次の日の朝。
『……イ…・・・起…』
「・・・・?」
『イザベラ…起きな・・・』
「・・・ん~?・」
『イザベラ! 起きなさい、もう朝です。』
「・・・・む~~・・・」
『寝すぎることは、体に良くありません。 起きなさい、イザベラ。』
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
side/イザベラ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰かが、私を生意気にも起こそうとする。
しかも、呼び捨て!
更には命令口調ときたもんだ。
未覚醒の頭で、そんな風に私を呼ぶのは誰だと考えてみる。
この国で面と向かって私を呼べるのは父であるガリア王のジョゼフ1世ただ一人だ。
しかし、あの父がこの私などを起こそうとするだろうか?
それは無いことだ。
あの父は例えこの自分の国であるガリアが戦争になったとしても、すべてがどうでもいいと、考えていそうな男である。
たかが、自分の娘に何かする筈などありえない。
すぐに考えを否定し、次の人物を考える。
じゃあいったい誰が、この私を図々しくも呼び捨てに?
いくら考えても出てこないので仕方なしに目を開けて声のする方に首を動かしてみるがそこには誰もいない。
視線を下げてみると猫が1匹いるだけだった。
なんで、ここに猫が?と慌てて体を起こすが、よくよく考えて自分が昨日呼び出した使い魔だと思いだし安心したが、先ほどの声の主を見つけようと部屋中を見渡してみる。
しかし人など何処にもおらず、人のいた気配すら無い。
いるのは自分の使い魔の猫1匹。
「まさか、お前か?」
あり得ない話ではない。
たしか使い魔になった動物の中には、急激に知能が高まり人の言葉を理解し、多少ではあるが喋ったりすることもあるはずだ。
「おい、 なんか言ってみろ!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
返事はないただの猫のようだ。
「はぁ~」
「ん~~~、気のせいだったか?」
そう考えあと魔法の鈴を使ってメイドを呼びつける。
すると慌ててメイドがやってきた。
「遅い!」
そして、いつものよう悪態をつくイザベラ。
「も、申し訳ありません」
必死に頭を下げるメイドを見ながら、こいつをどうしてやろうかと考えるが、今はメイドをからかって遊ぶより先にすることが幾つもある今日は忙しいのだ。使い魔に名前を付けたりと色々しなくてはいけない。
なのでさっさと朝食まで済ませようと決め。
「愚図が、さっさとしな。」
そう言ってイザベラは、メイドに自分の着替えをさせるようにと指示をする。
言われたメイドは自分に暴力が来ないことに安心したがまた、いつものような癇癪を起されるのではと怯えながらもせっせと着替えさせていく。
着替えさせている途中自分の使い魔が何をしているか気になり確認してみるとそこには、どう見ても猫がする表情ではない顔をしている自分の使い魔がいた
。
何と無くだが、人がする"呆れ顔"そんな表情をしていたのである。
猫はそんな表情をするよう動物だっけ?
そう考えているうちに着替えなどの、朝の身支度が終わっていった。
一通り終わったところでメイドが猫の方に視線をちらちらと向けているのに気付いた。
「何勝手に私の使い魔を見てるんだい? えぇ?」
「も、申し訳ありません」
先ほどと同じように謝るメイドに舌打ちしながら料理を持って来るよう下がらせる。
使い魔の分の食事がいることを思い出し出て行こうとしたメイドを呼び止める。
「ああそうだ、こいつにやる食事がいる。何か持って来い。」
そう言いながら使い魔を指す。
一瞬考えたメイドは牛乳が良いだろうと思いつきイザベラに返答する。
「わかりました。ではミルクをお持ちいたします。」
「まぁ、それでいいか。」
「だけど、 こいつが少しでも嫌がったりしたら、ただじゃ済まさないからね?」
「は、っはい。」
思いっきり睨みそれに怯えて出ていくメイド。
「ったく」
豪華な椅子に腰かけて食事を待っているイザベラ、するとそこに聞いたような声が聞こえてきた。
「・・・・・あの、すいません。」
「はぁ?」
声のする方には使い魔がいる筈だと一瞬思ったが振り向いてみるとそこには猫などおらず一人の女性が立っているのであった。
「できれば、私ミルクなどではなく普通の食事がいいのですが。」
「きゃあああああああああああ~~~。」突然の侵入者に慌てて叫び兵たち呼ぼうとするがそれより先に
「あ、 そんなに声を出してしまったら人が来てしまいます。」
そう言うなり、女の足下が光ったかと思うと魔法陣の様なものが現れた次の瞬間、部屋全体が何かの光に包まれているのであった
イザベラはこの現状に混乱しながらも目の前の女を睨みつけ
「何もんだお前は?」
「ここを何処だと思ってる?」
「私の使い魔をどこにやった?」
ついに来た自分を殺す存在が来たんだと怯えながらも、もうすぐさっきの声を聞きつけて兵たちが来るはずだと必死に強がるのだが
「部屋全体を結界で包みました。誰もここには来ることはできませんよ。」
そう言って笑いかけるのである。
「っひ! い、嫌、死にたくなんかない。」
結界とは何なのか解らないが、その女の笑顔が恐怖の象徴にしか見えないイザベラはそこから逃げ出そうとするが
「ああ、それとこの部屋からは出られませんよ。」
さらに恐怖を煽る様に語る女、イザベラは今すぐに逃げたいのにそれは無理なんて言われて今にも泣き出しそうな顔している。
「そんな怖がらないでくださいイザベラ、私があなたを殺したりするなんて出来る筈無いじゃないですか。」
「なんたって私はあなたの使い魔、あなたは私のご主人様なんですから。」
「・・・・・・はぁ?」
「ですから、私はあなたが呼び出した使い魔ですって。」
「意味の解らないことを言うな!私の使い魔は猫だ。お前みたいな怪しい人間なわけあるか!」
「ですから、その猫が私なんですって。」
「ほら、見てくださいこれ」
そう言って女は自分の手の甲を私に見せてくる。
そこには、確かに自分の使い魔の猫に刻まれたのと同じ形のルーンが刻まれていた。
「だ、だからって信じれるか!」
「じゃあこれでどうです?」
すると光が女性を包みこみ、次の瞬間そこに居たのは間違いなく自分が召喚した使い魔の猫であった。
「どうです?信じてもらえました?」
ふらり
「ああ、気絶はしないでください。朝食が来たときにどう説明すればいいか困ります。」
再び猫が人になり自分を支えてくる。
『たのむから頼むから気絶させてくれ』と言いたかったのだがそれより先に
「・・・ん? どうやら、朝食がすぐそこまで来たようです。結界は解除しましたので私の分の食事と説明の程よろしくお願いしますね。」
「お、おい何勝ってな・・」
しかし、言い切る前に扉が開き朝食が運ばれてくる。
「朝食をお持ちしました。それと使い魔様のミルクはこちらになります。」
「ったく、 あ~~~牛乳の方はもういらん。だから適当な食事をもうひとつ分持って来い。」
「え? どなたか此処でお食事されるのですか?」
「違う、こいつが使い魔のくせに牛乳が嫌だと言いやがるから」
指さした先を見るとそこには、見たことのない服装をした女性が一人立っていた。
「え? 使い魔様は猫ではありませんでしたか?」
混乱するメイドにさらに混乱させることをいうイザベラ
「こいつがその猫だ。」
「・・は?」
ますます混乱していくメイドに、使い魔だと言われた女性は
「初めまして、私は山猫で名前はリニスと申します。このたびイザベラの使い魔をすることになりましたのでどうぞよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げてくるリニスを見て固まっていると
「おい、名前初めて聞いたぞ。」
「ええ、今初めて自己紹介しましたので。」
「なんで主人のこの私より先にこんなメイドに自己紹介するんだ!」
今日は名前を付けたりと、いろいろ楽しもうとしていたのにメイドに対する自己紹介ですべて終わってしまいイラつくイザベラ。
それに対して
「イザベラ、誰であろうと“こんな“などと呼んではいけません。」
「使い魔の分際で私を説教するつもりか?」
「ええ、しますとも。私は貴女の使い魔ですから、主人が間違った方に行かない様に教育するのも契約の内です。」
「契約?何のことだ?」
疑問はあるが今はそれどころではない。こいつさっき何と言った?
「教育だって?この私を?」
「ふざけるな~~~~~~~!!」
その声に怯えるメイド、だがしかしリニスは悠然と構えているそしてイザベラは近くにある自分の杖を手に取りリニスに向けようとするが
「カッとなったからといってすぐに人にこんなものを向けてはいけません。こんな物でも一応危ないんですよ?」
杖はそこには無くいつの間にか別の位置に移動しているリニスの手の中に有るのであった。
「っな! 今どうやってここにあった私の杖を取った?私の杖がこんな物だと?
・・・・・
お前まで私を馬鹿にするのか!」
メイドが居ることも忘れてリニスに向かって叫ぶイザベラ。
するとリニスは真剣な表情でこちらを見つ直し
「貴方を馬鹿にするようなことなどたとえ何が有ろうと私が存在する限りそんなことは決してありません。なんたって貴方は私を存在させているのですから。」
やはり良く解らないことを言っているが、自分を決して馬鹿になどしないと言われ僅かだが怒りが収まったところに
「あと、どうやって杖を取ったかについてはただ単純に速く動いただけですよ?」
「え?」
「こうやって。」
再び消えたかと思った瞬間、目の前に現れたリニスに戸惑い後ずさりしようとするが、イザベラは肩を掴まれて動けないでいた。
「そんな簡単に暴力を振ってはいけませんイザベラ。いつか自分に大きなしっぺ返しが来るかも知れないのですから。」
「放せ、おい。放さないか!」
そんなこと、・・・だからって如何すりゃいいんだ。
「解ってくれないなら、解らすしかないのです。」
そしてリニスは小さく唱えるのであった『サンダーアーム』と
ッバチ!「ひゃっう!?」
強烈な痺れの後、意識が遠くなり倒れる体をリニスが支える
「解ってくれました?」
そんなことを笑顔で言われたイザベラは痺れてうまく喋れないながらも必死に
「だ、誰がこんなんで・・・・・・・・・・・・」
しかし、言い切る前に意識を失うのであった。
side/リニス
「あ、 メイドさん?」
イザベラを抱きかかえたままメイドに声をかける。
「は、っはい!」
声をかけられようやく再起動したメイド
「朝食の方、簡単なものでいいので私の分お願いしますね?」
「………わ、わかりました。すぐにお持ちします。」
そう言って出ていくメイドを見送ったあと気絶したイザベラをベッドに寝かせてから取り上げた杖を眺めてみる。
「やはりただの杖ですか。」
そう言って溜息をつくリニス
「これでは出力装置として機能できるか疑問……いえ疑問にもならないでしょうね。」
間違いなくイザベラが将来的に扱えるであろう力の前では、こんな杖では役不足だ。
だからと言って替えのもっといい杖が有るかといえば無理な話だ。
こんな辺境の世界ではさまざまな特殊なパーツなど手に入れるのは不可能だ。
いつかこの子にもデバイスを作ってあげたいのは山々だが道のりは険しそうである。
しかし、ここは魔法が主の世界。
自分がいた世界のデバイスに使う工業製品は無くても、それなりの物もしくはそれ以上の素材、詰まりロストロギア級の何かがあるかも知れない。
そんな物があるのか解らないけど、いつか貴女が一人前の魔導師に成ったときには貴女に相応しいデバイスをプレゼントしたい。
そう考えるリニスであった。