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[11872] 【習作】アニスの冒険(現実→ランスTS転生)
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2010/01/20 00:04
はじめまして、ムラゲと申します。

アリスソフトさまの傑作『ランス』が大好きで、戦国以降何も情報の入ってこない現在に寂しくなりこの作品を作成しました。
(2のリメイクがでるそうですが8はいつになるんでしょう?)

初めての作品ですので幾分拙いところがあるかと思います。できるだけ修正していきたいので、ご指摘下されば嬉しく思います。




この世界設定は原作をベースにしておりますが、いくらかオリジナルの設定が含まれています。
また説明が長くなることもありますのでご了承ください。

設定や登場人物の性格が改編することもあるので、ご了承願います。



[11872] 第一話  なんでエロゲ・・・
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2009/10/24 16:02
第一話  なんでエロゲ・・・




やはり人生とはままならない物です。

まじめに普通の人生を過ごしてきたはずなのに目が覚めると


『赤ん坊』



・・・・・・なんでだー!





◇◇◇◇


時が経つのは早いものです。

もう5年が過ぎました。

やっと私、子供の本能に流されなくなりましたよ。

で、私に起こった不思議について改めて考えられるようになりました。



…転生ですよね。


まあ、前の人生でも結構小説とか漫画で転生・憑依ものとか読んでいましたので、

『赤ん坊』

になったことや、

『女の子』

になったのもまだいいのです。(実は結構ショック、さようならぼくのマイサン)

前の私が何らかの理由で死亡して(何時死んだんだろ?)

『たまたま前世の記憶をもったまま転生した。』

と、かなり強引に自分を納得させることには成功しました。



けど・・・


なんか普通に手のひらから火の玉出してるんですけど。
うちの両親・・・


オーケー、オーケー落ち着こう。

ちょっと情報をまとめてみようか。


①目が覚めると女の赤ん坊になっていた。

②魔法とかが普通に存在するらしい。

③私の名前は『アニス・沢渡』

④今いるこの国の名は『ゼス』と言うらしい。
 
⑤よく私の面倒を見てくれる近所のお姉さんの名前『山田千鶴子』


はっはっは、なに、この世界


・・・ランスだわ。


いやだー!!(泣)


転生系、憑依系、異世界に移動する話はいろいろあるけれど、

よりによって

『エロゲ』

しかも名前付のキャラクターで女の子ですか。



……最悪です。

なんか将来ランスに押し倒される映像が頭に浮かぶんですけど。


魂は肉体に引きずられるといいますが、私自身この数年でかなり女性的思考になっていると自覚はしていますよ。

しかし、男に押し倒されるのはさすがに勘弁してほしいのです。

神様、私なにか悪い事でもしましたでしょうか。


……というか、この世界の神様って確か

『ルドラサウム』


……単なる暇つぶしでやりそうですね。

それどころか万が一にも興味を持たれたらオモチャにされかねません。



…考えるのやめとこう(汗)。

うん、それがいいですね。
…………寝よ。





昨日は思考がマイナスになってしまいましたので寝てしまいました(ふて寝とも言う。)が、現実逃避していてもしょうが無いので次は私について考えようと思います。

ゲームをやってからもう何年も経つから細かなところは覚えてないけど、

『アニス・沢渡』

確か、魔力はすごいけどへっぽこで味方殺しとか呼ばれてたような・・・

で、将来は爆弾の材料かハーレム入り・・・

あれっ、あまりよいイメージが湧かないのですが……orz。

気を取り直していきましょう。
深く考えたら負けなのです。



しかし、これらの不幸を補って余りあるチートな能力(技能)があったはずです。

それこそ世界でも数人しかいない技能、

『魔法Lv3』

確か伝説級とまで言われていた能力のはずです。

おお、選ばれし者の力……俺Tueeeeeですね。


しかし、魔法ですか。
本当に私が使えるのでしょうか?



……ちょっと試してみようかな・・・、


手の先に炎を意識したイメージを集中させて……、


「炎の矢」

バフン!

おお、前に構えた手の先から煙が出てきました。

さすが伝説級、誰にも教わらなくても感覚的に何か出てきそうです。
もう一度試してみましょう。


もう一度手の先に意識を集中させて……、


「炎の矢」



『ズガーン』



あれっ?    



[11872] 第二話  やっぱり誰かの陰謀のような・・・
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:30
第二話  やっぱり誰かの陰謀のような・・・



どうも、へっぽこ魔法幼女アニスです。



前回いきなり終わってしまいましたが、結果から言いますと魔法は大失敗でした。

私が出した魔法はいきなり大爆発を起こし、10メートルほど吹き飛ばされ、私はそのまま気絶したようです。

現場にはまだ大きな爆発跡が残っています。


……外でよかった(汗)。


家の中なら大惨事です。


あの後、爆発音を聞きつけた両親や千鶴子さま(ゲームでもそう呼んでいたので使ってます。千鶴子さまは恥ずかしがっていますが気にしません。)が駆けつけ、気絶している私を助けてくれたそうです。


・・・両親や千鶴子さまに泣かれて大変でした。

あれだけの爆発や、かなりの距離を吹き飛ばされたにもかかわらずほとんど怪我がありません。

……ギャグキャラ補正?

不思議に思っていると千鶴子さまが説明してくれました。


爆発の原因は魔法の発動の仕方も知らない私が魔法を使用したのが原因。

どうやら火薬に直接火をつけるような馬鹿な真似をしたそうです。

本来ならそんな状態では魔法は発動しないはずですが私の場合、化け物じみた魔法力から発動が成功したとのこと。

私が大爆発に巻き込まれ空を飛んだ(比喩的表現ではなく)にもかかわらず殆ど怪我をしなかった理由については、またまた私からあふれ出た魔法力がバリアのような防壁を作ってくれたことと、落ちる際うまく受け身をとった形で落ちたようだとのことです。

私の魔力のせいで危ない目にあって、その魔力のおかげで助かるとは複雑な気持ちです。
受け身については前世で柔道していた位しか思い当たりがないのですが魂が覚えていたのでしょうか?


しかし、千鶴子さま、確か私とは一つしか歳が違わないはずなのにここまで分析・説明できるなんてどれだけ頭が良いのですか。

私もいい加減チートだと思いますが、充分あなたもチートですよ。

平凡な魔法使いのうちの両親あっけにとられてますが……。





さて、前回の失敗は忘れていい加減考えないといけないことがあります。

本編に介入するのかしないのかを。


本編に介入するということはランスと行動を共にするということです、非常に高い確率で貞操の危機を迎える上に死亡フラグも満載です。

それでは介入しない場合はどうでしょうか?

本編ルートならのんびりいけそうな気もしますが、万が一にも鬼畜王ルートにでも入られれば洒落にもなりません。

爆弾の材料かハーレム入り、エンディングも天使と白くじらのせいで地上はめちゃくちゃ、数少ない幸福エンディングもランスが王座を放り出しシィルちゃんを連れて冒険に出るか、絶対権力を持った王様になる。

だったと思います。

私にとってどちらもあまり幸福になれそうな感じはしません。



……やはり本編に介入しましょう。

私は名前付キャラクターとはいえ所詮脇役の一人、私自身の将来に余り変化があると思えませんが他の人たちは違います。

この世界に生まれて5年、妹のようにかわいがってくれる千鶴子さまや両親にも愛情があります。

それに奴隷制度のあるような気分の悪くなる国ですが一生懸命生きている人がたくさんいるのです。

そんな人たちを関係ないからの一言ですませるのは流石に良心が痛みますし。

偽善者と言われるかもしれませんが、かまいません 、やらない正義よりやる自己満足なのです。

本編にイレギュラーが係わったせいで余計に悪くなるというのも却下なのです。

そんな事を気にしていたら何もできません、『人事を尽くして天命を待つ』、これが私の生き方なのです。


では、少しでも生き残る確率を増やすため修行をしないといけませんね。

せっかくの『魔法Lv3』なのですから。

けど、思い当たる先生が千鶴子さまとうちの両親だけなのです。

千鶴子さまは天才と言ってもまだ小さいですし、両親も普通の公務員であまり先生としては期待できません。

どこかにいませんかね、幼女でも才能を認めて修行をつけてくれそうな方は。


………いませんね、そんなつごうのいい先生は。





◇◇◇◇


ついに8歳になりました。
魔法応用学校入学イベントです。

魔法応用学校の入学は8歳から試験を受けることができます。
そして魔法応用学校入学に必要なことはただ一つ、

『一級市民であること。』

です。ちなみに一級市民の資格は、

『15歳までに試験で魔法を発動させることができる。』

ただこれだけです。

決して

『魔法Lvを持っている。』

ではありません。

ゆえに1級市民には魔法が使えれれば二級市民の子供でもなれる、という建前になっています。

しかし、ここに特権階級のずるさがあります。

意外に思うかもしれませんが、魔法Lvを持っていなくても魔法は使えます。

魔力というのは人によって多い少ないの違いはありますが誰でも持っており、魔力が大きければ魔法は発動しやすく、小さければどんなに頑張っても発動しません。
私の様に知識もなくいきなり魔法を発動させられる人間というのは例外中の例外なのです。

そして普通、魔法を発動させるには何年もの勉強と訓練が必要になり、千鶴子さまですら1ヶ月間の修行と訓練が必要だったとか。

ちなみに義務教育ではありませんが6歳から通える魔法学校ではない学校もあります。
ここには二級市民の子供でも入学できます。

ただ、学費が二級市民には厳しい金額に設定されているため、ここにすら通えない子供もいます。

しかも、この学校で勉強したからといって魔術の発動方法を教えてもらえるわけではありません。

ゆとり教育と肝心な所を教えない勉強法のため読み書き算術などは身に付いても魔法に関してはさっぱりです。

ゆえに、魔法の発動法を覚えるには魔法使いに家庭教師を頼むか高額な塾に通うという方法になります。

塾は高額のため二級市民にはまず無理です。

家庭教師にしても、差別意識の強い魔法使いが二級市民の家庭教師を引き受けるはずもなく、運良く差別意識の少ない魔法使いを見つけても報酬が高額の上何年も契約しなければならないことから貧しい二級市民にはかなり難しいです。

ちなみに家庭教師の最低賃金は国によって定められていますのでそこより安くしたりボランティアで行ったりすれば教えた方も習った方も罰せられます。

表向きの理由は労働環境を守るためとありますが実に狡いです。

では、魔法書を貸し出して自分で勉強してもらう方法はどう?と、言う方がいると思いますがこれもだめです。

国に登録している一級市民以外に魔法関係の書類を貸し出し、譲渡は禁止されています。違反すればスパイ防止法で捕まってしまいます。

実に抜け目がありません。

後はリーザスや自由都市に行ってくるしかありませんが、二級市民には引っ越しや旅行に制限がかかっているため、これもだめです。


このように権力者の嫌がらせにより、ゼスの腐った体質は受け継がれてきたのです。



さて、ずいぶんと話が脱線してしまいましたが再び入学試験です。

私の魔法の発動については問題はありません。
この三年間、学校には行かずに修行し、千鶴子さまや両親が根気よく教えてくれました。

もっとも、何回も失敗しては爆発し千鶴子さまや両親を巻き込んでしまいましたが……。

あきらめずに教えてくれた千鶴子さまや両親に感謝です。


入学許可が出ると、その後学校分けがされます。すなわち、

・『魔法Lvが高い者、筆記試験優秀者、貴族は名門校』

・『魔法Lvがあり筆記試験が一定のランク以上の者は優秀校』

・『魔法Lvはあるが試験結果が悪い者、魔法Lvが無い者で筆記試験でトップクラスではない者は一般校』

に振り分けられます。

そのため、貴族はそのまま名門校に、そのほかの者は学校公認のレベル屋に行って確認してもらいます。
レベル2以上なら筆記試験なしで名門校合格です。


さて、今私は千鶴子さまと一緒にレベル屋に来ています。

実は私、実際にレベルを見るのは初めてなのでちょっとわくわくしています。
問題は無いと思うのですが。

「ほら、順番よアニス」

おや、いつの間にか私の順番になっていたようですね。千鶴子さまに呼ばれてました。


個室に入ると大きな水晶玉がありその向こうに若い男性がいました。

残念、男の方ですか、ウィリスさんの様な美女なら私のレベル神になってほしかったのですが。

「この水晶玉に両手をつけてください。」

レベル屋のおにーさんの言われるまま両手をつけるとおにーさんは呪文のようなものを唱え始めました。

おおー、水晶玉が光り始めました、なかなか感動的な光景です。

水晶玉に文字が浮かび始めました。

あれっ?文字が三列もありますよ。

「魔法Lv3、神魔法Lv2、武器戦闘Lv1ですって!!」

突然、千鶴子さまの叫びが響き渡ります。


…まぁ驚きますよね、なんたって伝説級のLv3ですから。

「アニス、なに落ち着いてるのよ、魔法Lv3だけでもとんでもないのに、神魔法Lv2、武器戦闘Lv1と3つも戦闘技能持ってるのよ。!!」

えっ!
……神魔法Lv2、武器戦闘Lv1!



そんなの聞いてませんよ。!

いったいどうなってるんですか。?

なにこのチート。

本当にしろくじらの陰謀ではないのですか?

誰か教えてください。



プリーズ!



[11872] 第三話  千鶴子の思い
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2009/10/24 16:08
第三話  千鶴子の思い

千鶴子side


私は異常だ。

そう感じたのは何時のことだったろう。

生まれて2年もしないうちに言葉だけでなく文字を覚え、絵本より難しい研究書を好んだ。

両親も初めのうちは天才だ、神童だと喜んでいたけど今ではすっかりはれ物を扱うようになった。

無理もない、どこの世界に英才教育のためにつけられた家庭教師や親の間違いを指摘したり、現在の政治体制についての問題点を語る幼児がいるのだろう。

最初は楽しかった、知らない知識をどんどん学び自分の身になるのが分かったから。
しかし物足りなくなるのにそう時間は掛からなかった。

両親や先生の教えることは以前教えてもらったものと似たものが多くなり、矛盾した内容に気づくようになったから。

私は疑問点を次から次に質問した。

そのうち両親は私に質問や間違いを指摘されることを怖がるようになり、あまり話さなくなった。


そのころだ自分の異常さに気づいたのは。

家庭教師いわく、私は理解力と応用力がずば抜けているらしい。
いわゆる情報処理能力の才能、情報魔法の才があるそうだ。
この才能は10数年に数人しか出ない貴重な才能らしい。
しかし大抵はある程度年齢を重ねてから出る物らしく、私の場合人格や経験が深まらないうちに発現してしまったためこんなひねた人格になってしまったようだ。
もっとも、こんな事が分かっても普通の子供に成れるわけもなく時が経つにつれ私の孤独は深まった。

同年代の友達は誰もいない。

しかたないだろう、私には近い歳の子達はあまりにも幼稚すぎ、話題も全然つながらないためイライラしてしまうのだから。

自然、、私は一人で本を読むことが多くなった。


そんな時だった、あの子と出会ったのは。


家にいてもつまらない私は一人で近くの公園のベンチで本を読んでいた。
どれくらい経ったのだろう、読んでいるところが一段落過ぎてふと顔を上げると女の子がいた。

3歳位だろうか、青い髪の女の子がニコニコ笑いながらこちらを見ていた。

『なに、この子?』

そう思ったのも一瞬のこと、すでに他人に対して興味が持てなくなっていた私は直ぐに立ち去ろうとした。


いきなり服を掴まれた。

「おねーちゃん、難しいご本読んでるんだねぇ。私、『アニス・沢渡』、おねーちゃんは?」

『なに、この子、いきなり自己紹介?』
関わり合う気のない私は掴まれている服を引きはがし直ぐに立ち去ろうとした、が、

むんずっ!
ビタン!

また服を掴まれ、今度は転かされた。

「なにすんのよ!」

「私、『アニス・沢渡』、おねーちゃんは?」

怒鳴りつけようとした私の目の前に顔を突きだしニコニコ笑いながらさっきと同じ言葉を繰り返してきた。


……だめだ、変な圧力を感じる。

気づいた時には私は自分の名前を言っていた。

「やまだ…、山田千鶴子よ。」

「やまだちゃん?」

「私、山田で呼ばれるの嫌いなの、千鶴子の方で呼びなさい。それと私の方が年上でしょ、ちゃんと敬語を使いなさい。」

私はなにを言ってるんだこんな小さな子に。敬語なんて意味が分かるわけないのに・・・。

「けいご?……しってるよ、偉い人に言う言葉だよね。」

え!知ってるの?

「じゃあ、おねーちゃんは『千鶴子さま』だね。
 けってーい、もう変更は聞きませーん。」

「ちょ、ちょっとまって。」

「待ちませーん、もう何もきこえませーん。」



これが私とアニスの出会いだった。

その後アニスは何かと私につきまとい、どんなに無視しようとも、何度追い払ってもニコニコ笑い、私の後をついて来るようになる。(千鶴子さまという呼び方も変わらなかった。)
そのうち私は慣れてきてアニスといることが普通になった。

アニスは問題点の多い子だ、
・走ればころぶ。
・物に触れば壊す。
・バナナの皮があれば必ず踏んでしまう。
等、どじっぷりが実に目立つ。
そのため何かとアニスの世話を焼くようになるまでそれほどかからなかった。


そんな状況が続き、アニスが5歳位になったとき事件がおこった。


アニスの魔法暴走だ。


ある晴れた日、私はアニスの家に向かっていた。

いきなりの爆発音

私は慌てて音の発生源、アニスの家の庭に駆け込んだ 。

そこにあったのは地面のえぐれた大きな跡と、少し離れた場所に倒れているアニスだった。

『なに、この状況……』

あまりに現実離れした光景、現実逃避の為だろう、私は冷静に起こった状況を分析していた。

その後、私と同じく爆発音を聞きつけたアニスの両親が駆けつけ、その悲鳴で我に返った。
私はパニックを起こしている二人を落ち着かせ、あわててアニスを家に運んだ。

幸いアニスは気絶しているだけで目立った外傷は無いようだ。

幸い?

あの状況で怪我一つ無いというのはどんなにうまく受け身をとったとしても異常だ。
どう見ても至近距離で爆発に会い、吹き飛ばされたはずなのに。



魔力?

何この魔力、さっきまで気づかなかったけどこの子からとんでもない魔力が溢れてる。
今まで見たことのある大人達の何倍、ううん、何十倍もすごい魔力だ。

『天才』

いきなりこの言葉が頭に浮かんだ。

この子は生まれながらにして魔法の天賦の才に恵まれているのだろう。
それも人の理解を超えるほどの。

人は自分と違う物、理解できない物を遠ざけようとする。
アニスの才能はどう考えても常人には理解できない代物だ。
アニスの両親も遠ざけてしまうのだろうか、私の両親のように。

………大丈夫ね、この子にしてこの親ありの『天然』だから。


アニス父「そっか、アニスは天才なのか、けど天才だからといって危ないことしちゃだめだぞ、なんたってアニスは女の子なんだしな。」
アニス母「あらあらお父さん、子供は元気な方がよいですわ。」
アニス父「そうだな~、子供は元気なのが一番だな。わっはっは。」


事態の深刻さも理解せず脳天気な会話をする二人が目に浮かぶようだわ。


…う、ううん!

あ、アニスが目を覚ますようね。


「知らない天井だ。」


記憶が混乱してるのかしら?
ここはあなたの自宅でしょう!。

けど、不覚にも起きあがるアニスを見て涙が出てしまった、いつの間にかこの子は私の中で大きな位置を占めるようになっていたのね。

ちなみにおじさん達は涙に鼻水までたらして抱きついている。
もみくちゃにされて苦しそうだけど我慢しなさい、心配させた罰よ。



その後、自分に起こったことを聞きたがるアニスに私が推測したことを告げた。

・本来起こるはずのない魔力の発動で爆発が起こったこと。

・爆発の衝撃は今もあふれ出ている魔力で防ぎ、墜落の衝撃は偶然受け身を取ったため拡散したのだろう事。

これらの事を説明した。専門用語もかなり入っていて難解な説明になったがアニスは理解しているようだった。

やはりこの子は頭がいい。いつもニコニコ笑って、脳天気そうに見えるためアホの子に見られがちだが、この理解力は充分異常だ。



この後、私はアニスに魔法の発動方法を教えることにした。

この子は好奇心が旺盛だ。やめるように注意してもいつか同じ事をする気がする。

その時も偶然魔力が発動して守ってくれるとは限らない。

ならば自力で魔法障壁が貼れるようになるまで一緒にいて直ぐに障壁を貼ってあげられるようにするのがベストだろう。

この事をおじさん達に説明したところ直ぐに納得してくれた。いくら天然でも自分の子供の危険を減らすことができると言うことは大歓迎のようだ。

そしてもう一つ、アニスには『魔力封じの腕輪』をしてもらうことにした。
まだ魔法に関しては素人な私だが、そんな私にすら分かるような膨大な魔力を外にあふれ出しているのだ、危険な事この上ない。

可燃性の気体を周りに振りまいているのと同じと考えてほしい、気づかず近くで魔法を発動させたら大爆発の恐れすらある。

元々、魔法使いの犯罪者の魔法を封じるためのものだが今のところは我慢してもらおう。


女の子が着けていてもおかしくないアクセサリー型のものを探さないといけないわ。
どこかにないかしら。

さすがに犯罪者に着ける物をずっと着けさせるのは可哀想ね。




それから私はよりアニスと一緒にいることが多くなった。

アニスの魔法に巻き込まれ吹き飛ばされることも度々あったが、反面一緒に修行をする事で私の魔力も飛躍的にあがったのでどちらかというと私の方に得になったと見るべきだろう。

あの子は私を修行に付き合わせたり、爆発に巻き込んだりしている事を気にしている様だけどとんでも無い、感謝しているのは私の方だ。

あの時、孤独から心が歪んでしまいそうに成っている、そんな私を救ってくれたのがアニスだ。
どんなに邪険にしても私に付きまとい、いつも笑って話しかけてくれた。
その事がどれほど私を救ってくれたか。

だからアニス、いつか私があなたと対等の友達になれたと思ったときに言ってみせる。


「ありがとう、アニス、あなたと出会えて良かった。」


と・・・・・。






ところでアニス『千鶴子さま』って、絶対わかって言ってるでしょう。(怒)



[11872] 第四話  学園編と思いきや・・・
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2009/09/18 23:05
第四話  学園編と思いきや・・・



どうも、へっぽこ魔法少女アニスです。


前回、魔法Lv3だけでなく神魔法Lv2と武器戦闘Lv1だということが判明しました。

千鶴子さまいわく、武器戦闘というのは剣を練習すれば剣戦闘に斧を練習すれば斧戦闘になるそうです。

蛇足ですが、殆どの人はLv1の才能が眠っているそうで修行や経験を重ねる内にLv1になれるとか。

なるほど、それでランス6の才能なさそうなロッキー君が斧戦闘Lv1を持っていたのですね。

最初から武器戦闘のLvが出ている人は優秀なLv1に成れる可能性が高いと言われています。

なお、千鶴子さまが驚いた理由は、高Lvの戦闘技能Lvを持つている人が複数の戦闘Lvを持っているのは珍しくないそうですが技能を3つ持ちその内2つが高Lvというのはかなり珍しいからだそうです。



だんだん説明キャラ化してますね、千鶴子さま。
イネスさんを越える日は近いのかもしれません。
そのうち『なぜなにランス』とか始めるのでしょうか。

おっと、脱線してしまいました、元に戻りましょう。



しかし、なにか別の存在の意志を感じますね。


……しろくじら、係わってないよね。(ちょっと弱気)


まあ、もし係わっていたところで今のところ出来る事は何もないのですが……。


《怖い考えになった。》


深く考えるのはやめましょう、人間、ネガティブよりポジティブに生きた方が道は開けるものです。



◇◇◇◇

さて、その後ですが、むろん私は千鶴子さまと同じ名門女学校に入学しました。

これで近所の幼なじみから、先輩後輩にレベルアップです。

ここはやはりアクセサリーを渡してスールの誓いをした方がよいのでしょうか?
『千鶴子お姉さま』とお呼びすべきでしょうか?
ドキドキが止まりません。

これからは禁断の学園乙女ライフの始まりですね。





などとお気楽に考えていた時期も私にもありました。





先生がいません。
ついでに友達もいません。
なに、これイジメ?



もともと入学試験自体は8歳から受けられますが大抵の人は12歳以上から受け始めます。
その為、私の同級生はみなさん年上です。

それでも私は

『魔法Lv3』

珍しさも手伝って皆さんよく話しかけてくれましたし、先生も自分こそ伝説の魔法Lv3の師匠になろうと色々気にかけてくれました。


……最初のうちは!


なんで名門学校なのに先生は魔法Lv1なのですか!!


……いえ、わかってはいるのですよ、Lv2ならもっと待遇のいい軍や研究所にいってしまうことは。

ゲームでは結構いた様に見えた魔法Lv2ですが、実際のところゼス全軍の中でも20人いないそうです。

ゼス全軍で12万位いると千鶴子さまから聞いた事があります。
その全軍のうち魔法兵だけでも2万人はいたはずです。
その中の20人て、どれだけレアな才能なのですか。

まぁそれでも、それなりに熟練した魔法使いならLv1でもLv2に魔法の制御方を教える事が出来るのですが……。

しかし、悲しいかな私はLv3。

しかも千鶴子さまいわく、歴史上類を見ないほどの魔法力、結果どうなるかと言いますと、


『どっかーん!』


はい、爆発です。


3回ほど魔法制御に失敗して爆発させ、学校の先生数人を病院送りにし、学校の施設の一部を丸ごと破壊したところで私の周りから誰もいなくなりました。

シクシク(泣)
な、泣いてなんかいないんだから、ちょっと目に汗がしみただけなんだから。


今では魔法の練習に学校の設備を使うことを禁止され、周りからは『先生殺し』『へっぽこ』『歩く災厄』などと呼ばれるようになりました。


……あれれ、目から汗が止まりませんよ。



しかし、私には強い味方がいるのです。
そう、千鶴子さまです。

一人で孤立している私に何かと話しかけてくれたり、ご自分の勉強も忙しいはずなのに私の魔法練習に付き合ってくれます。

今までも散々私の魔法に巻き込んでいるというのに未だに見捨てないでくれていますよ。
ありがたいことです。

しかし、千鶴子さまには借りばかり増えています。
いずれお返ししないといけませんね。


◇◇◇◇


さて、今日も魔法の練習の開始です。

ふ、ふ、ふ。
今まで遊んでいたわけではないのですよ。

なんと、アニスは今では上級魔法のレーザー系まで魔法が使えるようになったのですよ。
8歳にしてこの実力!

アニス無双はすぐそこです。


ただ……。

中級や初級魔法はよく爆発させますし、上級魔法にいたっては魔法構築に時間が掛かりすぎて実戦に使えたものではありません。

ゲームの時は、技名唱えるだけで簡単に見えたのですが…。

千鶴子さま曰く、魔法はイメージと意識構築だそうです。

イメージというのは炎の矢なら飛んでいく炎の矢をどれだけリアルにイメージできるかということでイメージがリアルになればなるほど発動しやすくなるとの事。

これはすぐにパスできました。

脳内妄想満点の思春期を過ごしてきた現代人の妄想力、侮ってはいけません。

あれっ、なぜか胸が痛いよ。
痛い!痛い!!
あ、あ、あー、黒歴史がー!!



ゼイ、ゼイ、失礼しました。ちょっと心の傷が……。



さて話を戻しましょう。


しかし、意識構築が問題でした。

これは魔力の型を作りだしそこに魔力を注いで使用する魔法を作り出すという作業なのが。
イメージとしてはチョコレートをハートの型にいれてハートチョコを作るようなものと思っていただいたら良いかと。
基本的に型を作り出しやすいように呪文を唱えます。

これは自己催眠の様なもので、そのような精神状態にもっていけるなら決まった文言でなくても構いません。たとえば

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽ばたき・人の名を冠す者よ
 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!炎の矢! 」

でも、

「魔力形成、ワン、ツー、スリー!炎の矢!」

でも良いわけです。

そして慣れれば発動ワードの

「炎の矢!」

だけで良くなります。いわゆる詠唱破棄ですね。

私の場合、魔力を型に注ぎ込む段階で問題がでるらしく。
ぶっちゃけ、バケツの水をコップに注ぎ込もうとするからコップが割れて爆発するそうです。

シクシク、こんな所で魔法Lv3の弊害がでるなんて。

千鶴子さまによると

「慣れれば躰が自然と覚えるでしょう。」

とのことです。

慣れるまで私の躰が持つのでしょうか?(泣)



ええーい、女は度胸です。
特訓を再開しますよ。





「雷撃!」

『ちゅどーん』

ヒューン
・・・ボコッ!


ををっ!いきなり視界が真っ暗です。

「大丈夫?アニス、今出してあげるから。」

今日も今日とて、魔法に失敗して爆発させた私は犬神家よろしく地面にうまり、身動きのとれないところを千鶴子さまに助けていただきました。

「すごいじゃないアニス。」

あれ、千鶴子さま、今の失敗にほめられるようなところありましたか?

「以前の記録より50センチも飛行距離が伸びたわ。」

コケッ!

千鶴子さま、一体何に感心しているのですか?

もしかして私の失敗楽しんでいませんか?




こうして私の学園ライフは、話すのは千鶴子さまだけ、座学にでる以外はひたすら人気の無いところで修行という寂しい物になってしまいました。


シクシク、せっかくの乙女の花園なのに。




そんな灰色の青春を送っていたある日のこと、千鶴子さまにお友達を紹介してもらいましたよ。

のんびりした感じのくせ毛の美少女さんです。
お名前を

『パパイア・サーバー』

とおっしゃるそうです。



えっ!パパイア、



いーやー!
爆弾フラグがきたー!(大泣)



[11872] 第五話  征伐のミト参上です。
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2009/09/18 23:06
第五話  征伐のミト参上です。



どうも、爆弾フラグに日々怯えるへっぽこ魔法少女アニスです。



結論から言いますとパパイアさんはすごくいい人です。



年下の私や千鶴子さまにも威張ったところがなく、私の練習にも笑って付き合ってくれます。

何回か暴走に巻き込んで吹き飛ばしたのですが、笑って許してくれました。

いい人だ。
久しぶりに他人の優しさに触れた気がします。



千鶴子さまと同じクラスなのですが、10歳の時に入学しているので年上です。

けど、のんびりとした口調と性格からあまり歳の差を感じません。
というか、保護意識をそそられるタイプですね。

こんな方が将来、人体実験を喜々としてやるマッドサイエンティストになるとは……。

なんとか成らないでしょうか。


千鶴子さまが初めて紹介してくれたお友達、きっととても大事な方なのでしょう。

そんな友達があんなキチ○イになったら、すごく悲しみますね。

千鶴子さまの悲しむところは見たくないのです。

かなり歴史が変わってしまいますが、あの悲劇を回避するため、なんとか介入したいと思います。


と、いっても今現在できることは殆どありません。

せいぜい、

『顔が良くて口のうまい男には気を付けろ。』

とか、

『古い魔道書には迂闊に手をださない。』

位を忠告する程度しか思いつきません。

確かパパイアさんがおかしくなったのはランス6で出てきた『エセさわやか男』がプレゼントした魔道書が原因のはずです。

けど、そこまで考えて問題がある事に気づきました。

私、……いつ頃エセさわやか男がパパイアさんに近づいたのか知らないのですよね。
四天王任命前か後かも覚えてないです。


そして致命的な事にその男の名前を忘れてしまったのです。



私の馬鹿。…………orz


いえね、エロゲの男キャラなんてあまり記憶に残りませんよ、ホントに。
顔は覚えてるんですけどねぇ。
まさか自分がこの世界に来るなんて思っても見ませんし。
思いっきり必要の無い知識でしたから。


確か最初に『ア』がついていたような…。

アレックス?

アリオス?

アレフガルド?(これは違うな。)


しかたありません、とりあえずウルザさんの側近の医者のおじーさんの子供という設定で暮らしているのは覚えているのですから、できるだけ早めにウルザさんに接触して思い出しましょう。

できればウルザさんもお助けしたいですし。


ちなみにリズナさんは無理でした、生まれたときには既に事件は起きていたので。
リズナさんはかなり悲惨な目会っているためになんとかしてあげたかったのですが…。



パパイアさんについては、千鶴子さまにもそれとなく注意するようにお願いしておきましょう。

パパイアさんて、なんとなく男にだまされやすそうなタイプですし、そのあたりの事を言っておけば、責任感の強い千鶴子さまの事です、かなり期待できるかもしれません。



◇◇◇◇


歴史に介入しようと決心してから、こう見えても結構一生懸命調べたのですよ。
ゼスの歴史や魔人達の事、そして白くじらの事を。

まあ、半分以上千鶴子さまに手伝ってもらったのですが。

関係のない千鶴子さまを巻き込むのはどうかと思いましたが、私1人では無理な事が多すぎる為ご協力願いました。
なんといっても詳しい理由も聞かずに手伝ってくれるのが千鶴子さまだけだったのですよ。



そこで分かったのは、魔人については昔話程度、白くじらについては殆どなにも分からないということ。
三超神までなら幾つかそれらしき記述があったのですが、白くじらについては全くのお手上げでした。
結構無茶をして調べたりしたのですよ、『王宮図書館』に忍び込んだりして。



ゼスについて分かった事は、予想以上にこの国は救いようがないという事でした。

表の歴史には人類圏を魔人から守ってきた英雄の国などと記されていますが裏側はドロドロに腐りきってます。


権力闘争から、奴隷を手に入れるための侵略、残虐な部族を滅ぼすと大義名分を掲げた虐殺行為、そんな記録が次から次に出てきます。



例を挙げれば、かつてゼスが建国された頃、モエモエ王国という同盟国がありました。
しかし今はありません。
ゼスに滅ぼされてしまったからです。

どうやらその王国の王様は名君だったようで、その時代、善政をしき豊かな国を築いていたそうです。
そのため隣国であるゼスから奴隷達がどんどん王国に逃げ込んだそうですが。
そうなると気に入らないのがゼスの貴族達、不満はどんどんたまり、ある年、ゼスが不作のため飢饉が起こりそうになったときに爆発しました。

最悪の形で。


その時のモエモエ王国国王は同盟国の窮地に援助を申し出ました、近年悪化する同盟関係の強化のためのものでしょう。
それをゼスは利用したのです。

わざわざ持ってきてもらうのは悪いという表向きの理由から大量の荷駄隊を王都に送りこみました。

ただし荷駄の中には大量の兵士を隠して。
…そして戦争が始まりました。

いきなり王宮に攻め込まれ、更に外からも隠れていたゼス軍が攻め込み、当時栄華を極めていたモエモエ王国は3日で滅びました。
もっとも戦闘は1日で終わったようで後の2日は虐殺と略奪につかわれたようです。
その後の歴史には王家の人間が罪のない民衆を虐殺していたことから正義の国ゼス王国がこれを成敗した、と記されています。(嘘なのは丸分かりです、王国の国民を奴隷として連れ帰っているのですから。)


この記録を見たとき千鶴子さまは泣いていました、私も泣いていたと思います。
人がいかにして人に対して残酷で恥知らずになれるか、その見本のようなものですから。
そしてその行為に自分の国が係わっていると言う事に。

もっともその後、天罰のように続けて
『ケイブリスダーク』
『メデュウサダーク』
と魔人の侵攻が続きます。
ついでにヘルマン軍の侵攻までありました。


この頃からかもしれません、千鶴子さまが積極的にこの国を変えていきたいと思ったのは。
そして私、千鶴子さま、パパイアさんの三人はこの国について話す事が多くなりました。



◇◇◇◇


このような事があったものの特別なイベントもなく私の学校生活は進んでいきました。

千鶴子さまとパパイアさんは2年で卒業し、私も3年で卒業しました。(千鶴子さまの猛特訓を受けたおかげですが。)

座学と実技は2年で卒業資格を取ったのですが、最後の卒業迷宮で魔法を暴走させてしまい1年卒業が伸びてしまいました。


わざとじゃないのに………。(泣)


結局、最後まで私には友達が出来ませんでした。
シクシク(泣)


けど、卒業式で知った顔を見つけましたよ、

『カオル・クインシー・神楽』

さんです。

カオルさんて私より年下だったのですね、お姉さんキャラっぽい感じがしていたんですけど。
しかし、8歳で入学して10歳で卒業というのは千鶴子さま並に優秀なのに全然知りませんでした。
確かカオルさんて高Lv魔法使いじゃありませんでしたよね、にもかかわらず名門校入学and最短卒業なんて…。

どれだけ有能なんですか。


………カオル、恐ろしい子。


将来お庭番になるために目立たないようにしていたのでしょうか?
知っていたならなんとしてもお友達フラグを立てていたのに。
残念です。




◇◇◇◇


その後、私は王立魔法研究所に入りました。

ここは大学と研究機関が一緒になったような所で、千鶴子さまのように10歳で卒業してしまう天才に人生経験を積ませる機関でもあります。(さすがに10歳で軍人や公務員になるのは無茶)



そして事件は研究所に入って直ぐ起こりました。



研究所に入り、そろそろどこかのダンジョンか森で修行をかねたLv上げに行こうかと思っていたところ、いきなり真っ青な顔をした千鶴子さまがやってきました。

「大変よ、アニス!」

「おや、千鶴子さまどうしたのですか?珍しくあわてて。」

「………虐殺が始まるわ。」

へっ?

「異文化撲滅法案が可決しそうなのよ。」

「ちょ、ちょっと待ってください、それって。」

「そうよ、国内において魔法文化しか認めず、他の文化は全て撲滅する、とんでもない悪法よ。」



あ、あ、あ、あー!、忘れてた!!

『ムシ使い村の虐殺』

そういえば、確かガンジー王が即位する前に起こったとかいってたような。

「現王さまが病気がちでまともに政治が出来ないのをいいことに貴族達が強引に法案を通してしまいそうなのよ。」


千鶴子さまが現体制への不満やら貴族達の悪口を言っていますが、今はそれどころではありません。
ただでさえ私というイレギュラーがあるのです、どんなバタフライ効果が起こっているのか知れたものじゃありません。

後にランスと一緒に戦う事になる

カロリア・クリケット

数少ない生き残りとして生き延びるはずですがそれだってどうなる事か。

へたをすると、カロリアが死んでしまうかも知れません。



介入です。

今まで思うだけで目立った行動は起こしてこなかったのですが今は行動の時です。
なにが出来るか分かりませんが、助けに行かなくては。

「千鶴子さま、すみませんがアニスは行かねば成りません。
必ず起こると分かっている悲劇を黙ってみてられるほど大人になれそうにないので。
取りあえず確実なところでムシ使い達が危ないと思いますのでそちらに行ってみようと思います。」

私が、ムシ使い村の救出に行く事を千鶴子さまに伝えると直ぐに賛成してもらえました。
私1人で行くつもりでしたが千鶴子さまもすっかり行く気のようです。

しかし、

「ちょっとまって、あなたムシ使い村が何処にあるのか知っているの?」

あ、そういえば隠れ里でしたね。

「それに私たち子供だけで行っても説得力がないわ。」

そうでした、学校を卒業していると言っても私は12歳、千鶴子さまでも13歳、一般的に子供と呼ばれる年齢です。

例え、大人顔負けの魔法を使おうとも、外見は子供、これでは軍が攻めてくるから逃げてと言っても説得力がありません。

こんなことなら、大人になる魔法でも覚えておくのでした。

そんな後悔をしていたところ、千鶴子さまもしばらく考えていた様ですが、

「アニス、2日ほど待ってちょうだい。」

そう言ってどこかに行ってしまいました。

まぁ、千鶴子さまの事ですから何かお考えがあるのでしょう。

パパイアさんでしょうか?

パパイアさんでも14歳、まだ説得力に欠けると思うのですが………。

ここは一つ千鶴子さまの明晰な頭脳に期待です。


取りあえず、出発の準備をしつつ千鶴子さまを待っていると、2日後、1人の男性を紹介されました。

「うん、君がアニスくんか、よろしくたのむ。」

紹介されたのは、マッチョで変な髪型をした、おじさまでした。

「私の名はラグナロックアーク・スーパー・ガンジー、まぁ気軽にガンさんとでも読んでくれたまえ。」



あは、あははは、



なぜここにいるのです、ガンジー王!



[11872] 第六話  ガンジーの思い
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:31
第六話  ガンジーの思い


ガンジーside



現在この国は病んでいる。


一部の権力者が好き勝手に暮らし、その事に誰も不平が言えない。

人の生き死にさえも………。


そしてその事に何も疑問を持たない者が数多くいる。

それは権力者だけでなく虐げられている民の中にもだ。

私も昔はその事に疑問を持たない者の1人だった。

権力を持って生まれた事を当然と思い、
気に入らなければ無軌道に力をふるう、
そんな子供だった。

それでも私をいさめる常識人が少しはいた。
だが、直ぐにかんしゃくを起こして魔法を打ち込む、そんな私の周りからからしだいに居なくなった。
そう、その時の私はただのひねくれたガキだった。



そんな時に彼女と出会った。


わがまま放題だった私の何人目かの遊び相手に選ばれたのは1人の少女…。

これまで出会った人間は、大人でも子供でも皆同じだった。
どんなに立派な事を言っていても、私が罵声を浴びせ魔法を打ち込むと恐怖に怯える目をするか恨みがましい目をするかこの二つだった。

しかし、彼女は違った。
どんなに罵声を浴びせても、何度魔法をぶつけてもその瞳には負の感情は映らず、優しくたしなめてくれるのだ。


人間、いきなりの暴力には素の感情が出てしまうもの。
生まれたときから10枚くらい仮面をかぶり20枚はあるだろう舌を使って接してくる人間を見てきたのだ(私が少年時代荒れていた原因と思う。)、演技をしているのなら見破る自信がある。

だが彼女の目にあったのは腕白小僧をほほえましく思い、心配する慈愛の瞳だったのだ。


その時私は、世の中には人の善を信じ、無条件で自分の愛を人に与えられる者がいる事を知り、恥を覚えた。


そして、その時から私は変わっていった。

人間不信に成り掛かっていた私の心は少女の無垢な瞳と言葉に癒され、少女は姉とも慕う存在になっていった。
このころは魑魅魍魎の住まう王宮生活なかで数少ない光が輝いていた時期だった。





12歳で魔法応用学校に入学したとき、彼女は15歳で生徒会長を務めていた。

彼女にとって私は弟の様な存在であったのだろうが、私にとっては初恋だったと思う。
彼女の気を引こうとしては無茶をしてよく説教されたものだ。
恥ずかし紛れに魔法を打ち込む癖は彼女に対してだけは直らなかった。

今思えば彼女だけはどんな無茶をしても分かってくれる、許してくれるという甘えもあったのだろう。

だがその恋は突然終わった。
幸せは長くは続かなかった。



その年の卒業試験、彼女は突然消えてしまった。


原因は不明。

彼女のチームが本来あるはずのない転移トラップにかかり、チームの3人がバラバラに飛ばされてしまった。

他の二人はすぐダンジョン内で見つかったが、彼女だけが卒業試験のダンジョンから消えてしまった。

ダンジョンの中は徹底的に調べられた(むろん私も無断で探し回った。)が一向に足取りが掴めず。



ひと月も経った頃、彼女は行方不明のまま捜索は打ち切られることとなった。

結局この騒ぎの責任をとって彼女の卒業試験を担当をしていた先生(若い先生で女生徒に人気があったらしい。)が辞任し、担任をしていた先生も失意の内に辞任した。

そしてこの事件は終わりとされた。



その後、私は一時期荒れた。
だが、
『彼女は死んだわけではない。』
と心を整理し、なんとか心の復活を果たした。

その時からだ、彼女が帰ってきたとき失望されない人間になろうと誓ったのは。



その後、今は亡き妻との出会いや、娘のマジックが生まれるなど喜びが増え、その突然終わってしまった初恋の傷もしだいに癒えていった。


しかし、こうして心を入れ替えた後にゼス王国を見たとき、思った以上の国の病み方に私は絶望に近い思いを抱いた。





王が政治を行おうと思っても、既に王からあらゆる権利がはぎ取られていた。
王とは殆ど象徴としてのみ存在している状況になっていたのだ。


政治、経済、治安を司る長官職は余程の失敗を犯さない限り罷免できず、任命権にあっては他の長官の賛成がなければできなくなっていた。


軍事方面にもその手は回っていた。

本軍6万、その他、地方に派遣している軍合わせて2万弱を統括する軍団長任命権も奪われていたのだ。

王国の象徴である『雷・炎・氷・光』の4軍だけは流石に手が出せなかったようだが任命権はともかく、作戦行動に対する命令権の一部が奪われており、王国の四方を守護するのが役目の4軍の内の2軍が国境に動かされていた。(流石に全軍を王都から動かす事はできなかったようだ。)



そんな中、名誉職になって久しい四天王の任命権位だけが残っていた。

確かに最強の魔法使いが就くとされる四天王は魔法至上主義を掲げる我が国の全ての役職の上に位置されている。

そのため各長官、将軍達を統括、指導するとなっているが…、
これには罰則規定がない、
例え指導を聞かなくても何らペナルティーはないのだ。

これが名誉職と言われるゆえんである。





それでも王は王である。
王だけが大貴族達が迂闊に手が出せない存在であり、唯一対抗できる存在なのだ。

だが現在、父王は病床にある。

表向きには私が政務を代行していることになっている。

しかし未だ私は『王子』の身、実権は何もなく長官職につく大貴族達が好き勝手にしている状態だ。


だが、今は無理は出来ない。

今、大貴族達に私の考えを知られてしまったら廃嫡されるかもしれない。
残念ながらそこまで奴らとは力の差があるのだ。

その気になれば私が父王に対して反乱を企てているというえん罪すらなすりつけることができるのだから。

奴らには私は政治に興味のない馬鹿王子と思わせておかなければ…。

そして私が王になったその時こそ……。





しかし、いざ王になった時この国の改革を進めるためにも人材を集めねばならん。

幸い軍の方は人材が整いつつある。


私の魔術の師であり現在は友でもある

○ 雷の将軍  ガバッハーン・ザ・ライトニング

人望、実力ともに申し分のない人材だ。


大貴族の一員でありながら気さくで下級兵士からの人望もあり実力も一級品の

○ 炎の将軍  サイアス・クラウン

初めは貴族の一員だったことから警戒していたがあれはなかなかの人格者だ、兵達にとって頼りになる兄貴といったところだろう。


下層階級出身であるが実力は文句なく、サイアスからの信頼も厚い

○ 氷の将軍  ウスピラ・真冬

忠誠心、実力共に問題はないのだが少々自分の命を軽く見ているところがある様に感じる。そこが心配なところか。


現在の光の将軍は大貴族の息が掛かっているうえ実力もそれほどでは無いためいずれ交替させねばならん。

候補としては現在私の娘マジックの家庭教師をしている

○ 光の魔法使い アレックス・ヴァルス

を考えている。実力、人格共に申し分ないのだが温厚なため今ひとつ押しが弱い、まぁこれも経験を積んでいけば良い事だ。



だが政治に関する人材がいない!。

現在我が国は政治、経済、治安と全て腐敗貴族に乗っ取られている。

もし全て巧くいって長官達を追放したとしても代わりを務められるものが居ないのだ。

いや、1人だけ心当たりがある。
しかし、そのものは魔法使いではない。
将来的にはともかく現時点では名前を出しただけで暗殺者が飛んで行きかねない。



王国のこれからについて色々考えていたそんな時、代々王家の諜報、護衛を務めているクインシー家から情報が届いた。

「10歳で応用学校を卒業予定の才媛で情報魔法も使える逸材がいる。」

との内容だった。

クインシー家からの情報であるからには、なかなかの人材なのであろう。

情報魔法を10歳にして扱えるということは文官としての才能も非凡なレベルで扱えると言う事か。

しかし問題は心なのだ、クインシー家の推薦なら問題は無いと思うが………。

山田千鶴子か、

…一度会ってみるか。



偶然を装い会ってみたがあれはなかなかの人物だ、あの知識と教養、恐らく今すぐでも長官職ぐらいなら任せられそうだ。

それにあの思い………。


「ガンジー王子、私は幼児の頃から異常ともいえる頭脳、いえ、力を持っていました。そのため周りから恐れられてきたのですが、その力を一番恐れていたのは私自身でした。
けど、今は違います。
私など及びも就かない力を持ちながら常にまっすぐ前を向いて歩いている友達がいますから、私程度の力で悩んでいてはその娘に笑われてしまいます。
私はその娘に依存しているのかも知れません、だからこそ少しでもあの娘の力になりたいと思っています。
あの娘は優しい娘です、何もしなくてもいずれ茨の道を進むでしょう。その時に少しでも力になりたくて今、努力しているのです。」


なぜそんなに急いで勉強しているのか尋ねたところ思わぬ話が聞けた。

気さくに話しかけたつもりであったが私の目に映る真剣さに気付いたようだ。


人は何かしらに依存しているものだ。だがそれは決して恥ずかしい事ではない、そこから飛躍することも出来るからだ。

そう、リズ姉に依存していた私が彼女に対して恥ずかしくない人間になろうと努力したように。
恥ずかしいのは依存したまま甘えて何もしないことだ。





さて、千鶴子がここまで依存する

  『アニス・沢渡』

実に興味深い。

資料では魔力の制御も出来ないへっぽこ魔法使いとなっていたが……。

さてさて、会うのが楽しみになってきたぞ。 



[11872] 第7話  歴史を変えるのです。
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:34
第7話  歴史を変えるのです。



どうも、思わぬ出会いをして驚愕しているへっぽこ魔法少女アニスです。


とうとうこの国で一番濃いい人に出会ってしまいました。



ガンジー王……、いえまだ即位していないので王子です。



どこから見ても魔法使いに見えないマッチョな肉体

髪を正面から両サイドに跳ね上げたどうやって固定しているのか謎の髪型

服装は袖を引きちぎったような青い服にズボン



あれ?正史と鬼畜王がごっちゃになってるような……。


『鬼畜王なら爆弾&千鶴子さまに捨てられる……?』

…ガクガク、ブルブル。

ちょっとトラウマものの将来なのです。


う、う、うー、あー、たー!
考えるのやめ!!

今こんな事をうじうじ考えていても何もならないのです。
はい、次行きましょう、次へ!



ところで…、
千鶴子さま、ガンジー王子と何時の間に知り合いになったのですか?


私の ハテナマークがでている顔を見て、千鶴子さまが教えてくれました。

「お知り合いになったのはつい最近よ。」

そこから千鶴子さまよりガンジー王子について説明を受けました。

・現在のゼスの情勢

・この状況に王子が胸を痛めている事

・まだ王子であるため実権が無い事

・貴族達を油断させるために政治に興味がないと装っている事

・いざ王になったときに備え人材を集めている事

・国民や地方を知るためゼス全土を回っている事

などをを教えていただきました。



これは意外です。

小悪を倒して喜んでいる自己陶酔型の王とか視野の狭い政治に興味のない男などさんざんな評価をもらっているあのガンジー王が随分と立派な考えを持っているじゃないですか。(私もかなりひどい事を言ってる気が…)

千鶴子さまもそんなガンジー王子の人材収集のアンテナに掛かり、スカウトを受け、話し合ったところ意気投合したそうです。


はぁ~、いつの間にか話は進んでいるものですね。
ぼんやりしていたらどうなることやら。





さて、今回の虐殺法の情報、実はこのガンジー王子サイドの情報網から引っかかったそうです。

何とかしたいが、大貴族達の目があるため王子の権力は使えない。
そのため民間の協力者に協力を要請していたそうです。


こらこら、だったらこんな所に居るとまずいのではないですかガンジー王子。

「うむ、本来はまずいのだが、少女達を危険な目にあわせて自分だけ安全な場所で結果を待つと言うのはあまりにも情けない。
よって今回は王子ではなく、1人の魔法使いガンさんとして協力させてもらおう。」

はい…。
つくづく行動派なのですね。

けど、それならガンジーは性なのですから、あだ名はラグかロックまたはアークでは?
……似合いませんね、やはりあなたはガンさんがお似合いです。



◇◇◇◇



さて、いきなり濃い人にあって話が脱線してしまいましたが、現在ガンジー王子の運転するうし車のうえです。

「ガンさんと呼んでほしいといったであろう。」

サーセン


このうし車、牧歌的な乗り物の割に随分スピードの出るものです。この調子ならさほど時間が掛からず目的に到着しそうです。
ゲームなら一瞬で到着しているのであまり気に掛からないのですが長時間乗っていると疲れますね。

まぁ、村に着くまでしばらくかかるそうですからみんなでお話でもして親睦を深めましょう。

ちなみに今回のメンバーは私とガンさんの他には千鶴子さまとパパイアさんが同行しておられます。
千鶴子さまはともかくパパイアさんが同行するとは以外でした。



◇◇◇◇

「見えてきた、あれが『ムシ使い村』だ。」

いろいろ話し合いながら丸一日、ついに到着したようですね。

ガンさんが村の場所を知って助かりました。

なんでも以前何度か迫害を受けているムシ使いの方を助けたことがあったそうで、その際に村の場所を教えてもらっていたそうです。
なお、政府もこの場所を知っているとのこと。
ちゃんと村として登録していて税金も納めているそうです。


……迫害されている自覚があるのでしょうかこの方達?
というか、ここ隠れ村のはずだよね?


ガンさんが村の場所を覚えていてくれたおかげでこっそり調べるにしろ、正式に書類を上げて調べるにしろ、余分なリスクを負わないですみましたけれど…。



◇◇◇◇

「あ、あんた、この村に何か用かい?」

村の入り口に着き、うし車から降りてきた私たちに名も知らないムシ使いのおにーさんが話しかけてきました。

「うむ。」

おおう、びびってる、びびってる。

答えるガンさんにおにーさんが後ずさりしています。

けれどおにーさん、私はそれをチキンなどと呼びませんよ。

村の入り口で腕を組んで仁王立ちしているガチムチの巨人相手に話しかける勇気があるだけ大したものです。

私なら見なかった振りして通り過ぎるか、軍隊呼んできますね。
えっ、なぜ軍隊かって、…いえ警察官じゃ勝てそうにないんで。



「この村について重要な話をしに来た。この村の責任者と会わせてほしい。」

「……すっ、少しお待ち下さい。」

おにーさんは少し悩んでいるようでしたが直ぐに駆けていきました。
けどね、掛けていくその姿、ゴジラから逃げ出す一般人にしか見えませんよ。





「ガンジー王子様、なにゆえこの様な所へ?」

いっ、いきなりばれてるじゃありませんか!


村のほぼ中心にある家に案内された私たちは家の中にいた村の長老らしきおじーさんにいきなり正体を見破られてしまいました。




「あの時は……」

「いやいや、たいしたことはしていない。当然の事をしたまでだ。」

「しかし……」

「なんのなんの…」

いきなり和気あいあいと世間話をはじめましたよ。このひとたち。

まぁ、話からすると以前迫害を受けていたムシ使いのグループをガンさんが助けたのですがその時のグループに長老さんがいたそうです。

その時に村の場所を教えてもらったそうですが、同じ時に自分が王子だと話していたとか。

こらこら、本当にお忍びする気あるのですか、ガンさん!

まぁ、そんな心温まる交流があったので割とスムーズにお話を聞いてもらえたのですが、さすがに

『軍隊がくるから村を捨てて逃げてほしい』

と言うようなとんでも話はなかなか受け入れがたい様です。

まぁ、「私の部下がお前達を殺しに来るから逃げろ」と言っているのと同じですから。
しかし、このような事、一般人からすれば矛盾をはらんだ言葉かも知れませんが実は国単位では珍しい事ではありません。

右手のやっている事を左手が知らないなど国レベルの話ではよくある事で、そうでなければクーデターなど起こるはずがないのですから。

けれど一般人からすれば、
一番偉い人が知らないはずがない!
止められないはずがない!
なぜ?
と、考えます。

仕方のない事ですが、話がややこしくなる原因です。

今回の件でも当然そんな話がでました。

でも、下手な事はいえません。

いま、王には何も力が無く、そのため貴族主導の議会で今回の件が正式決定されてしまった事、すなわち今現在王族自身が国の決定に逆らう『反逆行為』をしていることなどは特にです。


本来ガンジー王子は今回の件に就いては黙ってみているか、私たちに村の場所を教えるだけで関わり合うのをやめておくべきでした。

しかし、責任感の強いガンジー王子は私たち子供だけで行動させることと自分が導くべき国が決めた愚かな事に負い目を感じここまで来てしまいました。

もし、村人がこの情報に疑問を持ち、国に確認をとり、その際村にガンジー王子が居る事がばれればただではすまないことになります。

へたをすれば反乱者として廃嫡か幽閉です。


今、ガンジー王子を失うわけにはいかないのです。

失えば、国家の改革改善の機会は失われ、王になった後に行われる『アイスフレーム』に対する影からの保護も無くなり、後の歴史に大ダメージを与えてしまいます。



村人たちの話も村を捨てる事に抵抗があるのと魔法使いへの不信感からか、だんだん堂々巡りになってきましたね。

このままでは話し合いが長引くばかりか変な方向に進んでしまいかねません。

ここは私が何とかしなくては……。





とおぅ!


「ごめんなさい!」

ここは起死回生の『土下座』です。


かなりずっこいですが、ここは少女が涙を流しながら土下座をして魔法使いの行いについて謝罪を行う姿を見てもらって、少しでもムシ使いさん達に罪悪感を持っていただきます。

我ながらあざといやり方とは思いますが今はそんなこといってられないのです。

お互いに幸せになるには何が何でもこの場で納得してもらうしかないのですから。

ごめんなさい!
ごめんなさい!!


私がただひたすら地に頭をこすりつけて謝っていると私の両サイドで人が座る気配がしました。

「ごめんなさい!」

『ごめんなさぁい!』

あああっ!千鶴子さま、パパイアさんあなた達まで!!
何時の間にかお二人まで土下座をされています。

ごめんなさい、ごめんなさい!
巻き込んでしまってごめんなさい。

…失敗しました。
考えて見れば私1人に土下座させて黙って見ていられるようなお二人ではありませんでした。

最近の私の思慮の足りなさには我ながら情けなくなります。

けど、今はそんな事を言っている場合ではありません!

ごめんなさい、千鶴子さま、パパイアさん!
後で謝りますので今は許してください。



あ、……れ……?

いきなり私の前に影が差しましたよ。

ちらりと見ると大きな背中。

ガ、ガ、ガンジー王子!
まさかまさかまさか。
しまったー!!

「やめてください!ガンジー王子!!」

思わず背中に飛びつきましたが、そんな事にはいっさい構わず土下座しましたよ、この王子。

「すまん。」

ただ一言、それ故に何よりも重い言葉が発せられました。

「何を考えているのですか王子!
 いくら、実権のない王子だとしても王子は王子、あなたはゼスそのものなんですよ。」

思わず怒鳴りつけてしまった私に続き千鶴子さま、パパイアさんまで叫びます。

「おやめ下さい、ガンジー王子!
 あなたがこんな事をしてしまったら、何のために私たちがここにいるのですか!」

「あ、あの~王子さま、さすがにこれはまずいんじゃないかな~とおもうんですけど。」


なぜ土下座くらいでここまで慌てるのか?

政治家達が選挙時期に土下座を乱発するのをみている方々にはよく分からないかも知れません。

ここは王制と民主制の違いから来る問題があります。

民主制では民衆が選んだ代表が行うのですから、土下座も個人の問題、好意的に見れば必死の覚悟の現れと捉えられます。

しかし、王制では違います。

王制は力で押しつけたもの、それゆえプライドが信用になるのです。
プライドがあるからこんな事はしないだろう。
プライドがあるからこの約束は守るだろう。
こんな感じです。
王権を司る王族か土下座をする、それは即ち国のプライドを捨てることとなり今後の信用を著しく損なう事になりかねません。
直ぐ謝るような王の支配する国は信用されないのです。

村に来るまで話した感じではこんな軽率な事をする様には見えなかったのですが。
失敗しました、へたをすれば村の人たちからの信用がなくなり余計な混乱を生む可能性があります。

更に言葉を紡ごうとした私たちに王子の声が遮ります。

「わかっておる!
 わしが頭を下げる意味も危険性もな。」

分かっているなら……

「しかし、今回の責任は王族にある。
 議会を止められぬほど力が弱まってしまった故に愛すべき国民であるムシ使い達に危機が訪れたのだ。
 これが国外からの要因なら国のためとして言い訳が効くかもしれん。
 だが今回は国が守るべき国民をわしが指揮すべき軍隊が害そうとしているのだ、なら、例え信用がなくなろうと蔑まれようと、最大限の謝罪をしその対策を速やかに行う事こそもっとも重要な事。
そのためならこの頭、地に着けても悔いはない!」


私は馬鹿です。

この世界に来てもう11年、この世界はゲームじゃない現実だと自覚していたにもかかわらず、まだ向こうの世界の見方に捕らわれていたようですね。
立派に王族してるじゃないですか、ガンジー王子。


さすがにこの王子の行動と魂からの思いを聞かされて村の皆さんにも動揺がはしっているようです。
おっ、長老さんが前に出てきましたよ。

「頭をお上げ下さい、ガンジー王子。」

「おおっ!では!!」

「村を捨てて別の場所に隠れさせていただきます。」

やりました、ついにやりましたよ。
歴史を変えました。

ムシ使い村は既に300人位に人口が減っていますがそれでも今歴史が変わったのです。

感動です。

感激です。

感無量です。

思わず千鶴子さまとパパイアさんに抱きついてしまいましたよ。



けど、・・・良いのでしょうか?
長老さんだけで決めてしまって、他の方々と相談せずに返答されたようですが。

そんな思いが顔に出ていたのでしょう。長老さんが説明してくれました。

もともと、不穏な空気は感じていたそうです。

しかし、長い迫害の歴史の間にすっかり村にはあきらめの気持ちが蔓延していたのです。

迫害による隔離政策。

それによって新しい血が入らない事による出産率の低下。

奇形で生まれてくる赤ん坊の増加。

緩やかに減少していく村の人口。

普通の職に就けないため危険な仕事に就かざるえない現実。

その為に増えていく体内へのムシの数。

失われていく精神の安定。

この悪循環に村人の心は次第に折れていったそうです。

今回の私たちの警告に否定的であったことについても、疑っていたり村に愛着があったりするよりも、

『ああ、やっぱり』

というあきらめの気持ちが先に立っていたのが原因とか。

そんな時に私たちやガンさんがプライドを投げ捨て、

『生きてほしい。』

と、生の感情をぶつけてきたものですから

『自分たちは生きてていいんだ。』

となったようです。

もともと、完全に疑っていたわけではなかったため、私たちの土下座でみんなの心は決まったそうです。

単純と言わないでください、追いつめられていた人間が立ち直るのは、千の言葉よりこんな心のこもった一言なのかもしれません。

しかしやっと、一安心です。




◇◇◇◇

その後、私たちには村の家の一軒で休むよう案内されました。

村の方々は村のものだけで避難先や今後について話し合うそうです。
私たちを外して話し合いをすることについて大変謝罪されていましたが仕方ありません。
仲間内だけで話し合いたい事もあるのでしょうし、所詮私たちは異邦人なのですから。



けど、良かったです、国軍が準備をして攻めてくるまで、まだ一週間以上あります。

明日には準備をして村を出るそうですから、脱出中を追撃される心配もありません。

行軍が早まったり、先遣隊を出してくるような事があれば国軍の中にいるガンさんの親派の方が直ぐに連絡をくれる事になっています。



完璧です!

今回の私に穴はありません。

やっと、安心できますねぇ。




そんなのんきな事を考えている私を殴りたくなるような事が後で分かるとはその時は思っても見ませんでした……。



[11872] 第8話  アニスの長い夜です。
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:37
第8話  アニスの長い夜です。



どうも、歴史を変えてちょっとウキウキしている土下座魔法少女アニスです。




私の行動が歴史を変えたことで少々浮かれて眠れないため家の外で夜風に当たっています。
夜風が気持ちいいですね。


ジャリッ!


おや、誰か来たみたいですね。

「…眠れないのですか?ガンさん」

そう、私に近づいてきたのはガンジー王子です。

「おや、気付かれたか。」

「はい、こんばんわです。」

千鶴子さまやパパイアさんにしては土を踏む音が大きすぎますしなによりその圧倒的な気配を全く殺していないのですよ。
気づかない方が難しいです。

「どうなされたのですか?」

「いや、一言謝罪しようと思ってな。」

はて、なにか、謝られるようなことがあったでしょうか?

「わたしがふがいないばかりに土下座までさせてしまったこと、すまないと思う。」

ああ、その事を気にしていたのですか、まぁこちらも少々せこい考えを持って行った行動なので謝られるとちょっと居心地が悪いのですが。
しかしガンさんが罪悪感を持っている。……ならば!

「ガンさん、いえ、ガンジー王子、無礼を承知で一言言わせていただいてもよろしいでしょうか?」

今回の行動、一言言っておいた方が良いかも知れませんね。


「なにかな?今は王子も何も関係ないつもりだ、進言があるなら、忌憚無く言ってほしい。」

「では、…二度と、土下座などという真似はやめていただきたいのです。」

「…なぜかな?少なくても今回の一件、きっかけになったのは私の土下座だったと思うのだが。」

やはり、このガンジー王子、度量が並はずれて大きいです。

私の両親は公務員とはいえ平民、しかも11歳の殆ど面識のない少女に自分の行動を非難されてなお真剣に意見を聞ける人はまずいないのですよ。

「今回の件、ムシ使いの方々が私の思った以上に純朴でお人好しだから成功したようなものです。」


その後、私は王子が土下座する事の危険性、こと、個人ではなく集団にすることの危険性を訴えました。

確かに世の中には自分が傷つくより人が傷つく事を嫌う人や、他人に対して限りない愛を持つ方も存在します。
そこまで行かなくても謝罪を謝罪として素直に認められる心を持った人もたくさん居ます、しかし100人居ればその中には1人位相手の謝罪を利用しようとする者もいるのです。

特に今回、1人でもそんな人がいれば致命的な状況でした。

そしてなにより、王子に土下座させてしまっては何の為に下の者がいるのか分かりません。
確かに私たちはまだ子供であり、それほど深い付き合いではありませんが、それでも同じ志を持ち行動しているなら私達を信頼して、任せるべき事は任せて欲しいのです。

こう言っては何ですが今回の件にしても、あのムシ使いの方々の純朴さなら王子が土下座せずともいずれ納得してもらえたと思います。

しかし、王子が土下座をした為に無条件で村を捨てる事を受け入れるか絶対に村に残るかの2択になってしまいある意味脅迫的な状況になってしまったのです。
そう、私達相手の交渉なら、幾つか村人に有利な条件を出して納得するという事が出来ましたのに…。

「そ、それは、……いやしかし。」

流石に自分がよかれと思った行動が相手に対して脅迫になってしまったと聞いて動揺しているようですね。

けど、ここは良い機会です。
ゲームでもガンジー王は自分が何でも出来るせいか全て自分で背負おうとしていた様に思います。

そのため政治では、千鶴子さまに頼っていたにもかかわらず大事な事は何も話さずにいました。
その為長官達に好きなように言われ、千鶴子さまは非常に苦労していました。
千鶴子さまの盲目的な忠誠心がなければ政治的に崩壊していたでしょう。

そして軍では、軍団長達の実力を認めつつも特に何もせず、その行動を放置していたためウスピラさんの軍を長官達に持っていかれてしまい氷の軍団を壊滅させてしまいました。

人が1人では背負える量に限りがあります、それを無理して背負おうとすれば必ず歪みが出るのです。


「ふむ、そうかもしれんな。
……直ぐには変えられんかもしれん。
が、念頭には置いておこう。」


……やはり器が大きいです。
下の意見を聞き素直に自分の問題を認められる者は稀少なのですよ。



「そうだアニス、少し私の話を聞いてくれぬか。」

それから私はガンジー王子の昔話を聞きました。

わがままだった少年時代、

そして1人の少女が自分の価値観を変え新しい世界への目を開いてくれた事、

学生時代の突然の少女との別れ、

その後の精神的復活をとげるまで。


どうやら私は随分と王子に気に入られたようですね。
こんな話までしてくれるとは。


しかし、やっぱり居ましたね。

『エセさわやか男』

責任を取ってやめさせられた女子に人気のあった先生と言うのが奴に間違いないでしょう。
やはり、リズナさんの一件に絡んでいましたよ。

この世界、ほぼ間違いなく正史の様ですし、本格的にパパイアさんの件、なにか対策を考えた方が良いようですね。


本格的に私の敵と認定させてもらいますよ『エセさわやか男』!!



そうやって私が『エセさわやか男』に対する敵愾心を沸々と高めていた所、また王子が話しかけて来ました。


「この国は救えると思うか?」



こらこら、これは11歳の少女にする質問なのですか。

というかよっぽど切羽つまっているようですね。

うーむ、丁度いい機会ですし、ここは私の思う所を素直に話してもよいですよね。



「無理です。」


あっ、こけた。

流石のガンジー王子もこのストレートな答えは考えてなかったようで。

「ちょっ、ちょっとまて、それは…。」

おおっ、蘇った。なかなかお早い復活で。

「失礼しました、少し言葉が足りなかったようですね。
今のままではと言う意味です。
少し説明させていただきます。」


ちょっと意地悪でしたね。

お詫びに私の思う所を説明させていただきます。


現在、長官達や貴族達に完全に実権を握られしかもその状態が長く続いています。
その為、二級市民達の中にも自分たちが差別されているのではなく自然の法則のように考えている者も見られます。
このような状況では積極的に国を変えていこうと考える者は限られてしまい、国民の大多数による民主的な改革ははっきり言って無理です。

そうなると一部の者が指揮を執り国民達に改革を望むように働きかける事になるのですが、このような行為は目立つ上権力者にとって目障りな為、一部の反抗勢力、テロリストにされてしまい、まず弾圧されます。
この状況に当たるのが現在のペンタゴンですね。


ならばどうすればいいか。

現在私が思い当たる方法は3つです。


一つは王になったその権力を使い、長官達を一気に拘束し改革を進める方法。

この方法は超下策です。
間違いなく内乱が起こる上に、貴族対王の構図になってしまうため国民からの指示も得られず 、下手をすると外部勢力の介入で国自体が崩壊してしまいます。


二つ目はゲームでやっていた方法、すなわち長官達から気づかれないように少しずつ権力を奪っていき、そして影から国民達の改革勢力を援助し、国と民の両面から改革していく方法。

この方法は堅実ですが恐ろしく時間が掛かります。
何より長官達に気づかれてはいけないのですから王が全面に出ることができません。
それでいて大貴族を罰する事が出来るのが王だけなのですから、
『政治には興味はないが正義の味方に憧れている王』
を演じてもらわなければいけません。
そう、『征伐のミト』です。
王に油断させるためとはいえ道化を演じてもらわないといけないうえ、一級市民と二級市民の間に和解の道が開かれるのかも微妙です。

それにこれは言えませんが改革派の国民の中にあの『エセさわやか男』がいる時点で間違いなく失敗します。
絶対に色々ちょっかい出してきますよあいつは。


三つ目は外部勢力をダシに危機感をあおり無理にでも国民全てが強制的にでも協力しあう状況にしてしまう方法です。

要するにゲームで結果的にランスが使った方法です。
危険性は今更言うまでもないでしょう。
成功させるにも結果的に外部勢力を撃退する実力が必要です。
さらに一級市民と二級市民の双方の代表に顔が利き、ある程度の影響力もある人物で双方に遠慮無く動ける人物もいりますね。

……よく考えてみたらランス君そのものですね。


以上の事を考えるに現状では無理だと判断したのです。

これらの説明を終えると目に見えて落胆してますよ、ガンジー王子。

しかし、これらの内容は千鶴子さま達と話し合った内容も含まれるため似たような事を千鶴子さまから聞いていると思うのですが…。
大分オブラートに包んで話しましたね。
…千鶴子さま優しいから。


「ただ、どの方法にするにしても自己戦力の意志を固める事が必要です。」

「ほぅ、どうする?」

流石ガンジー王子、もう復活しましたか、すばらしい回復力ですね。

「まず、四天王の確保。
これは名誉職とはいえその発言力は無視できないものがありますから当然です。
今後、今回のような勝手に法案を成立させる事を防ぐためにも長官達と戦える政治力が必要になってきます。
しかし、現在の四天王は全て長官派ですから協力は得られません。
よって全員を変える必要があります。」

「うむ、……だがこれはかなり難しいぞ。
確かに四天王は王が任命権を持つ数少ない役職だが、欲にまみれた奴らがそう簡単に明け渡すとも思えん。」

「確かにそうです、しかし、四天王に限り王の任命権以上の建前があります。

 『もっとも強い魔法力を持つ者が四天王になる』

です。」

「…その建前を全面に出すことで、私が政治力を強化しようとしていると言う意図を隠しつつ、こちらの人材を入れるということか。」


察しの良い方は説明が楽で助かります。

王にはこれからも政治に興味のない、または視野の狭い正義しか見えない王様を演じていただかないと。

その為にも国王の権力強化の為に動いていると疑われる行動は少しでも誤魔化さないといけません。
もっとも、この考えは現在の四天王が殆ど長官派の縁故で決定された魔法Lv1しか持たない人たちだからできることですが。

「では、その人材についても既に考えているのであろうな?」

「ははは、お見通しですか。
今のところ千鶴子さま、パパイアさんの2人を入れる事を考えています。
後の二人については現在の所保留ですが、1人くらいは長官達の推薦でいれた方がいいんじゃないかと…。
要は、四天王の筆頭をこちらの人間が務め、半数以上がこちら側の人材であるということです。」


まぁ、千鶴子さまが音頭をとっていただけるのでしたら後は何とかなるでしょう。
なにげにすごい方ですし。

「アニスは入らないのか?」

やっぱり疑問に思われましたか、普通魔法Lv3なら四天王入りは確実でしょうが、将来私はランスの元へ行くつもりなので下手に役職に就くわけにはいかないのですよ。

…なんとか誤魔化さなくては。

「私の場合魔法Lv3が問題なのです。これは十分警戒に値する問題です。
折角ですので今まで通り『魔力は大きいが制御が出来ない』とか『へっぽこ魔法使い』の評価のままでいた方が何かと便利かと。」


今ひとつ納得し切れてないようですが『今のところは考えがあって役職に就かない』と言う事で納得していただくしかありません。


その後、四天王最後の1人については『娘かわいさに国の重鎮にしたい』という名目が使えるということでマジックさんが候補に挙がりました。

4軍団については雷、炎、氷の3軍団長は変わらず、光のみ王女の許嫁候補の実績作りとの名目でアレックスさん軍団長に変更させると考えているそうです。

しかし、十代、二十代の高官が多くなりますね。

確かウスピラさんて、まだ十代半ばだったような。

まぁそれだけ頼れる人材が少ない現実があるのですが。



それと、ガンジー王子が王になる前に一度みんなを集めて会議をするよう進言しました。

王になってからでは長官達からの警戒心を刺激しますし、かといってやらなければ間違いなくお互いの行動に支障がでます。

いわゆる、氷の軍団壊滅とか、マジックさんのガンジー王子への不信などゲーム中で起こった問題の幾つかはこれで避けられるはずです。



さて、随分と長話になってしまいました。

しかし、いつのまにか話が大きくなっていますね。
11歳の少女が国家戦略を語るなんて元いた世界では考えられない事なんですが…。


とりあえず、言いたい事は言わせていただきましたので今夜はよく眠れそうです。





side ガンジー


千鶴子からの話を聞き期待はしていたが……、これが11歳の少女だと!

高度な国家戦略を語りながらその内容にはこうなるだろうという予言めいた所も見られる。

なによりその目はゼス再生だけではなくもっと先を見ているようだ。

もしかして気づいているのか、かつて父から一度だけ会わせてもらった占い師より聞かされた、近い内に世界を巻き込んだ大きな争いがあるという予言の事を。


この魔力にしてこの知力そして先を読む力、もしかすれば危険かもしれん。



………いや、考えすぎだ、私がこの少女を信じなくてどうする。


自分たちと何の関わり合いがないにもかかわらず危険を承知で助けに来た行動力。

不信感を持つ村人のため全てを捨てて謝罪するやさしさ。

そして苦言と承知であえて私の行動をたしなめる忠誠心。


いや、この少女の行動は全て誰かを助けたいというやさしさから来ているのだろう。

今はこの心を信じよう。
自らこの国を救う事は無理といいながら、それでも全く諦める事を考えない強き心と共に。



さあアニスよ、まずはムシ使い達を救おうではないか。



[11872] 第九話  友と呼んでくれた人のために
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:41
第九話  友と呼んでくれた人のために


どうも、ガンさん相手に偉そうに色々難しい事を話した11歳の魔法少女アニスです。



私は何を考えているのでしょう?

一国の王子に何を偉そうな事を。

…… 11歳の少女が…。


穴があったら埋まりたいです。

まぁ、『つい、かっとなってやった、いまはこうかいしている。』というやつでしょうか。


………私は何を言っているのでしょうか。

王子に不審に思われていなければ良いのですが。

思われてますね。

まぁ、聡明な王子の事ですから、直ぐに私に対して某らの行動を起こすとは思えませんが今後は気を付けないといけません。

この、うっかりな性格、どうにかしないとその内自爆しそうです。





さぁ、朝になりました。

大脱出の時間です。

皆さん既に村の出入り口付近に集まっているそうです。
私も急がないと。



村の出入り口には村の皆さんが集まっているようです。

うーむ、村の方々300人いませんね…。

本当にギリギリの生活をしていたようで。

しかし、皆さん随分荷物が少ないような。

殆どの方が自分で持てるくらいの荷物でタンスなどの家財道具を持っている人が誰もいません。

それになぜか2グループに分かれているような。

「あら、おはようアニス。
不思議そうな顔をしているわね。
大方、これから夜逃げするにはみんな随分と軽装という事を不思議がっているんじゃない?」

私が不思議がっていると先に来ていた千鶴子さまが説明してくれました。
ちなみに千鶴子さま、朝なのに夜逃げとはこれいかに。

なんでも、荷物が少ないのは逃げるスピードを上げるためと逃げた痕跡を少なくするため。

そして2グループに分かれているのは、女子供を中心とした班が先行し目的地に向かい、男や老人のグループが逃走の痕跡を隠蔽しつつ後から来るためだそうです。


なるほど、確かに理に適っています。

本隊が女子供を守りつつ先行し、経験豊かな老人とそれをサポートする若者がコンビを組んで本隊の痕跡を消しながら追いかけてくる。

これは昨夜の村人達だけの会議で決まったそうです。

流石、これまで迫害を受けてきただけあって抜け目がないですね。

私なぞ、逃げる事にばかり気を取られていて後の事については頭から抜けていました。

ちなみに逃げる先も以前から用意してあった隠し村があるとか。

ただ、この隠し村については日常的に逃げ場が必要だったムシ使いさん達の生活を思うと少し悲しくなりました。


しかし何でしょう?
この何か忘れているような感覚は。
ちょっと気になるのですが…。





山越え谷越え森の中。

今、私達はムシ使い村から5日ほど進んだ森の中にいます。


はぁ~、大したものですねぇ。

規模こそ小さいものの、こんな森の中にしっかり村がありますよ。
なんでもあと3つ位隠れ家があるそうですが、ここが一番規模が大きいそうで。

と、いってもこの村、元々こんな大がかりな脱出劇を考えていなかったため収容可能数は50人ほど、少々手狭です。

そんな事を考えていますと村長さんが近づいてきました。

「なにももてなしも出来ずすみませんのう。
なにぶん村の拡張が急務なもので。
それで少々ほこりっぽいですがあちらの小屋で休んでいていただけないでしょうか。」

やはり、ムシ使いさん達はお人好しが多いですね。

村から無理矢理連れ出してきたのは私達なのにまだ気を使っていますよ。

ただ、こんなセリフを聞いた後に王子の言うセリフは決まっているのですけどね。

「なにを水くさい!我々が原因でここまで来たのだ我々も手伝うに決まっているではないか。
否、手伝わせてほしい。」

「ガンさん…、わかりやすすぎです。」

やっぱり、予想通りです。

「なんの、私はこう見えても力仕事も得意であるし、この娘達も幼いながらも魔法の腕はなかなかのもの決してじゃまにはならん。」

王子、王子、あなたはどう見ても体育会系です。
というかガテン系?

それに私達が手伝う事は決定事項ですか。

…いえ、元から手伝う気ではありましたけどね。
了解なしに決められると何というか反骨心がむらむらと……。

まぁ、そんな些細な事は置いておいてお手伝いしましょうか。



………使えん!

現在手持ちの魔法をアレンジしてお手伝いをしていますが魔法制御が繊細すぎます。

炎、氷、雷、闇系は現在の所使いどころが無くAカッターで木を切るか局地地震で地を耕すか、念動で荷物を運ぶかです。

千鶴子さまやパパイアさんは丁寧に1本1本手をあてて木を切っていますが……。

王子、木を引っこ抜くのは魔法使いとしてより人間としてどうかと思うのですが。

ちなみに私は制御に失敗して10本くらいまとめて切ってしまい危うく近くにいる人まで輪切りにしてしまうところでした。

千鶴子さまにイエローカードをもらいました。
シクシク(泣)

局地地震ではやっぱり制御しきれず………千鶴子さまに掘り起こしてもらわなければ危うく化石になるところでした。

千鶴子さまにレッドカードをもらいました………orz


いえね、言い訳をいわせてもらうなら決められた範囲に決められた力だけ込めると言う作業が私の魔法量の所為で随分難しいというかなんというか…。

戦闘なんかだとそのあたりは適当でいいのですが……。

結局私は念動で荷物運びです。

切った木を作業場に送り込み、加工した木を所定の場所に積んでおく。
気分はすっかりベルトコンベアです。

うっ、う、う、地味だ、果てしなく地味です。せっかくの魔法Lv3なのに。


そんなこんなで作業を進めていくと夕方頃にはかなりの土地が開け建築資材も集まりました。



本日は移住初日、これからの村の皆さんの志気を高めるためにもささやかですが宴が開かれました。

もっともそれほど物資に余分があるわけではないので本当にささやかですが。



宴も中頃、気づけば王子の周りには年頃の娘さん達が5,6人集まってお酌をしたり、楽しそうにお話ししています。

自分たちに偏見を持たない外の男の人が珍しいのでしょうか。

おや、村長さん、王子にお願いがあると?

「よろしければこの村に滞在している間、そこにいる娘達と契ってもらえませんか?」

ブッ!!

そそそそそ村長さん!いきなりなにを!!!



はぁ、以前にも少し説明しましたがなんでも今ムシ使い達は深刻な出産問題を抱えているそうで、何でも10歳以下の子供が5人しかおらず、しかもその内に生まれつき障害を持つ子が3人もいるそうです。

原因はムシ使いという特殊能力に加え度重なる近親婚だとか。

なら、部族以外に妻や夫を求めてはと思うかも知れませんがこれが難しいそうです。

男の場合偏見を乗り越えて外の女性と結ばれてもまず、周りが許さず無理矢理別れさせられるか、ムシ使いが女を襲ったと難癖をつけられて殺されてしまうなんて事が過去にあったそうで。

また、女性を連れて駆け落ちした場合は誘拐犯として手配されたうえ、更に女性の家族にもムシ使いと駆け落ちした女の家族として危害を受けるおそれがあるそうです。

女性の場合も似たようなもので立場が弱いだけに更にむごい仕打ちを受ける事が多々あったとか。

私が少女のため説明の言葉をかなり濁していましたがやはりかなり悲惨な歴史を歩んで来たようですね。

差別いくない。

ただ、流石に王子が種付けするのは問題があるような……。
ランスくんがいるなら喜んでやるんでしょうけど。


「うむ、私で役に立つのなら、いくらでも協力するぞ。」

ぶっ!

ちょと、王族がそんなに簡単に子供作っちゃだめでしょう!!

「何を言うアニス、その王族の私に嘆願せねばならないほど困っているのだここで立たねば王族としてより人として信頼を欠こう。」

「王子!跡継ぎにマジック様がいるとは言えむやみに庶子をお作りになる事はのちの後継者問題の種になります。今一度お考えを。」

千鶴子さまナイス説得です。

後継者問題は国を滅ぼすおそれのある大問題です、流石にこの説得なら……。

「それこそだ、将来マジックが女王になるか婿をとるかわからぬが、国が立ち直ればガンジー一族が王族の立場から退いても良いと考えている。
王族でなくなれば後継者問題もあるまい。」

それは屁理屈ですよ、ガンさん。

「何より庶子の10人や20人を懐に入れる甲斐性が男になくてどうする。」

あー、そういえばガンジー王ってゲームでもそんな感じな人だったような。

私より年下のカオル・クインシー・神楽さんにも手を出していましたね。


そう言って王子は女の子達を引き連れて家に入っていきました。


あっ、千鶴子さまが煤けてる。

「え~と、私達も寝ようか?」

そうですねパパイアさん。

ただ千鶴子さまがショックで固まっていますので運ぶの手伝ってもらえませんか。

そうして私達は宛われた王子の隣の家(小屋?)に入っていきました。


………隣から色っぽい女の子の声がして寝づらかったです。





次の日から、私達4人は村の方々と協力して村の周りのモンスター退治に出ました。

モンスター相手だと気にせず魔法を撃てるから気が楽です。

流石に女の子モンスターを殺すのは抵抗ありましたので村に近づかなくなるくらいの恐怖をあたえて追い払うだけにしましたが。

方法は簡単、非殺傷モードにした魔法を泣いて逃げ出すまでドバドバ打ち込み続けるのみ。

実はこの世界にも魔法に非殺傷モードがあります、最初はどこのリリカルな世界だよと思いましたが出来た切欠を聞いてどん引きしました。

拷問用だそうです、まぁ確かに殺しちゃいけませんけど…ねぇ。

そんな鬱な情報は置いておいて、幾つかの報告があります。


そのいち・・・実はガンジー王子、剣戦闘Lvを持っていました。

以外ですね……どう見ても格闘系ですが。

確かに剣は装備してましたけどね、ちょっとイメージが……。

ちなみにこの件が済んだら剣も魔法も修行に付き合ってくれるそうです。

ようやく私にも剣と魔法の先生ができました。

ラッキーです。


そのに・・・ムシ使いのお友達が出来ました、名前はカロリアちゃん。

セーーーフ、あまりにそれらしき女の子に会わないものですから、他にもムシ使い村があって場所を間違えたのかと思いましたよ。

カロリアちゃんは凄く可愛い子です。

どれくらい可愛いかというと、つい、『きゃうーん、かわいいー!おもちかえりー』と言って抱きしめてしまうくらい可愛い子です。

ちなみにその後、千鶴子さまにどつかれました。

…千鶴子さま、最近突っ込み厳しいです。





そんな修行混じりのモンスター退治をしつつカロリアちゃん達と楽しく過ごしていたら何時の間にか4日経っていました。

後続の方達がまだ来ません。


「流石に、遅すぎるんじゃないの?」

「はい、確かにそうですね。」

「私、ちょっと王子に聞いてみる。何か不測の事態が起きたのかも知れないし。」

そうして私達3人がガンジー王子の所へ来た所、そこには村長さんもいました。


「なんだと!!!」


なっ、何事です、ガンジー王子!
いきなり大声を出して。

すると王子は苦虫をかみつぶしたような顔をして手に持った1枚の手紙を私達に渡しました。



   ナ  ニ  コ  レ   ・・・・・。



その手紙は後続として残った方々からのものでした。

内容は、

・国策として発動された作戦に誰もいないからといって素直に諦めるとは思えないこと。

・目標を失った国軍が他の目標を設定する恐れもあり、自分たちを見つけるために大捜索をする恐れのあること。

・目標については秘密作戦であったにもかかわらず秘密が漏れた事についての追求が始まりガンジー王子や私達に迷惑が掛かるかも知れないこと。

などが書かれてあり、国軍に疑われないようにする為に『擬態虫』で村人を作り出し、さらに残ったもの全員が『なれのはて』となり村に火を放った上で国軍に戦いを挑むそうです。



あ、あ、あ、あ、ああああああ………考えて置くべきでした。

この村の人のお人好し具合を考えればこうなることは十分考えられたことです。

私は何時もこうです。
少し考えれば防げたミスを繰り返し後悔ばかりしています。
こうかい・・・?

ばっ!!

「何処に行くの?アニス!」

私が踵を返して走り出そうとしたとき千鶴子さまが呼び止めました。
ええーい、時間がないのに。

「千鶴子さま、今すぐ村人達を助けに行きます。

私の瞬間移動を使えば直ぐです。

あれからまだ、9日、上手くすればまだ戦闘が始まってないかも。

もし始まっていても、非殺傷の白色破壊光線を目くらましにすれば………」


パシーン!!!


・・・あれ?千鶴子さまに叩かれた?


「何を駄々っ子みたいな事を言ってるの。」

「けど、千鶴子さま……」

「けどじゃない!!

あなたにも分かっているはずよ、もう打つ手はないって。

瞬間移動?Lv3のあなたなら使えるかも知れないけど何時の間に自由自在に使えるようになったの?まったく別の場所に出るか異空間に取り残されるのが落ちよ。

それに私達が村に着いた時、軍が1週間以内に攻めてくるのは確実だった、もう2日たってるのよ。

逃げるときに白色破壊光線を打ち込んで目くらましにするですって?そんなことをすれば私達が関わってますよって言ってるようなものじゃない。」

気づけば千鶴子さまの目からは涙が止めどなくあふれています。

「でも、でも……。」

更に言い募ろうとする私を千鶴子さまは優しく抱きしめてくれました。

「わかってる、悲しいのは悔しいのは十分分かってる。

けど、いま迂闊なことをすると残った人達の心を無駄にするだけじゃなく、ここにいる人達まで危険に晒してしまうことになるのよ。」

分かってました、分かってましたけど何かせずにはいられなかったのです。


それから私達2人は泣き合いました、お互いの躰をしっかりと抱きしめて、足りなくなった何かをお互いで埋めるように。



「千鶴子、アニス、この手紙の最後をお読みなさい、私達には読む義務があるわ。」

いまだ、泣いている私達にパパイアさんから手紙が渡されました。

そして、その手紙の最後には、

「あえて、危険を冒し我らのために動いてくれたあなた達を友と呼ぶことを許して欲しい。
そして、願わくばいずれムシ使い達が差別されない世の中になったとき友の手で我らを眠りに就かせて欲しい。
その日まで我らは故郷を守り続けよう。」

そう、記載されていました。


………あなた達は………。


『なれのはて』はムシの暴走によって起こる現象。

その中の再生虫が、致命傷を受けたとしても行動不能になっても生かし続ける。

故に確実な死をあたえる方法は少ない。

高レベルの殲滅魔法で再生不可能なまで塵にしてしまうか。

脳など重要器官を潰し行動不能にしてからムシ使いか薬品によって再生虫の行動を停止させるかです。



わかりました。

あなた達は皆さんを死に追いやった私を友と呼んでくれました。

なら、私はいつか必ず友の願いを適えて見せます。

ですから、待っていてください。

あなた達のことは決して忘れませんから。



[11872] 第10話 パパイアの思い
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:43
第10話 パパイアの思い


パパイアside



私の前には抱き合って泣き合う友人がいる。

……ああ、そっか、これが嫉妬なんだ。







私の名はパパイア・サーバー。


それなりの地位を持つ家に生まれた。

母は私が幼い頃になくなり顔も覚えていない。

父は貴族でありながら魔法Lvが無いことにコンプレックスを持ち、常に自分の事だけ考える事に忙しく、私と話すことはほとんど無かった。

ゆえに父母の愛情がよくわからない。

更に私と父とを決定的に隔てたのは私が魔法Lv2だと判明したときだった。

あの時の父の顔を忘れることが出来ない。

嬉しさと悲しさと悔しさ、そして絶望、そんな表情の入り交じった顔だった。

その後しばらくして父は家を出た。

失踪だ、風の噂では反国家的な組織に入ったと聞いている。

…今なら多少判る、あの時の父の顔は、

自分の中に確かに魔法使いの血が流れていたことが確認できたうれしさ、

なぜ、その魔力が自分には無かったという悲しさ、

魔法に才能がないと気づいてから魔法を馬鹿にし自らの頭脳のみを誇りとしてきたにもかかわらず自分に魔法使いの血が流れていることに喜んでしまった悔しさ、

そして、大きな魔法の才能を持つ娘を利用して上に行こうと考えてしまった事への絶望、

そんな感情が入り交じっていたのだろう。

そう、父は父なりに私を愛してくれていたのかもしれない、ただそれは非常にわかりにくく、私がそれを理解するには聡明さが足りなかった。

そんな幼少期を過ごした所為か 私は非常に冷めた子になっていた。


魔法応用学校入学、これが私の運命を変えた。





入学してしばらく、私は飽きていた。

家を出れば何か変わるかも知れないと早めに入学した魔法応用学校。

しかし、その中にあったのは、形式張った付き合い、変化のない日常、この学校では誰もが仮面を付けて生活をしている。

このままなら、私はその内人生に飽きて自殺か精神を病んでいたかも知れない。
そんな私を1人の人間が変えた。

「あなたがパパイア・サーバーさんね、私は山田千鶴子、千鶴子って呼んでください。」

これが出会い。

最初は滅多にいない魔法Lv2が同じ学校にいることに興味をもって、千鶴子があいさつに来ただけだった。

だが、私の目に見えた千鶴子は未知の存在だった。

溢れる才能、強大な魔力、入学したてにもかかわらず既に卒業レベルにある知識量。
なにより、彼女には歪みが無かった。

異質な力、人とは違う人間は排除される。
彼女も又例外ではなかった。

嫉妬、やっかみ、悪意を行動に移されたこともある。

だがどれも彼女を傷つけることは無かった、決して気づかない馬鹿ではない。
彼女はどんな悪意もたいしたことがないようにすり抜けていった。

そんな彼女を観察していたらいつの間にか私は千鶴子の友達になっていた。

豊かな才能を持ちながらなお高みを目指すその精神、最初、私には判らなかった。

そして、その答えが判るのは彼女と出会って1年後だった。


幼なじみが入学したので紹介したい、と言う千鶴子に連れられて私は出会った。

『アニス・沢渡』

現在ゼスでただ唯一のLv3、初対面で緊張しているのか、引きつったように笑うその少女は一見した所、只の女の子だった。

だけど私には、彼女は水で一杯になった風船を連想させた。

犯罪者用の魔力封じを着けているにもかかわらずあふれ出ている魔力。

そう、肉体の限界を超える魔力は肉体と精神を蝕んでいく。

何時破裂してもおかしくない状況、その躰は常に激しい痛みに苛まれているだろう。

その痛みは精神も侵していき、痛みを押さえるため辺りに魔法を蒔き散らかしていても可笑しくないはずだ。

なのに何故この子は笑っていられる!


それから私達3人の付き合いが始まった。

やっぱりと言うか当然アニスは異質なものは排除されると言う手段心理に基づき孤立した。

その為、余計に私達3人でいることが多くなった。

勉強を見てあげたり魔法の修行にも付き合った、むろんアニスの魔法の暴走に何度も巻き込まれた。

アニスは心底申し訳ない様に土下座していたが、この件、怪我さえ気を付ければ私のメリットが大きく、アニスの魔力の影響か暴走に巻き込まれるたびに魔力が上がっていくと言う現象が判明した。

そして、しばらくアニスと付き合う内にだんだんこの子が判ってきた。

…本当にいたんだ、自分の痛みより他人の痛みの方がつらい人って。

アニスは人に絶望しない、それはむやみに信じるのじゃなく暗い部分を理解した上でだ。

なるほどあの千鶴子が歪まないわけだ、同情や打算じゃなく自分を理解し、理解しようとしてくれる人は滅多にいない。

そして思いはじめる、アニスに比べれば私の苦しみなんて、と。

生まれてから強大な魔力のため精神的肉体的に苦しみ、その異質さ故に他人から孤立する、しかし決してその事に絶望せず笑顔を絶やさない。

そんな人、今まで私の周りにはいなかった…。





私達3人のつながりは私が学校を卒業した後も続いた。

そして、アニスが学校を卒業して直ぐに事件は起こった。

研究所の仮眠室で1人くつろいでいるといきなりアニスが飛び込んできた。

「パパイアさん突然ですが人助けです、理由は聞かず付き合ってください。」

そう言うと、仮眠室にあった私の泊まり込みの荷物を持って私を拉致っていった。

突然の事に思考停止している私をうし車に乗せると、見知らぬ巨漢の男性が運転するうし車は発進した。

目的地に向かう途中やっと私は状況の説明をもらった。

目的は今回施行される異文化撲滅政策のため虐殺されるムシ使い達を助けること。

うし車を運転しているのは実はガンジー王子であるということ、などである。

正直、ムシ使いに対しては私は特に偏見はない、というか今まで興味もなかった。

しかし、王子については正直驚いた、そう言えば最近政治がらみの話題が増えていたと思っていたが既に行動に出ていたとは。

千鶴子、相変わらず行動に無駄のない子だ。



ムシ使い達の村に着いた私達、やはり上手くは行かなかった。

王子が身分を明かして説明しているにもかかわらず、村人達は警戒を解かない。

仕方ない、そこまでこの国の魔法使いに対する一般人の認識は悪い。

なにより私の目にはこの村人達、諦めの気配が見えている。

そう、私と同じ目だ。

そして、このまま不毛な言い争いになるかと思われたとき、アニスが動いた。

「ごめんなさい!」

いきなり土下座を始めたのだ。

そして、全ての魔法使いの罪を被るか如く謝罪をはじめた。

まったく、だからアニスは甘いのよ、たかが11歳の女の子が罪を認めて謝罪したからどうなるというの、あきれるだけじゃない。

私の心をそんな否定の気持ちが充満する。

だが、そんな心と裏腹に躰は自然と土下座の体勢にはいり、口からは謝罪の言葉が流れていた。

「ごめんなさぁい」

心と体、行動が一致しない。
私は一体………。



その後、王子までが土下座するという事態が起こったが、結局村人達は脱出した。

脱出先は5日ほど移動した先の小さな村、私達はこの村の改装を手伝うことになった。

いつもなら面倒と適度に手を抜くのだが、正直、現在心と体の問題で参っている、何も考えず身体を動かせることがありがたい。

などと思っていたらアニスが又とんでも無いことをやっていた。

魔法の暴走はいつものことだけど、その後の荷物運びはアニスの特殊性を再確認させる。

あれだけの質量を何時だけでなく幾つもそして何時間も動かし続ける。

重いものについては魔力量で何とか出来るがそれを続けて何時間と行うのは不可能だ。

本来魔法とは一瞬だけ発動するもの、持続性はない、その為魔池や魔力バッテリーが作られている、それをいとも簡単に………この子の魔力容量はいくらあるの?

王子も千鶴子もあっけにとられている、アニスってもう既にフルパワーを出したら誰も勝てないんじゃ無いかしら?



あれから4日後、私達に衝撃がはしった。

村長に託されていた手紙、そこには村に残ったムシ使い達が逃げた仲間のため、助けに来た私達のため、『なれのはて』という化け物になってゼス王国軍に戦いを仕掛けてごまかす、という内容が書かれていた。

そこには恨み言はかけらもなくそれどころか後に残る私達に苦労を押しつけてすまないといった内容まで含まれていた。


ああ、実は私が知らなかっただけで、世界には優しい人達がいっぱいいるのかもしれません。

いえ、知りたくなかったのかも………。

アニスはこの手紙を読むと直ぐに飛び出して行こうとしたが千鶴子に呼び止められ頬を叩かれた。

もう、二人とも涙でべしょべしょだ。

そんな二人を見ているとどんどん胸が苦しくなる。


……ああ、私は嫉妬していたんだ。


千鶴子とアニスに友達と言われながら私自身はどこか冷めた目で見ていた。

同じ場所にいながら違う場所にいるような感覚、今なら判る、私は千鶴子がうらやましかったんだ。

千鶴子と私は驚くほど似たような境遇だ、父母の愛に恵まれず、その才能故に孤立する、問題点が判っていても自分ではどうすることも出来なかった。

だが千鶴子のはアニスがいた、そのため千鶴子は心から笑顔をだし思いっきり泣ける。

その事がうらやましくて嫉妬していた、その病んだ心が友達という言葉に躊躇させていたんだ。

地面を見るとアニスが走り出した際に投げ捨てられた手紙があった、そこには、

「あえて、危険を冒し我らのために動いてくれたあなた達を友と呼ぶことを許して欲しい。
そして、願わくばいずれムシ使い達が差別されない世の中になったとき友の手で我らを眠りに就かせて欲しい。
その日まで我らは故郷を守り続けよう。」

と手紙の最後が締められていた。


…あなた達も私を友と呼んでくれるのですね…。

今は泣いている二人に入ることは出来ないけど……。

しかし、自分の闇を自覚した今ならいつか入れるかも。

ですから、もう少しだけ待ってて下さい、千鶴子、アニス。



さあ、二人にこの手紙を見せないと。

私達を友と呼んでくれた人達のために、そして私達が前に進むために…。



[11872] 第11話 悪役登場!
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:47
第11話 悪役登場!



どうも~、パパイア・サーバーで~す!!

今回は主人公がいないシーンがあるので、私がご案内しま~す。

ちなみに、ここでの私のしゃべり方が本編と違うというのは、スルーしてくださるとパパイア嬉しいな!






あの手紙からしばらくして私達は首都に戻った。

別れ際、アニスは仲良くなったムシ使いの女の子をナチュラルに連れて行こうとする、などというほほえましいイベントもあったが(いや、それ誘拐だから……by千鶴子)千鶴子の鉄拳とそのムシ使いの女の子の説得でどうにか落ち着いた。



ムシ使い村から戻った、私達はお互いに話し合った結果、自分たちを鍛えることにした。

今後、更に混迷するであろう国内情勢に入り込むため。

そして自分の実力不足のために何かを諦めないように。


目標としては

①冒険による大幅なレベルアップ。

最低でもLv50を目指すこと。

最初、トレーニング施設での急速なレベルアップも考えられたが、緊急時の対応力の強化と思考の柔軟性はトレーニングではつかないとの意見が出たためこちらに決まった。


②新魔法の開発

これは今後、ゼスのトップに上り詰めるためには隠し球が必要と考えられたからだ。

高レベルの魔法使いが揃っているうえ、王子の援助も受けられることからかなり高度な研究が実現可能となった。

これは今後まず間違いなくあるだろう、他の高レベル魔法使いとの戦いを見越したものだ。

もっともアニスはもっと先を見ているようだけど。

……対魔人魔法か、あの子の瞳は何処まで先を見ているのだろう。


③冒険によるレアアイテムの収集

ゼスには魔族領と隣接しているだけでなく何度も侵攻を受けていることから魔族がらみのダンジョンが多い。

また、聖魔教団の激戦地であったことから墜落した闘神都市が結構な数、埋まっており(壊れているけど)、なおかつ、その危険性から未探索のものが多い。

聖魔教団は魔人と戦い、勝てないまでも長い間五分に持ち込んでいたのだ、今後私達の助けになるものが在る可能性が高い。

ならば修行がてらそれらを収集、研究しようと考えたのだ。


これら3つが重点だ。

実は本来なら魔法力の増強が入るはずなのだがこれに限っては私達には当てはまらなかった。

アニスだ。

詳しくは分からないが、この子のあふれ出る魔法力の所為か一緒にいるだけで魔力があがり、レベルアップをしたときなど異常なくらい上昇することが判明した。

千鶴子曰く、これはアニスの魔力に刺激されて本来眠ったままになるはずの才能が付加されているんじゃないかとか。

ここ数年魔法力の成長が止まっていたガンジー王子ですらどんどん魔力があがっている。

これはちょっと反則な気がするのよね。

しかし、以前一緒にモンスター退治をしていたムシ使い達は元々魔法の才能が無い所為か殆ど魔力は上がってなかった。

他の魔法使い達はそれこそ魔力を上げるため危険な薬品をつかったり、肉体に魔力増幅の紋章を刻んだりしているのに…。

現在千鶴子がアニス抜きでも、レベルアップ時の魔力増幅が出来るよう研究中だとか。

もっとも、これは完成してもLv2以上の才能とある一定以上の魔法力がないと無理との見解だそうで。

ただ、この魔力に関する有利性は今後の私達に大きなプラスとなるだろう。





◇◇◇◇



あれから2年、修行に研究と随分といい感じに濃い毎日をおくった。

…かなり無茶な冒険をやっていたと我ながら思うわ。

回復役のアニスがいなかったらどうなっていたことか……。

どう考えても『努力・友情・勝利』は私のキャラじゃないんだけどなぁ。


そんな時王子から連絡が入った、そろそろ国王が危ないらしい。

何も出来ず、何もしなかった現国王、身内の王子には悪いが私には特に感慨はない。

だが、いよいよ王子の戴冠が近い、その為、味方の結束を図るため集会をするらしい。

雷、炎、氷の将軍達も集まるとか。

今回集まるメンバーは今後それなりの地位に就く予定のため今後こんな集まりは難しいでしょうね。

さて改革、第一幕のはじまりよ。



今回の集まり、数こそそう多くないがなかなかのメンバーだ。

私達3人に3将軍。

まだ魔法応用学校にも入学していない王子の娘マジック。

その家庭教師であり、また王族に連なる上級貴族で俊英と名高いアレックス・ヴァルス。

王の身辺警護であるクインシー家とスケート家からも人が来ている。


そして開口一番、王子の口から語られたのは自分が王になってからの改革案だった。



・新四天王制度の導入

実力重点四天王に切り替えるということで、私、千鶴子、マジックちゃんを推薦するというもので、これを聞いたマジックちゃんがいきなり王子に噛み付いた。

まぁ、親の七光りで重要な役目に着けられるといったところが気に入らないんでしょうけど。

ただ、この抗議はあらかじめ予想ができていたことから、王子自身がこれまでマジックちゃんのことを放っておいたことを謝ったうえでその理由を説明し、現在の国の情勢と改革に必要性について説明することで収まった。

というかマジックちゃん、普段の無責任王子と違う姿を見せられて頭の中が処理し切れていない様ね。

目をパチクリさせて可愛い……!


その後千鶴子からも説明を受けて、もし実力について心配なら、他の四天王である私達が修行を着けてあげるといったのだが、あの子天の邪鬼みたいだから意地になって自分で訓練するんじゃないかな。

まぁ、所々でサポートしてあげればいいか。

私自信については本来四天王なんて柄じゃないし、父のこともあるから本当は辞退したいけど、四天王の権力維持は今後の大きな要だ、個人的な感情は納めることにした。

アニスの処遇は私達の間で以前から色々話し合っていた。

結果、やはり魔法Lv3は目立ちすぎるということで『へっぽこ魔法使い』『味方殺し』という一般の評判のまま、『危険なので四天王筆頭の千鶴子が管理保護する』との体裁を整えることにした。


・四将軍に対する独立行動の許可と長官からの命令拒否権の文書化

これについては3将軍からも危険性を懸念する声がでた。

この権限は下手をすると軍人の暴走を招く。

まぁ、将軍自身が危険を口に出している分、その心配は無いでしょうけど。

これについては私達の中で随分ともめた。

ただ、どうしてもウスピラ将軍への危険性が捨てきれなかったため決定した。

……ウスピラ将軍は貴族ではない。

確かに少女と呼ばれる頃から軍人になり、幾多の死線を乗り越え、実力でこの若さにかかわらず将軍になった。

これは確かにすばらしいことだが反面、弱点でもある。

言い換えれば彼女には後ろ盾がない。

すなわち、自分の良心のままに長官達の命令に逆らうことが難しいということだ。

何かと四軍にちょっかいを掛けてきている長官達のこと、独立権を文章化していないと王子の居ない間に長官権限で市民への虐殺命令くらい出しかねない。

この事を説明するとサイアス将軍が随分と熱心に賛成してくれた。


・光の将軍をアレックスに交替

アレックスくん、一連の話を聞いてやたらと感激していたようだけど、これを聞いて流石に慌てだした。

だが、四天王の権力維持と四軍の確保は必須だ、ここはいやでも請けてもらう。

もっとも、これは直ぐには無理だ。いくら現将軍が長官派とはいえ曲がりなりにも将軍だ、なんとか引きずり降ろして交替させるまでには3年くらいは掛かるだろう。



あとは、細々とした決定や今後の集会や連絡法について確認しあった。

2級市民達との連携も議題にあがったがこれは後に持ち越しとなった。

なにぶん市民解放運動の最大手がテロ集団のペンタゴンだ、どう考えても話し合いにならない。


………済みません、うちの父がご迷惑をおかけして………。





◇◇◇◇



GI1013年


遂に国王が崩御し、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー王が擁立された。

長官達は最後まで、自分たちの最大の敵が王座に就いたことに気づけなかった。


さぁて、いよいよ忙しくなるわね。

けど、しばらくは王位変更のごたごたが在るから、新四天王決定は来年になるか…。





◇◇◇◇


やはり、新四天王決定は揉めた。

しかし、最後には四天王に対する王の決定権と『最強の魔法使いが四天王になる』という大義名分の前に押し切られることになった。

もっとも、旧四天王のメンバーに1人でも魔法Lv2がいればここまですんなりとは行かなかったでしょうけど。


予定どおり新四天王には私、千鶴子、マジックの3人が推薦され決定した。

残りの1人に長官達は罷免された旧四天王の内から誰か選ぶかと思っていたら、『ナギ・ス・ラガール』という13歳の女の子を出してきた。

本来はその父親の『チェネザリ・ド・ラガール』を候補に挙げていたそうだが、人嫌いで尊大なその男は、世俗のことで魔法の研究に時間を取られることを嫌った為、最初は相手にされなかった。

しかし、長官達はチェネザリが四天王のトップに立つならという約束で幾つかの破格の交換条件を出して納得させた様だ。

しかし、候補に挙がった他の四天王が一番年上の私ですら16歳ということを聞き、えらくプライドを傷つけられたそうで、結局娘を出してきたらしい。

流石にこの任命式だけは娘に付いてきたようだけど、なんて嫌な目!

一目見て判ったわ、あの目は自分以外全てを馬鹿にしている目ね。

これは一緒にいる娘を見ても判る。

身体彫り込まれた刻印……。

なにを考えているの!

あんな小さな頃からあんなもの彫り込まれたら身体だけじゃない、精神にまで影響が来るわ。

しかもあの刻印、オリジナルの様だけどかなりたちが悪い、あんなもの実の娘に彫り込むなんて正気を疑う、娘を実験動物位にしか考えてないとしか思えない。

まぁ、あの娘の濁った瞳を見れば一目瞭然なんだけど……、あれは洗脳も受けてるわね。


「………な・に・をかんがえてるの………。」

あらら千鶴子、か・な・り怒ってるわね。

そう言えばあの娘とアニスって、同じくらいだからダブっちゃってるのかな?

するといきなり千鶴子が大声を上げた。

「では、この中でもっとも強い私が四天王筆頭を務めさせていただきます。異議はございませんね!」

あ、あの~、千鶴子さん、いきなりなにを…。

あはっ、あはははは、よっぽど頭に来たみたいね、千鶴子。

顔は笑ってるのにバックに『ゴゴゴゴゴ!』とか鳴りしてるような……。

…本当ならゆっくり緩やかに実権を掴む予定だったのに。

「あ、あの千鶴子さん?」

「あら、なにかしらマジック?」

うわわぁ~!怖い!怖すぎるわ、笑顔なのに何でそんなに怖いの。

あの気の強いマジックが恐怖で固まってしまったじゃない。

千鶴子、あなたそんな顔も出来たのね。

けど、味方に向ける顔じゃないわよ、どうみても。


だが、その挑発は見事に決まった。

自分以外を馬鹿にしている男が自分の娘のような年頃の娘に馬鹿にされたのだ、どうなるかは押して知るべしだろう。

「つまらん挑発だ、だが貴様が私の最高傑作『ナギ』より上というのは小娘の戯言とはいえ聞き逃せんな。」

「あら、薄暗い部屋に籠もりきりで耳までおかしくなったのかしら、私は『この中で』と言ったのよ。」

「こここ、小娘が!!
わしよりも優れているだと!!」

「それ以外に聞こえました?
それなら一度お耳の医師に掛かるべきですわね。
もっとも、頭の方は急いで掛かった方がよろしいようですけど。」


そこからはお互いの口喧嘩が始まった。

激昂するチェネザリ、冷笑し挑発する千鶴子。

延々と続き段々不毛になってきた頃、王からの決定が下った。




すなわち『互いに戦い、お互いの実力を確認すればよいであろう』と。









狙ってたわね、千鶴子………。



[11872] 第12話 最強と最恐(少し百合的描写があります。)
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:48
第12話 最強と最恐



どうも~、パパイア・サーバーで~す。

いよいよ始まる四天王筆頭戦。

はたして、勝利するのは!

真っ黒な笑いのすてきな千鶴子か!

悪役そのもののチェネザリか!

ちなみに本編の主人公のアニスは何の役職にも就いていないのでここにはいません、あ・し・か・ら・ず。




◇◇◇◇

ここは王宮にある兵士訓練場。

ここでは大規模な演習も行われることから、見学用の客席や客席を守る魔法結界も完備されている。

今回の決闘、一応使用魔法に制限は無しだが、非殺傷限定が義務づけられている。

もっとも、あの男が素直にそんなこと聞くとは思えないが…。

どう見てもあの顔は『戦いに事故はつきもの』と言う気満々にしか見えない。



「ちょっと、大丈夫なんでしょうね?」

客席ですっかり観戦モードになっている私の周りにマジックや将軍達が集まってきた。

…ああ、そうか彼女たちはこれまで千鶴子が戦う所を見たことがなかったっけ。

たしかに、千鶴子は魔法Lv2とはいえ戦いに向いていないとされる情報魔法の使い手、不安になるのも仕方ないか。

あっちの貴賓席に座ってるガンジー王はこれまで一緒に冒険に行ったりして実力を知っている分、実に楽しそうにしているけど。
………あのポップコーンどっから持ってきたのかしら?


「そうね、マジック様…」

「マジックでいいわ、同じ四天王でしょう。」

あら、あの天の邪鬼が随分と素直になったこと。
あの親子の和解から少しは成長したみたいね。

「じゃあ、マジック、ゼス最強の魔法使いって、誰だと思う?」

「え、え、え~と、お父様?…いえ、ガバッハーン将軍?」

まあ、普通ならこの二人を出すわよね。

「残念、はずれよ。正解はアニス。
確かにお二人は魔法力も多いし経験も豊富、けどね、そんな有利さもアニスの前では吹き飛んでしまうの。」

そう、これは単純に魔力量の違い。

簡単に言えば、魔法レベルのない普通の魔法使いを1とする。

なら、魔法Lv1なら10がスタート地点。

そして魔法Lv2は100、魔法Lv3が1,000だ。

簡単に数値化したがだいたいこんなものだ、細かい所は違うし個人差が在るけれど。

そこから魔力は、身体の成長とレベルアップで増えていくが、天賦の才や、努力が加算されることによってさらに増えていく。

それでも限界が在るようで、同じLv2でも大抵は300くらいで落ち着く、だが現在この国にいるLv2は優秀なようで、将軍達で500くらい。

おそらくだけどナギで600、チェネザリで700くらいだと思う。

そして私が700。千鶴子でも800無いだろう普段は。

別格なのがこの二人、ガンジー王は1,000くらい、ガバッハーン将軍は元々の魔法量+雷精達の分を合わせて1,500は在るだろう。
これは人が許容しうる最大量に近い。

しかし、アニスは通常時で3,000、本気をだせば5,000を軽く越える、というかどれだけあるのか見当もつかない。

魔法使い同士の戦いでは、200や300、いや上手くいけば1,000の差があっても、経験と技術でなんとか戦えるかも知れない。

しかし差が2,000になるともう比べるだけ無駄だ、アニスがただ魔法力を放出するだけで勝負がついてしまう。


むろん、『出来れば!』だが。


と、いうことでゼス最強はアニスになる。

なんていう内容を説明して上げたらマジックの顔色が変わっていた。

「なにものなのアニスって?」

「…私の大事な友達よ。」

「あっ、ごめんなさい!」

私の一言にマジックは直ぐに謝ってくれたけど、心情とすれば判らなくもないのよねぇ。

「まぁ、いいわ、ここからが本番。
そのアニスが言った言葉よ。」


『確かに強いのは私かも知れません、けど怖いのは千鶴子さまです。
おそらく1対1の戦いで私は千鶴子さまに勝てません。』


「だ、そうよ。
そしてこの事についてはこの2人と一番長く過ごしてきた私も同感ね。
『最強』はアニス。
けど、『最恐』は千鶴子よ。」

私の言葉を聞いたマジックと将軍達、あっけにとられてるわね。

まあ、今から始まる戦いを見てれば直ぐ納得できるでしょう。





戦う双方が訓練場の中央に集まった。

千鶴子とチェネザリその後ろにはナギもいる。

やっぱり2人掛かりで戦うつもりかしら。

「あら、やっぱり2人掛かりで戦うことにしましたの?」

「ほざけ、小娘が。曲がりなりにもこいつが四天王だ、現場にくらいおらんとまずいだろ。」

「あらあら、別に構いませんでしたのに、けっか「…黒色破壊光線!」」


ズゴオオオン!!


いきなりナギがチェネザリの影から最大魔法をぶつけてきた。

父親の影でこそこそしていたのは呪文の詠唱を悟られないためか。

チェネザリが千鶴子と話している間に詠唱時間をかせぎ、ガンジー王の開始の号令すら掛けられていない油断している所に最大魔法の一撃。


なかなか姑息で有効な戦術よ。普通の者ならね!


「はぁっははは!これは失礼。散々挑発された所為で娘の辛抱の限界が来ていたようだ。
不意打ちの様な状況になってしまったことについて謝罪する。
もっとも、この有様では私の謝罪も聞けんか。」

魔法の爆発の余波で砂塵が舞い散る中勝ち誇るチェネザリ!

けどね、私の友達はそんなに甘くないの。

今あなたは自分の死刑執行書にサインしたのよ。



砂塵が薄れてきた、そこに見えるのは!
ずたぼろになった千鶴子ではなく空間に浮かび上がった一つの魔法陣だった。


「別に謝罪など結構ですわよ、チェネザリ!
私の親友が言っていましたわ、戦いとは戦うと決められた時から既に始まっていると、なら、不意打ちなど受けると言うのはその者がまぬけなだけですわ。」

砂塵の中から現れたのは、片手で魔法陣を展開し、何時もと変わらない姿の千鶴子だった。

「な、な、な、なんだとぉ~!!」

砂塵の中、妖絶に微笑む千鶴子に激昂するチェネザリ。


「な、な、なんですの、今のは?
なんで黒色破壊光線が片手で防げますの!?」

今の光景を見て驚愕しているのはこちらも同じ様ね。

「ふふ、マジック、今のはね…「ナギ!合わせろ!!『合体!黒色破壊光線×2!!!』」

あらぁ、せっかちさんね。まだ説明が終わってないのに。

放たれたのは軍団殲滅用の戦術級合体魔法。

魔法Lv2が2人以上いて初めて使用できるレアな魔法。

けど!千鶴子には通用しない!!

「マルチタスク!」

その発動ワードと共に千鶴子の周りに幾つもの魔法陣が浮かび上がった。

「術式解凍!敵弾吸収陣!!!」

更に追加された発動ワードに、浮かんでいた魔法陣達が6つの魔法陣を基点とした六方星の魔法陣を展開。

さらに、その周りを無数の魔法陣が浮かび上がり中央の六方星を補助するように展開する。

そしてその力は千鶴子の前に展開された魔法陣に集中され、チェネザリ達から放たれた魔法を全て吸い込んでいく。

そうこれがアニス考案、千鶴子作成、パパイア編集による新魔法!

『敵弾吸収陣』

これまでLv1くらいの魔法なら吸収してしまう『魔法防御』という支援魔法が在ったがこれはそんなちゃちなものじゃない、どんな大魔法でもその使用者のレベルに応じて吸収し、その吸収した魔法力の一部を使用者に上乗せすることが出来る超魔法だ。

その分制御に手間が掛かる上、今のところ情報魔法が得意の千鶴子にしか使えないがそれだけの価値はある。

さっきの砂塵は魔法が当たった衝撃で発生したんじゃない、瞬間的に発生した大魔法の余波で吹き飛んだのだ。

あまりといえばあまりの光景に呆然となるチェネザリ、だけど千鶴子はそれを黙って見てあげるほどやさしくない!

「次は私の番ね。マルチタスク!!」

言葉と共に空中に浮かぶいくつもの魔法陣。
これも3人で作り上げた新魔法、
『マルチタスク』
情報魔法が得意な千鶴子だから出来た魔法…。

いくつもの情報を同時に並列処理する情報魔法の特性を利用し、これまでは両腕に2つしか展開出来なかった魔法を魔法陣の数だけ使用可能にする補助魔法!

これは魔法の増幅も可能にし、使用される魔法量の関係で魔法Lv3の魔法に設定されていた超魔法の使用も可能にする。

さっきの『敵弾吸収陣』もこれを利用して起動する特殊な魔法なのだ。



「せめて、これくらいは耐えなさいよ。雷神雷光!!」

空中に浮かび上がった魔法陣から雷光の奔流が豪雨のようにチェネザリ達に集まっていく。

そして大爆発!!!



……あらあら、これは跡形も残ってないんじゃない?

再び充満する煙と千鶴子の放った雷神雷光の余波ではじける電光!

しかし、その予測に反して、爆撃跡から出てきたのは光の壁の後ろに隠れているチェネザリとズタボロになり倒れているナギだった。


あの光の壁、……新魔法ね。
従来の魔法壁を集中圧縮させ、それを幾つも作りだし網の目のようにして完全な防壁を作るってところか…。

けど、これじゃあとんでも無い魔力が……。

私はチェネザリの直ぐ近くで倒れているナギに気づいた。

…なるほど、あの瞬間、娘の魔法力を利用して防壁をはったのね。

あの娘の身体の紋章にはそんな効果も付けられていたと。

おかげでナギは通常の魔法防御も出来なくなり一瞬でボロボロになった訳か。

こんな状況でも非殺傷設定をしていた千鶴子じゃ無かったら跡形も残ってなかったわよ。

なかなか外道っぷりね、チェネザリ!


千鶴子も同じ事に気づいたようで、ため息を吐いているわ。

「なめるな!小娘、こちらの魔法が通用しないようだが同じ様なことが出来ないとでも思ったか!」

どう聞いても強がりにしか聞こえないセリフを吐くチェネザリ。

けどね、新魔法がこれだけと誰がいいました?

「そうですか、ならそのちんけな壁を破ればよいのですね。」

そう言って、またため息を一つ吐くと、その両手に魔力を集中させる。


「右腕固定『白色破壊光線』!

 左腕固定『黒色破壊光線』!

 術式統合!!

 混沌槍『巨神ごろし』!!!」


千鶴子は全く属性の違う魔法を統合させ、魔法の巨大な槍を作り出した。

「…な、なんなのだ、その魔法は!
しらん、しらんぞそんな魔法!」

狼狽しパニックに陥るチェネザリ、その槍からあふれ出る魔力でこの槍がどれだけとんでも無いものか分かったのだろう。

だが、こちらとしてはそれこそ知ったことではない!


「滅びなさい、チェネザリ!」

「死なん、死なんぞ私は!!」

千鶴子から槍が投擲された瞬間、辺りは光に包まれた。


その光の奔流が収まったとき見えたものは……。

光の槍に貫通されたチェネザリではなく、なにかマジックアイテムらしい箱を掲げている男の姿だった。


「……魔法封じ結界か、
 …その箱が原因ね。」

「…ふははは、その通り。
私くらいになればこの程度の隠し球の1つや2つ持っているものだ。」


「この結界ではお互いに魔法が使えませんよ、どうするおつもりで?」

「これを見ろ!」

あきれたように話す千鶴子に対しチェネザリは勝ち誇った様に左腕を見せつける。

そこにあったのは無骨な手甲、『ポイズンガントレット』。

「確か毒の爪が射出され相手を殺害するマジックアイテムでしたっけ。」

「よく知っている、これからお前をこいつでもてなそうと思ってな。」

「…魔法の勝負じゃ、ありませんでしたっけ。」

「しったことか!死ねっ!!」

チェネザリの手甲から打ち出される毒の爪、それは千鶴子の胸元にに吸い込まれるように……。


千鶴子が消えた!!


「なっ!」

驚愕するチェネザリ!

その瞬間、後ろから声がする。

「いい夢は見れた?」

チェネザリの後ろには『ナックル』という格闘戦用の武器を両手に着けた千鶴子が居た。

「残念ながらこれからは悪夢の時間よ。」

その瞬間千鶴子の右拳はチェネザリのあごに入っていた。

「ふげっ!ふがっがっ!」

顔面を血だらけにし吹き飛ばされるチェネザリ。

「言ってませんでしたね。私、格闘戦闘Lv2を持っていますの。」

この言葉にあっけにとられる敵味方。


…だから言ったでしょう『最恐』だって。

弱点が在るようじゃ『最恐』とは言わないわよ。


腰が抜けたのか倒れながら後ずさっていくチェネザリ。

そんな男に千鶴子はにっこり笑って、

「安心してください、殺したりしませんから、もっとも『死んだ方がまし』になってるかもしれませんが。」

と話しかけた。

…だから怖い、怖いって千鶴子、周りが完全にどん引きしてるよ。



そこからは単なる残虐風景だから詳しい描写は割愛しとく、ただチェネザリが訓練場から運ばれる際『人間だったもの』になってたような気がするのだけど。

千鶴子の事だから殺してはいないと思う…。



その後そこに残ったのは、千鶴子と、何時の間にか目を覚まして父親の残酷風景に出会って恐怖を植え付けられたナギだった。


「ナギ…」

「ひいっ」

名前を呼びながら顔に手をやる千鶴子、ナギは完全に怯えている。

今の恐怖とショックで洗脳が説けたかな?

で、相手のあごに手をやり一言、

「私のものになりなさい、ナギ。」


………ちょっと。

セリフが、セリフがおかしいって。

「私に着いてくれば、こんな戦いですら楽しめるようにしてあげるわ。」

「あ、あう、ああ。」

ナギ、完全に思考が麻痺してるわね。

けどね千鶴子、自分が何言ってるのか判ってるのかしら?

しっかりしているようでそっちの事には鈍感だからねぇ。


「…ふむ、まだ洗脳が解けてないか。」

そう言うとナギの首根っこ掴み引きずり始めた。

「ちょ、ちょっと千鶴子どこにいくの?」

「ああ、パパイア、私ちょっと、この娘と『O・HA・NA・SHI』してくるから、後はお願いね。」

え~と、千鶴子さん?
その『O・HA・NA・SHI』て、非殺傷限定掛けた大魔法ぶつけてトラウマもののボロボロにした後に優しい言葉を掛けてやるというあの………。
アニス談、リリカル説得術?


…まぁ、ナギが以前よりは幸せに成れると思うからいいか。

そうして千鶴子はナギを引きずって立ち去っていった。



ただこの後、残った私があっちこっちから質問攻めに合ったのは余計だったけどね。

今回使っただけで、

『敵弾吸収陣』

『マルチタスク』

『術式固定』

『術式統合』

などなど、新魔法、新理論のオンパレードだ。

ただどれも、ある程度実力のあるものにしか使えないのが問題だけど。

それ、これからわたしが説明するの………勘弁してよ。




◇◇◇◇

私とアニスが待ち合わせ場所にしていた喫茶室で千鶴子を待っていたら、やってきた千鶴子は1人ではなかった。



「あの~千鶴子さま、そちらの千鶴子さまの腕にくっいてる方は?」

「あ、あのね、アニス…。」

珍しく慌てる千鶴子。

「私は新しく四天王になったナギ・ス・ラガールだ。お前は?」

うわ~、女のカンかしらね、警戒心出しまくりよ。

「私の名前はアニス・沢渡、千鶴子さまの幼なじみで親友ですよ。」

「しんゆう?」

おおっ、アニスも対抗心を出したわ、これは珍しい。


「…ふん!なら、ナギは千鶴子の愛人だ。」


ガラガラガッシャーン!!


あ、アニスがこけた。

「ち、ちがうのよ、アニス、これはね………。」

「違わない、千鶴子はナギに
『私のものになれ』
と言った。
それを受け入れたからナギは千鶴子の愛人なんだ。」


ガン!!


あっ、止めの一撃、アニスは倒れて痙攣を起こしている。



「…千鶴子さま?」

あ、生きてた、倒れたまま尋ね掛けるアニス。

「な、な~に、アニス?」

「今、ナギが言った事は、ほ・ん・と、なのですか?」

「あ、あのね……。」

「ほ・ん・と、なのですね!!」

「……………………………………うん。」

おお、アニスがカエルの様に飛び上がった。

「ち、千鶴子さまの浮気者~!!

 千鶴子さまのロリコン~!!」


「落ち着いてアニス、そうじゃなくて……。」

「そうだアニス、千鶴子にはもう私が居る、お前とのことはもう遠い過去のことなんだ。」


ピシッ!!


アニスが固まった。

「……ううう、うえ~ん、私も浮気してやる、パパイアさんと浮気してやる~!!」

そう、捨てぜりふを残してアニスは走り去って行った。

見事な負け犬っぷりね。




「え~と、千鶴子?」

千鶴子の方を見るとこちらも膝を落として真っ白に燃え尽きていた。

「あの、アニスには私から説明しとくから。」

「あ、ああ、うん、よろしくお願い……。」

完全に魂が抜けてるわね。

隣でナギが「大丈夫か?しっかりしろ!ナギが付いているぞ。」なんて言ってるけど、あなたの所為でしょうが。


おもしろいから言わないけど。




アニスを探していたら王都で借りている私の部屋にいた 。

少し頭が冷えたら、説明が欲しくて一番状況に詳しいだろう私のところに来たわけね。


「あ、あの、ぱぱいあさん……。」

「はいはい、わかっているわよ、ちゃんと説明してあげるから。」

そこで私はアニスが居ない間に起こった事を全て説明した。

『私のものになれ』

発言についてもどういう状況だったかちゃんと説明してあげた。

ちょっとだけ、おもしろくねつ造することも考えたがやめにした。

…友達だからよ、けっしてばれた時が怖いからじゃないわよ。



「そんな事だと思いました。だいたい千鶴子さまはそちらのことに関して鈍感すぎます。」

なんて、アニスがブツブツ文句を言っている。

まぁ、色恋沙汰に鈍感なのはアニスも一緒なんだけどね。

そんな、可愛くブツブツ言っていじけているアニスを見ている内に、ちょっとした悪戯心が湧いてきた。

ふっふっふっふ………。


ちゅっ!


「へ?
………なななななななな、何をするのですかパパイアさん!!!」

「ん~、キス?」

「何で疑問系なんですか、ていうか、いきなり何を。」

「いや~、いじけてるアニスを見ていたらついむらむらして。」

「むっ、むらむらって……」

「ごめんごめん、もしかしてファーストキスだった?」

するとアニスちゃん、パニックを起こしていたのが一転、勝ち誇りだした。

「甘い、甘いですよ、パパイアさん!
ファーストキスなどとっくの昔に千鶴子さまに捧げ済みです。」

「あ、そう、じゃあサードキッスもいただき!」


ぶちゅ!


今度はさっきの触れるだけとは違う、濃厚なディープなやつをおみまいした。

「う、うう、もがっ!(し、舌が、入って!)」

そして、そのまま巧みに誘導してベットに押し倒した。

「も、もがが、うう、もがもがあっ、もがもがががが。(こ、ここは、ああ、服を脱がさないで、何処に手を入れてるのですか。)」

そこで私はいったん唇を離した。

「パ、パパイアさん何を……。」

アニスは追いつめられた小動物の様にふるえ、目尻に涙まで浮かべている。

私ってば、Sの気もあったのね。
いつもの笑っているアニスもいいけど、泣いているアニスもなんかこう……、


『そそるわね』


うふふ、何をって、ここまできたら決まってるじゃない。

私はアニスの目をじっと見つめて宣言した。



「いただきます。」

「きゃあーーーーーー!!!」









あっ!
………はらり(花びらの落ちる音)



[11872] 第13話 ハードボイルドな師匠、その名はケビン!
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:53
第13話 ハードボイルドな師匠、その名はケビン!



シクシク、えっぐ、えっぐ、グスグス…………。


前回、千鶴子さまをナギちゃんに盗られ、パパイアさんに色んなものを奪われてしまったへっぽこ魔法使いアニスです。

これがエロゲの強制力なのでしょうか?


…ああ、千鶴子さま、アニスはアニスは、

『純潔』

だけは守り抜きました、褒めてください。

………シクシク。


さて、今回は本編をちょっと巻き戻して、修業時代のお話をさせていただきます。

………えっぐ、えっぐ。





◇◇◇◇


「超・火爆破!!」

呪文と共に周りには炎がまき散らされる。
それと同時に吹き飛ばされる異形のもの達。

ここはとあるダンジョン。

規模こそ大きくないものの壁の作り具合から闘神都市の残骸の一部と考えられます。

そして今、私達はレベルアップと修行のためダンジョンの攻略にいそしんでいるのです。


「今回は、はずれですかね?
 見つかるアイテムも大したこと無いうえ、出てくるモンスターもイカマンやら、ぶたバンバラばっかりですし。」

「超・火爆破!!
 ははは、よいではないか、何事も修行だ。」

今回の冒険にはガンジー王子も同行しています。

本来、何かと今後のための根回し的なもののためお忙しい方のはずなのですが、時々、今回の様に私には剣の使い方を、千鶴子さまには体捌きを教授するためお付き合いくださいます。
格闘戦闘Lvが無いのに素手でそこいらの格闘家より強いなんて相変わらずガンさん人間離れしていますね。


さて、ちょっと豆知識を、先ほどより出ている呪文、『火爆破』は低レベルの呪文で有りながら広域攻撃が出来る呪文としてよく使われる呪文です。
イメージとしては………火炎放射器?

なお、これに『超』が 付いているのは単に通常より魔力を込めているだけで見た目に大した違いはありません。
少し強力になるだけなので普通の魔法使いはコストパフォーマンスの悪さからまず使いません。
よって、魔力が有り余っている私か、ガンジー王子専用魔法になってるような感じです。



あのムシ使い村の苦い経験から半年、自分たちの実力不足を痛感したことから、私達は修行を兼ねた冒険を開始することにしました。
実戦経験が付き、アイテムも手に入り、冒険故の突発的なアクシデントを対処することにより柔軟な思考能力が付くという一石三鳥狙いです。

この事をガンジー王子に話した所随分と感動されまして、毎回は無理だけど以前約束した剣の修行も兼ねて付き合ってくれるとまで言ってくれました。
その上、私達に冒険に出る土産としてガンジー王子からそれぞれ装備品をいただきました。

私が貰ったのは『村正』です。

何でも昔、冒険に出ていた頃の装備品とか。
正直助かりました、なにせここは『ゼス』、はっきり言って直接戦闘系の武器は、ろくなものが無かったもので。

そして、千鶴子さまには………『ナックル』???

最初、「なぜ?」としきりに首を捻っていましたが、後に格闘戦闘Lv2を持っていると聞いて納得しました。

……と、いうか千鶴子さま、魔法戦闘、直接戦闘に対して高レベルの才能を持ち、更に情報魔法のレアスキル持ちってどれだけチートなんですか?
頭もいいし、私より遙かに才能に溢れているような…。

レベル屋で自分の事をチートだと思ってパニックを起こしたことが馬鹿みたいですよ。

ちなみにパパイアさんもセカンドスキルを持っているそうですが、内容は『医術Lv2』だとか。

妙に納得してしまったことは誰にも内緒です。
メスを握るパパイアさん、想像しただけで…………さ、寒気が!

けど、王子から貰った装備が竜皮の『鞭』って。
……… 特にウケを狙ってる訳じゃあ無いですよね、ガンさん。


そんな直接戦闘系の装備をいただいた私達、装備して一気に攻撃力UP…………とは行きません。
世界観的にはゲームでも生活している私にとっては現実世界、今まで使ったことのない武器を持っても怪我をするだけです。
よって私達3人はこれらの武器の使い方も王子に習っています。
そんな訳で、私は冒険の合間に王子から剣術を習っている訳ですが……。

その内容が意外や意外、まるで踊るような華麗な剣術です。

まぁ、考えてみたら当然ですね、王家で指南される剣術が実戦形式の武骨な剣術であるわけがありません。

見本として演武を見せてくれた際、王子のごっつい身体と華麗な演武のギャップに笑いの痙攣で死にかけました。

パパイアさんの鞭は時間稼ぎに使えればよい位のもののため王子でも教えることが出来ましたが、千鶴子さまは流石に無理です。
はっきり言って、王子と千鶴子さまの戦い方は全然違います。
剛拳のガンさんに柔拳の千鶴子さま、千鶴子さまにガンさんの剛拳が使えないわけでは無いのでしょうが体格が違いすぎるためかなり無理があります。
どこかに格闘家の先生いませんかね?
まぁ、ここはゼスなので望み薄ですが。



そんなこんなで冒険を続けて早半年、既に私達はレベル30位になっています。
早っ、と言わないでください、実際の所私達クラスの魔法使いなら前半のレベルはおもしろい位簡単にあがっていきます。

しかし、千鶴子さま達は既に30を越しているのですが私だけ成長が遅く、置いて行かれてます。
…たぶん魔法Lv3の所為なのでしょうが、王子から『素質のオカリナ』を貰っていなければどれだけ遅れていた事やら。





さて、このゼス、実は冒険者が余りいません。

なぜなら、基本的に1級市民は冒険など危険なことをしなくてもご飯にありつけますのであまりなりたがる人はいないからです。

なら2級市民はと言いますと、こちらは差別が原因でなり手があまりいません。
なぜ差別を受けると冒険者がやりにくいのかといいますと、クエストの依頼人、宝など高額のものを買い取ってくれる大商人はもちろん1級市民です、その為買い叩きや、契約違反を平気でしてきます、そんな状況ではかなりやりにくく、無理して冒険者のような根無し草稼業を続けることは難しいのです。

以上のことから、ゼスの冒険者というと、身を持ち崩したか一攫千金を狙うランクの低い1級市民もしくは、依頼を受けてきた他国の冒険者だけになります。
もちろん魔法の使えない他国の冒険者は居心地が悪いため長居することはありません。

この様な理由からゼスには聖魔教団の遺跡から、魔人侵攻時代にダンジョン化された洞窟など多くの冒険の舞台があるにもかかわらず未踏破なダンジョンが多くあります。

さらに、数少ない冒険者もこのゼスでは成長が悪く低レベルのままな事が多いのです。
理由はさっきも説明した通り魔法使いにのみ偏っている冒険者のためです。
そう、なぜならゼスの冒険者を阻む最大の原因がダンジョンに住み着いているから。


「ハニホー、ハニホー」
「ホー、誰か僕たちの家に入り込んでいるぞ。」
「ええっ、だれだれ?」
「ああ、ニンゲンだ、勝手に入って来るなんてなんて悪い奴らなんだ。」
「みんなで懲らしめちゃえ~。」


そう、ハニー達です。

魔法をメインに戦うゼスの冒険者にとっての天敵。

その所為で、野良ハニー退治をする者が少なく、ゼスの辺境には野良ハニー達が多く生息しています。
特にダンジョン近くの村ではハニー達が村や畑を荒らしたりするハニー被害が多く発生し深刻な問題になっているのです。

一般の方の考えとしては言葉が話せるのですし、モンスターの様に人間を襲わなくても生活出来ることから、棲み分けが出来ないかと考えます。
実際これまで何度か話し合いをしたり、人間に友好的なハニーを使って交渉を試みましたがどうやら下級ハニー達は独自の思考を持っているようで全て無駄に終わりました。

こんな理由から、私達は最近、近隣の村のため積極的に狩るようにしています。
そんなことをしていたら助けた村の人達から
『ハニーキラー』
の称号をいただきました。

………あまり嬉しくないです。


私や千鶴子さま、ガンさんは接近戦が出来るため対ハニー戦に問題はありませんが、パパイアさんの攻撃能力がグンと下がってしまいます。
これは仕方ないことなのですが、問題をそのままにしていては進歩はありません。

そんなわけで現在、対ハニー用の魔法なんてものも考えています。

ハニーが無効化出来るのは魔法のみ、なら魔法で吹き飛ばした石などはどうでしょう?
結果は確かにダメージをあたえることが出来ました、ただダメージをあたえるくらいのスピードで打ち出すには結構な魔法量がいるうえ打ち出した後のコントロールが出来ないことから、はなはだ命中率が悪いです。
実用化にはまだまだですね。

雷撃の呪文で金属を包みはじき飛ばす、……………………………超電磁砲できませんかね?



「この人達つよいよー」
「うわー、逃げろー」
「待ちなさい!この悪戯ハニー達、成敗してあげます。」

おや、いつの間にか戦闘が終わったようですね。
千鶴子さまが元気に逃げるハニー達を追いかけています。

千鶴子さま、最近、拳でハニーを割る感覚を掴んだようで対ハニー戦では前衛に出ることが多いです。
ハニー撃墜数ではトップエースですね、その内『ハニ割り千鶴子』なんて異名が付きそうですね。




「ちょっと待ちな。」

へっ?

いきなり後ろから声が掛かりました。
何者です!


………あのシルエットはハニー!!

声に気付いた千鶴子さまが急遽方向転換をして声を掛けてきたハニーに襲いかかります。

けど、……あの姿は!!

「千鶴子さま、だめです!!」

間一髪、私の制止に急制動を掛ける千鶴子さま。

そして影から出てきたハニーは……、

「シークレットハニー……。」

そう、ハニーの身体にスーツを着込みサングラスを掛けたハニーです。

「ほう、俺のことを知っている奴がいるのか。」

シークレットハニー。
ゲームでは一度も戦う事はありませんでしたが、魔人より強いハニーキングの護衛、おそらくスーパーハニーより遙かに強いはずです、なんでこんな低レベルダンジョンに?

「ふぅ、俺の名はケビン、ハニーキングの護衛をやっている。
 久しぶりの休暇で遠出をしてみれば最近ハニーキラーと呼ばれている冒険者がいると聞いたんでな。
 ちょっと興味をもった、それだけさ。」


「うわー、シークレットハニーだ。」
「かっこいいー、たすけてよー。」
「あいつら勝手に僕らの家に入り込んだ悪者なんだ。」


ケビンと名乗ったシークレットハニーの周りに次々と生き残ったハニー達が集まります。

「くそっ、あいつら勝手なことを。」

「待ってください千鶴子さま。」

勝手なことを言うハニー達に怒り心頭の千鶴子さまを押さえながら考えます。

対上級ハニー戦では壁となる戦士の存在が必須です。
今の私達では例えガンジー王子がいても勝てません、全滅は間違いないでしょう。

なら、なにか、なにかいい方法は、

………ケビン?

……名乗った?

……挨拶?

これだ!!


「失礼しました。
 私の名はアニス・沢渡、
 こちらの男性がゼス王国王子ガンジー様、
 そして、両手にナックルを装備している女性が山田千鶴子さま、
 鞭を待っている方がパパイア・サーバーさまです。
 先ほどは丁寧な挨拶有り難うございました。『お話』の分かるお方として挨拶を返させていただきます。」


突然始まった私の自己紹介と挨拶、千鶴子さまとパパイアさんは状況が飲み込めなくあっけにとられているようですが。

「ちょ、ちょっと、アニス、何を……。」

「いや、挨拶をされたらきちんと返すのが礼儀、うむ、よくやったぞアニス。」

ちょっと王子が的はずれなことを行ってますが、忙しいのでツッコミは無しです。

すると、興味深くこちらを眺めていたケビンさんが突然笑い出しました。


「くくくくくく、正解だ、お嬢ちゃん。
 短い間に勝てる相手かどうか計算し、現時点では勝てないと結論を出した。
 なら、勝てないならどうすればいいか?
 ………俺の出したヒントによく気付いたな。」


そう、シークレットハニーに適わないことは直ぐに分かった、ならどうすればいいか?

この答えを見つけたのはケビンさんが直ぐにこちらを襲わず名乗ったことに気付いたからだ。

原作でも二人のシークレットハニーは戦わない。
あのランスの無礼な態度でもだ。

そして挨拶をしてきた、そこから考えられることは………、
こちらとの話し合いの意思がある、ということだ。

そしてそれは正解だったようで………。


「なに、ハニーがえらそうにいっているのよ!」


ああっ、シークレットハニーのことをしらない千鶴子さまがキレた!!

制止が間に合わない!!

飛び出した千鶴子さま!
しかし、いつの間にか、その先にいたはずのケビンさんの姿がない!!

「えっ?」

「若いな、お嬢ちゃん。」

何時の間に!
ケビンさんの姿は千鶴子さまの後ろにいた!!


「な、な、な、なんなのよ、あなたは!」

その事に驚いたものの、流石、千鶴子さま。
直ぐに体勢を立て直し、振り向きざまに殴りつけようとした。


「まだまだだな。」

その千鶴子さまの行動に余裕の態度で応じるケビンさん。

そのまま、殴りかかった手を受け流し、その勢いを利用して千鶴子さまの身体を一回転させた。


……さすがですね。
ハニーキングの護衛だけあって、体術だけでもとんでも無いレベルです。

投げられた千鶴子さまが呆然としています。



しかし、この世界、強さのレベルがとんでも無いと思います。

神、悪魔、魔人は言うに及ばず、上位ハニーやカラー、人間の中にもとんでも無い人がごろごろしているのですから。

強いて挙げるなら、私のような特殊な魔法戦闘Lv3でも、伝説の『黒髪のカラー』には適わないでしょうし、人間でも魔法の詠唱の隙を与えないことが出来そうな謙信ちゃんや、ヘルマンのトーマ将軍あたりには死ぬ自信があります。
このままで行くと、将来こんなとんでも無い人達と戦わなければいけないのでしょうか?
………今から気が重いです。



「で?」

クールに話を促すケビンさん。
かっこよいのですがハニーの姿でそれをやられると………何故か情けないです。

取りあえず、私が代表して言い訳を。
まず、他のハニー達が言っている様に領域破りというのなら最初に畑や家畜を荒らしたのはハニー達の方であり。
又、最初に攻撃してきたのはそちらであり、自分たちは冒険者なのだから襲いかかられれば反撃するのはあたりまえです。
との事を説明させていただきました。

するとハニー達、

「僕たちはお腹がすいたから地面に生えているものを取って食べただけだよ。」
「うし達と遊んだだけだよ。」

との返答。
だめだ、罪悪感がない分、余計たちが悪い。


するとケビンさん、ため息を1つ吐くと、いきなり周りにいたハニー達をはたき倒した。

「お前らが初悪の原因だろうが!!」

ああ、ケビンさんが人間の常識の分かる人(?)でよかった。



その後、私達は遺跡の奥にあるハニー達の集落で一旦休むことになりました。


そこで、ケビンさんから、ここのハニー達にはよく言っておくので今回は勘弁してやって欲しい、との要請を受けました。
こちらとしても襲ってきたり、人間に悪ささえしなければ戦う理由もないので快く了承しました。

だがここで驚くことが起こりました、千鶴子さまです。

「弟子にしてください!」

いきなりケビンさんに弟子入り志願をはじめたのです。

千鶴子さま曰く、ゼスには格闘家がおらず、折角素質を持っていても師匠がいないことから格闘戦闘技能の成長が悪く、宝の持ち腐れ。
随分悩んでいらしたそうです。

そこで出会ったのがケビンさん。

ハニーの身体でありながらその身のこなし、体術。
一度投げられただけですが、その柔らかな体術にすっかり感動したらしく、今回の弟子入り騒動に発展したそうな。

千鶴子さま、千鶴子さま、ハニーに弟子入りって…………(汗)。


「ま、こっちも頼みを聞いて貰うんだし、教えてやってもいいんだが……。」

ケビンさん、オッケーなんですか?
実にあっさりと了解してくれましたが。

なお、本職(ハニーキングの護衛)があるから休暇の2週間だけ教えてくれるとのことで。


あの、
…………いいんでしょうか?

私達は人間で、一応、敵ですよね………?

そんな疑問も、ケビンさん曰く、ハニーに取って人間が敵とか味方とか特に気にしていないとか。

トップにいるキング自身、強い人間が大好きで、本当に才能がある人間には、修行を付けてあげたり、贈り物をあげたり、願い事を叶えることもあるそうな。

そう言えば思い当たる節が……、ハニーキングがジュリアちゃんに修行を付けたり、リズナちゃんに長刀教えたのもぷちハニーの景勝だったような。
そんなイベントが確かゲームでちらほらありましたねぇ……。
もしかしてハニーって修行好き?



「最低でもこれくらいは使えるようにしてやる。」

そう言うと、ケビンさんはいきなり私達の視界から消え、気付いた時には私達の後ろにいた。

「人間達の間じゃ『縮地』と言うんだっけか。」

なんですか、このとんでも体術。

……ケビンさん、渋すぎます。(でもハニワ))





その後、ダンジョン近くの更地にキャンプを貼り、2週間、ケビンさんに修行を付けていただきました。

この縮地、格闘戦闘Lvが無くても覚えられるらしく、習わなくても直接戦闘系Lv2があればいずれ覚えるとのこと。

元々、格闘戦闘Lv2を持つ千鶴子さまや、人間としての規格を逸脱しているガンジー王子は割とあっさり覚えました。


…ガンさん、2週間修行に付き合う気ですか?
忙しいんじゃあ無かったのですか?


ただ、前世で柔道を習い、現世で剣戦闘Lvを持ち、それなりに修行を積んでいた私なのですが、流石にこんなびっくり体術は専門外な為、随分と苦戦しています。
さらに直接戦闘系技能を持たないパパイアさんに至ってはその修行のきつさに何度か魂が離れていたような……。

………その度私が呼び戻していましたが。

今回ほど神魔法の技能を持っていてよかったと思った日はありません。



「あー、あー!だめー!!
 人はそんな風に動くようにはできてないの!
 すっ、すり減る、すり減っちゃう、なんか魂みたいなものがすり減っちゃう~!!」
………

……


え~パパイアさん、成仏してくださいね。





そんなこんなで2週間、地獄の修行は終わりました。


縮地以外にも色々教えて貰った千鶴子さまやガンさんはご満悦の様ですが、冗談抜きで死にかけていたパパイアさんと私は泣いて喜んでいます。

実際、私も何度か切れてケビンさんに向かって魔力爆発起こしましたし。
…ケビンさんがハニーで無かったら大惨事でした。


「これで俺の修行は終わる、後は教えた修行方法を繰り返し、基礎能力を高めてゆけ。」

「「「「有り難うございました!」」」」

「ふっ、更に強くなってハニワの里のハニーキング様に挑戦に来い。
 本当の強者と戦うことをキングは楽しみにしておられる。
 俺も楽しみにしているぞ。」

そう言ってケビンさんは夕日に向かって歩いていきました。

実に感動的な場面です。

でも、………













ハニワなんですよね。



[11872] 第14話  アリスちゃん参上!~私が女になった訳~
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 00:58
第14話  アリスちゃん参上!~私が女になった訳~



どうも、へっぽこ魔法使いのアニスです。

前回、ハニーの神秘に触れ驚愕中です。
あんな短い手で投げ技やら組技をしたり、あんな体型で足払い出来るなんて…………、驚愕です。
又1つこの世界の謎が深まった気がします。



………なに、このデタラメな世界。




◇◇◇◇

前回ケビンさんの修行を終え、私達は久しぶりに家に帰ってきました。

今回は思わぬ長期間の冒険になってしまいましたが、予想外の収入もありました。

何度も繰り返し思いましたが、改めてこの世界、そしてこの身体は元の世界と違うと、思い知りました。

確かに回復魔法の存在で身体の故障を気にせず修行ができるんですが……、たった2週間で、元の世界では伝説の体術『縮地』が使えるようになるなんて、どこのスーパーマンですか!
ケビンさん曰く、ある程度以上の戦士なら使える者はゴロゴロいるそうでけど。
……私、本当に異世界にいるんですね。



さて、今回の冒険、モンスターこそ、弱々だったもののそれなりの数を倒していますし、その上ケビンさんとの修行も経験値に加算されています…。
そろそろ、レベルアップできそうですね。

実は私まだ専属のレベル神が付いていません。
まぁ確かにレベルが上がれば誰でも付くというものでも無いそうですが、千鶴子さまやパパイアさんは既に付いているのに私だけ付いていないと言うのも何か悲しいものがあります。
今回上がればレベル30、ちょっと期待できそうです。

さて、レベル屋さんに行ってみますか。





「あんたには既にレベル神さまが付いておられるよ。」

「へっ?」

私がレベル屋さんでレベルアップしてもらうため確認していただいたところ、前記のようなお言葉をいただきました。
そろそろとは思っていましたが、これは嬉しい不意打ちです。
これまで、千鶴子さまやパパイアさんにまとめてレベルアップをやって貰ったり、わざわざ街まで戻ってレベル屋で上げていたのですがその手間がなくなります。

ふふふ、さっそく呼び出してみましょう。
私は教えてくれたレベル屋のおにーさんにお礼を言って、レベル神召還用の水晶球を購入し帰宅しました。





ここは自宅の私の部屋。
初めてのレベル神召還のため戻ってきました。

といっても、召還方法は至極簡単で、レベル屋さんで購入した水晶球に意識を集中し、呼び出すだけです。
基本的に男の人には女性のレベル神が、女の人には男性のレベル神が付くそうですが、
……なら私には男性のレベル神がつくのですかね?
マリアさんにはやけにフランクなレベル神が付いていたと思いますが、私にはどんな方が付くのでしょうか?

…怖い考えになってきた。

……更に怖い考えになってきた。

………もっと怖い考えになってきた。



「…………だぁーーーーー!!!!」

はぁ、はぁ。
今、何か頭の中ですざまじくおぞましいものが。


……考えるのやめましょう。
どうも最近ネガティブな思考になりやすくて。





「アニス・沢渡が願います、
 いでよ、レベル神!!」

私の叫びと共に水晶玉が光り、煙が周りに充満する。
いよいよ、私のレベル神の登場です。
ちょっとワクワクしてきましたよ。

……………あれっ?
この煙って、スモーク?
てっ、なにか光が七色にきらめき出しましたよ。
カ、カクテルライト?
え、え、え、なにか音楽が聞こえ出し始めましたよ!
あ、誰かでてきた。

「みんな、抱きしめて!!銀河の果てまで!!」

………

……



「はぁ?」

「はじめまして、私、ランカ・リー!
 まだ、レベル神に成り立ての新人だけど、夢を叶えるためがんばります!」


コケッ!

「あなたが、今度私が担当する、アニス・沢渡さんね………
 どうしたの?
 逆さまになって。」

「は、ははははっは………」

「歯?」

「白色破壊光線!」

ドガン!

あまりの出来事に、思考がショートして思わず魔法をぶっ放してしまいましたよ。

と、こんなコトしてる場合じゃない!

私はいきなり魔法を喰らって目を回している自称『ランカ・リー』(どう見ても本物っぽいのですが)の襟首を掴み揺さぶりました。

「起きなさい!
 非殺傷限定の上、無詠唱でぶっ放したから殆ど攻撃力は無かったはずです。
 何であなたがここにいるのですか、作品が違うでしょう!」

確かにアリスソフトの作品は、
『著作権とかいいんだろうか?』
と思うようなキャラクターがでていることがちょくちょくありますが、流石にここまでそっくりの上、名前まで同一なのは問題有りでしょう。
しかも『マク○スF』って、
………まだオマージュされてませんでしたよね。

そんなことを考えながら、自称レベル神を揺すっていた所、漫画のようにぐるぐるお目目になっていたランカちゃんがいきなり目を覚まし泣き出しました。

「ふぇ~ん、いきなりデビューで躓いてしまいました。
 えぐ、えぐ、
 やっぱり、私なんかが夢を叶えようなんて、大それた事だったんだ。
 ………うぇ~ん。」

あ、あ、あー、ちょっとやりすぎました?
やっぱり悪いのは私ですか?

「ちがうわよ、ランカちゃん!」

泣いているランカちゃんを見てちょっと反省の気持ちが出てきたところで再び水晶球が光り、その光の中から又誰かが出てきました。

え?このひとって………、

「ああっ、あなたはシェリルさん!」

「そう、私の名はシェリル!
 ハイレベル神にして銀河の妖精と名高い、
 シェリル・ノームよ!」

ガン!

又こけてしまいました。
なんなんですか!これは!!

「ランカちゃん、夢はね、叶えようと努力することが大切なの。
 今回の失敗も『糧にしてやる!』そんな位の気概を持ってなくっちゃだめよ。
 あなたはまだ、羽ばたいたばかりなんだから。」

「シェリルさん…………。
 はい!
 私頑張ります、きっと夢を叶えてみせます!」

「それでこそランカちゃんよ、…………………………。」


……しかもいきなり私を無視して、
『熱血、アイドルへの道(新人編)』
を始めてますし。


………なにかもう、どうでも良くなってきました。
あっちはあっちで盛り上がっているみたいですし、もう、私いなくてもいいよね。
私は長い冒険で疲れているのです。

おやすみなさ……………………ガン!!

「ぎゃん!」

布団に入ろうとしている私の頭に何かが猛スピードでぶつかりました。
………花瓶!?

「いきなりなにをするのですか!」

「なに、いきなりこっちを無視して寝ようとしてるのよ!!」

私の非難に非難で返されてしまいました。
シェリルさん、絶世の美人なだけに怒るととんでも無い迫力が………。

「いえ、なにかそちらはそちらで盛り上がっているようでしたし。
 私もこの世界のデタラメさや人生における不条理について精神的に疲れたもので。
 というか一体どうやって常に張ってある魔法防壁を突破して花瓶をぶつけたのですか?」

「ふん!
 関係ないわ。
 なぜなら私は『シェリル・ノーム』だからよ!」

うわ~、なんという天上天下唯我独尊。
シェリルさんってこんな人でしたっけ?

「まぁ、そんなことどうでもいいわ。」

人の頭に鈍器ぶつけたことがどうでもいいって…………。

「いいわね!」

「はっ、はい!」

逆らっちゃだめ、逆らっちゃなんねいだ。
私の生存本能がそう訴えてます。
人生忘れた方が良いこともあるということで。


「さて、改めて紹介させて貰うけど、
 この緑の髪の娘がランカちゃん。
 あなたの担当のレベル神よ。」

「よろしくお願いしま~す。」

「そして私がシェリル・ノーム、
 ランカちゃんの先輩で、ハイレベル神をしているわ。」

ハイレベル神

この世界ではレベル神の上位にたつ存在。
才能限界レベルをあっさり増やしてくれたり、逆に気分次第であっさりレベル1に落としたりする方です。
ある意味ランス君の天敵みたいなものだったような。
間違っても敵に回さない方が良いお方です。

「さて、アニス・沢渡!」

「は、はい!」

「な・ん・で、ランカちゃんを襲ったのかな~?」

しっ、しまったです。
すっかり忘れていましたがこの世界の神様はしろくじらの下僕、下手なことを言えば、興味を持たれてしまう恐れが………。

「あ、下手な嘘は付かない方が良いわよ、私、そういうの見破るの得意だから(はぁと)。」

いきなり、笑っているのに目は全然笑っていない顔で、でっかい釘を指されてしまいました。
ははは、はぁ~、これはいきなり『詰み』ですかね。
レベル神の存在があまりに日常すぎてすっかり警戒を忘れていた私が馬鹿なのですが、まさか、こんなにいきなり人生最大のピンチを迎えるとは………。

「答えられないなら、私が答えてあげましょうか?」

えっ?
………まさか、気付いている!

瞬時に私の脳はパニックから、戦闘形態に移行しました。
既に目の前にいるシェリルはパロディ的な存在ではなく警戒すべき存在に変わっています。

何を知っている、もしくは気付いたのかは分かりませんが、このまま返す訳にはいかなくなりました。
勝てるとは思いませんが、せめて何処まで気付いているのか聞き出さないと。
しろくじらの操り人形などという最悪な事態だけは避けなければ。

そんな悲壮な覚悟をしている私を見て、おもしろそうに笑っているハイレベル神、シェリル!

「あら、いきなり怖い顔になってどうしたの?」

「いえ、ぜひ教えていただきたいと思いまして、何を知っているのかを。」

私が答えると、笑いながらシェリルは指を一回、鳴らしました。

フッ!!

周りがいきなり暗くなりました。
これは…………空間が閉鎖された?

しまった!閉じこめられました!!

やはり、神様は敵ですか!
私の心臓は既に耐え難いほど激しく鼓動しています。

ドックン!

ドックン!!

ドックン!!!

パッ!

いきなり目の前に光が。
………スポットライト??

「「パンパカパ~ン、おめでと~う!!」」

へっ?

「「あなたは見事第一の試練を乗り越えました。」」

光の中から現れたのはマイクを持ち紙吹雪なんぞまいているシェリル&ランカ。


………ストン!

あ、腰が抜けた。
完全に間を外されました。
あそこまで緊張していた、状況でこの行動、………一気に心が砕かれました。
もう、へたり込むしかないですよ。


「あら、ちょっと驚かせ過ぎちゃたかな。」

えっ?
あの二人の声じゃない!

「誰?!」

振り返った私の前にいたのは、

………

……



「アリス?」




◇◇◇◇

現在、私はアリスちゃん、シェリルさん、ランカちゃんと円いちゃぶ台を囲んで、緑茶なんぞをすすっています。

…………なぜ、ちゃぶ台?

取りあえず突っ込みたい所は沢山あるのですが、取りあえず状況の整理です。

あの後、状況が解らずパニックを起こしている私に前にいる3人(?)から状況の説明を受けました。

目の前にいるアリスちゃん・・・・・神様だそうです。

ふざけるなとか、設定は、なんて言う突っ込みは無しにしてください。
事実そうだと本人が言っておられるのですから。
ちなみに『ちゃん』付けなのは本人のご希望です。

なんでもこの世界、やっぱり『ランス』の世界に似た平行世界の1つだそうです。
その中のアリスソフト系の世界を管理している神様がアリスちゃんだとか。

笑いながら
「原作でも『AL教団』なんて私を奉ってる宗教団体があったでしょう、あれの本来の主神は私よ。」
述べてくれました。

『AL教団』ですか、しろくじらが自分の望みを伝えるためのカモフラージュのための組織としてしか印象がないのですが。


で、ランカ&シェリルの超時空アイドルコンビはやっぱり元々この世界にはいない存在だったそうです。
この世界の調査のためにアリスちゃんが創造して紛れ込ませたそうな。


『調査』
そう、今回私は驚くべき話を聞きました。


『ルドラサウムの暴走』


そう、もともとこの世界では主神アリスのもと、秩序ある循環を行っていた。
この世界でもあったが、
丸い者からドラゴンへ、
ドラゴンから人へ
と、移り変わったように世界は進化と変化を繰り返しながら進んでいった。

しかし、ここに唯一の例外がいた。
『ルドラサウム』
アリスソフト世界で主神アリス以外に唯一世界を創造することができるほどの存在であり、他の世界にすら影響を与えることの出来る神である。
そのルドラサウムがアリスの命令を聞かなくなった。

確かにルドラサウムの力はアリスをのぞけば最強であり、無から有を作り出せる奇跡すら起こせます。
そこまでの存在が自分より力が上とはいえ、色々命令を聞かなければならないなど不満を持っても仕方ないかも知れない。
そこから暴走は始まった。
反乱ではない、暴走である。

ルドラサウム自身、主神アリスには勝てないことはよく知っている。
その為、自分が管理する空間を閉鎖し、その要所要所に自分の配下の神々を置いて、もしアリスが力ずくでルドラサウムに介入しようとすれば世界そのものが崩壊するように作り替えたのだ。
規模がとんでも無く大きいが、ていのいい人質である。

よって、強引な手出しが出来なくなったアリスは、なんとかこの状況を打開しようと、自分の配下をルドラサウムに紛れ込ませたり、イレギュラーを介入させていた。

『イレギュラーの介入』

そう、私のことだ。




「そう、あの馬鹿くじら、私に面と向かって逆らう根性はないくせに、私の神経を逆なでするような事ばかりするの。」

「はい、アリス様が『ひと』に愛着を持っておられることを知っているにもかかわらず、見せつけるかのようにこの世界の人達が苦しむようなことばかり行ってるんです。」

腹立たしさを隠そうともせずしろくじらへの怒りを吐き捨てるアリスちゃん、そんなアリスちゃんをフォローするように話すランカちゃん。
ちょっと性格違うような………世界が違う所為かな?

「そこで!私は考えたの、自分の世界の中心に引きこもって出てこようとしない引きこもりのくじらに天誅を喰らわせるにはどうすれば良いかをね。
 ……外からがだめなら中からはどうかしら。」

「中から?」

「そう、この状況を打破するためにいろんな他の世界をのぞいて情報を集めたの。
 そうして見つけたの、私達のことがゲームとして伝承されている、あなたの世界をね。」


迷惑な話です。
偶々見つけた私の世界で、ランスシリーズというゲームの存在に気づき、その内の一本に目を付けました。

『鬼畜王ランス』です。

現実はこのゲームどおりにいかなくても、もし『ひと』の手で魔人領を含めた世界が統一され、更にルドラサウムの存在に気付き挑戦してくればどうするか?
このゲームのように興味を持ち、自分に直接会いに来るチャンスを与える可能性が高いと考えられます。
なら、その時にアリスを召還させれば!

これが、今回の計画だそうです。
ただ、これには大きな問題がありました。

そう、アリスソフト世界の住人ではアリスちゃんの存在が大きすぎて魔法を使うにせよアイテムを使うにしろ、ルドラサウムの結界内ではまず成功しないからです。
これはこの世界の決まりみたいなものでアリスちゃんでもどうにも出来ないとか。
以上のことから、ルドラサウムの結界に影響されず、アリスちゃんを召還できる別の世界の魂が必要になりました。

このような必要にせまられ、今後動きやすくするためにも、ある程度このランス世界の知識を持つ異世界人が呼ばれることになったのです。


なんと、驚いたことに私はこの世界に呼ばれたのは3番目だそうです。
すなわち、私が召還する前に2人が呼び出されており、2度失敗しているのです。
ちょっと興味を引きましたので、1回目と2回目について質問した所、随分と納得する理由で失敗していました。



1回目はそのまま召還したそうです。
いわゆる『オリ主 』というやつですね。
流石に神様相手に無茶なことをさせるのですから、アリスちゃんもかなりのチート使用にしたそうです。
才能限界無限
最初からLV200
剣戦闘Lv3
神魔法Lv3
などなど、他にも色々特典をつけてあげたそうです。

………それが悪かった。
オリ主でこれだけ強ければ大抵の人は、『俺Tueeeeeeeeee』、『俺様無双』なんて状態になり、いらん野望を持ってしまいます。
この人もしっかり持ったそうです。
なまじストーリーを知っているだけにランスの代わりをしようとしたり。メインキャラの女の子にちょっかいを掛けたそうです。
しかし、どんなにチート能力を持っていても元は一般人(オタク?)がランスの代わりなんて出来るわけがありませんでした。
話はどんどん違う方向に進み、手を出した女の子達には陰湿な恨みをもたれ(普通関係を持った男が他の娘にちょっかいを出すと恨まれます)更にランスにまで恨みを買ってしまったそうです。
トドメに異常に強力な力を持っていることでしろくじらに目を付けられました。
後は破滅へ一直線です。
国の助力も、女の子の信頼も持てなかったその人は、散々しろくじらの配下に追いかけ回されたあげくランス君に切られたそうです。
チート能力関係ないじゃん………。

結論
・下手に個人に強力な力を与えると野望を持って危険。
・オリ主はストーリーを修正不可能なくらい変えてしまうかも。
・ランス君を敵に回すとどんなに強力なキャラクターでも倒されてしまう恐れ有り。



2人目は前回の失敗を教訓に既存のキャラクターに転生させることにしたそうです。
『リック・アディスン』
そう、リーザスの赤い死神に転生させました。
彼なら将来ランス君を補佐し、上手く導ける存在に成れると思われたからです。
無論、将来しろくじらの軍勢と戦わなければいけない為、ある程度強力な存在にすることは仕方ないことですが、前回ほどとんでも無いチートにはしなかったそうです。

………最初の内は上手くいったそうです。
最初からこの世界にいることでこの世界の常識を学び、戦闘力チートのおかげで若いうちから軍でどんどん頭角を現していったのです。
ただ、そういう優良株はもてます。
レイラさんだけでなく色んな女の子にもてたそうです。
そうなるとおもしろくないのがランス君、仲は致命的にまで悪くなりストーリーがまた脱線し始めました。
リックに転生された方もランス君の自意識過剰の上、わがまま、そしていわれのない理由で嫌われていたことから、自分から関係修復する気にはならなかったようです。
さらに今までチート能力で楽をしていた天罰が下りました。
ランス3のリーザス奪還戦、ランス君とは不仲のため別行動せざるえなくなり、そんな状況下で魔人と遭遇してしまったそうです。
どんなに強くてチートだろうとも相手は魔人、傷1つ付けることが出来ず絶体絶命のピンチに陥りました。
いままで戦闘チートのおかげでそんな状況になったことがない彼はパニックを起こしてしまいました。
結果、アリスちゃん召還の為に渡されていたアイテムを使うという最悪の手段を取りました。
その場は助かりましたが、そんなことをすればしろくじらにばれるのは当然です。
しっかり目を付けられて狩られてしまいました。
『アリスちゃん召還』
確かに強力な切り札かも知れませんが1度知られてしまえば対抗策を採られてしまい使えなくなるもろい切り札です。

結論
・男性キャラはランスと敵対し、ストーリー崩壊を起こす恐れあり。
・召還を簡単に出来るようにするとそれに頼ってしまい普通のピンチの時にでも使うかも。
・強力すぎるキャラはしろくじらに目を付けられる恐れがあるばかりか、チート性に頼ってしまい緊急時の対応に問題がでる。



こんな失敗をするたび『時間を巻き戻して』やり直して来たそうです。
…………時間を巻き戻すって、そんなとんでも無いこと出来るなら暴走の始まる以前に戻してしまえば。

「この事に気付いたのがかなり遅かったの。
 私は全知全能、何でも出来る訳じゃないの、そこまで巻き戻しちゃうとこことは違う私の管理する世界に不都合が起こる可能性が高いわ。
 この世界だけのために他の世界にまで迷惑を掛けるわけにはいかないのよ。」

なるほど、確かにそうかも。
ふぅ、世の中上手く行かないものです、神様でもそうそう都合良く行きませんか。


「それで、今回は女の子に転生、または憑依させることにしたの。
 条件はそれなりに良識があって責任感のある人、そして一番大事な事がアリスソフトの作品を愛してくれている人よ。」

「………えーと、ちょっと待ってください。
 その条件なら、男を無理矢理女にする必要は無いのでは……?
 『ランス』ほどの作品なら女性のファンもいるでしょう?」

「が~ん!
 ひ、ひどい!!
 ………あなたは、か弱い女の子をこんな過酷な世界にいれて平気だというの?」

「い、いえ、そういうわけではありませんけど……。」

アリスちゃんは『いかにもショックを受けました』というオーバーアクションをしたうえ、ハンカチを噛み涙を浮かべています。
………えらく人間くさい神様です。
というか、か弱い男の子は巻き込んでも良いんですね………。

「………なんてね。」

えっ?

「うん、だって、この世界だとそれなりの実力を持った女の子はランス君に食べられちゃう可能性が高いでしょう?
 女の子だと無理矢理エッチは可哀想だと思うから………。」

「それは暗に男の子は可哀想じゃないと聞こえるのですが?」

「だって……ねぇ、女の子だと悲劇だけど男の子だと喜劇になる事ってない?」

「ちょ、ちょっと待ってください!
 男だってそんなことになったら結構なトラウマになりますよ。」

そうしたらアリスちゃんは満面の笑顔でのたまってくれました。

「うん、大丈夫、そうなったらちゃんと私が責任取るから。
 まかせて、私の管理する世界には『ブルー』もあるから(はぁと)。」

ガン!!!

………痛い。

すっかりこけ癖が付いてしまいました………じゃなくて!
この人(?)絶対悪魔です。
実に嬉しそうに答えてくれましたよ。
アリスちゃん………なんて恐ろしい子!
そんな期待に満ちた目で見ないでください!!

………なんでこの世界にはまともな神様いないのでしょうか………orz。





ちょっと人生に疑問を持ちました。

………泣いても良いですか?




[11872] 第15話 笑っているからって嬉しい訳ではないのです。
Name: ムラゲ◆a283121b ID:1894adc1
Date: 2012/03/29 01:00
第15話 笑っているからって嬉しい訳ではないのです。



どうも、アニスです。


この世界の神様とお話ししています。





うっ、うっ、う、『ブルー』は、『ブルー』だけは嫌なんだよう………(泣)。







◇◇◇◇


その後、転生した私についての説明がありました。

そう、今回から始まった私の身体のペナルティについて………。


・レベル1からの出発。
 これは前回の失敗の原因である、『ピンチの経験』が無くて失敗したことからつけたそうです。
 目的を果たす前に死んでしまう恐れもありますが、そのリスクを負ってでも必要と考えられたそうです。

・最初からの技能、アイテムの過剰な優遇の廃止
 しろくじらと戦うため強力な戦闘能力は必要ですが、最初からの過剰な高技能やアイテムはそれに頼ってしまう恐れがあり、又、しろくじらの手下に目を付けられる可能性があります。
 私がチートだと思った神魔法Lv2と剣戦闘Lv1は、メインの能力である魔法Lv3に隠れて目立たないギリギリのプレゼントだったそうです。

・強力なキャラクターになった際のペナルティ
 今回私が召還されてアニスになったのは完全な偶然だったそうです。
 メインキャラクターではない女性体にランダムに召還した結果だそうで、魔人や神、悪魔などの別格キャラクターになった可能性もあったらしいです。
 その為、最初からしろくじらに目を付けられないために、召還する際、万が一強力なキャラクターになったときには、
『こんな強力なのは、こんなデメリットがあるから。』
という言い訳をつけたのだそうです。
 私の場合はメリットとして『世界最強の魔法力』をプレゼントしていただいたのですが、そのデメリットとして『自分の魔法力に耐えきれない肉体』がついたのです。
 使えば世界最高、しかしその先には確実な破滅が待っている。
 ………皮肉なものです。

そして、この世界に転生した説明については、以前のように最初から教えるのではなく、ある条件を満たして初めて教えることにしたそうです。
それが、
『自力でLv30になる。』
と、
『この世界に飲み込まれず、自分でおかしいと思える精神力をもっている。』
でした。
自力でLv30はこれからの試練を乗り越えるための目安です。
ここまで自力で到達できないようであれば更に過酷になる今後の戦いに付いていけないことは確実だからです。
そして、おかしいと思える精神力については、この世界に対し疑問を持ち続けることが出来るか、と言うことです。
人間とは弱いものでその状況によって、『まぁ、いいか』と、流されてしまうことがよくあります。
今後、確実に絡んでくる強烈なランス君のキャラクターに流されず疑問をもち、自分の意見が言える精神力が必要だったとか。
そのために試験としてレベル神をこの世界と全く違うキャラクターにして試したそうです。
……それにしては趣味に走りすぎているような。


「さて、ここまで話を聞いて、あなたはどうしたい?
 ちなみに元の生活に戻して欲しいというのは無理よ。」

えっ、なんで?

「あなたは元の世界では『死んで』いるからよ。
 流石に生きている人間を無理矢理連れてきてこの世界のために働けと言ったって反抗されるだけだからね。
 死んだ理由についても言えないわ。
 これはタブーの1つよ。
 死後余計な恨みやこだわりを持たせないための決まりになっているの。」

………ははは、やっぱり私は死んでいましたか。
薄々そんな気はしていたのですが……。

お父さん、お母さん、あなたの息子は孫の顔も見せられず、ろくな恩返しもしないまま死んでしまいました。
…………すみません。







ふう、落ち込んでいる場合ではありません。
今はこれからをどうするか、考えなければ!
落ち込むのは後です。

と、言っても実際の所、余り私の行動に変わる所はないのですけど。

原作で思い返してみますと、はっきりいって現在、しろくじらはこの世界に飽きが来ていると考えられます。
これは『魔王ガイ』が大がかりな人間領域に対する魔人達の行動を制限したことから、大殺戮が無くなってしまったためです。
それでも小規模な諍いや、好戦的な魔人の侵攻があったため辛うじて暇つぶしにはなっているようで、作り直しにはなっていないようですが。
しかし私の望みは『平穏な生活』です。
しろくじらの喜びとは対局に位置しています。
いずれ、しろくじらが敵になることは見えていました。

……………これは、ある意味チャンスかもしれません。

全く勝ち目の無かった戦いに、アリスちゃんが入ることで少しでも勝ち目が見えたのですから。


「………アリスちゃん、協力させていただきます。」

「……そう、ありがとう。」

アリスちゃん達はいかにもほっとしたように答えてくれました。

どうやらこれまでは、自分が死んでいることを教えると、パニックを起こしたりアリスちゃんに八つ当たりすることが多かったそうです。
まぁ、解らない訳でもないですけどね…。

しかし、死んでしまったのなら仕方ありません。
もう一度死なないために今を生きる努力をしないと!

本当ならアリスちゃんは、ただ死ぬだけだった私を、思惑があるにしろ助けて貰った恩人なのですが、この現実を生き抜くためにわがままを言わせていただくことにしました。

・魔法理論の解除
 ゲームで出ている魔法だけではどう考えても応用性が無く、現実に使う者としてはもっと発展性が欲しいと思っていました。
それに魔人や神族と戦うことになるなら攻撃、防御ともにもっと格上のものが必要です。今後のためにも多少の無理が利くように出来ないか?と訴えました。

 アリスちゃんからの回答としては、
「これまでの魔法の発展系と屁理屈を付けられるのならOK。」
と、好意的回答をいただきました。
魔法の開発についても自分でやることが条件です。
 ただ、余り突拍子のないものは神族に目を付けられる恐れがあるため十分注意すること、だそうです。


・才能限界値の増加
 これからの戦いでは個々の才能が必要になってくる事が多くあるでしょう。
 しかし、設定で将軍なのに異様に低い才能限界の方もおられたはずです。
 この世界では才能限界を知るには限界になってみないと解りませんが、メインの方のレベルが低くては今後の行動にさしさわりがあります。
 
 この件についてはアリスちゃんも考えてくれていたそうで、その為にレベル神のランカちゃんだけでなく、ハイレベル神のシェリルさんまで送り込んでいたとか。
 見知らぬ世界に投げ入れてポイの無責任な神様じゃなくてほんと、助かりました。
 しかし、これも制約があり、技能レベルがLv1なら50まで、Lv2なら80までで、これ以上を望むのなら他の方法(他のハイレベル神、ランス、アイテム等)を考えて欲しいとのことでした。
 また、高レベルの者が増えるとやはり神族の目に止まる可能性があることから、余り無茶は出来ないと言われました。
確かに当然のことですね。

この他にも幾つかお願いをしたのですが概ね了承をもらいました。
さすがは次々と後付け設定が出るゲーム、柔軟さが半端じゃありません。



私からの確認やお願いが終わるとアリスちゃんからまたお話がありました。


「私はできれば今回でけりを付けたいと思っているの。
 反則技みたいな『時間の巻き戻し』だけどあの子も一応神様だから、何回も続けていたらいずれ気付かれるわ。
 だから、私を召還するアイテムは今回は最後のギリギリまで渡さないつもりよ。」

大きな力があれば頼ってしまうし、使ってみたくなるもの。
前回の失敗もありますし、これは正しい判断でしょうね。

「それと、今回この世界に召還したのはあなた1人ではないわ。」

………えっ?

「ちょ、ちょっと待ってください。それって………。」

「言ったでしょう、できれば今回で終わらせたいって。
 今回はあなたを含めて5人、召還しているの。
 召還する以前の死んだ時期や世界がバラバラだから、もっている情報には差異があるわよ。」

条件に合う人物が5人も………。
え~、大変、失礼な勘ぐりなんですが………私の死に何らかの形で関わってませんよね?

……ごほん!
失礼しました。

今後、その方達と協力することがあるかも知れませんし、もし万が一私が失敗した場合、私の志を引き継いでいただかないといけないかもしれません、情報をいただかないと!

アリスちゃん曰く、5人とも時期も場所もバラバラで、転生もしくは憑依させたそうです。
これはしろくじらに気付かれないための措置だそうで、転生、憑依先も女性体である以外完全にランダムだったとか。

うん?
????!…………いいいい、いま、とんでも無い可能性に気付きましたが!
この方法って………、もし、まかり間違っていれば『見ただけで物理的ダメージを受ける○ス』の方や、女の子モンスターの『はずれ女』になる可能性もあったんじゃあ…………(大汗)。
ぞぞぞぞっ!!

よ、よかった~、アニスでよかった~。
アリスちゃんはこの私の質問にすっごく良い笑顔で答えてくれませんでした・・・(冷汗)。



さて、話を戻しましょう。

このアリスちゃんに召還された方達、誰になったかはアリスちゃんもよく分からないとか。
ただ全員無事女性体に転生または憑依しているのは間違いないそうです。
一応メインキャラクター以外になるように細工したそうですが………。
なお召還された先が強力なキャラクターなら、それに比較したデメリットを、弱い又は技能レベルが1程度の普通のキャラクターの場合は普通に冒険が出来るよう、それなりの技能や特殊能力がつくようにメリットを細工して召還してくれたそうです。
安全確認のため、初めの少しの間だけ、アリスちゃんは意識を繋げていたそうですが、しろくじらに気付かれる恐れがあるため直ぐに止めざるえなかったそうです。

みんなが降り立った場所は、大雑把ですが、リーザス領内、自由都市領内、JAPAN領内、ヘルマン領内に各々1人と確認しているとか。

まぁ、見事にばらけたものです。
………しかし魔人領はありませんでしたか、だれか1人味方になってくれれば後々楽だったのですが。

「最初につながった時の記録が残ってるんだけど、見てみる?」

なんでもアリスちゃん、最初にリンクしていたときの記録が残ってて、再生も出来るとか、………便利ですね、ビデオカメラいらずです。
そうですね、今後人物を特定する助けになるかも知れませんし、見てみましょうか。


・1人目、リーザス領内
 
ここは………?
…暗い………どこ?
それになんでここまで眠い………?
「………ふんふ、ふんふ………」
なにか………聞こえる………歌?
「あーあー、こころの○ん○んが、さびしくてー、こまるのー、
 はぁあ、ついて!ついて!、えぐって!えぐって!」
なに、これ………?
…それにしてもねむい………おやすみ………。


だあーっ!
い、今の『○ん○んソング』は?!
………えーと、あの人(?)ですよねぇ?
それに、この時期にあの人(?)と一緒にいる人って………。
白子の人でしたね。
とんでも無い人に転生……いえ、あの人の場合どう考えても憑依ですね。
とんでも無いキャラに憑依したものです。
確かに、彼女が味方になってくれるのなら、ものすごく凄く心強いですが、反面こんな強力なキャラクターになったら私なんか比較にならないデメリットが付きそうな気がします。
………ちょっと心配ですね。


・2人目、自由都市領内

あれ?ここは?
私さっきまで部屋で寝ていましたよね?
ここは………通路?
岩と機械が混じり合ってる………何処なんだここは?



しばらく歩いて見たがやっぱり見覚えがない。
それどころか私のこの身体………どう見ても成人女性の身体だよね。
人間パニックが度を超すと反対に冷静になるというけれど、この事なんだろうか?
どうも、パニックを起こしている自分以外に、冷静に周りや自分を分析している自分がいるような……。
細い指にそれなりに豊かな胸(男の子ですから)、黒い服に………マント?
なに、この服装は?
………どこかでみたような?
ところでこの手に持っているハンマーは何だろう?

歩き続けているとやっとどこかの部屋に出た。
………………うん、ここ、私のいた世界じゃあないわ。
だって、目の前に漫画でしか出てこないようなリアリティの無い、大きな機械が並んでるんだもん。
こんな現実味のない機械、初めて見たよ。
……いわゆるこれって、異世界召還ってやつ?
あっ、あそこに姿が映りそうな金属板が!
やっと自分の姿が見れる。
…………え、ええええ!
こ、この姿って………!!
じゃ、じゃあ、ここって……………アク○ズ??
この世界って『○ンダム』!!!


……えー、何となく解りました。
たぶん、この方が転生した先は闘神都市ですね。
で、この方はアリスソフト史上最大の著作権に喧嘩を売っているとしか思えない『女の子モンスター』に憑依しちゃったみたいですね。
………あんまり強いモンスターだった記憶がないのですが?
残念ですが現在この方がどんなに困っていても助けに行ける手段がありません。
そもそも単体で攻略できる場所でもないですし。
それほど強いキャラじゃなかったからアリスちゃんから何かメリットを貰っているはずです。
会えるのはかなり先になるかと思いますが、頑張って生き延びてください。


・3人目、JAPAN領内

おぎゃあ!おぎゃあ!
うるさいなぁ、誰だよこんな所で泣いているの?
………えっ?ぼく?
泣いてるの僕?
あーあーあー!赤ん坊になってる?!



えー、どうやら僕は赤ん坊になっちゃったようです。
ははは………、枯れた笑いしかでねぇよ!
確かにこれまで転生ものの話は好きで、良く小説や漫画で読んだりしていたけど………。
まさか自分が実体験するとは思っても見ませんでした。
………しかし、ここは何処だろう?
やっぱり僕は勇者の生まれ変わりか何かで、
………いや、最近は普通の生活をするほのぼの系も増えてきたし、
………それとも貴族に生まれ変わって領地経営?
がやがやがや!
おや、誰か来たみたいですね。
「これが麿の妹でおじゃるか?」
麿?
おじゃる?
………だれ?
あっ、誰かがのぞき込んできたよ。
「不細工な妹でおじゃるな。」
………
……

おんぎゃあーーーーー!!!!
ぎゃーーーーー!魚人!!!!
ま、まさか、まさか、ここって………
『クト○ルフ!!!』
SAN値がSAN値が~、発狂はいやーーー!!!


えー、………これも大体解りました。
この特徴のある言葉づかい、魚人、不細工………、ほぼ間違いなく、『遺伝子の不思議』、『メンデルに喧嘩を売っている』、人妻ツンMキャラに間違いないでしょう。
えーと、この後とんでも無く苦労すると思いますが頑張ってください。
とりあえず、会えることになるのは相当後になりますね。


・4人目、ヘルマン領内

………………………………
………………………………
………………………………。

あれ、故障かな?
なにも出てきませんね。

「叩かないでください!壊れたテレビじゃ無いんですから!!」

おっと、ごめんなさい、アリスちゃん、つい。

「この方については残念ながら解りませんでした。
 意識を失っているのか、召還された先のキャラクターが意識がない状況なのか?
 取りあえず、無事召還されていることは確かですし、現在も生きていることも確かです。」

まぁ、3人解っただけでもラッキーと思いましょう。
しかし、全員出会えるのは随分先そうですね。
皆さんと無事会えれば良いのですが。




◇◇◇◇

一応これで一通り聞くべき事は聞きました。

この後、「サービスよ!」と言って幾つかの原作設定を無視したアイテムもいただきました。

アリスちゃんは今後はしろくじらに気付かれないためにも気軽に会えなくなるそうです。そのため基本的にランカ&シェリルを介しての付き合いになるそうです。

「じゃぁ、そろそろ戻るわね。
 ………うん、アニスちゃん。」

「はい、何でしょうか?」

「もしもの為にこれを上げるわ。」

そういうとアリスちゃんの手のひらから光が生まれ、その光は私に吸い込まれていきました。
えっ?これは………。

「アリスちゃん!」

「うん、いざと言うときのためにこれを上げるわ。」

「けど、これって………。」

アリスちゃんからの光が私の中に入った後、1つの呪文が頭の中に入ってきた。

『重破斬(ギガ・スレイブ)』

呪文の内容こそアリスちゃん使用に変わっているものの、私も良く知っている呪文です。
無論この世界のものじゃありません。
まったく別の作品のものであり、その効果は、『使用者を犠牲にする。』代わりに神をも滅ばすことができる究極呪文です。
こ、こんな、こんな呪文使えるわけが………、

「安心して、別に使ったからと言って世界が滅ぶ訳じゃないから。
 ただ、短時間私を召還することができるだけよ。
 使える者が限定される呪文で1回こっきりの使い切り、例え神族の興味を引いても、すぐに大した影響はないと判断されるはずよ。」

「けど、こんな呪文使ったら、私は………」

「勿論、滅ぶわ。
 それこそ魂すら残さずにね。
 だからこれは最後の手段だと思ってね。
 そしてこの呪文をあなたに渡すのは私の覚悟の現れだと思って欲しいの。」

甘く見ていました。
笑顔を絶やさないアリスちゃんがここまで思い詰めているとは。
やはり私は、これからの大変さを解っているようでどこか甘く見ていたのかも知れません。
こんな呪文、使うつもりが無くても、あるだけでとんでも無いプレッシャーとストレスの元になります。

「じゃあ、行くわね。」

そう言ってアリスちゃんは何もない空間に扉をだし、その扉に入って行きました。
いつもの通り、笑顔を浮かべながら。





けど私にはその笑顔が無理に引きつって、泣いているように見えました。



[11872] 第16話  長官とペンタゴンと工作員
Name: ムラゲ◆a283121b ID:a7d82135
Date: 2012/03/29 01:07
第16話  長官とペンタゴンと工作員



こんにちは、アニスです。


前回、神様からいろいろ今後のためのお話をいただきました。
確かにその内容は衝撃的でしたけど、それ以上に気にかかることがあります。

最後に見せた、あのアリスちゃんの笑顔………。


なによりも人間が好きで、その人間を助けるためには、別の人間に頼るしかなく、その別の人間を傷つけてしまう。
更に成功のためその別の人間に犠牲になることが確実の呪文を渡さなければいけない。
………人を助けるために人に犠牲になってくれという矛盾。
きっと自身を引き裂かれるような思いなのではないでしょうか?

あの泣きそうに見えた笑顔が忘れられません。



………複雑です。





え~と、アニスちゃんが何か鬱々とふさぎ込んじゃったので、今回は私、パパイア・サーバが進行を務めさせていただきます。


えっと、時代は元に戻りますよ!!





◇◇◇◇



「なんか、納得できないのよねぇ。」

そうぼやいたのは最近、私の部屋(跳躍の塔)によく遊びに来るようになったマジックちゃん。

何でも始めは千鶴子の所に魔法を習いに行ったそうなんだけど、私用でいるのが居づらくなってこっちにきたとか。

たぶん現在、千鶴子はゼスでもっとも忙しい人間だからね、そりゃあ居にくいわよ。

なんせ、これまで旧四天王達が手を抜いていた四天王本来の業務の過去と現在分が一気にきている上に長官達との政治的攻防、新たにこちら側についたナギの教育などなど、考えただけでも頭が痛くなる状況。

もっとも、実際に3日で限界がきて、あの千鶴子が王に泣きついたんだから、どれだけとんでもない仕事量かがよくわかる。
今ではやっと応援が来て、応援に呼ばれたクインシー家やスケート家の事務方の人間が総掛かりで処理してる。

…まぁ、それでも業務がパンクしそうになったらしいけど。
その後、更に一人の増援が来たことで状況が変わった。
なんでも王とアニスから推薦された中年男性らしい。
名前は……なんだっけ?
まぁいいわ、何でもあの情報魔法を使える千鶴子と互角の事務能力を持っているとか。
ただ残念なことに魔法使いじゃないためこれまで表舞台にでれず、実力にあった地位に就けなかったそうだ。


………魔法使いじゃないのに情報魔法を使ってる千鶴子と互角ってどんな化け物よ、一度会ってみたいわね。



千鶴子曰く、

「現在は過去の借金を整理している状態、これを何とかしないと改革なんて夢のまた夢。」

だそうだ。

千鶴子ご苦労様。



もっとも私だって遊んでいる訳じゃない。

クインシー家やスケート家から来る情報の整理や対策をたてる情報部の様な仕事や、過去や現在進行中の魔法研究や実験の確認、なにより貴族達の窓口も私がしている。

説明しなくてもわかると思うが、どんなに長官派の貴族達と反目しているとはいえ実際の所領地を管理しているのは貴族だ、円滑に国内を治めるためにはどうしても貴族達からの情報提供や協力がいる。
そのためには、お互いの利害をすりあわせるための折衝役が必要になるの、その役目を現在私が任されている。

なぜ私かという理由については簡単。
たしかに同じ四天王なら役職的に誰でもかまわないのだけど、悲しいかな目の前のマジックちゃんはまだ『11歳』で応用学校にすら入学していない。
何でも王族には12歳から入学して4年間きっちり学校で勉強することが義務づけられているそうな。

………面倒なしきたりよね。
そんな一人前と認められていない人物は、お飾りの名誉職ならともかく流石に実務は………ということ。
だから本格的に実務をするならせめて学校に入学してもらわないといけない。

………ふぅ、あと1年か。


ナギについてはいわずともわかるだろう、これまで魔法しか勉強せず、一般常識や教養が存在しない危険人物に政務は任せられる訳がない。
ケンカになっちゃうわよ。
千鶴子の教育次第だけど、やっぱり実務を任せるには1,2年はかかりそうね。




「………で、マジックちゃんは何が納得いかないのかな?」

確か前回は、『千鶴子VSチェネザリ』の戦いについてだったわね。
千鶴子が、ああもあっさり勝負に勝ったことが納得いかなかったようで、しつこく聞いてきたっけ。

まぁ、確かに正面からの戦いならもっと手間がかかったでしょうし、事実としてチェネザリの実力は当時の千鶴子よりわずかに上だった。
しかし勝ったのは千鶴子だ、しかも見た目には圧倒的に。

あの勝負は始まる前から千鶴子の書いたストーリーの通り進んだ。
そう、千鶴子の強さは魔法じゃなくどんな相手に対しても勝利する方法を組み立てられるところなのだから。
ただ、これを他人に納得させるのって、すっごく難しい。
人間をそう簡単に誘導できるはずはないし、そのときの気分でどう行動するか分からない。
これって他人からみれば、一つ間違えばすぐにほころびができてしまうギャンブルみたいに見えるのよね。
事実、これをマジックちゃんに納得させるのにずいぶん掛かった。
最後には黒板まで持ち出して千鶴子の行動一つ一つを説明することになったわ。
……さすがにもう、勘弁してほしいわね。



「そう、構えないでよ、今回は単なる愚痴だから。」

「愚痴?」

「そうよ、愚痴。
 同じ四天王なのに全く私には何もやることがないの!」

「ああ、そのこと………。」

「わかってるわよ!
 まだ11歳の応用学校すら入学していない子供に政務は任せられないなんて。
 そんなことで駄々をこねるほど物わかりは悪くないわ。
 けどね、お父様も、千鶴子もパパイアもみんなこの国を変えるために頑張ってるのに私はどんなに急いでもあと2年は手伝えないのよ。
 誰よ、王族は12歳から入学し4年間学校生活をおくれなんて決まりを決めたのは。」

なるほど、なまじ大人並の知能を持ってるせいで、みんなが頑張っているこの時期に、何もできない自分が歯がゆくてしかたないと言う訳ね。

しかし、こればっかりはあきらめてもらうしかない。

四天王なんて大層な肩書きを持っているせいで、千鶴子の所の事務の達人のおじさまみたいに裏方で頑張ってもらうこともできないし………2年したら今の言葉を後悔するくらい仕事をおしつけてやる。

もっとも、私にしてみればこうやってマジックちゃんと話したり、魔法を教えたりする時間はこの忙しい中でのいい気分転換になるし、結構重宝してるのだけど。



そんな事を考えつつ、マジックちゃんの愚痴を聞いていると、ノックが聞こえた。

「ど~ぞ~。」

「失礼します。
 パパイア様、お茶のお代わりはいかがでしょうか?」

「あー、ありがとう。お願いできる。」

「はい、わかりました。」

入ってきたのはにんじん色の髪で眼鏡をかけた女の子。
最近、私の助手として採用した子だ。

「そういえばマジックちゃん、この子とは初対面だったわね。
 この子は、『キャロット・シャーリー』、最近私の助手として採用した子よ。」

「よろしくお願いします。」

「………よろしく。
 ねぇ、パパイア。私この子見たことないんだけど、やっぱりクインシーかスケート家の者なの?」

「ううん、違うわ。
 この子は私がスカウトしたの、まだ学生よ。」

現在、私たちは人材の確保に力を入れている。
理由は簡単、今までの職員達は、みんながみんな長官派と言うわけではないけれど、何らかの利益または義理で長官派とつながっている可能性が高い。
そんな人材を私達の直属にすると一々スパイを気にして仕事をしなければいけなくなり非常に効率が悪い。
さらに、そういうスパイを警戒するクインシー、スケート両家の人材を自分達がメインで使っているのだから現在なかなか危険な人材難の悪循環にはまっている。
人材を確保するにしてもまず長官派の手が伸びている可能性を考えなければいけないため、一般事務ならともかく直属には下手に今いる公務員達は使えない。
よって、人材確保は一般企業や学生の引き抜きがメインとなる。
これがなかなかの手間なのよねぇ。

私は運良くキャロットちゃんを発掘できたし、更にキャロットちゃんの紹介で何人か人材を確保できたので運がよかったといえる。
千鶴子なんか、あからさまに長官達に人材確保を邪魔されて、キれる一歩手前だから。

………そのうち謎の長官襲撃事件が起こるんじゃないかしら。


「マジックちゃんも、来年から学生なんだし、いい機会だから友達作りなさいよ。
 将来きっと心の支えになるから。」

「わ、わかってるわよ、そんなこと…。」

ちょっと顔を赤くしてうつむきながら返事をするマジックちゃん。

……かわいい。

まぁ私達自身、年も近いし友達といえば友達なんだろうけど、やっぱり学校での友達は見つけてほしい。
将来、自分のブレイン候補という意味だけでなく、心の支えとして。

…私はそれで救われたのだから。

けどね~、むずかしいかなぁ、マジックちゃん。
………なんて言ったっけ?
アニスから教えてもらった言葉で、
………ツンドロ?ツンデデ?
あ!…『ツンデレ』だから。




そんな世間話をしていると、また新たな来訪者が………。

「パ~パ~イ~ア~さ~ん!!」

泣きながらやってきたのはアニスだ。

「ナギちゃんが、ナギちゃんが~……。」

「はいはい、わかったから、泣かない泣かない。」

考えてみればこの子もおかしな子だ、この前無理矢理襲ったのに(最後の一線は必死で抵抗されたけど)次の日から、けろっとした様子で以前と変わらない様子で接してくる。
………そこで壊れるような薄っぺらい付き合いじゃ無かった、と言う事かしらね。
まぁ、私もそこのところが分かってて押し倒したんだけど。

そうそう、あの一見で自覚したのだけど、どうも私は性的欲求について、同性、異性に関わらずノリと快楽に弱いところがあるらしい。
とはいえ、私の相手に対して求める要求レベルはかなり高いようで、寝てもいいかなと思える人間は今のところいない。

アニスはどちらかというと襲いたい方だし、
………リバもいいかも。

千鶴子はどちらかというと友達だからあまりそっちの欲求はない。

…もっとも一緒にアニスを襲うならノリで一緒に食べてしまうかもしれないけどね。


あれ以降、私達の付き合いは変わっていない。
忙しい千鶴子に、その千鶴子を独占したくてアニスに対して敵対心をぶつけてくるナギ。
で、ナギに千鶴子を独占されて私に泣きついてくるアニス。
それを慰める私。
最近パターン化されてきたような……。





アニスも慰めて、一段落したところで私は以前から相談しようと思っていたことを話すことにした。
なにか仕事をしたくて仕方がないマジックちゃんがいるのもいいタイミングかもしれない。


「みんな、ラドン教育長官は知ってる?」

「え?むろん知ってるわよ。
 長官派、ああ、今では守旧派か、その中心の1人よね。」

「確かガチガチの魔法使い至上主義者で、自分の城で奴隷達を戦わせて喜んでいると噂されている方でしたよね。」

まぁ、普通の感覚ならこんなものか、私もそのあたりは否定しない。

しかし、最近私はこの人物は他の長官たちに比べてもっと深い人物では無いかと思っている。
現在私はこちらの陣営(王様派)で情報長官みたいな事をやっている。
そのことから、長官たちの弱みを握るため色々と情報を集めていたのだが、その情報からまとめてみると、この人物は他の長官たちに比べて遙かにマシではないかと思いだした。


まず、人間についてだが、本人は魔法使い至上主義を唱えながら魔法の才能は著しく乏しい。
魔力、魔法量ともにそこら辺の学生並みだ。
普通の貴族ならそこであきらめて、護衛を雇うなりして自分の実力不足を補う。
しかし、彼は才能が無いなら無いなりの戦い方を考えた。

実戦レベルで『スリープ』を使えるって、どれだけ努力したのこの人は!

魔法『スリープ』、この魔法は使用魔法量も少なく、魔力もさほど必要ないため初歩の技として知られている。
しかし、同レベルの魔法に比べて魔力構成が難しく発動時間も掛かるためまず実戦で使うものはいない。
はっきり言ってうちの四将軍クラスの技術がないと実戦レベルには使えない。
私がラドン長官に興味を持ったのはこのことからだった。

その後、更なる調査で色々なことが分かり、結果、他の長官達に比べて遙かにマシとの思いを深めた。

まずは家族愛、彼にはエミという一人娘がいるが彼の娘に対する愛情は本物だ。娘のためならば政敵の千鶴子に頭を下げてでも力を借りることを厭わないだろう。
これは親として普通に見えるかもしれないが実はゼスの貴族では当てはまらない。
ナギの親は極端な例としても、私も千鶴子も親の愛情はかなり薄かったし、他の長官たちにしてみても政治のための道具としてしか考えてないのはよくわかる。
もっとも、ラドン長官の溺愛のために娘の方はかなりわがままに育ってしまったようだけど。

次に注目したのは、あのムシ使い達に対する大虐殺を起こした1人にも関わらず彼の家にはムシ使いがいまだ雇われていると言うことだった。
これについてはかなり驚いた。
あの大虐殺の時、都市部で働いていたムシ使い達は脱出できた極一部を除いて皆殺された。むろん大貴族に使えていたもの達も。
助けた理由は『娘が懐いていたから』らしいが実に解せない。
このことは他の長官達に裏切り者呼ばわりされる恐れもあるし、何より自分はムシ使い達を殺した原因なのだ、あの用心深い男が復讐の対象になる可能性を考えなかったとは思えないから。
この事について、この男の心理状態は未だ不明のままだ。

そしてラドン長官の持つ『奴隷観察場』についても幾つか分かった。
まず、ここには購入した奴隷、または魔法使いに刃を向けたような直接な意味での犯罪者しか入っていない。
無実の罪や疑い、騙されて入ってきたものはいないと言うことだ。
さらにその中でも女子供など戦いに向いていないものは入れていない。
これは良心なのか自分ルールなのかは分からないがそのあたりは一環している。
また、この奴隷観察場にしても一般的には奴隷達が死んでいくところを眺める娯楽施設と言われているが、その割には奴隷達にご飯も武器も支給し、安全に眠れる場所も作っている。
しかも、ここで一定以上の成績を収め、国に忠誠を誓うなら正規軍の奴隷兵として雇っている。

以上のことから私はラドン長官は『まだまし』と判断した。

まだ噂だが2級市民を騙して犯罪を犯させ、それを捕まえていじめ殺したり、罪のない人間を無差別に殺して喜んでいるものもいると言う。
…………近いうちに警察局なんとかしなきゃ。



なんてことを二人に説明した後、更にもう一つ話題を振った。


「で、話は変わるけど、長官派ともう一つ私達に問題があることは知ってるわね。」

「ペンタゴンね……。」

「そう、マジックちゃんの言うとおり、ペンタゴン。
 現在、私達王様派はこの二つに対して工作を実行するため工作員を潜入させているわ。
 長官派には情報収集と情報撹乱がメインね。
 そしてペンタゴンには情報収集だけじゃなくて、アニスの発案で組織を2つに割る工作もしているの。」

「ちょっ、そんなことできるの!?」

この事についてはむろんトップシークレットだ。王と私達そして現役の3将軍しか知らない。
長官達に対しての工作員は以前から潜入しているクインシー家の者が使えた。
だが、ペンタゴンについてはかなり苦労した。
はっきり言ってペンタゴンはテロリストだ、そのテロリストに対して情報収集だけでは常に後手に回るし、下手にくい止めると情報を流した工作員に危険が及ぶ。
そこで考えたのが、その工作員を目立たない様にするのではなく逆にそれなりの立場につければどうかと考えた。

しかし口で言うほど簡単ではない。
組織でのし上がると言うことは実績を上げると言うことになる。
そう、味方であったものを状況によっては殺さなければならないと言うことだ。
大抵の潜入工作員はここでためらったり精神に傷を負って失敗する。
しかも組織で上につくにはそれなりのカリスマも必要だ。

そんな都合のよい人材が………いた。


『フランドール・スカー(女性)』

炎の将軍、サイアス・クラウンの副官だ。
魔法Lv2、剣戦闘Lv2を持ち、忠誠心人格ともに文句なし。
しかもずっと軍務でアダム砦に配属されていたため、中央に顔見知りが少なく、少し顔を変えただけでまず味方からもばれる事はない。
以前、サイアス将軍を四天王に入れて彼女を将軍につけようかとの話も出たくらいの実力者だ。
彼女を工作員にするのは人材の無駄遣いだ、との意見も出たが結局、彼女以外に任せられるものがいないと判断され、彼女はその任務に就いた。
サイアス将軍はかなり渋っていたけどね。

その後、彼女は自身の有能さを示すように、私達に情報をリークしつつも組織内での地位をあげている。
なにより、ときどきサイアス将軍の元に戻ってきては今の副官が対処できていない案件の処理をしたりするスーパー有能っぷりを見せているのは純粋にすごいと思う。

あれは、サイアス将軍に気があると見たけど、……どうだろう?

ちなみに、それを聞いて仕事に押しつぶされそうな千鶴子が副官に欲しがっている事は蛇足である。



「へぇ~、そんな人が居たんだ。」

「分かってると思うけど、第一級の極秘事項だからね。
 どんなに信頼できる友達ができても喋っちゃだめよ。」

「わかってるわよ、そんなこと。
 ……そういえばアニス、あなたはその人の事は知ってるの?」

「はい、以前に2,3回。
 元々ペンタゴンを過激派と穏健派の2つに分けるという案は私が出したものでしたので無理言って会わせていただきました。」

「この作戦自体、私達が四天王になる以前からのものだから、四天王になってからのメンバーで知っているのはあなただけよ。
 ちなみに彼女、ペンタゴンでは『フランチェスカ』と名乗っているわ、覚えておいてね。」


さて、前置きが長くなってしまったが、これからがいよいよ話の本番だ。




ラドン長官とペンタゴン、今回の話はこの2つの情報から始まった。



[11872] 第17話  天使達の巣をつぶせ!
Name: ムラゲ◆a283121b ID:a7d82135
Date: 2012/03/29 01:14
第17話  天使達の巣をつぶせ!



は~い!パパイアで~す。

前回は仕事が無いことに愚痴をこぼすマジックちゃんと千鶴子と会えなくて泣きついてきたアニスに現在、私がしている仕事を絡めてお話ししました。

今回はいよいよ行動編。
果たして私が二人に相談したいことって………なに?


なお、繰り返すようですが冒頭の私は本編の性格とは一切関係していません。






◇◇◇◇



「まぁ、事の起こりはラドン長官の私的なパーティー(娘の誕生会)に行ったことが始まりよ。」

「…え、え?えー!
 なに?なにそれ、ラドンって長官派のトップメンバーじゃない!!」

……はぁー、やっぱり頭はよくてもまだお子さまね、マジックちゃん。

「あのですね、マジックさん。
 現代の戦いでは、かならず戦争中でも交渉役はいるものなのですよ。」

そう、敵だから相手の話を一切聞かない、相手の一切を否定する。
なんて言うのは現在ではまずやらない。
まぁ、ムシ使い村の時のような一方的な戦いになるときは別として。

相手のことを受け入れられない。だから戦争になる、これは複数の価値観が有るかぎり仕方のないことだ。
しかし、相手の全部一切を否定してしまい、話もしなくなると、双方どちらかが滅びるまで突き進むことになってしまう。
一度滅びてしまえば、復興も復讐もできない、負けかけてから交渉役を出すのでは足元を見られる。
よって最初から、相手方の情報収集役を兼ねて交渉役を設定しておくのだ。

これは政争についても同じで、相手を否定するだけだと政治が止まり国が衰退し国民が迷惑をする。
そんなことになればどちらが勝っても国民が支持しなくなるかもしれない、最悪外圧で滅ぶ、だからあらかじめ完全な敵役と妥協点を話し合うパイプ役の二役を分けて決めておくのだ。

で私達の場合、王様派の敵役が千鶴子で交渉役が私だ。
私が交渉役に選ばれたのは完全に消去法で、やれそうなのが私しかいなかったせいだ。
将軍達は軍人で政治には口が出せない、王様、ナギ、マジックは論外、アニスは無役である。

ほら、私しかいない。

前にも説明したが、あの時フラン副官が将軍職を引き継ぎ、大貴族の一員であるサイアス将軍が四天王になっていたなら間違いなく彼が交渉役に選ばれていただろう。



まぁ、そんないきさつから敵情視察&情報収集もかねてパーティーに行ったのだけど、そこでラドン長官から思わぬ情報を得た。

………

……



「貴族達が通う、幼い少年少女達を愛でることができる店がある。」


最初この話を聞いたとき自分の耳を疑った。
だって、どう考えても通っているのは長官派の腐敗貴族なんだから。

けど、話しているうちに気づいた。
ラドン長官、この事を高尚な趣味なんて褒めたりしている割にはその目に嫌悪感があったことに。

でその後、その店について調べてみたら、まぁ、とんでもない店で、表向き普通の孤児院なんだけど、その裏ではロリコン専門の売春宿だったの。

詳しくは避けるけど、幼児のうちから性的サービスを行わせたり、どんな虐待行為もお金次第。
調査結果を見てここまで胸くそ悪くなったのは初めてよ。


趣味は仕方ないわよ、たとえそれがロリコンで有っても。
けどね、虐待は趣味じゃないわよ犯罪よ!
子供から笑顔を奪うなんて世界にケンカを売ってるくらいの重罪よ!



結局の所、ラドン長官は全くそんな趣味がない上に同じくらいの年齢の娘をもつ父親として嫌悪感から情報をリークしてきたと判断したわ。

もっとも、その後が困ったのだけど。

「ちょっと、パパイア、何も困る事なんて無いじゃない。
 そんな店さっさとつぶしちゃえば……。」

これだからお子さまは。

…アニスの方はムシ使い村を経験しているだけに問題点がよく分かっている様ね。

「確かに、王様に知らせて成敗のミトに退治してもらうなり、何なら私達が出張って潰してもいいわ。
 実際そんなに手間は掛からないと思うし。
 けどね、その後どうするのよ。」

「え、その後って?」

「………マジックさん、子供達のことですよ。」

「あっ………。」

そう一番の被害者、子供達が問題なの。

単純に考えれば、他の孤児院へ行くことになるのだが、こう言ってはなんだけど他の孤児院もろくなもんじゃない。
下手すれば同じ事の繰り返し、よくても幼少期に大人の汚さを見せられ傷ついた子供達の心がほったらかしになってしまう。

ちなみに私達で保護するというのも却下だ、負担が掛かりすぎる上に、この子達だけ特別扱いはできない。
残念なことに、この国では育てられずに捨てられる2級市民の子供はたくさん居るのだから。

だから最初は、アニスや他の仲間に言うつもりはなかった、私の愛すべき馬鹿な友達は自分の体にどんなに無理をさせても助けると言うのが分かっていたから。

「けど、教えてくれたと言うことは何か問題解決の策があるということよね。」

流石、お子ちゃまでも四天王、頭の回転が速い。

「まぁ、今のうちに世の中にはできないことがあると教えるつもり。
 ………でもよかったんだけど。
 今回はなんとか解決策を見つけたの。
 それが、二番目の話題のペンタゴンよ。」

そう、潜入しているフランから、実に興味深い情報をもらった。



≪ウルザ・プラナアイス≫

私と同じ年齢でありながら既にペンタゴンでは最高幹部の『八騎士』であり、いくつもの襲撃作戦を成功させてきた実力者である。

しかし、ただの優秀な実力者だけでは、それほど興味の対象にはならない。
わたしの目を引きつけたのは潜入しているフランからの個人情報だった。

この子が1級市民と2級市民との融和を目標としている、いわゆる
『甘ちゃんな理想家』
ということだ。

実力の伴わない理想家は、単なる逃避行動の誤魔化しか、ただの馬鹿だ。
しかし実力の伴う理想家は違う、その理想の実現ため努力し自らの現実として突き進む、尊敬に値する人間だ。

ある意味このウルザという女性、アニスに似ているのかもしれない。
あの子もまたゼス、いやゼスの改革はその後の理想のための段階の一つだろう、おそらくあの子は世界の改革ために行動しているのだから。

ああ、思考がそれたわね。

このウルザの情報に興味深いことがあった、それが『弱者の保護』。
彼女は私財をなげうって、1級市民に傷つけられた子供や女性達を保護している。

これだけ見ても、今まで1級市民憎しでテロ行為しか眼中になかった他のペンタゴンとは違う事が分かる。

ただ、あまり感謝はされてないけどね。

確かに、2級市民に貧しい生活を強いてるのは貴族だけど、テロ行為で2級市民を大量に巻き添えにしてるのはペンタゴンなのだ。
そんな組織が救済活動しても自作自演にしか見られない。

てゆうか、私が四天王になったあたりから、とみにテロ行為が激しくなってるような気がするんだけど。

………娘が四天王になったことからくるストレス解消のためにやってるんじゃ無いでしょうね、お父様!


おっと、話がそれたわね。とにかく彼女はやっと現れた私達が交渉できそうな2級市民達のリーダーというわけよ。

「あまりにもまともなリーダーシップとれる人間がいないもんだから、ほんと冗談抜きでフランに組織乗っ取らせて無理矢理交渉の代表をでっち上げてやろうかと思ったわよ。」

「…それは、ちょっと。」

「パパイア、黒いわ。」

アニスとマジックちゃんの二人とも引いちゃったけど、要はそこまでどうしようもない状況だったと言う事よ。

で、話を戻すけど、少し前、このウルザのグループにこの店の情報を回したの、そしたら見事に思った通りに動いてくれた。

ただ、計算外だったのは子供達を救出に向かった者達の戦闘力だ。
はっきり言って、とことん弱かった。

ウルザ側は50人位対して相手側は10人ちょっと、にもかかわらず、まともに戦えたのはウルザ以下2,3人で後はボロボロ。

まぁ考えてみれば、これまでペンタゴンの戦い方は爆弾や毒ガス攻撃などの間接攻撃がメインで、直接戦うのも闇討ち、不意打ち、圧倒的数による飽和戦だから個人個人の技量が上がるわけがない。
今回のような救出作戦は、狭い場所での個人戦か少数のチーム戦がメインになるためどうしても個人の力が必要になってくる。
その上、この国の2級市民は魔法に対して恐怖や苦手意識を持っているため、どうしても不利になるのだ。

結果、売春組織トップの園長は逃走、子供達もほとんど助けられないどころか、何人かはこの騒ぎのどさくさで犠牲になるという最悪の事態になってしまった。

「なによそれっ!」

「ほぼ、考える中で最悪の結果ですね。」

うん、私もそう思う。

それどころかあの園長すぐに違う場所で、店、開きやがったし。
何が、孤児院『天使達の巣』よ、完全になめてるわね。


「と、言うわけで今度は失敗しないように私が出ようと思うの。
 まぁ、私一人でもつぶせるとは思うんだけど、一人でもノウハウ持った奴が逃げちゃうと元の木阿弥だから、あなた達にも手伝ってほしいの。」

「もちろんよ、そんなゲス共、全員潰してやるわよ。」

何かしたくて仕方なかったマジックちゃんは私の助力要請にあっさり了解した。
で、アニスは……、

「パパイアさん、もちろん私も喜んでお手伝いさせていただきますが、………この作戦はウルザさん達と絶対に会わなければいけませんよね?」

……ああ、そうか、アニスはそのことを心配していたのか。

今回の作戦はどうしてもウルザ達と会わなければいけない。
なぜなら、組織を全滅させても子供達をウルザ達の組織に保護してもらわなければいけないからだ。

組織を全滅させた場所に保護してもらうはずの子供達を置き去りにしているだけなら、間違いなく警戒される、下手すると保護してもらえないかもしれないからだ。

ただ直接会う、ということはこちらの姿を見られるということ。
この年でペンタゴンの最高幹部にまで上り詰めている程の人材だ、直接会えばどこで私達が四天王とばれてもおかしくない。
将来はともかく、今は正体がばれるのはまずい。

だけど、そこはそこで考えている。
私もそこまで抜けてない。


「ぱんぱかぱ~ん、……仮面舞踏会用仮面!」

取り出したのは白い目の部分だけを覆う仮面。
これを被れば大丈夫!

………どうしたのアニスちゃん?ずっこけて。

「…ば、ば、馬鹿にしてるのですか!
 そんな物で目の部分を隠したくらいで正体がばれない訳無いでしょう!!」

え、え、WHY、なぜ?

「………パパイア、私もいいかげん世間知らずだと思うけど、あなたも大概ね。」

「そうですよパパイアさん………。」

「普通の家の出で、政府の役職にも就いていないアニスが、そんなアイテムのこと知ってる訳無いじゃない。」

「え?
 物を知らないのは私?私なんですか?!」

ああ、そっか、貴族のパーティーに出たことのないアニスは知らないんだ。
どうも最近、貴族達との付き合いが多いもんだからすっかり忘れてたわ。

「これはねマジックアイテムなの。」


**********

・仮面舞踏会用仮面

主にゼス王国の貴族達の間で使用される。
仮面には認識撹乱用の魔法が掛けてあり、話をしているときは違和感は無いが着装している相手と別れてしばらくすると着装者の顔、服装、体格など特徴を記憶していないことに気づく。
認識しているのはせいぜい性別くらい。
一般に出回っている物はそれほど強力な物ではなく、ディスペル、幻覚破りのアイテム、魔法使いの貴族の家に掛けられている防御魔法で簡単に阻害される。

**********


「はぁ~、随分とご都合主義というか、便利な物があるのですねぇ。」

「まぁ、これはパーティーなんかで酒に酔って大事な情報を漏らしても誰が漏らしたか判らなくしたり、貴族達が一夜のお相手を漁るときの後腐れを無くすために作られた物なんだけどね。」

「けど、こんな物一般に出回ったら大変じゃ無いですか?」

「このアイテム自体それほど強力な物じゃないから、魔法使い相手にはまず通用しないし。
 それに、アニスが知らなかった様に、元々の数が少ないから一般に出回ることもまず無いわ。
 もっとも、これのオリジナルは、かなり強力だそうだけど。」


今回行く場所は非合法の売春宿、顔を隠して行く類の場所なのでまず防御魔法は掛けられてはないだろう。
ウルザ達についても、彼女たちのメンバーに魔法使いなぞ居るはずもないから、まず大丈夫でしょう。






≪三日後、『天使達の巣』前≫



元々、一人でも行くつもりだったため、この店の情報は既にフランを通じてリークしてあった。
そこから、本日がウルザ達の強襲日という情報が入ったため、計画を実行することにした。
彼女たちが来る少し前に、私達がここを強襲するのだ。



………しかし。

「ねえ、ここのどこが『孤児院』なの。」

「よくて大きな宿屋………。」

「どう見ても売春宿にしかみえないわよねぇ。」

私達がたどり着いた場所は裏町の一角、…まぁ建ってる場所はいいわよ。
けどね、そこにあった建物はどう見ても大きな屋敷、もしくは宿屋、いわゆる多階層タイプの建物でいわゆる個室が多い作りの建物だ。
誰がどう見たって『孤児院』には見えない。

正式に孤児院として登録されているはずなのに………。
これは登録する役人も一枚噛んでるわね。

出入り口の前には門番までいるし。
どこの世界に門番の居る孤児院があるのよ!





「失礼ですが初めてのお客様ですね?
 どなた様からのご紹介ですか?」

出入り口に近づいた私達に門番が話しかけてくる。

どう見ても金持ちの魔法使い(お互いが認識できなくなると困るのでまだ仮面は付けてません)の姿をした私達を見て客だと判断したようだが、………どこの世界にこんなうら若き少女がロリコン専門店なんかに来るかー!


「…これが紹介状よ(にっこり))
 黒色破壊光線!!」

私は来るまでに溜めていた魔法を門番と門扉にぶつけた。

・・・ズガーン!!

魔法は門番を消し飛ばしそのまま門扉を破壊した。


……やりすぎた?


「…やりすぎよ。」

「門番なんて人間の形が残ってませんよ。」

「……いいのよ、これは宣戦布告の号令なんだから。
 それに今回は殲滅戦よ、一人も生かしちゃだめ。
 話して情が移る前に殺しなさい。」

「………判っています。
 今回の作戦は甘いことを言ってられないくらい。」

アニスは覚悟を決めた顔で私の言葉に応えた。

この子は優しい。
そう、敵にすら情を掛けてしまうくらいに。
しかし、それと共に強力な厳しさを持っていることも知っている。
この子は例え後で後悔しようとも決して判断すべき時に迷わない、だから戦場であっても誰よりも信じられる。

「ああ、これ以上使うと建物自体が崩れちゃうかもしれないから、無差別破壊しちゃう『破壊光線系』は使用禁止ね。」

「…あんたがいうか。」

マジックちゃんから突っ込みが入ったけど、ここは華麗にスルーさせてもらう。

さて、建物に突入よ!



崩れた入り口から入ると中には3人ほど男が倒れていた。
客の案内係兼警備員といったところだろう。
もっとも、さっきの私の魔法に巻き込まれたようでまともな形をしている者は居なかったが。

この建物は以前のものと違い、急遽使用された建物のため以前あった抜け穴等が無いのは確認済みだ。
1階を押さえたから勝手口から抜け出すこともできない。


…さあ、外道ども裁きの時間だ!



建物には奥に行くためと思われる3つの階段があった。
この建物の人間を虱潰しにするには分散しなければいけないみたいね。

「じゃあ、私は中央の階段を行くわ。
 ミスA(アニス)は右を、ミスM(マジック)は左をお願い。
 何かあったら携帯で連絡をちょうだい。」

「わかったわ。」

「了解です。」


**********

・携帯伝話(通称、携帯)

通話用のマジックアイテム。
固定型と携帯型の2種類あるが携帯型は登録した所にしか掛けられず通話用念波は持ち主の魔法力で上下する。
一般販売用に魔池を使用している物もあるがこちらは念波が弱いため同じ一般用に掛けるとトランシーバー並の距離しか通話できない。

**********



二人と別れ通路を突き進む 。
通路に扉は少なく、偶にあってもそこは客室ではなく従業員の待機室のようだ。
そのため戦闘を繰り返すことなり、既に10人以上の関係者を葬っている。

……どうやら私が当たりみたいね。

いま私の目の前には『園長室』と書かれたプレートが飾られている大きな扉がある。

さて………、

……プルルルル!

携帯が………マジックちゃんね。

「はい、どうしたの?」

「こどもが、こどもが!!」

携帯から聞こえたのは涙声が混じったパニック寸前の声。

「落ち着いて!ちゃんと話しなさい!!」


内容は想像通りだった。

マジックちゃんのルートは客室だったようで、戦闘自体は見張りの2人しか居なかったそうだが、助け出した子供達の方が問題だった。

大人達の理不尽な暴力に晒され、性的虐待を受ける地獄の日々、そのため子供達の心は………。

年齢の近いマジックちゃんにはつらい現実だったようね。


本来、今回のようにいわゆる『汚い任務』は子供のうちは避けるべき任務だ。
しかし、私は今回の件にあえてマジックちゃんを加えた。
なぜなら彼女は次代のゼスを背負う王族であり、現在の四天王だからだ。
たとえそれが押しつけられた地位だとしても、なったからには最もこの国の汚い部分を直に見てほしかった。

冷たいようだが、もしこれで潰れるようなら彼女の四天王離脱を進言するつもりだ。
いまこの国はまだ11歳のプリンセスにそこまで要求するほど病んでいるのだから。

大丈夫、まだ彼女と話すようになってそれほどたってないが、彼女ならきっとこの苦しみを背負ってなお前に進んでくれるはず。
私はこれまでの付き合いでマジックちゃんに千鶴子やアニスと同じ光を見たのだから。


………これでも期待しているのよ、マジックちゃん!



マジックちゃんには子供達をまとめて私の所へ来るよう指示した。

その後、アニスからもマジックちゃんと同じような内容の報告が入ったが、流石に幾つもの場数を踏んできているだけあって割と落ち着いている感じだった。


だけど、………きっと心の中ではすごく泣いてるんだろうな。





さて、子供達が来る前に頭を潰しておきますか。

「黒の波動!」

私の魔法の一撃であっさり扉が吹き飛ぶ。
日頃、ガチガチに魔法が掛かってる建物に住んでるから一般の建造物がすごく脆く感じるわね。

部屋の中には部屋の隅でふるえている老人の男性が一人居た。

「わ、わしが悪かった。
 命だけは、命だけは赦してくれぃ。
 すまんかった、すまんかった………。」

ふるえながら、私の方を拝むように命乞いをする。

ふ~ん、そうくるか~。

けどね、あんたの目、ちっとも怯えてないのよ!

「チョウアンコク!」

ためらいもなく老人に攻撃魔法をぶち込む。

「なにをする!」

老人はとっさに防御態勢をとり私の魔法に耐えた。

へ~ほとんどダメージが通ってない、結構やるようね。

「あなた、目が全然怯えてないわ。
 そんな演技で騙されるのはよっぽどのお人好しだけよ。」

その言葉に老人はもう演技で自分の本性を隠そうとせず、笑い出した。

「くくくく、少しはやるようだな小娘。
 だが儂も
 『煉獄のヨーゼフ』
 と呼ばれた男。
 見るがいい、儂の秘術を!」

そう言うと老人の姿は見る見る変わっていった。

身長は2倍ほどになり、躰つきはムキムキのマッチョ。
そしてその体からは溢れんばかりに魔力に満ちている。

「……強化魔法か、しかもこのタイプは禁呪っぽい。」

「知っていたのか小娘。
 これはあまりに強力すぎるため封印された魔法じゃ。
 肉体は一流の戦士ですら凌駕し、魔力も10倍以上に強化される。
 まさに無敵の呪文なのじゃ!」

「ふ~ん、じゃあ知ってると思うけどその手の魔法って、使った後、スカスカになって死んじゃうんじゃ無かったっけ。」

「…物知りだな小娘。
 だが、自滅を待っても無駄だぞ。
 儂はもう一つの禁呪を使うことによってこの欠点を補えることに気づいた。
 ………ライフドレインじゃ。」

「ライフドレイン?」

「若く生命力の溢れた対象者から生命力を奪い術者のものにする。
 戦闘時には使えず、使った対象者は死んでしまうが、この呪文で消費されたエネルギー分は十分まかなえる。
 それに対象となるガキはここにいくらでもいるからなぁ。」

………最低!
元より生かす気は無かったけど更に無くなったわ。
絶望を見て死になさい、ゲスが!

「死ね!」

私に殴りかかってくるヨーゼフ。
確かに一流の戦士以上の肉体になったかもしれないが所詮魔法使い、縮地を使える私から見ればまだまだ遅い。

決して広いとはいえない室内での追い駆けっこが始まる。

「えい、くそ!
 まて!
 チョロチョロしおって。」

私は室内を縦横無尽に走り回る。
ちなみにヨーゼフが魔法を使わないのは強化魔法の使用時間が短くなるせいだろう。

さて、そろそろかな。

部屋の中心で止まるとヨーゼフもまた目の前で止まった。

「とうとう観念したか。」

ばかね、それが狙いよ!

「封印結界!」

私がただ逃げているだけと思ったか?
逃げていたのは細工をするため。

ただ逃げてるように見せかけて室内にばらまいておいた結界石から光がのび、その中央にいたヨーゼフを呪縛する。

これは元々、神魔法の『魔封印結界』を参考にした魔法だ。
相手の動きを止める魔法は『ストップ』、『スリープ』などがあるが、いかんせんある一定以上の実力を持つ相手にはすこぶる効きにくい。
そこで魔人をもくい止めるこの魔法を魔力でコピーし強力な拘束力を持つ魔法を作り上げた。

ただ、確かに強力な魔法なのだが、欠点が一つ。
あらかじめ対象者を囲むように結界石を配置しておかなければならず、少々使いずらい。

「か、体がうごかん!」

何とか抜け出そうともがいたり、魔法を放出したりしているが、無駄よ。
拘束時間こそ短いけれどその拘束力は筋金入り。

で、これがあなたを滅ぼす呪文!

「右手にデビルビーム、
 左手に黒色破壊光線、
 ……融合!
 物質化!!
 発動!『巨神殺し』!!」

そう、私の手にはかつて千鶴子がチェネザリとの戦いで使用した
『巨神殺し(闇バージョン)』
の長大な槍が握られていた。
私にはブースト能力は無いため千鶴子ほどの威力はないが、私の持つ最強の攻撃魔法だ。

「な、なななな、なんなんだ!
 その魔法は?!
 そんな魔法しらんぞぉ!!」

私の持つ魔法の槍に内包された魔力に恐怖するヨーゼフ。

「覚悟しなさい、あなたを確実に葬るため、私の持つ最強の攻撃魔法を使ってあげます。」

「シュート!!」

私の手から放たれた魔法の槍は狙い違わずヨーゼフに吸い込まれる。


・・・シュガーン!!



そしてヨーゼフは首だけ残して消滅した。
ついでに余波で後ろの壁がきれいに消えた。


………ちょっと強力すぎたみたいね。





それからすぐにアニスとマジックちゃんが子供達を連れてやってきた。

子供達には私が今まで虐待していた大人はすべて倒し、その元締めのヨーゼフもこの通り倒したと転がっていたヨーゼフの首を見せて説明した。
すると、始めは無反応だった子供達が段々表情を崩し………一斉に泣き出した。

ちょっとグロかったけど、うまくショック療法となり心が壊れた子供達の感情をうまく引き出せたようだ。





………部屋の外に複数の人の気配がする。
やっと来たようね。


「部屋の外にいる人、入ってきたらどう?」





[11872] 第18話  ファーストコンタクト
Name: ムラゲ◆a283121b ID:a7d82135
Date: 2012/03/29 01:18
第18話  ファーストコンタクト





皆さん初めまして、ウルザ・プラナアイスです。

今回は、私がご案内をさせていただきます。


このころの私はまだ、理想を夢見る事に一生懸命のころでした。

そんな夢見る少女の時代(自分で言うと恥ずかしいですね。)、私の人生を大きく動かす事となった、黒い魔女に出会った時のお話です。






◇◇◇◇





これはいったい………。





《回想》


少し前、ペンタゴンの本部にいた私に同僚から有る情報を聞いた。



『孤児院を隠れ蓑にして年端の行かない子供達に売春をさせている場所がある。』



と言う、一般人からすれば耳を伺いたくなるような情報だった。



情報をくれたのはフランチェスカ。

2年ほど前に組織に入ったまだ若い組織員だ。
しかしながら現在、その実力から組織内でも注目の的になっている。

彼女の才能それは、

・一流と呼べるほどの剣の腕を有しており、入団初期からいくつもの危険な作戦に参加し無事戻ってくるだけではなく幾つかの作戦を成功させている。

・また、その際に何度か部隊をまとめる状況になったにも係わらず新人とは思えない統率力を発揮したことから作戦の実行能力も高く部隊をまとめ上げるカリスマも高い。

・個人行動にも優れた才能を見せ、何度も潜入作戦を成功させては情報収集能力の高さを示している。

などなど数え上げればきりがないほどだ。



おそらく次の集会で私と同じ
  『八騎士』
に、選ばれること間違いないと噂されている。

そして私も注目している。


むろん私が注目しているのは彼女の戦闘能力の高さだけではない。

もちろん、その事も注目している。
が、私が最も注目しているのは、彼女が何かと身近なテロ行為に走りがちな最近の組織の中で数少ない将来を見ることのできる人間だということ。

これまでの作戦も極力無駄な被害を出さないようにしており、目的を忘れて暴走することがまず無い。
まず、一般人を巻き込むようなことはしない上に、そのような状況になった時は即座に計画の変更を行える頭の回転の良さも持っている。

そのため、組織内では比較的穏健派の私と彼女は会話することも多くなり、今では友人といってもいい関係になっていた。


そんな彼女からの情報。
充分、信用できる情報源だ。


最もこの情報、元々彼女は自分で片付けるつもりで作戦計画の草案をネルソン提督に提出したそうだが、

『地味で自分達のアピール度が少ないうえにその後の苦労が割に合わない』

との返答をもらったとか。


………地味って。


提督ってば………。

あの方は組織運営能力や人心掌握術には長けておられるのですが、どうも作戦実行についてはご自分の趣味で行われているところが見受けられますね。
国と対決することをメインとする提督と国民を救うことを第一とする私と最近ぶつかる事が多くなりました。


そして、まだ独断で作戦行動の起こせない彼女は動けなくなりました。

そんな事で困った彼女は、友人であり自分の考えで独立行動を起こせる、現『八騎士』の私の所へ今回の作戦書を持ち込んだのです。


私はこの作戦を聞いたとき、あまりの酷いこの情報に始めから断るという選択肢は思い浮かびませんでした。

また丁度、最近やっと稼働し始めた、弱い立場の方達のための『避難所』が有ったことからその子供達を保護しようと決めたのです。

うん、こんなかわいそうな子供達は一行も早く助けないと。


急ぎ父や兄、同じ八騎士のダニエルに相談し、襲撃計画を練りました。
そして、一刻も早く子供達を助けるため動かせるだけの同士を集めてその孤児院に乗り込んだのです。


…しかし結果は最悪の形で失敗しました。


狭い室内での戦闘は、私達の唯一の利点、数の有利さを生かすことができず、敵の魔法攻撃に次々と倒されていきました。

それでも私やダニエル、父や兄は少しずつ敵を倒していったのですが、時間が掛かりすぎました。

治安部隊が駆けつけてしまったのです。

その上、彼らは建物に火をかけて逃げだしました。


………助けるべき子供は、ほとんど園長達に連れ去られてしまい、残された子供達の多くは火に巻き込まれ犠牲になってしまいました。



………私達はなんと言う失敗を。





◇◇◇◇


《現実》




そして今回、再びフランチェスカから情報が入りました。

逃げ出した園長達が別の場所で再び店を開いたと…。


今度は失敗しない!


今回は前回の失敗を教訓に人数を絞り込み、そのうえ新たに八騎士となったフランチェスカも参戦してくれる事になりました。

これ以上の失敗は許されません。

その為に突入メンバーで会議を開き、現場を想定した訓練もし、万全を期しました。


少しでも早く助けたかったけど、ごめんなさい。
その代わり今回は必ず助けるから……。





けれど………。

メンバーを引き連れ現場に到着すると、目の前には思いもしなかった状況が広がっていた。


…入り口が粉砕されてる。

???!

しかもその周りには店の者とおぼしき死体が!
いったい中で何が起こっているの?

慌てて建物に突入した私達は、それでも連携した行動をとるべく当初の計画通り、右階段を父と兄の部隊に左階段をフランの部隊に私とダニエルは最も激戦が予想される中央の階段を上ったのです。

通路の所々にある従業員兼用心棒と思われる男達の死体。
不安に胸を締め付けられながら店の奥を目指します。



〈〈〈〈・・・シュガーン!!〉〉〉〉


いきなり何かを吹き飛ばすような音と振動が建物を襲った。

咄嗟に身構える私達。


揺れが………、収まった!
いったい何が?


「何事だ!」

普段無口なダニエルも今感じられた膨大な魔力と衝撃に驚愕の声を上げました。


「急ぎます!」

不安から更に奥を目指す私達。
そして最奥の部屋には………誰か居る!

ドアの陰から室内を覗いてみると中には魔法使いらしき人物が3人と子供達が10人くらいいる。



………ゾッ!


何、いまの?


私の本能があの3人の魔法使いに恐怖している。

絶対戦うなと。


横を見て見るとダニエルも同じようです。
あの、血しぶき舞う戦場においてすら冷静沈着な彼が冷や汗をかいています。

私達は今まで色々な戦いを経験しました、その中には魔法使いとも戦ったことがあります。

30人以上の魔法使い達に囲まれたこともあるし、戦った数こそ少ないが魔法Lv2の才能を持つ強力な魔法使いとも戦ったことも…。

そんな私達が今思い浮かべているのは一つの言葉。



『バケモノ』



と。

その身からあふれ出す圧倒的な存在感、こちらに注意を向けていないのに押しつぶされそうです。

………けど、なぜそんな魔法使いが子供達を抱きしめ、更に子供達にしがみつかれて泣かれているの?

そんな状況に混乱しているとその内の一人から声が掛かった。


「あら、のぞき見なんてエッチね。
 部屋の外にいる人、入ってきたらどう?」


しまった、気付かれていた!


私達2級市民の魔法使いへの戦い方は奇襲か物量戦だ、この距離での遭遇戦は……。

いいえ、止めましょう。
先ほどの魔力がこの人達のものなら、その気になれば、次の瞬間に私達は消えている。

それに、今の言葉、そして態度、この方達は私達と話がしたいようだ。
なら、まだ道は有るはず。



「失礼しました。
 私、反政府組織『ペンタゴン』の一員で『八騎士』の位をいただいております、
 ウルザ・プラナアイス
 と申します。
 本日はそこにいる子供達を助けに参りました。」


私は一礼と供に自己紹介をした。

「あらっ、これはご丁寧に、
 ふふふっ、ごめんなさいね、実は………」

私がここまで丁寧に挨拶するとは思っていなかったのだろう。
以外だったのか魔法使いは意表をつかれた感じだった。


そこに突然の怒鳴り声、

「ウルザ、聞くな!」

魔法使いが何か話そうとした瞬間、突然、横から声が掛けられ私の前に人影が現れた。

メガデス・モロミー!!

「メガデスさん、いきなり何を?」

「何をじゃねぇ。
 こちらがしっかり自己紹介までして挨拶しているのに、こいつら自分達のことすっ飛ばして本題に入ろうとしやがった。
 それどころかこいつら『仮面』着けてやがるぞ。
 後ろめたいことがある証拠だ!」

あの~メガデスさん、現在の状況わかってます?


「あらあら、この仮面のことを知っているなんてなかなか物知りねぇ。」

「なめてんじゃねぇ!
 これでも、ここにいる連中は対魔法使い戦経験者ばかりだ、へたな小細工が通用すると思うなよ。

 バーナード!あたいに付き合え。

 ダニエルのじいさん、アベルト、なんとしてもウルザを守れ。
 あたい達がなんとしても時間は稼ぐ!!」


モロミーの口から出たのは悲壮なまでの覚悟。

『だめっ、戦っちゃ。』

すべてが、全てが終わってしまう…。


魔法使い達の出方を探ろうにも認識撹乱の魔法のせいで相手の精神状態が全く読めない。
もう、なんてやっかいな魔法なの!

あ!あああー。

しかも、前衛にいるモロミー達が、いきなり不吉な言動を!!

「バーナード巻き込んじまって悪かったね。」

「いやいい、俺の仕事は魔法の使えない者達に明日を作ることだ。
 なら、今はウルザを守る事が第一だ。
 それにまだ後にはフランチェスカがいる。」

「ふふふ、そういやあんた、フランにほれ……。」

「うるさい、黙っててくれ。」

バーナードさん、なに顔を赤らめてストロベリーな会話をしてるんですか。

…どう考えてもこの会話、死亡フラグですよね、死亡フラグですよね!


やめてー!
この状況でそんな不吉な会話、しないでー!!
冗談になりませんよ。


何とかしなきゃ、何とかしなきゃ……。


“クスクス”

そんな風に私がパニックになりかけている所に笑い声が聞こえてきた。
だれ?こんな時に!

「ごめんなさぁい。
 馬鹿にした訳じゃないのよ。
 あまりにあなた達が微笑ましくてね。」

魔法使いが話しかけてきた。
そして少し考えるような仕草をした後、

「そうね、確かに私達は一方的すぎて失礼だったわ。」

そう言って、リーダー格と思われる魔法使いが、両手を顔に近づけた。

「ちょっと待ちなさい!ミスP。
 まさか………。」

「うん、外しちゃう。」

そう言うと魔法使いは、顔から仮面を外した。




………若い、若い女性だ。


まだ、少女と言っていい年齢のはずなのにその身体からは男女問わず惑わす様な色気がある。

長い栗色のウエーブがかった髪、黒いロングドレス。

そして、何より圧倒的な存在感。

『仮面』によって隠されていたその力が余すことなく周りに放出されている。

そして何より、私は彼女を知っている。


「し、四天の……。」

「しー、バレバレだけど一応私の正体は内緒ということでお願いね。」

彼女は、指を唇に当てて私達の言葉を遮った。



《四天王  パパイア・サーバー》

実力主義で決定された今代の四天王、

筆頭 山田千鶴子

次席 パパイア・サーバー

三席 ナギ・ス・ラガール

末席 マジック・ザ・ガンジー

中でも上位2人はLv50を越え、実力においてゼスで5本の指に入ると噂される。

そして、次席のパパイア・サーバー、彼女はこの政府において情報等、比較的裏の仕事を受け持っている。

そして何より、私は彼女を四天王の中で一番警戒している。

なぜなら、彼女は我がペンタゴンの実質的指導者である

『ネルソン・サーバー』

の一人娘であるということ。

間違っても謀略で彼女とやり合いたいとは思わない。

彼女を知る者の中には、
『彼女こそが四天王の真のリーダーではないか?』
とすら噂されていることを私は知っている。


『ネルソン・サーバー』
如何に、提督が入団した当時、ペンタゴンは各都市ごとに分裂し、組織としての統一性が無かったといっても、名門魔法使い一族のの出身で有りながら、組織に参加して僅か1年で組織を1本化しその実質的リーダーに収まった奇跡の人物。

そのネルソン提督の娘。

実力については疑ってはいなかったけど、こうして直に会ってみると格の違いが自覚させられる。


間違いない、この子は提督を越えている。


「初めましてぇ、謎の魔法使いミスPよ。
 名前は言えないけど、その当たりは察してね。」

などとウインクをしつつ、挨拶をする彼女に
『謀略の魔女』
のイメージは無いのだけれど。


その後は彼女からこの場にいる説明があった。



二派に分かれた現政府の状況。

国を正常な状態にしたい王族派とこれまでの特権階級政治を続けたい長官派。
二つに分かれていると言っても未だ勢力は長官派の方が強く四天王の権力と王直属の四軍(まだ三軍しか掌握できてないそうだが。)の力でどうにか互角に持ち込んでいるということ。

そして今回の件、長官派からの諜報過程で情報を入手したものの下手に手を出せばどこから長官派に知られるともしれず。
知られれば諜報が難しくなる上にこういった事案が王族派のウィークポイントと思われ同種の事案を起こすことで王族派の行動の阻害を狙ってくる可能性が有る事から下手に手が出せないこと。などなど。

…有る程度予想できたのだけれど、やはり現在政府は大分揉めているみたいね。
王族派と長官派の抗争。
私達反政府組織にしてみれば、強大な敵が二つに分かれてくれるのだから有る程度の混乱は歓迎するところだけれど………。

そこでペンタゴンに潜らせている諜報員から(いるとは思っていたけどこうはっきりと言われると悔しいものがあるわねぇ~。)、弱者の保護を始めた変わり者のテロリスト(私の事ね)の話をきいて興味を持ち、ものは試しとペンタゴンに情報を流したと…。

フラン!しっかり国側の諜報に引っかかってるじゃないの。
…まぁ、あの子の事だから、判ってて引っかかったのだろうけど。

で、ふがいなくも私達が救出に失敗し、助けるべき子供達に被害が出た事から心配になり私達の事を見極めると供に確実に子供達を助けるために絶対に情報漏れのしないメンバーで救出に来たそうで。


………情けない、結局私達はこの人の手のひらで踊らされていた訳ね。
子供達を助けられず被害を出し、再度助けに来るも結局の所間に合わなかった。
どう考えてもよい印象を与えたとは思えない。



け・ど・ね、私達にも意地がある、そしてこの国を救いたいと思う信念もある。
どんなに、力が違っても只やられるわけにはいかないの!



「あの~、もしもし、何かすごく悲壮な表情してらっしゃるんですけど。
 なにか勘違いしてらっしゃいませんか?」


・・・えっ!


「だからね、今回はあくまで子供達を確実に助けるために来ただけで、あなた達をどうこうしようなんて考えてないわよ。」



え、え、え~!!

ストン!

気づけば私は腰を落としていた。
・・・腰が抜けた。


「あ、あ、あ、あのねぇ!だったらそんな強烈なプレッシャー浴びせないでよ、絶対勘違いするでしょう!」

「え?私プレッシャー出してた?」


まぁ、そのあとお互いに話し合い、一応誤解は解けました。

けど、常時あんなプレッシャーを出していないといけないなんて国の中枢ってどんな魑魅魍魎の場所なの。
できれば近寄りたくないわね。
はぁ、こんな事でこの国を革命することなんて出来るのかしら。





『政府における庶民派』

『テロリストの中で弱者救済を訴える穏健派』

立場は180°違うものの、最終的に行き着くものは近いもの。
その上私は、他の組織員と違い魔法使いとも協力していきたいと思っている。
最も現在のペンタゴンでは口が裂けても言えませんが。

話し合う事でお互いの妥協点も見えてきました。

しかし、


「あなた自身、信頼できるし、血に飢えたテロリストで無い事も判りました。けれど、あなたが『ペンタゴン』で有るかぎり公式的には協力できないわ。
 判るわね。」

とのお言葉。

確かに『ペンタゴン』は革命思想を唱えていても、やっている事は一般人を巻き込む事を厭わないテロ行為です。
私一人が弱者救済のため尽力しようと、世間は支持者を増やすための宣伝工作としか見られません。
ただ、この厳しい環境で反政府組織を維持していくには悲しい事に『追いつめれば何をするか判らない』という恐怖も必要なのです。


「それは私にペンタゴンを抜けろと言う事ですか。」

「そうは言わないわ。
 今の状況では難しい事も判っているし。
 ただ今後の可能性の一つとして考えておいてほしいの。
 私としてもあなたが内部から組織を変えていってもらえるなら願ったり適ったりなんだから。」


結局の所、今後の状況次第と言う事ですか。
今の状況では組織を出ても裏切り者と認識されるだけで何も出来ません。
そう、組織を出るなら、現体制の象徴ネルソン提督が失敗をしてからでないと………。


「まあいいわ。
 で、そろそろ私達戻るけど、保護した子供達まかせてい~い?」

「まぁ、もともと保護するつもりでしたのでかまいませんが、よろしいのですか?
 私達テロリストですよ。」

「まぁね、その当たりに多少不安は残るけど、今の私達じゃあ、この子達、違う施設に行くだけになっちゃうの。
 さすがにねぇ・・・かわいそうでしょ?」

「…
そうですね、この子達にはこれ以上辛い思いはして欲しくないですよね。
 判りました私が責任を持って預からせていただきます。」

「有り難う、助かるわ。」

「けど、貸し1つですからね。」

そう言って私が微笑むと、彼女も苦笑を帰した。

「うまいわね。
 けど、そう言うの嫌いじゃないわ。」

そして少し考えると

「…そうね、サービスよ。」

彼女はいきなり私の耳元に口を近づけた。
聞こえてきたのは幾つかの数字。

「私のプライベートナンバーよ。
 何か有れば連絡をちょうだい。
 けど、むやみに掛けちゃだめよ。わかっいていると思うけど一応敵同士だからね。」

そう言って彼女は踵を帰した。

「出入り口の所に怖いお姉さんがいるみたいだからこちらから帰るわ。
 ミスA、ミスM、行くわよ。」

彼女は仲間の二人を誘うと自分達があけた壁の穴から飛び降りて行った。
ミスAと呼ばれた人がやけにペコペコ頭下げて行ったけど、………やけに丁寧な人ね。




そして、部屋には私達だけになった。



「気付かれていたか………。」

そう言って出入り口からフランが出てきた。

「ちょっと前に到着したんだけど、中の状況が戦っているようでもなかったから様子を見ていた。
 尤もあの魔法使いがちょっとでもおかしな様子を見せたら飛びかかれるよう準備はしていたけどね。」

なるほど、彼女、姿の見えないフランの殺気を感じ取っていた訳か。
流石に四天王は伊達じゃ無いわね。

「で、どういう状況なの?これ??」

まぁ来たばかりのフランには状況が判らないか。
あのね、私はたったいままでこの国で一番おっかない人と話してたんだよ。
あっと、いけない!

「みんな、話は後々、今は子供達をつれてこの場を脱出するわよ。」

すっかり忘れていたけれど、ここ敵地のど真ん中だった、急いで逃げなきゃ。






そうして、私達の救出作戦は終わった。
あの後フランに状況を説明し、みんなで話を合わせ、子供達を保護施設に入れるとめまぐるしく忙しかったのだけど、どうにかこの状況を乗り切った。

公的にはあの売春宿は私達、『ペンタゴン』ウルザ隊の強襲を受けて壊滅した事になっている。
誰がしたのか知らないが(まぁあの黒魔女さんでしょうけど)見事な隠蔽工作です。

よって、あの場に魔法使いがいた事を知っているのはその場にいた私達だけ 。

今思い返してみても本当に現実にあった事なのかと思うほどショッキングな出来事だった。



今、わたしの手には一枚のメモが握られている。
そこには彼女から去り際に教えられたプライベートナンバー…。
間違いなく彼女がその場に居たというただ一つの証。



いずれこのナンバーを使うときが有るのだろうか。
今はまだ判らない。


ただ、彼女とだけは敵対したくないなぁ~。と思いつつ疲れた身体をベットに投げ出すのでした。



そう言えば、あの後やけにアベルトが嬉しそうにしていたけど・・・どうしたのかしら?











 あとがき(というか謝罪)


今回の作品にでるウルザの性格について絶対に
「ウルザはこんな娘じゃない。」
とのご感想をいただくと思いますが・・・・・・すみません!ムラゲの趣味です。

言い訳を言うなら原作のペンタゴン時代のウルザさんて完璧すぎてつまんない気がするんですよね。それに文章にしても私の文章能力ではつまらなくなってしまいましたし。

と言うわけで、表向きは頼れるリーダーに見えて内面ではいつも怖くてどきどきしているが持ち前の優しさと責任感から前に進んでいくけなげな子と言う感じにしました。

みなさまのウルザさんを汚してしまってすみません。なにとぞ寛大な気持ちで許していただけると幸いです。



[11872] 第19話  でたな変態!   ~ストーカーのススメ~
Name: ムラゲ◆89e54959 ID:75c548d3
Date: 2012/03/29 01:19
第19話  でたな変態!   ~ストーカーのススメ~


お久しぶりです・・・アニスです。

影が薄い、存在が空気、本当に主人公?
などと言われていますが、本当に主人公です。

今回こそは、今回こそは私がメインなんですよね。


・・・ギャピーー、て、天敵が!!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇





・・・・ふうっ、やっと終わりました。


私は今、千鶴子様へ今回の件について報告に行ってきた帰りです。

めんどくさい事ですがこういう事を疎かにしていると後々同じ組織内での行動に齟齬が出たりします。

報告、連絡、相談の徹底 。

これは現代であっても、この世界であっても変わらないことです。

もっとも、めんどくさがりのパパイアさんは

「水晶伝話でいーじゃない。」

などと言って結局ついてきませんでした。


あのひとは・・・。(汗)


まぁ、政務に関わらず、好き勝手にやらしてもらっている私があまり偉そうなことも言えないんですけどね。





ちなみにマジック王女とは千鶴子さまのところで別れました。

今回の一件、マジック王女にも中々よい勉強になったようです。
現在のゼスという国の底辺はどんな現状であるのか。
これは話で聞くだけと実際に見て感じるのとは、大きな違いがあります。

・・・割とショックを受けていようですね。

助けに来たのに、おびえられるか、無反応、表情が固まって同じことしか言わない子供たちの姿。
まだ十代前半の彼女には、被害者の少女たちとの年齢が近いだけにきついものがあったでしょう。

もっとも、そういう私も十代半ばの少女ですが・・・肉体年齢的には。

まったく、私たち自身も鬱になってしまいそうな事件でしたが、この事件が彼女にとって今後の糧になってくれれば、今後の彼女のためにも、そしてゼスのためにも幸いです。
この様な人間の裏側を抉り出すような事件は話に聞くだけと、実際に見て感じるのとでは全く心に受けるショックは別物ですから。



しかし、今回の件。
結局のところ最後の締めはウルザさんに頼りきりで他力本願この上なかったのですよね。

情けないなぁ~。

そのうち、なにか恩返しをしなくては・・・。

何がよいでしょう?

まぁ、そのうち考えましょう。
ただし、お礼なのですから、政府関係とはまったく別物でやらなくてはいけませんね。


けど、ウルザさんのグループにはあまり近寄りたくないのですよね・・・。

あれ(天敵)がいるから。

ウルザさんの後ろで巧みに私たちの視線に映らないよう隠れていましたが・・・。
あれ(エセさわやか男)、いたのですよね。

今回の件で興味をひかなければよいのですが。





ピー!ピー!ピー!!


おや、携帯がなってますね、・・・誰からでしょう。

「はい、アニスで「アニス!急いでパパイアのところに向かって!!」

キーーーン!!!

み、耳が、耳が。
・・・何事です!

て、この声は千鶴子さま!!

「何事ですか、いったい?」

「あなたが帰った後、水晶でパパイアと話していたのだけど、途中で客が来たとキャロットが伝えに来て終りになったの。」

・・・あの、何がおかしいのか全く分からないのですが。

「伝話が切れてから思い出したのよ、あの子、塔に来た客のことを
 『顔は覚えているのですが、名前をちょっと思い出せなくて。』
て、言ってたことに。」

・・・な、あのキャロットさんが!
・・・考えられません。

一般家庭ならともかく、パパイアさんがいるのは跳躍の塔、国の最重要拠点の一つです。
そこを、いくら顔を知っていても名前を思い出せないような人を通すなんて・・・絶対おかしいです。

キャロットさんは、パパイアさんにかなり高い尊敬を持っていますし、いまパパイアさんがどれだけ危険な状況で仕事をしているか理解もしています。

・・・まぁ、そんなキャロットさんの言葉だからパパイアさんもたいして疑わずに客に会いに行ったのでしょうが。


てっ!
私はなに冷静に状況を分析してますか。

パパイアさんが危ない!!


「千鶴子さま、私もすぐに塔に跳びます。」

「お願い!」

そう言って千鶴子さまからの伝話は切れました。






≪跳躍の塔≫





瞬間移動

便利なのですが、さすがに魔法防御が完璧な塔の中には侵入できません。

ええぃ、こんな事なら隠れ直通ルートを作っておくのでした。

イライラしながらも、私の持つフリーパスで塔へ入ろうとすると後ろから声が、

「アニス!」

振り返ると高速飛翔で文字どうり飛んでくる千鶴子さま。

「パパイアは?」

「今、扉のロックを開けて中に入るところです。」

「わかったわ。中に入ったら私のことはいいから直ぐに跳んで頂戴。おそらくパパイアは最上階ロビーよ。」

さすが千鶴子さま、こんな緊急の状態でも頭の回転は早く、最良のルートを見つけ出します。

ここに来るまで散々、塔に到着すればどうすればよいか考えたのでしょう。

「わかりました。」

塔の中にさえ入ってしまえば私は跳べる。
無事でいてください、パパイアさん!


ギィー!!

開いた!!

私たちは扉が開ききるのももどかしく中へ飛び込む。



「あれ、千鶴子さま、アニスさん?」

私がフリーパスで扉を開いたことに気付いたのでしょう、キャロットさんが奥から出てきますが今は構っている暇はありません。


「アニス!私は直通エレベーターで行くから!!」

「わかりました千鶴子さま!
 跳びます!!」

「パパイアをお願い!」

私が消える瞬間、千鶴子さまの親友を思う声が聞こえました。





≪最上階ロビー≫





瞬間移動を終え実体化した私は即座に周囲を見回します。


いた!


突然現れた私に驚いて目を丸くしているパパイアさんと・・・男?

ちいっ!!

うまく認識できない、認識撹乱の魔法か!

えっ?

男が何か、何かパパイアさんに渡そうとしている?






本?

魔道書!

ノミコンか!!

するとあの男はエセさわやか男!

しまったです。学生時代に本来あるべきパパイアさんの

『ノミコンのイベント』

がなかったからすっかり油断していました。
やっぱり、今朝のウルザさんとの接触イベントでいらないフラグを立ててしまいましたか。

てっ、また私は何をのんびりと状況分析していますか。

間に合ってください。

『縮地!!!』

その瞬間、私の周りの風景は高速に歪む。
私の『縮地』の到達距離は精々10メートル、元々戦闘時に使う技だから長距離には向いていない。
現在の私とパパイアさんとの距離は20メートル以上。
通常の倍以上だ。
けど今にも渡されそうな魔道書を妨害するにはこれしかない。
ええい!瞬間移動がもっと素早く発動できれば!!

フォン!

くっ!『縮地』が切れた。
あと少し、とどけ!!


ブァン!


本来掛けるはずのブレーキを使わず、身体ごと特攻した私は、回転きりもみしながら転倒した。

・・・痛い。

じゃない!

魔道書は?

ノミコンは??


あ、・・・ある、私の手に。

その瞬間私の全身から力が抜けた。
ま、間に合った。最悪のシナリオは回避できたんだ。


「ちょ、ちょっとアニスいったいどうしたの?」

「パパイア、アニス、無事?!」

いきなり目の前を吹き飛びながら跳んで行った私に不審の声を掛けるパパイアさんと、直通エレベーターでやってきた千鶴子さまが跳んでくるのがほぼ同時でした。

ははは、なんとか無事ですよ。
とりあえず今の状況を説明しないと・・・。


ドクン!


しまった!!





≪パパイアside≫





ちょっと、ちょっと、いったいどうなってるのよ。
私はうまく思考しない頭を無理やり回転させる。


今朝の売春宿殲滅の一件を伝話で千鶴子と話していたら顔見知りの客が来て。

で、その客から珍しい魔道書が見つかったから調べて欲しいって・・・

で、魔道書を受け取ろうとしたら、いきなり部屋に空間転移の魔法でアニスが跳び込んできて

で、直ぐにアニスが『縮地』使って私の目の前をバランスを崩したまま通り過ぎて・・・。


あれ、なにかおかしくない?

・・・

・・



いまはいつ?・・・・・答え 朝に売春宿を潰して戻ってきたところ。

ここはどこ?・・・・・答え 跳躍の塔

私は誰?・・・・・・・答え ゼス四天王の一人パパイア・サーバー

何をしていた?・・・・答え 顔見知りの男から魔道書を受け取ろうとしていた。

男?誰?・・・・・・・答え しらない!!!


くらっ!

軽い頭痛とともに私の頭は一気にクリアになる。

しまった!認識撹乱の魔法だ。

今朝私が使ったばかりなのに、私が掛かるなんて。
なんて間抜けな。



「パパイア!しっかりして!!」


事の異常さに気付いた瞬間、いつの間にか私の隣に来ていた千鶴子から声が掛かる。

「だ、大丈夫、今異常さに気付いたわ!」

私は反射的に千鶴子に答えると、目の前にいた男に対し戦闘態勢をとる。


やられたー!

今朝、問題事が一つ片付いた事で完全に気が抜けてた。
いつもならこんな単純な手、引っ掛からないのに。
あー完全に隙をつかれちゃったな~。

だけど、もう掛からない!
わたしは右手を振り上げた。


「跳躍の塔の守護者にしてゼス王国四天王パパイア・サーバーが命ずる、第一級警戒モード発動!」

私の命令とともに塔の防衛機構がフル稼働する。
この塔はこの国の最重要施設の一つ、むろん外部だけでなく内部にも防衛装置は設置されている。
もっとも、普段は何かの間違いで誤作動を起こしたらまずいので起動スイッチをOFFにしているのだけど。

機能としては単純なもので、

第一段階
 塔のメインコンピューターに登録されていない人物、物体に対しまずは非殺傷攻撃と捕縛魔法が展開される。
それと同時に塔内を巡回している近場の警護ゴーレムが招集され、攻撃を仕掛ける。

第二段階
 前記非殺傷行動が効果的でないと判断されると、当該地域が隔離され、塔の魔力炉を利用した攻撃魔法の攻撃が容赦なく侵入者に叩き込まれる。
 なお、対魔法能力や、魔法無効化能力を持った者もいるため(ハニーなど)物理攻撃に特化した重ゴーレム部隊が投入される。

第三段階
 これでもなお効果的で無いと判断されれば、最終手段として隔離地域丸ごと転送魔法が発動しランダムに跳ばされる。
 しかしこれはあくまでも最終手段だ、隔離地域丸ごと跳んでいくので塔に対する被害がシャレじゃすまない。


けどこれで侵入者は捕縛されるか、殺害されるか、排除されるはず・・・。
けど・・・、

「シンニュウシャハッケンデキズ。」

な!

メインコンピューターからの回答に私は驚愕する。
写ってない・・・こいつが。


そういえば・・・


ええぃ、何度同じ間違いを繰り返せば良いのよわたし!
冷静になれクールになれ、驚くのは後でもできる、今必要なのは、状況の解析と対策よ。

私の脳が高速で現状を解析している。

・・・

・・



あ、そうか!!

「その仮面、オリジナルね。」

その言葉を侵入者に叩きつける、すると侵入者はわずかに笑った(ように感じられた)。
やっぱりあたりか、可能性としては他にメインコンピューターに何らかの細工がされたと云うのも考えられたけど、ここは私の塔、メインコンピューターは完全に隔離してあるし他の塔より数段防御は堅い、私に気付かれずに細工をすることはまず不可能だ。
なら、相手がこの塔のコンピューターにも察知されない手段を持っていると考えるべきよね。


「あなた何者?」


仮面のオリジナルを持っていることから只者ではないとわかるが、貴族たちの刺客にしては行動に疑問が残る。

「刺客じゃあないわね、あまりに行動に無駄がありすぎる。
 まるで私のことを試しているような・・・。」


ははは!


私が心に浮かんだ疑問を口に出したとたん侵入者はいきなり笑いだした。

「なんなのこいつ」

千鶴子もどこか不気味そうに見ている。

「いや、失礼。パパイアさん。
 あなたがあまりにもあっさり私の行動を言い当てたので、ついうれしくなりましてね。」

・・・こいつ、いったい。

「と、いってもあなたたちには何の事だか全く分からないと思いますので、少し説明させていただきましょう。」

「ふざけないで!」

「いえいえ、ふざけてなどいませんよ。
 実はわたし、あなたたちののことは学生時代からよく知っているのですよ。」

「学生時代って」

「あらら、ストーカーさんだったのねぇ。」

「ストーカー・・・、少し違いますね。
 実は私、理想の女性を探しています。
 私の目蓋に映るその女性は美しく強く孤高の存在です。
 その女性に恋い焦がれ、私は長い間そんな女性を探しているのです。
 ただ美しいだけや、強いだけの存在には興味がありません。」

「ずいぶんと、好みに拘りがあるのねぇ。」

「ええ。
 ただですね、残念なことに表向きそう見えても実は私の理想の人物とかけ離れていることが多いのですよ。
 現実とは残酷なことです。
 そう、そこにいる千鶴子さんのようにね。」

「あら、以外、千鶴子なら私より強く美しいと思うのだけど。
 まぁ少し胸の部分がさみしいけど。
 ・・・巨乳がお好みで?」

「ちょ、ちょっとパパイア、何いきなり友人売り飛ばしてるのよ。
 それと胸のことは言うな!
 私はまだこれれからなのよ。
 そうよこれからよ・・・」

あ、しまった。千鶴子のテンションが下がっちゃった。
千鶴子ってば、ほとんど完璧だがらついつい唯一の欠点の胸をからかっちゃうのよねぇ。

ゆるせ、千鶴子、悪意はないのよ・・・たぶん。


「えーと、ごめん千鶴子。今現在、進行形で危険なんでそろそろ戻ってきてくれないかなぁ。
 ・・・侵入者も笑ってるけど。」

「ええい、そこの侵入者件不届きもの!
 そんなに人の胸がないのがおかしいか、おかしいのか~!!」

いやね、千鶴子さん。
たぶん侵入者は君の胸のことについて笑っているんじゃないと思うよ。
胸の件についてふった私が言うこっちゃないけど。


「いやぁ~すみません。
 ついついあなたたちの掛け合いが面白くて。
 パパイアさん、あなたの新たな魅力を見つけてしまいましたよ。」

しまった、やぶへびだったか。

「そうそう、そういえばまだパパイアさんの質問にお答えしていませんでしたね。
 なぜ、千鶴子さんではいけないのか?
 足りないからですよ。
 それは、最後のひとつ、孤高でないからです。」

「孤高でない?
 友達がいることが孤高でないなら、私も孤高ではないわよ。」

「ちょっと違いますね。
 べつに友達がいようと臣下がいようと愛人がいようと別に構わないんです。
 私が求めているのは、独立した強さという意味なんです。
 そこにいる千鶴子さんは一見、一人で何でもできる強い人のように見えますが、長い間いろいろな人を見てきた私にはよくわかります。
 彼女は精神的にかなり脆い。
 ただ彼女はそれを表に見せまいと強がっているだけです。」


「・・・はん、何を言うかと思えば、偉そうに。
 私たちは、これまでこの若さにかかわらず、幾つものむごい現実を見て感じて来たわ。
 その中には、心が壊れそうな出来事も幾つかあったわ。
 けどね、そんな中、千鶴子はいつも私たちのリーダーとしてみんなを支えてきたの。
 そんな千鶴子のどこが脆いっていうの!」

「うん、たしかに、大したリーダーシップをお持ちだと思いますよ。
 けどね、心の強さとリーダーシップは関係ないのですよ。
 その気になれば私はすぐに千鶴子さんの強さを壊せるのですから。」

「ふざけないで!あんたに私の何がわかるというの!!」

あまりに一方的な言葉に今まで黙って様子を見ていた千鶴子が切れた。
だが次の言葉で、黙ることとなる。



「アニス・沢渡」



この一言に室内が氷ついた。


「あなたも気付いているのでしょう。
 あなたの強さはだれかに依存した強さなのだと。
 本来のあなたは決して面倒見の良いリーダーじゃない。
 むしろその逆、自分では何も行動を起こさないのに周囲の行動には不満を言い、何かを行動することに恐怖する臆病者。
 そんなあなたが行動するただ一つの理由、それが『アニス・沢渡』さんです。
 幼いころにでも何か心の傷でも癒していただきましたか?
 その恩返しのつもりか、それ以降あなたはアニスさんの望む役割を担ってきた。
 今のあなたはアニスさんが望んでいるから、望むように行動しているのであって、本来のあなたは単なる臆病者なんですよ。」


・・・いきなりの千鶴子の人間分析、あまりといえばあまりの内容。
だけどその言葉を私は一蹴する事が出来なかった。
幾つか思い当たるところがあったからだ。

思い返してみれば千鶴子はアニスの意見に反対したことがない、叱ったり説教したりすることはあってもそれはあくまで無謀なことや危険なことをする行動に対してであって、アニスの目的に対して反対したことはない。

・・・思考中
・・・思考中
・・・思考中

・・・結論!

あちゃ~、二人は仲がいいと思っていたけど、そこまで依存してたとは。
今更ながら考えてみれば当てはまるわ。
せいぜいガールズラブ位だと思ってたんだけどなぁ~。


「千鶴子・・・」

「う、う、う、う、う、うるさーい!
 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいいいー!!!」

あ、きれた。


「たしかに昔はそうだったかもしれないわ。
 けど今は、今の私が本当の私なの。
 アニスにあこがれ、アニスに恥ずかしくないように努力し今の私を作ったの。
 始まりは確かにいびつな感謝と依存だったかもしれないけど、そこから努力した私を誰にも否定させないわ。
 そう!私が、今の私が『山田千鶴子』よ!!」


・・・さすが千鶴子、私たちのリーダー。


「そうね、あなたは随分長い間、人を見てきたようだけど、まだよく人がわかっていないわね。
 人はね、成長するのよ。」



「いやぁ~、たしかに成長しているみたいですねぇ。
 まさかここまで、しっかり宣言されるとは思ってなかったですよ。
 ・・・けど、まだ治っていませんよね、アニスさんへの依存は。」


・・・こいつ絶対性格悪い。


「パパイア、これ以上こいつと話しをしていても埒が明かないわ。
 こいつ、つぶすわよ!」

千鶴子のセリフとともに私にアイコンタクトが来た。

魔法の同時攻撃!

その内容を理解した瞬間、私たちは同時に叫んだ。


「「黒色破壊光線」」


放たれる黒い光線、私たちの完全にシンクロされた魔法攻撃の威力は単純に2倍の攻撃力じゃなくて、3倍を超える。
非詠唱のため少々威力は落ちているが人間一人消滅させるには十分すぎる威力だ。
というか、上級魔法のシンクロ打ちは完全に『対軍団用戦術呪文』の領域だ。


本来、こんな侵入者は捕まえて尋問がセオリーだけど・・・しかし、こいつに限っては私の勘がびんびん警報を鳴らしている。
こいつはやばすぎると。
こいつ相手に拘束目的の甘い攻撃など仕掛けようものなら絶対痛い目にあう。
大して会話はしていないが、私に十分な危険を認識させる人物。
これについては千鶴子も同意見のようで、不意を打てる最大級の攻撃呪文を選択してきたことからもよくわかる。



私たちが放った魔力の光線は目標を飲み込んだ。



・・・・な!なによこれ!魔法が、魔法が、引き裂かれた。


この塔は私の身体のようなものだ、特に私の生活する最上階には各種センサーが設置してあり、私の命令一つでそこにある情報がリアルタイムで私に流れるようになっている。
そう、今そこから流れてきた情報は絶望的なものだった。

戦術級、対軍団使用目的の巨大魔法が引き裂かれたという・・・。


「ねぇ千鶴子、非殺傷限定した?」

「冗談でしょう、あんなやばそうな相手にするわけないじゃない。」

だよねぇ~

千鶴子も自分の情報魔法から感知した今起こっている信じがたい状況に動揺しているようだ。
吐き出すように応えた。

「対軍団使用目的の戦術級魔法を耐えるでも相殺するでもなく引き裂くなんて。」

私たちの魔法が終了し次第にその残滓が薄れ視界が開けてくる。


「ほら、千鶴子出てくるわよ、戦術級魔法を引き裂いた・・・化け物が。」

「まったく、いったいどんなトリックを使ったのやら。
 ・・・え?
 二人?」

私たち二人のセンサーには、魔法の爆心地に、
『認識できない何か』
と、
『高密度の魔力を放出している人型』
がいた。

なるほど、この人型が、私たちの魔法を引き裂いたわけか。
この高密度の魔力、噂に聞く魔人クラス!



まさかこいつら魔人の先兵か!



次第に晴れる魔力塵、鈍っていたセンサーがフル稼働を始め敵の情報をかき集める。





え!


「ちょっと、パパイア、これって!」

「ちょ~とシャレになんないわねぇ~これ!」


魔力塵の向こう側から現れたもの。



それは、涙で顔をぐちゃぐちゃにした・・・アニスだった。






ーーーーーあとがきーーーーー


わたしの駄作をお読みいただいてくださる皆様、

大変申し訳ありませんでした。

私自身1年以上も間を空ける羽目に陥るとは全く思ってもいませんでした。
いろいろと言い訳があるのですが個人的なことですのでしません。

こんな無責任なことをした私の作品ですが、今後もお読みいただけたら幸いです。

本当に申し訳ありませんでした。



[11872] 第20話   失ったもの
Name: ムラゲ◆89e54959 ID:7e7f0751
Date: 2011/09/28 01:52
第20話   失ったもの





・・・死亡フラグが・・・

死亡フラグが・・・

死亡フラグが建っちゃいましたよ!!!!(魂の叫び)


byとあるへっぽこ魔法使い





◇◇◇◇◇◇◇◇





≪sideパパイア≫



魔力の残滓が無くなり私たちの前に現れたその姿は私たちがよく知っている姿だった。


「アニス!」


私たちの前に現れたもの、それは私たちにとって最も大切な仲間だった。


その姿は、

私たちの攻撃魔法を引き裂くために突き出された高密度に魔力が集中されている右手。

涙でぐちゃぐちゃになった顔。

大きな本を胸に抱いた左手。



・・・ん?


「千鶴子!サポート!!
 呆けてないで、時間を稼いで。今この状況をどうするか考えるのよ!!!」


私の怒声に、この異常な状況に呆けていた千鶴子の顔が瞬時に戦闘モードに変わる。


伊達に四天王はしていない。


これまでだって仲間が死にかけたことも何度もあった、あの苦い『ムシ使い村の虐殺』以来、二度と失敗を繰り返さないため、経験を積んできたのだ。

今回のような異常事態になったとしても、お互いが何かを命令すれば身体が自動的に戦闘態勢を作りだすまでになっている。


私たちの冒険時の役割はある意味複雑といえる。

私たち三人はパーティー内でだれもが頭の役割ができる。
まぁ、全員が魔法使いであるのだから頭がいいのは当然であるが。
それでも基本的には私が参謀、メインはアニス、そしてその意見を総合し判断を下すのが千鶴子だ。


冒険者という職業は非常事態のオンパレードだ。
一つのことが終わって直ぐに次の厄介事の来る連戦だけでなく、一つの厄介事にかかわっている間に次の厄介事がかぶさってくる重複戦まである。

そんな時、リーダーの判断を待っていたら間に合わなくなるなどよくあることだ。

ゆえに私たちはそれぞれが緊急時には独自に判断して動くことができ、そのうえにそれぞれが連携してお互いをサポートしあい、それぞれの指示に体が勝手に反応するまでに訓練した。

正直、冒険者という職業をなめてたわ。
ごろつきか、社会不適応者が成るものとばかり。



(注)普通の冒険者の冒険はここまで酷くありません。
   というかそうなる前に逃げます。
   通常の手段ではなかなかレベルの上がらないアニスがいるため、かなり無茶な冒険をしています。



そしてこの緊急事態。
アニスの原因不明な行動。
そのため千鶴子は正常な判断ができない。
なら、私がこのパーティーの頭になるしかない。
そう、私のやるべきことは、現状の分析と、その打開方法。


といっても、今回の分析わかりやすいといえばわかりやすい。



・・・あからさまに怪しすぎるのよ、その本!!





「その本が原因と言うことはわかるのだけど、なんなのその本?」

「いやぁー、あっさりばれてしまいましたか、なかなか素晴らしい観察力ですね。」



なんか、馬鹿にされてる気がするぞ。



「この本、本当はパパイアさんあなたにプレゼントしようと思っていた魔道書なのですよ。
 名を『ノミコン』と言います。」



ぶっ!!

な、な、

「「なんですってー!!」」



あまりの事実に思わずハモッて叫ぶ、私と千鶴子。



「なんで、そんな伝説級の狂気の魔道書がこんなところに。」

「いやぁー、以前ひょんな事から手に入れまして、そのうち役に立つかもと思いまして保管していました。」



は、は、はっ!
その言葉に呼吸が乱れ顔が引きつる。



『ノミコン』


狂気の魔道書、悪魔の魔道書と呼ばれる伝説級の魔道書。

その魔道書には幾つもの魔道の奥義が記され、更にその魔道書を所持しているだけで魔力が数十倍になるとされている。

だが、『ノミコン』が有名になっているのはそんなところではない。

かって、その魔道書を所持したほとんどのものが、突然狂気に捕らわれ発狂もしくは残虐行為にはしったからだ。
そのため千人単位の死者を出したことも何度かあり、現在では

≪第一級危険魔道具≫

に認定されている。
発見されれば問答無用で破壊、それが不可能なら厳重に封印した後、廃棄迷宮への廃棄が義務付けられている。



むろん所有者に対する生死は考慮されていない。
素直に渡すならよし、抵抗するなら殺してしまっても罪にはならないということだ。



そんな悪魔の魔道書がアニスの手に・・・。



「・・・パパイア、あれは?」

「まだ手に入ってないわ。」



いくら魔道研究が専門の私といっても、研究すべき課題は山とあり、
≪第一級危険魔道具≫
といえどもここまで詳しいのには訳がある。



ぶっちゃけ、アニスが異常に気にしていたからだ。







アニスは隠そうとしているみたいなので、しゃべっていないが、私たち仲間内ではアニスは何らかの先読みができると確信している。

異常なまでに的確な数々の助言、洞察力が鋭いというには限度があるこれまでの行動、私と千鶴子は常々違和感を感じていた。
だけどアニスはそれとなく聞いてもごまかすし、この話題に触れることを嫌がっているようなので、私たちの間ではこの話題はタブーになっている。



これについてはガンジー王も感じたようなので、以前話し合ってみたことがあった。
するとガンジー王いわく、

「アニスには軽い予知の力があるのでは?」

とのことだった。



世界には脅威とも呼べる占いや知識を持つ者もいるらしく、その人たちにかかれば、ほぼ100%の読みを発揮するらしい。

ゼス王家にも王のみに伝えられる知識として、命中率100%の占い師が王室顧問としているそうで、嘗てガンジー王も興味に駆られ会いに行ったところ、その命中率に恐怖したそうだ。

少し考えれば解ることだが未来がわかるということは一種の劇薬だ、強力な薬にもなる代わりに麻薬のように依存して身を滅ぼす可能性が高い。

未来を知るということはその未来に縛られるということ、その占い以外のことが怖くなり最後には新しいことをしようとしなくなる。
その先に待っているのは緩やかな死だ。

あのアニスのことだからその可能性は十分解っているのだろう。
だから内緒にしていると私たちは考えている。


そして、そのアニスのこれまでの言動から幾つか推測できることがあった。


そのうちの一つが、

『将来私かアニスが何者かに操られ、みんなと敵対する可能性がある』

ということ。

これについては、アニスが洗脳に関する知識を集めていたことが私にそう考えさせた。

洗脳をする知識ではなく、洗脳に対する対抗方法や解き方を集めていたし、その知識を私に対してしつこいまでに説明していたからだ。



そしてそれらの知識の中でアニスが気にしていた物の1つが

『魔道書ノミコン』。





まさか、こんなところで出てくるとは。

で、千鶴子の言っていた『あれ』とは、ノミコンの洗脳を解くことができる魔道具

『スーパー消しゴム』

のこと。



ゼスの博物館にあることは判明してるんだけど、今の館長がいい加減なやつで、展示品以外は整理もせず倉庫に放り込まれていたのよねぇ。


初めて倉庫を見た私たちの感想。

「なに、この混沌は・・・。」

さすがにこの忙しい時期に、あの倉庫を整理しながら探す気力はなかったわ。



とりあえず今の館長は長官派の貴族だから直ぐに首のすげ替えは無理だけど何人か見どころある人物を博物館に入れて整理させている。


だが、そのおかげで現在、アニスを救うすべが無くなってしまった。


ちくしょう、いつかあの館長、北のヘルマン国境豪雪地帯か南の未開原生林地帯に飛ばしてやる。
おぼえてなさい。






「しかしノミコン、何時ものあなたらしくもなく静かですね?」

仮面の人物がアニスに向かって話しかける。

するといきなり、アニスの手に持っている魔道書がしゃべりだした。



「ケェッケケ!このアマ、トンでもねえキャパの持ってやがる。操るだけで、一苦労だ。」

なっ、何なのこの非常識な魔道書は。



「操る?洗脳したのではないのですか?」

「このアマ、俺様が入り込んだとたん、精神を切り替えやがった。」

「切り替える?」

「こいつ俺様よりクレージーだぜ。対洗脳用に心を二つ作ってやがった。
 一つ間違えば精神崩壊を起こすってのによお。ケーケケケ、イッア、クレージー。」


ぶっ!

なにを、なにをやってるのアニスは、軽くて二重人格、悪けりゃ分裂症になるわよ。



「そこまでして?
 ・・・・少し、不可解ですね。
 ノミコン、今の心は操れないのですか?」

「だーめだ、駄目だ駄目だ、だめだめだ。
 こいつ、予備の心だけあってトンdもなくシンプルに出来てやがる。
 どこを見ても千鶴子さま千鶴子さまだ、しまいには
 『私は千鶴子さまがいるから生きている。』
 なんてセリフまででてきやがる。
 浸透する切っ掛けにもなりゃしねえ。」

「ほぉ、そうですか。
 ・・・
 ・・
 ・
 なら、そこまで大事にしている、
 『千鶴子さま』
 を自分の手で殺してしまったら・・・。」

「ケケケ、ナイスアイディーア。」



その言葉とともにアニスの両手が上がる。
ノミコンを持った両手が。






「千鶴子!くるわよ!!」

「わかってる!」

その言葉とともに千鶴子の両手が光りだす。

「術式起動!マルチタスク!!」



そして千鶴子の周りには10近い魔法陣が現れる。

千鶴子の切り札の一つ情報魔法を利用したマルチタスクだ。

これにより千鶴子は本来個人では使用できないはずの大魔法を扱える。


むろん今回使用するのは、

「術式解凍!敵弾吸収陣!!」



千鶴子の魔法が起動すると同時に私たちに白い光が迫ってきた。

白色破壊光線!

なら、防げる。



千鶴子がこのままアニスの魔力を吸収、そしてその魔力を使いそのまま拘束する。
アニスの魔法力で作り上げた拘束魔法ならいかにアニスでも通用するはず。



千鶴子が作り上げた魔法陣に白い光がぶつかった。



グワッブヲン!!!



千鶴子の魔法陣は白い光がぶつかるとともに・・・・・はじけ飛んだ。


「え、え、え、~!!
 なんで、どうして、どういうことなの?」

アニスの魔法を吸収しきれなかった?

ばかな、あの魔法は軍団殲滅用の戦術級合体魔法ですら防いだはず、いくらアニスの魔力が大きいからって、まだ許容範囲内のはず。



「・・・未完成なのよ。」

「えっ?」

「この魔法はまだ未完成なのよ。」

「どういうこと?」



「本来、この魔法は、一人では使用不可能なのは知ってるわね。
 それを、無理やりわたしの魔法陣を利用することで作動させているの。
 けど、それが通用するのはあくまで常人レベルの話。
 軍団殲滅用の戦術級合体魔法クラスを吸収しようと思うなら、どうしてもそれなりの前準備が必要になってくるわ。
 今回は慌ててたし、まさかアニスと戦う羽目になると思ってなかったものだから、まったくそういう前準備していなかったのよ。」

「ちょっと、そんな魔法じゃ、今回の件を別としても、これからの戦いに使えないじゃない。」



「この魔法を完成させる目安は付いていたわ。
 いずれある戦いまでには完成させるつもりだったの。
 ・・・ただね、ちょっと最近忙しくてそっちのほうに回せる時間がなかっただけで。」

「あちゃ~、こんなときにデスマーチワークの影響が来るなんて。」

私は額に手を当てつつアニスのほうを見た。





・・・ノミコンは大喜びだ。



「ケッ、ケケケケ、ケェッケケケ。
 すげえ、すげえぜ、てめえら。
 ケッケケケ。」


「こいつの魔力もトンでもねえが、そいつを防いじまうなんて・・・ケエッケケケ、聞いたこともねえぜ。」

「まったくです、あのレベルの魔法を緊急起動の魔法しかも1人で防いでしまうとは。
 いやいや、なかなか多芸でらっしゃる。
 ・・・
 ・・
 ・
 ノミコン、どうしますか?」

「ケッケッケケケ。
 オーケイ。
 嬢ちゃんたち、よく頑張ったな、敢闘賞をあげましょう。なーんてなケケケ。
 そんな頑張るお嬢ちゃんたちにプレゼントだ。
 さっきの、10倍の魔法をくれてやるぜ。
 ただ、うけとっちまったら跡形も残んねえかもしれねえなぁ~。」



その言葉に私たちの顔面が蒼白になる。


「なっ、10倍ですって。」


「おいおい、お嬢ちゃんたち、俺様が誰だか忘れちまったか~あ。
 世界最強の魔道書、ノミコンさまだぜぇ~。
 このアニスちゃんが普段セーブしているもんなんかとっぱらって、100%の力を出させることもできるし、俺様がブーストしてやる事もできるんだ。
 ケッケケケ、10倍なんか軽いもんだ。」



そういうと、再びアニスの両腕が上がり始めた。



「パパイア!」


「わかってる、・・・とりあえず2人の魔力を合わせて障壁を作るのよ。
 魔力を受け止めるんじゃない、そらすのよ。」



正直、こんなもので防げるとは私も千鶴子も思っていない。けど、少しでも時間を稼がなきゃ。


私の、私達の親友を救いださなきゃいけないのよ。





「おおっと、今回はやけに素直だな、諦めたか?
 それとも心が壊れちまったかな、ケエッケケケ。」


ノミコンが発した何気ない一言。
だがそれは私達に衝撃を与えた。



え?・・・すなお?

アニスが抵抗していない?

ばかな!
アニスはそんな簡単に諦めるようなヘタレでも、こんな短時間で心が壊れるほど弱くもない。



なら、なんで・・・?



私が考えに入ったとたん、横から千鶴子の叫び声が上がった。

「やめて!!
 アニス止めるのよ。
 かならず私が何とかするから、やめてー!!!」



千鶴子の悲痛なまでの叫びが室内に響き渡る。


「嬢ちゃん、命乞いか。
 ケエッケケ、けどやぁ~めない。
 絶望が気持ちいいぜケエッケケケ。」


ちがう、今の叫びは命乞いなんかじゃない。
もっと悲痛な・・・。



あっ!


まさかアニスは!!

私がアニスに目を戻したその先には、両手に高密度の魔法陣を展開させたアニスがいた。



「やめっ・・・」


「さ~て、お嬢ちゃんたち、さよならだ。な~かなか頑張ったほうだ。
 忘れねえぜ、お前たちのことは・・・・十秒位はな!ケエッケケケ。」



「さよならは、あなたの方です。ノミコン。」



「ケエッケケケ。・・・えっ?」



私の目の前にいるアニス。
その顔にはさっきまでの涙まみれの泣き顔はなく、確かにうっすらと笑っていた。





「この時を待っていたのですよ。」

その瞬間、アニスの両腕にあった光は爆発した。





ゴオオーンン!!!





・・・・・・・・・・・アニスの両腕は吹き飛んだ。










≪あとがき≫


みなさんお待たせしました。
20話を送らせていただきます。


長期の執筆停止に皆さんには見捨てられているかと思っていましたが、たくさんのご感想ありがとうございました。


遅筆な私ですが、なんとか続けていきたいと思っておりますので、長い目で見ていただければ幸いです。



追記

しかし、我ながら進まない小説です。
いつになったら、原作に行けるのやら。
この場面が終わってもまだ2つ位話があるのですよねぇ。
・・・私の駄文のせいなんですけど。シクシク。

ルアベさま
私の設定とかなり近いところまで予想されてびっくりしました。
『アニスは自分の魔法に耐えられない。』
この設定を覚えていただいていたとは、とてもうれしいです。


まほかにさま
ネルソンの設定をそこまで詳しくとは・・・脱帽です。
この物語はランスシリーズ独自ルートということでご勘弁を。
実際、パパイアあたりはかなり設定変えていますので。



[11872] 第21話   騒動終わって・・・何も解決していない?
Name: ムラゲ◆89e54959 ID:c508f7d0
Date: 2012/03/29 01:23
第21話   騒動終わって・・・何も解決していない?





・・・もう、パパイア伝でいいんじゃないですかね・・・

私、両腕飛んじゃいましたし・・・

私って、確かチート主人公ですよね。

なのに、ここまで悲惨な扱いを受けるなんて・・・。

きっと作者はアニスのことがきらいなんですねぇ~!!

びえええん!!!


byとあるへっぽこ魔法使い





いえ、大好きですよ、けどね・・・・・。

大好きな人ほどいじりたくなりません?

まぁ、エロいおねいさんが大好きということもあるのですが。

byとある二次小説書き






◇◇◇◇◇◇◇◇





≪sideパパイア≫



魔力の光が収まり私たちの前に現れたそれは・・・
私たちがよく知っている姿だった。
ただし両腕が肘から無くなった状態で。



「「アニス!!!!」」


私たちの前に現れたもの、それは私たちにとって最も大切な仲間だった。
わずか数年の付き合いのはず、にもかかわらず私の心にいつの間にか住み着き、大きな存在となった大切な『友達』。

いつも笑顔を絶やさない明るさ。

どんな苦境であっても前を向いて進んでいく強さ。

自分の大切な者のため、自分が守ると決めた者のため自らを傷つける事を厭わない危うさ。

そう、私は知っていたはずなのだ、気付いて当然のはずなのだ、あの子にとって大事な仲間を傷つけるということがどんな意味を持つのかを。





いま見えるその姿は、

私たちを攻撃魔法で引き裂くために集められた高密度の魔力が爆発したために消し飛んだ両腕。

声にならない悲鳴を上げ、その痛みと衝撃で歪んだ顔。

吹き飛んでいくアニスの肉体。

すべてがスローモーションのようにゆっくりと進んで行く。



・・・ん?
吹き飛んで?
アニスが危ない!!


その瞬間、私は縮地を発動させ、飛んでいくアニスの身体を捕まえ、その身体を確保した。
強烈な勢いで弾き飛ばされたアニスの身体を支えた事で私も一緒に飛んでいく。
だが、これ以上アニスを傷つけるわけにはいかない。
転がりつつもアニスを庇い、ようやく身体が止まった。


「アニス!!!」

勢いが止まり身体を起こしたとたん、再度、千鶴子の叫ぶ声が聞こえる。
だが、そんな事に構っている暇はない。
まずい、アニスが痛みでショック症状を起こしている。
声にならない悲鳴と、痙攣が止まらない。


「千鶴子!サポート!!
 呆けてないで、アニスの身体を押さえて!!!」


私が怒鳴る。

「アニスアニスアニスアニスアニス!!!」

だが、千鶴子の精神は戻らない、アニスの名を連呼しながらこっちにかけてくる。


ええい、いつもなら直ぐに冷静になるのに。
このままじゃ、アニスに抱きついて揺さぶりかねない、この1秒が大事な時に。


「千鶴子!
 あんたは、アニスを死なせたいの?
 アニスがショック状態で麻酔が打ち込めないのよ。
 腕ぐらい私が後から義手でもクローン培養でもして絶対直して見せるわよ。
 だからお願い、正気に戻って!!
 アニスを痛みから解放させて。」


ドン!!


その瞬間、私はアニスから無理やりひきはがされ、千鶴子がアニスに抱きついた。


千鶴子!あなたまだ・・・・・。

弾き飛ばされた、私が見たもの、それは狂乱状態になってアニスを振り回す千鶴子の姿・・・・・ではなく、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら必死で暴れるアニスを押さえる親友の姿だった。

「ごめんねアニス、ごめんねアニス、ごめんねアニス、ごめんねアニス。
 ・・・パパイア!何をしているの!!
 はやく、はやくアニスの痛みを無くしてあげて!!!」

もはや悲鳴に近い叫びをあげる千鶴子。
千鶴子が、千鶴子がギリギリで戻った。


私は慌ててアニスの手のない両腕を掴んだ。



私のセカンドスキルは『医術』。
冒険の回復役としては、アニスの回復魔法があるおかげで無用の長物となるべきスキルだった。
だが、アニスは、今後の事などだれにもわからない、私が回復に回れない状況になることだってありうる。
それに『医術』は『魔術』とちがったものを見せてくれるかもしれない。だからこのスキルは伸ばすべきだ。
そう言って、アニスは私が『医術』を研究することを勧めてきた。
当時はアニスが戦闘不能になって回復魔法が使えなくなるなど考えられなかったため軽く考えていたけど・・・あの言葉はこの時のためか!

アニスが勧めるので私は合間を見つけては『医術』の研究をするようになった、どうやら私には適応があったようで、研究しているうちに段々と楽しくなってきた。
ただ、薄笑いを浮かべながらメスを振るう私を見て、アニスが怯えるようになったのは・・・まったくの余談だが。

そして、これから使うのは、その研究の成果、『医術』と『魔術』の合体技、


「局所麻酔(ペインキラー)!」


私の両手を伝い魔力が染み込んでいく。

そして、両腕の痛みが治まり始めたためか、次第にアニスの顔から苦痛の表情が無くなり始めた。
ふう~、どうにか成功したようね。



本当ならば、苦痛から精神状態がボロボロのアニスを眠らせて、休ませてあげたかったが、けど今はまずい。
今のような苦痛でボロボロの精神状態のときに意識を失うと、精神が死んだと勘違いして心臓が止まってしまう可能性がある。
アニスには悪いがしばらくは我慢してもらわないと。



「おやおや、むごい状態ですね。いったい何があったのでしょうかね。」



私の後ろから、この場に場違いなのんびりした声が聞こえる。
その瞬間、アニスの身体が、私に預けられた。





「きさまと、もう話すつもりはない。
 ・・・死ね!」



そう、千鶴子だ。
私の麻酔でアニスから悲鳴と痙攣が無くなったのを見たのだろう。
千鶴子の精神はアニスへの心配や後悔の気持から、この状況を作り出した敵への純粋な殺意へと切り替わった。



縮地で仮面の人物の前に現れる千鶴子、そしてそのまま、すでに振りかぶっていた右手を打ちおろす。
いつの間に装着したのか手には『ナックル』が装着され、更に高密度に圧縮された魔力まで拳にまとっていた。



「白色彗星拳」



その言葉とともに、千鶴子の拳は仮面の人物を貫いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇

『白色彗星拳』

山田千鶴子の必殺拳。
属性パンチを参考に魔法剣士の魔法剣をベースに作成。
カラーの族長がつかう弓矢と同じと考えてください。
今回のは拳に白色破壊光線を圧縮して乗せたもの。
なお、今回魔法使いの千鶴子が魔法を使わずなぜ拳で戦ったのかについては、認識かく乱の魔法のため遠距離攻撃だと狙いを外される恐れがあったため。
「どこの天馬の闘士ですか。」(byアニス)





「うわ~、死んだねこりゃ、よりによって千鶴子の前でアニスに手を出すから・・・。」



そう呟きながら、私の手は高速でアニスの両手の血止めなどの応急処置を進めている。

くそ~、最悪の傷口ね。

高熱で焼けるようになっててくれれば、血止めにもなったのに、今回の傷口は内部から破裂するように破壊されている。
そのため傷口付近はズタズタで、肘位まで遡らないとだめだ。
どうりで、あそこまで苦しむわけだ。

危うく失血死するところだったわ。


そう考えながら今後の治療について考えていると、後ろの千鶴子の叫び声が聞こえた。



『違う!!』


その言葉に振り返る。


「どうしたの千鶴子?」

「こいつ、人形よ!」

千鶴子は身体を貫いていた右腕を引き抜き、首根っこを掴みこちらに見せつけた。
その身体、心臓の部分には大穴が開いており、一見異常は見られない。

穴?

あ、

「血が出てない・・・。」


そう、その仮面に人物の身体には大きな穴があいているにもかかわらず血が一滴も出ていないのだ。

千鶴子は荒々しく掴んだ身体から、仮面を取り外した。
そして仮面を取り外されたとたん、仮面の人物はただの人形に変わった。



「やられた・・・。」

仮面の人物はいつの間にか、伝話人形に変わっていた。

伝話機の人形版だ。
水晶電話が口にあり目の部分に映像を伝える水晶が取り付けられている。
そこらへんに普通にあるものではないが珍しいものではない。
子供へのプレゼントとしてよく贈られることから、子供を持っている貴族の屋敷に行けば1つや2つはあるはずだ。


いつの間に。


千鶴子が忌々しげに人形を地面に叩きつけた。

するといきなり地面に叩きつけられた人形がしゃべりだした。



「いや~、まさか問答無用で殺しにかかるとは思っていませんでしたよ。
 さっさと、人形と入れ替わっていて正解でしたね。」

再び聞こえる、この場には場違いな声。


「あなた、いったい何が目的なの?!」

「いえ、パパイアさん。
 私は別に貴方達を殺そうとか、捕まえようとか考えていたわけじゃありません。
 さっきも言ったでしょう、私は理想の女性を探していると。」

「それがいったい・・・、」

「その女性をどうやって見極めたら良いと思いますか?」



え?
まさか・・・。
私が原因か!



「わたしの見極める方法としては、これはと思った女性に試練を与え、それを乗り越える事で見極めています。
 ええ、本当は今回の試練、パパイアさん、あなたに『ノミコン』を与えその狂気を乗り越えられれば合格と考えていました。
 ・・・残念ながら今回はいきなりアニスさんに『ノミコン』を盗られちゃったので初手から失敗しちゃいましたけどね。
 けど、そうなると、もうこの場所に私のいる理由はありませんよね。
 だから貴方達がアニスさんに気を取られているうちにさっさと入れ変わらせていただきました。」


なんという自己中心的な男、自分の目的のためには他人の事などまったく考えない。
もっとも、たちの悪い性格だわ。
しかも、私の身代わりにアニスが傷つくことになるなんて。


だけど・・・。


「なら、まだ貴方はそんなに離れた所にはいないはず。
 しかも認識かく乱の仮面は置き去りにしているから・・・・。」

「なーんて事は私も考えていました。だから私が逃げるため時間稼ぎをしてもらいましょう。
 ねぇ『ノミコン』?」


なっ、しまった。
『ノミコン』!


「千鶴子!」

「わかったわ。」

私の一言に、千鶴子は『ノミコン』が投げ出されたと思しき場所に走り出す。
だが、遅かった、その千鶴子の前に黒い球体が現れる。
そして再び人形から声が。


「ねえ『ノミコン』、貴方はその2人の大事な人を操り傷つけました。
 これは、貴方がいくら貴重な魔道書であっても許されないでしょう。
 どうします?」

「い、いやだ。
 消えたくねぇ。
 俺様は、まだまだやりてぇ事があるんだ!」

「なら、そうですねぇ。」

その言葉とともに何かを考えるかのように間を空ける。
だけど、私にはその無言の裏に薄笑いをしている姿が見える。



「私は偶然にも貴方の『真名』を知っています。
 これを唱えれば貴方は一時的にですが元の姿に戻れます。
 元の『上級悪魔』の姿にね。」



その言葉を聞いたとたん、一気に背筋が冷えた。

上級悪魔?

ノミコンが?

そんな事聞いた事もない。
と、同時に私の身体は反応していた。



「そんなもの唱えさせてたまるものですか!
 アンコク!!」

わたしのスペルとともに手から黒い魔力が打ち出され、人形に向かう。


ガキン!!


バリア?
は、はじき返された。

くっ!千鶴子は?
千鶴子の方を見ると、千鶴子も『ノミコン』を壊すべく黒い球体に魔法をぶつけているがまだ壊れそうにない。



「無論、これは一時的なものです。
 1時間もすれば元の魔道書に戻ってしまいますし、戻ったのち再度魔道書の封印を解くために必要な魂の量は増えてしまいます。
 それでもよろしいですか?」

「かまわねぇ。生きてたもん勝ちだ。
 早くしねぇと、このねぇちゃんデビルバリアを破っちまいそうだぁ。」

「・・・わかりました。『○◇△×☆』」



私達には意味不明の言葉が唱えられる。
それと同時に千鶴子のいる場所から巨大な魔力が現れた。



巨大な肉体に捻じれた角、尖った耳と牙。







私達の目の前に絶望が現れた。











上位悪魔、出会うとしたら魔人と並び最悪に位置づけられるだろう。


悪魔とは本来神様のものであるはずの魂を横取りするために存在している。
魂と神様のつながりは強く、たとえ殺して魂を奪ったとしても悪魔が魂を所有する事は難しい。
そのため、悪魔は人と契約する。
死後の魂の譲渡を求めて。


まぁ、そんな存在理由だから、悪魔が人間を無差別に襲うことはまずない。
もっとも、例外というのはどこにもいるもので、最下級の『くずのあくま』などは自らの快楽のために無差別に人を襲ったりするそうだけど。

だが、何らかの理由で襲いかかってくる中級以上の悪魔は最悪だ。
人間を遥かに凌ぐ魔力。
強靭な肉体。
人には再現不可能な特殊能力まで持っている。

唯一の救いは、魔人ほど強力な防御力を持っていないという事。
過去、魔人を倒したものはいないが、(勇者が魔王を倒したとの噂もあるが真偽のほどは確かでない。)悪魔を傷つけたり、撃退したとの話は割と残っていることだろう。


ちなみに、なぜ悪魔にここまで詳しいかと言えば、これまた対魔人戦に使えないかと候補に挙がったからだ。
結局のところ、デメリットの方が大きすぎて没になったが。

少し考えれば解る事だ、上級悪魔に匹敵する魔人と戦わせる契約を結ばせるにはどれだけの契約料(魂)がいることか、それどころか狡猾な悪魔の事だ何のかんのと理由をつけて魂だけ持って行きかねない。


まぁ、どっかの間の抜けた悪魔から『真名』を聞き出し奴隷にでもしない限りまず戦力としては考えられないわね。





「ちっきしょー、まだ戻るつもりはなかったてーのによぉ。」


現れた悪魔は、いきなり愚痴を漏らし始める、こちらを完全になめている証拠だろう。
だが、こちらはそんなものにつき合っている余裕はない。
先手必勝!
あちらが本気を出す前に、叩き潰す!!

私は消耗しているアニスを横たえ、立ち上がる。



「魔法リング、リミッター解除。
 増幅。」



私の言葉とともに両腕に装着された腕輪とティアラ、ネックレスが光り始める。
最近千鶴子の情報魔法を利用した「マルチタスク」など、千鶴子にしか使えない新魔法について説明してきたが、一人だけ強くなっても戦争には勝てない。
だから、これらの研究を重ね、私達でも新魔法を使えるべく研究が進められている。
そう、私達でもマルチタスクを作り出し魔力を増幅する研究だ。

千鶴子の情報魔法、『雷帝カバッハーン』将軍の雷精、冒険で手に入れた魔力増幅アイテムを研究し、日夜開発が進められている。

そして、今私の両腕、胸元、額にあるアイテムがその詩作品だ。
嵩張る上に耐久力も弱く、いまだ実戦レベルとは言い難いが、4つの魔法陣を作り出すことに成功したのだ。
これにより私では不可能だった、破壊光線系の複数同時起動及び 、合成、圧縮が可能になった。



「白色破壊光線×2!

 合成、圧縮!!

 『巨神殺し(光系最強バージョン)』!!!」



そして、千鶴子もまた作り出す。



「右腕固定『雷神雷光』!

 左腕固定『雷撃の嵐』!

 術式統合!!

 雷神槍『巨神殺し(雷系最強バージョン)』!!!」



千鶴子も自分が持つ最強の攻撃を作り出す。
私はただでさえ、朝の『天使の巣』制圧とさっきの合成魔法で消耗しているのだ、一気に方をつけないとジリ貧になる。

いかに、私が他の魔法使いに比べ強力な力を持っているとはいえ、いくらでも魔力の湧き出てくるアニスとは違うのだ。



「「シュート!!」」



私と千鶴子がノミコンを挟み撃ちにして魔法を開放。
黄色と白の光の槍が巨大な悪魔に迫る。


悪魔はようやく動き出し、両手を挟み撃ちに打ち込まれた槍に向かって突き出した。

たかが人間が繰り出す魔法と侮ったか。
なめないでよね。
この魔法はいずれ起こる魔人との戦いのために開発された切り札の一つ。
威力だけなら、この地上に防げるものはない!



ギャリン!!!



「「がっ!」」


悪魔に光に槍が衝突したとたん、塔内に巨大な不協和音が、響き渡る。
その音に思わず叫び声を上げる、私と千鶴子。


な、いったい何が・・・?





そしてそこに見たものは、悪魔の両腕に掴まれ分解されていく私達が放った光の槍だった。



「うそ・・・。」


そのあまりの光景に呆然となる私。

なんなの、この反則すぎる力は。



再び伝話人形から声が聞こえる。

「ちょっとした昔話をしましょう。
 嘗て強力な力を持った悪魔がいました。
 その悪魔は生まれた時は低階級の悪魔であったにもかかわらず、負ければ下僕、勝てばその悪魔の階級を貰うという条件で決闘を行いました。
 無論その悪魔は決闘に勝ち続け、ついには上級悪魔にまで出世しました。
 ついには貴族階級の上級悪魔に挑もうとしましたが誰も挑戦を受けてくれません
 当然ですよね、相手は貴族、下僕ならいっぱいいますし、わざわざ下僕になりたいと立候補してくる悪魔もいます。
 なのに負ければすべてを失い勝っても下僕が出来るだけ。
 こんな割の合わない決闘もありません。
 しかし、あまりに強力な自分の力に驕ったのでしょう、この悪魔は決闘を了承していない貴族階級の上級悪魔に戦いを挑み負けてしまいました。
 で、こんな危険な悪魔そばにおいていたらいつかまた戦うために小細工をするかもしれません。
 けど、それなりに強力な悪魔でしたので消滅させるのもおしい。
 だから、封印されました。
 一冊の魔道書に、素の状態であれば人間にすらあっさり消滅させられる無力な存在として。
 しかし希望も与えられました、悪魔界にもメリットがある形で。
 力のある人間の魂を千人分集める事。
 そうして、悪魔の魔道書は人間界に放逐されました、めでたしめでたし。」


「「どこがめでたいのよ!!」」


・・・おもわず、千鶴子とダブル突っ込みを入れてしまった。




「ひゅー、あぶねぇあぶねぇ。
 姉ちゃん達、この槍とんでもねぇ威力だな。
 まともに喰らったら上級悪魔でもとんでもねぇダメージ喰らうぞ。
けど、いやな昔話をしやがる。」


そう言いながら完全に槍を消滅させ、ノミコンは両手を振りながらこちらを向く。



「おほめいただき光栄、と言いたいところだけど、こうもあっさり奥の手を無効化されてるんじゃ嫌味にしか聞こえないわよ。」

「いやいや、姉ちゃん、実際大したもんだよ。
 1万を超える攻撃力の魔法なんて、そうそうお目にかかったこともねぇ。
 強いて挙げるなら、聖魔教団時代の要塞砲位だぜ。
 個人で打ち出す魔法としては、間違いなく最強クラスだぜ。」



なるほど、威力に関しては問題なかったようだ、ならなんで!



「『ならなんで?』
 そんな顔しているなお姉ちゃん。
 そんなに不思議かい・・・ケェケケケ!
 そうか、なら教えてやるぜ、俺様はやさし~い悪魔だからな。」


「冗談、どう見ても小動物をいたぶる獣にしか見えないわよ。」


「か~もな。
 まぁいい、で、聞くが俺様は何のあ~くまだ?」



え?
何、いきなりクイズ?
悪魔?なんの?属性?





魔道書?

狂気の魔道書ノミコン。

まさか。



「ケェケケケ!
 気付いたようだな。
 そうさ、そのとおり、魔道書こそが、俺の二つ名なんだよ。
 俺様の特殊能力は触れたものに対する魔力のコントロール。
 この能力があるがゆえに上級悪魔になれたんだがな。
 俺様にかかれば、打ち込まれた魔法を増幅するも吸収するも、分解するのもお手のものよ。
 言いかえれば、この能力があるから、過去に俺様を所有した魔法使い達は危険を承知で使いこなそうとしたんだよ。
 上級悪魔を操るなんてできっこねぇのによぉ。ケェケケケ!!」





最悪。



よりによってなんて特殊能力。
完全に魔法使いの天敵じゃないの。
じゃぁなに、あいつを倒そうと思ったら、『氣』を操れるレベル2以上の戦士が必要ってこと?

上級悪魔を相手にするんだから、唯じゃすまないとは思っていたけど・・・よりによってここまでピンポイントに天敵な能力を持ってるなんて。



「・・・完全な嘘じゃないけど、すべてを語ってないというところか。」


この声は、千鶴子!



「悪魔お得意の『嘘はいってないけど・・・』
 というやつでしょ?ノミコン。」



そう言って千鶴子はノミコンの前に出る。



「ケケケケケ。
 姉ちゃん、なぜそう思う?」

「悪魔は基本的に魔力の塊みたいなものよ。
 その魔力を自由に操れるなんて、悪魔に対してほとんど無敵みたいな能力のはず。
 けどノミコン、あんたは他の悪魔に負けて魔法書の姿に封印されたと言っていた。
 矛盾・・・あるわよねぇ。」



あ、確かに思い返してみれば確かにおかしい。
あいつの言う事が本当ならそもそも魔道書に封印される事すらおかしいはず。
その事に気付いた私がノミコンを見ると・・・



「ケェケケケ!」


いきなり笑いだした。



「ケェケケケ!
 ケェケケケ!!
 ケェケケケ!!!
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 お嬢ちゃん達、怖いわ。」



口調が変わった!



「悪魔として長い間人間と暮らしてきたが、ここまで真実に近付かれたのははじめてだよ。
 魔法王国なんて大層な名前を付けてるとバカにしていたが四天王なんて地位についてる事はある。
 まさかここまでとはね。
 ああ、嬢ちゃん達の想像の通り、この力は完璧じゃねぇ。
 そこまで完璧にできるのは精々両手の範囲位だ。」

「じゃあ、密着して魔法を打ち込めば。」

「そうだ、流石の俺でも完璧に防ぐことは不可能だ。
 パパイアとか言ったなそこの嬢ちゃん。
 顔に出てるぜ、「なんで弱点をここまで簡単にしゃべるのか?」てな。
 …サービスだよサービス。
 ここまで辿り着いたお前らに敬意を表してな。

 で、今までの流れからわかるように俺様を倒すには近接戦闘で魔力か氣を叩き込まないといけないんだが・・・。
 そんなことできるのか?」



そうだ、こいつのこの余裕、私達に手がないと解っているからの余裕だ。
今の私は、朝から大魔法を連発したおかげで魔力が残存魔力がかなりまずい状態だ。
千鶴子の方はまだ、多少余裕があるはずだが。



「一応言っとくが、俺は上級悪魔だから、身体能力的には遥かに人間を超えているし、そこのメガネの嬢ちゃんが使っていた『縮地』も使えるぞ。
 タフさの方もさっきの光の槍位なら2発は耐えられるし。
 さらにデビルバリアを張ってあるから、弱っちい攻撃は無効化しちまう。
 どうする?
 それでも無駄な抵抗ってやつをやってみるかい。」



は、ははは。

なんて無理ゲー。


必死になって戦線を突破したと思ったら、目の前に巨大要塞が現れたようなものだ。
しかもその要塞には当たったら死ぬ大砲までついている。
正直なところもう手がない。



「ざけんじゃないわよ。」



え、千鶴子?



「ふざけんじゃないわよ!
 魔法は効かないし効いても充分耐えられるから諦めろですって。
 人間を、人間をなめるな!!」



そう言うと千鶴子は胸のネックレスを引きちぎった。
千鶴子のネックレス、これは唯のアクセサリーではない。
千鶴子は何時もマルチタスクを利用して魔法をストックしている。ただ、起動させたままだと千鶴子の消耗が激しい事からいつもネックレスの魔法石を利用して封印している。
けど、・・・確か千鶴子、緊急できたから魔法のストックは用意していないって言ってなかったかしら。



「封印解除!」



千鶴子のキーワードとともに身体が光りだす。
て、これは刻印魔術!



「千鶴子!」

「これでも、ナギの師匠だからね。
 一応研究はしていたのよ。」

「けど、それって・・・。」



完全な欠陥品。
そう、ラガールの刻印魔術は欠陥品なのだ。
確かに刻印を利用して一時的にLv3クラスに魔法を増強させる事はできる、だけど・・・。
アニスがいい例だ魔力は増強されても肉体は強化されない。
強力な魔法が使える代わりに肉体はどんどん崩壊していく。
これは魔法の強化じゃない、魔力の暴走だ!!



「おいおい、嬢ちゃん随分と無茶をしてんな。
 あっちこっちから、血を噴き出してるぜ。」



起動させただけで毛細血管が破裂している。
こんなの身体が持たない。



「ま、生き残るためだし、こんな無茶もするか。」

「やかましい!
 私の命なんかどうでもいい。
 『あんたはアニスを泣かせた。』
 『あんたはアニスを傷つけた。』
 わたしが命を掛ける理由はそれで十分よ。」



そうして、暴力の暴風が始まった。

千鶴子と一緒に修業した私にすら残像しか見えない高速機動。
その高速から繰り出される無数の蹴りや拳、その一発一発に高密度の魔力が込められている。
その暴風に巻き込まれたノミコンは対応しきれず完全にサウンドバック状態だ。



「止め!白色流星拳!!」


千鶴子の叫びとともに無数の光の拳がノミコンに打ち込まれた。



やった、『白色流星拳』、その拳に白色破壊光線を纏わせ千鶴子の必殺拳。
いくらやつかタフでもこれを喰らえば。





ポコ





え?



千鶴子は急に失速し拳がノミコンにあたると同時に倒れ込んだ。
・・・あ、千鶴子が危ない!!



「千鶴子ー!!」



私は直ぐに『縮地』で飛び、千鶴子を確保しノミコンから離れた。

千鶴子・・・どうしたの ?
なに?
もう肉体の限界が来たの?


・・・ちがう!
これは肉体の限界じゃない。
魔力の欠乏だ。
どういう事・・?


確かにこの技は魔力の消費が激しいけど刻印魔術まで使っているのだ、この程度で千鶴子の魔力が無くなるはずがない。

しかも、身体に影響を及ぼすほどの急激な消費。



「ザーン念だったな。」


そして勝ち誇ったノミコン。


「仲間が傷ついた事に怒り、主人公は命を掛けた賭けに出る。
 身体が傷つくことの厭わず戦い、ついには怒りの必殺技で強大な敵を倒す。
 めでたしめでたし。

 ・・・な~んてな。
 世の中そんなに甘かねぇーんだよ。」


「な、・・・なんで・?」



千鶴子!意識が戻ったの。



「ケェケケケ!
 確かにてめぇの魔法を無効化させるには両手で掴まなきゃいけないがよ。
 ・・・俺の能力は魔力のコントロールだぜ、例え掴む事が出来なくても、俺様の圏内いる限り、少しは影響を及ぼす事が出来るんだよ。
 たとえば、魔力を10消費するところを20にするとかよ。」

「まさか!」

「特に、てめぇは魔力を暴走させた状態だったからやりやすかったぜ。
 魔力が剥き出しの状態だったからな。
 一気に5倍位にできたぜ。」



や、やられた。
こんな小細工までできるなんて。



「いくら魔力がでかくても、かたき討ちのために命を掛けても所詮は人間だってことだな。
 親切に俺様が戦う前に注意してやったのによー。
 それともなにか、四天王てのは間抜けの集まりか?
 ケェケケケ!」



ノミコンの勝ち誇る声が聞こえる。
私達に対する侮蔑の声、だけど今の私達に返す言葉がない。





「いつもなら、こんなミスなさらないのですが。
 あまりいじめないであげてもらえますか。」





え、今の声は・・・アニス!

私は声のした方向へ顔を向ける。

すると・・・いた!





アニスはノミコンの背中にぶら下がっていた。



「て、てめぇ、いつの間に。」

「いくら、千鶴子さまとの戦いが苦しかったといっても、私が瞬間移動してあなたの後ろに回り背中にへばり付いたことにも気付かないとは。
 間抜けすぎですよ、ノミコン。」

「てめぇ。
 引っぺがしてやる!


 が!!
 か、身体が、身体がうごかねぇ。」

「充分細工する時間がありましたのであなたの得意技使わせていただきました。
 密着した状態で相手との魔力バイパスを繋ぎ、そこを通してコントロールするですか。
 残念ながら私はあなたほどコントロールが得意じゃないもので、大量の魔力を送り込んで身体を麻痺させることしかできませんが。」



アニス・・・いつの間に。
私が突然の事に呆然としていると、


「アニス!
 大丈夫、無茶は止めて、こんなやつ私が直ぐに片づけるから・・・。」

立ち上がった!
もう、千鶴子の肉体も精神もボロボロのはずなのに。
ちがう、こんなこと考えている場合じゃない。

「少しだけ待ってて、今、今行くから。」

私も立ち上がろうとするが・・・身体が動かない。

しまった、私もとんでもなく消耗している。



「無理は行けませんよ。
 もうボロボロじゃないですか。」



爆心地にいて両手を無くし、身体もボロボロのあなたが言う!



「大丈夫ですよ。
 私がちょっとこいつを片づけてきますから。」



え!
なにをいってるの・・・。



「じゃぁ、いってきます。」



その言葉とともにアニスが消えた。
ノミコンと共に。



そして、そのすぐ後、王都郊外の高空にもう一つの太陽が出来、すぐに消えた。



























どれくらい経ったのだろう。

アニスが消え、郊外に太陽が出来たのを見、そしてそれが消えると同時に私たちから力が抜け、二人ともその場に座り込んだ。



何も考えられない。

何も考えたくない。

けど、・・・・・考えてしまう。


アニス・・・。



あの太陽はアニスだ。
何年も付き合ってきた魔力の波動だ、間違えるわけがない。


じゃあ、アニスは・・・。





「いかなきゃ・・・。」



千鶴子の声がする。
まるで幽鬼のように声に力がない。



「アニスを迎えにいかなきゃ・・・。」



そう言って立ち上がろうとするが、中腰の状態になると足から力が抜けへたり込んでしまう。
再び立ち上がろうとするが今度は足が動かない。



「あれ、おかしいな、いかなきゃいけないのに。」



だめだ、千鶴子は壊れる。
もう心が現実を否定し始めている。





ダンダンダン!!!



扉をたたく音が聞こえる。



「パパイア様、パパイア様!」



キャロットの声、騒ぎを聞きつけて上がってきたのかしら。


けど・・・もうなにか・・・どうでもいい。



「パパイア様、大変なんです。
 いま、下に傷だらけのアニス様を背負った女の子がやってきまして・・。」





・・・え?
アニス?
傷だらけ?



その瞬間、私と千鶴子は飛びあがるように立ち上がり、お互いに顔を見合わせるとフルスピードで玄関に向かった。


「ぶべっ!」


何かドアのところで、音がしたけどそんなものに構っている暇はない!






「「アニス!!」」



私たち二人はほぼ同時に叫びながら玄関を飛び出した。


そしてそこには12、3歳の女の子がいた。



「はじめまして。
 私、悪魔のフィオリと申します。
 町の郊外の林にアニスさんが落ちてましたのでお届けにまいりました。」



え、なにこの子。
あくま?


いきなりの言葉に、私達の思考が混乱する。


モゾモゾ


すると女の子の後ろで何かが動いた。



「ぷはー。
 フィオリさん、いくら身体が小さくて背負いにくいといっても荷物のように丸めて持ってくるのは酷いです。」



そこにいたのは・・・



「あ、アニス?」



すると、アニスはこちらを向き、太陽のような笑顔でしゃべったのだ。



「あ、千鶴子さま、パパイアさん。」






「アニスただいま戻りました。」










≪あとがき≫


みなさんお待たせしました。
21話を送らせていただきます。


たくさんのご感想ありがとうございました。



相も変わらず遅筆な私ですが、なんとか続けていきたいと思っておりますので、長い目で見ていただければ幸いです。



追記

次回はアニスが消えてからの説明編
久しぶりにアニス視点ですよ。


通りすがり様
残念、ストーカーは逃げてしまいました。



ルアベさま
ご感想を見たとたん思わず吹き出してしまいました。
わたしってそんなに読みやすいですか。
心の設定。
まさか、これを読まれるなんて。
ちなみにこの設定はかなり後で利用するつもりでした。



マトリョーシカ様
はい、実はアニス頑張っています。
努力の甲斐あってドジっ子属性はかなり矯正しました。
ただいまだバナナの皮は天敵ですが。



まほかにさま
私もやっとランスクエスト終了しました。
ちょっと不完全燃焼かな。
好きなキャラが多いので「もう少し可愛がってほしかったな。」と思っています。
リセットちゃんの愛らしさは癒されましたねぇ。



[11872] 第22話   仲間との出会い・・・話的に最後に出るのがふつうでは?
Name: ムラゲ◆a283121b ID:22f0b9b3
Date: 2012/03/29 00:24
第22話   仲間との出会い・・・話的に最後に出るのがふつうでは?





・・・あの、伏線ためすぎじゃないですか・・・

最後の方なんか完全に話飛んでましたし・・・

あの悪魔さん、確か別作品ですよね。

いいんですか・・・。



byとあるへっぽこ魔法使い





いえ、闘神都市Ⅲやったとき、

「良いキャラなのに1作品で終わらすのもったいないなぁ。」

なんて思いまして・・・・。

まぁ、同じアリス作品良いじゃないですか(笑)。

byガン○ムやマク○スのキャラ出してる時点で何をいまさらと思っている、とある二次小説書き








◇◇◇◇◇◇◇◇





≪sideアニス≫



・・・・・・ん、





猛烈な光と共に受けた痛み、それが、私の覚えている最後の記憶。





・・・・・あぁ、わたし死んでない。

人間、両手が吹き飛んだくらいじゃ死なないですよね。



「・・・私はいったい。」





・・・あれ、両手が吹き飛んだはずなのに、痛みがない?

・・・パパイアさんの痛み止めの魔法ですね。

身体に冷えた感覚がないのは、それほど出血していない?

あぁ、血止めと応急もしてくれたのですね。



わたし、実は肉体的に傷つくこと(自分限定)なれています。

なぜかと言われれば、わたしの魔力のせいとしか言いようがない、あまり詳しくは言いたくありませんが。

おかげで、気絶から覚めると直ぐに自分の状態を分析する癖がついてしまったのです。


え、気絶するようなことは緊急事態だから、目が覚めたら直ぐ起きて防御態勢をとるのが普通だろうって?

いやですねぇ、戦いの最中や緊急事態で気絶していたのなら、わたしもうとっくに死んでいますって。

それに、意識が上昇したからっと言って直ぐに動けるわけではありませんよ。

これは、半ばわたしが無意識領域で行っている防御本能みたいなもの。

動けると同時に何が出来るのかという事を判断するための準備行動なのです。



こう見えてじつはわたし、並みの冒険者以上に負傷経験は豊富なのです。

死にかけた事も一度や二度じゃありませんし・・・・・・。

思い出しちゃった。orz






うっすらと目を開ける。

そこには・・・千鶴子さま達と、『化け物』がいました。



へ?



ななななな、何ですかあれは、あんなもの今まで見た記憶はありませんよ。

ええーと、アリス作品であんな奴いましたっけ。

・・・

・・



まさか、デ○ボリカ!!
・・・たしかあのような、化物じみたキャラクターが出ている作品と聞いた事がありますが、



・・・わたしあの作品やっていないのですよね。



あ、なにか千鶴子さま達と話していますね。





・・・のみこん?

あれ、ノミコンなんですか?!


いったい、なにがどうなって、こんな事になっいているのですか !!

だれか教えて、ぷりーず。





しかし私が、理解不能の状況で頭を抱えている状態でも、話は進んでいくわけで。



で、いきなりのクライマックス。





“「やかましい!
 私の命なんかどうでもいい。
 『あんたはアニスを泣かせた。』
 『あんたはアニスを傷つけた。』
 わたしが命を掛ける理由はそれで十分よ。」”



うわ、千鶴子さまが切れた!

ごめんなさい、ごめんなさい、わたしのために。

わたしが無茶したために、心配させてすみませんでした。

あまりの罪悪感から、わたしが心の中でジャンピング土下座をしていると・・・。



そこから、千鶴子さまの 怒涛の攻撃が始まった。

・・・

・・



あぁだめだ、あれではノミコンに勝てない。



千鶴子さまから繰り出される数々の攻撃。
その猛攻のまえにノミコンはなすすべがないようにみえる。

そう、一見千鶴子さまが一方的に押しているように見えるが、わたしには見えてしまう。





“どんどん千鶴子さまの魔力がノミコンに吸い上げられていくところが。”





この世界で、なぜ悪魔が人間に恐れられているのか、それは低レベルの攻撃に対する無効化能力を持つゆえだ。

もちろん、魔人ほど強力なものではないし、人間以上の位階を持つ種族(神、天使、魔人、悪魔、等々)には通用しないが。

そんな強力な力を持つ悪魔がなぜもっと地上で力を持っていないか、といえば人間が持つ戦闘系レベルの存在だ。(むろん、神や天使と正面切って戦いたくないという事もあるだろうが。)

この戦闘系レベルというやつは人間には過ぎた力、人間以上の力と認識されるため、悪魔に対してダメージを与える事が出来る。

しかし、レベル1程度では精々低級悪魔にしか傷つけられず、中級以上になるとレベル2以上の才能が必要なのだ。

そして現在、千鶴子さま達が戦っているのは中級以上と思われる悪魔ノミコン。

本来であれば、魔法レベル2を持つお二人なら、楽勝とはいかなくてもどうにか戦えるはず。

・・・そう、本来なら。



わたしが見たところ、あの悪魔は、千鶴子さまの魔力を無効化したり防御したりするだけじゃなく、使っていない魔力まで引き出し分解している。

・・・いわゆる、魔法使いの天敵だ!

こんなやつと戦うには本来、魔力系の技ではなく気力系の技を使うのが正しい。


普通近接戦系の戦闘レベルを持つ者は大概気力系の技を覚える。

そして千鶴子さまは格闘レベル2を持っている。

早い話が気力系の必殺技で戦うことは可能なのだ。





だが、悲しいかなここはゼスだ。

いくら、千鶴子さまが格闘レベル2の才能を持っていても、知らないものは使えない。

縮地は気力系の技であり、かつてこの技を伝授してもらった、師匠(シークレットハニー)より気力の基礎を習っていた。

しかし、修業の期間が短すぎた。

いかに、千鶴子さまが天才だとしても、知らないものは使えない。

新たに研究し編み出すには時間と手間がかかりすぎる。

よって、格闘系の技は、魔法拳など、魔法系の技が主となってしまった。

・・・・・

・・・・

・・・

・・



助けないと。





いまの私の状態では、たとえ千鶴子さまの加勢に向かったとしても足手まといにしかならない。

いや、おそらく、2人に引きとめられ、加勢することすらできないだろう。





・・・なら、どうする?



後ろに回って、一撃くらわす?

だめだ、ダメージを与えられるような大魔法を集中すれば気付かれるし、この手だ、印を組んで魔法陣を出すような、まともな魔法は使えない。

ええぃ、この手でもつかえて、なおかつ、やつにダメージを与えられる魔法?







・・・・・あった。





これしかありませんか。
しかたありませんね。


とりあえず、やつの後ろに回らなければ。
さて瞬間移動では気付かれますので。


そういって、こっそり呪文を唱えると私の身体は少し浮かんだ。

元々この魔法は、沼地や雪上など行動しにくいところで使う補助魔法ですが、このように足場がしっかりした場所で使うと身体が少し浮かぶのです。

そして、すこし勢いをつければ、さながらエアホッケーの円盤のように音もなく滑るように進みます。

簡単な補助魔法ですので魔力の動きも少なく、ノミコンに気付かれる事もないでしょう。








◇◇◇◇◇



うまく、後ろに回れました。

あ、千鶴子さまが力尽きた。
急がないと・・・。

うんしょ、うんしょ。
両手がないので登りにくいです。

しかし、意外と気づかれないものですね。

こいつが鈍いのか。

それとも、千鶴子さまを倒したと思い込んで完全に気が抜けているのか。

まぁ、私にとっては絶好のチャンスです。

・・・

・・



よし、着いた。





“「いくら魔力がでかくても、かたき討ちのために命を掛けても所詮は人間だってことだな。
 親切に俺様が戦う前に注意してやったのによー。
 それともなにか、四天王てのは間抜けの集まりか?
 ケェケケケ!」”



ノミコンの勝ち誇る声が聞こえる。

完全に勝ち誇ってますね。

千鶴子さまの名誉のためにも一言弁解しておきますか。





「いつもなら、こんなミスなさらないのですが。
 あまりいじめないであげてもらえますか。」





なぁ!

突然私の声がしたものだから、ノミコンは私の声のした方向へ顔を向ける。





「て、てめぇ、いつの間に。」

「いくら、千鶴子さまとの戦いが苦しかったといっても、私が瞬間移動して(嘘ですけど、流石に瞬間移動などすればばれていたでしょう。)あなたの後ろに回り背中にへばり付いたことにも気付かないとは。
 間抜けすぎですよ、ノミコン。」



その言葉と共に、私の魔力をノミコンの魔力の流れに注入した。





「てめぇ。
 引っぺがしてやる!


 が!!

 か、身体が、身体がうごかねぇ。」



金縛りの応用です。

いかにあなたが強力な悪魔でも、ゼロ距離から私の巨大な魔力を注入されては防ぎようがないでしょう?



「充分細工する時間がありましたのであなたの得意技使わせていただきました。
 密着した状態で相手との魔力バイパスを繋ぎ、そこを通してコントロールするですか。
 残念ながら私はあなたほどコントロールが得意じゃないもので、大量の魔力を送り込んで身体を麻痺させることしかできませんが。」






「アニス!
 大丈夫、無茶は止めて、こんなやつ私が直ぐに片づけるから・・・。」



千鶴子さま!
肉体も精神もボロボロに見えます、それでも私の事を心配してくれるなんて。



「少しだけ待ってて、今、今行くから。」



私も無茶をしていますが、私の場合両手が吹き飛んだだけで、吹き飛んだ痛みは消してもらっている分、まだ私の方が余裕がありますね。

パパイアさんは・・・だめですね、あちらも余裕がないようです。

しかたありません、最後の手段をとりますか。



「無理は行けませんよ。
 もうボロボロじゃないですか。」



そんな私の言葉に、必死になって首を振る、千鶴子さまとパパイアさん。

そんな、悲しそうな顔をしないでください。

大丈夫です、生還の可能性がないわけじゃないのですから。



「大丈夫ですよ。
 私がちょっとこいつを片づけてきますから。」



そんな私の言葉に凍りつく二人。



「じゃぁ、いってきます。」



その言葉とともに、わたしは瞬間移動を発動させた。



ノミコンと共に。









◇◇◇◇◇



わたしが移動したのは王都から少し離れた高空。





・・・流石にきついですね。



今のはわたしは、パパイアさんの血止めの応急処置と痛み止めの魔法で動けますが、本来ドクターストップが掛かっている状態なのです。

その状態で、印も結ばず瞬間移動など、われながら自殺行為なのですよ。





「ケーケッケケ!」



おっと、こちらに集中しないと。



「嬢ちゃん残念だったな。
 『人間の瞬間移動は生物を連れて移動できない、もしすれば連れていた生物は死ぬ。』
 それを狙って空間を飛んだんだろうが、あめぇンだよ。
 俺も上級悪魔だ、自分の力で空間を渡る事くらいできるんだよ。」


「・・・あぁ、そんな事を考えていたのですか。」

「なに?」

「今回の瞬間移動にそんな深い意味はありません。
 たんに、これ以上千鶴子さま達を傷つけたくないから移動しただけです。
 あなたを倒す方法はほかにありますよ。」


「う、嘘をつくな!両手を失ったてめぇはもう印を結んで魔法陣を展開する事も出来ねぇ、すなわち俺様を攻撃する高威力の魔法は使えないってことだ。

 ・・・そうか、このまま俺様の自由を奪い続け、この高高度から地面に叩きつけるつもりか。

 残念だったな、どんなに強力な衝撃でも、魔力も気力もこもってねえ攻撃に意味はねぇ。」





おやおや、あからさまに動揺しています。

自分で考えて、自分で否定して、ご苦労な事です。

けど、あなたを倒す魔法、これはそれほど難しい事ではないのですよ。



「ノミコン。地上までまだまだありますので少しお話をしてあげます。」


「てめぇ、いったい・・・」


「とある強力な存在が自分の後継者とするため、一人の異世界の少女を召喚しました。
 その少女はこれまで争いごとをした事もなければ、魔法の存在すら知りません。
 しかし少女は碌な説明もなく強制的に力を委譲され、それと共に膨大な魔力を受け継ぎました。
 もちろん少女は魔法の存在すら知りませんでしたから、魔法など使えるはずもありませんでした。」


「いったい何の話を・・」


「その後、その少女はその強大な力を狙って襲われます。
 魔法の使い方を知らないその少女は抵抗もできず殺されてしまうのでしょうか?
 いえ、その少女は防御本能から魔法陣がなくても攻撃するすべを開発したのです。

 ・・・教えてあげますよ、その技の名前を。」



「や、やめろー!」



わたしの中で膨れ上がる膨大な魔力に気がついたのでしょう、ノミコンが恐怖の声を上げます。

うるさいですよ、わたしが千鶴子さまを傷つけた存在を許すわけがないでしょう。

この魔法はわたしが一番最初に使った魔法でもあるのですよ。
その名は、









「きえちゃえボム(アニスバージョン)」





ピカッ!!!







その言葉と共に、わたしを中心に膨大な魔力が破壊の力となって吹き荒れる。

無論その力はわたしが組みついていたノミコンにも降り注いだ。


「・・・・・・!!!!!」


力の奔流の中で叫ばれる声にならない叫び、その叫びの中ノミコンは消滅していった。





やりましたよ、千鶴子さま!



はじめてこの力を使ったときは、手の前に出現させてしまったので、私自身も巻き込まれ吹き飛んでしまいましたが、今回役に立ちましたのであの時の痛みも無駄ではなかったですね。






・・・さて、そろそろ落下スピードを緩めないと・・・・。



あ、あれ?



い・しき・・・が






この時、私の意識は暗闇に包まれた。









≪?????side≫



「よいしょ!」



私は空から落ちてくる少女が気を失ったのを見て、慌てて落下コースの下に回り込み、少女を空中で受け止めた。

魔法でつりさげる事も出来たのだけど、なんとなく物のようにこの子を吊り下げることが嫌だったのだ。





「どう見ても人間よねぇ。」



そう、この子はたった今まで悪魔と戦いそして倒した。

そう、上級悪魔を。



「人間が上級悪魔を倒すなんて歴史上はじめてじゃないかしら?」





感心しながら地上に降りると少女を地面に横たえた。



「ここまでボロボロなのに、どの傷も致命傷には至ってないか。とんでもない子ね。」



横たえた少女を一通り調べると、思わず独り言がでた。



けど、一応回復させといたほうがいいわよね。

私、回復系は苦手なんだけどな。



「・・・ヒール!」



どうやら成功したみたいね。



さて、ちょっとごめんね。

後かたずけしてくるから少し待っていてね。









◇◇◇◇◇



さぁーて、あいつはどこかな?



「あ、いたいた?」



私の目の前には一冊の本があった。

表紙はボロボロで黒こげ、煙すら出している。







「いてぇー、いてぇーよ。
 ちくしょう、死なねぇ、死なねぇぞ。」





あらあら、随分やられたようね。

私、気配も消してないのにこんな近くの気配が気付かないなんてね。

・・・けど、本でも痛覚ってあるのかしら?





「随分、良い恰好じゃない、ノミコン。」



私のかけた言葉に本がビクリと震える。

・・・なかなかシュールな光景ね。





「て、てめぇは、い、いや違う、違うんだ。あなた様は。」



「あぁ、いいのよノミコン。たとえどんな理由があろうとも聞く気はないから。
 あなたが封印を破った事だけで有罪だから、言い訳するだけ無駄よ。」



「ち、ちがうんだ、これは真名を知られちまって無理やり破らされたんだ。
 悪魔王の裁定に逆らう気なんか・・・。
 い、いやだ、死にたくねぇ!!」



「上級悪魔の真名を知ってるって、とんでもない奴もいたものね。
 ま、その件はおいおい調べるとしましょう。
 あぁ、安心してノミコン・・・・・・・殺したりなんかしないから。」



いやねぇ、そんな勿体ない事誰がするものですか。



「じゃ、さようなら、ノミコン。」


そう言って私が手を伸ばすとノミコンはページをバタつかせて暴れだした。



「い、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ」


壊れたレコーダーのように同じセリフを繰り返すノミコン。

こんなクズ相手だと多少残っている私の良心が痛まないから気が楽だわ。


そうして片手を振ると、ノミコンのいた場所には一つの飴玉が転がっていた。


「あなたの存在は無駄ではないわ。
 あなたは永遠に私の中で生き続けるの、・・・・・・・・・・魔力の供給源としてね。
 誰かのために身を呈して犠牲になる、そんな設定お好きでしょ・・・ノミコン。」


そう呟くと、私は飴玉を拾い上げそのままのみ込んだ。


「さて、あの子のところに戻らないと。」






≪アニスside≫



あれ?

生きてる。



確か、かなりの高空から落ちましたよね。

流石に、魔力障壁もスピードダウンもなしに落ちればただでは済まないと思うのですが。

???何があったのでしょう。



「あら、目覚めたのですね。」



私の耳にまだ少女と思われる声が聞こえた。

・・・聞き覚えのない声だ。



ゆっくり、声のした方向に首を向けるとその先には・・・・。



「あぁ、悪魔の方ですか。」

「えう!」



あれ、なにか慌ててるような・・・ああ、そうですかこの方はいま『人間の姿』なのですね。

人間のふりに自信があったのにいきなり見破られて慌てていると。



「な、なーんのことかしら。」



声に動揺が丸わかりですよ。

随分と素直な悪魔さんで・・・見たところかなり上級の、そう、ノミコンよりはるかに上級の悪魔のようなのですが。
・・・まぁ、こんな存在に嘘やごまかしが通用するとは思えませんし、それにこの状況では。
素直にネタばらしさせてもらいますか。



「ああ、ごめんなさい。
 説明が足りませんでしたね。
 わたし実は、・・・盲目なんです。」

「え?ええ!
 ちょ、ちょっと、盲目って。」

「ええ、まぁ、この際ですから、ぶっちゃけてお話しちゃいますが、わたしは生来魔力があふれて止まらない体質でして。
 幼いころはまだそれほどでもなかったのですが、学生になったころから肉体が魔力についていけず、内部から破裂することがよくありましたのです。
 まぁ幸いと言ってよいのか、わたしには神魔法レベル2の才能があったので、致命傷になる前に自動再生が発動して死ぬことはなかったのですが・・・。」

「ちょっと待ってよ、幸いって。
 傷ついては再生の繰り返しなんて。
 ・・・・完全な拷問じゃない!」


「いやですね、そこまで酷くはなかったのですよ。
 結局3年位でレベルも上がりなんとか封印具込みで身体が傷つくことは無くなりましたし。」

「・・・3年も。」



あれ、この悪魔さん、なぜかひいているような。
やはり、はじめて聞く人には少々ヘビーなお話でしたでしょうか。
まぁ実際あの頃は、『死んだ方がまし』レベルの苦しみでしたからね。
おかげで、人一倍訓練に身が入り、たった3年でこのバカみたいな魔力をある程度は制御できるようになったのですから。
・・・こういうのも、『けがの功名』というのでしょうか。
・・・なんか違う気がしますね。



「ただ、繊細な構造を持つ感覚器官にだけは後遺症が残ってしまって・・・、
 いえ、別に壊れたわけでは無いのですよ。
 それどころか、変に進化してしまって、並みの方より鋭くなったくらいでして。」



「・・・耐性進化。
 何度も壊され、その度に超再生を繰り返せば、その部分はより強固に進化する。
 てぇ!ちょっとあなた、繊細な感覚器官を筋肉トレーニングの筋肉と一緒にするんじゃないわよ!!」

「・・・えー、これは別段やりたくてやってたわけじゃなくて。」


「・・・」

「・・・」

はは、お互い固まってしまいましたね。
時間もない事ですし、話を続けないと。


「話し続けますね。
 そんなこんなで、他の感覚器官については特に問題はなかったのですが、長い間高密度の魔力にさらされていた眼球だけは変な風に進化していしまいまして。」


「???、なんで眼球だけが?」

「あぁ、悪魔であるあなたには自覚がないかもしれませんが、人間は魔法を発動させるのに一旦集中させる必要があるのですよ。
 で、集中させる切っ掛けにするのが・・・。」

「ああ、そうか、人間は視覚をメインにするんだっけ。
 て、しまった!自分で、人間じゃないって認めちゃった!!」


「ククク、何をいまさら。
 まぁ、そういうことです。」

「うう、人間に笑われた。(泣)」

「で、進化した結果と言うのが、サーモグラフィーみたいになったのです。」

「サーモグラフィー?
 あの、温度が色で解るっていうあの?」

「ええ、私の場合魔力の濃度が色で解るのですが。」

「・・・それって、すごく不便じゃない。」

「ええ、まぁ。
 日常生活にはすごく不便ですよ。
 ただ、魔法関係になるとすごく便利なのです。
 なんせ、相手の魔力の動きが解りますから、先読みが可能ですし、打ち出された魔力の流れが見えるので攻撃魔法を無傷で引き裂く事も出来ます。
 なにより、自分の魔力の流れが目で見えますから、魔法に失敗してもなぜ失敗したのかが直ぐにわかります。
 この目がなければ、合体魔法、合成魔法、魔力吸収なんかの新理論はこんなに早く実用化出来なかったと思いますよ。」

「えらく前向きな子ねぇ。」

「この世界では、『壁があったらぶち破る』くらいの気概がないと生きていけないのですよ。
 もっとも、この目では個人識別ができませんので常時映像魔術を展開して、その映像を直接、脳の視覚をつかさどる部分につなげていますが。」

「・・・随分便利な事。
 ご都合主義というか・・・。」

「それほど便利でもないのですけど。
 常時展開型の魔法ですので、常に魔力は減っていきますし、脳に直接つなげている分、今回のように、肉体やら、魔力回路が分断されると使用不可になってしまいますから。」

「そんなに都合のよいものは存在しないか。」

「はい。」


そう答える、私の視覚に普通の映像が戻った。


「おや、やっと魔力回路が回復したようですね。
 ああ、貴方は、そんな姿をしていたのですか。
 おっと、忘れていました、私が五体満足でこの場所にいるという事は貴方が助けてくれたのですね?
 お礼が遅れました、助けていただいてありがとうございます。
 私の名は『アニス・沢渡』この国ゼスで魔法使いをしています。」

頭を下げる私の目の前には、白を基調としたゴスロリファッションの少女がいた。



・・・・・・まんま、闘神都市Ⅲの『フィオリ・ミルフィオリ』さんです。
あれ、この娘、こんな服装でしたっけ?
まぁ、いいか。



「はじめまして、私の名は『フィオリ・ミルフィオリ』、あなたの言うとおり悪魔よ。」


そう言ってにっこりほほ笑む姿は本当に可愛かった。





・・・この世界ってランス世界ですよね。
で、さっきの話の内容から・・・。
ああ、この人は・・・、


「こんにちわ、フィオリ・ミルフィオリ。
 んー、長いからフィオって呼んでいい?」


私は苦笑を浮かべつつ呼びかけた。


「あら、貴方の目なら、私がどんな存在か解っているはずですのに、随分となれなれしい事。
 くすっ、まあよろしいですわ、私はあまりそんな事は気にしませんし。」


そう言って苦笑するフィオ。
この様子なら大丈夫かな。


「あの、一つ質問して良いですか?」

「なに?」

「フィオはいつその身体に転生、いえ憑依したのですか?」


本日2回目の爆弾発言が投下された。
フィオは完全に固まっている、あ、空気が変わった。
殺気じゃないけど、警戒感バリバリ出している。


「何の事とは聞かないわ。
 なぜその事を知っているの。」


うわぁー、うわぁー、絶対零度の声ですよ。
前世の私なら、心臓止まっていたんじゃないですかねぇ。

そんな絶対零度のフィオに向かって私はにっこりほほ笑んだ。


「それは私も転生者だからですよ。
 それと、幾らいきなり悪魔と見破られたからと言って動揺しすぎですよ。
 さっきのおしゃべりで完全に自供していましたから。
 この世界にサーモグラフィーはありませんよ。」

「えっ!」


私の転生者発言に驚いたのか、自分の自爆しまくりの会話に気がついたのか、フィオの気が抜けたすきを突いて、一気に説明を始めた。


私の転生してからの生活。

『アリスちゃん』との出会い。

他の召喚者(転生者or憑依者)について。

召喚者に与えられたメリットとデメリットについて。

召喚者に与えられた使命。


最初の方は混乱していたようでしたが、最後には真剣な目で私を見ていました。





「だから嫌いなのよ、『神様』って存在は。
 自分の都合で呼び出して、上から目線で使命を押し付けてくる。」


流石悪魔、やっぱり神様とは相性が悪いか。
というか、普通そういう感想を持つよね。
けどね、


「じゃあ、死んだという自覚がないまま、消えてしまった方がよかった?
 わたしは嫌ですよ。まだやりたい事も沢山ありましたし。
 それに、この世界で失いたくない大切なものも出来ましたから。」


そんなわたしの言葉にしばらく悩んでいたようですが、結局のところ納得してくれました。
やっぱり、アリスちゃんが一生懸命選んで連れて来ただけあって、良い方です。







◇◇◇◇◇



「私がこの身体に憑依したのは多分、40年くらい前だと思うの。」

「40年!」

「たぶんよ、たぶん。
 なんせ、この身体に憑依したのはいいけれど、流石に上級悪魔だけあってなかなか主導権を渡してもらえなくてね。
 空間の狭間に漂って、半分寝てるような状態が続いたの。
 30年くらいそんな状態だったと思うのだけど、なにぶん、いた場所が時間の感覚があやふやな空間の狭間だったし、悪魔の時間間隔というのが随分と大雑把で。」

「なんでそんな場所に・・・。」

「私の最初の記憶が、何かの扉を潜るところからだったから、多分丁度、異界に移動するところで私が憑依したんじゃないのかな。」

その言葉を聞いて思わず納得、それでアリスちゃんの追跡調査が効かなかったんですね。





そんなこんなで、いろいろお話し、随分と打ち解けてきました。
さて、そろそろ大事な事をお聞きしないと。


「さて、フィオさん。
 大変話しにくいとは思いますが、私に貴方が抱えている『デメリット』を教えていただけないでしょうか。」


「・・・やっぱり言わないとダメ?」

「はい、言いたくない事は重々承知ですが、把握していないといざという時に、それが原因で失敗したということになりかねませんし。
 なんせ、私達がこれから対するのはこの世界の創造神なのですから。
 不安要素は少しでも無くしておきたいのです。
 ちなみにわたしのメリットは『膨大な魔力』、デメリットは『その魔力に耐えきれない脆弱な身体』です。
 フィオさんはメリットはもちろん『上級悪魔』ですよね。
 となると、これはかなりの強さのメリットだと思うので、その分デメリットもすごいものになっていると思うのですが?」

そう言うと、フィオさんはため息を一つ吐いてしゃべりだした。

「ふう、しかたありませんね。
 確かにこの身体は素晴らしいものです。多分魔人とガチンコでやりあったとしても勝てると思います。まぁ、魔王は無理でしょうけど。
 その分、その、何と言いますか、デメリットがですね・・・・。


 ええい、言ってしまいますが、私のデメリットは貴方とは反対、すなわち『魔力の流出』なのです。」

・・・

・・



「うわ~、何というタチの悪い。」


この『魔力の流出』というデメリット、ちょっと聞いただけでは大したことないと思うだろうが実はさにあらず。悪魔という存在には致命的と言っていいのだ。
前にも説明したが、悪魔というのは魔力の塊みたいな存在。
そう、魔力は自分の根幹なのだ。
それが流出し続けるという事は、いずれ何もしなくても消滅するという事。
しかも、仲間に気を許す事が出来ない悪魔の世界、こんな弱みを知られた日には・・・。持久戦を仕掛けられただけで下級悪魔にさえ負けてしまう。



「ううう、そうなの、お陰でどれだけ気の休まらない日々を過ごした事か。」

「よく10年間無事でいましたね。」

「まぁ、そのあたりは極力他の悪魔と接触を持たないようにしたり、接触しても深く係わらなかったりしたからね。」

ん?
確かこのキャラって・・・・

「そういえば、フィオさんって、闘神都市Ⅲでは中級悪魔の部下がいましたけど、どうしたのですか?」


確かいましたよね、かなり性格悪いのが。


「ああ、『梨夢・ナーサリー』ね。
 めんどくさいから、食べちゃった。」


ぶっ!
た、食べちゃったって・・・あなた。


「だって、どっかで、私の異変に気付いたみたいで、裏でこそこそしはじめたから、めんどくさくなる前に食べちゃったの。
 まぁ、元々私に心酔して部下になったわけじゃないし。これまでの行動も、下剋上する気満々で、かなり鬱陶しかったのよね。
 だから、丸めてパックンしちゃったの。」


丸めてパックンって、あなた・・・。


「いやだぁ、そんなに引かないでよ。
 どうせ、生かしていても害にしかならない存在だし。
 私のために有効利用されれば、世界のためにもなるじゃない。」


「・・・あの~、有効利用って?」

すごく不吉な想像しか浮かばないのですが。


「うん、ほら、私ってほっとくと、どんどん魔力が無くなるじゃない、だから飴ちゃんにして魔力の供給源になってもらっているの。」


・・・やっぱり。
魔力の供給源にしているって、生きてるってことだよね。
生きたまま魔力を削られ続けるって、ひと思いに殺されるより惨いんじゃ・・・。


「それに今回は供給源第2号も手に入ったし、中々の収穫だったわ。」


へ?
2号?
・・・まさか


「え~、フィオさん。
 その第2号ってまさか。」


「うん!
 ノミコンよ。
 いや~、あのクラスの悪魔を飴玉にできたのはラッキーだったわ。
 正攻法なら、どれだけ苦労した事やら。」


・・・うん、見事に漁夫の利さらわれたようで。

あっ!


「そうだ、こんなところでのんびりしている場合じゃなかった。
 早く戻らないと。」


「ん~。
 まだそんなに時間経ってないよ。」


「いえ、塔に被害を出さないために、ノミコン連れて転移したのですが、その際死亡フラグ満載のセリフを残しちゃったのですよ。
 早く帰らないと死んだと誤解される恐れが。」

そう言って、立ち上がろうとするが、・・・だめ、力が入らない。


「だめ!まだ回復しきってないようですね。」


「無茶な子ね、あんな自爆技みたいな魔法使って、そう簡単に回復するもんですか。
 いいわ、私が連れて行ってあげる。」


・・・じと~。


「な、なに、その疑り深い目は。」

「いえ、私の持論に『魂は肉体と生活に左右される。』というのがあるのですが、これまでお話しさせていただいた限りでは、フィオさんはかなり悪魔の性質になじんでらっしゃるようです。
 そのあなたが同じ召喚仲間とはいえ、ここまで親切にしていただけるのは?」

「い、いやねぇ~。
 そんなことないわよ。
 私はやさしい子よ。」

あ、目をそらした。

「ただね、・・・。」

「ただ?」

「ちょっと、四天王の方たちに恩を売って、魔力炉を使用させてもらえたらなぁ~。
 なんて、思ったりして。」


ああ、なるほど、フィオさんがゼスに来たのはこれが理由ですか。
確かに、魔力炉ならこの方の魔力不足の解消には充分ですから。


「ふ~、解りました、そういうことでしたら私からも千鶴子さまにお口添えさせていただきます。」

「きゃ~、ラッキー!
 アニスちゃん愛してるわ!!」

「それと、千鶴子さま達と直接会うのでしたら、自分の正体について素直に話してください。」

「あれ?
 悪魔の事は普通内緒にしておいた方がよくない?」

「いえ、千鶴子さまもパパイアさんも割と鋭い方ですから、隠していたもそのうちばれてしまうと思うのですよ。
 なら、隠し事しているのは何か裏がある証拠と思われてもなんですし。
 それにあのおふた方なら、悪魔相手でも恐怖するという事は無いと思いますので。」

「ふ~ん、そっか。
 まあ、私もアリスちゃんの事もあるし、協力体制は取っておきたいからね。
 最初っから疑われるのは勘弁してほしいいし。
 ・・・じゃ、行こうか。」

そう言って、フィオさんは私を軽々と担ぎあげました。
おお!流石悪魔。姿は少女でも地力が違う。

「ああ、それと、私の事は『フィオ』でいいよ。お姉ちゃん。」

そう言って私に向かってにっこり笑います。

「それなら、私の事は『アニス』でよいですよ、『フィオ』」

そうして、お互いに笑いあい、塔に向かいました。







こうして、今回、いろいろ痛い目にあったものの、初めて何も隠さず話せる、お友達が出来たのです。







追記

塔に戻ったら、すごい勢いでお二人に泣かれてしまいました。

・・・

・・



すみませんでした!!










≪あとがき≫


みなさんお待たせしました。
22話を送らせていただきます。


こんな遅筆の私にいろいろなご感想ありがとうございました。



こんな遅筆の上、説明が多いなぁ~。
もっと文才が欲しいです。
こんな駄文の私ですが見捨てないで頂ければ幸いです。





次回はフィオ視点かな。
次回でノミコン編は終了です。
その次はパラパラ砦編かな。


くらん様
大量の訂正ありがとうございます。
地道に訂正させていただきます。
こんな駄文ですがこれからもよろしくお願いします。



ルアベさま
またまたのご感想ありがとうございます。
アベルトがノミコンを使う話について、「パパイアに渡す際アベルトは操られないの?」「あそこまで慎重なアベルトが裏切る可能性大なノミコンを恨むであろうパパイアに渡す?」など疑問に思い、本作では真名を知っているが故、安全を確保していたという事にさせていただきました。
また、ノミコンが真名を知られている事についてあまり重要視していないのは・・・死ぬか生きるかの瀬戸際で選択肢が無かったということで、後の事を考える余裕がない状況だった、またこのノミコンについてはかなり生き汚いキャラとして設定しています、今を生き残れば後はどうにかなると考えるタイプです。
パパイアたちについてはあの状況下でそこまで頭が回らなかったということで。





横レススマソ様
悪魔の説明済みませんでした。



まほかにさま
やっとマグナムひと段落しました。
随分遅れてすみません。
作品に一言
やっぱりミリさん死んでいるみたいですね。鬼畜王では生存コースがあったのに。
本作でも出演していただく予定だったので残念です。





[11872] 第23話   まずは進みましょう。
Name: ムラゲ◆89e54959 ID:22f0b9b3
Date: 2012/10/20 01:01
第23話   まずは進みましょう。



「ぱんぱかぱ~ん、やっと召喚者のお仲間が出来ました。
 フィオリ・ミルフィオリちゃん、略してフィオちゃんです。」

「やっほ~!
 私がフィオリ・ミルフィオリ、略してフィオちゃんだよ~。」

「おお、随分と軽いノリで。」

「まぁね、悪魔、しかも貴族階級の上級悪魔をの生活を10年以上もしてたら、感性がこの世界の悪魔寄りになっちゃうのよね 。」

「??、この世界の悪魔寄り?」

「楽観的にして、思慮が浅い。」

「おお、自分の事をそこまで言いますか。」

「事実そうだから、しかたないのよねぇ。
 ふうっ(ため息)
 多分悪魔王さまが、そう設定して創造してるんだと思うの。
 なにせ、この世界の神側の勢力ってある意味圧倒的だから。」

「楽観的にして、思慮が浅くないと戦う気にならないと?」

「うん、兵士クラスの天使でさえ下級悪魔を圧倒してるし、兵力比も10対1じゃ効かないんじゃないかな。
 トップにしても、悪魔王さまでどうにか永遠の八神に勝てるクラスで、メインで策動している三超神なんかは比べ物にならない。
 悪魔界のナンバー2たる、三魔子ですら、二級神クラス、魔王と同等位かな?」

「うわぁ、確かにそれでは真正面から戦いたいとは思いませんね。」

「そうなの、だから、地味に神側の力である、魂をかすめ取るしか方法がないのよね。
 ちなみに、大量虐殺して魂を奪い取るなどの某作品のような方法は却下よ。
 この世界では、魂は元々神のものだから、そんな事をすれば一発で神側にばれるの。
 また、契約を結ばず強制的に魂を奪い取ることはできるけど、神の封印が掛かっているから、こちらの力にするのに随分手間が掛かるのよね。
 そんなわけで、量より質で補おうと、私達、悪魔は日々頑張って営業活動を行っているわ。」

「悪魔の世界も大変なのですね。
 ところで、話は変わりますが・・・、少し疑問に思ったのですが、フィオちゃんって、『闘神都市Ⅲ』の主要キャラですよね?
 あの世界から勝手に抜け出してもよいのですか?」

「・・・し~らない。(ぷいっ)」

「『し~らない』ってあなた。」

「じゃあ逆に聞くけど、進めていったら間違いなく自分が死ぬストーリーを進めたいと思う?」

「いや、そんな風に進めないようにすれば。」

「一応考えはしたんだけどね。
 ・・・この世界って結構、悪魔に対する偏見が結構きついから、良いことしてもなかなか信じてもらえないのよ。
 それに、下手すると他の悪魔に目をつけられて、人間ごときに媚を売るなんて何事だって嫌がらせ受けるのよ。
 確かに私は強力な悪魔だけど、悪魔王や三魔子以外にも私以上の悪魔っているし。
 主人公側に深入りしちゃうといざという時逃げるに逃げられなくなりそうなのよね、修正力が掛かってどんな事になるやら。
 かといって、主人公側と関わらずに下手に敵側の魔剣作り阻止しちゃうと話が変わって、私がラスボスになりそうだし。
 あの世界、私がいない方が結構うまくいくと思うのよね・・・たぶん。」

「たぶんってあなた・・・。
 自分の世界に対する愛着とか責任とかないのですか?」

「だって私悪魔だし!」

「おお!何と言う説得力に溢れた一言・・・。
 まぁいいですけど。
 さてこの作品、現時点の戦力は、
  『人類最強の魔法使い』
 と
  『悪魔の貴族』
 のコンビ!!
って、なにこのチート、俺達Tueeee。
 ・・・状態になってるはずなのに。」

「いまだ、明るい未来が見えないのよねぇ。」

「・・・この世界、パワーインフレきついから。」


「「はぁ~。」」 (同時にため息)







◇◇◇◇◇



≪アニスside≫



こんにちは、アニスです。

フィオちゃんの力を借りどうにか戻ってきましたが・・・。

すごく泣かれました。

どの位すごかったかといいますと、騒ぎを聞きつけてやって来た、ガンジー王、マジックちゃん、ナギちゃん 、雷帝さま、アレックスさんの前でも、お二人は私にすがりついて離さず泣き続けるくらいすごかったです。



・・・パパイアさん、あなたそんなキャラでしたっけ?



特に千鶴子さまの状況がすごく、真剣に三日間離してくれませんでした。


・・・え、三日間なんて簡単に言うが、ご飯やトイレはどうしたんだって?

いやですねぇ、そんな事決まっているじゃないですか・・・ポッ(真っ赤)

ちなみにこの後しばらく、千鶴子さまは顔を合わせるたびにお顔を真っ赤にしていました。・・・なに、この可愛い生物。



なお、あの騒ぎから一週間、わたしはまだミイラ状態です。



・・・なんでだろう?





≪フィオリ・ミルフィオリside≫(今後フィオsideに略)



私がアニスを連れてすでに一週間、現在私は千鶴子の塔(王者の塔)に一室を与えられ、そこで暮らしている。
まあ、態のいい軟禁だけど。

『悪魔』ってばらしちゃったから、しかたないけどね・・・。

私は私で結構苦労しているのよ、ううう、誰も解ってくれない。

実際、この身体に憑依したてのころ、そう行動不能のときは、何度も元の持ち主である『フィオリ』の意識にのまれかかった。
身動きできない状態で何か圧倒的な存在が覆いかぶさってくるのよ、あの時は本当に怖かった。
ただ、その度に何か温かい力が私を守ってくれたのだけど、思いなおしてみればあれがアリスの力だったのかな。
まぁ、憑依にに成功しないと目的が達成しないという事もあるのだろうけど。

はっきり言って私はアニスほどアリスを信頼していない、直接会っていない事もあるけれど、私達が例え死んだ後の魂だとしてもここまできつい状況にするなんて!
アニスのデメリットに至っては恨んで良いレベルだと思う。
あの子のお人よしレベルはAL教に聖別されてもいいレベルだと思うの実際。
今後出会ったら是非一言文句を言ってやりたい。





軟禁中の私、べつに不満は無いのだけどね・・・、ただ部屋の周りに封印用の結界志木を山と設置するのはやめて欲しい。
地味に怖いし。
最初からわかっていれば、逃れる方法はあるけれど、やっぱり精神衛生上よろしくないから、ほんとやめて欲しい。


たしか、結界志木ってかなりレアものだったと思うのだけど。
ここまで用意が出来てると、流石、将来魔人と戦うと決めた国、準備は怠っていないということか。



そうそう、ちなみにアニスはいまだ病院でミイラ状態。
あの子に回復魔法が利かなくなっているから、周辺パニック状態になっているわ。
私に言わせれば当然の事なんだけどね。



・・・

・・



おや、この魔力は、千鶴子にパパイア。
・・・この感じは?

うんうん、かなり焦っているみたいね。
一向に好転しないアニスの病状についての話し合いですかね?






◇◇◇◇◇



「どうなってるのよ!!」


私が興味に駆られて、応接室をのぞきに行くと(もちろん、部屋に施されていた結界や封印なんか上級悪魔の私には何の意味もない事は言うまでもない。下級とは違うのだよ!下級とは!!by青い巨○さん)、聞こえてきたのは千鶴子の怒鳴り声でした。



「私にだって訳わかんないわよ。」

そうパパイアが言うと二人まとめてため息をついた。


「これまであの子は神魔法レベル2の才能を持つお陰で、再生魔法が常時掛かっている状態だった。
だから並みの人間以上に回復は早いはず、なのに・・・。」

「本人どころか、他の神魔法使いに掛けさせた回復魔法は効かない。
 本人の再生能力は無くなってはいないけど微々たるものだし。」

パパイアが爪を噛みながら忌々しそうに話す。

おやおや、随分大変そうで。
しかし、どうして人間ってそんなに人の身体が都合よくできていると思うのかしらねぇ。

まぁ、私も元は人間なんだけど。
慣れすぎてしまうとそれが普通の事と考えてしまう・・・人間の悪い癖よねぇ~。

さて、そろそろ、お話をさせていただきましょうか。





「中々、お困りのようですねお二人さん。」


私が、出入り口から声を掛けながら姿を現すと、2人は一瞬驚いた顔をしながらも直ぐに戦闘態勢をとった。

・・・のは流石ですが・・・、けど。

そこまで警戒しなくても。

・・・

・・



はっ、思わず脳内で体育座りをしつつ、のの字を書いてしまいました。

いえ、好きだった原作キャラにこうあからさまに警戒されるとランスシリーズのファンとしては心がシクシク痛むというか・・・。

悪魔差別イクナイ



こほん、まぁよいです、話を進めましょう。





「うそ!
 あの結界を私に知られず抜けるなんて出来るはずが・・・。」

千鶴子が驚愕の表情を浮かべながら叫ぶ。

「ああ、あの結界ですか。
 まぁ、多少面倒でしたが、人間が作ったにしては中々のものです70点をあげましょう。
 もっとも、無効化した方法については秘密ですが。」

「あれを、ぬけた?
 警報すら作動させずに??」

「あなたって、いったい・・・。」


わぁい、大人気ですね私。
思いっきり驚愕と不審の目で見られていますけど。
シクシク(泣)


「最初にいましたよね。
 私の名は『フィオリ・ミルフィオリ』ただの悪魔ですわ。
 もっとも、貴方がたが知っている悪魔よりは少々上級でありますけどね。」


「・・・ごめん、パパイア。
 こいつ、とんでもない悪魔よ。」

「えっ?
 けど、全然魔力も、力も感じないんだけど。」

「無いんじゃないの、完全に中和しているの。
 ・・・完全に波動を消している。
 そんな事が出来る悪魔がいるなんて。」


うわ~、一発でばれちゃった。
上級悪魔の魔力を一端とはいえ一発で解析するなんて、絶対原作より能力上ですよね。
これはアニスちゃんの効果かな?


「うふふふふ、素晴らしいですよ。
 この私の魔力をこんな短時間で解析できるなんて、こんなの初めて。
 流石はゼス四天王筆頭という事かしら。」

「わちゃー、なにこの大物臭。
 ちょっと千鶴子、この子って?」

「・・・ええ、おそらくノミコンより上よ。」


『クスクス』

私は少し苦笑する。
アニスちゃんは長い付き合いから無条件でこの2人を信用しちゃっているようだけど、私はまだ出会ったばかり、評価は付いていない。
幾ら原作で好きなキャラクターだったといっても、これは現実、命と存在が掛かっている、信頼できるかどうかは早めに確認しておきたい。
さて、試験の始まりですよ。



「あら、言ったじゃないですか。
 『貴方がたが知っている悪魔よりは少々上級』
 と。」

さて、どう出ます?
普通のヒトならこの上級悪魔という圧倒的実力差を気付かされたとたん、種族的嫌悪を理由に排斥に走るのですが。





「・・・まぁいいわ。」


あらっ?


「今のところは、気にしないと言っているのよ。
 確かに貴方は悪魔なのでしょうけど、現時点では嘘は付いていないようですし、なによりアニスを助けてもらったという事実があります。
 そんな存在を、種族的嫌悪感だけで排斥しようとするほど私は狭量ではありません。」


「ただ、警戒だけはさせてもらうわよ。
 悪魔を無警戒で信じるほど馬鹿じゃないし。」



な、なんて、あっさりと、私の存在をスルーした!!!



「あはっ、あはは、あはははははははははははははははははははははは!!」



楽しい、楽しすぎる。
面白い、面白すぎるわあなたたち。

気付いていないのでしょうね、貴方達は。
そうすることが当たり前すぎて。
今のあなた達の行動が如何に如何に困難かを。





私は、悪魔としての自我に目覚めて約十年、初めて心の底から笑った。









悪魔として世界を見た。

世界は醜かった。


子が親を殺した。

親が子を殺した。

確実な友は親友を裏切り、優秀な為政者は独裁に走った。

民に愛を語る聖者は民に裏切られ、師は弟子を利用し、弟子は師を裏切った。


この世界は『アリス世界』であるはずなのに、数々の世界を渡った私が見たものは、ヒトとして拭えない闇ばかりだった。


おかげでこの世界に転生してから私が浮かべた笑いは嘲笑の笑みばかりだ。



ヒト、小さくて矮小なモノ。

愛を語りながら愛を裏切る矛盾に満ちた生物。
嘗て『人』であった私はこの存在に変わってからより一層『ヒト』ヒトという存在に矛盾を感じ始めた。


・・・まぁいい、ヒトの存在意義など、存在が確立して10年位の私が偉そうに語れるものではないだろう。



彼女たちが、私がノミコン以上の上級悪魔と気付いてから、私はその存在を隠蔽することを止めた。
すなわち悪魔としての私のプレッシャーを遠慮なくぶつけたのだ。
そう、一般人ならショックで心臓が止まってしまう位のプレッシャーを!
それをスルーした!!!



あ、・・・この世界は、神の勢力が強すぎて、悪魔の気配を感じると直ぐに天使が飛んでくるのだけど、結界が敷かれている迷宮や塔などは例外、無論この四天王の塔にも結界が張ってあるから・・・。
このクラスの結界なら私の気配が外に漏れ出すことはないよね?(ちょっと不安)



とにかく悪魔という『存在』はヒトに恐怖を生む。
これは『ヒト』という存在である限り避けられない事実だ。
ヒトが神から生み出された事からしても当然である。
それゆえ、悪魔がヒトと交渉するときは、その存在を押さえ、戦うときは解放する。
そして悪魔の『存在(プレッシャー)』を受けた時、ヒトは本能から恐怖する。

私は、この『存在』に耐えられるものが、神に作られた人形である『ヒト』か、自分で考え行動できる独立した存在『人』の違いと考えている。
ちなみにこれまで耐えられた人間は一人もいなかったけど。


なのにこの二人は私の『存在』を恐怖するでもなく耐えるでもなく受け流した。


そこらへんの下級悪魔ならともかくこの私の『存在』をだ。

そう、彼女たちにとって重要なのは『アニス・沢渡』、それに比べれば私の『存在』など、こんなものなのだ。

これはこの2人『人』どころじゃない、『英雄』の資格ありね。

うふふふふ、誇っていいよ二人とも。

『山田千鶴子』

『パパイア・サーバー』

貴方達二人は今『ヒト』でなく『人』であると証明した。
本能に従い、神を考える事を放棄した『ヒト』から、他の存在を愛し、自ら考え立って歩く『人』だと。





今回の何気ない会話、これは少々意地悪な試験のつもりだった。

今後、私と協力関係が築けるのか?
築けるとしてどの程度なのか?
アニスへの信頼は?

疑問は数え上げればきりがない。
何しろ私達がやろうとしている事は神への反逆だ。
この身が人でなくなったからからこそわかる、そのとんでもなさ。


少なくとも、この事で二人がそう簡単にはアニスを裏切らない事は解った。
出来ればこのままでいて欲しい。

あの子にはこの私の数十年の孤独を癒してくれた恩があるのだから。




◇◇◇◇◇



「いきなり、大笑いするものだから、おかしくなったのかと思ったわよ。」



私の大笑いがやっと終わって、千鶴子さんからの第一声である。
ちなみに『人』として認めましたので脳内でも『さん』づけになりました。


「ごめん、ごめん、つい楽しくなっちゃってね。」

「何よそれ?さっきの会話に面白い所なんかあった??」

首をひねる、千津パパコンビ。

「だからごめんって。
 まぁ、悪魔的感性のものだと思ってよ。」

「なにそれ?かえって気になるんだけど。」

更に首をひねるパパイアさん。

「こほん、まぁいいわ。話を戻しましょう。
 あなた、」

「フィオちゃんでいいわよ。」

さっそく出鼻をくじく私、ごめんね、性格的についいじりたくなるの。

「こほん、じゃ、じゃあフィオ、あなた何を言いたいの、何を知ってるの?」

うう、『ちゃん』付けで呼んでくれない・・・。

「あはは、じゃあ、私も少し真面目にお話しさせて貰うね。」

そう言って少し顔を引き締める。

「人間て云うモノはそれほど便利に出来ていないという事よ。」

「「はぁ?」」

「みんな普段から何気なく使っているから気にしてないでしょうけど、本来魔法というモノは人が使うには過ぎた力なの。
 ゆえに使いすぎれば必ず反動がある。
 そして今回の反動は、肉体への回復力劣化。
 そうね、解りやすく言うと折り曲げ続けた金属がしまいには折れて千切れるように、いくら魔法で肉体を修復したとしても、その部分には魔法で修復したという事実は残るの、で、それがたまり続けるとどうなるかというと・・・。」

「過負荷となって肉体に悪影響を残すと。」

「当たり!流石パパイアちゃん。」

「ちょっと待ってよ、そんな話今まで聞いた事ないわよ。」

「はずれ、千鶴子ちゃん。
正確には、そんな状況になる人間が居なかったというべきね。
人間ていうモノは結構丈夫でね、よほど通常的に壊れて治してを続けないかぎり、そう簡単に限界を迎えないものなの。」

「はぁ?なによそれ、じゃあ、アニスはそんな事が通常的に起こっていたとでも・・・、」

「身に覚えはなぁい?」

「・・・はっ!まさか魔力。」

「けど千鶴子、あれって魔力封印アイテムで押さえられてるはずじゃ?」

「封印といっても結局のところ蓋をしているようなものよ、湧き出す魔力が無くなっているわけじゃないの。
じゃあ、その溜まりにたまった魔力の行き先は?」

気付いたようね、二人とも顔が蒼白になってるわ。

「そう、身体の弱い部分に集まり噴き出す。
無論、そんな衝撃に肉体が耐えきれるはずがないから、その噴出部分の肉体は・・・破裂する。」


あ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


声にならない叫びがこだまする、そして目の前の二人から一気に負の瘴気が噴出する。
後悔という猛烈な感情が。

しかし、私はこの二人に更にきつい現実を伝えなければならない。
はぁ、気が重いなぁ。
私が人間のままだったら、気の毒すぎて言えなかっただろうし。


「急激に魔力が成長していた学生時代の3年間、続いていたそうよ。」

2人から、「まさか」、「あの時期」、「そういえば」などの声が聞こえる。
言われてみれば思い当たる事があるみたいね。

「で、更にきつい話、聞く?」

私がそう促すと、2人は顔を見合わせると無言でうなずいた。
うぅ、言いたくないけど言わないといけないか。
一応、念のため結界を張っておこう。
結界の種別は無限回廊と。
狂乱状態でアニスのところに突っ込まれても困るし。


「あの子ね、実は盲目よ。
 度重なる損傷に、繊細な感覚器官は耐えきれなかったらしいわ。」


「「ア・・ニ・・・スゥ・・・・・・・・・・。!!!」」


おお!
2人ともドップラー効果を残してすっ飛んでいった。

・・・

・・



・・・30分経過。


今私の目の前には、疲れ果ててダウンした2人がいる。
・・・結界張っておいてよかった。
しかし、全力疾走で30分・・・大した体力だわ。
魔法使いの体力じゃないわね。


「ゼイ、ゼイゼッ!」
「ゼハッ、セハハ!」

「少しは頭を冷やしなさい。」

体力の限界を迎えて碌に話せない2人に注意すると、更に10分待つことになった。





~10分経過~


「で、落ち着いた?」

「ええ、少しは頭が冷えたわ。」
「自分でもこんな熱血系な行動をとるなんて意外だったわ。」

私の目の前には背中を持たれ合わせ座り込んでいる2人がいる。
少しは頭が冷えたみたいね。
・・・やっと話を進められる。


「気がつかなかった事については仕方ないわ。
 あの子、他人の事については人一倍気にするくせに、自分の事に関しては軽く見る傾向があるから。
 自分の事でほかの人に心配かけないように随分巧妙に隠していたようだし。」

そう話すと、2人からきつい目で見られた。

「ああ、つい最近であったばかりで、碌に話もしていないお前に何がわかる。
 といった目をしているけど、助けた時にアニスちゃんからこれまでの事一通り全部聴かせてもらったうえに、疑問に思った事は軒並み答えてもらったからねぇ。
 まぁ、なんでアニスちゃんがそんな事ペラペラと話したかについては、私が悪魔だからという事で納得してもらえない?」

「・・・はぁ。
 わかったわ、これ以上問い詰めても話さないだろうし、納得する事にするわ。」

「で?
 私達を絶望させるためだけにこの話をしたわけじゃないのでしょう?」

「まぁ、悪魔的にはそれでもよいのだけども、話が進まないから、説明続けるね。」

そう言って、2人にもう一度アニスの現状を説明した後、本題に入った。



「と、いうことで現状、肉体が再生の限界にきているアニスちゃんには通常の回復魔法は無意味よ。」

そう話をすると、千鶴子ちゃんはため息を吐いたのち話しだした。


「アニスはね、ほとんど休まないの。
 休日は、ダンジョンにもぐりこみ、平日は情報整理に魔法の研究、空き時間があれば軍の訓練部屋で魔道機械相手に実戦訓練。
 普通の人間なら、怪我や肉体の疲労で嫌でも休憩をとるわ、魔法使いなら魔力の回復に時間が掛かり嫌でも休憩になる。
 けどあの子は怪我や疲労は回復魔法で無視できるし、回復魔法に使った魔力くらいは自動回復であっという間に回復してしまう。」


バン!!


千鶴子が床を叩く。


「解っていたの、解っていたのよ、こんな事!
 こんな無理を重ねれば人間はいつか壊れるって!!」


千鶴子ちゃんの血を吐くような言葉、その言葉の中にはすごい量の後悔と悲しみが混じっている。

・・・愛されているなぁ、アニスちゃん。
ちょっと、ううん、かなりうらやましい。

私が、少々へこんでいると真面目な顔したパパイアちゃんが話しかけて来た。


「フィオ、私の魂に価値はある?」

へ?
なんですか、いきなり??

・・・・・、あー!!!!


ごめん、パパイアちゃん勘違いしてる。
・・・わたしが、みんなと契約を結ばせたいがために、こんな話してると思ってるんだ。

こわー、こわー、頭のいい人って本気でとんでもないよ、2段も3段もすっ飛ばして話の内容に切り込んでくるよ。
確かに悪魔がこんな話してきたら、普通そう疑うよね。

・・・気をつけなきゃ。
早めに、誤解解いとかないと、悪魔退治のフラグがたっちゃいそう。


「あー、そうね。2人の魂、悪魔なら喉から手が出るほどのものよ、自信を持っていいわ。
 けど、勘違いしないでね、私が契約してほしいと思っているのは、アニスちゃんよ。」


その瞬間、私に強烈な殺気がぶつけられる。

うお!!
上級悪魔の私が一瞬、死を覚悟したわよ。


「違う、違う、勘違いしないで。
 別に契約を盾に、無理に魂を採ろうなんて考えて無いから。」

私は慌てて言い訳を口にする。

「じゃあ、どういう意味!」

「とてもじゃないけど信じられないわね。」

ずいっと、迫りくる2人。
近い近い、顔が近い。
怖いわよその眼、見てるだけで呪いが掛かりそうよ。

「うん!
 まぁ、私も簡単に信じてもらえるなんて思って無いわ。
 理由としては、悪魔としての性質かな。」

「「性質?」」

「うん、軽薄にして享楽的。そして好奇心旺盛。
 こういっちゃなんだけど、私ってかなりの上級悪魔なの。
 だから、そこらへんの下級悪魔みたいに魂の収集に血眼になっていないわけ。
 どちらかというと、下級悪魔が勝手に私に献上してくるのを文句付けて突っ返しているくらいなの。
 だから、私くらいの悪魔が地上の事にかかわるのはほとんど趣味なの。」

「趣味?」

「そ。
 あの子を見たとき、すぐに直感したわ、この子はこれから面白くなるって。
 だから、あの子とは敵対しない、嫌われることはしないってね。」

「じゃあなんで、アニスと契約したいなんて。」

千鶴子ちゃんがさらに突っ込んでくる。
まぁ、そうよねぇ。


「あの子のためよ。
 いくら、魔力の扱いに慣れたからって、あの子の魔力はケタが違いすぎるわ。
 今回なんとかなっても、いずれ同じ事が起こる。
 そこで私との契約が生きてくるの、私と契約するという事は、私とパスをつなげるという事、パスさえつながれば、そのパスを通じて普段の余分な魔力を私に回せるの。」

「そんなこと・・・。」

「まず、下級、中級悪魔じゃ無理ね。
 なんせ、あの子の魔力は魔王並みだから。
 流れてくる魔力だけでパンクしちゃうわ。」

「なんなのよ、あの子。」

呆れたようにつぶやくパパイアちゃん、それについては完全に私も同意するわ。
本当なら私でもかなりつらい、今回の件、私が魔力欠乏症だから出来る事、本来なら三魔子位じゃないと無理だと思う。

「私はねぇ、自分の趣味はとっても大切にしているの、そして今後自分の趣味、いえ好奇心を満たすためには貴方達との信頼関係は必須と考えているわ。
 だから、結構な譲歩をしても信頼関係は欲しいわけ。
 なんなら、あの子との契約書も、貴方達に預けるわ、私が裏切ったと思ったなら好きにして構わないわよ。
 それでも心配なら、悪魔との契約を強制的に解除させる方法も教えちゃおう。」

「教えちゃおうってどこの新聞契約員よ。」

「私には、どこぞの通信販売のセールスに聞こえたわ。」

呆れたようにつぶやく二人、ははは、余計なお世話です。
こちらは、なんとか警戒心を取ってもらうために必死なんです。

「では、最後にダメ押しに、アニスちゃんの回復のお手伝いをしちゃいましょう。」

その言葉と共に、2人に飛びかかられ、胸倉を掴まれた。

「「治るの!!」」

の、喉元を押さえないで、しゃべれない、しゃべれないから!!

・・・

・・



「まったく、うれしいのは解りますが、少しは落ち着いてください。
 でないと助けられるものも助けられませんよ。」

「はい。」

「まったくです。」

「「すみませんでした!!」」

私の前には正座して頭を下げる2人がいる。
あの後散々振り回してくれたので、
「そんなことするなら教えませんよ」
と言ったところで、やっと冷静さを取り戻してくれた。
まぁ、いいです。先に進みましょう。

「あのー、フィオちゃんが治してくれるの?」

おずおずと聞いてくる、千鶴子ちゃん。
おお、やっと『ちゃん』付けで読んでくれるようになりましたね。

「いえ、私も回復系を使えない事もないのですがそれほど得意ではないので、アニスちゃん自身でやってもらおうと思います。」

「あれ?アニスには回復系の魔法は通用しなくなっていたんじゃなかったっけ。」

「ああ、そうですね。今回アニスちゃんに使ってもらうのは、3レベルの回復魔法です。
 こう見えても上級悪魔ですからね、失伝している魔法なんかの知識を結構持っているのですよ。」

「あの、アニスの神魔法は2レベルですけど。」

おずおずとパパイアさんが聞いてくる。

「魔法の専門家であるパパイアさんが何言っているのですか。
 貴方達も結構使っているでしょう?
 3レベルの攻撃魔法。
 一言で3レベルの魔法と言っても2種類あるのです、魔力が足りていれば使えるものと、3レベルがなければ使えないものです。
 前者が『雷神雷光』で、後者が『迷宮作成』ですね。」

私の言葉に少し顔が明るくなる2人。
そこで、更に説明を続けることにします。

回復系には3つの方法があります、
『再生』、『復元』、『創生』
です。
『再生』は1レベルでも使えるヒーリング1かな、これは傷口くらいは塞ぐことができるけど、失ったものは再生できない。
『復元』は更に強力なヒーリング4クラス、これ位になると欠損した肉体も戻る。失われた腕や足がにょきにょき生えてくる光景は結構シュールだ。
で、3レベルに当たる『創生』、これはその名のごとく新しく作り上げることだ。
もっともこの魔法の本来の使い道は治癒させても再発する完治不可能な病気を治療する際に使われる魔法なのだけど・・・。
アニスの場合、『再生』も『復元』も不可能な状態にまで身体がボロボロになっている。そうなると新たに創り出すしか方法がない。
もっとも、創生、創造系の魔法は3レベルでなければ使えない魔法に分類されているため通常の方法では使えない、だが幸いなことにアニスは同じ魔法系の3レベルを持っていることから膨大な魔力で誤認させ使用する裏技をつかう。
もっとも、裏技は裏技、間違いなく何らかのペナルティが来るだろうが、今後寝たきり&早死にすることに比べれば些細なことだろう。

せっかく友達になったのに早死にしてもらっては面白くないもの。


この説明でやっと2人からOKがでた。
もっとも契約書の譲渡と契約の強制破棄の方法を教える事については念を押されたけれど、ついでにアニスが望まない限り死後魂を持って行ったりしないという事も約束させられました。

何と言う悪魔にメリットのない一方的な契約、悪辣さについては悪魔も真っ青よ、こんな契約他の悪魔にばれたら何と言われる事やら。

まぁ、アニスが自分の魂がしろくじらの元に行く事を望むと思えないけど。


けどこれで少しは私への警戒も薄れたでしょうし、ここにいる事の許可も得た。
なによりアニスと契約すれば私の魔力不足の状態も無くなる、というかこれが一番うれしいのよね。

えっ、この契約アニスのためじゃないのかですって、・・・一応悪魔ですから。







◇◇◇◇◇


≪アニスside≫


何やらいろいろ、フィオちゃんと千鶴子さま達が話し合いをしていたようですが、なんと、私の知らない3レベル神魔法をフィオちゃんから教えてもらい、私アニスは復活しました。

ジャンジャジャーン!!!


けど、『創生』の魔法って使いづらい。
創生する存在の作りを完璧に把握してないといけないし、そこから、悪いところのみを抜き出して、代わりのものを作っていかないといけない。
割と根気のいる作業だ。

身体の把握については千鶴子さま直伝『解析魔法』があったから良かったけれど、悪い部分を良いように作り変えるのは時間が掛かりました。
なんせこれから使う自分の身体、極力不都合は無くしたかったのですよね。

やっとの事で創り出す身体を完成させ、期待満々魔法を使ったところ・・・。



うう、気持ち悪い。

感想は・・・脱皮?

なんか、ズルリと抜け出す感触でしたよこれが。
実際、必要のなくなった旧肉体が溶けた状態で足元に溜まってましたし。

うん、子供に見せちゃいけない光景だよね。

ついでに久方ぶりに視力が戻りました、と言ってもここ数年魔法で視界を確保していたお陰でその状態が通常状態だと身体が認識してしまっていたので、実際の視覚と魔法の映像がこんがらがって、最初は脳がパニックを起こしてしまいました。
ということで、現在はまだ目隠しをしており、少しずつ慣らしていく予定です。



で、悪い情報、本来使えない魔法を無理に使ったものだからしっかりペナルティが来ました。
・・・レベルが3分の1になりましたよ。
どうやら掛ける方ではなく掛けた対象にペナルティがくるようで、今後他の人に使用するときは注意が必要ですね。
シクシク、私唯でさえレベルが上がりにくいのに。

というわけで、現在これまでの冒険でため込んでいた経験値パンをもしゃもしゃと食べています。
これでどうにか35レベル位までは戻りそうですが、経験を伴わないレベルアップは極力したくないのですけど、感覚が追いつかなくなるから・・・。
身体が回復したらまたしばらくダンジョンにお籠りです。



ちなみに現在、私の病室にはフィオちゃんと私の2人きりです。
先程まで千鶴子さまやパパイアさんもいたのですが、これ以上業務をほうり出さないでと泣きついてきた文官さん達に引きずられて行きました。
しばらくはお二人とも机から離れられないでしょうね。
南無~。





その後、フィオちゃんからいろいろ話を聞きました、主に千鶴子さま達から聞き出した、私が気絶している間の事や、いない間の事ですが。
話がひと段落したころ、フィオちゃんがおもむろに話しかけてきました。



「ねぇアニス、私達であの男片づけない?」

「あの男?・・・ああ、アベルトの事ですか。」

「うん、はっきり言ってあの男危険だわ、今後どんな風に私達の行動に影響してくるかわかったもんじゃないと思うの。
 あいつの正体は使徒だから確かに強力な力を持っているだろうけど、私と貴方の2人がかりなら倒せるんじゃない?」


うーん、私も出来れば早めに潰しておきたいとは思っているのですが・・・。

「ちょっと待ってくださいね。
 少々気になる事がありまして。」

「気になる事?」

「はい、ちょっとお聞きしますがノミコンの封印って真名唱えた位で解けるものなのですか?」

「まさか、仮にも上級悪魔を封印してるのよ、真名解放のパワーアップ位で解けるものですか。」

「ですよねぇ。」

「けど、中途半端な封印解除ならそんなに苦労せずに知る方法はあるわよ。
 なんせ、ノミコンは悪魔界でも結構な厄介者だからねぇ、ノミコンに対する嫌がらせで他の上級悪魔から大した代償なしで教えてもらえるわ。
 実際私も知ってるし、中途半端に解除されると再封印されるうえに封印期間が延びちゃうから良い嫌がらせよ。」

「やっぱり。」

ため息とともに愚痴が出そうになります、考えれば考えるほど厄介な男のようです。あのエセさわやか男は!!

「とりあえず、あの男を殺しに行くのは却下です。
 というか、殺せると思えません。」

「はぁ?
 ちょ、ちょっと待ってよ、それってあまりにも自分たちの戦力を事過小評価しすぎじゃない?」

頭の上に?マークをいっぱいつけてフィオちゃんが話します。
まぁ、解らないでもないですけど。

「勝てないとは言ってません、殺せないと言っているのです。
 今回の一件、最初から最後まであの男、アベルトのターンでした。
 にもかかわらず、自分の情報で漏らしている事は一つもありません。それどころかフィオちゃんがいなければ誤った方向に誘導されていた可能性が高いです。」

まずは自己紹介、いつから、なぜ狙っているかを伝えてはいるものの、結局自分の情報は何一つ伝えていないし、自分はストーカーであると宣言しているだけ。
その時でさえ、目的を達せなかったと感じると、さっさと見切りをつけて人形に入れ替わっている。
並みの悪党なら、自慢げに自分の事をしゃべってるシーンだ。
その後は、ノミコンの話題にに重点を置かせ、うまく話をそらせている、実際悪魔がらみのインパクトが強すぎて、あの男の印象が薄くなっている。
そしてノミコン、あの男の言う事では真名を知っていたからこの裏技が使えた、みたいに説明しているが、実際のところ、この裏技を行う前提には、他の上級悪魔と互角の取引が必要でそれをしていたという真実が判明した。
しかも上級悪魔との取引などというとんでもない行動をやっているのが、魔人や使徒ではなく、現時点では自分ことは唯の人間と思いこんでいるあの男がだ。


判定、・・・あいつは殺せない。

隠し玉が多すぎるし、危険察知能力が高すぎる。
例え私達二人で囲んだとしても、1,2回は確実に逃げられそうだ。
そして今現在の状況ではその1回の失敗が致命傷になりかねない。

それはあいつがウルザさんの信頼する側近だという事だ。
襲われた後、あいつがウルザさんに一言、
「高レベルの魔法使いと悪魔に襲われました、あんな刺客を用意できるのはガンジー王の側近しかいません。王党派は我々と話し合いたいと言いつつ、周りを削ってウルザさんを操ろうとしているのでは?」
などと言われれば、こちらとしては襲った事実がある分返す言葉がない。

今回の事であいつの手札の幾つか、ノミコンと認識撹乱の仮面のオリジナルが無くなったが、全然追いつめた気になれないのですよ。


わたしの説明を受けたフィオちゃんはうんざりした顔をこちらに向けて来た。

「なんて厄介な奴なの。」

「ええ、実際かなり厄介な奴です。
 正直、これまでも何回かあの男の排除を本気で考えた事があるのですが、殺しきれる自信が無かったことと、後のウルザさんへの影響を考えたら手が出せませんでした。」

「本当になんとか方法は無いの?」

ぼやく気持ちはよく解ります。

「そうですね、まずウルザさんにアベルトは敵であることを認識させること、そしてあの男自身が勝敗をつける事に必要を感じる、この2つが必要でしょうね。」

「なに、その無理っぽい前提条件は。」

「はい、原作から見るとウルザさんがあの男を敵だと認識するのは、カミーラの使徒に戻ってからですし・・・フィオさん、カミーラと戦って勝てます?」

「うーん、負けないとは思うけど、勝てるかと言われればどうかなぁ。」

「カミーラさんに無敵結界がある限り私は現状役立たずですし。
 そこまで派手にドンパチしちゃうと隠蔽が利かなくなるから、へたするとあなたの気配に気付いた神や天使が押し寄せてきそうなのですよ。」

「結局原作通りか・・・。」

「わたしとしてはごめんこうむりたいのですが。」

うう、原作ではゲームゆえに軽く描写されていましたが、現実にあの『カミーラ侵攻』が起きれば、確実に国力の半分は持って行かれます。
しかもこの予想は最低のものであって最高ではどんな悲惨な事になるやら。

そして、原作どおりに進めばわたしの洗脳イベントが発生するのです、対洗脳の切り札は前回使っちゃたし、原作より強化されたわたしが敵に回るなど悪夢としか言いようがないのですよ。

今回あっさりフィオちゃんとの契約に承知したのは、召喚仲間で、フィオちゃんとわたしのデメリットを同時に解消しようという意図がありますが、もう一つ考えがありました。
それは、いざという時契約をしていれば、フィオちゃんを自由に召喚できるということです。
今回のこの契約、ランス君のような奴隷契約ではないのでわたしの命令に強制力はありません、これで操られたわたしの命令でフィオちゃんが千鶴子さま達の敵に回る事は無いでしょうし、敵に回ったわたしを止めてくれるかもという思惑もあったのです。

「洗脳イベントが問題ですね。」

「いざという時はお願いしますね。」

わたしが疲れた笑いを浮かべながらフィオちゃんに話しかけると、フィオちゃんも疲れた笑いを浮かべながら、

「そのまま始まっちゃうと、魔王級の魔力をくいとめる事になるのか、・・・大変な事になりそうね。」

と、愚痴をこぼすのでした。








「そう言えば私、このランス世界は最近来たばかりだからあまり詳しくないのよね。
 どんな感じなの?」

「そうですね、原作とは違ったところもありますのでお伝えしておきます。」

その後、気を取り直し出会った時には伝えきれなかった各国の現状を説明しました。





ゼス王国

(1)現状私達王党派は、連携がうまくいっていることから、原作よりかなり強力になっています。ただ長官派からの妨害工作は続いており、思うように軍、政治の改革は進んでいません。
 ちなみに光の軍はまだ掌握できてません、将軍の首をすげ替えるネタが中々見つからなくて。
 高速飛行魔法や瞬間移動魔法を持っているわたしが各地に飛び回り連絡役件情報収集を行っています。
 ジークの使徒オーロラを警戒しての事ですが、そのお陰で手紙のやり取りに苦慮しています。
 高速飛行魔法特化型(高速飛行は浮かぶ移動するの2段階の制御が必要な事から本来はレベル2に相当する魔法)の魔法使いや長距離型魔法無線の試作型の開発で少しずつ負担が軽減していますが。
 ちなみに以前出てきた携帯伝話、持ち運び重視のためもろく、長距離通信のため多量の魔力をこめると壊れてしまいます、なおまだ試作品のため一般には普及しておらず、固定型の水晶電話がメインです。
 水晶電話は有線もしくは中継点を利用するため盗聴の恐れがあり、内緒話には向きませんが、私達王党派の個人回線にはセキュリティがかかっており、へたに盗聴すると大変な事に・・・パパイアさんの場合盗聴した相手の所にバグが飛び出してくるとか(汗)、どうやって制御してるんだろう?
 報告連絡が円滑に進まないと情報関係はやりにくいのです、千鶴子さまの情報魔法にも限度がありますし、やる事が山積みで用法関係にまでご迷惑をおかけできないのですよ。
 ムシ使い村の一部を助けたことから、3人の若い女の子が下働きとして働きに来ています、あの事件に関係していた、千鶴子さま、パパイアさん、わたしにそれぞれついており、雑用件ムシ使い村との連絡役として重宝しています。
 無論私付きの子はカロリアちゃん!ああ、可愛いですよカロリアちゃん、思わず抱き枕にしちゃう位に、・・・え、フィオちゃんなんでこめかみを拳でぐりぐりするのですか!!

(2)長官派(貴族派)の勢力は強大ですが、個々の欲が優先してしまい連携がうまくいっていません。もっともそれはこちらが極力ぶつからないよう行動しているからであり、もし貴族たちに損な行動をとれば一致団結してくる事間違いなし。
 え、なんで長官派の勢力を削れないのかって?・・・そのあたりは仕方ないのです、実際わたしたちのやろうとしている事は2級市民達にはメリットがありますが、1級市民達にはあまりメリットがありません、というかデメリットの方が多いのですから。
 決して1級市民のすべてが特権意識を持った差別主義者ばかりというわけではないのですが、人間、自分にデメリットのある事はあまり積極的に進めたがりません。
 現在、王党派との繋ぎは教育長官のラドンです。なお、こちらの勢力が原作より強力ななった影響かラドンの娘エミさんがマジックさまの遊び相手としてこちらに入り浸っています。
 政治感覚のあるラドンとしては長官派の勢力が一方的で無い現在、裏ルート的な伝手が欲しくての行動と思われます。
 ちなみにエミさん、初めは緊張のためか表情が堅かったけれど最近ようやく慣れてくれたようで、笑い顔が見られるようになってきました。
 まあ、これまで、自分より下しかいないところでちやほやされ続けてきた人がいきなり自分よりも上の地位、又は実力で遥かに及ばない集団にほおりこまれればパニックにもなるのですよ。
 この半強制的性格矯正のお陰で原作のような破滅型の人間(S気質又は破滅的なM気質)にはならないと思いますよ。

(3)反政府組織ペンタゴンは原作通りネルソンがトップになっていますが、こちらからのスパイが活躍しているおかげである程度のコントロールが可能になっています。
 また、そのスパイが八騎士のひとりになった事から団員内で最も実績のないエリザベスが八騎士になれませんでした。
 また現状ウルザさんに働きかけ分断工作を実施中で、ホットラインも作れました、ただ信用度はこれからですね。
 今回の事もあるしウルザさんのところにもうちの息が掛かった人物をいれたいなぁ。
 魔法使いは無理だろうし、何より隠して入れるとエセさわやか男に暴露又は警戒されそうで、となると政府側の人間は無理だろうなぁ~。
 自由都市かどっかに信頼できる冒険者かだれかいないかな?
 ジパングからの人員調達は流石に遠すぎるし。


ヘルマン共和国

 時々ちょっかいを掛けてきます、もっとも国境線が東から、三国にまたがった絶壁だらけの山脈、死の砂漠、カラーの森竜の山脈がある山道であることから大規模な侵攻は難しく、唯一侵攻可能な西のルートはカラーと竜の勢力圏にまたがっていることから迂闊に砦を築く事も出来ません。
 秘密警察があり国内の諜報網が整備されていますが魔法に対する防備が薄く、わたしがよく侵入して調査しています。というのも、どうもこちらの長官派と、あちらの議会の一部が頻繁にやり取りしてるのですよね、何か企んでいるような・・・。
 ああそう、こちらも向こうの権力者と一応非公式のルートを持つ事に成功しています。
 相手は『黒髪のカラー』さんです、いやー、初遭遇時のあの時は真剣に恐怖しましたよ、なにせ何度か潜入に成功しすっかり気が緩んでいたところにいきなり半端なく大きな魔力反応が近付いて来たのですから。ヘルマン魔法関係の人物ですっかりあの人の事を忘れてました。
 もっとも一戦も覚悟していたところ、中々理性的に交渉してきたので助かりました。
 戦うばかりが諜報戦でないことを理解してくれる頭を持った人は貴重ですよ。
 まぁ、あちらも勢力的に劣勢に立たされていますから、国外に伝手が欲しかったのでしょうけど。
 えっ、『黒髪のカラー』さんはどんな感じだったですって?
 はっきり言って格が違います、同じ魔法レベル3ですが、あの時戦っていれば確実に負けていました、魔力では多分勝っていると思うのですが・・・、どうも隠し玉がありそうで、それを除いても魔力を扱う経験値は比べ物になりませんからね。
 美人は美人ですがかなり怖い美人です、多分初対面では恐怖が先にたっちゃって、後に落ち着いてから、そういえば美人だったなと思い出す感じでしょうか。
 そういえば、わたしの身体が落ち着いたら出来るだけ早くハンティさんに連絡付けないと、どうもうちの軍とヘルマン軍がつるんでなにかやらかしそうな気配なのです。


リーザス王国

 怖い国です、魔法に対する防御だけでなく影の諜報機関が整備されていて(たぶんマリスさんの諜報網)諜報目的でちょっかいを掛けるとどこで追いつめられるか解ったものじゃないです。
 リア王女も遠目に確認しましたが、あれは化物ですね、ひと目見て怖いと感じましたよ。まだ、時期的に女の子いじめに夢中になっていて、覚醒していない時期のはずなんですが・・・、元々素養があったということでしょうか、原作ではマリスさん位しか怖い人はいないと思っていましたが、リア王女も要注意ですね。
 この国もゼスと同じく貴族が勝手気ままに動いていますが、マリスさんが制御しているせいか目立った動きは見られません、軍も統括しているバレス将軍がリア王女の後見人になっていることからうまく統括されています。
 唯、この時期にまだ赤と白の軍の将軍がリック将軍やエクス将軍じゃないのですよね?
 それどころか赤の軍の副長にまったく知らない人物がいて、リック将軍は1番隊の隊長をしているのですよ??
 この原作剥離は今後どうなるか注意が必要ですね。


自由都市

数が多く統一性もないので手を出していません。
そこまで時間がなくて・・・。
カスタムに手を出す事も考えたのですが、その後のバタフライ効果を考えると怖くて手が出せないです。
資料だけで確認する限り、鬼畜王で出てきた都市だけじゃないみたいですね、小さいですが王国みたいなものもありますし。



JAPAN

まだ言った事がありません、流石にそこまで余裕がなくて。


魔族領

あんなところ迂闊に入り込めません、魔人が出てきたらどうするんですか?!




「と、こんなところですか。」

「なんというか・・・割とカオス?
 王党派が強固になったせいで発生した周辺へのバタフライ現象がひどいわね。
 というか、国内混乱したままじゃない。
 ついでにエミやハンティさんとすでに知り合いってどうなってるのよ!」

「まぁ、やれる事をやったのが原因というか、ぶっちゃけお金がないもので、改革は進まない、新たに諜報組織も作れない、自然、軍制改革も進まないわけで・・・。
 ついでの方は私が意図したわけじゃないですよ。
 ちなみに原作キャラの引き込み活動で引き籠り女魔法使いさんも仲間に入れたいのですが性格上誰かが面倒みないといけないため保留中です。」

「お金がないっていうのは、よく転生小説なんかにある、現代知識を利用した農政改革や、発明での財源確保したらどう?」

「ははは、どこの内政チートの話ですか?
 農業なんてその土地の土壌や気候でころころ変わるんです、やろうと思ったら3年は知識のある人間が専従しないといけませんよ、それを国単位でやろうと思ったらどれくらいの人員を用意しないといけないか、それにどっかの駄肉魔王さんのごとく専門知識を豊富に持っていたのならともかく、わたしの前世は高卒の地方公務員です、人に説明できる知識なんてあるわけないじゃないですか。
 発明に至っては、この世界、大抵の事は魔法で出来ますからね、それに物品で儲けるには大量生産しなければいけません。
 この世界にそんな大規模工場あると思いますか?
 流通させる会社は?
 販売するデパートなんて王都にある位ですよ。」

そう投げやりに答えるとフィオちゃんも頭を抱え出しました。

「あぁ、そういえばそうね、つい現代の感覚で考えちゃうけど、半端な知識で行った改革がうまくいくわけないわよね。
 それにこのランス世界、冷蔵庫なんかも魔法である位だから、私達の知識にあるものくらい既に有るのよね・・・、そうだ、娯楽関係は?」

「甘いですよフィオちゃん、遊び関係は似た様なものなら既に有りますし、特殊技術が要らないものについては直ぐに海賊版が出てしまいます、この世界には著作権なんてものは無いのですよ。」

「うわ、なに、八方塞がり感は。」


否定ばかりしてフィオちゃんには悪いのですが、実際財政アップの難しさには頭を抱えるばかりなのです。


「実際やってみてわかった事ですが、国なんてものは一握りの天才が居ても動かないのです、成功すると解っていても、それを始めるのにお金が掛かりますし、失敗すれば責任問題が出てくるため、検証に時間が掛かります。
 新しい政策をいざ、開始になってもそれを広めるには大量の役人の協力が必要ですが、現在長官派にお金と役人を握られているため・・・。」

「碌に動けないか。」

「はい、千鶴子さまパパイアさんの両名は充分チートですが、個人でできる事は限られているのです。
 それでも、四天王や雷光氷炎の四軍に対する予算がそれなりのもののお陰で少しずつ進める事が出来ていますが・・・。」

「きついわねぇ、そんな事で対魔人や天使達の対策は進んでいるの?」

「まあ、そのあたりはなんとか、この世界の魔法は基本的にはイメージ重視ですから、いろんなイメージを直ぐに思い浮かべる事が出来る現代知識持ちのわたしはかなりお得なのです。
 アリスちゃんからも、この世界の技術を流用したとの言い訳が聞くなら新魔法も作成できるようにしていただきましたし。
 現在完成しているものとしては、合成魔法『巨神殺し』や対軍魔法として合体魔法があります。
 もっとも合体魔法は過去にもう完成していましたのでそれを改良したものですが。
 と言ってもこの魔法を発動するにはほぼ同一波長のシンクロが必要で2人までならともかく、3人以上は不可能もしくは非常に困難となっています。
 ゼスでも過去に成功したのはジュエル三姉妹という三つ子の姉妹だけで、その三姉妹もその後、行方不明になっていて詳しい資料が残っていません。
 多分天使教の三姉妹の魔人封じの秘術も合体魔法なんじゃないのかと思っていますが、遠すぎて調査が出来ていません。
 無理に合体させる事も出来ますが、わたし並みの魔力で無理やり合体させるか、千鶴子さま並みの演算能力でシンクロさせるしか方法がありません。」

「あれ、貴方の魔力なら合体させなくてもそれ位の魔力出せるんじゃない?」

「・・・出来ないとは言いませんが、それクラスの魔法を打ち込めば確実に身体が持ちません。」

「そっか、身体は普通の人間だものね。」

「それと、魔法についてもう一つ、3レベル魔法である『迷宮作成』これは多分某月型で出てきた『固有結界』と同じかそれに近いものだと判明しました。」

「じゃあ、UBWできるの?」

「はい、おそらくは、ただわたしは某正義の味方のように剣製に特化していませんのでまったく同じものを作ろうと思えばかなり面倒ですが。」

「じゃあ、原作のアニスが作った雲の迷宮はどうなの?」

「あれは、魔法の名前の通り迷宮を作る意思で作成したもので、原作アニスの残念なイメージ力で作られたためあんな壊れやすいふわふわした迷宮になったのと思います。
 この魔法は異空間にイメージの世界を作り出す魔法ですから。」

「さすが3レベルの魔法、とんでもないわね。」

「あと、魔力増幅のための道具をパパイアさんがいろいろ作っています。
 イメージ的には鬼畜王で出てきたホーネットさんの魔力増幅用の浮かんでいた金属球ですが、聖魔教団の技術でさえ不明なところが多いのに同じものは無理という事で、ガバッハーンさまの妖精の技術を応用して研究中だそうで、まだしばらく掛かるようです。」

「今のところ打つ手は無か。」

「はい、残念ですが・・・。」








◇おまけ◇


「そう言えば、アニスちゃんは随分原作キャラと仲良くなっているようだけど、この世界の人ってどんな感じなの?」



「・・・この世界はエロゲーです。おわり。」

おや、フィオさん、なぜ後ろに回るのですか?
え、拳をこめかみに・・・まさかまた!!

「うにゃ~あ!!!痛い、痛いですよフィオちゃん、やめてー、ウメボシはやめてー!!」

「はけ、吐かんかー!
 何を隠している!貴様はいったい原作キャラになにやったんじゃー!!」

「いいます、いいますから!!」


そう答えたわたしは現在フィオちゃんの前で正座させられています。


「いえ、この世界の女の子って結構、性に関してタフな子が多くて、考え方がシトモネちゃんなのです。」

「・・・シトモネ、誰だっけ?」

「ランス6の最初に出てきた、宝箱を開けてる最中にランス君に襲われて・・・、」

「あぁ、思い出したわ、確かランス君に無理やり処女を奪われたにもかかわらず、また同じ場所で襲われてた。確かクエストにも出てましたね。」

「はい、この世界の女の子は大抵そんな感じで、襲われた時は落ち込みもするけれど回復も早いのです。
 そんな感じなので、性に関するハードルも低く・・・。」

「あれ、そんなに原作ではビッチは居なかったと思ったのだけど。」

「確かに男性に対してはヤリマンビッチと思われたくない、けど女の子にも性欲はあるのよといった感じで、そうなると自然百合系のハードルが低くなり。」

「・・・つまりあなたは原作の女の子に手を出したというわけね。」

「ぴぎゃああ!
 フィオちゃん、笑顔が笑顔がとっても怖いです。
 ち、違うのです、わたしの場合以前から一緒にいればレベルアップ時、魔法系のステータスが上がりやすい事が判明していたのですが、それ以外でも判明しまして。
 そうなんです、以前何回かパパイアさんに無理やり襲われた事がありまして、その際パパイアさんの魔力が上がっている事が判明したのです、それからわたしの周りの女性魔法使いが入れ替わり立ち替わりわたしのベットに潜り込むことが・・・。」

「ほほう、そういう大義名分の下女の子を食べまくったと・・・、」

「ま、待ってください、関係になったのは無理やり襲われたパパイアさんだけで、後の方は、精々裸で抱き合う程度で・・・ふぃ、フィオちゃん、背中から炎が、違うのです決してわたしが望んだわけではなくて!!」

「うん、よく解ったわ・・・・・・・・・・貴方には天誅が必要だって事がね!
 デメリットのせいであんたは不幸だと思っていたけど、充分あんたはリア充だぁ!!」

「ぴぎゃー!!!!」




暗転









≪あとがき≫


再び遅くなって済みません!!
言い訳ですが、初版は割と早くできていたのですよ・・・ただ読み返した際、厨二病全開の独りよがりの文章だっただけで。

思わず布団を頭からかぶせて身もだえしてしまいましたよ、ほんと。
ムラゲは勢いだけで書いたらだめという事がよくわかりました。

精神にダメージを受けながら書き直すのに随分時間が掛かってしまいました。


今回は新キャラのフィオちゃんのお話。
アニスやランスキャラ達を大事にしながらも自己中心的なところがある子です。
ちなみにフィオちゃんが人間の闇の部分を見続けているくだり、実は悪魔ゆえ自然とそういう場所に吸い寄せられている事に本人は気付いていません。
この世界もっと夢や希望にあふれてますよ。

また、現在の各国の状況も追加させていただきました。
エミやハンティがいきなり出ているなんてご都合主義なんだと石を投げないでください、このエピソードを入れるとまた時間がかかりそうで・・・。
今回の話も2話に分ければよかった・・・。

さて、次はいよいよハンティさんとの面会、更にもう一人新キャラが出てくる予定です。




MOTO様
お読みくださってありがとうございます。



くらん様
はい、この世界神の力が強すぎますから、これからもアニスたちは苦労します。
人間社会じゃ充分突き抜けてるのですが。



まほかにさま
ご感想ありがとうございます。
フィオちゃんはしばらく自由に動けません、せっかく魔力のデメリットが無くなったというのに・・・、考えてみればこれが一番のデメリットかも、一番実力があるのに自由に動けない。
アテンさんは実力あるけど途中で引き籠られると大変なことになるので保留中です。



マトリョーシカさま
フィオについてはうまく予想を外せたようで・・・。
アニスの壮絶設定については、これ位お人よしでないと帰れないとはいえ別の世界の人間が戦って行けないだろうという作者の解釈と高等回復魔法習得のための伏線でした。
というか、今回こんなにあっさりアニスが復活するなんて思っていなかったと思いますが。



ルアベさま
2回もご感想ありがとうございます。
またまた、魔力供給についての予想お見事でした。
きえちゃえボム(アニスバージョン)については魔王バージョンのように制限なく放出すれば身体が持ちませんので半分以下です。それでも上級悪魔の防御力を消し飛ばす威力ですが。
この世界、魔法無効化の部屋などあるのでアニスが入っていれば大ピンチでした。
もっともそのための剣戦闘レベルでありガンジー王より伝授してもらった秘剣なのですが。
悪魔には無敵結界は効かないと思ったのですが、ムラゲの作品ではこの設定でお願いします。
魔力封じの腕輪は付けたままですよ、それでも魔力が放出することからアニスは苦しんでいました。この設定は『魔王に魔封じのアイテムをつけて効くのか?』という疑問から創り出しました。
なお吹き飛んだ魔法封じのアイテム位ならいくらでも準備できます、魔法使いの犯罪者には必要不可欠なものですからね。



時代にさま
ご期待ありがとうございます。これからもがんばります。



A-さま
アリスちゃんがわざとしたわけではありませんが、協力者の安全についてそこまで深く考えていなかったことも事実です。フィオちゃんの言うとおり本来なら恨まれていてもよいレベルです。
なお他世界の時間経過については深く考えないようにお願いします。
もっともアリスちゃんのお話で他のアリス世界の時間経過について述べているので自分勝手とは思いますが。



紅さま
もちろん、アニス達も性転換の神殿については知っていますよ。
ただ、使用するか、出来るかは別ですが。
もちろん男になれば・・・ランス君の敵になる勇気がアニス達にあるなら別ですが。
それに転生者達には元のキャラクターの魂が残っていますし、抵抗はあると思います。



AQさま
長らくお待たせしてすみませんでした、出来るだけがんばります。
アニスの両腕は今回脱皮して戻りました(笑い)。



一通り読み流したさま
はい、吹き飛んだのは両手です。腕は無事ですが、しがみつきずらいのは確かなので移動時と同じように魔力を利用してよじ登りへばり付いて居ました。
サーモ眼については今後前回の戦闘のように魔法を引き裂いたり、合体魔法のシンクロに必要などの地味な設定があります。



オロナミンEさま
ありがとうございます。
こんかい、アニスの悪事の暴露が!!



マルさま
ノミコンは存在が無くなるまでフィオちゃんの飴玉ですね。
ちなみに消えちゃえボムは自爆技ではなく攻撃魔法ですから指向性があります。アニスが最初の爆発で吹き飛んだのは魔法の事をよく知らないため指向性を設定しなかったためです。よってノミコン退治の後落ちて行ったのはボロボロの身体の状態で大魔法をつかった反動からです。



E・Vitalさま
応援ありがとうございます。
これからもがんばっていきたいと思いますのでよろしくお願いします。



[11872] 第24話   みんなが主人公!
Name: ムラゲ◆89e54959 ID:22f0b9b3
Date: 2012/10/20 01:00
第24話   みんなが主人公!




「やっほー、フィオちゃんだよ。」

「アニスです。」

「そう言えばアニスちゃん、前回の内政チートの話で随分枯れた感じだったけど、どうしたの?」

「グサッ!
 ・・・う、うう。
 そのあたりは黒歴史なのであまり触れないでほしいのですが・・・。
 実はかつて私も内政チートをしようとした事があるのです。
 けど、この世界、調べてみると元いた世界と天候や、植生、水問題が全然違うのですよ。」

「・・・ああ、そう言えば、ここの土地って聖獣の支えるテーブルの上に乗ってたっけ。」

「はい、お陰で、天候、水問題、土地の栄養分などはその土地の属性とそこを管理している神様次第でして。
 おまけに新たに農地を作ったりすると定期的に植物型モンスターまで畑に生えてくる始末で。
 また植物型モンスターが発生すると、ころっとその土地の植生が変わる事も珍しくないのです。
 こんな土地、経済屋の駄肉魔王さまが居てもどうにもならないですよ!」

「うわっ、なにそのファンタジーな土地柄。」

「お陰で、自信満々に千鶴子さまに語った農業改革を、千鶴子さまに私の考え違いの部分を懇切丁寧、やさしく説明され、やんわりと否定されました。
 ・・・うう、いっそひと思いに私の勘違いを否定してもらった方が良かったです。」

「ああ、あるわよね、やさしさがかえって辛いって事が。」






◇◇◇◇◇



 あの、ノミコンの騒動からしばらくの間、とりあえず私はリハビリに励んでいます。

 わたしの肉体は全体的に肉体創生の魔法のために急激なレベルダウンはしたものの、肉体的には、ほぼレベルダウン以前のパラメーターの肉体を創生したので今のところ魔力が肉体を破壊するなど、不都合は出ていません。
 おかげで、レベルダウンで落ちた身体能力も早い段階のレベルアップで回復しました・・・なんかモルルンみたいですね。

 ただこれモルルンのように能力アップのために使うのは危険なようで、1回2回ならともかく、あまり使いすぎると肉体と魂の乖離が起こる恐れがあるようで・・・うまい話は無いという事ですね。

 不都合と言えば、この数年盲目状態であった目の違和感が中々取れません。
 現在リハビリの重点はこれに慣れる事を第一としているのです。



「そう言えば、これからどうしますの?」


 わたしがリハビリのためにパパイアさんの塔の地下にある訓練場でメカドール(パパイアさん謹製試作型ガードロボ)と戦っていた最中、傍らで見ていたフィオちゃんからそんな声が掛けられた。


「そうですねぇ、とりあえずヘルマンに行こうと思っています。」

「ヘルマン?
 ああ、そういえばゼスの長官派とヘルマンの高官がやたらと繋ぎをとっているとか言ってましたね。」

 フィオちゃんのその言葉の後、わたしの刀は敵であるメカドールの持つ槍攻撃を受け流し、カウンターで、敵の中枢を貫いた。
 メカドールはしばらく火花を散らした後機能を停止する。
 それを見届けた後(残身は大切ですよ)、わたしは乱れた服装を直しつつ、フィオちゃんとの会話を続けます。


「パパイアさんの話ではここ最近、正規軍の方へやけに軍需物資が流れ込んでいるようでして、状況からどうも近いうちに軍事行動を起こすつもりではないのか、という予想があるのです。
 これは少々きな臭いのですよ。」


 するとフィオちゃんも少し驚いた顔をしました。


「軍事行動?
 穏やかじゃないわね、ついに王党派と全面対決でもする気になったのかしら?」

 わたしは首を横に振りつつ答えます。

「それは無いと思いますよ。
 正規軍もトップは長官派にべったりですが、下の方はそれほどひどくありませんし。
 もしそんな事が起これば間違いなく軍事行動に乱れが生じます。
 なにより、王都には雷帝様の軍が常駐しています。
 あそこの強さとゼス王に対する忠誠心の堅さは軍関係者で知らない人はいませんし。」

「となると、国内の反抗勢力の一掃・・・これは無いか、ヘルマンに話を通す意味がないし。」

「ええ残る一つ、最後の答え、間違いなくリーザス侵攻ですね。
 我が国の国境は、魔人領域、竜の国、カラーの国、ヘルマン、リーザス、AL教団に接していますが、魔人領域の侵攻は馬鹿でも考えませんし、竜の国は攻め込んでもうまみがない、カラーの国とはゼス王自ら不可侵を宣言していますので、ガンジー王が変わらない限り侵攻は無いでしょう、AL教団は言うまでもありませんね。
 自由都市圏はリーザスのパラパラ砦が邪魔で軍を進められません。」

「そうなるとかなりの大事になるのだけど、原作にそんなイベントあったかな?」

「さぁ、流石にわたしもこの世界の歴史年表丸覚えしている訳ではありませんので。
 ただ、わたしという存在の介入で結構歴史が変わっていると思いますので、これが新たに作られたイベントの可能性もあります。」

 というか、日常生活にも関係ない、テストにも出ないそんな年表、緩いオタクでしかないわたしは覚えていません、転生してるおかげで、自我が確立するまでそんな難しい事も考えられませんでしたし。
 ・・・憑依組はどうなのでしょう?

 わたしがフィオちゃんに目を向けると、フィオちゃんは笑いながら首を横に振りました。

「あはは、私の記憶を期待しているのなら無理よ。
 ランスシリーズは好きだったけど、元々それほど深いマニアじゃ無かったし、唯でさえ40年ほどランス世界を思い出す余裕も無かったのだからね。」

そんなわたしの期待を察してか、フィオちゃんからのお答えが帰ってきます。
・・・ですよね~。


「まぁ、そんな訳でして、情報収集をかねてハンティさんに会ってこようと思ってます。
 ・・・そう言えばフィオちゃんはこれからどうするのですか?」

その言葉に先ほどまで笑っていたフィオちゃんの顔が渋くなる。

「う~!
 うらやましいなぁ、私も伝説の『黒髪のカラー』に会いたいよ。
 ・・・はっきり言って今の私は表だってやれる事がないのよね。
 そこらへんの下級悪魔ならともかく私クラスの悪魔があからさまにみんなの味方をしていると確実にAL教団から異端審問受けそうだし。
 この塔に出入りしているところを天使達に見られるだけで、どんな難癖付けられるか。」

「けど、そのあたりの事はごまかす方法があるのでしょ?」

「まぁ~、ある事はあるんだけど何事も完璧なことってないからね。
 リスクは極力受けない方がいいと思うわ。」

 わたしの質問にフィオちゃんは更に渋い顔をして答えます。


「なにか、最強の剣を手に入れたけど、実は妖刀で、使うたびに天罰が落ちる感じのような・・・。」

「ごめん、その表現否定できない。」

 わたしの言葉にフィオちゃんは疲れたように肩を落としました。

 しかしもったいないです。
 現状、最強の手札を手に入れたのに使えば確実に災厄を呼ぶ呪いの札とは。
 肉体のデメリットより存在のデメリットの方が大きいような。


「そうなると現状、塔の地下迷宮を利用すれば天使達の感知を受けず、出入りが出来ますが、これに甘えているわけにもいきませんね。
 地上で戦闘行為でもすれば、一発で天使が飛んできますから・・・。
 そう言えばノミコンかたずける時は大丈夫だったのですか?」

 わたしのふと思いついた疑問にフィオちゃんが答えてくれます。


「ああ、あれね。
 あの時は戦闘にすらならない状況だったし、特に問題は無かったはずよ。
 もっとも、貴方が上級悪魔バージョンのノミコン外に放り出したおかげで、かなり天使達の興味は惹いたでしょうけど。
 現場に私の残り香を残しておいたから、ノミコンを倒したのは私だと誤解してくれているんじゃないかと思うのだけれど・・・。」

 ああ、そうでした。
 人間が上級悪魔に勝つなど最大級の変事です。
 下手をすれば神側に目をつけられるところでしたね。

 ・・・いえね、普段はそんな事がないように注意してるのですよ、本当に。
 唯あの時はそんな余裕が無かったというか・・・。
 ありがとうございましたフィオちゃん(土下座)。


「いいのよ、私もあれがあったから、ここの異常に気付いたのだし。
 おまけに丁度いい接触の機会になったのだから。」

と言ってフィオちゃんは笑ってくれました。
 細かいフォローありがとうございます。





「まぁ、そんな事だから、しばらく私はおとなしくしているわ。」

 そう、笑って答えるフィオちゃんにわたしは当分暇ならばと、いくつかお願いをすることにしました。


 一つは千鶴子さまやパパイアさんの護衛です。

 あの、御二人の事ですから滅多な事は無いと思うのですが、なにぶんお忙しい御二人です、忙しさにかまけてつい油断する事もあるでしょう。
 いつもなら、そんな時無職の私がフォローすればよいのですが、何分今後わたしは忙しくなる予定ですので。
 塔の外でのフォローは無理でしょうが塔の中にいる限り、フィオちゃんが居ればあのエセさわやか男には手が出せなくなるでしょう。
 絶対安全圏が出来るという事は非常に安心できるのです。


「あー、あの男に今後チョロチョロうろつかれると厄介だものね。」
これはフィオちゃんも納得してくれました。


 二つ目は新魔法や新技術開発のアドバイザーとして。

 あらかじめ言っておきますが、パパイアさん以外にも魔法研究をしている研究所を設立しています。もっともほとんどパパイアさんの下部組織になっていますが。
 その研究所は魔法研究のほかにも、マリアさんの様に機械を開発する『機械工学』や、魔法と科学を合成した『魔法工学』、聖魔教団の遺跡や遺物を研究し、再現研究をしている『魔鉄匠』の部門もあります。
 もっとも、これらの研究所は出来てまだ1年、碌な実績が上がっていないのですよ。
 これらの研究者の方は中々に優秀なのですが、この世界の常識に捕らわれ新発見がなかなかできません。
 まぁ、マリアさんの持っている『新兵器匠』のスキル所持者が中々居ない事も原因の一つでしょうが・・・。
 なんとかしてマリアさんをスカウトしなくては、でないと研究費がとんでもない状況に・・・。(大汗)

 研究といえばパパイアさんですが、その通りパパイアさんは開発関係に天才的な才能を持っておられます。
 が、基本的に魔法と生体系の研究者のため機械系はそれほど得意分野では無いのです。
 それに、人出が足りない現在、他の重要な仕事があるため、パパイアさんは研究に掛かりきりになれません。
 そんな中でも幾つかの新魔法の開発に成功しており、その力となったのが、わたしの持つ、『あちらの世界の知識』で、これは割と重要な役割を果たしました。


 ・・・こんなとことでオタクな知識がお役にたつとは。


「そう言えばアニスちゃんって随分と新技術や新魔法の開発に熱心だけど、やっぱり、今の状況じゃあ勝てないと思ってるからかしら?」


と面白そうに尋ねてくるフィオちゃん。

 フィオちゃん、この間から質問ばかりですよ、少しは自分で考えて・・・まだ無理か。
 ランス世界にはまだ来たばかりだと言ってましたし、まだ情報収集の段階なのでしょうね。
 そう自己分析で納得して、フィオちゃんの質問に答えます。


「ええ、このまま進めば確実に起こる天使達との戦いを考えると、この世界の一般的兵士と、天使達との戦力差が違いすぎますから。
 ゼスの記録を掘り起こして確認したところ、実際に天使が悪魔などと戦っているところが目撃されていつ記録がありまして。
 その内容を分析してみると下級の天使ですら、推定、レベル30オーバークラスと考えられます。
 で、わたしの『鬼畜王』の記憶を思い出してみると、あちらはこのクラスの天使を10万単位の軍団で攻めてくるうえ、英雄クラスの戦力を持つ上級天使も千体以上混じっていると考えられます。
 このままだと勝負にもなりませんよ。
 確かに人間側にも英雄クラスの天使を倒せる人間側の英雄もいます。
 けど、わたしの勝手な試算ですが、そんな人間側の英雄は100人位しか居ないと思われます。
 それにそんな人間が戦争の表舞台に出てきたら、これに対抗するため管理職クラスの神が出てきますよ。
 もとから戦力の厚みが違いすぎるのです。」

「なんというかどう考えても反則ですよね、その神様チートっぷりは。」

「まぁ、本物の神様ですし。
 そんな訳で、英雄以外の一般戦力の底上げは必須事項なのですが、人間それほど便利にできておらず、これが中々進みません。
 そこでわたしが考えた戦力の充実方法の1つが聖魔教団の技術です。」

 するとフィオちゃんは少し考えて言います。


「・・・闘神都市ですか?」

「はい、その通りです。」

 流石はフィオちゃん、鋭い読みです。

 かつて、圧倒的戦力を持つ魔人と唯一互角に戦った一大勢力『聖魔教団』。
 その後継を名乗っているだけあって、ゼスには多くの聖魔教団の技術を利用したものがあります。
 また国内にはその残滓である遺跡があちこちに残っており、わたしも冒険の場としてそれらの遺跡によく潜っています。
 そこから発見される技術やアイテムはゼスのそれを上回っているものが数多くあり、それはすなわち、現在の戦力では魔人の軍勢にすら勝てないという事を意味しています。

 で、考えたのが、唯一現存する闘神都市Y『イラーピュ』、これを何とか手に入れる事が出来ないかという事です。
 あそこには現役で稼働している『マナバッテリー』や超兵器の『魔道砲』、そして兵力生産のための『マーダーシリーズの生産工場』がある。
 わたしが特に注目しているのが『マーダーシリーズの生産工場』。
 この工場を手に入れる事が出来ればこちらの戦力事情は一気に好転すると考えています、と言うかはっきり言ってこれが一番欲しい!

 先ほどまでわたしが戦っていたガードロボはエネルギー補給の関係でそれなりの設備の整った施設やダンジョンでしか使えないのです。
 それどころか攻撃力を取っ払った『ウォール系』ですら、設備の無い場所での使用は難しいという事実。

 しかし聖魔教団のモンスターは違います、長期間稼働可能なエネルギーを持つ魔力炉を持ち自己修復機能まで搭載、なんて至れり尽くせりの戦力。
 聖魔教団系モンスターと言えば代表的なのは聖骸闘将であるロンメルシリーズですが流石に魔法使いの死体を利用しているこれを量産し戦力とするのは憚られます。
 それに対し完全機械型のマーダーシリーズは違います。
 マーダーシリーズは工場さえあれば量産できるし、基礎技術のあるゼスならこれを発展させることすら不可能ではないはず。


「ねぇ、エネルギー関係の技術が欲しいなら、倒したマーダーシリーズから魔力炉取り出して使えないの?」

と、フィオちゃんが質問してきました。

 言われるまでもなく、過去にゼスでは結構本格的な研究が行われたようです。
 が、どうもモンスター化したマーダーシリーズには変なウィルスが混じってるらしく、解析しようと分解すれば消滅を始めるし、魔力炉などの中枢部品を取り出しそのまま使用すると使用した機械がモンスター化し、こちらの命令を受け付けなくなるようです。
 それどころか、浸食されて変な進化を遂げた個体すらあるとか。
 『M・M・ルーン』の呪いですか・・・厄介です。
 ちなみに、ゼスの施設とは全く関係ない所に現れるガードロボはこれらの実験失敗でモンスター化した名残ではないかとわたしは思ってます。

 失敗作はちゃんと処理してください、不法投棄いくない。


「けど、あれってたしか都市の中枢が『M・M・ルーン』の呪いに侵されて使い物にならないはずじゃなかったけ?」

 まぁ、そのあたりの心配はもっともですが、実は闘神都市の中枢たる『聖柩』についてはかなり研究が進んでいます。
 過去に『聖柩』の部屋ブロックが丸まま発掘されたらしく、そのおかげで随分研究が進んだそうです。
 この世界に現在ある『脳』を利用したコンピューターは元々『聖柩』の研究の産物なのだそうです。
 考えても見てください、ランス4でゼスより遥かに魔法後進国のヘルマンが『聖柩』を起動させる事に成功しているのですよ。
 ヘルマンより遥かに魔法に優れたゼスが研究していないわけがないのです。

 もっとも、現在の『聖柩』の中に入っている魔法使いの脳は使用できませんので、ユニットごと取り換えてた上で更に別のものを用意する必要がありますが。


「別のものってなんですか?」

「人類抹殺の命令を解除するために『聖柩』の中に入っている魔法使い以上の魔法使い、出来れば『M・M・ルーン』クラスが必要ですね。」

「・・・(汗)、確か中枢になってる魔法使いって、当時最強クラスの魔法使いの上に闘神化で更にパワーアップしてなかった?」

 まぁ、確かに普通なら無理なのですが。


「これこれ、忘れてませんか、ここに2人いるでしょう。」


 そうわたしが答えると、フィオちゃんは直ぐに思い当たったようです。


「あっ!そうか。」

「はい、素質なら『M・M・ルーン』と同格の魔法レベル3で、魔力だけなら歴代最高クラスのわたしと、悪魔の貴族位を持つフィオちゃんなら上書き命令は可能でしょう。」

 わたしの答えを聞いたとたん、フィオちゃんが何時もの作り笑いではない、本当の笑顔を浮かべていました。


「凄い、凄いわ!
 なにか、暗闇しか見えなかった前途に一筋の光明が差した気分だわ。
 いいわ、とってもいいわ。
 こういう、具体的に戦力が上がっていく話はこう、聞いててドキドキするわね。」

 この言葉からしても、これから私達が行おうとしている戦いを、フィオちゃんがいかに絶望的として実感していたかがよく解りますね。

 これでもわたしは本気でこの戦いに勝とうと、いろいろ考えているのですよ。

 しばらく、うれしそうにニコニコしていたフィオちゃんですがしばらくすると冷静さを取り戻したのかわたしの元に戻ってきました。

 そして無邪気な提案。


「ねぇねぇ、なんなら私が今すぐイラーピュ探して持ってこようか?」


 浮かれたフィオちゃんからの提案、本当なら迷うことなく受けてしまいたい魅力的な提案なのですが・・・、しかしこの提案にはかなり重い意味を持っているのです。

 わたしはこの件について過去考えたことがありました、先にイラーピュを確保して戦力化出来ないかと、そして出た結果は・・・『不可』。
 メリットとデメリットを考えた結果です。

 メリットとはもちろん、戦力を早いうちから強化できること。
 これはかなりのメリット。
 しかし、デメリットが問題なのですよ。

 問題点

1 あんなでかいの物ゼス国内に移動させたら確実に噂になります。
   千鶴子さま達が権力を握ってまだ1年、あんな物を隠しきれるほどの権力はまだ掌握していないのです。
   何より他国にばれれば確実にトップレベルで警戒されるうえに警戒した魔人達から魔軍侵攻すらあるかもしれません。

2 メインストーリーに関わるものを下手に動かせません。
   わたし達の強みの一つにある程度ストーリーを知っているという事があります。
   メインストーリーの一つを無くしてしまったらどんなバタフライ効果がある事やら。

3 ランスくんです。


「ランス君?」

「はい、彼はゲームが新しくなるたび、レベルダウンを起こす困ったちゃんですが、そんな中でも人間的成長はおこっています。
 特に、ランス4はシィルちゃんへの愛を自覚する大切なイベントですから、へたにこのあたりのストーリーをすっ飛ばしたら、今後悪影響間違いなしだと思うのですよ。
 それにさぼり癖のあるランスくんの大事な戦闘経験の場を奪うのもどうかと思いますし。」

「ああ、そういう心配もあるわね。
 主人公としては、彼かなり不安な性格しているから。」

「でしょう、このあたりのイベントを失敗するとシィルちゃんへの愛が自覚しきれず、鬼畜王の『魔王END」になっちゃいそうで。」


 そう言うとフィオちゃんも納得したようで、大きなため息をひとつ吐きました。


「ねぇ、アニスちゃん、世界統一、やっぱりランス君じゃなきゃダメ?」


 フィオちゃんがかなり不安そうに話しかけてきます。
 確かにフィオちゃんの心配、解らないでもないのですよ。
 はっきり言って彼、かなり不安な性格していますし。
 あの自分の欲望に正直すぎる性格は不安要素でしかありません。


「そのあたりも散々考えたのですが、結局ランスくんしかいないという結果になりました。」


 そうなのです、どう考えても『神への反逆作戦』の総指揮官はランスくんしか思い当たらないのです。

 わたしの脳内会議を解説するとこうなります。


Q 神への反逆、これを実行するには?
A 神の洞窟に入らなければいけない。

Q 洞窟に入るには?
A ヘルマンにある遺跡の確保とカギの確保。

Q 現状で遺跡の確保は出来るか?
A 出来ない事は無いだろうが、ヘルマンと確実に戦争になるうえリーザスが確実にちょっかいを掛けてくる。何より軍隊で遺跡に入ろうなんて考えたら、背後から魔人達に襲われる事請け合い。

Q 世界の統一無しでは遺跡に入ることすら不可能と判断、ではゼスによる世界統一は可能か?
A 可能、しかし時間が掛かるだろうし、こちらの被害も大きくなる。それに統一した後も恨みの連鎖は続く。リーザスやヘルマンの大国が別の国に支配される事を良しとする訳がなく、確実にゲリラとテロ、裏切りで国内が混乱する事間違いなしです。

Q では、誰なら世界を統一できる。
A 各国の利害にとらわれない、各国のトップにコネを持つ者。

Q 最後に世界を統一した後に神に戦いを挑むような人物がいるか?
A いるわけがない・・・・。

 この世界に限らず人と言うモノは天使が大挙して襲ってきても、その本能から許しを乞う事を選ぶでしょう。
 人は神に逆らえるようには出来ていないのですから。
 前の世界では、昨今の物語の『はやり』で神様が土下座したり、神様を騙したり、殴ったりしている描写が見られますが、あれは本当の神を知らないからできることと思いますよ。


「え~と、アニスちゃんって神様に会ったことあったっけ?」

「会いましたよ、初めてなのにとんでもない存在に・・・アリスちゃんです。」

「あっ、そうか・・・あれ?けど話した時そんなプレッシャー(存在)出してたの?」

「いえ、たぶんお話している間はわたしの方の感覚をどうにかいしてくれていたのだと思います。そうでないとまともに御話が出来ませんから。
 ただ、アリスちゃんが帰ってからとんでもない目に会いまして。」

「へ?」

「麻痺していた『畏怖』やら『恐怖』が一気に来て・・・、眼球大全開のゲ○まみれになるという、ちょっと人様には似せられない状態に・・・。」

「・・・あぁ、ご愁傷さまでした。」


 フィオちゃんがかわいそうな者を見る目で慰めてくれます。

 うぅ、シクシク。
 あれは女の子がする経験ではありませんよ。
 わたしは銀○のヒロインですか。





 しばらくお互いに微妙な顔で固まっていましたが、再びフィオちゃんが話しかけてきました。


「そう言えば、イラーピュには、私達の仲間が居たっけ?」


 あぁ、そういえば前に他の転生仲間についてお話していましたね。


「はい、女の子モンスターに転生したと思われますが。」


「・・・リーザスにいるのは別として後の二人は、手を貸すなりした方がよくない?
 幸い、それほどストーリーに絡む重要なキャラじゃないのだし。」


 やはりその意見が出ましたか、、これについても何度か考えたことがあります。

 リーザスにいる元魔王さんは別として、後の二人は、戦闘能力は低いし、権力もそれほどありません。
 はっきり言ってこの世界で生きていくにはかなりつらいと思います。
 アリスちゃんは弱いキャラにはそれなりのメリットを与えていると言っていましたが、それでもチートと呼ばれるほどではないそうです。
 本当なら何らかの手助けが、必要なのでしょう。
 ・・・しかしそう安易に考えきれないものがあるのですよ。


「フィオちゃん、弱いからといって保護する事は正しい事でしょうか?」

「えっ?
 アニスちゃんそれはいったい?」


 この、一見弱者を見捨てるがごとき、わたしの発言にフィオちゃんが動揺の声を上げます。


「今、彼女達を助けるという事は彼女達を保護するという事になります。
 なにせ、わたしはやる事が山積していますし、フィオちゃんは表だって動けません。
 すなわち、彼女たちのそばに居続けてあげられないという事です。
 そのためどうしても彼女達を守るためにはわたし達の安全圏に連れてくる必要があるのですから。
 そして保護するという事はその人物がわたしの下に入る事になります。」

「え、え?なんでそうなるの?」


 わたしの言っている事、難しいですよね。

 フィオちゃんやリーザスの元魔王さんならこの世界でもトップクラスの実力があるので、例えわたしの支援を受けていたとしても自分の考えを通す事が出来ます。
 しかし、彼女達のように、実力的に恵まれていないものは違います。
 私に保護されるという事は、その人に負い目を作る事です。そしてその負い目と言うものが結構厄介なものでして・・・。
 今後私以上の実力(権力でも可)が無ければ、この負い目が払拭される事が無く、保護したわたしの影響を受ける可能性が非常に高いのです。
 無論わたし自身、彼女達に恩を着せるつもりはありませんし、彼女達が実力を上げたいというのなら喜んでご協力させていただきます。
 しかし、そんな行動は彼女達に更に『借りを作った』と意識させることになり、なにかとわたしに遠慮することになると思うのです。
 そうなればもう、わたしの下に入ったのと同じ事なのですよ。

 確かに『仲間5人で協力して』は、大切なことだと思います、しかし誰かに追従するという事は少し違うと思うのですよ。

 今回は、たまたまわたしがレベル30に一番乗りをしてアリスちゃんに出会いましたが、別世界にいたフィオちゃんと元魔王さんは別として、後のお二人にはわたしに変わってアリスちゃんに会う可能性があったのです。

 だから戦闘能力が低いという理由で、彼女達がもつ『自分が主人公になる』可能性を奪いたくないのですよ。

 これは、わたしの考えすぎかもしれませんが、正直な思いなのです。
 そんな事をフィオちゃんに伝えると、フィオちゃんは笑って


「そうね、私もアニスの考えすぎだと思うけど、私自身、強者の側だからつい、『強者の考え方』になっちゃうのよね。
 だから、私もこの事についてはどちらが正しいのか、はっきりとした事は言えないわ。
 なら、今は信じようか、アリスちゃんが選んだ主人公達の実力をね。」

と、言ってくれました。
 そして、わたしはフィオちゃんに決意表明をします。


「はい、だけど、もしこれから彼女達に出会い、助けを求められたら、全力でお助けします。
 他の人たちもです。
 ストーリでは死んでたから、不幸になっていたから仕方ない、という鬱展開なのは嫌いなのです。
 だから、これからも助けられる人は助けていきたいと思っています。
 ・・・ただ、シィルちゃんだけは別なのですが。」

「そうね、シィルちゃんだけはどうしょうもないのよね。
 下手に助けちゃうと『魔王END』になっちゃいそうだし。」


 そうですね、これからのストーリー上、シィルちゃん一人に随分と負担を掛けてしまいます。


 それを思うとわたしの胸は痛むのですが・・・。
 我ながらなんて偽善的なのでしょう。











≪おまけ≫


「結局のところ、私は積極的に動ける事が無いってことよね。」

「まぁ、そのあたりはキャラ的にしかたないかと。」

「・・・、ねぇ、原作の登場人物について確認はしてあるの?」

「はい、ゼス王国内にいる方なら一応は。
 ただ、私の記憶も確実ではないので、何人か見逃しはあるかもしれませんが。」

「じゃあ、1人貰っていいかな?」

「貰う?いったい何をするつもりですか?」

「どうせ、暇になるだろうし、それなら普通に進めたら戦力にならないキャラをそだててみようかな、なんて思ってね。」

「もったいないよね、ダンジョン作ってモンスターまで召喚できる素材を引き籠らせるなんて。」

「ああ、あの方ですか。
 まぁ確かにもったいないですが・・・、そうですねこちらに人格矯正できるほど暇と人材に余裕があるわけでなし、あの方を『教育』していただけるならこちらとしても助かりますが。
 しかし、そんな面倒臭いことをまたなんで?」

「しばらく暇になりそうだし、あっちの世界で育成型SLGが好きだったのもあるわね。
 で、もう一つが・・・。」

「もう一つが?」

「アニスちゃんばっかり原作キャラといちゃいちゃするのはずるいと思うの!」

「え~!!
 ・・・どちらかと言うと私の方がいじられてる方なのですが。」
 





≪あとがき≫


毎度遅筆なムラゲです。

ごめんなさい!

全開、ついにヘルマンへ出発など書いておきながら結局進みませんでした。

何か書いてたら次々と書きたい事が増えてしまいまして。


今回も説明系のお話。
アニスの再生の影響やフィオちゃんのデメリットのお話です。
魔人クラスのチートキャラが出たからといって無双出来るほどこの世界は甘くないのですよ。
誰ですか、この世界もっと夢や希望にあふれているなんて言ったのは・・・私ですね。

また、今後の戦力確保の道筋についても説明させていただきました。
空を飛べるアニスがなぜ闘神都市に手を出さなかったか、国の中枢にいるアニスがなぜたの転生者になんらリアクションを起こさないのか、少しは説明できたでしょうか?
今回の話、結局前話の2話目になっちゃいました。

さて、次こそは本当にハンティさんとの面会、そしてもう一人新キャラとはいったいとなる予定です。




neba様
お読みくださってありがとうございます。
これからもがんばります。




まほかにさま
ご感想ありがとうございます。
才能限界レベルについては、以前から問題になると考え、アリスちゃんと接触した際に限界上げの交渉をしています。もっともレベル2の英雄クラスで80、レベル1の強者クラスで50、これ以上は自分で何とかしろと言われていますが。
以外にこの世界の英雄達、才能限界が低いのですよね。



AQさま
お読みくださってありがとうございます。
かぎかっこの(。)はつい癖で、できれば気にしな方向でお願いします。
あまり見苦しい場合は考えさせていただきます。



松竹梅さま
ご感想ありがとうございます。
ニートさんは悪魔にロックオンされました。
冒険者の方々は・・・難しいですね。
魔法使いでないと王国側に付けられませんし、ウルザさんのところには、あのエセさわやか男がいるため、脳筋系の人間は危なくて紹介できません。
なにより彼らにメリットが薄いですから今のゼスに来てもらうのは難しいのではとムラゲは思っています。



朱々さま
お読みくださってありがとうございます。
確かにJAPANでした。ありがとうございます。



ASKさま
ご感想ありがとうございます。
アニスの肉体創生については肉体強度的には再生前のもので、レベルダウンによる数値の低下のみおこっている。モルルンに近いものとして説明させていただきました。
確かにあの二人にとっては健康になった事の方が遥かにうれしいでしょうね。



くらんさま
お読みくださってありがとうございます。
今後アニスにはチートキャラになってもらいますので今のうちに苦労してもらっています。
もっとも、ムラゲは鬱展開が苦手なので悲惨な裏設定が出ると同時に治ってもらいましたが。



ルアベさま
いつも、長文のご感想ありがとうございます。
サーモ眼については無くなったわけではございません、目は普通の目になりましたが何年もサーモ眼で暮らしていたのでこの目に維持的に変化させる事が可能になっているという事になっています。某ハンターものの『凝』のような使い方が可能。今後も魔力の解析解体に力を振るってくれる事でしょう・・・目立つ事はない能力ですが。
魔力封じのアイテムは未だ外せません。何かのはずみでフィオとのリンクが切れたり、肉体の限界を超える魔法の放出を抑えるため必要です。
フィオについては当分ひきこもり生活ですね。折角デメリットが無くなったと思ったら存在自体がデメリットだったという罠。
対魔人戦闘、固有結界のアイデアありがとうございます。
仮面の使用方法については・・・ノーコメントで・・・だめですか、実はフィオは仮面が無くても認識撹乱が使えます、これこそがフィオが言っていたばれないための奥の手です。
相変わらず良い感をしておられますね。
対洗脳の切り札についてはその通りです。ムラゲはエセさわやか男をかなり気の抜けない人物として設定しています。



XxXさま
詳しい説明ありがとうございます。
大変助かりました。




[11872] 第25話   ヘルマンでの情報
Name: ムラゲ◆89e54959 ID:22f0b9b3
Date: 2012/12/18 20:17
第25話   ヘルマンでの情報





「説明文が無くなると、書く事が無くなるのではないかと心配している、アニスです。」

「説明文が無くなると、ご都合主義が氾濫するんじゃないかとわくわくしている、フィオちゃんで~す。」


・・・泣くよ・・・泣いていいですか?


「情けない作者はほおっておいて、やっと話が進みますねぇ、フィオちゃん。」

「そうだね、エタったんじゃないかと思われる位更新が遅い癖に、碌に話が進まない作者の事はほおっておきましょう。」


・・・ゲフッ!!(吐血)


「え~、そろそろ作者のライフが0になりそうなので、話を進めたいと思います。」

「そうね、腐った作者の事だからほおっておいても復活するでしょうけど、それを理由にまた更新が延びちゃうからね。」


・・・びえぇええん!!(号泣)





「なお今回割と生々しい描写があります、御不快になられる方もおられるかと思いますので前もって謝罪いたします。」

「ただ、ランス世界を表現するのにどうしても必要な事でしたので、寛大な心でお許しいただけると幸いです。」






◇◇◇◇◇





 とりあえず、リハビリを終えたわたしは現在ヘルマン国内に侵入しています。

 このヘルマンという国、以前にも話したように魔法に関してはかなり遅れていることから、魔法に対する防御はかなり薄いのですが、流石に王都近くになると転移系魔法(帰り木など)の妨害や魔法に対するセンサーが各所にあり、一番楽な移動方法の瞬間移動での侵入は感知されやすいのです。
 また、瞬間移動は発現時に多量の魔法力を出しますので、魔力センサーがある場所での隠密活動には向いていません。

 このような隠密行動に便利な、先日の騒動で手に入れた、認識撹乱仮面のオリジナルも
   『目視した者又はその装着者だけ魔法的センサーの認識を撹乱する』
という効果ですので、大量に付近に撒き散らした魔法力まではごまかしてくれないのです。
 ・・・なんで、わたしが使おうとするとどんな便利な物でも、問題が出てくるのかな?


 よって、現在私は、王都から山一つ越えた場所に転移し、自分の足で山登りの真っ最中でです。


「魔法使いに山登りとか、どう考えても間違ってるのです。」


 そうブツブツ独り言を言いながらも山を登っています。
 ちなみに現在のわたしの恰好は、頭からローブをかぶり顔に仮面をつけて独り言をブツブツ言っている・・・パッと見、確実に不審者ですね。
 街中だったら通報されてるレベルです。

 そんな不審人物のわたしが取りとめのない事を考えつつ、魔力で身体を少し浮かべつつ、身軽に進んでいきます。

 それにしても物体浮遊の魔法は便利ですね、身体強化系の魔法や高速飛翔に比べて遥かに魔力の消費が少ないですし、魔法素養の無い人でもある程度魔法知識があるなら使えますから。
 一般魔法兵の方でも複数の対象に数時間位魔法を維持する事が出来ますし、・・・うちの四軍(氷炎光雷軍)って確か一軍に1000人以上魔法素養のある軍人が居ましたよね、これって一般兵達に掛けたら軍団規模の高速機動が出来るんじゃないの?
 今までは一般兵(奴隷兵)に魔法使いが支援魔法掛けるなんてことは考えもしなかったけれど、うちの軍ならそんな事もないだろうし、・・・結構いけるんじゃないかな。
 身体強化系の支援魔法掛けるより遥かに魔力の消費も少ないので魔法兵達の魔力消費も少ないですし、一般兵達への負担も軽減されるのですから。
 うん、今度サイアスさんか雷帝様に相談してみますか。



 そんな、考え事をしながら走っていると、


「・・・きゃ・・・」


 微かですが、女性の叫び声が山道から少し離れた場所から聞こえてきました。
 王都に近いとはいえこんな山奥で女性の叫び声、いったい何事です!
 わたしは直ぐに声のした方向に走り出しました。

 おいおい、あんた今、他国に潜入中だろう、なんて突っ込みはNGです。
 女の自分に違和感が無くなったり、人(敵)を殺す事に抵抗が無くなっても、あちらの世界で培った良心はそうそう無くならないのです。
 こんな山奥で女の叫び声などどう考えても緊急事態としか思えないのですよ。
 わたしは慌てて草木を飛び越え声のした方向に向かいました、そしてそこで見たものは・・・。


 すざまじく下種な光景でした。



 一人の女に群がる5人の男、女は明らかに抵抗しており、それを4人の男が押さえつけ 残った男が女を殴りつけて黙らせます、平手ではなく拳で!

 その光景を見て笑う男達・・・下種どもが!!

 心が怒りに満たされても、日ごろの修練のたまものか、心を乱さず、唯冷徹に下種どもの排除に身体が動きました。



 瞬歩で女性を殴りつけている男の隣に移動し、その横っ面に拳を打ち込むと同時に雷の矢を打ち込みます。
 そして、いきなりの攻撃に驚き硬直している残りの4人にも同じように拳を見舞い雷の矢を打ち込みます。
 これで終わり、拳を顎に打ち込まれ脳を揺さぶられたのと、雷の電撃でのショックで全員気絶状態です。


 問答無用で殺してしまってもよかったのですが、一撃で殺せる攻撃魔法は女性を巻き込んでしまう可能性もありますし、非殺傷でも攻撃魔法に巻き込めばトラウマになる可能性があります。
 そのため拳で男を吹き飛ばすと同時に衝撃率を高めた雷の矢を打ち込み麻痺させました。
 刀では・・・血まみれの惨殺死体を至近で見せるのは・・・ねぇ。




 ・・・こいつら素人ですね。
 幾ら奇襲を受けたからって、五人とも殴られるまで呆けているなど訓練を受けた人間じゃ無いです。

 ・・・あれ? この連中の来ている服ってヘルマン士官学校の訓練服じゃ・・・??
えっ? 素人じゃ無い?


 いや! 今はそんな事を考えている場合じゃない女性を助けないと!!
 直ぐに思考を切り替え、女性を見ると・・・酷い状態でした。

 男達の拘束から解放され座り込んでいる女性、年のころはまだ十代後半でしょうか、男達と似たような色の服を着ていましたがその服は無残に引き裂かれています。
 大声を出させないためでしょうか?破り取られた服の一部は女性の口にねじりこまれていました。
 そして顔と身体に無数の痣と血。
 あいつらが殴った痕です!
 ・・・幸いと言ってよいのか、あいつらこの女性をいたぶる事に夢中になって、まだ犯されてはいないようですが・・・。


 わたしは仮面を取り、女性に近づくと呆けて口が半開きになっている女性の口から服の切れ端を取り出し、まだ目の焦点の合っていない女性をやさしく抱きしめました。


「もう大丈夫、大丈夫だから・・・ね。」


 そう言葉を掛け、女性を抱きしめながら回復魔法を使い、女性の怪我を治療していきます。




 そのまま暫くたったころ、何の反応もなかった女性の身体が2,3度震えました。
 ・・・正気に戻ったかな?


「うわあああああああああああああ!!!」


 わたしが瞳を見ようと身体を外した瞬間、女性から叫び声が上がりました、魂の奥底から絞り出したような苦しみの叫び声が。
 その声に驚いたわたしが一瞬硬直した隙をつき女性は身を翻し倒れている男の一人に飛びかかりました。
 そして、男の腰に取り付けてあったナイフを抜きとるとそのままその男の心臓に突き刺します。
 急所を一撃です、狂乱しているとは思えない見事な一撃です。
 女性は直ぐにその男から離れると自分の四肢を押さえていた他の3人を次々殺していきます、そして最後に自分を殴りつけていた男に馬乗りになると何度も何度も男を刺し始めました。


「おまえが! おまえが!!」


 女性は叫び声を上げ続け何度も何度も男を突き刺します。
 そんな状態がしばらくたったころ、わたしは女性を後ろからそっと抱き締めました。


「もういい、もういいんだよ。
 その男はもう死んでいるよ。
 もうこれ以上は貴方が辛くなるだけなんだよ。」


 そう言って抱きしめていると、しばらくは抵抗していましたが直ぐに女性の身体から力が抜け、ナイフから手を離しました。





 さて、現在女性は狂乱状態の後の虚脱感で完全無気力状態です。
 この世界の女性は結構タフなのでしばらくすれば元に戻るでしょうが、これはちょっと掛かりそうですね。

 で、付近の状態は惨殺死体が5体、おまけに急所(心臓)を突いてナイフを抜いたので周辺は血まみれです。ついでに女性も血まみれです。


 ・・・はぁ、しかたありませんね。

 今後どうするにせよ、彼女を連れてこの現場から離れたほうがよいでしょう。
 この世界、特にヘルマンは女性の権利が低いのです。
 この惨劇が例え輪姦されかかりその反撃の結果だとしても、5人も死人を出せばこの女性に対する判決は惨いものになるでしょう。
 まぁこの女性が大貴族の娘か何かだというのなら別ですが、・・・女性は確かに美しくはあるのですが高貴と言う感じはしませんし、なにより大貴族の娘が士官学校に入ったり、そんな人間を同じ学校の生徒が複数で襲ったりはしないでしょう。

 女性からの話も聞かなければいけませんし、とりあえず現場を離れましょう。
 そう決めたわたしは、野営用の毛布で彼女を包み、お姫様だっこをしてその場を離れました。





◇◇◇◇◇



 ここは現場から少し離れた、宿場町。
 山のふもとの村でもよかったのですが、あんな小さな村ではよそ者は目立ちますので、わざわざ人の多いこの場所に来ました。

 王都のすぐ近くなのにこんな人が集まる町が出来ているなんておかしいと思っているあなた、少し説明しておきましょう。
 実は王都によそ者が入る際、結構な額の税を取られます。
 他の国ではそうでもないのですがこのヘルマンでは何かにつけて税金が掛かり、とくによその土地の商人には持ちこむ商品にも税が掛かりますし、販売するのにも王都に滞在するのにも税が掛かります。
 そのため商魂たくましい商人たちは比較的税の緩やかな王都の外で王都の商人と取引する事が多くなりました。
 そんな理由から王都にそんな離れていない場所で取引する場所が必要になり、この場所が作られました。
 そして物のある場所には人も集まります、しだいに規模は大きくなり、王都のすぐそばにこんな町が出来ることとなったのです。
 以上、蛇足な説明でした。





 そして現在、わたしと女性はとある宿屋の一室にいます。
 街中に入るため女性にはわたしのローブを頭から着せています。
 なにぶん、彼女の服はボロボロに破れ、更にあの5人を殺した事で血まみれになっていますから。
 わたしの予備の服に着替えていただいても良かったのですが、一刻も早く現場から離れたかった事と女性を野外で着替えさせるのは躊躇われたためです。
 ちなみに、わたしのほうはTPOを考えて普通の冒険者服です。
 えっ、ゼスに居る時のようなヒラヒラした服は着ないのか? ですか。
 あの服は一種の身分服で、ゼス王国の魔法使いであるという事を現しており、そのため、ゼス以外の場所ではあまり着ません。
 ああ見えてあの服、下手な鎧より防御能力があるのですが、いかんせん目立ちすぎますし、あのヒラヒラは野外活動に邪魔ですからね。



 借りた部屋に簡単な結界を張り、覗き見や盗聴の防止、勝手に他人が入ってこれないようにします。
 簡単な結界のため破ろうとすれば簡単に破壊できるのですが、そんな事すればわたしに解りますので警報がわりになるのです。
 ヘルマンのような治安の悪い場所では例え宿屋の中であっても安心はできないのですよ。

 さて、安全な場所も確保した事ですし、やる事をやってしまいましょう。
 まず借りたタライに湯を張ります、・・・簡単にお湯を作れますので、こんなとき魔法使いは便利ですね。
 そして、タオルをしぼり女性の体を清めていきます。

 性的被害を受けた女性の場合、最初激しく怒るか、酷く怯えます、その後汚れてしまったと悲しみ、何か自分が悪かったのではないかと自己嫌悪に陥るパターンがあるため被害者の早期回復にはこれらのパターンに応じた対処が必要です。
 性的被害は未遂だからといって救われるものではないのですよ。
 特に複数の男に襲われるパターンは最悪に近いトラウマを女性に残すのです。

 ・・・エロゲの世界に来たためにこんな知識ばかり増えていきます、まぁ主人公が主人公ですのでどうしても必要になる知識なのですが、自分が将来かなり高い確率で襲われる被害に会いそうだと思うといろいろ考えてしまうのですよ。


 まだ虚脱状態になっている女性はされるがままです。
 面倒ですので、わたしはそのまま彼女の血まみれの破れた服を脱がして全裸にし、丁寧に身体を拭き始めました。

・・・

・・



 彼女の身体をすべて拭き、髪も櫛ですいたのですが、まだ彼女の虚脱状態は解けません。

 ・・・仕方ないですね。

 わたしは覚悟を決めると、上半身の服を脱いで裸になり、剥き出しになったわたしの胸に彼女の頭を抱きしめました。

 何の脈絡もなくエロ行為に走ったなどとは思わないで欲しいのです。
 人間というものは、不思議と人肌の感触と体温そして心音に安心感を持つものなのです。
 特に彼女の場合、性的暴行(未遂)被害を受け、激情のままに犯人達を皆殺しにしてしまいました、その事から現在、彼女の頭の中は強い色々な感情が錯綜し、そのため感情を処理しきれず現在のような虚脱状態になっていると思われます。
 今彼女に必要なのは語って理解させる事ではなく、無条件で包み込む温かさだと思うのです。
 もっとも、こんな強引な癒し方、家族位にしかできないでしょうけど。





 そうして、しばらく抱きしめていますと、また彼女の身体が2度3度と震えだしました、今度はしっかりと彼女を抱きしめます。すると、


「うああああああああああああああああああ!!!!!」


 彼女は大声で泣きはじめました。
 今度もまた魂を振り絞るような激情の声でした。











「ごめんなさい、随分と迷惑をかけてしまったようね。」

 1時間も泣いたでしょうか、次第に声も小さくなり、しばらく嗚咽が続くと、彼女は右腕で顔の涙を拭きとり、わたしに話しかけてきました。


「迷惑を掛けたわね、ごめんなさい。」
「落ち着きましたか?」

 わたしが声を掛けると彼女は頷きます。

「ごめんなさい、あの騒ぎでわたしのメガネがどこか行ってしまったの、予備の眼鏡を出したいから、私のポーチはどこかしら?」
「ああ、それならそこに。」

 そういって、脱がせた彼女の服を畳んでいる場所を指示します。
 そこに置いてある彼女の腰に装着していたポーチから予備のメガネを取り出す彼女を見ながら、彼女を見ます。

 ・・・どこかで見たような?



 ・・・金髪・・・眼鏡・・・ヘルマン・・・士官学校生時代に同じ学生に襲われる・・・。

 えっ?なに、このキーワード。
 すごく、凄く覚えがあるんですけど。
 ・・・鬼畜王??


 私が内心パニックを起こしていると、眼鏡をかけた彼女が振り向きました。

「助けてくれてありがとう、私の名は『クリーム・ガノブレード』ヘルマン士官学校の学生よ。」

 わたしに笑顔を向けてそう自己紹介してくれました。

 あーーーー!!!






 その後、わたしも彼女に名前を言い自己紹介を済ませると、クリームさんはわたしにいろいろ話をしてくれました。
 彼女は、平民の出身ですが幼いころから勉強が好きで、もっと勉強したいと考えました。
 が、そこはヘルマン何をするにもお金が掛かります、基礎学校(小、中学校の様なもの、この世界基本義務教育など無い)ですら学費を払うのにギリギリだった彼女の家庭では応用学校(高校)や大学校(国の官僚などの専門分野を育成する機関)など進学する余裕はありませんでした、基礎学校の3年間ですら学費をためるため入学期限ギリギリの12歳まで勉強しながら働いていたそうです。
 そんな努力もあって基礎学校では断トツの首席卒業となったのですが、お金が無ければ学べない現状から、お金のかからない士官学校へ進学するしか道はなかったそうです。
 無論士官学校ですから、入学規定では基本学校卒業、応用学校卒業者と同等の学力が必要ですが、そこはさすがクリームさん、あっさり応用学校検定をパスしたばかりか、首席で士官学校に合格したそうです。

 ちなみに、ヘルマンの脳筋達は、入学すれば確実に卒業できる基本学校はともかく、成績が悪ければ留年、退学の制度がある応用学校はまず卒業できませんから、この応用学校検定の資格を買って入学するそうです。そのため士官学校にはお金に余裕のある貴族の子供や国とのつながりを持ちたい商家の次男坊などが集まってくるとか。

 そんなことから、平民でありながら学校首席(実技の方も努力してトップではないがそこそこの成績がとれていた。)で入学し、そのまま主席を維持し続けたクリームさんは生意気だということで随分と貴族や商人のバカ息子達に嫌われていたそうです。
 でも所詮バカ息子、やる事は単純なためうまく切り抜けたり、潰したりしていたそうです。
 で、今回の卒業前の野外訓練、王都近くの山岳地帯を5人1組で進む事になっていたが、クリームさんと組んだメンバーがいつの間にかいなくなり、その事に気付いたクリームさんは「やばい、売られた」と判断、その場から逃げだしたものの、慣れない山道で体力自慢の男5人からは逃げられず捕まってしまったそうです。
 そうして現在に至る。


 はぁ、何と言うか救いのない国ですねヘルマンは・・・ゼスも大して変りないか。


「ちくしょう、ちくしょう!」

 話しながら怒りがぶり返して来たのでしょう、クリームさんがベットに怒りをぶつけています。
 クリームさんの悔しい気持ちがすごく感じます。

「仲間にも裏切られるなんて・・・」
「そんな事はどうでもいいのよ、どうせあいつらなんて最初から信用していなかったから。」
「え?」
「組んだ理由だって私に対して悪意をもつ理由が薄いからだけだし、いなくなった時点で直ぐに売られたと直感したからね。」

 おいおい、本気で碌なのいないなヘルマン士官学校、そのあたりはまだゼスの方がましだよ、まぁ魔法使いという仲間意識がある事もあるのだけれど。

「私が悔やんでいるのは激情に駆られてあいつらを一気に殺してしまった事よ、・・・殺さずにおけばいずれ生きている事を後悔する目にあわせて殺してやったのに。」
「あ、あはは・・・」

 わたしは引きつった笑いを出すことしかできませんでした。
 怖すぎますよクリームさん、あなたの背後からとんでもなくどす黒いオーラが!
 そんな引いたわたしに気がついたのか慌ててクリームさんが声を掛けてきた。

「あ、ごめん、助けてくれた事は凄く感謝しているのよ。
 これは、激情に駆られて我を忘れてしまった自分に腹を立てているだけだから。」


 まぁ、そんな感じで話を進めていったのですが、もう落ち着いているようですしこれだけは聞いておいた方がよいでしょう。

「クリームさん、貴方はこれからどうするのですか?」

 そう質問すると、クリームさんは頭を抱えて悩み始めました。
 わたしとしても彼女は好きな原作キャラでありますし、何か力になってあげたいとは思うのですが、わたしにできるのはあくまで力を貸す事、決めるのは彼女でなくてはいけません。
 そんな事を考えていると彼女がこちらを向きました、なにか思いつきましたか?

「ごめん、これからの事を話すにあたって、ちょっとあなたとお話しさせてもらっていいかな?」
「はい?いえ、べつにかまいませんよ。」
「そう、ありがとう。」

 そう、言ってほほ笑み、話し始めました。

「さっきも話した通り、今回の一件、あの馬鹿どもを私が殺しちゃった事がネックになっているの。
 例え輪姦されかかったとしても、結局は未遂だし5人皆殺しは間違いなくやりすぎと取られるでしょうね。
 なによりあいつら下級とはいえ貴族の息子だし、一族の人間がメンツにかけて殺しに来るわ。
 そう考えるとこの身を司法にゆだねるとかなり悲惨な未来が待ってるわね。」

 うわ~、すっごく予想できる未来です。
 間違っても彼女を司法の手には渡せませんね。
 そうなると、・・・はぁ、ハンティさんにお頼みするしかありませんか、あの方は一応この国の最高機関『評議会』の一員ですし、下級貴族位ならなんとか・・・なるでしょうか?

「はぁ、しかたありませんね、幸いなことにわたしは評議会委員のお一人とつながりがあります、その方に相談してみましょう。
 乗り掛かった船です、できるかぎりのお手伝いをさせていただきますよ。」

 まぁ、彼女もわたしの協力が欲しくて話をしてきたのでしょうし。

「え、あなたゼスの人間でしょう?
 なんで、内(ヘルマン)の評議会とつながりがあるの??」

 ぶっっぶーーー!!!
 思わず噴き出すわたし。

「え、え、え~!!
 な、なんで、どうして、わたしがゼスの人間と思ったのですか!!」

 そう叫ぶと彼女は最初キョトンとした顔になり直ぐに目をつぶって頭を横に振り話しだしました。

「なんでって、一応虚脱状態の時の事も記憶に残ってるし。
 まさか気付いてないの?縮地使って大の男を殴り飛ばす人間が低級といっても魔法を使う事がどんなに異常かを。」
「け、けど格闘メインの魔法を使える冒険者もいますよ。ヘルマンにはいないかもしれませんが自由都市圏あたりには何人か・・・。」
「あのねぇ、その後、私を抱きかかえて何十キロも離れたこの町まで休みなしできたでしょう、そんな事、体を鍛えただけの人間にはできません。
 多分自分ごと物体浮遊の魔法か何かかけて運んで来たのでしょうけど、あの魔法はね精々数キロの重さを軽減できるだけなの、そんな魔法が簡単にできるならとっくの昔にこの世界の流通事情が変わってるわ、そんな事魔法に詳しくないわたしだって知ってる事よ。」

 サーーー!!!(血の引く音)

 し、知りませんでした、あの魔法にそんな限界があったなんて、昔から丸太を運んだり出来る人間が周りに溢れてましたので、そんな常識知りませんでした!!

「で、私が考えるに、そこそこの戦闘能力があり、高度な魔法を使いこなす、あの物体浮遊の上位魔法はゼスで開発された秘密魔法ね、そしてこの町まであの魔法を使い続けていたのにまったく疲弊していないとこを見るに魔力もかなりのものと考えられるわ、そうなるともうねぇ・・・どう私の言ってる事間違ってる?」

 ごめんなさい、完敗です。
 わたしはさっさと白旗をあげました。





 その後、もう遅いのでハンティさんの所へは明日の朝行く事にしました。

 裸のクリームさんにはわたしが寝巻代わりに使っている大きめのTシャツお貸しし(わたしの下着の予備はオーダーメイドなので彼女には合わなかったのです)、わたしは下着で寝る事にしました。
 部屋のベットで別々に寝ていましたが、クリームさんは暫くゴソゴソ動いており中々寝付けないようです。
 かなり回復しているように見えていましたがなんせ、まだ1日もたっていません、ショックはまだ続いているのでしょうね。
 そんな行動がしばらく続くと彼女は声を掛けてきました。

「アニスさん、起きてます?」
「はい、起きていますよ。・・・眠れないのですか?」
「ええ、情けないけどまだ目を瞑るとあの時の事が浮かぶのよ。」

 やっぱりそうでしたか、女の子ですものね、そう簡単には割り切れませんよね。

「悪いけどそっちに行っていい?
 一人だとすごく不安なの。」

 クリームさんが弱々しい声でお願いしてきます。
 しかたありませんね、先ほどの続きをしますか。
 わたしの人肌と体温、心音でどこまで彼女が癒せるかわかりませんが。

「どうぞ。」

 そう言ってわたしは彼女を迎え入れました。



 しばらく彼女はわたしの胸に頭をつけて抱きついていたのですが・・・。



 えっ、なんで圧し掛かってくるんですか?
 えっ、なんでわたしのブラをはずすの?
 えっ、なんで身体がせりあがって?

「ちょ、ちょっとクリームさん。」

 そう言うと彼女は毛布から顔をあげました。
 その眼は、・・・ぎゃー! 欲情している!!
 パパイアさんと同じ目だーーーー!!!

「ごめん、ごめんねアニスさん。」

 そう誤るとクリームさんはわたしを押し倒し、乱暴に唇を奪ったのでした。






~豆知識~
 犯罪被害者はその恐怖から逃れるために加害者の行動をとることがまれにあります。
 別名『ゾンビが怖ければゾンビになればいいじゃないか。』








 チュンチュンチュン。
 朝です小鳥が鳴いています、・・・わたしも泣いています。

「・・・クリームさんのケダモノ。」
「ごめん、ごめんなさいアニスさん。
 ・・・私、そっちのケはまったくなかったはずなんだけど?」


 ああ、千鶴子さま今回もアニスは最後の一線、最後の一線だけは守り通しましたよ。
 ・・・なぜでしょう、そっちのテクニックばかり上昇しているような。










◇◇◇◇◇



 不幸な事は忘れて、私達二人は王都に入ります。
 さすがヘルマン魔法に関しては対策がザルもいいところです。
 一応魔法センサーがあるため転移系の魔法や道具は使えませんが、認識撹乱や気配遮断の魔法や道具にはまったくの無力です。
 よほど大きな魔法を使わない限りこの町では魔法使いは結構自由に動けるのですよ。
 ・・・おやクリームさんなんですか?

「・・・ねぇ、認識撹乱とか気配遮断の魔法なんてそこらへんの魔法使いにも使えるものなの?
 魔法に詳しくないわたしが言うのも何だけど、そんな魔法聞いた事無いんだけど。」

 ・・・ああ、そう言えばこの魔法ゼスの秘密魔法のひとつでした。
 諜報戦の切り札として開発されたものの、使用魔法量は少ないがスリープ並みに扱いが難しく、維持してる間も集中が必要、他の魔法で簡単に効果が破れるなど問題点が山盛りで認識撹乱の仮面に付与されるなどの魔法使いのお遊びにしか使用される事はなかったとか。
 もっとも魔法に対する対策がザルなヘルマンには有効な魔法なので重宝していますが。
 流石にこんな魔法一般に出回ったら大変な事になるので秘密魔法に登録されているのです。





 そんなネタ説明を交えつつ、ハンティさんの屋敷に到着しました。
 直ぐに彼女と面会できましたので、国家の話をする前にこちらの私事であるクリームさんの事を相談させていただきます。

 いつもなら座っているだけで強烈な存在感を出している黒髪のカラーさん、今回はなにやら頭を抱えています。

「どーしてこの忙しい時にこんなめんどくさい問題を持ちこんでくるのかな~。」

 ハンティさんが愚痴をこぼしてきます。

 いえ、好きでこんな事になったのではないのですよ、人助けをした結果こんなめんどくさい事になっただけで・・・。
 人助けは良い事ですよね?

 そんな自己弁護をつらつらと心の中で展開しているとハンティさんが頭にかぶせている腕の隙間からこちらを覗き見て話しだします。

「話を聞いた限り、あなたは状況把握できないような馬鹿じゃないようだから、さっくり話させてもらうけど、もうあなた積んでいるって自覚あるわよね。」

 は、ハンティさん、さっくり言いすぎです。
 彼女もまた被害者なのですからもう少しオブラートに包んであげてぇ~!
 そう、慌てる私の隣で対照的に落ち着いたクリームさんの声がします。

「はい、わかっています。」

 えっ? えっ? 解ってるってなに?
 そう困惑している私に対し、仕方ないわねと言った感じで、ハンティさんが説明してくれました。

「別段、彼女をここにかくまうだけなら、そう問題はないのよ。
 ただし、一生私の屋敷から出られないけど。
 貴族ってのは割とメンツを気にするの、一族の誰かが殺されたら必ず復讐する、これは基本ね、それが例え馬鹿な事をしでかした三男坊であってもよ。
 そうなるともう、彼女が生きている限り、狙い続けるわよ。
 これは私が保護を宣言したり、彼女が将軍なんかの確固たる地位に着いたとしても同じ事、彼らにとって、この子が生きている限り、かたきも取れないなさけない家としてあざけられ続けるのだから。
 実利の問題じゃなくてこれはメンツの問題なの。」

 あーあーあーーー。
 そう言えばそうでした、貴族ってばそんなメンツにこだわる生き物でしたね、私自身そんな連中とは一線を引いていたので、ポロっと忘れていましたねぇ。
 すると、クリームさんが続けます。

「だから、貴族連中と事を起こす場合は、出来るだけ誰がやったのか解らないようにしなければいけないの。
 今回のように例え相手の方に非があったとしてもそんな事関係無いのよ、復習する相手が居るならかならずしなければならない、これはヘルマン貴族として当然の事なの。
 これに対抗するなら、それこそその貴族を完膚なきまでに叩きつぶさないといけないわね。
 古典文学でも、復讐を果たした男がその家の子供にだけは情けを掛けたせいで、成長したその子供に殺されるというのは割とある題材よ。」

「かといって、ずっと保護するのも無理がある。
 あっちはなんとかして私の家からこいつを引きずり出そうとするだろう、それこそ親兄弟を人質にとってもな。」

「で、のこのこ出て行ったら、その親兄弟と共に皆殺しよ。
 下手に情けをかけると今度は自分達が復讐の対象になる恐れがあるから、とうぜんよね。」

 なんという殺伐とした世界、なにより恐ろしいのは、そんな世界を平民のクリームさんが自覚している事ですね。
 碌でもない国だなヘルマンは。

「で、そこまで解っていて私に何をしてほしい?」

 ハンティさんは冷たくクリームさんに尋ねます。

「いえ、元々私は彼女の慈悲にすがって国外に逃走するつもりでした。
 あんな馬鹿達のために死ぬのはまっぴらごめんですし、幸い彼女はゼスに顔が利くようですし。」

そう彼女が話すと、ハンティさんが『ギギギギィー』と言った感じでこちらを向きました、その眼には『何故こいつがお前がゼスの人間だと知っている?』と語っていました。

「しゃ、しゃべってませんよ、本当にしゃべっていませんよ。
 彼女の前では初級の魔法しか使ってませんし。」

「じゃあ、なぜ気付かれる。」

 ハンティさんが更に眼力を強め私を睨みつけながら話します。
 怖い! 怖いですってハンティさん!

「えー、ただ、ちょーっと特殊な使い方をしたもんで、そんな事が出来るのはゼスのかなり上級な魔法使いしかいないと気付かれてしまいまして。
 そこから、
  ・そんな上級の魔法使いが冒険者なんておかしいだろう。
  ・となるとゼス政府の人間?
  ・そんな人間が一人でヘルマン国内に?
  ・ヘルマンの高官と秘密会談に来た?
とまあ、こんな感じで一気に暴かれてしまいました。」

そう私がぶっちゃけると、再度ハンティさんは頭を抱えました。

「頭良すぎだろう、こいつ。
 ・・・で、再度聞くがお前は私に何をして欲しいんだ?
 頭のいいお前の事だ、意味もなくヘルマン評議委員の私の前に現れたとも思えん。」

「察しの良い方は話が早くて助かります。
 別に無理なお願いをするつもりはありません、ただ、私を死なせてくれませんか?」

 えっ? クリームさん! いきなり何を!?
そんな混乱する私をよそに、ハンティさんは納得したように頷きます。

「ああー、そうか、そうだな、そうしないと家族がまずいか。」

「はい、こういう伝手が無ければ、家族には自分の身は自分で守ってもらうしかありませんでしたが、貴方なら私が自殺したように偽造する事が出来るのではないのですか?」

 その言葉で私もやっと納得できました、クリームさんは残される家族の事を心配されていたのですね。
 わたしなんてクリームさんの事を考えるだけでいっぱいいっぱいでしたのに。

「まぁ、いいだろう、その程度の事なら大した手間じゃない。
 後でお前の衣服や持ち物をよこせ、それと遺書も書いててくれるとよりやりやすくなる。」

「解りました、そのあたりの事はおまかせします。」

 そう一礼してクリームさんは下がりました・・・。

「どうしたアニス、納得いかない顔をしているな?」

「いえ、そんなに簡単に自殺なんて偽造できるものなのですか?」

 そう尋ねると、ハンティさんもクリームさんもバツが悪そうになりました。

「いや、言いにくいんだがそうでもないんだ。
 恥ずかしい事だが今のヘルマン、クリーム位の年齢の女で身元不明な死体を捜すのにそう手間が掛からないんだ。」

 へっ? なんですかそれは。

「ヘルマンの経済は今どん底なのよ、不作が続く土地に上がり続ける税金。
 そうなるとどうしても貧しい家庭は、家族を売るか働きに出さないといけなくなるの。
 そして、最もお金になるのが私くらいの年齢の女性なの、なんでお金になるかは今さらよね。」

 ああ、そうですか、そうですよね。
 彼女くらいの年齢の女性なら、奴隷、娼館、メイド(という名の愛人)に高い値が付きますものね。
 で、そんな劣悪な環境にいれば死人も増えると・・・。
 ランスが聞いたら激怒しそうですね。

 改めて碌な国じゃないなヘルマン、さっさと滅びないかなヘルマン。





「まぁ、そんな国内状況も今回の一件に絡んでいるんだ。」

 しばらくお互いに微妙な雰囲気になったあと、私がこの国に来た本題である、話題に移りました。

「やっぱり出兵ですか?」

 わたしが尋ねるとハンティさんが頷きました。

「宰相派、所謂皇女派だなそれが、国内の不満をそらすのと、戦いたがる軍部のガス抜き、皇女が皇帝になる地盤固めに、ゼスの長官派と組んでリーザスに攻め込む。」

 やっぱりそうでしたか、そんな感じはしていたのですよね。

「ああ、まずヘルマン第1軍がバラオ山脈に軍事行動を起こすが無論これはオトリだ。
 本命は、第2軍と第4軍の合わせて3万の軍勢が昇竜山とキナニ砂漠を掠めて、長官派の勢力が強いナーガモールに入り、そこで長官派の軍と合流し、そのままパラパラ砦に侵攻する。」

「え、え、え? ちょ、ちょっと待ってくださいハンティさん。
 他国の軍隊を自国領内を通過させるなんて・・・、いや確かに現在長官派の勢力が強いため、・・・ううん、議会を通せばそれ位の事は出来ますね、通過するのは長官派の息が掛かった都市だし、警備の氷の軍もそれで押さえられるし。
 けど、他国侵略なんて国家の今後に関わる行動、王の承認も無くできるはずが無いですよ!」

 わたしが、聞いた情報を急いで整理していると、ハンティさんから声が掛かった。

「貴方の国には議会や王の承認が無くても動ける軍があったでしょう。」

 へっ? 独自行動の取れる軍?

「・・・あーーー! 光の軍!!」

 そんな行動の取れる、唯一の軍を思い出し叫ぶと、ハンティさんはやっと解ったかといった風に話しだした。

「長官派に使い潰されないために付けた『独自行動権』なんでしょうけど、そうするならそうするで、とっとと、光の軍の首をすげ替えるべきだったわね。
 例え将軍に現在のところ首にするような問題が無くとも、これだけの権限を与えるなら冤罪でもでっち上げて変えるべきだったわ。
 まぁもっとも、光の将軍もいずれすげ替えられると気付いていたでしょうから、あせって目に見える実績が欲しかったのでしょうけどね。」

 ああっ! しまった!
 つい忙しいのと、アレックスさんの成長を待っていたため後回しにしていた事がこんな事になるとは、・・・まさか争い事とは無縁そうに見えたあの光の将軍がこんな行動に出るとは! 盲点でした!

「ゼスは光の軍を中心として義勇兵という形でゼス正規軍の中から長官派の将軍たちを抜き出して合計3万の軍勢を作り出すそうよ。
 魔法兵が混じった6万の軍、パラパラ砦の常駐は1万くらいだったかしら、リーザスが何も気づかなければ確実に落ちるわね。」

 私は更に考えます。

「いえ、リーザスの諜報網は恐ろしいものがありますし、そんなものを作り上げたあの国が気付かないわけがありません。
 おおよその予測は出来ていると見るべきでしょう。」

「じゃあ、この計画は失敗する?」

「いえ、あのバラオ山脈に軍をすすめられたら、軍を出さざるえません。
 おそらく、守りに定評のある青の軍が対応するでしょう。」

「王都の守備を任されている青の軍? 主力の黒の軍じゃないの?」

「いえ、あの山は大軍が展開しにくい地形です、最大戦力の黒の軍ではその戦力を最大限に生かせません。」

「となると、黒の軍が動けるか?」

「そうでもありませんね、万がいちの為の後詰も必要でしょうし、リーザスもまた国内に不安要素がありますから、自由に動けるわけではないでしょう。
 動かすとすればかなりの博打になるのではないでしょうか。
 そうなると、動けるのは赤の軍と白の軍の2万になります。
 これだって、リーザスの圧力を何時も受けている国境付近の自由都市がうごく可能性がありますから、全軍は無理でしょう。
 精々1万、・・・いえ! おそらく赤の軍は全軍を持ってくるでしょうから、1万5千、合わせて2万5千ですか・・・、酷い損害は受けるでしょうが落ちる事はないかな?」

「リーザスの魔法軍は?」

「紫の軍ですか、あそこは規模が小さいですからね、精々3千と言ったところですか、ゼスの侵攻軍も魔法兵は3千ほどしかいないはずですが、同数なら確実にゼスの魔法軍が勝ちます。
 大した障害にはならない・・・、いや、防御に徹すれば、かなりの時間持ちこたえる事が出来ます。
 今回の侵攻軍、国内情勢からして長期戦は不可能です、リーザスが長期戦に持ち込めれば双方、大した損害も無く引き分けるか?」

 そんな風にわたし達が頭をひねっているとクリームさんが話しかけてきた。

「ちょっと聞きたいんだけど、そもそもゼスはこんな大規模な軍事行動承認するの?」

「・・・するでしょうねぇ。 しないわけが無いですね。
 ゼスという国はマジノ線を挟んでしょっちゅう戦争を仕掛けてくる魔軍がいるため大規模な軍事行動がとりにくいのです。
 このあたりは、ほとんど侵攻してこない魔軍が隣接しているヘルマンの方には解らないでしょけど。
 けど今回、ほぼ無償でヘルマン軍3万を利用できるのです、常々邪魔に思っているパラパラ砦を落とせる良い機会ですから、この話に乗らない理由がありません。」

「けど、ヘルマン軍が裏切ったりしたら。」

「それはありませんね。
 そもそも、ヘルマン軍はパラパラ砦を落としてもあまりメリットは無いのです。
 ヘルマンから孤立していますからね、裏切って砦を占拠しても維持が出来ません。
 また、最初から裏切ってゼスに奇襲を掛けてナーガモールを占拠したとしても、王都には雷の軍とゼス本軍の残りがいますし、後方には氷の軍がいます、あっという間に包囲されていまいますよ。
 そんな危険を冒して、協力関係にある長官派と縁を切るとも思えません。」

「じゃあ、ヘルマンは何のメリットがあって!」

 さらにクリームさんが尋ねると今度はハンティさんが答えました。

「パラパラ砦を落とされたらその後ろにはほぼ防御機能の無い都市群がある、そこを守るため、リーザスは大量の軍を張りつけないといけなくなる、そうなると当然、バラオ山脈の兵力も弱まるわね。
 結果、ヘルマンのリーザス侵攻が現実味を帯びてくる、これが理由よ。
 元々リーザスは少しでも軍事費を減らして国内を豊かにしようとして、パラパラ砦とバラオ山脈に頼りすぎなの、その為そこを突破されると非常にもろいという弱点があるのよね。」

 話を聞いたクリームさんがあっけにとられています。

「すごいのね、貴方達。
 こんなに先が読めるなんて。」

 そんな事をクリームさんがぽつりと言いましたが、それは仕方ない事なのです。
 クリームさんが今まで習ってきたのは、あくまで戦場で勝つ方法、つまり戦術です。
 それに対し、わたし達は国をどう動かすべきか考えてきました、すなわち戦略です。
 まぁ、クリームさんの事ですし直ぐにそんな視点を持てるようになるでしょうね。


「さて、聞くべき事は聞きましたし、これ以上の事は国に帰ってから相談しないと。
 ところで、クリームさん、本当にゼスに来るのですか?
 こう言っては何ですが、うちの国、魔法使い以外にはかなり厳しい国ですよ。」

わたしがそう尋ねるとクリームさんはため息をつきつつ答えました。

「しかたないのよ、他に選択肢も無いし。
 リーザスや自由都市に行っても何の伝手も無い私じゃ生活できないだろうし、貴方には迷惑をかけっぱなしで大変申し訳ないのだけれど、貴方しか頼れる人が居ないの。」

「まぁ、別に大した問題ではないですが、というか貴方のような優れた人材が来てくれるのは大歓迎ですよ。」

 すると、今度はハンティさんが話しかけてきました。

「そのあたりはお前に任せる、こっちはちゃんと死んだ事にしておくよ、精々恨みのこもった遺書でも書いて渡してくれ。
 それと、これだけの情報を渡したんだ、約束を忘れないでくれよ。」

「というと、そんなにまずい状況なのですか?」

「ああ、まずいな。
 こっちの派閥は次から次へと崩されているし、パットンもそれを感じて焦り始めている。
 とりあえずは、暴走しないようトーマと私で押さえこんでいるのだがな。
 ・・・いつまで持つ事やら。」

 そんな話をするわたし達をクリームさんが不思議そうに見つめています。

「ま、気付いていると思いますが、今回のようにハンティさんとは情報を提供してもらうために幾つかの約束をしているのですよ。
 その内の一つが、万が一パットン皇子が政争に敗れた場合はゼスで保護するという事です。
 無論その際は、我が国の管理下に入ってもらい、勝手に勢力を集めたり出来なくなってもらう約束ですが。」

「そういう事だ、この条件は最悪の場合、命だけは助けるための非常手段に近い。
 あの子の母親とは約束してるんでな、どんな事があっても命だけは守るとね。」

 えっ、クリームさんに話しすぎじゃないかって?
 別段構わないでしょうこの程度の話、外に漏れても困る事でも無いですし。
 まぁ、これから頼るものが私しかいないクリームさんがそんな事をする可能性は低いと考えたからハンティさんも普通に話していたのでしょうけど。





 そんな話をした後、クリームさんに遺書を書いてもらい、ヘルマンを後にしました。
 無論、クリームさんと2人ですので瞬間移動は使えません、人けのない所に出たら高速飛翔でひとっ飛びです。
 出ていく分には魔力を感知されても構いませんからね。

 ちなみに、私に抱き締められて初めて高空を高速で飛んだクリームさん、およそ5分でしっかり気絶していました。
 高所恐怖症にはならなかったようですのでよかったです。




≪あとがき≫


毎度遅筆なムラゲです。



ついにヘルマンに入りました、といってもとんぼ返りでゼスに戻っちゃいましたが。

徐々に話が進んできました。


今回は少し重めの内容がありました。
女性に対しての暴行のお話です。
原作がエロゲである以上、避けては通れない話題ですが、さらっと流すのも何か嫌でしたので少し書かせていただきました。
対処法や行動については、作者の勝手な想像ですので真剣に受け取らないでください、何分デリケートな問題ですので。

また、なぜハンティさんと協力関係が結べているのかも記載させていただいております。
少しは説明になったでしょうか?
そしてついに仲間になった原作キャラ、クリームさん、貴重な眼鏡枠いただきました。
ただ、次のランス9で出てきたらどうしようかと少し悩んでいます。

さて、次はついに戦争だ、リーザスは敗北するのか?の予定です。





まほかに様
ご感想ありがとうございます。
技能レベルは基本的に入学付近しか入れていませんがその後も知っているようなニュアンスのところがあり現在検討中です。
改定するべく現在悩んでます。



ルアベさま
今回も、長文のご感想ありがとうございます。
内政チートや原作キャラのスカウトは難しいですね。
そしてランスくんの必要性も、準備稿に幼いランスくんに出会うというアイデアもありましたが、性格を変えると神に対抗できなくなるだろうと考え没にしました。
他の憑依組については今のところ、ランスとであった後を予定します。ご期待されている元魔王さんも悪魔さんと同じく実は使いづらいキャラクターです。
今回認識撹乱の仮面が少し出ていますが、実はこんな欠点もあるのですよというお話が入っています、この作者そう簡単に便利な道具は与えないのです。
対魔人用の魔法も考えているのですが余りにご都合過ぎたり、掛かるまでおとなしくしてくれるかなど問題点が山積みです。まぁ幾つか候補は出来ましたが、ネタばれになるので暫くは内緒です。
そうですね、魔人よりそのあとすぐに神との戦いがあるのが問題でしょう。疲弊したところに味方だと思っていた最大戦力が攻めてくるなど、どんな悪夢かと。





丸々さま
ご感想ありがとうございます。
えー、残念ながら引き籠りは一応『アテン・ヌー』さんです。
彼女はまだこの時期引き籠っていないはずですので教育さえ間違えなければ戦力になるかと。
血まみれ天使ですか・・・悪魔さんなら対応は余裕でしょうけど、矯正は・・・・出来るんだろうか?



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