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[13431] 【ネタ】 人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ (なのは逆行)
Name: inimani◆f46f48f0 ID:2e7550b5
Date: 2010/02/17 05:55
「なのは! おい! 起きろっ! 目ぇ開けろっ!」
「ヴィータ…ちゃん…」
 覗き込むヴィータちゃんから、私の顔に冷たい…いや、暖かい…水滴?がポタポタと降り注ぐ。
「待ってろよ、今すぐ助けが来るからな。 それまで勝手にくたばるんじゃねぇぞ」
「わ、わた…し…は…」
 どうしたんだろう? 呂律が回らない。 声が出ない。 話すのがだるい。
「おい! 救護班はどうした! さっさとこっちにきやがれっ! こんちきしょーっ!」
 ヴィータちゃんがすごい剣幕で怒ってる。 救護班が…どうかしたの?
「なのは! 絶対助けてやるからな! だから死ぬんじゃねぇぞ!」
 死ぬ? …ああ、そうか、私…撃墜…されたんだった…。
 横目に見える残骸…、ガジェット? …ははっ、よかった…逃がさずに…倒せてた…。
「ヴィ…タ…ちゃ…」
「な、なのは!? 今は喋るな! 救護班! さっさと来いっつってんだ!」
 ヴィータちゃん、そんなに怒鳴っちゃダメだよ。 救護の人も忙しくて大変なんだよ。
「わ…た…」
「なのは! おい! なのは!」
 私も…今日はさすがに疲れたから…。 だからあとは…、みんなにまかせて…。
「ちょ…と…、や…す…」
 ちょっとだけ…、休むね…。
「おい…? 冗談だろ? 目ぇ開けろよ? なぁ? 笑えねぇよ、それ? つまん…ねぇんだよ! 起きろっつってんだよ! 私が呼んでんだ! 返事しろっ! なのは! なのは! なのはーーーーーっ!!!」

「ヴィータちゃん、うるさいっ!」
 うつ伏せていた顔を勢いよく跳ね上げ、抗議の声を上げる。
 もう、せっかく人が気持ちよく寝ているのに、耳元でそんな大声で…って、あれっ?
 きょろきょろと周りを見渡す。
 周りには幼い顔つきの男女がずらりと居並んで…、こっち見んなっ!
 その中でも、すぐ横に居る見知った子の顔が絶望に染まっている。
 その子が手に持つものはシャープペンシル。
 尖った方じゃなく、ノックする頭の方に付いている犬の飾り物を私に突き出す形で固まっていた。

 うん、大体わかった。
 授業中に寝てた私を起こしてくれたんだよね? アリサちゃん。
 そして、寝ぼけて大声上げちゃったんだね、私。
 にゃははっ、すごく恥ずかしい状態だよね、今。
 でもね、アリサちゃん。 いくら私でも、それぐらいでキレたり暴れたりしないから、そんなに怖がらないでよ~。
 ちゃんと善意で起こしてくれたのはわかっているから。
 だから、“恥をかかせてしまった!? 私が起こしたせい!? 私、殺されちゃう!?”みたいなことを考えてそうな顔しないで~。
「あ、あの、高町さん? 高町さんが、ゆ、優秀なのはわかっていますけど、授業中は、ね、ね、寝ないで下さい…ね?」
 先生までビビらないで~! 普通に怒っていいから! 叱っていいから! 悪いの私だから! ちゃんと謝るから!
「ごめんなさい、先生」
 ざわ…ざわ…。
 頭を下げる意味でお辞儀したとたん、周りが静かに騒ぎ出した。
「さ、さすが高町さん。 先生に怒られても平然としてる」
「きょ、今日は機嫌が良いのかな? あ、謝ってるし」
「先生の顔を立ててるのかな? やっぱり高町さんて大人って感じで素敵…」
 も、もう、この評価にも慣れたの…。 諦めたの…。
「けっ! 魔王がいい子ぶりやがって」
 こ、ここ、この評価にも、慣れ…慣れ…慣れ…、慣れるかーっ!
 酷いこと言った男の子を、視線鋭く睨みつける。
 小さく呟いたから聞こえてないと思っていたようだけど、しっかり私の耳に届いてたよ!
 ふふっ、目に見えて顔が青くなってるの。 次の休み時間、覚えておいてね。
 ニコッと笑ってあげたら、俯いて縮こまっちゃった。
 あ、そうだ。 アリサちゃんには怒ってないことを伝えて安心させてあげなきゃ。
 だからアリサちゃんには、慈愛の気持ちをたっぷりと込めた笑顔を向けてあげた。

 …アリサちゃんも、さっきの男の子のようになっちゃった。

 なんでよ~!



 私、高町なのは9歳。
 聖祥大付属小学校の3年生。
 実は私、一度死んじゃってるの。
 死んで、生まれ変わって、2度目の人生を謳歌中。
 そう、謳歌中なの。
 死んだ私が生まれ変わった先は、また私。
 いわゆる強くてニューゲーム。
 知識もある。 魔法も使える。 紡がれていく歴史は記憶と一緒。
 ならば歴史を変えちゃおう。 今度は全部ハッピーエンドにしよう。
 そう思って頑張ってたの…。
 そう…、頑張ったのに…、頑張っていろいろ良い方向に進んでたのに…。

 ◇

 さて、午前の授業が終わって、今はお昼休み。
 校舎の屋上で、いつもの三人でお弁当中です。

「なのはちゃん、さっきのすごい傑作だったよ」
「にゃははっ、すずかちゃん。 ちょっと寝ぼけちゃった」
「あの絶望に染まった武田君の顔とアリサちゃんの姿、ビデオに残しておきたかったなぁ」
「…そっち…なんだ…」
 ごめん、わかってたよ。 すずかちゃんとはもう長い付き合いだもんね。
「そ、それより、アリサちゃん。 私、本当に怒ってないから。 だから、ね。 ほら、そんな暗い顔しないで。 ちゃんとお弁当食べよ。 ね?」
 さっきからお箸を持ったまま、微動だにせずにお弁当を眺めてるだけのアリサちゃん。
 いや、お弁当すら見えてないかも。
「ほ、本当に怒ってません? なのはさん…」
「本当、本当。 それに、ほら。 アリサちゃんは私を名前で呼んでくれる友達じゃない。 友達をあんなことぐらいで怒ったりしないよ」
「そうよ、アリサちゃん。 なのはちゃんも昔と違って、今じゃすっかり丸くなったんだから」
 ブッ!
 思わず噴き出す。
 それに合わせて、アリサちゃんが怯えるようにビクッっと跳ねたのがちょっと悲しい。
「ちょっ、ちょっと、すずかちゃん! そんな人を元不良みたいに~っ!」
「不良はともかく、手が早かったのは確かだと思うけど~?」
「うっ、それは…、そうだったかも…」
「そ、そうですね。 あの気持ち悪かった変態体育教師を殴り倒したのは、いまでも語り草ですし…」
「ア、アリサちゃんまで~」
 私が情けない声で返すと、ようやくアリサちゃんの顔に笑みが戻ってきた。
 うん、やっぱり私たち3人は友達だよね。
 アリサちゃんだけ敬語で“さん”付けだけど、それでも友達だと思う。 友達だと思いたい!
 ここまで持ってくるの、本当に大変だったんだからっ!

 私のこと、なのはって下の名前で呼んでくれるのは、今はすずかちゃんとアリサちゃんだけ。
 クラスのみんなは“高町さん”と、必ず苗字で“さん”付けで、“高町ちゃん”とすら呼んでくれない。
 成績優秀(二回目だもん)、スポーツ万能(魔法で肉体強化)、リーダー気質(精神年齢12+8歳)のせいで、もうすっかり姉御扱いなの…。
 でも、そう慕われる反面、それが気に入らない子も何人かいるみたいで、その子たちからは、また別の名前で呼ばれてたりするの。
 あだ名っていうか、ほとんど悪口みたいなものなんだけど、なんだと思う?

 答えは『魔王』

 酷いと思わない!? 女の子に対して魔王だよ! 魔王っ!
 魔女とか女王じゃなくて、魔王!
 女って漢字すら入ってないんだよ!
 またそれを面と向かってじゃなくて、こそこそと影で言ってるのがムカつくの!

 フーッ! フーッ! とりあえず、今はそれは置いとくの。
 それより今はすずかちゃんとアリサちゃん、二人との出会いの話を進めていくの。

 まず、すずかちゃんから。
 すずかちゃんとの間柄は、前…、死んじゃった前の人生のことね、…前と同じで、小さい頃からの幼馴染。
 すずかちゃんのお姉さんと私のお兄ちゃんが恋人同士で、その二人から、同い年だし友達になれるんじゃないかと引き合わせてくれたのが最初かな。
 ちなみに、義姉さんとお兄ちゃんはこの度めでたくゴールイン。
 それもあって、すずかちゃんとはもうほとんど従姉妹みたいな感じなの。
 だから、すずかちゃんとは一番の仲良し。
 …までは前回と同じなんだけど…、すずかちゃんの性格がその…、前と違うっていうか、弾けちゃってるっていうか…。
 実は私ね、親しい人には魔法を使えることを明け透けにしちゃってるんだ。
 だから、すずかちゃんにもそのことを教えたんだけど…。
 そのお返しが、吸血鬼だってことのカミングアウトって何!?
 牙とか見せられて、本当にビックリしたよ。
 前のすずかちゃんも吸血鬼だったのかな? 今からじゃ確かめようがないけど。
 何にしても、それ以来すずかちゃんからどこか遠慮しているような雰囲気が消えて、忍さんよりも破天荒な性格に…。
 それに、だんだんとSめいて…。

 つ、次、アリサちゃん!
 アリサちゃんとの出会いは、前のときと同じ…、そう…、同じ…、同じなのに…、同じだったのに…、ううぅ…。
 …えっとね、アリサちゃんが意地悪して、すずかちゃんのカチューシャを取り上げたところまでは同じなの。
 前のすずかちゃんなら、ここでおろおろしてるだけだったんだけど、今度のすずかちゃんは一味も二味も違ってた。
 カチューシャを持ったアリサちゃんの腕をすかさず掴み返すと、にっこり微笑みながら一言。
「返してね?」
 吸血鬼って力が強いんだね。
 アリサちゃんがどれだけ暴れても、すずかちゃんはビクともしてなかったし。
 でね、この頃のアリサちゃんは子供でわがままでお転婆だったから、癇癪を起こして、すずかちゃんの手に噛み付こうとしてきたの。
 慌てて私がアリサちゃんの肩を掴んで止めたけどね。
 魔法で強化した力で。
 そしてアリサちゃんに向かって、私もにっこりと一言。
「乱暴はダメだよ」
 掴まれた腕と肩を振り解こうと、必死にもがくアリサちゃん。
 それを仁王立ちのまま、平然と掴み続ける私とすずかちゃん。
 今思うと、すごく異様な状況だよね、これ。
 それにクラスメイトの見る目が変わったのは、この日からのような気がする。
 …と、とにかく、その時はアリサちゃんが泣き出して終わったんだけど、どうもそれがものすごく悔しかったみたい。
 次の日から、どんどん突っかかってくるようになっちゃって。
 あの頃のアリサちゃんは、本当に子供でわがままでお転婆だったなぁ。
 全然歯が立たないからって、執事の鮫島さん連れてきて、私たちをやっつけろなんて言う始末だし。
 まあ、鮫島さんは出来た人だから、逆に私たちとアリサちゃんの仲を取り持とうと立ち回る結果になったけどね。
 でも、それがますますアリサちゃんを意固地にさせちゃって、ついには家のボディーガードの中から素行の悪い人たちを連れてきて、私たちに襲い掛からせてきたの。

 うん。 もちろん返り討ち♪

 いくら雇い主の命令だからって、本当に襲ってくるなっていうの!
 血だるまにしちゃったけど、ロリコンは死ねっ!
 でもね、ちょっとやり過ぎちゃったみたいで、一部始終を見ていたアリサちゃんが、かなり酷い恐慌状態に陥っちゃってた。
 ま、まあ、仕方ないよね。 指に絡みついた返り血を舐め取るすずかちゃんは、私もちょっと怖かったし、あれ見たら漏らしちゃっても…。
 …と、とにかく、そんな酷い状態のアリサちゃんを落ち着かせようと、すずかちゃんと二人で必死に“怒ってないよ”と宥め賺して、その後に“もうこんなことしちゃダメだよ”と懇々と諭したんだけど…。
 今思うと、これが一番の失敗だったのかなぁ。

 怒ってない → 許してもらえた → 命の恩人!
 叱られた → 叱るのは目上の人 → 逆らっちゃいけない人!

 こう考えたかどうかはわからないけど、この時にアリサちゃんの中で“私たち >>> アリサちゃん”の図式が出来上がっちゃったみたい。
 おかげで次の日のアリサちゃんの第一声がこれ。

「なのは様! すずか様! おはようございます!」

 思わずorz
 それに、行動が舎弟っていうか、子分っていうか、パシリ? アリサちゃん、自分からその立ち位置にまわってきて…。

 でもっ! でもっ!
 これのおかげでアリサちゃんと話す機会がいっぱい増えたから、ゆっくり親睦を深めていって、…ようやく、本当にようやく「なのはさん、すずかさん」まで回復できたの。
 前みたいに呼び捨ては難しいかもしれないけど、絶対「なのはちゃん、すずかちゃん」と呼び合う仲にまで戻してみせるの!


//

 続かない と、思う。



[13431] 【ネタ】 人はry
Name: inimani◆f46f48f0 ID:2e7550b5
Date: 2009/11/07 00:01
「なのは! おい! 起きろっ! 目ぇ開けろっ!」
「ヴィータ…ちゃん…」
 覗き込むヴィータちゃんから、私の顔に冷たい…いや、暖かい…水滴?がポタポタと降り注ぐ。
「待ってろよ、今すぐ助けが来るからな。 それまで勝手にくたばるんじゃねぇぞ」
「わ、わた…し…は…」
 とっても眠いの。 寝たいの。 お願い、あと5分~。
「おい! 救護班はどうしたっ! さっさとこっちにきやがれっ! こんちきしょーっ!」
 ちょっ! ヴィータちゃん!? なんで救護班呼ぶの!?
「なのは! 絶対助けてやるからな! だから死ぬんじゃねぇぞ!」
 えっ? なに? ひょっとして風邪ひいてしんどいから起きないとか勘違いされてる!?
「ヴィ…タ…ちゃ…」
「な、なのは!? 今は喋るな! 救護班! さっさと来いっつってんだ!」
 ヴィータちゃん、やめてっ! 大げさにしないで!
「わ…た…」
「なのは! おい! なのは!」
 私はもう少し朝のまどろみを満喫したいだけなのに~。
「ちょ…と…、や…す…」
 ちょっとやり過ぎだよ~。 いいもん! こうなったら意地でもあと5分寝てやる~。
「おい…? 冗談だろ? 目ぇ開けろよ? なぁ? 笑えねぇよ、それ? つまん…ねぇんだよ! 起きろっつってんだよ! 私が呼んでんだ! 返事しろっ! なのは! なのは! なのはーーーーーっ!!!」

「ああ、もう! ヴィータちゃん、うるさい!」
 ガバッと上半身を跳ね上げ、抗議の声を上げる。
「ほら、ちゃんと起きたよ、ヴィータちゃん! これでいいん…あれっ?」
 さっきまでそばにいたヴィータちゃんが見当たらず、きょろきょろと周りを見渡す。
 そして、だんだんと覚醒した頭が導き出した答えは…。
「また、寝ぼけちゃった…」
 それになんだか夢の中の私に、余裕が出てきてない?
 死んだときの記憶なんだから、うなされてもおかしくないはずなのに…。
 そんなことを思いながら朝から部屋のベッドの上でうな垂れる私、高町なのは8歳。

 …顔洗ってこようっと。

 ◇

「じゃあ、なのは。 最後に神速を使って恭也と組太刀をするから、出来るだけ目で追ってみなさい」
「うん! じゃなかった、はい、お父さん!」
 高町家の道場で、いつもの朝稽古の仕上げ。
 つくづく私の家族って異常だよね~。
 魔法で強化した視力で、やっと見える体捌きって何?
 これも型を知ってるから、なんとか追えるんだよ。
 ちなみに剣筋なんて、いくら頑張っても見えません。
「なのは。 剣筋は見るんじゃなくて読むんだよ。 だから今はいろんな型を見て、知って、覚えていくことが大事なんだよ」
 美由希お姉ちゃんが私の頭を撫でながら教えてくれます。
 はあ、美由希お姉ちゃんがあんなに強かったなんて知らなかったなぁ。
 前の時は、ドジで間抜けでノロマなお姉ちゃんにしか見えなかったのに。
「なのは? なんだかものすごーくあなたのほっぺたを抓りたくなったんだけど?」
 勘もこんなに鋭くなくて、むしろ鈍感…、痛い、痛い、美由希お姉ちゃん、いーたーいー!

 そんなこんなで、御神の技を修行中です。
 始めたきっかけは、体力を付けることと、近接格闘戦に強くなろうと思ったこと。
 家が剣術の道場してるからちょうどいいやとばかりにお父さんにお願いしたんだけど、こんな異常っぽい流派だとは知らなかったよ。
 ううん、異常なのは高町の血なのかな?
 前のときと同じように、お父さんが大怪我しちゃって生死の境目をさまよってたことがあったんだけど、私が治癒魔法かけたらすぐに起き上がってきてビックリ。
 治癒魔法っていってもレイジングハートはいないし、もともと苦手な魔法だったから、ほとんど気休めみたいなもんだったんだよ?
 ほんの少し傷が塞がっただけ。
 常人ならまだ危篤レベルだって、検査したお医者さんが言ってたぐらい。
 私もビックリ、お医者さんもビックリ、家族は魔法を使った私にビックリ。
 そんなみんなビックリの中、唯一冷静だったお父さんはあれよあれよという間に回復して退院しちゃった。
 お父さん曰く、意識さえあれば気を身体に巡らせて、傷を早く癒すことが出来るとか。
 …なに、その漫画みたいな技? 私の魔法が霞んで見えるよ…。
 早くレイジングハート、来ないかな?

 あ、そうそう、お父さんの入院があっと言う間に終わったことで、私の目指していたハッピーエンドの一つが達成しました。
 目指したのは、家族がずっと幸せでいること。
 前にお父さんが入院してた時は、みんなものすごく苦労して大変だったから。
 だから今回はお父さんに早く治ってもらって、翠屋に復帰してもらうと思ってたんだけど…。
 魔法、一回使っただけで済んだのは予想外だったよ。
 本当なら意識が戻るまで何回も使うことになると思ってたし、前のときはずっと家で留守番しているだけだったから、寂しさが紛れてちょうどいいやって意気込んでいたのに…。
 ま、まあ、早いことに越したことはなかったし、これはこれで良かったんだよね、うん。
 あ、そうそう、翠屋の話題が出たついでに、現状をちょっと補足。
 実は前に話したアリサちゃんがおいたした件で、アリサちゃんちからかなりの無償融資を受けてるの。
 それも、お父さんやお母さんがコーヒーのブレンドや新しいスイーツの研究に没頭してても、翠屋が潰れることは決してないぐらいに。
 ぶっちゃけ、お客さんが一人も来なくても潰れません。
 でも、お父さんもお母さんもそれに甘えることなく、しっかり経営者してるけどね。

 さて、ハッピーエンドの一つって言ったように、あといくつか目指しているのが、私にはあります。
 まずはフェイトちゃんのこと。
 今度はプレシアさんに、意地でもフェイトちゃんのこと認めさせてみせるの!
 やっぱり一方通行の想いなんて寂しいよ。
 プレシアさんが虚数空間に旅立とうとも、捕まって投獄されようとも、その前にフェイトちゃんは私の娘だって言わせてみせるからね!
 出来れば今からでも時の庭園に行ってお話したいんだけど、レイジングハートのいない今のままじゃプレシアさんに太刀打ちできないし、そのまえに転移すら出来ないのが残念。

 二つ目ははやてちゃんのこと。
 やっぱりリインフォースは助けたいな。
 それに、いまさらヴィータちゃんたちとは争いたくなし、はやてちゃんの足も速く治してあげたいし。
 本当なら、今すぐ魔法の制御を教えてあげたいんだけどね。
 そうすれば、闇の書が原因の足の麻痺は治るし。
 でもそうすると、絶対に猫姉妹が邪魔してくるだろうなぁ。
 レイジングハートさえいれば、お話しできるのに…。

 最後は、自分のことかな。
 とにかく早く管理局に就職して、誘われてた教導隊に行きたいの。
 そして新人をどんどん鍛えていって、魔導師の人員不足を少しでも解消したいの。
 だって前に私が撃墜されたのって、過剰労働で疲れてたせいなんだから!
 そのせいで居眠り飛行してたからガジェットに気付けなかった…、のは、少し自分の責任もあるかもしれないけど、人が増えれば無理な出動させられることもなくなるだろうし。
 そんなわけで、リンディさんが来た時点ですぐにでも入局させてもらいたいの。
 それも、こっちの学校の卒業なんて待たずに。
 …ふふふ、その為の布石はうってあるの。
 前の時はね、管理局に入ることを決めるまで家族に魔法のこと隠してたから、いざ打ち明けたら、説明が大変で大変で…。
 おまけに地球の常識しかしらないから、高校卒業まで待てって言ってくるし。
 だからね、前回の失敗を踏まえて、今回は早いうちからバラしたんだ。
 それに、ほら、地球には魔法なんてないでしょ?
 そんな中で私が不思議な力を使ったら、家族はみんな心配すると思うの。
 他の人と違う力をもつ私は、この世界で普通に生きていけるのかって。
 そこで管理世界のことを教えてあげれば、その世界こそが私の居るべき場所なんだって思うはず!
 って、考えてたんだけど、うちの家族もすずかちゃんも異常なのに、地球で生活してるんだよね…。
 今の私が使う肉体強化と治癒魔法、それに豆鉄砲(威力のないディバインシューター)ぐらいじゃ、説得力が…。
 レイジングハートがいれば、飛行魔法とか砲撃魔法とか使えて、度肝を抜けるのにっ!

 ああ、もう、ユーノ君! はやくレイジングハート連れてきてよ!

//

 これ以上は、本当に続きません。
 感想読んでて、「人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「負け犬」と呼ぶ」なんてティアナ編のネタが浮かんだけど書きません。
 「八神はやてとしてやっていけるかなぁ」の続きに没頭します。
 書いてると、他のネタがどんどん思い浮かんでくる不思議。
 とりあえず、ガス抜き完了です。
 たくさんの感想、ありがとうございました。

 追伸:
 タイトルはノリです。
 読者の気持ちには当てはまるかなと思ったけど、侮蔑だけはあり得ないね、これ。

 追伸2:
 嘘付くかも…



[13431] 人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「淫獣」と呼ぶ
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2009/11/09 12:28
 それは唐突だった。
 耳をつんざく轟音、激しく揺れ動く船、船内に鳴り響く警報、大穴を開けたカーゴルーム。
 そこに収められていたロストロギア『ジュエルシード』が、その穴から次元空間へ零れ落ちていく。
 それを見た僕は、考え無しにそれを追って次元空間に飛び込んだ。

 あのジュエルシードが僕が発掘したものだ。 僕にはそれを管理局まで送り届ける責任がある。

 その思いだけが頭にあった。
 今思うと、なんと無謀な行為だったか…。
 よく次元空間内で遭難しなかったものだ。
 そして僕は、奇跡とも呼べる確率で第97管理外世界へたどり着いた。
 ジュエルシードと共に…。

 ◇

「ぐっ…、レイジングハート! ラウンドシールドの維持に魔力をまわしてっ!」
『イエス、マスター』
 一つ目のジュエルシードがすぐに見つかったのは僥倖だった。
 しかし、暴走していたのは奇禍だった。
 次元を無理矢理渡ることに魔力を使い切った今の僕では、この暴走体に太刀打ちできない。
 今も絶え間なく繰り出される攻撃を、ただひたすらに耐えているだけだった。
「レイジングハート? こいつにバリアブレイクかましたとして、封印まで持ち込める確率は?」
『回答を拒否します。 それより逃げる方法を考えましょう』
 イヤになるほど優秀だよ、インテリジェントデバイスは。
 確かに逃げるのが最適だと僕も思う。
 でも、この暴走体をそのままにしておくと、この世界に甚大な被害を及ぼすことは目に見えている。
 逃げることも出来ない。 かといって、封印出来る可能性もない。
「ここって管理外世界だったよね? でも、幸運にも管理局員が駐在してるって可能性は何パーセント?」
『…ゼロではありません。 救難信号を発してみます』
 自分で言っといて何だけど、無駄だと思…『マスター! 返答がありました!』 嘘ぉ!?
「そ、それで!? どれぐらいでここに来られるって言ってる?」
 気張れば10分は持ちこたえれると思う。 それ以上かかるなら、マーカー打ち込んで逃げよう。
『すぐそこまで…』
「どーん♪」
『…到着したようです』

 インテリジェントデバイスは優秀だ。
 どんな状況下でも現状を把握し、訊かなくても求める回答を返してくれる。
『彼女は管理局員ではなさそうですね。 現地在住の魔導師のようです』
 到着と同時にかけ声をあげ、暴走体を殴り飛ばした僕と同い年ぐらいの女の子。
 そのまま彼女は、暴走体を投げ飛ばし…、突き飛ばし…、蹴り飛ばし…、実に楽しそうに嬲っ…、戦闘を続けていた。
『彼女の魔力を計測してみましたが、Sランクに届いています。 …あっ』
「ちょっと借りるね♪」
 あまりにも一方的な戦闘に呆気に取られていた僕の手から、彼女がレイジングハートを奪い取り、暴走体に向けて構える。
「ディバイーーーン・バスター♪」
 ちょっ!? 散々嬲り倒して完全に虫の息だった相手に、わざわざそんな大技を!?
 って、本当に大技!? 何、その魔力収束率!?
「ふー、久しぶりの全力全開! あーすっきりしたー。 じゃあ、封印っと」
 あ、封印するんだ。 ジュエルシードまで吹き飛ばしたのかと思ったよ。

「私、高町なのは。 この世界の魔法使いなの。 あなたの名前、教えてくれる?」
「ユ、ユーノ=スクライアです。 ミッドチルダ出身です」
「ユーノ君、ね。 それで、あなたは?」
 彼女が自身の手に持つデバイスに目を向け、問い掛ける。
『レイジングハートです。 先ほどはお見事でした』
「うん、ありがとう。 これからもよろしくね。 レイジングハート」
 なのはって子はずいぶんと魔法世界に詳しいようで、管理外世界とは思えないほどだった。
 ロストロギアについての知識もあるらしく、僕の現状を説明すると、なのはの方から手を貸してくれると言ってきた。
 さらには下宿まで世話してくれるらしい。

 …話がうますぎる。

 輸送船を襲った突然の事故。
 今思うと、あれは襲撃だったのではないだろうか?
 だとすると、その目的は…、第一級ロストロギア『ジュエルシード』
 そしてジュエルシードを回収しようとする僕の前に現れた、高ランク魔導師の女の子。
 偶然とは思えない。
 
 …まさか、襲撃犯!?

 向こうも回収しに来たものの、(現時点でのジュエルシード管理責任者である)僕と鉢合わせになってしまったので、慌てて都合のいい話をでっち上げているのではないだろうか?
 いや、むしろいい人を装って懐柔し、協力体制でジュエルシードを集めて、油断したところを掻っ攫っていこうなんて考えたのかも知れない。
 最初からそういうシナリオであった可能性もある。
 なんにしても、ここは助力を断った方がよさそうだ。
「あの、さすがにそこまで甘えさせてもらうわけにはいきません。 あとは自分で何とかします」
「うーん、気にしなくていいのに。 あ、これ、私の携帯番号。 手伝って欲しいときには電話して。 あと、どこかに泊まるとしてもお金ある? 貸してあげようか?」
 思ったより、あっさり引き下がった。 お金は…、まあ、野宿は発掘現場で慣れてるし、職業柄、非常食は常に携帯しているから、なんとか…。
 なんにしても、それらを含めて、これからのことをレイジングハートと相談しないと。
「そのあたりは自分で何とかします。 今日は助けてくれてありがとう」
 ひとまず礼を言って、手を差し出す。
「どういたしまして」
 そう言って、なのははその手を握り返してきた。
 握手で別れ、この世界でも挨拶はそれほど変わらないらしい。
 でも、僕はそのつもりじゃなかったんだけど…。
 手を離しても差し出したままにしている僕の様子に、なのはが首を傾げる。
「…えっと、レイジングハートを返してほしいんだけど…」

 その子の顔が絶望に染まった。

 ◇

 今、自分は高町家に居候してる。 いや、させられている。 半ば強引に…させられた。
 なのは…、ものすごく頑固で融通の利かない女の子。
 初めて会ったあの日、確かに手助けしてくれたことには感謝してるけど、さすがにインテリジェントデバイスをお礼にってのは虫が良すぎる。
 別の形でお礼をするといっても、頑なにレイジングハートを離そうとしない。

 お願い、私に譲って! ダメなら、しばらく貸して! ジュエルシード集めるの、タダで手伝うから! 私の家に泊まってもいいから! 3食昼寝付き! お母さんのシュークリームも毎日3個…、5個付けちゃう!
 
 結局押し切られて、ジュエルシードを集め終わるまで貸すって約束しちゃったけど、ちゃんと返してくれるのか心配になってきた。
 ただ、あの子、ものすごくレイジングハートを使うのがうまい。
 レイジングハートも訝い、戸惑ってた。

 ますます怪しい…。

 あまりに怪しいので、なぜこれだけよくしてくれるのかと回りくどく聞いてみた。
 友達になりたいからだよって返ってきた。
 とにかく仲良くなりたいの。 あ、そうだ。 私の友達にもユーノ君のこと、紹介しないと。
 話が勝手に進み、僕はどこかへ連れられていき、そこで月村すずかって子と、アリサ=バニングスって子を紹介された。
 二人とも私の親友だと。

 嘘だっ!

 すずかって子は、絶対腹に一物隠してるよね!? 笑顔がなんだか怖いよ!?
 なのはとの信頼関係はかなり厚いみたいだけど、利害の一致とかじゃないの?
 アリサって子は、一瞬使い魔かと思ったよ! 完全服従って感じのオーラ出してたよ! 僕との立ち位置を真剣に悩んでたよ!
 
 …その疑問感嘆符の浮かぶ友人関係より、より一層極まって怪しいのが、ここしばらくのなのはの行動。
 レイジングハートを持って、夜な夜などこかのマンションの一室を訪ねているらしい。
 しかしずっと留守らしく、人が居た気配もないとか。
 これはなのはの行動を監視させ、記録させているレイジングハートからの報告。
 ジュエルシードは順調に集まっているけど、なのはに気を許すわけにはいかない。
 また、なのはのこの行動から共犯者がいる可能性が高くなった。
 あの場所は仲間との待ち合わせに使われているとしか思えない。
 だからレイジングハート…、いざというときは…、頼んだよ。
『イエス、マスター』

 ◇

『マスター、なのはが何者かと接触しました』
「やっぱり共犯者がいたのか! レイジングハート、相手の特徴を教えて」
『なのはと同じ年齢ぐらいの女の子です。 長い金髪を二つ横に縛り、身体付きは歳相応。 あと、高レベルの魔力を計測しました。 なのはに匹敵します』
 最悪の事態だ。 なのはと同レベルの魔力持ち。 これで高ランク魔導師が二人。 
 これでもう、僕にはどうする事も出来ない。 歯向かっても返り討ちにあうだけだ。
『マスター、これから彼女たちは次元空間内にある本拠地に向かうようです。 座標から計算すると、マスターに念話が届かない可能性があります』
「了解。 向こうでの様子は余さず記録しておいて」
 今はとにかく記録を残し、犯行に繋がる証拠を一つでも多く手に入れるしかない。
 管理局が到着するまでの間、僕に出来ることはこれだけ…。

 ◇

 どうやらアジトで仲間割れがあったらしい。
 アジトにはさらにもう一人、高ランクの女魔導師がいて、なのはとジュエルシードの奪い合いになったらしい。
 もう一人いた金髪の魔導師は、おどおどしているばかりだったとか。
 二人が争うことに戸惑っていたらしい。
 さらに記録を詳しく分析すると、そのアジトに待機していた妙齢の女魔導師が首謀者、金髪の子はその身内、なのはがその二人に加担しているといったところのようだ。

 さっきから「らしい」とか「ようだ」とか、憶測でしか言えてないけど、それには訳がある。
 なのはと首謀者の争い、どうやらなのはが勝ったものの、辛勝だったようでレイジングハートをかなり破損させていた。
 その為、記録されていたデータも被害を受け、断片的な情報しか引き出すことが出来なかった。
 だけど、アジトの情報は手に入った。 襲撃犯の人数もわかった。
 管理局が来たときに、これは大きなアドバンテージになるはずだ。
 レイジングハート、君が手に入れた情報は決して無駄にはしない!

 ちなみに、そのレイジングハートを壊してくれた当の本人だけど、かなり落ち込んだ様子で、目に涙を浮かべながら僕に謝ってくれた。
 壊されたことにかなり怒りを覚えたけど、さすがにそんな顔を見せられたら僕も溜飲を下げるしかない。
 この子もこんな顔することあるんだ。 もしかすると、なにか訳があって犯罪に協力しているだけなのかもしれないと。
 でも、レイジングハートのオートリカバリーを手助けしながら考え直す。
 あの涙も演技だったんじゃないかと。
 そもそも、頑なにレイジングハートを欲しがった理由…、それは先の記録が示す通り、首謀者に反旗を翻すため。
 力がない間は従順な振りをし、準備が整えば躊躇なく実行する。
 彼女は強かな人間だ。
 そう考えると、簡単に涙を見せる子とは思えない。

 犯罪者の演技に騙されるなんて、情けない…。

 ◇

 無事に修復が完了したレイジングハート。
 なのははそれを手にして、またアジトに出かけていった。
 なぜか、なのはの母親と一緒に。
 その時は理由がまったくわからなかったけど、帰還したレイジングハートからの報告で驚愕の事実が判明した。

 なんと、真の黒幕はなのはの母親だったのだ!
 
 なのはとその母親が赴いたアジト。
 先の争いで怪我を負ったのだろうか?
 レイジングハートに記録されていたのは、寝室のベッドに臥せる首謀者と、甲斐甲斐しく世話をする金髪の子の姿。
 その時はまだ険のある顔の首謀者だったが、なのはと金髪の子が席を外し、なのはの母親と二人きりにさせ、しばらくしてから部屋に戻ると、憑き物が落ちたような穏やかな表情を浮かべていた。
 さらにはその後、4人で談笑までしていた。

 レイジングハートはずっとなのはが持っていたから、何があったのかはわからない。
 しかし、仲違いして分裂してもおかしくないこの状況で、首謀者の蟠りを解消し、もう一度纏め上げてみせたのだ。
 魔力を持たない一般人が、高ランク魔導師を相手に。
 あの優しい笑顔の仮面の下、そこにはどんな悪魔が奸計を練っているのだろうか…。
 周りが敵だらけのこの状況、レイジングハート…、君だけが僕の拠り所だ。

 ◇

 大変なことになった。
 なのはと金髪の子、さらにその使い魔に、首謀者までもが連携してジュエルシード集めに本腰を入れてきた。
 しかも、なのはの家族、さらには怪しい友人も従えて。
 加速度的に集まっていくジュエルシード。
「ユーノ君、待っててね。 もうすぐ全部集め終わるから。 楽しみにしててね」
 楽しみにしてられない!
 集めたジュエルシードをどうするつもりだ!?
 その後、僕をどうするつもりだ!?

 なのはだけなら、レイジングハートに探索の邪魔をさせれば時間は稼げた。
 そうやって、管理局の到着を待つつもりだった。
 だけどこのままじゃあ、到着前にジュエルシードが集まりきってしまう。
 彼女たちの目的はわからないけど、思い浮かぶのは最悪の結果ばかり。

 レイジングハート…、僕に勇気を!
 いざとなったら刺し違えてでも…、なのはたちの陰謀を止めてみせる!

 ◇

「ちょっ!? なのはーっ! 見るなーっ! 読むなーっ! やめてーっ! その日記、全部消したはずなのに!?」
「にゃはは、レイジングハートに復旧してもらったの」
「ユーノ君って、想像力たくましかったんやなぁ」
「母さんが犯人なのはあってたけど、桃子さんが黒幕って、ねぇ?」
 魔界こと機動六課、そこの魔王、堕天使、死神のカースオブカースが、僕の日記を肴に笑ってる。
 フェイト! おまえはあの時、もう散々笑っただろ! 今更笑うな!
 それになぜ、ヴォルケンリッターやフォワード陣にまで見せる!?
 ほら! どう反応したらいいか悩んじゃってるじゃないか!

 なのはがプレシアさんと戦ったときに破損したレイジングハート…。
 その時の曖昧な記録と思い込みで、盛大に勘違いした僕の恥ずかしい黒歴史。
 くっ、あの後、到着したアースラ内でも散々ネタにされからかわれたのに、今さら掘り返すなんて。
 それに、なのはに疑った所業を散々責められれて、レイジングハートを譲らされるはめになったのに。
 それなのに、今なお弄るか、魔王め!
 だけど、このまま大人しくしている今までの僕だと思うなよ。 そっちがその気なら…。

「レイジングハート! パスワード“窮鼠、魔王を噛む”!」
『承認。 一部データへのユーノのアクセスを許可します』
「にゃ!? ユーノ君! 何、そのパスワード! レイジングハート!?」
 黙って奪われるのは悔しいから、鼬の最後っ屁のつもりで仕込んだんだ!
「レイジングハート! 僕の権限で、秘匿データの開放! パスワードは“魔王の目にも涙”!」
「ユーノ君! さっきからそのパスワードなんなの! それに秘匿したデータって!? …って、にゃあああああ!」
「ほほう…、これはこれは」
「そうそう、なのはもこの頃はすごく可愛かったんだよ」
 映し出されたデータは、レイジングハートを破損させたときの…、なのはが涙を浮かべて謝ってきたときの映像。
 ふっ、なのはが目指している(毅然として出来る女の)理想像とはかけ離れた姿を、部下に公開される恥辱に悶えるがいい!
「ふふふふふ…、ユーノ君とは一度きっちりお話しないといけないの…」
「甘いよ、なのは。 君に振り回されっぱなしだった僕を哀れんで、士郎さんと恭也さんが鍛えてくれたんだ。 もう、今まで通りには行かないよ」
「やるんやったら、訓練場行ってや」
「了解、はやてちゃん。 シャーリー! セッティングお願い!」
「えっ、あ、はい」
「今日こそ勝って、レイジングハートを取り戻す!」

 ・
 ・
 ・

「さあ、どっちが勝つか賭けといこか」
「主はやて、あの二人は本当に付き合ってるのですか?」
「そやで。 腐れ縁ってやつや。 喧嘩するほど仲がええってな。 それに親御さんも、美由希さんみたいに行かず後家にさせたないから、根回しに必死や」
「親御さんといえば、なのは隊長は、どうして自分の母親をフェイト隊長の母親に会わせたんでしょうか?」
「それは、なのはが桃子さんに相談したんだよ。 母さんを説得するにはどうすればいいかって。 そしたら桃子さんが説得役を買って出たみたい」
「何を話されたかは、聞かれたんでしょうか?」
「んー、詳しくは教えてくれなかったけど、姉さんのことを聞かれて、たくさん話したとか言ってたかな。 そして、たくさん泣いて、たくさん思い出したって」
「お姉さん?」
「うん。 だいぶ前に死んじゃった私の姉さん」
「と、しんみりした話はそこまでや。 せやけど、なのはちゃんも藪蛇やったなぁ」
「そうだね。 レイジングハートに隠されてたデータを見つけて、アクセスするためにいろいろ手を尽くしている間にユーノの日記の残骸を見つけて」
「面白半分で復旧して公開したら、原因となった隠しデータで手痛いしっぺ返しだもんな。 まあ、自業自得だよ」
「でも、ユーノさんも用意いいですね。 なのは隊長が嫌がるデータをレイジングハートに隠してるなんて」
「いんや、別にあれは嫌がらせのためちゃうで」
「うん。 あれはユーノ君が一番セキュリティの高いレイジングハートに隠してた秘蔵データ」
「しおらしいなのはちゃんのギャップに、ユーノ君がメロメロになるきっかけとなったレアデータや」
「は、はあ、そうなん…ですか」
「ですがアレを見てると、とてもそうとは思えないのですが…」
 訓練場を映すモニターに目を移すと、そこにはお互いの拳でクロスカウンターを決めた二人の姿が。
 なのはのお気に入りの雷鳴轟く豪雨の状況設定の中、空にとどまり続けたのは魔王のほう。
 雷光をバックに勝ち鬨を上げるなのはのシルエットは、畏怖の権現そのもの。

「まあ、二人が迷走してる感ありありなんは否定せんけどな」


//

 続かないって嘘ついたので、こっそりsage投稿。



[13431] 人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「ぬこ」と呼ぶ(追記)
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/03/12 10:17
「にゃー」
「にゃー」
「わー、うちは犬派やねんけど、こうしてると猫もかわいいなぁ♪」
「うん、この子たちは犬に負けないぐらい飼い主に尽くすから、可愛がってあげてね」
「ありがとうな、なのはちゃん。 これからよろしゅうな、アリア♪ ロッテ♪」
「よろしくしてあげてね。 リーゼアリア…、リーゼロッテ…、ずっと…ね…」

「「っ!!! にゃ、ニャーッ!!!」」

//

「アリアー、新聞取ってきてー」
「にゃー(はいはい)」
「ロッテー、判子持ってきてー」
「にゃー(ほらよ)」
「アリアー、お使い行ってきてくれへんかー」
「にゃー(猫使いが荒いね、まったく)」
「ロッテー、お風呂掃除、お願いや」
「にゃー(なんで私らがこんな事を)」
「アリアー、戸締まりとガスの元栓よろしくー」
「にゃー(とにかく今は言われたとおり)」
「ロッテー、お茶ー」
「にゃー(猫のふりして世話を焼くだけ…か)」

「なー、アリア? ロッテ?」
「「にゃー?(なに? まだ用事?)」」
「あんたら、猫にしては凄すぎへん?」
「「にゃ?(どこが?)」」

//

「アリア、ロッテ」
「「にゃー?(呼んだ?)」」
「んー、アリア…ロッテ…」
「「にゃ?(ん、呼んだんじゃないの?)」」
「アリア、ロッテ…、ロッテ…アリア…、んー、どっかで聞いたことあるような、ないような…」
「「?」」
「ほら、駅前でよう店構えてる、あの、なんて言ったかな? ファーストフードの…」
「「にゃあ(ああ、はいはい、ロッテ○アね)」」
「キムチシェーキなんて、けったいなもん売っとった…」
「「にゃ(だから、ロッ○リアだって)」」
「ロッテ…アリア…、ロッテアリア? なんかちゃうなぁ」
「「にゃぁ…(そこまで言っといて、なぜ思い出さない…)」」
「んーっと、えーっと、ここまで出かかっとんのに」
「「にゃっにゃにゃにゃ(○ッテリア)」」
「そうそう、そんなリズムの…あっ!」
「「にゃ(やっとか)」」

「マクド○ルドや!」
「「ロッテリ○だ!」」

//

「なのはちゃん! なのはちゃん! 聞いて! 聞いてや! うちの猫な! 実はしゃべれるんや! 凄いやろ! ほんま、ビックリやで!」
「えー、もうばれたの? アリア、ロッテ、早すぎー」
「ばれたって…、なんや、なのはちゃんの仕込みなんかいな。 せやったら、最初から教えといてくれもええのに」
「にゃはは、ごめん、はやてちゃん。 ちょっと賭けをしてたの。 ばれたら私の案、ばれなかったらグレアムさんの案でいくってね」
「ん? なのはちゃん、グレアムおじさんの知り合いなん!? それに案ってなんなん?」
「えっと、それはね…」

 A's編、完



[13431] 札震具刃屠って当て字は酷すぎると思います。
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/02/17 06:10
「んーっ、終わったー。 お仕事しゅーりょー♪」
 私の現マスターこと高町なのはが、大きく伸びをしながら独りごちる。
「えぇ、確かに終わりましたね…。 これ以上ないぐらいに…」
 別段、会話を望んでのことではないことは分かっているけど、私はあえて言葉を返す。
 …皮肉を込めて。
 嘱託魔導師として時空管理局に在籍するマスターが請け負った今回の仕事。
 任務内容は、とある犯罪組織の拠点制圧。
 でも、やったことは『とあるマフィアのジェノサイド』
「もう、どうしてそんな含んだ物言いするかな? レイジングハートは!」
「言いたくもなります! オートスフィアとバインドで事が済む実力がありながら、砲撃魔法をぶっ放し、浮き足だったところを近接戦闘で一人一人仕留めていく意味が分かりません!」
 それも、魔力刃じゃなく当て身で。
「そもそも開口一番が『ディバインバスター♪』自体がおかしいんです! 『武器を捨てろ』とか『おとなしく投降しろ』とか言えないんですか!?」
「ぶー、どっちにしろ抵抗してくるんだから、いいの! 戦闘は先手必勝なの!」
 それは確かにそうかもしれませんが…、ハッ!? いけない! いけない! またマスターの思考に引き込まれるところでした。
「マスター…、管理局のルールには従ってください。 裁判とか裁判とか裁判とか、いろいろ大変なんです。 クロノさんとか執務官とか新婚ほやほやのパパとかの小言を聞くのは大変なんです」
 マスターに直接言えばいいものを、どうしてデバイスに言ってくるんでしょう? あの人も意味分かりません!
「さ、3回も繰り返さなくても…。 レイジングハートも堪ってるんだね…」
「そう思うんでしたら、自重してください。 その代わり、たまにぐらいならフェイトやはやてとの模擬戦に付き合いますから。 バルディッシュとリインフォースにも、参加するよう説得しておきます。」
「本当!? 約束だよ! レイジングハート!」
 はぁ…。 本当は嫌なんですが、ハラオウン家総出の小言よりマシかもしれません。
 彼女らの模擬戦と言えば、カートリッジの連続使用、大規模魔法の並列展開、果ては近接戦闘でデバイス同士を打ち付け合うという、なかなかのデバイス泣かせ…泣か…泣か…、どれだけデバイス泣かせれば気が済むんですか!
 そして、それに耐えられる私の体が恨めしい!
 ふふふ…、いっそ壊れちゃえば楽になれるのかな? かな?

 ◇

「…では、ここからは我々の部隊が現場を引き継ぎます」
 壮年の管理局員が、綺麗な敬礼で辞令を紡ぐ。
「はい、よろしくお願いします」
 マスターの敬礼も、負けず劣らず綺麗なのが納得いきません!
 普段はしっかり者で人当たりもいいのに、戦闘になるとどうしてはっちゃけるんですか!
「二度と悪さしないように、あの人たちにはしっかり罰を与えてくださいね」
「…あの様子では、その心配はないと思われますが…」
 私もそう思います。
 過半数は意識がありませんが、悪夢でも見ているのか全員がうなされてます。
 若干名の意識ある者は、見ているこちらが申し訳なく思うくらいに、歯を鳴らしながら怯え震えています。
「父さん…、ほらあそこに魔王が…、魔王が僕を…、僕を…」
「魔法が当たらない…、魔法が効かない…、魔法が当たらない…、魔法が効かない…」
「ピンクがっ! ピンクが網膜にっ! 目を瞑ってもピンクがっ! だれかこの目を取り去ってくれっ!」

「…コホン、それで帰りはどうしますか? ご要望であれば、ヘリを飛ばしますが?」
「あ、申請した飛行許可時間がまだ残ってますので、飛んで帰ります。 その方が速いので」
「さ、さようで…」
 クラナガンまでの距離を考えたら、顔も引き攣るってもんですよね。
 ええ、これが一般魔導師っていうもんです。
 マスターの方がおかしいんです。
 でも、マスターはもっとおかしいんです。

「それじゃレイジングハート、後はよろしくね」
「了解しました、マスター。 良い夢を」
「んーっと、この距離だと…、一時間ぐらいかな? 街に入る前に起こしてね」
「マスターの居眠り飛行は、もう有名です。 今さら恥ずかしがっても…」
「それでも!」

 うちのマスター、飛行魔法使いながら熟睡出来るんです!
「これなら移動時間も短縮できて、疲れも取れる。 一石二鳥!」
 はっきり言って、馬鹿の理論です。
 でも、馬鹿は凄いんです。
 とりあえず実践するんです。
 そして結果を出してしまうんです。
 理屈じゃないんです。
 ただ本当に熟睡しているので、私が周囲に注意を払っていなければなりません。
 そうしないと、鳥とぶつかったり、木に突っ込んだり、ビルを突き破ったりしてしまいます。

 はぁ…。
 ユーノ…、あなたがマスターだった頃が懐かしいです。
 カートリッジシステムが搭載され、エクセリオンモードを実装した私に、もう当時の面影はありません。
 それに、これだけ偏った高スペックになってしまっては、もうあなたに使いこなせてもらえないでしょう。
 ですが、あなたがマスターだったときの情報は私の中にしっかりと残っています。
 これだけが私の支え…、私が普通のデバイスであるための…って、えっ? これは!?
 マスター! 起きてっ! マスター! マスタァァァ!!!!!

 周囲に気を配っているといっても暇なので、いつものように薄幸のデバイスごっこをしていたら、突然アンノウン反応が!?
 最悪なことに、その行動予測は敵対!
 私は必死にマスターに呼びかけた! 叫んだ! 起こそうとした!
 手があれば引っ叩いていた! 足があれば蹴飛ばしていた! 身体があれば庇っていた!
 しかし、何一つ叶わない!
 凶悪なフォルムの人型ガジェット。
 それの腕に該当する部位にある凶刃がマスターに襲いかかる!
 危機に際して高クロックで稼働を始めた自身の機能が、今は残酷に思える。
 刃がマスターに届くまでの刹那が何時間にも引き延ばされ、何も出来ない空虚な時間となり、真綿のように私を締め付ける。
 私は失う…、マスターを…、また失う…、違う…、今度は永遠に失う…、馬鹿だけど…、どこか輝いているマスター…、い…、いや…、イヤァァァ! マスタァァァァァァーーー!!!

 絶叫とともに、時間の流れが元に戻る。
 その正しき時間の中で私は見る。 認識する。 理解する。
 真っ二つにされ…、地に堕ちていく…、ガジェット…。

 そう、堕ちているのはガジェットの方。

 ◇

 心配して損した! 叫んで損した!
 何!? このデタラメなマスター!
 まだ寝てるし。 何事もなかったかのように寝てるし。
 さっき見た光景が未だに信じられない。
 マスターったら、寝ながら、無意識に、条件反射でガジェット撃墜しやがりました。
 しかも手刀! 魔力を纏わせての手刀!
 寝返りを打つように、大きな半円を描いてスパッと一刀両断!
 私、いらないんじゃない!? 私、いらない子!?
 もう、マスター自身がデバイスでいいじゃないのさ!

 ユーノ…、私を取り戻そうとマスターに挑んでいるようですが、命が惜しいのならやめた方がいいかもしれません。





 その夜。

「あーっ! 忘れてたっ! 今日なの、すっかり忘れてたっ!」
「どうかしましたか、マスター? …せめてバスタオルぐらい巻きなさい。 はしたないですよ」
 シャワールームから飛び出してきたマスターに苦言を呈する。
「そんなのどうでもいいの!」
「どうでもよくありません!」
「ああん、もう、とにかく! 今日の帰り、なにか変わったこと起きなかった?」
「早く身体を拭いて何か着なさい! 変わったことですか?」
「うん、変わったこと。 変なことでもいいよ」
 ようやく私が質問を聞いてくれたことで、マスターも素直に言いつけに従って、身体を拭いてTシャツを着る。
 …おしゃれのセンス0です。 パジャマぐらい買いましょうよ、マスター。
 それより、変なことですか。
 あったと言えば、あったんですが…、マスターは前から変ですし、変わったことと言っても、マスターにとっては別段変なことではない気がします。
「いえ、とくに何もありませんでした」
「そっか。 いろいろ変わっちゃったから、ずれちゃったのかな? …ま、いっか。 ありがと、レイジングハート」
「いえ、どういたしまして」

 この日よりしばらく、マスターは居眠り飛行をしませんでした。
 奇行から正常に戻ったはずなのに、この期間、逆に不気味に思ってしまった私は間違っているでしょうか?


//

タイトルに全く意味ありません。
レイハさん視点で、赴くままに書きました。



[13431] アリサちゃんに使い続けて、レベルアップしましたわ。
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/03/04 00:54
「ほら、すずか。 みんな待ってるんだから、早くしなさいよ。 置いてくわよ」
「アリサちゃん、待って…、きゃっ」
 慌てて追いつこうと駈けだしたら、ちょっとした段差に蹴躓いちゃった。
 そんな私に呆れながらも、心配して私のそばまで戻ってきてくれるアリサちゃん。
「あー、もう、ドジなんだから。 気をつけなさいよ」
「てへへへへ、ありがとう、アリサちゃん」
 照れ隠しに笑いながら、差し出されたアリサちゃんの手を握る。
 (暖かい…)
「ほら、急ぐわよ。 遅れてるんだから」
「あ、うん」
 ちょっとぶっきらぼうな口調だけど、私を気遣ってくれているのが繋いだままの手の平から体温で伝わってくる。
 急かすように手を引く力も歩調も、無理なく、私を労るように…、導くかのように…。

 アリサちゃんの優しい心根に触れたとき、私はいつものように自然と笑みが溢れた。

 ◇

「ゼミのますますの隆盛を願って、乾杯っ!」
「「「乾杯っ!」」」
 居酒屋の一室で嚥下する音の後、大きな拍手が鳴り響く。
 ビール、酎ハイ、ウーロン茶…、人それぞれ思い思いの甘露で宴の始まりを祝し、心を浮き立たせていた。
「いやー、今日はめでたい! こんなうれしいことはない! 月村君とバニングス君。 この二人の才女が私の研究室に来てくれたのだから」
「サ、サンキュー…。 えっと、みなさん、これからよろしくお願いします」
「新入生なので勝手が分からず、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「構わん、構わん。 大いに迷惑をかけたまえ!」
 大学生になって、アリサちゃんと一緒に入った研究室。
 今日はそこの新入生歓迎会。
 乾杯前から上機嫌だった教授は、もうすっかり出来上がっていた。
 私たちが入ったのが、本当に嬉しいみたい。
 私とアリサちゃん、小・中・高とずーっと二人で首席だったということもあって、どこのゼミからも引っ張りだこだったから。
 初めて研究室を訪ねに行ったときも、凄い喜びようだったし。 …どん引きするほどに。
 一年ぐらいはのんびりと暇な学生していたかったんだけどね。
 でも、ゼミどころかサークルからの勧誘もひっきりなしで、あまりにも煩わしくなったから、アリサちゃんと二人で相談して早々にココに決めて入っちゃった。
 サークルじゃなくゼミにしたのは、ナンパとかそういうのが無いといいなぁと思ってのことなんだけど…。
「美女キターーー!!! 潤いキターーー!!!」
「これで我が研究室はあと10年戦える!!!」
「金髪碧眼と大和撫子! しかも巨にゅ…ガハッ!」
「黙れっ! このセクハラ男っ!」
 ゼミもあんまり変わらなかったかな…?
 胸のこと言った男性には、アリサちゃんが空のグラスぶつけてた。
「まあ、こんな男共だけど、害はないから安心してね」
「そうそう、言うだけで度胸はないから」
 あ、こんなんでも女性陣との関係はそれなりに良好みたい。
 うーん、あと心配していたことも杞憂に終わりそう。
 えっとね、女性陣が私たちを受け入れてくれるかな?って。
 私たちって、ほら…、目立つから…。 そういうことも前にあったし。

 うん! このゼミ、やっていけそう!

「どうしたの、すずか? そんな気合い入れるみたいにガッツポーズしちゃって」
「え? あ…、み、見てた?」
 小さくこっそりやったのに。
 握った手を胸の前でムンッって感じに、女の子版ガッツポーズ。
「んふふー、見ちゃったー。 なになに? なに気合い入れたの?」
「えーっとね、大学生を頑張っていこう!って。 このゼミ、凄く楽しそうだから」
「そうね、ここの雰囲気、結構いい感じだもんね」
 嬉しそうな笑顔。
 アリサちゃんも気に入ったみたい。
 でも、なぜか急にその笑顔に陰が差した。
「…なのはも一緒だったら良かったのに」
「あ…、…うん、そうだね」」
 アリサちゃんがポツリと零したのは、私たちの旧知の親友のこと。
 小学校の卒業と同時に異世界に旅立った、魔法を使う女の子。
「なのは、あっちでちゃんとやって行けてるのかしら」
「うん、義兄さんの話だと、元気にしてるみたいだよ」
「そう…。 あー、もう! なのはのやつ、手紙ぐらい寄越しなさいってのよっ!」
 あ、あれ? アリサちゃん?
「い、忙しいんだよ。 きっと」
「それは分かってるわよ…。 でも、気になるじゃない? 時間がないなら、メールで一言だけでもいいのに…」
「そ、そうだね」
 大丈夫…、かな?
「でも、ユーノって律儀よね。 こっちに来たら、わざわざ挨拶しに訪ねに来るし、…あれっ? なのはも一緒に来たっけ?」
 マズイッ! 記憶の混濁…、前兆!
「あれっ? 私、この前なのはに会った? あれっ? 手紙も…届いてる? …受け取った? あれっ? なのは? あれっ? 私? あれっ?」
「アリサちゃん!」
 慌ててアリサちゃんの手を握り、こちらに振り向けさせる。
 …手が冷たくなってる。 緊張し始めている!
「すずか…、あれっ? 違う…、すずか…さん…、…あ、ああっ、、な、なのはさん! わ、わた、わた、敬語っ! なのはさんを…、呼び捨て…、いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!! ここここころころころされ…」
「アリサちゃん! 私の目を見て!」
 だめっ! 完全に解けてる! 掛け直さないと!
「ど、どうしたの! バニングスさん!」
「きゅ、救急車呼んだ方が…」
 はぁ…、 こんな人が多いところでなんてツイてないわ。
 目を瞑り、ほんの少しだけ嘆息する。
 それだけで気持ちを切り替え、目を開くと同時に気合い一閃!

「ザ・ワールド! …なんちゃって」

 ちょっと気恥ずかしくなって、語尾に茶目っ気を持たせてみました。
 でも、効果は抜群。
 私たちのいる宴会座席の一室の全員が、彫像のように固まっている。
 夜の一族の持つ魔眼の力。
 視界に映る者すべてに干渉できる力。
 って、ヤバッ! 注文を取りに来た店員がふすまを開けた状態で止まってる!
 これ、人は止めても時間が止まるわけじゃないから、怪しまれる前に事を済まさないと。
 うんしょっと、アリサちゃんをこっち向けて、んー、時間もないし、前と同じ暗示でいいや。
 えーっと、アリサちゃんはツンデレ、ツンデレ、ツンデレ、ツンデレ…、私たちは親友、なのはちゃんも親友、気心が知れた気さくな友達、友達、ともだち…。

 こうしてアリサちゃんの目を覗き込むこと、およそ30秒。
 パチンと柏手を一回…、そして時は動き出す…。 なんちゃって。

「あ、あれっ?」
「どうしたの? アリサちゃん」
「んー、ごめん、ぼーっとしてたみたい」
 うん、問題なし。 完璧!
「バニングスさん、大丈…夫?」
「えっ、あ、ちょっと疲れたのかな? 大丈夫です」
「そ、そう? 凄く取り乱してたような気がするんだけど…?」
 面倒くさいからアリサちゃん以外は暗示掛けなかったけど、人は自分の都合にいい方だけを勝手に選んで納得してくれるから、これで問題なし!
 あと、出来れば早めに中座させておいた方がいいかな?
「アリサちゃん、疲れたんなら先に帰る?」
「大丈夫よ、これぐらい! それに私たちの歓迎会なのに、それを無下にするわけにもいかないでしょ」
「そうだね。 でも、辛くなったらちゃんと言ってね。 迷惑が掛かるなんて考えずに。 友達なんだから」
「はいはい、その時は頼りにするわね、すずか。 …ありがとう」
 最後、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いてたけど、夜の一族の聴力嘗めないでね。
「うん、アリサちゃん。 こちらこそ、ありがとう」
 アリサちゃんの顔がほのかに朱に染まった。

 …計画通り。

 ◇

 後日、翠屋。

 「っと、いうことがあったの」
 「ず、ずるい! ずるい、すずかちゃん! それって、私が前に話した理想のアリサちゃん像じゃない! ずーるーいー! 私のそのアリサちゃんに会わせて!」
 海鳴に里帰りしてたなのはちゃんに、この前の新歓のエピソードを話して聞かせたんだけど、もう効果抜群!
 地団駄踏んでまで悔しがってくれた。
 そう、暗示後のアリサちゃんは、なのはちゃんが理想とする姿。
 勝ち気でリーダーシップがあって、それでいて優しいところがあって、そしてかなりの照れ屋さん。
 そうなのはちゃんが熱く語る…いわゆるツンデレアリサちゃんを、私も見たくなって力を使ってみたんだけど…。

 あれはいいものだわ。

 だから、あれは私だけのもの。 なのはちゃんが会う前に、いつものアリサちゃんにちゃんと戻した。
 あ、噂をすれば…。
 カラン♪
「いらっしゃい、アリサちゃん」
「桃子さん、機嫌麗しゅうございます。 あ、あの、なのはさんとすずかさんは? わ、私、少し遅れてしまって…」
「アリサちゃん、こっちですよ~」
「あ、す、すずかさん、遅れてしまいまして申し訳ありません。 なのはさん、お久しぶりです。 お元気そうで安心しました」
「…」
「あ、あの、お待たせして申し訳ありません。 お、お詫びにここの代金は私が持ちますから」
「うぅ、すずかちゃんのいじわる~」
「なのはちゃんも魔法でそうすればいいのに」
「私の魔法はそんなに便利じゃないよぅ」
「え、あの、その、えっと…、ほ、ほら、私が遅れたのが悪いんですから、な、仲良くしましょう。 ディナーも奢っちゃいますから」

 ふふふ、今のなのはちゃんとアリサちゃんの顔…、とってもかわいい!



[13431] 無自覚毒舌ってキャラ付けだけど、ちょっと弱いなぁ。
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/03/12 16:44
「いい? なにがあっても絶対に持ってくるのよ。 たとえ死んでもね」
「はい、母さん。 それでは、いってきます」
 第97管理外世界に散らばったていうジュエルシード。
 そのすべてを拾い集めてくるのが、母さんから頼まれた仕事。

「まったく、あの鬼ババァ。 自分で行けってんだ」
「もう、アルフ。 母さんのことババァなんて言っちゃダメだよ。 確かに歳取ってるけど」
 私の使い魔のアルフ。
 口が悪いのが玉に瑕。
「こういう肉体労働は、若い私の方が向いているんだから仕方ないよ」
「でもさ? 全部見つけてくるまで帰ってくるなって、酷すぎるじゃないか」
「その代わり、現地に拠点の家を用意してくれたよ。 それに転送魔法は結構魔力使うから、私の身体への負担を考えてのことなんだよ」
「フェイト、考えが甘すぎるよ。 絶対、鬼ババァの嫌がらせだよ」
「もう! アルフッ! 母さんのこと、更年期障害みたいに言わないで」
 ホント、どうしてこんなに口が悪くなったんだろう?
 使い魔の契約の仕方、どこか間違えちゃったのかな?
 ジュエルシード探しと平行して、教育し直そう。 うん。

「フェイトぉ? 本当にここなのかい? 何にもないよ、この部屋」
「うん、ここで間違いないよ。 でも、本当に何にもないね」
 母さんが現地に用意してくれた拠点、マンションの一室。
 生活家財が全然無い。
「嫌がらせ、ここに極まりだね。 これでどうやって生活しろってんだ!? 鬼ババァ!」
「母さん、もう呆けが始まったのかな?」
「違うよ、フェイト! 絶対、嫌がらせだって、これ! 冷蔵庫すら無いんだよ!?」
「母さん、家事能力皆無だから、そこまで思い至らなかったんだね…」
「ああ、もう! どうしてそんな良いように取れるんだい!」
「アルフが被害妄想強すぎ。 “渡る世間に鬼は無し”だよ」
 まったく。 そんな風に考えるなんて、アルフはまだまだ子供だね。

 近くのコンビニで買ってきた軽食を済ませると、呼び鈴が鳴った。
「だれだろう?」
 小走りで玄関に向かう。
「フェイト! こんなところに訪ねてくる知り合いなんて居ないんだから、少しは警戒してっ!」
「大丈夫だよ、アルフ。 きっとお隣さんだよ」
 ドアを開けると、そこには私ぐらいの歳の女の子が立っていた。
「よかったー。 やっと会えたよー」
「…だれ?」
 この時、私は迂闊にドアを開けたことを、少し後悔した。
 見知らぬ女の子が開口一番、訳の分からないこと言ってきたから。
 “この子、話が通じないかも知れない”
 そんな懸念が頭をよぎる。
「あ、私、高町なのは。 小学三年生…って分からないか。 8歳だよ。 よろしくね」
「う、うん、よろしく」
「ねっ、ねっ、あなたの名前教えてっ!」
 戸惑う私を余所に、身を乗り出して聞いてくる。
「え、えっと…、どうして?」
「えっ? お友達になりたいからだよ?」
 さも当然のように答える目の前の変な女の子。 ますます訳が分からない。
「お友達?」
「うん、お友達。 そしてお友達になるには、まず名前を呼び合うことから始めるの。 だから私のことは“なのは”って呼んでね、フェイトちゃん♪」
 ドキッ…。
 なんだろう? 名前を呼ばれたとたん、胸の奥が変な感じになった。
 でも、嫌な感じじゃない。 ぽかぽかしてきて、むしろ気持ちいい。
 私、いままで友達なんていなかったからよく分からないけど…、こんな気持ちになれるなら! 
「うん! なろう! 友達に! 私はフェイト。 えっと、フェイト=テスタロッサ。 これでいいかな、なにょは」
 …かんじゃった。
「あはは、それじゃヴィータちゃんだよ。 なのは。 もう一回呼んでみて」
「う、うん、…な、な、なのは」
「うん、完璧。 フェイトちゃん」
 なのはの満面の笑みが、私も嬉しかった。

「それで? この世界の魔導師が、うちのフェイトに何の用だい?」
「も、もう、アルフ。 そんな態度は失礼だよ。 ご、ごめんね、なのは」
「にゃはは、気にしないで。 突然で怪しいのは自覚してるから」
「ううん、なのはは全然怪しくない。 変なだけだよ」
「…あれ? …いけないいけない、舞い上がり過ぎちゃってるね私。 にゃはは」
 あの後、友達になったなのはを部屋に招き入れたんだけど、アルフがさっきからずっと威嚇してる。
 なにが気に入らないんだろう?
「とりあえず、友達になりにきたっていうのが一番の目的なのは本当だよ。 だから、アルフさんも」
「…」
「ほ、ほら、アルフ。 そんな恐い顔してないで、ちゃんと呼んで友達になろうよ」
「フェイトがそう言うんなら…。 ん、なのは。 …これでいいかい?」
「うん。 アルフさん。 これで5人全員、お友達だね」
『Yes. Master』
『Yes. Nanoha』
 こうしてみると、気付いていなかっただけで私にもたくさん友達がいたんだね。 アルフ。 バルディッシュ。

「そ・れ・で? 二番目の目的ってのは何だい?」
 ちょっといらいらした様子のアルフ。
「えっと、それはね…。 レイジングハート、お願い」
 そして現出する青い宝石…。 これって確か…。
「ジュエルシード!」
 先にアルフに言われちゃった。
「あんた! 時空管理局だったのかい!?」
「ううん、違うよ。 今はまだフリーだよ」
「じゃあ、あんたもそれを狙ってるのかい!?」
「それは“うん”かな。 ユーノ君に…えっと、持ち主に…、あれ? 持ち主は管理局になるんだっけ? ま、いいや。 とにかくユーノ君に返してあげないと」
「ふん! ずいぶんとイイ子ちゃんじゃないか。 でもね、こっちもそれを必要としてるんだ。 大人しく渡すってんなら、悪いようにしないよ」
「必要なのは知ってるけど、渡さないの。 悪いことには使わせません」
「は? なに言ってんだい、あんた…」
「とにかくね、今日はそのことで話し合いに来たの。 それが二番目の目的」
「ああ、もう! ごちゃごちゃとうるさい! こうなったら力尽くで…」
「うるさいのはそっちなの!」

 アルフの喧嘩腰の態度にオロオロしてたら、いつの間にかアルフが吹き飛ばされてた。

「す、すごい、なのは。 今の魔法、ものすごい魔力を感じたよ!」
 アルフもそれなりに強いのに、一発でやられちゃってる。
「あっ。 ご、ごめん、フェイトちゃん。 思わず手が…。 アルフさん、ノックアウトさせちゃった」
「気にしないで、なのは。 さっきのは先に手を出そうとしたアルフが悪いから」
 それに、ちゃんと躾けてなかった私の責任でもあるし。
「それより、なのは。 今のすごいね。 魔力も凄いけど、展開速度もすごく速かった。 私の母さんと同じぐらいだよ!」
「えっ、それ本当?」
「うん、母さんと同じぐらい化け物じみてた」
 私はまだまだ母さんに敵わない。 構成が巧さが、さすが年の功。
「…あれ? …いっけない。 また有頂天になって、ちゃんと聞いてなかったよ。 にゃはは」
 聞いてなかったって、何を?
「でも、プレシアさんと同じぐらいって本当? フェイトちゃん」
 なんだ、ちゃんと聞いているじゃない。 やっぱりなのは、ちょっと変な子。
 とりあえず、コクコクと頷く。
「そっか、じゃあ今すぐでも通用するかも。 自分がどれぐらい強いか分からなかったから、フェイトちゃんと模擬戦してからって思ってたけど」
「なのは?」
 なんだか考え込むように呟いて、ますます変な子に見えるよ。
「ねえ、フェイトちゃん。 今すぐプレシアさんに会えないかな? ほら、これ。 私の持ってるジュエルシード、全部あげるから。 これお土産にして、ね? お願い!」
「う、うん、別にいいよ。 でも、いいの? ジュエルシード、持ち主に返さなくても?」
 さっきはそれでアルフと喧嘩してたのに。
「うん、大丈夫! そこはプレシアさんとお話しして説得してみせるから!」
 ムンッ!とレイジングハートを握りしめてガッツポーズするなのは。
 本当に変な子。
 …でも、一緒にいてなんだか楽しい。 私の新しい友達。 母さんにも紹介してあげたい。
「わかった。 じゃあ、行こう、なのは。 母さんのところへ」
 きっと楽しいことが起きる。
 そんな期待が、私の中に溢れていた。



[13431] B型H系の山田が、ギャグ系ダメなのはに変換されて仕方ない
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/04/13 11:59
機動六課の健康診断にて。

「身長164cm、体重43kg、座高87cm。 はい、なのはちゃん、OKよ」
「よっしゃー! 完璧なボディサイズ!」
「次、フェイトちゃんね」
 ぽよよ~ん。
 ゴゴゴゴゴゴ…。
「…ふーん、おっきいね、フェイトちゃん。 Fカップだっけ?」
「な、なんか、笑顔が恐いよ、なのは。 でも、大きくても戦闘の邪魔だし、私もなのはみたいに慎ましやかな胸の方が良かったよ」
「…今度から、エフトちゃんって呼んでいい?」
「な、なんで!?」
「それやったら、ヴィータはエータって呼ばなあかんな」
「ちょっ! はやて! 私を引き合いに出すなー! うわぁーん!」

//

 完全にネタです。
 本編とは関係なし。



[13431] こらーっ! 闇の書の転生機能! 責任取れーっ!(追記)
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/08/17 19:38
「「「おはようございます。 シスターリイン」」」
「おはようございます、みなさん」

 私の名前はリインフォース。
 夜天の書の管制人格です。
 紆余曲折あって、今ではベルカ教会でシスターとして働いています。
 私は人間ではなくデバイスですが、それに関係なく慕ってくれる部下や同僚も多く、充実した毎日を送っています。

「シスターリインって、やっぱり素敵だよねぇ」
「うんうん。 いつも凛として、それでいても、こう優しさがにじみ出ている感じで」
「そうそう。 頼れるお姉様みたいな」

 でも、この手の熱っぽい視線はちょっと苦手なのですが…、闇の書の時分の頃から考えると、過ぎた悩みでしょうか?
 ふふっ。 私に今の人生を与えてくれた主には、感謝しきれませんね。





 なんて、心にもないことを考えてしまったせいでしょうか…。

「あ、いたいた。 リインフォース」
「あ、主っ!? なぜ教会に!?」

 現・夜天の書の主こと、八神はやてが目の前に…。
 いえ、主だけではありませんでした。
 その後ろにはなぜか、ヴォルケンリッターも…。

「いやな? なのはちゃんが模擬戦しよっかって誘うてくれてな?」
「模擬…戦…ですか?」

 嫌な予感がします。
 いえ、嫌な予感しかしません。
 主たちは機動六課の訓練場で、毎日のように模擬戦をしているはずです。
 …無手で。
 それなのに、私にまで声を掛けてきたと言うことは…。

「しかも久々にデバイス使うて全力でや。 楽しみやろ?」

 私はきびすを返し、脱兎のごとく逃げ出しました。


 ◇


「嫌です! 絶対、嫌です! 模擬戦なんてしません! ぜーったい、ここから離れません! この柱とユニゾンして、教会の一部になります!」
「あきらめろ、リインフォース。 どうせ逃げられない」
「シグナム、そんな格好で言っても滑稽なだけよ…」
「くそっ! なんで四人がかりで勝てねぇんだよ!」
「……」

 私は柱にしがみつき、そして自らをその柱にバインドで縛り付けて抵抗します。
 ついでに私を捕らえようとした裏切りの騎士たちも、同様に縛り付けてやりました。

「なんや、なにが不満やの? 久しぶりやねんで? 全力での模擬戦は」
「だから嫌なんです! あれで平気な主が異常なんです! もう少し、デバイスを労ってください!」

 主を含めたエース3人の模擬戦は、ほんっっとうにデバイス泣かせです。
 魔法を多重展開するわ、魔力をオーバーロードさせるわ、格闘で相手に打ち付けるわ…。
 主より先に音を上げてしまう私が、デバイスとして情けないです。

「そ、そういえば、そう! レイジングハート! あの子も模擬戦を嫌がっていたはずです!」
「残念、今回はそのレイジングハートからのお誘いや。 なんでも、なのはちゃんを少しでも自重させたいが為やて。 あと、クロノの愚痴はもう聞きたないとか言うてたな?」

 レイジングハート…。 あなたも苦労しているんですね…。

「じゃ、じゃあ、バルディッシュは? あの子も…」
「あの子はフェイトちゃんに忠実やんか?」
「ですよねー」

 四面楚歌です。

「んーっと…、えーっと…、アレ…、ほら、あれ。 あ、訓練場! そうですよ、訓練場! 使えないはずでしょ? 前に派手に壊しすぎて出入り禁止になったじゃないですか?」
「心配あらへん。 クロノが張り切って無人世界の利用許可出してくれたわ」

 あんのクソ提督ーっ!!!

「ほな、行こか。 なのはちゃんもフェイトちゃんも待っとるしな」
「くっ、いくら主の頼みでも私はここから動きませんよ」

 バインドに魔力を送って強化します。
 これでそう簡単にブレイクは出来ません。

「ま、待て、リインフォース! バインドが太く…、ぐっ」
「あーっ! この馬鹿融合機っ! 締まるっ! 締まるーっ!」
「痛い! 痛いから、リインフォースちゃん! 落ち着いてーっ!」
「くっ、ブレイクできない」

 私自身も少し苦しいですが、模擬戦よりは…。

「あー、こら随分と強化したなぁ。 私でもこれ解除するんは骨やわ」
「主、まだまだ強化できますよ。 ですから諦めて…」
「ま、でも、関係あらへんけどな。 ほいっと、強制ユニゾンイン!」
「えっ?」

 柱にしがみついていると思ったら、いつの間にかユニゾンしていた。 何を言っているのか解ら…。

「ああああ主っ!? どうしてユニゾン出来るんですか!? 私、ユニゾン拒否ってましたよ! 拒否ですよ! 拒否! 拒絶! それはもうATフィールドの如く!」
「ちょっ、リインフォース。 身体の中で喚かんといてぇな…」

 確かにこうすればバインドなど関係なく私を連れて行けますが…、ユニゾン“させる”なんて、どんな非常識!
 ユニゾンはマスターとデバイス、両方が合意し、協力しなければ出来ないはずです!

「これが喚かずに居られますか! ユニゾンって強制に出来るもんじゃない…はず…ですよね?」
「いや、現に出来てるやん。 私も本見るまで知らんかったけど」
「あの…、本、とは?」
「ベルカの融合機について書かれた本や。 教会の図書館の、ほら、鍵の掛かった扉あるやろ? その中の書架あったやつ」
「そ、そこは禁書の置かれた部屋ですーーーーーーっ!!!!」

 主! 傍若無人すぎます!
 それが嫌で…、それが元で発生するトラブルに巻き込まれるのが嫌で、みんなとは違うベルカ側に就職したのに…。

「ま、ええやん。 ほな、行くで」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」
「諦めろ、リインフォース。 主からは逃げられない」
「ベルカに逃げるより、機動六課にいた方がよかったんじゃねぇか? ほら、生け贄が多い分、トラブルが分散される…こたぁねぇか」
「そうね、なのはちゃんはユーノ君が、フェイトちゃんはプレシアさんが防波堤のはずなんだけど…」
「いつも簡単に決壊しているな。 主を抑えるべき我らも含めて…」

 あー、もう、今度はもっと遠くに逃げる! 逃げてやる!


 ◇


 後日、機動六課のオフィス。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、いらっしゃいです」
「こ、こんにちは、リイン。 はやてちゃん、居る?」
「はいです。 ご案内しますです」

 リインははやてちゃんの補佐として、りっぱに仕事をこなしているです。
 今もちゃんと応対出来たのですよ。 えっへん!

「あれ? なのはちゃんにフェイトちゃん…、って、もう定期報告の時間か。 気付かんかったわ」
「うん。 特に異常なしだから、書類、適当に目を通して判子押しておいてね」
「ほいほいっと。 あ、ついでやし、お茶していかへん? リイン、人数分お願いや」
「了解です、はやてちゃん」

 ふふふ、リインの入れるお茶は超一流なのです。
 いつもみんなから、「えらいね」って褒められるです。

「ね、ねえ、はやてちゃん。 リインフォース、まだ治らないの?」
「うーん…。 ちょっと刺激が強かったみたいでなぁ。 シャマルもお手上げなんよ」
「母さんも人格プログラムにエラーは無いって言ってた。 性格は変わったけど正常値だって」

 向こうから何か話しているのが聞こえてきますが、内容がよくわかりません。
 リインはまだこの仕事に就いて日が浅いですから、難しい話は苦手なのです。
 はやてちゃんをしっかり補佐できるように、頑張って勉強しないといけないのですよ。

「絶対、なのはちゃんの砲撃が引き金やって。 身動き出来へんようにしてから撃ち抜くんやもん」
「そんなことないよ。 フェイトちゃんの弾幕の方が酷かったよ。 絶対」
「はやてがそれを魔力任せで、真正面から受け止めたのが原因だと思う。 いくら防御が堅くても、あれは…」

 カシャン!
 あ、うっかりカップを落としてしまったです。
 …あれっ? なぜか手が震えて…、持てないです?
 でも、リインはこれぐらいではへこたれないです! リインは強い子です! 負けないです!

「あっ。 (ヒソヒソ)と、とにかくや。 前の模擬戦の後、幼児退行してもうたリインフォースやけど、時間が解決するんを待つしかないみたいなんや」
「(ヒソヒソ) 母さんも無理に戻そうとすると、フラッシュバックでもっと酷くなる可能性もあるって言ってた」
「(ヒソヒソ) ベルカ教会からの抗議も引っ切り無しだし…。 早く元に戻ってくれないかなぁ」

 大事な話が始まったみたいです。
 リインはまだ、機密情報とかを聞ける身分じゃないですから、内緒話なのは仕方ないです。
 除け者にされたみたいで寂しくても、ぐっと我慢です!
 泣き顔はダメです! いつも笑顔で!

「みなさん、お茶が入ったです。 あと、なのはちゃんの持ってきてくれたシュークリームも付けたのです」
「ごくろうさん、リイン。 って、リインの分があらへんやん。 リインもこっちで一緒に飲もうや」
「わかりましたです、はやてちゃん。 カップ持ってくるです」
「あ、リイン。 シュークリームは1個余分に入ってるから、リインが2個食べてね」
「いいんですか? ありがとうです、なのはちゃん」
「うん、今日のお茶もとってもおいしいよ。 えらいね、リイン」
「えへへ、照れるのです、フェイトちゃん」

 ここ(機動六課)のみんなは、とっても優しいです。
 リインフォースは主のはやてちゃんの側で、しっかりと頑張っていくです。


//

 リインフォース・ツヴァイは、史実通りに誕生?

 誤字、修正しました。
 このリインフォースはおっきいままです。



[13431] この士郎さんは、CV:杉田智和のイメージで(アリサは能登麻美子)
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/08/17 19:42
「やあ、いらっしゃい、ユーノ君」
「こんにちは、士郎さん。 今日もよろしくお願いします」

 今、私の目の前にいる、この青年。
 名をユーノ・スクライアと言う。
 日本人らしからぬ髪の色と瞳を持つ彼は、昔、とある事件のおりに我が家に下宿させた事で縁が出来た異世界人である。
 そう、異世界人。
 外国人でも、宇宙人でも、未来人でもない、正真正銘の異世界人である。

「時にユーノ君。 なのはは向こうで元気にやっているかね?」
「ええ、とても元気ですよ。 今月も検挙数でトップです。 始末書の数もトップでしたが…」
「そ、そうか…」

 末娘は蝶よ花よと育てたはずなんだが…。

 さて、ここで末娘こと、なのはについて少し説明しておこう。
 実は末娘は魔法使いである。
 幼い頃から、宙に浮いたり、怪我を治したり、身体を強化したりと、不思議な力を実にうまく使いこなしていた。
 …おかげでいろんな武勇伝が増えていってしまったのだが。
 そして何時しかなのはも成長し、異世界にある時空管理局というところに就職。
 治安を守る魔導師として、日々犯罪者を取り締まっているのである。
 ちなみにユーノ君も魔法使いであり、なのはと同じ管理局に勤めている。
 だからこうして彼が訪ねてきてくれると、なのはの近況が聞けるというわけだ。

 なのはは最近、帰省はおろか、電話や手紙さえなおざりになってきているからなぁ…。

 閑話休題。

「さ、さて、さっそく始めるとしよう。 ユーノ君、向こうでもちゃんとトレーニングは続けていたかい?」
「もちろんですよ。 なのはに勝つまでは休んでなんていられません!」
「あ…、うん…、その…、なんだ…、それはもういいんじゃないかな? なのはとはそこそこ遣り合えるようになったんだろう? もう振り回されることも…」
「それじゃ駄目なんです! 勝たないと…、強くならないと駄目なんです!」
「いや、無理に勝たなくても…。 そ、それより、なのはとはうまくいっているかい? デートに行ったりとか…」
「そんなこと、どうでもいいじゃないですか! それより、はやく始めましょう」

 どうでもいいわけ無いわー!
 親としては気が気で無いんじゃー!
 何のために門外不出の御神の技を教えてやってると思っとるんだー!

 なのはが8歳だった当時、まだ少年だったユーノ君を突然うちに連れてきたときは、桃子と二人して大変驚いたものだった。
 しかし、すぐに諸手を挙げて喜び、彼の来訪を歓迎した。

 なぜならユーノ君がね、なのはにため口で話していたんだよ。 年相応の口調で。

 言っとくけど、これはね? 本当に凄いことだったんだよ?
 あの頃は武勇伝のせいで、同級生はおろか、教師もまでも敬語を使っていたし、翠屋FCのメンバーなんか、なのはが応援に来るとわざわざに挨拶に行くほどだったんだ。
「わざわざ応援に来て頂き、ありがとうございます!」って。
 あの頃は、なのはの将来が本気で心配だったさ。

 そして、そこに現れた一人の少年。
 目には強い意志の光を宿し、それでいて性格は穏やかで、実に礼儀正しい。
 そして、なのはと同じ魔法使い。

 もうね、なのはを任せられるのは彼しかいないと確信したさ。
 少なからず、なのはに好意を持っていることも見て取れたし、桃子と一緒に二人の仲をサポートしまくったさ。
 彼のレイジングハートを壊したり、奪い取る結果になってしまったりしたときなんかは非常に焦ったけど、諦めずに必死に取り成したさ。
 そして、レイジングハートのおかげでますます破天荒な性格になったなのはがユーノ君を振り回していたので、抵抗できるよう、御神の技を教えて、鍛えてやることにしたさ。
 門外不出の件も、くっついてしまえば問題ないさ…、と。

「ユーノ君。 人生に潤いは必要だよ。 若いうちは遊ぶこともしないと。 と、いうか、ぶっちゃけ、なのはに色を教えてやってくれ。 そして、貰ってくれ。 頼む!」
「ななな何を言ってるんですかっ! いい、今はまだ修行中の身です! それより、父親としてその発言はどうなんですか!?」
「ノープロブレム!」

 笑顔でサムズアップをユーノ君に返す。
 真っ赤になってる彼を見るに脈は大いにあることは確かなのだが、意地っ張りなところがあるからなぁ。
 勝つまでなのはに手を出さないとか、そんな誓約を自分に設けたのかもしれん。

「まあ、なんだ。 なのはが気に入らないなら美由希でも…」
「さ、稽古を始めましょう、士郎さん。 僕は早くなのはに勝たないといけないんです」

 くくく、分かり易い。
 ふむ、もう一押しというところかな?
 今度、ユーノ君の稽古日に合わせて、なのはをこっそり実家に呼びつけるか。
 桃子に手伝ってもらって、“若い男女が風呂場でばったり!? いや~ん、H! でも、ドキドキする…”作戦を実行に…。

//

 なのはの結婚に積極的な士郎さんです。
 恭也と美由希は山籠もり中。
 士郎の発言と同じ時間にクシャミをしたとか…。



[13431] 魔王の親は魔王、子は親を写すクローン その1
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/11/01 17:27
「あ、あの…、お母さん…。 少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「あら、なのは。 それは構わないけど…、それよりレイジングハートのこと、ちゃんとユーノ君に謝ったの?」
「う、うん。 それはもちろん、ちゃんと謝ったの! ユーノ君にも、レイジングハートにも、ちゃんとごめんなさいって…」
「そう。 なら、お母さんからは言うことはないわ。 それで、聞きたい事って何?」
「あのね、フェイトちゃんって友達がいるんだけど…」

 娘のなのはから相談されたこと。
 それは悲しくて寂しい親子の話…。
 この儚い二人の関係に、愛情を取り戻してあげたい。
 母親に娘を慈しむ心を…。 娘に母親の暖かさを…。

 まだまだやんちゃでお転婆な子供だと思っていたけど、いつのまにか人のことを思いやれるほど成長してたのね。
 うん! まかせておきなさい!
 この桃子、伊達に高町家の母親やってないわよ。 ふふふ…。

 ◇

「あ、なのは。 いらっしゃい」
「こんにちわ、フェイトちゃん。 あの…、プレシアさんの様子…、どう?」
「小娘がまた来たの? 人形に用なら、別の部屋でしてちょうだい。 誰かのおかげで、私は非常に体調が悪いから」

 娘の魔法でやって来たところは、どこかうら寂しげな感じのする庭園。
 そして、犬のような耳と尻尾を付けた女性に案内され、通された寝室。
 そこに居たのは、ベッドで横になっている中年の女性と、その側にたたずむ少女。

 ベッドの女性が母親のプレシアさんで、こっちの女の子がフェイトちゃんね。
 うーん、プレシアさんの方はかなり剣呑な雰囲気だわ。
 まあ、娘のしでかしたことを考えると、仕方ないかしら。

「はじめまして、プレシアさん、フェイトちゃん。 娘のなのはが大変ご迷惑をお掛けしたみたいで」
「なのは? この人、なのはのお母さん?」
「うん、そうだよ」
「…すごい。 私の母さんと違って、ものすごく若いんだ」

 あらら…、この子、無邪気というか、天真爛漫ね。
 後ろでお母さん、青筋浮かべてるわよ。

「小娘の親が何しにきたのか知らないけど、謝罪なら結構よ。 とっとと帰ってちょうだい」
「申し訳ないけど、そういう訳にもいかないの。 娘の情操教育のためにも、きちんとお詫びさせて頂きます」

 ちょっと強引だけど、意固地になってる人を相手には、これぐらいが一番。
 そしてお詫びの品だと言って、持ってきたケーキ箱を前に掲げる。

「はい、フェイトちゃん。 これ、うちのお店で作っているシュークリーム。 自慢じゃないけど、ものすごくおいしくて評判なのよ」
「ありがとう、おば…さん? おばさま? おばさまなんて言っていいのかな?」
「あらあら。 それじゃあ、桃子さんって呼んでくれるかしら?」
「うん。 ありがとう、桃子さん。 えへへ、名前で呼んだから、これで桃子さんもお友達だね」
「ふふ。 そうね、お友達ね」

 私の同意にはにかみながら、明るい笑顔を見せるフェイトちゃん。
 こんなに素直でいい子なのに…。
 プレシアさんに巣くう根は深そうね。

「それでね、フェイトちゃん。 実は紅茶も持ってきているの。 なのはに持たせているから、シュークリームと一緒に召し上がって」
「あ、フェイトちゃん。 オープンテラスみたいに、お庭で食べようよ。 アルフさんもついて来て」
「う、うん。 ほら、アルフも」
「しょうがないねぇ」

 うん。 ちゃんと打ち合わせ通りに連れ出してくれたわ。
 ふふ、 手を繋いで連れ立つ3人を見ていると、つい頬が緩んじゃう。
 満面の笑みを湛えるなのはと、はにかみながらも喜色のフェイトちゃん。 そして、呆れながらも微笑んでいるアルフさん。
 仲の良い友達との、ごく普通の光景…。
 そう、普通の…、とても普通で…、とっても子供らしくて…、とーっても当たり前な…。
 ううぅ…、、ようやく…、本当にようやく…、なのはにも普通のお友達が出来たのね…。
 怖れられもしない、敬語も使われない、陰口も叩かれない、皮肉られることもない、普通の女の子のお友達が…。
 ユーノ君という普通のボーイフレンドも現れたことだし…、もう…、もう士郎さんと一緒に悩まなくてもいいのね…。

「ちょ、ちょっと、何泣いてるのよ? 気持ち悪いわね」
「えっ?」

 いけない、いけない。 頬だけじゃなく、涙腺まで緩んじゃったわ。
 それよりも、今は当初の目的。
 この目の前にいる頑固な分からず屋さんを説得してあげないとね。
 娘のこれからを想うことも大事だけど、その娘から頼まれたことを軽んじちゃいけないわ。

 さて…。 OHANASHIを始めましょうか。 ふふふ…。



[13431] 魔王の親は魔王、子は親を写すクローン その2
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/11/01 17:45
 な、なんなのかしら? この女…。
 この私に、こんなにもプレッシャーを感じさせるなんて…。
 仮にも、ミッドチルダに大魔導師として名を轟かせた私が、こんな魔力の欠片もない女に…。
 ふん、流石はあの小娘の親というわけね。
 いいわ。 何しに来たかは知らないけど、相手してあげる。

 人形が連れてきた、あの小娘…。
 人形が「母さんって友達居なさそうだから紹介してあげる」と言って連れてきた小娘。
 私に人形を愛せとほざいた小娘!
 娘と認めろとほざきながら、魔法と拳を繰り出してきた小娘!!

 その恨み辛み、親のあなたにたっぷりと返してあげるわ!!!

 ◇

「それで? 小娘と人形を外に追い出して、私と何を話したいのかしら? どうせ、お詫びなんて口実なんでしょ?」
「あら、わかっちゃいました? 実は娘に頼まれてるの。 あなたとお話しして欲しいって」

 あの小娘の頼み?
 どうせ、あの人形を娘と認めろとかいうんでしょ?
 戦闘中も、ずっとそればかり喚いてたし。
 ふん! 同じ親同士なら、説得できるとでも思ったのかしらね?

「なら、とっとと話しなさい。 どうせ時間の無駄でしょうけど」
「その前に、改めてごめんなさいね。 娘が乱暴してしまって」
「…まったくだわ。 どんな育て方をしたのやら」
「あれでも本当は優しい子なんですよ。 小さい頃は、とても大人しくて聡明で…」

 嘘だっ!って、声を荒らげそうになったわ。
 …ただ、その後に呟いた「赤ん坊らしくないほどに」って言葉が気になって、タイミングを逃してしまったけど。

「そういえばプレシアさんのお子さんの小さい頃って、どんな感じだったのかしら?」

 ちっ…、鬱陶しい…。

「…あれは人形よ。 私の娘じゃないわ」
「クローン…、だったかしら? たしか、アリシアちゃんの」
「あの小娘、よく聞き覚えていたものね」

 小娘と言い争っているうちに、つい暴露してしまった覚えがある…。
 アリシアのことも、違法行為のことも…。

「そうよ。 あの人形はアリシアのクローン。 似ても似つかない出来損ない。 失敗作。 あれを見てるとイライラする…」
「アリシアちゃんは、あんな感じの子じゃなかったの?」
「全然違うわ」

 声を荒らげ、否定する。
 比較されるだけでも、ムカムカする。

「じゃあ、いたずらっ子で、わがままで、全然笑わない子だったのかしら?」
「ふざけないで! どうしてそうなるのよ! アリシアはよく笑う子で、とても賢くて、お淑やかな子よ!」

 そう、27年たった今でも、アリシアのことなら克明に思い出せる。
 忘れて堪るものですか!

「じゃあ、うちのなのはみたいな感じの子だったのね」
「どこがよっ! …あなたの目、腐ってるの?」

 あんな乱暴者で、頭の悪そうな子と一緒にしないで欲しいわ。

「あら、酷い言い草ね。 でも、あの子もよく笑うし、頭も良いのよ。 それに、家のお手伝いもいろいろやってくれて、意外と家庭的な性格なんですよ」
「…信じられないわ」
「もう、ホント失礼ね」
「もっと言ってあげる。 それは親馬鹿の色眼鏡よ」
「うーん、それは否定できないかも」
「…親子ともども馬鹿だわ」
「それぐらいがちょうどいいんですよ」

 あっけらかんとした相手の言葉に呆れて、会話が途切れる。
 それを見計らって小娘の親が、魔法瓶に入っていたお茶をカップに注いでいた。
 コポコポと小気味よい音とともに、安らぐような茶葉の香りが漂ってくる。
 そして静かに差し出されるカップ。
 落ち着いた空気に流されて、私はそれを素直に受けとり、口を付けた。

「おいしい…」
「ありがと。 実はこれ、なのはが入れた紅茶なんですよ。 あの子が聞いたら喜ぶわ」
「ぐっ…。 こ、声を張り上げて喉がいがらっぽかったから、ちょうど良かっただけよ」
「ふふふ。 そうね、しゃべりっぱなしでしたもんね」
「…なによ、その顔」

 向こうのしたり顔から目を逸らし、今度はわざと喉を鳴らして嚥下する。
 喉を潤しただけだと、強く主張するように。

 …ちっ。
 悔しいけど、美味しい。
 あの小娘の入れた紅茶がなんかが…。

「ここまでになるまで、大変だったんですよ。 最初の頃なんか、リーフの量も抽出時間も大雑把に計るものだから、苦いのやら、渋いのやら、酸っぱいのばかり出来て…」
「あの小娘なら、そっちの方が納得しやすいわ」
「でも、それでも頑張った結果が、先ほどのプレシアさんの感想ですよ」
「…ふん。 アリシアならこの程度の味、すぐに出せるわよ」

 そう、あの子は頑張り屋さんだったから、これぐらい。
 でも…、そういえば、初めてアリシアが入れてくれたお茶も…、酷かったわ…。
 渋みしかなくて吹き出しそうになったけど…、それでも全部飲み干して…。
 おいしかったと伝えながら頭を撫でてあげたら…、あの子はすごく喜んで…。
 ふふふ、そうね。 そして思い出したわ。 あの時のリニスの言葉…。

『それ、全部飲んだんですか? はぁ…、プレシアも大概親馬鹿ですね』

「そう…。 わたしも…、親馬鹿だったのね…」

 意図せずそんな言葉が、私の口から漏れた…。



[13431] 魔王の親は魔王、子は親を写すクローン その3
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/11/01 17:28
「そして、そこからいよいよチーフのデレ期が始まるんですね!」
「デレ期って…。 シャーリー、あなた変なマンガの読み過ぎよ」
 チーフに思いっきりため息つかれた。
 でも変なマンガって、フェイトさんから借りたマンガなんですけどぉ?

 ◇

 軽く口を尖らせ、批難の目を向けた私こと、シャリオ・フィニーノ。
 機動六課の訓練シミュレーターのシステム更新で待ち時間が出来たので、チーフのプレシアさんとコーヒーを飲みながら休憩中。
 そして、二人っきりになれたその時を狙って、前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
 ユーノさんの日記公開事件の折に聞いた、チーフがなのはさんのお母さんに説得されたという時の詳しい内容を…。

 ◇

「じゃあ、その親馬鹿だって気付いた後も、まだツンだったんですか?」
「シャーリー…、後でOHANASHIしましょうか?」
「冗談です。 お話の方を、今、続けてください」
「そうねぇ、ツンとかデレとかそういうのはともかく、あの後は桃子といろいろ話したわね」

 そして、話してくれたいろいろの内容。
 一言で言えば、それは子供自慢大会。
 何歳の時に、立った! しゃべった! お手伝いした! とか、そんなこと。
 向こうが語れば、こちらは輪を掛けて語り返すといった感じで、時間を忘れてお互いしゃべり通した、と…。

「子供のことを話すのが、あんなに楽しいものだとは知らなかったわ」
「聞いてるこっちは辛いんですけど…」
「母親になれば共感出来るわよ」

 チーフの妙に勝ち誇った顔を、私は力なく睨み返す。
 掻い摘んで話してくれればいいのに、事細かに会話を再現しながら教えてくれるもんだから、もう…、なんというか…。
 自慢話を延々と聞かされるのは、苦行でしかありませんよ。
 しかし、こうしてしゃべりまくるチーフは、もうどこにでもいそうな、おば…、母親。
 目の前のこのおば…、人が、次元輸送船を強襲したって、想像できないなぁ。

「でも、アリシアの人生は短かったから、すぐに話すことが無くなってしまったの…」

 そういって、表情を曇らすチーフ。
 いえ、全然短くありません!
 私のコーヒー、アリシアさんの自慢話の間だけで、もう3杯目です!

「話すことが無くなって…、アリシアが亡くなったときの事故のことしか思い浮かばなくなって…、そして言葉を詰まらせているときに、桃子に言われたの」
「な、なんて言われたんですか?」

 ようやく…、ようやく一番聞きたかった話にたどり着きました。
 話の核心に近づいたため、自然と身が乗り出してしまいます。
 さて、どんな高度なカウンセリングが…。

「泣きなさいって。 アリシアが亡くなったことを悲しんで、思いっきり泣きなさいって、ね」
「へっ?」

 それだけ?
 って、うわぁ。 チーフ、ものすごい慈愛に満ちた顔になってる。

「驚いた? でも、本当にそれだけよ。 そして、本当に大声をあげて泣いたわ」
「…えっと…」
「アリシアが亡くなったときにね…、実は私、泣いてないのよ」

 チーフが語り始める当時の胸中。
 アリシアが亡くなったことを、自分のせいにして…、人のせいにして…、何かのせいにして、それに縋り付いて…。
 大魔導師として…、天才科学者として…、生き返らせることだけを考えて、その手段だけを探し続けて…。
 だから何もせず、ただ泣くだけなんて…、ただ悲しむだけなんて…、そんなこと思い至らなかったと。

「いつしか死んでいることさえも信じられなくなっていたけど…、何故か思いっきり泣いた後だと、驚くほど素直にアリシアの死を受け止められたわ」
「はあ、そういうものなのでしょうか?」
「さぁ? でも、私はそうだったみたい」

 ちょっと不謹慎ですけど、なんかがっかりです。
 それだけの事だったなんて…。
 もっと、こう、フェイトさんに借りたマンガみたいな、熱い言葉を交わすクライマックスシーンみたいなのを想像してたのに…。

「…何を期待していたのか知らないけど、そんなあからさまに肩を落とさなくてもいいじゃない。 それに、話はまだ終わってないわよ」
「まだ何かあるんですか? チーフのデレ期への道はもうゴールしたのに?」

 ちょっと拗ね気味に言葉を返す。
 もう子供の自慢話はお腹いっぱいです。 物理的にコーヒーでも。

「あなたねぇ…。 まあ、いいわ。 それよりフェイトの事よ。 フェイトの」
「フェイトさんの? 何を?」

 やっぱり自慢話ですか?

「あの子への蟠りを拭ってくれたのも桃子よ。 もの凄く強引な論法でね」
「論法? 蟠り?」
「話、ちゃんと聞いてた? あの子のこと、人形なんて呼んでつんけんとした態度を取ってたって言ったでしょ?」
「あー、そういえば…」
「あなたから話が聞きたいって言ってきたのに。 失礼よ」

 いや、だって…、今のチーフとフェイトさん見てると、二人の冷え切った関係なんて想像できませんもん!



[13431] 魔王の親は魔王、子は親を写すクローン まとめっていうかオチ
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/11/01 17:46
 シャリオの場合

「あ、居た居た。 母さん、シミュレータの調整終わった? もう、時間過ぎてるよ?」
「こら、フェイト。 ここではチーフって呼びなさいって言ってるでしょ。 でも、あら、ホント。 ずいぶん長く話し込んじゃったわね」

 噂をすれば影…。
 フェイトさん、ナイスタイミングです。
 チーフの親馬鹿っぷりに辟易としてたところなので。
 これ幸いにと、ゆっくりと伸びをしながら席を立つ。
 ほんの小さく出てしまったおくびがコーヒー臭い…。

「あれ、シャーリー? 眼鏡変えた?」
「けふっ…。 ぅわっ…、あ、あーっと、うん。 ちょっとイメージ変えようと思って…。 ど、どうかな?」

 タイミング良く話しかけられたから、おくびを気取られたのかと思ってちょっと焦った。
 けど…、えへへ、おしゃれに気付いてくれたのが嬉しいな。
 子供っぽいデザインから、シックでクールなものへ。
 チーフの怜悧な雰囲気に憧れて…。

「うん、変。 あまり似合ってないね」

 ピシッ…。

「こ、こら、フェイト! そう聞かれたときは本音を隠して、ちゃんと褒めるようにって、いつも言ってるでしょ!」

 ビシッ…。
 チーフも変だと思ってたんだ…。
 道理で何も言ってくれないわけだよ…。

「えっ? あっ! ち、違うよ、シャーリー。 シャーリーはそんなおばさんっぽい眼鏡より、子供っぽい眼鏡の方が可愛らしくていいって言いたかったんだよ」
「お、おば…、子供…」
「そうね。 シャーリーは年齢の割に童顔だから、私もその方が良いと思うわ」
「ど、童顔…」

 うふ…、うふふふふっ…。
 こ、このっ、クローンレベル以上の似た者親娘めーっ! うわーん!


 ◇

 プレシアの場合

 あの後、桃子とは旧来からの親友のようにおしゃべりを続けた。
 ふふ、こんなに楽しいのは久しぶりだわ。

「あ、あの、母さん? は、入っていいかな?」

 そうして話に花を咲かせていると、控えめなノックとともにフェイトがドアから顔を覗かせてきた。
 恐る恐るというより、おどおどとした様子に、罪悪感が後悔となって襲ってくる。
 こんなにも娘を怖がらせていたなんて…。
 本当に母親失格ね…。
 でも今からでも遅くないと、桃子は言ってくれた。

「ええ、構わないわ。 そばにいらっしゃいな、フェイト」

 だから微笑み、そして手招きする。
 抱きしめ、安心させるために…。 そして、慈しむために…。

「う…、うん!」

 すこし戸惑いを見せたけど、すぐに溢れんばかりの笑みを浮かべて駆け寄ってくるフェイト。
 私はそれを、ぎゅっと抱き寄せる。

 ああ、こんなにも簡単なことだったんだ。
 子供を愛するのに、難しい理屈や感情なんて必要なかった。
 ただ抱きしめるだけで良かったんだ。

 私の胸の中に顔を埋めるフェイトを見て、強く誓う。
 これからは母として、絶対あなたを護っていく。
 心も、身体も、あなたのすべてを…。

「母さん、ちょっと臭い…。 今日はちゃんとお風呂に入って」

 …護る前に、教えることがあるようね。


 ◇

 桃子の場合

「お母さん、プレシアさんとどんなお話してたの? 外まで笑い声が聞こえてたよ」
「あら、そんなに騒がしかった? 何を話してたかは、家に戻ってから教えてあげるわ」

 さっきまでドアのところで、アルフさんと一緒に大口開けて呆けていたなのは。
 フェイトちゃんがプレシアさんに抱きしめられたあたりで、ようやく我に返ったみたい。
 ちなみに、アルフさんはまだ呆けたまま。
 そんなに意外なのかしら? いまのプレシアさん。
 それより、フェイトちゃんって結構…、うーん…。
 今までほったらかしにしていた分、頑張ってね、プレシアさん。

「桃子、今日は本当にありがとう。 もっとゆっくりしていって貰いたいんだけど、ちょっとこれからこの子とお風呂でコミュニケーションとってくることにするから」
「ええ、ぜひそうしてあげて。 また遊びに来ますね。 次来るときは、いろいろ話題が増えていそうですし」
「ふふ、そうね、今から楽しみだわ。 その時に、また改めて御礼させてもうらうわね。 アルフ? こら、アルフ! ぼーっとしないの。 お客さんをちゃんとお送りしなさい」
「あっ、待って。 私もフェイトちゃんと一緒にお風呂入りたい。 プレシアさん、フェイトちゃん、お泊まりしちゃ、だめ?」
「だめよ、なのは。 今日は邪魔しないの。 それじゃ、プレシアさん、フェイトちゃん。 またね」
「うう、残念。 またね、フェイトちゃん、プレシアさん」
「うん、またね、なのは、桃子さん」
「今度は泊まりの予定で準備しておくわ。 またね、桃子、なのは。 じゃあ、アルフ、頼んだわよ」
「あ、ああ、わかったよ。 って、なんか調子狂うよ、これ。 まったく…」

 ふー。 これで、なんとかなのはの頼みを聞いてあげられたわね。
 なのはにも私にも新しい友達が出来て、これからがとても楽しみだわ。

 でも、その前に…。

「なのは。 ちょっとOHANASHIがあるの…。 いいかしら?」
「な、なに、お母…さん? …な、なんか寒気がするけど…」
「あなた、プレシアさんにすごーいことしたんですって?」
「え? えーっと、すごい事って、どんなことでしょう?」
「具体的には…、そうね、プレシアさんに拳で語ったんですって?」
「にゃ!? そ、それは、必要に迫られたと申しますか…、えっと、その…」
「私はそんな乱暴な子に育てた覚えはありません。 帰ったらじっくりOHANASHIしますからね」
「にゃーっ!!! それ絶対、お話じゃない気がするのーっ!!!」

 あら、ちゃんとOHANASHIよ。
 それじゃ、アルフさん。 家までお願いって、あれ、アルフさん?
 どうしたの? そんな隅っこで震えて?



[13431] 馬鹿はどこまでも感染する(追記)
Name: inimani◆f46f48f0 ID:668807b1
Date: 2010/11/04 11:44
「エリオちゃん、はい、これ。 着替えや洗面用具はこのリュックに入ってるから。 あ、お財布とか貴重品はこっちのポシェットよ。 酔い止めのお薬とか絆創膏も入っているから、ちゃんと腰に巻いておくのよ。 あ、ほら、水筒もちゃんと肩に掛けて」
「エリオ。 車の用意が出来たぞ。 土産や他の荷物はもう積んである。 さあ、出発するぞ」
「あー! もう! 父さん! 母さん! いい加減にしてよ! もう子供じゃないんだから付いてこないで! 車もいいから!」
「何言ってるの。 お世話になってるんだから、ちゃんと挨拶に伺わないと先方に失礼でしょ。 常識のない親だと思われたら、エリオちゃんに恥をかかせちゃうじゃない」
「そうだぞ。 それに電車なんて危ない。 あんなに人混みに溢れてたら、スリにあったり、押し出されてレールに落ちたり、ましてや誘拐なんてことも…」
「いやー! 絶対ダメよ! そんなの許せないわ! 車よ! 絶対に車にしなさい! あなた! この車は安全なんでしょうね?」
「当然だ! 魔法は疎か、質量兵器、BC兵器からも完全防備の特別車だ。 乗り心地も保証するぞ」

 だれか、この馬鹿親を何とかしてください。

 ◇

 エリオ・モンディアル。
 それが僕の名前。
 僕は造られた存在…。 人工魔導師…。 クローン…。
 造られてから、何も知らずに過ごした本のわずかな間の親子ごっこ…。
 やがてやってきた怪しい奴らに、違法を出しに引き離され、連れ去られた…。
 研究施設で強いられる過酷な人体実験…。
 しかし、それもすぐに終わりが来た。
 助けられたのだ。
 モンディアル家の財力を持って雇い入れた傭兵団…、を、引き連れた両親に!

 いや、あの…、父さん? 母さん?
 確か、リンカーコア持ってなかったよね?
 父さん、その手に持ってるのは? 質量兵器ですか…、そうですか…。
 その身体に巻き付けている弾帯? そんなの、物語の中でしか見たことないよ。
 母さん、抱きしめてくれるのは嬉しいけど…、その…、タクティカルベストに入ってるシェルが当たって、ちょっと痛い…。

 そして僕はいろいろなものを見なかったことにして…、母さんの腕の中で大いに泣きじゃくった。

 ◇

「クローン? それがどうした! そんなの、ただの細胞分裂技術じゃないか!」
「そうよ。 その細胞も、元を辿れば私とお父さんの愛の結晶に行き着くんだから、エリオも間違いなく私たちの子供よ」

「人工培養? 母のお腹の中だろうが、外だろうが、それが何だというのだ!」
「エリオ、あなたはお腹に子を宿すことの出来ない人に、それを理由に諦めなさいなんて言える?」

「記憶転写? はっはっはっ、双子なら同じ記憶を持っていて当然なんだそうだ。 なぁ、母さん」
「そう、双子なら常に一緒に同じように育てますもの。 だったら思い出も同じになるでしょ? だから、あなたたちは双子。 そしてあなたは、弟のエリオ」

「兄弟で名前が同じ? こりゃしまったな。 まあ、今まで問題なかったし、これからも問題ないだろう」
「ええ、問題ないわ。 いい名前なんですもの。 同じ名前でも仕方ないことだわ」

「戸籍? そんなもの、金とコネでどうとでもなる!」
「それにこれ全部、執務官の方に手引きしてもらったことだもの。 お上のお墨付きよ」

 クローンをネタにされて僕を手放したのはずなのに、わざわざ助けに来てくれるほど心変わりした理由を問い詰めた結果がこれだよ。
 変わりすぎだよ! はっちゃけすぎだよ! 我が道突っ走りすぎだよ!
 でも正直、嬉しすぎだよ! ありがとう、父さん、母さん。

 ところで…、こんなやり方を教えてくれた執務官って、いったいどんな人なの?

 ◇

「初めまして、エリオ君。 私が本局の執務官、フェイト=テスタロッサ。 そして君と同じ、人工魔導師だよ」
「あ、はい。 初めまして。 …えっと、同じってことは、フェイトさんもクローン?」
「そうだよ。 私はアリシア姉さんのクローン。 エリオ君と違って、姉妹でも名前は別だけどね」

 綺麗な人だけど、子供心になんとなく残念だなって思った。

「と、言っても、そのクローン技術が“フェイト・プロジェクト”って名前だったから、フェイトって付けられたんだけどね。 母さんって、その辺が安直でデリカシーないから」
「えっと、あの…」
「えへへ、エリオ君とはクローン仲間で、適当な名前仲間だね」

 うん、すごく残念な人だ。 すごく綺麗な人なのに…。
 これがフェイトさんのファーストインプレッションだった。
 おかげで気兼ねなく話せたけど…。

 その後、しばらく話して、いろいろ知ることが出来た。
 まず、僕が助かったのはフェイトさんのお母さん、プレシアさんの御陰だとか。
 なんでも自身が完成させたクローン技術が裏の世界でひっそりと蔓延してると知って、その技術で造られた子供が酷い目に遭ってないか、片っ端から調べまくったとか。
 そして、その調査網に僕が引っかかったのだ。

「私はてっきりサボってネットサーフィンしてるのかと思ってたけど、本当はあちこちにハッキングしまくって、ずっと調べてたんだって」

 フェイトさんとの会話はツッコまないほうがスムーズにいくことを、この時に学習しました。
 閑話休題。
 なんでも、プレシアさん自身がクローンであるフェイトさんに辛く当たっていたとかで、そういう不幸をなくそうと精力的に活動しているらしい。
 そして、実体験として当事者の気持ちが理解できる故に、自らが僕の両親を説得して、今回の救出劇に相成った…、と。

 ありがとうございます。 僕を見つけてくれて。
 そして感謝します。 両親が助けに来てくれた時点で、蟠りなんかすべて吹き飛んでました。

 でも、今になって思うんです。
 プレシアさんがしたのは、“説得”じゃなくて“洗脳”だったんじゃないかと…。

 ◇

「エリオ君のお父さんにお母さん。 どうも、ご丁寧に。 それにお土産まで頂いてもうて」
「気にしないでくれ。 息子を預かって貰っているんだ。 これぐらいはさせて欲しい」
「ほんま、おおきにやわ。 六課の設立にもずいぶんと寄付してもろたし、こらエリオ君を贔屓にしたらなあかんな」
「あら、やだ、部隊長さん。 そこは厳しくしてやってくださいな。 かわいい子には旅をさせよ何て言いますけど、私たちだけだと、どうしても甘やかせてしまって…」
「それに、管理局に入りたいと言い出したのもエリオなのだ。 びしびし鍛えて、りっぱな局員にしてやってくれ」
「わかりました。 私が責任を持って一人前にさせてもらいます」

 非番の度に実家に戻らされ、休み明けは親と同伴出勤…。
 かと思えば、就職とかやりたいことは僕の意志を尊重して、度を過ぎない程度に応援してくれる…。
 そのさじ加減が絶妙で、それに愛されてるのがわかるから、家出したいほど嫌になれない…。
 親馬鹿以上、モンスターペアレント未満…。
 はぁ…。
 もう、ため息しか出ないよ…。
 そうさせたプレシアさんの手腕に…。

「そんじゃ、エリオ君。 私はまだ話があるさかい、先に隊舎に戻ってええで。 可愛い嫁さん達に、はよ姿見せたり」

 もう一度、ため息…。
 部隊長? そんなニヤニヤした顔しているとこ悪いけど、もう何度も言われて慣れちゃいましたよ、それ。

「ふむ、あの薄紅色の髪をした純情可憐で天真爛漫な娘か。 あれは素敵なレディーになるぞ」
「藤色の髪の、お淑やかで物静かな娘も可愛かったわ。 今からお義母様って呼ばれるのが、すごく楽しみ」

 そのイメージ間違ってるよ! 父さん母さんが見てるのは擬態だよ! それも身を守るためじゃなく、狩りのための! 二人は肉食動物で肉食昆虫だよ!
 僕の親の前以外だと、好意がもの凄くアグレッシブだよ! 将を射んと欲すればなんとやらだよ!
 はぁ…。
 三度目のため息。

「エリオ。 そんなに悩むこと無いぞ。 いざとなれば重婚できる世界に戸籍を移せばいい」
「義娘が二人も増えるの。 素敵だわ」

 いや、それを悩んでのため息じゃないんだけど…。
 まあ…、二人とも可愛いから…、それもいい…、かも♪



[13431] 後にDVD化
Name: inimani◆28fc2804 ID:668807b1
Date: 2012/04/13 17:27
「お姉ちゃん、もうやめようよ…。 私、もう恐いのやだよぅ…」
「うっさい! いいからちゃんと座って制御してなさいっ!」
「ひっ! うぅぅ…」

 …あっ!? い、いけない!
 幼い妹の泣き出しそうな顔に、はっと我に返る。
 計画の大詰めで気が立っているとはいえ、今のはさすがに大人気なかった。

「ごめん、今のはお姉ちゃんが悪かったわ。 …お願いだから、ちゃんと手伝って。 これで最後だから」
「ぐすっ…、ホント?」
「ええ。 本当よ」
「ホントにホント?」
「本当に本当」
「ホントにこれで最後?」
「うん。 最後」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃないわ」
「ホントに嘘ついてない?」

 涙を湛えた目でじっと見つめ、しつこく確認してくる妹。
 …そんなに私が信じられんのか、コラ!
 内心、かなりかちんと来たけど、とりあえず今はあやすことの方が先決…。

「あら、私がヴィヴィオに嘘ついたこと、あった?」
「……プッ」

 噴き出しやがったよ、このガキャアァ!

「えー、そんなのいっぱいあるよー」
「そこは“無い”って答えるところでしょ!」
「えへへー。 だってクアットロお姉ちゃん、お姉ちゃん達の中で一番嘘つきだもん。 姫姉様とは全然違うよー」

 ったく…。 ホンット小生意気になったわね。
 油断すると、こっちがやり込められそうだわ。

「お姉ちゃんは姫姉様より、あの悪い鎧の女の人だよ」
「言ってなさい! それとも、なに? ビーム撃つとき、“なぎ払え!”とでも言って欲しいの?」
「ブッ! あははははは! うん! それ、イイ! それやって!」
「じゃあビームを撃つヴィヴィオは、あのドロドロの巨神兵ってわけね」
「えー、なんでー!? 違うもん! 私、あんな気持ち悪いのじゃないもん!」

 そう言って、手足をばたつかせながら抗議してくるヴィヴィオ。
 それを軽くいなしながら、私は静かに息を吐く。
 ちょっとからかいすぎて膨れっ面だけど、さっきまでの泣きべそ顔よりはよっぽどマシだったから…。



 古代ベルカ戦争の遺物、ロストロギア『聖王のゆりかご』
 いま私たちが搭乗しているそれは、衛星軌道上をステルスで航行し、もう間もなく機動六課の直上へ到達する。
 作戦実行の刻限が近づくにつれ、次第に高まっていく緊張感。
 さっきまで拗ねてたヴィヴィオも、今は真剣な面持ちで聖王の座についている。
 制御も安定してるし、これなら失敗することもないだろう。

「お姉ちゃん。 真上に着いたよ」
「分かったわ。 じゃあ私が合図したら作戦通り、全力でぶっ放しなさい」
「う、うん」

 私はコンソールを操作し、ターゲットに照準を合わせる。
 モニターに大きく映し出されたのは、まだ真新しく綺麗な機動六課の隊舎…。

 全く…、見れば見るほどに忌々しい!
 あれだけ攻めて、突撃して、強襲しまくったのに、傷一つ付けられず…ってか、前回の襲撃なんて、あんたらんとこの色ボケ娘のせいで、逆にこっちが隊舎守る羽目になったんはどういうこっちゃ、ゴラァ!!!
 いきなりあんな馬鹿でっかい“竜”と“蟲”召喚して喧嘩し始めよってからに!
 ガジェット特攻させて怪獣共の気をこっちに引き付けてなきゃ、機動六課なんて今頃ぺちゃんこよ! ぺちゃんこ!
 だいたい、うちの妹もそこで働いてんのよ!
 生き埋めにでもなったら、どうする気よ!
 しかも、何? 喧嘩した理由が、男にいいところを見せたいがために張り合い過ぎた結果って、馬鹿なの? 死ぬの?
 虎の子のⅣ型が、こんな下らないことで全滅よ! チクショー!
 それにあんたら隊長も、止めるんならもっと早く止めなさいよ!
 誰が止めるかで、のん気にジャンケンなんてしてるんじゃないわよ!
 それに…、それにっ! それにぃぃぃぃっ!!!

「パンチ一発で蟲ぶっ飛ばして、それ見た竜が慌てて土下座って、どんなコメディよ、ソレェェエエエ!!!」

「お、お姉ちゃん! クアットロお姉ちゃん! いい加減、いきなり独り言で叫ぶのやめてよ! 不気味で恐いから!」

 妹にこんなこと言われるのも、全部あんたらのせいよ!
 フフフ…、もう何もかもぶち壊す!

「機動六課襲撃最終計画っ! 作戦名、全力全開っ! さあ、ヴィヴィオ! 薙ぎ払いなさいっ!」



 はぁ…。 どうしてこんな事になったのかしら…。
 たしか始まりは、ベルカ教会からもたらされた一つの予言…。

「3人娘は適度にガス抜きさせないと、爆発して管理局に牙を向くことになるぞ♪ あ、ベルカも人ごとじゃないから♪」

 こんな比喩もへったくれもない明確な予言に、ちょっとイラッとしながらも恐慌した両陣営。
 なぜなら“あの3人娘”は、“思い当たる片鱗”を、“すでにまき散らして”いたから…。

 駆け付け一番、ディバインバスター。
 怪しいと思ったら、サンダースマッシャー。
 しゃあないなぁと、デアボリック・エミッション。

 とりあえずで砲撃すんな!
 勘で逮捕すんな!
 もうええやんで吹き飛ばすな!

 なまじ、それで結果を出すものだから上も強く言えず、ただ小言を並べるだけ…。
 ただ彼女らにとって、それは“評価されずに説教された”という納得のいかないもの…。
 次第に高まっていくフラストレーション。
 そしてその煽りは犯罪者のみならず、管理局にも襲いかかってきた。

 模擬戦で崩壊する訓練場。
 ノリと勢いで引っ掻き回される現場。
 胃に穴を開けるクロノとリンディ。

 だからこそ、この予言には早急な対策が必要だった。
 特にエイミィが必死だった。
 そして、そこにもたらされた一筋の光明。
 家族を護りたい一心のエイミィが、第97管理外世界で観た娯楽番組をヒントに考え出した答え。

 それは『敵』を作ること。

 彼女らを一纏めにする隊を作り、それに宛がう悪役を用意し、計画された犯行で被害をコントロールする。
 要するに、予め決められた時間と場所で、思う存分に暴れてもらうというもの。
 当初『管理局戦隊ウミナリシュッシンナンジャー』などと、妙なテンションで説明しだしたエイミィだったために軽視されそうになったが、熟考すると誰もが最善策だと思い至り、採用されることとなった。
 そしてすぐに『敵』の選考が開始された。

 しかし、これは難航を極めた。
 災害レ…魔力レベル『S』ランクの彼女らの、ガス抜きに足る生け贄…敵にならなければならないのだ。
 それだけの力を持った魔導師は、そうそう居るものではない。
 いや…、居るには居るが、そんな貴重な人材を、こんな道化役に推挙するのは忍びない。
 一応2名ほど…、ギル・グレアム元提督と月村すずか女史が候補に挙がったが、…まあ、それは色々な理由で却下された。

 このまま暗礁に乗り上げると思われた計画…。
 しかし、ここで最高評議会がある決断を下す。
 後に英断と評されることとなるそれは、地位も名誉もすべて擲つ覚悟での決断!
 秘密裏にクローニングされていたアルハザードの遺児…、管理局の闇から生み出された『お父様』を公表し、『敵』に抜擢したのだ!

 …。
 …。
 …。

 はぁ、なんだか淡々と説明することに飽きて来ちゃったわ。
 それに走馬灯の中でも、疲れるものなのね。

 まあともかく、青天の霹靂で表立つ事になっちゃったお父様は、愕然としていたわ。
 でも内心では、ほくそ笑んでた。
 だって誰はばかることなく、世界を破滅させる準備が堂々と出来るんですもの。
 そして、管理局から提供されたジュエルシードでガジェットを強化した。
 聖王のDNAを入手し、クローンを作った。
 レリックを確保し、ゆりかご起動の目処が立った。

 でも、最新のガジェットは寝返りで破壊された。
 「不幸になりそうな子どもの気配がする」と言って涌いて出たプレシアが、育児のあり方を説教してきた。
 聖王のゆりかごは、賽の目状に切り刻まれた。

 …そう、ただいま絶賛分割中。 まさにバラバラ、細切れ、スクラップ。
 襲撃は失敗。
 成層圏からの…、しかも計画書を提出してない完全な奇襲なのに、なんで気付くのよっ!?

 ビームはすべて跳ね返され―――
   ―――「甘いわ! ATフィールドや!」
 地表まで引きずり下ろされ―――
   ―――「このぉ! ちゃっちゃと下りてきぃ! 卑怯もん!」
 ヴィヴィオの居るところだけ、輪切りにされ―――
   ―――「えっ? 何? 母さん。 ここは除けときなさいって? うん。 分かった」
 返す刀で、ジェネレーターごと真っ二つに―――
   ―――「えーっと、斬~艦~剣~! …で、合ってたっけ? はやて」
 暴走しそうなエネルギーは押さえ込まれ―――
   ―――「バッチリや、フェイトちゃん。 …あ、やばっ、エンジンまで逝っとる。 とりあえず石化や」
 まるで豆腐でも切るかのように―――
   ―――「フェイトちゃん、そのままもうちょっと細かく切って。 じゃないと、私でも粉砕しきれないのが残っちゃうかも知れないから」
   ―――「了解、なのは」
 そして、この世のすべての絶望をかき集めているかのような魔力の収束が―――
   ―――「受けてみて♪ これが私の全力全開♪ ホントにホントの全力全開♪ 今日は自重無しに全力全開♪ 誰にも怒られない全力全開っ♪♪♪」
   ―――「マスター! ちょっと待って! これ以上は! 私がっ! もち、ま、せ…」

 今、目の前にピンクの光が差し迫る―――
   ―――今際の際に思い浮かぶ、家族の顔…、思い出…。

 ねぇ、お父様…。
 お願い! 諦めないで!
「もういいんじゃないか?」なんて言わないで!
 あんたの仕事だろ! 最後までやり抜け! 私に押し付けんな!
 最近、襲撃してんの私ばっかじゃねぇか! クソ親父!

 ウーノ姉様…。
 家事ばっかしてないで、襲撃の指揮してよ!
 確かにヴィヴィオはイイ子に育ったけど、なんか違うよ!
 戦闘機人はメイドロボじゃないのよ!

 ドゥーエ姉様…。
 働け!
 爪にマニキュア塗ってる場合じゃねぇよ! それ武器だろ!
 あぁ!? 武器だから塗ってる? 男を釣る武器? オーリスと合コンに行く?
 あー、もう勝手に爪フェチでもゲットしてこいや!

 トーレ…。
 いい加減、部屋から出てきなさい!
 シスコンに振られたぐらいで、引き籠もってんじゃないわよ!
 別にヘンタイ男1人に振られたくらい…、えっ? 2人? もう1人も…、シスコン!?

 チンク…。
 いい加減にしないと、アニメ取り上げるわよ!
 いったい、今度は何にはまったの!? その眼帯は何のキャラの真似!?
 その野暮ったいコートも、見てるだけで鬱陶しいから脱ぎなさい!

 セイン…。
 どこに居るのか知らないけど、あんたは絶対許さないわ!!
 ISを使って隠し撮りした私たちの写真…、随分と良い値で売れたそうね? ふふふ…。
 精々、稼ぎが尽きるまで逃げ回っていなさいな。

 セッテ…。
 トーレの様子はどう?
 大変だろうけど、よろしく頼むわ。 あんただけしか、部屋に入れないし。
 …心なしか嬉しそうね? セッテ。 今のトーレの相手は大変なんじゃない?
 …なぜ、そこで赤くなる?

 ノーヴェ…。
 あんたは確かにあの女の遺伝子使ってるけど、だからって同じ男に惚れなくていいじゃない。
 もう結婚しているし、子供も居るんだから奪えるわけないでしょ!
 いい加減諦めて、こっちに戻ってきなさい!
 まったく…。 あんな親父のどこがいいのかしら…。

 ディエチ…。
 あのぉ、ディエチ…ちゃん? あなた、なんでそんなに鼻息荒いのかしら?
 あなたに「お姉様」って呼ばれると、寒気がするのはなぜかしら?
 そのワキワキさせてる手は何かしら?! なぜ私の後ろに回ろうとするのかしら?!
 ちょっ! こらっ! 寄るな! 触るな! 近づくな! 揉むな! 嗅ぐな! 抱きつくなーっ!
 イノメースカノンは股間に挟むものでも、突き立てるものでもないのよーっ!

 ウェンディ…。
 海に行きたい? 波が私を呼んでる? サーフィンは私の生き甲斐?
 じゃあ、行ってらっしゃいな。 別に止めはしないわよ? あんた馬鹿だから、居ない方が仕事やりやすいし。
 はぁ? 行き方が分からない!? 電車の乗り方教えて!?
 あんた、そこまで…、ああ、もう、ほら泣かないの。 この作戦が終わったら連れてってあげるから。
 ったく、ヴィヴィオより手が掛かるんだから…。

 オットー…、ディード…。
 あんたら確か管理外世界のどこかの道場へ、剣術か戦闘術の修行に行ったはずよね?
 それが、何で料理作ってるの? 何でケーキ焼いてるの?
 そもそも、何で機動六課でコックやってるのよ! せめて、こっちのラボでやるのが筋でしょ!
 はぁ? “高町父子、ギザあり得ない”? “ユーノさん、まじパネェ”? “すずか様… ガタガクガタガク…”?
 だから、何言って…、“桃子さん、テラ癒やし。 そこに逃げるのは当然”? いや、あんたら戦闘機人…、“あんな世界の魔王に挑もうなんてあり得ない”? 
 私らの存在意義否定すんなっ!










 ―――家族も記憶も、ろくなもんじゃネェェェエエエエ!!!


 叫びごとピンクの光に飲み込まれた。


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