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[12466] 時給230円(オリジナル・喫茶店)
Name: さくらさくら◆9a22c859 ID:a5cef6f4
Date: 2009/10/15 03:15
喫茶店の話です。

のんびりした登場人物がのんびりと喫茶店で過ごします。

ギャグがメインとなります。

忘れた時にシリアスな展開が来るかもしれません。

作者が忘れるので多分来ません。

出来れば週一で更新したいです。



[12466] 1杯目 メイド×お嬢様=都市伝説
Name: さくらさくら◆9a22c859 ID:a5cef6f4
Date: 2010/04/15 05:53
とある町にある一軒の喫茶店。

名前は喫茶『親知らず』

知る人ぞ知る隠れた名店というやつである。

「僕が一番うまくガンダムを使えるんだ!」

そして店の中のカウンターにいる男。

「だってよ……アーサーなんだぜ?」

ウェイター服を着ている。

「絶対にぃ、負けないのだぁ!」

黒い髪。

鋭い目。

かっこいいぞ。

そんな感じの俺である。

三人称と見せかけて俺の一人称だったりするのだ。

叙述トリックだ。

「だってよ……アーサーなんだぜ? あ、さっき言ったか」

ちなみに現在、一人しりとりの真っ最中である。

午前11時。

暇である。

思わず一人しりとりをしてしまう程暇なのである。

というのも客がいないからだ。

いなすぎる。

昼前なのに店内に客はゼロだ。

「……はぁ」

溜息も出るってもんだ。

今月も赤字だ。

「……誰か500万円分ぐらい喰っていかないかな?」

そうすれば問題解決である。

そうでもなければ閉店の危機だ。

――カラーンコローン

ドアベルの音。

客だ。

「……汚い店ですね。お嬢様、こんな汚い店では服が汚れてしまいます」
「構いません。それにこういった汚い店こそが隠れた名店だったりするんですよ?」
「成る程、流石お嬢様。……しかし汚い。呼吸もしたく無いです」

言いたい放題の客が来た。

レトロって言えや。

しかし、変わった客だ。

「お嬢様、こちらに」
「ありがとうございます」

メイドである。

メイドとお嬢様である。

うわーはじめてみたー。

存在していたのかー。

「店主、この店で一番高いコーヒーを」

しかし気の強そうなメイドだ。

ぶっちゃけタイプだ。

ここだけの話、俺は少しMなのであの無表情で見下す様な視線が堪らない。

罵られたいね!

「店主、店主……聞こえていますか? あなたの耳は飾りですか?」

メイドがカウンターまでやってきた。

近くで見れば、見るほど美人だ。

切れのある目に、青い髪……マニアには堪らんな。

「さっきから呼んでいるでしょう」
「誰を?」
「店主をです」

店主。

店主?

「家に店主はいないが」
「……では、貴方は何です?」
「店長だ」

てんちょ、と呼ぶのも可だ。

「……では、貴方が店主ですね」
「匠だ。店主なんて名前じゃない」
「……面倒臭い。では店長、コーヒーを」
「匠店長と呼ぶといい」
「コーヒーを」

メイドが威圧してきたので働く。

「一番高い物をお願いします。……たかが知れていますが」
「カチン!」
「……今のは何ですか?」
「怒った時の音だ」

……このメイド、たかが、と言ったか?

「一番高い物で、いいんだな?」
「そう言いました。こんな店の高い物ではたかが知れていますが」
「カチンカチンカチン!!!」
「……今のは?」
「凄く怒った時の音だ」

いいだろう。

いいだろう。

一番高い物だな。

へへへ。

……。

……。

メイドが席に戻った。

「お嬢様、しばしお待ちを」
「構いません。……ここは落ち着きます」
「この汚い店が、ですか?」
「はい、汚いですが……懐かしい感じがします」
「懐かしい、ですか?」
「はい」
「家の裏のゴミ焼却場を思い出すからですか?」
「……そういうことじゃないです」

そんなに汚いかなぁ。

しっかりと掃除はしているんだが……。

コーヒーを持っていく。

「お待たせしました」
「……遅いですね。格が知れます」
「まあまあ、頼子さん。……では頂きます」

メイドの名前は頼子か。

ズズリと一口。

「「……!」」

二人の顔が驚愕に染まる。

くくく……その顔が見たかった。

「これは……! よ、頼子さん……」
「はい、お嬢様。……店主、これは……」

褒めろ。

ホメまくれ。

讃えろ。

祝福しろ。

メイドはその震える口を開いた。

「――醤油、ですね?」
「……」

……?

醤油?

「ちょいと失礼」
「あっ」

お嬢様のカップをもらう。

一口。

……。

……うん。

「醤油じゃねーか!」
「……だから先ほどからそう言っています」

メイドの冷たい顔。

少し興奮する。

いや、しかし、いやいや。

「……この店ではコーヒーを頼んだ客に醤油を出すのですか?」
「ソ、ソースも出すよ?」

良く分からないフォローをしてしまった。

「ちょ、ちょいとお待ちを」

厨房に引っ込む。

コーラをがぶ飲みしている少女が一人。

喉を突く。

「てめえ! こら! てめえ! アホか!」
「げ、げほぅっ、げほ、……コ、コーラが器官に……何をするんですかっ」
「こっちの台詞だ! つーかがぶ飲みはやめろって言っただろうがっ!」

げほげほと咽る少女。

バイトである。

「あっ、間接キス……ですね。えへへ」
「頬を染めるな。殺すぞ」
「す、すみません……で店長は何を怒ってるんですか?」

何を……だと?

眉をへの字にして、困った顔でこちらを見てくるリセ。

「社会に対する不満をリセにぶつけられてもリセは困るんですが……」
「違うわっ! 俺さっきお前になんてオーダーした!?」
「醤油を二人前ですね」
「アホかっ! どこの世界の喫茶店で醤油頼む人間がいるんだ!?」
「リセもおかしいとは思っていましたが……」
「気付け! そこで気付け!」
「そろそろ休憩入ってもいいですか?」
「いいわけねーだろが! てめえ捨てるぞ!?」
「す、捨てんといて下さいっ。リセはここを追い出されたら行く所無いんですっ」

涙目ですがり付いてくるリセを振り払う。

まずは何はともあれお客様だ。

「おい、今すぐコーヒーを二人前入れろ」
「ソースを二人前、と」
「お前の耳は塞がってんのか? え? こら?」
「み、耳を引っ張らないで下さい」

フロアに戻る。

二人の客はちびちびと醤油を飲んでいた。

「ひぃっ!」

俺は恐れおののいた。

「何で飲んでるんだ!?」
「出された物は残さず。我が家の家訓ですわ」
「例え毒が出されようが飲まなければなりません」

めっちゃ気分悪そうですけど!

なんて酷い家訓だ……。

い、いやそれより。

「こ、これをどうぞ」
「……これは?」
「まあ、綺麗」

パフェを差し出す。

「お詫びとコーヒーまでの繋ぎです」
「食べるのが勿体無いですわ」
「また醤油が出てきたら……その時は分かってますね?」
「つ、次は大丈夫、うん」

汗を拭きながら下がる。

「頼子さん、このパフェ凄くおいしいですわっ」
「……私、甘い物は……あら。これは……中々」

よし。

流石俺のパフェ。

パフェなら右に出る者はいないと近所の小学生に言われた俺だ。

再び厨房へ。

「さて、あとはこのレモンを浮かべれば……」
「コーヒーだって言ってるだろうがっ!」
「あひんっ」

今まさにコーヒーにレモンを浮かべようとしているリセを蹴り飛ばす。

匂い。良し。

見た目、良し。

味、良し。

「上出来だ」
「隠し味に醤油を入れようとしたんですけど……」
「入れてたらお前に明日は無かったぞ」
「ナイスリセ!」

自分で自分を褒めるリセ。

どんだけ醤油好きなんだよ。

何はともあれだ。

フロアに。

「お待たせしました! コーヒーです!」
「いい香りですね」
「……変な物は……入ってませんね」

失礼なメイドだ。

当然といや、当然だが。

ズズリと一口。

二人の目が大きく見開かれた。

「おいしい……!」
「これは……確かに……!」

いい顔だ。

メイドが尋ねてきた。

「店長、このコーヒー、何か特別な製法でも?」
「ひ、ひみつ」

秘密である。

何故かバイトが作るコーヒーが何故か分からないが旨いなんて言えない。

原因不明である。

「ご馳走様でした。……私、このお店気に入りましたわ、汚いですが」
「……そうですか、汚いのに」

汚い、かなぁ。

「店長さん、御代は?」
「500万円」

ふいてみた。

「頼子さん」
「はい」

メイドがスカートの中からキャッシュケースを取り出す。

……あるある。

「……これでよろしいですか」

どん、メイドの手により積まれる札束。

……も、漏らしそうだ。

「い、いや、今のは冗談――」
「お嬢様、そろそろ時間です」
「まあ、そんな時間ですか……では店長さん。私達はこれで」

え、あ、いや……ちょっと。

ドアを開けるメイド。

外には人力車が。

人力車の上のお嬢様が口を開く。

「ではまた。近い内に来ますわ……それまでに少し掃除をしていてくださいね」
「ではお嬢様、行きます。……店長、次に来るまでに掃除をしておきなさい」

メイドの引く人力車は砂埃を上げて去った。

……。

残される俺と札束。

……。

……。

リフォームするかな?



[12466] 2杯目 兄妹の絆
Name: さくらさくら◆9a22c859 ID:a5cef6f4
Date: 2009/10/06 22:29
「頼む、最期の願いだ――俺を殺してくれ」
「レクトール!! やめて! そんな……あきらめないで」
「デボラ……君にこんな事を言うのは辛い。でも、君しかいないんだ。俺が俺である内にどうか……頼む」
「……惨い、惨いわよ! あなたを殺して……残る私の気持ちを考えてよ……!」
「……夜まで持たないと思う。本当にすまない、デボラ。――ググッ! あぐっ! あぁぁぁぁぁぁっ!」
「ああっ、レクトール!!」
「ルーゼフ……ぐっ、俺は貴様の思い通りにはならない! ぐはっ!」
「はぁ! レクトール!」
「ルッカ……もうすぐそっちに行くよ。デボラ、頼む……もう、時間が無い」
「いや……いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
「――ありがとう、デボラ」


……。

……。

……。

……うーん。

流石に台詞しりとりは難しい。

『はぁ!』とか無理やりだしな。

まあ、しょうがない。

と、まあ何故俺が一人でしりとり等に興じているかは……客がいないからである。

現在午後3時。

2時間前にメイドが一人で来たのを最期に客足は途絶えている。

……しかしあのメイド『汚い、ああ汚い……全く汚い店です』とか言いつつ、あれから週5日のペースで来ているのだ。

そんなにこの店が気に入ったのか?

……も、もしかしたら俺に惚れてしまったかもしれない。

つまりこれは昔からの夢である『偉そうな主人に反逆するSなメイド』プレイのフラグか!

次に来たら告白してみよう。

――カラーンコローン。

店のドアベルが鳴った。

客である。

「ふーむ。ここが噂の喫茶店ですなー。ほぅほぅ……中々レズビアンな造りの店ですなー」

どんな造りだ。

ふむふむと頷きなあがら入って来た少女。

少女が来ている制服は俺も通っていた近所の中学校のものだ。

「どれどれ、店長は……うーむ、昭和の面影を残す高度経済成長のイメージを形にした顔ですなー」

俺の顔を見つつ意味不明な事を述べる少女。

取り合えず殺したいと思った。

しかしどんなにファンキーな人間でも客は客である。

俺は自身の殺意を懸命に抑えつつ、極上のスマイルで少女を迎えた。

「いらっしゃいませ、お客様! お帰りはあちらになっております!」
「帰らないよぉっ! ていうかあっちはトイレじゃん!?」
「ウチの店では便器に入り、大・小のレバーを交互に20回引く事により店外に排出されるシステムになっております」
「意味分からないよっ!」

俺は営業スマイルを解き、その辺に転がっているエロ本を見る目で少女を見た。

「な、なによ……いきなりそんな嘗め回す様に私を見て……?」

間違えた。

長年の付き合いである相手に向ける目で少女を見た。

「つーか、お前何しに来たの? 店には来るなって前から言ってただろ?」
「もう! 久しぶりに様子を見に来た妹に向かってそれは酷いなー! ぷんすかぷんぷん!」
「チョンマゲ切り落とすぞ」
「ポ、ポニーテールです」

……残念ながらこの少女は俺の妹だったりする。

「帰れ」
「いや。折角可愛い可愛い妹が来てあげたんだよ? お小遣いをあげたりお小遣いをあげたりお小遣いをあげたりすればいいじゃない!」
「……ちっ。これやるよ」

ウザイ妹に仕方ないので渡す。

「え? ホントにくれんの? ……何これ?」
「エr……保険体育の教科書」
「……ふーん。まあ、もらっておく」

素直に鞄に本を詰める。

よし、処分に困っていた本を何とかする事が出来たぞ!

「じゃあ、帰れ。速やかに帰れ」
「い・や・だ!」
「身内の相手してる暇ないんだよ。仕事中だ、仕事中」
「お客いないけど?」
「う、うるさい! お前には見えないけどいるんだよ! あ、山田さん……お代わりですか。はいどーぞ」

架空のお客に架空のコーヒーを注ぐ。

「や、やめてよお兄ちゃん……見るに堪えないよ」

妹が涙ぐんだ。

……。

「なんだお前は。兄を笑いに来たのか? いーよ。笑えよ。そういう時は笑えばいいんだよ!」
「ち、違うって。今日はお客として来たの!」

……客?

ちょいと慌てながら言う妹を見る。

嘘は言ってないようだ。

「客か」
「そーだよ。ほら、席に案内して!」

客なら仕方ない。

席に案内する。

「おタバコは吸われますか?」
「中学生です」
「お宅の掃除機はきちんとお吸いになられますか?」
「まだ現役バリバリだけど……何で?」

特に意味は無い。

「何を頼むんだ?」
「パフェ! ごっさ旨いパフェを一つ!」

ただでさえデカイ声を張り上げる妹。

何でこんなに元気なんだ……。

「だってお兄ちゃん、家じゃ全然パフェ作ってくれないじゃん! おいしいのに」

家にまで仕事は持ち込みたくないからな。

まあいい。

パフェが一つ、と。

「コーヒーも飲んでけ。無料にしてやる」
「……げ」

俺がそう言った途端、妹の顔が歪んだ。

『勘弁してつかーさい』といった顔だ。

「何だその顔は。自分の将来が不安なのか?」
「そんな未来の事を不安に思ったりしないよ……そうじゃなくて」

妹は言い憎そうな顔で、こちらをチラチラ見る。

「何だ、ハッキリ言えよ」
「お、怒らない?」
「怒るときは怒る。烈火の如く怒る。例え相手が子供だろうが老人だろうが関係無しに怒りをぶつける。時にはぶつけすぎる」
「……じゃあ言わない」
「言わないと怒る」
「どっちにしろ怒るじゃんっ!」

そして涙目である。

仕方ない、このままじゃ進まないからな。

「怒らないから話せ」
「ほ、ほんとに?」

俺の顔を窺う妹。

安心させる様に天使の笑顔で笑う。

「あ、相変わらす怖い顔……」

失礼な妹だ。

「じゃ、じゃあ言うね。そのね、お兄ちゃんのコーヒーはね、何と言うか……」
「うむ」
「その、いわゆる……」
「ああ」
「――ゲロ不味いのッッ!!!」

ゲロ不味いの……不味いの……いの……の……。 

店内に声が響き渡った。

……。

「……そうか、俺のコーヒーはゲロ不味いか」
「お、怒らないの?」

頭を抱えつつ言う妹。

怒られる準備は万端の様だ。

しかし……

「お前の言う通りだ。――俺のコーヒーはゲロ不味い」
「……う、うん」
「牛乳に浸した雑巾を一回洗ってもう一回浸した牛乳を公衆便所で飲むぐらいに不味い」
「う、うん……一回洗う意味が分からないけど」
「一度リセに飲ませようとしたんだが『そんなの飲むくらいなら醤油を一気飲みして死んだほうがマシですっ!』と醤油瓶片手に言われた」
「そうなんだ……リセが誰か知らないけど」

……それぐらい不味い。

一度客にも出した事がある。

あれは忘れもしない。

美人なOLだった。

会社の上司の愚痴を愚痴ったOLのお姉さん。

コーヒーを飲んだ瞬間に顔の穴という穴からコーヒーを射出した。

あれは忘れられない。

隣にいた学生時代の友人がそれを見て

『へへっ、汚え花火だ』

と言ったのも覚えている。

……ああ、懐かしいな。

「でもな、妹よ」
「な、なに?」
「俺は成長したんだ。もうあんな不味いコーヒーとはおさらばした」
「ほ、ほんとに?」
「ああ、約束する」

手を握る。

……こいつの手、大きくなったな。

「絶対に旨いコーヒーをお前にご馳走する」
「……う、うん」
「この兄を信じるか?」
「し、信じるから! て、手……離して、顔も……ちと近いよ」

おっと、少し興奮してしまったようだ。

「ふ、普段は見せない兄の一面に妹は少し戸惑ってしまいました」
「そうか」

パタパタと手で顔を仰ぐ妹。

たまには妹にいいところを見せないとな。

「じゃ、用意してくる」
「うん、待ってる」

厨房へ向かう。

まあ、実際に俺のコーヒーは現在進行形でゲロ不味いままなんだが。

言わなきゃ分からんからな。

厨房へ入る。

……床に寝転びながらDSをするリセがいた。

「仕事中にゲームをするなッッ!!」
「ぐへぇっ」

横っ腹にスライディングヘッドバットをかます。

「す、すみません! で、でもこのBOSSがどうしても倒せなくて……」
「でもも悪魔もあるか! ……ああ、このBOSSか。真ん中が本体と見せかけて右のビットが本体なんだよ」
「マジですか!? な、なんという初見殺し。リセの5時間は無駄だった……!」

DSをパカパカしつつ慟哭するリセ。

俺は定期的に頭突きを繰り返しながらリセを急かす。

「さっさとコーヒーを入れろ」
「わ、分かりましたから! リセの敏感な所を頭突くのはやめて下さい!」
「間違っても醤油なんか出すなよ。次に醤油なんか出した日には、お前の食事三食醤油ご飯だからな」
「是非とも!」

どんだけ醤油フリークなんだよ。

その内醤油を主食にしかねんな。

……さて、俺はパフェだ。

器を用意して、食材を用意して何か適当にこーして、あーして……出来た。

うーむ、我ながらいい出来だ。

適当に作ったとは思えんな。

特にこの苺を花の形にした物は素晴らしい。

包丁を握った覚えなんて無いんだが。

そもそも苺を用意して覚えも無いしな。

生クリームなんて買った覚えも無いのに乗ってるし。

……。

妖精でもいるのかもしれないな。

「ふふーん、ふーん、ふーん」

お、リセがコーヒーを作るようだ。

そういえば、こいつがコーヒーを作っているところを実際に見た事が無かった。

あの旨さの秘密はなんなんだろうか?

確かめてみよう。

「まずは~、コーヒー豆を用意します~、無ければその辺で拾った黒い石でもいいです~」

ふむふむ。

石でもいいのか。

「それを~、ひき潰します~、それごーりごり、ごーりごり、うっほうほ」

ごりごり、うほうほ……か。

「うほっほほ、うっほっほ、うきーうき、うっきっき。にゃーにゃーにゃ、にゃにゃーにゃにゃ」

うきうき、にゃーにゃー、と。

「にゃんにゃんにゃん、ごろにゃんにゃん、わんわんわんわわーん、わんわんお。ひーひーん、うまうま、めるめるめー」

わんわん、ひひーん、うまうま、めるめるめー。

「めーめーめー。もこもこもこ。じょりじょりじょーり攘夷維新」

攘夷維新?

「しんしんしん、あすらんらん、きらきらきら、キラキラ☆キラーラ、ロックンロール! ヘイ!」

お、何かリズムがノって来たぞ。

「へいへいへーい! しょうへいへーい! しゃんしゃんしゃらんら、シャララシャララリーコー♪」

ヘイ!

「チャカチャカポン! ポンチャカチャカ! ズターンズターン! ダダダダッダ! イエー!」

イエー!

「テレッテテッテー、テッテッテー、くまーくままー! いーいい、いいい、いーちゃんちゃん! アラララg……あ、もうとっくに出来てました」
「出来てたのかよ!?」

ズゴーと転んでしまった。

リセの手元には一杯のコーヒー。

い、一体いつの間に……!?

豆をゴリゴリしかして無かったぞ!?

お湯を使った形跡なんて無かったし。

「はい。今日は店長も一緒にノってくれましたので、いつもよりもっとおいしいですよ!」

え、そういうもんなのか、コーヒー作りって?

……。

……まあいいか。

「もう休憩入っていいぞ。あと冷蔵庫のケーキを食べとけ」
「え! いいんですか!? な、なんか今日の店長はいつもより優しい気がします!」
「モンブランは俺のな。喰ったら削ぎ落とすぞ」
「やっぱいつもの店長でした!」

コーヒーとパフェを持ってフロアに。

「待たせたな。店長の気まぐれパフェとノリノリコーヒーだ」
「あ、ありがとう。……なんか厨房の方から動物の鳴き声が聞こえたんだけど……なんか飼ってるの?」
「ん? ああ、まあな。一匹飼ってる」
「ふーん」

少し訝しげな目で厨房を見る妹。

が、すぐに目の前のパフェに釘付けになった。

「わー! 久しぶりのパフェだ! 相変わらずおいしそー!」
「俺の血と汗が入ってる」
「……や、やめてよ」

嫌そうな顔をした。

ちょっと傷つく。

妹が口を大きく開けてパフェを一口。

咀嚼。

「んー……おいひー! ひゅごいおいひぃー! ひゃひゃひひわわふぇー!」
「俺は今日本語の崩壊を目にしている」

しかし幸せなそうな顔だ。

頬に手を当て、笑顔でパフェを頬張る妹を見ていると、世の中には戦争なんて無いんじゃないかなんて思ってしまう。

……。

……そういえば、最初に俺のパフェ食べたのもこいつだったなぁ。

懐かしい。

あの時のパフェは酷かった。

キュウリとか入ってたし。

トマトやキャベツ、大根も入っていた。

……野菜パフェ?

しかし野菜嫌いなこいつは額に汗を流しつつ、半泣きで全部平らげたんだっけか。

「ひょーしたの? おひいさん?」
「誰がおひいさんだ」

頭を傾げる妹に何でも無いと手を振る。

甘い物を作り始めた理由……こいつだったんだよな。

親が忙しくて誕生日にケーキも無くて……あり合わせ食材で作ったケーキ。

不味かったなぁ。

楽しかったけど。

「ごちそーさま!」

なんて感慨に耽っていると、いつの間にか妹がパフェを完食していた。

「おいしかったー! もうお兄ちゃんのパフェとなら結婚してもいいよ!」

食べてから結婚するのか、結婚してから食べるのか……どっちでもいいが。

「じゃ、もう帰るね」
「待てい」

帰りかけた妹のチョンマゲを引っ張って止める。

グキリと音が鳴ったが問題ない。

「コーヒーを飲め、コーヒーを」
「……う、うぐぅ。の、飲まなきゃ駄目?」
「この店ではコーヒーを残す客には醤油ナックルをお見舞いするシステムになっているんだ」

醤油ナックル。

醤油に浸した拳で相手の顔面を打ち抜く技。

醤油が目に入り痛かった。

類似技としてソースナックルやポン酢キック、ソルトサマーソルトがある。

「……わ、分かったよぅ。――お祖母ちゃん、私を守って」

バリバリ生きてるけどな。

市のゲートボール大会で連続優勝してるけどな。

妹がカップを持ち、一気に飲み込む。

この描写だとカップごと飲んだみたいだが、カップは飲んでいない。


「……。……ん。……んん?」

キツク目を閉じていた妹が間抜けな声を出した。

「……お、おいしい。おいしいよこれ! ちゃんとコーヒーの味がする! 腐った雑巾牛乳じゃない!」
「だろ?」
「す、凄くおいしいよこれ! 今まで飲んだ中で一番……っていうかお兄ちゃんのコーヒーがトラウマで一回しかコーヒー飲んだことないけど……おいしい!」 
「もうコーヒーというよりコーシィーって感じだろ?」
「ううん、それは違うけど。でもおいしい! お店に出してもいいぐらいおいしい!」
「出してるよ」

半狂乱の妹を宥め、落ち着かせる。

……。

……。

「あ、そろそろ帰らないと」
「もうそんな時間か」

現在午後7時。

誰も客来なかったよ……。

「たまには家に顔見せなよ? お母さんが心配してたよ」
「嘘だろ」
「うん、嘘! 全然心配してない!」

わかっとるわ。

あの母が心配なんてするはず無いわ。

「送ってくか?」
「いーよ。自転車だし」
「でもこの辺り最近変な奴出るから気をつけろよ。特にスクール水着を着た巨乳美少女には気を付けろよ?」
「そんな人間いないよー」

います。

「じゃ、また来い」
「あれ? 来ちゃ駄目なんじゃないのー?」
「……やっぱ来るな」
「あははー、お兄ちゃんツンデレー」
「俺はヤンデレだ!」
「ヤ、ヤンデレなの?」
「いや、違うけど」
「じゃあ、何で言ったの!?」

ツンデレって言われるのが嫌だからです。

帰り際に妹が店内を振り返って言った。

「ねえ、お兄ちゃん。……流石にモヤモヤするから聞くけどね」
「何だよ唐突に」

妹が店内の中心を指差す。

正確には中心に置かれている物体だ。

「アレなに?」
「何に見える?」

入店して即効で聞かれると思っていたが、聞かれなかったな。

『言いたくないなー、でも言わないとなー』みたいな顔で妹は言った。

「銅像、だよね」
「見ての通りな。かっこいいだろ」
「……」

中心に立つ銅像。

俺が欠かさず磨いているのでキラキラと輝いている。

ああ……いつ見ても素晴らしい。

「……アレ、お兄ちゃんが建てたの?」
「ああ、業者に依頼してな」

480万ぐらいかかった。

「……自分の銅像を?」
「ああ!」

上半身裸の銅像。

ここが俺の店、俺の場所だって実感がわく。

足首に傷がついているのが残念だ。

あの糞メイド、入店していきなりチェーンソーで切りにかかりやがった。

まあ、オリハルコンで出来た銅像だから無事だったが。

……オリハルコンを傷つけるチェーンソー。

気をつけないといけないな。

妹の顔は微妙だ。

兄の部屋に入り、痛々しい黒歴史ノートを見たような顔だ。

「お、お兄ちゃんらしいっちゃあらしいけど……」
「お前の銅像も建ててやろうか?」
「建てたら縁切るよ」

今まで見たことの無い、冷酷な表情の妹だった。



[12466] 3杯目 アイドル!
Name: さくらさくら◆9a22c859 ID:a5cef6f4
Date: 2009/10/15 09:59
「……」

……。

……。

「暇だ」

暇である。

相当暇だ。

現在午後4時。

店内に客は無し。

というより開店してから客が一人も来ていない。

スクール水着を着た巨乳少女が来店したが、何も注文せずに帰っていた。

次来た時は俺のコーヒーをぶっかけてやるぜ!(体に付着すると虫が寄ってくる。あと臭い。痒くなる)

「……」

……。

……客来ないなー。

リセでも弄って遊ぼうか。

どうせ今頃ゲームしてるか、寝てるか、醤油舐めてるかだからな。

うん、そうしようか。

よし、スク水女が置いていったこの覆面を被って……。

「フフフ……」

これで今の俺は強盗に見えるだろう。

リセのリアクションが楽しみだ。

こんな感じだろう。


『へへへ、俺は強盗だ! 嬢ちゃん、手を挙げな!』
『にゃーん!? にゃんごろにゃーん! ふにゃーん! \(>w<)/』



何で猫語?

そして何故にあのスク水女がこの覆面を置いていたのかは謎だ。

「よーし、行くか」

と、俺が厨房に向かおうとした時。

『――オイ、客が来たぜ』

と中田譲治の様な渋い声が店内に響いた。

声の主は店の入り口に置いてある人形だ。

客が来ると反応して、声を発するのだ。

これもスク水女が置いていった。

「……ちっ、客か」

思わず舌打ちをする。

折角リセで遊ぶところだったのに。

……まあ、仕方ない。

「……何今の渋い声? それにしても相変わらず汚い店ねー」

失礼な事を言いながらこちらに向かってくる客。

帽子にサングラスを掛け、少し怪しい。

「はーい、久しぶり。元気にしてた……って誰!? 何で覆面してんの!?」
「覆面店長だからだよ。それよりお前こそ誰だ! サングラスに帽子までして……強盗か!?」
「どちらかと言えば強盗はあんたでしょ。……つーか声で気付きなさいよ」

そう言って、帽子とサングラスを外す客。

長い黒髪が帽子から零れ落ちる。

そして現れるかなりの美人。

……ああ、何だこいつか。

「高橋パチュ恵さん、久しぶり。コンガは楽しかったか?」
「高橋じゃないわよっ! あたしよあたし! もしかして忘れたの!?」

……。

……ん。

……あ。

「昨日店の前で溝に嵌ってた高校生?」
「ちっがーう!」
「マンホールに嵌ってた方か」
「違う! つーかどんだけ嵌ってんのよ!?」
「近所では嵌りスポットとして有名なんだ。全国から嵌り好きな人間、通称ハマラーが絶えず来るぐらいだからな」

ハマラーは嵌れる場所を見つけたらとにかく嵌る。

タンスの隙間、落とし穴、買い物カートのかご、HDDの空き領域。

嵌る場所を問わない。

上級者に至っては、本棚の隙間に嵌って一日を過ごすと言う。

初心者は学校のロッカーなんかがオススメだ。

浜崎あゆみ好きな人とは若干違う。

「滝山美香よ! あんたの幼馴染の! 本当に覚えてないの!?」

俺の肩をガクガクと揺すりながら怒鳴る。

滝山……滝山……!

「俺にゲートボールを教えてくれた?」
「それおばあちゃん! 何でそっち覚えててあたしを覚えてないのよ!?」
「おばあちゃんっ子だからな」

だからなんだ、という話だが。

「冗談だよ。久しぶりだな美香」
「……久しぶりに会った幼馴染に酷い事するわね」
「つーかそんな簡単に忘れるわけないだろ」
「あんたならあり得ると思ったのよ」

ジト目で見てくる。

昔こいつに虐められていたので、会うたびに仕返しをしているのだ。

「まあ、カウンターの上にでも座れよ」
「座らないわよ」

俺はたまに座るが。

美香がカウンター前の席に座るのを見てからカウンターに入る。

「それにしても久しぶりだな。何ヶ月振りだ?」
「ちょうど半年ね」
「仕事の方はどうなんだ?」
「ぼちぼちよ」
「昨日は何人殺したんだ?」
「誰の仕事が暗殺者よ!? 殺すわよ!?」

この人怖い。

「何か飲むか?」
「結構よ。あんたの作る飲み物マズイから」
「何か飲むフリでもするか?」
「しないわよ! 何よフリって!? ……水でいいわよ」

失礼な奴だ。

俺が作る飲み物より水道の水がいいとは……。

まあ、俺でもそうするが。

蛇口を捻りコップに水を入れる。

「昨日テレビ出てたろ」
「……ん、見たの?」
「ああ見たぜ。クイズ番組とかにも出るんだな」
「まーね。最近は色んな仕事が回って来るわ」
「もう少しテンポのいいネタの方がいいぞ」
「CMの間にネタやる芸人じゃないわよ!」

「全く……本当は歌に集中したいんだけど……」とダルそうに言う。

アイドル歌手も大変だな。

しかし、アイドル歌手なんて小学生の夢みたいなものになるとは……凄いな。

未だにテレビに出ているこいつを見ると普段とのギャップに笑ってしまう。

この間なんて司会者の質問で、

『ミカルン(芸名)は恋人とかいるの?』
『ミカルンの恋人は……ファンの皆でーす! きゃるーん☆』

とか言ってたからな。

俺爆笑。

「この前二枚目のCD出たな」
「あー……あれね。個人的には微妙なんだけどね。……もしかして買ったの?」
「二枚買ったぜ」
「……ふ、ふぅーん」

別に買わなくても言えば送ったのに……と少し照れくさそうな美香。

何だかんだで嬉しそうだ。

買ったかいがある。

「一枚はコースターに使ってるよ」
「は!? ……ってこれ私のCD!?」

水の入ったコップを持ち上げ、コースター代わりのCDを手に取る美香。

「あんた何に使ってんのよ!? 聴きなさいよ!?」
「別にどう使おうが俺の勝手だろ。でもそのコースター使ってるとお前の歌が聞こえてくる気がするぞ」
「気のせいよっ!」

気のせいなのか……。

「あ、あんた! もう一枚は!? もう一枚は何に使ってるの!? ちゃんと聴いたの!?」
「忍者ごっこをしてたら……」
「手裏剣代わりにするなーっ!!」
「ち、違うでござる! 足の裏につけて水蜘蛛に使ったんだよ! 全然浮かなかったけどな!」

お陰で風邪を引いてしまった。

「……っっ! ほら!」

顔を真っ赤にした美香が鞄から取り出したものを俺に押し付ける。

何だこれ?

「……CD?」
「今度はちゃんと聴きなさいよ! 聴かなかったらほんとに殺すわよ!?」

押し付けられたのは美香のCDだった。

……うーむ、冗談だったんだが。

3枚も同じCDを何に使えと。

「いいわね!? 聴いて感想文出しなさいよ! 絶対よ!?」
「あ、サイン書いてる」
「あたしのサイン入りだからレアよ――家宝にしなさい!」
「うr――」
「売ったら店に火つけるわよ」

マジ顔で言われた。

――。

――。

適当に最近の出来事などを雑談する。

アイドルの面倒さを愚痴られた。

テレビの裏事情とか知りたくなかったんだが……。

「この店はどうなの?」
「ぼちぼちだな」
「今日の客入りは?」
「お前だけ」
「……はぁ」

深く溜息をつかれた。

「……大丈夫なの? よく潰れないわね」
「いざとなったら脱ぐ」
「あんたのヌードなんて誰も得しないわよっ」

……。

自信あるんだがなぁ、ヌード。


――ドタドタドタ!


厨房からのやかましい足音。

リセだ。

「てんちょーっ!」

DSを手に持ち、興奮した様子でこちらに駆けてくる。

「てんちょー! 店長! 見て下さい! き、金色のギャラドスが出たんですよ! 何ですかこれ!? リセの秘めたる力の一端ですか!?」

知らんわ。

何だよ秘めたる力って。

勝手に秘めとけよ。

興奮した様子のリセは俺の顔面にDSを押し付けた辺りで美香に気付いた。

「わ、わわっ! お、お客さんでしたか!? ……し、失礼シュライザー!」

何やら技名の様なものを叫びつつ、厨房に戻っていくリセ。

失礼しました、と言いたかったんだと思うが。

リセが去り、美香が俺に視線を向けてくる。

「……なにあの子?」
「妹」
「嘘つけ! あんたの妹、金髪じゃなかったしあんなに小さくなかったでしょ!? どうしたのよあれ!?」
「……バイトだよ」
「明らかに年齢的にアウトでしょ!?」
「ああ見えて18歳なんだってさ」
「アレであたしのタメなわけないでしょ!? 言いなさい! どこから誘拐してきたの!?」

誘拐ってこいつ……俺をどんな人間だと思ってるんだ。

……しかし、どうするか。

何とか誤魔化さんとな。

うーん、定番なネタで。

「ほら、あれだよあれ。俺の遠い親戚でな、外国に住んでるおじさんがいてな……そのおじさんが誘拐してきた」
「誘拐してるじゃないの!」
「ああ、いや違った。……そのおじさんを俺が誘拐して、身代金代わりにリセを頂いて……これでいいだろ?」
「いいわけあるかっ!」
「じゃあ誘拐されたおじさんの中から出てきた! これでいいだろ!?」
「何でキレ気味なのよ!?」

誤魔化すのは苦手だ。

俺はあまり嘘が得意な人間じゃない。

面倒だな……。

美香も答えを聞くまで帰る気は無さそうだし。

いっそ本当の事言うか?

……でもなぁ。

「――リ、リセのパパさんがでしゅね!」

いつの間にか当の本人が隣に。

話を聞いてたらしい。

しかも噛んでいた。

「そ、その……店長のお父様と知り合いなんです!」
「知り合い? ……あなた日本人じゃないでしょ? 日本語は上手いけど……」
「店長のお父様が海外出張した時に知り合ったんです! そ、それでですね……最近こっちに引っ越してきてですね、その、日本の事をお勉強する為にこの店で……お手伝いをしてるんです、はい」
「……そうなの匠?」
「す、凄い新事実だ」
「店長!?」
「……匠はこう言ってるけど?」

美香が怪しむ様にリセを見る。

リセが涙目でこちらに寄って来た。

「店長! リセの話に合わせて下さい!」
「何か面倒臭い」
「リセがこのお店に居られなくなってもいいんですか!? リセここ以外に行く所無いんですよ!?」

俺の服の裾を引っ張りながら涙目で訴えてくるリセ。

……仕方ない。

リセがいなくなったら、コーヒーを作る人間がいなくなる。

……別に寂しいとかではない。

「あー、美香。こいつが言ってる事は本当なんだ」
「そーです、そーです!」
「……ほんとーに?」

疑いの目を向けてくる。

「ほ、本当だって。えーと、リセの父親と俺の父親が友達以上恋人未満の関係で……それで最近こっちに引っ越してきたリセの家族が俺の家族と異常に仲良しで……」
「店長! 以上とか異常とかいらないですっ」
「それでリセを預かる代わりに俺のおじさんがリセに家に行くという交換留学が発生したんだ」
「おじさんとかいらないですよ!」

ほんとだ……何でおじさん出てきたんだろう。

「……」

そして相変わらず疑いの視線を向けてくる美香。

「だ、だからだな。リセの家族は忙しくてな、日本の事を教えることが出来ない……だから仕事柄時間がある俺が預かることになったんだ。ここにいれば色んな人間が来るから日本の事を学べるし、交流も出来る。理に叶ってるだろ?」
「はい、そうですっ。とても勉強になります!」
「それで俺のおじさんはリセの家族の下で奴隷同然の生活をしている。つまりギブアンドテイクだよ!」
「だからおじさんとかいらないんですっ」

こ、これで何とかなるか?

いや、びっくりする程滅茶苦茶な話だったが。

俺の話を聞いた美香は呆れた顔で渋々と頷いた。

「……まあいいわ」
「そうか! よくやく分かったか。……あ、ちなみに俺の家族に本当の事を聞くとか無しだぞ」
「分かったわよ。はいはい信じる信じる。……あんたが嘘を吐くって事はよっぽどの事情なんでしょうよ」

ん?

今何か言ったか?

美香が席を立つ。

「じゃ、そろそろ行くわ」
「仕事か?」
「ええ、今から収録。……じゃあね、リセちゃん」
「は、はいっ! お疲れ様でしたー!」

リセがブンブンと手を振る。

俺は美香と共に出口へ。

『オイ、客が帰るぜ』

知ってるよ。

ドアをくぐり、こちらに振り返る美香。

「面倒な事抱え込んでるんじゃないでしょうね?」
「いや、別に」
「……ふーん、そう。ならいいわ」

帽子とサングラスを付け、俺に背を向け歩き出す。

「……あ」

その歩みが止まった。

「最後に一つだけ言っとくわ」
「なんだよ」
「――あの首の無い趣味悪い像……置かない方がいいわよ」

……。

そう言って美香は去って行った。

俺は覆面を外し、呟いた。

「――あのメイド……早く首返してくれないかなぁ」



[12466] 4杯目 それでも世界は回ってる
Name: さくらさくら◆9a22c859 ID:c643efa9
Date: 2009/10/29 23:02
「と、いうわけで第二回『喫茶・親知らずはどうすれば客が増えるのか!』会議を始めようを思う!」
「わーっ!」
「……」

ある晴れた日の昼下がり。

喫茶店内でこの会議は行われることになった。

店内に客はいないので全く問題はない。

俺は会議に参加しているメンバーを見る。

「よーし、このお店が潰れない様にリセは頑張りますよー!」

ぐっと握りこぶしを握るリセ。

頼もしい限りだ。

そしてもう一人――

「……質問が」
「許可する」
「……何故私がこの様な会議に参加しなければならないのですか?」

いつもの様に無表情で今さらなことを聞くメイド。

非常に今さらだ。

そんなのは決まっている。

「お前暇だろ」
「……っ」

おお、青筋が額に!

表情が変わらんので怒ってるのか分かり辛い。

「て、店長! そんなこと言っちゃ駄目ですよぅっ。メイドさんだって忙しい中時間を削ってこのお店に来てくれているんですよ?」

ほぼ毎日な。

「……ええ、その通りです。私はメイドとしてお嬢様のお世話をするという大事な仕事があります。ここに来ているのもお嬢様がこの店を気に入っているからであり、お嬢様が来た際に不手際が無いように確認の為にです。私が個人的な意思でこの店に来ているわけではありません、そのことを勘違い無きように」

若干早口気味なメイドな発言。

この長台詞で噛まないのは凄いな。

しかし……

「お嬢様とやらは昨日一人で来たぞ?」
「なっ……!? あれ程ここに来る時には私に声を掛ける様に言いましたのに……!」

心なしか苦々しい顔になったメイド。

珍しい表情だ。

「一人でこの店に来るのは危険だとあれ程……」
「まるでこの店が危険みたいな言い方だな」
「……違いますか?」
「なんだと……?」
「まーまーまー! 落ち着いて下さい! これでも飲んで、ぐいっと! いっちゃって下さい!」

まさに衝突寸前だった俺とメイドの間にリセが割り込み強引に何かを飲ます。

……。

……ふぅ。

何をやっていたんだ俺は。

やれやれ。

ふぅ、と息を吐く。

メイドも同じ様に落ち着いていた。

「ナ、ナイスです、リセ! 誰も褒めてくれないので自分で自分を褒めます!」

虚空にガッツポーズをするリセ。

メイドが落ち着いた顔で話しかけてくる。

「……この店の環境を良くすることは、お嬢様の為にもなるでしょう。仕方ありません、私もその会議とやらに参加します」

しかし、と続ける。

「もう一つ質問が」
「なんだよ?」

メイドがリセの方へ視線を向ける。

リセはその視線を受け、首をかしげた。

「……これは何ですか?」

これときた。

「おい、リセ。お前はなんだ?」
「リセはリセですよー」
「だとさ。ウチのバイトだ」

メイドは俺の発言を聞き、眉を額に寄せた。

そして視線をリセに向けたまま


「……何故ゴミ袋を被っているのですか?」


と言った。

確かにメイドの言った通り、リセはゴミ袋を被っている。

すっぽりと全身を覆うように。

目と口の部分には穴を開けている。

見た感じ新種の妖怪にも見える。

さて、何故リセがゴミ袋を被っているか?

「え、えーとですね、リセはそのー、アレです」
「宗教上の理由だ」
「はいそれです! しゅーきょーじょーの理由です!」

分かったか?とメイドに目を向ける。

「……まあ、いいでしょう」

メイドは非常に何か言いたげな表情だが、これ以上聞く気はなさそうだ。

色々と説明が面倒なので助かる。

というわけでこのメンバーで会議開始。


「何かこの店を盛り上げる案は無いか?」
「……はい」

メイドが真っ先に手を上げた。

何だかんだ言っときながら、この店のことを考えてくれているんじゃないか。

少し感動。

メイドの案は、

「……銅像が気持ち悪いと思います」
「何だとぅ!? お前あれどんだけしたか知ってるのか!? ……つーか今思い出したけど首返せ、首!」

思い出された苦い記憶。

店内の置かれている首の無い銅像。

犯人はこいつだった。

「……は? 首、ですか?」

何を言っているんだこいつはという目で見てくる。

し、しらばっくれやがって!

「先週の日曜だよ! お前店に来ただろ!?」
「……先週の日曜はお嬢様のお側にいましたが」
「いいや、来たね! 今でも覚えてるさ! その日のお前は異様にテンションが高かった、酔ってるかと思ったわ!」

入店早々『やっほー、来たよー』だった。

驚いて目の前の客にカルボナーラをぶちまけてしまった。

『ほー、なるほどねー』
『うんうんいー感じ!』
『握手、握手しよー!』
『パフェおいしー! 私と結婚しよー!』
『うおーなんじゃこの銅像! かっけー!』
『お持ち帰りー!』

とまあそんな感じだった。

銅像を褒められて油断していた俺はまんまと首を持ち去られたのだ。

その旨を目の前のメイドに説明する。

「……その話は、真実ですか?」
「真実の中の真実だよ!」
「……まさか……やはり……そういうことですか」

ぶつぶつと何やら呟くメイド。

額に手を当て、珍しく困った顔をしている。

「返せよー! 俺の首返せよー!」
「……今度来た時に持ってきます、必ず」
「絶対だぞ!? 嘘ついたら今度から俺のことご主人様って言えよ!?」
「嫌です」

すっぱり断られた。

しかし、銅像は駄目だ。

あれだけは譲れない。

頑なに主張する。

何とか銅像の件は保留出来た。

「リセ前から思ってたんですけどー……」

リセがそろそろと手を挙げる。

「このお店には音楽が足りないと思うんです!」
「音楽?」
「……確かにこの店に音楽は流れていませんね」
「はい! この店で聞こえる音といったら店長の即興ラップぐらいですからねー」
「駄目か、俺のラップは」
「……耳障りです」

……畜生。

結構いいセンスだと思ってたのに。

「しかし音楽といってもなぁ……どんなのをかければいいか」
「ここでリセのオススメですっ!」

用意していたのかCDをゴミ袋の中から取り出し、こちらに押し付けてくる。

CDを見る。

非常に見慣れたものだった。

「お前これ……」
「ミカルンの新曲『恋は早い者勝ち! あの子さえいなければ……』ですよぉ! ナウなヤングからおじいちゃん達にも大人気です!」

これ持ってる。

発売日前にもらった。

「でも、これを店内でかけるのはなぁ……」

歌詞がかなりグロイんだ、これ。

刺したり刺されたりだからな……。

「これだったらまだセカンドシングルの『まさかの代打!? あたしがやらなきゃ誰がやる!』の方がいいんじゃないか?」
「……あー、そうかもですねー。そっちの方がお店にあってるかもしれませんね。……ってあれ、店長? ミカルン知ってるんですか?」
「き、客が言ってたんだよ」

そうですかーと頷くリセにほっと息を吐く。

全部CD持ってることとか知られたら恥ずかしい。

しかし、音楽か。

あまり考えたこと無かったが、いいかもしれん。

――。

――。

その後も店について話し合った。

メイドも予想外に的確な助言をしてくれた。

しかし、もっと生な意見を聞きたいな。

客の意見とか。

「そう思ってリセはこんなのを作っておきました!」

再びゴミ袋から何やらノートを取り出すリセ。

「なにそれ?」
「これをですねー、一週間前からから店内に設置しておいてたんですよー」

へへん、と胸をはるリセ。

「成る程、客に書き込んでもらったのか」
「『この店について何かあったら書き込んで下さい』って書きました」
「では読んでみよう」

ノートを開く。


・店の前の人形がキモイ。
・店の前の人形の声が渋い。
・店の前の溝に嵌っている人がいて怖い。
・助けようとすると『好きで嵌っているんで!』とか言われた、怖い。
・銅像がキモイ。
・うん、銅像はキモイ。
・ああ、キモイな。
・あれ、何の銅像?
・あれ店長のだよ、キモイよな。
・自分の銅像かよwwめっさ笑顔だしww
・俺行った時顔無かったよ?
・マジで? あ、でもこの前メイドが首持って歩いてたの見たw
・メwwwイwwwドwwwとwwwかwww
・いや、いるよなメイド。
・いるいる。めっさ可愛い。Sっぽい。
・え、ここメイド喫茶だったの?
・俺来るときいつも店長しかいねーんだけど。
・つーかそもそも店長がアレだよな。
・だよな。アレだよな。
・この間一人で紙相撲してたぜw
・俺見たときは何かゴミ袋とサッカーしてたw
・ゴミ袋てw
・あのゴミ袋なんなん?
・妖精だよ、妖精w
・ゴミ袋の妖精wwww
・ダストフェアリー?
・フェアリーダスト?
・どっちでもいいwww


……。

……。

「おい、フェアリーダスト」
「違いますよぅ! リセそんなんじゃないですよぅ!」

ダストフェアリーことリセは手をバタバタとして不満を示した。

ゴミ袋がカサカサしてうるさい。

「……続きを読みましょう」


・あたし女だけど店長結構いいと思う。
・店長乙w
・店長乙。
・いや、ボクも彼はいい人だと思うよ。欲を言えば、スクール水着を着て欲しいね。もっとセクシーさをアピールした方がいいと思うんだ。逆になんでスクール水着を着ないかね? あれほど完璧な装備はないのに。濡れても大丈夫だし、よく伸びるし、煮込むと出汁が出るんだよ? アダムとイヴだって生まれて最初に着たのはスクール水着だって言われてるしね。
・上の人怖いwww
・俺もスクール水着は好きだがこれはやばいwwwマジキチwwww
・む、失礼だね。ボクは正常だよ。仕方ないこのスペースを借りて如何にスクール水着が素晴らしいかを語るとしよう。まずスクール水着の発祥は――」


「……」
「……」
「……飛ばしますか?」
「うん」


・そんなことよりリセちゃんのこと語ろうぜ!
・リセちゃんサイコー!
・誰?
・上はゆとり。
・ゆとりとか関係ねーし。そのリセとかお前らの想像上の生物か何かですかwww
・上は童貞。
・ていうか俺一回しか見たことないんだけど。
・リセちゃんぷりちー! 雨の日に良く見る気がする。
・確かに。晴れた日に見たことねーわ。
・やほー、お兄ちゃーん見てるー?
・つーかマジ可愛くね? この間転んだリセちゃんに鍋焼きうどんぶっかけられたけど……なんか興奮したwww
・俺もビビンバぶっかけられたwww
・俺カレーwww
・シチューww
・お前ら変態www俺は熱々のミートパイ顔面にぶつけられたけどあんまり興奮しなかったしww
・つーかわざと?
・リセちゃんS説浮上www
・ねーよ。
・ねーわ。
・ここまで俺の自演。
・たまに「はわわっ」とか言うよなww
・はあ? キモイ。殺すわ。
・通報しました。
・通報しますた。
・ここで専門学生の俺がリセちゃん書いてみた。これ→jpg
・うめえwww
・いやラノベのロリ系ヒロインかよwwwwこんな生き物が三次元にいるわけねーwww妄想乙ww
・え?
・え?
・いや、いるよ。少しロリっぽいけど大体合ってる。
・マジで?
・うん。
・いるよな。
・……やだ……何か胸が……キュンってした……。
・ようこそ、漢の世界へ


「いやー、照れますねー、もうえへへー」

フェアリーダストが頬らしき場所に手をあてながらクネクネしてる。

ゴミ袋がカサカサうるさい。

「お前今度からホール出るか?」
「む、無理です! 死にます!」


・なんかリセちゃんの話しばっかだけどさ、店長結構いい人だよ? by苦労鼠
・はいはい。
・店長乙。
・俺がさ受験生の時の話なんだけどさ。俺試験失敗してめっさ落ち込んでたんだよ。by苦労鼠
・自分語りとかチラシの裏にでも書けよ。
・でさ、死のうとも思ってたんだよ。一回試験に落ちただけなのになww by苦労鼠
・やだ……真面目な話……?
・でフラフラーってこの店に入ったんだよ。店長は懸垂してた。 by苦労鼠
・懸垂wwww
・俺は席に座ってさ、適当に頼んだバームクーヘン喰った。 by苦労鼠
・バームクーヘンおいしいですwww
・喰ってたらさ、涙ボロボロ出てくんの。家帰ったら家族に何言おうとか、もう死ぬしかないんじゃとか考えて。by苦労鼠
・そしたらさ、いつの間にか店長が傍に立って俺見てんの。by苦労鼠
・「な、なんすか?」って言ったらさ、店長「別に」とか言うの。 by苦労鼠
・んでさ、俺気が付いたら店長に泣きながら受験のこととか話してたw by苦労鼠
・もうさ、涙と鼻水でボロボロでさ、何言ってるか絶対分からんと思うんだけどさ、店長は俺の話し頷いてんの。by苦労鼠
・で話し尽くしてさ、めっちゃ喉かわいてたんだ。by苦労鼠
・そしたら店長「これ飲め」ってコーヒーくれたんだ。by苦労鼠
・何かさ、もうどうでも良くなったw 今まで泣いてた自分とかアホらしくてさw すっきりした、みたいな?wby苦労鼠
・俺さ、そういう悩みとか全部コーヒーと一緒に流し込もうと思ったんさwby苦労鼠
・んで、一気飲みwby苦労鼠
・……結構いい話?
・イイハナシダナー。
・店長……素敵……。
・んでコーヒーだと思ってたら醤油で思いきり噴出したwwwby苦労鼠
・ちょwwwwww
・しょwwwwうwwwwゆwwww 
・台無しwwwww
・死んじゃうwwww
・俺が咽てたらさ、店長「じ、人生ってこんなもんさ」とか言って厨房に走って行ったwwwwby苦労鼠
・酷いオチwww
・ま、俺の話しはこれで終わり。お前らに言いたいのは飲む前に中身を確かめろってこと、じゃあな!by苦労鼠
・何それwww


……あったなー、こんなの。

「店長酷いですよー」
「醤油入れたのお前な」

続きを読む。


・実際ここのメニューってどうなん?
・コーヒーは旨い。
・ねーよwwwめっさマズイだろwww
・え、旨くね? 今まで飲んだ中で一番旨かったんだが。
・お前の味覚、旅行中かよwwwwどこに行ったの?wwww
・コーヒー通の俺でもここのは無茶苦茶旨いと思う。
・黙れwwwwコーヒー厨wwwwコーヒー星に帰れwwww
・昔からここに通ってる俺がここでネタばらし。確かにここのコーヒーはゲロ不味かった。一時期を境に旨くなった、ふしぎ!
・古参乙。
・菓子は旨いよな、パフェとか。
・スイーツ(笑)
・疲れたあたしへのご褒美(笑)
・うんうん、お兄ちゃんのケーキはめっちゃ旨いよー!
・店長の気まぐれパフェお勧め。


「へへ……」
「店長が照れてますっ」
「……キモイですね」

続き。


・話の続きだがスクール水着というのは防御面でも非常に高い能力を持つ。というのも――

飛ばした。


・で、お前ら的にこの店どうなん?
・学校と仕事の両立で疲れた心を癒すの。ここはとても落ち着く場所なの。学校の精神年齢低いガキ共から離れられる唯一の聖地なの。 by赤い魔法少女
・あんま来るなって言われるけど、来たら来たで優しくしてくれるから好きー。 by妹
・いい場所だよ。強いて言うならスクール水着を着てくれたらいいね。 by水も滴る女
・ま、仕事の合間に時間を潰すいい場所よ。キャラ作らないでいいし byアイドル
・――ヤツは……どこだ……。ここを見ているのか。私は貴様を見つけるまで彷徨い続けるぞ。by忘れるな、あの時の決着を。
・結局お前ら何だかんだ言って好きなんじゃねーかwwww
・ツンデレだからな。
・店長もツンデレだよな。
・ああ、ツンデレだな。
・長く通ってるとデレてくるww



……。

パタンとノートを閉じる。

「……で、結論ですが」
「このままでいんじゃね?」
「ですねー」
「……この会議の意味は無かった、ということで」



[12466] 5杯目 夢のスク水王国
Name: さくらさくら◆9c67bf19 ID:8eb15d65
Date: 2009/12/20 23:35
『連続下着泥棒、未だ捕まらず!』
『目撃者皆無!』
『被害件数200件突破!』
『特別対策班、結成!』
『懸賞金200万!』
『赤い魔法少女、今回も圧勝! 対戦成績50戦49勝1引き分け!』

「……うーむ」

けしからんな。

実にけしからん。

新聞をとじる。

「下着泥棒か……。全く世も末だな」

何が下着だ。

あんな物ただの布だろうが。

全く犯人の気持ちがこれっぽちも分からんな。

何が下着だ。

「下らん」
「実にその通りだよ」

……。

……ちょっと驚いた。

声の主を見る。

「全く……犯人に一言、言ってやりたいものだ」

俺の顔の真横に顔があった。

近い。とても近い。

少女、歳は不明だが少女は新聞の記事を見て憤慨している。

そして相変わらずのスクール水着っぷりだ。

神出鬼没のスク水少女が現れた。

何故か全身びしょ濡れだ。

「どこから湧いた?」
「そんなことはどうでもいいだろう! 全く下着泥棒なんて、クズだね! 人間のクズだ!」

この少女が怒りの感情を示すのは珍しい。

何がこいつをここまで憤慨させるのか?

「――どうしてスクール水着を盗まないんだッ!!」

ドン!

机を叩き、声高々に奴は告げた。

「君もそう思うだろう!? 下着? ハッ、あんなものただの布さ! 下着で川に入ったらどうなる? 透けてしまうだろう? 下手をすれば水流で脱げてしまう! その点スクール水着は素晴らしい! 水に対する抵抗、保護性、見た目、触り心地、味、匂い、隠密性、全てにおいて完璧だ!」
「今週のカボちゃんはシュールだなぁ」

スク水少女の演説に全く興味が無い俺は、無視して新聞の4コマを読み始めた。

『ほのぼの漫画・カボちゃん』

「どうして人はスクール水着に惹かれると思う? 学生という嘗ての思い出を刺激するからか? 教育に使われているという背徳感があるからか? ――それもあるだろうさ」

カボちゃん『ねえねえお母さん』
母『どうしたのカボちゃん?』

「それもある。だがね、そんな言葉で表す必要は無いのさ」

カボちゃん『ポチの様子がおかしいの』
母『ポチが? どれどれ――』

「人は生まれながらにスクール水着に対して神聖さ、崇高さ、神秘を感じている」

母『ポ、ポチ……死んでる。この切り口は……はっ!?』
カボちゃん『一手、気付くのが遅かったね。――ダークスラッシュ』
母『ガハッ!』

「何故だと思う? ――遺伝子に刻まれているのさ、記憶が。母の胎内、羊水の中に浸っていた幼い自分の記憶」

カボちゃん『容易い。こんなものか、<金色の狼>、その名も堕ちたものだな。ならその名、これから俺が名乗ることにしよう』
母『――いいえ、あなたではムリよ、カボ』
カボちゃん『な、に……?』
母『殺った、とでも思った? あなたではムリよ。いくら不意をつこうがね。あなたはまだ神威を習得してないのだから』
カボちゃん『か、むい……だと?』

――母は強し! カボの一撃が母を貫くことは無かった! 一体神威とは!? 母の狙いは!? そして地面の養分になりかけているポチの運命は!? トイレから出ることが出来ないおじいちゃんは!? 次回、その全てが明らかになる!

「羊水の中でスクール水着を着ていた最初の記憶。ボクの最初の記憶さ。ボクはずっとスクール水着と共にあった。君達もそうさ、ただ忘れているだけだよ」

あいかわらずカボちゃんのインフレっぷりは凄いなあ。

最初はストリートファイトものだったのに、ここに来て特殊能力的なものがでてくるとはな。

目が離せないぜ。

「ボクはね、ただスクール水着を流行らせているわけでは無いんだ。ただ思い出して欲しいだけなんだ。人類はみな、スクール水着を着ていたことを……」
「腹減ったな」

なんかあったかな?

おお、昨日のカレーがまだ残っていたか。

……旨い。

一晩熟したカレーはこれ以上無く旨い。

「――というわけで君もスクール水着を着てくれないか」
「いやだ」

前フリが長い。

胸の隙間から取り出されたスクール水着を払いのける。

「ど、どうして着てくれないんだい!? さっきのボクの話しを聞いてくれただろう!?」
「もうお前帰れよ」

毎度毎度、人にスクール水着を着ろ着ろと……。

何がスクール水着の伝道者だよ。

なぁにが、『神はまず、スクール水着をお創りになられた』だよ。

胡散臭いことこの上ないわ。

「どうしても着てはくれないのかい?」
「ああ」
「君が着てくれるのなら、ボクはこの身を捧げてもいいよ」
「死ねよ」
「死んだら着てくれるのかい!?」
「着ねーよ」

もう怖いよ、こいつ。

病んでるよ。

「……はぁ。今日も駄目だったか。まあ仕方ない、時間はいくらでもあるさ」

やれやれ、とスクール水着を着ているスクール水着の中に収納する(ゲシュタルト崩壊しそうだ)

あの中どうなってるんだ?

四次元か?

「いずれ自分からスクール水着を欲しがるようになるさ、フフッ」
「コーヒーかけるぞ」

この俺が作ったコーヒー……なんか下水の臭いがする。

「さて、今日は用事があるのでね、そろそろお暇させてもらうよ」

スク水型時計を見ながら、スク子は言った。

用事?

俺が訝しげな目で見ていると、スク子は何故か巨乳を強調させて言った。

「この後ね、講演会があるのさ――スクール水着のねッ!」

その講演会に来る人間、全員死ねばいいのに。

「君も来るかい? スクール水着を着ていたら無料で会場に入れるよ」
「会場に隕石落ちろ」
「ハハハ、ではまたね」

ははは、と笑いつつスク子はトイレに向かった。

奴は何故かトイレから現れ、トイレから去る。

入り口から入って来たのを見た事が無い。

……ふぅ。

つかれたな。

客も来ないし、もう店を閉めるか。

「て、店長!」

店の看板をcloseにしていると、後ろからリセに声を掛けられた。

「あ、あの人は帰りましたかっ?」
「あの人? ああ、スク子か」

リセはカウンターに体を隠し、こちらを窺うように見ている。

「帰った」
「そ、そーですか……ふぅ」
「なにお前? あいつ嫌いなの?」
「い、いえ別に嫌いなわけではないです。でもちょっと怖いです」
「怖い?」
「あの人、隙を見てはリセにスクール水着を着せようとするんです!」

ああー、そういえば初めてリセに会った時から、着せようとしてたなぁ。

『彼女はスクール水着を着る為の生まれてきたのさ! スクール水着神に愛された子、まさかこんな所で見つけるとは……』

みたいなことを言っていた。

まずそのスクール水着神が分からん。

どこの国の神だよ。

「着てやればいいいじゃん」
「やーですよ! リセはもう大人ですよ!」
「大人ってお前……裸エプロンとか絶対似合わないだろ」
「普通の大人は裸エプロンなんてしないですよ!? それはだたの店長の趣味ですっ!」
「でも俺は裸エプロンが似合う人しか大人と認めない」

あと、メイド服が似合う人。

全く、この世の中自称大人な子供が多い。

裸エプロンが似合うようになってから大人って言えよな。

「店長の趣味なんて、今はいいです。……店長、リセに何か謝ることは無いですか?」

何故かスカートを押さえながら、咎める視線でこちらを見るリセ。

謝る? 何を?

「お前に謝ることなんて無いが。仮にあったとしても謝らんが」
「そこは謝りましょうよ!」

俺は子供には頭を下げたくない。

それが大人ってものさ。

「……しらばっくれるつもりですか?」
「何の話だ」
「……ふぅ、いいでしょう。ではズバリ言います!」

何故か一回転した後に、ビシリとこちらを指差す。

キリッとした表情。




「――リセのパンツを返してくださいッ!!」



無人の店内にリセの声は響きわたった。

……タメイキ。

「なにお前、俺がお前の下着を取ったと? そう言いたいのか?」
「そうですっ。さっさと返してください! 今ならまだ一時の過ちとして許すこともやぶさかではありません!」
「カカカッ、面白いことを言う。俺がお前の下らない下着を取ったと、そう言うのか?」
「下らなくないです! 確かにリセは可愛いです。巷では妖精なんて呼ばれています」

何を言い出すんだ。

「ファンクラブが出来るほど可愛いです。店長がリセの魅力にノックアウトされてしまうのは仕方ないです」
「……」
「でも泥棒は犯罪ですっ! お願いです、店長。リセに返してください……まだ引き返せます」
「……」
「ゴメンなさい。今までリセが思わせぶりな態度を取ってたから、店長は勘違いしちゃったんですよね」
「……」
「前々から気付いてはいたんです。ご飯の時もチラチラとリセのことを見てましたよね? リセが転んで下着が見えちゃった時も顔を真っ赤にしてましたよね?」

飯の時に見るのは、お前がアホみたいに飯をこぼすからだよ。

転んだときに顔を真っ赤にしてるのは、料理を床にぶちまけてキレてるからだよ。

つーかこいつ前からそんな風に思っていたのか。

……アレだな。

ちょっと最近調子に乗りすぎだな。

最初の頃こそ、大人しくしていたんだがな。

最近では飯も当たり前のように、5杯食うしな。

当然の顔で食うしな。

寝相も悪いし。

人が風呂に入ってるのに、後から寝ぼけて入ってきて覗き扱いするしな。

……ちょっとここらで教えてやらんとな。

「警察には言いません。流石に店長が逮捕されるのは夢見が悪いですからね。ま、まあ代わりと言ってはなんですが、これからリセのおかずを一品増やす方向で」
「……」
「って、あれ? て、店長、どうしたんですか? そんな怖い顔して。ど、どうして窓の鍵を閉めるんですか? な、何でカーテンを下ろすんですか? そ、そのロープはなんですか!? ハ、ハチミツを何に使うんですか!? そ、そんなに大量の輪ゴムをどうする気ですか!?」
「……」
「こ、来ないで下さい……! だ、誰か……! あ、あわわわわわ……」
「……」


――。

――。

――。


「多分、巷で評判の下着泥棒だな」
「そ、そうですね」
「ここだけの話、俺も何枚か取られてる」
「店長もですか?!」
「ああ。てっきりお前が持ち出して何らかに使っているものだと思っていたんだがな」
「使うわけないですっ!」
「……」
「つ、使うわけないじゃないですか、もー店長ったら、あはは……」

全身をハチミツでコーティングされたリセが言った。

これからリセはハチミツに対してトラウマを持つだろう。

「で、でもアレですねっ。一体どこの誰でしょうね! 犯人さんには早く自首して欲しいですね!」
「……そうだな」

犯人、ね。

多分犯人は自首なんかしないだろう。

俺の予想が正しければ……アイツはこれを罪だとは感じていない。

アイツ。

そうアイツだ。

この無差別な手口。

ここまでしても捕まらない。 

――アイツしかありえない。

アイツが……帰ってきた。

「……クク」
「ど、どうしましたか店長? な、何か怖いですけど」
「ククク……クハハハハハハハハハッッ!」
「ひ、ひぃ! も、もうハチミツはやです……!」

ククク、いいだろう。

久しぶりに昂ぶってきた。

見つけてやるよ……!



――この日から、丁度一週間後。

俺はアイツと対面することになる。



[12466] 6杯目 自分らしく
Name: さくらさくら◆9c67bf19 ID:8eb15d65
Date: 2010/01/05 15:51
あるところにとても可愛い男の子がいました。

人の言う事を良く聞き、頼まれれば何でもするいい子でした。

そんな彼には幼馴染の少女がいました。

その女の子は男の子を尻に敷きまくっていました。

それはもう言い感じに子分的扱いをしていました。

男の子はそれでもいいと思っていました。

男の子はその女の子ことが大好きでしたし、色々と命令されるのも嫌ではありませんでした。

ある日のことです。

学校の授業も終わり、男の子はいつもの様に女の子の席に向かいました。

いつもの様に女の子の鞄を持って一緒に帰る為にです。

この男の子マジ犬ちっくでした。

しかし、その日は違いました。

女の子は寄ってきた男の子から視線を外しながらこう言いました。

「もうあんたとは一緒に帰らないわ。これからは別々に帰るわよ。それから朝も起こしに来なくていいから」

女の子は若干頬を染めたまま、教室から走り去って行きました。

男の子は思いました。

……嫌われてしまった、と。

実際は思春期に入った女の子が、男の子のことを意識してしまい今までの扱いからどうすればいいか分からない……というのが真相でした。

一緒に帰って噂とかされると恥ずかしい……そんな感じでした。

しかし男の子はそんなことを露知らず、ただ悲しみました。

それはもうシクシク泣きながら家路につきました、一人で。

「……しくしく、嫌われちゃったよぉ」

涙をポロポロ零しながら男の子は歩きます。

男の子は家とは反対方向へと向かっていきます。

実はこの男の子マジ方向音痴で、女の子が一緒でなければまともに目的地に着かないのでした。

そのうち人気の無い路地へと入ってしまいました。

男の子は悲しいのと怖いのとで更に泣いてしまいます。

「こ、ここどこぉ……? お、お家はぁ……?」

そのままどんどんと路地の奥へと向かってしまいます。

この男の子結構アホなので、引き返すという考えが無いのです。

男の子は人気の無い路地をビクビクと歩き……少し開けた場所に出ました。

目の前には小さな建物が一軒。

男の子は建物の看板を見上げました。

「……ら、ず?」

やはり男の子は結構アホだったので、漢字を読めず平仮名の部分だけしか読めませんでした。

男の子は思いました。

(……らず、って何だろう? らず、らず……ラズ、ラズ……ラズ!?)

何故だか分かりませんが、男の子はその言葉が怖くてたまりませんでした。

そんな男の子ですから、すぐ傍に知らない男が立っていても気付きませんでした。

男はゆっくりと男の子に近づき、優しく声をかけようと肩に手を置きました。

「ら、ら、ら……ラズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッッッ----!?」
「ラズゥ!?」

男の子は悲鳴をあげて倒れました。

男も突然悲鳴をあげられたので、ひっくり返ってしまいました。

「助けてぇえぇぇぇぇ! うわぁぁぁぁん! やだぁぁぁぁぁぁ!」

男の子は泣き叫びました。

「ちょ、ちょっと君! な、なんもしないから! 泣かんといて! ただでさえ少ない客が減っちゃう!」
「みかちゃぁぁぁぁぁん! 助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」

男の子は女の子の名前を叫びました。

「だ、大丈夫だって! 俺みかちゃんだから! だから泣くなって! お願いだから泣かんといて!」

男は混乱してわけの分からないことを言いました。


■■■■


男の子はほぼ拉致される形で建物の中へと連れていかれました。

「……ひっく、ひっく……うえぇぇ」

男の子は建物の中の椅子に座らされました。

この建物はどうやら喫茶店のようです。

机と椅子がたくさんありました。

男の子意外に人はいません。

男は男の子は座らせるやいなや、奥へと行ってしまいました。

男の子はこれから何をされるか不安でビクビクしながら、辺りをキョロキョロしました。

店内には謎の置物や、人形が置かれており、それが男の子をさらに不安にさせました。

「お待たせー」
「ひぃ!? うぁ、ぁぁあああ……」
「ちょっと待った! 何もしないから!」

泣きかけた男の子を男が必死に止めました。

「こ、これ! ほらおいしそうでしょ?! 食べていいから!」
「……あ」

男の手には大きなパフェがありました。

男の子の目はそれに釘付けになりました。

所詮は子供です。

スプーンをもらうやいなやパフェに喰らいつきました。

「……ふぅ、良かった良かった」

男は額の汗を拭いつつ、安堵しました。

あのまま泣き叫ばれていては、誰かに通報されていたかもしれません。

男の判断は正しかったでしょう。

男はパフェを貪る男の子を優しげな目で見ていました。

「……けぷっ」

あっという間に男の子はパフェを完食しました。

そこでハッと気付きます。

「お、お金もってないですぅ……」
「ああいいよ。タダだよ、タダ」
「やったぁ!」

男の子はタダでパフェを食べれてラッキーと思いました。

意外としたたかです。

「その代わりと言っちゃあ何だけど、何であんな所にいたか教えてくれるかい?」

男のその言葉に男の子はゆっくりと、その日の女の子とのやり取りを話しました。

男の子はすっかり男を信頼してました。

こんなにおいしいパフェを作る人が悪い人なわけがない、そんなことを思っていました。

やはりアホです。

「成る程、その女の子に嫌われちゃったと」
「……うん。今まで仲良かったのに……ぅぅ」

男の子は思い出して涙ぐんでしまいます。

「本当に嫌われちゃったのかね?」
「……え? だ、だってもう一緒に帰らないって」
「いやいや、結論を出すのは早いよ」
「けつろん?」
「答えってことさ」
「こたえ……」

男の子は悩みます。

「俺が思うにね、その子はツンデレなんだよ」
「ツンデレ?」

また分からない言葉を言われて、首を傾げました。

「多分ね、他の男の子に野次られたんじゃないか? お前ら付き合ってるだろ……とかさ?」
「つ、つき合ってないよ!」

男の子は顔を真っ赤にして言い返しました。

マジピュアです。

「それで君のことを意識する様になったんじゃないかね」
「いしき?」
「まあ、その辺りは本人に聞かなきゃ分からないけどね」
「……」
「その女の子とちゃんと話してごらん」
「で、でもまたおなじこと言われたら……」
「その時はまたここにおいで。一緒に考えてあげるよ」
「ほんと?」
「ああ、ほんとさ。俺はね、人の悩みを聞いたり、一緒に悩むのが大好きなのさ。この店もその為にあるものだしね」
「よくわかんない」
「ハハハ。ま、趣味だよ趣味」


■■■■


「てんちょう! みかちゃんとなかなおりできたよ!」
「それは良かった。で、その顔は他に何かあるんだろ?」
「うん! こんどね、妹のたんじょうびなんだ!」
「その誕生日に何をするか、一緒に考えてってことかい?」
「ちがうよ。……パフェのつくりかたを教えてほしいの!」
「いいけど……難しいぞ?」


■■■■


「てんちょう!」
「どうしたんだい?」
「へ、変な女の人が水着で追いかけてきたの!」
「またあいつか。あいつは本当にしょうがないな。……まあ、気に入られたってことだよ」
「いやだよぉ!」


■■■■



「店長」
「やぁ、久しぶりだね」
「ああ、ちょっといい風が吹いたからな。あんたの顔を思い出したのさ」
「……」
「おっと、俺がここに来たことは忘れたほうがいい……それがあんたの為さ」
「そうか……君、もう中学生になったんだね」
「グッ、み、右手が疼きやがる……!」

■■■■

「やはりメイドは素晴らしいね」
「ああ。メイドに逆に罵倒されるのとか想像したらヤバイよな」
「君随分と倒錯した趣味持ってるね」
「あんたに言われたくねえよ! 何だよメイド服+筋肉女って!? どういう趣味だよ!」
「だからね、メイド服に隠されたムッチリとした筋肉がね……」
「想像させるな!」


■■■■

「た、匠君! こ、このスクール水着を着るんだ! じゅ、十万までなら払うから!」
「寄るな変態」
「店長からも言ってくれないか? むしろ店長も着てみないかい?」
「俺はむしろメイド服を着て欲しいね」
「寄るな変態共」

■■■■





男の子は大きくなっても、定期的に店に通いました。

そこで店長と話すのが彼の趣味でもありました。

そんな日はある日唐突に終わりを告げます。


「……閉店?」
「まあね、俺も歳だからね。そろそろ故郷に帰ろうかと思ってね」
「あんたの故郷どこだよ?」
「知らない方がいい……それが君の為さ」
「……」

店長は人の黒歴史を弄るのが大好きでした。

「……」
「おや? もしかして寂しいのかい?」
「ちげーよ! アホか! 暇潰せる場所が無くなってダルいだけだ!」
「そうかい」

店長はニコニコと笑いました。

「しかし俺もね、この店を無くすのは惜しいと思ってるんだよ。折角建てた店だしね」
「じゃ、どうすんだよ?」
「君にあげる」
「……はぁ?」
「え、欲しくない? っていうかもう手続きとかしてるんだけど」
「はあ!?」


■■■■


「君がこの店はどんな風にしていくのかとても気になるよ」
「だったらあんたが続けろよ」
「いやいや、もう長い間趣味に時間を費やしたからね。そろそろ本業に戻らないと色々うるさいんだよ」

店長の本業については尋ねませんでした。

また弄られることが分かっていたからです。

「いつかまたこの店に来るよ、客としてね。その時は頼むよ?」
「その時には潰れてるかもしれんぞ」
「ハハハ、それもまた楽しみさ」

店長はいつもの様に笑っていました。

そしていつもの様にダラダラと歩きながら店をあとにしました。

店長は最後に振り返って言いました。




「じゃあね、匠君」



■■■■


「本当に今の担当はうるさいの」

……。

……どうやら少し居眠りをしてしまったみたいだ。

「やれもっとパンチラを多くしろだの、トドメは派手にだの、もっとカメラ映えする動きをしろだの……」

あの元店長は一体、何をしているんだろうか。

結局謎のままだったし。

結局未だに来ないし。

「パワハラなの。絶対にパワハラなの。先代が懐かしいの……好きにやらせてくれた時が凄く懐かしいの」

よくよく考えるとおかしい。

あの元店長、俺が子供の時と最後に見た時と見た目全然変わってないし。

……吸血鬼なんじゃないのか。

「……いい事考えたの。戦場では流れ弾なんて日常茶飯事、どさくさに紛れて……って、匠君、聞いてるの?」
「全然聞いてない」
「正直者なの」
「凄いだろ?」
「意味分かんないの」



[12466] 7杯目 餅が食べたい
Name: さくらさくら◆9c67bf19 ID:8eb15d65
Date: 2010/01/27 21:20
「ほら、お待たせ」
「ありがと」

リセに頼んで極限まで甘くした『スウィート・キャラメル・コーヒー』を差し出す。

カウンター越しに座る小学生――明日遥は、そのコーヒーに少し口をつけた後、眉に皺を寄らせてコーヒーをカウンターに下ろした。

「何だ、熱かったか?」
「ちょっと、熱かったかも。……匠君、冷まして欲しいの」

猫舌な子供だ。

いや、子供は総じて猫舌か?

そういえば俺も昔は猫舌だった。

ま、そういうことなら仕方ない。

「じゃ、水ぶち込んでくるよ」
「ちょっと待つの」

いつも通り世界を呪っていそうな声で遥は俺を止めた。

相変わらずこいつの声はテンションが低い。

『いずれ世界はわたしの思うがままになるの』

口癖がこれである。

凄く悪っぽい笑顔で言うのだ。

ちなみにこいつの笑顔はこの台詞の時しか聞いたことが無い。

基本的に不機嫌な顔だ。

「何だよ、冷まして欲しいんだろ?」 
「やり方がおかしいの。どう考えてもコーヒーに水を入れて冷ますやり方は非常識極まりないの」
「な、何だよ。お前まで醤油で冷ませとか言うのか!?」
「い、言わないの。それは病気なの」


■■■


「クシュン! あ、あれ風邪でしょうか? あっ! もしかして誰かがまたリセのことを可愛いって言ってるんでしょうかっ? もー、しょうがないですねー」


■■■



どうやら醤油で冷ませ、と言ったわけじゃないらしい。

安心した。

誰かさんの醤油フリークが伝染したかと思った。

実際に昨日も俺が作った味噌汁に熱いからという理由で醤油を入れようとしやがったし。

全くどこかの誰かさんときたら本当にしょうがねえな。

そのうち醤油風呂なんてものを作りかねんな……。

ちなみに醤油フリークは醤油フレークと似ている。


「もういい、すっかり冷めちゃったの」


不機嫌な顔をさらに不機嫌にしてコーヒーをすする遥。

一体何が不満なのか。

何を入れて冷ませば満足だったのか?

それは誰にも分からない。

「……ふぅ」

そしてタメイキを吐く。

心底疲れている時のタメイキ。

具体的には残業が続いているサラリーマンのタメイキだ。

まあ、原因は分かる。

本業の方だろう。

「忙しいのか? 随分疲れている様子だが」
「……? 別に仕事の方は全然なの。どちらかと言えばストレス発散になるの」
「え? でもいつもあんなビュンビュン飛び回って撃ったり撃たれたりだろ? しんどくないのか? 俺だって階段の上り下りでたまにしんどくなるぞ?」
「それはただの運動不足なの」

……美香と同じこと言われた。

やっぱ運動不足なのかねぇ。

サッカーでもするかな、リセを誘って。

あー、でもあいつ晴れてる時は外出れんしな……。

……うーん。

あ。

店の中でやればいいのか。

俺って普通に発想力豊かだな。

よし、明日やるか。

「別に仕事の方は全然楽勝なの」
「でも、この間テレビで見たときは結構やばそうだったぞ」

昨日の放送『第35話 絶体絶命! なるか必殺バーストレイン!?』

Aパートはライバルにボロボロにされ、Bパートで新必殺を編み出し逆転という展開だった。

ちなみにノンフィクションである。

「あれは演出。三代目ダニエルが言うには『僕から君にへの言葉は三つ。ギリギリで勝て。喰らったら痛そうな声を出せ。あざとくてもいいからパンチラしろ』らしいの」
「えー、何かやらせっぽいな」
「そんな事言われても困る……大体相手が弱すぎるのが問題なの」
「そんなに弱いのか?」

魔法少女ハルカのライバル、魔法少女エクゼはずる賢い。

いつも卑劣な手段を使ってアスカを苦しめるのだ。

正体は不明。

目的はこの町にある何からしいが……。

以上、番組宣伝より。

「ものすっっっごく弱いの。わたしが目を瞑って指一本で徹夜明けで風邪ひいて……」
「やっと勝負になる?」
「ううん。それでも勝っちゃう。そもそもわたしが強すぎて相手の攻撃が届かないの」
「え、でもお前服とか破けるじゃん」
「アレ仕込んだ火薬を爆発させてるの。よくバラエティとかでやってるやつ」

うわー、いらん裏事情聞いちゃったよ。

バラエティと同レベルかよ……。

「バリアの強度をギリギリまで落としても駄目なの。たまにあくびが出そうになって困るの」

はぁ、とタメイキをつく遥。

成る程、強者故の悩みってやつか。

色々大変なんだなぁ。

「じゃあ何でそんなに疲れてるんだ? 親が離婚でもしたのか?」
「パパとママはうっとうしいくらいにラブラブなの。この間敵に攫われた時もラブラブしてたの」

あ、アレか。

『第21話 え!? 攫われたパパママ!』か。

確かにラブラブだったな。

あれが演技で無いのが凄い。

危うく濡れ場に突入しそうだったし。

ん。

あれ敵のアジトなのにどうやって撮影してんだ……。

そもそも毎回の撮影で凄いアングルで色んな角度から撮ってるけど……空飛んでるよな?

「撮影に関してはわたしも不思議なの。この間なんか危うくお風呂入ってるところを撮られそうだったの……まぁ、辺り一帯を魔法弾で吹き飛ばしたから大丈夫だったけど」

この間の話か。

確かに不自然に映像が途切れたな。

「最近は誰の気配がしたら誰彼かまわず吹き飛ばしてるの」
「それやりすぎだろ」
「さっきもこの店に来る前に水着を着た人に、学校で着る水着を無理やり着せられかけたから最大出力で吹き飛ばしたの」
「よくやった! あれは怪人スク水女でな、この辺りに出て赤子から老人まで無差別にスクール水着を着せまくって困ってたんだよ」

功労者を労わるつもりで、遥の頭を撫でる。

「……よく分からないけど褒められたの」

キョトンとした顔で俺に頭を撫でられる遥。

いや、いい仕事をしてくれた。

最近あいつ調子乗りまくってたからな。

この間深夜に寝込みを襲われたし。

いい薬になろうだろう。


と、話しが逸れたが何で遥が疲れているかって話しだな。


「両親が離婚したんじゃないなら何だ。父親が女装趣味にでも目覚めたか?」
「違うの」
「男装趣味に!?」
「だから違うの。そもそも男の人が男装趣味をするのは変なの」
「いや、そこまで変じゃないぞ。男が男になる――つまり男の中の男になるんだ」

哀川翔みたいにな。

「だから優しく見守ってやれ」
「だから別にパパは目覚めてないの」
「じゃあママか?」
「ママも別に……あ、でも最近ママが変な服を一杯集めてるの」

変な服?

「おっさんの顔だらけのシャツとか?」
「そういう変じゃないの。えっと……バスの運転手さんが着る服とか……」

ほうほう。

「看護婦さんが着る服とか」

ほうほう。

「高校生が着る服とか」

あー、なるほど。

「OLの人が着る服とか」

お盛んですなぁ。

「外国の甲冑とか」

――!?

「昔の日本人が着てた……あの、サムライの鎧?」

異種格闘技対決!?

性的な意味で!?

「一番新しいのは犬の着ぐるみと猿の着ぐるみ」

獣プレイ!?

犬と猿……ツンデレプレイか!?

「あとお月さまと太陽のお面もあった」

太陽と月!?

クレイジーすぎだろ!?

太陽(パパ)と月(ママ)がイロイロして地球(遥)が生まれたんだよ、ってアホか!


「ママが考えてること全然分かんないの。ママに聞いても『これを使ってお仕事で疲れているパパを労わるのよ』としか言わないし」


一回会ってみたいな。

一回だけでいいけど。

「疲れているのはそのせいじゃないのか?」
「別に疲れてないの。ママが変な服を集めててもわたしには関係ないし」
「じゃ、何に疲れてんだよ?」


そう聞くと、心底嫌そうな顔で深く深くタメイキをついた。

相当に深刻そうだ。

俺が慈しむ目で遥を見守っていると「すぐに喋るからそんな怒らないで欲しいの」慈しむ目で見守っていると、遥はゆっくりと口を開いた。


「学校のことなの」


学校。

学校。

小学校。

学校かぁ。

懐かしいなぁ。俺もつい最近まで通ってたんだよな……。

ああ、楽しかったなぁ。

友人達と馬鹿やってたあの日常。

授業もつまらなかったけど、そのつまらなさがまた学生生活を盛り上げた。



――楽しかった、体育祭!

どっかのスクール水着を着た人が騎馬戦に乱入してきて大変だったなぁ。

そういえばあのスクール水着の人、夏の水泳の授業の時には当たり前のように一緒に泳いでたなぁ。

さも知人の様に話しかけてきて困った困った。

いつの間にか水泳の指導とかしてたしなぁ。

体育のテストでスクール水着の歴史について出たのは、もしかしてあの人のせいなんだろうか?

――楽しかった文化祭!

3年の文化祭、俺達のクラスは喫茶店をやった。

当然の様に俺は店長……にはならず、何故かコーヒーを作らされた。

何か度胸試しに使用されていたらしい。

ま、飲んだ後に無事に立っていた奴はいなかったがな!

あと部活の頭のおかしいゴスロリ着た後輩が、文化祭中ずっと俺の後ろについていたらしい。

後で写真を現像した時に分かった。

本人曰く

『フフフ、トイレにはついていきませんでしたヨ』

らしい。死ね! 死んで償え!


――思い出いっぱい、修学旅行!

北海道に行った。

雪で覆われた北の大地は美しかった。

思わず涙を流して、凍らせてしまったほどだ。

流氷も見に行った。

何か当たり前の様に一緒に来ていたスクール水着の人が流氷の間を泳いで、そのまま帰って来なかった記憶があるがそれは北の大地が見せた幻の記憶だろう。

アイドルとしての仕事が軌道に乗って忙しかった美香に土産話したら悔しがったなぁ。

その後冬休みに無理やり北海道に連れて行かれたのは予想外だったが。

そして流氷を見に行ったらスク水の人が仁王立ちで

『置いて帰るなんて酷いじゃないか!』

とか言ってたけど、多分寒さが見せた幻覚だろう。美香もそう言ってたし。


――お別れの、卒業式!

ああ、これでこの日々が終わるんだなぁ……と思ったら悲しかったなあ。

前日の夜に泣いてしまったくらいだ。

それを妹に見られたのは不覚だった。

『誰!? だ、誰に虐められたの!?』

とか慌てた妹は傑作だった……。

今でもたまにその時の話をされる。

そして卒業式当日。

先生達の別れの言葉が身に染みた。

嫌いだった生活指導のマーク・ミハエル先生の言葉、

『オマエラハ最高にイカレタ生徒ダッタゼ! オマエラトノチェイスハ最高にハイッテヤツダッタゼ! アメリカ最高ォー!』

思わず涙してしまった。

他に見たことが無い先生もいた。

この学校には俺の知らない先生がまだいたんだなぁ、としみじみ思ったよ。

『や、諸君。卒業おめでとう。喫茶親知らずをよろしくね!』

どっかで見た気がする先生だったが、まあ気のせいだろう。

そして生徒代表として卒業式の答辞を読んだ人物。

『君たちと別れるのは非常に辛い。まだまだやり残したことだらけだ。学生生活中に匠君にスクール水着を着せることが出来なかったのは、我が人生で一番の不覚だ……!』

とか俺の名前をバリバリ出しまくった答辞だがこれも気のせいだろう。

周りの皆が泣きまくって俺だけ泣いていなかった記憶もあるが、まあこれも気のせいだろう。

なんか俺の記憶気のせいだらけだなぁ。


――そんな学生生活。

懐かしい。

戻れるなら戻りたい。

今のこの生活が嫌ってわけじゃないが……学生生活は人生の中でも別物だ。

二度と戻れない過去。

戻りたくても戻れない。

だから人はその手の店に行って、制服を着た女とそういったイメージプレイをすることで、過去を反芻するのだろう(オチ)



「――と、いうわけなの。全く困ったものなの」


と、俺が学生生活を回想している内にどうやら話は終わったようだ。

やべぇ、聞いてなかった。

俺の焦りが顔に出ていたのか、遥は訝しげな顔で覗き込んできた。

「……聞いてたの?」
「あ、ああ! 聞いてたけど!」
「じゃ、言ってみるの」

……学生生活の悩みか。

そうか、俺の時に当てはめればいいのか!

よし!

「学生生活の記憶のうち、殆どスクール水着を着た女がいた」
「そんな学生生活まっぴらごめんなの」
「自称『愛の忍者』とかほざく後輩にストーキングされて困った?」
「……違うの」
「じゃ、じゃあ外国人教師がチラチラと黒光りする物を見せつけるとか!?」
「……」
「じゃ、じゃあ! 中学校の時のあだ名が『ジューダス』だとかか!?
「……」
「じゃ、じゃじゃあ! クラスメイトでも無いスクール水着の人が当たり前の様に教室で飯食ってたりとか!? しかもスク水丼」
「……」
「じゃあ――」



あること無いこと暴露してしまった日であった。

ちなみに悩みとは、クラスの掌握が上手く進まないという話だった。



[12466] 8杯目 昼下がりのワルツ
Name: さくらさくら◆9c67bf19 ID:8eb15d65
Date: 2010/03/05 09:57
ある日の昼下がり、私こと栗谷匠とリセさんは優雅な午後を過ごしておりました。

「フフフ、今日はとてもお客が少ないですわね、リセさん?」
「もう店長ったら、ウフフ、それはいつものことでしてよ?」
「まあリセさんったら、ウフフッ」
「フフフフ」

淑女たるもの、笑う時には扇子で口元を隠すのがマナーというもの。
口を開きながら、笑うなど蛮族の所業。

「そういえばリセさん、少し喉が渇きませんこと?」
「まぁ、言われてみればそうですわ」
「では私がお紅茶を淹れて差し上げますわ」
「まあ! よろしいんですの?」
「構わなくってよ、うふふ」

私とリセさんの関係は店長とその下僕という間柄ですが、たまにはこうして下僕を労わって差し上げるのも淑女としての義務。
いわゆる飴と鞭ですわ。
私は台所に行き、淑女らしく丁寧かつゴージャスな動きで紅茶を二杯淹れました。
紅茶をお盆に載せ、それを更に頭の上に乗せたままリセさんの元へ。
私の淑女前回な姿を見たリセさんは目と口を大きく開き、声を発しました

「あわわわわっ! 何してるんですか店長!? お、落としちゃいますよ!?」
「……ふふ」

私は優雅にお盆を頭から降ろし、テーブルの上に置きました。
次いでリセさんを指差します。

「……あっ。うう……今のはずるいです」

悔しそうな顔で、すぐ傍のホワイトボードの前に向かうリセさん。
そしてペンを手に取り、ホワイトボード×を書き込みました。


_______________________
                       
俺・×××                  
                       
リセ・×××××                
_______________________


自分の名前の横に×を増やしたリセさんは、少しこちらを睨んだあと、再び淑女スマイルを浮かべました。

「まぁ、私ったら淑女にあるまじき大声なんて出してしまって……恥ずかしいですわ」
「ふふふ、リセさんったらそんなことでは一流の淑女になれなくてよ」
「そうですわね、ふふっ」

私は微笑むリセさんの前に紅茶を差し出しました。
無論淑女らしく、片手は白鳥の様にしなやかに。
差し出した後はくるりとつま先を軸に回転しながらカウンターの中に戻ります。

「私の淹れた熟女紅茶を飲んで、淑女の何たるかを学んではどうです?」
「うふふっ、そうさせていただきますのことよ。では、頂きますわ」                      

紅茶に口をつけるリセさん。
勿論淑女らしく小指を立てるのは忘れずに。
くい、と一口。
リセさんの喉が小さくコクリと鳴りました。
紅茶をテーブルに戻すと、ナプキンで口を拭い一言。

「……結構なお手前で」
「ふふふ、ありがとうございますわ」
「と、ところで私……トイ――いえ、雉を撃ちに行っても構いませんか?」
「ええ、よくってよ」

私がそう言うと、リセさんは優雅に席を立ち、少し早歩きでご不浄に向かわれました。
まあまあ、リセさんったら。
私の紅茶においしさに思わず涙でも流したくなったのでしょうか?
淑女たるもの涙を見せるのは、ご不浄か愛しい者の胸の中。
今頃鏡を前に私が淹れた紅茶のおいしさを思い返してるのでしょう。
数分の後、少し憔悴した様子のリセさんが戻ってきました。

「うふふ、少しお化粧を直してきましたわ」
「まあそうなの、うふふ。ところで紅茶のお代わりはいかがかしら?」
「け、結構ですわ」
「まあそういわずに」
「け、結構ですわっ、も、もう一杯ですの!」
「そんなこと言って、もっと飲みたいと顔に出てますわよ、うふふ」
「いらないって言ってるです! これ以上飲んだらリセ死ぬんじゃいます!」
「……」

私は大声を出したリセさんを指差しました。
全くリセさんったら、淑女は大声を出したりしませんでしてよ。
私の指摘にリセさんは目の端に涙を浮かべ、ホワイトボードの前へ。
そして再び自分の名前の横に×を増やしました。
席に戻り、私を一睨みし、淑女スマイル。

「……失礼。私としたことが、またあんな大きな声を」
「うふふ、リセさんはまだ若いわね。淑女たるものどんなことがあっても、余裕を崩しては駄目よ?」
「そうですわね、うふふ」
「ふふふふ」

……。

……。

「ではお代わり――」
「いえいえ、私ばかり頂くのも失礼ですわ。店長も自分の入れたとても美味しい紅茶を味わってみてはどうです? そしてこの感情を共有しませんか」
「そうですか? では頂きますわ」

確かにリセさんの言う通り。
リセさんも自分だけが飲むのは気が引けるでしょう。
では、私も紅茶を頂こうとしましょうか。
湯気を立てるカップを手に取り口をつけます。
勿論小指を立て、目を閉じます。
口内に流れてくる紅茶を舌全体で味わう様に――

「ブゴハァッ!? オェッ!? マ、マズ!?」

全て噴出した。
何これ、マジでマズい。
死ぬ。こんなもん飲んでたら死ぬわ!
何これ? 俺の舌、喉、胃、全て全身がこの液体を拒否したわ!
舌はビリビリするし、吐き気するし!
飲み物じゃなくて兵器だろ、これ!
つーか、よくリセはこんなの飲んで噴出さなかったな……。

「……店長?」

咽ていた俺にかけられるリセの声。
リセの顔を見ると、淑女の笑みを浮かべこちらを指差している。
ちなみに俺の噴出しの直撃を受けたので顔は紅茶まみれだ。
……やってくれる。
ああ、いいだろう。
今のは俺の失点だ。
立ち上がりホワイトボードに向かう。
ペンと取り、俺の名前の横に×を一つ――

「――二つですわ」

淑女らしく、口元に笑みを浮かべながらそんなことを言うリセ。

「淑女が人前で口内も物を噴出すなんて……私なら自殺ものですわ。三つ、と言いたいところですが、ここは淑女らしく余裕な心で二つにしておきますわ。よろしくて?」
「……」
「あら、どうかして、店長? もしかして、怒ってるのでは無いでしょうね? まさか淑女が怒りを表に出すなんて……あり得ませんわよね?」
「……ええ、そうですわね。怒ってるなんて……そんなことあり得ませんわ。確かに、先ほどの私の失態は×二つに相当しますわね」

リセ――リセさんの言う通り、自らを戒める意味で×を二つ。
ええ、いいでしょう。

――怒る? とんでもなくてよ。

淑女は常に微笑みを。
淑女は常に優雅に。
淑女は常に心に余裕を。

――私は淑女。

心に深く深く楔を打ち込む。
いける。

「あら、リセさん。お顔が汚れてますわよ?」
「……あら本当? 少し雉を撃ちに行ってきますわ」

リセさんが再びご不浄へ。

――。

――。

数分の後、優雅な歩みと共にリセさんが戻ってきました。

「もう私ったら何度も席を空けてごめんなさい」
「ふふ、構わなくてよ? さ、席にお掛けになって」
「ええ、では失礼――」

リセさんは淑女らしく、自らが座る椅子に対してスカートを両手で摘み挨拶。
そして優雅にスカートに閃かせて、着席――

「――にゃがぁっ!?」

しようとしましたが、不幸にも椅子の足が折れて床に尻餅をついてしましました。
まあ大変!
足をだらしなく広げて、みっともなく下着を露にし、引っくり返っているリセさんに慌てて駆け寄ります。

「大丈夫のことですか? 椅子の足が折れるなんて……こんなことが本当にあるのね、怖いわ」
「……」
「しかしリセさん? 今のはいただけないわ。淑女たるものあの様な場合でも余裕を持ちなさい? 『にゃがぁっ!』なんて猫みたいな声は駄目よ? 淑女なら『あらまあ!』と謹みを持った声じゃないと駄目よ?」
「……ええ、そうですわね、私としたことが。……ところで店長? この椅子、さっきまで私が座っていた椅子と違うような気がしますわ」
「気のせいですわ」
「この椅子は確か、廃棄する予定の椅子だったと記憶しているんですが?」
「気のせいですわ」
「……そう、気のせいですか」

全くリセさんは何を言うのか。
その言い方だとまるで私が今にも壊れそうな椅子に摩り替えたみたいですわ。
全く、フフフ! リセさんったら!

「……店長、少し手を貸して頂けませんか? 私、少し腰を抜かしてしまって」
「まあ本当? すぐに起こして差し上げますわ」

私は淑女走り(淑女は基本的に走らないが、友の危機には走る。内股で両手は腰につけ、優雅さを形にしながら走ります)をしながらリセさんに駆け寄りました。 
床に座り込んでいるリセさんに対して、救いの手を差し出し――

「淑女足払い!」

リセさんの鋭い足払いに足を狩られました。

――ですが慌てません。

淑女たるものこんな時でも余裕を持って、淑女受身を――

「淑女受身狩り!」

いつの間にか立ち上がっていたリセさんに両の手を取られていました。
即ち受身不能。
故に――

「あだばぁっ!?」

後頭部を床で強打した。
目の前に星が飛んだ。
比喩では無く、本当に星が飛んだ。
痛みで蹲りたかったが、今は痛みよりも怒りが勝っていた。
立ち上がり、ファイティングポーズを取る。

「何すんだテメー!?」
「それはこっちのセリフです! 椅子を摩り替えるとかやり方が卑怯なんですよ!」
「うっせー! お前だってさっき俺の顔面にカレーぶちまけただろうが!?」
「……い、いえアレはわざとではないんですけど」

この淑女ゲームの開始早々でリセは俺にカレーをぶちまけた。
躓いたなんて言ってたが、何にも無いところで転ぶようなドジがいるか!
さっきのは報復だ!

「大体なんだよ淑女足払いって! 淑女が足払いするか!」
「し、しますよ! 淑女だって足払いしますもん!」
「するか! 喰らえ、淑女目潰し!」

小指を立て、淑女らしくリセに目潰しをした。
が、「淑女回避!」と叫びつつ、上半身を反らしたリセに回避された。

「な、ななななんてことするんですか!? 淑女は目潰しませんよ!?」
「するね! 絶対するね! メイドが言ってたし!」
「嘘です! 淑女ハリケーン!」

全身をコマの様に回転させつつ、こちらに接近してくる。
くっ! 何て技だ、攻撃しようとしてもはじかれる!
テーブルを弾き飛ばしつつ、台風の様に接近してくるリセに俺は下がることしか出来なかった。

「淑女サイクロン!」

更に回転を増すリセに俺は下がらざるをえない。
このままじゃ……そうだ!
回転している体の支点――足だ!

「淑女足払い!」
「きゃいんっ!」

俺の読みは当たり、無防備な足を狩ることに成功した。
リセは再び転び、尻餅をつく。

「甘い、お前の技は見切った!」
「私の技パクらないで下さいよ!」

涙目で床から見上げてくるリセは無視。
気を溜め、未だ立ち上がれずにいるリセに追撃する。
両手を頭上に掲げ、手のひらを合わせる。
そしてそのままリセに対して垂直に飛翔した。
名付けて――

「淑女ドリールッ!」
「淑女バリアー!」
「淑女貫通!」
「淑女1F当身!」
「淑女分身!」
「淑女ボム!」
「淑女一人マッスルドッキング!」
「淑女時よ止まれ!」
「淑女銭投げ!」
「淑女拾い!」
「淑女――」
「淑女――」

――からんころーんからーん

「お兄ちゃーん、遊びに来たよー!」
「淑女スカイラブハリケーン!」
「淑女ヘルアンドヘヴン!」
「……お店間違えました」
 
――からんころーんからーん

■■■


_______________________
                       
俺・×××××××××××××××      
                       
リセ・×××××××××××××××     
_______________________


「……で、こうなってるわけですか?」

俺とリセは荒れに荒れた店内で正座をしていた。
いや、させられていた。

「あなた達は……そもそも何でそんな意味不明なゲームを?」

無表情で呆れた声を出すのはメイドだ。
メイドの問いにリセが半泣きで答えた。

「だ、だって、店長がっ、『お前には慎みが足りない』って言ってっ」
「下着だけで寝る女に慎みがあるかよ」
「む、昔からの癖なんです! そ、それで店長が『まだ俺の方が慎みあるね』とか言う、からっ」
「じゃあ勝負しようぜ、って話しになって」
「負けたら罰ゲーム、ってことに、なってっ、ひんっ」

淑女生身バトルに移行して、メイドが入店してきて、メイドに二人まとめて倒されたわけだ。
荒れた店内を見て、普段掃除をしてくれているメイドはぶち切れたらしい。
ちなみに掃除してくれるのは趣味だからだそうだ。
掃除が趣味、実にメイドらしい。

「――ちょっと待って下さい」

ああ、また怒る気だ。
いい歳してこんな……とか、私が掃除した意味が……とか、こんなことしてるから客が……とか言うんだ。
でもちょっと怒られるのは嬉しかったりする。
何故嬉しいのか、理由は今さら語るまでもない。
分かるだろ?

「も、もうしないですからっ、アレは、やめて、くだひゃいっ、うぅ」

先ほどメイドにこてんぱんにされたのはリセのトラウマになっているようだ。
もうこいつはあれだな、トラウマばっかり増えていくな。
そしてメイドが俺達に対し糾弾の追撃を――

「……あの、もしかしてですが……一緒に寝ているのですか?」

怒られるかと思ったら、全く予想外な質問をされた。
一緒に寝ている?
俺とリセが?

「まあ、そうだけど?」
「……なぜ?」
「そりゃお前、部屋一つしか無いし」

喫茶店の奥には俺とリセが寝泊りする生活部屋が一つある。正直狭いが、寝る時くらいしか使わないので特に問題は無い。

「……男女が一つの部屋で寝泊りというのは、どうかと」
「何で?」
「な、何でです?」

リセと俺が同時に首を傾げる。

「……ですから、その、色々問題があるのでは?」
「ああ、確かにリセの寝言はうるさいな」
「う、うるさくないですよ! 店長の歯軋りの方がうるさいですよ!」
「軋らんわ!」
「軋りますよ! まるで工事してるかの如くですよ!」
「お前の寝言もあれだぞ!? 何か痛い寝言でこっちが恥ずかしくなるし!」

リセの寝言は痛い。
中身が非常に痛い。
ここで例を挙げてみよう。

『炎の化身よ……契約に従い、我が前の敵を滅ぼさん』
『時は流れゆくものなれば、その停滞を止めることならず――ただ今私はその概念を崩そう、<タイム・クライシス>』 
『魔王三騎士が一人、水底のヴァリア……今こそ貴方との縁を断ち切ります!』 
『これで終わりです――終局の炎よ! 今こそその力を持つて、全てを灰塵と帰さん<カタストロフ・イニフィニティ>』
『て、店長……そ、そんな大きな物はムリです』 

最後の何がムリなのか、俺の方がムリだよとか、この中に俺を混ぜるなよ、とか言いたいことはたくさんある。
この寝言を聞くと俺の中の黒歴史が<同調(シンクロ)>して呼び覚まされ、寝不足になるのだ。
非常に困ることこのうえない。

「……い、いえ。常識的に男女の同衾は……」
「じゃあリセはトイレで寝ろ」
「嫌ですよ!? 店長がトイレで寝てくださいよ!」
「いやお前だって。お前『トイレは安らぎますね~、オアシスですよ』とか言ってたじゃん!」
「だからって寝るのは嫌ですよ!?」
「ふふん、いいだろう! ならどちらがトイレで寝るか勝負だ!」
「いいですとも!」
「……」

再びバトルを始めた俺達を再びメイドが沈めて、店内の片付けをしてその日は終わった。
結局どちらが淑女らしいか、どっちがトイレで寝るかは有耶無耶になった。
でもこれでいいのかもれない。
長い人生だ。ゆっくりと答えを出していけばいい。
そんな風に想い天井を見上げながら、今日も痛いリセの寝言に耐えるのだった。




[12466] 9杯目 踊ればいいじゃない!
Name: さくらさくら◆ec27c419 ID:8eb15d65
Date: 2010/04/09 07:59
「匠君! お代わり!」
「おい遥、ちょっと飲みすぎだぞお前。そこら辺にしとかないと明日に響く――」
「お・か・わ・り!」

ドン!とジョッキをカウンターに叩きつけるこの少女の名前は遥。
現役小学生兼魔法少女見習いである。

俺はジョッキをガンガンカウンターに叩きつける遥にタメイキを吐きつつ、ジョッキにお代わりを注いだ。
……やれやれ。
どうてもいいがガンガンカウンターは何かガンガンを計測するカウンターみたいだ。

「はぁ……。お前なぁ、酔い過ぎだぞ?」
「酔ってらいの!」
「いや酔ってるって」

目の焦点はぼやけ、顔を真っ赤にして、呂律が回っていない人間は確実に酔っているだろう。
もしくはクスリで飛んでいるかだ。

そもそも……

「何でコーラで酔うんだ?」
「酔ってらぁいの! わらしは全然よってらいのぉ! たつみ君!」
「匠です」

遥は夕方の4時頃に来てコーラを飲み始め、それからずっとこの調子だ。

しかし本当に何故コーラで……

俺が遥を眺めつつ、そんな思考に耽っていると、カウンターの上に赤い影が見えた。
影はチョコチョコと動き、俺と遥の間に移動した。

――蟹である。

どこからどう見ても蟹だった。
川で見かける様な、5cm程の蟹だった。

はて、この蟹はどこから?

「その答えはワタクシがお答えします」
「……蟹が喋った」
「どうも初めまして。ワタクシこういうものです」

蟹はその小さなハサミで俺に名刺を差し出してきた。
どれどれ。

『三代目魔法少女お供・マスタークラブ』

マスタークラブ……。

「お供……」
「ええ。遥さんとは三ヶ月の付き合いになります」
「ソウデスカ」

蟹が喋るという驚きの事態に俺の思考は麻痺しかけていたが、スクール水着で日常を過ごす女がいるなら、まあ喋る蟹もいるだろうと納得した。

「三代目、なのか?」
「はい。前代が不慮の事故により亡くなった為にワタクシが」
「不慮?」
「はい、あれは不慮の事故でした……」

ヨヨヨと目から涙を流しつつ、宙を見上げる蟹。

「先代も蟹だったのか?」
「いえ、猿でした」
「……猿」

猿かぁ……。
魔法少女のお供ってのも時代によって移り変わっていくんだなぁ。

「ええ、あの糞猿……コホンっ。あのお方とは学生時代からの付き合いで、ワタクシを見るなり柿をしこたまぶつけてきやがったあの糞猿が――失礼」

口から泡を吹き出しながら憎憎しげに呟く蟹。
相当仲悪かったんだろうなぁ。

「初代は?」
「蜂です。ちなみに寿命で……」
「ああ……」

蜂と来て猿、蟹か。
次に来るなら臼かそれとも……いや、やめておこう。

さて、コーラで何故酔うかの話だが……。

「はい、何故このコーラでアルコールを摂取した時と同種の現象が起こるか、ですねカニ?」

何故ここに来て、個性を発揮しだすのか……。
しかし語尾で個性を発揮するのはいい考えだな。
俺もしてみようか。

「それについては古来から魔法世界において、研究されてきた現象でした――何故炭酸飲料で魔法少女は酔うのか」
「何故なんだクミ?」

炭酸全般なのか。
そして語尾は微妙だからやめよう。

「まだその答えは出ていません。魔法世界の科学者達が現在も片手間に研究を続けていますが……」
「片手間なのかよ」
「ええ、片手間です。原因は未だに全く不明です。片鱗すらも解明されていません」
「使えねー」
「最近では『もうどうでもヨクネ?』といった意見すら出ている有様で」
「適当だなー」
「そもそも自分達が使っている魔法すら良く分かっておりません」
「ひでえ!」
「『何か便利だしどうでもヨクネ?』といった意見すら出ている有様で」
「魔法世界やべーな」
「お恥ずかしい限りで」

蟹は体をほんのり赤くして、ハサミでつかんだハンカチで体を拭いた。

結局何も分からず仕舞いか……。
まあ正直どうでもいいんだが。

俺と蟹がその様などうでもいい話をしていると、突然蟹の頭上にジョッキが落ちてきた。

がんッ!

蟹は「カニィッ!?」といった悲鳴と共に素早いフットワークでそれを横へ避けた。

「クー君!」

ジョッキを振り下ろした人物――遥は蟹を見下ろして怒気を含ませた声で言った。

「クー君、じゃま!」
「な、ななな何をするんですカニ!? ワタクシもうすぐでカマボコになってしまうところだったじゃないですカニ!」
「カニカニうるさいカニ!」

ドドンと再びジョッキがカウンターの上に振り下ろされる。
その度に蟹は「カニっ!?」とか悲鳴を上げながら右往左往した。

「今わらしが匠君と話してるのぉ! クー君は邪魔なの!」
「そ、そんな子供みたいに駄々こねられても困るカニ」
「子供だもん!」

べしべしと両手を使いカウンター上に掌を雨を降らせる遥。
俺はそれを見て、今日の遥はいつもと違ってテンションが高いなぁと思った。
普段は大人ぶっているが、今日はとても子供らしく見えた。
そしてさっきの技を『ハンドクラップレイン』と名付けることにした。

「いいからぁ! くー君はあっち! あっちに言ってなさい!」
「で、ですが……」
「行かないと茹でるよっ」

掌に炎を生み出し蟹に近づける遥。
そのままだと茹で蟹より、焼き蟹になってしまいそうだったが、俺は蟹を焼いて食べる方が好きなので特に口出しはしなかった。

蟹は「分かりましたカニー!」と叫びながら、逃げていった。
あ、そっちは厨房なんだが……まあいいか。

真っ赤な顔でこちらを見て「うーうー」唸る遥の方へ向き直る。
仕方ないので、いつもリセにする様に頭の上に手を置き、軽く撫でる。
ちなみにリセにする時は、乗せた手を万力の様に締め上げ「ギガントクラッシャー!!」と技名を叫ぶ。

「で、何だ。今日何があったんだ? お兄さんに話してみるといい」
「……えへへ」
「な、なんだよ」
「今日の匠君はやさしーね」

そういうお前は変だね、と心の中で呟く。
こいつとの付き合いは結構長いが、こんな姿を見せたのは初めてだ。

ふと、思い出す。

この小学生が始めてこの店に来た時の事を……。


■■■


「こんな所に喫茶店、初めて知ったの」
「いらっしゃい。――ああ! コンボ途切れた!? もうヴァイスリッターは信用ならんな!」
「お客さんが来てるのにゲームしてるの」
「だってお前、客が来てる時に一人でスイカ割りしてた方がもっと変だろ?」
「その理屈はおかしいの」


――。


「また来たの」
「誰だお前は?」
「もう忘れてる……これは酷いの」

――。


「今日も来たの」
「パチュ恵さん?」
「違うの、全然違うの」
「じゃあ……パチュ恵さんの妹か」
「違うの。会った事ないけど絶対似てないの」


――。


「昨日に引き続き今日も来たの」
「丁度いいところに! スイカはどっちだ!?」
「スイカ割りしてるの!?」


――。


「おお、遥か」
「……もう一回」
「は?」
「さっきのもう一回」
「シュ、シュバインセイバー!」
「違うの。さっき匠君が練習してた必殺技なんてどうでもいいの。わたしがお店に入って来たときのをもう一回」
「え? ああ。おお、遥か?」
「……うん」


――。 


「酷い目にあったの」
「何でスクール水着を……」
「有無を言わさず着せられたの」
「またあいつか」


――。


「何か魔法少女になっちゃったの」
「マジで?」
「福利厚生が完璧なの」
「……俺もなろうかな」
「取り合えず、最初にスクール水着の人を退治したの」
「それであいつ焦げてたのか……」

――。

「た、匠君……わ、わたし……やっちゃったの」
「……」
「ほ、本気じゃなかったの! まさかほんとに当たるなんて……!」
「……セクハラの代償、か」


――。


■■■


回想終わり。
思っていたより普通だった。

「それで西園寺光がこんなこと言うの! 『背伸びしている子供は見ていて滑稽じゃのう』だって。自分も子供なの! わたしより小さいのに! この前のテストでわたしが悪い点数取ったときも『あまり妾を失望させるでない。普段から授業を聞いておけば、その様な些細な誤りを犯さぬぞ』……大きなお世話なの!」

さて、遥の話はクラスメイトについてだった。
どうにも我慢ならないメイトがいるらしい。
その子のせいでクラス征服計画が進まない、と。

しかし話を聞いてる限り面白そうな子ではある。

「それからの前二人きりになった時になって言ったと思う? 『妾のクラスであまり好き勝手するでないぞ? あまり妾の気分を害するなら……くくく』だよ? 勝手してるのはあなたじゃないっ、何で一人だけ着物きてるの!? わけ分かんないの!」
「着物ぐらいいいじゃん。俺の時なんてスクール水着とかゴスロリのやつとかいたぞ」
「そーいう問題じゃないのっ!」
「俺はパンツ履いてなかったしな」
「匠君! うるさいの!」

怒られた……。

しかしアレだな。
何だかんだ言いつつも、遥も子供なんだな。

気に入らないクラスメイトがいる、なんて良くある悩みじゃないか。
少し安心した。

その子とも何だかんだで上手くやれそうだしな。

――ドタドタドタ

む、この淑女さに欠ける足音はリセか。
あいつはあいつでもっと大人になって欲しいもんだ。
コーラを口に含みながら、リセの将来が不安になる俺だ。

「てんちょー! てんちょーっ!!」

やれやれ。
一体なんだろうか、またどうでもいいことだろうが。

ドタバタと厨房から駆けて来たのは頭上に何かを掲げているリセ。



「ゴキブリホイホイに喋るカニが入ってましたっ! 今日はカニ鍋にしましょー!」


コーラ噴いた。



[12466] 10杯目 醤油ご飯に卵ネギ
Name: さくらさくら◆9a22c859 ID:8eb15d65
Date: 2010/04/15 07:40
「はい、お兄ちゃんこれあげゆ」
「ん?」

ある日の午後、部活帰りだろうかジャージを来た妹が訪ねて来て、リボンでラッピングされた箱を手渡してきた。
はて?

「誕生日じゃないぞ?」
「知ってるよっ。もう、今日が何の日か覚えてないの?」

小さく頬を膨らませて、そんな事を言う妹。
……今日?
何か祝日だっけ?
それにしてもプレゼントをもらう様な日だったか?
今日は2月13日。
2月13日……。

「……はぁ、やっぱり忘れちゃってるんだ」
「まあな!」
「何で誇らしげなの?」

やれやれとかぶりを振りながら「忘れっぽいんだから」と呟く。
人差し指を立てて、顔を近づけてきた。

「今日は――2月13……おにいさん(0213)の日、だよ!」
「……!」

そうか……!
そういえばそうだった。
ちなみに妹の日は9月6日らしいぞ(マジで)

「ちゅーわけでこれを進呈。バリバリと開けて……ってもう開けてるし」

妹の発言が終わる頃には開け終わっていた。
包装紙をバリバリ剥がす事には定評がある俺だ。
昔はよく美香に「やめて!」と言われた。

バリバリ剥がして出てきたのは……

「ノート、か」
「うん、それはね――」
「デスノートか」
「違うよ」
「どれどれ……『このノートに名前を書かれた人は……語尾にデスをつけてしまう、か』……ははっ」
「だから違うよ」
「あとは『髪が一本だけになって、常にパンツが見える様になって、声優が謎になる、か』……ははっ」
「はいはい、面白い面白い」

妹が本気で下らなそうな顔をしたのでやめる。
引き際が肝心だ。

さて、表紙に書いてある文字は『ダイアリー』
つまり日記だ。
この歳で日記を書け、と?

「お兄ちゃんはちょっと物忘れが激しすぎなんだよ」
「まあな! たまにトイレに行くのも忘れるからな」
「……そんなお兄ちゃんだから、日記を毎日つけて記憶力の強化をするべきだと、私は思ったのですよ」

素晴らしい妹だしょ?と顔で聞いてくる妹。
大きなお世話だ……と言いたいところだが、最近の俺の物忘れは加速し続けている。
この間も目が覚めて知らない少女が隣で寝ていたので、泥棒かと思い縛り上げたらリセだったぐらいだ(ちなみに起きなかった)
ここは妹の心遣いに感謝する事にしよう。

「ありがとな。……べ、べつにお前の為に礼を言ったんじゃないんだからな!」
「そのツンデレはおかしいよ」
「ありがとなっ(ミカッ☆」
「それ美香ちゃんのモノマネ?」



■■■



☆月○日 晴れ

というわけで日記をつける事にした。
……はて、日記って何を書けばいいのだろう?
カウンターの前で唸っていてもしょうがないので、店内を掃除しているメイドに聞いてみた。

「日記、ですか? その名の通りその日に起こった出来事を記す、というものですが」

変な顔で?

「……いえ、普通の顔で。しかし日記、ですか」

箒を片手に少し小馬鹿にした顔でこちらを見てくるメイドに憤慨しつつも興奮して「何だよ?」と聞いた。

「……断言しましょう。あなたの様な面倒くさがりが日記を毎日つけるのは不可能です。……長くて一週間、ですね」

やはり小馬鹿にした顔で『フフフ……』と笑うメイドに「メタルジェノサイダー!」と俺は叫んだ(特に意味は無い)

絶対に毎日つけて、このメイドを見返してやる……!



☆月△日 晴れ

特にこれといって面白いことは無かった日だった。

今日の面白かったと思う一言
リセ「店長? ――プリンに醤油をかけると……もう言いたいことは分かりますね、フフフ」


☆月×日 晴れ

特に無し。

今日の一言
リセ「さっき転んじゃって、おでんをお客さんにかけたらお礼を言われちゃいました。不思議ですっ」


☆月■日 はれ

無し。

一言。
遥「市街地殲滅級の魔法が完成したの。でも特に使い道が無いの……残念」




☆月×日 スクール水着を着たくなる様な天気


やあやあ! ボクは匠!
もう今日はほんとに暑くてね、思わずスクゥールミズゥギィを着てしまったよ!
こ、これは……スゴイぞ!
なんだか良く分からないけど……スゴイ。
あ、ああ、ああああああああああ。
み、見える……あ、あなたがスクール水着神様……!
はぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ……!
す、すごい、すごいぞぅ!
な、なんでボクは今まで着てこなかったんだ……!
ボクの人生の今までは何て無駄だったんだ……!
い、いやポジティブに考えよう。

――ボクの人生は今日から始まるんだ!

ああ、何て清清しい気持ちなんだ!
ヒャッホウ!
思わず店の外に飛び出しちゃったよ!

おお! あそこにいるのはボクにこの神器を託してくれた■■■■■じゃないか!
キューティクル!
今日もスクール水着が似合ってるぞっ。
思わず押し倒しちゃったよ!

そしてボクは■■■■■のスクール水着を脱がせない様に気を付けつつ、濡れそぼった(省略されました。続きを読むにはスクミズスクミズと連呼して下さい。



☆月A日 晴れ

何だか良く分からんが、昨日の分の日記が書かれていた、ラッキー。
多分俺が無意識の内に書いたんだと思う。
しかしこの日の日記を何故か水で濡れたかの様にしわしわだ。

・一言
遥「やっぱりお蔵入りにするのは勿体ないから、月に向かって撃ってみるの」



☆月B日 雨です!

今日は待ちに待った雨の日です!
思わず外に走り出したら、スゴイ音が上から聞こえて、転んじゃって怪我をしちゃいました!
なので今日はお部屋でお休みです。
リセは大丈夫って言ったんですけど、店長が嫌がるリセを無理やりお部屋に押し込みました。
鬼畜ですっ。

退屈なんでお部屋を探索していたら、このノートを見つけたので、今こうして日記というものを書いています。
店長はズルイです!
こんな面白いものをリセに内緒にするなんて!
というわけで今日からは内緒でリセが書きます。

・今日の店長の一言とか
「好きだ!」
「俺の味噌汁を一生作ってくれ!」
「結婚しよう→うん」
「俺はメイド好きじゃない。たまたま好きになったのがメイドさんだっただけさ」
「俺を毎日罵ってくれ」
「一緒にノーパン健康法を続けてみないか?」
「奴隷でもいいから傍に置いてくれないか?」
「……うーん、いい感じなプロポーズが思い浮かばん」


☆月C日 あー、晴れです

何か晴れました。
天気予報では雨が続くって言ったのに、嘘をつかれました。
もう何かどうでも良くなりました。
あとなんかニュースで言ってたんですけど、月が欠けたらしいです。
あー、どうでもいいですー。

今日の店長と美香さん
「亀をカメ! 鶴を釣るぞ! 猿が去る! 犬はいぬ! 猫がネコ! 棒がボー!」
「あんたって本当にダジャレが下手ね」
「あんたって本当にダジャレが下手ね(ミカッ☆」
「何それ、あたしの真似? ぶち殺すわよ?」


☆月ダ日 曇り

今日、新曲のレコーディングが終わって店に来たらリセちゃんにこの日記を渡された。

「バトンタッチですっ」

とのこと。
え、なにこれ? 交換日記?
と、とにかく今日の日記を書けばいいのよね?

今日は仕事が休みだったから、ここに来たんだけど、入る時にメイドさんと擦れ違った。
……え、誰あれ?
新しいアルバイトかと思って、匠に聞いたけど「気にするな(ミカッ☆」と笑顔で言われたので、普通にむかついた。
気にするわよ。
何なのあのメイド?
リセちゃんが言うにはほぼ毎日来てるみたいじゃない?
いえ、別にいいのよ?
でも、ほら匠ってアホだから絶対に変な女に騙されると思うのよ。
だからあたしがしっかりとしないといけないのよ、幼馴染だし。

そういえば昔っからあいつの周りには変な人間が集まるのよね……。
その度にあたしが迷惑を被るのよ。
だからあたしが傍にいてやらないと駄目なのよね。
やれやれ、多分これからもそうなんでしょうね。
全く、もうあきらめたわ。

・今日の匠の一言
「リトルシスターは萌えないのに何でパンツ見ようとしてしまうんだろ……これがゲーマーのサガか」


☆月ガ日 晴れ

変なノートを見つけたの。
良く分からないけど、今日の事を書くといいの?

今日はお店の中で匠君と卓球をしたの。
楽しかったけど、匠君はすぐに変な自分ルールを導入するからちょっと面倒くさいの。

今日も途中で負けそうになった匠君が

「今から打ち返す時にガンダムの台詞で打ち返すこと! 僕が一番ガンダムの――ああ!?」

台詞が長すぎて空振りした匠君は少し可愛かったの。
でもいくら小学生に負けたのが悔しいからって泣くことは無いと思うの。

・今日の匠君の一言
「おっぱいバレーに対抗してお尻バスケはどうだろう?」


☆月ウ日 晴れ

今日は天気も大変良く、いいお散歩日和でしたので、頼子さんに内緒でお店に来てしまいました。
ですが、残念なことに匠さんはいらっしゃいませんでした。
今日は可愛らしいゴミ袋さんが店長代行をしているようです。
ゴミ袋さんが言うには匠さんは修行に行かれたらしいとのことです。

おいしいコーヒーを頂いているとゴミ袋さんにこのノートを渡されて今こうして書いています。
何を書けばよろしいのでしょうか?

ああ、そうですわ。
私今日始めてホームレスさんを見ました。

このお店に来るときに公園を通ったのですが、そこで会いました。
とても変わった格好をしていましたが、大変美しい方でした。
ダンボールのお家の傍で素振りをしていました。
気品を感じさせる方でしたが、一体どの様な事情があるのでしょうか?

私が近くの屋台でたい焼きを買ってその光景を見ていると、とても物欲しそうな目でこちらを見てきました。
そこで私がお裾分けをしようとしましたところ

「施しは受けん!」

とそっぽを向いてしまいました。
仕方ないので、私はうっかり買ったたい焼きを置き忘れて去りました。

草むらからこっそりと彼女を見ていると

「……公園の美観を損ねるわけにはいかんな、仕方ない。ああ、全く仕方が無いな」

と誰か聞かせる様に言って、召し上がられました。
とてもいい笑顔でした。


・今日の頼子さんの一言
「……今日はどのメイド服にしましょうか」



☆月†日 曇り


動物の足跡とよだれらしきモノがついている。


☆月!日 雨


たくみのにおいがするのでひろった。
まだれんしゅうちゃうなのでもしをかくのはむすかしい。
きょうはさかなをたへた。
油揚げたへたい。


☆月?日 雨

どーいうことだ!
何でお兄ちゃんにあげたはずの日記が近所の森の落ちてるの!?
今日学校の授業で散策してたら見つけたよ!
いみわかんなー!
しかも獣くさい!


■■■■


「こらぁ! お兄ちゃん!」
「ファイナル……ディバイン……オメガ……」
「もうお兄ちゃん! 必殺技なんて考えてないで妹の話しを聞けっ!」

特にこれといってやることがない今日この頃、リセとどっちがカッコイイ必殺技を作ることが出来るかの勝負を控えていたので、必殺技を考えていたら妹が扉をぶち破るかの勢いで入店してきた。
やはりファイナル、ディバイン、オメガは固い。
どうにかして組み込みたいものだ。
……いや、待てよ。
何も取捨選択する必要は無いんじゃ?

そうか!

「ファイナルディバインオメガァァァァア!!!」
「うっさい!」
「オメガディバイン・ファイナルの方がいいか?」
「どうでもいい!」

バンをカウンターを叩き、何やらノートをこちらに差し出す妹。
ノートは年季を感じさせる汚れと獣臭さにまみれていた。

「何これ?」
「日記だよ、日記! 私があげたやつ!」
「……?」
「忘れてるし!」

ほれみたことか!とノートを俺の顔に押し付けてくる。
く、くさい……。

だがどうやら、これは以前に俺がもらったものらしい。
よくよく見ると、このノート、見覚えがある。

「ご、ごめん。じ、実は……ファイナルディバイン・オメガを使うと記憶が無くなっていくんだ」
「何その予想外の言い訳!?」

俺が妹に必死で謝りつつ、どうやってご機嫌を取ろうかと考えていると、リセが「オメガバースト・オメガ!」と必殺技を叫びながら、走って来て妹にぶつかったので、日記については有耶無耶になった。

「ちょっとお兄ちゃん! この子誰!?」

日記については有耶無耶になったが、新たな問題が浮上した。

世の中生きていると、嫌なことや面倒くさいことがたくさんある。
そんな問題の数々をファイナルディバイン・オメガで消し飛ばせたらいいなぁ。

そんな現実逃避をしつつ、リセについてどう説明したらいいものかと、考える俺であった。



[12466] 微妙なキャラクター紹介
Name: さくらさくら◆9c67bf19 ID:8eb15d65
Date: 2010/04/15 18:18
・店長(栗谷匠)

喫茶『親知らず』の店長。
高校を卒業して、喫茶店の店長をしている。
容姿は至って普通。
気に入った相手には態度が辛辣。
気に入らない相手だととても適当な態度を取る。
趣味はノーパン健康法。
メイドと裸エプロンをこよなく愛する。
最近寝る前に自分の銅像を見ては枕を涙で塗らす。


・リセ

喫茶『親知らず』の唯一のバイト。
金髪にロリとその手のマニアにはたまらない容姿をしている。
喋ると残念な子。
対人恐怖症。
雨の日をこよなく愛する。本人曰く「地形効果がバリバリです!」とのこと。
甘い物と醤油を主食にしているダストフェアリー。
最近はアイドルのミカルンに情熱を注いでいる(しかしにわかファン)
寝言がイタイ。
オチ担当。

・ゴミ袋
黒いゴミ袋。
動く。
喋る。
こける。
真のダストフェアリー。
晴れの日に店内でよく見かけられる。
寝言がイタイ。


・メイド(頼子)

メイド中のメイド。
メイドランカーの2位。
青いショートヘアーに切れのある目無表情とその手のマニアにはたまらない容姿(主にMの人)
最近の日課は喫茶店でコーヒーを飲みつつ、店長を罵倒すること。
来店率2位。
実は店内の清掃は殆どこの人がしている。


・妹

店長の妹。
近所の中学校に通う2年生。
ポニーテール系スポーツ少女。
勉強は恐ろしく出来ない。
勉強は恐ろしく出来ない。
「ブラコンじゃないよ!」が学校で最も多く言う台詞。
昔店長のコーヒーを飲んでゲロを吐いたことがある。


・滝山美香
店長の幼馴染。
現役高校生アイドル。
微ツンデレ(当社比)
新曲を出すと律儀に店へ送ってくる。
現在新曲『夢の果てに――私の血は貴方のモノ貴方の血は私のモノ』発売中。
色々と匠の周囲の人物に対して思うところアリ。

・スクール=水着子(スク子)
常連客。
最も古い客で、元マスターの時から客として来店している。
装備は常にスクール水着。
いつもびしょびしょに濡れている(水着が)
水周りに良く現れる。
一説では河童では無いかと言われている(主に店長によって)

――語録より抜粋

「パンが無いならスクール水着を着ればいいじゃないか!」
「人間は考える葦である。それはそうとしてスクール水着はいかがかな?」
「キリンさんが好きです。でもスクール水着の方がもーっと好きです!」
「別に着てしまっても構わんのだろう……スクール水着を」
「スクール水着を着てる人、いますか?」
「スクール水着を着ない人は病気です」
「この街のスクール水着に幸あれ」
「今日もスクール水着を見た。もう怖くない」
「スク水とスク水でスク水が被ってしまった……」

そろそろウザイと言われそうな気がして内心ビクビクしている。


・明日遥
現役小学生魔法少女補佐代理心得。
今日もお供の3代目ダニエル『マスタークラブ』と共に街の平和を守る。
月給手取り24万。
今一番粛清したいのはウザいクラスメイト。
来店率1位。


・後輩
常にゴスロリ服を着ているらしい。
女性らしい。
忍者の末裔らしい。
ゴスロリ忍術を使うらしい。
最近良いバイトを見つけたらしい(カメラマンのバイトです。経験は問いません。タフで怪我をしにくく空を飛べる人はどしどし来て下さい)


・元店長
怪しい人。
とにかく怪しい。
胡散臭い。
臭い。
加齢臭が凄まじい。


・高橋パチュ恵さん
喫茶『親知らず』の3軒隣りのアパートの大家。
出身はコンガ。
木工ボンドに似ている。

・ヴァリア・クライド・メッテルブルグ
魔王軍三騎士の一人。
階位は準超越者級。
魔王を除くと水魔法の使い手として並ぶ者はいない。
勇者一行の魔法使いの一人に対して異常に執着している。
甘いものが好き。
現在レスホーム中。

・里春
親知らずのはす向かいにある中華料理屋の看板娘兼店長。
チャイナ服を着て、語尾にアルとつけるのでどこからどう見ても中国人。


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