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[13597] 真・恋姫†無双 ~袁紹伝~ 【完結】
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/12/03 22:43
注意
1)酷い原作レイプと思われる箇所があります。
  特に、劉備に関わる人々の扱いが酷い傾向があります
  (ほぼ別キャラです)。
2)一部R15の表現があります。
3)ストーリーは恋姫無双に近いですが、ほぼオリジナルです。設定も独自解釈で、恋姫、史実を大きく逸脱していることがあります。
4)主要キャラクターの所属は、恋姫に出てくるものは原則その通りになります。
 たとえば荀彧は曹操のところです。
 袁紹のところにはいないことにしています。
 後から追加した人はその限りではありません。
5)オリジナルの一刀はでてきません。
6)戦闘シーンはあんまりありません。
7)名前の表記は姓+名、または真名を基本としています。字はあまり使っていません。

以上、問題ないと思う方は先にお進み下さい。



序幕

 彼、北郷一刀は二喬大学の三年生。
専攻は農学。趣味は歴史。特に古代中国。
それほどゲームには興味を持っていない彼が真・恋姫無双というゲームに興味を持ったのは、一つには三国志という名前、そしてもう一つが主人公の名前が自分と同姓同名だから。
三国志が題材、しかもその主人公が自分と同じ名前というのは、もう偶然を越して天啓に感じられる。

生まれて初めてエロゲーを購入した一刀は、自分のパソコンでそのゲームを走らせる。
その結果は……たまには散財もいいだろうと思う程度。
エロといってもおかずにするほどのエロさはなく、ストーリーも三国志正史を知っている自分には物足りない。
でも、折角買ったゲームだからと、とりあえず三通りのストーリーを終え、これでもうこのゲームをすることもないだろうと思う一刀である。
と、画面に新たなおまけストーリーが現れていることに気付く。
"漢"のルート。
そうか、こういうゲームは全部を終えるとおまけが現れるものなのだ、とこの手のゲームに詳しくない一刀は、そう納得してそのストーリーを選択する。
それも終え、もう一度スタート画面を見ると、今度は"華"のルート。
何だこれは?聞いたこともない国号だけど中華の華?と思いつつも第5のルートを選択する。

直後、彼の周りの風景が一変する。



[13597] 拉致
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:25
拉致

………
………
……
夢だから。
そう、これは夢だから。
ゲームのやりすぎで陥った悪い夢だから。
自分の周りの風景がゲームの荒涼とした風景を実写にしたような風景になるなんてありえないから。
自分をつねると痛いけど、夢だから。ええ、夢だから。
だから、早く夢から覚めないと。

どうすれば夢から覚めるか、というと………

寝る?

……いや、なんとなくそれでは覚めない気がする。
もう本能的に分かる。
やはり、順当にゲームを進めてあがらないと。

普通に考えればルートは3つ。

魏呉蜀。

漢のルートは未完だそうだから、それに陥ると夢から覚めない………気がする。
魏ルートだとゲームが終わったときに戻れることになっていた。
他二人だと………それでも、多分ゲームが終われば夢が覚める、うん、そう信じたい。

今の状況は……時刻は昼。自分に意識がある。
ということは魏ルート?
それに違いない。
それなら簡単。曹操が迎えに来てくれるのを待てばいいんだ。
ああ、早く曹操迎えにこないかなぁ。

でも変だ。
確か盗賊が襲いに来るはずだ。
が……見渡す限り周りに盗賊がいない。
そもそも、国号は華と書かれていたから、第5の選択肢?
そんな華やかな国号をつけそうな登場人物は…………まさか!


「麗羽さまぁ、こっちでしたよねぇ」
「ええ、そうでしたわ、猪々子」
「あーん、まってよう」

この声、この台詞……

「あ、麗羽様、あんなところに人が」
「本当ですわね。ちょっと行って話してきなさい」
「わっかりましたー」

馬を降り、一刀の元に歩み寄ってくる女性一名。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、この辺でピカーッて光が起きなかった?
流れ星かもしれないんだけど」

アニメベースの姿が実写ベースの顔かたちに変わっているけど、どうみても……

「文醜……さん?」
「へ?どうしてあたいのこと知ってんの?」
「い、いやぁ、その、…………勇名轟いていますから」
「そっかー。うんうん、有名になるって辛いねぇ。
ところでさあ、最初の話なんだけど、この辺で光見なかった?」
「い、いえ。別にそんなものは見なかった……ですよ、ええ」
「そう。ふーん。……ところでさ、その服随分光っているけどどうして?」

今、一刀の着ている服は、ただのTシャツにジーンズ。だが、Tシャツはメタリックのインクで光を反射してきらきらと光っている。恐らく、というより間違いなくこの時代の中国にはない。
それから、部屋にいたので靴がなく裸足。
持ち物はジーンズに入れっぱなしになっていた携帯、それと最後にクリックしたときに使ったワイヤレスマウス。
およそこの世界では意味のないものばかりだ。

「さ、さあ。どうしてでしょうね。
それじゃ、俺、用がありますんで」

一刀は袁紹に捕まってはかなわないとその場を立ち去ろうとする。

袁紹といえば、実際には天寿を全うするまでその州を維持した、それなりの人物であるようだ。
優柔不断、判断ミスで機を逃すことが何度もあり、結果として天下をとれず低い評価もあるが、袁紹以前には食物にすら事欠いていた冀州を裕福な土地に変え、曹操をはるかに凌ぐ大軍を常備し、民に慕われていたという実績は認められて然るべきであろう。
だいたい官渡の戦い以降も本物の袁紹はまだまだ巨大だったではないか!

だが、恋姫無双の袁紹は違う。
これでもかぁ!というほどに間抜けなキャラクターとして扱われている。
国を滅ぼされ、流浪の民になりさがってしまっている。

袁紹に拾われたと思しきゲーム版一刀は、漢ルートに一瞬でてきたようだが、その扱いは全く以って悲惨なものに見えた。
しかも、そのルートは未完!
袁紹に拾われたら最後、元に戻れる希望が潰えてしまう……気がする。
それはまずすぎる。
どうにか曹操の元に逃げ込まなくては。

一刀はゆっくりと文醜から逃げようとする。
だが、乾燥してごつごつになっている土地を裸足で歩くのはなかなか痛い。
そのうえ、一刀の首筋にピタッと当てられる冷たい刃の感触。
一刀の足はぴたっと止まる。


「ねえ、一緒に来てくれると嬉しいんだけどなぁ」


一刀がゆっくり振り返ると文醜がにこにこしながら太刀(斬山刀)を首の脇に差し出している。
うんうんと文醜に同意の旨を伝える。



 二人は袁紹の許に向かう。

「いたた。もう少しゆっくり歩いてください」
「ん?どうしたの?」

文醜の後について歩いていこうとした一刀だが、靴がないので、足が痛い。

「あの靴がないので足が痛くって……」
「仕方ないなぁ。じゃあ、負ぶってあげるから」
「……すみません、お願いします」

かなり格好悪いので辞退しようともしたが、やはり足が痛いのは如何ともしがたいので、文醜の行為にあまえることにした一刀だ。

「麗羽さま~、つれてきました~」
「あ~ら、普通の男ですわね」

麗羽と呼ばれたので間違いないと思うが、その姿もやたらとボリューム過剰な金髪縦ロールが目立つ派手目な女。

「袁紹様……ですよね?」
「あら、どうして分かったのかしら?」
「それはその……見たこともないくらい華麗でしたから」
「オーッホッホッホ。本当のことを言ういい男ですわね。気に入りましたわ。城に連れて帰ることにいたしますわ」
(え~~~?)

かなり困った一刀である。

「ところで、猪々子、何でその男を負ぶってきたのですか?」
「ああ、靴がないんで歩くのが痛いんですって」
「麗羽様」
「何?斗詩」
「もしかしたらその人最近巷で噂になっている天の御使いではないですか?」
「管輅が予言したというあれ?どうして?」
「だって、光があったところにいた人ですし、見たこともない服をきていますし、それに歩くのが痛いっていっているのに靴もなしでどうしてあんなところに立っていられたのか不思議です。きっと天からやってきたのであそこにいられたんだと思います」

鋭い顔良。

「そうですの?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか。アハハ」
「じゃあ、どこから来たか教えてください」

顔良の顔がきりっとしまり、尋問が始まる。

「あれ?どこ……だったかなぁ……」
「……持ち物を見せてください」

しぶしぶ携帯とマウスを見せる一刀。

「何ですか?これは」
「……さ、さあ、なんでしょうね?気がついたら入っていました」

ドガッ

顔良の金光鉄槌が一刀の袖をかすめ、立っている場所のすぐそばの地面に穴をあける。

「ひっ!」
「もう一度"だけ"聞いてあげます。あなたが天の御遣いさんですね?」
「は、はい!天かどうかはわかりませんが、こことは違う世界からやってきました!」

顔良はにっこりと微笑み、袁紹の方に向き直る。

「麗羽様~。やっぱりこの人、天の御遣いさんですって。
きっと麗羽様が天下を取る吉兆ですわ」
「オーーホッホッホ。斗詩ったら、そんなわーかりきったこと今更言わなくても分かっておりますわ。
ところで、天の御遣いさん、名前はなんというのかしら?」
「一刀、北郷一刀です」
「姓が北、名が郷、字が一刀なのかしら?」
「まあ、そんな感じです」
「真名は?」
「真名はないので、字で呼んでください」
「そう。天の御使いなら、私も真名を授けなくてはなりませんわね。
私は袁紹、字は本初、真名は麗羽ですわ。
これからは麗羽様とお呼びなさい」
「じゃあ、あたいも。
名前は知っているみたいだけど文醜、真名は猪々子。猪々子って呼んでくれ」
「私は顔良。真名は斗詩。斗詩って呼んでくださいね。
さっきはちょっと乱暴な感じでしたけど、そうしないと正直に話してくれない感じでしたから。
一刀さんが変なことしなければいつでも丁寧ですから」
「は、はあ……よろしくおねがいします」
「それでは、斗詩、猪々子、戻りますわ」
「はーい」
「わかりましたぁ」

こうして袁紹に捕らえられてしまった一刀。
とっとと袁紹に三国志の時代を終焉させてもらい、華の国を作らせて日本に帰ろうと固く誓う一刀であった。



[13597] 城郭
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:27
城郭

 見渡す限りの荒野を、4人は馬に乗って城に戻っている。
空気は乾ききっていて土の臭いが強い。
空は昼間にもかかわらず青黒くも見える。
空気が綺麗な証拠だろう。
馬は3頭しかいないので、一刀は猪々子の後ろに乗せてもらっている。

めちゃくちゃだよ、この世界は。
袁家を率いる者が将軍二人だけをつれてどこに盗賊がいるかもしれない場所を出歩くなんてありえない。
他の部下は何をしているんだ?
田豊とか沮授とか優秀な部下がいくらでもいるだろうに。
そもそも、軍隊って本当にあるのかなぁ。
大軍を率いて、という描写が時々あるけど、今の状態から袁紹がそんな国の親分だとはとても思えない。
本当に袁紹が国を統一することなんてできるんだろうか?

そんなことを考えながら馬に揺られている一刀に袁紹が話しかける。

「一刀」
「は、はい、なんでしょう?麗羽様」
「これから、この私がどのようにこの国を統一していくのか教えてくださいな」
「えーっとですね………」

いや、それは……
そもそも恋姫無双の設定、事件の結果や出現順、人物の年齢・行動などが実際とかなり違うし、恋姫無双の中でもルートによって色々変化があるし、袁紹あんまり出てこないから何やっているか会話の端々から予想するしかないし、それ以前に"華"のルートで何がおこるか全然知らないし……
きっと三国志正史よりは恋姫三国志に準じた世界で、それに加えて第5のルートだからさっぱり何が起こるかわからない。

「それは未来のことなのでわかりません。
ですが、私も麗羽様がこの戦国の時代をまとめられるよう、できる限りのご協力を惜しみません」
「あら、そうなの?それは残念ね。この私の華麗な将来を聞けると思って楽しみでしたのに」
「でも、麗羽様でしたら絶対華麗な国を作ることができますよ」
「オーホッホッホ、当然ですわ。この私が作るのですから華麗に決まっておりますわ」
「そうですよねえ、麗羽様」

能天気な文醜が嬉しそうに同意している一方で、常識的な顔良がたら~っと冷や汗を垂らしている。
まあ、何は兎も角、華麗な"華"国と作ってもらわないと。

「ところで、これから行くところは業(正字は鄴)ですか?」
「もちろんですわ。業が私の本拠地ですから。あれがそうですわ」

遠くに大きな城壁が見える。
正史ではこの時代、袁紹はまだ冀州にいないはずだから、恋姫三国志の設定なのだろう。
恋姫三国志で袁紹が左遷されたなんていう話はなかったから。
韓馥は存在しないに違いない。
劉虞もいないんだろうなぁ。いい人なのに。……いるのかなぁ?

「政や軍事はどうなさっているのですか?」
「政は優秀な部下が行っておりますから、問題ありませんわ。戦争は、この華麗な袁紹が負けるわけありませんわ」

顔良が「うぅー」と小さく呻いたのは、気の所為だろう。

「そ、そうですよね。ハハ……」

多難な前途を感じる一刀である。

 さて、遠くに見えた大きな城壁だが、30分たっても到着しない。
そして、1時間も馬に揺られたろうか?
ようやく目の前に城壁が現れる。

デカイ!

この一言に尽きる。
基本的に城というよりは街そのものが城壁に囲まれたものだから、巨大なのは必定だが、それにしてもでかい。
よくもまあこんな大きなものを作ったものだ。
確か洛陽に次いで大きな城ではなかっただろうか?
それにしても端から端まで数百メートルのオーダーではない。優に数キロメートルはある壁が見る者を圧倒する。
作る方も作る方だが、これを攻めようとする方も根性がある。
中国人のド根性が垣間見られる気がする。

 街、というか城のなかは、思ったより活気がある。表記上、城壁の内側を街、王宮を城としよう。
袁紹の部下が余程優秀なのだろうか?それとも人々が無能な州牧に関係なく、勝手に生活をしているのだろうか?
少なくとも街に活気があるのは中国を平定するうえで重要なことだ。
足許が揺らいでいては全土の制覇など夢のまた夢であるから。


 だが、城に入るとそんな希望的観測が一気に失われる。

なんなんだ、この淀んだ雰囲気は?

もう定年間近の教授が一人ぽつねんと研究しているような研究室に仕方なく所属することになった学生達の、何ともやる気の感じられない雰囲気に似た空気。
そんな中、袁紹一人が妙にテンションが高い。
まずい、まずすぎる。これでは袁紹が敗北してしまうのも当然だ。

と思う一刀に一筋の光明が見える。


か、かわいい……


窓辺に佇む二人の少女。
フェルメールの描く少女のような、どこかアンニュイな雰囲気の少女達。
美少女という範疇は広いが、彼女たちは一刀の理想とする顔かたち。
一人は黒髪、一人は栗毛色の髪。透けるような白い肌。小さくかわいい唇。
座っているので正確ではないが、背は一刀より少し低めに見える。袁紹と同じくらいだろうか。
劉備ほどヌケてなく、関羽ほどきつくもない。もちろん張飛ほどガキではない。
恋姫無双の登場人物でどれに近いかというと……夏侯淵を明るくした、関羽を優しくした、そんな感じだろうか?
でも、そういうのとは何かが違う。
そう、少し利発で活発なお嬢様って感じ。
一瞬で一刀は彼女達の虜になってしまう。いわゆる一目ぼれ。
袁紹のためというのが理由にならなくても、彼女達のためなら全身全霊を傾けても惜しくないと思うほどにほれ込んでしまった一刀である。

「は~い、みなさ~ん。ちゅうも~~く!」

袁紹の言葉に家来たちが集まってくる。

「野で天の御使いを拾ってまいりましたわ」

一刀は落し物ですか?

「私の時代が来るという天啓ですわ。
これからは彼とも協力して華麗な時代を作るのですわ。オーッホッホッホ。
斗詩、あとは任せますわ」

袁紹は顔良に後を託して、部屋に戻っていく。

「え~っと、彼が天の御使いの一刀さん。姓が北、名が郷、字が一刀だそうです。
天の国から来たので、出身地は誰も知らないところです」
「始めまして、北郷一刀です。真名はないので、一刀と呼んでください」
「一刀さん、ここにいる人々を紹介しますね
田豊さん、沮授さん、許攸さん、荀諶さん、郭図さん、麹義さん―――」

すごい。錚々たる顔ぶれが揃っている。
彼、彼女(恋姫だからか女性が多い)たちがその能力を発揮すればあっという間に全土を統一できるだろうに。
あの黒髪美女が田豊、栗毛美女が沮授なんだ。まずは彼女達と話をしたい……ってもちろん政治的な意味で。

「―――です。人数が多いのでいきなりは覚えられないと思いますけど、おいおい覚えていってくださいね」
「は、はい」
「はい、かいさ~ん。
一刀さんは、こちらへ。住むところや生活の説明をしますから」
「はい」

一刀は顔良に連れられて、部屋に向かう。

将軍自らそんなことをしていていいのだろうかという疑問もあるが、まあ恋姫三国志なのであまり気にしないことにする。

宛がわれた部屋は、画面で見たことがあるような部屋。
20畳はあるだろうか。ゲームで見た部屋の感覚より広い。やはり中国、何でも規模がでかい。
ゲームには鏡台のような絵があったが、その代わりに銅鏡がおいてある。
この時代、板ガラスがあるわけないから鏡といえば銅鏡なんだろうけど。
なんとなく微妙にリアルが入っている。
9割恋姫、1割史実というかんじだろうか?
それにしても各部屋銅鏡がおかれているということは、銅鏡も安いものではないはずだから袁家やっぱり金持ちだ。
ガラスが無いということは、窓は……穴か。
寒そう。

トイレは共同、風呂は共同なのだが、一つしかないそうなので城内に住んでいるただ一人の男の一刀がどう入ればいいかはおいおい決めるとの事。
男や既婚の女は自分の家に住んでいるので城にはいないそうだ。
確かに恋姫、独身女性の割合が多い。

麗羽のみ専用のトイレ、風呂完備らしい。
冷房なし、集中暖房、上下水道なし、電気電話なし。
駅から徒歩1800年!は、まあ冗談として。
……設備だけを聞くと、安アパートもびっくりの情けない装備だが、まあ2世紀ではそんなもんだろう。

食事は厨房の隣の食堂で各自とるらしい。
城というより、これでは寮だ。
三国志の時代もこんな生活スタイルだったのだろうか?いくらなんでも違うと思うのだが。

服はあとで支給されるらしい。
人民服だったらびっくり仰天。
三国志のイメージからどんどん離れていく。


「それと、今日は一刀さんの歓迎会を行いますから。あとで迎えにきます」
「そうですか。それはありがとうございます」
「以上で説明は終わりですが、何か分からないことはありますか?」
「え~っと、俺の仕事は?」
「仕事?天の御使いなのですから、ここにいてくだされば充分です。
何か天の御使いとしての仕事をしたいのでしたら、ご自由にどうぞ。
城内の移動も自由ですよ。あ、麗羽様のお部屋に入るときは合図してくださいね。
それから、城外に出るときは誰かに相談してください。案内をつけますから。
でも、麗羽様の許から逃げようとはしないでくださいね」

原則自由だそうだが、最後に釘を刺すことは忘れない。

「わかりました。それでは早速なんですが田豊さんや沮授さんと話をしたいのですが」
「……ふーーん」

顔良はにやっとした表情を一刀に向ける。

「な、なんですか?」
「一刀さんってああいう雰囲気の女性が好みなんですね?」
「ち、違います(違わないけど)。この国の政治や軍事について色々尋ねたいだけです」
「そうですか。そういうことにしておきましょうね。
で、彼女達ですけど、最初入った部屋にいると思いますよ。行けば会えます」
「わかりました。どうもありがとうございました」

早速一刀は田豊、沮授に会いに行く。華国を作る協力を得るために。



[13597] 幇間
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:29
幇間


幇間【ほうかん】
宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌をとり、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる男性の職業。太鼓持ち。



 顔良の言うとおり、田豊、沮授は最初入った部屋に佇んでいた。
顔良も、案内してくれればいいようなものの、後から興味深そうに付いてきている。
恋の告白でもあると思っているのだろうか?

「田豊さん、沮授さん」

一刀は早速彼女等に声をかける。

「あなたは……」
「天の御使いの……」
「ええ、一刀です。ちょっとお話をしたいのですが、いいですか?」
「ええ」
「構いませんが」
「二人とも優秀な参謀だったと記憶しています。
でも、城内の雰囲気から二人ともその能力を出しているとは思えません。
どうしてその能力を発揮しないんですか?」

およそ原因は分かっているが、念のための確認。
二人は、それを聞いて、一つ溜息をついて、それから田豊が話し始める。

「昔は色々やったんですよ。
農業改革とか政治機構の改善とか。
でも、だんだん国が大きくなってくると麗羽様は何でもできる気になってしまって、華麗でないと思うものは何も取り上げてくださらなくなってしまって……
それでも提言をつづけたら、今度は牢に入れられてしまって。
『菊香、うるさいですわ。すこし牢で頭を冷やしなさい』とか言って。
ようやく牢から出してはもらえたんですけど、もう何もする気が起きなくって……」

牢に入れられるって、確かもっと先(官渡のあたり)だったような。
発生するイベントはなんとなく史実にあっていることもあるようだけど、順序や時期は全くめちゃくちゃだということがわかった。

「そうですね、菊香、一ヶ月も牢に入れられていましたからねえ」
「今のが田豊さんの真名?」
「ええ、あなたには私の真名を預けるわ。私は田豊、真名は菊香」
「私も預けます。名前は沮授、真名は清泉。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。
で、さっきの話に戻るんだけど、君達の提言を俺が麗羽様に言って、それが受け入れられるようにしてもらうといいと思うんだけど。
俺はあんまり政治経済軍事に詳しいわけじゃないけど、麗羽様、俺のこと天の御使いって思ってるから、きっと俺のいうことなら聞いてくれると思う」

田豊、沮授は一刀をじっと見つめる。

「そうねえ。天の御使いだから、もしかしたらうまくいくかもしれないわね」
「菊香、だめもとで頼んでみたらどうでしょう?」
「わかったわ」
「それで、一度にたくさんってのは難しいとおもうんだけど、まず何からやればいいんだろう?」
「えーっと……まず、軍事演習かしら?」
「賛成!」

今まで黙って聞いていた顔良がそれに相槌を打つ。

「軍事演習?今より厳しくするっていうこと?」
「違うわ。軍事演習を"する"っていうことよ」

田豊の説明に、沮授と顔良が深く頷く。

「………………それって、もしかして」
「ええ。今の軍隊は朝から晩まで遊んでばかり。少しは軍事演習をしないと流石にまずいでしょう。今の状態で勝てたら奇跡だわ。
今までは近隣にそれほど強い勢力がいなかったからまだもっていたけど、最近、曹操とか力をつけてきているから、攻め込まれたら一瞬で負けてしまうわ。」

すごい!その状態で戦争をしようと試みるなんて!
でも、公孫讃(正字は瓚)って袁紹に負けたんだよな。
よっぽど恋姫公孫讃は弱かったんだな。

「わかった。何とか説得してみる」
「おねがいね」
「お願いします」

一刀は、顔良と共に早速袁紹の許を訪れる。

「麗羽様」
「あら、一刀。なにかしら?」
「あの、早速なのですが、相談があるのですが、今よろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくてよ」

袁紹の傍にいたのは、文醜。それに顔良を加えた3人はだいたいいつも一緒だ。

「軍隊に演習をさせてみてはどうでしょうか?」
「軍事演習ということですか?」
「ええ」
「その必要はありませんわ。
この袁家軍が負けるはずがありませんわ。
華麗な演習も不要ですわ」
「ええ、もちろんそのとおりだと思います。もう、戦になったら連戦連勝。流石は麗羽様の軍隊です」
「オーホッホッホ、そのとおりですわ」
「ですが、ちょっとお考えください。戦でないときは朝から晩まで酒を呑んではだらしない姿を兵隊が晒しているのです。
ええ、彼等が戦に出れば最強なのはよく存じております。存じておりますが、さて市井の人々がそんなだらしのない兵隊をみてどう思うでしょうか?
麗羽様は華麗だけど、兵隊はあまり華麗ではないなぁと思うのではないでしょうか?
やはり、華麗な麗羽様は、所有する軍隊も華麗でなくてはなりませんよね」
「もちろんですわ!」
「彼等が常日頃華麗に軍事演習をしていたら、それを見た人々はきっとこう思います。
ああ、やはり華麗な袁紹様の軍隊だ、とても華麗だ。
そして、麗羽様の評判がますますあがるのです!」
「斗詩!猪々子!早速軍事演習なさい!」
「え~?面倒くさいよう。
あたいは暴れるのは好きなんだけど、訓練みたいな面倒なのは嫌いなんだ」

文醜の反応は予想通り。

「文ちゃ~ん、演習したほうがいいよう。最近遊んでばかりだよう」

顔良は一刀を支援する。

「猪々子、そのとおりですわ。これは私の命令です。しっかり演習するのですわよ!」
「へえへえ」

ここで一刀は演習の方法も提案する。

「麗羽様、斗詩さんと猪々子さんを別々に訓練させて、1ヵ月後に二つの軍を勝負させ、勝ったほうにご褒美をあげるというのはどうでしょうか?
麗羽様のご褒美があれば、皆やる気がおこるというものです」
「そうですわね。では、そういたしましょう。褒美は……何か考えておきますわ。
斗詩、猪々子、わかりましたわね!」
「へえへえ」
「はい、わかりました!」

と、うまい具合に軍事演習を行わせることに成功した一刀は退室する。

「うまくいった、うまくいった」

一刀は結果を田豊、沮授に報告に行く。

「本当ですか?」
「あの、麗羽様が?」
「うん、そうすると華麗になるって言えば、あの人単純だからすぐその気になる」
「でも、最近は"華麗に"だけではうまくいかなかったのですけど」
「華麗だという理由付けが重要なんじゃない?」
「なるほど」
「理屈はわかりますけど、それにしてもうまくいきましたね」
「なんとなく、あの人の思考過程がわかるんだよね。
似たような人を知っているから」

それはゲーム中の袁紹だが。

「だから、これからも俺たちが滅ぼされないように一緒に頑張ろう!」
「ええ」
「こちらこそおねがいします!」

こうして、強い絆で結ばれるようになった3人である。


 さて、一人になった一刀のところに、文醜が訪れる。

「なあ、一刀ぉ」
「なんですか?猪々子さん」
「お前の所為で面倒がおこったじゃないかぁ。あたいは面倒くさいのが嫌いなんだ。
もう、あんまり面倒おこさないでくれよぉ」
「何言っているんですか、猪々子さん。あなたのためにこの演習を考えたのに」
「あたいのため?」
「ええ。知らないんですか?斗詩さん、文ちゃんが私より強かったら私のこと好きにしていいのに、って言っていたの」
「ほんとか!?」
「ええ。だから、この演習で斗詩さんの軍をけちょんけちょんにやっつけたら、きっと、文ちゃんって強いのね、私のこと好きにしていいわ、って言うに違いありません」
「よっしゃー!がんばるぞー」
「軍師はいりますか?」
「そんなもん、いらない!あたいの力だけで充分だ」
「それじゃあ、頑張ってください」
「おー!」

ニコニコ顔で帰っていく、袁紹並に単純な文醜であった。


 更に少し経ってから、今度は顔良が訪れる。

「一刀さん、どうもありがとうございました」
「何がですか?」
「私も演習をしなくちゃって言っていたんですけど、全然駄目で……
ああいう風に言えばいいんですね。参考になりました」
「ああ、そのことですか。麗羽様にこの乱世を収めてもらいたいだけですから、当然のことをしたまでです」
「でも、文ちゃんはちゃんと演習するかしら?」
「大丈夫だと思いますよ。でも、そのためにちょっとお願いがあるんですけど」
「私でできることならお手伝いしますけど」
「斗詩さんにしかできないことです」
「それは?」
「ええ、さっき猪々子さん、ここに来たんですよ。面倒くさいのはいやだって文句を言いに」
「ですよねぇ」
「だから、言っておいたんです。斗詩さん、猪々子さんが自分より強かったら、自分を好きにしていいって言っていたって」

笑顔で固まる顔良。

「だから、もし負けたら猪々子さんのいいなりになってもらいたいんですけど。
一夜だけでいいですから」
「えーーーー、そんなあ」
「菊香さんか清泉さんを軍師につけていいですから。確かものすごく優秀ですよ」
「………それだけ?」
「きっと大丈夫ですよ。猪々子さん、突撃するだけしか攻撃方法がないですから」
「本当に?」
「あとは、、、、頑張って勝って下さい!」
「えーーーん……負けないんだから!!」

こうして、顔良も勝利に強い決意を抱くのであった。



[13597] 宴会
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/11/08 22:51
宴会

 その晩は顔良の言っていたとおり宴会が催された。今晩、宴会!と言って、これだけの料理を揃えられるとは、やはり袁家の厨房、伊達ではない。

「オーッホッホッホ、天の御使いを拾ったということは私の華麗な未来が約束されたということですわ。
みなさん、私の華麗な未来を祝して乾杯ですわ」
「かんぱ~い」

やはり、袁紹のテンションは異様に高い。だが、今日は文醜、顔良のテンションも妙に高い。

「フフ、斗詩、そのきれいな体がとうとうあたいのものに!」
「ふん、文ちゃん、簡単に勝てると思わないことね!」

二人のテンションの高さに、他の家来たちは不思議そうな表情をしている。

「一刀さん、何かしたんですか?」

一刀の隣に座っている田豊が不思議そうに尋ねる。

「ええ、ちょっと二人ががんばるようなおまじないを」
「すごいですね」
「3人でこの国を盛り上げようと誓ったではないですか」
「一刀さんがいてくださるならなんとかやっていけそうな気がします」
「私も」

反対側に座っている沮授も相槌をうつ。
今の一刀、諸手に花状態だ。
顔良の好意か勘違いか知らないけど、思わずにやけてしまうのを止めるのが難しい一刀である。

 さて、料理に目を向けてみよう。

「これは……何?」

差し出された白い飲み物を飲んだ一刀の感想である。宴会だったら酒だろう、と思うのだがどう考えても甘くない甘酒というか、米か何かのジュース。あまり酒っぽくない。

「お酒ですけど」
「酒ぇ?これが?」
「ええ。なにか?」

酒といわれた飲み物はノンアルコール白酒にしか見えない。一刀は過去の知識を総動員する。
この時代の酒は……確か醸造技術が進んでなくて度数1%程度の酒を造るのが限界だったか?
って、恋姫では強い酒が出てきているようだけど、酒だけリアル?

「そうですよね。ええ、酒ですよね」

これじゃあ酔えねえ!一体酔うためにはどれだけ呑めばいいんだ?
ノンアルコールビールで酔うようなものだから、缶ビール1本で酔うとしてもアルコール度数が5倍は違うから、350ml缶換算で5本は飲まないと。
缶ビール3本で酔っ払うとすると15本!
酔う前に腹が破裂する。
……確かに厳顔は朝から晩まで呑んでいたけど酔いつぶれてはいなかったようだ。
ということは酔うのは困難?

そうだ!蜂蜜酒は度数が高いはずだ。確か10度を超えるくらい。
でも、ほとんど出回っていないんだろう。蜂蜜自体が高級品だから。
もしかしたら、強い酒と言っているのは蜂蜜酒かもしれない。
それにしても、この時代の蜂蜜酒の度数は高かったのだろうか?
ともかく、あとでもっと度数の高い酒を造ろうと決心した一刀である。

 というわけで、食事に中心を移すことにする。
食事は……うん、おいしい。普通においしい。
別段異国風味の変わった味付け、香りということもなく現在日本で出店しても繁盛しそうなおいしさだ。
価格にもよるけど。
袁紹さんが出店したら「オーホッホッホ。華麗な料理は華麗な値段ですわ」とか言って、べらぼうに高い値付けをして、客がこなそうな気がする。

古代の宮廷料理では、ゲテモノを珍味と食することがあったらしいけど、そんなものはないので安心。
よかった。
だって、皇帝しか食べられない珍味です、とかいって生きている蚕の幼虫がうじゃうじゃ皿に入っていたら卒倒してしまうもん。
本当によかった。

おいしいはおいしんだけど、リアルとは程遠い。
ジャガイモはあるしサツマイモはあるしピーマンはあるし。
この時代にあるとは思えない食材だらけ。
さすが恋姫三国志。
豚肉、牛肉は理解できるけど。
加工食品がないというのが、恋姫三国志の良心だろうか?

結局分かったことは、何がおこるかさっぱりわからないというのがこの世界だということだ。
持っている歴史の知識も微妙に役立つようなそうでもないようなところだろうか。



 宴会の醍醐味は色々な人と話ができること。

麹義さんは肝っ玉母さんといった雰囲気のおばさん。……おばさんって言ったら殺されそうな気がする。雰囲気は厳顔さんのノリ。
胸は厳顔さんといい勝負だが腹回りは圧勝だ。
少なくとも18禁ゲームの攻略対象ではなさそうな体形だ。
馬がかわいそう。

「麹義さんって、ものすごく強い将軍さんですよね?」
「ガハハ。そんな麹義さんなんて堅苦しい。朱雀と呼んでくれ」
「朱雀?!ものすごい真名ですね」
「もちろんだ!最強の将軍には最強の真名だ!」
「朱雀さんはもう戦わないんですか?」
「まだまだ若いものには負けんが、後身に道を譲るという謙虚さも必要だろう」
「朱雀、そんなこと言ってていいのか?
馬にも乗っていないから体がぶよぶよじゃんか。
あたいが斗詩を頂いてからあたいの強さを思い知らせてやる」
「ほう、猪々子も言うようになったものだ」
「大丈夫ですよう、朱雀さん。文ちゃんは私にやられちゃいますから」
「へっへっへ。まあ、今だけは斗詩に華を持たせておこうかな」

武に関してはシビアな将軍達であるが、そのほかはフレンドリーだ。

「文ちゃん、このおまんじゅうおいしいよ」
「どれ?あ、本当だ。それに斗詩のおっぱいみたいにふわふわだぁ」
「も、もう、文ちゃんったら。触ったみたいに言わないでよ!」
「でも、もうすぐ斗詩の生おっぱいを……生おっぱいを……でへへへ」
「文ちゃん、知らない!」
「猪々子、まんじゅうより酒だ!呑め!」
「あ~ん、朱雀さ~ん、そんなに呑めませーん」

荀諶さんは、確か……

「荀諶さんってお姉さんいます?」
「何よ。天の御使いだか何だか知らないけど、いきなりなれなれしくしないでよ。死んで」

間違いない、荀彧の妹だ。
猫耳フード装備済み。荀姉妹のトレードマークなのだろうか?
顔かたち、雰囲気もゲームの荀彧から受けるイメージそのまま。妹だから少し若いか?
胸もないし。
でも、年が若い分、希望が持てるかも。
胸が小さい家系だったらどうしようもないけど。

「いや、その、いきなり死んでといわれても……」
「まあまあ一刀さん、柳花さん、いつもああですからあまり気にしないで。
人付き合いは悪そうに見えますけど、本当は結構優しいですし、王佐の才があるんですよ」

と、田豊がとりなしてくれる。
桂花の妹で柳花ね。

「菊香、うるさいわよ」
「はいはい、ごめんなさいね」

でも、荀彧は曹操にべったりだったんだけど、荀諶は……まさか麗羽と?いや、それはなさそうだ。孤高の参謀なのだろうか?

 他にも張合(郃)・高覧・審配など主だった武将、参謀は全て揃っている感じ。
逢紀は田豊と何か仲が悪そう。というより、逢紀はあまり誰とも仲良くない感じ。
郭図は、確か碌な策を出していなかったはずだから、ちょっと注意しないと。
陳琳には曹操の悪口でも書いてもらうといいかも。
ここにいない武将、参謀は広い領土に散らばっているんだろう。
そんなことを宴会で知った一刀である。


 夜、支給された寝巻きを持って風呂に行く。
丁度、旅館で浴衣を持って風呂に行くのと同じ雰囲気。
支給された服も、何となく浴衣っぽい。文官の衣装の様でもある。
寝巻きだからなんだろうけど。
下着は……そういうものがないらしい。
みんな服の下はすっぽんぽん。
ということは、褌娘と半ズボン娘以外は、あの下何もなし?……でへへへ。
ま、まずい。文醜さんがうつった。

 一刀が風呂に入るのは最後ということに決まった。
誰かと風呂で鉢合わせしないように、女性が入っているときは女の看板をかけることにした。
そして、一刀が入るときは男の看板。
風呂の入り口は民宿仕様に変わってしまった。
これで、男女が問題なく風呂に入れるようになったので、一刀も安心して風呂に向かう。

「はぁ~~……」

やはり風呂はいい。
体が休まる。
旅館の風呂っぽいけど、入れれば何でもOK。
本当に、古代中国の城という印象がすくない生活だ。

それにしても一体これから何が起こるのだろうか?
まあ、できる限り袁紹さんを助けよう。

湯船に浸かりながらそんなことを考えている一刀であった。

こうして、恋姫三国志をリアルにしたような世界にやってきた初日が終わった。




あとがき
ようやく初日が終わりました。
これ以降は一日にそんなに時間がかからないので、もっと早く進むと思います。
が、黄巾の乱までまだかなりかかりそうな予感ですが。
地道に読み進めてください。



[13597] 訓練
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:32
訓練

「突撃ーー!!」

演習場というより、城外の平原に文醜の声が響く。

「たるー」
「だりー」

だが、昨日まで遊んでいた兵隊が、そう簡単に動けるようになるものでもない。
だるそーな雰囲気が漂っている。

「てめーら!やる気あんのかああ!!」

文醜の声が10万の兵に響き渡る。
覇気がないとはいえ、袁紹軍。数だけはすさまじい。
文醜も、流石に将軍。よくもこれだけの人間に一声で命令を届けられるものだ。

「そりゃーねえっすよ」

勇気ある兵士が口答えする。

「そうっす。戦なら少しは頑張りますけど、訓練なんて」
「なあ」

「お前……ちょっと来い」

文醜が一人の兵士を呼びつける。

「…………え?」

普段と違う文醜の妙にまじめな様子に、呼ばれた兵士は硬直してしまう。

「ぶ、文醜将軍、じょ冗談に決まっているじゃないっすか。
ももももちろん、しんけんにくんれんしますです、なあみんな!」
「お、おう、もももちろんだぜ」
「ふ、いいだろう。あたいはな、軟弱な男が大嫌いなんだ!
今度弱音を吐いたら全員ナニを切るから覚悟しろ!」

こんな真剣な文醜を見たことがある兵士は一人もいない。
さすがにビビッてまじめに訓練に取り組もうとする。

「突撃ーー!!」

再度文醜の号令が響き渡る。

「おおーー!」

掛け声も勇ましく、突撃を敢行する。
が、日頃やっていないものがそれほど簡単に出来るわけがなく、

「うわーーーー!!!」

何人かの兵士がばたばたと倒れ、それがきっかけとなって将棋倒しのように兵士がばたばたと倒れていってしまう。

「何やってんだ!お前等!!」
「ちょ、ちょっと足がもつれて……」
「気合が足らない!もっと、気合入れてやれーー!!」
「はいーー!!」

だが、気合を入れても出来ないものはできない。
こうして、初日の訓練は文醜のフラストレーションを高めるだけで終わってしまった。

 それでも、二日目、三日目ともなると兵士達の体力も次第に戻ってきて、文醜の号令についてこれるようになってきた。

 一週間後。
毎日訓練の様子を見ていた一刀と沮授。

「結構やりますね」
「ええ。ここまで統率が取れるとは思いませんでした」
「そろそろ、麗羽様に見せますか」
「そうですね。今見せないと……」
「そう思いますよねえ」

そろそろ頃合と思い、袁紹を呼びに行く。

「麗羽様」
「あら、一刀。何かしら?」
「たまには猪々子さんの訓練の様子でも見てみてはいかがでしょうか?
言い出した手前、毎日訓練を見てますが、本当に華麗な動きをするようになってきました」
「それは見ないわけには行きませんわね」
「それでは早速」

基本的に袁紹は常時暇そうなので、興味があればほいほい出かける。

袁紹と護衛の兵士、それに一刀が馬に乗って文醜の許を訪れる。
そう、それがまだ普通の光景だろう。
袁紹が出かけるときに何人もの護衛が付くという状況が。

「猪々子、訓練の様子を見に来ましたわ。
随分華麗な動きになってきたと一刀が言ってましたわ」
「もちろんです、麗羽様。見ていてください」

文醜は兵士達に号令をかける。

「整列!」

兵士がさっと突撃体制に整列する。
行動もきびきびしていて、確かに見ていて美しい。

「構え!」

槍、というか棒を全員前に突き出す。
その動きも全員が揃っていて、袁紹が満足するに値するものだ。
というより、こんなに揃った動きを袁紹は見たことがない。

「突撃ぃーー!!」
「ぅおおおおぉーーー!!」

兵士たちが咆哮と同時に突進を開始する。
10万人の兵士である。その勢いは戦慄を覚えるほどに迫力がある。

「す、すばらしいですわ。さすがに我が軍、華麗で力強いですわ」
「本当に、素晴らしい軍です。本当に麗羽様の軍は華麗さが際立っています」
「オーホッホッホ。もちろんですわ」

こうして、文醜軍は袁紹も満足する見事な行動をとれるようになっていた。

 だが、一刀も沮授も予想していた。
恐らく、今がピークの時だろうと。
文醜は突撃型だから一ヶ月休みなしに訓練するに違いない。
そして、次第に疲労が蓄積されて、本番ではぼろぼろになるに違いないだろうと。

 一刀らの予想通り、文醜軍の動きはその後精彩を欠き始め、それを挽回しようと文醜はより過酷な訓練を課し、という悪循環が続いていった。
もう、戦う前から結果は明らかだった。

 顔良の貞操は守られそうだ。




 一方の顔良軍。

こちらも総勢10万の兵が集められている。
二軍で20万。
それでも袁紹軍の全勢力ではないのだから、袁紹軍の規模は凄まじい。

 顔良軍は、田豊を軍師に仰いだ。
彼女の指示の許、基礎体力の拡充から図っている。
武具を装着してひたすら走る。走る。走る。
それから休憩。
またまた走る。走る。走る。
……地味な訓練だ。
もちろん、兵士が怠けないように顔良の優しい笑顔が全員を見張っている。

 というのが一週目。

 二日の休みを挟んで次の週が突撃訓練。
文醜と違って華麗さはないが、地道に一ヵ月後を目標に訓練をしている顔良軍。
二週目の終わりには、突撃速度も文醜軍匹敵するレベルになっていた。

 そして三週目。
フォーメーション訓練、陣形訓練。
いきなり多くの陣形を覚えさせても仕方がないので、文醜対策で鶴翼陣と衡軛陣の2つを徹底的に鍛える。

「突撃ーー!!」

衡軛陣になった顔良軍が、顔良の指示で一直線に突撃する。

「左右に展開ーー!!」

集団で移動していた顔良軍がばっと左右に分かれ、あっという間に鶴翼陣に展開する。

「敵を迎撃!!」

展開していた顔良軍が方向を内側に変え、それから鶴翼の内側の敵を挟み込むように突進する。

「そこまで!!」

顔良の指示で衝突寸前だった自軍同士がぴたっと止まる。

「文醜軍は横から攻められるので対応が難しいでしょう。思う存分やっつけてください」
「文醜軍を横から全滅させてね!」

田豊の小さな声を、顔良が大声で全軍に伝達する。

「はっ!」

兵士たちの威勢のよい返事がある。

 やはり毎日演習を見ている一刀と沮授。

「かなりよくなってきましたね、斗詩さんの軍も」
「ええ。これだけ"華麗"なら麗羽様もお喜びになるでしょう」
「そう、"華麗"ですね」

一刀と沮授は顔を見合わせてにっこりと笑う。

「斗詩、ずいぶん華麗になるのに時間がかかったのですね。
猪々子は訓練を始めて一週間後には私に華麗な成果を見せてくれましたわ」

一刀に誘われて訓練を見にきた袁紹が一言目から苦言を呈している。
だが、訓練の方法が違うので、それは当然。
顔良もその辺は充分理解している。

「大丈夫です、麗羽様。
文ちゃんは猪ですから、まっすぐにしか進めません。
私は"華麗"に展開しますから少し時間がかかりました。
でも、本番では私が必ず勝ちます」

そして、訓練の成果を見せる顔良。
確かに時間をかけた分、文醜より映えて見える。

「すばらしいですわ、斗詩。
兵士が舞う様に展開していますわ」
「でしょ~?麗羽様」
「ええ。当日は期待しておりますわ」
「は~い♪」

こうして、二人の将軍は決戦の日を迎える。



[13597] 決戦
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:32
決戦

 そして、二人が実戦訓練を行う当日がやってくる。

「オーッホッホッホ。みなさ~ん、今日は華麗な袁家軍の訓練成果を見せる日ですわ。
斗詩、猪々子、期待しておりますわ」
「わっかりましたー、麗羽さま~」
「はい、頑張ります、麗羽様」
「斗詩、いよいよ今日が斗詩の体を好きに出来る……でへへへ」
「文ちゃん、それは無理だから。
今日勝つのは私だよう。
それに文ちゃんの兵隊、みんな疲れているみたいだけど」
「う、うるさいなぁ。やるときはやるんだよ!」
「まあ、やればすぐわかるけどね。
それじゃ、はじめよっか」
「ああ!今晩が楽しみだ」


 だが、一刀や沮授が予想したとおり、勝負は最初から分かっていた。
文醜軍の突撃力は、麗羽に見せたときのような破壊力は最早無く、試合開始からほんの数分で終わってしまった。


「そ、そんなぁ……斗詩の体がぁ……」

がっくりうなだれる文醜。

「斗詩、素晴らしい試合でしたわ。
流石は袁家軍だということを示してくれました」
「もちろんです、麗羽様」
「これからも訓練に勤しみなさ~い。オーッホッホッホ」
「はい。……その、あの」
「なんですの?斗詩」
「勝ったらご褒美をくれるって仰っていたような……」
「え?あ、そ、そうでしたわね」

すっかり忘れていた袁紹は、困った顔で思案している。


ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、チ~~ン


「それでは、斗詩。この剣を授けますわ」
「え?それは公孫讚さんが質草に差し出した宝剣なのでは?」
「そそそそうですわ。でも、どーせ公孫讚は借りた食料返せませんから、構いませんわ」

袁紹は、ちょっと目を逸らして返事をしている。
疾しいことを言うときの癖だ。

「本当にもらっていいんですか?」
「よろしいですわ。返せといわれたら倍の食料でも渡しておけば文句もいいませんわ」
「ありがとうございます、麗羽様。
大事にします!」

大喜びの顔良。
袁紹は、今度は文醜に話しかける。

「猪々子は、今日は精彩を欠いておりましたね。
もっと華麗に動いてもらわないと、袁家軍としてはずかしいですわ」
「ご、ごめんなさい、麗羽様。
それで、あのもう一度斗詩と勝負する機会をください!
このまま負けたまま終わるなんて悔しいです!」
「そうですわね。それではまた1ヵ月後、試合なさい。
斗詩もそれでいいですわね」
「もちろんです、麗羽様。
文ちゃん、返り討ちにしてあげるから」
「ふっふ。今度はそういうわけにはいかないぜ」


 だが、言葉とは裏腹に、文醜は弱気になっていた。
自分のできることを全てしたつもりなのに負けてしまうなんて。

「え~ん、一刀ぉ~、負けちゃったよう」

夜、文醜が一刀の部屋に泣きを入れてきている。

「そ、そうでしたね」
「あたいは、勝ちたいんだよ。
一生懸命訓練もしたんだよ。
でも、負けちゃったんだよ。
どうすれば勝てるんだろう?
教えてくれよう~~」
「そうですねぇ。
毎日訓練見てましたけど、猪々子さん、ちょっと頑張りすぎだったんじゃないでしょうか?」
「頑張りすぎ?」
「ええ。休みもなしで毎日訓練したら、普通の人は疲れて動けなくなってしまいますよ。
だから、数日に1日は休みを入れるようにして、体力が持続するように訓練したらいいんじゃないですか?」
「そうか!分かった!」

そう言って、文醜は一刀の部屋を飛び出していってしまった。
「それから軍師を……」という一刀の台詞は聞かれることが全くなかった。



 そして、一ヵ月後。

文醜軍の突進力は凄まじかったが、横からの攻撃は想定しておらず、やはり完敗した文醜。

「え~ん、一刀ぉ~、また負けちゃったよう」

夜、文醜が一刀の部屋に泣きを入れてきている。

「そ、そうでしたね」
「あたいは、勝ちたいんだよ。
一生懸命訓練もしたんだよ。
休みもとったんだよう。
でも、負けちゃったんだよ。
どうすれば勝てるんだろう?
教えてくれよう~~」
「やっぱり、軍師をつけたらいいんじゃないですか?」
「軍師?」
「ええ。斗詩さんも菊香さんの指示で訓練したり軍を動かしていますから。
軍の統率を取るのは大将ですけど、どのように軍を動かしたら効率的かということは軍師がよく知っていますから。
突撃だけじゃ勝てないと思いますよ」
「そっかーー。
……分かった!」

今度は猪のようにではなく、ちゃんと思案しながら部屋を出て行く文醜である。



 翌日、文醜の選んだ軍師が明らかになった。
沮授や一刀と話している田豊のところに、逢紀がやってきた。
この人、見た目のインパクトが抜群。
派手な和服、日本髪、多数の簪、白く塗った顔、手に持つ煙管、高さ30cmはありそうな黒い下駄。
その姿はどう見ても花魁。
ものすごーーーく華麗。
だから、袁紹に受けがいいのかも。
一方の田豊や沮授は華麗というよりは清楚・可憐という雰囲気だから袁紹さんと反りが合わないのかも。

「菊香はん、あちきが猪々子はんの軍師でありんす。
よしなにおねがいするでありんす。
次の戦いは猪々子はんが勝つでありんす。
負けたときの言い訳を考えておくとよいでありんす。ホホ」
「そう、あなたが軍師なの、太夫。
それなら、より負けるわけにはいかないわね。
あなたこそ、負けて泣かないようにすることね!」

真名が太夫!出来すぎです。

「オホホ。その言葉、そのまま返すでありんす。
そうそう、清泉はん、一刀はん、あちきの訓練は覗かないでもらいたいのでありんす。
敵に動きを悟られたくないのでありんす。
よろしいどすえ?」

ホホホと笑いながら逢紀は去っていった。
残されたのは怒りで頭が沸騰している田豊。
こんなに怒った田豊を見るのは初めてだ。

「っもう、むかつく!むかつくわ!!」
「何でそんなに怒っているの?」

と、一刀。
確か、田豊って逢紀の讒言がきっかけで殺されてしまったくらい仲が悪いはずだから、まあそうなるのもわからないでもないけど。
もし、そんな事態になりそうになったら……菊香を連れてどこかに逃げよう。
あの袁紹さんじゃあ考えにくいけど。
それにしても、よくもまあこれだけ仲の悪い人々が同じ陣営にいたものだ。
何が原因なんだろうか?

「何か、太夫はそばにいるだけでむかつくのよ!
大体、あの格好何?おかしすぎるでしょ?
話し方もむかつくし。
そのくせ、妙に出来るときがあるし。
あ~ん、もう!
清泉、絶対負けたくないの!手伝って!」
「いいですよ」

こうして軍事演習は第2段階に進んだのである。



[13597] 醸造
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:35
醸造

 さて、一刀であるが一日中軍事演習を見ていたわけではない。
というよりは、むしろ、軍事演習を見ていた時間のほうが少ない。

それでは何をしていたか、というと、彼の専門を生かせるかの確認。
……のはずだったのだが、酒のまずさに辟易した一刀は、まず酒を造ろうと決意する。


原料として使える食材は、麦、米、ジャガイモ、サツマイモ。
ジャガイモはあっても葡萄はないので葡萄酒は無理。
色々訳分からない世界だ。
葡萄のほうが入手しやすいだろうに。
ジャガイモ、サツマイモといったら中南米原産で、この時代ユーラシア大陸には来ていない。
葡萄だったら中東やヨーロッパにあるはずなのに???
あとで種を入手できるか聞いてみよう。

ここ、河北の主要産品は麦だから、米や芋から造る酒よりは、麦から造る酒が適当だろう。
ホップがないから現代の(味付けの)ビールは無理。
探せばホップが見つかるかもしれないけど、暫くは諦めよう。
昔のビール(エール)なら麦だけでも出来るので出来そうだ。
それを更に加工すればウィスキーもできるだろう。
蒸留装置が必要だから、醗酵がうまくいったら蒸留装置を作ってもらおう。
蒸留酒は、もしかしたらここに来るかもしれない趙雲対策。
あの人のん兵衛らしいから。
焼酎は麹が必要なので、これがうまいこと入手できるかどうか。
まあ、米をそれらしい場所にばら撒いておいて、麹菌が採取できるか試してみよう。
麹が入手できたら、酒よりは味噌、醤油が先かな?

というわけで、麦をもらってくる。
袁紹は太っ腹だから10袋も麦をくれた。
いや、最初は実験だからそんなにいらないんだけど。
というより、最初は蔵ごとくれようとしたんだけど、どうにか10袋まで減らしてもらったというところが現実だ。

それにしても………実が充実していない。
もっと粒の大きな、つまった実が欲しい。
品種以前に肥料不足だな。
これはこれでなんとか考えないと。
でも、まあ、まずは酒造り。

麦を水につけて放置。
二日後、充分水を吸った麦を借りた建物の床にばらまいて、時々空気を入れながら発芽を促進させる。
まるで自分でやっているようだけど、人もつけてくれたので俺は指示するだけ。

「何をやっているのですか、一刀さん」

沮授が興味深そうにやってきた。

「酒を造るんだ」
「酒?こんな造り方はみたことがないですね」
「でも、西の国ではこんな風に造っていると思うんだけど」
「西?涼州のあたりですか?」
「いや、もっと先。今は……」

一刀は歴史の知識を発掘する。

「俺の世界でローマと呼ばれていた国か、パルティアと呼ばれている国のはずなんだ。
ローマは大きな帝国で、交易がある。ここの言葉では大秦かな?
パルティアはアルシャク朝で、安息という名前だった気がする」
「ああ、それなら両方とも聞いたことがあります。
行ったことも見たことはないですが。
大秦は交易があって、確か葡萄酒はそこから運ばれてくるんですよ。
めったに手に入らないんですけど。
葡萄酒は芳醇で少し呑んだだけで幸せな気持ちになれるのです。
でも、強いお酒なので、少し呑んだだけで酔ってしまうんです」

そうか、ワインも強い酒に入るのか。

「この間宴会で出たお酒は、俺の世界で言うと酒にならないほど弱い酒だったんだ。
だから、まず最初は葡萄酒の半分くらいの強さの酒を造ろうと思って。
最終的には葡萄酒の何倍も強いお酒を造ろうと思っているんだ。
エチオピアやパルティアではそんな強い酒を造っているかもしれないけど、漢にはないから、うまくいったら強い酒を飲む最初の漢人になれるよ」
「すごいのですね。
一刀さんって本当に天の御使いなんですね」
「う~ん、それほどでもないと思うけど、そんなふうに見える時もあるかもしれない」
「期待してますから。お酒も政治も軍事も」
「うん、俺にできる限りのことはするから。
清泉や菊香のために」
「えっ?!」

沮授は顔を赤らめて、そのままどこかに行ってしまった。
何か変なことを言ったか?と不安になった少し鈍い一刀である。



一週間後、発芽も適当になったので、これを乾燥させる。
天日乾燥では間に合わないので木炭併用。
それを石臼で挽いて粉砕麦芽にする。
粉砕麦芽を茹でてると麦汁ができる。
いきなり全量茹でて失敗すると情けないので、1割ほどの粉砕麦芽を使用する。
他は暫く保存。
麦汁を煮沸消毒した甕に詰めていく。
いくつかの甕には黒糖を入れておこう。
度数があがるかもしれないから。
甕には蓋。
嫌気環境にしなくてはならないんだけど、木の蓋をして、少し隙間を開けて粘土で覆えばいいだろうか?
雑菌が繁殖しなければいいのだが。
あとは20℃くらいの環境で一週間くらい醗酵させればできる!……はず。

粉砕麦芽の滓は、乾燥させて固めて栄養剤にする。
名前は……強力和華猛徒がいいだろうか、それとも英美皇素錠がいいだろうか。
酵母や乳酸菌がないから英美皇素錠にしよう。



 そして一週間後。
甕が破裂することはなかったのでひとまず安心。
肝腎の甕の中身は………


 その晩は一刀の発案でまたまた宴会を実施することになった。

「一刀、新しい酒ができたというのは本当ですの?
宴会をするのですから変なものをだしたら承知しませんわ」

袁紹が、少なくとも言葉はきついことを言っているが、表情をと見てみれば期待でわくわくしているのが明らかだ。

「ええ、麗羽様。味見しましたが思いのほかよくできたので皆様にも味わってもらおうと思って集まってもらいました」
「そうですか。それでは早速味見して差し上げますわ」

袁紹は自分のガラス器を一刀に差し出す。
国宝白瑠璃碗のような器。
ペルシャ製だろう。
う~ん、さすが金持ち袁紹。

一刀は碗にビールを注いで袁紹に差し出す。
もちろん、いくつかの甕で一番よくできたと思うビールを差し出す。
フルーティーな香りとコクが丁度いい塩梅に出来上がった。

「な、なんですの?これは。
色が変ですし、泡もたってますわ」
「ビールという飲み物で、西方では多く飲まれているはずです。
度数は……ああ、今まで飲んでいた酒よりは強いですから、お酒に弱い方はあまりたくさん飲まないようにしてください」
「そうですか?それでは……」

袁紹は不安そうに一口飲む。
一刀はその様子を心配そうに眺めている。
他の将軍、参謀は興味深そうに袁紹の様子を見ている。
袁紹はビールを一口飲んで、ぱあっと明るい表情に変わる。
どうやら、お気に召したようだ。

「ま、悪くはないですわね」
「それは、よかったです」
「いつでも飲めるようにしておいてもよろしいですわよ」

かなりお気に召したようだ。

「はい、ありがとうございます。
それでは、他の方にも飲んでいただいていいですね?」
「まあいいでしょう。
まずいものではないですから、飲んでも平気でしょう」
「それでは、みなさん、どうぞ!」

一刀の声に、みなわっと甕のそばに寄ってくる。
そして各々自分の碗に(もちろんガラス製ではない)柄杓でビールを注ぎいれて、試飲する。

「文ちゃん、これおいしいわ」
「うん…………本当においしい。一刀、やるなあ」
「うむ、いける」
「お~いしい」
「おー、これは!」
「まずくはないわよ!」
「なかなかのお味でありんす」

軒並み好評のようだ。

「まだまだありますから、どんどん飲んでくださいね!
あと、甕ごとに味が違いますから、それぞれ味わってください!」

一刀もうれしそうだ。
そしてその日はビールを中心にいつになく和気藹々とした宴会が進んだのだった。
酔った沮授を部屋まで抱いて運ぶというおいしいイベント付!


 残ったビールは低温殺菌して保管。
これでしばらくはビールを飲み続けることができるだろう。
次は蒸留酒に挑戦だ!



あとがき
袁紹陣営の地固めを先に行っているので、袁紹、顔良、文醜以外の恋姫キャラはあと5~6回は出てこない予定です。
申し訳ありませんが、もうしばらくオリキャラでの袁紹陣営の世界をご堪能ください。



[13597] 買物
Name: みどりん◆f109ed80 ID:81b7701d
Date: 2010/09/18 00:55
買物

「昨夜はお見苦しい姿をさらしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

と、真っ赤な顔で一刀に謝っているのは沮授である。
酔っ払って動けなくなったのが余程恥ずかしかったらしい。

「いえ、俺も清泉さんみたいに可愛らしい人を抱くことが出来てうれしかったです」

それを聞いて顔を真っ赤にしてうつむいてしまう沮授。

「あれ?何か変なこと言いました?」

今のところ、純粋、且つ鈍い一刀はそんな間の抜けた質問をしている。

「い、いえ、別に……」
「それで、何か用でもあったのですか?」
「え?ええ。あの、お詫びと言っては何ですが、街の案内でもしようかと思いまして。
まだ、業の街は余り見ていらっしゃらないのでしょ?」
「そうですね。訓練とビールで時間がつぶれていましたからね。
確かに余り街を見たことはなかった気がします。
それではお願いできますか?」
「はい、喜んで♪」

こうしてデートをすることになった一刀と沮授である。


城から出ようとする二人に声をかけるものがいる。

「あれ?清泉、一刀、どこに行くの?」

田豊である。

「一刀さんに街を案内しようと思いまして」
「それなら私も行くわ」
「そ、そう……」

ちょっと不満そうな沮授であったが、半ば田豊に押し切られるような形で3人でのデートになってしまった。


街は……まさに漢である。
男の漢ではなく、古代中国の漢である。
木の柱に、恐らく土で作った煉瓦や木の板で壁を作った、瓦葺の屋根の家並みが並んでいる。
技術水準は案外高そうだ。
そして、大通りには露天が犇めき合うように並んでいる。
家並みは住居で、露天は他の街から来た行商であろうか?

「ここが業で一番賑やかな通りです。
ご覧のとおり露天が所狭しと並んでいて、民が生活に必要な物はだいたいここで手に入れることができます」

沮授が街の説明をしている。

「大部分が食料で、その他がちらほらという感じだね」
「そうですね。
近くの農家が野菜や家畜を売ったりするのがほとんどですが、魚を持ってきたり、時には遥か遠方より珍しいものを運んでくる人も時々います」

売っているものは、先日の宴会で食べたような食材。
ジャガイモ、サツマイモ、ピーマン。
ただ、型は小さ目か?
麦は、倉庫と店が同じだから、露天には並ばないのだろう。
その他、栗とか木の実類は結構充実しているように見える。
野菜は概して寂しいか。
果物は……あまりなさそうかな?
あまり日本には見かけないものとして虫がある。
確かに東南アジアでは今でも売っているからそうなのだろうけど…………ねえ?
宴会で見なかったのは、見落としだろうか?
チーズはありそうなものだが、見当たらない。

「あのさ」
「はい?」
「チーズ……じゃ、通じないな。
乾酪……これも違うかな。酪、醍醐……これも日本語だし……」
「何をぶつぶつ言っているのですか?」
「いやあの、言葉が分からなくて。
山羊の胃袋に乳を入れて醗酵させたような白か黄色いふにゃふにゃの食べ物はないの?」
「……ああ、匈でなにかそのような食べ物を作っていると言う話は聞いたことがあるような気がしますが」
「ここでは、あまり見ないわね。すぐ腐るんじゃないの?」

沮授に続いて田豊も一緒に答えてくれた。
保存技術はまだないのか。
牛はいるのにもったいないけど、あれはどうやって作ったかなぁ?

「そうなんだ」
「それがどうしたのですか?」
「いや、牛がいるから、そういった食べ物ができるのになぁ、って思ったんだ」
「じゃあ、それも作ってみたら?」
「うーーん、そうなんだけど、ちょっとあれは忘れた。
思い出したら試してみるけど……」
「期待していますから」
「あまり期待されても困るなぁ。
まあ、ここになくて何か出来そうなものはそのうち試してみるから」
「おいしいのをお願いね♪」
「はいはい」


食料以外の露店について。

鍋屋がある。修理も兼ねているようだ。
筵は……売っているのは劉備ではなかった。
服はなくて、生地がある。
服は露天でなく、建物を持った針子のところに作ってもらうか、自分でつくるかのようだ。
確かに、作るのに時間がかかるだろうから、露店ではむりだろう。
恋姫仕様の服は、スペシャリストがいるに違いない。
籠はあるが、自動籠作り機はなかった。
というわけで、売っているのは李典ではない。

「宝石も売っているんだ」

ダイヤモンドとかルビーとかそういった類のものではないが、翡翠とか水晶がいくつか並んでいる。
それが綺麗に磨かれている。
勾玉が古代にあったくらいだから、石を磨く技術はそれ相応にあるのだろう。
黄色っぽいのは琥珀だろうか?

「そうですね。
あちらこちらの山や川でとれた石を綺麗に磨いて、こうやって売りに来るのです」
「俺に金があったら、買えるんだけど」

と、初デートに何もできずちょっと残念そうな一刀に、田豊が朗報をもたらしてくれる。

「お金ならあるわよ」
「え?そうなの?どうして?」
「このあいだのビールの代金」
「ビール?だって、元は麗羽様の麦じゃない?」
「それはそうだけど、酒にすると価値が上がるから、その差額は一刀のもの。
それ以外にも麗羽様に軍事演習を勧告してくれるとか、十分に働いてくれているわ」
「そんなの別に麗羽様をちょっとおだてて言うことを聞いてもらっているだけじゃない。
そんなことでお金をもらうなんて」
「それを言ったら、言うことを聞いてももらえない私は無給になってしまうわ」
「あ……」
「兎に角、お金はそれなりにあるから、買いたいものがあったら好きに使っていいわよ」
「本当?それじゃあお言葉に甘えて。
二人に贈り物をしてあげたいんだけど。
どれなら買える?」
「そ、そうなの?」

ちょっとどぎまぎする田豊である。

「そこに並んでいるものならどれでも買えるわよ」
「ふーん……」

一刀は宝石を今度はじっくりと眺める。

「こっちの桃色のが清泉に似合うかな?
菊香はこっちの紫のがいいかな?」

今の言葉で言えばピンククォーツとアメジストに相当する石であろう。

「それでいいのね?」
「うん、その二つをお願い」
「紐も付けますか?」

と尋ねるのは商店主。
言われて見れば確かに石に穴が開いている。
ペンダント用だろう。

「それじゃあお願いします」
「色は何色にしますか?」
「何色がありますか?」

商店主は紐をずらりと並べる。

「じゃあ、桃色のほうは赤い紐、紫のほうは青い紐でお願いします」
「えっ?」

と、なにやら不自然に驚く沮授。

「わかりました。こっちが赤でこっちが青ですね?」

と、にこにこしながら答える商店主。

「ええ」

一刀がそう答えると、田豊がそれに異を唱えてくる。

「わ、私も赤い紐がいいわ」
「でも、石が紫だから青いほうが似合うと思うけど」
「そ、それでも赤い紐がいいの」
「そう?まあ、本人がそういうなら。
すみません、両方赤でお願いします」
「分かりました」

商店主はさらににこにこしながら、石に赤い紐を通していく。

「はい、どうぞ」
「どうも」

一刀が石を受け取り、田豊が支払いを済ます。
それから、一刀は二人に向き直り、

「いつもお世話になっているお礼」

と言って、二人の首にペンダントをかけていく。

「あ、ありがとうございます」
「ありがとう、とっても嬉しいわ」

二人とも、妙に赤くなってペンダントを受け取る。
それから、何かぎこちない雰囲気で業の街の案内が再開される。


この時の一刀、赤い紐のペンダントを贈ること=結婚の申し込みであるという風習を知らない。
後に赤い糸で結ばれるという伝説の元となった風習である。
二人同時に赤い紐のペンダントを贈った一刀、その後どうなることか?



あとがき

今更感がありますが、次の「視察」を書いたときに流れが唐突だったので、ここに一話入れたいと思っていたのを漸く入れることができました。
これで、袁紹伝は全て終わりです。
ちなみに、上記風習があるかどうかは私も知りません。
似た話はどこかで聞いた気もするのですが。
それから、漢の街並みの描写は適当です。
少し調べたのですがなかなか分かりませんでした。
建物は普通に瓦屋根の家があるようなのですが。

少し仕事も楽になってきたので、また何か書いてみたいと思います。
次は「陵辱の董卓伝」か「おおかみかくしafter」あたりがいいかなぁと思案中です。
どちらにしてもX版ですが……

それでは、また。


追伸
100話近くも上げるのは非常に面倒でした……



[13597] 視察 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:36
視察 (R15)

 一刀の知っている知識は歴史と農業だから、軍事教練は対象外。
まあ、歴史はどれだけ知っている知識が役に立つか微妙なところだが。
だから、軍事演習はその道のプロに任せておいて、自分のできる農業に活躍しようとする一刀である。
ビールを造るのに成功したので、また暇になった一刀は今度は農業指導に乗り出そうと試みる。

「斗詩さん」
「あら、一刀さん。なんでしょうか?」
「あの、領土内の畑や果樹園をみて回りたいんです。
俺、農業は詳しいんで、少しは役に立てるんじゃないかとおもうんです」
「そうなんですか。確かにビールを見ても一刀さんの知識は色々ありそうですものね。
分かりました。でも、私は今軍事訓練ですから……誰か一刀さんを領内案内してくれる人を見繕っておきます」
「ありがとうございます」


 その翌日。

「おい、でかけるぞ!準備は出来ているか!」

一刀の部屋の入り口で声をかける女性がいる。
一刀を案内してくれる人だろう。
入り口に立っている人を見ると、……すっごい美人。
誰?
美人エリートOLといった雰囲気の女性が白いブラウスに紺のタイトスカートを纏っている。
下着はないので、白いブラウス越しにうっすら女性の暴力的な巨乳、特にその頂が見える。
ブラウスの間から胸の谷間がこれ見よがしに覗いている。
余りに魅力的なので、くらっとしてしまう一刀。

「ええ、準備はできています。
………………あの、どちらさまでしょうか?」
「何をいっているのだ、お前は!
真名を教えた仲ではないか!」
「え?真名を?」

一刀は今まで真名を聞いた人間を全て思い出す。
それほど多くないので、すべてリストアップが完了するが、該当者なし。

「いえ、やっぱりあなたのような美しい人とお会いしたことはありません」
「ガハハ、冗談が過ぎるぞ、一刀」

………もしかして

「朱雀さん?」
「なんだ、一刀。どうして、今気付いたみたいにいうのだ?」
「今、気付きましたから」
「このわしの姿を見て分からぬか!」
「わかりませんでした」
「なにーー?!お前の眼は節穴か?」

と、そこに通りかかる田豊。

「あ、朱雀さん。本気になったんですね」
「ああ。若いやつ等が訓練しておるからな。
わしも追い越されぬよう鍛錬せねばな」

「本気?」

一刀は田豊の言葉で分からなかった部分を反芻する。

「ああ、一刀さん、本気の朱雀さん見るの初めてでしたね。
朱雀さんはだらけているときは太って、訓練して体が締まっているときはこういう姿になるんですよ」

いや、変わりすぎですから。別人ですから。

「それじゃ、私は訓練に行ってきますね」

田豊は去っていった。

「ん?この間とあまり違わんと思うが……」
「違います!完全に別人です!」
「そうか?まあ、些細なことだ。
わし等も行くぞ」
「はあ……」

些細かどうかはおいておいて、とりあえず畑の視察に向かう一刀である。


 馬が一頭用意されている。

「今日はあちこち見て回るから馬で行く」
「わかりました」

たしかに、この巨大な大地を徒歩で回るのはきついだろう。
だが、このことが別の問題を生じてしまうのである。

一刀は馬にのる。
鞍はあるが、鐙はないので、足の落ち着きがわるい。
そうそう、鐙がどうとかいう話もあったので、あとでつくってもらうことにしよう。

一刀の後ろに麹義が乗る。
タイトスカートでどうやって乗るのかと思っていたら、スカートを腰までたくし上げて―――つまり下半身丸出し―――その状態で一刀の後ろに乗る。
鐙がないので脚でしっかりとはさんで体を安定させる。
麹義はその両の素脚で一刀の体をしっかりとはさむ。
文官のような薄めの服しか着ていない一刀。
もちろん彼にも下着はない。
その薄い布地一枚越しに麹義の大事なところが一刀のお尻にぴったりと密着する。
おまけに背中には爆乳の感触。
耳には麹義の吐息。
一刀は暴発しそうである。

「あの、あの、朱雀さん?」
「ん?何だ?」
「その、腰巻を腰までたくし上げて恥ずかしくないのですか?」

ここで、恥ずかしくないと言ってくれればまだ救いようがあったのかもしれない。

「はは恥ずかしくないわけがなかろう。
本気の時の服はどういうわけかこれになっているので、仕方なく下半身を出しているのだ」
「そう………なんですか」

そして妙に緊張した農業視察が始まった。


 その日はあちらこちら見て回ったようだが、下半身に意識が集中してしまってほとんど何も覚えていない一刀である。
まず、この下半身を鎮めなくては。

選択肢

 [田豊の部屋に行く]
 [沮授の部屋に行く]
 [麹義の部屋に行く]
 [荀諶の部屋に行く]
 [袁紹の部屋に行く]
 [逢紀の部屋に行く]
 [自分の部屋に行く]

一刀は沮授の部屋を選択した。
田豊、沮授に一目ぼれだったし、この間のビール造りのときの様子や、抱かれて部屋に戻るときのうれしそうな様子から判断して、多少は沮授は自分に好意を持ってくれているのでは、と思ったから。
今日の麹義も惹かれるものがあるけど、やっぱり初志貫徹。
初志貫徹なら田豊か沮授だが、状況から考えて沮授にしよう。

獣になってしまった一刀が沮授の部屋に向かう。

「清泉、ちょっと」
「なん!!っ」

一刀は沮授の返事も待たずに、唇を奪い、閨に押し倒す。
そして乱暴に事を始める。

「いや……」
「え?」

一刀は沮授の拒否の言葉に行動を停止する。

「優しくしてくれなくてはいやです」
「ごめん」

一刀は少し落ち着いて、そして今度は希望通り優しく行動を起こし始める。

そして、それから色々やって、下半身を鎮めることに性交……いえ、成功した。

「一刀、これからはずっと一緒ですからね」
「うん」

沮授だったら俺の一生を捧げても、と思う一刀であった。





おまけ

 [田豊の部屋に行く]
 田豊は顔良の部屋にでもいっているのか、部屋には誰もいなかった。
 一刀は爆死してしまった(どこが?)。
 BAD END


 [麹義の部屋に行く]
 「どうした、一刀?」
 「朱雀、俺、もう我慢できない!」
 「しかたないのう……」
 その後……
 「一刀、二人で新しい世界を切り開こうではないか」
 二人でモンゴル方面に逃走した。
 未完


 [荀諶の部屋に行く]
 「なんなの?あなた、存在自体が不要なの」
 「俺、もう我慢できない!」
 「いや!やめてーー!!」
 必死に抵抗する荀諶。手にするはさみ。切り取られてしまう特定部位。
 「ウギャーーー!!」
 WORSE END


 [袁紹の部屋に行く]
 「麗羽様」
 「なんなのですか!いや、止めなさい!誰か!!」
 「どうしたのですか、麗羽様。あ!一刀、何してる!!」
 一刀は打ち首になってしまった。
 WORST END


 [逢紀の部屋に行く]
 「元図太夫でありんす。今宵は楽しゅう過ごしたいのでありんす」
 花魁を目の前に、しかし逆に萎えていく一刀。
 こう、露骨なのも……
 こうして、一刀は下半身の昂奮を鎮めることに成功した。
 これもあり?


 [自分の部屋に行く]
 自分でなんとかしなくては……
 一刀はベッドで処理を始める。
 「一刀さ~ん」
 と、そこにやってくる顔良。
 「え?あ、ちょっと」
 「ななななななにをしているんですか!」
 「どうしたの、斗詩……え゛ーーーー」
 「なんですか、猪々子、斗詩。騒々しい………………」
 一刀は袁紹の信用を失い、華国を作ることに失敗した。
 BAD END


あとがき
一刀、押し倒してしまいました。
まあ、拒絶されなかったから良しとしましょうか。



[13597] 農協
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:37
農協

 一刀は今日も視察に出向く。
沮授に充分に昂奮を鎮めてもらったので、麹義の暴力的なフェロモンを受けても、何とか耐えられるようになっている。
タイトスカートのうえに布を巻いてもらったのも大きい。
布が垂れて、大事なところは見えなくなっているから、昨日ほどの攻撃力はない。
その状態でも、麹義の攻撃力は凄まじいから、帰ったらすぐに沮授に昂奮をぶつけなくては。


 何は兎も角、何とかまともな視察が始められる一刀だ。

ジャガイモ畑で水を撒いている百姓がいる。

「すみませーーん!!」

一刀は馬からおりて、畑の外から大声をかける。

「んーーーー?なんじゃーーー?」
「どのくらいーーー水をーーー撒いているんですかー?」
「毎日じゃあーー」
「そんなにーーー撒かなくていいですうーー。
しおれてきたら撒いてください」
「枯れちまうじゃあー」
「そんなことはありませーーん。
ジャガイモはーーー水が少ない場所が原産ですからーーー却って少ないほうがーーーいいんですーー」
「信じられんばいーー」
「それじゃあーーあとでーーーお百姓のみなさんにーーー
農産物の育て方をーーーおしえますーーー。
そのうちーーー連絡するからーーー聞きに来てくださいーーー」


 暫く馬に揺られると、麦の収穫をしている畑がある。

「すみません、城から来たものですが、道具を色々見せてもらえますか?」
「ええで」
「この鎌は……青銅ですね?」
「そうやで」
「鉄の鎌はないんですか?」
「鉄鎌は高いよって、よう買われへん」
「なるほど、そうですねえ。
脱穀は棒で打つんですか?」
「そやで」
「わかりました。お邪魔してすみませんでした」

大学2年で習った農業史の通りだ。
農業史なんて、一体なんの役に立つのだろうと思ったのだが、現代でも農業が進化していないところもあるから、農業の変遷を知っているのは農業指導には確かに有効だということを身を以って体験中の一刀である。



 その日も麹義フェロモンにコチコチにされた一刀は沮授の許を訪れる。

「一刀、待っていたの」

と閨から沮授の声がする。
一刀は大喜びで準備をして閨に飛び込んでいく。

「え?菊香さん?」

そこにいたのは沮授だけでなく、田豊と沮授の二人。

「清泉だけ愛するなんて不公平じゃない。
一緒に頑張ろうといった仲でしょ?」
「そうだけど、二人も奥さんにしていいの?」
「別に二人くらい全然問題ないわよ。皇帝なんて、何百人もいる人もいるくらいだし」

多妻制万歳!

「うん、俺も一目見たときから菊香と清泉に恋に落ちていたんだ」

そして、その日も下半身を鎮めることに性交……いえ、成功したのである。


その日以降、一刀の部屋では一刀、田豊、沮授の3人がいつも一緒に寝るようになるのであった。



 その後も麹義フェロモンにコチコチにされながらも畑の様子を色々見て回った一刀。
おおよそ現在の問題点が大体把握できた。
そこで、一刀は農業改革の方針をまとめ、袁紹に提言することにする。

「農業協同組合?」
「そうです、麗羽様。
農民の使っている農具は、青銅製であまり質がよくありません。
やはり鉄器を使ったほうが効率があがります。
ですが、価格が高いので皆が使うというわけにもいきません。
ですから、鉄器の農具を集中して管理し、それを貸し出すようにするのです。
他に、俺の知っている農具でまだここでは使われていないものも数多くありますから、そういう農具を協同で所有するのです。
それだけではありません」
「もういいですわ」
「……は?」

華麗がないのがまずかったのか?と少し反省する一刀。

「収入が増えるのでしょ?」
「はい、その予定です」
「それでは、細かいことはいいからさっさとおやりなさい」
「はい!ありがとうございました!!」

農業をどうするかは麗羽にとってはどうでもいいことなので、一刀に丸投げであった。


 一刀は早速農協機構を設立する。
といっても、指示するだけで、実際に行うのは文官たち。
そういう事は彼等はお手の物だから。

そして、鉄製の鎌などの農機具、車輪付大型犂、設計図を描いて作ってもらった足踏み回転式脱穀機、そんなものを準備した。
新型脱穀機の威力は凄まじく、今まで何週間もかけていた作業が一日で終わりになってしまった。
精米精麦機も注文中だが、これは構造が難しく、まだ納入されていない。
そのうち、これも入手できるだろう。

 それから、一刀の農業指導。
農民全員に直接指導するのは難しいので、農業指導員を育成して、間接的に全農民に指導をしていく。
種の撒き方、剪定のしかた、マルチングについて、水遣りの方法、害虫対策、種の採取の方法などなど。

 時々は実際に畑を回ってみて、様子を確認する。
一刀が来たということがわかるように、牙門旗ほど立派ではないが幟も準備した。
天の御使い農業指導の頭文字をとって"天"にしようかという案もあったが、あまりにおこがましいというので、"農"の幟とした。
だから、農の幟が見えると、

「天の御使いさま~~、おかげさまで楽にたくさん収穫できるようになりましたーー!
ありがとうございましたーー!!」
「天の御使いさま~~、ちょっとおらの畑みてくだされーーー!!」

とあちらこちらの農民から声がかかるのである。


 その他にも養鶏、養豚、牧畜の方法を伝え、その結果、数年で冀州は他の州をはるかに凌ぐ農業大国となったのだった。


 葡萄の種も入手できた。
葡萄酒を扱っている商人に頼むと、結構苦もなく持ってきてくれたらしい。
種の輸出入はそれほど厳しくなかったのだろうか?
蚕は厳重に管理していたはずだけど。

芽は出てきたので、無事育つといいのだが。
山間の半乾燥の場所を畑にしたので、ある程度はうまくいくと思うのだけど。
ただ、一般的に果物などの実ものは今のところ芳しくない。
蜜蜂が少ないので受粉が充分でないからだろうか?
これもおいおいなんとかしたいなあと思うのであった。


おまけ

「よかったですね、一刀さん」
「なにがですか?斗詩さん」
「想いが遂げられて」
「想い?」
「とぼけちゃって。
菊香さんや清泉さん、ある日を境に呼び捨てにしてるし、菊香さんや清泉さんも一刀さんのこと呼び捨てにしてるでしょ。
もう、ばれてますよ」
「ななななんのことかよくわかりません」
「でも、いきなり二人かぁ。
一刀さんもやりますね」
「ででですから、なんのことかよくわかりませんってば」
「まあ、そういうことにしておきましょう。
朝、菊香さんと清泉さんが一刀さんの部屋から出てきていても何もないということにしておきましょう。ね?」

ばればれであった。



あとがき
現在数話先の話を執筆しているのですが、その展開上、田豊、沮授とそろそろやっておかないとまずくなってしまったので、ちょっと急いでしまいました。
最初は黄巾の乱の後あたりを予定していて、もう少し落ち着いた展開で結ばれる予定だったのです。
このため、準備不十分でかなり唐突な展開になってしまった感があることが否めませんが、ご了承ください。
あまりに唐突なので、この辺はそのうち変えるかもしれませんが、とりあえずはこのままでお願いします。



[13597] 軋轢
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:39
軋轢

 文醜が逢紀の応援を仰ぎ、顔良との最初の対決を迎える日がやってきた。

「フッフッフ。斗詩、今日のあたいはちょっとちがうから」
「何回やってもおなじよ。返り討ちにしてあげるから!」

文醜と顔良が対決前から闘争心を露にしている。
そして、軍師同士も。

「今日は勝たせていただくでありんす」
「ふん、そのふざけた口調も私に負けたら少しは抑えてもらいたいものね!」

逢紀も田豊もやる気十分だ。
……ただ単に仲が悪いという説もあるが。

そして、軍師は最後のアドバイスを将軍たちにする。

「猪々子はん、訓練通りに軍を動かせば必ず勝てますよって、自信を持ちなはれ」
「うん、分かった!」

「斗詩さん、今日の敵は突進するだけとは思えません。
色々な陣形を訓練しましたから、臨機応変に対応してください」
「わかった。ありがとう、菊香ちゃん。絶対勝つわ!」

最後の確認をして模擬戦に臨む。


「突撃ーー!!」

文醜の掛け声で模擬戦が始まる。

「突撃ーー!!」

それに応えて顔良も軍を動かす。

顔良は文醜の陣形を見る。
今までと全く同じ突撃パターンだ。
いくらなんでも同じ攻撃をしてくるとは思えないのだが。
でも、この陣形には鶴翼陣が一番効率的なので、軍を展開させようとする。

「斉射!!」

文醜の次の指示が飛ぶ。
と、集団の先頭からやや後に隠れていた弓隊が一斉に弓を射始める。

「うわーー!!」

顔良軍の動きが鈍くなる。
矢の先は鏑矢のような木の塊だから当たっても死ぬことはないが、多量の矢が飛んできている状況での移動はそれほど簡単ではない。

「盾で防ぎながら陣を退却!
同時に軍を左右に分けて」

顔良の悲鳴のような声が響く。
顔良軍がそれにしたがって軍を展開させていく。
だが、防御しながらの動きはどうしても遅くなる。

「後陣は二手に分かれて左右から突撃!!
前列はそのまま突進!!」

文醜の声が響き渡る。
そして、文醜軍の後の部隊が左右に分かれて顔良軍の左右から突撃を開始する。
突撃の速度はぴか一だから、あっという間に文醜軍は顔良軍の左右に展開する。
前隊は相変わらず突撃を続けているので、顔良軍は3方を文醜軍に囲まれ、ほとんどなす術もなく敗退してしまった。

「やったー!!勝ったーーー!!!」

文醜の大喜びの声が演習場に響き渡る。

「太夫、ありがとう!!」
「当然でありんす」
「また、お願いな!」

一方、負けた方は

「そ、そんな……」

顔良、田豊、沮授共通の言葉であった。

「菊香はん、あちきは戦術では無敵でありんす。
いさぎよう負けを認めるでありんす」
「模擬戦で弓を使うとは卑怯ね。でも、負けは負けだわ。
次はこんなに簡単にいくとは思わないことね」
「おほほ。いつでも返り討ちにしてさしあげるでありんす」

と、リベンジを誓う田豊であるが、顔良はそんなにのんきなことも言っていられない。

「どうしよう、一刀さん。負けちゃったよう」
「そ、そうですけど、ほら、まだ3勝1敗だから、自分より勝ち数が多くないといやということにしたらどうですか?
それほど理不尽な要求じゃないと思うんですけど」
「うん、いい考え。そうするね」

顔良はようやく安堵した様子で文醜に会いに行った。


幕間:田豊、沮授の夜。

「一刀。悔しいの!いっぱい慰めて!!」

それはそれでうれしい一刀である。


 さて、負けた田豊は陣容の拡充を図る。

「柳花さん」
「何よ、敗軍の軍師が何のようよ」
「一緒に太夫をやっつけるの手伝って!」

恥も外聞もなく救援を要請する田豊。

「何でよ」
「あのごてごて着飾り軍師が袁紹軍でのさばってもいいと思うの?」
「っ!菊香、手伝うわ!!!」

そう、田豊、沮授は清楚な感じ、荀諶もそれほど華美ではない、というよりむしろ地味なマントとフードなので、華麗な袁紹、逢紀とは少し一線を画するところがあったのだろう。
逢紀を華麗というのは少し憚られる気がするが……やっぱり華麗かな?
田豊を牢に入れたのも、華麗-地味の超えられない溝が原因なのかもしれない。
というわけで、地味軍師が結託して逢紀にあたることになった。



 その結果は……

「文ちゃん、これで4勝1敗だね。
あと4つ勝たないと私の体をあげないから」
「ぐぬぬ……」

というように、地味軍師軍の勝利で終わった。

「太夫、戦術では無敵でありんすって、この間言ってなかったっけ?」
「きょ、今日は少し調子が悪かっただけでありんす。
次はあちきが無敵であることを証明するでありんす」
「そう、期待しているわ」

悔しさがにじみ出る逢紀であった。


 逢紀は文醜軍の拡充を試みる。
だが、逢紀には余り仲間といえるような人間がいないので、地味組に属していない将軍でもあり軍師でもある審配を尋ねる。

「樹梨亜那はん、お話がありんす」

審配。字が正南、真名が樹梨亜那。
その真名の示すとおり(?)、見た目がゴージャス。
エナメル光沢で背中が全く覆われていないボディコン衣装に羽の扇。
10cmはあるピンヒール。
長い爪、特徴ある髪型。
少し昔の東京のお立ち台で見たことがあるような衣装だ。
世に言うワンレン・ボディコン・爪長・トサカ前髪スタイル。
しかもハイレグでなくノーパン(ここだけリアル?)。
民明書房によれば審配がジュリア○東京のモデルになったとあるが、明らかに嘘だろう。
逢紀といい審配といい、衣装は全くリアル無視だ。
いったいどこでどのように作った衣装なのだろうか?

審配は逢紀とは方向性がまるで異なるが、華麗組に入れていい人材だろう。
が、華麗のありかたについて逢紀と意見を異にし、日頃仲が悪い。

「あ~ら、太夫も樹梨亜那ファッションの良さに目覚めたのかしら?
そんな時代錯誤の着物は脱いで、もっと肌を露出させないと。
女は露出よ!
コスチュームのアドバイスや腰の振り方ならいつでもレクチャーしてあげるわ」

樹梨扇をゆっくり動かし、腰をくねくねさせながら応える審配。

「それはないでありんす」
「それじゃ、私とコスチュームについて、また激論を戦わせたいの?
ごめんねー、今忙しいのー」
「それも違うでありんす。
今日はお願いがあってきやした」
「お願い?この私が仲の悪いあなたのお願いを聞くとでも思っているの?」
「服の趣味が合いませんで仲違いしているのは存じているのでありんす。
ですが、それはあくまで個人のこと。
仕事は個人的な趣味とは一線を画さなければならないのでありんす」
「ふーん、いいこと言うわね。
じゃあ、話だけでも聞いてあげるわ」
「ありがたいでありんす。
では、早速。一緒に文醜軍を勝たせていただきたいのでありんす」
「どうして私があなた助けなくてはならないのよ?」
「お気持ちはようわかりんす。
ですが、相手は田豊、沮授、荀諶という地味軍師たち。
袁紹軍は華麗な軍師が仕切らなくてはならないのでありんす。
どうかわかっておくんなまし」

その台詞には審配も弱く、一発で同意してしまう。
華麗の方向性は、華麗-地味の対立に比べれば遥かにちいさなものだから。

「わかったわ!ゴージャス同士一緒に頑張りましょう!!」

こうして逢紀+審配の華麗組が地味組に勝負を挑むことになったのだった。



 顔良の4勝1敗で迎えた第6戦。

今日は顔良優勢だ。
このままいけば顔良が勝つだろう、と思う一刀であった。

だが、審配を仲間に率いて、さらに淳于瓊との接触もあるようだ。
淳于瓊。字が仲簡、真名が霊泥素らしい。
服は張遼のような晒(さらし)に薔薇の刺繍をした学ラン。
この人も派手組だ。


パーパパピパピパプピパー


突然演習場に響き渡るクラクションの音。
ドドドっと横槍をいれる騎馬隊。
率いるのは淳于瓊。
霊泥素……れいでいす………レディース!

うわー、馬に竹やりくっつけてるよ!
意味ねー!
おまけに馬を蛇行させて走ってるよ!
ある意味すげー!
淳于瓊さん、派手ですけど何か方向性間違ってますから!
全然華麗で無いですから!
太夫さん、樹梨亜那さんのほうがまだ理解できますから!

淳于瓊の登場で顔良隊は対応に苦慮し、そして優勢だった戦局が一気に文醜隊優勢に変わっていった。
そのまま文醜隊の勝利で終わった。
華麗組が地味組に勝利することができたのだ!
逢紀、審配の仲も次第に改善されていった。


 一方で華麗組と地味組の戦いはますますエスカレートしていった。
模擬戦も、得物が練習用である以外、あらゆる戦術を駆使し、あらゆる武器、罠を利用する実戦さながらのものに変貌していった。
漢の時代にはなかったと思われるゲリラ戦まで導入し、策はより実践的に、より陰険になっていった。
一刀が来た当初のだらけた様子を思い出すのは最早困難だ。


 だが、よいことばかりではない。
軍隊の強化と引き換えに失ったものもある。

「顔良、今日もあたいが勝ったな。悪いが次も勝たせてもらうぜ」
「文醜さん、まだ私のほうが勝ちが多いんだから。次は私が勝つんだから」

と、昔の和気藹々とした雰囲気もすっかり失われてしまった。







あとがき
顔良、文醜にそれぞれ3人の応援をくっつけようとしたので淳于瓊を登場させましたが、多分もう出番がないと思います。
逢紀、審配は時々出てきそうな気もしますが、まだ決まっていません。



[13597] 仲裁
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:41
仲裁

 こうなると、流石の袁紹も黙ってはいられない。

「一刀!!」
「は、はい……」
「なんなんですか!この状況は。
袁家軍全体がぎすぎすしているではありませんか!!
せ~っかく私がおおらかで華麗な軍を作ったというのに、これでは外敵に当たる前に内部分裂してしまうではありませんか!!
一刀の提案で始めた演習です。なんとかなさい!」
「も、申し訳ありません。何とか対処します。
少し時間をください」
「あまり時間をかけるようでしたら一刀の首をはねますわ!」

おおらかで華麗な軍、というのはどうかとおもうが、袁紹の言い分ももっともだ。
袁紹もただの馬鹿でもないらしい。
でも、おおらかって結局今まで内部対立をうやむやにして袁紹自身が決断をしなかったってことだから……。
微妙に、というかかなりリアルが入っている。
対立する部下、優柔不断な袁紹。
優柔不断。よく言えば和を重んじる。
袁紹は案外太平の世では名君になったかもしれないけど、残念ながら今は乱世だ。
というわけで、袁紹の性格は優柔不断として後世に伝わることとなる。
で、その対立する部下を何とか解決するのが俺の仕事なのか?
いや、それは本来袁紹の仕事だろう?
まあ、それができなかったからああなってしまったんだろうけど。
やっぱり、俺がやるしかないのか?
少し……いや、かなり荷が重い気がするのだけど。
ここにきて初めての大きな試練が訪れた気がする。
これを無事クリアできれば華国に近づくに違いない。
これがうまくいかなかったら、曹操に破れ、放浪の生活に身を落とし、二度と日本には戻れないに違いない。
だから何とかしないと。
何とかといってもねえ。
菊香や清泉に聞くわけにもいかないし。
当事者だから。
う~~ん。
そもそも、練習しすぎだから空気が悪いんだよ。
だから、練習を間引けばいいんだけど、そうすると元の木阿弥になってしまうから……
歴史を紐解いてみると……少なくとも袁紹の史実は全く役立たない。
だから、他の武将を参考にすれば。
例えば曹操。
曹操が何をやっていたかというと………………


「袁紹様」
「何ですか?よい案が思いついたのですか?」
「はい。今、軍がぎすぎすしているのは恐らく戦のことしかやっていないので、戦いに勝利することしか頭にないためだと思います。
だから、もう少し戦以外のこともやると元の穏やかな軍に戻ると思います」
「休みを取らせては華麗でないといったのは一刀ではありませんか!」
「そうです。ですから、休むわけではありません。屯田をしたらいいと思うのですが」
「屯田?」

そう、屯田。
曹操が力をつけていったのは天下を取ろうとする気概がまず第一ではあるが、実際の行動で大きくものを言ったのは次の3点だろう。


政治的には献帝を奉戴したこと
軍事的には黄巾の反乱軍を青州軍としてとりこんだこと
そして、経済的には屯田制を取り入れて収量を大幅に向上させたこと


曹操の代わりにこれを袁紹が行っていれば、袁紹が天下を取れる可能性が高くなるだろう。
まあ、農業収穫量はすでに袁紹のほうが桁違いに大きいし、青州軍と屯田制は曹操も実現可能だが、常に差をつけるつもりでいないと、いつ史実のように足を掬われるか分からない。
だから、常に曹操の一歩先をすすむように袁紹を誘導しなくては。

…………献帝劉協いるのだろうか?

「そうです。屯田です。
あの武帝も行ったといわれる屯田です」
「既に収量は充分ではありませんか!」
「確かに冀州の民が食うには充分です。
ですが、多量の食料があれば、他州や他国に売って政治的に利用することもできますし、ビールをたくさん造ることも出来ますし。
それよりなによりこの冀州の広大な大地が荒れ果てた原野で覆われているという状況が許せません!」
「……どういうことですの?」
「華麗な麗羽様の国は、軍も国土も華麗でなくてはなりません」
「オーホッホッホ。その通りですわ」
「でも、今は見てのとおり荒涼とした原野がまだまだ広く広がっています。
そんな土地は麗羽様の領土にはふさわしくありません。
そんな土地があるということは、もう完全に華麗な麗羽様のお肌に染みがあるようなものです。
ですか「大至急屯田を行うのです!!!」ら、兵士を用いても……」

お肌に染みがよっぽど気に触ったのだろうか?
一瞬で決済が降りた。


 次に説得すべきは将軍、参謀たち。

「え~っと、みなさんにお願いがあります」

会議場はぴりぴりとした雰囲気に包まれている。
誰も一刀の発言に反応しない。

「最近の軍隊の能力向上は素晴らしいものがあります。
もう、漢では最強でしょう。
でも、その代わり軍隊内部に軋轢が生じてしまっています。
これはいくらなんでもまずい状況です。
それは皆様も感じていることと思います。
ですから、訓練を減らして、代わりに屯田を行いたいと思います」
「屯田?」

田豊が尋ねる。

「ええ。兵士を原野開拓にあたらせるのです。
それで、軍の錬度が下がらない程度に訓練をするのです。
この方法の長所は、一つにはもちろん収穫量があがること、
二つ目は大地が相手の仕事なので、今問題となっているぎすぎすとした雰囲気を和らげることができること、
そして自分達で開墾した土地なので、そこを守ろうとする気運が高まることです。
麗羽様の了解も得ています。
どうでしょうか?同意していただけますでしょうか?」

暫く誰も口を開かず、他の人の様子を伺っている。
最初に口を開いたのは田豊だ。
一刀と共に袁紹を助けると約束しているし、今の発言も理解できる。

「わかったわ。私は賛成よ。
太夫もいいでしょ?敵は公孫讃、曹操、呂布といった周辺の諸侯で、身内ではないのだから」

「仕方ないでありんす。
袁家軍の統一が一義でありんす。
一刀はんの意見に従うでありんす」

逢紀もそこそこ節度のある人間だったようで、一刀の意見に同意する。
田豊の意見ではない、というところが仲が悪い証だろう。
この二人が同意すれば、あとは問題なしだ。

「斗詩さんも猪々子さんもそれでいいですね?」

一刀が2将軍にも確認する。

「うん、いいわ。
文ちゃん、ごめんね。今まで冷たくしちゃって」
「ううん、あたいこそごめん。
斗詩の体が欲しくって、ついむきになっちまった」

もともと仲のよい二人のことである。
きっかけさえあればすぐに元の仲に戻る。
こうして、袁家軍は元のおおらかで華麗な軍に戻っていった。
雰囲気は元通りであるが、その精錬度は遥かに向上したのである。
そして、時折軍のレベルを維持するように訓練を行う。

ただ、軍師は今も昔も仲が悪いままであった。

華麗組と地味組の溝を埋めることは出来るんだろうか?
やはりこれをなんとかしないと根本対策にならないだろう。
とはいうものの田豊と逢紀が仲良くする?
………難しい。
ありえない気がする。
やっぱり、華国は無理なんだろうか?

軍が和解してもまだまだ頭がいたい一刀であった。



 さて、屯田制とは、早い話が開墾である。
兵士達も最初はそんな農民のやることを……と、ぶつぶつ文句を言っていたが、確かに最近は訓練も不自然に相手に殺意を抱くものだったし、開墾していると文醜、顔良の両将軍もにこにこしているし、やってみると気晴らしになってそれほど悪いものではない(但し、個人差あり)ので、全員開墾に精をだすようになってきた。

「みなさーん、ご苦労様ー」
「おーい、みんなー。休憩にしようぜ」

顔良、文醜が自ら兵士達におやつを持ってきている。
さすがは恋姫の将軍である。
今日は肉まん。
そして毎日振舞われるのが英美皇素錠。

「顔良将軍、この英美皇素錠っていいっすよ。
味は悪いんだけんど、体の調子がよくなるんす」
「でしょ?一刀さんが皆さんのためにって配っているんですよ」
「ああ、あの天の御使い様という……」
「そうそう。あの人、何か私たちとやることがちがうんですよ」
「やっぱり、天の御使い様だけあるっすね。
袁紹様が天下を取るのももうすぐっすね」
「ええ、そのとおりよ!」

そして、兵士が屯田を全く嫌がらずにするための魔法の液体が振舞われる。
その名はビール。

「てめーら、ビールだぞお!!」
「おおお!文醜将軍、これっすよ、これ」
「こんなうめえ酒、呑んだことねえもんなあ」
「ビールが呑めるなら、毎日屯田だっていいぜえ!」
「おい、訓練も必要だろう!」
「あはは、そうっすね、文醜将軍」

おやつに呑むのが適当かどうかはおいておいて、ビール効果抜群だ。
この頃にはビールの大量生産も軌道にのってきていて、毎日20万人余の兵士に配れるほどになってきていた。
残念ながら、まだ日に1杯しか呑めないのだけど。
それでも500cc x 20万人だから日産10万リットル級の生産設備を持っていることになる。
この時代としてはダントツで世界一の規模である(多分)。

「皆さんの開拓した畑で採れた麦がビールの原料になりますからね。
いっぱいのみたかったらいっぱい開墾してくださいね~」
「「「おおおーーっ!!!」」」

こうして、袁紹は強力な軍隊、豊富な収穫を得ることに成功したのだった。



[13597] 肥料
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:42
肥料

 稲は土でつくれ
 麦は肥料でつくれ

麦を育てる鉄則として日本古来より言われている言葉である。
河北は麦の大産地。
で、畑を見ると、これが情けない。
明らかに肥料不足。
緑が薄く、成長も芳しくない。
この時期ならまだ追肥をすれば間に合うだろう。
問題は肥料に何を使うか。
化成肥料があるわけがなく、かといって有機肥料も潤沢にはない。






………ないことはないけど。


 さて、袁紹の参謀や将軍は、以前は袁紹に何か提言をするまえに会議を開いてどのような施策を提言するか協議していたそうだ。
一刀はその話を聞いて驚いてしまった。
さしずめ賢人会議といったところだろうか。
それで、袁紹が「や~っておしまい!」しか言わなくてもなんとかなっていたのか。
でも、昨今は袁紹がえり好みをするようになって、会議の結果が反映されないようになり、いつしか賢人会議も行われなくなってしまった。

 ところが、一刀がきて、口八丁のところもあるが意見が通るようになると分かったので、再び賢人会議が開かれるようになってきた。
もちろん、仲の悪い参謀たちの行う会議である。
一筋縄ではいかないが、正史のように相手の足をひっぱることしか考えていないほどには酷くない人々なので、それなりの提言をまとめることができる。


一例を挙げよう。

賢人会議の決定
民を呼び込むため、そして街を活性化させるため税率を下げたい

一刀の報告内容
「麗羽様、民の税率を下げたいとおもうのですが、どうでしょうか?」
「そんなことしたら収入が減ってしまうではありませんか!」
「確かに、一時的には減るかもしれません。
でも、考えてみてください。
諸国を旅する商人が業の街に来て何をみるか。
もちろん、街を見ます」
「そんなこと、あたりまえですわ」
「民に財がないと、街の華麗さがどうしても失われていってしまいます。
そこで、税を下げて街を華麗にさせるのです。
そうしたら、商人たちが他の街に行って宣伝するに違いありません。
『業はとても華麗な街だった。きっとそこを治める袁紹様も華麗に違いない』と。
そうすれば、あとは人がどんどん入ってきますから税を下げた以上に収入が増えるということになります」
「早速執り行いなさい!」

こんな様子である。



今日も賢人会議が催されている。
で、当然伝令役の一刀もその場にいるのだが、今日の一刀は全員に大きく引かれている。
一刀が農業施策について自分の意見を説明し始めたのだ。
途中まではよかったのだ。
途中まではよかったのだが、具体的に何をするかを説明して大きく引かれてしまったのだ。

「冗談……よね、一刀」

田豊にまで蔑むような目で見られてしまっている。

「いえ、大真面目です」
「だって……だって、その、あれでしょ?
ほら……その………汚いじゃないですか。
そんなものを畑に撒くなんて考えただけでも……」

そう、一刀は麦畑に肥料を撒くことを提案した。
そこまではよかったのだ。
全員ふむふむと聞いていた。
だが、撒くものが屎尿だと言ったとたんに、全員の視線が変わってしまった。
それが最初の田豊の発言につながっている。
屎尿を撒くという行為は、昔の日本以外ではほとんど行われていないことだ。
人間の体から排泄されたものは不浄で忌避すべき対象だから、それを自分たちが食べる畑に撒くなどありえない、というのが漢人の考えであるから。
だから、今、一刀vs.他全員という構図が出来上がっている。
どのくらい一刀が引かれているかというと、あの逢紀と田豊が

「ありえないでありんす」
「ねえ?」

とお互いに相槌を打っているくらいに一刀は全員を敵に回している。

「いえ、俺の世界では屎尿を発酵させて、それを畑に撒いて収量の増加を得てました。
ただ、寄生虫がいるので、生で食べる野菜などにはやらないほうがいいでしょうけど、麦なら平気です」

「あんた、馬鹿なの?死ぬの?」
「一刀、信じたいのは山々なのですが、さすがにちょっと……」
「いやあ、あたいもちょっと……かな」
「正気とは思えないわね」

荀諶、沮授、文醜、審配の言葉である。
一刀が一生懸命説明すればするほど、女性達の結束は強くなっていく。
華麗-地味など、食糞するかどうかに比べれば決定的に些細なことだから。

「本当ですってば。絶対収量があがりますから。
お願いです。実験でいいからやらせてください」

沈黙が場を支配する。
一刀の提案、特に農産に関するものは今までは間違いがなかった。
今日も随分熱心だ。
恐らく真実なのだろう。
だから、彼に実験をやらせたい。
だが、それにしても実験内容が余りに……
という葛藤で、誰も答えることができなかったのだ。


沈黙を破ったのは、やはり田豊だった。

「わわわ私は太夫が考えるとおりでいいわよ」

だが、それは自分の意見を言うのでなく、決断を逢紀に押し付けてしまうという逃げでしかなかった。

「なななな何を言うでありんす。
あちきは清泉はんのお考えに従うでありんす」

と、こちらも逃げる逢紀。

「ななななに言っているのですか、太夫は。
わわわ私は柳花がいい考えを持っていると思います」

そして、巡り巡って、最後に答えを押し付けられたのが顔良。
全員の視線を一身に受けている。
顔良、泣きそうだ。

「えーーーーっと
………
………
(えーーん)
………
………
そ、そうだ。麗羽様に聞いてみましょう!
一刀さん、麗羽様が良いって言ったらいいわ」

全員、それはいい考えだと大きく頷く。



[13597] 糞土
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:43
糞土

 一刀は袁紹に説明に行く。

「あの、麗羽様。お願いがあるのですが」

女性たちは全員一刀-袁紹の会話の様子を見ている。

「なにかしら?」
「麦畑に肥料を撒く実験をしたいのですが」
「よろしいですわ。十頃ほどの畑を実験に使うとよろしいですわ」
「ありがとうございます!」

一刀を農業のプロと認め、実験の内容も聞かずに、許可を出してしまう袁紹。

「それで、どんな実験をするのですか?」
「あの、屎尿を醗酵させたものを撒くのです」
「………」

固まる袁紹。

「斗詩」
「はい、なんでしょうか?麗羽様」
「ちょっとこちらへ……」

袁紹は一刀に答える代わりに顔良に小声で尋ねる。

「今、一刀は何といいました?」
「え~っと~~、屎尿を醗酵させたものを撒くと言ったようです」
「しにょうとはなんですの?」
「その~~、麗羽様の考えているとおりのものだと思います」
「私が何を考えているというのですか?」
「あの~~その~~………
………
……
……
……
……
……
許してください!麗羽様!!」

袁紹に叩きのめされてしまった顔良であった。

「お、オーーーッホッホッホ。じじじ実験はわわわわ私の口に入らない畑で行うことですわ!」
「ありがとうございます!」

一度許可を出してしまった手前、それを覆すことはしない袁紹である。
そういう節度はしっかりともっているようだ。

こうして、肥料の実験が始まることになった。


 さて、実験をするにもどこの畑を使うといいのだろうか?色々田豊に相談して決めよう、と思う一刀である。

「あ、菊香!」

田豊の姿を確認した一刀が声をかけるのだが……

「ち、近づかないで!
それ以上近づかないで!!」

と10mは離れたところで拒否反応がでてしまう。

「それじゃあ、ここで。
あの、どの畑を使えばいいの?
十頃ってどのくらい?」
「文官に説明しておきますからあとで聞いてください!!」

と答えてぴゅーっと逃げていってしまった。


 十頃とは大体35万平方m、600m四方くらいらしい。
宛がわれた畑を呆然と眺める一刀。

で、でかい……

中国は何でもでかい。
もう、実験の規模ではない。
だから、ここに撒く人肥の量も半端でない。
醗酵させる場所、集める手段、必要な人数。
そんな実験計画を考える一刀である。
特に、醗酵させる場所は重要だ。
臭いがするから、街に影響が無いところに配置しないとならない。

人肥というと、昔の日本のような肥溜めを思い描くとだろうが、この辺は日本に比べれば乾燥しているので、液体でなく土と混ぜて固体状態で醗酵させる方法をとる。
今でも黄土高原の農村では行われている方法だ。
黄土高原で行われている方法は、春、耕転の前にばらまいて、すきこむ方法をとるそうだけど、それには時期を逸してしまったので追肥という形をとる。

 そして、方針を決めて実験を開始する。
が、人夫・農民達を説得するのも容易ではない。

「糞集めて、それを畑にまくんすかぁ?」

やはり拒否反応が強い。

「とりあえず、実験ですから。
かなり汚いから嫌だと思うけど、今回だけは我慢してやってください。
そして、その結果を見てください。
うまくいかなかったら畑を全部燃やしてもいいですから」
「まあ、天の御使い様がそう仰るならやりますけんどねぇ」

いやいやながらも作業に取り掛かる人々。
人糞を集めて土と混ぜて、攪拌を繰り返して……暫くして醗酵が進むと、ほとんど土と見分けがつかなくなってくる。
それを畑に撒いていく。

そして、待つこと1ヶ月。
生育に有意な差が出てきたので、それを賢人会議の面々に見せようと一刀は考えた。

「本当に生育がよくなったのですか?」

疑い交じりの、というより認めたくない田豊。

「まあ、論より証拠。まずは見てみてください」

一行は畑に出向く。
一刀の30m後方を歩いていく。
確かに一刀の指し示した畑は、"残念ながら"他の畑より生育がいい。
これなら"如何ながら"収量増も期待できるだろう。
それにしても……

「ついでに肥料も見てみますか?」

一刀はそういって肥置き場からシャベルで糞土を掬い上げる。
それを見た女性たちは一斉に逃げてしまう。
……いや、一人だけ残っている。
残っているのは逢紀。
歩きづらい下駄で、逃げたくても逃げられなかったのだ。
そして、恐怖で声を発することもできない。
一刀は、それを見たいために残っていると判断してしまい、糞土を持ったまま逢紀に近づいていく。
逢紀の表情は顔面蒼白になっていく。
脚はがくがくと震えている。
逢紀の運命や如何に!!

 と、逢紀と一刀の間に割って入るものがいる。

「一刀、それ以上近づかないでーーっ!!!」

田豊であった。
田豊は我が身を呈して逢紀を守ったのだった。

「そうなの?見たくなければそう言ってくれればよかったのに」

と、肥置き場のほうに戻っていく一刀である。
見た目ただの土なのに、とぶつぶついいながら。

 逢紀は、というと、

「菊香はん……」

そこまで言ってぽろぽろ涙を流し始める。

「えーーーん、こわかったのでありんす。
こわかったのでありんす」

と田豊に抱きかかえながらわんわんと泣くのであった。



 城壁に二人の女性の影が見える。
田豊と逢紀だ。
あたりは夕陽に照らされ真っ赤に染まっている。

「今日はありがとうござんした」
「いいわ。あのくらい……」

そして田豊は遠いものを見つめるようにこう続けるのだ。

「私達って、つまらないことで張り合っていたのね。
派手でも地味でも、どうでもよかったのね」
「まったくでありんす。
世の中にはまだまだ真の敵がいるということを骨身に染みて感じたのでありんす」

沈黙のなか、夕陽がゆっくりと沈んでいく。

「そうそう、前から思っていたのだけど、太夫の服、豪華で綺麗だと思うわ」
「あ、ありがとうござんす。
誉めていただくとうれしいでありんす。
菊香はんもおしとやかでお似合いでありんす」
「……ふふ」
「おほほ……」
「ふふふふふ」
「おほほほほほ」

ふたりの超然とした笑い声がいつまでも城壁に聞こえていた。



こうして、図らずも今まで仲たがいをしていた参謀たちの心を一つにすることができた一刀。
これも一刀の努力といっていいのだろうか?
その代わり、一刀は全ての女性から距離をとられるようになってしまった。
加えて、風呂も同じ風呂の使用を禁じられ、一人外に設置した五右衛門風呂に入れられるという待遇の悪化があった。
本人は綺麗なのに。

田豊、沮授も自分の部屋で寝るようになってしまった。
再び一刀が女性の心を取り戻すことはできるだろうか?


 肥料がどうなったか、というと、民の食する麦の畑には一刀考案の肥料が撒かれるようになった。
糞土の状態にすれば、見た目も全く違和感なく扱えて、臭いもしないので、収量増のため一刀に従ったのだ。
これで収量の更なる増加が図られたと同時に、江戸同様の清潔な街を実現することに成功した。

 ただし、城で食する麦は一刀肥料が使用されていないものが要求された。
このため、城の食材にはすべてこのようなラベルが貼られるようになった。


 原材料名 麦(一刀肥料使用でない)




あとがき
ようやく袁紹の地固めがおわりました。
生産性の向上、賢人会議の内容を袁紹に伝える仕組み、軍の能力向上、軍師たちの融和。
これだけやれば勝てるでしょう!

次回、初めて袁紹、顔良、文醜以外の恋姫キャラが登場します。



[13597] 玄徳
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:45
玄徳

 ドラ○もんの歌のような歌が野に響いている。


こんなこっといいな で~きた~らいいな
あんな夢こんな夢 いっぱいある~けど~
中国全部 平和にしよう
わたしのともだち かなえてく~れ~る~~
わ~るいやつらを やっつけた~いな~
「ハイ! 愛紗ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもか~わい~い 桃香ちゃん

劉勝の末裔 す~ごい~ね桃香ちゃん
皇帝になったら すてきなくら~し~
みんなみんなみ~んな え~がお~でく~らす
わたしのともだち かなえてく~れ~る~~
りっぱなせいじを や~りた~いな~
「ハイ! 朱里ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもえ~らい~な 桃香ちゃん

てへ♪







………………こ、こいつ、駄目だ!





「あーん!鈴々が歌にでてこないのだあ!」






………………こいつら、駄目駄目だあ!


駄目駄目でなさそうなのは、その歌をひくひくした表情で聴いている他の二人。
そう、この4人組は劉備、関羽、張飛、諸葛亮の4人。
字はそれぞれ玄徳、雲長、益德、孔明、真名は桃香、愛紗、鈴々、朱里。
能天気な歌を歌っていたのはもちろん桃香、即ち劉備。

「あ、ごめんね、鈴々ちゃん。でも、鈴々のちゃんのこともだ~いすきだよ!」
「うれしいのだあ!でも、鈴々の歌も聴きたいのだあ」
「じゃあ、鈴々の歌も歌うね。え~っと……」
「と、桃香様、公孫讃様が手に入れられたという宝剣、桃香様の剣だといいですね」

歌から別の話題に振ろうとする関羽。

「うん、そうだね。宝剣を手に入れたってことしか分からないから、桃香ちゃんの剣かどうかわからないけど」
「あー!愛紗、鈴々の歌をじゃましたのだあ。ひどいのだあ」
「そ、そうだな。
そうだ、鈴々、あとで二人だけの時に桃香様にたくさん歌ってもらうというのはどうだ?
鈴々が満足するまで桃香様は歌ってくださるとおもうぞ。
な、なあ、朱里殿もそうは思わぬか?」
「そ、それがいいと思います。
桃香様の歌もいいですけど、これからのことを話し合うというのも大事だと思います」
「愛紗と朱里がそういうのならそうするのだあ」
「それで公孫讃様の所にいきなり出向いていって受け入れて下さるのでしょうか?」

歌を歌わせないよう胃に血のにじむような努力を続ける関羽。

そう、今、彼女ら4人は劉備の盗まれた剣を取り戻そうとしているところ。
劉備はかなり抜けているので、家宝の宝剣靖王伝家を盗まれてしまっていた。
ところが、公孫讃が賊を退治したときに宝剣を見つけたといううわさを聞きつけ、もしかしたらそれが靖王伝家ではないかと思い、公孫讃にその剣を見せてもらうため、公孫讃のところに向かっているところだ。
それで、公孫讃が会ってくれるかどうかを確認した、というのが関羽の台詞の背景である。
それが靖王伝家だったら、すぐに返してくれるかどうかはまた別の問題だと思うのだが、まあそれは後で考えることとする。
それと同時に、そろそろ路銀がさびしくなってきたので公孫讃のところで雇ってもらおうという腹積もりもある。

「うん、友だちだから歓迎してくれるよ~」
「確かにそうかもしれませんが―――」

諸葛亮が続ける。

「やはり相手は一郡の主。
友だちだからといってすぐに会うというものでも無いと思います。
ここは大人としての節度を持って事に当たるべきだと思います」

よく、舌を噛まずにいえました。パチパチ。

「え~~?面倒くさいよう。白蓮ちゃ~ん、って行けば会ってくれるよう」
「桃香様」

諸葛亮が子供を諭すように続ける。

「もう、子供ではないのですから、『白蓮ちゃん、遊ぼう!』って訳にはいかないのです」
「そうなの?」
「そうでしゅ!!
だから、会いに行くのも準備がいるんでしゅ!!」

朱里は昂奮すると舌を噛むようだ。

「準備ってな~に?」
「たとえば、今公孫讃様は賊の討伐に当たっていますから、義勇兵の長として参加したいといって会いに行くとかです」
「だったら簡単だね。
白蓮ちゃ~ん、義勇兵がきたよ~って言えばいいんだね」

頭を抱える諸葛亮と関羽。

「鈴々は百人力なのだあ!!」

もう一度頭を抱える諸葛亮と関羽。

「兵は数です。
4人で乗り込んでも無視されるのが関の山です。
ですから、一時雇いでもいいですから、会いに行くときは兵の数を揃えてよい印象を与える必要があるのです。
そうでなければ一兵卒としてしか取り扱ってもらえません。
数を率いていれば重要な客将として招いてくれる可能性が高まります」
「ふーん。面倒なんだねえ。
それでどうやって兵の数を揃えるの?
そんなにお金はないんでしょ?
お金がないから雇ってもらおうとしているんだから」
「そうですねえ。
腕相撲なんかどうでしょう?」
「腕相撲?」
「そうです。
鈴々さんに腕相撲で勝ったら賞金を渡すといって、腕相撲大会を開くんです。
その代わり、負けたら一日行動を共にするというんです」
「鈴々は腕相撲は強いのだあ!」
「なるほどねえ。
朱里ちゃんあったまいいー!!
じゃあ、そうしよう。
鈴々ちゃん、お願いね」
「わかったのだあ」


 街に着いた一行は、早速腕相撲大会を開く。
見せ金として、会計担当の関羽は全財産を供出する。

(これがなくなったら………いや、それを考えるのはよそう。
鈴々はやってくれるはずだ)

関羽の胃はまたもや痛み出す。

「鈴々と腕相撲して勝ったら、この賞金をあげるのだあ!
力自慢はかかってくるのだあ!!」

「何?腕相撲大会だって?」
「賞金がでるのか?」

張飛の声に人々がわらわらと集まってくる。

そして……

あっという間に100人の見せ兵が集まった。

「これだけいれば十分だね、朱里ちゃん」
「そうですね、桃香様。
それでは早速公孫讃様に会いに行きましょう」
「そうしよう!」


嬉しそうな劉備、諸葛亮の影で、

(よかった、お金が無事で本当によかった)

と涙する関羽がいるのであった。





[13597] 伯珪
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:47
伯珪

「劉玄徳と名乗ったのだな?」
「はい、伯珪様」

公孫讃。字は伯珪、真名は白蓮。
琢郡(正字は涿)郡司。
盧植の下で劉備と兵学を学んだことがあり、劉備とは面識がある。

が………

劉備。

授業態度は不真面目で、
試験の出来も今ひとつで、
それどころか塾にも禄に来ることなく、
皇帝になるぅと本気かうそかわからないが大言壮語を語り、
友人に無償支援を要請することが多く(早い話がたかり)、
というより話しているといつの間にかたかられていると言う状態になっていて、
苦言を言ってもぬかに釘、暖簾に腕押し、馬耳東風、
それから、こんなことも、あんなことも(以下省略)な女だった。
あいつと関わると碌なことがない、と過去を思い出す公孫讃である。

「そうか。会いたくはないが、義勇兵を連れてきたと言うのであれば会わぬわけにはいかぬだろう。
分かった。通せ」


 公孫讃の許に劉備が案内される。
公孫讃は大人である。
大人の挨拶、大人の会話ができる人間である。

「盧植先生のところを卒業して以来だから、もう三年ぶりかー。元気そうで何よりだ」

それはそれはにこやかに話しかける公孫讃。
もう一度、繰り返そう。
公孫讃は大人である。

「白蓮ちゃんこそ元気そうだね♪
それにいつのまにか太守さまになっちゃって。すごいよー」
「いやぁ、まだまだ。
私はこの位置で止まってなんかいられないからな。
通過点みたいなもんだ」
「さっすが秀才の白蓮ちゃん。
言うことがおっきいなー」
「武人として大望はもたないとな。
……それより桃香の方はどうしてたんだ?
全然連絡がとれなかったから心配してたんだぞ?」
「んとね、あちこちで色んな人を助けてた!」
「そうか。それで義勇軍を率いて琢郡を通過するところなんだ。
で、これからどこに行くんだ?」

少しくらいとどまってもいいが、さっさと出て行け、と暗に仄めかす公孫讃。
だが、大人でない劉備にそんな高等な会話が通じるはずがない。

「それなんだけど、白蓮ちゃんのところで雇ってもらえないかな~って。
桃香ちゃんにはすっごい仲間たちがいるんだもん」
「桃香がいっているのはこの三人のこと?」
「そうだよ。んとね、あい、関雲長、りん、張翼徳、しゅ、諸葛孔明だよ」

ちょっと真名以外の名は呼びなれていないような劉備である。

「そうか。他に義勇兵も連れてきたらしいけど……」
「あ、う、うん!たくさんいるよ、兵隊さん!」
「そうかそうか。……で?」
「で、でって何かな??」
「本当の兵士はいったい何人くらいつれてきてくれているんだ?」
「あ……あぅ……その、あのね?実は一人もいないんだ」
「へっ」

やっぱり劉備だ。

「ごめんなしゃい、私が具申しましゅた」

諸葛孔明と呼ばれた少女が申し訳なさそうに舌足らずの話し方で答える。

「でもね、でもね、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんはすっごく強いんだよ。
それにね、聞いて!朱里ちゃんはすっごく頭がいいんだよ」

いきなり真名を叫んでいる劉備。

「そ、そうか。……よろしく頼む、といいたいところだが、正直にいうと三人の力量がわからん」

だからあまり雇いたくない、と暗に仄めかす。
義勇兵0では話にならない。
と、それを聞いていた公孫讃の部下らしい人物が、

「人を見抜けと教えた伯珪殿が、その武人の力量を見抜けないのでは話になりませんな」

と嫌味たっぷりに公孫讃に進言する。
進言したのは趙雲。字が子龍、真名が星。
今、公孫讃の客将としてここにいる。

「むぅ……そう言われると返す言葉もないが、ならば趙雲はこの武人の力量が分かるとでもいうのか?」

趙雲、余計なことをいうな。
この2名の武将が強いことくらい分かる。
もう一人の才も確かな手ごたえを感じる。
だがな、劉備はだめなのだ。
雇いたくないのだ。
空気を察してくれ、趙雲!!

「当然。武を志すものとして姿を見ただけで只者で無いことくらいは分かるというもの」
「そ、そうか…………星がそういうのであれば4人を客将として歓迎しよう」

趙雲のバカヤロー!

「やったーー!!
それでね、それでね……」

まだ迷惑ごとをもってくるのか、劉備!

「なんだ?」
「白蓮ちゃんって宝剣を見つけたって聞いたんだけど」
「え?あ、ああ。よく知っているな」
「それを見たいなーーって。
実はね、桃香ちゃん、家宝の宝剣を盗まれちゃって、もしかしたらもしかするかなぁって」
「そそそそうなのか。それは大変だったな。
それで、宝剣を見たいのか。そうか、宝剣か。
そうだよなあ。盗まれた宝剣かどうか確認したいものな。
よくわかるぞ、確認したいよなあ。あはは」
「どうしたの?白蓮ちゃん。
宝剣手にいれたわけじゃないの?」
「いや、手にいれた。手にはいれたんだが……」
「盗まれたとか……」

心配そうに尋ねる劉備。

「そう……ではない」
「どうしたの?」
「うん……昨今の農業はな―――」

と、いきなり農業の説明を始める公孫讃。

「―――というわけで、不作続きだったのだ」
「うんうん。それで?」
「だが、民を飢えさえるわけにはいかぬ」
「そうだね、そうだね」
「それで、仕方なく袁紹殿に食料支援を要請したのだ」
「さっすが白蓮ちゃん」
「それで、その質草にその宝剣をおいてきたのだ」
「なーんだ、そうだったの。
最初っからそう言ってくれればよかったのに。
それで、宝剣はどこにあるの?」

劉備と張飛以外、全員がずっこける。
劉備は何を聞いていたのだろうか?

「だーかーらー、袁紹殿のところにあるんだ」
「ふーん。袁紹ちゃんのところにあるんだ。
じゃあ、袁紹ちゃんに会いに行こう!
どこにいるの?お城の中?それともお城の外?あんまり遠いといや!」

関羽と諸葛亮が頭を抱えている。
公孫讃も趙雲も頭を抱えている。
趙雲もここにきてようやく公孫讃の発していた空気が少し分かったのか、公孫讃に申し訳なさそうな表情を向けている。

「あの、桃香様。袁紹様は隣の州の州牧で、ここから何日も歩かないとつかない業にいらっしゃいます」

劉備に説明する、見かねた関羽。

「えーー??!!そんなぁ!
それじゃあ、白蓮ちゃん、案内して。お願い!
桃香ちゃん、袁紹ちゃんなんて知らないから」
「いや、その、あの、だな。私も仕事が……」
「それじゃあ明日の朝にみんなでしゅっぱーつ!!」

やっぱり劉備は疫病神だと認識を新たにする公孫讃であった。



あとがき
劉備の方針を決めました。
さんざんな非難にも関わらず、元に戻したというところに意図を察してください。
少なくとも馬鹿な劉備では終わりにならない予定ですので、非難も結構ですがしばーーーーらく様子を見てからとしていただけると嬉しいです。
どのような劉備になるかは秘密です。

それから、公孫讃が趙雲に話しているくだりは、ゲームの展開とあわせると不自然だそうですが、とりあえずゲームの話に関係なくそういわれたことがあったということにしておいてください。
なお、原作のコピペはこれ以外はない予定です。



[13597] 宝剣
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:50
宝剣

 白馬の一団が走っている。
公孫讃の馬だ。
公孫讃の軍は白馬で統一している。
これも公孫讃が馬の生産地に近いところに位置しているためである。
それにしても全て白馬とは剛毅なものだ。

 公孫讃は袁紹に会いに行くのに自軍の白馬を惜しげもなく劉備らに貸している。
……早く自分の城に戻って仕事をしたいから。

 馬を飛ばしたので、その日のうちに袁紹の城に着くことができた。
早速袁紹に会いに行く公孫讃ら一行。


 公孫讃が来たというので、一刀も見物に行く。

(一番前にいる人が公孫讃さんだろう。
影が薄いっていうけど、普通じゃないだろうか?
後ろにいる4人が、あの能天気っぽいのが劉備さん、黒髪のちょっときつめの女性が関羽さん、ベレー帽が諸葛亮さん、そして一番ちっちゃいのが張飛さんに違いない。
アニメベースのキャラクターイメージをそのまま実物にしたような雰囲気の女性達だから。
張飛さんはよくもまああの体格で無双の槍を誇るものだ。
筋繊維はリアルではないのだろうか?)


「あ~ら、白蓮。また食料がなくなったのですか?
いいですわ。いくらでも貸して差し上げますわよ。
い~くらでも食料ならありますから」

一刀の指導、屯田制などの効果がいよいよ発揮されてきて、それはそれは潤沢な食料を所有する袁紹であった。
大量のビールを作ってもまだまだ潤沢な食料である。

「いえ、麗羽様、今日は食料の要求ではございません。
先日差し出しました宝剣についてちょっとお願いがあるのですが」
「あら、何かしら。返すのは食料と引き換えですわ」
「それはもちろん存じております。
ですが、ここにいる劉備が、盗まれた宝剣と同じかどうか確認したいと申しますので、申し訳ありませんが確認だけさせてはいただけないでしょうか?」
「ま、まあ、そのくらいならよろしいでしょう。
斗詩、あの宝剣もっていらっしゃい」
「はーい、わかりましたぁーー...」

ちょっと、というよりかなり嫌そうな顔良。
それはそうだろう。自分が賜ったものなのだから。


暫くして顔良が宝剣を持ってくる。

「あー、それ桃香ちゃんの剣!返してえ!!」
「まあ、桃香、ちょっと待て」

子供のようにだだをこねる劉備とそれをなだめる公孫讃。

(えー?劉備ってこんなにガキっぽいの?
一人称が自分の名前+ちゃん付けって、一体何歳のお子ちゃまなの?)

と疑問に思う一刀である。
見た目の雰囲気はゲームの雰囲気そのもの、つまりものすごく発達のよい柔らかそうなお嬢さんなのだが、行動はガキっぽいというかいい加減というか、とにかくゲームとは相当異なる。
日高で育てられる動物と奈良公園にいる動物とがくっついたような人間にしか見えない。
案外実際はこんな感じだったのかも、と思わされる酷さである。

「え、袁紹様。どうもその剣は劉備のもののようです。
どうにか早めに返していただく方法はありませんでしょうか?」

公孫讃は大人である。
大人のやりとりができる人間である。
が、大人でない人間も中にはいる。

「返せ返せー!」
「そうだそうだー!返さないのは泥棒だぞう!!」

「ちょ、ちょっと、桃香様、鈴々、少し黙っていてください!」

関羽の叱責の声が小さく響く。

「なんでー?だって桃香ちゃんのものなんだよう。
返してもらうのがあたりまえだよう」
「そうだぁ、愛紗。お姉ちゃんのいうとおりなのだあ」
「今は公孫讃様と袁紹様がお話してますから、終わるまでお待ちください!」
「えー、つまんないのお。ぶーぶー!」

(うわー、関羽さん大変そう!)

同情する一刀。

さて、発せられてしまった声は、取り消すことができないので、当然あたりにいる人々の耳にも届く。
袁紹や顔良の額に血管が浮き出てきている。

「も、申し訳ありません、麗羽様」

必死に謝る公孫讃。

「いいですわ!そこまでいうのなら返して差し上げますわ!」
「えー?私の剣なのにぃ……」

袁紹の発言に文句を言う顔良だが、袁紹の決定は絶対だ。

「やったー!袁紹ちゃん、やさしい!!」
「その代わり!」

大喜びの劉備に、袁紹が釘を刺す。

「その代わり、この顔良と戦って剣を勝ち取ることですわ。
もし、顔良が負けたら剣を返すことにいたしましょう。
逆にもし、顔良が勝ったらこの剣は没収ですわ。
もう、二度とお返ししませんわ」
「うん、いいよ!
愛紗ちゃん、頑張って~♪」
「はい、桃香様」

と、顔良の気持ちに関係なく物事は進んでいく。

 こうして顔良対関羽の戦いが行われることになった。
関羽の武は有名であるが、顔良とて決して弱い将ではない。
史実では荀彧に匹夫の勇と言われたという話が伝わっているが、恋姫顔良はむしろ思慮深いほうであろう。
顔良は自分の剣を守るため、関羽は劉備のために戦う。

「やあ!」キーン
「うぬ、とあ!」カーン

二人の戦いが始まる。
まるで官渡の戦いの前哨戦であるかのような激しい戦いが繰り広げられる。
双方死力を尽くし、なかなか勝負がつかない。
関羽が桁違いに強いという訳でもないようだ。
だが、得物の差が次第に現れてきた。
顔良の金光鉄槌は関羽の青龍偃月刀に比べ重いので、次第に顔良の疲労の色のほうが濃くなってきた。
そして、とうとう……

「てやあ!」

関羽の青龍偃月刀が顔良の胸に突き刺さる……直前で止まる。

「ま、負けちゃったよう……」

顔良はへなへなと力なく崩れていく。

「やったー!愛紗ちゃん、すっごーーい!!」

大喜びの劉備に袁紹が声をかける。

「仕方ありませんわ。
約束ですから、その剣は持っていくといいですわ」
「ありがとう!袁紹ちゃん。やさしいんだね!
でね、でね、今晩泊めてくれる?
ほら、もう遅くなってきたし、桃香ちゃん、今晩の宿決めてないから。
お願い!袁紹ちゃん、優しいでしょ?」
「ま、まあ、一泊くらいなら構いませんわ。
白蓮さんが食料を返すときにその分利息を多くしてくれるのでしょうから」

どうもやりにくい女ですわねと思う袁紹と、やっぱり劉備は疫病神だと思う公孫讃であった。


 さて、負けた顔良は、というと……

「斗詩、残念だったな。
もうちょっとで勝てたのにな」
「文ちゃ~ん……え~~ん」
「よしよし、あたいが慰めてあげるから」

文醜に慰められている。
文醜は顔良を静かなところに連れ出そうとしている。

文醜の夢は叶うだろうか?



[13597] 雲長 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:51
雲長 (R15)

 私はその宴会で供せられた料理を見て、目を丸くした。
袁紹様が、

「ちょっと時間が足りなかったから、今日の料理はあまり華麗ではありませんわ」

とか言っていたが、それにしても一目見ただけで豪華だと分かる料理。
食材にも調理にも金がかかっているのがわかる。
桃香様に仕えていると、金も兵士も領土もなく、こういう裕福な人物を見ると、我が身が恨めしくなってしまう。
それに、この見たこともない強い酒。
強い酒なのだが、果実のような芳香と、口の中ではじけるような感触が呑み心地をさわやかにしてくれる。
一度呑んだら病み付きになって、もう以前の白い水のような酒には戻れなくなってしまいそうだ。
裕福だとこうも環境が違うものかと情けなくなってしまう。
鈴々は子供のように「おいしいのだあー」と大喜びで山のようにある料理を平らげている。
それでも食べきれないほどの大量の料理。
袁紹様の底力を見せ付けられた気がする。
桃香様も公孫讃様も、そして朱里までもが素直に料理を楽しんでいる。
そうなのだろう。
目の前に美味な料理があれば、素直に喜んで食すればいいのだろう。
それを見て色々考え込んでしまうほうがおかしいのだろう。
だが、これは私の性格だから。
生真面目で、どうもそんなことしか考えられなくなってしまう。
そんなことしか考えていないのに、料理や酒のおいしさが私を幸せにしてしまう。
その葛藤で思わず涙がでてしまいそうになる。
このまま袁紹様に下ってしまおうか?
いや、それはできない。
桃香様と天下を目指すと誓ったのだから。

「愛紗ちゃん、今日は愛紗ちゃんの活躍で宝剣靖王伝家が戻ってきたんだから、いっぱい楽しんでね!」
「はい、楽しんでます」

私は心の内を隠して、にっこりと微笑む。
桃香様に惹かれたのは、

その途方も無いおおらかさ、つきることのない寛容さ、
何となく人をひきつける魅力、笑顔、
そして無限の彼方をみているような壮大な夢、

そういった常人には捕らえられないものを持っている気がしたからだった。
この人なら何かやってくれそうだと。
私には桃香様に見えているものが分からない。
夢を見るだけで終わってしまう可能性もあるけれども、それでもこの人についていこうと思ったのだから。
とはいうものの、桃香様ももうちょっと、と思うこともある。
苦言の一つを言いたくなることもある。
将来の夢も大事ですが、とりあえず今の現実をどうにかしてください、とお願いしたいこともある。
でも、それを言うのはよそう。
この桃香様が桃香様なのだから。
その桃香様と天下を目指すのだから。


 袁紹様の歓待が終わると、私たちは宿坊に案内される。
泊まるのは各自別の部屋だ。
今までは宿泊費の節約のため全員一緒の部屋だったから、個室で寝るというのはいったいいつ以来のことだったろうか?

立派な部屋だ。
寝台には彫刻が施されている。
そして鏡まで置いてある。
鏡で自分の顔を見たのもあまり記憶にないことだ。
鏡で見た自分の顔は……少し疲れているかもしれない。
閨には立派な寝具が備えられている。
今日は久しぶりに幸せな気持ちで眠ることができそうだ。

 と、部屋の外から私を呼ぶ声がする。

「はい」
「関羽さん、あのできればお話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんが……」

部屋の外にいたのは男。
年は私と同じくらいだろうか?
名前は聞いていない。
宴会の隅の方にはいたような気がするから、ここ袁家の家臣のものだろう。
私を襲いにきたというようなことはないだろう。
私に勝てるような人間は天下広しといえどもそれほど多くないだろうから。
それにこの男、それほど武術の心得があるとも思えない。
用心には越したことはないが。

「始めまして。俺は北郷一刀と申します。
一刀と呼んでください」
「一刀さん……それがなにか?」
「関羽さんに尋ねたいことがあるのですが」
「はい?」
「あの、唐突ですがどうして劉備さんに仕えているのですか?
関羽さんのような実力の方でしたら、いくらでももっといい条件の仕官先があるでしょうに」
「私は、劉備様と天下をとると誓いましたから」
「そう……なのですか。
でも、今日始めて劉備さんを拝見しましたけど、失礼ながら天下を纏め上げるという気概のある方には見えなかったのですが」

本当に失礼な男だ。
普段の私なら、こんなことを言われれば激情して青龍刀を向けていたことだろう。
だが、袁家の力を見せ付けられてしまった今、どうもそんな気が起きない。
それに、この男、失礼で言っているというより、何か私のことを心配しているような気さえする。
そう思うと、私も劉備様に仕える理由を考えてみたくなってしまう。

「劉備様は………」

そこまで言って答える言葉を考える。
その途方も無い魅力と、現実の苦労を天秤にかける。
そして、私の発した答えは、

「何か放っておけなくて」

男は、私のその返事を聞くと、目をうるうるし始める。
何だ?この男は。
どうして人のことだというのに涙したりするのだ?
そして、私の両肩を彼の両手でしっかりと掴み、

「頑張ってください!」

という。

私も

「はい」

と、にっこりと微笑み返す。

……あれ?おかしい。
笑っているのに目から涙が溢れるのが止まらない。
私は泣いているのか?
何なのだ?
涙を止めることが出来ない。
男はそんな私を見てぎゅっと抱きしめる。
そのとたん、何か桃香様に仕えてから今までにあった苦労が一気に吐き出されてきた気がする。
桃香様とお会いしてはや数年。
その間ひとかけらの領地を治めることもなく流浪の日々。
兵もなく金もない。
どうして我等が食堂で給仕までして路銀を稼がなくてはならないのか?
そんな辛い思い出が一度に思い出されてきた。
この男には私の胸の内を洗い浚い吐き出してしまっていい。
そうすればこの男は私を理解してくれる、癒してくれる。
いや、何も言わなくても全てを理解してくれている。
そんな気がした。
私は泣いた。
私は男の、いえ一刀さんの胸の中でわんわんと子供のように泣いた。

どれだけ泣き続けたろうか?
私の心もようやく落ち着きを取り戻してきた。
一刀さんは抱きしめていた私を体から離す。
私達は見詰め合う。
一刀さんの顔が近づいてくる。
私は自然に目を瞑る。
そして、唇がふさがれた感触がある。
それから……私の体はゆっくりと閨に押し倒される。



 月の光が私たちの裸体を妖しく照らしている。
私は今一刀さんに抱かれている。

「ごめんなさい、関羽さん。
会ったばかりなのにこんなことになってしまって……」

一刀さんは本当に申し訳なさそうに謝る。
一刀さんらしいという気がする。

「愛紗」
「……え?」
「愛紗と呼んでください」
「それって関羽さんの真名なのでは?」
「ええ。体を許したのに真名を許さないというのも変でしょう?」

そう、私は一刀さんに体を許した。
私の始めてを一刀さんに奉げた。
出会ったばかりの一刀さんに。
でも全然後悔していない。
それどころか喜びに満ちている。
今までの苦労を、一刀さんと交わることで全て忘れることができそうだったから。
私は、顔良さんとの戦いよりも燃えた。
私がこんなに激しく悶えることができるとは、自分でも知らなかった。
私があれほど激しい喘ぎ声を出すとは夢にも思わなかった。
それほどに一刀さんと交わることは疲弊した感情を吐き出すのに効果的だった。
このまま一刀さんに抱かれ続けられたらどんなにか幸せだろうか?

「それじゃあ、愛紗さん」

何か一刀さんにそう呼ばれると心地よい。

「このまま袁紹様のところに来ませんか?」

一刀さんならそう言うだろう。

「いえ、もう少し劉備様のところで頑張ってみようと思います」

一刀さんは目をうるうるさせながら、

「わかりました。
でも、無理はしないでくださいね。
辛くなったらいつでも俺を訪ねてくださいね」

という。
私もついもらい泣きしてしまう。

「はい。その代わり、朝まで私に頑張る力を与えてください」

私はそれから朝まで激しく悶え続け、夜が白む頃には一刀さんと二人で動けなくなっていた。
そして、ようやく一刀さんに抱きしめられながら眠りについた。
幸せだった。



私はその日、公孫讃様の城に戻った。
睡眠不足だったが、心は充実していた。

「愛紗ちゃん、何か疲れているんじゃないの?」

寝不足が桃香様には疲労と見えたようだ。

「ちょっと、顔良さんとの試合に疲れて」
「愛紗は体力がないのだあ。
もっと力をつけなくてはならないのだあ」
「ふふ、そうだな、鈴々」

うん、桃香様、鈴々、一緒に天下を取りましょう。

「朱里ちゃんも疲れたの?」
「いえ、昨日のお料理のことを考えていたら眠れなくなってしまって」
「お顔も赤いわよ」
「きっとお酒の所為でしゅ」

隣の部屋で寝ていた朱里の顔が何故か真っ赤で、何故か私と目を合わせないが、気にしないことにしよう。

今、私は充実している。




あとがき
会話以外、全て愛紗の独白で構成してみました。
どうでしょうか?

はい、ご都合主義100%なのは重々承知です。
全ての感想、ご批判はしっかりと拝聴いたします。
まあそういう話で、その程度しかかけない作者だとご容赦ください。


今後は、少しは恋姫キャラが顔をだすかもしれませんが、基本的に袁紹陣営のオリキャラの世界に戻ります。
次に恋姫キャラが多く登場するのは黄巾党で少し、董卓攻撃のシーンで多くになると思います。

それでは。



[13597] 恩赦
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:51
恩赦

 時は少し戻って、押しかけてきた劉備たちと宴会をしていたときのこと。
一刀は劉備を見て疑問を感じていた。



劉備ってひどすぎる。
ゲーム中でもそれほど有能ではなかったように見えたが、ここの劉備は更にひどい。
とても国の長に納まる器じゃあない。
でも、少なくとも関羽、張飛、諸葛亮の3名は劉備に従っている。
諸葛亮がなんでこの時期劉備と行動を共にしているかと言うことは、恋姫だから、で説明がつくので深くは考えない。
張飛はちょっとおいといて……なんで劉備ってそんなに人を惹きつけるんだろうか?
俺はその疑問を解こうと考えた。
誰に聞くのが適当かと言うと、張飛は論外。
劉備といい勝負だから。
関羽か諸葛亮なんだけど、最初からいたのは関羽のはずだから関羽さんに聞いてみよう。


部屋を訪れ、いきなり本題を切り出す。
彼女の答えは

「何か放っておけなくて」。

それって……
劉備が駄目すぎて、関羽さんがついていないとどうにもならないっていうこと?
子供が何をしでかすかわからないから保護者がいるっていうこと?
それが劉備の人を惹き付ける魅力なの?
関羽さん、あなたはかわいそう過ぎます。
俺だって、無能な上司を持っているけど、関羽さんは無能な上司、金欠、兵欠、領土欠、名声欠その他もろもろの負の成分を全て備えている。
俺が不遇だと思ったけど、関羽さんは桁が違う。
本当に関羽さん、あなたはかわいそう過ぎます。

(実は微妙に状況が違うようだが、一刀がそれを知ることは今後も無い)

俺はつい涙ぐんでしまい、

「頑張ってください!」

と、心の叫びを彼女にぶつける。
彼女は、

「はい」

と答えて…………その目から溢れるように涙を流しだす。
関羽さん、やっぱり辛いんですよね。
俺は、本当に関羽さんを守ってやりたくて力いっぱい抱きしめる。
そして……

色々あった。

結局、彼女は劉備と行動を共にした。
そうだろう、あの人ゲーム中でも本当に一途でまじめだったから。
幸せになれるといいんだけど。


 宴会があってもなくても翌日は仕事になる。
今日はちょっと寝不足だ。
俺の仕事は農業が主。
今日もフェロモン麹義さんに連れられて、領内の見回りをする。
最近、菊香も清泉もやらせてくれないから、辛い。
昨日の愛紗とは久しぶりだったから燃えた。
とてもよかった。
愛紗もあんなに狂ってくれるとは。
俺も相手があそこまでエキサイトすると、普段以上にがんばってしまう。
菊香、清泉も悶えるけど、あそこまで獣のようじゃない。
体力の違いだろうか?
でも、愛紗いっちゃったからまた悶々とした日々をすごさなくてはならない。
菊香も清泉もいい加減肥料のことから頭を切り替えてくれればいいのに。
最初は麹義さんもいやそうだったんだけど、毎日肌を合わせているうちにだんだん普通に戻ってきてくれた。
あ、肌を合わせるといっても、しているわけではないから、その辺誤解無いように。
……いっそ麹義さんと
……
……
……
……
いいかも。
……
……
……
いや、やっぱり菊香や清泉は裏切れないな。
昨日のは……ちょっと慰めただけであって、決して浮気ではありません、ハイ。


体(下半身)の問題は、それはそれで解決しなくてはならないことだけど、俺もそろそろ自分一人で馬に乗れるようになりたいなぁ。
一人で馬には乗れるんだけど、まだ引いてもらわないと無理。
一度、麹義さんの横で馬を走らせたんだけど、馬が走り始めてしまって大変なことになってしまった。
ハンドルとブレーキが効かない乗り物は乗ったらだめだな。
かといって、俺は兵士ではないから乗馬訓練を真剣にやるわけにもいかないから、上達が遅い。
……普通の兵士が1~2日で乗れるようになっているのは、きっと前から乗っていたからだよ、ハハハ。
俺の運動神経が鈍いわけではないよ………多分。

そうそう、鐙は全馬装備済み。
おかげでみんな乗馬が楽になったと喜んでいる。
馬から弓を射るのがかなり楽になったらしい。
戦術に影響するくらいの発明(?)だったそうだ。
菊香も清泉も絶賛してた。
あ~あ。鐙を考え出すのが肥料の後だったら、二人とも戻ってきてくれたかもしれないのに。

肥料は効いたよなぁ。
生育にも、女性たちの反応にも。
荀諶なんか、俺の顔を見るたびに、

「糞野郎!死ぬの?消えるの?いなくなるの?」

だもんな。
てめえだって糞出してるじゃないか!と言いでもしたら、本気で刀持って俺のこと殺しにきそうだから、止めておこう。
街だって綺麗になったじゃないか。
逆に、褒めてもらいたいもんだ。

落葉樹がふんだんにあるんだったら、堆肥をつくるとか色々手があるんだけど、それほど多くないからあれしかなかったんだもん。
この時代生ごみなんでほとんどでないから、生ごみから堆肥を作るのも無理。
他に肥料を確保するとしたら海から持ってくるっていう手もあったけど、まだ海辺の様子はよく分からないからできなかったし。
そのうち、海にも行ってみたいなぁ。


そんなことを考えながら一日の仕事を終える一刀である。



 夜、一刀が部屋でくつろいでいると、珍しく客がある。

「あれ?菊香、清泉。どうしたの?」

最近相手をしてくれないので、何かあったかと尋ねる一刀に田豊が答える。
田豊は厳しい表情をしている。沮授は不自然に穏やかな表情をしている。

「許してあげます」
「え?………な、何を?」

いきなり何かを許してくれる田豊。
昨日の今日なので思い当たる節だらけなのだが、とりあえず知らない振りをする。

「肥料の件は許してあげます」
「肥料?それって、許すとか許さないとかそういう問題ではないような……」
「ゆ・る・し・て・あ・げ・ま・す!!」
「はあ………」

どうも訳が分からないが、とりあえず許してくれるものはそのほうがいいので、黙って受け入れる一刀である。
二人とも妙な怖さがあるし。
で、話はそれで終わりと思いきや、沮授がそれはそれは穏やかな笑顔で話し始める。

「でも、許せないこともあります」
「な、何が?」
「昨晩の行動を教えてください」

心臓が止まったかと思った一刀。
白を切るか?
いや、ここにわざわざ来たということはばれているということだろう。

「ききききき昨日の晩は、あああ愛紗さんが辛そうだったので、その、すすす少し慰めてあげただけだ」
「そうですか。もう、真名で呼ぶ仲なのですね?」

にっこり微笑む沮授。
しまったーと思ったが後の祭りだ。

「でもでもでも、その、心を許しただけで、そんなに変なことは……」
「そうなんですか?それでは、あれだけのよがり声があったのはどうしてですか?」

………万事休すのようだった。

「ごめんなさい!
ちょっと愛紗が可哀想だったんで、抱きしめたら、そのままやってしまいました!
最近ご無沙汰だったんで何回も何回もやってしまいました!!
本当にごめんなさい!
もう、二度としません!!!」
「そう、そうですね。
正直なことはいいことよ」

沮授から暗黒のオーラが立ち上っている。
穏やかだけに怖い。
だが、そろそろ声が怒りで震えてきている。

「だから、今日は二人で一刀に罪を償ってもらうためにここに来ました」
「償うってどうすれば……」
「一晩中私たちを喜ばせ続けなさい!!」
「え?」

何のことはない、元の鞘に戻ったというだけだ。
今まで一刀を避けていたが、関羽に取られたくないという嫉妬心か何かから、一刀を取り戻したいと思ったのだろう。
一刀はきっかけをつくってくれた関羽に感謝した。

「あー!今、関羽さんのことを考えましたね?!」

鋭い沮授であった。


そして、約束どおり一刀は二人に一晩中奉仕した。
嬉しかったけど、二晩連続はかなりこたえた。

こうして、三人は再び同じ部屋で寝るようになったのだった。

めでたし、めでたし。



あとがき
もうすぐ、黄巾の予定です。



[13597] 麦畑
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/11/29 22:36
麦畑

「え?あの袁紹の国が急に今まで以上に豊かになったですって?」

ここは許の街、曹操の本拠地。
曹操。字を孟徳、真名を華琳。

「そうなんです、華琳様。
今まで荒地だったところが畑に変わり、一面麦畑になっているとの報告です」

答えるのは荀彧。字を文若、真名を桂花。
あの、荀諶の姉。
何故、姉妹が分かれて仕官しているか、というと……

「柳花、私は曹操様に一目ぼれしてしまったの。
だから、あなたは袁紹のところにでも行きなさい!」

という姉の一言で決まってしまったようだ。
何が"だから"なのかは、今一つ不明だが。

「そう。それで、その理由は何なの?」
「どうも屯田制を導入して兵士に開墾をさせているようです」
「何で急にそんなことを思いついたのかしら?
あの、過去の栄光だけで生きているような無能な袁紹が」
「男がいるようです」
「男?あのド派手年増ババアにもついに春が来たのね。
傑作だわ、ウフフ」

いやー、曹操さん。口が悪い。

「いえ、そういう"男"ではありません。
農業に詳しい男で、袁紹の臣下の一人のようです」
「なんだ、そうなの。面白くないわね。
でも、どうして農業なんて地味な分野にあの華麗好きな袁紹が力を入れるようになったのかしら?」
「それなんですが、その男に変な噂が」
「変な噂?」
「そうなんです。何でも天の御使いだとか」
「天の御使い?あの管輅が予言したという?」
「そうだと思います」
「それで、袁紹は天の御使いの言うことなので農業に力を入れるようになったのかしら?」
「その辺の経緯はよくわかりません」
「で、その天の御使いとやらは何をやっているの?」
「農業指導のようです」
「農業指導?それだけ?」
「ええ。農の幟をたてて、畑を見回っては改善するというようなことをしているようです。
ほとんど終日そんなことをしているとの報告です」
「そう…………ほかに変わったことは?」
「一時期兵士の訓練を行っていたようですが、屯田が始まってからはあまりやっていないようです」

曹操は何か思案しているように部屋をうろうろする。

「それだけを聞くと何でもないわね…………
でも、何か気になるわ……気になるわ……嫌な予感がする。
桂花!」
「はっ」
「今まで以上にその天の御使いとやらと袁紹領を監視するように」
「御意!」



 所変わって、ここは業。
今は賢人会議が開かれている。
肥料事件以降、賢人同士は過去のわだかまりが嘘のように、普通に会議している。

「最近、間諜が増えたでありんす」

逢紀が訓練時の様子を報告すると、田豊もそれに答える。

「そう思うわ。どこの間諜かしら?
曹操のところかしら?最近急に力をつけてきているから、隣の国の動向が気になるのかも」
「そう思うでありんす。
敵にあまりこちらの状況を知らせたくないでありんす」
「見つけ次第殺す?」
「それは既にやっているでありんす。
それでも、全員殺れるとは思えないでありんす。
あちきは、訓練を小規模にして敵の目を誤魔化すといいと思うでありんす」
「そうね。その方がいいと思うわ。
兵士の大部分は屯田に勤しんでいるものね。
訓練の場所は徹底的に間諜を排除するようにしましょう。
他のみんなもそれでいい?」
「いいわ」
「当然ね」
「いーんじゃなーい?」
「それじゃあ、一刀。この決定を麗羽様に伝えて」

田豊は部屋の隅のほうで離れて聞いている一刀に伝える。
田豊、沮授は肥料事件を許してくれたようだが、他の面子には受け入れられていないので、以前のように同じ席にはいられない。

「うーん……わかった……」
「何か歯切れが悪いわね」
「大規模の方が華麗だと思っていると思うから、どういうふうに説明したものかと考えているんだ」
「その辺は麗羽様担当の一刀が考えてね♪」
「うーーー」

そして、袁紹の元に決定事項の決済をお願いに行く一刀。

「麗羽様」
「何かしら?一刀」
「軍の訓練のことで相談が」
「ええ」
「訓練の規模を小さくしようと思うのです」
「それでは、大規模な演習に比べて華麗さが少なくなってしまうではありませんか」
「ええ、確かにその側面もあると思います。
ですが、工芸品を思い浮かべてください。
大きくて華麗な工芸品は確かに見た目華やかで、華麗な麗羽様に相応しいと思います」
「オーッホッホッホ。その通りですわ」
「それでは、小さい工芸品は華麗ではないか、というと」
「華麗ではありませんわ」
「確かに、一見そう見えます。
ですが、近くによってよく見ると小さな工芸品には匠の技が詰まっていて、それはそれは見事な細工が施されています」
「それは言えますわね」
「そのような細やかな華麗さは大味の作品には見られません。
麗羽様の軍は大きく華やかな華麗さと、見事な細工のような細やかな華麗さ、その両方を備える必要があると思います」
「なるほど、そうですわね」
「もう、麗羽様の軍は大きく華やかな華麗さは備えております。
今度は細やかな華麗さを追及する段階だと思います。
その両方を兼ね備えて、真に華麗な袁紹軍ができるのです!」
「オーッホッホッホ。一刀、いい事をいいますわね。
早速そのとおり訓練を執り行いなさい」
「はい!」

幇間の本領が次第に発揮されてきた一刀であった。

曹操も荀彧も一刀がこんな仕事をしているとは夢にも思わないであろう。



あとがき
鳴海さんの感想で思いつきました。
ありがとうございました。
たまには国外の様子も入れたほうが面白くなりそうですものね。



[13597] 何進 -黄巾編-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:52
何進

 恋姫三国志の世界では、既に袁紹が冀州を治めている。
その治世もそれほど悪くない。
というより、政治だけを客観的に見れば善政だと思う。
袁紹のイメージが悪いから悪い印象を受けるが、やっていることだけをみれば優秀だ。
賢人会議の恩恵という説もあるが。
経済の発展も著しい。
農業は一刀の影響が大きいだろう。
その状態で黄巾の乱が起こるのだろうか?
冀州が黄巾の乱勃発の地なのに。

 その疑問は田豊に聞いためちゃくちゃ後漢状況で納得した。
まず、冀州であるが、これはどういうわけか業を含む半分だけ袁紹の管理下にある。
それでも九州より大きいようだけど。
そして、残りの半分と幽州の大部分、そして并州を治めるのがどこをどう間違ったのかかつての大将軍何進。
幽州の一部が公孫讃というのが河北の支配状況。
青州は陶謙が治めているので、袁紹の管轄外。
きっと、そのうち曹操がとるのだろう。
たしかに、これなら公孫讃と袁紹の距離が近いのも納得できる。
冀州で黄巾の乱が勃発したのも分かる。
それにしても……ねえ?

何で何進がこんなところにいるかというと、何皇太后・宦官連合軍に権力闘争で負け、命は助けてもらったものの、中央政界からは抹殺されてしまったそうだ。
世に言う党錮の禁。
その所為で大将軍から地方の州牧に転じられていたとのこと。
そんな歴史があったかなぁ?
三国志演戯も真っ青のご都合主義。


 何で袁紹がそんなちっぽけな土地で我慢しているの?
 何進は黄巾の乱もないのに、どうして大将軍になったの?
 何進がいるのに、どうして逢紀が袁紹に仕えているの?


もう、突っ込みどころ満載の状況だが、そういう歴史だそうなので、受け入れるしかない一刀である。
自分の知っている歴史は、何が使えるのだろう?と改めて頭を抱えるのだ。
袁紹、実は相当お人よしだから権謀術数の策を巡らす政治家にいいようにカモにされていたのかもしれない。



「つまらん!!つまらん!!」

で、その何進。
元はただの肉屋、というか屠殺屋である。
妹のおかげで大将軍にはなったが、そんな器ではない。
清流派を重用したといっても、別に自身が清流なわけではない。
宦官ら、濁流派を淘汰したいから、清流派を重用しただけだ。
敵の敵は味方だから。
だが、今は濁流派に破れ、党錮の禁により清流派は粛清され、自分もこんな辺鄙と思っているところにいる。
政治的な思想は全く無いといってよい。
唯一ある思想は、自分が贅沢をしたい、それだけだ。
一度大将軍になって、贅沢を味わってしまった今、地方にいたら質素でたまらない。
洛陽はよかった、豪奢だった。
あの雰囲気をもう一度味わいたい。
その結果が毎日酒池肉林の宴会三昧。
さすがは元肉屋。
当然、内政なんか碌にするわけがなく、民の困窮はひどくなる一方だ。
金の消費も激しいので、税率は8割に達している。
袁紹領の税率3割とはえらい違いだ。
ちなみに、他の地方の税率は4~6割位が相場らしい。

「何大将軍、それでは新しい酒をお持ちしましょうか?」

部下はご機嫌をとるために、未だに大将軍と呼んでいる。

「酒も女も料理も飽きた!
何かもっと変わったものはないのか!」
「そうですねえ。
最近、巷では数え役萬☆姉妹という歌い手が流行っているようです」
「数え役萬☆姉妹?」
「ええ。歌も踊りもうまく、結構な評判だとか。
丁度、ここ鉅鹿にきているそうですから、その者達を連れてきてここで歌わせるというのはどうでしょうか?」
「それは趣向を変えるには良さそうだ。
早速連れてまいれ!」
「御意」


 その日、数え役萬☆姉妹、即ち張三姉妹はいつものように野外特設スタジオでコンサートを開こうとしていた。
張三姉妹。
長女張角。真名件芸名が天和。
次女張宝。真名件芸名が地和。
そして、三女張梁。真名件芸名が人和。
偶然手にした太平要術の書という謎の書物の知識を利用して、マイクもないのに拡声器と同じような効果を持つ、一種のマジックアイテムを持っている。

「みんな大好きーー!」
「てんほーちゃーーーーん!!」
「みんなの妹ぉーっ?」
「ちーほーちゃーーーーん!!」
「とっても可愛い」
「れんほーちゃーーーーん!!」
「今日もいくねーー!!」
「おおーーーーーーっ!!」

今日も公演は盛況だ。
みんなのってる。
気合を入れて公演をしよう!
そう思う張三姉妹である。

そこにどかどかと入り込んでくる兵士達。

「この公演は中止だ!
張三姉妹は何進様にお呼ばれになったのだ。
ついてまいれ!!」

隊長らしい兵士が会場にいる全員と張三姉妹に命令する。

「いやよ!かしんだかなんだか知らないけど、公演をみたいなら、ちゃんとお金払って見に来ればいいじゃない!
わたしたちは、公演を見に来てくれる人みんなのために歌を歌っているのよ。
ここに来てくれた人が、今一番大事なの!」

張三姉妹の長女、天和がしっかりとした声で兵士達に怒鳴り返す。
やっぱり長女、こういうところはしっかりしている。

「そうだそうだー!」
「天和ちゃんは俺たちのものだー!」
「帰れ帰れーー!!」

「なんだと!?歯向かうならば殺す!」

「脅せば何でも言うことを聞くと思ったら大間違いだぜえ」
「そうだー!もう散々搾り取られているんだ。これ以上俺たちから金や楽しみを奪うことはゆるさねえー!」
「やれるもんならやってみろー!!」

「殺れ」

隊長が部下に命ずる。
部下は命令に従い、やってみろといった男を槍で貫く。

「グヴァッ…」

男は妙な声をあげて、うずくまってしまった。

「キャーーー、助けてーーー!!!」

地和の絶叫が会場に響き渡る。
それを聞いたファンたちは、まるで催眠にかかったかのように、

「天和ちゃんを守れーー!!」
「地和ちゃんに指をふれさせるなーー!!」
「人和ちゃんは俺たちのものだーー!!」

そう、口々に叫んで、兵士達に素手で襲い掛かる。
兵士達は、武装しているとはいえ、いくらなんでも多勢に無勢。
ファン達に数名の被害者がでたが、兵士達は殲滅させられてしまった。

こうなると、日頃悪政に鬱積している人々である。

「何進をやっつけろー」
「漢王朝をぶっつぶせー!!」

と、その勢いが武装蜂起につながっていく。
その勢いは張三姉妹のファンのみならず、民衆全体に広がっていく。
もう、漢の、何進の悪政は臨界に達していたのだ。
きっかけさえあれば、いつでも暴動が起こる素地ができていた。
鉅鹿は暴徒で溢れかえった。




あとがき
袁紹が黄巾の乱の前に冀州にいて一刀を拾う状況にしたら、ここにきてようやく設定が無謀であることに気がつきました。アハハハハ!
こんなことなら、冀州にいないことにすればよかったとも思うのですが、今更遅いし、そうしないと公孫讃との関係がおかしくなってしまうので、苦渋の内容です。
我ながら失敗だったと思う設定で、色々ご意見もあるでしょうが、とりあえずこういうことにしておいてください。
大変失礼いたしました。

治めているのは何進でも誰でもよかったのですが、袁紹より上の立場にあって適当な人物がいなかったので、何進に悪役になってもらいました。
本当のところ、あまりいい人でもなさそうですし(違ったらごめんなさい)、韓馥は悪政というより、気弱な雰囲気ですし。



[13597] 蜂起
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/03 23:59
蜂起

「何?愚民が暴動を起こしただと?」

暴動の報は何進の許へも即座に届けられる。

「は、数え役萬☆姉妹を迎えに行った兵が殲滅させられ、更に牧府の許へと向かっているとの情報です」
「わしに歯向かうとは許せん。
直ちに暴動を鎮圧せよ!」
「御意!」

何進、大将軍にはなったが、戦場に赴いたことがない。
いつも行け!で終わりだったので、今回も命令だけしかしない。
そして、それで全てうまくいくと思ってしまうところが問題だ。


兵士達は、自分が相手にしようとする敵の数を見て、驚愕してしまった。
街全体が自分達に叛旗を翻したような大規模な暴動。
この頃には、民衆達も持てる範囲の武器を携行しており、素手で戦ったときより戦闘能力が上がっている。
もちろん、武器と言っても棒や鍬などのありあわせのものでしかないが、素手とは比べ物にならない。
とても自分達だけで対応できる規模ではない。
急いで城に戻り、そして城門を固く閉ざす。

「何大将軍、暴動は大規模でとても鎮圧できるものではありません!」
「何をふざけたことを言っている!
そんな愚民ども、わしが鎮める!
城門を開けえ!」
「いや、それはお止めになったほうが……」
「わしの命令が聞けぬというのか!」
「そこまで仰るのなら……」

何進、大将軍になったので、自分には何でもできると思い込んでしまっている。
漢の大将軍である。愚民どもが跪かないはずがないと思っている。

「わしが何大将軍だ!
武器を置いて投降せよ!!」

水戸黄門じゃあないんだから、と思うのだが、群集は一瞬静かになる。
何進は、やはり自分は偉大なのだと満足する。

だが、その直後、

「てめーが何進か!」
「ぶっ殺してやる!」
「俺たちの苦労を思い知れ!!」

何進に向けて群衆が突進する。
何進は水戸黄門にはなれなかった。
助さん格さんもいなかった。
何進は、文字通りその体を八つ裂きにされ、その生涯を終えた。


暴徒たちはそのまま城内に突入し、城内の兵士達の殺戮、金銀財宝の略奪、愛妾達の強姦、そして武器の奪取を行っていった。
もちろん兵や家臣の中にも節度のある人間もいる。
愛妾の中にも元は農民で、無理やり連れてこられた者もいる。
だが、暴徒達にそんな理由をつけてもだめだ。
今まで圧政で苦しんでいた反動が一気に解放される。
その力が全て城に向かう。
城は破壊され尽くした。


 さて、暴徒達であるが、略奪を終え、少しは落ち着いてきた。
自分達でもやればできるんだ、そんな自信ができてきた。
今、街は自分達のものだ。
漢なんかなくてもやっていける!
そんな雰囲気が漂っていた。

でも、これからどうすれば……
破壊が終わった後、皆をまとめる人間が必要だ。
それも、全員が納得するような頭が。

民衆の意見は何も言わなくても結論を導き出していた。
俺たちが従えるのは彼女達しかいない!!

「天和様、地和様、人和様。
お願いです、俺達を束ねる頭になってください!」

ぎらぎらした目の男たちが張三姉妹を訪れている。

「えー、どうしよう、ちーちゃん、れんほーちゃん」

長女の張角が二人の妹に相談する。

「ここは受けたほうがいいわ。
彼等は今正常な判断が出来てない。
ここで断ったら襲われる可能性が高い」

三女張梁が冷静に状況を判断し、小声で答える。

「ちいもそう思う」

次女張宝もそれに同意する。

「わかったわ」

張角はそう言って、男達に向き直る。

「いいわよー。
わたしがみんなの大将になってあげるーー!!」
「ほわぁぁぁっ!!」
「それじゃあ、今日はお家でゆっくり休んでねーー!」
「うぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!」

とりあえず、その日は群集を家に戻すことに成功した張角であった。


 張三姉妹だけになってから、張角が妹達に相談を始める。

「ねえ、ちーちゃん、れんほーちゃん。これからどうしよう」
「どうしようっていっても……人和、何かいい考えある?」
「そうね。とりあえず彼等の力を発散させないと。
ここに留まっていたら不満が溜まってきそう」

末娘なのに、なかなかしっかりした考えの張梁である。

「そうだね。私もそう思う。
だったら、どうしようか?」
「うーーん、他の街の官僚もやっつけよーっていうのはどう?
そしたら、彼等の力も発散できるし、適当な時期に行動を別にすることもできそうだし」
「私も賛成、ちぃ姉さん」
「だったら、あしたみんなに他の悪いやつ等もやっつけちゃってー、って言えばいいのかな?」
「それがいいわね」
「そう、思う。
とりあえず、何進が治めていた他の街に力を向けさせればなんとかなるんじゃない?」
「わかったわ」


そして翌日。

「みんなーーー!!」
「ほわぁぁぁっ!!」
「他の街にも、苦しんでいる人がいると思うのーーー!!
だから、みんなで助けに行きましょうーーー!!」
「ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!」

城から武器を奪って、武装も充実した人々、数え役萬☆姉妹ファンの証である黄色い布を全員が身に着け、後に黄巾党と呼ばれる集団はこうして蜂起したのであった。



[13597] 黄巾
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/05 16:25
黄巾

 張三姉妹率いる(?)黄巾党は、次々と街を落としていった。
守備兵の人数が少ないというのも、兵士たちが敗れた一因ではあるが、それ以上に黄巾党に同調する民衆が街の内側から蜂起したというのが大きい。
黄巾党は冀州(何進統治部)、幽州を制圧し、その勢いは他の州へも広がろうとしていた。

「え~ん、ちーちゃん、れんほーちゃん。これじゃあ逃げられないよう……」
「困ったねー」

黄巾党のリーダーを成り行きで引き受けた張三姉妹であったが、本人たちは別にそんなものになりたいわけではない。
早く元のアイドル歌手に戻りたいと思っている。

だが、三姉妹を取り巻く環境は日に日に悪化している。

まず、黄巾の乱であるが、最初のエネルギーを発散させれば終わりになるかと思いきや、あちらこちらの街で武装蜂起が起こり、沈静化どころかエキサイトする一方であった。
そのエネルギーが冀州、幽州を制圧してしまったのは最初に述べたとおりである。

漢王朝から見れば反乱軍なのであるが、何大后が「何進を殺した?いい暴徒達ですこと」とか言っていて、王朝から組織だった討伐指令は出されなかった。
このため、討伐にあたるのは地方の名士たちだったのだが、その討伐隊が「たかが農民の反乱だろ」と高をくくっていた上に、黄巾党の数の力がものをいい、それらは全て撃破されてしまった。
こうなると、地方からの陳情も山のように洛陽にもたらされる。
王朝もとうとう重い腰を上げ、黄巾党の討伐を指示することになった。
とはいっても、この時期本気で討伐する気がない。
各地に指示を出しておしまい。
これでは黄巾党を鎮圧できるはずなく、今までとあまり変わらない状況が続いていたのだった。

 さて、張三姉妹であるが、幸運にも張角、張宝、張梁という名前だけが黄巾党の幹部と伝えられ、それが数え役萬☆姉妹と同一人物とは思われていなかったので、張三姉妹を直接狙う動きはなかった。
とはいうものの、いつ狙われてもおかしくない状態なので、黄巾党員、三姉妹から見たらただの熱狂ファンが彼女等の警護を厳重にし、黄巾党を離れるのが難しくなっていた。

「標語でも作って、あとはみんなに勝手にやってもらったら?」
「どういうこと?ちーちゃん」
「どうせ、私たちってお飾りでしょ?
だから、別に私たちでなくてもいいと思うの」
「そうね」
「そこで、標語。
なにかみんなをまとめるような標語を作って、それに私たちの代わりをしてもらうってわけ。
そうしたら、あとはみんながまとまって勝手にやってくれるんじゃない?」
「う~~ん……何かうまくいくような気がしないんだけど」
「やってみたら?」
「れんほーちゃんはそう思うの?」
「何もしなくても逃げられないのなら、何かやっても今以上に悪くならない」
「まあ、そうかもしれないけど。
じゃあ、どんな標語がいいの?」
「そうねぇ…………
うーーーん………
『蒼天已死
 黄天當立』
なんていうのはどう?」
「うっわー、ちーちゃん。それって、漢王朝に思いっきり喧嘩売ってるよ!
蒼って漢の色だし、私たちの象徴は黄色い布じゃない」
「だからいいんじゃない。
自分達で出来ると思うから」
「う~~ん。何かだめそうなんだけど……」
「今以上に悪くならない」
「本当かなぁ」

大いなる疑問を抱きつつも、地和、人和に言われたとおり、天和はスローガンを公表する。

「みんなーーー!!
今日は私たちのために標語を考えたのーーー!!
聞いてねーーー!!
『蒼天已死
 黄天當立』
いいでしょーーー!!」

「蒼天已死
 黄天當立
おおおおーーーーおおおおーーーーおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

スローガンを聞いた民衆は大いに鼓舞されたのであった。


 さて、張三姉妹のその後は………

「みんな大好きーー!」
「「「てんほーちゃーーーーん!!」」」
「みんなの妹ぉーっ?」
「「「ちーほーちゃーーーーん!!」」」
「とっても可愛い」
「「「れんほーちゃーーーーん!!」」」
「みんなで悪い漢王朝をやっつけようーーーー!!」
「「「おおーーーーーーっ!!」
「やっつけようーーーー!!」」」
「「「おおーーーーーーっ!!」
「やっつけようーーーー!!」
「「「おおーーーーーーっ!!」」」

相変わらず漢全土を黄巾党党員鼓舞のため、コンサートツアーを催している。
というより今まで以上に精力的にコンサートツアーを行っている。
コンサートであるから、もちろん歌や踊りも行うので、やっている活動そのものは数え役萬☆姉妹の活動そのものだが、政治的背景がまるで異なる。
彼女たちが直接指示を出しているわけではないが、煽動しているといえばそのとおりの行為である。

スローガンは効いた。
そのスローガンが漢全土に伝わるや否や、全土で一斉に黄巾の乱が蜂起された。
そして、波才、張曼成、卜己といった幹部が現れ、漢軍に対し統率して対抗できるようになってきていた。
そんな彼等を鼓舞するために張三姉妹はコンサートツアーを催している。
張三姉妹は、今まで以上に黄巾党の総帥としての地位を固めていき、その警護もより厳重になっていった。

「え~ん、れんほーちゃん。前よりわるくなっちゃったじゃない!」
「……ごめんなさい、天和姉さん」



 さて、漢王朝である。
流石にそろそろ本腰を入れなくては、と考え出したようだ。
各地の太守に黄巾党殲滅を命令すると共に、仕方なく党錮の禁を解き、清流派を登用するようになってきた。
皇帝――諡号が霊帝――を皇甫嵩が説得したというのが大きい。

「陛下!もう猶予はありませぬ!
大至急党錮の禁を解き、野に下っている清流派の士太夫を登用すべきです!
そうせねば、宦官の力のみでは黄巾党は倒せません」
「えー?そんなことやったら、宦官おこっちゃうじゃあん」
「黄巾党は洛陽に向かっているのですよ。
宦官の機嫌と、洛陽の治安とどちらが大事なのですかっ!」
「うーん………わかんな~い」
「洛陽が攻められたら、陛下とてそのお命が危ういのですよ!」
「それ、だめじゃあん。
じゃあ、党錮の禁解くことにする。
陽、大将軍にするから、あとやっといて。
宦官の機嫌が悪くならないようにね」

こうして、大将軍に命ぜられたのが皇甫嵩。字が義真、真名が陽。
何進は既に死亡しているからありえないが、それにしてもいい人物を大将軍に命じたものだ。
濁流派は中央の権力闘争では抜群の力を発揮したが、武力闘争にはからっきしだったので、苦渋の譲歩であった。

皇甫嵩自らが黄巾党本部鉅鹿のある冀州、そして皇甫嵩が信頼し、公孫讃、劉備の師でもあった盧植が冀州の次に大規模な反乱が生じている豫州・潁川に向かうこととなった。
史実とは逆だが、恋姫仕様なのだろう。
これで、邪魔さえ入らなければ史実よりは楽に黄巾の乱を収めることができそうなのだが……。


あとがき
中途半端なようですが、三姉妹の出番はこれでおしまいです。
そうしないと曹操のところに行きづらくなってしまいますので、いつの間にか冀州からでたということにしておいてください。
皇甫嵩も最終的には冀州に向かったようなので、出陣先はこれでOKということで。



[13597] 義真
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/05 16:26
義真

「麗羽様ぁ、各地で黄巾の乱が勃発しているようですねぇ」
「そうですわね、猪々子。みんな大変そうですわね」

まるで、人事のように言っているのは袁紹。
そう、袁紹にとっては正にヒトゴト。
袁紹領には黄巾の乱のこの字もない。
豊富な食料に低い税制、賢人会議の行う善政。
これで黄巾の乱が起こるほうがおかしい。

「そりゃ麗羽様の華麗な政で、乱がおこるわけないじゃないですかぁ」
「オーッホッホッホ、そのとおりですわ、猪々子。
何進や、他の太守は華麗な政を行わなかったから今頃になって苦労しているのですわ」

……ある意味、正しい。

「でも、麗羽様ぁ、冀州の黄巾党やっつけなくていいんですか?」
「そうですわねぇ、斗詩。
王朝からどうしても、と乞われたらすこーし考える振りをしてみてもいいですわよ。オーッホッホッホ」

王朝、即ち実質宦官からの依頼になるから、宦官嫌いの袁紹が「畏まりましたわ」といってすぐに従うとも思えない。

「何進様の治めていた土地ですが。
昔は一緒に宦官に立ち向かった仲ではないですか」
「斗詩、何をいうのですか。
何進と一緒に立ち向かったのではありませんわ。
何進にいいようにこき使われただけではありませんか!
あの男、結局自分本位ですから、自分のことしか考えないのですわ。
ですから、行動を共にしたこともありますが、別に恩義は感じておりませんわよ」
「討伐隊は大将軍になった皇甫嵩様があたられるという話ですが」
「陽ね。まあ、彼女が頭を下げたら、協力してもよろしくてよ」
「そうか。それを聞いて安心した、麗羽」

いきなり登場する皇甫嵩。

「よ、陽!いつの間に?」
「先ほど到着した。
斗詩や猪々子には黙っておいてもらった」

きっ、と斗詩と猪々子を睨みつける袁紹。

「ごめんなさい、麗羽様。
皇甫嵩様がどうしても来訪を黙って、こういう質問をしろって仰って」
「いやぁ、皇甫嵩様、怖いから」

ぎろっと文醜を睨みつける皇甫嵩。

「じょ、冗談です、皇甫嵩様」

すくみ上がる文醜。
皇甫嵩は袁紹に向き直る。

「久しぶり、麗羽。
相変わらず、けばいな」
「う、うるさいですわ、華麗と言っていただきたいですわ。
そういうあなたこそ、相変わらず無表情で冷たいではありませんか!」
「その通りだ。何か問題あるか?」
「むっきーーー!!」
「麗羽こそ、いい加減年を考えたらどうだ?」
「むっきーむっきーーー!!」

皇甫嵩の圧勝のようだ。

「それで、黄巾党を倒すのを手伝ってくれるのだな?」
「陽が頭を下げれば、と言いましたわ」
「頭は下げないがやってもらいたい」
「お断りですわ」
「だが、麗羽は断れない」
「どうしてですの?」
「何進の治めていたところが麗羽のものになったからだ」
「え?そ、そうですの?」
「ああ。だが、すまない。
今の私の力では治める領土を拡げさせるのを認めさせるのが精一杯だった。
麗羽も洛陽に戻りたいだろうけど、それは叶わなかった。
本当にすまない」
「ま、まあ、あなたと私の仲ですから、聞かないこともありませんわよ。オホホホホ」

この二人、何だかんだ言っても仲がいいらしい。

「それは助かる。
それで、兵を4万ほど連れてきたのだが、その、街の外での野営と食料支援をお願いしたいのだが……」
「よろしいですわ。
何日でもいてよろしいですわ。
まあ、すぐに出立するのでしょうけど。
ここにいる間は全員に酒も振舞いますわよ」
「酒?全員に?
ふふ、冗談でもそう言ってくれるとうれしいぞ」

無表情といわれながらも、微笑んだような表情をする皇甫嵩。
史実の田豊の性格が、皇甫嵩に乗り移ったのだろうか?

「冗談ではございませんわ。
4万人くらい問題なく振舞うことが出来ますわ」
「…………うそだろ?
4万人だぞ。4人ではないのだぞ」
「本当ですわよ。
一日50万人分の酒を造っておりますから、4万人くらいなんとかなりますわ」
「50万人分の酒といったら、大量の穀類を消費するではないか。
そんなことをしたら民が飢えてしまうだろう!」

酒は多量の米や麦を使用するが、それらはまず最初に食料にまわされる。
このため、食料生産量がそれほど多くないこの時代、多量の酒を造ることができなかった。
酒を多量に造れば民が飢えてしまう。
禁酒令を敷く太守もいたほどだ。
50万人分の酒といったら、恋姫仕様を凌駕する桁外れな大量の酒の生産なのだ。
袁紹領のビール生産量は、どうやら、以前に比べ生産量が2~3倍になっているようだ。

「いえ、それだけ酒を造っても、まだまだ潤沢に麦がありますわよ」

呆然とする皇甫嵩。

「………………信じられん。
確かにここに来るまで、一面の麦畑ではあったがそれほどまでとは」
「オーッホッホッホッホ。恐れ入りましたか?」
「ああ、恐れ入った。
いったいどういう妖術を使ったのだ?」
「その道の専門家がいるので、彼に任せたのですわ」
「そうか。それはそのうち話を聞きたいものだ。
それで、早速だが黄巾党撲滅の作戦を立てたいのだが、将軍や軍師を集めてもらえるか?」
「ええ、よろしいですわよ。
斗詩、早速皆を集めなさい!」
「わかりましたー」

袁紹軍の黄巾党殲滅作成が始動する。


あとがき
袁紹と皇甫嵩が仲がいいという話は聞いたことがありませんが、なくもなさそうな話なのでそういうことにしておいてください。



[13597] 軍議
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/09/18 00:56
軍議

 軍議が開かれるので、一刀も召集されている。
座る位置は例によって部屋の隅だけれども。

「みなさ~ん。知っている人もいると思いますけど、皇甫嵩大将軍が来ましたので紹介いたしますわぁ」

袁紹様の発声で軍議が始まる。


(あの人が皇甫嵩さんか。
どういうわけか大将軍。
冀州方面が盧植でなく皇甫嵩というところが、史実と違う。
皇甫嵩さん。
長身で真っ黒なロングの髪をストレートに伸ばしている。
服は黒のパンツスーツっぽい衣装。
表情は冷たく、表情が読み取りにくい。
クールビューティーというよりコールドビューティーといった感じ。
仕事は確実にこなしそうだけど、この人と個人的に親しくなりたいとはあまり感じない、そんなタイプの人)

と、皇甫嵩を観察する一刀である。

「皇甫嵩大将軍を助けて、冀州の黄巾党をやーっつけることにいたしますわ。
何進の治めていた土地は私が治めることになりましたから、華麗にや~っておしまいなさい!」
「麗羽、どうしてお前はいつもそう単純なのだ。
作戦は敵の状況をしり、こちらの兵力を確認してから、どのような作戦が最善かを考えるのだ。
孫子も言っているだろう」

皇甫嵩さんが冷静に袁紹様を諭している。

「あら、今まで私がそう言いましたら、軍師や将軍が華麗にやってくれてましたわよ」
「そうか」

皇甫嵩さんはちょっと溜息混じりに話を続ける。

「それでは、華麗な行動をとってきた軍師や将軍に聞いてみることとするか。
今回私の連れてきた兵は約4万。
これに袁紹軍の応援を加えて敵の撃破にあたることとなる。
まずは、袁紹軍で参戦できる人数や装備などを聞きたいのだが」

皇甫嵩の問いかけに沮授が答える。

「袁紹軍の現有勢力は約20万。
現在黒山とやや交戦状態にありますから、全軍を出すことはできません。
最低限の防衛隊は残す必要があります。
黒山の規模からして2万残せばいいでしょう。
ですから、出撃可能なのは18万、内騎馬隊が5万です。
兵糧は20万人が10年戦っても備蓄だけで間に合います」

何気に袁紹軍すさまじい!

「そうか。さすが麗羽、"華麗"な軍だな」

皇甫嵩さんもお世辞をいうらしい。

「オーッホッホッホッホ。当然ですわ」
「それでは、現在の敵の状況だが、数は約100万だと言われている。
だが、それが一丸となって戦っているわけではないから、集団毎に撃破していけば対応できるだろう。
あとは進軍してその都度状況を確認、随時適切な戦術をとることにするのがよいと思うが」
「おー、腹が鳴るぜー!」
「文ちゃ~ん、それをいうなら腕がなるだよう」
「そ、そうともいうな!」

文醜が嬉しそうに、でも顔良の指摘でたら~っと冷や汗を垂らしながら肩をぐるぐる回しているのを、皆(除皇甫嵩)で見て笑っている。
これで方針は全て決まったと思ったが、

「ちょ、ちょっと待ってください」

部屋の隅のほうから男の声がする。

「なんですの?一刀」
「ん?誰だ?お前は」

皇甫嵩の問いかけに一刀は自己紹介をする。

「俺は北郷一刀。麗羽様の下で農業指導をしています」
「ああ、お前が……で、何か意見でもあるのか」
「黄巾党って、もともとは虐げられていた農民達です。
彼等も戦いが好きで戦っているわけではないと思います。
彼等が平和に働けて、そして働きに見合った充分な報酬を約束できるなら、彼等も戦いを止めると思います。
幸い、麗羽様の領地は華麗な政をしていると評判ですから、今後この土地は麗羽様が華麗に治めるからもう戦はやめろ、今までのことは不問に処すと言ったら、必ずや投降すると思います。
それに、黄巾党の人間を殺戮したら、今後の生産活動にも影響してしまいます。
この作戦は、麗羽様の軍隊が活躍をするのでなく、麗羽様がいる、それだけで人々が付き従うという華麗な麗羽様にしかできない作戦なのです」
「オーッホッホッホッホ。いいこと言いますわね。
早速、その通りに執り行いなさい!」
「ちょっと待て、麗羽。物事そんな単純にはいかぬだろう。
一刀とやら。本気でそんなこと出来ると思っているのか?」

一刀は歴史の知識を呼び起こす。

(曹操は青州軍を取り込むときに、食料に困窮していた彼等に食料を供給、交渉することで黄巾党を降らせていたはずだ。
今回も条件さえ整えば降伏するに違いない。
現時点では彼等は食料に困窮しているとは思えないし、青州軍と違って内部に投降しようという動きが全くないのが厳しいところだけど、というより決定的にまずい点だけど、麗羽様の善政は伝わっているだろうから、それだけでも投降する可能性大だ。
説得方法さえ間違えなければうまくいく。




…………多分)

「はい、そう思います」
「そうか。では麗羽が黄巾党の前にたって、投降を呼びかければそれに従うというのだな?」

そ、それは、火に油か爆弾を注ぐような気がする。

「いえ、麗羽様は業で朗報を待っていればよいと思います。
華麗な麗羽様がわざわざ黄巾党ごときが反乱を起こしている地に出向く必要はないと考えます。
降伏して、それから土地が豊かに、華麗になってからお出でになればいいと思います」
「では、誰が降伏を勧めるというのだ?」

誰って……?
参謀じゃ説得力不足だから、将軍かな。
となると、二枚看板と言われている斗詩さんか猪々子さんが適当だろうけど、性格から考えて……

「斗詩さんが適任だと思います」

全員の視線が一斉に顔良に向く。

「え?え?私?
そんな大変な役、できないよう。
戦うほうが楽だよう」
「いえ、斗詩さんならできると思います。
というよりも、斗詩さんしかできる人がいないと思います」
「そんなこと言われても困るよう……
そうだ。口のうまい一刀さんが行けばいいですよ」
「へ?俺?」

まさか我が身に戻ってくるとは夢にも思っていなかった一刀。

「そうですよ。いつもれぇぇえ~っと、説得するのが難しい人と交渉しているでしょ?
絶対適任です!」
「そ、そんな。俺、ただの農業担当ですから。
やっぱり袁家の代表となるには将軍でないと……」

袁紹がこの口論に決着をつけてくれた。

「二人で行けばよいではありませんか」



[13597] 刑罰
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:54
刑罰

「ねえ、一刀。本当にうまくいくの?」
「うまくいったら画期的だとは思うのですけど……」

部屋に戻った一刀に早速田豊と沮授が心配そうに声をかける。

「だ、大丈夫だよ。……多分」
「短い付合いだったわねー」

感慨深そうに遠くを見つめてつぶやく田豊。

「まだ死んでないだろ!」
「ええ、"まだ"」

大きく落ち込む一刀。
と同時に、最近菊香雰囲気変わった、と思うのである。

「それで、実際にどうするのですか?」

沮授のほうが親身だ。
清泉のほうが昔の雰囲気を保っている。
……ちょっと陰湿になったきもするが、やっぱりやさしい。

「うん、やっぱり麗羽様じゃないから、こっちも心から訴えれば通じるんじゃないかと思うんだけど」
「それでは、それは一刀に任せるとして……彼等の犯した罪はどうするのですか?」
「罪?」
「ええ。兵士達を殺していますし、略奪もしているでしょ?
それはどうするのですか?」
「うーーんと……不問というのは駄目なのかなぁ?」
「それは駄目ね!」

田豊の駄目出しが入ってしまった。

「どんな理由があっても、罪は罪。許されるものではないわ。
それに、民も自分のした罪は知っているから、それを訳も無く不問に処されたら却って疑問に思ってしまうもの。
それ相応の罪は償ってもらわなくては」
「じゃあ、どうすればいいのさ?」
「まず、略奪したもの。これは速やかに返せば不問にする。
逆に後で略奪したものを持っていることがあきらかになったら、これは厳罰ね。
そうでもしないと、たくさん略奪した人だけが利益を得てしまって、民の間に不公平が生じてしまう。
そういう状況を放置すると利益を得ない人たちから不満が起きてしまう」
「うん」

「それから、破壊した城の修復費などは、支払ってもらう」
「それが払えるくらいなら反乱は起きなかったろうに」
「もちろん、すぐにとはいわないわ。
税率を通常の3割から4~5割に数年間上げる。
それで賄ってもらう。4~5割でも何進時代の8割に比べれば格安だし、他国と比べても遜色ないから文句は出ないと思うわ」
「なるほど」
「犯されて傷ついている女性達や、孤児になってしまった子供達も、そのお金で何らかの補償をするといいでしょう」
「うんうん」
「この問題は、全員からあまねく税を取り立てるという点」
「それって問題なの?」
「ええ。全員が黄巾党で破壊活動をしたというわけではないでしょ?」
「ああ、そうか」
「でも、これは略奪の対策のようにやった人は税を重く、そうでない人は軽くというわけにはいかないの」
「どうして?」
「そうすると、暴動には参加したがほとんど破壊はしていないという人や、暴動はしていないけど呼びかけはやっていた人がいた、というようにいろいろな人が出てきてしまって収拾が付かなくなってしまうから」
「なるほど」
「だから、これは暴動に参加していない人には悪いけど、自分達の街をすみやすくするための税だと割り切ってもらうしかないわけ。
不満を言う人がいるかもしれないけど、何とかして。
一刀が農業の収量を増やすといえば納得するでしょう」
「わかった」

「最後が人殺し」
「……」
「これは重罪だけど、牢に入れるとか死罪にしたら、絶対に投降しないから、それはできない。
だから、自分達の手で殺した人を弔ってもらう。
自分達で墓を建て、死んだ人を埋葬してもらう。
もちろん、一人一人丁寧に埋葬してもらう。
そうすることで、死者を供養すると共に、自分達の犯した罪を心に刻んでもらう。
弔いには、同時に昂奮した気持ちを抑える働きもあるから」

田豊の意見を感心して聞いている一刀。

「ふーん。やっぱり菊香ってすごいんだな」
「何よ、そのやっぱりっていうのは?」
「最初ここに来たときは、窓辺で黄昏れているだけの美少女だったのに、こうして作戦を聞いてみると、俺なんかまるで足許にも及ばない有能な参謀なんだなって、改めて認識を新たにするんだ」
「当然でしょ」

何気に美少女も有能な参謀も肯定する田豊。

「でも、苦手な分野もあるから、それは一刀、お願いね」
「うん、わかった」

田豊の苦手な分野、それが何を意味するかは袁紹以外全員知っている内容である。


 それから、説得するための文案も考えて、方針を顔良にも見てもらう。
顔良も、それなら、ということで計画を軍議にかける。

「悪くはない。いや、うまくいけば画期的だろう。
試すだけのことはある」

皇甫嵩も満足そうだ。

「オーッホッホッホ。華麗なこの私に出来ないことなどございませんわ」
「まあ、その台詞はうまくいってから聞くことにしよう」
「それでは、斗詩、一刀。早速や~っておしまいなさい!」
「は~い、わかりました~」
「はい!」

で、軍議が解散になると思いきや、袁紹が顔良に向かって、

「ところで、斗詩」

質問を始める。

「はい、なんでしょう?麗羽様」
「この間、斗詩は一刀がいつも説得するのが難しい人と交渉していると言ってましたけど、それって誰ですの?」

顔面蒼白になる一同(除皇甫嵩)。

「そ、それは……」

もちろん、顔良、即答できない。

「やはり、一刀さんの口から。ね?」

と、冷や汗を垂らしながら一刀に微笑みかける。

(あーー!斗詩さん、逃げたー!!)

と、一刀がいくら心の中で叫んでも、投げつけられてしまったボールは返せない。

「えーーっとーーーー…………それはですねぇ」

一刀、必死で対応を考える。

「あの、軍師の人たちって、自分の意見をなかなか曲げないから、麗羽様にお伝えする前に行っている軍議は、いつも紛糾しているんです。
確かに、軍師の人は、その人達の考えで作戦を決めているので、他の人の意見に流されるのは問題だと思いますが、どの案が一番よいかを全員で決めるのがなかなか大変なのです」
「そうですか。どの軍師も優秀ですから大変でしょうね。
一刀、しっかりまとめるのですよ。オーッホッホッホッホ」

麗羽様、それ、あなたの仕事ですから!!と口から出かかったのを必死で止める一刀である。


 軍議のあとで……

「ごめんねー、一刀さん」
「ひどいですよ、斗詩さん。いきなり振るなんて」
「だぁ~って、麗羽様といえば一刀さんでしょ?」
「ちがいます!勝手に決め付けないでください」
「お詫びに許してあげちゃうから」
「何をですか?」
「その……肥料のこと」

ちょっと溜息でもつきたくなる一刀。

「………あの、いつも思うんですけど、肥料って許すとかそういう問題なんですか?」
「え?」

顔良にしては珍しく、きょとんという表情に変わる。
そして、なんでそんなことをわざわざ聞くの?という雰囲気で、こう続けるのだ。

「当然、そうだと思うんだけど?」
「そ、そうだったんですか……」

一刀はそれを聞いて、本当にはぁーと深い溜息をつくのである。



[13597] 初陣
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:55
初陣

「………」
「………」

顔良と一刀が黙って荒野に立ち尽くしている。
黙って、というよりは声を発せられない状態のようでもある。
顔は二人とも引きつっている。

「た、たくさんいますね、斗詩さん」
「そ、そうですね。3万人くらい、でしたっけ?」
「そ、そんなことをいっていた気がします」

ようやく、声を振り絞ってそんな会話を始める。

そう、今二人は黄巾党にたった二人で立ち向かっているところだ。
前方には山のような黄巾党の暴徒達。
ゆっくりと徒歩で進軍している。
味方ははるか後方に控えているので、暴徒たちが投降しなかったら、救援に来てもらえるのは二人が死んだ後だろう。
二人の他に用意されているものは"顔"の牙門旗と"農"の幟。
暴徒達に二人の存在をアピールするために二人の後ろに立てられている。
大きさはいい勝負だが高級感がまるで違う。
"農"の幟も高級にしようという話もあったが、ほんの数名で見回りをするのに、そんな重いものは持てないという一刀の意見で、相変わらずみすぼらしい幟のままだ。
それから、少量の麦とビール。

「斗詩さん、襲われたら助けてくださいね」
「ななな何を言っているんですか!一刀さん。
私だって武器がないんですから。
一刀さんこそ男なんだから助けてくださいね!」
「そんなあ!素手だって斗詩さんの方が充分強いじゃないですか!」
「そういう問題ではありません。
心構えの問題です!」
「だったら、斗詩さんだって将軍なんだから心構えが充分でしょ?」
「……え~ん、一刀さんがいぢめるぅ」

と、そんな会話をしながら恐怖を忘れようとしている二人だが、現実は着実に進行している。
二人の前方で、黄巾党がピタッと止まる。

「……きちゃいましたねぇ」
「……ええ、きちゃいましたねぇ」
「行きましょうか?一刀さん」
「はい。もう腹をくくりましょう」

二人はとことこと黄巾党の前に歩み出る。
顔良は大きく深呼吸をして……

「みなさーーん!聞いてくださーーい!!
私は袁紹軍の将軍、顔良でーーーす!!
今日は、みなさんにお願いがあってやってきましたーーー!!」

顔良はここで息を整えるため、少し休む。
暴徒たちは、黙って顔良の言葉を聞いているようだ。
これなら、もしかするかも。

「何進さんの治めていたところは、袁紹様が治めることになりましたーー!!
袁紹様は、何進さんと違って善政で知られていますーー!!
袁紹様は新たに治める土地も同じように治めると仰っていますーー!!
ですからーー袁紹様と一緒に理想の冀州を作りましょうーーー!!
おねがいしますーーー!!」

とりあえず、第一声は伝えられた。
あとは彼等の反応待ちだ。
遠目に見ると何事か話をしているようだ。
袁紹の統治の話は恐らく伝わっているのだろう、端から拒否する提案でもないと彼等も考えているようだ。
そして、彼等の返事が来る。

「そんなうまい話を言って俺達を油断させて、全員殺しちまおうって腹だろーー!!」
「そーだそーだ!!」

大体予想通りの反応なので、原稿通りの返事を顔良が伝える。

「もちろん、あなた方の罪が許されるものではありませんーー!!」

そして、事前に考えておいた罪を伝える。
それを聞いた黄巾党の雰囲気が少し変わる。
田豊の言うとおり、完全に無罪というよりは、軽い罪を与えたほうが現実的で受け入れやすいのかもしれない。
特に税が重くなっても4~5割というところは一様に驚いていた。

「そんなに軽いのか?」

というように。

「そのうえ、袁紹様の領土に来たら、天の御使い様が皆様に農業の指導をしてくださいまーーす!!」

いよいよ一刀の出番である。
顔良のように3万人に伝えられるほどの声量はないが、数千人には伝えられるつもりの大きな声で演説を始める。
この時代、将軍の仕事の一つは戦場で大勢に指示をだすことだから、声の大きさも重要なことで、顔良もその例に漏れず、いざというときは大きな声を出すことができる。
でも、そんな訓練をしていない一刀は自分の大声を出すのが精一杯なのだ。

「ん゛ん゛ーー……俺が天の御使いと言われている者です。
俺は農業には詳しいので、袁紹様の領地を豊かにしてきました。
俺が来る前は民が食うのがやっとでしたが、今では大量の麦が取れるようになって、飢えることは全然ありません。
備蓄も10年以上あります。
そのうえ、麦から酒も造れるようになりました。
今では袁紹様の領民全員が数日に一回くらいなら酒を呑めるようになりました。
それでも、潤沢に麦が余ります。
みなさん、何進の治めていた土地を、豊かな土地に変えましょう!
俺と一緒に豊かな暮らしを目指しましょう!!」

黄巾党全員がしーんと聞いている。
今度は彼等同士で話をすることもなく、ただ黙って様子を伺っているようだ。
と、一人の大柄の人間がのしのしと歩いて近づいてくる。
雰囲気から、彼がこの集団を率いているものなのだろうか?

「が、顔良さん、来ちゃいましたよ」
「か、一刀さんのところに行くんですからね。
相手してくださいね」

男はまっすぐと一刀の許に歩み寄ってくる。
熊手(ピッチフォーク)をもっているので、相手が一人とはいえ、顔良でも素手ではそれほど簡単には勝てないだろう。
男は、一刀の持っている麦を手にし、その実の付き方を確認し、一刀をぎろっと睨みつける。
それから一刀の持っているビールを受け取り、ぐいっと呑む。
睨まれている一刀は命が縮む心持ちだ。
そして……

「天の御使い様!ご指導よろしくおねがいしますだ!」

一刀の前にガバッと土下座をする。
それを見た後方の群集も、全員が土下座をして、顔良と一刀に投降の意思を伝える。
交渉がうまくいった瞬間だった。

「一緒に頑張りましょう!」

一刀も嬉しさのあまり男の許に駆け寄り、思わず抱きしめる。


 一刀の作戦はうまくいった。

「斗詩さーん、生きてますよう」
「ええ、一刀さん、無事終わりました」

二人で涙を流して我が身の無事を喜んでいるのだ。

 皇甫嵩も、

「うむ、これなら私がいなくても問題なかろう。
私は他の土地の平定にあたる」
「少し位でしたらまた面倒を見てもよろしいですわよ。オーッホッホッホ」
「それでは、我が身に危険が及んだときは世話になろうか」

といって、袁紹の許を去っていった。
もっと早めに党錮の禁を解いて、反乱の鎮圧を行っていれば地方の小規模な乱で済んだものを、と思いながら。


袁紹から皇甫嵩軍へのお土産は英美皇素錠。
土産といえば聞こえがよいが、在庫処分という話もある。
まあ、もらったほうはかなり喜んでいたので、万事OKだ。

 さて、他の黄巾党の暴徒も、その話が伝わったようで、そして実際に酷い仕打ちを受けていないという話を聞いて、同じように袁紹の許に次々と投降していった。
これで、冀州の黄巾党は全て鎮圧できると思われた。



[13597] 鉅鹿
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/10 21:43
鉅鹿

 鉅鹿。
黄巾の乱が起こった地で、黄巾党の本拠地となっている。
史実ではここは張角、張宝らが守っていて、張角が病死、張宝があとを継いだとなっているようだが、張角、張宝らは恐らくここにはいない。
それでも、黄巾の乱発祥の地で、数え役萬☆姉妹の熱狂的なファンがいるのか、この街だけは他が全て袁紹に下ったにも関わらず、徹底抗戦を続けている。
徹底抗戦と言っても、実際に戦が起こっているわけではない。
ひたすら篭城をとって、顔良や一刀の説得を無視している。

「俺たちが仕えるのは天和様、地和様、人和様だけだ!」
「そうだ、そうだー!袁紹なんか糞食らえ!!」
「不細工の癖に顔良なんて笑わせるなぁ!!」


鉅鹿が投降しないということで、今後の対応を決めるため、軍議が開かれる。

「華麗に殺っちゃいましょう!」

と言ったのは袁紹でなく、顔良。
野次がよっぽど気に触ったらしい。
鉅鹿から戻る道中、常にぴりぴりしていたくらいだから。

「あの……斗詩さん?」
「ん゛ぁ?」

道中、顔良をなだめようとした一刀も、不良学生のような表情の顔良を前に、手も足もでなかったのである。
だが、

「さすがにもう少し待ってみたほうがいいでしょう」
「そうでありんす。
まだ説得は始まったばかりでありんす」

と、田豊、逢紀に諭されてしまう。
あの、田豊、逢紀が意見を同じにして別の人の説得にあたっている!
一刀なしにはありえない状況だ。

「わかった。でも、明日は文ちゃん行って!
もうあの悪口は耐えられない」
「え~?そんな大役できないぜ」
「大丈夫。原稿を読むだけだから」
「う~ん……」

こうして、鉅鹿に向かうことになった文醜と一刀。
その結果は……

「華麗に殺っちまおうぜ!」

顔良と一緒だった。
文醜も、

「名前のとおり、ぶっ細工でー!」
「読み方もへたくそだー。本当に文醜だなー!」

と、散々コケにされてムカムカしながら戻ってきたのだった。
道中、一刀が

「まあまあ」

となだめてはいたが、その程度では文醜の怒りは鎮まらない。
で、いよいよ突撃しかないかという雰囲気になったときに、荀諶が口を開く。

「私が行くわ」
「え?柳花が?」

一様に全員驚いているが、質問をしたのは田豊。

「そうよ」
「説得に行くの?」
「それは違うわ。工作をしにいくの」
「工作?」
「ええ。黄巾党員の振りをして内部に潜入して兵糧をなくしていくの。
兵糧がなくなったら、士気も下がっていくでしょう」
「そんな面倒なことしなくったって、突撃しちまえばいいじゃんか!」

文醜の怒りの反論だ。

「確かに、そうかもしれない。
でも、民を殺すことなく麗羽様の名前だけで平定できたという実績は、今後の治世に大いに役立つはず。
あと残っているのは鉅鹿だけ。
だから、ここさえうまく出来たらそういう実績ができる。
他は平定しているから少しくらい時間をかけても大丈夫」
「でも、危険じゃない?一人で出来るの?他の人に任せたら?」
「兵士は30人ほど借りる。
兵士だけだと内部で指示ができないから、誰か判断できる人間が必要。
私は一番地味だから、こういう仕事には適任でしょう」
「まあ、そういうなら……」
「全く、柳花はんは地味でありんすからなぁ」

逢紀が口を挟んでくる。

「うるさいわよ!」
「しっかり戻ってくるのでありんすえ?
柳花はんの貧相な胸を見られないのは面白くないでありんすから」
「……私こそ、あんたのそのごてごて鬘をもう一度見てからでないと死ねないわよ!」

言葉は悪いが、結構仲のよくなっている軍師たちである。

「俺からも頼む。
元はといえば俺の考えだし、俺たちが説得できなかったからこういう事態になってしまったわけだし」

部屋の隅のほうから一刀もお願いする。

「べ、べつに糞野郎のために働くわけじゃないんだから!
麗羽様のために働くんだから。
そこのところ、誤解しないでよね!」
「うん、わかってる。
でも、やっぱり心配だから」
「うぅぅうるさいわよ!
作戦の詳細を詰めるわよ!
外からもいろいろ支援してもらわなくてはならないことがあるし」
「わかったわ。
それで、作戦の内容を聞かせてくれるかしら?」

それから荀諶の主導で作戦の検討が進められる。
主な作戦は火矢。
荀諶の手引きで食料庫の場所を外部に指示し、それを外部から火矢で射るという方法。
水浸しにするなど、明らかに内部のものによる犯行だとばれると、荀諶等が疑われるから、内部から兵糧をなくすことはできない。
これを食料庫に放って食料減を狙う。
荀諶から外部への連絡方法も決め、いよいよ作戦が決行されることとなった。

 荀諶はぼろぼろの服に着替え、同じくぼろぼろの服をまとった兵士達と共に鉅鹿に向かう。

「気をつけてね」
「無事戻ってくるでありんす」
「ええ、大丈夫よ」

「本当に無理すんなよ」
「うるさいわよ!糞野郎!!」

最後の最後まで嫌われる一刀である。



あとがき
篭城したのは広宗というところのようですが。



[13597] 説得
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/11 21:25
説得

 荀諶は無事鉅鹿に受け入れられた。
だが、それには関係なく顔良、文醜、一刀等は説得工作を続ける。
荀諶の作戦があるというようなことを気取られないように、外の様子は今まで通りとする必要があるから。
顔良も文醜も毎日怒り狂っているが、荀諶が中で工作しているということで、どうにか怒りを抑えている。
でも、毎日の顔良・文醜と黄巾党のやりとりは、次第に説得を外れ、子供の喧嘩化してきている。
このまま、黄巾党が軟化して投降してくれればいいのだが。

ある日の文醜と黄巾党のやり取りの様子。

「おい、てめーら!とっとと投降しやがれーー!」
「やなこったー!てめーみてーな、ぶっさいくな将軍に投降したら、天和様に申し訳ねえ!」
「へっ!天和様だかなんだかしれねーけど、あたいのほうがよっぽど美人だぜ!」
「つるぺたの癖によくゆーぜー!」
「なんだとーー!!」
「へっへっへーー」

「猪々子さん!そんなに怒り狂ってどうするんですか!」
「だってー、一刀。あいつらがぁ……」
「子供の喧嘩じゃないんだから、もっと理性的にやってくださいよ!」
「つい、かーっとなっちまうんだよなぁ」

と、日々の説得(?)も今のところ効を奏さない。


 そうこうしているうちに、荀諶の活躍で内部の様子が分かってきたので、作戦通り食料の焼き討ちを行う。

「てめーら、きたねーぞー。食料を焼き討ちするなんて!!」
「へっへっへー。悔しかったらとっとと投降するこったー!」
「誰がてめーなんかに!!」

その後も食料の焼き討ちは続いた。

「荀諶さん、大丈夫でしょうか?」

一刀が田豊や沮授に尋ねる。

「まあ、今のところ連絡があるから、大丈夫だとは思うけど……」
「本当に行かせてよかったんでしょうか?」
「今更それは言ってはだめよ。
柳花も覚悟して行ったのだから」
「そうですよね、感謝しなくてはならないですよね」

黄巾党が顔良・文醜と口げんかする様子も、次第に元気がなくなってきた。
明らかに食糧不足が効いている。

「このままじゃ荀諶さん餓死しちゃいますよ!
もう突撃しましょう!!」

一刀が必死に軍師達を説得しようとするが、

「もう少し待ちましょう。
突撃してもほとんど反撃はないでしょうから、あっさり鎮圧できるとは思うけど…」
「だったら、すぐにでも!」
「今、突撃してしまったら柳花の意思が道半ばで挫折してしまう。
本当に駄目になったら突撃するけど、敵が自ら投降する意思を示せるうちは待つべきね」

という田豊や、その他軍師達の意見で突撃は見合わされてしまう。
でも、もう一刀はいてもたってもいられない。
翌日、一人、別の作戦を考える。

鉅鹿のそばの街に出向き、その趣味のある人々を集める。
彼等は、一刀に率いられてぞろぞろと鉅鹿向かって歩いていく。

「天の御使い様のお願いだ。訳ねえや!」
「んだんだ。暮らしも少しづつ楽になってるけぇ」

その数、およそ1万人。
一日のアルバイトを、無償でお願いしている。
そして、鉅鹿の街の外に彼等を並べ、一斉に大声を出してもらう。

「「「ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!」」」
「「「てんほーちゃーーーーん!!」」」
「「「ちーほーちゃーーーーん!!」」」
「「「れんほーちゃーーーーん!!」」」
「「「一緒に公演に行こうーー!!」」」
「「「てんほーちゃんが待っているーーー!!」」」
「「「ちーほーちゃんも待っているーーー!!」」」
「「「れんほーちゃんのかわいい笑顔ーーー!!」」」
「「「他の街の公演に一緒に行こうーー!!」」」
「「「ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!」」」

そう、一刀が連れてきたのは数え役萬☆姉妹のファン達。
鉅鹿の中にいるのは熱狂的なファンだろうから、ファン心理を突いて投降を促そうとしたのだ。
街は静かだ。
物音一つしない。
だが、そのうち、ギーッと音がしたかとおもうと、城門がゆっくり開く。
そして、空腹で力ない人々がよろよろと城門から出てきた。
数え役萬☆姉妹ファン同士、心が通い合ったようだ。
今まで袁紹を拒否していた人々も、とうとう投降を決意したのだった。

「みなさん、ありがとう。ありがとう!!」

一刀は投降した人々、投降を促した人々に心からの謝意を伝え、そして街に入っていく。

投降した人々は空腹で動けないので、袁紹軍の兵士が準備してあった食事を与える。
そして、満腹になると、その場でグーグーと眠ってしまう。

さて、街に入った一刀、顔良、文醜、他数名の兵士達は必死に荀諶を探す。

「荀諶さ~ん、荀諶さ~ん!!」

端の家から一軒づつ家の中を覗いては、荀諶らしい人がいるかどうかを確認する。
小さくない街である。
もう、街の治安はあってないようなものだから、誰の家とかいう概念も希薄で、そもそも後から入っていった荀諶がどこにいるかは全く分からない。
それでも、片っ端から調べていって、1時間も探し、ようやく荀諶を見つけることができた一刀。

「荀諶さん、荀諶さん!!」

荀諶は力なく床に寝転がっていた。
一刀は荀諶を抱き上げ、声をかける。
荀諶は、目を虚ろにあけ、一刀をみる。
そして、

「おそいわよ、くそやろう」

と言って、気を失ってしまう。
気を失う前に、少し微笑んだような気もする。

「うん、うん、ごめん、荀諶さん!」

一刀は荀諶を抱き上げる。
荀諶は食料不足で羽のように軽くなっている。

「ごめん、本当にごめん。
俺の作戦のためにこんなになるまで頑張ってくれて……」

一刀は、荀諶を抱いて走りながら、恐らくは聞こえていないだろう荀諶に必死で謝罪する。
そして、野営地に荀諶を運び入れる。
あとは、医者が面倒を見てくれるだろう。


「荀諶さん、大丈夫かなぁ」
「脈はしっかりしているから大丈夫らしいわ。
そのうち元気になるでしょう」

状況を聞いてきた田豊が報告してくれる。

「ところで、何であんな作戦を思いついたの?
てんほーとか、ちーほーとかって何?」
「ああ、あれ?
まず、ごめん。勝手に一人で作戦を実行してしまって」
「それは、いいわ。一刀も説得する役だったのだから、その一環だと思えばいいでしょう。
特に軍議に違反しているとも思えないわ」
「ありがとう。それで、天和、地和、人和なんだけど、張三姉妹っていう歌い手なんだ」
「歌い手?」
「そう、数え役萬☆姉妹っていう名前で全国を公演して回っている」
「ふーん」
「張角、張宝、張梁っていうのが彼女たちの本名」
「え?!それって……」
「そう、黄巾党の首謀者とされている人々。
だけど、実際は乱をおこしてしまった人々に首謀者に祭り上げられてしまったという感じだと思う。
で、鉅鹿にいたのは彼女たちの熱狂的な愛好者達。
だから、同じ愛好者たちの言葉に耳を貸すだろうと思ったんだ」
「そう。
……どうしてそんなことを知っているの?」
「うーん……隠しても仕方ないか。
俺は、天の御使いらしいんだ」
「そういうことになっているわね」
「で、実際天の御使いとしての知識があって、それが時々役にたつんだ。
今回の知識もその一つ」
「そう……なの。
それじゃあ、張三姉妹は今後どうなるの?」
「結局捕まらないと思う。
曹操さんのところにでも転がり込むんじゃないかな。
それに、元々政治的な意図はないから放っておいて平気だと思う」
「他のことも知っているの?」
「うーーーん……その時になってみないと、俺の知識が役に立つかどうかわからないから、今はいえない。
俺の知っている知識も、実は一通りじゃなくて一つの場面に対していくつかの可能性があるし、それにその全てが実際に起きていることと異なることも多い。
大体、麗羽様のところの知識って少ないんだ。
唯一確からしい知識は、曹操軍に敗れて斗詩さん、猪々子さんを連れて放浪するってことなんだけど、そうなるとこまるから……」
「そうならないように協力して麗羽様を盛りたてましょう、ということね?」
「そういうこと。これからもよろしく」
「こちらこそ!」

こうして、冀州・并州の黄巾党は全て鎮圧することに成功したと同時に、予備役兵数十万人の確保に成功したのだった。
ただ、予備役兵は張三姉妹が敵にいるときは役立たないだろうけど。


 それから数ヶ月の後、黄巾の乱は全て鎮められたとの報告があった。
張角、張宝、張梁は曹操が討ち取ったとの報告も併せて為されていた。



[13597] 幽州
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/14 22:38
幽州

 さて、袁紹軍が黄巾党を説得だけで服従させていた頃、驚くべきことに同じような方法で黄巾党を服従させていた州が他にもあった。
しかも、冀州のすぐ隣の幽州。
袁紹軍が冀州、并州を鎮めている間に、幽州は公孫讃が鎮圧に乗り出していたのだ。
冀州が最も黄巾党の活動が活発だったので、説得工作だけでも冀州の鎮圧には時間を要し、そのため幽州の鎮圧に公孫讃が名乗りを上げた。
袁紹もその行動は認めていて、冀州、并州が袁紹、幽州が公孫讃という分担が為されていた。
ここ幽州で活躍していたのは劉備。
顔良や一刀と同じように、一人黄巾党の暴徒の前に立って、説得を試みるのだ。

「みんなーーー!!
なかよくしようーーーーー!!!」

普通の人間がこんなことを言っても効果は期待できないが、劉備はちょっと人間の格が違う。
もう、常人では考えられないほどのおおらかさ、彼女と一緒にいたら多少のことはどうでもよいかと思わせる器の大きさ、なんとなく人を惹きつける魅力、そういったものを備えた彼女が説得をすると、暴徒となっていた黄巾党の人々も、なんとなく

「そうだなぁ」

と思ってしまって、闘争心がそがれてしまう。
その結果、次々に投降して行く黄巾党の暴徒たち。
同時に、劉備の評判は民衆の間でどんどん高まっていく。
こうして、幽州もほとんど戦闘らしい行為なしに公孫讃軍により平定されてしまったのだ。

「いやー、本当に桃香のおかげだよ。
よくやってくれた」

今まで劉備を疫病神としか見ていなかった公孫讃であるが、こうも活躍されるとやっぱりすごいやつだったんだ、と認識を変えざるを得ない。
のほほーんとしているようだが、やるときはやる桃香なんだ、だから部下たちも律儀に付き従っているんだなぁと認識を新たにする。

「うん!これで幽州は白蓮ちゃんのものだね!」

劉備は、当然だね!というのりでそう公孫讃に語りかけるのだが、現実はそれほど甘くは無い。

「いや、それは……だな」
「あれ?違うの?」
「何進様の治めていた土地は袁紹様が治めることになったのだ」
「えーー?!だめだよー。
折角白蓮ちゃんががんばって乱を収めたんだから白蓮ちゃんが治めなくっちゃ。
それに幽州の人はみんな白蓮ちゃんのことを慕っているんだから白蓮ちゃんが治めた方がきっとうまくいくよ。
だから、幽州は白蓮ちゃんが治めたいっていったら袁紹ちゃんもきっと分かってくれるよ。
袁紹ちゃん、優しいから!」

劉備にそういわれると、公孫讃もついそんな気がしてきてしまう。

「そうだな。頼むだけ頼んでみるか」
「そうだよ!そうするといいよ!」
「それじゃ、桃香も一緒に袁紹様のところに行ってくれるか?
桃香の頼みなら袁紹様も聞いてくださるような気がする」
「いいよ!一緒に行こう!」


こうして、公孫讃と劉備は袁紹の元に出向くことになる。
今回は参謀と言うことで劉備のグループからは諸葛亮一人が同行している。
関羽と張飛はお留守番。
お願いするだけだから、お目付け役の関羽がいなくても大丈夫という判断だろう。
関羽は最後まで同行することを希望していたが、

「大丈夫だよ、愛紗ちゃん、今回は政治の話だから。
盧植先生のところで政治は一生懸命お勉強したからうまくいくよ」
「確かにそうかもしれませんが……」
「武を使うことはないし、護衛なら白蓮ちゃんのところの兵隊がやってくれるから問題ないよ。
ゆっくり休んでいて!
今まで苦労かけたから、たまには休まないと。ね♪」
「ですが……」
「それとも愛紗ちゃんが袁紹ちゃんのところに行きたい理由があるの?
そうだったら行ってもいいけど。
あ!ビールでしょ!そうだよね。あれおいしかったものね。
じゃあ、護衛役に来てもらおう!」
「そ、そうではございません。
申し訳ございません、桃香様の仰るとおりにいたします。
今回はここにとどまることにいたします」
「うん、ごめんね。我侭いっちゃって」

というように劉備になだめすかされてしまって幽州にとどまることになったのだ。
劉備に行きたい理由と問われて、一刀の顔が思い浮かんだことは、劉備には秘密だ。

その一行が例によって白馬で業を目指している。

「袁紹様、黄巾の乱の鎮圧の報告に参りました」
「オーッホッホッホ。公孫讃、あなたの軍も華麗に仕事を進めたようですわね。
ずいぶん早く鎮圧が済んだようですが」
「はい、ここに控える劉備が黄巾党を説得し、それが効を奏しましたので鎮圧が速やかに進みました」
「そうですか。そんなことをしていたのですか。
何はともかく、この私の領土の乱を華麗に治めたのは賞賛に値しますわ。
何か褒美を取らせましょう。望みのものはありますか?」
「それなのですが………失礼を承知で申し上げます。
統治する場所の拡張を望みます」
「そうですか……」

袁紹はなにやら思案を始めた。

「それでは、幽州牧として、公孫讃に琢郡に加え、漁陽、代、上谷の三郡の太守を命じますわ」
「ありがとうございました!」

満足そうな公孫讃に対し、劉備は不満そうだ。

「えーー?幽州牧じゃないのぉ?」

突然割り込んでくる劉備に、袁紹は怒りを隠さない。

「またあなたですか、劉備!
いくら乱世の世とはいえ、できることとできないことがあるのですわ!」
「でもね、でもね、みんな白蓮ちゃんを信じているから投降したんだよ。
今、幽州は白蓮ちゃんを中心にまとまっているんだよ。
白蓮ちゃんじゃないと、またばらばらになっちゃうよ!
だからお願い!
白蓮ちゃんに機会を与えて!」
「これ以上の譲歩はできませんわ。
そうそう、劉備。あなたも活躍をしたそうですから、それ相応の報酬を与えなくてはなりませんわね。
安喜県の県尉を命じますわ」

冀州中山国安喜県。
冀州の片田舎である。
活躍の割りに与えられた褒賞が少ない。
鬱陶しいから、公孫讃と分けて、別の地方の役人でも任せておけ、という腹積もりだろう。

「桃香ちゃんはどうでもいいから、白蓮ちゃんにもっと褒章をあげてよ!」
「うるさいですわ!
これで会見もおしまいです!」

さすがに幽州の州牧は劉備のわがままを以ってしても得ることはできなかった。

 さて、袁紹との会見を終えた公孫讃一行であるが、早速結果について話を始める。

「桃香、ありがとう。
おかげで、四郡の太守になることができた。
本当に桃香のおかげだよ」
「ううん、そんなことないよ!
本当は幽州を治めてもらいたかったんだけど……」
「それは、いくらなんでもできない相談だろう。
袁紹様の仰る通りだ。
でも、桃香の方こそ、随分褒章が少なくて……。
私のところに来ないか?
いくらなんでももう少しましな地位が約束できるが」
「そうですよ、桃香様。
あんな袁紹さんの言うことを全部まともに聞く必要はありません。
桃香様は黄巾の乱を鎮めるのに活躍したのですから、もっと褒章があって然るべきでしゅ!」

諸葛亮も公孫讃の意見に賛同している。

「うーん、朱里ちゃんがそういうなら。
でも、あの袁紹ちゃん、うんって言ってくれるかなぁ」
「それでは、私と朱里殿で掛け合ってみよう。
桃香は待っていてくれ。
また、波風起こすと困るから」
「うん、白蓮ちゃんがそういうなら、そうする」

というわけで、再び袁紹に面会に行った公孫讃と諸葛亮。

「え?劉備の扱いについて、ですの?」
「はい、袁紹様。
劉備は私の郡のどこかの役人につけたいと思います。
もちろん、報酬は郡の中で工面いたします」

それならば劉備に支払うはずの給金は不要となる。
公孫讃と劉備がくっついているのがうざったいが、悪い話でもない。

「いいでしょう。
その代わり条件があります」
「なんでしょうか?」
「劉備をこの業に二度と入れないことですわ」
「はい!それでしたら間違いなく約束いたします!」

公孫讃にとってもそれほど無理難題でもないので、あっさりそれを受け入れる。

こうして、公孫讃は幽州の四郡の太守となり、劉備は琢郡范陽県の県令に就任することとなった。



あとがき
たしかに流石に州牧を任せるというのは無理すぎるので、郡を増やすことにしました。
この程度なら、大丈夫ではないでしょうか?
ただ、こうなると公孫讃は袁紹の部下ということになってしまうので、今度は公孫讃を撃退するときに無理が生じてしまうような気が大いにするのですが、まあそのときに考えることにします。
また、酷い無理があったらご指摘ください。



[13597] 柳花 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/13 23:13
柳花

 数日間の絶食で骨と皮だけになっていた荀諶であるが、栄養も少しづつ摂取し、次第に元の体形に戻っていった。
体力も普通に歩く程度は問題ない。
胸が大きくなっていないが、これは…………元々そういう体形でした。

バキッ、ボゴッ、ドガッ、ズバッ、ドスドスッ

前言撤回。体力も充分だ……イテテ。

そんな荀諶が城内をうろうろしている。
何かを探しているようだ。
彼女の表情が明るくなった……ようにも見える。
どうやら、探し物が見つかったようだ。

「く、糞野郎!」
「はいはい、なんでしょうか?荀諶さん」
「べ、別にあなたが投降の説得に成功したからって、感謝するわけじゃないんだからね!
あぁぁあなたは、当然の仕事をしただけなんだからね!」
「はいはい、分かってます」
「そそそれから、わわ私を助けに来てくれたのも、当然の行為なんだからね!
そそれを感謝することはないんだからね!」
「はいはい、それも分かってます」
「ででででも、糞野郎にしては上出来の仕事ね。
あぁぁあなたがどうしてもというんだったら、私のことを柳花と呼んでもいいわよ。
いいこと?本当にどうしても呼びたいのなら、そう呼んでもいいのよ!」
「いえ、荀諶さんでいいです」

それを聞いた荀諶の表情に怒り成分が満ちてくる。

「あんた、何聞いているのよ!
柳花って呼べって言っているのよ!
分からないの?馬鹿なの?死ぬの?」

あー、ツンは扱いづらいと思う一刀。

「はいはい、わかりました。
…………柳花」

とはいうものの、実際真名で呼びかけるとちょっと気恥ずかしい。
ちょっと顔が赤くなったかもしれない一刀である。
一方で呼ばれたほうは……

「ききき気安く人の真名を呼ぶんじゃないわよ!」

あー、やっぱり扱いづらいと思う一刀。

「じゃあ、どう呼べばいいんだよ?」
「そ、そうね……柳花さんなら許してあげるわ」
「はいはい、柳花さん。
これで、よろしいですか?柳花さん」
「そんなに何回も呼ぶんじゃないわよ!
恥ずかしいじゃない……」
「ごめん、柳花さん……」
「………」
「………」

そして、何故か気まずい雰囲気が流れる。
荀諶は、

「そ、それからあんたのこと一刀と呼んであげるから。
肥料の件も許してあげるんだから。
でも、別にあんたのこと認めたわけじゃないんだからね!」
「はいはい、分かりました」

と、そこまで叫んで去っていってしまった。
それにしても、ああは言っていても少しは俺のことを認めてくれたんだよな!と、にんまりする一刀のところに、沮授が静かに近づいてくる。

「浮気は許しません」

そして、すれ違いざま、それだけ言って、また静かに歩き去っていってしまった。
残されたのは、南極で氷付けになってしまったような一刀なのであった。

ということがあったにも関わらず、夜は今までと何も変わらないので、より沮授が恐ろしいと思う一刀なのである。

 それから、荀諶がなんとなく思わせぶりな表情で一刀を遠くから眺めることがあるのだが、それを見るたびに一刀はぞーっとしてしまう。



 さて、黄巾の乱の成果が認められ、一刀の環境に改善が為された。
なんと久しぶりに大浴場の使用許可がでたのだ。
庭の五右衛門風呂で我慢すること幾星霜(というほど年月はたっていないが)。
とうとう大浴場復活の日が来たのだ!
一刀は大喜びで風呂に入る。
このゆったり感がたまらない。

はぁ~~~~ っとくつろいでいる一刀である。

十分に満喫したのでそろそろあがろうとすると、丁度誰かが入ってくるのにぶつかってしまう。
男湯に入る人は誰もいないはずなのだが、と思って見てみれば、裸の荀諶。

「え?」
「えっ!」

双方相手を確認して驚きの声をあげる。

「なななななななんで一刀がいるのよ!」
「なんでって、今日から大浴場に入ってよくなったから……」
「あ……」

どうやら忘れていたらしい。

「ごめん、すぐ出るから」

と、そそくさと風呂からあがろうとするの一刀なのだが……

「待ちなさいよ……」

荀諶が一刀を引き止める。

「え?な、なんで?」
「あぁぁあんた、私の裸を見たでしょ!」
「だからすぐ出るって」
「この責任をどう取るのよ?」
「責任……って言われても。
とにかくすぐでるから」
「待ちなさいってば。
ここここの私の体を見て何にも感じないって言うの?
そうなの?そうなのね?
ああそう、わかったわ。胸がないから何にも感じないってそういいたいのね?」
「いや、その、決してそんなことは……」
「じゃあどう思うのよ?」
「え?……あの……その………」

一刀は改めて荀諶の体を眺めてみる。
荀諶も一刀に見られているのにどこも隠さず自分の身を晒している。
二人ともかなりはずかしそうだ。

「確かに胸は小さいけど……
肌は肌理細やかで綺麗だし、女らしい体つきが可愛いし、
その……可愛い。綺麗だ……」
「ほんとにそう思っているの?」
「も、もちろん」
「どうせ一刀のことだから口だけなんでしょ」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、行動で示しなさいよ」
「行動?」
「抱けるものなら抱いてみなさいよ……」

一刀は健康な男である。
既に暴発寸前である。
こう言われると、もう沮授ストッパーも効かない。
一刀は風呂で荀諶を抱いてしまう。
風呂の入り口には男札が掲げられている。
二人の邪魔をする者は誰もいない。

そして数十分後……

「また気持ちよくしてくれなきゃ嫌なんだから……」

荀諶のデレな言葉であった。


 一刀が部屋に戻ったとき、田豊も沮授も既に閨で軽い寝息を立てて寝ていた。
沮授の姿を見て(というよりやってしまって昂奮が収まった時点で)大いに後悔したのだが、もうあとの祭りである。
とりあえず今日はばれずに済んだと多少安堵するものの、この二人の間で寝るのは針の筵で寝るより辛い状況である。
一刀は、自分はこんなに節操がない人間だったろうか?と疑問に思う。
日本にいるときはこんなにがっつかなかったのに。
この世界に放り込まれたとき、ゲームのR18成分が精神に追加されてしまってこんな風になってしまったんだろうか、と思うものの、そんなことを沮授や田豊に言っても意味がなさそうなので、やはり胃が痛むのである。


それにしても……

荀諶はやっぱり女の子なんだ。
胸はなくてもやっぱり柔らかい。
何か、取り付かれたように胸を揉んでいて、荀諶もそれに快感を得ていたようだったと、反省しながらも男の一刀である。



[13597] 秘匿 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:57
秘匿

 翌朝、一刀が針の筵で起きると、既に田豊と沮授は起きていて、一刀をじっと眺めていた。
朝から心臓発作で死んでしまいそうになる一刀。

「昨日は随分長湯だったのね」
「ずっと待っていたのですよ」

と、常識的な質問を発する二人である。
ここで、素直に謝ればいいものを、まるでゲームの意思がそれを拒絶するかのように、一刀はそれに対して嘘で答える。

「う、うん……久しぶりの大浴場だったんでゆったりしてしまって」

昨晩一回だけの過ちだ、黙っていれば分からない…………といいなぁ。
と考えながら。

「……そう」
「よかったですね」

と、妙にあっさり答える田豊と沮授。

その日の朝はそれで終わった。

 だが、ゲームの意思はそれほど一刀に優しくない。
その晩、一刀が風呂に入っていると、またもや荀諶がやってくる。

「一刀!む、胸が疼いて仕方ないんだから。
一刀の所為なんだから。
責任もって揉まなくちゃいけないんだから!」

と、火照った表情で一刀に迫ってくる。
当然、服は脱ぎ放っていて、一糸まとわぬ姿となっている。

「そ、そんなこと言われても……」
「だめなんだから。
自分で揉んでも鎮まらないんだから。
一刀じゃなきゃいけないんだから……」

と、裸で抱きつかれると、もう一刀の理性は吹き飛んでしまう。
その晩も結局やってしまったのである。
昨晩同様部屋に戻り、昨晩同様既に寝ている田豊と沮授の間に眠る。


 そして、また翌朝。

「昨日も随分長湯だったわね」
「ずっと待っていたのですよ」
「う、うん。ちょっと風呂で寝てしまって……」

一度嘘をつくと、真実に戻ることが難しくなる。
嘘に嘘を重ねてその場を取り繕うとしてしまう一刀である。

 その晩も……結局やってしまう。


 そういうことが3晩続いた。

 その晩も……

「一刀、もっとしっかり揉んで!
疼きが鎮まらないの!
だめなの!一刀しか鎮められないの!」

また、やっている。
と、そこに誰かが入ってくる足音がする。

「一刀!黙っていればいい気になって、一体何回柳花とすれば気が済むのよ!」
「浮気は許しません、と言っておいたでしょう?」
「柳花の気持ちも分からないでもないから今まで黙っていたけど、もう限界」
「これ以上柳花さんとするなら離縁です」

田豊と沮授だった。
そう、この二人には最初からばれていたのだ。
とりわけ勘の鋭い沮授にばれないはずがないのだった。

「そ、それは分かるけど、聞いてくれ、柳花さんが胸が疼いて仕方ないっていうから、俺も仕方なく……」
「ご、ごめんなさい、菊香、清泉。
でも、胸が疼いてしかたないの。
一刀に揉んでもらわないと苦しいの。
だから、疼きがあるときだけでいいから、お願い!!」
「じゃあ、私たちに見られながらでもいいわけね?」
「それでもいいから!」

翌日から、一刀の部屋は荀諶マッサージ部屋に変わってしまった。
一刀が荀諶の胸を田豊と沮授に睨まれながら揉み続ける。
そして、荀諶が満足したらそれでおしまい。
荀諶は満足して部屋に戻っていく。
田豊と沮授は呆れてしまって、やはり部屋に戻っていく。
残されたのは下半身が爆発しそうな一刀。
一人寂しく自慰行為で収めるのである。


そうこうしているうちに、荀諶の胸は

洗濯板+乳首 → 貧乳 → 微乳

と変化を繰り返していき、とうとう標準的な乳といってよいサイズに膨らんできた。
それと同時に荀諶の胸の疼きも嘘のように収まってしまった。

「一刀、今までよくやってくれたわね。
一応感謝しておいてあげるんだから。
いいこと?この私が感謝するんだからね。
ありがたく聞いておきなさいよ!」

といって、一刀の元から去っていった。
荀諶は去ってはいったが、だからといって田豊、沮授が戻ってくるという単純なものでもなかった。

「少し一人で反省しなさい!」

と、田豊に冷たく突き放されてしまって、一人寂しく部屋で寝るのである。
荀諶に文句の一つもつけたいところだが、逆襲にあいそうなのでじっと自分の胸に苦しみを仕舞いこむ一刀であった。


 一刀は日々の農業指導に出向いている。
この頃には一人で馬に乗れるようになっていたので、麹義やその他農協職員数名と畑を見回っている。

「今度は何があったのだ?」
「いや、その……柳花さんと少しあったら………………菊香と清泉が、いろいろ……」
「そうか。それで口も利いてもらえず辛い日々をすごしているというわけか?」
「まあ、そんなところです」
「それにしても、お前達夫婦は見ていて飽きんなぁ!
まあ、浮気も程ほどにな。ガハハハハ」

笑いものになっている夫婦……というよりは、呆れられている一刀である。

「……はい、肝に命じておきます」

今日も平和な冀州であった。



[13597] 麹菌
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/24 23:58
麹菌

 一刀は涙していた。
とうとうやった!と。

一刀が手にしているものは味噌。
たかが味噌というなかれ。
麹菌の採取から始め、大豆を醗酵させる実験を繰り返すこと数限りなし。
もったいない神様に怒られるくらい何度も大豆を捨てた。
授業でほんの数分聞いただけの知識で味噌を作ろうと思ったのが誤りだったのかもしれないが、やはり開拓者魂があるのか、作りたいと思う一刀は、失敗にもめげず、どうにかここに至ったのだった。
他の人が見れば、新しい調味料が出来た、で終わりだろう。
ビールのときのようなインパクトもないにちがいない。
だから、正に手前味噌なのだが、何もない状態からここまで作ったというプロセスに感動している一刀である。

 大豆の生産量も半端でない。
豆には根粒菌がついて、空中の窒素を固定するから、窒素分を補給するのに畑にはある程度の間隔で大豆も植えるよう指導している。
このため、意図せず大量の大豆が収穫できるのだ。
だから、少しの実験の失敗くらいもったいない神様も許してくれるだろう。
……大豆はいいけど、塩も一緒に捨てたので、やっぱりもったいない神様が怒るかもしれない。


 さて、味噌を手にした一刀。

 早速味噌汁を作ろう!
出汁は……乾燥椎茸があった。
あれを使おう。
具は……茄子がある。
とりあえずは、茄子だけで。
味噌汁くらいなら、自分でも出来る。
大した料理ではないから。
そして、久し振りに食した味噌汁は……あぁー、日本人だったんだ!
おいしいおいしい。

「お?一刀、また何か作ったか?」

麹義がやってきた。

「はい、俺のいた世界の汁物を作ってみたんです。
この調味料を作るのが難しくて、なかなかできなかったんです。
食べてみますか?」
「うむ、お願いしよう」

早速、椀によそって味噌汁を渡す。
麹義の感想は……

「うむ、あっさりしてておいしいな」

……まあ、その程度だろう。
その後、色々な人にも食べてもらったんだけど、大体その程度の感想。
ただ、逢紀さんは、味噌汁をかなり気に入っていたみたいだった。
あの人、江戸時代の日本人の遺伝子と共通部分が多いのだろうか?

田豊、沮授は口もつけてくれなかった。
まあ、仕方ない。
本当は彼女たちと喜びを分かち合いたかったのだけど、そもそもそんなに喜ばないようだからまあいいや。
あ~あ、どうしたら機嫌がなおるかなぁ?

料理人からは料理の広がりができるとそこそこ評判だったので、味噌も城で作ってもらうことにした。

味噌を作ると味噌たまり醤油もできる。
ほんの少ししかとれないけど、これで醤油もゲット!
純粋に醤油を作ることもそのうち試してみよう。

醤油が手に入ったんで作ってみたいものがあったんだ。
メンマ。
ここのメンマは何とも不可思議な味で、一体何で味付けをしているのだろうかという代物。
俺が知っているメンマとは大分ことなる。
メンマというより、筍塩茹で+謎の調味料といった感じだ。
なので、よく知るメンマを作ってみようと思った次第。
個人的には取り立てて好きなものでもないけど、メンマ教信者がいたので、うまくいったら食べさせてあげたいと思っただけ。
もし、ここに来たならおいしいメンマを食べさせてあげたいから。
趙雲さんは謎の味付けのメンマをおいしいと食べているのだろうか?

何は兎も角試作。
ただの料理だから作るのは簡単。
味付けも、好みで適当。
あっというまに試作品完成。
食べてみると……おいしいおいしい。
やっぱりメンマはこうでなくちゃ。


趙雲対策といえば、蒸留酒もできている。
材料、製法から考えると、ウィスキーになるのだろうか。
今は樽で眠っている。

最初にウィスキーが出来たとき、清泉がちょっと呑んでみたんだけど、一瞬で酔っ払って眠ってしまった。
清泉は本当に酒に弱い。

部屋に連れ帰って、寝巻きに着替えさせようとしていたら、菊香がやってきて、

「あああああなた、いくら相手が妻だからと言って、眠らせて異常変態行為をするのはどうかと思うわ!」

と、大いなる誤解をして、それを解くのが少し大変だったこともあった。

……またあんな風な生活が送れるようによりを戻したい。とほほ。


ウィスキーはビールほど好評ではなかった。
度数が強すぎるし、味わいもそれほどではないので、当然だろう。
ただ、寒い地方に住む人々の冬用の酒としては重宝しそうなので、今後北方の民との交渉用にある程度は作っておくことにした。
何かの時には消毒にも使えるし。


今度は何を作ろうかなぁ。
といっても、専攻は食品でなく農学なので、それほど何でもできるわけではない。
醸造は農学に近い分野なのである程度は詳しいが。

農学も、知っていることは大体試してみたし。
試したいのは温室栽培だけど、ビニールもガラスもないのでどうにもしようがない。
水稲も、ここでは作っていないので対象外。

比較的うまくいっていないのが果樹栽培関係。
これは虫媒花なので、虫の確保が問題。
養蜂かあ。
ちょっとあれは気合をいれないと。
確か中国種は日本種より気が荒かった気がする。
虫といえば養蚕もあるけど、これは河南が主のようで、河北ではやっていない。

他にノータッチなのが林業系。
これは時間がかかるから。
恐らくここにいる間には成果がでない。
日本に戻れても、戻れなくても。
それに、森林はもっと黄河の上流に位置するから、現在の領土ではあまり意味がない。
だいたい、林業という概念がない。
木は山にいって切ってくればいいのだから。
でも、知識の伝達はやっておきたい。
こんなことがあったのだから。

「黄河?」
「ええ、麹義さん。
業の西から南を経て渤海に注ぐ水が黄色っぽく濁っている大きな河がありますよね」
「河水のことを言っているのだと思うが、濁っていないぞ」
「へ?」

そういえば、黄土高原は昔はもっと森林で覆われていて、水は今ほど濁っていなかったという研究結果があるらしいという話を思い出した。
でも、黄土高原の土を運んでいるはずだから、氾濫のときだけ濁るのだろうか?
漢の時代あたりから伐採が急に進んでいったような記憶があるけど、曖昧だ。
水が濁っていないということは、まだ植林すれば、永続的に黄土が緑で覆われるかも。
数千年後の環境破壊を防いだ先人、北郷一刀!
誉めて誉めて!
……少し虚しい。
それでも、黄土高原を支配下に置いたら、植林も考えよう。

それ以前に、木を切らなくても燃料を確保できるように、石炭でも掘ってもらおうかなぁ。
あんまり詳しくないけど、確か露天掘りの石炭鉱床があったような。
知っている人がいたら聞いてみよう。
今くらいの人口だったら、石炭燃やしてもそれほど環境汚染には繋がらないだろうから。

林業系でも、しいたけくらいはできそうだから、そのうち作ろうかな。

あとは食品の貯蔵だなぁ。
冷蔵庫はないし、冬の雪で氷室でもつくってみようかなぁ。

品種改良も面白そうだけど……。


そんなことを考えながら夫婦関係の辛さを忘れようとしている一刀であった。



[13597] 子龍
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:00
子龍

 ある日のこと、袁紹が新たに登用された人物の紹介をする。
丁度、一刀が拾われてきたときのように。

「は~い、みなさ~ん。ちゅうも~~く!」

袁紹の傍にいるのは胸の上半分が隠れていない、妙に短い丈の白い着物様の服を着ている少女。
背はそれほど高くない。
目は大きくくりっとしていてなかなか可愛い。
案外童顔。
髪は水色っぽい銀白色。
この雰囲気は……

「新しく客将に迎えた将を紹介しますわ。
趙雲さんですわ」

やっぱり。
袁紹軍にも来たんだ。

「今日から暫く厄介になる趙雲と申す。
今は定まった主を持たず、諸国を巡って客将として雇われている者。
先日までは公孫讃殿の所で世話になっており申した。
本日よりは華麗な袁紹殿のところにて微力を尽くす所存。
まだまだ至らぬ身なれどよろしくお願いいたす」

こうして、趙雲も袁紹軍に身を置くこととなった。

とはいうものの、この時期あまり戦がない。
趙雲のやることといったら、一緒に訓練に参加することくらい。
毎日訓練では流石に飽きてくる。
他の兵士は屯田で気晴らしをいるのだろうが、趙雲は毎日訓練ばかり。
しかも、袁紹軍の練習といったら、今は小規模で、グループでの活動を高める目的で為されている。
個人技が命の趙雲には居場所がない。
個人技に優れ、兵を率いることにも秀でる将も数多いが、残念ながら趙雲は個人技オンリーの武将である。
なんでそんな状態で客将を雇ったのだろうか、と疑問に思うが、華麗な袁紹殿の所で働きたい、とか言われて雇ってしまったというところだろう。
なので、2週間もすると訓練以外のことにも興味を示し始める。

「その方が天の御使い殿と呼ばれている一刀殿であるか?」

いつものように一刀が仕事に向かおうとすると、趙雲がやってきた。

「まあ、そんなふうに呼ばれています、趙雲さん」
「活躍は幽州にも聞き及んでおり申した。
その活動、私にも見せてはいただけぬであろうか?」
「ええ、別にいいですけど、特に変わったことはしていませんよ」
「それでも構わぬ。
訓練ばかりというのも味気ないゆえ」
「まあ、そうですね。
それならどうぞ」

ということで、その日は日頃の一行に加え、趙雲も畑の見回りについてくることになった。

「どうですか?訓練は」

馬上で一刀は取りとめもない話題を趙雲に振る。

「ふむ。袁紹軍は予想していたより遥かに強い」
「そうなんですか?」
「うむ。個人の力量は飛びぬけたものはないが、組織だった行動や、個々人の平均的な能力、武器の扱いが秀逸だ」
「へー、知りませんでした」
「一刀、一体我々がどれだけ訓練していると思っているのだ!」

傍で聞いていた麹義が話しに加わってくる。
今の麹義は、毎日一刀の農業指導の付き合いしかしていないので、またまた太った、やる気無いバージョンの体になっている。

「それはそうなんですけど、袁紹軍しか知らないからあれが普通と思ってました」
「他の州では常備軍を備える余裕がないから、これほど訓練をしているところはないぞ」
「そうだったんですか」
「そのとおりだ。他の州はこれほど動きに精彩がなかった。
やはり袁紹軍、華麗であるな。
しかし、噂では袁紹殿の配下は、その……仲がそれほどよろしくないという噂も聞いたのだが」
「俺がここに来たときはそうでしたねぇ」
「ということは、一刀殿が皆を取りまとめたと?」
「いや、別に何もしていないんですけど……」
「ガハハハ、よくもまあそんな嘘をしゃあしゃあとつけるものだ!」
「嘘じゃないと思うんですけど……」
「あれだけ女関係を見せ付けておいて、知らぬはないものだ」
「「女関係?」」

趙雲と一刀の声が揃う。

「何だ、知らんかったのか。
あれは、確か関羽殿であったか……」
「ど、どうしてそれを知っているんですか!!」
「どうして、とは心外な。
一刀が夜部屋を出るのを清泉が見つけて、それで全員であとをつけていったのだ。
すると一刀は関羽殿の部屋に入って行き、そして暫くすると中からそれはそれは激しく悩ましい喘ぎ声が聞こえてきたのだ。
よいかな?趙雲殿。初対面のおなごの部屋に入っていきなりその体を奪うのであるぞ。
信じられようか」
「うむ、それはちょっと男として酷すぎますな」

一刀、もう声も出ずわなわなと震えている。

「それ以来だ。我等は過去のつまらぬわだかまりを捨て、女の敵に一致団結して対抗しようとしたのは」

今、明かされる衝撃の事実!!

「ほう、それは一刀殿は隅にはおけぬ御仁でありますな。
しかし、女の敵であれば放り出せばよいものを」
「うむ、それも確かに道理ではあるのだが、一応こんな男でも愛している正室を名乗っている女性が二人もいるし、女垂らしと言っても本人は精一杯努力しているのに、結果として女垂らしになってしまっているのでそれほど憎めない男であるし、それ故時々魅かれる女子もおることだし。
それに麗羽様を説得するのにこの男がいないと何かと不便であるし。
まあ、今となっては一刀なしの袁紹軍は考えられんな。
一刀が我々を結束させているようなものだからな。
みんな一刀にひどいことを言っているが、実はみんな頼りにしているのだ。
一刀なら、何でも受け止めてくれるような気がしてな。
ついきつい言葉で日ごろの鬱憤をぶつけてしまうのだ。
本当は感謝しているのだぞ。ガハハハハ」
「素直に表現してくださいよ。
結構、きついこと言われると心が痛むんですよ!」
「まあ、そういうな。
みな、一刀をみると甘えたくなってしまうのだ。
菊香、清泉に至っては、一刀を愛しすぎていて、他の女といちゃいちゃすると目の色変えて怒りだす始末。
だから、夜這いに行くのを我慢しているのだぞ」
「そ、そうだったんですか?」
「ああ。だからあの二人の嫉妬は話半分で受け止めておけ。
だからといって他の女にちょっかいをだしてよいと言うわけではないからな。
趙雲殿もお気を付け召されよ。
いつ一刀に襲われるかわからぬから」
「そうですな、と言いたいところではあるのだが、その心配はござらぬ」
「ほう、それは何故?」
「短い間であり申したが、別の将に仕えようと思いましてな」
「それは?」
「うむ、先ほども申したとおり、袁紹軍は個人技より集団での強さを誇る軍。
残念ながら私には居場所が無いゆえ」
「なるほど、それはあるかもな……」

それを聞いていた一刀、ちょっと嫌味を込めて趙雲に反撃を始める。

「そうですか。それは残念ですね。
折角趙雲さんが来たら味見してもらおうと思って作っておいたメンマと酒をあげる機会がなくなっちゃいましたね。
ああ、残念だ」

と、趙雲を挑発する。

「何?!メンマに酒ですと?」

趙雲の目の色が変わる。

「ええ」
「それは是非頂かなくてはなりませぬな。
それを頂けるまでは一刀殿の傍を片時も離れる訳にはいきませぬな」

といいながら、馬を一刀に寄せていき、腕で一刀をしっかりと抱きしめ、顔をずいっと寄せてくる。

「わーー!あげますから、あげますから。
ちょっと離れていてください!!」

最近、女性問題があったばかりなので、田豊、沮授以外の女性との関わりを極端に恐れる一刀である。

「ふむ、それでは今宵はメンマを肴に酒を酌み交わしましょうぞ」
「趙雲殿、一刀に襲われぬように気をつけることですな、ガハハハ」
「うーむ、メンマと酒を囮にされると、ちと厳しいかもしれぬ……」

真剣に悩んでいるように見える趙雲であった。

「襲いませんから!!」

と、反論する一刀の声も、麹義や趙雲には届いていないことだろう。



[13597] 泥酔 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:00
泥酔

 その晩、約束どおり趙雲はメンマと酒をもらいに一刀の部屋を訪れている。

「して、メンマと酒はどれでありますかな?」

部屋にくるなりメンマと酒を要求する趙雲。
雰囲気もへったくれもない。

「はいはい、ここにありますよ」

一刀は苦笑しながらも壷と徳利を渡す。

「これが天の御使いのメンマと酒でありますか……」

趙雲は嬉しそうに箸でメンマを取り出す。

「ん?少し色が茶色味がかっておりますな」
「うん、俺の世界の調味料の色なんだ」
「ほう、天の調味料ですか。
それは期待が持てますな。
それでは早速」

趙雲はメンマを口に運ぶ。

「ん?こ、これは………」

趙雲は口に含んだ一辺のメンマを味わい尽くすように咀嚼している。

そのうちに趙雲の目から涙が溢れ出す。

「ちょ、趙雲さん、どうしたんですか!」
「…………これほど美味なメンマがあったとは」

そして、二口目のメンマを口に運ぶ。
何度も何度も咀嚼してメンマを味わっている。
涙を流しながらメンマを味わっている。
ここまで感動されるとは、一刀も予想外。

趙雲は感動の内に二口目のメンマを食すると、一刀に土下座をして、

「一刀殿、これからは主殿と呼ばせてくだされ。
これからは私を星と呼んでくだされ。
一生主殿に付き従う所存」

と、決意を表明する。

「……いや、そのメンマだけで一生を決めるというのも」

諌める一刀に、

「なるほど、酒も味わえと仰るのですな?」

と頓珍漢な答えをして、徳利を開け、酒(ウイスキー)をがぼがぼと飲み始める。

「あーーー!!!そんなに一度に飲んじゃだめー!!」

だが、一刀のアドバイスは遅すぎた。
趙雲の足許はふらふらしてきて、ひっくり返りそうになる。
一刀は慌てて趙雲を抱きしめてひっくり返らないように支える。
ウィスキー。
通常、蒸留後加水などして度数を調整するものだが、そんなことを知らない一刀は蒸留後のウィスキーをそのまま樽詰めしている。
度数70以上の超強力酒である。
酒というよりアルコール。
流石の趙雲もいちころであった。

「申し訳ない。主殿に支えてもらうとは臣下としてあるまじき行為。
ですが、どうにも脚に力が入らないゆえ、閨に横たえてはいただけないでしょうか?」
「うん、わかった」

一刀は趙雲を抱きかかえて、閨まで運ぶ。
案外華奢で軽い体なんだと驚いてしまう。

「水、持ってきてあげようか?」
「かたじけない。よろしくおねがいいたす」

酔っ払って顔が真っ赤になった趙雲は、どうにかそう返事をする。
一刀は慌てて水をとりにいく。

「水、持って来たよ」

と、戻ってきた一刀の見たものは……

「せ、星さん!どうして裸なんですか!!」

裸で閨で一刀を待っている趙雲であった。

「主と決めた方が男であれば、この身を差し出して主従の関係を契る予定であり申した。
そして、今日がその日。
何分始めてゆえ、主殿を喜ばすこと叶わぬかも知れぬがご容赦願いたい。
そのうち主殿を喜ばせるよう努力いたすから、快感はそれまでお待ち願えれば幸いに存ずる」
「べ、別に俺、星さんを部下にするなんて一言も言っていないですから」
「この趙雲の頼みとあってもお聞き届け叶わぬと、そう仰るのか?」
「そう。俺は別に武芸や軍略に秀でているわけじゃないから、俺の許にいても全然いいことないから。
もっと自分を生かすところに行ったほうがいいから」
「……どうあってもこの趙雲を臣下にはして頂けないと」
「そう」
「それでは仕方ない。
主殿に見捨てられた趙雲に生きる意味などない」

趙雲は傍に置いてあった龍牙を手に取り、首に刃先を押し付けようとする。
だが、酔っ払っていてどうにも手の動きが怪しく、龍牙は首をそれ、布団に突き刺さってしまう。
本心ではないとは思うが、あの手付きではいつ本当に首に刃が当たってしまうか分からない。

「うわーーー!!」
「おっと、酔っていて手の動きもままならぬ。
主殿、明朝主殿の閨に私の死骸が転がっていたら、事の顛末をご正室に説明しておいてくだされ」

といいながら、再度龍牙を首にあてようとする。

「分かった、分かった!
星さんを部下にするから!
主従の関係を結んであげるから!
だから、死ぬのは止めて!!」

趙雲は、ちらっと一刀を見るが、

「主殿は私に脅されてそう言っているだけであろう。
そんな主従関係ならなくて結構」

と言って、刀を止めようとしない。

「本当に星さんを大事に思っているから!!」

一刀はそう言って趙雲に襲い掛かり、刀を取り上げる。

「あん……主殿、優しくしてくだされ」



 翌日、趙雲は………

「うーん……頭が割れるように痛い……」

と言って一刀の閨に寝ていた。
二日酔いだろう。
あんなにウィスキーをがぶ飲みするから。

「二日酔いですね。
大丈夫ですか?」
「すまぬ、暫くこのままにしてくだされ」
「それじゃあ、部屋まで運んであげましょう」
「いや、今は動かさないでくだされ。
頭が痛くてそれどころではござらぬ」
「そうですか。それだったらそこに寝ていてもいいですけど……
頭痛が治まったら戻ってくださいね!
それから、できるだけ早く服を着てくださいね!!」
「わかり申した」

一刀は裸の趙雲を自分の閨に残して仕事に向かう。
かなり不安を覚えながら。

そして仕事から一刀が部屋に戻ってくると、案の定、田豊が怖い顔、沮授が穏やかな顔をして待っていた。
趙雲は服は着ているが、相変わらず閨に佇んでいる。

「一刀!あなたって人は、どこまで駄目なの?」
「な、なにが?」
「趙雲さん、すみませんが先ほどの話をもう一度お願いできますか?」
「はい、昨日の晩のことでありました。
私は好物のメンマと酒を下さるということで一刀殿の部屋を訪れました。
メンマはそれは美味だったのですが、その後嫌がる私に一刀殿は強い酒を無理強いするのでありました。
そして、酔って動けなくなった私を無理やり……」
「話が全然違うだろ!!」
「黙って聞いて」
「だって……」
「一刀……」
「はぁ……」

田豊、沮授の二人にはどうにも弱い一刀である。

「そして私は純潔を奪われたのであります。
でも、一刀殿はそれで終わることを知らず、一晩中私を陵辱しつくして……」
「話が全然違うだろ!!」
「おや、そうですかな?
酔っていてよく覚えていないのですが」
「趙雲がメンマがおいしいから主となれといって、主従関係は体で結ぶからといって、むりやり迫ったんじゃないか!」
「はて、まだ私は決まった主を決めようと思ったことはござらんが……」
「星、てめえ……」
「趙雲さん、ありがとうございます。
これからは私達夫婦の話し合いをしますので、席を外してもらえますか?」
「そうですな」

趙雲は夫婦喧嘩を焚き付けてさっさと退室してしまった。

「さて、一刀……」
「やっぱり、私たちが監視していないといけませんね」

こうして、再び形の上では3人一緒に寝るようになった三人ではあるのだが、一刀の冬はまだまだ続きそうだ。


 さらに翌日。

「昨日は寝ているところにご正室達がいらっしゃいましてな」
「………」
「私が裸なのをみて、雰囲気が険悪になりまして、悪いと思いながらもつい襲われたと口をついてしまいましてな」
「………」
「主殿もお分かりでございましょう。
あのご正室二人が険悪な表情で迫ってきたとき、主従の契りを結ぶために交わりましたとは言いがたいということを」
「………」
「おや、主殿、ご機嫌斜めですな」
「………」
「今日、私は何をすればよろしいかな?」
「……何もない」
「………」
「……俺の仕事は農業指導しかないし、星さんのできることは戦うことしかないし、俺の仕事で星さんができる仕事はない」
「確かにそれは道理でありますな。
この私に農業指導をしろと言われても厳しいものがありますからな。
ふむ、それでは昨日はメンマに目が眩んで主従の契りを結んでしまいもうしたが、やはり当初考えていたとおり別の国に赴くことといたしますかな」
「うん、その方がいい。
星さんもその方が活躍の場があるだろうから。
もしかしたら敵味方で再会することもあるかもしれないけど」
「それでも、主殿はこの私の主殿。
例え敵方におりましても、主殿のお命はこの趙子龍必ずやお守りいたしますぞ」
「ありがとう。俺も、星さんを守れる状況になったら、しっかりと守るから。
で、どこに向かうの?」
「陶謙殿のところでも伺いますかな」
「陶謙さん?」
「そうですが、何か?」
「意外だったから」
「ほう、それではどこへ行くとお思いだったので?」
「うーん、曹操さんあたりかと思ったんだけど」
「なるほど、曹操殿も最近急に力をつけてきておりますからな。
しかし、堅実な政というのにも接してみたいと思いましてな」
「………もしかしたら、あそこは遠からず攻め込まれるかもしれないから、気をつけてね」
「………それは、天の御使い殿としてのお考えですかな?」
「……そう…………だね」
「それは肝に命じねばなりませんな。
それでは、短い間でしたがこれにて」
「うん」
「時々メンマを頂きに参りますゆえ」
「まあ、時々なら」
「お代が足りなくなりましたら、いつでもこの体でお支払いいたしますぞ」
「二度と来んな!」

こうして趙雲は一刀夫婦(のような関係の男女)の間をかき乱して去っていった。
でも、また一緒に寝られるようになって、実は少しうれしかったりする一刀であった。
麹義の言葉もあったことだし、やっぱりこの二人が一番と思うのだった。



あとがき
最後の一刀の対応は、書いているときも何か違和感あったのですが、疲れていてそのままになってしまっていたところです。
みなさまのご指摘、ごもっともですので改良しておきました。
これでもちょっと、という気もするのですが、趙雲はここをでないとならない展開なので、とりあえずこの程度でご勘弁ください。
まだ、非難が多いようでしたら、もう一度考えますが……
もう、あまり改良できないかも。



[13597] 崩御 -董卓編-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/26 13:15
崩御

 冀州は平和な日々が過ぎていたが、都洛陽では大事件が持ち上がっていた。
皇帝霊帝の死。
そして、その継承で権力争いが勃発する。
あの何大将軍の妹で霊帝の妻、何大后が推す少帝弁と、霊帝の母董太后の推す劉協。
だが、この争いは結構あっけなく終わった。
十常侍ら宦官の主流派も推す劉協を董卓が支援、何大后、少帝弁の一派を武力で殲滅させた。
こうして、劉協が皇帝となった。
崩御した後に諡号が与えられ、献帝と呼ばれる皇帝である。
劉協はまだ皇帝に即位したばかり、これに対し宦官は海千山千の権力闘争の中に生きてきた人種で、皇帝が勝てるはずが無い。
今までは何太后のわがままを優先させ、自分たちの栄華を自由にできなかったが、とうとうその箍が外れた。
もう、何をやるのも自由だ。
こうなってしまうと劉協を推した董太后の力も全く及ばなくなってしまう。
こうして、宦官と董卓が結託して今まで以上の悪政を敷くようになった、という知らせが届いた。

董卓が洛陽に来たときには宦官は袁紹が全滅させていたはずで、それは違うだろう!と思うのだが、この袁紹が宦官を殲滅させるとは思えないから、この世界ではありそうな話ではある。
華ルートの洛陽状況なのだろう。
恋姫仕様では……宦官が牛耳っていたかな?
きっと、気の弱そうな董卓が皇帝になったばかりで右も左も分からない献帝と共にいいように操られているのだろう、非難の目を宦官から董卓に向けるために無理やり連れてこられてしまったのだろう、と一刀は思うが違うと困るのでとりあえず公には伏せておくことにする。
本当に董卓悪人かもしれないし。


こういう話を聞くと、元々宦官嫌いの袁紹である。

「宦官も董卓も殺っておしまいなさい!!」

あっさり命令が下される。
華麗でない命令を出すのは珍しい袁紹である。
珍しく真の怒りがにじみ出ている。

「はい!」

軍師達が大方針に従い、戦略の仔細を詰めていく。
今日は袁紹も同席していて、少しやりづらい。
……かなりやりづらい。
が、袁紹もそれだけ真剣だということだろう。
それにしても下々の者の苦労も理解してもらいたいものだ。

「まず、諸侯に書簡を送り、同盟して董卓や宦官を討つか確認します」

と、田豊が提案するが、

「どうしてそんなに悠長なことをするのですか!
宦官や董卓くらい我が軍のみで十分でしょう!」

と、けちをつけられてしまう。
史実では宦官を全滅させたそうだから、宦官相手だと意気込みが違うようだ。
恋姫袁紹とは、ちょっと違いそうだ。

「はい、それはそうですが」
「なら簡単です。全軍直ちに侵攻ですわ!」

やはり、田豊は苦手としているものがあるようだ。
他の軍師は触らぬ神に祟りなし、といったところで、田豊かわいそうだ。
これじゃあ、確かに牢屋に入れられるかもしれない。

「ちょ、ちょっと待ってください、麗羽様」
「なんですの?一刀」

一刀は田豊の支援を考える。
アドリブで必要性も十分にわからない状況で袁紹の気に入る言葉をつむぎだすのは……レベルたけー!
おまけに、現在の状況は恋姫からも史実からも想定できないので、その辺の知識は全く役にたたない。
でも、田豊が他の諸侯に同盟するかどうかを確認すると言うことは……必要なんだよ。
なんでだ?
って、聞くわけにもいかないから、適当にそれらしい理由を考えて……
多分、洛陽を落とすには袁紹軍をかなり投入しなくてはならないから、背後を撃たれたり裏切られたりするのを防ぐためだろう。
違ってもいいや。それが理由で説得理由を考えよう。
とは言っても、今日は普段と麗羽様雰囲気が違う。
華麗では通じない気がする。
命令自体に華麗が入っていなかったから。
となると、説得方法は華麗では多分駄目で……恋姫ストーリーを思い出すと
……
……
……雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!
これだ!

「たしかに、宦官や董卓軍であれば、今の袁紹軍で十分撃破出来ることでしょう」
「なら進軍ですわ」
「ですが、それを単独でやってしまうと、今度は諸侯が麗羽様が董卓のように悪政を敷くのではないかと疑心にかられてしまいます」
「そんなこと、この私の華麗な政を見れば無いと言うことくらい分かるではありませんか!」
「はい、俺や実際に麗羽様の政に携わった人々はよく知っています。
が、世の中まだまだ麗羽様の華麗さを知らない諸侯も多くいることでしょう。
そのような諸侯は、麗羽様の軍を影から襲ったり、麗羽様の留守の間に冀州を襲ったりするかもしれません」
「……それで?」
「そこで、先の菊香の発言です。
事前に諸侯の同意を取り付けておけば、そのような離反者がでることはありませんし、なによりも大陸全部が一致して宦官や董卓軍にあたるのです。
これはもう、諸侯が一致して麗羽様のすばらしいお考えに惹かれて、雄々しく、勇ましく、華麗に進軍していくのです。
これほど素晴らしいことがありましょうか!」
「……雄々しく、勇ましく、華麗に進軍。
雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!
一刀!早速諸侯に書簡を送るのです!
併せて、出陣の準備も怠らないように!!」
「はい!」

……ああ、疲れた。
菊香が微笑みかけてくれるのがせめてもの救いだ。

「それでは、続きを。
洛陽で宦官と董卓を倒し、劉協様をお救いします」

戦の方針について、田豊が続ける。
が、ここで逢紀が異を唱える。

「待っておくんなまし。
漢の皇帝の権力はもう風前の灯。
放っておいても消えてなくなってしまうでありましょう。
それを麗羽様が延命なさる必要はないと思うのでありんす。
それよりは麗羽様が新たに国を興して皇帝を名乗ったほうがよいでありんす」
「この私が皇帝……」

逢紀の言葉を聞いた袁紹、まんざらでもないようににんまりと笑う。
宦官は嫌いだが、だからといって今の皇帝が好きなわけでもない。
史実では劉虞を皇帝に立てようとしたくらいだから、自分が皇帝になる機会があれば拒否はしなそうな袁紹である。

「それもいいですわね」
「お待ちください!」
「なんですの?菊香」
「それでは出陣の義がございません。
やはり、ここはまず劉協様をお救いするのが第一かと」
「それも言えますわねぇ」
「それに麗羽様が皇帝になるために軍を進めるとあっては、諸侯も賛同しないでしょう」
「董卓を倒してから皇帝を宣言すればよいでありんす」
「それはいいですわねぇ」
「お待ちください。麗羽様が皇帝になるかどうかは劉協様をお救いしてから考えればよいこと。
ね、一刀もそうおもうわよね?!」

ちょっと一刀遣いがうまくなってきた田豊である。
全員の視線が一刀に集中する。
参謀でも何でもないのに、と不満を思いながらも歴史を紐解いて一刀の意見を述べる。

「確かに菊香、逢紀さん、何れの意見にも採るべき点があると思います。
ですから、それぞれの意見を採った場合の欠点を考えてみればよいと思います。
菊香の言うとおり劉協様をお救いすれば麗羽様が皇帝になる時が遅れてしまいます。
これは逢紀さんの仰るとおりです。
一方、逢紀さんの意見を採った場合を考えて見ます。
麗羽様がお救いしなくても劉協様はいらっしゃいますから、どこかの諸侯が劉協様をお救いになるでしょう。
例えば曹操様。
そうすると、劉協様を頂いた曹操様から漢の皇帝としての勅令が発せられるかもしれません。
『麗羽、あなたを冀州、幽州、并州の牧に命じるそうよ。私は大将軍だけどね。フフ』
た「劉協様をお救いするのです!!」しかに漢の皇帝の権威は…………はい」

袁紹の頭から湯気が昇っているようにも見える。
こうして、軍議は田豊の意見がほぼそのまま通る形で決着した。


「好き好きだ~い好き!
もう、一刀最高よ!」

部屋に戻るなり、一刀にダイビングして閨に押し倒す田豊。
そしてキスの嵐を降らせる。

「どうしたんだよ、菊香。そんなに積極的になって?」

と答える一刀の服は、もうほとんど脱がされている。
質問はしているが、理由は大体分かっている一刀だ。
こちらも嬉しそうに田豊の服を脱がしている。

「だって、あの麗羽様の御前で私の意見が通ったのよ!
しかもあの太夫の意見を退けて!
こんな嬉しいことないわ!」
「最初に約束したじゃない。
俺たちが滅ぼされないように一緒に頑張ろうって」
「知ってるけどうれしいの!
もう、一刀なしではいられない!
今まで冷たくしてごめんね。
今日はたくさん喜ばせて!
私の体中一刀の喜びで満たして!!あぁっ……」
「もちろん!!」
「私も一緒に……」
「うん、清泉、3人で楽しもう」

その晩はいつになく激しく交わり続けた三人であった。
ようやく一刀の冬が終わりを告げたようだった。



[13597] 吉原 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:01
吉原

 翌日のこと。
田豊と沮授の元を逢紀が訪れる。

「菊香はん、清泉はん、お願いがありんす」
「何かしら?」
「一刀はんを今晩貸していただきたいでありんす。
お礼をしたいでありんす」
「お礼?」

田豊は、昨日の会議で意見が取り上げられず、昔のような不仲になったのではと緊張したが、どうやらそうではないらしい。

「昨日の軍議での一刀はんのご意見はもっともでありんした。
あちきの思慮の浅さを見に染みて感じたでありんす。
そのことを気付かせてくれた一刀はんにお礼をしたいでありんす」
「そう。それ自体はいい考えだとおもうんだけど……」
「お礼って具体的に何をするのですか?」

………
……



 一刀はいつものように夕食を終え、部屋でくつろいでいる。
あとは田豊と沮授が来て、寝るだけだ。
本を読んだりすることもあるが、そういうことは夕食前にすることが多いので、この時間はあとは寝るだけ。
灯りはあるが、電灯とは違って煌々と明るいわけではないから、何かやろうと思ったら日の光の下でやったほうが効率的だ。
燃料代も節約できるし。
その代わり朝は早い。
本当にお日様と共に生活をしているのが実感できる生活習慣だ。

そこに、田豊、沮授が入ってくる。
が、二人とも妙にかりかりしているように見える。

「許してあげます」

沮授が例によってそれは穏やかに話し始める。
こういうときはだいたい碌なことがないが、今日に限っては思い当たる節がない一刀である。
だいたい、昨日春になったばかりではないか。
ということは、何かあったとしたら今日のはずだが、と必死で自分の行動に思いを巡らせる。

「な、なにを?」

どきどきしながら、その内容を確認する。

「女遊びも男の甲斐性なんでしょうから、たまには許してあげます」
「は?女遊び?全然やったことないけど……
何かの間違いじゃないの?」

と、身の潔白を証明しようとする一刀に、田豊が

「関羽さんや趙雲さんや柳花は遊びじゃないのね?真剣なのね?」

と、昔の傷を掘り起こしてくる。

「ああ愛紗さんは昔のことじゃんか!
星や柳花さんは俺の意志は関係ない!
最近は二人だけだ!」
「そうだったわね。でも、私たちが許すのはそのことじゃないの。
今日のことなの」
「今日?」

やはりどう考えても思い当たる節がない。

「これから太夫の部屋に行きなさい!」
「逢紀さん?どうして?」
「一刀にお礼をしたいんですって!
彼女なりに真剣に!
一晩かけて!!」

ようやく状況を理解した一刀。

「………それって行かなくちゃならないのか?」

この二人に見送られながら逢紀の部屋に行くというのも、なかなか酷な状況である。
そこまでして他の女と遊びたいとも思っていないし。

「私たちだって行かせたくないわよ!!
でも、彼女なりに考えた結果だし、折角仲違いが解消していることだし、妻は二人までという法があるわけでもないし、彼女のお願いも無碍にもできないし、それに女が真剣に男を誘いたいと私たちに事前に尋ねられたら流石に断り辛いし……」
「だから、許してあげます。
でも、だからといって何をしてもいいわけではありません。
側室を設けてよいというわけでもありません。
節度を守って女遊びをしてください。
いいですね?」

こうして逢紀の部屋を訪れることになった一刀であった。
女遊びってこんなに辛いものなのか?と疑問を抱きつつ。


逢紀の部屋は、もう入り口からして違う。
朱塗りの立派な入り口、朱塗りの格子、臙脂の暖簾、たくさんの提灯。
どう見ても吉原の遊郭。

「こんばんわ……」

恐る恐る中にはいってみると、そこは江戸。
畳、金屏風、床の間、掛け軸、真っ赤な襖。
時代劇の吉原の風景そのままだ。

「おこしやす」

逢紀が三つ指ついて出迎えている。
思わず、どきっとしてしまう一刀である。
いつくるか分からない一刀のためにずっとその姿勢で待っていたのだろうか?

「入ってよろしいでしょうか?」

女性の部屋に入るのは、初めてなので妙に緊張する。
考えてみれば、田豊、沮授の部屋にすら入ったことがない。

「もちろんでありんす。
今日はあちきが一刀はんをおもてなししたいよって、ゆるりとしておくんなまし」
「はぁ……」

一刀は靴を脱ぎ、部屋に入る。
部屋には座布団が敷かれているので、そこに座る。
脇息(肘置き)なんて、生まれて始めてみた!
正座して緊張するのも逢紀さんに申し訳ないから、ゆるりとそこに座ることにする。
脇息は初めて使ったがなかなかいい具合。
でも、心の底からゆるりとするのはなかなかに無理。
ちょっと、いやかなり緊張しながら逢紀やあたりの様子を眺めている。

部屋は、花が生けてあったり香が焚いてあったり優雅な雰囲気を漂わせている。
掃除も行き届いていて、塵一つ落ちていない。

「ずいぶん、風雅な雰囲気ですね」
「気に入っていただいて嬉しいでありんす」
「いつもこんな雰囲気なんですか?」
「そうですえ。
いつご客人が来ても歓待できるよう準備をするのが、華麗の極意。
部屋にも身だしなみにも手間隙を惜しんではならないのでありんす」
「逢紀さんって結構努力しているんですね。
意外でした」
「もちろんでありんす。
それを樹梨亜那はんは努力せんと肌を見せれば華麗という始末。
あちきは許せないでありんした。
菊香はんや清泉さんに至っては華麗を否定する有様。
決して交わることはないと思っていたのでありんした」
「……いつぞやはご迷惑おかけしました」

過去の行動を思い出して謝る一刀。

「いいのですえ。
あちきも小さなことで諍いをしていたと目が覚めたようでありんした。
これからはあちきのことは太夫と呼んでくんなまし」
「いいんですか?」
「昨日のお考えも、あちきの真名を許すに足るお方とお見受けいたしやす。
是非、真名で呼んでくんなまし」
「それでは……太夫さん」
「あーいー?」

そそっと品を作って一刀に寄り添い、上目遣いに見上げる逢紀に、思わず胸ときめいてしまう。

「ああああの、今日はお礼をしてくださるとか……」
「そうでありんした。
それでは唄を聴いておくんなまし」

逢紀は部屋の隅から三味線をとりだしてきて、




ベン



ベベン




♪はぁな~~~~~~の~~~~~~~~~~~~~



 ほぉか~~~~~に~~~~~~は~~~~~~~~~~


三味線の弾き語りを始めるのだが……

辛い。多分うまいんだけど辛い。
テンポが眠りを誘う。
これを聞き続けるのはちょっと厳しい!

そんな雰囲気を察したのか、逢紀は唄を止め、

「唄はお嫌いどすえ?」
「えーっとーー、嫌いというか何というか……」
「わかりんした。
もう、一刀はん、せっかちなんでありんすから」
「え?何が?」

とにっこり笑って襖を開く。
お約束のように一つの布団に枕が並べて置いてある。

「いや、あの、その……」
「ゆっくりしていっておくんなまし」

どぎまぎする一刀に逢紀は微笑みかける。
これで、逃げる機会を失ってしまった一刀は、逢紀の様子を見続けている。
打掛を衣桁に掛け、鬘をとり、髪を解き、化粧を落として、残った襦袢などを一度にふぁさっと脱ぎ落とす。
鬘だったんだ。
実際の花魁は本人の髪だったと思うけど。
中から出てきたのは、意外にも地味目の女性。
雰囲気は恋姫の中では孫権に近いか。
髪は鬘の所為か比較的短め。
背もそれほど高くはない。
が、逢紀の特徴はなんと言ってもそのスタイルのよさと黄忠並みの爆乳。
着物の下にこんな宝石が隠されていたとは!

「さ、まいりゃんせ」

逢紀は立(勃)ち尽くす一刀を布団に連れて行き、そこで服を脱がせていく。
一刀は逢紀の行動に為すがままになっているが、布団に入っても事を起こそうとしない。

「抱いてはくださらんのでありんすか?
あちきは魅力的ではありやせんのか?」

心配そうに尋ねる逢紀に、一刀は、

「そんなことない。
とっても美しいよ。
でも、俺には菊香や清泉がいるから」

節度でどうにか自分の欲求を押さえ込んでいる。

「うふふ。一刀はんはお優しいのでありんすね。
菊香はんも清泉はんも幸せもんでありんす。
そういうことでしたら、あちきも無理強いはいたしやせん。
その代わり、一度だけ口付けをしてよろしいどすえ?」
「うん」

一刀の肯定の返事に、逢紀は一刀の上にのって、突起物を脚で挟み込み、丁寧な口付けを始める。
長めの舌で、それは丁寧に一刀の口を刺激する。
口への執拗な愛撫、胸に押し付けられる爆乳、挟み込まれる下半身。
健康な男子が耐えられる刺激ではない。
一刀の節度は一瞬で吹っ飛んでしまった。

「あん、一刀はん、はげしすぎます……」



あとがき
オリキャラとしかしていないという話もありますが、袁紹軍にいると恋姫キャラは3人しかいないので、他軍と交わっていないときはオリキャラでごまかすしかなく、こういうことになってしまいました。
まもなく連合軍ができるので、多少は恋姫キャラも登場すると思います。



[13597] 塗装
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/23 22:54
塗装

 一刀の節操があるかないかに関わらず、物事は進んでいく。

「遊んでいいっていったじゃんかぁ!」

と言いたくて言いたくて仕方がないが、雰囲気がそれを許さないのは何故だろう?
これで仕事か趣味でもあれば、それに逃げることも出来るのだろうが、董卓討伐のために袁紹軍も軍を進め、当然袁紹もそれに参加し、袁紹がいるならば一刀も動員されるわけで、馬で行軍をしているという状況ではそれも不可能だ。
その両脇に田豊と沮授が一言も喋らずに馬を進めている。
一刀のような体力のない人間が徒歩で行軍できるはずがないから。

 逢紀の部屋から戻ってきた日の朝、というより昼、田豊と沮授は早速結果を確認する。

「何回したの?」
「正直にお願いします」

残念ながら、一度もやっていないとは全く信じられていない一刀である。
嘘をつける雰囲気は全くなく、正直に答えざるをえない。

「えーっと、一晩中…………かな?」

それ以来、今に至るまで二人と会話をした記憶がない。
本当に短い春だったと悲しむ一刀である。
麹義の言葉はあっても、やっぱりこの態度は辛いものがある。
早く関係を回復したいのだけど……。


「反省した?」

隣の馬上から声がする。
久しぶりに田豊の声を聞いた気がする。

「もう駄目ですからね」

反対側の馬上からも声がする。
久しぶりに沮授の声を聞いた気がする。

「うん!うん!」

二人の優しい言葉に、思わず涙してしまう一刀だった。
今回の冬の原因は、元々田豊、沮授共に認めていたことで、ちょっと一刀が程度を誤っただけだから、それほど長くなく終わったようだ。
田豊、沮授も基本的には一刀を愛しているから、時々冷却期間が入るものの、結局元の鞘に戻るのである。
こうして、3人はまた元通りの仲のよい夫婦生活を営み始める。
時々冷却期間があったほうが、春の喜びをより感じていいだろう………多分。


 反董卓軍は酸棗に集結を始めている。
董卓軍の最初の砦の氾水関から数里と離れていない場所である。
実際にはもっとばらばらに進軍したようだが、一同に会さないと恋姫の話が進まないので、そうなっているのだろう。

集まってきた群雄は、錚々たるメンバー。
袁紹を始め、曹操、孫堅、袁術、公孫讃、劉備などの恋姫メンバーに加え、劉岱、橋瑁、袁遺、鮑信、孔融、陶謙などなど。
全員女かとおもいきや、そうでもないらしい。
半々くらいだろうか?
臧洪は?いました。
いつのまにやら袁紹の部下になっていた。
かなり時期が早いが。
臧洪が張超に進言しなくても、袁紹は宦官と董卓の討伐に乗り出すことにしたので、ちょっと出番が減ってしまった臧洪。
それでもまだまだ活躍の出番はあるだろう。

 集結した兵力はおよそ50万人。
その二割、10万人を袁紹軍が占める。
発起人であるし、黙っていても圧倒的に巨大な勢力だから。
それでも常備軍の半分しか連れてきていないのだが。

 ある程度諸侯が集まったので袁紹が最初の軍議を呼集した。
大きな天幕に諸侯が次々と集まってきている。
袁紹のお目付け役のような一刀も当然連れられてきている。
一刀は天幕に入っていく人々を眺めて、これだけの人物が一同に会する機会を得たことに感謝している。
なんて、貴重な体験だろう!と。
女性は大体恋姫仕様の雰囲気を漂わせているので、説明を受けなくても誰が誰だか凡そ想像がつく。
そんな風に諸侯を眺めていた一刀であるが、やってきた女性を見て、いきなり目を点にし、思わず叫んでいた。

「そ、孫策さん!どうして裸なんですか!」
「何?この子。どうして私のこと知っているの?」
「そんなことどうでもいいから、服を着てください!」
「失礼ねぇ。ちゃんと体は隠しているじゃない」
「ん?どうした、雪蓮。何を騒いでいるのだ?」
「冥琳、聞いて。酷いのよ」
「しゅ、周瑜さんも服着てください!!」
「何だ?どうして私の名を知っているのだ?」

一刀が見たのは、風貌からして孫策、周瑜と思われる人々。
孫策。字は伯符、真名は雪蓮。
そして、周瑜。字は公瑾、真名は冥琳。
二人とも、後に呉の国を作る中心となる人物達だ。
だが、その服が奇想天外だった。
裸にボディーペインティング。
確かに物理的に形を維持するのが難しそうな服だったとは思ったが、まさかボディーペインティングだったとは。
正確には孫策は腕のところには布で出来た袖がついているので若干布地で覆われている部分があるが、周瑜にはそれすらもなく、兎に角二人とも体は色が塗られているだけで布地で覆われている部分は皆無だ。
二人とも髪は長いので、後ろから見ればなんとか体を隠しているようにも見えるが……。
色がついているので隠している、と言い張られればそうかもしれないが、どう見ても乳首の形は明瞭だし、その、女性の大事なところも毛を剃られていて形がよく分かるほど。
一刀から見れば裸にしか見えない。

「いいから、二人とも服を着てください!
恥ずかしくないんですか?
寒くはないんですか?」
「その前にあなたの名前を教えてよ!」
「そのとおりだ。初対面なのに我等の名前を知っているとは、一体何者だ?
加えて我等を裸呼ばわり。
失礼にも程があるだろう」

一刀はほぼ裸の美女二人に攻め寄られている。
その他の人々は、何をやっているんだ?という雰囲気であまり興味を示していない。

「いや、あの、俺は……ですね、北郷一刀っていう名前で、袁紹様のところで農業指導をしているんですけど……」

しどろもどろに答える一刀。
視線は宙を漂っている。

「農業指導?なんでそんな部下がここにいるのよ?」
「そ、それはどうでもいいですから、兎に角服を着てくださいよ!
そんな格好じゃ恥ずかしいでしょ!」
「全然」
「いや、全くそのようなことはない」
「………」

流石に言葉を失ってしまった一刀である。
沈黙した一刀に、今度は孫策・周瑜の逆襲が始まる。

「だいたい、あんた何よ?
人を捕まえて裸だなんて失礼だわ!」
「そのとおりだ。全くもって失礼だ。
この姿のどこが裸だというのだ?」
「毎朝どんな衣装にするか考えるのが楽しみで、いつも絵の具を塗って一日の気分を高めているって言うのに、それを裸だって言われた気分って分かる?」
「全身ほとんど肌が露出していないではないか。
なんでそれなのに裸だといわれなくてはならぬのだ?」

どうやら、価値観が違うようで、一刀と孫策・周瑜が理解しあえることはなさそうだ。

「す、すみません。俺の勝手な思い込みでした。
そ、それはそれで立派な服でした」

心にもないことを言ってその場から逃げ出そうとする一刀だが、世の中そんなに甘くない。

「あなた、全然そんなこと思ってないでしょ?
さっきから私たちの体を全然見ようともしていないもの」
「謝れば済むという問題ではないだろう。
一軍の将や軍師を捕まえて裸だと言い放ったからにはそれなりの謝罪というものがあろう」
「そうよ。この私にそういったということは万死に値するわね」

もういたいけな少年を捕まえていたぶっているいけないお姉さん二人といった雰囲気だ。
と、そこに援軍が現れる。

「一刀く~ん、軍議はじまるよ~」

一刀を迎えに来たのは、何故か審配。
そう、あの樹梨亜那。
今回袁紹軍に同行している参謀は、田豊、沮授、審配の三人。
他は留守番。
審配は一刀を迎えにきて、その一刀に詰め寄っているいけないお姉さん達を見て目を点にしている。
一方の孫策、周瑜も声がした方向を見て目を点にしている。
最初に声を出したのは孫策だった。

「な、なに、あなた破廉恥な格好をしているのよ!
肌が丸見えじゃない!」

審配は例によってボディコンスタイル。
脚が100%見えるほどのミニスカート。
背中は丸出し。
胸も大きく開かれている。
確かに破廉恥ではあるが、この孫策に言われるのも……

「あなたにいわれたくはないわよ。
あなたこそ裸じゃない!」
「そうですよねぇ」

一刀もようやく自分と同じ考えの人間に会えて勢いを取り戻してきた。

「裸とは失敬な。
全身絵の具を塗っているから裸ではないだろう。
お前こそ肌の露出が多すぎる。
恥を知るべきだ」
「絵の具塗ればいいってものじゃないでしょ!
乳首だってあそこだって形がわかるじゃない!」
「形はわかっても色はわからないわよ!
あなたこそ、隠しているところが殆どなくて裸じゃない!」
「見せるところは見せて隠すところは隠すのがいいのよ!
そんな絵の具は邪道だわ」
「なんですって!
あなたのそんなだらしのない服こそ邪道よ!」

と、昔の田豊、逢紀、審配の喧嘩もこんなようだったのかと思われるほどに下らないレベルの喧嘩をしているところに救世主が現れる。

「お姉様、そろそろ軍議が始まります。
天幕に参りましょう」

一刀が声の方を見てみると、孫権の雰囲気の女性。
孫権。字が仲謀、真名が蓮華。
服は普通!
呉陣営になる人々が全員ボディーペインティングというわけではないようだ。

「ねえ、聞いて!蓮華!
この破廉恥な女、私たちのこと裸だって言うのよ!」
「孫権さん、体に絵の具を塗っただけでは恥ずかしいですよね!」

孫策と一刀が畳み掛けるように孫権に質問する。
孫権は4人の様子を見て、

「お姉様たちには普通の服を着るようにお願いしているのですが……」
「オーホホホ。やはり絵の具は変態ですわ」

審配は樹梨扇を動かしながら満足そうだ。

「そちらの方も同じ位破廉恥です」

と答える。

「「「なんですってーー!!」」」

孫策、周瑜、審配の声が揃う。

「蓮華、この女と同じくらい破廉恥ってどういうことよ!」
「聞き捨てならんな」
「訂正して欲しいわ。こんな変態とは違うと」

と、ぎゃあぎゃあクレームをつける女たちの声を、孫権は最初は静かに聞いていたが、そのうち額に青筋が現れ、ぷるぷると震え始めると、

「黙れ」

と静かに恫喝を入れる。
が、その発する声からは想像できないほどに強い殺意が含まれている。
孫権さんって切れるとあんなにこわかったんだー、と驚愕している一刀だ。

「………すみません、ちょっと切れてしまいました」

元の孫権の雰囲気に戻ったが、もう誰も口論はしない。
かくして、孫権の力でその場はなんとか納まったのであった。



[13597] 厳冬 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:02
厳冬

「さて、皆さん。
呼びかけに賛同していただき感謝いたしますわ」

袁紹の発声で軍議が始まる。

「最初に決めたいものがありますの。
総大将を誰にするかなのですが……」

おお!恋姫袁紹よりテキパキしている。
流石は華ルートの袁紹だ。

「そんなの、簡単だよぅ。
袁紹ちゃんがみんなに呼びかけたんだから、袁紹ちゃんが総大将をすればいいんだよ」

劉備がそれに答える。

「そうですか。
それに異存のある方はいらっしゃいますか?」
「いいんじゃない?
兵力も最大だし」

と答えたのは、曹操。
他も特に反対の気運がないので、袁紹が総大将を務める宣言をする。

「それでは僭越ながらこの袁紹、総大将を務めさせていただきますわ。
総大将として董卓討伐の指示をいたしますわ。
雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!
これで、董卓軍を討伐するのです」

袁紹軍以外の全員から脱力感を感じる。
一刀はそんな人々を見て当然の反応だろうと思う一方で、こういうふうに大まかな基本方針だけを示して、あとは部下の自由に任せるという主君も、案外ありなのではないか、と思い始めているのであった。

「なんですの?」
「いいえ、なんでもないわ」

呆れながらもそう答えたのはまたもや曹操。

「雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!
うん、そうだよね。袁紹ちゃんすごいよ!」

全員脱力感を感じているかと思いきや、賛同者もいたようだ。
もちろん、劉備。
実は、もう一人、賛同しつつも曹操の顔色を伺って黙っていた将もいたりするのだが。

「オーッホッホッホ。劉備さん、よくわかっておりますわね。
それでは、劉備さん。あなたを先陣に命じますわ」
「わ~い!白蓮ちゃん、先陣だってよ!
名誉だよね!」

単純に喜んでいる劉備であるが、今事実上彼女の上司に当たる公孫讃や、参謀諸葛亮は苦虫を潰したような表情をしている。

「それでは、菊香、清泉、樹梨亜那、後は任せましたわよ」

袁紹はそう言って、顔良、文醜を連れて退席した。
袁紹がいなければ一刀も必要ないので、一緒に退席しようとするのだが、その前に田豊、沮授に小声で話しかける。

「菊香、清泉、お願い、できるだけ早く戻ってきて。
あの孫策さんや周瑜さんの姿見て、昂奮しちゃって、もう耐えられない」

もう、爆発寸前の一刀が懇願する。
田豊、沮授も、目の前にいる孫策、周瑜の姿を見て納得し、

「わかったわ」
「出来るだけ早く戻りますから、天幕で待っていてくださいね」

と、答える。

もう、孫策、周瑜に強力な下半身への攻撃を受けた一刀は辛くてたまらない。


 さて、いけないお姉さん達が危ない相談をしている。

「それにしてもむかつくわよねぇ。
人のことを裸だなんて」
「ああ、あの子ね。
その通りね。お仕置きが必要だわ」
「どうする?」
「そうだな……穏をやるというのはどうだ?」
「うふふ、陰険ね。
それで穏が襲われたら、それをネタに袁紹から何か取ってしまおうという腹ね」
「ふ、まあそういうことだ。
あの男には安くない遊びになるだろう」

孫策と周瑜の間で話がまとまったようだ。
それを周瑜が一人天幕から出て、陸遜に伝える。
陸遜。字が伯言、真名が穏。
やはり孫策の下で軍師をしている体の白い、巨乳のほわほわした感じの美女である。

「……というわけで、その北郷一刀という男のところに行ってもらいたいのだ」
「わかりましたー。
それで、何をしてくればいいんですか?」
「世間話でもしてくればいいだろう。
どんな女が好きかでも聞いて来い」
「は~い♪」

陸遜はほわんほわんと、袁紹軍の中で北郷一刀の天幕を探す。
人々に聞いて回って、ようやく一刀の天幕を見つけ出した。

「すみませ~ん。
ここが北郷一刀さんの天幕ですかぁ?」
「はい、そうですが……」

一刀は天幕の入り口を見て、思わず鼻血を噴き出しそうになってしまう。
そこにいたのは陸遜と思しき人。
だが、その服が画期的だった。
腕には袖がついている。
が、そのほかは孫策、周瑜と同じようにボディーペインティングのみ。
それも、孫策、周瑜が体中ほとんど塗っているのに対し、陸遜は服と思われる部分の輪郭を縁取りしているだけ。
白い部分は陸遜の肌の白さを使っている。
髪も短いので、後半身は髪で隠されない。
下半身は流石に塗っている部分が多いが、それでもミニスカートよりも小さな部分しか塗られていない。
その裸具合は孫策、周瑜の比ではない。
当然、審配(樹梨亜那)をも圧倒している。
こんな陸遜をみていながら、審配を破廉恥という孫策、周瑜の頭の構造はどうなっているのだろうか?
その陸遜の姿を見て、既に孫策、周瑜に臨界状態にされていた一刀の頭の中で何かが切れた。

「ウォーーーーーーーーーッ!!!!」
「きゃーーー!」

一刀は陸遜に襲い掛かる!!
……と思われたが、陸遜の横を走り抜けていき、そのまま天幕の外に走り出していってしまった。
その程度の節度は残っていたようだ。

「うまくいかなかったか。
でもまあ、あの男のことだ。
また、何か機会があるだろう。
穏、帰るぞ」
「は~~い!」

いけないお姉さん達一行は自陣に戻っていった。

 さて、一方の天幕を飛び出した一刀。

「菊香ー、清泉ー、菊香ー、清泉ー」

破壊した自分を癒してくれる人を呼びに走っていた。
だが、ゲームの意思は一刀に冷たい。

「あ、一刀さん……」
「愛紗さん……」

関羽と出合ってしまった。
二人の心に昔の行為がよみがえる。
二人の心が燃え上がってしまう。

「愛紗さん、ちょっと一緒に来てください!」
「え?ええ……」

一刀は関羽の手を強引に引っ張って自分の天幕に連れ込んでしまう。
引っ張られるほうの関羽もまんざらでもない。
というより、強引な一刀に胸ときめかせ始めている。

天幕につくなり、いきなり押し倒して服を脱がし始める。

「一刀さん、そんないきなりじゃ……」

と、口では一応拒否してみる関羽であるが、もう一刀は切れている。
その程度の拒否では止められない。
関羽も拒否しつつもうれしそうだ。


 そして、しばーーーらく経った後、

「ご、ごめん、愛紗さん。
ちょっと問題があって、俺を癒してくれる人を探してたんだ。
そしたら偶然愛紗さんがいて、悪いとは思ったんだけど無理やりやってしまって……」

ようやく理性的に接することが出来るように快復してきた一刀が関羽にひたすら謝っている。

「いいんです。
私も、気持ちよかったですから。
でも、もう一回、今度は優しくしてください」
「わかった」

それからは、関羽の希望するとおり、優しく接し始める一刀である。

 暫くは関羽も一刀と気持ち良さそうにあんあんと交わっていたが、突然その動きを止めた。

「どうしたの?愛紗さん」

一刀が関羽の見ている方向を見てみると……

田豊と沮授が立っていた。

「ねえ、清泉。
確か一刀は早く戻ってきてって言っていたわよね」
「ええ。これを見せ付けたかったんじゃないですか?」
「そうね。充分分かったから、また二人にしてあげましょうか?
邪魔しちゃ悪いものね」
「そうですね。他の陣営でも回りましょうか?」
「それがいいわね」

二人はそれだけ言って天幕の外に出て行ってしまった。

一刀の今回の春も短かった。
そして、夫婦(のような)関係は冬も冬、厳冬期に突入してしまったようであった。



あとがき(感想への返信を兼ねて)

色々ご批判あるでしょうが、まず基本方針として、劉備はそういうキャラで進める予定ですので、このままいきたいと思います。
関羽との関係も、変わらない予定です。
孫策関係は、もともとの服もあれだったのでこれほど批判がくると思っていなかったのですが、これはもうあまり出番がないのでご勘弁いただきたいとおもいます。
というわけで、基本方針は変えないで最後まで突き進みたいとおもいます。
結構、批判だらけの中で書き進めるのも辛いものがあるのですが。
もちろん、ご批判を頂いて、自分でもちょっと、と思っていたところは改定する場合がありますので、引き続きご批判歓迎いたします。
展開についても、感想を見ながら多少調整しています。
Hが多い、少ないと両方の感想に応えるのは無理ですが……。

というのが基本方針です。

感想を拒否しているわけではないので、それは問題ないと思います。
現に山のように感想が着ておりますし……。
あと、チラシの裏はそういうものでは無いと思いますので、ここに留まることにします。
それから、感想に対する感想は慎んでくださいとの規約がありますので、本作に対するコメントを主にしていただけると助かります。

次に、内容について。

農業
仰るとおり、確かにほとんど出番がなくなっています。
領土が広がったらまた新たな活躍の場を作りたいと思います。

マンネリ、ワンパターン化
それは……鋭意努力しますとしか言えません。
やはり小説家ではないので、ある程度は許容ください。

情緒面の描写
これは不得手ですのでなかなかご期待に添えないと思います。
書きたいとは思うのですが、文才が追いついていません。

Hの量
ペースが落ちる予定です。

今回も批判が多そうな回ですが、そんな具合で今後もなんとか進めていきたいと思います。
それでは、また。



[13597] 借用
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/24 21:14
借用

「一体どういうつもりなのだ、桃香!」

公孫讃軍に戻るなり、公孫讃は劉備をどなりつけている。

「え?何が?」
「我々が先陣を務める件だ」
「え?だって名誉なことだよ」
「それはそうだが、先陣を務めるにはそれ相応の軍事力が必要になる」
「大丈夫だよ。
愛紗ちゃんも鈴々ちゃんもと~っても強いから!」
「鈴々は無敵なのだぁ!」
「桃香様」

諸葛亮が呆れた様子で劉備に状況の説明を始める。

「まず、相手が篭城している場合、攻撃側の勢力は守備側の3倍が必要とされています。
これについては、相手を城の外におびき出す方法を考えることにしましょう。
そうすると、関を守っているのは華雄将軍、張遼将軍になりますが、兵の数は聞くところによれば10万人。
それに対し、公孫讃様の兵力は2万人。
いくら愛紗さんや鈴々さんが強いといっても、一人で相手に出来るのは10人、20人がいいところでしょう。
この狭い場所から考えて、敵の全軍が同時に攻めてくるとは思えませんが、3万の兵がくることは考えられます。
とても、1万人の戦力差を埋められるものではありません」
「でも、でも、桃香ちゃん達は連合軍なんだよ。
白蓮ちゃんや桃香ちゃんの軍だけで間に合わなかったらみんな助けてくれるよ」
「桃香、確かにそれは理想だ。
だが、実際には諸侯は自分の勢力をできるだけ減らさず、戦果だけを得るように働くものだ。
だから、自軍に被害が及ぶようであれば参戦するだろうが、協同して先陣を務めるような軍はいないだろう。
まず、我々に戦わせるだけ戦わせておいて、我々が優勢で参戦したら楽勝という状況になったり、負けて自軍のところに敵が来たら参戦するというのが関の山だ」
「ふーん、ずるいんだね、みんな。
でもさ、でもさ、袁紹ちゃんだったら手伝ってくれるんじゃない?
みんなに呼びかけたのも袁紹ちゃんだし、それに総大将だもん」
「袁紹様が最初から自軍を動かすなら、先陣を桃香に頼まないだろう?」
「それはそうだけど……うーーん、やっぱり袁紹ちゃん、何とかしてくれると思うんだけどなぁ。
先陣が破れたら、袁紹ちゃんだって困るでしょ?」
「まあ、それはそうだが。
でも、兵を貸してくれるくらいが精一杯じゃないかな?」
「ふーん。……でも、兵隊さんを貸してくれるだけでも嬉しいんだよね、朱里ちゃん」
「はい、そうですが」
「何人くらいいればいいの?」
「そうですねえ、1万人くらいでしょうか?」
「朱里殿、1万人と言ったら、我々が率いてきた軍の半分の規模ではないか」
「はい、白蓮様。
そうすれば兵力が3万人になりますから、相手と対等に戦えます。
仮に敵がそれ以上来たとしても、先陣として充分な働きをすることができるでしょう。
それだけいれば愛紗さんや鈴々さんの武芸も重要な意味を持ってきます。
本当はもう少し欲しいところですが、さすがに自軍に匹敵する応援を要求するというのも……」
「じゃあ、袁紹ちゃんのところに言って兵隊さん借りてくるね。
愛紗ちゃん、一緒に行こう!」
「え?わ、私ですか?」
「うん。愛紗ちゃんがいれば絶対うまくいくから!」
「はあ……?」

劉備は関羽を伴って袁紹の許に向かう。
残ったのは劉備の純真さというか、おおらかさというか、なんというか劉備の劉備らしいところに唖然としている公孫讃と諸葛亮であった。


 しばらくして……

「兵隊さん1万人貸してくれるって!」
「え?」
「本当ですか?」

あまりに意外な展開に目が点になった公孫讃と諸葛亮。

「うん。快く貸してくれたよ」
「どのように頼んだんだ?」

公孫讃の質問に、劉備は袁紹の所であったことを話し始める。


「袁紹ちゃん、おねがいがあるんだけど……」
「なんですか?劉備さん」

業には来るなと言ったが、顔を見せるなとは言わなかったので、ここにくることは約束違反ではなく、仕方無しに劉備の相手をする袁紹である。

「あのね、あのね、兵隊さん貸してくれないかなぁ」
「へ?何で兵隊を貸さなくてはならないのですか?」
「うーんとね、桃香ちゃんたち、ちょっと兵隊さんが少なくて、敵と互角に戦えないんだって。
でも、氾水関が落ちないと困るでしょ?
だから、桃香ちゃんたち頑張るから、ちょっと少ない分、兵隊さん貸して欲しいなぁって。
それにね、それにね、愛紗ちゃんもいるし」
「はぁ?関羽さんとこれとどう関係があるのですか?」
「だって、愛紗ちゃん、とっても一刀ちゃんのこと愛してるんだよ。
さっきもいっぱいいっぱい愛し合っていたんだよ」

一体、いつそんな情報を仕入れたのか、関羽と一刀の関係を今日の出来事まで既に知っている劉備。
袁紹のところに泊まった時、既にばれていたのだろうけど、ここまで顔に出さないというのも、劉備、なかなかである。
袁紹は一刀を見る。
顔が真っ赤になっている。
ついでに、関羽も真っ赤になっている。
真偽は尋ねなくても明らかだ。

「麗羽様」

袁紹が口を開くより前に沮授が袁紹に進言する。

「兵隊でも何でも貸してあげればよろしいと思います。
ついでに、この一刀も関羽さんのいる劉備軍に貸してあげればよろしいと思います。
一刀は返していただかなくて結構です!」

怒りのオーラをまとっている沮授に、誰も何も言い返せない。
特に一刀。
こうして、兵隊1万人と一刀が貸し出されることになった。

「―――というわけなんだよ」

劉備の話が終わる。
全員の視線が関羽に注がれる。
もう、穴があったらはいりたいという表現がぴったりな様子の関羽である。
真っ赤になって、大きな体を小さくしようと苦労している。

「ほう、愛紗殿が……」

公孫讃は何となく嬉しそうだ。

「愛紗、よかったのだ!」

何がよかったかよくわからないが、張飛が関羽を激励している。
諸葛亮は真っ赤になって、何も言えない。
きっと、そのシーンを想像しているのだろう。

「兵隊さんも集まったし、白蓮ちゃん、朱里ちゃん、作戦を考えよう!」
「そうだな」
「……はい」


 それから、作戦会議が始まった。
決まった作戦は、敵を挑発して野戦に持ち込み、弓で射つつ敵勢力がある程度少なくなったところで本体を投入するというものである。
篭城されると攻めるのが困難だし、本体が押し込まれても周りには他の諸侯がいるから、いざとなったら逃げ出すと言う手もある、というようなことで、先陣としてはそれだけの働きがあれば十分だろうと言う公孫讃、諸葛亮の判断だ。

 と、そこに来客がある。

「すみません……」
「あー!一刀ちゃんだー!
愛紗ちゃんに会いに来たんでしょう!
愛紗ちゃん、よかったね!」

一刀であった。

「いえ、そうではありません」
「えー?ちがうのー?じゃあ、どうして来たの?」
「実は…………家を追い出されてしまいまして」

一瞬の沈黙の後、関羽以外全員が大笑いする。

「アハハ。それで愛紗ちゃんのところでも行きなさい!って言われたんだ」
「まあ、そういうことです。
袁紹軍のところでは誰も泊めてもらえなかったので、仕方なくこちらに氾水関との戦いが終わるまでお世話になりたいと……」
「いいよねえ、愛紗ちゃん。
一刀ちゃんをしばらく泊めてあげても。
ずーっと一緒でもいいよね!」
「お、お願いです。
愛紗さんの天幕は勘弁してください。
これ以上何かあったら、本当に戻れなくなってしまいます」
「えー?でも、愛紗ちゃんの天幕しか開いている場所がないよ。
ねえ、みんな?」

劉備がいたずらっぽくみんなに同意を求める。

「そうなのだあ!
鈴々の天幕は小さくておにいちゃんは入れないのだあ」
「そうだな。私の天幕も男子禁制で」
「はわわ、私もまだ貞操を失いたくないので……」
「桃香ちゃんも愛紗ちゃんに恨まれたくないから」
「あの、普通の兵士と一緒でいいんですけど」
「一刀殿、それはだめだ。
一刀殿は良いかも知れぬが、兵士が袁紹軍の大将と一緒では気兼ねしてしまう。
それにそんなことは公孫讃軍の面目が許さない」
「決まりだね!」

前途多難な一刀であった。



[13597] 元凶
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/25 23:47
元凶


「ごめんなさい、突然押しかけてしまいまして。
出来るだけ早く戻りますから」

関羽の天幕で、一刀がそれは低頭に謝っている。

「いえ、私も一刀さんのことを知りながら受け入れてしまったので……」
「でも、さっきはちょっと精神を病んでいたんですけど、もう大丈夫ですから襲うようなことはありません。
その点は安心してください」
「……そ、そうですよね。
ご正室がいらっしゃるんですものね」

分かってはいるが、ちょっと残念そうな関羽。
正確には正室のような存在、であるが。
だいたい、この時代正室がいても、側室をとって何も問題ないはずなのだが、どうも一刀は現代日本の感覚か、側室をとることを躊躇している。
正室二人はいいのか?という疑問もあるが、同時だったので許容しているのか?
だいたい、あの正室っぽい二人も、一刀独占欲が強く、側室をとれる雰囲気がない。
側室をとることが問題ない時代と言っても、側室と正室が仲良く暮らすというわけでもなく、正室が側室を殺したり、その逆もあったりしていたから、あまり手広くしないほうが無難だろう。

「俺は部屋の端の方で寝ますから。
布を貸していただければ……」
「え?!あ、その……私の分しかないのですが」
「それじゃあ、公孫讃さんにでも借りてきます」
「それが……私も頼んだのですが、白蓮様も桃香様もどうしても貸して下さらなくて。
桃香様に至っては、一緒に寝るとあったかいよ、と笑っていて……」

謀ったな!と公孫讃と劉備を恨めしく思う一刀である。

「それだったら、布はなくても大丈夫ですから」
「そ、そうですか。寒かったらいつでも来てください」

と、いうことで部屋の隅で何も掛けずに寝始める一刀であるが、時期は冬、どうにも寒い。

「さ、寒い……」

その声を待っていたかのように関羽が声をかける。

「一刀さん、そのご迷惑でなかったら……」

一刀に一緒に寝るよう催促する関羽。
田豊、沮授に疎まれるのも困るが、凍死はもっと困る。
仕方なく関羽の隣に入り込んでいく一刀。
……あったかい。
それでも通常の精神に戻っている一刀は、というよりも強靭な精神力で関羽の魅力に耐えている一刀は、関羽に何をすることもなく眠りにつくのであるが……

翌朝、一刀は大急ぎで自分の天幕(今は田豊、沮授に占領されている)に走っていく。
丁度、沮授が天幕から出てきたところだった。

「清泉、お願いだ!
この天幕に戻してくれ!
愛紗さんと一緒じゃ辛すぎる!!」

やはり寝巻き一枚の関羽の横で何もしないで寝るというのは辛かったようだ。
おまけに、夜、関羽が抱きついてくるし………。
だが、沮授はにこっと笑って何も言わずに一刀の許から立ち去ってしまう。

「清泉~~」

泣いて訴える一刀を、沮授は振り返ることもしない。
と、次に田豊が出てくる。

「あら、関羽軍の一刀さんではありませんか。
こんなところに何の用でしょうか?」
「菊香、お願いだ!
この天幕に戻してくれ!
愛紗さんと一緒じゃ辛すぎる!!」

同じように田豊にも懇願する一刀であるが……

「劉備さん、公孫讃さんに貸した兵の大将は一刀さんですからしっかり兵に指示を出してくださいね」

と、とりつくしまもない。

「あのさ、夜寝るときに使う布だけでも持っていっていいかな?」
「これ以上袁紹軍から劉備軍に貸すものは何一つありません!」

しかたなく、とぼとぼと公孫讃軍の許に戻ろうとすると、一刀を呼ぶ声がする。

「おや、主殿ではありませんか」

趙雲であった。

「あ、星さん……」
「探しましたぞ。
昨日は昼は天幕にいたのに、夜来てみたら一刀など知らぬと言われまして。
一体どちらにおいでだったのですかな?」
「ああ、ちょっと公孫讃さんのところにお世話になってた」
「それは……関羽殿のところですかな?」

にやっと嗤う趙雲。

「ど、どうしてそれを知っている?!」
「それはもう、昨日主殿にメンマを頂きに参ろうとしたら、関羽殿の手を強引に引っ張っていく主殿をお見かけしましてな。
それで、後をつけていったら天幕の中からそれは悩ましい声。
今は主殿のところに行っては迷惑と思い、その場は退散した次第。
その後、公孫讃殿のところにいるというのであれば、関羽殿のところだろうと予想したまで」
「…………それ、誰かに話した?」
「おお、劉備殿に関羽殿を知らないかと聞かれましてな、そのように答えておきましたぞ」

どうやら、趙雲がこの事件を広めた元凶のようであった。

「はあ、そう」

元はといえば自分の責任であるから、趙雲を非難することもできない。

「…………それで、メンマね。
少しならあるから、一緒に来て」
「それはかたじけない」

気を取り直して、関羽の天幕に向かう。
一刀は田豊に放り出された荷物の中からメンマを取り出し、趙雲に渡す。
趙雲に会うかもしれないと思って、少しだけ持参しておいたのだ。
一応、主殿と慕ってくれていることだし、できることはしてあげようと思う律儀な一刀である。
どうせ荷物を放り出すなら寝るときの布も一緒に放り出してくれればよかったのに、と思っている。

「はい、今回はこれだけ。
あと、お酒も。ウィスキー」
「いやはや、このメンマは本当に美味ですからな。
この酒も桁違いに強いですし。
また、お願いいたしますな」

趙雲は嬉しそうに去っていった。

「そうそう、お代が足りなければこの体でお払いいたしますが……」

去る間際にそういい尋ねるが、

「いらないから!!」

と、一刀に拒絶されてしまうのであった。


 さて、一刀、早速仕事である。
辛いことは仕事で忘れる。
自軍の行動について公孫讃に相談に行く。

「公孫讃さん」
「おや、一刀殿。昨夜は楽しめましたか?」
「……一応まじめな話なんですけど」
「それは失礼した。
それで、どんな話だろうか?」
「袁紹軍はどんな行動をとればいいんでしょうか?
一応、俺が大将らしいんで確認したいのですが。
戦は全然出来ないから言われたことを軍に伝えることしか出来ないんですけど」
「そうだな……朱里殿はどう思う?」
「弓隊として活躍してもらうというのはどうでしょう。
一刀さんが戦が出来ないというのであれば弓隊をどこかに据えて、攻撃の合図をとってもらうのがいいと思います」
「わかりました。その通りにします。
では、戦場となる場所を事前に見ておきたいのですけど。
それから、もう少し詳細な行動を教えてくれると助かるのですが」
「ああ。それでは、朱里殿。一刀殿を案内してくれるか?」
「はい、あの、えーーっと、愛紗さんも一緒でいいですか?」
「ああ、いいがどうしてだ?」
「……襲われると困るので」

信用ゼロの一刀であった。


 一刀は、自兵20名(幹部クラス)を率いて、関羽、諸葛亮に連れられて汜水関に向かう。

「あれが汜水関……」

目の前に巨大な砦が聳え立っている。
サイズは、画面で見た感じより遥かに大きい。
幅約200mの絶壁を端から端まで覆っていて、ほとんどダム。
確かにこれを外から攻略するのは難しそうだ。

「ええ、洛陽に向かう道筋の中で虎牢関と並び重要な砦です」

実は汜水関と虎牢関は同じものという話もあるが、ここでは2箇所存在するらしい。
周りの風景は……ゲームの通りに岩だらけの風景。
結構隠れる場所が多い。

「それで、袁紹軍は傍から矢を射ればいいんですか?」
「そうですね。
作戦はこんな風に考えています。
まず、桃香様が華雄将軍を挑発して砦の外におびき出します。
ある程度砦から離れたところで斉射を行います。
あまり早いところで弓を使うと砦に戻ってしまいますから。
そこで、弓で勢いが止まって、ある程度勢力が減ったところで本体が突入しましゅ。
その弓隊の指揮をお願いします」
「はい。ということは……あの辺がいいでしょうか?
広くて敵を討つには丁度いい場所だと思うんですけど」

舌を噛んだ程度の事は、指摘しないのが紳士の嗜みである。

「そうですね。
丁度隠れるのに都合がいいですから、敵が目の前を通り過ぎたあたりで射始めればいいと思いましゅ」
「それで、公孫讃軍が突撃してきたら、斉射を止めればいいんですね?」
「その通りです」
「そのくらいだったら俺でも指示できそうです」
「よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。
元々は袁紹さんの呼びかけに応じてくれたわけだし」
「そうですね!ウフフ」

一刀は今度は兵士に話しかける。

「端から撃って矢が真ん中の敵に当たるんでしょうか?」
「大丈夫だべ。
このくらいなら端から端まで届くべ。
だから、両側に布陣したら反対側の味方にあたっちまうべ」
「そ、そうなんですか?」
「んだす」
「じゃあ、どこから撃つといいでしょうね?」
「んだな……この辺だとすんと、あの大きな岩陰に6千、向こうの岩陰に4千隠れるっつーのはどだ?
そんなら矢が自軍を撃つことがねえべ」
「あの大きな岩はいいと思うんですけど、向こうの岩は遠くないですか?」
「全然問題ね」
「そ、そうなんですか。すごいですね。
あと、何か作戦は?」
「ま、その辺は訓練どおりやるけ。
今の楽な暮らしができんのも天の御使い様のおかげだて。
天の御使い様は撃て!と、止め!だけ言ってくだされば大丈夫じゃて」
「それは助かります。
じゃあ、夜の内に忍び込んで戦まで待機することにしましょう」
「んだな!」

 袁紹にも明日突撃することが伝えられ、了承された。
他の部隊にもその旨連絡される。
全陣営動きが慌しくなる。
いよいよ汜水関突撃のときが来た。
集合から攻撃まで僅か2日!
驚異的な速度である。



[13597] 挑発
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:04
挑発

 劉備と張飛が二人で汜水関に向かっている。
華雄を挑発して汜水関の外におびき出すためだ。
後方では公孫讃や諸葛亮が心配そうに眺めている。
先陣ではないが、孫策軍も結構前方に軍を進めていて、その様子を眺めている。

「ねえねえ、鈴々ちゃん。
今回の作戦知ってる?」
「もちろん、知っているのだあ。
華雄将軍を挑発して砦の外に誘き出して、そこを叩くのだあ!!」

おもわずずっこける後方部隊。

「と、桃香、鈴々、それはちょっと……」
「はわわ、はわわ」
「……あの子、大物ね」

それぞれ、公孫讃、諸葛亮、孫策の感想である。

「そうだよね!
華雄ちゃんは抜けてるからきっとこの作戦にひっかかるよね!」
「でも、でてきてもどうせ負けるのだあ。
孫堅に負けたくらいだから、今度でてきてもまた負けるのだあ!!」
「あははは。
抜けてて弱いなんて最低だね!」
「そうなのだあ!
抜けてて弱いなんて、袁紹みたいなのだあ!」

袁紹が聞いたら頭の血管がぶち切れそうなことを平気で話しているコンビである。

「そんなこと言ったら袁紹ちゃんがかわいそうだよう。
袁紹ちゃん、ああ見えても『雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!』って全軍に指示することができるんだから。
雄々しくもなくて、勇ましくもなくて、華麗でもない華雄ちゃんと比べられたら、いくらなんでも袁紹ちゃんがかわいそうだよ」
「それは袁紹に悪いことをしたのだあ。
でも、それだと華雄には全然いいところがないのだあ。
華雄って、名前は華やかで雄々しいのに、全然違うのだあ!
だめだめだあ!!」
「そんなことないと思うよ。
きっと、一つくらいいいところがあるよ」
「それはなんなのだ?」
「うーんとね、……そうだなあ……
…………
自分が抜けているのも分からないくらい抜けているところ!」
「アーハハハ!最低なのだあ!!」

と、砦の中が急に慌しくなり、門が開くと軍勢が怒涛のように飛び出してくる。

「うぬーーー!お前等、散々の狼藉許せぬ!!
この華雄が成敗してくれよう!!」
「きゃあ、大変。
鈴々ちゃん、逃げよう!」
「そうするのだあ!
馬鹿がうつるのだあ!!」

劉備と張飛はきゃあきゃあ騒ぎながら逃げていく。
その後を顔を真っ赤にして怒り狂っている華雄軍が追いかけていく。


 こちらは袁紹軍というか、一刀軍というか……とにかく公孫讃、劉備に貸し出されている袁紹軍+一刀である。
昨晩の内に岩陰に軍を進め、そこで夜を過ごした。
一刀は、他の兵士と身を寄せ合って眠ったので、凍死することなく朝を迎えることができた。
なので、昨晩は関羽の魅力に抗う必要がなかったので、寝心地は悪かったが、精神的にはゆったりと寝ることが出来た。
関羽との過ちは一度で終わりそうだ。

 さて、その一刀。
岩陰から汜水関の様子を眺めている。
挑発の様子は……まあ、ノーコメントを決め込む一刀であるが、そのうちに本当に作戦通りに華雄が汜水関を飛び出してくる。
ぐんぐん劉備、張飛、華雄が自分のいる岩に近づいてくる。
一刀の鼓動が緊張で早くなる。
掌にじわっと汗がにじみ出てくる。
そして、劉備と張飛が自分の目の前を通り過ぎる。
それに続いて華雄軍がどどっと目の前を通り過ぎていく。
全体の8割位の兵が通り過ぎたところで一刀の号令が響く。

「撃てーー!!!」

その声に隠れていた袁紹軍がどばっとその身を起こし、射撃を始める。
日頃、広大な畑の遠方の百姓に声をかけているので、声だけは大将並みに大きくなってきた一刀である。
軍全体に指示が届いたと思われる。
だが、一刀がみれば、遠いほうの部隊はまだ隠れたままだ。
指示が届かなかったのだろうか?
何は兎も角、袁紹軍6千の弓の攻撃を受け、慌てる華雄軍。

「何?伏兵か!!
全軍、弓隊の攻撃に備え、側面を向け!!」

華雄の指示に今まで突進を続けていた華雄軍がその勢いを止め、一刀隊に向き直る。
袁紹軍の弓は、訓練を通じて改良が進んでいるようで、かなり強い威力で弓を射出することができている。
しかも、射る兵が、信長の4段撃ちよろしく、弓の3段撃ちをしていて弾幕に隙間がない。

「くっ!なんと厚い弓の層だ!」

華雄軍はその場に足止めをくらってしまった。
だが、それを待っていたかのように一刀隊の残りの部隊が斉射を開始する。

「別の弓隊もいたのか!」

華雄軍は異なる方向からの弓の攻撃に耐えられず、がたがたになってしまった。
弓だけで数百、いや数千の死傷者が出ているようだ。

「突撃ーーー!!」

その様子を見た公孫讃が全軍に突撃指令を出す。

「いくのだあ!」

張飛が水を得た魚のように飛び出していく。

公孫讃軍が充分に近づいたのを確認して一刀は最後の指示を出す。

「止めー!!」

一刀の声に、袁紹軍の射撃が一斉に止む。
あとは公孫讃・劉備軍に任せればいいだろう。
袁紹軍、一刀の仕事は終わった。

 途中、孫策軍が一刀の脇を通って汜水関に突入していった。
いけないお姉さんとは目を合わせないようにした。

華雄軍の劣勢が明らかになると、曹操軍も華雄軍討伐にあたり、華雄軍はあっけなく倒壊した。
華雄は負傷し、何故か何もしていない袁術の捕虜となった。
こうして、汜水関を落とすことに成功した連合軍であった。


「短い間でしたがお世話になりました」

汜水関が落ちたので、袁紹軍は戻される。
当然一刀も戻りたいので、公孫讃、劉備等に別れを告げている。

「えー?帰っちゃうのー?
一刀ちゃんだけでもずっといればいいのにー!
返さなくて結構です!って言ってたじゃない!!」

劉備が本当に不満そうに一刀を引き止めようとする。

「いえ、元々袁紹様の元で働いていましたし、それに大事な人がいますから」

と、帰る意志を変えない。

「でもーー……
愛紗ちゃん、愛紗ちゃん……」

今度は劉備は関羽に説得するよう依頼する。

「あの、あの、一刀さん。
もしよろしければこのままここにいてくださるとうれしいのですが……」

関羽も一刀引止めに参加する。
実は関羽は昨晩それはそれは真剣に一刀と一緒にいたほうがいいと劉備に説得されていたのだ。
最初はそんなことはと言っていた関羽であるが、愛する二人は絶対に一緒にいるべきだと言われるうちに、そんな気がしてきてしまったのだ。
二度も交わった関羽に言われると、ちょっと心が揺らぐが、それでも一刀の意志は変わらない。

「ありがとうございます、愛紗さん。
でも、やっぱり戻ります」
「そう……ですよね。
私こそ無理を言ってすみません」
「それでは、みなさん。ごきげんよう」

一刀はちょっと暗い雰囲気で戻っていった。

「あ~、かえっちゃうよう。
愛紗ちゃん、引き止めなくていいの?
愛してるんでしょ?」

関羽以上に残念そうな劉備であった。


 一刀は自分の天幕に戻る。
田豊、沮授が中にいるが、一刀の妙にシリアスに暗い雰囲気に、関羽がどうこう言って一刀を虐めることなく、素直に心配そうに尋ねる。

「どうしたの?」

一刀は暫く黙っていたが、そのうち自分の心の内を話し出す。

「今日……………生まれて初めて人が殺されるところを見た。
しかも俺の命令で何百人も何千人も死んでいった……」

田豊も沮授も何も言わずに一刀を抱きしめる。
昨日、関羽としていないことを察知した沮授は、田豊と相談して、もう許してあげようと決めていたので、辛い一刀を慰めるのに何のためらいもなかった。
夫婦喧嘩は自然に消滅した。


 汜水関の戦場となったところに、数名の人々がいる。

「あー、星ちゃんだー」
「おお、桃香殿ではありませぬか。
なぜ、このようなところに?」
「うん、ちょっと外の空気を吸おうと思って」
「酒もありますから、如何ですかな?」

その後、二人で何の話か、ちびりちびりとウィスキーを飲みながら、長々と話をしていたようだ。


 別の数名も戦場だったところにいる。

「確かこの辺から撃っていたわよね」
「はい、華琳様」
「秋蘭、ここから弓を射ってみて」
「はっ」

夏侯淵は普通に前方に的を見て、愛弓、餓狼爪を使って矢を射る。
夏侯淵。字が妙才、真名が秋蘭。
姉の夏侯惇と共に曹操に仕えている武将で、弓が得意。
矢はひょうと飛んでいき、華雄軍のいたところまでの距離の半分を越したか越さないかのあたりに落ちる。

「………どうして、袁紹軍の矢は普通に華雄軍に当たったのよ?
秋蘭なら当てられる?」
「はい、全力を出せば……」

夏侯淵は今度は弓を思い切り引き、上方に的を見て弓を射る。
先ほどよりも大きな音を残して弓は飛んでいき、ようやく華雄軍がいた場所を越したあたりに落ちる。

「秋蘭と同じような射手が普通の兵士にごろごろしているということ?」
「いえ、弓が違うのではないかと」
「弓が違う?」
「はい。ちらとしか見ておりませんが、弦が何本もあるように見えました。
それから、弓の両端に滑車のようなものがついていたようです。
その辺が何かの役割を果たしていると思うのですが。
あと、その弓の所為か、撃ち方も少し変わっていました」
「弦が何本もあって端に滑車?何かしら?
あとで、真桜にでも考えさせましょう。
麗羽は馬鹿だけど、袁紹軍は馬鹿にできないようね」
「はい」

曹操と夏侯淵はそう言って汜水関に戻っていった。



あとがき
戦闘シーンは全然わからないので、適当に創作しました。
あしからずご了承くださいませ。



[13597] 復活
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/27 18:28
復活

 虎牢関は汜水関の目と鼻の先にある。
なので、汜水関を落とした翌日には軍が虎牢関の傍に陣取っている。
虎牢関を守っているのは呂布。
先陣を務めることになったのは曹操だが、汜水関のように挑発にも乗らず、でんと構えていてなかなか難攻不落の様相を示している。

「何をしているのですか!
こんなところでぐずぐずするわけには参りませんわ!!」
「は、はい。
今、全軍で攻略を考えていますから、もう少し待ってください」
「遅いですわ!
早く落とすのです!!」

袁紹のヒステリーを顔良が必死になだめている。

「えーん、菊香さん。
一刀さんはまだ復活しないんですか?」

そう、一刀はいま一種の心的外傷を被った状態にあって、ちょっとした欝状態になってしまっていた。
だから、袁紹の相手をすることもできない。
その話を聞いたときの袁紹軍の将軍、軍師の衝撃は、袁紹軍が全滅したという報を聞いたら、そのくらい衝撃を受けるだろうというくらい酷いものであった。
今、袁紹が暴走したらどうしよう。

「ええ、まだ。
でも、清泉が一日中抱きしめていて、表情も戻ってきたので、そろそろ大丈夫だと思うんだけど……」
「早く戻ってきてくださいね。
一刀さんがいないと、袁紹軍はめちゃくちゃになってしまいます」
「わかってるわ」

失われてみると、改めて一刀の存在意義の重要性に気付く人々である。

 さて、一刀は、というと……

「清泉……」
「一刀。ゆっくり休んでいていいんですからね」
「うん。清泉のおかげで、かなり気持ちが落ち着いてきた」

かなり復活してきたようだ。

「当然ではないですか。
夫婦なんですから」

田豊、沮授の心は、もう一刀と夫婦であることが既定事実になっている。

「……ごめん、信頼を裏切るようなことをしてしまって」

ここで否定しないから夫婦になってしまっているのだろう。

「いいんです。あれは、ちょっとした事故だったんですよ。
それ以降一度もしていないでしょ?」
「知ってるんだ」
「ええ。あの次の日の朝、一刀が来たときに臭いでわかりました」

沮授、なかなか恐ろしい女である。
実は、一刀を放り出したのも一刀を試すためだったりする。
これで、関羽と再度するようなら、本当に分かれるつもりだったのだが、一刀は沮授らの信頼に応えてくれたので、二人とも一刀とよりを戻すことにしていたのだった。
一刀が信頼に応えたのが分かったので、沮授はにっこりと微笑んだのだったが、その時の一刀にそんな高度な背景が分かるはずはなかった。

「そ、そうなんだ……」
「ええ。
ところで…………人が死ぬところを見たのは初めてだとか。
あ、言いたくなければ言わなくてもいいんですけど」
「いや、清泉には知っていてもらいたい。
俺のいた世界、というか俺のいた国は平和で、戦争なんかなかったんだ。
だから、当然人殺しもないし、死ぬ時はほとんどが医者に診られながらだったから、死を実感することがまったくと言っていいほどなかったんだ。
もちろん、事故で死ぬ場合もあるけど、ほとんど身近にはおこらないから、どうも実体験がなかったんだ。
だから、人があんなにも簡単に死んでしまうなんて、衝撃で」
「そうだったんですか。
でも、残念ながら今は戦乱の世。
戦がそこかしこである時代。
麗羽様に付き従えばいくらでも人の死を目にしてしまうと思います。
それは、避けられません。
それを慣れろとはいいませんが、だから……だから、苦しかったらいつでも私を頼ってください」
「うん、ありがとう。
もう、大丈夫だと思う。
それで、少しは仕事に戻りたいんだけど……今は虎牢関の前にいるの?」
「そうですよ」
「ふーーーん」
「どうしてですか?」

何事か思案している一刀に、沮授がその思いの内容を尋ねる。

「俺の知識が役に立つなら、まもなくこの関を捨てて洛陽に戻れという指示が為されるはず。
そして、その時に我々が混乱して、それを見た呂布さんが正面から飛び出してくるはず。
呂布さんは連合軍側の何人かの武将とやりあって、どこかに消えてしまう。
その後、虎牢関は無人の関となっている、という流れのはずなんだけど、違ったらごめん」
「そうなんですか。
それでは、何となく本気で攻略しようとはしていない曹操はそのまま放っておいていいのですか?」
「うん、でも、まあ状況が俺の知っているそれと大分違うんで、その通り進むかどうかはわからないけど。
だいたい、俺の知っている知識じゃ、もう宦官はいない場合が多い」
「え?どうして、宦官がいないのですか?」
「えーっと、それは、まあ……色々あって………」

何進が殺されたときに袁紹が怒って全員やっつけました!なんていったら、笑い話になってしまいそうだ。

「いいたくないことがあるなら、別に言わなくてもいいですけど。
それで、何か今後の案はあるのですか?」
「うん、呂布さんを陣営に引き入れたいなって思うんだけど」
「呂布を?
確かに最強の武将の一人ですから味方に出来ればいいでしょうが、そんなことをしようとしたら、軍に多大な被害がでるのではないですか?」
「軍は使わない。
戦わないで味方に引き入れたいと思う」
「どうするのですか?」
「食べ物で釣る」
「食べ物で?」
「うん。そういう行動をとる呂布さんだったら、結構食いしん坊で、それに素直な性格の人だから、董卓さんを助けると言ったら従ってくれると思う」
「……今、董卓を助けるといいました?」
「あ、まだ言っていなかったんだ。
董卓って、気弱な女の子で、宦官にいいように使われているだけだと思う。
だから、陛下を助けるのと同時に彼女も助けたいと思うんだけど」
「…………少なくとも麗羽様は賛同しないでしょう」
「どうして?」
「事実としてあるのは董卓軍が宦官の手助けをして悪政をしているという点。
それはいいですね?」
「うん」
「まず、董卓が自らの意思で悪政を敷いている場合。
これは、文句なく粛清の対象になるでしょう。
では、董卓が一刀の言うとおり使われている場合。
それでも、董卓軍が宦官の手助けをしているという点には違いがありません。
そして、董卓は宦官の横暴に対し、自軍を抑えることもできない無能な将ということになります。
結局董卓は無能であるが故に宦官の手助けをしているということになるのです。
だから、やはり粛清の対象になるでしょう」
「じゃあ、董卓さんを助ける方法はないの?」
「死ぬしかないでしょう」
「そんなぁ!」
「あとは、本人が受諾するのであれば死んだことにすることですね」

ああ、蜀ルートで劉備が採った方法だ。

「本人が身分を捨てれば助かるってことだね?」
「ええ。その代わり、その作戦の責任は私たちでは取れません。
一刀が全て責を負うことになります」
「責って?」
「作戦の実行、及びばれたときの麗羽様への説明、説得しきれなかったときは……最悪の事態も考えておいてください」

殺される、ということか。
でも、あの董卓さんの雰囲気を信じて……

「わかった。
その代わり、一人だけだと辛いから、最低限の応援は欲しい」
「その点は協力します。
でも、その前に確認したいのですが、董卓を助けて我々に利することがなにかあるのですか?
呂布を引き入れることは、洛陽攻略にも有効ですし、袁紹軍の能力向上にもつながりますから意義がありますが、董卓を助けて何がいいのですか?
それがないと、ただの一刀のわがままに過ぎなくなってしまって、協力がむずかしくなるのですが」
「そうだな……
まず、呂布さんは董卓軍の一部だから、董卓さんがいたほうが呂布さんが従ってくれやすいと思う。
それから、もう一点。これは俺の予想でしかないんだけど、おそらく陛下と董卓さんは仲がいい」
「どうしてですか?」
「そうでもなかったら、十常侍の言われるままに董卓軍を動かす理由が無い。
ただでさえ偏狭の州牧なのだから、わざわざ洛陽に来る必要が無い。
陛下を守るために手伝えとか言われて、軍を率いてきたんだけど、挙句の果てに董卓が軟禁状態になって董卓軍が十常侍のいいなりになった、というのが一番ありそうな話だと思う。
仲がいいなら、陛下をお救いするときに董卓さんも一緒につれてきたほうがいいと思う」
「そうですか。
それはありそうですね。
それでは、一刀の案を元に、菊香や他の将、軍師も交えて作戦の詳細を詰めましょう。
……その前に、麗羽様をなだめてきてください」
「麗羽様?」
「ええ。虎牢関が落ちなくてカリカリしてますから」

病み上がりに、いきなり難易度の高い仕事が降ってきたのであった。



[13597] 頭痛
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2009/12/28 22:32
頭痛

 一刀が精神的なショックで沮授に慰められていたとき、別の要因で頭痛を抱えていた人間もいた。

「いたーい、いたーい。いたいよう!!
あ~ん、愛紗ちゃん、朱里ちゃん、あたまが痛いのーーー!」
「どうなさったのですか?桃香様」
「昨日、星ちゃんと一緒にお酒を飲んだの。
それが、ものすごく強いお酒で二日酔いで頭がいたいのぉ!」
「桃香様が二日酔いとは珍しいですね」
「一刀ちゃんが作ったお酒なんだって。
ウィスキーっていうらしいんだけど……すっごく強いの。
ビールが水に思えるんだから!
あ~ん、いたいよう!!
愛紗ちゃんが一刀ちゃんを連れてきてくれたら治りそうな気がする」

未だ、関羽と一刀をくっつけることに諦めきれない劉備である。

「と、桃香様!そんなことがあるはずないではないですか」
「愛紗ちゃんは桃香ちゃんの頭痛が治らなくてもいいんだ!」
「それとこれとは話が違います!」
「あ~ん、愛紗ちゃんがいぢめるぅ。いたいよう、いたいよう~~」
「知りません!!」

というのが、劉備陣営。



「え?あの子、病気で寝ているの?」
「そうらしい」

話しているのはいけないお姉さん達、即ち孫策と周瑜。
この二人、流石に北の寒さはこたえたようで、結構厚手の服を身に纏っている。

「だったら、私が誠心誠意慰めてあげるのに」
「ふ。冥琳、世間ではそういうことは虐めるというようだぞ」
「そんなことないわよう。
あの子をそれはそれは丁寧に気持ちよくしてあげて、もう出ないと言っても勃たせて搾り取ってあげて、極楽浄土を見せてあげるんだから」
「そして、それをネタに袁紹から金品を巻き上げようというのだろう?」
「失礼ねえ。
極楽浄土を見せてあげた対価と言ってもらいたいわ」
「ものは言いようだな」
「ねえ、冥琳。どうにかあの子連れてきなさいよ」
「そう無理をいうな。きっとまた機会があるから、それまで待て」
「早く慰めてあげたーいー!」
「しかし、慰めるだけでは金品を巻き上げられぬだろう。
雪蓮か誰かが犯されたという事実がないと、恐喝するのは難しいのではないか?」
「あ……そうねえ。どうしよう、冥琳?」
「知らぬ!」

ちょっと頭が痛くなってきた周瑜。
というのが、孫策陣営。



「弦が何本もあったやて?」

素っ頓狂な声をあげているのが李典。字が曼成、真名が真桜。
物作りの天才である。

「そのとおりだ。こんな感じに見えた」

説明をしているのが夏侯淵。
地面に凸凹の三日月のような絵を描いて、弦を三本ほど描き加える。

「けったいな弓やなぁ」
「そのうえ、両の端に滑車のようなものがついていたように見えた」
「滑車?」
「そうだ」

三日月の弓の両端に小さく丸を描き加える夏侯淵。

「滑車やと、弦をかけるんやろから、両側に滑車があるっつうことは………
こんな感じに弦を張るんやろな」

夏侯淵の描いた弦を一旦消して、一往復半させた弦を描く李典。

「……何のために?」
「……わからへん」
「………」
「………っあーー、その弓、手に入れたいなぁ」
「それは難しいだろう。
退却命令があるなり、袋に弓をしまっていたから、袁紹軍で改良した門外不出の弓なのだろう」
「そうやろなぁ。ああ、悔しいなぁ。袁紹軍に負けるなんて」
「許に戻ったら色々作ってみてはどうだ?」
「そう、するわ」

弓を考えて頭痛がしてくる李典。
というのが曹操軍。



 そして、一刀が復活した後の袁紹軍でも………

「一刀さん、待っていたんですよ!」

顔良がそれは嬉しそうに一刀に飛びついてきた。

「斗詩さんの方が麗羽様との付き合いが長いじゃないですか!」
「それはそうなんですけど、麗羽様と一刀さんって波長が合うって言うか何ていうか……
とにかく、あの癇癪を何とかしてください。お願いします!!」

一刀は考える。

今回の仕事はレベルが高すぎる。
今までは、何かをやってもらうのにその理由を考えればよかったんだけど、今回は砦が攻略できない言い訳を考えなくてはならないのだから。
だって、どうみたって攻略できてないもん。
言い訳って言ったってねぇ……

「斗詩さん」
「なんですか?」
「今、攻めているのは曹操軍だけですよね」
「ええ」
「それだったら何とか……」
「お願いします!」

一刀は袁紹の許へと進む。

「あら、一刀。もう病気は治りましたの?」
「はい、もう大丈夫です。
ご心配おかけしました」
「そう、それはよかったですわね。
それで、この戦局は聞きましたか?」
「はい、何でもまだ虎牢関を落とせないとか」
「そうですのよ!あれから3日も攻撃しているのに全然落ちないのですわ!
どうにかなさい!!!」
「それなのですが、もう少し待ってはいただけないでしょうか?」
「どうしてですの?早く董卓を倒すためには虎牢関に留まるわけにはいかないではありませんか!」
「そのとおりです。
そして、華麗な袁紹軍が攻撃すればものの半日で攻略できることでしょう!
でも、今攻撃しているのは曹操軍。
曹操さんはちんちくりんで髑髏の髪飾りをつけるような狂った服飾の感覚の持ち主で、華麗でも何でもありません」
「オーッホッホッホ、いいことをいいますわね。
本当のことですわ!」
「ですから、そんな曹操さんが攻撃していてはなかなか落ちないのは道理」
「それでは、私の軍でさっさと攻め落としてしまえば良いではありませんか!」
「それなのですが、今麗羽様はこの連合軍の総大将」
「そうですわ!」
「曹操さんのように華麗でない人間が間近に見る麗羽様を師匠として、麗羽様のような華麗な行動を会得しようと四苦八苦しているのです。
確かに董卓を討つ事は重要ですが、総大将として華麗な軍事・政治を大陸に広めるというのも一つの大事な仕事ではないでしょうか!
今、曹操さんは麗羽様を目標に試行錯誤をしているところなのです。
ですから、ここは総大将としておおらかな気持ちで、今しばらくお待ちください!」

曹操が聞いたら、間違いなく一刀の首が飛ぶだろうという内容で、どうにか説得を試みる。

「ま、そ、そういうのでしたら、もう少し待ってあげてもよろしくてよ。
そうですわよね、この私の華麗さを広めなくてはなりませんものね。
オーーーーッホッホッホ!!」

袁紹の機嫌も直ったようだ。

「でも、それほどは待てませんわよ!
早々に攻略するよう手配しなさい!」
「はい、分かりました!!」

何で俺が?とは、もう考えない奇特な一刀である。


「何とか機嫌を直してくれましたが……言った内容は曹操さんには絶対秘密ですからね!」

袁紹の許から下がった一刀が顔良に念を押している。

「もちろん!ありがとう、助かったわ!」
「斗詩さんも」

付き合いが長いんですから、もう少し麗羽様をおだてて機嫌をとってくださいよう、と言おうとした一刀であるが、顔良の唇に自分の口を塞がれ、続きを言うことはできなかった。
濃厚なキスの後……

「続きはお城に帰ってから。ね?」

顔良の言葉に、田豊・沮授の顔が浮かび、かといって顔良を無下に断るわけにもいきそうになく、ちょっと頭痛がしてきた一刀であった。



[13597] 混乱
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:06
混乱

「ところでさあ、何で曹操軍が攻めているのに虎牢関は落ちないんだ?」

一刀の素朴な疑問である。

「それはもちろん曹操は本気で落とそうとは思っていないからよ」

田豊が答える。

「どうして?」
「確かに虎牢関は難攻の砦ではあるのだけれど、それ以前に曹操に董卓や宦官を憎む気持ちは麗羽様ほど強くはないし、それにこれは袁紹軍にも言えることだけど自軍の強さを今後戦うかもしれない他の諸侯に示したくないし……」
「なるほどねえ」
「だから、洛陽についたら袁紹軍は単独で南側より攻め込む予定なの。
他の諸侯に戦の様を見られないようにするために。
恐らく1刻か2刻もあれば攻め入れると思う。
その間、他の諸侯はまだ城壁を攻めあぐねている時でしょうから、その間に王宮を落として陛下の身柄を確保する。
董卓を助けたければその時にすることね。
南が破られたと知ったら、他の面を守っている兵もこちらに向かうでしょうから、城壁の守備が手薄になって、他の諸侯も洛陽に攻め込むでしょう。
袁紹軍が自由に活躍できるのはそれまでの一時に限られる」

1刻=2時間なので、1~2刻ということは2~4時間。
圧倒的な戦力で攻め込むのだろう。

「洛陽は分かったけど、とりあえず目前にある虎牢関はどうするのさ?」

一応軍議(除袁紹)なので、来ている軍師、将軍は全員揃っているが、話はほとんど田豊が行っている。

「一刀の予感では連合軍が混沌としているときに呂布が飛び出してくるのよね」
「……多分」
「だったら、簡単。
虎牢関を見張っていて、どうも動きがあったようだと判断したら、麗羽様に突撃を命じてもらえばいいのよ」
「麗羽様に?危なくない?」
「麗羽様の身柄は猪々子に守ってもらう。
いいわよね?」
「ああ、合点だぜ!」
「それから?」
「麗羽様のすごいところは、一刀がいなければどんなに単純なことでも複雑にすることができるところ。
一刀はその時呂布対策ではるか遠くにいる。
だから、麗羽様の指示で攻め込んだら曹操軍が多少耐えても戦場は大混乱に陥る」
「……菊香、それ誉めてないから」

将軍、軍師はみな笑っている。
そんな能力でも誰も袁紹を見捨てないのは、一刀のおかげだろうか?

「これで、一刀の予感が正しければ呂布が飛び出すはず。
斗詩と猪々子は被害が及ばないように呂布に道をあける。
これが作戦の全貌」
「それで、もし呂布が飛び出してこなかったら?」
「仕方がないから斗詩と猪々子にそのまま攻め込んでもらう。
ある程度の城攻めの道具は持っていくことにしましょう」
「兵士は充分にいるから大丈夫でしょう」

顔良もそれに同意する。

「それで、一刀は清泉と一緒に遠方に控えて肉饅を準備するんだっけ?」
「そう」
「それで、投降に同意したら呂布を業に連れて行くというわけね」
「そう……なんだけど、俺は董卓さんの所にもいかなくてはならないから、誰か適当な人がいないかな?」
「そうね。
連れてきた将、軍師の中では……臧洪あたりでどうかしら?
義を重んじる将で、そういう理由であれば彼も納得するでしょう。
まだ袁紹様に仕えたばかりで、独自の兵もなく、彼がいなくても大勢に影響はないし、丁度いいと思うわ」
「分かった。俺からも頼んでみる」

作戦は決まった。
後は、砦で動きがあるのを待つだけだ。


一刀は食料部隊に毎日1000個の肉饅作りを命ずる。
何時、呂布が出てきても大丈夫なように。
そして、呂布が出てこなかったら、肉饅はその日の抽選に当たった部隊の腹に収まる。
その抽選会は袁紹軍の中では結構盛り上がったりしていた。

「許大隊長、頑張ってくれ!!」
「おう、まかせんしゃい…………っああーー、外れじゃ。。。」
「あぁぁぁ……」

落胆する許部隊

「韓大隊長、絶好の機会だぜ。
絶対当たりを引いてくれよなあ」
「おお、任せとけ…………やったぜ!当たりだ!!」
「おおおお!!さすが、韓大隊長」

とまあ、虎牢関を前に、息抜きもしている袁紹軍である。


 そうこうしているうちに虎牢関の様子がおかしくなってきた。
見張りの兵士の数が減り、曹操の挑発にも応じなくなってきた。
作戦実行の時が来た。
一刀は袁紹の許に向かう。

「麗羽様」
「何かしら?一刀」
「曹操軍はここまで待っても虎牢関を落とせません。
もう、麗羽様の我慢も限界でしょう。
どうでしょう、ここは一つ麗羽様が自ら華麗な軍の采配を見せて、ちんちくりん曹操に華麗とはどのようなものか示してみては如何でしょうか?」
「オーッホッホッホ。そうですわね、もう我慢も限界ですわね。
斗詩、猪々子、全軍雄々しく、勇ましく、かれ~に進軍ですわ!」
「はい!」
「わっかりましたーー!!」

一刀は顔良、文醜らに目配せをして、沮授と共に戦列を離れていく。

 袁紹軍全軍は、袁紹の指示の許、整然と虎牢関に向けて進軍を始める。
が、唯でさえ狭い峡谷である。
10万人の人間が押し寄せてきたら、渋滞するに決まっている。

「華琳様、大変です」
「どうしたの?桂花」
「後方より大部隊が進軍してきます!」
「何ですって?それは敵なの、味方なの?」
「味方ではあるのですが、袁紹様が全軍を進軍させたようです」
「はあ?何をかんがえているのかしら、あの馬鹿は。
こんな狭いところに大軍を進ませては混乱するということがわからないのかしら?」
「わからないのではないでしょうか?」
「っ……もう、どうしたらいいのよ!」

曹操は状況を確認する。
前方は虎牢関が峡谷の端から端までを覆っている。
後方は袁紹軍が峡谷の端から端までを埋め尽くしている。
左右は断崖絶壁で逃げ場がない。
流石の曹操も為す術無く、曹操軍は袁紹軍と接触するや大混乱に陥ってしまった。
と、それを待っていたかのように虎牢関の門が開き、中から呂布と思しき部隊が突撃してきた。
恋姫史実の通りであった。
袁紹軍はそれを確認すると出エジプト記の海のようにざっと二手に分かれ、呂布の通り道を作る。
呂布軍はその間を悠々と通り過ぎていってしまった。
その後、公孫讃・劉備軍や孫策軍と手合わせがあったようだが、ほとんど被害を受けることもなく戦場を去っていってしまった。


 こちらは、一刀、沮授、臧洪、及び数名の兵士(給仕兵)。
峡谷の外の荒野で待っている。
一応、目印として肉饅の幟を急造して高々と掲げている。
そして、竈を作って肉饅を温かく蒸し始める。
準備が一段落したところで、一休み。

「うまくいったかなぁ?」

心配そうな一刀。

「大丈夫でしょう。
一刀の予想は、ここというときは当たりますから」
「だといいんだけど。
あと、呂布さん、ちゃんとこっちに来てくれるかなぁ」
「それも大丈夫でしょう。
あの峡谷を出たら、ここに来るしか道がありませんから。
ほら、言っている傍から土煙が」
「あ、本当だ」
「あとは任せますよ」
「うん……」

土煙を見ていると、虎牢関の方向から一本道に沿ってこちらに向かってくる。
が、土煙は道沿いに進まず、物理的にまっすぐに荒野に向かっていってしまう。
荒野の真ん中を砂塵が動いていく。

「……あれ?」

作戦は失敗か、と思われたが、突如砂塵の向きが一刀方面に向き直り、あとはまっすぐと肉饅目指して突進してくる。
どうやら、肉饅の幟が見えたようだ。
それから、ドドドと馬群、約100騎が一気に走り寄ってきて、一番前の大きな馬、多分赤兎馬に乗ったやたらスタイル抜群の長身のちょっと赤毛のショートヘアの美少女、恐らく呂布が一刀に話しかける。

「肉饅……」
「呂布さん、お待ちしてました。
呂布さん達のために肉饅を用意して待っていました」

その言葉を聞くと、呂布は方天画戟を一刀の首筋に当て、

「何で……名前を知っている?」

と尋ねる。
彼女が呂布で間違いないようだ。
呂布。字が奉先、真名が恋。
一刀は、戟を当てられたまま、堂々と返事を返す。
死に直面して肝が据わってきたのだろうか。

「まず、自己紹介から。
俺の名前は北郷一刀。
袁紹軍で農業指導をしている」
「農業指導?」
「その通り。仕事はそれだけなんだけど、俺は天の御使いとも呼ばれていて」
「天の御使い?」
「そう、それで、実際に今後起こることが予見できたりもする。
今回、呂布さんが突撃してくるのも、その力で予見した」
「………」
「他に知っていることは、董卓さんが宦官にいいように操られているということ。
だから、俺は董卓さんを助けたい」
「月を?」
「そう。でも、現実に董卓軍が宦官の協力をしているように見える状況では、この討伐自体をなくすことはできない。
だから、董卓さんには陛下の侍女にでもなってもらって、冀州に来てもらおうと思っている。
呂布さんも洛陽に戻って我々に抗することなく、袁紹様の許で一緒に行動して、董卓さんを守ってもらいたい。
どうだろう?協力してくれるだろうか?」

呂布は一刀の顔をじっと見る。
信じてよいものかどうか思案しているのだろう。
が、程なく……

「信じる」

あっさり一刀を信じる呂布である。
確かに、純粋な心の持ち主だったから、董卓を助けたいという気持ちが一刀を信じさせたのだろう。
ところが、

「恋殿、このような素性の分からぬ怪しげな者の言うことをむやみに信じてはなりません!」

どこに隠れていたのか、小さな女の子が口を挟んできた。
どうみてもこの体のサイズは陳宮だ。
陳宮。字が公台、真名が音々音。
呂布に心酔している軍師である。

「大丈夫。目が正直だった」
「ですが!」
「十常侍より酷い人はいない」

確かに!

「……恋殿がそこまでおっしゃるのでしたら」

陳宮も納得したようだ。

「よかった。
それじゃ、董卓さんは俺が責任もって助けてくるから、呂布さんは彼、臧洪さんについて業に先に行っていてください。
あと、折角だから肉饅も食べていって」

呂布はコクリと頷く。

「それじゃ、俺は袁紹様のところに戻るから」
「月を……助けて」
「うん、絶対助けるから」


 虎牢関は予想通り空き家になっていて、曹操軍は難なく虎牢関に入ることができたのだった。

 一刀と沮授は、臧洪と呂布が出発するまで呂布の様子を見ていた。
沮授は呂布が一生懸命肉饅を頬張っている姿を見て、かわいい♪と思っていたりした。
肉饅1000個は呂布軍約100名の胃袋に全て収まってしまった。
ちょっと計算が合わない胃袋の持ち主達であった。

「それでは、沮授様、一刀様。先に戻っております。
呂布殿は責任をもって業に連れていきます」
「「お願いします」」

臧洪、呂布らは業に向かっていった。



[13597] 逃避
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:08
逃避

 虎牢関を落とした翌日、連合軍はもう洛陽に向けて出発する。
曹操軍以外は虎牢関攻めの間、休んでいたようなものだから体力は充分なのだろうが、史実では相手の様子見に終始して攻撃を禄にしないという有様であったそうだから、それとは全く異なる。
この袁紹、燃えている。
宦官を殲滅させた時の袁紹の心意気なのだろうか?

 虎牢関と洛陽は2~3日の行程なので、途中で野営をする。
その時の情景。

 一刀は野営地の中を一人歩いている。
遠くに洛陽が見える場所があると聞いて、その高台まで行ってみようと思ったのだ。
だが、行軍の後に散歩を始めたので、出発すぐに日が傾き始めている。
そもそもそんな時に散歩をしようとしたのが間違いの元だった。
一刀は目的地に辿り着くことなく、野営地を少し離れたところで引き返すことにする。

まだ明るい内に野営地についたので、もう安心だろう。
暗くなっても袁紹軍の陣地は?と聞きながら行けば、辿り着けるに違いない。
巨大な軍勢だから、野営の場所も広い。
と、軽い足取りで自陣に戻っていると、一刀に後ろから声をかける者がいる。

「あなたが北郷一刀ね?」

一刀は、その声を聞いた瞬間、背筋にぞぞ~~っとするものを感じた。
だって、その声はどう考えても……

「そ、曹操さん……」

振り返ってその姿を確認した一刀は、曹操に声をかける。
袁紹と同じような金の髪に、トレードマークの髑髏の髪留め。
服は極めて普通。
比較的地味。
体形は……まだちょっと子供っぽいところが残っている。
曹操だといわれなければ、見過ごしてしまうくらい普通の少女だ。
威厳、というか覇気は…………怒りは感じるが威厳・覇気は不明。
同行しているのは曹操以外に3名。
荀彧は荀諶そっくりなので明らか、他は夏侯惇、夏侯淵だろう。

「あら、私のことを知っているの?光栄ね。
それはそうでしょうねえ。
麗羽にそれはそれは面白い紹介をしてくれたようですからねえ」

袁紹に対して口止めを進言するのは、一刀をもってしてもちょっと、という感じだったので何も言わないでおいたら、やっぱり曹操に一刀の言葉を伝えてしまったようだ。

「そ、そうですか?」
「ええ、それはもう麗羽は面白おかしく聞かせてくれたわ。
もう、頭に血が上って何といったか忘れてしまったくらい。
ねえ、もう一度この私にその言葉を聞かせてくれるかしら?」

言ったら最後、首を切られることは火を見るより明らかだ。
一刀は話題を変えることを試みる。

「ちょっと俺もよく覚えていないんですけど……
あ、後ろの体形がよく胸の豊かな美人が夏侯姉妹ですね。
…………………………あれ?」

夏侯姉妹の話題をしたのに、曹操がゴゴゴという異音を発するが如く怒りで燃え上がり始めた。

「ええ、ええ、そうでしょう。
どうせ私ははちんちくりんで髑髏の髪飾りをつけるような狂った服飾の感覚の持ち主で、華麗でも何でもなくて、体形が悪く、胸がない不細工な女ですわよ」

夏侯姉妹を誉めたということは、他2名はそうでないということを暗に示唆しているという事に、曹操の様子を見て初めて気付いた一刀であった。

「い、いえ、決してそんなことは……」
「この曹操、生まれてこの方、これほどの侮辱は受けたことがないわ!
桂花!」
「はい!」
「分かってるわね」
「はい!」

曹操、じりっじりっと一刀ににじり寄っていく。

「は、話せば……」

分かるような雰囲気は全くない。

「ごめんなさい!!」

一刀は脱兎の如く逃げ出していく。

「あ!逃げた」
「待ちなさい!!」

一刀+危ないお嬢さん2名が走り去っていってしまった。

「我々はどうすればよいのだ?」

夏侯惇が夏侯淵に尋ねている。

「ふ、何もしなくてよい」
「そうなのか?」
「華琳様はあれで楽しんでおられるのだ」
「そうなのか……」

小首を傾げながら、曹操の走り去っていったほうを眺めている夏侯惇であった。

「それにしても………体形がよく胸の豊かな美人、か。
いいことをいう男だな、あれは」
「フフ、そうだな、姉者」

ちょっと………かなりうれしそうな夏侯惇であった。
胸をゆすってご満悦である。

だが、楽しまれるほうはたまったものではない。
必死に危ないお嬢さん達から逃げ回っている。

「こっちよ!」

一刀が逃げ回っていると、天幕の中から手招きする者がいる。
天の助けとばかり、その天幕に飛び込む一刀。
危ないお嬢さん達は天幕の前を通り過ぎていったようだ。

「どうも危ないところを助けていただき………」

一刀が礼をしようと助けてくれた人を見たところ、それはいけないお姉さん達、即ち孫策と周瑜であった。
危ないお嬢さんからは逃げられたが、危機的状況はあまり変わっていないようだった。

「あ~ら、お礼なんていいのよ。
私達もあなたを探していたのだから」

二人がにやっと怪しく嗤っている。

「さすがに裸といわれると癪だから、あなたの言うとおり服を着ることにしたわ。
いい?あなたに言われて仕方なく服を着たのだからね。
まあ、そういうわけだから、あなたには感謝しようと思うのよ。
だからね、これから存分に私達に感謝されなさい」

感謝と言っても、どうみても雰囲気が怪しい。
全うな感謝とは思えない。
いけないお姉さんと、危ないお嬢さん。
どちらがましか?

「失礼しました!!」

一刀は天幕を飛び出していく。
どちらがましか?の答えは簡単だ。
どちらも危ない。
一刀は両方から逃げる決断をする

「あ!逃げたわ。追うわよ、冥琳」
「うむ!」
「華琳様!いました!」
「よくやったわ、桂花!」

漢の有力武将とその軍師、美女4人に追いかけられる幸せ者である……ようには見えない。
必死に逃げ惑う一刀である。

「こちらへ」

またしても一刀を天幕に誘う者がいる。
罠か?とも思うが、あの4人に捕まるよりはましだろうと思い、その天幕に飛び込む。

「孫権さん……」
「喋らないで。動かないで!」

孫権は一刀を床に寝かせると、その上に布を被せて一刀を隠すと、自分はその上に座ってソファーのように一刀を扱い、本を読み始める。
そこにやってくるいけないお姉さん達。

「ねえ、蓮華!ここに誰か来なかった?」
「いえ、誰も」
「そう、分かったわ。
一体あの子どこに消えたのかしら?」

いけないお姉さん達は去っていった。

「あの……」
「もう少し待って……」

孫権は動き出そうとする一刀を制して、外の様子を伺っている。
暫くして……

「もう、大丈夫でしょう」
「どうもありがとうございました」

布を取り去り、起き上がった一刀は早速に孫権に感謝の意を伝える。

「いえ、私こそ感謝しなくてはなりません」
「……別に感謝されるようなことは何もしていませんが」
「姉達は北に来て寒い寒いといいながらもあんな格好をしていました。
それが、あなたに裸だと言われた後、あなたに言われたから仕方なく服を着ると言って、服を着るようになりました。
余程勘に触ったのでしょう。
ですから、あなたがいなかったら未だに我を張って服を着なかったに違いありません。
あなたが姉達に服を着せてくれたようなものなのです。
私もあんな変な格好は早く止めてもらいたかったので、本当に感謝しているのです」
「はあ、……そうですか」

思わぬことで感謝され、どうにもピンとこない一刀である。

「ところで、あなたは北郷一刀、天の御使いと言われている人ですね」
「……ええ、そんな風にも呼ばれています。
よくご存知ですね」
「私達の許にまでその活躍は届いていました。
冀州の食料生産量が、驚異的に増えたとか。
そして、それを指示したのが天の御使いといわれる男だとか」
「そんなに立派なことはしていないつもりなんですけど……まあ結果として食料は潤沢になりましたね」
「……お願いがあるのですが」
「何でしょうか?
助けてくれたことだし、俺で出来ることでしたらやりますけど……」
「是非私達と同行して、その能力を私達のために使ってください」
「そ、それはちょっと……」
「…………そうでしょうね。
無理なお願いだとは思いました。
それでは、何か食料に困窮しないための助言か何かはありますか?」
「まあ、気持ちは分かりますが。
今、袁術さんに食料の殆どを頼っているので、それを何とかしたいのでしょ?」
「………そういうことです」

孫権は、一刀の能力を見極めようとするようにじっとながめ、それから自分の動揺を隠すように静かに答えた。

「でも、助言と言っても……基本的に農業生産量は労働力に比例しますから。
同じ耕作面積、同じ労働力で収量を増やそうと思ったら、それはよく実のつく種を選んだり、植え付けの時期を選んだり、と地道な活動をしないとなりませんが、それには実際に田んぼを見てみないと。
それでも収量増は大したことありませんから、やはり労働力と農地を増やすのが一番ですね。
例えば……例えばですよ、袁術の領地、領民をまるまる頂くとか……」

孫権の目がぎらりと一刀を睨む。

「あなた、何を知っているの?」
「いえ、何も。あくまで可能性の話をしたまでです」
「そう、可能性ね」
「ええ、可能性です」
「それでは、可能性のついでとして聞きたいのですが、私たちと袁紹軍が戦うことはあるのですか?」
「今のところ袁紹様は大陸の北の端、孫策、孫権さんは南の端で、途中にまだまだ諸侯がいますからね。
戦うことはないんじゃないですか?」
「………それは、我々がその諸侯に潰されるということ?」
「さあ、どうでしょうね?」
「また、可能性として考えられることとしたら?」
「可能性……ですか?
そうですねえ、例えば曹操さんとか」

助けてくれた手前、少しは知っている情報を流す一刀である。
この世界でそれが当たるかどうかは不明だが。

「そうですか。例えば曹操ですか」
「ええ、例えばです」
「先のことでまったくわかりませんが、何かのときに思い出すかもしれません」
「そうですね。まあ、変な男が変なことを言っていたとでも思っていてくだされば充分です」
「それでは、貴重なお話もできましたし、そろそろ戻られたらいいのではないでしょうか?
もう、姉たちはいないようですから」
「わかりました、ありがとうございます」

一刀は孫権の天幕を出る。

「姉たちはいませんが、他は気をつけてくださいね」

という孫権のつぶやきは一刀には届かない。

「華琳様!いました!」
「よくやったわ、桂花!」

………曹操軍の追撃は執拗であった。



[13597] 洛陽
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/01/03 10:35
洛陽

 その後は特に問題もなく洛陽に到着した。
洛陽に到着するなり、袁紹軍から各諸侯に命令が発せられる。
明日、朝を以って総攻撃を行う。
南は袁紹軍、東は公孫讃・劉備軍、陶謙軍、橋瑁軍など、北は曹操軍、劉岱軍、孔融軍など、西は袁術・孫堅軍、袁遺軍、鮑信軍など。
袁紹軍としては、他の軍はあまりあてにしていない。
どうせ、様子見に多少攻撃をするだけで本気で洛陽を攻め落とそうとはしてこないだろう、洛陽に入ったら漁夫の利でももらおうかと思っている程度だろう、と見ている。
だから、単独で洛陽を落とせるだけの勢力を率いてきている。

 洛陽には、結局董卓軍の主力は戻らなかったから、今洛陽を守っているのは董卓軍でも二級の武将、それから主力が漢の正規軍。

「あの……麗羽様?」
「なんですの?一刀」
「洛陽を守っているのは、漢の正規軍が主な部隊になると思うのですが」
「ええ、そうですわね」
「敵が皇甫嵩様でも攻め落とすのですか?」
「……悪政に協力しているのなら、たとえ相手が陽であっても攻め滅ぼさなくてはなりません」

この袁紹、違う!
始めてみる強い決意を持った袁紹だ。
業にいたときと別人ではないだろうか?

「わかりました」

董卓のことも聞こうと思っていたが、それはやめた。
この決意であれば沮授の言ったとおりのことを考えているだろうから。


 袁紹軍工作部隊は持ってきていた資材で夜通しで何か作っていたようだった。
そして、夜が明けて、その実体が明らかになる。
そこにあったのは大量の櫓。
高さは5mほどか?
洛陽を囲む城壁の高さの半分強といったところに見える。
これでは、城壁を越すのは難しいと思うのだが……と思っている一刀である。
おまけに櫓は城壁からかなり離れたところに置かれている。

「董卓、宦官の悪政は目に余るものがありますわ。
この袁紹がみーんなまとめて退治して差し上げますわ。
やーっておしまいなさ~い!」

洛陽を攻撃するにしては、なんとものんびりした開戦の号令が袁紹よりなされる。
……やっぱり業にいた袁紹と同一人物だろう。

「撃てー!!」

顔良はその声を受けて、弓隊に射撃開始を指示する。
櫓に登っているのは大勢の射手たち。
袁紹軍スペシャルの弓で城壁の上の兵を撃っている。
洛陽守備軍の方が5mは高い位置にいるのに、彼等の弓は櫓の少し手前までしか届かない。
高さの不利を弓の性能でカバーしているようだ。
というよりも、弓の性能を考えて、この櫓でよいと判断したのだろう。
弓の先は城壁の一点。
比較的城壁が低目のところを狙っている。
守備隊もそれは分かっていて、そこを必死に防衛しようとしているが、如何せん袁紹軍の攻撃は凄烈を極めた。
次第にほころびが見えてきた。

「突撃ー!」

文醜の声が響く。
文醜軍の一部が梯子を持って、敵兵のいないところをよじ登っていく。
城壁の上は、次第に袁紹軍が数を占めるようになってきた。
そして、ついに……

ギギーーー

城壁が重い音を出しながら開かれる。

「全軍突撃ーー!!」

文醜の声が再度響く。
顔良の射撃指示から突入まで1時間余。
明けても暮れても訓練を繰り返してきていた袁紹軍と、贅沢三昧の宦官らの護衛しかしていない漢正規軍の力の差は歴然だった。
ここに、洛陽攻防の趨勢が決まった。

「一刀さん、私達も行きます!」
「はいっ!」

顔良の声に、一刀も洛陽に飛び込んでいく。
一刀の目的は董卓の保護。
顔良の目的は陛下の保護。
文醜の目的は十常侍ら宦官の殲滅。
全員目指す先は王宮だ。
袁紹の目的は……朗報を待つこと。
なので、その場に待機。
確かに、戦場にこられたら迷惑そうだ。
一刀よりも運動神経が鈍そうだし。


洛陽。
その当時世界最大の都市であり、王宮の規模も半端でない。
だが、王宮の内部構造は分かっているし、陛下や董卓、宦官らのいそうな場所のあたりはついているので、顔良、一刀、文醜はそこを目指して走っていく。

「やい、てめーら、覚悟しやがれ!!」

最初に文醜が宦官と出会う。

「い、命ばかりはご勘弁を……」

と、命乞いをする宦官もいるが、

「うっせー!そう民に言われて助けたことなんか一度だってねえんだろ!」

と、文醜に看破されて誰一人として袁紹軍から逃れられない。

「麻呂が張讓と知っての狼藉か?」

一際偉そうな宦官が文醜に面と向かっている。
逃げなかっただけ立派かもしれない。

「あたいにとっちゃ、誰でも関係ねえ!
その台詞は閻魔様にでも言ってくれ!」

だが、張讓はしぶとかった。
手近にあるものを手当たり次第文醜に投げつけて、なんとか保身を図る。

「こんなところで死んでなるものか!」
「うわ!ちょっと、そんなもの投げんな!」

張讓は暖をとるための火のついた薪を次々と文醜に投げつける。

「うるさい!麻呂は逃げるのじゃ」

だが、手持ちの武器は次第に減っていく。
そして、とうとう投げるものが何もなくなってしまった。

「観念するこったな!」
「ま、まて!」

それが張讓の最後の言葉になった。

こうして、武芸に秀でない宦官たちは、悉く文醜たちに殲滅させられていった。


 一方の顔良、一刀組は陛下と董卓を探し回っている。
陛下がいるとしたら、後宮だろうと予想して回ったのだが、どこにもいない。

「え~ん、陛下がみつからないよう」

陛下がいないどころか、誰もいない。
後宮には女がうなるほどいるはずなのに、人っ子一人いないので、聞くことも出来ない。

「先に董卓さんを探しませんか?
彼女なら陛下の居場所を知っているかもしれません」
「うん、そうしよう」

こうして、今度は董卓がいるだろうと目星をつけておいた部屋に向かう。
顔良、一刀達が部屋に入ると、髪に軽くウェーブのかかった気の弱そうな少女が2名、それから気の強そうな少女が1名いた。
気の弱そうな少女のうち、一人が董卓だろう。
リアルな人間なのでゲームの絵を知っているだけではどちらが董卓か判断できない。
二人とも何か雰囲気がそっくりだから。
気の強そうな少女は賈駆に違いない。
もう一人は……董卓の侍女か誰かだろうか?
気の弱そうな二人が手を握り合って恐怖に打ち勝とうとしているように見える。

「董卓さんは?」

一刀が尋ねると、気の強そうな少女が一刀と気の弱そうな少女達と一刀の間に割って入って手を大きく広げて一刀の進路を塞ぐ。

「月は全然悪くない!
陛下の友達なのをいいことに、十常侍にいいように使われていただけなんだから!」

やはり、陛下と董卓は予想通り仲がいいらしい。
賈駆。字が文和、真名が詠。
必死に董卓を守ろうとする賈駆、健気だ。
それでも、体が震えているのは隠せない。

「俺は北郷一刀。袁紹様に仕えている。
詳しいことはいえないけど、大体状況は知っていて、董卓さんを助けに来た。
今、俺達袁紹軍が宦官を殲滅させているところだ。
それが終わったら王宮に小火をつける手筈になっている。
董卓の死体が出てこないと不自然だから、董卓は死んだことにしてもらう。
それを他の諸侯が来る前に終えてしまわなくてはならない。
だから、本当の董卓さんは陛下の侍女として俺達と一緒に逃げて欲しい。
賈駆さんも一緒に」
「た、助けてくれると言うことは感謝する。
でも、それでは月が身分を捨てるって事じゃない!
ボクは許さない」

命が助かりそうだと聞いて、急に元気が出てきた賈駆である。

「詠ちゃん、もういいよ。
私が身分を捨てれば詠ちゃんが助かるなら、よろこんで身分を捨てるよ」

やはりおっとりしている董卓。字が仲穎、真名が月。

「そんな、月!
月は雍州の州牧なんだよ!
それなのに宦官にだまされたというだけで、その身分を捨てるなんて!
ボクはいやだよ!」
「詠ちゃん、もういいの。
私もそんなに権力が欲しいわけではなかったんだし、私の部下が宦官の指示に従って悪事の加担をしていたことも事実だし。
だから、殺されても仕方ないと思っていたの。
詠ちゃんが助かるなら何でもする。
お願い。言うことを聞いて」
「月……」

賈駆、涙を呑んで董卓の言うことを聞くことにする。

「わかったわ!
月の命令だから、仕方なくあんたの言うことを聞くことにする!」
「よかった。
それで、陛下もお救いしたいのですが、居場所はご存知ですか?」
「はい。
陛下です」

董卓はもう一人の気弱そうな少女を陛下と紹介する。

「「え゛ーーーーー?!?!」」

一刀と顔良の驚きの声が部屋に響き渡る。
陛下が女?
驚きの事実である。
後宮がからっぽだったのも頷ける。
曹操のような趣味がない限り、女は不要だから。
董卓がいなかったら永遠に劉協見つからなかったかもしれない。
それに、部屋に入ったときの様子を見ると、董卓と陛下はかなり仲が良さそうだ。
陛下も董卓が生きていたほうが嬉しかったことだろう。
やはり、董卓を救うことにして正解だった。
一刀と顔良は慌てて跪く。
この雰囲気だと宦官に対抗するのは無理そうだ。

「あ、あの、話は大体分かったと思いますが、悪政の根源の宦官を滅ぼしています。
この王宮は血まみれになることでしょう。
ですから、陛下におかれましてはほとぼりが醒めるまで袁紹の本拠地、業にお越し願いたいと思います」

一刀が跪きながら陛下、劉協に同行をお願いする。

「わかりました。あなた方を信じてついていくことに致します」
「ありがとうございます」
「それから、地下牢に皇甫嵩や心ある有志が囚われておりますから、彼等も救って頂けないでしょうか?」
「わかりました。
それじゃ、一刀さん、救出は私がやるから、陛下をお連れして下さい」
「了解!」

一刀と数名の兵士は劉協、董卓、賈駆を連れて洛陽の外へと向かう。


「あの、一刀さん……でしたっけ?」

董卓が申し訳なさそうに一刀に話しかける。

「はい、そうです。なんでしょうか?」
「あの、私と詠ちゃんは大丈夫なのですが、陛下はあまり長く歩いたことがありませんので抱いていってもらえないでしょうか?」



[13597] 救出
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:09
救出

 顔良は地下牢に向かう。
もう、この時期反抗する兵士もおらず、楽々地下牢に達することができた。
だが、誰もいないので鍵もない。

「皇甫嵩様~、皇甫嵩様~」

顔良が地下牢に皇甫嵩を呼ぶ。

「その声は斗詩か?ここだ」

扉の奥から皇甫嵩の声がする。

「扉を破りますから、扉から離れてください!」

顔良は金光鉄槌を扉に叩きつける。

「え~い!」

ボガンという音と共に扉が内側に吹き飛んでいく。
こういうときは得物が重量物の方が効果的だ。
その重量ゆえ関羽には負けたが、皇甫嵩を助けるのには大いに役立ったようだ。

「皇甫嵩様、ご無事ですか?」
「ああ、大丈夫だ。
助けてくれて感謝する」

言葉では感謝しているようだが、無表情のままだ。
全くコールドビューティーの女である。

「他の仲間も助けてもらえるか?」
「もちろんです!」

顔良は金光鉄槌を扉に叩きつけ続け、清流派で宦官の悪政に心底反対し、牢獄に閉じ込められていた人々を全員救出した。

「それでは、みなさん、逃げましょう!」
「うむ」

顔良に率いられて、皇甫嵩らは洛陽の外へと向かった。



 袁紹の許に一足先に戻っていた一刀は、陛下を袁紹に引き合わせる。

「麗羽様、陛下をお連れしました」

数キロメートル、陛下をお姫様だっこして歩いて、かなり疲れた~~、腕がパンパンだー!と思う一刀である。
一刀の体力もかなり向上してきたようだ。
平時であれば車に乗せてくるものを、それを探す時間も惜しいくらいさっさと袁紹の許に向かっているので、抱いてそのままの移動となった。
皇帝劉協。
年は高校生くらいか?
董卓同様、俗世間に染まっていない雰囲気の美少女である。
だが、一刀は美少女を抱き続けたことは、極力意識しないようにする。
というより、最初の20mこそ女を意識したが、次第に重量物としか認識できなくなってしまってきていた。
柔らかい胸を鷲掴みにしようが、愛らしい腰周りを抱きかかえようが、そんなことは一刀の煩悩を全く刺激しない。
一刀の感覚はただ一言、重い!である。
かといって、一応歩いている兵士たちの中では、立場上自分の身分が一番上だから一兵卒に任せるわけにもいかないし。
陛下でなかったら放り出していたところだ。

「よくやりましたわ、一刀。
それで、他の者たちは?」
「はい、猪々子さんは十常侍ら宦官を殲滅させています。
斗詩さんは牢に囚われていた皇甫嵩さんらの救出に向かっています」
「そう、陽が……」

袁紹、少しうれしそうだ。
それからようやく袁紹は陛下に向き直り、跪いて歓迎の意を示す。

「陛下、よくご無事で。
これからはこの袁紹が陛下をお守りしますので、是非業にお出でください」

さすがの袁紹も、陛下相手では身分をわきまえた応対をするようだ。
これからは、この華麗な袁紹が陛下をお守りしますわ~、なんて言った日には陛下に拒否されてしまいそうだし。

「朕はもはや何の力も持たない身。
袁紹の手助け無しでは何もやってはいけません。
これからよろしくお願いします」

皇帝劉協も丁寧に袁紹に返答する。

「も~ちろんですわ~」

ちょっと地が出てきてしまった袁紹である。

「それで、一刀、他の者は誰なのですか?」

袁紹は陛下に同行してきた董卓と賈駆を指して尋ねる。

「はい、董卓さんと「何ですってー?!!」……」

董卓という名前に驚きを隠せない袁紹である。
というより、全員驚いている。

「はい、この董卓さん、陛下の大事な侍女の一人だそうなのですが、名前があの悪の董卓と同じであるというだけで皆にそのように驚かれ、疎外されていたそうなのです。
そして、もう一人が賈駆さん。
悪の董卓の軍師をしていましたが、董卓の横暴にいつもその身を削る思いだったそうです。
そうして、いつしか賈駆さんは自分の主君と名前が同じで、悪の董卓に酷い目に合わされているのも同然の侍女の董卓さんと仲が良くなり、そして共に陛下をお守りしようと心を一つにしてきたそうなのです。
なので、董卓の部下ではあるのですが、殺さずここに連れてきた次第なのです。
他の悪の董卓の部下も同じようにこの侍女の董卓さんのほうにむしろ心引かれていったらしいです」

名前がばれても、賈駆と董卓の仲が疑われても問題ないような設定をでっち上げて袁紹に説明する。

「そうなのですか。
それは大変でしたわね。
これからは、この華麗な私の許で働くとよろしいですわ。
そちらの侍女はしっかり陛下の面倒を見ることですわ。
オーッホッ……」

陛下の御前なので、高笑いは控えようとしたようだ。

「はい、この賈駆、誠心誠意をもちまして、袁紹様に仕えようと思います」
「いい心がけですわ。
期待しておりますわよ。
オーッ……」

袁紹も、陛下の前だとちょっとやりにくそうだ。

「あと、麗羽様には業に戻ってからお知らせしようと思っていたのですが、あの呂布も麗羽様の許に下ってくれることになりました」
「え?あの呂布が、ですか?」

驚きを隠せない袁紹と、嬉しそうな表情になった董卓。
史実では親子の縁を結んでいたそうだが、恋姫では姉妹の契りでも結んでいたのだろうか?

「虎牢関を飛び出して、我々の間を抜けていったではないですか」
「はい。実は俺はあの日、天啓のようなものを感じまして、侍女の董卓さんを助けたら呂布さんも下ってくれるという気がしたのです。
それで、虎牢関から離れた場所で呂布さんを待ち、話し合った結果、洛陽には戻らず、麗羽様に下ってくれることになったのです。
呂布軍が洛陽に戻っていたら、洛陽攻略ももっと厳しいものになったことでしょうし、呂布軍を取り込めば袁紹軍はますます強くなるでしょう。
なので、勝手な行動と咎められるのを承知の上で、呂布さんを説得したのです。
どうか、お許しください」

天の御使いという立場は、こういういい加減な説明が可能なので、時々便利だ。

「まあ、そうですわね。
呂布がいたら、洛陽攻略も厳しいものになっていたでしょうからね。
いいですわ、その件不問といたしますわ」
「ありがとうございます」

かくして、董卓一門の取り込みに成功した一刀であった。
田豊、沮授らも董卓を見て、確かにこれなら救いたいという気持ちも理解できると、一刀に共感するのである。



「麗羽さま~、戻りました~」

そうこうしているうちに、顔良も戻ってきた。
皇甫嵩ら地下牢に囚われていた者たちも一緒だ。
ただでさえ人材豊富な袁紹である。
それに彼等が加われば、もう他に人材面で追随する諸侯はいない。

皇甫嵩はじめ、彼らには顔良から董卓の状況は説明済である。
彼らも、状況は分かっているので、袁紹に董卓の身分を明かすようなひどいことはしない。

「あ~ら、陽ではありませんか。
陛下をお守りするはずのあなたが何を牢屋で遊んでいたのですか?」

いつぞややり込められた腹いせか、無事再会できた余裕か、きつい言葉で皇甫嵩を出迎える袁紹。

「返す言葉も無い。
今回は本当に世話になった」

さすがに、うなだれている………ようには見えないコールドビューティー皇甫嵩。
今度は陛下に向かって跪いて、

「献様、此度は全く献様をお助けすることが出来ず、面目ございません。
何なりと処分をくださいますよう、お願いします」

劉協の真名は献らしい。
献帝劉協の真名が献……。

「いえ、陽こそ朕がいたばかりに自由に活動できなかったのでしょう。
処分などあってはならないことです。
その代わり、今後は何が起こっても朕を守ることを希望します」
「ありがたいお言葉、痛み入ります」

宦官に虐げられていた人々が、ここに会した。


あとがき
董卓の名前を董卓にすると言う話は確かどこかにありましたが、参考にさせていただきました。



[13597] 炎上
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:09
炎上

 そのころ文醜は……

「よっしゃ!これで全員片付いたな」

と、満足そうにしていた。
が、

「文醜将軍!早く逃げてくだせー」

と、部下が避難するよう叫んでいる。

「へ?」

文醜が辺りをみてみると、もうそこは火の海だった。
張讓が投げた火のついた薪があちらこちらに飛び散り、それが王宮に火をつけてしまったのだ。
当初予定では文醜らが火をつける予定だったが、その必要もない。
というより、もう小火のレベルを超えている。
小火は死体の顔かたちが分からない程度まで起こしてから消して帰る予定だったが、これはもう消火の範囲を超している。
逃げるしかない。

「撤収!撤収!撤収!」

文醜隊は王宮から慌てて撤収していった。


「麗羽さま~、ただいま戻りましたー!!」
「よくもどりましたわ、猪々子。
……随分黒くなってますわね?」
「はい、まずご命令通り、董卓、宦官、十常侍は殲滅してきました。
ですが……」
「ですが、なんですの?」
「董卓は、我々に歯向かい、最後には自ら王宮に火を放ちましたので、首を持って帰ることは出来ませんでした。
あたいもその場にいたので、火と煙で黒くなっちまいました」

文醜、台本通りでなく、張讓を董卓に見立てた即興の台詞で、悪の董卓をでっち上げる。
実際の悪は張讓だったから、まあ外れでもないだろう。

「そのくらい問題ありませんわ。
もう、これで宦官らが悪事を働くこともないでしょう。
ご苦労でしたわ。ゆっくり休みなさい。街の治安維持は斗詩に任せます」

素晴らしい袁紹だ!
やっぱり宦官相手のときは何かが違う!

「はい、そうします。
兵にも休憩を伝えまーす」

こうして、袁紹軍の目的は全て果たされた。
あとは冀州に戻るだけだ。


 その頃には、他の諸侯も洛陽に攻め込んでいて、残党の掃討をしていた。
南側が崩れたという報を受け、東西北の守備が弱体化したのが諸侯が攻め込めた主因である。
洛陽に入った部隊の中には虐げられた民を助けようとする孫策や劉備のような奇特な部隊もある。
が、多くの部隊は王宮に上がって、目ぼしい品を漁ったりしている。
この時代の戦争は特に報酬がなく、攻撃先を略奪して報酬とするということが普通だったので、攻略先の王宮内の物を略奪することは当然の権利として誰も咎めなかった。
後宮に女がいれば、それも略奪の対象になったことだろうが、生憎女は一人もいなかったので、それは叶わなかった。
しかし、宝物探しに割ける時間はあまりなかった。
王宮の奥から上がった火の手がぐんぐん火勢を強くしていき、王宮全部を覆い尽くそうとしていた。
それどころか、火の粉が撒き散らされ、街のあちらこちらから火の手が上がり始めていた。

「きゃー、たいへーん。みんな~街の外ににげて~~」
「みんな、我々に続いて!城外に避難するわ!」
「みなさ~ん、ついてきてくださ~い」

劉備や孫策、顔良、その他諸侯が街に住んでいる人々を外へと導いている。
空腹で動けないような人は兵士が抱えだしている。
悪政で人口が減ってはいても、数十万の人口を抱えた巨大都市である。
避難には数時間を要した。

全員の避難が終わったとき、もう辺りは暗くなり始めていた。
その夕暮れの空を洛陽全体を燃やす炎が焦がしている。
さすがに、みな呆然としてその情景を眺めている。

「洛陽が……朕の洛陽が、燃えていく」

劉協もショックを隠しきれない。

「献様……」
「月……」

そんな劉協を董卓が慰めている。
劉協は董卓の胸の中でいつまでも泣き続けていた。
洛陽が炎上するのは、宿命だったのだろう。


 文醜もまた、非常なショックを受けていた一人だった。
泣きそうな文醜は一刀の天幕を訪れる。

「な、なあ、一刀」
「何ですか?猪々子さん」
「洛陽が燃えているのはあたいの所為じゃないよな?違うよな?」

別に文醜が火をつけたわけではないが、文醜たちが戦っているところが火元だったので、恐ろしくなってしまったのだろう。

「ええ、違います。
猪々子さんは悪くありません。
悪いのは悪の董卓や宦官です。
猪々子さんは全然悪くありません」
「そうだよな?そうだよな?」

文醜は一刀の胸に静かに抱きつき、さめざめと泣き始めた。

「……ちょっと猪々子さんと一緒にいるから」

一刀は天幕にいる田豊と沮授に声をかける。
二人とも何も言わなかったが、表情は一刀に同意していた。


 翌朝……

「あたいの心も体も一刀に火ぃつけられちまった……」

元気を取り戻した文醜が一刀と抱き合って寝ていた。


 董卓、宦官の殲滅作戦はこれで終了した。
宦官は殲滅、董卓は洛陽を炎上させ、そして袁紹軍に殺された、ということになった。
董卓の悪名はここに定まった。

集まった諸侯は、袁紹の号令の下、解散となった。
今回の董卓討伐の恩賞は後日連絡するということにした。
洛陽の民衆は、希望するならば業で受け入れると袁紹からの布告が為されたので、洛陽に住んでいた住民数十万人の大半は冀州に移動することとなった。
曹操も受け入れを表明したが、皇帝のいるところがよかったのだろうか、袁紹領に比べれば向かう人数は少なかった。
それでも、洛陽に近いのが好評だったのか、数万人の人々が曹操領に向かっていった。

袁紹軍は当面洛陽付近に留まる民のため、1万の兵と、多量の食料を洛陽の傍に残しておいた。
陛下、袁紹、兵の主力は先に業に向かっていった。



 さて、兵を自国に戻す前に、戦場を見て回っている部隊もいる。

「何かわかった?桂花」
「扉は壊されていませんから、城壁を越えて侵入したものと思います。
梯子でも掛けたのでしょう。
ですが、夏侯惇の目を奪ったほどの敵の攻撃をどう、かわしたかは……」
「あの弓でしょうか?」
「そうね、秋蘭。そう思うわ」
「飛距離だけでなく、精度も高くないとできない作戦です」
「ええ。そのうえ、城壁に登った兵が、速やかに城門を開けているところを見ると、剣技も優秀ね。
際立って優秀な武将はいないけど、兵卒の力は曹操軍より上みたいね」
「はい、北面の兵の攻撃が弱くなったのが、攻撃開始から一刻もかかっていませんから、袁紹軍が城門を突破したのは、もっと早い時間と考えられます。
兵の数の差も大きいですが、それにしても驚異的な早さです」
「大陸を制覇しようとした時に、一番邪魔になるのは、もしかしたら麗羽かもしれないわね。
大陸全部を統べようとする気概が見られたのは孫策一人だったけど」
「……ということは、華琳様」
「ええ。今回は諸侯の様子をみるために麗羽に付き合ったけど、これでおしまい。
あとは好きにやらせてもらうわ。
桂花、これからよ、曹操軍が本当の力を出すのは」
「御意!」

宦官は駆逐されたが、大陸に平穏が来る気配はないのであった。



あとがき

洛陽が世界最大と記載しましたが、この当時最大だったかどうかはどうもよくわかりません。
人口も、数十万いた程度で、かつての都100万都市長安には及ばないようです。
案外業の方が人口が多かったかもしれませんが、資料(といってもweb)では分かりませんでした。

ちなみに、董卓編終了まで48話。
この先公孫讃、匈奴関係、官渡、などまだまだ続きますが、一体いつになったら終わることやら……
地道に進めていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

尚、この先しばらくはいくつかの出来事が同時に起こり、その関係を試行錯誤しながら書き進めますので、少しペースが落ちると思います。



[13597] 政策 -黒山編-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:11
政策

 帰りの道中、田豊は馬上で今後のことをあれこれと考えている。


〔戦争を行うことは大事業だけど、戦後処理も同時に大事業よね。
戦後処理として色々やらなくてはならない案件があるけど、今回真っ先にしなくてはならないのは避難民の受け入れ準備。
今回の戦争では洛陽が炎上してしまって、その住民を受け入れると公言してしまった以上、その対応を真っ先にしなくてはならないですもの。
政治体制云々も問題だけど、放っておいてもすぐに大問題は発生するわけではないから。
でも、住民は放っておいたら街に溢れてしまうので、放っておくわけにはいかない。

冀州はその点有利よね。
一刀が屯田制を始める前は、人が住んでいるところは城壁の内側だけだったけど、屯田制を始めて耕作面積が飛躍的に増えると、街から遠方の畑に毎日通うと言うことは無理だから、城壁外にもいくつもいくつも村落ができているものね〕


そう、曹操が邑を作る前は、人が住んでいるところといえば城壁の内側に限られていたのだった。
しかし、屯田制がきっかけで邑(村落)が出来始めていたのだ。
現に袁紹、曹操の治めている州以外では、人が住むところといえば城壁の内側だけだ。
冀州では、そういう村落いくつかにたいし、農協一つという構成になっている。
袁紹に大陸を統一してもらう手前、曹操に負けるわけにはいかないから、一刀は曹操に一足先んじて村落を作り始めていたのである。
農協制は曹操でも考え付かなかった案件だ。


〔だから、農民はほとんど業から出てしまっていて、業の住環境は比較的余裕があるもの。
それに、各村落の周りにはまだいくらでも麗羽様の顔の染み……いえ、未開墾地が残っているから、労働力さえ確保できればまだいくらでも開墾することができる。
農民には各村落に散ってもらいましょう。
そして数年間を乗り越えれば、人口増以上に食料増産が見込まれるでしょうから、数年に一度天災が起こっても備蓄で乗り越えることが出来ることができる、磐石の食料体制を備えた国家が出来上がるにちがいないわ。
業に住まわせるのは、政治関係に携わるもの、および商業、工業に携わるものの一部とすれば、業の住まいだけで対応できるでしょう。
工業はともかく、商業は各村落にもそれに従事する人が欲しいので、あちらこちらに分散してもらっていいかもしれないわね〕



成熟していた国家であれば、もうそんな余地が残されていないので数百万の人口の国に数十万の難民がやってきたらパニックになったであろうが、発展途上であったので、こういった離れ業ができる。
だから、洛陽に住んでいた数十万の住民も、冀州、并州の村落から引く手あまただ。
来た当初の住居、食料の確保は課題ではあるが、住む場所は家ができるまでのしばらくの間は天幕で我慢してもらうことにして、食料は現時点でも数百万人×十年分以上の食料備蓄はあるので、数年食糧増産がなくても平気!
国家として洛陽全部を受け入れることができる下地が整っていたのだった。


〔労働力をみんなが欲するのは、税制によるところも大きいかもしれないわね。
一刀の意見で累進課税が導入したけど、高くても5割の税率に抑えられているから、それ以上は収入を増やせば増やすほど自分の収入が増えるもの〕


一刀は税制に関しては全くの素人であるが、日本に累進課税があるくらいは日本人として知っていたので、それを意見してみた結果採用されたのだ。
人民も、低い税率でそこそこの収入を得るよりも、高い税率でもガンガン稼ぐほうが魅力的なので、そっちを目指すようになってきていた。
だから、今や低い税率の人は、高い税率の人々に収入が少ないんだと馬鹿にされる始末である。
働けば働いただけ成果があがるシステムでは、そういわれると努力したくなるものだ。
まだまだいくらでも発展の余地はある。
だから、労働力はいくらでも欲しい。
労働力が増えれば一人当たりの取り分が当然減るが、共同で作業しなくてはならないような案件も少なくないので、労働力が増えたほうが結果として総収入が増えるというのが今のところの産業システムになっている。
つい最近までは税率が下がることに歓喜していた民衆が、こぞって高い税率を目指すというのも不思議なものだ。
50年後、100年後も同じシステムでうまくいくかどうかは不明だが、そんな先のことはその時代の人に考えてもらえばよい。


〔最近、急発展しているのがビール産業ね。
一般市民でも普通に飲めるようにするために、信じられない規模のビール工場が出来ている。
もう、業には入りきらず、業のそばにビール専用の街を作ってしまったくらいだから。
それに関わる作業員も案外多い。
ビールの街といっても、その大部分は食料庫を兼ねているから、街全部がビール工場と言うわけではないけど、それでも巨大な街よね。
そうそう、ビール工場が大きくなったので、甕の需要も伸びているわね。
とにかく、洛陽の全人口を受け入れることは何ら問題ないでしょう。
でも、それを最初に私達だけで捌くのは難しいから、洛陽にいた文官もついてきてもらっている。
業に着くまでに仕事のやり方を確認しておいてもらいましょう〕


 そんなようなことを移動しながら考えている田豊である。
沮授、荀諶、逢紀、審配ら他の参謀にも意見を聞いてみるが、それほど外れた点はないと思っている。
さすがは名参謀。

田豊はちらと隣の一刀を見る。
名伝令もいることだし、希望の政策を実現することができるだろう。
地味な仕事だが、一刀なしではもはや袁紹陣営は成立しないだろうと期待した眼差しを向ける。


「ん?どうした?」

一刀が尋ねる。

「うぅん、なんでもないの。
ちょっと、愛しているって思っただけ」
「そそそんなこと、今言わなくても……」

ちょっと顔を赤らめる一刀である。


〔それから、政治的には……〕

田豊は視線を一刀から正面に戻し、考えを再開する。

〔麗羽様が将来皇帝になるかどうかは別にして、まずは現在の状況を磐石にする必要がある。
そのためには、麗羽様の身分が冀州牧のままではまずい。
陛下に具申してそれ相応の身分を得る必要があるわね。
諸侯に袁紹は陛下に次ぐ第二位の立場にあるということを知らしめる必要がある。
相国になれば問題ないけど、陛下がそれを認めるかしら?
無理強いすればうんというだろうが、それでは宦官とやっていることが変わらない。
やはり、ここは率先して摂政に任じるようにしたほうが、あとあとやりやすいもの。
まずは陛下の心積もりだけど………だめなら、董卓に頼むといいかもしれないわね?
あの董卓、案外拾い物だったかもしれないわ。
一刀の言うとおり、殺さなくて正解だったわ。
陛下が認めなかったら、董卓経由で頼んでみると、案外すんなりいきそうな気もする。
………というより、それ以前に名伝令がいるものね。
まず、一刀に頼みましょう。
麗羽様がどういうかが問題だけど〕


まずは、漢の国ありきでの政策を考える田豊である。
一度に全てを転覆させては大陸全土が一気に騒乱に突入するから、とりあえずは現状維持を図らなくては。
それから、少しづつ変えていくという方法をとるのだろう。


〔麗羽様が漢の皇帝に次いで第二位の立場になったとしても、漢の皇帝自体の権威が失墜しているから、諸侯がそれを認めるかどうか。
こちらのほうが余程問題よね。
麗羽様は、人柄があれなので、袁家としての人望はあるけど、個人としての人望はあまり期待できないもの。
下手をしたら、全部が麗羽様、というか漢から離れていってしまって、各州が独自に皇帝を立ててしまう可能性がある。
それらを個別に撃破していくのも……。
それに、黒山、烏丸の動向も気になるし……〕


「ねえ、一刀」
「ん?」
「州牧の持っている軍事力、影響力を下げるにはどうしたらいいと思う?」
「そんなの簡単じゃん。
治める州を変えさせればいいんだよ」


〔それは道理ね。
でも、それを命ずると、多少は袁紹に仕えようとする気がある州牧の反感まで買ってしまうような気がする。
これはもう少し考える必要がありそうね。
沮授や荀諶にも相談してみましょう〕


「それから、金を使わせることだ」
「金を使わせる?」
「ああ。俺の知っている国では、奥さんを都において一年おきに都と自分の国の間を往復させていたっていうのがあった」
「ふーん……」


〔それも、大反発を買いそうな方法ね。
でも、金を使うと言うのは他にも方法があるかもしれないわね。
それにしても……〕


田豊は思いを更に先に向ける。


〔結局戦は避けられないのでしょうね〕

田豊は現在の大陸の状況をまとめる。
漢の持つ州は全部で13。
その州と、州牧は次のとおりだ。

州   牧
幽州  袁紹
冀州  袁紹
并州  袁紹
司州  皇帝直轄地
雍州  董卓
涼州  馬騰
兗州  曹操
豫州  曹操
青州  陶謙
徐州  陶謙
益州  劉焉
荊州  劉表
揚州  袁術

一刀が見たら、一体いつの勢力図なのだ?と疑問を呈するだろうが、どうやら今はそうなっているらしい。

州牧ではないが、郡の太守で、州牧とは一線を画している名士たち、袁紹領内で言えば公孫讃などが独立した対抗勢力として考えられるだろう。
そして、それ以外に

北方に 黒山・南匈・烏丸
西方に 羌・胡
南方に 蛮

といった勢力が袁紹の邪魔をするだろう。

〔陛下と董卓を引き入れた今、司州、雍州は麗羽様の影響下にある。
ということは河北は涼州を除けば全て袁紹勢力化にある。
仮に大陸の全州が麗羽様に叛旗を翻したとしても、まず袁紹軍とぶつかるのは、地勢的に曹操・馬騰・陶謙・劉焉・劉表、それから黒山・南匈・烏丸。
このうち、勢いがあるのは曹操、黒山の二つ。
黒山は勢いはあるが、武力はもやは袁紹軍の敵ではないでしょう。
馬騰はまだ羌、胡との決着をみていない。
陶謙は年の所為か、一時期ほどの覇気が無い。
劉焉は益州内部に留まっている。
劉表は今のところ麗羽様とは友好的だ。
南匈・烏丸も友好的だ。
そうすると、気をつけるべきは曹操のみなので、いきなり無理な政策を推し進めても何とかなるかもしれないわね。
……まあ、最初からそこまで粋がらなくても。
その辺は少し様子を見ながら進めましょう〕


参謀田豊は袁紹の時代を見据えて、政策の展開を考えているのであった。



[13597] 車駕
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:11
車駕

 さて、その頃の皇帝劉協の様子は……

業に向かう袁紹軍の先頭付近に豪華な車が二台走っている。
来る時は一台だったので、一台増えた勘定になる。
来る時に車に乗っていたのは袁紹。
そして、今車に乗っているのは一方が袁紹、これは来たときと同じだが、もう一台が陛下。
オリジナルの車駕(皇帝用の車)は焼失してしまったので、洛陽から持ち出すことが出来た車の一台を車駕として使っている。
袁紹の車よりみすぼらしいが、まあ袁紹車は袁紹個人の車なのであきらめてもらおう。
そこまで、袁紹、何でも皇帝のためにするという心意気は持っていない。
宦官のように骨の髄まで利用してしまおうということはないが、いてもいいですわよ!程度の感覚だろう。
まあ、一応皇帝だから尊重はするだろうけど、意見が対立したら、どうなるかはわからない。

この皇帝車に乗っているのが皇帝劉協と、その大事な侍女ということになっている董卓。
董卓は大事な侍女だと言われると、確かにその通り!という雰囲気を湛えているので、誰もそれを疑わない。
董卓が遠路歩いたり馬に乗ったりするのは無理っぽい。というより、想像できないから、陛下と一緒でよかったろう。
その二人の会話。

「月。朕が業に赴いたら、どんな運命が待っていると思いますか?」
「はい、献様。お会いした袁紹様は少し高慢な印象を持った方でしたが、それでも十常侍のように自分の我侭のためなら何でもすると言う雰囲気は感じられませんでした。
ですから、洛陽にいたときのように悲惨なことになることは無いと思います。
それに、部下の方々は皆良心的に見えました」
「そうですね。
朕には諸国の様子がほとんど伝えられていなかったのですが、それでも冀州は袁紹が善政を治めているという噂は耳に届きました。
宦官はそれを苦々しそうに話していたものでした。
実際に善政が行われているようでしたら、袁紹に全てを任せたいと思います」
「それがいいかもしれません。
私も権力闘争に巻き込まれるのは疲れてしまいました」
「ごめんなさい、月。朕のために苦労をかけましたね」
「あ、申し訳ありません、献様。そういうつもりでいったのではないのですが……」
「いえ、全ては朕の所為です。
朕がいなければ、月も雍州でもう少し静かに過ごすことができたでしょうに」

それに対する董卓の言葉はなかった。

とりあえず、田豊の心配は杞憂に終わりそうだ。



 その後も、車駕は移動を続ける。

「月」
「はい、何でしょうか?献様」
「朕は生まれて初めて安堵した気持ちで時を過ごすことが出来ています。
これも袁紹のおかげなのでしょうね」
「はい、袁紹様が宦官を駆逐してくださいましたから、もう献様を政治的に利用しようとする輩はいないでしょう」
「それに、命の心配もない」
「はい。命の心配をしなくてよいというのは本当に幸せなことです」
「本当ですね」
「ところで、献様。外をご覧ください。
畑が見えてきました。
これが業の畑でしたら、あと数刻で業につくと思います」
「そうなのですか?
畑が見えたら街が近いのですか?」
「はい。人々は日々街から畑に出向きますので、あまり街から遠いところには畑は作られないのです」
「朕は皇帝といっても、そのような市井の人々の生活は全く知らなかったのです」
「仕方のないことだと思います」
「……皇帝がそれでは困ると思うのです」

劉協が皇帝として施政を行っていれば、もっとまともな漢になっていたのかもしれない。


 さて、畑は見えたが、その日は董卓の予想に反して業にはつかなかった。

「月、業には着きませんでしたね」
「はい、おかしいです」
「誰かに聞いてみましょう」

劉協が車駕の外を見ると、護衛のように皇帝にぴったりとくっついている皇甫嵩が目に留まった。

「陽」
「はい、献様」
「業にはあとどのくらいで着くのでしょうか?」
「今の速さで進み続ければ、あと3~4日で着くと思われます」
「月の話では、畑が見えたら程なく街に着くということでしたが」
「はい、冀州以外ではその通りです。
しかし、袁紹は街から離れたところにも畑を作るようにして収量をあげていますから、このような街から遠く離れたところまで畑が広がっているようです。
そして、冀州では、平民全員が毎日酒を飲むことが出来るほどに麦が収穫できるらしいです」
「え?!そんなに……ですか?」

皇甫嵩の言葉に反応したのは董卓であった。

「月、平民が酒を飲むと言うのは大変なことなのですか?」

それに答えたのは董卓でなく、皇甫嵩であった。

「はい、献様。
私もその話を最初聞いたときは冗談だと思いました。
しかし、実際に黄巾党の討伐に向かうときに、私の率いた軍、全員に酒を振舞われ、麗羽の言葉がうそで無いことがわかりました。
酒をつくるには多くの食料を使いますから、それだけの食料を作ると言うことは信じられない量の麦の収穫があると言うことを示しています。
そして、それだけ酒を作っても尚、餓える民は全くいないと言うことです」
「……信じられません」

またもや董卓が感想をはさむ。

「それは、民が皆充分に食料を得ているということなのですか?」

劉協が質問する。
さすがに、皇帝も始終王宮に篭っているわけでもなく、多少は街をであるくが、洛陽の凋落振りは車から見ても明らかで、餓死者も少なからずいるだろうことが予想された。

「はい、街は活気に溢れ、餓死という言葉は終ぞ聞いたことがありませんでした」
「………陽」
「はい」
「皇帝とは何なのですか?」
「……それは」
「袁紹のような施政を行うことが皇帝の使命なのではないのですか?」
「そうかもしれませんが、皇帝は漢の象徴としてあまり細かいことに気を回さなくてもよいのではと思います」
「象徴とは何ですか?
ただいればよいのですか?
それなら、石でも玉座に据えておけばよいではないですか」
「いえ、そういうものでは……」
「先の霊帝が即位した年齢を覚えていますか?」
「確か御年12歳ではなかったかと」
「その通りです。それでは、その前の桓帝は?」
「もう少し上だったと記憶しておりますが、正確には……」
「桓帝は15歳、質帝は8歳、沖帝は2歳、順帝は11歳、安帝は13歳、殤帝は生まれて間もなく、そして和帝は10歳でした。
そんな年端もいかない子供が皇帝に据えられて象徴となったと言うことは、それを利用する宦官のような輩がいたというだけではありませんか」

皇甫嵩、何も答えられない。

「そして、皇帝に即位しても、その後は命の心配ばかり。
陽、私が洛陽でしたことはなんだか分かりますか?
今日を殺されないように生きること。それだけですよ。
政のことなど考える余裕はありませんでした」
「ですから、麗羽のところで、皇帝としての力を発揮していただきたいと思うのです」
「そうですね。そうなのかもしれません。
朕の身の振り方については、袁紹と相談しなくてはならないのかもしれませんね。
それにしても、まずは業に着いて落ち着きたいものです。
そして、業の街をこの目で見てみたいものです」
「はい、もう数日お待ちください」

皇甫嵩の言葉だけで、袁紹領の裕福さに圧倒されてしまった劉協と董卓であった。




あとがき
これから数回皇帝関係が続きます。
同時にさらに数回?女性関係の話が続きます。
呼び込んでしまったので、暫くはご容赦ください。
その後、軍事・政治関係に移る予定です。
農業は……さらに先?



[13597] 伝令
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:12
伝令

 皇帝劉協は皇甫嵩や董卓と話をしていたようだが、こちらは袁紹軍に随行している軍師、将軍たち。
今日の野営地で賢人会議を開催している。
賈駆も軍師として同席している。
田豊が最初に自分の考えを述べる。
難民受け入れについては、袁紹軍の人々は何ら問題ないという感じで受け入れるが、賈駆一人がその考えに疑問をはさむ。

「ちょっと待って。
洛陽の民を受け入れるとすると、食料はどうするの?」

食料は全く問題ない案件だったので、田豊は特に触れなかったのだが、そんなことを知らない賈駆は、自分の領地の様子を思い浮かべて疑問を挟んだのだった。

「食料?全然問題ないわよね、一刀」
「ああ。数十万人だろ?
食料の増産がなくったって受け入れ可能だと思うな。
住むところはそれぞれ作ってもらわなくちゃなんないけど」
「……信じられない」

賈駆のいたところ、即ち董卓の治めていた雍州は今は田舎である。
古は黄河文明の発祥地であり、そしてかつては長安を有し漢最大の人口を有していたが、遷都されてしまうと残されたものは何もなかった。
州全体の人口が数十万人。
州全体で洛陽とようやく並ぶ程度の人口である。
黄河文明のような小規模な集落であれば問題なく養える土地であるが、長安のように規模が大きくなってしまうと、もう雍州内では賄いきれず、漢の他の地から食料を運んで、ようやく人口を養っていたというのが実態であった。
だから、遷都され、雍州の意味合いがなくなってしまうと、食料自給すら困難になっていたのであった。
雍州では日々の食料確保に如何に苦労していたことか。
というが雍州の実態であったのに、冀州はそれだけの人口が増えても全く問題ないと言い放っている。

「雍州も麗羽様の支配下になるんだろうから、それだったら雍州に適した産業を興して、食料は冀州から運んだら?」

一刀が続けて雍州の食料状況の改善案を提案する。
あまりにあっさりと言うので、賈駆は自分たちの今までの努力はなんだったのか、と悔しくなってしまう。

「まあ、雍州のことはあとで考えることにしましょう。
とりあえず、洛陽の難民受け入れの方針はそれでいいわね?」

田豊が話を進めようとする。
と、そこに客……というより、主が現れる。

「あ~ら、皆で今後の方針を考えているのですか」

顔良・文醜付き袁紹であった。

「はい、麗羽様。
難民の受け入れをどうするか相談していたところです。
そして、参謀達の間で話がまとまったらいつものように麗羽様に報告にあがる予定でした」

一刀が淀みなく袁紹に状況の説明をする。

「そうですか。それはいいことですわ。
だらだらとした会議に付き合うのも苦痛ですからね。
一刀が方針を分かりやすくこの私に伝えれば、私も簡単に決済することが出来ますからね。
これからもそのようにするのですわ」
「はあ……」

なんだかなぁという感じの一刀である。

「それで、一刀にもう一つ仕事を任せることにいたしましたの」
「それは、なんでしょうか?」
「袁家としての方針を陛下にお伝えする仕事を任せることにいたしましたわ」
「は?俺が、ですか?」
「ええ。何か問題でも……」
「どうして麗羽様自らご報告にあがらないのでしょうか?」
「だってぇ………」

陛下の前では、どうも調子がでないのですもの、とぶつぶつつぶやいているが、誰にも聞こえていない。
ちょっと可愛い袁紹である。
オーッホッホッホができないと、辛いのだろう。

「いいからそうするのです!命令ですわ、これは」
「はあ、わかりました」

何もしなくても一刀が伝令になったので、内心歓喜している田豊だが、袁紹、一刀には秘密だ。

「それに、この私とて知っているのですよ。
今までばらばらだった参謀、将軍を一刀の人望で一つにまとめたのでしょ?
陛下にもその人望を使うことですわ。
オーッホッホッホ」

袁紹は言うことを言って、去っていった。

「……仲違いが解消したのって、俺の人望の所為なのか?」

それは違うだろうと思う一刀が全員に確認する。

「いいんじゃない?女性関係の人望って考えれば」

田豊のきつい一言であった。
賈駆が一人、頭の上に?マークを灯していたが、同時に危険な雰囲気を感じたのか、

「月になにかしたら、このボクが許さない」

と、一刀に釘を刺す。

「しねーよ!唯でさえ、浮気をしたら奥さんっぽいのが恐ろしいんだから」
「自業自得よねぇ、清泉」
「そう。それから、奥さんっぽいではなく、正妻」
「はいはい、俺の妻は清泉と菊香の二人しかいないから」
「何か言い方が引っかかるけど、話を続けましょう。
あ、その前に忠告しておいてあげるわ。
陛下を抱いて戻ってきたけど、それ以上のことを考えたらきっと皇甫嵩様が黙ってないでしょうね」

田豊はにやりと嗤って、話を進める。
自分の頭が胴体から離れるシーンの後ろに無表情の皇甫嵩が血塗りの刀を持っている姿を想像してぞ~~~っとする一刀であった。

 次に話題になったのは政治関係。
一応一刀の意見を元にしたアイデア、即ち国替えと参勤交代を説明はするのだが……

「内容の是非は兎も角、時期尚早でしょう。
まず今回の董卓討伐に功のあった諸侯にそれなりの褒美を与えて、陛下や麗羽様の力がついてからでないとそのような施策は無理でしょう」
「私もそう思う」

沮授、審配にあっさり却下されてしまう。
田豊もそうだろうと思っていたので特に却下されたことに不満は持っていない。

「まあ、私もそう思っていたのよね。
それでは何をすればいいと思う?」
「官位を授ける位しか陛下に出来ることはないですね。
麗羽様から恩賞を送るというのもおかしいですし」
「今更漢の皇帝の官位をもらって嬉しいのかしら?」

沮授、審配、二人とも皇帝の重要性は認識しつつも、その権威の低下は否定できないという点で一致している。

「そうよねぇ。名より実よね、この時代」
「ビールでもくっつけたら?」

一刀の意見に、田豊、沮授、審配の目がきらりと光る。

「いいわねぇ」
「ええ」
「最高よ」



 会議の後で。

「ねえ、ビールって何よ?」

賈駆が一刀につっかかるように質問している。
賈駆は一刀と仲が良いわけではないが、というより傍目には悪いが、それでも一刀は聞きやすい人間なのか、賈駆が不明な点を問いただしている。
やはり、ゲームの仕様上、女難は避けられない運命にあるようだ。
だいたい、この二人の仲が悪いというのは、董卓を侍女にしてしまったという時点で避けられなかったのだろう。
それに加えて、洛陽での袁紹の一言が利いた。

「オーッホッホッホ、賈駆とやら。
洛陽を火の海にした大悪党董卓から、この華麗な私に主人を変えてよかったですわね!」

董卓が悪党呼ばわれされることが耐えられない賈駆である。
それが、大悪党となった日には……。
ストレスのはけ口を一刀に求める。

「助けてくれたことは感謝するわ。
でも、このボクの心に巣食ういらいら感は何?
感謝しなくてはならないことはわかるけど、どうにも月の悪口を聞いたり、あんたの顔を見ると鬱憤が溜まってくる。
きっと、ボクとあんたじゃ反りが合わないのね」
「そ、そんなこと言われても、俺だって困るんだけど。
そんなに言うなら、俺と会わなきゃいいじゃんか」
「そうなんだけど……
どうにもあんたに不満をぶつけたくなるのよ!」

一刀、不憫だ。

「まあ、不満を聞くくらいならいつでも聞くけど……程ほどにしてくれよな。
董卓さんだって、きっとこういうぞ
『だめだよう、詠ちゃん。助けてくれたんだからそんなひどいことを言ったら』って」

それを聞いた賈駆は、ふるふると怒りで震えてきた。

「一回殴っていい?」
「詠ちゃん、止めて。助けてくれた人を殴ったらいけないわ」
「殴ることにしたわ」
「ご、ごめん!」

それから、追いかけっこを始める二人。
ちょっと調子に乗りすぎてしまったような一刀である。
董卓なしの賈駆の扱いは難しいようだった。

というのが洛陽での話。

で、それ以来仲はよくないが(……実はいいのかも?)、とにかくストレスの発散先に選ばれてしまった一刀は、日々賈駆と何かと話をしている。
一刀もそれだけ話せば賈駆の扱いに少しは慣れてくる。

そして、冒頭の話の続き。

「ビールってのは酒の一種だ」
「酒?そんなもの運んで腐らないの?」
「ああ。2~3週間なら問題ない。
もう少し放っておいても平気だと思う」
「葡萄酒や蜂蜜酒以外にも保存の効く酒があるのね」
「ああ。それから、ビールは葡萄酒みたいな高級酒でなく、大衆用の酒だ。
それでも、市井に出回っている酒よりずっと強い。
だから、最初は只で配って、需要が出てきたらそれを少し高めに売って儲けられるんじゃないかってことだ」
「でも、そんな酒なら他の諸侯も造るでしょうに」
「技術的には出来ると思う。
でも、それだけの麦の供給が袁紹領以外では無理だから、事実上出来ないだろうな」
「一体どれだけ麦がとれるのよ、あんたのところは!」
「袁紹領民1000万人を冀州だけでまかなって、さらにある程度のビールを造っても、備蓄にまわせる分がある。
その他にも幽州、并州での生産もあるから、……そうねえ、たくさん!」

絶句する賈駆である。

「賈駆さんも、業についたらいくらでもビールが飲めると思うよ。
強い酒が好きなら、桁違いに強い酒もあるけど」
「いいわよ、そんなに飲んでるわけじゃないから。
……あ!酔わせて襲おうっていうんでしょ!」
「違うよ!そんなに信用ないのかよ?」
「ない!」

どこに行っても信用ゼロの一刀であった。



[13597] 人望
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/01/13 22:09
人望

 皇帝の車駕(仮)が走っている。
地平線の先まで麦畑の緑が広がっている風景を、劉協と董卓が絶句して眺めている。

「陽」

皇帝劉協は併走している皇甫嵩に声をかける。

「はい」
「少し畑を見てみたいのですが」
「畏まりました。説明できる者を呼んできます」

で、連れてこられたのが伝令役、兼農業担当の一刀。
適任である。

「はい、なんでしょうか?」
「陛下が畑の説明を所望していらっしゃる。
説明して差し上げるように」
「はあ……ええ」

何となく気乗りしない一刀である。
説明って何を?
そんな一刀の気持ちに関係なく皇帝劉協が車駕から降りてくる。

「ああ、一刀でしたか」
「はい、陛下」

妙にフレンドリーに話しかける劉協に、皇甫嵩が尋ねる。

「献様、この者をご存知で?」
「ええ。王宮から袁紹の本陣まで朕を抱いて運んだ者です」

陛下!余計なことを皇甫嵩様に吹き込まなくていいですから!という一刀の気持ちは全く届かない。

「そうですか」

皇甫嵩の手は、自然に刀の柄を掴んでいる。

こ、皇甫嵩様、俺何もしていませんから。
刀の柄から手を離してください!

と、心で皇甫嵩を牽制しておいて、声は劉協に向ける。

「は、畑の説明ですね。ええ、ええ、何でも聞いてください!」
「はい。
月に聞きましたが、他の州ではこれほど畑が広大でないとか。
冀州は何でこれほどまでに広い畑を作ることが出来たのですか?」

劉協と一刀は畑の間を歩きながら話し始める。
一刀は劉協から一歩下がってついていく。
当然、お目付け役の皇甫嵩がその後ろから付いてきている。

「屯田制を用いたからです」
「屯田制?」
「はい。兵士達が大勢いましたから、彼等に訓練以外の時は荒野の開墾にあたってもらったのです。
それから、広い農地に水を供給できるよう用水路も作ってもらいました。
あとは、畑が広くなりすぎましたから、住む場所を街に限定しないで、あちらこちらに村落を作って、そこに住んでもらうようにしました。
それだけです、俺……私の提言した内容は」
「それだけ……なのですか?」
「あとは袁紹軍の皆さんが全部やってくれました。
用水路の作り方は、お…私より余程詳しい人々がいましたし。
まあ、他には技術的に農機具の改良や水遣り、種まきの時期の説明、肥料の確保、連作障害回避の方法もやりましたけど、大きいのは最初に言った屯田制ですね」
「れんさくしょうがい……とは何なのですか?」
「ああ、水稲を除く畑の作物は、同じ畑で何年も同じ作物を作っていると、次第に収量が減っていくんです。
それを連作障害といいます」
「詳しいのですね」
「ええ、まあ、専門家ですから」
「朕にそのような命令が出来ると思いますか?」
「細かい技術的なことは無理でしょう。
でも、最初に述べた屯田制のような方針を決めるだけのことでしたら充分に可能だと思います。
生産量を上げろ、といえばいいのですから。
そうしたら、専門家がその方法を考えますから、陛下が一番良さそうな方法を採択すれば終わりです」
「……仮に一刀が皇帝になったとしたら、どのような命を発しますか?」
「俺が皇帝ですか?
器じゃないですけど、そうですねえ……
まず、民が望むのは安心して生きられることですから、食料増産はやりますね。
その次は衣食住の服と住まいですけど、服はもっと丈夫で暖かな服を安価に供給する方法を考えろというでしょうね。
衣食住が揃ったら公平な裁判と税制が問題になってくると思います。
支配階級のみが贅沢をしていたら、国は内から滅びるでしょう。
その次が軍備や外交、娯楽でしょうか?
でも、それらのことを全部自分で考えるのは無理でしょうから、結局参謀達に意見を聞いて、その中で一番自分の意向に合ったものを選ぶしかないんじゃないですか?
その際、自由に意見を言える雰囲気を作っておくことと、諫言や身分で不当に意見の取捨選択をしないことが重要なんじゃないでしょうか。
袁紹は私の拙いお願いも聞いてくれましたので、このうち食料と、酒という娯楽は多少は改善したのではと思っています」
「そうですか。
……そうですね。信頼できる部下がいるというのは大事なことですね」

劉協はその場に立ち止まって、遠くを見つめるような仕草をする。
一刀も一緒に立ち止まる。

暫くして……劉協はくるりと振り返り、一刀の胸の中にゆっくりと顔を埋めていく。

「朕は今まで何をしてきたのでしょうか……」

そう独り言をいいながら、一刀の胸の中で静かに泣いている。
一刀の首に尖ったものがあたる。
一刀がそれを見てみれば、皇甫嵩の刀の切っ先が触れているのであった。
その刀を持つ皇甫嵩の表情はやはり無であった。
どうしろというのだ?
陛下よりも俺の方が泣きたいよぅ!と思う一刀である。

さらに暫くして……

「疲れました。
車駕まで運んでください」

と、劉協は一刀にまた抱いて運ぶことを指示する。
拒否権はないんかい?と、一刀は心の中で号泣しながら、劉協を抱き上げる。
劉協の女を感じることは、ただの一瞬もなかった。
移動中、ずっと皇甫嵩の刀が背中に当たっていた。


 その日の夜。
一刀は袁紹の呼び出しを食らった。

「麗羽様、一刀です」
「何で呼ばれたか分かりますか?」
「いえ、全く」
「今日、一刀が陛下と抱き合っているという噂を耳にしました。
天の御使いが陛下と結婚して漢を治めるのではという噂まで流れています。
どうなのですか?」
「そ、そんなことあるわけないではないですか!
抱いたのは、まあ事実ですが……でも、この間みたいに運んだだけですよ!!
そんな疚しい気持ちは全くありませんから!
大体……」

皇甫嵩様が脅していて、そんなことは……と、言葉を続けようとしたところに援軍(?)が現れる。

「大丈夫だ、麗羽」

皇甫嵩であった。

「そのようなことはありえない」
「どうしてですの?陽」
「そのような事態になるまえに、この男は私に殺されるからだ」

固まる袁紹と一刀。
皇甫嵩なら間違いなく【殺る】。

「………そ、そうですか。
わかりましたわ。でも、一刀。あまり変な噂が立たないように気をつけることですわ」
「は、はい!それはもう充分に心得ています!!」

皇帝劉協は、皇甫嵩というオプションが付加された瞬間、一刀にとって最悪の疫病神に変わったのである。


「女性関係の人望があるのも大変ねぇ」

田豊の嫌味99%の慰めでも、少しは心が休まる一刀であった。
もちろん、その後は肉体的に慰めてもらうので、心身ともにリフレッシュはするのだが。



あとがき
申し訳ありませんが、あと数回女性問題にお付き合いください。
それが終わるとしばらくなくなる予定です。
あくまで予定ですが……



[13597] 新居
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:13
新居

 皇帝劉協は、心の内は不明だがその後はのんびりと風景を眺めながら車に揺られていた。
時々董卓とあまり政治には関係ない昔話や、料理の話などをしていた。
日に1~2度、伝令係の一刀が、様子を確認している。
政治的な話は業についてから、ということを伝え、劉協もそれを了承している。

そのうちに、袁紹軍はいよいよ業に到着する。
劉協も董卓も始めてみる業の街である。

「立派な街ですね」

董卓が感想を述べる。

「そうですね。
都洛陽より余程活気があります。
店は人と商品に溢れ、人々の表情も笑顔で満ちています。
袁家の徳がこの街にも引き継がれてきたのでしょう」

業の街を通り、城に到着する。
城は元は袁紹のものではなかったが、華麗好きの袁紹がなかなか立派に改装している。
洛陽の王宮に比べれば見劣りするが、それでも諸侯の中では立派な部類だろう。
調度品は袁家代々のものが引き継がれてきてはいるが、それでも洛陽の王宮が圧勝である。
漢の皇帝代々に渡り、周辺国やローマなどから送られてきた宝物、漢の持てる技術の粋を集めた工芸品で埋め尽くされていた洛陽の王宮に匹敵するというのは、やはり袁家の力をもってしても無理だった。
それでも、華麗を目指す袁紹によって、少しは洛陽の雰囲気が感じられるようにはなってきていたのだが。
洛陽にあった宝物は、今は大部分は灰となってしまったことだろう。
王宮から諸侯に略奪された宝物は、灰にならなかっただけよかったのかもしれない。

尚、馬鹿には見えない衣や、蓋があって底がない茶碗は、もちろん存在していない。


「え~っと、ここが陛下のお部屋だそうです。
洛陽に比べれば貧相だと思いますが、これでも袁紹様が精一杯華麗にしたそうですので、ご容赦ください」

伝令係の一刀が劉協を部屋に案内する。
袁紹の傍の部屋を改装して、袁紹の部屋並みに豪華にしたらしい。
陛下を保護すると決定した時点で改装を始めたのが、もう終わっていたのだ。
風呂も装備済み。
水が漏れなければよいのだが。
一刀は入り口を開ける。

「貧相などということは全くありません。
充分に立派な部屋です」
「そう言っていただけると幸いです。
それから、董卓さんの部屋は陛下の隣にしました。
何かあったらすみませんが陛下の面倒を見てください。
部屋は、あの侍女待遇なので普通の部屋ですが、これで我慢してください」
「いえ、生きて献様や詠ちゃんと一緒にいられるだけで充分です」
「それはよかったです。
当面、陛下の侍女として振舞ってください。
陛下の侍女はあと何人くらい必要ですか?
料理人は専門にいますから、身の回りのお世話とか部屋の掃除のための侍女になると思うのですが……」
「月がいれば充分です。
それで不都合があるようでしたら、またお願いします」

随分と質素な皇帝である。

「わかりました。
そのように袁紹に伝えます。
それでは、私はこれで戻りますが、何かありましたらいつでも連絡ください。
できるだけ早く対処しますから」
「お願いします」

と、仕事を終えて戻ろうとする一刀を引き止めるものがいる。

「待て」

皇甫嵩である。

「は、はい!」

一刀、声がひっくり返っている。

「私の部屋はどこだ?」
「皇甫嵩様のお部屋ですか?
さあ、聞いていないのでわかりません。
斗詩さんに聞いてきます」

実は顔良は城の管理の長だったりしていた。
だから、一番最初に一刀の案内も顔良がしたのだった。

「陛下の傍の部屋にするよう、伝えておけ」
「わかりました」
「危ない輩が近づかないよう、見張る必要があるからな」
「そこでどうして俺を睨みつけるんですか!」
「お前が危ないからだ」
「陽、一刀は朕の命を狙っているというのですか?」

劉協が少し怯えたように皇甫嵩に尋ねる。

「いえ、そうではありません。
それどころか逆に命が増えてしまうことさえあるのです。
そのくらい、危ないのです」
「俺だって命は惜しいからそんな無謀なことはしねーよ!」

さすがにむっとした一刀、皇甫嵩相手にため口で話し始めている。

「意味がよくわかりませんが……」
「献様はわからずともよろしいのです。
とにかく、この者には無闇に近づかぬよう。
よろしいですね?」
「え、ええ……」
「大丈夫です、陛下。俺はあくまで陛下と袁紹や参謀との連絡を行うだけですから!
決して危ないことはありません!
だいたい、皇甫嵩様は俺が何をすると思っているんですか!」
「………………と、とにかく、この者には無闇に近づかぬよう。
よろしいですね?」

一刀のカウンターは強烈だった。
皇甫嵩も答えを誤魔化すしかなかった。

「ええ」

と、答えながら劉協はくすりと笑う。
久しぶりに心からおかしくて笑った劉協であった。

「どうなさいました?」
「そんなに慌てた陽を始めて見ました」

傍目には全く表情の変化が読み取れないのだが、人の顔色を気にすることがその日の命を支えることに繋がる劉協には、僅かな変化でもわかったのだろう。

「別に慌ててなどおりません」
「そうですね」

あまり、同意している雰囲気がない劉協であった。
影で、ちょっと董卓が赤くなっていたりした。



 その日の夕食は皇帝の食事の様式に則り、食堂に大量の食事を並べ、皇帝一人が食事をするというスタイルをとった。
袁紹は大体いつも自室で顔良や文醜と楽しそうに食べている。
食堂を使うのは、一刀を始め、その他の将軍、参謀達。
それらの食事を皇帝の食事のときに一度に並べている。
皇帝の食事が終わったら、その他のものが残ったものを食べる。
皇帝はどれを食べてもよいが、さすがに全員分の食事を平らげることはありえないので、一刀達も普通に食事をすることが可能だ。
皇帝が食べた後なので、温かい食べ物が冷めてしまうのが問題ではある。

皇帝の食事に付き合うのは、侍女の董卓と警備の皇甫嵩の二人。
付き合うといっても董卓は給仕に専念し、皇甫嵩は立って警備をするだけなので、食事は劉協一人ですることになる。
寂しい食事風景だ。

「月が給仕をしてくれるのですね?」
「はい。侍女としてここにおりますから」
「月が食事のときにいると楽しい感じがします」
「献様が喜んでくださると、私もうれしいです」
「月や陽は何時食事をとるのですか?」
「献様が食事を終えた後にとります」
「皆と一緒にとるのですか?」
「はい」
「その方が楽しいのでしょうか?」
「私は大勢いたほうが楽しいと思います」
「朕もそのように食事をしたいと考えます」

が、それに皇甫嵩が異を唱える。

「なりません、献様」
「何故ですか?」
「皇帝ともあろうものが下賎な者と共に食事をとるなど、あってはならないことです」
「それでは、陽は朕がいつも孤独でいなくてはならないというのですか?」
「……警備の問題もありますし」
「袁紹の配下が信じられないと言うのですか?」
「そうではありませんが……」
「お願いです。もう、宦官に囲まれ、怯えながら生きていく状態から解放してください。
朕も楽しく時間を過ごしたいのです」
「……わかりました」

皇甫嵩、苦渋の決断である。
そんなことをしては皇帝の権威が下がる一方ではないかと考えている。
が、劉協はそんなものは皇甫嵩が考えるほどには重きを置いていないのかもしれない。

 こうして、その日から劉協は袁紹の部下達と一緒に食事をとることになった。
さすがに皇帝との会食である。
田豊など全員が緊張している。
そんな雰囲気の中食事が進む。

 最初のうちは緊張していた部下達であるが、一刀と皇甫嵩の漫才を聞いているうちに、次第に打ち解けてきた。
正確には、別に二人は漫才をしているわけではなく、それどころか皇甫嵩の話はいつもシビアでまじめなのに、一刀と話していると何故か漫才に聞こえてくるのだ。
劉協も年相応の少女のように普通に笑うようになってきた。

 こうなると、袁紹も食事に同席しないとまずい雰囲気になる。
翌日からは、袁紹も食事に同席し、毎日が宴会のような楽しい食事になっていった。
袁紹も、次第に皇帝の前でもいつもの調子(時々ヒステリック、時々高笑い)で話すようになってしまっていた。
皇甫嵩は袁紹相手にも漫才を披露することとなった(このときはボケ役=袁紹)。
確かに皇帝の権威は下がったようにも見えるが、劉協は嬉しそうだった。


 劉協が落ち着いたところで、業を都とすること、袁紹を相国とすることを提案し、了承された。
その旨が漢全土に布告された。
また、董卓討伐に参加した諸侯には、皇帝から官位が授けられた。
同時に、州の規模に応じて、袁紹からビールという副賞が振舞われた。
洛陽が焼け落ちてしまった今、業を都とすることは何も疑問がないし、陛下を保護している袁紹が相国になることもそれほど違和感がないが、諸侯は今のところそれに対して明確な反応は返していない。


 尚、皇甫嵩はかつての大将軍の地位は返上し、劉協の護衛に徹するといい始めた。
袁紹が引き止めたが、皇甫嵩の決心は固かった。
袁紹が一刀にも説得を依頼したが、一刀の予想通り全く逆効果であった。



[13597] 不屈
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:13
不屈

 今回、新たに袁紹陣営に加わった武将で、業で袁紹らを待っていた武将、軍師(の気分の子供)がいる。
そう、呂布と陳宮、及び呂布軍である。
この呂布、ちょっと本能で生きているようなところがあって、袁紹とは反りが合わない雰囲気満点である。

「臧洪さん、どうもありがとうございました」

無事呂布らを業に連れてきてくれた臧洪に、一刀が感謝の意を表している。

「何でもないことです。
洛陽での活動も無事終えられたようでなによりです」
「はい、呂布さんがいなかったので洛陽に簡単に突入することができましたし、陛下の御身も無事確保、董卓・宦官は殲滅しました。
洛陽が燃え落ちてしまったのが予想外でしたが」
「これで、漢が落ち着けばよいのですが」
「そうはならないでしょうねぇ」
「はい」

と、臧洪に謝意を述べてから、呂布を袁紹に引き合わせる。
…………うまくいくだろうか?
一刀ですら不安を抱えている。

「麗羽様、呂布さんを紹介します。
こちらが、呂布さん、その軍師(?)の陳宮さんです」

呂布はこくりと袁紹に頭をさげ、それで袁紹への挨拶は完了したと判断したのか、今度は一刀の方を向き、

「月を助けてくれてありがとう」

と、一刀に声を出して謝意を表す。
呂布の中での重要度は明らかに一刀≫袁紹だ。
こうなると、面白くないのが袁紹である。

「一刀!」
「は、はい!」
「何ですか、その無礼な者は!!」
「いえ、その……」

何となく予想はしていたが、どうにも対応が難しい一刀である。
珍しく言いよどんで、冷や汗がたら~っとたれている。

「今後は一刀の部下としてしっかり面倒を見なさい!
何かあったら一刀が責任を取るのですよ!!」

と、呂布は一刀に部下として押し付けられてしまった。
あまりにあっという間の出来事に、陳宮が口を挟む隙はなかった。

呂布はそんな袁紹の剣幕に関係なく、一刀への話を続ける。

「お腹 すいた……」

やっぱり、呂布だった。


 それからというもの、呂布はほとんどいつも一刀と行動を共にするようになってしまった。
尻尾があればうれしそうにぶんぶん振っていそうな雰囲気だ。

「恋殿!そのようなものに付き従う必要はありません!」

呂布命の陳宮が、呂布をとられたように感じているのか、かりかりしている。

「ご主人様…いい人」
「しかし、いつも行動を共にするというのは問題です!!」
「そうそう。別に自由に行動していいから」

と、一刀も呂布を引き離そうとするのだが、

「ご主人様…いつも一緒」

呂布、難攻不落である。


 ほとんどいつも一緒ということは、ほとんどいつも一緒ということだ。

「ね、ねえ、呂布さん」
「恋」
「え?」
「呂布じゃない」
「ああ、真名で呼べということね?」

呂布はこくりと頷く。

「じゃあ、恋さん」
「さんもいらない」
「……じゃあ、恋」

呂布は「何?」という雰囲気で小首を傾げる。

「あの風呂に入りたいんだけど……」
「一緒」
「いや、あの、それはまずいから。
じゃあさあ、俺が出るまで入り口で番をしていてくれる?」

呂布は「わかった」という雰囲気でこくりと頷く。

と、風呂はなんとかなったのだが………


「ねえ、一刀。これは何?」

一刀の部屋で質問をする田豊がいる。

「えーっと……呂布さん」

一刀の閨ですーぴーと安心しきって眠っている呂布であった。

「どうにかならないの?」
「どうにもならなかった。
説得は全く意味がなかった。
静かに部屋を出ようとしたら、いつの間にか後ろについていた」
「……今日は自分の部屋で寝ることにするわ」
「怒ることないじゃん」
「それほど怒ってはいないわ。
でも、呂布の隣でするの?」
「………………………………………………………うーーーーーーん...」

嫉妬よりも難題であった。


 呂布は、基本的には一刀の命令は素直に聞いた。
軍事訓練をしろといわれれば、その通り素直に軍事訓練に従事した。
一人で風呂に入れといわれれば、その通り素直に一人で風呂にはいった。
でも、食事はいつも一刀と一緒。
おやつも一刀と一緒。
寝るのも一刀と一緒。
これだけはどうにも回避できなかった。




 さて、業に戻ることを心待ちにしていた女性がいる。
顔良である。
続きは帰ってから、と言っておいたので、続きをやろう!と思ったのだ。
が、事を起こす前に色々ショッキングな出来事があった。

「え~~?文ちゃん、一刀さんとやったの?」
「うん、まあ、なんというか……
洛陽が燃えちまったときに慰めてもらっちまった」
「そーんなー!」

先を越されたことにショックを感じる顔良である。

「負けないんだから!」


という顔良のところを訪れるものがいる。

「あの、顔良さん」
「あ、董卓さん。どうしたんですか?」
「その……一刀さんのことを色々教えてもらえますか?」
「えっ?!」

何となく質問の背景がわかってショックを受ける顔良であるが、それでもここにきたときのことから丁寧に一刀の説明をする。
董卓が一番反応したのは、正室っぽい二人がいるというところだった。

「そう……ですか。
ご正室がいらっしゃるんですか」

落胆する様子の董卓。

「それに側室を狙っている人も何人か……」

それは自分だろう!

「そう……なんですか」

更に落胆する様子の董卓。

「もしかして、董卓さん、一刀さんのことを……」

と、およそ分かってはいるが質問する顔良に対し、董卓は顔を真っ赤にし、顔を隠すことで答えとする。
言葉がなくとも明らかだった。
敵は董卓、儚げな美少女である。

「負けないんだから!」

不屈の顔良である。


「菊香、清泉。今日は一刀さんと一緒に寝ないんですか?」
「まあ、ちょっと……色々あって………」
「それじゃあ、私が一緒に寝ちゃおうっかなぁ?」
「……できるのでしたらどうぞ」

あの二人が一刀を独占しないとはラッキーと思いながら一刀の部屋に向かう。

「一刀さん……」
「あ、斗詩さん」
「この間の続きを………………」

といい始めてから目に入ったものは、すーぴーと気持ち良さそうに寝ている呂布。
田豊、沮授の態度の理由が、今ようやくわかった顔良である。
あの二人の様子から判断するに、呂布はどうにもどかなかったのだろう。

「ま、負けないんだから!!」
「ちょ、ちょっと、斗詩さん!!」

不屈の顔良、健在である。



「斗詩、あの状態でやったのですか?」

翌日、沮授に問いかけられる顔良である。

「うん♪」

嬉しそうな顔良を見ながらも、まだ踏ん切りがつかない沮授と田豊であった。



[13597] 恩賞
Name: みどりん◆0f56c061 ID:959b3d7a
Date: 2010/07/25 00:14
恩賞

 諸侯に官位をばらまいて、配下のものには恩賞、早い話がボーナスをばら撒いて、さあこれでよいか、と思っている袁紹のところに顔良がやってくる。

「一刀への恩賞?」
「はい。今回は呂布が洛陽に戻ることを阻止した功績が認められると思います」
「そうですわねえ、そういわれてみれば。
それでは彼にも恩賞を…………って、彼にはお給金は出ているのですか?」

袁紹さん、それは酷すぎます。
顔良もたら~っと冷や汗が出ている。

「もちろんです。
農業への貢献が大きいですから」

他にもっと重要な仕事があるが、袁紹の前では言えない。

「それでは、彼にも恩賞を」
「それなんですが、私に考えが」
「何ですの?」


 そして、翌日の賢人会議に袁紹が顔を出す。

「一刀」
「はい?」
「此度の虎牢関での活躍、誠に立派でした」
「……何かしましたっけ?」
「呂布が洛陽に戻るのを防いだではありませんか」
「ああ、そういえば……」

他の世界から来たためかこの世界の立場とか名誉とか言うものは全く眼中になく、自分の功績には無頓着な一刀である。
純粋に、袁紹がんばれ!である。
あとは日々を安心して過ごせればそれでよい。
それに、今のままでも日本にいたときより十分贅沢な暮らしだ。
これほど主君に心酔している部下は、荀彧と賈駆と張飛くらいではないだろうか?
…………一刀は心酔はしていないか?

「そこであなたにも恩賞をだすことにしましたわ」
「別にいらないですが。
今のままでも十分華麗な生活を楽しめますから」
「まあ、そう言わず受け取ることですわ。
一刀は田豊と沮授と結婚することを正式に認めますわ。
そして、その仲人をこの私が務めることといたしますわ」
「えっ?!」

さすがに驚いた表情を袁紹に向ける。
次いで田豊と沮授を見てみると、二人も最初は「えっ?!」と驚いた表情をしていたが、すぐに嬉しそうに顔を赤らめて、下を向く。

「結婚式は斗詩が仕切ることといたしますわ。
楽しみにしていいですわよ。
オーッホッホッホ!」

と、本人の返事も聞かずに結婚式の宣言をして帰っていく袁紹。
まあ、日ごろの様子から、拒否はありえないとは皆思っているが。


 そんなこんなでこの世界で本当に結婚することになってしまった一刀である。
結婚式はとんとん拍子で進んでしまって、もう今日がその当日である。

田豊、沮授はそれはそれは見事な花嫁衣裳に身を包んでいる。
元々美人な二人である。花嫁衣裳を身に着け、より美人に見える。
一刀も漢の花婿の衣装を身につけて嬉しそうである。

最初に結婚式を行う。
袁紹音楽隊の演奏の許、天地の神に結婚の許しを乞う。
3人とも親はいないので、両親を拝むのは割愛。
次に、一刀の髪を切って、田豊と沮授、それぞれが自分の髪にくっつける。
それから、一刀は赤い糸に結ばれている杯の酒を、田豊、沮授と交互に飲む。
これで無事結婚式は終了。

3人は業の街を結婚披露のために練り歩く。
業の人々も、天の御遣いが結婚すると言うので、爆竹をならして祝福している。
爆竹といっても、まだ火薬がないので本物の竹である。
それをパンパン破裂させながら3人が歩いていくところを声をかけながら祝福している。
時々、間が悪く竹が破裂するのはご愛嬌。

「天の御遣いさま~、ご結婚おめでとーごさいますーー!!」

田豊、沮授とも有名ではあるが、食料に直結していて、なおかつ常日頃畑を歩いている一刀のほうが、今や知名度が高く、かけられる声も一刀へのものが多い。
業は3人の結婚祝い一色に染まった。
3人とも幸せいっぱいだった。
心の底から袁紹に感謝していた。

 街への披露も終わり、城内でいわゆる披露宴が始まる。
ここでも3人が主役である。
仲人としての袁紹と共に、一番の上座に座っている。
仲人は未婚でもよいのだろうか?
まあ、袁紹だからどうでもいいだろう。
ここで、袁紹が仲人の挨拶を始める。

「菊香も清泉も前々から正室を名乗っておりましたが、これで本当の正室となりましたわね。
これからも、一刀と仲良くするのですわよ。
一刀もこれで正式に正室が決まったことですから、安心して側室を取ることができますわね。
正室と側室の仲が悪くならないように気をつけることですわ。
オーッホッホッホ!!!」

田豊の持っていた箸がバキッと折れた。
沮授の持っていた碗がぐしゃっとつぶれた。
一刀は急に顔が青くなった。
そして、3人とも顔良が小さくガッツポーズをとったことを知らない。
この結婚はこの一言を袁紹に言わせるための、顔良の苦心の策であった。
正室は無理そうだから何とか側室に!と思う顔良の想いの第一歩である。
顔良、軍師でも通用するかも。


 その顔良も、董卓が嬉しそうな表情に変わったことを知らない。
その董卓、皇帝劉協と話をしている。

「月」
「はい、献様」
「あの一刀という男は妖術遣いなのでしょうか?」
「……いえ、そういうことはないと思いますが。どうしてでしょうか?」
「あの男が結婚するのを見ていると、胸が苦しくなるのです。
あの男に抱かれていると心の臓がどきどきしてくるのです。
そして、降ろされると、切なくなって、もっと抱いていてもらいたいと思うのです。
これは妖術の類かなにかをかけられているのではないのでしょうか?」

明らかに恋である。
だが、本当の恋なのだろうか?
董卓共々、洛陽で助けられたときの状態の吊橋効果で恋愛感情を抱いているように錯覚しているだけではないのだろうか?
錯覚でも思い続ければ本物になるから、やっぱり恋なのかもしれない。
何れにしても、現時点で恋愛感情を持っていることには間違いなさそうなので、董卓にとっては最強の、一刀にとっては最悪の片思いの女が一人現れたようである。

「……献様、それは妖術では無いと思います。
そして、その気持ちの理由は、何れ献様ご自身で見つけることができると思います」
「そうですか。
月がそういうのであれば、そうしようと思います」

この会話が皇甫嵩に聞かれなくて、一刀は本当に幸運だった。
聞かれていたら、新婚初夜にして未亡人二人が現れていたかもしれない。



 で、結婚式が終わると3人で一刀の部屋に向かう。
結婚前と何も変わらない。
正確には董卓戦を行う前と何も変わらない。
この部屋には、今居ついているのがいるのだが………

「あのさ、恋。
俺たち正式に結婚したから、夫婦水入らずで過ごしたいんだ。
恋が俺を主人と思ってくれる気持ちはうれしいんだけど、今日からは自分の部屋で寝てくれないかなぁ?」

まるで親犬に見捨てられた子犬のようにさびしそうな表情に変わる呂布。

「寂しい」
「あの、さ。気持ちは分かるんだけど、やっぱりここは我慢してもらえないかなぁ?
その代わり、一緒にいられる時間を出来るだけ増やすようにするから」

という一刀の説得でどうにか自分の部屋で寝るようになった呂布である。
これでようやく3人の生活も安泰になった。
よかった、よかった


………というほどゲームの意思は親切ではない。

一週間後の朝………

「………」
「………」

田豊と沮授が閨の足許を見て絶句している。

「恋。どうしてここにいるんだ?」

そう、3人が目を覚ましてみれば、呂布がいつぞやのように足許に丸くなって安心して眠っていた。

「ご主人様と一緒」
「あの自分の部屋で寝てって言ったじゃん」
「寂しい」
「それはわかるけどさ、やっぱり夜は夫婦の時間だから」
「迷惑かけない」

ベッドでは呂布の存在自体が迷惑なんだけど……といいたいが、そこまで冷たくはなれない。

「だからね……」

と、説得を続けようとするが、うるうるした瞳でじっと見つめられ、ふるふると首を振られると、どうにも説得が難しい。

「はぁ……」

溜息をついて説得を断念する一刀。

「何とかしてね!」
「問題が解決するまでは自分の部屋で寝ます」

結婚前と全く変わりがなかった。



あとがき
正室正室とうるさいので、結婚させてしまうことにしました。
って、自分で書いているんですが……Ahaha...
女性関係はひとまずこれで一段落です。
今後暫くはなりを潜める予定です。
断片は時々(頻繁に?)出てきますが。



[13597] 奉先
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:16
奉先

 時は若干前後して、結婚式がまだとりおこなわれない時の様子。
呂布は日中は訓練に参加することになった。
呂布隊 vs. 袁紹軍。
袁紹軍は歩兵のみでなく、対騎馬の模擬戦もさんざん行ってきたから、最強といわれる呂布軍でも、そう簡単には勝てないと思うのだが……

「恋殿は最強です!
敵が1000人だろうと10000人だろうと負けることはないのですよ!」

と、やたら強気の陳宮だが、

「陳宮、いくらなんでもそれはいいすぎ!
倍か三倍の敵がいいところ」

と、賈駆が嗜める。
そう、呂布軍約100名の軍師は賈駆が務めている。
陳宮は軍師か?と問われると、違う!と答えざるをえない。
武将か?と問われると、もっと違う。
史実では陳宮は曹操のところにいた勇敢な武将で、後に曹操に叛逆するほどの人物だったそうだが、恋姫の陳宮は……子供だし。
軍師気分の子供、と言うのが正解だろう。
賈駆には、呂布にべったりな口やかましい子供にしか見えない。

「そんなことはありません!
虎牢関を飛び出すときも敵の武将を何名も同時に相手にして互角以上に戦いました」
「それは、敵の得物が同じだったから。
そして、敵の動きも予測できたから。
袁紹軍は歩兵とはいえ、呂布戦を想定して準備してくるから、弓を使ってくることは容易に想像できるし、その他ボク達の考えていない武器を使ってこないとも限らない。
だから、虎牢関の時の様に簡単にいくとは思わないほうがいい」
「それでも恋殿が負けることはありません!!」

軍師でも将でもないのだから、口を出さなきゃいいのに、と思う賈駆である。

「わかった。じゃあ、とりあえず1000人を相手に戦ってもらう」

一度痛い目を見れば、あまり無理はいわなくなるに違いない、と思った賈駆は、恐らくは負けるだろうと思いつつも10倍の敵を相手にすることを顔良、田豊らに申し出る。


 そして、決戦当日。

「恋殿。あんな相手、こてんぱにやっつけちゃってください!」

呂布隊は、陳宮一人がヒートアップしている。

「恋。今回は相手の様子を見るだけだから特に作戦はなし。
これがいくら無謀な戦いでも、模擬戦だから死ぬことはないだろうけど、怪我はしないように無理はしないで」

呂布はコクリと頷いて訓練場に赴く。


 一方こちらは対する袁紹軍。
顔良、田豊らが陳宮に負けないくらいヒートアップしている。
何といっても相手はあの呂布。
まず第一に最強と名高い呂布と戦うことができるという、純粋に武の高揚感。
そして、何より一刀の閨に居座っている呂布をやっつけるという女の意地。
顔良が全員に檄を飛ばしている。

「みんな、相手が呂布でも何でもいつもの通りやれば絶対勝てるんだから。
こっちは呂布軍の10倍もいるんだから。
がんばろーー!!」
「「「おおおーーー!!!」」」


 そして、決戦の火蓋が切られる。
呂布軍はその突進力を生かして、いつものように袁紹軍に突っ込んでいく。
袁紹軍はまずそれに対して弓矢で対抗する。
呂布軍、最強ではあるが、接近戦で最強なのであって、敵と接触しないとその強さが発揮できない。
抜群の突進力と言っても、馬と矢を比べたら、流石に矢のほうが速い。
いくら呂布が最強と言っても、万事に最強なわけでもない。
勝つためには相手の弱いところを突く。これが鉄則だ。
呂布の場合、強いのが接近戦と突進力。
これを封じる方法があれば、呂布とて普通の武将と何も変わらない。
顔良隊は、その方法の第一弾として弓を使い、突進力を削ぐことと接近戦に持ち込まれないことを図った。
そして、今のところそれがうまく機能している。

呂布隊も、流石に最強といわれる軍である。
驚くべきことに戟で矢を叩き落している。
だが、戟で矢を防ぐといっても限度がある。
敵は10倍の人数が、呂布がくることがわかって万全の準備をしている。
飛んでくるのは訓練用の矢で、当たっても死ぬことはないが、それなりの速さ、重さがあるので、当たれば痛い。
目に当たれば失明する可能性もある。
呂布とて少女である。
当然、当たれば痛い。
馬に当たれば馬も痛がる。
突進力が次第に落ちてくる。

「退却」

呂布が全軍に指示を出す。
呂布軍、敵と剣を交えることもなく退却していった。
完敗であった。


「れんどの~~~」

顔良隊が大喜びで勝鬨の声をあげているのを聞きながら、陳宮が涙でくしゃくしゃになった顔で呂布を迎える。

「袁紹軍、強い」

陳宮を妹か娘のように抱きながら、呂布が袁紹軍の感想を話している。

「陳宮、わかった?
恋もどんな状態でも最強というわけではない。
同じ得物同士で戦えば最強でも、戟が使えないと意味がない。
そのように相手の弱いところを突く作戦を考えるのがボク達軍師の仕事。
だから、これからはボクに作戦を任せて。
いいわね!」

陳宮、肯定するしかできないのであった。


 それにしても……

賈駆は袁紹軍の戦いを振り返る。

 思った以上に強い。
 まず、あの弓をどうにかしないと。

賈駆は作戦を考える。考える。考える………。

 うあーーー!まず敵をもっとよく知りたい。
 誰か、袁紹軍の動きをよく知っている仲間が欲しい!!

ということで、応援を要請した賈駆。
何と、沮授が賈駆と共に呂布隊の作戦を考えることになった。
単純に勝つだけなら、二級の軍師を宛がえばいいのだろうが、こちらの手の内を曝して、それでも勝てる作戦を考えられれば袁紹軍全体としてはメリットが大きいので、第一級の軍師を応援として派遣したのだ。
こうして、呂布隊がさらに強くなる素地が出来たのである。


 その呂布は、というと……

「どうしたんだよ、恋?
体中痣だらけじゃんか!」

夜になって時間がたったので、痣がくっきりとしてきている。
一刀はそれを自分の閨で丸くなっている呂布に見て、非常に驚いている。

「……痛い」

呂布、強いだけでなく、苦痛も静かに耐えるスーパーガールだった。

「そりゃそうだろう。薬、塗ってやるから」

一刀は薬をもらってきて、呂布に塗り始める。
が、そのうちにちょっと後悔を始めた。
体中痣だらけということは、体中に塗らないといけないから。

一刀が膏薬をもらってくると、呂布は先ほどの通り裸で閨に寝て待っている。
その体に一刀が薬を塗っていくのだ。
最初はよかった。
塗る場所が腕や肩だから、それほど欲情しない。
だが、塗る場所が胸や太腿となってくると……
そのうえ、呂布が「あふ…」とうっとりした表情で喘ぎ声をだすと……
ちょっと……かなり欲情してしまう。
それでも何とか理性を保って薬を塗り終えるが、今度は傷ついた子犬が母犬にぴったり寄り添って寝るように、一刀にぴったりとくっついて眠りにつく。
痛みの所為か、ほろりと流す一筋の涙が一刀を決壊寸前まで追い詰める。
顔良、田豊の気合は悪いほうに働いてしまったようだった。



 話は再び賈駆の様子。
沮授に袁紹軍の様子を聞いている。

「っていうことは、あの矢を過ぎると、今度は縄や網で騎馬隊に対抗しようとしていたっていうこと?」
「そうです。網で絡め取られると、例え呂布でも逃げ出すことができないでしょう。
真剣の戟であれば、網を破ってということもあるかもしれませんが、模擬戟ではそれも叶わないでしょう。
それに、本当の戦いであれば、縄や網だけでなく、先を尖らせた杭を並べた楯を用意したり、弩を雨霰のように撃つという、本当に相手を殺傷する作戦もとれます。
ですから、戟や刀だけで戦うような騎馬隊が正面から臨むのであれば、今の袁紹軍歩兵隊は3倍の人数がいれば必ず勝てます」

騎兵一人は歩兵3人と大体攻撃力が同じと言われているから、普通は同等のはずなのだが、必ず勝てると言うことは余程自信があるのだろう。

「いやらしい軍ね」
「それが軍師の役目ですから。
あなたもそうなのでしょ?」
「まあそうなんだけど。
詠って呼んで。
これから呂布隊を強くしていく仲間になるのだから、ボクの真名を預ける」
「それなら、私も真名を預けなくてはなりませんね。
清泉と呼んでください」

それから二人で対袁紹軍歩兵部隊の戦術を練り始める。



 呂布隊vs.袁紹軍、第二戦。

今度は呂布軍100に対し、袁紹軍300が対するという構成をとっている。
この間のように圧倒的に袁紹軍が勝つということはないだろう。

「突撃」

呂布の静かな掛け声で呂布隊が突進を始める。
だが、今回は矢の射程圏内に入る前に大きくその進行方向を右にずらす。
沮授、賈駆の考えた作戦は極めて単純だった。
正面突破が無理なら、隅から順番に切り崩していけばよい。
とはいうものの、袁紹軍とてそのくらいのことは想定している。
だから、呂布隊が揺さぶりをかけても、隊形を臨機応変に変化させ、呂布隊に対峙している。
だが、相手は最高の機動力を擁する呂布隊であった。
左右に揺さぶりをかけると同時に、隊をいくつかに分け、袁紹軍の対応を困難にする。
そして一瞬、分裂した呂布隊に対峙しようとして隊の中央にほころびが見えたところに、呂布が単騎で突進する。
その速度で突入されることは想定外であった。
流石は名馬赤兎馬。
袁紹軍の近接戦の対応が遅れる。
しかも、突入してきたのが近接戦最強の呂布。
関羽、張飛、趙雲というスーパー豪傑数名を一度に相手にして勝てる呂布である。
一般兵では話にならなかった。

呂布隊が完勝した。

「恋殿~~!!やっぱり恋殿は最強なのですよ!!」

陳宮がそれはそれは嬉しそうに呂布を出迎える。


 その後も訓練は続けられ、袁紹軍は例え呂布隊が相手であっても5倍の勢力であれば常に勝てるようになっていった。
呂布隊も、恐らくこれだけ訓練を積んだ袁紹軍が相手でなければ、隅を崩すだけという作戦を用いて、例え相手が何十倍もいても対処できるという感触を得ていた。
今回の訓練は袁紹軍よりも呂布隊に効果が大きかった。



[13597] 麦酒
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:16
麦酒

「オーッホッホッホッホ。オーッホッホッホッホ」

袁紹の高笑いが城内に響き渡る。

「どうしたのですか?麗羽様」

顔良が尋ねると、袁紹が、

「だぁ~って、お金が嘘のようにたくさん入ってくるのですよ。
これが笑わずにいられましょうか?オーッホッホッホッホ」

と、高笑いを止めることなく答える。

「なんで、そんなにお金が入ってきたんですか?」
「この間、恩賞としてビールをくっつけたら、それからというものビールが売れて売れて儲かって仕方がないのですわ。
ああ、どうしましょう。
笑いが止まらなくて、眠れなくなってしまいそうですわ。オーッホッホッホッホ」

そう、この間恩賞の副賞としてくっつけたビールが効を奏し、ビールの注文が各地からやってくるようになってきていた。
今のところ、ビール工場は直営なので、ビール工場の収益は全て袁紹の収益になる。
水のような白酒に比べれば遥かに酔えるしおいしいし、おまけに多少は保存が利くし、旧来の酒はあっという間に駆逐されてしまった。
値付けはそれほど安いものでもないが、といっても葡萄酒ほどべらぼうな値段でもなく、一度ビールの味を知ってしまうと元の酒には戻れず、ある程度高値でも売れ続けたのだ。
高値と言っても、従来の酒に対し、度数10倍、価格8倍だから、リーズナブルという説もある。
でも、原価を考えると、うはうは状態だ。
そして、どれだけお金が入ったか、ということを一刀が報告にあがる。
それが、袁紹の高笑いへとつながる。

他の領土でも作ろうと試みたようだが、まず製法が不明だし、仮に製法が分かったとしても稲作で麦がほとんど取れないか、麦が取れても食べる分がやっとという状況なので、とてもではないがビールを造るようなことはできない。
だから、今ビール市場は袁紹の独占状態だ。
ほんの数ヶ月で、数年分以上の収益を稼ぎ出す、というより他の州より搾り取る酒の力、恐るべし。



 当然、袁紹のところに金が入れば袁紹のところに金を渡す人々もいる。
当然、そういう人々は面白くない。

「皇帝を確保したときもやるわねと思ったけど、今度のビールはその比じゃないわね」
「はい、華琳様。ビールを買うために大量の金が袁紹の許へと流れてしまっています」

冀州のすぐ隣、豫州での、曹操と荀彧の会話である。
曹操はビールを買うために商人が金のある限りビールを買い付けているという話を聞き、危機感を感じたのだ。

「どうにかしないと、私の州が極貧になってしまうわ。
何かいい策はない?桂花」
「厳しいです。金が流れないようにするだけでしたら、禁酒を命じればよいですが、そうすると民の不満が出てきますし……」
「きたない女ね、麗羽は」
「袁紹様一人の力とは思えませんが」
「ええ、あそこは参謀の充実度がすごいから。
それに比べれば、桂花、あなたの力はすごいわよ。
ここまでほとんど一人で対等に振舞っているものね」
「ありがたいお言葉、痛み入ります」
「それからあそこには……」

そこで言葉を区切って、はあはあと息を荒げる。
何か怒りを必死に抑えているようだ。

「むかつく男がいたわね!」
「はい!!」

普通の微乳だろうが貧乳だろうがあまり関係ない。
夏侯姉妹は巨乳だが、お前達は違う!と指摘されたのも同然のことを言われ、むかつかないほどこの二人、人間が出来ているわけではない。

「あの男、何をしているのかしら?」
「何でも結婚したらしいです」
「結婚?きっと相手は巨乳なのでしょうね!」
「相手は田豊、沮授の2名だとか」
「ああ、あの二人……」

曹操は脳内人物データベースを起動させる。
確か、胸のサイズは、巨乳ではなかったが自分達よりは明らかに大きかったはずだ!

「なにかこう……地味に嫌がるところを突いてくる心底むかつく男ね!!」
「はい。袁紹様より先に、あの男を討伐しに行きましょう!!」
「全くだわ。洛陽では残念ながら逃げられてしまったから」

本気か冗談か物騒な相談をしている二人である。

「ビールの名前を決めたのもあの男ではないでしょうか?」

ビールのブランド名は、華麟麦酒。
華麗の華に、日本の有名ビールメーカーから一文字もらってつけたのは、確かに一刀であったりした。

「ありえるわね。ビールの名前を聞くたびに私の真名を呼ばれている気がするわ。
本当に失礼な名付けね」

意図せず曹操の真名と同じ名前になってしまったビール。
そのネーミングが曹操の怒りを醸成しているとは露と知らないことであろう。

「ビールを売るのを提案したのもあの男かもしれませんね」

実は本当にそうだったりするのだが、二人はそんなことは知らない。
それが事実だと知ったら本当に一刀討伐隊が組まれたことだろう。

「ええ。こんどあったら唯じゃおかないわ」

二人の会話は、何故かビール問題から一刀問題に変わっていっていた。
良し悪しは別にして、女性の意識に昇りやすい体質の一刀であるらしかった。



 そして、揚州でも。

「何?下々のものがビールなるものを飲んでいるとな?」
「そうなんですー。袁紹様のところからたくさんビールを買い込んでいるんですー」

袁術と張勲がいつもの通り話をしている。

「飲ませておけばよいではないか。
妾は蜂蜜水が飲めればそれで十分じゃ」
「でも、袁紹様のところにお金が流れていくと、蜂蜜を買うお金もなくなってしまいますー」
「それは駄目じゃ。
蜂蜜を食することは最優先じゃ。
ビールを禁止せい!」
「そうすると、民の不満が高まってしまいますー」
「別によいではないか。民が不満を募らせようと知ったことではないわ」
「そうなんですけどね。
そうすると税を出すのを渋ってくるんですー」
「無理やり徴収すればよいではないか」
「そうすると、次第に搾り取るお金自体がなくなってしまうんですー」
「うぬぬ……どうすればよいのじゃ!
……そうじゃ!袁紹にそのビールとやらを贈り物として妾に差し出すよう命ずるのじゃ」
「さっすが、お嬢さま。
その根拠の無い命令が素敵すぎますよーっ! きゃー、すてきーーっ!」
「ふふ、そうであろ、そうであろ。
もっと妾を誉めるのじゃ。
妾に敬意を払わぬものなど、この世におらぬのじゃ!
早々に麗羽にビールを要求するのじゃ!」
「わかりましたー」

 こうして、ただでビールをよこせと手紙を認(したた)める張勲。
袁紹からの手紙は次のようなものだった。


 みなさ~ん、ビールを唯で差し上げますわ。
 その代わり、州牧を変えることを了承することですわ。
 誰がどの州を治めるかは追って連絡いたしますわ。
 これは勅命ですからしっかりいうことを聞くことですわ。
 そうでないと、皇帝への反逆と見なされますわよ。
 オーッホッホッホ!


内容はもちろん袁紹賢人会議が考えて、袁紹風に仕立て上げたものだが、そんなことは誰もしらない。
手紙の文面を考えた人物は、陳琳という名前だったりするが、そんなことも誰も知らない。
内容自体は袁紹も皇帝も了解していることだから、手紙の内容に嘘はないが、もう挑発することが目的のような書き方である。


「なんじゃ、これは?
袁紹め、相国になったのをよいことに、自分勝手に振舞うつもりじゃな!
そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞよ」
「さっすが、お嬢さま。気概が違いますー。
それで、どんな考えなのですか?」
「それを考えるのが七乃の仕事じゃ!」
「あらほいさっさー」

ずっこけそうになる張勲。

「なんじゃそれは?」
「何となく言ってみたくなっただけですー。
はいはーい、わかりましたー。
何かいい案を考えまーす」

手馴れた様子の張勲であった。


袁紹の手紙は全州牧に届けられていた。
だが、それを了承する州牧は一人もいなかった。
漢王朝の権威は、そこまで失墜していたのだった。

いよいよ戦乱の時代が開かれるのである。



[13597] 仲国
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/01/25 21:33
仲国

「むっきーーーー!!!」

ビールの収益で大いに潤ったのを高笑いしていたのとは逆に、今度はやたらご機嫌斜めな袁紹である。

「どうしたんですかぁ?麗羽さま~」

文醜が不機嫌の理由を聞いている。

「州牧を変えると勅令を下したのに、全員拒否するのですわ!
この私を蔑ろにするのも甚だしいですわ!!」
「まあ、皇帝の権威も落ちてますからねえ」

劉協が聞いたら嘆き悲しむようなことを平気で口にしている文醜である。

「それでも、この私が勅令を下したのですから、従うのが筋というものではありませんか!!」
「もう、州牧はみんな自分がその州の王様だと思っちゃっているんじゃないですか?」
「劉表はこの私に友好的だったではないですか!」
「うーーん……同じ州牧なのに何で指示されなくちゃならないんだって思っているんでしょうねえ」
「むっきーーー!!許せませんわ!!
諸侯にこの袁紹の力を見せ付けるのですわ!!」
「はーい、わっかりましたーー!!」

事実上の宣戦布告の命令を、軽いのりで拝承する文醜である。


 実は、諸侯の様子を諜報活動で調べた結果を賢人会議で議論し、もうどうあっても諸侯は皇帝や袁紹に従わないだろうという結論に達していた。
諜報活動は、漢の有しているシステムを使った。
凋落したとはいえ、まだまだ大国である。
こういうところに、やはり漢は大国なのだということを感じる田豊ら参謀の感想であった。
袁紹も諜報機関を持ってはいるが、漢の有するものに比べればまだまだであった。
皇帝を確保したのは、こういうところにもメリットとなっていた。

そこで、ありえないとは思ったが、ビールを餌に袁紹の出した勅令に従うかどうかを確認したのだ。
袁術から手紙が来たのは丁度よいタイミングだった。
その結果は、予想通り誰も勅令に従わないというものだった。
今後は袁紹軍で諸侯を制圧していかなくてはならない、と決めていた。

袁紹の手紙が諸侯の反感を買っても、諸侯が一致団結して袁紹に対抗するとは思えなかった。
漢から袁紹を抜くと、それだけの存在感がある諸侯はいなかった。
やはり、袁家の力は偉大だった。
それどころか、諸侯間で戦いが勃発する可能性のほうが高いと見ていた。
袁紹に従うかどうかを確認するなら今をおいてないだろう、ということで手紙を諸侯に送り届けたのだ。

全員拒否の意志を確認したあとは、袁紹がその気になればOKだ。
そして、予定通り袁紹が諸侯の制圧を指示する。
これからは順番に反乱分子を潰していくだけだ。



 というところに、袁術から手紙がやってくる。


 妾は漢に見切りをつけ、仲を建国することにするのじゃ。
 妾が初代皇帝じゃ。
 妾に従うなら今じゃぞ。
 今なら厚くもてなしてしんぜよう。
 贈り物も歓迎するぞよ。
 袁紹がどうしてもビールを贈りたいというのであれば受け取ってやってもよいぞよ。

 仲皇帝 袁術


 これを読んだ袁紹は……当然激怒する。

「むっきー!!
可愛さ余って憎さ百倍ですわ!
美羽を倒すのです!!」

だが、揚州に兵を動かすには、途中に曹操、陶謙が邪魔ですぐには向かえない。
おまけに、袁紹を叩こうと思ったら、孫策が出てくること間違いない。

「一刀、出番よ」

賢人会議で田豊が一刀に指示している。

「はいはい、袁術を倒すのは後で、ってことだろ?」
「そういうこと」
「一応聞いておきたいんだけど、どんな順番で漢を再統一していくんだ?」
「まず、河北を平定する。
黒山、南匈、烏丸を抑えて河南を向いたときの後方の安全をとる。
それからは河水に近いほうから順番。
曹操、陶謙、劉表、袁術、そして最後に劉焉というところかしら。
どう思う?みんな」
「その方針でいいと思います」
「一番素直ね」
「問題ないでありんす」

他の参謀も同意している。

「わかった。それじゃあ、ちょっと説得に行ってくる」

ということで袁紹の許に向かう一刀。


 もう、このフェーズに入ると恋姫の知識はほぼ皆無だ。
袁紹が、公孫讃をやっつけたという事実と、曹操にやっつけられたという事実しか示されていないので、今後はその時その時に応じて最適と思われる選択をしていくしかない。
河北を最初に統一するというのはリーズナブルな選択に見えるので、一刀もそれに同意してその方針を袁紹に伝えに行く。

「麗羽様」
「何ですか?一刀。
美羽を倒す方法はまとまりましたか?」
「それなのですが、相談が……」
「何かしら?」
「袁術様を倒すのは最後にしませんか?」
「どうしてですの!
あんな失礼な手紙をよこした相手を、最後までのさばらしておくというのですか?」
「まあ、そうといえばそうです」
「認めません!一番に美羽を倒すのです!!」
「確かに華麗で勇猛な袁紹軍をもってすれば曹操領をやすやす突破し、袁術様を討つ事は容易でしょう」
「なら、問題ないではないですか」
「ですが、考えても見てください。
あの袁術様ですよ。
まだ年端もいかぬ子供です」
「敵が子供かどうかなど、関係ありませんわ」
「そうなんですが、子供相手でしたら、こんな作戦はどうでしょう。
まず、麗羽様が反抗する諸侯を端から順番に攻め滅ぼしていくのです。
そして、残るのは袁術様お一人。
袁術様はここにきてようやく麗羽様の偉大さを理解するのです。
麗羽様に許しを乞いに来るかもしれません。
でも、麗羽様はそれを拒絶するのです。
そして、袁術領を端から少しづつ攻めていくのです。
じわりじわりと袁術様を追い詰めていくのです。
最後王宮だけになったら、攻め落とすことなく、朝から晩まで攻め続けるのです。
もちろん、蜂蜜を城内に入れるなんてもってのほかです。
もう、袁術様は恐怖の余りちびってしまうかもしれません。
発狂するかもしれません。
やはり、華麗な麗羽様にたてつこうとした袁術様には、そのくらいの報いがあって然るべきではないでしょうか?
真っ先に討伐するなんて生ぬるいと思います」

袁紹は、しばらく間をおいてから返事をする。

「……一刀」
「はい」
「面白すぎますわ。
面白くて華麗ですわ。
その作戦で進めるのです!!」
「はい、分かりました!!」
「一刀」
「はい?」
「随分悪どくなりましたわね」
「えーまー、麗羽様のためなら何でもやります」
「今後も期待しますわよ。
オーッホッホッホッホ!!」
「あーっはっはっはっは…………(はぁ)」

時代劇なら「お主も悪よのう?」というシーンだろうか。


 説得の後で。

「さすが一刀さん。麗羽様のことをよくご存知です!」

顔良が感心したように話しかけてくる。

「あそこで、途中に曹操さんや陶謙さんがいるから、難しいっていうと駄目だと思うんだ。
最後のほうがもっと面白い!っていう風にもっていかないと、説得できないと思ったんだ」
「勉強になりました」
「まあ、麗羽様限定の知識だけど、斗詩さんも俺がいないときは麗羽様をおだててくださいね」
「はい。側室として頑張ります」
「うん、頑張ってくださいね…………って、今何て言いました?」
「え?頑張りますって」
「いや、その前」
「ああ、側室として、のところですか?」
「………何それ?」

黙って見詰め合う二人。
もちろん、愛し合う二人という雰囲気ではない。
二人揃ってきょとんとしている感じだ。

「……………
 ……………
 ……………
 ……………
 えーー?一刀さん、私を側室にしてくれるんじゃないんですか?」
「そそそそんなこと一度も言ったことないんだけど!」
「この間、正室が決まったので側室をとっても問題ないということになったじゃないですか」
「だからと言って側室を取るって訳じゃありません!」
「この間交わった仲じゃないですか!」
「そそそそんなこと言ったら、俺、側室だらけになっちゃうから。
とにかく、今、側室をとるなんて気は全然ないから」
「むぅーー!!負けないんだから!!」
「負けてください!!」

やはり不屈の顔良であった。



[13597] 召集
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:17
召集

「麗羽は全然贈り物をよこさぬではないか!」

こちらは仲国の都となった寿春の街。
例によって、袁術と張勲が主従漫才を観客もいないのに披露している。

「本当ですね。困りますね、皇帝を蔑ろにするというのは」
「妾を蔑ろにする者には天誅を下すのじゃ」
「はいはーい……って、袁紹様をやっつけろってことですか?」
「そうじゃ。問題あるまい。孫策にやらせればよいことじゃ」
「でも、袁紹様のところに行く前に、陶謙様か曹操様か劉表様の州を通らなくてはなりませんが」
「それなら簡単じゃ。まず、劉表をやっつけるのじゃ」
「どうしてですか?」
「劉の姓が嫌いなのじゃ」
「ああ、漢の皇帝と同じ姓ですものね。
わかりましたー。孫策呼びつけまーす」

やはり、袁紹参謀の読みどおり、反袁紹連合というのは結成されず、袁紹以外の州牧間での戦いが勃発するのである。


というわけで、呼びつけられた孫策。

「劉表を倒すのじゃ」
「へ?劉表って荊州の州牧の劉表?」
「そうじゃ。他に誰がおるのじゃ?」
「随分簡単に言ってくれるわね」
「お主なら問題あるまい。
さーっといって、さーっと倒して参れ」
「また、無茶なことを」
「孫策ほどの将ならば、強い敵の方がよいじゃろ。
劉表ならば敵に不足なかろうに」
「わかったわ。その代わり条件がある」
「何じゃ?」
「劉表相手では今の手勢では足りないわ。
仲に散らばっている他の旧臣も集めるわ。
敵は劉表よ。孫の全勢力で当たらないと劉表は倒せない」
「むむむ……仕方なかろう」
「それじゃあ早速準備を始めるわ」
「うむ、そうするがよい。
さっさと呼び寄せてすぐに出陣せい」

退席しようとする孫策に、袁術が後ろから声をかける。

「ところで、孫策も普通の服を着るようになったのじゃな」

酸棗での出来事を思い出し、むっとして言葉が出ない孫策。

「妾も孫策の醜い体を見なくてよくなってうれしいぞよ」
「ああ、そう。それはよかったわね!!」

ようやくそれだけ反論すると、頭から怒りの湯気を出しながら袁術の許を去っていく。
帰りの道中、袁術と一刀に対する怒りが彼女を支配していたのは言うまでもない。

「さっすが、お嬢様。孫策さん、怒りながら帰っていきましたよー。
人が嫌がることを言う天才ですー。きゃー、すてきー!!
「ふふ、そうであろ、そうであろ。
もっと妾を誉めるのじゃ」
「頑張れ~~大陸一~~!!頑張れ、頑張れ、大丈夫ー!」
「……なんじゃそれは?」
「何となく言ってみたくなっただけですー」

実は、孫策に対する最後の袁術の一言が袁術を不幸のどん底に落とす原因の一つになってしまったのだが、そんなことを本人は知る由もない。
張勲は、袁術の許で無能な参謀を演じているが、実は抜群に有能な参謀であった。
人を見る目、特に袁術に歯向かおうとする雰囲気を察知する能力が抜群で、今まで袁術に敵対する芽を悉く摘んでいた。
だから、ここまで袁術が生きながらえたといっても過言ではない。
孫策が抱いた怪しい野望も、普段の張勲であれば察知したろうが、孫策の怒りに隠されてしまってそれを知ることが出来なかった。
それがどのような結果を生むか?袁術も張勲もまだ知らない。
ボディーペインティングが思わぬところで孫策に味方したようだ。



「何だった?また無茶をいわれたのでしょうね」

戻ってきた孫策に早速周瑜が尋ねる。

「劉表を倒せですって!」

あまりに大規模な戦の、あまりに大雑把な指示に、一瞬呆ける周瑜。

「は?劉表って荊州の州牧の劉表か?」
「そうじゃ。他に誰がおるのじゃ?」

袁術の物まねで答える孫策。

「随分簡単に言ってくれたのだな。
それで了解したのか?」
「ええ。その代わり、仲に散らばっている仲間を全て集結させることを了承させたわ」
「そうか。袁術も仲の過半の兵が集結すると言うことを分かっているのだろうか?
何はともかく、袁術の仕事をするのもこれが最後だな」
「そういうことは口に出していっては駄目。
どこに耳があるかわからないから」
「うむ、つい……な。
ところで、それなら悪いことばかりでもないのに何故帰ってきたときあんなに怒っていたのだ?」
「ああ、あれ?」

孫策は一旦言葉を区切って、そして改めて怒りを露にしてくる。

「袁術に『普通の服を着たのか。嬉しいぞよ』って言われたのよ」

それを聞いた周瑜、答えることもなく表情に怒りを滲ませてくる。

「雪蓮!」
「何?」
「わかるわ、その怒り!」
「でしょ?」
「袁術の次はあの坊やだな」
「ええ!!」

本人の全く知らないところで怒りを買っている一刀だった。



 周瑜は早速仲に散らばっている旧臣に声をかける。
黄巾党討伐のときは、親族、および忠臣という部類に属する将の一部、具体的には恋姫のゲームに登場する人物しかあつめられなかったが、今回は違う。
孫堅の代から孫家に忠誠を誓ってくれていた諸侯を全て集めている。

「雪蓮様、ずいぶんご立派になられまして……」
「鉄蛇、よく来てくれたわ。
今まで苦労かけたわね。
これからはずっと一緒になって、私の力になってちょうだい」

程普。字が徳謀、真名が鉄蛇。
かつては韓当・黄蓋・祖茂と共に孫堅四天王と呼ばれていたほどの人物である。
黄蓋は女だが、程普は男だ。
……男でも真名はあるらしい。

「もちろんでございます。
孫堅様から仕えている身、雪蓮様のために差し出します」
「私が袁術のために働くのはこれが最後。
この次の仕事も手伝ってくれるわね」

程普、それを聞いて目をうるうるさせる。

「いよいよ孫家の時代が来るのですね」
「ええ。そのためにも私が支配する領土を少しでも拡げておきたいの。
そして、私が国を興したときに、他の州に対する影響を大きくしておきたい。
でも、これは秘密よ」
「もちろんです。
袁術には絶対に隠し通す必要があります」
「このことは鉄蛇と冥琳しかしらないことだから。
それから、もう一つ。これの存在も……」

孫策はそう言ってなにやら小さな包みを取り出す。

「これは……もしかして!!」
「玉璽」
「一体どうやってこれを?」
「洛陽に行ったときに拾ってきたの。
私たちが国を興すのは天命と言うことだと思わない?」
「はい。これでようやく袁術のいいなりにならなくて済みます」
「ごめんね、私が不甲斐ないばかりにこんなに長い間みんなに苦労かけて」
「そんなことはありません。
我々も袁術にいいように操られて雪蓮様をお助けすることが出来なかったのですから。
我々の方が罪が重いです」
「そんなことないわ。
みんな頑張ってくれていたのは知っているわ。
でも、そんな過去は今はいいでしょう。
とりあえずは劉表を倒すことに神経を集中させましょう」
「そうですね。
劉表様を倒さない限り、我々の国は出来ないのですから」
「そういうこと」

程普の他にも、孫堅時代から仕えていた臣が続々と集結してきていた。
これで、孫策の勢力は孫堅の全盛期のものに戻っていったのであった。



あとがき
これから複数の話が同時に進むので、各話のつながりがなくなって読みにくくなることが予想されます。
加えて、袁術や曹操など、袁紹軍に全く関係ないところの話しか出てこない回も増えてしまいます。
申し訳ありませんが、そのようにご承知置きください。



[13597] 人選
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:18
人選

 袁術が劉表を倒そうと計画を練っている時……袁術が孫策に劉表を倒せといって、孫策がその計画を練っている時、袁紹は黒山賊を倒すことを画策していた……袁紹の参謀は黒山賊を倒すことを画策していた。

「最近、また黒山賊の攻撃が頻繁になってきたわね。
麗羽様が漢を再統一しようと決めた今、黒山賊は徹底的に抑え付ける必要があると思うの。
この方針はいいと思うのだけど」

田豊が他の参謀に尋ねている。

「そうね。今までは片手間に侵略を防いでいた程度だったけど、もう完全に麗羽様に服従させるまで叩くというのに賛成するわ。
殲滅させたほうがいいでしょう」

荀諶もそれに同意している。

「ですが、黒山賊は機動力がありやすんで、徹底的に叩こうにも逃げられてしまうことが多かったでありんす」

逢紀が過去の対黒山賊戦の歴史を指摘する。

「機動力が問題なんだったら、恋に行かせればいいじゃない。
折角助けてもらったんだから、ボクも何か役にたたないと」

賈駆が呂布を向けることを提案する。

「でも、呂布隊は100名程でしょ?
黒山賊は何度も討伐を繰り返して勢力が落ちてきているとは言っても、精鋭5000は下らないと思うけど」

尋ねる審配に沮授が答える。

「今の呂布隊が対応不十分な軍に対抗するなら、敵が5000でも10000でも大丈夫でしょう」
「ボクもそう思う」
「本当なの?それは」

田豊が驚きの声をあげる。

「うん、敵の弱いところを突いて、すぐに引く、これを繰り返せば時間はかかるけど確実に敵を倒すことができる」
「そして、呂布隊にはそれが出来るだけの機動力が備わっています」

賈駆と沮授が答える。

「でも、退却するところを追いかけられたら?」

審配が尋ねる。

「単純に逃げるだけでも出来るでしょうけど、折角ですから追いかけてきたところを歩兵で叩きましょう。
そこに突入したら、袁紹軍の強さが発揮されます」

沮授が、それに答える。

「ということは、袁紹軍5000位に呂布隊を動員して、突撃は呂布隊、戻ってきたところに敵がついてきたらそれを袁紹軍が迎え撃つと、そういう作戦でいくわけね?」

田豊がまとめる。

「そういうことです」

沮授が答える。

「どう?それでいいかしら?みんなも。
私は賛成だけど」

尋ねる田豊に、全員が賛同する。

「それじゃあ、今回の作戦は沮授に任せることにしましょう。
他に同行する軍師は賈駆、将は呂布と斗詩でいい?」
「呂布が行くなら一刀も必要でしょう」

当然のように沮授が指摘する。
田豊のように嫌味ったらしくないところが恐ろしい女である。

「何でだよ!」

隅で黙って聞いていた一刀が反論する。
が、誰も一刀の反論が正論だとは思っていない。

「呂布が一刀から離れて戦いに向かうと思うのですか?」

沮授が指摘する。

「え?……うーー……
それは………………」

たったの一言で反論を封じられた一刀である。
情けなし……。

「そうすると、斗詩はここに残ったほうがいいから、猪々子に行ってもらいましょうか」

袁紹を抑える力は

 1 一刀
 2,3,4,5 空き席
 6 顔良
 7~      空き席

なので、一刀が袁紹から離れるならば、顔良を残す必要がある。
皇甫嵩も袁紹を抑える力は(恐らく一刀並に)あるが、皇甫嵩を説得することと袁紹を説得すること、どちらが易しいか?というレベルなので、皇甫嵩や劉協がいても袁紹を抑える役にはたたない。
皇甫嵩様、怖いから。
だいたい、意図したように抑えてくれない可能性が高いし。

「おう、いいぜ!」

戦いに出られそうなので、嬉しそうな文醜。

「でも、猪々子。ほとんど待つだけで、全然戦わないかもしれないわよ」

荀諶がにやっと嗤いながら指摘する。

「へー?マジかよう。
そんなの戦いじゃないじゃん!」
「落ち着きの無い猪々子には丁度いい戦いね」

荀諶がまたまた嗤いながら指摘する。

「はあ……修行じゃんか!」

文醜の一言に、どっとその場が沸くのであった。



「恋殿!黒山賊でもなんでも最強の恋殿の前では敵ではありませぬ!
さっと行って倒してきましょう!!」

呂布が戦いに出向くと知った陳宮が嬉しそうに呂布に駆け寄ってくる。
残念ながら陳宮は軍師として認められておらず、軍議には参加できない。
というわけで、それを知ったのは軍議が終わった後だった。
それを聞いた陳宮、出陣する気満々だ。
だが……

「ねねはお留守番」

と、つれない返事。

「えーーっ!!どうしてなのですか!
ねねと恋殿はいつも一緒なのではないのですか?!」
「危ない」
「そんなー!
今までねねと恋殿はいつも一緒だったではありませんか!」
「それは逃げるので仕方なく。
今回はここが一番安全。
だからお留守番」
「お願いです。いつでも恋殿のおそばにいたいのです!!」
「だめ……」

呂布は、そういって陳宮のあたまにぽんと手を置く。

「ぅううぅぅ~~……」

陳宮の憾み節が、というより無念の念仏が聞こえてきた。
諦めざるを得ないと悟ったのだった。

「じゃあさあ、俺も留守番でいいよな。危ないもん」

呂布がいるので、一刀もいるが、陳宮が留守番と聞いて自分も留守番したいと言い出す。
そりゃそうだろう、現代日本の一般的な一青年が、好き好んで戦場に行きたいと思うはずが無い。
だが……

「ご主人様は一緒」
「何でだよ!俺だって危ないじゃんか!
全然強くないんだし」
「恋はご主人様の部下。
ご主人様は恋を見守る義務がある」

確かに呂布を部下として押し付けられてしまった経緯があった。

「でも……」

どうにか行かなくてよい理由を考えている一刀に、陳宮が不満をぶつけてくる。

「あーー!お前、ねねの目が届かない間に恋殿とお楽しみをしていたのですね!
だから恋殿に好かれているのですね!!」

子供なのに大人相手にため口で話す陳宮である。
大体、お楽しみって何?
劉協よりも色々知っていそうな陳宮だ。

実は陳宮は健康優良児であった。
夜は早くに寝て、朝は早くに起きて愛犬音呂と散歩にでかけている。
もちろん散歩中に口ずさむ歌は

 ♪LALALA LALALA ~

という某アニメの主題歌のような歌。
それはそれで問題だが、それ以前に犬の名前が音呂(ネロ)は変ですから!
音々音と呂布からネーミングしたのかもしれないが、ネロは人間ですから!
犬の名前はパトラッシュですから!
と考える一部の人々の突っ込みを他所に、犬の名前が決まっている。
大体、陳宮、フランダース地方なんて知らないだろうし、それ以前に時代から考えてこの世に存在していないだろうし……。

散歩から帰ると朝食の時間。
その頃には呂布も起きだしている。
呂布と会うのは朝食後から寝る前までの間。
というわけで、陳宮は、呂布が夜、一刀の部屋に行っていることを知らない。
それ以前に崇拝する呂布がそんなことをするなんていうことを、考えたことも無い。

尚、この世界では赤兎は史実通り馬であって、犬ではなかった。

「してねーよ!それどころか……」

付きまとわれて困っているんだ、特に夜、と言いたいところだが、本人を前にそれは言いづらく、ちょっと言いよどんでしまうと、そこを陳宮に突っ込まれる。

「あーー!恋殿といやらしいことをしようと考えていたのですね!」
「考えてねーっ!
だいたい、この間結婚式挙げたばかりだろうに!!」

結婚すると、こういう言い訳が出来て、時々便利だ。

「ああ、そう言えば……」

陳宮もなんとなくだまされてしまう。

「だからといって、恋殿、この男を無闇に信じてはなりませぬ。
男は須らく狼なのですから!」
「狼じゃない。ご主人様」
「しかし、気をつけるのは当然です。
妊娠させられてからでは遅いのですよ!」
「大丈夫だって。俺の力で恋を襲うことができるはずねえだろ!」
「……それもそうですね。
恋殿、この男が狼になったらいつでもやっつけちゃってください!」

こくりと頷く呂布。
むしろ、呂布が襲ってくることのほうが恐ろしいのだが、と一刀は考えているが、とにかく陳宮の気を鎮めることは成功したようだ。
……陳宮のやっつけると、呂布のやっつけるは考えている内容が違うのか?

 こうして、黒山賊の討伐には呂布があたり、一刀も半ば必然として同行することになってしまったのだった。



[13597] 苦悩
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:19
苦悩

 関羽は悩んでいた。


今の桃香様のお役目は琢郡范陽県の県令。
最初お仕えしたときに比べれば立派な身分だ。
桃香様も民衆に好かれている。
あの性格、あの容姿。好かれるのに十分な資質をお持ちだ。
街の中での問題はすぐに桃香様に上げられる。
みんな気さくに話しかけるので、そういう情報はすぐに桃香様が聞いてきてくださる。
そして、それを元に朱里殿が善政と言ってよい政治を執り行っている。
街の民の表情を見れば実際の内容が分からなくともそれと分かる。
かといって、文官が不遇かというと、それも違う。
愛想がよいとは言わないが、普通に仕事をしているようだ。
桃香様の大きな夢の第一歩としては十分なのかもしれない。

だが………本当にそうなのだろうか?
今のままでは公孫讃殿の部下の一人に過ぎず、そしてその公孫讃殿も立場上は袁紹殿の部下の一人に過ぎない。
このままここで過ごしてよいのだろうか?


と。


そうは言っても………


関羽は考えを続ける。


確かに漢を放浪しているときは何か夢があった。
漠然とした大きなものを得ようとする希望があった。
その代わり、生活は苦しかった。
夢を忘れてしまうほどに苦しい生活が続いた。
中でもお金の問題は大きかった。
桃香様は夢はお持ちだが、現実的な感覚が今一つだ。
鈴々は桃香様に輪をかけて酷い。
それを私や朱里殿がどうにか抑えてきていたと思っている。
その生活に戻るのがいいのだろうか?

そもそも、私は何をしたいのだろう?
桃香様を盲信したいだけなのだろうか?
それはない。桃香様の大きな夢に惹かれたのだ。
それでは夢とは?
漢を統べて理想の国を作ること?
もしそうなら、袁紹殿の許に仕えたほうが余程可能性がありそうだ。
袁紹殿は今や国力で他を圧倒しており、そしてその施政も善政として知られている。
そして、今や相国として、漢全土を治めようとしている。
それに諸侯が反抗しているというのが現状だ。
袁紹殿のところには陛下もいらっしゃるから、袁紹殿が漢を統べるというのは自然に思える。

それでも……
私が袁紹殿の許へ行って、この力を出すというのは何かが違う気がする。
桃香様を裏切ることになるから?
そういうことではないと思う。
では何故?
自分がこの人と選んだ人が皇帝にならないと満足しないのだろうか?
私はそこまで傲慢なのだろうか?

……私はどうすればよいのだろう?


関羽は悩み続けていた。


 そんな関羽のところに劉備がやってくる。

「愛紗ちゃ~ん……あれ?どうしたの?何か悩みがあるの?」

難しい顔をしていた関羽に劉備が声をかけてくる。

「いえ、何でもありません」

努めてにこやかな表情で答える関羽。
まさか、このまま桃香様に仕えるのがよいことなのかどうなのか分からなくなってきました、と相談するわけにもいかないし。

「そう。でも、心配事があったら、何でも相談してね!
桃香ちゃんでできることだったら、何でもするから。
あ、でも愛紗ちゃんは一刀ちゃんに慰めてもらったほうがいいのかな?」
「知りません!」

顔を赤らめる関羽。

「そういえば、一刀ちゃん、結婚したんだってね」
「はい、そのように聞いております」

今度はちょっと悲しそうな表情をする、非常に分かりやすい関羽である。

「それでも平気だよ。
絶対愛紗ちゃんのこと愛しているから」
「はあ……」
「だからね、一刀ちゃん連れてみんなで旅に行こう!」
「は?何のお話ですか?」
「うーんとね。県令止めて旅に出ようと思うの」
「………行く当てはあるのですか?」

先ほどの苦悩を思い出し、どのような態度をとったらよいか戸惑っている関羽である。
このまま安定した生活を続けたいという気持ちと、別の世界を、夢を探すために旅に出たいという気持ち、その二つが葛藤している。

「うん、陶謙様のところにでも行こうかな~って」
「お知り合いなのですか?」
「ううん、全然」

しばし言葉を失う関羽。

「……そ、それでは何故陶謙殿なのでしょうか?」
「もっと大陸を知りたいなーって。
そうすると、幽州の隣が冀州で、その隣が青州みたいだから、陶謙さんのところなんだって。
冀州に行ったら、袁紹ちゃんにおこられちゃうから、青州にいくの。
あそこはまだ盗賊なんかが多いみたいだから、愛紗ちゃんも絶対活躍できるよ!」
「はあ……」
「だから、さっきも言ったけど一刀ちゃん連れてきてね♪」
「出来ません!!」

妙に一刀にこだわる劉備であった。



「え?!何だって!桃香が県令を辞めるだって?!」

公孫讃が報告に来た劉備に、驚きの声を返している。

「うん。桃香ちゃん、もっと大陸全部を見てみたいの。
だから、白蓮ちゃんには悪いと思うんだけど、他の州にも行ってみたいの。
ごめんね、我がまま言って」
「考え直してはもらえないだろうか。
まだまだ弱小勢力だが、何れは桃香と一緒に大陸を統べたいと思っていたのだが」
「ありがとう、桃香ちゃんをそこまで高く買ってくれて。
でもね、でもね、もっと大陸をみたいっていう気持ちは変えられないの。
本当にごめんね」
「……部下はそれでいいと言っているのか?」
「鈴々ちゃんは一緒に行くのだぁっていってるよ。
愛紗ちゃんも行ってくれるって。
朱里ちゃんは、ちょっと残念そうだったけど、やっぱり一緒に来てくれるって」

そこまで気持ちが固まっているなら、説得は無理だろうと思った公孫讃、劉備の意見を尊重することにする。

「そうか。そこまで気持ちが固まっているなら、桃香の好きにさせるしかないか。
また、気が変わったらいつでも戻ってきてくれ。
歓迎するぞ」
「ありがとう、白蓮ちゃん。
桃香ちゃんも白蓮ちゃんに大事にされたこと、忘れないよ。
もし……もしもだけど、桃香ちゃんが白蓮ちゃんの役にたつことがあったら、いつでも桃香ちゃんを頼ってきてね。歓迎だよ」
「ああ、そういうときがあったら、お世話になろう」

公孫讃は笑いながら答える。

「白蓮ちゃんも、まだまだ通過点だよね。
きっと、大陸全部を統べることができるよ!応援してる!!」
「ありがとう。大陸全部が私のものになったら、その時はまた桃香、私の部下になってくれるかな?」
「もちろんだよ。大陸どこに行っても白蓮ちゃんの領土だもんね!」

こうして、劉備は公孫讃の元を離れ、陶謙の許へと向かうことになった。
劉備には、関羽、張飛、諸葛亮以外にも、劉備を心底尊敬する兵士、数百名も付き従っていった。


 陶謙は、未だ領内の治安維持にてこずっており、そんな劉備軍を諸手を挙げて歓待したのだった。






[13597] 黒山
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/01/28 23:21
黒山

 黒山賊。
族でなく賊というあたりがこの集団の性格をよく示している。
黄巾の残党が母体になったという説もあるが、同時に存在していたので別物と見たほうがよいだろう。
元は盗賊や山賊など罪人だった人々を頭領の張燕が纏め上げた集団である。
いや、今でも罪人か。
一時は10万の勢力を誇ったが、袁紹領で善政が行われているという話を聞いて離脱するものがいたり、度重なる袁紹軍との戦いで次第に勢力を少なくしており、今や兵力3万、内精鋭は5000といった陣容になっている。
それでも袁紹に帰順しないのは、何か思うところがあるのだろうか?
やはり、自分が親分になりたいのだろうか?


「てめーら!敵が袁紹でも何でも関係ねえ!
俺たちゃ俺達のやり方で俺達の国を作るんだーー!!」

張燕が全員に檄を飛ばしている。
張燕。字は秘匿されていて不明、真名が飛燕。
秘匿するなら真名だろうと思うのだが、何故か字を隠す張燕である。
真名の通り、軍を、飛ぶ燕の如く素早く動かし、漢軍を悩ませ続けていた。

 だが、そんな張燕も袁紹の善政には堪えた。
元々山賊や盗賊あがりの人間と言っても、漢の悪政が原因で止む無く賊になった人間も少なくない。
そういう人々は落ち着いた生活が保障されると言われたら、そちらを選択したくなるものだ。
だから、黒山賊は戦わずしてその勢力が削がれていた。
逆に言えば、残った人間は本当に悪が染み付いている人々、労働と略奪では略奪を、創造と破壊では破壊を選ぶような人々で、黒山賊はより性質(たち)が悪くなったとも言える。
性質は悪くなったが、精鋭になったかというと、そうでもない。
悪は好むが、地道な軍事訓練を好むような人間は、ほとんど皆無なので、集団を形成した当時の強さから進歩はほとんどないのであった。
張燕の軍才が全てであった。

 そんな黒山賊には、袁紹の軍も脅威となっていた。
昔は、数は多いがしまりのない集団だったのだが、何時の頃からか動きに統制がとれ、立ち向かっていっても跳ね返されるような鋼のような集団へと変貌を遂げていた。
張燕は焦った。
必要以上に冀州に攻撃をかけた。
必要以上に賊の反漢意識を昂揚させる必要があった。
そして、今日も全軍相手に出撃前の檄をとばしているところだ。

「「おおーーーっ!!!」」

破壊と略奪が好きなやくざの集団である。
そういうことには大いに盛り上がるのだ。

「よーーし、今日も出陣だーー!!略奪だーーー!!!」
「「おおっ!おおっ!おおおーーーっ!!!」」



 こちらは、呂布隊、文醜隊。
黒山賊を倒す拠点に到着した。
いよいよ、黒山賊との対決を迎える時が来た。

「恋、訓練どおり相手の弱いところをついて、適当に戻ってきて。
ここまで来れば、文醜隊が相手をするから」

賈駆が最後の指示を呂布に与えている。
呂布は分かったというように、こくりと頷く。

「気をつけろよ」

一刀も呂布に最後の挨拶を済ます。
呂布は分かったというように、こくりと頷……かないで、じっと一刀を眺め……

「一緒」

と、言ったかと思うとひょいと一刀を持ち上げ、自分の前に座らせる。

「突撃」

呂布の合図で、呂布隊が黒山賊に向かって突進する。

「え?え?え?え?……」

一瞬の出来事に何が起こったのか理解できない一刀。
深呼吸して現状を確認してみれば、認めたくないが自分は呂布と共に赤兎馬の馬上。
黒山賊に向かって、一直線に突き進んでいる。
呂布の体重は、身長に比して軽いほうで、一刀も重くはない。
二人足しても、やる気無い麹義より更に軽い。
…………多分。
名馬赤兎馬は二人を乗せていつもと同じように疾走する。

呂布は自分の隊の先頭を突き進む。
一刀はその呂布の更に前にいる。
ということは、一刀が呂布隊の一番の先端ということになる。
遠くに見えていた黒山賊がみるみる近づいてくる。

この先、残酷なシーンが続きますので、音だけで事態を想像してください。


一刀「ウギャーーーーーー!!!」

  ズバッ、ズバッ!
  ……ドサッ

一刀「ヒィーーーーーッッ!!!」
呂布「退却」

  ドドドドドッ

張燕「……お、追え!
   敵はたったの100騎しかいないぞ!!」

  ドドドドドッ

一刀「ぅぅああぁぁぁ…………」


 一方の文醜隊。
呂布隊が黒山賊を連れて帰ってくるのを今か今かと待っている。

「あ~あ、退屈だぁ。
ちゃんと、黒山賊来るんだろなぁ」

文醜が沮授に愚痴をこぼしている。

「少なくとも一度は来るでしょう。
呂布隊はたったの100騎しかいませんし、誘うように戻ってくる手はずになっていますから」
「じゃあ、その後は?」
「多分、もう来ないでしょうね。
わざわざ袁紹軍に飛び込んでくるような真似はしないでしょう」
「はぁ。……っつうことは、あたいが剣を揮えるのは一度っきりってことか」
「その方が楽でいいではないですか」
「そりゃそうだけどさ。
そんな戦いだったら一刀だって出来そうじゃん」
「まあ、そうですね。
一刀も汜水関では一応将として出陣しましたからね。
確かあの時は弓隊に撃てと止めを指示していました」
「だろ?それとおんなじじゃん」
「猪々子は袁紹軍の二枚看板なのですから、突撃を加えればいいでしょう」
「そりゃわかるけどさ。たった一回だろ?」
「まあ、そう言わないで。
その一回に猪々子の全てを注ぎ込めばいいではないですか。
ほら、話している傍から土煙が向かってきましたよ」
「おっしゃ!やったるで!!」

文醜は沮授に慰められて、どうにか戦意を昂揚させ、敵を迎え撃つ態勢を整える。

 そうとは知らない黒山賊。
呂布隊にしてはゆっくりとした速度で走らせている騎馬を追いかけている。
と、いきなり響き渡る攻撃の声。

「撃てーーー!!」

文醜の声であった。
その声と同時に一斉に弓矢が黒山賊に襲い掛かる。

「撤収ーー!!」

流石に飛燕と呼ばれる張燕、形勢が危ういと判断するや否や即座に全軍を反転させる。
5000人の隊が一時に反転するというのは、張燕、侮れない采配である。

「とつ…げ………」

そして、文醜が次に突撃の合図をしようと思ったときには、もう目の前に敵はいなかったのであった。
文醜は無人の荒野(死傷者しかいない)を前に、ただただ呆然とするしかないのであった。


 このときの黒山賊の被害は次のとおりであった(概数)。

呂布隊の攻撃による死傷者  250人
文醜隊の攻撃による死傷者 1000人

呂布隊は敵の弱いところに接して、一人当たり2~3人の敵を屠り、撤退していったので、敵の被害約250人は想定どおりだ。
反撃が来ないうちにさっさと帰る、これが訓練の成果だろう。

一方の袁紹軍の被害は次のとおりであった。

呂布隊 0人
文醜隊 0人

文醜隊は敵と剣を交えていないので当然の結果だが、呂布隊は5000人の敵と剣を交えて被害0というのは驚異的な強さの軍と言ってよいだろう。


戦いのあとで……

「うぅぅぅーーー、これじゃあ一刀とおんなじだぁーー」

将軍としての仕事が何もなかった文醜が嘆き悲しんでいた。



あとがき
史実では呂布はこのSSの訓練なしで同様の成果を出していたようですが、訓練でより強くなったということにしておいてください。
それにしても、こんなことを実際に行った呂布軍は本当に強かったのですね。



[13597] 昼寝 (R15,グロ)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:19
昼寝

 本陣に戻ってきた一刀の様子。

「ぅぁぅぁぅぅぁあああ……」

呆けていて、どうも意識も変だ。

「大丈夫ですか?」

沮授が心配して尋ねる。

「清泉……」

一刀は沮授の姿を確認してぽろぽろ涙を流し始める。

「ぅえええぇぇん……こわかった。こわかった……」
「……とりあえず、その頭を置いてきてはどうでしょうか?」
「頭?」

一刀が手に持っている物体を見てみれば、それは敵兵の生首。
ここで、戦場の音を思い出してみよう。

  ズバッ、ズバッ!
  ……ドサッ

の、ズバッは敵を切った音、ドサッは飛んできた生首が運悪く一刀のところに落っこちてきた音であった。

「……ひ、ひひ、ひひひひひひ………」

生首とご対面してまたまた様子が変になる一刀。

「持って行く」

呂布がその生首を取りあげて、どこかに持っていった。

「ぅえええぇぇん……こわかった。こわかった……助けて……」
「しっかり抱いてあげますから」

汜水関で慰めた時のように、しっかりと一刀を抱きしめる沮授。
と、そこに呂布が戻ってくる。

「ごはん」

それだけ言って一刀を無理やり食事の場所に引っ張っていく。
食事とおやつと睡眠に関しては、呂布と一刀の関係を断てる者は存在しない。
仕方なく、沮授も一緒に一刀にくっついていく。
一刀は左手に呂布、右手に沮授をつなぎ、傍目には美女二人に囲まれた幸福者だが、本人の顔は顔面蒼白でとてもそうは見えない。


 呂布は、一刀を傍に置いて、たらふく昼食をとると、今度は

「昼寝」

と言って一刀を自分の、というか一刀の天幕に引っ張っていく。
一刀の昼食は、というと、とても食べられた気分ではないので、何も食べていない。
沮授は普通に食べたようだ。

天幕に入ると、

「寝る」

と言って昼寝を始める呂布。
一刀もしかたなく沮授に抱かれながら呂布の傍に寝る。

「し、しっかり抱いて」
「大丈夫です。いつも一緒ですから」

やっぱり、ここ!というときは沮授は一刀に優しい。
一刀はがたがた震えるのを沮授にどうにか抑えてもらっていた。


 数時間後……

「出撃」

目を覚ました呂布が物騒なことを言い始める。

「えっ?!!!」

驚愕の一刀。

「お、お願いだ、恋。もう行きたくねえ!お願いだからここに残してくれーーっ!!!」

一刀は泣いて呂布に懇願するのだが……

「一緒。突撃」
ドドドドドッ
「ウギャーーーーーー!!!」

は、早い……

こうしてみると、一刀にとって、袁紹の説得は、呂布の説得に比べれば赤子の手を捻るが如く簡単なものであったのだ。
というより、呂布を説得できる人がいるのだろうか?
董卓なら大丈夫だろうか?
何かあったら董卓に頼まなくてはならないかもしれない。

そんな不憫な一刀を見送る軍師達、即ち賈駆と沮授。

「何か、本当にかわいそうに見えてきた」
「ええ、だから私が夜慰めてあげるのです」

恥ずかしげもなく言う沮授を、賈駆はちょっと冷やかしてみたくなる。

「……人の旦那をとやかく言うのもなんだけど、どうしてあんな男がいいの?
とりたてて美男子というわけでもないし、強くもないし、農業はまああれだけど、めちゃくちゃ頭がいいわけでもないし。
どうもボクには理解できない」
「そうですね。いくつかありますけど、一つは私達に希望を与えてくれたことですね」
「希望?」
「ええ。一刀が来る前は、袁紹軍は退廃的な雰囲気が漂っていたのです。
麗羽様が皆の意見を聞かず、わがままを押し通していました。
参謀や将軍も対立をしていて、とても全員が冀州を豊かに強くするという感じではありませんでした。
麗羽様のなさっていたことは、悪政というほどではないのですが、善政とは言えず、あのままでは冀州は次第に衰退していったことでしょう」
「そ、そうだったの。想像もできないわね」
「ええ。それが、一刀が来てからと言うもの、私達参謀の考えた意見を麗羽様に認めさせることが出来るようになりました。
一刀のおかげ……で、参謀や将も一つにまとまることができました。
今の強い袁紹軍があるのも、一刀のおかげと言って過言ではないでしょう」

一瞬の間が、沮授の葛藤を表しているようだが、賈駆にはその背景が分からない。

「ふーん。あの男がねえ……」
「私と菊香は一刀が来た時から行動を共にしてきました。
希望を与えてくれた彼に魅かれていくのは、必然だったのでしょう」
「まあねえ、それはわかるけど……」
「それから、一刀はどことなく抜けているようなところがあって、それなのに何でも言うことを親身に聞いてくれて、そして時々的確な助言をしてくれて、そんな風に話をしているうちにみんな一刀を頼ってしまうのです。
それも彼の魅力の一つでしょう」
「ふーん……」
「だからといって、詠が側室になっていいわけではありませんから。
一応念を押しておきます」
「なななななんでボクがあいつの側室になるなんて思うのさ?」

思わずうろたえる賈駆。

「みんな知っていることです。
詠が鬱憤を晴らすといっては一刀と親密に話したがっているのを」
「ななななにを言っているのか全く分からない。
ボボボボクはあいつのこと何とも思っていないから」
「それが間違いないことだと信じています」
「ととと当然でしょ!!」

賈駆は逃げるように去っていった。



 数十分後、呂布隊が戻ってきた。
先頭は魂が抜けたような一刀。
今度は生首なし。

「あはは………あはは………あはは………」

先ほどに輪をかけて様子が変な一刀。
そして、またまた呂布に連れられて、今度は夕飯を食べて、今度は夜の睡眠をとるために一刀の天幕に向かう。

「寝る」

またまた眠り始める呂布。
その隣には沮授に抱きしめられている一刀。

「清泉……」
「何ですか?」
「やりたい!」
「ちょ、ちょっと、呂布がいるのに!」
「もうだめ。死を見たからか、逆にやりたくてたまらない!」

死をその手で感じて、子孫を残す渇望がでてきたのだろうか?

「そ、そんな。いや、恥ずかしい。
止めて!見られてしまいます」

と、沮授がクレームをつけたのが聞こえたのか、呂布が、むくっと起き上がり、二人の様子(既にほとんど裸)を見て、

「邪魔しない」

と言って自らも服を脱ぎ去り、二人の傍でまたくーくーと眠り始めてしまった。
二人が裸なのに、自分だけ服を着ているのが悪いとでも思ったのだろうか?
こうなると、もう何も二人の行為……というか、一刀を抑えるものは何もない。
一刀もそんな呂布を見てより大きくなる。
最初のうちは、やめてとか大きすぎるとか言っていた沮授であるが、結局何時間も一刀を受け入れ続けたのであった。

一刀の気持ちも落ち着いてきた。


 この3人の奇妙な関係は、次の日も、そのまた次の日も続いた。
こうして、沮授は寝るとき(と、やるとき)に同じ閨に呂布がいても平気になり、業に戻った後には田豊もそれに同調して、一刀が寝るときは沮授、田豊、それに呂布が同じ閨で寝るようになったのであった。
一刀の閨は3人寝ても余裕なように大型化してあったので、4人寝てもまだまだ大丈夫!
これで、ようやく、夫婦生活が営めるようになった。
若干異常な状況ではあるが、呂布は3人の夫婦生活に干渉することなく、一刀の傍で(裸で)幸せそうに眠っている。
田豊、沮授、呂布はお互いに真名で呼び合うような仲になっていった。
一刀もそんな3人をみて、まあいいかと思うのだった。
自分自身も、呂布の裸体を見ながらすれば、よりエキサイトするし、と。



[13597] 張燕
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/01/31 23:21
張燕

 一刀の夫婦生活はひとまずハッピーな結果を迎えるようだが、アンハッピーなのが張燕である。

時は、一日目、呂布が昼寝をしている頃の話。


なんだ、あの化け物集団は。
俺の機動力は漢随一と思ってたが、更に上をいくやつらがいやがる。
たった100騎程度なのに、あっという間にやってきて、あっという間に去って行きやがる。
被害は大したことねえが、あっという間に去っていくからやっつけることもできねえ。
追い込んでいったら、本隊が待ち伏せしていやがるし、逃げてもどこまでも追いかけてきそうだ。
どうすりゃいいんだ!!


と、対策も考えられず困っているところに、追い討ちをかけるように悪いニュースが飛び込んでくる。

「頭領、てえへんです!また、さっきのやつ等みてえのがやってきやした!!」
「なんだと!!
全軍、騎乗!!敵に備えろ!!」

と、指示を出し、黒山賊の一党が戦闘の準備をしているところに、呂布隊がもうやってきて、また例によって一人当たり2~3名の黒山賊を屠って去っていってしまう。

「………」

何もすることが出来ず、呆然とする張燕。


 そして、その翌日も、そのまた翌日も呂布隊は午前と午後各一回づつ、ウギャーーーーーー!!!とやってきて、ヒィーーーーーッッ!!!と去っていってしまう。
来ることが分かっているのに何も対応できない。
張燕は呆然としてしまった。

張燕は黒山賊の状況を改めて確認する。

     初期戦力  被害
一日目  5000  500+1000
二日目  3500  500
三日目  3000  500
現状   2500

精鋭5000が既に半減してしまっている。
ここで問題。

問1.黒山賊の今後の被害はどうなるでしょうか?
問2.黒山賊精鋭の戦力は、今後どのように推移するでしょうか?(各50点)

小学校レベルの算数の問題である。
結果は明らか。
毎日呂布隊がやってきては500人の被害を出していくから、毎日500人減っていく。
このペースでいけば、あと数日で殲滅させられる。

     初期戦力  被害
四日目  2500  500 (今日)
五日目  2000  500
六日目  1500  500
七日目  1000  500
八日目   500  500 →殲滅

張燕は降伏を決意した。

「てめーら!
あの化け物相手にはどうにも勝てねえ!
だから、とりあえず投降することにする」
「えー?!頭領、それじゃあ黒山賊はおしめえってことですかい?」
「まあ、聞け。
とりあえず投降すると言ったろう」
「ええ」
「敵さんだって、俺達全員を殺すなんてこたあ、考えてねえだろう。
だから、とりあえず投降した振りをして、ほとぼりがさめたところでまた集まりゃいいんだよ」
「なーるほど。
頭領、頭いいっすね」
「あたりめえじゃねえか!」
「あははははは!!!」

張燕は、投降の意志を伝えるために袁紹軍の許へと向かった。


 そんな背景があることは全く知らない袁紹軍。
結構お人よしが揃っているので、ころっと騙されてしまいそうな気がするのだが……

「そっか。投降するんだ。分かった」

随分軽いのりで投降を受け付ける文醜。
討伐隊の中の武官のトップなので、文醜が張燕に対応している。

「それで、投降すんだから、俺達の生活は保障してくれるんだろうな!」

投降する側なのに、態度のでかい張燕である。

「えーっと、どうすんだっけ、清泉?」

文醜が文官トップの沮授に投降時の対応を確認する。

「黒山賊に属していた者は、各地に分散してその地で懲役をしてもらいます」
「なんだと?!無罪放免じゃねえのかよ!!」

張燕は沮授の言葉を遮ってクレームをつける。

「今まで敵対していながら、無罪はないでしょう。
それにあなた達は罪人なのですよ。
それでも、多くはないですが懲役に見合った給金は払いますし、生活も今よりは楽になると思います。
拒絶してもいいのですが、その時は戦いを続けるまでです」
「ああ、そうかよ!分かったよ!!
その条件を飲むことにすりゃいいんだろ!!」
「懲役は10年、その間は土地の移動は禁止します。
それを破ったものは理由の如何に関わらず死罪。
逆に、懲役をこなして、土地の移動をしなければ、生命の保証はいたします。
賊の頭領を除いて」
「………どういう意味だよ?!」

張燕が怪訝、というか驚きの表情で聞き返す。

「あんたは別。
生かしておいたら、また何しでかすかわからねえからな!」

文醜が答える。
張燕は戟を取り上げようとするが、張燕が戟に触れるより前に呂布の戟が張燕の頭と体の間を通過していく。
ここに、黒山賊は消滅したのであった。

お人よしが揃ってはいるが、軍師ともあろうものがそう簡単に騙されるものでもなかった。
それ以前に、張燕は危険ということで、最初から張燕だけは生かしておくという解はなかったのだった。
張燕よりも袁紹軍のほうが上手であった。



「あ~あ、つまんねえ戦いだった」

帰る道中、文醜がぶつぶつと文句を言っている。
戦い大好きの文醜なので、全く敵と戦う場面がなく、不満が溜まっているようだ。

「いいじゃないですか、戦わなくて。
俺なんか、すぐそばで敵が死んでいったんですよ!」

戦いに行きたくもないのに無理やり参戦させられてしまった一刀が、逆に文句を言っている。
沮授に慰めてもらったので、今は元気だ。
良し悪しは別にして、死体への耐性も少しは(かなり?)出来てきた。
呂布のスパルタ教育の成果だろう。

「だってさあ、全然剣をふってねえんだぜ。
あたいだってさあ、武将なんだからもっと暴れたいんだよ」
「そんなに剣を振りたいなら、恋と試合すればいいじゃないですか」
「えっっっっ!!!!!」

さすがにこの提案には驚いてしまう文醜である。

「いや、その、それはまだちょっといいかなぁって」

文醜、自分の能力、というか呂布との違いはわきまえている。

「遠慮しなくていいですから。
恋、お願い。帰ったら猪々子と試合してあげて」
「わかった」
「ちょ、ちょっと、さっきのは冗談だって。
いやーー、充実した戦いだった。
ああ、いい戦いだったなぁ!!あははは!!」
「試合、楽しみ」

呂布の止めの一言に、文醜の悲鳴があがるのであった。



あとがき
ちょっと張燕にはかわいそうな結末ですが、やはり袁紹とは反りがあわなかったということでこういうことにしました。



[13597] 曼成 -河北編-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/02/04 22:24
曼成

「秋蘭様、弓、作ってみたんやけど、どうですやろ?」

ここは豫州許の街の王宮、早い話が曹操の城である。
李典が夏侯淵に弓の試作品を渡している。
そう、汜水関での袁紹軍スペシャル弓の断片的な話を元に、半ば想像で作り上げた李典苦心の傑作である。

「弓のことはようわかりませんのて、秋蘭様にみてもらいたいんですわ」
「うむ」

夏侯淵は弓を受け取り、まずは見た目の感想を言う。

「確かに、このような感じだった。
弦は何本かあって、そうそう両端にこんな滑車のようなものがついていた」
「それはよかったですわ。
この滑車のところの強度を確保するのが苦労やったんですわ。
で、使うとどうですやろ?」
「うむ……」

夏侯淵は、弦を引っ張ってみて、様子を調べる。

「私が普段使っている弓と同じ強さの方がよかったのだが―――」

と、言うのを李典が遮る。

「何いうてますねん。
秋蘭様の餓狼牙と同じ強さに揃えてありますぅ!」
「だが、随分と軽い」
「うそ思うんやったら試射してみればええとおもいますぅ」
「それもそうだ」

ということで、二人で試射に行く。
試作品に矢を番えて、それを射って、

「ほらみろ、飛ばないではないか!」

と言おうと思っていた夏侯淵であるが、意に反して矢はぐんぐん飛んでいく。
確かに餓狼牙と同じくらい飛んだようだ。

「どうですやろ。飛んだのやろか?」

声がない夏侯淵に李典が尋ねる。
李典、工作は好きだが弓は得意ではないので、普段より飛んだんだかどうだか分からない。

「いや、今のは間違いだ」
「……間違いってなんなんです?」
「矢が風に乗ったのだろう」

その言葉に、餓狼牙並みの性能が出たことを確信した李典、夏侯淵の手前、おっしゃー!と、小さくガッツポーズをとる。

「そなら、もう一辺撃ってみたらどうですやろ?」

嬉しそうに進言する李典。

「そ、そうだな」

ちょっと狼狽しつつも、第二射を撃つ。
夏侯淵の予想に反し、李典の予想通り、矢は最初の矢と同じくらい飛ぶ。

「な、何故だ?」
「その滑車が引く力を軽くするんとちゃいますか?」
「そうだな。ということは……」

夏侯淵と李典は顔を見合わせる。
そして、互いにうんと頷く。
お互いの脳裏に浮かんだのは、もっと強い弓を作っても大丈夫!ということだ。

「暫く待ってください。
これより強い弓作ろう思たら、材料も考えないけまへん」
「わかった。
袁紹軍はどうしているのだろうな?」
「ほんまですな。やっぱ、あの弓、手に入れたいなぁ」
「……無理だろうな」
「あ~あ、残念や」

ということで、またまた自力で強い弓を作ろうとした李典であるが、それに着手することなく計画は頓挫してしまった。



「そうなの。新しい弓が出来たの」

新弓の開発結果を報告にきた李典と夏侯淵に、曹操が答える。

「はい、秋蘭様に言われたとおりに試作してみたんですけど、うまいこといったようなんです」
「これがその弓ね。
それで、この弓は何がすごいの?」
「は、軽い力で強い弓を引くことができます」
「……ということは、一般兵でも秋蘭と同じ弓を引くことができるということ?」
「御意にございます」
「そやから、秋蘭様用にもっと強い弓を作ろうと思っておりますねん」

嬉しそうに話す李典を曹操が制する。

「だめよ、それは」
「なんでやねん?」

拒絶されると思ってもいなかったので、曹操に食ってかかってしまう李典である。

「それより前に、この弓を大量に作りなさい。
それを一般兵に持たせるわ。
その後ね、強い弓を作るのは」
「一般兵に持たせるのは大事なことなんですか?」
「ええ。真桜は見ていなかったのだけど、汜水関での袁紹軍の攻撃は驚異だったわ。
強い武将は一人もいないし、軍を率いる将にいたっては、戦の素人。
それなのに、華雄軍を叩きのめしていた。
華雄軍も、ちょっと猪突猛進のところがあるけど、それほど弱い軍ではないわ。
公孫讃軍が突撃したから袁紹軍の攻撃は終わりになったけど、袁紹軍だけでも華雄軍は投降したのではと思うくらい。
そのくらい、強い武器を数多く揃えることは戦に勝つことに重要なの。
一人二人強い将がいたからといって、戦局は大きくは変わらないわ」

それを聞いて、ちょっとうじうじする者が約一名いる。

「……も、もちろん、春蘭は信頼しているわ。
春蘭のいない曹操軍なんか考えられないわ。
これからも期待しているから」
「はい!もちろん、華琳様のために、この身を奉げます!!」

一転してうれしそうになる夏侯惇。
彼女も単純な……もとい素直な性格の女性である。



 李典は職人多数を指示して、新型弓の生産を始める。
とりあえず100張ということだったので、20人の職人に作り方を指示して、李典が随時仕上げを確認するという手工業方式を採用する。
それから数週間。
曹操指示の通り、100張の弓が出来上がった。
それを夏侯淵率いる弓隊が試射する。

「どう?秋蘭」

曹操も試射の様子を見に来ている。

「はい、飛距離は申し分ありません。
今までの弓隊が使っていた弓とは比べ物になりません」
「そう、それはよかったわ。
でも、飛距離は、ってどういうこと?」
「はい、袁紹軍の弓隊の方が精度が高かったように思えます。
まだ何かあるのではないかと……」
「そう……まあ、ない情報をとやかくいっても仕方ないわ。
とりあえず弓の飛距離が伸びたことで良しとしましょう。
真桜、これを弓隊全員分作りなさい!」
「御意!」

曹操軍も袁紹軍にやや遅れて装備の充実を図ろうとし始めたのであった。



[13597] 側杖
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/02/05 21:03
側杖

 公孫讃という人物も、袁紹同様、恋姫三国志では不遇な待遇を強いられている人物だ。
史実では河北を袁紹と二分するほどの勢力を持っていたようだが、というより最初は袁紹よりも大勢力だったようだが、どうみても袁紹より遥かに格下に扱われている。
劉備が尋ねてきたときも、劉備を客将として扱うというよりは、ほぼ対等な立場に扱われている。
影が薄いとも言われ、踏んだり蹴ったりだ。

それでも地道に施政をこなし、盗賊の討伐を行い、袁紹の掛け声の下、董卓討伐にもあたり、袁紹から任される郡の数も次第に増えてきた。
とりたててどこが素晴らしいというものでもないが、何でも卒なくこなす万能選手である。
実直を実体化したような人物である。
このまま地道に活動をし続ければ、袁紹軍の中でもかなりの存在を占めることができたと思われる。
あくまで、袁紹軍の中で、という制約つきだが。
それが、公孫讃にとってよいことなのか悪いことなのかはわからない。

そんな公孫讃の頭の中で、劉備の言葉が悪魔の囁きのようにリフレインする。


「白蓮ちゃんも、まだまだ通過点だよね。
きっと、大陸全部を統べることができるよ!応援してる!!」


公孫讃は考える。

「そうだな。私はもっと上を目指さなくては。
まだまだ私はやれる!」

ということで、兵士の募集を始める公孫讃。
本気で大陸全部を統べる気でいるのかどうかは不明だが、少なくとも現状より勢力を拡大することを狙っているのは間違いないようだ。
ここは幽州で、幽州牧は袁紹なので、一刀の農業指導もたなぼた式に受けられており、最近結構潤沢になってきていた。
多少兵を増強しても大丈夫だろう、と公孫讃は考えた。


 そんな公孫讃の動きを心待ちにしていた人物がいる。
顔良である。
顔良は公孫讃を、正確には公孫讃のところにいる劉備を叩きたかったのだ。
だが、今や劉備は公孫讃の元を離れ、陶謙の元へと行ってしまっている。
さすがに陶謙を叩こう!というわけにもいかず、劉備を袁紹の元へ連れてきた公孫讃だけでもどうにか叩きたいと思っていたのだ。

何で顔良がそんなにも劉備を嫌っているか、というと、例の宝剣事件が関わっている。

 折角もらったのにー!!
 気に入っていたのにー!!

と、宝剣を奪われたこと自体が顔良の勘に触っていたというのに、更に董卓を討とうと酸棗に集結したときの事件が決定的だった。



 その日も劉備は歌を歌っていた。


わたしの宝剣 靖王伝家
とってもき~れい~な 宝のかた~な~
盗~られ~るこ~とが いっぱいあるけど
わたしのともだち さ~がし~てく~れ~る~
た~だでかえして や~さし~いね
「ハイ! 斗詩ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもう~れし~い 桃香ちゃん


「あ、斗詩ちゃんだ~!
元気~?」

顔良を見つけて、嬉しそうに手を振る、というより手に持っている宝剣を振り回してこれ見よがしに見せ付ける劉備。

「はは、あはは……」

と、冷や汗混じりに笑顔で手を振る顔良。
だが、表情と裏腹に、顔良は怒りではらわたが煮えくり返っていた。

 劉備の歌詞の内容が許せない。
 私のだった剣を見せびらかすところが許せない。
 真名を預けてもいないのに平気で呼んでいる事が許せない。

それでも、根が優しい上に、劉備も連合の一部であるという状況なので、何とか怒りを抑えてその場を乗り切るのだが、やはり考えれば考えるほどむかついてくる。
どうにか倒すきっかけがないものかと、業に戻ってからも参謀に公孫讃の状況を逐一確認していた。

そのうちに、劉備が公孫讃の元を離れたという情報が入ってくる。
えー!!と思った顔良であるが、いないものは仕方がない。
この怒りをどこかにぶつけなくては!と思った先が公孫讃。
完全に無関係とは言いがたいが、ほとんどとばっちりである。


というところに入ってきた公孫讃軍備拡張のニュース。

「公孫讃さんをやっつけましょう!」

と軍議で発案する顔良。

「それはどうして?」

田豊が尋ねる。

「だってー……最近兵士を募集し始めたっていうことですし……」

発案の理由からして、どうにも歯切れが悪いが、言っていることは間違ってはいない。

「確かに公孫讃が兵を集めているというのは事実ね。
勢力も麗羽様の所領の中では最大で、独立気運も強い。
早いうちに潰しておいたほうがいいかもしれないわね」

荀諶も顔良の意見に賛同する。

「他の皆はどう思う?」
「他の州を攻撃するときに、味方として動くかどうかですね、結局は」

沮授が答える。

「一刀の意見は?」

時々先の知識を持っているので、こういうことなら一刀も意見を求められる。

「……多分、今後公孫讃さんが麗羽様と協同することはない」

史実でも恋姫でもなかったから、きっとないに違いない、と一刀は思うものの、それを言っていいのだろうか?と、罪の意識も少なからずある。
ここで言い切ってしまったら自分が公孫讃を倒す口実を与えたようなものになってしまう。

「でも、俺の知っていることがすべてではないから、もしかしたら麗羽様の役に立つのかもしれない」

と、一応フォローもしておく。
実際、可能性が0でもないし。
だが、それを聞いた逢紀、

「ただ、公孫讃は匈奴や烏丸と仲が悪いでありんす。
麗羽様が公孫讃を重用すると、今後匈奴や烏丸と対するときに不利益となるでありんす。
匈奴や異民族と友好的な劉虞にもさんざん嫌がらせをしていたでありんす」

と、公孫讃を突き放す発言をする。
劉虞っていたんだ!!

「それは言えるわね。
それじゃ、公孫讃は官位を全て剥奪、反抗するようなら攻撃。
これでどう?」
「いいと思います」
「いいと思うわ」
「良いでありんす」
「いいんじゃない?」
「ボクも賛成」

可哀想に、公孫讃は地位を剥奪されるか、攻撃されることが決まってしまったのだった。
公孫讃には不幸としかいえないが、運命だったのだろう。



あとがき
……どうしても劉備が悪女になってしまいます。
申し訳ございません。
ご批判は拝聴いたしますが、最後の敵で、そうしないと話がなりたたなくなってしまいますので、この方針は変わりません。
ご承知おきくださいますようお願いします。



[13597] 易京
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:20
易京

 こちらは、公孫讃。

「何だって?官位剥奪?!」

公孫讃が袁紹から受け取った命令書には次のように書かれていた。


 公孫讃は軍備増強しており、叛意ありと判断。
 その全ての官位を剥奪し、配所の地を涼州と定める。
 弁明がある場合は一週間のうちに業に参じ、納得のできる弁明を行うこと。
 相国 袁紹


ここで、叛意などない!と言い切れれば弁解をすることもしたのだろうが、ないとも言い切れない気持ちを抱いていて、弁解も厳しい。
そもそも、何で軍備増強をしたのか?と問われて、一刀のように口先でにげたり、劉備のようになんとなく相手を煙に巻くという高等な、というかずるいテクニックは公孫讃は持ち合わせていない。
基本的にまじめだから。
かといって、はい、分かりました、流刑を受け入れます、というのも自尊心が許さない。
そこで、公孫讃のとった作戦は籠城。
史実では、所謂界橋の戦いで麹義に敗れ去った後に易京に引きこもることになったそうだが、残念ながら恋姫公孫讃、そこまでの戦力はなく、最初から籠城だ。
謝るのは難しそうなので、暫く籠城して、もう攻撃する意志がなく、反省したことが分かれば許してくれるのでは?という、涙ぐましいほどに消極的な作戦であった。

だが、残念ながら、そんな涙ぐましい努力も袁紹軍の前には意味がなかった。

「籠城するのは叛意の証ね。
攻撃しましょう」

ということで、攻撃が決定されてしまった。

攻撃するのは将が顔良、軍師が荀諶。
顔良は兵1万を率いて易京に向かう。
呂布や張燕ほどではないが、なかなかの素早さだ。
史実では公孫讃と(最終的に)ぶつかったのは麹義だが、戦の原因からして顔良が将になるのは必然だ。



 易京に着いた顔良達を出迎えたのは、驚くべき光景だった。

「急げーー!!急ぐんだーー!!」

公孫讃自ら陣頭指揮をとって大工事をしている。

「あの~~、何をしているんですか?」

顔良が、公孫讃に尋ねる。

「ああ、袁紹軍が攻めてくるから大急ぎで城壁を強化しているんだ。
今の手勢ではとてもじゃないが袁紹軍を防ぎきれない。
だから、城壁を強化してどうにか袁紹軍を防げるようにしている。
早く作り上げないと来てしまう!
おい、そこ!もたもたするな!!」

公孫讃は尋ねた人の顔もみないで、指示を出しながら片手間に答える。

「そ、そうなんですか。
それじゃあ、できる前に袁紹軍が来ちゃったらどうするんですか?」
「それは逃げるしかないだろう」
「でも、見張りも立てていないみたいですけど」
「……あ!本当だ!
おーい!人手が足りなくても見張りだけは立てないとだめだー!」
「その袁紹軍、もうここにいるんですけど。
どうしたらいいでしょうか?」
「えっ?!!!!!」

ようやく話している相手を見る公孫讃。

「………顔良…………さん」
「お久しぶりです、公孫讃さん」

公孫讃が見てみれば、何とも困った表情の顔良であった。
そして、二人揃って、ばつが悪そうに黙って俯いてしまう。

「「あの……」」

二人同時に話し始める。

「あ、公孫讃さんからどうぞ」
「い、いえ、顔良さんからどうぞ」
「そ、それでは……
私はどうすればいいんでしょうか?」
「そそそそうだな……
私は降伏して逃げるから、見逃してくれるっていうのはありだろうか?」
「そうですね。
それがいいかもしれません」
「ご協力感謝する。
それでは、ちょっと仕度があるので……」

公孫讃は城壁の中に入っていってしまった。
もちろん、工事はその時点で終了。
巨大要塞易京は恋姫三国志では工事が始まったばかりで終了してしまい、登場することがなかった。


「いいの?それで……」

荀諶が尋ねている。

「何か、この様子を見たら可哀想になっちゃって。
そんなに悪い人じゃないし……」

もともと嫌っていたのは劉備であって公孫讃ではないから、こんな涙ぐましい姿を見せられてしまうと、やっぱり助けたいと思ってしまう優しい顔良である。
かといって、今更無罪放免とすると、袁紹の顔に泥を塗ってしまうことになるから、妥協の結果だ。

「まあ、そうね。その気持ちは分かるわ」
「麗羽様は一刀さんになんとかしてもらいましょう」
「わかった」

それから程なく……どどどど、と城内から白馬がたくさん飛び出してきた。
百頭以上いるかもしれない。
先頭はもちろん公孫讃。

「顔良さん、ありがとう!」
「お元気でーー!!」

公孫讃は顔良に別れを告げて去っていった。


顔良は公孫讃の治めていた所を、全て無血で手に入れた。
公孫讃の部下も、公孫讃でなくては!という人々は公孫讃と共に去っていってしまったので、袁紹にそのまま鞍替え。
袁紹領の治世も良いとの話が伝わっているし、一刀の農業指導もあったので、民も治める人間が袁紹に変わっても、何の不満も抱かなかった。

こうして、領内の独立勢力は全て排除することに成功した袁紹であった。
河北で残っているのは、あとは南匈、烏丸だ。
着々と河北の平定が進んでいる。



 業に戻った顔良は、早速結果を一刀に報告する。
そう、こういう面倒な報告は、まず一刀である。

「……まあ、何となく気持ちは分かります。
で、俺が報告するんですか?」
「お願いします。そのまま報告したらまた麗羽様癇癪をおこしそうで……」
「そのまま報告しなければいいじゃないですか。
柳花さんと口裏合わせて、行ったらもう公孫讃さんは側近と共に逃げた後で、全く戦いもなく華麗に公孫讃さんを駆逐することに成功しました!って言えばいいんですよ」
「……それもそうですね。
どうも助言ありがとうございました」

と、袁紹対策が済んだところで、一刀は疑問に思っていたことを尋ねる。

「ところで、公孫讃さん、劉虞さんに嫌がらせしていたって聞いたんですけど、何をしていたんですか?」
「ああ、劉虞さんって、宗教家なんです。
布教活動をしているのが、丁度公孫讃さんの領内で、公孫讃さんは宗教が嫌いみたいで、あれこれ嫌がらせをしていたらしいです。
具体的に何をしていたかまでは知らないですけど」
「ふーん、そうなんですか」

どうやら、劉虞は政治家ではないらしい。
だから、今まで登場しなかったのだろう。
それでも、南匈、烏丸と仲がよいというからには、それなりの権威のようなものを持った人なのだろう。
もしかしたら南匈、烏丸というのは信心深いのだろうか?と何となく考えている一刀であった。





あとがき

公孫讃の扱いが悲惨な気もしますが、これが一番平和裏に劉備の元に行ける方法だったので、こういう話にしました。
戦いがあって、這々の体で逃げ出した、というストーリーも考えたのですが、公孫讃兵が数多く死んでしまうことになり、その後の統治のことも考えて死者が少ないほうがよいだろうと思ってこうしました。
まともに界橋の戦いをしたり、易京を作ったりしたら、公孫讃死んでしまいそうですし。

公孫讃の扱いが不自然と言う話もその通りだと思います。
ただ、公孫讃はどうしても劉備のところに行かなくてはならないのです。
それなのに恋姫公孫讃は弱小そうなので、扱いが難しかったのです。
以前、公孫讃が州牧にするのを止めたので、公孫讃は袁紹の部下っぽくなってしまっていて、なので無理やり攻める口実を作ったのがちょっと話の展開上無理があるのは承知していますが、これよりましな案が思いつきませんでした。

ということで、色々あることは承知しておりますが、ご了承、というよりある程度我慢してくださいますよう、お願いします。
尚、今後公孫讃はあまり出番が無い予定です。
……多分。



[13597] 瑯邪
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/02/09 22:11
瑯邪

 公孫讃がその後どこに行ったか、というと、もちろん劉備のところである。
劉備は、主に青州にいて、そこの盗賊の討伐にあたっていた。
青州は曹操の青州党の出身地であることから分かるように、黄巾党の力が強かったところで、それが引きずっているのか未だ治安が悪く、盗賊が跋扈している。
劉備のいる街は臨輜(りんし)。
古は斉の都として栄えた都だ。
まあ、あくまでいるだけであって、そこを治めているというわけではない。
そこを本拠として盗賊の退治に当たっている。

地理関係は

 幽州
 冀州  海
 青州

だから、一瞬冀州を通る必要があるが、それほど遠くはないので公孫讃は劉備の元へ難なく着けた。


「桃香、すまん。行動を共にさせてくれ」
「あれー?白蓮ちゃん、どうしたの?」
「袁紹様に追い出されてしまった」
「えー!袁紹ちゃん、酷いねえ!」

実は自分が原因だったとは夢にも思わない劉備である。
というか、そんなことは、顔良以外誰も知らないだろう。

「まあ、今の世、そういうこともある。
もう、とやかく言っても仕方ないだろう。
命があっただけでもよかったと思わなくては」
「そうなんだ。それじゃあ、これからは二人で頑張ろうね!
いつかは袁紹ちゃんを見返そうね!」
「ああ、そうだな。
だが、立場としては私が桃香の部下ということにして、またそれほど目立たないようにしておいてもらいたい」
「えー?どうしてー?
白蓮ちゃんなら、州牧でもできるくらいなのにー!」
「袁紹様に追い出された身。
陶謙様の所領にいることがわかったら、陶謙様にもご迷惑がかかる」
「そっかー。そうだね。うん、わかった」


ということで、劉備の家来になってしまった公孫讃。
下克上ではないが、主従転倒だ。
それからは、公孫讃も盗賊退治に協力するようになった。
劉備も公孫讃と行動を共に出来て嬉しそうだ。

盗賊退治は関羽、張飛の担当。
劉備と諸葛亮は街の中をうろうろしては人々と話をして、愚痴をきいたり、盗賊の情報となりそうな話を聞いたり。
ここでも劉備はその魅力を遺憾なく発揮した。

「そうなんだぁ。
税ってそんなに重いんだ。
ねえ、朱里ちゃん、もっとみんなが楽に暮らせるように出来ないの?」
「そうですね。六割は多いほうですね。
四~五割でも何とかなるのではとは思うのですけれども、税を減らすと軍備が減ることも考えられるので、すぐに減らせると言うものでもありません。
陶謙様と相談して、それが出来るかどうかを考えなくてはなりません」
「そっかー。難しいんだね。
ごめんね、桃香ちゃんの力ですぐにどうにかできるものじゃないんだって。
できるだけ頑張るから」
「いえ、今までこのような話を聞いた方は一人もいらっしゃいませんでした。
聞いてくださっただけでもうれしいのです」

とにかく同じ立場に立って親身に聞く、というのがいいのだろうか?
劉備は偉そうなところが全然ないから。
それ以前に性格が重要な要素を占めている気もするが、劉備はこの地でも高い人気を博するようになっていた。
どこに行っても民衆にはとにかく人気が高い劉備であった。


 そんななか、大事件が勃発する。
徐州瑯邪国開陽にて、陶謙の部下が曹操の父と妹の曹嵩、曹徳を殺害したと言うものだ。
二人は、董卓が悪政を行っているというので、洛陽から遠いここ瑯邪国に疎開していたのだが、どうやらもう大丈夫だろうというので許に戻るところを襲われたのだった。
それを聞いた曹操、怒り狂って瑯邪国に出撃を命ずる。

「ゆ、許せない……桂花!全軍出撃!!
瑯邪国の命と言う命を根絶なさい!!!」
「ぎょ、御意!!」

身内は臣下であっても大事にする曹操である。
親族が殺されたとあっては、その怒りも想像を絶するものだったのだろう。
あまりに凄惨な指示に、さすがの荀彧もびびってしまうが、曹操の指示である、全軍に出陣の指令を出す。
このころ、曹操は当初の軍勢5万人に、投降した黄巾党を曹操の直轄軍とした青州軍30万人を加え、袁術を凌ぎ、袁紹に次ぐ大勢力となっていた。
青州軍は常備軍ではないが、その全員に出陣の指令が出た。
曹操軍は瑯邪国に向け、全軍が突撃していった。

そして、瑯邪国に至るまでの10を越す街という街は、全て殲滅させられた。
三国志史上、最大の大虐殺であった。
尚、このときの曹操の姿がローマに伝わり、以降ヨーロッパでは死神は髑髏の顔(髪飾りを模したものだろうか?)に、大鎌を持って現れる姿として描かれるようになったのは、曹操の知らないことである。

曹操軍はそのまま徐州に攻め込むか、と思われたが、瑯邪国を落とすと、さっと豫州に戻っていってしまった。


 さて、劉備はそのころ何をしていたか、と言うと、曹操軍が攻めてきたと聞いて、大急ぎで曹操軍に対するために自分の軍を南に移動させた。

「え!曹操ちゃんが攻め込んできたの?
大変!陶謙様を助けなくちゃ!!」

劉備の軍といっても、幽州から連れてきた数百名+公孫讃軍百名強、全部で千名に満たない兵がいるだけだ。
数十万規模の曹操軍とあたったら、ひとたまりも無く殲滅させられてしまうだろう。
しかも、曹操軍は今いる場所と陶謙との間にいる。
戦術的にあまりに無謀な考えに、諸葛亮や公孫讃は考えを改めるように説得するのだが、

「確かに曹操ちゃんとぶつかったらひとたまりもないと思う。
だから、何とか曹操ちゃんに会わないように陶謙様の元に向かえないかなぁ?
そうしたら、陶謙様の軍の役に少しはたてると思うんだけど」

という、劉備の強い意志で結局軍をすすめることになってしまったのだ。
幸運にも曹操軍は既に撤退した後で、劉備軍が曹操軍と矛先を交えることはなかった。
曹操軍と陶謙軍の戦いはなさそうだが、劉備はそのまま陶謙の許へと向かう。

「陶謙様!ご無事ですか?」
「ああ、劉備か。
知ってのとおり、曹操が戻ってくれたおかげで命拾いした」

各地に散らばっている陶謙の部下で、彼の元にやってきたのは劉備が最初だった。
陶謙を見てみれば、命は無事だが、すっかり意気消沈してしまって、何もやる気がない雰囲気だった。
怒涛の曹操軍のを見て、恐怖を感じたのだろう。

「よかった!
陶謙様がご無事なだけで、桃香ちゃん安心!」
「今回の事態は、私の責任だ」
「……そうなの?」
「ああ。曹操の親族が領内にいることはわかっていたので、彼等に監視をつけていたのだ。
動きがあったら報告をするようにと伝えておいたのだが、部下が彼等が許に戻るのを見て、怪しい動きと判断して殺害してしまったようだ。
そこまでしなくてもよかったものを」

陶謙、悔やんでも悔やみきれないという雰囲気だ。

「でも、曹操ちゃん戻ったから、もう大丈夫だよ!」
「だが、いつ曹操が再度攻め込んでくるかと思うと……」

弱気な陶謙である。
まあ、あれだけの力を見せ付けられると、弱気にもなってしまう。

「大丈夫!桃香ちゃん、曹操ちゃんを防ぐから。
ね!朱里ちゃん!!」
「え、えーーっと……
いくらなんでも今の手勢では少なすぎて、防ぐのは無理ではないかと……」

現実を直視する諸葛亮である。

「私の手勢四千を桃香に差し上げよう。
そして、小沛城も桃香に譲ることとしよう。
小沛城にて曹操軍を防いでくれ」

大盤振る舞いの陶謙である。

「うん、わかった!
朱里ちゃん、がんばろうね!!」
「え、ええ……」

それでも足りなすぎる!と思う諸葛亮であるが、陶謙の手勢(しかも精鋭)を渡され、城まで譲られると、否ともいえず、しぶしぶ了解するのである。
こうして、いきなり城主に抜擢され、小沛城に向かう劉備軍一行。


 小沛城というところは、兌州(正字は兗)に半島のように飛び出した場所にある、半ば陶謙領の孤島である。
だから、曹操が攻めてくるとしたら真っ先にぶつかることになる。
諸葛亮は、城を出来る限り要塞化していった。
城壁のほころびは全て修復し、扉の強度も上げた。
あらゆる罠をしかけ、知っている限りの新兵器を用意した。
それから、篭城になっても大丈夫なよう、兵糧の確保もおこなっていった。

だが、そういう準備をしている間、曹操軍は全く攻めてこなかった。



あとがき
袁紹伝なのに袁紹関係の人物が一人も出てこない……
申し訳ございません。
あと、何回かそういう状況が続くような……
できるだけ端折りますので、もう少々お待ちください。



[13597] 州牧
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:21
州牧

 劉備軍は小沛城で曹操軍がいつくるかと、半ば怯えながら臨戦態勢を敷いていたが、曹操が来るより前に別の大ニュースが飛び込んできた。
陶謙の死である。
意気消沈して、そのまま生への執着もなくなってしまったのだろうか。
同時に、劉備に陶謙の遺言が伝えられる。

「ええ~?!桃香ちゃんが州牧?」

陶謙の遺言を伝えにきた使者に、劉備が驚きの声を返している。
使者と言っても麋竺という別駕(州のNo.2)自らの来訪である。
少なくとも現時点では麋竺の方が立場が上だ。
麋竺。字が子仲、真名が清老頭。性別男性。
地元の大豪族で且つ大富豪である。

「はい。劉備様は民の信望も篤く、曹操に攻められた際も最初に陶謙様の許へ参られ、陶謙様への忠誠も深いというのが皆の気持ちです。
州牧には劉備様をおいて他にないとの意見で、他の臣下も陶謙様の遺言に賛同しております」
「でも、でも、陶商様とか陶応様は?
陶謙様のこどもだよ!」
「陶商様、陶応様も此度の曹操の襲撃を見て、もう州牧にはなりたくないと申しております」

元々出来が良いとは言われていない息子達である。
おまけに、曹操軍が圧倒的な勢力で攻め込んできた直後だ。
いつ、またくるとも限らない。
あんな曹操、相手にしたくない!という気持ちなのだろう。


 というわけで、あっという間に州牧になってしまった劉備。
州牧として下丕(正字は邳)に入るのだが……

「ねえ、朱里ちゃん。
今度、曹操ちゃんが攻めてきたらどうなると思う?」
「今の軍勢では全く歯が立たないと思いましゅ。
この間攻め込まれた時に、軍の覇気も失われてしまいました。
たとえ数が同じであっても、勝てないと思いましゅ」
「そっかー。そうだよねえ。
この間もやられてばっかりみたいだったし……」
「はい。遊牧民の傭兵を大量に雇うとかすれば、もしかしたら、ということもあるかもしれませんが、お金も時間も足りません」
「そっかー。難しいんだね」

それに 麋竺が口を挟む。

「お金が要りようでしたらいくらでも私のをお使いください。
曹操に奪われるくらいでしたら使っていただいたほうが幸せです」
「だめだよ!そんなの。
どうにかみんなが幸せになる方法を考えなくちゃ!」
「ですが……」
「そうだ!
降伏するから命と財産は守ってってお願いしよう!!」
「そんなにうまくいくでしょうか?」
「そうでしゅ!
この間も殺戮と略奪の限りを尽くしていました!
そんな保証はありましぇん!!」

劉備の意見に麋竺も諸葛亮も大反対する。

「この間は、きっと身内の人が殺されたから頭に血が昇っていたんだよ。
今度は、もっと冷静に戦いにくるからきっと大丈夫だよ!」
「本当でしょうか?」
「でも、駄目だったことも考えて、しっかり守れるようにしておいてね、朱里ちゃん」
「はい、わかりました……」

本当に大丈夫だろうか?という雰囲気の麋竺と諸葛亮であった。



 そのころ、曹操は何をしていたか、というと………

「桂花」
「はい、華琳様」
「この間は、父と妹を殺され、つい我を忘れてしまったのだけど、やりすぎてしまったかしら?」

瑯邪国を滅ぼして、本懐を遂げ、我を取り戻した曹操は、自分のとった行動を省みてちょっとやりすぎてしまったか?と反省して軍をそのまま戻したのである。
それに、軍事的にもいつまでも許を空にしては、いつ袁紹が攻めてこないとも限らない。
加えて、大急ぎでやってきたので食料も尽きかけてきた。

荀彧は、確かに一般人まで殺害するのはやりすぎだったかも、と少しは思うが、この場合はそんなことを言っては軍師失格である。

「いえ、そんなことはありません。
臣民をこよなく愛する華琳様がご親族を殺されたとあっては、その怒りはいかばかりか。
天の神、地の神も華琳様に同情なさると思います」
「そう。それを聞いて安心したわ」
「それに、此度の攻撃で曹操軍の恐ろしさを知らしめることも出来たと思います。
陶謙軍はもう反抗する気もないでしょうから、再度軍備を揃えて徐州に攻め込みましょう。
今なら楽に徐州を落とすことができます」
「そうね。今なら落とせるでしょうね。
でも、少し待って頂戴」
「何故ですか?
機を見て事を起こすは兵法の基本。
今がその機と具申いたします」
「そうね、桂花の言うとおりだと思うわ。
でも、少し自分のやった行いを懺悔したい気持ちなの。
悪いけど少し待って」
「……畏まりました」

ということで、劉備が小沛城にいる間は曹操は攻めてこなかったのだ。



 だが、その平和な状態も長くは続かなかった。

「劉備が州牧になったですって?」

懺悔もそろそろいいだろうと思っていたところに、徐州のニュースが飛び込んでくる。

「はい、華琳様。
陶謙様がお亡くなりになり、その後を劉備が継いだようです」
「そう。それでは、劉備に贈り物をしなくてはならないわね。
曹操軍侵攻という洗礼を」
「……それでは」

荀彧は、それを聞いてにやりと嗤う。

「直ちに侵攻準備!」
「御意!」


たちまち徐州に攻め込む曹操軍。
曹操は、下丕で開戦の口上を述べる。

「劉備!州牧に就任したそうね。おめでとう。
この曹操、心からお祝い申し上げるわ。
それで、贈り物をしようと思ってここに来てあげたの。
徐州侵攻という贈り物を。
命が惜しくば素直に投降なさい。
さもなくば……」

と、言っている最中に、城門が開いて数名の者が走ってくる。
先頭が劉備だ。

「お願い、曹操ちゃん。
投降するから徐州の民の命と財産は保証して!
その代わり、桃香ちゃんなんでもするから。
桃香ちゃんが死ぬのが曹操ちゃんの望みなら、そうするから。
お願い!」

まさか、何もしないで投降するとは思ってもいなかった曹操。
思わず気を削がれてしまう。
そもそも、劉備という女は話すだけでどうにも攻撃心が削がれてしまう何かを持っている。

「……劉備軍の全員が投降するのね?」
「うん、そうだよ。
桃香ちゃんも、愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも朱里ちゃんも、兵隊さんもみーんな投降するよ。
曹操ちゃんの好きにしていいから。
あ、でも桃香ちゃん以外の人の命は守ってもらえるとうれしいんだけど……」
「そう」

曹操はそう言って劉備の後ろに立っている関羽を舐めるように眺める。
曹操はにやりと嗤い、

「いいでしょう。その条件飲みましょう!」

と、劉備の提案を了承した。

このようにして、徐州、青州は曹操の支配下に納まってしまった。
そこに住んでいる民は、命も財産も守られたのでほっとすると同時に、劉備をそれは尊敬するようになったのである。

曹操は、兌州、豫州、青州、徐州の4州を治める中華の大勢力となり、ここに魏の建国を周辺諸侯に宣言したのである。



[13597] 伯安
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:22
伯安

 曹操が中華で好き勝手やっている間、袁紹軍が何をしていたかというと、河北最後の障害、匈奴と烏丸の対応をしようとしていた。

「一刀」
「ん?何?」
「劉虞のところに行って、南匈、烏丸と交渉にあたるんだけど、一緒についてきてくれる?」

田豊が珍しく弱気に一刀に頼み込んでいる。

「別にいいけど、どうして?」
「於夫羅と踏頓(正字は蹋頓、または蹹頓)って、どうも苦手で。
特にあの踏頓がなんとも不気味な感じで」

於夫羅は南匈の単于、踏頓は烏丸の単于である。

「ふーん。どんな人なの?男?女?」
「二人とも男。
どんなという問いは……私の口からはとても」
「分かった」

というわけで、劉虞のところに向かうことになった一刀。
南匈、烏丸は袁紹に友好的なので、交渉で配下に下ってもらいたいというのだ。
その見返りとして、漢の将軍として扱う旨、提案する予定になっている。
この世界ではもういないが、史実の張燕が曹操に平北将軍の地位を与えられたところを見ると、漢の将軍としての地位はなかなかに魅力的なのだろう。
民族を認められ、かつ支配権も与えられたことと同義だから。
漢に攻め込まれることがなくなる上に、経済的な効果も期待できる。

交渉にあたるのは田豊、将として同行するのは麹義。
一応、兵も5000位つけている。
一刀のおまけについてきているのが呂布。
陳宮は今回もお留守番。

向かう先は劉虞。
劉虞。字が伯安。真名は……田豊も知らないらしい。
史実では、姓からわかるように皇族の子孫で、袁家と同様名家であった。
そして、袁紹に皇帝に祭り上げられようとしたが、それを拒否している。
袁紹も、皇帝に祭り上げる人の了承をとってからすればよかったものを。
最期には公孫讃に滅ぼされている。
恋姫劉虞は、血筋は不明だが政治家ではなく、宗教家であるという話だ。
劉虞は袁紹と友好的で、且つ於夫羅、踏頓と仲がよいらしいので、交渉の仲介をお願いしたのだ。


「麗羽様と劉虞さんって、何で仲がいいの?」

道中、一刀が田豊に尋ねている。

「ああ、劉虞って、宗教家というだけでなく、医療行為も行っているの。
昔、猪々子が病気になったときに劉虞が治してくれて、それ以来麗羽様は劉虞を大切にしているの」

宗教家で医療行為?
どこかで聞いたような話だけど……

「ふーん。じゃあ、公孫讃さんは宗教も嫌いだし医療行為も嫌っていたのかなぁ?」
「ええ。公孫讃はまじめな性格だから、宗教のように論理的でないものや、鍼で病気が治ると言うような得体の知れないものは信じなかったようね。
だから、常日頃出て行けとか、邪道だとか言っては劉虞と喧嘩してたわね。
於夫羅や踏頓は劉虞と仲がよくって、よく病気を治してもらったりしていたみたいで、劉虞と仲の悪い公孫讃とも険悪だったのね。
だから、南匈・烏丸を味方に引き入れようと思ったら、やっぱり公孫讃はいないほうがよかったの。
公孫讃を追い出したのは、彼女が叛意を持っているかどうかよりはそっちの政治的な理由のほうが大きかったのね」

顔良より色々知っている田豊である。

「そういうことなんだ。
何かちょっと不憫だね」
「まあね。でも、結局斗詩も公孫讃を逃がすことを手助けしているし、一番平和な結末だったんじゃないの?」
「そうだな」



そんな話をしていると、ぼちぼち劉虞のところに到着する。

「やあ、田豊。よく来たね。
於夫羅も踏頓も待ってるよ」

目的地に着くと、劉虞が自ら出迎えてくれた。
田豊とも知り合いらしい。
で、その劉虞。見た目は赤毛の髪の好男子。
宗教家で医療行為。
どうみても、華佗だ。
何故、劉虞?

「こんにちは、劉虞。
交渉の仲介、どうもありがとう」
「いや、なに。俺も彼らが安定した生活を送れるようになると嬉しいし。
ところで、そちらの男は?」

田豊にくっついているように存在する一刀について、劉虞が尋ねてくる。

「紹介するわ。私の夫の一刀。
交渉の支援役としてついてきてもらったの」
「へえ、結婚したんだ。おめでとう」
「始めまして、劉虞さん。北郷一刀です。一刀と呼んで下さい」

一刀は劉虞にお辞儀をする。

「こちらこそ、よろしく」

劉虞も律儀にお辞儀を返す。
でも、どうみても華佗だよなぁ?と思っている一刀である。

建屋の中に入って、於夫羅、踏頓と対面する。
烏丸は元は匈奴に支配されていたり住む場所を追い出されたりしたはずだが、ここでは南匈と烏丸が仲が悪いというわけでもないらしい。

於夫羅は白髪のダンディーな老人で、筋肉隆々としていて、年の割りに体力がありそう。
踏頓は、左右に三つ編みの髪をたらした、こちらも筋肉隆々の脂ぎっている中年。
というより、どう見ても卑弥呼と貂蝉だろう!と思う一刀である。

「やあ、田豊殿。待ちかねたぞ!」
「そうよう、わたしもこの肉体をもてあましそうだったわ」
「ごめんなさい、遅れてしまって」
「そちらの殿方といちゃいちゃしていて遅くなったんでしょう?
もう、見せ付けちゃってくれるんだからぁ。
このいけずぅ」

田豊の顔がひくついている。
気持ちは良~く分かる!

「それで、今日来て頂いた案件ですが……」

貂蝉の……いや、踏頓の言葉をスルーして話を始めようとする田豊。

「その前に、そのいい男を紹介してよう」

マイペースな貂蝉、ではなくて踏頓。
……一刀はいい男なのか?
まあ、感じ方は人それぞれだから。

「……いいわ。私の夫の一刀です」
「始めまして、卑弥呼さん、貂蝉さん。一刀です」

見た目のイメージで、ついそっちの名前が出てきてしまう一刀。
インパクトがでかすぎるから。
それを聞いた於夫羅と踏頓、少し驚いたように質問を返す。

「あら、いやだ。
わたしったらいつの間に真名を教えていたのかしら?」
「うむ、私もおぬしと会うのはこれが始めての気がするのだが。
私の真名など、漢人で知っているものがそれほどいるとはおもわなんだった」

し、しまったー!つい……
そうか、卑弥呼、貂蝉が真名だったんだ。
真名を安易に呼ぶと失礼だという話だが……

「す、すみません。つい、そういう印象を受けてしまって、その名で呼んでしまいました。
真名とは知らず、申し訳ありませんでした」

ということは、劉虞の真名は華佗?
華って姓ではないの?
佗って名ではないの?
もうどうでもいいや!

「いいのよう。真名と知ってわざと言ったわけではないのでしょう?」
「うむ、そのとおりだ。
ところで、何故その名を。
以前どこかであったことがあっただろうか?」

それほど怒っていないようなのでよかった。

「え?いや、その、初めてです、お会いするのは。
実は、……何といったらいいのか、時々天啓みたいなものがあって、今日もお二人の名前が卑弥呼、貂蝉だと分かったんです」
「なんと!その様な天啓で私たちの真名を知ることが出来たとは!」
「あらん、こっちの男に鞍替えしちゃおうかしらん。
きっと生まれる前から赤い手錠でつながれていたのよん♪
わ・た・し・た・ち!」
「何!それを言うなら、私たちは赤い足かせだ!」

顔面蒼白になる一刀。
赤兎馬で戦場に向かうときよりも恐ろしい情景だ。
こんなマッチョ二人に言い寄られた日には、体がいくつあっても足りない。
田豊が苦手意識を持つのももっともだ。

「い、いえ、卑弥呼さんも貂蝉さんも華佗さんと仲良くしたほうが……」
「何?!俺の真名も知っているのか!」

やっぱり、劉虞の真名は華佗だったのか!
って、ついそっちの名前が出てきてしまう一刀である。
まあ、一刀がこの姿をみたら、劉虞、於夫羅、踏頓で呼べ!と言うほうが難しい。

「そ、そうですね。
これも天啓みたいなもので……あはは」
「田豊殿と結婚するほどの身、そして、俺達の真名を天啓で知る。
一体どのような男なのだ?
何ができるのだ?」

劉虞というか華佗も一刀に興味を示し始めた。

「いえ、大したことはできないんです。
農業指導をするくらいで……」
「ん?もしや、最近話題の農業指導をしているという天の御使いでは」
「よくご存知ですね」
「あら、だぁりん、この男知っているの?」

貂蝉が、ではなく、踏頓が……って、もう面倒なので恋姫に倣って貂蝉、卑弥呼、華佗で呼ぶことにする。
で、その貂蝉が話しに加わってくる。

「ああ、食料を増産して、領内から飢えを無くした者だ。
食料が潤沢になってからは病人も随分減った。
やはり、十分な食料と休養、これが健康への道の基本だ!」
「そうですよね!俺もそう思います」
「俺の修める神農大帝が始めたとされる五斗米道も、まず食料を確保するところから教義が始まっている」

実際の五斗米道は神農大帝が始めたわけではないようだが、恋姫ではそういうことになっている。
食料を確保する、というのは五斗の米を寄進させているところから見ればそうなのかもしれない。

「君のやっている行為は五斗米道の真髄ともいうべき、立派な行為だ!
神農小帝と名乗って良いだろう」
「いやあ、それほどでも……」

微妙に意気投合する一刀と華佗。

「謙遜することはないだろう。
それで、今日君達が来たのは、神農大帝について語り合いたいと、そういうことだったかな?」
「違います!
漢と、南匈・烏丸の交渉をするためです」
「そうだったか……」

残念そうな華佗。

「そうよう!
わたしたちも二人でいつまでも仲睦まじく話していると妬いちゃうから!」
「そうです。早く交渉を始めましょう!」

貂蝉の言葉に一刀も大いに賛同するのである。

ようやく、会議が始まるようだ。
田豊は会議が始まる前から疲れていた。




あとがき
華佗の口調が、どうも難しいです。
特徴があるようなないような……
読み返しても、違和感があるようなないような……
アドバイスがあればいただけると幸いです。



[13597] 麹義
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:23
麹義

「―――ということは、漢の将軍を命じられ、民族が認められて自治権も与えられる引き換えに、漢の配下に入れと、そういうことだな?」

田豊の話を聞いた卑弥呼が内容をまとめて確認する。

「そういうことです。
悪い話ではないとおもうのだけど」
「うむ、確かに悪い話ではない」
「では……」

と、進めようとする田豊を貂蝉が遮る。

「でもねぇ、わたしたちも民族の誇りがあるの。
わたしたちが漢の配下になってもよいという、証がほしいの」
「証?」
「そうよぅ。
これでも騎馬民族だから、馬術と弓術には秀でているという自負があるのよん」

貂蝉と卑弥呼が馬に乗って弓を射る!
想像が難しいシーンである。
素手の方が圧倒的に強そうだ。
それ以前に馬が潰れてしまうのでは?

「ということは、袁紹軍が南匈、烏丸の騎馬隊に勝てるだけの力があることを見せればいいのね?」
「そうだな。それがいいだろう」
「わたしも賛成よう」
「では、今回兵を5000連れてきましたから、南匈・烏丸も5000の騎兵を用意してください。
袁紹軍は全て歩兵であたります。
同数の歩兵で同数の騎兵を凌駕したら袁紹軍が下るに足る十分な力を持っていると判断してくれますね?」
「何!騎兵に同数の歩兵で当たるというのか!
それはいくらなんでも無謀だろう。
騎兵は歩兵の2~3倍の能力があるとされているし、私も実際そのくらいの能力があると思っている。
私達の兵の能力を侮ってもらっては困る」
「それは知っています。
その代わり、私達もあなた方を殺さない程度に色々な兵器を使わせてもらいます」
「あらん、こわいわぁ」

怯えた声を出す貂蝉だが、表情は逆に来る戦いへの期待に満ちているようにも見える。

「それならいいだろう。
お前はどうだ?貂蝉」
「いいわよ。
民族の誇りに掛けて負けないわよ~ん」
「戦いは明日でどうですか?」
「うむ、よかろう!」



 ということで、南匈・烏丸連合軍 vs. 袁紹軍の模擬戦が行われることとなった。
漢側の将はもちろん麹義。
もちろん、やるきあるバージョン。
史実では公孫讃を破り、南匈を破ったスーパーマンである。
袁紹も、彼を使いこなせれば、ってそれを言ってはいけませんね。
恋姫麹義は、(一刀がこちらの世界に来てからは)今のところほとんど出番がないが、それ相応の強さを持っているのだろう。

麹義の兵器の十八番といったら弩。
強力大型弓である。
だが、流石にそんなものを模擬戦に使ったら、死者続出だろうから使わないのだろう、と思っていた一刀であるのだが……

「朱雀さん、どうして弩を準備しているんですか?」
「これか?もちろん、使うためだ」
「そんなもの使ったら、相手が死んじゃうじゃないですか!」
「いや、な。菊香が作戦を考えて、相手に向けないでこれを使うのだ」
「そうなんですか。どんな風に?」
「それは秘密だ。フハハ」

麹義は嗤いながら一刀に答える。

「ねえ、菊香。どんな作戦で騎馬隊に臨むの?」
「うふふ。知りたいでしょ?
でも、秘密。
明日を楽しみに待っててね。
絶対勝つから!」

余程自信があるのだろう。
表情からもそれが伺える。


 そして、南匈・烏丸連合軍 vs. 袁紹軍の試合が開始される。
連合軍という名称も何なので、漢女軍ということにする。
………漢でも女でもないのだけど。

立会いは華佗、見物は一刀と呂布。
呂布の横には山のような肉饅。
肉饅を食べながらの観戦である。
昔から、ながら族はいるようだ。

「それでは、これから南匈・烏丸連合軍対袁紹軍の模擬戦を行う。
怪我をしたら、この俺が治すから、相手が死なない程度に力一杯戦って大丈夫だ。
それでは、始め!!」

劉虞の発声で戦の火蓋が切られる。
が、動きはほとんどない。
袁紹軍の前面にはかなり大きめな楯がずらりと並んで、漢女軍との間に壁を作っている。
その楯を持った兵がじわっ、じわっと前進する。
漢女軍も、様子見の雰囲気で、何もしていない。

そのうちに、楯部隊がピタッと止まり、その場で楯を布団のようにして寝てしまう。
楯に篭った亀という表現の方がぴったりするかもしれない。
漢女軍は馬術と弓術に優れるが、楯に引きこもられると自慢の弓が使えない。

「あれは何をしているのだ?」
「わかんないわぁ。
こんな敵は初めてみたもの」

漢女軍の最前列で卑弥呼と貂蝉が話し合っている。
本当に二人とも馬に乗っている。
何か底知れぬ違和感がある。

一刀は麹義が何をしようとしているのかわかった。
麹義が公孫讃戦に使った、驚馬作戦(命名一刀)だろう。

「だが、このままでは拉致があかぬ。
馬の力を見せてくれようぞ!」
「そうね。ちょっと馬の力を見せてあげなくちゃ。
みんな~、突撃するわよ~ん」

漢女軍は馬を一斉に前進させる。
だが、袁紹軍前列は何もしないで楯に引きこもったままだ。
漢女軍は更に前進を続け、このままでは袁紹軍が馬に踏みつけられてしまうという、まさにそのときに、麹義の声が響き渡る。

「今だ!!」

その声を聞いた楯隊は一斉に起き上がって馬の前に楯の壁を作る。
驚いたのは馬である。
今まで遥か彼方まで開けていた視界が、一瞬で閉ざされてしまう。
馬は基本的に臆病な生き物である。
急に目の前に壁が出来たのでパニックに陥ってしまう。

ヒヒーーーン

大急ぎで止まろうとしたり、向きを変えようとしたりして、ひっくり返ったり隣の馬とぶつかったりしている馬に、後続の馬が驚いて、という状況が連鎖して、連合軍全体がパニックに陥ってしまった。

「どう、どう……」

漢女軍は必死に馬を鎮めようとしているが、なかなか鎮まらない。
そんななか、麹義の第二声が発せられる。

「撃てーーー!!」

その声で、弩が一斉に発射される。
弓、というより丸太は、地面には平行でなく、かなり上方に飛んでいった。
よく見れば丸太の後ろには紐がくっついていて、さらにその後ろには大きな網がついていた。
そして、網が着地したとき、漢女軍はまさに一網打尽にされてしまった(数網打尽?)。

「押さえろ!!」

超大型の網の周りを、兵達が押さえつけていく。
網から逃げられた騎兵は、今度は歩兵の餌食となってしまう。
9割方網に捕らえられてしまったので残りは高々500騎。
一部、押さえ込みに当たる兵もいるが、それ以外の兵は騎兵に当たることができるので、騎兵1に対し、5倍以上の兵が当たることができる。
もはや、騎兵といえども歩兵の敵ではなかった。

あんなに巨大な網を使うというのは恋姫田豊のオリジナルだろうか?
実は何気に結構色々作戦や兵器を考え出している田豊であった。


 こうして、あっさり決着がついてしまった漢女軍と袁紹軍の戦い。
やっぱり、麹義-田豊コンビは強い!
実戦だと、弩の向かう先が騎馬そのものになるので、やっぱり麹義が勝ったであろうことは容易に想像がつく。


「むう、ここまで徹底的にやられると、悔しいを通り過ぎて、むしろすがすがしい気さえするな!」

戦いの後で卑弥呼が田豊、麹義に話しかけてきた。

「どう?これで袁紹軍は下るに足る存在だと認めてくれるわね?」
「うむ、約束だ。私達は漢の配下となることを宣言しよう」
「あらん、もういやだわ。
田豊ちゃんも麹義ちゃんもこんなに強かっただなんて。
ちゅ~しちゃうんだから」

唇を突き出す貂蝉。

「いりません!」
「私も要らぬぞ!」

田豊も麹義も本当に嫌そうに拒否している。

「これにて、一件落着!」

華佗が金さんのように閉会の挨拶をする。

ここに、南匈、烏丸が漢に下ったと同時に、袁紹は河北を全て平定することに成功したのである。

いよいよ河南に侵攻する時期が来た。



[13597] 牧畜
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:24
牧畜

 大方針は南匈、烏丸が漢に下るということで決まったが、仔細は色々詰める必要がある。
なので、田豊や一部文官は劉虞のところに残って、南匈、烏丸とそういう打ち合わせをし続ける。
麹義は、もう戦いがないので、兵を連れて帰っていく。

一刀は田豊と一緒に居残り組。
といっても政治的な交渉を行うわけではない。
南匈、烏丸への農業指導をおこなうのだ。

だが、相手は遊牧民。
遊牧民といえば馬や羊をつれて、草のあるところを遊牧し続けるというのが生活スタイルだ。
それに対し、近代畜産は、謂わば集約化。
牧草地を限定し、家畜頭数を増やし、牧草の手入れをし……ということをするのだが、そもそもそんな生活スタイルが遊牧民に受け入れられるのだろうか?
遊牧スタイルと真逆の生活だから。
それに、牧草の手入れと言っても、それ相応に降雨量があるのだろうか?
……この時代、モンゴルは現代ほど乾燥化が進んでいなかったような気もしたから、それは平気かも。


「なるほど、話はわかった。
つまり、家畜の数を増やそうと思ったら、遊牧するよりは定住したほうがよいというのだな?」

一刀の説明を真剣に聞いてくれた卑弥呼が答える。

「ええ、そうです。
ですが、遊牧とは生活様式が全く異なります。
ですから、家畜の量を増やす生活を希望するか、それとも今の遊牧がいいのか、それは卑弥呼さんや貂蝉さん自身で決めていただかなくてはなりません。
定住すれば楽になるかといえば、楽になる部分もありますが、逆に遊牧よりも面倒になることもあります。
俺は定住がいいと思いますけど、それを押し付けることはできません。
それに、定住したら、漢民族との交流が増えるでしょうから、そのうちには漢民族と血が混ざってしまって、民族そのものの意味のないものになってしまわないとも限りません。
今すぐに結論は出さなくて構いませんから、俺の意見が必要になったときに呼んで下さい。
出来るだけ早く対応しようと思います」
「あら、うれしいこと言ってくれるじゃない?
もう、ちゅ~してあげちゃうんだから」
「いりません!」

全員にキスを拒否される貂蝉。

「まあ、冗談はさておき――」

……冗談なのか?

「――そうね、すぐには決められないわね。
まずは遊牧し続ける生活を送ることになるでしょうね」

まじめなことも言う貂蝉である。
一応、単于だし。

「そう仰ると思ってました。
その代わりと言ってはなんですが、冬、干草の供給はしましょう。
供給と言っても買い取っていただくことになるのですが。
冬場の草に困らないだけでも、家畜頭数が増やせると思いますが、どうですか?」

冀州には凄まじい面積の麦畑があるから、麦わらの量も半端ではない。
それを干草として支給しようというのだ。
本当は馬や羊や牛に食わせる草は栄養学的には専用の牧草が良いのだが、ないよりはましだろう。
まあ、馬や羊や牛はセルロースを分解して栄養とすることができるから―――正確には消化管内の常在菌がそれを分解して、草食動物の栄養に変えることが出来るから、(毒のない)草であれば何でも大丈夫だ。
そこが、豚や鶏と異なるところだ。
豚や鶏は人間が食べるものを餌とするから、人間と食料の取り合いになってしまうが、馬、羊、牛は人間が食べられない草を食料とするので、人間の食料が減ることがない。
麦わらでも何でも草があれば食料とすることができる。
牧草は彼等が定住するときに考えればいいだろう。
麦に加えて、最近余り気味の英美皇素錠でも支給すればいいだろう。
ビールはうまいうまいといって飲む人はいくらでもいるが、英美皇素錠をうまいうまいといって食べ続ける人を見かけたことがないから、栄養は豊富でも英美皇素錠あまってしまっている。
昔はビール酵母(ビールモルト=ビールの絞りかす)といえば、家畜の飼料にするくらいしか用途がなかったくらいだから、遊牧民の家畜の餌に売っぱらって、代わりに漢が家畜を買い取るようにすれば結果として家畜数の増加を図ることができるだろう。


「それはうれしいわん。
冬の草探しは大変だったのよう」
「確かにそうだな。
貂蝉と取り合いになったこともあった。
漢の土地から草をもらえれば、秋口にまとめて家畜を潰す必要もなくなる」
「数が増えた家畜は漢で引き取ります。
そのお金で穀類や飼料を買い付ければいいと思います。
需要はありますから、家畜は飼料の許す範囲でいくらでも増やしていただいて大丈夫です」
「あ~ら、そうやってわたしたちが豊かになる代わりに、鮮卑の侵攻を食い止めたり漢に下ったりしなくてはならなくなるっていうことね」
「まあ、そう言われると否定できませんが……」
「だが、貂蝉、戦に労力を使うよりも豊かになることに労力を使ったほうがやりがいがあるというものだろう」

卑弥呼がフォローしてくれる。

「そうね。その通りだわ。
漢が裏切らない限り、ずっとあなたたちに従うわよ」
「ありがとうございます。
俺たちも、貂蝉さんや卑弥呼さんの期待を裏切らないよう努力します」



 話はそれで一段落したのだが、一刀にはまだすべき仕事がある。
サイロ作りだ。
サイロといえば塔型のサイロを思い描くだろうが、それは昔の話。
塔型のサイロは維持に労力も経費もかかるので、現在のトレンドは簡易サイロ。
草をビニールで包んだだけのラップサイロと言うものまである。
牧場にときどきごろんごろんと転がっている真っ白な巨大な玉がラップサイロだ。
そもそもサイロと言うのは貯蔵だけでなく、草を貯蔵して乳酸発酵させ、サイレージを作るのが目的だから、ある程度嫌気性が要求される。
カラスがラップサイロに穴を開けて、中の草が腐ってしまうと言うのはよく聞く話だ。
それに対し、干草は草を干すだけ。
手間は簡単だが、栄養価はサイレージのほうが高い。
麦は、その収穫のスタイルから干草になるしかなく、最初のうちは干草で我慢してもらうとして、そのうち南匈・烏丸にもサイレージを送りたいと思ったのだが、ビニールがないのが問題だ。
畑のマルチングは藁でもできるけど、ラップサイロはそれでは無理。
ラップサイロなら、業に戻ってからでも実験できるが、塔型のサイロを作ろうと思ったらこの地に留まる必要がある。
労力も考えて、どうにか簡易サイロにしたいのだが……

「気密性の高い紙か何かが欲しいのね」

相談した先は田豊。
ビニールあるか?と聞くわけには行かないから、それ相応の材料を入手しようとしたのだ。

「うん。しかもある程度安価で」
「そうねえ……気密性があるだけなら甕でいいのだけど。
そもそも何に使うの?」
「ああ、草を発酵させるのに使うんだ。
それが家畜の冬の飼料になる」
「ふ~ん。色々知っているのね」
「まあね」
「それで、気密性の高い紙のようなものだけど、布に蝋を塗ったらどうかしら?
安くは無いけど何度か使えると思うわ」
「なるほどね。試してみる価値はあるね」

サイロは業に戻ってから実験することとなった。



 月日は流れ……
色々試行錯誤をしたのだが、結論としてうまくいった。
ラップサイロはさすがにビニールなしでは無理だったので、半地下式のサイロとした。
サイロの作り方も農協職員に頼んで伝えてもらおう。
早速干草と併せてサイレージも貂蝉や卑弥呼に送ってみる。
しばらくして貂蝉や卑弥呼から感謝の手紙が届いた。
羊や馬に好評だと書いてあった。
それと同時になにやら穀類のようなものも送られてきた。

「なんですか?それは」

沮授が早速目をつけてやってきた。

「なんだろうな、これは……」

袋をあけて中身を確認する一刀。

「蕎麦だ!」

茶色くて紡錘形の実は、どうみても蕎麦。
蕎麦の原産地は以前は中央アジア原産といわれていたが、昨今の研究では雲南省、四川省あたりのほうが有力だ。
恋姫の世界では中央アジア原産だったのだろう。
普通の蕎麦より色が薄めなところをみると、韃靼蕎麦か?

「蕎麦?」
「ああ。俺の世界じゃメジャーな食べ物だった」
「めじゃあ?」
「あ、いや、一般的な食べ物だった」
「食べてみたい」
「わかった!」

早速蕎麦作りを始める一刀。
というより、蕎麦作りを指示する一刀。
石臼で粉にするのも小麦粉を少し混ぜるのも伸ばすのも全部指示だけ。
確かに、一刀がやってもうまく出来なさそうだし。
恋姫漢にも麺類は普通にあるから、蕎麦を切ってもらうのも簡単。
今は醤油も普通に入手できるようになっているから、麺つゆも何とかなる。
鰹節はないから干ししいたけで代用と言うのは進歩がないが、それでもあればおいしい。

で、試食大会。
もちろん、こういう楽しいことが大好きな袁紹は率先して参加する。
今回は劉協も同席するのがちょっと緊張を強いられる。
皇帝が蕎麦を召し上がるというのは、どうも絵にならない。
だいたい、蕎麦って荒地でも寒冷地でも育つような植物で、飢饉対策だったり、家畜の餌にするくらいの代物で、皇帝が食するのは初めてではないだろうか?

「えーと、これが俺の世界で食されていた蕎麦と言う食べ物です。
少しとって汁につけて召し上がってください」

できたものはざる蕎麦。
蒸篭でなく、まさにざる蕎麦。

「それでは、早速頂きますわ」
「朕も頂きます」

袁紹と劉協が早速蕎麦を口に運ぶ。

「……まあ、悪くはないですわね」
「おいしい……」

少しひねくれた袁紹と、素直な劉協であった。
劉協、一刀が帰ってきた直後の困った状態からは脱したようだ。
時が解決してくれたのだろう。
劉協に何が起こったかは、次回明らかになる。

「それは、よかったです。
皆さんもどうぞ!」

その声に、その他のものも一斉に食べ始める。

「珍しい味ね」
「素朴な味」
「懐かしい味でありんす。海の風味が欲しいでありんす」
「あっさりしているところがいいのね」

概ね好評だった。
逢紀さん、懐かしいって、あなた江戸の人ですか?
海の風味って鰹節ですか?
本当に漢の人なんですか?


とまあ、逢紀には多くの疑問があるが、それはそれとして、雍州に蕎麦畑を作ろうか、そんなことを考える一刀であった。



あとがき
脱穀したあとの麦わらが干草として利用できるか不明ですが、まあ利用できることにしました。
冬、食べ物がなかったら木の皮でも食べるようなので、きっと大丈夫でしょう。
それから、リクエストに応えて蕎麦を登場させました。



[13597] 教育 (R15?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/02/17 21:14
教育

 一刀や田豊が劉虞のところにいる間、業都ではなにが起こっていたかというと………

「陽、今度という今度はこの私が華麗にあなたを打ちのめして差し上げますわ」
「止めておけ。返り討ちになるのが関の山だ」

なにやら袁紹と皇甫嵩の間に険悪な雰囲気が漂っている。

「行きますわ!勝負!!」

袁紹は手を皇甫嵩のほうに突き出す。
その手には、なにやら札が2枚握られている。
皇甫嵩はそれをじっと見て……

「こっちだな」

と、一枚の札を袁紹の手許から抜き取る。

「むっきーー!!どうしてですの?
どうして、いつも私のところにババが残るのですの?」

何のことはない、袁紹、皇甫嵩らがババ抜きをしているようであった。
一刀がババ抜きを教えたら、結構みんなはまったのだ。
ルールは簡単だし。
だが、一刀もしらないババ抜きの本来の意味を知ったら、袁紹はどう思うだろうか。


ババ抜き。

起源は19世紀のイギリスと言われているオールドメイド。
ルールはババ抜きの通り。
そして、その意味は、オールドメイド=嫁ぎ遅れた娘を押し付けあうというもの。
オールドメイド=老婆の女中ではない。
それが毎回袁紹のところにいくということは……







いや、これ以上言及するのは止めておこう。

「麗羽様は表情が分かりやすいんですよ」
「そうそう。ババをとりそうになるとパッと嬉しそうにするんですもの」

ゲームをしているのは、札をとりあった袁紹と皇甫嵩、今発言した文醜と顔良、それに劉協、董卓である。
皇帝と相国らが楽しむ雅なゲームである……ようには見えないが、みんな楽しそうだ。

「陽は表情が読み取りにくいですからね」

劉協が花が咲いているようなにこやかな表情で話しに加わってくる。
劉協も董卓も、業に来て本当に自然に笑うようになった。
だいたい、劉協、政治に全然関与していないし。
かといって、それに不満を持っているわけではない、というより、今の居心地に大変満足しているようだ。
政治を行うよりも安心して生きられることの方が余程重要だし。

「そうなのです!陛下。
陽は何があっても表情一つ変えないのですわ」

深く同意する袁紹。
袁紹も普通に劉協と接することが出来るようになったようだ。

「でも、よく見ると表情があるのがわかりますよ」
「そうですかぁ?
何年も一緒にいますが、全然わかりませんわ。
……それでは今はどんな様子なのですか?」
「そうですね、何か安心した様子です」
「安心?」
「ええ。麹義や田豊が南匈・烏丸と交渉に行ったあたりから安心した表情になりましたね」
「そ、そうですか?
あまり違いが分かりませんが……
陽、何で安心しているのですか?」
「自分ではそんな表情をしているつもりは無いのだが……
敢えて言うなら危ない男がいなくなったからだろうか?」

それを聞いて、顔良と文醜はプフッと吹き出す。
袁紹はなるほどねえという表情に変わる。
董卓は顔が真っ赤になる。
劉協は、頭の上に?が点灯する。

「皇甫嵩様、一刀さんはそんなに危なくは無いと思います。
言い寄る女性が少し多いだけですよ」

と、顔良がフォローする。

「それが危ないと言うのだ」
「じゃあ、皇甫嵩さま~。そうなっちゃったらそうしちゃえばいいじゃないですか」

文醜が冗談か本気かそんなことを言うと……

「猪々子。それほど死にたかったのか」

刀の柄を持つ皇甫嵩。

「じょ、冗談ですってば、皇甫嵩様。
少しは冗談もわかってくださいよ。あはは……」

顔面蒼白になりながら、なんとか皇甫嵩を鎮める文醜。

「そ、それで麗羽様。ババ抜きでババが知られない方法ですけどね……」

顔良が話を他に振ろうとする。

「ええ」

顔良は袁紹の耳元で何やらひそひそと小声で囁く。

「なるほど、それはいい考えですわね。
陽!もう一度勝負ですわ!」
「返り討ちにしてやろう」

ということで、また6人でババ抜きを始める。
顔良の作戦は簡単明瞭。
札を取られるときに目を瞑れ!これだけだ。
だが、効果は絶大だった。
袁紹も、何度か勝つことが出来るようになったのだった。



 雅……でもない遊びも終わり、袁紹、皇甫嵩らは劉協の部屋から退室する。
残ったのは劉協と侍女の董卓の二人。

「月」
「はい、献様」
「以前から疑問に思っていたのですが、一刀が危険とはどういうことですか?
命が増えるとはどういう意味ですか?」
「そ、それは……」

さすがに皇帝。
超純粋培養で、その手の知識は皆無のようだ。
だが、聞かれた董卓は困ってしまう。
顔を真っ赤にして

「わわわわ私もわかりません……」

と誤魔化そうとするが、皇甫嵩の表情を読み取れるほどの皇帝を誤魔化せ切れるものではない。
というより、誰が見ても董卓は何かを知っていることが明らかだ。
仕方なしに話し始める董卓。

「あの、献様。
花にはおしべとめしべがありますね」
「はい」
「おしべの花粉がめしべに受粉すると、種が出来るのです」
「そうなのですか。知りませんでした」
「それで……つまり、その……………………そういうことなのです」

さて、意図は通じるだろうか?

「……………………月」
「はい?」
「全く意味が分かりませんが。
一刀とどう関係があるのですか?」

劉協相手ではそうなるだろう。
結局、本格的な性教育をやる破目になってしまった董卓。
しかも、自らの体を使った実物の描写付!
よく見えるように脱衣!!
劉協、言葉だけじゃ分からないと言うから。
挙句の果てに、太筆を使った挿入実演までする破目になってしまったのである。
劉協は恥ずかしそうにしながらも裸の董卓の、性教育に必要な箇所を凝視している。
劉協は董卓の教育を見聞きしながら、次第に顔、というか全身が真っ赤になっていくのであった。

教育のあとで、董卓がはぁはぁと喘ぎながらしばらく劉協の閨から動けなかったのは、教育熱心だったからだろうか?
劉協も少し息を荒げ、手で妖しいところを愛撫していた。
最初の授業にしては衝撃的過ぎたかもしれない。



 それから暫く経って、田豊や一刀が戻ってくる。
一刀は早速劉協と袁紹に結果の報告に向かう。
事件はその最中におこった。

その日の劉協は最初から変だった。
何かそわそわして、顔も赤く見えた。
それでも最初は静かに話を聞いていた劉協であったが、程なく顔を真っ赤にして

「そんな……恥ずかしいです!!」

と、叫んで顔を両手で隠して謁見の間を飛び出していってしまった。
一刀の股間の太筆が自分に入ってくる姿でも想像したのだろうか?
残された一刀は、劉協の背中を見ながら頭に?が何十も現れるのだが、それは一瞬で消え去った。

「貴様ぁ!献様に何をした!!」

と、一刀に迫ったのはもちろん皇甫嵩。
一刀でも分かるほどに皇甫嵩の全身から怒りのオーラが感じられる。
首に当てられる刀。命の危険を感じる一刀!

「なな何もしていませんって。
本当ですって!」
「そんなはずは無いだろう!!」
「だって、今の今まで劉虞さんの所にいたんですから、出来るはず無いでしょう」
「お前ならやりかねん!!」
「本当です。信じてください!
何にもしていませんから!!」

涙目になりながら、必死で自分の無実を訴える一刀であった。




あとがき
董卓健気です。
一刀不憫です。
次回から官渡編に入ります。
といっても官渡の戦いはかなり先ですが。
それでは。



[13597] 発明 -官渡編 (濮陽)-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:25
発明

 曹操に投降した劉備軍は、曹操に連れられて許に向かっている。
曹操の本拠地である。
途中、劉備が最初に与えられた小沛の城に立ち寄っている。

「ここが劉備が最初に防衛拠点を構えた城ね」
「うん、そうだよ。
朱里ちゃんが色々曹操軍をやっつける仕組みを作ってくれたんだよ!」

尋ねる曹操に、劉備が答える。
曹操達を劉備と諸葛亮が案内している。
何故、こんな小さな城に寄ったかと言うと、劉備が小沛城なら色々兵器が揃っていたから、曹操軍でもやっつけられたのにぃ!と言っていたからである。
最初は劉備の口だけだろうと思っていたが、諸葛亮と言う軍師も自信ありげに言っていたので、ちょっと寄ってみようと思ったのだ。
確かに、下丕にも何か巨大な兵器が作りかけてあったのを曹操もその目で確認している。
下丕は劉備が到着してから曹操が来るまであまりに早かったので、結局ほとんど準備が出来なかった。
小沛にはその完成形があるというので、寄る事になったのだ。

「その仕組みを説明してちょうだい」

使えるものなら曹操軍でも採用しようと言うのだろう。
劉備軍を手中にしたので、劉備軍の持っているノウハウは全て使うことができることになる。
曹操もなかなかいい出物に出あったようだ
その質問に、諸葛亮が胸を張って答えていく。

「まず、霹靂車を用意しました」

霹靂車。
横文字で言えばtrebuchet(トレビュシェット)に相当する。
早い話が大型投石器である。
史実ではどうも曹操が発明したらしいが、物語では大体いつでも天才の名をほしいままにしている諸葛亮が、ここでもその優遇性を発揮して発明したことになってしまっている。
曹操も周瑜も、その他何人もの人々が自分の手柄を諸葛亮にふんだくられて不憫である。

「そう。投石器ね。どのくらい飛ぶのかしら?」
「1里(410m)くらいです!」
「そんなに飛ぶの?この巨石が?」

あたりには一抱えもあるような石というか岩がごろごろしている。
人一人くらいの重さはありそうだ。

「そうです!
これがあれば、どんな精強の軍でもそう簡単には近づけないでしゅ!」

諸葛亮、えっへん!と言う感じで、ない胸を突き出して答えている。
本来の自分の主は劉備であるが、劉備が曹操傘下に下ってしまった今、一応曹操の役には立たなくてはならないから、自分の知識は一通り説明する諸葛亮である。
そうしないと、曹操から排斥、具体的には殺されてしまう可能性も否定できないから。

「そ、それはすごいわね。
他には何があるのかしら?」
「霹靂車の射程より近づいたら、元戎が待ち構えています」
「元戎?弩と何が違うの?」
「これは連射が出来るのが特徴です!
だから、数は少なくても、効果は大きいのでしゅ!」

またまた、鼻高々の諸葛亮である。
連射したあと、矢の装填に時間がかかることが問題となることは、実戦を迎えていないので諸葛亮も知らないことだった。
麹義のように、連射の数だけ弩を用意したほうがいいと思うのだが。

「なるほど。
それは迂闊には手が出せないわね」

それを聞いて満足そうな諸葛亮。
軍師たるもの、自分の発明や発案を褒められると、やはり嬉しいものだ。

「劉備が州牧になるのを待って攻めて、結果として被害が少なくなったようね、桂花」
「御意。さすがに華琳様、先見の明がおありです」

曹操をヨイショする荀彧。

「た、たまたまよ」

気恥ずかしそうな曹操。
ちょっとヨイショに失敗した荀彧であるようだ。
って、最初からその台詞では無理だと分かったろうに。

曹操は、再び諸葛亮と話し始める。

「それで、元戎も突破されるとどうなるの?」
「それから後は特に新兵器はありません。
弓や石や熱湯で相手が城壁を越さないよう戦うだけです」

ちょっとトーンダウンした諸葛亮だ。

「そう。
それでも、敵が遠くにいるときにそれだけ大きな被害を出せると言うのは効果絶大ね。
真桜、領内の城で、敵と接するところから順番にこれらの兵器を配置していきなさい」
「御意。
ただ、大掛かりな装置ですさかい、ちょっと時間はかかりそうですねん」
「まあ、そうね。その辺は劉備軍の力も借りなさい」
「わかりました!
諸葛亮はん、よろしくたのみまっせ!
ウチも、こんなすばらしい発明、ようわからへんよって、教えてくれると助かりますわ」
「わかりました。協力しますでしゅ」

諸葛亮もおだてられてまんざらでもなさそうだ。

「それで、華琳様。どこから手ぇつければいいんでしょうか?」
「そうね。北と南に敵を抱えているけど、まずは袁紹かしら?
河北を平定したという話も聞こえてきているから、次は私のところでしょう。
袁術は、孫策軍が荊州を荒らしまわっているようだけど、袁術本隊は今のところ動かなそうだから、袁紹を優先すべきね」
「わっかりましたー!」

その話を聞いた劉備、

「袁紹ちゃん、河北を統一したんだ。すごいねぇ。
やっぱり、一刀ちゃんのおかげかなぁ」

と、何故か一刀の名前を出す。

「一刀?天の御遣いとかいう男?」
「そうだよ」
「何であの男が関係するの?」

あまりに突飛な名前に、曹操もその真意を確かめる。

「だって、一刀ちゃんが冀州を豊かにして兵力を増大しても大丈夫なようにしたし―――」
「ああ、農業を活性化したという話ね」
「そうそう。それにね、それにね、ばらばらだった袁紹ちゃんのところの参謀の心を一つにまとめたんだって。
それからね、参謀がまとめた意見を袁紹ちゃんに通してもらうこともしているんだって」

いつ、どこで聞いたのか、一刀の役割を正確に把握している劉備である。
それを聞いた曹操、はっとしたように荀彧とまじめな視線を交わし、

「そういうことだったの」
「はい。どうもあの男が来てから、袁紹軍の様子が変わったと思いましたが、それで納得しました」

と、荀彧と二人で納得する。

「口の悪いむかつくだけの男と言うわけではなかったのね」
「目立たない仕事だけに、把握できませんでした」
「真の敵はその男かもしれないわね」
「はい」
「劉備」
「なぁに?」
「何であなたはそんなことを知っているの?」
「あのね、袁紹ちゃんのところで客将していた人がいるんだけど、その人に聞いたんだよ」

どうやら、徐州にいた趙雲から情報を仕入れたようだ。
確かに、趙雲、陶謙のところに行くと言っていたから。

「そう。その客将はなんで袁紹のところを出たのかしら?」
「うーんとね、確か個人技を必要とされないから居場所がないとか言ってたよ」
「そう。……袁紹軍侮れないわね」
「はい。軍全体が強いというのは一番やりにくい敵です。
誰を倒したら終わりというような簡単な戦ができませんから」

曹操の言葉に荀彧が深く同意する。

「そうだ!一刀ちゃん、こっちに連れてきちゃおうよ!
そうしたら、袁紹ちゃんのところの参謀がまたばらばらになって弱くなるよ」

劉備にしては(劉備なので?)なかなか腹黒い作戦を考えついたようだ。

「それに、一刀ちゃんが来たらうれしい人もいるし……」

と付け足す。
って、関羽の方が本命か!
関羽がいれば、ねっ、愛紗ちゃん!とでも言ったところだろう。

「それは誘拐するということ?」

付け足した部分を敢えて無視した曹操が劉備に尋ねている。

「うーん……そうなるのかな?」
「華琳様、劉備にしてはなかなか良くできた作戦だと思います。
誘拐が無理なら殺害してもよいと思います」

荀彧もそれに賛同している。

「いえ、その男は袁紹のところに残しておくわ」
「えーー?どうしてぇ?」
「そうです。禍根を取り除くのは戦の基本と愚考いたします」
「それはその通りよ。
でも、崩壊寸前の勢力を叩き潰すというのは覇王としての私の倫理に反するの。
敵を潰すなら正々堂々とおこなってこその覇道でしょう。
だから、袁紹がそれに見合うだけの力を得て、私も安心して叩き潰すことができるわ」
「そうかなぁ。連れてきたほうがいいと思うんだけどなぁ」
「そんな男一人くらいで負けるようでは、この曹操も未熟だったと言うことよ」
「ふーん。面倒くさいんだねえ」
「流石は華琳様。それでこその華琳様です」
「桂花、全勢力で袁紹を叩き潰す準備をするのです」
「御意!」

こうして、曹操は対袁紹を優先するという方針で軍を動かすことに決定したのだった。



[13597] 趣味
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/05/22 22:41
趣味

 曹操にはレズの趣味がある。
何故って、そういう設定だから。
男に興味がないかというと、本家北郷一刀としているところを見ると、無いわけでもないらしいが、男よりは女が好きらしい。
ガチではないようだ。
その曹操、許に戻るのを心待ちにしていた。
最高の獲物が手に入ったからである。
最高の獲物は、やはり自分の部屋で、いい雰囲気の中で味わいたいと思うから。
その獲物の名前は関羽。
劉備の投降を受け入れたのも、関羽の存在が大きいかもしれない。
酸棗で初めて関羽を見たとき、曹操にしては珍しく胸がときめいてしまった。

レズと言っても女なら誰でも良いわけではない。
今、一番肌が合うのが荀彧、次いで夏侯惇。
荀彧は、虐めると面白いように鳴いて、曹操を楽しませてくれる。
その後に二人で交わりあうのだ。
昔はレズ仲間の許攸とよく肌を合わせていて、二人して燃え上がったものだが、この二人が相手ではどうもそういう雰囲気にならない。
曹操が攻めて、二人が受けるという感じだから。
許攸としたときは二人で協力して絶頂を極めようと動いたものだった。
許攸は、今は袁紹のところにいて、彼女と肌を合わすことが全くなくなってしまった。
袁紹なんか止めて、一緒に乱世を生きていこうと何度説得したことか。
だが、許攸は曹操の言葉に耳を貸さず、袁紹の許に行ってしまった。
許攸と愛し合ったときのように燃え上がることは、彼女と分かれてから一度も味わったことがなかった。

だが、関羽を見て、久しぶりに心が燃えた。
彼女となら、許攸としたときのように燃え上がることができそうだ。
どうにか関羽を手に入れたい、と思っていたところに劉備の州牧就任の話がある。
曹操は歓喜した。
これで関羽が手に入る!
即座に徐州に攻め込んだ。
そして、劉備は無抵抗で降伏した。
その上、投降した劉備軍には何をしてもよいといっている。
もう、これは天の恵み、やるしかないでしょう!と思う曹操だ。

そして、わくわくしながら許に戻ったのだが、ついてすぐ!というのもがっつくようで美しくない。
やはり、自分には余裕があるところを見せなくては。
やりたい気持ちを抑えて10日間。
もうそろそろ大丈夫だろうと思って、作戦を決行しようとする曹操。

まず、自分の傍に荀彧や夏侯惇がいないタイミングを図る。
あの二人、なかなか嫉妬深いから、自分が他の女に手を出したと知ったらヒステリーを起こしそうだ。
それから、関羽の周りにも誰もいないこと。
やはり、秘め事というくらいだから、秘密にしなくては。

と、タイミングを図っていたら、絶好の機会が巡ってきた。

曹操がいつものように執務を終え、自室に戻ろうとすると、丁度向こうから関羽が歩いてくる。
曹操の胸がどきんとする。
だが、そんな動揺を悟られてはならない。
今や、自分は魏の王なのだから。



関羽は前から曹操が来るのを確認した。
普段はこんな曹操が通るような場所には近づかないのだが、今日は夏侯惇が話をしたいと言うので、彼女の部屋を訪れていたのだ。
妹の夏侯淵も一緒だった。
話してみると、二人ともなかなか砕けた楽しい人物達だった。
特に夏侯淵は、何か自分と似た雰囲気があって妙に親近感をもったものだ。

夏侯惇は張飛に似た感じだろうか?
張飛に手を焼くがやっぱりかわいいというのと、夏侯惇に手を焼くがやっぱりかわいいというのがそっくり瓜二つに感じる。
敗軍の将であっても徒に不当に扱うということもなく、なかなかいい人々だった。
万が一、桃香様が再び独立することがなくても、ここで自分の力を発揮できそうだ、そんな印象を持った。
青州にいて、曹操軍に攻め込まれてから、これほど心が落ち着いたことはなかった。

夏侯惇は曹操の側近だから、曹操のいる場所のすぐ傍に部屋がある。
今まで曹操と城内で出会うことなどなかったのだが、今、始めて曹操と顔をあわせた気がする。
相手は王。
漢を全て統一したら皇帝を名乗るのだろうか。
それなりの敬意を払わなくてはならない。
そこで、関羽は廊下の端により、跪き、頭を垂れて曹操への忠義を示す。
曹操はそのまま自分の前を通り過ぎていくと思ったのだが、自分の目の前で立ち止まり、声をかけてくる。

「関羽、こっちを向きなさい」

そういいながら、曹操は関羽のあごをぐいっと引き上げる。
身長は関羽の方が高いが、今、関羽は跪いているので、曹操が関羽を見下ろすような姿勢になっている。

「はい、曹操陛下。なんでしょうか?」

まじめに答えてはいるが、極めて怪しい(妖しい?)雰囲気に、関羽は今すぐにでも逃げ出したい気分だ。

「いいこと?今夜私の閨にいらっしゃい。
いいわね。誰にも気付かれないように来るのよ。
あなたは拒否できないの。
分かっているわね?」

曹操はそう言ってから関羽の顔をぐいっと引き寄せ、唇を奪い、

「何をするかはわかるでしょ?
私を幻滅させないで」

更にそれだけ付け加えて、にやりと嗤って去っていった。

残されたのは呆然とした関羽。
曹操の噂は聞いている。
女同士の愛を好む異常性欲者。
もしかしたら自分はその対象に選ばれてしまったのか?
確かに、今まで何度となく曹操の舐めるような視線を感じたものだった。
そして、その都度悪寒が走った。
あれはそういう意味だったのか?

唇が触れた感触が急に汚らわしいものに感じられてしまう。
自分は正常なのに。
心ときめく男性との愛を望むのに。

関羽は一刀と交わった出来事を思い出し、その場で立ち上がることもなくぽろぽろと泣きはじめてしまう。
一刀さん、助けて……


仕えているのは劉備だが、こういう問題では何故か劉備よりも一刀が真っ先に思いつく関羽である。
やはり、一度ならず二度までも体を合わせているからか?
そんな関羽のところに劉備がやってくる。

「あれ~?愛紗ちゃん、どうしたの?」

秘密裏に来いという曹操の指示である。
何があったか言うわけにはいかない。

「いえ、なんでもありません、桃香様」
「そんなことあるわけないじゃない。
廊下で跪いて泣いていて、何でもないなんて信じられると思うの?」
「お願いです、今は何も聞かないでください」
「曹操ちゃんになにかされたんでしょ」
「いえ、そのようなことは……」
「愛紗ちゃんが跪く相手と言ったら曹操ちゃんくらいしかいないもんね。
それで、跪いているときに何かされたんでしょ?」

劉備、なかなか鋭い。

「ち、違います」

あくまで曹操との約束を守ろうとする律儀な関羽だ。

「わかったー!」
「な、なんですか?」

突然大声を上げる劉備に、思わず関羽はびくっとしてしまう。

「今夜、閨に来いって言われたんだ!」
「………………そ、そんなことはありません」
「本当?」
「はい、桃香様……」

何があっても曹操との約束を守ろうとするいじらしい関羽であった。



[13597] 吸収 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/05/22 22:42
吸収

 曹操はうきうきしていた。

とうとう関羽を抱ける。
どんな感じなのだろう、関羽の体は。
やはり滑らかで吸い付くような感じなのだろうか?
私も関羽に相応しい準備をしなくては。

侍女を全て下がらせる。
もう、私だけの空間。
誰も私と関羽の邪魔はさせない。

部屋に香を焚く。
麝香を使いましょう。
高級品で滅多に手に入らないけど、こういう日のためにあるの。
麝香は性感を高める作用もあるから、最適。
関羽はどんな声で鳴いてくれるのかしら?

それから……
私も身を清めなくては。
服を脱いで、準備させておいた湯殿に身を沈める。
ああ、いい気持ち。

あら?扉の音。
関羽が来たのかしら?
……灯りも落として、準備のいいこと。
表情を見た感じでは、嫌そうだったのだけど、案外あの娘、好きなのかしら?
うふ。楽しみだわ。
それでも、いますぐ行くとまるで私が待っていたように思われるから。
余裕があるところを見せないと。
ゆったり湯に浸かってから閨に行くことにするわ。


それから数十分……


はあ、いい湯だったわ。
いよいよね。
体を拭いて………
何も身につけなくていいわね。
すぐに脱ぐのだから。
香油を少し。
関羽、待ってなさい。


閨は月明かりでうっすらと物の形が見える程度の明るさである。


関羽ったら、頭まで布を被って。
はずかしやがりやさんなんだから。


曹操は関羽が寝ている横に座り、布の隙間から手を中に滑り込ませる。


まず最初に足先から。
うふ。びくっと動いて可愛いのね。


それから次第に手を上のほうに滑らせていく。


「あん……」


女の子の大事な場所を触れるとかわいらしい声があがる。
曹操の手に触れる肌には服がない。
全部脱いで、準備がいいと思う曹操である
曹操の手は大事なところを触れただけで、更に上にむかう。


あら?意外に大きな胸なのね。
見た目より大きいわ。
感度はどうかしら?


「あふ…」


いい声よ。
もっと鳴きなさい。
私が楽しませてあげるから。


曹操は大きな胸を、少し力を入れて揉み始める。


「あん、あぅぅ。
桃香ちゃん、初めてなの。
もうちょっと優しくしてね、曹操ちゃん」
「………」


一気にトーンダウンする曹操。
男だったらふにゃんとしたところだろう。
曹操は布を一気に引き剥がす。
閨の上には劉備が一糸まとわぬ姿で横たわっていた。
劉備の容姿は、と聞かれれば巨乳の美人と答えるだろう。
だが、美人だったら誰でも抱きたいか、というとそんなこともない。
美人でも抱きたくない女もいるし、それほどでなくても抱きたいと思う女もいる。
劉備は美人だが抱きたいとは思わない範疇の女だ。

「どうして劉備がいるのよ!
関羽はどうしたのよ!!」

一気に怒りが沸騰する曹操。

「あのね、あのね、愛紗ちゃん、まだ女の子同士で愛し合う心の準備が出来ていないんだって。
だからね、桃香ちゃんが代わりに来たの。
桃香ちゃんもいやだけど、愛紗ちゃんのためなら我慢するから。
桃香ちゃんの体なら好きにしていいから許して」

いや……そういう問題では無いと思うのだが。

「いやよ!私は関羽がいいのよ。
早く関羽を連れてきなさい!」

そうだよねぇ。

「でもね、でもね、愛紗ちゃん泣いてたんだよ。
跪いた姿勢のまんま、ぽろぽろ涙を流してたんだよ。
桃香ちゃんがどうしたの?って聞いても、何でもありませんって一生懸命曹操ちゃんの命令に従おうとしたんだよ。
それでもね、愛紗ちゃんの様子があんまり変だから、何回も何回も聞いたら、そのうちわんわん泣いちゃって。
本当は曹操様のところに行きたくないって。
ね、お願い。愛紗ちゃん頑張ったんだから。
それでもできなかったの。
桃香ちゃんで我慢して!」


関羽とは、あの後こんな会話が交わされていた。

「本当に何でもないの?」
「はい、もう何も聞かないでください」

涙を流しながらそう言われても、普通は放っておけないものだ。

「本当は一刀ちゃんが好きなんでしょ?
一刀ちゃんが聞いてもそう答えるの?」
「……………………桃香様」

と、ここでわんわん泣き始めてしまった関羽なのだった。
一刀の名前を使ったのが関羽の口を割らせるのに一番効いたようだ。

そこまで言われると、曹操も鬼ではない、仕方がないかと思ってしまう。

「わ、わかったわよ。
関羽は諦めるわよ。
…………今日のところは」
「うれしい!
やっぱり、曹操ちゃん優しいね!」

劉備は曹操をギューッと抱きしめる。
比較的小柄な曹操は劉備の巨大な乳に捕らえられてしまう。

「ちょ、ちょっと、やめ…うぷ……」



翌朝……

「ど、どうなさったのですか!華琳様!!」

城に荀彧の驚きの声が響き渡る。
曹操の様子を見てみれば、抜け殻のようになってふらふらと歩いている。

「ああ……桂花…………」

劉備は恐ろしい女だった。
自分の頭を、あの巨大な胸ではさみつけ、朝解放されるまでびくともできなかった。
そのうえ、何か精気を悉く搾り取られた感触があった。
女と肌を合わせたことは何度もあったが、これほど苦しいことは一度もなかった。

「しばらく一人で寝なさい」
「な、何があったのですか?」
「………………いいたくないの」

もう、二度と劉備と閨を共にするまいと決心する曹操だった。



一方の劉備の様子は……

「愛紗ちゃ~ん!」
「あ、桃香様。昨日はありがとうございました」
「ううん、愛紗ちゃんが嬉しいなら桃香ちゃんもうれしいから。
それから、曹操ちゃん、愛紗ちゃん諦めるって」
「そうですか!」

非常に嬉しそうな表情になる関羽。

「今日のところは、って付け加えていたけど……」

一転して悲しそうな表情になる関羽。

「でもね、でもね、桃香ちゃんが一緒にいるから、いつでも守ってあげるね!」
「はい、お願いします」

何とか曹操軍内でやっていけそうな関羽だ。

ところで……

劉備の胸は、更に大きくなったのではないだろうか?
曹操の精気を搾り取った所為だろうか?



[13597] 予言
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:26
予言

 曹操が劉備に搾り取られている頃の袁紹のところの様子。

「河北はこれで全て平定したわね。
次は河南。
位置的には次は曹操ね。
陶謙・劉備を滅ぼして魏の独立を宣言したし、漢への対抗姿勢が明確だから、攻め込むことには何も問題ないでしょう。
青州、兌州、豫州に同時に攻め込めればいいのだけど……」

例によって田豊が軍議を仕切っている。
州の配置は、だいたいこんなかんじ。


涼涼涼________并并并并幽幽幽幽
_涼涼涼______并并并并冀冀冀幽幽幽幽
__雍雍雍____司并并冀冀冀冀冀冀幽幽幽幽
益益雍雍雍雍雍雍雍司司冀冀冀冀冀冀冀幽幽幽幽幽幽
益益益益雍雍雍雍司司司冀冀冀冀冀冀冀
益益益益雍雍雍司司司司兌兌兌兌兌青青
益益益荊荊荊荊荊荊豫豫兌兌兌兌兌青青青青
益益荊荊荊荊荊荊豫豫豫豫豫豫徐徐徐
益益荊荊荊荊荊荊豫豫豫豫豫豫徐徐徐
荊荊荊荊荊荊揚揚豫豫豫豫豫豫徐徐徐
荊荊荊荊荊荊揚揚豫豫豫豫豫豫徐徐徐
荊荊荊荊荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
荊荊荊荊荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
荊荊荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
__揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚


だから、曹操領のうち、青州、兌州、豫州が袁紹領と接している部分になる。
益州、荊州、揚州は実際にはもっと馬鹿でかいし(地図より左がまだある)、面積もなんとなく異なっているが、配置はまあこんな感じだ。
袁紹領というか皇帝領に接しているのは、他に涼州、益州、荊州があるが、涼州、益州は今のところ態度を保留している。
荊州は孫策に攻め込まれているところ。
だいたい袁紹領ともっとも国境を長く接しているのは曹操で、どう考えても魏王を名乗り、漢の打倒を考えているから曹操の所に攻め込むのは必然だ。

ちなみに劉備は幽州の出身で、冀州を通って徐州の牧となり、今は豫州に囚われの身となっている。
史実では益州に蜀を作ることになっている。
大陸の反対側でようやく建国しているが、恋姫劉備はどうなることか。

「いくらなんでもそれは無理ね」
「私もそう思います」

荀諶と沮授が否を唱えている。
まあ、そうだろう。

「青州は劉備から支配が曹操に移ったばかりだから、防衛は手薄でしょう。
他はともかく青州は攻め込むべきね」

と意見するのは審配。

「ボクもそう思う。
青州は比較的小規模な兵力で全て制圧できると思う」

賈駆も審配の意見に賛同している。

「許都はどうすべきだと思う?
短期決戦で一気に方をつけるか、許都は後回しにして他から勢力を奪っていくか。
地理的には業都と許都はすぐそばで攻め込みやすいけど、曹操軍は青州兵を加えてかなりの勢力だから短期決戦を挑むとなると、こちらにも相当の被害を覚悟しておかないとならないとおもうのだけど」
「短期決戦も魅力的でありんすが、そこまで無理をしなくても焦らず攻めたほうが失敗が少ないとおもうのでありんす」

逢紀らしからぬ地道な提案をしている。

「それで、攻め込んでいる途中で投降してくれれば一番華琳の被害も少なくて済むのだけど、彼女のことだから絶対投降はしないのでしょうね」

と言っているのが許攸。
許攸。字が子遠、真名が美杏。
史実では官渡の戦いで袁紹軍の兵糧のありかを曹操にリークして一躍有名になった人物である。
今は袁紹軍にいるが、実は曹操とは旧知の仲で、以前から曹操に味方する……ほどでもないが、曹操の被害が出来るだけ少なくなるような提案をしている人物である。
だいたい、真名が美杏(ビアン)というだけで、以前どのような関係を持っていたか分かろうというものだ。

「それじゃあ、常備兵の2割、4万人で青州、半分の10万人で兌州、残りが防衛。
特に許都との間の防衛を重点的に行う。
収穫が終わったら予備役兵20万を兌州に追加投入。
こんな感じでどうかしら?」
「妥当なところでありんす」
「いいと思います」

田豊の意見に大方の参謀が同調して、これで河南の侵攻方針が固まった。

「じゃあ、一刀。お願い」
「わかった。
陛下と麗羽様が河南侵攻にうんと言えばいいんだろ?」
「そう」
「……けど、俺でなくてもいいだろうに。
誰が言ってもうんっていうよ」
「……私が言ったら全て拒否されそうで」
「まあ、いいけど」

ということで、劉協と袁紹の許に許可をもらいに行く一刀。

「陛下、麗羽様。
河北が全て平定されましたので、これからは漢の力を河南に向けるときと思います。
中原では曹操様が魏、江の周辺では袁術様が仲の建国を宣言し、漢への反抗をあらわにしております。
河南への侵攻を許可いただきたく、ここに参りました」

劉協は玉座、袁紹はその脇に座っている。
高さは劉協のほうが一段高いが、というより一段しか高くない位置で、漢の中での袁紹の重要性を示している。

「出来るだけ戦死者がでないように配慮することを切に希望します」

優しい劉協の言葉だ。

「まず、どこに向かうのですか?」

と、質問するのは袁紹。
まるで、国家の指導者のような質問をする袁紹である。
時々、馬鹿でないところを見せる袁紹だ。

「はい、まず河水(今の黄河)に接している魏に攻め込みます。
その中でも青州は陶謙様・劉備様から曹操様に統治が変わったばかりですから、ここは必ず攻め込む予定です」

劉備も一時は州牧になったので、様付けだ。
ちょっと違和感あるが。

「それでも兵力は余るでしょうから、兌州も同時に、というのが基本方針です。
許都は業都から遠くないところにありますから、兌州を通っていきなり許都を陥としにという作戦も考えたのですが、そうなると曹操軍も必死に抵抗するでしょうから味方兵力の被害も多くなることが予想されます。
これでは華麗に勝利する麗羽様の美学に反すると思いましたので、兌州は業都からは遠いですが、青州に近い側から攻めていく予定です」

キーワード"華麗"は外さない一刀だ。
確かに、田豊が説明したらまっすぐ許都を陥とせ!と言われておしまいになるかもしれない。
そうしたら官渡の戦いがすぐにでも起こってしまう可能性がある。

「オーッホッホッホ。よく分かっておりますわね。
華琳も美羽も昔可愛がってあげた恩を仇で返すようなまねをして許せませんわ。
この麗羽様の力を見せ付けるのです。
華麗に進軍ですわ!」
「わかりました!」

皇帝と相国の許可が出た。
これで、曹操も袁術も漢の反逆者とみなされてしまったことになる。

袁紹は、以前は顔良や文醜とちょこまかと出歩いていたようだが、相国ともなるとあまり好き勝手に遊びまわることもできない。
そんなことをしたら皇甫嵩ににらまれそうだし。
だから、戦も本当に大事なときだけ出陣し、ほとんどは部下だけが出陣する形態に変わっている。
黒山の時もそうだったし、南匈・烏丸の時もそうだった。
おかげで戦いやすくなった、といったら袁紹切れそうだから、それは黙っている。
今回もそのスタイルでいこうと思っているのだが……

「私は兌州に出陣しますわ」

え゛?!
そ、それはまずい。

「いえ、麗羽様は、まだ業に留まっていただいていて大丈夫です」
「何故ですの?
曹操を倒すのであれば、この私が出陣するのは道理ではありませんか!」
「ええ、その通りです。
ですが、地理を考えてみてください。
兌州に攻め込んでも、最初のうちは地方の名も無いような城を順番に落としていくだけですから、しばらく曹操と当たることはありません。
麗羽様が必要なときは出陣をお願いいたしますから、その時に出陣していただきたいと思います」

それを聞いた袁紹は……

「それも、そうですわね。
わかりましたわ。華琳と当たるときはすぐに声をかけることですわ」
「はい、わかりました!」

あっさり了承する袁紹。
一刀の説ももっともだから。


 一刀が劉協と袁紹に許可をとりに言っている間、参謀・将たちは、誰がどこに向かうかを決めていた。

「あとは、誰をどこに送るか、ね」
「青州は私が向かいましょう」

と立候補したのが臧洪。
臧洪。字が子源、真名が一徹。
そう、呂布を虎牢関から連れ帰ってきた武将である。
三国志の中ではそれほど目立つ存在でもないが、反董卓連合を起案したのも彼だし、実際に荒れている青州を袁紹に命じられて鎮圧したのも彼である。
"漢"と言っていい人物だろう。

「兌州はあたいが行こうか」
「文ちゃんが行くなら私も」

なんとも単純な決定方法であったが、結局、青州は臧洪、軍師が審配、兌州が顔良・文醜に麹義、軍師が沮授・逢紀という割り振りとなった。
田豊は業に残って情報整理。
荀諶は姉がいるから出陣しないのか?


「陛下と麗羽様の許可はおりました」

一刀が軍議に戻ってきて結果を報告する。

「ご苦労様」
「それで、誰がどこにいく事になったの?」

田豊は割り振りを一刀に説明するのだが、

「えっ!!」

一刀は驚きを隠せない。

「何か問題でも?」

臧洪は確かに青州を袁紹の命で平定した人物だが、その後は男を貫き通して袁紹に攻められ、最後には殺されている。
文醜、顔良が殺された官渡の戦いがあった場所は兌州にある。

「臧洪さんは青州を鎮圧したらすぐに冀州に戻って、青州を治めるのは別の人物とさせてください」

そうすれば、正史のような進行になることはないだろう。

「斗詩さんと猪々子さんは兌州に攻め込んでもいいですけど、陳留と東郡にはあまり行かないようにしてください。
特に延津と白馬、中でも官渡は絶対駄目です!」
「どうして?」
「死にます」

軍議の場が水を打ったように静まり返る。

「そ、それじゃあ、別の人選にしたほうがいいのかしら?」

ようやく田豊が一刀に質問する。

「いえ、今の注意を守ればきっと大丈夫でしょう。
それに、今の時点ではその人選が一番適任だと思います」

臧洪は実際に青州を鎮圧しているし、文醜・顔良と曹操が戦ったのも恋姫史実では事実だ。
多分、官渡までは攻め込めるだろう。
だから、何もしなければ将来問題となる可能性があるが、現時点では一番適任だと一刀は思う。

「そう。わかった。
それじゃあ、みんな、その方針で進めましょう。
各自、準備をお願い」
「「「はい!」」」

河南侵攻がいよいよ始まる。



[13597] 二面
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:26
二面

 河北では袁紹が河南侵攻を決めたが、江東でも怪しい動きがある。

「七乃はおるか?」
「はいはーい。ここにいます」

ご存知、袁術・張勲のコンビである。
相変わらず仲国の皇帝を名乗っていて、且つ袁術は贅沢をしないのは敵だ、というポリシーがあるのか、民の暮らしは相変わらず苦しい。

「徐州は陶謙が亡くなり、劉備とかいう女が州牧を継いだと思ったら、あっという間に曹操が州を占領してしまったではないか。
おまけに魏とかいう国を宣言しおって。
この妾に対抗するつもりじゃな!」
「本当に、曹操さん許せませんねえ。
お嬢様を尊敬することなく、自分で王を名乗るなんて」
「その通りじゃ。
曹操めに、妾の力を見せねばならぬ。
徐州であれば未だ軍備も整ってはおらぬだろう。
軍を進め、徐州を妾のものにしてしまうのじゃ!」
「えー?でもぉ、孫策、まだ荊州に攻め込んだっきり、帰ってきませんよう」
「何を言っておるのじゃ。
妾の軍があろう」

それを聞いた張勲、手をポンと叩いて、今気がついたように、

「そうでした。いっつも孫策に戦わせてばかりなので忘れてました」

って、本当に今気がついたようだ。
……そんな軍で大丈夫だろうか?

「たまには兵も働かねばならぬだろう。
さっさと行って徐州を陥としてくるのじゃ!」
「はいはーい、わかりましたー
……って、私が行くんですか?」
「他に誰がおる?
華雄は連れて行ってよいぞよ」

氾水関で捕虜として捕まえて以降、なんとなく臣下に収まってしまった華雄がいる。

「はーい、わかりましたー」

本当にそんな軍で大丈夫だろうか?
ただ、恋姫張勲、意外と戦巧者のようで、曹操もまともにぶつかったら結構苦戦するかも。



 こちらは許都。
史実では劉協を迎えて許が都となり、許都となったが、残念ながら劉協を袁紹にとられてしまったので自分が王になって許都にした。
こちらは曹操・荀彧が緊迫した様子で話している。

「なんですって!袁紹が攻め込んでくるのは想定どおりだったのだけど、袁術も攻め込んできそうですって!」
「はい、まだ軍備が手薄な徐州に目をつけた模様です。
進軍の準備を始めていて、一両日中には出陣すると思われます」

曹操の位置は中原で、立地条件は抜群だが、その分周辺から狙われやすい。
下手をすると、劉表を倒した孫策が荊州から豫州に攻めてくる可能性だって否定できない。

「ということは、今兵を向けなくてはならないのは、袁紹が青州と兌州、袁術が徐州の3箇所と見ればいいのね」
「はい、御意にございます」
「桂花、今、すぐ動かせる戦力はどのくらい?
40万位かしら?」
「はい、現有勢力は青州軍30万に、常備軍10万で、だいたいそのくらいです。
ですが、時期が農繁期で、屯田制を敷いたので常備軍と言えども全てを供出するのは難しいです。
今動かせるのは作業をやりくりして常備軍のうち3万くらいではないかと……」

そう、戦争の時期は農業との関係が強い。
袁紹軍のように、国全体が豊かで、常備軍を備えても大丈夫なところとか、袁術軍のように民から搾取することで常備軍を維持しているようなところで無い限り、いつでも兵を動かせると言うものでもない。
袁紹軍も、一刀が来た当初は屯田制を敷いたが、洛陽から難民が大量にやってきて、兵士が畑で働かなくても問題ないレベルになっていた。
とはいっても、何もしないと、また昔のようにだらけるから、いつ作業を中断してもよいような土木工事に常備兵の日頃の活動が移っていた。
土木工事といったら、早い話が治水利水である。
黄河の水は昔も今も、というよりこの時点からすれば今も将来も豊かだから、これはかなり使っても大丈夫。
湖沼の干拓は一刀の方針で禁止しているが、そんなことをしなくても農地はどんどん広がっている。

それが終わると、更に農地が広がり、袁紹領がますます発展することとなる。
もう、袁紹は経済では他を圧している。
大陸全部の酒を一手に担っていることからもそれは明らかだ。
一刀がこの世界に来たのは、まだ黄巾の乱が始まる前。
その時点で農地改革に取り組み始めているのだから、そう簡単に他の諸侯が追いつけるはずがない。
仲や魏が独立したとはいっても、経済交流は幸か不幸か存続しているから、袁紹領から酒類ががんがん出荷され、それが他の領土の富を吸い取っている。
しかも、いやらしいことにビールを心持ち値下げしている。
値上げをするなら、もうビールの購入を停止するということがあったかもしれないが、値下げをされると、領内で作るよりも楽で(同一量のアルコール比で)安く、領内禁酒というのも難しいので、どうしても購入せざるを得ない。
客観的にみると、最早袁紹が弱いものいじめをしているようにしか見えないかもしれない。
曹操も、よくもまあ現有勢力で対抗しようと思ったものだ。
というより、今対抗しないと、差が広がる一方なので、苦渋の決断なのかもしれないが。
袁紹にもう富を渡したくないという気持ちも強いのだろう。

「厳しいわね。
袁術は寿春から攻めこんでくるのね」
「はい」

曹操は、洛陽からかっぱらってきた地図を広げる。
曹操は時間があれば地図を眺めて、城の位置関係や河川の位置を確認している。
なので、地図が無くても大丈夫だが、一応念のためだ。
寿春の次の徐州の城は、ほとんど下丕である。
徐州の州都のある場所だ。
そのほかには城らしい城はないということが、自分の記憶と一致することを確認する。

「劉備軍はどのくらいいるの?」
「ここにいるのは千名程ですが、徐州に2万程度いる模様です。
これも動かせるのは数千規模だと思います」
「兵糧はどのくらい持つかしら?」
「今なら比較的潤沢にありますから、40万人を1年持たせることが出来ます。
ただ、領民もいますから、全てを兵に向けるわけには参りません」

潤沢でも40万人1年分しかないというのが、袁紹のところと桁が違うところだ。
袁紹のところは数百万人10年以上の備蓄が既にあるから、ちょっと屯田制を真似して(って、史実では曹操が本家なのだが)、収量が増えている途上の曹操ではまるで追いつけない。
これでは農業をおろそかにしては州民が餓えてしまう。
数日の戦であれば、田畑を放っておいて、ということも考えられるが、袁紹も袁術もそれほど簡単に済むとは思えない。
今日は農業、明日は戦、では兵が疲弊してしまう。

「そう」

曹操は脳をフル稼働させる。

「真桜を下丕に向かわせて、篭城兵器を完成させるよう伝えなさい。
あれがどれだけ有効に働くかはやってみないとわからないけど、しばらくはそれで凌ぐこと。
圧倒的に不利なら増援するけど、今は州内のことで手一杯。
兵は1万つければいいでしょう。
将は春蘭。
季衣と霞も同行させなさい。
劉備の軍は劉備と……関羽…………ああ、あと諸葛亮の3人を除いて全部返して、青州との州境を守らせなさい。
青州は捨てるわ。
あそこは、まだ治安が悪いから今固執してもいいことがないわね。
だから、袁紹軍がそれ以上徐州に入らないようにしてくれればそれでかまわないわ」

劉備を残すのは人質目的、諸葛亮はその頭脳が必要、で、関羽は趣味だろうか?

「ですが、劉備軍が寝返るようなことはないでしょうか?」
「それはないわね。
今、劉備軍には公孫賛がいる。
公孫賛は麗羽のところを追い出されたので、劉備軍に公孫賛がいる限り、寝返ることはできない。
それに、劉備が許都に留まっている限り、公孫讃が劉備を裏切るとも思えないわ」
「わかりました」
「劉備と関羽は許都に残して、行動は逐一監視。
劉備軍の指揮者は劉備に任命させなさい。
諸葛亮は秋蘭に付けて、官渡に向かわせなさい。
官渡よりこちらには絶対に近づけないこと。
官渡に送るのは、他に凪と沙和。
兵は官渡の常駐兵3万に2万増員。
下丕、官渡何れかが危うくなったら全勢力で対抗するけど、今のところこれで凌ぐしかないわね。
麗羽がまっすぐ許都を目指したら、全勢力で抗さなくてはならなかったけど、どうも端から攻め込むようだから少し時間に余裕ができたわ。
あとは、それで様子をみてみて、短期で一掃できるようだったら一時的に全勢力をそこに投入することね。
各戦局を随時確認しておきなさい」
「御意」

曹操は建国直後にして、二面戦争を余儀なくされたのであった。
辛い試練の始まりである。



あとがき
曹操、踏んだりけったりです。
この危機を乗り切れるのでしょうか?



[13597] 衝車
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:27
衝車

 曹操領に攻め込んだ袁紹軍の様子。

 まず、青州に攻め込んだ臧洪。
曹操軍も劉備軍も撤退した後で、やることといったら盗賊の討伐と街の治安維持。
史実の通り、着実に制圧を進めている。
重要ではあるが、あまりに地味なので省略。


 本筋なのが兌州に攻め込んだ顔良、文醜、麹義隊。

「つっこめーーー!!」

それはそれは嬉しそうな文醜の声が戦場に響いている。
何をどこにつっこむか、というと、袁紹軍の新兵器衝車を城門に突っ込ませるのだ。
決して一刀のナニを文醜のあそこに突っ込むわけではない。
袁紹軍の新兵器は衝車と雲梯車。
衝車は装甲付き巨大槍といった兵器で、先端の槍で城門を破壊する。
雲梯車は移動式屋上といった、兵器というか山車のようなもので、それで城壁より高い位置から弓を射たり、城壁を乗り越えたりしていく。

易京を攻撃したような超大型衝車になると、人力で高速で動かすのが最早困難となり、城門の前に下り坂、更にその手前には衝車を坂の上に上げるための上り坂が必要になる、早い話が小山を作る必要があるが、この衝車はそこまで大型ではなく、破壊力がそれほどでもない代わりに移動は人力のみで可能である。
破壊力がそれほどでもないといっても、並みの城門であれば数回突撃すれば突破できる。
文醜、こういう破壊作戦がだ~いすき!
嬉々として指示を出している。

衝車の破壊力は抜群だった。
装甲も厚く、弓や石がぶつかったくらいではびくともしない。
数回の突撃の後、衝車は城門を突き破り、そのまま城内に突入する。

「突撃ーー!!」

文醜らの指示で、歩兵部隊が上方からの弓や石を楯で防ぎながら突破した城門に突入する。
10万の大軍で押し寄せた袁紹軍である。
突撃部隊以外は雲梯車の上から城壁の兵に向かって雨霰のように矢を射ている。
地方の数千人規模の城は、あっという間に陥落していくのであった。

「今回もあっけなかったな」
「こんな小さな城相手では当然でありんす」

戦いの後で文醜と逢紀が戦を振り返っている。
それでも、衝車の威力か、三日で三つの城を落とすというのは超高速だろう。
ほとんど移動時間だ。

そこに顔良と沮授がやってくる。

「文ちゃ~ん、これ見てよう」
「何?ただの弓じゃん」
「ちがうよう、曹操兵の弓なんだよ。
もっとよくみてよう」
「う~ん……どうみても普段見慣れている弓と一緒なんだけど」
「そうだよ。だから問題なんだよう」
「どうして?」
「だって、この弓は兵器部のみんなが、天の国ではこんな弓があるらしいという一刀さんの話を聞いて、考えに考えて作った袁紹軍だけの弓だったんだよ」

複合弓は一刀が日本で見たアーチェリーの弓のことを聞いて、武器技術者が考え出した傑作だった。
この時代相応の技術はあるから、ヒントがあれば色々活用できるのだろう。

「そういやそうだな」
「それとおんなじ弓を曹操軍の兵が持っているって事は」
「弓での優位性はあまり期待できないということです」

沮授が顔良の言葉を引き継いで説明する。

「それはまずいでありんす。
戦い方を見直さなくてはならないでありんす」
「そういうことですね」
「だが、これはまだできていないだろう。
袁紹軍でも出来たばかりだからな。ガハハハ」

と、新型の弩を撫でているのは麹義である。

「そうですね。
でも、使う時期と場所は考えなくてはなりませんね」




 さて、ここで新兵器の誕生の背景を見てみよう。

時は遡って一刀が業にきて、ビール醸造に成功した頃のこと。

「一刀さ~ん」

顔良が、ぺっちゃんこにつぶれた髪を8:2に分けた中年男を伴ってやってきた。

「はい、なんでしょう?斗詩さん」
「この人、破茂さんっていうんですけど、袁紹軍で武器の開発をしている人なんです。
それで、天の御遣いとして、武器の助言がいただけたらっていうんですけど……」
「お初にお目にかかりますぅ!
破茂でんがな。
あのビールっちゅう酒に感動しましてな、天の御遣い様なら武器のことも何か知ってるんちゃうやろかと相談に来たわけなんですわ」

 それほど武器には詳しくないんだけど
 何茂じゃなくて破茂?
 ○破茂から石が抜けた?○破茂って軍事オタクらしいから

と思うのと同時に、

 何故、武器開発の人間は全員大阪弁?

と疑問を感じる一刀である。

「ごめん、俺、それほど武器には詳しくなくて……」
「どんなことでもええねん。
天の御遣い様の知っている武器がどんなものかちーとばかし教えてくれるだけでも役にたつかもしれへん」
「それなら……」

ということで現代日本の武器・兵器を色々説明する一刀。
その方面にはまるで素人だが、新聞やテレビやインターネットで見聞きした程度の情報でも破茂にとっては重要な意味を持つ。
中国三大発明だって知ってるし。
破茂は何度も何度も一刀のところに足を運ぶ。
とはいっても、火薬が基本になっている兵器が多いので、それは余り役にたたない。
飛行機やミサイルの情報も全く意味がない。

「その火薬っちゅうもんはどない作るねん?」
「確か木炭の粉と何かと何かを混ぜるんじゃなかったかなぁ」

惜しい!あとは硫黄と硝石だ。

「その何かが重要なんでんな」
「ごめん、余り詳しくなくて」

火薬はまだできないようだ。

前言修正。
中国三大発明が何であるかは知っている。
但し、作り方はその限りでない。

「戦車っちゅうもんもおもろいでんなぁ。
装甲は何かに使えそうでんなぁ」

というわけで、出来たのが先の衝車。

「刀や矛や弓はどうでんねん?」
「刀は確か鍛造して切れ味がいいけど折れやすい鉄を粘りのある鉄で覆って作るんだったような……」

と、日本刀をイメージして答える。

「矛や戟は全然みない。
十手なんていうのもあったけど、攻撃用じゃないと思う」

他にも江戸時代の武器を二三説明する。

「弓は、何かこんな感じのが新しいらしいけど」

と、アーチェリーの複合弓の絵を描く。
何故、複合弓かというと、たまたま覚えていたのが複合弓だったから。
映画の影響か?

「あと、手に何かつけていたかも。
持っているのかなぁ?
弦をひっかけるのに使うのかなぁ。
前のほうに触角が生えているのもあったみたいだけど、あれはなんなんだろう?
照準があるって話も聞いたことがあるような……」

この辺はオリンピックのアーチェリー競技の知識だろうか?
どうも色々知識が混ぜ合わさっているようだが、破茂にはこれほど魅力的な情報はない。
というわけで、出来たのが袁紹軍スペシャル弓+リリーサー。
これだけの情報であれだけの物を作り出した破茂、天才である。
恋姫李典や演義諸葛亮といい勝負だ。
そして、それから先は袁紹軍の経済力がものを言って、大量生産で新兵器を全員にいきわたらせた。
触角(センタースタビライザー)も作ったのだが、簡単に取り外しできるように作れず、持ち運びに不便で、またそこまでの射撃精度は要求されなかったので今のところお蔵入りになっている。

こうしてみると、農業だけでなく、現代の一般的な知識も結構役立つようだ。



[13597] 回転
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/05 22:34
回転

 そして、麹義がほれぼれしている新型弩。
この新型弩の開発の背景にはこんなことがあった。

「弩っちゅうもんは、矢の勢いは最初はえらいねん。
そやけど、ふにゃ~っと曲がって、すぐにおっこってしまって、弓よりとばへんねん。
これ、もっとよう飛ぶようにできへんかなぁ?」

そう、新型弓は飛距離800m位はあるが、弩は3~500mくらいで矢というか槍が失速して落っこちてしまう。
弓の飛距離は、アーチェリーで1km以上、古代の弓ではトルコの弓と呼ばれるものが600m、漢で普通に使われている弓が2~400mくらいなので、新型弓は現代アーチェリーに肉薄する性能を誇っている。
現代アーチェリーに届かないのは素材の差か?

こうなると、弩の飛距離が情けなく見えてくる。
初速は弩の方が速いのに、槍の飛行性能が安定しないので弓に負けてしまうのだ。
破茂はそれを何とかしたいというのだ。

一刀は、何となく覚えている現代知識で答える。

「確か、飛んでいるものを回転させると安定して飛ぶんじゃなかったかなぁ」
「回転でっか?」
「うん、こんな風に」

と、棒が軸を中心に回転しながら飛ぶ様子を示してみる。

「それから、飛んでいる物の先端は放物線の形状にするといいんじゃなかったかなぁ」

ライフル銃は弾を回転させるのが胆だから、それは間違っていないだろう。
そもそもライフルって銃身に切ってある螺旋状の溝のことで、今やライフリングを切っていない銃は散弾銃などを除けばあまりない(砲は別らしい)ので、小銃だけをライフル銃というのも変な話だが、ともかくジャイロ効果くらいはうっすらと覚えている一刀はその通り答える。
先端の形状はそうだったようなちがったような……
少なくともとんがってはいないから大外れではないだろう。


 それから、破茂の血の滲むような試行錯誤の日々が続いた。
これは弓のように簡単にはいかなかった。
いや、弓だって簡単ではなかったのだが、弩は難しさの桁が違った。
どの程度桁が違うかというと、新型弓が全軍に配備された時期になっても、新型弩は試作品すら出来ていない段階だった。
しかもうまくいくかどうか全く分からない。
弓は完成形のイメージがあるが、新型弩はそれすらない。
だから、どうやって槍を回転させながら飛ばせばよいかという機構の開発から行わなくてはならない。
槍に手を加えるのか、それとも発射台か。
発射台ならそのどの部分か。
一刀から鉄砲のライフルの話を聞いて、それを元にいろいろ試して、発射台の槍と紐が接するところを工夫して、槍を回転しながら押し出すのが一番有望だという結論に達した。

機構が決まったら、次にそれを試作。
これがまた難儀だった。
ライフルは筒状の木の内側に鉄板を螺旋状に貼り付けることで実現することとした。
ライフル相当の溝というかでっぱりに爪をひっかけて押し出す部分を回転させるのだが、余程精度良く作らないとうまく動かない。
これだけでいったいどれだけの時間を費やしたことか。
しかもどのくらいの割合で回転させたらよいかの実験込みなので、試作品だらけになってしまった。

ようやくこれでよいかという本体が完成する。
槍作りも並行して行う。
放物線が何だか聞いて、槍の先端の錘というか石をなんとなくそういう形状に加工する。
ややいびつ、かつ、でこぼこだが、その辺はご愛嬌。
そして、遂に出来たのがこの新式弩。
その姿は、大砲に弩をくっつけたような形。
大砲の火薬の代わりに弩の力が与えられたと思えば分かりやすいかも。
史上どこにも存在しない型の弩が完成した。
破茂弩とでも命名したらよいだろう。

諸葛亮は弩の連射性を問題とし、破茂は飛距離を問題とした。
どちらが勝つのだろうか?


破茂弩の威力は桁違いだった。
射程2km~を誇り、今までの弩とは次元が違う。
ライフルを切ったので初速はやや劣るが、直進性が抜群になった効果が絶大で、そこまでの射程がでたようだ。
旧式の大砲を遼に凌ぐほどに、反則技である。
ただ、まだ1門しかないのが難点だ。
だから、その1門をいつも傍において愛でている麹義なのだった。

「ぐふふ。愛いやつ、愛いやつ」

……実はちょっとあぶない人かも。

 愛でるだけでなく、一日一度は試射をする。

「照準よし!引っ張り強度よし!発射!!」

槍は吹っ飛んでいって1km以上先(約3里)の半畳ほどの板のど真ん中をぶち破る。
大満足の麹義。

「早く実戦で使いたいのう」

野外が活動の場である将は軒並み視力がよい。
だから、一刀には点にしか見えない、いや点にすら見えないような的でも麹義には十分な大きさに見える。
今の視力換算で5.0位はあるだろう、きっと。
紀霊が小沛の劉備を攻めたときに、呂布が見えるか見えないか分からないくらい遠方の戟に矢を当てたという史実(実話かどうかは微妙だが、それに類する事例はあったのだろう)からも、それは明らかだ。
人間の視力の限界は8~9らしいが、いくらなんでもそこまではないだろう。

この破茂弩、案外早くに活躍するシーンが現れることとなる。



 一刀の一般的な知識を利用した他の例としては石炭の活用があった。
燃える黒い石が絶対にどこかにあるはずだ、というので探してもらって、それを露天掘りしはじめたのだ。
石炭は幽州撫順で見つかったが、そこが中国でも最大級の露天掘り鉱床であったことは、一刀は知らない。
実際にここに炭鉱が発見されるのは千年以上後のことである。

石炭が発見されたことで、燃料は木炭から石炭に急激にシフトしてきた。
……と思ったが、臭いが嫌われ、それほど爆発的には普及しなかった。
確か石炭を直接燃すのでなく、コークスにすればよかったような、コークスは石炭を蒸し焼きにすれば出来たような。
でも、蒸し焼きってどうするのだろう?というのが一刀の現状であった。
それも破茂のような人々がそのうち解決してくれるに違いない。
基本的には木炭製造と理論は一緒だから。

 それはそれとして、当初考えていたように、林業に従事する人を専任で設けてもらうことにした。
司州(司隷州)、雍州が袁紹の管轄下に入ったので、黄土高原の管理ができるようになったためだ。
更に森林の所有権を明確にして、森林の管理をお願いし、常に木々が再生するようにお願いした。
それまでは、木炭を作る人はいたが、木はいくらでも生えている(と思われていた)ので、とり放題だったのだが、そうではないということを口うるさく説明して、黄土高原に緑が残るようにしたのだ。
これで、河水は何時までも河水でありつづける(黄河にならない)に違いないと夢見る一刀である。
ただし、木材が有料になったので、必然的に木炭の価格も若干上がり、若干恨みを買っていたりするのだが。




 さて、一刀の昔話といくつかの活躍の話はひとまずこのくらいにして、戦争の状況に目を戻すことにする。
攻め込まれている側の曹操は、というと……

「城を攻め落とされるのは分かっていたけど、信じられない早さね!」

日々報告される戦況にいらついていた。
いくらなんでももう少し時間が稼げると思っていたのに、一日一城のペースで城が陥落するのを聞かされたら、フラストレーションも溜まろうというものだ。
袁紹がいれば、数百の守備兵の城を10万の兵で攻めるのは華麗でありませんわ、といってスルーするところだったのかもしれないが、残念ながら小城でも容赦なく、というより律儀に攻め立てる顔良・文醜らであった。
顔良、まじめだから。
数百の兵が守る城では、あっさり投降という例も少なくないが、1000兵を越すような城では、一応防御を試みている。
だが、衝車で数回城門を叩かれると、だいたいその時点で投降だ。
城門は破られそうだし、矢は雨霰のように降ってくるし、絶対負けることが明白だから。

程昱は既に曹操の元にいるようで、その辺の小城にはいなかった。

「はい。守備側数百から千名程度に対し、攻撃側の勢力が10万人もいます。
更に、城門を破る新兵器を投入したようで、それが有効に機能してしまっています」

荀彧がその原因を報告し、さらにこう付け加える。

「ですが、今度攻められると思われる濮陽は、守備兵3万はおりますし、我々の新兵器が配備されていますから、それほど易々とは攻略されないと思うのですが。
それにあそこには郭嘉も楽進もいますし」

濮陽はそのあたりでは大きな街である。
大きな街から新兵器を設置したので、既に霹靂車も元戎も配置済みだ。
霹靂車と元戎を諸葛亮が配置した後に、郭嘉が防衛の軍師として送られている。
更にその後、袁紹軍が攻めてくるため、防衛の将として楽進が官渡から濮陽に移されていた。

史実では官渡の一連の戦いは白馬が最初のようだが、恋姫袁紹軍、かなり遠回りをして、もっと遠くから順番に攻め続けている。
いきなり白馬に行って顔良が殺されても困るし、臧洪と同時に攻め込めば背後の心配が要らなくなる。

「そうね。霹靂車も元戎も下丕ではそれなりの成果を上げているみたいだから、袁紹軍も防げたら本物ね」
「はい。ただ、袁紹軍の新兵器は丸太で装甲をしているそうなので、どこまで有効に機能するか……」
「ええ。濮陽をおとされたら農作業をおいてもいよいよ全軍の召集をかけなくてはならなくなるわね。
どうにか収穫が終わるまで凌いでくれればよいのだけど」

地理的には濮陽を陥とすと、次の主な街は白馬、官渡、そして曹操のいる許都になる。
だから、濮陽を陥とされたら、もうすぐ許都になってしまうし、濮陽も官渡もそれほど守備力に差がないから、濮陽3万の兵があっさりやられるようだと官渡には袁紹軍を凌ぐ軍隊を用意しないと負けてしまう。

戦に、内政に、頭がいたい曹操である。



あとがき
色々新兵器のご助言ありがとうございました。
ですが、技術的に何かと難しそうですので、とりあえずこのままで進めたいと思います。
また、何かありましたらご指摘などお願いします。
尚、この弩か弩砲のようなものは一回だけ登場します。



[13597] 風邪
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/05 22:32
風邪

「野戦は得意だけど、攻城は苦手なのよねぇ」

と、ぶつぶつ下丕を前に文句を言っているのは張勲。
袁術軍10万を動員して下丕に来たのはいいが、どうにも攻めあぐねている。
弓や弩で城壁の上の兵を狙っても、曹操軍の方が上にいて、尚且つ弓の射程距離が長いようで、ほとんど近づけない。
楯で防ぎながらどうにか近づこうとすると、今度は小岩や槍が吹っ飛んでくる。
だから、兵は多量にいるが、それを有効に活用できていない。
霹靂車も元戎もそれなりの成果をあげているというが、まさにそのとおりの状況になっている。
元戎の連射性は、弩の設置場所が城壁の上のように限られている場合には有効に機能するようだ。
槍の装填にやや時間がかかるが、いざというときに連射できるのは効果的だった。
元戎と破茂弩は戦う相手が違うので、その要求性能も違ったということのようだ。

攻城には守備兵の3倍の兵力というが、それにはそれ相応の設備が必要なのであって、設備で負けていたら兵が多くても攻めきれるものでもない。
マシンガン相手に素手で10人で向かっても50人で向かってもやられてしまう道理だ。
確かに全軍突撃をかけて、弓や弩で大勢の兵が死んでも一部の兵が城壁に辿り着けば、ということも考えられるが、そんなことをしては一体自軍にどれだけ被害が出るか分かったものでなく、実は名将の張勲がそんな下策をとるはずがない。

下丕の街中の人々は、生活するには特に不都合がないので、収穫が終わって曹操軍本隊がやってくるのを気長に待てばよい。
武器も今のところ有効に活用できているので、見張りさえしっかりすれば袁術軍が下丕を攻略することはなさそうに見える。

「だったら、敵が外に出るように策を考えればよいではないか」

と、張勲に提案するのは華雄であるが……

「そんな挑発に乗ってほいほい自分の有利な場所から出てくるような人は華雄さん、あなたくらいですよう。
他の人は自分自身を客観的に見ることはできるんです。
あなたとは違うんです」

ごもっとも。

「それはそうだが、相手を挑発する以外にも相手が外に出なくてはならない状況を作ることは何か考えられるだろう」

それはそうだがって、華雄さん、あなた反論しないのですか?
まあ、いいけど。

「挑発以外で外に出なくてはならない状況?」

張勲の目がきらりと光る。

「そうですねえ。それはいい考えかもしれませんよう」

何か考えついたようだ。




 一方の下丕の内部。

「ひまだーひまだーひまだーひまだー!!」

と騒いでいるのは夏侯惇。

「ええやんか、暇で。」

となだめているのは張遼。

張遼。字が文遠、真名が霞。
元、董卓軍にいて、洛陽で曹操に囚われてしまった武将である。
これまで全く出番がなかったが、恋姫史実の通り、結構曹操軍の中で元気にやっている。

下丕は元は陶謙・劉備の所領であったが、劉備軍は全て青州との州境の防衛に向かっているので、ここ下丕を守るのは曹操軍になっている。
兵力は1万、それに対し攻め込む兵力が10万なので、普通に考えれば圧倒的に不利なのだが、兵器の質がものを言って、対等以上に防衛に成功している。
なので、夏侯惇や張遼は訓練以外はほとんどすることがない。

「あんまり暇だと体が固まってしまうではないか!」
「暇なのは平和な印や。
弓も霹靂車も元戎もええ按配に働いてくれてるやないか。
あとは収穫が終わって華琳様が来るのを首なごーして待ってればええんや」
「だがな、そんな兵器に頼ってばかりでは体が動かなくなってしまうではないか。
やはり、こう常日頃敵と戦っていなくてはならぬとは思わぬか?
それに、こう平和だといざと言うときに対応できなくなってしまいそうだ」

この夏侯惇、なかなか慧眼である。
というより、時々真理を突いたことをいう。

「そのための訓練やんか。
あと、言うとくけど外で春蘭はんの悪口言っているの聞いて飛び出していくのはよしてや。
昔、砦から飛び出してったアホがおって、苦労したんや」


「クション……クション……」
「あら、華雄、風邪でもひきましたかぁ?」
「いや、そんなことはないのだが……?」

そのアホ、すぐそばにいたりした。


「大丈夫だ。あの程度の悪口、桂花に比べれば甘いものだ」
「そりゃそうやな。安心したわ。
桂花はんも春蘭はんには容赦ないからなあ」


「クション……クション……」
「あら、桂花、風邪でもひいたの?」
「いえ、そんなことはありません。
おおかた、春蘭が私の悪口でも言っているのでしょう」


「クション……クション……」
「ん?春蘭はん、風邪でっか?」
「いや、そんなことはないが。
今日は寝るか」
「そうやな」

と、比較的穏やかなのが下丕の城内。




 そして、ほとんど忘れ去られている孫策軍。

「あとは、泉陵を残すのみね、冥琳」

ひたすら荊州を攻め続けていた。
荊州は孫堅も攻め、もう一息というところで矢に当たって死んでしまった、孫家にとっては鬼門のような場所である。
劉表は孫堅が死去した後、再び荊州で力をつけてきていた。
そこに孫家が再度攻め込む。
なんとも皮肉なものだ。

孫策は、孫堅と同じ轍を踏まないようにするため、とにかく劉表を倒すことに全勢力を注いだ。
そして、かなり早い段階で襄陽に劉表を討ち取っていた。
ところが、荊州巨大である。
しかも、漢が落ち目で、あちらこちらで独立している諸侯がいる。
荊州でも、劉表が敗れたからという理由では孫策に下らない諸侯がたくさんいた。
そこで、仕方なしにそれら諸侯を順番に攻めていたのだ。
もう一度言おう、荊州巨大である。
だから、移動するだけでやたらと時間がかかってしまう。
そして、辺境の泉陵に最後の敵を倒すと、ようやく荊州の鎮圧に成功したことになる。

「ああ、長かった。
こんなにかかるとは思わなかった」

周瑜も感慨深そうに応えている。

「いえ、まだ終わっていないわ。
最後まで気を抜いてはだめでしょう」
「そうだな。流れ矢に当たらないとも限らないし」
「ええ、だからもうすぐ終わりだからといって気を抜いてしまって、また孫家の希望が消えてしまっては困るもの」
「そうだな。悲願を達成するまでは気を抜けないな」
「それにしても、みんなよくここまでついてきてくれたわね」
「ああ、孫軍の結束も十分だ。
呉を興しても、しっかりと国を守っていくことができるだろう」
「ええ、そうね。
でも、早くしないと袁紹や曹操に差をつけられる一方だわ」
「うむ。それは頭が痛いな。
当面の敵となる曹操ですら、国力が上がり始めていると言う話だ。
袁紹に至っては、我々が楯突くことが無謀なのではと思うほどに国力がすさまじいようだ」
「いっそ、袁術を撃ったら、漢に下りましょうか?
そうしたら、袁術を撃った功績と、曹操を南北から攻めるという作戦が出来て、私たちも漢の中で重要な位置を占めることができるようになるわよ」
「……冗談にしては魅力的過ぎるぞ、雪蓮」
「はぁ……全くよね。
何で袁紹のところ、あんなに国力がついたのかしら?」
「それは、かなり前から地道に農業改革に取り組んでいたからだろう」
「そうだったわね。袁術も、搾取するだけでなく、もう少し国や民のことを考えてくれたら、これほどひどいことにはならなかったでしょうに」
「全くだ。袁術に袁紹の爪の垢でも飲ませてやりたいものだ」


「クション……クション……
七乃、早く帰ってくるのじゃ……むにゃむにゃ……」


「袁紹じゃないでしょ」
「ん?それでは誰だ?」
「農業といったら……」
「……!
あのむかつく男か!!」
「ええ!!」

何やら意味なくヒートアップする二名だ。


以上、袁術軍関係とそれに対峙する曹操軍の様子であった。




ちなみに、その頃の業の様子はというと……

「クション……クション……」
「どうしたの?寒いの」
「いや、そんなことはないんだけど」
「仕方ないわね、私が暖めてあげる」
「もう、菊香は好きなんだから」
「清泉もいないから独り占めできるのよ」
「仕方ないなぁ。あと一回したら寝るからね!」

孫策達の緊迫した状況と打って変わってラブラブだった。



[13597] 出張
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/07 16:00
出張

肥料が足りない!

洛陽から大量の人間がやってきた結果、耕作面積も大量に増えたのだが、そこにばらまく肥料がどうにも不足してしまったのだ。
だって、漢全土にビールを出荷できるほどの麦が取れるのだから、麦の生産量も半端でなく、当然使用する肥料の量も半端でない。
過剰に与えて、河川が汚染され、というのは、現代のように腐るほど肥料がある時代の話であって、この時代は必要な肥料を確保するだけで大変。
黄土高原からの肥沃な土壌が、という話もあるが程度問題だ。
もう、肥料がなくてはならないフェーズになっている。
使える物は何でも使ったのに足らないので、もう領内には肥料はない。

油粕?とっくに使いました。
鶏糞、牛糞、豚糞?もうありません。
輪作で対応?限度があります。
化成肥料?あるわけがありません。

このままでは収量が労働の割りに上がらなくなってしまう!
それはまずい。
豊かな生活は、少ない労働で多くの収穫を得ることで達成できるから。
というわけで、新たな肥料を考えなくてはならない。
とはいうものの、そんな適当なものは、領内探してもどこにもない。
領外にあるかというと、やっぱりない。
肥料の元になるもの自体、袁紹領以外ではあまりないから。
ということで、目をつけたのが海と河。
早い話が魚肥を使おうというものだ。
ついでにグアノ(主に海鳥の糞や死体等の堆積物)も、探してみる。

魚肥は魚や、魚の皮などを干して固め粉砕したもので、日本では江戸時代になってようやく使われるようになった比較的新しい肥料である。
漢の時代には……少なくとも恋姫漢には無いようだ。
グアノを使ったという歴史も聞いたことがない。
何れも今までは見向きもされなかったか、捨てられていたものなので、使えるようになれば万々歳!


「漁村に行きたいの?」
「うん、新たに肥料を確保しないと収量が落ちる」
「それで、漁村に肥料があるの?」
「多分。雑魚を乾燥させて粉々にしたら、それが肥料になる。
それから海鳥の営巣地に糞が堆積していたら、それも肥料になる」
「そう。実際に行って見てみたいわけね?」
「そういうこと。今、俺がする仕事は他にないから、ちょっと業を離れても大丈夫だろうし」
「わかったわ。
じゃあ、…………柳花にでも案内させましょうか」
「了解」

そして、漁村に向かう一刀達一行。
一行の中身は、というと……

荀諶……これは行くはずだったので当然。
呂布……いつも一刀と一緒なので、これも半ば当然。
陳宮……呂布といつも行動を共にしたいので、戦争で無いから今回は同行を許された。
賈駆……農業の活動を見てみたいと言うので、同行を申し出た。
音呂……陳宮と一緒に犬も同行。

それに、荷物運搬や炊事を担当する兵士達。
戦に行くのでなく自衛隊のようなものと考えればいいだろう。
それから、交渉を行う文官数名。
というわけで、案外大人数の出張となってしまった。



出張の前に、呂布は一人田豊に呼ばれている。

「いい、恋?
夜、一刀に敵が近づかないようにするのよ!
側室は要らないの。
分かった?」

呂布は、首をかしげながらも

「わかった」

と答えているのだが…………本当に分かったのだろうか?

本当は、田豊は自分や沮授がいない状態で一刀と荀諶を二人にしたくはなかったのだ。
荀諶、前科一犯だし。
でも、田豊は今、業都を離れることもできず、苦渋の提案であった。
だから、心配で心配で仕方がないので呂布に護衛を依頼したのが背景である。
呂布はほとんど毎日裸で同じ閨に寝ているというのに、未だかつて一刀に迫ったことが一度もないので、田豊からその方面の信用を得ていた。


そして、一刀等一行の旅行が始まる。

その荀諶。

「いいこと?別にあんたと一緒に行きたいわけじゃないんだからね。
菊香に頼まれて仕方なく行くんだからね」

と、例によってツン態度を貫いている。

「はいはい、分かってます。
俺も柳花さんに迫ったりしないから安心してください」
「べ、別に迫るのが悪いってわけじゃないのよ……」

時々デレ態度が出てくる。
そんな荀諶の様子を見ていた賈駆。

「ふーん」
「な、なによ?」
「荀諶って一刀が好きなんだ」
「ち、違うわよ。
自分が一刀を好きだからって、人も一緒にしないでよ!」
「なななにを言っているのか分からない。
ボボボボクはそんな気は全然ない。
だだだいたい、荀諶、もうしたことがあるんでしょう?」
「あああああれは、……治療よ。
かかか体が一刀を必要としたから、仕方なく一刀と交わってあげただけよ」

そ、そうだったのか…………?

「も、ものは言い様ね。
結局そう言って今度もするんでしょ!」
「あああああなたこそ、何そんなに真剣につっかかっているのよ!
あなたこそやりたいんでしょ!」
「ななななに訳のわからないことを言っているの。
ボボボクは月が襲われない様にこの男を監視しているだけだから」
「も、ものは言い様ね」

業都をでて、ほんの数分は平和で静かな旅の始まりだったのだが、それ以降、馬で揺られている間、常にこうだ。
そんな二人を冷ややかに見ているのは陳宮である。

「全く盛りのついた牝には困ったものです。
恋殿はこの狼に関わることなく、いつまでも綺麗な体でいてくださいなのです」

呂布は、分かっているのかいないのか、コクリと頷いて肯定の返事とする。

「なによ、それは?」
「陳宮の癖に生意気」

陳宮の言葉に、荀諶と賈駆が食って掛かる。

「盛りのついた牝に盛りのついた牝と言って何が悪いのですか」
「誰が盛りのついた牝なのよ!」
「陳宮だって何を考えているかわかったものじゃない」
「なんですってー!!」

一刀は次第に頭が痛くなってきた。
別に、荀諶や賈駆に対して、そんな感情は持っていないというのに。
陳宮は論外。
犯罪者にはなりたくないから。
だというのに、三人とも本人に関係なくぎゃーぎゃー騒いでいる。
よくもまあ、ここまで延々と口げんかをできるものだ。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
かといって、下手に介入するとどんなとばっちりが返ってくるかわからないので、ひたすら沈黙を続ける。
出張の一行なので、離れるわけにもいかず、ただひたすらそれを聞き続けなくてはならない。
なかなか苦痛だ。
いや、もはや苦行だ。
呂布は一人馬耳東風という感じで、涼しい表情をしている。

「天の御遣い様も、これじゃあ体がいくつあっても足りませんなあ」

同行する兵士にも同情される始末である。
いや、物笑いの種になっているだけか?
ここで、沈黙を続ければよかったのだろうけど……

「いや、みんな俺のこと誤解してるから。
俺が愛しているのは菊香と清泉の二人だけだから」

と月並みな答えを返してしまう。
それを聞いた荀諶、

「そう、それじゃ私の体は遊びで弄んだのね?」
「いや……その……」
「太夫も遊びだったのね?」
「あの……ね?」
「関羽も遊びなのね?
趙雲も遊びなのね?
関羽とは汜水関に行ってまで遊びたいのね?
猪々子も遊びなのね?
斗詩も遊びなのね?
愛しているのが二人だけにしては遊びもお盛んね?」
「お願いだぁ、もう勘弁してくれ~~」

業都を出て早々、先行きの思いやられる出張であった。
どうして正室でも側室でもない荀諶にそこまで言われなくてはならないのか?
だいたい、この時代6人くらい遊んだっていいではないか!と思わないこともないが(やっぱり少し多いか?)、こういう問題は男が弱いと思う一刀なので、ひたすら謝るのである。

それから目的地につくまで、一刀はずっと3人に攻め続けられるか、3人の口げんかに付き合うかしなくてはならなかった。
地獄だった。
無関係な兵士や文官達だけが楽しそうに笑っていた。



[13597] 夜襲 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/09 22:51
夜襲

 行程はつらいが、作業はこなさなくてはならない。
そうでないと出張をした意味がない。
それでも最初の目的地の河水の傍の漁村に着いたときには、心身喪失状態になってしまった一刀、仕事をこなすのはなかなかきつい。
そんな一刀に鞭打つように文官が漁業関係者で適当な人を探してきてしまう。

「いやーー、天の御遣い様。お待ちしておりますた」
「は?どうして……ですか?」
「天の御遣い様のおかげで農業が盛んになったのはここにも伝わっておりますた。
我々、漁業関係者も天の御遣い様に豊かにして頂きたいと、常日頃思っていたんだス。
今日ここにお出でくださったのは、我々漁業に携わるものにも天の御遣い様の恩恵を授けてくださるためと思って、一同大いに喜んでいたのだス」

そんなに期待されると困ってしまう一刀。

「ご、ごめん。俺、漁業はそれほど詳しくなくて……ていうか、全然詳しくなくて」
「そ、そうなのだスか……」

かなり悲しそうだった。

「で、でも、少しはそれに役にたつ話を持ってきたつもりなのですが」
「そ、そうなのだスか……」

一転して嬉しそうな表情になる。
そこで、一刀は魚肥の話を始める。

「っつうことは、今まで捨てていた魚の皮や骨や食用になんねえような魚を干して乾燥させたら買うてくれるっちゅうことすか?」
「そうです。まあ、あまり高値では引き取れませんが」

そして、傍の文官に

「同じ重さの乾燥牛糞くらいでしょうかね?」

と小声で尋ねる。
尋ねられた文官は、

「そうですねーー。
購入した後、粉砕するのはどこでやるんですか?」
「うーーん、粉砕する機械をこの村で買うかどうかですけど」
「まとめて粉砕したほうが効率的でしょう。
となると、各地の農協に集めて、そこで粉砕したほうがいいですから、そうなると乾燥牛糞よりちょっと安いくらいでしょうか」
「ああ、そうですねえ。
でも、確か魚肥って牛糞よりいい肥料だったから、ちょっと色をつけてあげてください」
「わかりました」

と、値段を見積もって、それを村民に答える。

「それでも、今まで捨ててたもんが金になるんはありがてえ」

ということで、あっさり交渉成立。

あとは、魚肥の作り方の説明。
といっても、簡単。
天日で干してからからにして。以上。

「からからになるまで干してくださいね。
そうしないと、腐りますから」
「わかったす」
「天気はどうですか?
晴れの日が続きますか?」
「雨はそんなに長く続くことはねえな」
「じゃあ、大丈夫です。
雨や霧が続くようだったら、石炭っていうのを燃やして乾燥させる方法もありますから、魚肥を収めるときに連絡してください」

その他細かいことは文官が全部調整してくれた。
伊達に文官ではない。
そして、文官が決めたことを荀諶が決裁して終わり。
荀諶も遊びに来ているわけではないから。
こうして、出張初日は無事に終わった。



 夜は寝る。
あたりまえのことだ。
小さな村でも村長の家というのはそれなりに大きく、そこに泊まることはできるから、厄介になる。
それほど大人数でもないし。
で、問題なのが部屋の割り振り。
一刀の入る部屋には閨が二つあること。
一つは一刀用、もう一つは護衛の呂布用。

「お前、恋殿にいやらしいことをしようとしているのですね!」

当然つっかかるのは陳宮である。

「しねーってば。毎晩一緒の部屋で守ってくれてるけど、指一本触れたことないから!」

それを聞いた陳宮、目が点になる。

「…………今、何と言ったのですか?」
「え?何が?」
「一緒の部屋と言いませんでしたか?」
「言ったけど?」

そう、陳宮は今始めて一刀と呂布が一緒に寝ているということを知ったのだ。
それを聞いた陳宮、目から涙がぼろぼろと流し始める。

「恋殿~~~!
夜な夜なこんな狼と同じ檻に入れられていたのですか。
なんて不憫なのですか!」
「狼じゃない。ご主人様」
「この男に変なことをされていませんか?
純潔は奪われていませんか?」
「ご主人様、いい人」
「恋殿、今日はねねが恋殿を守って差し上げるのですよ。
一緒に寝るのですよ」

こくりと頷く呂布。

「お前、恋殿にいやらしいことをしようとしたら、このねねが許さないのですよ!」
「しねーって。今日は疲れたから寝る!」

疲労困憊の一刀はどさりとベッドに転がり込み、ぐーすか眠り始めてしまう。

「恋殿、一緒に寝ましょう」

陳宮と呂布も隣の閨で眠り始めた。
今日は一刀は服を着ているので、呂布も服を着ている。
陳宮に普段裸で寝ていることはばれなかった。

さて、陳宮、以前説明したとおり健康優良児であった。
口ではああいったが、早寝早起き元気な子だ。
すぐにぐーぐー眠ってしまう。
そして、朝まで目を覚まさないことになる。


夜も更けて……一刀達が寝静まった頃、一刀たちの部屋の扉が開いて、また閉まる。
呂布はその様子を見て、入ってきた人間を確認して、また眠ってしまう。

入ってきたのは2名。
その二人、一刀の閨に向かっていく。
一刀は、今日は本当に疲れてがっくりと眠っている。
二人は協力するように、そんな一刀の服を全部剥いでしまう。
そして、なにやら妖しい行為を始める。

「……ん…………ん?…………なんだ?うはっ……」

一刀が妖しい感触に目を覚ましてみれば、荀諶と賈駆がなにやら一刀の体で遊んでいる。

「ふ、二人とも何やってんだよ!
帰れよ!」

すぐ隣に陳宮がいるので、小声でどなる。

「月が襲われない様に一刀から抜いておくだけよ。
べ、別に一刀としたいわけじゃないんだからね。
勘違いしないでよね」
「しねーったら!」
「こんなに大きくして説得力ない」
「それは、お前が咥えて、う?」

話している途中の一刀の口を荀諶が塞いでしまう。

「駄目なの。
この体は一刀じゃなくちゃ鎮められないの。
一刀が鎮めてくれなくちゃいけないんだから」

疲労困憊の一刀、もはやこの二人に対抗する力はない。
二人に搾り取られつづけ、何故か途中から勝手に体が動き出し、昼にもまして疲労を蓄積していくことになってしまったのである。

尚、賈駆はこの日が始めてであった。
ちょっと雰囲気に欠ける初体験だった。


 呂布は、何故この二人を放置したか?
理由は簡単である。
もう一度、田豊の台詞をみてみる。

「いい、恋?
夜、一刀に敵が近づかないようにするのよ!
側室は要らないの。
分かった?」

呂布の認識は、

夜、一刀に敵が近づかないようにするのよ!
→ 夜、一刀の命を狙うような敵が近づかないようにすること。わかった。

側室は要らないの。
→ 田豊は側室をとりたくないらしい。女が側室をとることはありえないと思うが、話はわかった。

それぞれ、独立した文と認識して、それぞれわかったので、わかったと答えたのだ。
何で、そんな脈絡のない文が出てくるのか分からなかったので小首を傾げたが、意味は分かったので、わかったとした。
呂布は、敵が来ないので安心して眠り続けたのだった。

田豊の意図は全く通じていなかった。



[13597] 日本
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/12 20:56
日本

 朝一番早いのは、パン屋のおじさん……ではなくて、陳宮。
元気な子供はぱっと目を覚まし、がばっと起きる。
その陳宮に、呂布が小さく声をかける。

「見ては駄目」

見ては駄目と言われると見たくなるのが人の性。
ちらりと隣の閨を見てしまう。
そこに見えるのは裸の男を二人の裸の女が両側から抱いて寝ている構図。
陳宮、にやりと嗤う。

「やっぱり盛りのついた牝だったのですよ」
「静かに寝かせてあげて。
部屋には戻ってこないであげて」
「わかったのですよ。音呂を散歩に連れて行って、戻ったら通りか、食堂にでもいるのですよ」

陳宮はにやにやしながら部屋を出て行った。
呂布が襲われることがないとわかって、安心しながら。

さて、呂布は陳宮が部屋を出たことを確認すると、自分も服を脱ぎ、一刀の傍に寝ようとする。
が、スペシャルベッドでないから3人乗っているともう一杯だ。
仕方がないから一刀の脚を開いてその間で体を丸くして、また寝始めるのだった。
目の前に、丁度いい按配に握り棒があったので、それを握りながら。
陳宮、ちょっと安心するのが早すぎたかも。

それから暫くして、4人の中で一番早く目が覚めた一刀は…………もう、何も言う気力も残っていなかった。
ひたすら3人が目を覚ますのをそのままの姿勢で待っていた。

……うらやましすぎる。



 朝食を終え、次の出張場所に向かっている一行。

「天の御遣いさま~、何かお疲れのようですなあ」
「もう、何も聞かないで……」

例によって、一刀は兵士や文官達の笑いの対象になっている。
一刀やその周辺の女性の様子を見れば、何があったか明らかだから。
幸いなことに、荀諶と賈駆は静かだった。
これで、また昨日のように3人が騒ぎ立てたら、精神力が0になって死んでしまいそうだ。
陳宮がいろいろ荀諶や賈駆にちょっかいをだしているが、二人ともええとかまあとか何となく曖昧に答えているので、陳宮も攻めあぐねている。



それからも同じような出張の風景が続いた。
漁村に行っては魚肥の確保をお願いする。
夜、疲れることがあっても仕事はしっかりするのは、やはりそれなりに責任感があるからだろう。
そして、夜は何故か一刀が二人に奉仕する。
次の日から泊まる時は最初から一部屋二つの閨に5人が眠るようになっていた。
もう、一刀諦めきっていた。
妙に自分の気持ちを素直に出さない二人を同時に相手にすると、やたら疲れる。
一刀、何となくやつれてきた気がするのだが。



 出張も河水(黄河)沿いに下っていき、とうとう海を見るときが来た。

「海だーー!!」

この海の向こうには日本がある。
今は倭の国が出来つつあるときか。
漢女でない本物の卑弥呼は、もういるのだろう。

海を見ていると、何か、感無量の感じがする。
この世界に来て、何年たったろう。
まさか結婚までするとは思ってもみなかった。
そもそも最初は袁紹に中国を統一してもらって、元の世界に帰るというのが活動の目的だったのだが、もう余り帰りたいとも思わない。
帰れたら帰りたいかというと、帰りたい気持ちが半分、この世界に残りたいという気持ちが半分だ。
田豊や沮授が一緒だったら帰りたいかも。
でも、今の袁紹、このままいけばきっと漢を再統一するから、そうしたら華国を作って、元の世界に戻ることになるのかなぁ。
田豊や沮授は悲しむんだろうなあ。
やっぱり、戻るんだったら3人一緒がいいなぁ。

そんなことを考える一刀である。
思わず、ほろりとしてしまう。
そんな一刀を見て、荀諶が声をかけてくる。

「男の子は泣いちゃ、だ・め・だ・ぞ♪」

出張初夜にいたしてから、ずっとデレ荀諶が続いている。
業にいた荀諶とは明らかに別人だ。
今も一刀の腕にぶら下がりながらの発言である。
田豊も沮授もいないから、好きにさせている。
というより、拒否するほうがエネルギーを使うので、唯でさえ荀諶と賈駆がいて疲れる状況なので、できるだけ疲れないようにするための自己防衛だ………と、自分自身を納得させる一刀だ。
おまけに、潤んだ目で上目遣いのデレ荀諶、元々猫耳装備で、ちょっと反則気味に可愛い。
最初にこの荀諶に会っていたら、正妻は荀諶になったことだろう。

「何で泣いているのよ?」

もう一方の手には賈駆がぶらさがっている。
こっちはデレっぽくはなっていないが、やはり一刀にぴったりだ。
本人曰く、「月を襲わないように身柄を確保しているだけよ」だそうだが。

「この海の先に、俺がいた世界と関係が深い島国があるんだ。
倭という国だ。
俺のいた世界は、今はどうなったかなぁと思って、ちょっと郷愁を感じたんだ」
「……戻りたいの?」
「戻っちゃだめだぞ。
一刀、いなくなっちゃだめだぞ」

少し悲しそうに聞く賈駆と、泣きながら訴える荀諶。

「ご主人様、いなくなっては駄目」

後ろからは呂布も抱き着いてくる。

「恋殿、よいではないですか、このような狼。
いなくなったほうがせいせいするのですよ」
「狼じゃない。大切なご主人様」

「大丈夫、ずっとここにいるから」

そうだな。田豊、沮授以外にも俺を慕ってくれる人がたくさんいるから、戻っちゃだめだな、と気持ちを切り替える一刀であった。



 さて、出張も終盤にかかっている。

「海鳥がたくさんいる島か場所……でっか?」
「そうです。地面に糞が堆積していたら最高なんですが」
「そんなのいくらでもありまっせ!」

海の漁村でも、魚肥の入荷を取り付け、最後にグアノがあるかを確認する。
そして、案内されたのは村から一番近い海鳥の島。
確かに、島の上は鳥だらけ。
かもめだろうか?というより、海鳥にはあまり詳しくない一刀には、なんでもかもめに見える。

小船で島に渡り、上陸する。

「うわー、これは汚いわ!」

賈駆が極めて全うな感想をしているが、一刀には宝の山に見えてくる。

「たしかグアノってこんな感じだったから、っていうより、見た目鶏糞を固めたようなものだからきっと使える。
これも購入」

ということで、また文官に仔細を詰めてもらう。

他の漁村でも同じようなことをして、これで一刀の肥料集めの出張も終わった。
漁村では、今まで見向きもしなかったごみや土(グアノ)が売れるとなって、大喜びだった。
これで、漁村にも少し富が回るようになり、同時に肥料問題も当面は解決することに成功したのだった。



[13597] 眼鏡
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:28
眼鏡

 一刀の肥料探しの出張は終わった。
後は、業に戻るだけだ。
そして、帰途についている一刀の両腕を、荀諶と賈駆がしっかりと掴んでいる。
口には出さないが、業に帰ったら、また正室に取られてしまうから、と二人とも考えているに違いない。

「はあ……」

なかなか疲れる状況である。
陳宮も、もう冷やかすのに飽きたのか、二人には何も言わず、呂布と楽しそうに話している。

「いい?業に戻っても、月に変なことをしないで!
変なことをしたくなったら、ボクにして。
ボ、ボクなら、いくら変なことをしてもいいから」
「大丈夫だよ、変なことなんかしないから」
「と、時々だったら、相手してあげてもいいから。
本当だから。時々だったら嫌じゃないから」

全く素直でない賈駆である。

「はいはい、奥さんに怒られない程度に誘うから」

と、暗に拒否する一刀である。

「ところでさあ」

一刀は、今まで気になっていたことを賈駆に尋ねようとする。

「その目の前にあるガラスみたいなのは何だ?眼鏡か?」
「めがね?」
「あ、いや、それは気にしなくていいや。
とにかくさあ、その鼻の上にのっている透明のやつ、なんなんだ?」
「ああ、これ?これは水晶を薄くしたものね」
「水晶?何でそんなものを?」
「水晶には妖力のような魔力のようなものがあると考えられている。
ボクのような軍師は自分自身の能力を超えた神憑り的な智謀を要求されることがあるから、こうやってその力を高めている」
「ふーーん、お守りみたいなものか」
「まあそうね」

確かに、かけているのは軍師系の人が殆どだから。
だから、目を覆うような眼鏡はあまりなくて、レンズというか、水晶が小さめなものが多いんだ。
ゲームでは、一人、巨大な片眼鏡をかけている人がいたけど、目が悪いとか言っていたから、あまり見えなくてもいいほうの眼を覆っているのだろうか?
辻褄は合うような合わないような。

「能力のない軍師が使う道具ね」

と、賈駆を小馬鹿にしたように一刀の反対側から声をかけるのは荀諶。

「何ですって!!」
「自分に能がないから、そんな小道具に頼ろうとするのよ」
「まあ、柳花さん、誰しも完璧じゃないから、どんなに才のある人でも神仏を頼ろうとするときもあるんじゃない?」
「うん、一刀がそういうなら、信じるにゃ!」

賈駆に対する言葉と打って変わって、でれでれ荀諶である。
賈駆も呆気にとられている。
これで、業都に戻ったらどうなるのだろう?



 で、業都に戻ってきたのだが……
荀諶は、何か察するところがあったようで、ぱっと一刀から離れ、距離をとる。
いきなり業モードに戻った荀諶。
賈駆は、荀諶、何をしているのだろう?といった雰囲気だ。
そんな一行のところに、田豊が走ってやってくる。
荀諶の霊感、恐るべし!
やはり、眼鏡を能力のない軍師が使う道具と言い切るだけある。
一方の賈駆、ちょっと田豊に気付くのが遅かったようだ。
一刀の腕を掴んでいる現場を抑えられてしまう。
真っ青になる賈駆。
眼鏡の神通力は発揮されなかった。

「ねえ、詠。何で一刀の腕を掴んでいるのよ?!」
「か、一刀が月を襲いにいかないように身柄を確保していただけよ」
「そう、それは "わ・ざ・わ・ざ" どうもありがとう。
もう、私が面倒見るからいいわ」

と、一刀から賈駆を引き剥がし、

「恋、夜、一刀を襲う敵はこなかった?」

と、呂布に出張時の状況を確認する。
余程心配だったのだろう。
だいたい、賈駆は一刀にぴったりだったし。
本人でなく呂布に聞くあたりが、一刀の信用の無さだ。
沮授ほど霊感が働かないから、やったかどうかは聞かないとわからない。
それを聞いて真っ青になる一刀、荀諶、賈駆。
だが、

「大丈夫。
敵は来なかった」

と、呂布が答えるので、どうやら出張時の過ちはばれずに済みそうだ。
と、思ったら、陳宮が余計なことを言い始める。

「敵に襲われるどころか、この狼は毎晩毎晩荀諶、賈駆とよろしくやっていたのですよ」

それを聞いて更に真っ青になる一刀、荀諶、賈駆。

「……恋。敵は来なかったんじゃないの?」
「"敵"は来なかった」

どうやら意志の疎通がうまくいかなかったことを悟った田豊、呂布との会話は意味が無いと判断し、今度は一刀に向き直り、

「……どういうことか説明して頂戴、一刀」
「え?ええ、えーーっと……」

と詰問する。
だが、一刀も口ごもって駄目そうなので、最後に荀諶と賈駆を問いただす。

「柳花、詠、どういうことなのかしら?」
「ち、治療よ」
「ボ、ボクは帰ったときに月を襲わない様にぬいておいただけ」

二人とも明後日の方向を見て、なんとか誤魔化そうと努力する。

「そう。それじゃあ、側室になろうというわけではないのね?」
「も、もちろんよ」
「と、当然」
「だったら許してあげるわ」

正室になった余裕か、比較的おおらかな田豊だった。
一刀の性格からして、一人側室を認めたら、側室だらけになることは火を見るより明らかだから、兎に角側室は認めない!というのが、正室たちの統一見解だった。
だから、それさえ守っていれば、多少のことは目を瞑ろうと(努力)しているのだ。

だが、夫に対しては……

「一刀!!」
「は、はいっ!!」
「今から私を満足させなさい!」
「い、今から?まだ、明るいけど……」
「何か文句あるの?」
「い、いえ、ありません。
仰るとおりにいたします」

なかなかシビアだった。

「ふふ。狼はちゃんと躾けなくてはならないのですよ」

陳宮は妙に嬉しそうだった。




「ねえ、柳花」
「なによ」

そっけなく尋ねる賈駆に、デレが無くなった荀諶が答えている。
この二人、いつの間にか真名で呼び合う仲になっている。
そして、二人とも明らかに出張前に比べ、色っぽくなっていた。

「どうして、一刀のこと好きになったの?」
「…………詠なら、話してもいいか。
昔、黄巾党を鎮圧したときに、私が黄巾党が篭っている城に忍び込んで食料を減らす工作をしたの。
でも、黄巾党が思いのほか頑強に抵抗して、私が城内で食べるのが難しくなっていたのよ。
それを、一刀が一生懸命私を救うように動いてくれて。
それからね、どうもあの男から目が離せなくなってしまったのは」
「ふーん……」
「そういう詠こそ、何で一刀の事を好きになったのよ?」
「えっ!!
ボボボクは……やっぱり、洛陽で助けてもらったからかな。
最初は洛陽から逃げようとしたのだけど、連合軍の動きが早くてもうだめだと思った。
それを、あの男が現れて、ボクも月も助けてくれるって言って、ものすごくほっとして……
本当はその場で抱きついて、ありがとうって言いたかったんだけど、素直になれなかったし、逃げなくてはならなかったから、その時は何も。
やっぱりお礼はしなくてはと思ったんだけど、ボクの持っているものは全てなくしたから、お礼をするなら自分の体しかないって思ったの。
でも、嫌いな男に抱かれるのは嫌だから、好きになろうと思って接していたら、これが案外いい奴で。
それに、一緒にいると妙に安心できて、本当に好きになっちゃったんだと思う」
「そうね。一刀といると、何か落ち着くのよね」
「それで、きっと月も同じように思っているんじゃないかっていうのが心配で。
月は誰かの正室として幸せになってもらいたいと思うから」
「そういうことだったの。
確かに男は他にもいるからね」
「うん」
「でも、それは私達にも言えることでしょ?」
「…………そうだけど」
「詠は一刀以外の男と幸せになりたいと思う?」
「ボクは……わからない。
でも、少なくとも一生この旅の事は忘れないと思う」
「董卓も一緒じゃないの?」
「そうかもしれないけど……それでもボクは月を守りたい」
「まあ、頑張ってね。
私は……側室になれるならなりたい……わね。
でも、あの正室が障害で……」

二人とも、素直じゃないのだから。




あとがき
肥料探しの旅はこれで終わりです。
次回、戦争の描写に戻ります。



[13597] 濮陽
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/15 23:00
濮陽

 史実では、袁紹軍が濮陽を攻撃したことはなかったようだが、恋姫袁紹軍、遠回りして変なところから攻め始めたので濮陽を攻略することになってしまっている。
呂布が袁紹軍にいるから、曹操-呂布戦もまざっているのだろうか?


 袁紹軍、疲れない程度の行軍速度で侵攻しているだけだが、着実に進んでいるので、濮陽の前に布陣するまでになっていた。
新兵器の雲梯車が早速組み立てられて、翌日の決戦に備える。

「みんなぁ、今日はゆっくり休んでね。
濮陽は明日一日で片付けるから。
見張りの人はしっかり見張りをお願いしま~す」

顔良が兵達に今日の作業の終了を告げ、兵はそれぞれに休憩にはいる。
いよいよ濮陽決戦だ。



 濮陽を守るのは楽進と郭嘉。
彼等は今城外に袁紹軍を見て、いよいよ明日が決戦だろうと感じている。
恋姫の中では、第一線ではないが、堅実な武将と軍師が宛がわれている。
楽進。字が文謙、真名が凪。
郭嘉。字が奉孝、真名が稟。
史実では、エース級の武将と軍師である。
楽進は、官渡の戦いの時には冀州に攻め込んで暴れていたようだが、色々史実と差異があって、今は濮陽の守備を任されている。
その楽進、郭嘉に今後の展望を尋ねている。

「稟殿、我々は袁紹軍に勝つことができるでしょうか?」
「勝つ必要はありません。
この城を今年の収穫が終わるまで持ちこたえさせればいいのです。
唯でさえ兵の数で負けているのですから、この城という有利な位置を出て、相手を叩こうなど考える必要はありません」
「…そうでした。すみませぬ、つい先走ってしまって」
「いえ、あの袁紹軍を目の前にしたら緊張するのが当然です」
「それでは、稟殿。我々は袁紹軍の攻撃を防ぎきることができるでしょうか?」
「それは……」

郭嘉、言葉に詰まる。

「下丕では弓や霹靂車が有効に働いているという話ですが、袁紹軍は弓は私達と同じか、それよりいいものを持っていますし、城壁を破壊する衝車という新兵器を使っているという話も伝わってきていますから、どこまで私達の武器が通じるか」

と、やや弱気に言った後に、強い決意でこう続ける。

「霹靂車で衝車をどこまで防げるかが袁紹軍の攻撃を防げるかどうかの重要な点になると思います。
私達が防げないと、全軍で袁紹軍に抗する必要がでてきますが、そうなると今年の収穫が減ってしまいますから、戦には勝っても経済的には厳しい状況に陥ってしまいます。
袁紹領はその点備蓄だけで何年もやっていける大国ですから、そうなると一度は勝てても二度三度と攻め込まれたら曹操軍はもうもたないでしょう。
ですから、何が何でも私達はこの濮陽を守りきらなくてはならないのです」
「そうですね。私達の命をかけて、この城を守りきりましょう」

楽進も袁紹軍を防ぐという強い決意を持ったのだった。



 翌朝、風上に雲梯車を移動させた袁紹軍。
櫓と違って移動できるのがこの雲梯車の特徴だ。
弓の射程ぎりぎりのところから城壁の上を狙う。

「撃てー!!」

顔良の声で、一斉に弓が城壁に向かう。
弓の性能は同等、弓を射る位置も雲梯車のおかげで同等、ということは風向きが矢の飛距離を決める唯一の要素になる。
曹操軍、いくら撃っても弓があたらず、敵の的になる一方だ。
城は動かせないので、風上に移動することもできない。

「見張りを除いて、全員城壁から避難!!」

楽進、仕方なく弓隊を城壁から下がらせる。

「つっこめーーー!!」

それを見た文醜、嬉しそうに突撃を命ずる。
何をどこにつっこむか、というと、袁紹軍の新兵器衝車を城門に突っ込ませるのだ。
決して一刀の…………いや、繰り返しになるので止めておこう。
衝車には矢や石を防ぐ装甲が施してはあるが、視界を確保する関係で万全ではない。
矢がないほうが衝車も扱いやすい。
そこで、まず弓隊が城壁の上の敵兵を一掃して、それから城門に向かうのだ。
と、そこまではいつもの楽勝パターンだったのだが……


ボガン


いきなり吹っ飛んできた岩に、衝車の進行が阻まれる。
さすがに、直径10cm程の丸太を並べて作った装甲なので、人一人分くらいの重さの岩一発で破壊されるほど柔な衝車ではなかったが、装甲がかなりへっこんでしまった。
あと数発、下手したら一発でも岩を食らうと流石の衝車といえども破壊されてしまいそうだ。

「一時退却ーー!!」

文醜、大急ぎで衝車を下がらせる。



「命中ーー!!」

城壁の見張りの声に、城内はやんやの大喝采。

「敵の状況を報告!!」

尋ねる楽進に、見張りは袁紹軍の様子を伝える。

「岩は衝車に命中して、装甲の一部を破壊しました!
衝車は大急ぎで戻っていきました!
もう、射程圏外に下がっています!!」
「よし、わかった!!
また、近づいてきたら連絡しろ!」
「わかりました!!」

そして、今度は郭嘉に話し始める。

「とりあえず、敵の攻撃の第一波は防げましたね」
「はい、でも油断は禁物です。
敵も別の作戦を考えてくるでしょうから。
それからです、私達の真価が試されるのは」
「はい、気を抜かずに守り抜きましょう」
「ええ」


「敵に動きあり!」

城壁の上の見張りが大声でどなっている。
見張りは、楯を被って亀のように身を守りながらの見張りである。
かなり厚めの板で出来た楯なので、弓がいくら当たっても平気。
弓を射る場合には、そんな風に亀のようになれないから、今城壁に昇れるのは亀のようになっても大丈夫な見張りだけだ。

「何をしている?」
「弩を櫓の上に上げているようです」
「弩?」
「はい、そうです!!」
「弩を櫓に上げて、何をするのだろう?」

問われた郭嘉もよくわからない。

「さあ。弩はそれほど飛びませんから、櫓が近づいてきたら霹靂車の餌食になると思うのですが。
でも、何か嫌な予感がします」
「しっかり見張りを続けてくれ!」
「はい、わかりま」

見張り兵の言葉は最後まで発せられることがなかった。
城壁を見上げる楽進や兵の間に、楯と一緒に射抜かれた兵がどさりと落っこちてきた。
即死である。
麹義の破茂弩が2里程離れた位置から発射され、楯を突き破り、見張り兵を破壊し、それでも勢いは衰えず、見張り兵を城壁から城内に吹き飛ばしたのだった。
射程5里を誇る弩である。
2里なら的を外すはずが無い。
曹操軍に恐怖を与えるのに十分な威力だった。
そして、程なく二人目の見張りも、同じように弩の餌食となって城壁から城内に落っこちてくる。
他の見張りは全員城壁から降りてしまう。

曹操軍の間に沈黙が訪れる。
弓で城壁から追いやられ、更に楯を持って上がった見張り兵まで楯ごと殺されてしまう。
城壁の上は遼か遠方の敵に完全に制圧されてしまったことになる。
これで、どう戦えばいいのだ?
城壁に昇れないのでは城に立てこもっているメリットが全く生かされないではないか。

「だ、誰か見張りに立つ者はいないか?」

楽進が尋ねるが、それはちょっと酷だ。
目の前の死体を見たら、誰も行きたいとは思わないのは当然。

そのうちに、城門がドーーーンと大きな音をたてる。
衝車が城門を突き破ろうとする音だ。

「霹靂車を使いなさい!!」

郭嘉の指示に、兵たちは霹靂車で岩を飛ばし始める。
だが、標的がどこにあるかもわからずに闇雲に撃っているだけなので、残念ながら当たらないようで、再び城門に衝車があたり、城門はドーーーンと大きな音をたて、ミシミシっと亀裂が入る。

「全軍、突入に備えて迎撃態勢をとれ!!」

もう、城門が破られるのは時間の問題と諦め、城内に飛び込んできた敵と戦う態勢をとる。
城門に三度衝車が突撃する。
もう、7割方城門は破壊され、恐らく次に衝車が来たときに、敵が突入してくると、曹操軍全軍で身構える。
と、城壁の上から声がする。

「撃てーー!!」

見張りがいない、というか立てられないので、袁紹兵が易々と城壁を登り、そして弓を射る準備をしていた。
敵が城門の傍に集中して待っているのは容易に想像がついたから、それを背後から撃てば簡単に敵を屠ることができる。
顔良の指示で、矢が曹操軍の背後から襲いかかる。
そして、態勢が崩れたところに、衝車が突入し、それに続いて文醜隊も続く。
楽進は降伏を申し出た。

濮陽3万の兵は、ほんの数時間でその数を半減させ、陥落した。
曹操軍の完敗だった。



あとがき
破茂弩の出番はこれが最初で最後です。
まあ、効果は絶大でしたが。
いんちき発明ですが、そういうことですのであまり深くは突っ込まないでください。



[13597] 還元 -官渡編 (寿春)-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:29
還元

「今なんて?」

曹操が信じられないといった表情で荀彧に再度言葉を促している。
荀彧はほとんど泣きながら、同じ言葉を繰り返す。

「濮陽は陥ちました。
半日も持ちませんでした」
「し、信じられない……。
どうしてそんなに早く陥ちたのかしら?」
「二里の向こうより楯を打ち抜くほどの弩の槍が飛んできて、城壁に誰も登ることができなくなり、敵が遠方にいるのに城壁を制圧されてしまいました。
城壁に登れない状態では、もう我々に勝ち目はありませんでした」

曹操も呆然としている。
だが、いつまでも呆然としているわけにはいかない。
放っておいたらここ許都に攻め込まれるのも時間の問題だ。

「屯田兵の農作業は一旦中止、全軍で袁紹軍を迎え撃つ準備をなさい!」
「御意」

曹操、苦渋の選択である。
屯田兵も早めに農作業に戻れれば収量減は少なくて済むが、長引くようだと今年の収穫は純粋な農民が作業した分だけになってしまう。
徐州の石高はまだ調べていないが、徐州が食っていくのがやっとという状況だろう。
ただでさえ、袁紹から大きく引き離されているのだから、ここで足踏みをしたら離される一方だ。
だが、だからといって農業に人員を割けば曹操は滅ぼされてしまう。
それでは本末転倒だ。
だから、とりあえず今を乗り切らなくてはならない。
曹操ですら泣きたくなってくるほどの悲惨な状況だ。
曹操軍は袁紹軍に備えるため、全軍を集結させ始めた。



 ところで、曹操が泣きそうな状況に陥っているとき、ほとんど捕虜として許都にいる劉備は何をしていたか、というと………

「そうだよね、そうだよね。あのビールっておいしいよね」
「ええ。それにずいぶん強いお酒で、すぐ気持ちよくなるし」

市井の人々と能天気に取り留めの無い話をしていた。

「でもね、でもね、袁紹ちゃんのところには、ウィスキーっていうもっと強いお酒があるんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうそう。あのね、徳利に半分飲んだだけなのに、次の朝、頭が割れるように痛いんだよ。
もう、桃香ちゃん、あんなお酒のみたくないなあ」
「そ、そうなんですか。
でも、そんな酒なら一度は飲んでみたいものですなあ」
「飲む機会があったら、ちょっとだけにしたほうがいいと思うよ。
全然おいしくないし」

とまあ、何をするわけでもなく、許都の中を関羽や兵器の配備が終わって戻ってきた諸葛亮とぶらぶらしているだけなのだが、何が人を惹きつけるのかここでも劉備の人気はぐんぐん上昇していた。
巨乳が人々をひきつけるのだろうか?
曹操エキスもつまっていそうだし。


ちなみに、諸葛亮は難しい顔をしていた。
普段なら、何かにつけて劉備に「ちがいましゅ!」と苦言を呈しているところだが、今はそんな余裕は全く無い。
それというのも、濮陽が陥落したと言うニュースを聞いたからだ。
衝車や雲梯車の話は既に伝わっていて、弓では簡単には対処できないと言うことはわかっていた。
だが、霹靂車を何台も用意した濮陽なら、そう簡単には攻略されないだろうと思っていた。
ところが、半日もかからないで濮陽が陥落している。
聞けば、楯をも貫通する弩が数里離れた位置から正確に見張り兵を射抜いたとか。
諸葛亮は衝撃を受けた。
どうすれば、新型弩にやられないように見張りを続けることができるか。
更に、出来るならば、袁紹軍の弓に対抗しながら弓を射返したいのだけど……。
見張りを立てるだけなら城壁の上に覆い、今の言葉で言えばトーチカを作ってそこから見張ればいいのだろうけど、そうすると見張りしかできなくなってしまって、弓の攻撃力が発揮できない。
どうすれば袁紹軍に対抗できるのだろうか。


関羽は、なんとなくにこにこしながら劉備について歩いていた。
その心の内は、というと……

とりあえず、今は普通に生活できている。
だが、これでは曹操の籠の中で生きているだけではないか。
私が曹操軍に入って活躍すれば、桃香様も喜んでくださるのだろうか?
ただ……部下はいい人々なのだが、その、なんというか……
やはり、早く桃香様には再度独立していただきたいものだ。

というようなことを考えていたりした。



そんな3人を厳しい目で見ている人物がいる。
程昱である。
程昱。字が仲徳、真名が風。
演戯では悪役のように扱われているが、そうでもないらしい。
それどころか、曹操をたてようと智謀の限りをつくした人物であるようだ。
それが他の勢力から見れば悪役に見える、といわれればそうなのかもしれないが、やはり立派な人物だったのだろう。
恋姫では……頭に太陽の搭型怪電波受信搭(通称宝慧)を備え、いくら舐めても減らない(舐めていないのか?)ぺろぺろキャンディーを常に持ち、都合が悪くなると寝てしまう特技を持つと言う、なんといったらよいか天然系の人物である。
恋姫内では、大体いつも郭嘉と一緒だが、郭嘉は濮陽で既に袁紹軍に捕らえられていて、今は単独行動をとっている。
その程昱、城に戻るなり曹操に会いに行き、

「華琳様、劉備を殺してください」

と、いきなり、劉備を殺すことを提言する。

「ど、どうしたのよ、いきなり。
劉備が何か謀反でもおこしたとでもいうの?」

さすがに、歯向かってくるわけでもない人間を、いきなり殺せ!と言われるとショックを受けるものだ。

「そうではありません。
ですが、劉備はここ許都の民の心をつかみつつあります。
このままでは、臣民の心は華琳様から離れ、劉備に変わってしまわないとも限りません。
あの女は危険です。
生かしておいては必ずや華琳様の災厄となるでありましょう」

眠ることもなく、真剣に曹操に提言する程昱だ。

「そ、それはいくらなんでも考えすぎなんじゃないの?」
「いえ、そうは思いません。
あの女はここに居残り華琳様の災厄となるか、裏切るか、とにかく生かしておいてよいことはなにもありません。
傍目には無能を装っていますが、本当に無能なのか疑問です。
いつもへらへらしていますが、結局自分の意見を押し通しています。
華琳様も気がついたら劉備にいいようにあしらわれてしまうのではと不安です。
劉備を殺すことで関羽や諸葛亮が華琳様に下らないのであれば、二人とも諦めてください」
「…………そこまで言うなら、一応気をつけてみてみましょう。
ただ、今すぐ殺すことはしないわ。
少なくとも諸葛亮はまだ使えそうだから」
「…………御意」

程昱、まだ何かいいたそうだったが、曹操にそういわれるとそれ以上は曹操に詰め寄ることはしないのだった。


曹操、一応他の人間の意見も聞いてみようと荀彧を呼ぶ。

「―――と風が言っていたのだけどどう思うかしら?」
「劉備がですか?
あれはただの押しの強い馬鹿ではないのでしょうか?」
「そうは思うのだけど………風の意見も尤もだと思わせる何かが時々劉備にはあるのよね」
「わかりました。私も一応監視してみます」
「お願い」



 そんなことがあったとは全く知らない諸葛亮、曹操のところに新兵器の提案に来る。

「丸太をいくつも束ねて三角にするのです。
それを二つ作って、細い隙間を空けてくっつくけるのです。
それを楯として城壁にいくつも並べるのです。
そうしたら、隙間から矢を射ることも出来ますし、敵の矢や新しい弩もほとんどを防ぐことができると思います。
運悪く隙間を通ってきてしまった弓は防ぐことができましぇんが……」

新しい楯の提案だった。
昔の城にあった細長い鉄砲用の窓(銃眼、狭間)の構造をそのまま楯にしたような感じだ。
確かに、これなら敵の攻撃を防ぐことができ、尚且つ自分たちの攻撃力を損なうことが無い。

「なるほど、それはいい考えね。早速配備させるわ」

ということで、曹操軍も新兵器に対抗する装備を配備することになった。
まだ、劉備には使い道があると感じる曹操であった。



 再び劉備。
今は城内にいて、劉備にしては緊張した様子で歩いている。
そして、角を曲がったところでぴたっと止まり、後ろから来る人間を待ち伏せする。
劉備の後をつけていた人物は、劉備が角を曲がると、さっと走って劉備の後をつけようとするが、劉備はそこで止まって待っていたのでどんとぶつかってしまう。

「ねえ、荀彧ちゃん、どうしてそんな怖い顔をして桃香ちゃんをつけてくるの?」
「うるさいわよ!華琳様の命令で、あんたがよからぬ事をしないか見張っているのよ!」

劉備の後をつけていたのは荀彧。
律儀に曹操の命令を遂行していたところだ。
隠れて尾行、というような高等なテクニックでなく、単純にすぐ後ろからついて歩いているだけなので、普通の人間ならすぐ後ろに荀彧がいることは分かってしまう。

「え~?桃香ちゃん、そんな悪いことしないよ。
みんなとなかよくしたいだけだよ」
「知ってるわよ、そんなこと。
あんたがそんなに頭がよくないことくらい見ればわかるわよ。
昔から巨乳の女は乳に栄養が行った分、脳に栄養が行かないから頭が悪いと相場が決まっているのよ!」

それを聞いた劉備、にっこりと荀彧に微笑みかけて、

「なぁんだ、荀彧ちゃん、おっきいおっぱいがいいんだ!
じゃあ、いいことがあるよ」

と言って、荀彧の手を引っ張って自分の部屋に連れ込んでしまう。

「ちょ、ちょっと、何するのよ!」

嫌がる荀彧をむりやり部屋に連れ込んだ劉備は、おっぱいを取り出して、

「はい、どうぞ」

と言って乳首を荀彧に含ませてしまう。
口に乳首を含んだとたんに、今まできつい表情をしていた荀彧は急に優しい表情に変わり、無心に劉備のおっぱいを吸い始める。
荀彧はそれは幸せそうに劉備のおっぱいを吸い続ける。
劉備は、荀彧をまるで母親が赤子をあやすように優しく抱きしめる。

そのうちに、劉備のおっぱいは心持ち小さくなり、その分荀彧のおっぱいが大きくなったようだ。
とはいうものの、NカップがLカップに変わっても(Z→X?)、ほとんど見分けはつかないが、A--(Aマイナスマイナス)カップがいきなりCカップに変わると変化は覿面。
荀彧の胸は、ほぼ無からいきなりささやかな、いや並の胸に変化した。
曹操から搾り取ったエキスを荀彧に還元したのだろうか?

「桃香ちゃんの胸は大きすぎるから、また荀彧ちゃんに分けてあげるね!」
「はい、劉備様……」

荀彧は幸せそうに劉備の部屋を後にした。



[13597] 裏切
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/19 20:30
裏切

 許都には、青州兵が山のように集められている。
彼等は皆、元黄巾党党員、というか張三姉妹のファンである。
そして、今、彼等の士気を高めるため、張三姉妹のライブが開かれている。
そう、張三姉妹は曹操に殺されることなく、曹操の配下に収まっていたのだ。
恋姫史実のとおりであった。
青州兵も張三姉妹がいれば、元気100倍。勇猛果敢な兵として働くことになる。
この青州兵+張三姉妹のセットが曹操を強くした根源である。
瑯邪国に攻め込んだ曹操軍も、彼等が母体である。

「みんな大好きーー!」
「てんほーちゃーーーーん!!」
「みんなの妹ぉーっ?」
「ちーほーちゃーーーーん!!」
「とっても可愛い」
「れんほーちゃーーーーん!!」
「今日もいくねーー!!」
「おおーーーーーーっ!!」

今日も公演は盛況だ。
現代社会と違って流行り廃りが短期間で変わるものでもないから、以前張三姉妹のファンだったものは今でもファンであることが多い。
だから、彼女達の言うことは絶対。
戦闘力は特筆すべきものはないが、狂信者のように、死をも恐れず立ち向かうので、同程度の能力の兵士であれば、その志の違いで倒すことが多い。

「あんな歌のどこがいいのかしら?」
「全くです。ですが、彼女達のおかげで青州兵は精強になりますから、今後も働いてもらいたいものです」
「まあ、そうね」

と、曹操と荀彧が話しているところに、程昱がやってくる。

「華琳様、その後劉備の件はどうなりましたでしょうか?」
「劉備?今はそれどころではないわ。
この30万の軍を袁紹に向けて動かさなくてはならないのだから。
桂花、特に何も不審な点はなかったのでしょ?」
「はい、華琳様。
劉備様はいい方ですので、今後も許都に留まって頂くとよろしいかと思います」
「………え?」

曹操は驚愕で目が丸くなる。
背筋にぞぞっと寒いものを感じる。
荀彧を部屋に戻し、程昱だけに話しかける。
程昱の心配している内容を、初めて身に染みて感じたから。

「風」
「はい、華琳様」
「劉備をここに連れてきて。
風の言うとおりだったわ。
確かに劉備は危険ね。
まさか桂花が洗脳されるとは。
劉備を甘く見ていたわ。
風の言うとおり、その場で殺すわ」
「御意」



 一方の劉備。
その日は朝から元気なく、諸葛亮にしょんぼりと話している。

「ねえ、朱里ちゃん。何かここにいづらくなっちゃった」
「どうしたのですか?桃香様らしくありませんが」
「うん、あのね、あのね、曹操ちゃんはね、いい人なんだけど、参謀の人たちが何人も私のことをにらむように見ているの。
桃香ちゃん、みんなとお友だちになりたいのに……
荀彧ちゃんとは仲良くなれたんだけど、ほかの人はどうも駄目みたい。
やっぱり、みんな仲良くっていうのは夢なのかなぁ。
あ~あ、徐州に戻りたいなぁ」

人を惹きつけるだけでなく、人の様子も結構よく見ている劉備であるらしい。
だが、それを聞いた諸葛亮、嬉しそうに劉備にこう答えるのである。

「桃香様、桃香様がそう仰ってくれるのを待っておりましゅた。
それでは下丕に戻りましょう。
再び徐州の州牧になってください」
「え~?そんなことできないよう。
軍隊は曹操ちゃんのところのほうが圧倒的に強いし、それに今下丕に戻っても夏侯惇ちゃんなんかが頑張っているじゃない?」
「実は―――」

諸葛亮は下丕での出来事を劉備に話し始める。


「朱里殿」
「あ、星さん、ご無沙汰しています。
よく、色々なところで会いますね」

陶謙のところに客将として雇われていた趙雲が諸葛亮を呼び止める。

「確かにそうであるな。
ところで、桃香殿は曹操殿に下ったとか」
「そうなんです。
私達はこれから曹操の臣下として許都に向かわなくてはなりません。
でも、おかげで徐州のみんなの命も財産も助かったので、これでよかったのだと思います」
「ふむ、それで相談なのだが……」

趙雲が言うには、徐州の民はみんな劉備を慕っている。
だから、曹操に隙が出来たら、いつでも戻ってきてもらいたい。
兵でない民衆であっても、城内の曹操軍ぐらいだったら、何とか倒すから、安心して戻ってきてもらいたい。
趙雲一人では難しいが、麋竺が主となって劉備の受け入れの準備を密かに進めておくから。


「―――ということなのです」
「そうなんだ。みんな優しいねえ」

嬉しさゆえか、劉備にうっすら涙が浮かぶ。

「そして、今曹操軍は袁紹にのみ目がいっていますから、徐州はほとんど気にしていないです。
ですから、今が絶好の機会です」
「それじゃあ、早速出発しよう!」
「そうですね。愛紗さんと一緒に」
「うん!」

ということで、とっくに許都を出た後であった。



 程昱は、走って曹操の元に戻ってきて、

「華琳様、申し訳ありません、劉備は既に許都を脱出した後でした。
諸葛亮もいることですから、曹操軍が袁紹しかみていないので、絶好の機会だと判断したのではないでしょうか」

と、手にした手紙を曹操に渡す。

『冑橾ちゃんへ
 桃香ちゃん、やっぱり除卅に房るね』

「………風」
「はい」
「これは

『曹操ちゃんへ
 桃香ちゃん、やっぱり徐州に戻るね』

 と書きたかったのかしら?」
「……多分」
「やっぱり劉備はただの押しの強い馬鹿なのでは?」
「ぐー……」
「起きなさい!」
「おっと、ついうとうとと……」
「それで、徐州に戻って何とかなるという算段があるのかしら?」
「さあ、最初からあると思っているかどうかは微妙ですが、何とかしてしまいそうな予感がします。
あそこにいるのは春蘭様ですし」
「それはまずいわ。まずすぎるわ。
おのれ、劉備!唯でさえ忙しいのに手間隙かけさせるのだから!
風!全軍で徐州に向かい、劉備を討ち取るわ!」
「は?全軍ですか?」
「そうよ。あそこには今張勲が来ているでしょ!
中途半端に兵を送ったら、張勲に討ち取られてしまうわ」
「ああ、確かに。
それでは、張三姉妹にそう指示するよう伝えます」


ライブで……

「みんなー!聞いてー!!大変なの」
「劉備っていう女が、曹操様を裏切って、逃げていったの」
「そして、今、大事な夏侯惇様が危険な目にあいそうなの」
「「「だからぁ、みんなで協力して、劉備と張勲を倒しちゃってーー!!」」」
「ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!」

曹操軍は、全軍で劉備と張勲を撃つため、下丕に向かうことになった。




あとがき  ~感想への返信を兼ねて~

え~っと、おっぱいを吸っておっぱいが大きくなることがあるか?
洗脳されることがあるか?

お答えします。


ありません!


当然です。

では、なぜ荀彧におっぱいを吸わせたか?
荀彧を誑かす方法でしたら、これよりはるかに現実的な、そして知的な方法があるでしょうが、妹のおっぱいが大きくなったのに姉が小さいままなのが不憫だったのです。
荀彧、いつまでも貧乳で可哀想だったんですもん。
今、サイズを上げないと、今後大きくなる望みがなさそうなので、劉備に人間離れした能力を発揮してもらいました。
許してください。
もう、この能力でませんから。
そして、貧乳ファンの皆様、ごめんなさい。

時々こんな冗談ぽい状況が登場します。
笑ってスルーしていただけると幸いです。

え?他の貧乳の女性?
まだ、幼児体形だから、きっと大きくなる余地があります。
……多分。

諸葛亮は…………どうしたものでしょう。
もう幼児小児体形ではないような、まだ可能性があるような。
まだ希望がありますよね?



[13597] 散歩
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/21 11:59
散歩

 そんなこととは知らない劉備一行、馬でパカパカと下丕に向かっている。
何で、そんな便利なものがあるかというと……

「ねえねえ、桃香ちゃんたち、お散歩に行きたいから、お馬さん貸してくれる?」

と厩番に言ったら、快く馬を3頭貸してくれたからである。
流石に諸葛亮も絶句していた。
城を出るときも同様にすんなり出ることができた。
おまけに、衛兵には

「お気をつけて!」

といわれる始末である。
諸葛亮、許都をどうやって出るかが一番の問題と思っていたが、劉備にかかれば、

「頼めば出してくれるよ!」

で、終わりである。
やはり、劉備、何か桁が違う。
諸葛亮は、自分の智恵など劉備の前では芥子粒のように小さなものでしかないのではと、ちょっと自信を失ってしまう。


 そんな劉備でも心配にしていることがある。

「ねえ、朱里ちゃん。
本当に曹操ちゃんは攻めてこないかなぁ?」
「大丈夫だと思います。
曹操軍は、全軍で袁紹軍に対抗する準備をしていますから、徐州にその軍が向かうことはありません。
今、袁紹軍に対抗しないと、濮陽から先の城をいくつも陥とされてしまいますから、それは戦略的にも得策とは思えません。
ですから、桃香様を追いかける兵を出すとしたら小数の兵になると思いますが、こちらも馬ですから簡単には追いつけないと思います。
そして、一度下丕に入ってしまえば、周りには袁術軍がいますから、曹操軍が劉備様を攻めることはありません。
むしろ、曹操軍と袁術軍の間での戦いになるでしょうから、曹操軍はそうなるまえに戻ると思います」
「うーん……朱里ちゃんの言うとおりだと思うんだけど…………何か心配」

それを聞いた関羽、

「それでは、私が小沛城で曹操軍を食い止めましょうか?」

と提案する。

「うん、それはいいかもしれないね。
朱里ちゃんはどう思う?」
「そうですね。
まあ曹操軍がくることはないと思いますが、桃香様が安心なさるならそれがいいかもしれません」

ということで、一行(三人)は一旦小沛に向かい、関羽はそこで曹操軍を迎え撃つために留まることとなる。
万が一曹操軍が来るとしても、弱小勢力だけだろうから、小沛にいる徐州の兵だけで倒せるだろうという読みがあるから。
劉備、諸葛亮は、小沛にいた徐州の兵数名とともに下丕に向かう。
その一方で、伝令が公孫讃のところに劉備が下丕に戻る旨、報告に行く。
これで、再び劉備軍が一同に会す事になる。



 劉備たちは下丕の傍で夜を待つ。
夜になって、城内から秘密の通路を通って迎えが来るのを待つためだ。
そこに、馬を飛ばしてきたのか、公孫讃など青州との州境を守っていた劉備軍も戻ってくる。

「桃香、無事だったか?」
「あ!白蓮ちゃん!うん、元気だったよ。白蓮ちゃんは?」
「ああ、みんな元気だ」
「よかった!」
「桃香様~~~!!」
「鈴々ちゃん、久しぶりだね」
「うぇっ、うぇっ……寂しかったのだ!」
「うん、もうずっと一緒にいようね」
「そうするのだ!……でも、愛紗がいないのだ」
「愛紗ちゃんはね、小沛城でこの徐州を守ってくれているんだよ。
そのうち会いに行こうね」
「うん!早く会いたいのだ!!」

再会を喜び合っている劉備たち。
彼女達の積もる話は尽きることなく、そのうちに陽が傾いて、薄暗くなってくる。


麋竺の使者が劉備の許を訪れる。

「劉備様、よくご無事で」
「うん、曹操ちゃん、優しくしてくれたから平気だったよ。
麋竺さん達もわざわざ桃香ちゃんのために働いてくれたみたいでとってもうれしいの」
「ええ、それなのですが、ちょっと問題が……」

使者が言うには……

麋竺たちは劉備が帰ってくるときには夏侯惇などをどうにか処分する方法を考えていた。
ところが、昨日になって張勲が夏侯惇を破ってしまい、今は下丕には張勲が居座っている。
張勲軍は10万近い大軍で、ちょっと麋竺たちでは手に負えず、困ってしまった。
言われて見れば、確かに張勲軍どこにもいない。

「えーっ?!夏侯惇ちゃん、負けちゃったの?」
「はい」



 それは昨日の夕刻のことであった。
夏侯惇の許に伝令が大慌てで走ってくる。

「た、大変です。
曹操様と見られる軍が張勲軍に追いかけられております!」
「なんだと!全軍出撃!!」
「まあ、待て。春蘭はん。
華琳様がこの時期くるはずあらへんし、仮にきたとしてもそう簡単に張勲にやられる華琳様とも思われへん。
絶対、敵の罠や、これは」

後先考えずに飛び出そうとする夏侯惇を張遼が押し留める。
張遼、見かけによらず、案外冷静である。

「ふむ。確かに霞の言うとおりだ。
華琳様がそんなに簡単に破られるはずがない」
「でも、一応どんな様子かみてみませんか?
万が一ということもないとは言えませんから」

と言ったのは許緒。字が仲康、真名が季衣。

「うむ、そうだな」

そこで、全員で城壁に登り、曹操と見られる軍を見る。
兵は約1万か?
牙門旗は確かに曹操のものに見える。

「うーーーーん。本物に見えるような見えないような……」

夏侯惇は旗を見て悩んでいる。

「せやけど、この時期たった一万の兵でここにくる理由があらへん。
だいたい、ここに来るなら事前に連絡があるやろ。
罠やっちゅうたら、罠や」
「うーーーーん。そう言われるとそんな気も……
「まさか袁紹軍にやられて、どうにか逃げてきたということは……」
「……それはないとは思うんやけど……」

と、悩んでいる夏侯惇の耳に、彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

「春蘭!しゅんらーーーーん!!」

思わず、顔を見合わせる夏侯惇、張遼、許緒。

「やはり華琳様!?」
「しんじられへん」
「とりあえず、助けに行きましょう!!」

全軍で下丕を飛び出す曹操軍。
だが、それを待っていたのは牙を研ぎ澄まして待っていた張勲軍。
張遼の言うとおり、これは罠だった。
夏侯惇たちをおびき出すために、曹操の牙門旗を作り、曹操兵の服を揃え、そして曹操に良く似た声の娘を探し出し、城外で芝居をうったのだ。
夕暮れ時を狙ったのは、作りの雑な牙門旗が贋物と見破られないため。
城外に出れば、ただの野戦。
1万対10万では、いくら夏侯惇や張遼、許緒が豪傑だといっても勝てる道理はなかった。


「夏侯惇、ごめんなさいね。
お嬢様がどうしても徐州を欲しいっていうものですから」

張勲が捕虜になった夏侯惇に詫びの言葉を告げている。
といっても、悪いとは思っているようには全く見えない。
勝者の余裕だ。

「おまえなど、華琳様がすぐに倒してくれようぞ!」
「でも、曹操、袁紹相手にてんてこ舞いで、ここには来る余裕がないでしょう。
ここに来る前に私達が守備を固めちゃうから、そう簡単にはおとせないんですぅ。
それ以前に、袁紹にやられちゃうかもしれませんねえ」
「そんなことはない!」
「牢に閉じ込めておきなさい」

というのが、昨日の出来事。
下丕陥落の情報は、丁度劉備たちがこちらに向かっているときに許都に向かっていたのだろう。



「そっかー。色々あったんだね。
それじゃあ、とりあえずその張勲ちゃんとお話をしにいこう!」
「よいのですか?」
「だって、話し合わないと何も解決しないじゃない!」

劉備が言っても、どうも説得力に欠けるが、他に解があるわけでもないのでとりあえず劉備の言葉に従うことにする。

「それでは、ご案内します」
「うん、お願い。
鈴々ちゃんも一緒に行こう!」
「わかったのだあ!桃香様をしっかりお守りするのだあ!」
「おねがいね。
白蓮ちゃんは、何かあったらすぐに逃げて」
「分かった……といいたいところだが、どこにも逃げ場がないではないか」

袁紹のところに行けるはずがなく、曹操のところも行けるはずがなく、何かあったということは袁術のところにも行けないので、どこにも逃げ場がない。

「ああ、そうだね。どうしよう、朱里ちゃん」

そんなこと言われても、諸葛亮だって困ってしまう。
それでも、徐州の周りの3人を比べてみる。
袁紹は、劉備も公孫讃も嫌っている。
曹操は、今逃げ出してきたばかり。
それに比べ、袁術は直接、話をした訳でもなく、今のところ中立的な立場だ。

「……袁術様のところが一番ましだと思います」
「だって」
「……一応、分かった。
まあ、無事に戻ってきてくれ」
「うん、大丈夫だよ、きっと」

劉備は張勲に会うために下丕に入っていった。



[13597] 懲罰 (R15 NTR)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/24 21:10
懲罰

 劉備が麋竺に連れられて張勲のところにやってくる。
麋竺は、地元の豪族で、基本的には支配者が変わったらその者に仕えるだけというスタンスをとっている。
だから、夏侯惇が捕まえられて張勲が徐州の支配者になったら、傍目張勲に仕えるようにするので、殺されることも拘束されることもなく、自由に動ける。

「張勲様、張勲様にお会いしたいという人を連れてまいりました」

麋竺が張勲に劉備を引き合わせる。

「あら、お客さんとは珍しいですね。どなたですか?」
「前の州牧の劉備様です」

麋竺の紹介で、劉備と張飛が張勲の部屋に入ってくるが、その二人に反応したのは張勲ではなく、華雄だった。

「おのれー、劉備!!今こそ積年の恨み、晴らしてくれようぞ!!」

と怒り狂いながら金剛爆斧を振りかざして、劉備、張飛目指して突進してくる。


思い出してみよう、そもそも何故華雄がここにいるかを。
あれは汜水関での出来事。
汜水関を守っていた華雄を、ここにいる劉備と張飛がさんざんこけにして、それに怒った華雄が関を飛び出して負けてしまった、そしてその身は袁術に預けられた、というのが過去の歴史である。
華雄がこの二人を恨むのも当然だ。


張飛は、本能的に蛇矛で華雄を防ぎとめるのだが、華雄に対して発した言葉は

「お前は誰なのだ!」

張飛は劉備と共に華雄をさんざん馬鹿にしたが、実際には一合もしていないので、顔を知らない。
だが、そう言われた華雄は、更に馬鹿にされたように感じてしまう。

「ぬぉーー!!そこまで馬鹿にするか!!
よもや汜水関での出来事を忘れたとは言うまい!」
「汜水関?お前は馬鹿の華雄か!」
「馬鹿いうなーー!!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのだ!!」

二人ともののしりあいながら武器を戦わせている。
張勲は呆気にとられている。
麋竺は困惑している。
劉備は、諸葛亮病がうつったのか、「はわわ、はわわ」とうろたえている。
劉備にしては珍しいことだ。

華雄、張飛相手に一歩も引くことなく互角に戦っている。
口げんかのレベルは低の低だが、戦いのレベルは高の高だ。
やはり、華雄、ちょっと短絡的なことがあるが、一廉の武将ではあるらしい。
二人の戦いは外野がまあまあと言って止められるレベルでないので、もう全員ただ傍観するしかない。


二人の戦いを止めたのは、場外からの乱入だった。

「桃香!逃げるぞ!!
曹操が全軍引き連れて攻め込んできた。
あれは相手にならない」

乱入してきたのは公孫讃。
曹操が攻めてきたので、大慌てで徐州から逃げようというのだ。

「えっ!!そんなぁ。朱里ちゃん、曹操ちゃんは攻めてこないって言っていたのに」
「朱里殿も間違えることもある。
兎に角、急ぐぞ!」

と言うや否や、麋竺や張勲や華雄のことはお構いなしに、劉備の手を握り、張飛の襟首を掴んで、大急ぎで外に出て行ってしまう。
劉備、張勲と話すために来たのに、一言も声を交わすことなく戻ることになる。

「放すのだ!」

と、まだ試合を続けたい張飛は騒いでいるが、そんな余裕は全くない。
公孫讃、二人を引っ張ってぐんぐん走っていってしまう。
それほど華はないが、公孫讃だって相当な武将だ。
このくらいのことは訳なく出来る。

「おのれ!逃がしはせんぞ!!」

華雄は張飛を追いかけようとするが、

「華雄!」

と、彼女を叱責する張勲の声に、足を止める。

「はっ!」
「今の話の真偽を確かめるほうが先です。
城壁に向かいます!」

と、外に向かおうとすると、そこに張勲軍の伝令が大慌てで走ってくる。

「た、大変です!!
曹操軍が大軍で攻め込んできました!!」

伝令より早くに城外から抜け道を通ってやってくる公孫讃、いったいどれだけの足の速さなのだ?

張勲が城壁に登ってみると、確かに遠方より曹操軍らしい大軍が押し寄せてくる。
下丕を陥としたのが昨日、恐らく伝令が許都に届くのが今日か明日、それから出陣の準備をして下丕にくるのは、どう考えても3~4日後だと思っていたのに、何でこんなに早く曹操軍は軍を送ることが出来たのだろう?と訝しく思う張勲である。
まさか、劉備が曹操軍を呼び込んでしまったとは夢にも思わない。
曹操軍、神速だと驚嘆するばかりである。

さて、その張勲、前にも記したが抜群に有能な参謀であった。
人を見る目、勢いを感じる能力などが秀逸。
そして、曹操軍を見て、下した結論は……

「これは、負ける……」

篭城したほうが有利とか、下丕の城内には新兵器が山のようにあるとか、そういうアドバンテージを吹っ飛ばしてしまうほどに曹操軍の勢いは強い。
だって、攻めてくるのは張三姉妹に応援してもらったファン達なのだから。
城内に篭って新兵器をかっぱらって使用すれば、ある程度敵にダメージを与えられるだろうが、結局は防ぎきれず、張勲軍は殲滅させられる、そういうシナリオが張勲には見えた。
それから先の張勲の行動は早かった。

「華雄!全軍に撤退命令!!」
「はっ!!」

張勲軍は取る物も取り敢えず下丕を後にして、寿春に向かう。


劉備、公孫讃たちも同じく寿春に向かっている。

「小沛に愛紗ちゃんがいるの!」
「関羽殿には申し訳ないが、自力で何とかしてもらうしかあるまい」
「そんなあ!愛紗ちゃんを助けなくちゃ!!
曹操ちゃんにいじめられちゃう!!」
「駄目だ。全員、このまま寿春に向かうぞ!!」
「愛紗ちゃーーーん!!」

公孫讃は、泣き叫ぶ劉備を抑えて、全員で寿春を目指す。


だが、曹操軍、執拗であった。
下丕の奪還は既に完了し、中には劉備軍も張勲軍もいないのに、張勲軍や劉備軍を追いかけていく。
被害を受けたのはほとんど張勲軍。
いつのまにか全員分の白馬を準備していた、実は資材調達にも有能な公孫讃であったので、劉備軍は全員騎馬で、また公孫讃が率いているので神速とは言わないまでも、相当の移動速度を誇っている。
白馬にこだわるのは、公孫讃の趣味だろうか。
それに対し、張勲軍は歩兵が殆ど。
殿を満足に勤められるような武将もおらず、曹操軍の猛攻をひたすら受けている。
いても駄目だったろうが。
張勲軍が寿春に戻ったときには、10万の兵は5万にまで減っていた。
いや、よく5万残ったものだ、というべきか。


「風、そろそろ戻るわよ」

張勲軍を徐州の外に追いやり、今日のところはこの位で勘弁してやろうといった雰囲気で、曹操が軍の侵攻を止める。
このまま進めば、袁術軍を殲滅させることも出来たかもしれないが、許都を伺う袁紹がいて、そうも言っていられない。
一部下丕に軍を残して、また怒涛の勢いで許都に戻る曹操軍。
大急ぎで戻りはしたのだが、やはりさすがは袁紹軍、曹操軍が手薄になると見るや否やあっというまに軍を進め、白馬、延津、酸棗、烏巣など、官渡より北の城は全て陥としてしまっていた。
だが、その直後、一部守備兵を残し、軍は大挙して冀州に戻ってしまっていたのである。
一刀の予言の所為だろうか?



「風、袁紹軍は好き勝手に暴れてくれたわね」

怒りで爆発寸前の曹操である。

劉備がいなければ、こんなことにはならなかったものを。
いや、劉備がいなくても、下丕は陥とされていたから、どのみち下丕に向かうのは時間の問題だったか。
夏侯惇も全く困ったものだ。
夏侯惇よりは張勲を誉めるべきだろうか?
それにしても、ほんの数日で多くの城を失った。
袁紹軍、本当に強い軍だわ。

考えてみれば、劉備のおかげで下丕に迅速に向かうことが出来、夏侯惇らを助けることが出来たのだから、少しは劉備に感謝してもいいのかもしれないが、曹操が劉備に感謝することは絶対ないに違いない。

「はい、一瞬の隙を突かれてしまいました」
「でも、時間的には官渡も落とせたでしょうに、袁紹軍は何で戻ったのかしら?」
「わかりません」
「まさか、私に恩を売ったとか考えてはいないでしょうね?」
「それはないと思います。
何か大事でもおこったとしか考えられませんが」
「そうよね。
間諜を多めに送りなさい。
それから、兵役を解いて農業に戻すわ」
「御意」

とりあえず、袁紹軍の動きも止まり、袁術の侵攻も撃退し、平穏を取り戻した曹操であった。
だが、その平穏の後に、真の地獄がやってくるとは、このときの曹操には予想も出来ないことだった。



さて、曹操、此度の曹操軍vs.張勲軍の賞罰、特に罰を与えなくてはならない。
曹操の前に呼ばれているのは荀彧と夏侯惇。

「二人ともなんで呼ばれたか分かっているわね?」
「申し訳ありません、華琳様。
つい劉備の乳に魅力を感じてしまいました」
「申し訳ありません、華琳様。
他の女の声を華琳様のお声と間違えてしまいました!」

微妙にポイントがずれている気もするが、外れでもない。
曹操、ちょっと不機嫌な表情になるが、気を取り直して二人に罰を言い渡す。

「まあ、いいわ。
それで二人に罰を与えることにしたの」
「あぁ~ん、かりんさまぁ。そんなにいぢめないでくださ~い」

うっとりした表情に変わる勘違い荀彧。
それでは、罰にならないではないか!
曹操、もう一度不機嫌な表情になるが、気を取り直して二人に罰の内容を伝える。

「これから二人で朝まで愛し合いなさい!」
「「どうしてこんな女と!!」」

二人の息はぴったり。
似たもの同士なのかも。
それを聞いた曹操、とうとう爆発してしまう。
仏の顔は三度だが、曹操の顔は二度だ。

「罰だからよ!
二人で愛し合いながら私の様子でも見ていなさい!!
いいこと?朝まで愛し合わなかったら、もう二度と抱いてあげないわ。
明日は相手を多くいかせたほうを抱いてあげるわ」

荀彧と夏侯惇、仕方無しに二人でキスをして、愛し始めることとなる。


「待たせたわね、関羽」

部屋にはもう一人人間がいた。
関羽である。
小沛城が陥落するのはあっという間で、関羽は、再度許都に連れ戻されていたのだ。

「今、私は不機嫌なの。
私の言うことは全てすぐに聞くこと。
そうしないと、いくら相手があなたでも殺すわよ。
いいわね!」
「はい、曹操様」
「服を脱ぎなさい!」
「はい」

劉備もおらず、再度囚われの身となった関羽に、否定することは出来ないのであった。



時は過ぎて……

関羽は曹操の閨で泣いていた。
服もなく、髪飾りも取り、まさに生まれたままの姿で泣いていた。
傍では、曹操を取られたと感じている荀彧と夏侯惇が泣きながら愛し合っていた。

「いいこと?いつか、関羽の心も私のものにするわ。
私はね、欲しいものは何でも手に入れるの。
いいわね!」

関羽はそれに答えず、泣き続けていた。

「何時まで泣いているのよ!
不愉快だわ。
部屋に戻りなさい!!」

さんざん関羽で遊んでおいて、それはないと思うのだが。
やっぱり、曹操、暴君だ。
関羽は黙って立ち上がり、服を着始めるのだが、曹操、思いっきり不機嫌だった。

「そんなことは自分の部屋でやりなさい!!」

哀れ、関羽は服を持って裸で自分の部屋まで移動しなくてはならなくなってしまった。
そして、自分の部屋の閨に飛び込み、「一刀さん……」といいながら、何時までも泣き続けていた。
そのまま、いつの間にか眠りについていた。



[13597] 正義
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/05/22 22:42
正義

 張勲、劉備たちはその後どうなったかというと……

「お嬢様ぁ~、最後の最後で負けてしまいましたぁ」
「よいよい、七乃が無事戻ってきただけで十分じゃ」

案外寛容な袁術だった。
余程一人で寂しかったのだろう。

「兵も半分失ってしまいましたぁ」
「うぬぬ、曹操なかなか手ごわいではないか。
それで、これからどうすればよいのじゃ?」
「とりあえず、しばらくおとなしくするしかないと思いますぅ」
「しかたないのお。
七乃がそういうのであれば、そうするしかあるまい。
ところで、七乃が帰ってくる少し前に、厄介になりたいというものが来たが……」
「ああ、劉備たちですね。
もう、華雄は張飛と戦い始めていますが……」

そう、袁術たちのいる部屋の隅の方では、既に華雄と張飛が罵りあいながら剣を交えている。
劉備は、それを困惑した様子で眺めている。

「仲においた方がよいものだろうか?」

それを聞いた華雄、戦いながら袁術に進言する。

「ここに置くべきです。
そうすれば、この私が叩きのめしてくれましょう!」
「何を!倒されるのはお前なのだ、馬鹿華雄!!」
「馬鹿言うな!!
そういうお前はつるぺた張飛ではないか!!」
「よ、よ、よくも言ったなあ!!
人が気にしていることを!!馬鹿華雄!!」
「やーい、つるぺた張飛!!
下の毛も生えていないんだろう?」
「ぐぬぬ……」

案外、似たもの同士である。
文章にすると、剣を交えている様子が分からないので、もう全く以って園児か小学校低学年の喧嘩である。
試合自体はレベルが高いのだが……

「そうですねぇ……
あなたは、どう思いますか?趙雲」

趙雲?
そう、趙雲は麋竺に下丕のことを任せ、自分自身はいつの間にやら仲に仕官していたのであった。
麋竺を見捨てたのだろうか?
まあ、彼女なりに何か思うところがあったのだろう。

「そうですな、劉備殿とは何度か同じ将に仕えたことがありますが、その何と言うか民に好かれる傾向が強い者ですな」
「そうですか」

それを聞いた張勲、にやりと嗤い、

「それでは、お嬢様、劉備は仕官させることにいたしましょう」

と答える。
今、張勲が困っている案件はいくつもあるが、その一つが袁術が民に好かれていないということである。
それを劉備を入れることで、どうにか緩和しようと考えたのだ。
それにしても、張勲、やはり名将である。
袁術の配下にあり、ここまでめちゃくちゃ袁術を延命させているのだから。

「さようか。
七乃がそういうのであればそうするぞよ。
劉備、聞いて喜べ。
この寛大なる袁術様が、その方を家臣として迎えることにいたそうぞ」
「ありがとう!袁術ちゃん。
桃香ちゃんたち、いっぱいいっぱい頑張るね!」

ということで、今度は袁術に仕えることになった劉備一行。


「え~ん、桃香様ぁ。
馬鹿華雄につるぺた張飛って言われたのだ!
下の毛も生えていないって言われたのだ!
鈴々はとっても悔しいのだ!!」

張飛は試合を放棄して劉備のところに癒してもらいにいっていた。
それを華雄は満足そうに眺めていた。
寿春での第一ラウンドは華雄の勝ちだった。
まあ、それでもなんとなくうまくやっていけそうな感触はあるのだが。



「それにしても、活気の無い街だな」

寿春を歩きながら、公孫讃が見たままの感想を述べる。

「全くです。
許都や業都に比べたら、天と地ほどの差があります。
商店の数が少なく、開いている商店にも品数が少ないです。
街を歩く人の数も少なく、本当にここが都なのだろうかと思ってしまいます」

諸葛亮も同じ感想を持ったようだ。

「そうだね。
でも、一応ここにお世話になるから、少しは役に立てないと。
何か私たちで出来ることはあるかなあ?」
「うーーーーーん」
「うーーーーーむ」

諸葛亮も公孫讃も頭を抱えてしまっている。

「きっと前にもそういう提言をした人はいると思うんです。
それでも、袁術がわがままを通したのでこうなってしまったのではないのでしょうか?
だから、何を言っても駄目そうな気がします」
「そうだな、私も同意見だ。
いくらなんでもここまでひどくなるまで放っておくことはないだろう」
「そっかー……」

それから、劉備たちは街の人たちととにかく数多く話すことに専念した。
彼らから聞かれる言葉は、とにかく税が重い、それを何とかしてもらいたい、まずはそれだった。

「袁紹様のところの税率3割を見てしまうと、八公二民というのは、全く無謀な税率ですね。
徐州でも6割でしたし。
暴動がおきます、このままでは」
「八公二民ってなあに?朱里ちゃん」

しばし絶句する諸葛亮。
今まで劉備は民の言葉をどれだけ理解していたのだろうか?

「………そうですね、桃香様。
農民が働いて10石の収穫を得たとします」
「うんうん」
「その10石の内、8石を袁術様が取ってしまって、働いた農民のところには2石しか残らないと言うことです」
「えーーー!!それはひどいね。横暴だね!」
「ええ、ですが、袁術様や張勲様に直接そう言わないでくださいね」
「どうして?」
「今は、仕えている身です。
仕官元の行為を非難したら、私たちも殺されてしまいかねません」
「うーん、でも駄目だよ!
何とかしなくちゃいけないよ!」

妙なところで正義感がある劉備である。

「と、桃香。その気持ちは分かるがな、仲には仲なりの方法があるのだ。
我々のような行きずりのものがとやかく口を挟むべきではないと思うのだが」

必死に劉備を押し留めようとする公孫讃。

「そんなことないよ。
みんなが苦しいのに黙っているなんてできないよ!」
「いや、その、あの、だな……」

ここで、関羽がいれば、ピシッと劉備に苦言を言ってくれたかもしれないのに、と思う公孫讃と諸葛亮である。
だが、関羽は曹操に囚われの身となっていて、助けに行くのはほぼ無理だ。
劉備も思い出すと悲しむのか、敢えて関羽のことには触れないようにしているように見える。
あとは劉備があまり波風が立たないようにしてくれれば、と祈るのみである。



 だが、正義の劉備は民のために立ち上がるぅ!!

「袁術ちゃん、やっぱり税率は低くしないと駄目だよ!
今の飯能市民じゃひど……え?八王子民?違う?八公二民?……八公二民じゃ酷すぎるよ!」

城に戻るなり、袁術に苦言を呈する劉備。
いきなり直球ど真ん中である。
ちょっと、諸葛亮の補正が入ったが。
劉備、やるときはやる!!

「ななななんじゃ、いきなり。
妾のやることにけちをつけようとでもいうのか?」
「そうですよう。
お嬢様のすることに文句を言うなんて、もう劉備はここに留め置くことはできませんね。
折角、お嬢様の深い慈愛でこの仲にいられることになったというのに、恩を仇で返すような発言、許せません。
即刻仲を出て行きなさい」

袁術、張勲であればそう言うだろう。
一緒に劉備についてきている諸葛亮も公孫讃も真っ青だ。

「でもね、でもね、みんな生活が苦しいんだってよ。
業や許はもっとみんないきいきしていたよ。
あんまり生活が苦しいと、みんな他の街に逃げて行っちゃって、この街には誰もいなくなっちゃうよ。
そうしたら、全然お金がはいってこなくなっちゃうんだよ!」

おー!劉備にしてはまともなことを言っている。

「……七乃、そうなのか?」
「まあ、そうですねえ。
それはいえちゃうかもしれませんねえ」
「それはまずいではないか。
もう少しここの民が増えるように考えるのじゃ」

おー!劉備の意見が通ったようだ。
諸葛亮も公孫讃も呆然としている。

「はーい、わかりましたー!
でも、どのくらい下げたらいいでしょうねえ。
幸か不幸か兵隊は少なくなってしまったので、その分の予算は浮きますけど……
あとは、お嬢様の蜂蜜をどれだけ減らすかですね」

そんなに蜂蜜って高いのか?

「それはだめじゃ。
蜂蜜水はなくすわけにはいかぬ」
「そうですよねえ」
「ねえねえ、代わりのものじゃだめなのかなぁ。
袁紹ちゃんのところには、ウィスキーっていうとっても強いお酒があるんだけど」

蜂蜜の代わりが酒では駄目だろう、と普通なら思うところだが、蜂蜜"水"というところがミソだったりする。
蜂蜜には軒並み酵母が含まれているが、これは蜂蜜の極めて高い糖度で通常は活動を抑えられている。
ところが、水を加えると、糖度が低くなり、それにより酵母の活動が始まり、発酵が始まる。
早い話が酒になる。
それも10度くらいと、結構度数が高い。
で、袁術の好きなのはそっち。
甘い水も好きだが、酒はもっと好きなのであった。
蜂蜜を薄めただけの甘い水、醗酵途中の甘さとアルコールの混ざったのを飲むのも好きだが、醗酵が進んで強い酒になったものを飲むのが一番。
子供のくせに酒好きとは、困ったものだ。

「何?強い酒とな?」
「うん……ああ、でも、強すぎて袁術ちゃんみたいな子供には無理かなぁ」

と、腕を組み、指一本であごを押さえて、斜め上を見る劉備。
ほとんど、袁術を挑発しているようだ。

「何を言うのじゃ!
その、う、ういなんとか言う酒を即刻ある限り購入するのじゃ!」
「うん、分かった。
頼んでみるね!」

かくして、劉備の進言どおり、税率がいきなり五公五民まで下がることが決定した。
これで、劉備の印象がよくならないはずが無かった。
劉備はどこに行っても民には絶大な人気を博するのである。
もちろん、劉備、袁術がいい人だと(本人にはそのつもりはないのかもしれないが)宣伝することも忘れないが、劉備の方が人気が高くなるのを避けることは出来ないのであった。

あとは、劉備がウィスキーの発注をすればおしまいだ。



[13597] 発注
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/28 13:10
発注

「ねえ、朱里ちゃん。
ウィスキーっていくら位するのかなぁ?」
「さあ、買ったことがないので分かりませんが。
星さんは知っていますか?」

あまり高いものだと、この仲国の台所事情からすれば発注は難しそうだ。

「うむ、いつも主殿に頂いてばかりだから、金を出して購入したことはないな。
それほど高いものではないのではないか?」

といった後で、

「いや、対価は私の体だから、やはり高価なものなのだろうか?」

といって、諸葛亮を見ながらにやりと嗤う。
いきなり顔が真っ赤になる諸葛亮。

「はわわ、はわわ」
「そうそう、代価として朱里殿を差し出すというのも良いかも知れぬ。
主殿のことだ、きっと優しくしてくれるであろう」

そんな純真な諸葛亮を更にからかう趙雲である。
だが、諸葛亮、いつまでもからかわれるばかりでもない。

「そそそそんなことはありましぇん!
そんなことを言うのでしたら、袁術様に頼んで星さんをウィスキーの代価として送り届けてもらいます!
大体、星さん、なんでここにいるんですか!
徐州で待っていると言っていたではないですか!
約束も守れない人はウィスキーの代価を体で払ってもらうのが当然でしゅ!!」
「ふむ、それなのだがな―――」


趙雲が言うには、最初はその予定だった。
ところが、徐州の軍に青州との州境を守るように曹操から指示が下り、趙雲も客将なのでそれに同行しなくてはならなくなってしまった。
そこで、麋竺が言うには、客将にそこまでしていただくのは申し訳ない、あとは徐州の民で何とかするから好きに行動してもらいたい、とのこと。

「そのまま、客将として徐州に留まろうとも思ったのだが、少なくとも下丕にはいることが出来ぬゆえ、麋竺殿の手助けは出来ぬ。
それであれば大陸のほかの場所も見てみたいと思い、仲に来た次第。
流石に今まで徐州にいたものが、桃香殿が連れ去られた曹操殿のところに仕官に伺うというのも如何なものかと思い、ここ仲国にしたのだ」
「そうなんですか。
麋竺さんにはお世話になりっぱなしです」
「そうだ、朱里殿。
麋竺殿におすがりするというのはどうだろうか?」
「麋竺様?どうしてですか?」
「麋竺殿は、前々から下丕が曹操に攻め滅ぼされなかったのは桃香殿のおかげだ、いつかはご恩返しをしたいと仰っていたからな」
「そうなんですか。
でも、そんなに頼ってしまってよいのでしょうか?」
「いや、麋竺殿も却って頼ってもらえたほうがうれしいのではないだろうか?」
「それでは、ちょっと頼んでみましょうか」
「だったら、桃香ちゃんがお手紙書くね!」
「は、はあ……」


 というわけで、劉備は麋竺宛ての手紙を認(したた)める。

「朱里ちゃん、お手紙書いたから送っておいてくれる?」
「わかりました」

と、諸葛亮は手紙を受け取り……送る前に検閲をかける。
諸葛亮の見た文面は……


『麋竺さんへ
一刃ちゃんに頼んでウィスキーを送ってもらって。
お願い。
桃香ちゃんより』


「はぁ」と溜息をつく諸葛亮。
ただ、誤字がほとんどないところを見ると、曹操への手紙は嫌がらせで字を間違えたものだろうか。
麋竺なんて、普通書けない。
もしそうなら、劉備もなかなか侮れない女である。
一刀は惜しかった!
これがなければ漢字は100点だったのに。
やっぱり、この間はたまたま誤字が多かったのだろうか?
だが、それはそれ。諸葛亮は文面を大幅に変更する。
というより、自分で既に書いていた手紙と取り替える。


『麋竺様
今、劉備様は仲国に仕える身となっておりますが、袁術様との約束でウィスキーなる強い酒を入手しなければ立場が危うくなってしまうことになりました。
そこで、誠に勝手なお願いであることは重々承知しているのですが、袁紹様より、そのウィスキーなる酒を購入し、寿春まで送ってはいただけないでしょうか?
誠に当方の勝手なお願いですので、出来なければその旨連絡いただければ、別の方法を検討いたします。
ご検討お願いいたします。
諸葛亮』


 諸葛亮の手紙を受け取った麋竺、早速袁紹、というか一刀にウィスキー購入を打診する。
趙雲の言うとおり、麋竺は、曹操に攻められたときに、もう自分の財産はなくなるものと、諦めていた。
それが、劉備のおかげで命も財産も守られたのであるから、その劉備のお願いなら、自分の資産を使うことに全く躊躇はない。

で、ウィスキーの価格。
ビールよりは高い酒であるが、所詮は量産品、高いといっても高が知れている。
ヴィンテージワインとは訳が違う。
スーパー大金持ちの麋竺にはあんまり痛くもない額だったので、ありったけのウィスキーを購入して寿春に送り届けた。

ウィスキーがなくなってしまった業では、一刀が「何でそんなに売れたの?」と首をひねっていた。
ちなみに、石炭は蒸留の熱源としては重宝していた。



 ウィスキーがやってきた寿春では……

「おー、これがウィスキーというものか」

と、袁術が歓喜していた。

「うん、でも、あんまり一度に飲まないほうがいいよ。
本当だよ。
信じられないくらい強いんだから!」

このウィスキーと一刀が称している酒は、以前一刀が造ったウィスキーそのままの製法であった。
何が特徴かというと、繰り返しになるが普通のウィスキーとは度数が違う。
未だに、度数調整ということを知らない一刀は、蒸留したアルコールをそのまま樽につめ、これがウィスキーだと信じている。
普通のウィスキーは、蒸留後度数調整して30~50度くらいに抑えているが、このウィスキーと呼ばれている酒は度数70~90度(作るたびに若干度数が変わる)を誇るモンスターである。
一刀は、こっちの世界に来る前に、ウィスキーを自分で飲んだことがないので、違うということが分からない。
自分の作ったモンスターウィスキーを飲んで、「うん、ウィスキーって言うのはやっぱり強い酒なんだ」と思うだけだ。
もはや、酒でなくアルコール。
その破壊力は凄まじい。


「……こ、この酒からは禍々しさを感じるのう」

ウィスキーをカップ(というより、碗。200cc位?)にとり、その香りを味わおうとした袁術であるが、モンスターウィスキーからはアルコールの刺激しか感じられない。

「でしょ?でしょ?
今からでも遅くないよ。
袁術ちゃん、まだおこちゃまなんだから、飲まないほうがいいと思うよ!」

と、劉備がアドバイスしているというのに、いや、挑発しているようでもあるが、

「何をいうのじゃ!
妾に出来ぬことはない!」

というやいなや、ウィスキーをがぼっと一口で飲んでしまう。

「ああーーーっ!!!」

慌てる劉備だが、もう遅い。
アルコールは袁術の小さな体を蝕み、顔も全身も真っ赤にしてしまう。

「ななろものむろら……」

たった一口で酔いが回った袁術、張勲にもウィスキーを飲むことを強いている。

「仕方ありませんねえ。少しだけですよ」

といいながら、カップにウィスキーをとって、ちびちびと飲み始める。

「うふ♪うふふ♪
華雄もみんなものみなしゃい。
こんなきもちのよくな○ж☆◇ξ」

既に呂律の回らない張勲である。
そして、張勲のその一言で、寿春の城内は大ウィスキー試飲大会の会場と化してしまった。



[13597] 放逐
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/03/30 22:40
放逐

「な、何をしているの?何なの、これは?」

その様子を、城を訪れた孫策が驚きの目で眺めている。
孫策、荊州の鎮圧がようやく終わり、その報告のために登城したところだ。
そして、城に来てみれば全員酔っ払っている。
何だ、これは?と思うのは極めて正常な神経だ。

「ああ、孫策ちゃん。
あのね、ウィスキーっていうお酒を買って、みんなで飲んでいるところなんだよ。
とーっても強いお酒なんで、みんな変になっちゃった。
ぜったい、みんな明日は二日酔いで頭が痛くなってるよ」

劉備が、その質問に丁寧に答えている。

「……何で劉備がここにいるのよ?」

孫策、暫く寿春にいなかったので、劉備が厄介になっていることを知らない。

「うーーんとね、色々あって曹操ちゃんに追い出されちゃったの」
「ああ、そう。大変だったのね」

と、劉備のことは軽くスルーしておいて、

「それで、全員明日二日酔いって本当?」

と、実に興味深い話の確認をする。

「絶対だよ!お碗一杯でも頭が割れるように痛くなるんだから!」
「ふーん、そう」

孫策はそう言ってにやりと嗤う。
X-dayを何時にしようか迷っていたが、もう迷う必要はない。
明日がその日だ。
こんな酔っ払い放っておいて、準備のために帰ろうと思った孫策であるが、彼女を引き止めるものがいる。

「あら~、孫策じゃないの。
いつもどったの?」

酔っ払い張勲であった。
孫策を見つけると、よろよろと歩いてきて、孫策にガバッと抱きついてしまう。

「今日戻った」

酒臭い息だ、と思いながらも、努めて冷静に答える孫策。

「あら、そう。それはよかったわね。
荊州の鎮圧は済んだのね」
「ああ、そうだ」
「それは、お嬢様もよろこぶでしょう」
「そうだな」
「いいですか?孫策。お嬢様は大切にしなくてはいけましぇん!
お嬢様は、寂しいのでしゅ!
お友達は一人もいましぇん!
ななのが守ってあげなくてはいけないのでしゅ!
わかってますか?孫策」
「も、もちろんだ」
「わかってなーーーーーい!!
ぜんっぜん、わかってましぇん。
いいですか?
お嬢様はわがままなのではありましぇん!
本当はいい女の子なのでしゅ!!」

張勲、酒癖が悪いようだ。
孫策が解放されるのに、それから数時間を擁した。
ちょっとしんみりする張勲の話ではあったが、その程度のことでは孫策の決心は揺るがない。



そして、翌朝。
孫策軍は易々と寿春を制圧し、クーデターを成功させた。
どのくらい易々か、というと、寿春の城に入っていって、私がこの国を滅ぼしたー!といえばおしまい。
城の中は二日酔いによる頭痛で、頭を抱えている人間だらけ。
劉備に、明日は全員二日酔いだ、と聞いていなければ新種の病気では?と思ってしまうくらい、悲惨な状況だった。
全員二日酔いで、頭を抱えてのた打ち回っている。
誰も反抗できないので、孫策の言うとおりになったことになる。
空前の簡単さで落城してしまった寿春であった。


難しかったのはそれから後、袁術らに、自分達はもう負けたということを認めさせることだった。

「あのね、袁術?」
「うおあああーーー、頭が痛い!痛いのじゃ!!
割れるように痛いのじゃ!!
七乃、妾は頭が痛いのじゃ!!」
「ぅぅぅぅぅぅ……
お嬢様、七乃もです。
頭が痛くて……ぬぁああああ……
んーーーーあーーーー……」
「聞いてる?仲国は滅びたの」
「ぐぅぅぅがぁぁぁ、痛い、痛い!!
孫策でも誰でも構わぬ。
この頭痛を鎮めるのじゃ」
「はい、袁術ちゃん、お水だよ。飲んで」

救いの手を差し伸べたのは劉備。
袁術に水を汲んでくる。

「おお、劉備か。気が利くではないか」

袁術は奪うように水を飲み干し……

「少しは痛みが………
ぐぉおおおお!!まだ痛いのじゃ!!」
「だからあんなに飲んじゃ駄目って言ったのにぃ」

仕方無しに、また水を汲みに行く劉備。

「ねえ、冥琳。私達、何をしているのかしら?」
「私も今それを考えていたところだ。
とりあえず、この二日酔いが収まるまで何もできぬのではないか?」
「本当ね。
戦いもなかったことだし、何か仲を滅ぼしたというのに、全然実感がないわ」
「全くだ。袁術はこのまま居ついてしまいそうで怖いな」
「そうしたら、殺すまでよ」
「まあ、そうなのだが……何というか緊張感が全くないな」
「ええ。早く領外に行ってくれないかしら?」


途方に暮れている孫策と周瑜の傍らで、劉備や公孫讃がせっせと水を運んでいる。

「はい、袁術ちゃん。また、お水だよ!」
「すまぬな、劉備……」
「張勲殿、水だ。飲め」
「あ、ありがとう……」

張飛まで一緒に水を運んでいる。

「馬鹿華雄、水なのだ!」
「す、すまぬ、つるぺた張飛」

なんだかんだで、仲のよい二人である。
だが、張飛は二日酔い華雄を見て、にやにや嗤っている。
そして、

「わあっ!!!」

と、華雄の耳元で大声をあげる。

「ぐをーーー、頭が!頭が割れるように痛い!!
いきなり大声を出すな!!」
「それはすまなかったのだ。
ごめん、なのだああっ!!」
「ぐわーーー、止めてくれーー!!」

のた打ち回っている華雄を見て大喜びの張飛。
今回は張飛の勝ちだった。



 それから数時間。
二日酔いは……完全になくなったわけではないが、かなり醒めてきた。

「わかった?袁術。
仲は滅びたの。
命まではとらないから、さっさと揚州、荊州から出て行きなさい!」

孫策は、剣を突きつけながら、袁術、張勲を脅している。

「七乃、孫策はあんなことを言っているのじゃ。
酷い女なのじゃ」
「全くです。
お嬢様を尊敬しないどころか、脅して……あははは」

張勲の言葉は途中で止まった。
孫策の剣が首筋にぴったりと当てられたので。

「もう一回だけ言ってあげるわ。
今すぐ揚州、荊州から出て行きなさい!」
「わ、わかったから、その剣を引くのじゃ。
じゃが、今日は二日酔いで頭が痛い。
すまぬが、明日の出立ではだめじゃろうか?」

袁術、どうにかそれだけのことを孫策に提案する。
孫策、にっこりと笑って、

「ええ、いいわよ~♪
その代わり、明日の朝、袁術の首と胴体が繋がっているかどうかはわからないけどね」

と、答える。

「……うぇ~~~ん、孫策は鬼なのじゃ。
血も涙もないのじゃ」
「ねえ、袁術。
そろそろ、私、堪忍袋の緒が切れそうなのだけど。
首を刎ねていい?」

それを聞いていた趙雲、

「しかたあるまい。
私も袁術殿の客将として、寿春にいた立場。
袁術殿を他へ連れて行って進ぜよう」

と、提案する。

「そうしなさい、袁術。
これ以上ここに居座ると、本当に切るわよ!」
「うぇ~~~ん、そんなこと言っても、どこにも行く当てがないのじゃ」
「だったら、袁紹ちゃんのところに行くのはどうかなぁ?」

嘆く袁術に、劉備がそう提案してくる。

「麗羽?妾が仲の皇帝を名乗ったので怒っているに違いないのじゃ」
「うーーん、でも袁紹ちゃん、優しいから、きっと受け入れてくれるよ!」
「……七乃はどう思うのじゃ?」
「そうですねえ、親族ですから受け入れてくれるといいなあ、って思うのですけどぉ……」
「じゃあ、決まりね!
さっさと袁紹のところに行きなさい!
今度、その顔を私の前に出したら、有無を言わさず切るから、そのつもりでいなさい!!」

孫策の最後通告に、しぶしぶ寿春を出る袁術一行なのであった。

袁術、張勲、それに華雄は趙雲の御する馬車で業を目指して寿春を後にした。



「じゃあ、桃香ちゃんたちもそろそろ出発するね♪」

袁術が去ったのを見届けて、劉備も寿春を離れると言い始める。

「出発、ってどこに行くのだ?
この地に留まるのではないのか?」
「そうですよ。
孫策さんと一緒に新しい国を作ってもいいのではないでしょうか?」

あまりに突然な発言に、公孫讃も諸葛亮も目が点になる。

「それはだめだよ!
孫策ちゃんが新しい国を作ろう!ってときに、桃香ちゃんたちがいたら迷惑だよ!
ね!孫策ちゃん!」
「え?え、ええ。ええ?えーー」

孫策もいきなり聞かれて、どう答えたものか困っている。

「だから、益州に行こうと思うの」
「そ、そうなのか」
「そうですか。
桃香様がそう仰るなら、それに従います」

公孫讃も諸葛亮も、劉備がここにいたら迷惑だ、と思う状況はよく分かった。
立場上、劉備は州牧も勤めた人物、それに対し孫策は下っ端の役人になったかならないか程度の身分。
恐らく、これから国を作って、そのトップに立つのだろうけど、そのとき劉備がいては、目の上の瘤のように思ってしまうかもしれない。
それなら、ここにいないほうが、確かにいいかもしれない、と二人は納得する。
劉備もずいぶん深く考えている………のだろうか?

「だって、ここにはあんまり食べ物がないから、鈴々ちゃんみたいにいっぱい食べる人がいたら食べ物がなくなっちゃうよ!
益州はいっぱい食べ物が取れるって聞いたから、そこに行こう!!」

迷惑ってそういうことなのか?
それなら、なんとなく劉備っぽい。

公孫讃も諸葛亮も、ちょっと冷や汗がたら~りと垂れてきたが、確かに迷惑であると言う状況はそうだろうから、結局益州に向かうことに賛同するのだった。


そして、劉備軍も出発の準備を整えて、益州に向かう。
史実と色々違って既に劉表はいないので、劉焉のところにまっすぐ向かうことになる。

「孫策ちゃん、短い間だったけど楽しかったよ。
また会えるといいね!」
「ああ、私も結果的に劉備のおかげで楽に仲を滅ぼすことができた。
感謝している。
また、出会うことが会ったら、一緒に仕事をしたいものだ」
「そうだね!
もし……もしもだけど、桃香ちゃんが孫策ちゃんの役にたつことがあったら、いつでも桃香ちゃんを頼ってきてね。歓迎だよ。
それじゃあね!!」

劉備軍は益州に向かって旅立っていった。

その後、孫策は仲に代わり、呉を建国、自らを初代皇帝とした。
都は建業に設定した。

寿春は、その役目を終え、ゆっくりと中華の大地に戻っていった。



[13597] 天災 -官渡編 (許都)-
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/04/10 17:54
天災

 時は遡って、袁紹軍が冀州に戻った頃の話。
曹操や程昱が言っていたとおり、袁紹軍は曹操軍の反撃が弱くなったと見るや否や、兌州の城をいくつか攻略してしまっていた。
ところが、業から大至急戻って来いとの指令が着たので、仕方無しに守備兵を除いて業に戻ることにしたのだ。

 兵士を業に戻すよう指示したのは一刀。
何故、彼がそれだけ慌てたか、というと……



 その日も一刀はのんびりと畑や牧草地や草原の見回りをしていた。
ところが、その日は何か違和感を感じた。
虫の知らせとでもいうのだろうか?いやな感触がある。
一刀は馬を下りて草原に入り、細かく様子を見てみる。

「!」

そして、一刀の見つけたものは黒く変色しかかっているバッタ。
日本ではトノサマバッタと呼ばれている種の近縁種であるが、蝗と称されている虫である。
日本のイナゴとは種類が異なる。
通常、どこにでもいるバッタだが、その色は緑色。
それが、何かの条件で黒く変わることがある。
世に言う群生相に変わる。
孤独相が群生相に変わるのは、個体密度が原因であるといわれている。
で、バッタが群生相に変わると何が起こるかというと、蝗害である。
現代では農薬の散布などで押さえつけることがある程度可能になっているが、それでも対策が難しい天災である。
農薬がないこの時代では、もうどうにも避けようがないものだ。
三国志では、曹操と呂布が戦っている最中に蝗害が発生したと伝えられているが、恋姫三国志では曹操と袁紹が戦っているときにその芽ができつつあるようだ。
呂布は袁紹のところにいるし。
何とかしなくては、と思った一刀。
人海戦術であたり一面の草原を焼き尽くすことを提案する。
そこで、兌州にいた兵も呼び戻されたのだ。



「えっ!白馬も攻略しちゃったんですか?」

戻ってくる沮授や顔良らにそう聞いて驚愕する一刀。
あそこは、顔良が死んだ場所ではなかったか?

「あの、曹操軍の守備が急に手薄になったんで、今だ!って、みんなで押し寄せて行ったんです。
そうしたら、簡単に城が陥ちちゃったんです」
「俺の知っている知識じゃ、あそこは斗詩さんが死んだところなんですよ!
あまり心配かけないでください。
でも、無事でよかった。
本当によかった」

ちょっと涙ぐむ一刀。

「……ごめんなさい、一刀さん。
夫に心配をかけさせる側室なんて失格ですね。
これからは心配かけさせないように気をつけます」

それを聞いて今度は固まってしまう一刀。
当然、正室たちも反応する。

「何で斗詩が側室なのよ?」
「私は側室一号です!
一刀さんを愛しています!」

おお!!言い切ってます。

「認めません!」
「認めるかどうかは一刀さんが決めることです!」

視線が一刀に集中する。

「と、とりあえず、その問題よりまえに蝗を何とかしないと」

逃げる一刀。

「まあ、いいわ。
あとで話し合いましょう、斗詩」
「ええ、菊香。
負けないんだから!」

不屈の顔良、健在だ。
ということで、とりあえずその場は収まった……というより、問題を先送りしただけの様でもあるが、蝗対策が発令される。
といっても、内容は簡単。
草原や畑や牧草地で蝗がいそうな場所を片っ端から焼き尽くせ!以上。
それを何十万人もの兵士や農民で実行するのである。
もちろん、その分収量は減るが、蝗に食い尽くされるよりはましだという判断だ。
それ以前に、蝗の害があることは分かっているなら、一刀は事前に何か策をうつ事ができなかったのか?という疑問もあるが、まあ彼も対策をやったといえばやっていた。

一刀の考えは、

 天災は起こる。
 避けられない。
 だから、数年に一度、収量が落ちても大丈夫なようにその他の年で備蓄しておく。

というものだった。

そして、それを今まで実践してきた。
だから、今年収量なしでも問題ないが、被害は少ないほうがいいに決まっている。
そこで、蝗の駆除を行おうというのだ。


そもそもなんで蝗害が発生するのか?
これはまだ定説はないが、草の育成がよく、それに比して草を食べる牛や馬などの個体数が少ないと、バッタの発生数が多くなり、蝗害に繋がると言うのが有力な理論だ。
牛や馬などは草と一緒にバッタも食ってしまうから、バッタにとってみれば牛や馬は天敵だ。
で、冀州は草は増えたが、それに比べれば牛や馬の数はそれほど増えていないから、蝗害が発生したのだろう。
草を増やす努力をしたのは一刀であるが、まあ史実でも蝗害は発生しているから、蝗害の原因の一端は一刀にある、というのはいくらなんでも言いすぎだろう。

農民が蝗害の発生の予兆に気付かないのか、という疑問もあるが、バッタは四六時中草のある草原で個体数を増やすから、刈り取り後に草がなくなってしまう畑にいては、蝗害が発生するまで変化に気付かないことが多い。
だから、畑でも牧草地でもない草原を農業視点でうろうろしている一刀がそれに気付いたのは本当に幸運だった。



一刀の指示で、広大な草原に火が放たれることになる。
洛陽炎上よりも大規模だ。
というより、桁が違う。
あちらこちらの農協職員や地方公務員に調べてもらった結果、大体冀州の南側の一角に黒く変わりかけているバッタが多く生息していることがわかった。
一角、と言ったって四国ほどもある。
万が一の事を考え、付近の住民は避難しているが、ちょっと燃やす規模が巨大すぎて、全ての街が無事かどうかは保障できない。
できるだけ、草だけを燃やすようにはするのだが。


そして、いよいよ作戦決行の日。
何十万の兵士、農民たちが総出で草に火をつける。
正確には、火をつけるのは一部の人。
大部分の人は、延焼を食い止めるために燃えた草をたたいて火を落としたり、街のそばの草を刈り取って、火がそちらに向かわないようにしている。
一大害虫駆除作戦だ。



それは火をつけ始めてから三日目のことだった。
その日も朝からバッタの駆除のために火をつけて回っていた。
と、突然大地から黒い影がぼわっと立ち上り、黒い塊となって空に飛び出した。
蝗害の発生の瞬間だった。
そして、バッタの集団は麦や草を食いつくしながら、南へ南へとその集団を移動させていった。
北から火をつけていったので、火を嫌ったのだろうか?
そのうちにバッタの集団は河水を超え、冀州からその姿を消した。


冀州に残ったのはバッタに食い散らかされた畑や牧草地。
一刀もその状況を見て

「うーーーん、やっぱり自然の力はすげーな!
とても、人間の力じゃ太刀打ちできないわ」

と思うのだった。
蝗害の発生したところの収量は0になったが、冀州全体から見れば、収量が3割減った程度で、それほどインパクトはなく、また天災が発生しても大丈夫なように備蓄も十分に確保しておいたから、蝗害が発生しても途方にくれるようなことはないのだ。
ただ、大自然の力は侮れないなあ、と認識を新たにするのみである。

その後も、蝗が通っていったところは卵が残っているかもしれないので焼き尽くす作業は続けた。
当初焼き尽くす予定だった場所に加え、蝗が通った場所も焼き尽くすことにしたため、焼く面積は当初の四国くらいから拡大して九州くらいに広がってしまった。
2ヶ月もかかった。



 ところで、一刀にとっては、蝗害はたいした問題ではなかった。
収量3割減ったと言っても、減ったのは冀州だけで、冀州や幽州など袁紹領の人間が食うには今年の収穫だけで全く困らない程度だし、仮に今年の収量で足らなかったとしても、うなるほど備蓄がある。
一刀には、蝗害よりも遥かに問題なことがあった。

「それで、一刀さん。私を側室一号にしてくれるんですよね!!」

そう、顔良の問題である。

「認めないわよね!」
「認めないですね」

こんなことなら、蝗害が続いてくれたほうがよかったと思う一刀である。
ちょっと不謹慎だが。

「そ、そうだな。
正室二人に子供が出来たら考えるってことでどうかな?」

またもや、問題の先送りを図る一刀であったが、幸運にも田豊も沮授も顔良もそれに納得してくれたのだった。
その時になったら、どうするのだろうか?



[13597] 苦労
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:30
苦労

 再び時は遡って、関羽のその後の様子。

「かーんうーー!!!」

関羽は睡眠を夏侯惇の怒鳴り声で妨げられた。
昨晩は曹操に散々甚振られて、挙句の果てに裸で部屋から追い出されてしまった悲惨な夜であった。
そして、自分の部屋に戻り、服を着ることもなく、閨で泣いていて、そのうちに眠ってしまったようだ。
なので、今は裸。

「きゃっ!」

かわいらしい声をあげて、体を掛け布団で隠す関羽。

「ん?何、今更裸を見られて恥ずかしがっているのだ。
昨晩は散々甚振られているところを見せ付けていた癖に!」
「べ、別に見せ付けていたわけではない!」
「そうか?それならそれでよいのだが……とにかく早く服を着ろ!
私と勝負だ!!」
「どうしてそうなるのだ!」
「どうもこうもないだろう!
華琳様を賭けた戦いだ!」
「別に曹操様のことは何とも……」
「何ーー?!
華琳様の寵愛を受けられぬと言うのか!!」
「言っていることがめちゃくちゃではないか……」
「いいから早く試合の準備をしろっ!!」

結局夏侯惇と朝飯前に試合をすることになってしまった関羽である。
夏侯惇は朝食をとったのだろうか?
いや、彼女のことだから起きて一番にここに来たのだろう。



城の庭に連れ出されてしまった関羽、青龍偃月刀を携えて同じく七星餓狼を携える夏侯惇に対峙する。

「いくぞ、関羽!!」
「うむ……」

やるき満々の夏侯惇と、今ひとつ興が乗らない関羽である。

「華琳様は渡さぬ!!」
「だから、曹操様とはそういう関係では……」
「昨晩はさんざん華琳様に愛されていたではないか!」
「べ、別に好きでやったわけでは……」
「華琳様のご寵愛を断るとは何たる不届き!」
「だから、そういう趣味は……」
「なにーー!!だったらどういう趣味なのだ!!」
「いや、その、普通の……」
「ん?普通とは男のことか?」
「まあ、そういう……ことかな?」
「それでは、好きな男でもいるのか?」
「まあ、いると言えない事もないようなあるような……」
「ほう、それは興味深いな。
その男とはもうしたのか?」

二人は、いつの間にやら剣を収め、並んで座って話を始めている。

「いや、その……」

真っ赤になって口ごもる関羽。
ほとんど、やったと公言しているようなものだが、それを明確にしてくれる親切な(おせっかいな)人がいた。
夏侯淵である。

「何だ、姉者、知らなかったのか?
氾水関で関羽殿と一刀殿がそれはそれは仲睦まじく愛し合っていたということを」
「なななな何で知っている!」
「それは、氾水関の渓谷に響き渡る声で関羽殿が喘いでいたら、何だろうと思うのが自然と言うものだ。
それで、その声の源を辿っていった結果が関羽殿と一刀殿の情事だったというわけだ。
あそこにいた者は全員知っていると思っていたが」

絶句し、顔を真っ赤にする関羽。
全員って何十万人もの人々が二人の関係を知っていると言うことか?
実は、夏侯淵、かなり誇張して話しているが、そんなことは分からない。
いくらなんでも関羽の喘ぎ声はそこまで大きくない。
3つ隣の天幕に聞こえる程度だ。
でも、汜水関に行った兵たちの間に、二人は出来ているという話が伝わっていたのは事実である。
他に娯楽がないから、そんな話でもして楽しまなくてはやってられなかったのか、尾ひれがついて次第に大掛かりな話になっていたのも事実である。

「ねえねえ、どんなかんじだったのー?
気持ちよかったのー?」
「おうおう、姉ちゃん。
隠さず吐いちまいな!」
「確かに興味あるなぁ。
知りたいなぁ」
「わたしも知りたーい」
「ちいも知りたいの」
「少しは……興味があります」

いつの間にやら、恋姫キャラが関羽を取り囲むように集まっている。

「う、うるさいうるさい!
わ、わたしはそんなことはしていない!!」

と、言って逃げ出す関羽。

「あ!逃げたなの!」
「追いかけろ!」

関羽は昼も夜とは別の苦労が絶えないのであった。
まあ、昼間の苦労は、ちょっとほのぼのした感じの苦労なのであるが。



昼間の苦労と言えばこんなこともあった。

関羽は城の庭を歩いていて、そのうちぴたっと足を止め溜め息をつくのであった。
そこに曹操がやってくる。

「あら、関羽じゃないの」
「あ、曹操様。
それ以上こちらに近づかないでください」

それを聞いた曹操は、それまでのほのぼのとしていた雰囲気から怒りの形相に変わる。

「あなた、自分の立場がわかっていないようね」「そうではなくて」
「関羽が望まなくても関羽の体は私の」「そこに落とし穴が」
「きゃーー!!」「ありますから」
「華琳様ー!
どうして!関羽を落とすために作っておいた落とし穴に落ちてしまわれたのですか?!」

突如現れる荀彧。
どう考えても関羽が落とし穴に落ちるのを今か今かと影から見張っていたに違いない。

「桂花!この落とし穴を作ったのはあなたね!」
「え?!いえ、これは関羽のための落とし穴です。
決して華琳様を貶めるために作った穴ではありません」
「作ったのではないの!」
「違います!関羽のための穴です」
「いいから、早く助けなさい!!」
「は、はい。申し訳…きゃーー!!」
「桂花まで落っこちて何をしているの!!」

言い争いをしている二人をとりあえず放置して、梯子を取りに行く関羽。

「曹操様、どうぞ、これをお使いください」
「関羽、遅いわよ!!」

いえ、精一杯早く来たのですが……とは言わない関羽である。
そして、二人とも梯子を登ってきて……

「関羽!あなたが落とし穴に落ちないから悪いのよ!
華琳様が落ちてしまったではないの!」

関羽に八つ当たりする荀彧であるのだが、

「桂花が穴を作ったのが悪いのよ!」

曹操に怒られてしまう。

「あ~ん、違います。
関羽が穴に落ちないのが悪いのです」
「こんな穴に落ちる馬鹿がいるわけないでしょ!」

いや、曹操さん、あなた落ちてますから。
関羽は言い争いをしている二人を後にして、一人庭を離れ、静かに梯子を返しに行くのであった。


というように、昼間は比較的ほのぼのしているのだが、夜は夜な夜な、というほど毎晩でもないが、そこそこ頻繁に曹操に呼ばれては体を弄られるのである。
そして、その度に枕を涙で濡らす関羽なのだ。



 だが、そんな比較的ほのぼのとした雰囲気は長くは続かなかった。

「華琳様、わかりました、袁紹軍が戻った訳が。
蝗が発生しそうとのことでその駆除のために兵が呼び戻されたとのことです」

荀彧が緊張した様子で曹操に報告にあがる。

「蝗ですって?!」

これには曹操も慌ててしまう。
今、蝗害があったら、もう曹操領は壊滅的な被害を受けてしまう。
蝗は袁紹と違って武器も効かないし交渉も無理だ。
降伏することすらできない。

「それで、蝗の様子は?」
「まだ、発生しそうな予兆と言うだけで、実際に被害は起こっていないようですが、大規模に草原を燃やしているそうです」
「そう。こちらに被害が及ばなければいいのだけど……」

もう、あとは神に頼るしかない曹操である。



だが、物事悪いほうに傾くものだ。
袁紹領から焼け出された何百億、何千億匹もの蝗は河水を超え、曹操領に入ってから猛威を振るうこととなる。
兌州、豫州の畑は壊滅的な被害を受けた。
そして、徐州に入ったあたりで蝗の群れは消滅した。
史実の蝗害は、曹操と呂布の戦いの最中に発生し、事実上曹操に味方したようだが、此度の蝗害は曹操側に仇なした。

「壊滅…………」

収穫間際の畑に蝗害は決定的だった。
その年の曹操領の収穫は、前年比8割減という悲惨なものだった。
しかも、冀州は収量4割でも自国民を養うことが出来るほどに母数が大きいが、曹操領は収量が上がりつつあるといっても収量9割でぎりぎりの状態、8割減になると間違いなく飢饉が発生する。
蝗害を受けて、「うーーーん、やっぱり自然の力はすげーな!」なんてのんきなことを言っていられるのは、中国の歴史上、一刀が初めてなのであって、普通の人間は再起不能か、それに近いレベルまで叩きのめされるのだ。
さすがの曹操も、収量激減の報を聞いて、しばし覇気が失われてしまったのだった。



[13597] 禁句
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:30
禁句

 冀州で蝗対策をしている最中に、袁紹を訪れる者がいた。
袁術である。
趙雲に連れられて、張勲、華雄と共に業に現れた。

「妾と麗羽の仲である。
世話になってやってもよいぞよ」

業に着くなり、早速偉そうに居候することを宣言する袁術である。
これだけ見ると、劉備といい勝負のなかなかの大物だ。

袁術の対応を、例によって賢人会議で検討する。
議事進行は田豊。

「袁術をどうするかだけど」
「「「「「殺!」」」」」
「一刀、お願い」

一瞬で方針が決定した。

「ちょ、ちょっと待て。
お願い、って麗羽様に袁術様を殺すように伝えて来い、ってことか?」
「そうよ。
袁術は漢にとって害になることはあっても益となることはないから、殺すのが当然でしょう。
全員一致の意見だし、今まで仲の皇帝を名乗っていたほどなのだから、まさか本人も生き延びられるとは思っていないでしょう」
「それはそうなんだろうけど、それは難しいなあ。
麗羽様、あれで優しい人だから、特定の個人を殺せと言うような命令は下せないと思うんだけど」
「それを何とかするのが一刀の仕事でしょ」
「うーーん、今回は駄目そうな気がする。
一応、殺すように提案はするけど、駄目だった場合の代案も考えてくれない?」
「例えば?」
「そうだなぁ……我侭言ったら殺すとか」
「具体的には?」
「……何だそれ?考えているの、俺じゃん」
「まあ、いいから、続けて」
「うーーん、そうだなぁ……蜂蜜って言ったら殺すとか」

参謀達は全員にやりと嗤う。

「それ、面白い」
「傑作ね」
「袁術は蜂蜜が好きだからなー」

ということで、決定事項

1)基本は殺すことを提言する
2)駄目なら、我侭言ったら殺す

となった。



 決定内容を袁紹に伝えに行く一刀。
それを伝えるため、袁術、張勲も同席させている。

「麗羽様に、袁術様の扱いについて提言がまとまりましたのでご報告にあがりました」
「苦しゅうない、妾はどれだけ贅沢三昧をしてよいのか述べるがよい」

余裕綽綽の袁術であるのだが……

「袁術様は、漢の皇帝に背き、自ら仲国の皇帝を名乗る反逆者。
麗羽様への礼も失し、ここに来たときから贅沢をするのが当然と言う態度」
「まあ、その通りですわね」

相槌を打つ袁紹と、次第に顔が青ざめてくる袁術。

「この地に留めると、必ずや麗羽様や陛下に悪い影響がありましょう。
そこで、袁術様は死罪にすることを提言いたします」

重々しく決定事項を伝える一刀。
それを聞いた袁術、泣き喚きながら張勲に抱きついていく。

「いやじゃ、いやじゃ。
妾はまだ死にとうない。
七乃、妾を助けるのじゃ」

やっぱり、劉備ほどの大物ではなかった。
まあ、当然と言えば当然だが。
張勲も、袁術をしっかりと抱きしめて、

「お嬢様、七乃はいつでもお嬢様の味方です。
お嬢様のことはいつでもお守りします」

と、袁術を励ますのだ。
やっぱり、張勲は袁術にはなくてはならない人物だ。
袁術、それを聞いてちょっと表情に希望が現れてくる。

「何かいい手でもあるのかや?」
「お嬢様、あの世に行ってもしっかりお守りします」

張勲、ちょっと涙を浮かべながら、そう言って袁術を更にしっかりと抱きしめるのである。

「………………ぅわ~~~~ん、いやじゃいやじゃいやじゃ!!
妾は死にとうないのじゃ。
まだまだ生きたいのじゃ!」
「お嬢様。まだこんなに小さいのに……」
「うわ~~ん、何故じゃ?何故生きる方法を考えないのじゃ?
智謀に長ける七乃であろう。
何か考える策を考えるのじゃ」

これだけ泣き叫ぶ袁術を見ると、流石に袁紹もちょっとものの哀れを感じてしまう。

「一刀、どうしても殺さないと駄目なのですか?」
「はい、それが麗羽様、陛下の御為と考えます」

「ぅわ~~~~ん、いやじゃいやじゃいやじゃ!!
麗羽、妾が悪かった。
何でもするから命だけは助けてたもれ。
お願いじゃ」

袁術は、今度は袁紹のところに泣きついてくる。

「一刀、どうにかなりませんの?」
「そうですねえ」

一刀はちょっと含みを持たせた言い方をする。

「何かあるのじゃな?」

袁術は、いきなりにこにこした表情になって、今度は一刀のところにやってくる。
一刀はそんな袁術を見て、

「やっぱり死罪にしましょう」

と、袁術を突き放す。

「ぅわ~~~~ん、いやじゃいやじゃいやじゃ!!
今、何かありそうだったではないか!
何でも良いから妾を殺さずに済む方法を言うのじゃ。
妾は何でもするぞよ!」
「だって、ちょっと期待させただけであんなに態度が変わるのですから、これで生きる方法を提案したら、また我侭三昧になるに決まっています。
そう思われませんか、麗羽様」
「まあ、そうですわねえ。
でも、殺すと言うのも後味が悪いですから、どうにかならないのですか?」
「でも、絶対に我侭になりますよ?」
「それを言われると……」
「後生じゃ。我侭など絶対に言わぬ。
本当じゃ。
命さえ助けてくれれば静かに暮らす。
神に誓って嘘は言わぬ」
「一刀、美羽もこう言っていることですし、殺すのは止めにすることですわ」
「まあ、麗羽様がそこまで仰るのなら。
その代わり、我侭を言ったら、もうその時は覚悟してもらうと言うことでいいですね」
「それは仕方ありませんわね」
「麗羽!感謝するのじゃ!
この恩は一生忘れぬのじゃ」
「お嬢様、本当によかったです」

袁術は張勲と抱き合って泣いて喜んでいる。

「ところで、一刀さん。
お嬢様がどうしたら我侭を言ったと見做されるのですか?」

さすが張勲。
条件を詰めることを忘れない。

「はい、袁術様が"蜂蜜"と仰ったら、我侭を言ったと見做すことといたします。
理由の如何を問わず、蜂蜜は禁句です。
『これは何?』『蜂蜜じゃ』でもだめです。
これでよろしいですね、麗羽様」
「まあ、そうですわね。
穏当なところでしょう。
美羽、間違っても"蜂蜜"とは言わないことですわ。
もし間違って言ってしまったら、この私でも美羽を助けることはできませんわ。
オーッホッホッホ!」
「わかったのじゃ。
妾は、はちんぐぐ……何をするのじゃ!七乃」

慌てて袁術の口を押さえる張勲。

「お嬢様、その言葉は禁句です」
「そ、そうであったな。あはは……」

このように、袁術は袁紹のところに居候することになってしまったのだが………。



[13597] 蜂蜜
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:31
蜂蜜

 張勲と言えば、智謀に長けた将であるのだが、袁術の命乞いではその能力を全く発揮しなかったように見える。
だが、彼女は彼女なりの作戦を持っていた。
名付けて、袁術哀れみの術!
袁術と共に主従で死を覚悟して泣き叫べば、袁紹は何とかしてくれるだろう、というものだ。
まあ、そこまでしなくても助かった可能性は高そうだったが。


さて、命が助かった袁術、とりあえず普通に我侭も言わずに生活をしている。
だが、次第に禁断症状が現れてきた。

「七乃」
「何ですか、お嬢様?」
「なんというか、飲みたい飲み物があるのじゃ」
「そうですか、そうですよね。
あれですね?」
「そうなのじゃ、あれなのじゃ。
それが、一刀に止められていて飲むことが出来ないのじゃ。
どうにかならぬものか?」
「そうですねぇ……」


もう一度記そう。
張勲と言えば、智謀に長けた将である。
そして、その後どのような光景が業で見られるようになったか、というと……

「よし、今日も頑張って仕事!」

朝、自室を出てくる一刀の目に、大人と子供、女性二名の姿が飛び込んでくる。
女性二名とは、もちろん袁術と張勲。
二人揃って、一刀の部屋の前に正座して一刀の登場を待っていた。

「お嬢様、何か欲しいものがあるのですね?」
「そうなのじゃ!
口に出すわけにはいかんのじゃが、その、べたべたした感じの琥珀色の液体なのじゃ。
もう、何日も飲んでいないのじゃ」
「それは大変ですねぇ♪」

無視を決め込む一刀であるが、二人は一刀の後ろにぴったりと着いてくる。

「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」

一刀が仕事から帰ってくると、

「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!
一刀さんに禁止されてますからねぇ」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」
「七乃、妾はあれが欲しいのじゃ」
「そうですよねえ、あれ、欲しいですよねえ!」


名付けて、袁術ストーカーの術!
さすが、張勲、人のいやがるところを的確に突いてくる。
だが、一刀だってその程度のことは了解している。
ちょっとのことでは一刀を落とすのは無理だろう。
一刀、ちょっといらついた振りをして二人に話しかける。

「袁術様、何か欲しいものがあるのですか?」
「そうなのじゃ。
妾はあれが欲しくてたまらないのじゃ」
「あれってなんですか?」
「あれとはな、はちんぐぐ……」
「駄目ですよ、お嬢様。
一刀さんの口車に乗って禁句を口にしては。
殺されてしまいますよ?」

張勲は、そう言ってにやりと嗤う。
一刀も、張勲ににやりと嗤い返す。
この日の勝負は引き分けだった。


だが、基本的に暇な袁術・張勲コンビ、ストーカー以外にすることがなにもない。
四六時中一刀に張り付いていてもぜ~んぜん平気。
おまけに、袁術の禁断症状が次第にひどくなり、袁術の表情は、いつも涙を流し、鼻水まで垂れ、ぐちゃぐちゃの顔になり………とにかく悲惨な表情をするようになってきた。
その表情で一刀に付き纏うのである。

「う~~、七乃。
妾はあれが欲しいのじゃ。ぐすぐす。
とても欲しいのじゃ。ずるずる」
「ああ、お嬢様。
あれが飲めないと辛いのでしょうね」

一刀の根負けだった。
やっぱり張勲、智謀に長けた将だった。

「蜂蜜が欲しいの?」

うんうん、と頷く袁術。

「どうしても欲しいの?」

うんうん、と頷く袁術。

「だったら、自分で頑張って集める?」
「妾にもできるのかや?」
「まあ、多分、何とかできると思うけど……」
「それなら、やるのじゃ。
あれを手に入れるためなら何でもするのじゃ!」

それだったら、ということで、かねてより温めていたプランを実行に移す一刀。
翌日、袁術、張勲、華雄を花畑に連れて行き、仰々しい服を着せ、養蜂の方法、蜂蜜の採り方などを説明する。
それ以来、袁術らは城には戻らず、蜜蜂の世話と、蜂蜜の採取に明け暮れる日々を送るようになった。
早い話が養蜂家になった。

蜂蜜の禁句は城を出た時点で解除された。



数ヵ月後……

「そういえば、一刀」
「はい、なんでしょうか?麗羽様」
「美羽はその後どうなったのですか?」
「さあ、蜜蜂の世話をしていると思うのですが、最近見に行っていませんね。
蜂蜜も市場に流れ始めているので、仕事はしていると思うのですが。
ご一緒に袁術様の様子を見に行きますか?」
「そうですわね。
美羽が働いている様子を見ると言うのも面白そうですからね」

そこで、袁紹、顔良、文醜と一刀が袁術の様子を見に行く。


花畑の傍に行くと、張勲の声が聞こえてくる。

「は~い、孫権隊は右翼を攻めてくださいねぇ。
周瑜隊は左翼を攻めてくだささいねぇ。
……ちょっと、孫策隊、しっかり働いてくれないと困りますねぇ」

華雄の声も聞こえてくる。

「劉備!働け!
張飛!働け!」

袁紹が一刀に尋ねる。

「何をしているのですか?」

だが、一刀だってさっぱりだ。

「さあ?とりあえず見に行ってみましょう」

全員で花畑に行ってみると、張勲、華雄が防護服も着けずに蜜蜂に指示を出していた。
驚くべきことに、蜜蜂は張勲や華雄の指示通りに動いているようだ。
実は天職だったのかも。

「孫策隊、聞いてますか?
ちゃんと仕事しないと巣箱焼いちゃいますよ」

その声に、ぶ~~~んと動き出した孫策隊と命名された蜜蜂の集団。
びっくり仰天の一刀。
命名は、各自酷使したい人間の名前としているのだろう。

「す、すごいですね、張勲さん。
蜜蜂が張勲さんの指示通りに動くんですね」
「ああ、一刀さん。
ええ、蜜蜂は人間よりよっぽどよく言うことを聞きますよ。
本当にいい仕事を紹介してくれました。
華雄は、まだちょっとのところがありますけど……」

一刀が華雄を見てみると……

「うわーー、つるぺた張飛!こっちに来るな!!」

蜜蜂から逃げ回っていた。
確かに。

「美羽はどこですの?」

尋ねる袁紹に、張勲は

「ああ、お嬢様なら向こうの小屋にいるはずです。
お嬢様に、余りたくさん食べては駄目ですよ、と伝えておいてください」

と答える。
言われた場所に行ってみると、袁術が動きやすそうな服を着て、ハンドルをぐるぐると回している。
蜜を集める機械だ。
もう、従業員が何人もいる会社組織になっているが、エクストラバージン蜂蜜(?)は自分で取り出したいのか、自分で率先して作業している袁術だ。
吐き出し口から、蜂蜜がどろ~~んと出てくる。

「おお!蓮華の蜜じゃ。
それでは早速……」

袁術は大きなスプーンで蜂蜜をぐいっと掬い取り、幸せそうにそれを口に運ぶ。
多少のごみを気にするよりも先に、とにかく食べてみたいという欲望が勝った(まさった)ようだ。

「うーーーーん、美味じゃ」

蜂蜜水、蜂蜜、両方好きな袁術であった。
例の一件以来、酒は嫌うようになった。
子供が酒を飲まないのはいいことだ。

「美羽、しっかり仕事をしているのですね」
「おお、麗羽ではないか。
そのとおりじゃ。
妾も日々蜂蜜集めに勤しんでおるのじゃぞ」
「それはよかったですわ。
あまり食べ過ぎてはいけないと張勲が言ってましたわ」
「心配するでない。
余り食すると太るから、節度を持って食しているのじゃ」

袁術が働いているとか、節度を持つとか、数ヶ月前では考えられない情景だった。
まあ、確かにこれ全部を食べるのはどう考えても無理だから。

「私も美羽が元気そうでうれしいですわ」
「うむ。まもなく、花を追って旅に出るのじゃ。
また、別の味の蜂蜜を食することが出来ると思うと、今から楽しみなのじゃ」

養蜂家、袁術はとても幸せそうだった。



袁術らを連れてきた趙雲は、蒸留したばかりのウィスキーを数樽もらって、また旅に出た。
暫く会えないと思うから、というのでたくさん持っていくのだそうだ。
何でも、今度はまだ行ったことがない涼州に向かうとか言っていた。
抱きついて、唇が接するほどに顔を近づけて、脚を一刀の脚に割り込ませながら代金を払うと言ったが、一刀は丁重にお断りした。
代金って、どう考えても趙雲の体だから。
趙雲はちょっと残念そうだった。
正妻たちは満足そうだった。





あとがき
感想をくっつけたらああなったんです。
わたしは悪くないんです。



[13597] 甜菜
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:32
甜菜

 さて、蜂蜜の生産がようやく始まったのと時を前後して、その他にも一刀がこの世界に来て少し経ってから着手した案件がいくつか実を結び始めていた。


まず、砂糖。
これは、サトウキビからの生産が殆どで、冀州のような北の地では収穫できない。
中国は世界で最初にサトウキビ(甘蔗)の栽培が始まったと言われている土地で、一説では紀元前700~800年に栽培が始まったと言われている。
だが、規模はまだそれほど大きくなく、糖類(蔗汁・石蜜・蔗飴など。北に来るのはこのうち石蜜)の流通は少なく、価格も高い。
最初、何の気なしにビールに黒砂糖、というより石蜜を入れた一刀であったが、あとで価格を聞いてびっくり仰天、それ以降は加糖はなしである。
だから、袁術の蜂蜜は糖分を得るには画期的だったのだが、如何せん量が少ない。
袁術が大きなスプーンに蜂蜜をぐいっと掬って舐めたのは、庶民から見たらまだまだ超贅沢な行為だ。
糖を入手しようとしたら、南に金を払って入荷するのがまだ主である。
まあ、ビールで大もうけしているから、その程度どうってことはないといえばそのとおりなのだが、やっぱり自前でも作りたい。

北の地で採取できる砂糖の元といえば、テンサイ。
天才でも天災でもなく、甜菜。
別名、サトウダイコン。
原産地は中央アジアなので、入手は出来たのだが、残念ながら原種。
まったく、恋姫世界なのだから、改良済みの甜菜があれば植えればおしまいだったのに!とぶつぶつ文句を言っている一刀である。
そこで、原種を持ってきて、何世代も交配を繰り返しているうちに、何となく砂糖の含有量が高そうな品種が出来てきた。
よし!ということで、畑に展開して、ようやく砂糖というか糖が取れるようになった。
まだまだ収量が少ないが、そのうちに大規模に展開していこうと思うのである。



つぎに、木綿。
これはインドから種をもってきてもらうところから話が始まる。
というよりも、種を入手することが木綿生産の肝であって、それさえ完了すればあとはそれほど難しい作業はない。
ようやく種を入手して、木綿の生産も可能になった。
木綿から糸をつむぐのは、一刀には分からない作業なのでその方面のプロに任せる。
絹や毛があるから、木綿から繊維をとるのもなんとかなったようだ。
これで、服の生地のバリエーションが増えたことになる。



それから、葡萄。
種はこの世界に来てすぐに入手したが、ようやく実をつけ始める大きさに育ってきた。
ほどよく養蜂家も現れたので、受粉をお願いする。
で、葡萄と言えばワイン。
やっぱり、ビールだけじゃ飽きるから、他の酒も準備しないと。
ワイン作りはビールよりも簡単。
潰して醗酵させればおしまいだから。
べらぼうに高いワインであれば、色々ノウハウがあるのだろうけど、そんな高級なことはワインの専門家が現れたらその人に任せればよいのであって、とりあえず飲むだけならそれで十分。
だが、酒になるまでに時間がかかる。
とりあえず、若いワインでもいいかと思って半年物のワインの試飲を勧める。
ボジョレーヌーヴォーもあることだし、時間が経てばよいというものでもない。
時間をかけたほうがいいかどうかは、葡萄の品種で決まるらしい。
で、栽培している品種は……不明。
色々試してみて、若い方が良さそうだったら早めに飲み、寝かせたほうが良さそうだったら熟成を進める、という試行錯誤をしなくてはならない。
でも、それほど舌が肥えているわけではないから、どうでもいいかも。

何は兎も角、試飲大会。

「え~っと、葡萄酒もできましたので、是非ご賞味ください」

というか、手っ取り早く赤葡萄からワインを造ったら赤くなった。
白葡萄から作るか、赤葡萄でも果汁だけ醗酵させれば白ワインになるが、果皮があったほうが醗酵が進みやすいはずなので、とりあえずは赤ワイン。
そのうち白葡萄を入荷したり、果汁発酵を試してみよう。

「それでは早速」
「いただきます」

袁紹と劉協がテイスティング。
劉協、まだ20前だと思うが、飲酒に関しては日本の法が適用されるわけではないから大丈夫。
だいたい、彼女自身が法のようなものだし。
そして、二人の感想は……

「はぁ~~~」
「ふぁ~~~」

幸せそうに溜息をついている。
言葉はなくても、満足しているのは明らかだ。

「それでは、他の方もどうぞ」
「待ってましたぁ!」
「早く、早く!」

みんな、わさわさと樽のところに集まってきては、ワインを碗に注いで行く。
そして、みんな

「はぁ~~~」

と幸せそうな表情に変わる。
とりあえず、ワインつくりも成功したようだ。


 ところでこのワイン、その後事件を引き起こすこととなる。
まだ葡萄栽培は小規模なので、出来たワインは小さめの樽3つ分。
そのうち1つはこの間空けてしまったから、残りは樽2つ分。
たまにはワインの様子を見てみようか、と思った一刀、蔵にワインを見に行く。

「あれ~~~???」

だが、樽はあるのに中身は空。

「おっかしいなぁ???」

そこで、一刀は夕食時に皆にワインのありかを知っていないか聞いてみることにする。

「あの~、知っていたら教えてもらいたいんですけど、葡萄酒がすっかりなくなってしまったんですが、誰か知っている人はいませんか?」

と、単純に疑問をぶつけてみただけなのだが、何故か全員会話を中断し、一刀から目を逸らす。
この瞬間に理由が分かった一刀、個別に問いただしてみる。

「清泉、何で目を逸らしたの?」
「わ、私は菊香に誘われて。でも、ほんの少ししか」
「わ、私は猪々子が楽しいことがあるって言うから」
「と、斗詩がさあ、酒蔵の鍵を持っているから、何をするのかって思って」
「れ、麗羽様が酒蔵の鍵を開けるようにって仰るから……」
「よ、陽が葡萄酒を見たいと言うからですわ」
「それは違う。私は献様が葡萄酒はおいしかったと仰っていたと伝えただけだ」
「だって、おいしかったのですもの……
でも、陽、その言い方は酷いです。
まるで、私が葡萄酒を要求したようではありませんか。
それに、あなたが一番飲んでいたではありませんか!」
「………麹義の方が飲んでいました」

表情一つ変えずに、自分の正当性を主張する皇甫嵩。
……いや、正当性ではないか。
ちょっと最近怖さが減ってきてしまった皇甫嵩である。

「な、何を言われる。
皇甫嵩様お一人で一樽空にしていたではないか!」
「そのようなことはない。
私が空にした樽は荀諶も逢紀も飲んでいた」
「違います!呂布もです」
「賈駆も飲んでいたでありんす」
「葡萄酒、おいしい」
「ボ、ボクは月と少しづつ……」
「へう……あの、ごめんなさい」

芋づる式に犯人があがってくる。

「困ったものだ」

って、皇甫嵩さん!あなた一番飲んでたでしょ!!と、全員心の中で突っ込みをいれるが、まだ皇甫嵩怖くて、口に出すものはいない。
何のことはない、全員で寄ってたかって空にしてしまったようだ。

「とにかく!」

一刀が声を張り上げる。

「来年まで葡萄酒はありませんから!!」

それを聞いて目をうるうるさせる女性達。
今は、皇帝も相国も一刀には頭があがらない。

「な、なんですか?
俺、悪くないですからね。
自業自得です!」

しんみりとしてしまった女性達の中で田豊が口を開く。

「ねえ、一刀……」
「何?」
「来年はもっとできるの?」
「……多分」

それを聞いてぱっと明るい表情に変わる女性達。
現金なものだ。

「でも、酒蔵の鍵は俺が持っていたほうがよさそうですね!」

再び、しょんぼりとする女性たちなのだった。



 他の農産品も記しておこう。

苺。
木の枠組みを油紙で覆い、漢時代の温室を作る。
油紙といっても、紙自体がまだ高級品なので、温室は超豪華農産物生産工場になる。
ビニールやガラスと違って、ちょっと薄暗いけど、結構温室らしくなった。
そこで、苺の交配を続けると、あ~ら不思議、原種に近い苺の粒が次第に大きくなりましたとさ。
……そこまで簡単でもなかったけど、結構運よく大きな種を作ることができた。
大きいと言ってもまだ2cm程度だけど。
これもなかなか好評だった。


椎茸などきのこ類。
菌床栽培成功!
木材腐朽菌タイプのきのこを数種類量産化に乗せることに成功した。


ホップ
探せばあるものだった。
現代ビールに近い味付けのビールもできるようになった。


アブラナ
これはもともとあったが畑の規模の拡大。
油が潤沢にとれるようになった。


蜜蝋
これは養蜂で出来るものの一つ。
主にろうそくに使う。
生産者は袁術養蜂組合の単独供給!
仲にいたときより羽振りがよくなりつつあるように見えるのは気のせいか?



 できなかった、見つからなかったものも数多い。


何故か南でしか生産がなく、河北では扱いがなかった。



これも、原産が南で、河北では見つからなかった。
きっと、植えても駄目だろう。



きらら397の無い恋姫世界では、さすがにこの土地で米の生産は無理だった。



ということで、気候的に難しいものは難しいという、極めて当然の結論を得た。
南も制圧したら、色々また新たな試みが出来るかも、と思う一刀であった。
米も出来るし。



あとがき
いいんです!
これで、いいんです!
運よく、出来たんです!!

次回、曹操関係に戻ります。



[13597] 小康
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:32
小康

 富裕な袁紹領に対し、食料が困窮し始めようとしているのが曹操領。
40万人1年分の備蓄と言うことは、200万人なら2ヶ月ちょっとでなくなるという事である。
そして曹操領の人口は200万以上。
人口が多いのは、国力をあげるのには必要だが、こういうときには困ってしまう。
青州や兌州の一部を袁紹に占領されてしまったことが、却って吉となってしまっている。
今は食料があるが、何もしなければ間もなく食料がなくなることが保証されている。
今年の収量を加えても焼け石にミミズ……ではなくて、水。
なので、何かをしなくてはならない曹操。
手はいくつかあるが、簡単に言って買うかふんだくるか。
ふんだくると言っても、袁紹相手ではそう簡単に勝てるとも思えない。
今まで一勝もできていない。
状況が悪かったと言うこともあるが、それにしても連戦連敗だ。
濮陽のようにある程度は守ることが出来ると思っていたところですら、半日持っていない。
袁紹軍の練度からしても背水の陣で臨んでも勝てるかどうか。
独立したばかりの呉なら勝てそうだが、戦っている最中に袁紹軍が攻めてきそうで、そう簡単に軍を進めるわけにもいかない。
だいたい、そんなに食料を持っていなさそうだし。
では、買うかというと、金はまあ国内からどうにか調達するにしても、プライドが許さない。
そうも言っていられないと言う話もあるが、とりあえず今すぐに購入する気はない。
どうにも妙案が浮かばず、日々悶々としている曹操である。



 そんな曹操の様子を知らず、業都では心優しい劉協が一刀に質問をしている。

「一刀」
「はい」
「蝗害が発生したと言う話を聞きました」
「ええ、発生しました。
俺も確認に行きましたけど、蝗の通った後は、収穫ができない状態になっていました。
百万人一年分くらいの食料が無くなったのではないでしょうか。
蝗害ってすごいですね」

蝗害が発生したと言うのに、まるで『昨日はすごい雨が降りましたね』というのと同じくらいの軽いのりで報告する一刀である。

「あの……大丈夫なのですか?」
「大丈夫って、民が食うに困らないかと言うことですよね。
ええ、全然問題ありません」
「そ、そうなのですか。
それは良かったです」

そして、今度は小声で袁紹に話しかける。

「一刀とは、もしかしたらすごい人物なのではないのですか?」
「と、当然ですわ。
この私の配下なのですから、並みの人物であるはずがあーりませんわ。
お、オーッホッホッホ」

袁紹も、劉協と同じ事を思ったのだが、それは口には出さないのである。
まあ、袁紹、分かりやすい人間だから、同じように思っていると言うことはばれている可能性が高いが。

一刀は、更に話を続ける。

「でも、曹操様の所領では壊滅的な被害を受けたそうで、話によると備蓄もあまりないそうですから、あそこはもうすぐ食料がなくなってしまうらしいです」
「そうですか」

ちょっと暗い表情になる劉協。

「ええ、それなので時期を見計らって攻め込む予定のようです」
「助けてあげることはできないのでしょうか?」
「え?助けるのですか?」
「ええ。元は同じ漢の民。
天災は為政者や民の所為で起こるものではありません。
天災で苦労するのであればそれを助けるのは皇帝の務め。
どうにかしたいと思うのです」
「そうですか……はあ。
ちょっと相談してみます」


一刀は劉協の意向を賢人会議に諮る。

「―――と陛下が仰っていたのだけど」
「今、冀州には潤沢に食料があるのですから、十分な食料を曹操に無償で渡せばいいでしょう」

と、あっさり言うのが沮授。

「何で、そんなに簡単にあげるのよ?」

と、つっかかるのが荀諶。

「漢の国内の問題ですから。
揚州牧曹操に、いるだけの食料を渡したらいいのではないですか?」

曹操の独立は認めない、元のとおり配下に戻れ、豫州や兌州は諦めて揚州にでも行け、そこで呉を名乗っている孫策を倒せ!
それを飲めば食料はくれてやろう、という考えだ。
それに答えたのは賈駆。

「清泉っておとなしい顔して、言うことはえげつないのね」
「もう、詠ったら、私のことを美人で頭がいいだなんて本当のことを言うのですから。
面と向かって言われると恥ずかしいです」

いや、誰もそんなこと言っていないから。

「考えとしてはいいわね。
即座にその条件を飲むとは思えないけど。
でも、まだ時期尚早ね。
もう少し時期を待ちましょう」

田豊が沮授の独り言を無視して、その場をまとめてしまう。

曹操領への侵攻は、劉協の意向もあり、当面見合わせることとなった。
そして、対曹操戦は、劉協の意向を受けて沮授がシナリオを全て書き直すことになる。



そのうちに、益州では州牧を務めていた劉焉が亡くなり、後を劉備が継いだとの話が伝わってきた。
劉備は、益州を漢から独立させ、蜀を建国すると宣言してきた。
これで、劉協・袁紹の治める漢、曹操の魏、孫策の呉、劉備の蜀が揃ったことになる。
漢と魏・蜀が並立しているのが変だが、まあそういう世界なのだろう。
だが、その実情は、魏は食物不足で困窮状態、呉は袁術の悪政の後遺症でまだまだがたがたという状態で、最後に独立を宣言した蜀が、漢を除けば一番裕福と言う、何とも奇妙な状態であった。
だいたい、袁紹のところに皇帝が来てからと言うもの、漢の国力はどん底からぐんぐん上昇してきて、今や大陸随一となっている。
その状態で、漢に反抗して独立しようと言う考え自体が間違っている気がするが、やっぱり三国志、魏呉蜀の三国が揃わないとならないらしい。

劉備の許へは、鳳統、黄忠など、いわゆる恋姫キャラが集まりだしているようで、蜀は次第にその国力を強化していた。
もともと、益州は巨大で肥沃な土地柄で、人口も多く、州の力は強かったが、蜀になり、さらに強化を図っているようだ。
諸葛亮や公孫讃が頑張っているのだろうか?

漢の外れの涼州は、まだ馬騰が州牧を務めており、今のところ漢への従属姿勢を保っている。
だが、彼もかなりの年齢、娘の馬超が後を継いだ後にどうなるかは、まだ誰も知らない展開である。


漢は、曹操への攻撃を見合わせているのと同時に、蜀や呉への介入も今のところ行っていない。
文醜らは、魏も呉も蜀も全部まとめてすぐに倒せるのに、と不満気ではあるが、一応皇帝の意向である、それには従っている。
皇帝の意向を無視してまで攻撃するほどのこともないというのも、沈黙を保っている原因である。
今は三国が皇帝劉協の優しさでなんとか国を保っている状態なのであろう。
漢が再度動き出したとき、そのときが魏呉蜀の滅亡の時なのだろうか?






あとがき
ここで、劉璋や張松なんかをだしたら、また話が面倒になるので、とっとと蜀を作ったことにしてしまいました。

あと、初めて馬超がその存在を露にしました。
でも、台詞は0。
もしかしたら、最後の最後まで一切台詞なしかも……。
公孫讃より影が薄い、というより影すらないのかも。



[13597] 使者
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:33
使者

 ここは許都、曹操の本拠地である。
袁紹軍が兌州から去って、はや数ヶ月。
食料は着実にゼロに向かって減少中。
数ヶ月考えても、やはり妙案はない曹操陣営である。
他の国の軍、特に袁紹軍が攻めてこないのが、せめてもの幸いである。


今日も軍議が執り行われている。
軍議は陰鬱な雰囲気に包まれている。

「袁紹軍、なんで攻め込んでこないのかしら?
蝗害も一段落したでしょうに」

誰に聞くともなく、独り言のような質問のような声を発する曹操である。
これからどうすべきか、なんていう話題をすると、より落ち込んでしまいそうになってしまうので、せめて比較的明るい話題から軍議を始めようとする曹操だ。
こういうときは、(その後のことを考えなければ)却って戦争でもしたほうが気が紛れたかもしれないが、残念ながら袁紹軍は静観を決め込んでいるし、さすがに曹操軍が攻め込むのは無謀で戦争はなく、自分達の状況を鑑みる時間がいくらでもある。
そして、全員目の前に迫ってくる問題に目を向けなくてはならない時期が来ていることを知っている。
だから、曹操の言葉には誰も答えず、沈黙だけが場を支配している。
曹操も、仕方なく、本題を話し始めることとする。

「食料は……麗羽のところから買うしかないのでしょうね。
何か意見のあるものは?」
「仕方ないと思います」

荀彧が、それは苦しそうに答える。

「ただ、袁紹が素直に売ってくれるかどうか……」

程昱も、苦渋の様子で答える。

「打診してみるしかないでしょう。
いいわ、麗羽に親書を認(したた)めるわ。
桂花、風、領内から非常徴収をかけたら、どのくらいのお金が集められるか調べておいて頂戴」
「「御意」」



そして、数日後、陰鬱な軍議に兵が入ってくる。

「漢からの使者がいらっしゃいました。
どういたしましょうか?」
「漢?麗羽のところの誰かね。
いいわ、ここに通して」
「御意」

程なく、兵に連れられて漢からの使者がやってくる。

「柳花……」

小声でつぶやいたのは荀彧。
そう、使者としてやってきたのは荀諶。
荀彧の妹である。
久しぶりの対面だ。
荀彧は荀諶の姿かたちを見て、ちょっと驚いている。
荀諶も荀彧の姿かたちを見て、ちょっと驚いているようでもある。

「わざわざ、許までご足労戴き、痛み入るわ。
来ていただいたという事は、端から交渉決裂というわけではないようね?」

少し安心した様子の曹操である。

「はい。
心優しい陛下は、此度の蝗害で兌州や豫州に多大な被害が出たことを聞き及び、大層心を痛めていらっしゃいます。
それで、どうにかここ兌州や豫州の民を救うことができないかと考えていらっしゃいました。
袁紹軍が攻撃を中断したままにしているのも、陛下の意向です。
幸いにも、冀州には潤沢に食料の備蓄がありますから、曹操様から食料支援の要請を受け、陛下は曹操様に無償で必要なだけ食料を送ると仰ってくださいました」
「うそ……」

あまりの好条件をにわかには信じられない曹操である。
だが、うまい話がそうそう転がっているわけでもない。
曹操は、その話の真意を確かめる。

「それで、その話の代わりに、私にはどのようなことが要求されるのかしら?」
「いえ、特に変わった仕事はありません。
ただ、曹操様は漢の揚州牧なのですから、早々に自分の治める土地に戻り、速やかに平定してもらいたいとの事です。
今、揚州では」「そんなこと認められるわけがないでしょ!
華琳様が袁紹様や陛下の下僕となり、そのうえ孫策を倒してこいというのでしょ!」

荀諶の言葉を遮って反論したのは、荀彧だった。

「下僕だなんて、桂花らしくない。
昔も今も、曹操様は漢の臣下ではないですか」

荀諶はにこりと笑う。

「なんですって!!」
「控えなさい、桂花!」
「ですが!」
「今は控えなさい!」
「……はい」

不満たらたらの荀彧であるが、曹操の命令は絶対だ。

「話は分かったわ。
内容は桂花の言ったとおりね?」
「そういう見方をする人がいるかもしれないとは思います」
「少し考えさせて頂戴」
「民のことを大切に思う曹操様が、堅実な選択をしてくださることを切に希望します」

荀諶は、そう言って退室していった。



「あんな勝手な要求を飲む必要はありません!
苦しい時こそ踏ん張らなくてはなりません。
踏ん張って、絶対に退いてはならないのです」

荀諶が見えなくなるや否や、すぐに荀彧が曹操に食って掛かる。

「その通りです。
華琳様は大陸の覇者となるべきお方、目の前の問題に目を奪われて、大望を捨ててはなりません」

程昱も荀彧に賛同する。

「そう、それでは二人は食料はどうすべきと思うの?」
「それは……袁紹側の守りを強化して、呉に攻め込むのが適当かと」
「それも受け入れられないのでしたら、草や木の皮を食べてでも、今年を乗り切るべきです」
「二人の意見はわかったわ。
ちょっと考えさせてちょうだい」

程昱が最後に曹操に懇願する。

「あの覇気に満ち溢れた華琳様はどうしてしまわれたのですか?
お願いです、昔の覇気に溢れた華琳様に戻ってください」

曹操は、それには答えず、踵を返しただけであった。

荀諶には明日回答する旨、連絡した。
暇を持て余した荀諶は、ぷらぷらと許都の観光をしているようだった。



[13597] 憐憫 (R15? NRT?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:33
憐憫

 その夜のこと、荀諶のいる部屋に荀彧が尋ねてくる。
久しぶりの姉妹の再会である。
だが、二人とも相手が昔の相手とは違うということを理解している。

「柳花」
「なによ、桂花」
「どうして、そんなに胸が大きく、胴回りが細く、そして何か妖艶になったのよ?」
「そ、それを言うなら桂花こそ、どうして胸がそんなに巨大になっているのよ!」

何が昔の相手とは違うって、二人して昔は扁平な胸にわずかばかりの女らしさを備えたスタイルだったと言うのが、今や荀彧の胸は劉備のおかげで巨乳の範疇にいれてもよいくらいに成長しており、一方の荀諶は一刀のおかげで胸のサイズこそ荀彧に負けるものの、体つきや雰囲気が魅惑の女と言うにふさわしくなってしまっている。
なんでそんな風に変わったかと思うのは当然だ。

「せ、成長する時期だったのよ」
「そ、そう。それは、よかったわね。
私も成長する時期だったのよ」
「ふ、ふ~ん。奇遇ね」
「え、ええ、姉妹だから同じように成長したのじゃないの?」
「それもそうね」

それから、二人して何か相手の真意を探るように黙って相手の様子を伺っている。

荀彧は、これ以上に荀諶を追求した場合の展開をシミュレーションする。

「ねえ、柳花」
「なによ?」
「何があったのよ?」
「ど、どういう意味よ?」
「……別に。
袁紹様に仕えてどんなことがあったのかと思っただけよ」
「いいことばかりよ」
「そう。いいことって、男でも出来たの?」
「ど、どうしてよ?」
「恋でもして女らしくなったのかと思って」
「そ、それを言うなら桂花こそどうなのよ?
女同士でも愛を感じるの?
そんなに曹操様はいいの?」
「む、胸が大きくなったのと華琳様とは関係ないわ!」
「ふーん……」
「な、何よ?」
「浮気したんだ。
相手は男?それはないでしょうね、桂花なら」
「うるさいわよ!
そういうあんたの相手だって、どんな男か分かったものではないわ!」
「女が出来るより正常だと思うけど。
変態桂花」

…………これはまずい。
荀諶から探りを入れられても同じ経過を辿ってしまいそうだ。

「そ、それじゃ、私は戻るわ。
柳花、女らしくなってよかったわね」

とりあえず、追求は諦めて、早々に退散することとする荀彧である。

「ありがとう、桂花。
あなたも昔よりずっと魅力的な体よ」
「そう、ありがとう」

荀彧は荀諶の部屋を後にした。
二人とも、姉妹に何があったのだろう?と心の底で思っているのであった。



 さて、曹操、程昱が言ったとおり、以前の覇気はすっかりなりを鎮めてしまった。
よっぽど蝗が効いたのだろう。

荀彧や程昱はああは言っているが、そうはいっても荀諶が言うとおり民のことを考えたら独立は諦めるのが一番だ。
此度の申し出を断ったら、金を出しても食料は売ってくれないだろう。
袁紹のところから食料がこないとなると、呉に攻め入るか、草木を食べて飢えを凌ぐか、それとも餓死者がいくらでても諦めるか。
そうでもなければ、全滅覚悟で袁紹のところに攻め込むか。
劉焉のところは比較的豊潤だと言う話が伝わってきているが、残念ながら益州に行くには必ず呉を通らなくてはならないので、いきなりそこに攻め込むわけにはいかない。
だいたい、益州は山々に囲まれていて、自然の要塞の体を為しているから、そう簡単に攻め込めるとも思えない。
何か最近妙に弱気になってしまった。
程昱の言うことも尤もだ。
申し出を断ったとしても、その先が続くのだろうか?
やはり、袁紹の臣下になるしかないのだろうか?


そんなことを考えている曹操の部屋に来訪者がある。

「あの、曹操様……」
「関羽じゃないの。どうしたの?
もう、為す術のない私を嗤いにきたのかしら?
そうよね、関羽の心が私に向いていないのを知っていながら、あなたの体だけは何度も頂いたのですからね。
憎んで当然よね」

だが、関羽はそれに対して信じられない答えを返す。

「あの、曹操様は最近昔日の闘志を感じられませんから、その……」

関羽は一旦ここで言葉を切る。

「心は許しませんが、私で役に立つことがあるのでしたら、曹操様の好きにしてくださって構いません」

なんと、関羽自ら体を曹操に差し出そうと言うのだ。
関羽は、必要以上に優しい人間なので、今の主君の曹操が力なく過ごしている様を見て、心を痛めていたのだった。
散々弄られたのだから、曹操なんか放っておけばいいものを。
まあ、そうしないところが関羽のいいところなのだろうけど。
でも、今回同情することは本当にいいことなのだろうか?

「そう。好きにしていいのね?」

曹操が関羽に念を押す。

「はい、多少のことは耐えます」

もう、関羽、不憫な曹操のためなら、という献身的な覚悟でいるようだ。

「服を脱ぎなさい」

関羽は言われたとおり、いつもと同様服を脱ぐ。
相変わらず慣れてはいないが、今日は覚悟があるので涙は出ない。
いつもはそのまま閨に向かうのだが、今日は違った。

「そこに跪きなさい」
「はい」

関羽は怪訝に思いながらも、その場に跪く。
曹操は関羽の目の前に立ち、


パシーーン


と関羽の頬を平手で叩く。
驚きのあまり、声の無い関羽。

「関羽、あなたには感謝するわ。
私は今の自分の状態が見えなくなっていた。
関羽にまで哀れみを受ける状態だったのね。
もう迷わないわ。
私は私の覇道を突き進む。
袁紹なんかに頼らない。
呉を潰してでも生き残る術を考える。
私を哀れむなんて100年早いと知りなさい!」

折角、関羽が好意で慰めてあげようとしたと言うのに、恩を仇で返す酷い曹操である。
まあ、それでも以前の覇気は取り戻せたようだから、関羽の思惑も当たったのかもしれないが、それにしても可哀想なのは関羽である。
また、泣きながら自分の服を持って曹操の部屋を後にしたのだった。



翌日、荀諶は曹操に提案を拒絶する旨、連絡を受けた。

「そうですか、それは残念です。
次は官渡になるでしょうか?
防衛を強化しておいたほうがいいかもしれませんね」

荀諶はそう言って業都に戻っていった。




あとがき
前の話も含めて、曹操と関羽がちょっと違うなぁと思うんですが、他にいい方法がなかったのでとりあえずこんな感じで。
アイデア、苦言など歓迎いたします。
それを見て、後の話との整合がつく範囲で書き直せそうでしたら変えるかもしれません。



[13597] 烏巣
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:34
烏巣

 曹操軍の方針は定まった。
呉を滅ぼして、自分達の糧を得る。
袁紹軍の猛攻は半数の兵で凌ぎきる。
青州兵約30万と兌州の曹操に元から仕えている兵5万、合わせて35万のうち、20万を呉攻めに、15万を防衛に向ける。
兌州の兵は元は10万いたが、袁紹軍に減らされてしまった
濮陽で一気に三万も減らされたのが痛い。
こんなことだったら、最初から全軍で袁紹・袁術を攻めたほうが良かったのかも、と思うが、袁術は兎も角、袁紹は多分叩くことは出来なかったから、結局はこうなったのだろうと思う曹操である。

攻め込む先の呉は、つい先ごろ仲の袁術が倒されて孫策が皇帝になったところ。
やはり、以前感じたとおり彼女は大陸を統べる気概のある女だった。
でも、あなたが皇帝になったのは時期が悪かった。
国の土台は袁術にがたがたにされていて、そのうえ食料がなくなってしまった私が攻め込む準備を始めている。
孫策、皇帝在位期間が短かったのは運が悪かったと諦めなさい、と孫策に同情する曹操だ。


もう、曹操の中では呉は自分に滅ぼされてしまうことが確定事項となってしまっている。
今、呉にいる兵は約10万。
袁術の兵5万の大部分は孫策に仕える事を良しとせず、農民に戻ってしまったので、呉の兵は、孫堅時代から孫家に仕えていた兵に加えて、孫策の方針に賛同して後から加わった兵。
袁術と孫策では方針が大きくことなるから、孫策に鞍替えしないと言うのは分かる気がする。
それでも10万とはよく集めたものだ。

それに対し、攻め込む曹操は20万。
篭城されたら攻め手が不利ではあるが、袁紹軍のアイデアの衝車や雲梯車、新型弓(複合弓)、諸葛亮の考えた霹靂車や元戎を用いれば、同数の兵でも攻めきれるだろうと読んでいる。
下丕でも、曹操軍が新型の兵器を用いて、10倍の敵を防いでいたことから見ても、新兵器の威力は伊達ではない。
濮陽を陥落させた長距離射程の弩は、現物を見たこともなく、これだけはまだ曹操軍で真似できていない。
慢心は禁物だが、着実に事を運べば問題なく落とせると判断している。
曹操軍、新型兵器の組立など、呉侵攻の準備を着々と進めている。



そんな風に準備を進めている曹操を訪ねる者がある。

「華琳、会いたかったわ」
「美杏、美杏じゃないの?!どうしてここに?」

臣下がいるというのに、抱きあってキスを始める曹操と許攸。
それを見て憤慨しているのは荀彧と夏侯惇。
だが、曹操の様子から二人の関係はただならぬもののようで、とても荀彧や夏侯惇が口出しできる雰囲気にない。
仕方なく、許攸を睨みつけるだけで我慢する二人である。

「それで、どうしてここに来たの?」

再会の長いキスも終わり、再度同じ質問をする曹操だ。

「華琳が食料も無いのに、一人で頑張っていると思うと、もういてもたってもいられなくて、袁紹様のところを飛び出して華琳の応援に来たの」
「ありがとう、美杏。
辛いときに心の支えになってくれるあなたは真の友だわ。
もう、一人でもやっていけると思うけど、美杏がいてくれたほうが私も心強いわ」
「ええ、これからはずっと華琳を助けるわ」

そして、その晩、曹操は久しぶりに燃え上がった。
体の奥底から満たされたのだった。
許攸は、参謀としては荀彧や程昱に遅れをとるが、やはり長年の付き合いである、傍にいてくれるだけで嬉しいのだ。




さて、少し経って。

「桂花」
「はい」
「兵を千名ほど用意なさい」
「は?それは何故ですか?」
「烏巣を攻めるわ」
「烏巣をですか?それは何故でしょうか?」
「あそこには袁紹軍の兵糧が山のようにあるらしいの。
それを奪うわ。
戦略的な拠点でもないから守備兵も数十しかいないらしいわ。
すぐに行って烏巣を落とすことにしたの」
「お、お待ちください。
それは、先日の許攸とかいう女から得た情報でしょうか?」
「そうよ」
「そんなつい先日まで袁紹のところにいた者の発言、信じるわけにはいきません」
「私もそう思います。
罠に違いありません」

程昱も、荀彧に賛同している。

「この情報には間違いはないわ。
私の命令よ、早く支度なさい!!」

曹操は許攸の齎した情報が真実であると言う確信があった。
だって、閨で喘いでいる最中に聞きだした情報なのだから、嘘が混じるはずがない、という曹操の確信の根拠である。
真実だと思う理由が理由なので、荀彧や程昱に詳細を説明することは出来ないが、過去の経験からそれが真実だと分かる。
荀彧も程昱もしぶしぶ曹操の言葉に従うしかないのである。



 人数は少ないが、陣容は夏侯惇、夏侯淵を始め、一線級の将が揃えられている。
関羽も一緒だ。
関羽は、実は密かに許攸に感謝をしている。
だって、曹操が関羽を求めることがなくなるから。
許攸が来てから、一度も曹操に呼ばれていない。

さて、そんな一行が烏巣に向かってみると……
城壁の上では見張りの兵らしい兵が二人、向かい合って座って、下の方を見ている。
時々、手を動かしている。
将棋でもしているのだろうか?
見張りだと言うのに随分と緊張感がない兵たちである。

「袁紹軍も、全員が緊張感に溢れているわけでもないのね。
秋蘭、あの兵の槍を弓で射なさい」
「はっ」

夏侯淵の放った矢は、見張り兵の槍に突き刺さり、見張り兵の手から零れ落ちる。
ようやく、曹操らに気がついた見張り兵であった。

「命まではとろうとは思わないわ。
速やかに城門を開けて、この曹操に降伏なさい!!」

曹操の声に、守備兵は慌てて城壁から降りていき、城門を開ける。
烏巣を守っていたと思われる数十名の守備兵は武器を捨て、土下座して曹操に命乞いをしている。

「冀州にでもとっとと戻りなさい。
今すぐここを立ち去れば命は助けるわ」

という曹操の言葉に、守備兵たちは大急ぎで烏巣を逃げ出したのである。



さて、曹操軍、烏巣に入り中の様子を確認する。
烏巣の中は、以前曹操が支配していた様子とは大きく異なり、もう街全体が倉庫の様相を呈していた。
曹操が、その一つの蔵に入ってみると、床から天井高くまで堆く(うずたかく)麻の袋が詰まれている。
兵に命じて、その中身を確認してみると、びっしり詰まった小麦。
いくつかの蔵を見てみたが、どれも山のような小麦で埋め尽くされていた。
しかも、実が自分の領地のものよりしっかりしている感じがする。

「すごいわ……」

蝗に穀物を壊滅させられたのと、同じくらいの強さの衝撃が曹操を襲う。
前回は絶望100%で。
今回は希望50%、絶望50%で。
希望50%はもちろん食料を得たことに対する喜び。
絶望50%は袁紹はこれだけの食料を兵糧専用に供出することが可能だと言うことを認識し、国力の違いを見せ付けられたことによる絶望。

「でしょ?袁紹軍、烏巣なんか襲われるはずがないと思って、まるで注意を払っていなかったのよ。
だから、私が華琳のところにきた手土産にこれをあげるわ。
千万石はあるはずよ。
これで、食料に困ることはないでしょう。
呉を攻めても、どうせあそこも食料が潤沢にあるわけじゃないから、足らなかったと思うわ。
有効に使ってね」

1石=約26.7kg (後漢時代)
千万石=26.7万t
一人一月10kg消費するとして、200万人12ヶ月で必要な量は24万t。
何と、曹操領全員が1年食って、まだ余る量である!

「ありがとう、美杏。
本当に助かったわ。
呉に攻め込むにも、兵糧が十分にあったほうが都合がいいから」
「でしょ?それじゃあ、早速袁紹軍が烏巣を奪取しに来る前に、兵糧を運び出してね。
でも、その前に伝えておくことと、やってもらいたいことがあるの」
「え?何なの?それは」

曹操、ここにきて始めて怪訝な表情を許攸に向ける。

「まず、陛下のお言葉を伝えるわ。
『朕の臣下に戻ってはくれないとの事ですが、やはり同じ漢民族が近々飢えるのが分かっているのに、それを放っておくわけには参りません。
袁紹に無理を言って食料を供出してもらいました。
役に立ててください』
だそうよ」

曹操、どう反応したものかわからず、言葉を失っている。

「それから、麗羽様からの伝言も伝えるわ」
「麗羽の?」
「ん゛、ん゛~。ちょっと難しいけど……
………
『オーッホッホッホ。
華琳も50万の袁紹軍をたった千人で撃退するとは大したものですわね。
戦利品として食料を提供することにいたしますわ』
ですって」
「……どういう意味よ?
50万の袁紹軍って何よ?」

そこに、曹操軍の兵が走ってやってくる。

「申し上げます!
袁紹軍と見られる兵が見渡す限りの土地を埋め尽くして、烏巣を目指して進軍しております!」

許攸はそれを聞いてにっこり笑い、

「というわけだから、この軍を撃退して頂戴。
まあ、軍と言っても茶番で来ている兵、というより大部分が農民が観光気分で来ているだけだから、華琳が倒されることはないけど、あまり時間をかけるといつまでも烏巣に留まって、食料を減らしていってしまうわよ。
だから、速やかにこの群集をどうにかしてね。
ああ、兵士じゃないから殺さないようにしてね。
みんな華琳のために食料を運んでくれたのよ。
みんなね、河水を見るのも越すのも初めてなんですって。
荷物を運んでくれたら河水を越させてあげるっていったら、みんな協力してくれたの。
喜んでたわ。
観光に来て殺されたら不憫だしね。
船を準備するのが大変だったのよ。
ああ、そうそう、元は黄巾党の人間が多いから、多少は武芸の心得もあるの。
だから、死人が出たら華琳たちに襲い掛かることになっているのよ。
それは注意してね。
いくらなんでも、この人数では対抗できないでしょ?」

曹操、許攸を睨みつけながら、

「騙したのね?」

と、相手を糾弾する。

「まさか。陛下のお言葉も聞いたでしょ?
食料を無償であげるというのは本当。
でも、ただでもらうのは華琳の面目が許さないでしょ?
だから、華琳が袁紹軍を撃退したと言う状況を作ってあげることにしたの」
「騙したのでなければ馬鹿にしているのね!」
「華琳、あなたがそう好き勝手言っているのは自由だけど、これだけは聞いて。
私があなたのことを大切に思っているのは本当。
そして、陛下が民を大切に思っているのも本当。
だから、今は陛下と私の心を汲んで、民を助けて頂戴。
それから後に、華琳がもう一度麗羽様や陛下に楯突くのは勝手だけど、今はそれをすべき時でないということはあなたが一番よく知っているのでしょ?
私達の純粋な厚意を無下にしないで。
まずは今を乗り切って。
そしてまた、覇気に満ちた華琳と愛し合う日が来るのを楽しみにしているわ」

許攸はそれだけ言って堂々と城門から去り、群集に溶け込んでいった。
曹操はその後姿を何時までも憎らしそうに睨みつけていた。
そして、その目には悔しさでうっすらと涙が滲んでいるのであった。

「桂花」
「はい、華琳様」
「これほど馬鹿にされたことは初めて……いえ2度目よ」

一度目は一刀の件か?

「はい、私もです」
「できることなら、この食料を全部焼き払ってしまいたいわよ」
「はい。この借りは何倍にもして袁紹に叩き返しましょう。
袁紹も自分の行いが災厄を齎したと知るでしょう」
「ええ、そうね」

答える荀彧や程昱の目にも悔し涙が滲んでいるのであった。




あとがき
許攸と言えば、袁紹軍の兵糧のありかをリークしたことで有名になった人らしいので、そういう行為をするように設定しました。



[13597] 熱愛 (R15?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:35
熱愛

「ところで、この群集をとりあえずどうにかしなくては。
積極的に攻めては来ないけど、居座るんでしょ、きっと」
「私が袁紹軍を蹴散らしてきます」

問いかける曹操に答えたのは関羽であった。

「関羽が?一人で?どうやって?」

尋ねる曹操に、関羽は

「袁紹軍の中にも兵はいるとのことですから、一番の将と一騎打ちをして、完膚なきまでに叩きのめせば、茶番の兵との事ですから全員引き上げるでしょう」

と、答える。

「まあそうね。順当な考えね。
行きなさい」

ということで、関羽が袁紹軍、というか袁紹領観光集団に一人立ち向かっていく。
観光集団に立ち向かうと言うのも表現が変だが。
あまり曹操のところにいたくないという気持ちは、とりあえず秘匿しておく。

「我こそは関雲長、曹操が臣下なり。
袁紹軍に気骨のある武将がもしいるならば、我と勝負いたせ!
そうでないならば、早々にここより退散せい!」

関羽が袁紹観光集団の前で口上を述べると、袁紹軍の中に動きがある。
誰かがやってくるようだ。

「愛紗さん!」
「えっ?」

いきなり真名を呼ばれてびっくりの関羽。
走ってくる人間を見てみれば、(性的に)苦しいときに思いを募らせていた一刀。

「愛紗さん!どうしてここに?」

関羽も、思わず涙腺が緩み、一刀の方に走り寄っていく。
だが、そのとたん、関羽は背中に焼けるような痛みを感じた。
後ろを見れば曹操が般若の形相で関羽を睨みつけて夏侯淵の弓を持っているのがわかったろうが、関羽はもう後ろを振り返りたくない。

「一刀さん……」

関羽は曹操の執念を振り掃うように、痛む背中で着実に歩みを一刀の方に進めていく。
だが、曹操は無情だった。
二射目が関羽の背中を捕らえる。

「愛紗さーーーん!!」

一刀が大急ぎで走ってきて、もう歩くこともできない関羽を抱きしめる。

「すぐ治療すれば大丈夫です!」
「一刀さん、一つだけお願いが……」
「何ですか?」
「その前に口付けをしてください」

一刀は一瞬躊躇したが、関羽をしっかりと抱きしめて、濃厚な口付けをする。
ようやく、曹操の苦難の日々から解放された。
関羽の目に、うれし涙が溢れる。
そして、その直後、関羽はどさっと落ちた。

「愛紗ーーーー!!!」

最期に、一刀の声が聞こえた気がした。
嬉しかった。





「………痛」

関羽は自分の状況を確認する。
背中にやや鋭い痛みがある。
何故か、自分の部屋の床に転がっている。
すぐ隣に、自分の閨がある。
天国とか地獄とか言うところではないらしい。
どさっというのは、自分が閨から落ちた音のようだ。
余程寝相が悪かったのだろう。
全く、この年になって閨から落ちるとは。
背中が痛むのは、落ちたときに打ったからか?
いや、違う。
何かごつごつしたものが背中に当たっている。
これは……靴か。

それにしても、ちょっといい夢だった。
久しぶりに一刀に口付けされて気持ちよかった。
曹操がいなければ最高だったのに。
あの先の夢も見ることができたろうから。

兎も角、まだ夜中なのでもう一度寝ることにしようと閨に戻る関羽であった。
そして、頬をぬらしている涙を拭いて、にっこりとするのだった。



 新しい朝が来た。
 希望の朝だ。
 喜びに……いや、一刀になら胸を開いてもいいかも。

と思っているかどうか不明だが、関羽はいつものように着替えて城内を歩いている。
夢を思い出し、指で唇に触れて、ちょっとご機嫌である。
と、曹操が歩いてくるのが見える。
今はあまり会いたくない人物だ。

「あら、関羽。何か嬉しそうね?」

折角、いい夢だったのに、一気に幸福感が失われてしまった気がする。

「少しいい夢を見ました」
「あらそう、よかったわね。
今から軍議を執り行うから、一緒にいらっしゃい」
「はい、曹操様」



軍議で、曹操は荀彧に出陣の指示を出している。

「桂花」
「はい」
「兵を千名ほど用意なさい」

何か、夢で見たシーンそのままだと思う関羽である。
そして、夢と同じシーンがその後も続く。


許攸が烏巣から離れていく。
曹操はそれを憎らしそうに睨んでいる。
そこで、関羽はどうすべきか?
袁紹軍に向かえば殺されるかもしれないが、それでも関羽の下した結論は……

「私が袁紹軍を蹴散らしてきます」

さて、関羽の運命や如何に?



「でも、関羽が出てきて相手をする武将なんか来ているのかしら?
茶番の軍だと美杏は言っていたし」

関羽の背中を見ながら、素直な疑問を呈する曹操である。

「さあ。まあ、誰も相手をしなければ、それはそれで全員去っていくと思うのですが」

と、答えるのは荀彧である。

「少しは兵も来ているということだけど、誰が将なのかしら?」
「さあ、たかが観光集団の引率ですから、名も知らないような将だと思います」
「そうね」

曹操たちが関羽を見ていると、袁紹軍から男が一人走ってくる。
関羽もその男に向かって走り寄っていく。

「あれは?………あれは!
秋蘭!弓を貸しなさい!
あの男を射殺すわ!!」
「え?……いえ、その……」
「弓を貸せないと言うの?」
「死者が出たら攻め込んでくると言っていましたし……」
「だったら関羽を殺すわ!
奪われるくらいなら、この私が誰にも奪われないようにするまでよ!」

夏侯淵、曹操の命令だと言うのに弓を貸すのを躊躇している。
曹操が一刀や関羽を殺すと言うのは嫉妬心から来ているものに間違いないから。

「まあまあ、華琳様、しばらく様子を見ていてはどうでしょう」
「そうです、華琳様、関羽もあれでうまく袁紹軍を引かせることに成功するかもしれません」

夏侯惇や荀彧にまで窘められてしまう曹操である。
だって、許攸がいなくなった今、次に曹操の寵愛を受けそうなのは関羽だから、関羽を取る男がいたら、夏侯惇や荀彧が応援するのは当然だ。
もう既に関羽は一刀と抱き合い、貪るようにキスを始めている。

「私の関羽があんなに愛し合っているじゃないの!
一刀になんか渡すものですか!
二人とも殺すわ!!」
「いえ、華琳様、今大事なのは袁紹軍を退散させること、関羽とあの男の関係は重要ではありません!」
「くっ!!」

荀彧の余りの正論に、曹操も反論できない。
というより、華琳様、もう少し冷静になってくださいよ、というのが臣下たちの偽りのない気持ちだろう。
曹操、許攸と言い、関羽と言い、案外惚れた女に弱い。
って、これではまるで本物の曹操(男)に対するコメントのようだ。

そのうちに二人の下半身の服が少し乱れてきて、関羽の生脚が一刀を絡め取り、直後、あたりに関羽の悩ましい絶叫が響き渡る。


「あああああああああああああああっっっっ!!!」


着衣ではあるが、下半身で何が起こっているか誰にでも分かることである。
関羽が日々曹操から受けていた恥辱で溜まりに溜まったフラストレーションが、一刀の矛によって爆発的に解放された絶叫だった。
袁紹観光部隊は、二人の邪魔をしては悪いと思ったのか、ぞろぞろと引き返していった。
ちょっと腰を引き気味だった。
一応、目的は果たした関羽だった。

曹操は、もう関羽たちが愛し合っている様子を見るのに耐えられず、泣きながら烏巣の城内に走っていった。





あとがき

烏巣の回にたくさん感想が着ていました。
どうもありがとうございます。
あの感想に対する回答は次回更新後行う予定です。
ある程度は本文中に記載しておきましたが、結構沮授の作戦に近い感想を書いていた方もいらっしゃいました。
まあ、親切心で曹操に加担したわけではありません、ということだけは記載しておきます。



[13597] 義理
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:37
義理

 曹操は泣いていた。
床に蹲って、本当に悔しそうに泣いていた。
袁紹に馬鹿にされ、旧友の許攸にまで哀れみを受け、そのうえ関羽もあの憎い一刀の許へ行ってしまった。
人生最悪の日だ。

「華琳様……」

そこにやってきたのは荀彧と夏侯惇。

「なによ!」

涙を隠すこともせずに、二人の方に向き直る曹操。

「君主の怒り、悲しみ、憎しみ、そういった負の感情を鎮めるのは臣下の務めと考えます」
「ですから、華琳様のそのお気持ち、私達が受け止めます」

曹操は二人を見て、

「覚悟はいいのね?」

と、念を押す。


暫く時間が過ぎて………

「あ~ん、かりんさまぁ~、もうゆるしてくださ~い」
「うっ、ああっっ、かりんさま、おゆるしください」

曹操に虐められて喜んでいる変態2名がいた。

「桂花!春蘭!当初予定通り、呉を叩くわよ!
徹底的に叩くわよ!」
「「ぎょい……あはぁん」」

曹操の怒りの矛先は、呉に向かうことになった。



沮授の作戦は次のようなものだった。

劉協の希望である、民の救済は真っ先にしなくてはならない。
一番簡単なのは、漢から人間が出向いていって魏の人々に食料を支援するという方法。
この方法だと魏の民は曹操を見捨てるだろうから、魏は滅びるだろうが、曹操や彼女に仕える将・参謀は漢に叛いたままだから、どこかに逃亡して後々禍根を残す可能性が高く、これはあまり取りたくない策である。
曹操が、「私が悪かったです」と頭を下げるシーンは想像できないから、この案は却下。
だから、どうにか曹操を倒して、臣下に下るなら臣下にして、下らないなら一族郎党殺してしまう必要がある。
そうすれば禍根もなくなる。

次に何も条件をつけずに食料を渡す方法。
これも一つの策ではあるが、最終的に魏が滅びるまでの道筋が明確でない。
魏の民が曹操に反抗し、それを曹操が押さえつけ、ということが起こってしまうと、折角餓死は逃れたのに戦死してしまう可能性もある。
これも今一つ面白くない。

というわけで、沮授が取った策は、ほとんど「くれてやる!」という状況で山のような食料を曹操に渡してしまう方法だ。
そうすると、渡された状況は兎も角、とりあえず食料を支援されたという事実は覆せないから、一応恩を受けたことになってしまう曹操である。
しかし、恩と一緒に怒りも生じるから、どうにかその怒りを発散させなくてはならない。
今すぐに袁紹に楯突くのは流石に仁義にもとる行為であり、そうなるとその向かう先は呉しかない。
恐らく、荀諶が使者に行った後に曹操は呉の侵攻を決めているだろうとは予想していたが、万が一侵攻先が漢になると面倒なので、確実に呉を攻めさせるための布石でもある。
そして、呉を曹操に滅ぼさせておいて、国力が圧倒的な漢が曹操を滅ぼせば楽に魏と呉を滅ぼすことができるというものだ。
逆に、魏が呉に滅ぼされたらやっぱりぼろぼろになってしまった呉を叩けば簡単に魏と呉を滅ぼすことができる。
だが、沮授としては魏が勝ってくれた方がありがたい。
魏を倒すなら許都で済むが、呉を倒そうとすると建業かどこか、呉の領土まで行かなくてはならない。
だから、十分に飯をくれてやって、怒りスパイスも添加すれば元気百倍で呉を叩いてくれるに違いない。
呉の残党がいれば、それも考えなくてはならないが、曹操軍よりは簡単に掃討できる雰囲気はある。

そこまで考えての沮授の作戦だった。
確かに、おとなしい顔をしてえげつない作戦を考えるものだ。

最初に荀諶を送ったのは、その後、本命の旧友の許攸を送るため。
一度は袁紹に逆らっておいたほうが許攸を受け入れやすいだろうという考えである。
これが、今回の烏巣での作戦の概要である。

沮授の作戦は、その後、魏を滅ぼすところまで展望があるが、それは追って明らかになる。
うまくいくかどうかは別であるが、これまでのところ曹操は沮授の掌の上で踊っているように見える。



袁紹軍は、最初は食料運搬に普通に兵と将を送ろうとしたのだが、一刀が顔良、文醜は絶対駄目!というので、だったらどうせ茶番の攻撃なんだから、普通の農民でも観光目的で遊ばせてこようと言うので、引率は農民の支持が強い一刀になったのだ。
農民も、農閑期で仕事もない時に、些少ではあるが臨時収入も入り(要するにアルバイト)、河水を見ることが出来ると喜んでいた。
おまけに、旅中の食事なんかも支給されるし、いいことづくめ。
まあ、烏巣に食料を運び入れると言う仕事はあったのだが、危険を伴う仕事ではない。
そして、食料を運び入れた後に、烏巣を離れて待っていたというわけだ。

食料の搬入は結構大変だった。
流石に千万石の食料である。
量が半端でない。
50万人の人間を擁し、荷車や船を何往復もさせて、結構苦労して運び入れたのである。
沮授が新たなシナリオを考えてすぐに運び入れ始めていたが、それでも相当時間がかかる。
許攸は運びいれが完了するのを待っていたのだった。

一刀が出かけるので、呂布や陳宮も一緒だが、今回は完全に観光気分。
一刀に危険が及ぶようであれば呂布が動くだろうが、全くそんな様子はないので全員で烏巣からぞろぞろと退去していった。
それに、あの状態で何か危ない状況が起これば、関羽が助けてくれるだろう。




そのころ、烏巣の城外では……

下半身から一刀エネルギーを受け取った関羽が、ほっとしたのか一刀に抱かれて幸せそうに眠ってしまっていた。
今は給油プラグは外されている。
関羽が一刀と最初に抱き合ったのは、まだ昼間だったが、眠っているうちに日が落ちてしまって、今はもう真っ暗だ。
街灯もないから、月と星だけの明るさで、現代の感覚からすると本当に真っ暗だ。

「ん、ん~~……」
「あ、愛紗さん、目が覚めました?」
「一刀さん。
夢ではなかったのですね?」
「ええ。愛紗さんが余り激しく欲するので、思わず服を着たままやってしまいました」
「そんな……あまり恥ずかしいことを言わないでください」

口では恥ずかしそうだが、嬉しそうにしっかりと一刀に抱きつく関羽。

「それで、何で曹操さんのところにいるんですか?」
「色々………あったんです。
色々………辛いこともあったんです。
それで、一刀さんに慰めてもらいたかったんです」

関羽が曹操に何をされているか、何となく分かる一刀である。

「愛紗さん、このまま麗羽様のところに行きましょう。
曹操兵もいませんし、このまま去っていっても誰にも止められません。
麗羽様のところだったら、そんな辛いこともないと思います。
俺が何とかします」
「ありがとう、一刀さん」

と、一刀の意見を受け入れるかと思われた関羽であったが、

「でも、私は曹操の臣下、曹操様の許を離れるわけにはいきません」

と、拒否してしまうのである。

「え?!でも、曹操さんのところにいると辛いんでしょ?
そこまでして曹操さんに義理立てすることもないでしょう」
「これは私自身のけじめです。
だから、一刀さんが何を言っても意志を変えるつもりはありません」
「でも……」
「お願いです。これ以上私を困らせないでください。
その代わり、一つだけお願いが」
「何ですか?」
「明日の朝まで、私に元気をください。
もう、あたりも暗くなっていますし」

一刀は、関羽の服に手をかけた。



翌朝、関羽は脱ぎ散らかされた服の埃を落とし、それを身に付け、身だしなみを整えて、烏巣に向かった。
朝日の中の関羽の裸はヴィーナスの誕生のように美しかった。
一刀も、業都に戻るため、他の農民がいるところに向かっていった。


「関羽じゃないの。
あのまま袁紹軍に下るかと思ったわよ」

戻ってきた関羽を出迎えたのは、曹操の嫌味な言葉であった。

「私は曹操様の臣下ですから」
「あんなことを見せ付けられて、臣下に留め置くことができると思っているの?
もう、顔も見たくもないわ。
とっとと出て行きなさい!
あの男のところでも、どこにでも行くがいいわ!」

関羽は曹操のところを追い出されてしまった。
そして、関羽の向かった先は……劉備のところだった。
烏巣を離れるときに、夏侯淵が曹操に隠れて路銀を渡していた。
関羽の将来は不明だが、旅は無事に進むことだろう。



「ただいま」

一刀も自分の部屋に戻ってきた。
部屋には田豊と沮授がいる。
田豊は窓の外を見てたそがれている。
沮授は座って本を読んでいる。
既視感のある風景だ。
そう、一刀が業に最初に来たときに見た風景と同じようだ。

「?…………………………………ただいま」

返事がないので、一刀がもう一度声をかけるが、二人とも一刀に返事をせず、代わりに田豊が窓の外から視線を動かすことなく、沮授に話しかける。

「ねえ、清泉、知ってる?」
「何をですか?」

沮授は本に目を落としたまま答える。

「袁紹軍が烏巣を攻めたでしょ?」
「ええ」
「その時、曹操軍に一人で向かっていった男がいるのですって」
「そうなのですか。それは勇敢なことですね」
「ええ。でもね、それからその男は敵の女の将と、何十万もの人々が見ている前で愛し合い始めたんですって」
「そうなのですか。それは別の意味で勇敢なことですね」
「しかも、その男、正室がいるらしいのよ」
「それは大変ですね。
一体その後どんな顔をしてご正室と顔を合わせるのでしょうね?」
「本当ね。見ものよね。
それでね、その正室って私達らしいのよ」
「まあ、大変。どうしましょう?」

田豊の視線が室内に移る。
沮授の読んでいた本がぱたりと閉じられる。
二人の淀んだ視線が一刀を捕らえる。
その間、一刀はぺこぺこと土下座をして謝るしかないのである。

その後、一刀は正室たちの気持ちを鎮めるのに二日二晩不眠不休で閨で戦い続けたのであった。


そして二日後……

 一刀はげっそりとやつれていた。
 正室たちは光り輝いていた。



[13597] 思惑
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/04/18 22:45
思惑

 曹操軍、荀諶が帰ったときから呉の侵攻準備を進めていたので、それからすぐに呉への侵攻準備が整った。
だが、だからすぐに出発!というほど事態は単純ではない。

「私たちが呉に攻め込んでいったら、袁紹軍がこれ幸いと兌州に攻め込んでくるのでしょうね」

そう、袁紹対策である。
劉協のおかげで今のところ小康状態を保っているが、いつまでもそれが続くとは考えられない。
食料の支援も終わったことだし、もう劉協も進軍を止める口実は持っていないに違いない。
だから、曹操軍が手薄になったら攻め込んでくることは十分に考えられることだ。

「はい、濮陽ですら半日で落とされましたから、守備兵も相当に準備して、尚且つ最新型の弩への対応もする必要があります。
これについては諸葛亮の楯と城壁に見張り窓を設けるなど、いくつも対策を施していますから、問題ないと思いますが……」
「他の方法で攻め込んでこられないとも限らないわよね」
「はい。濮陽も経験したことの無い攻撃でやられましたから、まだ我々が知らない攻撃方法がないとも限りません」
「野戦しても十分な兵を残さないと駄目ね。
それも一箇所に。
桂花ならどこを攻める?」
「私でしたら、官渡は放っておいて許都を落としに向かいます。
柳花が『次は官渡』と言っていたのも、許都を手薄にする作戦の一環と考えます」
「風は?」
「同じく、許都を狙います」
「そうでしょね。私もそう思うわ。
では、官渡は見張りの兵を数百残すのみ、15万の兵を許都に集結、将は秋蘭、軍師は風、残りは呉の討伐に向かうこと」
「「「御意!」」」


そう、それこそ沮授の考えていた作戦そのものである。
曹操軍を倒すときは、官渡は放っておいていきなり許都を落としにいく。
許都を落とせば曹操軍は敗れたのと同義だから。
曹操が呉を倒した後、まだ戻ってくる前に許都を落とせば、楽に魏と呉を滅ぼすことができる。
荀彧や程昱の考えた作戦そのままである。
どうやら、軍師と言うのは大体いやらしい作戦を考えさせたら同じようなことを思いつくようだ。
だが、沮授の考えは曹操軍に予見されてしまっている。
沮授の作戦、うまくいくだろうか?



 さて、曹操が攻め込んでくることになってしまった呉。
ただ黙って敵が来るのを待っているだけでもない。

「全く、曹操は袁紹討伐にでも向かってくれれば私たちも国の建て直しに時間を割けたのに、全く袁紹は食料支援なんて余計なことをしてくれたわよね」

孫策がぷりぷり周瑜に文句を言っている。

「きっと、曹操を我々に向けるための袁紹の作戦なのだろう」
「山のように食料があるからって、めちゃくちゃな作戦を考えるものね」
「まあ、そのおかげで実際に民も助かっているようだから、必ずしも悪いこととはいえないが、我々にとってみればとんだ災難だな」
「でも、だからって私たちだって、はいそうですかって負けるわけにはいかないのよ。
曹操も私たちのところに攻め込んだことを後悔させてあげるわよ」
「そうだな、その意気だ。
それで、どこで曹操軍を迎えることにする?」
「合肥あたりでどうかしら?」


合肥といえば、確かに曹操と孫権が戦った場所である。
が、そのとき合肥は曹操の城だったので、状況がまるで逆だ。
史実では孫策は既に死んでいる。
そのときの曹操軍の守備は張遼・楽進・李典だったが、楽進は既に袁紹に捕らえられているので、これも史実のトレースは無理らしい。

呉が戦うなら、呉の人間はなんと言っても江の民、江での戦いの方が有利だろうとは思うのだが、如何せん袁術が国をがたがたにしてしまったので、まともな船が禄にない。
民間船はあるが、大きさ、装甲を考えると軍事には不向きだ。
軍船も作ろうとはしているが、他にやることが多すぎてそこまで手が回らない。
ほんの数年前は袁術のところに山のように船があったものを!
つまらない戦や整備不良でどんどん失ってしまった。
呉を興してからまだ1年もたっていない。
国としてまだ未熟なところに攻め込まれると、流石に厳しい。
赤壁のように、少数の船が特攻して、というのは背後に十分な船があるからできるので、少数の船しかないとやっぱり量に負けてしまう。
こんなことなら、呉も蝗にやられて、漢から食料を恵んでもらえたほうがよかったかも、とすら思ってしまう。
今からでも漢に下ってしまおうか?という悪魔の誘いをどうにか断ち切る孫策である。
ゲームの意思が働かなかったら漢に下っていたかもしれないが、三国志ベースのゲームの意思はちょっと意地が悪い。
それに、孫策とて陸戦が不得手な訳ではない。
だったら、孫家軍全軍が戦える陸戦がよいだろうというので選んだのが合肥である。


「また勘と言うやつか?」
「そうね。それもあるけど、地理的にいい場所だと思うのだけど」
「まあ、そうだな。
建業も空にしてもどこからも攻め込まれる心配はないから、全軍あげて合肥で曹操を迎え撃つとするか」
「そうしてちょうだい。
ところで、曹操軍っていやらしい武器をいろいろ持っているらしいけど、それに対する備えはどうなっているの?」
「何れも実物を目で見ていないので細かいことは分からないが、話によれば曹操軍の新兵器は弓、霹靂車、元戎の3つだそうだ。
弓は袁紹軍が用いていたものと同等なものが出来たらしい」
「あの袁紹軍の弓ね。
氾水関で袁紹軍の弓を見たときは、背筋がぞっとしたわよ。
今、こんなの相手にしては勝てないって。
でも、それを再現するなんて曹操軍もすごいわね」

どうやら、見るべき人は袁紹軍の様子を逐一見ているようだった。

「これは、もう各兵の防御を高めるしかあるまい。
体の前面を覆う楯と、上からの攻撃を防ぐ甲冑、その装甲を厚くして矢を防ぐしかないだろう」
「でも、そうすると機動性が悪くなるじゃない?」
「だから、敵と接触するまではそれを使って、敵と接した後はそれを外してしまう。
あとは、兵の練度が雌雄を決するであろう」
「なるほどね。
それで、他の兵器は?」
「霹靂車、元戎何れも機動性には劣るようだ。
だから、煙幕で視界を防いでおき、その間に我々が敵に近づけば、霹靂車、元戎何れも役には立たないだろう。
近づく間に矢が射られると困るので、先ほどの楯が必要になる」

煙で相手を攻め立てると言うのは孫策対黄祖の沙羨の戦いで見せた作戦だ。
たしかに、個々の事例は史実に類するものが多いが、出現順序も出現場所も全くでたらめだ。
まあ、恋姫世界に史実を持ってきても全く意味はないのだが。

「煙?そんなにうまくいくの?」
「風向きはこの時期基本的に北西だが、時々東南の風が吹く。
風を待てるだけ我々が耐えれば、あとはうまくいくだろう。
煙を多く出すためには枯れ草に事前に水をかけておけばよい」

赤壁の戦いと同じ戦法のフロアプランは、このとき既に周瑜の中に出来上がっていた。
この戦い方を河で行ったのが、まさに赤壁の戦いといっていいようなものだから。
だが、演戯ではどういうわけか作戦立案は諸葛亮になっている。
周瑜が聞いたら怒り狂うところだろう。

「ふーん、そうなんだ。
耐えればってところがちょっと問題だけどね。
曹操、それまで待ってくれるかしら?
それに、そんな煙の中を歩いていけるものなの?」
「袋で口許を覆っておけばその程度の距離なら何とかなるだろう。
曹操が待ってくれなかったら、火のつける位置を変えるか何かして臨機応変に対応するしかあるまい」
「わかったわ。それじゃあ合肥に全軍を進めましょう」
「そうだな」

このとき、孫策軍はまだ曹操軍が袁紹軍の真似をして作った対城攻撃兵器の衝車と霹靂車の存在を知らない。
その破壊力は、周瑜も想像できないものだった。



同じ呉の中でも考えが統一されていると言うわけでもない。

「思春、明命、聞いておいて欲しいことがあるの」
「は!蓮華様」
「はい、蓮華様」

孫権が腹心の甘寧、周泰を呼んで極秘の話をしている。

「以前、天の御遣いといわれている男と話したときに言われたことがあるの。
孫家は滅ぼされるとしたら、袁紹ではなくて、曹操だろうと。
この話はお姉様にも冥琳にもしていない。
その男は、これはあくまでも例えの話で、そのとおりになるかどうかわからないと言ってはいたけど、何かその男の台詞からは実際の未来を感じられる。
私達が袁術を倒すだろうと言うことも知っていた。
戦う前から負けることを気にしたらお姉様は怒るでしょうけど、滅ぼされるのと、逃げ延びて再び機会が巡ってくるのを待つのであれば、私は後者を選びたい。
お姉様が聞いたら、何て弱気な!と、これも怒るでしょうけど、それが私の信念。
お姉様も冥琳も失いたくない。
間もなく曹操軍と正面からぶつかることになるけど、これで最後まで戦を続ければ曹操か孫家かどちらか一方が滅亡する。
だから、孫家が負けそうになったら逃げるのに協力してもらいたいの」

甘寧も周泰も事の重大性に返事が出来ないでいる。
孫権も、それ以降言葉を紡ぐことなく、沈黙を保っている。
重い空気が場を支配している。

「わかりました」

暫く経って、甘寧はそれだけ答えて去っていった。

「了解です」

周泰もそれに続いて去っていった。


それぞれの思惑が絡み合い、合肥の戦いが始まることになる。



[13597] 先制
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:37
先制

 曹操は出立に先立ち、夏侯淵、程昱を呼んでこう言い伝えている。

「許都を攻撃された場合は五日、いえ三日持たせなさい。
そうしたら呉を攻め込んでいる私達が戻るから。
それだけ揃えば総戦力でも袁紹軍と互角になるでしょう。
何としても私が留守の間に許都を落とされる真似だけはしないように!」
「「御意!」」

一応準備はしたものの、それでも不安な曹操は、呉を攻める本体がいつでも許都に戻れるよう準備はしておくことにした。
確かに曹操本体が戻れば、いくら袁紹軍が強いと言ってもそう簡単には許都を落とせないだろう。
沮授ら、袁紹軍に与えられたタイムリミットは攻撃開始から3日間。
その間に許都を落とすことができたら袁紹軍の勝ち、落とせなかったら混沌とした戦闘が続く可能性がある。
とはいうものの、袁紹軍が許都を落としに行くのは、呉が破れてからの方がいいから、そうなると袁紹軍が許都を攻める日程は本当に極めて限られるものになる。

まず、呉が破れたと言う情報が袁紹軍に齎される。
それが齎されてから袁紹軍が許都を攻め始める。
だが、情報伝達と一緒に曹操軍も許都に戻っている。
情報伝達の速度と曹操軍の速度が一緒だったら、袁紹軍が許都に着くときには、曹操軍は既に許都についてしまっていることになる。
これでは、留守の間に、という作戦にならなくなってしまう。

かといって、フライングで許都を攻め始めたら、呉が破れる前に攻撃を開始することになり、曹操は呉を破る前に戻ってきてしまうから、楽に2国を潰すと言う作戦でなくなってしまう。
そんなピンポイントのタイミングで許都を攻め落とすことができるのだろうか?

それとも、曹操軍が戻ってきてから叩くのだろうか?
曹操軍も孫策軍との戦いで疲弊していたり、数を減らしたりしているだろうから、それはそれで有効な作戦の気もするが。



袁紹軍の心配はおいといて(って、実はこの話は袁紹伝なのですが……)、曹操の進軍の話を進める。
曹操軍、事前に入手した情報を元に、孫策のいるであろう合肥目指して一直線に進む。
合肥は揚州の豫州に近い位置にある街で、曹操軍が途中他の敵と会うことはなく、いきなり曹操軍と孫策軍が対峙することになる。
戦う場所が許都に近いというのは曹操にとっては有利な状況である。
これが、広大な揚州の奥深くに逃げ込まれた、というようなことが起こると、曹操軍は許都に戻ることを考え侵攻を諦めなくてはならない状況になったかもしれないが、孫策も曹操同様敵とは正々堂々と戦うと言う性格なのか、合肥に全勢力を動員している。
袁紹軍との共闘であれば、曹操軍を遠くに遠くに引き離していくという戦術も有効だろうが、単独行動なのでそんなことをしても孫策軍にはそれほどメリットはない。
船が十分あればそうしたろうが、残念ながらないものはない。
むしろ、揚州の民を守ると言う見地からは揚州に被害が及ぶ前に曹操軍を叩くべきだから、豫州との州境に近い位置での戦いの方がよい。
という双方の思惑が一致して合肥での戦いが行われることとなる。



曹操軍、合肥に着くなり衝車と雲梯車の組立を開始する。

「あれ、なあに?」

遠目に見える得体のしれない物体に孫策が興味を示している。

「さあ。元戎は弩の一種だそうだから、違うようだ。
霹靂車だろうか?
でも、確か霹靂車とは岩を飛ばす道具だと聞いているのだが、何となく想像していたものと違うな。
箱とカブトムシだな、あれは」
「冥琳の知らない兵器なんじゃない?」
「そうだとするとまずいな。
あの兵器の特徴を知って、それから対策を考えなくてはならないが、そんなことをする前に負けてしまうかもしれぬ。
まあ、あの格好から想像するに、箱はあの上に乗ってそこから弓を射るものだろう。
考えは単純だが、効果は馬鹿に出来ないな。
それから、カブトムシはあの角で城壁を壊すものだろう。
構造は簡単だが、これもなかなか侮りがたいな」
「そうね。
でもまあ、私がどうにかするわよ。
ところで、この間言ってた風向きはどう?」
「今のところ悪いな。
戦う前に風向きが変わってくれればよいのだが。
曹操軍いつ攻め込んで来るだろうか?」
「明日じゃない?」
「私もそんな気がする。
だとすると、明日、攻め込まれる前に風向きが変わってくれなくてはならないが、厳しいかもしれぬ」
「困ったわねえ。
じゃあ、今の内に攻め込んじゃいましょうか?」
「……いいかもしれぬ。
暗くなってからな」
「ええ。それなら、白兵戦になるし、曹操軍20万といっても、かなりの兵が得体のしれない兵器の組立に従事しているから、私達10万の兵といい勝負になるでしょう。
不意をつく分、私たちの方が有利よ」
「そうだな」

孫策軍は夜襲に備え、休憩をとる。



そして、夜半。
孫策軍の兵は、静かに合肥を出る。
夜襲に参加するのは結局2万。
あまり大勢が一箇所に密集すると、動きづらくなるので大軍で攻めればよいというものでもない。
曹操軍の布陣からして、2万程度の兵で攻めるのが丁度よいという判断だ。
曹操軍に気取られないよう、灯りも消して、静かに曹操軍陣営に近づいていく。
地形は熟知しているから、灯りがなくとも軍を進めることが可能だ。
地の利を生かした作戦である。
曹操軍では、未だに一部兵士が兵器の組立を続けていて、その所為か陣地全体が明るく照らされている。
他の兵は寝ているのだろう、どこにも姿が見えない。
新型兵器は天幕の更に奥に置かれている。
兵器の手前には山のような天幕。
曹操兵はそこで寝ていることだろう。
見張りはいるが、まだ孫策軍には気がついていないようだ。
見張りとの距離はおよそ20m。
もう、目と鼻の先だ。
孫策は深呼吸を一回して、全軍に指示を出す。

「突撃ーー!!」

孫策軍2万の兵が一斉に曹操軍に襲い掛かる。
見張り兵は、敵襲を告げ、大急ぎで陣営の深くに逃げ込んでいく。
孫策軍は、天幕を片っ端から破っていくが、中は無人だった。
明るくなっている曹操軍陣営に孫策軍が飛び込んでいくのだから、自ら的になるためにでてきてしまったようなものだ。

「しまった!」

孫策は後悔したが、もう遅い。

「撃てーー!」

曹操の指示で、曹操軍の弓が雨霰と孫策軍に襲い掛かる。

「撤収ーー!!」

敵に一太刀も浴びせることなく、無様に撤収していく孫策軍だった。
曹操軍だって、そのくらいの作戦は十分承知していたのだった。
曹操軍の方が一枚上手だった。


孫策の傍で、ばたばたと兵が倒れていく。

「ぐっ!」

孫策も、右肩に激痛を感じるが、止まるわけにはいかない。
どうにか合肥の城まで歩を進める。
城に辿り着いたのは、城を出た兵の僅かに半分、一瞬で一万もの兵を失ってしまった孫策であった。
孫策軍、完敗だった。



[13597] 合肥
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/04/20 22:22
合肥

「敵の方が上手だったわね」

傷の治療を受けながら、孫策が傍で心配そうに見ている周瑜に話しかけている。

「ああ。誰しも考えることに大差ないということだ。
我々の士気が下がったところで、明日朝一気に攻め込んでくるのだろう。
曹操軍もやるな」
「ええ。敵を倒すどころか、触れることすらできなかったわよ」
「ところで、怪我は大丈夫か?」
「ええ、このくらいかすり傷よ」
「そうか?その割りに深々と刺さっていたようだが」
「うるさいわよ!
かすり傷といったら、かすり傷。
それより、あの弓の対策、大丈夫なのでしょうね!」
「自信はないが、やることはやったつもりだ。
敵が遠くにいる間はこちらの弓は届かないから、ひたすら楯で耐える。
そして、敵が近づいてきたら楯と城壁の隙間から射るというのが作戦なのだが……」
「まず防げるか、それから射た弓があたるか、それが問題ね」
「そうなのだ。
試した感じでは、いい具合だったのだが……」
「まあ、明日の様子をみてみましょう」
「そうだな」



 そして、夜が明ける。
曹操軍から、曹操が数名の兵を引き連れて、馬でやってくる。

「孫策!聞いてる?
今投降したら、重用してあげるわよ。
昨夜の戦いで、あなた達が勝てないことはわかったでしょ?
私も無益な殺生はしたくないの。
今、あなた達と戦ったら、後々弱いものいじめの曹操と言われる気がして、あまり気が進まないのよ」

まったく、投降を促しているのか、挑発しているのか分からない曹操に、孫策が城壁の上から答える。
一刀が見たら、「あれ~?孫策、生きてる」と思ったかもしれない状況だ。

「ありがとう、曹操。お気遣い感謝するわ。
でもね、もうすぐ大陸を統べる私は、誰の臣下にもなる気がないの。
反対に、曹操が私の臣下になるなら、州の一つや二つ、任せてもいいわよ」
「あらそう。
どうやら、私達の考えが一致することはなさそうね」
「ええ、そうね。
もうすぐ、負けた曹操軍が敗走していくのを思うと不憫だわ」
「私も孫策がここで命を落とすのかと思うと、思わず涙が溢れてしまうわ」

二人は、そのまま睨みあって、それから曹操は自軍に戻っていく。

「攻撃開始!」

曹操の声が曹操軍内に響き渡る。

弓隊を乗せた雲梯車がずりずりと城壁に近づいていく。
孫策軍の弓の射程外なので、孫策軍はただ楯で自分の身を防ぐことしかしていないが、曹操軍もどうせ撃つなら敵に近づいてからの方がいいと思っているのか、何もせずに近づいていくだけだ。
そして、そろそろ曹操軍が孫策軍の射程に入るというところで、雲梯車が止まる。

「来るわ」

孫策がつぶやくように周辺の兵に注意を促し、自身も緊張を高めていく。
だが、飛んできたのは矢ではなく岩。
雲梯車に隠れるように霹靂車が配備されており、その射程に城壁が入ったので、岩をぼかぼか撃ち始めたのだ。

「な、なんなの、これは?」

流石の孫策もなす術がない。
そして、岩を避けようと右往左往しているところに、弓が射込まれる。
それに前後して、衝車が城壁に突入する轟音が響く。

「孫策様!」
「何よ!明命。この大変なとき…何をす……」

孫策は、いつの間にか傍に近づいていた周泰に腹を殴られ、そのまま気を失ってしまった。

「明命!何をしている!」

そんな周泰の行動を叱責するのは周瑜。

「周瑜様、申し訳ありません」
「思春!」

だが、そんな周瑜も甘寧に気を失わされてしまう。

「聞け!皆のもの!
今から私が孫家軍の指揮をとる!」

孫策と周瑜が気を失ったのを見て、孫権が全軍に自分が指揮をとる宣言をする。

「今の状態では曹操軍に勝てない。
一旦撤退する。
全員、私に続け!!」

曹操軍の猛攻を受けている最中である。
曹操軍の攻めが、今までの戦いとはレベルが違うことは全員体で理解している。
孫権の言葉は強い説得力で全員を引きつけることに成功した。
孫家軍は、孫権に率いられ、蜀へと逃げていった。
ほぼ全軍が逃げ延びることに成功した。
曹操軍も、袁紹の攻撃が危惧されるので、孫家軍を深追いすることなく、呉の討伐で満足するのであった。

何で蜀まで逃げなくてはならないのか?という疑問もあるが、曹操と交戦を続ける限り、常に孫家滅亡の危機にあるという必要以上の危機感が孫権にあったのかもしれない。



 孫策らは、劉備に快く迎え入れられた。

「孫策ちゃん、曹操ちゃんにやられちゃったんだ。
今度、一緒に曹操ちゃんをやっつけようね!」

と、にこにこしている劉備である。


さて、その孫策。

バチーーン

と、孫権の頬をひっぱたいている。
いや、もう張り倒していると言ったほうがよい。
自分の肩の傷口が開くのも気にせず、力一杯孫権を殴っている。
孫権は床にひっくり返ってしまった。
頬は真っ赤だ。
孫策に矢傷がなければ、歯の一本も折れてしまったかもしれない。
だが、孫権は姉を恨むような表情も行動もしていない。
一方の、孫策の顔は、怒りに満ち満ちている。

「お姉様、申し訳ありません。
出すぎた真似をしました」

謝る孫権に、もう孫策は怒りの余り声も出ない。

「雪蓮、止めておけ。
蓮華様の判断は適切だった。
あのまま戦いを続けても殲滅させられただけだろう」

孫策はそう戒める周瑜をも睨みつけ、そのまま黙って宛がわれた部屋に引きこもってしまった。



[13597] 敗北 (R15?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/04/24 16:13
敗北

 さて、曹操は再度孫家軍が攻めてきても大丈夫なように張遼・李典を合肥において、急いで許都に戻る。
袁紹軍だと予想が立てにくいが、あの孫家軍であれば残存勢力8万程度であれば5万の兵を残した合肥を攻めきることは出来ないだろうから、これで徐々に、曹操が呉を倒し揚州・荊州を治めるように変わったと触れ回れば揚州・荊州が曹操領になるだろう。
統治はそれはそれで考えなくてはならないが、それはおいおい考えていくことにする。
食料も、幸か不幸か袁紹が只でくれたので、とりあえず一息ついている。

だが、もう一方の袁紹はそうはいかない。
兵の疲労も少なくないだろうが、それでも大急ぎで許都に戻らなくては、いつ袁紹が攻めてこないとも限らない。
だから、曹操は疲れる兵を叱咤激励して、許都に戻る。

許都までの行程は出かけるときに夏侯淵に宣言しておいた通り、3日。
普通なら早くて5日、通常の大規模な兵の移動なら10日かかってもおかしくない距離だが、それを曹操は本当に3日で帰ってこようとしている。


「明日は許都につくわね」

曹操が荀彧に話しかけている。

「はい、きつい行程でしたが、皆よく着いてきてくれました。
許都に袁紹軍が現れたと言う報もありませんから、どうやら全軍で袁紹軍に攻することができそうです」
「そうね。許都についてから、兵に休息の時間があればよいのだけど。
袁紹軍、いつごろくるつもりなのかしら?」
「さあ。このまま攻め込んでこないのであれば、今度は我々が軍備を整えて袁紹様に借りを返しにいくまでのことです」
「ええ、そうね。
借りは返さないとね。麗羽に申し訳ないから。
麗羽も、泣いて喜ぶことでしょうよ」
「はい、そう思います」

曹操も荀彧もにやりと嗤う。

「まあ、明日も強行軍よ。今日はもう寝ましょう」
「え?……その……もう寝るのですか?」
「桂花、そういう我侭を言う娘はお仕置きが必要みたいね」
「あ~ん、かりんさまぁ、そんなにわがままなんか、いっていませ~ん。
ゆるしてください」

だが、荀彧の表情は言葉とは裏腹にうっとりとしているのである。



 翌日、また曹操軍は朝から強行軍を開始する。
そして、ようやく夕刻近くになって許都が視界に入ってくる。

「………変ね」

曹操は、許都を見て違和感を感じた。

「何がですか?」
「桂花、御覧なさい。
城壁の上の柵が取り払われているわ」
「確かに。袁紹軍の新型の弩に対抗するためにわざわざ城壁の上に柵を作ったと言うのに、秋蘭は何を考えているのでしょうか!」
「そう……よね。秋蘭がやったのよね。
まさか一日で許都が落とされるはずはないわよね」
「………それはないと………………思いますが」
「一応、攻撃態勢をとって許都に近づくように」
「御意」

曹操軍は攻撃態勢をとって、ゆっくりと許都に近づいていく。
と、城壁の上に人影がぞろぞろと現れる。
そして、中央のやたら派手な金髪の女が話しはじめる。

「あ~ら、華琳ではないですか。
どこに行っていたのですか?
許都がお留守でしたから、あまりに物騒ですから代わりに治めておいて差し上げましたわ。
オーッホッホッホ」

そう、やたら派手な金髪の女は当然袁紹。
思いっきりご機嫌である。
どうやら、許都はたった一日で陥ちてしまったらしい。
だが、一体どうやって?

「なんですって!
中にいた兵や秋蘭はどうしたのよ!」
「ああ、兵や将ですか?
ほんの少しいたようですが、みんな眠ってましたわ。
困ったものですわね~。
戦うときはおきていないといけませんわよね~。
その点、袁紹軍は皆起きてましたから、簡単に許都に入ることができたのですわ。
オーッホッホッホ!!」



 時は若干遡って、その日の朝。

「夏侯淵様!大変です!
城外に袁紹軍がやってきています!」
「何だと!」

見張り兵の声にたたき起こされた夏侯淵は、大急ぎで城壁に登ってみる。
そこには、ピンクの地に金色の袁の文字と色とりどりの花々が刺繍された、不必要に豪華な牙門旗が見える。
どう考えても袁紹の旗だ。

「全軍、攻撃態勢をとれ!」

夏侯淵が兵に指示をだす。
だが、兵はその声に一斉に夏侯淵に刃を向ける。

「……どういうことだ?」
「ごめんなさいね、夏侯淵さん。
昨晩のうちに、曹操軍、みんなやっつけちゃいました」

と、にこにこしながら出てきたのは顔良。


沮授は、荀諶と許攸を許都に潜り込ませ、許都の防衛の弱いところを調べさせてきていたのだ。
その結果、許都で弱いのは城壁に巡らせた柵だという結論に達した。
あの諸葛亮の考えた柵というか楯は攻撃を防ぐには有効だが、反面視界が制限されてしまうと言う問題があった。
このため、夜は城内から敵を見つけにくくなってしまう。
そこで、袁紹軍は曹操軍が帰ってくると分かった前日に一晩で許都を陥としてしまったのだ。

その方法は、まず兵が少しづつ城壁に近づいていく。
そして、一斉に城壁を登る。
袁紹軍の中でも精鋭を選んで、城壁を登る技術や敵を静かにする技術を叩き込んで、これに備えていた。
上ったら柵の楯の部分に隠れて、見張り兵がいなくなったところで一気に柵を乗り越え、見張り兵を倒す。
見張り兵がいなくなったら、もうあとは何でもやり放題。
城門を静かにあけて、そこから袁紹軍の本隊の大部分が入っていく。
兵舎がどこにあるかも、荀諶や許攸がしらべてあるから、そこに入って兵をみんな縛ってしまう。
殺さなかったのは、劉協ができるだけ人は殺さないでください、とお願いしたから。
こうして、その晩のうちに許都の中の兵は全て袁紹兵に変わってしまっていた。
許都の兵が15万いても、取り押さえる兵が15万以上いれば何とかできる作業である。
数千人漏れたって、大勢に影響はない。

そして、朝を待って、袁紹を含む部隊が許都に襲い掛かるふりをする。
だが、もうとっくに許都は陥ちてしまっていたのだった。
ここに沮授の作戦は成就した。
確かに、おとなしい顔をしてえげつない作戦を考え出すものだ。
曹操や孫策とは違い、正々堂々なんて微塵も考えていない。

「勝てばいいのです」



「麗羽!笑っていられるのも今のうちよ!
許都は返してもらうわ!」
「あら、どうやって攻めるのですか?
武器ももう碌にのこっていないのでしょう?
素直に降伏すれば命まではとりませんわよ。
オーッホッホッホ」

曹操は次第に怒りで燃え上がってくる。

「桂花!全軍で攻め込むわ!!」
「で、ですが……」

そんなことをしたら、山のような死者が築き上げられてしまう。
とても、採用できる策とは思えない。
だが、今の曹操、怒りで平常心を失っている。

「どんなに被害が出ようとも攻めきるわ!!」

そんなこと言われても、と荀彧は思うが、曹操の命令は絶対である。
仕方無しに、曹操に従い、特攻まがいの攻撃を仕掛ける。


曹操軍が攻め込んでくるのを見て、城壁の上からは、弓が雨霰のように降ってくる。
だが、不思議なことに弓は曹操兵にぶつかるのみで、命を奪うようなことはなかった。
その代わり、曹操軍の侵攻が、弓の攻撃で何故か緩んでしまう。

「華琳さま~~~」

最前線から夏侯惇が泣きながら戻ってきた。

「春蘭!何をしているの!
戦線を離れるとは将としてあるまじき行為!
今すぐ前線に戻りなさい!」

だが、夏侯惇、泣きながらこう続けるのである。

「もう、戦場はどこにもありません」
「何を言っているの!
あんなに矢が射込まれているじゃないの!」
「あれは矢ではありません。
このような檄です」

と言って、檄(細長い板)を曹操に渡す。
その檄には次のように書かれていた。


曹操変態
陵辱荀彧
肛門挿杭
緊縛快感


現代語訳
曹操は変態だ。
荀彧を陵辱し、その肛門に杭を挿し、緊縛して快感を感じている


「兵はこれを見て、士気を失っております」

それに対する曹操の答えは……

「………どうしてばれたのかしら?」

思わずずっこける夏侯惇。
そして、夏侯惇の闘志は、その日、戻ることがなかった。

更に、城門の上の城壁の高いところに袁紹軍の動きがある。
そして、城壁の上から巨大な布をばさっと降ろす。
その布には、裸の曹操が椅子に座り、後ろ手に縛られ床に転がっている裸の荀彧の肛門の杭を、足で嬉しそうに弄っている様子、要するに檄で描写された風景が描かれていた。
いわゆる、超巨大春画である。
ご丁寧にも総天然色(フルカラー)!
脚を開いている曹操の女性自身の描写も丁寧。
当然モザイクはかかっていない。
控えめな胸も正確に再現されている。
もちろん荀彧の表情はうっとりとしているのである。
こちらの胸は、荀諶の意向もあり、かなり大きく描かれている。
自分と間違えられると嫌だということで。
一刀がゲームの絵を何枚か思い出し、絵師に頼んで書いてもらったものである。
絵の雰囲気は、リアルでなくアニメっぽい。
でも、誰が見ても曹操と荀彧だと分かる絵だ。
ゲームの絵とは荀彧の胸のサイズとモザイクの有無が違う。
劉協ができるだけ、死者が少なくなるようにと言うので、一刀が考え出した曹操軍のやる気を削ぐ作戦だ。
檄文も、状況を陳琳に説明して彼女に文面を作ってもらったのは、やはり一刀である。
ここにきて、ようやくゲームの知識が生かされた………………のかもしれない。
一刀にはおかずにするほどエロくないという判定を下された絵であるが、この時代の人々には効果絶大!
始めてみるアニメっぽい絵に、並々ならぬ欲情を示している。
曹操兵の攻撃は全くなくなってしまった。

「な、な、なんなの、あれは!
早く焼き払いなさい!!」

顔を真っ赤にして指示する曹操であるが、もう兵たちの動きは下半身を鎮めることに集中していて、曹操の命令を聞く余裕がない。
一応、各自の持っている砲で絵を攻撃しているが、射程が届かず…………というより、それは攻撃とは言えない行為である。
荀彧も顔を覆うばかりで、もう何もできない。

「曹操様!」

別の兵が慌てて曹操の元に走ってくるが……

「今度はなんなの!」

と尋ねる曹操の顔を見て、視線を顔から胸→下半身へと移し、顔をまっかにし、腰を引いて去っていってしまう。
服を着ているのに何故か裸を見られているような恥ずかしさを感じる曹操、思わず服の上から股間と胸を手で隠し、兵の後ろ姿を睨みつける。
兵にその気があったら思わず曹操に襲い掛かってしまうほどにエロ可愛らしい。
ついさっきまでは部下の士気を高めていた曹操が、今は部下の士気を削ぐように変わってしまった。
そして、その直後、文醜隊と呂布隊が曹操のところに突撃してくる。
曹操に呂布の方天画戟が向けられる。

「負けた……」

曹操の屈辱的な敗北だった。



あとがき
官渡編ですが、官渡での戦いはありませんでした。
出てもきませんでした。
許都も戦いと言っていいのかどうか……
烏巣も戦いといっていいのかどうか……
まあ、許都の方は曹操負けたので、戦いだったのでしょう。
R18ゲームでの敗北は、本当に屈辱的でした。

次回から赤壁編です。
赤壁の戦いがあるのかどうか分かりませんが。



[13597] 残虐 ―赤壁編― (グロ)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:39
残虐 ―赤壁編― (グロ)

 曹操は沮授と一刀の奇想天外な攻撃にあえなく敗れてしまった。
張遼らも、曹操が敗れた報を聞き、無抵抗で降伏した。
袁紹軍は一人の曹操兵を殺すことなく、曹操軍を破り去った。
名君と呼んでよい………………のだろうか?
…………よいのだろうか?
沮授の作戦は、作戦として立派だが、一刀の作戦はどうなのだろう?
まあ、効果はすごかったが。
日本の変態の勝利…………なのかもしれない。
何はともかく、これで袁紹は蜀を除く漢の大部分を制圧したことになる。
州で言うならば、益州を除くすべてが漢に戻ったことになる。
袁紹の人材は、話に登場しない人物もまだまだ多く、やたら豊富なので、各地の統治を任せるのに人材不足となることはない。
曹操と孫策が治めていた土地に州牧や郡太守など執政官を派遣し、袁紹の統治は磐石になっていった。



曹操は、業都に軟禁されている。
元曹操軍の将、参謀との接触は認められていないが、城内の移動はある程度自由である。
もちろん、武器の携帯は認められず、常に兵が張り付いているのではあるが。
そして、日々一刀に袁紹の臣下になるよう説得を受けている。

「ねえ、曹操さん。
負けたのですから、麗羽様の臣下になってくださいよ。
お願いですから」
「いやよ。
人の臣下になるくらいだったら、死んだほうがましよ。
覚悟はできているから、いつでも殺すといいでしょ?」
「そんなこと言わないで。
生きていればいいことがありますよ」
「だいたい、あなた、私をどれだけ辱めたか覚えているの?
私の裸の絵が全員に見られているのよ。
あんな辱めを受けて、おめおめと生きていられる訳がないでしょう」
「まあ、あれはちょっとごめんなさいです。
でも、ただの絵じゃないですか。
曹操さんに似ているという気もしますが、目も不自然に大きく、別人でしょ?」
「誰が見ても私と桂花だと分かるでしょう!
まあ、可愛さは……ちょっと私にはかなわないようだったけど」

結構気にしているようだ。

「それに、あの絵は大体事実なのでしょ?」
「う、うるさいわね。
そんなこと答える必要ないわよ。
それに仮に事実だとしてもそれを公にしていいものでもないでしょう」
「俺もちょっと強烈過ぎたかなとは思ってますが、おかげで誰も死なずに済みましたよ。
それなのに曹操さんが死んだら、部下の人が悲しみますよ」
「私がそういう人間でないことは部下も知っているわ。
私はね、そんなふうに哀れみをかけられるのが大嫌いなの。
そんな生き方を続けるくらいなら死を選ぶの」
「まあ、人の気持ちは変わるものです。
また明日来ますから考え直しておいてください」
「何度来ても無駄よ。
早く私を殺すことね」

だが、曹操は毎日一刀の申し出を拒否するのである。
そんなことが3日続いた。


そして、4日目。
その日も曹操は袁紹の臣下となることを拒否するのである。

「まあ、曹操さんの決心が固いことはわかりましたけど、そろそろ曹操さんが拒否したことで何が起こっているか現実を見てみてはどうですか?」
「………何よ、それは?」

曹操は怪訝な様子で答える。

「すみませーん、みんなを入れて下さい」

一刀が兵達に声をかけると、兵は縄で縛られた3名の女性を部屋の中に連れ込んでくる。
ただ、一人は歩けないようで、箱の上に座っているところを箱ごと運ばれている。
3名の女性は、夏侯淵、荀彧、程昱だった。

「秋蘭……桂花………どうしたの?その体は?」

曹操が怯えたように二人に尋ねかける。

「華琳様、私も姉者とおなじ片目になっただけです。
慣れれば全く問題ありません」
「華琳様、足がなくても、軍師は頭があれば大丈夫です。
私も今までと同じように仕事ができますから」

夏侯淵と荀彧が、蒼い顔色をしながらも、そう笑って答えるのである。
そう、夏侯淵は片目を包帯で覆っていて、その目の辺りが赤く染まっている。
荀彧は箱に座って脚を伸ばしているが、左足は膝から下が見当たらず、膝のあたりに包帯が巻かれていて、その包帯も真っ赤、箱にまで血が滴っている。
血の臭いがきつい。
曹操はよろよろと夏侯淵、荀彧の許に向かおうとするが、兵に妨げられてしまう。

「どうして……どうしてこんなことに……」

それには一刀が答える。

「曹操さんが拒否するたびに、部下の人を一人、体を傷つけさせてもらっただけです。
初日は夏侯惇さんの舌を焼きました。
二日目は見てのとおり、夏侯淵さんの目を一つ潰しました。
三日目は荀彧さんの足を切り落としました」
「春蘭!……春蘭はどうしたの?」
「姉者は……その……」

夏侯淵は言いにくそうに目を逸らしている。

「ああ、夏侯惇さんですね。
ええ、舌を焼いたときに口の中があちらこちら焼けてしまって、それが原因となったのか、次の日から熱が出て起き上がれないですね。
このままでは何も食べられず、衰弱死してしまうかもしれませんねえ。
そして、今日曹操さんが麗羽様に仕える事を拒否したら、焼けた鉄の棒を使って程昱さんが子供を産めない体になってしまうことになっています。
曹操さんの所為ですからね、こうなったのは。
素直に麗羽様の臣下に下ってくれればこんなことはしなくて済んだんですよ」
「だ、大丈夫です、華琳様。
私のことなど構わず、華琳様はご自身で進むべき道をお選びください」

と、程昱は震えながら訴えるのである。

「うわーーーーーーーーーーーっっ」

突然、顔を覆って大声で泣き出す曹操。

「一刀!お前は鬼よ!悪魔よ!
お前なんか地獄に落ちるがいいわ!」
「そうですか?瑯邪国で何十万もの人々を殺した曹操さんよりはましだと思うんですけど。
俺、一人も殺してませんし」

と、泣き叫ぶ曹操に動揺することもなくあっさりと答える一刀である。
それを聞いた曹操、泣きはらして真っ赤になった目で一刀を睨みつけ、

「ええ、いいでしょう!麗羽の臣下に下りましょう!
その代わり、お前はこのことをきっと後悔することでしょうよ!!」

と、一刀に怒鳴りつける。
だが、一刀はにっこりとして、

「それはよかったです。
麗羽様もお喜びになることでしょう」

と答えるのみである。
とても素直な臣下になるとは思えないのだが、いいのだろうか?







あとがき
ちょっと描写がきつすぎたかも、とは思ったのですが、そう簡単に曹操が臣下になるとも思えないので、ちょっと表現をきつくしました。
まあ、今までの経緯から今後の予想は大体つくとは思いますが。



[13597] 演戯
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:40
演戯

 曹操は一刀に連れられて、劉協、袁紹の許に向かっている。

「あの、曹操さん」
「何よ!」
「お二人の名前は、陛下と袁紹様と呼ぶようにしてくださいね。
俺も、程昱さんを傷つけたくないですから」

曹操は、一刀を睨みつけることで、答えとする。


「陛下、麗羽様。
曹操さんが臣下になってくださると言うことですのでお連れしました」
「そ、そうなのですか。
よく説得できましたね」

袁紹が驚いたように答えている。

「陛下、袁紹様、この曹操、陛下と袁紹様にお仕えすることを誓います。
ですが、きっと私を臣下にしたことを後悔する日がくるでしょうよ」

曹操は跪きながらも、泣いて真っ赤になった目で、二人を睨みつけている。
劉協も袁紹も引き気味である。
というより、劉協は怯えている。

「曹操さん、もう少し臣下らしいことを言ってくださいよ」
「突然寝首をかかれるよりはいいでしょ!
陛下も袁紹様もそれを覚悟して私を臣下にするのでしょうから!」

嗜める一刀に、曹操は全く悪びれる様子もなく答える。

「あの……一刀?」
「はい、何でしょうか、陛下」
「この者を臣下として大丈夫なのでしょうか?」
「…………大丈夫だと思うのですが……」

と、怯える劉協に代わって袁紹が一刀に勅命を発する。

「一刀!華琳は一刀の部下とすることにいたしますわ。
何事も起こらないように、しっかりと見張ることですわ。
いいですわね!」
「は?曹操さんが俺の部下ですか?」

呂布と言い、曹操と言い、どうやら、面倒な部下は一刀に押し付けてしまう困った袁紹であるようだ。

「そうですわ。
あなたが華琳の助命を強く懇願したのですから、あなたが責任を取るのは当然ですわ」
「はあ、わかりました」

もう、多少のことでは動じなくなった一刀だ。

「袁紹様、私をこの男の部下にしてくださった深慮に深く感謝いたします。
私は、この男の最期をみとどけて、それから心安らかに過ごすことができるようになるでしょう」

曹操も一刀の部下になったことを喜んでいるようだ。
……ちょっと違う。
一刀が死ぬのを目撃できる立場になったのを喜んでいるようだ。
そして、相変わらず真っ赤な目で冷たく一刀を睨むのである。
流石の一刀もちょっと引いてしまう。



「それで私は何をすればいいのかしら?」

劉協、袁紹への謁見も終わり、曹操が一刀に仕事の内容を聞いている。

「今のところ特にありませんから、元の臣下の人たちと再会を喜んではどうですか?
もう、囚われの身ではなく、同じ臣下同士なのですから、全員曹操さんの部屋に向かわせるようにします」
「そう。それは素直に感謝することにするわ」

曹操は走って自室に戻っていった。


「ごめんなさい、ごめんなさい。
私の所為でこんな体になってしまって」

部屋には縛られたままの夏侯淵、荀彧、程昱が残っていた。
兵はもういない。
曹操は泣いて彼女等に謝っている。

「いえ、私達こそ華琳様を騙してしまい、申し訳ありませんでした」

だが、夏侯淵は自分達の体が不具にされたことを恨みもせず、逆に曹操に謝罪している。

「え?とにかく縄を解くわ」

曹操は夏侯淵の縄を解こうとすると、外からドドドドドと爆音がして、扉がドカッと開けられる。

「華琳様ーーーー!!!」

部屋に飛び込んできたのは夏侯惇。
やけどで動けなかったのでは?
夏侯惇に続いて、他の部下も続々と入ってくる。

「ようやく華琳様とお会いする許可が出ましたーー!!」
「……春蘭、あなた舌を焼かれたのでは?」
「舌ですか?
ああ、確かにあのウ、ウィスキーとかいう酒を飲んだときは舌が焼けるかと思いましたが、そのことですか?」
「秋蘭、桂花。騙すって……」
「はい、誰も傷など負っておりません」

荀彧の片足も、膝から下を箱につっこんでいるだけだった。

「でも、その血は?」
「すみません、それは私の鼻血です」

と、申し訳なさそうに答えたのは郭嘉。



一刀の鼻血回収シーン。

「郭嘉さん、これなんだか分かりますか?」

と郭嘉に一杯の水を渡しているのは一刀。

「また、何か悪巧みを考えているのでしょ?
そんな手には乗りません」
「いや、単にこの水が何かって聞いただけなんですけど」

端から拒否されてちょっと傷つく一刀である。

「知りません」
「見るだけでもみてくださいよ。
結構、郭嘉さんにもいい水だと思うのですけど……」
「いい水?
いえ、いつもそうやって騙されているから、もう駄目です」
「だいたい、なんですか、そのいつも騙しているとか、また何か悪巧みっていうのは。
郭嘉さんを騙したことなんか一度もないじゃないですか!」
「私、知っているんです。
一刀さんが何人もの女性を騙してはその体を奪っていると言うことを」
「なんですか、それは?
誤解ですけど、まあいいです。
それで、この水なんですけどね、これは、曹操さんが湯浴みをした残り湯なんです」
「えっ……」
「お湯にはどっちの足から入ったんでしょうね?
入る前に、あそこは洗ったんでしょうね。
どんな風にあらったんだと思います?」
「…









ぷはーーーーーーーーーーーー!!」

一刀の作戦勝ちだった。



「そう、それじゃあみんな何事もないのね?」
「はい、華琳様が殺されることを望んでいるので、どうにか助けたいと一刀様に言われ、この3人で演戯をすることにしました。
本当に申し訳ありませんでした。
一刀様は、華琳様をそれは高く買っていらっしゃって、袁紹軍の参謀達がほとんど華琳様を殺すと言っていたのに、どうにか助命をお願いしてくださいました。
私たちも華琳様には生きていて頂きたかったので、彼に協力することにしました。
あの、姉者が入るとばれそうでしたので……」

と答えたのは夏侯淵。
誰がやったのか、いつの間にか縄は解かれ、包帯も取られている。
荀彧の足も箱から抜けている。

「ん?なんの話だ?」

夏侯惇の頭には?マークがいくつも点っている。

「お願いです、死ぬなどということは考えないで下さい。
華琳様あっての我々です。
華琳様のいない世界など考えられません。
此度華琳様をだましたのも、華琳様に生きていていただきたいがため。
もしお許しいただけないのでしたら、この夏侯淵、命に代えて謝罪いたします」
「私からもお願いいたします。
華琳様、華琳様が殺されるのでしたらこの荀彧めを殺してからお命を落とすようにしてください」
「お願いです、華琳様。生きていてください」
「お願いします、華琳様」

口々に華琳が死ぬことを阻止しようとする曹操の部下たち。

(ふっ、負けたわよ、一刀。
受けた恩は返すわ、ちゃんと)

曹操はそう思ってから夏侯惇らにこう答える。

「私の方こそ皆に心配をかけていたのね。
悪かったわ。
もう、ずっとあなたたちと一緒に生き続けるわ」

それから、元曹操軍の将や軍師達と夜遅くまで曹操の部屋で再会とお互いの無事を喜び、一晩中語らい続けるのであった。
もちろん、許緒、典韋ら子供がいるから、荀彧や夏侯惇が好むような行為はなしである。



あとがき
さすがに一刀が本当に恋姫キャラを傷つけるようなことはないのでした。
問題は、曹操が受けた恩を返すと言っている件ですが……



[13597] 躊躇 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:40
躊躇

 翌日の曹操、朝から精力的に色々な人に話を聞きまわっている。
陳琳に檄文のネタを仕入れた先が一刀であることも確認した。
絵師に絵の案を考えたのが一刀であることも確認した。
そして、田豊、沮授ともなにやら話をして、結局二人を説得したようである。

その日の夜。

「許してあげます」
「いい?一刀。敗軍の将を好き勝手できるのも勝者の特権だから、1回だけは許してあげます」

と、沮授、田豊がちょっと怒り交じりで一刀に話しかけている。
既視感のある風景だ。
そう、逢紀の吉原に出かけてもよいと言っていたときと酷似している。

「な、何のことだ?別に誰ともやってないし、やる予定もないけど」
「曹操がお礼をしたいんですって!!」
「えーーーーっ……」

何か襲われるようでいやだなあと思う一刀である。
大体、昨日は「お前なんか地獄に落ちるがいいわ!」と涙目で罵られたし。
ゲームの中ではゲーム北郷一刀といい関係になっていたけど、魏ルートの一刀だから、自分とは境遇が全く違う。
大体、呉・蜀ルートのゲーム北郷一刀は曹操とやってないから、華ルートの自分もやらないほうが自然な気もするのだが………。

「やらなくちゃだめなのか?」

逢紀とするよりも気が滅入る。
勃たないんじゃないだろうか?

「………頑張ってね」

田豊はそれだけ言って去っていってしまった。
沮授も、一刀の顔をじーーっとみて去っていった。
一刀も学習しているから、ここで

「やっぱりさあ、性行為って愛し合う男女が云々」

とか言い始めると、

「そう、じゃあ一刀は関羽をそれだけ愛していると言うことなのね?」

とかいうことになって、墓穴を掘りそうだから、もう余計なことは言わない。

「はぁーーーっ」

と溜息を一つつくだけである。



就寝の時間。

一刀が寝て待っていると、確かに曹操が入ってきて、ちょっと躊躇したようだが静かに服を脱ぎ、一刀の隣にやってきて、ぴったりと肌を触れ合わせる。
そして………………


時間がそのまま経過する。


「ねえ」

痺れを切らした曹操が一刀に話しかける。

「は、はい!」

緊張した様子で答える一刀。

「あんた、何しているのよ?」
「曹操さんと一緒に寝ています」
「………………本気でそう答えているの?」
「本気でそう答えていると答えたいと思っていますが、難しいのではないかとも思っています」
「あのね、裸の男女が一緒の閨にいるのよ。
やることはひとつしかないでしょう?
わ、私だって男とするのは初めてなんだから。
緊張しているんだから。
それなのに、覚悟を決めて来てみれば、別の女は裸で寝ているし、閨に入っても何もされないし………
ちんちくりんで髑髏の髪飾りをつけるような狂った服飾の感覚の持ち主で、華麗でも何でもなくて、体形が悪く、胸がない不細工な女だからって馬鹿にしているの?」
「……よくそんな昔のこと覚えてますね」
「ええ、あれほど馬鹿にされたことは初めてだったから、時々思い出してしまっては一刀を憎んでいたものよ」
「だったら別に曹操さんの体を差し出さなくてもいいのに」
「受けた恩はちゃんと返すわ。
それにあなた女が好きなのでしょう?
私が来ると分かっていて、それでも他の女を侍らせるほどなのですから」
「それは誤解ですが……もういいです。これは呂布さん。
でも、一緒に寝るだけで、指一本触れたこともないですから」
「そういうことではなくて…………
え?呂布?」
「ええ」
「何でこんなところにいるのよ?」
「まあ、色々あって、俺の部下に押し付けられてしまいました。
面倒な人間は、麗羽様は俺に押し付けてくるんです」
「そう、私も面倒な人間なのね?」
「え?そりゃあ、昨日のあの態度を見たら誰だって面倒だと思うでしょうに。
陛下や麗羽様を泣いて真っ赤になった目で睨みつけていましたよ。
陛下、怯えてましたし。
俺も『お前なんか地獄に落ちるがいいわ!』と涙目で罵られた気がするんですけど」
「そ、それは一刀や秋蘭や桂花に騙されたからよ」
「それ以前だって、さんざん俺に、麗羽様には仕える気は全くない、さっさと殺せと言っていたではないですか」
「そ、それは………」

曹操はどうも適当な答えが見つからなかったようで、話題を変えることにする。

「ところで、一刀は何で皇帝を目指さなかったのよ?
一刀なら人望もあるし、参謀や将の調整能力もあるし、農政の結果は素晴らしいものがあるし、その気になればすぐにでも皇帝になれたでしょうに」
「皇帝ですか?別になりたいとも思いませんし、そんな器でもないですね。
皇帝なんかやりたい人にやらせておけばいいんです。
普通の人間は普通に平和に生きることが出来ればそれで十分なんです。
そして、働いただけ生活が豊かになって、食料も住居も衣類も十分にあればそれで満足できるんです。
だから、俺は農産物の生産を増やして、みんなが満足に食べられるようになるよう、ちょっと手助けしただけなんです」

いやー、ちょっとじゃないだろう。

「逆に、曹操さんはなんで皇帝になりたいんですか?
皇帝になって民から搾取して贅沢三昧でもしたいんですか?」

ちょっと緊張が解けてきた一刀、閨で曹操と色々話を始める。
裸の男女がする会話とは思えないのだが。



[13597] 最強 (R15+)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:42
最強

 閨のシーンの続き。

「そうではないわ。
私が皇帝になって理想の国を作りたかったのよ」
「本当にそうなんですか?
だったら、麗羽様の許で理想の国を目指したっていいじゃないですか。
結局、曹操さんは自分が一番偉くなりたかっただけなんじゃないですか?」
「それは……」
「でも、皇帝になって本当にいいんですか?
皇帝になったら、今度は帝位を狙われ、親族すらも疑心暗鬼で見なくてはならない孤独な日々。
そんな生活、俺は嫌ですけどね」
「だったら、一刀は皇帝なんかいないほうがいいとでもいうの?」
「そうですねえ。皇帝とか王様とかあんまりうまくいかないほうが多いような気がするんですけど。
西のほうに大秦(ローマ)という国があるけど、あそこは皇帝は優秀な人間が継ぐということにしているんですけど、やっぱり自分の子供を皇帝にしたい人が時々でてきて、その結果子供が帝位を継ぐと大秦の政治は傾いてますね」
「よく知ってるわね」
「ああ、俺、この世界の住人じゃないんです。
この世界に似た世界の将来から来たので、その知識を元に話しているだけです」
「そうなの。
だったら、あなたの世界ではどんな皇帝がいるのかしら?」

意外にあっさりと信じられない事実を受け入れる曹操。
柔軟性が高いのか?

「まず、皇帝はいるけど、象徴的な存在で、権力はほとんどない種類。
これは結構うまく機能してましたね。
それから、皇帝のような立場の人間をみんなで選ぶような種類。
大統領っていうんですけど、任期は数年で交代です。
他には皇帝のような立場の人間はいなくて、代表を何人も選んでその人々がその国を統治する種類、これが一番多いですね。
あと、本当に数は少ないですけど、王がその国を治める種類。
これは、王様が国を本当によく治める種類と、独裁的な専制君主になる種類がありましたね」
「一刀の国はどうだったの?」
「俺の国は皇帝がいるけど、権力はほとんどない種類でしたね。
立憲君主制っていうんです。
皇帝はそれから世襲制を千年以上続けて、世界で最も長い家系になったようです」
「漢はどうなるの?」
「漢は、皇帝が国を治める国が何千年も続いて、それから代表を何人も選ぶ種類に変わりましたね。
でも、知ってのとおり、秦が漢に代わったように、皇帝は別の一族に取って代わっていますけど。
ああ、俺の知っている世界じゃ漢の次の国の礎を作ったのは曹操さんなんですよ。
俺が色々やっていたのは、俺の世界の知識もあるんですけど、曹操さんがやった施策を真似したものも多いんです。
だから、絶対曹操さんには死んでもらいたくなかったんです」

それを聞いて、今まで以上にすっきりした表情になった曹操。
もう、迷いがないという様子だ。

「そう……全部知っていたのね?
もう、私には最初から勝てる見込みはなかったのね?」
「えー、まあ、そうかもしれませんね。
怒らないんですか?」
「ええ。やっぱりあなたは天の御遣いだったのよ。
私が皇帝になると言う運命はなかったのね。
昨日も負けたと思ったけど、もう完敗だわ。
喜んであなたの臣下になるわ。
一刀も私が皇帝にならないのだから、私を孤独から救ってくれるのでしょ?」
「ええ、まあ、俺でよければ」
「じゃあ、私は一刀の友というわけね。
しっかり閨の友として愛してもらわなくては。
一刀も私を抱けて嬉しいのでしょ?」
「え?……いや、どちらかと言うと迷惑かも」

それを聞いてかなりむかついた表情をする曹操。

「何ですって!!
本当にむかつく男ね、一刀は。
この私が裸で接していると言うのよ!
それでは私の裸を見せびらかした責任を取りなさい!」

曹操はそう言って一刀の体の上に乗ってくる。
と、別の女性も一刀の体にくっついてくる。

「一緒」

呂布である。
初めて一刀の体を求める呂布だ。

「ちょっと!呂布は何もしないんじゃなかったの!」
「そ、そうだったんだよ。
恋、どうしたんだよ、一体?」
「発情期」
「はぁ?」


それから3人で何やらごそごそと妖しい行為を始める。

「ちょ、ちょっと一刀!止めなさいよ!
そんなに激しくされたら……」
「恋と一緒にいると体が勝手に……」
「もっと激しく」
「いやあ!お願いぃ、休ませてぇぇ!私が悪かったから。
これ以上やると、本当に……」
「俺だって止めたいんだよ!」
「はげしく」
「い、いやーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

一刀は、呂布に操られるように、曹操と呂布と体力の限界を超えて交わり続けるのであった。



朝が来た。
数十分、二、三時間経ったのではない。
本当に翌朝になった。
普段ならそろそろ起きる時間だ。

「まんぞく」

呂布はそう言ってまたくーくー眠り始める。
息も乱れていない。
呂布は、この方面でも最強であった。

「ぜー」「はー」
「they」「her」
「ぜー」「はー」
「they」「her」

閨で息を整えているのは、常識的な体力の男女2名。
寝不足と極度の運動で、二人とも目が真っ赤だ。

「she………her, her……死ぬかと思ったわよ。hers」

実は死ぬほど気持ちよかった曹操、もはや許攸も荀彧も児戯にしか感じられなくなってしまっている。
もう、一刀から離れるのは無理そうだ。

「they, their, them……俺も。theirs」
「男とするのは初めてだと言ったでしょ?もっと優しくしなさいよ!I, my, me」
「ごめん。
でも……you, your, you」

一刀は曹操の顔をみてにこりとする。

「な、なによ?he, his, him」
「曹操ってさit, its, it」

もう、曹操を呼び捨てにする一刀である。

「華琳と呼びなさい」
「わかった。
華琳ってさ、肌は滑らかだし、中は気持ちいいし、なかなかよかった」

結構、曹操を気に入ってしまった一刀であった。

「は、恥ずかしいこと言わないでよ、馬鹿!
もう、一刀は一生私の友なんだからね。
一生閨の友なんだからね。
私を捨てたら許さないんだから」
「うん」

そして、二人は軽く口付けをして、曹操は一刀に抱きしめられながら幸せそうに眠りにつくのである。
二人とも朝まで一睡もしていないから、一瞬で眠りに落ちていく。

…………もしもし、一刀さん、それは曹操を側室にするということですか?
色々怒り狂いそうな女性がいますが、いいのでしょうか?


数十分後、一刀一人、

「仕事!we, our, us!!!」

と正室たちに叩き起こされる。
可哀想過ぎる。
曹操と呂布は一刀のいない一刀の閨で心行くまで眠り続けるのであった。



呂布の発情期はそれから一週間続いた。
曹操と一刀が一緒に寝るのはその日限りで、次の夜からは今までどおり田豊、沮授が一緒に寝ることになって、田豊も沮授も毎晩絶叫していた。
一刀は、何で3人とも体が持つのだ?と疑問に思いつつ、その3人と行動を共にする必要があった。
ぼろぼろになってしまった。




あとがき
英語は……全く筋には関係ありません。
ぜー と はー が出てきたので、なんとなくくっつけただけです。
すみませんm(_ _)m

追伸
weが抜けていましたので足しました。
って、全くどうでもよいことですがm(_ _)m



[13597] 添寝 (R15?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:43
添寝

 呂布が閨で発情期を迎えていた頃、蜀の閨でもなにやら変わった動きがある。

「ねえねえ、朱里ちゃん、今日は一緒に寝よう!」

と、にこにこしながら諸葛亮の部屋に押しかけるのは劉備。
今や蜀の皇帝であるが、あまり言動に変化はない。

「あー!桃香様!朱里だけえこ贔屓なのだ!
鈴々も桃香様と一緒に寝たいのだ!」

劉備が朱里と一緒に寝ると聞いて、うらやましそうにする張飛。

「じゃあ、鈴々ちゃんとは明日一緒に寝ることにしよう!
今日は朱里ちゃんね!」
「わかったのだ!
明日が楽しみなのだ!」

と、喜ぶ張飛に対し

「わ、わたしは曹操さんのような異常な趣味はないでしゅから……」

と、真っ赤になって答える諸葛亮。

「え?ああ、それなら大丈夫だよ。
桃香ちゃんもあんな趣味はないから。
やっぱり、愛紗ちゃんみたいに好きな男の人とやりたいよねえ!
愛紗ちゃん、蜀に来る前も一刀ちゃんとやってきたんだって。
服は着ていたけど、お外でみんなが見ているところでやったんだってよ!
すごいよね!
大胆すぎるよね!
その後、暗くなってからはお外で裸になったんだって!
確かに誰にも見られないかもしれないけど、愛紗ちゃんがそんなに大胆だったなんて知らなかった。
桃香ちゃんも絶句しちゃった。
そんなに一刀ちゃんを好きなら、一刀ちゃんもつれてくればよかったのにねえ」

それを聞いて更に真っ赤になる諸葛亮。
どうやら、関羽は無事に蜀についたようだ。
これが、関羽の千里行といわれる行動なのだろうか?
ただの旅にしか見えないのだが。
そして、蜀につくなり、恐らく劉備に根掘り葉掘り今までのことを聞かれたのだろう。
可哀想に。
まあ、仕方ないか。

「そ、それでは何で一緒に寝るんですか?」
「ちょっと朱里ちゃんとお話したいなぁって思っただけだよ」
「そ、そうなんですか。それでしたら………」

と、劉備を部屋に招き入れる諸葛亮。

「じゃあ、寝巻きに着替えよう!」

と、まるで修学旅行ののりで寝巻きに着替え始める劉備。
仕方なく、諸葛亮も一緒に着替えることにする。
着替えるときに、劉備の裸を見るが、劉備の胸を見て、

「く、くやしくないもん!」

と諸葛亮が涙ぐんだのは秘密だ。



寝巻きと言っても、皇帝ともなると随分と高級な寝巻きになるようで、絹のイブニングドレスのような服を着る劉備である。
高級ではあるのだろうが、かなり薄手の絹、今で言うならシースルーといってよい素材で、寝巻きを着ても劉備の胸というか豊満な裸体がよく見える。
現代人が見たら、寝巻きというより、夫婦の営みを活発にするためのナイトドレスと言いそうな服である。
この時代では、これが高級な寝巻きなのだろう。
諸葛亮はそれを見るとイライラが、より募ってしまう。

「それで何のお話なんですか!」

諸葛亮は、怒った様子で同じ閨に寝ている劉備に話しかけている。

「うーーん、そうだなぁ。
………ちょっと怖い話かなぁ」
「怖い話だったら愛紗さんにでもすればいいではないですか!
お化けなんかいないんですからねっ!!」

まだ怒りが鎮まらない諸葛亮だ。

「うーーん……そういう種類の話じゃないんだよね」
「だったら、どんな話なんですか?」
「うーーん…………………何から話したらいいのかなぁ」

と言ってから、諸葛亮の首に腕を回し、まるで諸葛亮を抱きしめるようにして、顔を額がくっつくぐらいまで近づけて、小声で話し始める。
閨から降りたら、もう聞こえないほどの小さな声だ。
そして、劉備の顔が余りに近いのでドキッとしてしまう諸葛亮。

「他の国と諍いがあったときに、一番いい諍いの解決方法って何かなぁ?」

と、劉備にしてはまじめな質問を始める。

「それは交渉を通じてお互いが納得できる方法を見つけ出すことです」
「そうだね、私もそう思う」

あれ?っと思った諸葛亮、劉備が自分のことを「私」というのを初めて聞いた気がする。

「だったら、交渉が決裂してどうしても相手を倒さなくてはならない場合や、自分が相手の領土を支配したくて、戦争を起こさなくてはならなくなってしまった場合に、一番いい方法は何かなぁ?」
「それは、敵より十分な準備をして、圧倒的な勢力で相手を叩くことです。
兵法の基本です」

「そうかなあ?それが一番いいのかなぁ?」
「そうです。それよりいい方法なんて思いつきません」

「だったら、弱い勢力はいつも負けてしまうの?」
「そうです。それが、戦の基本というものです。
相手に弱い部分があれば、兵力で負けていてもそれを突けば勝てることもあるでしょうが、基本は強いものが勝つ、です」

「じゃあ、兵も資金も何もない人が天下を統一しようとしたらどうすればいいの?」
「そんな無謀な考えを諦めることです。
そうでなければ有力な諸侯に仕えて、少しづつ頭角を現すことです」

「私はそうは思わないけど」
「だったら、桃香様はどうお考えになるのですか!」

「倒したい相手がいたら、その相手を倒してくれる人にお願いするの。
そうして、その人が敗れたらその人を味方に引き入れるの。
そういうことを何回も繰り返すの。
そうしたら、倒したい相手は何回も戦をしているから次第に疲弊して弱体化していくでしょ?
でも、自分達は負けたとはいえ味方がだんだん増えてくるから、そのうち相手を打ち負かすほどの勢力になるよ」
「そんな夢みたいな作戦が、うまくいくとは思えません」

「そうかなぁ。
白蓮も孫策も味方になってくれたよ」
「……………えっ?」

一瞬劉備が何を言ったか理解できなかった諸葛亮。
だが、すぐにその意図を理解して驚愕する。
驚いて劉備の顔を見るが、普段と同じようににこにこしているだけだ。
そして、更に次の言葉が諸葛亮に戦慄を与える。

「私ね、朱里ちゃんや愛紗ちゃんに会うよりずっと前から星ちゃんと親友だったの」






あとがき

劉備の扱いについて色々非難轟々だったときに、よしこれで行こう!と決めたのがこの劉備です。
あの当時はまだ劉備をどうするか決めていなかったのでが、あの非難からこの辺の展開までを大体決めました。
なので、もう非難があってもぶれることはなかったと思っています。
このダーク劉備と能天気な劉備とどちらが酷いか分かりませんが、少なくとも馬鹿ではありません。
ディテールは決まっていなかったので、多少は筋の思考錯誤をしたところはありましたが、大体初期方針通りです。
最後の劉備の扱いも決まっていますが、それは秘密です。
もう、何があってもこの方針で最後まで走り続けます。
あと2回くらい劉備の謀略の描写が続きます。



[13597] 遠謀
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:43
遠謀

「私ね、星ちゃんとどうやったら漢を倒して自分が皇帝になれるか考えたの。
今や、漢の皇帝なんてなんの力も持っていないでしょ?
皇帝は力があるものがなるべきなのよ。
劉協のような甘い人間が皇帝なんか務まるはずが無いの。
劉邦のように人をまとめる力がある人が皇帝になってこその皇帝なの。
力が無いのに皇帝なんかやっているから宦官に牛耳られたり袁紹に寄生したりしなくてはいかなくなったのでしょ?
だから、私が皇帝を、真の皇帝に戻そうと思ったわけ。

そして、考え付いたのがさっきの作戦。
筵を売っているような少女が頭角を現してなんて悠長なことを言っていたら、一生皇帝にはなれないわ。
だから、敵は敵同士で戦ってもらって、私はそれを傍から見たり、時には煽ったりする。
その間、私は無能な振りをして、倒されることから逃げ続ける。
そして自分は安全な場所に避難するの。
この作戦で重要なのは、ずっと無能な振りをして他の諸侯が攻撃しようとする気持ちを起こさないようにすることと、それでも周りの人を思ったように動かさなくてはならないこと。
無能な振りをしながら、周りの人を思い通りに動かすって、案外大変なのよ」


今まで我侭を貫き通していたのは、周りの人を思い通りに動かすためだったようだ。


「それで、私が最後に逃げ込む場所として目を付けたのはここ益州。
盆地地形で、周りは山々に囲まれていて天然の要塞だし、大地は豊饒で収穫も多い。
人口も州の中では一番多い。
ここで他の諸侯がつぶしあうのを待つことにしたの。
でも、益州は私のいた幽州から一番遠い場所。
だから、道中味方になってくれる人を引き入れる工作をしてきたの。
一番最初に目を付けたのは白蓮。
ずっと前から知っているけど、地道に何でもこなす有能な将だから、絶対に役に立つと思った。
そして今ここでその力を発揮してくれている。
愛紗ちゃんや鈴々ちゃんは武人としては有能だけど、将校としてはだめだから、将校として白蓮が欲しかったの。
でも、私が白蓮のところに行って、部下になってといっても、なってくれるはずがないから、誰かに負けて私のところに逃げ込んでくる状況を作る必要があった。
そこで、白蓮は袁紹に倒してもらうことにしたの」


黙って劉備の話を聞いている諸葛亮は、がたがた震えている。
確かに恐ろしく、幽霊とかの類ではない話である。


「でも、立場上白蓮は袁紹の臣下だから、袁紹に白蓮を倒してと言うわけにもいかないから、敵対しているように見せかける必要があった。
だから、州牧になれば、対等な立場だから袁紹にやられる可能性が高いと思って、白蓮のところでその機会を伺うことにしたの。
最初、星ちゃんに宝剣を持っていってもらって、盗賊を退治したときに宝剣が見つかったと言うことにして―――」
「えっ?!宝剣は盗まれたんじゃないんですか?」

「あたりまえじゃない。あんな大事なものを盗まれるはずがないでしょ?
星ちゃんが宝剣を隠し持っていって、こんなものが見つかりました!と白蓮に言えば、盗賊の巣から見つかったことになるでしょ?
あ!朱里ちゃん、桃香ちゃんが大事なものを盗まれるくらい抜けているって思っていたんだ!
桃香ちゃん、悲しいなぁ」


ちょっと抜け劉備の雰囲気を見せるが、明らかに演技だと言うことがわかっている。
諸葛亮は、もう何も答えない。


「そして、機会を伺っていたら黄巾の乱が勃発したから、これはいいと思って白蓮が功績をあげるようにしたわけ。
それで白蓮が州牧になれば、州牧同士敵対関係になることもあると思ったんだけど、残念ながらできなかったでしょ?
だから、代わりに顔良を焚き付けることにしたの。
これはうまくいって白蓮は無事私の部下になったというわけ」


諸葛亮の震えは未だ収まらない。


「そして、次に向かったのは徐州。
ここは別に州牧になるつもりはなかったの。
欲しかったのは麋竺の資金、州牧はおまけね。
でも、折角なったのだったら人気は高いほうがいいから、愛紗ちゃんを曹操に渡して徐州を守ることにしたの。
これで麋竺の資金もある程度あてにできるようになった。
曹操のところでは、本当はもう少し長居をして、予想外に強くなっていた袁紹を叩き潰そうと思ったんだけど、程昱が余計なことをしてくれたからうまくいかなかったの」
「袁紹軍に勝つことはできたのですか?」


軍事的にかなり厳しいと思っていたので、そんなことができるのか諸葛亮にはアイデアがない。
あるなら、聞いてみたいと思うものだ。


「ねえ、朱里ちゃん。
曹操の一番の武器って何?」


劉備はそれに直接は答えず、質問で返す。


「それは………人を生かす才覚と、人を集める能力、夏侯惇さんとか、武将が充実していることでしょうか?」


諸葛亮は少し考えて、そう答える。


「んーーー、まあ全然違うと言うわけでもないけど、この場合は違うわ。
曹操の武器はね、張三姉妹よ」
「張三姉妹?」

「ええ。あの三人が黄巾党の総帥だったのだから、それを使わない手はないわ。
冀州には、元黄巾党だった人間が数十万いるから、張三姉妹を連れて行けば、全員とは言わないまでも半数は彼女らに従うことでしょう。
そうすると、冀州、幽州、并州合わせれば100万を越す元黄巾党員がいるから、半数でも50万、三割でも30万、それに青州軍の30万を加えたら60から80万の兵員、しかも武器も食料も現地で調達できる。
場合によっては業都の内側から反乱を起こすことができるかもしれない。
そうすれば袁紹なんかあっという間だったのよ。
それなのに、私を追って徐州になんかくるから負けるのよ。
本当は、朱里ちゃんにそういう作戦があるということを仄めかして、曹操に進言させたかったのだけど、時間が足りなかった」
「でも……その間豫州や兌州の防衛が手薄になってしまいますが」

「豫州?そんなもの、孫策でも袁術でも攻めてきたらくれてやればいいのよ。
どうせ、冀州には山のように食料も兵器も兵士もあるのだから、すぐにとりかえせるわ。
とにかくあの時は袁紹を叩かなくてはならなかったの。
でも、追い出されたからしかたなしに揚州に逃げ込んだの」
「もしかしたら、揚州に星さんがいたのも……」

「もちろん私を受け入れてくれる準備をしていたの。
幽州でも徐州でもそうだったでしょ?
今は涼州に行ってもらっている。
馬超というのが精強だったら袁紹軍にぶつけろと、そこまででもないけどそこそこ強かったら出来るだけ無傷で益州に連れてきてと、弱かったら放っておけとお願いしてあるの。
多分そのうち来るんじゃないかなぁ。
きっと馬を酔わせて戦闘にならない状況にして、蜀に逃げ込んでくると思うよ」


それで趙雲は一刀にウィスキーをたくさんもらっていったのか。


「それで、その揚州なんだけど、本当は張勲は欲しかった。
彼女は陰湿で有能よ。
曹操なんか比べ物にならないわね。
でも、彼女は袁術のいうことしか聞かないから、仕方が無いから諦めることにしたの。
袁術はいるだけで国力を落とす疫病神のようなものだから、袁術はいらなかった。
だから、袁術は袁紹のところに押し付けたんだけど………これがどういうわけか結構うまくつかいこなしているらしいの」
「それでは、袁術にウィスキーを飲ませたのは?」

「あれ?あれは将来私の臣下になってくれる孫策へのささやかな贈り物。
私も孫策の兵が多いほうがありがたいから。
孫策も被害なしで仲を滅ぼすことができたでしょ?
あとは、曹操か誰かが孫策を倒してくれるのを待てば、向こうから頭を下げて臣下にしてくれと言いに来るわ。
そして、益州を除く大陸が誰か一人に制圧されたら、それを倒せば目出度く私が大陸全部の皇帝になれるというわけ。
ね?いい作戦でしょ?
それで、大体ここまでは私の考えた作戦通りに事が運んだの」


諸葛亮は震えながら劉備の壮大な作戦を聞いている。


「でも……でも、どうして今更そんなことを私に話そうとしたのですか?」


そう、今まで黙っていたなら、今後も黙り続けてもいいようなものだが。


「そう、そうなの、朱里ちゃん。
本当はね、私は曹操が益州以外を制圧すると思っていたのよ。
私が皇帝になろうと決めた頃、圧倒的に勢力が強かったのは袁紹なんだけど、袁紹は無能で決断力もなく、将や参謀をまとめる力もないということだったから、そのときに一番強くても負けるだろうと思っていたの。
曹操ならね、倒すのは簡単なの。
曹操軍は、曹操の人間でもっているようなところがあるから、曹操一人を倒せば話は終わりだったの。
それだったら私も朱里ちゃんにこんな話をすることはなかったんだけど、残念ながら制圧したのは袁紹でしょ?
あれはまずいのよ」
「まずいとは、どういうことですか?」

「袁紹はね、相変わらず無能なの。
それなのに、何でこんなに力があるかというと参謀達の力が優秀だからなのよ。
だから、仮に袁紹が死んでも、他の誰か、世継はまだいないから例えば顔良が後を継いでも力はあまり減ることがないの。
それで、顔良を倒したら、文醜や張合や麹義が引き継ぐとか。
とにかく、何人倒しても終わりがないのよ、あそこは。
あそこが倒れる前に私達が討伐されてしまうわ。
それにね、袁紹軍は戦らしい戦をしたのは洛陽を攻めたときと、黒山賊を攻めたとき、それから今回の曹操を攻めたときの3回だけなんだけど、何れもほとんど被害を出していないの。
兵器の差や、訓練度合い、それに兵士の数が違っていて、驚異的に強かったの。
だから、戦に勝っても、そのうち兵が減っていくと言う私の目論見は崩れたの。
袁紹軍は強いときの状態がそのまま引き継がれているのよ。
まずすぎるのよ。
だから、私も袁紹相手では本気で対抗しなくてはならなくなってしまったの。
それもこれもたった一人の男が悪いのよ!
北郷一刀という男が!」


劉備は初めて憎らしそうな表情を浮かべる。
こんな表情の劉備を、諸葛亮は初めて見たのである。



あとがき

比較的感想が穏やかだったので安心しました。
無理、といえば無理ですが、まあ軍事作戦規範でも、歴史書でもないので、多少の無理は目を瞑ってください。
あと、劉備の行動の説明はできるだけ整合が取れるようにしているつもりですが、何分余りに長く書いてきたので辻褄が合わない、おかしい、という点があるかもしれません。
変な箇所があったらご指摘お願いします。
直せる範囲で直します。


[1217]誤字らさん
ご指摘ありがとうございました。
その通りだと思います。
直しておきました。

2010.05.07
[1250]ito faさん
どうでしょう、こんな感じにしてみましたが。



[13597] 暗殺
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:45
暗殺

「最初に袁紹のところにいった時の事を覚えてる?」
「はい、覚えています」

「あれも、星ちゃんに袁紹の様子を探る機会を作ってと言って、袁紹のところに行くことにしたの。
それで、袁紹や参謀、将の様子を見てみたら、どうも聞いていた印象と違うのよ。
確かに袁紹は無能だったけど、他の参謀や将はそれほどばらばらではない感じ。
おかしいなあと思って後から星ちゃんに客将になって袁紹の所に潜り込んでもらって、その理由を調べてもらったの。
そうしたら、原因は一刀が来たからだというのよ。
それ以前にも肥料がどうとか色々あったらしいんだけど、決定的だったのは愛紗ちゃんとあの男がいきなり愛し合ったことらしいの。
朱里ちゃんも、愛紗ちゃんが一刀と愛し合っていたことは知っていたんでしょ?」


顔を赤くする諸葛亮。


「私もその時は自分が無能な振りをし続けていることを後悔したわ。
ちょっと愛紗ちゃんに苦労かけすぎていたのかなぁって。
あ、でも朱里ちゃんや愛紗ちゃんに不満を言っているわけじゃないからね。
3人とも本当にこの無能な私を諦めることなく支えてくれて本当に感謝している。
感謝してもしきれるものじゃないわ。
本当よ。
星ちゃんだけだと、これほどうまくいかなかったと思う。
3人が私の意向に沿って、動いてくれたからここまでうまくいったと信じている。
で、とにかくあの一刀と言うのが袁紹軍をまとめている中心なのよ。

それから、あの男が袁紹に参謀の考えを採用してもらうように口八丁手八丁で進めるようにしているというのは昔言ったわね。
袁紹のところの人材の厚さは半端じゃないから、その参謀が最適だと考えた意見を行うだけで袁紹軍は大陸を制覇することが出来るでしょう。
袁紹は下手に何かをしないほうがいいのよ。
そして、袁紹軍はそうやって大陸を制覇しつつある。
だから、あの男さえいなければ袁紹軍はがたがたになるの。
それで、どうにか一刀を排除することを考えた訳。
氾水関で……ああ、汜水関といえば、先陣を志願したけど、あれは袁紹軍の力を見たかったからよ。
そうしたら、あの一刀が将としてやってきたけど、別にあの男、戦争なんかしたことない全くの素人なのに、袁紹軍は凄まじい強さで華雄を倒していた。
これは、どうにか早めに一刀を消さなくてはならないと思って、星ちゃんに戦にまぎれて一刀を殺してとお願いしたんだけど、主従の契りを結んだし、体も許した間柄だから、それは協力できないと言われて、できなかった。
延々と説得したけど、こればっかりは星ちゃんも意志を曲げなかった」


汜水関では劉備と趙雲はそんな物騒な話をしていたのだ。


「この時は、私の考えをもう少し何人かに知ってもらって一刀を殺そうかと思ったんだけど、私の考えを知っている人が多いと必ず秘密は漏れていくから、まだ時期でないと涙を飲んで一刀を殺すのを諦めたの。
私が自分で、とも思ったんだけど、私はそこまで強くはないし、ああ一刀も弱いと思うけど、足がつかないように殺せる自信がなかったから諦めた。
だったら愛紗ちゃんに頼んで引き入れようとしたんだけど、愛紗ちゃんて奥手、というより律儀だからこれもうまくいかなかったの。
鈴々ちゃんに頼んで攫うことも考えたんだけど、そうしても愛紗ちゃんが『すぐに返してきなさい!!』っていうのが明らかだったから、これも諦めた。
もしあの男を引き入れることができたら、私は完璧だったわ。
あの男、袁紹に参謀の意見を聞かせることと、参謀や将をまとめるだけじゃなくて、本来持っている力は農業を盛んにする能力で、袁紹領の様子をみてもそれは明らかだから、あの男の力があれば私の国は今以上に豊かになったと思う。
でも、味方に来ないで敵にいるんだったら、いないほうがいいでしょ?
それで、曹操に一刀を倒させようと思って、彼女に一刀の秘密を言ったら、覚えてる?小沛で曹操が何て言ったか。

正々堂々と敵をやっつけるんですって。
情けなくて涙が出そうになったわよ。
これじゃあ、今の袁紹には対抗できないって思ったわ。
それでさっき言った作戦を実行させようと思ったら程昱が邪魔したわけ。
曹操陣営は荀彧だけかと思ったら程昱も相当有能ね。
だったら、少しでも役に立つかと思って、曹操に甚振られるのを覚悟で愛紗ちゃんを曹操陣営に置くことにしたの。
愛紗ちゃんには悪いなあと思ったんだけど。
朱里ちゃんも、曹操が追撃することはないと思うようならまだまだよ。
曹操、あれで結構短絡的なところがあるから、かっとなったら周りが見えなくなるの。
絶対追ってくるって判断しなくては。
それで、愛紗ちゃんなんだけど、男女の愛とか主従関係には不器用なほどに実直だけど、その他の人間関係とか結構器用なところがあるから、曹操陣営に入っても何とかやっていけると思った。
これが鈴々ちゃんだと無理ね。
愛紗ちゃんに袁紹軍の将の一人や二人殺してもらえば少しは袁紹軍に痛手を与えられると思っていたら、これもあの一刀に邪魔されたでしょ?
まあ、愛紗ちゃんは嬉しかったかもしれないけど。
厄介者の袁術もあの男がなんとかしたらしいの。
袁術が蜂蜜好きなのを知っていて、蜂蜜を採る仕事にしてしまったんですって。
全く、あの男は私の策を悉くつぶしてくれるのよ」


劉備は蜀の独立の考えも諸葛亮に説明する。


「蜀の独立の宣言も相当な賭けだったのよ。
今や漢は劉協、袁紹の元、着実な施政を行っている。
漢が悲惨な状態だったり、うまくして既に滅亡していたら漢の再興とかいう独立の面目が立ったのに、今私が蜀を興す意味は何?
単なる反逆者じゃない。
幸い、というかそれを見越してなんだけど、蜀の人は盆地で他の地域との交流が少ないせいか、独立機運が強い。
だから、私が独立を宣言したときも、それを受け入れてくれた。
本当に、そうでもしなかったら私が皇帝になる可能性はなかったのよ。
それも、あの男が袁紹に変な入れ知恵をしたためでしょ?
曹操が袁紹に敗れたけど、もし曹操が袁紹に下るようなことがあったら、蜀は終わりかもしれない」


この時、まだ劉備は曹操が袁紹に、というより一刀に下ったことを知らない。


「あの自尊心の塊のような曹操は絶対に他の人の臣下にはならないと思うのだけど……少なくとも私の臣下にはならないわね。
臣下になるなら引き入れる工作を、とも考えたのだけど、私にはあの曹操は使いこなせないわ。
袁紹に下るようなことがあったら、ああ、下るといっても袁紹にはそんな力はないから、多分またあの男が絡んでくるだろうけど、そうしたらもう天下はあの男のものになってしまう。
曹操は生かしておけば反逆の芽になるだろうし、殺してしまえば部下が反逆を起こすだろうから、袁紹の力を削ぐのに役立つはずなんだけど、喜んで袁紹の配下に入ったら、もう袁紹陣営磐石ね。
私が苦労して孫策軍10万近くを手に入れたと言うのに、そんなことになったら袁紹軍は曹操軍30万以上を手に入れることになるじゃない。
30万の兵が敵から一瞬で味方になってしまうのよ!
国力の差が開く一方よ。
曹操軍が袁紹軍に敵対していたらどうにか蜀にも希望が出来るけど、曹操が袁紹についたらおしまいね。
もう、漢に敵対しているのは蜀だけになってしまうけど、国力が違いすぎる」


だが、曹操は一刀の下半身の攻撃に蹂躙され、心から一刀の配下になってしまったあとだった。


「一刀はウィスキーを作ってくれていて、少しは私も利用しているけど、あの男は私にとっては災厄以外の何者でもないの。
私はどうにか私が大陸を統べたいの。
そして、そのためには私の意向を国や軍全体に直接伝える人間が必要なの。
それで、朱里ちゃんにその役をお願いしたいの。
私はあくまで無能なの。
お願い、朱里ちゃん。
私のお願いを聞いてちょうだい」


諸葛亮は震えながらも、


「もし……もし、私が拒否したらどうなるのですか?」


と質問をしてみる。
劉備は、少し考えて、


「そうだなあ……この話を白蓮や孫策に知られたら、私の味方にはなっていないだろうから………きっとみんなで私を殺しに来るわね。
愛紗ちゃんは、さすがに殺しに来ることは無いと思うけど、私の味方になることはないでしょう。
だから、秘密にしておいてくれるとうれしいんだけど。
でも、やっぱり秘密は守らなくちゃならないから、陶謙や劉焉に盛った毒を朱里ちゃんにも飲んでもらわなくてはならないかもしれない」


と、普段の笑顔で答えるのである。


「え?………………
で、でも、でも、陶謙様が亡くなった時は桃香様は小沛にいたから……」


そんなことはないと思いたい諸葛亮は必死に否定しようとするが、


「星ちゃんがいたじゃない」


震えがひどくなってきた諸葛亮に、劉備は何の疑問もないように、にっこりと答える。
それを聞いて諸葛亮は、歯ががちがちと恐怖で音を立て始める。


「………な~~んてね、桃香ちゃん、そんな恐ろしいことしないよ。
二人とも寿命だっただけだよ。
やだなあ、朱里ちゃん、私を死神でも見るみたいな表情で見ないでよ」


劉備はそう今の自分の発言を否定はするのだが、真偽はともかく、劉備ならやるかもしれないと言う気持ちを諸葛亮の体に染み込ませるには十分であった。
しかも、劉備は最初からずっと諸葛亮を抱きしめるようにして、……というより逃げられないようにしているので、どんなに怖くても諸葛亮は劉備に付き合わなくてはならない。
それに、諸葛亮は、恐らく殺したと言うほうが本当だと思っている。


「周泰に命じて、一刀を殺して」


諸葛亮には肯定以外の解はないのであった。
黙って頷いて返事とする。


「よかった、朱里ちゃんなら引き受けてくれると思ったんだ。
桃香ちゃん、とってもうれしい!」



【据置コース】

劉備はそういって諸葛亮と口付けを交わす。
だが、それは愛の口付けというよりは、諸葛亮を服従させるための口付けのようだった。
諸葛亮は、恐怖の余り、気を失ってしまった。
そのあと、劉備は諸葛亮の服を剥いで裸にし、自分も裸になり…………
何故か湿っている寝巻き類を交換し、シーツを取って閨を乾燥させ、水浸しで寝る場所がなくなった諸葛亮を自分の閨に運び込んで、そこで一緒に眠りについていた。
諸葛亮は、翌朝劉備の閨で目覚め、驚愕の事実を知ることになる。



【発育コース】

劉備はそう言って諸葛亮に自分の乳首を含ませる。
諸葛亮は恐怖を振り払うかのように必死に劉備の乳を吸い続ける。
そして、それに比例して諸葛亮の胸は次第に豊かになっていくのであった。



あとがき

最後のコースはお好きなほうを選んでください。
どちらにしても諸葛亮はもう劉備から逃げられなくなってしまいました。
ただ、発育コースにすると鳳統に勘繰られてしまう可能性があるかも。



[13597] 火花
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:47
火花

 呂布の発情期は終わった。

一刀はようやく安らかに眠れるようになった。
少し前と同じように、両側に田豊と沮授、ほんの少し離れたところに呂布が寝るようになった。
何れにせよ、全員同じベッドだ。
さすがに呂布の発情期は凄まじく、あれから田豊も沮授も一刀としていない。
暫くは平和に眠ることが出来るだろう。
一刀も体を休めなくては。
一週間も人間の限界を超えた運動をすれば、体にがたが来る。
呂布も田豊も沮授も、よくもまあ平気でいられるものだ。
田豊や沮授は、本当はまだまだ一刀としたそうだったが、もう限界!暫く勘弁して!と言ったら諦めてくれた。
化け物だ、3人とも、と思う一刀である。
まあ、あれだけやり続ければ、少し夜の行為から離れても大丈夫だろう。
それに比べると、曹操は普通だ。
でも、曹操とは今のところあれが最初で最後。
正妻たちが、夜は曹操を近づけさせないようにしているから。
曹操は何となく機会を伺っているようではあるが、無理強いはしてこない。
体力が戻っていないのだろうか?



 一刀の今一番の仕事は、蝗害の処理。
といっても、例によってやること、というか指示は簡単。
兌州、豫州などで蝗が通ったところは全部焼いてしまえ!終わり。
作業するのは兌州、豫州の人々。
自分の土地だから、そのほうがいいだろう。
作業は簡単かというと、あまりに規模がでかすぎてそれほど簡単にはいかないだろうが、それでもやってもらわなくてはならない。

指示は、ついこの間まで王様だった曹操からの方がやりやすいから、一緒についてきてもらっている。
一刀がいるから、もちろん呂布も一緒。
戦争でないので、陳宮も一緒。
呂布は百歩譲って一刀の護衛と言うことにしても、陳宮は遊びだろ!旅費返せ!とちょっとは思う一刀であるが、まあ、呂布が保護者みたいなものだから、仕方ないか。


「どうして、バッタもいないのに焼き尽くすのよ?」

作業内容を聞いた曹操が、一刀にその理由を聞いている。

「卵が残っていると、また蝗害が発生する可能性が高いから。
今年の蝗害はあまり規模が大きくなかったから、下手したら来年更に大規模な蝗害が発生するかもしれない」
「どうして?」
「バッタは一度群生相になると、数世代それを繰り返す可能性が高いから、またバッタが孵化したら蝗害をおこしてしまう」
「群生相?何それ?」
「バッタは個体密度が高くなると、普段の緑色から黒色に変色する。
それは急に変わるんじゃなくて、数世代に渡って徐々に変わっていくんだ。
その黒いのを群生相っていうんだけど、蝗害をおこすのはそれ。
で、緑に戻るのも数世代かかるから、とにかく蝗害の禍根は断っておくのが一番」

唖然としている曹操。

「詳しいのね」
「これでも農業の専門家だよ。
実家はでかい農家だったし。
俺のいた世界でだって、農業に関することなら、普通の人より良く知っている。
農業といっても、いろんな知識があって、俺だって何でも知っているわけじゃないけど、俺が知っている知識だけでもこの世界では有益なことが多い。
俺の世界の書物なんかがあれば完璧だったけど、今の俺の知識だけでもこの世界の人と比べたら、もう質も量も圧倒的だよ」
「そう。劉備が一刀をさらって来いって言った時に、本当にさらっておけばよかったわ」
「…………え?今、何ていった?」

耳を疑う一刀。

「昔、劉備を捕まえたときに、劉備が一刀をさらって来いって提案したのよ。
そうしたら、袁紹軍の参謀がばらばらになるから、弱くなるって」
「何でそんなことを劉備さんが知っているんだろう?」
「何でも麗羽のところにいた客将に聞いたって言ってたわ」
「客将?……星さんかな?それしかいないもんな。
星さんが劉備に教えたってことは…………………………」

一刀はここで黙り込んでしまう。

「どうしたのよ?」
「いや、なんでもない。
たまたまだろう」

一刀の頭の中には、実は劉備と趙雲が共謀して劉備を皇帝に仕立て上げていったという、劉備の遠大な作戦が浮かんだのだが、いくらなんでもそれはないだろうと否定するのだった。

「でも…………」

趙雲のいたところは、最初は公孫讃のところで、次に麗羽様のところに来て、それから陶謙、袁術、一瞬麗羽様のところに来てから今は馬騰・馬超のところにいるらしい。
劉備のいたところは、最初は公孫讃、陶謙、曹操、袁術、一瞬孫策と一緒にいて今は蜀の皇帝。
いつも趙雲は劉備の一歩先にいて、劉備に役立つ働きをしているようにも見えるが……
もし、馬騰・馬超が劉備の役に立つような動きをすると、ひょっとするとひょっとするのかも?と、頭の片隅で考え続けるのである。
それにしても、趙雲と劉備を思い出すと、どうにもそんな作戦ができる二人には見えないのだが。

「ねえ、ねえ、一刀ちゃん、聞いて!
桃香ちゃんね、皇帝になったんだよう!すごいでしょう!
一刀ちゃんも蜀においでよ!愛紗ちゃん、絶対喜ぶよ!」

能天気な劉備が一刀に話しかけてくるシーンをイメージして、一人脱力してしまうのである。



「一刀、ちょっと来て」
「ん?何?」

許の城を曹操が一刀を連れまわしている。

「ここがこの間まで私の部屋だったところ」

で、連れてきた先が曹操の私室。
まだ、曹操が住んでいたときのまま維持されている。

「ふーん、そうなんだ。
案外簡素な部屋なんだな」
「ええ、まあそうね。
それで、今は一刀の正室もいないし、桂花も仕事で出払っているから、…………その」

そう、もじもじしながら部屋の鍵を閉める曹操。
曹操が何をいいたいかよく分かった一刀、

「しかたないなぁ」

といいながら、曹操を閨に押し倒す。

「だってぇ、正室たちや荀彧の目が厳しくてなかなかできないんですもの」

曹操も、目をうっとりとさせてそれに答える。
って、これでは完全に浮気ではないか!


少し時間が過ぎて……

「やっぱり、一刀、最高。
早く私を側室として宣言してよね」
「うん、機会を見て……」
「早くしてくれないと、私が宣言しちゃうんだから」

思いっきりデレデレ曹操である。

「……だ、大丈夫だって。
唐突に言うと、あの二人怒り狂うから、どうしたらいいか考えているところ」
「本当よ?」

気持ち良さそうにしている二人が、完全に不倫カップルの会話をしている。
困った二人である。




 元曹操領での仕事も終え、といっても指示だけだが、その夜も一刀はいつもの3人(田豊・沮授・呂布)と一緒に眠っている。
ところが、その晩は大事件が起こって、全員目を覚ますこととなる。
それまでくーぴーと寝ていた呂布が、突然起き上がって、閨の横においてあった方天画戟を一閃させる。
カキーンと金属音がして、金属同士がぶつかったような火花が現れる。
更に、呂布は戟を振り続け、その度に手裏剣のような短剣が床に落ちる。
呂布が戦っている場所は閨の上、というより一刀の上。
素っ裸のまま、敵に応戦している。
状況はエロチックだが、呂布の眼は真剣そのものである。

「ぐえっ!」

いきなり腹の上で呂布が暴れまわるので目が覚める一刀。

「恋!」

何をしているんだ!と叫ぼうとしたが、どうやら暗殺者と戦っているらしいことがわかって口を噤む。
初めて呂布がその存在目的を果たした時だった。

田豊と沮授は、騒ぎに目を覚まし、閨を降りて安全そうな場所に身を隠す。
そのうちに、呂布は敵がいると思う方向に、一気に走りより、戟を敵に突き刺す。

「…………逃がした」

呂布は、そうぽつりとつぶやくと、またくーくーと寝入ってしまう。
呂布、やっぱり大物だ。



「曲者ー!曲者ーー!」

いつの間にか服を着ていた田豊が、大声を張り上げると、城内は俄かに慌しくなり、兵が一刀の部屋にやってくる。
田豊が二、三指示をすると、兵たちは一斉に城内の探索を始めたが、結局曲者は見つからなかった。
田豊と沮授はそれから一晩中曲者の対応をしていた。
一刀は、寝ている呂布に抱きついていたが、そのうちまた眠ってしまった。
案外一刀も大物だった。
……鈍いだけという説もあるが。



あとがき
このために呂布は一緒に寝る必要があったのでした。
って、一緒に寝始めてから、早……何話だ?
ようやく本来の出番が登場しました。

しかし、感想見たらばればれでした。



[13597] 疑念
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:49
疑念

 翌日、城内は昨日の暗殺騒動で大騒ぎをしていた。

「陽、曲者が忍び込んだようでしたが……」

安全に慣れつつあるとはいえ、まだまだ暗殺とかそういうことには人一倍敏感な劉協が曲者が忍び込んだ事に気がつかないはずがないのである。

「はい、献様は私がいつもお守りいたします。
曲者は呂布が退治しましたが、逃げられてしまったようです」
「そうですか。怖いことです」

当然、皇甫嵩もすぐに騒ぎに気付き、皇甫嵩は劉協の身柄を守るために劉協に侍っていた。
が、幸いにも劉協の許に危害が及ぶことはなかった。


呂布の戟は血がべっとりとついていた。
間者も相当な重傷を負ったことが予想されるが、血の跡もなく、どうやら城外に逃げ延びてしまったようだ。


騒ぎに関係ない人間もいる。

「どうしたのですか?
何を皆で騒いでいるのですか?猪々子」
「麗羽様、昨晩曲者が忍び込んだじゃないですか。
それで、みんなで曲者の痕跡を探しているんです。
麗羽様も賊が侵入したことはご存知ですよね?」

ちょっと引きつる袁紹。

「も、もちろんですわ。
相国として、自分の身に降りかかる危険は常に察知する必要がありますからね。
お、おーっほっほっほ」

もちろん、城内大騒ぎをしていた中、ぐーすか寝ていた袁紹である。
実は、大物なのかも。



 賊の侵入は、当然賢人会議の議題に上がる。

「狙われたのは一刀よね?」

田豊に聞かれた呂布は、

「間違いない」

と、それを肯定する。

「明らかにご主人様を狙っていた」
「は?俺?どうして?
暗殺するなら陛下とか麗羽様だろうに」
「あんたねえ、もう少し自分の重要性を認識しなさいよ。
権力を握っているのは陛下とか麗羽だけど、参謀や将をまとめているのは、一刀の存在なのよ」

と、一刀に説教するのは、賢人会議に参加するようになった曹操。

「そういうこと」

と、田豊もそれに追随する。

「そうなのか?」
「そう。一刀はいるだけでみんながまとまるの。
ある意味女性全員の共通の敵で、別の意味でも女性全員共通の敵だから、一刀がいれば団結するのよ。
男の軍師、将からは冷ややかな、というか呆れたような視線がくるかもしれないけど、それはそれで男性を女性に強く惹き付けるのに役立つから、最終的にみんなが団結するの。
華琳を見ても明らかでしょ?」

結局一刀は酷い男だと言っているようだが、田豊の意図がわかって、はいはい、と諦める一刀ではある。

「華琳様、よもやこのクズのような男と交わったと言うようなことは……」
「き、菊香!話を進めましょう!!
今、重要なのは暗殺者がこの城内に入ったことへの言及」

荀彧の追求を冷や汗混じりに交わす曹操である。

「そうね。それに、一刀がいるから麗羽様は私達の案を採用してくれるようになったし」
「じゃあ、誰が俺を襲ったんだ?」
「劉備しかいないでしょ、もう漢以外には」
「漢の中という可能性は?」
「漢の中で一刀を殺して益を得るものはいないから、それはないわね」
「……劉備さんがねえ?」
「私に一刀を攫うように提言するほどよ。
間違いないわね」
「何、それ?」

田豊が曹操の発言の内容を確認すると、曹操が先日一刀にしたのと同じ説明を繰り返す。
田豊は暫く考えて、

「もしかしたら、劉備ってとてつもない策士なのかしら?」

と言うので、一刀も、

「菊香もそう思うんだ」

と、それに追随する。

「どういうことよ?」

尋ねる曹操に、一刀がもしかしたら、と思った考えを説明する。

「劉備が?
あれがねえ………
いきあたりばったりで暗殺を指示したんじゃないの?」
「いえ、華琳様、案外ありえそうな話ではあります」

とというのは程昱、早くから劉備の危険性を認識していたから、劉備が優秀なのではないか、と言われてもそれほど違和感を感じない。

「それに、現実に蜀の皇帝となり、孫策を臣下に迎え入れています」
「まあ、確かにそうだけど………」

と、どうにも劉備=優秀という図式がイメージできない曹操である。

「まあ、劉備が刺客を送ったのは間違いないようだから、蜀を倒すように陛下に進言して」

と、結論を出す田豊に、

「う、うん。まあ、わかった」

と、今一つ乗り気でない様子で答える一刀。

「ちょっと、しっかりしてよね。
自分の命を守るためなんだからね!」
「そうだなあ……」

曹操同様、頭では分かろうとしても、どうにも劉備=優秀という図式がイメージできない一刀であった。


強い意志がないと、説得も難しい。
劉協に蜀の討伐を提案したが、証拠は?と尋ねられ、うまく誤魔化せないうちに、蜀の討伐は否定されてしまった。
劉協、優しいから。
でも、今回はちょっと意思決定を誤ったかも。



 一方こちらは蜀。

「そう、周泰がやられたの」
「はい、桃香様。
胸に重傷を負い、どうにか蜀に戻ってきたようです。
命も危なかったようですが、どうにか一命は取り留めたようです。
他の刺客を送りましょうか?」
「いいわ、周泰で駄目なら誰が行っても駄目でしょう。
一体、一刀にはどんな護衛がついているのよ!
本当に私の作戦を悉く潰してくれる男ね」

流石の劉備も、当世最強の呂布が護衛だとは思わなかった。

「曹操もあの男に投降したようだし、もう蜀は風前の灯火ね」

と自嘲気味に笑い、それから表情を厳しくして、

「これからは、ひたすら漢の猛攻に耐えなくてはならない。
何度攻め込まれても、その全てを撃退する必要があるの。
こちらから攻め込んでいくなんて戦力的にとても無理だし。
朱里ちゃん、手伝ってね」

と、諸葛亮に話しかけて、それから、

「じゃあね、袁紹ちゃんが攻め込んでこないうちは内政に重きをおくことにしよう!
朱里ちゃん、そういうのは得意だもんね。
あとね、周瑜ちゃんにお願いしている船団の準備、急がせて」

と、桃香ちゃんに戻り、そう蜀の方針を決定する。

「はい、わかりました」

一刀の命も蜀の存在も当面安泰のようだった。



おまけ

会議の後で………

「華琳様!はっきり仰ってください!
あのクズ男とは何もないのですね?!」
「う、うるさいわね。
やましいことは何もないと言っているでしょ!」
「やましいことはないということは、していないと言うことですね?!」
「桂花!しつこいわよ!!」



[13597] 伝染
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:51
伝染

 暗殺騒動から少したった日。
その事件は、沮授のこの言葉から始まった。

「気持ち悪い……吐きそう」
「どうしたんだ?清泉。
病気かな。それとも変なものでも食べたのかな?」

自分の奥さんを心配する一刀。

「わからない……でも、気持ち悪い」
「じゃあ、今日はもう休んだら?」

と、言っていると……

「気持ちわるーい……吐きそうだわ」
「……菊香も?」
「菊香"も"って、どういうこと?」
「清泉も気持ち悪いんだって。
何か食あたりかな?」
「わからないわ」

だが、事態はそれで終わりにはならなかった。

「気持ち悪いわ……こんな気持ち悪さ初めて」
「華琳も、なのか?」
「華琳"も"って、どういう意味よ?」
「清泉も菊香も気持ち悪いんだって」
「食あたりかしら?」

そして更に……

「気持ち悪い……」
「え?恋も?」

こくりと頷く呂布。
あの、何食ってもぴんぴんしていそうな呂布が気持ち悪い?
そんな酷い食品があっただろうか?
……それはいいすぎだ。
呂布、すぐ傍で見ると案外華奢な女の子だもん。
食あたりなら他にもなりそうな人がいそうなものだが、今のところ気持ち悪そうにしているのはこの4人だけだ。


その様子を見ていた程昱、

「これは食あたりではありません。
病気です」

と物騒なことを言い始める。

「病気?」

みんな一斉に程昱に聞きなおしている。

「そう、病気。
しかも伝染性で不治の病」

それを聞いてみんな4人から距離をとる。

「びょ、病気ってなんだよ!不治の病ってなんだよ!
直す方法はないのかよ!」

心配した一刀が程昱に食って掛かっている。

「この病気は、最初は気持ち悪くなったり、嘔吐感がおきるだけなのだが、そのうちに腹部が信じられないくらい大きく腫れてきて、そして死ぬほどの苦痛を感じるようになり……
そして……そして………」
「どうなるんだよ?」
「嗚呼!とても私の口からは言へない。
この病気は、この病気は、病名を……」

全員固唾を呑む。

「悪阻といふ」

芝居がかった様子で仰々しく病名(?)を伝える程昱。
一気にトーンダウンする周辺の女性達。
それと同時に一斉に一刀を冷ややかな目で見つめるのである。

「………悪阻?………………ってことは」

伝染性って、一刀が感染源か。

「うつされてもいいかも……」

恥ずかしそうに言うのは董卓。

「え?月、冗談よね?ね?冗談でしょ?冗談って言って?」

大慌てで董卓に駆け寄る賈駆。
だが、董卓は顔を手で覆って恥ずかしそうにするのみである。

「月の気持ちは理解できます」

と董卓に理解を示すのは劉協。

「………献様、今何と仰いましたか?」

と聞くのは皇甫嵩。

「月、部屋に戻りましょう」

劉協はそれに答えず、董卓を連れて去っていってしまった。
残ったのは呆然とする賈駆と皇甫嵩。

「だ、大丈夫だ。
俺の奥さんは菊香と清泉だけだから」

一刀が慌てて二人(特に皇甫嵩)をなだめようとするが、それに曹操が異を唱える。

「あら、私は側室じゃないの?
この子はどうするの?
側室にしてくれる約束だったでしょ?」
「……そ、それと華琳だけだ」

うまいこと側室に収まってしまった曹操であった。
更に、つんつんと一刀の袖を引っ張るのは呂布。

「それと恋だけだ」

一刀が口を開くたびに一刀を見る目の温度が下がっていく。

「恋はともかく、華琳まで側室ってどういうことよ?」
「夫婦で話し合う必要がありますね。
部屋で待っています……うぷ」

田豊と沮授はそう言い残して去っていってしまった。
呂布が側室として認められるのは、この間の発情期が原因だろうか?

「きっさまーーー!華琳様に何をした!」
「あなた、華琳様に何をしたのよ!!」
「お前、恋殿に何をしたのですか!!」

と、一刀に詰め寄るのは夏侯惇、荀彧、陳宮。
一刀は、冷や汗をかきながら、

「こ、子供ができるような行為……かな?
ひひ……ひひ……」

と答えざるを得ない。
それを聞いた3人、今度は曹操と呂布に詰め寄り、

「華琳様、冗談ですよね!
やましいことは何もないと仰っていたではありませんか!」
「冗談と言ってください、華琳様ぁ!!」
「恋殿、そんなことはありませぬよね?」

と尋ねるのだが、

「春蘭、桂花。
もう、私は一生一刀の閨の友になることにしたの。
愛し合う二人の間に何があってもやましいことではないでしょ?
ごめんね。もう、あなた達と閨を共にすることはないわ」
「そ、そんな……」
「うそ……」
「だって、春蘭や桂花とやるよりずっと気持ちいいんだもの」

と顔を赤らめる曹操。
呆然とする夏侯惇、荀彧。

呂布も、

「赤ちゃん」

といって、にっこりとおなかを優しく撫でている。

「恋殿~~~~」

それから、3人でわんわんと泣き始めるのである。


そんな3人を無視して、嬉しそうなのは顔良。

「一刀さん、約束でしたよね。
私を側室にしてくれるんですね?」

最早、拒否することは出来ない一刀であった。


そのうちに……

「そもそも、悪いのは……」

陳宮が最初に泣き止んで、一刀を睨みつけ、それから彼女の必殺技を繰り出す。
荀彧と賈駆もそれに続く。

「陳宮キーーーーック!!」「グェ」
「荀彧パーーーーンチ!!」「グヮ」
「賈駆チョーーーーップ!!」「グォ」

更に、

「かーずとーー!!そこに直れ!七星餓狼の錆にしてくれよう!」
「助太刀いたそう」
「か、夏侯惇さん、皇甫嵩様、それしゃれになりませんから!」
「もちろん、本気だ」

刀を鞘から抜く皇甫嵩を見て、必死で逃げ回り始める一刀であった。



あとがき
やっぱり発情期のあとはこうなりますよね。



[13597] 粉塵
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:52
粉塵

「一刀はん、一刀はん!」

と、一刀を呼び止めるのは李典。

「李典さんじゃないですか。何ですか?」
「一刀はんが考案したっちゅう精米精麦機とか、製粉機って、あれはすごい機械やな。
よう、あんな複雑なもん考えついたもんや。
感動したわ」

製粉は最初は石臼でやっていたが、どうにも処理能力がたりなくなり、鉄製の製粉機も作ってもらっていたりした。

「ああ、あれ?あれ、俺が考案したわけじゃないんだ。
俺のいた世界にあったのを真似して作ってもらっただけなんだ」
「俺のいた世界……ってなんやねん?」
「ああ、信じられないかもしれないけど、俺、こことはちょっと違う世界から来たんだ。
それで、その世界にはあんな機械以外にも、自動的に動く機械っていう、もっとすごい機械もあったんだけど、俺の力で再現してもらうことができたのは、あのくらいだったんだ」
「そうなんや。
それでもすごいわ」
「家はでかい農家だったんだけど、そこにあれと同じような機械があって、俺も子供の頃、李典さんみたいにやっぱりあの機械がすごいと思って、分解して壊したことがあったんだ。
思いっきり父親には怒られたけど。
それで、覚えてたんだ」
「へえ、一刀はんも少しはからくりに興味があるんや」
「まあね」
「それでやな、うちもあれみて真似して製粉機作ってみたんやけど、ちょっと見てもらえんか?
精米精麦機はもう少しかかりそうやねん」
「すごいですね。ええ、是非見せてください!」


そして、製粉機を見に行く一刀。

「うわー、これはすごいわ」
「そやろ、そやろ。で、どこがすごいんや?」

嬉しそうな李典。

「こんな細かい小麦粉、この世界で始めてみた」

そう、石臼も機械式製粉機もまだ加工精度が甘く、ちょっと粒子の粗い小麦粉しかできていなかったのだが、李典の作った製粉機は、どう改良したのか現代の小麦粉と遜色ない細かさの小麦粉が出来ていた。

「ま、うちにかかればこんなもんやな!」

ちょっと鼻高々の李典。

「うん、ほんとにすごい。
でも、気をつけないと爆発するから、それは注意してね」
「爆発?物騒やな。何が爆発するねん?」
「小麦粉」
「は?何言うてまんねん。
小麦粉が爆発するはずあらへんがな」
「それが爆発するんだって。
小麦粉作る工場で、死者がでたこともあるんだから」
「信じられへんなあ……」



だったら、ということで粉塵爆発の実験をしてみることにした一刀。
ちょっともったいないけど、布で一辺が10mくらいの立方体を作ってもらって実験開始。

一刀が面白そうなことをするというので、みんなぞろぞろやってくる。
破茂もやってくる。

「一刀はん、爆発するものがあるんやて?
そういうことは、教えてくれな困るがな!」
「ごめんなさい、破茂さん。忘れてました。
でも、李典さんが製粉機改良したから爆発するようになったんですよ」
「まあ、今日は本当に爆発するか見せてもらいますわ」
「ええ」

もってきた袋、というか布の立方体に李典製小麦粉を湿らないように入れる。
湿ると爆発しなくなるから。
それから、鞴(ふいご)で袋の中に風を送り込み………ってまるで一刀が作業をしているようだが、もちろん彼は口だけ。
そして、袋の中が小麦粉の粉塵で満たされたところで全員避難。

「夏侯淵さん、火矢であの袋を射てください」
「うむ」

夏侯淵は言われるままに火矢を放つ。
弓の名手、夏侯淵が落ち着いて射れば、そのような巨大な的を外すはずもなく、矢は約百m離れた袋に無事に到達する。
そして……


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


小麦粉の粉塵爆発の爆発条件は比較的広く、物理法則に従って粉塵爆発が生ずる。
全員、爆発を見て驚愕の表情に変わる。

「えー、このように―――」

小麦粉と言えども、粉塵が浮遊すると爆発することがありますから気をつけてくださいね、と全員の方に向き直り、説明し始める一刀にどんとぶつかる者がある。

「えーーーーーん、怖かったのです!怖かったのです!」

と、泣きながら一刀に抱きついてきたのは劉協。
爆発がよっぽど怖かったのだろう、一刀に抱きついてえんえんと泣いている。
だが、怖いのは劉協だけではない。

(ひひひ……皇甫嵩様が笑ってる……)

劉協に抱きつかれた一刀を見る皇甫嵩は、いつもの無表情でなくにっこりと微笑んでいる。
劉協が幸せになってよかった!という笑みでないのは明らかだ。

「震えが止まらないのです。
しっかり抱きしめてください!」

一刀の背中にいやな汗が流れる。
死に直面した恐怖を感じる。
劉協の恐怖は過去形だが、一刀の恐怖は現在進行形である。
それでも、一刀は決死の覚悟で劉協を軽く抱きしめる。

「もっとしっかり抱きしめてください!
それでは震えが止まりません」

劉協様、それは違います。
一刀が震えているのです。

「たーいへーんねーー」

言葉にはしていないが、そんな生暖かい雰囲気で、劉協、一刀、それに皇甫嵩と董卓を除く全員が、その場からぞろぞろと帰っていってしまった。



 一刀に抱かれて暫くした後、劉協の恐怖も収まってきたようで、例によって

「一刀、部屋まで運んでください」

と、命ずる劉協。

「ええ、よろこんで!」

と、顔で笑い、

(陛下、俺を殺す気ですか?)

と、心で泣きながら劉協を抱き上げて城に向かう。
だが、劉協のことだ、絶対一刀が心で泣いていることを知っている。
結構、悪女だ。


一刀は例によって背中に皇甫嵩の刃を感じながら劉協を運び、部屋の前で彼女を下ろす。
すると、劉協は

「いつも献身的な行為に感謝します」

と、一刀に話しかけ、更に一刀の頬を両手で押さえ、口付けをする。
石像のように固まってしまう一刀。
……と皇甫嵩。
そして、数秒間の口付けの後、一旦唇を離して、

「これからもお願いしますね」

と言って、また数秒間の口づけ。
それも終わると、ちょっと思案して、最後に別れを惜しむ恋人のようにチュッと軽く口付けをしてから、少し顔を赤らめた董卓に開けてもらった扉から部屋に入っていく。


扉の外に残ったのは、一刀と皇甫嵩。

「フ……フフ……フフフフフフ」

皇甫嵩が笑っている。
皇甫嵩が声を出して笑っている。

一刀は体を石像状態から人間状態に戻し、必死で皇甫嵩から逃げ出すのであった。
最近逃げてばかりの一刀だった。




あとがき
昔の小麦粉が今の小麦粉に比べて粗いかどうかはよくわかりませんが、とりあえずそういうことにしておいてください。
小麦粉の爆発条件は最低は60g/m3だということが調べられたのですが、最高が分かりませんでした。
アルコールの爆発条件よりは広いでしょう、きっと。

2010.05.09
[1300]ナナシさん
ご指摘の通りです。
ありがとうございました。
直しておきました。

2010.05.09
[1305]誤字らさん
ご指摘の通りです。
ありがとうございました。
直しておきました。



[13597] 華麗
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:54
華麗

 何でも今日は劉協から重大発表があるらしい。
全参謀、将が集められている。

「皆様にお伝えしたいことがあります」

劉協が全員に話し始める。

「此度、朕は帝位を袁紹に禅譲することといたしました」

ええっ!!という劉協以外の全員。
ほとんど、晴天の霹靂!といった感じ。
袁紹も聞いていなかったのだろう、相当に驚いている。
皇甫嵩も寝耳に水といった感じで、呆けている。

劉協は言葉を続ける。

「今や漢を治めるのは、蜀を除けば事実上袁紹です。
朕は袁紹に頼っているばかりで、最早何の力もありません。
力のあるものが皇帝となるのが一番自然な姿です。
袁紹、朕からの禅譲を引き受けてくれますか?」

袁紹は堂々と劉協の前に進み出て、

「はい、陛下。
この袁紹、喜んで禅譲をお引き受けいたしますわ。
オーッホッホッホ
オーッホッホッホ
オーーーッホッホッホ!!」

袁紹、余程嬉しいのだろう。
いつもより余計に回っております!ではなくて、余計にオーッホッホッホが出ております!
仰け反りすぎて、後ろにひっくり返ってしまいそうだ。
こうして、袁紹は長年の願いであった帝位を、遂に手にしたのだった。


「献様、本当によろしいのですか?」

部屋に戻る劉協に、皇甫嵩が尋ねている。

「ええ、皆に言い渡したとおり、今漢を治めているのは袁紹。
本来皇帝とは偶像ではなくて本当に力を持っているものがなるべきです。
ですから、袁紹が皇帝になるのが当然でしょう。
本当は、もっと早くに禅譲すべきだったのかもしれませんね」

劉協ははればれとした様子で答えている。

「そうですか。
献様がそう仰るのでしたら、そのお考えを尊重いたします」

劉協は更に言葉を続ける。

「それに、相手が皇帝では、やりにくいでしょ?」

そう小悪魔っぽい笑顔を皇甫嵩に向け、小走りに部屋に向かっていく。
皇甫嵩は、その場でまたまた石像のように固まってしまったのである。



 一刀は緊張していた。

袁紹が皇帝と言うことは、いよいよ華国ができるということだろう。
で、この世界に来たときの予想では、ゲームがあがれば現代社会に戻れる。
そうすると、いよいよ現代社会に戻る日が来てしまったのか?

でも、それは何時?
袁紹が漢から華に変わったことを宣言したとき?
それとも、蜀も滅ぼしたとき?
何れにしても、そう遠くない将来のことだ。

戻るのは誰?
恐らく自分だけだろう。
ここに来た時はさっさと袁紹を皇帝にして帰りたいと思ったが、今やこの世界にずっといたいと思う。
あれから……何年だ?
時間はやや曖昧だけど、結婚もしたし、子供も出来そうだ
でも、ゲームがあがれば否応なく戻ってしまうことになる……多分。
それを菊香、清泉、恋、華琳にどう伝えればいいのだろう?
魏ルートの曹操のように、泣きながらも戻ることを認めてくれるのだろうか?
恋は……渤海を見ていたときに「ご主人様、いなくなっては駄目」って、静かに泣いて抱きついてきたっけ。
斗詩はまだ子供がいないから我慢してもらうとして、華琳は分からないけど、他3人は認めてくれないだろうなあ。
そうはいっても、戻るのは間違いないだろうし。
…………どう話をしたらいいだろう?



一刀が悩みながら歩いていると、前方に人影が見える。
見れば皇甫嵩。
最近追われてばかりで、苦手意識が強い。
まだ、本気で殺そうとは思っていないようではあるが、最近ちょっと本気度が増えてきた気がする。
お前、いい加減やりすぎだ、そろそろ覚悟しろよ!という気かもしれない。
って、どう考えても悪いのは劉協だが、そう皇甫嵩に進言したら、その時点で殺される気がする。

「そうか、献様が悪いと言うお前の発言、遺言として聞いておこう」

そして、一刀の答えを待つ前に、もう頭と体が離れてしまう、そんな気がする。
理不尽だー!!
Uターンして、別のところから部屋に戻るか、と言ってもそれは無理。
だって、部屋の入り口で、一刀を待っているようにしているのだから。
緊張しながらも部屋に向かう一刀。


「こ、こんにちは……」

ひきつった笑顔で挨拶する一刀。
と、皇甫嵩の刀が目にも止まらぬ速さで一刀の首筋に当てられる。
皇甫嵩と呂布、まじめに戦ったらどちらが強いのだろう?
皇甫嵩、ほとんど契約者っぽい強さだし。
まともに勝負できるのは黒くらいかも。

「わかっているだろうな、もし、献様に何かあったら……」

何でこうなったかさっぱり分からないが、怯えながらもとりあえずこくこくと頷く一刀。
それを見て刀を引く皇甫嵩に、一刀が話しかける。

「あの……皇甫嵩様。泣いてます?」

皇甫嵩、一刀をぎろりと睨んで、

「そのようなことはない」

と(どうみても涙目で)反論して去っていった。
ちょっと人間の表情に近づいてきた気のする皇甫嵩だった。



 袁紹が新しい国号を公表する日。
一刀は2人の正室と2人の側室を呼んで、まじめな様子で話を始める。
側室2人は妊娠している呂布と曹操である。
顔良も側室扱いではあるが、妊娠していないので一刀がいなくなってもそれほど影響は甚大では無いと判断し、ここには呼ばれていない。

「あとで、みんなに話がある。
とても大事な話なんだ。
麗羽様の発表が終わったら、俺の部屋に来て」

いつになく真剣な様子の一刀に、4人とも黙ってそれに頷いている。


運命の国号の発表。

「みなさ~~ん、この華麗な私が新しく皇帝になりましたので、国号を変えることにいたしますわ。
新しい国号は―――」

緊張し、固唾を呑む一刀。

「"麗"!」

今度は一人ずっこけ、全員の注目を集める一刀。

「どうしたのですか?一刀」
「あの、麗羽様。
新しい国の名前ですが、華麗の"華"ではないのですか?」
「何をいうのですか。
華麗の"麗"、麗羽の"麗"、これ以上にいい名前があるはずがないではないですか!」
「そ、そうですよね!
いや、流石麗羽様!
素晴らしい国号です。
俺も感服いたしました!」

どうやら、現代社会に戻る可能性は永遠に失われてしまったようだった。
一刀はとてもうれしかった。



そして、一刀の部屋で……

「で、大事な話って何?」

田豊が心持ち緊張した様子で一刀に尋ねている。
話すことがなくなってしまった一刀は、

「うん、俺……」

そういってにっこりと4人を見回す。

「心の底からみんなを愛しているから」

真っ赤になる4人。

「ば、馬鹿、そんなこと知ってるわよ!
何、今更そんなことを言っているのよ?」

口々にそんなことをいいながら、みんな部屋を出て行った。
でも、言葉とは裏腹に、みんなうれしそうだった。


あとがき
契約者、黒は知らない人は分からない内容なので、無視してください。
それにしても、何で劉協は禅譲したのでしょうか?



[13597] 反撃
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/05/12 21:21
反撃

 袁紹が麗国を興すのを待っていたかのように蜀が動きを始めた。
何と、国力が圧倒的に劣る蜀が江(長江)を通って麗国に攻め込んできたのだ。

その直前までの一刀の活躍と麗の食料事情について。
曹操領が陥落しそうになってから、一刀は新たに領土になるであろう土地の農業指導を行うために、農業指導員を育成していた。
そして、曹操領・孫策領が漢に変わったのを機に、農業指導員を全土に派遣していた。
新たに漢、今は麗に属した地域はさすがに面積が馬鹿でかく、とても一刀一人の手には負えないので、その農業指導員を現地に散らばって指導するという形体をとっていたのだ。
分からない点は手紙で対応、それでもだめならいよいよ一刀が出張するという方式なので、今のところ一刀は業に留まっている。
河南、江流域が領土に含まれ、いよいよ米作を行う時代がきた。

更に短期的には、新たに支配地にしたところで食料が欠乏していたところに、ある程度食料を回していたので、潤沢とは言わないまでもかなり十分な食料事情になっていた。
民の気を惹くための実弾という説もあるが、まあ不足分を補う程度だったら供出しても麗にとってはそれほど問題なく、これで麗全土の食料事情はかなり改善した。

このように、食糧事情は短期的にも長期的にも改善方向にあった。


文官も全土に派遣されていて、政治はなんとか機能するようになっていた。
だが、兵はまだ麗国の精鋭が送られているわけでもなく、孫策が荊州を全部征圧したときと同じか、更に弱い兵しかいない。
文民にも当然文民としての仕事の能力が要求されるが、精鋭な兵に要求される資質ほど高度なものでもなく、文官トップが派遣されれば、あとは現地で労働力確保すればなんとかなるが、兵はそうはいかない。
袁紹のところも、さんざん訓練をして、ようやく精強な兵に変わっていったのだから、現地で兵を採用したところで、仮に優秀な武官一人が派遣されても即座に兵が精鋭になるわけではない。
そこを蜀が狙った。
蜀も、元々いた人間が食うだけならそれほど困らないのだろうが、孫策軍10万近い兵が増えてしまったので、さすがに豊潤な益州もにわかには食料を調達することが出来ず、だったら奪ってこようということになったのだった。


「孫権さん、周瑜さん、お話があるのですが……」

というのは、例によって諸葛亮。
大元の作戦立案は劉備でも、彼女は決して表にでてこない。

「何でしょうか?」

対応するのは孫権。

「お願いしていた船団もそろそろ準備が出来ています。
それで、申し訳ないのですがお願いがあるのです」
「どのような……」
「江を通って麗に攻め込み、流域の街を制圧していっていただきたいのです」
「それは奪われた領土を奪い返すと言うことか?
それにしては、まだ軍事力が整っていないと思うのだが」

異を唱えるのは周瑜。

「仰るとおり軍備はまだまだです。
ですが、孫家の皆様が蜀にやってきたので、その……申し上げにくいのですが食料事情が厳しくなってきてしまったのです。
それで、食料の豊富な麗に行ってもらってきたいのです」


孫権や周瑜はそんな盗賊まがいのことを、とちょっと難色を示していたが、自分たちの食う分がないということなので、背に腹は変えられない。
仕方なしに兵を進めることとなった。
そして準備していた船を江に沿って進め、なんと夷陵から江陵あたりまで陥落させてしまった。
やはり、孫家軍、精鋭である。



麗国にとって悪いニュースは続くものだ。
涼州で馬騰が亡くなり、馬超が後を継いだという情報が伝わってきた。
そこまでは良くある話なのだが、その先が変わっていた。
なんと、馬超は蜀の支持を表明したのだ!
趙雲がいるからだろうが、それにしても馬超、おまえ大馬鹿だろう?という感じだ。
まあ、確かに恋姫の様子を見ても、武はたつが、頭はあまり切れる感じではない。
むしろ馬岱の方が余程賢そう、というよりずるそうだ。
馬超が趙雲にいいようにあしらわれている感じがする。
こんな偏狭の地の州牧でなく、もっと重要な地位を約束するとか何とか言われて、つい、でへへ!となってしまった雰囲気100%だ。
趙雲も、そういう目で見ると、劉備ほどでもないが、結構押しが強く、狡猾な女性だから、馬超のようなお人よしだところっとだまされてしまいそう。


「どう思う?」

と、一刀に個人的に聞いているのは田豊。
江のニュースと馬超のニュースについての一刀の意見を聞いている。
ここにきて、一刀もいよいよ劉備は本物の策士ではと、確信するに至った。
趙雲が涼州にいったなら、馬超を蜀につけたいからだろうと思っていて、しかし一方でそんなことはないだろうと思っていたのにその通りのことが起こったから。

「やっぱり、劉備、本物みたいだな」
「信じられないけどね。
それで、この先の展望は?」
「こんな展開、俺の知識にはないけど、まあ策だけを考えるなら、馬超の方は

 最初に麗羽様が攻め込む
 次に馬超軍を少ない被害で蜀に誘導する

かな?
そして、蜀は孫策軍を吸収して水軍は強いから、どうにか水軍での戦いにしたいんで、江で我々を挑発しているんじゃないの?」
「私も、そう思っていた」
「じゃあ、今後の行動は?」
「裏をかかないとね。
馬超には何もしない。
直接蜀を攻める。しかも陸路で」
「だな」


そして、賢人会議にその方針を確認するのだが、沮授が質問をしてくる。

「一刀の知っている知識ではどうなるのですか?」

そこで、一刀は赤壁の戦い、夷陵の戦い、それから蜀の北伐から蜀漢の滅亡までの歴史をざっと説明する。

「それでは江から攻め込みましょう」
「どうして?」

質問するのは田豊。

「今、蜀は江に攻撃を仕掛けています。
これは孫家軍を取り込んで、水上戦であれば勝機があると読んでの挑発行為でしょう。
そして、夷陵は既に陥ちていますから、劉備の考えている策は烏林、即ち赤壁の戦いに類したものを想定していると思います。
仮に北から攻め込めば蜀は滅ぼせても、今麗に攻め込んでいる兵が大規模な盗賊になってしまったりして、これを殲滅させるまでに多くの被害がでてしまいます。
それよりは、敵がまとまっているときに一度に殲滅させてしまったほうが麗の被害が少なくてすみますし、敵の出方は予想できてますから、劉備の思惑にのった振りをしてまとめて叩き潰したほうがいいでしょう」
「それは一理あるけど、叩き潰すための戦略は?」
「こういう策でどうでしょう?」

と策を出したのだが、曹操はそれを聞いて真っ青になってしまった。

「お、おとなしい顔をして、ずいぶんとえげつない作戦をかんがえるのね」

曹操、沮授の作戦を聞いて、何故自分が負けたのかよーく分かった気がする。
そして……みんなに美人で頭が良いと言われる沮授である。
その作戦とは………実戦まで伏せておくことにしよう。



[13597] 陛下
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:55
陛下

沮授の方針が適当と判断され、あとは"皇帝袁紹!!(やったー!)"にそれを認めさせるだけだ。

「一刀!何なのですか、あの馬超は!
この私からあの劉備に鞍替えするとは、何を考えているのですか!
即刻攻め滅ぼしなさい!!」

どうも今の袁紹は劉備よりも馬超に対して頭にきているようだ。
というわけで、一刀の仕事は劉備をやっつけましょうと提言すること。
皇帝になったからといって、人間がすぐに変わると言うものでもない。
袁紹、相変わらずである。
ということは、一刀が説得すれば一発だと言うことだ。

「陛下、確かに馬超は蜀への忠誠を表明しましたが、そんな辺境の州牧の一人くらい放っておいて、直接蜀を攻めればよいではないですか。
今、現に荊州に攻め込まれていますから、これも排除する必要があります。
いちいち馬超のような細かいことを偉大な陛下は気にする必要はありません。
蜀が滅びれば、馬超もごめんなさいと謝ってきますから。
華麗な陛下は蜀の打倒だけ考えればよろしいと具申いたします」
「……まあ、それもそうですわね。
それでは早速蜀を滅ぼす算段を考えなさい!」
「はい、わかりました。
あと、馬超も何らかの手を打っておきます」
「そうですわね。
無罪放免と言うわけにはいきませんからね」

と、退室しようとする一刀を袁紹が引き止める。

「ところで、一刀」
「はい、何でしょう?」
「その……私のことを何と呼びましたか?」
「は?陛下のことですか?陛下とお呼びしたような……」
「あ~ん、なんていい響きなのでしょう。
もっと呼ぶことを許しますわ」

袁紹の意図が分かった幇間一刀、袁紹の意向に沿った回答をする。

「……はい、華麗な陛下!」
「あ~ん」
「偉大な陛下!」
「あは~ん」
「栄光の陛下!」
「あぁ、いいーー!」
「いよっ!名君、袁紹様!」
「だめ~、良すぎるぅ~」

ちょっと悶え気味のアブナイ袁紹であった。


「ずいぶん遅かったのね。
陛下を説得するのに時間がかかったの?」

一刀が余りに遅かったので田豊が心配して尋ねている。

「いや、説得は一瞬だった」
「じゃあ何で遅かったのよ?」
「ちょっと陛下を喜ばせていた」

ちょっと目の色が冷ややかに変わる田豊。

「……そう、麗羽様にまで手を出したのね?」

ちょっと自分の発言が誤解されたように認識されたと分かった一刀、大慌てで発言の真意を説明する。

「え?あ、ち、違うって!
陛下に陛下、陛下と連呼しただけだ」

なんとなく状況が分かった田豊、

「ああ、なるほど」

と、妙に納得する。



 さて、蜀の攻撃が決定されたので、あとは誰が向かうか。

「劉備には借りがあるから、私が行くわ!」

と言うのは曹操。
やっぱり、赤壁の戦いと言えば曹操 対 孫権だろう。
…………孫策生きてるけど、孫策が出てくるのだろうか?
それに、孫家より劉備がメインだし。
ところが、

「なりません!!!!!!!!!」

と、余りに強い調子で反対するのは荀彧。

「華琳様は今、身重の身。
戦に出たら、そのお体に障ります。
父親は殺してもまだ足りないクズの人間ですが、華琳様のお体はそれには関係なく大事にしなくてはなりません!
船や馬に乗るだけでも駄目だというのに、戦に出るなんて論外です!」
「そうです!
華琳様を孕ませた極悪非道の悪人は、華琳様のお許しがあればいつでもこの夏侯惇処分いたしますが、華琳様はお体を大切にしなくてはなりません。
華琳様の御無念は、この夏侯惇が晴らして参ります!!」

酷い言われようの一刀である。

結局、大将:顔良、軍師:逢紀・程昱、主な武将:夏侯惇・文醜・夏侯淵・麹義他という、何というか袁紹軍に無理やり曹操軍をくっつけたような軍が出来上がった。
顔良も劉備を倒したいと常々思っていたから丁度良い。
袁紹は留守番である。
たかが蜀の一つや二つ、わざわざ陛下が行く必要ありません、漢の皇帝も都で朗報を待ってました、斗詩さんにでもまかせておけば、さーっと片付けてきてくれますから、という一刀の説得で、残ることになったのである。
下手に作戦を考えて、邪魔されると困るし。
こうして、前代未聞の顔良 対 劉備の赤壁の戦いへと進んでいく。

雍州にいた郡司や兵は、民間人に化けるよう指示を出した。
そして、涼州兵が来たときの対応も指示しておいた。


大将になった顔良、出発を前に一刀に強い口調で迫っている。

「いいですか!一刀さん!
帰ってきたら、今度こそちゃんと側室として扱ってもらいますからね!!」

そう、正室が妊娠したまでは顔良を喜ばせる出来事(事故?)だったのだが、一刀が

「絶対に側室にするから、もう少しほとぼりが醒めるのを待って!お願い!」

というので、不満たらたらではあるがまだ側室らしい行為を全くしていない。
帰ってきたら今度こそ!という不屈の顔良の不屈の精神である。
これには、一刀も、最早「うん」と答えるしか出来ないのである。



 こちらは趙雲。
馬超を適当にあしらって、蜀につかせ、涼州の隣の雍州に攻め込んだはいいが、どの街にも兵士がおらず、それどころか住民は兵が来てくれたと馬超軍を歓待する始末。
おかしい、と思っていたら、そのうちに袁紹軍が蜀を攻めるとの話が風の便りで聞こえてくる。
しまった!裏をかかれた!と、大急ぎで単身蜀へと移動する。

「やられましたな、桃香殿」
「そうね、星ちゃん。
でも、操船技術は孫家の兵に一日の長があるから、江(長江)で袁紹軍を叩けば、そう簡単には負けないわ。
袁紹も一度で蜀を倒せるとは思わないことね」

二人きりのときと、それに諸葛亮が加わった時は素の関係に戻る劉備と趙雲であるが、その他のときは普通に能天気な皇帝とちょっと癖のある臣下の関係に徹している。
今はその3人しかいないから、本来の姿で話し合っている。

「でも、桃香様、袁紹軍もこちらの作戦はある程度分かっているのではないでしょうか?
馬超の引き抜きも失敗してしまいましたし」
「そうね、朱里ちゃん。
だから、袁紹軍が挑発に乗って攻めてきても、何か裏があるとみないとならないわね。
でも、今はそれを考えても分からないから、敵対してから様子を見て考えることにしましょう。
それに、陸戦でこられたら、もう私たちには勝つ術がないの。
情けないけど、孫家の水軍の力だけが唯一麗に勝っているところなの。
それを頼ることだけが蜀が生き延びる唯一の可能性なの。
だから、裏があると思っていても、それにすがるしかないの。
あと、攻め込む時期は早くしないとだめなの。
私たちだって今は苦しい時だけど、これで時が過ぎていったら麗の力は圧倒的になっていって、水軍を以ってしても勝てなくなってしまうの。
だから、一回は麗を叩いて、攻める気を削いでおかないと。
そうして時間を稼いだところで、この勢力差を挽回するのはほとんど不可能に近いのだけど………なんて、気弱なことを上に立つものがいってはだめね。
苦しくても、辛くても何度も攻め寄せてくる麗を毎回撃退しよう!」
「わかりました。
周瑜さんや孫策さんには申し訳ないですが、頑張ってもらいましょう。
食料が足りないという嘘で戦いに行ってもらうのはちょっと良心が痛みましたけど。
他に何か指示することはありますか?」
「今のところ新たな指示はないわね。
麗への侵攻を続けるように。
食料も豊富にあったのでしょ?」
「はい、さすがに一刀さんの農業はすごくて、どの街も十分な食料が配備されていました。
特に江陵には潤沢にありましたから、これで孫軍も問題なく維持できます」
「それはよかったわ。
一応戦いに出かける名目がたっていることになっているから。
それに、食料が足りないというのもあながち嘘でもないの。
何とかやっていけないこともないけど、相当厳しいから、食糧を奪うのはやはり有効な作戦なの。
それと朱里ちゃん、良心より野心よ」
「……はい。ところで、馬騰様は袁紹様が皇帝になったのと時期を同じくしてお亡くなりになったのですね。
ずいぶんと奇遇な気がします。
これも運命なのでしょうか?」
「そうだな、朱里殿、奇遇だな。
だが、我々にとっては都合の良い時に天寿を全うされたものだ」

趙雲はそう言ってにやりと嗤う。
劉備もそれを聞いてにやりと嗤う。
諸葛亮は、それをみて何があったか悟り、ぞぞ~っとすると同時に、自分も同じ仲間に入ってしまったのだという認識を新たにせざるをえないのであった。



趙雲を失った馬超は、雍州で何となく途方に暮れていた。
その後、民間人に化けていた兵にあっという間に鎮圧されてしまった。
不憫だった。



[13597] 感触 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/05/18 00:01
感触

 このころの中国の生活習慣。
夫婦は普通は一緒に閨を共にするのだが、妊娠すると妊婦は別の部屋に一人寝ると言うのが一般的であった。
だから、田豊、沮授、曹操は一刀と一緒には寝ていない。
顔良は、もう荊州に出払っていて、一緒には寝られない。
本当は呂布も別に寝たいのだが、護衛の役があるため、今は一刀と一緒に寝ている。



そんなある夜のこと、董卓がそっと自分の部屋を抜け出してくる。
そして、辺りをうかがいながらどこかに向かって歩いていく。
と、突然董卓の口を抑える手がある。

「んっ?!」

恐怖に慄く董卓に、その口を押さえた手の主は耳元で静かに話しかける。

「月、静かにしてください。
陽が起きてしまいます」

何のことはない、劉協である。

「献様、どうしてここに?」

皇甫嵩の部屋から離れたところで、董卓が劉協に尋ねている。

「月、今夜行くのでしょ?
一人で抜け駆けとは酷いではないですか。
朕も一緒に行かせてください」
「でも……まだ一刀さんが受け入れてくれるかどうかわかりません」

何と、董卓は一刀の部屋に夜這いに行くらしい!
それに劉協も一緒についていきたいということだ!!
ということは二人して夜這い?
一刀、うらやましすぎるぞ!

そう、今一刀と一緒に寝ているのは呂布だけで、夜這いに行っても大丈夫そうだというので、長年の想いをいよいよ叶えようとしている董卓なのだ。

「それなら大丈夫です。
朕の言うとおりにしてください。
今夜は月が行きそうだと分かったので、陽に眠り薬を飲ませておいたのですよ。
でも、あの陽のことですから、それでも跳ね起きてしまうかもしれません。
ですから、静かにやりましょう」

ちょっと小悪魔の本領を出し始めた劉協のようだ。
それから、二人で一刀の部屋の扉を静かに開けて……閉めて……

「恋、お願い。協力して」

と、董卓が呂布を説得して…………
劉協、董卓、二人揃って服を脱いで一刀の閨に入っていく。



 一刀は夢を見ていた。
それも史上最悪の悪夢だ。

「陛下!俺が体の中から喜ばせてやる!!」
「陛下だなんて。
もう普通の少女です、献と呼んでください」
「分かった!献、いくぞ!!」
「あぁ~~、とてもいいです!」
「一刀さん、私も……」
「もちろんだ、月!
二人まとめて喜ばせてやる!!」
「一刀、もっと下さい!」

突然開けられる部屋の扉。

「一刀、最初からお前は危険な奴だと思っていたが、とうとう献様を手にかけたのか。
覚悟はいいな!」

乱入してきたのは皇甫嵩。
目には一切の感情がない。
間違いなく相手を殺す目だ。

「何を言う、皇甫嵩!
献も月も俺を愛しているんだ!
献が愛している男を殺すなんて出来ないだろう?アハハハハ!!」
「陽、一刀の言うとおりです。
朕も月も一刀を愛しているのです。
朕の一刀を殺さないで下さい!」

劉協と董卓は、そう言って泣いて両側から一刀にぎゅっと抱きつく。


ぷにゅん
ぷにゅん





……………………妙にリアルな感触だ。
どうして?と思った一刀はゆっくり目を開けてみる。
見えたものは……皇甫嵩。
一瞬で覚醒する一刀。
左右を見てみれば、夢の通りに劉協と董卓がくっついている。

「えっ!!!!」

いよいよ皇甫嵩に殺されるシーンが、実際のものと思われてくる。
顔面蒼白の一刀、必死で皇甫嵩に言い訳をする。

「ご、誤解だから!
俺、何もしていないし!!
服だって……」

と思って自分の姿を見てみれば、何故か裸。
劉協、董卓の二人も裸。
おまけに、時間が都合悪く、下半身が生理的にそれはそれは大きく勃っている。
裸の女性二人に抱かれ、おまけに勃たせていて、何もしていないはちょっと厳しいかも。
一層、顔が青くなる。

「れ、恋は知ってるよな!
俺、何もしてないよな!!」

と、妊婦服を着ている呂布に救いを求めるが、呂布は困ったように顔を赤らめて顔を背けてしまう。
次第に生きる希望が潰えてくる。

「と、兎に角誤解だから。
俺、陛下にも董卓さんにもなにもしていないから!!」

だが、それを聞いた劉協、

「え?そ、そんな。
昨晩は献、月と真名を叫びながらあれほど愛してくださったのに。
心の底から二人を愛していると言ってくださったのに。
あれは、嘘偽りだったのですね?
朕と月を弄んだのですね?」

そう言うや否や、わっと泣いて皇甫嵩の許へと駆け寄っていく。
そして皇甫嵩の胸の中でわんわんと泣き始める。
董卓も一刀から離れ、閨の上で裸のまま顔を隠して泣いている。

裸の劉協が泣きながら自分の胸に飛び込んでくる。
破壊力抜群だ。
皇甫嵩、表情が純粋な無に変わる。

「献様、その悲しみの元はすぐになくなります」

そういいながら一刀の元に歩いていく。
その頃には騒ぎを聞きつけ、一刀の部屋に人々が集まってきている。
何が起こったかは誰にも分からないが、部屋には


 裸で泣いている女が二人
 裸で逃げ回っている男が一人
 刀を持って男に迫っている女が一人
 困惑している妊婦が一人。


これを見て一刀が悪い!以外のことを言える人間は間違いなくほかの人々の非難を受けるだろう。
沮授は何かいいたそうだったが、もうそんな雰囲気ではなかった。

「ぅわーーーー、冗談、冗談、冗談だって!!
献も月も心の底から愛しているから!
献、月、今日は一日中愛しあおう!な?
3人だけで!
他の人は出て行ってもらおう!ね?ね?ね?」

一刀は呂布の後ろに隠れて、どうにか劉協の気を惹こうとする。
だって、今や皇甫嵩をとめられるのは劉協しかいないから。

「陽、思い出してくれたようです。
だから、朕の一刀を殺さないで下さい!
お願いです」

皇甫嵩の動きが止まる。
劉協はその皇甫嵩の脇をすり抜けていき、一刀の許へと向かう。
そして、

「一刀、そういう冗談はいけませんよ。
驚いてしまったではありませんか。
今日は本当にちゃんと朕と月を愛してくれるのですね?」

と、一刀に微笑みかける。
裸の一刀は、

「も、もちろん!」

と言って、人々の前で、やはり裸の劉協をしっかりと抱きしめ、そして劉協の心を開くようにキスをする。
一刀、必死である。
劉協に見捨てられたら、間違いなく自分は死ぬ。
そんな覚悟で劉協と心と体を一つにしようとしている。
劉協も、そんな一刀の気持ちが通じたのか、嬉しそうにしていた。
皇甫嵩は、そんな劉協を見て泣きながら部屋を飛び出していった。

「月、これでよかったのね?」

賈駆が相変わらず閨の上で泣いている董卓に声をかける。
黙って頷く董卓。

「みんな、部屋を出ましょう」

賈駆の言葉に、一刀、劉協、董卓を部屋に残し、全員がぞろぞろと部屋を退出した。


そして……

薄々……いや、明らかにおかしいとは思っていたのだが、一刀が劉協に騙されたことを決定的に知ったのは、その直後、劉協の純潔を奪った瞬間だった。
一刀の行動に対して異様に霊感が働く沮授だけは分かっていたが、もう手の出しようはなかった。
こうして、劉協も董卓も側室にしなければならなくなってしまった一刀であった。

「これでもう逃げられませんよ」

一刀に貫かれた劉協が、破瓜の痛みでちょっと表情をゆがめながら、一刀ににっこり微笑みかける。
やっぱり劉協、皇帝から小悪魔に変化していた。
これも董卓の教育の成果だろうか?
一刀はなにか催眠にかかったようにそれから少しの間、劉協のいいなりになってしまうのである。
その結果………



おまけ
「献様、どうして一刀さんはあんなにあっさりだまされたのでしょうか?」
「月、漢の皇帝には代々伝わる、相手に思い通りの夢を見させるという妖術があるのです」

本当か?



あとがき
このような習慣があるとは寡聞にして知りませんが、劉協と董卓が獲物を狙う隙を作るのに必要なので、そういうことにしておいてください。
まあ、あってもよさそうではあるのですが。


[1352]ありさん
[1354]ふらんプールさん
ご指摘の通りです。
直しておきました。
ありがとうございます。



[13597] 自棄 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:57
自棄

「皇甫嵩様、飲みませんか?」

城壁で静かに泣いている皇甫嵩のところに、賈駆がウィスキー(と呼ばれているほぼ純アルコール)を持ってやってくる。

「賈駆か、そうだな」

皇甫嵩と賈駆は朝っぱらからウィスキーを飲み始める。
もう、明らかに自棄酒だ。
暫く飲み進めていって……

「いいかぁ、賈駆。
献様はあんな雑草のような男にくれてやっていいお方ではないのだ!
高貴で愛らしく、純粋なお方なのだ」

随分人間らしい感情を出すようになった皇甫嵩である。

「皇甫嵩様!分かります!
月も清らかな女性なのです!
あんな女誑しには相応しくなーい!」

って、自分もさんざんやっていたくせに……

「その通りだ!
献様~~!!あんな俗物に奪われてしまって……何と不憫な」
「月もあんな男に一生をささげてしまって……可哀想すぎる」
「一刀の馬鹿野郎!!」
「一刀のバカヤロー!!」
「一刀の馬鹿野郎!!」
「一刀のバカヤロー!!」

朝っぱらから二人揃って酔っ払って一刀を馬鹿呼ばわりし続けるのであった。
そして、真昼間から酔っ払って眠ってしまって、起きたのは次の日の朝だった。



一刀が袁紹に呼ばれている。

「一刀」
「はい、陛下」
「献様と董卓を側室にするとのことですが……」
「はあ、そうなってしまいました」
「今は何も身分のない人間ですが、元は一人は皇帝、一人は州牧。
菊香や清泉のような訳にはいきません。
あまり粗相のないようにすることですわ」
「はい…………え?州牧?華琳のことですか?」
「華琳?ああ、そういえば華琳も州牧でしたわね。
そうではありません。
悪の董卓なんて、いなかったのでしょう?」
「ご、ご存知だったのですか。
申し訳ありませんでした。
その通りです、今まで陛下をだましていました」

嘘がばれて平謝りの一刀。

「これでも、一刀の様子を見て、少しは我が身を反省して色々情報を聞くことにしていたのですわよ。
まあ、いいですわ。
今の私があるのも、一刀のおかげですから、私を騙したことは不問といたしますわ。
その代わり、私が呼んだらすぐくることですわ」

それって、どういうことですか?前後の脈絡がありませんが……とは怖くて聞けなかった一刀である。
内容が分からなくても、

「はい、畏まりました」

と、とりあえず答えておく。
ところで、袁紹、結構本当に名君っぽくなってきたようだ。



さて、その日のこと……

「月、お願いがある」

と、董卓に話しかけてきたのは呂布。

「何でしょうか?」
「その……私も一人で寝たいから、ご主人様の護衛を他の人に頼みたい」

そう、妊婦は一人で寝る習慣だから、呂布も一人で寝たいというのだ。
劉協や董卓もいることだし、他の人に頼んでもいいだろうと思う呂布である。

「一刀の護衛を他の人に頼みたい……のですね。
そうですね、恋さんも身重ですからね。
わかりました、何とかします」


今度は董卓が劉協に同じ事を頼んでいる。

その結果、

「いいか、一刀。
お前を守るわけではないからな。
献様をお守りするついでにお前も守るのだからな!」

ということで、皇甫嵩が一刀を守ることになったのだが……

「陽」
「はい、献様」
「朕も一刀も月も裸なのに、一人だけ寝巻きを着るのですか?」
「………」

その晩、皇甫嵩はおんなになった。

「一刀、殺す」

恥ずかしそうに泣きながらそういう皇甫嵩は、関羽に負けずとも劣らない綺麗な長い黒髪を閨に広げ、きつい目も恥ずかしさの所為か心持ち優しくなっていて、かなり可愛かった。
劉協がちょっと嫉妬していた。


「一刀のバカヤロー
 皇甫嵩のバカヤロー」

翌日、賈駆が一人で自棄酒を飲んでいた。



「陛下!……ではなくて、献様!!」
「あら、菊香ではありませんか。
どうしたのですか?そんなに憤って」

田豊が劉協に食って掛かっている。

「どうしたのですか、ではありません!
献様が側室になるのは、百歩譲って認めることとしましょう。
ですが、何で皇甫嵩まで側室にしなくてはならないのですか!」

もう、皇甫嵩の呼称は"様"なしになってしまっている。
当の本人は、と言えば、一刀の背中に顔を埋めて隠れている(つもりになっている)。
少し歩き方がぎこちなく、改めて何があったか解説する必要は全くない。

「それは、朕たちはまだ経験が少ないので、菊香たちのように二人だけで一刀を喜ばせることが出来ないからです」
「え?!……そ、それは、誤解です。
とにかく、これ以上側室を増やすことのないようにしてくださいね!」
「はい、菊香たちのように一刀を喜ばせるように努力いたします」
「そういうことではなくてですね!!」

気弱とはいえ、宦官にもまれてきた劉協である。
比較的素直な田豊では相手にならなかった。


「一刀!一刀ったら!!聞いてるの?」
「う、うん……」

劉協の説得を諦めた田豊は、今度は一刀に話しかけるのだが、これまたどうもぼーーっとしていて、埒が明かない。


その話を影でしっかりと聞いていた荀諶、その日のうちに側室に納まってしまうことに成功する。
やっぱり軍師、そういう才覚は十分だ。


「一刀のバカヤロー
 皇甫嵩のバカヤロー
 柳花のバカヤロー」

またまた、賈駆が一人で自棄酒を飲んでいた。



「詠ちゃん」
「なによ、月!」

最近、妙にカリカリしている賈駆である。

「素直になっていいのよ」
「……」


その夜のこと……

「一刀の……ばか」

今度は賈駆が一刀の閨で、恥ずかしそうに一刀の非難をしていた。



それから数日後。

「ねえ、一刀!!」
「な、何?」

ようやくまともに話ができるようになってきた一刀を田豊は糾弾している。

「何であんなに側室増やしたのよ!」
「う、うん。増やす気はなかったんだけど、ほら、あのさ、菊香や清泉と初めてするときはお互い愛し合っていたから満足したんだけど……
献や月は、その……慕ってくれるのは嬉しいんだけど、愛し合ってるっていうより、脅されてって感じだったから、献の純潔を奪って『これでもう逃げられませんよ』と言われた瞬間に、何か原罪を犯したような罪悪感にとらわれて……
何か献の言うことは全て聞かなくちゃならない気になって…………
で、気がついたらこうなってた……。
昔の陽、本気で怖かったし。
ごめん」
「もう自重してよね!」

正室、かつ妊娠中だとかなり寛容になるようだ。
この一言で済んでしまった。

「うん、もう献や陽とも普通に接することが出来るようになったから大丈夫……だと思う」

やっぱり劉協、小悪魔か、さもなくば妖魔になったに違いない。




あとがき
これでR15は終わりです。
赤壁関係の描写が数回とその後の様子が1回で終わる予定です。



[13597] 舞台
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/05/17 23:54
舞台

 こちらは帰れば一刀の側室になれると意気軒昂で蜀の討伐に向かっている顔良、荊州で船の調達やら何やら戦の準備をしている。
まさか側室が増殖しているなんて夢にも思わない。
帰って自分以外の側室がいつの間にか2人から7人に増えているのを知ったらぶちきれること間違い無しだ。
とにかく蜀を、劉備を倒して麗国に戻ることだけを考えている。




さて、船といえば、その当時の世界にあった大型船はローマで使われていたガレー船のような竜骨を備えた船と、史実通りの丸木舟型の船。
恋姫のゲームの世界はなんとも微妙だが、もう少し後の時代の唐船のような船に見える。
この世界では……史実の勝ち!
丸木舟と、複数の丸木舟を板でつないだタイプの船(楼船と呼ばれた、複数の船に板を渡したような船+櫓のような形)で構成された船団が構成された。
船には漕ぎ手も必要であるが、これには荊州の民を徴用……ではなく、雇用した。

荊州もなかなか数奇な運命を辿る州である。
劉表が治めていたと思っていたら、そのうちに孫策がじわじわと州全部を制圧してしまい、と思っていたら一年もたたないうちにその孫策を曹操が倒し、その情報が来るか来ないかの内に漢に戻りました!と通達がある。
更に、漢が麗に変わって、今に至る。
民にしてみれば、善政を敷いてくれる人物が支配してくれれば誰でも良いわけだが、袁紹領は善政ということになっているので、安堵している。
まだ一刀の農業改革は行われていないが、荊州や揚州の現状を見れば、じきに一刀の改革者精神が発揮されるだろう。
そろそろコンバインが欲しい!!とか言いそうだが、それは李典がいても叶えられそうにない。



そして、水上戦の準備が出来た顔良軍、史実の通り赤壁の戦いが行われた烏林に艦隊を展開する。
迎え撃つ劉備軍というか孫権・周瑜軍はその対岸に布陣する。
そこにあるのは赤茶けた岡。
後世赤壁と言われる場所である。
この船団は劉備の依頼で孫権・周瑜軍がこの戦の全権を担っている。
劉備や諸葛亮も戦いには参加しているが、孫権や周瑜が右!と言えば右を向き、後ろ!と言えば後ろに下がる程度で、兎に角周瑜の邪魔をしない程度の活躍に徹する予定である。
やはり、劉備、人を見る目は確かで、勝つために何をすべきか良く知っている。
未だに無能な振りをしている位だから、つまらないプライドは持ち合わせておらず、勝つためにはなんでもやる。
その点、沮授と似ている。
船も周瑜の希望通りのものを準備した。
漕手は孫策と共に、8万人もやってきた。
これだけやれば、そうそう簡単にはやられないという劉備の自信もわかろうというものだ。

その孫家の長の孫策は……合肥の戦い以降どうも様子がおかしく、部屋に閉じこもったままである。
周瑜が会いに行っても

「今は会いたくないの」

と、部屋に篭ったまま会いもせず、孫権が訪問した時にいたっては返事もしない。
食事はとっているので生命には問題ないようではあるが、周瑜や孫権は心配でたまらない。
孫策がそんな調子なので、今は孫権が孫軍を率いている。
だから、軍も孫権・周瑜軍。孫策軍ではない。
一応戦場にはついてきているが、天幕に篭ったままである。


そんな孫権・周瑜軍の前に現れたのは巨大な楼船群。
見るものを威圧する。

「冥琳、なかなか威圧的な船ね」
「そうだな。我々を威嚇して投降を促そうと言うのだろうか?」

と、楼船を見て話し合っているのは孫権と周瑜。

「孫家軍を甘く見ないでもらいたいですね」
「その通りだ。威嚇するだけでは誰も投降しないだろう」



だが、袁紹楼船は、史実と違い、更に様々な機能を追加し始めた。

まず一つ目はステージ。

「みんなーーー、聞こえるーーー?」
「みんなのアイドル(愛人形)数え役萬☆姉妹だよーー!!」
「今日は蜀のみんなのために歌うねーーー!!」


♪イー アール サン スー
 ツァオツァオ ビァンタイ
 リンルー ジュンユー
 ガンメン チャーハン
 ジンフー クヮイガン~

(一二三四
 曹操変態
 陵辱荀彧
 肛門挿杭
 緊縛快感~)


何故いきなりアイドルという英語が登場するか疑問だが、もうあまり深くは突っ込まないことにしよう。
良く見れば漢字があるが、人形=ドールはやっぱり英語だし……。

そして、歌っている舞台の前には、例の巨大春画が掛けられている。
曹操や荀彧がいたらぶちきれていたところだろう。


「みんなー、袁紹様のところで楽しくすごそうよ!!」
「待ってるねーー!!」


張三姉妹を使った投降勧告である。
劉備並みになかなかいやらしい策を考えるものだ。
やっぱり発案は沮授だろうか?
歌と春画の投降勧告には蜀の兵もかなりその気になって、もう雪崩のように投降する人間が続出しそうであったが、何とか孫権や公孫讃が抑えていた。



 その頃の業都の様子。

「ねえ、一刀」
「ん?何だ、華琳?」
「張三姉妹も蜀に向かったじゃない」
「ああ」
「歌で投降を促すっていうけどうまくいくのかしら?」
「あの三姉妹のことだから、みんなの心をつかむのは上手なんじゃないの?
軍の規律がしっかりしていればそう簡単に投降する人がいるとは思えないけど、結構その気になる人も多いんじゃないかな」
「まあそうね。
黄巾党を結成したくらいですものね」
「それに新曲もつくったらしいし」
「そうなの。どんな曲?」
「えっ!!!
よ、よく知らない……」

何かを察知した曹操、一刀に詰め寄ってくる。

「ねえ、どんな曲なのよ!?」
「そ、それは……」

曹操は一刀から根掘り葉掘り作戦を聞きだして、その結果、怒りで体を震わせている曹操が出来上がった。

「そ、そうだ!
俺、ちょっと用事があったんだった……」

そっと逃げようとする一刀を、曹操はぐいっとつかむ。
一刀の運命や如何に?



[13597] 楼船
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:57
楼船

 楼船の機能追加二つ目が攻撃兵器の搭載。
楼船の上にちょっと小型の霹靂車をくっつけたものがいくつかと、破茂弩をくっつけたものが一つ。
……これだったら、純粋な船での戦いでも勝てるのでは?

江(長江)の川幅は2km以下、破茂弩の最大射程も2km。
しかも設置位置が高いところ。
ということは、その場から動くことなく敵船に弩をぶち込むことができるということだ。
久しぶりに登場の麹義、戦も始まっていないのに大喜びで弩を打ち始める。

「発射ーー!!」

弩はまっすぐ船に飛んでいき、その船底に穴をあける。
たまたま人がいなかったから木製の船は浮かんでいるが、いれば間違いなくその重量で沈んでしまったところだろう。

「朱雀はん!困るでありんす。
まだ敵に手の内を見せる時期ではないでありんす!!」

逢紀に苦言を呈されている麹義、全然悪びれる様子もなく

「ガハハ!試射だ!」

と言い放っている。
まことに困ったものだ。

と、麹義が一方的に糾弾されているようだが、実はこの試射も作戦の一環だったりする。
万が一スパイがいると困るので、麹義の独断専行と言うことにしてあるのだった。


破茂弩の威力を見た程昱や夏侯淵、

「これが濮陽を半日で陥とした新型の弩……」

恐怖交じりに破茂弩を見ている。



 一方の弩を打ち込まれたほうの周瑜、

「な、なんなのよ、これは!?」

驚愕である。
第二射がいつあるかもしれない。
烏林の対岸に陣を張っていたが、とりあえず、大急ぎで川上の、弩の射程外に避難するしかないのであった。

操船技術は上かもしれないが、あんな兵器を使われたら操船以前の問題だ。
弩でないほうの兵器は、おそらく霹靂車、合肥で散々やられた岩を飛ばす兵器だろう。
射程は二里くらいだったから、あの江上要塞に近づいたら岩を飛ばし始めるのだろう。
船が接する前に沈められてしまう。
弩も問題だが、岩はもっと問題だ。
直撃すれば一発で沈んでしまう。


劉備もその様子を見ていて、必死に逃げている船の上で周瑜に話しかけている。

「袁紹ちゃんのところの兵器はすごいねぇ!
ねえ、周瑜ちゃん、あれでも勝てるの?」

江上戦の全権を委ねられた孫権・周瑜であるから、どうにかしなくてはならないのだが……

「ちょっと考えさせてくれ……」

と、即答を避ける。
そりゃまあ、そう簡単に対応が見つかるとも思えない。


 この二つ目の機能追加だけでも十分に驚異だと言うのに、実は三つ目の機能追加、これこそ沮授の最終兵器としての機能が備わっているが、それは今は秘匿する。



 さて、その日の夕方、劉備は桃香ちゃんモードではなく、劉備モードになって、諸葛亮を呼び、秘密の指示を行っている。
そしてその直後にその指示の元、諸葛亮は鳳統と周瑜に密かに作戦の提示をしている。
鳳統はその後、密かに孫策を訪れる。
その夜、孫策と鳳統を乗せた船と、それを守るようにしている船数艘が静かに袁紹軍の元へと進んでいった。




 もしも電話があったら……

「ハロー、ダーリン?」
「斗詩さん、そのダーリンって言うのはなんですか?
止めてください」
「だって、私はダーリンの側室なんだからダーリンでいいでしょ?
私がいない間に浮気なんかしていないでしょうね!」
「は、はい!ダーリンでいいです」
「……ねえ、ダーリン。何でそんなに焦っているの?」
「と、斗詩さん、それで、何で電話してきたんですか?
誰か投降してきました?」
「ええ、来ましたよ。孫策さんが来ました。
って、そうじゃなくて」「はあーーっ?孫策ぅ?
孫策、生きているんですか。
もしそうなら、孫家の家長じゃないですか。
何でそんな人が来るんですか?」
「何でって、そんなの孫策さんに聞いて下さい。
来ちゃったんですもん。
それで浮気」「孫策がくるなんてありえないじゃないですか!」

という会話が為されたに違いない。
男と女、それぞれ重要だと考える項目が随分違う。
というより、浮気を攻める側と隠したい側の差なのかも。


が、そのような便利なものはないので、そこにいる人が色々話をすることとなる。

「何で孫策さんが来たんですか?
孫家軍はどうするんですか?」

と尋ねているのは大将になっている顔良。
さすがに袁紹軍の将、軍師全員が驚愕している。

「孫家軍はもう骨抜きになってしまった。
蓮華の気弱な逃避策に全員が付き従ってしまっている。
もう、私が鼓舞しても孫家の将も兵も私でなく蓮華についていくわね。
私の時代は終わってしまったの。
流石に私を倒した曹操がいるところに投降するのも、と躊躇したのだけど、あんな堕落した孫家と一緒にいるよりはいいわ。
一緒に来てくれたのは孫家でも気骨のある兵ばかり。
蓮華のような軟弱な考えにはついていけないものばかりなの。
劉備と腐った孫家軍を倒すのに協力させて頂戴」
「ええ、孫策さんがそう仰るのなら是非お願いします」

ということで、なんと孫策自らが投降することになってしまった!!
劉備が孫策の状況を見て考えついたのかもしれないが、それにしてもすごい展開である。


「それで、そちらの軍師の方、鳳統さんはどうしてこちらに?」

顔良は、今度は鳳統に尋ねている。

「はい、劉備様のところでは、朱里ちゃんと……あわわ、諸葛亮さんと周瑜さんの意見しか取り上げられないのです。
私も軍師として活躍したいのです。
袁紹陛下のところでしたら私にも活躍の場があると思ってきました」

鳳統は気弱そうに答えるのであるが、それに逢紀がかみついてくる。

「陛下の軍師は一人二人の量ではないでありんす。
何十人もの軍師が議論を戦わせているのでありんす。
そんな中に気弱な軍師が一人混ざってもやはり活躍の場はないでありんす。
蜀に戻ったほうがいいでありんす」

それを聞いた鳳統、今度は気丈にこう言い放つ。

「そんなことはありません!
意見を聞いて頂けるのでしたら私だって誰にも負けない戦術を立てることができます!!」
「そう。それならお聞きしたいでありんす。
蜀が麗を倒すにはどうしたらよいでありんすか?」

逢紀はにこりと笑って鳳統に尋ねる。
罠で投降して来ていると知っててそう尋ねる逢紀、なかなかいやらしい軍師である。
というより、そういういやらしさ、えげつなさがないと袁紹軍ではやっていけないのだろう。

「そ、それは……」

さすがに今自分たちが実行しようとしている作戦を言うわけにもいかず、困った様子の鳳統であるが、再度意を決したように逢紀を睨み返し、

「火計を使います!」

と答える。

「そうでありんすか。
ですが、火計には風向きがようござんせん。
それはどう考えるのでありんすか?」
「時期を待ちます。
袁紹軍の艦船は密集して浮かんでいます。
今は確かに風向きが悪いですが、この時期でも風が逆に吹くこともあります。
その時期に火船をぶつければ艦船の大部分を沈めることができます!」
「火船が来る前に岩や弩で沈められてしまうと思うでありんす」
「その分、数で攻め込めば大丈夫です!」
「そうでありんすか。
いや、参考になったでありんす。
鳳統はん、是非袁紹軍の軍師として活躍していただきたいでありんす」

とにっこりと微笑みかける逢紀であった。
無事、鳳統も袁紹軍に潜り込むことに成功したようだ。



 袁紹軍の将、参謀だけでのひそひそ話。

「あれ、罠なんですよね?」
「多分。船をくっつけるように言われたら本物でしょう」
「そうですね」

さすがに孫策が投降してきたのには驚きが隠せないのであった。



あとがき
破茂弩はもう登場させない予定だったのですが、楼船にオプションをくっつけていて、霹靂車をのっけるなら破茂弩ものっけないと不自然なので、止む無く再登場させました。
すみません。
ただ、例によって、この一撃でほぼ終わりです。



[13597] 暗澹
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:58
暗澹

 翌日、劉備軍から船が一艘やってきた。
攻撃の意思はないと白旗も揚げている。


「孫策と話をしたい!!」

単身やってきたのは周瑜である。
その声に、孫策と彼女が連れてきた兵数十名が乗ってきた船に乗って周瑜の傍に漕ぎ出していく。

「何よ、冥琳!」
「孫家の家長ともあろうお前が投降するとはどういう了見だ!」
「私はね、蓮華のような軟弱な者に従う孫家軍に嫌気がさしたのよ」
「だったら、軟弱な孫家軍を再度精強な孫家軍へと変えるのがお前の使命だろう!」
「ええ、そうよ。
だから、袁紹軍に下ったの。
これから私たちが精強とはどういうものか見せてあげるわ。
それで、蓮華の軟弱な考えから改めるものは私に投降なさい。
私は陛下の下で新たに精強な孫家軍を作ることにしたの。
冥琳、今からでも遅くないわ。
あなたもこっちにいらっしゃい!」
「雪蓮、呆れたぞ。
そこまで精神が腐ってしまっていたとは。
お前が見捨てた孫家軍がどれほど精強であるか、お前の目でしかと確認するが良い!!」

周瑜はそういうと自分の乗ってきた船を孫策の乗っていた船に突進させる。
この時代、海戦、というか水上戦は船を相手の船にぶつけ、沈ませると言う戦い方が主だった。
それで周瑜の船は孫策の船に体当たりをしようとしたのだが、勝手知ったる間柄である、お互いに船を巧みに操作し、決定打を与えさせない。
だが、次第に孫策の船が周瑜の船を追い詰めていった。
そして、遂に……

ドガッ

孫策の船が周瑜の船を破壊する。

「チッ……」

周瑜と、そこに乗っていた兵たちは木片に掴まって自軍に泳いで戻るのであった。

「冥琳、あなたも早くこちらにいらっしゃい!」

周瑜の後から孫策が声をかける。



水上戦の様子を見ていた逢紀と程昱(の頭上の太陽の搭型オブジェ。所謂宝慧)、

「偽りの投降と知られないための演技、痛々しくて見ていて思わず涙が溢れてしまうでありんす」
「花魁、それを言っちゃあおしめえよ」

二人(+1ヶ)揃って泣いている。
ばれていると教えてあげればいいものを、袁紹軍の人々はみんな意地悪だ。



さて、出陣前に一刀はいくつか注意事項を袁紹軍というか顔良軍に言っていた。


1)疫病が流行ったらすぐ帰ってくるように
2)敵に投降をうながすように。
  投降してきた将は九分九厘偽りの投降だから気をつけるように。
  黄蓋が来る可能性が高いが、違うかもしれない。
3)船を鎖か何かで繋げといわれたら、それは罠だから、軍師と相談して対応を決めるように。
4)風向きが変わったときに連結している船に火を放つ可能性が高いから気をつけるように。


このうち、2の投降は既に現実のものとなった。
投降したのが孫策と言う驚くべき人物だったが、投降したという事実には変わりない。
きっと船を繋げというのも時間の問題なのだろう。
そして、この対応は既に沮授が決めている。

1の疫病だが、史実では曹操軍に疫病が発生していたようだが、すくなくともこの戦には疫病が発生していない。
その一翼を担うのが逢紀。
逢紀はどういうわけか、ほとんど江戸人なので、妙に衛生観念が強い。
だから、一刀が逢紀を推薦したということもあった。
時々、医療の向上で寿命が延びたような話があることがあるが、寿命が伸びるのに与える医療の影響は案外少なくて、それよりは、食料が十分にある、暖かい住環境や衣類が準備できる、衛生に気をつける、という事柄のほうが人類の寿命には大きく影響している。
平均寿命70歳だったものを80歳に上げようと思ったら、医療の効果も大きいのだろうが、平均寿命30歳だったところを50歳に上げるのには医療以前にやることが多いということだ。
十分な食料をとり、体を温かくして、体の抵抗力・免疫を高めなければだめなのだ。
戦争を減らすというのも、結構寿命を上げるのには有効だったりする。
史実の烏林での疫病が衛生に気をつけることで回避されたかどうかは不明であるが、ここでは疫病がない。
その逢紀、元々持っている衛生観念に加えて、一刀に聞いた殺菌方法を聞いて、それを実践している。


「食べ物は熱を通してから食するでありんす!
生水は飲んではいけないでありんす!
手はウィスキーで消毒するでありんす!
汚物は江の下流のほうに流すでありんす!」


これが奏効しているのかどうかわからないが、全員元気だ。
熱源は石炭を利用している。
ここにきて徐々に石炭の需要が延びてきている。
掘ればいいだけなので需要に応え易いから。
そして、元気な兵が先の周瑜の来訪をきっかけに攻撃に転ずることとなる。

まず有効なのが、試射も済ませた破茂弩、はるか遠方から蜀の船を狙い撃つ。
だが、周瑜とてただやられるわけではない。
曹操が城壁の上に並べた分厚い楯を船にも装備し、何とか弩の攻撃から船を守ることには成功した。成功はしたが、それほど大きくない船にそんな巨大な楯を乗っけたら船の運動性が落ちて仕方ない。
蜀の船団は、まだ重くなってしまった船の操作に四苦八苦と言う状態だ。

それから霹靂車、というか霹靂船。
重い船なので運動性能は極めて悪いが、じわりじわりと蜀の船団に近づいては岩をボガッと打ち出す。
蜀の船の傍に岩が落ちてできる水柱が立つ。
もう、蜀の船は防戦、というより逃げ回る一方である。
近づくことさえ、ままならない。



「ねえ、周瑜ちゃん!逃げ回っているだけじゃない!
これで勝てるの?」

劉備が周瑜に文句を言っている。
相変わらず、諸葛亮と趙雲以外には無能を通す劉備であるが、誰の目にも逃げ回っているのは明らかだからその程度の文句は言ってもいいだろう。
全権を委ねたと言うのに逃げる一方では軍の最高司令官として文句の一つもいいたくなってくるものだ。
さすがに周瑜も返す言葉の歯切れが悪い。

「うーむ、今のところは防戦一方だが……諸葛亮殿の考えた策がうまくいけば……」
「え?朱里ちゃんが何か考えたの?
教えて、教えて!!」

って、実は劉備が諸葛亮に指示した策だが、そんなことは周瑜は知らない。

「いえ、これは身内にも明かせない策ですから、陛下も申し訳ありませんが……」
「そうなの?つまんないの。
まあ、いいや。
ところで周瑜ちゃん、あの対岸にも袁紹軍がいるじゃない。
あれ、何でかなあ?」


劉備軍が対岸から避難してしまったあとに、破茂弩を載せた楼船と、輸送船数十艘が今まで劉備軍がいたところに陣取ってしまっている。
兵員もかなり移動しているようだが、どうもその意図が分からないというのが劉備の質問の背景だ。


「陛下も気づいていらっしゃったのですか。
恐らく我々が残さざるを得なかった兵糧を再度奪われないようにするための守備兵ではないでしょうか?」
「うーん、そうかなぁ?桃香ちゃん、何かとっても気になるんだけど」
「弩を積んだ船がありますが、船の数も少なく、攻撃力もそれほどあるとは思えません。
杞憂だと思うのですが」
「そうかなあ。本当にそうかなあ……」

周瑜が問題ないと言っても、心配そうな劉備であった。



さて、袁紹軍の船団は、楼船の威力は以上のように圧倒的なのだが、普通の船団は荊州の民を雇用して俄仕立てに作った船団で、これはさすがに練度が低い。
孫家の兵と違って普通の軽い船を扱っているというのに、ようやくやたら重い蜀の船といい勝負の運動性能しか発揮していない。
だから、楼船の威力は圧倒的なのに、戦局は膠着状態である。


そんな様子を見た孫策が顔良にクレームをつけている。

「どうみても楼船で優位に立っている状況を生かしきれていないじゃない!」
「それはわかるんですけど、水上での戦いは経験がなくて、どうしたらよいか分からないのです。
何か案はあるんですか?」

これでは話し方だけ見たら、どちらの立場が上だかわからない。

「だったら、孫家の秘策を教えるわ」

ということで、孫策の提示した策は……


1)楼船を全部くっつけて、多少やられても沈まないようにする
2)楼船の後ろに普通の船を全部くっつけて、楼船の速度を高める
3)その楼船の集団で劉備軍を追い、楼船で劉備軍の船をつぶす


というものだ。
まあ、船に酔うのだったら船をくっつけろ!というよりは合理的な説明かもしれない。
それにこの時代、船同士の戦いは船で相手の船をつぶすということが多いので、これも確かに合理的ではある。
が、普通に聞いたら「本当か?」と思うような説明だ。
だが、劉備軍から投降してきた将がそういう提案をするに違いないと聞いている袁紹軍の人々は、

「なるほど!それはいい考えですね!」

と、その作戦を高く評価する。
そして、早速孫策の指示に従い、船が全てつながれることになる。
これが連環の計……なのだろう。


あとがき
白旗がそのころあったかどうか分かりませんが、とりあえずそういうことにしておいてください。
その時代はこうであったというのがありましたら、修正しますので教えてください。

それにしても、蜀、かわいそうです。
こんなにがんばっているのに。
逢紀や程昱ではありませんが、涙が溢れてしまいます。



[13597] 火計
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 00:59
火計

 劉備が諸葛亮を通じて周瑜や鳳統に伝えた策であるが、確かに火計ではあった。
周瑜がどんなに頑張っても勝てないと危機感を感じた劉備であるので、他の策が必要だと判断したのだ。
が、劉備は史実や演戯と異なり、風を待つと言うような作戦は提示していなかった。
確かに、時々風の向きが変わるということは劉備も知識では知っていたが、それでは確実性に乏しい。
諸葛亮も残念ながら風向きを変えるほどの妖術は持ち合わせていない(って、それが普通だ)。
それに、袁紹軍の攻撃力からして、そんな悠長なことを言っていたら、風向きが変わる前に敗れてしまう可能性が高い。

そこで、風が変わらなくても火計を使う方法を提示した。
方法は極めて簡単明瞭。
孫策に投降してもらって風上から火をつけるという作戦である。
孫策らが敵陣に入り、船にとりつけた紐を引っ張って、その先に取り付けた魚油の入った袋を取り寄せる。
それを袁紹軍の船団の中にばらまいて火をつければ万事解決!
失敗したら、孫策と鳳統を切るだけ。
ダーク劉備にとってはそれほど痛くも痒くもない。
周瑜と諸葛亮が悲しむだろうが、なだめればどうにかなりそうだ。

史実では、連環の計というものはなくて、事前に投降を予告していた黄蓋が、密集した船団に風が変わってから燃料船で突撃して曹操軍の船を燃やしたらしいが、恋姫ではやっぱり連環の計っぽいものがあるようだ。
芝や薪は現地調達するが、それほど多量に盗っては目立つから、メインは魚油と考えている。
そして船が使えず混乱しているところに乗り込んで、陸戦で敵の主要な将を打ち破る。
同じ作戦を二回は使えないだろうが、今回はこの作戦で乗り切れるだろうと判断した劉備である。
この辺までの作戦を麹義の弩を見てすぐに思いついた劉備、やはり天才だろう。
麹義の行動は、劉備に火計を思いつかせるためにも効果的だったようだ。
もし、劉備が一刀の思惑通り火計を思いつかなかったら、第一級の軍師、田豊、沮授、荀彧が妊娠、および妊婦の付き添いで業に留まっている状態では有効な代替案が立てられず、船同士の戦いを長々とし続けなくてはならなくなってしまったり、最悪、蜀が勝ってしまうかもしれなかった。

投降する人間を孫策に決めたのも劉備である。
漢が変わった麗に蜀の状況がもれていると言うことは容易に想像がついたから、孫権や周瑜とちょっと仲違いの状態にある孫策であれば投降しても自然だろうと考えたのだ。
そこまでは良かったのだが、如何せん相手が悪かった。
だって、未来を知っているのだから、思い切り反則である。
さすがにこれでは劉備も勝てないだろう。
一刀がいなければ、本当に天下をとれたかもしれないのに。



そもそも、麹義が弩を撃った本来の理由は何だったのか?
それは対岸に兵を置きたかったからだ。
その理由は?
それこそ沮授の考えた作戦の肝である。
沮授の考えた作戦はどのようなものなのだろうか?


夜、袁紹軍が一部見張りを除き寝静まった頃を見計らって孫策の連れてきた兵がひそかに動き始める。
その日も風は強かった。
乗ってきた船についている紐を引き寄せると、予定通り魚油のつまった大きな皮袋がいくつもついてくる。
孫策兵は、それを楼船や水上に撒いていく。
魚油は水より軽く、浮くのでこういう作戦には重宝する。
そして、風上の船にはふんだくってきた薪を積んで着火準備完了。
孫策は黙って首を縦に振る。
兵はそれを見て薪や魚油に火をつける。
火は折からの季節風にあおられてどんどんその勢いを増していく。

「これでいいわね」

孫策がそうつぶやくと、

「そうだな」

という、孫策兵以外の人間の声。
驚いて振り向いた孫策の目に飛び込んできたのは、七星餓狼を孫策に突きつけている夏侯惇の姿。

「ど、どういう意味よ?」

尋ねる孫策に顔良が答える。

「劉備軍が火を点けるのを待っていたんですよ」
「何ですって?」

孫策は顔良の答えに驚愕し、それから誰も見えない江に向かって大声を張り上げる。

「冥琳!蓮華!逃げて!!罠よ!!」

だが、江は無情にも何も答えてくれない。

「まあ、一緒に劉備軍の最期を観賞しましょう」

とにこにこしている顔良であった。



その頃、烏林の対岸では、許緒や典韋、それに力自慢の大勢の兵が緊張した様子で江を眺めている。
そして、

「よし!火がついた!
引き始めろ!!」

麹義の声に、兵たちは一斉に鎖を引き始める。

「えーほー、エーホー」

鎖は2km以上もあって、その一端を許緒らが引っ張っていて、その反対側は楼船など孫策の意見で一つにまとめられた船団がくっついていた。
そして、楼船の櫓の内側は密閉された空間になっていて、その内側は粉塵で満たされていた。
孫策らが火を点ける作業を行っている最中に、孫策から見えないところで袁紹軍の兵は鞴(ふいご)を動かして楼船の中を粉塵で満たしていたのだ。
小麦粉の粉塵爆発の威力に感嘆した沮授が、火をつけられるんだったら敵船にぶつけて、敵船ごと爆発してしまえ!といったのが作戦の全容である。
これには曹操もぶったまげてしまって、沮授を美人で頭がいいと評したのは既に記したとおりである。

爆発実験も何回も行った。
今は粉塵が白から黒に変わっている。
即ち、小麦粉から石炭の粉に変わっている。
爆発圧力は小麦粉のほうが強いが、石炭の方が火力が強く、また湿気に強いので石炭爆弾船とすることにした。
これなら多少湿気があっても爆発には影響しないことも確認している。

それが今、火を点けられて劉備軍に突き進んでいる。
劉備軍は陸戦で主要な将や軍師を倒すことも考えていたから、船を烏林に進めていたのだが、そこに合体して巨大化した楼船群がすさまじい速度で迫ってきている。
劉備の心配はその通りだった。
対岸の兵が楼船群を高速で引っ張って劉備軍にぶつけようとしているのだから。
だが、さすがの劉備もそんな作戦があるとは夢にも思わなかった。
劉備の命運もここまでのようだった。


一応全員力を込めて引っ張っているが、麹義は更に兵士たちに馬鹿力を出させるための決定打を放つ。

「曹操と荀彧の絵が燃やされている恨みを晴らすのだ!!」

なんだ、そりゃ?と言う気もするが、あの絵を気に入っている人々には効果絶大。

「とりゃーーー!!うりゃーーー!!」

確かに船の速度が上がった気がする。



こちらは周瑜指揮する劉備軍。
袁紹軍の船に火がついたら、敵が混乱している隙に敵兵を出来るだけ多く屠ろうと全軍の船を静かに進めていた。
そして、予定通りに船団に火の手があがる。

「よし!船の速度を上げろ!!」

船の速度を上げて袁紹軍に乗り込もうとすると、どういうわけか火のついた船も劉備軍目指して一直線に進んでくる。
ただでさえ、孫策の指示で要塞化してしまった船団である。
ぶつかっただけでも沈没させられてしまう可能性大だ。
しかも火までついている。

「全軍回避!!」

一瞬で命令を覆す周瑜であるが、勢いのついている船はそれほど簡単に停船したり方向を変えたりすることができない。
楼船群は前方にいた劉備軍の船をいくつか沈め、さらに劉備軍の真ん中で最後の大爆発を起こす。


ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


この衝撃で、劉備軍の船団はほぼ壊滅した。
赤壁の戦いが終了した。



あとがき
まあ、ネタということで。
これほどうまくはいかないでしょうし、持っている船のほとんどを破壊してしまう作戦をたてるとも思えません。
万が一失敗したらぼろ負けになってしまいますから。
爆発物は火薬があれば最適だったのですが、作り方を知らない前提でしたので、単品で爆発する粉塵にしました。
問題は、船を引っ張る鎖か綱かそのようなものが準備できるかですが、綱なら何とかなるかもしれませんね。
それでも、かなり厳しいと思います。

あと、曹操と荀彧の絵も、残っていると何かと問題が起こりそうなので燃やしてしまうことにしました。
そのついでに最後の公開をしたということもあったりしたのでした。

次回最終回です。
それでは。



[13597] 終幕
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/07/25 01:00
終幕

 明るくなってから袁紹軍は残っている輸送船などを用いて、劉備軍の生存兵を江から救出して回った。
ある程度の兵は回収できたが、それでも三割以上の兵は帰らぬ人となってしまった。
幸運にも恋姫に登場するような武将は、軒並その生存が確認されたが、劉備や諸葛亮ら、見つからないものもいた。
劉備や諸葛亮らは、死体も見つからなかったので、恐らく江に沈んでいるか、誰にも見つからないところに死体が流れ着いてしまったのだろうと言うことになった。
ここに袁紹は大陸の再統一を成し遂げたのであった。

孫策や周瑜など一部の人には劉備の正体を明らかにし、それで彼らも袁紹に下ることに迷いがなくなった。
特に孫策らは元々漢に下ってもいいのでは?と薄々思っていたほどだから、説明を聞いた後に袁紹に下らないと言う選択肢は最早残っていなかった。



主だった武将は、袁紹の臣下の誰かに預けられ、そこで新たな生活を送るようになった。
丁度、呂布や曹操が一刀の配下に収まってしまったようなものだ。
曹操軍にいた将校の処遇と併せて記しておこう。


曹操が一刀に預けられたのは既に記したとおりである。


夏侯惇は文醜に預けられた。

「ぶっとばせーー」
「かっとばせーー」

もう、誰もこの二人を止めることはできない。


孫策は審配に預けられた。

「蓮華、一緒に踊りなさいよ!
やってみると案外楽しいわよ!!」

そして、過激な服で審配と一緒にお立ち台で踊っている。
審配も踊り仲間が出来て嬉しそうだ。

「いえ、私はちょっと……」
「蓮華殿、たまには羽目を外すのも大事だぞ」

拒否する孫権を説得しようとするのは周瑜。
審配、孫策と一緒にお立ち台で踊っている。
他には孫尚香、黄蓋らが一緒である。

「冥琳さん!あなたは私に預けられたのですから、踊ってないでこっちに来なさい!!」

その周瑜を叱責しているのは田豊、そう周瑜は田豊に預けられていた。

「蓮華さんはあんな変な真似をしませんよねぇ~」

と、孫権に理解を示すのは顔良。
孫権は顔良に預けられていた。

「はい、斗詩様に従います」

この二人は田豊-周瑜コンビと違って、いい主従になりそうだ。


顔良には夏侯淵も預けられていた。

「よろしくお願いします、斗詩様」
「そんなあ、斗詩でいいよう。秋蘭さん」
「私のこともさん付けで呼んでいらっしゃいます」
「あ、そうだね。
じゃあ、慣れるまでは今のままでいいかな」
「そうですね」


荀彧は許攸に預けられた。

「ごめんなさい、美杏さま~。また美杏様のお召し物を汚してしまいました」
「いけない子ね、桂花は。
また、お仕置きが必要そうね」
「ゆるしてくださ~い、美杏さま~」

曹操に捨てられて許攸に鞍替えしたようだ。


「あ~~~ん、こんなに本がいっぱ~~い!!
だめぇ、かんじちゃうう」
「ちょっと、穏!
人間世界に戻ってきなさい!!」

陸遜は賈駆に預けられていたが、賈駆はちょっと陸遜に手を焼いているようだ。


楽進は呂布隊に所属することになったのだが…………

「よろしくおねがいします」
「(コクッ)………………」
「………………」
「………………」

意思の疎通が難しそうである。


鳳統は荀諶に預けられた。

「もう、戦いはあまりないと思うから、気楽にしていいわよ。
もう、変な作戦はないわよね」
「あわわ、も、もちろんです……」
「軍師として活躍したいなら積極的にならないとだめね。
本当に軍師としてやっていく気なの?」
「は、はい!がんばりましゅ」

まあ、何とかやっていくだろう。


程昱は沮授に預けられた。

「作戦は陰湿が一番です」
「黒く、より黒く」

この二人は息が合いそうだ。


張遼は皇甫嵩に預けられた。

「ウチ、皇甫嵩様に預けられることになったんやて。
よろしくたのみますう」
「そうか」

ぎろりとにらむ皇甫嵩。

(な、なんや、めっちゃこわいやんか……」
「声が出ているぞ」

そういうや否や、皇甫嵩は一瞬で張遼の首に刀をあてる。

「ひぃいいい!!!」

苦労しそうである。


郭嘉は逢紀に預けられた。

「た、太夫、足がしびれて……」
「稟はん、あきまへん、たかだか数刻正座しただけで足がしびれるようでは、花魁は務まりまへん」

着物を着せられて花魁の修行をさせられていた。

呂蒙も逢紀に預けられた。

「太夫、お花はこんな感じでどうでしょうか?」
「なかなか品良く活けてあるでありんす」

こちらのほうが筋が良さそうだ。


孫尚香は董卓に預けられた。
孫尚香のきつさを緩めるにはちょうどいいかもしれない。


甘寧は臧洪にあずけられた。
超大真面目コンビである。


李典は兵を止め、破茂と一緒に仕事をすることになった。

「蒸気機関っちゅうもんがあるらしいんや」
「うちも聞いた。石炭を燃料にして色々動力を得るんやろ?
もっと一刀はんが詳しかったらできたんやろけど」
「わいらで作ろうや」
「そやな!でも、鉄の加工精度が甘いと色々むずかしいらしいわ」
「やることがぎょうさんあるな!」


許緒も兵を止め、袁術養蜂組合に就職、張勲や華雄と養蜂活動を始める事になった。

典韋は袁紹直属の料理人になった。


哀れなのが馬超、馬岱である。

「はぁ、趙雲の言うことなんか聞くんじゃなかった……」
「お姉さまが司州と豫州の州牧を任せる予定だ、なんてでまかせを信じるから!!」
「面目ない。
それで、踏頓とかいう男のところで修行でもしてこいっていわれたんだけど、どんな男なんだろう?
まあ、弱い男だったら、あたしがぶっとばしてやるけどな!」

と、突然現れる踏頓軍。

「あら~~ん、待っていたのよう。
馬超ちゃんと、馬岱ちゃんね。
あら、ずいぶん細いのね。
もっと食べて筋肉つけなくちゃいけないわよ」

目の前にずらっと並ぶ踏頓たち、その様子に怯える馬超、馬岱。

「あ、あたしらは細くったって強いから問題ねえ!
お前らなんかぶっ飛ばしてやる!」
「あら、威勢はいいのね。
出来るものならやってみなさ~い?」
「貂蝉365号、負けるんじゃないわよ」
「任せなさい、貂蝉500号。こんな小娘、一瞬よ。
ふぬぉああああああーーーーー!!!!」

そして当然のように馬超はぼろぼろに敗北する。

「たんぽぽ、逃げよう。あいつら化物だ」
「そ、そうしよう。人間に見えない」

夜、静かに逃げようとするのだが、

「あら、馬超ちゃんも馬岱ちゃんもいないわね。
折角歓迎のお食事作ってあげたのに。
馬超ちゃ~~ん!!馬岱ちゃ~~ん!!どこにいるの~~??」
「ここにいるぞー!」
「ば、馬鹿!返事をしてどうすんだよ!!」

こうして二人は踏頓というか貂蝉(x500)と生活を共にすることになってしまったのであった。



さて、預けられた将、軍師の描写はちょっとおいて、顔良らが業都に戻ってきたときの様子を説明しておかなくてはならない。

「一刀さ~ん!勝って戻ってきました!!」

と嬉しそうに一刀のところにくる顔良の目に、妊婦服を着た女性が9人並んでいる風景が飛び込んでくる。
前に2人(正室たち)、中に2人、その後ろに5人。
前と中の4人は確かに一刀が妊娠させたのは知っているのだが……

「一刀さん、後ろの5人は何なのですか?
何か見たような顔ばかりですが」
「え、え~っとね、斗詩さん……」

しどろもどろの一刀の説明を聞いて、

「いいですか!これからは私だけが一刀さんの側室を務める時期なんですからね!
浮気は許しませんからね!!」

ということがあったりした。
で、そんなことがあったのにも関わらず、一刀はこんなことをしていた。

「愛紗さん、無事でよかったです」
「はい、私も一刀さんにまた会えてうれしいです。
私は一刀さんの配下に任じられましたので、これからよろしくおねがいします。
もう、私には一刀さんしかいないんです」

この言葉を関羽から聞いて、くらっとこない人間は少なそうだ。

「愛紗……」
「一刀さん……」

思わず関羽を抱きしめて、口付けをしようとする一刀なのだが……

「一刀さん、浮気をしてはいけないといった矢先にこれですか!!」

顔良に阻まれてしまった。
それでも、夜は関羽は昔の呂布の寝ていた位置(一刀と顔良からちょっとだけ離れたところ)に寝て、それから数日かけて一刀の傍にやってきて、そのころには顔良の機嫌もよくなっていたのか、3人での夜の生活が始まった。
ようやく、顔良も願いを叶え、関羽も収まるところに収まったようだ。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


それから数年後、倭国の女王と称する卑弥呼から親書が届けられた。
それを見た袁紹は怒りでぶるぶると震えていた。
その親書にはこう書かれていた。


「しょくはとうかちゃんのもの。かえせかえせー!!」
「桃香!国交を開こうというのにそれは何だ!」
「そうだそうだー!返さないのは泥棒だぞう!!」
「鈴々も桃香を挑発するんじゃない!」
「桃香様!はわわ、卑弥呼様!白蓮様の言うとおりです。漢字で書いてください!!」
「朱里殿!指摘すべき点はそこではないだろう!!」
「主殿、メンマとウィスキーを所望いたす」
「星!ウィスキーよりビールだ!!」
「日ノ本の国に忍びの術を根付かせます」
「明命!関係ないことを書くんじゃない!!」


どうやら、劉備たちは船にのって日本に辿りつき、そこで女王卑弥呼となって倭を建国したようだ。
確かに転んでもただではおきない雰囲気の劉備である。

そのころ倭国では、麗国に送る予定だった親書が手許にあり、冗談(本音?)で書いた手紙がどこを探しても見当たらないことに気付いた公孫讃が真っ青な顔をしていた。

尚、劉備が倭国に持っていった宝剣靖王伝家はア○ノムラクモノツルギ、趙雲の帽子の飾りはヤサ○ニノマガタマ、船に劉備が乗っている目印として飾られていた鏡は○タノカガミとそれぞれ名を変え、その後の日本国に長く伝えられていると言うことである。









あとがき

ようやく終わりました!
なかなか難産でしたが、なんとかここまでやってきました。
劉備のときはさすがに参りましたが、練炭さんらの変わらぬ応援で何とか乗り切ることができました。
最終形をイメージしてからはもう迷いはなく、大体当初方針通り進んだと思います。
なので、ボディーペイントで色々言われてもそれほど堪えませんでした。
詳細は決まっていなかったので多少予定と変わったところはありますが。
当初予定では馬超は劉備のところに行く予定だったが話の筋を見て変えてしまった、などです。

皆様ご存知の通り、かなり軽い文です。
描写も(必要以上に)少なく、人物も極力減らしています。
そうして話が進むことを最重点に考えたので、何とか終わりに辿りついたのだと思います。
これで描写を丁寧にしたり人物を増やしたら発散して終わらない、というより終わる前に気力が尽きてしまう気がしました。
一瞬、まじめに丁寧に、と思ったのですが、そんなことをしたら麦の生産量を上げるだけでも話が終わらなくなってしまいそうだったので、早々に諦めました。
そういう背景がありますので、描写が丁寧でないとか、説明が足りないとかいう点はご容赦ください。
雰囲気は伝わったのでは?と思います。
それだけ描写を少なくしたのにこの分量...
描写の丁寧な人のSSが無事完結できるのか、他人事ながら心配になってしまいます。
案外、恋姫で完結が少ないってその辺に原因があるのかも、と思っています。


三国志の話を色々見ると、袁紹も沮授の話をずっと聞いていれば天下をとれたとか、そんな雰囲気のことが結構書かれているので、だったら袁紹に参謀の言うことを聞かせればいいのでは?と思って始めたのがこの話です。
オリキャラが多いのは、袁紹のところでは仕方が無いかと思います。
それでも、かなり数を減らしたつもりです。
一刀の仕事は第一に袁紹に参謀の意見を通すこと、参謀達の和を保つこと、おまけで食料の生産量をあげること、一般知識を広めることです。
妙に強い人間よりは現実的ではと思っているのですが。

董卓あたりまでは1万歩程譲れば三国志っぽい流れのようにも見えますが…………やっぱり見えないか?、その後は更に酷く、袁紹が巾を利かせてしまうのでどこにもない話になっています。
もし、実際にそうなっていたらその時点でその他の諸侯が袁紹に下っておしまいか、そうでなくても誰も知らない展開になったところでしょうが、それでは話が(三国志的に)面白くないので無理やり三国志っぽいイベントをいくつかくっつけて赤壁までもってきました。
ですから、もう史実がどうこう言われても意味があまりないので、深くは考えないでください。

劉備は、敗れた後乗っていた船が日本にたどり着くことはほぼありえないでしょうが、まあ執念深い劉備のことですから何とかしそうな気もします。
最初から最後まで無能だったら、ひょっとしたかもしれませんが、クルーゾーにはなれませんでした。
最後の手紙の劉備と張飛の台詞は、ほぼ最初に登場したときに袁紹にクレームをつけたときの台詞と一緒です。
と、結構、よくよくみれば全体的につながりはあるのですが……


さて、三国志ですが正史は読んでいません。
演戯は子供向けのを昔読んだことがある程度です。
今回参考にしたのは三国統一史
http://sangoku-touitushi.com/
というHPです。
リンクフリーとありますから紹介しても大丈夫でしょう。
これでも読むのは大変でした。
素人が作ったとは思えない膨大な分量に圧倒されますが、三国志にまじめに取り組んだらこうなるという見本のような気がします。
これは正史を元にしているようですが、他にも色々な文献を引っ張ってきていて、かつその差異を鑑みて筆者なりにこれが事実ではと言う推論も立てています。
面白いのは演戯のうそはこれだけあります!という注で、なかなか笑い、かつ参考になりました。

その他、参考にしたHP(一部)
単位
http://homepage3.nifty.com/kyousen/china/list/size.html
地図
http://ditu.google.cn/maps/mpl?t=p&moduleurl=http://redcliff.googlecode.com/svn/trunk/mapplet/redcliff.xml
http://www.project-imagine.org/mujins/maps.html

グーグルマップの日本語版があれば面白いのにと思いました。



袁紹伝ですが、おまけを一つつける予定ですが、基本的にこれで終わりです。
大昔に感想に記しておいたように、最初のほうで一話挿入するかもしれません。
読み直して修正すべきところは直すかもしれませんが、追加はもうそれだけの予定です。

また、別の作品でお会いできればとおもいます。

長い間駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


追伸:
ところで、タイトルは袁紹伝でしたね。
最終回に袁紹が出てこなかったような???
本当に袁紹伝?
という突っ込みはなしでお願いしますw。



[13597] 付録 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:75f75198
Date: 2010/06/06 00:13
注)これ以降のおまけは本編には関係ありません!!
……多分。



警告)
あと、恋姫を愛する人々には冷酷な表現がありますので、そういうのを好まれない方は読まないようお願いします。





































■■■おまけ1 後宮への道

■袁紹編
「一刀!跡継ぎをつくることにいたしましたわ!
今夜は私の部屋に来ることですわ!!」
「ど、どうして俺が?」
「皇帝の世継ぎです。父親が天の御遣いであれば、誰も文句を言わないでしょう。
それに私が呼んだときはすぐくることと申し渡してあったではありませんか!
いいですわね!!」
「は、はいっ!!」


■文醜・夏侯惇編
「春蘭!今晩は曹操をも倒した最強の矛を倒しにいくぞ!」
「おお!!」
……
「ちょ、ちょっと、猪々子さん!何しているんですか!!」
「あたしらは……強い相手を……倒すため……
だめだ、あたしでは歯がたたない。春蘭、あとは任せた」
「任せておけ!これが、華琳様を!!
許せない!!っぐ…くそっ、このわたしまで負けてなるものか!」
「夏侯惇さんまで!!やめてください!!」
「か、華琳様!この夏侯惇、仇をとれず、あぁ、やられてしまいそうで……あぁぅぅ……申し訳ありません……あうぅぅぅ……」
「春蘭、明日も来る必要があるな!」


■孫策・周瑜・陸遜・呂蒙編
孫策、周瑜は今まで以上に一刀に怒りを感じていた。
それと言うのも……
「あれ~?孫策も周瑜も生きてる」
というのが、孫策・周瑜が業に連れてこられたときの一刀の第一声だったから。
「復讐が必要ね」
「ああ、その通りだ!!」

それから数ヶ月。
「あの、一刀様。お願いがあるのですが」
「なんですか?呂蒙さん」
「軍師が一人前になったときに衣装が与えられるのですが、それを男性に見てもらうという伝統が孫家にあるのです。
それを一刀様にお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、そのくらいお安い御用です」
そして二人で呂蒙の部屋に行く。
「ちょっとそこで待っていてください」
と、一刀を閨に座らせて着替えに行く。
「これなのですが……」
程なく恥ずかしそうにやってきた呂蒙の姿を見てみれば、申し訳程度に着色されているが、ほとんど裸。
それどころか局部を目立たせるようにペイントされていて、裸よりいやらしいかも。
「呂蒙さん!」
「きゃっ!!」
思わず呂蒙を閨に押し倒してしまう一刀。
「押し倒したわよね?」
「ああ、か弱い女子を犯すとは許せぬな」
「お仕置きが必要ですよね~~」
というのは、孫策・周瑜・陸遜の声。
その姿は氾水関で見たボディーペイントの再現である。
まんまとはめられた一刀であった。


■夏侯淵・孫権編
「はぁ……」
「どうされたのですか?斗詩様」
「ああ、蓮華さん、私妊娠しちゃったんですけど、そうすると一刀さんが夜さびしくなってしまうから……どうしようかと思って」
「それなら、私と秋蘭さんにお任せください」
「うむ、斗詩様の代わりを無事務めてこよう」


■逢紀・郭嘉編
「稟はん、今日はお客様をおもてなしいたすのでありんす。
ふたりでしっかりとお客様をお喜ばせするでありんす」
「わかりました、太夫様。
明日の朝まで満足いくようお務めいたします」


■張遼編
「一刀」
「な、何?陽」
「私の配下になった張遼だ」
「そ、そうなの。で、何で閨まで連れてきているの?」


■麹義・黄忠・厳顔・黄蓋編
「ちょっと、一刀!どこまで側室を増やせば気が済むのよ!!」
当然、これは田豊。
「だ、だって……
事故がつづくんだもん。
でも、もう大丈夫だと思うよ」
「どうしてよ!」
「だって、残っているのはほとんどおばさんと子供だけだもん」
「本当ね!!」
それから数時間後。
「なあ、一刀!」
「なんですか?朱雀さん」
「ちょっと話があるんだが、部屋まで来てもらえないか?」
「ええ、いいですよ」
麹義の部屋で待ち構えていたのは黄忠・厳顔・黄蓋。
「残っているのはほとんどおばさんっていいましたね?」
「そうか、おばさんか」
「おばさんがどんなものか教えなくてはなりませんねぇ」


■荀彧・張角・張宝・張梁編
ある日のこと、曹操と荀彧が街を歩いていると、張三姉妹が向こうからやってくる。
「あら、久しぶりね。みんな元気でやってる?」
と、曹操が尋ねるが、三姉妹揃って、曹操・荀彧を睨みつけるだけで、返事もしない。
「ちょっと、あんたたちなんなのよ!今までの華琳様のご恩を忘れてしまったの?」
と、3人を糾弾するのは荀彧。
「いえ、恩はよく覚えております。
それはよくしていただきました。
でも、袁紹様に下ったからと言って、私達の人気まで蹴落としてしまわなくてもいいではないですか!!」
と、半ば泣きそうに言い返すのは張宝。
「は?なんのことよ?」
「ご存知ないのですか?!
もう、今や人気なのは曹操様と荀彧様。
焼かれてしまった春画を小さくしたものを男どもはみんな持っているのです。
それで私たちのコンサートには、もうあまり客がこなくなってしまったのです!!」
それを聞いて怒りが沸騰する曹操、荀彧。
「桂花!一刀に制裁を加えておいて!」
「わかりました、華琳様!!あなたたち、復讐するわよ!!」

その晩、王宮に密かに招き入れられる張角・張宝・張梁。
「いくわよ!」
荀彧の手引きで4人が一刀の閨を襲う。
「ちょ、ちょっと、どうしたんだよ、4人とも!!」
「これが華琳様を陵辱し、私たちを辱めた悪の根源の肉棒!」
「ゆるせな~い」
「私たちの人気を落としてしまった根源ね!」
「制裁させてもらいます」
「うぎゃーーー!!」

翌朝……
「一刀!制裁がこれ一回で終わるとは思わないことね!」
艶々の4人と干からびた一刀が閨にいるのであった。


■番外
楽進?李典?于禁?ほとんど出番ないし。
甘寧?ふんどしだし(←全く理由になってない)
袁術?張勲?蜂追っているから接触ないし(よかった)
魏延?でてもこなかったし(于禁も出てこなかった?)
馬超?馬岱?貂蝉たちといっしょだから大丈夫。
鳳統?許緒?程昱?典韋?孫尚香?陳宮?子供だし。



■■■おまけ2 区別
踏頓のところには踏頓というか貂蝉以外の人間も当然いる。
そんな人に馬超が尋ねている。
「なあ、貂蝉って500人おんなじ格好だろ?」
「いや、微妙に違いますよ」
「そ、そうなのか?じゃあ、あれは何号?」
「あれは貂蝉119号、こっちが貂蝉55号、あそこにいるのが貂蝉3号……」
「ど、どうしてわかるんだ????」



■■■おまけ3 実年齢

■その時

「ちょっと一刀!このシャオも抱きなさいよ!」
「子供は抱かないの!日本の法に触れるから」
「シャオは子供じゃないもん!」
「どうみても子供だろ!」
「じゃあ、シャオを何歳だと思っているのよ!」
「うーーーん……6、7歳かなぁ」
「黄巾の少し後に生まれたのよ!少しは考えなさいよ!!」
「えーっと、黄巾が184年頃、赤壁が208年頃だから…………黄巾から24年以上たったのかな?」
「じゃあ、シャオは何歳よ?」
「……えっ?20歳ちょっと?!」
「そうよ!だから抱きなさい!」
「ちょ、ちょっと待て!なんで体は子供なんだよ?!」
「この世界では精神力が続く限り、若い姿を保ち続けることができるのよ!」
「そ、そうなのか。じゃあシャオは子供の姿を保つ精神力を持っているってことなのか?」
「違うわよ!姉妹の年の差はどうにもできないの!
だから、本当はお姉様はそろそろおばあさんなんだけど、お姉様があの姿を保っている限り、シャオはいつになっても大人の体になれないの!!」
「それは……可哀想だな……」
「でしょ?だから抱いて!!」
「んなこといったって、見た目も言動も子供だからやだ!」
「むーー!!」

一刀は考える。
ということは……

20歳代 孫権
30歳代 孫策

この辺はまだ許容範囲としても……

40歳代 荀彧
50歳代 袁紹 曹操

なのだろうか?

顔良、文醜は40代位?
黄蓋、黄忠は60代?それ以上?

そして……そして…………

「ね、ねえ、斗詩。菊香の年齢って知ってる?」
「菊香の?えーっと、袁成様の時も、袁湯様の時も……あ、確かその前の袁京様の時もあの姿で仕えていたという噂だから……あっ!!」
「斗詩、何を話しているのかしら?」
「きっ、菊香、何でもないんだから。
そ、そうだ、ちょっと用事があああああったんだった……ごめんね、一刀」
そそくさと逃げていく顔良、真っ青な顔で残される一刀。
「ねえ、一刀」
一刀の後ろからぬた~と抱きつく田豊。
「おんなの年はミステリアスなの。
調べてはいけないの。
いいわね?」


■ 20年後
一刀は大量の子供の内の一人と話をしている。
「えーー?!?!斗詩ママって、昔はスマートだったの?」
「ああ、ちょっとぽっちゃりしてたけどいまよりはずっとスマートだった」
「それじゃあ他のママは?」
「恋は寡黙だった。
華琳は威厳に満ちていた。今みたいにでれでれじゃなかったんだ。あと貧乳だったな。
月は気弱な感じだった。
詠もスマートだったんだぞ。
愛紗は昔も巨乳だったけど、人間の範疇だった―――(後略)」
「それじゃあ菊香ママは?今でも少女みたいな姿だから結婚したときは子供だったの?」
「菊香は……考えてはいけないんだ」





あとがき

実年齢は考えてはいけません!
……いけません。
将来の体形や性格の変化を考えてもいけません!!
……いけません。


さて、感想のレスを兼ねて、いくつか補足を。

麗羽様……おまけで処女を捨てました。これで麗も安泰でしょう。隋か唐の時代まで残るといいのですが。立憲君主制になりそうなので、案外長持ちするかも。
厳顔 黄忠 黄蓋などのその他の将……おまけに一瞬登場しました。
周泰……さすがに一刀の命を狙ったものは袁紹配下には入れられなかったので、劉備と共に逃げることにしました。
翠と蒲公英……好きでも嫌いでもない程度なのですが、「ここにいるぞー!」を出したかったのでああいう話になってしまいました。
日ノ本の国に忍びの術……つっこみがあったのは一人だけでしたか。500人の貂蝉とか、三種の神器あたりもつっこみがあるかと思ったのですが、その程度では袁紹伝の脱線の範囲内だと思われてしまっているのでしょうかwwうれしいやら情けないやら……
卑弥呼……劉備が逃亡ENDの後に再度接触を持たせようとしたら、卑弥呼になるくらいしかなかったので、卑弥呼になって日本を統一することにしてしまいました。彼女ほどの実力があればなんとかなるでしょう。ですから、我々の遺伝子には劉備や諸葛亮や趙雲や公孫讃のものが……??周泰の遺伝子は伊賀か甲賀に残っているかもww
正室は……もう、何をやっても無駄だと諦めたようです。
平仮名……それをいっちゃあおしめえよwというかんじです。そもそもひらがな無いでしょう、その時代。

諸葛亮……どうして劉備についていったか?もちろん弱みを握られているからです。

「と、桃香様。あの、私は足手まといになりそうですし、船の食料を守るためにもこの船を降りた方がいいかなぁ~なんて思っているかもしれないのですが……」
「ねえ、朱里ちゃん。朱里ちゃんと一緒に寝たときにね、桃香ちゃんの寝巻きとあそこが、朱里ちゃんの」
「わぁーーー!!お、おもらしなんかしてましぇん!!」
「そうだよねえ!ところで、この船がどうとか言っていなかった?」
「と、桃香様に、この船に乗ってどこまでもお供いたしましゅ……」

不憫でしゅ。

国号……SSの設定(と勝手に一刀が解釈している)では華でゲームが終わると日本に戻ることになっているので、敢えて別の国号にしました。
趙雲……汚れ役でいいように使われるだけの人物に見えますが、実は劉備の遠謀を十分理解したうえで加担しながらも、劉備が敗れた場合には一刀の部下だということで命を助けてもらうと言うことを考えている、これまたなかなかの策士であると言うイメージはあったのですが、そういう描写は一切ありませんでした。
敵……本編のあとがきにも書いたのですが、この袁紹であれば劉協を拉致した時点でもう天下をとったことになってしまうでしょうから、それ以降は平和な世になってしまうことが予想されます。その状況で無理やり戦乱を起こしたので、敵はどこもかしこも弱くなってしまっています。まあ、深くは考えないようお願いします。
張飛……そうですよね!ある意味、一番不幸ですよね!劉備は馬鹿な扱いをされたら、酷すぎるといわれているのに、張飛は同じくらい馬鹿な扱いをされているうえに、最後の最後まで馬鹿扱いなのに、誰にもその点を突っ込まれません。その上、感想にもほとんど(全く?)でてこないほどの空気さ!不憫すぎます!!まぁ、どーでもいい事ですがww


その後のエピソードなど……ありません。XXX版もありません。以下のようなアイデアはあったのですが、

■■■おまけ4 歴女
実は袁紹は現代日本から転生した歴女であった。
そして、次のような手紙を残して消えてしまった。
 このたび無事戻れることになった。
 だからあとは一刀が皇帝になって適当にやっといて。
 国号は"唐"がいいと思う。

どうも、うまいこと話ができないので、ボツにしました。
今、全体的に改定を行っていて、[7] 醸造のあとに一話挿入をするかもしれませんが、追加があるとしたらそれだけです。
なので、その後のエピソードや本編に示されていない外伝などを書いてくださる奇特な勇者(猛者)がいらっしゃいましたら、ご自由にお願いします。
私も見てみたいです。
非難轟々になっても救済できませんが……。

以上でした。


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