてここにいるようだ。

こういう時まで軍人としていなくてもいいではないかと思う。

私は彼女に近づこうと足の向きを変えようとすると……袖が引っ張られる。

怪訝に思い、後ろを振り向くとそこには九羽たちがたっていた。

何時になく困惑した顔なので助けを求めているのが手に取るようにわかった。


「どうしたんだ九羽?」

「……なんでここに殿下がいるんだ?」

「……はっ?」


殿下がここにいる?


「……しかも殴られるし(棒読み」

「国連軍の制服は着てる~し」


そういいながら3人の少女は私の両腕にまとわりついてきた。

腕にまとわりつくおかげで少女たちの胸が自然と当たるわけだが……恐るべし未来の大和撫子候補達。

それはそうとまとわりつく九羽たちがなにに困惑しているのかわかった。

冥夜様のことだ。

無理もないだろう。あれだけそっくりならば殿下と間違えてしまうのは至極当然。

双子なのだから当たり前なのだ。

だがそれをそのまま説明するわけにはいかないので適当に説明しておくとしよう。

3人に説明すると納得したようなしてないような微妙な表情をする。

……それはそうと納得してくれなくてもいいからとにかく離れてくれ。

遠くで見ている彼女が……ああオーラを出したまま行ってしまった。

御城 衛一生の不覚……我が妹よ、やってしまった。


「どうしたんだ?」

「……とにかく組んだ腕を放してくれないか皆の衆?」


この後九羽たちを紹介してロリコン呼ばわりされたり、九羽たちが冥夜様を人柄も含めて尊敬の対象にしたり、

珠瀬たちを年下と勘違いしたり、胸は自分達のほうがあると珠瀬、鎧衣の2人を馬鹿にしたりとなにやらいろいろとあった。

だが私は彼女に声を掛けることができなかった……不覚。

今夜は食事に誘ってみるとしよう。

……承諾してくれるだろうか?

それに私はロリコンでではないぞ。いや、本当の本当に。

……こうして再会という涙あふれるイベントは無事?に終わることができた。

空を見上げれば、今は見えないが星は輝き続けている。

輝き続けているから人は空を見上げ、夢を語り続ける。

私は今だ混乱する世の中で、小さくてささやかな日常を取り戻すことができた。



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/09/23 17:29
白銀 武サイド

決して暗くはない通路。

行き慣れたこの通路だが何時にも思うのだけどなんとなく薄暗く感じてしまう。

ここでは俗に言う非人道的兵器が開発、00ユニットがあるからそう感じるのだろう。

純夏…………。

お前のことだから大丈夫だよな?

そこまで思考を進めると横で何かが大きな動きがするのが目の端に移る。

ちらりと横目でそれを確認すると、御城がネクタイを締めなおしているところだった。

……御城は相当緊張しているみたいだな。

まあ、無理もないか。死んだと思っていた妹さんが実は生きていて00ユニットなってましたときたんだからな。

オレとこいつは同様の心持であってもなんらおかしいことはない。

そして、さらにその横にいる少女に目を向ける。

やや心配げに御城の顔をのぞいているのは霞だ。

霞は00ユニット……純夏と柳の2人の世話役をしていて主に純夏を担当している。

柳ちゃんのほうは一応ピアティフ中尉が行っているが、リーディングやプロジェクションができない分付き合いが難しいだろう。

心を読まれる恐怖。

オレはそんなことは気にしないが、霞が言うには大抵の人は内心ビクビクして避けているという。

……ピアティフ中尉はどうなのだろうか?


「……着きました」


00ユニットメンテナンスルーム……先の作戦で突入したハイヴと同じ雰囲気がもっとも流れる奇妙な部屋だ。

さっき薄暗く感じるといったがここが元々ハイヴだったから深く潜るほど奇妙な感覚がそう感じさせるのかもしれない。

それから霞もオレも御城もしばらく沈黙したままでいる。

だがそれもほんの数秒。

誰もアイコンタクトや頷くことなく、自動ドアの向こうへと歩を進めた。

そこにはわずかな光源……おそらく浄化装置だろう。

それ以外には照明というものが存在せず、廊下よりもハイヴと同じ感覚にとらわれる。

……脳みそ部屋に設置してあるのだが、あそこと同じ感覚を先に味わっていたいうのもなんか嫌な感じだ。

それはともかく今は純夏だ。

薄暗い中、2つのベッドが置かれており、その2つとも女の子が寝かされている。

いわずとしれた00ユニットである2人だ。

柳ちゃんのほうに歩いてゆく御城を横目にオレは暗い中でわずかな光源に照らし出されて死んだように眠っている純夏の顔を覗き込む。

……純夏が刻む静かな呼吸音が聞こえてきて少しだけ安堵する。

このとき本来なら機械には必要のない呼吸という機能を00ユニットの体に組み込まれていることに感謝した。

もし、呼吸がなかったらまた取り乱していたかもしれないからだ。

霞がこの場にいるし、なにより同じ状況に立たされている御城が落ち着いていて論されるなんてことにはなりたくない。

そこで規則正しい呼吸がやや乱れ、女の子そのものの細い喉がうなり声をあげた。


「……目覚めます」


瞼を重そうにしながらもその赤い双眸をゆっくりと外気にさらけ出し始めた。

初めみたいに人間性を失っていないことを目の輝きで判断する。

いくら先生に聞かされていたとはいえ自分の目で確かめるまでは安心できなかったが……これでようやく胸を撫で下ろすことができる。


「…………純夏」

「ん…………タケル……ちゃん?」

「そうだ。霞と柳ちゃんもいるぞ」

「……純夏さん……お帰りなさい」

「……霞ちゃん」


まだ寝起きのせいなのかどうかわからないが喋ることが少しつらいみたいだ。

ここはあんまり喋らせないようにしなきゃな。


「よくがんばったな純夏。今日はゆっくり休んだほうがいいぞ」

「……うん。なんか……タケルちゃんと話すのが久しぶりのような気がする」

「……色々とありすぎたんだよ。でも、もう大丈夫だから」

「……でもなんで戦術機の電源切っちゃったの?」


……何を言っているんだ?

電源を切ったって……あれか、重光線級を倒すときに主機を止めたことか?


「……ああそうか。この……伊隅って人の命令なんだね。仕方ないね…………なんでうまくいかないのかな……」

「……なにがうまくいかないんだ?」

「……ううん。なんでもない……よ。……タケルちゃんは……私のこと…好きだよね?」

「ああ好きだぞ。ずっとずっと傍にいてやるからな」

「うん……まだ眠いから寝るね……手…繋いでくれる……かな?」

「ああ」

「…………あったかい……」


そういうと瞼が開いたときと同じようにゆっくりと閉じられてゆく。

握っていた手も力が抜けてゆき腕の重さがオレに感じられるようになった。


「…………深い眠りに入りました」

「そうか……」


……うまくいかないということは自分が途中で離脱しちまったことを指すんだろうか?

それになにか記憶に混乱が見えるみたいだし……次の作戦に備えるためにも先生に報告したほうがよさそうだ。


「せっかく安定したと思ったのにな……」

「……いいえ。純夏さんは混乱していません」

「えっ?なんか見えたのか!?」

「……いいえ。深層までは確認できませんが安定はしています。ただ今回の作戦で本当にしたかったこと、できなかったことを悔やんでいます」

「どういうことだ?」

「わかりません。ですが純夏さんはそのことを私にもみせたくないということがなんとなくわかります」


……霞にも見せたくないって……どういうことだ?

……なんにせよ夕呼先生ならわかるかもしれない。

時間が時間だから急いだほうがいいだろう。

そう思い御城には悪いが先に行かせてもらうか。

柳ちゃんの手を繋いだまま、目を瞑っている御城のことを霞にまかせて、先生の部屋へと急いだ。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その1.75


御城 衛サイド

「白銀……それは本当か?」

00ユニットである柳と鑑殿の面会が終わり、地上施設にあるPXに向かうためエレベーターに乗っていたときに衝撃的な話を聞かされた。

その内容を説明する前に柳の状態から話す必要があるので、そちらから手短に話そう。





メンテナンスルームに白銀とともに入り、お互い心配すべき相手の元へと足を運んだ。

私は柳の顔を覗き込んだり、息をしているか調べたり、髪を撫でたりと生きていることを確認した。

白銀の知り合いである鑑殿は起きたのか、話声が聞こえてくる。

話の内容は聞き取れないが白銀は鑑殿のことをそうとう気遣っているようだ。

まるで恋人のように……まあ、他人の色恋沙汰に首を突っ込むのは無作法というもの、これ以上の詮索はしないほうがよいだろう。

そう思いながら注意を柳に戻し私が今できること、手を握ってやった。

手のひらから伝わってくる温もりが今ここに柳が生きていることをあらためて感じさせてくれる。

……起きていたならプロジェクションで語りかけてくれるのであろうが、余程ODLの劣化が激しいのか一向に起きる気配をみせない。

私は今は柳が生きていてくれたことに運命というものに感謝の意を表すため、静かに目を閉じた。

…後ろに小さな靴音がする。

閉じていた目を開きそっと柳の腕を下ろす。

そして、背後を振り返るとそこには社が立っていた。


「どうした?」

「……柳さんは大丈夫です。昨日はシステムチェックやリーディングデータ翻訳を手伝っていましたから疲れているんですよ」

「……そうか。次は柳が元気なときにくるとしよう。それにしても――」

「?」

「プロジェクションで会話しないのも久しぶりだな社」

「……そうですね。でも、本当はそれがいいんだと思います」

「ほう……白銀か?」

「えっ?」

「いや、なんでもない。それより妹を頼む。あいつは少々寂しがりやなところがあるのでな」

「はい」





というわけで副司令の部屋を訪れようとしたのだが、伝えることはすべて白銀に伝えてあるといって、白銀とともに追い出されてPXに向かっているのだ。

それで地上施設に着く前に重要なことを先に報告してもらったのだが……あまりのことに頭が働かなくなっているというわけだ。

その驚愕の話とは……。


「上層部は正気か?」

「夕呼先生も反対したらしいんだけど、スポンサーへの最大のアピールとオルタネイティブ5推進派への止めになるからとめきれなかったらしい……」

「だからといって……甲20号、甲26号同時攻略はいくらなんでも無理があるとしか思えん……」

「……それに純夏と柳ちゃんの2人のこともあるしな」


甲20、26号同時攻略作戦……か。

予備のパーツでもう一機凄乃皇を組み立て、2つのハイヴを同時に攻略する。

朝鮮半島にある甲20号目標の排除及び甲19号目標への橋頭堡の確保。

甲26号は最も新しくできたまだフェイズ2になったばかりのユーラシア旧ソ連領カムチャカ半島付近にあるハイヴだ。

このハイヴを落とす理由はなんでもオルタネイティブ4に社などの人材、我らエインヘリャル中隊が使っているジュラーブリクなどの見返り……らしい。

これを気にアラスカ・ソビエト軍は甲25号も半年以内に攻略を始め、失地回復を図るつもりだ。

……どちらにしろ2方面同時攻略は難しい。

たとえ柳たちが万全になってか荷電粒子砲の威力が絶大なものだとしても成功するかどうかは首を傾けずにいられない、

歴史がそれを照明しているのだから仕方がないのだ。

勢いに乗って同時攻略をしたら片方落としてももう片方が失敗することが多い……というか絶対に失敗しているのだ。

最悪、両方とも失敗してしまった例すらある。

……上層部が浮かれているとはいわないがもっと確実性のある作戦を練ってもらいたい。

だが、こちらが提示した条件も飲んでくれたのでよかったといえばよかった。

それは――。


「!そろそろ地上にでるからこの話はやめだな。機密の問題って面倒だけど漏れたらやばいだろうしな」

「ああ……死なせたくないならともかくお互いがんばらなければな」

「お前は甲26号、オレは甲20号……同じA-01でも共同任務が回らないなんて、変な話だよな~」

「それが軍隊だろう……理不尽なこともおきるしその逆も叱りだ」


この後何気ない会話をしながらPXに向かったのだが……。

PXにいた神宮司軍曹最後の教え子である207A、B、両分隊の面々に衝撃的なことを教えられた……。

神宮司軍曹が……戦死していたことを告げられたのだ。

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御剣 冥夜サイド

「あいつ……大丈夫だよな?」

目の前に座っている男、タケルが声を掛けてくる。

今までここにいたもう一人の男、御城が立ち去ったあとにそのまま解散になったのだが、この男と茶飲み話をしている。

だが、その茶飲み話も暗いことしか出てこない。

御城が神宮司軍曹が死んだことを知らなかったのだ。

そして彼はそれを聞いた途端、驚きをあらわにし、墓の場所を聞くとさっさと行ってしまったのだ。


「大丈夫……大丈夫なはずだ。そなたと同じで強い男だからな」

「……オレよかあいつのほうが強えよ」

「謙遜してどうする。そうやって己を卑下するからそれにあわせて弱くなるのだ。自分を強いと思っていたほうがよいぞ?」

「はあ~、なんか冥夜と話しているといつも説教されてるような気がするよ」

「そうか?」

「そうだ」

「…………」「…………」


それからタケルが神宮司軍曹の墓がある桜並木にいくといって席を立った。

私もそれにあわせ席を立ち、自分の部屋へと歩をすすめるのであった。

……今日は良いことがたくさんあった。

明日以降も……この幸せが続きますように。

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御城 衛サイド

……私は莫迦か。

施設の外に出たはいいが神宮司軍曹の墓に行くこともせず、自堕落だが手土産としてもった酒を少しづつ飲みながらブラブラと外を歩いている。

肌に張り付く冷気が痛いがそんなことも気に掛けず当てもなく歩き続ける。

もう一度言おう、私は莫迦だ。

今もこうしている間に世界のどこかで人が死んでいる。

それはわかっていた妹が一度死んだときにわかっていたはずだ。

だが、恩師を亡くしたことが……私の知らないところで死んでしまったのは……大きかった。

そして私は墓参りに行こうと榊たちに場所を教えてもらい向かったのだが、鏡は見ていないがとても情けない顔をしていることがわかっているので

それを直すまで歩くつもりだったのだが思ったふうには直らず、歩き続けているわけだ。

……気がつけばいつもの木がある基地の裏についてしまっていた。

こんな寒くて暗いところには誰もいるわけがなく、冷たい風が吹き荒むさびしいだけのこの場所でいつもしているように星を眺めることにした。

星を見ていれば笑顔で神宮司軍曹に会えるだろう。

だがその思惑はまたしてもはずれ、走馬灯のように思い出が駆け巡るだけだった。

……………………。

どれだけの時間星見上げていたのであろうか。

背後に足音がしてようやく思考のルーチンワークから解放される。

だが、背後の気配に対して振り返ることはしたくなかった。

そこにいるのが誰かわかっているからなおさらだ。


「……任務完了、ただいま帰還しました」

「……任務遂行ご苦労だった。だがその態度は懲罰に値するぞ?」

「……それも悪くはないですね」

「……あなたは本当に莫迦ですね……墓参り……一緒に行ってもいい?」


口調と雰囲気が変わる。

……再会はいいものだな。

夜空に向かって心の中でつぶやく。

神宮司軍曹……そちらに行くのは当分先になるでしょうが、今からうまい酒でもそちらに送ります。

私はゆっくりと背後を振り返るこう言った。


「……どうぞご自由に」


そしてその白い肌を桃色に染めながら彼女は言った。


「……あなたって人は本当に大莫迦ですね」



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/10/01 16:23
香月 夕呼サイド

綺麗に詰まれた書類の山。

書類の山といってもここ部屋の主が溜め込んでいるわけではなく、それだけ多忙ということをあらわしているに過ぎない。

その部屋の主である香月 夕呼はその中の一枚を片手に持ち、それに書かれたものに対して自他とも認める最高の頭脳を活かして考えている。


「あのジャミングはBETAによるものではなく、XMNシステムを起動したときに00ユニットタイプMが発したものか……。

 発した原因も現段階では不明、自分で作ったものながらわけがわからないわね。

 まあ、グレイ系の物質もまだ未解析な部分がただあるし、人間という生物……特にESP能力保持者のことなんてわかってないんだから――」


仕方ないとはいいそうになって口をつぐむ。

この部屋に誰もいないからといって弱音を吐くような真似をしたくない。

仕方ないで済ませるなら凡人でもできるが天才である自分はそこで済ませるわけには行かない。

次の作戦でも同じようなことが起きるようでは困るのだ。

そこまで思うと00ユニットのバイタルデータを手元の端末に表示させ原因を洗い出す。

タイプKはシミュレーターの時にそういったことを見せるようなことはなかった。

可能性の話ならあるかもしれないがまずは実際に行ったタイプMを主軸に考える。

タイプKにも搭載されているESP能力は社とタイプMの複合タイプだ。

リーディングにプロジェクション、それと未来予測演算能力……!。

そこで思い出す御城にもあるあいつら兄妹特有の能力、リーディング遮断。

あれが何らかの作用で拡大してジャミングになったと仮定すれば辻褄が合う……まずはこの線から見ていこう。

丁度良く彼女らがここに来ることになっているから事情聴取するのために呼び出す手間も省ける。

受話器をとる手間も省けたわね。

……それと伊隅と鳴海にも説明しなければならない。

タイプKのことは既に釘を刺してあるから問題ないとしてタイプMのほうは少し手間がかかりそうね……。

…………あっ。

そこで私は重大なことを思い出し結局受話器をとることになった。


「こちら中央作戦司令室」

「私よピアティフ」

「何でしょうか副司令?」

「伊隅のやつはもういっちゃったかしら?」

「ゲートに問い合わせてみますので少々お待ちください…………お待たせいたしました。伊隅大尉は既にゲートをとおり帝都へと向かわれたそうです」

「あ~そう」

「……緊急のことなら呼び出しましょうか?」

「いえ、そんなに急ぎのことじゃないから大丈夫よ。ありがと」


そういって受話器を元の位置に戻す。

そういえばあいつは他の姉妹に武道館で会うことになっていたんだっけ?

……私も少し疲れてるみたいね。

それにしてもピアティフのやつ何か機嫌がよかったみたいだけど……やっぱあいつのせいなのかしらね?


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その2


御城 衛サイド

昨晩ピアティフ中尉との再会もできた。

あの後ゲートで伍長たちにも久しぶりに会い、ピアティフ中尉には聞かれないほどの声でいつプロポーズするなんていわれたり、

神宮司軍曹の墓の前で鳴海中尉……いや、今は大尉か、が速瀬中尉に絡まれていたり、ついでに私と彼女のことをからかわれて彼女はまんざらでもなかったとか……

とにかく幸せな夜だった。

それで健やかな朝を期待したのだが……。


「…………」

「…………」


再会してからの健やかな朝……になるはずだった。

その朝は一体全体どこに行ってしまったのだろうか?

茶碗に乗る白飯(合成)を箸でつつきながら目の前の現状を確認する。

私の横にはエインヘリャル中隊3人娘が何やら浮かれて落ち着きがなく、視線を膳に向けたり目の前の人物達に向けたりしている。

そしてその視線の先を見るとそこには帝国斯衛軍第19独立警護小隊所属の3人の少尉と月詠中尉がいるわけだ。

私には彼女達とはそれなりの面識があり、別段意識するような関係ではない。

だが隣の3人の元帝国軍軍人としては目指していただけあって、目の前に斯衛軍がいることに歓喜しているのだ。

それでその視線を受けている月詠中尉たちはというと……。

月詠中尉は全く動じることなく味噌汁を啜っており、神代、巴、戒の3人の少尉は一見動じていないようだが、先程から箸があまり動いていない。

そもそもなぜこのようになったのか?

元207分隊の皆と食事を取ろうと考えていたのだが、点呼が終わりPXに向かおうとすると3人が食事に誘いに来た。

まだこの基地になれていないだろう3人のことを考え2つ返事で了承し、ここに向かってきたわけだ。

ここにつき京塚曹長に昨日やられたように音がなり響くほど背中を叩かれ食事を受け取った。

ここまではいい。

偶然なのか必然なのかわからないが月詠中尉たちにばったり出くわし、なし崩し的にそのまま席に着いたのだ

この時間帯に月詠中尉たちが食事にくるなど普通はないのだが、気まぐれなら気まぐれで済んでしまうだろうが、

生真面目な中尉ならそれはないだろう。

なら私のことを待っていたのだろうか?


「…………」

「…………」


いまだに続く沈黙。

この重苦しい空気が回りに広がり、何事かと視線を向けてくる輩が増えてきている。

この状態では話しづらいことこの上ない。

だがその時今まで動じることなく食事を進めていた月詠中尉がお椀をテーブルに置く。

何をするつもりかと思えば、周り向かって一睨み。

それだけで視線は波が引くようになくなっていった。

……さすがですね。

私の横で九羽たちがなにやら騒いでいるがこの際無視する。


「……挨拶しておくとしよう。久しぶりだな御城少尉」

「そうですね。月詠中尉」

「貴様が生きていたと聞いたときは驚いたが、思ったより元気そうだ」


そういってちらりと九羽たちを見る月詠中尉。

……私は手を出したことはありませんから誤解しないでいただきたい。


「いえいえ、中尉こそ元気そうで何よりです」

「まあ、それはともかくお前に話しておきたいことがあってな……私達はもうすぐここの基地を出る」

「…………やはりですか」

「貴様のことだから事情はわかっているとは思うが……名に恥じぬ行いを期待する」

「……わかっていますよ中尉。御城の名にかけて全力を尽くします」

「ふっ、だがそれも短い間かもしれんな……」

「?」

「いや、なんでもない。用件はそれだけだ。横にいる少尉たちには悪いが今日はお暇させてもらう……御城、達者でな」

「中尉もお元気で……」


月詠中尉が席をたちそれに習い神代少尉たちも立つ。

月詠中尉は盆をもつとそのまま振り返らずに歩いてゆく。

神代少尉たちとは今回一言も会話しなかったが、3人とも一糸乱れぬ敬礼を行いこれまた去ってゆく。

盆を持てはいるがその後姿はいつものように美しかった。


「おい御城」


月詠中尉たちの後姿に見とれているところに無粋な声がかかる。

声の主はさっきからみーはーのように騒いでいた九羽だ。


「なんだ?」

「つっ、月詠中尉とはどんな関係なんだ?」

「……一つの戦場で唯一つの守るべきもののために戦った戦友だ」

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白銀 武サイド

「――次の作戦、甲20号作戦は近い。今日の訓練での反省を活かし、明日はさらに突き詰めてゆく。

 明日帰ってくる大尉に恥をかかせる様なことをするな」!

「――はい!(全員)」


ハイヴ突入シミュレーション。

佐渡島で得たデータをもとに作られた最新のシミュレーターミッションだ。

オレ達がやったのは甲20号のハイヴデータで、ヴォールクデータではなし得なかった最深部到達を5回もやり遂げた。

オレは内心狂喜乱舞している。

純夏たちががんばって得たデータが役に立っている……それを昨日の今日で実感できたのだ。

速瀬中尉も鳴海大尉が生きていたことで調子は上向いている。

……まさか死んだはずの想い人が生きていて同じ戦場を駆け抜けていたなんて思いもしなかっただろう。

現実に再会してこれで堂々と三角関係突入というのだけど、軍人だからそこまで激しくはならないだろう……多分。


「それともう一つ!甲20号ハイヴは甲21号ハイヴよりも深いとデータにある。なので私達がここを攻略すれば記録は伊隅ヴァルキリーズのものになる――」


…………相手が想い人でもあの時のことは根に持っているんですね中尉。


「――ともかく本日の訓練結果を各自反省し、一層の努力をすること。本日の訓練はここまでだが、一つ伝えることがある」


まだ何かあるのか?


「明日の午後に整備明けの戦術機の試運転ついでに第0中隊のやつらとの親善試合をすることになったわ」


!御城たちとやりあうってことか。

思えばあいつとまともにやりあったのはXM3の初披露のときでしかも決着つかずだったもんな。

ここで白黒つけるのも悪くないな。

でも御城の部隊の機体も合わせて18機の機体をオーバーホールしたっていうのに早くないか?

……そういえば昨日も遅くまで格納庫が稼動していたみたいだから貫徹で整備をしていたんだろう。

相変わらず先生も無茶なことをするな。

わざわざ親善試合のために整備兵の人たちには無理させちまったようだ。


「相手は6機……こっちの数とは合わないから2隊に分けて戦うことになるわ。人選なんだけど……

 第1部隊は白銀、御剣、彩峰、榊、風間、そしてあたし……私がいうのも何だけど豪く攻撃的ね」

「!!(全員)」

「大尉が決めたんだけど……第2部隊は伊隅大尉、宗像、涼宮、柏木、珠瀬、鎧衣だ。こちらは支援射撃を重視しているみたいね。……白銀!」

「はい!」

「この部隊編成には何の意味があるかいってみろ!」


部隊編成の意味……これは……オレ達の時と同じだ。

大尉も人が悪いな……わざわざ試すようなことをするとは。


「この配置の意味は第1部隊がBETAでいう要撃級や突撃級に該当する近接戦闘を想定したもので、第2部隊は光線級を想定したものです!」

「そのとおりだ。私達があいつらを試すことになる。いやな気分をするやつもいるだろうが、

 どれだけの実力があるかわからないようなやつに背中を預けるわけにはいかない。明日は絶対に手加減するな!――以上、解散!!」


……大尉がいない分の変則的なフォーメーションもちゃんとできてるしよくやっている。

今日は御城たちとの合同訓練はなかったけどあっちのほうはどうなんだろうか?

そんなことを考えていると向こうからお馴染みの5人がやってくる。


「タケル~」

「ん?なんだ美琴」

「いやね今日の訓練すごかったよね~」

「ああ、そうだな。これも佐渡島でのデータのおかげなんだろう」

「確かにあれだけBETAの数が少なかったのはもっとも安全なルートを通っていたからなのだろう」

「冥夜のいうとおりだろうな」

「訓練のこともそうですけど明日の御城さんたちの部隊と演習をするなんてちょっと驚きですね」

「オレは明日が楽しみで仕方ないよ」

「……御城を蟹にする?」

「……つまり一泡吹かせたいと?」

「ウン、ウン」

「口で言うな」


他愛のない会話。

だけどそれがオレが生きていることを実感させることであり、守りたいと思う。

……会話中にしんみりしちゃだめだな。

もっと話題を出さなきゃ。


「でも、第0中隊……エインヘリャル中隊の使っているジュラーブリクだっけ?あれってどういった機体なんだ?

 設計思想も不知火とは大分違うみたいだけど……」

「たしかアラスカ・ソビエト軍が開発した第3世代機とはきいてはいるが、性能面のことは全く知らんな」

「そうね。後でデータベースで検索してみるのが得策ね」

「お?委員長らしいね~」

「……はあ、突っ込むのも莫迦らしくなってきたわ」

「なんだよそれ?」

「別になんでもないわよ」


こうして明日の演習の対策を練っていると中尉たちもこれに加わり、鳴海大尉には絶対負けるなと速瀬中尉に檄を飛ばされる。

……あとその理由が墓参りの後どっちが強いかどうかの痴話喧嘩が理由だと涼宮中尉に聞かされるのだった。

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九羽 彩子日記

横浜基地に着て2日たった。

鳴海隊長は2人の中尉にやきもきされたのだが、今日はなにやら少し怒ってた……どうしたのだろうか?

それはそうと朝はあの月詠中尉に会えて感動した。

でも、一言も話せなかったのでとても残念だ。

明日の合同演習は楽しみだ。ついでに鳴海隊長の昇進祝いも合同で行われるらしい。

………………。

……御城があまりかまってくれない。

これだけ積極的になってものらりくらりとされて……はあ。

それにあの金髪の通信仕官……香月副司令の副官もやっているらしい。

あの女も御城に気があるみたいだ……負けられねえ。

初恋がどうだのこうだの魅瀬と元気に言われているが、そんなのしらねぇ。

なんとかすればオレの勝ちに決まっている!!……根拠はねえけどな。

~~~~~こうなったらヴァルキリーズのやつらから情報を手に入れたほうがよさそうだ。

そうと決まったら即実行、明日聞いてやる!

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イリーナ・ピアティフ日記

あの人と再会……。

涼宮中尉がいうには御城少尉は肌の色で判断するような人物ではないとのこと。

これは元207のとある少尉に聞いたことだが、アメリカ的発言は禁則とのこと。

……まあ、私がそんな発言をすることはありえないが注意しておこう。

ともかく女性陣が声をそろえていうことはもっと積極的になったほうがいいらしい。

でもそれって私という人物像とかけ離れてるようなきがするし……あの人が受け入れてくれるかどうか……。

それはともかくアプローチは継続してゆこう。

…………今になって気づいた。A少尉に聞いたのは間違いだったのかも……口止めしといたけど大丈夫かしら?

あの人とはなんでも殴り合いをするような仲だとか。

今日も格闘訓練?で模擬戦をやったとかしなかったどか……。

まさかあの人はサディ――そんなわけな――逆なこともないわよね?

……深く考えるのはやめよう。



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/10/26 00:35
九羽 彩子サイド

目の前の一冊のノート、日記にペンを走らせながら思う。

オレはそもそもなんでこんなところにいるんだろうか?

最初は帝国斯衛軍に入るつもりで変なおっさんに声を掛けられ、嫌な感じの教官がいる訓練校に入った。

そこには柳達がいて、苦しい訓練に耐えながら斯衛になる意気込みを語り合った。

沙霧大尉主導の憂国の烈士による戦い。

世間では12.5事件と呼称されているこの戦いで、オレ達は真実を告げられた。

柳は激怒し、あのおっさんの首を撥ねたという。

殿下の帝都城包囲からの殿下救出作戦。

一時はうまく良くかと思われたこの作戦も、オレ達の敗北という形で幕を下ろされた。

この戦いで志津と柳が戦死、オレ達も機体を失った。

そして機体から降りて呆然としているとどこからきたのか、国連の連中がオレ達を拘束した。

わけもわからず輸送機に乗せられ、九州の地へ運ばれる。

このときオレ達がKIA認定をされていることを初めて知らされた。

悲しむまもなく新たな出会いが起こる。

鳴海隊長、平中尉、そして柳の兄貴である御城 衛との出会いはこのときだ。

この世で最後の肉親である妹を自らの手で殺めたことに自責の念を抱き、何もかもどうでもいいという感じだった。

それを見かねたのか、鳴海隊長主催の親睦宴会。

宴会の後、魅瀬たちに色々からかわれることになったけど……まあ、それであいつは元気を取り戻したからいいだろう。

それに……あいつの胸板頼もしかったし……ポッ。

それは置いといて……ジュラーブリクの到着、甲20号間引き作戦、新型システムのテスト。

……S-11の搭載にしたがう刷り込みが発動し、暴走。

それはとりあえず克服できたのだが……あのときに聞こえた何かが思い出せない。

頭に靄がかかったように何かを何かとしか思い出せない。

佐渡島でも聞こえたはずなんだけど……。

まあ、思い出せないのは仕方ねえ。

なんだかんだやっているうちに佐渡島から横浜まで来たわけだが、なんでオレは国連に溶け込んでいるんだろう?

最初はKIA認定解除のために戦っていてそれが解除された。

今は人類のためにオルタネイティブ計画を完遂するためにここにいる……はずだ。

御城がどうだのいうことじゃなくてなぜここにいるんだろう?

KIAが解除されたんだから除隊して帝国軍に戻ればいい。

あの事件に参加した者は罪を許されており、戻ってもちょっと経歴にはくがつくだけだ。

原隊は壊滅したからどこかの部隊に転属、あるいはオレの年齢云々で適齢まで待たされるかもしれない。

それにしたって帝国軍に入れるし、斯衛の訓練校からやり直せる。魅瀬も元気のやつも同じだ。

成り行きでこうなったとしかいいようがないが、どうも釈然としない。

いつのまにかペンを走らせるのをやめて器用に手の上ででそれを回す。

考えても考えても答えが出ない時に軽やかな音が後方のドアから響いてきた。


「……どうぞ(棒読み)」


そんな言葉ともにはいってきたのは魅瀬だった。

相変わらず非常識なやつだ。


「自分で返事して入ってくるんじゃねえよ」

「別に良いじゃん」

「元気のやつはどうした?」

「洗濯板姉妹と合戦中」

「は?」

「2人の山の高さを足した数が元気のそれを上回るか否か?」

「……オレ達の中で一番ちっこくてもあれには負けねえだろ?」

「おそろくどころか、確実に」


……元気、やっと勝てるやつがいて嬉しいんだな。

ちなみにオレ達の中で一番でかいのはオレだったりする……魅瀬とは僅差だけどな。


「んで、オレになんか用なのか?」

「……奇妙な動きの吹雪」

「…………吹雪がどうしたんだ?」


吹雪……第3世代戦術機、不知火より先にできていたとかいう代物にして、オレ達にとってあまり良い思い出がない機体。

梅の仇であり、オレ達を撃墜したものだ。

……オレは撃震に撃墜されたんだけどな。


「それを操っていた衛士がこの基地にいる」

「そいつらがいるからどうしたんだ?もう終わっちまったことだろうが」


そう、もう終わったことだ。怨む気持ちなんて持つ意味はない。

……でもいわれると少し怨んでいるのかもとも思う。

でもそれでお礼参りをするつもりなんてさらさらない。

だから突き放すように、オレは言った


「だから?」


だが魅瀬は口を閉じなかった。


「その衛士はヴァルキリーズにいる」

「……何?」

「御剣、榊、彩峰、珠瀬、鎧衣、白銀。このうちの誰か」


なんで国連にまだいるのか?答えがポンと出てきたような気がする。

オルタネイティブ計画の成功?己の恋の成就のため?

2つとも正解だ。

だけどもう一つあったんだ。

自分でも気がつかなかった言葉……○○と○○だ。

日記の内容とはそぐわない雰囲気で、オレは寝ることになった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その3


御城 衛サイド

「御城さん右頬どうしたんですか?」

私の朝はPXで始まるものだと今更ながら思う。

旧207B分隊のメンバーで食事を取っていると珠瀬が当然の疑問をいってくる。


「なんかちょっと青くなってるみたいですけど?」

「珠瀬。これは昨夜、彩峰と――」

「御城、激しかったからついやっちゃった」


場の空気が一瞬にして凍りつく。

ふむ、体感温度は氷点下273.15度だな、とっ冷静に分析する。

そして次の瞬間には体感温度は炎がプラズマ化するほどにあがった。


「見損なったぞ御城!!」

「不、不潔です御城さん!」

「マモル……二股どころか五股かけるのはどうかと思うよ?」

「……誰かMP読んできて」

「御城……同じ男としてお前を殺さなきゃならん」


皆、至極当然の反応ごくろう。

だが、鎧衣よ5股とはどういうことだ?

私は今だかつて女性を道具のように扱った覚えないし、関係をもった女性はまだおらん。

……まあ常々持ちたいとは思ってはいるがな。

私は皆の反応に動じることなく湯のみに手を伸ばし熱々の合成緑茶をすする。

うむ、合成にしては良い味をしている。


「暢気にお茶なんて飲んでる場合か!弁解もしないとは事実なのか!?」

「やっぱりMP呼んできましょう」

「「賛成」」

「いやこの場で袋に……」

「……物騒なことをいうな。私が落ち着いているというのに何を取り乱している?」

「お前(そなた、あんた、御城さん、マモル)が落ち着いているのが異常なんだよ(ですよ、なのだ)」

「シンクロご苦労様」

「彩峰も彩峰よ。いつのまにそんな関係に……というかあんたはそれでいいわけ?!」

「なにが?」

「なにがって……」

「格闘訓練つきあってもらう関係のどこが変?」

「「「「……………………」」」」


ふむ、再び体感温度は絶対零度に達したか。

昨夜、いきなり格闘訓練につきあってといわれたときは驚いたが、彩峰が訓練校時代からどれだけ強くなったか見てもらいたいというからさらに驚いた。

そして、模擬戦を終わったときにでた言葉がその訓練の意味をわからせてくれた。


『私はどれだけ守れるぐらい強くなった?』


12.5事件が終わったとき、私は207分隊の前から姿を消した。

それを彼女は守れなかったから、強くなかったからと思ったに違いない。

強く強く強く強く、ひたすら強くなろう今日まで訓練をしてきたのだ。

そして再び現れた私、B分隊で接近戦が最も強かった私で己の強さを確認したかったのだ。

その結果は私の頬に一撃を与えたことが証明している。

だからこう言った。


『他人に聞かなければ解らぬほどの強さではあるまい』


……少々格好をつけすぎたかもしれんがいいだろう。

それはそうと目の前で凍りついた集団をどうすればいいだろうか?

横目で凍らせた本人をみる。

……彩峰よ、焼きそばではなくても食べるものは食べるのだな。

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鳴海 孝之サイド

使い慣れたブリーフィングルーム――と思うのは実際は6人のうち半分だけだ。

本日、午後の訓練はヴァルキリーズとの実機での模擬演習。

あの馬鹿水月が私のほうが強いとぬかしたもんだから、オレが反論すると遙が仲裁に入ろうとしたが逆にヒートアップ。

オレも男として譲れぬものがあるため、絶対にまけるわけには行かない勝負になってしまったのであった。


「んで孝之。具体的な作戦はあるのか?」

「……具体的も何もこうもあからさまに試されるとな」

「まあ、気持ちは解らないわけじゃないが、部下の目の前であんまりそういうこと言うなよ?」

「いや、決めていないわけじゃない」

「?ならいってもいいだろ?」

「作戦は単純明快、いつもどおりやれば勝てる。ただそれだけだ」

「…………………」


ん~やっぱり期待通りの反応。


「孝之、大尉に昇進して……速瀬たちにあって呆けたか?」

「失礼な。こちらの装備、陣形、敵の予想装備を総合的に考えれば、奇策なんかうたなくてもいい。特に第一部隊は完璧に腕がものをいうからな」

「そうだが……もう少し包んだ言い方をしてくださいよ、大尉殿」

「黙ってろ無能な副官」

「「…………」」


お互い牽制しあうようににらめつける。

部下の手前、取っ組み合いのような醜態をさらすわけにはいかない。

だがそんな心配は無駄だったようだ。


「……御城」

「なんだ?」

「何時の間に隊の空気がこんなに緩んでんだ?」

「……さあな」


…………無念。

だがその後聞こえてきた言葉に眉根を寄せる。


「…………それより12.5事件のとき、御剣少尉たちも参加してたのか?」

「そうだが……そういえばお前達もあの場にいたのであったな」

「…………」

「……復讐か?」

「…………」

「私はお前を信じてる、ただそれだけは覚えていろ」


……さあて厄介ごとがまた増えたようだ。

目配せで慎二に確認をとるとあいつも頷く。

こちらもまた部隊を試すことになりそうだ。

九羽少尉も問題ばかりおこす問題児だこと。


「んっ、ああ~話を戻すが聞いていたとおり装備はいつもどおりにしたいとおもうが……意見はあるか?」

「……鳴海隊長」

「何だ九羽少尉?」

「九羽、魅瀬、伊間の3人の少尉の装備を突撃前衛にして欲しいのです」

「……つまり我々3人に支援にまわれということか?」

「失礼ながらそうです」

「悪いがそれは却下する」

「……!!」

「だがその意見は参考にしてやろう。作戦を変更する。突撃前衛分隊、強襲前衛2機、強襲掃射、砲撃支援……ただし普通の36mmと支援突撃の両方を装備する、変則小隊を組む」

「!!」

「突撃前衛はオレと御城少尉。強襲前衛は平中尉に九羽少尉。強襲掃射は魅瀬少尉、砲撃支援を伊間少尉とする」

「まさか、鳴海隊長……」

「……本来ならあれは要塞級及び大量の要撃級に使うものだが、お前達には戦術機に対して使えるだけの技量と気力があるとみた。存分に腕を振るえ」

「「「隊長(大尉)……」」」

「ただし、少しでも精神的にだめになったら今後一切使用を禁ずる。むろん帝国軍に帰ってもだ」

「!!」

「まあ、帝国軍に入ったらそんな命令は無効だろうが、破るようだったらそこまでの奴ということだ……いいな?」

「「「……了解!!」」」

「それではこれより格納庫に向かうが……平中尉」

「はっ……全員隊規斉唱!!」

【弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け】

「声が小さい!!」

【弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け】

「気合が足りない!!もう一回!!」

【弱き心を鋼で覆い 生への渇望を刃とし それを振るって未来を開け】

「ようし!!ヴァルキリーズの奴らに吠え面かかせろ、全員、格納庫に向かって駆け足!」


敬礼した後に強化装備独特の足音を響かせながら通路へと飛び出してゆく。

まあ、精神的な面ではこれだけ釘を刺しとけばいいだろうと満足する。

……だがこれでだめだったら――。


「慎二」

「なんでしょう大尉?」

「堅苦しいのは今はなしだぞ熱血副官、機体に乗ってから御城に伝言頼む」

「……自分で伝えられないことか?」

「いや、ただこき使ってやろうと思ってな」

「…………」

「冗談だ……九羽のことは無視しろ、以上だ」

「……わかった。最終試験ということか?」

「今まではなんとか利――やっていけたがこれからはもっと過酷になる」

「わかったよ。彼女は腕が悪いわけじゃないが、いい意味でも悪い意味でも子供だからな」

「そういうことだ。適齢まで前線から下がって自分を見つめなおすのもいい機会だ」

「ああ、オレ達が――いや止めておこう。伝えるのはそれだけか?」

「もう一つ頼む」

「なんだ?」

「二股狙うのは止しておけ、女は恐いぞ。特に通信仕官はな、とな」

「……人のこと言えない立場だろうが」

「…………追伸、経験者は語る」



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/10/18 00:05
白銀 武サイド

演習場に響き渡る銃声。

それらはすべて非殺傷の模擬弾ではあるが、銃声だけ聞くと実弾なのかそうでないのかは判断がつかないだろう。

しかし、銃声というものは否が応でも緊張を強いるものだと。

オレに向かって正確に飛んでくる弾を華麗にかわしつつ、こちらも応戦する。

だが、あちらも華麗に回避し、また同じように銃撃をしてくる。

オレを相手しているのは03とペイントされたジュラーブリク、御城機だ。

お互い一歩も引かない拮抗した戦い、オレも状況が状況ではなければもっと楽しんでいただろう。

しかし、今はその余裕はなく、ただ焦るばかりである。


「クソ、いつまでも相手している暇はないっていうのによっ」


そう口にするが通信をしているわけではないので御城からの返事はない。

こちらの装備は強襲前衛、相手は突撃前衛だったがとうに追加装甲は破棄して、まったく同じ装備になっている。

それにお互い機動の癖をしっており、なかなか隙を見出せないでいる。

まさに膠着状態なんだが、すぐにこれを崩さなければならない事態なのはレーダーをみれば一目でわかる。

友軍を示すマーカーはオレを含めて5つ、対する敵を示すマーカーは6つ……。

そう、すでに1機……風間少尉が撃破されているのだ。

なぜ撃破されてしまったのか?

それを見たとき、オレたちは……特に冥夜が驚愕することとなったのだが、今はこの状況をどうにかすることが優先だ。

……クソ、また御城の野郎は勝負をかけてこなかった。

わざと隙を見せても乗ってこないとなると、やはりオレをここで釘付けするのが目的か。

ちらりとレーダーを確認する。

速瀬中尉に1機、冥夜たち3機には4機。

言っちゃ悪いがこの部隊でもっとも強いのはオレと速瀬中尉の2人だ。

その2人を押さえ込んで残りを同数で撃破する作戦で間違いないだろう。

それがうまく機能して風間少尉を撃破した。

……余程あっちの4人を信頼していたんだな。

じゃなきゃ鳴海大尉(速瀬中尉が言っていたから間違いない)自ら足止め役を引き受けるとは思えない。

……どちらにしろ冥夜たちがどのくらいもってくれるかどうかが問題だ。

待っていてくれよ皆。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その4


御剣 冥夜サイド

帝国斯衛軍。

この軍に所属する衛士たちの技量は一般の衛士たちの腕を遙かに上回る。

同じ機体、同じ数で戦おうものならまず彼らは負けない。

それに彼らは武御雷という世界でもトップクラス、あのラプターにも引けをとらない高性能機を駆る。

帝国斯衛軍一個小隊を相手にするのなら、最低でも二個小隊は必要である……状況にもよるが2倍の戦力が必要とされた。

だが、それでも十分とはいえない。

私はそれを知っている。

斯衛軍が斯衛軍である所以。

彼らは帝家所縁の者及び征威大将軍を守るのを任としており、必然的に戦場では護衛対象一人を優先的に守る。

だが守ろうにも個人の力では守りきれない。

それはどこの軍隊でも同じだろう。

だから連携を重要視し、それを磨いた。

そして帝国斯衛軍はその連携を一つの教本にまとめ、後世に伝えた。

護衛の任もそうだが、その技を習得するためにどうしても個人の技量も必要であり、精鋭部隊へとなっていった。

その技は普通の衛士には真似できず、やろうものなら技は技としてでず、死に直結した。

だが、習得は困難を極め斯衛軍内部でも一部のものしか習得できなかった。

その技を習得したものは今までの功績、品位とあわせて斯衛軍上層部……つまり城内省上層部が栄誉ある“白”を授けられる。

そしてさらに認められれば、上層部と将軍五摂家による会議、選定され最高の栄誉である“赤”を授けられ“白”を直轄の部下として戦場を駆ける。

……これだけの栄誉を与えられる技。

それが今、目の前で行われようとしていた。

――速瀬中尉に武、2人ともうまいこと引き離され、敵の本隊である小隊とぶつかり合うこととなり、接敵したのだ。

最初はほぼ互角。

敵の装備は一つの小隊だけで支援しあえるように変則的な装備となっていた。

だが、それだけでは我らを倒すには不十分。

なにかあると踏んでいたのだが……気づくのが遅すぎたのだ。

ほんの少し、時間にして数秒、風間少尉の足が止まった。

そのわずかな時間はカバーできる範囲であり、誰もがそれを疑わなかった。

しかし、それが驕りだったことを思い知らされたのだった。

足を止めたその瞬間、散開していた3機のジュラーブリクは一瞬にして奇妙な陣形……縦一直線になり、風間少尉の不知火へと突進する。

先頭は強襲前衛、強襲掃射、砲撃支援……三位一体、確実に敵をしとめる技……!!

そこではっと思い出す。

強襲前衛、強襲掃射、砲撃支援……これは月詠たちの部下である、神代、巴、戎が得意とする戦法のひとつであることを。

まずい、早く止めなけ――。

技の正体に気づき防ごうと支援しようとするが機体の鼻先に弾が掠めて防がれてしまう。

弾の飛んできた方向に目を向けるとそこにはもう一体のジュラーブリク……おそらく平中尉だ……がいた。

まさに教本どおりの陣形、3機が攻撃し、もう1機がそれを守る。

彩峰たちも防ごうと銃口を向けるがことごとく防がれる。

平中尉も伊達にエインヘリャル中隊の副隊長をしているわけではないということかっ。

そして風間少尉の驚愕の声が通信機から聞こえてきた。

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風間 祷子サイド

私に一直線に向かってやってくるジュラーブリク。

着地の隙をこうも利用されるなんて……読まれていたということ?

……どちらにしろこのタイミングでは逃げられない、36mmでは相手の突進力から牽制にはならない……ならッ!

背中にマウントされている長刀を装備する。

これで受けとめられなくとも受け流すことはできる。

今回は砲撃支援の装備で出撃してよかったと少しだけ安堵のした。

相手も私のっとった対応をわかっていたのか怯むことなくそのまま突撃してくる。

あちらも長刀を装備し、接近戦の構え……くるッ!!

袈裟懸けの一撃。

威力、太刀筋ともに申し分のない一撃が私を襲う。

受け止めたら吹き飛ばされ、致命的な隙を作り出しかねない。

相手の突進力を利用して受け流す!!

長刀を相手の太刀筋にあわせつつ微妙に操作し、後方へと威力を受け流した。

よしっ!このまま相手を後方に抜けさせ、距離をかせ――。

突然の銃声。

網膜に映るのはジュラーブリクの後ろから現れたもう1機のジュラーブリクと4つの銃口。

反射的に長刀の腹を盾代わりに機体を守る。

その判断が正解だった。

次々に装甲が削られ、機体各所にダメージが蓄積してゆくのが網膜に次々と表示されるていく。

その銃撃の嵐が後方に去って行ったころには長刀は折れた判定を下され、無用の長物と化していた。

が、そこで終わりではなかった。

さらに出現するジュラーブリク。

構えるものは36mm……ではなく120mm滑空砲。

それが火を噴いたとき、私の機体は沈黙した。

--------------------------------------------------

鳴海 孝之サイド

……1機撃墜か。

あの技をあの年で使いこなせるとは……末恐ろしい才能だ。

……だが、あいつらがどのような気持ちであの技を使ったのか?

今回はそれが重要だ。

目の前の戦闘もオレにとって重要なことだが、隊長としてあいつらを監督しなければならない。

水月が撃ってくる36mmを追加装甲で防ぎながら慎二へと通信を入れる。


「エインヘリャル1から2、エインヘリャル4が例の技を使ったな?」

「エインヘリャル2から1、そのとおりだ1機撃墜に成功。戦闘自体もこちらの有利だ」

「……精神状態は?」

「……表面上、怨恨で戦ってはいないようだ。よくわからないが復讐とは別の決意を感じる」

「……そうか……通信は以上だ」


……作戦は順調、このまま行けば勝利は確実だ。

!!とっ、あぶねえ。

さすが水月、わずかな隙も逃さないか。

そろそろ36mmでの撃ち合いも終わりに近いな。

残弾数を確認するとすでに残りは100を切っているのが見て取れる。

遅かれ早かれ勝負にでなければいけないか……目の前のあいつならこういうに決まっている。


「エインヘリャル1から全機、“ノニヒガハナタレタ”。繰り返す“ノニヒガハナタレタ”」

「「「「「――了解!!」」」」」

「……さて水月。今まで伊達に生き延びてきたわけでないことを見せてやる」


オレは追加装甲と36mmを投げ出した。

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速瀬 水月サイド

「に、二刀流?!」

孝之が追加装甲と36mmを投げ出したときには残弾数からして長刀による接近戦になることは予想がついた。

だが、まさか二刀流とは……。

……あの構えからして決して伊達でないことは確かだ。

模擬戦のタイムリミットもあまり余裕があるとはいえず、こちらが不利。

あちらはまだ余裕を持ってはいるが、こちらに勝ちに来ている。

今まで勝負を仕掛けてこないから指揮官やってるなと思ったけど……孝之も男なんだね。

いいわ。ここからが本番よ。

こちらもわずかではあるが弾が残っている36mmを投げ捨てると背中にマウントされている一刀を装備し、それを油断なく構える。

あちらも片手で一刀の重さを支え両手を広げるような形で構える。

……ジュラーブリクなのに妙に様になってるじゃないの。

レーダーをちらっと見ると他の機体も各々勝負を仕掛ける形となっている。

御剣たちは動きながらあのフォーメーションを破るために、白銀は好敵手を倒さんと長刀での勝負に持ち込んではいるが、

私達と違うのは動き回っているところだ。

このままだとタイムリミット待たずして勝負は決することになるだろう。

……少なくとも隊長である孝之を撃破すれば数が少なくてもまだ勝機はある。

私が負ければ勝機もなにもなくなる。

…………孝之、勝負よ!!

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御城 衛サイド

……長刀による近接戦か。

以前の勝負もそれで決着をつけようとしたんだっけな、白銀?

だが、今は違うな。

決して足を止めるような戦いをしているわけではないのだからな。

高速で移動し続ける不知火とジュラーブリク。

速度はこちらが上だが小回りはあちらのほうが上だ。

それと併せてあのアクロバットな機動……一筋縄ではいかぬな。

私も成長したつもりだったがあいつも同じくらい……いや、それ以上成長したようだ。

近接では私、射撃では白銀。

訓練校での評価はそうだったが今ではどうなのだろう。

……どちらにしろ勝負に負けてやることなど言語道断、たとえ腕が勝っていようが負けていようが最後に立っているものこそが勝者だ。

このままいけば負ける可能性が高い。

かといって勝負を仕掛けるにしても計算では負ける可能性のほうが断然高い……。

……私はいつからこんな計算だけで勝敗を決めていたのは?

決まっているこの能力に気がつかされたときからだ。

リスクの少ない安全な勝ち方だけをしていて何になる?

相手の動きだけにあわせて太刀筋を決めていたのは何だ?

……このようなことだからいざというときに何も救えないのだ。

名誉も妹も……自分自身さえも。

このような思考も無駄なことなのかもしれないが、安全な道が常に最善とは限らない。

私の計算能力は常に最善を導くものではない。

九羽たちを見ろ。

あいつらは戦っているじゃないか。

たかが模擬戦でも己の道を探すために戦っているではないか!

――私は白銀へと突進した。

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九羽 彩子サイド

目の前には梅を殺したであろう先任少尉たちがいる。

彼女達の前に出れば憎しみに囚われてしまうのではないかと危惧していたのだが、そんなことはなかった。

戦ってみてわかったんだ。

オレの梅への想いはこんなものかと悲しくなったがそうではなかったことがわかった。

単純にオレは恨んではいなかったんだって。

魅瀬にしたってそうだ。

あれだけオレに言っておきながら、あいつはいつもどおり戦っている。

決起の日を思い出す。

同胞を恨んで切るのではない。

私達は恨まれる側となることは明白だが、私達は死をもってしてでも正さねばならないものがある。

結局果たせなかった誓いの言葉。

だけど梅はオレ達を恨ませるために死んだのではないのだ。

だからオレ達は恨んではいない。

だからこそこの技を使える。


「……魅瀬、元気」

「「……わかってる(ま~す)」」

「平中尉、心配かけさせました」

「……何のことだ?」

「……いえ、もう一度あの技を仕掛けます。今度の標的は3機まとめて」

「……ああ、いいぜ」


帝国斯衛式、戦術機甲戦技、噴射気流殺……技名はどうかとおもうがオレ達が帝国斯衛軍に入るために訓練を続けた技、今このときに完成させる。


「――魅瀬!元気!3機まとめてやってやろうぜ!!」

「「――了解!!」」

「……オレもサポートさせてもらうからな」


平中尉の言葉に頷きつつオレ達は陣形を整え、3機の不知火へと向かっていった。

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御剣 冥夜サイド

数ではこちらが不利、それにあの技……。

こちらで破ることができるであろうか?


「……安心して」

「……彩峰か」

「私達は戦える。戦えるから対抗できる。まだ終わっていない」

「…………」

「……彩峰のいうとおりだな。私達はまだやれるは。あの技はたしかにすごいけど、やれることがあるはずよ」

「榊……」


あの技を破るにはどうすればいい?

普通にやって防ぎきることはほぼ不可能、風間少尉がすでにそれを証明している。

知っていてもあれを防ぎきる自身がない。

相手は三位一体……こちらはあれを真似するのはまだ無理だ。

それに平中尉がいるので事実上不可能だ。

……周りの戦況はどうなっているのだろうか?

レーダーとデータリンクから情報を集め、それを網膜へと投射させる。

武は順調か……速瀬中尉は鳴海大尉とか……これは!?


「彩峰、榊、作戦を思いついた、聞いてくれ――というわけだ」

「……確かにそれなら対抗できるかもしれないけど……あなたが無事でいる可能性は……それどころか一歩間違えれば全滅よ?」

「……でも、あの技を捌くにはそれしかない」

「そうだ。ここで立ち止まってはいけない。相手からなにやらただならぬ決意を感じさせる。こちらもそれ相応の決意で立ち向かわなければ勝ち目はないだろう。

 それに……私はそなた達を信じている。なればこそ、榊達も私を信じてくれ」

「……わかったわ。その案を採用する。……これを乗り切って白銀たちを援護してあげましょう」


その言葉を聞くと同時にコクピットに響き渡る警告音。

来たかッ!!


「皆、行くわよ!!」

「私の命、そなた達に預けるぞ!!」

「……来るッ!!」


模擬戦でありながら戦場に立ったような緊張感。

それが戦乙女たちと英霊たちの決意を表しているのではないだろうか?

そんなことが私の脳裏を掠め、消えていった。



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/10/23 19:00
イリーナ・ピアティフサイド

私はこの模擬戦を老いた後でも忘れられないだろう。

モニターに表示される三位一体連携技を放つ英霊達。

対するは3人の戦乙女。

その他にも二刀を操るジュラーブリクにそれを受けて立つ不知火。

高速機動での切りあいを演じる2機の戦術機……。

これだけの戦いを繰り広げられる部隊が世界にどれだけいるだろうか?

少なくとも五指に入るくらいしかいないに違いない。

A-01……戦乙女と英霊達で構成されたこの部隊を、私は最強だと断定する。

……そして、世界トップクラスの衛士たちは決着をつけようとその場を動き出した。

果たして勝利の女神は同じ女神である戦乙女たちに勝利を与えるのだろうか?

はたまた己の身を神に捧げし英霊達に与えるのか?

その決着はこのぶつかり合いで決することになった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第六章その5


九羽 彩子サイド

オレ達が今もてる最高の技である噴射気流殺。

それを真っ向から受けて立とうとするのは3機の不知火のはずだった。

こちらが3人で向かってくるなら相手も連携で勝負をかけてくるのが常套手段だろう……。

そうオレ達は平中尉を含めて誰もが疑わなかった。

目の前の不知火の行動を見るまでは……。


「何ッ!?」

「え~~~?」

「……ウソッ」

「……随分と思い切りのいい衛士だな」


目の前で行われたこと……それは1機をその場に残して2機が散開したのだ。

相手は何を考えているのか?

オレ達が3機まとめてやることを見抜き、かく乱するつもりか?

それとも包囲攻撃を仕掛けるための散開か?

後考え付くとしたら、1機は陽動でオレ達3機を真っ向から迎え撃ち、その隙に残りの2機で平中尉を叩くのを優先するしかない。

…………オレとしては3番目の行動をとるような気がする。

あの時にオレ達を撃破したやつらはそういったやつらのはずだと、オレの感が告げている。

……おもしれえじゃねえか。


「テメエら、散開したやつらは平中尉にまかして真正面のやつに技をかけるぞ!遅れるな!」

「「了解!!」」

「お姫さん達は安心して技を掛けられるように支援するから仕留めろよ?」

「あたぼうよ!」


こちらは正面の1機に絞るように隊形を調整し、平中尉は残り2機を牽制するべく36mmを操り手を出させないようにした。

以下に相手が優れた衛士だろうと所詮は1機、時間稼ぎはできてもこちらを倒すことは不可能。

仮に平中尉とこちらが1機やられたとしても状況はこちらが1機多いのにはかわりはない。

鳴海隊長や御城のやつがやられることはないだろう。

そういう作戦を立てたのは鳴海隊長なんだからな。

あの人が立てる作戦は無理がなかったし、できないことをさせるような人ではない。

少なくともオレはそう思っている。

しかしどうやってかしらないが、あの不知火……噴射気流殺を破るつもりのようだ。

さっき迎え撃とうとしていることはわかっていたが、どうやらその比ではないらしい。

完璧にオレ達を……3機まとめて倒すつもりだ。

己の全身全霊、防御の姿勢ではなく、攻撃を持って地に伏せさせよう、そんな感情がひしひしと伝わってきた。

……ぶつかり合うわずか数秒間にこんなことを感じるなんてな……。

――ッ!動いたか!

距離100、ぶつかり合うまでほんの2、3秒。

不知火の両手には二振りの長刀が装備されていた。

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御剣 冥夜サイド

二振りの刀。

対BETA戦技において二刀流は不要のものとされている。

壱に二刀を装備するメリットよりもデメリットが大きいこと。

片手でも十分に撃破できるだけの力は戦術機には備わってはいるが、両肩両腕にかかる負荷が大きく、

一度に切りつける標的が多くても機体が持たないというのが理由だ。

弐に片手で長刀を振れるならもう片方は銃火器を持ったほうが良いということ。

言わずと知れたことであり、接近戦をしかけるながらも、銃火器を片手で装備していれば距離の離れた相手も相手ができるし、装備の切り替えも無用。

参にはまだ軍に入る前に月詠が聞いたことだが、二刀流自体がとても高度な技術を必要とするからだ。

そういう月詠はやろうと思えばできるらしいが、壱と弐の理由でそれをせずにいる……が、使いこなせるまでに相当の月日が必要だったようだ。

刀に振り回されずに機体を操る技術、基礎能力の向上が最も重要なのだという。

だから二刀を操ろうとするならば操縦技術を学ぶ必要があるし、それほどの技術を身につけたのなら二刀を自体を使う必要がないそうだ。

……だが私はその必要のないことをやろうとしている。

しかし、私は二刀流を今必要としているのだ。

一刀だけでも捌ききる自身があるが、捌くだけではだめなのだ。

防ぐだけでは相手を倒せない。

無論、榊たちを信頼していないわけではない。

防ぎきれば平中尉であろうあの機体を倒して3対3でやることもできるだろう。

しかし、私は挑んでみたかったのだ。

月詠や神代たちエースが扱うトップクラスの技を破ってみたい。

軍人としてはいけないことなのかもしれないが、己に嘘はつけない。

私はそのために二刀流という攻撃力を欲したのだ。

鳴海大尉が速瀬中尉にしたように負けぬために、勝つために2つの刃を手に取った。

全身全霊。

たかが模擬戦、されど模擬戦。

目の前に高速で迫るジュラーブリク。

迫る相手に対してこちらはしっかりと地を踏みしめた。

突撃してくる相手に対し下手な速度でぶつかっていけば捌くどころか体当たりされ吹き飛ばされてしまう。

ならば構えをしっかりとり反撃できるように構えておくのが上策。

……第一の攻撃、長刀による切り込み。

相手を吹き飛ばすのではないかという速度を保ったままの単純ながらも勢いに乗った一撃だ。

この速度での一撃をかわすのは難しいだろうが、かわすのではなく捌くことが今は重要。

これを防ぎ1機目を撃破しようとすると2機目に蜂の巣にされてしまう。

重々しい一撃を風間少尉がしたように右腕の刀で後方にいなした。

2機目の強襲掃射の4つの銃口が機体とともに1機目の影から姿を表す。

それに向かってあらかじめ決めていた段取りどおりに左での一撃を送り込む……が急遽その動きが止まった。

いや、止められたのだ。

私の目に映るのは左腕のあたりで跳ね返っている36mmチェーンガン本体だった。

原因がわからないが初動をはじめた左腕にチェーガンをぶつけられたことで、長刀を落とさないまでも振るえなかったのだ。

そこに迫る2機目、4つ銃口は確実にこちらを撃破するようにポイントされている。

風間少尉やったように右腕の長刀を盾にすれば防げるかもしれないが、引き戻すのに時間がかかりすぎる。

かといって左も同じ……だけど。


「負けてたまるものかぁーーーー!」


そう叫びながら不知火に最大出力の噴射跳躍を指示、前方へと急加速する。

シートに押し付けなられ強化装備を着ていても苦しいGに耐えながらも前進する。

だが4つの銃口はほんの少しだけ狙いをはずしただけだ。

瞬時にポイントしなおすと容赦なく弾幕を張ってくる。

不知火の厚いとは言いがたい装甲が次々と悲鳴をあげてゆくが、私は懐へと飛び込むことに成功した。

この距離では銃は撃てない。

だがこちらも長刀は振るえない……が私は躊躇うことなく“柄”をジュラーブリクのコクピットに叩き込む。

もちろん安全装置が働いて実際には叩き込まなかったが敵機撃破の判定は取れただろう。

しかし、そんなことを気にしている暇はない。

懐に飛び込んだおかげでこちらは3機目が見えなくなってしまったのだ。

こちらが吹き飛ばされなかったのは相手がぶつかるのを躊躇してブレーキーをかけ、双方受け止めるような形になったからだ。

私はそのおかげで前方に死角をつくってしまった。

前方が見えずどう対処したら言いかわか……


「御剣!上空よ!」


メインカメラを向けることなく、間接の負荷を無視して左右の長刀を腹の前辺りから上方に交差させるように振りぬく。

それと同時に響き渡る重低音。

上空でしれ違った不知火とジュラーブリクが着地した。

そしてコクピットに響き渡ったのはピアティフ中尉の冷静な声だった。


「平機小破、戦闘続行可能。魅瀬機、コクピットに致命的な損傷、大破。伊間機、左脚部切断、中破なれど戦闘続行不可能……」


その声に安堵の溜め息をつく。

榊たちはうまく平中尉を引き付けてくれたようだ。

榊たちが平中尉を引き付けたうえであの助言がなかったら私は撃墜されていただろう。

だが、平中尉もすごい。

2機相手にして、連携技を防がせないようにしながら戦ったのだから素直に賞賛されるべきことだろう。

……本当に私が撃墜されていないのが不思議な――。


「……御剣機、頭部大破、胴部中破、機関部、コクピットは無事なれど戦闘続行不可能、大破」


……撃墜されてしまったか。

…………ふふふ、いい勝負であった。

負けはしたがこれは幸い模擬戦だ。

また手合わせをするようなことがあれば次こそは勝ってみせる。

……武、そなたの隣に立つのにはそれだけの強さが必要であろう?

少なくとも私はそう思うから強くなろう決めたのだ。

……そう心技体、すべてが強いそなたのようにな。

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御城 衛サイド

「またしても決着つかず……か。まことに残念だ」

演習終了の合図がおこり第1部隊との模擬戦は無事終了した。

したのだが、白銀との決着はつかずに計算どおり負けることもなかった。

それはそれでいいのだが、白黒つけるつもりで戦ったのに結局引き分けで終了したのは遺憾以外の何もない。

今一歩踏み込めなかったということか。

……模擬戦自体もこちらは2機撃墜したが、こちらも魅瀬と伊間が撃墜されたので引き分け。

鳴海大尉も速瀬中尉と引き分けで一悶着ありそうだ。

まあ、次の第2部隊との模擬戦をどうにかすれば多少気晴らしにはなるだろうが、そんなに簡単ではないだろうな。

仕方ない今後の相談も兼ねて鳴海大尉に通信をいれるか。

そして鳴海大尉に通信を入れたのだが……出てはくれた。

というか混乱しているようでつながったっといったほうがいいだろう。

今私の耳には溜め息をつきたくなるような会話が繰り広げられていた。

部下である私達が頭を抱えるような内容だ。


「孝之、あんた馬鹿じゃないのッ!?」

「誰が馬鹿だ!」

「あそこで決着つけようとするなんて同じ部下を率いる立場としては賛同しかねるわ」

「あそこで仕掛けないでどこで仕掛けるんだよ!?あれを逃したら次は終了までなかったんだぞ?」

「1機もやられないようにすればそれでも勝てるじゃない」

「そんな消極的にやってて勝てるか!本当は自分がやりたかったんだろうが?」

「!!そうりゃあ攻めるのは突撃前衛の仕事だから……ね?でも、それとこれとは関係ないわよ!」

「おもいっきり八つ当たりじゃねえか!それに一応オレのほうが上官なんだぞ!?」

「そこで上官風吹かせるわけ!?……はいはい、わかりましたよ鳴海た・い・い・ど・の」

「!!ぐぬぬ……わかればよろしい速瀬中尉」

「むっ、なによ」

「なんだよ?」

「あわわわ、水月も孝之君も喧嘩しないでよ~」


耳に入ってくる痴話喧嘩に無意識に眉間を揉んでしまう。

……他の隊員も聞いているようでモニターが開いているのだが喧嘩に夢中の2人は気がついていないようだ。

鳴海大尉、昔に戻れとはいいませんが、もう少し自重してください。

騒がしい2人の声と押し殺した笑い声が聞こえる通信を切って今度は九羽に繋げる。

少女は数秒たった後に通信に出てきた。


「なんだ?」

「……負けたようだな」

「そうだな。たった1機に魅瀬と元気がやられちまったんだから完敗だ」

「……相手も自分が完敗だと思ってるよ」

「はあ~、なんでだよ?」

「撃墜されたら負け、そう思うのが衛士だろ?」

「……そうかもな。数の問題じゃないつうわけだ」

「それに――」

「それに?」


将軍家にこの程度で己を自賛するような人はいない。

だが、九羽の前ではそうはいえない。


「――それに感謝しているのだろうな」

「……はっ?」

「……それよりわだかまり方はどうなったんだ?」

「なんのことだ?」

「……さあな。今度大尉にでも聞いてみろ」

「隊長が答えてくれるわけねえだろ」

「そうだな」

「あっさり肯定かよ!」

「ははは、午後の模擬戦は勝たなくてわな。じゃなければとばっちりをくらいそうだ」

「……それはオレも肯定するよ」


さてと……今度は賭け事でも持ち出されなければいいのだが、結局は勝たなくちゃならないだろうな。

……そういえば大尉の昇進祝いが夜にあるはずだが、そこまで飛び火しないだろうか?

そんなどうでもいいことを後に通信してきた白銀とともに真剣に悩むのであった。



[1128] Re:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/05 02:43
第3者視点

「――以上よ。鳴海にはもうすでに説明してあるから彼には説明しなくていいから」

「――了解です。しかし、よろしいのですか?」

「なにが?」

「……彼女の配属に関してですよ」

「ん~本人から志願してくれたし、たしかに彼女は有能だけど……あなたとしてはどうおもってるわけ?」

「彼女が部隊に配属されることはかまいませんが、副司令の補佐はどうするのですか?」

「そのことなら特に問題なしよ。部隊配属たって一時的なものであってはずすわけではないから。それに今回の作戦上仕方ないことよ。

 それよりもあの2人のほうのことを頼むわよ?」

「わかりました」

「彼女達はブリーフィングルームで待機しているから。私もすぐに追いつくから先にいってて」

軽い調子で香月夕呼は伊隅みちるを送り出すのであった。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その1


白銀 武サイド

鳴海大尉の昇進祝い……と証したヴァルキリーズとエインヘリャルの親睦会。

今オレはPXにいて、酒を片手に……といってもアルコール度数は0.5%の入ってないも同然の飲み物を持ち、

雑談にふけっているわけだ。

その雑談の相手というと――。


「白銀少尉~聞いてんのか~~?」

「……九羽少尉、君は年いくつだったかな?」

「女性に年を聞くなんてよ~なんて無礼なんだおみゃえは~?」


――以外も以外、英霊中隊の九羽少尉という少女と雑談している……というか絡まれている。

当初は御城と話していたんだが、九羽少尉がきてしばらくすると後は頼むといって宗像中尉たちのところにいってしまった。

そのときはただの挨拶回りに行ったのかと思っていたのだが……これを知っていたから逃げたんだ。

今度あったら覚えてろ。

でもこんな水みたいな酒でこれだけ酔えるのだから相当弱いんだろうな。

ある意味幸せなタイプだ。


「御城の野郎のことをよ~御剣少尉に聞いたんだ。……そういえばあの勝負はよかったな~。

 オレ達のあの技と対等にやりあえるやつなんていね~し……あとよ~お前珍妙な機動するじゃねえか?今度教えてくれ~」

「……いっぺんに色んなことをいうなよな。御城のことはどうしたんだよ?」


あえて突っ込んでやるやさしいオレにすこしだけ涙が出てしまう。

酒癖悪い人のお守りはオレの宿命なんだろうか?


「ああ~そうだ。それでよ~ええと御剣少尉に聞いたんだだよ。あいつはどんな女性が好みかってな」

「……で、どうだったんだ?」


この前ロリコン扱いされていたが本当に手篭――いや、好かれていたとはちょっとだけ驚く。

クールなお兄さんタイプはこの年頃の少女に直球ど真ん中だったのだろう。

……まああいつがふざけたところを見せたのは数えるくらいしかないのだからクールの評価は基本的にはあってるんだろうな。

でも冥夜となるとその手の話をするのはちょっと無理があると思う。

冥夜はその辺……というか恋愛関係全般に疎いからまともに答えることができるのどうか怪しい。

その辺のことも気になり酔っ払い少女の話に耳を傾けた。


「あいつの好みの女性は……」

「好みの女性は?」

「女性は……」

「女性は?」

「いつも傍にいて支えてくれる人なんだとよう~~~」


にへ~と笑いながら顔を両手で挟みもじもじとしている。

……ん~冥夜はそうおもうんだな。

オレはあいつの好みはわからないがたしかにいっていることは間違いではなさそうだ。

見ていてあいつは危なっかしいから隣に誰かいないと倒れそうだもんな。

と1人納得する。

身悶えしている九羽少尉を尻目に周りを見渡す。

速瀬中尉は相変わらず涼宮中尉と一緒に今回の主役である鳴海大尉と雑談をしている。

宗像中尉と風間少尉は御城と平中尉と話している。

うまく話が弾んでいるようだ。

冥夜たちは魅瀬と伊間の2人の少尉と話している……というか伊間少尉がタマと美琴胸をそらして張り合っていて、

魅瀬少尉にいたっては彩峰と一緒になって不思議オーラを撒き散らしている。

不思議オーラと胸の話題になんとなく居心地が悪いのか冥夜は困った顔をして腕を組んだままその場にいた。

こちらの視線に気がついたのかそそくさとその場から離れてこちらに近づいてきて、顔を強張らせた。

まあ、視線の先に居る奇妙な生き物をみれば正しい反応だと思う。


「……一体あれはなんなのだ?」

「恋多き年頃ということにしておけ」

「?……にしても少々酔いすぎのようだな」

「こんな年で酒を飲むなんて……まあ無礼講だからいいか」

「いや、良くないであろう」

「ナイス突っ込み」

「……それはともかく伊隅大尉を知らないか?」

「大尉?」

「ああ先程まで速瀬中尉たちと話していたのだが……いつの間にか居なくなってな」


そういわれてみてあらためて見回してみると確かに大尉の姿が見えないことに気がつく。

そういえばさっきも姿が見えなかったが冥夜がこっちにきたので気にしなかったのだ。


「伊隅大尉に何かようなのか?」

「いや、用というわけではないんだが、昼の一戦についての感想を聞こうと思ってな」

「ああそうか、オレ達の時とはまた違った戦術を行使してたからな。オレも大尉の評価を聞きたいな。

 やっぱ夕呼先生のところじゃないか?」

「香月副司令のところか?……そうかもしれぬ。副司令は大尉のことを随分信頼しているみたいだからな。

 涼宮中尉から聞いた話だが、佐渡島の時に伊隅のことで内心あせっていたというのだ」

「あの先生が?」

「副司令にとって、大尉はそれだけ信頼できる部下なのであろう。私も大尉のような軍人になってみたいものだ」

「そうだな。で、もう1人の大尉についてはどう思う?」

「ん?鳴海大尉のことか?……ん~難しいところだ。戦術機の操縦技術は速瀬中尉と同等かそれ以上、

 作戦立案に関しては伊隅大尉と比べるとやや劣る感があるが、A-01の1部隊を率いるには申し分ない。

 だが、あの姿を見るとどうしても不安でな」

「冥夜もそう思うか」


と口では言うがなんとなく親近感が沸いてくるのはなんでだろうか?


「ならその指揮の元で戦った戦友に聞いてみるか?」

「それはいいな……御城!」


一瞬まだ身悶えしている物体に眼を向けたが何事もなかったように御城を呼ぶ冥夜。

……昼間の戦闘での気迫はどこにいったのやら。

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伊隅 みちるサイド

時刻はまだ深夜には程と遠く、かといって夕刻でもない時間。

通路はいつもなら静寂が支配する時間帯だが、それを破るように5種類の靴音が響いている。

ひとつは私のであり、もうひとつは前を行く香月副司令、残る3つはというと……。

後方から聞こえてくるその足音の主たちを首を少しだけ向けて覗き見る。

そこには国連軍の制服を着た3人の女性がいる。

1人は赤い髪を黄色のリボンで一つにまとめた少し幼さが残る女性は脅えたように縮こまりながらついてくる。

もう1人は金髪で透き通るような白い肌をしている異国の女性。

こちらは当たり前のように堂々と後ろを歩いている。

そして最後に背が最も小さく、年も最年少である女性……というよりも少女といったほうがいいだろう。

最後尾にいるその少女はまっすぐこちらを見据え、黙って歩いている。

こうしてみると赤毛の女性……たしか鑑 純夏がもっとも軍人らしくない。

それはうちの新人達と同じくらいの訓練期間しか受けていないし、彼女の正体を考えれば当たり前なのかもしれい。

00ユニットタイプK。

それが彼女の正体だ。

平たく言ってしまえば超絶的な処理速度を誇るグレイ系物質でできた電脳兵器。

精神的に不安定なのは電脳に生身の人の人格を移植したときにおこる人間ではなくなる恐怖からだとか。

そのために精神的な支柱、セーフティーとして……恋人を白銀をつけているのも納得してしまった。

不憫だとは思うが――考えるのはやめだ。

考えたりしても泥沼にはまってその迷いが任務に……部下達の死につながってしまうかもしれないのだ。

……白銀。

お前だけでも守ってやってくれ。

だがそれ以上に私は最後尾をあるく少女のことについて部下達がどんな反応をするのか心配している。

鑑と同じ00ユニットであり予備として扱われているタイプMと呼ばれる少女、御城 柳についてだ。

あの事件で日本国内、果てには全世界にまで知られることになった12.5事件におけるクーデター勢力首謀者沙霧 尚哉大尉に次ぐ地位に居た人物。

それが彼女だ。

彼女の経歴を知らされるとともに第0中隊のデータを見せてもらったが、それを見たとき思わず顔を顰めてしまった。

あの少女3人組は元クーデター勢力の衛士であり、御城 柳の部下だった。

さらにそれで同期だという。

そこはいいとして今度は予想していたが御城 衛が兄であることがわかった。

妹が00ユニットになったことは既に承知しているそうだが、御城 柳の精神的な支柱はその御城少尉ということがわかった。

……さらに副司令の話によればこの場にいる理由は日本政府との取引だという。

たしかに世間的には死んだことになっているし、そのままに生きていても幹部級は処刑しなければならない。

だが年もいかない少女を処刑するのは世論が騒ぐし、適齢に達していないのに訓練を受けさせていたなど非難が殺到するだろう。

処刑に関しては公表しなければ何とでもなるが、それを良しとしない人たちが予想外に多かった。

そこで妥協案としてオルタネイティブ計画への編入という運びになった。

非人道的ではあるが人類への貢献ともなれば本人も納得するし、最高機密のおかげで外に漏れる心配もない。

それに一見しただけでは常人となんら変わりがないし、いざとなれば顔のパーツだけ取り替えてしまえばその人だとばれることもない。

これから一生兵器として生きることになるだろう。

今更私が騒いでも仕方ないし、唯一の肉親が了承済み。

……記録に残っているように目の前で戦った白銀を除く、元207小隊の新人達はどういった反応を示すのだろうか?

それに金髪のこの通信仕官兼秘書官は今になってなぜA-01に志願したのだろうか?

……あとで親しくしていた涼宮にでも聞いてみるとするか。

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御城 衛サイド

現場で働く人間は常に上で指揮を執る人間を評価したがる。

時には悪く、時には良く、またあるときはどちらともつかない評価を仲間内でつける。

そして今もそれが行われているわけだ。

我らがエインヘリャル中隊、隊長である鳴海 孝之大尉について。


「――ええとお前からすると真面目になればあんなふうに痴話喧嘩もなくなるというわけだよな御城?」

「今は再会に浮かれているが後1週間もすれば、元に戻るだろうな」

「確かにそなたがここまで生きていられたのも要因として鳴海大尉の指揮があったのも確かだろうしな。

 能力はあるが……性格となるとあれを見ていては……な?」

「否定はできないが実戦あれをやるような莫迦者がA-01にいるわけなかろう?今日の模擬戦でそれを感じてくれたのだと思うが……」

「まあな」


やはりここまで莫迦やっている大尉は初めて見るが……自分も大尉を疑ってしまうな。

しかし、それはいいとしてさっきから白銀の後ろでもぞもぞしている九羽はなんなのだ?

私の視線に冥夜様が気がついたのか頬が心なしかひくついている。

まあ、確かに奇妙な物体Xのような不可思議な行動だが……酒を飲んだからああなったであろうことは想像がつく。

だから戦線離脱したのだが……結局私が面倒をみることになるのか。

まったくこの年から酒の味を覚えるとはけしからん。

私は溜め息をつきながらも九羽という物体に近づき首根っこを掴んでこっちを向かせた。


「うみゃ?」

「何がうみゃ、だ。お前は酒癖が悪いんだから飲むな」

「おおう御城じゃ~ねえか~。やっとオレの魅力に気がついてきてくれたのか~?」

「阿呆なこといってないでさっさっと水飲んで夜風に当たって来い。仮にも軍人たるものが出撃できないほど酔ってどうするのだ」

「遠慮するな彩峰少尉には勝てないけどオレのも中々大きいんだぞ~」

「……白銀」

「な、なんだ?」

「悪いが京塚曹長を呼んできてくれ」

「どうしてだ?」

「こういった場合説教なれした曹長のほうがこいつには薬になりそうだからな」

「……わかった」

「なんかうまいものでも運んでくるにょか?」


なんか九羽がまた何かいっているがこの際無視する。

ものの数分でPXのお袋さんこと、京塚曹長が現れ九羽を脇に抱えると厨房の中へと消えていった。

そしてそこからは何かを叩く軽快な音と泣き声が少しだけ聞こたような気がするが聞こえなかったことにする。

私達3人の間に何か気まずい沈黙が流れる。

結局酔いがさめた九羽が戻ってくるまで沈黙が私達を支配していたのだった。

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御剣 冥夜サイド

「ん、あれは副司令ではないか?」

酔いの覚めた九羽少尉と今日の模擬戦でのお互いの反省点を話しているときに御城が入り口付近を見てポツリともらした。

私は入り口に背を向けていたので振り返ってみると確かにそこには香月副司令がそこにおり、伊隅大尉と鳴海大尉と話しているのが見える。

さらにその後ろにはピアティフ中尉と2人の人影が見える。

だが顔までは隠れていて見えないが見慣れない人物であることは確かだ。

話している鳴海大尉の顔をみるといつになく真剣になっており、先程までおちゃらけていた人物とは思えなかった。

彼は話を聞き終わったのか軽く敬礼すると伊隅大尉に何か話しかけた。

それに頷き大尉はこちらに向き直ると注目するように号令をかけた。


「全員注目!これより副司令から重大な発表がある。心して聞くように」

「そんなに堅苦しくしないでいいわよ。すぐに終わるから」


重大な発表?

……作戦の発表は自体は既に済んでいるから別の何かとしか検討がつかない。

だが武と御城はそれがなにかを知っているのかの如く、ありありと顔に浮かんでいた。

それはそうと副司令の言葉は続きその言葉を聞き前に出てきた人物に対して皆の表情が驚愕一色になった。


「A-01への補充要員を紹介するわ……あなたたち前に出なさい」

「――!?(全員)」


見知らぬ鮮やかな赤色の髪をした同い年くらいの女性その隣にはピアティフ中尉がいる。

ピアティフ中尉に関してはいまさら驚くことではないが、副司令の秘書官もかねている彼女が入隊するのは以外ではあった。

まあ、涼宮中尉が話していた限りでは通信仕官としても優秀、CPとしてもそれなりに才能があると聞くからおそらくエインヘリャル中隊に配属されるのだろう。

赤毛の人は良くはわからないが紹介されるだろう……が本当に説明をして欲しいのは隣に立つ少女のことだ。

皆も同じ気持ちなのか視線がその少女に突き刺さっている。


「――鑑 純夏少尉です。只今を持って第9中隊に着任します」


――ドクン……!?

なんだ……?いきなり気にもしなかった赤毛の……鑑少尉のことが気になって……胸が苦しい……武?

無性に武のことが気になり自然と目を武の方へと他人に悟らせぬように変えてゆく。

そこには真剣な顔で鑑少尉を見ている武が目には入ってきた。

――胸が痛い、苦しい、そなたのそんな顔を……目を私に見せないでくれ……。

その苦しみに耐えられず視線を無理やりそらした。

そうでもしなかったらこちらの気が気でなくなってしまいそうだったからだ。


「白銀があたしの特殊任務に従事している事はみんな知っていると思うけど、この娘もその一員なの。

 白銀同様、今後もあたしの任務と兼任だからちょくちょくいなくなるけど気にしないで

 ――っ言われても気になってしょうがないだろうから、教えるけど、鑑はねXG-70の衛士として育成されていたのよ――」


後の説明によれば、鑑 純夏と名乗る娘は改良された有人型に乗るために育成されて今回正式に配属されたのは連携をとるためらしい。

だが彼女は大病を患っており体調が安定しないことがあるという。

そして社も今度から一緒に行動する機会が多いから面倒をみてくれということだった。

……プロフィールは自体はなんら問題ないが、やはり武との関係が気になってしまう。

たしか本にはこういう気持ちのことを“嫉妬”と呼ぶといっていたな。

…………。


「イリーナ・ピアティフ中尉です。ハイヴ同時進攻作戦につきまして第0中隊に一時配属されます」

「彼女には0中隊のCPをやってもらうことになるわ。鳴海の隊は今までその枠がなかったから今度の作戦からつけるって話になったわけよ。

 わかってるとは思うけど、ピアティフは実力は折り紙つきだから心配しなくてもいいわよ」


今度はピアティフ中尉の紹介が終わった。

やはりその通信仕官の能力を買われてCPのいないエインヘリャル中隊に配属となった。

心なしか嬉しそうなのは気のせいだろうか?

それと歯をむき出しそうな勢いで九羽がにらみつけているのはなぜだろう?

……まあそれはいい。

鑑のことを除けばこの場でもっとも重要な人物の番が回ってきた。

もしかしたら瓜二つの赤の他人ということもあるだろうが、兄である御城の顔を見ればその可能性をゼロと語っていることがわかる。


「最後の子だけど、最初に言っとくわ。あんたたちが想像したとおりの人物だってね……自己紹介しなさい」


最後に残された少女は頷くと、銃口を突きつけられたような圧迫感をあたえてくる眼をこちらに向け、ゆっくりと口を開いた。


「――柳少尉です。只今を持ってA-01第0中隊へと着任しました。以後お見知りおきを」



[1128] Re[2]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/08 16:49
御城 衛サイド

ん――起床ラッパか……。

私は鼓膜をうつ音でいつもどおりに目を覚まし、体を起こす。

そして、洗面所に向かい蛇口から流れる水を使って猫のように丁寧に顔を洗ってゆく。

水は冬のせいか冷たくひんやりしていて寝ぼけ眼を覚まさせるのには十分だった。

水を止めるために蛇口を閉め、掛けてあったタオルで顔を拭い、水滴を残らず拭き取るとタオルから顔を上げる。

そして目の前に見えるのは鏡に映った自分の顔だ。

見慣れた顔に今更感慨が浮かんでくるわけではないが、昨夜のことを思い出させるには十分なものだった。

……あれでいいんだ。

昨夜自分がしたことを頭の中でもう一度繰り返し、自分を納得させる。

私の立場から……御城家当主としての立場からではあれしか言うことができなかった。

あの場では兄として立ってはやれないし、温情を与えるわけにはいかなかった。

しかし、柳ははそれを望まず、当主としての私を望んだのだ。

公正に外道に落ちたことを裁かれ、その生命が尽きるまで罪と罰を背負い戦いたい。

それが柳の心の中で渦巻いているのが、あの目から汲み取れた。

……点呼に行くか。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その1


白銀 武サイド

「ん~やっぱり納得いかねえな」


朝食を食いながら思わず呟いてしまう。

昨日の出来事が頭に中で堂々巡りしていて、起きてからも考えていてそれが口から出てしまったのだ。


「……タケル、何が納得いかないのだ?」


冥夜がオレの呟きを聞いていたのか、何に納得しかねるのか尋ねてきた。


「ん、柳ちゃんのことだよ。あの処遇はちょっと納得いかねえんだ」

「……昨晩も言ったと思うが、あれは他人が口を挟んでいい問題ではない。そなたならわかるであろう?」

「まあ……な」

「良かれ悪かれ古い家には掟の類は一つや二つぐらいならあるものだ。それを破ってしまったのなら御城も当主として裁かなければならないからな」

「だからと言ってよ。この世で最後の肉親同士だぜ?それが絶縁するってえのは……悲しすぎるだろ?」

「…………」


そう、昨日起きたできごとは純夏だちの紹介だけでは止まらなかったんだ。

御城の妹、柳が自己紹介を終えたときにそれは起きた。

柳ちゃんは夕呼先生が通路へと消え、皆が緊張しながらも挨拶をしようと近づこうとしたのだが、

柳ちゃんはそれを手で制止して御城の前へと進み出ると膝を折り、跪いたのだ。

皆その行動に戸惑っていて、純夏だけは何かわかったようにポロポロと涙を流し始め、オレは余計混乱することになった。

それを他所に、御城は真剣な顔かつ悲しそうな目でそれを見下ろしていた。

口元は開こうか開かないか迷っているように細かく動かしていて、言いたくないことを言うということがわかった。

しかし、そうしていたのもほんの数秒、挨拶もそこそこにいきなり本題へと入っていたのだ。


「御城の姓を名乗るのは今後禁止、兄弟関係もなしの赤の他人。今後はただの同僚扱い」

「……事実上の絶縁宣言だね」


委員長と彩峰が今言ったことが全てといっていい。

それから柳ちゃんは了承し、ただの柳少尉になったんだ。


「……美琴、御城はたしかエインヘリャル中隊の仲間と食べてるんだっけか?」

「そうだけど……まさか今のこと話しに行くの!?」

「やめたほうがいいですよ」


たまと美琴が止めに入るがオレもそんなつもりはない。

ただ昨日から俯いたまま、元気のない純夏が気になって……00ユニット同士なにか繋がりがあるんじゃないかと馬鹿な推測を立ててしまっている。

純夏特有の無邪気さも影が落ち、ただ悲しそうに会話することしかしていない。

それに柳ちゃんの件……。

リーディング覗いた記憶が影響して柳ちゃんの気持ちを自分受けているみたいになっているんじゃないか?

自分で嫌な人間だと思うけど、純夏が元気になるにはあの2人の関係をどうにかしなきゃいけないと思うんだ。

でも、冥夜は口を出すことには否定的だし、エインヘリャル隊はわからないが伊隅大尉も特に問題ないと見ている。

大尉も00ユニットのことは聞いたといっていたが、そのことも含めての判断なんだろうか?

……ああ~一人で考えてちゃいけないとはわかっていても溜め込んじゃうんだよな、オレ。

悪い癖とはいえなおせ――そうだッ!!

御城兄妹に直接聞けないなら彼女に頼めばいいんだ!


「どうしたのだタケル?」

「悪ぃ、オレ用事思い出した。訓練までには戻るから大尉によろしく!」

「ちょ、ちょっと待てタケル!」


制止の言葉がかかるがそれを無視して走ってPXから出て行く。

床を蹴る音がテンポ良く心に躍動感を与える。

何で昨日のうちに思いつかなかったのだろうか?

御城兄妹の関わっていた機密事項をも知っていてエインヘリャル隊に入隊した彼女がいることに!





「そうか、少尉の言い分はわかった……」

「わかっていただけましたかピアティフ中尉!」


オレは今中央作戦司令室にいる。

なぜかというと昨日エインヘリャル中隊に入隊したピアティフ中尉に会うために他ならない。

ここが先生の部屋よりセキリティーレベルが低くて助かった~。

これで中尉がこの件を引き受けてくれれば、それなりに対策が……。

だが次の一言で早くも計画は頓挫することになった。


「だが断る」

「……はいっ?」

「どうした?聞こえなかったのか?ならもう一度言おう、断る」

「な、なぜですか?」


何が全体どうして!?

あなたならこの話を受けてくれると踏んでいたのに!?

マ、マジですか……。


「理由は簡単だ。我々が何をやったって逆に話がこんがらがるだけだ。それにその件なら両隊の隊長の意見は不干渉で一致した」

「しかし、0――鑑少尉たちの精神面に大きく関わると思うのですが……」

「それもおりこみ済みだ。副司令も人間らしくっていいじゃないとご機嫌だったぞ?」


たしかに人間らしいといえばそうだけど……大丈夫か?


「作戦が近いのにそんな悠長なこと言っていていいんですか?」

「御城少尉と柳少尉に関しては問題ない。若干御城少尉が不安定になっているが……自分で何とかするだろう。

 柳少尉に関してはデータを見ても問題なし。むしろ逆に良くなってるそうだ。

 ……しかし、これは鑑少尉に関しては副司令に直接いったほうがいいな。彼女のほうが若干弱いからな。

 今日一日様子を見て副司令報告、という形をとる」

「……わかりました。いきなり押しかけてすみません」

「……このことは伊隅大尉に言っておくぞ?」

「マ、マジですか?」

「マジ?聴いたことない日本語だな。それはそうと今のは冗談だが……少尉、ひとつ聞いておきたいことがあるんだが……」

「なんでしょうか?」


中尉がオレに聞いておきたいこと?

純夏のことはいったし、柳ちゃんのことも聞かれた。

後ほかに何か知りたいことでもあるのか?

頭に疑問符が浮かぶほどわからない。

しかし、その疑問はすぐに氷解することになった。


「……ええと、御城少尉が好きなものってなんだ?食べ物とか趣味とか女性の好みでもなんでもいいんですけど」

「…………」

「な、なんだ?」


その時からオレの中の御城 衛という男の評価が変わった。

御城、お前も元の世界の先生が言う恋愛原子核なんじゃねえの?

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御城 衛サイド

……はっきり言おう。

いや、言わさせていただく。

柳に下した処罰は実のところ私のほうが苦しいんじゃないいか?

赤の他人宣言したのはいいが、妹はの内心はわからないが表面上はすましていて動揺は見当たらない。

私のことを御城少尉と呼ぶのもなんの戸惑いもないようだ。

変わったことは呼び名だけ態度は昔より半歩ほど引いただけだし、人間関係的に言えば従妹のような立場で接してきている。

むしろ困っているのは私だ。

当主として意地を張れば張るほど、その意地があまり意味ないことに気づかされる。

最後の肉親だからといって温情を与えなかったのだが……。

……なんか朝からあんなに真剣に落ち込んでいた私が馬鹿らしく感じる。

さらに……。


「どうしました御城少尉?どこかお体でも悪いのですか?」


……ほーら、御城少尉の部分をお兄様に変換するだけでなんの問題もなし。

うちの3人娘以外が真剣に考えてくれていたことが馬鹿みたいだ。

ちなみに九羽たち、3人娘は最初からこういうことはわかっていたそうだ。

九羽いわく、


『柳の性格上……あんまこういうこといいたくないんだけど、一族が残り2人しかいないのに絶縁したって意味ないじゃねえか。

 だから形式上はああして絶縁されたけど、実際は見てのとおりっていうことを頭に入れてたんじゃねえか?

 おおっと、ちょっと言い過ぎたかすまん』


魅瀬いわく

『右に同じ』


伊間いわく


『ケジメつけたからいいんじゃないです~か?絶縁されたいっても“家”と関係が切れただけだし、赤の他人なら最初から関係を作り直すってことじゃな~いですか?』


……私が深読みしすぎたのだろうか?

いや、生命尽きるまで罪と罰を背負って戦うことには相違はないだろう。

しかし、皆さん絶縁の意味はご存知でしょうか?

一切の関係を絶つという意味なんですが?

そしてそれを聞いた3人はいわく


『『『「同じ隊にいる以上、関係を絶つこと自体無理!しかも同じ任務についてるんだから上官と部下の関係でもなんでもついて回るだろ!

   さらにいえば同僚とはして付き合うといったんだから友達になろうがなんだろうが何の問題もない!……恋人は駄目だけどな』』』


――と返されて言葉も出なくなった。

私は悩むのやめて普通に接して大丈夫ということなのだろうか?


「あの、御城少尉?」

「……なんだ柳」

「……柳少尉ですよお兄様」

「お前も御城少尉だぞ」

「あら失礼しました」

「……もういい。訓練も終わったから夕食をとりにいくぞ」


一瞬迷ったような表情を浮かべるが、すぐに笑顔に変わり、こう答えた。


「はいお兄様」

変に凝り固まるのはやめた。

いくら掟とはいえ最後の肉親を失ってまで守るものではない。

これが一族として大きかったらまた別の話なのだが……今はこれでいいと思うのであった。

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おまけ 物陰からみる某女性たち

「私は誘われたことがないのに……なんで同じ隊に入ったのにどうして?」

「御城……オレよりも妹のほうがいいのか?」


そして気がつく2人。


「「……ん?」」


そしてさらに物陰にはウサ耳が静かに揺れていた。

「……がんばってください」



[1128] Re[3]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/18 00:06
御城 柳サイド

極秘部屋 通称脳みそ部屋。

そこに置かれたベッドに赤毛の女性は肩を抱いて眠っている。

シーツは後からかけられたのか、乱れ一つなく丁寧にうずくまっている女性を包んでいた。

その顔には行く筋も涙が流れた跡が残っており、彼女が一晩泣き続けていたことを示していた。

何が悲しくて泣いていたのか?

それとも何か嬉しくて泣いていたのか?

だが後者なら一晩泣き続けるにしてはあまりにも大げさすぎる。

それに……私は彼女が悲しんで泣いているのを知っているから。

私はその悲しみを無くすためにここにいるのだから。

だけど彼女は半端にその悲しみを覚えており、大部分は忘れたまま。

だから佐渡島での出来事は半端に終った。

今こうしているイキテイル意味……英霊達がなぜ戦っているのかを、少なくとも私たち兄妹は“知っている”。

目の前にいる赤毛の女性、鑑純夏……彼女が忘れてしまっていてもいずれ必ず思い出す。

お兄様も同じこと。

……時は確実に変わっている。

私が“知っている”ことはもはや当てにはできないし、不明瞭な部分もただある。

これでは私ができることはほぼ皆無、はっきりと覚えていることは目的だけ。

……リーディングで手に入れた情報、その早期解析こそが今後の歴史を紡ぎだすのか、それとも私たちを取り巻くものの行動が道を開くのか。

知っているのは神ではなく、目の前の女性だけなのかもしれない。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その3


白銀 武サイド

微妙に書類や書物が散らかっている部屋。

いつもならもっと整理整頓されているはずの部屋なのだが、最近の忙しさのせいなのか少々散らかっている。

だが今はそんなことは気にしている場合じゃない。

夕呼先生の部屋に点呼前から霞経由で呼び出しが来るなんていままでになかったからだ。

この部屋に来る途中御城に伊隅、、鳴海の両大尉と出会い目的地が一緒となれば事の重大さが嫌でもわかる。

ったく、御城の問題が解決したばっかりなのに……今度どんな問題なんだ!?

思い当たることといえば昨日ピアティフ中尉に話した純夏のことぐらいだけど……緊急招集かけるほどの事なのか!?

それをこの場で知っているたった1人の御人は机に噛り付く様にして受話器を肩と耳ではさむ様にしてどこかに連絡をとり、

手にはペンを持ち目の前に置かれた書類にサインを書き続けている。

この部屋に来て待っていろの合図を送られてから10分は立つというのに、オレ達の目の前で繰り広げられている光景に変化は見られない。

見られるとしたら先生の表情が徐々に苛立ちが含まれてゆくといった程度だ。

……さっきは純夏のことかと思っていたが、どうやらことはもっと大きいのかもしれない。

BETAが攻めてきたのかと思ってみたが、それなら基地全体が防衛体制に移行するはずだ。

悔しいがオレには想像ができない。

オレにできるとした動揺を悟られないように平静を装うことだけだ。

少なくとも大尉達や御城もその程度のことはやっている。

大尉達には想像がついているのだろうか?


「待たせたわね」


思考にふけっているうちに先生の仕事に一区切りついたらしく、受話器は元の位置へペンは白衣のポケットへと収め、こちらに声を掛けてきた。

あらためて先生を見ると髪はやや寝癖が治っておらず、目もやや充血している。

そんな様子の先生はさっきまでの不機嫌さを押し隠しつつ言葉を続けた。


「あんたたちにこんなに早く起きてもらったのは当然理由があるわけだけど、当然悪い知らせなのよね。

 少しスケジュールに変更があるの」


先生は端末を操作し、モニターをつける。

そのモニターにはこれからのスケジュールが映し出されている。

これはハイヴ同時攻略作戦のためのスケジュールなのだが、前に知らせれたとおりのもので年が明けてから9日にその作戦が始まると記載されている。

そう、人類がBETAに対し本格的な反攻を始める運命の日だ。

この作戦が終わり次第、オリジナルハイヴを攻略することになっている。

順調ならばだけどな。


「見てのとおり予定では来年1月9日800に作戦を開始することになっているわね。

 これはついては変更はないわ。

 で、問題なのはXG-70についてなんだけど、現在組み立ては完了したけど主機は不安定。

 明日31日に起動試験がてらに大気圏突っ切ってアラスカに輸送しろって司令が今さっき通達が来たのよ。当然無理な話なわけ」


そりゃ無理だよな。

いくら人類の切り札といってもエンジンに爆弾抱えてたら飛べるもんも飛べないんだから。

でも大気圏突破、突入できる性能があるとは聞いていたけど、いざやると聞くとトンでも性能なんだなと感心してしまうな。

あんなデカブツが飛行機より高く飛ぶなんてあんまり想像できねえし。

……それにしても上層部は何を急いでいるんだ?


「だからといってスケジュールを引き伸ばすわけにはいかないから、エンジンをもう片方のXG-70との主機交換をしようにも時間がない。

 だから次善の策として、佐渡島で使われたほうを防寒処理を施した上で飛ばすことになったわ。

 これにあわせてパーソナルデータを鑑から御城妹にかえることになるから今日の伊隅の隊の実機訓練は中止、昨日と同様シミュレーターで訓練して。

 鳴海の隊はXG-70と一緒に飛ぶのは間に合わないけど遅くとも来年の2日には飛べるように隊をまとめておいてよ。

 御城、あんたの妹にはもう言ってあるから余計な心配しないでシステムのほうの再調整を頼むわ。

 んで、最後に白銀。あんたは00ユニットの調律について話したいことがあるからちょっと残りなさい……御城もよ」

「は、はい」


あれ?純夏のことにしても00ユニット関係なら同じ調律をしている御城もいてもいいはずなのに……どうしたんだ?

やっぱりオレにしか言えないこと、純夏のことなんだろうか?


「……朝早くからこの程度のことで呼ぶ出してすまなかったわね。ごたごたすると思うけど作戦に影響のない様にしっかり頼むわ。

 それじゃあ白銀と御城以外はもう行っていいわよ」

「はっ、では失礼します」


2人の大尉が敬礼してから出口へと歩き始める。

オレの横を次々と過ぎていくときに伊隅大尉がチラッとこちらを見たが、その目は頑張れと告げていた。

オレと純夏の関係を知っている大尉だからこその応援なのかもな……。

御城にいたっては何やら考え込むようにして目を伏せたままその場でじっとしている。

……そんなにXMシステムの調整が難しいのだろうか?

そして、部屋には先生とオレしかいなくなり、部屋には静けさがひろがった。

しかし、それも本の瞬きの間だけ、先生は椅子の背もたれを軋ませながら再度口を開いた。


「白銀。あんたに聞いておきたいことがあるの」

「聞きたいことですか?」

「そうよ」


先生は机の引き出しを開き、中から一冊のノートを取り出して、それを机の上にポンッと置いた。


「これに見覚えはある?」

「これって……特に覚えはありませんけど何の変哲もない普通のノートですよね?」


手に持ってページをパラパラと捲るが最初のページに甲21号、00ユニット、各坐としか書かれていない。

その単語は先生が書いたのか甲21号作戦で起きたことが単語として書かれていた。


「……それに書かれていることに覚えはあるでしょう?」

「佐渡島で起きたことですよね?これって先生が書いたものじゃないんですか?」

「それが書かれたのは早くて10月、遅くとも11月に書かれたものなのよ」

「……えっ?」


これが10月に既に書かれていた……?

それっておかしいだろ。

先生が書いたんじゃないのか?


「しかもそれを書いたのは筆跡からして御城ということがわかっているの。まあ、本人は身に覚えがなさそうだし、私の因果律量子論で片付けることもできる。

 なにより御城が高度な未来予測を行えたためしがないから放置してたんだけど……」

「未来予測?」

「……そういえば言ってなかったかしら?」


そういってチラッと御城を見る先生。

だが御城は肩をすくめながら一言口にした。


「私自身は一回も話したことありませんが」

「……ピアティフも説明していないということね。まあ、この程度なら話してもかまわないから今言うわ」


そして、御城の能力についてつらつらと話されることとなるのだが、まさか霞と同じESP能力者とは思っても見なかった。

で、その妹さんも同じ能力をもっているから00ユニットにするついでに純夏にもその能力を付加した。

……軽い感じで語ってみたが、正直半端がないと思う。

00ユニット能力アップのためについでに予備にされたとなればどんな気持ちなんだろうか?

考えても想像がつかないほどの激情があったのかもしれない。

でも、今は精神的にも安定しているのだから、柳ちゃんはすごい強い人なんだろう。


「まあ、説明はこんなところね。話を元に戻すとその未来予測を超える未来予測を御城の妹ができると踏んでいた。

 だから佐渡島戦後のリーディングデータ、バイタルデータ、ありとあらゆる情報を入念に調べていったの。

 そしたらまだ未解析な部分が多く残っているけどその一端を見つけることができたのよ」


……やっぱり御城たちは特別なんだろうな。

思えばオレが2回目のこの世界にやってきたときにそういった雰囲気をかもし出していたんだ。

オレが未来の情報を知っていても御城はそれとは関係なく独自に道を進んでいた……決して幸福とはいえないけどな。

ならばその妹も特別なんだろう。

00ユニットを初期スペックよりもパワーアップさせる要因になるくらいだからな。

だがオレは次の瞬間耳を疑うこととなった。


「00ユニットKタイプ、つまり鑑純夏の情報の中からね」

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御剣 冥夜サイド

「本日はハイヴ突入ミッションS難度の実戦モードを20回中、8回制圧で完了……後は作戦発動までに成功率を100%とすることだけだな。

 ヴァルキリーズの隊長としていいたいことは一言だけだ……今後も油断するな!!」

「はい!(全員)」

「このまま100%いくようなら作戦前に一日休暇を申請する予定だ。鳴海大尉のエインヘリャル隊も似たようなものだそうだが、

 私はこの隊のほうが優れていると思っているぞ――解散!!」

          ・
          ・
          ・

「相変わらずすごいじゃない鑑!とてもじゃないけど私ではあなたのような適応能力はないわよ!」

「そうだよ!昨日も言ったけど副司令が連れてくるパイロットは天才衛士ばっかりだね!」

「……ううん私は別に天才じゃないよ。皆こそあんな動きできるんだから凄いよ。私はXG-70しか能がないし……」


昨日のように皆が鑑を褒めており、それを謙遜するといった光景が繰り広げられている。

しかし、そんな中で決定的な違いがあることに私はすぐに気がついた。

タケルが声を掛けてこないのだ。

私は辺りを見回すと、じっと鑑のほうを見たまま何か考え込んでいるタケルを見つけた。


「タケルどうしたのだ?」

「……ん?冥夜か……いや、なんでもない」


タケルは手を顔の前でひらひらさせながらなんでもないとアピールするが、覇気がなく、何か思い悩んでいるのは一目見て明白だった。


「嘘をつくでない。傍から見ればそなたが悩んでいるのはまるわかりだぞ」

「……やっぱりそうか。朝、御城に注意されたばっかりなんだけどな」

「よかったら話してみよ。1人で思い悩んでいても仕方なかろう?」


私がタケルにしてやれるといったらこれくらいしかないだろう。

衛士としての腕にしても精神的強さにしても私がタケルに勝ることはない。

だがいくら精神が強くとも相談相手は必要だ。

なら少しでも役に立つのなら悩みを聞いてあげることしかない……。


「ああ、ありがとう冥夜。でも機密のことだからこればっかりは話せないんだ。せっかく心配してくれたのにわりぃ」

「……そうかなら仕方あるまい」


わかってはいる。わかってはいるが――どうしようもない。

やはりあの夜に言っていた思い人とは鑑のことなのだろうか?


「あれ?2人ともなにしてるの?」

「今度は柏木と涼宮か」


何も語らず沈黙していると柏木と涼宮の2人が話しかけてきた。

2人がいつも一緒にいるところを見るに、同時期に入隊した間柄だけに親友といってもいい関係なのだろう。


「何?私達じゃ何か不満?」

「ちょっと不満かな?」

「何ですってーーーー!!」

「そうやって怒ると速瀬中尉にそっくりだな」

「なっ!?」

「さすが憧れの大先ぱ――」

「白銀君、それ以上ふざけると前歯がなくなるよ?」

「……笑顔で恐いこというなよ」


タケルも他人をからかいすぎるの良い癖ではないなとつくづく思う。

だがそれがよい方向に働く時もあるのだから、使い分けをしているのかもしれない。

馬鹿な自分を演出して皆の緊張をほぐす役割を買って出る。

およそ御城には真似のできないことだ。

あれは私と同じでこういうことには頭が固いからな。

……いや、適性検査のときのことを考えればそういったこともできるのかもしれない。

それにタケルもそんなに器用な人ではないか。

不器用だからこそ他人に優しくできるそんなタケルを私は好意を抱いたのだろう。

だから放っておけないし、隣に立ちたいと思うのだ。

……な、なんか惚気がすぎたかもしれぬな。

でも、ここは身を引いたほうが――。


「何ニヤニヤしてるの?」

「!!かっ、柏木いつのまに!?」


耳に息がかかる距離からの突然の声に口から心臓が出るかと思うくらいびっくりした。


「私が見るに恋のお悩み中だと思うんだけど……それとも惚気かな?」

「~~~~~~~~~だ、だん、断じて違う!!ええと……そう、鑑のことが心配でな」

「ふ~ん、そういうことにしといてあげる。まあ、私はどっちでもいいんだけどね」


む、信用していないようだ。

……動揺を隠しきれていないから当たり前なのだがな。


「……まあ、白銀を心配する気持ちはわかるよ。あの茜が心配するくらいだからね。

 やっぱり鳴海大尉がいなくなったときみたいになって欲しくないだよ……きっと」


急に柏木の目が悲しげに揺れた。

涼宮が鳴海大尉がいなくなったことを悲しんだということなのか?


「多分茜は鳴海大尉と白銀を重ねてるところがあるんだと思う。別に好きになったとかそういうのじゃなくて……よく言えばお節介なのかな?

 ともかく放っておけないんだと思うんだ。鳴海大尉はあのとおりだからその分ね」

「…………」


それは涼宮が鳴海大尉のことが好きということなのだろうか?

今の私ならその気持ちがわかるような気がする。


「御城の妹や鑑に対してもそうだと思う。昨日から何かと気に掛けているからね……あ、もうこんな時間かそろそろいかなきゃ。

 私だけ一方的に話してごめんね」

「いや、私もよい話を聞けたと思っているから気にするでない」

「ははは、それと今の話あんまり振れまわっちゃだめだよ。一応秘密の話だからね」


そういって柏木は片目を瞑りウインクをした。

さっきまで悲しげに揺れていた瞳はすでになく、そこには私では真似できないような魅力的でかわいらしい瞳が輝いていた。

そして、片手をひらひらさせながらまだ騒いでいるタケルたちのところに行ってしまった。

……涼宮は姉と速瀬中尉のために身を引いたということか。

なら私もそうするべきなのだろうか?

エインヘリャル隊の魅瀬少尉がいっていたな。

初恋は――。

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御城 衛サイド

薄暗いコクピット。

ジュラーブリクのコクピットに入って既に何時間たったのだろうか?

強化装備のタイマー機能を網膜に表示し、時間を確認する。

すると最後に休憩をとってから既に5時間経過していることがわかった。

道理で外で整備する音が静かになってきたと思った。

私はシステムとの接続を切り、ハッチを開放した。

お世辞にも静かとは言いがたい開放音が耳に飛び込んできて、座りっぱなしでプロジェクションを続けていた私に聴覚があることを思い出させる。

薄暗いコクピットからでるとそこには人がまばらになった格納庫だ。

私は整備用リフトにその身を移し、地面へと降り立っていく。

その間に柳の分身たる器を見上げる。

以前中破したときの損傷は影も形もなく、塗装も綺麗に塗りなおされている。

女の身ならまさに玉肌といったところだろう。

だが、今は柳たちは返事をすることはなくなった。

本人格の00ユニットとなった柳に聞くに、システムに組み込まれた人格は本体にほとんど移されたために自我が気薄になり、

自己保存のために状況によって必要な分しか機能していないという。

同じく佐渡島のときの性能低下は使えば使うほど人格が薄れていくための自己保存。

副司令も予想よりもひどい状況で少々残念がっていた程度だった。

こちらが本命ではないのだし、00ユニットが2体できたのならそれほどおしいものではないのだろう。

それに副司令にとって鑑純夏に高度な未来予測の価値ができたのならこちらなど大した問題ではないのだ。

衝撃が私を襲う。リフトが床に着いたのだ。

溜め息をつきながらリフトを降り、またジュラーブリクを見上げる。

しかし、先程のような感慨はもう沸かなかった。


「まだここにいたのか?」


後ろから声をかけられる。

格納庫に要がある人間など衛士か整備兵くらいしかいないはずなのだが、通信仕官である彼女がここにいるのはどういった了見なのだろう?

とりあえず振り向いてお互いの顔を確認する。

案の定そこにはピアティフ中尉がそこにいた。


「ええ、調整に少し手間取りましてね。見掛けはお淑やかですが根はじゃじゃ馬ですから」

「私にはそうは見えないがな……。今回の作戦うまくいくと思うか?」

「……現時点でのわかっている範囲の情報から計算した結果によると完全成功が5割、条件付成功3割8分、残りが条件付失敗ですよ。

 まあこんなものは当てにはなりませんね。いつも肝心なときに外しますから」


そう、私はいつも肝心なときに計算をミスする。

柳のときも佐渡島のときもだ。

この計算があたるという保証はないし、失敗する確率もあるのだから。


「……そうですか。なら私が生き残れる確率はどうです?」

「中尉、冗談でも莫迦なことを聞いてはいけませんよ。第一そんなことは私にはできないし、そんな計算を可能にしているのは鑑少尉くらいですよ」


私はそんなことを計算したくないし、できるわけがなかったので事実を述べた。

それに……生命の生き死にを易々とわかりたくない。

だから私は計算を当てにしないことを決めたのだ。

どうしても必要なときだけ、皆を守り守られることだけに使いたいのだ。

それが自分のために使って失敗したことからの教訓だ。

だが中尉は目を悲しそうに揺らし、床へと視線を向けてしまう。

……なんだ?

しかし、それもホンの数秒、すぐに上官の顔へと変えると口角を少し吊り上げた。


「ふ、冗談なのだからこのくらいいいではないか?もう少しでPXがしまってしまうぞ。早く食べに行け」

「……了解です。中尉どうせなら一緒に――」

「私は副司令に用があるのでこれで失礼する」

「あ」


声を掛ける暇もなく、ピアティフ中尉はそのまま階段を上り私の視界から消えていった。

……ピアティフ中尉も多忙なのだろうか?

今度は誘えると思ったんだが……仕方ないか。

ん?今ジュラーブリクが起動したような気がしたが気のせいか?

……まあいい。

それよりも白銀のやつ鑑少尉のことでへこんでやしないだろうか?

私はPXに向かいながら今後のことを考え始めたのであった。



[1128] Re[4]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/11/24 01:22
白銀 武サイド

今オレは非常にイラついている。

イラつく自分にさらにイラつく。

純夏のことを考えるとそのイラつきも沈んでしまう。

オレッてなんて情けねえんだろ。

そんな堂々巡りしていてベッドに横になっていても、全然、全く、完全無欠に眠れない。

最後のほうに考えたことはオレが混乱している証なんだろうな。

……純夏がBETAとの戦いにけりをつける鍵となる。

前からそんなことはわかっていた。

だけどオレは純夏にはもう必要ない……いや、純夏がオレを必要としていない。

先生から命令されたわけじゃないけど、00ユニットである純夏がオレのことを邪魔だと言えば、はずされる可能性は高いだろう。

いくら衛士としての能力が高くても00ユニットの障害になりうるものを遠ざけるのは当たり前だ。

オレが純夏の近くにいるということが人類の未来に悪影響を与える。

純夏はそんな未来を見てしまったんだろうな。

人類を救えるんだからオレがいなくてもいいんだ。

後は純夏や御城兄妹、A-01の皆に任せればBETAから地球を守ることができるんだ。

でも、こんなに沈んだ気持ちになるのはなんでだろう?

……いや、わかっているんだ。

オレが純夏に振られたってことを。

だから涙なんてものが目から出てくるんだ。

本当に好きだったから。本当に愛していたから。隣でずっと支えていたかったから。

…………。

オレは、俺にできる何か。これからその何か探さなくちゃな。

邪魔なやつがA-01にいられるわけがないんだから。

そうだな……A-01ではない部隊、極秘部隊じゃなくても新設の部隊でも作ってもらって戦うのもアリだろうな。

先生に頼めばそれくらい準備してくれるだろう。

あ、神宮司軍曹みたいに教官をめざすというのもありかも……オレじゃあ無理か。

それに月詠中尉が言っていたけど、殿下のつてで帝国軍に行くというのも悪くないのかもしれない。

先生に断られたら月詠中尉に頼んでみるか。

そういえば明日にはいなくなっちゃうとか言っていたから急がなくちゃな。

明日の朝に連絡を取らなきゃ行っちまう。

……これって逃げなのか?

わからないけど……何もしないでうずくまるよりいいか。

……先生に明日会わなく…ちゃ…な……。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その4


御城 柳サイド

「それ、本気で言ってるのですか?」

私は目の前にいる年上の人、鑑純夏に問いかける。

彼女は俯いていて何かに耐えるように体を強張らせている。

私のこの問いも既に3回目だが、返事を返すことができないのか頷いて意思表示をしようと試みるが、それもできず、頭が少し揺れただけだ。

私は溜め息をつき、もう一度確認を取ろうとする。


「白銀さんをA-01から外す……それで本当にいいんですか、タイプK?」

「…………」


だが、返事は返ってこない。

本当は肯定の仕草や言葉だしたいのだが、何かがそれを強制的に止めさせているように不自然な動作。

やはり無意識下に覚えていることが、やめさせようとしているのでしょう。

……となると、後一押しで全て思い出すはずだが、元来彼女は頑固者だ。

誰かが後押ししなければ目覚めないでしょうに。


「……沈黙は肯定ととります。私から香月副司令に伝えておきますので、なにも心配することはありませんよ。

 私はこれで失礼しますね。……霞さん、後をお願いしますね」

「……ッ!わかりました。気をつけてくださいね……またね」


私が話しながら送ったメッセージが伝わったのか少々びっくりしながらも答えてくれた。

慌てずに平静を保っていられたのは、お兄様が普段からプロジェクションで話をしていたおかげでしょう。

それに……またね、か。

本当に再会したいものです。

だから私も笑顔でこう返した。


「うん、またね」

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月詠 真那サイド

「この部屋も今日で見納めか……」

手に持った最後の私物をスーツケースへと丁寧にしまい込み、そう呟いてしまう。

年内にはこの基地にいると白銀にはいったが、殿下専用の武御雷の護衛も兼ねて、この基地を午後には出立をしなければならない。

おそらく冥夜様と会うことも二度と無かろう。

会えたとしても戦場だろうな。

……敵として会わぬことを期待するしかあるまい。

会うならば戦友として……。

御城のことも心配だがやつなら冥夜様を白銀とともに守ってくれるだろう。

なんせあいつは根っからの斯衛だからな。

私以上に御守りしてくれるかもしれん。

あやつの父である瑞堅どのもそうであったように。

さて、時間はもう少しあるようだな。

今のうちに凄乃皇の見送りでもしに行くとするか。

そう思いスーツケースを閉じて扉へと向かう。

ドアノブに手を伸ばし、それをゆっくりと捻った。

……窮屈な思いをしていたがこの部屋を、この基地に少しは愛着があるらしい。

ここまでの一連の動作のぎこちなさがそれを強く感じさせた。

ふ、我ながら甘くなったのかもしれないな。

包み隠さず言えば、この基地にいること自体が嫌悪したくなることだった。

冥夜様がここにいることに疑問も抱いたし、斯衛にでも影武者役としてでも入って欲しかった。

だが、私はそれを冥夜様が望まなかったのも知っていたし、真に自由になることを切望していたのも知っていた。

臣下としては何が忠義を貫くことか迷っていたこともある。

しかし、それももうない。

ことはもう私の手が及ぶところには無く、ただ無事を祈るのみ。

こんなことを考えること自体が未練なのだろうな。

白銀、御城。

重ね重ね悪いが冥夜様を頼む。

そう思いながらドアを開いた――目の前に移るのは黒い2つの細長いもの。

私は不覚にもそれを見て思わず後ずさってしまった。

その何かも驚いたようで同じように後ろへと下がっていったのだが……その細いものの根元には銀髪で儚げな印象の異国の少女がいた。

細いものはどうやらこの少女の髪飾りらしい。

その少女はびくびくとしながら私をまじまじと見つめている。

その仕草は髪飾りと合わさりまるでウサギのようなのだが、そんなことはどうでもいい。

この少女が私に何の用があったかが問題だ。

全く面識が無いこの少女が帝国軍である私になにか伝えることがあるのだろう。

見るところ多少改造されているが、国連の制服のようだ。


「……何かようがあるのか?」

「ッ!!」


私が声を掛けると半歩後ろに下がってしまった。

……どうやら口調が恐かったようだ。

さっきの行動もあって警戒心をもたれても仕方がないな。


「さっきはすまなかった。いきなりの訪問だったので少々驚いたのだ。よければそなたが伝えたかったことを聞かせてくれないか?」

「……はい……やな――御城さんからの伝言です。お耳をお貸しいただけますか?」


御城から?

やつにしては回りくどい方法を使うものだな。

あやつからの伝言なのだから大切なことなのだろう。


「わかった話してみてくれ」

「――です」

「何?」


私はその言葉を聞いた途端耳を疑わずにいられなくなってしまった。

それを確認するためにこの少女に確認をとる。


「それは本当か?」

「香月副司令から許可がでています。煌武院殿下にも御連絡済みです」

「……後は私が迎えにいくだけか……わかった至急準備する。香月副司令に任務は了解したと伝えておいてくれ」

「わかりました」


祈った傍からこんなことが起きようとはな……。

さて、神代達にもこのことを伝えなければならないな。

時間は……そう長くはないか。急がなければ。

部屋に戻りスーツケースを掴むと、早足で部下の部屋へと急いだ。

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白銀 武サイド

オレの隣にいるのは純夏……ではなく誰もいない。

当たり前のことだが不知火に乗っていれば機体を寄せない限り隣に立つなんてことは全周囲警戒では稀だ。

円を描くように配置された12機の不知火とその円の中にさらに円を描く6機のジュラーブリク。

さらに大隊規模の数の戦術機部隊がその周りを警戒に当たっている。

出ていない部隊も警戒待機しているといった厳戒態勢っぷりだ。

さすがに人類の切り札となれば数も揃え、基地全体で警戒に当たっているようだ。

――御城たち本当は一緒にフライトするはずだったが、準備ができておらず、遅れて明日以降に目的地に向かう予定になっている。

……だけどオレはそれを見送ることもできないのかもしれない。

なんせ00ユニットである純夏直々の解雇の宣告だ。

この世界に着てからがむしゃらに頑張ってきたけど、ここで首になるなんて思いもしなかった。

ああ、まだ先生に直接言われたわけじゃないんだけどな。

オレはどうしたらいいんだろうな?


「――ヴァルキリー2からヴァルキリー10、何ボーっとしてんのよ?寝ているわけじゃないでしょうね?」

「――……こちらヴァルキリー10、すみません。少々寝不足みたいです」

「――馬鹿者!衛士たるものが健康管理を怠ってどうする!後でみっちりしごいてやるから覚悟なさい!」


そのままぷっつりと通信が途切れてしまう。

ああもう情けねえなオレは。

御城の妹がこれから行くっていうのに、この体たらくで襲撃されたときに守りきれねえよ。

自分のことは後だ。

今は目の前のことに集中しろ。


「――ヴァルキリー1から部隊各機へ。そろそろ打ち上げシークエンスに入るぞ。警戒を怠るな!」

「――了解!(全員)」


もうそんな時間か……あの要塞みたいなやつが本当に宇宙に上がれるのか?

落ちたらHSSTのときみたいにとんでもないことになるかもしれないけど……本当に大丈夫なんだろうな?

……御城のやつも心配で心配で仕方ないんじゃないのか?

この世で最後の肉親がまた離れていくんだから多分そうなんだろう。

オレも純夏がいなくなったら……。

クソッ、結局自分のことしか考えてねえじゃねえかオレは。

そんな下らないことを考えているうちにもうカウントは10を切っていた。


「――9、8、7――3、2、1、0!!」


耳元に聞こえる管制塔からのカウントダウンが0になり勢いよく、傍目から見るとゆっくりと上昇を始めた。

だが、そう見えたのも数秒。

すぐに空の彼方へと豆粒になって見えなくなってしまった。


「――打ち上げ成功。現時刻より警戒態勢を解除。各部隊は速やかに撤収せよ」


ふう、終わった。

無事打ち上げは終わり、オレ達が警戒することもなくなった。

さて、午後の訓練にそなへて飯でも食いに行くかな。

そこに部隊内通信が入る。


「――ヴァルキリー1から部隊各機、機体をハンガーに固定後、1200までにブリーフィングルームに集合だ。

 副司令から重大な知らせがある。全員遅れるな」


ああ、オレの解雇はなしかもしれないな。

オレが抜けるんだからフォーメーションの見直しとか色々あるんだろう。


「後白銀は機体を降りたらすぐに副司令室に来い。以上だ」


……ああ、これでもう決定事項だな。

長いようで短かった仲間達と戦った日々。

総合戦闘技術評価演習、沙霧大尉と御城 柳が起こした12.5事件、横浜基地戦力の選別による神宮司軍曹の戦死、

元の世界への逃避してからの再びまりもちゃんの死と純夏の大怪我、こちらにも戻ってきたときに明かされた真実、

そして佐渡島での死を賭けた人類の反攻。

それらを駆け抜けた戦友とはもう会うことはないだろう。

さよならA-01で面倒を見てくれた大尉たち。

さよなら彩峰、委員長、タマ、美琴、御城。

さよなら冥夜。

さよなら……純夏。

オレは別の戦場で……この世界を生き抜き、救ってみるようがんばるよ。

だからもう一度会えるときまで死なないでくれよ。



[1128] Re[5]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/12/02 15:05
白銀 武サイド

冷たい空気。

静寂な空間。

いや、時折聞こえてくる獅子脅しの心地良い音が聞こえてくる純和風の癒しの空間といったところか。

あたりを見回しても洋風といえるものは、オレの着ている国連軍制服と隣に正座している月詠中尉の斯衛軍の制服くらいだ。

これまで和のテイストで統一されていると、オレがこの場において異質の存在だと感じさせられてしまう。

……オレは確かにこの場においては異質なんだろうな。

周りが和風で統一されていることではなく、通常こんな場所……そう、この場所にいること自体がありえないんだ。

それを意識すると体がガチガチになり、呼吸も乱れてくる。

傍から見たら病気か変質者に見えているだろうな。

現に隣に座る月詠中尉は目尻を持ち上げて何か言いたそうな顔をしているし、怒っているみたいだから後者なんだと思う。

だが、その口を開かないのは目の前の女性が手でそれを制止したからだ。


「白銀……そのように緊張することはないのですよ」

「はっ、はい。気をつけます」


目の前の女性はオレの返答がおかしかったのか、袖で口元を隠しながら上品に笑う。

この女性もこの和の雰囲気を損ねることのない着物を着ている。

その姿は清楚で町を歩けば誰もが振り向くような美人だ。

オレはこの人を知っている。

というか忘れるのは無理というものだ。

紫の長髪を頭の上で一つに束ね、薄化粧をした穏やかな表情が似合う顔。

国連軍基地にいる妹、冥夜とは違った印象の女性。

……違うといっても長く付き合ってるからわかるんだけどな。

話がそれたが目の前にいるのは冥夜の実姉であり、現大日本帝国征威大将軍である、煌武院 悠陽殿下というわけだ。

ついでにここがどこかというと言わずと知れた帝都東京の中心である帝都城だ。

場違いといったのは国連の一兵士が帝都城の中にいて、そして謁見……いや、この場合は御茶のお相手をしているといったほうが適切なのかもしれない。


「ふふふ、何も謝らなくともよいのですよ?そもそも私がこのようなところに招いたのが悪いのですから」

「いえ、殿下に招いてもらって正直嬉しいですよ。綺麗な人に誘わ――っ!?」


いきなり背中に激痛が走る。

が、その原因は見るまでもなくわかっていた。

背中の肉を目を向けずにつねっているのは無論隣にいるお方だということを。

……殿下には気軽に話していいといわれているけどもう少し言葉を選んだほうがいいかも。


「?どうしたのですか、白銀?」

「い、いえ、なんでもありません」


なんでこんなに近くに座っているのかと思えば、オレに体罰を与える礼儀作法注意機の役目のためだったとは。

最初に少し嬉しいと思ったオレが馬鹿だったぜ。


「……そなたとこうして会うのもあの事件以来ですね。あの時は個人的に礼を言う時間もありませんでした。

 この場を借りてあらためて礼を言わさせていただきます。白銀……そなたに心よりの感謝を」


そういうと殿下はゆっくりと人目で上品とわかる動作で頭を下げてきた。


「で、殿下!オレなんかに頭など下げないでいいですよ!あれは任務でしたし、あのその……ともかく頭を上げてください」


オレの言葉を聞いてかそうでないかはわからないが、下げたときと同様にゆっくりとその面を上げた。

その顔にはどこか満足したような表情浮かんでいる。


「時に白銀。そなたが何故ここにいるのか理解はしているのですか?」


ここにいる理由……。

柳ちゃんを見送ったオレは先生のところに呼び出しをされた。

皆もブリーフィングルームに召集がかけられた事からオレの除隊のことだと思ったんだ。

純夏が邪魔といえば外される。

オレは純夏に必要とされなかったんだ。

……それはともかく、オレは先生に呼び出されたわけだが、なんか書類を手渡されて格納庫にいけと言われた。

戸惑うオレは蹴り飛ばされそうになりながら先生の部屋を出ると、

今度は霞がオレがお土産で渡した貝殻を手に持ち、それをオレに手渡しながら


『また帰ってきてください』


といってきた。

オレはとりあえず頭を撫でてやり、貝殻を受け取らず持っておいてくれと鎧衣課長風にお土産について語った。

……今になって思えば、なんて適当な別れだったんだろう。

霞は貝殻を持たせて必ず返してくださいという意味で渡そうとしていたんだろうに。

…………。

で、格納庫に着くなり月詠中尉に87式自走整備支援担架の座席に放り込まれたんだ。

問答無用で車両は横浜基地を出て行き、オレはその中で揺られに揺られたわけだ。

純夏のこと、霞やヴァルキリーズの皆に心で別れを告げながら。

そして、オレは帝都につくころに書類の存在を思い出したんだ。

そこに書かれていたこととは――。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その5


御城 衛サイド

「一体どういうことですか?」

私が副司令と対面して最初に口にしたのはこの言葉だった。

その言葉に対する副司令の反応はやれやれといった感じに肩をすくめただけだった。

私は単純にその態度に怒りを覚えたが、何とか自制する。

ここで怒りにまかせて口を開けば莫迦を見るのはわかっているからだ。


「……そんなに睨まないでよ。あんた達をここに呼んだ意味ぐらいわかるでしょう?

 白銀の奴にXM3の帝国軍搭載に対する監視を頼んだってことは半分嘘よ」


そうヴァルキリーズとエインヘリャルの両部隊に突然伝えられた白銀の帝都行き。

表向きは帝国軍にXM3を搭載に対する監視に向かったということになっているが、その実副司令が言ったとおりに嘘のようだ。

理解できないわけではないのだが、何故こんな大事な時期に00ユニットと引き離してまでするようなものなのだろうかと疑問に思っていたのだ。

最近あの2人がうまくいっていなかったことは承知していたが、何も引き離すことはないだろうに。

話し合いの席を設けて仲を元に戻すというてもあったはずだ。

そのためなら私も双方の間を取り持つことだってした。

あいつはたまに意見を違うこともあるが、私のもっとも近しい友だからな。


「……御城少尉、頭の中身がただ漏れしているぞ」

「ッ!!鳴海大尉すみません」


しまった。

感情的になっていたせいで思考が垂れ流しになっていたようだ。

同じESP能力者である鳴海隊長だからこそ敏感に感ずいたのだろう。


「いや、オレが困るわけじゃねえんだが、注意しないといつまでも気づきそうにないからな。それに――」


そういいながら鳴海大尉ちらっと右に視線を向ける。

その視線の先には……もう1人の大尉が怪訝な顔をしてそこに立っていた。

……しまった。


「……ふむ。これが話に聞くプロジェクションというものなのか。頭に響くような感じがするが不快ではない。

 それに通信が断たれた状況でも関係なく、やや不明瞭なところがあるが概ね意思は伝わってきた。

 鳴海大尉、あなたもこれを利用して作戦立てているのか?」

「……ええ、そうですね」

「なるほど……しかし、どうして私たちに伝えるような内容でもないのに伝えてきたのだ少尉?」


胸に突き刺さるような痛みが走った。


「それにプロジェクションは通常、1人にしか送れないと聞いているが少尉が特別だからか?」


さらに走る痛み。


「……もしや、ミスをしたのではないのか?」


はい、鋭いですね伊隅大尉。

伊達に部隊を率いているわけではないのですね……。

で、洗いざらい私の能力のことについて語らされたのだ。


「なるほど……御城少尉。以後気をつけろ。貴様のせいで機密が漏洩したらかなわんからな」

「……肝に銘じときます」

「はいはいはいはい!御城の能力雑談はそこまで!いい加減に本題に入るわよ」


話の腰が折れてしまったまま、副司令が口をはさめなかったせいで少々機嫌を悪くしてしまったらしい。

でも少し口元に笑みが浮かんでいるから、少しは楽しんでいたのだろうか?
「話を元に戻すけど、帝国軍の機体にXM3の搭載をする。それを監視……まあ、単なる形式上の立会人ね。

 あいつが開発するよう進言したんだからうってつけなのよ。

 だけどこんな大事な時期に00ユニットから引き離すには不十分な理由……。

 白銀を帝都に行かせた理由……本当の目的は違うわ。

 そのためだけに征威大将軍の手を煩わせるようなこと頼むわけにはいかないから。

 本当の目的は白銀を00ユニットから引き離すことにあるのよ」


引き離すことに意味が……ある?

一体どういうことなのだ?


「00ユニットタイプKの調律のためなのよ。白銀には話してないけどタイプKの調律は最終段階に入っているの。

 調律の段階一、最初に人間らしさである喜怒哀楽の再生。段階二で他人との意思疎通。

 そして最終段階……絆を作ることよ。伊隅ならこの話の経緯はわかるでしょうけど続けるわ」

「……はい」


絆?絆とは……やはり男女の仲といえばそういうことなのだろうか?


「タイプMの話によればタイプKは白銀のことを危険から遠ざけようとしている。

 その行動をさせる感情とは?愛情の他にはありえない。

 ゆえに愛情を抱いている異性……つまり白銀を守るため、私に除隊を要求してきたというわけ。

 ここまで話せばわかると思うけど、タイプKが元気がなかったのは傍にいて欲しい気持ちと安全なところにいて欲しい気持ちの板ばさみなのよ。

 で、白銀が元気がなかったのは除隊申請されたことが振られたと思い違いしたからよ」


なんともまあ、ありきたりというかなんというか……。

複雑な人間関係の中で最もわかりやすい形だな。

しかし、それにも気づけない私は……。


「問題ありだな」

「!!」

「オレがいうのもなんですけど、白銀少尉は妙に鈍すぎる」


……私のことを言われたかと思ったぞ。

また、垂れ流したとなれば莫迦扱いされそうだからな。


「まあ、近すぎると互いの気持ちがわからなくなることもありますからなんともいえませんがね」

「鳴海……経験者は語るってやつ?」

「……そうですよ。まあ、この時期に遠ざけたのは正解かもしれませんね。後2、3日遅れていたら作戦に間に合いませんからね」


それに肯定の威を示して頷く伊隅大尉。


「鳴海大尉がいうとおりだと思います。作戦3日前に呼び戻せばお互い少しは素直になるでしょう」

「私もそのつもりよ。あんまり追い詰めすぎると調律が失敗してしまうからね。

 ったく、御城、あんたの妹が進言してきたときは驚いたわよ」

「はっ?」


私の間の抜けた態度に少々驚いたのか眉毛を少し動かして反応する。


「あんたの妹のタイプMがこの案を進言してきたの。帝都に行く理由づけとかは私がやったけど、ほとんど原案のままことを進めたのよ。

 しかも絶対やらないと後悔するみたいな計算の結果がでたというから、帝国政府と軍に無理言って認めさせたのよ。

 殿下の後押しがなかったら断られてたでしょうね。まあ、あの娘には最初からわかっていたのかもしれないけど」

「…………」


……殿下の後押し……あの事件のときにそこまで信頼を得ていたのか白銀。

正直、憎いぞ。


「なんにせよ。白銀がいない間の訓練はそっちに任せるわ。私もまだまだ忙しいからもういっていいわよ」


いつもどおり敬礼もそこそこに部屋から出てゆくと2人の大尉はさっさとエレベーターへ歩いていく。

だが、2人とも何か考え込むようにして歩いているのがまるわかりだった。

なぜかというと、伊隅大尉は顎に手を当てていかにも考えている仕草で、鳴海大尉に限っては腕を組んでうんうん唸っているのだ。

その仕草を計算してみた結果、どうやら私的なことで悩んでいるようだ。

しかし、伊隅大尉の温泉という言葉をいくら計算しても答えが出なかった。

……計算に頼らずに考えればわかるのだろうか?

そして、帰りのエレベーターの中では考え込む男女3人が屯し、エレベーターを待っていたピアティフ中尉を驚かしてしまい、書類の嵐が私たちを襲ったのであった。

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御城 柳サイド

帝都……ほんの1月前まで私が暮らしていた日本の中心。

いまそこに希望がいる。

私が導けるのはここまで。

後はタイプKが目覚めて導けるかどうかだ。

愛……この世界においてもっとも大切で偉大なる力。

たった一人の男を愛した心が世界を救う。

私がまだ経験したことのない気持ち。

お兄様との愛情は兄弟愛、愛の種類が違う。

九羽さんとピアティフ中尉がお兄様に向ける感情がそうだと、私は知る。

……愛……恋か。

私もしてみたかったな。

……あ。2人にお兄様をよろしくお願いしますというの忘れてました。

不覚です……。

いいかげんにお兄様も告白すればいいのに……時間は待ってはくれませんよ。

私はそう思った一瞬、青い地球が丸ではなく、ハート型に見えたのであった。



[1128] Re[6]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/12/14 21:28
御城 衛サイド

日が沈んでから時を数えるより、夜が明ける時間から逆算したほうがはやい頃と思われる時間。

私は基地の裏にある一本木のしたに立っている。

天上で輝く光に照らされる中、私の目の前には一人の女性がただずんでいる。

金髪の髪に鷹のように鋭い目つきが特徴的な美人。

肌は白く、傷一つないのではないかというほどの玉肌。

彼女の名はイリーナ・ピアティフ。

階級は中尉でA-01第0中隊所属のオペレーター兼副司令の補佐を担当している優秀な上官だ。

彼女は頬をほんのりと赤く染め、瞳を潤ませている。

おそらく先程まで茄子の漬物をつまみに酒を飲んでいたからだが、瞳を潤ませているのは違う理由だ。

彼女は震える唇を開きこれまた震えた声で言ってきた。


「も…もう一回……もう一度だけ言ってくれませんか?」


その言葉に私は真剣な顔で頷くと先程言ったことをもう一度はっきりと言った。

私の背後には富士山が隆起してくるのではないのかというほど想いを乗せて。


「私はイリーナ・ピアティフという女性、あなたのことを愛しています。安物の指輪ですが受け取って――」


…………。

…………。

眼球が外気へと晒される。

……ふむ、いつもどおりの天井が見える。

もちろん満点の星空が見えるような宇宙の色ではなく、誇りに汚れてくすんだ天井だ。

体内時計と基地内の雰囲気からして起床ラッパの一刻前といったところか。

体を温かく包む毛布を払いのけ、いつもどおり起き上がろうとし、ふと気がつく。

机の上に乗っている小さなカレンダーには昨日の日付までしかなく今日、年の始まりの一日が載っていないのに気がついたのだ。

そうか……2001年ももう終わって2002年になったのか。

昨晩大尉達と新年を祝ったばかりだというのに思わず感慨深くなってしまうな。

それを振り払うようにベッドから抜け出そうとしていた足をそっと床に下ろした。

ひんやりとした感触が足の裏から脳へと伝わってくる。

新年か……ならば帝都城では毎年恒例のあの行事が行われるはずだ。

私もそれに参加したかったが、今の私にはその資格はない。

殿下からの新年の御言葉を聞くことが今の私にできる忠誠の証だろう。

帝都へ向かった白銀のことがなんとも羨ましい……。

…………。

などと立派なことをいってはいるが、さっきまでの光景が夢だったというこことからの現実から逃避しているだけなのである。

しかもあんな陳腐なプロポーズの仕方があるかと自己嫌悪に襲われている。

もっと本番ではもっとましな告白の仕方を考えなければな……。

鷹に茄子、富士……縁起がいいのに喜べない夢ってなんなんだろうか?


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その6


白銀 武サイド

朝は遠目に殿下の演説じみた新年の挨拶を見て、食事も貰い(無論合成だが)、後はXM3の搭載と動作確認を行うだけだったんだけど……。

あらためて目の前の光景をまじまじと見つめる。

殿下専用機である紫の武御雷が見えるがそれはいい。

だが問題なのはその後ろに控える月詠中尉が搭乗しているであろう赤の武御雷が3機いることだ。

それだけではなく3馬鹿の乗っているはずの白い武御雷は3機どころか9機もいる。

さらにいえば殿下たちの目の前には黒の武御雷が指揮官機らしい角突き……今まで角が着いてるのが普通かと思ってたんだけど違ったんだが、

それらが一列にずらりと並び、後ろに一般斯衛兵の武御雷、不知火、瑞鶴など多種多様な機体が数にして2個隊規模ほどが集まっている。

これを見て御城のやつが斯衛軍に入ろうとしている理由がわかった気がする。

衛士たちの顔は見えずとも前の横浜基地にいたような愚図衛士なんてひとりもいないことが雰囲気でわかるし、その雰囲気から誰もが精鋭だとわかるからだ。

しかし、これから一体なにをやるのだろうか?

斯衛全軍というわけではないが2個大隊規模の数がそろっているなら大隊同士の演習をするのだろうけど……。

まさかこれからはじめるのがXM3の動作確認テストなんじゃないのだろうな?

だったら大げさすぎるし、新年早々派手すぎるんじゃないか?

というかなんでオレまで愛機の国連仕様不知火に乗って殿下たちより少しはなれたところにぽつんと立たせられているんだ?

いつのまに横浜基地に運び込まれたんだろう?

でも視線は殿下に向けられているから晒し者にはなってはいないが……少し疎外感を感じる。

疎外感を感じたのはこっちの世界に着てから何回かあったが今回はもっとも強く感じるんだ。

多分オレが立脚点をみつけたこと、日本人国連衛士としての自覚ができたからだと思う。

以前のオレなら何だこいつら?とかいってこのコクピットの中で文句を延々と口にしていただろう。

そこらへんの自覚をするためのきっかけをくれたのがやっぱり殿下なんだろうな……神宮司軍曹の教えがオレの中で結びついたのも殿下のおかげかもしれない。

やっぱり御城が慕い、冥夜のお姉さんなだけあって大きな存在なんだ。


「我が親愛なる斯衛軍の皆様。昨年の帝都及び将軍家の守護ご苦労様でした。彼の事件、私がいない間帝都城を護り通せたのはあなた達の力あってのことです。

 私はそなた達の力が同胞の犠牲を抑えたこととこの胸にしかと止めてあります。ですが、そこで立ち止まってはいけません。

 今こうしている間にも大陸では名も知らぬ兵士たちが血を流しており、それを助けねばなりません。我が国は度重なる戦いに疲弊し、向けた剣先を一度逸らさなくてはなりません。

 しかし、それは戦うことを放棄するためではありません。人類の勝利のための慎重なる判断、我々が再び侵略者たちに反攻するための準備期間に過ぎません。

 佐渡島で見せた我々の力を高めるために。さらなる結束高めるために。斯衛軍……いえ、全帝国軍将兵の皆様。

 どうかそのお力を、今暫くお貸し下さい……共に未来を見据えこの新しき年を歩んで参りましょう」

「第5帝都城警備大隊!!全機礼砲用意……撃て!!」

「第8帝都城正門守備大隊!!全機着剣!!」


殿下の短いながらも熱のこもった演説を終えると礼砲が蒼穹の空に鳴り響き、長刀が天へと掲げられる。

その動作は無駄がなく、とても戦術機を操る衛士がやっているようなものには見えなかった。

そこではっと気がついた。

斯衛になるものはその任務の性質上将軍家の傍に仕えることが多い。

だから礼儀作法まで修得しなければならないということを依然聞いたことがあった。

ならばこんなことができてもおかしくはないんだ。

……純夏にもこんな立派なものを見せてやりたいな。

……純夏……。

……まだお前を想っているのは軟弱の証拠なんだろうか?

だからオレが邪魔だったのか?


「――これより、2001年度斯衛軍先発模擬戦を行う。なお今回は第19独立警護小隊の月詠中尉達の機体には新型OS搭載されている。

 そこにいる国連軍機はそのお披露目の見届け役と互換性について確認後、演舞を行ってもらう。演習場は――」


純夏のことで頭がいっぱいのオレはその言葉が耳に入っても何の反応も示せなかった。

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九羽 彩子サイド

「物陰に隠れてじっと見つめる出歯亀が3匹……。いや、姉さんもいれて4匹ですな」

「私も変質者?」

「朝美ちゃ~ん出歯亀じゃないです~よ。これはそう、見守っているだけで~す」


……耳元で騒ぐんじゃねえよ元気。

でも変質者じゃないってことだけはあってるぜ。

魅瀬のやつに口開かせるとわけわからんこと言い出すから油断できねえ。

しかし、姉さんことA-01最高バストを誇る彩峰少尉がここに加わっているのは驚きだがな。

なんでも魅瀬の奴と同じにおいがするとしないとかで意気投合。

魅瀬の良き?相談役になってるらしい。

ポジション的には涼宮少尉や榊少尉に相談したほうがいいと、オレは思うんだけど戦術に関することだけじゃないみたいだからいいんだろうな。

……それはいいとして、今はあの赤毛……鑑だったっけな?

ともかく鑑少尉が元気がねえのが問題だ。

白銀少尉がいなくなった途端にあの体たらく……新年初の実機訓練のあの様子は目を覆いたくなったぜ。

……御城の奴も柳がいなくなったのとこの件の相乗効果で頭を痛めてたしな。

だから放って置くわけにはいかねえんだ。


「ともかくあの赤毛っこをどうにか元気づければいいってわけだ。誰か意見ねえか?」


そう聞いてみたはいいが、お気楽2人組には無理だから実質姉さんだよりだ。

鑑少尉とは付き合いは短いが同じ部隊だからまともな意見を言ってくれるはず……多分。

姉さんの口からでてきたのはオレの予想を裏切るものだった。


「……見守るだけしかできない」

「「「へ?」」」


お気楽2人組みも予想外だったのか、オレとあわせて3人の口から間抜けな声が出る。


「これはあの2人の問題……私たちが安易に関わっていいものじゃない。それに相談したいならこちらに気を向けるはず。

 人は迷ったとき、無意識に他人に助けを求めるけど、彼女はそれをしない。私たちに助けを求めていない……ただ一人にだけそれを求めてるけど」

「だからって放っていていいわけじゃないと思うんだけどよ……それに一人ってやっぱあいつか?」

「…………」


返事は返ってこない。

肯定ってことだな。

その一人についてはわかったがはいそうですかって、放っておくことなんてできねえよ。

だが、後ろから聞こえてきた声は姉さんの意見を肯定した。


「彩峰の言う通りだ。私たちが関わることははばかれることだ」

「御剣少尉……」

「それに相談に乗るタイミングはとうに過ぎている。昨夜ならばあるいは……いや、どちらにしろ私たちでは無理か……」


冥夜様……オレは表面上は御剣少尉と呼ぶが心の中では名前に敬称をつけて呼ぶことにしている。

ここまで殿下に似ているとそう呼ばないと無礼な気がしてならないからだ。

その冥夜様は隠れているオレ達を不審に思っているのか思っていないのか自然に会話に参加しているが、やはり鑑少尉のことが気になっているのだろう。


「でも……」

「……鑑の悩みをどうこうできるのは武にしかいない。あれはそういった類のもの、そなたが抱えているものと似たようなものだ」


そういわれると自然と顔が熱くなってくる。

思いっきり見抜かれてる?

それはともかくなぜここまで断言できるんだろうか?


「じょ、じょ、冗談言わないでください!」

「ふふふ、そなたは負けぬように頑張るのだな……彩峰、久しぶりに格闘訓練に付き合ってくれないか?」

「……ヤキソバ一皿で」

「そなたも欲張りだな」

「わりかし」

「ふ、そなたら3人も私たちではなく鳴海大尉や平中尉にどうしたらいいか聞いてみたほうがいい。

 大尉たちのほうがそういった経験多いだろうからな」


そのまま行ってしまう冥夜様と姉さん。

……結局オレッてなんなんだろう?

御城に対するゴマすり?たんなるお節介……?

鑑少尉もいつのまにかいなくなっちまってるし、オレはどうすりゃあいいんだろ?


「……とりあえず鳴海隊長のとこ行っておく?」

「ああ、そうするか」

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鑑 純夏サイド

胸が苦しい。

心臓が……焼けるように痛い。

胸の中に空洞を作ろうと広がる炎。

武ちゃんのことを考えると広がる炎。

でも、考えるのをやめるとそこには冷たい風が吹き抜ける。

これってやっぱり求めてるのかな……?

柳ちゃんが警告していたのはこれのことなのかな?

先生は武ちゃんが任務を終えて帰ってくれば、左遷するっていっていた。

遠く最前線とはかけ離れたBETAがいない場所にと。

それは私が望んでいいたこと出し、私が出した結論のはずだけど、それをやめさせたい自分がいる。

でもそんなことを撤回して武ちゃんの胸に飛び込みたい自分がいる。

駄目。

駄目なんだけど駄目じゃない……もう私じゃわからないよ……。

…………武ちゃん。

会いたいよ。

1日だって会わない日なんてなくていいよ武ちゃん。

でも……御剣さんたちのことはどうなるんだろ?

……あれ?おかしいな何でこのタイミングで涙が出るんだろ?

そうだこういう時は霞ちゃんとお話しよう。

話していれば何かわかるかもしれないから……ね?

そして私はよろよろと歩き始めた。



[1128] Re[7]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2006/12/26 18:44
イリーナ・ピアティフサイド

むう。

私は少し乙女チックすぎるのだろうか?

自室のベッドで枕を抱きながら考える。

涼宮中尉に先日の出来事、あの人に生き残れる確率……涼宮中尉は彼の能力をしらないのでそう聞いたのだが、それをきいたときのことを話したのだ。

その結果が乙女チックすぎるといわれた。

首を捻りながらもう一度そのときの会話を思い出してみる。


『それで生き残れるかどうか聞いて、なんて返ってきたんですか?』

『冗談でも莫迦なことを聞いてはいけない……だって。やっぱりこれって振られたということなんでしょうか?

 じゃなければ“必ず生き残ります。あなたは私が守るから”くらいのことを言ってもいいと思うんですけど……って何笑ってるんですか?』

『ピ、ピアティフ中尉……それはちょっと乙女チックすぎますよ。彼だっていきなり生き残れるかなんて聞いてきたら慌てて遠まわしのアプローチに気づかないですよ』

『つまりアプローチするにしても話題がまずかったってことですか?』

『そのとおりです。御城少尉との付き合いは短いですけど、彼は中尉のことを大切に思っているから莫迦なことって言ったんだと思います。

 中尉が死ぬことを考えているとか真剣に悩んじゃいますよ?』

『それは……困ります』

『はい、よくできました。後乙女な考え方は程ほどに……でも、私も孝之君にかならず守るって言って欲しいから少しくらいはいいかもしれませんね?』

『そんなに私は恋する乙女なんでしょうか?』

『もちろん!』


回想終了。

私が乙女……?。

幼少の頃から士官学校まで浮いた話がなく、自分自身も恋というものをしたことがなかった。

たしかに男友達は多少いたが、そういった関係にはならなかった。

そして今の職場に来てからもそういったことはなかった。

彼と出会うまでは。

彼との出会いはたしか書類を運んでいたときだった。

自分の顔が隠れるくらい積み上げた書類をもってえっちらおっちら歩いていて通路の曲がり角で彼と……。

……思い出しただけで顔から火が出そうだ。

それからが副司令直属の部下になり連絡係として使わされるようになった。

今思えば、彼の苦悩が深まったのもこのときからだ。

しかし私の恋もそこから始まったのだから一概に悪いとは……いえないのかな?

演習での挫折、立ち直り……まだまだ語ることは多いが、たった半年で人生で一番といっていい濃密な時間だった。

半年……でも彼のことをまだまだ理解し足りない。

それが私の乙女として……女としての未熟なところだろう。

彼も私のことを理解してくれているのだろうか?

……していなくてもこれから、これから私を知ってもらえればいい。

そう、これからだ。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その7


白銀 武サイド

……死ぬ。

もうだめ。

昨日のことだけど寝て起きてこの疲労度はやばい。

なんですかあの武御雷は?

アクロバット操縦、下手したらオレよりうまかった。

オレみたいな機動戦闘をするやつなんていないと高をくくっていたけど、世界って広くて狭いんだな……。

相手の名前は……たいしか紅蓮少佐だったか?

XM3を搭載してそんなに日がたっていないのにあれはないでしょう?

負けはしなかったけど……なあ?

月詠中尉といい三馬鹿といい、斯衛のやつらは皆化け物かよ。

そんな化け物と呼べるトップ衛士たちの中に入ろうなんて御城の覚悟はすげえよな。

でも、あいつはどうやって斯衛に入ろうと考えてんだろう?

国連軍に入った以上帝国軍との人員交換でもしない限り無理だろうに。

一応A-01に入っている以上実力は確かだけど城内省が許すのだろうか。

殿下に伝があるといえばあるが、あいつはそれを利用することは考えていないみたいだが、月詠中尉は少し心当たりがあるみたいだった。

……もしかして冥夜と結婚する気なのか?

たしかあいつの好みは傍で支えてくれる女性と聞いたことがあったな。

なるほど、そう考えれば政府からしても無視できない存在になるから手元で監視するためなら斯衛ぐらいにはしそうだ。

それに何だかんだいって御城も気になってるみたいだし、冥夜も御城には気を許しているみたいだから案外いいのかも……。

でも、冥夜はやっと自由になれたのにまた鎖に縛られるようなことがあっていいのか?

お互いそれを感じているから微妙な距離感なんだろうな。

……オレも人のこといえないか。

XM3の試験も終わったし、後は帰るだけだ。

その後どこに左遷させられることやら……先日殿下がもらした一言を思い出した。


『XM3の件もそうですが、そなたは何か悩んでいますね?』

『い、いえ、そんなことは……』

『顔にはっきりと書いておいてないことはないでしょう?』

『…………』

『白銀、本来なら許されることではない。が、お前の力になろうと殿下が言っておられるのだ。

 気兼ねなくとはいかぬが話してみろ……その間私は席を外す。失礼します殿下』


中尉が出て行き部屋には静けさが訪れた。

だがその静けさもオレの声によってかき消された。


『……オレは好きな人がいたんです。でも恥ずかしいことですが、この間振られたんです。オレは彼女を必要としてけど彼女は必要としていなかった。

 終いにはしつこくしたせいなのか、憐れとまでいわれましたよ。

 ……オレはあいつにとって負担でしかなかったんですよ。そう考えると憐れなのかもしれません。こんな泣き言を殿下に聞いてもらってる時点で情けなくなりますしね』

『白銀』

『はい……』

『私は色恋沙汰には疎いが人の心の動きには敏感なつもりです。その女性は聞くに無理やり嫌われようとしている感があります。

 わざと嫌われるような発言をして離れさせる……陳腐ではありますが効果が高いやりかたですね』

『え……ということは純夏はわざと?』

『……純夏というのですか』

『あ!』

『ふふふ……しかし白銀。私は色恋沙汰に疎いゆえ、私が言ってることは必ずしも正しい的を射てるとは限りません。

 故に何事も自分で決めることが大切なのですよ?』


回想終了。

…………。

そうだ、まだだ。

純夏ともう一度話をするんだ。

振られたにせよあの別れ方は納得いかねえ。

納得のいかねえ終わり方で恋が終わっていいはずがないんだ。

嫌われたっていい。

あいつと正面から本音でぶつかり合いたいんだ。

まだオレは終わっちゃいけないんだ。

そう思える今なら純夏と向き合えるような気がした。

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御城 衛サイド

午前の訓練はなし。

本来なら朝食をとり終わったらブリーフィングルームに向かうところなのだが、本日は違った。

いつもの3人娘と食事をとるまではいつもどおり。

だが、事前の連絡により午前の訓練は中止。

理由はやはり鑑少尉のことだった。

病気と理由づけしているがそれは嘘なのは承知済み。

ならばさして慌てることもないのでPXにたむろすこととなったのだ。

だが、3人娘は用事があるとかないとかで離脱。

私も撤退しようと腰を上げかけた矢先に平中尉がやってきて、世間話をした。

そして話が終わり去ろうとしたところにまた人がやってきた。

宗像中尉、風間少尉、速瀬中尉の御三方だ。

で、目の前に麗しき女性達がおりその美声を聞いているわけなのだが……。


「白銀がいないとどうも張りが出ないのよね~」

「速瀬中尉、その言葉だけを聞いていると白銀のことを恋しく思っているみたいですよ」

「んなわけがないでしょうが!!あんたの耳はどういう風になってるのよ」

「速瀬中尉が恋しく思ってるかどうかさておき、からかう相手が少ないというのも事実ですけどね。

 目の前の男はそういったこととは程遠そうですし」


そう言いながら私に目を向けてくる。

私は白銀ほど単純な人間だと思われてなくてほっとする。

ちょっとした優越感を感じるが、このくらいで優越感を感じるのは安っぽい気がするな。

湯気の立つ熱々の合成緑茶ちらりと見ながらのんびりとそう思い返事をするため口を開いた。


「私に白銀のような役割を求めるのは筋違いかと」

「……梼子のいったとおりだな。本当に面白みに欠けた性格だ」

「宗像中尉、私はそこまでいってませんよ。気にしないでね御城少尉」


……ふむ。

平中尉が風間少尉に気があるという話はあながちデマではないかもしれない。


「腕は立つけど面白みのない真面目な性格か……だからあんたは孝之と違ってもてないのよ」

「……そこで何気なく惚気るよりはマシかと」

「あ!?なんかいった」

「と風間少尉が言ってます」

「え……?」

「風間は関係ないでしょう!!」

「……私の専売特許をとるとはいけないな御城少尉」


これ以降の会話はなぜか速瀬中尉と鳴海大尉がうまくいくかどうかが話題になり、速瀬中尉を激憤させるのであった。

そして彼女達も席を立ち私もようやっと去ることができると思った矢先、またもや呼び止められることとなってしまったのだ。


「御城、少しいいか?」


その声の主は冥夜様だった。

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御剣 冥夜サイド

なぜ今こんなことをやっているのだろうか?

盤上の駒を動かしながら自分のとった行動に疑問を抱いている。

私の悩みはだれそれと打ち明けるものではなし、決着は……まだつけていないが着いたも同然だ。

だが目の前の男、御城には……タケルに近い男なら打ち明けてみようかと思ってしまった。

しかしそれがいつのまにか将棋をやろうという誘いになってしまったのだ。

墓まで自分の胸の中にしまっておく……そう決めためなのかもしれない。

私はそう考えまた盤上の駒を動かした。

何の変哲もない定石どおりの動き、その対応も当然定石どおりに打ってくるかと思えばいつまでも手が伸びてくる気配がない。

おかしいと思い顔を上げると、そこにはじっと私の顔を見つめる御城の顔があった。

私は怪訝に思い眉を顰める。


「……なんだ?」

「……何を悩んでる?」


その一言が存外に私を動揺させた。

背中に電撃が走ったように力が入る。


「え?」

「駒を動かす動作からして迷いが出ている……というのは冗談だが心ここにあらずといった感じだ。

 そんな状態で将棋をしても負ける気がしない。やめだやめ……友人として相談に乗っていいぞ?」


不器用ながら家臣としてではなく、友人として悩みを聞いてくれるという気遣いに少し感謝する。

だが、そのまま包み隠さずいうのは顔から火が出るほど恥ずかしいことだ。

しかい折角相談に乗ってくれると気遣いを無下にしたくない。

ならば当たり障りがない程度に話すのがよかろう。

微妙に比喩を使って私の悩みであるタケルのことについて聞いてみた。

まあ、気づかれたかもしれないが……この男なら胸のうちにしまってくれるだろう。

御城は私の話を聞くと少し困ったような顔をする。

私の話にわかりにくいことがあったのだろうか?


「……すまん」

「は?」

「私にはよい助言がでてこない。私もそういったことを現在悩んでいてなまだ未解決だからな。ようはその……餅友人に譲るか譲らないかを決めあぐねていると?

 しかし餅はもうその友人の手の中に収まりつつあると。難しいことだ。だが、ひとつだけ助言できることがある」

「……それはなんだ?」

「餅が欲しいなら餅が欲しいといってもいいのではないか?何も隠すことはないのではないか?鳴海大尉みたいな例もあるのだからな。

 しかしそれ相応にリスクも高いゆえ、安易にその選択もとるのも悩むことだ」


伝えないで終わったら後悔することも多い。

そう月詠にも聞いたことがあったな。

しかし人間関係がおかしくなることもある。

……しかし終わりたくない。


「すまないな。結局悩みを増やさせただけのようだ」

「……いや、参考にはなった。そなたに心よりの感謝を……ところでそなたの悩みとは一体どこの餅のことなのだ?」

「すまん。急用を思い出した失礼する」

「あ、待て」


あっという間に席を立ち走って逃げ出す御城。

……人のことを聞くだけ聞いて逃げ出すなど失礼な奴だ。

だが、その餅が誰なのかは大体検討がついているからよしとするか。

……少し寂しいきがするがな。

さて、私はどういった道を選択するのかこれから決めなくてはな。



[1128] Re[8]:マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
Name: 通行人A◆b329da98
Date: 2007/01/05 19:09
香月 夕呼サイド

白銀は明後日帰還か……。

帝国軍の現状を自分の目で見ろと命令したが、本当はタイプKと少しでも長く引き離すことが目的なのだがあいつのことだから、

そこまで考え付いていないはずだ。

あいつは馬鹿正直だから命令を鵜呑みにするのは明白。

ちょっとは考えるようになったけど人間何だかんだいって急に根本は変わらないからね。

伊隅の報告によれば、タイプKの状態は不安定。

私の読みどおりにことが運べば完全無欠の兵器へと変貌するだろう。

そして次の作戦を完了すれば人類最大の攻撃に移れる……、

甲20号、26号共にあらゆるデータが完璧にそろっている。

予想通り甲21号の残存BETAは20号に撤退、大東亜連合軍も佐渡島仮説基地に集結中。

帝国も領土への進入許可を出してくれるほどの援助をしてくれる。

甲20号がなくなれば事実上BETAからの進攻を受けることはなくなるのだからそこらへんは妥協したのだろう。

アラスカにいったXG-70bとタイプMもきわめて順調に稼働中。

後は日を待つのと白銀次第というわけだ。

……さてと後あれの調整も済ませなければね。

あのじゃじゃ馬を調整するのも一苦労よ。

席を立ち上がろうとしたとき最近なりっぱなしの内線がけたたましくなった。

少しとるのがしんどいが無視するのは人類の存亡に関わるかもしれないからできない。

当然のように受話器に手を伸ばした。


「はい、私だけど?」

「副司令!至急こちらに来てください!」

「どうしたのそんなに慌てて?落ち着いてしっかりと報告なさい」

「佐渡島から持ち帰ったデータの未解析部分から――が発見されました!」

「――なんですって!?すぐそっちに行くからデータをまとめておきなさい。いいわね!?」


時刻を確認すると今は夜中の8時……まだ司令はお休みにはなっていないだろう。

受話器をつかみまずはピアティフに連絡を入れる。


「こちら司令秘書室、所属とご用件を――」

「香月よ。至急司令に繋いで事は一刻を争うの」

「――少しお待ちください」


言った後にすぐにはっと気がついた。

司令に事情を説明した後には間違いなく混乱が生じるだろうことに。

これでは白銀の帰還命令が伝わらない可能性が高くなってしまう。

……いや、伝わらないと思ってこれからのことを考えたほうがいいだろう。

ったく、命令系統が違う組織にいかせている間にこんなことになるなんて本当に女にもてない奴らだわ。


「――私だ。香月博士、何か重大なことでも起こったのかね?」


受話器の無効にこの基地の最高責任者が現れたのが聞こえてきた。

なるべく落ち着いた声で、かつ明瞭にこれから起きることを話すことにした。


マブラヴALTERNATIVE
~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~
第七章その8


九羽 彩子サイド

昼飯時は人間誰でも腹がすく。

それは軍人ならなお更だろうよ。

だから食糧事情が悪くても優先的に回されてくるし、それ目あえてで軍人やる人間もいる。

そんなやつは好きにはなれないが、世の中は立派な人だけじゃねえってことはわかってるつもりだ。

下品な奴、自堕落な奴、説教好きな奴。

どれもかしこも含めてみんな人。

んで目の前の世話好きな上官も人ってわけだ。


「九羽少尉、お前は女の子なんだからもっと行儀よく食えよな」

「……飯食うときくらい説教しなくてもいいじゃないですか平中尉」


他のやつには注意しないのにやたらオレだけを標的にする説教男……平中尉はオレの行儀作法についてやたらと口出ししてくる。

どこから説教する力が出てくるのかなと心の中で首を捻ることもしばしばある。

それもこの基地にきてからだ。

本来の自分を取り戻したのなら単純に喜ぶべきことだが、説教される身となってはげんなりするしかない。

で、目の前の中尉はというと。


「そういうわけにはいかないないだろう?お前らが将来斯衛になるならテーブルマナー、行儀作法、その他もろもろのことをマスターしなければならんのだぞ?

 只でさえあそこは家柄がいいところのやつらが集まるんだから、恥をかきたくないだろう?だからオレが率先して最低限のことを教えようと……」

「家柄もなにもない一般の人もはいってるんでしょう?なら問題ない、以上」

「……御城の奴が悲しむだろうな。殿下の前で恥をかかされる御城……魅瀬」


平中尉が御城のことを持ち出してぎくりとするオレの横で魅瀬のやつが親指を立てつつお呼びに答える。

な、なんだ?

魅瀬は少し咳払いするとこちらに顔を向けつつ、なんと声色を変えて一人芝居を始めたのだ。


「殿下……部下の無作法を平にご容赦。上官である私の責任ゆえ、私が罰を受ける所存でございます(御城声)」

「よい。そなたがいかに優れたものとはいえ下に優れたものが着くとは限らぬ。このような者もなかにはいよう(殿下声)」

「しかし――(御城声)」

「どうしてもいうなら国連軍の通信仕官を尋ねなさい。さすれば道は開けるでしょう(殿下声)」

「はっ、殿下ありがとうございます(御城声)」

「――こうして愚かにも行儀作法を知らない少尉は上官から見捨てられ、国連軍でであった通信仕官とともに末永く暮らしましたとさ(棒読み)」


…………。

…………。


「あー……魅瀬少尉既に話が無茶苦茶なような気がするんだが、オレの頼んだ脚本はどうした?」

「……この方がいいと思ったから大改造しました」


…………。

…………。


「朝美ちゃんちょっとそれは無理ありすぎ。話以前の問題のような気がする、ね、霞ちゃん」


ウサ耳がぴこんと前に倒れる。

いつのまにちびっこがいるんだよ……って。


「何でそこの話にあの金髪が出てくんだよ!!」

「うお、びっくり(棒読み)」

「あんだてめえ!?喧嘩売ってんのか!?ああっ!!??」

「霞ちゃん恐い~ね~。さっさと退散したほうがいいですか~ね?」

「……そうですね」

「……ところでなんでここに社がここにいるんだ?」

「ひ・み・つ、ねぇ~」


喧嘩するオレの横ではわけわからないやり取りをさせつつ遠目からみているやつらがいることに全く気がつかなかった。

気がついたとしてもどうでもいい組と気がついてもどうにもできない、できなかった組だった。

前者のほうは本当にどうでもいいが、後者は後に全力阻止したがな。

……できなかったんじゃないのという突っ込みを元気から受けたけど関係なしということで。

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気がついてもどうでもいい組サイド

「……珠瀬、あれは一体なにをやっているのかわかる?」

「多分、胸――じゃなくて痴話喧嘩じゃないですか?」

「鎧衣は?」

「同じくむ――じゃなくて痴話喧嘩だと……でも千鶴さん、ああいうのは首を突っ込まないほうがいいと思うんだけど?」

「……鎧衣にしては珍しく的を射た発言ね」

「酷いな~」

「まあ、それはいいとしてさっさと席を確保せねばな……彩峰そんなに急いでどうした?」

「今日はヤキソバの日、大盛り万歳」

「……なるほどな」

「ねえ、晴子」

「なに、茜?」

「平さんがいるから大丈夫だろうけど、ほっといてもいいのかな?」

「いいんじゃない?それより私もヤキソバ食べたいな~」

「……御城君も大変なんだな」

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気がついてもどうにもできない、できなかった組……もとい
御城 衛サイド

はて、九羽のやつがまた騒いでいるようだが……平中尉がいるなら多分大丈夫だろう。

それはいいとして社が何でここにいるのであろうか?

鑑少尉についていなくて大丈夫なのだろうか?

そういった疑問が頭に浮かんでくるが昨日のことを思い出す。


『純夏さんには今はまだ会わないでください』


昨日、せめて白銀の代わりにと様子を見に行こうとしたのだが、そういって止められたのだ。

社が鑑少尉に対して並ならぬ絆を持っていることは薄々気がついてはいるがあそこまでとは驚いた。

だがそれはいいことだろう。

何であれ、あの社が他人に関係をもつようになったのだからな。

そんなことを考えていると肩を叩かれる。

……どうやら横にいる女性を待たせてしまったらしい。

それに答えるため横にいる女性……ピアティフ中尉に顔を向けた。


「……にぎやかすぎますが、どこの席にします?」

「そちらから誘ったならエスコートも最後までやるべきではないか、少尉?」


ふむ、彼女がいることに多少気になっているが、大人の余裕?で誘いを無碍にはしないらしい。

私としてもありがたいことだ。

この際九羽には悪いが、私は私が選んだ餅を手に入れたいと思う。

冥夜様もそう決めると決意されたようだから、家臣であり友人である私が決めなくてなんとするのか。

そういった気概で望んだ結果、遂に念願の食事に誘うという一大任務を成功することとなったのだ。

白銀語でいえば“マジかよ”と叫びたくなったほどだ。

初夢に不安を覚えたが、あれはまさに正夢になるのではないだろうかという期待まで抱かさせてくれるほど、私は舞い上がっているしだい。

それはともかくこんなこともあろうかと第3の師である伍長たちから聞いた女を口説く方法を実践するときが来たのだ。

……寒い中コーヒー持参で通いつめたカイがあった。

私は軽い足取りであの喧騒から離れていてかつ混みすぎていない席に彼女をエスコートしてそれぞれ手に持った盆をテーブルに置いた。

本日のメニューはヤキソバ、思わず彩峰ならば特盛を頼んでもおかしくないと考えてしまう。

……それはそうと席に着いたはいいが何を話せばいいのだろうか?

相手も同じらしく箸も持たず俯いている。

なにかはなさなければ……。


「……とりあえず、食べましょうか?」

「……そうだな」

「……美味い」

「……そうですね」

「「…………」」


だめだこれでは。

伍長達がいっていたではないか。

沈黙ほど女を退屈させることはないと。

何かないか!?話題は!?

このような席で仕事の話は論外とかいっていたはずだ。

天気の話?論外。

九羽の話?大気圏外並に論外。

考えろ考えるんだ御城衛!!

脳内会議が白熱しているなか以外にも目の前の女性から話を振られることとなった。


「……こほん。ええと話に何の脈絡もなくてすまないんだが。この後書類を運ぶんだが……ちょっと量が多すぎてだな。

 私の背と力では……そう隠れたり落としたりしてしまうんだ」


……私は頭にスパナをぶつけられたような衝撃が走った。

私はなんて莫迦だろう。

目の前の女性を楽しませるために四苦八苦して話題を探していた。

しかし彼女は今、ただ一緒にいるだけが言いと遠まわしに言っている。

彼女は話す話題がないなら傍にいるだけで嬉しいといってくれた。

なら私もそれに答えればいい。

言葉を重ねるのは野暮というのだろうな。

しかし、遠まわしにこう誘いをかけている中尉も中々かわいい。

いままで美人とか凛々しいといった類の魅力ばかりに目がいっていたが新しい発見だ。


「だから……って、何ニヤニヤしている?」

「……失礼しました。あまりにも中尉が可愛いことをしているもんでつい頬が緩んでしまいまして」

「~~~~何を莫迦なことを言っている!早く箸を動かせ」

「ははは……書類の件ですけど、喜んでお手伝いさせていただきますよ」

「……こき使ってやるからな」

「了「ちょっと待ったーーーーーーー」解」


んん?変な声が横から聞こえてきたのは気のせいだろうか?

声のしたほうを見ると気のせいではなかったらしく九羽の奴そこにドンとたっていた。


「ピアティフ中尉書類の件はオレ達3人で運びますから御城は外してやってください!」

「はっ?」

「何も男である御城にやらせることはないないでしょう?」

「いや、その前にさっきまで騒いでいたお前が何故ここにいるのだ?それにいってることが破綻している」

「そんなことは関係なしにオレ達が書類を運ぶといってるんです!」


全く持って意味がわからない展開だこれは。

平中尉を探すと彼女の後方にいて眉間をほぐしていらっしゃる。

……止めるの失敗したんですね。

ピアティフ中尉も状況がわからないらしく何を言われているのか首を傾げている。

これは後でブリーフィングで罰を受けてもらわなければならな――。

その時基地の中全体に響き渡る警報が発せられた。

その音は今までの喧騒をぴたっとやませ、物思いにふけっているものを現実へと回帰させた。


「防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は完全武装で待機せよ。

 繰り返す、防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は……」


この言葉が告げられたときから戦いは始まった。

これから始まる戦いは正に地獄といっても差し支えのない血にまみれたものになる。

そう誰もが直感でそれを悟るのであった。


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