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[11715] 『執務官補佐は自重しない!~お気楽エイミィさん~』(閑話追加しました)
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/12/22 20:13
本作は、アニメ「リリカルなのは」シリーズのSSです。
傾向としては「憑依:現実→なのはキャラ」で、ノリはコメディ系。
主人公はエイミィ・リミエッタですが、カップリングは「クロノ×フェイト」その他になります。

主人公は、ある意味原作尊重、しかし別の意味ではやりたい放題してます。
「みんなで幸せになろうよ」という、とんでもなく欲張りで我儘な望みを抱いてますが、最強系とはほど遠い実力の持ち主ですので、基本裏方かつ地味な動きになります。
また、自分の望みが、利己的で歪なものであることも理解しており、ある意味開き直ってもいます(割り切れたわけではありませんが)。

以上を承知の上、興味を持っていただけた方は、第一部1話より順に読んでいただければ幸いです。



[11715] 第一部:遣り手ババァと呼ばないで -エイミィの萌えキュン日記-1
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:46
<その1>

 エイミィ・リミエッタ。
 時空管理局所属の執務官補佐にして、次元航行艦アースラの通信主任兼管制官。現在(無印最終回時点)は16歳。
 クロノ・ハラオウン執務官の右腕であると同時に、士官学校時代からの腐れ縁。仕事上は上司と部下だが、プライベートではむしろ堅物な弟と気さくな姉に近い関係。
 ……「なのは」シリーズの熱心なファンというほどではないけれど、一応、無印とA'sを全話観てた身としては、それくらいのことは知っている。
(ちなみに、三期は長かったんで、途中何話か観損ねちゃった)
 まぁ、いわゆる準レギュラーのサブキャラってヤツ? アースラ関連のシーンでは、それなりに出番はあったしね。リンディ提督や10年後の成長したヒロイン三人娘ほどじゃないけど、そこそこ可愛いし、声は松岡由貴だし、脇役としてはなかなか美味しいポジションかもしれない。
 ──もっとも、突然その位置に連れて来られた私としては、無理にでもそう思わないとやってられないってのもあるけど。

 改めて自己紹介。
 私、田村恵美(20歳・女子大生)は、気がついたら、そのエイミィ・リミエッタ執務官補佐としてアースラのブリッジでオペレーター席に座ってました。
 まさに、「あ…ありのまま 今 起こった事を(以下略)」って感じ?
 いや、まぁ、心あたりらしきものはあるのよね。
 最後の記憶は、駅のホームから落ちて目の前に迫る電車に思わず目を閉じちゃったところ。ブレーキかけてたみたいだけど、ありゃ間違いなく死んだわね、ウン。
 これってアレかな、同人やSSでよくあるアニメキャラへの「憑依」? 「転生」とは違って、赤ん坊に生まれ変わったんじゃなく、いきなり成人(って言っても16歳だけど)してるし。
 ディープとは言わないまでも、一応アニヲタのはしくれに引っ掛かるだろうライフスタイルしてた私だから、その手の話を耳にしたことはあったけど、いざ自分がその立場になると、やっぱりマゴつくわね~。
 ご都合主義的にエイミィとしての記憶も頭の片隅に残ってたから、業務自体は一応こなせたけど、やっぱり態度が不審だったのか、つきあいの長いクロノくんやリンディ提督には心配されちゃった。
 とりあえず、何とか誤魔化しつつ早急に「エイミィ」としての生活に馴染むようにする私。
 幸いPT事件そのものは最後の「時の庭園」突入も無事終わり、なのはちゃんがフェイトちゃんを救出してきたところだったので、艦の警戒レベルも下がってくれたので助かったわ。
 いや~、ぬるま湯的平和浸りの日本でごく普通の女子大生してた女の子に、いくら後方(バックアップ)だからって、”戦場”の空気にいきなり慣れろってのは酷ですから。
 え? 自分を田村恵美だと主張しないのか、って?
 ……常識的に考えて、無理でしょ。
 まず、フィクションの世界で「これが作りものの世界なんだ!」って主張して受け入れられるとは思えないし。「スターオーシャン3」みたく、特別な事情や証拠があれば別だけど。
 そもそも、私が「別世界」から来た田村恵美であると立証すること自体ほぼ不可能。
 もしかしたら「この世界の日本」にも田村恵美に相当する人物はいるかもしれないけど、普通に考えれば、その娘が私と同じく列車事故で死んでるという可能性はそう高くない。そうなったら、ここにいる私はやっぱり「アンタ、誰?」ってことになるしね。
 元の自分や「現実」への未練は……まぁ、まるっきりないわけじゃないけど、戻るのはほぼ不可能(そもそも、現実では死んでる可能性大)となれば、この新たな人生を謳歌するのが「最優先事項よ!」ってね。
 体を乗っ取られた本物のエイミィちゃん(だって、この子、本来の私より年下だし)には災難だろうけど、私も意図してこうなったわけじゃないから、あきらめてもらうしかない。……って言うか、完全に私が乗っ取ったというより、むしろ「融合」に近いのかも。
 さっきも言ったとおり、エイミィとしての記憶も確かにあるし、動作のクセとかは無意識にエイミィのものが出てるみたいだし、食べ物とかの嗜好もエイミィ寄りになってるみたいだし……。
 仮にもし、そうなら、多少は罪悪感も薄れるんだけどな~。「エイミィは消えちゃいない、私の心の中で生きてるんです!」って胸張って言えるしね。
 それに……実のところ、このエイミィ・リミエッタって、何気に勝ち組なんだよね!
 正直、田村恵美時代の私は決してイケてなかった。太ってはいないけど凹凸のないガリガリの体つき。かといって男装コスプレできるほどの凛々しいわけでもないし、顔だってどんなに贔屓目に見たって十人並み。運動は苦手だし、多少マシな頭の方も一浪して何とか県立大学に入れる程度で「優秀」とは言い難い。趣味はアニメとゲームで、ファッションとかには疎い典型的なヲタク女(腐女子と言うほどBLには興味なし)。
 一方、エイミィはと言えば、それなりに美人でスタイルもよく、まだ16歳なのに管理局の執務官補佐というエリートコースで、職場の環境にも恵まれてるし……何と言っても周囲に美女や美少女や美少年が多いしさ♪
 ブッちゃけ、ちゃねらーなら「キターーーーッ!」って叫んでもいいレベルの幸運だと思う。
 まさに、今も無印「なのは」最終回の、なのはちゃんとフェイトちゃんが再会を誓いあってリボン交換する感動のシーンが、目の前で展開されてるしね。
 そばにいるクロノくんやリンディさんも、けなげ度MAXな展開にうるうるしてる。それは私も同じなんだけど、私の場合は「あの名場面を生で見れた!」という意味での感動要素の方が強いかもしんない。
 やがて、戻ってきたフェイトちゃんを、私も含めたアースラスタッフは暖かく迎えた。この光景を見たら、誰も彼女が次元犯罪の実行犯にして裁判を待つ重要参考人だとは思わないだろう。愛されてるなぁ~。
 もっとも、私だって彼女のことは大好きだ。元々、アニメでのプレシアのネグレクトぶりを見て憤慨してたってのもあるし、実際こちらで身近で接するようになってから、この娘が本当に愛らしくて、はかなくて、けなげで、とてもいい子だってことが、すんごくよくわかったし。
 もし私の憑依があと2週間早ければ、アースラのアルカンシェルで時の庭園ごとあのDQNババァをプチ殺してやれたのに! なんて思うくらい。……いや、さすがに主砲発射するほどの権限はないけどさ。
 「よし、決めた! 私、これから、フェイトちゃんのお姉さんになる!」
 「何、バカなこと言ってるんだ、君は?」
 ──パコンと小気味のいい音をさせて、クロノくんにはたかれました。
 「もしかして、君、そちらの趣味でもあったのか?」
 「うぅ、ヒドいよ、クロノくん。年上のおねーさんの、純粋な好意なのにぃ」
 ”いつも通り”、クロノくんと軽い言葉のジャブでじゃれあう。
 アニメでもこんな感じだったけど、私(恵美)の目から見てもクロノ・ハラオウンという少年は、確かに”弟”って印象が強い。
 いや、実際、現実の恵美の弟と見た目からしてよく似てるんだよね~。アニメ観た時から思ってたけど、3Dの世界で生で目にすると笑えるほどソックリ。性格に関しては、弟の勇次は多少ヒネてる面もあったけど、基本的には頑固で正義感が強いところなんかは、ワリと似てるしね。
 ブッちゃけ、私としてはこの子のこと、弟分としてしか見れません。そもそも、私の男性に関する嗜好は、どちらかと言うと年上シュミだし。
 さすがにグレアム提督はフケ過ぎにせよ、騎士ゼストとかナカジマ陸佐なら余裕っス! もっとも、ふたりとも愛妻家っぽいし簡単には振り向いてはくれないだろーけどさ。あ、でもルーテシアのお母さんはゼストの奥さんじゃないんだっけ? ふたりとも姓違うし。
 まぁ、それはさておき。何が言いたいかと言うと、「StSでのエイミィとクロノの結婚と言う展開はマジ勘弁!」ってコト。正直、フラグはブチ折れてマス。ヴァイスかヴェロッサの方が、まだしも可能性はあると思う(や、あくまで私の好みとして、だけどね)。
 むしろ、私としてはクロ×フェイを全力で推進したい所存。あと、なの×ユーとか。
 可愛いは正義! 愛らしい少年少女の仲睦まじいカップルって、見てて心が和まない?
 そこ! 趣味全開とか言わない! まぁ、まるっきり否定はできないけどネ。
 どうせ拾った二度目の命、原作知識を利用して、自分の好きな方向に物語をねじ曲げてみるのもアリかにゃ~。
 「──何やら、不穏な気配を君から感じるのだが……」
 クロノくんにジト目で見られたけど、気ニシナイ!

 そんなワケで、現時点をもって、私エイミィ・リミエッタによる、「クロノくんとフェイトちゃんのラブラブ大作戦、なのユーもあるよ?」プロジェクトが、密かに開始されたのでした、まる。

-つづく-
--------------------------------------------------
なんと言うか、メチャメチャ頭の悪い憑依物が書いてみたかったんです!
……まぁ、その意味では成功してるのか。自重しろ、私。



[11715] 遣り手ババァと呼ばないで -エイミィの萌えキュン日記- 2
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:49
<その2>

 さて、元日本人の私・田村恵美がミッドチルダ出身のお嬢さん、エイミィ・リミエッタに「なって」から、半年あまりの時が過ぎました。
 前も言ったとおり、元々のエイミィの記憶も持ってるから、たいていの場面では苦労しないんだけど、それでも中身は別世界の別人、やはり戸惑ったりボロ出しかけたことも少なからずあったりする。
 その代表的なのが、魔法ね。
 無論知識としては知ってるわよ? 田村恵美としてもアニメで何度も見てるし、エイミィとしてはミッドチルダ式魔法の基礎知識すら覚えている。どうやら、非魔導師であってもこのヘンは士官学校で必修だったみたい。
 でも、実際、生身で空飛んで、ガンガンビーム撃ってる人(しかも知り合い)を間近で目にすると、思わず「テラシュール!」って言いたくなる。
 けど……同時にやっぱりどこか憧れるのよねぇ。とくに「空を飛ぶ」ってのは、やっぱ人間にとって根源的な夢だと思うしさぁ。
 「何だ、エイミィ、羨ましそうな目で僕らを見て」
 だから、ついつい模擬戦を終えたクロノくんとフェイトちゃんを見て、羨望の色が表に出ちゃったんだと思う。
 それを表情から感じ取ったクロノくんは、さすがにエイミィの長年の相方と言うべきなのかな。フェイトちゃんも「あの……エイミィさんも、もう一度魔力検定を受けてみたら」なんて、気を使ってくれるし……。
 うぅっ、本当にいい子だわ、この子たち。
 ──ちなみに、折角の機会なのでアースラの測定室で計測してもらったところ、結果は「魔力資質D;職業的魔導師となるのは難しいが、初歩的な魔法をいくつか習得することは可能」というものだった。
 以前士官学校で計った時は「魔力資質E;魔導師になるのは絶望的。簡単な魔法の習得も難しい」という結果だったはずだから、クロノくんも驚いていた。たぶん、これって「田村恵美の魂」が「エイミィ・リミエッタの魂」に混ざった結果じゃないかな、と思う。
 あ! ちなみに、「魔力資質」と「魔導師ランク」は全然別のものよ? クロノくんを例にとれば、魔導師ランクはAAA+だけど、魔力資質自体はB+、前線の士官としては平均より多少上というレベルだしね。
 でも、せっかくなんで暇を見つけては初歩的な魔法を習ってみることにしたわ。執務官として忙しいクロノくんに頼むのは申し訳ないから、比較的暇な時間の多いフェイトちゃんにお願いする。
 「え、えっと、人にものを教えた経験なんてないから、うまくできるかわからないけど、わたしでよければ……」
 はにかみながらも、そう言ってくれたフェイトちゃんの様子があまりに愛らしくて、おねーさん、つい抱きしめちゃった♪
 私の魔法の習得自体は遅遅とした歩みだったけど(ごめんね、才能なくて)、フェイトちゃんと接する時間が増えたおかげで、より一層仲良くなれたのは、個人的には役得かな。
 裁判の方も順調だし、原作の流れ同様、このままなら「ほぼ無罪に近い保護観察処分」を勝ち取ることはできそうだしね。

 そうそう、例の「クロノくんとフェイトちゃんのラブラブ大作戦、ポロリもあるよ」プロジェクト(あれ、ちょっと違うかな?)についても、第一段階が着々と進行しつつある。
 フェイトちゃんと仲良くなるのも実はその一環(って言っても、彼女と親しくなりたいのも私の本心だけどネ)。「気さくで頼りになるお姉さん」というポジションを築いたのち、フェイトちゃんの目をクロノくんに向けるよう、画策するという寸法なワケ。
 下心アリとは言え、彼女のことを大切に思う私の誠意は通じたらしく、フェイトちゃんや彼女の使い魔のアルフは、今では結構頼りにしてくれる。
 とくにアルフとは、(見かけ上の)年齢が近い同性ということで、予想外に仲良くなった。ノリがよくて、サバサバしてて、そのクセ情に厚くて涙もろい。(恵美の)高校時代の親友に、なんだか似てるのよね~。
 「現実」に関する数少ない心残りがあの娘と会えなくなったことだから、ひょっとした代償行為なのかもと思ったりもするけど、ヘンに気にするのは、アルフにもあの娘にも失礼よね。
 まぁ、そんなワケで、私たちは「よき友達関係」を築きつつあるのだ。

 また、第二段階として、原作では「A''s」終盤にならないと実現しなかった「フェイト、ハラオウン家の養女になる」展開も、ひそかにリンディさんをたきつけて、水面下で進行中だったりする。
 正式な手続きは、裁判の結果が出てからになるだろうけど、リンディさん自身は大いに乗り気だし、非番の時にフェイトちゃんと接する機会を増やして親交を深めているみたい。
 私自身の思惑を脇においても、あの娘はもっと家族の温もりを知るべきだと思う。お姉さん役は私が務めるとしても、母親役はやはり私では力不足だしネ。
 その点、リンディさんは、20代半ばにしか見えなくても流石に一児(それもあのクロノくん)の母、フェイトちゃんが心から求めてやまない「おかあさんのやさしさ」をあの子に存分に与えてあげられるだろう。
 ちなみに、「フェイト・T・ハラオウン化計画」については、本人やアルフ、クロノにもくんにも、すでに根回しとして話が通っている。
 この件については、元々プレシアに隔意があったアルフは大賛成、クロノくんも戸惑いつつ賛成しており、あとはフェイトちゃんの返事ひとつという状況。ま、いろいろアドバイス(ゆ、誘導じゃないわよ、失敬な)したし、決して嫌がってはいない……と言うか、単に遠慮してるだけみたいだしね。
 なのちゃんとのビデオレターのやりとりも、原作どおり順調みたいだし……ウン、今のところ懸念材料はないかな。

 ……と、まぁ、フェイトちゃん関連では、私も極力精力的に動いてるんだけど、同時に次なる戦いに向けても、ちょっとした裏工作を進めていたりもする。
 たとえば、後輩のマリーに何気なくベルカ式の「カートリッジシステム」について問い合わせて調べてもらったり、海鳴市周辺の警戒レベルをこっそり上げたりとかね。
 もっとも、いくらリンディ&レティ派という有力派閥の一員とはいえ、私自身はしょせんは一執務官補佐、できることに限りがあるのが、歯がゆいなぁ。
 もし提督クラスの権限があれば、グレアム提督の暗躍を妨害できるんだろうけど……いや、伝説の三提督に次ぐ権力者と言われる彼を相手にするのは、やり手のレティ提督でも厳しいかしら。
 なんだかんだ言って、アースラの通信主任/管制官としてのお仕事もあるしね~。ワーカホリック気味なクロノくんに比べれば、はるかにマシなんだけどさ。

 そうそう、そのレティ・ロウラン提督はと言えば、嘱託魔導師の試験でフェイトちゃんを見て、ひとめで気に入ったみたい。私やリンディ提督も、いい子であることはアピールしたし、試験の方も問題なく合格。ウン、これでフェイトちゃん、自由の身にまた一歩近づいたね♪
 人事部の御大であるレティ提督は、優秀な魔導師を青田買いしたいみたいね。たぶん、彼女も、将来管理局入りを望むだろうから、それは構わないんだけど……。
 レティさん、「息子の相手に」という呟きは聞き逃せませんよ? 何たって、「フェイトはクロノのヨメ!」、これは規定事項ですから。

 ただ、その実技試験の最後で、思わぬ(うれしい)ハプニングが。マンガ版どおり、クロノくんのバインドで、フェイトちゃんは敗北しちゃったんだけど、座り込んだ彼女の手をクロノくんが引いて助け起こすとき、力加減をミスったのかバランスを崩して、ふたりで一緒に転んじゃったんだよね~。
 つまり、クロノくんの胸にフェイトちゃんが抱かれる形(もしくはフェイトちゃんがクロノくんを押し倒した形?)。
 ああ、真っ赤になってすぐさま飛び起きて、互いにペコペコ謝る様子が初々しいったらないわ。モニターして、バッチリ録画もしてたけど、この部分だけでご飯3杯は軽いかも。
 「ねぇ、エイミィ……」
 「は、は、ハイッ!」
 ニッコリとリンディ提督に笑いかけられ、一転硬直する私。
 「いまの動画、コピーして私にもメールでちょうだい♪」
 「! イエス、マム、合点承知です♪」
 この瞬間、私は件のプロジェクトに関して、100万の精鋭に等しい味方を得たのだった!

-つづく-
---------------------------------------
以上。
具体的な物語の進展は未だなく、ただ恵美女史が暗躍するのみ、って感じですね。



[11715] 遣手ババァと呼ばないで-エイミィの萌えキュン日記-3
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:51
<その3>

 「でも、早いね。フェイトの裁判終了まで、もうあと2週間ちょっとだ」
 「うん」
 「嘱託試験の合格が効いてるな。おかげで何ステップが飛ばせた感じだ」
 アースラのカフェテリアで3人の少年少女が楽しげに会話してるのを見て、私の頭上に「!」と電球マークが浮かんだ。
 ──おお、何か忘れてるな~と思ったら!
 ポムッ!
 「な、なんですか、エイミィさん。唐突に僕の肩なんか叩いて」
 ゴメンゴメン。すっかり君達の仲(こと)について、失念してたわ。
 「??」
 いやぁ、つい身近な「クロフェイらぶらぶ大作戦」の進行にかまけてて、もうひと組のチビっ子カップルの方をないがしろにしちゃってたなぁ。
 いくら「A's」以降キミの影が薄いからって、これじゃあ「小さな恋のキューピッド」志願者としては、失格よね~、ウン。
 「あのぅ、なんとなくバカにされたような気がするんですけど……」
 「HAHAHA、木の精……じゃなくて気のせいよ。そ・れ・で、なのちゃんとの進展具合はどうなのかなぁ?」
 疑わしげなユーノくんの視線をサラリと受け流して、ワザと「おねーさん的からかいモード」を発動させてみる。
 「し、進展って……べ、別に僕となのははそんな仲じゃあ……」
 案の定、ユーノくんは真っ赤になってモゴモゴと口ごもる。
 ぬゅふふふ、動揺してる動揺してる。
 この子の場合、下手すると4人の中で一番純情で恥ずかしがり屋だからなぁ。
 ま、外見はともかく実年齢14歳なクロノくんや、いざとなれば肝の据わってるなのちゃんと比較するのは酷か。
 純情可憐さではフェイトちゃんもいい勝負なんだろうけど、この半年間、私(と時にはリンディさん)にからかわれてたから、経験値的に多少は耐性ついてるしね。

 ……でも、そうか。そろそろなのよね、「闇の書事件」の始まり。
 結局、半年かけてもたいしたことができなかったなぁ、ハァ……。
 ──いや、本命の「大作戦」については、それなりに進展はあったのよ?
 熱心な勧誘の結果、フェイトちゃんはハラオウン姓を名乗ることに合意してくれたし、それに合わせてプライベートでは、リンディさんを「お母さん」、クロノくんのことを「お兄ちゃん」と呼ぶように仕向けたし。
 え? カップルにしたいなら、あまり家族として近づけない方がいいんじゃないか、って?
 チッチッチッ、わかってないわねぇ。
 義理の兄妹なのに、いつの間にか男女としても意識してしまう禁断の関係って方が、断然萌えるぢゃない!!
 ……ウン、ごめん。私って、サイテーかも。
 でもさ、想像してみてよ。「A's」本編のフェイトがクロノを呼ぶ場面が、ことごとく「お兄ちゃん」に置き換わっているところを!
 ……やっぱ、私、ダメダメかも。
 もっとも、フェイトちゃん本人は、「母」や「兄」と呼べる人ができて嬉しそうだし、クロノくんも照れながらも満更じゃないみたい(リンディさんは言うまでもなく大喜び)だから、結果オーライよね?
 「ううっ、アタシのフェイトがーっ」と喜び半分寂しさ半分といった様子のアルフは、女友達のよしみで、いろいろ慰めておいたし。
 ごめん、アルフ。でも、アンタもちょっとは主離れしなきゃ。それに、もうじきアンタにも蒼い毛並みの王子様(もちろん、ザフィーラのことね)が現れるからさ。
 謎の敵として現れ、好敵手として拳を交え、のちに和解し共闘するなんて、ある意味ロマンチックの極みよ?
 まぁ、この娘の場合、外見に反して実年齢は2歳半だし、主にベッタリでも無理ないんだろーけどさ。

 話を元に戻すと、リンディ、レティ両提督のコネ(グレアム提督含む)を駆使して、裁判の公判を早めた結果、たぶん本来の日程より一週間近く早く最終判決が下った。
 だから、海鳴市に行くのもそのぶん何日か早まっている……はず。
 (仕方ないじゃない、例の日が何日かなんて、アニメ中でも言及されてなかったんだし!)
 無論、日付を早めたせいでヴォルケンリッターの来襲と入れ違いになる……なんてのは本末転倒だし、その点ヌカリはないわ。
 幸いと言うべきか、すでに騎士達は活動を開始しているらしく、いくつかの世界から被害報告が届いている。
 被害の範囲から推測して管理局は、犯人達は第97管理外世界に本拠地ないしアジトを持つと判断(これについては、私も情報分析してそれらしいレポートを報告してある)。
 そして、それに対処するべくアースラは第97管理外世界に隣接して次元潜航、一部スタッフは現地に臨時支部を設けて捜査に当たることになった。
 当然、この現地支部常駐スタッフとしては、リンディ提督、クロノ執務官、嘱託魔導師フェイト、そして私ことエイミィ執務官補佐が選ばれた……というワケ。

 とりあえずは何事もなく地球に着き、私たち4人+同じマンションの別室に詰める臨時スタッフ数名は、今後しばらく我が家となる高層マンションの一室で、早朝から引っ越し作業に従事してたんだけど……。
 「! これは……」
 「──なのは?」
 リビングとなる部屋の掃除をしていたクロノくんとフェイトちゃんが唐突に顔を上げる。
 む、もしかして!?
 私も万が一のことを考えて持って来ていたハンディ端末で周囲にサーチをかける。
 「──あった! クロノくん、フェイトちゃん、この地点で魔法による戦闘の反応! 片方はなのちゃんで、もう片方はアンノウン!!」
 それを聞いたリンディさんは、すぐさま提督の顔になってふたりに現場への急行を命じる。幸い転移ゲートの設置は終わってたから、私たちもすぐさまアースラのブリッジへととって返した。
 参ったなぁ~、てっきり襲撃は深夜人目がない時間に行われると思ってたから油断してたわ。そう言えば、なのちゃん、早朝も魔法の訓練してるんだっけ。

 ……その後の展開については、おおよそ皆さんのご存じのとおりかな。
 いかにAAAクラスの魔導師ふたり、AAA+の執務官ひとりが揃っているとは言え、カートリッジシステムがない今の状態では、ヴォルケンリッター4人には及ばない。
 せめてシャマルによるなのちゃんのリンカーコア奪取だけでも阻止したかったんだけど、彼女の位置のサーチが難しくて、結局あの(二重の意味で)心臓に悪い「胸から手が!」は起こったみたい。
 もっとも、優秀な防御系魔導師のユーノくんが最初からなのちゃんに同行してたのと、現場に急行させたアースラの戦闘要員でザフィーラを一時足止めして、フリーになったアルフが結界を破壊できた(つまり胸から手が出た状態でスターライトブレイカーは撃たずにすんだ)から、なのちゃんの身体的ダメージ自体は、比較的軽かったみたい。
 アースラの医務室による治療で2時間後に意識を取り戻したくらいだしね。
 そのあとは……お約束の親友ふたりの感動の抱擁ですよ。
 ウンウン、ちょっと微百合風味漂う空気も、これはこれでまたよし!

 原作ではたしか丸一日くらい安静だったと思うけど、既になのちゃんの身体の傷はほぼ完治して動けるようになってたから、すくなくとも原作よりは多少マシな展開にはなったのかもしれない。
 ──でも、事前に「こうなること」を予測していた身としては、やっぱり凹むわね。
 ん~~でもなぁ、今後どうするべきか、という点については、私ごときの頭では判断がつかないわ、正直。
 たとえば。一番手っとり早いのは、今から八神家に急行して、はやてちゃんの身柄と闇の書を押えるという方法。戦力的に実現可能か否かはともかく、もし実現すればヴォルケンズと闇の書による被害自体は最小限に抑えられる。
 とはいえ、それはあくまでミクロな視点での話だ。もしそうすれば、闇の書が夜天の書に生まれ変わることはおそらくなく、また闇の書の主たるはやてちゃんも、よくて管理局内で一生軟禁、下手したら抹殺なんてコトもありうるかもしれない。
 しかも、はやてちゃんが死んだあとは闇の書は別の主の元に転移するだろうし。
 でも、かといってこのままグレアム提督の思惑に踊らされるのも、腹立たしいし、気分悪いわよね~。知らないならともかく、少なくとも私は一連の事件の黒幕とその思惑を知ってるワケだし。
 ただ、10年後のJS事件とカリムの預言を考えたら、はやてちゃんによる機動六課の設立は、不可欠ではないにせよ、有用な手段だろうし……。
 だからといって、私が先の展開を全部カリムばりに今から予言しちゃうのも問題ありまくりだ。信じてもらえないうえ、狂人扱いとかはカンベンよねぇ。
 ふぅ……仕方ないか。所詮は神ならぬ我が身、その場その場でできるだけ被害を小さくするよう、せいぜいない知恵を絞って努めるしかないわね。

 あ゛ーーー、小難しいコト考えたから疲れた、癒しが欲しい。
 今日からフェイトちゃんが正式に聖祥大付属小学校に転入ということで、愛らしい制服姿を披露してくれたんだけど、それでもまだ足りない。私の疲れた脳が萌え成分を欲してるわ。
 ふむ……幸い、今日は半日休暇か。じゃあ、ちょっとショッピングでもしてきますか!
 ちょーーっと買いたいものもあるし、ね。

 というワケで、気分転換も兼ねて出かけた風芽丘の商店街だけど、や~、予想以上の収穫を得られたわ。
 フッフッフッ、この闇の書事件のあいだも、我が「クロフェイらぶらぶ大作戦/たまになのユーもあるかも?」は、地道に進行させなきゃね。

 まずは、DVD屋で購入したいくつかの作品を、「地球の流行を知るため」と称して、暇を見てはフェイトちゃんやクロノくんに観せてみる。
 その内訳は、「仮面ライダーカブト」、「コードギアス」といったごく無難な映像物からはじまって、「Φなる・あぷろーち」や「あかね色に染まる坂」といったゲーム原作アニメまで。
 「カブト」とか「ギアス」はクロノくんも何だかんだ言って楽しんで観てたし(さすが男の子)、「Φなる」や「あかね色」のコメディ多めのラブコメ展開も苦笑しながら、意外と楽しんでたみたい。
 ……ククク、しかし、それこそが私の狙いよ!
 こういったシスコンブラコンの登場する作品で、ある程度免疫をつけたうえで、さらにフェイトちゃんには「シスタープリンセス」や「僕は妹に恋をする」といった、そのものズバリな作品を貸してあげる。
 一方、クロノくんの端末には、アニメ版を見せた「Φなる」「あかね色」を始め、「夜明け前より瑠璃色な」とか「ダ・カーポ」、「ALMA」といったギャルゲーのデータを突っ込んでおく。無論、選考基準は、「妹ないし義妹が攻略対象のゲーム」だ。
(一応、年齢を考慮して家庭用に限ったけどネ)
 フェイトちゃんは純真だから、こういう読み物に影響されやすいし、クロノくんも、年頃のおっとこのこ、だしねぇ? 
 はてさて、効果のほどは、どーなることやら♪

-つづく-
--------------------------------
恵美さん、本人は「ヲタク女のはしくれ」とか言ってましたけど、片足どころかリッパに両足突っ込んだヲタだと思うのは、たぶん私の気のせいではないはず。
ちなみに、なのは&ユーノの方にもアドバイスをしてますが、そのあたりは後で番外編1を参照のこと。



[11715] 遣手ババアと呼ばないで-エイミィの萌えキュン日記-4
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:52
<その4>

 ククク……我がコト成れり!
 おっと、思わず悪役っぽい笑い方をしちゃったわ。自重自重。
 や、半分は冗談というか悪フザケだったんだけどね。例の「シスコン・ブラコン物ばかり見せて、ふたりの気持ちを揺さぶっちゃおう」作戦って。
 そりゃ、少しくらいは効果があるかもと思ってはいたけど、どちらかと言えば個人的シュミの領域で、本格的な作戦(シナリオ)は別に用意してたんだけどねぇ。

 例のマンガとか本とか差し入れてから1週間も経ない内に、フェイトちゃんは、クロノくんに呼びかけるとき「お兄ちゃん♪」って語尾に音符かハートマークが付かんばかりの懐きっぷり。
 家にいる時はできるだけ一緒にいようとしてるみたいだし、あの内気な娘が手をつないだり、身体を寄せたりというスキンシップも積極的に試みてるみたい。
 いや~、真面目で純真な子ってコワいわね。頭のいい善良な人の方が、新興宗教の洗脳にハマりやすいって、何だかわかるような気がするわ。

 それに比べれば、さすがにクロノくんは、若輩とは言えまがりなりにも執務官。世間の荒波やら光と影やらを多少なりとも知ってるだけあって、そんな簡単にノセられることはない……と思ってたのよ、ちょっと前までは。
 フェイトちゃんが懐いてきても、戸惑い苦笑しつつ受け入れる様子は、いかにも「あの」不器用なクロノくんらしかったしね。
 でもね。
 このあいだ、久し振りにオフになった時を見計らって、こっそり彼の個人端末チェックしてみたんだけど……。
 ええ、私がインストールしたギャルゲー、全作最低1回はクリアーされてました。それも、芳乃さくらだのホシノ・ルリだの渋垣茉理だの狙ったようにツインテか妹系(もしくは両属性兼ね備えた)キャラばかり。
 ど ん だ け ム ッ ツ リ な ん だ! (ニヤニヤ)
 アレかな? フェイトちゃんがすり寄ってきたときの戸惑いは、照れてるとかじゃなくて、もしかして自分の自制心に自信がなかったから?
 くふふ……某神様いわく、「汝の為したい様に為すが良い」だよ、クロノくん?

 ここまで来たら時間の問題だとは思ってたけどね。
 ヤってくれましたよ、クロノくん。さすがオトコノコ。
 闇の書事件が一応の解決を見た日の翌日、アースラの彼の私室で抱き合って眠る義兄妹の姿はけーーん!!
 大方、消えて行ったリインフォースのことを想って涙したフェイトちゃんが、眠れなくなって愛しい義兄に助けを求めたってところだろうけど。
 まぁ、彼だって良識ある年長者だし、18禁同人誌みたく、さすがに最後まで突っ走ったとは思わないけど(さすがに問題あるし)……キスのひとつくらいはしてもいいのよ? 
 「提督も、この写真おひとついかがですか♪」
 「まあ……エイミィ、GJよ!」
 抱き合って眠るふたりの映像をしっかりカメラに納めたうえで、こっそりリンディさんに見せる。
 最初はちょっと驚いたみたいだけど、でもすぐにニコニコ顔になって私にデータのコピーを依頼してきた。
 嗚呼、子供の恋愛に理解のある親御さんを持って、君達は幸せだねぇ、クロノくん、フェイトちゃん。

 「でも……いいんですか、リンディ提督」
 闇の書事件のあと始末の書類業務をこなしながら、ふたりの母親に問いかける。
 あ~、そうそう。すでにお聞きのとおり、無事(と言えるかは微妙だけど)「闇の書事件」は解決しました。
 私自身はと言えば、結局たいした干渉はしないで、できるだけ身内の損害を減らす方向での対症療法をするに留めた。
 そのせいか、事件の大筋は原作と変わらず。守護騎士達が消えてはやてちゃんが覚醒。色々あって、のちの機動六課参加メンバーで、闇の書の防衛プログラムをフルボッコ……というアレだ。
 エゴイストと罵ってもらってもいい。私は私なりにベターだと思う方法はとったけど、それが最善だったとは間違っても思わないからね。
 もっとも、アリサちゃんとすずかちゃんの一件は早期に対処したし、闇の書に吸収されたフェイトちゃんの復活がイヤに早かったのも、おそらく私の干渉の結果かもしれないと思う。
 前者はともかく後者についてあとで聞いてみたところ、「だって、あの世界には、クロノが……お兄ちゃんがいなかったから」と頬を染めて惚気られたし。ハイハイ、ごちそうさま♪
 ともあれ、原作同様、「今回の闇の書事件における死者0」は何とか死守したし、局員にも深刻な障害の出るような負傷者は出てない……と思う、たぶん、メイビー。
 いや、大半は私じゃなくて、三人娘とクロノくん、ユーノくん、アルフたちの功績なんだけどね、うん。
 これから本局で、はやてちゃん達をできるだけ穏便な処分にしてもらうという難題が待ち構えてはいるんだけど……まぁ、はやてちゃんのふくふくしたほっぺを今後思う存分フニフニできると思えば、安いモンよね。
 おっと、回想が長過ぎたかしら。
 「そうねぇ……法律的な面では問題ないけど、さすがに14歳と9歳のカップルだから、倫理的に自制するべきところは自制してほしいわね、主に男のクロノに」
 ズルッ……いや、そーじゃなくて!
 「ふふふ、冗談よ。あ、でも半分は本気かしら。うまくいけば、せっかくできた可愛い娘を、お嫁に出してよそのウチに取られずに済むんですものね」
 むぅ、その気持ちは、ちょっと理解できるかも。娘がお嫁に行って寂しいのは、男親だけじゃないってことよね。
 その点、フェイトちゃんがクロノくんに嫁げば、ハラオウン家内でバッチリ完結するし。
 ……本来の流れだと、20歳前になっても微レズ風味で、未婚のまま3児の母(エリオ、キャロ、ヴィヴィオ)になってて、そのまま独身を貫きかねないってことは黙っておこーっと
 「けど、貴女のほうこそよかったの?」
 「ふえ?」
 「クロノのことよ」
 リンディ提督に聞かれて、改めて考え込む。
 ふむぅ……。
 「えーと、極端な例ですけど……たとえば世界が滅亡して、この世に女が私だけ、男がクロノくんだけになったら、彼と夫婦になることを、たぶんさほど抵抗もなく受け入れると思います」
 「ふんふん」
 「でも、生き残りが男100、女100なら、ほぼ間違いなく私はクロノくん以外を選ぶと思いますよ」
 「あらあら、それはそれは」
 微苦笑するリンディさん。
 「ま、月並みですけど、私にとって、クロノくんは”よくできた弟”そのものですから」
 「あら、法律上の兄妹になっても、恋に落ちるふたりもいるみたいだけど?」
 お、なかなか鋭いツッコミね。
 「たぶん、ふたりの絆が、単なる義兄妹以上の領域まで深まったんでしょーね」

 マジな話をすれば、「あのふたりが互いを人生の伴侶として共に歩んでいってほしい」と思うのは、ある意味私のエゴだ。
 ちびっ子カップルに萌えるというダメダメな性向からくるものでもあるし……またクロノくんに「現実」の弟を重ねているから、という側面もある。
 あの子は……わずか15歳にして命を落とした勇次は、妹みたいに仲が良かった幼馴染の子とそのまま共に人生を歩いていくことができなかったから。
 とは言え、そういった私の思惑や経緯は別にしても、「一緒にいたい人と、ずっと一緒にいられる」ということは、たぶん幸せのひとつの条件なんじゃないか、とも思う。
 だから、あのふたり──クロノとフェイトがどんな形であれ、ともにありたいと願うのなら、私はふたりの”姉”として、微力を尽くそうと考えている。
 まぁ、照れくさいから、そんなこと間違っても口には出さないけどね。

 「──エイミィ、いま、口に出してたわよ?」


……
…………
 い、イヤーーーーーーーッ! はずかしい~~~!!!

-つづく-
------------------------------
シリアスな空気は1分以上続かない罠! 
ちなみに、地球の稚拙な技術のフィクションにミッド人がハマるのか? という問題ですが、「技術じゃない、ハートだ!」ということで。大昔の吊り糸が見える特撮だって、内容次第では現代人の心を打つと思いますし、それと同じ様なものでしょうか。
フェイトの場合、その生い立ち上、フィクションに疎そうでもありますしね。



[11715] 萌えキュン日記番外編1;ユーノのモテモテ奮戦記
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:d426b585
Date: 2009/09/20 06:54
※本編がエイミィの悪だくみ中心なのに対して、番外編は、表面がユーノの苦労話、裏面がフェイトの惚気話で構成する予定デス。

<萌えキュン日記番外編1;ユーノのモテモテ奮戦記>

○月×日

 久しぶりに地球から離れて、次元航行艦アースラに乗る。もちろん、人間形態に戻ってだ。
 ……というか、ワザワザ明言しないといけないほど、獣形態の時間が長かったからなぁ(ホロリ
 アースラでは、リンディ提督やクロノ執務官、フェイトといった懐かしい顔ぶれと出会えて、話が弾む。クロノたちとフェイトの裁判について話していると、唐突にエイミィさんに「ポムッ!」と肩を叩かれ、同情するような目で見つめられた。
 や~め~て~、何だか僕が無性に幸薄いみたいじゃないですか!
 「ははは、ゴメンゴメン。お詫びにユーノくんにはイイモノ、あ・げ・る♪」
 と、謝りながらエイミィさんは、ブックカバーのかかった一冊の本を僕にくれた。
 「部屋に帰ったら読んで、参考にしてみてね」

 なんだろう、エイミィさん、すっごくイイ笑顔してたけど……。
 ともかく、せっかくなのでアースラの中にもらった臨時の私室で、その本を広げてみた。
 カバーを外してみると、タイトルがデカデカと地球の日本語で書かれてる。
 「何々……『エイミィ・リミエッタ著 モテモテガイド~対日本人女子編~』ってぇ!!」
 コレ、エイミィさんが書いたの!?
 「あの人も、それなりに忙しいはずなのに、何やってんだろ……」
 デザインや製本もしっかりしてるし、手作りとか同人誌ってレベルじゃないよ、コレ。
 (たとえどれだけ仕事が多忙でも、少年少女の恋のサポートには常に全力全開! それがエイミィクォリティよ!)
 僕の脳裏でキランと歯を光らせてサムズアップするエイミィさんの幻影。
 ──嗚呼、確かに本人はそんなコト言いそうだよね~。
 ちょっとげんなりしつつ、それでも好奇心を抑えきれなかった僕は、ペラリとその「モテモテガイドブック」とやらをめくってみた。
 ……べ、別に誰かさんにモテたいとか思ってないんだからねッ!
 「えーと……『まえがき 思春期の少年少女にとって、異性に興味を持って仲良くなりたいと思うのは、ごく自然な感情です』」
 ふむ、出だしは至極まとも、だよね。
 「『しかし、一口に異性と言っても、国や地域、あるいは時代や文化、社会構造などが異なれば、当然ながら行動様式や好み、風俗習慣も大きく変化します』」
 これも、まぁ当然の話かな。
 「『この本は、ミッドチルダとは様々な面で異なる第97管理外世界・地球の中でも、近頃一部で人気の日本の女の子と仲良くなるための秘訣を記した、恋の手引書です』……って、対象がピンポイントすぎない?」
 うん、間違いなく、これって読ませる人を明確に想定してるよね。
 ここらへんから、どうも僕の頭の片隅で警鐘が鳴り始めてるんだけど……。
 それでも、暇をもてあました僕は、その前書きに続いて本文にも目を走らせてしまったんだ。

 * * *

●モテモテ・恋の法則01
 落し物を拾わせて、恋のキッカケにしよう!
 『意中の女の子と親しくなりたいけど、話しかけるキッカケがつかめない! そんな風にお嘆きのアナタに、ちょっとしたテクニックを伝授しちゃいましょう。
 やり方はすっごく簡単。お目当ての娘がひとりのときをみはからって、さりげなく通りがかって、ハンカチなどの貴方の持ち物を、その子の前で落とすだけ!
 落し物を拾ってくれた女の子とちょっとした会話ができるし、うまくいけば顔を覚えてもらうことも可能だヨ! それを契機に徐々に親しくなることも不可能じゃないかも!? さぁ、キミもレッツ・ドロップ!!』

 「そりゃ、知り合いになるためのキッカケくらいにはなるかもしれないけどさ。すでに相手が顔見知りの時は、参考にならないよー」
 ……ハッ! べ、別に誰が相手とは言ってないよ?

 しかし……失礼ながら、意外だ。エイミィさんのことだから、てっきりもっとハッチャケたコト書いてるかと思ったけど。
 もちろん、小細工を弄するという意味では、確かに「純心無垢」とは言い難いけど、それを言ったら、こんな本を読むこと自体がある意味下心があるってことだしね。アハハハ~。
 ──ゴメン、自分でもちょっと凹んだ。
 まぁ、いいや。どうせここまで読んだんだから、日本のことわざで言う「毒を食らわば皿まで」、だっけ? 最後まで目を通してみよう。


●モテモテ・恋の法則02
 女の子はいくつになってもメルヘンに憧れるもの

 「うーーん、そういうものなのかなぁ」
 確かに、ファンシーな小物とかぬいぐるみとかは、なのはにせよアリサやすずかにせよ好きみたいだよね。そういうグッズをプレゼントすればいいってこと?
 あるいは童話の本とかを貸してあげるとか……うん、それならミッドチルダに帰れば、僕にもできるかもしれないな。

●モテモテ・恋の法則03
 失恋直後の女の子は落としやすい

 「あ゛~、これは却下」
 そりゃ、ずっと片思いしてた相手が誰かに振られたときにうまく慰めてあげて……とかいうのが、有効なパターンだってことは、想像はつくよ。でも、そんな好きな人の弱みにつけこむような真似は、ちょっと、ねぇ?
 そもそも、なのはが誰かに失恋、とかあんまり考えたくないし。

●モテモテ・恋の法則04
 ロックンロールのリズムには、女の子を昂らせる何かがある

 「”ロックンロール”って……確か地球の音楽の種類だっけ?」
 確かに、テレビとか見てると、男性ミュージシャンのコンサートとかで興奮してる女の子とか、熱狂的な追っかけとかがいるらしいけど……。
 なのはは、あんまり好きじゃなさそうだしなぁ。

●モテモテ・恋の法則05
 女の子を誘うには、やはりコンサート

 「これも、04からの流れかな?」
 コンサートかぁ……うん、デートスポットとしては映画と並んで定番にして鉄板だよね。
 とはいえ、これまた映画同様、好みってものがあるだろうしなぁ。
 そういえば、なのはってどういう音楽が好きなんだろ? お風呂で鼻歌とかは時々は歌ってるけど……。今度聞いてみるかな。

●モテモテ・恋の法則06
 文通に命を燃やすのも手

 「文通か。確かに心が通いそうな気はするよね」
 フェイトとも、DVDレターのやりとりで一層友情が深まったみたいだし。
 ただ、今同居してる僕がやるべき手段じゃないよね。
 でも、もうじきなのはの家を出ることを考えたら、これも視野に入れておくべきなのかもしれない。保留、っと。

●モテモテ・恋の法則07
 今やはりあえて硬派の時代

 「硬派……って何?」
 えーと、解説文を要約すると、硬派って言うのは、流行の服装や男女交際を軟弱だからと嫌って、質実剛健と自分なりの強さを追及するライフスタイル……でいいのかな?
 確かに一面ではカッコいいとは思う。ある種の女性に人気が出るのもわかる。なのはのお兄さんとかは、確かにこの”硬派”の定義にあてはまる気がするしね。
 でも、女の子にモテたいから、あえて硬派を気取るのって、本末転倒じゃないかなぁ。

●モテモテ・恋の法則08
 ハードボイルドがもてる

 「また、わからない単語が出てきたよ」
 ふむふむ……「直接的には、感傷や恐怖などの感情に流されず、冷酷非情で、精神的肉体的に強靭かつ妥協しないタイプの人間を表す言葉」と。
 「ただし、ここではそういった人物を主人公とした探偵小説、あるいはフィクションそのものも指す。ハードボイルドちっくな男性を目指せば、女性の好感度が急上昇しちゃうかも!?」
 07の硬派と似た感じなのかな。要するにチャラチャラした軟弱な男性が敬遠されるのの裏返しなワケだよね。
 でも、僕の年頃で”ハードボイルド”を目指すのは、さすがに難しいと思うよ?

●モテモテ・恋の法則09
 お嬢様系の女の子は荒々しい粗暴な悪党のもつ危険な香りにひかれる

 「これは、男女とも自分にない対照的なものを持つ人に惹かれる……ってことなのかなぁ」
 なんとなく理屈としては理解できるけど……。
 でも、「不良」くらいならともかく、さすがに「悪党」までいっちゃだめだよね。いくらモテたいからって……。
 ”ダークヒーロー”って言葉もあるみたいだけど、僕には絶対無理だよなぁ。

●モテモテ・恋の法則10
 運命の出会いを女の子は待っている

 「? 抽象的過ぎて、よくわかんないんだけど」
 えっと、つまり……出会いに運命的なものを感じると、女の子の好意が急上昇しやすいってコト?
 うん、僕となのはの出会いは確かに「運命的」と言えると思う。ただ……それが彼女にとって良いことだったのかは、まだわからないなぁ。
 ケガするような目にもあったし、たぶん普通の日本人の女の子としては経験する必要のない、余計な苦労かけてるのかも……ハァ。

●モテモテ・恋の法則11
 女の子は道を体得したものの導きを待っている

 「これもわかりにくいなぁ」
 要するに、特定の技術や一芸を極めた人に女の子は憧れるってところかな。
 そりゃ、女の子に限らず誰だってそうだと思うけど?
 ああ、つまり「だから、自分の得意な分野を極めて意中の子にアピールしましょう」という流れに続くわけか。
 ちょっと好感度稼ぎが露骨かなぁ。いや、好きな子にカッコいいところを見せたいって感情自体は、間違ってないと思うけどさ。
 僕の得意なものと言えば……防御魔法と遺跡発掘、あとは文献の整理くらいか。
 むぅ~、よりにもよって積極的アピールするのに向いてないものばかりだなぁ。
 いや、一応、なのはを魔法という「道に導いた」のは、僕なんだろうけど。

●モテモテ・恋の法則12
 女の子にもてたきゃテーマパークへ!

 「! これだッ!!」
 ようやっと、僕にも役に立ちそうなアドバイスが出てきたよ。
 いや~、今までのだって決して間違ってはいなったけど、微妙に実行しづらいものばかりだったからなぁ。

 幸いアースラで、手持ちのお金をいくらか日本の通貨に換金してもらえたし、今度の日曜日にでも、なのはをテーマパークにでも誘ってみよう!

-つづく?-
----------------------------------------------
てなわけで、ユーノくんのなのちゃんとのハッピーエンドを目指す奮戦記です。
言うまでもなく、モテモテガイドのモデルは、某神聖王国国王の著作物。
各スローガンだけ取り出すと、ナンパマニュアルとしては結構正しいこと言ってるんですけどね~。



[11715] 萌えキュン日記番外編2;フェイトの「おにいちゃんだいすき」
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:55
 ※「A's開始直後なのにフェイトが乙女ちっくすぎる」とか違和感あるかもしれませんが、きっとエイミィが半年間でせんの…ゲフンゲフン、「教育」したんだってことで、ご了承ください。

<萌えキュン日記番外編2;フェイトの「おにいちゃんだいすき」>


○月△日

 ついに裁判の判決が下った。大方の予想どおり、わたしに下された判決は「保護観察処分」。
 従来の判例なんかもいろいろ調べてみたけれど、わたしが起こしてしまったPT事件の規模に比して、これが異例なほど軽い処置であることはよくわかっている。
 そんな、無罪放免にも等しい結果を得られたのは、もちろんリンディ提督をはじめとするアースラスタッフの尽力のおかげだ。死者や重傷者はいなかったにせよ、わたしが海鳴で起こした騒動や、時の庭園突入時の戦いで、ケガをしたり迷惑をかけたりした人も少なくないはずなのに……。
 本当にいくら感謝しても感謝しきれない。このご恩は、わたし自身が管理局で働いて返していこうと思う。
 判決がおりてホッとすると同時に、うれしかったこともある。
 先ほど、リンディ提督から渡された一枚の書類にサインした。
 その書類とは……養子縁組の同意書。
 明日、これを民政課に提出すれば、わたしは正式にリンディさんの娘となって、「フェイト・T・ハラオウン」を名乗ることになる。誰はばかることなく、リンディさんを「お母さん」、クロノを「お兄ちゃん」と呼ぶことができる。
 ──うれしい!
 「家族」ができるということが、これほどうれしいことだなんて知らなかった。 「ん? どしたんだい、フェイト、ボーッとしちゃって?」
 「う、ううん、なんでもないの」
 ごめんね、アルフ。もちろんアルフは大事な家族だよ? でも、わたしと心がつながったアルフの場合、ある意味半分は自分自身みたいなものでもあるから……。
 言うまでもなくプレシア母さんのことは、今でも大切。母さんのことを思い出しただけで、まだ胸が痛い。この半年間、こっそりベッドで涙をこらえたことも何度かあるくらい。
 けれど、そんな時に限って、不思議と「お母さん」のリンディさんや、「お兄ちゃん」のクロノがそばに来てくれた。「フェイトが泣いてるような気がしたから」って言って。
 びっくりして「どうしてわかったの?」って聞いたら、お母さんは「母親ですもの」って笑って抱きしめてくれた。お兄ちゃんは「まぁ、これでも一応兄だからな」とぶっきらぼうに言いながら、頭を撫でてくれた。
 心がポカポカする。
 なのはと友達になったときと、よく似ていて、ちょっとだけ違う感覚。
 「友達」や「家族」……これが「絆」ってものなのかな。
 求めていたものとは少し違うけれど、それ以上に大切で尊いものを、今のわたしは得られたのだと思う。
 この「絆」をこれからもずっと大事にしていこう。
 そして、願わくば、わたしと同様、「絆」を知らずにさ迷っている悲しい人に、絆の大切さと優しさを教えてあげられるよう、わたしも頑張りたい。


○月□日

 今日から、なのはと同じ学校に通うことになった。知識としては知っているけど、同年代の子たちと一緒に勉強する「学校」に行くのは初めての体験だ。
 楽しみだけど、ちょっとだけ心配。
 リンディさん──お母さんは「がんばってね」と励まして、お弁当を渡してくれた。
 アルフは「万一、フェイトがいじめられたら、アタシがとっちめてやる」と息巻いている。エイミィさんが「大丈夫だよ、フェイトちゃんいい子だから」とそれをなだめてくれた。
 クロノ…お兄ちゃんは、「学校というのは、勉学だけでなく様々な経験を積むための貴重な場だ。その……何だ。つまり、めいっぱい、よく遊び、よく学べってことだ、フェイト」と、激励してくれた(んだよね?)。
 うれしい。
 みんな管理局の業務が忙しいはずなのに、わざわざ家に揃って、わたしを見送ってくれたんだ。
 ……でも、わたしが聖祥の制服に着替えて姿を見せたとき、みんなは可愛いって誉めてくれたのに、お兄ちゃんだけは顔を真っ赤にして何も言ってくれなかった。
 ひょっとして、わたしには似合ってないのかな?
 そんなことを思ってショボンとしてると、エイミィさんにポンと肩を叩かれた。
 「にゅふふ、もしかして、フェイトちゃん、クロノくんの反応、気にしてる? だーいじょうぶ、アレはフェイトちゃんがあまり可愛らしいのに見とれて、照れてるだけだから」
 「──ホント?」
 小首を傾げてお兄ちゃんの方に目をやると、お兄ちゃんはより一層顔を赤らめつつ、あきらめたように口を開いた。
 「……ああ、よく似合っている。可愛いと思うよ」
 ちょっと無理やり言わせたみたいなのが気になったけど、お兄ちゃんはこんなことで嘘はつかないと思う。なんだかうれしかった。


○月●日

 今日の晩ご飯は、珍しく家族全員で食べることができた。夕飯のあとエイミィさんが、わたしとお兄ちゃんをDVD鑑賞に誘ってくれた。
 SFXやCG合成も交えたアクション物のドラマと、架空の歴史を描いたアニメーションの2作。エイミィさんいわく、もとは日本でテレビ放映されていた作品で、話題になった番組だから、絶対観る価値はあるとのこと。
 幸い明日はお休みだったので、お兄ちゃんと並んでソファに座って、その2作を観てみることにする。
 …………
 お兄ちゃんは、最初は「これ、子供向け番組じゃないのか?」と半信半疑だったみたいだけど、徐々に引き込まれていく。それはわたしも同じ。
 たしかに基本は年少者向けなんだろうけど、でもそれだけじゃない製作者のメッセージのようなものが伝わってくる。
 何話かずつ交互に観てたんだけど、「カブト」は26話、「コードギアス」は1期まで見終わった時点でついにダウン。ふたりともそのまま眠りに落ちちゃった。
 目が覚めたとき、すぐ隣にお兄ちゃんの顔があってすごくドキドキしたのは内緒。どうやら、ソファに折り重なるように寝ちゃったところで、エイミィさんが毛布を掛けてくれたみたい。
 ちょっと恥ずかしいけど、お兄ちゃんのそばにいると、安心できる感じがする。だからだろうか。わたしはそのままもう一度眠り込んでしまった。


△月○日

 アレから少し間が空いたけど、今日、エイミィさんが貸してくれた例のDVDを、お兄ちゃんとふたりで続けて見終わった。
 感想としては、「すごくいい話、でも少し悲しかった」かな?
 どちらも、色々な人が、それぞれの信じる正義や理想のため、大切なものを守るために戦うお話。
 主人公も含めて、彼らは決して完全無欠の正義の味方でも善人でもない。大事な肉親などを殺されたことへの復讐心もあるし、人並みの欲求もある。それでも、それだけに囚われることなく、前に進もうとする姿勢には大きな感銘を受けた。

 管理局の執務官として働くお兄ちゃんなんかは、いろいろ思い当たるフシがあるのか、「コードギアス」に感情移入してるみたいだった。
 「そういえば、スザクとルルーシュを足して2で割ったらお兄ちゃんと近いかも?」って言ったら、苦笑してたけど、否定はしなかったし。

 わたしは、どちらかと言うと「カブト」の方が興味深かった。主人公が義理の妹をとても大事にしている姿勢に、隣にいるお兄ちゃんのことを連想して共感できたし、生き別れの妹と思っていた少女が、本人も知らないけど敵の仲間で、人間ではなかったことがわかる場面とか、すごくショックだった。
 ……わたしも、ある意味、純粋な人間とは言えないかもしれないから。
 だから、主人公の「俺はお前とお前が生きる世界を守る」という言葉で彼女が救われた時は、ポロポロ涙が出た。
 「フェイト……人は自分の生まれを選べないけど、その生き方を選ぶことはできる。少なくとも、自分がどうありたいかを望むことはできるんだ」
 泣いてる(それは悲しみというより感激してだけど)わたしの肩を、お兄ちゃんがそっと抱き寄せてくれた。
 「うん……うん、そうだね、お兄ちゃん……」
 最終回近くの、サソードだった人の生き様にも衝撃を受けた。
 もっとほかのやり方はあったんじゃないかとも思うけど、それでも絶望的な状況から、彼は仲間を信じて死地に赴き、自らの命と引き換えに仲間に未来を残したんだ。
 「ばかやろう……」
 小さくつぶやくお兄ちゃんの目が潤んでいたのは、きっと見間違いじゃないはず。もしかしたら、実際にいた誰かと重ねているのかもしれない。
 キュンとして、思わずお兄ちゃんの腕をそっと抱きしめてしまった。
 ……その姿勢のまま眠ってしまって、ベッドに抱っこして運んでもらったのはふたりだけのヒミツ。


△月×日

 エイミィさんが、今度は紙媒体の本を貸してくれた。
 「日本の年頃の女の子の生活とか心象がよくわかると思うよ」ってことなので、有難く読ませてもらうことに。
 まずは絵本……というかイラストが多めの小説本かな? そちらを読んでみる。
 へぇ、12人の妹とお兄さんのお話なんだ……。
 …………
 エイミィさんってスゴい! どうしてわたしが悩んでいることがわかったんだろう?
 気がかりだったのは、お兄ちゃん──クロノとの接し方。
 リンディお母さんや、お姉さん代わりのエィミィさんは、まだいい。わたしにはプレシア母さんやリニスと接した記憶がある(前者は本当はアリシアのものなんだろうけど)。だから、女家族との距離感や接し方は、おおよそはわかるつもり。
 でも、男の家族となると、まるで未知の領域だ。
 本当は、この歳にもなって兄に甘えるのって悪いかな、と思ってたんだけど……。
 どうやら(少なくとも日本では)そんなことはないみたい。むしろ、お兄ちゃんのことが好きならもっと積極的にスキンシップして甘えた方が自然なのかも。
 それに……妹から兄への呼びかけもいっぱいあるんだ。日本語っておもしろい。
 本に出てきた、わたしとちょっと髪型の似てる娘の「お兄様」って呼び方も素敵かもしれない。もしくは、いかにも和風な感じの「兄君様」とか「兄上様」ってのもいいかも。
 「兄くん」とか「兄貴」ってのは、ちょっとわたしには似合わないかなぁ。
 「兄や」とか……なぜだろう。不思議としっくりくる気がする。でも、さすがにこの呼び方は、子供っぽいかな。
 明日、顔を合わせたら、どの呼び方がいいか聞いてみよう。
 おやすみなさい、お兄様。


△月□日

 結局、クロノからの懇願で、呼び方はこれまでどおり「お兄ちゃん」で通すことになった。
 う~ん、ちょっと残念かも?
 でも、それ以外の部分──わたしのほうから、これまでよりちょっとだけ積極的に甘えるという点については、クロノ本人からの了承も得られた。
 最初はちょっと渋ってたけど、エイミィさんの言うとおり、腕に抱きついて「ねぇ、いいでしょう~、お兄ちゃぁん♪」と”お願い”したら即座に承知してくれた。
 さすが、エィミィさんは、お兄ちゃんのことがよくわかってる。
 でも、ちょっと悔しいので、今後はわたしもお兄ちゃんのことがもっとよく理解できるよう、できるだけ一緒に過ごすようにしようっと。
 そう言えば、エイミィさんからは、もう一作、マンガも借りてたんだっけ。そちらは、明日から読んでみようと思う。


△月●日

 え、ウソ、そんな、兄妹で……。
 でも、好きな気持ちは抑えられないよね。わかる気がする。
 どうしよう、お兄ちゃんの顔がまともに見れないよぅ。


△月△日

 様子がおかしいわたしのことを心配したのか、エイミィさんが相談に乗ってくれた。
 「そっか、フェイトちゃん、クロノくんのことが好きになっちゃったんだね……(GJ!)」
 わたしの頭を撫でてくれるエイミィさん。
 「わたし……おかしいんでしょうか?」
 「ううん、ちっとも。クロノくんは、あの年齢のわりには頼り甲斐があって、ちょっとぶっきらぼうだけど優しいから、フェイトちゃんみたいな女の子が、憧れて好きになるのも無理はないと思うよ」
 「でも、お兄ちゃんなのに……」
 「うんうん、確かにリッバに”お兄ちゃん”してるね。でも、血が繋がらない義理の兄妹なら、日本でもミッドチルダでも法律上結婚できるんだよ、知ってた?」
 「ええっ、そうなの!?」
 つまり、わたしとお兄ちゃんも、け、けっこんできるってこと……?
 「ふわぁ……」
 「ふふ、頑張ってね。私は応援してるから」
 エイミィさんは本当にいい人だ。
 「──ハイッ」
 「あ、でもクロノくん、あぁ見えて……というか見かけどおりシャイでモラリストだから、当分は”妹”として親しくなったほうが得策かもしれないよ。フェイトちゃんも”お兄ちゃん”になら”妹”として素直に甘えられるでしょ?」
 「ええ、そうですね。そうします」


□月●日

 やった! お兄ちゃんから遊園地にデートのお誘いがあった!
 正確には、なのはやユーノも一緒らしいけど、これって「ダブルデート」ってヤツだよね?
 うれしい、うれしい、うれしい……。
 もちろん、その場でOKしたあと、逃げるように自分の部屋に帰って、ベッドの上でジタバタしてたところをアルフに見られて、呆れられた。
 ちょっと反省。でも、うれしいよぅ。
 デートは今度の日曜日。何着ていくか、今から考えておかないと。
 そうだ、お母さんやエイミィさんにも相談してみよう。

-つづく?-
---------------------------------------------------
というわけで、こちらは「おとめちっくふぇいとちゃん」視点でのお話。
ところどころにエイミィが暗躍して、義兄妹の意識を誘導してるのがオソロシイところ。
まぁ、それはそれでふたりとも幸せそうですが。
ちなみに、「カブト」の影響で、バルディッシュがソニックムーブ発動時に「クロックアップ!」というようになったとかいないとか……。
なお、裏面の2に相当するものはXXX板にあります。



[11715] 萌えキュン日記番外編3;ユーノのモテモテ奮戦記Ⅱ(ツヴァイ)
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:57
<萌えキュン日記番外編3;ユーノのモテモテ奮戦記Ⅱ(ツヴァイ)>

□月○日

 この第97管理外世界の次の日曜日、ぼくとなのはは海鳴市郊外にある遊園地で、デートをすることになってるんだ。
 まぁ、そうは言っても、なのはにコレが「デート」だって意識は薄いかもしれないけどさ。
 僕だって、いきなり好きな娘をふたりきりのデートに誘えるほど心臓強くないし。
 だから、エイミィさんからもらったあの本に書かれていた「モテモテ・恋の法則13 もてるにはグループ交際から」というアドバイスに従って、クロノやフェイトも誘ったんだ。
 あのふたり相手なら僕もなのはも気が楽だし、いざとなったら2&2に分かれることもできるしね。
 場所は海鳴レジャーランド。海鳴中央駅から電車で10分の、つい最近オープンしたばかりの総合テーマパーク……らしい。僕もインターネットで調べただけなんでよく知らないんだけどさ。
 と言うか、スクライア一族に生まれて、旅から旅の生活だった僕は、生まれてこのかた、まともな”デート”と呼べることなんてした記憶はないし。
 それでも、事前にできることはないかと、僕はまた例の本をパラパラめくってみた。

●モテモテ・恋の法則14
 女の子を驚かせればもてる

 ──いや、それって、ただの吊り橋効果なんじゃあ……? ま、まぁ、意外性を見せると解釈すれば、決して間違ってはいないだろうけど。

●モテモテ・恋の法則15
 個性的な人が輝いて見える

 うん、これはわかる。確かに、周囲に埋没してる異性を魅力的だと思うことは少ないよね。普段から「地味」だとか「目立たない」とか言われてる僕にとっては、耳の痛い話だなぁ。

 個性と意外性か……あまりこれまでの僕とは縁がなかったものだよね。
 デートまで1週間を切ってるし、さすがにその短期間でできそうなことって……そうだ!
 どの道、デートに行く時のための服を買わないといけないと思ってたし、いつもとちょっと違う傾向の服装をしてみるのもいいかもしれない。
 個人端末に通信を入れる。幸い、目当ての人物はちょうど勤務時間外だったみたいだ。
 「エイミィさん、ちょっといいですか?」
 エイミィさんに、海鳴市内で僕が買えるレベルでの、ちょっとおしゃれな服を売ってるお店を知らないか聞いてみた。参考までにくらいのつもりだったんだけど、さすがは情報通のエイミィさん、あっさり条件にかなうお店を教えてくれた。
 「ふっふっふ、ユーノくんも隅に置けないね~。ま、頑張って選んであげてね」
 「!? は、はい」
 エイミィさんには、どうやら僕が週末のデートに着る服を買うつもりだとお見通しみたいだ。
 ちょっと照れくさいけど、それを踏まえたうえでお店を教えてくれたのだから、きっとアテにできるだろう。「私、そこの店員さんと知り合いだから、よかったらコーディネートしてもらったら?」というアドバイスまでもらっちゃったし。
 その言葉に従って、その洋品店……ティーン向けのブティックで、エイミィさんに教えられた店員さんの名前を聞いてみると、最初に応対してくれた人がまさにそうだった。
 20代前半くらいの優しそうな女の人で、親身になって服選びに協力してくれた。
 普段はシンプルでラフな軽装が多い僕だから、多少はおしゃれっぽいのがいいかな。もっとも、地球の服装のセンスはイマイチわからないから、その点は店員さんにお任せした。
 それでいて、デートの場所が遊園地だから、動きやすいのがベストだろうし……。
 店員さんが持ってきてくれた服の組み合わせは、両方の条件を満たした上で、値段も十分予算の範囲内だったから、早速試着してみる。
 「あら、すごくよく似あってるわよ~」
 店員さんの言葉もまんざら嘘やお世辞じゃなさそうだ。
 「そ、そうですか?」
 だからってわけじゃないけど、その場で購入を決める。
 「ありがとうございました~、これからもご贔屓にしてね」
 「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
 ほかの店員さんや店長さんもいい人みたいだし、機会があればまた来てもいいかもしれないな。


□月×日

 財布はもった。ハンカチはもった。身だしなみも……まぁ、多分こんなものだよね、ウン。
 「よし、行こう!」

 待ち合わせはレジャーランドの入口前だ。
 予定時間の10分前に来たんだけど、なのはもう来て待ってるみたい。
 後ろからこっそり近づいて、ポンッと肩を叩く。
 「ごめん、なのは、ちょっと待たせちゃった?」
 「ううん、わたしもいま来たところだか……ユーノ、くん?」
 「? そうだけど……」
 どこかおかしかっただろうか? あ、もしかして……
 「眼鏡と帽子? イメチェンってほどじゃないけど、ちょっと印象変わるかなって思って」
 まぁ、細かい文字読む時はともかく、普段は裸眼でも問題ないんだけどね。魔法の補助もあるし。
 「う、うん、それもあるけど……」
 「この服装のこと? いやぁ、エイミィさんに紹介されたお店で、揃えたんだけど……ひょっとして似合ってないかなぁ」
 両手を広げてなのはの前でくるんと一回転してみる。
 「ううん、そんなことないよ! とってもかぁ……」
 言いかけて、慌てて言葉を切るなのは。
 「か?」
 「か……か……か、かっこいいと思う。ユーノくんによく似合ってるし!」
 「そ、そう?」
 キラキラした目で僕を見るなのは。よかった。あの店員さんに任せて正解だったみたいだ。
 「──すまない。少し待たせたかな?」
 「なのは、ごめんね」
 そうこうしているうちに、待ち合わせていた残りのふたり……クロノとフェイトも来たみたいだ。
 「ふむ、時間3分前か。あの似非フェレットはまだ来てないのか?」
 って、コラコラ、キミの目は節穴かい、クロノ?
 「……お、お兄ちゃん」
 フェイトがクイクイと兄の袖を引く。
 「ん? 何だ、フェイト」
 「ユーノは、もう来てるよ」
 と、彼女が指さした先には、当然僕がいるわけで……。
 「!? もしかして、ユーノか?」
 「僕以外の誰に見えるんだよ、ハラオウン執務官殿?」
 「す、すまん。それにしても、化けたなぁ」
 あれ? こういう時、1の文句を言ったら彼から10の皮肉が返ってくるのが普通なんだけど……。よっぽど僕のことがわからなかったのが、恥ずかしかったのかな?
 「──念のため聞いておきたいが、その服は君のシュミか?」
 「? 悪かったね。どうせ、店員さんの見立てのまんまですよ~」
 そりゃ、確かにファッションとかセンスとかとは縁のない生活してるけどね。年中黒づくめの君には言われたくないよ!
 「にゃはは……まぁまぁ、それだけ見違えるほどユーノくんの格好が似合ってるってことだよ~」
 なのはの仲裁でその場は丸く納まり、僕らは早速レジャーランドに入った。

 4人で色々なアトラクションを見て回りながら、僕は素早く脳内で、すでにほとんど暗記した例の本のページをめくる。

●モテモテ・恋の法則16
 もろくナイーブな感性が、女の子の母性本能を刺激する

 ナイーブで繊細な感性をアピールするには……アレだ!
 「ねぇ、なのは~、アレに乗らない?」
 とあるメルヘン風味満載のアトラクション、たしか回転木馬とかいう代物を指さす。
 「えっ? ユーノくん……もしかして、あれに乗りたいの?」
 「うん……だめ、かなぁ」
 確か、「おねだりする時は上目使いで母性本能をくすぐるべし」だよね。
 「う、ううん、全然OK、問題ないよ!」
 なぜか顔を赤くして心なしか鼻息を荒くしたなのはが、僕の手を引いてズンズンと乗降口に引っ張っていく。
 「おいおい、僕らの意見も……」ギュッ「ん? どうした、フェイト」
 「わたしも、アレに乗りたい……その、お兄ちゃんといっしょに」
 「む……い、いいだろう。さぁ、行こうフェイト」
 同行者の同意も得られたから、まぁ、いいよね?
 それにしても……ハラオウン兄妹みたくふたり乗りまではいかなくとも、なのはは乗らなくてよかったの?
 「うーん、ちょうど定員だったし、折角だから記念スナップも撮っておきたいしね」
 あ、そうか。それでデジカメでパシャパシャやってたんだね。
 「うん…………(それに、こんなキュートなユーノきゅんの姿はぜひ押さえておきたいし)」
 ? なんか言った、なのは?
 「う、ううん、何も! ささ、次に行こ、次に」

 それからも、いくつかのアトラクションを楽しんだところで、いったん休憩して昼食をとることになった。
 全員お弁当を持参していたので、中庭の休憩コーナーでそれを広げることにする。
 「うわぁ、ユーノくん、それって全部手作り?」
 「たいしたことないよ。遺跡調査のときとか、メンバー交代で炊事当番してたりしたからね」
 日常的に仕事としてやってたことだから、さして自慢にはならないし。
 「うぅ……それに比べてわたしのは……」
 どうやら、なのはは気合い入れすぎてちょっと失敗したらしく、中身の半分は桃子さんに作ってもらったものらしい。

●モテモテ・恋の法則17
 女の子にもてるには女の子に信用されることが必要

 ピン! ときた。
 「じゃあ、なのは、今度一緒にお料理作ろ。僕もそれほどうまくはないけど、できるだけ教えてあげるから」
 「本当?」
 「うん、もちろん!」
 途端に、なのはが元気を取り戻した。
 「(……ユーノきゅんのエプロン姿……)えへへへへ~」
 満面の笑みを浮かべるなのはの様子に、こちらまで嬉しくなってくる。
 ──ちなみに、残りのふたりは「お兄ちゃん、あ~ん」とか「うん、美味しいよ、フェイト」といった、リンディさんの飲む緑茶並みのダダ甘い空間を形成してたので、あえて突っ込みは入れなかった……というより、入れられないという方が正解かも。

 食後の小休止で4人でお茶を飲みながらおしゃべりしていると、5歳くらいの男の子が、泣きそうな顔でひとりで歩いているのを見かけた。もしかして、迷子?
 「ねぇ、ボク、もしかしてお父さんお母さんとはぐれたのかな?」
 その子を呼び止め、しゃがんで目線を合わせてから、優しく聞いてみる。
 「ぐすっ……うん」
 やっぱり心細かったのだろう。泣きだした男の子をなだめつつ、なのはとふたりで迷子センターへと連れていく。エリアサーチの魔法を使おうにも、さすがに対象の顔とかがわからないと無理だしね。
 クロノとフェイトには、それらしい夫婦がここへ来た時のため、この場に残ってもらう。
 幸い、迷子センターに着いてアナウンスしてもらってすぐ、男の子の両親は現れた。
 「本当に、ありがとうございました」
 「いえいえ、大したことはしてませんから」
 「ほら、信二もお礼を言いなさい」
 「ウン、おねーちゃんたち、ありがとう」
 何度も振り返りながら手を振る男の子の様子が微笑ましい。
 隣りのなのはも笑いながら手を振り返している。
 ん? もしかしてこれって「モテモテ・恋の法則18 子供に好かれる者がもてる」を達成してる? 別に意識してたワケじゃないんだけどな。ま、結果オーライってことで!

 その後も、僕らはレジャーランドで楽しいひと時を過ごした。

●モテモテ・恋の法則19
 女の子は占いに弱い

 「なのは、なのは、こっちに占いマシーンがあるよ、やってみよーよ」
 「あ、そうだね。どうせなら相性占いにしようか」
 ! やったぁ、僕から言いだす前に、なのはが言ってくれたよ。もちろん、僕に反対する理由はない。
 そして、出た結果は……。
 「わたしたちの相性は……85% 結構高いね!」
 「う、うん、そうだね」
 でも、内訳は、恋愛度5、友情度70、主従度10だから、そんなに喜べないなぁ。
 なのははご機嫌みたいだから、別にいいんだけどさ。
 「お兄ちゃんとわたしは……80%かぁ」
 「結構高いじゃないか。それに相性なんかに関係なく、僕はフェイトのことが大事だよ」
 「──それって、妹として? それともひとりの女の子として?」
 「うーん、両方、かな」
 「それってズルい! ……でも、今はそれでもいいや」
 この兄妹は、相変わらずマイペースに甘ったるい空気を周囲にバラ撒いてたけどね!

 そんな風にいろいろハプニングはありつつ、楽しい一日だったんだけど……。
 うーん、これでちょっとはなのはとの仲が進展したんだろうか?
 でも、彼女は一日中ご機嫌だったし、僕もうれしかったから、いいか。
 次に機会があれば、今度はショッピングに付き合うという約束もできたし、ね。

 ×  ×  × 

*Another View*

 「今日は楽しかったなぁ……」
 自室でパソコンの前に座って、遊園地で撮ってきた写真を整理するなのは。
 「とくに、ユーノくん、すごく可愛かったよね」
 なのはが開いているビューアーには、メリーゴーラウンドで木馬に乗って満面の笑みを浮かべて手を振るユーノの姿が映し出されていた。
 ベージュ色のオフショルダーのセーターを着て、首回りからは下に来たキャミソールの紐がチラリと覗いている。
 下は、サイドに膨らみのある赤と黒のチェックの入ったショートパンツ。太腿までの黒いニーソックスを履いて、足元は少しヒールのあるミドルブーツ。
 頭には赤いベレー帽を載せ、黒縁の眼鏡をかけている。
 結論。どこからどう見ても、「可愛い眼鏡っ娘」にしか見えません。
 声のこともあって、自分たち以外、誰ひとりユーノの本当の性別に気づいていないだろう。たぶん、ユーノが行ったお店の店員さんも、彼を”彼女”だと誤解して、あのファッションをコーディネートしたに違いない。
 「次の機会には、わたしの好みのお洋服とか着せてあげたいなぁ」
 どうやら、ここにイケナイ道に目覚める少女がひとり、爆誕したらしい。
 無論、単に服装のせいばかりでなく、今日のユーノの言動の数々が、なのはのツボにヒットしたからにほかならない。
 「うふふ、楽しみだねぇ、ユーノちゃん」
 この時から、およそ十年にもわたるユーノの苦難の日々──デートの時は、必ず女装させられるという”慣習”が始まるのだが……。
 当の本人は、そんなこともいざ知らず今日一日を振り返ってニヤニヤしてたりするのだった。
 がんばれ、ユーノ・スクライア! でも、元から微百合属性のあるなのはの場合、下手に異性と認識されるより、同性として見られる方がより親しくなれるのかもしれないゾ。

 -つづく?-
--------------------------------------------
以上。ユーノくん、知らぬが仏、あるいは裸の王様なお話でした。
たぶん、このユーノなら、20歳前になっても「なのはとはいいお友達」なんてことは抜かさず、もっと深い関係になっていると思います。もっとも、「ユーノちゃんは、わたしの嫁!」と公言されて凹んでいる可能性もなきにしもあらずですが。
ちなみに、デートの時のユーノの服装は、中の人つながりで某11eyesのサブヒロインの私服を参考にしました。エイミィさんの企みではなく、「ユーノがなのはに服をプレゼントする」と誤解したため、少女向けの店を紹介したのが原因です。



[11715] 遣手ババアと呼ばないで-エイミィの萌えキュン日記-5
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:58
<その5>

 ども、お久しぶりの恵美ことエイミィです。
 例の闇の書事件から、5年あまりが過ぎました。

 おおよそわかっていたこととは言え、はやてちゃんとヴォルケンリッターは保護観察も兼ねて管理局に所属して働いてる。
 それだけ時間が経ったとなると……やっぱり気になるわよね、「白き魔王の墜落」の一件。
 結論から言うと、結局なのちゃんは、やっぱり事故った。
 一応、友人として色々忠告して、健康診断とかも頻繁に受けさせてはいたんだけど、魔力ダメージ、それも自分自身の魔力によるそれって、なかなか表面には出ないらしくて、ふつうの健康診断程度では、わからなかったみたい。
 逆に「とくに異常はない」と聞いて安心してた私だからこそ、なのちゃんが落ちたと知って、飛び上がるほど驚いたわよ。
 ただ、アニメで語られたみたいな生きるか死ぬか、一生歩けないか、というほどの瀕死の重傷ではなかったのが、不幸中の幸いかな。とりあえず敵は全部倒したところで、唐突に意識を失って落ちたらしいし。
 この差が、私と私が味方につけたユーノくんが口を酸っぱくして度々健康管理に注意させた事によって生じたものなら、少しは私も気が楽なんだけど……。
 とは言え、重傷には違いなく、なのちゃんは、身体ダメージだけでも全治一カ月半、魔導師としては最低3ヵ月は魔力の行使を禁じられ、療養に励むこととなった。
 ま、9歳のころから働きづめ、がんばり詰めだった彼女にはいい機会でしょ。その間の監視と激励は、もっぱら無限書庫の司書長と、なのちゃんの事故時に同行して責任を感じてる鉄の幼女にお任せした。
(もちろん、常識的な範囲でのお見舞いとかには行ったわよ?)
 そうそう、なのちゃんの怪我が「正史」ほど重くなかったおかげか、フェイトちゃんは無事2回目で執務官試験に合格してるのよね。なんでも、12歳での合格は史上最年少から2番目らしい。さらに最年少がその兄とあって、ミッドチルダではちょっとした話題になったわ。
 もっとも、本人はそんなことより、親友の回復具合や、愛しのお兄ちゃんとようやく肩を並べる位置に来れたことのほうが、気がかりみたいだったけど。
 ……とは言っても、その約1年後には、クロノくん、リンディさんからアースラ艦長の職を引き継いだわけだけどね。

 で。
 シリアスな歴史の歩みはさておき、私の「ちびっこカップル観察日記」プロジェクト(だっけ?)の方は、なかなか順調に進行中。
 5年前から、らぶらぶいちゃいちゃと甘甘な空気を周囲に振りまいていたクロノくんとフェイトちゃんだけど、ついに最近「オトナのカンケイ」になったみたい。
 別に監視カメラとかつけてたわけじゃないのよ?
 どちらかと言うと偶然、目撃しちゃったのよねー。
 闇の書事件以来、私は海鳴市にある元管理局臨時支部で、現在ハラオウン家が所有するにマンションの一室に居候させてもらってる。や、一応部屋代(下宿代?)は払ってるから、ルームシェアってほうが正しいのかもしれないけど。
 やっぱ、元日本人としては、クラナガンとかよりこっちの方が落ち着くのよ~。ハラオウン家でも、最近ではすっかり家族扱いで、フェイトちゃんも「エイミィ姉さん」って呼んでくれるし。ま、フェイトちゃんやなのちゃん、はやてちゃんの「姉」としてのポジションは、自ら任じている部分もあるわけだけど。
 ……どう転んでも重たいもの背負わされることが、ほぼ決まってる娘さん達だしねぇ。せめて、プライベートその他で少しはあの子たちの心理的負担だけでも軽くしてあげられたら、とか思うワケですよ、精神年齢25歳のおねーさんとしては。
 そうそう、フェイトちゃんやクロノくんだけでなく、私も昇進したのよ!
 現在の役職名は「時空管理局管制司令補佐」。もっとも、「補佐」といっても上役として管制司令がいるわけじゃなくて、どちらかと言うと「警部補」の”補”に近い感覚かな? 大過なくお勤めして、1年後に筆記試験を受けて合格すれば、晴れて「補佐」の2文字はとれることになっている。
 ……とは言っても、やってることはリンディ提督の指揮下にいたころと、ほとんど変わってないんだけどさ。むしろ書類仕事の雑用が増えたかも。
 おっと、話が逸れちゃった。肝心のクロフェイ決定的瞬間を目撃したのは、大事件のあと始末が終わって、久し振りに海鳴のマンションに帰って来たときのこと。
 ハラオウン家の部屋の玄関に入ったときも、疲れてたからつい「ただいま」とか言うのを忘れてたのよ。電気もついてないから、誰もいないだろうと思ったし。
 そしたら……どこかの部屋から人の声がするのよね。
 「すわ、泥棒か」とも思ったけど、私も一応魔導師のはしくれ(魔導師ランクEのホントにハシクレだけど)、相手が大型火器でも持ってない限り、警戒してれば対処できるはず……と思って、様子を窺ってたら、その声が聞き覚えのある男女のものだって気がついたの。

 「──ねえ、お兄ちゃん。今晩……しようよ」
 「おや、フェイトからそう言ってくるとは珍しいな」
 「……いぢわるッ。ねぇ、いいでしょう?」
 「ああ、僕の方は大歓迎だけど……今日もこの部屋でするのか?」
 「うん、お兄ちゃんの部屋の方が、お母さん達の部屋から離れてるし」

 ──おっと、よい子の皆さんには、ここまでしかお聞かせできません!
 てか、私もさすがにそれ以上デバガメするのはさし控えたしね。
 そっか~そう言えば、ここ最近、朝食の場で、時々フェイトちゃんが活き活き艶々してることがあったと思ったら……”女”になったんだねぇ、フェイトちゃん。
 初めての時にお赤飯炊いてあげられなかったのが、おねーさん、残念だよ~。
 まぁ、とりあえず、これであのふたりは問題ないでしょ。フェイトちゃんは一途だし、クロノくんも義妹の純潔奪っておいてヤリ逃げできるタイプでもないしね。

 問題は、もうひと組の方よね~。
 アチラは微妙に歪んでいるというか……いや、私も「それ」を初めて知った時、大ウケして、なのちゃんを大いに煽ったのは確かだけどさ。
 でも、普通、小学生くらいまでならともかく、14、5歳になったら、さすがに男っぽくなって、そういうカッコも似合わなくなると思うじゃない?
 なのに、ますます”美少女”ぶりに磨きがかかるってのはどーなのよ、ユーノくん? 
 「最近、仕事でスーツ着てても、なのはが”男装”してるくらいにしか見てくれないんです」って相談に来られてもね~。正直、私もなのちゃんの意見に賛成。某瑞穂おねーさまの如く、生まれてくる性別を間違ったとしか思えないわ。
 とは言え、あのふたりもその点を除けばラブラブなことには変わりはないし、今後もおねーさんは、(生)暖かい目で見守ってあげませう。
 あとは、はやてちゃんのお相手探しかなぁ。今のところ、最有力なのはヴェロッサだけど、さすがに教会と接触する機会って少ないのよね~。
 ま、クロノくんを通じて、色々探り入れてみますか!

 -つづく-
-----------------------------------------------------
以上。今回はちょっと短めです。
ちなみに、いささか稚拙ではありますが、「クロノ×フェイト」の初HシーンをXXX板の方に投下してあります。



[11715] 遣手ババァと呼ばないで-エイミィの萌えキュン日記-6
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 06:59
<その6>

 うぅーみゅ、これはバタフライ効果と言うべきなのか、それとも歴史の修正力とやらが働いた結果なのか……。
 前回から1年たらず経過した現在、私はここミッドチルダで、妹分の三人娘とともにパジャマパーティ(というか単にベッドでヘバってるだけ?)してたりする。
 言うまでもなく、これは「あの」機動六課設立の直接の契機となる出来事だ。
 ──いや、まぁ、はやてちゃんは前々からそういう構想は練っていたのだろうし、遅かれ早かれそういう部隊設立に向けて動いただろうことも、十分考えられるのだけど。
 でもね。
 「なのは」ワールドにおける”桃園の誓い”ともいうべきイベントに、私みたいな小物が立ち会ってもいいのかなー、と密かに思ったり。
 言うならば、劉備、関羽、張飛に混じって、楊儀が隅でコッソリ加わってるようなもんじゃない? 気がひけるなぁ。
 (「三国志大戦」知らない人間にはわかりにくい例えかにゃ~)

 どうしてこんなコトになったかと言えば、答えは簡単。
 私も、例のクラナガン空港の大火災に居合わせて、救助活動を手伝ったから。
 もちろん偶然じゃなく、ある程度意図してのことだけど。
 いやね、私もさすがに悩んだのよ。PT事件や闇の書事件と違って、明確に死傷者が出ることがわかってる大災害だし。
 人として、管理局員として、できれば防ぎたいとは思ったのは確か。
 ただ、例によって明確な日付がわからなかった(私が覚えてなかった)ことと、阻止するために何をすればよいのかが前のふたつ以上に曖昧なのが災いしたんだよねー。
 火災の原因は、確かレリックだかロストロギアだかが絡んでいたはず。ならば、その問題のブツの動きを見張っていれば……と思うのが、素人の浅はかさ。
 まず第一に、たとえ同じ管理局内といえど、そういった貴重品輸送に関わる情報はつかみにくい。また、正規の移動ではなく、犯罪組織などが密輸してたりしたのならお手上げだ。
 加えて、仮に輸送される時期がわかったとして……私は何をすればいいのか?
 「そのレリック、爆発炎上しますから、気をつけてね」と警告する?
 ……うん、普通に頭の具合を心配されるレベルの発言だわ。
 むぅ、仕方ない。とりあえず、なのちゃんたちが中学卒業する年の春ごろってのはわかってるんだから、私もその時クラナガンに滞在しますか。
 ──てなわけで、溜まりに溜まった有給(次元航行部隊所属だと、なかなか消化できないのよ~)を新暦71年の4月に注ぎ込んで、約1カ月の休暇をとったら、タイミング、ドンピシャ。
 同居する家族でもあるフェイトちゃんとこまめに連絡を取り合っていたのも幸いして、事件発生から30分と経たないうちに、事故現場に駆け付けることができたわ。
 現場は、まさに焦熱地獄の呼ぶべき有様ね。これまた運よく(というか狙ってたんだけど)、はやてちゃんとリインちゃんに会えたから、私も救助活動の手伝いをさせてもらうことになった。
 と言っても、私の魔導師ランクはE、素人に毛が生えた程度だから、もっぱら後方要員しかできないわけだけど。
 もっとも、人手不足だったから、私みたいな情報管制と二流の後方指揮しかできない似非士官でも重宝したみたい。2話で、はやてちゃんがやってた指揮業務を代行しただけなんだけどね。
 もっとも、そのぶんはやてちゃんを早くフリーにできたんで、魔導師(おっと彼女は騎士だっけ)として消火活動にあたってもらうことはできた。
 リインちゃんも早期にフリーにしてはやてちゃんとの元に送り出すことができたし、現場に到着したナカジマ陸佐からは、エラく感謝されたっけ。
 ──本当は、これだって、自分のちっぽけな良心を誤魔化すための自己満足に過ぎないとは、わかってるんだけどね。
 私が加わったことで、確かに本来よりは何人か多くの命を救えたかもしれないし、何人かの怪我の度合いは軽くて済んだかもしれない。でも、それでも決して被害や重傷者を0にできたわけじゃない。
 そんなことは、あの奇跡の三人娘(ミラクルスリー)にだって不可能だ。
 そして、少なくとも私は、この事故がほぼ間違いなく起こるであろうことを事前に知っていたのだ。
 ナカジマ姉妹だって、アニメを見ているぶんには結構危ない状況だった。一歩間違えれば命を落としてもおかしくないくらいに。だから、ナカジマ陸佐の感謝の言葉に対して、私は弱弱しく愛想笑いを返すことしかできない。

 ……ふぅ。ダメだダメだ、ちょっと気分を切り替えよう。
 とりあえず、ひととおりの現場の引き継ぎは終わったみたいだから、長居せずに私は自分の泊ってるホテルに戻……ろうとしたところで、なのちゃん達に捕まっちゃったんだよね~。
 そのまま、なのちゃん達のホテルまでお持ち帰りィ~。
 いやいやいや、こんな20歳過ぎたおねーさん、持ち帰っても、イイことないから!
 ──ええ、もちろん私の抗議の意を込めた発言は軽くスルーされましたとも。
 まったく、悪戯っ子のはやてちゃんはともかく、なのちゃんやフェイトちゃんは、人の言うこと素直に聞くいい子だったのに……。どこかの誰かに悪い影響でも受けたのかしら。
 ん? どしたの、三人とも私の顔見て溜息なんかついて?
 で。魔力と身体を駆使した肉体労働で疲労困憊した妹分たちを、頭脳労働したとはいえ多少は余裕のある私が、面倒みるハメになったワケ。

 回想から我に返ると……なんだか期待を込めた目で三人から見つめられてる!?
 「そんなに見つめちゃイヤ~ン」とお約束のギャグで流す雰囲気でもないわね。
 えーと、どうしたの…かな?
 「いえ、ですから、ワタシが自分の部隊を持った時は、エイミィさんにも協力してもらえんかなぁ、思て」
 What!?
 こ、これはもしかして「機動六課への参加フラグ」なのカナ? なのカナ?
 むむむぅぅぅーーーーーー。
 多分、これは大きなターニングポイントになりうる選択だ。
 「正史」では、結婚して軍を退いていたエイミィは「StS」に出て来なかったけど、もし、ここで私が首を縦に振れば、多分ロングアーチの一員として参加することになるんだろう。
 もし、そうなれば、六課にとっていくつか有益な助言はできるとは思う。
 けど、同時に、あのスカリエッティ一味による六課襲撃に巻き込まれることも意味するんだよね。
 ……考えるまでもないか。
 「そーねー、いいよ。はやてちゃんが自分の部隊を持てるくらいに出世してくれたら、おねーさんも引き抜いて、ちょっとは楽させてね~」
 こうして、(多分)4年後の機動六課立ち上げメンバーに、エイミィ・リミエッタの名が連ねられることは、ほぼ確実になったわけです、まる。

 「ま、それはそれとして……はやてちゃん、ヴェロッサくんとの仲はどーなのかな~?」
 「はぁーー。エイミィさん、いつも言うてるやんか、ワタシとロッサは兄妹みたいなもんや、て」
 「え~、でもぉ~、義理の兄妹で婚約まで漕ぎつけてる娘もいるしィ~」
 うりゃっ、とフェイトちゃんの左手をつかんであとのふたりに見せる。
 もちろん、その薬指には見事なエンゲージリングがはめられていた。
 「ひぃやッ! ちょっと、エイミィ姉さん、まだ秘密って言ったのに……」
 真っ赤になって涙目になってるフェイトちゃんが可愛らしい。
 「本気で秘密にするつもりなら、婚約指輪外してくるでしょ」
 「それは……でも、折角、お兄ちゃんにもらったものだし……」
 「ほほぅ、つまり愛しのお兄様からの賜り物やから、ひと時でも手放したくなかった、と?」
 はやてちゃんがイイ笑顔でフェイトちゃんに詰め寄る。こういう時のノリの良さは、つくづく私と気が合うのよね、ウン。
 「ふたりとも~、フェイトちゃんにも弁解させてあげようよ~」
 なのちゃん、一見フェイトちゃんに味方してるみたく聞こえるけど、意訳すると「さっさと吐け、コンニャロウ」ってことよね、それ。
 そんなこんなで、私たち女の子(22歳だって、まだまだ女の子だモン!)4人のあわただしくも楽しい休日(オフ)は過ぎていったのでした。
 しかし、イマイチはやてちゃんの恋愛フラグが立たないわねぇ。
 まぁ、この娘は私と同じく、自分自身の色恋より、他人の恋路を見て茶化してるほうが楽しいというタイプだからしょうがないけど……。
 20 歳 過 ぎ て、焦 っ て も 知 ら な い わ よ !
 ……もっとも、八神家の場合、ヴィータとかリインちゃんとかがいるから、すでに子持ち家族持ちと言えないこともないけどさ。

 え、私? 私は、一応、相手いるわよ?
 ククク、この手の話では、「他人の恋愛コーディネートにかまけてて、気が付いたら自分は嫁かず後家」ってのがお約束だけど、そんな凡ミスはしてやるもんですか! ……下手したらそうなってた可能性は否定しないけどさ。
 お相手は、先日の空港火災で顔を合わせたゲンヤ・ナカジマおじさま……では、もちろんなくて、そのぅ……「凡人妹のエリートな兄」って言えばわかるかな?
 そう、ティアナのお兄さんのティーダ・ランスター一等空尉。
 え? 彼はこの頃死んでるはずじゃないか、って?
 うん、本来ならね。
 一応、彼が殉職したこと自体は覚えてたから、2年くらい前から偶然を装って知り合って、ちょくちょく注意を促しておいたのよね~。
 まぁ、最初は、ティアナのトラウマを少しでも軽くしてあげられればと思って、ついでにもし可能なら彼も救えれば……という程度だったんだけど、いつの間にかそれが、友達付き合いするようになってたんだから、人の縁って不思議よね。
 けれど、彼が本来殉職するはずだった事件の捜査の時、私が日頃から口を酸っぱくして単独ではなくサポートメンバーを連れていくよう念を押したおかげで、彼は全治半年の重傷は負ったものの一命は取り留めたの。
 もっとも、リンカーコアが著しく傷ついた結果、もはや前線で戦う捜査官や執務官の業務はほぼ不可能になったんだけどね。
 私としては命が助かっただけでもめっけモノと分かってはいるんだけど、彼にしてみれば目指す道が志半ばで断たれてやりきれない状況だったろう。
 さすがに荒れる彼を慰めたり、励ましたりしてるうちに……まぁ、何だ。そういう関係になってたワケよ。
 もちろん、正式に恋人と認められるまでは、色々ありましたとも。
 とくに大きなハードルだったのは、「お兄ちゃん大好き」妹ことティアナちゃんその人だったり。
 でも、ティーダが入院中、休日ごとに病室に通ったのが功を奏したのか、最近ではようやく「もしかしたら義姉になるかもしれない人」として認めてくれたみたい。
 ふっふっふ、これで妹分の4人目、ゲットだぜ!
 もっとも、私は海、彼は(後方支援になったとはいえ)陸の部隊に所属してるから、いろいろ風当たりとかもあるし、順風満帆とは言えないんだけどねー。
 あ、そうそう、ティーダ存命ってことでティアナちゃんのモチベーションをちょっと心配してたんだけど、「お兄ちゃんが果たせなかった夢を、あたしが代わりに果たす!」と、来年の陸士訓練校受験に向けて燃えてるみたいなんで、ひと安心かな。
 正直、「StS」の終盤見る限りでは、ティアナって三人娘みたいな”天才”じゃないけど、十分クロノくんクラスの”秀才”ではあると思う。”凡人”ってのは、私みたいなのを形容すべき言葉だよねぇ。
 ともあれ、これでティアナちゃんが無茶した時は、兄のティーダに連絡して説得させれば何とかなるかな。
 あとは……あのシスコン狙撃兵か。ま、そちらはおいおい考えましょ。

-つづく-
-------------------------------------
以上。エイミィに部隊指揮ができるのか、という疑問もありますが、たしかアースラにリンディもクロノもいない時は、実質的なナンバー3として指揮をとる……という記述を、どこかで読んだ気がします。なので「一応の訓練は受けている」と解しました。
それにしても、六課に入るのがエイミィにとって「死亡フラグ」でなければよいのですが……。



[11715] 萌えキュン日記番外編4;ティアナ・ランスターの憂鬱
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:e4b1be90
Date: 2009/09/23 18:03
<萌えキュン日記番外編4;ティアナ・ランスターの憂鬱>
※今回は、ちょっとシリアス風味? 誰得な感じではありますが。


 目の前であの兄が大口を開けて笑い転げているのを、あたしはどこか複雑な気分で眺めている。
 あたしの名前は、ティアナ・ランスター。時空管理局の首都航空隊において、一等空尉を務めるティーダ・ランスターの妹であり、現在、唯一の身寄りと言えるだろう。
 親戚縁者が皆無というわけではない。だが、父母を早くに亡くした私たちは、兄妹寄り添って生きてきたのだ。
 ……いや、今思えばそれはあたしの思い込みだったのだろう。事実は、あたしが、一方的に兄に庇護されてきたのだ。
 もちろん、若い身空であたしを育ててくれた兄にはずっと感謝してきた。ただ、その一方で、あたしはどこか「兄の心を自分が家族として支えているのだ」と自惚れていたのではなかっただろうか。
 その自信が揺らいだのは、兄と並んで歩きながら、いかにも愉快げな(ある意味、年頃の女性としてははしたない)表情で世間話というか体験談をしている女性が、私たちの前に姿を現してからだ。
 彼女の名はエイミィ・リミエッタ。兄と同じく管理局の士官ではあるが、同時に彼女は次元航行部隊──いわゆる「海」側に所属し、本来兄の属する「陸」──地上部隊とは、犬猿の仲のはずだった。
 もっとも、兄はそういった確執にこだわる方ではないし、エイミィさんに聞いたら「何、それおいしいの?」とでも言うだろう。さほど付き合いは深くないわたしだが、それくらいは十分わかる。
 かと言って、彼女が馬鹿というわけではない。魔導師ランクこそEと決して高くはないものの、民間人であるあたしでさえ度々ニュースで目にするほど華々しい成果をあげている次元航行艦アースラにおいて、管制司令を務めているのは伊達ではなかろう。
 また、ここ最近ミッドチルダで話題に上ることの多い若年魔導師のトップスリー、ナノハ・タカマチ、フェイト・T・ハラオウン、ハヤテ・ヤガミの3人とも親交があるばかりでなく、噂では彼女達が頭が上がらない数少ない人物のひとりが、このエイミィさんだと言う。
 いわく「緑髪の魔女の左腕」(現在では「黒衣の英雄の介添人」)、いわく「次元航行部隊一の早耳」、いわく「敵に回すとオソロしく、味方に回すとオモシロい」……などなど、恐れるべきか笑うべきか判断に悩む異名が、時空管理局内でもいろいろ伝わってるらしいと兄からも聞いた。
 いずれにしても一筋縄ではいかない女性のはずなのだが……私たち兄妹の前では、愛嬌のある顔つきで笑い話を披露し、美味しい料理を作ってくれたり、世話を焼いてくれる、愛すべき(あぁ、その点は認めざるを得ない)気さくなおねーさんに過ぎない。
 ……一応、兄のほうが彼女より年上ではあるのだが。

 しかし、その彼女の助けがなければ、兄に笑顔が戻るのは、もっと遅くなったことだろう。いや、もしかしたら一生戻らず、それどころか立ち直ることすらなかったかもしれない。
 兄は、将来を嘱望される一等空尉だった──そう、「だった」のだ。2年前、捜査官としてある事件の容疑者を追っている際に重傷を負って、一命はとりとめたものの、右目とリンカーコアを損傷、身体的にも一時は日常生活すら危ぶまれるほどだった。
 執務官になるという夢が断たれ、それどころか捜査官としても前線に立つことはほぼ無理とわかった時、兄は荒れた。幼いころから、ずっと一緒にいるあたしが、かつて見たことがないほどの荒れようだった。
 いや、振り返ってみれば、兄はいつもあたしの前ではやさしく微笑んでいたように思う。それが、どれほど不自然なことか、その笑顔を失って初めてわたしは気がついた。
 幼いあたしを安心させるため、妹が誇れる兄でいるために、きっと無理に無理を重ねてきたのだ!
 そのことに気が付き、愕然としたあたしには、兄にかけるべき言葉はなかった。
 16歳のころから管理局員として働き、幼い妹の面倒をみつつ、その合間に自分の夢を実現させるべく努力してきた彼に、ずっと守られてきたあたしがどんな慰めや励ましが言えるというのか?
 最初は何人も見舞いに来た兄の同僚たちも、彼の再起が絶望的だと知ると、徐々に姿を見せなくなった。今なら、それは彼らなりの思いやりだと言うことを理解できたが、当時のあたしは薄情な彼らを恨んだものだ。
 けれど──そんな状況下でも、エイミィさんは毎週のように兄の病室を訪れては、ジョークを飛ばし、手料理を差し入れ……あるいは塞ぎこんだ兄の前に黙って座っていてくれた。
 兄がリハビリに消極的だと知ると、叱り飛ばし、無理やり引っ張りだして外を連れまわし……時には病院側に怒られながらも、いろいろ兄の世話を焼いてくれたのだ。
 そうこうするうちに、次第に兄さんの眼に光が──生きる意欲や希望というものが蘇っていった。
 エィミィさんは語った。
 幼くして父を理不尽な事故で亡くし、その時以来、この世界から少しでも理不尽な”悲しみ”を減らそうと頑張っている少年のことを。
 父親が瀕死の重傷を負ったばかりに、家族が総出でその世話やフォローに追われ、その結果、寂しい幼年時代を送ることとなった少女のことを。
 違法な魔導実験の結果生まれ、その実験結果に満足しなかった狂った"母"の思惑に振り回され続けた、寂しい瞳をした少女のことを。
 幼少時に両親を亡くしたうえ、足が不自由なため、車椅子に乗ってひとりで暮らしてきた、明るくけなげな少女のことを。
 具体的な名前は語られなかったから、想像するしかなかったけど、たぶんそれはエイミィさんのごく身近な人たちの話なのだと思う。
 「私自身は、飛びぬけた能力も、優れた血統や才能も、格別の不幸や幸運も持たない、ごくありふれた人間だけどね。それでも、そういった人達をそばで見てきたから頑張ろうとも思うし、微力ながら私でも力になれることも知ってる。
 ねぇ、ティーダくん、知っての通り私は魔導師ランクも戦闘能力も低い、パーペキな後方士官だけど、私って役立たずだと思う?」
 エイミィさんが言いたいことがわかったのだろう。兄は彼女の膝にすがりついて大泣きしたあと、心機一転、リハビリに励むようになっていた。
 その後、医者の予想よりはるかに短い半年足らずで、完全に回復し(と言っても、右目の視力とリンカーコアの損傷は完治しなかったんだけど)て、職場に復帰することとなった。
 戦闘を主体とする捜査官は無理だけど、元々執務官志望だったから、局内での情報分析をはじめとするサポート任務は十分に行える。最近では、現場と内勤の両方に通じる人間として、結構頼りにされてるらしい。
 それはいい。妹のあたしにとって、兄が立ち直ってくれたのは歓迎すべきことだ。兄が声を押し殺して泣いている時、病室の外で立ち尽くすことしかできなかったあたしとしては、むしろ彼女を救世主と崇めてもよいくらいだ。
 (口にするとつけあがるだろうから、絶対言わないけど)
 兄がエイミィさんと恋人になったのも、感情面はともかく、理性では頷ける。人生で一番辛い時期に、あれだけ献身的に世話してもらい、喝まで入れられては、男として惚れないわけがないというのは、女のあたしにだってわかる。
 また、エイミィさんは兄と恋人になったからと言って、妹のあたしを邪魔者扱いするわけでもない。むしろ、今まで以上に親切(まぁ、悪ふざけの度合いも増したけど)に、それこそ妹同然に構ってくれる。
 では、何が問題なのかと言えば……その、彼女にどう接していいかわからない、というのがいちばん正解だろう。長年ずっと、兄とふたりで生きてきたのだ。突然、その輪の中にもうひとり増やせと言われても、正直どうにも落ち着かない。
 ……まぁ、照れくさい、くすぐったいと言った感情もなきにしもあらずだけど。
 そんなことを考えながら、我が家の台所で買って来た生鮮物を冷蔵庫にしまっているエイミィさんを眺めていると、まるで背中に目があるかの如くに、彼女が振り返った。
 「ん~、どしたの、ティアナちゃん? お腹減った?」
 「エイミィさんと一緒にしないでください! 別に空腹なワケじゃ……」
 きゅるぅ~~
 ……しまった。今日はお昼がまだだった。
 ニタリと、まるで子ヤギを前にしたオオカミのような意地の悪い笑みを浮かべたエイミィさんは、「しょうがないなぁ」と言いつつ、カバンから何やら食べ物?らしきものを取り出す。
 「今、ちゃっちゃと作っちゃうからね。コレでも食べて待ってて」
 エイミィさんの料理の腕前自体は中の上ってところだと思うけど、今の自宅があるのが第97管理外世界・地球だそうで、そこの珍しい料理をいろいろ作ってくれるのだ。それについてはあたしも兄も日頃から楽しみにしていた。
 「何ですか、これ?」
 「歌舞伎揚げ……って言ってもわかんないか。地球の日本で食べられてるスナックだよ~」
 香ばしい匂いがするカブキアゲとやらは、素朴な味わいだが決して不味くなかった……というか、むしろクセになる!
 「──ご飯の前だから、あんまり食べ過ぎちゃダメだよ?」
 ギクッ!
 いつの間にか半分近く空けてしまっていたあたしは、背中越しのエイミィさんの指摘にビクッと身体を震わせる。
 本当にこの人、魔導師ランクEなのだろうか? さすが「緑髪の魔女の左腕」の仇名は伊達じゃないらしい。
 (──まぁ、こんな人が義姉(あね)になるのも、悪くないかもね)
 そう呟きながら、あたしは「これで最後」ともうひと口、カブキアゲを頬張ったのだった。

-fin?-
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というわけで、幼いティアナの目を通した、エイミィさん像でした。
恵美なエイミィは自分に対する評価はかなり低めなのですが、本文中のあだ名にもあるように、実は何気に有名人だったりします。無論、3人娘やクロノほどではありませんが。
また、肉体年齢はティーダがひとつ上ですが、恵美としての精神年齢は彼女が上のため、ティーダくん呼ばわりしてます。
彼女と親しい人間のうち、フェイトとなのはは「素直な尊敬と感謝」を抱いており、やや過大評価気味。逆にクロノとユーノは「いざと言う時頼りになるのはわかってるが、それ以外ではトラブルメーカー」と心持ち低め。はやてとティアナは一番公平に評価しているでしょうが、はやては(悪ノリする同族として)肯定的、ティアナはやや否定的(ただし決して嫌いではない)でしょう。



[11715] 萌えキュン日記番外編5;ユーノのモテモテ奮戦記3(トライ)
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:e4b1be90
Date: 2009/09/20 07:01
<萌えキュン日記番外編5;ユーノのモテモテ奮戦記3(トライ)>

×月△日

 今日は、とてもおめでたい日だ。
 僕の友人であり、なのはにとってはまさに親友とも言える少女、フェイトが結婚するのだから。
 お相手は、当然のことながら、クロノ・ハラオウン。彼女の、血の繋がらない義兄にあたる人物だ。
 義理の兄妹の結婚ということで、一部に眉を顰める人もいたけど、彼ともそれなりに親交のある僕らとしては、素直に「よかったね」と祝福してあげたい。
 しかも。
 僕らにとってお姉さん的な立場の友人、エイミィさんも「せっかくだから」一緒に式を挙げることになっている(先月籍は入れて、ランスター姓にはなっていたのだけど、なかなか挙式をとり行う機会がなかったらしい)。
 いわゆる合同婚ってやつだ。
 どちらも、互いのパートナーと深く愛し合い、また前途有望な若者同士なので非常に喜ばしいこと、この上ない。
 うん、それは認めるよ。
 ──でも……でもさ。
 その友人の晴れの席に、どうして僕、こんな恰好で参列してるんだろう……。

 なのはと僕の関係は、相変わらずだ。
 いや……ちょっと違うか。
 正確には、今では僕らも周囲から”カップル”として認められてはいる。
 ただ、その微笑ましいものでも見守るような視線は何!?
 何だよ、「ユーノちゃんは、なのちゃんの嫁!」って標語は? わざわざステッカーまで作って……くそぅ、こんなコトするのはきっとエイミィさんに違いない。
 あるいは、「次元航行部隊内の黒幕」と呼ばれる彼女の薫陶を受けた「ベルカの騎士」、またの名を「コメディ企画屋」ことはやての仕業か!?
 ふたりとも、このテのおふざけには労力を惜しまないからなぁ。日頃から、あのふたりの周辺の人間がどれだけ被害にあってることか。
 おもに、僕とかなのはとか、僕とかクロノとか、僕とかシグナムとか、僕とか。
 あれ? もしかして、被害の半分以上って僕が蒙ってる?
 ……ここ、泣いていいところだよね?

 「ダメだよ~、ユーノちゃん、4人の晴れ姿に感激してるのはわかるけど、泣いたらお化粧落ちちゃうよ~」
 傍らのなのはに咎められる。藤色のカクテルドレスを着た彼女は、今日の主役の花嫁ふたりに負けず劣らず美しいと思うのだけど……。
 「そやな。まぁ、ウェディングドレスは女の子の憧れやし、無理もないけどな」
 ニマニマと笑うはやても、白のドレッシーなツーピースを着て、いつもより数段増しオシャレに見える。
 くそぅ、わかってて言ってるな。
 ふたりにたしなめられた僕はと言えば……コーラルピンクのパンツスーツ姿。こういった式につきもののダークスーツやブレザーでは断じてない。
 色遣いと言いデザインと言い、どう転んでも女物にしか見えない代物だ。さすがに、スカートと口紅だけは泣いて謝って勘弁してもらったが、薄く化粧を施されて、耳にはイヤリングまで付けられている。
 しかも……腹立たしいことに、自分の目から見ても、それらがよく似合ってるのだ!
 子供のころから伸ばしていた髪は今や腰近くまであり、なのはの櫛できれいに整えられると、ごく自然に女らしい髪形に見える。
 普段書庫にこもりきりの生活のせいか、体格も正直同年代の男と比較するとかなり貧弱だ。もともとスクライア一族自体、さほど肉体労働に適した血統ではないとは言え、女物の9号がピッタリ、下手したら7号も入るって、どうなのさ!?

 そう。あの日──初めてのデートの日に、なのはに目覚めた悪癖(僕にとってはそうとしか言えない)は、成長するごとにエスカレートして、最近ではデート以外でも、僕と会うときはいつも女物の服装を着させようとするんだ。
 その際の僕らの戦績は197戦182敗15分け。つまり、僕の意見が通った試しはない。ギリギリ、ニュートラルな格好を許してもらったことが十数回あるだけ。
 自分でも、本当、なんで彼女といまだつき合ってるんだろう……と思わないでもないんだけど、そこは惚れた弱みってヤツかなぁ。
 それに……僕が女の子の格好してる時のなのはは、とても僕に優しいし、無防備に甘えてくる。まぁ、大概は、僕の方が可愛がられちゃうんだけど……って、今のナシ! カット、カット!!
 はぁ~、しかも、そういう状況に自分が順応しつつある気がして、何だか恐いんだよね。最近は家にいる時だって、いつなのはが訪ねて来てもいいように、タンクトップと女性向けデザインのTシャツ&ホットパンツなんて中性的な服装を自然にしちゃってるんだから……。
 唯一、職場である無限書庫だけが、僕に残された最後の牙城だよ。

 ……そんな風に微妙にアンニュイな僕の気分をよそに、結婚式は粛々と進み、誓いの言葉、誓いのキスといったクライマックスもつつがなく進行していく。
 ふぅ、これでほぼ終了かな。
 あ、今回は地球式だから、このあと外でライスシャワーがあるんだっけ?
 なのはに手をひかれて外に出ながらそんなことを考えていた僕は、だから気付かなかったんだ。最後に恐ろしい陥穽が待っていたことに。
 式場の外で待ちうける観衆の前に、まずはランスター新夫妻が姿を見せた。
 新郎新婦に向かってめいめいが米を投げる中、うれしそうな笑顔のエイミィさんが、僕らの方を見て、ニコッと微笑んだ。
 ああ、さすがに女性の晴れの日だと普段より美人度が3割増しに見えるなぁ、と感心していた僕に向かって、エイミィさんは手の中にあったものを放り投げた。
 「──ユーノちゃん♪」
 へ?
 反射的に、投げられたものをキャッチした僕は手の中に目を落とす。
 えーと……これって、ブーケ?
 「ユーノちゃん、地球の結婚式ではね、花嫁さんの投げたブーケを受け取った人が、次の花嫁になれるって言い伝えがあるんだよ?」
 ちょ……なのは、笑ってるのに、その刺すような視線がコワいんですけど!?
 「あははははは、てことは、やっぱりユーノちゃんの未来は、なのちゃんのお嫁さんなんやね!」
 はやて、煽ってないでフォローしてよ!
 「あきらめろ、スクライア」「ま、しょーがないんじゃねーの?」「うむ」「……」「ユーノちゃん、羨ましいですぅ~」
 ヴォルケンズ&リィンも、止めて~!
 結局、その日の二次会では、知り合い間でこのネタで大いに盛り上がったのは言うまでもないよね。
 うぅ~、気をつけないと、いつかホントに、なのはのお嫁さんにされてそうで怖いよ。

追記.そのあとのハラオウン新夫妻のブーケトスは、独身女性陣が虎視眈々と狙ってたんだけど、クラールヴィントまで駆使したシャマルが入手したことを付け加えておく。
シャマル……未婚なのに「奥様」とか言われるの内心気にしてたんだなぁ。
「主をさしおいて先に嫁に行く気か!」って、はやてちゃんは、ちょっといじけてたけど、僕としては、むしろいい気味だった。

-fin?-
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以上。時間的には、本編6の10ヵ月後、新暦72年2月ごろを想定してます。
ちなみに、フェイトたちがなぜにこれほど式を急いだかと言えば……お察しください。
おそらくフェイトにとって宿った命を消すという選択肢はないでしょうしね。
まぁ、ミッドチルダの法的に結婚できるのかどうかは怪しい年頃ですが……。



[11715] 萌えキュン日記番外編6
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:d426b585
Date: 2009/09/20 07:02
<萌えキュン日記番外編6>
※ショートなの3つです。

<6-a:とある武装局員の告白>

 ええ、俺が今こうやって妹と笑ってられるのは、あの人達のおかげですね。

 元々は、俺のミスだったんです。
 当時の俺は、ご承知のとおり武装隊に所属してましてね。まぁ、魔力量はたいしたことないんですが、自分で言うのもなんですが狙撃手としてはそれなりの成果をあげてましたし、相応の自負も自信もありました。
 ところが、ある事件で犯人にコイツを人質に取られた時、情けないことですがブルっちまいまして……。結果、手元が狂ってコイツの左目に弾を当てちまう、ていたらくですよ。
 そのせいでコイツは左目が見えなくなり……俺も、スコープサイトの向こうにコイツの顔がチラつくようになって、狙撃手としては役たたずになっちまったんです。
 自分が情けないやら悔しいやら、妹に対しても申し訳ないって罪悪感に押しつぶされそうになって、毎日まともに顔も見れなかったんスよ。
 一応、ヘリの操縦資格を持ってたんで、管理局には残れたんですがね。正直、あの頃の俺をよく残してくれたと思いますよ、ホント。
 そんなこんなで、鬱々悶々と毎日過ごしてたところに、新設部隊――今の機動六課へのお誘いがあったんスよ。
 推薦者がシグナム隊長とエイミィの姐御とあっては断るわけにはいきませんや。俺自身も心機一転、やり直したいって気持ちもありましたしね。
 で、六課への参加を承諾して間もない頃でしたかね……エイミィの姐御に連れられて、旦那さんと義妹さんが訪ねて来たのは。
 ココだけの話、最初はね、その旦那さん……ティーダさんのことは、サングラスかけたスカした野郎だと思いましたよ。
 でも、話し始めて、すぐに右目が見えないことを明かされました。事故で失明したこともね。
 正直ショックでしたよ。ええ、妹のことを連想してね。
 けど、ティーダさんの話は、もっと衝撃的でした。
 目指す道半ばにして、それをあきらめなければならなかった時の絶望とか、そこから立ち直るための苦労とかね。
 淡々と語ってはいましたけど、表情を見れば、どれだけの思いを抱えてきたのかは、俺にもおおよそは想像できましたから。
 妹さん――ティアナちゃんの話も、心にズンと来ましたね。
 立場は違えども、同じ兄と妹。やむを得ない事情があったからとはいえ、その兄から拒絶されたら、妹がどれだけ傷つくか……とかね。ティーダさんも苦笑いしてましたけど。
 ふたりの話のあと、姐御は俺に言ったんです。
 「ヴァイスくんのことは、パイロットとしてスカウトしたけど、同時に六課を……仲間を護る盾としてもアテにしてる」と。
 ハハ……今にして思えば、随分と勝手な言い草っスね。
 けど、多分あの人はあの人なりに、俺と妹のことを心配し、同時に俺を信頼し、必要としてくれてたんですよ。
 それから、俺は少しずつ妹と話をするようになりました。以前とまったく同じ……とは、正直いかないでしょうが、俺が負わせた傷のことも、俺の現状のことも包み隠さず語り合いました。
 やっぱ、人間、話し合わないと駄目っスね。勿論、必ずしも話し合ったからわかりあえるとは限らんのでしょうけど、それすらしなけりゃ、どうしようもないんスよ。
 おかげで、俺達兄妹は、少なくとも互いの目を見て会話できるようになりましたし、俺ももう一度銃を手に取る気になりました。
 そもそも事の発端は、精神的技術的に俺が未熟だったことが原因ですからね。今では空いた時間、銃の訓練も欠かさずするようにしてます。
 ま、六課では後方支援である俺が、銃を手に戦うような事態にならないのが本当は一番なんスが……そうも言ってられないんでしょうね、部隊長。
 しかし、あのけなげで凛々しかったティアナちゃんが、新人とは言え、ウチのフォワードですか。人と人の縁って、わかんないもんですなぁ。


<6-b:とある槍騎士の感慨>

 ええ、僕たち……僕とキャロにとっては、フェイトさんが保護者――お母さん代わりですけど、エイミィさんは、もうひとりの母親、あるいは叔母さんみたいなものですね。
 もっとも、前にそう言ったら、エイミィさんからは頭を拳でグリグリされちゃいましたけど。
 え、何、キャロ? 「女性に軽々しく”オバさん”なんて言っちゃダメ」?
 そっか、そこを気にしてたのか~。気にするような年齢でもないと思うんだけど。
 えーと、ゴメンなさい、話が逸れました。
 でも、僕らふたりが今これだけ親しくなれたのは、フェイトさんとエイミィさんのおかげだってことは、間違いないです。
 フェイトさんは、忙しい執務官任務の合間を縫って、管理局の保護施設にいる僕ら(預けられたところは別々なんですけど)によく会いに来てくださいました。ご自分の旦那さん──クロノ提督や幼い娘さんと過ごす時間も貴重だったでしょうに……本当に有難い話です。
 そうそう、クロノ提督や娘さんのアリシアちゃんとも、何度かお会いする機会がありました。
 提督は、フェイトさんの被保護者に過ぎない僕らに対しても気さくに接して「父、いや兄とでも思ってくれ」と言って下さいますし、アリシアちゃんも僕らになついてくれて、とてもかわいいですね。
 そう言えば、エイミィさんと知り合ったのも、フェイトさんに連れられてアースラに乗って、初めてクロノ提督とお会いしたとき、いっしょに同席されてたからだと記憶しています。たしか、おふたりが結婚される直前、ひと月くらい前だったんじゃないかな。
 え? そうか、キャロと顔を合わせたのも、アレが最初だっけ……って、ごめんなさい、うまく整理できてなくて。
 ええっと、エイミィさんは、おふたり──フェイトさんとクロノ提督にとってはお姉さんみたいな人だそうで、僕らと顔を合わせた時も、「ふたりがフェイトちゃんの被保護者(こども)なら、私にとっても甥っ子、姪っ子みたいなモンだよ~」って言ってくださったんです。
 エイミィさんだって、クロノ提督の副官的な業務をされてたから忙しいはずなにのに、度々僕らに会いに来たり、休暇の時にご自宅や地球にあるハラオウン家へ招待してくださったりしました。
 実は、フェイトさんとクロノ提督のお母さんであるリンディ元提督には、エイミィさんのご紹介で、お会いしたんですよ。クロノ提督は20歳とお聞きしてましたけど、そんな歳のお子さんがいらっしゃるとは思えないほど若くてお綺麗な方で、すごくびっくりしたのを覚えています。
 ……何だよ、キャロ、ふくれて。キャロだって、リンディさんに「クロノ提督のお姉様ですか?」って聞いてたじゃないか。
 ──コホン。
 地球に行ったときは、3泊4日の泊まりがけで、そのあいだフェイトさんの使い魔であるアルフさんや、フェイトさんが地球で過ごしていた頃のご友人であるアリサさん、すずかさんにもお会いして、色々とお世話になりました。
 エイミィさんに連れ回されて、ミッドではできない貴重な体験もさせてもらいましたし……まぁ、ああいう方ですから、トラブルも多かったですけどね。
 何より、リンディさんに、「ここがフェイトとクロノの家、つまり貴方達の家でもあるの。いつでも”帰って”きてね」と言っていただいたことは、涙が出るほどうれしかったんです。僕もキャロも、ご存知のとおり、すでに「帰るべき家」を持たない身の上でしたから……。
 ああ、すみません、湿っぽくなっちゃって。
 僕とキャロがビデオレターでやりとりするようになったのも、エイミィさんのアドバイスがあったからですね。何でも、フェイトさんも、かつて地球に来る前は、なのはさんとビデオレター交換を続けてたそうで……。
 実際、家族とも言える同年代の親しい存在と手紙を交わすことは、お互い何かと心の支えになりましたしね。その意味でも、ありがたいアドバイスだったと思ってます。
 ですから、今回、機動六課が立ち上がると聞いた際、フェイトさんのやんわりとした反対を押し切ってでも、参加させていただいたのは、「フェイトさんやエイミィさんと一緒に働いて少しでも恩返ししたい」という気持ちがあったから、というのは否定できませんね。
 もちろん、六課の理念に共感したことや、純粋に自分の力を試したい、あるいは経験を積んで能力を伸ばしたいという個人的な欲求があったことも、事実ですけど。
 ……えーと、こんな感じでよかったですか、八神部隊長?


<6-appendix:とある少女?の独白>

 ふぅーーーーっ……。
 自分が深い溜息をついていることに気付いて、ちょっと苦笑がこみ上げてきた。
 まさか、自分がこのような感慨を抱くようになるとはな。
 これも、すべてあの日、彼女に会ったからか……。

 あの頃、自分の存在意義のすべてはドクターのためにあるのだと思っていた。
 いや、今だって、ドクターの命令こそが「最優先事項」であることに変わりはない。姉さん達の指示を仰いだり、妹たちの指導をしたり面倒をみたりすることもあるが、それだって「ドクターの命令」の延長線上の話だ……いや、だった、と言うべきか。
 少なくとも今の私は、妹たちの世話を焼くことを決して単なる義務だとは思っていない。ある意味、望んでやっているのだから。
 私がこんな感情を抱いているとクアットロあたりが知ったら、「無駄なコトを」と軽蔑するだろう。それは構わない。頭の隅で、その意見にうなずいている部分もあるのも事実だ。
 しかし、たとえ戦うために生まれた戦闘機人だって、同胞──姉妹に対して共感を抱いていけないという法はあるまい。それが、ドクターの命令に反しない限り、私は姉妹たちを守るべく自分なりのやり方で立ち回るつもりだ。

 私に、そんな大切な(ひょっとしたら当たり前の)ことを教えてくれたのは、”外”で出会ったひとりの女性だった。
 エイミィ・リミエッタ。いや、今は結婚してエイミィ・ランスターか。
 彼女と初めて会ったのは、ウーノに頼まれてクラナガンへ買い出しに出かけたときのことだった。
 ドクターのアジトは多くのものが自給できる体制にあるが、これだけの人数が生活していれば、おのずと足りないものもできてくる。どこかから盗むというのも手だが、不必要な危険を犯してアジトの場所が露見する可能性を増やすこともあるまい。自然、不足した物資は「買い出し」という形で購入するのが常となっていた。
 普段はウーノやクアットロ、あるいはISを使って物陰でズルができるセインあたりが買い出しにあたることが多いのだが、今日はいずれも手が空いておらず、仕方なく私にお鉢が回ってきたのだ。
 その時、私はメモにある必要な物資(食料品や雑貨、薬品など)を仕入れた後、人気の少ないカフェテリアで休憩している最中だった。
 いかに外見が11、2歳相当と言えど、この身は戦闘機人、この程度の歩行や荷物の運搬で疲れることなどあり得ない。むしろ気疲れといった方が正確だろう。
 何度か「買い出し」に来たことはあるのだが、いまだにこの人ごみと、店でのやりとりには慣れない。
 カフェラテを口に含み、ようやっとひと息ついたところで、若い女性がポカンと口を開けたまま自分の方を見つめているのに気付いた。
 「……何か?」
 私が冷徹な口調で問いかけると、その女性は両手をブンブン振りながら言い訳めいたものを口にした。
 「ああっ、ご、コメンね! いやぁ、私の身近にも片目が不自由な人がふたりばかりいるんだけど、お嬢さんもそうみたいだから、案外ミッドの医療技術もたいしたことないんだな~なんて、思ったりなんかしちゃったり……」
 そこまで言いかけて、ハッと口を押さえ、自分の頭を拳でコツンと叩く。
 「──ごめんなさい。気にしてるかもしれないのに無神経だった」
 ? ああ、この眼帯のことか。
 「いえ、気遣いは不要です。この目の傷は、ワケあってあえて消さなかったのですから」
 できるだけ、この外見にふさわしい言葉づかいを心がける。それもまた、私が”外”と接触する際に気疲れする一因だった。
 「へぇ~、そうなんだ。あ、ここ相席いいかな?」
 返事を聞く前に、自分のトレイを持って、私の向かいに腰掛ける。
 ある意味、私の苦手なタイプのはずなのに、その時の私はなぜかそれを断る気になれなかったのだ。
 「その大荷物を見たところ、お使いかな? 偉いね~」
 「子供扱いしないでいただきたい。外見が幼く見えることは理解していますが、見かけより大人のつもりです」
 まあ、幼児の状態で作り出され、10年以上稼働している私に、人並の年齢基準を当てはめることなど無意味だが。
 「そうなんだ~、あ、自己紹介がまだだったよね。私はね、エイミィ・リミエッタ。よかったら、お嬢さんの名前も聞かせてもらえる?」
 「……では、チンクと」
 教える義理はなかったが、そうしなければこの女性には、ずっと「お嬢さん」と呼ばれるハメになりそうだ。それはさすがに遠慮したかった。
 それに、いくばくかの好奇心も湧いた。「エイミィ・リミエッタ」と言う名前には、聞き覚えがあったからだ。
 「チンクちゃんかー、うん、よろしくねー」
 エイミィ・リミエッタ。時空管理局管制司令の職につき、執務官補佐の資格も持つ女性。魔導師ランクは総合E。
 かの「エース・オブ・エース」や「金色の閃光」、「闇の書の主」と異なり、表に名前が出ることはほとんどないが、かつては「緑髪の魔女」の左腕として、現在は「黒衣の若き英雄」の副官として、彼・彼女らの偉業を支える縁の下の力持ち的な役割を果たした女性だ。アジトのデータベースで目にしたことがある。
 「それでさ~、クロノくんったらさー」
 ……もっとも、目の前で脳天気に愚痴と身内の暴露話を垂れ流すアーパー女を見ていると、本当にそのようなヤリ手なのかは、いささか疑わしいが。
 「ああ、ゴメンね、おねーさんばっかり話して」
 「いえ、興味深いお話でした」
 これは満更嘘ではない。エース・オブ・エースや金色の閃光、あるいは黒衣の若き英雄といった管理局の要注意人物たちの人となりを、彼らの身近な人間の口から知ることができたというのは、ある意味収穫だろう。
 「そうだ! チンクちゃん、このあと多少時間ある?」
 「……何か御用でしょうか?」
 「いやね、エイミィさん、今日は知り合いの若い子ふたりと待ち合わせして映画見る予定だったんだけど、急にその子たちの都合が悪くなってドタキャンされちゃったのよ~」
 こ、この流れはまさか……。
 「──私に、一緒に映画を観ろ、と?」
 「せいか~い! あ、入場券は余りものだから、もちろんタダでいいわよ。期限今日までだから、使わないのもったいないしィ~」
 腕をとって、ぐいぐいと引っ張られる。
 な、なんだ、この力は!? まがりなりにも前線タイプの戦闘機人である私が逆らえないとは……。
 結局、強引に誘われてその子供向け映画(元は第97管理外世界の作品で「ポケットモンスター」とか言うらしい)を鑑賞した後、昼食まで付き合うはめになってしまった。
 「あ~、楽しかった。チンクちゃん、今日は無理やりつきあわせちゃって、ゴメンねー」
 ちっとも悪いと思っていない顔つきでそう言うと、エイミィは自分の個人端末のIDをメモに書いて私に渡してきた。
 もちろん、私の方が連絡先を教えられるはずもない。だが、それを一向に気にした風もなく、「まぁ、気が向いたら連絡してみてよ。よかったら、またおねーさんと遊びましょ!」と告げると、彼女は去って行った。
 アジトに戻った私は心身ともに相応に疲労していたが……しかし、決して不快な気分ではなかったのは確かだ。
 それ以降、さほど頻度は高くないが”外”に出かけた時など、私は公衆端末から彼女に連絡を入れるようになった。
 彼女が勤務中の時は返事が来るだけだが、非番の時などは、そのまま待ち合わせて食事したり、短時間だがどこかに出かけることもあった。
 生まれて初めて使う言葉だが、たぶん私と彼女は"友人"と呼べる関係になったと言ってよいのだろう。
 だが……彼女は管理局員であり、私はドクターが指揮する管理局と敵対する立場の人間だ。
 いや、それでも彼女がただの管理局所属の人間ならまだよかった。それこそ、その軽い見かけどおり、どこかの地上支部の経理事務担当職員などであったなら。
 しかし、すでに情報が来ているが、彼女は近々発足する"古代遺物管理部機動六課"に転属することが内定している。
 機動六課とは、おもにレリック盗難事件の解決に携わる部署、つまり、まさに我々と衝突することが予定された部隊なのだ。
 「顔見知り……いや、”友人”と戦うことが、これほど気が重いとはな」
 それほど頻繁に会ったわけではないが、彼女が私に与えてくれた、教えてくれた有形無形のモノは、はかり知れない。
 それなのに、何ひとつ彼女に返せず、そればかりか彼女の大切な居場所や仲間を一方的に傷つけ、奪ってしまうかもしれないことで、私はいささか憂鬱になっていた。
 「だが……私にも引けぬ理由がある」
 生みの親であるドクターのため、そして姉妹たちのため、かならずしも勝率が高いとは言い切れないこの戦いを、私達は勝ち抜かねばならないのだ。
 ──今となっては、何となく、騎士ゼストの気持ちが理解できるような気がするな。”友”と敵対するというのはこういう気分なのか。
 機動六課発足の一週間前、私はドクターの許可をもらってクラナガンへと出かけた。エイミィの勤務状況はあらかじめ確認してある。今日は休日のはずだ。
 おそらく、これが最後になるであろう”逢瀬”を申し込むため、私はエイミィの個人端末へと連絡を入れた……。


-continued to Chapter7 ??-
-----------------------------------------------
以上です。
文中から読み取れるかもしれませんが、本作ではフェイトがキャロを引き取る時期が多少早まって、71年の秋ごろと想定してます。
(サウンドステージを聞いてないので矛盾や食い違いがあるかもしれませんが、この話では「こういうもの」なんだと思ってください)
各キャラ達が小さい子や女の子を「ちゃん」付けで呼ぶ頻度が高いのは、明らかにエイミィさんの影響でしょう。
あと、ナンバーズのうちチンク姉を選んだのは、彼女がいちばん性格的なバランスがとれてそうだったのと、某バラスィーもどきな外見が恵美さんの感性にクリティカルヒットするだろうから。
多分、彼女と”デート”してる時、ブティック入ってゴスロリ系ドレスとか着せてたはず!(写真は彼女が嫌がるだろうから撮らなかったと思いますけどね)



[11715] 遣り手ババァと呼ばないで -エイミィの萌えキュン日記-7(第一部完結)
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:d426b585
Date: 2009/09/20 07:04
<その7>

 ウボァァァ~~~~……

 ──ハッ、失礼。疲労のあまり、某皇帝の断末魔みたいな呻き声あげちゃったわ。
 改めまして、エイミィ・ランスター(旧姓リミエッタ/魂の名は田村恵美)です。

 いやぁ、ようやっと明日には機動六課が正式発足という状況まで漕ぎ着けたわけだけど……どーして、本来イレギュラーであるはずの私がこんなに忙しいのよ!?
 いや、そりゃね、日々の激務に押し潰されそうになっていた(推定)、六課部隊長のはやてちゃんを、多少なりとも手助けしてあげたいと思って、参加を表明したんだけどさ。
 「うん、おおきにな、エィミィさん」
 いえいえ。でも、はやてちゃん、これ幸いと私に片っ端から書類仕事突っ込んだでしょ?
 「「……(フィッ)」」
 ……なぜに、視線を逸らす? しかも、リインちゃんまで!?
 「はわ! り、リインは、ちゃんと自分のお仕事は自分で片づけたですよ!?」
 ふむふむ、つまり自分以外の仕事を私に回した、と?
 「え、えーと……すみません、すみません!」
 はぁ……ま、いいわ。ようやっと目鼻はついたから。どうせ、それって、体育会系のエースが処理すべき分なんでしょ?
 「は、はいです。それと……フェイトちゃんの分も……」
 いいっ!? 真面目な執務官のあの娘(まぁ、一児の母を”娘”って呼ぶのもナニだけど)なら、そんなズルはしないと思ってたのに……。
 裏切ったな? 私の気持ちを裏切ったんだ!
 おねーさん、哀しい、クスン。
 ……26歳にもなる女(しかも精神年齢は三十路!)の「クスン」は、可愛くないわね、我ながら。
 とは言え、なのちゃんはともかくフェイトちゃんの多忙さは知ってるからね~。
 主婦として新造艦船クラウディアの艦長に就任した愛しの旦那様と愛娘のお世話をしつつ、執務官としての職務もこなし、さらにここ数日は、入隊に向けて養子(正確には被保護者だけど)のエリオくんとキャロちゃんを手元において指導……とあっては、正直体が幾つあっても足りないってのは、よくわかる。
 今だけは、おねーさんが肩代わりしてあげますか。
 「ごめーん、リイン~! こっちの書類の処理もお願いしちゃっていいかな……あ、ヤバ」
 ちっとは自分でやれ、この腐女子冥王!!

 エース・オブ・エースを床に正座させてお説教しつつ、ふと、これからの段取りへと思いを馳せる。
 うーん、できるだけ原作準拠で進めようと思ってたけど、何だかんだで結構状況が変わっちゃったなぁ。
 ちなみに、私の現在の肩書は、「機動六課副部隊長 兼 通信管制主任」さらに「補給部隊責任者」というもの。
 簡単にいえば、グリフィスくんの役割と、シャリオの役目の一部を引き受けた形かな。
 その影響で、現時点ではグリフィスくんは六課に在籍していない。眼鏡男子好きの一部の方は、ご愁傷様。ま、折を見て引き抜こうかとは思ってるんだけどね。
 「部隊長補佐」ではなく「副部隊長」なので、これで有事の際に、はやてちゃん不在の際、全体の指揮をとれることになる。無論、これは六課襲撃事件対策だ。
 そりゃ、私の指揮の腕前だって大して誉められたものじゃないけどね。それでも、指揮系統がしっかりしてれば組織だった防衛戦が可能なはず。相手のやり口は知ってるし、ヴァイスくんも立ち直らせたから、ちょっとはマシな戦いになるでしょ。
 もっとも、これだけしてもヴィヴィオ誘拐を防げるかは怪しい。
 欲を言えば、ザッフィー以外にも防御魔法の使い手として、ユーノくんかアルフあたりが欲しいところよねぇ。前者は「奇跡の司書長」だから無理としても、後者については、実はちょっと裏技を考えてるところ。あとでシャリオやマリーと相談かな。
 しっかし、クロフェイを実現させたはいいけど、フェイトちゃんが中学卒業直前に出来ちゃった婚した時は、さすがにマジで焦ったわ。下手したら、この六課発足に出産&子育てで間に合わないところだし。
 幸いにして、1年間の出産育児休暇を経て、現在フェイトちゃんは無事、執務官の業務に復帰してる。代わりにリンディさんの内勤への転換が早まったけど、それくらいは誤差の範囲内かな。
 なの&ユー組は相変わらず。ユーノちゃん(16歳のころからほとんど容姿が変わってないとは、何てチート!)が、白き小悪魔に弄ばれる日々。
 まぁ、本人たちは幸せそうだから、それはそれでアリよね、ウン……こないだ、無限書庫に資料請求に行った時、ついに職場でもユーノちゃんが司書官制服(女性用)を着用してるのを目にしちゃったけど。
 知り合いに見られて冷や汗流す”彼女”の様子をきれいにスルーして、ごく普通に世間話して帰ってきちゃった♪ 思いやりの心は、やっぱ大事よね?
 ちなみに、なのちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんの3人をまとめて、「エース・オブ・ユース」とか「奇跡の三人娘(ミラクル・スリー)」とか呼ぶんだけど、最近ではひそかに同年代の「奇跡の司書長」も加えて、「奇跡の四人娘(ミラクル・カルテット)」と呼ぶ向きもあるとかないとか。
 ユーノきゅん……強く、イキロ。
 そうそう、4人目と言えば……私の4人目の妹分、ティアナちゃんだけど、彼女は私を通じて、だいぶ前からなのちゃんたちと面識あるのよね~。
 中でも特に敏腕執務官であるフェイトちゃんを尊敬していて、最近では私を「ダメ義姉(あね)」、フェイトちゃんを「憧れの女性」と見てるキライがある。くっそぅ~、おねーさんだって頑張ってるんだゾ? お仕事、一生懸命なんだヨ?
 六課への勧誘もスバル以上に即答でOKだったし……無論、なのちゃんやはやてちゃんも相応に尊敬・信頼してるから、訓練にもそれなりについてきてくれると思う。
 スバル&ギンガのナカジマ姉妹に関しては、ほぼ原作と変わらず。スバルは、なのちゃんの動向をティアナちゃんづてに耳にしたりしてたみたいだけど。それくらいかな。
 エリオくんとキャロちゃんは、原作よりもかなりフェイトちゃん(と言うかハラオウン家)との距離が近くなったみたい。これには、まぁ私も関与してるんだけどさ。
 ま、コレも私なりの「偽善」かな。ふたりの少年少女をこの部隊に引き込むことは、私の中ではほぼ確定事項だったワケで、それならせめてそれにふさわしい「報酬」と言うのもおこがましいけど、「家族の絆」や「温かさ」を知ってもらいたいと思った……それだけ。
 ふたりともいい子だから、内心忸怩たるものがないでもないんだけどね。
 いい子と言えば……チンクちゃんの件は完全に想定外だった。街で偶然出会ったとき、ついおチャメな気持ちで知り合いになっちゃったんだけど……正直、彼女については、後悔してる面がなきにしもあらず。
 だって、すごく素直で可愛くていい子なんだもん!
 先日の”デート”では、いつもより長く一緒にいられたけど、帰り際に「しばらく会えなくなる」って言われたし。きっと、あの子なりのケジメのつもりだったんだろうなぁ。
 「敵のことを知れば知るほど、敵と戦いやすく、けれど戦うのが辛くなる」とかなんとか、どっかの戦争ドラマで言ってたけど、ありゃ真理だわ。
 今の私には、チンクやナンバーズのことを単に「平和を勝ち取るために倒すべき障害」として切り捨てることはできそうにない……あ、自己中マッドは別ね。逝ってよし!
 無論、原作に従えば、管理局に捕えられた後、ナンバーズの過半数が恭順の意を示して更生の道を歩むことになる。私は読んでなかったけど、マンガ版の4期では元ナンバーズがヴィヴィオの良き友人として何人か出てくるらしいしね。
 でもなぁ~、だからと言って、手をこまねいているのもなぁ~。
 ナンバーズもいろいろで、ウーノみたく「ドクター・マイラブ! ドクターのお言葉は神!」と言う狂信的シンパから、チンクやディエチみたくドクターのやり方に多少懐疑的な娘まで様々なのよね。
 とは言え、それでも”姉妹”としての結束は堅いし、意欲面での程度の差こそあれ、ドクターの命令には原則絶対服従の強敵だ。結局そのヘンは割り切るしかないのかもしれない。

 「あ、あの~、エイミィさん、お説教の方は、もうよろしいんでしょうか?」
 正座の姿勢から、おそるおそるお伺いを立てるなのちゃん、後の「管理局の白き魔王」である……じゃなくて。
 「ん。もういいわよ。でも、これからは自分の書くべき書類はキチンと自分で始末してね。なのちゃんも、一隊を率いる分隊長さんなんだから」
 鷹揚に頷いて許してあげる私……べ、別に、なのちゃんのウルウル涙目にほだされたワケじゃ、ないんだからねッ!
 その後は、お茶菓子を用意して、しばし4人でティーブレイク。
 「ティアナちゃんとか、エリオくんたちのことはそれなりに知ってるけど……スバルって、どんな子?」
 折角だから、これまであまり接点のなかったナカジマ家の次女について尋ねてみる。
 「うーん、猪突猛進・熱血一途・肉体言語……って印象の子かなぁ」
 「プラス、努力・友情・正義って感じですぅ」
 なのちゃんの意見をリインちゃんが補足する。
 「どこのジャンプ漫画よ、そりゃ……でも、そんな子なら、AoAの過酷なシゴキにもついてこられそうね」
 「あ~、エイミィさんヒドい~、わたし、そんな地獄のようなシゴキなんて……」
 なのちゃんが、軽く頬をふくらませて抗議する。が……。
 「まったく心当たりはない、と?」
 「……いえ」
 ジト目で見つめると、アッサリ降参した。
 「あはは、でも、「猪突猛進」と「肉体言語」を、「全力全開」と「砲撃上等」に変えたら、なのちゃんそっくりやんか」
 おお、はやてちゃん、うまいコト言う。さすが、我が直弟子。
 (アンタ、何の師匠なんだ……と言うツッコミはこの際スルーね)

 そんなこんなで、ようやっと私にとって生涯最大の”戦(いくさ)”が始まる前夜は、至極穏やかに過ぎていったのでした。
 はてさて、この先も、こんな風にみんなで笑いあっていけると、いいんだけどねぇ。

-第一部・FIN-
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以上で、チラ裏に掲載してた第一部「遣手ババァと呼ばないで~エイミィの萌えキュン日記~」は終わりです。
なんだかジャンプの10週打ち切りマンガの如き「俺達の戦いはコレからだ!」的な締め方ですが、投下当初からこの終わり方を考えておりました。
この先を書くと多少はシリアス中心にならざるをえませんし、「萌えキュン日記」というタイトルにも反する……と思っていたのですが、「それならタイトル変えればいいじゃない?」という悪魔の囁きが聞こえたため、再開決定。第二部へと続きます。

第二部開始前に「番外編拾遺」をお楽しみください。



[11715] 萌えキュン日記・拾遺の壱;魔女っ子(?)エイミィ
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/20 07:08
<萌えキュン日記・拾遺の壱;魔女っ子(?)エイミィ>

 それは、機動六課の発足まであと一週間を切り、フェイトに連れられてエリオとキャロが隊の施設を見学に来た時の出来事。
 ちょうど、荷物を送るために寮の間取りなどを確認しにエイミィを訪ねて来たティアナも合流し、折角なので仮営業している庁舎の食堂で5人で昼食をとることになった。
 ちなみに、ティアナとエリオたちは、フェイト&エイミィの合同結婚式で隣りのテーブルに座っていたため、一応の面識はあるのだ。

 「そう言えば……エイミィさんも、魔導師としての資格を持ってるんですよね?」
 どこからそんな話題が出たのか。おそらく「昔、フェイトに魔法実習の基礎を習った」というような思い出話から、そちらへと話が転がったのだろう。
 「まーねー。でも、正直、私に魔法の才能はこれっぽっちくらいしかなかったからね。それでも10代の頃は結構頑張ったんだけど、結局魔導師ランクEまでいくのが精いっぱいだったわ」
 キャロの疑問に、あっけらかんと答えるエイミィ。もともと、フルバックの情報士官であり、魔法の必要性はあまり高くない(無論、使えれば便利ではあるが)ので、さほど気にしている風ではない。
 「エイミィ姉さんは、得意な魔法に偏りがありすぎるから……」
 微苦笑するフェイト。教えている段階で、やはりいろいろ苦労はしたらしい。
 「あはは、その節はゴメンね、フェイトちゃん。まぁ、私みたいな才能のない”教え子”を見たあとなら、この3人……とスバルだっけ? ティアナちゃんの相方教えるのなんて、天国だろうしね」
 さすがに首をすくめるエイミィ。
 「えっと……それで、実際、どんな魔法が使えるんですか?」
 エリオがおそるおそる尋ねる。我関せずといった顔をしていたティアナも、内心は興味深々のようだ。
 「うーん、そんな大層なものでもないんだけど……あ、でも別の意味でいい機会ではあるかな。フェイトちゃん、食事のあと30分ほど時間、いい?」
 「え? あ、うん。それくらいなら構わないけど……」
 「じゃあ、例の場所で、Eランク魔導師エイミィさんの全力全開を披露するわね♪」
 そして、アニメ版では3話にて披露された「高町なのは監修・六課謹製戦闘用シミュレーター」で、エイミィの魔法の実力が、明かされることとなった!

 「えーと、まずは最初に”コレ”」
 とくに着替えるでもなく、シミュレーター(と言っても、今はあえてただの広場にしてあるだけだが)内に、エイミィは立った。
 『──みんな、聞こえてるかな?』
 「えっと、念話……ですよね?」
 『そ。魔導師としての基本。Fランクの魔導師でも使用できる基礎の基礎ね。
 でも、忘れちゃいけないのは、こうやって念話を送信できるのは魔導師だけってこと。まぁ、正確には優秀な使い魔やインテリジェントデバイスも可能だけど、それも含めれば”魔法の使い手”だけってことかな』
 「受信だけなら、魔法の素質が豊かな人なら大概可能なんだけどね~。ティアナちゃんも、エリオくんもキャロちゃんも、最初からできたでしょ?」
 面倒になったのか口頭に切り替えるエイミィ。
 「え、ええ」「はいっ」「言われてみれば……」
 三人三様の答えを返すが、どれも肯定している。
 「うん。だから実感が薄いかもしれないけど、逆に魔力資質の乏しい人には念話は届かないってこと。そして……他の世界に比べて魔導師としての素質を秘めた人の割合が多い、ここミッドチルダでも、念話すら習得できない人が全人口の8割以上を占めるってことを、忘れちゃダメよ?」
 エイミィも、自身が魔法を学ぶようになってから改めて確認したのだが、魔法技術の発達したこの世界においても、訓練の末Fランク以上の魔導師として認められうる人間は実に全人口の1割にも満たない。
 そして、それすら「可能性」の問題であり、現実に魔法技術を取得する人間は、さらにその半分程度だ。ヘボヘボと自称するエイミィの魔導師ランクEでさえ、管理局以外の一般企業に入れば、日本でたとえるなら「合気道初段・TOEICレベルB・簿記検定1級・大型自動車運転免許の余技をもった院卒修士」くらいに厚遇されるのだ。魔導師がもてはやされるわけだ。
 「それじゃ、私のデバイスを紹介するね……って言っても、実はみんなも目にしたことくらいはあると思うけど」
 と、エイミィは胸ポケットに手をやる。
 「ホレ、テン・エイティ、ご挨拶」
 彼女が胸ポケットから取り出したのは、一見、太めの万年筆のように見える棒状のデバイスだった。ただ、機械端末の発達したミッドにおいて、ペンを持ち歩く人自体希少であり、またソレは万年筆としても一般的な基準よりふた回りほど大きく太い。
 いや、第97管理外世界の日本人なら、おそらくはもっと別のモノを連想するに違いない……すなわち、「ウルト●マン」の”ベ●タカプセル”を。
 (もっともエイミィ自身に言わせると「むしろブライトスティ●クね、テン”エイティ”だけに」らしいが……)
 『いぇす、まむ。へろー、えぶりわん』
 主に促され、あまり流暢とは言い難いが、デバイス──テン・エイティは言葉を発した。それにしても……なぜに、若本ボイス(ちよ父バージョン)?
 「「わ、しゃべった!?」」
 「インテリジェントデバイスなんですか?」
 驚くちびっこふたりを尻目に、ティアナが問いかけると、エイミィは「ふむ」と首を傾げた。
 「両者の中間、かな。より正確には、簡易なAIをつけたストレージと表現するのが正しいと思うけど。本格的なインテリジェントを買うのは高いし、私自身の実力も足りてないしね。
 ただ、本局のマリーが既製品を改造して、クロノくんのデュランダルを参考に、音声応答システムと最低限の自己判断機能を付けてくれたの」
 ちなみに、稼働状態はこれね……とエイミィがひと振りすると、万年筆モドキが3倍くらいの長さに伸びる。まるで不良学生などが使う特殊警棒だ。
 「じゃ、バリアジャケットの装着も可能なんですか?」
 「うーーん、まぁ、一応ね」
 エリオの質問に、微妙に口を濁すエイミィ。途端にキラキラした目で「見たいですぅ~」といった表情になるキャロの視線に負けて、渋々ながらテン・エイティを構えた。
 「テン・エイティ、コード913ENTER」
 『いぇす、まむ。すたんばい……こんぷりーと!』
 一拍間が開いてから、エイミィの体に魔力光(どうやら彼女のは淡い紫色のようだ)が結晶する。と言っても、見た目は管理局制服の上から、ライトパープルのロングコートを羽織っただけだが。
 「コレも、管理局の武装隊なんかで使われてる汎用防御ジャケットのプログラムを改造して、防御面積を増やしただけなんだけどね。いやぁ、なのちゃん達みたく、1から全身にくまなくバリアジャケット構成するには、おねーさん魔力量が足りなくてね~」
 本来、独力でのバリアジャケット完全構成には、Cランク以上、できればBランク以上が望ましいとされる。ランクEのエイミィが、簡易とはいえバリアジャケットを装着できることの方が、むしろ驚きだろう。
 「だから、バリアジャケット着てると、私はただでさえしょっぱい魔法能力が半減しちゃうのよ」
 そういって、バリアをいったん解除するエイミィ。
 「それで……っと。私にまともなレベルで扱える魔法は、これから見せる3つだけね」
 ビタンッ、と自分で頬を叩いて、先ほどよりは気合いを入れる。
 「まずは……”ラウンドシールド”!」
 『らじゃー。ろーあいあす』
 エイミィのかけ声とともに、テン・エイティが奇妙な言葉で応え、彼女の掲げたテン・エイティの先端に半透明な円形の防御シールドが展開される。
 なのはやフェイトが使う同名のものと基本的には同じだが、大きさは直径50センチ程度しかない。
 「これが、私の手持ちの中でいちばん得意な魔法かな。小さいぶん、そこそこ防御力は高めで、フェイトちゃんのフォトンランサーも一発だけなら防げるはず……」
 言い終わる前に、空中から金色の円錐が現れ、シールドに激突四散する。
 「ほ、ホラ、ね? それとフェイトちゃん、やるならやるって言ってよ~。あービックリした」
 驚きのあまり集中が解けたのか、ラウンドシールドは消えてしまっていた。
 「わ、わたしじゃないよ~!」
 慌ててフェイトがブンブンっと凄い勢いで首を横に振る。
 「──それはワタシとスズメが言った」
 ぶぉんっ、とフェイトの近くにウィンドーが現れ、はやての顔が写し出される。
 「あ、はやてちゃん!」「はやて!?」
 「おもしろそうなことしてるやん? せっかくのシミュレーション施設やし、試運転もかねて、ちょっと驚かそう思てな」
 どうやら先ほどのフォトンランサーは、シミュレーション機能を利用した仮想魔法だったらしい。
 気をとり直して、エイミィは、次の魔法を唱えた。
 「次は……魔力に余裕があるうちの方がいいかな。”フロート”!」
 『らじゃー、りとふぇいと!』
 テン・エイティのかけ声とともにふわふわと3メートルほど宙に浮かぶ。
 「いいっ!? エイミィさん、飛行魔法なんて高度なものが使えるのに、ランクEなんですか?」
 さすがのティアナも驚いたようだが、エイミィは苦笑し、顔の前でパタパタと手を振る。
 「あぁ、違う違う。これは”飛行”じゃなくて”浮遊”。文字通り浮いてるだけよ」
 こうやって手足をジタバタさせれば、多少は動けるけどね……とクロールのような動作をしてみせる。確かに、あたかも水の中を泳ぐようにゆっくり移動することは可能らしかった。
 「とは言っても、魔力が満タンでも、せいぜい2、3分が限界だし、見てのとおり移動能力はなきに等しいから、実用性は低いんだけどさ。高いところから落ちた時とかなら、役に立つと思うけど、とっさに私が唱えられるかが問題よね~」
 エイミィの話によれば、人ひとりくらいなら支えられるが、持続時間がそのぶん半減するらしい。
 「そやけどな、たとえば火事で高い建物の窓から脱出する、とかの状況やったら、十分役に立つんやで?」
 メッセージウィンドー越しに、はやてもフォローを入れる。
 「じゃあ、最後に……エリオくん、ちょっと協力してくれる」
 「はぁ、構いませんけど……」
 素直に近づいてきた少年の肩に、ポンッと手を置く。
 「ちょっとだけ我慢してね……”リングバインド”!」
 『らじゃー、きゃっちりんぐ』
 「うわっ! なんですか、これ!?」
 「いや、聞いてのとおりリングバインドなんだけどねー」
 ポリポリと頭をかくエイミィ。なるほど、確かにエリオの体──具体的には、両腕と胴体を締め付けるような形で紫色のリングが出現しているが……。
 「一応、習得したんだけど、私の場合、手で触れた相手しか対象にできないし、リングも一個だけだから正直微妙。そもそも、バインドとは言え、その場からは自由に動けるでしょ?」
 「あ、ホントだ。多少は抵抗ありますけど、移動できますね」
 スタスタと歩いてみせるエリオ。
 「せいぜいが両手の自由を奪うくらいの効果しかないのよ、コレが」
 そう言いながら、エリオを縛り付けていたバインドを解く。
 「本来、リングバインドは単体での固定力はそれほどでもないから、素早く複数発生させて使用するものなんだよ」
 フェイトがチビっ子ふたりに説明する。
 「そ。アルフとかは、いっぺんに4つ作って、ヴィータの動きを止めたこともあるんだよ? でも、私ではひとつ作って維持するのが精一杯ね」
 エイミィは肩をすくめた。
 「護身用に”サンダースタン”って魔法もフェイトちゃんに組んでもらって習ったけど、これも接触型だし、威力も私が使うとせいぜい普通のスタンガンなみなのよねー。
 同じ魔法でも、フェイトちゃんが使うとゾウもイチコロで気絶するレベルなんだけど……まぁ、電気の魔力変換資質を持つフェイトちゃんと比べる方が間違ってるんだけどさ。
 そうそう、あと役に立ちそうなのは”フィジカルヒール”くらいかしら。簡単な切り傷すり傷や打ち身くらいなら治せるわ」
 と、しめくくるエイミィ。
 彼女の話を聞いて、何とも言い難い表情になるフォワード予定の3人を見て、エイミィが、今日何度目かになる苦笑をその頬に浮かべた。
 「さて、ここまで私の魔法を見せたけど……では、私の魔導師としての偏りって何だと思う?」
 気を取り直して3人に聞いてみる。
 はた、と首を傾げる3人。
 「ええっと……魔法の術式自体はミッド式ですよね。種別で言うと、防御と補助系、捕獲系、それと攻撃系ってことになるのかな」
 「もっと細かく言えば、シールド型防御と移動系補助、拘束と近接攻撃、それにインクリーズ型補助ね。種類だけ聞くと、けっこうバランス取れてるように感じるんだけど」
 首を捻るエリオとティアナに、キャロがおずおずと声をかけた。
 「あのぅ、間違ってるかもしれませんけど……もしかして、発動範囲のことじゃないでしょうか?」
 「キャロちゃん、せいかーい! 私の魔法って、ミッド式とは思えないほど発動範囲が狭いのよ。自分の体ないしせいぜい手の届く範囲でしか発動不可。かといってベルカ式を習えるほど、運動能力に自信もないしね~」
 ま、コレはコレで私の身の丈に合ってるのかもね……と心の中でつぶやく。
 手の届く範囲の人をできる限りの力で助けるというのが、彼女の主義である。そして、自分の手の長さと力は心得ているつもりだった。
 もっとも、まさかソレが魔法にまで現れるとは思わなかったが……。
 「ま、ご覧の通り、エイミィさんは魔導師としてはヘッポコだし、その分、現場のバックアップをしていくつもりだから、みんなも頑張ってね?」

-fin?-
---------------------------------------
以上。「エイミィさんのまほうのじつりき」編でした。
上では書きませんでしたが、ユーノに習った読書魔法で手元にある2冊の本を読むことも可能。もっとも、魔力量の関係で、ユーノみたく何時間も続けることは無理ですが、息抜きにコッソリ漫画読みながら書類仕事する……といった方法で応用している様子です。
ちなみに、”テン・エイティ”の名称は、某量産型バーチャロイドからの命名。
また、バリアジャケット姿でテン・エイティ構えている様を見たヴィータいわく、「なんか特攻服着たヤンキーの姐さんみてぇ」だそうで、以来、エイミィはバリアジャケット姿になりたがりません(無論、魔力量的に維持が難しいという文中の理由もありますが)。
各魔法時のテン・エイティが発声はエイミィのシュミです。元ネタは……まぁ、おわかりでしょう。なお、サンダースタン時は「だーりんのばか」、フィジカルヒール時は「けある」だったり……しかも若本声で(笑)。
次回は、ティアナ視点での短編を再び書くつもりです。



[11715] 萌えキュン日記・拾遺の弐;ティアナ・ランスターの戸惑
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/23 18:06
<萌えキュン日記・拾遺の弐;ティアナ・ランスターの戸惑>

 「(はぁ……)」
 あたしは、周囲に気取られぬようこっそりと溜息を吐きだした。
 ……いや、そのつもりだったのだが。
 「──どうした、疲れたか?」
 何ゆえ、それを初対面の女性にまで悟られているのだろう?
 別にポーカーフェイスが格別上手い方だとは自分でも思っていないが、さすがに目の前の女性、いや少女のような人物にまで看破されるとなると、少々自信が揺らぐ。
 あたしが目指す”執務官”と言う役職は、被疑者との問答や周囲への聞き込みなどで、自らの感情をそう簡単に露呈していては務まらないだろうからだ。

 改めて自己紹介しよう。あたしの名前はティアナ・ランスター。来月から管理局の陸士訓練校に入学が決まっている、執務官志望の13歳。
 もっとも、執務官を目指すのなら、士官学校に入るのが一番近道なんだけど、残念ながら年頭の受験の結果、不合格の通知が届いた。筆記は問題なかったと思うから、たぶん魔法実技の方で引っ掛かったんだろう。
 エイミィ義姉さんの言うとおり、士官学校の武装科は空戦特性がないと厳しいってのは本当だったみたいだ。そこで、義姉の薦めに従って、先月頭に陸士訓練校を受験して、無事に入学資格をもぎ取ったというわけ。
 でも、優秀な兄さんはともかく、あのスチャラカで魔導師ランクの低い義姉も士官学校出なのよね? 一度疑問に思って聞いてみたら「だって、私は情報科出身だも~ん」と胸を張られた。
 しまった、そちらを狙った方がよかったかもしれない……と考えたのがわかったのだろう。エイミィ義姉さんはニヤリとあたしの方を見て笑った。
 「ただし、筆記試験の難度は5割増しだよ? 合格枠少ないから競争率も高いしね」
 なるほど、やはり世の中、そううまい話は転がっていないらしい。
 もっとも、その難関をくぐり抜けているのだから、義姉もそれなりに優秀なはずなのだが……いや、現在までの実績や風聞で、そのことは十分理解してはいるのだが、目の前でノホホンとした顔つきの義姉を見ていると、どうにもその事が信じられないのだ。
 あたしの知る限りでは、エイミィ・ランスターという人物は、それなりに美人といってよいルックスとプロポーションの持ち主ではあるが、いつも笑っている(状況によってニコニコかニヤニヤかの違いはあるが)せいか、イマイチ緊張感に欠ける女性だ。
 時空管理局の一等空尉にして次元航行艦アースラの管制司令という地位にありながら、まるでそんな気配など感じさせない、年甲斐もなく悪戯好きなおねーさん……というのが、おそらく(夫である兄さんも含めた)彼女を知る人間の共通見解だろう。

 とは言え、その役職と経歴以上に、色々と顔が広いことも確かだ。
 たとえば、あたしの兄さんも、首都航空隊の一等空尉ではあるが、3年前の捜査中に重傷を負い、右目とリンカーコアを大きく破損してしまった。どちらも完全に機能しなくなったわけではないが、リハビリしても右目の視力は明暗と近くの大きな物の動きがぼんやりわかる程度、魔導師ランクはAだったのがDにまで下がってしまった。
 執務官を志していた兄さんは事実上その道を断たれ、一時は非常に落ち込んだのだが、それを立ち直らせたのが、現在の妻であるエイミィさんだったわけだ。
 まぁ、それはさておき。そんな兄さんのために、エイミィ義姉さんはふたつの贈り物をしたのだ。
 ひとつは、簡易AI付きのストレージデバイス。本局勤めの友人にデバイス改造に詳しい人がいるとのことで、兄の右目の視力を補う性能を持ったデバイスを組んでもらったとのこと。そのバイザー型のデバイス”ラピスラズリ”を起動させれば、右目にもモノクロながら視力0.3程度の視覚情報を得られるのだ。そのうえ赤外線認識や暗視の機能などもついているので、状況によっては健常者の裸眼以上に役立つとのこと。
 また、デバイスであるから当然魔法行使を補助する機能もある。”ラピスラズリ”は特に情報収集や分析、知覚補助系の魔法に優れているため、現在は主に内勤として捜査を助ける兄さんにはピッタリなデバイスらしかった。
 ふたつめは、格闘技の師を紹介したこと。視力以外の体がひととおり治った段階で、エイミィさんは、兄さんを管理外世界・地球に住むシロウ・タカマチと言う人物と引き合わせたのだ。
 魔法や質量兵器が使えずとも戦う術はいくつも存在する。シロウ・タカマチ氏は、あのエース・オブ・エースことナノハ・タカマチ空尉の実父であり、先祖代々特殊な剣術を伝承している家系の人間らしい。
 氏自身はかつてボディガードをしている時にテロによって重傷を負い、現役を退いたらしいが、息子や娘、つまりタカマチ空尉の兄や姉がその剣術を受け継いでいるとのこと。
 「御神の技は本来門外不出なんだが、娘が色々お世話になっているエイミィさんの頼みでは断れないからなぁ」
 そう言って、タカマチ氏は、ほんの基礎の部分だけとは言え、兄さんに剣術の手ほどきをしてくれることになった。
 一度だけあたしも同行して、そのミカミ流剣術とやらを見せてもらったことがあるが、我が目を疑ったものだ。
 この世界のガードロボ(とは言え、ミッドの富裕な家庭に使用されているのと遜色ない性能のものだ)数体を、両手に持った剣だけでまたたく間に破壊し、あるいは金属線や細いスローイングダガーで無力化する。
 さらに、管理局きっての剣の使い手と名高いベルカの騎士シグナム氏と、タカマチ家の長男キョウヤ氏は、魔法なしとは言え互角の戦いを繰り広げてみせたのだ。
 (なんでも、暇を見つけてはシグナム氏は、ここの兄妹との手合わせに来るらしい。それほど彼らの剣技を評価しているのだろう)
 無論、それだけの高みに上がるのには、それ相応の修練を必要とする。
 兄さんは、早朝の鍛練とともに休日毎に地球の海鳴市へ出かけてはヘトヘトになって帰ってくるようになったが、同時にその瞳にはあくなき向上心と強くなることの喜びがハッキリと浮かんでいた。

 それほど幅広い人脈を持つエイミィ義姉さんだから、どんな人を連れて来ても大概は驚かないつもりだったが、流石に今回は意表を突かれた。
 「来月から訓練校の寮に入っちゃうんだから、今のうちに美味しいもの食べに行こうよ~」と、週末に強引に義姉に連れ出されたのだ。
 いや、悪気はないことはわかっている。むしろ善意全開で、「美味しいお店見つけたんだよねー」とニコニコしているのだから始末が悪い。
 今日は入校に向けてのおさらいをしたかったんだけど……まぁ、いま根を詰めて体調を崩しても元も子もないか。
 そんな風にあたしが自分を納得させたところで、いきなりエイミィ義姉さんは爆弾を落とした。
 「あ、そーだ。ティアナちゃん、今日は私のお友達も一緒なんだけど、いいかなぁ?」
 ……はぁ? いきなり人を引っ張りだしといてソレですか。この場で「嫌です」と言えば、義姉はその「お友達」とやらに断りの電話を入れてくれるかもしれないけど、さすがにそれは忍びない。
 「あたし、あまり初対面の人間に愛想よくできませんけど……それでいいなら」
 「ああ、それは大丈夫。いい子だから、ティアナちゃんもきっと仲良くなれると思うよ」
 何の根拠があってこんなことを言うのか、この人は……と思うものの、実際、これまで彼女に引き合わされた人は、フェイトさん達といい、タカマチ家の人々といい、確かに凄く「いい人」かつ「尊敬できる」「親しみやすい」人達ばかりだった。
 無論、年長者でそれなりの職責が多かったこともあるけど、結婚式で会ったフェイトさんが保護しているチビっ子ふたり組まで、しっかりしてて礼儀正しかったのには脱帽だ。あの年頃の自分があれだけ大人びていたとは正直思えない。
 このスチャラカ姉がどうしてこんなリッパな人達と……と思わないでもないが、逆にそういう人達に囲まれているからこそ、義姉が多少ヘッポコでも何とかなっているのかもしれない。
 「──なぜかしら……ティアナちゃんの目が私を憐れんでいるように感じる」
 「き、気のせいです。それより、そのご友人はどういう方なんで……」
 「あ、来た来た。おーい、チンクちゃん、こっちこっち~」
 相手について聞く前に、当のご本人が到着した様子。さて、その”チンクちゃん”とやらは、一体どんな…………!
 「──すまない。少し遅くなった」
 「いやぁ、別にいいよ~。私達もさっき来たばかりだし……お、今日はウェンディちゃんを連れて来てくれたんだね?」
 「ちわっス、エイミィさん。ゴチになるっス!」
 目の前にいるのはふたりの少女。
 ひとりは私と同い年か少し上くらいで、グレイのタンクトップとモスグリーンホットパンツを着た赤毛の活発そうな女の子。
 そちらは、まだいい。問題は……。
 「あ~! チンクちゃん、こないだプレゼントした服着て来てくれたんだ。うぅ~、かぁいいなぁ」
 「お、お前が着て来いと念を押したのだろうが……」
 目を輝かせる義姉に抱き締められて、迷惑そうな照れくさそうな表情を浮かべている少女……というより幼女?
 「てぇいッ!」
 「あいたっ! もぅ、何でチョップするのよ、ティアナちゃん……」
 「義姉さん、ちょっとこっちに!!」
 大急ぎで物影にバカ姉を引っ張りこむ。
 「エイミィ義姉さん、正直に白状してください。どこであんないたいけな娘をたぶらかしたんですか?」
 「たぶらかしたってのはヒドいなぁ。別にやましいコトは何もしてないよ? それに、第一声かけてきたのはチンクちゃんの方からなんだし」
 あの娘と知り合いになった経緯を聞く限りでは、なるほど、確かに大きな問題はないようだ──もっとも、知り合ったその日に映画と食事に引き回すのは、少々無警戒過ぎるでしょう、両者とも。
 「ハァ………わかりました。あの子たちを待たせるわけにはいきませんから、今回は引きます」
 あたしたちは元の場所へととって返した。
 姉妹(らしい。あまり似てないが)揃って?マークを頭上に浮かべているふたりに向って、頭を下げる。
 「すみません、お見苦しいところをお見せしました。あたしはティアナ・ランスター。このお調子者の夫の妹……つまり義理の妹にあたる者です」
 「いや、問題ありません。大方、エイミィに事情も聞かされずに引っ張って来られたのでしょう? 驚くのも無理はない」
 片目を眼帯で隠した幼女(?)の方が、鷹揚に頷く。
 水色の長い髪をなびかせ、紫色のフリルの多いワンピースを着たその姿は、確かに義姉が暴走するのも納得できる愛らしさだが、10歳前後の外見に比してその物言いはひどく大人びたものだった。
 「あぁ、すみません。こちらの自己紹介がまだでした。わたしはチンク、こちらはウェンディと呼んでください」
 しげしげと見つめるあたしの視線を誤解したのか、隻眼の幼女が自己紹介する。
 「ウェンディっス! よろしくっス」
 ニパと陽気な笑顔を見せるウェンディ。見かけはあたしより年上っぽいのに、まるで幼子のように邪気がない。
 チンクと名乗った子が不自然に大人びているのとは対照的だ。
 不思議な姉妹だったが、どちらかと言うと人見知りするタチのあたしが、意外なほどすんなりとその存在を受け入れていた。
 それが、あたしと彼女たちの出会いだった。

 エイミィ義姉さんに連れられて来たのは、クラナガンでも有名な食堂街だった。
 「ここにね、最近地球の日本料理を食べさせるお店ができたのよ~。一度ランチに食べに来たんだけど、あの味なら夜のメニューも期待できるわね」
 幾多の世界へと移動する”海”の部隊に所属しているためか、義姉はミッドチルダ以外の料理の美味しい店を見つけてくるのが得意だ。とくに地球の料理に関しては、数年間自宅があった(正確には今でもハラオウン家の一室は彼女のものらしい)だけあって、とくに味にうるさい。
 その義姉がオススメと言うのだから、おそらく期待できるのだろう。
 一風変わった店構え(店頭に大きなカニを模した看板がかけられていた)の料理屋に入ると、義姉は店員に自分の名前を告げる。
 「エイミィ・ランスターです。6時から予約を入れていたと思うのですが……」
 どうやら、事前に席を予約していたらしい。
 すぐに一室に案内されたものの、中を覗きこんで、あたし、そしてチンク&ウェンディ姉妹は思わず目が点になった。
 「あはは、そっか和風の座敷って、こっちにないもんね。これは、こう……」
 と苦笑した義姉は、草を編んだと思しきラグを敷き詰めた店内の床より一段高い室内に靴を脱いで上がり込んだ。
 「そして、こうだ!!」
 中央におかれたテーブルのそばに、ペタンコのクッションを敷いてじかに座りこむ。
 テーブルの下の床部分が掘り下げられており、どうやらそこに足を下ろすようだ。
 「おぉ、これ、楽チンッスね!」
 物おじしないタチのウェンディが早速上がり込んで真似している。
 「でしょでしょ? やっぱり堀ごたつは和の真髄だよね~」
 チンクと顔を見合わせると、あたし達もふたりに倣った。
 テーブルの上にはすでに、所狭しと色とりどりの料理が並べられている。
 「飲み物は……アイスティーと炭酸どっちにする? 個人的なおススメは、料理に合わせた冷たい麦茶だけど」
 せっかくなので、義姉のアドバイスに従うことにした。
 「それでは、ティアナちゃんの訓練校入学と、チンクちゃんの誕生日を祝ってカンパーイ!」
 「かんぱーい!」「か、かんぱい?」「──乾杯」
 陽気な義姉の声に、3人がそれぞれ唱和する。
 その店の料理は、エイミィ義姉さんが薦めるだけあって、物珍しい以上に美味しかった。
 魚を生で食べるの!?……と最初は戸惑ったものの、初めて食べる”オサシミ”は、舌ざわりと言い風味といい、確かに一級品だった。
 ウェンディなんて、よほど感動したのか、瞬く間に自分の分を食べ終え、お代わりしてもいいか義姉に尋ねていたくらいだ。苦笑したチンクが自分の皿の残りを差し出していた。
 「こちらの揚げ物は、以前、義姉さんが作ってくれた”テンプラ”ですか」
 確かに同じ料理法だとは思うのだが、義姉には悪いが味は段違いだ。義姉の作ったものも決して不味くはなかったのだが、これほどのサクサクでシューシーなエビの旨みを引き出してはいなかったと思う。
 「まーねー、お店の天ぷらの揚げ方は、ちょっと特別だからね~」
 ひょいと肩をすくめるエイミィ義姉さん。
 野草の煮つけ、魚卵の甘辛煮、大豆蛋白を加工したとおぼしき食品、牛肉のミソ照り焼き、何かの芋をすり潰したと思しき前菜……などなど。繊細な味付けと手の込んだ仕上げをされた料理の数々に、さほど健啖とは言えないあたしまでも、つい食が進む。
 「これは…うむうむ……」
 「うまいっス、うまいっス!」
 連れの姉妹に至っては、今度はチンクまでもが一心不乱に皿を空ける作業に没頭していた。
 「ふっふっふ、しかし本命はこれからなのだよ。ヘイ、店員さん、カモン!」
 気取った仕草でパチンと指を鳴らす義姉。すかさず、お店の人がなにやら鍋と具材を運びこんできた。
 「すき焼きにしようか迷ったんだけどね~、せっかくこのお店に来たんだし、今夜はカニ鍋にしてみましたッ!」
 色とりどりの野菜とともに大皿に並べられたのは、ひと抱えほどありそうな大きなカニまるごと一匹だった。
 実は私は、エビやロブスターはともかく、カニと言うものを食べるのは初めての経験だ。海辺の町などで食用にされており、高級料理として珍重されるという知識は一応持ってはいたが、口にしたことはない。
 「え~~~それ、食えるんスか?」
 先ほどまで食欲の権化と化していたウェンディまでもが、ちょっとひいている。
 「おりょ? 食わず嫌いはイケナイなぁ~。そだ。まずは、こっちから食べてみて?」
 エイミィ義姉さんは、小型の加熱器具(たしか七輪とか呼んでた)に金網を乗せて、カニの肉を殻ごと炭火であぶる。
 ほどなく、肉の焦げる香ばしい匂いと潮の香りが混じった、なんとも食欲を刺激する香りが辺りに充満する。
 「た、確かにうまそうな匂いっスね」
 「こら、ウェンディ、よだれが垂れてるぞ」
 彼女達もこの匂いにそそられているようだ。
 「じゃーーん、タラバガニのハサミんところの肉の炙り焼きだよん」
 義姉は、特殊な金具で殻からこそぎとったカニの肉を小皿に入れて、あたしたちに差し出してくれた。
 3人で顔を見合わせたあと、おそるそれに口をつける。
 「あ、美味し」
 「ほぅ、これは……」
 「イケるっスね!」
 3人の反応に満足そうにうなずくと、義姉はテーブルの中央で加熱されてる鍋をビシッと指さした。
 「炙っただけでもその旨さのカニを丸ごと一匹使ったお鍋! 殻ごと入れるから濃厚なカニのダシがとれて、野菜にもエキスがたっぷり染み込むから、美味しくてヘルシー!
海の幸の鍋物の王者は、やっぱりカニ鍋よね~。アンコウも捨て難いけど、アレはちょっと通の味だし」
 言いながら、次々とカニのブツ切りを鍋に投下していく。
 聞いているだけで、味が想像され、はしたないと思いつつもゴクリと唾を飲み込んでします。それは対面に座った姉妹ふたりも同じようだ。
 そして、義姉の仕切りで仕上げられたカニ鍋とやらは、確かに義姉が太鼓判を押すだけの価値がある味だった。

 「ちょ、ちょっと食べ過ぎたかしら」
 ついもの珍しさと美味しさに負けて、腹八分目どころか十分目ギリギリまで詰め込んでしまったようだ。
 義姉は「カニ鍋は、あとの雑炊が、また美味しいのよ!」と力説して鍋に米──ご飯を入れて煮詰めている。
 健啖なウェンディは、早くも興味をひかれて、椀を差し出しているようだが、さすがにあたしは、もう入らない。
 さて、そうなると同じく満腹状態になったらしくフォーク(本来は”ハシ”という食器を使うらしいが、使い方が難しいのであたしたちは、こちらにした)を置いた対面のチンクと、見つめあう形になって、少々居心地悪い。
 先ほどまでは食べるのに夢中で、あまり会話しなくてとも場がもったのだが……。
 「──どうした、疲れたか?」
 ……で、お向かいの少女から、こんな気遣いを受けるはめになったわけだ。
 「いえ、そういうワケじゃ……ところで、チンクさんの方が”姉”って言うのは、ホントなんですか?」
 とりあえず、そんなことを話のキッカケとして聞いてみる。
 パッと見10歳、せいぜい11、2歳にしか見えない彼女が、ミドルティーンのウエンディの”姉”というのは違和感があったが、逆にそんなわかりやすい嘘をついてもしょうがないだろう。
 ……どう見ても年少の幼女に敬語を使うのは少々抵抗があるが、仕方ない。逆にチンクの方からは「畏まったしゃべり方をしなくていいか?」と聞かれてOKしたため、対等な目線で話すようになった。
 「ああ、そうだ。誤解されやすいことは承知しているが、さっきも言ったとおり、わたしはこれでも君よりもずっと年長だ。体つきが幼いのは病気……と言うより体質の一種だな」
 少し考えつつそんな答えをチンクは返してきた。
 成長ホルモンの異常か何かだろうか?
 とはいえ、それをきっかけにチンクとは色々話をすることができた。
 幼い見かけを除けば、チンクという少女は極めて理性的で話しやすく、また、あたしと同じく義姉さんに色々振り回されているらしいことから親近感も湧く。
 気づけば、つい2時間程前に会ったばかりとは思えぬほど意気投合して話し込んでいた。
 まったく……と、改めて思う。さすがは、人運に恵まれたウチの義姉さんだ、と。
 「いい子だから、ティアナちゃんもきっと仲良くなれる」という先刻のエイミィ義姉さんの言うとおり、ちょっと変わってはいるが、ふたりとも非常に好感の持てる人物だったのだから。そのことは素直に認めざるを得ない。
 事情があるらしく連絡先は教えてもらえなかったが、またの再会を約して、あたしたちは食事後、それぞれの家路についたのだった。

 ×  ×  × 

<Another View>

 「今日はどうだった、ウェンディ?」
 「いやぁ、来てよかったっスね。飯はウマいし、エイミィと話すのはやっぱ楽しいっスから。エイミィの妹のティアナも、なんだかんだでいいヤツでしたし」
 「そうか……」
 「セインとか悔しがるだろうなぁ。とくに、今日食べたカニ鍋のこと話したら」
 「分かってるとは思うが……」
 「もちろんっス。このことはウーノ姉やクアットロ姉には内緒にするっス」
 「そうしてくれると助かる」
 「──ねぇ、チンク姉。エイミィは管理局の局員なんスよね? ティアナも管理局員を養成する学校に入るつもりらしいし」
 「……ああ、そうだ」
 「こんな風に…………いえ、何でもないっス」
 敬愛する姉の顔に浮かぶ表情を見たウェンディは、それ以上言葉を続けられなかった。
 「……ああ」
 妹の言いたいことを察しながらも、チンクはそれに気づかぬフリをするしかなかった。
 もし、それを認めてしまえば、自分たちの存在意義にも関わるのだから。

-FIN?-
-----------------------------------------
以上。ティアナとナンバーズ初邂逅編でした。ちなみに、エイミィと会ったことがあるのは、ほかにセイン、ノーヴェ、ディエチあたりを想定。とくにセインはウェンディ同様、彼女に会えるのを(色々好奇心が満たされることもあり)楽しみにしています。
次回、ユーなの、もしくはエリキャロのカップル事情の番外編を書いたのち、その次からいよいよ第二部を本格的に始めようと思います。ではでは。



[11715] 萌えキュン日記・拾遺の参;Girl Meets Boy
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/09/24 23:55
<萌えキュン日記・拾遺の参;Girl Meets Boy>

 ──それは、小さな出会いでした。
 初めて会ったときから、そっとわたしに微笑んでくれる貴方。
 やさしい笑顔とあたたかな手のぬくもり。
 幼い胸に宿った、初めての──けれど確かな想い。

 何事も無く、ただ穏やかな日々が過ぎていくことが、わたしの願い。
 けれど、貴方が戦うと、立ち向かうと決めたのなら、わたしは……
 わたしもまた、貴方とともに戦場に立ちましょう。
 世界に満ちた不幸を、悲しみを、理不尽を、
 ひとつでも減らすために走り続ける貴方と並んで駆け、
 貴方が負った傷を癒し、疲れた貴方の安らかな眠りを守りましょう。
 それが、わたしの想いの形です……。


 こんにちは。わたしの名前はキャロ・ル・ルシエ。管理局の嘱託自然保護官見習いとして働く、9歳の女の子です。
 元は、第6管理世界の辺境地方に住む少数民族ル・ルシエの出身なんですけど、とある資質を持っていたことから、わずか6歳にして一族から追放の憂き目をみました。
 ……ふと気がつきましたけど、これってリッパな犯罪行為なんじゃないでしょうか? 養育義務放棄は管理局の民政法に触れると思うんですけど……。
 とは言え、当時のわたしにはそんな法律のことなんてわかりません。ただ、つらくて、怖くて、寂しくて、フラフラになりながら森の中をさ迷っていたところを、管理局の人に助けられました。
 あとで聞いたところ、とある筋から管理局に連絡があったそうで、おそらく一族の中でも良心的な人間がコッソリ連絡をつけてくれたのでしょう。もし、それがなければ、おそらくわたしは森の中で餓死していたでしょうね。

 そんな経緯から、管理局の保護施設に引き取られたわたしでしたが、先ほど言いました”ある資質”のせいで、施設でも浮いた存在でした。もっとハッキリ言うと、疎まれていたと言ってもよいでしょう。
 ええ、竜召喚士としてのわたしの「竜使役」という資質のせいです。本来なら一級のレアスキルとして賞賛されるべき技能なのかもしれませんが、当時のわたしは不安定な感情もあいまって、その技能を十分に制御できていなかったのです。
 びぇーんと泣いてはガーッと竜が吠え、それならと竜と引き離しても不安がって竜を召喚(よ)ぶ。かといって、白竜の幼生であるフリードリヒは希少かつ貴重な種ですから、始末したりするのはもってのほか。
 今にして思えば、よく封印その他の処置を受けませんでしたね、わたし。逆の立場になったら、正直頭を抱えていると思います。

 いろいろな施設をタライ回しにされてたわたしの保護者として名乗りをあげてくださったのが、本局付きの執務官であるフェイト・ハラオウンさんです。
 施設にいればとりあえず飢えることはありませんでしたが、家族も友達もいない生活は6歳の子供の心を確実に少しずつひび割れさせ、枯渇させつつありました。
 けれど、そんな周囲から疎まれていたわたしに、フェイトさんは手を差し伸べ、家族──”母”としてのぬくもりを与えてくださいました。わたしが、とくにグレることなく今まで育つことができたのは、ひとえにあの人の愛情と指導があってこそだと思います。
 出会った当初、フェイトさんは敏腕執務官として忙しい日々を送ってらしたので、一緒にいれる時間はそれほど多くありませんでしたが、それでも「自分はひとりじゃない」「わたしのことを大切に想ってくれる人がいる」と感じるだけで、わたしの乾いた心は、温かい想いに満たされていきました。
 そうなると不思議と「竜使役」の力も徐々にコントロールできるようになっていったのですから、我ながら現金なものですよね。

 そしてしばらくすると、フェイトさんが背の高い男の人を連れて、施設にやって来られました。来年の2月に、その男性──次元航行部隊の提督であるクロノさんと結婚することになったそうです。
 クロノさんもまた、わたしの事情を知ってるはずなのに恐れずキチンと目を見てお話してくださる人で、わたしはいっぺんで好きになりました。この人がフェイトさんのお婿さんになると言うなら、わたしは大賛成です。
 わたしがそのことを告げ、「おめでとう」と言うと、フェイトさんは嬉しそうに「ありがとう」と微笑んでくださいました。
 そして、右手でわたしの頭を優しく撫でながら、左手を自分のお腹に手を当てて「実はね、赤ちゃんができたの」とコッソリ囁き、「キャロ、この子のお姉さんになってくれないかな?」と聞かれたのです。
 それって……養子縁組とかして、正式に「ハラオウン家の子」にならないか、ってことですよね? ビックリしてわたしはフェイトさんとクロノさんの顔を交互に見ました。クロノさんも、そのことは承知されていたようで、優しい目でわたしの顔をみつめられます。
 フェイトさんご自身も、クロノさんのお母さんに引き取られた過去があるそうで(だから、おふたりは兄妹でもあるのです)、わたしを養女にすることは全然問題ない、とおっしゃってくださいましたが、さすがにすぐには答えを出せません。
 無論、フェイトさんの”娘”になるのが嫌なワケではありません。でも……そこまで甘えてしまってよいものでしょうか?
 保護者になっていただいただけでも、多分いろいろご迷惑やご面倒をかけているはずです。まして、”娘”ともなれば、新婚夫婦となられるおふたりへの負担はこれまでの比ではないでしょう。
 結局わたしは、フェイトさんには「しばらく慎重に考えさせてください」と答えることしかできませんでした。
 おふたりはちょっと残念そうでしたが、笑顔を崩さずに結婚式に招待してくださいました。そちらについては、もちろん、喜んで出席させてもらう旨、返事しました。
 その次のフェイトさんの休日に、わたしはクロノさんの職場である次元航行艦アースラに連れて行っていただきました。
 そして……そこで、「運命の人」と出会うことになったのです!!

 その人は、多分わたしと同い年くらいの男の子でした。でも、わたしの周り──ル・ルシエ一族や、施設にいる同年代の子たちとは、その身にまとう空気がまるで異なります。
 あえて言えば……そう、わたしに近いかもしれません。望まぬ力を持って生まれたが故に、どこへ行っても異端でいるしかなかったわたしに……。
 「ルシエさんですね? 初めまして、エリオ・モンディアルと言います。ルシエさんと同じく、フェイトさんの保護下にある者です」
 アースラのブリッジに連なるフロアのエントランスホールで静かにたたずんでいた彼は、わたしの姿に気がつくと、ニコリと微笑みかけてくれました。
 先ほどまでの哀愁さえ帯びたキリリとした雰囲気が一変し、穏やかな初夏の日差しを思わせる優しい眼差しに、わたしはドキマギしてしまいました。
「あ……は、初めまして! キャロ・ル・ルシエです。あの……」
 単に「よろしくお願いします」と続けるつもりだったのですが、その時のわたしは多分ちょっとテンパっていたのでしょう。いえ、もしかしたら、無意識の願望が声に出てしまったのかもしれませんが……。
 「あの……ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いします!」
 その言葉を聞いた途端に、彼──エリオさんは狼狽えて、年相応に照れた顔を見せてくれました。
 「あ、いや、そのぅ……そういうのは、まだちょっと早いんじゃないでしょうか? 僕たち、いま知り合ったばかりですし」
 「?? …………あっ!」
 そう言われて、初めてわたしは自分の誤りに気付きました。
 「ち、違います違います。言い間違いです。いえ、決してエリオさんのことが嫌とかそういうのじゃないんですけど……えっと、その……」
 ああ、最悪です。普段のわたしは、こんなドジっ子じゃないのに。むしろ、「キャロちゃんは、年齢のわりにしっかりしてるね」と言われるくらいですのに。
 どうしよう、ヘンな娘だと思われたでしょうか?
 「ニハハ、甘酸っぱい青春してるなぁ、おちびさんたち」
 あっ!
 「「はやてさん!」」
 くしくも、わたしとエリオさんの声が重なりました。
 以前紹介されたフェイトさんの親友の八神はやてさんです。確か、一等空尉の資格を持つ特別捜査官をされていると聞いているのですが……。
 「ふたりともお久しぶり。今日は、フェイトちゃんに連れてきてもろたん?」
 「はい、次元航行艦に立ち入れる機会は、そうそうないとのことで……」
 「ええ、フェイトさんたちの職場を見学させていただくことになったんです」
 「そーかぁ。わたしも今日は半分お仕事、半分は友達の顔見に来たんよ。せっかくやし、一緒にブリッジ入ろか?」
 「「お願いします!」」
 また、エリオさんとカブります。
 しかし……助かりました。あのままふふたりで見つめあっていたら、グダグダになって収拾つかないところでした。これで、さっきのわたしの醜態をエリオさんも忘れてくれればよいのですが……。
 チラッと彼の方に視線をやると、ちょうど彼もこちらを見たところで、バッチリ目が合ってしまい、互いに真っ赤になってしまいます。
 「あはは、さっきから、ふたりとも息がピッタリ、仲がええんやね。しょっちゅう会うとるの?」
 え? 傍からはそう見えるのでしょうか……ちょっと嬉しいかもしれません。
 「いえ、自分とルシエさんは初対面です」
 エリオさんは否定してますが、わたしの思い違いでなければ、そう言われて満更でもないようでした。
 「あの、エリオさん、同い年ですし、わたしのことは、キャロって名前で呼び捨てにしてもらって構いませんよ?」
 勇気を出して、そう言ってみました。そう言えば、わたし、本人に確認もしてないのに、名前で呼んでますね。
 でも……理由はわかりませんけど、なんとなく「モンディアルさん」とは呼びたくなかったんです。
 「でしたら、自分のことも名前で……」
 彼がそう言いかけたところで、ブリッジへ通じる扉が開いたため、最後は途切れてしまいました。
 でも、あれはきっと「名前で呼んでほしい」ってことですよね?
 わたしとエリオさん……ううん、エリオくんとの最初の出会いは、そんな風に始まったのでした。

 あのあと、はやてさんに連れられてブリッジに入ったわたしたちは、アースラのクルーから暖かい歓迎を受けました。
 エリオくんは、クロノさんに会ったのは初めてみたいで、少し緊張していたようですが(たぶん、憧れのフェイトさんの婚約者ということで何か思うところもあったのかもしれません)、皆さんいい人ばかりなので、わたしたちはすぐに打ち解けることができました。
 中でも、クロノさんの副官で、フェイトさんにとってもお姉さん代わりだというエイミィ・リミエッタさんは、わたしたちをいたく気に入ってくださったようで、ふたり揃ってその後も色々とお世話になっています。
 エリオくんとビデオメールのやりとりをするようになったのも、エイミィさんの発案です。現在、彼は本局の短期予科訓練校で勉強中、わたしはと言えばミッドチル辺境の自然保護隊でアシスタントをしているので、直接会う機会はあまりないのですが、なんでも、第97管理外世界・地球では、仲の良い男女が「交換日記」と言うものを行う習慣があるそうです。それに倣って毎週交互にビデオメールを送ることになりました。
 最初はちょっと照れくさかったりもしましたけど、そのうち週に一度のやりとりが待ち遠しくなったのは、ここだけの秘密ですよ?
 地球の海鳴市にあるフェイトさんたちのお家にお呼ばれしたり、フェイトさんたちの結婚式に出席したり、エイミィさんにゲームセンターに連れて行ってもらったり……何かことあるごとにわたしたち──わたしとエリオくんは、いつも一緒に招待されました。
 そうやって、エリオくんと過ごす機会が増えるにつれ、エリオくんからのビデオメールが溜まっていくにつれて、否応なくわたしは自分の気持ちに気づかされました。
 彼のことが……エリオくんのことが好きなんだって。
 もちろん、フェイトさんのことも大好きです。フェイトさんの旦那さんのクロノさんや、姉貴分のエイミィさん、リンディ元提督やはやてさん、なのはさんも、それぞれとてもいい人ですし、そんな人達に可愛がってもらっている自分は、とても幸せだと思います。一族を追放された時は、自分がこんなに多くの人々と心の繋がりを持ち、愛し愛されるようになるとは、思ってもみませんでした。
 けれど……エリオくんに対するこの気持ちは、ほかの誰に対するものとも違うんです。
 「キャロ、それがね、恋って言うものなんだよ」
 エイミィさんが優しく笑って教えてくれました。
 「これが……恋、ですか?」
 もしそうだとすると、初恋、なんでしょうか。
 「じゃあ、今から言う質問に答えてみて。1、ふと暇ができるとその人のことを考えている?」
 ど、どうしてわかるんですか!?
 「2、その人の顔を思い浮かべると心がポカポカ温かくなる?」
 ……はい。
 「3、その人が近くに来ると、とくに体が触れ合ったりすると胸がドキドキする?」
 YESです。
 「4、その人が別の女の子と仲良くするところを想像すると胸がモヤモヤする?」
 そう、かもしれません。
 「5、もし、その人が泣いていたら、ずっとそばにいて抱きしめてあげたくなる?」
 ……(真赤)。
 「あはは、やっぱり、ね?」
 それからエイミィさんは、エリオくんに想いを伝えて、ら、「ラブラブ」になるためのいくつかのアドバイスを教えて下さいました。
 え? 詳しい内容ですか? 
 うふふ、それは乙女の秘密です。
 エイミィさんいわく、「コレでフェイトちゃんもクロノくんをげっちゅーしたんだから、折り紙つきだよ!」とのこと。さらに、「今度の休日にクラナガン郊外にある遊園地に誘ってみたら?」と入場券までくださったんです。
 すごくいい人です。一生ついていきます……ごめんなさい。わたしはエリオくんに嫁ぐ予定なので、ちょっと嘘です。でも、その日が来るまでは、いろいろご教授お願いします。
 さて、これから電話して、来週の休日にエリオくんをお誘いしないといけません。エリオくんは優しいから、何か先約がない限りはOKしてくれると思うのですが……やっぱりドキドキします。
 「も、もしもし? エリオ・モンディアルさんですか?」
 ああ、わたしは何を言ってるんでしょう。個人端末だから、当たり前の話なのに……。
 「ええ、そうです。もしかして……キャロ」
 「は、はいっ! あの、エリオくん、少しおうかがいしたいことが……」

-FIN?-
----------------------------------------
以上。六課入隊の1年くらい前の話でした。
キャロはいい子ですよ。ちょっと黒っぽく見えるかもしれませんが、これまでの人生の反動でそれだけ寂しがり屋で不安なんだと思ってください。
彼女の想い人となったエリオくんも、何だかんだ言って心に孤独を抱えた少年ですし、実はキャロにベタ惚れですから、現在のところ無問題ですしね。
フェイトの被保護者ということで、ある意味、ふたりは義兄妹(もしくは義姉弟?)的な立場なワケですが、保護者からしてアレですから、自重する気配はまるでなし。順調にバカップルへの道を辿っています。
電話については、ミッドチルダで「もしもし」と言うのかは……まぁ、ご容赦ください(笑)

さて、次回は2部開始です。最初に、これまで未登場のスバルに関してフォローを入れようと思います。



[11715] 第二部:副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-1
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/10/05 09:00
第二部:副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-1

<その1>

 ──うん、ごめん、私、ちょっと浮かれてた……というか、甘くみてたわ。反省。
 改めまして、エイミィです。
 いやね、無事に機動六課が発足したのは、めでたいことよね。そのために、あのチョモランマのような書類の山を片づけ、東の本局で予算をケチられたら行ってペコペコ頭を下げ、西の地上部隊に渋い顔されたら菓子折り片手に根回しに出かけ、知り合い連中に頼みこんで状態のいい中古の備品を回してもらってきたりと、色々してきたんだから。
 私も自分なりに六課を原作より巧く回せるように工夫してきたつもりだし。その一環として、六課の中核メンバーをあらかじめ顔合わせして色々交流持つように仕向けといたわけ。
 そもそも、ティアナとスバルを除いて入隊時に顔合わせたばかりのフォワード陣に信頼と言う名の堅い絆を、即座に築けって方が無茶でしょ。無論、数カ月かけて、その"絆"はゆっくり築かれていくとは思うけど、遠回りするその時間が惜しいしね。
 だから、発想を逆にしたのよ。「六課に入る前からお友達になって、ある程度気心が知れていればいいんじゃね?」って。無論、慣れ合いはマズいけど、ウチのフォワード陣って、ある意味まじめな面々が揃ってるから、そっちの心配はなさそうだし。
 これで、少なくともティアナちゃんが無茶な特訓やって「管理局の白き魔王」に頭を冷やされる可能性は下がったと思うし(なのちゃんの事故のことも、すでに彼女知ってるしね)、フェイトちゃんとエリキャロコンビの仲も極めて良好。スバルは元々なのちゃんを慕っているし、その他の人材や物資面もコネをフルに活用して、できる限りのものは揃えてある。
 すでにナカジマ陸佐にも話を通してあって、ギンガも5月ごろからこちらへちょくちょく顔を見せる予定だしね。
 あとは地道に部隊の実力を底上げしていけば……と、呑気に構えてたんだけど、人間、事が上手くいってるように見える時ほど、えてして思わぬ落とし穴に足元をすくわれるものなのよね~。
 よく考えれば、私のせいでこれだけ状況が変わったんだもん。変わったぶんのプラスだけじゃなく、マイナスのシワ寄せがどこかに来るのは、ある意味必然だったんだわ。

 それは、六課が正式に発足してから2週間ほど経った、ある晴れた昼下がりのこと。
 「な、なんやて? 訓練中にスバルがなのちゃんに叱られて、ゼロ距離から吹っ飛ばされた!?」
 ブゥーーーーーーーーッッ!!!
 部隊長室ではやてちゃんと打ち合わせがてらお茶してた私は、はやてちゃんに緊急で入ってきた報告を耳をして、思い切り口から紅茶吹いたわよ。
 ちょ……冥王降臨にしても早過ぐる!
 頭部強制冷却の相手がスバルだってこと自体は、それほど驚くほどのことじゃない。原作では、たまたま(立案者兼実行犯ということもあって)ティアナがフルボッコにされたけど、本来あのふたりはチームで、示し合わせてあれをやった以上、スバルも同様に責任があるはずなんだから。
 でも……今の時期は、まだまだ基礎の基礎固めの段階のはず。そもそも、実戦──出動すら未だ1回もしてないのに、そんなに焦燥感を煽るような事態があるとは思えないんだけど……。
 けれど、そのあと関係各位への聞き込みと分析を行った結果を見て、私は頭を抱えることになった。
 参ったなぁ。そういうことかー。
 バタフライ効果、って言い訳しちゃダメだよね。これは少し考えれば予測できたはずだし。
 そう、今回の”スバルの”暴走。それには私のとった施策が明確に関係してるんだから。

 ×  ×  ×  

 春から新設された古代遺物管理部機動六課、通称「六課」は、非常にアットホームな雰囲気で部隊内メンバー同士が仲が良いことで知られている。
 これは、主要なメンバーの大半が、部隊長である八神はやて、もしくは副部隊長エイミィ・ランスターのプライベートな知人友人でもあることに一因があることは疑いないだろう。
 揶揄を込めて「お友達部隊」などと呼ばれることもあるが、いずれ業績を上げることで口さがない輩を黙らせることはできると踏んでいたし、それまでのあいだくらいは、聖王教会とロウラン&ハラオウン派閥の二大後ろだてがニラミを利かせてくれるはず──エイミィはそう考えていた。
 原作アニメにおいて、八神はやては古代ベルカ式を使う魔導騎士ということもあってか、一部を除いて管理局自体よりむしろ聖王教会に後援や助力を受けることが多かった。
 確かに、この時代のミッドチルダにおいても聖王教会の勢力は無視できるものではない。地球で言うならカトリック教会の総本山バチカン並み、あるいはそれ以上の力を有しているのだから。
 しかし、いくら協力体制にあると言っても教会は管理局にとって「外部」だ。組織の人間が外から色々口をはさまれて、おもしろいはずがない。
 だからこそ、エイミィは六課の副部隊長に就任したのだ。彼女は、非武装局員ではるあるが、今は予備役となったリンディ元提督から、彼女が現役時代に築いた管理局内のコネクションや情報網を受け継ぎ、一部は拡大させてさえいるのだ。
 そもそも、リンディが「緑髪の魔女」と呼ばれていたのは、なのはやフェイトに匹敵する魔法の実力や、目覚ましい戦果があったからだけでは決してない。飛び抜けた魔法の才に加え、現場以外のいわばバックヤードにおける影響力も極めて大きいが故に、畏敬を込めて「魔女」と仇名されたのだ。
 それはひとつには、盟友である人事部の大立者レティ・ロウラン提督の協力もあったろう。だが、同時にリンディ自身が方々に張り巡らせたツテとコネも尋常ならざる規模なのだ。
 それは、別段「後ろ暗い」「犯罪的」というほどではないにせよ、法と規則に100%沿っているとも言えない、潔癖な人間なら眉をしかめるであろうネットワークだ。必要だと思った無理を通すためには、それらの力を借りることも不可欠だったのだ。
 だが、彼女は引退するにあたってそれらを息子や娘に譲ろうとは思っていなかった。
 クロノにせよフェイトにせよ、彼女の「武」と「知」と「情」の高さは受け継いでいたものの、唯一「謀」の部分の適性だけは別だった。彼らはあまりに真っ直ぐであり、謀事をなすには向いていない。クロノの場合は、提督になったことで多少はそういう「政治的な」部分を考慮する必要性に駆られているようだが、そのレベルでもなかなか苦心しているようだ。
 しかし、その言わば「リンディ・コネクション」とも言うべきものを、自ら申し出て引き受けたのがエイミィだった。クロノの副官として彼を、ひいてはなのはやフェイトら”アースラファミリー”を補佐することを自らの役目と任じたエイミィだが、英雄(エース)達に「武」で劣り、「知」で及ばない以上、彼らが余計な横やりその他に悩まされずに済むよう、環境を整えるための「手段」として、それを選んだのだ。
 話を元に戻そう。
 そういうわけで、地上(りく)も含めて管理局内部に様々な情報と関係の糸を張りめぐらせたエイミィは、はやてと異なり確実に「管理局内」の人間と認識されているため、他部署からの反感を比較的買いづらい。これで、六課に対する風当たりを多少緩和できると考えたのだ。
 実際、勤続10年足らずのポッと出のヒヨッコが立ち上げた新部隊としては、六課は恐ろしく周囲との軋轢が少ない。つきあいの長いなのは達からさえ、「普段は割とチャランポラン」と見られているエイミィだが、その影で色々腐心はしているのだ。
 無論、これは現在のエイミィが、かつて日本でアニメ「リリカルなのは」シリーズを観ていたアニメファンの女子大生の魂を受け継いでいることも原因だ。作中で六課が色々と妨害やサボタージュを受けていたことを理解していたからこそ、それを取り除くために積極的に動こうという気になったのだろう。
 しかしながら、エイミィは決して神でも予言者でもない。幾許かの前知識はあったにせよ、この世界の住人となって暮らして長い上、色々と状況が変わって(変えて)しまった以上、かつての原作知識がどこまで役立つかは少々疑問だ。
 そして、その「原作との齟齬」が最初に噴き出したのが、今回の「スバル砲撃説教事件」だったのだ。
 一言で言うならば、それは「孤独」「疎外感」だったのだろう。
 エイミィも失念していたのだが、スバル・ナカジマという少女にとって、高町なのはは「憧れ」「目標」ではあったかもしれないが、決して身近な存在ではなかった。
 また、なまじはやてやエイミィが彼女の父ゲンヤや姉のスバルと多少面識があったことも災いしていのたかもしれない。
 エイミィ自身はとっくにスバルを「身内」のひとりに数えていたのだが、当の本人にしてみれば、自分は「外様」と少々すわりの悪い思いをしていたらしいのだ。

──事件の3日前/訓練終了後のレストルームにて

 「そう言えばさぁ、エリオとキャロって、いつも一緒にいるよね。仲がいいの?」
 風呂上がりのフォワード4人での自由待機時に、ふとスバルがふたりの小さな同僚に聞いてみたのが、ある種のキッカケだったのかもしれない。
 「「はいっ!」」
 声を揃えて返事をするチビっ子たち。キャロなどは語尾に音符かハートマークがつきそうな勢いだ。
 「あはは、それってやっぱり、ふたりがフェイトさんの被保護者(こども)……兄妹みたいなものだから?」
 「いえ、それも……」「……あるとは思いますけど」
 今度は途端にエリオとキャロの歯切れが悪くなる。顔を見合わせて少し頬を赤らめるふたり。
 「?」
 「あんたねぇ、それくらい察しなさいよ。このふたり、つきあってるわよ」
 不要領な顔つきで首をひねるスバルに、見かねたティアナが口をはさんだ。
 「??」
 「相変わらず激ニブねぇ。恋人同士だって言ってるの」
 「へ? ……えぇーーーーっ!?」
 ようやく事態を飲み込んだのか大声をあげるスバル。口をパクパクさせてチビっ子たちに本当か確かめようとしたが、手をつないで顔を真っ赤にしているふたりを見れば、真偽は問うまでもないだろう。
 「え? え? で、でも、ふたりって確か10歳、だよね?」
 「いいんじゃない、別に。不埒なことをしようってわけじゃないんだし。微笑ましいカップルじゃない。そもそも、フェイトさんだって、旦那さんのクロノ提督とは10歳のときから付き合ってたって聞いてるわよ?」
 「ええっ、そうなの!?」
 今日何度目かの驚きの声をあげるスバル。まるで某お笑い芸人の「聞いてないよ~」状態だ。
 「ええ。クールで落ち着いた印象のあるフェイト執務官だけど、いったんご家庭に戻れば、旦那さんにメロメロの新妻モードになっちゃうんだから」
 堅物っぽいクロノ提督も、いきなり愛妻家モードに切り替わっちゃうし、アレは衝撃的だったわ、としみじみ語るティアナだったが、スバルには想像不可能だった。
 「でも、フェイトさん達より、もっとスゴい方もいますよ。なのはさんのご実家なんですけど……」
 キャロが補足する。
 「ああ、あそこか。そうね、確かに……」
 ちょっと砂でも吐きそうな表情になるティアナ。
 「? 何がそんなにスゴいの?」
 「いえ、なのはさんのご両親なんですが、もう孫もいらっしゃるお歳なんですけど、いまだにラブラブカップルと言うか……」
 まぁ、見かけも大変お若くて、とても20代後半のお子さんがいるようには見えないんですけどね、とエリオが補足する。
 「あたしも、ウチの兄さんが高町家で武術教わってるから何度かお邪魔したことがあるんだけど、あれぞ真の”万年新婚さん夫婦”よね」
 少々ゲンナリしたような顔を見せるティアナに、エリオが逆に尋ねた。
 「あれ? でも、ティアナさんのお兄さんってエイミィさんの旦那さんですよね。おふたりの様子はどんな感じなんですか?」
 「まぁ、あの二組の激甘カップルに比べれば普通じゃない? 友達感覚と言うか、淡白と言うか……もちろん、妹であるあたしに気を使ってる面もあるかもしれないけど、エイミィ義姉さんは、大体いつもの通りよ」
 「”みんなをからかうけど、面倒見のいいおねーさん”、ですか」
 キャロの言葉に頷くティアナ。
 「そ。まぁ、あの人が「ね~ダーリィン」とか言い出したら、むしろ脳の具合を疑うわ」
 ワイワイと身内の話で盛り上がる三人を見て、ふとスバルは気づいたのだ。
 (もしかして……あたし、みんなのこと何も知らない?)
 考えてみれば、フォワード陣のうち、エリオとキャロは恋人同士かつフェイトの「子」、相棒のティアナにしてもエイミィの義妹であり、その縁でなのはやフェイト、はやてらとも以前から親しいらしい。そして、この三人自体も六課に来る以前から面識があったと聞いている。
 ロングアーチのヴァイスやシャーリー、アルトも、隊長格4人の知り合いを引っ張って来たそうだし、副隊長ふたりや医務官のシャマル、リイン空曹長も、本来はやての守護騎士だ。
 (あたし以外で、初対面だったのって、もしかしてルキノくらい?)
 もっとも、実はそのルキノも元アースラスタッフであり、フェイトと面識があったりするのだが……。

 もちろん、陽性で前向きなスバルは、その時それをさほど気にしたワケではない。「これまで知らなかった人と知り合いになれたんだから、これから仲良くなればいい」と考えたくらいだ。
 しかし……間が悪いと言うべきか、翌日の実戦形式の訓練で、ライトニングふたりのコンビネーションの良さと、ティアナの指示の的確さに比して、自分ひとりがテンポを崩していることを痛感する状況が発生してしまう。
 公平に判断するなら、それは4人の司令塔であるティアナにも責任のあることだ。スバルの突撃癖は相棒として理解しているはずだし、それも踏まえた上で作戦を立て、さらに陣形が乱れたときも的確にフォローをするべきなのだから。
 しかし、その日の訓練で初めて指導してくれたヴィータに駄目出しを食らったスバルは、それが自分のせいだと思いこんでしまった。
 「悩むよりもまず体を動かす」のはスバルの美点でもあるが、時には欠点にもなる。
 深夜、寮を抜け出しての特訓を始めたスバルは、少々熱中し過ぎて睡眠不足になり、翌日の訓練でも集中力を欠いてしまう。それで、さらに焦り……と、悪循環に陥ってしまったのだ。
 スバルは自身が語っているとおり、何でもソツなくこなすティアナやエリオのような器用さはないし、キャロのようなレアな特技もない体力バカ……と思いこんでいる。実際には、戦闘機人というのは、人道上はともかく戦闘においては大きなアドバンテージだし、スバル個人としても「振動破砕」という極めて有効なISを持っているワケだが。
 そもそもスバルが実戦魔導師になろうと決意したのは、「弱い自分でいるのはもう嫌だ」「大切な誰かを護りたい」という目標があったからこそ。
 それが「自分が原因でチームワークを乱し、足を引っ張っている」と思ってしまったら、多少暴走してしまうのも無理はないだろう。
 本来は、別段彼女だけの責任というわけではないし、そもそも現在はまさにその「チームワーク」と「基礎力」を鍛えている段階なのだ。現時点で洗い出すべき問題点がわかったことは、監督者から見ればむしろ喜ばしいことにほかならないのだが。
 そして”事件”当日。スバルがない知恵絞って考えた作戦に、ティアナは渋ったが彼女の熱意に押されて了解し……「ごらんの有様だよ!」と言うワケだ。

 ×  ×  ×  

 この件についての私の失策はふたつ。
 ひとつは、「本来それほど仲が良くなかった者たちの交流にかまけて、それ以外の者の人間関係を軽視したこと」。幸か不幸かその条件に当たるのが、中核メンバーではスバルだけだったため、彼女が一身にそのツケを背負う形となっちゃったのよね。
 もうひとつは、「なのはに早期からのチーム戦訓練を勧めたこと」。原作のような徹底的な基礎力重視も無論ひとつの方法だけど、それで暴発するティアナのような例を出したくないと考えて、「ひとつひとつのステップを確かめるための模擬戦」を節目節目で行っては……と、なのちゃんに提案したのだ。
 その考え自体に悪いことではないし、なのちゃん自身も賛同して訓練プログラムの一部に手を加えてくれたのだけど……それが今回のスバルの暴挙を引き起こしたのだから、皮肉と言うしかない。
 私は自分の浅慮を悔やんだが、同時にすでに自分の「前知識」が役に立たない段階に来ていることも改めて認識した。
 幸い、スバルのケアについては、なのちゃん自身と親友のティアナちゃん、それに折よく六課を訪ねて来てくれたギンガが行ってくれたみたいだし、スバルも数年前のなのちゃんの”事故”を知ったから(事故のことを彼女だけ知らなかったというのも、私のポカよねー)、今後そうそう無茶はしないだろう。
 でも、「今後の事」については……。
 「はぁ、そろそろ私も覚悟を決めますか」
 溜息とともに珍しく気合いを入れた私は、少々敷居が高い、某所へと連絡をとったのだった。

 そして数日後。
 第12管理世界のとある建物に、私はある人物とともに足を運んでいた。
 「しかし、珍しいな。君が僕にわざわざ同席を頼むとは」
 「それで、お話というのは何なのでしょうか、エイミィさん?」
 さて、ここがエイミィ・ランスターこと田村恵美の一世一代の正念場だ。
 「はい。実は、騎士カリムが預言された管理局を揺るがす危機について、お話したいことがあります」


 -To be continued-
--------------------------------------
以上です。
ちなみに、言うまでもないことですがリンディ提督その他に関する裏設定は、私の妄想。「あの天然ぽわぽわママさんが、そんな黒いワケねーだろ!」という意見ももっともなのですが、逆に(いくら優秀とはいえ)あの若さでクロノが提督にななれたことを考えると、彼女に相応の政治手腕があったとする方が自然かと思いまして、このような次第に。
スバルに関しても「心身ともにつおいスバルが、そんな無茶するかよ!?」と思われるかもしれませんが、「予想以上に熱くなる」「自分の弱さを憎む(弱いことを認めたうえで克服しようと躍起になる)」の2点から、今回の件を発生させました。
次回の冒頭の展開は、おそらく皆さんの予想通りでしょう。それが吉と出るか凶と出るか……



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-2
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:d426b585
Date: 2009/10/05 09:04
<その2>

 スーーッと息を深く吸い込む。
 まったく、田村恵美、そしてエイミィ・リミエッタとして生きてきた合計30年にもわたる人生の中で、これほど緊張したことは記憶にないわね。
 「──これからお話することは、荒唐無稽に聞こえるかもしれません。ですが、できれば最後まで聞いてから、判断を下されますようお願い致します」
 そう前置きしてから、人払いをしたこの部屋にいる4人の面々の顔を見つめる。
 私の長年の相棒であり、時空管理局の提督兼執務官たるクロノ・ハラオウン。
 聖王教会騎士団の騎士、そして管理局理事官の地位を持つカリム・グラシア。
 カリムの義弟にして時空管理局の査察官ヴェロッサ・アコース。
 そしてカリムの側近であり、教会きっての武闘派修道女として名高いシャッハ・ヌエラ。
 皆、緊張しつつも私の言葉に熱心に耳を傾けてくれているみたい。
 「単刀直入に言います。騎士カリムが預言された”大地の法の塔は虚しく焼け落ち”る危機に関して、私はその事件の首謀者について確度の高い情報を得ています」
 「「「「!!」」」」
 「い、いったいどこでそのことを……」
 慌てて問いかけるシャッハを手で押しとどめ、再度4人の顔を見渡した。
 確かに動揺はしているが、私の言葉の真偽自体を疑う気配はないみたい。
 ……少しだけ心が痛む。これから、私は、4人のこの信頼を裏切って、90%の真実に混ぜて10%の嘘をつかねばならないのだ。
 いや、無論あらいざらい全部ブチ撒けるということも考えたのだが、そうすると今度は著しく私の説明に対する信頼が下がることが、容易に予想できちゃうのだ。
 だから……私は演じよう。「これから言う自分の言葉を心から信じているエイミィ」という役を。
 死んだら地獄で閻魔様に舌を抜かれることは確定だろうが、それを言うのは今更だしね。
 「まず、事の起こりは10年前。PT事件がほぼ収束に向かっている時期のことでした……」

  ×  ×  ×  

 エイミィは、4人に向かって以下のような説明をした。

 ●10年前、なのはとフェイトの時の庭園からの帰還直前に、何者かの意識が自分にコンタクトしてきたこと。
 ●その相手は、未来の平行世界の人物で、「田村恵美(タムラ・エミ)」と名乗ったこと。
 ●彼女の世界でも、こちらとほぼ同様の出来事や事件が起きたが、その中でも大規模な災害が10年後──つまりまさに今年に勃発すると知らされたこと。
 ●その災害の首謀者の名前は次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ博士、彼に密かに協力しているのが管理局首都防衛長官であるレジアス・ゲイズ中将であること。ただし、真の黒幕は管理局最高評議会であること。
 ●スカリエッティの目的は、艦船級ロストロギアを起動させて自らの欲望──無限の研究欲を完遂させること。その過程で、首都クラナガン、とくに管理局地上本部が大きな被害を受けたこと。
 ●また、スカリエッティは、人道上問題があるとして既に破棄されたはずの「戦闘機人」の研究を完成させており、優秀な手駒として12体の戦闘機人を制作し、配下としていること。
 ●最終的には機動六課その他の活躍でスカリエッティの企みは阻止されたものの、その過程で多大な犠牲が出たこと。

 「もちろん、私だって最初からそれを信じたわけじゃありません。
 でも彼女は、自分が語ったことが真実だと証明するため、PT事件に始まり、半年後の闇の書事件や、数年後のクラナガン空港の大火災についても概要を話してくれました」
 「何だって!? じゃあ、君は闇の書事件の時、最初から真犯人について知ってたと言うのか?」
 さすがにこれは聞き流せなかったのか、クロノが椅子から立ち上がる。
 「──連続リンカーコア奪取事件は、闇の書の守護騎士たちの仕業。現在の闇の書の主は八神はやて。ただし、その背後で暗躍しているのは管理局のグレアム提督で、彼の目的は「主ごと闇の書を封印すること」。
 しかし、高町なのは、フェイト・テスタロッサの2名の活躍により、奇跡的に死者0で事件は解決。八神はやても管理局に所属し、以後、優秀な捜査官として活躍するようになる……以上のことは、説明されてたわ。
 もちろん、何度もクロノくんやリンディ提督に話そうかとも思った。でも……もし、そうすることで、未来が悪い方に変わったら? それにそもそも、こんなヨタ話、信じろって言うほうが無理でしょう!?」
 「それは! ……そうだな。仮にあの時話されても、絶対に信じたとは言えない」
 エイミィの激しい語調に気勢を削がれたのか、クロノは再び椅子についた。
 「もちろん、大勢を変えない範囲で私なりにできる限りのことはしたつもり。レイジングハートとバルディッシュの改造なんかも、そのひとつね」
 「アレは君の手配か。道理でふたつのデバイスの修理と改造が早かったと思ったら……」
 「うん。あらかじめマリーにカートリッジシステムについて研究しといてもらったの」
 「クラナガン空港の火災については、君も救助活動に参加したそうだけど?」
 ヴェロッサの問いかけにエイミィは頷く。
 「ええ、詳しい日付はわからなかったけど、あの年の4月に大火災が発生すると聞いてたから……」
 「それで、わざわざあのクソ忙しい時期に有給休暇をとったのか……」
 当時のことを思い出したのか、クロノが渋い顔をした。
 「その節は迷惑かけてごめんね。火災を事前に防ぐことが不可能なら、せめて救助活動の手伝いをしたかったんだ。あの三人娘が臨時で駆り出されて苦労したって聞いてたし」
 クロノの問いにそう答えながら、エイミィは、ふと違和感に気づいた。
 (アレ? もしかして、ふたりとも、私の言うこと信じてる?)
 「何を狐につままれたような顔してるんだ、君は」
 「クロノほどじゃないけど、それなりに長い付き合いじゃないか。エイミィがこんな突拍子もない嘘をつくような人じゃないことは理解してるさ」
 「うぅ……ありがとう、ふたりとも(そしてゴメンね)」
 感謝のまなざしをふたりに送ったのち、エイミィは残るふたり──カリムとシャッハに視線を向けた。
 「──正直、信じ難い話ではあるのですが、今のところ矛盾はありませんし、約束通り最後まで聞かせていただきます」
 シャッハの言葉に、カリムも賛同の意を示したのち、ふと問いかけてきた。
 「ところで、その…タムラ・エミさんですか? その方の意識はどうなったのですか?」
 (ああ、やっぱりそこに来るか)
 「わかりません。10年前、こちらの質問にもロクに答えず、私に言いたいことだけ伝えると、そのまま反応が消えてしまいましたから……ただ、彼女の正体はおぼろげに推測はできてます」
 予想された質問だっただけに、エイミィは淀みなく答えた。
 「ほぅ、一体誰なんだい?」
 ヴェロッサは興味津々にエイミィに聞く。
 (そう言えば、この手の眉唾話が結構好きだったよね、この人)
 「多分だけど、”あちら”の世界での私の同位体なんじゃないかな。もしかしたら、JS事件の時に負傷して、病院に運ばれたけど手当の甲斐なく……ってことなのかも」
 名前もそれっぽいし、私でないと知ってるはずのないことを色々知ってたしね、と続ける。
 「つまり、幽霊が悔恨から平行世界の”自分”の元に警告に来た、と?」
 「どうやってそれを為したのか、を抜きにすれば、いかにもありそうな話でしょ?」
 それからエイミィは、「自分が恵美から伝えられた情報」をできる限り正確に4人に伝える。
 「……状況証拠だけですが、貴女の言ってることが、ただの妄想ではないことは認めます」
 重々しいカリムの言葉からすると、どうやら教会でも一般に公開されている以上の情報はすでに掴んでいるらしい。
 「ですが、わたくし個人の見解はともかく、さすがに貴女の”予言”を根拠にスカリエッティはともかくレジアス中将に公式に疑いをかけるわけにはいきませんよ?」
 探るような目付きの彼女だが、裏を返せば、彼女自身はある程度エイミィの言うことを信じているということだ。
 心の中で感謝しつつ、エイミィは手元のブリーフケースから、一束の書類を取り出した。
 「そう言われると思ってました。こちらをどうぞ……」
 シャッハが受けとりカリムに手渡す。
 「あ、一応、機密の塊りなんで、ここにいるメンバーのアイズオンリーでお願いしますね」
 そのためにワザワザ端末じゃなく手書きで紙に起こしてきたんですから……と言うエイミィに苦笑したカリムだが、書類に目を通した途端、その表情がひきつったものへと変わった。
 「まぁ、それも状況証拠って言えばそれまでなんですけど、”灰色”の容疑をだいぶ”黒”に近づけることができると思いますよ?」
 「いえ、それは謙遜ですね。ここまで揃っていれば、”限りなく黒に近い灰色”と言ってしまっても問題ないでしょう」
 読み終わったカリムはうって変わって真剣な目付きになる。カリムから書類を受け取ったクロノたちも、そこに記された多岐にわたる調査報告──レリック事件その他にまつわるレジアス・ゲイズの不審な動きと最高評議会の動向、そこから導き出される推論に目を見開いた。
 「驚いたな……コレだけで十分査察部の調査対象になると思うが、どうかな、ヴェロッサ?」
 「そうだね。もちろん、中将の名声と権力から表だっての告発は難しいけど、内偵を進めるには十分過ぎると思うよ」
 無論、彼らはエイミィの言葉をある程度信じてはいたが、こうして現実的な物証をつきつけられれば、話はより具体化する。
 「そうですね……ところで、エイミィさん。いまさらですが、10年間秘密を守ってきた貴女が、どうしてこの話をわたくしたちにしようと思ったのですか?」
 カリムの問いに、エイミィはふと肩を落とした。
 「すでにお気づきかと思いますけど、この10年間私も決して遊んでいたわけじゃありません。特に”機動六課”に関わる人々については積極的に関与して、できるだけベストな状態でJS事件に臨んでもらえるよう努力してきたつもりです。
 たとえば、タムラ・エミの情報によれば、「エイミィ」は六課に所属してないみたいでしたけど、近くで手助けするために私は潜り込みましたし、そもそもティアナの兄は、JS事件の数年前に殉職してたはずですしね」
 「しかし、今の君は六課の副部隊長であり、ティーダ・ランスターの妻でもある、か」
 「ええ。それ以外にも事件解決のキーとなるはずの、なのちゃんとフェイトちゃんのプライベート──主に恋愛面へのアドバイスとか、エリオくんとキャロちゃんへのメンタル面でのフォローとか、ヴァイス陸曹に再起を促すとか……」
 「ちょっと待て、エイミィ! 今聞き流せないことをサラリと言わなかったか?」
 クロノの突っ込みを華麗にスルーして、エイミィは言葉を続ける。
 「私なりに機動六課の人材と戦力の充実をはかってきたんですけど、逆にそれが仇になりました。起こるはずの未来の事象が、少しずつズレてきたんです」
 早過ぎる「白き魔王降臨事件」を例にとって、そのことを説明する。
 「色々言葉を重ねましたけど……要は私ひとりではどうにもならない所まで来てるのを痛感したんですよ。で、このクソ重たい”未来からの遺産”を一緒に支えてくれる人が欲しかったんです」
 そのために、私が信頼できる人の中で、この件により深く干渉できるであろう教会のメンバーとクロノくんに話して、善後策を相談したいと思ったんです……と、エイミィは締めくくった。

  ×  ×  ×  

 あ゛~~、寿命が10年縮まるかと思ったわ。
 あの「告白」の最大の難点は、ヴェロッサのレアスキル「思考捜査」を使われることだったんだけど(まぁ、使われたら使われたで言い訳は用意してたけど)、友人であり犯罪者でもない私に対して、さすがにそこまではしないでくれたみたい。
 私の言ってる内容が、「How(どうやってそんなことが?)」という部分以外は至極理が通っていたことも助けになってくれたんでしょうね。
 とりあえず、近い将来にまず間違いなく起こるJS事件については、この5人のあいだだけの秘密とすることとなった。
 無論、表沙汰にはできないけれど、これから色々と裏で動いてもらうことは確定よね。いやぁ、これで人手の面でもお金の面でもコネの面でも、だいぶ楽になるわ。今後の方針をこのメンバーで協議することもできるわけだし。
 「しかし……”海”の部隊にいながら、よくここまでの情報を集められたな」
 クロノくんが紙の資料を見ながらつくづく感心したように言う。あ、それ、見終わったら、この場で燃やしちゃってね。
 「まぁ、10年前からチョコチョコと進めてたしね。その時期は相手もさほど警戒してなかったから、秘密保持のガードも甘かったし。ここ数年はさすがにその難度が数倍に跳ね上がった分、苦労したけど」
 「いや、それでもたいしたものだよ。さすがは”魔女の後継(サクセサー・オブ・グリーンウィッチ)”と言うべきかな」
 ……は?
 ヴェロッサが口にした言葉に思わず目が点になる私。
 「何、その厨二くさい渾名は?」
 "緑髪の魔女の片腕"とか"黒衣の英雄のお助け人"とかなら、聞いたことあるけど。
 「おや、情報通のエイミィが知らないとは意外だね。君は、実質的にリンディ提督が築き上げた情報網やコネクションを受け継いでいるだろう? しかもアースラを降りて六課の新設に尽力し、その副部隊長に納まった。その過程での様々なやり口から、本局あたりではそう呼ばれているのさ」
 は、初耳ィ! やめてよ~、コッ恥ずかしいうえに、なんだか無性に貧乏になりそうだから。
 「君には面倒をかけてすまないとは思っている。正直、フェイトはもちろん僕にも、母さんのあのネットワークは手に余る。だが、君ならその力に溺れることなく、かつ有効に活用してくれるだろう。その意味でも、”後継者”という呼び名はふさわしいと思うよ」
 いや、クロノくん、それ過大評価。そもそも、私がやってることなんて、某オーフェンに例えたらあの地味な教師補佐くらいのサブキャラの役回りもいいとこなんだからさぁ。
 ……ヤバい。なんか死亡フラグがひとつ立ったような気がするわ。
 せっかく悩みのひとつを解消したにも関わらず、新たな悩みを抱えることになった私は、精神的に疲労困憊しつつ、皆と今後の対応について話し合うのだった。

 -To be continued-
---------------------------------------
以上、エイミィさん、告白の回でした。真実をそのまんま言ってるわけではありませんが、解釈次第では「現在のエイミィは、元のエイミィが田村恵美からの情報(記憶)を受け継ぎ、変質した存在である」とも言えるので、まったくのデマと言うわけでもありません(それでも幾らか誤魔化してる部分はあるわけですが)。
とりあえず、具体的にはまだ手出しできなくとも、レジアスに対する牽制は今後多少しやすくなるでしょう。もっとも、それが必ずしもスカリエッティに対しても有効とは限らないのですが……。



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-3
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/10/05 09:06
<その3>

 JS事件の真相を六課の後見人たちにバラしてから、はや1ヵ月あまりが過ぎた。
 あれから、フォワードの新米4人におニューのデバイスを贈ったり、そのデバイスを使った初出動がかかったりと、ほぼ原作に準じる展開が続いている。

 あ、でもデバイスに関しては、結構原作とは変ってるかな。
 スバルのマッハキャリバーに関しては、修理改造後と同様にフレームや装甲の強度をあらかじめ高めに設定してある。もちろん、これはナンバーズとの戦いで破壊されないためだ。また、防御魔法の立ち上げも若干スピードアップするようにしておいてもらった。
 ティアナちゃんのデバイスは、クロスミラージュに加えてテロルミラージュという同型デバイスをセットにした2機1組の形に。それでリソースに余裕ができた分、ダガーモードを細工して、ワンハンドモードの時はちょっとした日本刀並の魔力刃を形成できるようにしてもらった。ちょうどフェイトちゃんのライオットザンバーの2形態に近い感じかな。せっかくなので暇を見てはフェイトちゃんに運用のアドバイスとかしてもらってるわ。
 エリオくんのストラーダは、もともと完成度が高かったので、あまり大きな変更点はない。第二形態でのサイドブースターの数と可動性を増やし、多少複雑な空中機動ができるように工夫してあるくらいかな。
 そして、キャロちゃんのケリュケイオン、これが一番大きく変更されたわね。元から予定されてた3形態に加え、攻撃重視のフォースモード(別名・魔砲少女モード)が追加されている。この状態では、バリアジャケットのデザインも多少変わり、なのちゃんの”バレルショット”やフェイトちゃんの”サンダーレイジ”といったキャロちゃんがまだ習得してないいくつかの攻撃魔法を使えるようになるというイカサマ。まぁ、威力はオリジナルよりだいぶ劣るし、魔力の消耗もハンパないんだけどね。
 ティアナちゃんたちのデータは以前から揃ってたから、時期的に原作とほぼ変わらない日付に渡せたはず。デバイスの機能が上がったぶん、習熟に多少時間がかかるかもしれないけど、これから先の戦いを考えれば、ベターな処置だったと思うわ。

 そうそう、スバルのお姉さんのギンガ・ナカジマも、5月の頭から正式に六課に出向扱いとなった。元々、この機動六課自体、実験的な部隊で1年間の期限付きだから、出向扱いでも問題はないはず(分隊長ふたりからしてそうだし)。
 所属はロングアーチで、通常はフェイトちゃんの下で捜査任務についてもらい、有事には六課本部の直衛……とアニメとほぼ同様のシフト。これについては最後までスターズでスバル&ティアナとトリオ組んでもらうか悩んだんだけどね~。フォワード各人の戦力底上げをした以上、次に目指すのは六課の防衛力増強だろうということで、こうせざるを得なかった。
 うぅぅ、絵面としては”姉妹対決”は燃えるけど、当の姉妹とそれなりに仲良くなった今は流石にそれは勘弁してほしいなぁ。何とかナンバーズに連れ去られるのは阻止したいけど……重要度からいけば、やっぱりヴィヴィオ誘拐を防ぐほうが上よねぇ。一応、打てる手は打っておくつもりだけど……。

 そうこうしてる内に、ホテルアグスタでのオークションが開催。もちろん、原作どおり”考古学者”としてのユーノくんが呼ばれているワケだけど……。事前にその事を私がリークしておいたせいで(無論ワザと)、ユーノくん、なのちゃんの仕業で「ユーノちゃん」モードでお仕事するハメになったらしい。いやぁ、その場に居合わせなかったのがつくづく残念だわ~。 ←まさに外道
 ティアナちゃんは、対ガジェット戦で例の砲撃魔法は披露せず。かといって、代わりにスバちんが暴走するわけでもなし。ふたりとも無理なく他の隊員との連携で少しずつ敵を倒していった。
 うんうん、なのちゃんの愛の教導(ムチ)が効いてるわね。結果的には、あの時期に頭冷やされたのは良かったのかもしれない。まぁ、新人達(とくにスバル)のなのちゃんを見る目が、「きれいで優しい憧れのお姉さん」から「怒らせると怖い鬼教官」になったのは、本人的には不本意かもしれないけどさ。
 ルーテシアの虫による有人操作と転送についても、こちらから予め連絡を入れたので、落ち着いて対処できたみたい。
 そんな微笑ましい(?)エピソードをはさみつつ、今は主に訓練の期間ね。
 数日ごとに現れるガジェットをフォワード陣は出動して撃退してる。被害は最小限に抑えているものの、その黒幕に関する捜査の進展は遅々として進まず……というのは表向きの話。
 実はスカリエッティ一味については、レジアス中将への容疑と一緒にカリム経由で──つまり教会のつかんだネタとして、はやてちゃんには少し前から伝えてある(さすがに最高評議会のことまでは教えられなかったけど)。
 スカリエッティのラボの場所については未だ捜索中だけど、その副産物としてかなり有効な”切り札”を掴むことができた。もっとも、これは切るべき時を慎重に見定めないといけないだろうなぁ。

 そして……今日、ついに待望の知らせが届いた。仲良くデートに出かけたはずの休暇中のエリキャロカップルから、緊急連絡が入ったのよ。
 当然のことながら、これはヴィヴィオ(この時点では名前不明の少女だけど)を保護したという知らせ。ナンバーズ&ルーテシア一味との初交戦(ホテルでは彼女達の姿見てないし)でもあるワケだし、みんな気合い入れて頑張ってね!!

 ×  ×  ×  

 フォワード新人4名(+ヴィータ&リイン)と、ルーテシア一味およびセインの遭遇戦は、おおよそ原作に沿った形となった。「レリックと少女は守り抜いたものの、犯人は逃がして手がかりなし」というアレだ。
 これは、ルーテシアの場合、明確に殺意がないことから、エイミィもあえて介入せず、新人たちの実戦経験にしようと考えていたからだろう。
 隠密移動能力の高いセインを確保する機会を逃すのは少々痛いが、逆に新人中心かつレリックを抱えたこの状態で彼女達を捕えるのは、それなりに困難だから致し方ない。
 ルーテシアに関しては、そのまま確保することも実は不可能ではなかったのだが、彼女の保護者に対するアプローチを考え、この場は見逃すことにしたのだ。もし今彼女を捕えれば、間違いなく”彼”が機動六課隊舎を襲撃してくるだろう。
 あとから考えれば、それもひとつの方策ではあったのだが……。
 ちなみに、エイミィがワザと取り逃がすよう指示したわけではない。ただ、ヴィータ達に原作どおり隙ができるのを看過していただけだが、予想に通り、激昂したヴィータに皆が気を取られた瞬間、セインの足元からの急襲でまんまと彼女たちの逃走を許す結果になったのだ。
 反面、はやての限定解除に関しては早期に促しておいたため、原作と異なりなのは&フェイトによるヘリの護衛を比較的余裕で行うことができたのは収穫だろう。
 しかしながら、事前にそれとなく警告しておいたにも関わらず、結局トーレの介入を許し、クアットロとディエチを捕えることには失敗している。
 もっとも、トーレはあのフェイトがリミッター解除しなければ勝てなかったほどの相手だから、この段階では仕方ないのかもしれないが。
 「うぅ~、あのメガネザルはともかく、ディエチは早めに確保してあげたかったのになぁ……」
 と、誰も見ていないところでこっそりエイミィは肩を落とした。
 どうやら、何度か会って知り合いでもある彼女に、これ以上犯罪行為に手を染めて欲しくなかった様子。ディエチがチンクと並んでスカリエッティの行為に懐疑的であることを知っているから、なおさらだ。
 無論、そういった私情ばかりでない。ディエチの砲撃スキル自体も脅威だし、協力的な彼女からなら、うまくすればドクターのラボの場所を聞き出せるかもしれない、という思惑もあった。
 「でも、これでナンバーズについて説明しやすくなったかな。はやてちゃんから、分隊長と副隊長にナンバーズ全員の情報を伝えてもらって……あ、ティアナちゃんには私からセインとディエチのことだけでも伝えておかないとね」
 さもないと、彼女が知るチンクやウェンディと現場で遭遇した時、混乱して不覚をとるおそれがあるからだ。
 「チンクの妹であるセインとディエチが、スカリエッティ配下の戦闘機人だった」→「つまりその姉妹であるチンクやウェンディも同様に戦闘機人である可能性が高い」という風に話を持っていき、あらかじめ心構えをさせておくべきだろう。
 実際、原作の流れでは、ティアナたちは中盤でウェンディと戦ったのだから。
 「今回のヴィータも、あらかじめ相手のISがわかっていれば、あんな簡単に隙を突かれなかっただろうしねー」
 やはり敵を知り、己れを知り、それに対応した罠を張ることこそが、勝利への近道なのだ! ……3つ目のは何か違う気もするが。
 無論、そういった緻密な計算や策略に対し、「その企みを軽々と踏み抜いてこそ魔砲少女」と言わんばかりのチートスペックを持った英雄(ヒロイン)も中にはいるワケだが、今回の場合彼女達は味方なので問題なかろう。
 ともあれ、六課最初の対人遭遇戦は、痛み分けに近い形での勝利という結果で幕を閉じたのだった。

 ×  ×  ×  

 さて、と。
 あの一件から一週間あまりが過ぎた。
 ヴィヴィオは無事に六課で保護して、なのちゃんがママとして面倒見てくれてるし、いぢわる眼鏡さんの査察も何とか切り抜けた。
 事件後の調査報告も済んで、フォワード陣のみんなは今回の件自体はコレで一段落したと思ってるだろうけど、エイミィおねーさんは、いよいよこれからがお仕事本番なのよね~。
 ひととおりの書類処理を終えたところで聖王教会に出かけて、カリムと”切り札”の切り方について話し合う。
 「……というのは、どうですか?」
 「そうですね。貴女からもたらされた「事前情報」どおり、”死せる王”も保護されましたし、「事前情報」の信憑性はより高まったと言えるでしょう。その仮定のもとなら、確かに貴女の言う作戦は有効だと思いますが……」
 「ええ、わかってます。逆に今後の展開が読めなくなるってことですね?」
 でも、逆にこれが成功すれば、スカリエッティ側の戦力を二重の意味で大きく削ることができる。
 ヴィヴィオを守り切れば”ゆりかご”は起動できないはずだし、戦力を削った状態でラボを急襲すれば、アニメの終盤よりだいぶ分のいい戦いができる! ……と思うのよね。
 「──いいでしょう。わたくしから、はやてに話してみます」
 うん、作戦指揮官としてのはやてちゃんがOKしてくれれば、少なくともこの作戦に相応の目があるってことよね。カリムさんをダシにしてるみたいで気が引けるけど。
 熟考の結果、はやてちゃんはついにGOサインを出してくれた。
 ……ゴメンね、あの闇の書事件の当事者だったはやてちゃんなら、うんと言ってくれるだろうことは予測してたんだ。私、意地の悪いおねーさんだなぁ。
 「そしたら、ウチからはシグナムとリインに行ってもらうわ」
 「では、教会からはシャッハを派遣しましょう」

 ×  ×  ×  

 とある森の中。男はピクリと身じろぎした。
 「? どうかしたのかい、ダンナ?」
 傍らの融合騎アギトの声には答えず、森のある方向をジッと睨む。
 「俺に用があるなら、顔を見せたらどうだ?」
 「──失礼しました。騎士ゼストですね? 私は時空管理局二等陸佐・八神はやての守護騎士シグナムです」
 「聖王教会所属のシスター、シャッハ・ヌエラです」
 木の影から姿を現したふたりは、バリアジャケットも装着しない非武装の姿だった。
 「そのふたりが揃って俺に何の用だ」
 シグナムたちに敵意がないと見てとったのか、男──ゼスト・グランガイツは、とりあえず会話をする気にはなったようだ。
 「単刀直入に言いましょう。騎士ゼスト、あなたの一番の望みを叶える用意がこちらにあります」

-To be continued-
-----------------------------------------
以上。今回はやや短めですが、次回以降、物語がかなり大幅に変わる予定です。
ちなみに、キャロの4thモードについては、正直シュミの領域です(笑)。いえ、一応考えはあるんですが。
オークションでの出来事は、ユーノ視点でそのうち番外編にします。おそらく15禁くらいのアブない内容になる予定。



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-4
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:d426b585
Date: 2009/10/05 09:07
<その4>

 新暦75年、のちに(アニメ版同様)「JS事件」と命名されることになる一連の事件の中盤に、機動六課の主導で実行された「奇策」は、表向きは六課部隊長・八神はやてと、その後見人のひとり、「預言の聖女」カリム・グラシアによって立案されたものとされていた。ただ、その後の研究によって、作戦の基本となる部分については、「魔女の後継」こと副部隊長エイミィ・ランスターの進言があったことも判明している。
 この「奇策」についての評価は、人によって大きく異なる。
 ある人は「多くの人の利害や思惑が絡み合う中、当事者間の感情にまで考慮した上で、死者0という最良の結果をもたらした、まさに奇跡のような良手」と称賛する。
 逆にある人は「人的被害は少なかったとは言え、それは結果論であり、違法行為スレスレの手段をとり、また地上部隊のトップを戦線から離脱させ、局内に少なからぬ混乱をもたらした最悪の選択」と眉をしかめる。
 また、中には「状況を最大限に利用して、六課そして自分たちの身内に都合の悪い政敵その他を、都合良くまとめて処分した、”魔女の後継”らしい腹黒い策謀」と、畏怖する者もいる。
 当のエイミィ本人は、非難、称賛、そのいずれも受け入れたうえで、こう言って笑った。
 「私は、自分が考えついた中でいちばん「イケる!」と思える作戦を提案したけど、別にあれがベストだったとは思ってないわ。せいぜい”最悪の事態を回避した”くらいかな。ま、私の拙い頭ではアレが精いっぱいだけどね」

 × × × 

 いやぁ、今回ばかりは心底驚いたわ。運命論は嫌いなんだけど、やっぱり歴史の復元力とかそういう流れってあるのかもしれないわね~。
 秘かにつかんでいたゼストの居場所へ、シグナムとシャッハを派遣しての交渉自体は、思ったよりうまくいったのよ。もともと彼の目的は「自分たちの部隊が壊滅したことをはじめ一連の疑惑に関して、レジアスに真意を問いただす」ことだったから。
 私たちが手引きしてレジアスと会わせることを、シグナムが騎士の誇り、シャッハが聖王にかけて誓うことで割と簡単に信用してくれた。
 別行動してるルーテシア(むろん、そのタイミングを見計らってたんだけど)には、アギトを派遣して今回のことを伝えてもらうことになった。
 で。
 そこからは、裏技を使いまくってレジアス中将との面会のアポを1週間でとりつけたのよ。表向きは「アコース査察官と地上部隊の捜査官が、中将に話を聞きたいことがあるから」って形で。
 「本局査察部ヴェロッサ・アコース査察官です」
 「首都防衛隊一等空尉、ティーダ・ランスター捜査官です。お忙しいところ、お時間をいただき、誠にありがとうございます」
 ウチの部隊からの人員は彼を刺激しそうだから避けたかった。そこで、不本意ながら身内に最低限の事情を話して頼み込んだの。あ、もちろん書類上の体裁は整えたわよ? ナカジマ陸佐からの協力依頼……という形で、うちの旦那を動かしたってワケ。
 「フン、挨拶はいい。それより、本題に入ってもらおうか」
 そうは言っても、当然先方も六課の息がかかった(って何か不穏な表現だけど)相手だということは察しているわけで、友好的にはならないわよね~。
 「そうですね……では、ゲイズ中将、この方に見覚えはありませんか?」
 ふたりの”護衛”として同行していた背の高い武装局員の男性が顔をあげ、眼鏡と顎髭をとる。ちなみに、この変装は私の提案ね。
 「! お、お前は……」
 「久しいな、レジアス」
 こうして親友同士が、数年ぶりに半ば敵対する立場で顔を合わせることとなった! くぅ~~、燃えるシチュエーションよね!
 もっとも、ノリで「敵対」なんて言っちゃったけど、どちらかと言うと友に罪悪感を感じるレジさんと、真相究明したいゼスさんと言う立場だったから、最初から勝負は見えてたみたい。

 × × × 

 マホガニー製の机ひとつを挟んで対峙する、かつての親友達。
 口重たげにレジアスが語る告白に、ゼストが悲痛な表情を浮かべつつ、道を踏み外した友を糾弾する。それに対して、レジアスが力なく反論……しようとしたところで、思いがけないハプニングが起こった。
 傍らにいたレジアスの秘書官らしき女性が、いつの間にかレジアスの背後に歩み寄ると、彼の背中にその鋭利な爪を突き立てたのだ!
 この女性は、言うまでもなくナンバーズの次女ドゥーエの変装である。
 これはエイミィも予想できない、あるいは失念していた事態だが、すでにこの頃からドゥーエは管理局内にレジアスの秘書官のひとりとして潜り込み、いろいろな諜報活動を行っていたのだ。
 しかも、間が悪いことに、普段なら表向きの業務や各方面への潜入任務のため、部屋にいないことも多いのだが、今日はたまたま彼の娘であり筆頭秘書格でもあるオーリスが他部局へ出かけており、その穴を埋める形で同席していたのだ。
 念話でスカリエッティの指示を仰いだドゥーエは、極力自然な風を装ってレジアスの背後に控え、レジアス、ゼスト両名の注意が自分から逸れた瞬間を狙って、彼を刺殺しようと試みたのだ。
 ……そう、試みた、だ。
 この部屋にいたのは、彼らふたりだけではない。
 ヴェロッサとティーダもまた、退出命令がないのをよいことに(それだけレジアスも狼狽していたのだろう)壁際の目立たぬ位置に控えて話を聞いていた。中でもティーダは、そのデバイスの助けもあって、取り調べなどの際に些細な人の動きも見逃さない習慣を身につけていた。
 今も、ドゥーエ扮する秘書官の不審な動きをいちはやく察知し、ふたりの会話もそこそこに彼女に気を配っていたのだ。
 『──rapid move』
 フェイトたちが使うソニックムーブほどの速さはないが、御神流の奥義「神速」を魔法で再現した術で一気にレジアスたちの傍らまで移動する。
 ドゥーエの犯行自体は阻止できなかったものの、彼女の凶爪が完全にレジアスの心臓を貫く前に、間一髪、体当たりで吹き飛ばすことは出来たのだ。
 「チッ!」
 その場にいたのがティーダだけなら、ドゥーエも留まって戦う道を選んだだろう。しかし、彼女の知る最強クラスの騎士であるゼストもここにいる。瞬時の判断で彼女は逃走を選んだ。
 すかさずヴェロッサが本部内の医務部に怪我人の発生を伝え、同時に警備部隊の出動を要請する。
 ティーダは、即座にドゥーエを追跡したのだが、先ほど無理して”疑似神速”を使った反動で体の動きが鈍っていたのと、局内の非戦闘員を巧みに盾にして逃げる彼女の狡猾さに、その足跡を見失ってしまう。
 結局、セインが迎えに来たこともあって、まんまとドゥーエの逃走を許す結果となったのだった。
 ともあれ、肺と心臓の一部を傷つけられて重態ではあるものの、レジアス・ゲイズは一命をとりとめることができた。
 また、救護隊が来るまでの短い時間にゼストは、息も絶え絶えの親友から、ことの真相と謝罪を伝えられた。
 これによってゼストは完全にスカリエッティ一味との決別を決意したのだった。

 × × × 

 うわぁ~、私のバカバカバカ! そういえば、ドゥーエって、結構前から管理局内に潜入してたって描写あったっけ。うーん、ゼスト&レジアス会談を思いっきり前倒しにしたから、大丈夫だと思ったんだけどなぁ。
 はぁ……ま、とりあえず、死ぬはずだったふたりが生き残っただけでも良しとしますか。
 ちなみに、レジアス・ゲイズ中将は全治2ヵ月の重傷。当面は絶対安静ということで、管理局の付属病院特別室に入院している。
 ゼスト・グランガイツ「二等空尉」は、事件の重要参考人として取り調べに協力中。もっとも、取り調べ以外の時間は監視付きではあるものの、比較的自由に過ごしてもらっている。今はアギトも一緒ね。
 そもそも、私が細工してゼストの状況を書類上「死亡」扱いではなく、「MIA(作戦行動中行方不明)」にしておいたのだ。
 だから、今回の件は、「長年事情があって行方不明であった部下が、上官の元へ出頭した」という形でゴリ押しする。無論、スカリエッティと(不本意といえど)協力体制にあった以上、何らかの処罰を受けることにはなるだろうけどね。
 そうそう、死の淵を覗いたうえ旧友に弾劾されたことがよほど応えたのか、レジアス中将は、これまでの後ろ暗い部分をあっさり告白している。その内容は、最高評議会の命令にまでおよび、管理局全体を巻き込んだ一大スキャンダルに及ぶか!? と騒がれたんだけど……当の最高評議会メンバーとの連絡が途絶したみたい。
 自主的に雲隠れした、とも考えられるけど、おそらくはスカリエッティの仕業でしょーね。あの時逃げたドゥーエがいきがけの駄賃でやったのか、それとも管理局内が混乱している隙をついて別のナンバーズが動いたのかまでは、わからないけど。
 たぶん、ディープダイバーを使えるセインも関わってるんだろーなぁ……フゥ。本当は、暗殺なんて陰惨な任務が似合う娘じゃないのに……。おっと、今は私情は禁物よね。
 とは言え、やはり個人的な知り合いに対しては、どうしても割り切れない気持ちが残る。私にできることは、少しでも早くこのJS事件を終息、そして解決に持っていくことよね!
 そうすると、こういう風にスカ博士の「パイプ」と「遊軍戦力」を削った以上は……。

 レジアス中将が倒れてから3日後、予想通り動きがあった。 
 「ランスター副部隊長! 高エネルギー反応が4体こちらに向かっています!」
 「地上本部の八神部隊長達のほうにも襲撃があり、すぐには戻れないそうです!」
 ホラね。やっぱりアチラさんとしてはこう来るワケよ。
 こちらに寝返ったゼストからアジトの情報が漏れていると仮定すれば、当然、大規模な侵攻部隊により襲撃を受けることは、サルでも予想できる。
 もっとも、ゼストが口を割るまでもなく、ヴェロッサの「無限の猟犬」がドゥーエを追跡してラボの場所をつきとめたんだけど。
 ただし、生半可な武力では返り討ちに遭うのが関の山なんで、いまは周辺を封鎖&監視しているに止めている。
 ジリ貧になる前に、先んじてこちらを攻めてヴィヴィオを奪取し、さっさと「聖王のゆりかご」を起動させようと考えるのは、ま、当然の流れでしょうね。
 実のところ、現時点で一番賢明なのは、いったんアジトを廃棄して地下に(比喩的な意味でよ?)潜って管理局の追求をかわし、ほとぼりが冷めた頃に活動再開することなんだけど。
 ただ、あのマッドドクターの性格上、それはないだろうと踏んでいた。なんたってコードネーム「無限の欲望」だしなぁ。すでに10年以上も雌伏してきて、いい加減我慢の限界にも達してるだろうし。
 さらに、この「襲撃」を誘うために、わざわざ「レジアス中将の記者会見の場」なんてものまで、地上本部でセッティングした。
 無論、レジアス中将はまだ入院中。ただ、意識は取り戻し、短時間なら通常の会話も行えるようになったらしいから、強引に通信機越しの会見の場を設けたのよ。我ながら容赦ないな~。
 もっとも、これは会見そのものと言うより、オトリとしての要素が強いんだけどね。この会見の証言・警備役として、六課からも部隊長及び分隊長ふたりが本部に赴き、さらにヴィータとリインが同行している。 
 つまり、「六課を攻めるなら今がチャンスですよ~」と言うポーズなワケ。
 現状、サーチにかかった反応は4つだけみたいだけど……。
 「ルキノ、まだまだ精度が甘いよ? ほら、ここをこうすれば……」
 手元のパネルに素早く指を走らせる。
 「なっ……さらに、3体!? ガジェットも多数確認されています!」
 ふふん、伊達に次元航行艦の管制司令を長年やってたワケじゃないんだよん……って、得意になってる場合じゃないか。
 「六課部隊員は、全員戦闘配置について! フォーメーションはD-2。フォワード陣は、これから指示する場所へ!」
 さて、こちらの迎撃戦力は、シグナム副隊長を筆頭に、ティアナちゃんとスバちん、エリ・キャロ・フリードのトリオが主戦力かな。
 後詰めとしてシャマルとザフィーラ、ギンガとヴァイスくんも配置してあるけど、ザフィーラ以外はいずれもかなり特殊な戦力だからなぁ。
(ザッフィーって、何気に攻・防・飛行の3つがこなせるマルチユニットなのよね、実は)
 幸い「個人的な助っ人」ふたりを呼んでおいたのは無駄にならなくてすみそうね。
 私は、ちょっと格好をつけて、指揮官席から立ち上がった。
 「よろしい。ならば決戦だ!
 我ら六課はわずかに一個部隊、総勢百人に満たぬ寡兵にすぎない。
 だが、我らのフォワード陣はいずれも一騎当千の強者だと私は信頼している。
 そこにバックスの支援があれば、我らは無敵の戦闘集団と……」スパーン!
 「こらこら、まがりなりにも法の守護者たる管理局所属の人間が、何を不穏なコト言ってるか」
 こ、ココでこんなツッコミができるのは……まさか、ティーダくん!?
 「ナカジマ陸佐からの指示でね。事件の報告に来たら、この騒ぎに巻き込まれたってわけだ。
 ……何か、手伝えることはないか、エイミィ?」
 うぅ、ありがとうごぜぇますだ、ダンナ様。
 「遠慮なく言うと、司令部(ココ)の護衛してもらえると、すんごく助かるわ」
 何せ、ここにいるメンツの中で一番魔導師ランクが高いのがEの私と言う、頭デッカチ貧弱集団なもんで……。
 「いや、俺も現状は陸戦Dなんだが……了解。ティーダ・ランスター一等空尉、ただ今より、一時的に機動六課司令部の指揮下に入ります」
 苦笑しつつ、敬礼して配置についてくれるティーダくん。キャ~、だーりん、愛してるぅ~!
 これで、シグナムもこちらを気にせず、現場指揮に専念してもらえるわね。
 そして、ここに後世ミッドチルダ史上に名高い、「機動六課 夏の陣」が幕を開けたのだった!
 ……なんちて。

-To be continued-
---------------------------------------
以上。双方戦力不十分なままでの戦闘開始です、
我ながら突っ込みどころ満載なので、後日、細部を書き直すかもしれません。
ちなみに、エイミィはゼストが最高評議会から命令を受けていた事実を知りません。
スカさんが本部を襲っているのは、なのは達の足どめ目的。もっとも、六課側はそのことを最初から織り込み済みですが……。
ちなみに、六課が襲撃を受けた段階で、ラボを監視していた部隊には、包囲網を狭めつつ、監視を強化。以降に脱出しようとする者がいれば追跡するよう指示されています。AMF下での戦闘には慣れてませんしね。



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-5
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/10/05 09:09
<その5>

「ふぅーーーーっ、苦しい戦いだったわ……」
 さすがはかの異才・ドクター・スカリエッティが手塩にかけた戦闘機人(ナンバーズ)。さらに、大量のガジェットと優れた召喚師ルーテシアまで加勢していたのだから、いかに戦闘民族ミカミの血を引く高町教導官に鍛えられた、機動六課の精鋭と言えども苦戦は免れなかった。
 実際、六課の隊舎は限りなく中破に近い小破状態。フォワードも、そのサポートメンバーや助っ人も満身創痍と言っても過言じゃない。
 しかし!
 ボロボロではあっても、愛と勇気と友情(プラス、ほんのちょっぴり小細工)を胸に戦った六課側の死者及び脱落者は0。
 対してスカ博士側は、こちらで捕えられたのが5名(+ルーテシア)、本部で捕えられたのが1名と、ナンバーズの半数にも及ぶ。
 間違いなく六課の勝利よね!!
 バンザーーイ! バンザーーイ!

 ──え? この報告だけで済ませちゃ……ダメ?
 あ、痛ッ! イタタタタッ! わ、わかった、わかりました、ちゃんと話すから、物投げないで、堪忍して~!

 はぁ……仕方ない。かいつまんで説明するわね。
 まずは本部に行った隊長組の方から。
 と言うか、正直、「エース・オブ・エース」と「金色の閃光」、それに「最後の夜天の書の主」が揃い踏みしている上、鉄槌の騎士と蒼天の風までがついてるんだから、負ける方が難しいわよ。
 え? デバイス? うるさい人がいないから、特別に許可もらっといたわ。ま、その点がナンバーズ側の誤算だったのかもしれないけど。
(特例だし、他の局員は規則どおり持ち込みを許されてなかったからね)
 リインちゃんの補助を受けたはやてちゃんが、広域殲滅型の魔法でガジェットの群れを次々撃破。今回はあの幻術使いのメガネ女がいないぶん、数は多いけどむしろ楽だったみたい。
 で、なのちゃんがディエチと、フェイトちゃんがトーレと、ヴィータがオットーとガチンコ勝負に。新人連中ならともかく、隊長陣が1対1でナンバーズに遅れをとるわけもなく、砲撃の打ち合いで押し負けたディエチが早々に撃墜。オットーもアイゼンでブッ飛ばされて意識朦朧。
 その点、トーレはそのスピードを活かして、劣勢ながらフェイトちゃんと上手く立ち回ってたのはさすがね。伊達にナンバーズの戦闘隊長やってないわ。
 でも、妹たちふたりが落とされたのを見て、さすがにこれまでと悟ったのか、一瞬の迷いの後、オットーを引っつかんで離脱していったのよ。まぁ、最初に落ちたディエチは、完全に意識を失ってる上に、なのちゃんの拘束魔法を受けてたからしょうがないわね。
 むしろ、その引き際は鮮やかと言ってもいいくらい。オトリを兼ねて散開させたガジェットを地上と管理局の建物に突っ込ませることで、3人の意識を逸らす事さえ、とっさにやってのけたんだから。
 その時残ったガジェットは300体程度だったけど、一部が街中に逃げ込んでテロ行動をとり始めたから、なのちゃん達もはやてちゃんを手伝ってその処理に追われることになったってワケ。

 一方、六課の方はさすがに苦戦したわ。いや、ナンバーズだけならそうでもなかったろうんだけど、大量のガジェットと……それにルーテシアwithガリューがいたからね。
 どうもゼストがいないのをいいことに、スカ博士が洗脳か暗示に近いことをしたみたいね。あとで調べると薬物が併用されてた形跡もあったみたい。
 けど……おかしいなぁ。こんなことにならないよう、アギトを連絡に行かせたはずなんだけど。
 実は、すぐに判明したんだけど、あの子、私がせっかく局内に軟禁されてるゼストと連絡できる秘匿回線教えておいたのをコロッと忘れて、通常の念話で連絡とれないことから、六課(うち)らが裏切ったと勘違いしたらしい。このアホ融合騎がーーっ!
 当の本人(本騎?)は、管理局の混乱をぬって局内に進入、レジアスの枕元に付き添うゼストと感動の再会……をしたつもりが、ゼストから大目玉を食うことになったんだけどね。
(もっとも、アギトにお小言を言うゼストの様子を見て、レジアスが驚愕。そのまま、いろいろ3人で話し込んでいるうちに妙に和んで、中将の魔法技術嫌いが幾分緩和されるという副産物も、あるにはあったんだけど……勘違いで暴走させられたルールーがカワイソ過ぐる!)

 おかげで、エリオ&キャロ組をフリーにして、ヴォルテール召喚でガジェットを一気に片付けるという当初の目論見が狂って、地道に後詰メンバーで片付けるハメになった。
 まぁ、それでも、らぶらぶ天驚拳が使えそうなくらい呼吸ピッタリのエリキャロカップルの連携に、ルーテシア&ガリューは徐々に押され、巨大バグ(地雷王だっけ?)を六課隊舎に突貫させる直前に、制圧されることになった。
 ちなみに、決め手になったのは、飛べないはずのエリオくんが、巧みにストラーダ第二形態を使ってガリューを撃墜したこと。それに一瞬気を取られたルーテシアに、魔砲少女モードになったキャロちゃんが突貫、バーンナックルもどき(本当は、なのちゃんのフラッシュインパクトの変形版)をブチ込んでKO……と言う決着にあいなった。
 うーむ、マンガ版ではやてちゃんが「ガチでタイマンやったらキャロにも負けるかも」と言ってたけど、ここのキャロちゃん相手なら間違いなく負けるわね。どうやら、この隠し球のためにギンガに素手での格闘の基礎訓練をこっそり頼んでいたらしい。
 こないだ地球で買ってきた「アルカナハート」を貸した影響かなぁ。なんか主役の女の子を妙に気にいってたみたいだし……。
 私がケリュケイオンにフォースモード付けたのは、キャロちゃん自身にも護身と反撃の手段を持たせて、エリオくんやフリードの行動自由度を上げるつもりだったんだけど……予想の斜め上に行ってくれたわねぇ。おもしろいからいいけど♪

 ちなみに、ガジェットの掃討は、シグナムと助っ人のアルフがメインで担当。ザフィーラが建物を守り、シャマルがそれを補助するという形で、少しずつ進めている。
 ヴァイスくんも大活躍。ヴォルケンズが打ちもらしたガジェットの破壊を行いつつ、チビッ子たちのフォローもしてくれた。実際、エリオくんがガリューに勝てたのも、ヴァイスくんが狙撃で一瞬あのエセ忍者の動きを止めてくれたおかげだしね。

 こうして「外」のメンバーが比較的優位にコトを進めてたのに対し、「中」で戦うスバル・ティアナ・ギンガ組は、さすがに苦戦してるわ。
 なにせ、こちらは3人であちらは5人だからね~。それでも、「こんなこともあろうかと」隊舎内に備え付けられた防備施設(エヴァの武装ビルにヒントを得て、随所に作っといたのよ)も併用しつつ、なんとか踏ん張ってくれてる。
 スバギン姉妹のコンビネーションも圧巻だけど、ティアナちゃんの働きも目覚しい。
 原作より訓練時間が短かったと言うのに、巧みにガンモードとダガーモードを使い分けて、セッテとウェンディを牽制してるしね。
 あ、ノーヴェがギンガに、ディードがスバルに沈められた。これで、3対3か。
 ここまでくれば、よほど油断でもしない限り……って、ちょっと待った!
 最初のエネルギー反応は7体。でも、ルーテシアがガリューを出したのは、現場に着いてからだったわよね?
 つまり……もう1体、敵が潜んでいる!

 次の瞬間、私はシャーリーに司令部の指揮を任せて走り出した。
 ”最後のひとり”が狙っているだろう人物の護衛に連絡を取りながら……。

 * * *  

 エイミィから連絡を受けた護衛……もうひとりの助っ人ことユーノ・スクライアは、ナンバーズたちの標的であるヴィヴィオを手を引いて、防御魔法を展開したまま、指示された部屋へと向かった。
 「ユーノママぁ……」
 「大丈夫だから、ね?」
 不安そうなヴィヴィオを安心させるようにニコリと微笑みかけながら、心の中では滝のような涙を流すユーノ。
 (うぅ……すっかり「ママ」って呼び方が定着しちゃってるよ~)
 原作アニメと異なり(主にエイミィの陰謀によって)「なのは&ヴィヴィオ」の後見人となったユーノだったが、何の因果か、こちらはアニメをなぞるかのように初対面の時からヴィヴィオには「ユーノママ」と呼ばれることになってしまったのだ。
 ……まぁ、大人でも初対面では「彼」を「彼女」と見間違う人間は決して少なくないのだが。
 とは言え、呼び方を除けば、ユーノとしてもヴィヴィオというかわいい”娘”ができることに不満はない。
 なのはと一緒にいる口実も増えたことだし、これまでと異なり無限書庫司書長としての仕事を定時に切り上げて、夕方六課に訪ねてくることも多くなった。
 穏やかで優しいユーノに、ヴィヴィオも懐いている。時には、なのは・ヴィヴィオ・ユーノで川の字になって寝ることもあるのだが、愛する女性とベッドを共にしながら、カケラも悶々とせずに平然と眠りにつけるその感性は、確かに男としてはある意味終わっているのかもしれない。
 閑話休題。
 ヴィヴィオとユーノ(連絡を受け、一週間有給をとって六課に泊まり込みに来ていた)も、ナンバーズ襲撃の知らせとともに、他の非戦闘員と一緒にシェルターに避難していたのだが、さきほどヴィヴィオを狙う敵が紛れ込んでいる可能性を知らされ、周囲を巻き込まぬよう、別室へと移動しているのだ。
 (実戦らしい実戦に参加するのは10年ぶりかな。勘が錆びついてないといいけど……)
 一介の民間人でありながらPT事件や闇の書事件をなのはとともにくぐり抜けてきたユーノは、下手な武装局員よりもよほど護衛としては優秀な結界魔導師だ(もっとも、現在は管理局に奉職しているのだから、”民間人”とは言えないかもしれないが)。
 とは言え、平和な生活に慣れて久しいし、昨日は訓練に少し参加したとは言え、実戦経験については大幅に不足しているわけだが。
 「ここ、かな?」
 エイミィが指定したのは、壁一面が分厚い金属で覆われた8畳ほどの殺風景な小部屋だった。
 部屋の中央に大きめのクッションが置かれており、ユーノは、ヴィヴィオとふたりでそこに座り、半径1.5メートルほどのサークルプロテクションを張って襲撃に備える。
 1分……2分……。
 何もないまま、時だけが過ぎていく。
 (ふぅ……これって、地味にキツいな)
 エイミィからの指示は、「味方が合流するまでサークルプロテクションを張り続けること」。
 総合Aランクの魔導師であり、防御と結界の専門家であるユーノといえど、なかなか厳しい要求だった。なまじ何も起こらないため、戦闘時のテンションを維持できないのも響いている。
 バタンッ!
 音を立てて入口の扉が開かれる。身構えるユーノ。
 「遅くなってごめん! ヴィヴィオちゃん、ユーノちゃん、無事?」
 そこに立っているのがエイミィだと知って、ホッと肩の力を抜いたユーノだったが。
 「え?」
 厳しい顔つきを崩さないエイミィに違和感を覚える。
 「──テン・エイティ。とっておき、使うわよ?」
 『ばっと、そー・でんじゃー』(でも、安全面に問題が……)
 「そんなの今更よ」
 『すーん、あざーず・かむ』(すぐに他のメンバーが到着します)
 「いいや、限界! 押すね!」カチッ
 エイミィが、自らのデバイスの柄部の先端についたボタンのようなものを押しこむと同時に、彼女のまとう魔力が2段階ほど跳ね上がる。
 「まさか、カートリッジ!?」
 ユーノが愕然とする隙に、室内に走り込んで来た彼女が、ステッキ状のデバイスを、ユーノが張ったバリアと床の境目に突き立てる。
 「! エイミィさん、何を……」
 言いかけたユーノだったが、彼女が放った魔法がシールド……彼も得意とするラウンドシールドであることに気づいた。

 そこからの展開は一瞬だった。
 エイミィが地面スレスレに張ったシールドによって、床からバリアの内部に出てこようとした何者かがわずか1ミリほどで押さえつけられ、それ以上進めなくなる。
 しかし、エイミィのラウンドシールドは直径わずか50センチほどしかない。何者かは素早くその端の部分に移動して、何かのカプセルを投げ込む。
 即効性のガスなのか意識が遠くなるユーノ。無論、ヴィヴィオも同様で、力を失ってユーノの膝の上から崩れ落ちる。
 シールドのない部分からヴィヴィオに手を伸ばそうとした何者かだったが、すかさずエイミィがリングバインドを発生させて、その右手を拘束する。
 とは言え、しょせんエイミィのランクはE。カートリッジで強化した今でさえCランクの一般武装局員並でしかない。そんな彼女のバインドなど、ナンバーズが打ち破るのに1、2秒程度足らずしかかからないわけだが……。
 「もいっちょ!」ガコン
 『くれいじー!』(無茶です!)
 無理矢理テン・エイティにカートリッジを押し込んだエイミィが、主が意識を失ったせいか脆くなったバリアを突き破って、その先端を固定された右手に押しつける。
 バチバチッ!
 「ぐわっ……」
 アマゾン川のワニでも悶絶しそうな電撃が体中を駆け巡った何者か──ナンバーズのセインは、たまらず床の上に飛び出てピクピクと痙攣する。
 「へへっ……ま、この場は私たちの勝ちだね、セイン」
 背後の扉に応援メンバーが駆けつける気配を感じながら、催眠ガスのもたらす眠気と、実力をはるかに超える魔力の負荷に耐えきれなくなったエイミィは、そのまま意識を失ったのだった。

 * * *  

 ……とまぁ、こんな感じだったワケよ。
 5時間後に私が目を覚ました時は、すっかり六課攻防戦も収束していて、地上本部からひと足先に戻ってきたなのちゃんとヴィータが、部隊長代理として指揮を引き継いでくれてたわ。
 はやて&リイン組は、そのまま本部に残って事後処理。フェイトちゃんは、逃走したナンバーズを追跡中らしい。
 一方、意識を取り戻したとは言え、無茶し過ぎた私はそのまま入院。とうぶん魔法を使うのは「めー」と言われちゃった。
 テン・エイティも半壊。シャーリーの手でフルメンテナンスの最中だ。いざと言う時のために、1個だけならカートリッジを使える仕様にしてもらってたんだけど、時間を置かずに2個使っちゃったからなぁ。
 まぁ、私の方も、「両腕両足がボキッと折れたうえに、肋骨にヒビが入り、苦しくてうずくまったところに小錦がドスンと乗ってきた」かのような筋肉と関節の痛みに苛まれてるから、普通に歩くことさえ無理なんですけど。
 「でも、エイミィ、なんで自分であの戦闘機人を捕まえにいったんだ?」
 ベッドで暇そうにしている(痛いから睡眠薬抜きでは眠ることすらできない)私に付き添ってくれるティーダくんが、器用にリンゴをナイフで剥きながら尋ねてきた。
 「──私の我がまま、かな」
 「? 確か、あのセインとか言うのと、顔見知りなんだよな?」
 「ええ。あの子の姉と友達でね。その縁で、あの子とも何度か会ってるのよ」
 「知人を捕えるなら、せめて自分の手で、とか思ったのか?」
 「ううん、私がそんな殊勝なタマだと思う? むしろ逆ね。私は……あの子たちの情を利用したのよ」
 たとえば、あの場にシグナムとかが赴けば、セインに勝つことは比較的容易だったろう。でも、自分と相手の格差がわからないほど、あの子はバカじゃない。勝てないと感じたら、すぐさま逃走したはず。逃げに徹したセインを捕まえるのは、かなりホネだ。
 けれど。
 たとえば、目の前に「聖王」と言う美味しそうなエサをぶら下げられたら。
 そして、彼女を守るのが、頼りなさそうな民間人と、ヘッポコ三流魔導師だったら。
 多少無理してでも、「聖王」を手に入れようとするだろう。
 また、あの子の性格からして、こちらを過剰に傷つけるような真似もしないだろう。それなりに気心が知れてる私相手なら、なおさらだ。
 「つまり、私はあの子の無意識の善意を計算に入れてたわけ。
 それに、セインのIS、ディープダイバーは、敵に回すとひどく厄介だわ。大概の場所に潜入できるから、テロも暗殺も捕虜の解放も容易に可能になる。だから、何としてもこの場であの子を捕まえておきたかったのよ」
 そのためにヴィヴィオちゃんさえ囮にして。最低よね、と目を伏せる私の頭を、しかしティーダくんは優しく撫でてくれた。
 「それだけじゃないよな。自分の知ってる知人が犯罪行為に手を染めているのを、一刻も早く止めたかった。そうだろう?」
 「たとえそうだとしても、それは私情よ。代理とは言え、一部隊の指揮を預かってた人間が、考えていいことじゃないわ」
 「……辞表でも、出す気か?」
 「そうしたいのは山々だけど、少なくとも今すぐは無理ね。やるべき仕事は山積みのはずだし、9カ月後に六課が解散したら改めて考えるわ。……あぁ、もう、だから入院なんてしてる場合じゃないのに!」
 と、逆ギレする私を、どうどうとなだめながら、ティーダくんが、剥いたリンゴを私の口に押し込む。
 「こらこら、無茶言うんじゃない。身体をヒネっただけで、痛みに呻いてるクセに」
 「らって、ひょるひが、へいひのへいはんが」(だって書類が、経費の計算が……)
 口の中の果実をシャリシャリ噛み砕きながら私は抗議するが、さりとて現状では退院許可なんて降りないわよね~。
 ハァ、仕方ない。ルキノあたりにお願いして、書類を病室に運んでもらいますか。
 と、当面の行動方針が決まったので、多少は心も落ち着き、今後のことに頭を向ける余裕ができた。
 とりあえず、ナンバーズの半数は捕らえたし、ヴィヴィオも守りきったから、少なくとも「ゆりかご」起動はないわよね。
 六課の体勢を早々に立て直したら、フォワードメンバー全員でスカリエッティラボに突入かな? 包囲中の部隊がヘマして、スカ博士一味を逃してなきゃいーけど。
 「また、難しい顔して。これからの方策とか考えてるだろ? まったく、休める時には休めって。ホレ、あーーん」
 あら、珍しい。ウチの旦那さんは、いつもは恥ずかしがって、こんな真似頼んでもやってくれないクセに……。ま、たまにはいいかな。
 「あ~~ん……」
 ティーダくんの差し出すフォークの先の、ウサギさんリンゴにかぶりつこうとした瞬間、バタンッ、と病室のドアが開けられた。
 「義姉さん! 事件です……って、もしかして、あたし、お邪魔でした?」
 あ゛~、ゴメン、ティアナちゃん。頼むから、この場面は見なかったことにして。貴女のお兄ちゃんも、固まっちゃってるし。
 ──コホン。それで、何が大変なの?
 「はい、ラボを見張っていた部隊から、包囲網を突破されたとの連絡が……」
 心配したそばから、コレかいッ!?
 と、突っ込みを入れる暇もなく、本来病室では禁じられている緊急通信のウィンドーが、開いた。
 「大変や、エイミィさん、例の”ゆりかご”が浮上しとるらしいんよ!」
 はやてちゃんが告げた完全に予想外な言葉に、私は身体の痛みも忘れて、ベッドから飛び起きるのだった。

 -To be continued-
-----------------------------------------
以上。ちょこちょこ小ネタ混ぜた回でした。次回、JS事件がクライマックスを迎えます。

なお、整理すると、今回のナンバーズの戦力振り分けは以下のような感じ。
・ラボ残留組:ウーノ、ドゥーエ、クアットロ
・本部侵攻組:トーレ、ディエチ、オットー
・六課襲撃組:チンク、セイン、セッテ、ノーヴェ、ウェンディ、ディード
      + ルーテシア
これに、それぞれ大量のガジェットを率いてきた感じ。
総力戦ではありますが、一部ナンバーズの調整が完全に終わる前だったのは、六課側としては幸いだったのでしょう。
キャロの決め技は「鉄拳ぱんち」。要は、強引に足から魔力を噴出することで疑似的なフラッシュムーブを行い、無理矢理フラッシュインパクトを実行してます。まぁ、声優さんつながりですね。ちなみに、4thのバリアジャケットは、マントがなくなり、スカートも膝丈に。代わりにグローブがAsアルフみたいな篭手状、ブーツもロングでより頑丈なものに変化してます。
実は、セインにサンダースタン(強化版)があれほど効いたのは、彼女の手にペリスコープ・アイという固有武装が付いてたからこそ。他のナンバーズ相手だとこうはいかなかったでしょうねー。また、エイミィさんが気絶した後、ほぼ1分くらいでセインは意識を取り戻しています。幸いアルフとザフィーラが到着していたので、彼女も捕獲できたワケですが、マジで危機一髪なところ(一応、ヴィヴィオに発信機が仕込んでありましたし、追跡可能ではありましたが)。
なお、この六課攻防戦の詳細は、チンク視点から、彼女の心境込みで番外編を書く予定ではあります。

※感想で指摘のあった部分、修正しました(10/5)



[11715] 機動六課太平記 閑話-1 「えろかわE!」
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/10/05 10:48
※)この番外編には、幾分扇情的な(たぶん15禁レベル?)描写が含まれます。「なのちゃんは清純派」「魔王に色気は不要」という強い信念の持ち主は、読まれない方が賢明でしょう。
好奇心旺盛、あるいはちょっと変態ちっくなものもOKという方のみ、以下にお進みください。


『えろかわE! ~或いは、それすらも幸福な日々~』


 もしかしたら予感があったのかもしれない。

 ホテルアグスタの一室で、ユーノ・スクライアは趣味で目を通しているフィールドワークの研究レポートからふと顔を上げた。
 今回の彼は主催者直々の招待を受けているため、昨日からこのホテルの一室に宿泊している。
 多忙な無限書庫職員達には悪いが、おかげで彼は久しぶりにノンビリとした週末を過ごすことができた。もっとも、珍しく暇な時に限って、いちばん逢いたい人が多忙で会えない……というのもまたお約束なワケだが。

 時計を見れば、あと2時間もすればオークションが始まる時間になっている。
 少し早いが、そろそろシャワーを浴びて、長めのTシャツにショートパンツという寝起きのままの格好(当然朝食も食べてない意)から背広に着替えるべきかもしれない。うまくすればラウンジで軽食をつまむ暇くらいはあるだろう。

 ところが、いざバスルームに入ろうとした瞬間、部屋のインターホンが来客の訪問を知らせてきた。
 (はて、誰だろう?)
 「はーい、どちら様です……え!?」
 壁面に備えられたスクリーンには、ユーノがまさにこの週末逢いたいと望んでいた愛しい女性(ひと)の笑顔が映っていた。
 「なのは! どうしてココへ!?」
 『えへへ、こんにちは。開けてもらっていいかな?』
 もちろん、ユーノに異論があろうはずもない。カードキーを使って扉を開けると、そこには紛れもなく恋人である女性──高町なのは一等空尉の姿があった。
 「ちょっとお久しぶりだね。入って、いいかな?」
 質問しながら、ユーノの答えを待たずに部屋に入って来るなのは。
 「えっと……」
 「どうしてこんなところにいるのか」と再度質問しようとしたユーノは……けれど、それより早く、なのはにフワリと抱きしめられていた。
 「ねぇ、ユーノちゃん、キスしていい?」
 返事を口にする間もなく、なのはにそのまま唇を奪われる。
 「ん……」
 柔らかなピンクの舌が、ユーノの口腔を嬲り、侵していく。
 それだけで気が遠くなりそうなのに、さらになのはの両手がユーノの頬を包んだ。
 (あたたかい……)
 頬を優しく撫でられる感触に背筋を震わせ、思わずウットリと目を閉じてしまう。
 身長自体はほとんど変わらないふたりだが、ヒールのある靴を履いている分、今はなのはのほうが幾分目線が高い。
 加えて、15、6歳のころから体格面でほとんど成長してない華奢なユーノと比べて、日夜厳しい訓練に励んでいるなのはは、女らしさを損ねないまま、引き締まった筋肉としっかりした骨格を備えるに至っている。
 いつしか、ユーノの方からもなのはの肩に手を回し、その胸にすがるようにして抱きついていた。
 その間も熱いキスを続けていたふたりの口の端からは溢れ出した唾液が垂れている。
 「ん……ぷはぁ」
 ようやく僅かに離れたなのはとユーノの唇の間に、キラキラと輝く唾液の糸が掛かった。
 「にゃはは、ゴメンね。ここのところ、忙しくでずっと会ってなかったから、ちょっと暴走しちゃった。ずっと、ユーノちゃんとこうしたかったんだ」
 見下ろしてくる顔には、いつも通りの悪戯っぽい表情を浮かべていたが、その瞳の奥には、隠しきれない興奮の影が滲んでいた。
 頭のどこかで警報が鳴る。
 「う、うん。でも、駄目だよ……そろそろ、ボク、着替えないと……」
 そう口では否定しながらも、ユーノ自身、体の奥底が熱く疼いてくるのを感じる。
 なのはの手が薄いシャツの上からユーノの体に触れるたび、肌が熱くなっていく。
 そんな体勢で身体が密着しているせいで、なのはの豊かな胸がユーノの薄い胸板に隙間なくぴったりとくっついている。それがまた、ユーノの興奮をよりいっそう煽る。
 「大丈夫。オークションまでは、まだ時間はあるよ」
 耳元で、なのはが、そうささやく。
 「えっ?」と聞き返す前に、再び唇が重なり、なのはは自身の舌でユーノの口をこじ開け、そのまま舌をからめとり、蹂躙していく。
 両腕でユーノを強く抱きしめながら、右手で髪や背中を気まぐれにさすり、左手はユーノの形のいい臀部とその谷間をさ迷う。
 ここしばらくご無沙汰していた、受身で辱められる快楽。なのはの手で愛され、高められていくゾクゾクするようなその快感に……ほどなく、ユーノは陥落した。

  ×  ×  ×  

 ──夢……夢を見ていた。

 初めて、第97管理外世界・地球で彼女と出会ったときのこと。
 初めて、彼女が赤い宝珠を手に魔法を発動させたときのこと。
 初めて、彼女の前で、獣形態から人間形態へと変化した時のこと。
 初めて、彼女と遊園地でデートした時のこと。
 「ユーノくん、かわいい♪」

 2度目のデートは、なのはの要望で海鳴市の繁華街でのウィンドーショッピングと映画鑑賞となった。そういえば、見るだけのはずだったのに、いつの間にか、互いがお店で選んだ服を贈ることになったんだっけ。
 なのはが選んでくれたのは、薄水色のワイシャツ──じゃなくて、実はブラウス。ボタンが逆で、襟元にフリルがついてるんだけど、その時のボクは浮かれてて、気づかなかったんだ。
 「うんうん、すっごくよく似合うよ!」

 そんな感じで、闇の書事件が終わってからも、何度かボクらはデートをくり返した。
 なのはの撃墜事故やミッドチルダでの短期訓練校入学などを経て、会える機会は随分減ったけど、それでも月に一度は直接会って話をするよう心がけていた。
 その頃には、すでになのはは完全にアブないシュミに目覚めちゃってて、ボクもそれに気づいてはいたんだけど、なのはと別れることなんて考えられなくなっていた。
 あぁ、こういうのも調教って言うのかなぁ。もっとも、エイミィさんに言わせると、キッカケを作ったのは初デートの時の僕の服装らしいけど。
(確かに、当時の写真を今のボクの目から見ると、「可愛い女の子」以外の何者でもないよねぇ)
 実際、なのはは巧妙だったよ。最初は、男女どちらが着てもおかしくないユニセックスな服をボクに勧めつつ、夏祭りとかクリスマスとかのイベント時(つまり、洒落ですませられる時)に、浴衣やミニスカサンタと言った思い切りフェミニンな格好をさせた。
 「な、なのは……この帯の結び方って、ひょっとして女の子向けなんじゃ……」
 「でも、ユーノちゃんが着てるこのトンボ柄の緑の浴衣には合ってるし。ね?」

 ボクのファッションセンスが女性寄りになっていった頃(12~3歳くらいかなぁ)を見計らって、プライベートでは、なのはの選んだマニッシュな衣料(つまり男っぽい女物)を着せられるようになった。
 さすがにボクもヘンだとは思ったけど、「ユーノちゃんには、コレが似合うと思うの!」と迫力ある笑顔で微笑まれたり、「わたしの選んだ服、気に入らなかった?」と涙目になられると、(数年来の条件反射もあって)何となく逆らいづらい。
 それに、ミッドチルダでは英雄的な扱いをされている彼女が、これだけあからさまにわがままを言うのは自分だけだって、優越感もあったしね。
 (しいて挙げるなら無二の親友のフェイトくらいだろうけど、彼女には”弱さ”を見せてたと思うけど、”欲望”を見せてもらったのはボクだけだと思う)
 それまでも、人知れず(でも、なぜかエイミィさんにはバレバレだった)女の子の服を着せられてデートとしたことは何度かあったけど、知ってる人の前にその格好で初めて出たのは、フェイトたちの結婚式だったかなぁ。
 もっとも、日本式の土下座をすることで、口紅とスカートだけは勘弁してもらったっけ。
 「あぁ、もうっ、ホントにお嫁さんにしちゃうんだからね!」

 でも、それをキッカケにボクの(と言うか、なのはのなんだけど)”シュミ”が知人一同に知られた。軽蔑されるかと思ったけど、ほとんどの人が「やっぱしね」という顔で温かく見守ってくれたのには、いろんな意味で泣けた。
 はやてやフェイトに至っては、ボクを半分同性扱いするようになったし……。
 さすがに抗議したかったんだけど……その頃から、身体的にそれなりに大人に近づいていたボクとなのはは、恋人としての”関係”も持つようになっていた。
 まぁ、同い年のフェイトが中学卒業を目前に出来ちゃった婚をした(無論、聖祥学園には内緒だ)ことに、刺激されたってのもあるかな。
 ただし、19歳になる今でも、ボクはいまだにチェリーのまんまだ。
 その意味……わかるよね(泣)
 おかげで、ますますボクは、なのはに主導権を握られっぱなしなんだ。
 「──ユーノちゃんの初めて……頂戴」

 長年かけて、すっかりなのは好みのオトコノコ(あえて漢字では書かない)にされちゃったボクは、今やすっぴんでラフな格好してても、女性に見間違えられることも多い。
 こないだなんか、無限書庫の職員にそれとわかりやすい独自の制服を導入することになって、そのサンプルがいくつか来た時、なぜか”女子制服”のモデルとして僕が選ばれて、悪ノリした女子職員一同の手で3種類ほどの候補作をとっ替えひっ替え着るハメになった。
 うぅ……ボクは司書長なのに……無限書庫で一番偉いのにィ……ぐすん。
 しかも、運悪く3着目を着ているところをエイミィさんに見られちゃったんだ。加えて言うと、その時ボクが着てたデザインが、後日正式採用されたから、エイミィさんからすれば、ボクがその女子制服を気に入ってて、ひと足早く着てたように見えるよね? 
 サイアクだ。しかも、その時のサンプル制服は、しっかりボクの自宅に宅配便で届けられて、偶然部屋に遊びに来てたなのはにも見つかっちゃったし。
 今は、あの制服を着て管理局に出社しろとなのはが言いださないことを祈るばかりです。

  ×  ×  ×  

 小一時間後。恋人との久方ぶりの「スキンシップ」のおかげか、ここ連日の訓練による疲れなど吹き飛んだかのように元気はつらつ艶々お肌となったなのはは、その見事なボティラインを披露しつつ、失神した恋人の身体をベッドからお姫様だっこの形で抱き上げた。そのままバスルームに連れて入り、体を洗ってやる。
 さすがに時間が押していたので、浴室での悪戯は最小限に留めた(悪戯しない、という選択肢はなかったらしい)。
 目を覚ましたものの、そうやって中途半端に再び興奮させられたため、フワフワと意識を飛ばしている恋人を甲斐甲斐しく着替えさせる。
 服装自体は、ごくありきたりなチーズブラウンのブレザーとサンドベージュのスラックスだ。以前フェイトの結婚式でユーノに着せた明らかに女物のパンツスーツとは異なり、男女どちらが着ていてもおかしくない、おとなしいデザインではある。
 ただし、下着は別だ。
 シャワーを浴びる前まで自分が着ていたものを、ユーノにじかに身に着けさせる。幸い白に近いクリーム色なので、ブレザーを脱がなければ外からはバレないだろう。
 ネクタイの代わりに紫紺色の紐タイを首に結び、満面の笑顔とともになのははユーノを部屋から送り出し、自分も”お仕事”のためにドレスに着替え始めた。
 ──その後、妙に色っぽく目元を紅潮させた若き考古学者を目にしたオークション関係者の面々は、イケナイ感情に囚われることになるのだった。

-FIN?-
----------------------------------------
以上。なのちゃんとユーノ、つかの間の逢引編でした。ちなみに、警備の下見とかは、気をきかせたフェイトが変わってくれて、なのはを送り出してくれました。
今回の描写くらいなら、「かのこん」「ゼロ魔」レベルで、ぎりぎりセーフかと(笑)
ちなみに、ここのなのはは(例の事故が軽かったせいで)身長は163センチまで伸びてます。対してユーノは生活習慣その他の変化から164センチ止まりとかなり小柄に。並ぶとほとんど一緒です。イメージ的には、フェイトが167、はやてが158くらい?

本当は、なのはがレイジングハートの待機モードと同じくらいのビー玉を用意してユーノに……という展開も考えたのですが、さすがに自重。確実にXXX板行きですしね。

※本編1~5、修正しました。



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-6
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/10/05 23:38
第二部:副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-6

<その6>

 「ラボを見張っていた部隊から、包囲網を突破されたとの連絡が……」
 「大変や、エイミィさん、例の”ゆりかご”が浮上しとるらしいんよ!」

 うわぁ~。前者は(単純にドクター一味が逃亡するって意味において)何となく予想できないでもなかったけど、後者は完全に予想外だわ。
 とりあえず、渋るお医者さんたちを説き伏せて、車椅子(ティーダくんに押してもらった)で、六課の司令部へ急行する。

 しかし、いったい、どうやってあのデカブツを……。
 いちばんわかりやすいのは、ヴィヴィオちゃん以外にも聖王の血を引く人間がいて、それを拉致したという手よね。実際、よく知らないけどドラマCDとかマンガ版4期とかで他のベルカ王家が出て来てたみたいだし、聖王家も断絶してたと見えて実は……というのは、あり得ないワケじゃない。
 でも、もしそういうノーマークの人材がいるなら、わざわざ六課に保護されたヴィヴィオちゃんを狙わなくてもいいような気がするなぁ。
 あるいは、ヴィヴィオちゃんの血の方が濃くて適正が高かったとか? でも、ヴィヴィオちゃんでさえ、レリックを埋め込まないと”ゆりかご”動かせないんだし……。
 アレ? なんか、こう引っかかるような気が……。
 ! まさか!!

 「ゴメンなぁ。エイミィさん、体ボロボロやのに来てもろて……」
 はやてちゃんが申し訳なさそうな顔をしてるし、なのちゃんやフェイトちゃんも心配そうな表情してるけど、私としては病室でじっとしてるほうが気がかりで仕方ないから、あんまり気にしないで。
 挨拶もそこそこに、私は自分の立てた仮説を検証すべく、通信を指示した。
 「ルキノ、聖王医療院の院長に連絡してくれる?」
 もしかしたら、と思うけど。
 「ご多忙なところ申し訳ありません。カルテNo.V-0893Uの患者のデータについてお伺いしたいことが……」
 院長と話しながら、自分もコンソールから秘かに医療院にハッキングし、「痕跡」を探す。
 あった! やっぱり……。
 「では、保管されていた患者の血液データサンプルが紛失しているのですね?」
 くっそ~、そういうワケかぁ。
 「エイミィさん、一体どうしたん? 何かわかったんか?」
 「今、説明するわ。アルト、聖王教会のカリム・グラシア少将につないで」
 前代未聞の大事件で多忙なはずだが、こちらの連絡を待っていたのかカリムはあっさり応答してくれた。
 「エイミィ、あの巨大ロストロギアは……」
 「ええ、あの空中戦艦こそが「聖王のゆりかご」。古代ベルカの王家が所有していた超大型質量兵器にして無敵の”戦船”ですね」
 「一体どうして……。「死せる王」──聖王陛下の血を継ぐ方は、貴女方が守りぬいたのでしょう?」
 「はい、ヴィヴィオちゃん本人は、ちゃんと六課で保護しています」
 確かに、ゆりかごを起動する唯一の鍵ともいえるあの子は、ココにいる。
 「でも……覚えてらっしゃるでしょう? あの娘の血液をはじめとする生体データは、最初に入院した聖王医療院に保管されてるんですよ。今確認しましたが、それらが3日前に盗まれてました。病院のデータベースにもハッキングした形跡があります」
 「まさか、生体データだけでも起動できるんか!?」
 はやてちゃんが驚きの声をあげる。
 「さすがに、それは無理でしょうね。でも、生体サンプルがあるなら……」
 「……プロジェクトFの要領で、クローンが作れる」
 フェイトちゃんがいたたまれない顔をした。
 「ええ。でも、サンプルが盗まれたのが3日前だし、クローンを作るにしても時間がなさすぎるかな」
 「じゃあ、どうやって……」
 なのはちゃんの問いに対して、私は自分の推論を述べる。
 「1から作る時間はなくても、すでにいる人間に聖王としての因子を注入するのなら?」
 「いくらなんでも、そんな無茶なコトが……」
 カリムが異議を唱えるが、私は首を横に振った。
 「ところが、私、そういうコトができそうな存在に心当たりがあるんです。
 戦闘機人ナンバーズ02”ドゥーエ”──自身の体をまったくの別人に変化させる変身能力の持ち主で、遺伝子や魔力波長の検査さえパスできるほどの完璧な偽装が可能。
 もちろん、その能力だけでは不足かもしれませんが、スカリエッティがヴィヴィオの生体データを基に、ドゥーエに調整を施したら?」
 ……一瞬、シーンと司令部内が静まりかえった。
 無理もない。もしそれが事実なら、反抗・不服従が予測されるヴィヴィオと異なり、自分の意のままになる”偽聖王”をスカリエッティがすでに手中にしていることを意味するのだから。
 「ただ、多少の救いはあります。すでにゆりかご起動の手段を手にしていたにも関わらず、彼らがヴィヴィオを奪いに来たことです。
 おそらく、本来の聖王と異なり、あの船を飛ばすには能力的もしくは時間的、あるいはその両面で何らかの制限があるのでしょう」
 まぁ、コレは希望的観測ではあるのだけれど。しかし、この推測が当たっていれば、あの”ゆりかご”の機能はいまだ万全ではないということだ。
 「かと言うて、相手の自滅を待つような悠長な真似はしてられへんな。逆に、あのマッドドクターなら、時間が立てばそのヘンを克服するかもしれん。
 機動六課、準備を整え次第、出動や!」
 敵のイカサマのタネがわかり、ゆりかごを停止させる目途がある程度立ったことで、はやてちゃんたちも覇気を取り戻したみたいね。
 要は、中に突入して、ゆりかごの鍵となっているだろう偽聖王さえブッとばせばいいのよ。無論、ドクターや残りのナンバーズも一網打尽にできるに越したことはないけど。

 もっとも、コレはあくまで私の推測だから、油断は禁物。
 それに、そもそも”聖王のゆりかご”内部は、AMFで防御されている。よほど強い魔力の持ち主でなければ、魔法の行使は難しいはず。
 となると、突入隊の人選はおのずと限られるわね。
 三人娘とシグナム、ヴィータ、あと、はやてちゃんと融合したリインちゃんくらいかな。
 ザフィーラも肉弾戦は可能だろうけど、万が一の時の六課防御要員に……いや、アルフとユーノくんがいれば、そっちは何とかなるか。ナンバーズは6人いるし、できれば戦力比1:1はキープしておきたいところだから、はやてちゃんの護衛も兼ねて行ってもらう方がいいかも。
 まぁ、実際はウーノやドゥーエ、クアットロが戦力外な反面、大量のガジェットや防衛装置があるから、そう単純な計算はできないんだけどね。
 シャマルさんは……魔法が使えないとただのお色気要員だしなぁ」
 「ヒドっ! エイミィさん、なにかわたしに恨みでもあるんですか!?」
 あ、いたんだ……と言うか、もしかして私、口に出してた?
 「うん、途中から、声になっとったで。おもしろいから、ほっといたけど」
 爽やかな笑顔でサムズアップしながら、きらんとウィンクするはやてちゃん。
 ふっふっふ……私がじかに鍛えた芸風とは言え、さすがね!
 「あのぅ……主はやて、のんきに漫才やっている場合ではないと思うのですが……」
 烈火の将のツッコミが入るまで、一時ほのぼのした空気が司令部に流れたのだった。
 「さ、いい具合に緊張もほぐれたことだし、ゆりかご撃沈作戦──コードネーム:トリプルタイガー、開始しましょうか!」
 「トラトラトラて……エイミィさん、いまから奇襲は無理やと思うよ? それに、何かわたしらの方が悪者みたいやし」
 おお、わかってくれるとは、やはり我が直弟子。いーのよ、こういうのは、ノリだから。
 首ひねってる、そこのふたり! ミッド生まれのフェイトちゃんはともかく(でも、義務教育は日本で受けたはずよね、この娘)、なのちゃんは日本人でしょ。真珠湾攻撃くらい知らないでどーする。
 「えぇ~、わたし、理数系寄りの体育会系なんですよ~」
 情けない声をあげる空戦のエースに、一同は明るい笑い声をあげたのち、やるべきことをやるため各部へ散って行った。

 「うぅ……結局、わたしへのフォローはないんですね」
 ……まだいぢけてたのか、シャマル先生。

-To be continued-
---------------------------------------------
かなり短いですが、以上。すみません、謎解きで行を食われ、最終戦にまでたどりつけませんでした。
私生活というか仕事が少々忙しくなりそうなので、次の更新はしばらくかかるかもしれません。



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-7
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:d426b585
Date: 2009/10/07 13:23
<その7>

「ふぅーーーーっ、厳しい戦いだったわ……」
 さすがは、かの伝説の戦船「聖王のゆりかご」。さらに鬼才スカリエッティが手塩にかけた戦闘機人(ナンバーズ)が、大量のガジェットとともに迎撃してくるのだから、いかに「管理局の腐女子冥王」と「金髪の人妻執務官」、さらに「笑撃の魔導騎士」が3人そろっていても苦戦は免れなかった。
 隊長陣以外のフォワードメンバーや助っ人達も限界まで魔力を駆使して疲労困憊。
 しかし!
 ボロボロではあっても、夢と浪漫と希望(プラス萌えと燃え)に満ち溢れた六課は、ついに邪悪な狂的科学者の野望を打ち砕いたのよ!!
 バンザーーイ! バンザーーイ!

 ──え? 何なに……「それは、前にやったからもういい」?
 甘いわねぇ、テンドンはお笑いの基本よ?

 まぁ、確かに、シーザー皇帝じゃあるまいし、「来た、見た、征服した」で済ませるのは、いくらなんでも無理があるかな。
 サラッと説明するわね。

 まずは、”ゆりかご”の外のガジェットよる迎撃部隊。これは、原作どおりウーノがアジトに残って制御してたんだけど、スバルちん、ティアナちゃん、エリオくん、キャロの4人が地上を受け持ち、飛行系のは、リインちゃんとユニゾンし、ザフィーラに守られたはやてちゃんが、広域殲滅魔法でかたっぱしから撃ち落としていったわ。
 いやぁ、まさかミッドチルダで「敵が7分に空が3分」という状況を目にすることになるとは思わなかったけど、それらがいともたやすく(って言ったらリインちゃんに怒られた。結構シンドかったらしい)「落ちろカトンボ!」とばかりに一掃される様は、ある意味、非現実的よね~。
 一応、ナンバーズ生き残り(いや、六課が捕えた6人も別に死んじゃいないわよ?)のオットーも混じってたんだけど……。
 フリード+キャロちゃんに焼かれ、エリオくんにつつかれ、かろうじて地上に逃げたら、ナカジマ姉妹のダブルナックルの猛攻にさらされ、命からがら離脱しようとしたところをティアナちゃんに射ち落される様子は、ほとんどイジメに近いレベルだったわ。
 肝心のウーノについても、ヴェロッサとティーダくんが確保してくれたしね。

 つぎに、駆動炉に向かったのは、鉄槌と烈火の将ふたり。もともと、原作でも青息吐息とは言え、ヴィータひとりで何とかなったトコだしね。大量のガジェットと防衛装置に、それなりに時間はかかりつつも堅実に進んで、無事破壊終了。

 で、問題はフェイトちゃん。
 アジトに単独突入して、「気をつけろ」と言っておいたにも関わらず、やっぱりスカリエッティの罠にハマってた。あいかわらず遠坂凛ばりのウッカリ属性だなぁ。
 もっとも、素早く例のお色気モードこと真ソニックフォーム(ただし、ハイレグじゃなくて、超ミニになってるあたりが人妻の恥じらい? あんまし変わんない気もするけど)を披露して、脱出。
 スカ博士が戯言を吹き込む暇も与えない迅速さだったわ。やっぱり母は強しってコトかしら。
 もちろん、トーレとセッテが割って入ったんだけど、ほとんど鎧袖一触。ま、原作に比べて、精神的にも肉体的にもさほど疲れてなかったしねぇ。
 おかげで、スカリエッティは、例のキモいストーカーみたいなセリフを言い終えることもできずに、ホームランで退場となった。

 まぁ、ここまで来れば、あとはほとんど消化試合みたいなモンかなぁ。
 (もっとも、これらの事は、ほぼ平行して起こってたんだけどね)
 とりあえず、ゆりかごの最深部にいたクワットロなんだけど……こともあろうに、なのちゃん、偽聖王と戦う前に全力全壊のディパインバスターをブッ放して、クワットロのいるエリアごと「薙ぎ払え!」してたわ。
 ふむ。そう言えば、偽聖王がヴィヴィオちゃんでない以上、焦ってそっちに進むより、まずは”船”のブリッジを制圧(てか破壊?)する方が、AMFも弱まるし理には叶ってるわね、納得。
 エリアサーチを六課側が補助(プラス私の入れ知恵)したこともあって、居場所の探知はスムースに進み、メガネっ子ナンバーズの顔が放送禁止的な表情に崩れるのをバッチリ観察できた。
 あ~、昔アニメで観た時は、あのサディスティック悪女がキライだったんで、このシーンで快哉を叫んだ記憶があるけど、リアルで見るとさすがに同情する。とくに、「白き魔王」の魔砲の威力をつぶさに知ってるだけにねー。

 最後の敵とも言える、中心部にいた偽聖王ことドゥーエ。ここからはライブモードでお楽しみください♪

  *  *  * 

 「フフ……来たわね、管理局のエース・オブ・エース」
 玉座のような場所から立ち上がる、くすんだ金髪をしたハイティーンの少女。
 瞳は赤と緑のオッドアイ。顔立ち自体も成長したヴィヴィオを思わせる。
 全体的な造作は原作アニメのヴィヴィオ(聖王モード)に近いのだが、長い髪をまとめず無造作に背中に流しているだけで、ずいぶんと印象が異なった。
 「あなたが、ドゥーエ?」
 「ええ、そうよ。もっとも、今は”元”ドゥーエと言ったほうが正確かもしれないけれどね」
 右手の拳を握りしめて、ニヤリと笑みを浮かべる。彼女の体の周囲に力場のようなものが浮かび上がるのがわかった。
 「その様子なら、推測はついているようね。そう、わたしはドクターのお手で聖王の遺伝子を注入され、調整を受けたわ。いわば二重の意味で人工的に生み出された”聖王”ね」
 なのはが息を飲む。
 「そんな無茶したら……」
 「ええ、当然無理が出てくるわ。ただでさえ個性の強い聖王の因子を組み込まれ、さらにレリックと連結された結果、わたしの体はバランスを崩し、本来なら即座に崩壊してもおかしくないところを、強引に聖王の力で再生強化している」
 「!」
 「なぜ、そこまでして、って顔ね。あなたのような人には一生わからないでしょうね。プロジェクトFの産物達なら、もしかしたら理解できるかもしれないけど」
 悲しみ、誇り、怒り……あるいは思慕?
 その一瞬、彼女の顔に浮かんだ表情を、なのはは何と形容したらいいのかわからなかった。
 「──フェイトちゃんとエリオくんを、そんな風に呼ばないで」
 「あら、口で否定したって事実は変わらないわ。それに、あなたが手元に引き取ったあの聖王の素体だって、人工的に生み出されたものよ」
 「………」
 「フフ、今のわたしは遺伝的・魔力素質的には、元のドゥーエの形跡はほとんど残っていない。むしろ、あの子に近い存在だわ。
 あなた、あの子にママと呼ばせているんですって? だったら、わたしもこう呼んであげましょうか……わたしの城へようこそ、お母様。歓迎しますわ」
 嫌味たらしく嘲笑する顔が、それでも一瞬ヴィヴィオとダブる。
 ギリッ……。
 小さく、だが鋭い異音は、彼女の歯ぎしりか、あるいは握りしめたデバイスの軋みか。
 「──あの子の顔で、ヴィヴィオを……わたしの娘を、屈辱しないで!」
 無詠唱で叩きつけるような魔力の塊りが、眼前の偽聖王を襲う。
 「く……はは……もっと、もっとよ。あなたの限界を見せてちょうだい!
 そしたら、全部覚えてあげる。あなたの戦う術のすべてを奪い尽くしてさしあげるわ、お母様!」
 原作に詳しい人ならご存知であろう。
 強制的にヴィヴィオが成長させられた聖王には、「聖王の鎧」と呼ばれる異様に高い防御能力が備わると同時に、RPGなどで言うところの高いラーニング能力も発揮される。
 目の前の偽りの聖王も、それらを持っているのか、直撃でないとは言えなのはの攻撃を何度も受けながら、一向に堪えた様子がない。
 それどころか、なのはやフェイトが得意とする各種攻撃魔法を、次々と繰り出してくるうえ、格闘戦においても高い素養を示すようだ。
 あるいは、最後のそれこそが各所に潜入し暗殺者として働くことが多かったドゥーエに残されたアイデンティティなのかもしれない。
 しかしながら、やはり身体に無理を抱えていたのであろう。
 わずかにフラついいた隙をついて、元ドゥーエであった少女に、なのはが得意のバインドをかけて拘束する。
 ここで、ブラスターシステムを使用するのだろうか?
 ──いや、そうではなかった。
 「こちらスターズワン、高町なのはです」
 『こちら、機動六課司令部。準備はよろしいですか?』
 「ええ、OKです。座標は転送します」
 「な、何を?」
 突然目の前で本部との通信を始めたなのはに、戸惑う偽聖王。
 『それじゃあ、先生、やっちゃってください!』
 「どーれ」と通信ウィンドーの中に姿を現したのは、髭面の用心棒……ではなく、緑の騎士甲冑に身を包んだ妙齢の美女。
 『この技だけは、もう二度と使うまいと思ってたんですけどねぇ……』
 そうボヤきながらも、キッチリ自分の仕事はするシャマル。
 「何をしようと無駄よ、こんなバインドなんて、すぐに引きちぎって……カハッ!!」
 言いかけたドゥーエだったが、心臓を鷲掴みにされるような激痛に言葉が途切れる。
 当然であろう。ある意味、本当に心臓部を鷲掴みにされていたのだから。
 「うわぁ……昔やられた時はそんな余裕なかったけど、傍から見てると、滅茶苦茶シュールだね」
 まぁ、確かに、生きた人の胸のド真ん中から手が伸びている光景は、いくら敵でも気持ちがいいものではない。
 『えっと……あ、コレだ』
 目当てのものを探し当てたのか、すぐに”手”が引っ込む。
 「……ぐ…が……は……」
 ほとんど同時に、偽聖王のまとっていた覇気のようなものが徐々に弱まっていく。
 シャマルの「旅の扉」で、ドゥーエの体内のレリックを取り出してはどうか、というのはエイミィの発案だった。無論、アイデアの元は「A's」の時のなのはのリンカーコア奪取だ。
 まぁ、聖王の体内にそもそも「旅の扉」を開けるかという問題もあったのだが、どうやらうまくいったようだ。
 「こ、この……!」
 明らかに魔力の弱まった体で、それでも最期のあがきとばかりに殴りかかってくる偽聖王の拳を余裕で受け止め、なのははむしろ慈悲深いとも言える表情でその言葉を放つ。
 「ごめん、今の気分はわかるよ。でも、わたしたちの勝ちだね……スターライトォブレイカァーーーーーーーッ!!!」
 桃色の色彩を帯びた光の花が”ゆりかご”に咲き……そして、それが事件終結の狼煙ともなったのだった。

  *  *  * 

 ……と、まぁ、こういった次第ね。
 事件の事後処理についてまでは、アニメじゃわからなかったけど、軌道六課メンバーの身の振り方や、ナンバーズその他の動向については、それほど大きな違いはなかったみたい。
 原作同様、スカリエッティは無期懲役。ウーノ、トーレ、クアットロについてもそれは同じね。ただ、セッテに関しては、多少説得の目があるみたい。
 どうせなら、説得してるトーレもまとめて引っこ抜きたいなぁ。ああいう武人タイプって、もし味方にできたら、すごく頼りになるし。
 そーだ! 同じ古風な武人タイプのシグナムやゼストに説得を頼んでみよーっと。

 そのゼストの方は、無罪放免とまではいかなかったけど、捜査協力に対する司法取引的な処置で、降格&執行猶予3年でキツいお咎めはなしとなった。
 もっともやはり死して蘇った身体にはいろいろ不都合があるらしく、力をセーブして暮らしても、おそらくあと数年しか保たないだろうことも考え合わせての温情的措置みたい。
 その間、ゼストは三等空尉として、訓練校で訓練生の指導にあたるみたい。
 「残された時間で次代を担う後進を育てられるのだ。むしろ死人には過ぎた光栄だ」
 そう言って笑うゼストの顔は、何かフッ切れたように明るかった。

 チンク以下のナンバーズは、現在更生施設でプログラム受講中。アクションを起こしたのが早かったおかげか、全員刑期は原作より軽め。チンクちゃんですら、厳重監視15年だしね。
 まぁ、チンクちゃんやセインたちの場合、いろいろ協力的な態度を見せていることもあるんだろうけど。
 できる限り刑期を短縮して、早くシャバに出て来られるよう、私も尽力するつもり。特にチンクちゃんとは、いろいろ語り合いたいこととかもあるしね。
 (面会には行ったんだけど、やっぱりどこかぎこちなかったし)

 ルーテシアも、魔力封印処置は変わらなかったものの、六課への被害が少なかったせいか隔離処分は5年で済んだみたい。キャロちゃんとも仲良くなってたみたいだから、おねーさんとしてもうれしいわ。
 第二の「なのは&フェイト」として、将来無二の親友になってくれたらいいなぁ、なんて妄想してる。
 それにしても「拳でタイマンはったらダチ」って、いつの少年漫画よ?
 ……忘れてた。ココ、「熱血魔砲少女アニメ」の世界なんだっけ。納得。

 アギトは、いまのところはゼストについてる。将来のことはわからないけど、それでもできるだけ彼のそばにいてあげたいらしい。まぁ、シグナムとの相性もゼストと同じ武人ということで決して悪くないみたいだし、ここは静かに見守りましょ。ただ、リインとの仲は、相変わらず最悪。不倶戴天ってのはああいうのを言うのかしらね。

 ヴィヴィオちゃんは、現在、正式になのちゃんの養女になるべく手続き中。あいかわらず可愛さ満点で、六課に萌え要素を振りまいてくれている。カリム達は、教会に保護したいという意向も示してきたんだけど、とりあえず本人の意思を優先してくれた。

 ユーノくんやアルフたち助っ人陣は本来の場所へ。ただし、ギンガだけは出向継続。六課存続中は、こちらを手伝ってくれるみたい。助かるわ~。

 フォワードメンバーは相変わらず訓練漬けの日々。
 レリック盗難に関する事件が一段落したことで部隊の目的が宙に浮いた形になったけど、現在はクラナガン近隣の「遊撃的お助け部隊」として、捜査や荒事、あるいは災害救助活動から、広報課のふれあいショーの手伝いまで、いろいろ駆り出されてる。
 ティアナちゃんなんかは「何でこんな仕事まで……」とボヤいてるけど、それだけ頼りにされてる証拠だと思いなさいな。

 隊長陣もすこぶる元気。まぁ、ヤリ手バ…姐さんとしては、相変わらずはやてちゃんに浮いた噂のひとつもないことが不満なんだけど、その分はティアナちゃんとシャマルの恋の鞘当てでも見守って楽しむとしますか。
 ちなみに、お相手はヴァイスくん。年上も年下もイケるとは、何気に守備範囲広いわね、彼。もっとも、どちらかと言うと女性ふたりの方から押してるみたいだけど。

 うーん、JS事件も一段落したことだし、私もティーダくんと子供作ってみようかなぁ。
 「お母様……」
 「ああ、ごめんね、オリヴィエ。ちょっと考えごとしてただけよ」
 目の前にいる不安そうな女の子の体をそっと抱き締める。
 おおよそ想像つくと思うけど……この子は、かつてドゥーエと呼ばれていた存在(だと推定されてる。本当のところはわからないけど)。
 あの最後の決戦でレリックと切り離され、なのちゃんのスターライトブレーカー++で吹っ飛ばされた後、現場には小さな女の子が転がっていた。
 外見はヴィヴィオちゃんとよく似ているけど、髪の色があの子より白っぽく、何よりかなり内気だ。
 たぶん、自分でも言っていたとおり、聖王の因子が体内で暴走して、遺伝情報をすべてヴィヴィオのものに書き換えちゃったんだと思う。それをコントロールしてたレリックは、シャマル先生が引っぺがしちゃったしね。
 (わ、わたしのせいじゃないですよ~!)
 さらにその不安定な体で魔王の砲撃を受けたせいで、記憶もアボン……ってトコかな。
 (えーっ、わたしのせいなの!?)
 各種精密検査を受けたけど、間違いなくこの子は身体的には4、5歳児で、精神的にもせいぜい6、7歳くらいの水準しかないことが証明された。転生(?)前の記憶もないし、どういうワケか体内の機械類もほぼ一掃されてたしね。
 さすがにこの状態では罪に問うわけにはいかない。信用できる身元引き受け人の元で、「厳重監視」という名の養育を行うことになったってワケ。
 当初はなのちゃんが、ヴィヴィオの妹として引き取ろうとしたんだけど、本人がなのちゃんの顔見てひどくおびえてね~。まぁ、至近距離からSLB受けたんならトラウマになっても無理もないか。
 そんなわけで、この子が最初に目覚めたときに居合わせて以来、比較的懐かれてた私が名乗りをあげたのよ。ティーダくんにも相談したら、賛成してくれたしね。
 さすがに当初はぎこちなかったものの、2ヵ月も母子として接していれば情も移る。ティーダくんなんか、すでに娘に甘甘の馬鹿父っぷりを披露してるし、この子も私たちを親として慕ってくれるしね。
 今日は久々に夫婦そろってとれたオフ。この子──オリヴィエも連れて、郊外の公園に家族全員でピクニックに出かけるところ。
 現地では、この子にとって叔母に当たるティアナちゃん(本人に言ったらショック受けてた)と相方のスバルちんもいて、合流する予定だ。

 私は右手でティーダくんの、左手でオリヴィエの手をとって歩く。
 もしかしたら……私がこの世界に介入したことで、余計な面倒事や被害をどこかで起こしたのかもしれない。
 それでも、このふたりを……本来、死ぬはずだったふたつの命を救えて、彼らが私の隣りにいてくれることを嬉しく思うから、後悔はしない、絶対に。
 「エイミィ?」
 「お母様、どうかしたの?」
 「──ううん、何でもない。ただ、幸せだなぁ、って思っただけ」
 両手に感じる「夫」と「娘」の手のぬくもりを感じながら、私は微笑んだのだった。

~The story-telling was END / and so...~
------------------------------------
てな感じで、駆け足で二部本編も終了しました。皆様お付き合いありがとうございます。
(いや、実は言及してないあの人のこともからめたエピローグがまだあるんですが、そちらはいつになるかわかりません。気長にお待ちいただければ幸いです)

なお、まったくの余談ですが、ここのヴィヴィオは、さらわれてママと殴り合いしなかったためか、本来の遠距離型資質を活かして、将来ははやてみたくベルカ式・広域型魔導師として成長します。また、離れて暮らしているとはいえ「妹」ができたことで、性格もちょっぴりお姉さんに。
オリヴィエの方は逆にストライクアーツ系の近距離戦型に。ただし、地球で見た合気道や柔術に魅せられ、打撃より投げや関節技を好むようになります。
どちらも、旧六課や元ナンバーズ達に妹分として可愛がられることでしょう。



[11715] 副部隊長は昼あんどん!? -機動六課太平記-epilogue
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2009/10/15 01:54
<エピローグ>

 「レジアス、どうだ、具合は?」
 あのJS事件の決着より1カ月あまり。ようやく身の振り方が決まったゼスト・グランガイズが、親友でありかつての盟友でもあるレジアス・ゲイズの見舞いに、彼の病室を訪れていた。
 「おお、ゼストか。若い頃ならこれくらいのケガなぞ気合いで何とでもなったのだが、俺もそろそろ歳だからな。さすがに回復が遅い。もっとも、ここまでくれば、あとは大人しくベッドで寝てれば、じきに治るさ」
 「そうか……いま大丈夫か?」
 「はは、毎日退屈をもて余してる身だ。話をする時間くらい、いくらでもある」
 処分を待ついまの身の上では、管理局の仕事をするわけにもいかんしな、と自嘲するレジアス。
 「いや、今日はお前に用があるという人を連れて来たんだ」
 ゼストの言葉とともに、ドアの向こうから、ひょっこりと若い女性が顔を出す。
 「こんにちは~。お加減はいかがですか、レジアス中将?」
 「む? お前は……たしか、機動六課副部隊長のランスター三等空佐だったか。どうした? 夢破れた負け犬を笑いにでも来たのか?」
 「や、いくらレリック盗難事件が解決したからって、六課(わたしら)もそこまで暇じゃないですよぅ。
 今日は、ゼストさんの付き添いと、中将にお聞きしたいことがいくつかあって来たんです」
 「捜査官には、話せることはみんな離したはずだが」
 「いえいえ、そういう堅い話じゃなくて……個人的な興味と言うか、ごく主観的なお話です」
 まぁ、だから暇人て言われても仕方ないんですけどね、と笑うエイミィの様子に、レジアスはうさん臭げに目を細めた。
 「ふん。まぁ、いい。ゼストにも言ったとおり、ワシはいまこの病室から出られなくて暇だ。それに、貴様ら、とくにお前の旦那には借りがあるからな。話くらいは聞いてやる」
 「ありがとうございます。あ……これ、お見舞いのクッキーです。あまり甘くはないので、お茶の時間にでも召しあがってくださいね」
 いったん許可を得たとなると、たいがいの相手の懐にスルリと入り込み、マイペースを貫くのが、彼女の持ち味だ。
 今も、あたかも病室の主の身内のような顔で、平然とお茶を入れている。
 「それでですね……単刀直入にお聞きしますが、アインヘリアルはともかく、なんで戦闘機人なんですか?」
 そんなエイミィの姿をおもしろくもなさそうに黙認していたレジアスだが、3人分のお茶を配る彼女の発する問いには、さすがに眉をひそめた。
 「それをお前が聞くのか? 六課のフォワードとしてふたりの戦闘機人をメンバーに抱え、さらに現時点での戦闘機人の最先端とも言うべきナンバーズとやらと交戦したなら、わかるだろうが」
 精一杯の皮肉を返したつもりだったが、彼女は小揺るぎもしない。
 「うーん、個人としての戦闘能力が優れている、ということを指して言ってらっしゃるなら、確かに頷ける部分はありますけどね。でも、治安維持のための部隊メンバーとして採用するのはどうかなぁ?」
 「なに?」
 「まぁ、中将はカタログスペックにだけ注目されていたのかもしれませんが、言ったら悪いけど、コストの面では戦闘機械人ってメチャメチャ割高ですよ?
 こういう言い方は嫌いですけど、製作費とメンテナンス維持の面で、かなり特殊でお金もかかりますし……。何より、あの子たちの食事ぶりを見れば、いかにエネルギーのコストパフーマンスが悪いか、一目瞭然です! ひとりで3~4人分の食費ですよ、アレ。ナカジマ姉妹の場合、お父さんが佐官だったから、そこそこ裕福でさほど負担にはならなかったんでしょうけど、一般家庭だったらエンゲル係数見るのが怖いですよ!!」
 「い、いや、その程度は、とるに足らない弊害だろう」
 エイミィの妙なテンションにたじろくレジアス。
 「まあ、食費は官費で負担するとしても……肝心の戦闘機人の”素体”は、どうするつもりなんですか?」
 「……そのための人造素体の研究だ」
 「ふむ。で、人造素体を製作することの、法的社会的なデメリットについては?
 言うまでもないことでしょうけど、現在の法制上、プロジェクトFみたいなクローンの類いは違法です。その点をクリアーしたとしても、仮にそうやって作られた生命も、”人”としての権利をキチンと有する……と言うのが、管理局の理念および法律的な見解です。
 それすら曲げるようでは、もはや法の守護者と名乗ることは難しいでしょうね」
 「む……」
 「あるいは、この画像を見ても、「人為的に生み出された人間なぞ、人ではない」と、中将は主張されることができますか?」
 持参したノートタイプの端末に、用意しておいた映像を映し出す。
 それは、フェイトやエリオ、スバルやギンガといった六課の仲間達の成長の記録。笑い、泣き、喜び、怒る……そんな当たり前の"人"の光景だ。
 さらには、どうやって入手したのか、チンクたち戦闘機人が会話している画像までもあった。
 「……しかし」
 「フェイトちゃんとエリオくんは、生まれた時から自分が人工的な生まれだと知らなかったから、ですか? では、ナカジマ姉妹は? ここに写っている戦闘機人たちは、ただの人型機械に見えるとでも?」
 「……管理局に所属する”人間”として扱え、ということか」
 「ええ。となると、先ほどの維持費に加えて、さらに給与その他のコストがかかります。何より、”人”であるなら、職業選択の自由も認められてしかるべきでしょう。
 多大な費用をかけて生み出した戦闘機人なのに、成長したら町のお花屋さんを志した……というのは、あまりに馬鹿馬鹿しいと思いませんか?」
 「その点については、制限を加える」
 「まぁ、管理局は保護の名の元にBクラス以上の魔導師をかなり強引に局に勧誘してますからね~。その延長上でそういうことが可能だったとしましょう。
 だとしても、彼女たちに苦悩はつきません。なにせ自然状態では出産することすらできないんですから。
 いまはまだいいですけど、ナカジマ姉妹とかに将来好きな人ができたら、相当悩むと思いますよ?」
 「男性型なら生殖機能をオミットしなくとも……」
 「それがうまくいかなかったから、ナンバーズが全員女性型なんじゃないですか、確か。そんな”人として不完全な不幸な状態”に産み出されたことを、彼女たちが悲しまないとでも?
 いえ、感傷的な理由だけでなく、訴訟を起こされたら、たぶん責任者側が7:3で負けますよ?」
 「ぐっ……」
 ことごとく論破される。
 いや、言われるまでもなく、そもそも突っ込みどころ満載の計画であることは、レジアスも内心気づいてはいたのだ。
 それでも、プロジェクトの進行に協力していたのは、最高評議会の肝いりであったことと、何よりゼストを失って以来の自分の十年間が無駄だと思いたくなかったからだ。
 「あ、これだけ突っ込んでおいてナンですけど、私、戦闘機人という技術そのものは、高く評価してますから」
 「なに!?」
 目の前の女性の発言の真意がつかめない。
 「うーん、そうですねぇ。たとえば、私の夫、ティーダ・ランスターを例にとりましょう。
 ご存知かはわかりませんが、あの人は数年前、任務中に重傷を負い、一時は再起不能かとさえ言われてました。
 御覧の通り、今は立派に立ち直ってますし、リハビリと鍛錬の結果、短時間なら戦闘機人を怯ませる程度の戦闘能力も取り戻してはいます。
 でも、本人にも聞いてみたんですけど、「もし、失意のどん底にいる時、体を機械化することで現場復帰できると知らされたら、その誘いに乗っただろう」だそうですよ」
 「! だが……」
 「ええ、もちろん未だ人体の機械・人造器官よる代替はいまだ問題点が多くありますが、スカリエッティの研究成果を分析した限りでは、人造魔導師計画と合わせて、免疫機構その他の面で随分と進歩がみられるようです」
 「! 本当か!?」
 「無論、課題自体は山積みですが、不慮の事故で重傷を負った局員、あるいは魔導師としての素質はないが、ぜひ武装隊員として働きたいという志願者に対して示す選択肢として、体の一部を機械強化した”半戦闘機人化”というのは、決して悪い案じゃないでしょう?」
 「しかし、先ほど君が指摘したような問題が……」
 「自己責任ですよ。さっきの諸々の課題は、「望まぬのに戦闘機人として生み出された」人間だから生じるものです。リターンとリスクを説明したうえで、歴とした社会人に、本人の承認を得て施術するなら、さほど問題はありません」
 ニヤリと笑うエイミィの顔が、まるで人を魂を担保とした契約に誘う悪魔のように見えた……と後にレジアス”少将”は述懐している。
 「──恐ろしいことを考える女だな、君は……」
 「そうですか? 既にあるものを法律に反しない限りで有効利用しようと考えた、自然な結果なんですけどねー」
 第97管理外世界には、過酷な宇宙開発のために自らサイボーグ化を志願した青年の話、なんてのもあるみたいですしね~と、うそぶくエイミィ。
 「ああ、そうそう。それと、高レベルの魔導師でなければまともに戦えないと言うのも、管理局、いえミッドチルダ出身者の驕りだと、ついでですから言わせてもらいましょうか」
 「……質量兵器のことか?」
 慎重に探るようにレジアスが尋ねる。いや、まさか、そんな安易な答えを、この「魔女の後継」は返すまい。
 「うーん、まぁ、それもひとつの手ではありますけどね。でも、破壊力の高い火器に頼らずとも、魔導師犯罪に対抗する手段は、いくらでもあります」
 3枚のディスクをレジアスの枕元に置くエイミィ。
 「一枚は、比較的安価に量産可能で、しかもD・Eランクの魔導師にも取り扱いが十分可能な、カートリッジシステムを組み込んだデバイスと、その運用データです。現在の正規武装局員は最低でもBランクが必要とされてますけど、これを効果的に配備・訓練すれば、飛躍的に人手を増やせるでしょうね。
 もう一枚は、地球在住者による、魔法も火器もまったく使用しない純然たる武器による戦闘の記録映像です。これを見れば、「魔導師以外は戦士になれない」という考え方が、いかに思い上がったものか、納得できると思いますよ」
 最後の一枚はオマケの娯楽ドラマです。まぁ、暇つぶしにでも観てください……と、にこやかにそう告げると、エイミィ・ランスター三等空佐は、レジアス・ゲイズの病室を退出して行った。
 半信半疑ながら、病室の端末で2枚のデータの内容を確認するレジアスだが、次第に目の色が変わっていく。
 「こ、これは……」
 確かに、アインヘリアルや質量兵器、あるいは戦闘機人のような、目を見張るほどの効果をもたらす”劇薬”ではないだろう。だが、ある程度時間をかけることで、現在の管理局、とくに地上本部の窮状を救う……少なくとも大きく貢献するに足るひとつの方策ではあった。
 しかしながら、同時にそれは現行の技術体系に基づいた発展形であり、あるいは非凡ではあるが、魔法の力に乏しいものにも理解できる”技法”の紹介であったのだ。
 「──なぁ、ゼスト……俺は、どこで間違ったんだろうなぁ」
 「レジアス……」
 エイミィに指摘されるまでもなく、戦闘機人のコストの高さから、仮に配備が実現しても大多数の部隊にとっては無縁の「特殊部隊」的な扱いとなっただろう。
 アインヘリアルもそうだ。地上でのテロや犯罪の増加を嘆きながら、それらに対応するには、あの大砲は破壊力が大きすぎる。それこそ、艦戦レベルの侵攻に対してしか使えず、それでいて取り回しの不便さから、決定的切り札にはなりえない戦力なのだ。
 「くくく、あいつらを英雄気取りと笑っておきながら、何のことはない。俺自身もまた、ごく限られた少数の精鋭を揃えて力を行使することを目指していたとは、な」
 地上の守護者と讃えられつつ、それでいて本局のエリート魔導師連中への僻みが、どこかに生じていなかったとは、言えまい。
 最高戦力のレベルを上げる。それは確かに大事だろう。しかし、それ以上に幅広い人材の底上げをすることもまた、大切なのではないか?
 質量兵器がそれに当たるのだろうが、同時に、質量兵器は引き金さえ引けば子供にだって扱える。犯罪者も然り。
 そういった危険性を考慮しての「質量兵器保持禁止」の条項ではなかったか?
 「……結局、最後は人の心とたゆまぬ努力か」
 無論、これまで自分がやってきたことに未練はあるが、こうなっては今更だ。
 「ああ……だから、俺は俺の力を少しでも役立てる場所に行こうと思う」
 「訓練校の教官だったか? ふ……歴戦の勇士の技術と志を継ぐ教え子が局に入れば、それでまたこの地上も一歩平和に近付く、か」
 「茶化すな。お前は?」
 「さてな……司法部の判断待ちだろう。まぁ、その時までにゆっくり考えるさ。
 ん? そういえば、もう一枚ディスクがあったな。娯楽ドラマだとか言ってたが……」
 何気なく三枚目を再生するレジアス。

 ──その後、レジアス・ゲイズの病室から、「うぉぉ、カズヤぁ!」や「そうだ! それでこそ漢だ、ヒカワ!」といった、中年男ふたりの暑苦しい怒号や嘆声が聞こえてきたというが、真偽のほどは定かではない。

  *  *  *  

 第9無人世界に設けられた軌道拘置所に収監されたある犯罪者へ面会しようと、管理局に所属するふたりの将校が、軌道エレベーターから歩を進めている。
 「まったく……こう見えて、僕も決して暇ではないのだがな」
 「あはは、ごめんごめん、クロノくん。いやぁ、スカリエッティクラスの犯罪者の面会となると、提督か執務官の立会いが必要なのよね~」
 「だから、キミも執務官資格を取っておけと、あれほど何度も言ったんだ。別に非武装の局員であっても、執務官にはなれるはずだぞ」
 「や、戦闘審査がないぶん、試験が難しいしねぇ」
 「なら、提督は? 君なら根回し一発で、来月からでも提督のポジションを手に入れられると思うが」
 「それは、さすがに買いかぶり過ぎよ~。せいぜい、人事局で議題として取り上げてもらうことができるかどうか、って程度ね。そうなったら、私の場合、特別目立った成果をあげていないし、無理でしょ」
 「機動六課の件があるだろうが!」
 「うーん、アレは、主にはやてちゃんのお手柄だし。あ、なのちゃんやフェイトちゃんたち部隊長の功績ってのももちろんあるんだけどね」
 「バカな!? キミだって副部隊長だろう? キミがいなければ、一連の事件をあれほど迅速に解決できなかったはずだ。いや、機動六課自体が発足できていたかどうかも怪しい」
 「そんなことないよ。タムラ・エミの”予言”、クロノくんにも話したでしょ?」
 「む……」
 確かに、カリムたちと一緒に彼女から聞いた話の内容は衝撃的だった。実際に、事件も彼女の”予言”のとおりに起こったし、それに基づき先回りできたことも、決して少なくはない。
 彼女がいなくても、はやては機動六課を立ち上げた「かもしれない」し、六課がJS事件を解決「する可能性」はあった。しかし、それこそ不安定であやふやな可能性だ。
 少なくとも、現状から考えて、多くの困難と時間が伴ったことは間違いないだろう。
 それだけの功績を成しながら、彼女は「大したことはしてない」と言うのだ。
 「まったく……キミは無欲だな」
 「そんなコトないよ? 私ほど欲深で、計算高い女はそうそういないと思うけどな~」
 どのヘンがだと聞きかけたところで、面会室(といっても、モニター越しに会話できるだけだが)の扉が開き、問題の人物と顔を合わせることとなった。
 「おや、これはこれは……クロノ・ハラオウン提督と、エイミィ・ランスター空佐じゃないか。直接お会いするのは初めてだと思うが、ようこそ、と言った方がよいのかな? ま、たいしたおもてなしはできないがね」
 「──ジェイル・スカリエッティ……」
 多少痩せた感はあるものの、依然として奇妙な迫力と狂気を感じさせる、かの博士の物言いに、知らず拳を握りしめるクロノ。
 「へー、私みたいな裏方の小物まで把握してるなんて、さすが希代のマッドドクターは博識だね~」
 ところが、そんな相手の狂気を毛ほども気にした風もなく、呑気な言葉を漏らすエイミィ。クロノが、彼女を(いろんな意味で)大物だと思うのは、こういう時だ。
 「……裏方? 小物? クックックッ……確かに表舞台にはあまり名前は残していないだろうが、小物と卑下するのはどうだろうね。それとも、それさえ計算の内かね、「サクセサー・オブ・グリーンウィッチ」?」
 「あ゛ぁぁぁーーーー、やーめーてー! 恥ずかしすぎるその渾名で呼ぶのは、勘弁してぇ~~!!」
 先ほどまでの落ち着きぶりはどこへやら、両手で耳を押さえながら涙目で懇願する様は、情けないの一言に尽きる。
 「はーっはは! 「魔女の後継」とはまた、いい二つ名じゃないか。実際、そこにいるクロノ・ハラオウン提督では、あの緑髪の魔女の後継者には役者不足だろう」
 この物言いにはさすがにカチンときたものの、彼自身も、そのことはよくわかっていたので、クロノは沈黙を守った。
 「うぅ……そんなたいしたモンじゃないのに……ひとり歩きする噂って、こわい……」
 20代も後半に差し掛かった女性が、半ば涙目になりクスンと鼻をすすっても、感銘を受けるような殊勝な感性の持ち主は、残念ながらここにはいなかった。
 「フ……実のところ、君のことを軽視したのが私の敗因、少なくともそのひとつであることは間違いないだろうからね。
 適確な六課メンバーの選出とフォロー、聖王教会との太い繋がり、管理局内へのコネクションと調整などなど、ひとつひとつの比重は大きくなくても、それらが積み重なった結果、元の計画では85%程度にまで低下させるはずだった六課の戦力を、君は見事にベストコンディションの100%、いやそれ以上に維持してみせた。
 ……六課発足当初に、ドゥーエあたりを送り込んで消しておくべきだったかな」
 「こ、怖いこと言わないでよ~、あまりシャレになってないし」
 「フフフ、失礼。今更言っても無意味な繰り言だったね。それで、わざわざこんな辺境の地まで訪ねて来たということは、何か私に聞きたいことがあるんじゃないかい?」
 スカリエッティの問いに、「うーーん」と唇に指をあてて考え込むエイミィ。
 「いや、まぁ、単に聞きたいことって言うんなら、確かにいっぱいあるんだけどね」
 「ほぅ、たとえば?」
 「そうねぇ。たとえばナンバーズは大半がスタイルいいのに、チンクちゃんとオットーだけがなんでツルペタなのか……とか、やっぱりアジトでの掃除洗濯その他はウーノ姐さんの役目なのか……とか」
 「「はぁ?」」
 思わずクロノとスカリエッティの戸惑いの声が重なる。
 「セインがディープダイバーで潜行中に気絶したりしたら「いしのなかにいる!」状態でロストするのか……とか、ノーヴェが短気なのはカルシウムが足りてないからじゃないか……とか、ウェンディからライディングボードを取り上げたら、もしかしていらない子状態で涙目なのか……とか、いろいろ興味は尽きないけど」
 「そ、そうか……」
 さすがのスカリエッティも、こんな質問は想定外だったようだ。
 すでにクロノは白い目でエイミィのことを見ている。
 「まぁ、いろいろ考え出すとキリがないんで、いいや。私は、ただ、あなたにひとつ言いたいことがあっただけだし」
 「──ふむ。聞かせてもらおうか」
 はたして、目の前のトボけた「魔女の後継」から出る言葉は、何なのだろう。罵倒か、糾弾か。あるいはこの女の立場からすれば、利を説くことによる懐柔というのも考えられる。
 スカリエッティは目を輝かせてエイミィの言葉を待った。
 「そんな畏まって待ち受けられると言い難いんだけど……」
 と、ここで初めてやや真剣な顔つきになったエイミィは、スカリエッティの目を見て言葉を続ける。
 「──私には、今、オリヴィエという”娘”がいるわ。名前から察せられるかもしれないけど、あの日、ドゥーエと呼ばれていた女性がヴィヴィオの因子を取り込んで変貌した存在ね」
 (なるほど、その養女のために、私を非難するか)
 そう考えたスカリエッティの予想は、だが続くエイミィの言葉で裏切られる。
 「確かにいろいろあったし、あの子も気の毒な境遇だと思う。でも、今のあの子に私達が出会えたのは、間違いなくあなたがドゥーエを産み出し、調整したからよね?」
 「…………」
 「オリヴィエだけじゃない、チンクちゃんやセイン、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ達に出会って、友達になれたのも、間接的にあなたのおかげ。
 だから……あなたは法的にも心情的にも色々許されないことをしたとは思うけど、その点においてはジェイル・スカリエッティ、あなたに感謝しているわ。ありがとう」
 先ほどまでの上機嫌な笑みが消え、まったくの無表情となるスカリエッティ。
 「えっとね、言いたいことはそれだけ。それじゃ、ね」
 バイバイと、ヒラヒラ手を振りながら面会室を出ていくエイミィ。
 彼女のあとを追いかけながら、ドアを出る前に一度だけクロノも振り返った。
 「──そうだな。僕の妻フェイトと義理の子供のような存在のエリオは、プロジェクトFの結果、世に生まれた存在だ。
 あのプロジェクトには、少なからず君が関わっていたと聞く。だから、もしかして君がいなければ、僕は最愛の妻と息子に出会えなかったのかもしれない。
 管理局の提督として犯罪者にこんなコトを言うのは癪だが……その点についてだけは、思うところがないわけじゃない」
 それだけ言うと、黒衣の提督も足早に部屋を去って行った。
 ──その日、拘置所の監視官は、とある犯罪者が収容されてから初めて、剥き出しの感情をあらわにして荒れる様子を目にすることとなった。

 「しかし、エイミィ。どうして、わざわざ、彼にあんなことを言いに行ったんだ?」
 ミッドチルダへの転送機に向かう途中、クロノは改めてエイミィにそう聞いてみた。
 「ん? そうだなぁ……ね、クロノくん、昔、私が貸したマンガのこと覚えてるかな?」
 「マンガと言っても、どれのことだ。君の趣味は漫画収集で、僕やフェイトに「オススメ」だと言っていっぱい押しつけていただろう?」
 「あはは……でも、おもしろくなかった?」
 「──ノーコメント。
  ……いや。正直言うと、おもしろかったよ。いろいろ考えさせられたし」
 「そう言ってもらえると、おねーさんも貸した甲斐があったわ♪」
 悪戯っこみたいなエイミィの笑顔は、あのころからあまり変わっていない。
 「それでね、「うしおととら」と「マップス」の2作は覚えてる?」
 「ああ、確かにあのふたつは名作だったな。うちの子供達が成長したら、児童文学代わりに読ませてもいいと思えるくらいだ」
 いや、「うしとら」はともかく「マップス」は結構Hっぽいシーン(まぁ、ギャグ的な流れではあるが)も多いのだが……しかも、ハラオウン夫妻の子供は娘さんだし。
 「うんうん。で、あの2作のラスト……というかラスボスのことは思いだせるかな?」
 「えーと……確か”白面の者”と”神帝”だったか」
 「うん。これは、ごく個人的な印象だけど、スカリエッティの在り方ってね、なんとなく”神帝ブゥアー”と似てるなぁって感じたの」
 他者にある”目的”のために作られ、その目的を遂行するための”能力”と”衝動”を与えられ、自らの分身を作りつつ、ついにはその目的の「本来の意味」すら喪失して暴走し続ける”装置”。
 「……ああ、確かに少し似てるかもしれないな」
 「それと、”白面の者”にもね」
 「生きとし生ける者の暗い面(ダークサイド)の感情をくらって、際限なく強くなる化け物、か。「恐怖」を「欲望」に変えれば、重ならないこともないが……」
 少し強引じゃないか、と反論するクロノに、エイミィは「かもね」と笑う。
 「これは、わたしの感傷混じりの推測だけど……たぶん、彼って、生まれてから誰かに感謝されたってことが、殆どなかったんじゃないかな」
 その能力を「必要」とされ「利用」されることは多かったろう。
 ときには「称賛」されることもあったかもしれない。
 「尊敬」あるいは「畏怖」される機会も、きっとあったはずだ。
 ──けれど、純粋な「感謝」の念を向けられることは、今までなかったのではないだろうか。
 可能性があるとすれば、妙に彼に懐いていたルーテシアくらいだろうが、それとて彼の方に彼女の思考を「誘導」しているという意識があったはずだ。
 「「断末魔の叫びからでも、哀惜の慟哭からでもなく、静かなる言葉で…誰か我が名を呼んでくれ」、だったか」
 「クロノくん、よく覚えてるね。もちろん、どんな生い立ち、どんな背景があったからって、彼は”人間”で、だから人の法で裁かないといけないんだけど……」
 でも、それでも人に感謝されるようなことを少しはしてたんだということだけは、彼も知っておくべきだと思ったんだ、と締めくくるエイミィ。
 「まぁ、これも偽善……というか私のわがままだけどね」

  *  *  *  

 さて、まぁ、一連の騒動が収まって、とりあえず私のお仕事も一段落した。
 フォワード陣は、アニメと同様、訓練7・出動(助っ人)2・休暇1なサイクルで過ごしてたみたいだけど、私たちみたいな事務職組は平穏そのもの。私もようやく昼行燈を決め込めるようになった。
 ──当然、フェイトちゃんやなのちゃんの書類仕事も、肩代わりしなくなったしね!
 さらに、9月から、補給関連の補佐として、グリフィスくんが入ってくれたのも地味にありがたいところよね!
 「いえ、あの”奇跡の機動六課”に自分のような若輩者を採用していただき、恐縮です」
 おお、さすがレティ提督の息子さん、ソツがないなぁ。
 もっとも、せっかく入ってもらったのに、あと半年でこの部隊はなくなっちゃうんだけどね~。
 ……なぁんて、悠長に構えてたのよ、私は。
 せっかくだから、六課のメンバーを色々な場所に連れまわすような福利厚生の企画をいろいろ実行して、みんなの絆を深めながらね。
 ええ、1年限りの実験部隊ですから、いろいろ好き勝手やらせてもらいましたとも。すでに一定の成果は上げてるわけだし、あとの予算にも余裕はあったしね。
 嗚呼、それなのに……。
 「──なんで、貴女たちが、ここにいるのかなぁ……」
 「その言い草はちょっとひでぇぞ、コラ」
 「冷たいっスよ、エイミィ姐さん……」
 「わたし、いらない子?」
 ああ、ごめんごめん、ノーヴェ、別に悪気はなかったのよ、驚いたけど。
 ウェンディ、「ねえさん」と呼んでくれるのはうれしいけど、その字だとヤクザの姐御みたいだからやめてね。
 うぅ、ディエチ、その捨て猫みたいな無垢な瞳で見上げるのは勘弁して~。
 ……て言うか、いったいぜんたい、どうなってるのよ、はやてちゃん!?
 「あ、エイミィさん、その子らは、この2月から機動六課に配属される新人やで」
 き、聞いてないよ~!
 てか、いくらなんでも解放が早過ぎない? 最短のノーヴェとウェンディでも、確か厳重監視8年のはずでしょ。
 はやてちゃんいわく、どこの神様が気まぐれを起こしたのか、限定的にではあるがあのスカリエッティが捜査に協力姿勢を見せ、そのバーターとしてナンバーズ達の刑期短縮を条件にしたらしい。
 「で、シャバに出たナンバーズのうち3人をスカウトしたんや」
 はぁ!? いや、だって六課は4月になったら解散……。
 「あ、その件な。1年延期になったで」
 う……ウソ~~~ん!?
 「あははは! いやぁ、ようやっとエイミィさんを出しぬけたわ」
 ! もしかして、最近私に回ってくる書類が、妙に少ないと思ったら……。
 「そや。機動六課延長に関する情報だけは、エイミィさんに知らせんように気ィつけてたんよ」
 やられた! 事件らしい事件がないからって、ちょっと気を抜きすぎてたかもしれない。
 思い起こせば確かに、3月いっぱいにしては、ずいぶん備蓄に余裕があるとは感じてたのよ。しかし、まさか、敵は海賊……もとい、身内にいたとはね。
 「その3人は、4月から正式に発足することになるルーファス分隊の構成員や。ただ、3月までは分隊組まんと、他のフォワード陣といっしょに、なのちゃんらの教導受ける予定やねん」
 そうだ! 4月になったら、分隊長ふたりは元の部に戻るはずよね? ティアナちゃんとスバルちんも、行き先決まってるし……。
 「うん、エイミィ姉さん、私は執務官として本局にティアナとシャーリーを連れて戻るけど……」
 「わたしは、もう一年、ここで分隊長を務めることになったんだ。フェイトちゃんから、エリオとキャロの指揮を引き継ぐ形だね」
 ……へいへい、みなさん、知ってたんですね~。何さ、私だけノケモンにしてさ、おねーさん、泣いちゃうぞ。
 なるほど、グリフィスくんの増員も、そういう意図があったのねー。これほどあからさまな布石に気付かないとは、いや、ホントにボケてたわ、私。
 「そうそう、新しいルーファス分隊の分隊長は、ギンガ・ナカジマ”陸曹長”やで。副隊長には、5月からチンクが着任する予定な」
 なんと! それじゃあ、ルーファスって、もぅ完全にナカジマ家分隊ね~。私はそういうの好きだけど、こりゃ、どっかからクレーム来そうだなぁ。
 「うん、そやから、頼りにしてるで、エイミィさん」
 はは……要するに私は根回し&トラブルシュート係なわけね、相変わらず。
 オッケー、りょーかい。それじゃあ、みんなで幸せになるために、もうちょっとだけ頑張りますか!

-END-
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以上。これでようやく第二部……というか本編は終了です。ちなみに、新生六課はメンバーは、以下のとおり。
ライトニング分隊:なのは、ヴィータ、エリオ、キャロ
ルーファス分隊:ギンガ(2年目後半に三等陸尉に)、チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ
ロングアーチ:エイミィ、マリー、シャマル、グリフィス、ヴァイス、アルト、ルキノ
部隊長:はやて(副官・リイン) 

このあと、約束の番外編2つは書くつもりですが、もうひとつ、ヴィヴィオとオリヴィエの話もおもしろいかな、とも思ってます。ふたりを同じ学校にするべきか悩んでますが……。
む、そういえば、ハラオウンさんちのアリシアちゃんも、ふたりの少し下くらいですね。この3人を幼馴染っぽく書けるとよさそうだなぁ。



[11715] 機動六課太平記 閑話-2 「十年おせぇんだよ!」
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:f24ef23a
Date: 2009/12/22 20:09
 中国のことわざに「小人閑居して不善を為す」というものがある。
 元は古典的な倫理書「大学」にある言葉で、「器の小さい凡人は他人の目がないと悪い事をしがち」と言った程度の意味だ。
 原作アニメにおいて「凡人」と言う言葉で連想されるのは、ティアナ・ランスター二等陸士だろうが、この「機動六課太平記」の世界に於ける彼女は、「恵まれた環境とたゆまぬ努力で、優れた実力を身に着けた秀才」というべき存在だと、彼女の義姉にして上司のひとりは発言している。
 実際、特別優れた血筋や固有技能も持たない身でありながら、単身で戦闘機人2体を抑え、最終的には2体とも沈めたという実績もあるほどだ。
 しかしながら、その発言をした当の本人自身は紛れもなく「凡人」で(いや、ある方面に限れば確かに才覚はあるのだが)、上記のことわざを体現するかのような勤務態度を示していたりするのだった。

  * * *   

 さて、時間軸はエピローグ後半の少し前、エイミィ副部隊長が、六課の2年目存続を知らされるひと月ほど前の話になる。
 「ほな、エイミィさん、お先ィ……って、あれ、エイミィさん、まだ帰らへんの?」
 「今日はそんなにお仕事ないはずですよ~?」
 珍しく事務仕事が少なく、早めに仕事がすんだはやてとリインは、定時を少し回った20時過ぎに同僚に挨拶をして隊舎から帰ろうしたのだが……くだんの同僚──エイミィ・ランスターが、まだ端末についていることを不思議に思った。
 事務処理能力にかけては、彼女はふたりの比ではないのだ。無論、そのぶん多めに受け持ってもらってはいるのだが、それにしたってふたりが自分の分を終えている以上、エイミィが遅れをとっているとは考えづらい。
 「今日は当直……でもないですよね?」
 最大の懸案事項が片付いたとは言え、一応身軽ですぐ動けることが身上の機動六課。非常時以外も、はやて、エイミィ、なのは、フェイトの4人(つまり指揮をとれる人間)のうちの誰かが、当直として夜勤番を務めるシステムになっている。
 しかし、それも今日はなのはの担当だったはずなのだ。
 「──へ? ああ、ゴメンゴメン。もしかして、心配かけちゃった? あはは、コレはね、その何て言うか」
 エイミィが、ちょっとバツの悪そうな顔で、説明しかけたところで……。
 キュインッ。
 「失礼します! モンディアル二等陸士ならびにルシエ二等陸士、書類の提出に参りました!」
 元気のいい声とともに、ライトニング分隊のちびっこカップルがやって来た。
 「あれ、そう言えば、タイムカードは18時で押してあるやん。もしかして、あの子らが来るから、エイミィさん、仕事終わったのに待ってたん?」
 「う゛……まぁ、それもあるにはあるんだけどね」
 何やら気まずげにうなずくエイミィを、リインは目をキラキラさせながら「エイミィさん、やさしーですぅ♪」とそんけーの眼差しで見つめている。
 「いやいやいや、リインちゃん、全然やさしくもエラくもないから! う~~はやてちゃんたちには、完成してから見せようと思ってたんだけど……ま、いっか」
 頭を切り替えた様子で、ニコやかにふたりのちびっこーズから書類を受け取るエイミィ。
 「ふたりとも、お待たせ……うん、希望書の提出、確かに受け取りました」
 「「はい、よろしくお願いします」」
 あいかわらず、呼吸の揃ったカップルである。この阿吽の呼吸は、あるいは姉妹であるギンガ&スバル以上かもしれない。
 「うんうん。それで、ティアナちゃんとスバちんは、来られそうだった?」
 エイミィの問いかけに、ふたりは顔を見合わせる。
 「ええっと……スバルさんが、ちょっと手こずってて……」
 「ティアナさんに怒られながら仕上げてましたけど……」
 と、そこまで言いかけたちょうどその時、話題のスターズふたり組もバタバタと入って来た。
 「すみませーーん、まだ、遅れてないですよね?」
 「大丈夫よ、義姉さん…いえ、エイミィ副部隊長は、こういう趣味の絡むコトならいくらでも待てる人だから」
 と、そこまで言ったところでティアナは、はやて達もいることに気付いたようだ。
 「あ……失礼しました、八神部隊長!」
 「あぁ、かまへんよ、楽にしてて。わたしらも、さっきタイムカード切ったさかい、今はオフタイムや。それより”趣味の絡む”ってのは何なん?」
 「は、はぁ……」
 口を滑らせた責任を感じたのか、義姉の顔を窺うティアナ。
 「あ~、いいよいいよ、はやてちゃんには、私から説明するね」
 ほんとは来週末あたりに派手にお披露目しようと思ってたんだけど、ま、ある意味いい機会だしね~、と言いながら、エイミィは手元の端末を操作して、壁際に大型スクリーンを投影する。
 スクリーンには、非常にリアルな(しかし、どこか人工的で3D-CGだとわかる程度のリアルさで)ミッドチルダらしき都市の町並みや荒野、地下道といった場所が次々に映し出され、やがてゆっくりとタイトルバックが浮かびあがった。
 「えっと……”Lyrical BASARA”?」
 「あぁっ! もしかして、エイミィさん、これって、ゲームなんか!?」
 リインの問いにエイミィが答える前に、どうやらはやてが正解に辿りついたようだ。
 「そ。まぁ、しょせんは趣味の領域だけどね~」
 いやぁ、もうじき引っ越しだから、こないだハラオウン家の方の部屋を整理してたんだけど、懐かしいゲームが出て来たんで、つい、コッチに持ち帰って、マリーやシャーリーたちと遊んでたのよ……と、嬉しそうに話すエイミィ。
 予想以上に盛り上がった挙句、どうやら「六課のメンバーを使ってこういうゲームができないか」と言う流れになったらしい。
 六課関連で屈指のプログラミング能力を持つメガネっ子ふたりと、プログラム能力もそこそこある上にゲーム知識が豊富なエイミィが組んだものだから、素人目にも、なかなかおもしろそうな代物が出来あがっているようだ。

 「現時点では、キャラの動き自体に関してはおおよそ出来ていて、あとは細かいバランスとゲーム性の調整をしてるところかな。舞台(ステージ)はこのアルファ版では、市街地と荒野、地下水路の3つしか入ってないんだけどね。
 ステージの残りについては、シャーリーが今週中に仕上げてくれることになってるし、私がキャラの調整を仕上げて、次の休みにマリーのトコで統合してベータ版が完成、そのままデバッグも兼ねて来週にはみんなにも見せようと思ってたんだけどねー」
 などと説明しながらも、エイミィの指はめまぐるしくキーボードの上を動いている。
 「へ~、そんなオモロイコトやってたんかー。わたしらにも教えてくれたらエエのに」
 「にはは、サプライズよ、サプライズ。でね、この子たちには、せっかくだからモデルになった本人としてテストプレイに協力してもらおうかと思ったワケ」
 はやてが4人のフォワード陣の方を見ると、4つの頭がコックリと縦に頷いた。
 「あ、せっかくだから、はやてちゃんもやってみる?」
 「エエのん?」
 パッと目を輝かせるはやて。エイミィほどではないにせよ、地球にいたころアリサやすずかの姉の忍に鍛えられたので、実は何気にはやてもゲームは好きなほうだ。
 「うん、初見でプレイする人の意見も聞いてみたかったしね」
 4人には、このあいだ基本動作はプレイさせてみたし……と続けるエイミィ。
 「そやったら、ぜひやらせて!」
 「オッケー。あ、おおよその操作は『戦●BASARA』と同じだから、はやてちゃんなら多分すぐ慣れると思うよ」
 デスクの引き出しから、エイミィはコントローラーを取り出す。
 ソフト会社じゃあるまいし、職場の机にコントローラーが常備されてるのってどうなの……と思うティアナだったが、空気を読んで口には出さない。
 なんたって、上司その1とその2が嬉々としてそれに興じているのだから。
 まぁ、一応勤務時間外ではあるし、自分以外の4人のお子様(スバル、リイン含む)もワクテカ状態なので、ここで咎めるのは野暮というものだろう。
 本音を言えば、彼女とて「自分がキャラクターとして出演するゲーム」というものに興味がないわけではないのだし。
 「タイトルどおり、コレは「無双」とか「BASARA」系の一騎当千アクションゲームね。ただ、各ステージ毎にボスが設定してあって、ボスとの交戦状態に入ると、若干作りが格ゲーっぽくなるから注意して。最初はとりあえず”STORY”モード選んでね」
 「ふむふむ、逆に言うたら、ボスにたどり着くまでは無数のザコが襲ってくるワケやな」
 「その通り。六課(ウチ)と敵対するザコって言えば……まぁ、アレよね、ガジェット」
 実際には、雑魚と言い切るには微妙に硬くてイヤな相手だったりするわけだが、ゲーム的にはデフォルメの対象としては、まぁ無難なところだろう。
 「キャラは六課のフォワード全員使えるん?」
 「最終的にはね。ただし、最初のデフォルト状態では、スバちんとティアナちゃん、それとエリオくんの3人に絞ってあるわ」
 ピッと、3人(のキャラクター)のステータス画面を表示する。

 「”スバル”は、近距離A+、中距離C、遠距離Eと、ほぼ近接攻撃に偏ったキャラね。そのぶん、「近づいて殴れ」ばいいから、初心者にもわかりやすいキャラに仕上げてあるわ。耐久Aだから簡単には斃れないし、移動速度もBと速めだしね」
 「なるほど、本人そのまんまやな」
 「あはは……」
 「あれ? でも、中距離は”ディバインバスター”だとしても、遠距離攻撃の手段って、スバルちゃんにあるですか?」
 リインの疑問に、エイミィはニヤリと笑って答える。
 「ふふふ、まぁ、ゲームだからね。一応は用意したわ。ホラ、これよ」
 ”ナカジマ式鉄球投擲形態!”
 「うわぁ、なんか鉄の球みたいなのブン投げとるーー!」
 「いやぁ、スバちんが遠距離攻撃するといえば、やっぱコレかなぁ、と」
 その時、エイミィとはやての頭には期せずして「零式鉄球」という謎の単語が浮かんでいたことは、ココだけの秘密だ。
 「で、でも、威力は凄いみたいですよ? ほら、ガジェットを3機まとめて貫通して落としてますし」
 気配りのできる10歳児、エリオが必死にフォローする。
 「ま、まぁ、確かに、この子の馬鹿力で物投げれば、下手なライフルや狙撃系魔法より恐いだろうけどね」
 さすがのティアナも、相棒の心情を気遣ってそんな風に言いながら隣りの顔を伺ったのだが……。
 当の本人は、むしろ期待度120%といった表情で目を輝かせている。
 「(そっかー、そーゆー手があったかー) はやてさん!」
 「ん? 何や?」
 「ヴィータ副隊長に、シュワルベフリーゲン使うときのコツとか、指導してもらうわけにはいかないでしょうか?」
 「え゛!? もしかして、マヂでアレ、ヤる気か?」
 誰もが「無茶な!」「無茶しやがって……」と思うこの発案だったが、後日、スバルは本気でヴィータに指導を依頼し、六課卒業寸前になんとかコレをモノにするのだった。
 後に「クーゲルフリーゲン」と命名されるこの魔法(魔法? ……いや、投擲自体は人の手によるが、加速と方向制御には魔法を使用しているのだ)は、特救入りしたスバルにとって、生身で突撃するのは危険な場所の破壊などでそれなりに役立った模様。人間、何が幸いするかわからないものである。

 「”スバル”に比べると、”ティアナ”は、ちょっと操作に癖があるかな。右スティック押し込みで……ホラこんな風に」
 「おぉ、ガンモードとダガーモードが切り換えられるんか!」
 「うん。やっぱ、ティアナちゃんと言えば、このモード変更がキモでしょ。ガンモードのときは近距離D、中距離B、遠距離Cで、ダガーモードだと近距離B、中距離D、遠距離-って能力値になるのよ」
 ただ、ふたつのモードを使い分ける必要があるぶん、操作難度は若干高めかも……っと、エイミィは説明する。
 「それにしても、義姉さん。あたし、さすがにあんなには射撃魔法を連射できませんけど」
 「うーん、このヘンのモーションは濃姫を参考にしたんだよね。ゲームだから、言っちゃいけないんだけど、あれだけの弾丸、どこに持ってるんだろーね」
 「あのキャラ自体、同じ会社の半人半魔がモデルやって話やしな。あっちは、わたしら同様、魔力で銃弾生成しとるらしいから、わからんでもないけど」
 「PSUのダブルハンドガンとかは、しっかりエネルギー切れ起こすんだけどね。このあたりはメーカーの個性だなぁ。ちなみに、ダガーモードの動きは、そのPSUのツインダガーも参考にしてるよん」
 ……などと言われても、地球産のゲームにさほど詳しくない面々には、サッパリだったりするのだが。
 「えっと……ティアナさんのワンハンドモードはないんですか?」
 キャロが恐る恐る尋ねると、エイミィがグッと右手でサムズアップする。
 「ナイス質問よ、キャロちゃん。そのヘンはあとでまとめて説明するから、とりあえず先にキャラ説明しちゃうわね」
 ──どうやら、あるらしい。

 「槍型のストラーダを得物にする”エリオ”は、近距離B、中距離B、遠距離Cと、近・中距離で実力を発揮するタイプ。バランスもとれてるし、こちらも比較的初心者に扱いやすいと思うわ」
 「ああ、なるほど。BASARAの幸村とか無双の趙雲とかやな?」
 「そうそう。唯一の欠点は、耐久がCと前衛系にしてはやや低めなところかな」
 「うーん、まぁ、そら、なぁ……」
 五段階評価でスバルをAとするなら、確かにエリオはCと言っても仕方ないだろう。
 「あ、あはは……精進します」
 「エリオくんは、頑張ってるよー」
 「ま、今はエリオも成長期だしね。あと3、4年もすれば、あたしよりは余程頑健になるわよ。スバルを抜くのは、ちょっと難しそうだけど」
 キャロとティアナが慰める。
 「ん? そう言えば、キャロはおらんの?」
 「”キャロ”はちょっとテクニカルキャラなんで、初期キャラには入れなかったのよ。そうだ! はやてちゃん、そのまま”エリオ”でプレイ始めてもらえるかな?」
 「うん、えーよ」
 と、いざプレイを開始すると、これが初めてのプレイとは思えぬ安定感で、はやては第一ステージを楽々クリアーする。
 「うんうん、エエ感じやで、エイミィさん。キャラの動きも軽快やし、操作もすぐに覚えられるしな」
 「あは、ありがと、はやてちゃん。ま、第一ステージは練習も兼ねてでボスもいないしね。そこでいったんセーブして、スタート画面に戻ってみてくれるかな」
 「おおッ、キャラ選択のアイコンが増えとる。コレ、キャロか? かわいいやん」
 キャラクター選択画面には、「new」の文字とともに明らかに1キャラクター選べる項目が増えている。デフォルメ化された”キャロ”の絵は、いっしょにいるフリードもあいまって、他の3人以上に愛らしさを感じさせた。
 「うぅ……なんだか、エイミィさんの愛情の差を感じるよぅ」
 「あきらめなさい、スバル。義姉(あのひと)、ロリコンだから」
 「ろ、ろ、ロリコンちゃうわ! ちっさい女の子を愛でるのが好きなだけよ!」
 「それを普通ロリコンと言うのでわ?」と皆の心がひとつになったのを感じたのか、エイミィはプイッと顔をそむけた。
 「うぅ……違うのに……もっとリリカルでハートフルな気持なのに……」
 「まぁまぁ、エイミィさん。リインはエイミィさんのこと信じてるですよ~」
 ポンポンとちっちゃい空曹長に肩を叩いて慰められて、エイミィもどうやら立ち直ったようだ。
 「えーと……コホン。つまり、”キャロ”は「”エリオ”で1ステージクリアーする」という条件を満たしたから、出現したわけよ。その他のキャラも、もちろん条件を満たせば登場するわ。
 たとえば、”エリオ”と”キャロ”でSTORYモードをクリアーしたら”シグナム”が、さらに”シグナム”でクリアーすれば”フェイト”が……ってな具合ね」
 「なるほど。じゃあ、スターズ分隊の場合は、あたしとティアでクリアーすればヴィータ副隊長が出て、副隊長でクリアーすればなのはさんが使えるってことですね」
 「スバル、惜しい! スターズの場合はちょっと違って、”スバル”でクリアーすると”ギンガ”が、”ティアナ”でクリアーすると”ヴィータ”が使えるのよ。で、”なのは”を使用可能にするためには、”ギンガ”と”ヴィータ”の両方でクリアーする必要があるワケ。
 で、”ヴィータ”と”シグナム”両方揃うと”シャマル”が、”シャマル”でクリアーすると”ザフィーラ”が使えるようになって、ヴォルケンリッター全員でクリアーしてると”はやて”が登場する仕組みね。
 ちなみに、”フェイト”と”なのは”の両方でクリアーすると、”アルフ”と”ユーノ”が使用可能になるわよ……”ユーノ”はシングルモードではかなりの弱キャラだけど」
 彼の本領は結界魔導師なのだから仕方あるまい。
 「なぁなぁ、ヴァイスくんとかは?」
 「”ヴァイス”の登場条件はちょっと特殊で、10回ゲームオーバーになるかコンティニューすれば登場するわ。こちらも、攻撃力はともかく移動と耐久がDのかなりのテクニカルキャラだけど」
 まぁ、狙撃兵なんて、もともとそーゆーものである。
 もっとも、協力プレイモードでユーノとヴァイスが組むと、なかなかの難敵になったりするのだが……。
 「で、ここからが隠しキャラね。これまでのは難易度NORMALなんだけど、ひととおりキャラが出そろった段階で難易度をHARDにしてクリアーすると、何人かのキャラはアナザーバージョンが使えるようになるのよ」
 「うんうん、お約束やな」
 「たとえば、”スバル”の場合は、両手ナックル&全力戦闘機人モード、”ティアナ”はさっき言ってたワンハンドガン&ソード切り替えモード、”エリオ”は高機動モード、”キャロ”はフォースモードね」
 「おおっ、そりゃ、燃えますね!」
 目を輝かせるスバル。
 「もちろん、”なのは”はブラスターモード、”フェイト”は真・ソニックフォーム。逆に”はやて”の場合はリインとの融合がデフォなんだけど、アナザーモードでは単体になって魔法制御力が落ちると言うガッカリ仕様」
 「そ、そらホンマにガッカリやわ!」
 「あ、でもその代り、その状態でクリアーすると新しく”リイン”を使えるようになるわよ?」
 「ふぁ、ファイトですよ、はやてちゃん!」
 (まぁ、リインもキャラ単体としてはすごくピーキーに仕上げてあるけどねー)
 ……とは口に出さないのがエイミィの優しさだろうか。
 「残念ながら、それ以外のキャラについては、コスチュームチェンジのみで性能差はないわね。ヴァイス(首都防衛隊制服)とかシャマル(白衣&六課制服)とか」
 ちなみにギンガはナンバーズスーツにしようかと思ったのだが、コチラではギンガ拉致事件が起きていないため、無難に「私服」ということにしてある。
 「えーっと、ここまでで……15人!? 隠しキャラを別扱いにしたら22人って、同人ソフトにしては豪華過ぎますよ!」
 本人いわく「不本意ながら」ティアナも義姉につきあわされて、それなりにゲームには詳しくなっている。同人どころか製品として流通しててもおかしくないそのボリュームに呆れてしまった。
 (ほんっと、”遊び”には労力を惜しまないんだから……)
 それをするだけの能力とツテがあるのが、この女性のオソロしいところだ。
 「あはは、まぁ、細かいことは言いっこなし。じゃあ、いろいろ遊んでみてよ。あ、2コン使えば協力プレイもできるよ?」

 ──なんだかんだ言ってノリのりいい六課の面々は、ワイワイガヤガヤと楽しげにプレイに興じる。
 「……そういえば、エイミィさんのキャラはないんですね?」
 ふと、思いついたキャロが問いかけると、ニヤリとエイミィが笑った。
 「うん、さすがに直接私を操作キャラとして入れると火引ダン以上のネタキャラになっちゃうし、その方面は”ユーノ”で間に合ってるしね。
 でも……エリオくん、タイトルに戻って「Create Character」を選んでみてくれる?」
 「あ、はい」
 エリオが言われたとおりに操作すると、画面がオリジナルキャラクターを作成するモードに切り替わった。
 「そのモードの、女性キャラのデフォルトの外見が、一応私をモデルにしてあるんだよね~。あ、ちなみに男性キャラはウチの旦那さんね」
 なるほど、確かにブラウンのセミロングの髪と六課の制服を着た女性キャラクターは、エイミィに見えないこともない。首都防衛隊制服の男性キャラも、そう言われればティーダっぽい。
 もっとも、髪型や髪の色、目の色や体格などは変更できるのだが……。
 「オリキャラは最初魔導師ランクDだけど、Storyモードをクリアーして経験値積むことで少しずつ成長して、カンストさせればBくらいには届くはずだよ」
 まぁ、そこまでするには、慣れた人でも30時間くらいプレイしないといけないけど……と苦笑してみせる。
 「そこまで育てて、ようやく初期のエリオくんたちと互角ってところかな。ましてその他のキャラだってミッションで成長させられるしね」
 微妙なところで奥ゆかしいと言うかリアリティーを重視するエイミィだった。

  * * *   

 さて、それから半月後。
 無事にあのゲームは完成し、関係者各位にプレス版が1本ずつ配られた。
 素人(と言うのもアレだが)の作った作品としては、それなり以上の好評を得たし、スバルをはじめ何やらインスパイアされた面々もいる様子。エイミィたちも概ね満足だった。
 ──まぁ、ごく一部からは不満の声も出たわけだが。
 「エイミィさんヒドいよ~! どうしてわたしが魔王(ラスボス)なの!?」
 そう、各キャラのストーリーモードの最後の対戦相手は、本人含め”なのは”だったりするのだ。
 「いやぁ、そうは言っても、さすがに史実どおり、"あの娘"をラスボスにするわけにもいかないでしょ?」
 無論、養母としての心情的なものに加えて、機密保持の点でもさすがに"偽聖王"を出すのはヤバい。
 そこで、「これまでのバトルは、高町教導官監修の、JS事件に範をとったバーチャルトレーニング」という建前にして、なのは自身が最終関門として最後に立ちはだかる……という形にしたのだ。
 はやてやフェイトら隊長格に関しては、「部下達に試させる前の試運転」というシナリオにした。
 ただし、なのは自身のストーリーだけは別で、「部下たちには稽古をつけ、隊長&副隊長とはマジな実戦訓練」と言う話になっている。最後のナノハ(2Pカラー)は、「なのはの戦術・戦闘能力その他を120%再現したコピーロボ」だ。
 もちろんこれはこじつけで、実際にはエイミィが「管理局の白き魔王」を密かに再現したかっただけだったりするのだが。
 そんな裏の思惑を知らないなのはは、エイミィ以外のメカフェチ娘ふたりからそういったバックストーリーの説明を受けて、渋々納得はしたのだ。
 ──その場は。

 しかしながら、関係者オンリーだったはずのそのソフトが、どこからか外部に流れ、「実在のエースたちをモデルにした神ゲー」として、ミッドチルダのネット上で話題になることまでは、さすがのエイミィも想定外だった。
 ゲームの影響で、若きエース・高町なのはの異名のひとつとして「管理局の白き魔王」が広まり、なのは本人がorzな状態になったのは……なんと言うかまぁ、ご愁傷様としか言いようがないだろう。


-ぐだぐだのままFIN-

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以上、クリスマス記念の悪ノリ番外編でした。

ちなみに、ゲームの影響は六課内部でも意外と大きく、スバルの「クーゲルフリーゲン」はもちろん、キャロが本格的にギンガからシューティングアーツ習い始めたり(しかも意外と筋がいい)、エリオが某サンライトハート改の如くストラーダの大きさを変えて剣っぽくできるよう試行錯誤してたり(一応、成功して、シグナムが剣技を指導中)。
「なのは」のマンガ版では、総合力で負ける相手に対してなのはは「自分の長所を伸ばして勝てる局面を作る」ことを指導してたみたいですが、本作のエイミィは「持てる手札を増やして相手を翻弄し、隙を作る」ことを選んだワケです。
切り札隠して揺さぶった揚句、隙を見て切り札や隠し技でトドメ……というのは、本作のエイミィらしい思考方法かな、と(笑)。
まぁ、それ(新スキルの獲得)は時間的猶予がないと出来ないことなんですけど、幸いこの物語では、比較的余裕がありますしね。

あとひとつ、ヴィヴィオたち年少組が小学校に上がる頃の番外編を書きたいとも思いますが……いつになることやら。


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