「ねえ、アキハ?」
「ん?」
甲板上に持ち込んだハンモックで寝そべりながら、目から火を噴くというウソップの奇行を生暖かい目線で見守っていたアキハは、不意に隣から聞こえてきたナミの声で現実に戻った。
彼女の手には、一枚の新聞。
―――――ああ、そういえば。
「貸してくれるのか?」
「あんたがそう言ったんでしょうが・・・・・・・・・でも意外。新聞なんか読むんだ」
心底、本当に驚いている表情をするナミ。
以前この船で旅していた経緯から察すると、この船では誰も新聞を読まないのだろう。
「(もったいない)」
心中でそう呟きながら、傍に寝そべっていたカロットの頭を撫でる。
アキハが麦わらの一味に入る条件として、「白い巨大ウサギを探すこと」というのもあった。
しかしルフィは、ソレを聞いた途端に満面の笑み。
船まで連れてこられてあらビックリ。
カロットが、甲板上で日向ぼっこをしていたのだ。
聞けば、アーロンパークに向かっている最中に落ちてきたという。
そのままにしておくのもアレなので、発見したゴーイングメリー号に乗せて置いたと、そういう訳だという。
しかし、約一瞬間も滞在していたにも関わらず船から動いていないとは、相当の怠け者である。
まあ、何にせよ。
「情報はいくらあってもいいからな・・・・・・」
全く、その通りである。
呟きつつ、アキハが新聞を広げると、不意にチラシのようなものがヒラリと地面に落ちた。
それが、二枚。
「あ」
「お」
「ん?」
ゆっくりとナミがソレを拾い上げ確認し、様子が気になったウソップがソレを覗き込む。
瞬間。
「えええええええええええええっ!!!???」
「なっはっはっはっ! おれたちお尋ね者になったぞ! 三千万ベリーだってよ!」
「俺の方は変更なしか・・・・・・・・・まあ、暴れてないんだから当然か」
先ほどの手配書の内容、ソレはルフィの首に懸賞金が掛けられたことを示すものだった。
アキハの物もあったが、特に変更はされていないので本人は軽く流す。
――――――――しかし、周囲の人間はそうはいかない。
「お、おいアキハ!! お前賞金首だったのか!?」
「しかもこの額・・・・・・一体何やったの!?」
「つーか、お前どこの海賊団にいたんだよ?」
よくよく考えてみればアキハについては「歌に不思議な力がある」事しか知らない麦わらの一味は、これ幸いと質問攻め。
「待て待て、一辺に言われても答えられん」
俺は聖徳太子じゃないんだからと心中で呟き、一つずつ質問に答えていく。
「じゃあ、本当に白ヒゲの・・・・・・!?」
「ありえねえ・・・・・・・「ひとつなぎの大秘宝」に一番近い男のクルー?」
最も、最後の質問――――――アキハが白ヒゲの一味だということに関しては半信半疑だったので、証拠を見せることにした。
「ほらよ」
言い、上着とシャツを脱ぎ捨てるアキハ。
突然なその行為にナミが少しだけ顔を紅くするが、彼の背中を見たところで表情が固まる。
そこには、見間違えようも無い「白ヒゲ」のジョリーロジャーが一面に刻まれていた。
「さて、と・・・・・・・」
ようやく解放され、カロットのフカフカな毛皮を枕にして寝そべっているアキハは、その言葉と共に起き上がる。
まだ島――――――地図から行くと、ローグタウン――――――が見えないので、時間はたっぷり有るはず。
考えるのは、傷つきながらもアーロンに立ち向かったときに感じた、あの不思議な感覚。
それだけではなく、いつもなら一曲全て歌わなければ発動しなかった「実」の力が、一小節だけで発動した。
しかも、その能力は実戦向き。
これをマスターすれば圧倒的に戦力に繋がるが、生憎とあの時の事はおぼろげながらにしか思い出せない。
「<雷光の剣で 敵を蹴散らせ>・・・・・・・?」
うろ覚えの歌詞でそう呟くが、何も起きず。
確かそんな意味の歌詞だったとは思うが、完璧に思い出せず、何より自分はそんな意味の歌詞を歌ったことは―――――――――あった。
映画の主題歌だ。
地球侵略を目論む異星人に対し、人類が立ち向かうというストーリー。
ソレが分かれば、後は単純。
曲名、「Destiny Braver」。
「<さあ 前を向き 立ち上がれ>」
「<右手に相棒 左手に恋人>」
「<信じるべきものを信じて 今 歩き出そう>」
「<世界は お前に委ねられた OK, Let’s stand up!!>」
問題の歌詞は、この後、サビに入った直後だが、リズムに乗っていれば何と言うことは無い。
予定調和のように、アキハの頭の中に流れ込んでくる言語。
その言葉に、頭の中で思い描いた幻想を乗せて。
歌詞として、言霊を紡ぐ。
「<稲妻の剣で 敵を滅ぼせ>」
結果は、分かっている。
正面に突き出した右腕、そこに以前と同じ光り輝く大剣が握られていた。
分かったことがある。
ローグタウンを視界に捉え、前方に見える島を見つめながらアキハはぼんやりとそう考えた。
一つ目、例の一小節で発動する言葉には、いくつかの種類があることが判明。
それも、単体で意味を持つ言葉でないと効果は期待できない。
もう一つ。
この能力、消耗が激しいのだ。
船の後方、誰もいない所で実験したところ、約五回で立っているのもままならなくなった。
まあ、現在の状態は怪我が癒えておらず、万全とは言いがたいので回復すればまだ持つだろうが。
そんなわけで、身体中に襲い掛かる疲労感と戦うアキハをよそに、ゴーイングメリー号はローグタウンへと向かう。