[ウォウズの村]は川沿いに作られていた。
村人が住んでいる住宅は木々で造られており、何十棟かはありそうだった。
周囲には川が走っており、向こう岸は[ドルーアダンの森]。
一方の、森側では無い地域には田畑が広がっている。
自然と調和している村だった。
そんな[ウォウズの村]に到着して、
ゲイルさんに、宿屋まで連れて行っていただくことになりました。
「わあ、人がいっぱい!」
人々が行き交っており楽しそうな話し声や、商売をしている人の声が耳に入ってきます。
興奮気味なわたしに、ゲイルさんが苦笑されました。
「おいおいノアさん。
[ウォウズの村]でそんなこと言うなんてなあ。
今までどこに住んでたんだ?
そんなんじゃ[城下町エドラス]辺りまで言ったら腰ぬかすぜ?」
「え、えと、しばらく森で暮らしていたんです。
ひさしぶりにたくさんの人を見て、
ホッとしたというかテンションあがったというか……」
「森? どうして森なんかに?
[魔術師ビッグバイ]が倒されて、モンスターが減ったとはいえなあ。
ゴブリンなんかのモンスターがいねえわけじゃないんだ。
無理はしちゃなんねえよ」
「[魔術師ビッグバイ]!
それって、あの、魔法使いでモンスターまで操った!?」
「おぅ、もしかしたら、森で暮らしてたからノアさん知らないのか?
モンスターどもの親玉だった[魔術師ビッグバイ]が冒険者に退治されたんだぜ」
「あ、あはは、そ、そうだったんですか」
「おいおい、この大陸中の子供でも知ってるぞ。
頭悪い俺だって知ってる、そりゃ、ちとやばいぞノアさん」
「あぅ、あはは……
知らないというか、よく知っているというか……」
[魔術師ビッグバイ]
ものすごく知っています、はい。
退治した冒険者って、わたしたちのパーティですもん。
あれは惨かった。
配下に[ブラックドラゴン]がいたんでですよ!
他にもたくさんのモンスターを操って、たどりつくのにも必死でした。
で、[魔術師ビッグバイ]自身もさらにすごかった。
ウィザード・スペルLV8やLV9の呪文連発!
攻撃呪文は「容赦がない」の一言に尽きます……
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・[ビックバイズ・クレンチド・フィスト【魔術師ビックバイの戦う手】] LV8スペル
実態の無い大きな手(こぶし)を作りだす呪文。
手は自動的に攻撃を行い、命中判定に失敗は無い。手のAC(防御力)は0。
hp(ヒットポイント)は使い手の最大hpが適用される。
・[ビックバイズ・クラッシング・ハンド【魔術師ビックバイの破壊の手】]LV9スペル
実態の無い大きな手を作りだす呪文。
命中判定に失敗は無い。
この手に捕まれたものは締め付けによるダメージを受け続ける。
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あの戦いは本当にギリギリでした。
何回も祈りながらST判定(セービングスロー)のダイス(さいころ)を振ったよ~!
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・[ST判定(セービングスロー)]
攻撃に対してダイス(さいころ)を振って、回避の如何を決定するもの。
これは受けるダメージを軽減するために使用されることもある。
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「ま、そこらの話は、酒場でへたくそな詩人が歌って教えてくれるさ!
そいつらに、その辺りは聞けばいいってやつよ。
とりあえず[ウォウズの村]唯一の宿屋はここさ」
ゲイルさんが指さした建物。
[森の木陰亭]と書かれた木製看板が垂れ下がっていました。
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006 ウォウズの村
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よく西部劇なんかで見るあれ。
押すと「ぎぃ」となる扉の出来損ないみたいなやつ。
あれなんの意味があるんだろ?
そんなことを考えつつ、ソレを押して[森の木陰亭]に入りました。
「ここは1階が食堂になってる。
この村のみんな、夜になるとよくここへ来て飲むんだよなあ。
だから酒場かねえ?
で、2階が宿屋ってわけだ」
午後の早い時間だったためだと思う。
1階の食堂エリアには、今、お客さんはいませんでした。
「おーい、感謝しろ! 客をつれて来てやったぞ」
ゲイルさんがカウンター席に乗り出して、奥の方に声をかける。
「うるさいぞ、全く! 何事だ!
感謝してほしかったら、まず、てめえのツケをはらいやがれ、ぼけ」
奥から、これまた、ゲイルさんと同じような感じの低い声が帰ってきた。
「ほっとけ、いずれ倍にして返してやるってんだ」
「んな台詞、一度でも返してから言うもんだ」
奥からは前掛けエプロンをした、もっさもっさの髭をもった男性がやってきた。
「ほれ」
髭の男性はゲイルさんにビール? みたいな物を差し出した。
ゲイルさんはそれを一気に飲み干します。
「ふぅ、マスターの性格は終わってるけど。
酒はうめえなあ……ほらよっと」
ゲイルさんの方は、4匹ほどのウサギをカウンターに置きました。
「ふん、良い獲物だな。
狩人の性格は終わってるけどな」
髭のご主人は、ウサギを見て、満足げな笑みを浮かべています。
このやりとりっていつものことなのかな?
なんかお互いに慣れた感じがします。
「旅の娘さん、ノアさんってんだ。
俺の逃げた馬を押さえてくれてな、宿代、特価で頼むぜ」
ゲイルさんに紹介されて、わたしもカウンター席に近寄っていく。
「こんにちは、ノアです。
しばらく滞在させていただきたいと思ってます。
よろしくお願いいたします」
わたしは丁寧な挨拶を心がける。
やっぱり第一印象って大切だよね!
お店のご主人が、ちょっと慌てたように髪の毛をかきむしりました。
「……あ、ああ。
す、すまねえな。ちょっとぼーっとしちまった。
で、でもよ、いいのかい?
あ、あんたみたいな娘さんが落ち着けるような宿じゃねえと思うけど……」
「なに照れてんだよ」
「う、うるせえ! てめーは酒でも飲んでおとなしくしてろ」
あは、やっぱりこの二人は良いコンビだ。
親友同士なのかな?
「雨と風がしのげれば、それだけで快適です」
わたしは二人のやりとりを見ながら、頭を下げてお願いしました。
○
とりあえずは、1週間ほど、こちらに泊まらせていただくことにしました。
代金は9sp(シルバー)でした。大分、安くしてくれたと思います。
案内された部屋もとっても清潔でした。
華美なものは一切ないけれども、きれいに手入れされているのが一目でわかるぐらい。
全然不満なんて無いよ~!
それにもう、今のわたしはベッドがあるだけで大満足ですよ、ええ!
また、今日の夕飯はゲイルさんが採ってくれたウサギ料理とのことです。
腕によりをかけてくれるっていう。すごい楽しみ!
ゲイルさんも、夜になったらまた来ると言っていました。
そんな夕飯までには、後、2時間ぐらいとお店のご主人がおっしゃっていました。
微妙な時間が空いたので、わたしは荷物の整理をすることにしました。
これは早いところやっておかないとね!
○
「やっぱり武器は槍だよね~!」
なんでわたしのメインウェポンが槍になったのか。
はい、それはLVが1の時に、一番安くて攻撃力があった武器だからです。
わたしは4次元バックパックから長槍[グングニル]を取り出しました。
この[グングニル]の柄はとねりこの木だったはず。
確かこれはイグドラシル(世界樹)から切り取ったっていう伝説があったと思います。
そんな槍の先端は、凍えそうな程に冷たく銀色に光り輝いていました。
また、ルーン文字も埋め込まれていました。
「えーと、Dahmsdorf, Φvre Stabu, Wurmlingen……」
[攻撃する者][疾駆する者]「試す者]……などなどの意味だった。
なんか普通に読めちゃいました。
また、一番最後の単語には[ノア]という私の名前が刻まれています。
「このルーン文字の名前で、投げてもわたしに戻ってくれるのかな?」
わたしはぎゅっと[グングニル]を握りしめる。
体内から力と自身がわき上がってきます。
「わたしの一番の相棒だもんね、これからよろしくね」
わたしは[グングニル]を綺麗に磨くことにしました。
マジックアイテムである[グングニル]にはホコリや汚れなんて全くありません。
でも、なんとなく、わたしは磨きたくなったのだ。
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◇[グングニル]
武器:スピア
特性
・レジェンダリィ・ウェポン[伝説的な武器]
・インペイリング・ウェポン[貫通する武器]
・ピアシング・ウェポン[貫く武器]
パワー
・グングニルは投じると何者もかわすことができず、敵を貫いた後は持ち手のもと戻る[無限回]
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「えーと、次はあの鎧を確認っと」
次に、わたしのメイン防具であるアーマーを取り出しました。
出した瞬間に、なんか周囲の空気が変わった気がします……
……
……あぅ。
見れば見るほど、真っ黒な鎧です。
星の無い夜のような黒い水晶でした。
恐ろしく手をかけて装飾されているのですが、それはまるで他の鎧を嘲笑うかのようです。
「うはー、ものすごい魔力を感じるよー」
もう、なんか存在が圧倒的です。
ん? あれこれも文字が書いてある?
「えーと「魂も宿らぬ骸、骸、我が許へ……」……うう、何これ、こわ!」
その瞬間でした。
黒い水晶の鎧が、真っ黒な光を放つ――!
「きゃっ! こ、これってば……」
自分を見ると、あっという間に鎧を装備しておりました。
手には[グングニル]。
もう、いつでも戦える状態ですよ、今!?!?
「び、びっくりしたあ。
そうだ、この鎧ってば[サモンド・アーマー]だったんだ」
ゲーム中ではさすがに、鎧や服装の頻繁な脱着までは細かく行いませんでした。
おかげですっかり忘れていました。
[サモンド・アーマー]は異次元空間に隠すことができる効果があります。
そして、どんな場所、どんな未来でも、鎧を着ていなければ一瞬でこの通り。
「これって、不意打ちなんか受けたときに便利だなー」
がっちゃんがっちゃん音を鳴らしながら、少し動いてみる。
「でも、夜とかに子供とかが見たらトラウマになるよ、この格好……」
なんだか日曜日にテレビでやっていた仮面ライダーみたい。
あっという間にこんな格好なんて。
まあ、正義の味方じゃなくて、悪役の方ですけど。
「はあ、とりあえず鎧脱ご……」
後で異次元に返す時のコマンドワード探さなきゃ!
もう、最初にそっちが見つかれば良かったのに。
一人でプレートメイル脱ぐなんて、ものすごく大変なんだから~!
○
40分ぐらいかけて、ようやく脱ぎ終わりました……
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◇[ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー(虚無水晶の嘲笑う死の鎧)
特性
・鎧の着用者は、逆らう死霊たちに対してねじれた黒い圧倒的な力を持つ。
・敵が使用してきた武器の攻撃力を半減させる。
パワー
・鎧を異次元に隠すことができる。[無限回]
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男は愛嬌、女は度胸。
そんなキャラクターが大好きです。