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[11826] Soul Song(ワンピース・オリ主)
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/03 11:10
この度チラ裏から来ました、ソリトンと申します。

SSを書くのは初めてですので、至らない点が多々あると思いますが、どうかよろしくお願いします。

読む前の注意点

・オリジナル主人公です

・中二かもしれません。いろいろと。

それでもいいという方はどうぞ。

辛口でも構いませんので、感想をどうぞお願いします。

感想が増えると作者のやる気もうなぎ上りですので。


では。




[11826] プロローグ
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/13 20:33

「…………あれ?」




青年が気が付くと、見知らぬ部屋のベッドの上だった。


規則正しく感覚を刺激する緩やかな揺れを感じることから、此処がどこかの船の上ということが分かる。


もっとも最後に船に乗ったのはおよそ三年ほど前であるから、もしかすると外れているかもしれないが。

とにかく現状を確認しなければと身を起こす、が。

「痛っ!…………包、帯?」

腹部に走った激痛により、中々うまくはいかなかった。


痛覚と無言の格闘を続けること数十秒、何とか身を起こすことに成功した青年はそっと自分の腹部に手をやり、そこに丁寧に巻かれた包帯に気が付く。


何故に包帯? と疑問に思うも、激痛が走ったということは怪我をしている訳であって、治療のためと考えれば説明が付く。

だが、何故怪我をしたのか? と言われれば首を捻るほかない。


「確、か…………」


そう。自分は武道館でライブをやっていた筈だ。

中学二年にして全国デビュー、その後4年間も国民的な歌手として歌い続けた、という宣伝効果もあってか、かなりの人数が集まり、そして……………

「ああ。刺されたんだっけか、俺」

思い出した。

サービスという名目で客席に下りた際、一人の女が持っていたナイフで腹部を刺されたのだ。

目が怖いよ………と関係ないことを考えながら意識が遠のいていったのは覚えている。

だが、そこから先は記憶が無い。

とすると、今のこの状況はなんだろう?

病院でもないみたいであるし、自宅でもない。

まさか誘拐? とも考えたがそれは少し自意識過剰と思い却下。


「……………う、思い出さなければよかった」


自分で思い出したくせに、勝手に怖がっている青年。どうやら、軽くトラウマになっているようだった。


と、青年が頭を抱えていると、不意に木製のドアが開かれて一人の男が顔を出した。


「お、起きたのか。オヤジィ!! アイツ、目が覚めたぜぇ!!」











「よお、坊主。無事で何よりだ」

「助けてくださったのは貴方でしたか。どうもありがとうございます」

あれから青年は男に連れられて、この船(やはり青年の予測は当たっていた)の船長―――「オヤジ」とやらに会わされていた。

連れてこられる最中に青年が気付いたのは、異様にアンティークな船、というものだった。

何しろ、全てが木造。しかも帆まで付いており、完全な帆船だったのだ。

しかし自分を拾ってくれたのは事実であるようだし、とりあえずは素直に礼を述べる事にする青年。

とりあえず日本語が通じたことに安堵する。


そこで新たな感想、この「オヤジ」という男、すさまじく大きい。

何がって、身体が。

しかし結構な年のようで、巨体のあちこちに点滴が打たれていることからあまり健康ではないのかもしれない。

ただ、「オヤジ」の世話をしているであろう豹柄タイツナース服のお姉さんだけはナイスと密に思っている青年だった。

「質問なのですが、ここは一体何処なのでしょう? 自分が前に居た場所とは、かなりかけ離れているようなのですが」

心中は邪でも、確認すべきところはしっかり確認する。

この辺りは、競争の激しい業界を渡ってきただけのことはある。

「グラララララ……………オメエ、何も覚えてねえのか」

奇妙な笑い方をした後、「オヤジ」は何か引っかかる言い方をした。

そして聞かされる驚愕の事実。

聞けば、「オヤジ」の船の船員が海に漂流していた青年を発見。見捨てるのも忍びないということで、救助、手当てをしたということ。

そこまででも中々信じられない。海を漂っていた、ということは青年が海に捨てられたということになる。

まさか身投げした記憶などもないし、腹部の傷があのライブであったことを現実だと物語っている。

だが、彼の次の言葉で青年は本気で驚愕することとなる。


「オヤジ」は、なんと海賊だというのだ。

海賊。

二十一世紀になった現在でもその存在がいることにはいるが、間違ってもこんな帆船で航海したりはしていないはずだ。

だが、自分と「オヤジ」を取り囲む男たちはいずれも風貌が悪い者が多く、船員だけを見るなら海賊といっても差し支えないかもしれない。

帆を見てみれば、成程、先ほど気が付かなかったのがおかしい位に堂々と、三日月状の白いヒゲを生やした骸骨が風に舞っていた。

それは、何処と無く目の前にいる「オヤジ」に酷似していた。

海賊、と聞いた瞬間全力で逃げ出したかったが、本当の悪党ならば自分を手当てなどするまい、と考えて踏みとどまる。

まあ、現在位置は船の上であるし、少なく見積もっても数百人はいるであろう船員から逃げおおせるはずもなかったのだが。

加え、現在の位置は「偉大なる航路」というらしく、日本という国など聞いたこともないという。

だったら何で日本語通じてんだよと突っ込みたかったが、いくら考えてもその答えは出ない。

その上「オヤジ」の言う地名なども青年は聞いたことも無く、そのことが益々彼を混乱させた。




「ん? 何だ、オメエ迷子か? グラララ………」

説明を終えた後、呆然としている青年に向かって「オヤジ」は笑った。

とは言っても別に他意はなく、単純にからかっているだけのようであったが。


「はい…………どうやら、そうみたいです」

沈痛な面持ちでなんとか言葉を搾り出す青年。

その表情は、まるで親に捨てられた子供。

だからこそ、「オヤジ」は迷子と表現したのかもしれない。


「坊主、お前名前は?」

不意に、こんな言葉が投げ掛けられた。

質問したのは、相変わらずこちらを見据えている「オヤジ」。

自分の状況が理解できず混乱していた青年だったが、質問は理解できたらしく

「秋葉。妙弦 秋葉です…………」

「おれはエドワード・ニューゲート。「オヤジ」って呼ばれてる」

互いに、初めて名を名乗る。

別にそこに特別な意図などなく、最低限必要なコミュニケーションだと感じたのだろう。

青年は、そこに込められた意味に気が付かなかった。



「オヤジ」にとって、自分の船に乗っている船員は全て「息子」。

故に、目の前の「迷子」を目にしてすることなど一つしかなかった。





「アキハ。お前、おれの息子になれ」




[11826] プロローグ2
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/17 22:38

秋葉――――――ミョウゲン・アキハが海賊、「白ヒゲの一味」に加わってから三ヶ月。

最初は海賊ということで若干抵抗があった彼だが、少しずつ船員たちと接触することによって、徐々にそれが先入観だったということに気付いた。

海賊といっても、この船は「同業者」しか襲わない。

時には、別の海賊に襲われている商船などを助けるときもあるくらいだ。

加えて、この船の乗組員たちは基本的に無用な殺生はしない。

海賊ゆえに人を殺すときもあるが、それは本当に必要なときだけだ。

初めての戦闘のときは人の死体を間近で見てしまって後で嘔吐したが、その時も本気で心配してくれる。

仲間意識が強いのだ、この船の仲間は。

それは、誰にでも平等に「息子」という白ヒゲの存在も大きいのだろう。

アキハを「息子」―――――すなわち一味に入れることに、一切の迷いも見られなかった。

恐らく直感と気分で決めたのであろう。

アキハがもし自分がスパイだったらどうするのかと尋ねたところ、「スパイごときに見られて困るものは何もない」との答えが返ってきた。

身体ばかりではなく、器もまた大きい男だった。




で、この三ヶ月アキハが何をやっていたのかというと。




「なあアキハ、アレ歌ってくれよ」

「バカ言え、アキハはおれと踊るんだ!!」

「止めとけ止めとけ。アキハはともかく、お前の踊りなんざ誰も見たくねえって」

「おおーい、ギター持ってきたわよー!!」

「勝手に持ち出すな、バカ!! そりゃアキハのだ!」







この通り、所謂「アイドル」となっていた。

元々が日本に生きた歌手である以上、彼に戦闘能力などあろうはずもない。

そこで自分に出来ることは何かと考え、出した答えが戦いに行く船員たちを勇気付けること。

幸い自分は歌手。

基本的にノリが良く、騒ぐことが大好きな海賊たちであるので、アキハが人気者になるのにそう時間は掛からなかった。

その細身で美形である容姿と、あまり人見知りしない性格も、人気の理由の一つだろう。

もちろんただ歌っているだけではなく、自分で楽器を演奏したり、踊ったりすることもある。

困った点といえば、海賊たちの趣味に合うような歌が、自分の持ち歌では少なかったことか。

まあ、そこは知り合いにアニソン歌手がいたのでそこから選ぶときもあるし、大した問題ではない。

他にも、掃除・選択など、割と雑用気味なことまでこなしている。

命を助けてもらった上、食事まで貰っているのでこれくらいはしないと割に合わないと感じたのだろう。



突如として見知らぬ世界に飛ばされたアキハだが、不思議と寂しいとは感じなかった。

元居た世界では人気歌手であるが故の多忙、それに伴う睡眠不足などストレスが多すぎた。

両親が離婚し、女手一つで自分を育ててくれた母親が既に死亡していたことも理由の一つだろう。

忙しいスケジュールの圧迫感から解放された今を、アキハは新鮮に感じているのだ。

ついでに言うなら、仲間たちが繰り出す摩訶不思議な技や、恐竜かと思うほど巨大な「海王類」と呼ばれる生き物たちがアキハの好奇心をくすぐったのだ。

それは、彼が久しく感じていなかった「自由」そのものだった。










さらに半年後。


「おいおい、もう終わりか? やっぱり女みたいに細い身体じゃ、この程度か?」

「ハァ………うるさい…………ハァ………まだまだだ………!!」

とある島の砂浜で、一人の男と組み手をやっているアキハの姿があった。











時を遡ること五ヶ月前。

アキハの乗る二番隊の船が何時ものように海賊と戦闘になり、皆が戦っていたとき。


ちょっとした好奇心からか、アキハはいつも居る見張り台から降りて戦場となっている敵船に近付いていった。

そして運が悪いことに、彼は敵に見つかり、人質となってしまったのだ。

幸いアキハは助けられたものの、普段なら出るはずの無い怪我人をだしてしまったのも事実。

仲間たちは誰も気にしてはいなかったが、アキハは違った。

「もう二度とこんなことはしない」と思うよりも、「仲間たちに迷惑を掛けないような力が欲しい」と感じるのが先だった。


そして彼は友人でもある二番隊隊長、ポートガス・D・エースにこう頼んだのだ。

「戦い方を教えて欲しい」と。

最初は全員が口を揃えて「そんなことをする必要は無い。自分たちが守る」と言っていたのだが、その中に女性も混じっていたことがアキハの決意を更に硬くした。

「自分が守る」系の言葉は、男が女に言われたくない言葉ベスト三に入ると思う。

例えそれが海賊でも、その気持ちは変わらない。

やがてエースの方もアキハの熱意に折れ、渋々ながらも戦闘訓練を施すことになった。





最初の四ヶ月は、身体作りと共に戦闘の知識を叩き込まれた。

何しろ元が全くの素人であるので、戦場で注意すべきことなど教える事柄が多いのだ。

エースとしても、どうせやるなら生半可な気持ちでやるつもりもないし、何より友の頼みだ、起きているときは殆どアキハに付きっ切りだった。

女性クルーの中にはそんな二人の様子を見て怪しい妄想をしている者もいたが、二人はそんなことも気にせず黙々と訓練を続けていく。


その間にも、アキハは全身を襲う激しい筋肉痛に耐えながらも、今までの仕事を欠かすことがなかった。

彼に言わせれば「戦闘訓練はあくまで自分の我侭。仕事は別にやらなければ気がすまない」ということだったが、クルーたちは感心していた。





そして現在、やっと最低限の身体が出来上がったアキハは、こうしてエースと実戦形式の模擬戦を行っていた。

そこでアキハが気付いたのが、自分の身体の異常性。

日本では筋力トレーニングを行ってから半年は効果が出ないというが、この世界では殆どすぐに効果が現れたのだ。

しかも、やたらと疲労や傷の回復が早い。

腹部の刺し傷も、もうすっかり完治している。

エースによれば、これが「標準」らしいのだが…………改めて、この世界の「異常」に気が付いたアキハだった。


まあ、それはともかく。




エースは、強い。

若くして白ヒゲ海賊団の二番隊隊長を任された男だ、当たり前といえば当たり前なのだが、自分と同じ位の年齢の男とこれほどまで違うとは思わなかった。

基本的な身体能力も異常なほど高いが、なんといっても彼の実力の真骨頂は「メラメラの実」にある。


悪魔の実。

アキハがおよそ現物を見るまで信じられなかったのが、この海の秘宝である果実である。

これを口にしたものは海に嫌われカナヅチになるのと引き換えに、様々な能力を手にすることができるというものだ。

その種類は現在確認されているだけでも百種類を超えており、まだ様々な謎に包まれている。

エースが食べたのはその中でも最強といわれる「自然系」の一つで、その身を「炎」に変えることが出来る能力を手に入れた。

その威力は言わずもがなで、敵船を一撃で五隻も沈めるほどだ。



と、このようにかなりの力を得ることが出来る悪魔の実は大変貴重なのだが、白ヒゲの船には何故かその悪魔の実が数個保管してある。

船内では「見つけた者が口にしていい」ルールだが、誰もカナヅチになってまで食べようとは思わなかったらしい。

「オヤジ」曰く、食べても十中八九弱くはならないらしいが、海賊にとって泳げないというのはかなりのハンデだろう。



話を戻そう。


無論、アキハと組み手をするとき、エースは実の能力を使っていない。

まあ、能力なしでも彼は二番隊でかなり強い方に位置する。

そう考えると、エースに師事出来るという事はかなり幸運だったのかもしれない。



「おおらぁ! また腰が開いてるぞ!!」

「ぐっ!!」




教え方はかなりスパルタであるが。

彼曰く、「体で覚えなければ何事も身につかない」とのこと。

成程、言われてみれば歌の練習にも通じるものがある。

だが、毎日毎日顔中が青痣だらけになるのは勘弁して欲しいものだ。















そんな訓練が続いていたある日。

白ヒゲ海賊団二番隊の船は、とある無人島に停泊していた。

そして、その浜辺に降り立つ人物が二人。


「さて、嫌な予感しかしないんだが、気のせいか?」

「いや、その通りだ」


こめかみにデッカイ冷や汗を流すアキハと、ニヤニヤしながら目の前に生い茂るジャングルを見て心底楽しそうに言うエース。

そして、無言で彼がアキハに手渡したのは一振りのサバイバルナイフ。


「…………一応聞いとこう。なんだ、これは?」

「ナイフ。猛獣でも出たら大変だろ? お前じゃ」


何を当たり前のことを、と言わんばかりにアキハの目を見つめるエース。

笑ってはいるが、その目に冗談の色は感じられない。

「じゃあ、一ヶ月後にまた迎えに来るから」

そう言ってアキハに背を向ける。

今だけは、その白ヒゲマークが刻まれたエースの背中にアキハは本気でナイフを突き立てたくなった。

「おい待て!! それはこの島でサバイバルしろってことか!? ナイフ一本で!?」

「ま、待て。よく聞けよ、アキハ」

半ば無意識にナイフを振りかざしていた彼に、エースは冷や汗をかきつつも反論する。

「おれも色々考えたんだが、ここらで一つテストをしようと思う」

いつになく真剣な表情を見せるエースに、アキハも喉まで出掛かった言葉を飲み込む。

「お前が真剣に戦い方を学びたいなら、結局は実戦を経験するしかない。だが、今のお前では実戦に出ること自体が自殺行為だ」

己の力量を分かっているのか、大した反論もせずにアキハは続きを促す。

「このサバイバルで、お前は「生きる術」を学ぶことが出来る。食糧の確保はもちろん、強敵から逃げて生き延びる方法までな」

言われてみれば、一理ある。

こと生き延びるという事において、サバイバルはかなり効率がいい。

その分失敗すると「死」のみだが、失敗したらそれまでという事だろう。

なにより、エースの眼が語っている。


これ位で失敗するようなら、海にひしめく猛者たちを相手に戦うことすら出来ないということだろう。







「……………分かったよ、一ヶ月だな」

「ああ。健闘を祈る」


半ば諦めたように言うも、表情は生前触れることすら出来なかった大自然に対して輝いてる。


エースの船が去り、無人島に一人残されるアキハ。



「さて、精々生き残るとしますか―――――――――」


無人島サバイバル、開始。












あとがき

今回はちょっと展開が早いかも。

感想下さった方々、ありがとうございます。

しかし、「ウタウタの実」…………かぶっちゃったZE☆

これからしばらくプロローグが続くと思います。

では、また次回。



[11826] プロローグ3
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/22 21:33


「おおおおぉぉぉぉぉっ!?」

無人島サバイバル三日目、彼――――ミョウゲン・アキハは走っていた。

それはもう、たとえ踏み切りで列車が迫っていようとも構わず走り抜けるほどの勢いで走っていた。

彼の背後には、全長三メートルはあろうかというほどの―――――ウサギ。

そう、ウサギである。

たかがウサギと侮る無かれ。

この個体ほどのサイズになれば、圧し掛かられただけでも相当の傷を負う。

更に、その可愛らしい口元から覗く鋭く尖った前歯。

剃刀のように鋭いそれは、掠っただけでも酷く出血するだろう。

「えええぃぃっ!! ウサギだろ!? 俺じゃなくて人参食ってろよ!」

そんな事を叫ぶアキハだが、ウサギに言葉が通じるはずも無い。

ウサギに害意はなく純粋に好奇心からの行動だとはうっすら分かってはいる。

いるのだが、元現代人からしてみれば猛スピードで迫り来る白い物体には恐怖心を抱かずには居られない。

サイズが大きくなったとはいえ、ウサギの走る速度は速い。

しかしこうして何とか鬼ごっこを出来ている辺り、エースの特訓の成果は出ているのであろう。


「ぜぇっ…………ぜえぇっ…………ちょっと、キツイ………」

本人は、気にする暇もないほど切羽詰っているようであるが。


「ええぃくそぉっ!! 逃げてばっかりじゃ埒が明かん!!」


急に立ち止まり、エースから与えられたナイフを腰のベルトから引き抜き木の枝に飛び移る。

「覚悟しろ、純白の物体A!! すぐに食糧にしてやるからなぁ!!」

目をギラつかせて獲物を見るアキハ。

ウサギも雰囲気を感じ取ったのか、それとも空気を読んだのか、立ち止まって四肢に力を入れた――――ような気がした。




















「ぜぇ…………やるな、お前」

「モフッ………モフッ………」

ジャングルの中の開けた場所に、アキハはウサギをソファー状態にして倒れていた。

双方とも重傷こそ負っていないが、身体中擦り傷・打撲・泥まみれである。

おまけに疲労困憊。

だが心なしか何かをやり遂げたような清々しい顔をしている。

数時間にもおよぶ激闘の末に、本人たちにしか分からない何かが芽生えたようだ。

「……………イカン、腹減った」

「モフッ」

分かっているのかいないのか、アキハの呟きに大して反応するウサギ。

ウサギの鳴き声って「モフッ」だったっけ? などと考えながらもアキハは立ち上がり、今日の食糧を確保するために歩き出す。

基本的なサバイバル知識などはエースに叩き込まれたため、今の所は苦労していない。

まあ、今回のように猛獣襲来(?)が無い限りなんとか生き延びることができそうである。

「じゃあな、お前。中々気持ち……………?」

そう告げて立ち去ろうとするアキハだったが、件のウサギは彼の服の袖をくわえて引き止める。

怪訝そうな表情をして振り返るアキハだったが、そこにはただじっと彼の目を見つめるウサギが。

「どうした? お前も腹減ったのか?」

半ばからかい気味に言ってみるも、ウサギに言葉が通じる訳も無い。

心なしかウサギの瞳が潤っている気がしないでもなく、どうやら懐かれてしまったらしい。

しばしの葛藤の末、アキハは結論を出した。

「…………はぁ、メシだけだぞ」

無人島で一人で居るよりもいいか、と考え、彼はウサギを連れて行くことにした。























「おい、起きろカロット。朝だぞ」

サバイバル二週間目。

朝日が差し込む洞窟の中で、アキハと一匹は目を覚ました。

あれから考えた末、ウサギの名前は「カロット」に決定した。

ウサギ→ニンジン→キャロット→カロット という順である。

この安易さから、アキハも大概いい加減な性格であることが分かる。

断じてカ○ロットから取った訳ではない。

しかしこのカロット、ふたを開けてみれば中々有能で、ウサギのクセに鹿などの食糧を取り押さえたり、キノコなどを見分けて採ってきたりしてくれる。

何故ここまで懐かれたのかは不明だが、とりあえずはアキハのいい相棒というポジションに落ち着いているカロットだった。


「さて、今日も生き延びるとしますか」


セリフとは裏腹に、その表情は緊張感というものが微塵も無い。

顔を洗うために小川へ向かおうと立ち上がる。

いつもならカロットがその後ろを付いてくる筈なのだが、今日に限っては何故か動こうとしなかった。

声をかけても、梃子でも動かないといった風だ。

これ以上ここにいても仕方ないと判断し、アキハは一人で小川に向かった。

途中、カロットの引き止めるような鳴き声が聞こえたが、意にも介さなかった。



―――――――――――――――それが、間違いだった。















洞窟のある岩場から歩いて十分ほど、ジャングルを抜けた先にある小川は、アキハだけではなく小動物なども利用するのが常である。

しかし、いつもなら彼が来たと同時に蜘蛛の子を散らすように逃げていく動物たちが、今日に限っては一匹も見当たらなかった。




………………否、一匹だけ居た。

しかし、ソレが果たして「動物」というカテゴリーに入るかどうかは甚だ疑問だったが。




小川で水を飲んでいたのは、およそ通常とは比べ物にならない大きさのイノシシ。

正面から見ただけでも肩までの高さは五メートルほど、全長はもっと長いであろう。

口元から覗く牙は象牙もかくやというほど長く、また尖っていて、殺傷力という点では圧倒的に勝っている。

体毛は白。カロットといい、白い動物は巨大な個体が多いのだろうか。

ではなく。



ソレを見つけた瞬間に固まったアキハと、丁度水を飲み終わって顔を上げた白イノシシの、目が合った。

ばっちりと。

「…………」

無言で見つめあう二人。

アキハの額にデッカイ汗が浮かんでいるのは気のせいではない。

やがて、彼の方がゆっくりと後退し始め、フェードアウトしようかという所で―――――――


「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


イノシシが、吼えた。

それはもう、およそイノシシとは思えない鳴き声、音量で。

音が空気を伝わり、遠く離れたアキハの鼓膜すらも破ろうかというほどの咆哮。

遠くのほうで鳥が驚き羽ばたいたようだが、今のアキハにはそれを気にする暇もないし、気付ける程の余裕も無い。

ひとしきり鳴き終わると、白イノシシはアキハに向かって猛烈な加速を始めた。

目の前に立っている木々をなぎ倒し、ただ一直線に彼の方へ突進してくるその姿は、イノシシというよりもサイに近いだろう。

ただ言えるのは、どちらにしても標的になった人物にとっては、災難以外の何者でもないということだ。


「ぶるあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おっっっっことぬしさまぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


―――――――アイツ、コイツの気配知ってて残りやがったなぁっ!!

とりあえず洞窟に残してきた相棒を後で殴ることを決意しながら、アキハは全身全霊を懸けて走った。

















さらに二週間後、エースと約束した浜辺にて。

無事、といえるかどうかは疑問だが、とにかく一ヶ月サバイバルを終えたアキハは、カロットを伴って砂浜に立っていた。

上半身は裸で、あちこちに黒い布切れが包帯代わりに巻いてあることから、おそらく衣服は包帯になったのだろう。

そしてその背後には、彼の全長よりなお長い白く輝く牙が突き刺さっていた。


二週間前、白い巨大なイノシシ―――――――アキハ曰く、「主」――――とファーストコンタクトをした彼は、なんとかその場は逃げ切ることに成功した。

まあ、「主」の巨体では洞窟に入りきれなかっただけなのだが。

しかし、だがしかし。

二日後、三日後も同じ場所で水を飲み、さらに昼にはその周辺を徘徊しているとあっては、落ち着いて生活できないとアキハは考えた。

考えた末の結果が、討伐。

何を血迷ったか、たかが刃渡り二十センチのサバイバルナイフで、全長五メートルはあろうかというイノシシに挑んだのだ。

無論、結果は惨敗。

あわや殺されようという所で彼を救ったのは、野獣の如き速度を持ったカロットであった。

逃げ切り、洞窟で目を覚ました彼であったが、なおも懲りずに再戦。

その後も撤退と攻撃を繰り返し、ようやく七日目にして討伐に成功した。

それには、相手の注意を引き付けてくれたカロットのおかげもあるだろう。

最後の方になると、ナイフだけではなく折れた木の枝なども槍代わりにして挑んだ。

そういうアイデアを思いつく辺り、アキハは結構才能があるのかもしれない。


倒した死体は食糧にし、皮は寒かったのでコート代わりに。

包帯代わりに使っていた上着はボロボロで、もはや服としての機能を果たしていなかったのだ。

肉の方もさすがに一人では食べ切れなかったので、残った部分は森の養分に。

捨てたとも言うが、それは意識の違いだと思いたい。

勝利の勲章として、純白の巨牙の一本は根元から持って帰ることにした。





「プハハハハハッ! ひっでえ格好だなぁ、アキハ!」

迎えに来たエースの第一声がこれである。

アキハでなくとも、張り倒したくなるだろう。

「…………誰がこんな格好にしたと思ってるんだ、え?」

冷たく吐き捨てつつも早速殴りかかるアキハ。

以前よりも格段に速度が増した拳に、このサバイバルも無駄ではなかったと感じながらも、エースはアキハの拳をいなして投げ飛ばす。

「チッ」

「まだまだおれには届かねぇよ…………だが、一応は成長したみたいだな」

地面に大の字に横たわり、舌打ちしつつ顔をしかめるアキハに、からかう様に笑いながら見下ろすエース。


「一ヶ月、ご苦労さん。これから、ビシバシ鍛えていくから、今日はしっかり休めよ」

そう言ってアキハを抱え起こし、二人して船へと戻っていった。

アキハはエースの問いには答えなかったが、その表情が「望むところ」と語っている。









まあ、結局その日は「アキハが帰ってきた」宴で皆にもみくちゃにされ、休むどころではなかったのは別の話ということにしておこう。








あとがき

お久しぶりです。

やっぱり展開が早いかも。


感想、ありがとうございます。

これを励みにして、ますます精進したいと思います。








[11826] プロローグ4
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/24 21:38
二年後。

白ヒゲ海賊団の一員として違和感無く受け入れられ、海軍にもその名を知られることになったアキハ。

当然というか、戦場で歌を歌う彼の姿は海軍にも目立つ。

更に言うなら、彼の歌声には言葉では表現できない、所謂「不思議な効果」があった。

歌を聴くだけで眩暈がしたり、身体が痺れたり、意味も無く踊りたくなったりと、白ヒゲ海賊団二番隊の船に近付く者は悉くその身体に異常をきたすこととなった。




超人系悪魔の実・ウタウタの実。




アキハがとある島を探索中にソレを見つけたのは本当に偶然だったが、その能力を得たことは必然だったのかもしれない。

既に図鑑に載っていた実で、その正体は分かっていた。

ソレが分かるや、アキハは何のためらいも無くその実を口にした。

泳げなくなるデメリットはあるが、この船に居る限り仲間たちがアキハが海に落ちるような事態を許すわけが無い。

いささか軽率だとは自分でも思ったアキハだが、後悔はしていなかった。

自分の役割は未だ「歌を歌うこと」。

エースの修行を一年半も続けているとはいえ、まだまだ「偉大なる航路」の海軍将校や海賊の頭を相手に出来るレベルではないのだ。

しかし、この悪魔の実の能力があれば近付かずとも仲間を援護したり、敵を攻撃したり出来る。

まあ、とはいっても歌声が聞こえる範囲にしか効果はないのだが、とある島で入手した「マイク」によってその問題も解決した。

海賊時代にマイクが存在することに少しは驚いたアキハだが、この世界ではそんな事を一々気にしていては疲れるだけだと思う辺り、彼も中々この世界に慣れたようだ。

染まってきた、のかも知れないが。


それはともかく、戦場において不特定多数の人間に影響を及ぼすアキハの存在を海軍が無視できるはずもない。

下手を打てば兵士を洗脳、クーデターを起こさせる可能性もなきにしもあらずと考えた海軍上層部。

そしてその結果が。








「見ろよ! アキハがお尋ね者になったぜぇ!!」

「おお、やっとか! じゃあ、今夜は宴会だ!!」

「……ま、気にしても仕方ないか、今更……………よっしゃぁ、お前ら!! 今夜は「死歌」の歌、メドレーで聞かせてやるぜ!!」

「「「アキハに! 乾杯!!」」」







「死歌」 ミョウゲン・アキハ

懸賞金、四千九百万ベリー。














偉大なる航路、とある海域。

気候はポカポカと日差しが気持ちよく、どうやら「春島」が近いようである。

海上を行く白ヒゲ海賊団二番隊の船もその陽気にさらされ、船員たちは皆甲板上でのんびりしていた。


「あぁ…………極楽」

「ふもっふぅ……………」


ソレはこの青年と一匹に関しても例外ではない。

船首近くで大の字になって寝転んでいるアキハと、うつ伏せになってその短い手足をばらばらに投げ出しているカロットである。


無人島を去る際、浜辺まで着いてきてしまったカロットに不思議な愛着を持ったアキハは、何とか渋るエースを説得、連れて行くことに成功した。

ウサギ、とはいってもこれだけ身体が大きければよっぽどのことでは死なない。

加え、無人島で共に生活していたアキハは、このウサギが結構雑食であることを理解していた。


ソレをいい事に、アキハの最近始めた料理特訓で出来た失敗作の食事を食べる羽目になっているのだが………本人(?)は文句の一つも言わないのでよしとしておく。

ウサギは文句を言えないだろうという突っ込みはなしの方向で。


「イカンな…………暇になってきた」

「モフ?」

いくら気持ちがいいとはいえ、朝から約三時間もぶっ通しで日に当たっていれば流石に飽きる。

「おーい、アキハ!」

「んあ?」

寝転がったまま顔を声のした方向に向けると、エースが近付いてきていた。

―――――――はて? 今日は修行は休みのはずだが?

そう考えて体を起こすと、エースの方から用件を言ってきた。

「いや、今からオヤジの船に行くんだけどよ、お前暇だろ? 一緒に行かねえか?」

聞けば、どうやら白ヒゲの船では定期的に隊長たちが集まる集会があるらしい。

目的は近況報告だが、今ではその名を借りた宴会と化している。

他の隊の人間はあまりアキハの事を知らないらしいので、一緒について来い、といった内容だった。

渡りに船、暇を持て余していたアキハは二つ返事で了承すると、カロットを引きつれて白ヒゲの本船、モビー・ディック号へ向かった。






この時、後ろからこっそりと付いてくる影に気付けていれば、この後の結果は変わっていたのかもしれない。













集まった隊長たちは近況報告もそこそこに、すぐさま宴会となった。

無論、酒の肴になっているのはアキハの事。

何処で知ったのか、誰も聞いたことの無いような、それでいて心に響く歌を歌う彼のことは、すぐに話題になった。

特に興味を示してきたのが、四番隊隊長のサッチと名乗った男だった。

話してみれば、粋で豪快、裏表がなさそうな性格をしていて、ゴツイ体格をしていても自然と打ち解ける事の出来る男だった。

歌の話題になれば騒ぐことが好きな海賊が黙っているはずも無く、酒の席で延々と歌わされた彼は宴会が終わる夜明け前には喉がえらいことになっていた。



「あー、あー…………クソ、思い切り歌わせやがって……………」



甲板のテラスに手を掛け、発声練習をしながら悪態を付くアキハ。

時刻は夜明け前で、水平線の彼方にうっすらとサンライトイエローの光が見える。

言動とは裏腹に、表情はそこまで厳しくなく、むしろ呆れているといったほうが良いかもしれない。

浴びるように飲み続けた隊長たちの末路は、夢の中。

つまりは、酔い潰れているのである。

二日酔いに苦しむがいい、ざまぁ――――――などと考え、いつものように足元に待機していたカロットを背もたれ代わりに使う。

無論ウサギがアルコールを飲めるはずも無いので、カロットはこの船で唯一の素面だった。


「よお、アキハ……………イカン、頭痛い」

「なんだ、起きたのか、サッチ」


そのまままどろんでいると、背後から掛けられた声に反応して意識が覚醒した。

額を右手で押さえ、先ほどのアキハの様に手すりに寄りかかるサッチは、腰に何かが入っているであろう袋を提げていた。

酒の席では持っていなかった袋に、ふと好奇心が芽生えたアキハは早速尋ねてみる。

「ああ、コレか? 悪魔の実だよ。見つけた奴が食っていいルールなんだが、おれには合わなくてな。オヤジにやろうと思って持ってきたんだよ」

成程。

問いかける前にアキハの視線で察したのか、サッチは自分からそう説明した。


悪魔の実は売れば一億ベリーにもなると言うし、他の人物に見つけられては面倒だということで、こんな朝早くに起きてきたのだという。

「まあ、少し早すぎたがな。もう少し待ってからじゃないと、オヤジもまだ寝てるだろう」

ワハハ、と豪快に笑うサッチ。

二日酔いはどうした? と聞きたくなったが、この世界の人間は大概オカシイので気にしないことに。


「……………イカン!! 吐きそうだ!!」

―――――――しようと思ったが、やはりこんな短時間で克服することは不可能だったらしい。

「途中で決壊するなよ?」

「だまらっしゃい!!」

猛スピードで便所へ駆けていくサッチを見ながら、アキハは手を振って見送った。











ふと、視界の奥、視力ギリギリの所で、何かが動いた。

方向はサッチが走っていった場所、そのまんまである。


「…………っ!?」

背後でカロットがピクリ、と反応し、今まで垂れていた耳が直立する。


カロットは、危機というものに敏感だ。

それが自分、他人は問わないが、相棒が反応したときには何かが起こっていることは間違いなく、この二年で体験済みだ。



――――――――何か、嫌な予感がする。



すぐに立ち上がったアキハは、カロットを伴ってサッチの後を追いかけた。















「ティーチ……………!? 何してるんだよ、お前!!」

駆けつけたアキハが見たもの、それは背中にナイフを突き立てられうつ伏せに倒れているサッチと、一心不乱に何か―――――悪魔の実を食べている、同じ二番隊所属のマーシャル・D・ティーチだった。

「ん? ああ、アキハか。見て分からねぇか?」

「分からねえよ!! 何で、サッチが………お前が…………!?」

あまりの現状に、軽い混乱状態に陥っているアキハ。


アキハとティーチの仲は、決して悪いものではなかった。

むしろ良い方だったと言えるだろう。

アキハも、自分の歌を最も賞賛してくれた一人に対して、友情にも似た何かを抱いていた。

その相手が今、どう考えても殺人を犯している状況にあって、アキハの精神は揺らいでいた。

「チッ、見られたからには仕方ねぇ。お前のことは嫌いじゃなかったが…………」

ゆっくりと彼のほうへ歩みを進めるティーチだが、アキハはその場から動けなかった。

立場の影響で、元の世界で友人といえる人間が少なかった彼にとって、異世界で出来た友人はかけがえの無いものだった。

その相手が裏切り。

裏切りという行為に慣れていないアキハは、呆然と立ち尽くすしかなかったのだ。

「何、で…………?」

「仕方なかったんだよ……………あまり時間も掛けられねえんでな、そろそろ消えてもらうぜ」

目の前まで来たティーチに飛び掛ろうとするカロットであったが、彼はそのウサギとは呼べない巨体を軽々と受け止め、アキハのほうへ投げ飛ばした。


「モフッ………!」

「グッ…………!!」


なす術も無く吹き飛ばされ、手すりに叩きつけられるアキハとカロット。

そんな二人に、ティーチは右掌を突き出した。

「まあ、情けって奴だ。お前は、おれの能力の初めてで殺してやるよ」


不気味に笑いながら、ティーチの身体が煙のように揺らぎ、漆黒の炎のように立ち昇る。

焦点が合っていない瞳でその光景を見つめながら、アキハはぼんやりと考えていた。





「エース……………俺、死ぬみたいだ」







やがて闇が爆ぜ、この日、モビー・ディック号から一人の人間と一匹のウサギが姿を消した。











あとがき

心理描写って難しいですね。

これから、原作に絡ませようか迷ってます。


では、また次回




[11826] 第一話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/24 21:38
沈む。

深い、深い深淵の闇の中を、アキハは落ちていく。

上下左右も分からず、遠近の区別すら付かない漆黒の帳。

暗い。

一寸先は闇、とはよく言ったものだ。

使い方が間違っている気がしないでもないが、一々そんな事を考える余裕は今のアキハにはなかった。


ティーチ、と口にしてみるも、その言葉が耳に届くことは無かった。

どうやらこの空間、光だけでなく音すら遮断するらしい。



裏切り。

海賊である以上、どこかで目にするとは思っていたが、まさかこんな致命的な事態に繋がるとは予想だにしなかった。


自分はどうなったのかと考えるが、最後に見えたのが漆黒の炎の様な物を纏ったティーチの右腕である以上、殺されたと考えるのが普通だろう。

ハッ、と、自嘲気味に笑うが、音という概念が存在しない空間ではそれすら虚しい。



――――結局、現状で出来ることは何も無く、ただこの不思議空間に身を任せるしかなかった。




夢、という単語が頭をよぎった。

もしかしたらこの二年は全て夢で、この空間は夢の終わりを意味しているのでは?

そして目が覚めたら病院のベッドの上で、点滴でも打たれているのだろう。



――――――――――――そんな風な現実逃避をしなければならないほど、今のアキハは動揺している。

海賊世界で起きた出来事、これらが夢のわけが無い。

エース、オヤジ、カロット、サッチ、船の仲間たち。

これらが全て夢の中の登場人物だというなら、自分はたいそう想像力豊かな人間だ。



……………そういえば、カロットは無事だろうか。

不意に、自分と共に闇に飲まれた相棒のことを思い出す。

呆然とする自分を守ろうとして突撃した白ウサギ。

その結果、カロット自身までティーチにやられる羽目になってしまった。


馬鹿野郎、と頭で思う。

意識を取り戻したらとりあえず一発殴ろう。







あれから、どれくらい経ったのか。


「時間」すら無いらしい空間を漂いながらそんな事を考えてみるが、自分の現状が分からないのも事実。

眼前に広がる――――――否、自分をすっぽりと覆う闇は、漆黒よりもなお暗い。



そんな光景を見て、不意に自分の持ち歌の一節が、頭に浮かんだ。

ある企業に頼まれ、一度だけ歌ったアニメの主題歌の歌詞。









<例えどんな深い闇の中にいたって 君を思うよ>

<翼を広げ 私は飛ぶ 君が助けを求める限り>

<光の道を駆け 何処へだって 飛んで行けるよ>

<そうでしょ? 名前も知らないアナタ>







懐かしいな、と思い、聞こえないと分かっていても、その歌詞を呟く。

そして最後の一生節が終わり―――――





深淵だった闇の世界に、眩しすぎるほどの光が差し込んだ。



驚愕するアキハを他所に、光はアキハへと向かう。

様々に形を変える閃光は、やがて一匹の巨大な竜と化した。

五十メートルはあろうかという巨体は黄金に輝き、向こう側が透けて見える位に透明。

額には角、瞳は真紅で、翼は無く、どちらかというと日本や中国の「龍」に近い。

アキハはそれを一度だけ見たことがある。

自分が主題歌を歌ったアニメに登場する、主人公が移動手段として使っていた竜だ。


その竜が一度、吼えた。


大気が、闇が、薄氷が砕け散るような音を立てて砕け散る。

急速に色を取り戻していく世界。


不意に重力による落下を感じたアキハが下を見てみると、眼前には一面の青。

つまりは、海。


「なっ…………!?」

絶句。

しかしここで、自分が音を拾えていることに気付く。

落下しながら周りを見渡してみれば、少し離れたところで同じように落下するカロットの姿が。

短い手足を懸命にジタバタ動かしている様子はなんとも可愛らしいが、今はそんな場合ではない。


冷静になってみれば、自分は能力者。

従って泳げないわけであり、それはウサギであるカロットも同様。

いや、見たことは無いが多分泳げない。

それはともかく、どうするかと真剣に悩んでいた所で、先ほどの龍が舞い降り、アキハとカロットを背中に乗せる。

「おお!?」

「ふもっ!」

思わず間の抜けた声を出す二人だが、龍はそれを確認すると、光の柱となって空を駆けた。

不思議と空気抵抗は感じなかったが、それでもアキハは異常ともいえる疲労感に包まれていた。

飛びついてくるカロット、前方に迫る島には目もくれず。

「助かった………のか? まあ、とりあえずは…………」


よかった、と呟き、アキハは強烈な睡眠欲に負け、その目をゆっくりと閉じた。




















ココヤシ村。

人口三百人程度の小さな村だが、今この地は危機に瀕していた。

魚人海賊団、アーロンの一味によって支配されているこの村は、村人が武器を持っていただけでも反逆と見なされ、その人物は殺される。

少しでも反抗しようものなら


「それとも何か? 村ごと消えるか?」

と、このような状況下であるが、人々は決して希望を捨てていなかった。

――――――――――――耐え忍ぶ戦いをしよう、生きるために―――――――――――

戦って死ぬことで支配を拒むなら、八年前、村の娘が連れ去られた時にそうしていた。

だがその娘が、海賊に目の前で母親を殺されたその娘が、たった一人で生きるための戦いをするという。

その事実が、村人たちを思いとどまらせた。

だが、今。

「欠片でも邪念を抱いた奴がどうなるか、よく見ておけ人間どもっ!!」

「ゲンさん!!」


武器を所持していた村の駐在、ゲンゾウが、アーロンの手によって処刑されようとしていた。

片手でゲンゾウの身体を鷲摑み、高々と振り上げるアーロンは、魚人にふさわしいパワーを持っている。

そしてその腕に掴まれたゲンゾウが地面に叩きつけられようかという時。



突如、アーロンの背後に、一人の人間が「墜落」した。

地面を揺るがすほどの衝撃。

それが気になってか、アーロンは処刑を一時取りやめ、墜落した人間のほうへ身体を向ける。

「!?………………ああっ!! 強烈な目覚ましだなぁっ!!」




そこに居たのは、無造作に散らした黒髪、さらに同色の瞳を持つ、細身の青年。

片膝を立てて地面に座り、右手で頭を押さえている。







「死歌」ミョウゲン・アキハ、ココヤシ村に到着。








[11826] 第二話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/28 20:16
少々話を戻そう。

アキハが気を失うと同時に、あの光の龍は急速にその存在感を薄れさせていった。

元々がアキハの能力による存在である(未確認)以上、本人が意識を失えば消え失せるのは道理。

それは元から透けていた巨体をさらに薄めるように消え失せ、その上にいた一人と一匹は足場を失い、元通りに落下。

だが今度は島の上だったため、海に落ちて溺れる心配は無くなった。

しかし風の影響が強く、カロットとアキハは離れ離れに。

そして落下したその場所、それがこのココヤシ村だったという訳だ。


何という偶然、何というタイミング。


まあとにかく、彼の乱入によってゲンゾウの命は救われた。

そして落下の衝撃によって目を覚ましたアキハだったが、いくら鍛えられているといっても所詮は生身。

バラバラにならないだけマシであったが、その影響と後遺症は深刻。

無理して大声を出したのも、途切れそうになる意識を無理矢理繋ぎとめるためであった。



「何だ、お前は?」

空から落ちて来るという奇怪な登場の仕方をした人間に興味が湧いたのか、アーロンはアキハへと問いかける。

「ん? ああ、アキハだ……………おおう、魚人だよ」

対し、アキハは痛みを表情に出さないようにして立ち上がる。

改めて周囲を見渡してみると、自分に向けられる視線に気付く。

それに込められた視線は、驚愕、敵意、感謝、疑惑。

様々だが、民家の屋根に上っている鼻の長い若者から向けられる「嫉妬」の視線は何なのだろうか。


「あー、そこに居る若者。とりあえず、その嫉妬の視線をやめて欲しいんだが」

「ギャース!! 見つかったぁぁ!!」

今更見つかったは無いだろう。

そう思うアキハの言葉で、皆が一斉に若者――――ウソップの方を向く。

その本人はというと、しばらく頭を抱えて悶えていたが、急に立ち直ると、


「お、おれは勇敢なる海の戦士、キャプテ~~~ン、ウソップ!!
海賊ども、今逃げ出せば許してやろう!! おれには八千万の部下が居る!!」


パチンコを握り締め、ポーズをとってそう叫ぶ。

明らかに見え見えのウソ、しかも膝が震えているとあっては、説得力など皆無。

だがそれでも逃げ出さないその胆力は中々のものだと評価すべきか。

「ウソップ? 聞かない名前だな」

一方、此方はウソップの名前を聞いて考え込んでいるアキハ。

しかし、こんな状況で魚人たちが黙っているはずも無く。

「ああん? 何だお前ら」

「まさかあの駐在の共謀者か?」

口々に呟き、ウソップではなく地上のアキハに詰め寄ってくる魚人の手下。

しかしそうは言われようとも、今落ちてきたばかりのアキハには状況が理解できているわけが無い。

「あー…………身体が痛い……………すまんが、此処、何処か教えてくれないか?」

「………シカトとは中々いい根性してるな、兄ちゃん」

呟き、自分の状態を確認してはいるが、アキハとて天下の白ヒゲ海賊団の一員だった男。

自分に向けられる敵意に気付かないわけは無く、自然な動作で懐から自分の得物を取り出す。


それは、一組のオープンフィンガーグローブ。

一見何の変哲の無い漆黒の手袋をはめると、改めて魚人たちへ向き直る。

―――――さて、カロットも探さなきゃならないし、この魚人たちから情報も引き出せそうも無い。

あまり時間をかけるのは得策ではない。

あの親玉が動き出す前に、下っ端をサクッと片付けて逃走。

アキハの脳裏には、そんなプランが浮かんでいた。


「アーロンさん、コイツやっちゃっていいですかね?」

「ハッ、そんなチャチな得物で、おれたちとやり合おうってのか?」

「……………程々に、な。処刑を邪魔されたのは気にくわねぇが、あまり悪戯心で殺すというのもな」

「………………ほお」


あまりにアキハを舐め腐った態度に、流石の彼も「怒り」という感情が湧いてきた。

ピキ、と米神に青筋が浮かぶ。

確かにこちらに来て二年程度だが、少なくともここにいる――――――――見たところ、民衆を力で支配している―――――――――海賊の下っ端よりは、死線を潜り抜けてきた自身と実力もある。


「つー訳だ。せっかく墜落して生きてたところ悪いが、死んでくれよ」


そう言い、魚人たちは銃を取り出し銃口をアキハへと向ける。

「いかん! 逃げろ青年!!」

先ほどの駐在、ゲンゾウがそう叫ぶが、件のアキハは動こうともしない。

その場に居た村人は手で顔を覆ったり、目を背けたりして、これから繰り広げられるであろう惨劇を見ないようにしている。



そして。

―――――――――格下はどちらか、思い知らせてやるよ





そんな呟きが、その場に居た全員に聞こえた。








「なっ……………!?」

聞こえたのは、青年の悲鳴ではなく銃を握っていた魚人たちの驚愕の声。

恐る恐る目を開けた村人たちの眼前には、右手を高々と振り上げたアキハの姿。

そして魚人たちの視線の先には、銃口が半ばから断ち切られたマスケット銃。


「シィィィッ!」


相手の驚愕をよそに、アキハは次の行動に移る。

腰を落とし、地面を這うように疾駆。そのまま魚人たちに突進し―――――――身構える魚人たちに目もくれず、そのまま通り過ぎた。

「……………?」

怪訝そうな顔をする、その場に居た全員。

五メートルほどして立ち止まり、腰だめに構えていた両腕を交差、一瞬の後に左右に広げる。


―――――――――瞬間。


「ゲヘァァッ!?」

「何だとぉっ!?」


アキハに銃を向けていた魚人、その五人全ての身体から鮮血が噴出し、無数の裂傷をその身に刻まれた。


「っ………………チッ、身体がもたんか」

一方、右手で左上腕を押さえ、苦しげに呟くアキハ。

だがそれも一瞬。すぐに立ち直り、毅然とした態度でアーロンの方へ向き直り―――――

眼前に迫っていた拳による衝撃が、その胸を貫いた。


「がっ………………!?」


元から弱っていた身体に、およそ百枚の瓦程度なら一撃で砕くであろう正拳の衝撃。

油断。

その一言に尽きる。

つい何時ものクセで、背後の注意が疎かになっていた。

今は、背中を守ってくれる仲間は居ないというのに。


「―――――――っ!!」

だが、それでも無様に吹き飛ばされはしない。

それが、アキハのせめてもの矜持だった。


「おおっと、まだだ」

しかしそんなプライドも虚しく、アキハは先ほどゲンゾウを片手で掴んでいたアーロンの腕によって地面に押さえつけられてしまう。

「驚いたぜ。人間にしてはやる方だな……」

掴まれている場所は、首。

先ほど見せたあの握力があれば簡単に首など圧し折れるだろうに、そうしないのは殺すのを楽しむためか、それとも拷問するためか。

脱出しようと試みるアキハだが、深刻なダメージを受けている身体では力が入らず、それも敵わない。

「―――――――っ!」

「まあ、そう急ぐな……………先ほど見せたアレ、「糸」だな? 気付かれないほど細い物を使うとは、恐れ入る」


淡々と、先ほどアキハが見せた攻撃の正体を看破していくアーロン。

そして、その予測は当たっていた。


この二年、アキハは何もエースだけに師事していた訳ではない。

確かに基本的な事はエースに専属で教わったが、彼とアキハは基本的な戦闘スタイルが違う。

今からエースのような肉体を作れといってもそれは無理があるし、何よりアキハは基本援護要員であって、近接戦闘が苦手。

そこである時見つけたのが、同じ二番隊に所属する、「糸」を武器に使うとある女性。

その女性は白ヒゲの船にしては珍しく、アキハより非力だったが、それでも戦場の第一線で戦い続け、生き残っている。

幸いというか、アキハは手先が器用な部類に入る。

早速扱いを教わり始めたのが、丁度無人島から帰って一ヵ月後。

今では師匠である彼女をもってして「なかなか」と言わせる程度には成長している。

「ウタウタの実」を手に入れる以前からの技術であるので、彼の二つ名はこの事からも来ている。



彼のオープンフィンガーグローブ、それには無人島で倒した白イノシシの牙を加工した、強度・しなやかさ共に鋼鉄を上回る「牙糸」が付属している。

しかしその操作には難が多く、未熟ゆえに精神力・体力共にかなり消耗する。

一見簡単そうに見えるが、力を入れずに対象を切断するにはかなりの技量が必要なのだ。


そしてそのツケが、今回ってきているということ。


「だが少々やりすぎた。人間が魚人に逆らうとどうなるか――――――――」


片手で首を掴み、両足でアキハの腕を押さえ、空いているもう片方の腕で止めを刺そうと振り上げアーロン。


目を、見開くアキハ。

―――――――――――何て、無様。

そう思い、半ば諦めたところで。


「火薬星ィ!!」



上方より飛来した弾丸が、アーロンを包み込み、爆ぜた。






あとがき


第二話、更新しました。

懸賞金の割りにアキハ弱い? という突っ込みは弱っているからということにしておいてください。

では、また次回。




[11826] 第三話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/27 22:11

「………………(好機!!)」

眼前にあるアーロンの表情からは「火薬星」とやらは全く効いていないようだが、確かに意識がアキハからそれて一瞬、押さえつける力が緩む。

両手は使えないので、背筋をフルに使用、全身を一つのバネにして渾身の力でアーロンを跳ね除ける。

押し返され、後退しながらたたらを踏むアーロンだが、アキハが飛び去った地点からはその表情は伺えない。

しかし、顔を見なくても分かる。

全身から立ち上る殺気、それが「殺す」と告げている。

誰を、かは言うまでもない。既にアキハは眼中にない。

「貴様……………確か八千人とか言っていたな」

煙が晴れ、ウソップの位置からもアーロンの姿が露になる。

ギラリ、と睨んだだけで相手を殺せそうな視線と、ウソップの目が合う。

「何万人でも連れてきてみろ…………一人残らず捻り潰してやる……………!!」


マズイ、とアキハの勘が告げる。

アーロンのあの目、あれは理性が飛んだ人間の目が見せる物と同じだ。

ウソップ、と名乗った青年を助けに入ろうと牙糸を伸ばそうと試みるも、ただでさえ負傷していた身体に、先ほどの衝撃が加わっては、満足に立つこともままならない。

結局、アキハはただ成り行きを見守ることしか出来なかった。


「下等な人間が!! このおれに何をしたあ!!」

理性が消え、ただ目の前の人間を殺戮しようとするアーロン。

ウソップが乗っていた民家を両手で抱え込むと、そのまま魚人の怪力を以て持ち上げる

さすがにその行為は魚人の仲間も不味いと思ったのか、アーロンに向かって制止の声をかけるも、本人は見向きもしない。

「おれたちは<至高の種族>だぞ!!」

叫び、屋根を隣接していた民家に叩き付けた。

魚人の腕力が生まれながらにして人間の十倍だとは知識として知っていたアキハだが、これはそれどころではないだろう。

明らかに、アーロンとやらは他の魚人、少なくともアキハが倒した者とは別格だ。

—————不味い! 死んだか、あれは!?

そんな考えがアキハの頭をよぎる。

「うおおおっ! 危ねぇっ!」

だが彼の予想に反して、ウソップは生きていた。

死に物狂いで隣の民家の屋根によじ登ると、猛ダッシュでその場から逃走を図った。


「とっつかまえてブチ殺せ!!」

「おい、一旦アーロンパークへ戻るぞ。このままじゃマジでこの村吹き飛ばしちまう」

三人掛かりで押さえつけられ、半ば押し戻されるようにして遠ざかっていくアーロン。

「……………助かった………のか?」

次第にフェード・アウトしていくその姿を見ながら、アキハはこんな事を呟いていた。

フ、と足の力が抜け、思わずしゃがみ込む。

「日を改める。命拾いしたな」

幹部らしき魚人の残した言葉の後半部分、それが自分に向けられていると感じたのは、アキハの思い過ごしだったのだろうか。

どちらにしても、アキハに考えるだけの体力は残されていない。

魚人の姿が完全に見えなくなるのとほぼ同時、彼はドシャ、と受け身が取れていないような痛そうな音を立てて、地面へと倒れ込んだ。

村人達の騒ぎも耳に入らず、アキハの意識はそのままブラックアウトした。



















「う……………」


アキハが目を覚ますと、そこは見知らぬベッドの上だった。

上半身は包帯が巻かれ、その処置は素人目に見ても丁寧かつ上手い。

最近よく気絶するな、と苦笑しつつ身体を起こすが、予想通りに激痛。

しかしこの程度で根を上げて入られない。魚人達の言葉が真実なら、きっと自分を殺しに来る。

今の時間がどれ位なのかは分からないが、腹の減り具合からしても、気絶していたのは精々が数時間。

脇の小机に置いてあった自分の手袋と上着を羽織ると、ヒラヒラと何かが落ちてきた。

<ゲンさんを助けてくれて感謝する。悪いことは言わん、一刻も早くこの島を出なさい>

そこには短いが心意気の籠もった手紙と、この島周辺の海図が。

かなりありがたいが、さすがに此処までして貰って置いて黙って去るわけにもいくまい。

そう考えてこの建物——————どうやら病院—————を出ようと扉の前まで来たところで、外から何やら大勢の声が聞こえてきた。



「どきなさいナミ!!」


なにやら切羽詰まった、と言うよりは鬼気迫る怒鳴り声に、思わずアキハも立ちすくむ。

ドアノブに手を掛けたまま固まっている内に、また別の声が聞こえる。

「勝てなくても、おれたちの意地を見せてやる!!」
「おおおおおお!!」

今度は大勢。

ようやく再起動を果たしたアキハが外に出ると、病院からすぐ側の道に座り込む、オレンジの髪の女がいた。

「………アーロン……!」

以前よりも鍛えられたアキハの聴覚を以てしてもやっと聞こえるほどの声で呟き、その女性は側にあったナイフをつかみ、振り上げる。

そして。

「アーロンっ!!」

呪いの呪詛でも吐くような言葉とともに、そのナイフが女性の左肩、丁度刺青が存在する箇所へ振り下ろされる。

それを、何度も繰り返す。

無論、アキハはこの村の状況などは何一つ知らない。

精々が、アーロンと名乗る海賊によって支配されているのだろう、という推測を立てるくらいだ。



しかし、普通の海賊の支配では「こう」はならない。



目の前で自らを傷付ける、まだ若い女性。

先ほど聞こえた、自分に此処まで治療を施してくれた村人の叫びは、おそらく魚人達へ反逆するつもりなのだろう。

例え適わないと分かっていても、そうせずにはいられないほどの「何か」があったのか。

いくら考察を並べたところで、アキハは真実には辿り着けない。

二年間の経験でそれが分かっているアキハだからこそ。



「もうよせ。これ以上やっては死んでしまう」

「!!…………あんた、ゲンさんを助けてくれた………」



——————行動に移す。

幸い自分にはそれを成す「力」がある。

差し当たっては、この目の前で泣きながら自分を刺す女性を止めることから始めるか。

自分とそう変わらない細さの手で自分の腕を捕まれ、女性は涙を流しながら振り返る。

一瞬呆けたような声を出した女性であったが、すぐに気丈な表情を取ると、俯く。

「何よ・・・・・・・・・・・・何も知らないくせに・・・・・」

表情は伺えないが、それが無理をして絞り出しているという事くらいは理解できる。

故に、アキハは敢えてその呟きを無視した。

「あんた、名前は?」

言いながら、自分の上着の袖を引き裂いて布切れにする。

そういった技術は無人島サバイバルの時からの物で、アキハは意外とこういう事も得意だったりする。


そのまま女性の腕を取り、傷口を刺激しないように包帯代わりとしてソレを巻く。

突然の手当てにも女性は無言で通していたが、やがて蚊の鳴くような声でこう呟いた。

「・・・・・・・・・・・・ナミ・・・・・」

「そうか、ナミ」


応急処置が終わり、ナミの言葉に短く答えるとアキハは立ち上がる。

「事実だ。俺はこの村について何も知らない余所者だ」

ナミは答えない。

聞いているのだろうが、アキハとて今の状態の彼女にそこまでの答えも期待していない。

「だが、個人的にアイツらが気に食わない・・・・・・・・・・・・いいぜ、助けてやるよ」



気に食わない、だから倒す。

闘争の本質だ。根本的に、闘争の根源にはソレが存在する。

誰かを守りたいから戦う、というのも、言い換えれば「守りたい相手」を傷付ける人間が気に入らないということ。

そんな事を一切考えず、戦う者というのは――――――――よっぽどの馬鹿か、異常者か、それとも更に先を見ている者か。



それに、目の前の女性を此処までの状態にした相手を無視、さらには自分を助けてくれた相手を見殺しにして島を出る程、アキハは腐ってはいない。


「なあ、そこのアンタ」

「―――――おお」


いつの間にか背後にいた、麦わらの男にアキハは語りかける。

驚きつつも、ゆっくりと振る返るナミに、男――――――――ルフィはその麦わら帽子をナミに被せる。

そのまま数メートル歩き、立ち止まり――――――




「当たり前だ!!」





思い切り、叫ぶ。

空気が震えるほどの音量で叫んだルフィは、再び歩き出す。

その視線の先には、前方に聳え立つアーロンパーク。


「いくぞ」

その呟きに答えるのは、各々の得物を構え、戦闘準備を完了した彼の仲間たち。



そして、この男も。


「さて、行きますか」

度重なる戦闘でボロボロになった上着を脱ぎ捨て、包帯を巻いたアキハの上半身が露わになる。




目標、海賊「ノコギリのアーロン」。

戦闘、開始。







あとがき

感想ありがとうございます。

一応、このアキハとアーロンの話に白ヒゲを絡ませるつもりはありません。

あと、「闘争の本質」云々は作者の所感ですので、「違う」などといった感想についてはお答えできません。

ナミが主人公について知っていた理由は、遠くから見ていたということで。


では、また次回。






[11826] 第四話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/28 11:01






「アーロンってぇのは、どいつだ」


アーロンパークの正面扉を殴り壊し、ルフィは単身悠々と歩を進める。

あの後、仲間たちを待っていられなかったのか、一人で突っ走って此処まで来てしまったのだ。

そんな彼に二人の魚人が詰め寄るが、一瞬にして頭を掴むと、粉砕。

そのままアーロンへと向かうと、一息。


そのまま無言で全力、アーロンの頬を殴り飛ばした。


しかし吹き飛ばされた本人は大して効いた様子も無く、ゆらりと起き上がる

「てめえは一体・・・・・・・・」

「うちの航海士を、泣かすなよ!!」

普段ののほほんとした表情とは違う、真剣に怒気を孕ませた顔で、ルフィはそう言う。

その行為を他の魚人が黙って見ているはずも無く、一斉に血相を変えてルフィへと襲い掛かる、が。




「雑魚はクソ引っ込んでろ!!」

「同感。少し黙ってろ」


駆け付けた二人、金髪不思議眉毛のコック・サンジと、上半身に包帯を巻いたアキハがそれらを一蹴。

蹴り飛ばされ、切り刻まれる同胞たちに、アーロンが無言で怒りのボルテージを上げる。











さてさて、格好付けてアーロンパークへ殴りこんだのは良いものの。

アキハ、実際は極限に近い肉体状況なのだ。

先ほどはサンジを援護するように牙糸を使ったのでそれほどでもないが、本格的な戦闘となると、もうほぼ不可能だろう。


溜息、一つ。


現状、アキハが出来ることといえば一つだけ。

そういえばオヤジの船でもこんなことあったな、と思いながら、アキハは目の前の状況を見ていた。





タコの魚人が吹いたラッパにより現れた海牛モームを、ルフィが「振り回し」、下っ端らしい魚人どもを一掃。

その後、アーロンへ向かって宣戦布告、アーロンもそれに答えたところを、アキハはアーロンパークの屋根に上って観察していた。

心中、ルフィとやらも能力者なのかと同族意識が芽生えていたが。


既に半壊状態にあるアーロンパーク内に、立っている人物は九人。

ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ、アーロン、チュウ、クロオビ、ハチ、そしてアキハである。

数は麦わら海賊団側、つまりこちらの方が上だが、魚人の持つ力が未確認である以上、楽観視はできない。

加え、アキハは碌に戦うことも出来ない状況。


「たこはちブラーック!!」

「タコ墨か!」

「あーっ! 前が見えねえ!!」


そんな風に状況を分析していると、戦況に変化があった。

タコの魚人が吐いた墨をまともに浴びたルフィは、どうやら先ほど、海牛を振り回す際に地面に突っ込んだ足が抜けないらしい。


そしてそのまま瓦礫が叩き付けられようかというところで、割って入ったサンジがソレを蹴り砕く。

凄まじい脚力に感心しながら、アキハも自分の役割を果たすため、集中を始める。

――――――――――此処ならば、よほどの事が無い限り狙われはしないだろう。


もしあっても、あの連中が何とかしてくれる。

会って間もない連中をどうしてこうも信じられるのか。

これはアキハの勘といえばソレまでだが、彼は人のために起こることが出来る人間は、信じるに値すると思っている。



「―――――――よし、これで行こう」


やがて、各々の場所で、それぞれの戦いが繰り広げられ始めた。










足を突っ込んだ瓦礫、その周囲ごと海に落とされたルフィを助けるため、陸上で幹部クラスの魚人を相手にする、麦わら海賊団剣士のゾロとコックのサンジ。

もう一人、ウソップの方は、なにやら因縁がありそうなキスの魚人に追いかけられ、何処かに行ってしまった。


しかし、状況は芳しくない。

ゾロの方は数日前に王下七武海の一人「鷹の目のミホーク」に受けた傷が完治しておらず、動きに精彩を欠いている。

サンジはそんなゾロが気になって自分の勝負に集中できておらず、こちらも善戦しているとは言いがたい。


ついにゾロが傷口の発熱と疲労によって倒れ、サンジも一瞬の隙を付かれて吹き飛ばされる。


一人アーロンパークに倒れ付すゾロ。

村人たちも、これまでかと半ば諦めかけたその時、ソレは聞こえてきた。






「<誰も寝てはならぬ。貴女自身もだ、姫君>」


「<貴女の冷たい部屋で、星々を見ているのでしょう。 それらが愛情と希望に煌くのを>」

「 <だが私の秘密は自らの中に存在し、神さえも私の名を知ることにはならない>」




唐突に聞こえてきた、深いテノールで歌われるアリア。

静かで、それでいて勇気を感じさせる曲調。



ジャコモ・プッチーニ作曲。

歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」。




本来、アキハはテノール歌手ではないため、この歌を歌うことは不可能。

しかし、「ウタウタの実」には追加効果として、「歌」に関するあらゆる制約を無視できる能力があった。

つまりは、自分が出したい音を出せるということ。

歌手の努力を無駄にするような効果だが、アキハ自身はあまり気にしていない。

まあ、自分以外が食べていたのなら結果は違っていたかも知れないが。





「<否、あなたの唇にそれを告げよう。朝の日光が輝く瞬間に>」

「<そして私のキスは沈黙を解くだろう。あなたを私のものにする沈黙を>」

「 <あの人の名は誰も分からないままに・・・・・・されば我ら、悲しいことだが、死ぬことになるだろう>」




誰もが戦いを忘れて聞きほれる中、アキハはアーロンパークの頂上で歌い続ける。

不意に、ゾロは自分の身体に湧き上がる「何か」を感じた。

―――――――身体が、軽い。

それだけではない。根本的な体力が、上がっている。




「<夜よ、消えろ。星よ、落ちるがいい。夜が明ければ私の勝ちだ>」

「<我らは勝つ。それらは必然なり>」



――――――――まるで。

歌い終えたアキハの姿から目を離したゾロの所感は、

――――――――身体が


「燃える・・・・・・・・様だ!!」



復活したゾロは、自分の愛刀「和道一文字」を握り締め、タコの魚人を見据える。



同じ頃、外まで吹き飛ばされたサンジも、タバコに火を付けながら、立ち上がった。






―――――――まだ、戦いは終わらない。










あとがき

歌詞の著作権に関しては、問題ありません。

自分で原文を訳、少し現代風にもじりました。

感想、お待ちしております。

ではまた次回。



[11826] 第五話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/28 20:15

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・・・・!!」

アーロンパーク、頂上。

戦況が一望できるこの場所で歌い終えたアキハは、息も絶え絶えに膝をつく。

悪魔の実の使用は、身体に堪える。

度合いにもよるが、基本的にウタウタの能力は広範囲に影響を及ぼすモノ程消耗も激しくなる。

今回の場合、対象はゾロとサンジの二人だけだった。

牙糸を使うよりは楽だが、それでも今の疲弊しきった身体ではその反動も深刻。



――――しかし、まだ終わってはいない。否、終われない。

自分はまだ何もしていない。

助けてもらっておいて、恩返しを他人任せにするのか?

「ハッ・・・・・・冗談」


そして、一息。

「<見よ煌めきに 誇りが満ちるこの朝 響く凱歌は 我とあり>」

「<若き血潮 眉が上がる 肩を組み高らかに 今 我らの勝利を歌おう>」

「<空の深青 色こそ冴えて 風も輝くこの夜明け>」

「<勝機は何度も 木霊する 若き力が意気燃える>」


誰にも聞こえないような音量で、囁く。

歌詞こそ短いが、一人分の強化には十分すぎる程だ。

先ほどのアリアとは違い、今回はオラトリオ。

自分自身のみに効果を及ぼす、非常に使い勝手が良い歌だ。


「・・・・・・・・リミットは十分かそこらか」


自分の身体と、能力の効果を確認。

把握すると同時、アキハは頂上から飛び降りる。







眼前の状況は、此方に有利と見える。

タコとエイの魚人は既に倒され、瓦礫と共に横たわっている。

成したのはアキハの歌によって身体能力が強化されたゾロとサンジであり、その二人は今敵のボス、アーロンと対峙中。

既にアーロンは同胞の殆どを失ったとあって、怒り心頭の様子だ。

一食触発かと思われたその空気の中、アキハは着地する。

そのまま右腕を一閃、その動きに伴って伸びた牙糸がアーロンパークの屋根の一部を切断、アーロンへと落下する。

魚人はソレを避けようともせず、埃に埋もれて姿が見えなくなった。


「(・・・・・・・・まだ持つ、か)」


片膝立ちで着地、右手を観察しながら言うアキハに、ゾロとサンジが近付いてくる。


「よお。生きてたか、二人とも」

「ああ、おかげさまで、な」

サンジの言葉は間違ってはいない。事実、アキハがいなければ彼らはあそこまで早く立ち上がることは出来なかったであろう。

が、現状はそんなことをしている暇はない。

一刻も早く海に沈んだルフィを救出しなければ彼の命が危ない。

其れを思いだしたサンジが海へ入ろうとする。


—————刹那。


「誰が、動いていいって言った?」



粉塵の奥、アーロンが居ると推測できる場所から飛来した小粒の何か——————「水滴」によって、三人とも吹き飛ばされた。


「がっ・・・・・!」

「なっ・・・・・・!?」

「クッ・・・・・・・!!」


三者三様の驚き。

吹き飛ばされた後辛うじて受け身を取れたのは、アキハのみだった。

無理もない。

既に重傷を負っている二人、加えてアキハの歌の効力も薄れてきているとあっては、厳しいだろう。



「大した価値はねえんだぜ? 手前らの命なんざ・・・・・・・・」



手の平に水をのせ、傷付いた三人にそう吐き捨てるアーロン。

状況は、最悪だ。

現状、戦えるのは自分のみ。

素早く判断したアキハは、立ち上がる。







なぜ此処までボロボロになってまで戦うのか、自分でも分からない。

この村の問題だ、本来なら自分は踏み込むべきでは無いのかもしれない。

しかし、助けられた。

偶然とはいえ、助けられてしまったのだ。


だから、これは偽善。

自分が満足したいだけの、ただのエゴ。

自分でも分かっている。

だが、自分が関わることで無駄な犠牲を出さずに済むのなら。


「俺は、やらない善よりやる偽善を選ぶっ!!」




瞬間、アキハの中で何かが弾けた。



なにも、考えられなくなる。

いや、考える必要がなくなった。

視界がクリアになり、思考が止まる。

何をすべきかは、既に答えが出ている。


「<稲妻の剣で 敵を滅ぼせ>」

たった一小節、その言霊を呟くだけで。

「な・・・・・・!?」


アキハの右腕には、黄金に光り輝く剣が握られていた。

刀身は長く、アキハの身長ほどもあるかもしれない。


バチバチと乾いた音を立てるその非実体剣を上段に構え、彼は驚愕するアーロンへと突進して行った。










[11826] 第六話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/30 13:00



実際のところ、アキハはあの後のことはよく覚えていない。

雷光の刀身を持つ剣で切り掛かったところまでで記憶が途切れ、気が付いたら裂傷と焼け焦げだらけのアーロンの腕で首を掴まれていた。

憤怒で人を殺せそうな視線で睨み付けられ、怒りでものも言えない表情だ。




――――――――――まあ、言ってしまえば。

ただでさえボロボロの身体を歌の能力で誤魔化していたのに、それ以上の能力を行使して身体が限界を超えないはずがなかったのだ。


それでもアーロンに傷を負わせた辺りは、流石白ヒゲの一味と言うべきか。


しかし、この状況。

アーロンが無言で腕を振り上げる。

誰もが殺られる、と予想した次の瞬間、ヤツが目覚めた。




「戻ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





バチィン、と小気味良い音を立て、海底に沈められた筈のルフィが上空にて復活する。

そして彼はそのままアーロンに掴まれているアキハの肩を掴むと


「交代だ!!」


そのまま引き寄せた。

ルフィはゴム人間。

伸びきった腕が上空のルフィに引っぱられると、どうなるか。


「うぉぉぉぉぉぉっ!?」

「ドアホーーーーッ!!」


まあ、こうなる。

陸地と上空、二人の位置が入れ替わり、アキハとルフィも選手交代。

まあ、時間稼ぎとしてはよくやった方だろう。

アキハ本人は、思いっ切り倒すつもりだったようだが。




で、投げられたアキハはというと。


「うおっ!?」

アーロンパークのすぐ外、村人たちがいる場所から少し離れたところに勢いよく着陸。

まあ、墜落だが。

本日二回目の墜落だが、意識は失わない。

まだ、失えない。


「麦わらぁ!!」


声を振り絞って、叫ぶ。

自分はこれ以上戦えないことは明白。だからせめて、自分ではなくてもアーロンは倒して欲しい。

「絶対、勝て!!」

聞こえたかどうかは、分からない。

しかし、思いは伝わったはずだ。

その思いに応えるように、若い元気のいい声が聞こえてくる。

その声をバックに、既に極限だったアキハの肉体は、ゆっくりと持ち主の意識を奪っていった。










――――――――――本日何回目の気絶か。

そんな事を思いながら、アキハは目を開けた。

そこにあったのは見知らぬ天井――――――ではなく、つい先ほどと同じ病院らしき部屋だった。

先ほどと違うのは、ここにも何人か人がいるということだ。



「あでで・・・・・・・・・・・!!」

「こんな大傷自分で処置しおって!! お前たちの船には「船医」もおらんのか!?」

「船医かー。ソレも良いよなー。でもやっぱ音楽家が先だよなー」



隣のベッドから聞こえてくる、アホな会話。

船旅に出るのに船医を連れて行かないって、相当危ないと思うのだが。

しかも船長は改める気なしというか、音楽家をご所望の様子。



――――――――――――大丈夫か、こいつら?


そんなことを考えながら、アキハは身を起こす。

新しい包帯の巻かれた上半身に激痛が走るが、いい加減慣れてきたので我慢。

「また、助けられてしまったな。ありがとう」


サングラスをかけたおよそ医者とは思えない風貌の男にそう語りかける。

医者は突然起きだしたアキハに驚きつつも返答。


「なに、お礼を言うのはこちらの方じゃ・・・・・・・・じゃがな、あの身体で戦闘するとは、何考えとるんじゃ!!」


後半部分については、彼でなくともそう言うだろう。

戦闘を行ったことによって、大分酷くなってるし。


「おおーっ!! 起きたのかお前!!」


で、医者の説教を食らってベッドの上で正座していたアキハに話しかけるのは、ルフィ。

これ異常ないといった風に目を輝かせ、興味津々の様子。

そんなに声を上げて、何事かとアキハが目を向けた瞬間、ルフィはこう言った。

「なあ、お前歌えるんだろ!? おれの仲間にならねえか!?」









夜。

島をあげた盛大な宴は終わる気配を見せず、何日もぶっ通しで続いている。

しかし人々は疲れる気配も見せず、これ以上ない笑顔で踊り、歌い、楽しんでいる。


そんなココヤシ村の民家の屋根の上、村全体が一望できる場所に、アキハは居た。

その表情は難しく、とても宴を楽しんでいるようには見えない。


考えているのは、数日前のルフィの言葉。


「仲間になれ」と、彼はそう言った。

しかし自分は白ヒゲ海賊団の一員、普段なら断るはずだが・・・・・・・今は状況が状況。


聞いた話によると、ここは「東の海」だという。

そして、オヤジがいるのはもちろん「偉大なる航路」。

航海術も持っていないアキハが、たった一人で白ヒゲ達と合流するのは不可能。


そうなると、やはり仲間が必要になってくる。

しかし、「仲間が見つかったら抜ける」というのも・・・・・・・・何か騙しているようで気が進まない。

悩む。


白ヒゲには会いたい。しかしルフィの誘いに乗るのは騙しているようで気が進まない。

矛盾する気持ちに、アキハは悩んだ。





















「ミョウゲン・アキハだ。よろしく」

翌朝、「東の海」海上。

麦わら海賊団の船、ゴーイングメリー号という全く海賊らしくない船の上で、挨拶をするアキハの姿があった。


何があったのかというと。


結局悩んでも答えが出てこなかったため、いっそ本当のことをぶっちゃけてしまえと開き直ったのだ。

それで駄目ならまた別の船を捜そうと考えていたアキハだったが、ルフィはその「条件」―――――――つまり、仲間たちの船が見つかったら一味を抜ける――――――を快く承認。

曰く、

「抜けたくないって思わせるほど、楽しませてやっからよ!!」

との事。



そんなこんなで、「死歌」は麦わら海賊団の一員となった。


この船が次に向かうのは、「始まりと終わりの町」、ローグタウン。


さてさて、次は何が起こることやら。









[11826] 第七話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/09/30 13:01
「ねえ、アキハ?」

「ん?」

甲板上に持ち込んだハンモックで寝そべりながら、目から火を噴くというウソップの奇行を生暖かい目線で見守っていたアキハは、不意に隣から聞こえてきたナミの声で現実に戻った。


彼女の手には、一枚の新聞。

―――――ああ、そういえば。


「貸してくれるのか?」

「あんたがそう言ったんでしょうが・・・・・・・・・でも意外。新聞なんか読むんだ」


心底、本当に驚いている表情をするナミ。

以前この船で旅していた経緯から察すると、この船では誰も新聞を読まないのだろう。

「(もったいない)」

心中でそう呟きながら、傍に寝そべっていたカロットの頭を撫でる。






アキハが麦わらの一味に入る条件として、「白い巨大ウサギを探すこと」というのもあった。

しかしルフィは、ソレを聞いた途端に満面の笑み。

船まで連れてこられてあらビックリ。

カロットが、甲板上で日向ぼっこをしていたのだ。

聞けば、アーロンパークに向かっている最中に落ちてきたという。

そのままにしておくのもアレなので、発見したゴーイングメリー号に乗せて置いたと、そういう訳だという。

しかし、約一瞬間も滞在していたにも関わらず船から動いていないとは、相当の怠け者である。


まあ、何にせよ。


「情報はいくらあってもいいからな・・・・・・」

全く、その通りである。

呟きつつ、アキハが新聞を広げると、不意にチラシのようなものがヒラリと地面に落ちた。

それが、二枚。


「あ」

「お」

「ん?」


ゆっくりとナミがソレを拾い上げ確認し、様子が気になったウソップがソレを覗き込む。


瞬間。


「えええええええええええええっ!!!???」














「なっはっはっはっ! おれたちお尋ね者になったぞ! 三千万ベリーだってよ!」

「俺の方は変更なしか・・・・・・・・・まあ、暴れてないんだから当然か」


先ほどの手配書の内容、ソレはルフィの首に懸賞金が掛けられたことを示すものだった。

アキハの物もあったが、特に変更はされていないので本人は軽く流す。


――――――――しかし、周囲の人間はそうはいかない。


「お、おいアキハ!! お前賞金首だったのか!?」

「しかもこの額・・・・・・一体何やったの!?」

「つーか、お前どこの海賊団にいたんだよ?」




よくよく考えてみればアキハについては「歌に不思議な力がある」事しか知らない麦わらの一味は、これ幸いと質問攻め。


「待て待て、一辺に言われても答えられん」


俺は聖徳太子じゃないんだからと心中で呟き、一つずつ質問に答えていく。


「じゃあ、本当に白ヒゲの・・・・・・!?」

「ありえねえ・・・・・・・「ひとつなぎの大秘宝」に一番近い男のクルー?」


最も、最後の質問――――――アキハが白ヒゲの一味だということに関しては半信半疑だったので、証拠を見せることにした。

「ほらよ」

言い、上着とシャツを脱ぎ捨てるアキハ。

突然なその行為にナミが少しだけ顔を紅くするが、彼の背中を見たところで表情が固まる。

そこには、見間違えようも無い「白ヒゲ」のジョリーロジャーが一面に刻まれていた。










「さて、と・・・・・・・」


ようやく解放され、カロットのフカフカな毛皮を枕にして寝そべっているアキハは、その言葉と共に起き上がる。

まだ島――――――地図から行くと、ローグタウン――――――が見えないので、時間はたっぷり有るはず。



考えるのは、傷つきながらもアーロンに立ち向かったときに感じた、あの不思議な感覚。

それだけではなく、いつもなら一曲全て歌わなければ発動しなかった「実」の力が、一小節だけで発動した。

しかも、その能力は実戦向き。


これをマスターすれば圧倒的に戦力に繋がるが、生憎とあの時の事はおぼろげながらにしか思い出せない。


「<雷光の剣で 敵を蹴散らせ>・・・・・・・?」


うろ覚えの歌詞でそう呟くが、何も起きず。

確かそんな意味の歌詞だったとは思うが、完璧に思い出せず、何より自分はそんな意味の歌詞を歌ったことは―――――――――あった。


映画の主題歌だ。

地球侵略を目論む異星人に対し、人類が立ち向かうというストーリー。


ソレが分かれば、後は単純。



曲名、「Destiny Braver」。



「<さあ 前を向き 立ち上がれ>」

「<右手に相棒 左手に恋人>」

「<信じるべきものを信じて 今 歩き出そう>」

「<世界は お前に委ねられた OK, Let’s stand up!!>」


問題の歌詞は、この後、サビに入った直後だが、リズムに乗っていれば何と言うことは無い。

予定調和のように、アキハの頭の中に流れ込んでくる言語。

その言葉に、頭の中で思い描いた幻想を乗せて。

歌詞として、言霊を紡ぐ。


「<稲妻の剣で 敵を滅ぼせ>」


結果は、分かっている。

正面に突き出した右腕、そこに以前と同じ光り輝く大剣が握られていた。






分かったことがある。

ローグタウンを視界に捉え、前方に見える島を見つめながらアキハはぼんやりとそう考えた。

一つ目、例の一小節で発動する言葉には、いくつかの種類があることが判明。

それも、単体で意味を持つ言葉でないと効果は期待できない。


もう一つ。

この能力、消耗が激しいのだ。

船の後方、誰もいない所で実験したところ、約五回で立っているのもままならなくなった。

まあ、現在の状態は怪我が癒えておらず、万全とは言いがたいので回復すればまだ持つだろうが。



そんなわけで、身体中に襲い掛かる疲労感と戦うアキハをよそに、ゴーイングメリー号はローグタウンへと向かう。
















[11826] 第八話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/01 11:40
「アキハ、お前はどうするんだ?」

船を海岸に着け、麦わらの一味はローグタウンへとやって来た。

流石「東の海」随一の大きさ、アキハが今まで見てきた町の中でもかなり大きい方に入る。

活気もあり、例え賞金首の海賊だとしてもそうそう見つかることは無いだろう。


ルフィは処刑台を見に行くといって先に行ってしまい、この場にはいない。

残ったメンバーも各々の目的のために散っていこうとする中、そうアキハに声を掛けたのはサンジだ。

別にアキハはこれといった用事は無いが、珍しいものを求めてうろつくつもりだった。

なお、今回カロットは留守番。

流石にあの巨体は街中では目立ちすぎるだろう。



「いや、暇だったら手伝ってくれないかと思ってよ」

サンジ曰く、食糧を買いたいらしいのだが人手が足りない。

暇だったらアキハに食材運びを手伝ってもらいたいとの事。


「まあ・・・・・・別にいいか」










二人してローグタウンの大通りを歩く。

何が悲しくて男二人で歩かにゃならんのかと、自分で誘ったくせにサンジが文句を垂れる。

既に二人の手には膨れ上がった袋が両手に持たれている。

「ん?」

ふと、アキハの目が一軒の店で止まる。


―――――――新型、特産品の在庫、入荷しました


そこは、武器、道具、小物と何でも揃っていそうな大きい雑貨屋。


アキハ、基本的にこういった暇を潰せそうな場所は好きなのだ。


そして丁度いいことに、今はお金もある。

手配書が発行される前、賞金稼ぎまがいのこともやっていた名残である。


「悪い、ちょっと見てくる」

「お、おい?」


袋をサンジに任せ、アキハはその雑貨屋に入っていった。



「これは・・・・・・・・・・中々」

アキハの目の前には、様々な武器が並んでいる。

品質は上々、東西南北あらゆる地方から入荷された武器ばかり。

「北の海」の有名な鍛冶屋が鍛えた短刀、「西の海」で取れる貴重な鉱石を利用したナイフなどなど。

中でもアキハの目を引いたのが、一丁の銃。

この世界で一般に使われているマスケットではなく、明らかに弾丸を詰める箇所が六個ある、リボルバータイプ。

「・・・・・・・フリントロック式、44口径六連発リボルバーか」


正直に言えば、欲しい。

アキハだって男の子。銃とか、そういった物には憧れるのだ。

しかし値段が高い。

アキハの手持ちにあるお金、その四分の三が消し飛んでしまう。

「南の海」の新モデル。

在庫は、これ一つだけ。

悩みに悩みぬいた末、アキハは決断した。


「すいませーん! これ下さい!」






後になって考えると、この選択は正しかったといえる。

新しく発覚したアキハの能力、ソレと組み合わせれば遠距離でも攻撃できるこの銃は、中々に有用性が高いと見える。


腰のベルトに同じく購入したホルスターを通し、それにリボルバーを収めながらアキハはそんな事を考えた。

そして意外だったのが。

「・・・・・・・・銃弾って、高いんだな」

結局、アキハの手持ちに残ったのはごく僅かとなってしまった。











「また稼ぎ直しか・・・・・・ん?」


雑貨屋から出てなんとなしに歩いていると、なにやら周囲が騒がしいことに気付く。

自分の正体がバレたわけでは無いようだが、何かを恐れていることは確か。

町人の視線を追ってみると・・・・・・死刑台に辿り着く。

そしてその上には、鼻が赤く以上にでかい、ピエロのような格好をした男と、その男に剣を向けられている我が船長の姿。


なんというかまあ、ルフィが殺されそうになっているのだ。



「・・・・・・・いやいや」


ため息混じりにそう声が出てしまうのも無理は無い。

差し当たって事が終わった後どうやって問い詰めようか考えながら、アキハは無言で手袋を付けた。















ローグタウン、海軍駐屯所。

「白猟」の異名を持つ海軍本部大佐、スモーカーは広場に次々と集まる海賊たちをじっと観察していた。

「道化のバギー」、「金棒のアルビダ」、「麦わらのルフィ」。

既に広場の周囲に海兵は配置済み、後は道化のバギーが麦わらの首を刎ねれば全員確保。

そう考えていた。

無論イレギュラーを想定しなかったわけではないが、あの麦わらの首が飛ぶことは確実と。

そう、踏んでいた。



だから、麦わらの一味に、船長より上の懸賞金を持つ男がいるとは、予想していなかった。










「その処刑、待った!!」

その言葉と共に現れた二人、麦わら海賊団のゾロとサンジ。

「海賊狩り」としての悪名が轟いているゾロの登場に海軍が一時慌しくなるが、スモーカーの一喝によって再び静まる。


そして当の二人は中々処刑台に辿り着けない。

思ったよりバギーとアルビダの部下は数が多く、また焦りで本来の動きが出来ずにいた。


空は、一面の雨空。

「ゾロ! サンジ! ウソップ! ナミ! アキハ! 悪い、おれ死んだ!」

昼だというのに薄暗いその空気の中、二人の耳にそんな言葉が聞こえてきた。

――――――縁起でもない事言うんじゃねぇ!!



二人の必死の叫びも届かず、無情にもバギーの剣がルフィの首を刎ねる・・・・・・



刹那。






―――――――――<稲光よ 全てを蹴散らし 道しるべとなれ>






上空から降り注いだ一条の閃光―――――――巨大な雷が、処刑台を直撃した。






「予想通り、ってか?」


処刑台の背後にある建物、その屋上から事を成したアキハは、眼下の状況を見てそう呟いていた。

黒焦げになったバギーとは違い、ルフィは傷一つなく笑顔で埃を払って悠々と立ち上がる。



―――――――ゴム人間に、電撃は無効っと。


脳内辞書にそう付け足し、アキハは屋上から飛び降りてルフィの元へ向かう。

既に海軍が包囲網を狭め、早く突破しないと結構まずい状況になりそうである。


「おお、アキハ!」

「ボサッとするな、海軍がすぐそこまで来てるぞ」


言うが早いが、アキハは手袋をはめた腕を一閃。

多少は手加減された牙糸が、今まさに発砲しようとしていた海兵を、銃ごと切り刻む。


公衆の面前でスプラッタな光景を見せるわけには行かないので、殺してはいない。



それに触発されたのか、四人は走り出す。



「何だ、今のは!?」

「いや待て、黒髪、黒目、手袋・・・・・・!?」


海兵たちが騒ぎ出すが、無視して走り出す。

今のこの天気、気圧からして、もうすぐかなり巨大な嵐が来ることは明白。

と、不意にアキハの肩をルフィが叩いた。


「何だ、ルフィ?」


今は早く逃げるぞと視線で投げ掛けるが、果たしてルフィに通じたのか。

どうも分かっていない様子のルフィが、口を開いた。


「ありがとうな、アキハ! あの雷、お前だろ?」


「・・・・・・・そういったことは後で言え」


―――――――――満面の笑みでお礼を言うルフィに少しだけ気恥ずかしくなったのは、アキハだけの秘密である。









[11826] 第九話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/01 12:50


走り出してしばらく、ゾロと因縁がありそうな女剣士や「自然系悪魔の実」能力者の海軍本部大佐、そして顔半分に刺青のある男と色々あったが、何とか無事にローグタウンを出航することが出来た麦わらの一味。

嵐の中「導きの灯」に照らされる中、




「おれはオールブルーを見つけるために」

「おれぁ大剣豪」

「おれは海賊王!!」

「わたしは世界地図を書くため!」

「お、おれは勇敢なる海の戦士になるためにだ!」

「・・・・・俺は、オヤジを見つけ、この海を満喫するため」



――――――――行くぞ、「偉大なる航路」!!




進水式こそ無事に終わったが、初っ端から苦労の連続であった。

「凪の帯」に入ったり、リヴァースマウンテンの運河の門に衝突しかかったり、その先で巨大なクジラに飲み込まれたりと散々な道のりであった。

そうした苦労を乗り越えることが出来たのは、全員が自分の能力をきちんと把握していたことにある。

アキハは歌で海王類の注意を引き、ルフィは自分を膨らませて激突の衝撃を和らげ、ナミは自分の航海術をフルに使って嵐を乗り切ったりと、各々が自分の役割をそつなくこなした。


それによって、こうして「偉大なる航路」入り口、双子岬でのんきにキャンプなどもしていられるというわけである。

――――――もっとも若干約二名、何処からどう見ても怪しさ爆発の男女がいるのだが。

クジラ――――ラブーンの中に入り込んだ際に偶然出会ったのが、自らを「Mr9」と「ミス・ウェンズデー」と名乗る二人組みだった。

同じくラブーンの体内で生活していたクロッカス医師曰く、「ろくでもない連中」とのこと。

まあ、実際ラブーンを捕える事ができればかなりの食糧になるので、ラブーンを殺そうとする気持ちも分からないではなかったが。

アキハとしては、何か引っかかるものを感じていた。

もう、ずいぶんと前。

この二人の名前と同じような言葉、どこかで聴いたことがあったような・・・・・?



まあ考えても結論は出ず、この船の面子と男女の実力を見る限り、下手なことをしでかす可能性は低いだろう。

それでも、二人をゴーイングメリー号に乗せるのは賛成したわけではないアキハだが、ルフィの性格は大分掴めてきたので諦める事にする。



心配事はそれだけではなく、ナミが「偉大なる航路」の性質を知らなかったときにはアキハは本気で焦った。

コンパスが役に立たず、地図すらない海だ、何が起こるか予測不能。


それは、出航してからすぐに思い知らされることになる。


何を思ったか――――何も考えていないのかもしれないが―――――ルフィが最初の進路を例の二人組みの故郷らしき町「ウイスキーピーク」に定め、向かっている最中。


季節天候全てがデタラメ、雪が降ったかと思えば春一番が吹き、太陽が照りつけたかと思えば豪雨が来る。

おまけに海の生き物のサイズも半端ではなく、アーロンパークで見た「海牛」と同族らしき牛も見かけた。

成程、「疑うべきは常識」というエースの言葉は、正しかったと見える。


「でも、これは流石に厳しいんじゃ・・・・・・・・?」


分かっていても、そう呟かずにはいられない。

「全ての常識が通用しない海」というミス・ウェンズーの言葉も、納得せざるを得なかった。









そんなこんなで、ようやくゴーイングメリー号はウイスキーピークへと到着。


海賊を「海の勇者」と呼び、町人が歓迎する中、アキハは死ぬほどぐったりしていた。


彼が嵐にも負けずに必死に「歌」を歌った(歌わされた)結果である。

聞くものの精神を高ぶらせ、肉体を強化するアキハの歌は、結構重宝されているのである。


しかし、この扱いはどうかと。


カロットにうな垂れかかりながら、アキハはぼんやりと考えた。


「悪い・・・・・俺は少し寝る。船番してるから、俺は上陸しない」


そう言って、目を閉じる。

ただでさえ病み上がり、加えて歌を二十曲も連続で歌わされたとあっては、喉も体力も極限なのである。












不意に、殺気を感じて目が覚めた。

カロットは、起きている。起きているが、面倒くさそうに此方に視線を向けるだけで、動こうとしない。


――――――――俺がやれってか、全く。


まあ、動こうとしない相棒に思考を向けても仕方なく、アキハは男部屋のハンモックから飛び降りる。

足音を殺し、手袋を付けながら甲板上に出る。



「お」


アキハの呟きに、一斉に男たち―――――いずれも鉄砲や剣で武装している―――が彼のほうを向くが、遅い。

事情の確認など元よりするつもりもないアキハは、軽く右手の中指と薬指を曲げる。


予定調和、全身に切り傷を負って気絶した男たちを海に捨てながら、アキハは考えた。


「やっぱり、面倒なことになってんのかね・・・・・」


嘆息。

カロットに船番を任せ、アキハは夜の帳に包まれるウイスキーピークへと駆け出していった。












しばらく走りぬけた後、前方に妙な人影を発見。

いや、それまでにも斬り倒された町人とか異常な光景を見たが、いい加減に慣れたというか予想していたというか、とにかくスルー。

問題は前方、焦げ茶色のコートを纏ったワカメ頭の男と、レモンが異常に好きなのかと思わせる黄色のワンピースを着、これまたレモン柄の日傘を差した女。


・・・・・・・・・で、その奥にはこれまたどこかで見た顔、例のミス・ウェンズデーの姿があった。



「えーと・・・・・・・何、この状況?」

「!! 誰!?」

思わず口から零してしまったアキハを、責めることは出来ないだろう。

彼の呟きに反応し、背後を振り返る二人。


「チッ、目撃者か」

「キャハハハハ・・・・・・・・・別にいいんじゃない?」


消しちゃえば、と続けるレモン女。

相方らしきワカメ男もそれに賛成したのか、構えを取る。


「運が悪かったな、小僧・・・・・・・・・・・殺れ、ミス・バレンタイン」

「ええ、Mr5!!」


此処に来て、ようやくアキハの脳裏にある単語が浮かんだ。

―――――思い出した。こいつら、確か・・・・・・


「バロックワークス、だったか?」

社員の素性は全て謎、互いにコードネームで呼び合う秘密結社。

昔、白ヒゲの船に乗っていたとき、アキハの「歌」に目を付けたのか、結構接触があった。

無論、全部蹴ってやったが。

何気なしに口にしたその単語、しかし二人にとってはそうではなかったらしく、より一層の殺意を込める。

「テメエ・・・・・・・・・どこでその名を?」

「これは、ますます生かしておけないわね・・・・・」


言うが、ワカメ男・Mr5は、自分の鼻をほじり始める。

うわ、とアキハが引く中、Mr5はその手を前方へ突き出し―――――――――



「鼻空想砲!!」

「―――――ッ!」


瞬間、アキハは横に飛ぶ。

そのすぐ横を通り過ぎる物体は、奥の民家に着弾、爆発を起こす。

「爆弾かよ、アブねえ鼻くそだな・・・・」

しかし、タネが割れていればそう恐ろしい能力ではない。

そう考えて手を打とうとした矢先、上空から語りかける声。

「キャハハ! よそ見してる暇はないわよ!!」


浮いている。

傘をパラシュート代わりにしているのか。

色々騒いでいるようだが、いい加減コイツ、キャラがテンション高くて面倒だ。

「・・・・・・・・・・・・」

無言で、銃を取り出す。

アキハの趣味で漆黒に塗装されたソレを、上空のミス・バレンタインに向ける。


え? と彼女が固まる中。

発砲。

それはもう無表情に、躊躇の欠片もなく。

計六発、装填数全てを傘に叩き込んだアキハは、満足げに銃口から立ち上る煙を見上げる。


「へえ・・・・・・中々の命中精度だ、期待以上」


正直、この世界のマスケット銃は精度が低すぎる。


近距離なら何とかなるが、遠距離になるとひどいときには照準から数メートル離れたところに命中する時だってある。

一応の経験談である。

その点、このリボルバーはかなり使い勝手がいい。



まあ、ソレはそれとして。

パラシュートに穴が開いたミス・バレンタイン、運悪くそのタイミングは彼女の能力、「キロキロ」を発動させたときに起こってしまった。

当然着地地点など調整できるわけもなく、地面にうずまる結果となってしまう。


「後味悪いけど・・・・・・・・・」

呟き、アキハは牙糸を伸ばす。

何とか這い上がってきたミス・バレンタインを、切り刻む。

殺してはいない。

さすがに美人を殺すのは気が引ける。


しかし、だがしかし。


「ありゃ、失敗」


手加減が変な風に働いてしまい、ミス・バレンタインは、その身を包む物全てを切り刻まれる結果となってしまった。





―――――――――まあ、これはこれでいいか。


アキハだって男の子。

まだまだ美人には興味があるのだ。







「テメエ、よくもミス・バレンタインを!!」


と、そこに激昂して突っ込んでくるMr5。

仕方無しに目を向けるアキハは、面倒くさそうに空いている左手を一閃。


ただ怒りに任せ、作戦など皆無な突撃を敢行する人間など、ただの的。






「さて、どうしたもんかね、この状況」




崩れ落ちるMr5の背後、驚愕の表情でこちらを見つめるミス・ウェンズデーと、アキハの視線が交錯した。




[11826] 第十話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/02 15:44
「じゃあ、あなた本当に何も知らないの・・・・・・・・?」

「ああ・・・・・・・・っていうか、何で追いかけられてんだ、お前」


その後、手ごろな岩に腰掛け、ミス・ウェンズデー改めビビと話していた。

結構重要そうな話題を交わしているが、それすらも目の前で起きている事から目をそらすための現実逃避に他ならない。


・・・・・・・・・・・・・・・いい加減、現実を見ようか。


「でも、いいの?・・・・・・・・・・・・あの二人を止めなくて」

「言うな。あの中に入ったら間違いなく死ぬ」



俺が、と付け足しアキハは前方の光景を見る。

そこには、ゾロとルフィが何故か本気の「殺し合い」をしていた。


いや、原因は別にアキハではない。

話の内容から察するに、この女――――――――ビビをあのワカメとレモンから救おうと駆け付けたゾロは悪くない。

厄介なのが、この町の住人は全て賞金稼ぎだと知ったゾロが一人残らず斬った事を、「恩知らず」と言って襲い掛かってきたルフィだ。


弁解しようとしても「言い訳すんなぁ!」と聞こうともしない。

「全く、あの単純バカは・・・・・・・・」

船長とクルーが繰り広げる戦闘に頭が痛くなるのは仕方ないだろう。


嘆息し、いい加減どうするか考え始めたところで。


救世主が現れた。



「やめろっ!!」

「へぶっ!!」




被害を受けずに近寄ったナミが、今まさに切り結ぼうとしていた二人の頬を強打。

グーで。

吹き飛ばされた二人に近付き、その胸倉を掴み上げて何か叫んでいるが、如何せん此処では距離が遠すぎて聞き取れない。


「仕方ない。行くか」

「え、ええ」

若干引きながらそういうビビ。

というより、ナミってあんなに強いんだと心中で零しながらアキハとビビは三人のほうへ向かった。






その後。

ゾロが此処に来た理由やナミの「契約」、ルフィの勘違いなど、聞くことは山済みだった。

で、驚いたのがビビについて。

狙われているのだから只者じゃないと踏んでいたアキハだったが、まさか王女だとは考えもしなかった。

そして、彼女がバロックワークスに潜入した理由も。

聞けば、アラバスタと言う国は昔は「偉大なる航路」有数の文明大国であったらしい。

だがここ最近、民衆の間に「革命」の動きが現れ始め、それを裏から操っているのが例のバロックワークスとのこと。

しかしそれ以上の情報は望めず、仕方無しに護衛隊長と共に潜入、見事ボスの正体とその目的を掴んだが、そこで何もかもがバレて今に至る、と。


「で、結局その黒幕って誰なんだ?」


アキハの質問は、その場にいた男たち全員の気持ちを代弁しているであろう。

しかしビビは必死に首を振ってソレを告げることを拒む、が。

ナミの言葉に同調し、自分から墓穴を掘ってポツリと洩らしてしまう。


王下七武海の一人、元懸賞金八千百万ベリー 「サー・クロコダイル」、と。








その後も色々あった。

具体的には妙なラッコと鳥が飛んでいったり、ナミが泣きながらすごい形相で怒ったり、護衛隊長イガラムが何故か女装して来たり――――――あんなのが隊長でいいのか――――――と、一向に落ち着きのない。



「いろんな事が起こりすぎた・・・・・・俺は船で休ませて貰うぞ」


欠伸をしながら、イガラムと共にルフィたちにそう告げて一人ゴーイングメリー号へと戻る。


正直かなり眠いのだ。

不眠不休でこの島まで来た上、せっかくの睡眠を邪魔されて今に至るのだから。









「カロット、ご苦労・・・・・?」

船に着き、甲板から掛けたいたわりの言葉が一瞬、止まる。

それもその筈、目の前には見たことも無いでっかい鳥がのんきに座っていたのだから。


「ああ、ビビと一緒にいたカルガモじゃないか」


納得。

ルフィはあの王女様を国まで送っていくつもりらしいので、そのペットが乗っているのも頷ける。


「しかし、主人より早く乗り込むのもどうかと思うぞ?」

「クエ?」


苦笑しながら語りかけるが、言葉が通じているのかいないのか、カルガモはただ首を傾げるばかり。

さて、では睡眠の続きを取ろうかとしたところで。


「―――――――ッ!?」



背後、先ほどビビたちと別れた辺りで大爆発が起こった。

否、正確にはイガラムが乗った囮船の方角だ。


事前に聞いていた話から統合すると、「追手」と言うヤツだろう。

しかし、いくらなんでも早すぎる。


「気にしてても仕方ない、か・・・・・・!」


あちらの方はルフィとゾロで何とかするだろう。

なんだかんだ言っても頼りになる奴らだ、心配はしていない。


だから、アキハは自分に出来ること、即ち出航の準備を始める。

ログが溜まっていようがいまいが、これ以上ここに留まるのは危険すぎる。


そう考えて碇を上げていると、あわてた様子でゾロが船に乗ってくる。


「おい、出航の準備を・・・・・・」

「もうやってるよ」


しばらくすると、今度は片足を掴まれたサンジと、鼻を掴まれたウソップ、それを成した張本人のルフィが到着。

遅れてビビを連れたナミが乗り込んだ。


「舵を川上へ! 少し上れば支流があるわ!」

とのビビの言に従い、船は帆を広げて川を上る。







霧が晴れ、夜明けも間近に迫った時刻。


Mr0、クロコダイルのパートナーであるミス・オールサンデーに会ったり、彼女から渡された「永久指針」をルフィが握り潰したりと色々あったが、結果的に何事もなくゴーイングメリー号はウイスキーピークを出航。


麦わらの一味が次に向かうのは、「リトルガーデン」。

さてさて、次回はどうなることやら・・・・・・・・・・・・・。






あとがき

今回は短いですね。

まあ、これは次の話のためのつなぎという事で。

次回は明日には投稿しようかと思います。

では。



[11826] 第十一話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/03 11:09

ゴーイングメリー号の甲板上。

リラックスしすぎているのではないだろうかと疑いたくなる程の空気の中、ルフィが唐突に言いだした。


「なあ、雪はまた降らねえのかな?」

かなり期待した様子で言うルフィだったが、それに対するビビの解答によれば、一本目のあの海は特別との事。

リヴァースマウンテンから出る磁力の流れが全てを狂わせるとか、ルフィには到底理解できない話ばかり。


要するに。

「ははーん・・・・・・・・・不思議海、ってことか」

まあ、そういうことである。

しかし、一本目の海程ではないにしろ、「偉大なる航路」にはまだまだ謎が多い。

「決して気を抜かないこと」と言ったビビの言葉をよそに、麦わら海賊団の面々は。



「おい、野郎共! おれのスペシャルドリンクを飲むか!?」

「おおーっ!!」

「よし、久しぶりに歌うか!」

「いいぞーっ! やれ、アキハ!!」



とまあ、何とも呑気なもの。

海賊とは陽気なものであると聞いていたビビは、こんなものなのかと思いつつ、これからの航海に不安を感じるのであった。


「イルカだぁ!!」

「でか過ぎるわぁ!!」

「逃げろーっ!」

「ホイ来た、キャプテン!!」














数日後。

ようやく見えた島影、それはウイスキーピークの磁力と引き合っており、麦わらの一味全員に「リトルガーデン」であると確信させる。


「気をつけなきゃ・・・・・・・ミス・オールサンデーの言っていたことも気になるわ」

ウイスキーピークを出る際、彼女は「私たちが手を下すまでもなく全滅する」と言った。

それほどの「何か」がこの島にはあるのか。

それを警戒してのビビの言葉だったが、そんなことはお構いなしに船はリトルガーデンの川を上っていく。

そこで見た物、それは「アキハの世界」での図鑑でしか見た事のないような植物ばかり。


「・・・・・・・・・・秘境の密林だろ、これ」

「わたし、こんな植物見たことも無い・・・・・・・・・・」

そう呟くのも無理はない。

そんな彼らをますます不安にさせるかのように、ジャングルから火山の噴火音や鳥に似た何かが空を舞う。

その「何か」を、アキハは見たことがあった。

トカゲのような顔と身体つき、鳥のような腕と足。


「始祖鳥・・・・・・・・?」









結局こんなデンジャラスで冒険が一杯な島をルフィが見逃すはずもなく、ビビとカルーを伴って「冒険」に行ってしまった。

「さて、おれも暇だし・・・・・・・散歩してくるか」

「ああ、俺も行こう。来い、カロット」

ゾロの言葉に賛同し、アキハはそう言って上着を脱ぎ捨て、船から降り立つ。

アキハとしても先ほどの始祖鳥が気になるし、前の島ではカロットが留守番だったので少々の運動不足。

この島、かなり暑く、いつもの上着では蒸し焼きになってしまうという理由で、アキハは上半身裸。しっかり手袋は付けているが。

自分の暇つぶしも兼ねて、カロットの散歩に乗り出した。

―――――冒険とも言うが。

サンジの「食糧を取ってきてくれ」との声をバックに、アキハはゾロより一足早く密林へ入っていった。










久しぶりに外に出たのが嬉しいのか、カロットの元気はいつもよりも五割り増し。

既に一人先行してしまっている。



しかしこうして歩いてみても、一向に何も見当たらない。

せいぜいが見たこともない植物などであるが、アキハは植物には興味もない。

期待外れか、とアキハが半ば落胆した矢先、前方に見慣れないものを発見。

焦げ茶色の肌―――――否、「鱗」を持つ生物。

それは、人間より少し大きいサイズの―――――――――恐竜。


え? とは声に出さない。

カロットもいない今、無闇にジャングルで音を立てるのは危険すぎるだろう。


恐竜。

アキハも、知識では知っていた。

「偉大なる航路」のデタラメな気候、それによって何万年も姿を変えずに生態系を残す島もあると。

しかし、現実で見るとまた違う。

しかも恐竜時代って、あまりにも極端すぎるのではないだろうか。



だが、恐竜は恐竜。

幼い頃に繰り返し見た恐竜映画を思い起こさせる。

こうして見ると、本当に「でかいトカゲ」といった感じだ。

体高二メートル、全長は三メートルほどだろうか。

大きさ的にはカロットと変わらないが、凶暴性という点では比較にならないだろう。


記憶が確かなら、アレは「ヴェロキラプトル」。

昔見た映画の話だ。

こういう状況、ラプトルは正面からではなく横に潜む二頭が襲い掛かる―――――――


「・・・・・・・・・・利口な奴らだ」


まさに映画の通り。

ジャングルの木々を掻き分けて姿を現した別の二頭、それを音もなく刻んだアキハは、ポツリとそう呟いた。

「しかし、食糧・・・・・・・・・・・・・・・・食えるのか、コレ」

目の前に横たわる二頭。

しかし、見事に恐竜と会えた喜びをぶち壊しにしてくれたものだ。

初めて会った恐竜がラプトルって。

囮役となっていた一頭は既に逃げ出している。


まあ、ルフィなら食えるだろうと結論付け、蔦で縛って持って帰ることにした。







「ふもっ!」

「いや、何やってんのお前」

それから歩くこと数分、ジャングルの奥の開けた場所に、カロットは居た。

誇らしげな鳴き声で、逃げ出したであろうラプトルを押さえつけて。

状況から推察すれば、カロットは勝ったのだろう。

だろう、が。

・・・・・・・・・恐竜に勝つウサギって、本当にコイツ何者?

「生け捕った・・・・・・・・ってか?」

「ふも」

コクリ、と頷いた・・・・・・・・気がした。

また一つ、アキハはカロットの事が分からなくなった日だった。


で、その時パチリと、ラプトルの目が開いた。

ギョロリと瞳孔が開いた眼球で状況を見渡し、何とかカロットの足を退けようとするがそれも敵わず。

縋る様な目つきでアキハを見るが。

「さぁーて、食糧確保」

手袋をはめ、牙糸を数本まとめて口にくわえた姿は、恐竜の知能でも恐怖を煽ったことだろう。

結局、彼らに攻撃を仕掛けた哀れなヴェロキラプトルは、残らず麦わら海賊団の食糧となる事となった。







食物連鎖、弱肉強食。

そんな言葉がピッタリの光景である。









[11826] 第十二話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/03 13:29


流石に三頭の恐竜を担いで動き回るのは不可能だったので、一旦アキハはゴーイングメリー号に戻ることにする。

カロットは、またもや何処かに行ってしまって既に影も形もない。

まあ恐竜をも倒せる実力があることは分かったし、あれで結構逃げ足も速いので心配はしていないが。


「それにしても、何処行ったんだ、アイツら?」


食糧庫に三頭を押し込み、再び島に降り立ったアキハはそう呟く。

確かウソップやナミは残ると言っていた気がするが、結局じっとしていられなかったのだろう。

やはりアイツらもこの大海賊時代の住人という事か。

まあそれはともかく、このまま船に残っていても暇だし、この原始の島に船を奪うような輩はいないだろう。


「さて、探検の続きっと」


思い立ったら即行動、アキハは先ほどよりも速いスピードでジャングルへ入っていった。










途中、今度は誰もが知っている恐竜の王様、「ティラノサウルス・レックス」に出会ったり、長く突き出した牙が印象的のサーベルタイガーに出会ったりと、子供の頃から憧れていた生物全てと出会うことになった。

新しいものの発見、これがアキハが海賊をやっている理由の一つだ。

もし麦わら海賊団に出会わなければ、こうして恐竜と(文字通り)触れ合うこともなかっただろう。

まったく運命とは不思議なものだ、と悟ったふりをして歩いていたアキハ。

何となく上機嫌で、鼻歌まで歌っている。




―――――――不意に、彼に向かって殺気の篭った弾丸が飛来した。

「!!」


すかさず回避行動をとるが、ジャングルの中では思うように動けず、一発右太腿に命中してしまう。

着弾後、アキハの脚辺りで、その弾丸は爆発した。

「グッ・・・・・・・!」

当たったら爆発する、そんな事が出来る人間は、アキハの知る限り一人しかいない。



「へぇ、今のを避けるとはやるじゃねえか」

案の定、ジャングルの木々を掻き分けて現れたのはMr5。


ウイスキーピークで会った時とは違い、今度は油断の「ゆ」の字もない。

雰囲気で、それが分かる。


「ウイスキーピークでは世話んなったな、え?」

「バロックワークス・・・・・・・・!!」


対し、アキハは両手を広げて戦闘準備をしようとする。

この島にも彼らが来ていることは予想外だったが、この男相手なら自分一人でも何とかなる。

相方がいないのが気にはなるが、今はこの男に集中。

右脚にダメージを負っているが、戦闘続行が不可能なほどではない。





――――――しかし、そんなアキハの行動も虚しく。

「動かないで。相棒の命がどうなっても良いのかしら?」

ボロボロに傷ついたカロット、その首にナイフを突きつけるミス・バレンタインの言葉によって、アキハは行動を中断せざるを得なかった。

人質と、そういう訳である。

「カロット・・・・・・・・・テメエら・・・・・・・!!」

「正面からやっても勝てないのは分かってるからな。言っとくが、卑怯とかいう言葉は受け付けねえぜ」


歯軋りしながら言葉をひねり出すアキハに対し、油断や愉悦などといった感情を感じさせず淡々とした口調で言うMr5。

そして、彼の言うことは正しい。

「勝てない」と、それがわかっている相手に勝つには、人質でも何でも使えるものは使わなければならない。

ましてやアキハは海賊、その彼が「卑怯」などと口にするのはあまりにもお門違いというものだろう。





―――――――だが、それが納得できるかどうかは別の話。


カロットは、この世界における最古参の仲間であり、最も長い時間を共に過ごしてきた相棒。

その相棒を見捨てて逃げたり攻撃を仕掛けたりするほど、アキハは人でなしではない。










――――――――――故に。



「ハッ、もう終わりか?」

「ウイスキーピークでの借り、まだまだこんな物じゃ済まさないわよ・・・・・・・・・!!」


こうして体中がボロボロになっても、アキハは攻撃するわけにはいかない。

現在の状況は、アキハは近くの木に磔にされ、延々と二人の攻撃を受けているという最悪なもの。

「歌」の能力もばれている故、口を開けばすぐに怪しまれる。

気付かれないほど早く詠唱することも不可能ではないが、そういった物は総じて威力が低い。

おまけに、牙糸を付けた腕は蔦に絡めとられている。

まさに絶体絶命、手の打ちようがない。


「さて、もう死んじまえ。 「全身起爆」!!」

「!!」


Mr5がアキハに飛び付き、その全身を爆発させる、ボムボムの実の真骨頂。

アキハの視界を埋め尽くす、轟音、閃光、衝撃。

渾然一体となったそれらが岩のような質量を持って襲い掛かり、アキハの意識を奪わんとする。


だが、アキハは倒れない。

いつか来るであろう反撃の機会を、信じて。



しかしそんな内心の希望をあざ笑うかのように、アキハの顔にミス・バレンタインの脚が迫る。

「一万キロキック!!」

一万キロ、十トンもの重量を持った脚を叩きつけられたアキハは、磔にされていた樹木ごと吹っ飛び、数本の木を貫通したところでやっと止まった。


「グ・・・・・・・」


蚊の鳴くような声で一言うめいた後、アキハは仰向けに倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。

ここでカロットの拘束も解かれ、主人の下へと走ろうとする、が。


「お前も、主人の後を追わねえか!!」


Mr5の「起爆する脚」によって蹴り飛ばされ、アキハと同じ場所でその意識を失った。

白かった毛には焼け焦げや煤が付き、見るも無残な有様である。

「気は済んだか、ミス・バレンタイン?」

「・・・・・・・本当はまだなんだけどね、もう死んじゃったなら仕方ないわよ」

キャハハハ、と笑いながら、二人は満足げに姿を消していった。




――――――――ここで勝利に酔って死体の確認をしなかったのが、彼らの最大の失敗だったと言えるだろう。





















「おい・・・・・・・・・生きてるか、カロット」

「・・・フ・・・・・・モォ・・・」

彼らが立ち去って数分後。

目を覚ましたアキハは仰向けで大の字に倒れ伏し、既に身体中探しても傷がない場所がないほど酷い状態だが、その目だけは爛々と――――――否、ギラギラと輝いていた。


ここまで好き放題やられて、しかもカロットを傷付けられて黙っているほど、アキハは温厚ではなく、何より彼の矜持が許さない。

しかしこの状況、疲労困憊、満身創痍といった言葉がしっくりくる程である。

だが、アキハにはそれを覆す「切り札」があった。



「<見よ煌めきに 誇りが満ちるこの朝 響く凱歌は 我とあり>」

「<若き血潮 眉が上がる 肩を組み高らかに 今 我らの勝利を歌おう>」

「<空の深青 色こそ冴えて 風も輝くこの夜明け>」

「<勝機は何度も 木霊する 若き力が意気燃える>」



祈りを込めて歌う、オラトリオ。

歌声に従って発せられた緑の光はアキハ本人のみならず、傍に倒れていたカロットまでも優しく包み込み、その身体能力を活性化させる。

全身に漲る力、それは元がボロボロだったから感じるものか。


何にせよ、これで準備は整った。


「カロット。お前、船に戻れ」


言外に、邪魔だ、と。

告げられたカロットは理解したのか、踵を返してダッシュで駆けていった。

その表情、雰囲気に不機嫌さは感じられない。

賢いのだ、カロットは。

自分に出来ることと出来ないことを区別できている、とでも言うのか。







そんな事を再確認しながら、アキハはジャングルを駆ける。

無論、その表情は鬼神もかくやという程恐ろしい。


「あの二人、絶対許さん―――――――――!!」


右手にリボルバーを握り締めて近付く猛獣の眉間を撃ち抜きながら、アキハはバロックワークスを探す。




絶対にブン殴ると、心に誓って。





[11826] 第十三話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/04 10:51


ミョウゲン・アキハの存在は、バロックワークスにとってイレギュラーだったと言えるだろう。

船長である「麦わらのルフィ」すら越える賞金額、その多人数に効果を及ぼす能力など、彼を知っているものならば危険視して当然。


故に、バロックワークスの伝達役、アンラッキーズはこの事態をボスに報告した。


ミョウゲン・アキハが、麦わらの一味に入った、と。


対してボス、クロコダイルはこの事にさして関心は示さなかった。

せいぜいが「厄介なものが増えた」といった程度。

それに、「白ヒゲ」の一味に対して手を出すのはご法度。

故に、これ以上彼に関わるなと命令を出そうとした。

しかし、この事に対して並々ならぬ関心を持つ者がいた。

「偉大なる航路」上、とある船の上でその知らせを聞いた女。

黒光りするナイフを握り締め。

長い黒髪を振り乱し、その紅い瞳を歓喜に震わせながら彼女はこう言ったのだ。






「フフフフフ・・・・・・・・秋葉君、みーつけた」












唐突だが、ウソップとカルーは現在進行形で命の危機に見舞われている。

ルフィと共に「巨人族の誇り高い決闘」を汚した奴ら、即ちバロックワークスのMr3ペアとMr5ペアに喧嘩を売ったのがつい先程。

しかし当のルフィはミス・ゴールデンウィークの思わぬ能力によって足止めされ、他の仲間たちも「キャンドルサービスセット」に捕らわれ、「ろう人形」になろうかとしている状況。

現状、動けるのはウソップとカルー、後は何処にいるかも分からないサンジとアキハのみに限られる。

しかし捕らわれている四人――――ゾロ、ナミ、ビビ、巨人のブロギー――――の頼みの綱であるウソップとカルーも、手が空いているMr5ペアによって追い回されているのだ。


「鼻空想・・・・・二連砲!!」


カルーの驚異的な運動能力、反射神経によって何とか攻撃を避けてはいるが、それも時間の問題であることは明白。

何とかこの終わりのない鬼ごっこを終わらせなければ、自分も、捕らわれている四人の命も危ない。


「全く・・・・・・こんな時にあの二人は何処行ったんだよ!!」

「クエーッ!!」

思わずそう呟いてしまうのも仕方ないだろう。

口は愚痴を発しても、身体はきちんと現状打破のために動いてはいる。

当たったら爆発する「火薬星」が効果がないと分かっているので、「鉛星」という名称そのままな弾丸をパチンコで飛ばすが、すぐに避けられてしまう。


「追い回しても埒が明かねえな」

「ええ」

彼ら、Mr5ペアの言うことも尤もである。

戦闘能力は大した事はないが、逃げ足が異常に早いあの二人。

このまま追い掛けるのもいい加減に面倒。

そう言ってエージェントが懐から出したのは、一丁の銃。

「あんな雑魚にこんな代物使いたくなかったが・・・・・」


それは、色こそ違えど、アキハが持っていたのと同型の凶器。

既存の銃と違い、連射が可能な新モデルの銃。


「マズイ・・・・・・!! カルー、早くもう一度ルフィたちの前へ出るんだ!!」


あの銃を見たことがあるウソップは、その性能を知っている。

故に弾を詰め、発射されるよりも前に開けた場所へ出ようという心算。


・・・・・・・ルフィが「おかしく」なったのは、そばにいたやる気がなさそーな女に違いねえ!


「原因は一つだ!! 急げ、カルーッ!!」

「クエェーッ!!」

事前に敵が「罠」だと教えてくれた、ルフィの背中に付いたあのマーク。

あれがルフィをおかしくしている原因なら、その犯人は未だ行動を起こしていないあのMr3の相方に違いない。

そう考えてのウソップの行動だったが、一足、いや半足遅かった。



「え・・・・・・!!??」

「!!!」


銃弾が放たれる前にルフィたちがいる場所へ戻ってきたウソップとカルー。

しかしながら、運命は彼らの行動をあざ笑うかのよう。

呆然とする二人の眼前、既に全身を「ろう」に覆われたゾロ、ナミ、ビビ、そして巨人のブロギーの姿があった。

そして追い討ちをかけるかのように聞こえてくる、背後からの追手の声。


「コイツは避けようがねえぞ・・・・・・「フリントロック式 44口径六連発リボルバー」・・・・・南の海の新モデルだ」


終わったなお前ら、というMr5の声をと共に、横から聞こえてくる、また別の声があった。



「お茶が・・・・・・・うめえ・・・・・・・・・・!!」


ミス・ゴールデンウィークの能力「カラーズトラップ・なごみの緑」によってお茶を飲んでいたルフィ。

しかし、その形相は決して和んでいるものではない。

罠にはまっていても、ルフィの意識はある。

仲間たちが苦しんでいるというのに、自分が助けたいけれど、「助けたくない」。

そんな、完璧に矛盾した気持ちが、表情に出ているのだろう。

誰よりも仲間を大切にするルフィのことだ、その苦痛は身を切られるよりもキツイものがあっただろう。



「馬鹿野郎・・・・・・・・・!!」


その苦痛を理解できないウソップではない。

自分に迫っている危機には目もくれず、ルフィを解放するために手を打つ。

取り出したのは、自らの得物。

パチンコに弾丸を詰め、撃ち出す。


が。


「!! くそ、撃ちやがった!! 火炎星!!」


構えていたMr5の銃、それが発射されるタイミングとほぼ同じ。

ウソップの放った火炎星は、寸分違わず命中した。



「うわぁぁぁぁっ!!」

「馬鹿ね、狙いを外して味方を撃ったわ!!」


――――ルフィを。

しかし、それこそがウソップの狙いであり、目的。

決して狙いを誤ったわけではない。

だがウソップには今はそんなことを考えるよりも、気掛かりな事がある。

Mr5が撃ったはずの銃弾、それが飛んで来ないのだ。


「弾が・・・・・・・飛んで来ねえ?」

もしや不発か、と。

そう思うのも必然。

―――――――しかし、それこそがMr5の能力。

全身を起爆することも出来る危険極まりない「ボムボムの実」、その能力者は「息」すらも爆発する。


その吐息をリボルバーに装填、引き金を引けばどうなるのか。


「そよ風息爆弾!!」

「!!?」


結果は単純、弾が飛んでこないと高を括っていたウソップは、「見えない爆発する弾」を全身に浴びる結果となった。




「トドメ、だ!!」

ジャキン、と先程の銃を構える音。


これ以上の任務失敗が許されないMr5ペアにとって、いくら小さな火種でも消しておくに限る。

「死歌」にやられた記憶が、蘇る。

あの時、アイツが現れなければこんな事には、と八つ当たり気味な怒りを以って引き金を引こうとした矢先。





「<私が盾になるよ どんな辛い時だって 全てが敵だって>」





Mr5ペアにとって、一番来て欲しくない相手が、その場に現れた。


彼らが確実に殺したと思っていた相手は、今しがたウソップへと向かっていた「そよ風息爆弾」の射線上に割り込み―――――――


半透明に輝く黒い壁、それを前方に作り出し、Mr5の攻撃を悉く防ぎ切った。

「!!? 何しやがった!?」

片膝立ちでしゃがんでいた体勢からゆっくりと起き上がり、その長めの前髪から覗く視線が、Mr5を捉える。


蛇に睨まれた蛙、というのはこういう気分なのだろう。



そんなMr5の胸中はいざ知らず、彼――――――――アキハは右手の指を曲げ伸ばししながら言葉を紡ぐ。


・・・・・・・・明確な、憤怒を込めて。


「よくもまあ好き勝手やってくれたもんだ、お前ら・・・・・・・・覚悟は、いいな?」





反撃、開始。







[11826] 第十四話
Name: ソリトン◆c040fcc2 ID:5ba0b33f
Date: 2009/10/05 21:13
殺した。

確かに、始末した。

―――――消した、筈だったのだ。

しかし結果はどうだ? 今こうして自分たちの目の前に立っているこの男は何だ?

ミョウゲン・アキハ。

懸賞金四千九百万ベリー、「白ヒゲ」海賊団のクルーは伊達ではないという事か。

ありえない、と、Mr5の思考は先程からそればかりを告げている。

自分の持てる全ての力で攻撃した。

人質を取り、反撃や防御も許すことなく完膚なきまでに。

しかし、こうして標的は生きている。


――――――――能力<ポテンシャル>の差。


「許さねえ・・・・・・・・・!!」

自分はバロックワークスのオフィサーエージェントだ。

その自分が、こんな少数海賊団の、船長でもない男に負けても良いのか?


――――――断じて、否!!


「おれはバロックワークスのオフィサーエージェントだぞ!!」

そうして、彼は未だ此方を睨んでいるアキハへと突貫した。
















怒りに任せて出て来たものの、アキハの脳内は割りと落ち着いていた。

自棄になったら勝負は終わり、というエースの言葉を忠実に守り、彼はどんな状況でも自分を見失うことはない。

まず、広い視野を以って状況を把握。

しようとした所で、ウソップから簡単に、かつ的確に状況を教えてもらう。


「本当か、それ!? 意外とヤバ気な状況じゃないか・・・・・・・」

アキハの呟きも尤も。

せっかく出会えた仲間が、今まさに「ろう人形」に変えられようかとしている状況。

しかも既にろうは固まっており、どうにかして救おうかと考えなければならない。

が、突然突進してきたMr5によってその思考は中断させられる事になる。

ウイスキーピークのときとは違い、自分を見失っていない怒り。

コレは厄介だ、と心中愚痴り、アキハはMr5と交戦した。




―――――そして、この男も復活する。


「おい、目が覚めたかよ、テメエッ!!」

ウソップの言葉に反応し、激怒した表情で立ち上がるのは、ルフィ。

先程のウソップの行動、ルフィへの「火炎星」は、服に描かれたトラップを服ごと解くためのものだったのだ。


「出撃!! キャンドルチャンピオン!!」


さらに全身を「ろうの鎧」で固めたMr3も参戦し、戦いはますます佳境へ。


その後にウソップの機転によって判明した「ろうは炎で溶ける」という弱点。

さらにミス・ゴールデンウィークが素直に白状した言葉によれば、四人ともまだ固まって時間が経っていないので、救えるとの事。


「最早持って三十秒! それでそいつらの心臓は永久に停止する!! 今、そいつらは微かに残った意識の中で、死への恐怖にもがき苦しんでいる事だろうよ!!」


Mr3は、そう言った。
――――――つまりは、三十秒以内であれば救えると、そういう事。

アキハの能力で火を付ける事は可能だが、流石にあの質量を丸々燃やすほどの炎は無理があるし、時間も掛かる。

それに、今のこの鬼気迫る様子で襲い掛かってくるMr5が、そんな時間を与えるとは思えない。

明らかに、進化している。

何が引き金となったのかは知らないが、アキハは憮然とそう思った。

しかしその進歩を祝福してやる程、今のアキハはお人よしではない。

むしろぶっ飛ばす気満々だ。



ろうの弱点を付き、燃える「火炎星」によって「ろう人形」にされた四人を助けようとしたウソップも、ミス・バレンタインによってパチンコを蹴り飛ばされ、自身も吹き飛ばされてしまう。

それを成したミス・バレンタイン、彼女もアキハの方へと近付き、Mr5と連携を取ってアキハを倒そうと攻撃する。


「いい加減に・・・・・!!」

「邪魔なのよ、アンタ!!」

内心、舌打ち。

アキハにとって、こういう冷静に怒っている敵が一番厄介なのだ。


―――――――どうする?

自分に、問いかける。


まだ試していない切り札はある。あるが。


「っ、ええいクソッ!!」


考えている時間もない。

最早残された時間は十秒あるかないか。

ウソップとカルーがなにやらしているようだが、それも間に合うか怪しい。

身体への負担、制御など不安要素は尽きないが、コレに賭けるしかない。

何よりも。

――――――カロットと俺の恨み、晴らさでおくべきか―――!!


「そんなに俺が憎いか、ミス・バレンタイン!!」

「ええ、そうよ! あんな屈辱、生まれて初めてだわ!!」

そう、何を躊躇う必要があるのか。

当時の様子を思い出したのか、より一層の敵意を込めて迫る彼女。

しかし。

「ハッ、綺麗な身体だったのにか!?」

「っ!?」

その言葉によって、一瞬、わずかに一瞬ではあるが動きを止めてしまう。

「女」である事を利用したセクハラであるが、今はそんな事を言っていられない。

その隙を逃すアキハではなく、後方へ跳躍。

そして。


「<解き放つ 黄金の輝きが 全てを打ち抜く 光となる>・・・・・・!!」


両手を前に突き出し、バックジャンプの途中で詠唱を完了。

能力が、発動する。


―――――――現れたのは、アキハの両腕に纏い付く金色の閃光。

稲妻のように形を変え、解放の時を待ち望んでいるソレは。

「吹き飛べぇっ!!」

彼の掛け声に従って、具体的な形を得る。

彼の両腕から解き放たれた閃光は、彼から離れるにしたがって加速、膨張し、金色の柱となってMr5へと殺到。

目の前に突然広がった黄金の輝きに、Mr5ペアは驚きを隠せない。


「なっ!?」

「きゃっ!?」


驚く声も、一瞬。

文字通り全てを飲み込んだ閃光は、ジャングルの木々までもなぎ倒し、やがて段々と細くなって消えていった。

後に残されたのは、閃光の持つ熱量と衝撃によって気絶し、またもや一糸纏わぬ姿になったミス・バレンタインと・・・・・・・・Mr5。

状況確認のためソレを直視してしまったアキハ、吐きそうである。


「おえっ・・・・・・・・・って、そんな状況じゃない!!」


すぐさま走り出そうとする彼だったが、その必要はないようである。

「キャンドルチャンピオン」とやらの頭部、剥き出しになっているMr3の髪の毛に着いている火を、ルフィが掴み。

カルーが走り回る事によって「キャンドルサービスセット」に円周状に巻かれたウソップ特製の「油たっぷりスペシャルロープ」に、それを点火、あたり一面が業火に包まれた。


「少し熱いが、我慢してくれよ」


というウソップの言葉通り、近くにいるだけのアキハでもかなり熱い。



「ん?」

何とかなったか、と一息付いているアキハの視界の隅に、ジャングルへ向かって逃げていくMr3の姿が映った。

追い掛けるか、とも思ったが、それを追ってすかさずルフィが追い掛けて行ったので任せる事にする。

差し当たってはあいつ等の無事を確認するか、と思い炎へ向かっていくと、そこから現れる一つの影。

正確には、ぐったりしているナミを背負ったビビだ。

何事かと尋ねるアキハの胸にすがり、ビビは泣きそうな声で訴えた。


「アキハさん、大変!! ナミさんの心臓が動かないの!!」

「はぁ!?」








少々躊躇いながらもナミの胸に耳を当て、心臓の音を聞こうとするが、全く聞こえてこない。

さらに言えば口に手を当てても何の感触もなく、唇の色も紫色。

非常に、危険な状態。

「本気でマズイな、コレは・・・・・・・・・・」

言うが早いが、アキハはナミの顎を持ち上げながら後ろに反らす。

人の命が懸かっている状況で、躊躇は命取り。

本当はビビにやってもらった方がいいのだが、知っていればやっていただろうし、そもそもこの時代にそんな知識があるのか疑問。

どちらにしても今のパニック状態の彼女では不可能だろう。

事態は一刻を争う。



故に、アキハは。


「んっ・・・・・・」

「ち、ちょっと、アキハさん!? こんなときに何を・・・・・」


ナミの鼻を摘み、自分の唇をナミのそれに押し付けた。

とはいっても、別にキスではなく、人工呼吸が目的。

―――――まあ、やっている事は同じであるが、意識の違いだ。

騒ぎ立てるビビを一先ず無視、息を吹き込む事二回。

今度は手をナミの胸の中心に当て、真上から圧迫する。

速く、強く、絶え間なく。

三十階繰り返したあと、再び人工呼吸。

死なせない、の一心でアキハはやり続けた。


だからかもしれない。



ナミの目が開いたのは、アキハが人工呼吸を行っている、まさにそのタイミングであった事に気が付かなかったのは。













「そ、そう・・・・・・・・・ありがとう、アキハ」

「いや、無事ならいいさ」

あの後、速攻で殴られたアキハは、頬を赤く腫らしながらも未だ拳を震わせているナミに事情を説明。

ついでに顔を紅くして見ていたビビにも、同じことを聞かせる。

そしてようやくその行為が自分を助けるためだと分かったナミであったが、やはり異性にソレをされたというのは意識せずにはいられない。

頬を紅くしてチラチラとアキハの様子を伺っているのを、彼は敢えて無視した。


・・・・・・・・あの年頃の女子だし、仕方ないけど・・・・


そういった一般的な見解を持っていたからであるが、それでも若干の罪悪感はある。

ファーストキスだったのに・・・・・・・という言葉を聴くとなお更。


ちなみにアキハはそういった「照れ」という物を隠す事において、かなりの上級者である。

初めてでもないし、そんな事を一々気にしていてはあの業界は渡っていけなかったのだ。

などと言ってみても、やはりアキハにも照れはあるから隠すわけで。

―――――――ナミも美人だし。

しかし、今の状況はそういった甘い悩みが許されるはずもなく。


「行こう、二人とも。ウソップたちの様子も気になる」

「ええ、そうね。行きましょ、ナミさん」

「え、ええ、分かったわ・・・・・・・・・・」


三人は未だ燃え盛るキャンドルのオブジェを見ながら、残りの仲間と合流するのであった。









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