== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤオ子とタスケが新たな目的地に向けて移動を開始する。
そして、その移動中にも新しい力を求め続ける。
本日の移動中の修行メニューは……。
「性質変化です」
「理由は?」
「火遁はOKでしょう」
「ああ」
「土遁と水遁も、あと少しです」
「ああ」
「風遁は、あと一息です」
「そんなもんだな」
「雷遁がダメダメです……」
「おかしいよな」
そう、ヤオ子は何故か雷遁の上達が異常に遅い。
他の系統は、火遁ほどの上達速度を見せないにせよ、家系の血の力もあり成果が顕著に出ているのに……。
第89話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ①
ここ最近の移動しながらの修行内容は……。
午前:
・本体
投擲術、体術、体力面。
・影分身A, B
性質変化の切り替え(火→水→土→雷→風)。
・影分身C, D
雷遁の性質変化能力向上。
午後:
・本体
チャクラの性質変化の切り替え(火→水→土→雷→風)。
・影分身A, B, C, D
雷遁の性質変化能力向上。
となっている。
本体は、現状の基礎能力が落ちないように、技術面、体力面、経絡系を鍛える修行。
影分身は、最近習得した性質変化に更に磨きを掛けるための修行。
これらを徹底して、延々と同じように繰り返している。
正直、同じことを繰り返すヤオ子に、タスケは飽き飽きしていた。
「なぁ。
いい加減に術も覚えようぜ」
「いらない」
「何でだよ……。
新しい性質変化を覚えたら、使ってみたり新術開発したりするのが普通だろ?」
移動しながら手加減知らずの修行を繰り返すヤオ子が止まる。
しかし、それは投擲した手裏剣やクナイを木の幹から引き抜くためだった。
タスケはヤオ子の肩まで駆け登ると、直立してヤオ子の頭に肉球をつけて寄り掛かる。
「重い……。
頭が傾く……」
「術! 術! 術!
新しい忍術を覚えようぜ!」
「タスケさん。
普段、あれだけクールなのに、今日は、どうしたんですか?」
「お前の行動に飽きてんだよ!
移動中、毎回毎回同じことをして!」
「当たり前ですよ。
一日でも欠かしたら、体力落ちるでしょ」
タスケが溜息を吐く。
「お前は、あれだ」
「あれって、何……」
「つまらん奴だ」
「いきなり何ですか……」
「おかしいだろ!
普通さ!
各系統の性質変化を全部覚えるなんて出来ないんだぜ!?
何で、覚えたのに使わねーんだよ!」
「意味ないから」
「……は?」
言葉を止めたタスケに、ヤオ子は続ける。
「術なんてのは、印さえ知ってれば発動するんです。
だったら、木ノ葉に帰ってから印を教えて貰えれば終わりです」
あまりに当たり前の答えが返り、タスケは溜息を吐く。
「……お前、どうしたの?
もっと、馬鹿だったろ?
犬が歩いてるだけでも、興味示して笑い転げるような奴だったじゃないか?」
「あたしは、いかれたヤローですか……」
「オレには、そう見えていたが」
ヤオ子の額に青筋が浮かぶ。
「タスケさん。
いい機会だから言っておきます。
あたしは変態ですけど、いかれてません」
「変態と言い切る時点で、
救いようがないぐらいいかれていると思うが?」
「……世間一般的には言いません」
「あえて世間一般を代表して言わせて貰う。
お前は、いかれている。
そんないかれたお前が真面目に修行をしては、ダメだ」
「おかしいです。
真面目に修行をして非難されるなんて」
「いかれたお前は、新しい性質変化に『ワッキャッウフフ』して術を試しまくるぐらい軽くないとおかしい」
「おかしいのは、タスケさんの頭の中です」
タスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「お前が言うな!」
「何で!?
あたし、偉いじゃん!?
地道にコツコツと修行して!」
「だから!
術を覚えよーぜ!」
「猫って、本当に自由な生き物ですよね……」
「そうだ。
諦めろ」
ヤオ子はこれ以上はダメだと折れることにした。
仕方なしにタスケに訊ねる。
「もう、いいですよ……。
で、新しい術の印は?」
「ん?」
「だから、印ですよ。
あたしは性質変化しか修行していないし、新しい形態変化も開発していないんです。
だから、印が必要なんです」
「印……知らないけど」
「じゃあ、ダメじゃん」
タスケがヤオ子に縋りつく。
「嫌だ~~~っ!
もう、お前の基礎修行なんて見たくない~~~っ!
新しい術~~~っ!
新しい術~~~っ!
新しい術~~~っ!」
「何を昔のあたしみたいにごねているんですか!
出来ないものは出来ないです!」
「じゃあ、術開発しようぜ! な!」
「『な!』じゃないです。
何の発想もなく開発なんて出来ません」
「そこは、いつもの調子で思いつけよ。
得意だろ?」
「そんな都合よく思いつきませんよ」
「気合いだ!
気合いで何とかしろ!」
「あのねぇ……」
ヤオ子はタスケの態度に頭を悩ますのと同時に、サスケに対して罪の意識が芽生えた。
(あたしは、結構、困らせてたんだな……)
他人の恥見て我が恥じ直せ。
「タスケさん。
飽きたんなら、タスケさんが術を考えたら」
「ん? オレ?」
「そう。
風遁の新しい術」
「ヤダ。
オレは、玩具のお前が色々するのが見たい」
「玩具って……。
じゃあ、あたしの術を考えてくださいよ。
いい術だったら採用しますから」
「分かった。
こんなのは、どうだ?」
(早……)
「敵に抱きついて放電!
ヤオ子・エレクトリックサンダー!」
「ブランカのパクリじゃないですか……」
「嫌か?」
「そもそも雷遁が上達しないから、
性質変化の修行をしているんじゃないですか……」
「じゃあ……」
(無視した……)
「肉体を活性化させて強くなる!
ヤオ子・マッチョ!」
「絶対ヤダ!
性質変化関係ないじゃん!」
「これもダメか。
じゃあ、空圧拳!」
「忍空ですか……。
タスケさんもあたしに毒されて来ましたね……。
でも、却下」
「何で!?」
「至近距離の技はいりません」
「じゃあ、波動砲だ!」
「撃てるか!」
「じゃあ、空間磁力メッキ!」
「もう、術じゃない……」
「かめはめ波だ!
かめはめ波撃っちゃえ!」
「出来るか!
真面目に考えてる!?」
「いや、技のイメージだけだ」
ヤオ子は項垂れた。
「タスケさん……。
修行しながらでいい?
移動もしたいんで……」
「ああ、いいぞ」
ヤオ子は少しテンションを下げて修行と移動を再開した。
そして、結局、タスケの考案した術は全部却下された。
…
夕暮れ時……。
ヤオ子はヘトヘトになりながら道を歩いている。
「やり過ぎた……。
町まで移動できるチャクラが残ってない……」
「野宿だな」
「まあ、いっか……。
食料は、デイバッグに入ってるし」
ヤオ子はフラフラと危なっかしい足取りで道を歩く。
その向かいからは、旅人が歩いてくる。
そして、項垂れて歩くヤオ子の視線は前方を見ていない。
すれ違い様、ヤオ子の肩と旅人の肩がぶつかった。
「あいた」
「いてーな」
ヤオ子は謝らなければと振り返るが、旅人に先に切り出された。
「いてーな。
死にたいのか?
このやろう!
ばかやろう!」
「死に体なのか?
・
・
ああ……。
死に体ですね」
「何!? 死にたいのか!?」
「ええ。
もう、身も心もボロボロの死に体です」
タスケは額に手を置く。
初っ端から、この二人の会話は噛み合っていない。
「お嬢ちゃん。
そんな若いのに死にたいとは聞き捨てならねーな。
このオレ様が危機的に聞いてやるから話してみな」
「嬉々的に?
何て親切な人なんだ……。
あたしの苦労話を喜んで聞いてくれるなんて。
・
・
実は、修行に行き詰っていまして」
「修行?
それだけで、死にたいのか?」
「はい。
無理し過ぎて死に体です」
「才能がないのか……。
不憫な奴だな……」
「そうなんです。
随分と修行しているんですが、中々、上達しなくて……」
ヤオ子の成長速度は遅くない。
雷遁にしたって、一般の忍よりも習得期間は早い。
ただ、他の系統の習得が恐ろしく早かったから、そう感じるだけだ。
「困った奴を放っとくのもホッとしない。
悩みを聞くのも意外といいだろう。
ウィィィ!」
「話を聞いてくれるんだ……。
いい人だ……」
そこでヤオ子のお腹が鳴った。
「お腹減った……。
今から野宿するんですけど、一緒にご飯いかがですか?」
「いいな」
「じゃあ、決まりです」
ヤオ子は旅人と野宿することになる。
噛みあわない二人は、勘違いしたまま食事をすることになるのだった。
…
ヤオ子はデイバックから小柄な調理器具を用意する。
小さい鍋に水の性質変化を応用して水を張り、魚の干物で出汁をとる。
続いて、手持ちの調味料で味付けをして、先ほどの魚の干物と周辺で採れた山菜をあわせた鍋が出来る。
飯盒のご飯ももう少しで炊き上がる頃合だ。
旅人は、まさかの温かい食事に笑みを溢す。
「まさか、こんな山奥で食事が出来るとは思わなかったぜ」
「まあ、これも何かの縁です。
・
・
鍋からどうぞ。
ご飯も、もう少ししたら食べられます」
ヤオ子が鍋から器に適当に盛り付けると旅人に器を差し出す。
「サンキュー。
お嬢ちゃん」
旅人は器を受け取ると、ゆっくりと啜る。
「いい味だ」
「よかったです」
ヤオ子は旅人に微笑み、ヤオ子も自分の分を盛り付ける。
タスケ用には冷めやすいように皿によそい、タスケの側に置いた。
タスケは少し冷めるまで、じっと皿を見つめている。
「旅人さんのお名前は、何ですか?
あたしは、八百屋のヤオ子と言います。
皆さん、ヤオ子と呼ぶので、旅人さんもそう呼んでください」
「名乗られたなら、名乗り返すしかねーな。
オレ様は、キラービー様だ」
旅人は、日焼けした逞しい体にサングラスとワイルドな髭。
そして、雲隠れの額当てをしている。
彼こそ八尾の人柱力であり、サスケとの戦いを利用して逃走中の重要人物であった。
しかし、ヤオ子にとっては知らないことだし、関係もないことだった。
いや、サスケと接触しているという一点だけは重要であった。
そんなこととは知らず、意味のないところが気になる対象になり、ヤオ子の目がキュピーンと光る。
「何ですか!
そのカッコイイ名前は!」
「あん?」
「キラービー!
いい!
最高にいい!」
「そうか?」
「最高!
カッコイイ!
主人公みたい(漫画の)!」
「お前、見所あるぜ!」
「何か運命の人に出会った気がします」
「名前褒められご機嫌♪
オレ様、いい加減♪」
「特徴的な話し方ですね?」
「これは、ラップだ」
「ラップ?
ブラザーソウルとかの?」
「知ってるのか?」
「少しだけですけど」
「お前もやってみろよ」
「あたしも?
う~ん……。
では、少しだけ。
・
・
赤巻き巻物、青巻き巻物、黄巻き巻物!
マキさん巻き巻き!
巻き巻き症状!
症状、少々緩和!
だけど、マキさん巻き巻き!
巻き巻き症状末期に移行!
威光ある巻き巻き手つき!
てっきり治ったと思った症状!
思ったより重症!
ウィィィ!」
キラービーのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「早口言葉じゃねーか!」
「違うの?」
「違う!
お前にはソウルが感じられんねー!」
「初めての人間に、そんな高度なものを求められても……」
タスケは『噛み合わねーな』と思いながら冷めた鍋の具を食べ始める。
その後、飯盒のご飯が炊き上がり、主食も加えて食事は続く。
「ヤオ子って言ったか?
とても死にたいと言う人間には見えんな」
「そうですか?
見かけよりずっとダメージが蓄積されていますよ」
「そうなのか?」
噛み合わない会話にタスケがイライラする。
二人の前に出ると、地面に『死にたい』と『死に体』と書いた。
キラービーとヤオ子は、その字を眺める。
「「……ん?」」
少しずつ理解し始める。
「お前、『死に体』って言っていたのか?」
「『死にたい』って言ってたんですか?」
キラービーとヤオ子が声をあげて笑う。
「道理で、話が合わないはずです」
「オレ様も死にたい奴が飯作ったりするから、変だと思ったぜ」
山中に二人の笑い声が響く。
「お前、修行のし過ぎで死に体だったんだな?」
「はい」
「何の修行をしてたんだ?」
「雷の性質変化です」
「ほう……」
「少し発生できるようになったんですけど、全然実戦レベルで使えなくて」
「そうか。
だったら、少し教えてやってもいいぜ」
「本当?」
「ああ。
やってみな」
ヤオ子は姿勢を正し、両手を合わせてチャクラを練り上げると雷の性質変化を発生させる。
そして、目の前に突き出した手の先でピシパシと音が鳴る。
雷遁としては安定にもほど遠く、威力も今一だ。
「なるほどな」
「ん? もう原因が分かったの?」
「修行方法が悪い」
「そうなの?」
「体で覚えるのが一番早い」
キラービーがヤオ子の手首を取る。
「何を──みぎゃ~~~ッ!」
ヤオ子の体にキラービーの雷遁が流れる。
「体で覚えちまえば問題ねー」
「嘘!
間違ってる!
これ絶対に間違ってる!」
ヤオ子の体を雷遁が駆け巡り、ポニーテールの尻尾の先はピーンと跳ね上がる。
「ほら、さっさとお前も性質変化して体で覚えろ!」
「誰の教え!?」
「ブラザーだ」
「あががががが!
こんなドS的な方法初めて……久しぶりですよ!
・
・
え~いっ!
破れかぶれです!」
ヤオ子は自分でも雷の性質変化を練り出す。
だが、キラービーの雷遁に同調しない。
(っ!
何で、あたしのチャクラは──負けてるの? 違う!
同じ性質のはずなのに違うんだ!)
ビリビリと感電しそうになりながら、ヤオ子は文字通り体で雷遁を覚え始める。
タスケは有り得ないようなスパルタ的な習得方に呆然としている。
何より、この方法でヤオ子の性質変化に変化が見られるのが信じられない。
「キラービーさんの雷遁を感じて……あたしの雷遁のイメージを変換!
このイメージでチャクラを練り直す!」
「ほう……」
ヤオ子のチャクラ性質がキラービーの性質に近づいていくと、体を覆っていた放電が安定してくる。
ヤオ子は掴まれている反対の手を見る。
「何これ?
電気のはずなのに痺れない……。
あたしの体で安定してる……」
キラービーが手首を放す。
「出来たじゃねーか」
「はい……」
ヤオ子は雷遁を纏っているのを不思議に感じる。
「これが雷の性質変化……。
今なら、印を組めば術が発動しそうですね」
そして、キラービーは意外なことを口にした。
「しかし、あんなんで本当に雷遁が習得できるんだな」
「は?」
「実は、何となく試しただけだ」
「……え? ハァ!?
ブラザーの話は!?」
「嘘だ」
「嘘!?」
タスケは『そうだよな……。』と、溜息を吐くと鍋から自分の皿に具を盛り付けて冷まし始める。
タスケにとっては、どうでもいいことだった。
ヤオ子がキラービーを指差す。
「キラービーさん!
その方法であたしが習得できなかったら、どうするんですか!?」
「その時は、その時だ。
だが、オレ様のソウルが出来ると告げた」
「……随分と当てになるソウルですね?」
「当たり前だ!
このやろう!
ばかやろう!」
ヤオ子は頭を掻く。
「まあ、いいか。
習得できたんだし……」
デタラメな方法でこそ、ヤオ子の真価が発揮できるのかもしれない。
「でも、何で、雷遁を纏えるんだろう?」
「その状態で動いてみな」
「動くの?」
ヤオ子が雷遁を纏ったまま歩く。
「うわ!」
雷遁を纏った状態で踏み出した足は、自分が思ったよりワンテンポ早く動いた。
「何これ!?
マグネットコーティング!?
この機体、敏感過ぎる!?」
キラービーは笑っている。
「信じらんねーガキだな。
ちゃんと雷遁の鎧が発動してるじゃねーか」
「雷遁のよろ──うわ!」
振り向いた瞬間に、ヤオ子はこけた。
そして、覆っていた雷遁が解けた。
「った~~~!
今の何なの?」
「使えても扱えなきゃ意味ねーな。
さっきのは雷遁の応用だ。
体に雷遁を纏うことで早く動ける」
「……どういう理屈なんだろう?
体を通る電気信号が早くなるのかな?」
「多分、そんなところだろう」
ヤオ子は腕を組んで考える。
「それって意味あるの?
行動的には、ワンテンポ早く動けるだけでしょ?」
その言葉を聞いて、キラービーのサングラスが光る。
「お前、実戦経験が少ないだろ?」
「ええ」
「戦闘においてワンテンポってのは大きいんだぜ。
達人の斬り合いになればワンテンポの差が死に繋がることもある」
「そうなんだ……」
ヤオ子は感心して話を聞く。
しかし、本日のチャクラ生成は限界に近い。
体は、これ以上の無理を許してはくれなかった。
「もっと試したいけど、今日は、これ以上無理みたい……。
ご飯食べても体が休憩を欲しがってる……」
「それは残念だ……。
ライムの刻み方と一緒に色々と教えてやりたかったんだがな。
死に体なら、しょうがねー」
「ううう……。
面目ない……」
ヤオ子はゴソゴソとデイバックを漁ると、小さめの毛布を取り出す。
「すいません。
もう…限界……」
そして、仰向けで手をお腹の上に重ねると死んだように眠り始めた。
「オイオイ……。
寝ちまった……」
キラービーが溜息を吐くと、代わりにタスケが話し掛ける。
「寝かしてやってくれ。
最近、毎日が死に物狂いなんだ」
「ん? 忍猫か……」
「ああ」
「しかしよう……。
こんな歳で何しているんだ?」
「情報収集だ。
コイツのダチに抹殺命令が出ちまったんだ」
「そいつは大変だな」
「諦め切れなくて動いたんだ。
下忍のクセによ……」
「そうか……」
キラービーがヤオ子の左腕を確認する。
「額当ては、木ノ葉か」
「ああ」
「でも、情報収集のはずが、何で、修行もしているんだ?」
「コイツが一番未熟なのを知っているからだろうな。
本当は、木ノ葉でしっかり地力をつけた方がいいんだろうが、そうも言ってられなくなっちまった。
だから、移動中も修行を欠かさない」
「根性あるじゃねーか」
キラービーが微笑む。
そして、眠っているヤオ子に代わり、タスケが質問する。
「少し質問をしたい」
「あん?」
「暁かうちはサスケの情報を知らないか?」
「…………」
キラービーの顔が険しくなる。
「何でだ?」
「分かるだろう?
コイツのダチが、うちはサスケだ」
「……知っているが言いたくねーな」
「どうしてだ?」
「オレは、丁度、やりあったばかりだからだ。
あのヤローは気に食わねー」
「そうか……。
嫌ならいい……。
だが──」
「?」
「── 一食分の借りぐらい返せ」
「何!?」
「ヤオ子の料理……もう胃の中だよな?」
「な!? 汚ねーぞ!」
タスケは知らぬ存ぜぬで、話を進める。
「まさか、雲隠れの英雄キラービーが、そんな心の狭いことをするわけないよな?」
「テメー!
オレ様のことを知ってんのか!」
「いいや、オレは何にも知らない。
雷影との連絡網があるだけで、
ここで遊んでいる弟のことをチクろうだなんてことは考えてもいないよ」
「お前、オレ様の弱みも知ってんじゃねーか!」
「さあ?
何のことだ?
・
・
話すのか?
話さんのか?」
キラービーが舌打ちをする。
「何が聞きてーんだ?」
タスケは鼻で笑うと、キラービーの前に移動して座る。
「最新の暁の動向……。
それとうちはサスケ……。
出来るなら、うちはイタチだ」
「三つもかよ?」
「雷影……」
「分かってる!」
タスケはキラービーとの会話で、キラービーの知っている暁の情報とサスケとの戦闘の情報を得る。
そして、サスケとの戦闘の情報を得ると顔を険しくした。
「まずいな……。
接触なんてしたら、ヤオ子は殺される」
「当たり前だ。
このやろう!
ばかやろう!」
「だけど……。
コイツ、きっと突き進むぞ」
「有り得ねーな……。
だったら、さっきの雷遁の鎧は覚えさせろ」
「雷遁の鎧?」
「それぐらい早く動けないと逃走も出来ねーぞ。
ましてや、下忍なんだろ?」
「ああ……」
「絶対に接触をさせるな。
アイツは、話してどうこうなる奴じゃなかったぜ」
「肝に銘じておく……。
情報収集が終わったら、木ノ葉に真っ直ぐ帰らせる」
「それがいい。
こんなに旨い料理を作れる奴が死ぬのは勿体ねー」
一人と一匹は、ヤオ子に目を移す。
そのヤオ子は穏やかな顔を浮かべていた。
「しかし、ピクリとも動かねーな?」
「ああ……。
いつも深い眠りに入ると寝息も聞こえなくなる」
「生きてんのか?」
「ああ。
見てろ」
タスケがヤオ子の額のT字ゾーンに足を乗っける。
すると、ヤオ子の口がニヤけた。
「何だ? それは?」
「よく分からんが、この位置に足を乗っけるとニヤけるんだ」
「おもしれーな」
キラービーも同じ位置に指を当てる。
すると、ヤオ子が再びニヤける。
「他はどうだ?」
キラービーがヤオ子の頬に指を当てる。
変化はない。
「妙な奴だな?」
「ああ。
木ノ葉で一番の変態だ」
「さっきの場所に当て続けると、どうなるんだ?」
「やったことないな」
「やってみよう」
キラービーが、ヤオ子の額のT字ゾーンに指を当てる。
ヤオ子がニヤける。
そして、暫くするとしゃべり出す。
「えへへ……。
うなじ~♪」
「何を言っているんだ?」
「どうも、そこに何かを当てると寝言を言うようだな」
「ほう……」
「ぐあぁぁぁ!
またエグい幻術を!」
「おもしれーな」
「一体、どんな夢を見てるんだ?」
「あは~♪
サスケさん♪」
キラービーとタスケが複雑な顔をする。
ヤオ子は夢の中でもサスケを想っていた。
「サスケさん……。
お帰りなさい……」
「…………」
「お疲れ様でした♪
あたしにする?
あたしにする!?
あたしにする!
ベッドへゴー♪」
キラービーとタスケのグーが、ヤオ子の炸裂した。
「「何の夢だ!」」
ヤオ子は夢の中でサスケを捕食していただけだった。
「ん?」
ヤオ子が目を擦り、上半身を起こす
「朝? 違う?
何か頭が痛い……」
「気のせいだ……」
「さっさと寝ろ……」
「うん……」
ヤオ子は、再び眠りに入った。
「ありえねー……。
寝言に突っ込まされたのは初めてだ……」
「オレもだ……。
T字ゾーンは、自爆スイッチだったな……」
ヤオ子のどうでもいい生態の一つが解明された夜だった。
…
翌日……。
キラービーと別れると、ヤオ子は再び北アジトを目指す。
「目標まであと一息!
まずは、近くの町!
次に北アジトです!」
「そうだな……」
「暗いですね?」
「何でもない」
「そうですか?
・
・
では、本日は雷遁をメインで!」
ヤオ子の修行しながらの旅は続く。