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[12243] 【習作】涼宮ハルヒの文明Ⅰ
Name: 萌葱◆02766864 ID:f25df175
Date: 2009/09/26 23:22
諸君、ようやく春の息吹が感じられるようになった今日この頃、体調の管理はしっかりしているか?
風邪をひきやすいのは季節の変わり目が多いこともあり、俺も寝る時はきちんと布団をかぶるようにしている。
さすがに、真冬用の羽毛布団を暑苦しく感じながらも床についている時、おかしなことに気が付いた。
何故か底冷えするような寒さを感じたのだ。
俺は、仕方なく眠気を押さえながら起きてみると……

目の前には、大草原が広がっていたんだ。
叫んださ……ああ叫んださ。

なんじゃこりゃー!



涼宮ハルヒの文明Ⅰ



と、叫んでみたところで何も変わらないは分かっている。
こんな異常事態に遭っても、それほど動揺していない自分が悲しいぜ。
自分の思考パターンのここ一年における変化に溜息を吐きつつ、
起きてからずっと違和感を感じていた自分の格好を確認してみる。

やっぱり、寝ていた時に着ていた服じゃなくなってるよな。
こりゃなんだ。どっかの民族衣装か? どことなく、中東っぽい衣装である。
頭に何かを巻いているのが分かるが、これはきっとターバンなのだろう。
どうせあいつが原因なんだろうが、一体何を考えているんだ。
こんなところに行かせて、こんなものを着せて何をしろっていうんだよ。

しかし、遅いな……経験上はもうそろそろのはずなんだが。

「お待ちしておりました」

やれやれ、遅かったな。
こんな状況で俺をひとりにするな。

「これは申し訳ございません」

俺は、後ろに振り向く。
そこに立っていたのは、胡散臭そうなスマイルがよく似合う一昔前のアイドルのような男だった。
SOS団副団長にして超能力者(ほとんど役には立たないがな)の古泉一樹である。

「よくお似合いですよ」

「ふん、そういうお前もよく似合っているぞ。
それはどこの服だ?俺のとは方向性が違うみたいだが」

「これはサーコートといい、中世ヨーロッパで騎士達が来ていた物です。
……それにしても似合っていますか。あなたに褒めていただけるとは光栄です」

真っ白な生地に赤い十字が付いているコートのような物を着ている古泉。
確かにこのまま鎧でも身に着ければ、まさに騎士そのものである。
それにしても、なんでお前はいちいち近づいてくるんだ。
顔が近い。息が当たる。目がマジすぎて恐いんだよ。

「フフ、すみません」

笑いながら離れていく古泉。
まったく、こいつは……で、今度は一体何をすれば良いんだ?

「さすがですね。理解が早い」

一年近くあいつに付き合わされたら、カメムシでも学習するさ。

「あなたにしていただきたいのは世界征服です」

はぁ?

「もしくは他惑星への移住でも大丈夫です」

……ふざけているのか?

「努めて真面目ですよ」

それなら、勿体ぶらずにきちんと説明しろ。

「それは、一度集まってからにしましょうか。こっちです」

みんな? そうか、長門達も来ているのか。
どちらにしろ合流するしか選択肢の無い俺は、すたすたと歩いていく古泉の後ろについて行った。
……それにしても、いつもの制服じゃ気障ったらしく見える大げさな動作が、あの服でやるとかっこよく見えるぜ。
どこぞの舞台役者みたいで、なぜか腹立たしくなってくるから困りものだ。
そして何より今の俺がもっとも気に掛けていることは、待っているであろう二人が着ている服がなんなのかであった。
ハルヒのことだ。きっと天使のようなあの人にはスゴイ物を着せているのだろう。



「ああ、キョン君」

「……」

10分程度歩いた先で待っていたのは、毎度おなじみの面子である。
SOS団の専属メイドであり、(主に俺の)精神的活力源でもある未来人の朝比奈みくるさんと、
部室では無口な文学少女にしか見えないが、実態は圧倒的なまでの万能性を誇る最も頼れる宇宙人、長門有希だ。

「似合っていますよ朝比奈さん」

「そうですか……よかったぁ」

俺や古泉と同じで二人もいつもの格好ではなく、民族色溢れる格好をしていた。
朝比奈さんは、中華っぽい紅色の服だが、

「これ、アオザイっていうみたいなんです」

俺の視線に気づいた朝比奈さんが説明してくれた。
例えるなら、チャイナドレスのズボンバージョンといったところか。
いつぞやのバニーガールなどよりは、露出が少ないため朝比奈さんの表情は穏やかだ。
他人の目を気にすることがないためか、部室でメイドになっているのと一緒なんだろうな。
正直意外である。もっとどぎつい衣装でも着せられているのかと思ったぜ。
もったいな……よかったですね朝比奈さん。

「ポンチョ」

お前のは、見てすぐ分かったぞ長門。
すっぽりと濃いグリーンの一枚布をかぶっている長門は、まるでてるてる坊主のようだ。
その姿でポツンと立っている長門を見ていると、朝比奈さんとは別の意味で愛おしくなる。
それを伝えると、長門は「そう」と蚊が鳴くような声で呟いた。
一見、それに何の意味も存在していないといわんばかりの様子である。
だが、こいつの顔色を見ることにかけては人類一を自負する俺は見逃さない。
その能面のような顔に、ほんの僅かばかり感情が滲み出ていることをな。

朝比奈さんのコスプレに対する抵抗が消えつつあることと、
長門にも女の子らしい感情が一ピコグラム程度でも芽生えつつあることを感慨にふけりながらも、俺はこの三人に現状について聞きだすことにした。
と、その時だった。俺は、ある存在を見つけてしまったのである。
おそらくこの異常状態の原因であり、それを考えるとこいつがここにいるのは当然ではあるのだが……

「おい、なぜこいつがここにいるんだ」

そう、宇宙人、未来人、超能力者をそろえ、SOS団などというトンデモ集団を生み出した我らが団長様。
三人によると、進化の可能性であり、時間断層を起こした原因であり、世界を生み出した神様らしい。
この俺の常識的な日常をおもしろおかしい非日常に変えてしまった張本人――

「……むにゃむにゃ」

――涼宮ハルヒである。



俺は、青草をベッド代わりにして大の字になって寝ているハルヒを指差しながら古泉に詰め寄った。
服はやっぱり制服や普通の私服ではなく、金銀宝石がこれでもかとちりばめられた多国籍風の甲冑を身に付けていた。
欧州風味であり、東洋の甲冑のようにも見える。
こいつには、いろいろな意味でお似合いであるが――正直、寝苦しそうだな。

「こんなところにハルヒがいて大丈夫なのか?」

ありとあらゆる非日常の中心にいながら、ハルヒ自身は絶対にこれらのことを認知しないようになっている。
不思議を認識した時の暴走を防ぐため、周りのすべてがそうしているのだ。
故にハルヒがこの異常事態に気づくことは、こいつらにとって非常に都合が悪いはずなのである。
俺のこの疑問に、古泉は一冊の本を取り出した。

「それは問題ありません。それよりもこうなっているわけを説明してもよろしいでしょうか?」

「説明してもらおうじゃないか」

「ではこれを」

古泉が持っていた本を俺に渡してきた。
なになに、シ、シビリ……

「シヴィライゼーション……直訳すると文明ですかね」

……悪かったな、英語の試験は赤点ギリギリなんだよクソ。
それで、これはなんなんだよいったい。

「ゲームのマニュアル、取扱説明書ですよ」

はぁ!? これが取説なのか。厚すぎだろ。

「一般的なTVゲームと比べたら情報量がぜんぜん違いますからね」

「それが、今の状況とどう繋がるんだ?」

「そこからは、長門さんに説明していただきます」

そう言うと後ろに下がった古泉に代わって、長門が無表情のまま前に出る。

「現在の状況、およびここまでに至る経緯について説明する」

長門の話を要約(というか肉付けだな。やはり言葉数が少なすぎるぞ長門)するとこうである。
それは偶然にも、ハルヒ以外の全員が何らかの用事があって部室に集まらなかったときのことだった。
自分ひとりだけが部室にいるということに大変ご立腹であるハルヒは、団員の一人がいる場所まで突撃することにしたそうだ。
その一人とは長門である。長門は、事前にその日はコンピ研に行くことを伝えてあったという。



「おっじゃましまーーーす!!」

当然のようにノックをしないで扉を蹴り破るハルヒ。

「……いったい何の用だい?」

部長氏はすでにこいつがどんなやつなのかは知っていたので、ハルヒの奇行にあわてはしない。呆れるだけだ。

「有希を退屈させてないか点検しに来たのよ。
せっかく貸してあげてるのにつまらないことをしてたら終身刑を与えるわ」

もちろんハルヒが司法権を有することは未来永劫有り得ないのだが、この女には些細なことである。
そんな暴君が部長氏のPCを覗き込む。

「ちょっと、何してるのよこれは?」

溜息をついた彼は、それでも丁寧にハルヒに説明していく。
あの人は意外と面倒見が良いからな。

「これは、シヴィライゼーションっていうゲームだ。
今、部員たちをと一緒にプレイしているところだよ……」

簡単に説明を受けたハルヒは、興味津々といった感じでモニタを覗き込む。

「ふんふんふん、有希はこのゲーム楽しんでるの?」

「ユニーク」

その返事を聞いたハルヒは、ニヤリと笑いながらその場を退散したらしい。
まあ最後に、

「ロンドンの近くにガレオン船が集結しているから気をつけなさい」

という捨て台詞を残し、部長氏の企みを潰して身悶えさせたのはあいつらしいがな。



「涼宮さんはこのゲームに興味を示したようですね。
そしてとうとうSOS団全員でプレイしたくなって、この空間を作り出したようです」

なんつーか、そんなにしたかったら部室でやればいいだろ。
こんないろいろな意味で無駄すぎる能力の使い方、ハルヒらしいぜ。

「それで、どんなゲームなんだ長門?」

唯一、このゲームの経験者であると思われる長門に内容を聞いてみる。

「そのマニュアルを読んでみれば分かりますよ」

横から古泉が口を出してくる。
ふん、こんな分厚い物読んでられるか。

「このゲームは、ひとつの文明の指導者となり他の文明と競い合うターン制のシミュレーションゲーム。
最終目的は、各種定められた勝利条件を達成すること」

なるほど、さっき古泉が言っていたあれだな。

「国土の拡張、技術開発を初めとして経済、軍備、外交など総合的な戦略構想が求められるゲーム」

それだけ聞いても、頭が痛くなるぜ。

「それで、ハルヒを起こせば開始するんだろ」

俺のその言葉に古泉はニヤリと笑いながら答える。

「そうだと思います……が、涼宮さんは夢の中での出来事だと思い込んでますので、くれぐれもそこだけは注意して下さい。
あくまでも夢の中でみんなでゲームを楽しむということが、涼宮さんの望みですから」

分かったよ。お前はともかく、朝比奈さんや長門が困るみたいだからな。

ここで、ハルヒを起こすことになったのだが、どうも三人揃って俺を見てくる。どうやら起こすのは俺の仕事らしい。
面倒ばかり押し付けられるぜ、という含みを抱きながらも俺はハルヒに声をかけた。

「おい、起きろ。起きやがれハルヒ」

声をかけただけでは、起きる様子がまったくないハルヒ。
最後には、肩を大きく揺すりながら耳元で怒鳴ってやったら、

「うっさーーーーい!!」

ぐぁ……耳がいってー。
ハルヒは俺に向かって叫んだ後、むくりと起き上がり周囲を見渡した。

「……夢?」

意識は、現実のハルヒと地続きになっているらしい。
そうした矛盾を解決するために、自己暗示が働いているようである。
常識的に考えると夢としか思えないのは確かであり、それを使って問題を解決するのが一番効果的であるのは間違いない。
そんな夢虚ろな眼差しのハルヒに、かすかな疑念すら抱かせないよう古泉が畳み掛けるように話しかけた。

「そうです夢ですよ。ほらその証拠に」

古泉がある方向を指差した。
俺もそっちを覗いてみると……げぇ。
澄み渡る青空になんかすごいものが浮かび上がっていた。



人類の夜明け

時は紀元前4000年。太古の昔から、SOS団の人々は遊牧の民として暮らしてきました。
今、彼らは長年の放浪の旅を終えて定住し、最初の都市を築こうとしています。

涼宮ハルヒよ、人民はあなたに絶対的権力を与えました。あなたなら時の試練に耐える文明を築いてくれると信じて!



長門曰く、プレイ開始時に必ず出るメッセージらしい。
まあいろいろ突っ込みたいところはあるが一言だけ言わせてくれ。
あんなやつに絶対的権力を渡すな人民。
危険度から言えば、借金の連帯保証人になるのと同じかそれ以上だぞ。

しかし憂鬱になってくるぜ。これで、俺がさんざんこき使われるのは確定なんだからな。
もっとも、身の危険がないので気楽ではあるがな。

古泉を見る。
意味ありげな笑みを浮かべていた。お前らしい反応だ。

朝比奈さんは、宙に浮かぶ文字に慌てていた。
これまたあなたらしいです。

長門はというと……
無表情だが、どこか熱の入った眼差しをしていた。
けっこうこのゲームを気に入っているのか長門。

そしてハルヒの口角が上がっていくのを見て、俺は不覚にも感心してしまったのだった。
一度でいいから、その無意味な自信が欲しいぜまったく。


――余談――


「これは超古代文明が残したロストテクノロジーのひとつ。
常温プラズマを操作して空間上に投影するプラズマスクリーン」

長門が俺を見つめて何か言ってきやがった。

「それはさすがにむちゃくちゃじゃないか長門。
ただ単に適当な単語を並べただけじゃないか」

「だめ?」

「いや、駄目というか「だめ?」だから「だめ?」……もういい」

それよりも、よりによってプラズマはないだろう。大○教授もびっくりだぜ。
まあ所詮ゲームの中なのであり、ここではプレイヤーの都合の悪いことは無視されるのが常識なのである。






後書き

シリーズは、Ⅳ・BtSです。
UU、UBともに候補はあるのですが、いまいち自分ではピンと来ません。
何かアイデアがあれば是非。
指導者涼宮ハルヒの志向は決定済み。
しかし、ハルヒの好みの社会制度はなんだろう?

ハルヒらしさが出てれば幸いです。



[12243] 涼宮ハルヒの文明Ⅱ
Name: 萌葱◆02766864 ID:f25df175
Date: 2009/09/27 01:49
空中に浮かび上がるトンデモ映像。
それを眺めるのは少年少女。

なんなんだよこの状況は。



涼宮ハルヒの文明Ⅱ



今この場で一番気にかかるのは、天上天下唯我独尊を体現するあの女なのは自明の理である。

「……ふっふっふっふっふっ」

どうやら、核融合炉が起動したらしい。
このまま、メルトダウンまで突っ走るのは確実を通り越して、すでにアカシックレコードに刻み込まれているのだろう。
現にもっとも被害に遭っている朝比奈さんは、顔を引きつらせて後ずさりしているのが、その俺の予感を間違いないと証明していた。

「核融合炉に炉心溶解の危険性はない」

言葉の綾だ長門。
こんな事を言っている間にも、ハルヒのテンションは急激に上昇していく。
一度動き出したこいつは絶対に止まらない。

「面白いわ! 最高よ!!」

バッと足を大きく広げ、左手は腰に右手をその文字に向かって突き上げるハルヒ。
そのまま、キラキラと光り輝く瞳で天を見詰めると、

「この挑戦乗ったわ。SOS団の凄さを見てビビらないでよ!!」

なんて言い切りやがった。
……まったく端から見てたら格好いいんだがな。
こんなハルヒに、何度迷惑を掛けられたのかと思うと溜息しか出ないぜまったく。

その時、パチパチという音がこの場に鳴り響いた。
古泉の奴が、ハルヒに対して拍手をしているのだ。

「さすがは涼宮さん。SOS団の団長に相応しい掛け声です」

この白々しいまでのヨイショに、ハルヒはチッチッっと人差し指を顔の前で横に揺らした。

「違うわ、間違っているわよ古泉君。今の私は団長じゃなくて……」

別にそれを溜める必要など、どこにもないと思うがな。

「……超指導者よ!!」

何しろ、胸当てにデカデカと書いてあるじゃないか。
多分こう見得を切らせたくて、わざと言ったんだろうな古泉の奴は。

それにしても、ハルヒはこの場に俺たちがいることになんの疑念も抱いていない様子だ。
まあ俺たち(正確には俺以外の三人なのだが)にとってはそっちの方が好都合なのは確かである。
そんなことを考えていると、長門がある方向を見ていることに気が付いた。
つられるように俺もそっちに視線を向けると、

「ブオッ!」

……ちょっとまて。なんだあの髭親父は。思わずふいたじゃないか。

「開拓者、都市を築くことが出来る重要なユニット」

無表情のままサムズアップする髭親父。
いや、マジで恐いからこっちみんな。
と、ここでそもそもこのゲームの進行など諸々について、俺は何も知らないことに気が付いた。
まあ詳しそうな長門がいるので問題ないのだろうがな。

「みんな集合よ」

ハルヒの声に、俺たちは従うという選択肢しかない。
団員全員を前にして、ハルヒは真剣な顔をしながらハッパをかける。

「ぜぇーーーたいに勝つわよ。分かってるみくるちゃん?」

朝比奈さんはハルヒのその言葉に「は、はい」と答えてはいるが、意識は違う方向に持ってかれていた。
屈伸運動をしている髭親父である。
こいつ……早くなんとかしなくては。朝比奈さんが汚れる。

「それで、これからどうするんだよハルヒ?」

とっとと話を進めるために、俺はハルヒにこう切り出した。

「ふん、王様っていうのはねキョン。
いつもはドカッと王座にふんぞり返って、下々の者が汗水流して働いているのを眺めるのが仕事なのよ」

「ということは、俺たちに任せるのか」

その俺の言葉に心外そうにしたハルヒ。

「もちろん、大切な場面では出て行くわよ。
ただいつもいつも出張ってたら、王様の価値が下がるじゃない」

「ごもっともです」

調子づかせるな古泉。

「ああ、どうせアンタは自分がどんな役回りになるのかが恐いんでしょ?
大丈夫よ、そこは私を信じなさい!! 適材適所、団員の能力の把握は完璧よ」

いや、このなかでも信頼度は最低レベルだぞ……とは口が裂けても言うまい。

「まず、有希は軍事兼内政兼技術大臣ね」

頷く長門……って待てい。一極集中甚だしいぞ。
こんな体制じゃ、クーデター成功率が100%確実である。

「何言ってんのよ。有希がSOS団を裏切るわけ無いじゃない。
それより次よ次。古泉君は外務大臣よ」

まあこいつの口の巧さは、団随一だから問題ないか。

「仰せつかりました」

「みくるちゃんは、お茶くみ大臣」

これは妥当だろう。
何しろこの人は、争いとか戦争とかとは正反対の所にいるからなぁ。

「がんばります」

本人としてもこの役割に満足しているのだろう。生き生きしているなぁ……
なんか、ハルヒのメイド教育が行き届いていると実感してしまう光景である。

「それで、俺は何をすれば良いんだ」

「アンタは雑用よ」

おいおい、大臣ですらないのかよ。

「アンタなんかが大臣になれるわけ無いでしょ。身の程を知りなさい。身の程をね」

予想はしていたが。それにしても雑用といえば映画撮影の時を思い出すな。

「それじゃあ、一番の問題点をこれから言うわ」

ちょっとした緊張が場に走った。
すううう、と空気を吸い込むハルヒ。

「みくるちゃん! 何なのその格好は!!」

「ふえええ!?」

「SOS団のお色気担当なんだから、もっと肌を露出しないと」

そっちかよ! お前が選んだんじゃないのかよ。
この野郎は朝比奈さんを捕まえると、無理矢理服を脱がそうとしやがった。

「せめて、せめて、むこうで」

必死に訴える朝比奈さん。
ここで俺も朝比奈さんに助け船を出しておくことにした。
……決して眼福眼福などとは思っていないぞ。
ああ、この一瞬良い思いをしても、バッドエンドに辿り着きそうだからな。

「おいハルヒ。どこかの物陰でやれ」

「それもそうね。変な髭にみくるちゃんの生着替えを見せるのも勿体ないしね」

引きずられていく朝比奈さん。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
あなたの犠牲は決して無駄にはしません。

それとハルヒが手に鋏を持っていたのは……いや俺はなんにも見てないぞ。



「それで、これからどうするんだ?」

長門に聞く。経験者はこいつだけだからな。

「まずこれを」

そういった長門は、先ほどのように空中に映像を映し出した。

「これも超古代ぶ「それはもういい」……ご無体な」

ご、ご無体……時代小説でも読んだのか長門?

「これは現在分かっている地形」

「いわゆる初期立地ですね」

ん? 古泉お前も知っているのか?

「機関は、涼宮さんが興味を抱いたものに関してすべて把握しています」

なるほどな。

「残念ながら、今回は動きが早かったので事前準備が間に合わなく、
知識としては中途半端になってしまっていますけどね」

例え詳しくても、こういったゲームが下手なお前には頼らないけどな。
それじゃ、話を戻そうじゃないか。

「最初はどう動くべきなんだ長門?」

「まず最初に指導者及び文明の特性を把握しなくてはならない。
指導者や文明にはそれぞれ特色がある。
指導者にはそれぞれ二つの志向が与えられ、各々の文明には、あるひとつの汎用ユニットなどの代わりにその文明だけが使えるユニットや建設物がある」

ハルヒの志向か。猪突とか無計画とかお先真っ暗な言葉しか浮かばないぞ。

「涼宮ハルヒの志向は、創造とカリスマ。序盤ではとても強力な組み合わせ。
カリスマは初期の幸福管理がとても楽になり、創造で生み出される文化値のおかげで都市範囲の拡大に労力を割く必要が無くなる」

ふむ……どうも分からない単語が頻出しているのだが。

「知るべき時が来たら教える」

その方がいいか。
長門、説明を続けてくれ。

「各個の文明だけが使えるユニットや建設物はそれぞれ、ユニークユニット(UU)、ユニークビルディング(UB)と呼ばれる」

SOS団のか……一体何が出てくるんだ?

「UUは神人」

「……ちょいまて、あれが出てくるのか!?」

「詳細は不明。生産するには特殊な条件があると推測される。
UBはSOS団部室。使えるようになったら説明する――もうひとつ重要なことがある。初期技術」

初期技術?

「そう、開始時に所持している技術がそれぞれの文明に二つある。
SOS団が有しているのは神秘主義と車輪」

そもそも技術というのはなんだ長門?

「文明がどれだけ進歩しているかの目安。
生産できるユニットや建造物、資源の活用などあらゆる要素に関わる最も重要な要素。
神秘主義は、宗教系統の技術の大本になるもの。車輪は、道路の敷設に必要になる技術」

なるほど……全然わからん。

「やれば分かりますよ」

「それじゃあとっとと進めるぞ。
いつまでもこんなところでグダグダしてもしょうがないからな」

「最初に与えられるユニットは、開拓者と戦士。
戦士は、最初期に使える軍事ユニット。最弱ではあるが各種こなすべき役割がある」

先ほどの画面を見ると、開拓者とは少し離れた場所に腰蓑男が立っているのが見える。

「今回の初期立地は……今のところは中の中といったところ」

意外だな。ハルヒならチート臭いレベルにしそうだけどな。
そんな俺が呟いた疑問には誰も反応せずに、長門の説明は続いていく。

「確認出来る資源は草原にある小麦と牛。川が南北に流れており、森と丘は共に平均的な量から考えると少し少ない。
一歩動けば川と隣接することと、小麦が川と隣り合っているのは高評価。
そして不確定だが何もない草原及び丘があることと、初期資源の数からまだ視認できない資源があると推測される」

まあいい。長門、お前が好きに進めてくれ。
素人がどうこうするものではなさそうだ。

「それは感心しませんね。涼宮さんは、みんなでプレイしたいと思っているんですから」

そんなことは承知している古泉。だがな、俺が口を出して負けたらどうするんだ。
あいつは負けや敗北といったネガティブな言葉が大ッ嫌いなのは知っているだろ。

「フム……ジレンマですね」

だから、俺は適当にやらせてもらうさ。
今のあいつなら、そこら辺は察してくれるはずだろう。

「フフ、羨ましい。信頼しているのですね」

……なんだその反応は、

「あーー、お待たせ!」

と、ここでハルヒが帰ってきやがった。
朝比奈さんは……なんとぉーーーーー!!

ギリギリまでスリットを入れられた挙げ句、膝上何㎝だとツッコミをいれたくなるぐらい短くされたズボンと、
これまた大胆に切り裂かれて胸元がパックリと外気に晒されていた。
それでいてアオザイの素材がチャイナドレスより薄いため、余計に扇情的な印象をこれでもかと与えてくる。

男のリビドー直撃である。

「キョン君見ないでぇ」

うん、それ無理。
それにしても、短い平和でしたね朝比奈さん。



「それでこれからどうするか決まった?」

ニコニコ顔でそう口にしたハルヒ。
こいつは、自分の後ろで俯いている朝比奈さんのことは、どうでもいいのだろうかまったく。

「大丈夫さ。長門に任せれば何とかなるだろう」

「そりゃそうよ。有希はSOS団のリーサルウェポンなのよ」

ハルヒが長門を見た。
その視線に眉毛ひとつ動かさず長門が話し出す。

「まずは、開拓者で最初の都市を造る。場所は右に一マス動いて川と隣接させるべき」

「分かったわ有希」

頷くハルヒ。するとあの髭親父が急に走り出す。
あくまで、重要事項はハルヒの意志が必要になるのかと考えていると、
辺り一面が光り出して気が付いた時にはどこかの宮殿の中に……
て、おいちょっと待て、この展開はあまりにも適当じゃないか。

「ゲームの中では一瞬」

いや、長門それは分かるが……

「諦めて」

……そうかよ。

「なんですか? 何が起こったんですか?」

こんな事が起こっても、慌てているのは朝比奈さんだけですか。
やっぱりあなただけです。この俺の心を癒してくれるのは。

「この都市の名前が必要」

名前ね……嫌な予感しかしないぜ。

「それはもう決まっているわ」

そう言ったハルヒは、どこからか木の板を持ってきやがった。
その板にはこう書かれていた――『ハルヒシティ』と。

……安直すぎるだろうそれ。



[12243] 涼宮ハルヒの文明Ⅲ
Name: 萌葱◆02766864 ID:f25df175
Date: 2009/09/28 20:33
ついに立ち上がったハルヒシティ。
ここからSOS団の輝かしい未来が始まった……のか?



涼宮ハルヒの文明Ⅲ



「まず戦士には、円を描くように周囲を探索させる」

俺たちは今、宮殿内にある一室の中央にある大きなテーブルで向かい合っていた。
そのテーブルの上にはゲーム画面が映し出されており、その中で長門の言葉通りに戦士が一マス動いたのが確認できる。

「あとは、この都市で生産するものと、研究する技術を決めることが必要」

長門はちらりとハルヒの横顔を見た。

「任せたわ有希」

ハルヒは長門に信頼をこめて命令を下す。

「最初に生産するものの候補としては、戦士と開拓者、労働者がある。
一番安定している選択肢は労働者。今回はこれでいくべきだと思われる」

また分からない専門用語が出たな。

「労働者は道路を引いたり各種改善を行うユニット。
解釈にも依るが、ゲーム中最も重要なユニットと考えられる」

俺たちに反対する理由は無く、その案をすぐに了承したハルヒ。
続いて長門は、研究技術に関して説明を始めた。

「技術は、瞑想か多神教を開発して宗教を創始することが出来る……」

その長門の提案を、

「却下」

ハルヒは一言で切って落とした。

「私は常々思ってるんだけど、宗教なんてモノを信じている人間がいるってのが理解できないのよね。
神様なんてモノを拝んでいるだけで幸せになれるなら世話無いわよ。だから私が治める国にそんな弱い人間は必要ないわ」

いつものエキセントリックな言動とは似つかわしくないセリフではあるが、何となくこいつらしいな。
チラリと古泉を見る。お前らの神様がこんな事を言ってるぞ。

「……ん? どうかしましたか」

ふん、何も反応なしか。
最初から承知しています、と言いたいような顔つきをする古泉。

「それなら農業から採鉱、青銅器と研究するのを推奨する。
農業は小麦を利用するため。青銅器はこの時代のテクノロジーでは最も優先するべき技術。
これを研究することによる利点は主に三つある。
ひとつは軍事的な側面から。優秀な軍事ユニットである斧兵と、それを作る上で必要な銅がマップ上に表示される。
ふたつめは、森林が伐採できるようになること。
少しでも早く生産したい物がある場合、これはとても有効な手段となる。
最後が奴隷制に移行できること。奴隷制は、食料をハンマーに変換できる緊急生産を使えるようになる優秀な制度」

……ええーと、全然分かりません技術大臣。
他のメンバーを見ると、朝比奈さんはお茶を入れるのに集中しているため、長門の声はまったく聞こえていないようだ。
ちなみに、なんでお茶があるんだ? という野暮なツッコミはやめていただこう。
それを突き詰めると、朝比奈さんの存在意義の消失までいってしまうのだから。
読みたくないだろ。『朝比奈みくるの消失』なんてタイトルの物語は。
北高男子の阿鼻叫喚が聞こえてくるぜ。

ハルヒと古泉は理解できているような顔だが……待て。古泉はともかくなぜお前が理解できる。

「なんでって、説明書を読んだからに決まってるでしょ」

はい?……いつの間にあれを読んだんだよ。

「あんな物パパッと読んじゃえば、そんなに時間はかからないわよ」

無駄に優秀な頭を持ちやがって。
その変わりに、少しは常識を詰め込んだらどうだ?

「詰まらないことばかり言ってないで、これぐらいちゃんと読みなさい。団員としての義務よ義務」

ハルヒが差し出した説明書を黙って受け取る俺だが、出来れば読みたくはない。
正直なところ、字だけを読むと眠たくなってこないか?
近年、マスコミを騒がせている若者の活字離れは、身近なところに起こっているのである。
話を戻すと、技術研究に関しては落ち着くところに落ち着いた。
つまりは、長門の案に反対意見などあるはずもなく、満場一致でこの方針は採択されたのである。



我らが戦士、コナン・ザ・グレート(涼宮ハルヒ命名)は未開の地の探索に明け暮れていた。
永い永い年月を掛け闇黒の大地を突き進んでいく彼の勇姿は、まさに英雄と呼ぶに相応しいだろう。

彼がSOS団にもたらした成果を説明しよう。
まずは、この近辺の地理情報である。

強大すぎる野生の驚異(狼等)を、長門の見事な誘導で避けつつ続けた探索の結果、
ハルヒシティがおそらく北半球に位置していることが判明した。
都市の北方に広がっているツンドラ地帯のおかげである。
だが、西側も少しの土地を経てすぐに海に辿り着いたことが、長門の目つきを少しではあるが鋭くさせた。
長門曰く、「これで拡張する方向が制限された」ということらしい。
南か東、この二択しかなかった。

「新しい都市の建設候補地は、出来るだけ敵文明がいると思われる方向が望ましい」

そうしなければ、易々と敵に土地を与えることになってしまう、ということらしい。

「なあ長門。そもそも敵って誰なんだ?」

「このゲームは、元々過去の偉大な指導者をプレイヤーとして使用する。
例えば、徳川家康やリンカーン、ナポレオンなど」

なるほど、つまりこれからはそんな有名人と競い合う訳か。
大丈夫かあいつで……俺は、朝比奈さんに扇情的なポーズを強制させているハルヒを見た。

「そうとも限らない」

……どういう意味だ長門?
その俺の疑問は、長門のブラックホールのような瞳に吸い込まれたまま、答えが返ってくることはなかった。

そう言えば、仏教が創始されたとかいうナレーションが流れたな……
めんどくさいことになりそうだ。



コナン君が成し得た出来事はもうひとつあった。
少数部族の援助を得ることである。
小屋に入ること数度、そのほとんどでゴールドや地図を貰えた。
しかし、海の地図を貰ったって意味がないだろう。
ところが、一回だけ名探偵が吉報を伝えてくれたことがあった。

狩猟――キャンプが設営できるようになる技術らしい。
さらにその後、斥候を貰えたおかげで、
探索のペースがさらに上がったのは、まさに僥倖と言えるだろう。
こんな事もあるんだなと長門に言ったら、嬉しいハプニングという返事が返ってきた。
初心者の俺には、どこが嬉しいのかは分からないのは仕方がない。

「その内分かる」

この時はまだ、その長門の言葉に半信半疑だったんだがな……

「……下手なドラッグより中毒性は高い」

そのボソッと呟いた声が、俺の鼓膜に届くことはなかった。



「さあ有希、一体どこまで進んだのか報告よ」

まったくこいつは……朝比奈さんで遊んでいただけでなにを偉そうに。

「まずは、現状で判明した土地からまとめて報告する。
北及び西は手をつけなくてもよい。
ハルヒシティの南方にある氾濫源は確実に確保するべき。
金と氾濫源が複数、豚まで揃った場所はなかなか無い。
ただそれ以上南に行くと、ジャングルに入ってしまうため問題がある。
あと東にある石材も出来れば欲しい。あると便利」

生き生きと話している長門。
あと俺から付け加えるとしたら、西の海には貝がいくつかありツンドラには毛皮が群生していた。
もっとも長門が言うには、もっと優先すべき土地があるため後回しにすべし――だそうだ。
ハルヒ達もこんな滅多に見られないこいつの様子に驚いている。
すると、長門がそんな俺たちの雰囲気に気が付くのは当然か。

「……難解な部分があった?」

「いやいや、分かりやすかったぞ長門。
それでテクノロジーに関してはどうなんだ?」

俺が促して、長門の報告が再開する。

「農業と採掘は研究完了した。
今は予定通りに青銅器の研究中。
それと労働者ももうすぐ完成予定。
終わりしだい戦士を生産することを進言する……」

……こんなに積極的な長門を見るのはいつ以来だろうか。
自分の子供が初めて歩けるようになる時もこんな感じなんだろうか、
と考えるのはさすがに長門に対して失礼に当たるだろう。
おい、団長。呆気にとられてないで、こいつがこんなにやる気になっているんだ。何か言え。

「え、ああ……さ、さすがね有希。どんどん好きにしちゃいなさい」

「分かった」

画面に向かって集中する長門。
そんなこいつを眺めていると、いつのまにかすぐ隣に古泉が立っていた。

「耳に息を吹きかけるな」

「ふふ、いえ正直いって少々暇でして。
外務大臣に拝命されはしましたが、なにぶん交渉する相手が皆無なのは……」

「もう長門に全部任せるべきだろう。
あいつが、こんなにやる気を出しているんだからな」

「何度も言うようですが、それで彼女は満足しますかね?」

しつこい奴だ。
俺にとっては、あいつのご機嫌取りも長門の好きにやらせてやるのもどっちも等価なんだよ。
それにな……出会ったときならいざ知らず、今のお前なら俺の気持ちも理解できるだろう古泉?

「これはこれは……その問いには僕の立場を考えると、沈黙させてもらうしかないですね」

やはり変わったなお前も。
そんなくだらない話をしている間にも、プレイは続いていく。
今はハルヒが画面を見ながらああだこうだ言うのを聞きながら、長門がゲームを進めていった。

「お茶のお代わりです。古泉君もどうぞ」

やっと、悪魔から解放された北高の天使がそこにはいた。
ホントお疲れ様です朝比奈さん。

「やっと労働者の完成ね、SOS団初の生産物よ有希」

「……仕事をさせる」

目の前では、はしゃいでいるハルヒと黙々とプレイする長門。

「ふふ、最初はもっと恐いゲームだと思ったけど、思ったよりゆっくりしているゲームねキョン君」

そうですね。
やっぱり朝比奈さんには、仮想現実の中でも血生臭いことは似合いませんから。

「行きなさいギーシュ! その小麦の所に農地を設営するのよ!!
明日の国民の朝食はあなたの手にかかっているの。キリキリ働きなさい」

「クリックしてドラッグ」

まあ、そんな平和な光景が永遠に続いていくと思いこんでいる、
平和ボケした日本人の俺の認識を粉々に打ち砕く未来がすぐそこまで迫っていることなど、その時の俺は知りえないのだった。



「青銅器が完成した……けど」

何故か意気消沈している長門どうかしたのか?

「銅がでなかった。判明している地図上のどこにもない」

そんなに困ることなのか長門。

「切実。これからは戦士の戦闘力だと力不足。銅があれば斧兵が作れたけど……
残された選択肢は三つ。畜産にいって馬を確保するか、鉄器の鉄か、弓術のどれか」

「チャリオット兵と剣士と弓兵ね。
有希、それぞれのメリットはどうなの」

どうやら、ハルヒは本当に説明書を読んで勉強しているようである。

「まず注意するべき点は、畜産及び鉄器だと銅と同じで資源が発見されない可能性がある。
一応、銅よりも出現率は高いためその確率は低いのだが、その点は考慮するべき。
また、その資源を都市範囲内において改善をして、都市間のルートを整備しなくてはならないのは手間がかかる」

「それでは、弓術はどうでしょうか長門さん。
確か、弓兵を作るのに特別な資源はいらないはずですよね」

「古泉一樹の言う通り。ただ、弓術を研究する際、ひとつだけ注意するところがある。
畜産や鉄器と違い、弓術は他にメリットが無い。また弓術から進める技術が皆無で行き止まりということも躊躇する原因。
畜産や鉄器には、ユニットの生産の他に優位点がいくつかあるため、そこも考慮すべき。
畜産は、牛や豚という資源の活用が出来るようになり、鉄器はジャングルの伐採が可能にある。
また、この中で鉄器は研究コストがずば抜けて高く畜産の倍かかる。残りの二つだと弓術のほうが低い」

あーわけがわからん。正解なんて無いんじゃないか?

「その通り。このゲームはプレイごとに効率的な進め方が異なる」

長門、お前が決めちまえ。お前なら誰も反対しないさ。

みんなが長門を見た。
その中でしばらく微動だにしなかった長門が、真っ正面からハルヒを見た。

「あなたが決めるべき。これは、これからのSOS団を左右するかもしれない選択だから」

「有希……分かったわ……一応みんなの意見も聞いてもいいかしら?
別に、あんた達の意見でどうこうする訳じゃなくて、ちょっと聞いてみたいだけよ」

そのハルヒの問いに一番最初に答えたのは、SOS団副団長の古泉である。

「僕は、弓術を開発したいですね。安定した軍備の確保と、研究コストの低さからが理由です」

危ない橋は渡らないか。

「私は皆さんにお任せします。でも牛さんから牛乳が取れたら、ミルクティーが楽しめますね」

……どこまで給仕に命を懸けているんですか朝比奈さん。

「私の意見は言わないでおく。ここで発言すると、確実にその方向にいってしまうため」

手を顎に当てて考えているハルヒ。

「おい、お前はどう思ってるんだよ?」

「それより、とっととあんたも意見を言いなさいよ」

俺の意見か……どうする? なにが良いとか分からないぞ俺には。
この時、俺の脳内ではシナプスが激しくスパーク、最善の一手を考えているのだが、
元々の知識が不足しているという最悪の前提の前では、ピンとくる解答など浮かんでくるはずもなく、結局まったく別の物差で答えを選ぶわけで。

「ち、畜産かな……」

朝比奈さんのミルクティーが飲みたかっただけなんだ。
ちなみにやましい意図は全くないぞ……信じろ。



最終的にハルヒは、畜産を研究することを決めた。
あとで長門に聞いてみると、長門も畜産が一番良いと思っていたようである。

「やはり涼宮さんは、あなたを相当信頼しているようですね」

「うるせぇ、あいつは最初から畜産を選んでたんだよ。
俺が言ったから、そっちにしたなんて考えてるなら違うぞ」

今のところ経過は順調である、というときに長門が気になることを言った。

「……もうそろそろ」

この長門の呟きがなにを言おうとしていたのかは、すぐ分かることになる。
東を探索中のコナンからひとつの報告が入ったからである。

そう――初めての他文明との接触。
コナンが相手文明の戦士と出会ったのだ。

SOS団が揃って並んでいる中、空中に不思議な映像が浮かんでいた。
今回は長門もなにも言わず、みんながその空間を見詰めていた。
正直いってちょっとドキドキするぜ、などと思っている自分。
後になってみると、そのドキドキを返せと言いたい。

「わぁ!?」

朝比奈さんの気が抜ける驚きの声と共に、スクリーンに変化が起こる。
ラジオの電波が徐々に合わさっていくように、映像が整っていく。
そして、そこに映っていたのは――

「……冗談もいい加減にしろ」

――ひとりのバカだった。

『BA、BA、BA、バビロ「攻撃開始!!!」ちょ待てって!』

パパパパーーン。

……谷口すまん。










後書き

ひとつ伝え忘れが。
難易度は団長。あくまでもリプレイではなく、このSS用に設定された難易度ということにして下さい。
マップは大陸。大きさは中で文明数は七つです。


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