脳波を感知して仮想空間のアバターを操作する技術、バーチャルリアリティシステム、通称VRシステムが家庭用ゲーム機に初めて採用されたのが五年前。
最初に発売されたVRシステム対応タイトルは、シンプルなルールの様々な競技を詰め込んだ体感型スポーツゲームで、VRシステムの目新しさと、室内にいながら実際に運動している感覚でスポーツを楽しめるとあって、幅広い年齢層に普及していった。
それから間をおかず、RPGや格闘ゲーム、アクションやシューティングなど、ありとあらゆるジャンルのタイトルが畳み掛ける様に発表された。
VRシステムの発売から一年足らずで、従来のゲームパッドやマウスとキーボードによる操作は過去の物となり、VR発表以前の人気タイトルをVR対応にしたリメイクも数多く発売された。
しかし、VRシステムが発表されてから――一部では発表されるよりずっと前から――最も多くのプレイヤーが待ち望んでいたVR対応のMMORPGが発表されたのは、今から二年前。
家庭用VRシステムの登場から三年、世界中のネットゲーマーを焦らしに焦らした上での登場だった。
発表から半年後、約一ヶ月間のβテストを経て、満を持して正式サービスが開始されたVRMMORPGは、社会現象と言っても過言では無い程、世界中で流行した。
実際に剣を振り魔法を操り、仲間と共にモンスターや、時には他のプレイヤーと戦いながら未知の世界を冒険する快感に、世界中のゲーマーが魅了された。
そして、去年の夏に東京で開催されたゲームショウにて、新型VRシステムと、同時発売される新作VRMMORPG【Atlus-Endless Frontir-】が発表された。
インフィニティ・ソフトウェア開発の【Atlus-Endless Frontir-】、通称アトラスは、地球に似た広大な面積を持つ架空の惑星を舞台とした、かつてない程に大規模な物だった。
プレイヤーは、モンスターに奪われたかつての領地を剣と魔法によって切り開いてゆくという、設定としてはさして珍しくもない、よくある剣と魔法のファンタジーだ。
アトラスが世界中のゲーマーを驚かせたのは、五年という短期間で驚異的なまでの進化を遂げた新型VRシステムにより実現した、現実と見紛う程の圧倒的とも言えるリアリティ。
ゲームショウで公開されたプロモーションビデオを見た誰もが、最初はヨーロッパの古い町並みを撮影した実写PVだと思っていた。
しかし、町並みから広大な草原へと画面が移ると、巨大なスクリーンに映るのは、見た事もない野生動物が草を食み、巨大な鳥が空を悠々と舞う映像。
草原から鬱蒼と生い茂る森林へと場面は変わり、狼の群れと巨大な熊の臨場感溢れる戦闘シーンが映し出されると、周囲の観客からどよめきが沸き上がった。
森の奥に口を開けた洞窟の中での、無骨な鎧を身に纏った男と緑の肌を持つ亜人との戦闘。
洞窟の最奥で小鬼の大群を従えた、巨大な武器を持った凶悪な大鬼を映し、PVは終わった。
合成か、はたまた特殊メイクかと思われたそのリアルな映像は、開発中のゲーム画面を撮った物だった。
【これは、もう一つの現実での物語】
その短いキャッチコピーの通り、アトラスの持つリアリティは現実そのものだった。