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[11973] MONSTER×HUNTER(現実→H×H、特質系)【試験編完結】
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/21 22:38

おはつおめにかかります。久遠と申します。

この小説は『HUNTER×HUNTER』の世界で、『モンスターハンター』のゲームシステムを再現したら面白いのではないかという思いつきで書き始めました。
その為、オリジナルの主人公は『モンスターハンターのゲームシステムを再現する』念能力を持っています。

H×Hの念能力は系統という制限があるからこそ面白いものだとは理解しておりますが、モンハンシステムを再現する事を優先させてチート能力と批判は覚悟の上でオリ主は特質系とさせて頂きました。
また、H×Hでは武器を使うキャラが少ないのですが、モンハンらしく太刀と双剣を使います。

ストーリーはモンハン風プロローグを終えると、ハンター試験に入ります。
作者力量不足につきハンター試験というテンプレ展開で申し訳ありませんが、試験内容は多少アレンジを加えていますが、よくある展開から脱しきれてはおりません。

現在一章『ハンター試験編』は完結し、二章『モンスター狩猟編』に入ります。
一章は特にモンハン要素が薄く、モンハン展開を求めた方は肩すかししてしまうかもしれません。

文章として形にするのは初めてなので、稚拙な文章と思いますが暖かい目で見守ってください。
ご指摘、ご助言は随時お待ちしております。


(注意・周知事項)
・感想掲示板のご意見、ご要望は必ず参考、検討させて頂きます。
・文章、設定を随時修正させて頂く場合が御座います。
・あくまで疑似モンハン世界があるH×H世界が舞台です。


(履歴:誤字脱字修正は省略)
2009/09/19 チラ裏にて投稿開始
2009/09/20 第7話、原作知識を知っているのにトンパジュースを飲んだ内容を修正。
2009/09/26 第3話、ジンと過去に会っているが気づかなかった理由を追加。
2009/10/10 第3話、水見式の効果が対象に発生していなかった為修正。
2009/10/24 第20話、ゴンとキルアに必要なプレートの食い違いの修正。
2009/10/28 H×H板に移動
2009/11/01 第6話、レウスとジンの会話を追加。



[11973] 001 モンスター×ハンター
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/09/19 02:36
俺は必死で逃げていた。
背後から迫るのは竜の一種で、その性質は一言でいって凶暴極まりない。
突き出た牙で獲物を捕らえる外側の口と、捕らえた獲物を噛み砕く為の内側の口。竜は二つの用途別の口を持っており、長く伸びた牙が悪魔のように禍々しい容貌をしている。
鋼鉄の如き硬度を誇る竜鱗だが、なおかつ柔軟性も持っており全身をくまなく覆っている。銀がくすんだ錆色の甲殻が、鏡のように陽光を受けてギラギラと輝いていた。
体長は首、手足、翼、尻尾を含めない胴体だけでも十八メートルはあり、翼と尻尾を含めた全長は四十メートルにも達している。

ご自慢の翼を大きく広げて、奴にとって眼下の石ころにも満たないはずの俺を執拗に追い回す。
竜の視力は通常それ程高いものではない、と聞く。
人間など竜にとっては捕食対象の餌にはならず、外敵とさえ感じていないはずだ。
それにも関わらず、こうまで執拗に襲いかかってくるのには理由がある。竜の左目の上に縦に走った裂傷がそれを物語っている。
おそらく過去に人間……モンスターハンターによって手傷を負わされた経験があるのだろう。それ故に俺のような小物に対しても憎悪を剥きだしにしているに違いない。

人間の体力には限界がある。
竜と追いかけっこを初めて既に30分は経過しているが、その間全力疾走を続けてきた俺の体力は既に限界に達していた。
すぐにも座り込んで息を整えたいという甘い誘惑が頭を遮るが、それは即ち死に直結するので何とか振り払う。

しかし、竜も業を煮やしたのか少し高度を上げてから、地上の俺をめがけて一気に加速した。
滑空して迫る竜の翼が生み出した真空の刃によって、樹齢数百年を超えるであろう大樹が切り株と化す。
まるで紙を切るナイフのようにスパスパと大樹が切断されていく様子に、俺は心底恐怖を感じた。

――冗談じゃない。
あんなもんを食らったら、人間の身体など容易に両断されてしまう。
いくら現代日本からこの世界にやってきて三年間の修行を経て、貧弱ボーイからの脱却を果たしたとは言えどもシャレにならない。
そもそも、俺は気配を絶つ術と、走力と持久力を重点的に鍛えたが、竜と正面きって戦えるような戦闘力は皆無。
俺を鍛えた師匠達は文字通りモンスター級の身体能力を誇るが、俺自身がその領域には達するのはまだまだ遠い。

巨木が横倒しに倒れた衝撃で大地が揺れる。
段々と死の瞬間が近づいているのが、地面を伝わる振動で感じられる。
無論、その程度で速度を落としたり、体勢を崩すようなヘマはしない。
俺の身体は、三年前と比較して羽根が生えた様に軽くなっている。
弾丸のように一直線に駆け抜ける俺の速度は時速100キロメートルには達しているだろう。
しかし、そんな俺の全力の逃走をあざ笑うかのように、竜は雄たけびを挙げて飛翔する。

「まずい、追いつかれる!」

荒い息と共に思わず口から漏れたその弱音は、その後の嫌な予感の的中を意味していた。
背後に迫るのは、竜の鋭い牙と堅固な顎。それが死を告げる足音となって近づいているのを自然と察していた。

「うおおおおぉぉぉ!」

竜の牙と俺の身体が接触する寸前に、タイミングを計って俺は左に跳躍する。
ワンステップで三メートルは横に飛び下がり、竜の大顎の射程範囲から脱する。

だが、それで終わりではない。
着地した左足を軸にして身体をひねるように回転。
地面と並行近くまで傾いた体勢で、背負った太刀を引き抜いて迫りくる顎に一閃。

キン、と鈍い音を立てて、無情にも俺の手から離れていく太刀。
竜は滑空の速度を減速し切れずに、約五十メートル程先に地響きを立てて着地した。
慣性の法則のままに、その巨体の太い足が大地を削り、広げた翼が木々を薙ぎ倒して森には一本の道が出来上がっていた。

「うん。全然効いてない」

顎が硬すぎて、斬撃ではかすり傷さえつきませんでした。
むしろ、その衝撃で両手は痺れ、太刀を手放さなければ手首から折れていたかもしれない。
衝撃が手に残っており、握力が全くなくなっていることに今更気づいた。

竜は俺の斬撃を受けた事すら気づいていないのか、背中に突き出た棘ごしに首を振り返ると、ぎょろりとした真っ赤な瞳を俺に向けた。
大きく体勢を崩して尻餅をついた状態にあった俺の目には、竜が振り上げた尻尾が見えた。

それは竜の尻尾による薙ぎ払いの予備動作。
たかが尻尾とはいえ、竜の尾は巨木を薙ぎ倒す程の威力を秘めたものである。
更に言えば、ごつごつと突き出た棘ならば俺の身体に風通しの良さそうな穴が空けられそうだ。

あ、やばい。死んだな。
俺は数秒後に訪れるであろう、己の死を自覚した。

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

しかし、予想に反して絶叫は俺の口から出たものではなかった。
見れば俺をにらんでいた真っ赤な右目に1メートル程の長い棒が突き刺さっていた。

――いや、あれは棒じゃない。
棒の先端には白羽が取り付けられており、それが巨大な矢であることを主張していた。

「心を射貫く愛の弓(ハートショットボウ)!」

凛とした張りのある声が森に響き渡る。
声の角を見やると、岩場が積み重なった崖のような高所に一人の女性の姿があった。

長い金髪が光に溶け込むようにキラキラと輝いている。
甲冑に似た桜色の胸当てと手甲を纏い、扇状に広がる全円のスカートが風に揺れていた。
巨大な弓を天に掲げるように構えている姿は、北欧神話の戦乙女ヴァルキリーの姿を彷彿とさせる。
逆光で表情こそ見えないが、顎先が細く端正に整っている美人。彼女は俺のよく知る人物で……。

「レイアさん!」

「――走りなさいっ!」

「は、はい!」

その声に弾かれるように俺は立ち上がり、逃げてきた道を逆走する。
一目散に駆けだした俺は、竜に無防備に背中を晒している形となっている。しかし、竜の攻撃が二度と俺に迫る事はない事を俺は知っている。
そう、竜を誘い出す俺の役目は終わったのだ。

『GURUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!』

唸るような咆吼が耳に届く。
顔だけ背後に向けると、再び天から飛来した矢が竜の右の前足を貫いて、地面に縫い付けられている様子が映った。

「次はわたしの番だよ!」

甲高いボーイソプラノの声が上空から聞こえる。
空を走るように跳び、竜に迫る影が一つ。
どこから現れたのか定かではないが、その軌道は直線的でありそのまま進んでも竜の頭上を通り越して仕舞いかねないのだが、そうはさせじと突如その身を捻った。
ジェット機のエンジンがうねるような爆炎を上げて、振りかぶった巨大なハンマーから炎が噴射、赤い道を青い空に描く。
小柄な身体が噴射による推進力を得て、上空でくの字を描くように軌道が直角に曲がる。
その目標は竜の胴体。

「雷神の巨腕(トールハンマー)っ!」

凄まじい衝撃音と共に、大地が揺れる。
まるで巨人の拳が叩き付けられたかのように、重量感のあるハンマーの一撃。
矢によって動きを封じられて直撃を食らった竜の巨体は、驚く事に手足を突っ伏して地面に半分近くまでめり込んでいた。

「のけーい、小僧ッ子!」

「後は俺達の仕事だっ!」

「は、はいっ!」

二つの声に反射的に飛びのいた横を、鋼鉄の騎馬が駆け抜ける。
弾丸のような、と自分の走りを形容したのが恥ずかしくなる程にその馬は速かった。
馬上の人物が前方に向かって構えた突撃槍が大気を切り裂き、捻れた一角のように騎馬は……そう前に跳躍した。
鋼鉄の騎馬と、全身鎧を纏った騎士の人馬一体の突撃。

「貫けっ! 突撃騎兵(ストームライダー)!」

渋いかけ声と共に半身がめり込んだ竜が無防備に晒している喉元に向って、突撃槍を構えたまま騎馬が突進する。
鋼のように硬いはずの竜鱗が貫かれ、岩のように強靱なはずの肉質を切り裂いていく。
一つ、二つ、三つと肉の断層が切り裂かれていき、その度に赤い血飛沫が渦状に迸る。
結果として竜の喉元から首にかけて、向こうの景色が見える程の直径三メートルに及ぶ大穴が空いていた。

挽肉のように血と肉でぐちゃぐちゃになった傷口は見るからに痛々しい。
だが、流石に規格外のモンスターの生命力である。
大穴を開けて声も出せない竜だが、まだ絶命には至っていなかった。

「ゆけーい、レウス!」

「おう、任せろっ!」

騎馬に乗っていたはずのもう一人の巨漢がいつの間にか宙に飛んでいた。
地面に縫い付けられた竜の頭上を軽く飛び越えて、その高さは五十メートルにも及ぶ。
どうやってあそこに、と思うのが普通だがあれが単なる跳躍によるものだとは信じたくない。
太陽を背におった男の赤い長髪が、重力落下で逆立って揺れる様が炎のように見えた。
そして、髪と同じ真っ赤な幅広の大剣が、竜に無慈悲に振り下ろされる。

「竜覇斬(ドラゴンバスター)!」

地面が左右に避け、断裂と化す。
男は大剣を持ち上げたまま、大地に降り立った。
舞い上がった土埃が晴れ、そこには……。
頭から尾の先まで、綺麗に両断された竜の姿があった。

「……ありえん」

これが今の俺が直面している出来事。
人に害を成す危険生物が生息し、そしてあろうことかそれを打ち倒す狩人達。
彼らを人は『モンスターハンター』と呼ぶ。

そう、現代日本人であったはずの俺が何の因果か訪れた世界。
まさに『モンスターハンター』の世界だった。





─────

次回以降はH×Hの原作沿いのストーリーで進む予定です。
オリ主はモンハン世界の要素を再現する特質系の能力者で、多彩な能力を持っています。
何とかH×Hの世界観に当てはめようと努力はしてはいますが、どうにもチートくさい点はご了承下さい。



[11973] 002 ハンター×ハンター?
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/28 23:39

そう、現代日本人であったはずの俺が何の因果か訪れた世界。
まさに『モンスターハンター』の世界だった。

そう思っていた時期が俺にもありました。
丁度、二年前までは……。

「おう、ナルミ。おめーもそろそろハンター試験受けてもいいんじゃねぇか?」

「うんうん、念技も形になったし、絶対合格間違いなしだよ!」

「そうね。知識面での不安はあるけれど、戦闘面なら大丈夫だと思うわ」

「とはいえ、油断はするなよ小僧ッコ。お主程度の腕前の者達など掃いて捨てる程おるからのぉ」

俺にそう語ったのは、順番に敬称略でレウス、キリン、レイア、クック。
ご存じの方もいると思うが、モンハン世界のモンスターのネーミングに非常に酷似している。
だが、聞くところによるとモンハン世界に存在したモンスターは発見されていないので、火竜レウスや雷獣キリンといったモンスターはこの世界には存在していない。
彼らの名前は偶然似ているだけという事を、この五年でようやく認めることが出来た。

俺の師匠でもあるレウスはこの中のリーダー的存在で、赤い剛毛の長髪が目立つ全身を筋肉に覆われた偉丈夫。
何の為にあるのか不思議な上半身剥き出しの軽鎧を着ているが、本人曰く動きを束縛されるような鎧は不要とのことだ。
じゃあ、鎧いらねぇじゃんと思わなくもないが、この生まれた時から戦闘民族の巨漢に面と向かって文句をつけられる人類はいない。
ちなみに、竜を一刀両断にするほどの大剣使いで、愛剣は燃える様に真っ赤な幅広の大剣レッドウィング。

キリンねぇはハンマー使いで、工房試作品ガンハンマの噴射による推進力を利用して戦う。
だが、それだけではなく外見年齢は十五歳で俺より年下に見える小柄な身体からは想像出来ない馬鹿力の持ち主で、腕力だけなら他の三人に勝る程である。
真っ白な長髪をポニーテールにして、赤銅色の肌の南方系の容貌で、熱帯地帯の民族出身の為か肌の露出が極端に多い白い毛皮の衣装を着こんでいる。その為、スキンシップで密着されると色々困る。だって男の子だもん。
毛皮とお揃いの特徴的な額宛は幻の一角獣から譲り受けたものらしい。相当お気に入りなのか寝る時さえはずさないので、いつか突き刺さりそうで怖い。
本人は非常に陽気で、明るくサバサバした性格なので、この中でも年と外見が近い俺とは実の姉弟のように仲が良い。
年上のダンディーな恋人募集中と言っているが、こんな危険生物が闊歩する秘境に出会いがあろうはずもない。

レイアさんは誰が何と言おうと美人。美女。
金髪碧眼のスレンダーな長身。まるで彫像のように整った顔立ちで女神様のようなお方。優しくて、気立ても良いというパーフェクトレディ。
その上、弓の腕前は超一流。桜色の全長二メートルにも及ぶ長弓クイーンブラスターの前にハートを射抜かれないモンスターは存在しない……文字通りの意味でね。
ただ料理の腕前だけは並以下。味覚がおかしいわけでもないが、意外と大雑把なのか適当に分量を間違えるのが玉に傷。さすが放出系である。
ちなみにレウス師匠の恋人というのが、一番納得出来ない所ではある。

そして、最後がクック先生!
この中で最年長の豪快なおっさん。レウスとレイアさんの師匠でもあり、俺にとっては師匠の師匠に当たるわけで、敬意を込めて先生と呼んでいる。勿論はじめに実力の差というのを身を持って叩き込んでくれた。
とある国の上流騎士の家系に生まれたらしいが、粗野な言葉遣いからは全く想像出来ない。
筋肉達磨の厳つい顔つきで、一見すると厳格そうだが実際は子供じみたた悪戯をしてくるお茶目なおっさんである。
レウス師匠の嫌がらせのような地獄の特訓に文句をつけた時に「やられた事をやり返している」と言い切ったので、その要因であろう先生には恨みを抱かずにはいられない。

そして、俺の名前はナルミ=クドー。
現代日本から転生してきた異邦人であり、前の世界では普通……とは言えないが、ゲームが好きな大学生だった。
何の因果かこの世界へ転生……正確には十三歳の身寄りのない少年に憑依した形となる。実を言えばナルミという名前は少年の名前であり、少数民族特有の部族名こそあったが家族名を持っていなかったので、転生前の苗字であるクドーを名乗っている。

俺がナルミ少年に憑依してから、五年の歳月が流れて俺は十八歳になった。
この身体はキリンねぇと同じように南方系の少数民族の出身で、赤銅色の肌に銀髪という特徴的な容姿をしている。
だが、少数民族とはいえどこぞの狂った族のような特殊体質ではないので、イカれた人体収集家に狙われる事もない。過酷な自然環境で育った為に、常人よりも多少身体能力が高いといった程度である。
それから、顔立ちも悪くはない……とはいえこちらに来てから五年、知り合った女性が彼氏もちのレイアさんと、年下お断りのキリンねぇぐらいなものなのでモテた試しはない。

そして、ここは『HUNTER×HUNTER』の世界だ。
四人の名前とモンスターハンターという職種から、俺が『モンスターハンター』の世界と思い込んでいたのも無理はないだろう。
しかし、二年前に彼ら四人が念能力者であると教えられ、彼らがハンターライセンスを持っている正真正銘のハンターという事を明かされてから、それが間違いであった事が判明した。

それを知ってからは俺は自分が転生者である事を明かし、一ヶ月かけてゆっくりと精孔(しょうこう)を開いてもらうことに成功。めでたく念能力者の仲間入りとなった。
三年間で基礎能力を鍛え、その後の二年間の修行で念と武器術を学んだ俺は、今では中型のモンスター……といっても十メートル級ぐらいならば一人でも倒せるぐらいには鍛えられた。

とはいえ、念能力者としてまだまだ他の四人に比べたら未熟。
それでも念の基本とも言うべき四大行、”纏(てん)”、”絶(ぜつ)”、”練(れん)”、”発(はつ)”はほぼ完璧だ。特に気配を隠す”絶”にはかなり自信がある。

だが、念の応用技についてはお世辞にも完璧とは言えない。
”絶”の応用技の”隠(いん)”は師匠達にも合格とお墨付きをもらっている。隠れる事だけに集中すれば、師匠達からであっても逃げ切れる自信がある。

それと物にオーラを纏わせる技術で、”纏”の応用技の”周(しゅう)”も得意だ。実は師匠達四人もこの”周”がものすっごい上手く、俺も同様に武器を使った戦闘を好むのはその為である。

問題は他にあって特にひどいのが”練”の応用の”凝(ぎょう)”。
一か所にオーラを集中させるのが大の苦手で、当然のようにその応用となる”流(りゅう)”も同様。右手にオーラを集めたつもりが右腕全体に広がってしまったり、長時間かけてやればなんとかなるがそれでは右手で相手を狙っているのがバレバレであり、念能力者相手には使い物にならない。

結局のところ、師匠達の見立てでは俺は防御を主体にした長期戦が向かない、遊撃的な短期戦向き、という事らしい。
応用技も後三年も修行すればものになると言われているので、日々修行に明け暮れる毎日である。

同時に長所を伸ばすべく、”周”と合わせた武器術に関しても熱心に学んでいる。
俺が武器に選んだのは太刀と双剣の二種類で、何故かというと俺の念技にも関係することなので追々述べる事にする。

「ハンター試験?」

その言葉と意味を噛みしめて反芻する。
つまり、『HUNTER×HUNTER』の世界におけるハンターライセンスを取得するという事。

俺の認識では、実力は師匠達に遠く及ばない未熟者。であるにも関わらず、ハンターというこの世界においてはある種一流のステータスでもある試験を受けて来い、と言われても戸惑いこそあれど素直に頷けなかった。

「おう、俺達モンスターハンターは実力は勿論だが、ハンターライセンスがないと正式にはなれねぇんだよ。それにそもそもお前戸籍がねーだろ? ライセンスカードは身分証明書にもなるからあったほうがいいぜ」

「ハンターライセンスがないといくら活躍してもアマチュアとされるわ。そのせいで足元を見られて報酬金の額にも影響する。それに一般人では立ち入り禁止な区域に入る事も出来ないわよ」

「わたし達『滅竜狩猟団』の一員となって、本当の意味で対等な仲間になるにはハンターになる必要があるって事よね!」

「勿論、気持ち的には小僧ッコもわしらの仲間、家族と言ってもいい。だが、ハンターの世界は厳しいのじゃ。そこの所は忘れるでないぞ」

なるほど、確かにここ二年で囮だけではなく戦闘の補助もそこそここなせる様になってきた俺だが、初対面の仕事の依頼主にもオマケとしてしか見られていないのはそれが原因か。あって損はないし、あるに越したことはない、という訳だな。
『HUNTER×HUNTER』の世界とはいえ、モンスターハンターとしての生活しか送ってこなかったので、「俺はハンターになる!」と思った事がこれまで一度も無かった。
その為、今に至るまでハンター試験という存在を綺麗サッパリ忘れていたのだったが、今更ながらに思い出した事がある。

そういえば、原作登場人物達って今どうしてるんだろう?
ゴンにキルアにクラピカにレオリオ。
彼らが確かハンター試験を受ける所から始まって、四人が仲間になるんだったよな。

「ハンターになるのは異存ないんだけど、そもそも今って何年だっけ?」

「お前、五年もこっちの世界にいてそんなことも知らなかったのか?」

「師匠達ぐらいしか交流ないんだから、仕方ないじゃん」

「今は98年よ。次の試験は1999年の一月一日よ」

「ってことは後三ヶ月後ってことか」

「試験を受けに行くなら準備も含めてそろそろしたほうがいいぞ。どうする?」

1999年ってゴン達が受ける時だっけか?
歴史の年表さえ覚えているかどうか怪しいが、試験は確かこの年だったような気がする。
まぁ、仮に違っていても思い出す事は無理だろうし、その時は素直に試験を受けよう。

だが、もしゴン達がいるとすればなんとなく試験の内容は覚えているし、受けるなら同じ時のがいいだろう。
念を覚えているから戦闘ではそうそう負けないとは思うが、知識関連の試験があったら普通に落ちそうだしね。
それなら主人公補正がありそうなゴン達に同行した方が合格する確率は上がるだろう。

「ああ、行くよ。ハンターライセンスをとって、俺もモンスターハンターになってやる! そしたら正式に『滅竜狩猟団』のメンバーとして認めてくれよな」

「いいだろう。これはいわゆる卒業試験みたいなもんと考えろ。念能力者としてはまぁ及第点を与えてやるが、ハンターとしてはまだ圧倒的に経験が足りねぇ。だが、お前に足りない分は仲間に頼れればいい。ハンター試験でそれを身をもって知るんだな」

両腕を組んで、珍しく真剣な表情で師匠が言った。
仲間を頼る……それは『滅竜狩猟団』のメンバーとして基本であり最重要な事だ。
この五年を通して俺が最も強く実感したのは、師匠達の力が最も発揮されるのはお互いに連携した時、であるという事だ。

モンスターハンターたるもの、危険を犯してモンスターを相手に一人で戦う必要はない。
仲間と共に安全に、かつ確実にモンスターを狩る事が重要なんだ。それが出来ないのであれば、真のモンスターハンターと呼べないであろう。

「師匠もたまには良いこと言うなぁ」

「がっはっは。小僧ッコが、小僧ッコに言われとるぞ」

「うんうん。でも、レウスもそうしてると師匠に見えるよね~」

「そうね。ナルミを弟子にして師匠も少しは成長したのかしら?」

「ぐ、お前ら……」

クック先生が爆笑して、キリンねぇが相づちを打つ。
レイアさんが優しい笑みを浮かべてからかい、師匠がやり込められて苦笑する。

何時もと変わらない、何処にいても自然な人達。
五年前に右も左も分からない俺の様な異質な存在を何の抵抗もなく受け入れてくれた、大切な仲間達。
俺は少しでも長く此処にいたい。
彼らの傍に少しでも近づきたい。

俺の目標は師匠達と同じモンスターハンターになることだ。
別にモンスターと戦う事に生き甲斐を感じてる訳じゃない。
俺は師匠達と同じ場所に立ち、彼らに仲間と認めてもらいたいんだ!

それが俺がハンター試験を受ける事に決めた理由だった。





─────

まずオリ主のナルミは現代日本人のくせに精神的に強いです。
その理由も一応考えていますので、いつか外伝的に書きたいですね。
現時点でナルミの戦闘能力はハンター中堅に手がかかるかどうかというレベル。
モンスターハンターの四人は、戦闘能力だけならハンターでもトップクラスという設定です。
さすがに彼ら四人はバランスブレイカー過ぎる為、次回からひとまず登場しません。



[11973] 003 旅立ち×世界
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/17 22:30

「どうかな?」

俺はみんなを前にして、珍しく緊張していた。
普段は薄手の皮鎧を着ていたが、ちゃんとした服を着込んだのはこの世界に来てから初めてだった。
つまり、ナルミ=クドーとして外見を意識したのが初めての事だった。前の世界の常識に合わせてみれば問題はないと思っているが、この世界ではその常識は通じないのかもしれない、と思ってしまうのも無理はないだろう。
だが、今回のハンター試験に合わせて新調したのはレイアさんのコーディネイトなので、問題ないとも思っている。

厚手の赤茶色のジャケットで、素材には火竜の鱗を使用しているので銃弾ぐらいならば弾き返す強度を誇る。
ジャケットの下の白色のシャツは鉄蜘蛛の剛糸で編み込んだ素材で防刃効果が高い。
パンツはジーンズに良く似た紺色で、ゴムに似た性質を持つ毒鳥竜の素材を使用している為に伸縮性が最大1.5倍までになる優れもので履き心地抜群。
仕上げに伸びるままのザンバラ頭だった銀髪は、後ろは首筋で切り揃え、前髪は眉に届かぬ程度に整えられている。
これら全ては俺の身長と体格に合わせたオーダーメイドであり、その実用性はレイアさんのお墨付きだ。

武装は太刀と双剣。
腰のベルトは双剣の鞘を十字に固定出来るように改造してある。同様に肩がけのベルトにも同様の改造が施されており、背の一メートル五十センチはある太刀の鞘が邪魔にならないような工夫である。
太刀が長すぎての鞘から抜けないと思われそうだが、実は鞘にも仕掛け(ギミック)が仕込んであり、肩がけベルトのバックルのスイッチを押すと刀身が引き出せる様に鞘が開閉する仕組みになっている。

実用性とファッション性を組み合わせた服装であり、本人の観点からするとかなりのお気に入りだ。
ただ、一見するとクールを気取ったコスプレ男のように見えるのが難点かもしれない。

「おー、なかなかいいじゃねぇか? 気取ってる所が一発殴りたくなるけどな」

「わしの若い頃そっくりじゃな」

「…………」

「どう? 実用性を兼ねたファッションのつもりよ」

半裸鎧のファッションセンスを持つ師匠は何の参考にもならないので無視。
どう見ても岩面に筋肉達磨の先生は、ボケが始まって戯言をほざいているので無視。
キリンねぇは……驚いた様子でこちらを凝視しているが、無言なのがすごい気になる。
レイアさんからは事前にバッチリのお墨付きを貰ってるので問題ないだろう。

「キリンねぇ、どう? おかしくない?」

「え? そ、その似合ってるんじゃないかな?」

はっきりしない物言いが、逆に不安を掻き立てる。
ファッションはお任せだから良いとして、問題があるとしたら髪型か?

「何かおかしい? 髪もバッサリ切って貰ったから短くなったんだけど?」

「えーと、すごい似合ってる。そ、その見違えちゃってちょっと驚いただけよ」

「そう? なら良かった」

ほっと一安心したせいか、その後のキリンねぇが続けて呟いた一言は聞き逃してしまった。
「いざとなったら」とか「年下でも」とか聞こえたけど、蜘蛛の巣に捕らわれた獲物の如く、背筋がぞくっとした。
何とか背筋を伝う寒気を振り払って、俺は別れの挨拶をする。

「じゃ、行ってくるよ。絶対にハンターになってみんなと同じ所に行くからな!」

「行ってらっしゃい。油断はしないようになさい」

「私の時も結構無茶な試験内容だったから、気をつけてねー」

「まぁ悔いのないようにやってくるんじゃな」

「受からなかったら地獄の特訓フルコースだからな!」

「ちょ、師匠! それはあんまりじゃ!」

「なーに、受かればいいんだよ、受かればな。俺の弟子がハンター試験に落ちたなんて風潮されてみろ。恥かくじゃねぇか!」

「結局自分本位かい!」

「うるせー。お前は底抜けに楽観主義者だから、適度な緊張感があったほうがいいんだよ。モンスターを狩猟するのと同じぐらいの気持ちでいけ!」

「分かったよ。絶対受かってくるぜ」

「よーし、その意気だ。行ってこい!」

最後には笑顔で送り出してくれる師匠達。

「師匠、ここで俺に依頼をして下さい!」

「そうだったな。じゃあ、俺からの正式な依頼だ。ハンター試験に合格し、ライセンスカードを取得しろ!」

口調を改めた俺の言葉の意味を理解した師匠は、ニヤリと笑みを浮かべて依頼の達成条件を告げた。
そう、これが俺の能力の発動条件になるのだ。

「はい!」

別れを済ませた俺は、決意を新たに歩みを進める。
師匠達の姿が見えなくなるまで進んだ所で、俺は名残を惜しんで後ろを振り返る。

だが、戻ることは出来ない。
俺は今この時から一人で新しい道を行かねばならないのだ。

そして、今旅立ちの開始地点となるここで俺は念能力を発動する。
全身に溜めたオーラで”発”を行うと、ファンファーレの効果音と共に頭の中に文字が浮かんだ。

「クエスト名、ハンター試験を受注する!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 クエスト名 :ハンター試験
 達成条件  :ハンター試験に合格/ライセンスカードを取得
 報酬金   :20000z
 契約金   :2000z
 指定地   :ザバン市
 戦闘対象  :???
 特殊条件  :なし

 ──────────────────
 現在の所持金:25200z

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

俺の念の系統は特質系。
現代日本からのトリッパー、かつこちらの世界で目覚めてからの三年間ずっとこの世界がモンスターハンターの世界と勘違いしていた。

念の性質は生い立ちと、育った環境によって決まる。
その意味では俺はこの世界に異邦人として生まれ、モンハン世界に最も馴染んで成長したと言える。俺の念の系統が特質系になったのはそれらが理由であろう。

俺が水見式を試した結果、当初水と葉には何も変化が起きなかった。
水の味が変わったのか、それとも”練”が未熟で効果が現れなかったのかと思ったのだが、しばらくすると水の表面が一定の間隔でわずかに波打っているのに気づいた。

じっくり観察すると、水が波打っているのは器であるコップが振動している事に起因していた。
特質系を除いた五系統は、水か葉に系統に見合った変化が現れるのだが、どうも一般的な変化ではないように思える。
不振に思ってコップを手に取ると、コップは振動によって何か音を発している事に気づいた。

中身の水を捨ててコップを耳に当ててみると、なにやら聞き覚えのある効果音が鳴っている。
『パッパパパー、パパパー、パパパーパー、パパパー、パパパーパーパー!』
それは何度もプレイして聞き慣れた、モンスターハンターのテーマソング『英雄の証』のファンファーレだった。

水見式によって、俺の念系統は他の五系統に属さない特質系。更に能力にはモンスターハンターのイメージが色濃く反映されている事が分かった。
それを基に念の必殺技たる”発”のイメージを固め、更に修行を続けていく内に素質としては具現化系よりの特質系である事が分かり、その点も考慮して念能力を身につけた。

俺は『モンスターハンターのゲームシステムを再現する』事が出来る。
そして、その念能力にモンスターハンターとして生きる事の決意表明として『狩猟人生(ハンターズライフ)』と名付けた。

とはいえ、オーラの容量(メモリ)とオーラ総量の関係で、ゲームのような複雑なシステムが再現出来るわけがない。
そこでクエストを受注して、俺の意識の中でだけ存在する架空の『ゼニー(z)』を入手し、『ゼニー』を使用する事を前提条件として付随能力を発動させる事を可能とした。
言ってしまえば、モンスターハンターのシステムを再現する為、不足分を補う為の『制約と誓約』に近い補助能力だ。

この能力はオーラとメモリの代替を生み出す事にあり、能力の発動にはオーラをほとんど使用しない。
ただし、先程のように発動には他者から達成条件を指定して、依頼という形をとらねば発動出来ないという制約もある。
『条件付きでオーラを貯蓄し、メモリを緩和する能力』と言える。

また、報酬金はクエストの難易度によって変化する。
特に重要なのが戦闘対象で、現時点では不明となっているがクエスト達成までに戦闘に及んだ相手の強さで難易度は増減する。
窮地に落ちれば落ちるほど報酬金額は増加し、逆に余裕を持って倒せる相手であれば報酬金額は減少する。
今回のクエストは狭き門であるハンター試験だけあって、これまで俺がこなしてきたモンスターハンティングよりも難易度が高いことが予想される。

『滅竜狩猟団』と離れて初めて一人で挑むクエストだ。
俺がこの世界にやってきて五年、ほとんどを一緒に過ごして来たみんなのお荷物でしかなかった。
不安がないと言えば嘘になるが、それぐらいで怖じけるようではモンスターハンターになるのもまた夢のまた夢。
それになんだかんだ言っても、俺は始めての旅にワクワクする気持ちが大きかった。

俺がこの世界にやってきてから生活圏としていたのは、アイジエン大陸の魔境・秘境と呼ばれる地域だ。
ここには大小様々なビーストがほぼ自然のまま生息しており、人に害を為すモンスターのような危険生物も多数存在する。
五年間この地域から出たこともなかったので、目的であるザバン市までの行程はレイアさんに予め相談して決まっている。

まず、ザバン市のある海を越えた西方の大陸までは飛行船で行くことになる。
ただし、この秘境から直接乗れる飛行船はないので、ここから片道一週間かけて都市まで出なくてはならない。
そして、飛行船と船を乗り継いでザバン市に近いドーレ港を目指す。予定では飛行船で一週間、船で三日はかかる行程なので余裕を持って三週間前に出発することになった。

道中の旅費はこの五年で全く使ってもいなかった狩猟の報酬から捻出する。
ハンターとしての報酬はびっくりするほど高額であるが、俺はハンターライセンスを持っていないアマチュア扱いなので報酬はほとんどもらっていない。それでも、自給自足に近い秘境での生活故に貯金は貯まる一方だった。
手持ちにある現金はこちらの世界で実際に存在する共通紙幣で5万ジェニー(J)程だが、飛行船の出ている都市で貯金を下ろせば100万ジェニーぐらいの貯えがある。飛行船と船に乗るとはいえ、往復の旅路には十分お釣りが来るだろう。

それにしてもこの世界の共通紙幣って、どうなってるんだ?
1万ジェニー紙幣に印刷されているのはどうみても福沢諭吉だが、この世界に福沢諭吉が存在するわけもない。この世界の人はこれを誰だと思ってるのかね?

まぁ、奇妙な類似という意味では世界の大陸もまさにそうだろう。
ここアイジエン大陸はアジア大陸そっくりだし、ヨルビアン大陸という北米大陸そのものの大陸があったり、極めつけに名前も形も一緒のジャポンがあったりする。
ほぼ寸法違わず大陸が場所だけ移動しているのが、何故か横倒しになっていたりひっくり返っていたりするのが笑いを誘う。
唯一の例外が北部にある大陸で、この特徴的なドーナツ型の地形は現実世界には存在ない。だが、その見覚えのある形は懐かしきドラクエ3のアリアハン大陸に見えるのだがどういうことだ?
ロトの勇者がいるかもしれないので、いつか行ってみたいものだ。

俺が異世界人である事は師匠達にも話しているのだが、師匠達もその奇妙な類似性に関心を示していた。ただ、さすがに漫画の世界でした、とは言っていない。
まぁ、師匠達は自分という存在を確固たるものとして持っているので、その程度で自分が揺らぐことはないだろう。きっと笑って受け入れてくれるとは思うが、逆に俺がそれを認めたくないのだ。
彼らが漫画の中の人物だとはとても思えない。だから、俺はここが漫画の世界とは認めない。
俺自身はもうこの世界で骨を埋める覚悟をしている。元の世界に帰りたいとは思わないし、そもそも帰る場所はない。

俺の生きる目的は師匠達の仲間になることだけだ。
俺は仲間が欲しくてたらまない、仲間と共に生きていきたい。
心の拠り所が欲しい、本心からそう思う。
その為にも絶対にハンター試験に受かって、師匠達と同じ立場になるんだ!





─────

まぁ、お分かりと思いますが、女性キリン装備大好きです。
早速ですが、ナルミの基本となる念能力を紹介します。
基本となる能力なので単体では役に立ちません。


【念能力名】狩猟人生(ハンターズライフ)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】特質系100%
【能力の説明】
 モンスターハンターのシステムを再現する能力。
 メモリ制限を緩和するために、クエストの報酬『ゼニー』の使用を前提条件としてその他能力は発動する。
 『条件付きでオーラを貯蓄し、メモリを緩和する能力』とも言える。

【制約/誓約】
 ・他者から依頼された内容を『クエスト』として受注する必要がある。難易度が低いクエスト以外は契約金がないと受注出来ない。
 ・クエストは難易度によって報酬金額が増減し、命をかけた戦闘経験を得た場合に報酬は大きくなる。
 ・クエストをリタイアする時には、契約金の『ゼニー』を失う。



[11973] 004 クイズ×信念
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/09/19 02:40
「ドキドキ……」

「は?」

「ドキドキ2択クイ~~~ズ!!」

バアサンがくわっと目を見開きそう言い放つと、マスクをかぶった取り巻き連中がパチパチと乾いた拍手を送る。
おい、なんだこのヤラセのバラエティ番組並の演出はっ!?

おっと、その前にまず状況を説明しよう。
俺は試験会場のあるザパン市を目指してドーレ港についた後、船長が一本道を目指すのが試験会場への近道だと教えてくれたのでその通りに進んだ。
地図を見たところではザパン市は逆の位置にあったが、船長はハンター志望者のふるいをかける為に雇われたと言っていたのでそちらに従った訳だ。
決してザパン市行きのバス停が見つからずに、迷子になりかけた訳ではない。本当だからな!

で、道沿いに一本道を目指して進んで到着したのが、このスラム街のような寂れた通りだったのだ。
吹きざらしの風がゴミを巻き上げ、地面に転がった瓶がコロコロと転がる。
人っ子ひとり見あたらないものの、建物の中で静かに息を潜める多数の人の気配を感じていた。

何かあると思って用心しつつ通りを進むと、予想に反してワラワラと現れる人達。
固唾を飲んで見守っていた所で先頭にいたバアサンから行き成り発せられた先ほどの台詞である。
意味がわからん。クイズというならば、せめて司会はオネーチャンにしろ。

「これから一問だけクイズを出題する。考える時間は5秒間だけじゃ。もし間違えたら、即今年のハンター試験の取得資格を失う」

と思っていたら、いきなり知識を問うハンター試験だったらしい。
ハンター試験の初めの難関であるが、ここで間違えて会場にも辿り着けなかった、なんて事になったら師匠に殺される……。

「えっと、出来るだけ簡単な質問がいいなぁとか思ったみたり……」

「なに、誰にでも答えられるクイズじゃ。ただし、答えは明確に①か②でる事。それ以外のあいまいな返事はすべて間違いとみなす。準備はよいな?」

本当に簡単なんだな? 信じるぞ!
顔をひっぱたいて気合いを入れる。

「よっし、どんと来い!」

「それでは問題……お前の母親と恋人が悪党につかまり一人しか助けられない。①母親、②恋人、どちらを助ける?」

へ? なんだそれ?
知識を問う問題でもなく、その解答は簡単なものだったので即答する。

「じゃあ、②だな」

「なぜそう思う?」

じろりと険悪な眼差しで俺を見やる。
まるでバアサンが見捨てられたとでも言われたかのようだった。

「え? だって俺の母親はもういないし? あ、と言っても恋人もいないけど、将来に期待ってことで……あれ?」

…………。
問いかけに答えたのに呆然としているぞ、このバアサン。
マスクをかぶった取り巻きは表情こそ分からないが、シューシュー言ってたのが鳴りを潜めている所を見ると同じなのかもしれない。

「お前が馬鹿という事は分かった……これは仮定の質問じゃ。趣旨を理解せんか!」

「はぁ……」

「よいか? これはお前にとって大切な人のどちらか一方しか助けれられない時に、どちらを選択するかという問いじゃ」

「あー、なるほど」

じゃあ、初めからそう言ってくれよ。
バアサンがクイズ形式にするから悪いんじゃないか。

「さて、その上でもう一度問おう。大切な人である①と②、どちらを助ける?」

「じゃあ、①と②だ!」

シーン。
最早呆然というレベルではなく、「こいつ頭おかしいのか?」と可哀想な人を見る目で見てくるバアサン。
だが、すぐに我に返ったのか怒りをあらわにしてくる。

「この馬鹿ちんが! どちらかしか助けられんと言っておるじゃろうがっ!」

「じゃあ、①にしよう。②は仲間にお願いして助けてもらうよ」

「なんじゃと?」

「だから、俺が一人しか助けられないならさ、仲間に頼るしかないじゃん。前提が不明確だから俺一人で助けに行かなきゃいけない事を想定しているみたいだけど、仲間もいないなんて状況有り得ないし。少なくとも俺の師匠達なら絶対に強力してくれるぜ」

「では、間に合わない場合はどうするんじゃ?」

「それこそどうしようもないな。――だが、やられた事は百倍にしてやり返す」

俺は感情を込めずに静かに答える。
師匠達がもし誰かに殺されたら?
俺は地獄の果てまでも追い詰めて、殺した奴を殺すだろう。

だが、すぐには殺さない。
己の犯した罪を理解させた上で、そいつを殺す。
その為になら、俺の全てを捨ててでも成し遂げてみせる。

実際にその時になって俺に出来るかどうかは分からない。だけど、俺ならばそうすると言う意志は常に持っておかねばならない。
何故なら、犯罪を未然に防ぐ事が出来るのは、唯一リスクを恐れて抑制するようにしなければならないからだ。

「その復讐の連鎖が、争いをいつまでも続ける要因なんじゃぞ?」

その返答は想定の範囲だ。
俺はそれに答えるだけの言葉を既に持っている。

「俺の親父が言ってたんだ。天国と地獄の存在を信じてるって」

「ふむ?」

「親父は無宗教で占いさえ信じない疑り深い人なんだ。それで何でって聞いたことがある……」

一拍だけ置いて俺は語る。
俺としての定義を決定づけた親父の言葉を……。

「世界中の人が天国と地獄の存在を信じていれば世界から争いなんてなくなる、って親父は答えた」

「……」

「悪党は地獄行きだとみんなが信じれば、誰も進んで悪党にならなくなるって事だよ。決して自分は悪くない、自分だけは例外だと思い込んでる奴らには分からせてやる必要がある。お前は何一つ特別じゃなく、罪は必ずお前に跳ね返って来るってことをな」

「それがお主の信念か?」

「そうだ」

「何故わしにそれを話す?」

「だってハンターの資質を問う試験なんだろ? 俺は仲間を信じて、決して信念を失わない。それをもってその答えとするつもりだからだ」

ニヒルに口元に笑みを浮かべて言い放つ。
バアサンはそれを見てふむと頷いた。

「全然違うんじゃが……」

えええーっ?
何それ、超はずかちー。

「本来はクイズに答えはない……沈黙を持って答えるとするのが正解じゃ。クイズの真意はどちらを選んでも正解じゃないが、どちらか必ず選ばなきゃならん状況がいつか来る。その分かれ道を前にどう選択するかを想像させる為の試験なんじゃが、お主の信念は聞かせてもらった。」

あっれー?
なんかその辺は速攻でやられたらやり返す、とか言っちゃったよ。

「すなわち、この試験の真意は覚悟を問う事にある。ま、そこまでの信念があるならばいいじゃろう」

沈黙を持って答える、か。
なんかひたすら喋りだした俺って、もしかして傍目には痛い人だった?

「仲間を信じる。お前みたいな奴に会ったのは今日で二組目さ。いいハンターになりなよ」

「おう!」

バアサンはそうして一本杉への抜け道を教えてくれた。
この先の一本道には、試験会場への道案内(ナビゲーター)の夫婦が住んでいるらしい。
さて、次は何が待ち受けているのやら。





─────

思考が某世界の神ですが、ナルミは罪を認めさせて同等の罰で償わせる必要があると信じています。それによってその後に踏みとどまる者が出るという思考です。

また、原作知識を全く使いこなしていない理由は、ナルミはH×Hのアニメも見てないし、漫画を読んでません。
二次小説や聞きかじりの知識だけなのでハンター試験本編の知識はそこそこあるものの、試験会場到着前については全く知りません。
ということで納得して下さい。原作知識があったらこのクイズは不要になってしまいますが、初めにナルミの信念を語る上では都合が良かったので。



[11973] 005 道案内×人?
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/28 23:39

一本杉の根本には、木造のコテージのような家が建っていた。
森林浴に丁度よさげな立地条件で別荘に欲しいぐらいである。

不信な事に俺が近づいた事で、家の中の気配が動きを見せた。
中には三つの気配があり、どうもこちらの存在を感知したから動き出したのではなく、事前に知って身構えているように見受けられる。

俺は師匠達と共にする際に、偵察役をやることが多かったので気配察知と隠蔽技術には長けている方だ。
特に念を覚えてからは”円”と”絶”の精度はそれまでとは比較にならない。俺の”円”の範囲は十五メートル程まで伸びているので、この距離ならば気配を読み間違える事はないぐらいに精度は増している。

「こんにちはー、誰かいますか-?」

扉をコンコンと叩いても返事がなかったので、そっと扉を開く。

『キルキルキルキルキルキルキール』

家の中にいたのは二足歩行の魔獣。
狐に似た口と鼻に、細長い三日月型の目が特徴的だ。
右腕に女性を抱え、その背後には怪我を負ったとおぼしき男性が一人救いを求める様に手を伸ばしている。
状況から察するに道案内の夫婦が魔獣に襲われたと考えるべきだろうか?

だが、何故人質を取るように女性を抱える?
殺すつもりはなく女性を浚うつもりであったならば、事前に配置を変えて身構えたのは何故だ?
怪我を負った男性に対して精神的に嬲るつもりならば、こちらが接近する前にその気配があって然るべきだ。
これではそう、まるで来る第三者に対して人質をとって待ち構えているかのようだ。

それを悟ると俺はすぐに行動した。
”凝”もどきで下半身にオーラを集中させて、魔獣が行動をおこす前に床を蹴る。
魔獣の胸に足を当てて体勢を崩し、右腕を手で払って抱えられていた女性を解放する。
足に体重を移動して魔獣が動けないように床に固定しつつ、腰から双剣を抜き放って首筋と心臓の位置に刃を当てる。
魔獣がわずかでも不審な動きをしたのなら、いつでも急所を刺せる体勢である。

「お前が人語を解する知識を持つ魔獣という事は知っている。質問に答えろ。抵抗すれば斬る」

「ま、待て!」

「質問が先だ。何故お前らは俺の事を知っていた?」

『――!?』

三人が同時に息を飲んだ様子が見てとれた。
……そう、三人だ。
俺の足で床に転がされた魔獣形態の一人、人質のように見せかけていた女性に変化した魔獣、怪我を負ったふりをした男性に変化した魔獣で三人。
この場にいる三人の魔獣が共謀しているのは初めから分かっていた。

「ハンター試験。その振るいの一つというわけか?」

「くっくっ、わっはっはっ」

俺の答えに満足したのか足の下にいる魔獣は大きく笑い声を上げた。
どうやら正解だったようなので後ろに下がって戒めを解き、刃を放して腰の鞘に双剣を収める。その際にくるりと一回転させてからというのがミソである。
うん、様になるように練習したんだ。

「で、どう? 俺合格?」

「参った。勿論、合格だ。ここまで鮮やかに見破ったのはナルミ殿が初めてだ」

名前まで知られているとなると彼らがハンター試験の関係者であることは確実だ。

「いやー、気づかなかったらそのまま首を斬り飛ばす所だったよ、ハッハッ……ハ?」

空気が凍っていた。
やばい、せっかく和やかなムードになったというのに余計な一言だった。

「な、なんちゃって!」

戯けて笑顔を見せる俺。

「……わ、わっはっは。そ、それは助かった」

「いや、入る前から三人が身構えたの気配で分かってたし、それに人質とってたのも明らかに襲撃を予想していたし、気づかないわけないから殺すつもりなんてなかったよ?」

殺意なんてナイナイと言う事を必死にまくしたてる。
彼らが道案内(ナビゲータ)なのは間違いない。会場までの案内をしてくれないと困るので、何とかご機嫌を伺わねばならない。

「いや、あの状況ならうちらが殺されても仕方ない。来年からちょっとやり方を変えないとねェ」

「ですが、ナルミ殿の身体能力と観察眼、そして何より探知術には驚かされるものがありますな」

「そして我ら凶理狐(キリコ)が人に化けて人語を解す事を知り、状況を瞬時に見破った知能も素晴らしいです」

「何をおっしゃる狐さん。褒めると調子に乗るのでやめてちょーだい!」

「わっはっは。希に見る気持ちのいい人間だ。合格だよ。会場まで案内しよう」

「あざーっす」

何とか道案内(ナビゲータ)の人? に認めてもらう事が出来て、翼を広げた凶理狐(キリコ)に運ばれてザパン市に向かった。
それにしてもこの凶理狐(キリコ)という魔獣、まさか空も飛べるとは……更に一人で俺の身体を持ちあげているとあっては結構な膂力の持ち主のようだ。
さすがはハンター試験。一般人ではあの状況を打破出来る力はなく、会場まで辿り着くことは出来ないだろう。

「トーチャンがもう一組の受験者達を会場まで案内する予定だから、ナルミ殿も合流してもらっていいか?」

「ああ、俺は構わないよ。そういえばクイズバアサンがもう一組もクイズに正解したって言ってったっけ」

「ああ、それは恐らくゴン殿達のことだろう」

遊覧飛行の最中の何気ない会話に、些か聞き逃すわけにはいかない名前を聞いて俺は仰天した。
今、ゴン殿達って言ったよな? ゴン・ドノ・タッチとかいう別人じゃないよね?

「ゴンだって!?」

「知ってるのかい? ゴン、クラピカ、レオリオ殿の三人を?」

「って、まじですか!」

聞き違いではなかったらしい。こんなところで主人公達と遭遇する機会が訪れるとは想定外だった。
もし今年がゴン達が試験を受ける時と同じであったら試験会場で話しかけようと思っていたのに、手間が省けてラッキーだ。

「あー、俺が一方的に知ってるだけで彼らは知らないだろうけどね」

「そうかい。ゴン殿達も気持のいい連中だったからな。ナルミ殿とはきっと気が合うだろう」

ニマリと笑顔を見せる凶理狐(キリコ)。
その様子からして、彼らとの出会いもまた良好だったようだ。

「俺も仲間にしてもらおうっと」

「仲間ねぇ。正直言って彼らよりナルミ殿のが強い。強さの質が違うと言ってもいいかもしれないね。仲間になっても足手まといになるかもしれないよ?」

「いや、そんなことないし。だって俺は動物と仲良くなることなんて出来ないし、ハンターとしての知識以外もない。ド田舎の秘境から出たことないから一般常識にも乏しい。俺が持ってない者を持ってない人間なんて、どこにもいないよ。だったらお互いに補える部分があるだろ?」

「わっはっは。やっぱりナルミ殿は面白いよ。今年の新人は期待できるかもねぇ」

「おうよ。俺はハンターライセンスを持って帰るぜ」

「その意気だ。ほら、あれに見えるのがザパン市さ」

視線の先には都市が見えてきた。
そこに見える二階、三階建ての建物の様子が、都会には至らない中堅都市といった様相を呈している。

「やっほー、着いた着いた!」

凶理狐(キリコ)は俺を抱えたまま、ゆっくりと高度を下げていく。
郊外の空き地に着地すると「トーチャンと連絡をつけるから待ってくれ」と言ってどこかへ出かけた。
俺は素直に空き地に寝転がってその帰りを待つ。

その間にゴン達との出会いを想像して、試験内容を思い出そうと古い記憶を反芻する。
確か一次試験がマラソンで、二次試験がお料理対決、三次試験がなんかチームワークを問われ、四次試験サバイバル、最後が受験生同士の直接戦闘、だったっけ?

俺にとって問題となるのは、やっぱり知識を問われる試験だが、幸いにもお料理対決以外は知識一辺倒の試験ではない。
ゴン達と仲良くなってお互いに支え合う事が出来れば……別に他の受験生でも構わないけど、どうせなら俺的に好感度の高いゴン達の仲間がいい。
取り留めもなく考えていると凶理狐(キリコ)が戻ってきた。

「ナルミ殿、トーチャン達は市内のホテルに泊まってるらしい。明日の試験開始に合わせて会場に行くみたいだけど、ホテルで合流するかい?」

「ああ、それでいいよ。って、それよりも試験って明日だったの? やっべー、遅れる所だったじゃん。船が途中難航したのが原因か……」

「そうだよ。ナルミ殿達が最後に近いだろうね。一万人に一人の確率で辿り着けると言われている試験会場だけど、今年は四百人を超える受験生が集まりそうだよ」

「へー、で何人ぐらい受かるの?」

「新人(ルーキー)が合格する確率は三年に一人」

「え? 一人?」

「いや、平均すると三年間で一人受かる程度の難関さ」

「まじっすか。そんな厳しいのハンター試験って?」

でも、原作じゃ確か新人が何人も受かってたような気がする。少なくともゴン達は受かってたよな?
これもまさに主人公補正か……今年受験でよかったぁ。

「そうだよ。くれぐれも油断するんでないよ。うちらはゴン殿達とナルミ殿には期待してるんだからね」

「期待には答えるよ」

あっさりと答える俺の態度に、凶理狐(キリコ)は感心するように言った。

「ナルミ殿は揺るがないねぇ」

「それだけが取り柄だからね。ゴーマイウェイっすよ」

苦笑したような凶理狐(キリコ)に先導されて、俺はゴン達が宿をとっているというホテルに向かった。






─────

凶理狐(キリコ)が魔獣という事を知っているのは、ナルミはモンスターハンター見習いだからです。
獣や魔獣やモンスターに関する知識は豊富で、秘境で暮らしていた為に逆にこの世界の一般常識はほぼありません。
さすがに世界共通のハンター文字ぐらいは、かろうじて知っています。
次回ゴン達主人公と対面します。



[11973] 006 主人公達×念能力
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/01 01:06

「オレはゴン。よろしくね!」

「私の名はクラピカ。よろしく頼む」

「レオリオだ。ここで会ったのも何かの縁だ。よろしくな」

「俺はナルミ! 良き出会いに感謝を! なんつって」

夜が明けた翌日。ついに俺は主人公達と遭遇した。
昨晩ホテルに到着した時は夜も遅かったので、ゴン達に紹介してもらうのは翌日にしたってわけだ。
昼食をとった後に試験会場に向かう手筈になっているので、それまでの間は自由行動。
どうやら三人は揃って行動するようなので、これ幸いと俺もそこに混ざろうとする。
第一印象はお互いに友好的で、特にゴンは俺の武器に凄い関心を示している。

「なにこれ? 剣?」

「正確には太刀と双剣って言うんだ。俺が作ったんだぜ」

「凄い! ナルミって鍛冶屋なの?」

「まぁ、武器に限定した職人って言ってもいいかもね」

もう目を輝かせちゃって好奇心剥き出しに色々と質問を受け応える。
いやー、ゴンってほんと素直で良い子だわ。

「刀身を見せてもらってもいいか?」

「ああ、いいよ。ゴン、とクラピカもちょっと離れて見ててね」

「なになに?」

武器の性能が気になったクラピカと、武器そのものを物珍しげに興味を示すゴン。
興味を示さなかったレオリオも何が始まるのかと俺に視線を向ける。

「ギミックオープン!」

背が見えるぐらいに前傾姿勢になり、俺は声に出して叫ぶ。
ゴンの視線から手元を隠して肩がけベルトのバックルのスイッチを押す。
ガチン、という仕掛けが解除される音と共に、鞘が二つに割れる。

束縛から解放されて鞘を滑り下りてくる太刀の柄を握り、肩を軸にして柄を押し下げ、テコの原理で刀身は刃先の方から上に飛び跳ねる。
傍から見ると姿勢を落とした俺の背から突然太刀が回転しながら垂直に飛びあがったように見えるだろう。
一メートル五十センチの太刀が高速で回転し、さながら風車のように円を描く。
タイミングを見極めてその中心に手を伸ばして柄を握り、手元で回転数を制御して刃を頭上に向けて止める。
右手は弓を引くように後ろにひいて、左手はまっすぐ伸ばして刀身に添える。やり投げの選手のようなやや腰を落とした格好でポージングをとる。

ビシッ!
うん、これも様になるように練習したんだ。

「凄い! カッコイイ!」

「ほお。見事だな」

「あぶねぇ、天井切り裂いたと思ったぜ」

「室内じゃなけりゃもっと高く飛ばしたんだけどな。はい、クラピカどうぞ」

「ああ」

俺は太刀をクラピカに手渡して、お次は双剣とばかりに腰に手を伸ばしたが……。

「な! これは!」

突然上がったクラピカの声に遮られる

「どうしたのクラピカ?」

「素材は製鉄……だけじゃない? しかしこの刀身、強度は更に上か?」

「お、分かる? 流石だなクラピカ」

クラピカの俺の愛刀に対する慧眼に、思わず嬉しさを隠しきれずに応じる。

「ナルミ、これは何でできているんだ?」

「そいつの名前は『斬破刀』。素材は鉄とレアメタルでもあるマカライトと、特定の地域から取れる大地の結晶を混合して作った太刀だ。高度は鉄の1.5倍程になるな」

「マカライトだと? 聞いたことがないな」

そりゃそうだ。
何故なら、マカライトはモンハンの世界にしかないもので、勿論この世界では発見されていない。
正確にはもう一つ、体内で雷を生成するモンスターの電気袋も使われている。

さて、ではどうやって作ったかと言うと答えは一つ。
ずばり、これが俺のモンスターハンターのシステムを再現する能力『狩猟人生(ハンターズライフ)』の付随能力。第二の念技とも言える『注文の多い猟店(オーダーメイド)』だ。

『ゼニー』を使用する事でこの世界には存在が確認されていない素材を具現化し、モンスターハンターに登場した武器を作成する事が出来る。
さらに、素材は武器を作るだけではなく、武器の性能を強化し、損傷を修理する事にも使える。

よって、俺が武器を作るのに必要となるのはクエストを達成して得たゼニーと、武器に応じた一定量のオーラ。
俺はモンスターとの戦闘で得たゼニーを消費して、この世界には存在しないマカライトなるレアメタルという素材を具現化してこの太刀を作り上げた。

具現化した素材で作成した武器は、念で具現化されたものではなく実態を持った武器となる。
つまり、『注文の多い猟店(オーダーメイド)』で作られた武器は、クラピカに渡したように他者へ譲渡が可能なのだ。
勿論、武器を持ち運ばねばならないし、使っている武器を奪われる危険を伴うのも事実だ。

この能力こそが、他にもある俺の念技の中で真髄とも言ってもいい。現に自身で武器を具現化出来る先生を除いて師匠達の武器は俺が作ったものを使ってもらっている。武器の性能を推し量る為でもあるが、その評価は上々であった。

師匠達は念能力を用いた大技を使用する為に、彼らの武器はこまめなメンテナンスを必要とした。
それまではその筋の武器工に依頼していたのだが、俺が『注文の多い猟店(オーダーメイド)』を作ってからはそれらのメンテナンスも一手に引き受けていた。
戦闘では未熟だった俺だが、補助的な役割としてはそれなりにこなしていたのだ。

「第一級指定隔離生物であるモンスターが闊歩する秘境でしか採掘されないものだ。俺はそこでモンスターハンターの見習をやってたんだ」

念能力は秘匿技術なので、それによって作成された素材の入手方法だけは嘯いておく。

「なるほど。この太刀というもの、かなりの業物だな。それを作ったとなるとナルミは一流の刀匠ということか」

「よせやい。俺の本業はやっぱりモンスターハンターだ」

「モンスターハンターって何?」

「そうだな。ハンターにはいくつか種類があるのを知っているか? 財宝ハンター、賞金首ハンター、幻獣ハンター、等々とな。その中に獣を保護し、危険な場合は処分するビーストハンターってのがある。モンスターハンターはその一部で、ビーストの中でも第一級隔離指定生物に認定された怪物(モンスター)を狩猟するのが、モンスターハンターだ」

「へー。モンスターってどんなやつ?」

「体長三十メートルで翼の羽ばたきだけで大樹を切断するような飛竜とか、砂漠を自在に泳いで襲いかかる魚竜とかだ、山岳地域を雪山に変えるぐらいの天災の氷竜とかかなぁ」

「竜ってあの伝説の?」

「まぁ、ハンターの世界じゃ人間に害を成さない竜は獣(ビースト)のうちだから、竜といってもピンキリだな。本当に凶悪なモンスターは災害と認定されて、モンスターハンターが狩猟するんだ。当然それ相応の実力にしか任されないし、モンスターハンターである俺の師匠は四十メートルの飛竜を大剣で一刀両断にする実力者だ」

「……」

唖然としているのはクラピカとレオリオで、逆ににゴンはもうキラキラと瞳を輝かせている。

「師匠は勿論ライセンスを持つハンターだ。モンスターハンターの中でも一流で、一ツ星のハンターライセンスを持っている。実力だけならハンター全体から見てもトップクラスだよ。そのレベルに行くにはまだまだ修行が足りないよ俺は」

「なんというか凄い世界だな」

クラピカの想定していたハンターとは少し違ったようだ。
それもそのはず、モンスターハンターは巨大生物との戦闘が全てにあるといっても間違いないのだ。

「そんな各分野の超一流の達人がいる世界。それこそが俺達が目指しているハンターの世界なんだろう。だから、絶対に四人揃って合格しようぜ!」

「ああ、もちろんだ」

「うん、俺は絶対にハンターになるんだ! そして、親父を……ジンを絶対に探し出すんだ!」

ゴンが拳を握りしめて意気込みを見せる。
ん、ジン?

ゴンの容姿をじっくりと確認する。
黒髪のツンツン頭で、意思の強そうな瞳と太い眉。
顔は愛嬌があって、笑顔が太陽のように輝いている。
この顔にとてもよく似た人物に、俺は以前に会った事がある。

「……もしかしたら、ゴンの親父さんに会った事があるかも」

「ジンを知ってるの!」

「確かあれは一年ぐらい前に師匠達が黒竜を討伐した時に助っ人で参加すると紹介された人が、ゴンとよく似た容貌をしてた」

「どこ、どこにいるの?」

ゴンが俺の手を握りしめて、ブンブンと上下に振るう。
その迫力に俺は一歩後ろに下がらざるを得なかった。

「いや、あれはわざわざ討伐の為に腕利きを集めたって感じだったから、今どこにいるのかは分からないな。それに黒竜討伐には俺は参加させてもらえなかったから、会ったのも一度きりだよ」

俺の知っている原作の知識は、主に二次創作の小説が主な所である。
漫画とアニメは断片的にしか見ていないので、特に映像……人物の外見等に関してはあやふやな所が多い。

つまり、実際に原作の登場人物に会っても、顔や容貌といった外見だけでは一致しないのである。それぐらいに現実の容貌は漫画やアニメとはかけ離れているのだ。
女性疑惑さえあった中性的な容貌のクラピカであっても、実際に会えば体付きや骨格から一目で男性と分かる。

その為、俺はジン=フリークスがゴンの父親であることは知っていたが、一年前に会ったツンツン頭のハンターがジン=フリークスだと言う事には気付かなかったのだ。

「そっかぁ……」

気落ちしたように溜息をつくゴン。
ゴンに握られた手がヒリヒリ痛いんだけど、念を覚えずにどんな馬鹿力なんだよ……将来的にキリンねぇの怪力並になるのは確実だろう。本当にゴンは先が楽しみだ。

「でも、やっぱり親父は生きてるんだね!」

一瞬で気持ちを切り替えたのか、ゴンの瞳には再び光が宿る。

「そりゃ殺しても死なないような人に見えたよ。俺の師匠の先輩みたいな感じで、戦っている所は見ていないけど、師匠よりも強そうだったしなぁ」

「よーし、親父を絶対に見つけてやるんだ!」

「お互いの目標の為に、頑張ろうぜ」

「うん!」

そして俺達四人はハンター試験会場へと向かった。





……一方、その頃。
アイジエン大陸の秘境と呼ばれる地、森と丘の大自然に囲まれた小さな村に一人の男が訪れた。
フードを取って黒髪のツンツン髪を見せた久しい親友との再会に、レウスは破顔して家に招き入れた。
思えば黒竜と戦った一年前から直接会うことはおろか、音信不通で連絡さえ取れなかった。しかし、こうして不意にレウスの家を訪ねて来る事は過去にも度々あった。

「久しぶりだな、ジン」

「オレの息子がハンター試験を受けに行ったらしい」

「奇遇だな。俺の馬鹿弟子も試験を受けに行ってるんだ。もしかしたら会ってるかもしれねぇな」

一生に一度は飲んでみたい高級ワインと名高いブレスワインをグラスに注ぎながら、レウスは軽くナルミが旅立った際の回想に耽る。

「惚けるなよ。お前らが裏で立ち回って、同じルートを辿らせたんだろう? 船長からオレの息子と、面白い奴の話を聞かされたぞ。お前の弟子から情報が漏れて、オレを探しに来たらどうするんだ……」

ジンは息子のゴンに対して只ならぬ感心を寄せている。
幻と言われるグリードアイランドというゲームを作り出したのも、息子を鍛える為なのではないかとレウスは疑っている。

「いいじゃねぇか。その時は抱き留めてやるなり、ぶん殴って俺を越えてみろ、とか言うなり面白そうじゃねぇか」

「他人事だと思って、このやろう……」

ジンは困ったような、嬉しいような複雑な感情で苦笑している。

「他人事じゃねぇさ。俺も馬鹿弟子の事で悩んでいるからな。ジンの息子とは違って、ウチの馬鹿はな……どこか壊れてやがる」

「お前の弟子にしては素直な奴に見えたが?」

ジンが顎に手を当て、一年前に出会ったまだ青年には成りきっていない少年の姿を思い出した。

「壊れてるのは心の奥底だ。対等の仲間が欲しいと言いつつ、あいつは俺達に完全に依存しきっている。五年経っても自分から歩み出す事をしやがらねぇ。ハンター試験は新しい出会いをさせる為には良い口実だったんだよ。問題は、あいつは新しい仲間と出会っても、対等にはなれねぇって事だ」

「恐れているのは”見捨てられる”事か?」

「多分、”裏切り”だろうな。あいつも複雑な生い立ちなんでな。自分を裏切らないでくれ、自分を頼ってくれと相手に依存しようとするだろうよ……」

「それでなんでオレの息子なんだ?」

「いや、誰でも良かったんだが、ネテロ会長に電話したら、何でもジンの息子がハンター試験を受けると言うじゃねぇか。ジンの息子ならあいつと対等の仲間になってくれるかもしれねぇ、と思っただけだ」

「買いかぶりすぎだろう?」

「突き放しておいて、度々様子を見ては自慢してくる子煩悩な親父がいてな。オレとそいつのように親友になれるんじゃねぇかと思ったんだ」

「そうか。まぁ、細かい事は気にするな。今夜は息子と弟子の前途を祝して……飲むか」

「ああ、子供達に未来に乾杯だ……」

そうして、レウスは陳列された棚から秘蔵の黄金芋酒のボトルを取り出した。
酒の王様とも呼ばれるその酒を、ハンターの中でもトップクラスの……王にも等しき二人が嗜む。
酒の肴は互いの子供達。輝かしい未来へ一歩踏み出した事を祝してグラスを傾ける。
年は暮れて、すぐに新しい年が始まる。

――そして、1999年1月1日、第287期ハンター試験が開催される。



─────

モンハンの醍醐味はモンスターを狩猟して素材を集め、武器を強化していく事と思っていますのでこの能力は必須です。
オリ主な特質系はチートだと思いましたが、具現化系だけで再現するには難しいと思って断念しました。
予定では他にもいくつかの能力を持っている(本当はもっとつけたしたい)のに、いまさらチートとか気にしてる必要ないですよね?

※2009年10月31日、ジンとレウスの会話を追加
自分の欠点を理解していないナルミを語る為に、師匠の視点からの三人称を取らせて頂きました。



[11973] 007 第一次試験×トン汁
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/28 23:40

「めしどころごはん」と書かれた看板の極普通の飲食店。
そんな飲食店の前で「ここがハンター試験会場だ」と凶理狐(キリコ)は言った。
レオリオは思い切り不振な目で見ていたが、その気持ちは俺も同じであった。

半信半疑ながらも凶理狐(キリコ)の後に続いて入店すると、店のおっさんが早速注文を問うて来る。
ヤル気の感じられない声に俺は更に疑いを向け、本当に試験会場なのかと呆れていると凶理狐(キリコ)は「ステーキ定食」と注文を決めた。
こら、俺はまだ注文してないのに勝手に決めるな。

「焼き方は?」

「じゃあ、ウェルダ……むぐ」

妙に威圧感を出してきた店のおっさんの態度の変化を読み取り、このおっさんの自慢の料理なのだろうと予測をつけ、咄嗟に好みを答えようとした所をクラピカに口を塞がれてしまう。
非難するように振り返ると、クラピカは「黙っていろ」と目で語る。
空気の読める男として定評のある俺としては、ようやくそのやりとりが何らかの暗号になっている事を逸早く悟る。――え、遅い?
そんな俺を無視して、凶理狐(キリコ)は人差し指を一本突き上げて「弱火でじっくり」と言い放つ。

「奥の部屋にどうぞー」

店員のおねーちゃんに案内されて、ドアで店内とは隔離された奥の部屋に通される。
既に食卓にはステーキが用意されており、ジュージューと音を立てている。
早速着席して食卓に手を伸ばそうとしていた俺と、室内を警戒して油断なく身構えている他の三人の呆れた顔と視線が合う。
お腹が減っていたとはいえ、ちょっと恥ずかしい。

「一万人に一人。ここに辿り着くまでの倍率さ」

「へ?」

「じゃ、道案内はここまでだ。お前らだったら来年も案内してやるぜ」

「なんだそりゃ。俺らが落ちるって言いたいのか?」

凶理狐(キリコ)が笑顔でそう告げると、気分を悪くしたレオリオが噛みつく。
だが、決して凶理狐(キリコ)には悪意はない。昨日出会ったもう一人の凶理狐(キリコ)から聞いた知識を物知り顔で披露してみる。

「レオリオ、ハンター試験でルーキーの合格率は三年に一人だ」

「なんだと?」

「それだけ難易度が高いということなんだろ? 凶理狐(キリコ)がそう言うのも無理はない」

「そうなのか……」

「――だが、俺に来年の道案内はいらないぜ!」

「わっはっは。自信満々じゃないか」

不敵な笑みを浮かべて、俺は片指を立てて断言する。

「おう、もう覚えたからな!」

……。
凶理狐(キリコ)とクラピカとレオリオ……それにゴンまでも、何でそんな可哀そうな人を見る目で俺を見るの?
何人目だろうか、その目で俺を見たのは?

「ナルミ……試験会場は毎年変わるはずだ」

クラピカはこめかみを押さえつつ、俺の勘違いを指摘してくれた。
ああ、そういえば今年の試験会場はザパン市、ってフレーズを聞いたかもしれない。

「まじで? じゃあやっぱり今年落ちたら、来年は道案内頼むわ!」

「わっはっは。カーチャンが言ってた通り面白いなナルミ殿は。じゃあ、名残惜しいがここで失礼するぜ。頑張ってくれよ」

「おう、世話になったな」

各々も凶理狐(キリコ)との別れを済ませて、食卓の椅子に座った。
凶理狐(キリコ)が部屋の外に出ると、スイッチがカチッと押された音がする。
次の瞬間、部屋ごと地下へと降下していく。咄嗟の事に立ち上がって身構える俺以外の三人。

どうやら部屋事態がエレベーターになっているらしい。
つまり、試験会場は地下にあると言う事なのか?

「それにしても、もぐもぐ……このステーキ……もぐもぐ、上手いな」

俺は腹が減っていたのでステーキを完食した。
何故ハンターになるのか、というゴンの問いにクラピカは誇りを、レオリオは富を主張する。
主張の対立する二人に挟まれた形となり、困っているゴンは話題を俺に振ってきた。
ちょ、なにその華麗なスルーパスは?

「俺はハンターになることが目的じゃない。ただ一流のハンターの師匠達と同じ位置に立ちたいんだ。そうしたら俺は本当の意味で彼らと同等の仲間になれるからな」

腹も膨れて満足していたところでエレベーターは到着を告げるチンという音を発した。

「さて、行こうぜ」

扉が開いた先は地下道だった。天井には何の用途かは不明な管が数本走っていた。
照明さえない薄暗い空間で、地下故に窓もなく換気も悪い。だが、そこそこの広さははあり、横に二十メートル近く広がっている。

「どうぞ、番号札です」

試験の係のものらしい豆坊主もどきの人間が一歩進み出て、俺にバッジのような丸いプレートを手渡してきた。

「ああ、ありがとう。コロ助」

「コロ助?」

疑問符を浮かべる豆みたな頭をした係員。
俺が受け取ったプレートには数字で”406”と書かれていた。こっそりゴン達を盗み見てみると左胸辺りにつけているので、俺も真似して付けてみる。

それにしても、地下道には見渡す限りの人、人、人!
薄暗い空間を埋め尽くさんばかりの人が、所狭しと集まっていた。

集まっていたのはハンター志望の中でもふるいを潜り抜けてきた受験生。それぞれが各分野の達人であり、如何にも「俺って出来るんです」的な雰囲気を漂わせている。
……非常に男くさくて、暑苦しい。

「わり、俺ちょっと外で涼んでくるわ」

「だめだって」

「そうだ。いつ試験が始まるのかわからないんだぞ」

「おい、我慢しとけよ」

「うう、こんな沢山の人見たのは初めてだよ。その上男くさい。地獄だ……」

試験が始まる前から最悪の気分だった。
そんな時に俺達にフレンドリーに話しかけてくる人がいた。

「よっ、オレはトンパだ。よろしくなっ」

トンパが来ちゃったよ。別名”新人潰しのトンパ”。
下剤入りのジュースを飲ませてルーキーを潰す。という手段から始まって何か足を引っ張るのだが、何故報復を受けないのか疑問だ。
俺がもしトンパにリタイアさせられたなら、翌年には絶対に報復を考えて試験に参加するだろう。

だが、ハンター試験のベテランなのは確かで、ルーキーではない受験生達の情報を親切にも提供してくれる。
こうやって信頼を得て騙すというのが常套手段のようだが、情報自体は有益なので今は信頼した振りをしておこう。
しかし、せっかくなら女の子のお友達も紹介してくないかな?

「ぎゃああぁぁ~っ!」

トンパの解説をふむふむと聞き入っていると、突如悲鳴が上がった。
悲鳴を上げた男は両腕が肘の半ばで切断されており、目の下に道化師のような星と雫の化粧を施した男が笑みを浮かべていた。

「人にぶつかっといて、あやまらないのは感心しないね◆」

まるで子供の悪戯を叱るような口調で、氷のように冷たく、鋭利な刃のような殺気を発している。
この一目で分かる特徴的な奇術師の格好は……ヒソカか。

俺は本能的にヒソカの強さを悟っていた。
念能力を覚えて戦闘に関してはそこそこの自信を持つ俺だったが、今戦っても適わないと認識した程である。
モンスターを相手にした死に対する恐怖とはまた違った恐怖に身を凍らせた。

「44番、奇術師ヒソカ。去年試験管を含めて受験生を20人近く再起不能にしている。近寄らねー方がいいぜ」

ヒソカがゴン達に関わってくる以上、その仲間となった……つもりでいる俺とも関わる事になる。
だが、少しでも油断したら死ぬ。ハンター試験の本番が遂に始まるという訳だ。
ここからは同じ受験生でも決して油断は出来ない、と俺は気を引き締めた。
そのタイミングで丁度トンパがカバンに手をやり、ジュースを取り出してきた。

「あ! トンパさん、あの娘は誰か知ってる!?」

俺の突然の質問に背後を見やった隙を見て、トンパが飲もうとしているジュースを差しだそうとしているものとすり替える。スリのように相手に気づかれない繊細なタッチで触れるのがポイントである。

「あいつは……ポンズ。武器としてあらゆる薬を使う。が、使い方は”待ち”一辺倒で、戦闘能力はそれほど高くない」

「いや、そうじゃなくて性格とか好みのタイプとか!」

「……」

トンパが呆れた顔で「そこまでは知らない」と言うので、それ以上に追求するのは諦める。
思った以上に可愛いポンズに興味はあるが、当初の目的は既に達成されているので問題はない。

「お近づきのしるしだ。お互いの健闘を祈ろうぜ!」

そう言ってトンパは俺達に缶ジュースを差し出してくる。
トンパは俺達を信頼させるために自らジュースを飲んでいるようだ。くっくっく。

「ああ、ありがとう。それよりトンパさん、そのジュース飲んでも大丈夫?」

「ん? これは俺のお薦めのジュースでな。同じ試験を受ける仲間達との親好を深める為に用意してるんだ。品質管理は勿論万全だぜ!」

不信に思われているのかと、途端に饒舌になるトンパ。
品質管理って逆にトンパなら何でも仕掛けられるって事を連想させられる上に、顔には思いきり動揺が出て汗をかいている様子では、トンパじゃなくてトンマに改名した方がいいんじゃないか?

「いや、そうじゃなくて。それさっき、すり替えておいたんだけど?」

「な、なんだって!?」

トンパの下剤入りジュース、略してトン汁を飲み込んだトンパはその言葉に驚愕の表情を浮かべる。

「醜態晒す前にリタイアしたら?」

滝のように大量の汗をかいたトンパは「お、俺はリタイアする!」と宣言して、エレベーターで再び地上へと逃げ去ってしまった。
こうして、試験開始前の二番目のリタイアはベテランのトンパ、という大方の予想を裏切る展開になった。
別に俺はトンパに恨みはないが、これまで無念を抱いてリタイアしていった受験生の報復としては自業自得だろう。
いつの間にか注目を集めていた俺に向かって、クラピカは疑問を浮かべて尋ねる。

「ジュースに何か仕掛けがあることを知ってたのか?」

その分だとクラピカも疑いは持っていたのかも知れない。だいたいクラピカが腹をくだしてリタイアってありえんよね。
そういう役目はレオリオだろう……おっと何故か当の本人がこちらを睨んでいるような気がするので自重しておこう。

「念の為にね。仲間でもないのに信頼なんて出来るかっての!」

「そうだな。道中でも悟ったが、この試験は生ぬるいものではないからな」

『ジリリリリリリリリリリリリ!!!』

クラピカとの会話を遮るように、突然鳴り響く甲高いベルの音。
その音源である通路の壁際に立っていた執事のオッサンが、気取った動作で趣味の悪いベルのアラームを止める。

「ただ今をもって、受付時間を終了いたします」

地下道に来てから数時間が経っているはずだが、今何時だからさっぱりわからん。

「では、これよりハンター試験を開始いたします」

きたきたきた、ついに始まった。





―――――

さらばトンパ。
原作知識をうる覚えのナルミはあっさりトンパのジュースを飲んでしまいます。
この辺は現代人らしい感覚なのですが、モンスターハンターとしての生活でゴンと同じくある意味野生児と化しています。

トンパファンには申し訳ありませんが、彼の出番はもうありません。いるか知りませんけど。

ご指摘ありましたが、原作知識を知っているのにも関わらずトンパの下剤入りジュースを知らないという事が不自然であった為に、後半内容を修正致しました。



[11973] 008 第一次試験×猫目の少年
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/01 00:33

カール髭の執事のオッサンがハンター試験の開催を宣言した。
見覚えがあるので原作に登場していた試験官の人だろう。

「先ほどのお二方のように受験生同士の争いにより再起不能になる場合もございます」

おい、なんだその嫌みな言い方はっ!
ヒソカと同列に扱わないでくれよ。俺だって被害者じゃないか!

「それでも構わない――という方のみ、ついて来て下さい」

当然、誰もここでやめる奴はいない。その程度の覚悟はみな持っているのだ。
だからトンパも覚悟をもって試験に望もうとしていたはずで、その上での名誉のリタイアなのだから俺を恨んだりはしていないだろう。多分。

「承知しました。第一次試験、404名全員参加ですね」

執事のオッサンは唐突にスタスタと歩き出した。
当然のようにそれについて行く受験生達。

「申し遅れましたが私、一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を試験会場まで案内いたします」

だが、次第に彼らの顔に困惑の色が浮かぶ。
それもそのはずで執事のオッサン――こと、サトッサンの歩く速度が次第に速くなっているのだ。
場所を移動するだけと思い込んでいる彼らは、想定外の事態に精神的に揺さぶられているはず。

フッフッフ。
だが、俺は全く動じていなかった。
半ば忘れているが、これこそ正に原作知識の有効利用。
俺は既に第一次試験が始まっており、第二次試験会場までのマラソンという体力的なふるい……さらには目的地までの距離を告げずに精神的な揺さぶりをかける事を知っている!
動揺してペース配分を謝った受験生は早々に第一次試験でリタイアすることになるのだ。ハーハッハ!

「到着いたしました。こちらが第一次試験会場はこちらになります」

ズコーッ!
と漫画のように見事なまでに床に突っ伏する俺。
どういうこと? まだ一キロメートルも移動してないよ?
それより、第一次試験会場って何? 第二次試験会場に移動してたんじゃないの?

「第一次試験はこちらの部屋で身体能力を測らせて頂きます」

俺の予想を大幅に裏切ったサトッサンは、執事っぽく腕を振り下ろして優雅にお辞儀をする。
同時にやたら格式張った部屋の扉が左右に開いていく。
中にはアスレッチな器具がずらりと並んでいて、現代日本におけるスポーツジムのような相当に広い部屋だった。

「説明をいたします。こちらのパンチングマシーン、ペンチプレス、そして真実の口。これら三種の器具で能力を測定いたします。表示される最高得点はそれぞれ100点。三種の器具の得点が合計200点を超えれば合格となります」

サトッサンが指し示した器具は、まず中央にペンチプレス、左壁沿いにパンチングマシーンが、右壁沿いには丸い形の器具が綺麗に横一列に並んでおり、それぞれ30台ぐらいづつ揃っていた。

あれー?
なんか現実的な身体測定っぽくなってるよ?
原作知識の有効活用は?

「器具を利用する際には、手前の端末に番号札を押し当てて認証して下さい」

「ちょっと待ってくれ。パンチングマシーンとペンチプレスはいいが、最後の真実の口ってのはなんだ?」

受験生の一人の質問はもっともなもので、真実の口と呼ばれる器具は壁際にずらりと並んでいる。
材質が石の円系の器具で、しわくちゃのジイサンの顔が装飾されており、中央の口に当たる部分にポッカリと穴が空いている。
額の部分にはデジタルな表示の得点版が掲げられており、そこに得点が表示される仕組みになっているのだろう。
うん、これってローマの休日で有名になったアレだよね?

「真実の口に手を差し込むだけで得点が表示されます――ただし、"念"を押して注意を申し上げますと、得点が表示されるまでは"絶"対に手を抜かないようにお願いいたします」

器具の使用方法を説明しているようにも聞こえるが、その言葉は確実に特定者に向けられている。
"念"を使って……"絶"をするな?
その説明に込められた本当の意味に、念能力者はすぐに感づく事だろう。現に念の使い手であるヒソカは気づいたようだ。

つまり、これはオーラの有無を測定する器具ってことか?
念能力者ではない達人は、自然とオーラを垂れ流しにしている状態にある。
ハンターとして必要になる、念能力者としての素質を計る試験ということか。

確かにマラソンするより手っ取り早いし、測定が正確ならば合格基準は明白だ。
この試験は合計200点で合格ということは、極論すればどれだけ身体能力に優れてパンチングマシーンとペンチプレスで高い得点を出そうとも、オーラの資質が低いと失格、とも言える。
勿論合わせて200点を出せるような奴がいたとしたら合格するが、それだけの身体能力を持つ者がオーラは0などということはまずありえない。

「なんだそれ? どうやって判定しているか分からないじゃねぇか!」

その説明に激昂したのは番号札255番の大男。額に血管が浮かび上がるぐらいに顔を真っ赤にしている。
確かトンパが試験のベテランと紹介していた奴だな。名前は忘れたけどさ。

この試験内容にベテランが文句をつけるという事は、去年の一次試験とは違うということだ。
ああ、そういやヒソカも去年受けたって言ってたから、納得したように頷いてたのは初めての試験だって事だな。

「測定方法をお教えすることは出来ません。不満があるならこの時点でお帰り頂いて結構です」

「チッ!」

試験官のサトッサンにやり込められて、舌打ちする255番の大男。
「意外と頭もキレる」とかトンパ批評だった気がするが、単にキレやすいだけ、の間違いじゃないか?
不測の事態に対応出来ず、試験官に悪態をつくような小物では、実力もたいしたことないんだろうな。

「ねぇねぇ、クラピカ。あれって何なんだろう?」

「私もあのような器具の存在は知らないな」

「あのジイサンの口に噛み付かれて、手が抜けなくなりそうじゃないか?」

「嘘をつくとそーなるね」

レオリオの鋭いツッコミに、俺はついそう言ってしまう。
途端にゴン達を含めて、周囲の受験生達が「知っているのか、雷電!?」といった風に俺に視線を集中させる。

「いや真実の口だけにね! なんつって!」

そう戯けて言うと、落胆の溜息が周囲に上がる。
何とか誤魔化せたようだが、ゴン達の「空気を読め」という視線が突き刺さる。
大変です、仲間達の俺への評価が下がってます!

「測定する順番は自由です。それでは、第一次試験を開始いたします!」

サトッサンのスタートの合図と共に、受験生達は各々の器具へと向かう。
好奇心旺盛な性格のゴンが真っ先に駆けていったのは、他の器具とは一風変わった真実の口。
クラピカとレオリオは無難にペンチプレスへと向かった。
俺もサトッサンの注意で興味をそそられて、ゴンの後について真実の口へ向かった。

「ねぇ、君。年いくつ?」

「オレ? もうすぐ12歳だよ」

そんな俺達、というか目当てはゴンに声をかけてくる人物が一人。
白髪に吊り目のちょっとナマイキな感じの少年。分かりやすい99番の番号札が胸元についている。
半袖のシャツの下から黒い長袖がのぞいたカジュアルな格好で、スケボーを小脇に抱えている。

「俺はピチピチの18歳」

その回答に「お前には声かけてないよ」的に顔を歪める小僧ッ子。
おっと、99番なだけにクック先生の口調が移ってしまった、なんつって!

……。

「俺も同い年なんだ。オレはキルア」

おー、このナマイキそうな少年がキルアか。
裏の世界を知った子供が素直に育つ訳もなく、おそらく彼にとって俺達は一般人という認識で侮っているのだろう。
念を知らないキルアにその認識のままでいることの危うさを教える大人はいなかったのだろうか?
いや、むしろそれが試練という形での暗殺一家の教育なのかもしれない。

「オレはゴン」

「僕はナルミ! なるみんって気軽に呼んでね!」

イラッとしたキルア少年は、脅すつもりだったのかは音も立てずに一瞬で俺の背後に移動する。
まるで一瞬にして姿がかき消えたかのように周囲には見えたであろう。

「ちょっと黙ってくれる?」

「ふっ、残像だ」

俺も真似して、手刀を構えたキルアの背後を取る。
別に残像は残っていないけれど、言ってみたかっただけ。

「――!?」

バッと大きく背後に跳びさすったキルア少年。
数メートル程後方で、受験生の一人を思いきり盾にしている形だ。

「いや、何もしないってば?」

敵意がないことを示して両手を挙げる。
やべー、また注目を集めちゃったじゃないか。周囲の目が非常に痛いんでケド!

周囲の視線の前に萎縮している俺の様子を見て安心したのか、キルアは素直に戻ってきた。
一切の音を立てない身のこなしで、流石は暗殺者一家の出身だけの事はあるのを伺わせた。
それだけに友達という存在を知らなかったので、このハンター試験でゴンという友達を得る。それ以後はライバルとしも競い合い、お互いに絆を深めて親しくなっていくんだったな。

「あんた、強いな……」

「キルアもな……って、ナルミって呼んでくれよ。仲間だろ?」

何故か驚いてる様子のキルア。
俺はゴンの仲間になるんだから、キルアも仲間だろ?

「キルアもナルミも凄いね! 目で追うのがやっとだったよ!」

俺に対しては思いっきり不信を抱いてる様子のキルアだったが、ゴンの無邪気な笑顔につられて戦闘の構えを解いた。
ゴンは自然に囲まれて自由に育った、感情を素直に表現する子。
キルアは暗殺者一家という束縛の中で育った為に、他人を信頼する事が出来ないのだろう。その生い立ちから過酷な生活環境にいたのは容易に理解出来る。
二人はまるで相反するような性格と生い立ちであるが、第一印象は良好のようだった。

「ははは、面白い奴らだね。ナルミとゴンか。よろしくな」

やったね、ゴンのおかげでキルアは警戒を緩めてくれたようだ。
既にハンター試験が始まって主人公四人組とも無事邂逅を果たした。
彼らが俺を信頼してくれているとは思えないが、それでも俺の仲間になってくれるに違いない!
ヒソカはノーサンキューです!





―――――

既に主人公達は仲間、のつもりでいるナルミです。
さて、第一次試験は思い切り原作と異なります。
この後の試験内容も多少アレンジを加えるつもりですが、大筋の展開はいじりません。
代わりにいじられキャラのナルミを、作者的にもいじってやるつもりです。



[11973] 009 第一次試験×気狂いピエロ
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/28 23:41

受験生達は真実の口を忌避しているようで、順番待ちをする必要はなかった。
敢えてゴン、キルア、俺の三人が順番に測定したのは単なる興味本位だ。

「ん、100点か?」

驚きの表情を顔に出しているキルアとゴン。
真実の口に手を突っ込んで「家で七人のワイフが順番を待ってるんで、早く測定してくれよ!」と嘘を吐いてみた。
きっと彼らは俺に七人のワイフがいたことに驚いているのだろう。

「出ました-! 真実の口で100点です!」

サングラスを欠けたレゲェ風の人が、マイクを持って声たかだかに宣言する。
おおー! と周囲から感嘆の声が上がり、俺はそれに答えるべく片手を上げてスマイルで手を振る。
つか、お前受験生だろ? 確かトンパが紹介してた気がするけど、そんな性格だっけか?

「何でナルミが100点、ゴンが74点、オレが71点なんだよっ!」

「嘘ついたのに手は挟まれないんだね!」

ゴンよ……そのツッコミは何か違うだろう。
これまでずっと保っていた”絶”をやめて、軽く”練”でオーラを高めたから、俺が100点なのは当然の結果と言ってもいい。
サトッサンがほのめかしていた通りに、真実の口はオーラを測定する器具みたいだったようだ。

「でも、平均すると70点出せば受かるんだから、良い調子じゃない?」

「俺が100点ということはカッコ良さを測定しているはずだ。キルアも男に磨きをかけるんだな」

「んなわけあるか! ちっくしょう、次はパンチングマシーンで勝負だ!」

俺達はアミューズメントのゲームを楽しむような感覚で、次のパンチングマシーンの測定に向かう。
途中で丁度一つ目のペンチプレスの測定を終えたクラピカとレオリオと合流。結果を尋ねてみるとクラピカは86点、レオリオは95点と出だしは好調のようだ。

「なにぃ! 真実の口で100点を出したのか?」

「私も負けていられないな」

レオリオは高得点だった自分を上回る得点を出したので、悔しさをあらわにしていた。
クラピカは一見すると冷静だが、対抗心を燃やしたのかちょっと目が赤く充血している。
緋色っぽくなってるけど、そんなまさかね……ハッハッハ。

「いいぜ、パンチングマシーンで勝ってやる!」

レオリオはそう宣言すると、パンチングマシーンの前で上着を脱いで気合いを入れる。
師匠にも通じる所があるが何故脱ぐんだ、この手の男は?

「行くぜ!」

パンチを当てるクッションの位置は、丁度自身の身長の胸元辺りに自動調整される。
二メートル程度の助走をつけることも可能で、レオリオは正に全力で踏み込んで体重を乗せたストレートを叩き込んだ。

バスーッ!
インパクトの心地よい衝撃音と共に、クッションが勢いよく後方に倒れる。
マシーンの上部にある電光掲示板の数字がルーレットのように回転する。

『98点』

「よっしゃ! これで真実の口で7点出すだけで合格だぜ!」

レオリオが合格を確信して、自慢げに鼻を高くして胸を張っている。
だが、俺はここに来て初めて、自分は計算違いをしていた事に気づいた。
レオリオの身体能力は受験生の中でも高い方だが、正直に言えば念の修行を積んだ者から見ればたいした事はない。
それでも高得点を繰り出せるということは、逆にキーでもある真実の口の採点基準は結構厳しいのではないかという事だ。

念でオーラを強化せずとも、”纏”で修行した俺の肉体能力はレオリオよりも高い。
本気でやればパンチングマシーンとペンチプレスでもそれ以上の高得点を出すことも可能だが、それでは俺は300点に近い合計点を出してしまいかねない。
一次試験の合格ラインが200点であるということは、イコール注目を集めるということであり、この後の試験で俺がマークされることを意味している。

その可能性に思い当たったのだが、すでに手遅れだった。
”絶”を解いた上でオーラを計る真実の口で100点を出した俺は、既に最も危険な男にマークされているのだ。
そう、いつの間にか俺の背後からねっとりとした視線でひそかになめ回すヒソカに……くそっ、頭がテンパってギャグが冴えねぇ!

「どうしたの、君の番だろう?」

ヒソカがとってもいい笑顔で俺に話しかけてきた。
視線はオレのケツあたりにターゲットされているような気がするが、気のせいだと思いたい。
くそピエロが、俺をそんな目で見るんじゃねぇ!

「は、ははは。そうッスね!」

レオリオの力加減を参考に、力を込めた振りをしてパンチを繰り出す。

「アーンパンチ!」

『65点』

「くっ、まだまだ修行が足りないな……」

心底悔しがった演技で舌を打つ。
その瞬間に背後から吹き出た殺気!

バックルのスイッチを操作しているヒマなどない。
背負った鞘から十センチ程『斬破刀』を引き抜き、ヒソカのトランプカードを受け止める。

「だめだよ、試験で手をぬいちゃっ◆」

「なーに、ちょっと持病の腱鞘炎が再発しちゃってね」

「そうかい? じゃあ、その手はもういらないよね?」

まずいっ!
ヒソカは太刀の柄を握った右手を切断するべく、カードを横に滑らした。
一切の手加減はなく、背後をとられたこの状況では避けきれない。
だが、狙いは右手首と分かっているので、致命傷を避けるために右半身に”凝”でオーラを集めて防御を試みる。

ドコッ!
想像していた衝撃は特になく、音を立てたのはヒソカの顔面。
三メートル程離れた位置にいるゴンが咄嗟に、重しつきの釣り竿を操ってヒソカに投げ当てたのだ。

「ゴン!?」

ヒソカの首がぐるりと回転し、視線の先にゴンを捕らえる。

「やるね、ボウヤっ◆」

ヒソカの顔には道化師を演じる笑顔の仮面ではなく、能面のように無表情な仮面が覆っていた。
ハァハァと荒い息を吐いて、押し寄せる殺気を前に気丈に釣り竿を構えるゴン。
だが、ヒソカの殺気をまとった視線に絡め取られて身動きをする事が出来ないでいた。

恐怖故に動けないのではない。
自分がどう動いても、殺されるというイメージしか連想出来なくなっている為に動けない。
死ぬかもしれないという極限の状態が正に今のゴンの状態であった。

普通ならばこの時点で恐怖に突き動かされて、無様に逃げだそうと試みる。
そして、襲撃者はそんな想定内の動きを見せた獲物は、想定している通りに殺す。
だからゴンが動かないのは正解だ。

「釣り竿が武器なんだ。面白いね、ちょっと見せてよ◆」

スッ、とヒソカの姿が消える。
現れたのはゴンのすぐ傍で、すぐにでも手の届く距離。
ゴンの顎を掴もうとヒソカは手を伸ばして……。

「ゴンに汚ねぇ手で触れるんじゃねぇっ!」

俺の怒気を叩き付けられたヒソカは手を引いた。
引き抜いた双剣で手首を狙った下から上へのすくい斬り、更に左で顔を突いた一撃であったが、ヒソカは上半身のスウェーだけで回避した。

「くっくっく。なぁんだ、やっぱり美味しそうじゃないか◆」

「ハァッ!」

”周”でオーラを武器の『ツインフレイム』に集める事で、俺は『注文の多い猟店(オーダーメイド)』のもう一つの付加能力を発動させる。
俺の作った武器は、念能力者の”周”でオーラを集める事によって武器本来の性能を発揮する。つまり、武器に宿った火水氷雷などといった属性の事だ。
本来ならば変化系の念能力者がオーラを火や雷に変える所を、俺の武器の場合は変化系の素質が低くとも発動する事が出来る。

赤と緑の火竜をモチーフにした、二対の幅広の短剣『ツインフレイム』が火の属性を纏う。勿論一般人には見えないが、”凝”を使った者には具現化した炎が見えているだろう。
この双剣によって負った裂傷は、炎を上げて一瞬のうちに火傷を負わせる追加効果がある。現状のままでは勝利は難しいが、一太刀でも浴びせれば勝機は生まれる。
「勝てる戦いをしろ」と師匠に口を酸っぱくして言われた言葉が脳裏を過ぎるが、仲間を守る為には引けないこともあるんだ!

「面白いね、それが君の力なのかな?」

この戦闘中でも”凝”をしているのか、ヒソカは炎の属性を一瞬で見極めたようだ。
一見すると武器が持つ属性を発揮した炎は、変化系の能力でオーラを変化させたように見えるだろう。そこが狙いでもある。
俺の能力の最大の弱点である武器の奪取、とまでは思い至ってはいないようだった。

俺とヒソカは向かい合って、ほぼ同時に動いた。
俺は両手を肩の真横に広げて、左右からの竜のあぎとを思わせる双剣の一撃。
ヒソカは身体を沈めて、下から掬い上げるようにトランプを振るう。

右の双剣の狙いはヒソカの足薙ぎ。
左の双剣の狙いはヒソカの右手に持つカード。
どちらも致命傷とは程遠いフェイントだが、馬鹿正直に身体を狙っても当たるとは思えない。
ヒソカは軽く跳躍して薙ぎを躱し、左の双剣をカードで受け止めた。

だが、俺の予想を上回り、ヒソカの左手には更にもう一枚のトランプカードが握られていた。
表面を敢えて向けているが、そこに描かれている絵柄はジョーカー。
くそっ、切り札だとでもいうつもりか!?

「トランプのカードが1枚のはずはないよね?◆」

「ちっ」

首を薙ぐようなカードの一撃を、頭を反らしつつ身体を沈めて回避。
更に天井が見える程に反り返った体勢から、視線を下げて捕らえたカードを右足で蹴り上げる。
この一瞬の攻防で右足に”凝”でオーラを集めることが出来たのは奇跡に違いない。
カードは下からの蹴りを受けてヒソカの手から離れ、天井に突き刺さる。コンクリートの天井にカードの半分以上が突き刺さっている事からも、その切れ味の良さが窺い知れる。

右足を振り上げて一回転しつつ、片手で地面を押し上げて後方に飛ぶ。
着地の瞬間にオーラを右足に保持したまま地面を蹴りつけ、俺の身体は跳ね返るようにV字を描いてヒソカに迫る。

その視界に映ったのはヒソカが両手に繰り出していた合計十枚のカード。
絵柄をあえて見せるようにこちらに向けており、そこに描かれたのは1、2、3、4、5……9と最後の一枚が再びジョーカー。

「なっ!」

慌てて視線を天井に向けるが、突き刺さったはずのカードは消失している。
ということは、ヒソカの手にあるのが先程蹴り上げたはずのカードだというのか?
確かヒソカの念はゴムのようにオーラに伸縮性を持たせるはずなので、予め貼り付けて回収したのかもしれない。
だが、あいにく”凝”が得意ではない俺では、目まぐるしい攻防の中でヒソカが”隠”で隠したオーラを見破る事は出来ない。

「トランプは52枚のカードとジョーカーがワンセットだよ?」

得体の知れないヒソカの奇術に俺は完全に翻弄されていた。
しかし、既に身体の勢いを止めることは出来ない。対抗策がないならば、その前に相手を倒すしかないだろう。

正面からの衝突、それを覚悟して双剣を握る手に力を込める。
そして、互いの攻撃が相手に触れるその直前――!?

「それ以上は両者失格にしますよ」

ズガガッ!
サトッサンの声と共に、目の前に突然床から岩のような巨大な壁がそそり立った。
俺とヒソカが互いに相手を捕らえようとしてた攻撃は、絶妙のタイミングで壁によって隔てられた。まるで「ぬりかべー」とでも言いだしそうな、生きている壁とでも言うべきか。

なんだこれ? サトッサンの念能力か?
壁を作る能力? いや、それだけじゃないな……わからん。原作に出てなかったよね?

「受験者同士で戦うのは構いませんが、後ろがつかえているので余所でやって頂きたいですね」

サトッサンが何事もないように、髭をなでつつ呟いた。
それと同時に目の前の壁は、床に引っ込んでいく。絶対サトッサンの能力だこれ!
まさか、一次試験会場の部屋自体が既に手中にあるとでも言うのだろうか。

「ボクの楽しみの邪魔をするのかい?」

「失格になりたければ、どうぞご自由に」

ヒソカの物言いにサトッサンは冷静に対処する。
うまく殺気を流されたヒソカは「やれやれ」といった風に矛を収めた。
大人しくヒソカが引いたのは、サトッサンの正体不明の能力に対する警戒もあったのだろう。
恐らくサトッサンの念の影響はこの部屋全体に及んでいる。それはつまり、絶対の優位性を持っているということだ。

「君も美味しそうだけど……咄嗟に仲間を助けるとはいいコだね~◆」

俺から視線をはずして、ヒソカはゴンを見つめていた。
何様のつもりか、「うん、君は合格だっ!」とか笑顔でゴンに告げている。

「おい、ゴンに手を出す前に俺をやってからにしろよ」

「くっくっく、そうだね。キミならもう少しで美味しくなりそうだ◆」

そう言って、ヒソカはその場を離れていった。
俺はほっと息を吐き出して、双剣を腰の鞘に収める。
あ、やべ。回転させるの忘れた。

「ふう。まずい奴に目をつけられちまった……」

悔しいが今の俺の実力ではヒソカに勝てない。仲間を守りつつ、ヒソカから逃れる事が俺に出来るだろうか?
だが、例え死んでも――仲間に手は出させねぇぞ。





―――――

ナルミの実力をもう一度明確化すると、ハンターとしては中の下程度。
グリードアイランド編でビスケの修行を受けたゴンとキルアと同等レベルです。

ただ、練度が極端で、得意なのは”絶”と”周”、苦手なのは”凝”とその応用技全てというバランスの悪さです。”凝”が苦手なのは正直致命的ですので、戦闘を得て克服して行くかもしれません。
勿論、今の実力ではヒソカには到底適いません。

それとこっそり裏設定を考えてみました。
原作には登場していない遺跡ハンターのサトツの念能力。一次試験会場はこれで作ったという設定です。
誘い込んで押し潰すトラップハウスとしては無敵かもしれませんが、まぁジョークという事で。


【念能力名】地下迷宮の主(ダンジョンマスター)
【能力者の系統】具現化系
【能力系統】具現化系100%、変化系80%
【能力の説明】
 遺跡のような建造物を具現化する。複雑な形状は無理。
 内部にいる間は自由に建造物を変形させて、随時変形する迷宮を作り出すことも可能。
 ワードナーの迷宮……までは無理か。
 具現化した壁で土を掘り進めて埋もれた遺跡を発掘することにも役立つ。
【制約/誓約】
 発動場所が地下に限定し、更に本人が内部にいる事。




[11973] 010 第二次試験×上手に焼けました
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/09/26 20:56

第一次試験が終了した。

俺はパンチングマシーン65点、ペンチプレス72点、真実の口100点の合計237点で第一次試験を無事通過した。
勿論、真実の口の他は注目を集めない為に手加減した上での点数である。
幸いな事に真実の口がオーラの判定だと感づいているのは念能力者だけなので、一般の受験生は合計点ではそれ程高くはない俺を気に留めるような事もないはずだ。

俺以外の四人も問題なく一次試験を通過している。
ゴンは92点、89点、74点の合計255点。
キルアは92点、93点、71点の合計。256点。
レオリオは98点、95点、45点の合計238点。
クラピカは81点、84点、82点の合計247点。

前半二つで高得点を出して余裕で真実の口の測定をしたレオリオが、思った以上に低い点数だったのには幾分かの驚きと共に内心ではやはりと思っていた。

他の合格者達は、パンチングマシーンとペンチプレスは80~100点、真実の口に関しては20~50点といった点数を出しているようだ。やはり、合格のキーは真実の口にあったのだ。

その意味では、レオリオ以外の三人は真実の口でも高い得点を出しており、本質的には高得点だったと言える。
ゴンとキルアは共に70点台、更に身体能力でも高い得点を出しているので余裕の合格。お互いの点数が僅差だった事によって、二人は一層ライバルとして競い合うだろう。
平均して点数が高いクラピカだが、真実の口では80点を超えている。現時点でのオーラ量も豊富で、トータルバランスに優れている。

ガルルルルル、グルルルルル!

「ま、無事全員合格出来て良かったなぁ」

「俺は最後でハラハラしたけどな。結局最後まで真実の口の測定基準が分からなかったな」

俺の言葉にレオリオは心底ほっとした様子で呟いた。

「というかナルミは手加減してたでしょ?」

「そんなことナイナイ」

キルアが疑ってかかるが、そこは敢えて否定しておこう。
だが、その言葉に反論を唱えたのはゴンだった。

「嘘だ~! だって、ヒソカが怒ってたのってそれが原因でしょ!」

「あのド腐れピエロは絶対に許さん……ってか怒ってたの、あれ?」

「そうだよ。笑顔だったけど、すっごい怒ってたよ」

「うーん、俺には分からんわ」

ゴン曰く、ヒソカが怒った原因が手加減したことにあると?
つまり、ヒソカの視線が気になって注目を集めたくないので手加減したことで、逆にあいつに戦う口実を与えてしまったという事か?
俺にはあいつが楽しんでやっているようにしか見えなかったので、あそこで本気を出してたら事態が改善したかどうかは分からない。
まぁ、過ぎた事を悔やんでも仕方ないしね。

「で、結局何人残ったんだ?」

「そうだな。約150名といった所だろうか」

「250人近くも落ちたのか? まぁ、真実の口で落とされた奴がほとんどだったしな」

俺の問いに既にクラピカは用意していた回答を返してくる。
だが、レオリオにとっては他人事ではなく、真実の口の測定基準が分からずに翻弄された一人なので、心底同情しているようだった。
あまり触れたくない話題であったのか、レオリオは話を変えた。

「そういえば、255番も不合格だったのを怒ってサトッサンに掴みかかって半殺しにされてたよな」

「綺麗に宙を吹っ飛んでたなー」と遠い目をして俺は思い出す。

「『今年は完敗だ。また来るぜ』とか、血まみれで倒れながら格好付けてたけど、笑っちゃうよな」

辛辣に言うのはキルア。まぁ、あれだけ醜態を晒して来年どんな顔で受けに来るのかとは俺も思ってしまった。

「ハッハッハ。ところで、さっきから聞こえるこの音は何?」

グゲゴゴゴゴゴゴ、ゴアアアアァァ!

俺達一次試験突破者は飛行船に乗せられて、ビスカ森林公園という所に運ばれた。
懐かしい体育館のような外観の建物の前で待たされており、『ほんじつしょうご、にじしけんすたーと』と書かれている。
建物の屋根の下に時計がかかており、現時刻は11時59分。残り一分を切った所だ。

「なんかの動物かな?」

何故かワクワクしているように見えるゴン。
聞き慣れたようなモンスターの唸り声に聞こえる。

「さぁ、案外腹減らしてるだけかもな!」

ピッピッピッピ、ピーン!
カウントダウンと共に、正午を告げる音が鳴る。
ゆっくりと建物のドアが左右に開いていくと、中には二人の人物がが姿を現わした。

一人は半袖のTシャツを着て、足を伸ばして座り込んだ巨漢。
その体躯は座っていても二メートルを超えており、立ち上がったら三メートルは越えそうである。こんなでかい人間みたいのは初めてだよ。あのうなり声といいモンスターかと思った。
どうでも良いけど、Tシャツのサイズが気になる。

もう一人はソファーに腰掛けた女性。
ショートパンツから伸びた細い足を組んで、健康的な美脚を披露している。
そしてメッシュのシャツの下、黒のアンダーが押し上げるような巨乳が眩しい。
目元がパッチリした美人さんであるが、何より目を引くのがチョンマゲが五本生えたような特徴的な髪型。
盆栽みたいだわ、とか声に出したら殺されそうなので沈黙を保つ。

うろ覚えだが、原作でもこのような感じの試験官だった気がする。
課題は確か料理を作るとかだった気がしたけど、また違う課題なのでは、と疑う気持ちの方が正直言えば多い。

「どう、お腹空いてきた?」

「聞いてのとおり、もーペコペコだよ~」

「本当に腹の音だったのよっ!」

レオリオが驚きの声を上げてツッコミを入れる。

「そうだよ~。お腹と背中がくっつくよ~」

おめーの膨れた腹が背中にくっつくわけねぇだろ!
と、心の中でだけツッコんでおく。

「そんなわけで二次試験は”料理”よ! 美食ハンターのあたし達二人を満足させられば合格よ!」

『料理っ!』

予想外の課題に対して、受験生達は反応した。
ハンター志望の受験生達にとって、課題がまさか料理と予想していた者はいなかったのだろう。
ということは美食ハンター志望者って少ないのかもしれないな。

「オレは美食ハンターのブハラ。まずはオレの指定する料理を作ってもらうよ~」

「ブハラに”おいしい”と言わせたら、次はあたしから課題を出すわ。ただーし! 試験はあたし達が満足した時点で終了よっ!」

どこかで聞いた事がある展開に、俺は思わずにんまりと笑みを浮かべる。
いや、まてまて。俺は空気が読める男だ。
先程の一次試験はいざ開始されたと思ったら、実際にはマラソンではなく能力測定という全く別物の試験だった。
つまり、今回も同じものと見せかけて、実は内容が違うというオチに違いない!

「オレのメニューは……豚の丸焼き! オレの大好物!」

ふっふっふ、思った通りだな。
別に負け惜しみではない。つまり、こういうことだ!
神の意志だか、世界の意志だか知らないが、俺の想定していた事をあざ笑うかのように、試験内容が変更されたのだ。
そこで、敢えて俺はその通りにはならないという想定をすることで、逆に同じになるに違いない、と踏んだのだ。裏を読む男、と呼んでくれたまえ。

「豚の丸焼き!?」

「ただ丸焼きにするだけか!」

「豚を捕まえればいいんだな!」

料理を作らされるのが課題と聞かされて、自信のない受験生がほとんどだっただろう。
しかし、その課題は一見簡単そうにも思える、豚の丸焼きと聞いて安心したのか?

だが、甘い!
豚の丸焼き、そう肉を上手に焼くことに関して俺の右に出るものはいない!
モンスターの生肉を焼き続けて五年の俺を前に、丸焼きを簡単と侮るとは何たる屈辱だ!
こうなったら、この俺が本物の丸焼きと言うものを見せてやる!
ん、モンハン世界では肉焼き機を回してるだけに見えるだと! 馬鹿めっ、現実はそんなに甘いもんじゃない!

まず、丸焼きといっても、当然ながら豚をそのまま焼いてオーケーといった単純なものではないのだよ。
豚の腹を割いて腎臓を取りのぞき、開いた腹をきちんと縫い合わせる。
焼く前に表面に乾燥防止の為に薄く油を塗り、ゆっくり遠火で焼きあげるのだ!
更に数分に1度くらいはひっくり返して焼き加減を入念にチェック!
焦げ茶色の美味しそうに色がついてきたところでタレを刷毛で塗って、さらにあぶるっ!
チャーララーラー、チャララー、チャチャチャッ!

「上手に焼けました~!」

うん、これがやりたかっただけなんだ。

「これ、今までの中で一番”おいしい”よ~!」

「よっしゃ!」

森にいたグレイスタンプとか言う名前の豚をとっ捕まえて、焼き上げた丸焼きは正に渾身の一品。
美食ハンターのブハラをも唸らせる出来映えに、俺は心から満足していた。
じっくり時間をかけて作った為に、俺の前には既に合格した者も数多くいた。

その数、既に60人を越えている……。
中には豚を焼きはしたものの中まで火が通ってなくて生焼けの物もあるのに、ブハラはそれさえも”おいしい”と言っていた。
俺だってコゲ肉を食っても、生肉を食っても何ともないぐらいに胃は丈夫だけど、あの量を食う程に常識はずれじゃない。
口に入れば何でもオーケー的な態度に、本当に美食ハンターなんだろうかと疑いたくもなった。
だが、さすがに美食ハンターを名乗るだけはあり、俺が丹精こめて焼き上げた豚の丸焼きに対する評価は素直に嬉しかった。

「オレの『真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)』が100点だって言っているよ」

「――ッ!?」

「ん~、君の総オーラ量は約15000。使いては君で三人目か、今年は豊作だね~」

「な、な、なんですとっ!」

ブハラが俺だけに聞こえるように何気なく呟いた内容に、俺は驚きを隠せずにいた。
真実の口? オーラ量が15000? 念の使い手が……三人目?
原作にもそんな展開はなかったように記憶しているのだが、サトッサンといいブハラといい念能力を惜しみなく披露してくれる。
だいたい、オーラ量を数値化するってどういうこと? ”絶”をしたままなのに、どうやって分かったんだ?

「こんなにおいしい豚の丸焼きを作った君だから、特別に教えてあげるよ~。
オレの念能力は二つ。一つ目が口の中にもう一つの胃袋を具現化する『願望の泉(フォンタナ・ディ・トレヴィ)』。
そして、二つ目が料理を食べる事で、作った人の事を知る事が出来る『真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)』。身体能力と総オーラ量の数値化、おまけに料理の採点、好みの料理まで知ることが出来るんだ~。まぁ、さすがにどんな念能力かまでは無理だけどね~」

身体能力とオーラ量を測定する真実の口?
知るはずのない情報を知る能力。それはきっと特質系に分類されるものだろう。
それに、これはまるで第一次試験の……。

「うん、きっと君の考えてる通りだよ~。一次試験のあの器具はオレの能力を参考に作られたんだ~」

成る程、そういうことだったのか。
ここまでの試験は全て念能力者としての素質を計る試験だったという事だ。

第一次試験はオーラの有無を測定。
第二次試験はオーラ総量を正確に測定され、さらにグレイトスタンプという凶暴な豚を倒せるハンターとして武芸も問われるという事だ。

だが、その割に豚の丸焼きを用意した受験生全員が合格になっているのはどういうことだろうか?
不信に思った俺は、ブハラにその能力で判定して失格になった者はいないのかと尋ねる。

「別に『真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)』の結果で合格を決めているわけじゃないよ~。それにオーラは修行によって増える見込みもあるし、一次試験に合格した時点で既に素質ありと判定されていると言ってもいいからね~」

成る程納得の判定基準。
見た目ただの食いしん坊キャラなのに、流石はハンター試験官。ちゃんとした基準で将来のハンターを選別しているようだ。
その試験内容も一見適当に見えつつも、念能力者とハンターという二つの素質を計算されて計るように出来ている。
これは今後の試験も油断出来ないな……。

だが、メンチの試験内容は期待出来る!
次は純粋に料理としての知識を問う課題。そう、我ら日本人のわびさびの心である……寿司だーっ!

「さて、ブハラの課題を合格した者には、次にあたしから課題を出すわ。課題は”あたしの作った料理を完食する”ことよっ!」

おおーい、またこんな展開かよ! 寿司はどうしたんだ!
寿司食いてぇ。





―――――

オリジナル要素のブハラの念能力です。
一次試験の伏線的な能力と、クラピカが疑問を抱いていたい70頭を平らげた理由づけです。
美食ハンターなので戦闘向きではない『料理を食べる事』に特化した能力という勝手な妄想です。
グリードアイランドのビノールドと似たような能力です。


【念能力名】真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】特質系100%
【能力の説明】
 料理を食べる事で、料理を作った人のパーソナルデータを知る事が出来る。
 肉体能力とオーラの量、ついでに料理に関する好みも教えてくれる。
【制約/誓約】
 料理はブハラの為に作られた手料理に限定する。

【念能力名】願望の泉(フォンタナ・ディ・トレヴィ)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】具現化系80%
【能力の説明】
 口の中にもう一つの胃袋を具現化し、料理を一瞬で消化して飲みこむ(口の中がブラックホールのように見える)。摂取したエネルギーを効率よく治癒や疲労回復に当てる事が出来る。また、副次的に数倍以上の食事を食べる事が出来る。
【制約/誓約】
 実際の胃袋で消化出来る食べ物に限定する。(骨は一瞬で消化は無理)



[11973] 011 第二次試験×魔法の料理
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/09/29 20:44

「料理を作るんじゃないのかよっ!?」

メンチの出す課題が「料理を完食する」事と聞いた瞬間、思わず声に出して質問してしまった。
だが、彼女はにんまりと笑顔を浮かべて、両手に持った包丁をお手玉をするように宙に投げていた。怖えぇ。

「うふふ、あたしは料理が課題と言っただけで、料理を作る事が課題と言った覚えはないわよ?」

課題は”料理”で、合格条件は彼らを”満足”させること。
確かにメンチは課題が料理を作る事とは一言も言っていない。あくまでブハラの出した課題が豚の丸焼を作る事だった訳だ。

「改めて自己紹介するわ。あたしの名前はメンチ。ブハラと同じ美食ハンターよ。でも、あたしの試験はブハラのように簡単には行かないわよ?」

メンチは簡単と言うが、実はグレイトスタンプを狩れずに既に80人近くがリタイアしており、残っているのは半数の70人程度だ。
もちろん、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオもはブハラの課題に合格している。不本意ながら、ブハラ曰く三人の念使いの一人であるヒソカも合格していた。

「では早速、一人づつ私の前に並びなさい。私の料理を堪能させてあげるわっ!」

途端にメンチの全身からオーラが吹き出した。
戦闘とは無縁に思える美食ハンターのメンチであったが、その”練”は俺よりも格段に練度が高い。危険を伴う食材の確保といった難関を成し遂げるだけあって、念を使いこなす技術にも秀でているという事か。

おそらく彼女が作る料理は念が関わっているのだろう。
まさか、その念能力で作った料理を食わされたら、精孔(しょうこう)が開くとかないよね?
この人数の念を知らない一般人に対して、念能力の存在を知らしめるのはタブーだろう。

「安心しなさい。別にこれを食べたからって行き成り死んだり、特別な力に目覚めたりはしないわよ?」

怪しげな雰囲気に飲まれかけた受験生達を、安心させるようにメンチはにっこりと微笑んだ。
美人さんの一見裏のないような微笑みこそ、逆に何かあると思わせる魔性の笑顔でもある。
レイアさんがそうだから俺は知っているんだ……師匠と一緒に馬鹿をやって何度ひっぱたかれた事か。

「料理を完食する事が課題か。一見単純そうに見えるが、これまでの試験から察するにそれだけではないのだろうな……」

「うーん、俺は作るよりも食べるほうが得意だから嬉しいけどね」

「俺はどんな試験でも受かる自信があるよ」

「おいおい、俺は一般人なんだぞ。ゴンみたいな野生児じゃないんだらから、なに食わされるか不安になるだろ?」

「ナルミだって秘境生活送ってたんだがから、野生児みたいなもんだろ?」

クラピカが内容を吟味すると、ゴンは単純に喜びをあらわにする。
キルアが自信満々に言い放ち、レオリオは俺にツッコミをいれる。

「違うってば。俺は本当に一般人なの!」

「ヒソカと同類なのに?」

「やめてー! 本気であんなのと一緒にしないで!」

トラウマになり掛けてるヒソカと同列に扱われる事で俺はイヤイヤと首を振って耳を塞ぐ。
なのに小悪魔であるキルアはにやにやと笑いながら、耳元でヒソカヒソカと呟く。

「ほーら早く並びなさい。早いもの順に特別に丹精込めて料理してあげるわよ~?」

メンチはそれはもう見惚れるばかりの笑顔で手招きをする。

「じゃあ、オレが一番に食べるよっ!」

手を上げてそう宣言したのは、好奇心の塊である冒険野郎のゴン。
嬉々として得体の知れない料理を食べたがる心理は俺には理解できん。

「うっふっふ。いい度胸ね」

もはや止めても無駄だろうと悟った俺達はおとなしく成り行きを見守った。
目を輝かせてメンチの調理の様子を見ているゴンを、受験生一同は信じられないような目で遠巻きに見つめていた。

ビュン! ビュン!
メンチは両手に持った包丁を曲芸のように振り回す。
ブハラがいつの間にか用意していた横に五メートル、縦に十メートルはありそうな巨大冷蔵庫から食材を出しては、次々と捌いていく。

両手がぶれて消える程に素早い包丁捌きで、食材を切り分け、肉を切り、野菜を切り刻む。
武器を扱う俺から見ても惚れ惚れするような手捌きに、一同は揃って魅了されていた。
火山が噴火したようなもの凄い火力のコンロでカラっと肉を焼いて、鍋から空を滑るように飛びだした料理は皿の上に綺麗に並べられていく。

「はい、出来上がり! ご賞味あれっ!」

開始してわずか一分と掛からずに完成する料理を前に、俺達は呆然と見つめた。
遠くからでも分かる、肉を焼いた香ばしい香りが漂い、ごくりと食指をそそられる見事な一品だ。

「あんたは肉が好物っぽいけど、それだけじゃ身体のバランスが悪いわ。そこで、あんたには滋養効果もあるハーブを織り交ぜたちょっとピリ辛のスペシャルな焼肉料理よっ!」

「う、うまそー!」

ゴンは差し出された料理に早速手をつけていた。
皿に盛られた焼肉料理はみるみる減っていき、あっという間にゴンは完食した。
何が起きるか見守っていた俺達は、その様子を見て拍子抜けした思いであった。

「うん、美味しいよっ! ミトさんの料理もおいしいけど、メンチさんの料理もすっごく美味しいやっ!」

「はーい、あんたは合格よっ!」

「やったー!」

ゴンに向って包丁の柄の方を突きつけてメンチは合格を告げる。そして素直に喜ぶゴン。
そのやり取りを見て安心した受験生達は、我先にとメンチの前に並んだ。

「俺が先だっ!」

「いや、俺にも食わせてくれっ!」

「私も食べたいっ!」

先ほどまでは「お前行けよ、いやお前が、じゃあ俺が、いや俺が、俺もっ……どうぞどうぞ」的に敬遠されていた料理を食べようと群がる受験生達。
さながら餌に群がるハイエナである。当然俺もその内の一人であった。

収拾が付かないので一大ジャンケン大会となり、見事二番手となったのはブハラほどではないが二メートル近くはある巨漢で、顔に堅気ではない傷を負ったオッサン。
虎髭を生やしたオッサンが、子供のように無邪気な顔で料理を一口頬張る。

「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁっ!」

厳いオッサンが喉を押さえて、絶叫とも言える叫びを上げて床に転がって手足をばたつかせてのたうつ。
その見苦しさといったら正に筆舌に尽くしがたい。
声が収まった時には、口から泡を吹いて白目を向いて気絶していた。
死んではいない……よな?

「あら、残念。あんたは食べ切れなかったから不合格ねっ」

ぴくりとも動かないオッサンを指さして不合格を告げるメンチ。
先程の天使のような笑顔を一転させ、悪女の微笑みを浮かべている。
その場の雰囲気が一変して凍りついた。

「あ、そうそう。言い忘れてたけど、一定の確率で”行き成り死にはしない”程度の毒が混ぜてある料理を出すわ。大丈夫、痛みを伴うだけでその後の身体には一切影響はないものよ」

毒、と聞いてぞーっと顔色が青ざめる受験生達。
絶対あれは毒なんかじゃない。きっとあれが念の制約に決まってる。
つまり、美味しく料理を作れる変わりに、ハズレが混ざる料理か?

「勿論、今なら棄権するのも自由よ? 未知のものに対する気概を見せられないようならば、あたしの課題を受けてもらわなくても構わないわよ?」

「ちょっと待ってくれ! 試験管が受験生にこんな横暴を振るうなんて許されないだろ!」

「いいえ、ハンター試験の課題と合否は全て試験官の判断で行われるわ。ま、死にたくないなら危険することね。今年は”試験官運”がなかった、って事よ」

「ふざけるなよっ! 俺はこんな試験で合否を決められるなんて納得いかねーぞ!」

いきり立った一人が拳を上げてメンチに襲い掛かる。
だが、その拳は振るわれる事はなく、横合いからブハラの張り手が繰り出された。
男はゆうに十メートル以上の距離を吹っ飛ばされて、建物の窓を突き破って気を失った。

「ブハラ、邪魔するんじゃないわよ!」

「だってメンチ。そうしないと、殺ってたでしょ?」

「ふん、どんな理由があっても試験官に攻撃する者は、殺されて当然でしょ?」

何でもない風に言い放つメンチに、ブハラはやれやれといった風に肩を竦める。
だが、それ以上に俺達受験生は「試験官に逆らってはならない」という事実を改めて認識した。
誰も進んで死にたがる奴はいないのだ。
いつの間にか、メンチの前に並んでいた受験生達は再び列から散開していた。

「安心しなさい。毒を混ぜるのは完全にランダム。私の意思ではないわ」

メンチの意思ではない? ということは……もしもあれが美味しく料理を作れる念能力であり、制約として本人さえ意識しないハズレが出来ると仮定しよう。
美味しく作れるのは確かに利点だが、メンチ自身が一流の料理人であるのだから念能力の恩恵はそれ程でもないだろう。
つまり、制約はそれほど厳しいものではなく、ハズレが出る確率はそれ程高くないのではないかと推測出来る。

例えば10回に1回ハズレが出ると仮定しよう。その場合は70人近くいる受験生に対して、7人だけがハズレになる。そう考えれば今ハズレが出たばかりで、次にハズレが出る確率は……ええい、とにかく連続する可能性はそう多くないはずだ!

「おし、次は俺が行くっ!」

「おい、ナルミ?」

「大丈夫だって! ほら、連続でハズレって事は早々ないだろ?」

「いや、彼女の言うように故意でもないならば、逆に何度も連続する事もあるんだぞ?」

……連続でハズレが出る確率は、計算するまでもなく10分の1だ。
10回に1回の確立ならば、70回やって70回ハズレが連続しても、その後の630回ハズレが出なければ統計的には10分の1になるのだ。
心配するクラピカに自信満々に言い放った俺に、ブハラとメンチを含めて突き刺さる70人近い視線。

「わ、分かってるって! 冗談だよ、冗談っ!」

小難しい事を考えすぎて、小学生でも知っている確率の錯覚に翻弄される俺。慌てて誤魔化したが、既に手遅れだった。
出会った人全員から可哀想な子を見る視線を向けられているような気がしないでもない。
いや、でもほら。制約だからってそんな厳しい訳ないって。ね? ね? そうだよね?

「あんた……本物の馬鹿ね」

「しくしく、お手柔らかにお願いします……」

「いいわ。じゃあ、特別に美味しさ2倍、ハズレに当たったら苦痛も2倍のスペシャルコースを食べさせてあげるわ!」

「いや、普通のコースで結構っす!」

結局、第二次試験に合格したのは52人だった。
メンチの料理で不合格になったのはだいたい10人で、それ以外の18人は料理を食べる事を断念してリタイアした者達だった。

俺? 勿論ハズレ料理だったよ、ちくしょう!
ただ、ハズレ料理は死にそうなぐらいの痛みを伴うが、味はものすごい旨かった。激痛に耐え、涙を流しながら焼き豚チャーハンを完食した。
俺の好みの料理を残す訳にはいかなかったが、一年間はチャーハン絶ちをしてもいい。
その後にバッタリと気絶したのは言うまでもない。

「この試験は未知のものに挑戦する気概を問うたものよ! 危険を伴うけれど、それに勝るおいしいものを発見した時の喜び! 少しは味わってもらえたかしら?」

「それこそが、美味しさを追求する美食ハンターなんだ~! 美食ハンターになりたかったら、弟子入りも大歓迎だよ~!」

薄っすらと意識を取り戻した時には既に全員分の料理を作り終えた後だったのか、なかなか良いことを言っているメンチの言葉と、それに追従するようなブハラの誘い文句が聞こえた。

だが、後で聞いた所では彼らに弟子入りを希望するものはいなかったようだ。
あたりまえだよ、こんちくしょう!





―――――

ブハラに続いて、オリジナルのメンチの『料理を作る事』に特化した念能力です。
ハズレ料理は檄マズ・檄カラの料理が真っ先に浮かびましたが、制約とはいえメンチが食べられない料理を作るとは思えなかったので、敢えて激痛を伴う料理にしました。

ちなみにメンチが受験生達一人一人に作っていた料理は、後ろで真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)で好みを知ったブハラに耳打ちされていた料理で、アタリが出た者達はそれこそ至高の料理を味わっていました。


【念能力名】緻密で秘密の料理人(マジカルクッキング)
【能力者の系統】操作系
【能力系統】操作系100%
【能力の説明】
 自身の両手の動きを操り、作り方を覚えている料理を高速、かつ正確に作る。
【制約/誓約】
 無し

【念能力名】過激で刺激の隠し味(スパイシースパイス)
【能力者の系統】操作系
【能力系統】具現化系60%
【能力の説明】
 料理に香辛料の隠し味を追加する。
【制約/誓約】
 正確に味を覚えている、実在の香辛料の味に限定。
 六分の一の確率で『激痛を伴う味』が付加される。更に食べるまでは本人にも分からない。



[11973] 012 閑話:試験官達の雑談
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/09/30 01:14

第二次試験を通過した52名の受験生を乗せた飛行船は第三次試験会場へ進む。
受験生達が各々束の間の休息を取る最中、試験官達も少し遅いディナーを取っていた。

ディナーのテーブルを囲むのは三人の試験官。
第一次試験官、遺跡ハンターのサトツ。
第二次試験官、美食ハンターのメンチとブハラ。

彼ら三人は担当する試験が終了した後も、受験生達の様子を見守りながら最終試験まで付き従う事となっていた。
普段専門の異なるハンターが集まる事はこんな機会ぐらいしかない。その為、自然と雑談の内容も試験の内容、特に受験生達を中心となっていた。

「ねェ、今年は何人くらい残るかな?」

メンチはフォークで突き刺した肉を咀嚼して飲み込むと、ブラハに向って尋ねる。

「それって合格者ってこと?」

「そ、なかなかのツブぞろいだと思うのよね」

「そだね。まぁ三人はほぼ確定だろうね」

メンチの問いかけに、ブハラは自信を持って答えた。

「へー、それってあんたの能力で知った使い手?」

「うん。44番と301番と406番。中でも406番に一番期待してるかな」

第二次試験の課題であった豚の丸焼きを食したブハラは、受験生達70人名の実力を正確に計っていた。オーラ量もさることながら、身体能力だけを見ても三名に注目を向けるのは当然であろう。

「406番ってあの馬鹿でしょ? 使い手だって、試験次第で落ちるでしょ?」

メンチが危ういと指摘した406番のナルミは、ブハラにとって非常に印象深い受験生でもあった。
何故なら豚の丸焼きという課題において、料理を知らない者達が適当に丸焼きを作るのに対し、自分が作るのと同じようにほぼ完璧な形で丸焼きを用意したのは彼だけだったのだ。
美味しさを追求する美食ハンターとして、好感を覚えるのも当然であろう。

「でもメンチの死のルーレットでハズレだったのに完食してたよね?」

「過激で刺激の隠し味(スパイシースパイス)よ! 失礼ねっ!」

「あんな厄介な制約つける羽目になったんだから、どうせなら名前も死のルーレットに変えればいいのに」

「うるさいっ、大きなお世話よ!」

メンチの念能力は『緻密で秘密の料理人(マジカルクッキング)』、『過激で刺激の隠し味(スパイシースパイス)』の二つ。
どちらも料理を作る事に特化した能力であったが、後者に関しては本人の素質が操作系にも関わらず相性があまりよくない具現化系の能力を作ってしまった為に、望むべき味を忠実に再現することは出来なかった。
料理人のメンチにとってそれは許せるものではなく、味を忠実に再現する為に敢えて厳しい制約をつけたのだ。その結果として味の再現には成功したものの、六回に一回は死の激痛の味を再現する能力となってしまった。

ブハラも初めこそはメンチの料理を喜んで食べたが、ハズレをひいてからは『過激で刺激の隠し味(スパイシースパイス)』を死のルーレットと呼んで避けていた。
そのハズレの料理だったのにも関わらず、ナルミは根性で完食しきったのだからブハラとしては同情の念は絶えない。感情的にも贔屓にするのも当然と言えた。

一方、メンチとしてはナルミは可哀想なぐらい馬鹿、という印象があるので激痛に打ち震えながら料理を完食した根性こそ認める者の、試験を合格出来る確率は低いと考えていた。
ハンター試験は根性や力だけで受かる者ではない。知識と知恵、それらも重要な要素であるとメンチは考えていた。

「サトツさんはどぉ?」

意見が分かれた所でメンチはもう一人の、自分達とは異なる面を第一次試験で見たであろうサトツに問いかける。

「ふむ、そうですね。今年は新人がいいですね」

「あ、やっぱりー! あたしは405番がいいと思うのよねー、あの好奇心はハンターに必要なものだわ!」

サトツの返答に二つ返事で同意を示すメンチ。
問われずとも彼女が注目していたのは405番のゴンだった。
第二次試験の課題として問いかけた『未知に対する挑戦』というメンチの真意に真っ先に答えたのがゴンである。好奇心というハンターには必須の条件を最も兼ね揃えているの、とメンチは確信していた。

「私は断然99番ですな。彼はいい」

だが、サトツの意見は異なっていた。
彼が求めるのは冷静な判断力と、確実に事を運ぶ行動力を持つ者であった。

「あいつナマイキよ。あたしの料理で当たりだったのに、『なんだ、ハズレでもオレにはきかなかったのに』とか言いやがったのよ! あの自信を死の激痛で粉砕してやりたかったわよ!」

(やっぱり、死のルーレットだよね~)

99番のキルアは実力こそあれ、その生い立ちからか自信を鼻にかける言動が目立つ。念能力者である現役ハンターの試験官達から見れば、井の中のかわずといってもいいものではあった。
しかし、その実力は受験生の中でも飛び抜けて高く、将来性があるという意味ではメンチも認めていた。
ブハラは勿論ゴンとキルアの実力を見切っていたので、どちらかも有望であるという答えを出していた。

「他にも、294番、404番も良い線いってると思うよ~」

「あの若ハゲ忍者と、女の子みたいに奇麗な顔の男の子よね?」

本人達が聞いていたら怒りで激昂しそうな第一印象を、メンチはさらりと口に出した。
294番のハンゾーはジャポン出身の忍者と呼ばれる特殊な一族の出身で、その過酷な修行に耐えて育っただけに身体能力は飛び抜けて高い。ちなみに頭はハゲているのではなく剃っていると本人は主張している。

また、404番のクラピカはトータルバランスに優れており、特に頭の回転が速い。戦況分析とリーダーシップが取れるのは試験においても大きなアドバンテージになる。ハンター試験は受験生同士が協力する事によって有利になるように配慮がされているのだ。

「294番は受験生の中でも身体能力が突出しているから、念を覚えたらすぐにでもハンターとして活躍しそうだよ~。404番は弱点がなくて身体力、精神力、知識とオールラウンドに優れてるよね。実を言うと、念使い以外だと404番が最もオーラ量が多かったんだ」

「新人だけど、期待できそうじゃない?」

ブハラとメンチは新人の中でも特に突出している二人に評価を下す。

「新人じゃないけど、44番は気になるよね」

むしろ実力が見切れないという意味では、44番のヒソカは彼にとっても得体が知れないという、最も注目すべき存在であった。
ブラハが測定したところ、ヒソカの総オーラ量は7万を超えていた。ハンターの中でも一流と言える実力を既に身につけているのだ。

「あいつ、ずっと殺気放ってて鬱陶しいったらありゃしないわよ!」

「私にもそうでしたよ。彼は要注意人物です」

「ほら、やっぱり!」

メンチとサトツ。当然ながらヒソカの放つ殺気には気がついていたし、その存在を危険視していたのは同じだった。

「44番と406番。認めたくありませんが彼らは我々と同じ穴のムジナです。44番は我々よりずっと暗い場所に好んで棲んでいる。そして406番は見た目以上に狂っています」

「あの馬鹿も?」

メンチは思わずサトツの抱いた感想に疑問を挟む。

「たまに現れるんですねェ。ああいう異端児が。我々がブレーキをかけるところでためらいなくアクセルをふみこめるような人間です」

「406番がそうだっていうの?」

ブハラもメンチと同じくナルミが狂っているとは思えなかった。

「彼は仲間の為という信念を絶対に曲げないでしょう。その為ならば例えその他全てを殺してでも、少しも揺るぐことなく真っ直ぐに突き進むでしょう。そういった強い意志を感じました」

「へぇ。406番がねぇ」

「第一次試験で44番が殺気を放って406番に攻撃したんですよ。当初406番は殺気を受け流すように戯けてみせました。ですが、仲間にその攻撃が向けられた時、44番よりも激しい殺気を叩き付けたのが406番です」

「406番が殺気? でも彼、今まで一人も殺したことがないように思えたけどね~」

ブハラが能力で計ったナルミという人物の肉体とオーラは、実戦を通して培ったものはあるだろうが正当な修行の下に身についたものだと推測がつく。
さらに陽気で楽観的な性格は、人を殺した人間が抱える良心の痛みというものはあまり感じられない、とブハラは分析していた。

「殺した事もないのに殺気?」

「殺した事もないのに、誰よりも強い殺気を放つ406番。それだけに恐ろしいですネェ」

「本気になったら?」

「そうですねェ。私が止めなければ44番は406番の仲間を狙って殺したでしょう。その結果として406番は試験官の私であろうが、盾にされた受験生達であろうが邪魔するものは殺すでしょう。44番を殺すまで、決して止まりはしないでしょうねェ……実際にそうなるかは分かりません。ですが、すくなくとも私にはそう思えました」

サトツは自身が思った正直な気持ちを露呈し、呟くように二人の厄介者の顔を思い出した。
暗い笑みを浮かべる奇術師と、明るい笑みを浮かべるお調子者。

「光と闇と相反する存在なのに、その性質は全く同じ二人。欲望に忠実な破壊者と、正義に狂った破壊者……どちらがより厄介か」

今回のハンター試験がこのまま無事に終わるわけがない、という共通した思いを抱いていた。



その頃、試験官達の話題の一人であるヒソカは一室の窓際でトランプでピラミッドを作っていた。
真剣な表情で作られていくピラミッドであったが、彼の思考は目の前のトランプにはなく、試験の最中に出会った二つの対象に向けられていた。

(まだまだ未成熟の青い果実と、熟しそうな果実。二つの果実はどちらもいずれ美味しく熟すだろう。熟しそうな果実はすぐにでも美味しくなりそうだけれど、青い果実を散らして食した後にはもっと美味しくなりそうだ。それならば、青い果実が熟すのを待ってからまず味わい、その後に熟しそうな果実を食す。これが最も美味しく、二つの果実を頂ける方法。だから、今は我慢してあげるよ、ゴン……ナルミ……)

ピラミッドが完成しても何ら感情を表す事のないヒソカは、その余韻に浸ることなくトンと支えのトランプを指で押し出す。
絶妙のバランスでピラミッドを形作っていたトランプカードが、バラバラに散って崩壊する。
ヒソカはその様子を見て想像を掻き立てると、ゾクゾクと打ち震えるて初めて感情をあらわにした。
それは、静かに、不気味な程に低い声であがる笑い声。

「くくく……」

その様子を見ていた二人の受験生は、顔を青くして視線を逸らしていた。



そして、合わせて四人に、異なる思いを向けられていたナルミは……。
今だメンチの料理を食って意識を失った後も朦朧として、そのまま寝入っていた。





―――――

気絶中のナルミを異なる視点から眺めてみた、三人称です。
ヒソカが大人しくしているのは、上記のようにゴンの後にナルミという順番で戦う事を望んでいる為です。
描写はありませんが、この最中にネテロ会長が現れてゴンとキルア相手に玉取りゲームをやっていました。
もし、同じ条件でナルミがやれば合格出来たかもしれませんが、会長だって相手の力を見誤ったりはしないので何だかんだでとれないでしょうね。




[11973] 013 第三次試験×五つの扉
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/03 22:26

飛行船の遊覧飛行も長くは続かなかった。
夜が明けて時刻は9時30分を過ぎたあたり。飛行船は目的地に着き、到着を告げるアナウンスを聞いたクラピカに俺は起こしてもらった。
都合12時間以上寝ていたので気分もすっきり、メンチの死の料理を味わった余韻も残っていなかったので安心した。

飛行船が着陸したのは、石作りの床が広がっているなにやら塔の頂上らしき場所。
降りる前に見たところ、雲を突き破る程に高い円柱の塔である事は分かっていたが、実際に塔の頂上から眺める景色は絶景だった。
何が始まるのかと飛行船から下りた受験生達は、最後に出てきた係員のコロ助に視線を向ける。

「ここはトリックタワーと呼ばれる塔の頂上で、第三次試験のスタート地点になります。試験の制限時間は72時間。合格条件は『ここから生きて一階まで辿り着く事』です。それでは、試験を開始します」

コロ助がそう解説して第三次試験の開始が告げられた。
側面にも窓一つない頂上で下に降りる為のヒントを探そうと、早速周囲の様子を調べる受験生達。

様子を見ていると、ロッククライマーのオッサンが外壁を降り、人面怪鳥に襲われそうになっていたので床に転がっていた石を投擲して助けてあげた。
もの凄い感謝されてお礼を言われたが、実は知ってたんだよね。
むしろ自信満々にオッサンが外壁を降り出すまで全く思い出せなかったので、他にも途中で死亡したであろう脇役キャラには悪い事をしたかもしれない。

だが、おかげでこの試練の内容を思いだし、下に降りる為の隠し扉があるだろうことを確信した。
ゴン達と一緒に進める五人一組のコースが好都合なので、五つの隠し扉が近くにあるものを探すとしよう。共に進むはずだったトンパが早々に脱落したのも好都合だ……うん、あれは自業自得だしね。

探せば隠し扉はすぐに見つかったが、なかなか五つ以上の隠し扉が密集しているのが見つからなかった。だが、二十個目を越えた辺りで目的の隠し扉をようやく発見する。

「クラピカ、レオリオ、ちょっとこっちに来てくれないか?」

「何か見つけたのか、ナルミ?」

「ああ、隠し扉だ。ちょうど良い事に五つの隠し扉が近い距離にある」

俺は近場にいたクラピカとレオリオを呼び寄せる。
ゴンとキルアはまだ塔の下を覗き込んでいるようだ。二人に声をかけて呼び寄せたのは、彼らが隠し扉を見つけて先に進んでしまってはせっかくの計画がまる潰れであるからだ。

「そうか。だが、そのうちのいくつか罠ということではないか?」

「いや、そうじゃない……と思う」

「なんでそんな事が分かるんだよ?」

「空気の流れで、下に部屋があるように感じる」

隠し扉をちょっと押して空気の流れを確認する。
”円”で確認した方が確実なのだが、まさかその理由を説明する訳にもいかない。

「そうか。それは私達にとっては好都合ということだな」

俺の言葉から状況を理解し、なおかつその際の利点を汲み取ってクラピカは賛同してくれた。

「どういうことだ?」とレオリオが聞き返して来る。

「丁度近くに五つの隠し扉があり、どうやら行き着く先は同じのようだ。ある意味では罠とも言えるが、他の受験生と協力するような試練だと推測出来る」

「ああ、仲間が五人揃って進むなら俺達には丁度良いだろう?」

クラピカの説明に補足し、俺は笑みを浮かべて頷いた。
想像通りにこれが五人一組でチームワークを試す試練だったのならば、仲間が丁度五人いる俺達にはこれ以上なく好都合な隠し扉だろう。
……まさか、下にいったら五人でバトルロワイヤル、とかないよな?

「……ナルミ、一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「ゴンやレオリオは裏がない人間だ。だが、私と……キルアは嘘がつける人間だ。そんな私を何故仲間と言えるんだ?」

クラピカが真剣な表情で疑問を口にする。
とはいえ、それは決して俺を不信に思っているのではなく、逆にその信頼に応える事が出来るかという戸惑いを感じているようにも思えた。
キルアと同じく現実主義者のクラピカにとって、俺から受ける無償の信頼というものはそれだけ重いものであったらしい。

「いや、理由なんかないよ? しいて言うなら感か? 俺はクラピカという人間を信じてるから、仲間だと思っている」

「ナルミは……よほどの馬鹿か大物だな」

「そうか? 後者だといいんだけどなー」

呆れたように言うクラピカに、自分だって似たような思考をしているレオリオが頷いて同意している。だから、俺は何でもない風に笑い飛ばした。

「……緋の眼」

「ん?」

「ハンター試験を受けた理由としてレオリオには一次試験の時に話したが、私はクルタ族だ。蜘蛛に……幻影旅団によって一族は皆殺しにされた」

クラピカが自分の瞳を指さし、自らがクルタ族である事を明かしてくれた。

「復讐……か?」

「ああ」

「そうか……ハンターになる理由もその為か」

俺はそれを知っていただけあって、クラピカがその思いを吐露する意味を重く受け止める。
それは誰にでも気軽に告げるような内容ではない。クラピカ自身が他者に狙われる可能性もあり、なおかつ幻影旅団に存在を知られる訳にはいかないだろう。
だから、クラピカは信頼出来る者にしか打ち明ける事はしないだろう。俺を信じてくれた、ということだろうか?

もし、仲間が皆殺しにあったのなら、俺ならばどうするか?
答えは決まっている……目には目を、歯には歯を、罪には罰を、だ。

「お前も……復讐を愚かだと思うか?」

クラピカの問いは、恐らくレオリオに復讐を否定された事にあるのだろう。
だが、復讐を誓ったクラピカが他人の意見で踏みとどまる事はない。むしろ、客観的に復讐の意味を理解しようとしている冷静さを持っている事に驚いた。

「仲間がやられたら、やり返すのは当然だ」

「なに?」

「なんだって!?」

クラピカとレオリオは同時に驚きの声を上げる。
とはいえ、復讐の意味を仇打ちと限定している訳ではないので、勘違いされないように補足をしておこう。

「おっと、勘違いするなよ。復讐は死んだ人の為にやるわけでも、自分の為にやるわけでもないぞ。復讐は奴らに理解させる為にやるんだ。いわゆる断罪だな」

「どういうことだ?」

「クラピカ達は天国と地獄の存在を信じるか?」

「突然なんだ?」

「俺は信じているぞ。『善行を積めば天国、悪行を重ねれば地獄行き。世界中の人がそう信じたら、世界はきっともっとよくなる』……母を殺した強盗の少年三人を殺し、自害した俺の父の持論だ」

『……』

二人は俺の言葉に口を挟まずにじっと聞いていた。

「罪を憎んで人を憎まず。どっかの聖人が言った意味とは異なるかもしれないが、罪を犯した人を憎むのではなく、罪を理解させてやらなければならないんだ。本当に心の底から罪を理解するのは、やった事をやり返された時しかないだろう。殺せば殺される、そんな当たり前の事を誰もが理解した時、争いはなくなるんだよ」

断罪に関する部分は、父の行動を見て育った俺の持論である。

「それは極論ではないか?」

「すくなくとも抑止力になるだろう? 俺がその理想を追い求めている限り、リスクを考える奴は俺の仲間に手を出さなくなるさ」

「私にはその考え方に賛同する事はできない。蜘蛛を憎む気持ちが失われることはないだろう。私は……復讐を果たすまでは止まる事は出来ない」

復讐ではなく断罪の為という俺の意見を、クラピカが受け入れる事はなかった。
それでも、クラピカが憎しみの為に戦うというならばそれもいいだろう。俺は仲間の為に戦うのだから。

「まぁ、それでもいいんじゃないか? 俺も手伝うよ」

「なんだと?」

「いや、もちろん仲間に類が及ばない限り、だぞ? クラピカ達に危険が迫ったら、すぐに復讐を中断させて逃げるつもりだ。憎しみに捕らわれてそれ以上の愚を犯すなよ?」

「何故だ……?」

「だから、仲間だからって言っただろ? 俺はさ、何よりも仲間が大事なんだ。仲間がいないと戦えないし、仲間がいないと生きていく意味も見いだせない。仲間が望む事は何とか力になってやりたいし、俺の望むことに仲間には協力してほしい。それに、仲間が間違っていれば止めたいとは思う。そんな時に自分だけ安全な所にいても、その言葉は届かないだろう。だから、一緒にいたいと思う。当り前のことだろ?」

「だが……ナルミを危険に付き合わせるつもりはない」

いくらか心を動かせながらも、俺の申し出を断るクラピカ。
まだ仲間になって日も浅いという事もあるので、遠慮しているのかもしれない。

「分かった。じゃあ、手伝える事は手伝わせてくれ。俺にとって最悪の展開は、クラピカが一人で戦って死ぬ事だ。その可能性を少しでも減らせるなら、俺は戦う事を躊躇しないぞ」

「ああ、その気持ちだけでも十分だ。感謝する」

仲間と呼び合えるようになるにはまだ時間がかかるかもしれない。それでもお互いの気持ちを素直に話す事で、クラピカとの距離がほんの少しだけ近づいたような気がした。

話がそれてしまったが、今は第三次試験の最中だ。
おまけに72時間という時間制限もあるので、語らうのであれば酒の席にでもしたい。ちなみに俺は未成年だが、師匠達のそんな常識が通用する訳がない。

「ま、話を戻すが、今の議題はこの五つの隠し扉についてだ。出来ればゴンとキルアも加えて俺達五人で進みたいと思っているんだが、どう思う?」

「おう、丁度いいな」

「反対意見はない」

レオリオとクラピカが素直に賛同してくれたので、俺はゴンとキルアを呼び寄せて再び五つの隠し扉、そしてお互いに協力する試練の可能性を話した。
二人は俺の提案に賛同してくれて、五つの隠し扉を使う事に同意してくれた。
意見がまとまったので、俺達はそれぞれ五つの隠し扉の上に立って、発案者でもある俺が声をかける。

「よし、みんな行こう!」

「おう!」

「うん!」

「ああ」

「いいよ!」

仲間達は各々返答し、同時に床に体重をかける。
床ががくりと沈み、回転式の隠し扉がくるりと一回転する。丁度上に立っていた者は中に引き込まれる仕組みだった。

「……あれ?」

ゴン、キルア、クラピカ、レオリオの姿が消えて一人残された俺。
四人が隠し扉の中に入っていく様子を呆然と眺め、間の抜けた疑問の声が口から漏れる。

「あ、開かない……これ、おかしいぞ、壊れてんのかっ!」

思わず声に出して罵倒してしまう俺であったが、一向に隠し扉が開く様子はなかった。
もしや、と恐る恐ると他の四人の隠し扉を調べてみると、ロックされているのか俺が使おうとしていた隠し扉と同様に開く様子はない。

そりゃ、同じ場所を何人も通れる訳がない。つまり、隠し扉は一度使用されると二度は使えないようになっているのだ。
って事は……既に誰か下に降りてたってことか。

「またこんなオチかよ、ちっくしょうーーーッ!」

仲間達から一人取り残された俺は、トリックタワーの頂上で青空に向って大声で絶叫した。





―――――

ロッククライマーを助けた事で誰かの隠し扉が使われてしまい、その替わりに五つの内の一つの隠し扉が使われてしまったというオチですね。
初めは多数決の道ではないアレンジを仲間と一緒に超えていくというつもりでしたが、クラピカと仲間の結束を高めた所で五人揃うのはどうにもナルミの思う壺だったので、一緒に行けなくなりました。
ロッククライマーを助けた事で誰かの隠し扉が使われてしまい、その替わりに五つの内の一つの隠し扉が使われてしまったというオチですね。
初めは多数決の道ではないアレンジを仲間と一緒に超えていくというつもりでしたが、クラピカと仲間の結束を高めた所で五人揃うのはどうにもナルミの思う壺だったので、一緒に行けなくなりました。
ゴン達が誰と一緒に行ったのかは、後ほど判明します。




[11973] 014 第三次試験×天国と地獄の道
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/03 22:39
「やぁ、君がボクのパートナーかい?◆」

「うは……うははははは……夢だ。これは夢なんだ! 嘘だ! 嘘だといってよ!」

ヒソカが分かり切った事を、凄く楽しそうな笑顔を浮かべて俺に問いかけた。
一方の俺は何を言っているのか分からないと思うが……ポルナレフ状態。

俺の選んだ隠し扉が既に誰かに使われており、近場の隠し扉を使った結果がこれだよっ!
床をぶち抜いて下に降りることも出来たのだが、大声で隠し扉の存在を他の受験生に教えてしまった為に、係員のコロ助が責めるように俺をじっと見つめていたのでその案は放棄せざるを得なかった。

こんな事になるぐらいなら、無理やり床をぶち抜いてでも進むべきだった。
いや、それよりもてっとり早く塔の外周からダイブして外壁に掴まるべきだった。
いやいや、そもそも何で俺はこんなになってまでハンター試験を受けてるんだっけ?
違う違う、そもそも何で俺はこの世界にやってきたんだ?

「で、何? 俺はヒソカに『殺らないか?』とでも言えば良いのか? それとも黙ってケツを差し出せばいいのか?」

自身の不幸を嘆いて、自暴自棄になってしまった俺は冗談でも言ってはならない一言をヒソカに言ってしまった。

「うーん……その提案は魅力的なんだけど、ほらこれを見なよ」

おい、その魅力はどっちに対してだ! 当然、前者だよな?
自ら墓穴を掘ってオケツを掘られたなんてシャレにならんぞ!
いや、上手い事言ったな、とか心の声とか入りませんから、ホントに勘弁して下さい……。

「なんだ? えっと、『天国と地獄の道。君たち二人はここから長いゴールまでまでの道のりを協力して乗り越えねばならない』だって?」

壁に掲げられていたプレートのハンター文字を見てとても嫌な予感に襲われた。
まさか俺とクラピカの話を聞いてた訳じゃないよな?
なにこの偶然の一致。運命はどこまで俺を苦しめるんですか……どSめっ!

「そう。二人のパートナーが生存して進む事がこの道の絶対条件らしいんだ。だから、君とヤルのはまた次の機会って事だね◆」

「あー、ってことはなんだ。俺は助かったのか?」

「くくく、後者の提案はいけるかな?」

ヒソカが面白がって俺を挑発してくるが、死活問題なので断言しておかねばならない。
その為に命を賭して戦う事になろうとも、守らねばならに一線というものが人にはあるのだ!

「俺は純潔を失ったら自殺するからな!」

「安心しなよ。ボクにはその気はないから」

「には、じゃねぇよ! 俺もねーよっ!」

絶叫しつつ、台座に用意されていた腕時計式のタイマーを腕にはめる。
ふと気になったのが俺のタイマーには『地獄』の文字がかかれており、ヒソカが既に装着していたタイマーには『天国』と書かれている。

「ヒソカ。何でお前が『天国』なんだ?」

「速いもの勝ちだろ? ボクは『地獄』に興味ないからね」

「お前はどう見ても『地獄』行きだろ!」

「くっくっく。そんな事より早く行こうよ◆」

ヒソカがうずうずとした態度で先を促す。
どうやら逸早く隠し扉を見つけて進んだものの、パートナーとなる俺が来るまで待たされ、なおかつ他の受験生と協力しなければならない試験内容に苛立っていたようだ。

そんな時に非常に不本意だが、受験生の中では興味を持っている俺が来た事でそのストレスが少しは解消されたらしい。残ったストレスはこの先に待ち受ける障害で発散させたくて堪らないようだ。

「頼りになるのは事実だしな。レッツ、ポジティブシンキング!」

「速くしないと、ボクが天国に連れていっちゃうよ?」

「やっぱ、地獄だ……」



『天国と地獄の道』

それは二人の協力なしでは進めない試練であり、一方には比較的容易な『天国』の試練、一方には非常に困難な『地獄』の試練が用意されている。
『天国』と『地獄』の担当を決める腕時計型タイマーを選択するのは受験生の手に委ねられており、大抵は先に辿り着いた者が『天国』を選択するケースがほとんどである。
必然的に遅れて辿り着いた者は『地獄』を受け入れざるを得ない状況にあり、『天国』を選択したパートナーに不公平感を抱かずにはいられない。
二人の協力が必須であるにも関わらず、明らかに差別された試練内容に両者の仲は次第にこじれていく。



だが、不幸の星の元に生まれた俺にはそんな小細工は利かない。何故なら、ヒソカと組まねばならない時点で地獄の底の煉獄に突き落とされたようなものだ。今更、地獄などと言われても生ぬるいわっ!
……うん、強がりなんだけどね。

「で、地獄担当の俺の相手はどっちだ?」

俺とヒソカが進んだ先に待ち構えていた試練。
底が見えないぐらいの巨大な縦穴の中央に、闘技場のように敷設された四角いリング。四方には燭台の炎が揺らめいており、場外は奈落の底へ一直線。
というバトルマンガにお馴染みの風景である。しかし、実際に自分が体験するとは思ってもいなかった。

反対側に対峙するのは目もとまでフードで覆った二人組。俺達を待ち構えていた様子で、俺の言葉に応えるように一人が前に出た。

「ふはははは。オレ様が地獄の試練官だっ!」

高らかに笑い声を上げながら、フードとローブを脱ぎ捨てた。その手に鋭利な戦斧が握られている。
試練官とはサトッサン達試験官とは別に、いわば第三次試験官の下で働く役割を持っているらしい。だが、その実態は刑務所でもあるトリックタワーで終身刑に服している囚人であるようだ。
囚人であるくせに試練官となると武器の使用まで認められるらしい。いくらハンター試験の為とは言え、なんという出鱈目な刑務所なんだ。

「戦う者のみ渡られよ」というスピーカーからの声と共に、中央のリングまで続く吊り橋のような細い道が現れる。
俺はヒソカに目配せして細い道に飛び降りると、ゆっくりとリングへと歩き出す。

「荒海を駆け抜けた大海賊、荒ぶる鷹のアームストロングだ! 俺が提示する勝負方法は『デスマッチ』! 武器の使用を認め、相手を殺すか、参ったと言わせるまで戦う!」

この世界は大陸間の移動は飛行船であるが、それ以外の移動手段には船が使われる事も多い。「おれたちゃ海賊!」という存在は平然と存在しているようだ。

こんな塔で試練官などというものをやっている以上、既に逮捕されて求刑されているのだろう。減刑と引き換えに試練官を引き受けた、といったところか。
だが、そんな些細な事情よりも気になるのは……。

「なんだ、そのポーズは?」

「荒ぶる鷹のポーズだが?」

その異名に相応しい鋭敏なポーズを取ってはみた。

「そ、そうか……それで『デスマッチ』を受けるか?」

「ああ、それで構わない」

アームストロングと名乗った海賊は口元全体を覆った髭面の、如何にも悪役然とした大男。
年齢は老年に差し掛かっているあたりだろうか、髭に混ざった白がそれを物語る。
だが、半袖の簡素な囚人服姿で、海賊衣装ではないので容貌は凶悪犯そのものだ。
囚人服から露出した両腕には無数の傷が走っており、鍛え上げられて引き締まった肉体は囚人となってからも衰えてはいないようだ。
流石に『地獄』の担当だけあって、その実力は試練官の中でもトップクラスなのだろうことが窺える。

「己も名乗ろう。我が名はナルミ=クドー。我が剣を持って世界を……そう世界を制する男だ」

俺は例の無駄に格好よいモーションで背中の太刀を抜き放ち、まっすぐに刀身を突き付ける。

「剣士か。おもしれぇ……ならば、全力でかかってこい!」

「あれ、ツッコミなし? そんな熱いノリになる予定はなかったんですけど……」

「問答無用! うおおおおおぉぉぉぉ……ぉぉ?」

戦斧を掲げて一直線に突っ込んでくる大男に対し、太刀を地面に突き刺して腰から引き抜いた双剣で戦斧の柄を斬り飛ばし、そのまま双剣の片割れを髭面に突きつけた。
アームストロングは突きつけられた剣に視線を向けて、一歩も前に進めなくなっていた。

「まだやるか?」

「き、貴様……背の剣を抜いたのは囮か!」

「そんな事よりもこの双剣を抜いたところが見えたか? 俺の踏み込み速度に反応出来たか? 数多の海を駆けて戦闘経験も豊富な大海賊が、まさか実力差が分からないってことはないよな?」

「……参った。オレの負けだ」

「悪いが、俺もここで負ける訳にはいかないんだよ。そう俺の貞操の為にもな……」

ゾクゾクとした表情で俺を見つめるヒソカに寒気を覚えたので、突きつけていた剣を収めて戦闘を終わらせた。
うなだれたアームストロングを横目に、囮とかではなく格好付ける為だけに抜いた太刀を回収しようと柄に手を伸ばす。

「馬鹿めっ! コケにされて黙ってられるかよ!」

その瞬間を見計らって、アームストロングが襲いかかって来た。
柄が折れた戦斧を投げ捨て、右腕を大きく振りかぶって背を見せた俺めがけて叩きつける。

なんというお約束。
俺はその展開を読んでいたので、横に飛んで軽く回避する。
アームストロングの拳を中心に床がちょっぴり陥没していた。

「アームストロングの名は伊達じゃねぇ。武器がなくともこの俺は戦えるんだよっ!」

「聞き逃したのかもしれないが、俺は”双”剣を抜いた、と言ったぞ? もう一本はどこに行ったと思う?」

俺は腰のベルトの鞘に双剣が一本だけ収まっているのを示す。
怪訝な顔のアームストロングがこちらに気をとられた瞬間、事前に投擲していた双剣の方割れが弧を描いて自慢の右腕を半ばから切断した。

「ぐわあああああぁぁぁ!」

回転しながら地面に突き刺さった双剣を回収して、それによって切断されたアームストロングの右腕を四角いリングから奈落の底に放り投げる。
実質の終身刑に服した罪人が、素直に負けを認めると思っていなかったので予め布石をしておいたのだ。追い討ちをかけなければ無傷で済んだものを……ま、所詮は悪人といったところだ。

結果的には綺麗に腕を切り飛ばしたが、実のところ狙った訳ではない。
太刀を回収する振りをして位置を誘導しつつ、双剣が一本しかないと言葉で気を反らせたりと小細工はしたが、流石に投擲した双剣の軌道までは変えられない。
頭に突き刺さって死ぬ可能性もあったので、腕一本で済んだのは運が良い方だろう。

それにしても隙を見せた所でアームストロングが襲いかかってこなかったら、双剣を回収するのにちょっと間が抜けていたのでほっと一安心である。

「腕を失ったお前はアームストロングではなくなったようだな。残念ながら俺ではなく、貴様が『地獄』の苦しみを味わう事になったな……なんつって!」

切断した腕は既に影も見えない奈落の底。医師の手にかかってくっつけようにも、腕を回収する事が出来るとは思えない。
片腕を失った代替として義手を初めとしていくつかあるが、実は海賊だけにフック船長みたいな鉤爪にならないかなぁ、とか薄情に思っていたりする。
うん、正直に言って悪人に同情する気持ちは一切ない!

既に戦意は喪失しているようだが、それでも出血する右腕を押さえてアームストロングは独自に撤退。そのまま試練場から姿を消した。

まずは、『地獄』の試練は俺の勝利といって良いだろう。後は『天国』の試練であるが、もう一人の試練官はアームストロングよりも更に弱いのは確実だ。
罪人とは言えヒソカの相手をすることになる『天国』の試練官には同情を禁じ得ない。つまり、既に試練の勝利は決まったも同然である。
俺はルンルンと晴れ晴れとした気分で軽やかにスキップしながら戻る。

「後は頼んだぞ……ヒソカ?」

「くく……くくくっ◆」

俯いていると思って声をかけた瞬間に、不気味な声が響いた。
突然ガバッと持ち上げたヒソカの顔には、肉食獣を思わせる獰猛な笑みが浮かんでいた。

うわ、完全にイッチャッテルよこの人。
いや、待て待て! オイ、冗談じゃねぇぞ! なんだその股間の膨らみはっ! ガバッとどこを持ち上げてるのさっ!

「お、おい……分かってるよな? 俺が生存しないと試験は突破出来ないんだぞ?」

「試験なんてどうでもよくない? 殺・ら・な・い・か?」

「『地獄』の試練はまだ続くのかー!」





―――――

第三次試験はヒソカと一緒、というよくあるパターンです。
ゴン達と一緒にいけなかったとしたら、これしかないでしょう。
『天国と地獄の道』の特徴がほとんど出ていませんが、これでも一般人の受験生にはなかなか難所のはずです。

そして、双剣を使うからには一度はやってみたかった投擲。
念能力にしようかと思いましたが、双剣に限定してしまうのでただでさえ組み込みたいモンハンシステムが厳しくなるので諦めました。
ただ、制約からして武器をこんな風に投げるのは危険すぎますね。



[11973] 015 第三次試験×疾走する刃
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/10 14:45
とっとと忘れたい記憶なので詳細は省くが、その後の『天国と地獄の道』も順調に進んでいった。
二人で揃ってダンシングや、二人で体を密着させるようなヨガとか思い出したくもない!

だが、この『地獄』の試練もようやく終わりが見えてきた。既に塔のかなり下まで降りてきたので、もうすぐ一階に辿り着けるだろう。

トリックタワーというだけあって塔の内部は行く手を阻む罠と仕掛けだらけで、落とし穴や隠し扉等が無数に存在していた。
俺とヒソカは罠をはずすという事をせずに、お互いの身体能力を当てにして強引に切りぬけるという手法で突破した。

その為、手元のタイマーを見るとまだ11時間が過ぎた程度だ。残り時間も60時間はあり、途中で休憩せずに一気にここまでやってきたのでタイム的には悪くないだろう。

「結構下まで来たよな」

「そうだね。どんな足手まといがパートナーか心配したけど、君で良かったよ◆」

「あっそ。俺はどんな足手まといでもヒソカ以外がよかったけどな」

「ツレナイなぁ。一緒に試練を乗り越えてきた仲じゃない」

「そう思うならそっちの『天国』のタイマーを寄越せ」

「くっくっく、いやだよ◆」

ヒソカと会話を交わしつつ長い廊下を歩く。両側にはまた別の通路へと繋がる道が伸びており、蜘蛛の巣のように張り巡らされた構造はさながら迷宮のようだった。
普通の受験生ならばこれを慎重に辿っていかねばならないのだが、ヒソカも俺もお互いに念能力者ということはバレているので”円”を使って周囲の構造を把握する。

「お、この先に人がいるぞ。こっちが正解みたいだな」

「そうだね。ところで、一つ分かった事があるんだ◆」

俺が分岐した道の中の一つを指さすと、ヒソカは笑みを浮かべて俺に言う。

「何だ?」

「君の”円”の範囲は約十五メートルといったところだね」

「ブーッ! 俺の手の内を簡単に見破るなよっ!」

「君は仲間を信頼しすぎじゃないかな? 今はパートナーでも後で戦うかもしれないんだから、隙を見せたらダメだろう?」

「うるさい、お前なんか仲間じゃない!」

ここまでの試練を協力して乗り越えてきたのでつい油断していた。今は味方ではあるが、こいつとは絶対に相容れない存在だったのを忘れていた。
実際に俺の”円”の範囲は十五メートルである。きっとヒソカはそれ以上に”円”を広げられるのであって、探知した範囲の差で俺の範囲を推し量ったのだろう。

ゴゴゴ、ゴトン!
精密に隠された隠し扉を開くと、そこには広い石造りの部屋があった。
先程、”円”を使って人がいたのもこの部屋だったので、隠し扉を容易に見つける事が出来たのだ。

「待ってたぜ、ヒソカ」

部屋の片隅、明かりが届きにくい暗がりにいた人物がヒソカに向って声をかける。

「誰、知り合い?」

俺の問いにヒソカは「さぁ」と肩をすくめて笑っていたが、その目は油断なく男を見つめている。

「貴様に負わされたこの顔のキズを忘れたとは言わせねぇぜ!」

暗がりから姿を現わしたのは、二十代後半といった年齢の男だった。
額から頬にかけて四本、爪痕のような裂傷を負っている。男が言うにはその傷はヒソカにつけられたらしい。
上半身裸で割れた腹筋が丸見えで、子泣き爺が着ているような毛皮を纏った山賊っぽい格好。師匠と同じレベルのファッションセンスである。

「オレは賞金首ハンターのザムザ。今年は試験官ではなく、ただの復讐者としてここにいる」

つまり、去年のハンター試験官だったけどヒソカにやられたので復讐に来たと?
ヒソカは去年試験官と受験生を再起不能にしたとトンパが言ってたので、この男がその試験官なのだろう。

だが、そもそも試験官を務めるような現役のハンターが、第三次試験の相手として出てくるってありなのか? きっとこのレベルの実力者が相手では、受験生では『地獄』の試練どころではない。
いや、どう考えてもヒソカへの私怨だし……巻き込まれた俺にとってはいい迷惑だ。

「オレは『天国と地獄』の試練官。どちらかがオレに勝たない限り、この先は通れないぜ」

どうやらこの男は『地獄』の試練官ではないらしく、心配は杞憂に終わった。
というか、どうせヒソカが『天国と地獄の道』を選んだからここで待ち構えてたんだろうけどさ。

「ご指名のようなので、ヒソカさんどうぞ」

「退屈そうだからナルミに譲るよ」

「いやいや、ああいう暑苦しいのは師匠だけで充分ですから」

俺達、というよりもヒソカがまるで執着していない様子を見て、ザムザは不機嫌そうに舌打ちをする。

「いい気になっていられるのも今の内だ。修行の成果を見せてやるぜ!」

ザムザは不意に毛皮の蓑に手を突っ込むと、一振りの曲刀を取り出した。
右手で曲刀を器用にクルクルと回し、更に左にもう一本の曲刀を取り出す。

「おお、二刀流! 俺と一緒だ」

「ふーん、ちょっとは進歩したのか見てあげるよ」

興味を示したヒソカが一歩前に出てザムザと対峙し、俺はお邪魔者なので部屋の隅に待避する。
この男は試練官とは名ばかりなのでこっそり先に進んでも問題はない気がするが、ヒソカと現役ハンターの戦いというのには興味がある。

「ふっ、ここからが俺の本気だぜ!」

二刀を手元で回転させつつ宙に放り投げ、更に毛皮の蓑から二本の曲刀を取り出す。計四本の曲刀がザムザの手元で踊るように宙に舞っている。
華麗な手捌きの技術は見事だが、四本の曲刀に一瞬でオーラを浸透させている”周”も淀みがない。俺も”周”は得意だが、ザムザとどちらが上かといえば、向こうに軍配が上がりそうだ。

「疾走せよ、『無限四刀流(ブレードランナー)』!」

「――!」

ヒソカがほう、と感心したように目を見開いたのと同時に、ザムザの手から二本の曲刀が放たれた。高速で回転しつつ飛翔する曲刀は、さながら大気を切り裂く風の刃のようでもあった。

上下に緩急をつけて迫る二本の曲刀を、ヒソカは跳躍しつつ身を屈める事で回避する。
だが、ザムザは投擲と同時に前へ駆け出し、ヒソカとの間合いを詰めていた。
手元に残していた二本の曲刀を左右に振るうが、惜しくもヒソカの服を掠めるだけで躱されてしまう。

「まだだっ!」

ザムザの斬撃を後方に飛び退く事で回避したヒソカであったが、先程かわした二本の曲刀がブーメランのように弧を描いて迫っており、その右頬と腹を薄く切り裂く。

「おおおっ!」

俺の攻撃が全く通じなかったヒソカに、一太刀浴びせるとは素晴らしい。流石は現役の賞金首ハンターといった所か。
ヒソカが死んだら第三次試験が不合格になってしまうのだが、恨みを晴らす絶好の機会でもある。
いいぞ、もっとやれ! と声には出さずに、俺はザムザの応援をする。

その応援に応えた訳ではないが、ヒソカは劣勢に立たされていた。
宙を舞う二刀、ザムザが振るう二刀が合わせて四刀。
投擲した曲刀を受け止めて、再び放つザムザの息をつく間もない攻撃に、流石のヒソカでも回避するので手一杯のようだった。
はじめの投擲以降は目立った傷を負ってはいないが、打開策がなければ体力が尽きるのもそう遠くないだろう。

「上下左右、正面背後! あらゆる角度から疾走する無限の刃が貴様を切り刻むっ!」

うおー、台詞が厨二臭くてかっけぇ!
よし、俺も念能力にテンプレの決め台詞を考えるかっ!
……あれ、でも俺の念能力って純粋な攻撃系が一つもない?

「くくく、苦痛にのたうち……そして死ねーッ!」

ヒートアップするザムザの雄叫びが、トドメと言わんばかりに発せられる。どうやらザムザは一気に勝負をかけるつもりのようだ。
……ちょっと台詞に地が出たのか陳腐な悪役のような気がするが、ヒソカさんピーンチッ!

パシッ!
と思いきや、ヒソカは迫る二本の曲刀を容易くキャッチしていた。

「え?」

「なっ?」

思わず声に出して呆然とする俺。
だが、衝撃を受けたのは俺よりも当のザムザであり、真っ向から曲刀を受け止められるという予想外のヒソカの行動に完全に足を止めてしまっている。

「よけるのは難しそうだけど、止めるのは簡単だね◆」

ヒソカが笑顔で手元の曲刀をくるくると回して、手に馴染ませている。熟練者のザムザにも劣らない曲刀の扱いには、余裕が感じられる。

冷静に分析すると、ザムザの念能力は投擲した曲刀の操作に特化している。
投擲した曲刀を遠隔操作して軌道を変えることが出来るが、威力や速度は投擲時のまま変わらない。
つまり、急カーブを描く操作によって速度は減少する一方なので、特定のタイミングで受け止めて再び投擲する必要がある。
逆に言えば、四本の曲刀は受け止める事が出来る投擲術でしかないのだ。

更に言えばザムザの念技は曲刀がなければ成立しないのも容易に想像が付く。
ヒソカが武器を奪おうと考えるのも当然と言える。ザムザは武器を奪われて呆然としている事からも、代替の曲刀も持っていないのだろう。

念能力は強い思いが力となる。更に制約と誓約をかける事で強化する事が出来る。
俺の武器を作り出す念能力、『注文の多い猟店(オーダーメイド)』も実は制約がいくつかある。
俺の場合は、作成した武器で攻撃を受けると通常以上のダメージを負ってしまう。更に、その武器が物理的に破壊された場合、それまでに貯めた『ゼニー』を全額失う。

このデメリットでしかないルールを敢えてかける事で、念能力に対する思いを強化して精度を高めているのだ。
勿論好き好んで制約と誓約をかけているのではない。俺の場合、そうでもしないと作り出した武器は満足な性能を発揮してくれなかった為に、泣く泣く制約と誓約をかけたのだった。
つまり、俺にとっても武器を奪われるという事は最大の弱点と言える。

その可能性を考えると武器を投擲するのは非常に危険な行為だ。
それをザムザがまさに身をもって証明している。四刀の曲刀を自在に操る彼の念技も、二刀ではその能力を発揮出来ない。
俺はアームストロング戦のような格好つける為だけの投擲は今後は控えようと心に決める。

「無駄な努力だったね◆」

「う、ううう……くそっ! くそオオォォォーッ!」

勝機を失ったザムザが悔しげに絶叫する。
一歩一歩と残虐な笑みを浮かべて近づいていくヒソカの前に、俺は立ちはだかった。

「もう勝負はついただろ?」

「邪魔をしないでくれないかな?」

口調こそ穏やかだが、思わず怯んでしまいそうな殺気を放っている。
だが、ザムザはハンターであってこの塔の囚人でもない。俺は悪人はどうなろうと知った事はないが、罪もない人間が殺されるのを黙って見過ごすつもりはない。
助けられるならば出来る限りは助けたいと思っている。命を捨ててまで赤の他人を助ける程俺はお人好しではないが、助ける努力を放棄しようとは思わない。

「今はハンター試験の最中だ。殺すことより合格する事が先決だろ?」

「そいつもう目が死んでるんだよね。見逃してやる理由はないだろ?」

どうやらヒソカはザムザを殺さないと気が済まないらしい。
『天国と地獄の道』のパートナーの生存、という条件があるので俺までは殺そうとしないだろうと高を括っていたが、この様子では本気で俺まで殺されかねない。
――どうする!?

「そこまでにしてもらおう」

突如部屋の一角の隠し扉が開き、姿を現わしたのは丸メガネをかけたパイナップル頭の男。
凶理狐(キリコ)と良く似た細い三日月型の目をして、こんな状況にも関わらず嫌らしい笑みを浮かべている。

「私は第三次試験官のリッポー。このトリックタワーという巨大刑務所の所長だ」

「殺すな、というのかい?」

「『試験官に逆らうな』という事だ」

「ふーん、今年もムカつく試験官ばかりだね◆」

「仕方がない」

ヒソカの挑戦的な態度に、リッポーはパチッと指を鳴らした。
途端、ヒソカの身体が右に傾く。左手で支えるように右腕を抑えているが、ヒソカは重力の戒めをかけられたかのように右腕に重さを感じているようだった。

流石にこれには驚いた表情を見せるヒソカ。
俺は何ともないので、これはあくまでヒソカ個人に向けられている現象である。
リッポーの念による束縛だろうか?

「ここを抜ければすぐに一階だ」

そう言い放つとリッポーは背を向けて部屋から出て行ってしまう。
ヒソカの右腕の戒めはリッポーが姿を消すと同時に解かれたようだ。右腕をぐるりと回して、異常がないか確認している。
まぁ、ヒソカが本気になったら、自分の右腕ぐらい引っこ抜きそうだけどね。

「今のは?」

「さぁ、分からないけど操作系かな? 重りがついたように、腕の自由が効かなくなったね」

「身体操作による、腕の束縛か?」

「でも、まだ全力じゃない気がするなぁ。ボクの知り合いに他人の身体を自由に操作出来る念能力者がいるけど、似たような能力かな?」

ぶつぶつと呟きながら、ヒソカはリッポーの後を追って隠し扉から部屋を出て行こうとする。

「ザムザはいいのか?」

「試験官の思い通りみたいで癪だけど、興がそがれちゃったから見逃してあげるよ。良かったね◆」

そう言い残して部屋を出て行ってしまったヒソカを見送る。
まぁ、リッポーが言うにはもうゴール直前という事だし、二人で行動しないでも構わないだろう。
憎悪の対象であるヒソカに見逃され、リッポーに命を救われたザムザは歯がゆそうに床に手をついて、唇を噛みしめていた。

「俺も武器を使うから気をつけてるけど、武器を投擲するなら奪われる可能性は考えないとな。それと操作系よりも素質を伸ばして放出系の技にしたらどう?」

「何で……オレが操作系じゃなくて放出系って分かったんだ?」

「いや、そりゃ何となくね」

短気で大雑把そのものですから。
落ち込むザムザと話をしてみると、予想した通りにザムザは放出系。それも素質的には強化系よりらしい。だが、先程見立てた通り、曲刀を操作する事に特化した念技だったようだ。

四本の曲刀が複雑な動きを可能とするとはいえ、速度や威力といった放出系に見合った強化をした方が良いんじゃないか?
「直観も大事だが適した系統で念技を伸ばした方が良い」とは師匠も言っていたからな。操作系と放出系は相性は良いが、純粋に放出系の念技にしても面白いと思う。

という様なことを言ってみると、ハンターにもなっていない半人前の俺の意見を、ザムザは素直に取り入れるつもりのようだ。見かけとは裏腹に性格は素直だった。

死んだ目をしていると言われたザムザであったが、その瞳にはヒソカに対する復讐の炎が宿っていた。
「来年こそ復讐を果たす!」と言っていたが、多分ヒソカは今年試験受かるだろうから別の機会ですね。





―――――

原作人物の改変です。リッポーと親しげな感じなので同じ賞金首ハンターという設定です。名前も山賊っぽい外見にちなんで、ザムザと命名しました。
性格的には強化系か放出系っぽいのですが、カストロのように別系の操作系のみで強化した為に完成度が高くないとさせて頂きました。ここでは放出系としたので、操作系とは相性は悪くないんですけどね。
原作では念能力かも不明で読み仮名がありませんでしたが念能力と妄想します。意味は違いますがぴったりだったので映画の名前を拝借しました。
途中の台詞が厨二臭いのは勘弁して下さい。好きなんですよねこの技。

ついでとばかりに、リッポーは刑務所署長らしく相手を拘束する念能力です。罪人以外を誤認逮捕すると懲役刑、という設定を制約にしました。
知られると困る能力なのでベラベラと喋ってくれないので、一人称の本文では詳細説明が出来ません。と言う事で補足します。


●ザムザ
【念能力名】無限四刀流(ブレードランナー)
【能力者の系統】放出系
【能力系統】操作系80%
【能力の説明】
 四本の曲刀を自在に操り、あらゆる角度から切り刻む技。
 投擲した曲刀に慣性を無視した遠隔操作を行うが、急カーブ等の操作によって威力が減少するので一定タイミングで受け止め、再び投擲する必要がある。
 操作系の性質に特化しているが、今後は放出系の性質の強化を目指すらしい。
【制約/誓約】
 曲刀での使用に限定。


●リッポー
【念能力名】処刑場へと続く道(グリーンマイル)
【能力者の系統】操作系
【能力系統】操作系100%、放出系80%
【能力の説明】
 『意図して枷を付けさせる』事で発動条件を満たす。両手両足に重りをつけた囚人をイメージして身体操作を行い、効力は両手両足に重力がかかったかのように動けなくなる。
 発動条件を満たす枷は、手首足首を覆う物ならどのような形状でも良い。(今回は腕時計型タイマーが発動条件を満たしている)
 主に賞金首と囚人といった殺人者への使用を想定しており、銭形のとっつぁんのロープ付き手錠のような物で拘束して捕縛する。リッポーのキャラからいって「タイホだ~!」とは言わないだろう。
【制約/誓約】
 過去に人を殺めた事がある者にしか使わない。
 もし誤って使ってしまった場合、罰則として一年間はこの能力が使えなくなる。
(ヒソカは昨年に20人近い受験生を再起不能、というか殺しているので使用は問題ないと判断している)



[11973] 016 第四次試験×奇数と偶数
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/10 15:22

ヒソカとパートナーという事が一番の地獄の試練だったが、何とか第三次試験も無事終わった。
俺はヒソカに続いてクリアタイムは11時間52分で、受験生の中では三番目だった。

一番目はハゲ忍者のハンゾー。聞いてもいないのにペラペラと喋り出したのだが、どうやら一人で進む道だったらしい……チームワークを問われる試験じゃなかったのかよ!

その後も合格者が次々と現れたが、制限時間が迫るにつれて俺は内心ハラハラしていた。
そう、まだゴン達四人の仲間が姿を現わしていないのだ。
まさか四人揃って不合格、かと思いきや残り一分というぎりぎりでゴン、キルア、クラピカが現れ、数秒前でレオリオとその他一名が到着した。

「タイムアップ!」

スピーカーから試験終了を告げる音が響いたのはその直後であった。
第三次試験の通過者は25名。
ぎりぎりであったが、ゴン達四人も全員欠ける事なく揃って第三次試験を通過した。

「よっ、ぎりぎりだったな」

「ナルミ! 合流しなかったから心配してたんだよ!」

「いやぁ、まさかそこのウンコくんに先を行かれるとは思ってみなかったよ」

ゴン達一行に同行した最後の一人のウンコ帽子の奴が、俺の隠し扉を奪った犯人だった。露骨なまでに悪意を込めて視線を向ける。

「誰がウンコだよ!」

「その帽子だけど?」

「おまっ、初対面なのに失礼だろ! オレの名前はポックルだ!」

「悪かったな、えっと……ウンポックル」

「ポックルだよ!」

名前を訂正するウンコ帽子の男。
こいつが悪くない事は百も承知しているが、俺はこいつを絶対に許さない。

「お前が隠し扉を先に使ったせいで、仲間はずれになった上にあやうくヒソカの仲間入りするところだったんだぞ! 許さない……お前だけは絶対に許さん!」

「逆恨みじゃないか……」

ウンコ帽子改めポックルが心底うんざりしたように溜息をついた。
しかし、その程度で俺の怒りが収まるはずもない。「額にウンコと油性マジックペンで書いてやるぅ」と声に出して掴みかかろうとするが、レオリオに後ろから羽交い締めにされる。

「ハ・ナ・セ!」

「落ち着けよ、ナルミ。結果的にみんな無事合格したんだからいいじゃねぇか」

「そうだ。それにポックルは冷静で知識も豊富で、弓を使った戦いでも私達の助けになってくれた」

「ポックルは幻獣を保護する為にハンターを目指してるんだって。オレもくじら島の動物達とは仲良くしてたから、その気持ちはよく分かるよ」

「他の使えない奴よりはマシだったよ」

ポックルを庇うような、それでいて褒めるような言葉が心に突き刺さる。
知識が豊富で、動物が好きで、戦闘もそれなりにこなすと言うポックル。
俺は一般常識にも欠け、動物は好き嫌い言う前に狩猟の対象としか見ておらず、唯一戦闘は念を覚えている分勝っているだろうが……。

「なんだこの激しい疎外感……俺はもういらない子なのか? 戦力外通知を受けた野球選手の気持ちが痛い程理解出来るぞ」

地面に両手をついて、額が擦れんばかりにうなだれて俺はネガティブな思考に陥った。

「お、おい。別にそんな意味で言ったわけじゃないだろ?」

「そうだよ! オレにとってナルミは大切な仲間だよ!」

「私が言いたかったのはポックルは平均的に高い能力を持つと言う事だ。だが、逆にそれは長所が薄く器用貧乏な弱点とも言える」

「ポックルじゃ戦っても面白くなさそうだし、ナルミのが強いよ」

かけられた慰めの言葉に、俺は嬉しさが込み上げてきた。
一方のポックルは、俺の隣で両手をついて落ち込んでいた。

器用貧乏とか戦闘面での能力不足とか、本人も色々思う所があったのかもしれない。
何よりなんとなく漂う小物っぷりと言うべきか、あっさり殺されそうな不幸な星の下に生まれたような、いじられキャラっぷりが他人とは思えずに同情を引いた。

俺とポックルはさりげなく視線を交わす。
その瞳に俺達にしか分からない共通した光を感じて、お互いに熱く見つめ合う。
そして、どちらからともなく自然と握手を交わしていた。

「分かる、分かるぞ! ポックルからは俺と同じ、不幸の星の下に生まれたような臭いがするぞ!」

「俺にも分かった。あんたが俺と同じ種類の人間なんだってことが。ああ、俺達は分かり合えるんだ……」

「ポックル、その通りだ!」

「ナルミ……って呼んでもいいか?」

俺達だけに分かる理由で、シンクロ率は100%を越えた。
お互いに涙を流してがっしりとお互いの肩を抱き合う。
うおおおおおぉぉぉ、お前は俺の心の友だっ!

……ん?
そして、ようやく周囲の視線が俺達に向けられている事に気づいた。
ゴン達四人のいつものように可哀想な者を見る目、口元を歪めて笑みを浮かべるヒソカの嫌らしい目、ハンゾーが一歩身を引いて蔑むような目、丸帽子を被った可愛いポンズが何かを期待するキラキラした目。

おい、何か一部の奴らにおホモだち的な誤解をされてるぞ!
これはまずい、と思って慌てて体を離す。

「ポックルとは友達になれそうだ」

「ああ、ナルミの健闘を祈るよ」

拳をコツンと突き合わせて、それ以後俺達は視線を合わせる事はなかった。
このままポックルと同じようにいじられキャラで終わってなるものか!



仲間達との再会に喜んでいると、突然別室からリッポーが姿を現した。
リッポーはヒソカの殺気の籠もった視線を気にもせずに、黒服の男にタワーの一階の扉を開放させて無言で扉から出て行く。俺達受験生達もその後は追ってトリックタワーの外へ出た。

「諸君、第三次試験の通過おめでとう。私の名前はリッポー。第四次試験の担当官も務める事になっている」

風が吹き付ける断崖絶壁の前で、リッポーは自己紹介をした。

「四次試験はここから見えるゼビル島にて行われる」

背後に見える島を指さしながら告げる。
あいかわらず嫌らしい笑みが張り付いたままである。

「諸君にはあの島で、生き残りを賭けたサバイバルをしてもらう。その生き残りの条件とは諸君が持つプレートをもう一枚集める事だ」

「もう一枚のプレートがあの島に隠されているって事か?」

「島にプレートは隠されていない。目的のプレートは諸君の隣の受験生が持っている」

「っ!?」

レオリオが感じた疑問に対して、リッポーはあからさまに呆れたように告げる。

「合格条件は『奇数』と『偶数』の番号が描かれた二枚のプレートを集める事」

リッポーが生き残りの条件として説明したのは、受験生が第一次試験開始前に係員から手渡されたプレートを二枚集める事だった。
当然ながら受験生一人につきプレートは一枚だ。もう一枚を他の受験生からどのようにして入手するのかが問題になる。

「殺して奪おうと、交渉して入手しようと、仲間に譲ってもらおうと手段は問わない」

「ちょっと、待った! 受験生が持っている奇数と偶数のプレートの数に偏りがあったら、不公平になるんじゃないか?」

俺はその言葉に疑問を挟むが、リッポーもそれぐらいは想定していたのだろう。

「その心配は無用だ。偶然にも奇数と偶数は丁度半分づつだ。だが、例え自分のプレートを奪われても、他人のものを二枚集めても合格とする。さらに言えば自分と同じ奇数偶数のプレートを奪ってはならないというルールもない。偶数か奇数が二枚あるのならば、必要なプレートを交換し合う事も可能だろう」

その説明にこれが実質バトルロワイヤルである事を全員が悟り、さりげなく自分の番号札を隠す受験生達が何人もいた。
まさにこの場にいる受験生達が敵と成り得るのだから当然の自衛手段と言える。俺もそれに倣って隠しておこう。

「四次試験は全員同時ではなく、第三次試験の通過順に二分の間隔をあけてスタートする。第三次試験の成績優秀者はじっくりと後に来る者を罠を張って待ち構えるのも良い、協力者が来るのを待っても良い。最終的に奇数と偶数の二枚のプレートを集め、七日後にスタート地点に戻った者が合格だ」

俺の記憶では第四次試験はクジでターゲットを選んで『狩る者と狩られる者』に分かれるんだったよな。
もう、何の役にも立たない原作知識だ。こんな試験内容になると分かっていたなら、事前にリタイアした受験生のプレートをパクっておいたんだけどね。まぁ、今更言っても仕方がない。

リッポーからの説明が終わった後、俺達受験生はゼビル島へと向かう船が到着するまでの間の二時間の休憩が与えられた。
それと同時に乗り込んだ船上で、女性の係員から諸々の説明があった。

何でも第四次試験まで進んだ受験生には来年試験会場までの道を無条件で教えてもらえるらしいが、ここまで来て不合格になるつもりの受験生は誰もいない。空気を読めっつーに!
あ、でももし落ちても凶理狐(キリコ)に道案内をしてもらう必要はなくなったなぁ。

この時間は船内は自由に移動して他の受験生と会話する事も出来るので、第四次試験の作戦を練る良い機会だ。
遠目で見た限りではゼビル島は深い森が生い茂る、自然を残したままの無人島。島の直径は意外と大きく、潜んだ受験生を見つけるのは骨が折れるかもしれない。そう、一人では……。

第四次試験はバトルロワイヤルであるが、それでも圧倒的に仲間がいる方が有利になる。
最終的に仲間で争うことになろうとも、それまでに番号札を奪取できる可能性が跳ね上がるからだ。

なるほど、第三次試験の布石がここに生きてくるわけか。
共に苦難を乗り越えたチームメンバーとならば、バトルロワイヤルである第四次試験で協力体制を取るの事に抵抗はあまりない。

逆にハンゾーのように最速で合格しようとも、仲間がいないまま一人で第三次試験を進んだ者は第四次試験で協力体制を取るのが難しくなる。
一見、不公平に感じた第三次試験のチームプレイとのバランスが、第四次試験で調整されるという訳だ。

うん、この試験は俺にとっては得意分野だ。
モンスターハンター見習の俺は森やジャングルといった地形でのサバイバル経験もあり、なおかつゴン、キルア、クラピカ、レオリオと信頼出来る仲間がいる。
ん、第三次試験のチームならヒソカはだと? 勿論、ノーサンキューだ!

流石に大人数で行動しては、プレートを奪うべき敵が逃げ出しそうなので、バランス的には二人組ぐらいになるのがいいだろう。
年齢的に気が合うゴンとキルア、力と知恵のレオリオとクラピカが組みそうなので、俺は他の……例えばポックルと組むのはいいかもしれない。弓を使うというポックルと、接近戦に秀でた俺、というのはバランスがいい。
考えをまとめてゴン達と相談しようと向かった所で、キルアが俺に声をかけてきた。

「なんで、せこっちく番号札隠してんの?」

「なんでって、周りを見てみろよ。自分の番号を知られない方が有利に決まってるだろ?」

何を当たり前な事を、と思いつつキルアに返答する。

「いまさら隠したって、ナルミが406番ってことはみんな知ってるよ」

「ばっ、馬鹿! 俺の番号言うなよっ!」

俺の必死の抗議に、キルアはやれやれと言った風に喋り出した。

「第一次試験で真実の口で100点、そしてヒソカとの死闘を繰り広げて試験官に仲裁される」

「それが何だよ?」

「第二次試験では大馬鹿発言をして、数々の脱落者を出したメンチの毒入り料理をただ一人完食」

「……むー、ほら結局俺も気絶したじゃん?」

「第三次試験ではヒソカとコンビを組んで二番手で合格、ポックルとの怪しい馬鹿騒動。これだけやっといて、目立ってないわけないじゃん?」

「……ムームーっ!」

既に俺の反論は言葉になっていなかった。図星を指された、とも言える。

「ナルミって周りからヒソカと同類だって思われてる自覚ないの?」

「やめろー、俺をあんな変態ピエロとは同列に扱うなーっ!」

「ほら、また目立ってるじゃん」

「!?」

大声でのやりとりで既に周囲の注目を集まっていた。
ケケケと猫のような鋭敏な瞳に、口元を吊り上げて笑うキルアの顔ときたら何とも憎らしい!

「ナルミってからかうと面白いよな」

「オレはナルミを見てるだけでも楽しいよ」

ゴンとキルアの批評は決して悪い印象ではないはずなのに、嬉しいやら悲しいやら感情は複雑だ。
年下の二人にからかわれている姿は、あまり恰好の良いものじゃない。
よし、ここらで年上の威厳と言う物を見せてやらねばならない。

「ふう、落ち着け……俺はクールだ。冷静になるんだ!」

「見かけだけじゃん、クールなのは」

「ナルミみたいな面白人間に会ったのは初めてだよ」

ブチ!
格好なんて知ったことか! 大人にも我慢の限界ってもんがある!

「ぐおらー! クソ餓鬼どもがー! もーゆるさん!」

「怒った! やーい、怒った!」

「鬼さんおいで! 手の鳴る方へ!」

走り回るのに充分な広さの船の甲板の上を、逃げるゴンとキルアを追い回して駆けずり回る。
身軽なキルアと目の良いゴンの二人がお互いに連携を取り合って逃げている為に、頭に血が上って無駄な動きばかりの俺に捕まえられるはずもなかった。

「何をやっているんだか……」

「ま、ナルミだからな」

その様子を見守っていたクラピカとレオリオの呆れるような声が聞こえた。



運動による怒りを発散させて落ち着いた所で追いかけっこは終了し、俺達五人は円陣を組んで周囲に声が漏れないように相談をする。

「第四次試験は実の所は第三次試験の延長にあると言ってもいい。バトルロワイヤルを臭わせつつも、実質は協力が可能でチームプレイが有利となる仕組みになっている。第三次試験を通過する為に協力したチームメンバーとは自然と協力体制が組みやすくなる。更に言えば試験官のリッポーが、第三次に続けて第四次試験も担当する事からも、試験内容が意図的にチームプレイを意識させる物である事が推測出来る」

クラピカが下した判断はオレと同じであった。一見利害が対立するように見える受験生同士だが、協力することで得られるメリットは大きい。
また、クラピカに言われて気づいたのだが、リッポーが二つの試験を担当しているとうことは、試験内容を決めたのも奴という事になる。当然、そこに関連性があっても不思議ではない。

「それって、何人かがチームを組んで固まるって事?」

「他の受験生も二人か三人のチームを組む可能性はある」

ゴンの疑問に対してクラピカが他の受験生に対する見立てを説明する。
ああ、確かに目つきの悪い帽子三兄弟とか絶対協力して行動するだろうな。

「俺達全員でチームを組むか?」

「いや、五人でチームを組むと、相手が逃げ腰になりプレートの奪取が困難になる。理想としてはこちらも二人か三人組といった所だろう」

「オレは一人でいいよ」

レオリオとクラピカの提案に反対するように、キルアが自信を持って宣言した。
そりゃ、大抵の受験生相手なら一人でも大丈夫だろうけど、ヒソカと出会ったらどうするつもりなんだ?

「えー、オレと一緒に行こうよ!」

ゴンが食い下がって説得すると、キルアも「ゴンならいいか」と二人で行動するのを了承した。
すると残りはクラピカとレオリオと俺、となるのだがここで一つ問題が発覚した。

「私達がチームを組むには、第四次試験の開始時間の差という問題が発生する」

そう、俺が第三次試験でチームを組んだのがヒソカ。そして俺のクリアタイムはハンゾー、ヒソカに続いて三番目だ。
だが、クラピカとレオリオのクリアタイムは制限時間ぎりぎりだったので、後ろから数えた方が早い。
つまり、俺がクラピカ達と合流するには、その間に二十数人をやり過ごして隠れねばならない。

”絶”で隠れるのは得意な俺はそれでも良いと言ったのだが、クラピカとレオリオは猛烈に反対した。
まぁ、普通に考えたらそれがどれだけ無謀な事が分かるだけに反論の言葉はない。

結局、俺は他の誰かと組んだ方がいい、というのが俺とキルアを除いた三人が出した答えだった。
残念な事に開始時間の差という問題に関してはポックルも同様なので、実質俺は協力体制が組めそうな受験生の知り合いはいない。

「ヒソカと……」

「ノーサンキュー!!!」

ゴンが言い出しそうになった提案を、俺は途中で遮って否定する。
十二時間でも危険だったのに、七日間も奴といたら地獄の道以上の地獄である。俺はそこまで罪深くはないはずだ。

「いや、俺は誰か探すからいいよ。それに言ったろ? モンスターハンター見習いの俺はサバイバル技術には自信があるんだ」

「そうか。ならばナルミは別行動だな。私達が出会った場合はなるべく争わないのが望ましいが、そうも行かない状況も考えられる。その時には――覚悟をしよう」

「ああ、俺達は合格しなくちゃならないからな。それにプレートが余っていたら交渉出来る可能性もあるからな」

俺達五人の作戦会議は終了した。
残念ながら俺は一人になってしまったが、ヒソカと組むよりはましである。

五人は残り一時間の時間を各々の休息に当てる為に解散する。
丁度その様子を見計らったのか、一人の男が俺に声をかけてきた。

無精髭が生えた四角い顔。ランニングシャツと半ズボンから覗く手足は厚い筋肉に覆われており、一流のアスリートのように鍛え上げられた肉体を誇示していた。
よく見ればトリックタワーの頂上で外壁を伝って降りようとして、人面怪鳥に襲われそうになっていた脇役のロッククライマーじゃないか。
前々気づかなかったが、第三次試験通過出来ていたのか。

「助けてもらったのに自己紹介がまだだったな。オレ様の名はロック! 世界の頂上と呼ばれる七つの山を踏破した世界一のロッククライマーだ。組む相手がいないならオレ様と、組・ま・な・い・か?」

「いや、間に合ってます」と俺は即答した。





―――――

ゴン達の仲間の五人目はポックルでした。
自分はかなりポックル好きです。ナルミにもその要素が大分出てる気がします。

ロッククライマーは勝手に名前をつけてしまいました。
需要は皆無でしょうがナルミの第四次試験のパートナーです。何となく出してみました。
(最近更に男臭いのに、誰も喜ばないだろうなぁ)

●ロック(オリジナル設定)
 自称世界一のロッククライマー。根拠なき自信を持つ男。
 原作ではトリックタワー頂上の外壁を降りようとして、人面怪鳥に襲われて死亡。今作ではナルミに助けられた為に多少の恩義を感じているが、基本的に自己中心的な男。


ちなみに原作では第三次試験通過が25名。うち一人は一階到達時に死亡、もう一人はトンパが含まれていました。
今作の通過者25名は原作でいなかったナルミとロックの2名が含まれ、第四次試験参加者は原作より1名分多くなっています。
その他23名のメンバーに変動はありません。

●原作・第四次試験の参加者
 34番:リュウ
 44番:ヒソカ
 53番:ポックル
 80番:スパー
 89番:シシトウ
 99番:キルア
103番:バーボン
105番:キュウ
118番:ソミー
191番:ポドロ
197番:アモリ
198番:イモリ
199番:ウモリ
246番:ポンズ
281番:アゴン
294番:ハンゾー
301番:ギタラクル
362番:ケンミ
371番:ゴズ
384番:ゲレタ
403番:レオリオ
404番:クラピカ
405番:ゴン

●オリジナル・第四次試験の参加者
 86番:ロック
406番:ナルミ



[11973] 017 第四次試験×千里眼の地図
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/01 00:33

結局、ロックの提案を断る事なく、二人で組んで行動する事になった。
一人で行動する事も可能だったが、助けてもらった恩を返したいと殊勝な事を言ってくるロックの提案を断り切れなかった、というのが実際の理由だ。

更にロックの出発順が俺の次の四番目であったことも大きい。
トリックタワーを四番手で通過するとは意外と出来るのか? と思ったが、一人で進む道で難なく切り抜けた事からそれほどハードな道ではなかったようだ。

だが、ヒソカ程ではないが無精髭の暑苦しいオッサンと一緒に七日間を過ごすのは嫌だったので、こっそり他に協力体制を組める受験生がいたらコンビを解消するつもりだったのだが、俺と組んでくれる受験生は誰もいなかった。

まず目を付けたのは、第三次試験を通過した女性の二人。
男臭さを解消出来るのは、やっぱり華やかな女の子しかいないと思って誘ってはみた物の見事に撃沈した。
その理由は、銃の使い手らしいスパーは狙撃が基本なので単独行動をとると言う事。

もう一人のポンズは……なんとポックルと組むとのことだ。
いくら出発順が後発で近かったとはいえ、憎しみで人が殺せたらと思わずにはいられない。
「いじられキャラのくせに良い目を見やがって!」と心の友に絶好を言い渡したのはその直後である。
ポックルは「何故?」と呆然としていたが、奴はやはり俺の敵だということが判明した。
はぁ、女の子フラグが立たずにロックフラグが立つって、俺ってどんなクソゲーの主人公なんだろうか。ああ、不幸過ぎる。

我が身の不幸を嘆いていた俺の背後には、二人の女性に断られるのを見ていたのかニヤニヤと笑みを浮かべたヒソカがいた。
クソ野郎……。
うん、幻覚だから敢えて見ない振りをしよう。だって、現実にあんなピエロの扮装をしたイカれた男がいる訳がない。

だが、その後何故かついてくるヒソカの存在もあって、協力を提案しようとした他の受験生は目さえ合わせてくれなかった。
どうやらヒソカと同類という認識が周囲にはあるようで、コンビを組んでいると思われてしまったようだ。
誤解なんだ、まじで勘弁してくれ!

ヒソカにそう文句を言うと、「いっそ、本当にボクと組んじゃうかい?」とか笑顔で言われたので、両手でバッテンを作って逃げ出した。
そのような経緯もあって仲間捜しは失敗に終わり、俺はロックと協力体制を組むことになったのだった。

だが、四次試験が始まって一日目で、俺は早々に後悔することになった。
自称世界一のロッククライマーであったが、どこからその自信が沸き上がるのか、身を隠すと言う事をまるでしない。

開始から十時間余りが経過した頃の事だった。
何とこのアホはスタート地点からそれほど離れてもいない場所で、「襲って来た敵を返り討ちにしてやる!」とかほざきだした。

周囲には身を隠すには最適な深い森林が立ちこめ、目視では敵がどこに潜んでいるか分からない状況である。
襲ってくれ、言わんばかりに見晴らしのいい空き地で仁王立ちしている姿はアホそのものである。

「ここはオレ様に任せろ!」

「いや、サバイバルなんだから隠れないとだめだろ?」

「オレ様は世界一のロッククライマーッ! 立ちはだかる山を乗り越えてこそ、オレ様は輝くのだ!」

「そういう問題じゃないんだけど……」

最早ロックに何を言っても無駄だと悟った。
心から殺意が沸いたが、残念ながらロックは86番なので俺がこいつのプレートを奪っても合格条件は満たせない。
開き直ってこのアホを囮にして、敵をおびき寄せる作戦に転換しよう。

「ロック、それならばこの場は任せる。だが、俺に向って『第四次試験に二人揃って通過しよう』と言ってくれ」

「ハッハッハ、不安に思っているのか? だが、安心しろ! このオレ様がいれば百人力だぜ!」

「いいから、はよ言え」

「いいだろう! オレ様とナルミが揃って第四次試験を通過しようじゃないか!」

「サンキュウ。じゃあ、ここは任せたぜ」

ロックの依頼という形をとった事で、『狩猟人生(ハンターズライフ)』で受注したクエストに更に『サブ依頼』という形で難易度を上げる為の条件を追加する。
このサブ依頼を達成する事が出来れば報酬金が加算され、失敗した場合は逆に報酬金が減額される。
だが、何と言ってもやる気に関わるのでそのデメリットを負っても、やるだけの価値はある。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 クエスト名 :ハンター試験
 達成条件  :ハンター試験に合格/ライセンスカードを取得
 サブ依頼A :第四次試験にナルミとロックが合格
 報酬金   :20000z
 契約金   :2000z
 指定地   :ザバン市
 戦闘対象  :???
 特殊条件  :なし

 ──────────────────
 現在の所持金:25200z

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

さて、ロックを囮にした作戦だが、問題はどこから敵が襲ってくるかだ。
俺は”絶”で気配を隠して岩場の陰に移動し、サバイバルで役立つ念能力を発動する。

「こんな時こそ役立つのが……『千里眼の地図(グルグルマップ)』!」

この能力は『ゼニー』を消費して、自分の現在位置を中心とした直径四キロメートの地形の地図を具現化する。
上空から航空写真を撮ったように地形を把握する手法なので、建物内や洞窟内といった遮蔽物に遮られた地形の把握は出来ない。
ただし、航空写真といっても人や生物といった地形以外の対象は写らないので、あくまで状況判断にしか使えない。

しかし、地図は拡大縮小が可能なデジタルマップ風で、木々がどの程度の間隔で生えているか、岩場の連なり具合がどの程度あるかといった地形を把握する事が出来るので、わざわざ周囲を探索する必要はない。

他にもクエストで受注した戦闘対象のモンスターにオーラが接触すると、地図範囲内にいる限りは位置を探知する事が出来るのだが、今回はモンスターは関係ないので意味はない。

ちなみに制約は、この地図を他者に触れられると『ゼニー』を全額失う事、それと発動するのは『狩猟人生(ハンターズライフ)』でクエストを受注している時に限定される事だ。
一つ目は、ロックからは離れて使用しているので触れられる事はなく、二つ目は出発前に『ハンター試験』のクエストを受注しているので条件をクリアしている。

『千里眼の地図(グルグルマップ)』で消費したゼニーは300z。
発動したその瞬間の状況しか知ることは出来ないのでリアルタイム性こそないが、消費したオーラ量も大した負担にならないので探知系の能力としては使い勝手がいい。

300zが消費されて、貯蓄した残りのゼニーが24900zとなったが、『斬破刀』に強化するのに必要な素材に19000zもかかった事から比較すれば安いものだ。

周囲の地形の状況を把握した俺は、ロックの立つ位置から死角となって隠れやすい場所に目星を付けていく。
横からの視点では隠れられても、地図で再現した上からの視点で見ると死角を確実に看破していける。
だが、木々の根本、岩場の陰、地面の窪地、とこれだけ自然の木々に溢れているとその数も多い。

”絶”で気配を絶ったまま目星をつけた場所を、”円”の範囲内の十五メートルまで接近して潜む者がいないか探し回る。
この地形把握能力と修行で培った隠蔽術が俺のサバイバル技術を補強する最大の強みだ。

勿論”絶”は得意なので、能力を使わずとも第四次試験を勝ち残る事は出来るだけの自信はある。
だが、あいにく姿を隠すことを知らないロックという足手まといがいる。あれだけ無防備なロックが何時襲撃されるか分からない以上、時間をかける訳にはいかず、俺も本気を出さざるを得ない。

そして、周囲を探していると大樹の影に潜む男の姿を発見した。
髪を短く刈り上げた坊主頭に、瞳が見えないぐらいの糸目の男。小柄だが鍛えられた身体つきをしているので、武術には長けている様子が伺える。
だが、サバイバル技術に関してはたいした事はなさそうで、物陰に隠れてはいる物の気配を隠すのは得意ではないらしい。

おそらく、町などに点在する武術道場の門下生だろうか?
隙だらけでその身を晒すロックの姿に、何か罠でもあるのかと警戒して様子である。なかなか慎重な性格をしているが、今回は完全に裏目に出ている。
まぁ、あの隙だらけの姿を見て警戒するのは当然と言えば当然であろう。むしろ、無防備に自分の姿を晒すロックがアホなのだ。

念の為、仲間がいないか”円”で探ってみるが、少なくとも十五メートル以内にはこの男以外の人間はいない。周囲には気配も感じられないので、おそらく単独行動と判断する。

「――やるかっ!」

暗殺者として卓越しているキルアほど完璧ではないが、俺は背後から音を立てずに一直線に駆け抜けた。
”絶”で気配を隠している今、念能力者が”円”を使うか、ゴンのようによほど感が鋭い者でなければ気づく事はないだろう。
互いの距離が三メートルに縮んだ所で、男はようやく背後から迫る俺に気づいて振り返った。

――だが、遅い。
男が迎撃態勢を整えた時には、既に俺の双剣が首と心臓の位置にぴたりと突きつけてられていた。

「プレートを渡せ。怪我を負ってリタイアするよりマシだろう?」

「やはり彼は囮ですか……」

「本人はあれで返り討ちにすると息巻いているぞ」

「未熟。彼に気をとられたのが敗因ですね」

男は観念して、首まで覆った胴着のようなシャツの懐からプレートを取り出した。
その番号は362……偶数のプレートか。残念ながら俺の求める奇数番のプレートではないので、これを材料に誰かと交換したいところだな。

「悪いが、しばらく眠っていてもらう」

「うっ!」

首に突きつけた左の双剣を引いて、貫手で人体の急所の一つである水月(すいげつ)を打つ。
あっけなく意識を手放したが、おそらくそれはダメージを残さない自衛の手段であろう。
鍛錬を積んだ達人ならば身体の使い方というものを熟知している。俺の貫手が決まった時、胴には一切余分な力が込められていなかった。それ故に男はこうも容易く気を失ったのだ。
怪我などの後遺症はないだろうが、しばらくは目が覚める事はないだろう。

男の手元から零れ落ちたプレートを回収し、ひとまずこの場から離れて様子を伺う。
更に待つこと数分、気を失った男に近づく他の受験生の気配を感じない事から、やはり単独行動であったのだろうと安心する。

さて、順調にプレートを手に入れた事だし、男の存在に全く気づいていなかったロックと合流するか……。
と、遠くから見えたバカに視線を向けた瞬間、突然その身体が膝をつく。焦点が合わなくなった瞳を左右に動かした後、意識を手放して前から崩れ落ちた。

――敵の襲撃か!?

俺はすぐにロックの元に向かうような愚を犯さず、まず周囲の状況把握に努めた。
”円”を展開して探知した十五メートル以内には人の姿はない。ロックに何らかの攻撃が加えられたのは確かであるから、その手段は直接ではなく間接的な攻撃だろう。

受験生の中で明らかに遠距離からの攻撃を得意としていたのは銃を武器とするスパーが思いついたが、狙撃の弾丸が命中したにしてはロックが意識を失うまでが長かった。
すると、毒や痺れといった遅効性の弾だったのだろうか?
いや、遠目からではあるがロック自身が倒れる直前に攻撃を食らったように驚愕していたので、事前に弾丸が命中しているような様子には見えなかった。確実に俺が見ている前で何らかの攻撃が行われたはずだ。

すると他に考えられるのは……あらゆる薬を使うと言っていたポンズ?
だが彼女の手口は”待ち”にあるとトンパも言っていたし、無謀であるが敵の襲撃を待ち構えていたロックから近づいた様子はない。
他に俺の知っている限りでは武術を得意とする猛者ばかりのような気がする。他に毒らしきものを使う者は……いた!

そうだ、蛇使いのバーボン!
トンパが蛇を操ると言っていたから、この自然の木々の中に手飼いの蛇を放つのは容易であろう。俺の気配探知でも流石に森の中に生息しているであろう小動物にまでは注意は及ばない。
俺に気づかれずにロックを襲った点から推測すると、バーボンはその条件にぴたりと一致する。
糸目の男を襲撃したこのタイミングで蛇にロックに襲わせ、自分は探知されないように離れていたという事か?

襲撃者の推測をつけたが、俺は”絶”を維持したままでその場を動かなかった。
何故なら、予測が当たっているにしろはずれているにしろ、どちらにしてもロックのプレートを回収しに襲撃者は近寄らざるを得ないからだ。当然、ロックに対して何らかのアクションがあるはずだ。

……と、考えたのだが冷静になってみれば、蛇を操るのならプレートを回収するぐらいは出来るんじゃないか、という可能性に思い当たった。

「チッ!」と思わず悪態をついて、ロックの元に駆け寄る。
馬鹿正直に胸にプレートをつけていたはずだが、案の定そこにはプレートはなかった。

「くそ、やられた!」

俺はロックの症状を確認し、致死性の毒ではない事を悟る。
落ち着ける場所に移動してやりたいが、今すぐに襲撃者を負わねば逃げられてしまうかもしれない。
俯せに倒れていたロックを仰向けにしてやり、苦痛に顔を歪めているが呼吸が少し整うのを確認して俺は決断を下す。

「さらば、ロック! お前の事は忘れないぞ!」

へんじはない、ただのしかばねのようだ。
いや、多分命に別条はない……はず。
なので、個人的に仲間ではない只の協力者であるロックを切り捨て、襲撃者の追跡をする事に決めた。

……何もロックを見殺しにする訳ではない。毒の解毒に一番精通しているのは、毒を使った者と決まっている。
つまり、襲撃者から解毒薬なりを奪うのが医術の心得もない俺がこの場に止まるよりも有効ではないか、と今考えついた。ふむ、なかなか説得力のある理由じゃないか?
勿論、本当の理由は俺を出し抜いてくれた襲撃者……蛇遣いのバーボンに一矢報いてやらねば俺の気がすまない、って事だけどね。

「俺から逃げられると思うなよ? ――さぁ、狩りの時間だっ!」

俺は一匹の獣となり、森を駆け抜けた。
狙うのは襲撃者のプレート、ただ一つ……。





―――――

ちょっと長くなってしまったので、一日目を前後に分けました。
糸目の男ケンミの偶数のプレートをゲットするも、ロックのプレートは奪われてしまいました。
現時点でナルミは知りませんが、バーボンの番号は103番。ロックの86番のプレートを手に入れて、合格条件を達成しています。

ゼニーの貯蓄額を出してみましたが、都合によっては修正するかもしれませんのであしからず。



[11973] 018 第四次試験×蛇使いの罠
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/28 23:41

「――さぁ、狩りの時間だっ!」

とか格好付けて見たものの、実を言えばバーボンらしき襲撃者がどこに逃げたのか見当もつかない。
何故なら奴は蛇にロックを襲わせたものの、自身は姿を全く現わしていないのでその気配を探知出来なかったのだ。
では、この森を駆け回って襲撃者の痕跡を探すべだろうか?

答えはノーである。
うん、こんな時に頼れるのが――『千里眼の地図(グルグルマップ)』!
さっきもやった? うん、ほんと使えるんだよね。

蛇のような小さい生物が通った後は分からないが、ロックへの襲撃が成功した後にバーボン本人が移動した痕跡ならば見つけられる可能性がある。
例えば草が傾いた形跡、土を踏みしめた跡、邪魔な木の枝を折った跡。それらは実際に目視しなければ判別がつかないような僅かな痕跡であるが、上空から撮影した拡大可能な写真があったとしたらどうだろうか?
そう、鮮明にその痕跡を見つけ出す事が出来るのだ。

それに加えて接触したモンスターの位置を知る事も出来る『千里眼の地図(グルグルマップ)』は、モンスターの狩猟において心強い味方となる。
モンハンで登場したモンスターの位置を知る事が出来る『千里眼の薬』と、各エリアの形が示された『地図』の効果のシステムを再現したのがこの能力だ。

何故、数あるモンハンシステムの中からこのシステムを再現したのかと言えば、理由は単純明確だ。
考えても見て欲しい。もしも地図もなく、探知も出来ない広大なマップからモンスターを探すだけで数時間もかかるモンハンって……ほら、面白くないだろう?
現実のモンスターの狩猟も似たようなもので、依頼を受けてからモンスターを探し出すまでが狩猟において一番苦労する所なのだ。
ぶっちゃけ、師匠達四人に勝てるモンスターなんて代物には一度も出会った事はないので、斥候役の俺がモンスターを見つけさえすれば討伐は適ったも同然なのだ。

師匠達のように戦闘に特化した能力というのには俺も憧れた。だが、三年間は念能力も知らずにモンハン世界と勘違いして狩猟の手伝いをしていた。
その後念能力を知ったが、その過程において最も苦労した事を改善する為の能力をイメージするのも当然と言えよう。
勿論、師匠達の力になりたいと思った俺が、武器作成システムを再現したのも同じような理由からだ。
その結果、俺の能力は直線的に戦闘には関わらない補助的な能力のみになったのだったが、後悔はしていない。

――と、話が逸れた。何が言いたいのかと言うと、俺がモンスター狩猟の為に培った技術と能力は、見習でありながら斥候役を任されていた程度には使えるという事だ。
それによって導き出された襲撃者が残した痕跡を元に、示している方向へと俺は駆けだした。

木々の枝から数メートルの跳躍を繰り返し、幹を足場にしてして前に駆ける。
一見すると地上を走るよりも速度は確実に落ちて無駄に見えるのだが、これも足跡を残さない為の追跡術の一環である。
襲撃者を追撃中に、別の襲撃者に襲われるという愚行を犯さない為の用心だ。

こうして、草木に刻まれた道を数キロメートルは追跡して辿り着いたのは、土の段差で出来た横穴。
しっかりと地盤が固まったその穴は、天然の地下洞窟のような構造をしている。
鬱蒼とした木々の合間に存在する薄暗い底へと誘う様は、さながら蛇の巣のようにも見える。

「罠……か?」

残念ながら『千里眼の地図(グルグルマップ)』では内部の様子を伺う事は出来ない。
だが、これまで追跡した痕跡から確信したが、ロックを襲撃した人物があの穴の中に入ったのは確実だ。

まずは、”円”。
十五メートル内の物体、人物、地形、その全てを正確に把握出来る。
その結果判明したのは横穴自体はそれほど深さがあるわけではなく、やはり中にいるのはバーボンであるという事だ。
ただバーボンがいるのはおよそ幅十メートル、高さ四メートルの場所で、逃げ場はないが侵入口も一つしかないという場所だった。
どうも奴はロックのプレートを奪取して奇数と偶数のプレートが揃ったようで、”攻め”から”待ち”の戦法に切り替えたようだ。

さて、ではどうやってプレートを回収するか、という事が問題になる。
蛇はピット器官と呼ばれる赤外線感知器官を持っている。いわゆる温度を可視化するサーモグラフィと同等の事が出来るという事だ。この横穴のような暗闇でも正確に位置を把握する。
恐らくそれを見越してバーボンが敢えて逃げ道のない穴で待ちの戦法をとったのであろう。当然中には無数の蛇が潜んで、侵入者が蛇の巣へと入るのを待ち構えている。
ロックのように完全に意識を失う程の毒への対抗手段が必要だが、いくら俺の体が常人よりも頑丈とはいえキルアのように毒を完全に無効化する事は出来ない。

「くそっ、何十匹もの蛇を使えるなんて、念能力じゃなくても厄介過ぎる」

蛇に噛まれるよりも速くバーボンからプレートを回収するか?
狭い入口の通路で視界も悪く、更に蛇が多数潜んでいるとなるとその全てをかわしきるのは不可能だ。

ならば、”纏”で肉体を頑丈にして蛇の牙が刺さらないようにするか?
しかし、秘境でモンスターの蛇竜に噛まれた事で怪我を負った事もあるので、精神的に蛇に噛まれるのは遠慮したい。それにもし少しでも傷が付いたら、そこから毒が広がる事になる。
やはり罠に飛び込むよりは、奴に穴から出てもらうのが確実だろう。

にんまりと笑みを浮かべて、俺はバックルのスイッチを押して背負った太刀『斬波刀』を引き抜いた。
そして太刀に”周”でオーラを集めて、『斬波刀』の属性能力を発揮させ、バチバチと音を発した雷の属性を刀身に纏う。続いて、俺は両足に”凝”で集めたオーラを一気に解放する。
その衝撃で地面は抉れて土を舞い上げ、俺の身体は空に跳び上がっていた。
ほぼ垂直の跳躍が高さ約二十メートルに達した所で、身体を上下逆さに反転する。空を蹴りつけて急降下し、大地に向けて太刀を突き立てる。

ゴオォォン!
雷鳴のような音と共に、土が一メートル近く抉れたクレーターが出来上がっていた。
太刀を突き立てた場所は”円”で計ったバーボンの位置の丁度頭上にあたり、横穴の内部にも衝撃は伝わっているはずだ。
数回これを繰り返せば岩盤は崩れ落ち、横穴の天井を落盤させる事も可能だろう。

だが、それでバーボン埋もれてしまえば、プレート回収という目的は達成は困難になる。
よって、俺は穴の入り口に戻って、穴の中に向って大声で叫ぶ。

「このまま生き埋めになりたくなかったら、出てこいっ! 五分待つ。それでも出てこないなら容赦なく潰すっ!」

なんというごり押し。
だが、正直言って俺にはこういった力押しの手段しか思いつかなかったのだ。
だいたい蛇遣いが暗闇の中が有利とはいえ、逃げ場のない横穴に逃げ込んだのが奴の作戦ミスだ。
例え俺が相手でなくとも、入り口を塞がれたら奴はその時点で打つ手がなくなるだろう。
俺は逃げ道がないという事を明確に見せつける為に、敢えて衝撃的な方法を選択した。

バーボンからの返事はないが、約束通り五分は待とう。
奴も俺が外で待ち構えていると言う事を悟ったはずだ。そして打倒の為にあの手この手と思考をこらしているのだろう。

だが、俺が望んでいるのは真っ向勝負。
実を言えば、俺は実戦においてはモンスターのような知能が人間以下のビーストの類しか相手にしたことがない。
俺の身体は常人を上回っているが、キルアのように毒が効かない身体といった特殊性はない。蛇の毒といった絡め手に対しての対抗策がないのだ。

つまり、罠や策略といった物にひっかかるとあっけなく負ける可能性がある。
だからこそ、バーボンが蛇を操らせずに俺の得意な戦闘という舞台に引込む事が重要であり、それが達成出来れば念能力者でない相手に負けるつもりはない。

「そろそろ五分だぞ! 覚悟は出来たのか?」

「待て、今出て行く!」

残り30秒程になった所で声をかけると、ようやくバーボンからの返答があった。
やがてのっそりと穴の入り口から顔を覗かせたのは、ターバンとイスラム風衣装の姿。皺が刻まれた顔にはぎょろりとした蛇のような目が光っており、口元に蓄えた髭は先の衝撃で土を被ったのか薄汚れている。

「やはり、お前か……」

俺の姿を見て、低い声が憔悴したように響いた。

「悪いがコケにされたまま黙っていられる程、人間できちゃいないんでね」

俺は油断なく周囲の様子を伺っていた。
バーボンはもとより、奴が使う蛇がどこから襲いかかって来るかは分からない。
それでも暗闇に閉ざされた穴の中よりも、見晴らしのいい地上ならば探知が容易い。”円”を使うまでもなく蛇はバーボンの衣装の中にしかいない事が分かった。

「何故、俺がここに逃げたと分かった?」

「ふっ、耳を澄ましてみるんだな。自然は雄弁に語っている。お前が押しのけた木々、お前が踏みしめた草木……それらを見れば、お前を追跡するのは容易いことだ」

なんちゃって!
とは声に出しては言わない。だって、雰囲気がシリアスなんだもの。

「成る程。上手く出し抜いたつもりが、ここに逃げ込んだ時点で追い詰められていたのは俺ということか」

その言葉でロックの襲撃が、やはり俺を出し抜いて計画的に行われた事を悟る。

「俺が糸目の男を襲撃したタイミングを狙ったのか?」

「そうだ。船上でお前らが組んだ事は分かっていた。あの隙だらけの男の86番が手に入れば俺は合格条件を満たすからな。目先の欲に目が眩んだと言う事だ」

確かにほぼ全員に手を組まないかと問いかけようとして失敗し、結局ヒソカにもノーを言い渡したのは誰もが知る事だった。
必然的に俺が組んだのは提案を持ちかけてきたロックであり、ロックの傍には俺がいると言う事はバーボンにも分かっていたのだろう。ロックが一人になった時に動かなかったのは、周囲にいるはずの俺の存在を警戒してのことか。
俺が糸目の男を襲った直後という、やたらとタイミングの良かったロックへの襲撃はそういう理由か。

バーボンの作戦も、俺に正確に追跡されるとは思っていなかったのが誤算だ。
……ちょっとズルしてるけどね!

結局はうまく出し抜いたつもりが、自分のプレートまで奪われかねない状況に追い込まれている。確実にバーボンにとって状況が悪化したといっても過言ではないだろう。

「さて……疑問も解消した事だし、やろうか?」

俺はすっと太刀を目線まで上げて、突きを放つように構えをとる。

「いや、戦うつもりはない」と、両手を挙げてバーボンは観念するように呟いた。

「どういうことだ?」

「俺がお前に勝てる可能性はない。穴の中でならば暗闇に紛れて蛇で隙をつくことも出来たかもしれないが、こうも拓けた場所ではそれも無理だろう。穴から誘い出された時点で、俺の負けは確定している」

「へぇ」

殊勝に己の敗北を認めるバーボン。
当然ながら戦って怪我を負う可能性を考えて、試験に合格する為の機会を伺うつもりだろう。

「その上で提案したい。お前はまだ合格条件を満たしていない。求めているのは奇数のプレートだろう?」

バーボンの言葉は、まさにその通りだった。
先程奪ったプレートは偶数なので、俺はまだ合格条件を満たしてはいない。バーボンは糸目の男の事を知っていたのだから、その事を知っていても不思議ではない。
そして俺のターゲットが奇数という事だが、バーボンは俺が406番という事も知っているのだろう……キルア曰く知らない者はいないのだから。

「まぁ、バレバレの406番だからな」

「俺のプレートは103番だ。これがあればお前は合格条件を満たす。だが、そうなると俺が奪った86番はお前には不要だろう?」

「自分のプレートを差し出すから、ロックから奪ったプレートは見逃せ、と?」

「その通りだ。この提案が受け入れられるなら俺は素直に103番のプレートを差しだそう。だが、この提案が受け入れられない時は……」

「どうする?」

「蛇にプレートを持たせたまま、海にでも飛び込ますか――」

ニヤリと笑みを浮かべるバーボン。
その可能性を想定していなかった俺は、「うぐっ」と言葉を詰まらせた。
負けると分かっていても、穴から出てきたのは蛇にプレートを持たせているからか。

「俺はどちらにしろ二枚のプレートを失うならそれでも構わない」

「チッ、問答無用で打ち倒すべきだったか」

「さぁ、どうする?」

考えるまでもなく、俺はバーボンの提案を受けるつもりであった。
強引に倒してもプレートが手に入らなければ意味がない。そういった意味ではバーボンは蛇という仲間がいる為に常に単独行動ではないという訳だ。

「分かった。提案を受け入れてもいいが、条件が二つある」

「なんだ?」

「ロックを解毒してもおう。当然持ってるよな、解毒剤?」

「いいだろう、その条件を飲もう。もう一つは?」

「レッドスネークカモン! ってやってくれない?」

「……」

ほら来た。この可哀そうな人を見るような眼。
だから、このオッサンにギャグはやりたくなかったんだよっ!

「いいだろう」

ええええー!?
このオッサン、実はアドリブきくじゃないか。
バーボンは口笛を吹いて、小脇に抱えた壺から蛇がにょろりと踊るように現れるという曲芸を披露してくれた。

すげーっ! 蛇使いすげー!
別に蛇使いを侮っていた訳ではないよ。むしろ、俺はちゃんと十三星座を認めてた派だからな! 蛇使い座の登場のおかげで、俺は貧弱なキャンサーから、教皇に昇格したのだから十三星座の登場には感謝していた。
……まぁ、十三星座は流行らなかったけどさ。

バーボンの意外な隠し芸に満足した俺は、二人でロックの倒れている場所に戻る。
懐から取り出した瓶の中に入った解毒剤を注射針を浸して、ロックの腕に解毒剤を注入する。
息も荒く苦痛に顔を歪めていたロックであったが、解毒剤の効果があったのか次第に症状が改善していくのが見てとれた。

その様子を確認してバーボンに「後は追わない」と告げる。
バーボンが頷くと、どこからともなく蛇が現れた。よく見ると103番のプレートを口に咥えて、距離をとってこちらを見つめている。

いや、そんな警戒しなくても約束は守るって……それに本気になったらいくらでも追跡できるんだぜ?
ま、約束を破るつもりはないので、バーボンが去っていったのをそのまま見送り、大人しく蛇からプレートを受け取った。
その際に蛇の頭を軽く撫でてやると、バーボンの命令には従うのか大人しくしていた。ペットに飼う人がいるぐらいだけあって、意外と蛇も可愛いじゃないか。


こうして第四次試験の一日目は終了した。
結果として手元にあるのは、103番、362番、406番の3枚のプレート。
奇数と偶数は一組揃っているので、最低でも俺一人ならば第四次試験の合格条件は満たした。
流石にこれをロックに譲る程、俺はお人好しではない。

だが、まがりなりにも同盟を組んだロックの為に、もう一枚奇数のプレートを奪取したい所だ。
どちらにせよ今日は疲労をとって、明日に備えよう。

「うまくいかないもんだな。流石にハンター試験だけあって、一筋縄ではいかないな」

非念能力者には戦闘で負けるつもりはないが、決して俺は強者ではない。
戦闘面では念能力者のヒソカには到底適わないし、念を使えずともバーボンのような特殊技術の持ち主に出し抜かれてしまった。

「オッサンも監視お疲れさん、悪いけど明日は俺一人で動くから、本気で付いてきた方がいいぜ」

――!?

木々の向こうに潜む男が息を飲んだ様子が手に取るように分かる。
第四次試験の採点でもしてるのか、開始してからずっとついてきていたのは気づいていた。プレートあたりに発信器でも仕込んであるのか、今日もバーボン追跡してしばらくしてから後を追ってきていたのだ。
今日の前半はロックに合わせてペースを落としていたが、明日からは単独行動をするつもりだ。完全に姿を見失って途中経過が見られずに採点が悪くなるのは避けたいところだ。

そう、俺は甘かったのだ。ロックの為というならば、とっとと一人で行動してプレートを奪えば良かったのに、敢えてロックを囮にした”待ち”をとってしまった。

俺はモンスターハンター見習い。だが、『滅竜狩猟団』で斥候役を任されていた。単独行動こそが俺の本領を発揮出来るのだからな。

「明日からは忙しくなるぞっと」





――――――


ナルミとバーボンの交渉は、原作のヒソカとクラピカの交渉のオマージュです。

それと、念を覚えていてもハンター試験はそれだけで簡単に合格出来る程甘いものではありません。
バーボンの蛇遣いの特技も、正面戦闘でなければかなり便利だと思います。
狭い入り口しかない穴の中で、無数の蛇に襲われたら念能力者の身体能力を持ってしても全て回避するのは難しいでしょう。戦闘面の能力に注目がいくH×Hですが、あの肉弾戦車のウヴォーも毒にやられたので人間相手には有効ですね。

そもそも、世界に600人にしかいないハンター。秘匿技術とはいえ念を覚えれば誰でもなれたら、ハンター協会なんてあっという間に瓦解するでしょう。
過酷な環境でナルミは三年の下積み、二年の念修行を経て挑んでいますが、それでも戦闘力以外は他の受験生に負けている面も多々あります。
と言う事を表現したかったのですが、戦闘で優劣を競えないので難しいですね。

あと、こっそりバーボン死亡フラグ折りました。



[11973] 019 第四次試験×影なき狙撃者
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/24 21:19

第四次試験――二日目。
毒の影響でまだ寝込んでいるロックは、水場の近くの雨露が凌げる茂みに横たえた。
明らかに衰弱しているロックであったが、症状も安定に向っている。
プレートは三枚とも俺が持っているので、この状態で放置しても他の受験生に狙われる事もないだろう。

そうして後顧の憂いも絶ち、俺は目的である奇数のプレート奪取の為に単独行動を開始した。
”絶”で気配を絶ったまま、獣のように四足に近い低い姿勢で森を駆ける。
肉体が躍動するような解放感はモンスターハンター見習で秘境を走り回っていた頃と同じだ。
俺は”狩るもの”だ。決して”狩られるもの”じゃあない。

狩る対象を求めて島を駆けまわること30分あまり。
見つけた獲物は……何の警戒心もなく丘のように盛り上がった土の上に潜んでいた。
せっかくやる気を出したというのに、こうも隙だらけだと気が抜けてしまう。

……とはいえ、獲物は獲物だ。
さて、どう襲撃してやろうかと舌なめずりしていたが、その獲物の視線の先にいるのは……やばい!
即座に危険信号を発した俺とは異なり、獲物は両肘を地につけて、今正に狙撃しようと銃を構えている。
タイミングを慎重に計り、息を吸って吐いて、三度目に息を吸い終わった瞬間に――。

「やめとけ」

「!?」

俺はうつぶせた女性の隣に立って声をかけた。
オールバックにした髪を後ろでまとめ、一筋だけ垂れた長い前髪。
顔立ちは整っているが、目は黒いサングラスで隠れているのでその表情は窺えない。
上着にジャケットを着ていて、下はこげ茶色のズボンという職業軍人のような出で立ちである。

「何故だ?」

彼女……スパーは突然横に立っていた俺に、動揺した様子を微塵も見せずに問いかけてきた。
狙撃が得意で単独行動を取るという理由で「俺と協力体制をとらないか?」という提案を断った女性だ。決して俺本人が嫌われている訳ではない、と思いたい。

「あんたに気づいてる。撃っても当たらないよ」

「……」

「なぁ、そうだろ? ギタラクルさんよ?」

二百メートルは先にいたスパーの標的である針頭の男は、普通なら聞こえないような声に反応してグルリと首を回した。
頭を前後左右にカタカタと揺らし、顔だけ後ろに向いたまま近づいてくる様子はホラー以外のなにものでもない。
やがて、十メートル程度離れた位置で立ち止まると、視線をこちらに向けて声を発した。

「邪魔しないでくれない?」

声は見た目よりもずっと若い。
見た目通りの年齢ではない……いや、むしろ見た目が偽装なんだけどね。他の誰も気づいていないが、俺はそれを知識として知っている。

「銃を撃ったら、殺そうとしてただろ?」

「さぁ?」

「見逃してやってくれない、イルミさん?」

「誰それ?」

即答で問い返してくるギタラクルことイルミ。
流石はゾルディックの名を持つ暗殺者一家の長男。簡単に尻尾は掴ませてはくれない。

「知ってるさ。イルミ=ゾル……」

すっとぼけるギタラクルに、確信となるファミリーネームを告げようとした、その時――。
バァン! キッ、キンッ!
前者はスパーが放った銃声。後者は直後に飛来した針を俺の双剣が打ち落とした音。

銃を撃ったスパーは驚愕の表情で固まっている。撃った瞬間に彼女に飛来した針は、俺が撃ち落とさなかった確実にその顔を貫いていたであろう。
不意を打ったつもりの銃弾をギタラクルは軽々と避け、顔と体が完全にこちらに向けて戦闘体勢に移行している。
右手を持ち上げ、中指を中心に尖らせる貫手のような形。その先端に新たに五本の針が、ニョキッと何処からともなく現れる。

「邪魔するなら殺すよ?」

強烈な殺意を感じるのに、声には何の感情も籠められていない。
俺が全力で戦っても勝てると相手ではないだろう。
その実力差を悟った俺は、一枚のプレートをギタルクルに向って放り投げる。

「そいつで勘弁してよ。俺もあんたと戦うつもりはない」

自信のあらわれでもあるが、まるで隠す気はない左胸には301番のプレートが見える。
俺が投げたプレートをギタラクルは受け取り、くるりと引っ繰り返して「80番」と呟いた。
つまり、これで奴は奇数と偶数の二枚のプレートを集めるという合格条件を満たしたという訳だ。

「貴様っ!?」

表情が固まったままのスパーが、抗議の混じった声を上げる。
会話中に銃弾を放つという勝手な事をしてくれたので、ポケットに隠していたスパーのプレートをスリ取ってギタラクルに差し出したのだ。

「どう見てもあんたは実力不足だ。命あっての物種なんだから、ここは退いた方がいい」

ぐりんぐりんと目玉を動かしているギタラクルが何を考えているのか、さっぱり思考は読めない。
一見するとただの異常者だが、その正体が一流の暗殺者である事を知っているだけに例えスパーと共闘しても勝ち目は薄いだろう。
これで見逃してくれなければ、ギタラクルの狙いを俺に引き付けて全力で逃げる。
今期のハンター試験において最も気をつけねばならないのはヒソカだが、その次は確実にこいつだ。
ゾルディック家の名を持つ暗殺者、その天性の暗殺者イルミが変装した姿であるギタラクル。

「ふーん、プレートくれるなら殺さないであげてもいいよ。仕事じゃないからね」

相手は仕事を重視する暗殺者。それだけに人を殺す事を何とも思っていないが、楽しみの為だけに自分から人を殺すヒソカのような戦闘狂とは異なる所だ。
プレートを手に入れるという第一の目的が達せられたので、見逃してくれるらしい。
だが、実力差を感じ取れないがスパーは、自分のプレートを奪われたままでは納得してくれないだろう。

「仕事、ね……ゾルディック家の人は仕事熱心だね」

「ゾ、ゾルディック!?」

手持ちの情報を晒すという危険な行為ではあるが、その甲斐もあってスパーは今度こそ驚きと恐怖が混じった声を上げた。
感情を押し殺したようなクールな態度も良いが、大人の女性がちょっと怯えた表情をしているのは実に良い。
って、勿論S的な思考ではなく、守ってあげたくなるってことだぞ?

「あんたが狙ってたのはかの有名な暗殺者一家だよ。その名前は当然知ってるよな。あんたも同類だろ?」

「……」

額に汗を浮かべてスパーは押し黙る。その沈黙こそが答えであった。
俺が睨んだ通り、彼女もイルミと同じく暗殺を請け負う仕事を専門にしているようだ。

「……私はあなた達の気まぐれに助けられたのね」

「いやいや、俺は女性の味方だから、気まぐれなんかじゃないよ!」

消沈するスパーを励まそうと戯けてみるが、クールな女性にはあまり効果が薄いようだ。

「うるさいから、どっか行ってくれない?」

「了解、っと。行こうか」

「ああ……」

顔色の悪いスパーを気遣うように肩とかをそっと抱いてみるが、特に拒絶するような様子はない。
って、セクハラしてる訳ではなく、放心しているようなので支えが必要だと思っただけだ。本当だからね!

「ちょっと待った。ナルミだっけ?」

「ああ、そうだけど? ところでナルミとイルミって似てるよな?」

「キルに俺の事話したら殺すからね」

超絶スルーでした。
しかし、まぁ笑い転げるイルミとか想像出来ないしな。

「分かった。これまでも話していないし、今後も絶対に話さない」

「なら、行っていいよ」

スパーを連れ立って、ギタラクルの前から去る。
奴もキルアの連れという認識を俺に抱いている以上には興味はなかったのだろう。
ヒソカみたいなのに興味を持たれてしまった俺にとって、これ以上のやっかい事はご免被りたい。

「教えてくれ。私には何が足りない?」

「まずは笑顔かな?」

やはり、女性には笑顔が似合うと思う。

「……死ぬか?」

「ごめんなさい」

怒りを押し殺した低い声で言われ、オレは土下座して許しを請う。

「何をしている?」

が、ジャポン人でもないと土下座の意味は分からない事に気づいた。

「ジャポン流許しを乞う秘儀ですが?」

「そうか……で、真面目に答えてもらおう」

スパーが聞きたかったのは、客観的な自分の戦力評価だろう。
おそらく狙撃主としては優秀であった彼女が、今回の試験においては容易く機先を封じられてしまった。

「そうだな。狙撃に自信があるのは結構だが、殺気を隠そうともしていないのは致命的だ。気配は分かりにくかったが、殺気ですぐにどこにいるか分かった」

ギタラクルを狙っている彼女は、撃つ前からその強い殺気を発していた。
イルミのような暗殺者にとって、殺気ほど慣れ親しんだものはないだろう。視認出来ない場所に潜もうとも、イルミはすぐに殺気に気づいたはずだ。

「それと声をかけるまで、俺に気づきもしなかっただろう? 射的じゃないんだから狙撃に集中していても、少しは周りに目を向けた方がいい。その上で正確な射撃が出来ないなら、常に危険と隣り合わせのハンターには向かないよ」

集中している最中に周囲に気を配る、というのは一見矛盾しているように思えるが、性質の違いだろう。
一つの事に集中する事と、多数に向けて集中することは全く別物だ。だが、どちらか一方に掛かりっきりになってはならない。そのバランスが大事という事だ。

「後は相手の力量を読めるぐらいにならないとな……はっきり言って俺が間に入らなけりゃ、死んでたぞ」

「だが、私は……ハンターにならなければならないのだ」

血がにじむ程に口を噛みしめて告げるスパー。
彼女が決死の覚悟を持ってハンター試験に挑んだのは確かだろう。その理由までは分からないが、ここまで残った受験生達も思いは同じなはずだ。
俺に倒された糸目の武術家も、俺を出し抜いた蛇使いのバーボンもだ。

「誰もがそうだ。だが、無理して近道を進むよりも、回り道を探したほうがいい時もある。俺の国に急がば回れ、って格言がある」

「私をお前の仲間に……いや、つまらない事を言った。忘れてくれ」

「ん、何か言ったか?」

己の利を優先した提案をしかけた自身を恥じ入るスパー。
ここは敢えて聞こえない振りをしてやるのがマナーというものだ。

「何でもない。私は今年は諦めるとしよう。だが、来年……いや、いつか再び試験を受けくる」

「健闘を祈ってるよ」

「ナルミだったか? 私の代わりに試験を合格してくれ」

「勿論、そのつもりだ」

スパーはサングラスを外して、笑顔で握手を求めて来た。
切れ長の瞳に、わずかに浮かんだ微笑。想像通りの美人さんである!
ほんまあんな針頭に殺されずに良かった。

「道具に頼り切っていてはダメということだな」

スパーのサングラスは暗視ゴーグルと、狙撃用の銃と直結した照準機能を持っているらしい。
どうりで集中している時に隙だらけだったはずだ。便利な道具ではあるが、それに頼り切っていては鍛えられる物も鍛えられない。

スパーはそのままスタート地点に引き返して、リタイアを宣言するとの事だった。
相手が悪かったと言うべきだが、彼女の実力不足であるのは事実だ。修行を積んでからまた試験に挑んでほしいものだ。

さーて、美人さんと約束したからには、俺もここで失格になる訳には行かなくなった。
サバイバルも既に二日目。
残りは五日はあるが、先は長いようで短い。





─────

今回はちょっと蛇足かもしれない一日です。
後の展開的にイルミと出会って貰いたかったので、どうせならと言う事でスパーを登場してもらいました。

脇役キャラに焦点を当てて長くなってしまった第四次試験ですが次回で終了です。
通過者は原作より三名程多くなります。まぁ、予想通りですかね。




[11973] 020 第四次試験×友達の資格
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/28 23:42

第四次試験――五日目。
既に十人以上の受験生と遭遇しているというのに、肝心のプレートは未だに入手出来ていない。
というのも、参加人数25名のうち、大半が誰かと接触があってプレートの移動が行われた後だったりするのだ。

合格条件を満たした受験生は隠れて七日間をやり過ごそうとしているので、見つけるのが困難になっている。
おかげで300z消費する『千里眼の地図(グルグルマップ)』を合計七回も使用する事となり、試験開始時には25200zはあったゼニーが今や23100zにまで減っていた。

途中遭遇した人物のうち、怪我を負った金髪のニーチャン、完全に意識を失っている黒い長髪の男、猿と一緒に縄で縛られていた男、水辺で痺れて動けない赤鼻、は明らかにプレートを奪われた後っぽかったのでそのままやり過ごした。

他に出会ったのがポックル&ポンズ組とクラピカ&レオリオ組だったが、彼らは既に合格条件を満たしていた。
求めて止まない奇数のプレートを持っているとはいえ、俺も二枚のプレートを奪取して合格条件は満たしているので強引にプレートを奪う理由はなかった。

一類の望みをかけて二組に余っている奇数のプレートがないかを聞いてみたが、どちらも余りはないらしい。
ポックルとクラピカは俺と出会う前に一度遭遇しており、首尾よく奇数と偶数のプレートを交換して丁度揃ったとの事だった。
それ以上の交渉も出来ず、二組とはお互いの状況を知らせて情報を交換して別れた。

もしかして、もう奇数のプレートを持ったままウロウロしている奴はいないんじゃないか?
クラピカ、レオリオ、ポックル、ポンズ、ギタラクル、俺……と、知る限りでも、既に6人が合格条件を満たしている。
開始前にリッポーが奇数と偶数のプレートは半分、と言っていたので奇数のプレートは12枚か13枚は存在する。だとすると、少なくとも俺が確認していない奇数のプレートは6枚は残っている計算になる。

しかし、バーボンが海にプレートを捨てる、と俺を脅したようにプレート自体が無事である保障はない。
まだ出会ってはいないが、ゴン&キルア組とヒソカといった実力者は既にプレートを手に入れている可能性が高い。
ゴンの野生パワーとキルアの隠密術のコンビならば、大抵の受験生がプレートを奪取されるだろう。ヒソカはきっと余裕をかましているに違いない。
この三人と出会ってもプレートを奪う事は出来ないので、残りは約3枚と見るべきか。
あー、もうロックのことなんて放っておいて俺だけで合格しちゃうか?

どちらにしろ既に五日目で、残りは本日を含めても二日。
最終的なゴール地点である浜辺の近くに人が集まりやすいだろうと考えて移動していると、不意に前方に人の気配を感じた。

俺はすぐに”絶”で気配を絶って、ゆっくりと木々の上を駆けて近づいた。
気配は初めに感じた一つ……かと思ったが、じっくりと見ると二つだった。一つは物理的に気配を隠すのは上手いのだが、雑念が混じって逆に探知しやすい。もう一つは心身共に空になっているので近づかないと気づかなかった。
もしかしてと思って気配を辿って近づくと、大樹の根本あたりに他の受験生よりも一周りは小さな二人、ゴンとキルアがいた。

だが、どうにも様子がおかしい。
二人はいつも明るい性格であるのに、お互い顔を伏せて意気消沈したように見える。更に酷くはないようだが、ゴンの頬は一目で殴られたと分かるように腫れている。
誰かと交戦したのか? まさか、プレートを奪われたのか?

「――誰かいる?」

俺の感情の乱れを感じ取ったのか、ゴンが周囲に向って気を発した。

「俺だよ。ゴン、キルア!」

「ナルミ!」

「くそっ、気配が感じられなかった!」

俺が頭上の木から飛び降りて声をかける。
キルアが悔しそうにそう言うのも無理はない。”絶”の熟練者といってもいい俺の気配を察知できるのは、同じように”凝”の熟練者ぐらいだ。後は野生の感が鋭いゴンぐらいか……。

「フッフッフ。キルアは気配隠すのは上手いなぁ。ゴンは精神が乱れてるぞ」

「うっ……」

「……」

言葉に詰まるゴンと、何やら言いたい事を押し殺したようなキルア。
なんだか妙な雰囲気を感じつつも、二人の様子を聞いてみる。

「で、調子はどうよ?」

「ちゃんと合格条件は達成したよ!」

「ああ、プレートは集まったぜ」

ふむ。そちらの心配は無用だったようだ。
偶数のプレートが足りなかったら、どうせこのままでは失格のロックの分をあげてもいいか、とか考えていたのは秘密である。

「ナルミはどうなの?」

キルアの疑問に俺はこちらの状況を説明する。
糸目の武術家からプレートを奪取し、その隙を突かれてバーボンにロックが倒された事。そしてバーボンを追い詰めて交渉した結果、バーボンのプレートは奪取したもののロックのプレートは奪われた事。その後クラピカ達と出会って、無事合格条件を満たしていた事を淡々と話す。

「そんなわけで、ロックの分の奇数のプレートが足りなくてな」

「奇数のなら一枚余ってるよ?」

「まじっすか!」

ゴンの言葉に身を乗り出して食いつく俺。

「うん、帽子の三兄弟を倒したから」

「あー、あいつらかぁ」

「197番、198番、199番だったからね」

その番号を聞いて、俺は疑問に感じた。
ゴンが405番、キルアが99番なので、必要なのは偶数が二枚じゃないのか?

「あれ? となると奇数が二枚で、偶数が一枚足りないんじゃ?」

「うん、三兄弟を倒したすぐ後にハンゾーさんが、自分の持ってる偶数と奇数の一枚を取り替えないかって言ってきたから交換したんだ」

「なるほど。それでゴン達は偶数が二枚、奇数が一枚余っているのか」

「うん、ほら!」

そう言ってゴンとキルアが見せてくれた番号札は『86番、198番、199番』だった。
……ん?

「えええええーっ!?」

「何だよ、どうしたんだよ?」

キルアが耳を押さえて問いかけてくる程に、思わず大声を出してしまった俺だった。
何故ならバーボンに奪われたはずのロックの『86番』をゴンが持っていたからだ。

「ちょ、86番ってロックがバーボンに盗られた番号なんだけど?」

「じゃあ、ハンゾーが倒したのが、そのバーボンだったのか?」

キルアの言葉でようやく状況が理解出来た。
バーボンは一日目にロックの86番を奪取した後、ハンゾーに奪われた。
そしてハンゾーが欲しかったのは奇数のプレートだったので、元は三兄弟が持っていたゴン達の199番のプレートと交換した。
つまり、ロックの86番が『ロック→バーボン→ハンゾー→ゴン』と渡って、今俺の目の前にある。求めた奇数のプレートと、元はロックの物だった偶数のプレートがここに揃っている。
何というか、運命的な再会と言ってもいいのかもしれない。

「意味はないけど俺の持ってる362番と86番を交換してくれないか? 一応元は自分の番号のが良いだろうし……後、図々しいけど後二日で見つけられなかったら、奇数のプレート一枚くれない?」

本当に図々しいが、交換条件も出さずに尋ねる俺。引き換えに出せるプレートがないので、聞くだけは聞いてみようという考えだ。

「オレはいいよ?」

「別にいいんじゃない?」

「よっしゃ、ありがてぇ!」

こんな所で奇数のプレートの伝手が見つかるとはラッキー。あと二日で集まらなかったら、一枚はもらうことにしよう。
とりあえず、362番と86番を交換してもらって、更に奇数のプレートがもらえるかもしれないという幸運に感謝しよう。
さて、こちらの心配は解消したことだし、ずっと感じていた疑問を解消しなきゃね。

「でさ、お前ら何で喧嘩してんの?」

「っ!」

「……」

「原因が何か知らないけど、言いたい事があるならハッキリ言った方がいいぜ」

最初からゴンとキルアの間には、言葉にならない壁のようなものを感じていた。
それが『奇数のプレートを無償で渡す』という状況でお互いに相談する事無く自分の意見だけを述べた事で確信した。
どうも、何かあったようでお互いに言葉を交わす事を避けているようだった。

「それは……」

「オレがヒソカと戦ったんだ」

言い淀んだキルアに、ゴンが悲痛な表情で言葉を吐き出した。

「ヒソカと? そりゃまた無謀なこったな」

「だろ? 絶対勝てるわけないのに意地になって勝負を挑んでさ。ヒソカが見逃してくれたからいいけど、そうじゃなけりゃ死んでたんだぜ」

呆れたように呟いた俺と同意見だった事で、辛辣に言い放つキルア。

「本当か、ゴン?」

「うん。オレ一次試験でヒソカを怖いと思った。だけど、ちょっとだけワクワクしてたんだ。だから、ヒソカと戦いたい、って思っちゃった」

流石は冒険野郎のゴン。死の恐怖を味わってなお「オラ、ワクワクしてきた」とか言える神経は俺にはない。戦闘民族の師匠は言いそうだけどね。

「無謀過ぎるんだよ!」

「まぁ、確かに無謀だったな。お前らはコンビなんだからお互いのこと考えないとだめだろ?」

「うん、ごめん……キルアもごめん」

流石にキルアまで危険に巻き込んだ事に対してゴンは反省しているようだった。ゴンは思い込んだら一直線なところがあるから非情に危うい。年長者として、つい説教の一つでも言いたくなってしまう。
だが、それがあってこそのゴンだ、という気持ちが俺にあるのも事実だ。清々しいまでに正々堂々として、死の危険さえも楽しんでしまえるゴンには、先が楽しみに思えるだけの魅力がある。
一応、補足しておくが……ヒソカとは全く異なる意味で純粋にだからな!

「だが、そこがゴンの魅力とも言える。その好奇心は大切にした方がいいと思うぞ。それに、今回の失敗はゴンだけが悪い訳じゃない」

「何でだよ!」

存外にキルアも悪いという言を含ませた俺の物言いに反発するキルア。

「ヒソカが見逃してくれた。それって見逃してくれなかったらどうなってた?」

「どうって、ゴンは死んでたよ」

まぁ、この状況ならプレートをとられるだけで終わっていたかもしれないが、殺害が禁止されていないのでその可能性もある。キルアにとっては敗者が命をとられるのは当たり前の理論だ。
これがもし本気で命のやり取りを行った場合、先が楽しみだからという理由で見逃してくれる敵なんてのはヒソカぐらいだろう。

「だが、キルア……お前は逃げ切ってただろうな」

「っ!?」

「ヒソカが相手ならキルアの言うように逃げるが正解だ。適わない相手と正面から戦うのなんて無謀もいいとこだからな。俺なんてモンスターからいっつも逃げて、誘い出す囮役ばっかりなんだぜ……だいたい、俺よりも師匠のほうが持久力も体力もあるんだから、たまには自分で囮やれよ……あれがどれだけ危険で怖いか分かってないんだよな。そもそも……」

『おーい……』

二人が手招きするように俺を呼んでいる事に気付いた。

「ああ、そうだった。つまり、オレが何を言いたいかというとだな。それぞれの思考が異なるのはしょうがない。でも、意思は統一しとけ、ってことだ」

「それって、オレがゴンに合わせろってことかよ?」

「ちがーう。ゴンの積極性、キルアの慎重性、どちらも悪いとは言わない。今回は明らかにキルアの意見を尊重するのが正解だ。だが、もし一人では勝てなくても二人で協力すれば倒せる相手だったらどうなってた?」

「それは……」

「それでも、ゴンは戦ってキルアは逃げてたよ」

きっと、ゴンは勝てるかもと挑み、キルアは負けるかもと逃げる。お互いに連携して戦えば勝てる相手でもそうなっていただろう。
俺が言いたいのはお互いの意思の統一だ。戦うなら二人で戦う、逃げるなら二人で逃げる。これ仲間なら当たり前の事だよね。

『……』

「即席だろうとコンビである以上、本音で話し合うんだな」

「お互いの考えを理解しろっていうの? そんなの無理だよ」

ゴッ!
不意をうって、キルアの頭に拳骨をかます。

「いってー、何すんだよ!」

頭を抱えながら反論するキルアの両肩を掴んで、俺は真剣に問いかける。

「無理じゃない。キルア……お前ゴンとは友達だろ?」

「友達……?」

キルアはその言葉に実感が沸かないのか、目をパチクリとさせている。
こういう表情をしていると、日頃ナマイキなキルアも年相応に幼く見える。

「ゴンはとっくにお前を友達と思ってるぞ」

「そうなのか、ゴン?」

「うん、オレはキルアのこと友達だと思ってるよ。キルアは違うの?」

キルアの問いかけに、ゴンは迷いなく応えた。

「オレは、友達なんて作ったことないし……そんな資格もない」

ふっとキルアの顔に暗い影がよぎる。
その家庭事情からも推測出来るように、キルアにはこれまで家族以外に親しく接する相手はいなかったのだろう。
孤独な暗殺者として教育を受けたキルアは誰かに理解してもらう事が出来ない……いや、理解してもらえると思った事がなかったのだ。もしかしたら周囲にはキルアを大切に思ってくれる人もいたのかもしれないが、キルアはそれに気づく事が出来ない。

「友達になるのに資格なんていらない。お互いに相手を理解したいと思ったなら、もう友達だ」

「……」

「確かにお互い理解し合うのは難しい。まずは自分の本当の気持ちを声に出して伝えればいい。それでも解り合えないなら仕方がないが、解ろうともしないんじゃダメだ。キルアがゴンを信じて自分の気持ちを伝え、ゴンの気持ちを理解しようとする事が出来たなら、お前らは友達だって事だ」

友達ってのは自分の弱点さえも曝け出せる相手のことだ。その信頼があってこそ成り立つ、無償の関係が友達や仲間ってものだろう。

「そう……だな」

「キルア! 勝手なことしてごめん」

「いや、オレもゴンの気持ちを理解しようともしなかった。ごめんな」

ゴンとキルアは熱く握手を交わした。
繋いだ手は心が繋がる結びつきだ。二人の絆はこれで簡単には放されないだろう。

「うんうん、仲良きことは善きことかな」

俺は両腕を組み、二人の少年の微笑ましい友情を見守っていた。

「ナルミって、何だか説教好きなお爺さんみたいだね」

「ふん、ナルミのくせに生意気だな」

「おい、なんだよその言い草は! 俺はのび太のくせにって台詞が大嫌いなんだぞ!」

「へっへーん、ナルミが怒った」

「やーい、ここまでおいで!」

「ゴン、逃げるぞ!」

「うん、キルア!」

「糞餓鬼どもがー、待ちやがれっ!」

その後30分近くに渡って追いかけっこをしたが、二人の連携の前に翻弄されてしまった。こういう時の息の揃った連携は見事なものだ。
まぁ、二人が友達になれたのは良いことだ。





─────

キルアとゴンの友情が高まりました。
この結果が最終試験に影響を及ぼします。

今回で『奇数と偶数』の第四次試験は終わります。
描写のなかったその他の受験生の第四次試験の結果は、原作とそれほど差はありません。
よく見ると死者が一人だけ、綺麗に半数が合格という都合主義な展開です。

※訂正
お騒がせして、非常に申し訳ありません。
投稿した時点ではゴンとキルアが偶数二枚必要と言うのを勘違いして矛盾が発生した為、投稿を一時削除しました。
原作ではハンゾーのターゲットが197番だったんですよね。103番のバーボンを倒したのに、奪ったプレートは86番という結果に……原作通りにハンゾーはorzになった事でしょう。


●第四次試験結果一覧(○は合格、×は不合格)
×  34番:リュウ、ポドロと戦い敗北。
○  44番:ヒソカ、371番奪取。
○  53番:ポックル、105番を奪取し、クラピカの持っていた384番と交換。
×  80番:スパー、ナルミにプレートを盗られてギタラクルに渡る。その後リタイアを宣言。
×  89番:シシトウ、ハンゾーに奇襲しようとして返り討ち。
○  99番:キルア、198番奪取。
× 103番:バーボン、ナルミとの交渉後、86番をハンゾーに奪われる。
× 105番:キュウ、ポックルの痺れ矢を食らって一週間動けず。
× 118番:ソミー、レオリオに敗北。縄でぐるぐる巻き。
○ 191番:ポドロ、34番奪取。
× 197番:アモリ、ゴン&キルア組に敗北。
× 198番:イモリ、ゴン&キルア組に敗北。
× 199番:ウモリ、ゴン&キルア組に敗北。
○ 246番:ポンズ、281番奪取。
× 281番:アゴン、ポンズの蜂の毒でリタイア。
○ 294番:ハンゾー、バーボンから86番奪取した後、ゴンの197番と交換。89番も保有。
○ 301番:ギタラクル、80番奪取。
× 362番:ケンミ、ナルミにプレートを奪われ、その後番号札を入手出来ず。
× 371番:ゴズ、ヒソカと真っ向から勝負して死亡。
× 384番:ゲレタ、クラピカに尾行を気付かれて敗北。
○ 403番:レオリオ、118番奪取。
○ 404番:クラピカ、384番を奪取し、ポックルの持っていた105番と交換。
○ 405番:ゴン、奪取した197番を86番と交換。更に86番を362番と交換。

○  86番:ロック、奪われた86番が回り回って手元に戻り、199番を入手。
○ 406番:ナルミ、103番奪取。



[11973] 021 閑話:最終試験前
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/29 00:12

第四次試験を無事通過した俺であったが、情けない事にその後奇数のプレートを奪取する事が出来ず、結局ゴンとキルアに譲ってもらう事になった。
そのおかげで何もせずとも幸運に第四次試験を通過したロックは、バーボンの蛇から毒の症状も解毒剤が効いて回復し、すっかり元気を取り戻していた。

「この恩は忘れない! オレ様の力が必要な時はいつでも言ってくれ!」

「もう俺に関わらないでくれるだけでいいから……」

「兄貴、と呼ばせてもらおう!」

「やめれ、お前のが年上だろ!」

「ならば、親愛なる弟よ!」

「だが、全力で断るっ!」

アホのロックとの協力関係をキッパリと打ち切ったので、この後戦う事になっても手加減はしない。
第四次試験は仲間がいてこそと思っていたが、その仲間も慎重に選ばないといけないと言う事を心底悟った。二度とロックと関わらないようにしたい。

「ナルミ!」

最終試験が行われるという試験会場まで移動する事となり、毎度お馴染みの飛行船のタラップに足をかけた所で俺の名を呼ぶ声に振り返る。
そこにいたのは、先の試験で縁のあった三人の人物。

「よう、第四次試験では悪かったな」

「気にするな。私も自分の実力を悟った。次に会う時には強くなってみせる」

サングラスをはずした美人さん――スパーはそう言って頷いた。
既にあの遭遇の後にリタイアを宣言したはずなので、あえて七日目終了までこの場に残っていた理由は一つしかない。

「わざわざ見送りに来てくれたのか?」

「ああ。私は実質お前に助けられたのだからな。あの時は動揺していたが、一言礼を言っておこうと思ってな。助けてくれて有り難う」

「俺は女性には優しいんだ。特に笑顔の似合う女性にはね!」

「ふっ、そうか」

俺の軽口に微笑を浮かべるスパー。
助けられて恋愛感情に発展したとかは一切なさそうだが、彼女とは良い友達にはなれそうだ。

「だから、俺には厳しかったのか?」

スパーの横で苦笑しているバーボンが問いかけてきたので、俺は会釈する。

「優しくする理由はないだろ? でも、蛇は意外とかわいかったぞ」

「蛇使いとしては謝辞と受けとるべきか? お前との交戦の後にハンゾーにプレートを奪われてしまったので、残念だがここでお別れだ」

バーボンのその後については俺もよく知っている。
まさか周り回って、ロックの手元にその86番が戻ったとはバーボンも予測出来なかっただろう。
ここは敢えて言わない方がいい。俺だったら、結果的とはいえあれに負けたとは思いたくない。

「あんたの蛇使いの能力には苦労させられたが、結局引き分けだな」

「何を言うか。俺は心底あの時肝が冷えたぞ」

「次は正面からやりたいな」

「はは、俺を殺す気か?」

試験では馴れ合う事も出来なかった二人だが、こうしていると互いにハンターを目指す者同士、親近感が沸いてくる。出来れば次の機会では味方でありたい。

「まさか見送りに来てくれるとは……意外だな」

俺を見送りに来てくれた最後の一人は、トリックタワーで出会った賞金首ハンターのザムザだった。

「俺の技の方向性を示してくれた礼の一つもしとこうと思ってな。あの後リッポーには二十四時間ぶっ通しでネチネチと嫌みを言われたが、この恨みもまとめてヒソカに叩き付けてやるぜ」

リッポーの件は自業自得で関係ないだろうと思いつつも、ザムザの復讐心に水を差すのはやめておいた。
不敵な笑みを浮かべた野性的な男は、ヒソカに敗れた事など忘れたかのように生き生きとしている。

「ハンターの先輩になるあんたに口出すのもおこがましいけど、是非ともヒソカ打倒を叶えて欲しいね」

「ハッ、まだ受かってねぇだろ。だが、言われずとも復讐は果たしてやるぜ!」

「是非ともお願いします」

こうして立ち会っているだけでも分かるが、ザムザは紛れもなくハンターの中でも一端の実力者だ。そして、一流の実力者のヒソカに挑もうとする気概は少しも失われていない。
もしかしたら、本当にヒソカを倒してくれるかもしれないと期待せずにはいられない。

「じゃあ、ちょっくらハンターライセンスをもらってくるよ。あんたらも次のハンター試験は頑張ってくれよ」

「なに、来年は試験会場の場所は通知されるんだ。俺もすぐに追いついてやる」

「私も鍛錬を積み、必ずハンターになる」

「ここまで来て落ちるんじゃねぇぞ」

三人のホームコードを教えてもらい、俺は飛行船のタラップを渡った。
浮かび上がる飛行船の窓から見えなくなるまで、見送りに来てくれた三人に手を振る。
飛行船が次に向かうのは最終試験会場とのことなので、長かったハンター試験も遂に佳境に入ったという事だ。
俺は第四次試験を通過出来なかったスパーとバーボンの分まで合格しなければならないと固く心に誓った。





「ふむ、悩ましいのぉ」

ハンター協会会長、兼ハンター試験委員会の責任者であるネテロは悩んでいた。
第287期のハンター試験も、遂に合否が確定する最終試験に至っていた。
最終試験のために貸し切られたホテルの一室で、ネテロはこれまでの試験における成績を考慮して最終試験の内容を練っていた。

成績優秀者は「身体能力、精神能力、印象値」によって決められる。
印象値とはすなわちハンターの資質を示しており、単純に強い者が優秀とはならない。その判断を下すのはネテロでもあるが、各試験の担当官からの印象も強く反映されている。

第一次試験は主に真実の口で高得点をとった者。
印象が良いのは、ナルミ、ヒソカ、ギタラクル、クラピカ、キルア等。
印象が悪いのは、ロック等。

第二次試験は未知へ挑戦する気概を見せた者。
印象が良いのは、ゴン、ナルミ等。
印象が悪いのは、キルア、ヒソカ等。

第三次試験はトリックタワーの成績の貢献度順だが、相手を殺害に至らしめた者の印象は悪い。
印象が良いのは、ハンゾー、ヒソカ、ナルミ等。
印象が悪いのは、キルア、ギタラクル、レオリオ等。

第四次試験、サバイバル技術が高く、更にチームプレイを意識した者。
印象が良いのは、ハンゾー、ナルミ、クラピカ、ポックル等。
印象が悪いのは、ロック等。

以上が各試験官の判定した成績であり、その結果を元にネテロが総合した優劣をつけると以下の通りとなる。
優秀:ナルミ、ヒソカ、ハンゾー。
次点:ゴン、クラピカ、ポックル。
標準:ポンズ、キルア、ポドロ。
下位:ギタラクル、レオリオ、ロック。

「やはり最後は互いに競ってもらうかのぉ。じゃが、ただ勝てばいいとなると面白くはないのぉ」

そこでネテロが考案したのは一対一の決闘。ただし勝利条件と敗北条件が少々特殊であった。
勝利条件を相手に「まいった」と言わせる事。敗北条件は「相手を殺してしまった場合」。
試合時間は無制限で、戦闘による決闘で勝利条件を達成するだけではなく、勝利条件を達する為の交渉の余地も残している。
更に成績の優劣で試合数を調整して、駆け引きの幅を持たせる。

「ふむ、こんなもんじゃろ。後は対戦の組み合わせじゃな」

ネテロは受験生12名の人となりを知る為に、個別に面接して「何故ハンターになりたいか? 注目している受験生は? 一番戦いたくない受験生は?」という3つの質問を投げかけた。


44番、ヒソカ
「資格を持っていると便利だから◆ ナルミとゴンには期待しているよ、ボクを満足させてくれるかもしれないからね。戦いたくないのも同じだね……今はという意味でだけど。ちなみに、今すぐ戦うならあんたなんだけど?」

(ふむ、全く興味ないのぉ)


53番、ポックル
「幻獣ハンターになりたいからだ。注目しているのはトータルでバランスが良い404番。44番、99番、294番、406番には今の俺ではかなわないだろう」

(ほほう。冷静に他者の実力を見定めているが……ヘタレじゃのぉ。何となく幸も薄そうじゃな)


86番、ロック
「そこに山があるからだ! 気になるのはオレ様が将来どれだけの偉業を残すかという事だっ! そしてオレ様は誰の挑戦でも受けるっ!」

(……帰れ)


99番、キルア
「別に面白そうだったから? 気になっているのはゴンとナルミ。同い年だからっていうのと、面白い奴だからってのが理由かな。特にいないけど、強いて言うならポックルみたいな奴は面白くなさそうだな」

(素質は高い……じゃが、ここらで敗北を味わって更に成長してほしいところじゃな)


191番、ポドロ
「武術を極めて後継を育てんが為。気になるのは44番。99番と405番の子供二人とは戦えぬ」

(キャラがかぶっとるのぉ)


246番、ポンズ
「経済的な理由からかな……気になるのは406番のナルミ。戦いたくないのは四次試験で一緒だったポックルかな? むしろ二人の仲が気になるというか……きゃっ」

(……頭はさほど良くなさそうじゃ)


294番、ハンゾー
「幻の巻物『隠者の書』を捜す為。気になるのも戦いたくないのも44番と406番。他なら誰でもいい」

(お互い髪がない者同士、苦労してそうじゃ)


301番、ギタラクル
「仕事、99番、44番」

(……)


403番、レオリオ
「医者になる為に金がいるんだ。そうだな……クラピカの頭の回転の速さと知識には注目してるぜ。戦いたくないのはやっぱりゴン達だな」

(格闘能力はなかなか。冷静さが足りないのがちと残念じゃが、素質はありそうじゃな)


404番、クラピカ
「ある物と人を探す為だ。どこまで成長するか気になるのはゴン。理由があれば誰とでも戦うし、理由がなければ誰とも戦いたくない」

(……モテそうな顔しとるのぉ。わしも若い頃はモテモテじゃった)


405番、ゴン
「親父を……ジンを探す為にハンターになりたい! 色々あったから一番気になってるのはヒソカ。みんなとは戦いたくないけど、ナルミとは戦ってみたい!」

(ふぉふぉふぉ、あやつと戦うのはいい経験になるかのぉ)


406番、ナルミ
「モンスターハンター希望っす。最近ポンズの可愛いさが気になります……って、なにその可哀そうな人を見るような目? えーと、戦いたくないのはゴン、キルア、クラピカ、レオリオの四人だ。ん、ポックル? あいつは俺を怒らせたっ!」

(色々と残念な奴じゃ……)


面接で引き出された回答はお互いの相性、更に試合が盛り上がるように因縁のある相手と戦わせる事をネテロは考えていた。
こうして最終試験の対決は12人をA、B、Cの3グループに分け、成績順にチャンスが与えられるように試合数が偏った『勝ち抜けトーナメント』に決定した。

最終試験で不合格になるのは、12人の内たった3名。実に9名が合格するという例年に比べて破格の合格条件である。
それも今期の試験にハンターの素質がある者が多かったのが理由であり、ネテロだけではなく他の試験官達も「今年は豊作」という判断を下していた。
最終試験の内容を決めたネテロは、受験生に発表する前にサトツ、メンチ、ブハラ、秘書であるマーメンにその内容を伝えた。

「ふむ、確かに例年より今年は素質の高い者が多いですから、妥当かもしれませんね」

「へぇ、これは最初から面白い試合になりそうですね」

「うん、能力的にもこの3グループの分け方は丁度良いかもしれませんね~」

三人の試験官は驚きはした者の、トーナメントの組み合わせに納得していた。

「会長、本気で9名も合格させるんですか?」

「うむ。それだけの素質を持った者が揃っておるとワシは思うぞ」

ネテロはマーメンの問いかけに対して自信満々に頷いた。

「さて、それでは待っておるあやつらを呼ぶかのぉ。マーメン頼んだぞ」

「分かりました」

こうして試合会場ともなる広居部屋に受験生12名が集められ、ネテロの考案した最終試験のトーナメントが発表された。

「最終試験は12名の内、3名が不合格になる『勝ち抜けトーナメント』じゃ。A、B、Cの三つのグループに分かれて一対一の試合を行ってもらう。試合の勝利条件は相手に意図して”まいった”と言わせる事、敗北条件は相手を殺してしまった場合じゃ。試合の方法は武器の使用もオーケーの何でもありじゃ。勝敗がつくまで時間は無制限とする。そして、トーナメントの組み合わせはこうじゃ!」


********************
【Aグループ】
     不合格
    ┌―┴┐
  ┌―┴┐ |
 ┌┴┐ | |
405 406 246 86

第1試合、ゴン[405]VSナルミ[406]
第2試合、第1試合敗者VSポンズ[246]
第3試合、第2試合敗者VSロック[86]


【Bグループ】
     不合格
    ┌―┴┐
  ┌―┴┐ |
 ┌┴┐ | |
44 404 191 403

第1試合、ヒソカ[44]VSクラピカ[404] 
第2試合、第1試合敗者VSポドロ[191]
第3試合、第2試合敗者VSレオリオ[403]


【Cグループ】
     不合格
    ┌―┴┐
  ┌―┴┐ |
 ┌┴┐ | |
294 53 99 301

第1試合、ハンゾー[294]VSポックル[53]
第2試合、第1試合敗者VSキルア[99]
第3試合、第2試合敗者VSギタラクル[301]

********************





─────

罫線がずれる……。
見にくいとは思いますが、勘弁お願いします。

死亡フラグが折れた三名との別れの会話と、最終試験の説明の為の話でした。
原作より三名多い最終試験なので一人不合格では多すぎるのでトーナメントを三つに分けています。
これからが最後に向けて試験の山になりますが、うまく表現出来るよう頑張ります。
ただ、散々長くなってしまったハンター試験編なので、原作と違わない試合は詳しく描写はしません。



[11973] 022 最終試験×折れない心
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/10/29 22:23
【Aグループ】
第1試合、ゴンVSナルミ
第2試合、第1試合敗者VSポンズ
第3試合、第2試合敗者VSロック

【Bグループ】
第1試合、ヒソカVSクラピカ
第2試合、第1試合敗者VSポドロ
第3試合、第2試合敗者VSレオリオ

【Cグループ】
第1試合、ハンゾーVSポックル
第2試合、第1試合敗者VSキルア
第3試合、第2試合敗者VSギタラクル

ネテロ会長が解説した最終試験の内容は一対一の決闘。その対戦の組み合わせを見て受験生達は揃って声を上げる。
明らかに公平ではないその組み合わせは会長曰く、これまでの試験の成績順であり、対戦相手は先の面接で選んだとの事だった。
キルアはポックルよりも成績が下と見られている事に憤慨していたが、実力者が単純に成績が上とされていない事は明らかだった。

ネテロ会長が言ったように印象値というハンターの資質が成績に最も関係しているのだろう。
キルアやギタラクルといった実力者の評価が低いのも、暗殺者としては優秀だがハンターとしては相応しくないと判断されたということだ。
かくいう俺はAグループの第一試合で、負けてもまだ2試合控えているという好条件だった。つまり、その点から言えば俺は評価が高かったと見てもいい。

だが、よりによって俺とゴンが第一試合かよっ!
仲間の誰かと当たるかもしれないとは思っていたが、ネテロ会長のあからさまな悪意を感じる。

しかし、本当にどうしようか?
ゴンほど「まいった」と言わせるのが大変そうな相手はいないだろう。
だが、俺もゴンも例え負けたとしても後二試合はチャンスがあるので、敢えて本気でやる必要はないんだけど……。

「ナルミがオレの相手なんだ。本気で行くからねっ!」

やっぱり、こうなるんだよなぁ。
満面の笑みを浮かべ、頬を叩いて気合いを入れているゴンの姿に俺は頭を抱えた。

「俺は出来れば戦いたくないなぁ……」

「オレはもっと強くなりたいっ! だから、ナルミと戦いたいんだ!」

うお、まぶしっ!?
と思わず呟いてしまいそうな程に、ゴンの瞳に宿る光は強い。太陽のようにキラキラと輝いた顔で期待している様子だ。
この瞳にじっと見つめられると、姑息に立ち回ろうとしていた自分が情けなくなる。

試合が始まったらすぐに俺が「まいった」と宣言して、次の試合で勝利を狙った方が体力の消耗もなく、ゴンと俺の二人の合格を狙うならば確実だろう。
成績順に試合数が多く組まれたこのトーナメントは、相手を選ぶ自由が与えられていると言ってもいい。
無駄に体力を消耗して喜ぶのは、後に試合を控えているポンズとロックぐらいだろう。

だけど、ゴンにはそんな当たり前の理屈は通じない。俺が仲間と戦いたくないという理由で「まいった」と言ってもゴンは勝利を認めないだろう。
納得の行く結果でなければ、俺達二人揃って合格しようともゴンは俺を仲間と呼んではくれないかもしれない。ゴンが今この瞬間に望んでいるのは、ハンター試験に合格する事ではない。目の前の俺と本気で戦う事だ。
その結果、次の試合に後を引き摺って自分が不合格になろうともゴンは後悔しない。

……全くゴンにはかなわないな。
俺はこの瞳を見て、ゴンと戦う事を決意をした。ただ馴れ合うだけが仲間じゃない。お互いに競い、高め合うのが仲間なんだ。
俺は確かに仲間という存在が欲しくて、積極的にゴン達の仲間になろうと務めた。ゴン達も友好的な俺を心から信頼してくれたかは分からないが、悪意は感じていなかったはずだ。
でも、本当の意味で仲間になる為にも、俺はここでゴンの思いを受け止めなければならない。

「お前の気持ちは分かった。俺は全力で受け止める!」

ただ、それでもせめて明確に決着がつくように、勝負方法を提示させてもらおう。
姑息? いや、だってゴンが怪我するまで殴り倒す事なんて出来るわけないじゃないか。

「だが、このまま戦って必要以上に疲弊するのは避けたい。俺から一つ勝負方法を提案させてくれ」

「え?」

指を一本突き立て勝敗の明確な基準を提示して、ゴンに素直に負けを認めさせるように誘導する。

「一時間以内にどんな手段でも俺の顔に一撃を入れられたらゴンの勝ち。逆に一時間が経過しても一撃を入れられなければ俺の勝ち。例えゴンが気絶して何もせずに一時間が経過してもだ。負けたものはその場で”まいった”と宣言する事、これが俺の提示する勝負方法だ」

「なんでそんな勝負にするの?」

「正直に言えば俺はゴンと戦いたくない。だから、俺はその場で”まいった”と宣言して負けるつもりだった。でも、そんな勝負じゃゴンは納得しないだろ? お互いの要望を取り入れるとゴンは真剣勝負を、俺はなるべく戦わずに済む方法ですましたい。その間をとったのがこの勝負方法だ」

「でも、なんでナルミの顔に一撃を入れられたらオレの勝ちなの?」

「そうだな、一見するとゴンの勝利条件が簡単に見えるが、逆に俺は攻撃を当てなくても一時間触れられなければ良いとも言えるだろ? 充分に勝算はある勝負のつもりだ」

そう、これならばゴンの真剣に戦うという希望を叶えつつ、俺も一時間ゴンの相手をすれば勝利するという望みを叶えられる。

「その勝負方法なら、ナルミはオレと戦ってくれるっていうんだね?」

俺の提案の意味を理解したゴンは、確認の意味で俺に訊ねた。

「ああ、そういうことだ」

「それなら、いいよ! オレはナルミとは本気で戦いたいんだ!」

拳をぐっと握り締めて、まっすぐに俺を見つめてくる。
その眼差しを向けられると、手を抜いて相手をしようと思っていたのに、俺までゴンと戦ってみたくなってしまうのが不思議だ。

「よし、相手するぜ」

俺は双剣と太刀の鞘を止めたベルトをゆるめてを引き抜き、クラピカに預ける。

「ちょっと預かっておいてくれないか?」

「ああ、構わない」

武器は使わない、念も使わない……俺の素の身体能力だけで本気で相手になろう。
正直に言うと格闘技にはそれほど自信がないが、それでも今のゴンに後れを取るつもりはない。

「ナルミ! 武器を使って本気でやってよ!」

クラピカに武器を預けていると、ゴンは批難するように声を上げた。

「武器は勝負に使うもんじゃない。殺し合いで使うもんだ。本気になるとは言ったが、俺はゴンと殺し合いをするつもりはない。というか俺の愛刀に切られたらマジで死ぬぞ?」

「でも、それじゃ本気とは言わないよ」

「思い上がるなよ、ゴン! 俺の素手の本気でさえ今のゴンは達していない」

「っ!?」

殺気を込めてゴンを睨みつける。
一次試験でヒソカの相手をした時と同等、いやそれ以上の気を叩きつける。
ゴンは冷や汗を浮かべて、戦闘体勢に入った。周囲の者達もその余波で、得体の知れない緊張感を感じ取っている。

「これが、ナルミの本気?」

「そうだ。俺より強いハンターはいくらでもいる。それでも強くなりたいのなら、俺を乗り越えてゆけ!」

「うん、分かった!」

「よろしいですか? それでは第一試合、ゴン対ナルミ。開始っ!」

試合開始の合図と共に、ゴンは俺から見て右へと駆けだした。
足を使って動きで撹乱しようと試みるようだ。山と森の自然の中で育ったゴンは、動きの速さには自信があるのだろう。
だが、俺が見るにゴンの本領はその感の鋭さと観察眼にあると思っている。動きは非念能力者の子供にしては大したものだが、俺にはスローに見える。

「後ろがガラ空きだぞ」

一瞬で背後を取りつつも、まだ攻撃は加えない。
ゴンにはまず、実力差をその身で感じてもらわなければならない。
自分がどれだけ無謀な挑戦をしているかを知り、その上で俺と戦うという決意が揺るがないのか問う。

ゴンは完全に後ろを取った俺を振り払おうと更に加速し、突然立ち止まり再び走り出したかと思えば、また180度方向転換する。
そんなフェイントを織り交ぜたゴンの動きを全て見切って、俺は無言で背後を取り続ける。

まるで俺がゴンを後ろから糸で操っているかのように、人形遣いと人形の如き演舞である。
それを見ていた受験生達も俺とゴンの実力差を見てとったのか、感嘆の声を上げている者もいた。

「その程度では、俺を本気にさせる事は出来ないぜ!」

ゴンは横に跳び、着地した足を軸にして体を反転して向かってきた。
俺は敢えて動きをなぞらずに、迫るゴンを腰を落として正面から待ち構える。

「くっ!」

万全の体勢で待ちかまえる俺に対して、ゴンが苦し紛れに放った拳に腕を交差するように絡めてカウンターを放つ。
互いの慣性を増幅した衝撃がゴンの頬に炸裂し、その小さな身体は五メートル近く後ろの壁際まで吹き飛んだ。

頬を腫らして仰向けに倒れたゴンは動きを止めた。
「決まったのか?」とかレオリオが言っていたが、その台詞が出たからには終わるわけがない。俺は油断なく視線をゴンから離さない。

「いってー」

そう言って両手で床を押して跳ね起きるゴン。頬は赤く腫れているが、試合続行は可能なようだ。

「頑丈だな。今なら次の試合に後遺症を残さずに済む。負けを認めたらどうだ?」

「いやだ!」

ゴンが俺に向って一直線に向かってくる。
俺はその足を払って床に転がすと、軽い跳躍から両足を揃えて床を踏み砕く。ゴンは間一髪で床を転がって回避したが、床に十センチ程の穴があいたのを見て驚愕に目を見開いている。

「もう実力差は分かっただろ? それでも、俺と戦いたいのか?」

「俺は勝ちたいから戦うんじゃない。ナルミだから戦いたいんだ!」

「そうか……なら」

殺気を混ぜて脅しているが全然怯んだ様子がない。流石にヒソカ相手に喧嘩を売るクソ度胸は驚愕に価する。
先の攻防でゴンはしっかりと実力差を感じたはずだ。
それでも戦いたいと言うのなら、本気で相手になるしかないだろう。

「今度はこちらから行くぞ」

ゴンは腰を落して身構え、俺の動きに大して直感で反撃を試みるつもりらしい。
左右の足でボクサーのようにステップを踏み、ゴンの背後を取るべく駆け出す。ゴンは警戒していたにも関わらず、俺の行動に反応する事が出来なかった。
背後から首裏の急所、顎中(けいちゅう)への手刀による当て身。脳を揺らすその一撃でルールに設定した一時間は気絶してもらうつもりだった。

だが、ゴンは寸前で腕を首に回して手刀を防ぎ、俺の手を束縛しようと掴みかかってきた。
俺は咄嗟にゴンの足を払って体勢を崩すと、その手を逆に掴んで片手で放り投げる。
幾分無理な体勢での投げの衝撃を、ゴンは膝の屈伸を使った壁への着地で緩和する。
そして、すぐに壁を蹴って加速し、飛び蹴りを放ってきた。

対する俺は狙いを定めて上段蹴りを放ち、ゴンと俺の足の裏が空中で激突した。
力で勝る俺の蹴りであったが、ゴンも壁を蹴って加速した為に均衡している。
長く続いたような錯覚を覚えたが、実際にはその衝突は一瞬の事だった。
わずかに俺に白旗が上がり、ゴンは弧を描いて後方に飛ぶことで勢いを相殺し、俺はその場で微動だにしていない。

「やるじゃないか」

「そう簡単に負けない!」

言うだけあって、ゴンの戦闘における対応は見事だ。俺の速度に目はついてきているが、身体が動かないといった所か。油断をすれば俺も負けかねない。

「ゴン、ナルミなんかに負けるなよ!」

「うん! ぶっ飛ばしてやる!」

外野のキルアからの野次にゴンは同調して、俺の怒りを誘うつもりらしい。
まぁ、船上と森での醜態から俺の精神に付け入る隙があると考えたのは悪くない。
だが、戦闘状態の俺は一種の集中状態にあると言える。その程度の野次では動揺は微塵も見せない。

「悪いがその程度で動揺するほど戦闘の心構えは悪くないよ」

「むっ!」

「戦いにおいては常に冷静でなければならない。勝てる戦いをするのは戦士として当然の心構えだ」

師匠の口癖を我が物顔で披露し、キルアを押し黙らせる。
戦闘民族な師匠は、普段はただの馬鹿のくせに事戦いにおいてはその言葉の重みも違う。

「さて、そろそろ終わらせるぞ!」

俺は更に速度を上げてゴンに正面から攻撃を仕掛ける。
咄嗟に腕をクロスさせて首を守るゴンに、掌底による三点の急所への当て身を繰り出す。

鎖骨の間にある秘中(ひちゅう)、胸の中央の水月(すいげつ)、心臓の位置の雁下(がんか)。
狙いたがわず体に吸い込まれ、ゴンの意識は一瞬で吹き飛び、意識の支えを失った身体は床に崩れた。

「秘中、水月、雁下。三つの急所を突いた。体は頑丈でも急所は鍛えられていないだろう?」

既に意識を失って聞こえていないゴンに向かって呟く。

「約束通りに一時間が経過するのを待たせてもらうか」

勝負は決まった。後は約束通りに時間が過ぎるのを待つだけだ。
俺はそう判断して颯爽と踵を返した所で、静まった周囲からざわめきが聞こえる。

「ま、まだ……だ」

驚くべき事にゴンは立ち上がっていた。
だが、足はガクガクと震え、激痛に晒された鳩尾を手で抱えるように、今にも倒れそうな姿だった。

「もう、やめとけよ。勝負は決まっただろ?」

「まだ、一時間経ってない!」

常人であればすでに意識を失い、それでなくとも立つ事さえ出来ないだろう。何がゴンをそこまで掻き立てるのか、俺には分からない。

「くっ、これが最後だぞ……」

一歩も動くことさえ出来ないゴンに、真正面から右の正拳を突き出す。急所を狙った気絶などと生ぬるいものではない。
防御をしようとしたのか咄嗟に腕を持ち上げたが間に合わず、ゴンの頬に狙いたがわず吸い込まれた拳がクリーンヒットする。
これでゴンの意識を綺麗に刈り取ってやろうと思ったのだが……。

「へへ、捕まえた」

「な!?」

だが、ゴンは殴られながらも俺の手首を掴んでいた。
防御の為ではなく、俺の腕を捕まえる為に持ちあげたらしい。つまり、防御を捨てて俺の腕を取りに来たのだ。
ゴンの肉を切らせて骨を断つ捨て身の行動が実を結び、念を使わない俺の身体能力では、ゴンの馬鹿力を振り払う事は出来なかった。

右手を拘束され、移動を封じられた状態での接近戦はゴンにも勝機がある。
至近距離での蹴りは威力を殺されて大した打撃にはならない。
ならば、と残った左手で掌底の形を作り、ゴンの鳩尾を全力で打つ。

「――ッ!?」

最後の力で跳躍したゴンの急所をわずかにはずれ、意識を刈り取るまでには至らなかった。
だが十分に効果のある一撃であるのは明白であり、最早ゴンの全身には立ち上がるだけの力も残っていない。
吹けば飛びそうな体を繋ぎ止めているのは、俺の手首を掴んだまま離さない左手と、掌底を繰り出した俺の左手を執念で掴んだ右手。

「オレは……絶対に……強くなるんだっ!」

両手を束縛された俺に対して、ゴンは浮き上がった体勢から頭突きを放った。
振り下ろされたゴンの石頭は俺の額を捕らえ、目の前が一瞬にして光に包まれた。
頭の周りをお星様がぐるぐる回っているようだ。

「……がっ!?」

「へへ、どう……オレの……思いを……」

どさりと俺に身体を預けて気を失ったゴンを、解放された両手で抱き留める。
腕の中で眠るゴンは思った以上に軽い。こうしていると、本当に小さな子供でしかない。

だが、骨を断ち、身を粉にしてまで立ち向かってきたゴンの執念の一撃を食らったのは紛れもない事実。
本来なら俺は悔しさを感じるべきだろうが、そんな気持ちは一切なかった。

ゴンはこんなにも凄い奴なんだ。こんなにも勇敢な男なんだ。
そう声に出して叫びたくなるぐらいに、俺は歓喜に震えていた。

『どんな手段でも俺の顔に一撃を入れられたらゴンの勝ち。』。
俺自身が提示した勝負方法で、ゴンは見事に俺を打ち負かした。

今はまだ身体同様に小さい存在でしかない。それでも、何時か……いや、すぐにでも大きくなって俺の前に再び立つ事だろう。
その時には……受け取ったゴンの思いに、俺の思いを乗せてぶつけてやりたい。

「ゴンの思いは届いたよ。俺の負けだ。”まいった”よ」

第一試合はゴンの勝利で終わった。俺は力なく眠るゴンをそのままおぶって歩き出す。
……勿論、向う先は医務室だ。





─────

ハンター試験中に一度は対決させたかった、原作の主人公と今作の主人公の戦いでした。
言うまでもなく、今回の主役はゴンのつもりで書きました。
実力差は大きいのでまともな勝負になりませんが、ゴンの強さを描けていたらうれしいです。

※2009/10/20修正
ご指摘のあった通り、独りよがりの”勝負の負け方”を修正しました。
『実力差のある相手に立ち向かい、負けたと思った場面から執念で勝利を掴み取る』という事が描写したかったのですが、精進します。



[11973] 023 最終試験×兄弟の資格
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/01 01:29

ゴンとの試合には負けたが、実に清々しい気分だった。
まぁ、ここまで俺に余裕があるのは、元々の計画通りにダメージが極少でゴンとの試合を終えられた為だ。まだ2試合はチャンスが残っている上に、ゴンの強さの一端とも言うべき物を見れたので結果的には大満足だった。

第一試合の内、残る試合はクラピカとハンゾーが勝利した。
クラピカ対ヒソカは、試合開始から十分が経った辺りでヒソカがクラピカの耳元で何かを呟くと負けを宣言。
取引めいた行為にそれまでの奮闘を応援していた周囲の空気が一転するのを感じたが、俺は素直に祝福を送っておく。

ハンゾー対ポックルは見所のない試合だった。
開始一分もせずに背後を取られて腕を折ると脅されたポックルが降参。ポックルはキング・オブ・ヘタレなのは間違いない。ゴンの爪の垢でも飲ませてやりたい。

続く第2試合は以下の通り。
Aグループ、ナルミVSポンズ
Bグループ、ヒソカVSポドロ
Cグループ、ポックルVSキルア

まずは俺の二試合目、相手は紅一点のポンズ。
女の子が相手なので痛めつけるような真似はしたくないが、決して油断はしない――!
……。
……そして、俺もポックル同様に開始一分で負けた。

「……というわけで、もう一度刺されると、アナファラキシーショックで死ぬ可能性もあるわよ?」

氷のような冷たい眼差しで脅してくるポンズと、俺の手にとまった三匹の蜂の複眼が妙に怖かった。
そりゃ、試合開始と共に求めてきた握手に応じた俺が悪かったよ。ちょっと女の子と手が触れるという下心があったのも事実だ。

うん、それで蜂に刺されちゃった。
毒を使う事を知ってたけど、まさか握手の為に差し出した手の中に蜂を仕込んでいるとは思っていなかった。
一度刺されても影響はないが、二度刺されてるとアレルギー反応を起こして死に到る危険性もあるらしい。
完全な騙し討ちではあるが、試合開始が告げられた後の事なのでポンズの行動は批判される事ではない。

「くっ……」

”纏”で肉体を強化すれば、針が刺さらないようにするぐらいは容易い。
だが、見た目には分からないとはいえ、ネテロ会長を初めとして試験委員会の面々が勢揃いし、かつ受験生が全員揃っているこの場で念能力は出来れば使いたくない!
念能力は秘匿されるべき力であり、それを欲するならば自らの手で辿りつかねばならないのだ!

……うそです。
本音を言えば、ポンズとロックのどちらに合格してもらいたいかと悩んだ結果だった。
この試合経過によって、ポンズが合格するか、ロックが合格するかが決まると言ってもいい。
ポンズが勝った場合、俺がロックに負けることは万が一にもない。これまで共に行動して、ロックが特殊技能を持たない格闘能力だけの、只のアホだという事は分かっている。
逆にポンズが負けた場合、格闘能力では適わないだろうが、蜂を使えばロックなどイチコロだろう。
……あれ、どうあがいてもロック負けそうじゃね?

だったら少しでも好感度が上がるようにポンズに勝ちを譲った方が得じゃないか?
とはいえ、流石にいきなり「まいった」と言うのは露骨過ぎるかなと思っていたのだが、蜂に刺されて死ぬのを恐れて敗北を認めた、というのはその理由には十分だろう。

「俺の負けだ。”まいった”……」

俺の一言で合格が決定したポンズのはしゃぎようは大きく、喜びの余りに対戦相手であった俺に抱きついてくる始末だった。
ポンズが俺に抱きついている様子を見たポックルが、先ほど負けたのと合わせて二重の衝撃を受けているのが何とも同情を引いた。

次の試合はヒソカ対ポドロ。
武術家のポドロ氏だったがヒソカ相手には歯が立たず。それでも諦めずに必死に立ち向かう姿に、戦うお父さんの背中を見た。子供がいるのかはしらんけど。
だが、遂に膝を屈して倒れたポドロ氏にヒソカが耳元で呟くと、クラピカの時とは違って今度はポドロ氏が敗北を認めた。
あの変態ド腐れピエロは一体何をしたんだ。動けない所に耳に息を吹きかけて、第三次試験の時のように「天国に連れてっちゃうぞ◆」とでも言ったのだろうか?
それならば……納得の結果である。

二試合の最後を飾ったのは、ポックル対キルア。
実力差から先程の試合の焼き増しになりそうだったのだが、キルアが「ポックルと戦っても面白くない」と言ってあっさり負けを宣言。
ポックルはハンゾーにやられてギブアップ、キルアに勝ちを譲られて合格という何ともヘタレな結果に、落ち込んでいるようだった。
ポンズがそんなポックルを慰めているようなので、ポックルには同情など一切不要だ。むしろ羨ましい。


最終試験も残す所は三試合。
Aグループ、ナルミVSロック
Bグループ、ポドロVSレオリオ
Cグループ、キルアVSギタラクル

まさかの二戦敗退、という何とも情けない試合展開だったが次こそは大丈夫!
少しでも俺が負けるとか思ったりしていないよね?
流石にロックに負けたら俺はもう生きていけない。

「フッ、オレ様に恐れを抱かぬならば、何処からでもかかって来るがいいっ!」

「よーし、三秒で終わらせてやる」

拳の骨を鳴らして、自信満々に腕を組んで仁王立ちしているロックに近づく。
しかし、ロック自身も俺の実力は認めているので、次第に顔色が悪くなっているのが見て取れた。

「い、いや、待ってくれ兄貴! 勝負方法を提示したい!」

「兄貴じゃねーけど、なんだ?」

おや、アホのロックのくせに頭を使って来たのか。

「ジャンケンで勝った方が勝利でどうだ!?」

思わず脱力しそうになる勝負方法の提示に、俺はニッコリと笑みを浮かべて宣言する。

「なら、俺はグーを出すぞ!」

「なんだと? では、オレ様はパーで迎えうつっ!」

「まっすぐ行ってぶっ飛ばす右ストレートでぶっ飛ばすまっすぐ行ってぶっ飛ばす右ストレートでぶっ飛ばす……」

何故か心の声が漏れてしまった。

「ま、待ってくれ! それはジャンケンじゃない!」

「なーに、本々ジャンケンとは邪拳ともうんぬんかんぬん……だわさ」

「あ、兄貴! 待ってくれ!」

「兄貴と呼ぶなっ!」

そしてボッコボコにしてやったら、ロックは渋々敗北を認めた。

「フッ、オレ様の負けだ。一生ついてくぜ、兄貴……」

全く嬉しくもない台詞と共に担架で運ばれて行くロックを見送る。
こんなんで試験合格とは釈然としない気分だった。
いやまぁ、合格したのは嬉しいんだけどさ……。

「わかるぞ、お前の気持ちは……」

「……ポックル?」

俺はポックルと見つめ合い、互いの肩を抱き合った。
合格の喜びを分かち合っていたのか、同じ気持ちを抱いた同士と解り合った事が嬉しかったのかは、今となっては分からない。
だが、ケータイでパシャパシャと写真をとっているポンズからは更に誤解が深まったかもしれないと後悔する事となる。

次の試合はポドロ対レオリオ。
負傷したポドロ氏を見て医者を目指すレオリオはせめて疲労が回復するまで試合延期を申し出たが、ネテロ会長はそれを認めなかった。
ハンターたるものいつ如何なる時もベストを尽くせるようにせねばならないのは当然の事、という演説をしていた。
レオリオは反発していたが、だからといって試験合格を譲る事もなかった。経験に優れるポドロ氏と、若く優れた身体能力を誇るレオリオは真っ向からぶつかり合った。
序盤はポドロ氏が持ち前の経験を活かした武術で、負傷を気にするレオリオを翻弄するが、後半になるにつれて体力で勝るレオリオが次第に優勢になっていった。
そして、遂にレオリオの攻撃がポドロ氏を捉え、その後はさしたる反撃もなくレオリオは勝利した。

そして、最後の試合……キルア対ギタラクル。
キルアはポックルに勝ちを譲ったのは、ギタラクルを相手にも勝利を確信していたからだった。
だが、それが過ちであった事はすぐに判明する。ギタラクルが親しげに声をかけ、顔から針を抜き放つ。
皮膚を突き破りそうな隆起で顔全体が歪み、その現象が収まるとギタラクルの顔は整った顔立ちの青年に変化していた。

「やぁ、久しぶりだねキル」

「兄貴……」

ギタラクル改めイルミ=ゾルディックが、弟キルア=ゾルディックと向かい合った。
衝撃の事実に俺とヒソカ以外は皆驚愕しているが、それ以上に当のキルアは全身に汗をかいて身動き一つとれないでいた。

イルミはキルアに向って暗殺者一家の常識外れの家庭事情を話し、キルアに家に戻れと命令する。
幼い頃から暗殺者としてイルミと父に育てられたキルアは、自分よりも強い相手と戦う事を避けるように仕込まれている。
イルミにはどう逆立ちしても叶わないのはキルア自身が悟っていた。

「望みなんてないんだから家に帰れ」というイルミの問いに、反発するキルア。
だが、ゴンが友達と言う言葉を聞いたイルミは「暗殺者には友達はいらない、ゴンを殺さなきゃ」と気軽に言い放った。

友を殺すと言われても、立ち向かう事が出来ないキルア。
試合は殺してはならないという条件があるのだから、戦っても死に至る事はないだろう。
ならば、例え負けるとしても、ここで『戦う』という選択肢を選ばない理由はない。

だが、キルアはイルミと戦う事が出来ない。
答えを出せないキルアの態度にイルミは思いついたように手を打って、「うん。今すぐゴンを殺せば決心もつくよね」と行動に移そうとする。

「試合中にこの部屋を出る事は認められていません」

「このまま黙って、ゴンの下に行かせるかよ!」

その行動を制止しようと、審判を初めとする委員会の黒服が立ちはだかった。
同様にレオリオの怒声の下、クラピカ、ハンゾー、ポックル、ポンズも行く手を阻む。
既にハンター試験の合格が決まった五人は、ゴンの不屈の闘志に共感して親近感を感じているのだろう。そのゴンが殺されるかもしれないという状況で、思わずゴンを守る為に行動したのだった。
だが、これだけの猛者を前にしてもイルミはまるで怯む事はなかった。

怪我で退出したロックとポドロの他に、この場でイルミを止めようとしていないのは、俺とヒソカだけだった。
俺の行動が意外だったのか「何故?」という顔をしてレオリオ達は見つめてくるが、俺はイルミの行動を止めようとはしない。

勿論イルミがゴンを実際に殺すつもりではなく、キルアに対して決断を迫っている事を理解しているからだ。
見せかけだけではなく、本気でゴンを殺そうとしたら俺もイルミに立ち向かうだろう。
だが、俺はイルミに対する怒りよりも、むしろ……俺はキルアの態度に激しい怒りを覚えていた。

そもそも俺はギタラクルの正体を知りつつも、キルアには告げなかった。
第四次試験でスパーを見逃してもらう代わりの約束でもあったが、キルアの為を思うならば約束を反故にしてでも告げるべきだった。

俺は何故それを告げなかったのか?
その理由は……俺自身がキルアを信じきっていなかったからだ。

俺は悪人を憎む。罪もない人を殺す事を何とも思わないような奴らは、みんな死んでしまえばいいと思っている。
キルアは育った環境が悪かったとはいえ、幾人もの罪もない人の命を奪って来たのだろう。本心から望んだ事ではなかったとしても、許せる行為だろうか?
――いや、許されるはずはない。

ここが「殺さねば殺される」というのがアタリマエな、俺の価値観からすれば異常な世界である事は理解している。
それでも、どんな理由があれ「殺す」のは罪だ。正当防衛でもなく、自ら進んで手を染めた者は断罪されるべきだ。

殺しておいて「そんなつもりじゃなかった」と言って誰が許すと言うのだ。殺された人、残された人にとってそんな言葉は、何の言い訳にもならない。
だから、『暗殺者のキルアは裏切るかもしれない』と、どこかで思っていた。それがこうして実際にキルアの態度をもって表面化した。
いくら兄弟とはいえ、友達であるゴンを殺すと告げられて黙って受け入れるような奴を信じられる訳がない。
俺が内心穏やかではない気持ちでじっと見つめていたキルアは、未だに答えを出せずにその身を震わせていた。

……。

硬直したその場の雰囲気を壊したのは、突然勢いよく開け放たれた扉の音だった。
扉の先の廊下には、サトッサンに付き沿われたゴンが自らの足で立っていた。

「ゴン!」

レオリオ達がゴンの名を呼び、イルミは好都合と言わんばかりに視線を向けた。
キルアの俯いた顔は真っ青になり、全身を激しく震わせている。だが、決してゴンの顔を見ようとはしなかった。
一方のゴンはそんな態度のキルアに声をかけない。ただじっとイルミに対して怒りをぶつけていた。

「お前に兄貴の資格なんてない!」

「兄弟に資格なんているのかな?」

「キルアの気持ちを分かろうともしない奴には、そんな資格はない!」

「ふーん、それで君はキルの友達の資格があるっていうのかい?」

「オレが……キルアがそうでありたいと思う限り、資格なんていらない。だって、オレ達はとっくに友達なんだ!」

ゴンの強い意志が込められた言葉に、思わず部屋中の人物が雰囲気に飲み込まれた。
だが、イルミはそれを容易く振り払い、平然と言葉を紡ぐ。

「キルには友達なんていらないから、二度と近づかないでもらえないかな?」

「お前のいう事なんて聞くもんか!」

睨み合う二人を余所に、レオリオがキルアに呼びかける。

「やっちまえよ、キルア! ゴンはお前の友達だろっ! なんで黙ってるんだ!」

「どうするのキル? オレと戦う?」

もうこんな場面を見たくない。
仲間を、友達のゴンを裏切るキルアの姿なんて、これ以上は見ていられない。
俺に……キルアなんて仲間じゃないなんて思わせないでくれ。
闇に生まれたキルアの家庭事情には同情するが、結局それまでの奴だったと諦めさせないでくれ。

ゴンとキルアは光と闇。
相反するが故に、決して交わる事はない存在。それは生まれた時から決められた宿命なのだ。
キルアが光を望もうともその先に広がっているのは果てしない闇であり、何処まで行っても光が照らす事はない。

友達の為に戦えないのなら、友達が欲しいなんて言わないでくれ。
それでも友達になれないのなら、ゴンの前に二度と現れないでくれ。
こんな風に友達を裏切るのなら、初めから光を求めないでくれ。

勝手に闇の世界で好きなように人を殺していればいい。
血と怨嗟に塗れた場所で、孤高の無意味さを噛みしめればいい。
そして、いつか……その背負った罪に断罪されればいい!

――そんな風に思わせないでくれよ、キルアッ!

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

俺の呼びかけに答えたかのように、キルアは絶叫して前のめりに崩れ落ちる。
頭を抱えて獣のように唸り声を上げ、苦しみもがく凄惨な姿を見て……俺は少し安堵を感じていた。

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

キルアはゴンを友達だと思っている。
その為に兄であるイルミと戦う事は当然だと思っているんだ。
それでも、意志と反して動かない身体に対して、キルア自身が一番怒りを感じている。

「お前には無理だよ。オレと父さんがそういう風に育てたんだからね」

「……た……う」

「なんだい、キル?」

「――兄貴と戦うっ!」

なっ!?
キルアの言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

「聞き違いかな? なんて言ったんだい、キル?」

「オレの友達に手を出させない! 兄貴の言う事なんて聞くもんかっ!」

「!?」

それは先ほどゴンが言った言葉と同じ、自らの意思を貫く事の宣言だった。
キルアの決意はイルミにとっても予想外であり、能面のように表情がなかったイルミの目が驚きで見開かれている。

「どういうことだ? キルにはオレの針が……」

「オレの脳(アタマ)にこんなもん仕込みやがって! オレは兄貴の操り人形なんかじゃない!」

そう言ってキルアは手の平を開いて、指の長さにも満たない一本の針を見せつけ、その針を憎々しげに床に叩きつける。
半ばで折れ曲がった針は、イルミが用いていた針を更に小さくしたような形状をしていた。

キルアの頭に、何時それを仕込まれたのか?
恐らくこの試験中ではない。ゾルディックの家にいる時には既にキルアはイルミによって暗示をかけられていたのだ。
じゃあ、キルアの暗殺者としての冷酷な態度も、仲間さえも切り捨てようとしたのも、全てイルミの暗示によって操られていたという事か?

「ば、馬鹿な? どうして、それを?」

「オレはもう暗殺者なんかにならない! 兄貴の……ゾルディックの呪縛なんて、解き放ってみせる!」

指を突き付けて、宣言するキルア。
先程まで震えて顔を青くしていた姿は微塵もなく、友達の為……仲間の為に戦う強い意思を持っていた。
その姿は闇の住人などではなく、ゴンと同じように闇を照らす一条の光だった。






─────

ナルミの合格が盛り上がらないのは仕様です。最終試験はゴンとキルアが主役ですから。
トーナメントの組み合わせで「ポドロ死なない? じゃあキルアは?」と思った方もいらっしゃると思いますが、この為に試合順を敢えて後ろに持って行きました。
これが一番書きたかったハンター試験における、原作のifです。

もし、この時点で、
キルアがゴンを友達だと胸を張って言えたとしたら……
ゴンがハンゾーにノックアウトされずにこの場にいたら……
ビスケに指摘されたように、事前に自分がゴンを見捨てる可能性を考えていたら……
キメラアント編でのイルミの針による呪縛から逃れる事が出来るのではないか?

勿論こんな好き勝手が出来るのも、原作という偉大な下地あってこそです。



[11973] 024 最終試験×光と闇
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/04 22:23

イルミに向って立ち向かうと宣言したキルアの姿に衝撃を受けていたのはイルミだけではない。そうであって欲しいと願っていたはずの俺も同様だった。
他のみんながキルアに声援を送っているのに対し、俺はまだ呆然と佇んでいた。

結局、この場でキルアの行動を意外と思ったのは、俺とイルミだけだった。
何の事はない、キルアがゴンの為に戦わないと信じていなかったのは俺達だけだったという事だ。
自分の思い違いに、くつくつと笑いが込み上げて来るのを止められない。

俺はキルアの何を見ていたんだ?
キルアが人を殺す事を何とも思っていないだと?

俺がそう判断したのはキルアの行動の表面しか見ておらず、その心を理解しようとしなかったせいだ。
キルアは何の罪もない人を平気で殺せる自分に嫌気が差していた。断罪されるべき加害者ではあるが、救いを求めていた被害者でもあったのだ。
そんなキルアが心に抱えていた苦悩と葛藤を、俺は理解しようともしなかった。

何が『暗殺者のキルアは裏切るかもしれない』だ。
キルアに相手を理解したいと思ったら友達だとか偉そうに言ったのに、勝手に決めつけて気持ちの上で仲間を裏切っていたのは……俺の方じゃないか。

仲間を信じる事が出来なかった、いや信じようとしなかった自分の傲慢さに反吐が出そうになる。
クイズバーサンに答えたはずの『俺は仲間を信じて、決して信念を失わない』の誓いが、脆くも崩れ去るのを意識した。
仲間に対する俺の想いは……偽物だったのか?

罵倒されてもいい、軽蔑されてもいい、ただ俺の心をさらけ出したかった。
口から逆流してしまうような思いを必死に押しとどめ、キルアに対する懺悔の言葉を飲み込んだ。
そんなものはキルアにとって迷惑でしかない。それを願っては俺は前に進めない。

今はただ俺にやれることをしよう。俺に出来るのは、己の意思を貫いてイルミと対峙しようとしているキルアに声援を送る事だけだ。
キルアは今、胸にずっと抱え続けた苦悩を払う為に実の兄のイルミに挑んでいる。
そこには、俺が入る隙間などありはしない。

「キル……?」

「なんだよ、兄貴?」

キルアは戦闘の構えをとったまま、イルミに問い返す。

「本気なのかい?」

「ああ。オレはもうキルア=ゾルディックじゃない。ただのキルアだ!」

「そんなのは許さないよ」

イルミが”練”でオーラを高めると、敏感にその気配を察知したキルアは体勢を低くして警戒をあらわにした。
その圧力を振り払う為に、キルアは独特の歩法でイルミに対して円を描くように駆けだす。
残像に惑わされて十数人ものキルアが取り囲んだようにも見えるので、集中して動きを追わないと本体かどれか分からなくなりそうだった。

「なんだ、あれはっ!」

「足運びに緩急をつけて、錯覚を起こさせている。私にも何人ものキルアが見える」

レオリオの疑問に、クラピカがその歩法の原理を看破する。
確かに優れた技術であるのだが、同じ暗殺者であるイルミには通用しない事はキルアも分かっているだろう。
だとすると、その狙いは何だ?

「肢曲(しきょく)、なかなか上手くなったね」

「ふん!」

イルミは純粋にキルアの成長を褒めているが、まるで意に課さない侮った言動でもあった。キルアは反論するように、更に歩法の速度を上げる。
そこから先の動きは今までと一変していた。
ゆったりと歩くような静止した残像ではなく、まるで風に舞う桜の花びらのような足取りで、キルアの足は優雅にステップを踏む。

「肢曲を更に高速化したのかい?」

「無音の高速移動幻影術、桜舞(おうぶ)だ!」

キルアの残像が舞うように空中で踊る。歩法による足運びだけではなく、跳躍による縦の緩急を織り交ぜた高速の歩法。
イルミさえも知らない、キルアのオリジナルの技のようだ。これがキルアの切り札なのだろう。
だが――。

「美しいね。でも……」

――まだ、イルミには届かない。
イルミの両手から放たれる、合計十本の飛針。
残像を含めた五人のキルアの両足の甲を正確に貫くと、その瞬間に残像が一気にかき消える。

「これでもう動けないだろう?」

そして、その場に残ったのは足の甲に二本の針が突き刺さったキルアの姿だけだった。

「くそっ!」

必死に足を動かそうとするキルアだが、長さ数センチに過ぎない針が、まるで床を貫いているかのように足が縫い付けられている。

「――っ!」

更にイルミの手から放たれた針がキルアの右腕――肩、肘、手首の三か所の関節に突き刺さる。

「ちょっとお仕置きが必要だね」

イルミがそう言うと、突然キルアの右手の拳が自身の顔を打った。

「かはっ!」

備えていなかった自分の拳の衝撃をまともに受けて、キルアの脳は左右に揺さぶられる。
一瞬の隙を逃さずに、二度、三度と繰り返し叩きつけられる己の拳。その意外な攻撃に対する防御が取れず、着実にダメージが蓄積されている。

「今謝れば許してあげてもいいよ」

キルアの意思から独立した右腕は、一切の手加減なしに何度もキルアの顔を歪ませる。
頬が腫れ、瞼が腫れて片目の視界が遮られる。
前歯が折れ、口内からは赤い血が飛び散る。

キルアはそれでも、歯を噛みしめて耐えた。
幼少の頃から暗殺者となるべく修行という名の虐待を受けたキルアは、苦痛に対する耐性はこの中の誰よりも高い。
例え死に至る苦痛を与えられても、キルアの精神は決して折れないだろう。

「もういい! キルア、負けを認めるんだ!」

「そうだ! お前の心意気は見せてもらった!」

レオリオとクラピカがキルアに負けを認めるように促す。
ハンゾー、ポックル、ポンズも同意するように頷いている。
俺は自分の気持ちに整理がつかずに、ただじっとキルアを見つめていた。

「キルア! そんな奴ぶっ倒しちゃえっ!」

ゴンだけは友達が一方的に傷めつけられている凄惨な場面を見ても、それでもキルアの意思を尊重して応援した。
その声援に応えたキルアは針で縫いとめられていない左手をゆっくりと持ち上げて、親指を突き立ててグーの形を取った。

ゴンとキルアの間にある目には見えない絆が、誰の目にも明らかに映った。
当然の如く、友達など不要と切り捨てたイルミの目にも移り、その瞬間に能面のような顔が崩れた。

長い黒髪がオーラを纏って、怒髪天を衝く。
悪鬼羅刹のような憤怒の表情で、ユラユラと蠢く黒髪が炎のように立ち上った。
憤怒に歪んだイルミは、元の顔立ちが整っているだけに恐ろしい。

「キルッ!」

イルミは更に激しい怒りを感じてオーラを高めると、キルアの膝が勢いよく持ち上がり顔面を強打する。
もう明らかだが、これがイルミの念能力だろう。
針を差して身体を自在に操作するのか? リッポーも似たような束縛能力を持っていたし、身体操作が可能な操作系の達人は怖い。
念技の発動条件を達すると、身体を操作されては何も対抗手段がない。この決闘のように一対一の戦いでは致命的となる。

「ぐっ!」

キルアの小さな身体が、空中に浮かび上がる程の衝撃。
激しい出血と共に骨が砕ける鈍い音が響き、キルアの顎の骨が砕けていた。
顎の骨を叩き割られ、骨の支えを失った下あごを頬の肉だけで支えている。
溢れる出る大量の血を必死に飲み込みながら、キルアの目の輝きは失われていなかった。

だが、傍目に見ても口を動かすだけでも激痛を伴う重傷だ。
これでは「まいった」と宣言する事さえ出来るかどうか分からない。

「もうやめるんだ!」

「審判、試合を止めろ!」

クラピカとレオリオが審判に詰め寄るが、「敗北を宣言しない限りは試合は終わりません」と告げた。

「だが、あれでは喋れない! もうこれ以上は……」

顎の骨を粉砕されたキルアだったが、クラピカの声を遮って言葉を紡いだ。

「これで負けを認めたら、オレは自分の生き方が出来なくなる。それならいっそ死んだ方がマシだ」

「キル……立派になったね。もう殺してやるぐらいしか手がないじゃないか」

紛れもなく本気の殺気を放ったイルミの様子に、我慢の限界を越えた。
俺はキルアが失格になるのを承知の上で、キルアとイルミの間に立ちはだかった。

既に背中の太刀を抜き放って、武器に”周”でオーラを通している。
念能力の存在がバレる事などどうでもいい。
ここで俺が殺されてとしても、俺は今立ち向かわなきゃならないと思った。

キルアの意思を尊重して手出しをしないのが正解なのは分かっている。
それでも……目の前でキルアがこれ以上いたぶられる姿は見ていられない。
俺が気持ちの上で裏切った仲間を守る為ならば、俺は嫌われたっていい。

「もうやめてくれ!」

覚悟を纏ったはずの俺の口から出た言葉は、イルミに対する憎悪ではなく、ただの懇願だった。
だが、この場にいる者の気持はみんな一緒だった。見れば、レオリオ達も必死に試合の中止を訴えている。

「なんで、ヒソカまでそっちにいるんだ?」

俺の懇願を無視して、イルミが問いかけたのは俺の背後に対してだった。
そう、いつの間にか俺の後ろにはヒソカが立っていた。それは、まるでイルミからキルアではなく、俺を守るように。

「くっくっく。今の君はボクよりも道化に見えるよ? 君の顔が怒りに歪んだのなんて初めて見た◆」

「……」

殺気の籠もったイルミの問いに、ヒソカは気負った事もなくごく普通に答えた。
その冷静さによってイルミも自分を取り戻し、憤怒のような顔がいつもの能面のような無表情に戻る。
そして、イルミは戦闘の構えを解いた。

これ以上キルアを攻撃する様子はないので、俺も太刀を背に収めて安堵の息を吐く。
ルールを無視して勝手な行動をとった俺も失格になるかもしれない。
それでも、俺は……後悔はしていない。

師匠達と対等になる為に俺はハンターになる事を誓った。
その為には合格が決まった時点で大人しく試合を見守るべきだった。
ハンターとしての守らねばならないルールがあるのは分かっている。
それでも、これを見過ごして俺達はハンターだと胸を張って言える訳がない。
仲間を見捨てて、どの面さげて師匠達と対等の仲間になったと言えるんだ!

「”まいった”。オレの負けでいいよ」

俺の予想を大きく裏切って、イルミが告げたのは自身の負けを認める言葉だった。
ゾルディック一家は命に代えても仕事を成し遂げる。それ故に驚異の暗殺成功率を誇って世界に名を知らしめている。
ハンター資格が必要になる仕事とかだったはずのイルミが、自ら資格の取得を諦めただと?

「分かったよ、キル……自由に生きてみるといい」

「兄貴……?」

もう何もしないとばかりに両手を上げたままイルミはキルアに近づくと、全身に突き刺さった針を引き抜いて、その両肩に手を乗せて呟く。

「それでもいつか必ずキルはゾルディックに戻ってくるよ。オレには分かる」

「誰が……帰るもんか」

兄の手をキルアは振り払う。
針が抜けた事で、身体の自由が利くようだった。

「親父になんて言おうかな」

そう呟いて、イルミはもう用はないとばかりに部屋を出て行った。
一同呆然と見送ったが、逸早く己の職分を取り戻した審判が宣言した。

「Cグループ第三試合、勝者キルア!」

「おい、担架を用意しろ!」

キルアの容態が心配になって駆け寄ったが、レオリオの言葉に動きを止めた。
こういった状況でレオリオはひどく冷静で、医者の片鱗を窺わせる。矢継ぎ早に指示をして、カバンから取り出した消毒液とガーゼを押し当てている。
重傷であるキルアだったが担架に乗るのをよしとせず、自らの足で医務室へと向かった。付き従ったのは友情で結ばれたゴンと医療の心得があるレオリオ。

「ハッピーエンドって所かな?」

キルアを見送ったまま扉を見ていた俺にヒソカがそう問うてくるが、俺は逆に疑問を解消する為に尋ねた。

「ヒソカ……お前イルミと知り合いなんだろ? なんでキルアを……俺を庇ったんだ?」

「少し楽しみになってきたからかな? イルミとはこれでも長い付き合いだからね。気にする事はないよ◆」

何でもない風に言ったヒソカに、俺はこいつの大きさを感じた。何があっても揺るがない、そんな強さを持っている。

「お前……実は良い奴?」

「勿論、ゴンもキルアも君も……熟したところで美味しく頂くからね◆」

「やっぱり訂正するっ!」

舌なめずりをして、笑みを浮かべる変態から距離を取る。
やっぱりこのピエロは真正の変態だ!

「おっほん、これにてハンター試験は終了とする。この場に残った9名の合格者は講習を受けてもらい、その後にライセンスカードを配布する」

ネテロ会長の言葉に俺はハンター試験に合格したという事を改めて認識した。
長かったハンター試験も遂に終わる。途中色々あったが、全てがこの瞬間の為と思えばよい思い出だ。
声にだして小躍りしたくなるような浮かれた気分に、冷水を浴びせかけたのはアナウンスの声だった。

「44番、406番は講習前にネテロ会長が直接面接を行う」

俺とヒソカが面接?
思い浮かぶのは、先程のルールを逸脱した行動に対する処罰だろうか?
確かに合格を取り消されてもおかしくない行為だったと思うが、ネテロ会長は『9名の合格者』と告げていたので失格になる訳ではないとも推測出来る。

「不合格って訳じゃないみたいだけど、なんだろうね?」

「はぁ。何かヒソカとばっかりな気がするんだけど……俺って不幸だよな?」

「じゃあ、君の幸運を占ってあげようか。ほら、この中から一枚だけトランプをひいてみなよ◆」

突然ヒソカが手元でトランプを広げて、一枚だけを取るように促す。
お遊びに過ぎないヒソカの奇術だったが、ヒソカにはちょっと借りが出来てしまったので、付き合ってやるかと俺は軽い気持ちでその内の一枚をひいた。

「げっ!」

まぁ、予想通りにジョーカーだった訳だが、思わず声を出してしまったのには理由がある。
絵柄はジョーカーであるが、その絵柄は奇術師の扮装をしてニヤニヤと笑みを浮かべたヒソカのデフォルメ化された絵であったからだ。
正規のトランプカードではないのは明らかだが、カードの裏を向けても他のトランプカードと同様の赤い柄があるだけで、表面だけが異質な絵柄には作為を感じる。

「ふざけんな! こんなのインチキだろ!」

「あたり! ボクの『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』だよ」

「ほらみろ! やっぱり、インチキ能力じゃねーか!」

「確かにインチキさ。でも、なんで君はボクの能力知ってるんだい?」

「――え?」

浮ついた気分を吹き飛ばす、ヒソカの言葉に俺は底知れない恐怖を感じた。





─────

最初に謝罪しますが、クロスにない他作品の技を思い切り引っ張ってきてしまいました。問題があれば技名は削除したいと思います。
ネットで肢曲を調べていたら、桜舞ネタばかり出てくるので思わず……どっちが先か分からなくなりました。

原作と合格者が異なり、特にキルアがこの時点で合格しています。
その為、キルアが自宅に帰らないのでゴン達がククルーマウンテンに行くことはありません。

さて、後はライセンスカードもらって帰るだけ……のつもりでしたが、試験中行動を共にすることが多かったヒソカは、とっくにナルミの異常性に気づいていたようです。

原作タイトルで「光と闇」とありましたが、特にナルミとヒソカはこの対比を意識しています。
光と闇は一見すると正反対ですが、日が昇り、日が沈むという一日の流れでは同じ存在です。
正反対のようで同じ存在という意味で、原作では『ゴンとキルア』、ここでは『キルアとイルミ』、そして……『ナルミとヒソカ』のつもりでした。

……なんて、ちょっと書きたかっただけの蛇足でした。



[11973] 025 最終試験×奇術師の手品
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/21 22:24

最終試験が終わり、まがりなりにも合格の判定を受けた俺は浮かれていた。最後に俺を庇うように行動した事で、ヒソカに対する警戒心が薄くなっていのも事実だ。
そして、その瞬間こそがヒソカにとって待ちわびた絶好の機会でもあったのだ。
ヒソカが何気ない奇術を装って見せた『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』。その能力を知るはずのない俺が、能力を知っている事を自白してしまった。

唖然として目を見開いた俺に、ヒソカの鋭い視線が突き刺さる。
面白がっている風ではあるが、その追求を絶対に緩めない事を瞳が語っていた。

「おかしいと思ってたんだよね。第一次試験で”凝”も使ってなかったのに、ボクが『伸縮自在の愛(バンジーガム)』で引き寄せたカードに驚きはしたものの、すぐに納得したように攻撃に転じていたね?」

一次試験というと、ヒソカと対峙した時か……。
思い返してみれば確かにジョーカーのカードを引き寄せた奇術に驚きはしたが、すぐにそれがヒソカの能力であると俺は理解した。
そして、”凝”をしないと見破れないのなら速攻で倒すしかないと攻撃に移ったのだが、その決断こそがヒソカに不信を与えてしまったのか。

「それにギタラクルの正体がイルミって事も知ってたよね? 実はあの時見てたんだよね。君の”円”の範囲である15メートル以上離れてね。イルミがあっさり見逃してくれたのに疑問に感じなかったかい? あれはボクが目配せしたんだよ」

「ま、まじっすか……」

確かにギタラクルの視線が目まぐるしく変わって何処を見ているのか分からない奇妙な動きをしていた。
あれがまさかヒソカとアイコンタクトをしているとは思うまい。どうみてもイカれた変態だとしか見えなかった。

というか、第四次試験の何時から尾行してたんだ?
ゴンとの騒動があったからずっとという訳ではないだろうが、全く気づかなかったのはショックだ。

俺の”円”の範囲が15メートルと言う事は第三次試験の時にヒソカに知られてしまっている。
『千里眼の地図(グルグルマップ)』では人の姿は写らないので、俺の通った後を正確に尾行していたのなら痕跡も残らない。
その上で、俺から気配さえ隠せば俺の探知を逃れる事は可能だ。”凝”は苦手なので”絶”で隠れられたら正直探知は難しい。

うーん、一次試験で”隠”を見破れなかった事といい、やっぱり”凝”の修行が足りない。モンスターの狩猟にはそれほど必要性は高くなかったので疎かにしていたが、帰ったら修行し直そうと心に決める。

「まぁ、それだけじゃ決定的な証拠にはならないから、君が最も油断する――他者に親近感を懐いた瞬間を見計らってボクの念能力を見せてみたんだけど、見事に引っかかってくれたよね」

顎に軽く手を当てて、口元を歪めてクックックと笑みを浮かべるヒソカ。 

「……」

「教えてくれないかな?」

そして、くだけた表情は一転して、全身からオーラが立ち上り凄まじい威圧感を発した。
その気に当てられて、身体の隅々が硬直しているのを意識した。

くそっ、生半可な言い訳が通じる相手じゃない。
とはいえ、まさか俺が異世界からの転生者で、この世界の事が漫画になっているとは絶対に言えない。師匠達にも伝えていない事であり、これだけは何があっても言うつもりはない。

それはこの世界で生きる人々に対する侮辱であり、人の尊厳を蹂躙しかねない事であるからだ。
未来を知るのとは根本的に違う。世界を含めて、人の意思さえも予め決められていると断言するようなものだ。それは、神の視点から相手を見下す事になりかねない。

だが、何か納得させる理由を話さないとこの場を逃してくれそうにない。
どうする、と思考を精一杯にフル回転させて、やがて一つの答えを導き出した。
俺は覚悟を決めて、嘘を突き通す事に決めた。決して見破られてはならない嘘をつくのならば、それ以外は真実をさらけ出すしかない。

「分かった……『栄光の狩猟記録(ハンターノート)』!」

俺は右手を突き出して、”発”を使って一冊のノートを具現化する。
俺の手の中に現れたそのノートは、辞書とまでは行かないものの5センチ程の厚みのある本であった。重厚な茶色の革で作られた表紙には『HUNTER NOTE』と題打たれている。

これが、100ゼニーを消費して、モンスター、人物、武器、素材、その他情報を記載したノートを具現化する能力だ。
いわゆる情報を整理する補助用の念能力で、モンハンの素材を具現化し、武器を作成する際のイメージ化を促進する為に作った。特筆すべき点はノートの内容が直接記憶と直結する為、ノートに書かれた内容はこうして具現化する事で即時に思い出す事が出来る。
しかし、勿論知り得ない相手の情報を知ったりする事は出来ず、あくまで過去俺が知り得た情報を書き込んでくれる程度である。

この能力をそのまま説明しても、ヒソカの追求をかわす事は出来ない。
だが、ヒソカの能力と、ギタラクルの正体がイルミであったのかという事を知っている理由付けには十分なのだ。
何故なら実際にこのノートには、原作の知識を含めて俺の知るヒソカの情報が書かれているからだ。

「具現化系の能力?」

「俺の系統は特質系だ」

「ほう?」とヒソカが感心したように息を漏らしている。

特質系という手札を晒す事でもあるが、ここは嘘はつくべきではない。
本来知り得ない情報を知覚したり、伝達したりするのは他の五系統に分類されたない特質系。第二次試験の試験官のブハラの能力、オーラの総量等を知るという『真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)』も同様だ。

『栄光の狩猟記録(ハンターノート)』はあくまで知り得た情報を書記する能力なので具現化系の範疇ではあるのだが、知り得ない情報を書記する能力と嘘をつく為には、俺が特質系であるという事実を明かして勘違いさせるしかない。

「特質系……個人主義でカリスマ性あり? 出会った人の系統を性格に当てはめてるんだけど、あんまり当てにならないかもね、ボクの念系統別性格診断も……」

「大きなお世話だっつーの!」

いつもの可哀そうな人を見る目で見てくるヒソカに、憤りを隠しきれない俺は思わず反論の言葉を口にする。
ああ、確かに俺は基本的には日和見主義で流されやすいし、カリスマ性なんてこれっぽっちもないさ!

「で、それはどんな能力なんだい?」

確信を迫るヒソカの言葉に、俺は固唾を飲んで答えた。

「これは俺が出会った人物の知り得ない情報を書記するノートだ。ただ望むべき情報が書き込まれる訳ではなく、出会っても全く書記されない事もある」

そう言って、俺はノートに手を触れずに念を込めると、本は魔法のように自動的にページをめくり出す。パラパラとページがめくれ、しばらく経つと不意にその動きを止め、見開いたのは人物情報が描かれたページだった。
ノートは手で捲ることも出来るのだが、ヒソカにはノートに触れさせず、勿論他のページは見せない。それは武器と素材の情報が書かれたページを見られたら、俺の武器が具現化した物である事が露見してしまうからだ。

※※※※※※※※※※
●ヒソカ(変化系)
戦うことにのみ興奮を覚える変態ド腐れピエロ。危険度S。
奇術師の扮装をしているが、素顔は意外とハンサムなのがムカツク。
戦闘能力はかなり高く、幻影旅団の戦闘員を上回る実力者。
オーラにゴムとガムの性質を持たせる念技と、薄い偽物の絵柄と質感を再現する念技を持つ。
触ると女子は妊娠、男子は殺されるので絶対に近づかない方が良い。

※※※※※※※※※※

●イルミ=ゾルディック(操作系?)
ゾルディック家の第一子。一流の暗殺者。危険度A。
自由に顔の形を変えるが、能面のような無表情が素顔の針男。マゾか?
仕事第一のゾルディック家の名からも分かる通り、実力はかなり高い。
念技は針を使った身体操作系っぽい?
ちなみにゾルディックの子供は名前がしりとりだぞ!

※※※※※※※※※※

「くっく……あっはっは。なんだいこれ?」

笑いを堪え切れずに、ヒソカが珍しく素直に笑っていた。
まぁ、内容はメモ以下の走り書きにしか見えないのでその気持ちは分からないでもない。

「だから俺の能力だって」

「でも、面白いね。確かにボク以外が知り得るはずのない情報が載っているね。もしかしてボクが幻影旅団員のふりをしていることまで知っているのかい?」

「そこに載ってる以上の事は知らないよ。俺が知り得ない情報も書かれるけど、俺が知りたい事を書記してくれる訳じゃないからな。情報の取捨が本人の意思で選択出来ない――というのがこの能力の制約だ」

現時点で決して知り得ない情報があるように見えるが、実際には俺視点での知っている情報が載っているのでここだけは悟られないようにしなければならない。その上で記載された情報が曖昧であるという点は、制約のせいにする。
これならば、端から見れば『出会った人物の知り得ない情報が記載される能力。ただし、制約で記載される情報を選べない』と言えるだろう。

「ふーん。というか何気にボクの事がひどく書かれてないかな?」

「だから、俺のせいじゃないっつーの!」

まぁ、確かに俺が書き殴ったような陳腐な悪口ばかりで、こんな批評を他人にされたら憤慨するのも当然だろうな。実際に内容は俺の思考と直結しているので、俺のせいではあるのだがそこは敢えて突っ込まないようにしたい。

「なるほどね。これならボクの能力を知っていても不思議じゃないね」

「納得したか?」

「まぁ、一応はね。で、能力はこれだけなのかい?」

欲張ったヒソカが更に追求をしていくるが、これ以上は断固としてお断りだ。
勿論、俺は他にも『注文の多い猟店(オーダーメイド)』と『千里眼の地図(グルグルマップ)』という二つの能力を持っているのだが、特に前者は制約が知られると即死に直結しかねないだけに、何があっても教える訳にはいかない。

俺が双剣で格好良い武器の仕舞い方を練習している時に興味を覚えて、”纏”をした上で指を軽く刃の上を走らせてみたら紙に刃を走らせたようにスパッと切り傷が出来たからな。
多分、ヒソカが武器に”周”を込められたら、俺の体は豆腐の如く斬れるだろう。

「これ以上は教えられないよ」

「ヒドイな。ボクの能力は知ってるのに?」

「知られるとまずい能力なんだよ。これを教えたんだから納得しろよな」

「ま、いいか。ボクの能力は何の制約もないから応用が利くのが強みだしね」

ヒソカの能力はシンプルだが、あくまで卓越した身体能力を補強する為の念技だからな。
その扮装から奇術に見せかける事が出来る上に、制約と誓約もないというのは利便性が高い。

「一次試験で分かったよ。今の俺じゃまだヒソカには到底敵わないってことがな」

「君が成長した時には、ボクと本気で殺りあおう。その約束が出来るなら今は見逃してもいいよ」

「……分かった。いつか必ず、ヒソカと本気で戦う」

「くっくっく、それなら今は仲良くしようか◆」

「絶対に近づかないようにってあるのに……」

「どうせなら書き加えておいたらどうだい? だが、興味覚えると近寄ってくるので注意ってね」

「その通りだよ、畜生!」

まぁ、何とか肝心な部分は誤魔化せたが、ヒソカにはかなり知られたくない情報をいくつか知られてしまったな。
ピンチを切り抜けて、さぁ移動しようと思ったところで、ヒソカが忘れてたとでも言うように気軽に呟いた。

「そうそう……9月1日、ヨークシンシティで待ってるよ。クラピカが追っている幻影旅団(クモ)と一緒に大きな興行(サーカス)をやる予定なんだ。君にはボクから招待状を送るから、楽しみにしているといい◆」

げ、そう言えばそうだった。
ヨークシンシティ編と言うと、全員が一流ハンターにも匹敵する幻影旅団との全面対決だ。言ってしまえばヒソカが十数人いるようなもんだ。俺のようなにわか念能力者じゃ、関わったら絶対死ぬぞ。

「俺は行かねーぞ! モンスターハンターになるんだから、ヒソカとはもう二度と関わらない!」

「ふーん、君は仲間のクラピカを見捨てるのかな?」

「どういうことだ?」

「さっき、クラピカに耳打ちしたんだよ。幻影旅団(クモ)と関係があることをほのめかして、9月1日にヨークシンシティで待つ、ってね。きっと彼は唯一の手掛かりを求めてやってくるだろうね」

俺が仲間を見捨てられないのを知った上で誘導してくるとは、完全にこいつに俺の性格を把握されてしまっている。もう二度とヒソカに関わりたくないのだが、クラピカに危害が及ぶとなるとそうも言ってられない。

「クラピカをどうするつもりなんだ?」

「ボクにとっては団長と対決するのが目的だからね。その為には彼には精々踊ってもらうよ◆」

「クソ野郎……地獄に落ちろ!」

怒りを感じて悪態をつくが、ヒソカはどこ吹く風やら釘を刺してきた。

「忠告しておこうか。例えば君が知ったボクの能力や幻影旅団に関する情報を彼に伝えたら、ボクが君を殺すよ。逆に言えばその事を告げない限りは、ヨークシンではボクは君と戦わなくてもいい。君はただクラピカが進む後を着いて行き、精々ボクと団長が対決しやすいようにサポートしてもらおうかな◆」

「くっ……」

表に干渉せずに、裏方に徹しろという事か。
だが、俺の情報を知られている以上、ヒソカが俺に干渉してこないというのはそれはそれでメリットにもなる。全てをクラピカに話して事前に対策を建てるか、あくまでサポートとして臨機応変に対応するか、どちらがより安全かという事だな。
俺の知る限りの展開では結果的にクラピカ達に被害は出ていない。上手く立ち回れば何とかなるか?
いや、どちらにせよ今すぐに結論を出す必要はない。この場はヒソカの提案を受け入れざるを得ないのだから、9月1日までに具体的な対策を講じればいい。

「分かった。9月1日にヨークシンシティだな」

「くっくっく、やっぱり君はボクが見込んだだけの事はある……楽しみにしているよ、ナルミ◆」

最早見慣れたヒソカの笑みを見て、我が身の不幸を呪う。
試験が終わって秘境に戻ったら、師匠達に本気で修行をつけてもらおう。
俺には……仲間を守る事が出来るだけの力が必要だ。





─────

ヒソカの奇術に翻弄されているのは、戦闘だけではなく経験の差が出たといった所です。

『栄光の狩猟記録(ハンターノート)』は武器具現化のイメージ補強として作った能力ですが、説明出来ない原作知識を知っている言い訳にこんな使い方も出来るかなと思って登場させました。

ちなみにハンターノートはモンハン3で出てきたシステムで、モンスター図鑑や、調合リストの記録のような使い道があります。
リモコン操作でターゲットしたモンスターを登録していくお遊び的な要素もあるんですが、説明書を読まないで始めた私は終盤まで一匹もモンスターが登録されていませんでした。

また、この話はヨークシンシティ編の布石ですが、狩猟編での修行の目標設定でもあります。
原作介入の理由としてはやや強引ですが、狩猟編の後編な位置づけの独自展開になる予定ですので、そこは広い心で御勘弁下さい。



[11973] 026 裏試験×クエストクリア
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/21 22:27

ネテロ会長の面接と呼び出されて向った部屋には、他にもサトッサン、ブハラ、メンチと試験官の面々が揃っていた。
それと度々顔を合わせていたコロ助――会長の秘書のマーメンというらしい、と試験委員会の関係者が勢揃いである。
重要メンバーが揃っている事からも、この面接に対する重圧がのし掛かる。

「二人を呼んだのは他でもない。裏ハンター試験の判定をさせてもらおうと思ってのぉ」

「あの……試合を邪魔したことによる呼び出しじゃなかったんですか?」

「ふぉっふぉっふぉ、確かにあれはちとやり過ぎじゃが、先にイルミに”まいった”と言わせた時点でキルアの合格は決まっておる。勿論、お主達も一度合格としたからには取り消す事はない。合格者が何を言っても合格、不合格者が何を言っても不合格なのと同じじゃよ」

てっきり、キルアとイルミの試合に割って入った事を咎められると思っていただけに拍子抜けだった。
会長の言葉通りであれば俺の合格は何があっても取り消しされないので、内心危惧していた失格という最悪の展開にはならないようだ。

さて、裏ハンター試験といえば、記憶にある限りではハンターになった後に念を覚える試験だっけか?
ただ、この場合は既に念を覚えているので、詳細は聞いてみなければ分からないな。

「そうですか。それで、裏ハンター試験とは?」

「うむ。最終試験の合格者はハンターライセンスが与えられる。しかし、悪用さえしなければハンターには誰がなってもかまわんのじゃ。ハンターにとっては『ハンターになってから何を成したか』が本当の試験と言える。そこで裏ハンター試験においてその資質を問うと共に、その判定基準として秘匿技術である念能力の体得が含まれておるのじゃ」

この世界においては、非念能力者でも重火器で武装すれば念能力者を倒す事は出来る。
しかし、念能力者の最大の利点は非念能力者にはオーラが見えないという点にあり、念能力者に対するには念能力が必須と言っても過言ではない。

ハンターは世界で活躍する職業だから、自然と念能力者と対峙する場面も多くある。その対処が出来ずにハンターライセンスを奪われるような事があっては目も当てられない。
確か師匠曰くライセンスはどんな理由であっても再発行されないので、二度とプロハンターを名乗る事が出来なくなる。
更にライセンス自体は他人の物でも高値で取引がされているだけあって、ハンターを狙う者も少なからず存在する。特に今の俺達のようなプロハンターに成り立ての新人にとっては、ライセンスを守りきる事も試練の一つと言っても過言ではない。
その意味では、念能力の体得は自己を守る為という、ハンターとして何を成し遂げたかという第一歩になるのだろう。
まぁ、俺とヒソカの場合は、順番が逆になってしまった、という訳である。

「つまり、念能力を見せろと?」

「その通りじゃ。今期の試験で念の使い手は三名。お主ら二人とギタラクルと名乗っておった男じゃ。最終試験を合格したお主ら二人には、続けて裏ハンター試験を受けてもらう。この場で四大行の”練”を見せてもらおうか」

ネテロ会長の視線を受けて、俺は納得して頷いた。
同じ四大行でも”発”は必殺技とも称される念技で、制約があるだけに知られるのはこちらとしても困る。”練”だけならば精々オーラ量を推定されるだけではあるが、そもそも二次試験でブハラにバレているのだから隠す理由もない。
裏ハンター試験自体は俺もヒソカも念能力者であることは既に分かっているので、あくまで確認の為の試験だった。

俺は四大行については完全にマスターしているのでつつがなく”練”を披露し、問題なく合格のお墨付きをもらった。
ヒソカも手加減しているようだが、それでも俺と全く同じ程度を発揮しており、まだまだ底がある事が分かるだけに憎たらしい。
裏ハンター試験で合格の判定をもらえたので、試験官とはあまり友好的ではないヒソカはとっとと講習がある部屋にいってしまった。

「ふむ、念の基礎はしっかり身につけておるようじゃな」

「そうですか?」

「念を覚えて二年。師匠はあの火竜のレウスか。まぁ順調に育っておるのぉ」

ネテロ会長が尖った髭を撫でつけながら、関心したように頷いた。
一方、思わぬ所から飛び出した師匠の名前に驚いた俺は、その関係が気になってネテロ会長に尋ねる。

「って、師匠を知ってるんですか?」

「当たり前じゃ。そもそも国籍もないお主が、何の問題もなく出国できて公共機関を使えてるのは、すべてお主の師匠らが手配したことじゃぞ。ハンター試験の申込の際にもワシに直接『馬鹿弟子が試験受けるから、厳しく採点してくれ』と電話がかかってきおったわ」

「なっ、馬鹿師匠のくせにそんな気配りをしていたなんて!」

師匠に気遣いとか優しさを求めても無駄だという事を俺は知っている。
まさか弟子の身を案じて予め手配をしていてくれたとは……って、どうせレイアさんに言われて嫌々やったんだろうけど。

「嫁にケツでも引っぱたかれてやったんじゃろうがな」

俺の思考を読んだかのように、ネテロ会長の見解は全く俺と同じだった。

「というか、レイアさんの事まで知ってるんですか?」

「ふぉっふぉっふぉ、もちろんじゃ。あんなキレイなネーチャンを忘れるわけなかろう」

「一ツ星ハンターはハンターの中でも数える程しかいません。特にモンスターハンターは稀少ですよ」

にやけた顔のエロジジイと化したネテロ会長の発言を、見事にフォローするマーメン。本当に良くできた秘書だ……あいかわらず頭蓋骨の形が気になる顔の輪郭をしているけど。

「へぇ、師匠達って有名だったんだ」

そういえばハンターは世界に600人しかいないんだっけか。その中でも一ツ星の功績を成したハンターは更に稀少だった。
キリンねぇ以外の三人、師匠のレウス、レイアさん、クック先生は一ツ星ハンターなので、ハンター協会会長と親好があっても不思議ではない。

「お主もモンスターハンターとなるのなら、師匠を目指して精進するが良い」

「はい! 師匠以外の三人を目指してます!」

「うむ、それで良いぞ。講習を受け終わったら、その時点でお主はハンターじゃ」

俺の威勢の良い返事に頷いたネテロ会長は、マーメンに急かされて話はこれまでという雰囲気を出していたので、俺は一礼して部屋から退出する。

ホテルの廊下を進み、講習会場と案内された場所にやってきた。
部屋の中央の通路で二つに区切られて、つなぎ目のない長いテーブルと、座席が用意されていてる。既にヒソカは着席しているようで、クラピカ、ポックル、ポンズ、ハンゾーの四名は雑談を交わしている所だった。
俺が部屋に入ったのに気付いて、全員の視線が俺に向いた。あ、ヒソカだけ知らんぷりしとるわ。

「よっす!」

軽く会釈をかわして四人の雑談の輪に交ざると、話題が丁度会長の呼び出しの点に及んだ。先に戻ったヒソカとは言葉を交わしていないようで、詳細を直接俺から聞き出そうというつもりらしい。
まぁ、ヒソカと進んで関わりたいと思うような命知らずはいないので当然だった。

「会長の面接とはなんだったんだ? 先程の試合にでの処罰でもあったのか?」

「いや、そっちは幸いにもお咎めなしだった。んで、俺の方はちょっと師匠の事でね。なんか会長と知り合いだったらしい」

裏ハンター試験については、他の受験生に伝えてはならないとの事だったので隠しておこう。
実際はヒソカと同時に行われたのだが、先に戻っているヒソカに遅れて現れた俺は敢えて誤魔化して答える事にする。
念能力については自ら調べて答えに辿り着くかなくてはならない、という意見にはヒソカも賛同しているようなので、その矛盾に対する突っ込みはなかった。

「ネテロ会長と?」

「ナルミの師匠は高名なのか?」とポックルが疑問を投げかける。

「ああ、一応一ツ星のハンターだからな。火竜のレウスって異名まで持ってるらしいんだけど、まさか知り合いだったとはなぁ」

「火竜のレウスだって!?」

裏ハンター試験を誤魔化す為に話題に出しただけの師匠の名前だったが、ポックルは目を見開いて驚いていた。
モンスターハンターの師匠の名を、何故にポックルが知ってるんだ?

「知っているのか、ポックル!」

「当たり前だろ。新種の動植物を数多く発見してる幻獣ハンターだろう?」

ああ、成る程。
ポックルの目指す幻獣ハンターは、珍しい動植物の発見や調査を専門とするハンターだった。師匠はアイジエン大陸の秘境でモンスターを狩っているだけあって、未発見の動植物も発見する機会も多々ある。
そういえば俺も登録されていない生物を何匹か発見したような気がするが、後で師匠が報告してたのか?
正式にハンターとなったのだから、今後は支払われた報酬の分け前をもらわねばならないようだ。

「いや、本職はモンスターハンターだ」

「モンスターハンター?」

ハンターの専門分野は数多くあれど、モンスターハンターはかなりマイナーなようだ。
まぁ、モンスターなんて危険生物が平然と闊歩する地域が少ないのがその理由だろう。

「ちょっとマイナーだけど、ビーストハンターの中でも特に危険な第一種隔離指定生物以上を専門に討伐するハンターだよ。アイジエン大陸の秘境が俺達のホームだから、結構珍しいのも発見してるんじゃないかな」

「そういう事か。俺の尊敬するハンターの一人でもあったんだが、ナルミはその弟子だったのは驚いたな」

何だかポックルにはやたら買いかぶられている気がするので、一言言っておかねばならない。

「実態はただの筋肉馬鹿だから、幻滅するぞ」

「いや、ハンターには武芸も必要とされるということだろう?」

「よく言えば武闘派、悪く言えば脳みそまで筋肉で出来ている……略して脳筋だ」

「そ、そうか……」

俺の一歩も引かぬ主張に、師匠に淡い幻想を抱いていたポックルも不承不承に頷いた。
モンスターハンターのような少数の専門分野のハンターの話に興味があったのか、俺の経験や知識を披露して四人と雑談をかわしていると、手当を終えたキルアと付き添ったゴンとレオリオも室内に入ってきた。
キルアの顎の周りには包帯が巻かれており、大きく口を開けられないように固定されている。

「キルア! 無事なのか?」

「無事ってわけじゃないけどな。下顎骨(かがくこつ)の骨折。全治三ヶ月、口を開けたり閉じたりするのは困難だ」

レオリオがそう診断して更に詳細まで喋っているが、その診断が専門的な話になってくると頷いて聞いているのはクラピカだけだった。
キルアを心配して周囲を取り囲むが、当の本人は痛みには慣れていると言っていただけあって辛い様子を見せてはいない。
むしろ晴れ晴れとした表情なのは、ゾルディックという家の戒めを逃れられて事によるものだろうか。

「俺は、大丈夫だ。こんな怪我、すぐに治してやるさ」

負担をかけないように小さく口を開けて答えるキルア。

「キルアなら完治までもっと早いかもな」とレオリオ談だったが、きっとその通りになるだろう。

「ふぉっふぉっふぉ、全員揃っておるようじゃな」

いつの間にかネテロ会長が室内の教壇らしき所に立っており、俺達に向って声をかけてきた。驚いて振り返った様子を見て、やたら満足げに頷いている。
妖怪爺め……”絶”を使ったのだろうが、自然過ぎて全く気配に気づかなかった。実力でいってもヒソカ以上かもしれないな。
内心様々な思いを抱きながら、俺達9人は各々着席してネテロ会長の言葉を待つ。

「お主らにまず言っておこう。ハンター試験の合格おめでとう。じゃが、ハンターとなったからと言って気を抜くでないぞ。今、お主らは今スタート地点に立った所なのじゃからな。この建物を一歩でも出ればわしらと同業者であるが、同時に競争相手でもあるのじゃ。その事を心せよ!」

ネテロ会長のご高説を聞いた後、マーメンからハンターやライセンスに関する説明がなされた。
特にライセンスについての取り扱いについては注意と忠告を受けた。どのような理由があっても再発行もされないので、肌身離さず持っていなければならない。

というか、盗まれたらその時点でお終いというのはかなり厳しいのではないか?
だから、世界中で600人しかいないのだろうか……実際にマーメンが言うにはハンターになってからの第一の試練は「ハンターライセンスを奪われない事」であるらしい。

そして、長い説明がようやく終わり、締めくくるようにマーメンが宣言する。

「第287期のハンター試験合格した9名を、新しくハンターと認定します」

感動に打ち震えて拳をぐっと握りしめる。
時に競い、時に争い、ハンター試験という難関を共に潜り抜けた者達が、今この瞬間からプロのハンターとなった。

俺、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ポックル、ポンズ、ハンゾー……おまけでヒソカ。
つまりは同期って奴だ。十年もしたら同期会でも開くとするか。勿論ヒソカは呼ばないけどな!

「こちらがハンターライセンスになります。おめでとうございます、ナルミ=クドー様」

「ああ、有難う」

そして、マーメンから直接透明なケースに包まれたライセンスカードを手渡された。
この瞬間、クエスト名『ハンター試験』の達成条件を満たした。
達成条件は二つ、ハンター試験に合格する事、そしてライセンスカードを取得する事で、俺は受注したクエストが完了した事を認識した。

『QUEST CLEAR』

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 報酬金 清算
 ──────────────────
 クエスト報酬 :20000z
 サブ依頼A達成:4000z
 難易度加減算 :8000z
 討伐対象   :0z

 合計金額   :32000z
 ──────────────────
 現在の所持金 :55000z

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ファンファーレの効果音と共に頭の中に浮かび上がる文字に、俺は歓喜を隠しきれない。

よっしゃああ! ハンター試験をクリアしたぞっ!
とはいえ、ここで声に出す訳にも行かず、心の中で喜びの声を上げる。
こうして、長かった試験も遂に終わった。





─────

やっと試験終了しました。
こんなに長くなる予定はなかったのですが、原作見返していると細かく書きたくなってしまいました。
モンハン展開からどんどん離れていってしまいましたので、モンハン展開を期待して見ていたが方には本当に申し訳なく思います。

次回で仲間達の別れを描写して、ハンター試験編終了です。



[11973] 027 サヨナラ×バイバイ
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/21 22:33

ハンターライセンスを取得し、正真正銘のハンターとなった俺はその後の計画を検討する。
せっかく仲間になったが、ゴン達との別れも近い。俺はこの後師匠達の待つアイジエン大陸の秘境に戻る。
そして、正式なモンスターハンターとして修業を積み、来たる9月1日にヨークシンシティへ行く。
ヨークシンシティの詳細はほとんど覚えていないが、敵となる幻影旅団の特徴や能力は記憶している。敵が一流の実力者ならば俺も強くなるしかない。それでも能力を知っているというアドバンテージ、更に師匠達四人の参戦が叶えば怖い物などない。

そう決意して前向きになった俺は、別れの前にキルアと二人きりで話す機会を作った。
ゴン達は親父さんの情報を求めてまだ電脳ページで調べているようだったが、飽きたのか丁度一人で部屋を出て来たキルアを廊下で呼び止める。

「なぁ、キルア。お前は俺を仲間と思えるか?」

「はぁ? 無理に決まってんだろ?」

このナマイキ少年は、わずか一秒で俺の歩み寄りを打ち砕いた。
いや、勿論俺だってキルアに無条件で信じてもらえるとは思っていなかったよ。イルミの正体を知りつつも、キルアを試す為にその事を告げなかったのは事実だ。
でもさぁ、もう少しオブラートに包んでくれてもいいじゃないですか?

「出会いも最悪だったし、たまに兄貴と同じようなイヤな感じを纏ってるからな。どうせ、それが何か言うつもりもないんだろ?」

”絶”をしていない時のオーラを感じ取り、本能的にそれが危険な気配と察しているのは流石といっても良い。ゴンも同じように野生の感で感じ取っているようだったので、二人の素質は計り知れないものがある。だが、かといって俺が念能力の正体を教えようとは思わない。
裏ハンター試験であったように、念能力の体得はハンターに課せられる試練だ。勿論、今ここで教えても簡単に体得する事が出来る訳ではないが、念能力の存在を調査する、というのも試練の内だと思う。
勿論、この考えは一方的な押しつけであり、悪意あってのことではないが俺の傲慢でもある。

「あー、まぁそこは自分の手で調べてくれ」

「ほら、隠し事をするような奴を信じる事なんて出来るわけないだろ?」

「ぐ、そうだな……」

俺が言葉を詰まらせると、キルアは視線を反らして首の後ろで手を組んでゆっくりと歩き出す。

「あの森でオレに言った言葉は感謝してる。オレ自身がゴンを見捨てるかもしれないって可能性を考えたのはあの時だったし、兄貴と戦えたのはそのおかげでもあるからな」

「それも、お前を試す為だったとしたら?」

「そんなのどうでもいいよ。ようはオレがどう受け止めたかって事だろ? オレはナルミの言葉で一歩前に進む事が出来た。だから、ナルミの事は完全に信じてはいないけど、まぁちょっとだけ認めてやってもいい」

「本当かっ!」

俺が顔を輝かせてキルアに詰め寄ると、猫目の少年の目が釣り上がる。

「ああ、それに年上のくせにからかうと面白いしな-!」

「なんだとーっ!」

顎の痛みがまるでないかのように身軽に逃走するキルアの後を追いかけて、俺はいつもの雰囲気に戻れた事に安堵した。

キルアは完全に俺は信じられないと言うが、まだ付き合いも短いのでもっともな事だ。それでも、俺はあの戦いでキルアを信じる事に決めた。今は未だ受け入れてくれなくても、いずれはお互いに信じ合えるかもしれない。

などと思考しながらキルアを追いかけまわしていると、いつの間にかそこにゴンが加わっていた。
またか、といった呆れた目で見つめているクラピカとレオリオの視線を受けて、話題を変える為にゴンに話しかける。

「で、ゴン。親父さんの情報は見つかったのか?」

「ううん、電脳ページを検索しても親父の居場所は分からないから、一度クジラ島に帰ろうかなって思ってるんだ」

「なら、俺も怪我の養生の為についてくよ。もう家に帰る気はないしな」

ふむ、キルアの実家に四人で行くはずだったが、キルアが試験に合格したのでその展開が省略されて、天空闘技場の後に帰るはずのクジラ島に向かうことになったのか。
まぁ、頼りがないのは良い証拠とは言っても、待つ身としては顔を見せて欲しいものだろう。ゴンも親父さんを反面教師にして親孝行して欲しい。
うん、俺も師匠達の顔が懐かしくなって来た。

「レオリオは?」

「俺は故郷に帰って医者になる為に勉強するぜ。ハンターライセンスがあれば、国立医大の馬鹿高い授業料は免除されるからな。医療所や病院にも顔が利くんで、実地研修しながら医師免許を取るつもりだ」

「ハンターの本業も忘れんなよな」

「もちろん、鍛錬はかかさねーぜ」

レオリオは目標に向かって一直線といった所だ。長年の夢を叶える為に頑張って欲しい。次に会った時にはドクター・レオリオとなっているのかもしれない。
でも、ドクターだと念能力がメスを飛ばすとかになりそうな気がするが……いや、真っ当な医者ならそれはないよな?

「私は裏社会の人物の用心棒をしながら、緋の目の情報を集める」

「お前はそういう人間が嫌いだろ?」

「利用できるものは最大限に利用する。その覚悟はある」

レオリオの問いに、クラピカが決意を語る。
蛇の道は蛇というやつだ。これまで見つける事が出来なかった緋の目だが、表には出ない裏マーケットあたりに流れている可能性は高い。必然的にその情報が集まるのも、裏マーケットに近しい存在と目をつけたようだ。

「ヨークシンシティに行くのか?」

「何故、それをっ!?」

「ヒソカに俺も誘われた。クラピカ、一人で何でもやろうと思うなよ。俺も合流するからな」

「これは私の戦いだ」

「違う。俺達の戦いだろ?」

「――だがっ!」

食い下がるクラピカから視線を外して、どこか遠くを見ながら呟いた。

「ヒソカに目をつけられちまった以上、俺だってもう無関係ではいられないさ」

「そうか……ならば、私もナルミの背中を守れるぐらい強くなろう」

「ああ」

クラピカと熱い握手をかわしていると、パシャッとシャッターを切る音が鳴った。
怪訝そうに辺りを見回すと、その音源は頬に手をやってうっとりしているポンズの手元のケータイだった。
よく見ると、廊下の角に隠れてこちらを覗き込んでいる。

「……うふふふ」

何か勘違いしてないか、この娘?
目がいっちゃってるポンズの横には、肩身が狭そうに縮こまったポックルの姿がある。
……ちょ、なんで二人一緒にいるの?

「ポックル……まさか、ポンズと一緒か?」

「――ん? ああ、幻獣ハンターを一緒にやらないかって誘ったんだ。ポンズも蜂を使うだけあって、生物は好きだから興味を持ってくれてな。まずは幻獣ハンターとしての基礎を学んで、それから世界を回って未発見の生物を探しに行こうと思ってる。具体的にはまだどこに行くかは決めていないが、何か用があったら連絡くれよ。俺は世界を回ってる間に入ってくる情報があるかもしれないからな。そうだ、これが俺のホームコードな」

突然饒舌になって、動揺を隠して切れずにホームコードを押しつけてくるポックル。
この野郎、上手いことやりやがって……ポンズと一緒ってなんだよ、くそっ! 俺のフラグはどこに行ったんだ! ロックとトレードしようぜ!

「はい、これは私のよ」

だが、同時にポンズのホームコードもゲットしたので、ポックルにばかりいい目は見させねーぜ!
自然な動作でポックルにコブラツイストをかけながら、ポンズには聞こえないように耳元で呟いた。

「ポックルのくせに、上手い事やりやがって!」

「なっ、なにを言ってるんだ? だいたい、ポックルのくせにってなんだよ!」

「うるさい! イタ電には気をつけろよ!」

不幸が売りのポックルのくせに、幸せそうな顔をしているのは我慢ならない。

「よう、みんな揃ってるな」

「ああ、ハンゾーか」

コブラツイストから解放したポックルが痛みに打ち拉がれている様子に満足し、あいかわらずのハゲ頭が眩しいハンゾーに視線を向ける。
どこぞの営業マンのように、笑顔で全員に名刺を配って挨拶をしているが、忍者としてそれでいいのか?

「オレは国に帰るがジャポンに来る事があったら連絡してくれよ。ジャポンの名所を案内するぜ」

差し出された名刺には、この世界に来るまでに慣れ親しんだ漢字で『霧隠流上忍半蔵』と書かれていた。

「おお、漢字じゃないか!」

「なに? ナルミはジャポンに来た事があるのか? そういえば、ナルミ=クドーという名前もジャポン風だな? もしかして、ジャポンが出身なのか?」

ハンゾーの指摘に思わず頷いてしまいそうになったが、思いとどまった。
いくら故郷の日本と酷似しているとはいえ、オレはこの世界のジャポンに行ったこともないのだ。どんな差異があってバレるとも限らない。そもそも、俺の容姿は明らかにジャポン人ではない。

「あー、いや、ジャポンには行った事はないけど、文化には興味があるんだよ。ほら、俺の背の太刀もジャポンの刀を参考にして作ったもので、名前は漢字で『斬破刀』と言う」

「ナルミは刀鍛冶なのか?」

「武器職人と言ったところかな。ジャポンの刀は斬ることに特化した極上品だからな。刀を参考に手を取る機会があって、ジャポンに興味を持ってるんだ」

「そうなのか。それなら是非ジャポンに寄ってみてくれ!」

「ああ、絶対にいつか寿司を食いに行くぞ!」

「寿司の事まで知っているのか!」

第二次試験で寿司を食い損ねたので、是非ジャポンで本場の寿司を食いたい。
ハンゾーの故郷の文化に興味を持っている俺と話が弾み、その話題は当然のジャポンの事だった。俺はジャポンの文化に興味を持つ異国者の振りをして、ハンゾーからジャポンの様子を色々と聞き出した。
「ゲイシャ、サムライ、フジヤマ、アリマスカー?」と妙な発音で勘違いした外国人を演じてみると、と驚くべき事に存在しているらしい。

時代設定がおかしいだろう、と思いながらもやはりジャポンは俺の生まれ故郷の日本とは別物という事を悟る。
何でも建築物等は屋敷を主体にした戦国時代風でもあるのに、ケータイ電話や一人一人の戸籍までが電脳で徹底管理されているという、西洋人から見た間違った東洋観ジパングを再現した国のようだった。正に天外魔境の世界だと半ば呆れつつも、一度は行ってみたい国であるのも事実だ。

そうして、俺達ハンターの同期達――ポックル、ポンズ、ハンゾーとホームコードを交換して、最後に別れの挨拶を交わした。
同じ世界でハンターとして活動するのなら、いずれまた会う事もあるだろう。

俺達五人になった所で、クラピカがヒソカから「9月1日にヨークシンシティで待つ」と言われた事を告げた。
ゴンはヒソカに一矢報いる為に乗り気になり、キルアは共に行動するつもりのようだ。レオリオはオークションに興味を示して、俺は元々ヨークシンシティに行くつもりだった。
結局、全員が半年以上は先だが、五人が揃ってヨークシンシティに集まる約束を交わした。
ゴンとキルアはクジラ島へ、レオリオは故郷へ、クラピカはヨークシンシティへ、そして俺は師匠達の待つ秘境へ……俺達の進む道は今分岐点を迎えた。

レオリオが「絶対にまた会おうぜ」

ゴンが「この試験の事は絶対に忘れないよ!」

キルアが「……まぁ、楽しかったよ」

クラピカが「私は一人ではないという事を教えてもらった」

俺が「お前らはサイコーの仲間だよ!」

一言宣言しながら前に突きだした右手を重ねて行く。一つ、二つ……五つの手が重ねられ、熱が籠もった暖かさを感じる。
――そして、全員で目配せして同時に頷く。

『次に会うのは……9月1日、ヨークシンシティでっ!』

こうして俺達はハンターとしてそれぞれの道へと歩き出した。拳を胸元でぐっと握り締めて、高まる感情を抑えてひとまずの別れとなる仲間達を見送った。
「さらば、親友(とも)よ……」と、声には出さずに心の中で告げる。

「じゃあ、行こうぜ兄貴」

「ああ……」

俺達は肩を並べて、ガラスの窓の外に映える夕焼けを背に歩き出した。

――出会いがあった、別れがあった。
――楽しかった、辛かった。
――嬉しかった、悲しかった。

だけど、俺達はお互いに大切な思い出を手に入れた。
この別れは終わりなんかじゃない、新しい出会いの始まりなんだ!

そうだ、後ろを振り返らずに前を見よう。
一歩前へ踏み出してみれば、そこには無限の未来が広がっている!

――俺達の冒険はまだ終わらないっ!


~MONSTER×HUNTER 第一章:ハンター試験編・完~




















「って、ちょっと待てーーーい! 何綺麗に終わろうとしてんのさっ!」

「ん、どうした兄貴?」

ごっつい顔のロックが、不思議そうに覗き込むように俺の顔を見つめる。
これがポンズだったらドキッとしそうだったが……オエッとしかならない。ああ、やだやだ。吐き気が込み上げてきた。

「お前だよ! なんでごく普通に俺についてきてんだ?」

「何言ってんだ、兄貴? オレ様は一生ついてくって言ったじゃねぇか! まさか、忘れたのか?」

さも当然とばかりに豪快に笑いながら、ロックは言い放つ。まさかロックをKOした時の台詞が仲間になるフラグだったとは……って、ふざけんな!

「許可してねーよ!」

「ハッハッハ! 最終試験では僅差で敗れはしたものの、兄貴といればオレ様はもっと、もっと、もっと強くなれるに違いない! ならば、オレ様が兄貴と同じ道を歩むのは決定事項!」

「会話になってねぇぇぇ!」

「なに? もしや、肉体言語で語り合いたいという事なのか? ならば、この躍動する筋肉を見よ!」

ロックは何故かランンイングシャツを脱ぎだしてポージングする。不気味に胸元がピクピクと躍動し、傍にいるだけで暑苦しさが120%増量しそうだ。

「ふざけんな! なんでロックフラグが最後まで立ってんだよ! スパーフラグはどこ行ったの! ポンズフラグは、ポックルに取られたんだった。ポックル……あの世で俺に詫び続けろーーーっ!」

「兄貴は……ハッ! 元気だな! フヌッ! それでこそオレ様の兄貴だぜ!」

「ちょ、待ってくれ! こんな終わり方納得しねーぞっ!!!」



こうしてナルミ(兄)とロック(弟)はアイジエン大陸の秘境へと旅立った。

「妙な第三者視点とかいらねーから!」





─────

「ロックがなかまになった」

第二章の途中から他のキャラを合流させようと思っています。
ポックル、ポンズ、スパーは合流フラグが立っているはずですが、誰にしようかな……(ザムザとバーボンは落選しました)。

次章よりモンスター終了編に入りますが、ここからはオリジナル展開になります。
H×H世界にある疑似モンハンワールドを舞台に、モンスターを狩猟しつつ念能力の修行をします。ヨークシンに行くのは、恐らく大分先になりそうです。




[11973] 設定集(随時更新・ツッコミ待ち)
Name: 久遠◆ac0608a4 ID:080964e3
Date: 2009/11/01 00:35
※「新念能力作成&妄想&議論スレまとめページ」の念能力の記述テンプレ理想させて頂いてます。

●モンスターハンター
 ビーストの中でも特に危険な第一級隔離指定種に分類されるモンスターの討伐を専門とするハンター。
 レウス、レイア、キリン、クックの四名はその中でもトップクラスのハンターで、『滅竜狩猟団』の名はモンスターハンターの間では知らない者はいない。



―――――

●ナルミ=クドー(18歳、男、特質系、178㎝、70㎏)
現実世界からの来訪者。H×Hの原作知識は『ストーリー展開、重要人物は覚えているが、細かい事や脇役は覚えていない』。
当初モンハン世界にトリップと勘違いしていたが、二年前に念能力の修行をさせられてH×Hの世界だと気づく。
トリッパーという特殊な生い立ちから念は特質系で、双剣と太刀を使った戦闘方法を得意とする。
念能力は『モンハンシステムを再現する能力』で、付随効果として武器作成、地図具現化、情報整理用の三つの能力を持つ。

【念能力名】狩猟人生(ハンターズライフ)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】特質系100%
【能力の説明】
 モンスターハンターのシステムを再現する能力。
 メモリ制限を緩和するために、クエストの報酬『ゼニー』の使用を前提条件としてその他能力は発動する。クエストの受注には他者からの依頼が必要で、更にクエスト中に関連する依頼を受けた場合サブ依頼として報酬金が変動する。また、クエストの難易度によって報酬金額が増減し、命をかけた戦闘経験を得た場合に報酬は大きくなる。
 『条件付きでオーラを貯蓄し、メモリを緩和する能力』とも言える。

【制約/誓約】
 ・難易度が低いクエスト以外は契約金がないと受注出来ない。
 ・クエストをリタイアする時には、契約金の『ゼニー』を失う。


(ゼニーとオーラの換算)
 ナックルの言うオーラの数値化が確定でない為に変更の可能性あり。現状の定義は以下。
 ・キメラアント編のハンター中堅のゴンの総オーラ量が約2万
 ・ハンターとして一流のモラウが約7万
 ・現在モラウと同等の会長の全盛期が倍の約14万
 ・人外で強さが不明な護衛軍のユピーが推定70万
 上記から、人間の上限は最大でも20万と設定し、分かりやすくする為に1z=1オーラとする。
 『斬破刀』の作成に必要な素材は19000z=オーラが必要。
  計算式:斬破刀……(攻624 / 太刀武器係数4.8) + 雷250 = 380 * 50(変数) = 19000オーラ
 ※素材それぞれの価格は個数によって合計額が合わなくなるため、素材合計額としてのみの定義する



付随能力、その一
【念能力名】注文の多い猟店(オーダーメイド)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】具現化系80%
【能力の説明】
 『ゼニー』を消費して素材を具現化。素材を使って武器を作成・強化・修理する事が出来る。
 一般人にはただの性能の良い武器でしかないが、念能力者が”周”をすることで火水氷雷などの属性の力が発揮される。
 素材を使って作成した武器は実在する武器となって譲渡が可能となる。ただし逆に奪われるリスクも発生する。

【制約/誓約】
 ・具現化可能な素材は、類似モンスター討伐の必要がある。
 (素材:火竜の鱗を具現化するには、火竜に類似したモンスターを一度でも討伐する必要あり)
 ・作成可能な武器の個数は最大8個まで。それ以上作成する場合はいずれかの武器が消失する。
 ・作成した武器で攻撃を受けるとダメージが倍増する。
 ・作成した武器が破壊されると保有している『ゼニー』を全額失う。
 ・作成した武器は定期的に修理をしないと、武器は消失する。



付随能力、その二
【念能力名】千里眼の地図(グルグルマップ)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】具現化系80%
【能力の説明】
 『ゼニー』を消費して、自分の現在位置を中心とした直径4キロメートの地形の地図を具現化する。
 上空からの航空写真を写したように地形を把握する為、建物内部等の構造は把握出来ない。
 地図の拡大、縮小が可能(デジタルマップ風)で、草木まで鮮明に確認出来る。
 また、オーラが触れたモンスターの位置を探知する事も出来る。ただし、一度でも範囲外に逃げられると再び接触しなければならない。

【制約/誓約】
 ・他者に地図に触れられると、『ゼニー』を全額失う。
 ・狩猟人生(ハンターズライフ)でクエストを受注している時限定。
 ・探知出来るモンスターはクエストで討伐対象に限定。



付随能力、その三
【念能力名】栄光の狩猟記録(ハンターノート)
【能力者の系統】特質系
【能力系統】具現化系80%
【能力の説明】
 『ゼニー』を消費して、モンスター、武器、素材、人物、その他情報を記載したノートを具現化する。
 素材の名前は全て記載されているので、討伐すべき類似モンスターの判別が出来る。人物情報は知り得た情報をメモする程度。

【制約/誓約】
 ・情報を取得出来るモンスターはクエストでの討伐対象に限定。
 ・武器の場合は、作成した武器、作成可能な素材が揃っている武器に限定。





―――――

●レウス(32歳、男、強化系、198㎝、108㎏)
大剣使い。一ツ星ハンター。
『滅竜狩猟団』のリーダー。赤い長髪の全身筋肉に覆われた偉丈夫。上半身剥き出しの毛皮の軽鎧を着ている。愛剣は燃える様に真っ赤な幅広の大剣レッドウィング。


【念能力名】竜覇斬(ドラゴンバスター)
【能力者の系統】強化系
【能力系統】強化系100%、放出系80%
【能力の説明】
 溜めた時間に比例して威力を強化し、斬撃を衝撃波にして放つ。
【制約/誓約】
 剣での使用に限定し、発動は斬撃動作が必要。

【念能力名】火事場力(ウルトラパワー)
【能力者の系統】強化系
【能力系統】強化系100%
【能力の説明】
 ”練”の効果を増幅し、オーラ量を飛躍的に増加する。
【制約/誓約】
 一定以上のダメージを負った状態限定で、更に使用してから3分経つと30分間は強制的に”絶”の状態になる。





―――――

●レイア(29歳、女、放出系、170㎝、49㎏)
弓使い。一ツ星ハンター。
金髪碧眼のスレンダーな美女で、扇状の全円のスカートと桜色の胸当てを纏う。レウスの恋人。
全長二メートルにも達する長弓のクイーンブラスターを愛用している。


【念能力名】心を射貫く愛の弓(ハートショットボウ)
【能力者の系統】放出系
【能力系統】操作系80%
【能力の説明】
 放った矢の軌道を自由に操作して、弱点を狙い撃つ
【制約/誓約】
 弓での使用に限定

【念能力名】空を切り裂く勇気の弓(ソニックボウ)
【能力者の系統】放出系
【能力系統】放出系100%
【能力の説明】
 飛翔距離が長くなるにつれて速度と威力が増す矢を放つ。
【制約/誓約】
 弓での使用に限定

【念能力名】絶望を穿つ希望の弓(ブラックボウ)
【能力者の系統】放出系
【能力系統】放出系100%
【能力の説明】
 矢が閃光を放って目を眩ませる。
【制約/誓約】
 弓での使用に限定






―――――

●キリン(23歳、女、放出系、163㎝、47㎏)
ハンマー使い。外見は十五歳前後。
赤銅色の肌に白髪の南方系の容貌。露出の多い白い毛皮に、一本角の額宛がトレードマーク。武器は噴射が可能な工房試作品ガンハンマ。


【念能力名】雷神の巨腕(トールハンマー)
【能力者の系統】放出系
【能力系統】放出系100%
【能力の説明】
 オーラを噴射して、推進力に増強して打撃の威力を増加する。
【制約/誓約】
 何かある(未定)

【念能力名】天駆ける翼(スカイウォーカー)
【能力者の系統】放出系
【能力系統】放出系100%
【能力の説明】
 オーラを噴射して、跳躍力を加速する。段階的な噴射によって、直角に進路を変更する事も可能。
【制約/誓約】
 体重が五十キロを越えると能力が使えなくなる。(ダイエット宣言をそのまま制約にした)




―――――

●クック(55歳、男、具現化系、189㎝、99㎏)
ランス使い。一ツ星ハンター。
厳つい顔に盛り上がった筋肉の豪快のおっさん。レウスとレイアの師匠。
粗野な言葉使いからは想像出来ないが、元上流家庭の生まれ。


【念能力名】竜騎士団(ドラグーン)
【能力者の系統】具現化系
【能力系統】具現化系100%
【能力の説明】
 突撃槍と盾と全身甲冑の中世騎士風の武装を具現化する。また、鎧を纏った鉄の馬『ストームライダー』を具現化して騎乗とする。
【制約/誓約】
 何かある(未定)


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