「・・・さっぶいなぁ~」
昨日降った雪は、結局止む事はなく振り続けた。おかげで外の様子の銀世界を見た時はかったるくなった。
今、オレは桜公園に来ていた。特に理由などはなかったが、家に居てもしょうがなかったので外出することにしたからだ。
ゲーム機などがあれば時間は潰れるのだろうが生憎そういったハードは家には置いてなかった。
とりあえずコンビニに寄り、金を下ろしてきた。まぁ、そこで貯金金額を見たオレは少しばかり驚いた訳だが・・・。
なんと画面には十数万という数字が表示されていた。前に見た時は数万だったはずだ、それが急激に十万の位に上がっていた。
思い当たるフシ―――――例のバイトだ。保健室を立ち去る前に水越先生に口座番号を聞かれたので、素直に教えていた。
思わずジャンプしそうになる金額の上昇だが金の重さ―――――事の重要さが分かり、あまり浮かれてはいられなかった。
美夏という極秘ロボットの重要性を改めて知る事になったオレ。少し気分が重くなるのを感じた。
まぁ美夏と一緒にいるのは悪い気分ではないし、気にならない。それでお金が入るからまぁ、ボロイと思った。
そしてこの前、部屋の机周りを探して例の仕様書とやらを熟読した。どうでもよさそうな感じで机の中に入っていた。
専門用語ばかりであまり読めたもんじゃないが、一つ分かった事がある。それは―――オレに出来る事はないという事だ。
水越先生が言っていた通りお目付役という役割そのままだった。何かあったら人目を隠して連絡する、ただそれだけだ。
「まぁ、気楽でいいかなぁ~っと」
そう思う事にした。あまり余計な事を考えてもしょうがない――――――事実その通りだ。そう考えながら適当に散歩を開始した。
例の地理調査の事もあるし、気分転換にもなる。雪が積もっているがそんなに気温は寒くなく、ちょうどいいといった感じだった。
そう感じながら歩いていると桜の花を見上げながら考え事をしている人物―――――花咲がいた。
「あ――――――」
向こうもこちらに気づいたらしく駆けよってきた。その意外な行動に少し面喰らってしまった。
この間の路地裏での一件で話しかけられとは思ってもいなかったし、学校での態度――――オレは無視されていたはずだ。
そう思っている間にもオレに近づいてきて、止まった。表情は普通に見えた。特に怯えている様子もない。
「やっほぉ~義之くんっ!」
「オレは山かよ」
「だったら返事が返ってくるはずよぉ、やまびこみたいに」
「そうだな。だが生憎オレは山にもなったつもりはないし、鸚鵡石(おうむいし)でもない。オレは行くな、じゃあな」
「あ~ん、もういけずなんだからぁ」
花咲はそう言ってオレの脇に並んだ。今度はさすがに疑問を抱きざるを得なかった。あまりにも予想していた反応と違う。
こいつはオレが男共をリンチしたのは知っているはずだし、目の前で見ていた。そして学校の様子のオレの変わりよう・・・。
それらの事を考えるとこいつの行動はおかしい。何が嬉しいのかはしらないが表情は微笑んでいる。至って普通の様子だ。
普通――――普通ではない。確かに度胸は据わっていたとあの時は思った。だが据わり過ぎだ―――それとも何も考えてないのか・・・。
「ねぇ~?」
「んだよ」
「んもぉ~そんなにつんつんしないでよぉ。ところで鸚鵡石ってなぁに~?」
「反響する石だ。主に有名なのは関西にあるやつだな。声や音をその石に当てると反響するんだよ、やまびこみたいに」
「わぁ~物知りだねぇ~義之くんはぁ~」
「ただの雑学だ。褒められても何も思わねぇよ」
「んん~そんなこと無いよぉ。物知りな男性って素敵よぉ」
そう言ってオレも肩に手を置いた。肩を振って振り払うオレ。そして花咲を睨んだ。これ以上かったるいのはご免だし相手にしたくない。
そろそろ沸々と嫌悪感がもたげてきたからだ。アレルギーみたいなもんだ―――治らないアレルギーだが。そして花咲を置いて歩きだす。
睨んだうえにもう話しかけるなというオーラをだした。これで寄ってくる奴は鈍感か喧嘩したいやつか――――どちらかだ。
オレの記憶では花咲はそういった揉め事が嫌いなはずだ、教室の一件でそれは分かっていた。
そうして歩き出そうとして――――
「やぁん~ちょっとおっかないけどぉ、ワイルドな男性って好みだわぁ~」
オレの腕を組んできた。わざとなのだろう、豊満な胸を押しつけてきた。オレ――――顔に手を当て空を見上げた。
思わず奇妙な生き物を見る目になってしまう。何を考えているか見当もつかない。バカなのかこいつは?
「なにを考えているんだお前は・・・・・」
「えぇ~失礼ねぇ、色々考えてますぅ~」
「そうか、色々考え過ぎて頭がイカれてるのか。だったら納得だな、そんな奴の考えている事なんて分からねぇ」
「口がちょっと悪いけど・・・それも魅了ねぇ――――わ、思ったより筋肉質なのねぇ! 男の子って感じぃ~」
そう言ってオレの胸をペタペタ触ってきた。対処法――――思いつかない。殴っちまうのはやり過ぎる感もあるし罵声も意味がないようだ。
思いっきり睨んでも意味がないだろう、さっきの様子で分かった。思わずため息をついた。なんなんだこいつは・・・・・
あまりにも普通じゃない。一連の出来事をまるで何も見てなかったかのような思うほどのはしゃぎぶり。考えるが――――何も思い当たらない。
「大体なんでオレに絡む?」
「ほぇ?」
「板橋に蹴りも入れたし、生徒会の一件も聞いているだろう。そしてあの喧嘩――――すべて聞いているはずだ。事実、学校ではオレに
話しかけてこなかったはずだ。それが何故だかはしらないが急にスキンシップを始める花咲――――意味が分からない」
「いつも通り茜でいいよぉ~」
「じゃあ茜、質問する。何故だ?」
「よく言うでしょ~女心と秋の空ってぇ~。今は冬だけど、今はそんな気分なのよねぇ」
「ふけるなよてめ――――」
「構いたくなるのよ、貴方を見てると――――放っておけない気分になるの。学校の時はまだ気持ちの整理がついてなかった。
色々あったし聞いたりもした。けど、結局気になっちゃうの。ただ自分のその気持ちを素直に行動に出しているだけ」
「・・・・・・」
そう言って真面目な目でオレを見据えた。さっきまでの雰囲気とは一線を画していた。なぜだかは分からない。
構いたくなる――――ふざけた理由だ。オレがエリカに接するみたいな感じか? 冗談じゃねぇ。
オレは気が立ってきたのを自覚した。だが茜はそんなオレの様子を気にした様子もなく喋りはじめた。
「なんかツンツンしてぇ一人になろうとするしぃ~。まぁ、あまり辛そうに見えないから本当に清々してるんでしょうけどぉ」
「なんだ、分かってるんじゃねぇか。だったらほっとけ、殴りたくなっちまう」
「今の義之くんの目、本当に殴りそうだからコワイわねぇ――――でも構いたくなるの。しょうがないじゃない」
「・・・・・・そうか」
そうオレは呟いて組まれている茜の手を振り払った。小さい悲鳴をあげるが構いやしない――――オレはその払った腕を掴んだ。
そして近くの木の根元まで歩いた。ちょっと~という言葉が聞こえているが無視した。そうしている内に根元まで着いた。
乱暴に茜を木に押しつけた。身動きが出ないように腕は掴んだままだ。少し力が入っているのか―――顔をしかめている。
「あんまり舐めるなよ、お前」
「――――え」
「女だから殴られない――――大方そんなところだろう。が、一切オレにはそんな事関係ないね。まゆきの件、聞いているだろ?
別にそいつの性別がなんであろうと関係ねぇ、気に入らなきゃガキだって殴ってやる」
「・・・・・・なんで、そう思う、かなぁ・・・」
「知るか、そんなこと。前までオレはさぞや優しかっただろうな、お前たちをみればよく分かる。だけどもうそんな事はしない。
――――人嫌いになったんだよ、オレ。普通に喋るのだってムカムカしちまうし好意なんていったものは問題外だ」
そう言って茜の胸を乱暴に掴んだ。鈍い痛みに更に顔をしかめるが無視した。あれだけの態度を取ったのに付きまとってくるコイツが悪い。
拒絶の態度を取ったのに歩み寄ってくる―――そういった相手ほど心がざわめく相手はいない。いい例が音姉だ、多分茜もそのタイプだろう。
「このままお前をレイプしてもいいんだぜ? 外国じゃあお前みたいな人間はすぐ犯されて殺される。別になんとも思わないがな。
顔がいい、ツラもいい、身体もいい、器量もいい―――無闇な暴力は受けないだろうと、自信があるみたいだが逆効果だ」
「・・・・・・・」
そう言ってガンをつけるみたいに顔を近づけて、茜の瞳を見据えた。思いっきりオレに睨まれた目――――潤んでいる。
当然だ、大の男が泣いてもおかしくはない目をしていた。気弱な男ならおそらく泣いて、赦しを媚びているだろう。
顔はこの寒さだから赤らんではいるが、普通なら真っ青になっている。気絶しないだけ女性にはしては肝が据わっているがそれだけだ。
頭が悪ければ意味がない。バカで度胸が据わっている奴は戦争で真っ先に死ぬタイプ――――この場合はこの女の事だ。
「分かったな、殴られたくなきゃ、近づくな」
「・・・・・」
そういって胸から手を離し――――離せなかった。オレの手の上に茜の手が添えられている。意味が、わからなかった。
そう思って茜を見る。何十センチの距離にある茜の顔。潤んだ目でこっちを見ている、おいっと声を掛けようとして――――
「・・・・・・」
「――――ッ!」
唇を塞がれた。オレはすごい混乱した――――本当に意味が分からなかった。あの流れでなぜこうなるかが分からない。
おそらく世界で一番の頭脳指数を持つ者でも分からないだろう・・・・。それぐらい突拍子もない行動だと思う。
「・・・・・・ん」
「――――――――ッ!――――ッ!」
コイツっ! 舌を入れてきやがったっ! ぐちゃぐちゃと唾が混ざり合う卑猥な音。手はギュッと握られていた。
ゾクッっとする感覚・・・思わず心が性欲に押し切られそうになる――――が、オレは思いっきり茜から飛び退った。
「――――あ」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
新鮮な空気を取り入れた。呼吸なんか出来たもんじゃないし、させてくれなかった。空気を肺に入れ落ち着いた。
茜は―――何故か焦った顔をしていた。自分からしといて――――そう思わずにはいられない。オレは睨んだ。
「おい」
「な、な、な、なにかしらぁ?」
「なにかしらじゃねーよっ! なんであんな事したんだてめぇ! 意味が――――意味がまじでわからねぇぞ!」
「――――は、ははは。思わず・・・・ね」
「はぁっ!? 思わずでてめぇはディープキスすんのかよっ! オレの話なんかまるで聞いてなかったみてぇだな!?」
「いや・・・さ・・・・思わず義之くんに睨まれたらさぁ・・・ゾクっとしちゃったのよぉ~・・・・・・あははー」
「・・・・・・」
オレは閉口した―――茜の性癖がどんなだか知らなかったオレが悪いのか・・・これは。まさか泣くどころか興奮するなんてな・・・。
今までそんな反応を示したやつなんていやしない。誰だって泣きそうな顔になるか泣いたかどちらかだ。
赤くなった顔、潤んだ瞳――――すべて合点がいった。オレは頭が痛くなった。まるで予測がつかないし、つくはずがない。
なんなんだコイツ―――まるで理解出来ない。オレは多分宇宙人でも見るかのような目をしているに違いない。自信がある。
「あ、あはは~・・・・もしかしたらマゾッ気があるのかしらぁ~なぁんて・・・・」
「・・・・・」
「あは・・・は」
「・・・・・」
そしてシーンとなる場。オレはもう何も考えられなかった――――何を考えればいいか分からなかった。
茜は気まずいのかキョロキョロしていた。オレはその様子をみてため息をついた。マジでかったるくなった。
そしてある一つの答えに考え付いた――――恐らくこの考えはあたっているだろう。
「そうか―――」
「え?」
「いや、まさかクラスメイトにいるとはな・・・オレも初めてみるよ」
「え、ええっと・・・・」
「変態だろ、お前」
「――――は?」
「そうか、ならしょうがねぇ。いくらオレでも変態相手じゃあ歯がたたねぇな・・・・考えの範疇を超えている」
「ちょ、ちょ――――」
「別に他の奴には話さねぇよ、話す相手もいねぇしな、オレには」
多分初めて見るだろう、そういった人物は。少なくともオレの記憶にはなかった。相手をするのは初めてだった。
オレが話すと思っているのか、キョドっている。だからこの話はしないと告げた。まだ興奮しているようだが知ったことではない。
オレは踵を返した。あまり相手にしたくない人種ではある。ツラとか身体は良いが変態は勘弁だ。
脅すのもやめだ。いくら脅したってこいつの場合喜びそうだもんな、とてもじゃないが付き合っていられない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉ!」
「んだよ、オレはもう行く」
「なんでそんな答えになるのよっ!」
「当たってるだろう。間違ってるにしても近いはずだ」
「だ~か~ら、前から義之くんの事気になってて、睨まれてドキッとして思わずキスしちゃったっていう考えには落ち着かないのぉ!?」
「普通落ち着かねぇよっ! どんだけMでどんだけ積極的なんだっていう話だ! そんな女いるっていうなら連れてこいよ、ツチノコを見つけるレベルだがな」
「ここにいるでしょぉ!?」
「・・・・・・・」
オレは足を止めて振り返った。まぁ今のは――――軽く、告られたみたいなもんだ。茜も場の勢いで言ってしまったんだろう、黙った。
別にこれが初めてじゃない。色んな奴に告られてきてはいたしな。だがオレは元来の人嫌いだ。全部振ってやった記憶がある。
茜の言葉には驚いたが――――当然断るつもりだ。かなり順番が逆になってしまった感は拭えないが・・・・。
睨まれて恋に落ちる話―――確か外国でそんな話があったような気がする。あまり鮮明には覚えてはいない。
その日、すごい虫の居所が悪くかったのか――その男はイライラしていた。そして曲がり角で女にぶつかり転んだ。
そしてそれで頭にきた男は女の襟を掴み、睨みながら罵声を浴びせたという。そしたらその女がそれが原因で恋に
落ちてしまい、ラブコールを送ったという話だ。
それを最初見た時にオレは笑った。ありえないと思ったし負の感情でそうなるとは思えなかった。
それをさくらさんに聞いたら、ない話ではないと言われた。どうやら女性は男性の眼に引かれる習性があるという。
男が女の尻や胸に釘付けになるように、だ。情けない話だが男の本能にはそう刻まれているらしい。
どんな感情であれ、男性の強く感情の籠った眼には女性を引き付ける力があるという。意思が強い男性に引かれるって事だ。
まぁ、普通は情熱的な目だったり色っぽい目なんだけどね、とさくらさんは話を締めくくった。オレはそういうもんかと思ったが・・・。
どうやらそんな状況と酷似した現状にオレはいるらしい。遠い遠いヨーロッパの外国のお話だと思っていたがそうではなかったみたいだ。
実にかったるい――――なんにせよ、要は告るきっかけ与えちまったってわけか。
「すまんが――――」
「ちょっと待ってっ!」
「んだよ・・・・・」
「断る返事しようとしてるでしょ、今」
「ああ」
「・・・・・・・さっきの告白みたいなの、無しね」
「あ?」
「だって義之くん人嫌いになっちゃったんでしょぉ? 理由は分からないけどね。だから今告白しても断られるのは分かってるんだぁ」
「だったら――――」
「だーかーらぁ! せめて普通に会話出来るまで頑張ってみたいんだ。それからはどうなるかは義之くん次第だけど・・・・駄目かな?」
「断る。あまりにもかったるくて気の遠い話だ。そもそもオレにはそんな気はない」
「――――っ! だったら――――だったら時々話しかけるのはいいのよねぇ? あんまりひっつかないからさぁ」
「・・・・・まぁ、『本当に時々』話しかける分には構わない。あんまりこっちに踏み込んでこなきゃ嫌な顔はするが放っておく」
「嫌な顔はするんだ・・・まぁそれでもいいわ、十分だよぉ」
本当に時々を強調して言った。勘違いされるのも面倒だし、第一に茜と親密な関係にはなる予定がないからだ。
そう言って満足したのか喜んだ顔になった。自分ながらよく了承したと思う。まぁ、さっきも言った通り一定の距離を保つなら構わない。
杉並やさくらさん、美夏といった面々みたいになれるか分からないが・・・・放っておくことにした。
茜は用事でもあったのだろうか――――慌てた様子で身支度を整えて、走り出そうとしていた。
「あぁ! そういえば杏ちゃんと待ち合わせしてたんだぁ! 義之くん、ごめんねぇ! 私行かなきゃ!」
「さっさと行っちまえよ、痴女」
「まったくぅ! 本当に口が悪くなったわねぇ! それじゃあねぇ!」
「ああ」
「あーっと、そうだそうだ」
「あ?」
何を思い出したのか駈け出すのを止め、途中で止まった。何かを言うために口に両手をあて、メガホンみたいな形にしている。
オレはさっさと歩いてどこかへ行きたかった。このかったるい気分を吹き飛ばしたかったからだ。
「わたしねぇ~まだ諦めてないからぁ! えっち友達で終わりたくないからねぇ~!」
「――――はぁ!?」
「それじゃぁね~」
そう言ってまた駈け出す茜。って誰がHしたんだよ、キスぐらいしかしてねぇよ、ディープの。
それにここは公園――――公共の場だ。周りに人がいないか見回したが、人っ子一人いなくて安心した。
こんな現場みられたら最悪だからな。憂鬱な気分になっちまう――――あまりもかったるい。
「あのクソ女が・・・・」
そう言ってオレは歩きだした。嫌悪感――――感じる暇もない。多分あいつは宇宙人かなんかだろう。
あまりにもオレの感性の常識を超えている・・・あんな女―――人間なんか見た事もねぇ・・・・ため息をついた。
気分直しにうまいもんでも食おう――――そう思い、公園にある屋台に歩き出した。
「うおっ!」
「何その反応、喧嘩売っているのかしら?」
家に帰る途中に水越先生に会った。角を曲がったらたまたまそこにいて、驚いてしまった。
オレの反応が気に食わなかったのか多少怒っている顔をした。腕を組んでいかにも不機嫌な呈だ。
「―――まぁちょうどいいわ、少し貴方に用があって探してたのよ」
「オレに?」
「ええ、学園長に住所を教えてもらって貴方の家へ行こうとしたのだけれど―――手間が省けたわ」
「・・・・・なんの用なんですか?」
「貴方に美夏の世話をしてもらっているでしょう? そしてお小遣いもあげている」
「ええ」
「そのお小遣い、あげすぎかなって」
「―――」
オレは少し嫌な予感がした。話の流れからいっておそらく金額の多さの話だろう――――そう見当がついた。
まぁそうだよな、と思う。あまりにも多い金、そして美夏の世話・・・どう考えてもイコールには結びつかない。
オレに出来る事なんてあまり無いし、精々煙が噴き出したら即連絡といったぐらいだ。あちらからしたら疑問を持つのは
当り前だ。
確かに極秘で機密ではある―――ただ出来る事なんてあまりないし、させてはくれないだろう。オレは素人だし当然だ。
まぁ、大分出費があって懐は寒いがまだ蓄えはある。しょうがないと思った。
「だからさぁ」
「―――はい」
「私の研究所で少し働かない?」
「・・・・は?」
「いやさ、人手不足なんだよねぇ~うち。ロボットはいることにはいるんだけど、高いじゃん? だから暇そうな桜内くんに
お手伝い頼もうかと思ってさ。お分かり?」
「―――ええ。まぁ・・・・・・別にいいですよ、やることも無いですし」
「よぉーし、決まり!早速明後日から来て頂戴ね。詳しい事は研究所で話すわ。天枷研究所――場所は知ってるでしょ?」
「・・・・・一応は」
「なら結構。時間は朝9時30分から来て頂戴ね、その時内容を話すわ。くれぐれも遅刻しないようにね」
「う~っす」
「ああ、そうだ」
「―――?」
そう言ってニヤニヤしながらこちらに顔を寄せてくる。その笑顔―――なにかロクでもない事を考えている目だ。
露骨に嫌そうな顔をするオレ。だが全く気にしないのか、どんどん近づいてきた。一体何をするつもりなのか―――
「美夏の事、とてもお世話になっているわね」
「――――――はい?」
「ストラップ、プレゼントしたでしょう? 喜んで携帯に付けてたわ。シルバー使ってて―――高かったんでしょう?」
「―――大した額ではありません。それにお金は水越先生から振り込まれています。苦ではないです」
「はぁ~・・・だからといってあんな高そうな物あげるなんて・・・いやぁ、まいっちゃうわね~」
「・・・何がですか?」
「ううん、何でもないわ。仲が良いってのはいいことよ、うんうん」
そういって頷く水越先生―――訳が分からない。身構えていたオレがバカみたいだった。とりあえずオレは家に帰ろうと思い、踵を返した。
明日の9時30分―――まぁ遅刻はしないだろう。一応目覚ましはセットしておくか。遅れたら何言われるか分かったもんじゃない。
「それじゃオレはこれで―――」
「はいは~い、また明後日ねぇ~。『美夏』と私が待ってるわ~」
「・・・・」
美夏の部分を何故か強調していう水越先生―――聞き流した。適当に手を振りその場を後にした。
バイト、か。まぁ研究所のバイトだしあまりかったるいことはないだろう。適当にやることにするか。
前の居酒屋のバイトはもうする気はないしな。割り切ってやっちまえばあまり嫌悪感は出なく、また金はよかった。
だがどこでもそうだが居酒屋のバイトは忙しい―――思い出しただけでため息が出た。
まぁ美夏のこと構って遊ぶとするか―――そう思いながら帰途についた。
1※藍ちゃん基準です
2※Q,藍ちゃんとは?
A,茜の死んだ妹が、桜パワーで茜の心に入っている茜の別人格。
性格は茜より活発で積極的で義之くんの事が少し気になってる。
EDは妹との決別(桜枯れちゃうので・・・)
3※これ以上プラス・コミュニ&シチュの設定は出す予定はありません