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[13840] 【ネタ・完結】NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 23:12
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 NARUTOの世界のIFのSSを書きたいと思い、Arcadiaを利用させて頂きました。

 ※このSSは、2010/6/9 に打ち切りエンドという形で終了しました。
  そして、終了してから、かなり時間を置いて誤字脱字を修正しました。
  ・原作の設定は、2010/6/9までのものになっています。
  ・打ち切りエンドのため、最後は原作を大きく離れ、ご都合エンドになっています。
  こんな時期に修正ageしたため、注意をいれさせて頂きました。

 以下、開始当時からの、このSSの主要な注意事項になります。

 ・このSSは、ギャグが主体になります。
 ・オリジナルの主人公が出ます。
 ・原作を読んでも分からないところは、作者側の独自解釈が横行します。
 ・ストーリーは、IFを入れるため、有り得ない事が多数発生します。


 …


 最後に……。

 また、お世話になります。
 読む時も書く時も、非常に重宝しています。
 このサイトを管理運営してくれている管理人さんに感謝を致します。
 本当にありがとうございます。



[13840] 第1話 八百屋のヤオ子
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:27
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 日暮れ時の川沿いの道……。
 ここは二人の少年が、よくすれ違っていた場所……。
 川に突き出た桟橋に腰を下ろして、一人は川を眺め、一人は小高い川沿いの道から桟橋の少年を見ていた。
 そして、お互い気付いて顔が合うと、二人は顔を背ける。
 別れ際は、いつもお互いの行動を振り返って笑い合っていた。



  第1話 八百屋のヤオ子



 その川沿いの道で、二人の少年が一人の少女に対して暴力を振るっていた。
 二人の少年は、忍者を養成する学校──木ノ葉の隠れ里のアカデミーの生徒である。

 時に、手に入れた力は間違った使われ方をする。
 少年達は手にした力を試したかった。
 そして、その力の矛先が少女に向けられた理由も簡単だった。

 ”力を推し量る手頃な一般人であること”

 付け加えるなら、自分達のような忍者ではなく弱い存在であることだった。


 …


 少女のすすり泣く声が響く。
 幼い少女のポニーテールを掴み、少年達の殴る蹴るの暴力はエスカレートしていく。
 やがて少女が泣くことしか出来ないと分かり、自分達の強さが証明されると、少年達は意気揚々とその場を後にした。
 残された少女はすすり泣き、少年達の姿が完全に消えるまで泣き続けた。
 そして──。


 「ったく! アイツら……」


 ──少女は、少年達が完全に消えるのを確認すると跳ね起きる。
 右肩を廻し左肩を廻し、体を伸ばす。
 そして、首を左右に振りながらゴキゴキと音を鳴らしながら桟橋まで歩いた。


 「あ~あ……。
  鼻血出ちゃってるよ」


 少女は右の鼻の穴を指で押さえ、プッと左の鼻の穴に詰まった血をワイルドに吐き出した。
 ポチョンと固形化した血が川に落ちると、暫くしてダクダクと何故か一筋の血が川に線を引いていく。
 まるで川上から、殺人事件が起きて死体でも流れて来るかのように……。


 「粘膜切った……」


 少女は盛大に流れ出る自分の鼻血に慌てて鼻を摘まむ。
 こんなはずではなかったと上を向き、逆流する鼻血でむせ返る。


 (おかしいな……。
  この前見た格闘系漫画の主人公は、こうやって鼻血を処理してたのに)


 鼻血が止まるまでの時間、少女は妄想に耽る。
 妄想の出だしは、ジョルノ・ジョバァーナ風に……。


 (この八百屋のヤオには夢がある。
  ・
  ・
  両親の残した店で、普通に生活をして普通に一生を終える。
  お婿さんは不細工でもなく美形でもない。
  いや、美形に越したことはない……。
  ・
  ・
  子供は、二人がいい。
  男の子と女の子と一人ずつ。
  そして、子供達が大人になった頃に隠居して、ゆっくり余生を過ごす。
  死ぬ時は、葬式の準備とかが面倒臭いから旦那より早く死ぬ。
  もちろん、老衰の安楽死で……)


 更に妄想は続く。


 (今日のあれは、未来への投資……。
  ガキンチョの今はどうあれ、奴らも大人になる。
  道徳的感性が備わって過去を振り返った時、幼い女の子を殴ってしまったというトラウマは拭えない。
  ・
  ・
  そう……。
  奴らは、そのトラウマから抜け出せずに、知らず知らずに罪悪感からあたしの店に足を運ぶようになる。
  他の店では野菜を買わずに、あたしの店の野菜のみを買い続ける。
  奴らが生きるために必要なビタミンを摂取するのに、
  あたしの店を四十年訪れたと仮定して、一体、どれだけの利益が上がるだろうか?
  それを考えれば、今日のあれは先行投資だ。
  ・
  ・
  大体、泣くほどの痛さじゃないし、涙腺コントロールして涙を流すなんて朝飯前だ)


 ヤオは涙を止めるのを忘れながら、鼻を摘まんだまま妄想で口元をヘラリと緩ませる。
 傍から見ると危ない少女以外何者でもない。

 実はこの妙に計算高い少女……まだ八歳である。
 忍者とは関係ない八百屋の子としてして生まれている。
 身長と体重は、その歳相応の平均値。
 Tシャツに短パンの姿は、女の子でも木ノ葉の隠れの里では珍しくない。
 ただ、素足にドタ靴はいただけない。
 特徴敵なのは茶色の髪の毛で、適度に前髪に振り分けつつポニーテールにしているところだろうか。

 ちなみにヤオの木ノ葉で尊敬する人は、シカマル。
 愛読書は、八歳にして十八禁のイチャイチャ系。
 両親と弟一人の四人家族。
 etc...。


 …


 ヤオが泣きながら将来の妄想でにやけていると、突然、後ろから声を掛けられた。


 「オイ、お前。
  何で、泣いているのに笑っているんだ?」

 「へ?」


 誰も居ないと思っていたヤオは『誰か居たっけ?』と振り返る。
 いつの間に居たのか、そこには木ノ葉の額当てをした少年が立っていた。


 (額当てをしているってことは、もう忍者?
  下忍の人かな?)


 ヤオは涙腺をコントロールし、忘れていた涙を止めて少年を見る。
 鼻血を止めていた指を離し、涙の後を拭う。
 少年が話を続ける。


 「悔しくないのか?
  同じアカデミーの連中にいい様にされて」

 「はい?
  アカデミー?」

 「惚けるな」

 「惚けるも何も……。
  あたし、八百屋の子でアカデミーには通っていませんよ?」


 事態を正確に把握出来ていなかった少年が、意表を突かれた顔をする。


 「そうなのか?」

 「そうです」

 「俺は、てっきり諦めを悟って、笑っていたと思っていたんだが……」

 「あたしが、あんな雑魚相手に本気になるわけないでしょ?」

 「雑魚って、お前……」


 少年は額に手を置き、項垂れる。
 少女の様子が、何かさっきと違う。


 「アカデミーの奴らを雑魚呼ばわりって、どういう一般人なんだ?」

 「それは言えません」

 (あたしの妄想なんて、人に言えるわけがない)

 「じゃあ、笑ってたのは?」

 「…………」


 ヤオは笑って誤魔化している。
 その笑顔を見て少年は正直な感想を漏らす。


 「ただの変態か……」


 ヤオがビシッ!と少年を指差す。

 「オイ!
  いたいけな少女に向かって、何て言い草だ!」

 「いたいけな少女は、泣きながら笑わない」

 「うっ……」


 少年は溜息を吐くと、自己紹介をする。


 「オレは、うちはサスケだ。
  お前……名前は?」

 「八百屋のヤオです」

 「そうか。
  それでヤオ子――」

 「ヤオです!」


 ワンランク大きなヤオの声に一瞬は間を置くも、サスケは気にすることなく続ける。


 「語呂が悪いな。
  ヤオ子って、呼ばせて貰う」

 (あたしの名前って、語呂悪いですか?
  ・
  ・
  いやいや……。
  そもそも会って自己紹介して、いきなり名前否定って、何?)


 抗議の目を向けるも、サスケは気にしない。


 「ヤオ子は、忍にはならないのか?」


 注意しても直さないサスケ……。
 それを見て、ヤオは思う。


 (もう、ヤオ子でいい……)


 呼び方の修正を求めることを諦めると、ヤオ子はサスケの質問に答える。


 「忍びになんてなりませんよ。
  あんなデンジャーでヴァイオレンスな職業」

 「珍しいな」

 「そんなことありませんよ。
  木ノ葉の子が、みんな忍者に憧れるわけじゃありません」

 「そうか。
  ・
  ・
  そういえば、八百屋の子って言ってたな」

 「はい」

 「八百屋って、あの今にも潰れそうな……あの店か?」

 「…………」

 (この人、さっきから失礼なんじゃないかな?)


 拳を振るわせるヤオ子を無視して、サスケは話を続ける。


 「さっきのは悔し泣きだったのか……」

 「ハァ!?」

 「ヤオ子の家は貧乏だから、アカデミーにも入れないんだな……」

 「な、何を言ってるんですか?」

 「それで、さっきの奴らに虐められても、
  泣きながら笑って耐えていたのか……」

 「…………」

 (何か、この人勘違いしてませんか?
  ……それよりも!)


 ヤオ子は握っていた拳を更に強く握る。


 (さっきから人のことを貧乏貧乏って……!
  そっちの方が失礼極まりなくないですか!?)


 サスケが腕を組んで頷く。


 「分かった。
  オレがヤオ子の師匠になって、アイツらより立派な忍にしてやる。」

 「え?
  ・
  ・
  嫌ですよ!
  何、素敵に勘違いしてくれちゃってんですか!
  あたしは、デンジャーな忍家業なんてしたくないんです!」

 「フ……。
  まだ意地を張るか。
  根性もある……気に入った」

 「ハァ!?
  何が根性!?」

 「頑なに貧乏である事を認めずに、
  アカデミーに入れないことを受け入れないところだ」


 ヤオ子は地面を踏みつけ、いきり立つ。


 「いい加減、ぶっ飛ばしますよ!?
  さっきから、あたしの家を貧乏貧乏って!」

 「遠慮はいらない。
  ただで教えてやる」

 「そうじゃなくて──ちょっと! うちはさん!」

 「サスケでいい」

 「オイ! サスケ!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「年上は、敬え!」


 ちなみにサスケは、担当上忍のはたけカカシを呼び捨てである。
 頭を押さえながらヤオ子が吼える。


 「サスケさん!
  止めてください!
  余計なことはしなくて結構です!」

 「口応えをするな!」

 「口応え!?」

 (何で!?
  何で、こうなったの!?)


 混乱するヤオ子を余所に、サスケは鞄の中から本をヤオ子に投げて渡す。
 それを受け取るとmヤオ子は無言で本を眺める。


 「……何ですか? これ?」

 「アカデミーで使ってた教科書だ。
  お前の家は貧乏で教科書も買えないから、オレのお古をやる。」

 「…………」

 (この流れは修正出来ないのか……)


 ヤオ子は教科書を持ってプルプルと震えている。


 「やっぱり……。
  そんなに嬉しかったのか」

 「違います!
  何の勘違いですか、それは!?」

 「とりあえず、明日までにそれを読んで来い」

 「読むって……ハァ!?」

 「そして、チャクラを練れるようになって来い」

 「なって来いって、何それ!?
  チャクラって、何!?
  練るって、何!?
  どういうこと!?」

 「読めば分かる」


 ヤオ子は眉間に皺を寄せ、片眉をピクピクと引く付かせながら訊ねる。


 「サスケさん……。
  八歳児が忍者の教科書なんて読めると思ってるんですか?」

 「お前なら出来る」

 「一体、何の根拠だ!?」

 「うるさいぞ!
  兎に角、やって来い!
  ・
  ・
  明日、同じ時間でこの場所で待つ」


 サスケはヤオ子を残すと、さっさと歩いて去って行く。


 「何故、こんなことに……」


 ヤオ子は、頭を抱えて蹲った。



[13840] 第2話 ヤオ子のチャクラ錬成
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:28
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケとの約束の日……。
 サスケの『明日までに読んで来い』という言葉を、ヤオ子は無視していた。


 「そもそも、あたしは忍者になりたくない」


 この一言で切って捨てる。
 当然、待ち合わせにも出向かない。
 ヤオ子の部屋の机の上では、サスケに貰った教科書が手付かずで投げ出されたままだった。



  第2話 ヤオ子のチャクラ錬成



 サスケに会って二日目……。
 ヤオ子は、夕方の店番をしながら欠伸をしていた。


 「そろそろ、お客さんもお終いかな?」


 日も傾き、木の葉の主婦達も夕飯の準備に取り掛かっている頃だ。
 客足はぱったりと途絶えていた。
 ヤオ子は両親に言われるまでもなく、売り切った野菜の入っていたザルや箱を片付け始める。
 しかし、その作業の途中で、ヤオ子は悪寒を感じて振り返る。


 「…………」


 そこには、サスケが鬼の形相で立っていた。


 「サ、サスケさん?」

 「何故、昨日、来なかった?」


 ヤオ子は視線を逸らしながら、ボソッと呟く。


 「月のものが急に――」

 「下品な言い逃れは止めろ」

 「…………」

 (八歳児相手に大人気ないんじゃないかな?)


 サスケはズボンのポケットに手を突っ込むと、ヤオ子に視線を向ける。


 「理由を言え」

 「ぶっちゃけ……。
  忍者になりたくないし」

 「そうか……」

 (分かってくれたのかな?)


 サスケは目を閉じる。
 そして、一時の間を挟んでポツリと呟く。


 「この店を燃やそう」

 「はい?」

 「この店を豪火球の術で燃やそう」

 「何、言っちゃってくれてんですか!?」


 サスケの目は座っている。


 「こんなボロイ店……。
  あってもなくても構わん」

 「アホかーっ!」


 ヤオ子が怒号を叫ぶ。


 「ヤオ子……。
  お前が約束を破った報いだ」

 「何処の世界に約束破っただけで、家焼く奴が居る!」

 「これは報いだ」

 「そればっかだな!」


 ヤオ子を無視し、サスケが印を結び始める。
 止まることなく結び続けられる豪火球の術の印……。


 (この人、本気だ……。
  本気で人の店燃やそうとしてる……)


 ヤオ子はがっくりと項垂れながら、サスケの両手を押さえる。


 「分かりました……。
  あたしが悪かったです……」

 「反省しているな?」

 「はい……」

 (サスケさんに出会ってしまったことを……)

 「明日、待っている」


 サスケは、それを言うと去って行った。
 直後、ヤオ子はその場に蹲った。


 「とんでもないドSに目を付けられた……」


 ヤオ子は溜息を吐き出し、店の後片付けに戻る。
 終わったはずの一日にやらなければいけないことが増えた。
 店の片付けを終えると、夕飯とお風呂も手早く済ませ、二階の自分の部屋に閉じ篭ることになった。


 …


 ヤオ子はギシギシとなる椅子にもたれながら、サスケに貰ったアカデミーの教科書を開く。
 これから教科書を読み、チャクラなるものを練れるようにならなければならない。
 パラパラと流し読む教科書には、ところどころにメモ書きが残され、何度も読み返した後がある。


 「サスケさん……。
  努力してたんだ」


 ヤオ子はパラパラと更に流し読む。


 「ん? あれ?」


 流し読んでいたページに何か引っ掛かるものを感じる。
 ヤオ子は、再び流し読みで読み返す。


 「何で、こんなに偏ってメモ書きがあるの?
  しかも、ここ……。
  教科書にページ丸々バッテンが付いてる……。
  ・
  ・
  あ、ここも」


 バッテンが付いているということは、サスケは勉強していないということだ。


 「もしかして……。
  サスケさんの家系って有名な忍者のはずだから、
  自己流派を優先してんじゃないのかな?」


 ヤオ子がパラパラと教科書を捲る。


 「ズルイなぁ。
  裏技じゃないですか……。
  ・
  ・
  チッ! 秘伝の方法は書いてないか……。
  ・
  ・
  ハッ! あたしは、何を真面目に読み込んでんだ!?」


 ヤオ子が教科書を床に叩きつける。


 「でも……。
  チャクラとかいうのを覚えないと……。
  サスケさんに何をされるか……」


 ヤオ子は仕方なしに教科書を拾い上げて読み出す。


 「チャクラ:
  『身体エネルギー』と『精神エネルギー』を練り上げてチャクラを作る。
  ・
  ・
  以上! 分かるか!」


 ヤオ子は、再び教科書を床に投げつける。
 そして、拾い上げ読み直す。
 左手は教科書を押さえ、右手の人差し指はコツコツと机を叩く。


 「『身体エネルギー』は分かりますよ。
  体力とか人体に備わってるものでしょ?
  多分、元気の元ですよね。
  ・
  ・
  問題は『精神エネルギー』です……。
  何? この意味不明なエネルギー?
  精神って、何だよ?
  気持ちとかやる気のこと?
  そんなもんにエネルギーなんてあるわけ?
  ・
  ・
  注釈ないかな?
  ・
  ・
  あった!
  ※精神エネルギーは、修行や経験によって蓄積したエネルギーのことをいう」

 ヤオ子はバリバリと頭を掻き毟る。


 「ますます、分からない!
  だから!
  その蓄積したエネルギーが、何なのかを知りたいんですよ!
  何だ!? 蓄積って!?
  ストレスか!? ストレスのことなのか!?
  だったら、あたしは、さっきから精神エネルギー溜まりまくりだ!」


 ヤオ子は、再び教科書を床に投げつける。
 そして、拾い上げ読み直す。


 「もういい!
  長嶋茂雄みたいにニュアンスで説明して!
  『バッ!』とか! 『ズバッ!』とか! 『流れるように!』とか!
  ・
  ・
  ダメだ……分かんないよ。
  ・
  ・
  もう自己解釈しよう……。
  精神エネルギー = 自己の浸透しやすいものを込めるにしとこう」


 ヤオ子は、一息つく。
 そして、頭を切り替えて、続いての疑問に取り掛かる。


 「『身体エネルギー』と『精神エネルギー』を練り上げる……。
  これがサスケさんの言ってた『練る』ってことですよね?
  ・
  ・
  体ん中で、どうやって練るの?
  忍者は体ん中にミキサーでも詰まってんのか!?」


 ヤオ子は、再び教科書を床に投げつける。
 そして拾い上げて読み直すと、よく分からない解釈の教科書を捲り、何処かにチャクラを練るヒントになるものはないかと読み進める。


 「あ。
  チャクラを練ってる絵は付いてるじゃないですか。
  ・
  ・
  お腹のところで『身体エネルギー』と『精神エネルギー』を
  上に向かって錐揉みさせて練る感じかな?
  ・
  ・
  どっち回りがいいんだろう?
  ・
  ・
  あ、なるほど。
  旋毛の回転方向で分かるのか……。
  ・
  ・
  でも……。
  あたし、旋毛が二つあって、一つは右巻きで一つは左巻きなんですよね……。
  それが嫌で髪伸ばして、わざわざポニーテールにして隠してんだし……。
  二つあると螺旋力が二倍になって、チャクラも膨大に練れるなんて設定ないかな?
  ・
  ・
  まあ、どうでもいいです」


 ヤオ子は、ほぼ投げやりで試す。
 とえりあえず、椅子から立ち上がり、自然体で立つ。
 次にお腹の辺りで、何かを混ぜ合わせるイメージを作る。


 「ふっ……。
  こんなんで出来たら苦労しないですよ」


 試みは、ものの見事に失敗した。


 「あ~! 分かんない!
  分かんない!
  分かんない!
  分かんないーっ!
  誰だよ! こんないい加減な教科書作ったの!
  優しさが足りないですよ!」


 ヤオ子はベッドの上に寝転ぶ。


 「あ~! もう!
  チャクラ練れないと、サスケさんに家焼かれるっていうのに!」


 ヤオ子はベッドの上で跳ね起き、教科書を見直す。


 「こんなんじゃ、分かんないよ……。
  ・
  ・
  でもさ……。
  これ見てアカデミーの子達は、チャクラを練れるようになってんだよね。
  だったら、そんなに難しいことなのかな?
  サスケさんって、どう見ても十二、三ですよね?
  そんなに長い期間練習したとは思えないんですよね~。
  ・
  ・
  昨日のトラウマ刻んでた人達なんかはサスケさんよりも年下なわけだし、
  もっと、適当でいいのかも?
  大体、精神エネルギーの話自体、暈かして説明してるじゃないですか。
  きっと、気合いで何とかなるんですよ!
  気合いを混ぜ合わせる感じです!
  ・
  ・
  でも、単に気合いと言ってもな~」


 ヤオ子はおでこに人差し指を立て思案する。
 そして暫くすると、ポンと手を打つ。


 「自分にあった集中し易いもので気合いを入れよう!
  そんで混ぜ合わすイメージを追加です!
  きっと、これでチャクラは完璧ですよ!
  ・
  ・
  ……多分」


 しかし、言った側から自信がなくなる。
 ヤオ子は首を振って気合いを入れる準備を始める。


 (気合い……気合い……。
  あたしが集中出来るもの。
  あたしが夢中になれるもの。
  ・
  ・
  それは……あれしかない!)


 ヤオ子はベッドの下に潜り込むと、イチャイチャパラダイス上巻を取り出し凝視する。
 表紙を見るだけで頭の中には、妄想が走馬灯のように駆け巡る。


 (来た来た来た来た!)

 「猛れ! あたしの精神力(妄想力)!」


 精神力ならぬ妄想力を込めて、ヤオ子は気合いを入れる。
 そして、体内で錐揉み状に練るイメージをした時、何か別の力を感じた。


 「来たんじゃない!?
  来たんじゃないの!?」


 ヤオ子がチャクラの錬成は間違いなく成功していた。
 しかし、込めた精神力が妄想力だったせいか、ヤオ子の生成するチャクラは何処か禍々しい。


 「一気に術の発動まで行っちゃう!?
  ユー! 行っちゃいなよ!」


 ヤオ子はテンションが上がっている。
 ついでに頭のネジもはじけ飛んでいる。
 チャクラを練りながらページを捲ると、ロックオンする。


 「これにしよう! 変化の術!」


 ヤオ子は教科書を見ながら、ゆっくりと印を結んでいく。


 「変化!」


 ボンッと音と煙を立てると、ヤオ子は姿を変えた。


 「来たーっ!
  憧れのセクシーギャル!」


 ヤオ子は、自分で自分を抱きしめる。


 「えへへ……。
  一度でいいから、なってみたかったんですよね~。
  忍者も悪くないかも♪」


 憧れのエロボディを手に入れ、ヤオ子はご満悦である。


 「これで明日、サスケさんを『ぎゃふん』と言わせられる。
  ちょっと、楽しみだな~♪」


 暫く変化の術を楽しんだあと、ヤオ子は明日に備えてだらしない顔で眠りに着くのだった。



[13840] 第3話 ヤオ子の成果発表
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:28
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 日暮れ時の川沿いの道……。
 時刻は、サスケと初めて会った日とほぼ同じ。
 ヤオ子は腕を組み、仁王立ちでサスケを待つ。


 「フッフッフッ……。
  サスケさん、今日があなたの命日だ」


 ヤオ子のテンションは、昨日から無駄に高いままだった。



  第3話 ヤオ子の成果発表



 川沿いの道で、ヤオ子がサスケを待って三十分経った頃……。
 サスケはポケットに手を突っ込んで、歩きながら姿を現わした。
 そのサスケをヤオ子が指差す。


 「遅い!
  レディを待たせるとはモラルに欠けてます!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「昨日、約束を堂々とすっぽかしたお前が言うな!」

 「ううう……。
  それはそうなんですけどね……」


 ヤオ子は蹲りながら指を立てる。


 「あと……待ち合わせするなら、時間決めましょうよ」

 「それもそうだな。
  オレの予定に合わせろ」

 「命令形?」

 「オレは任務もこなしているんだ」

 (そんな当然みたいな顔されても……。
  そもそも、サスケさんの我が侭に
  あたしが付き合ってるんじゃないですか)


 ヤオ子の反論のある顔を無視して、サスケは続ける。


 「ちゃんと読んで来たか?」

 「バッチリです。
  しっかりと読みましたよ」


 ヤオ子のチョキを見て、サスケは頷く。


 「よし。
  じゃあ、チャクラとは?」

 「『身体エネルギー』と『精神エネルギー』を練り上げたものです」

 「よく出来た」

 「えへへ……。
  いや~、それほどでも」


 ヤオ子はクネクネと悶えて喜んでいる。


 「じゃあ、チャクラの練り方を教えてやる」

 「……は? 教えてやる?」


 ヤオ子は呆然としている。


 「どうしたんだ?
  チャクラの練り方だ」

 「いや……。
  教科書見てチャクラを練るんですよね?」


 サスケは腰の左に手をあて、溜息を吐く。


 「何を言っているんだ。
  あんな教科書を読んで分かるわけないだろう」

 「へ?
  ・
  ・
  で、でも! サスケさんは、教科書読んでチャクラを練れって!」

 「それは、お前が不真面目だから、
  そうしないと読まないと思って言ったまでだ」

 「が……!
  じゃあ、家焼くって言うのは!?」

 「教科書を読んだ努力を見せなかった時だけだ」

 「……家焼くのは冗談じゃないんだ」


 ヤオ子が項垂れる。


 「大体、教科書の説明を読んで、
  チャクラが何かって分かったのか?」

 「正直、全然……。
  精神エネルギーなんて言われても、得体がしれないだけでした」

 「当然だ。
  普通は教師の口から感覚などを説明されて、
  手とり足とりで教えて貰うんだ」


 ヤオ子は地団太を踏む


 「それ早く言ってくださいよ!
  凄い大変だったんですよ!」

 (大変だっただと?)


 サスケは少し驚いた顔でヤオ子に訊ねる。


 「お前、チャクラを練れたのか?」

 「ええ、まあ。
  独自解釈で何とか」

 (コイツ、意外と優秀なんじゃないか?)


 実は、サスケの解釈は半分正しい。
 ヤオ子は八歳でありながら、イチャイチャパラダイスを読むことが出来る。
 自分の欲望のために漢字を覚え、意味を理解して十八禁のエロ小説を楽しんでいる。
 頭のスペックは高いと言っていい。
 しかし、そのスペックの半分以上は、頭のカワイソウな子で支配されている。

 サスケが軽く右腕を挙げ掌を返す。


 「やってみてくれないか?」

 「いいですよ。
  きっと、サスケさんは『ぎゃふん』と言います。
  何故なら、あたしは変化の術を昨日の晩に成功させたからです」

 (本当かよ……。
  もう、アカデミーのカリキュラムの後半じゃないか)


 ヤオ子は『ふっふっふっ』と不気味な笑い声をあげると、チャクラを練る体勢に入る。
 腰を落とし、人差し指と中指を立てて両手を組む。


 「猛れ! あたしの妄想力(精神力)!」


 ヤオ子は、( )内の言葉と叫ぶ言葉をデフォルトで間違える。
 そして、その言葉に腕組みをして見ていたサスケが盛大に吹く。
 妄想力を身体エネルギーと混ぜ合わせ、ヤオ子がガンガンとチャクラを練っていく。


 (何て禍々しいチャクラを練り込んでやがるんだ……)


 ヤオ子のチャクラにサスケは嫌悪感を浮かべる中、ヤオ子はゆっくりと印を結び始めた。


 (本当に印を結んでいる。
  術の印も、ここまでは間違いない)


 ヤオ子が目を見開く。


 「変化!」


 ヤオ子の体がボンッと煙に包まれた。
 そして、晴れた煙から現れたのは……。


 「うっふ~ん☆」


 全裸のセクシーギャルだった。


 「ナルトのおいろけの術じゃねーかっ!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ぎゃふん!」


 サスケのグーにより、ヤオ子の変化の術が霧散して解けた。


 「何するんですか!
  うっかり、あたしが『ぎゃふん』って言っちゃったじゃないですか!」

 「このウスラトンカチ!
  何を考えてやがる!?」

 「何って……。
  サスケさんが見たいって言ったんじゃないですか!」


 ヤオ子の襟首を持って、サスケが縦に振りまくる。


 「お前って奴は……!
  お前って奴は……!
  お前って奴は───っ!」

 「褒めてくれないんですか!?
  こんなに頑張ったのに!」

 「褒める気が失せた!」

 「何で?」

 「おいろけの術なんて使うからだ!」

 「やだなぁ。
  サスケさんだって、思春期男子の真っ只中でしょ?
  本当は、こういうの好きなクセに♪」


 襟首を捕まれてぶら下がったまま、ヤオ子は『このオマセさん』とサスケの胸にのの字を指で書く。
 瞬間、サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「オレの前で、二度とするな!」

 「……はい」


 ヤオ子は、ぶっ飛ばされて痙攣しながら返事を返した。


 「ところで、サスケさん」

 (復活早いな……)

 「何だ?」

 「何で、変化の術に『おいろけの術』なんて、別名称があるんですか?」

 「お前と同じウスラトンカチが、もう一人居るんだ。
  そいつが名付けたんだ」

 「まさか、あたし以上の天才が居たなんて……」

 「変態な……」

 「これは強敵と書いて親友と読む、ライバル的な予感がしますね」

 「お前、ナルトと絶対接触するな」


 ヤオ子は笑って誤魔化している。
 そのヤオ子の成果を純粋に喜べず、サスケは溜息を吐く。


 「変化の術は、ちゃんと機能しているんだろうな?」

 「どういうことですか?」

 「あんなもんにしか変化出来ないってことはないんだろう?」

 (ナルトみたいに……)

 「ええ、バッチリです。
  とりあえず、昨日の夜は変化の術で
  色んなものに変化して遊びましたから」

 「遊ぶな……」

 「憧れのセクシーギャルに化けて……」

 「オイ」

 「憧れのセクシーナースに化けて……」

 「オイ!」

 「憧れのセクシー教師に化けて……」

 「…………」

 「憧れのセ──」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「全部、あんなもんじゃねーかっ!」

 「そして、最後にサスケさんに変化しました」

 「…………」

 「今までの例の後にオレの名前を入れられると、
  穢れた住人の一人にされた気分だ……。」


 サスケは額を手で押さえ項垂れる。


 「どうやら、別のことでサスケさんに
  『ぎゃふん』と言わせられたようです」

 「もう、今日は帰る……」

 「そうですか?」


 項垂れて帰るサスケに対して、ヤオ子は最近耳にしたお気に入りの言葉を叫ぶ。


 「しゃーんなろー!」


 その言葉を聞いて、更にサスケの気分は悪くなった。



[13840] 第4話 ヤオ子の投擲修行
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:29
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 精神力ではなく、妄想力を混ぜ合わせるヤオ子のチャクラ練成。
 何故、そんな得体のしれないものを混ぜてチャクラが練ることが出来るのかは原因不明。
 一応、印を組んだ忍術が発動した以上、間違いなくチャクラの一種なのだろう。

 そして、そのヤオ子は暇な時間があれば印を結び、チャクラを練っている。
 これは、いつも行動を共にしていないサスケの言いつけだった。


 (実はサスケさんが、いきなりチャクラを練らせるように仕向けたのには理由があったのです。
  チャクラの絶対量を増やすには日々の積み重ねが必要なので、
  早めに覚えさせる必要があったからです。
  そして、印を結ぶ練習も日々の積み重ねが必要なので、
  同様に早めに練習させたかったみたいです。
  サスケさんは、ドSですがいい師匠です。
  ・
  ・
  ですが、やっぱり、あたしは忍者になどなりたくないのです)


 ヤオ子は店番をしながら、印を結ぶ練習に精を出していた。



  第4話 ヤオ子の投擲修行



 ヤオ子の印を結ぶ早さは格段に上がっている。
 そもそも、この手のものはヤオ子の得意分野だった。


 「あやとりは、昔からやってたもんね。
  それに比べたら、この程度の指の動き……。
  毛糸は、お金掛からないからって、うちの両親が唯一くれた遊び道具だし。
  ・
  ・
  そういえば、ここ何年か誕生日には
  色違いの毛糸しか貰っていないような……」

 (やはり、うちは貧乏なのか……)


 それは紛れのない事実だった。
 とはいえ、いくら得意だからと言って、単純作業の同じことを延々と繰り返すには限度がある。


 「あ~あ、飽きたな。
  ・
  ・
  そうだ!」


 ヤオ子はポケットからあやとり用の毛糸の輪っかを取り出す。


 「行きますよ!」


 ヤオ子は、印を結びながら同時にあやとりをする。
 ヤオ子の胸の前では指と毛糸がグネグネと絡み合い生き物のように蠢く。
 そして、寅の印でフィニッシュを決めると真ん中に蝶の図が形成されていた。


 『お~!』

 『器用なもんねぇ』


 その超絶手技の前に、いつの間にか主婦連のギャラリーが出来ていた。


 (これもしかして、客寄せに使える?)


 ヤオ子は店の前に椅子を置き、その上に乗ると高速で印を結びながらあやとりを始めた。
 形成される図形が出来上がる度に歓声があがり、拍手が起きる。
 そして、誰が置いたのか空の缶詰の中に小銭がどんどん放り込まれる。
 本日の客は、閉店まで絶えることはなかった。


 「ふっ……。
  自分の才能が怖い……」


 ヤオ子は椅子を片付けたあと、小銭で満タンになった空き缶を手に持って店に戻る。
 ……が、そこで足が止まる。


 「しまった……。
  店の商品を売るのを忘れてた……」


 次の日、鮮度の落ちた野菜が店先に並び、売り上げが落ちた。
 結局、この二日の累計の売り上げは、一日の平均と変わらなかった。
 ヤオ子の努力……意味なし。


 …


 八百屋の朝は早い。
 主婦達に鮮度のいい野菜を買って貰おうと、朝食の前に商品を並べるからだ。
 故に朝食用の野菜を買いに来る客の目も高い。
 先日のヤオ子の偽装工作など瞬時に見抜かれ、一日前の野菜は、ほぼ売れ残った。


 (恐るべし……。
  木ノ葉の主婦連……)


 そして、朝の忙しい時間が終わるとサスケが現れた。
 そのサスケにヤオ子が声を掛ける。


 「おはようございます、サスケさん」

 「ああ」

 「『ああ』って……。
  挨拶返してくださいよ」

 「ああ……おはよう」

 (そんな、いかにも面倒臭いって態度しなくたって……)


 ヤオ子は不満を心の中だけに留め、話を続ける。


 「早いですね。
  何か用ですか?」

 「今から手裏剣術の朝修行をするから、来い」

 「んん?
  何か変な言葉遣いですね?」

 「行くぞ」


 ヤオ子は手で待ったを掛ける。


 「はい! ストーップ!
  何で、命令形?
  あたしの意思は!?」

 「ない」

 (この人、いつもこうだ。
  ふらっと現れたと思ったら、横暴を押し付ける。
  大体、うちの親もこういう子には、
  大人の義務を果たす上で注意して欲しいです)


 そこへ、丁度良くヤオ子の両親が現れる。


 「娘をよろしくお願いします」

 「分かった」


 ヤオ子の期待は、即行で裏切られた。


 「このゆとり教育がーっ!」

 「うるさいぞ」

 「もういい……。
  自分の未来は、自分で切り開く。
  貧乏で社会の敗北者のうちの両親に、
  お客様に文句言えるスキルなんて皆無なんだ……」


 ヤオ子は、先を歩くサスケにふらふらと項垂れて着いて行った。


 …


 近くの森の中に練習場はあった。
 何処となくオリジナリティが漂うその場所は、サスケの秘密の練習場であった。


 「あの~……。
  あたしは、何をすれば?」

 「クナイや手裏剣を使ったことはあるか?」


 サスケの言葉は、いつも唐突に始まる。


 「だから……。
  あたしは、そんなデンジャーな忍的家業はしたことないんですって」

 「そうか」


 サスケが右足のホルスターから手裏剣を抜き、腰の後ろからクナイを取り出す。
 そして、正面の的に目掛けてクナイと手裏剣を投げつけると、どちらも的の真ん中を捉えて突き刺さった。


 「凄い……。
  全部、真ん中ですよ!」

 「狙って投げてんだから、当たり前だ」

 「いや……。
  狙ったからって、簡単に真ん中に行かないでしょ」

 「これを教えてやる」

 「え?」


 ヤオ子は両手を振って否定する。


 「止めてくださいよ!
  このままじゃ、本当に忍者になっちゃうじゃないですか!」

 「お前には才能がある」

 「話、聞いてます?」

 「一日でチャクラを練り、
  術を発動するなんて、普通は出来ない」

 「家焼かれるかもしれないなんて、普通の状況下じゃないでしょ?
  死を感じて地獄で触れた魔法の粉が奇跡を起こしたんですよ」

 「このまま精進すれば、下忍にも直ぐになれるだろう」

 「アカデミーを卒業しないと下忍になれないんですよね?
  つまり、あたしの努力は一生報われない」

 「だから、精進を怠るな」

 「まるっきり、話を聞いてませんよね?」


 サスケがクナイを反対に持ち、ヤオ子に突き付ける。


 「これを掴んで投げろと?」


 サスケが無言で頷くと、ヤオ子は諦めてクナイを受け取る。
 そして、改めて遠くにある的を見る。


 「届かないんじゃないですか?」

 「とりあえず、適当に投げてみろ」

 「アバウトな……。
  教科書通りでいいんですよね?」

 「あの投げ方以外は投げ難いだろう」

 「それはそうなんですけど……。
  もう少しアドバイスを貰えません?」

 「…………」


 サスケが目を閉じて、何かを思い出す。
 そして、ゆっくりと目を開けると呟く。


 「憎い相手……」

 「え?」

 「殺してしまいたいほど、憎い相手だと思って投げつけろ……」

 (何だろう?
  サスケさんが急に怖くなった……)

 「わ、分かりました。
  やってみます」


 ヤオ子は的を真剣に睨むと、目を閉じ深呼吸をする。
 そして、一時の間を開けて、ヤオ子が目を見開く。
 体を開き、足から腰へとスムーズに体の回転を伝える。


 「うおぉぉぉ!
  死ねーっ! サスケーっ!」


 ヤオ子の掛け声と共に上半身で引き絞った腕が、足からの回転力を加えて振り抜かれる。
 クナイは、一直線に的に向かいど真ん中を打ち抜いた。


 「見てください!
  真ん中ですよ!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
 そして、サスケは、ヤオ子にアイアンクローを掛ける。


 「……お前が殺したいほど憎い相手は、オレか?」

 「へ?
  ・
  ・
  あ~! つい、本音が!」


 サスケの握力が強くなる。


 「ちょっと! 嘘です! 冗談!
  プリティな女の子が、おちゃらけただけじゃないですか!?」


 サスケの手の中で、ヤオ子がバタバタともがく。


 「放して!
  痛い! 痛いって!」


 サスケは、無言で握力を込め続ける。


 「いい加減にしないと、ぶっ飛ばしますよ!?」

 「やってみろ!」

 「股間を蹴り上げてやる!」


 ヤオ子が足をバタつかせるも、足は虚しく空を切る。


 「こうなったら!」


 ヤオ子は、掴んでいるサスケの掌をペロリと舐めた。


 「うわ! 汚ねェ!」


 気持ち悪さに、サスケは思わず手を放す。
 ようやくアイアンクローから開放されると、ヤオ子は自分の手で顔を揉み解す。


 「死ぬかと思った……」


 サスケは、掌の唾液を近くの木に擦り付ける。


 「お前、何でもありだな……」

 「当たり前じゃないですか!
  殺されそうになってんのに!
  ・
  ・
  あ、貴重な美少女の唾液ですから、
  良かったら舐めても構いませんよ?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「そんな変態が居るか!」

 「あたしは、美少年だったら二の足を踏みません。」


 サスケは、今のヤオ子の言葉に後退りする。
 もしかしたら、生まれてきて一番の悪寒を感じているかもしれない。
 そのサスケにパタパタとヤオ子は手を振る。


 「大丈夫ですよ~。
  あたしの捕獲テリトリーは、年下ですから」

 「毎年、テリトリーが広がっていくのか……。
  最悪だな……」

 「と、馬鹿な事をカミングアウトしている場合じゃないですね」

 「ああ。
  寧ろ、永遠に心の中に封印していて欲しかった……」

 (ある意味、最大級の仕返しをされた気分だ……)


 サスケは、本気で頭痛を起こしている。
 そして、こういう日に限って、ナルトとサクラが任務で追い討ちを掛ける失態をする確率が高い。


 …


 その後は、サスケが任務に行くまで真面目に修行が続けられた。
 今回の事は、サスケが遠出をした時、ヤオ子に自主的な修行をさせるため、サスケが気を利かせてくれたものだった。
 しかし、そのせいで多大な精神的苦痛を味わうことになるとは、サスケ自身大誤算だった。

 そして、これから暫く経ってから、サスケの予想した通りに波の国への長期任務が二人を暫く引き離すことになるのであった。



[13840] 第5話 ヤオ子と第二の師匠
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:29
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 あの日以来、サスケは常にヤオ子を朝修行に付き合わせている。
 最初はサボり癖のあるヤオ子を引っ張っていくことが目的だったが、理由は少しずつ変わりつつある……。
 ヤオ子は疲れた顔で朝修行から帰宅すると項垂れた。


 「要するにあたしは、サスケさんの投げた手裏剣やクナイを取りに行く
  都合のいいお手伝いさんというわけです……。
  あの野郎は『いいパシリ見つけたぜ』とほくそ笑んでるに違いありません……。
  ・
  ・
  まあ、サスケさんの近くに投げ返すのが修行と言えば修行なんですけど……」


 しかし、ただ投げ返すだけなら、ここまで疲れない。
 疲れる理由は、サスケの修行場の的が一箇所ではないことだ。
 前後左右オールレンジに配置されてあるため、的を全部巡るだけでも大変な作業なのだ。


 「あのドSは、あたしという都合のいい下僕が欲しかったに違いない……」


 本日、延長して行なわれた朝修行のせいで、時刻は午後になっていた。
 ヤオ子は、居間に遅い昼食を食べに向かった。



  第5話 ヤオ子と第二の師匠



 居間に入るとテーブルの上に置き手紙がある。
 ヤオ子は、それを手に取り首を傾げる。


 「ん? 何これ?」

 『昼食は、終わりました。』

 「は? だから?」


 テーブルの上には何もない。
 ということは……。


 「お昼抜けってのか!?
  あいつら、あたしがサスケさんに連れてかれてんの見てただろ!
  しかも、和やかに挨拶まで交わして!
  あたしのエサは!?」


 ヤオ子は店先に走り、引き戸を乱暴に開くと叫ぶ。


 「あたしのエサは!」

 「勝手に食って来い!」


 接客中の父親は店の金を掴み、ヤオ子に投げつけた。
 ヤオ子は、それをダイレクトキャッチして呆然とする。


 「ありえない……。
  しかも、お金少ないし……」


 ヤオ子を無視して接客に精を出す父親の後姿を眺めると、ヤオ子は生まれの不幸を呪いながら店を後にした。


 …


 行くところは一軒しかない。
 『うまい』『安い』『早い』の札の貼ってある店、一楽である。
 ヤオ子が、一楽の暖簾を潜る。


 「おじさ~ん。
  安くて腹持ちのいいヤツ~」


 ヤオ子が先客の隣に座ると、一楽の主人は方眉を曲げて言葉を返す。


 「お嬢ちゃん……。
  メニュー見て頼んでくれないか?」

 「予算は、これだけで」


 一楽の主人の言葉を無視して、ヤオ子は自分の都合を押し付けてお金を先にカウンターに置いた。


 「仕方ねぇな。
  あそこの子なら……」

 (また、貧乏って思われた……)


 一楽の主人は代金を取ると、ラーメンを作り始めた。
 ラーメンの出来るまでの待ち時間。ヤオ子は隣の子に目を向ける。


 「何だよ?」

 「いや、同類かと思って……」

 「一緒にすんな!
  オレってば、自分で働いて払ってるんだから!」

 「働いてんの? その歳で?
  ・
  ・
  あ、額当て。
  忍者の方ですか」

 「そうだってばよ」

 「サスケさんと同じか」


 ヤオ子の言葉に、金髪でオレンジの服の少年が反応する。


 「お前、サスケを知ってんのか?」

 「はい」

 「お前ってば……。
  やっぱり、サスケが好きなの?」


 サスケは、くノ一達に人気がある。
 少年は、それが気に入らないため質問した。


 「ありえませんよ、あんなドS。
  あんなのがいいなんて、皆、目が腐ってんじゃないですか?」

 「やっぱり!
  お前、見所あるってばよ!」

 「当然の見解です」


 ヤオ子と少年は数分で打ち解けた。


 「オレ、うずまきナルト。
  え~っと……」

 「八百屋のヤオです」

 「そうか! ヤオ子か!」

 「いや……。
  ヤオですって」

 「で。
  ヤオ子は、何で、サスケを知ってんだ?」

 (何で、誰もあたしの本名を呼んでくれないの?
  ・
  ・
  まあ、この人馬鹿そうだし……)


 ヤオ子は自分の中で自己完結すると答えを返す。


 「まあ、ちょっと道で会って。
  それからの関係ですね」

 「ふ~ん」

 「うずまきさんは、どういった知り合いなんですか?」

 「名前でいいってばよ。
  オレは、第七班の同じ班」

 「最悪の人と一緒になっちゃいましたね」

 「分かる?
  そうなんだってばよ!
  アイツ、いつもすかしてカッコつけて!」

 「分かりますね。
  本人、きっとカッコイイと思ってますが
  根暗なだけですからね」

 「そう!
  お前、本当に見所あるな!」


 ヤオ子は、少年の名前である事を思い出す。


 「ナルト……?
  ・
  ・
  ナルトさんって、おいろけの術を開発した……あのナルトさん?」

 「知ってんの?」

 「ええ。
  あたしが最初に発動して、
  サスケさんに見せたのがその術です」

 「ヤオ子も出来るの?」

 「はい」


 一楽の主人は変な会話に首を傾げながら、ヤオ子の前にラーメンを置く。


 「おじさん、ありがとう」


 ヤオ子は美味しそうにラーメンを食べ始める。


 「ナルトさん。
  でも、サスケさんに見せたら殴られちゃいましたよ」

 「オレもだってばよ。
  ついでにサクラちゃんにも……」

 「何で、あの術の価値が分からないんですかね?」

 「オレも同じ気持ちだってばよ」


 一楽に馬鹿が二人。


 「あの術でオレってば、火影の爺ちゃんを倒したんだぞ」

 「凄いですね。
  でも、老い先短い老人にはキツイ術なんじゃないですか?」

 「そうかもしれない……。
  少し使うのを控えよう」


 ナルトは丼のスープを啜り、ヤオ子はラーメンを啜る。


 「あたしは、まだ術を覚え始めたばかりなんですけど、
  ナルトさんは他にも術を開発しているんですか?」


 ナルトの顔がパッと輝く。
 自分に興味を示す人間は久しぶりのことだった。


 「聞きたい!?
  本当に聞きたい!?」

 「聞きたいですね。
  特にエロ系の忍術は全部」

 (この子達、頭大丈夫なのか?)


 一楽の主人は二人の会話を聞いて、本気でヤオ子達の将来を心配し始めた。
 やがて、ヤオ子とナルトが食べ終わる。


 「おじさん、ごちそう様でした。
  美味しかったです」

 「また、来るってばよ」


 意気投合した二人が一楽を出て行くと、その後ろ姿を見て一楽の主人は呟いた。


 「あの子……言葉遣いは丁寧なのにな。
  ナルトと性格が合う時点で終わりかもしれねぇな」


 一楽の主人は、二人を諦めた顔で見送った。


 …


 ナルトに連れられて、ヤオ子はちょっとした広場に移動する。
 ここは木の葉の里から少し離れた演習場の一つだった。
 そこでナルトが胸を張って咳払いを入れる。


 「この術は、おいろけの術を超える高等エロ忍術だってばよ」

 「高等なんですか?」


 ナルトが力強く頷く。
 今、ナルトが披露しようとしているのはハーレムの術というものである。
 この術で使用される影分身の術は、確かに高等な上位忍術である。


 「いくってばよ!
  多重影分身の術!」


 ヤオ子の前で、印を結んだナルトが幾人にも増える。


 「続いて! おいろけの術!」


 更に幾人ものナルトが美女に変化する。
 それを見たヤオ子は驚愕する。


 「ま、まさかこれほどまでの強烈忍術とは……」


 ヤオ子は方膝をつくと、ナルトは腕組みをして自慢げに術を解いた。
 ヤオ子はナルトのズボンにヒシッとしがみ付いた。


 「ナルトさん!
  あなたを師匠と呼ばせてください!」

 「師匠……。
  いい! それ、いいってばよ!」

 「じゃあ──」

 「弟子にしてやるってばよ!」

 「えへへ……。
  弟子入りしちゃった」


 ここにサスケが一番恐れていた接触による悲劇が完成した。
 ナルトが威張りながら話し掛ける。


 「まず、師匠としてヤオ子の実力を見てやる。
  おいろけの術をやるってばよ。
  やれェーーーっ!」

 「分かりました! 師匠!
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子はチャクラを練り始める。


 「何かお前のチャクラってば……。
  禍々しいってばよ……」


 ナルトが一筋の汗を流している中で、ヤオ子が印を組んで術を完成させる。
 そして、煙と共に現れたのは、金髪のセクシーギャルだった。


 「うっふ~ん☆」

 「おお!
  中々の高得点だってばよ!」

 「やっぱり? やっぱり!」

 「だけど、ちょっと残念だ……」

 「え?」

 「エロの基本は『ボン! キュッ! ボン!』だ!
  それじゃ始めの『ボン!』が威力不足だってばよ!」


 ヤオ子が不適に笑う。


 「ふふふ……」

 「な、何だよ?」

 「師匠、一つ生意気を許してください。
  あたしは、体のラインのバランスを大事にしています。
  巨乳もいいですが美乳も捨てがたい……」

 「そう来たか……」


 師匠もといナルトが感動している。
 ナルトはヤオ子に親指を立てた。


 「分かった!
  合格をやるってばよ!」

 「ありがとうございます!」

 「では、ハーレムの術に必要な影分身の術を教える!」

 「はい!」

 「これはオレも苦労して覚えた術だから
  難易度もかなり高いってばよ!」

 「大丈夫です!
  ことエロが付く忍術に関しては妥協しませんし、
  失敗をした事もありません!」

 「何か、お前とは似た臭いを感じるってばよ。
  じゃあ、行くぞーっ!」


 ナルトとヤオ子の影分身の修行が始まった。


 …


 夕方、日が暮れだした頃に影分身の修行は終了する。
 チャクラもかなり浪費し、ナルトとヤオ子の息は上がっていた。


 「はあ、はあ……。
  じゃ、じゃあ、やってみるってばよ」

 「分かりました。
  体力はギリギリでも、妄想力で補います!
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子が禍々しいチャクラを練り込み、印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 ヤオ子が四人に増えた。
 四人のヤオ子は続けざまに印を結ぶ。


 「続いて!
  ハーレムの術! ヤオ、バージョン!」


 ボンッ!と音がすると美女が四人現れる。


 「成功だってばよ!」

 「ありがとうございます! 師匠!」

 「ヤオ子ってば、天才かもしれないってばよ!」


 まさしく才能の無駄使いである。
 ヤオ子は自分の分身に手を掛け、まるでキャッチセールスのような言葉でナルトに話し掛ける。


 「どうです? 師匠?
  この子なんか師匠の好みに合わせて、
  完璧な『ボン! キュッ! ボン!』ですよ?」

 「いいってばよ!
  いいってばよ!!」

 「えへへ……」

 「もう、教えることはないってばよ」

 「そうですか?
  じゃあ、今度、新しいエロ忍術を開発したら教えてくださいね。
  あたしも、どんどん開発しますから」

 「ああ! 約束だってばよ!」


 ここに毒々しい友情の華が咲いたことを、サスケはまだ知らない。



[13840] 第6話 ヤオ子の自主修行・豪火球編①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:30
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ナルトと会って影分身を覚えた、次の日……。
 ヤオ子は、その脅威の術の成果を発揮する。


 「さあ! どっからでも掛かって来て下さい!
  サスケさんが投げた手裏剣やクナイは、全て回収します!」


 サスケの練習場のオールレンジの的の前で、影分身のヤオ子達が『しゃーんなろー!』と雄叫びをあげる。
 そう……。
 ヤオ子は脅威のエロ忍術の副産物でパシリ能力を最大限に発揮していた。



  第6話 ヤオ子の自主修行・豪火球編①



 ドSの本能に従い、サスケが的確に本体のヤオ子を蹴り飛ばす。
 瞬間、各的に配置された影分身は煙と共に霧散し、ヤオ子は地面に顔面から激突した。
 ──が、直ぐに、ヤオ子はサスケに食って掛かる。


 「何するんですか!?
  いきなりヴァイオレンスな!」

 「何処で、その術を覚えた?」

 「……ん? 術?」

 「影分身のことだ」

 「一楽で、ですけど?」


 思い当たったように、サスケは顔を手で覆う。


 「しまった……。
  アイツのテリトリーだった……」

 「?」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「お前、オレの言いつけを破ってナルトと接触したな?」

 「言いつけ?
  ・
  ・
  ハァ!? 何言ってんですか!?
  一楽に行ったら、師匠が居ただけですよ!
  接触がどうのなんて言われても防げませんよ!」


 サスケの目が座り、サスケは無言でヤオ子の襟首を掴んだ。


 「何故、ナルトを師匠呼ばわりしている?」

 「え?
  それは……」


 ヤオ子が目を逸らす。


 「お前、変な術とか教わってないだろうな?」

 「か、影分身の術だけです!」

 「本当か?」

 「…………」


 サスケの無言の追求に耐え切れず、ヤオ子は両手の人差し指をチョコチョコとくっ付けて白状する。


 「実は、ハーレムの術というのを……」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「……全てが繋がった。
  お前、ナルトとくだらんことで結びついたな!」

 「そんなことないですよ!
  あたしは純粋にナルトさんの才能に惚れ込んで、弟子入りしたんです!」

 「アイツの何の才能だ?」

 「主にエロ関係です」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「二度と接触するな!」

 「……運命の出会いは避けられない」


 ヤオ子を突き放すと、サスケは溜息を吐く。


 「じゃあ、これでオレは行く」

 「あれ? 修行して行かないんですか?
  折角、各的に影分身を配置したのに」

 「もう居ねぇじゃねーか……」

 「あり?」


 影分身はとっくに解除されていた。
 ヤオ子はチョコチョコと頬を指で掻いた。
 再び、サスケから溜息が漏れ、話が再開する。


 「暫く里を出ることになりそうだから、
  挨拶しに来ただけだ」

 「あたしごときのために、
  そんなことしなくていいのに」


 サスケは、メモを渡す。


 「これを渡しに来た」

 「何ですか? これ?」

 「オレが居ない時にやっておけ」

 「え?」

 「じゃあな」

 「待ったーっ!」

 (うるせーな)


 ヤオ子を置き去りに歩き出していた、サスケが振り返る。


 「何で、こんなものをしなきゃならないんですか!
  あたしは、一般庶民で居たいんです!」

 「まだ、アイツらに仕返しをしていないだろう?」

 「仕返し仕返しって……!
  何なんですか!
  サスケさんは、復讐したい人間でも居るんですか!?」

 「その通りだ」

 「は?
  ・
  ・
  そうかもしれないけど!
  それはサスケさんの価値観であって、
  あたしには関係ありません!」

 「お前は、やられたままで済ませられるのか?」

 「違うんです!
  アイツらは、あたしのカモなんです!」

 「は?」


 サスケにはヤオ子の言っている意味が分からなかった。
 これ以上の被害を防ぐため、ヤオ子は正直に白状する。


 「アイツらに幼い女の子を虐めたっていう
  トラウマを刻んでいるんです!」

 「お前……。
  何考えてるんだ?」

 「あたしの四十年計画の一つで、
  アイツらが大人になったら、罪悪感からうちの店で野菜買わせるように仕組んでんの!」

 「そんなことしてたのか……。
  お前、根暗で最悪だな……」

 「だから、復讐は関係ナッシング!」


 ヤオ子は両手を使って大きな×の字を作った。


 「まあ、いい。
  ちゃんとやっとけ」

 「ちょっと!
  あたしの話を聞いてたんですか!?」

 「やらなきゃ……焼く!」


 その一言で話は終わった。
 去り行くサスケを尻目に、ヤオ子が地面に手を付いて項垂れる。


 「何故……」


 サスケは、さっさと去って行った。


 …


 それから波の国へ向かったサスケの第七班は、暫く帰って来ないことになる。
 木の葉からの移動日数の往復分と任務を遂行する日数が掛かるからである。
 そして、その間はサスケの監視はなく、正直サスケの言いつけなど、ヤオ子はすっぽかすつもりでいた。


 「何故だ……。
  何故、あたしは逆らえない……」


 しかし、サスケが旅立った初日。
 ヤオ子は、サスケの練習場でメモ通りの修行をこなしていた。


 「あのドSの命令に逆らえない……。
  何じゃこりゃーっ!」


 ヤオ子の体には悲しい習性が染み付いていた。
 ズバリ、恐怖の対象であるサスケに逆らえない。


 「あたしがトラウマ刻み付けられて、どうするーっ!」


 家を焼くという恐怖は、ヤオ子が思っている以上にヤオ子に絶対的服従を刻んでいた。
 四十年計画で固定客をつけようと、それなりにヤオ子は実家の店に思い入れがある。
 それを燃やされせないためには、サスケの言いつけを守るしかない……。
 だが、ヤオ子に刻み込まれたのはそれだけではない。
 日々繰り返されるサスケの突っ込みという毒は、短期間でありながらヤオ子の体の末端まで汚染していた。
 ヤオ子は頭を抱えて悶える。


 「洗い流さねば!
  こんな悲しい習性を刻み付けて生きていけるか!
  あのドSが波の国に行っているうちにリハビリして、
  綺麗なあたしに生まれ変わるのです!」


 そして、ヤオ子が決意を叫んでいた頃……。
 当のサスケは、ナルトに向かって『ケガはねーかよ? ビビリ君』と決め台詞を吐いていた。


 …


 アカデミーにも通わない庶民のヤオ子は、基本自由な時間が多い。
 金銭面の理由からヤオ子の両親は、普通の学校にも通わせていない。
 店番も手が放せない時だけの代理のため、時間は有り余っている。
 『貧乏暇なし』ここだけが諺通りではない。
 昼食後、ヤオ子は例のサスケの練習場に来ていた。


 「ふう……。
  基本、暇なニートだから、足がここに向いちゃう」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「サスケさんは、何で、あたしに構うんだろ?
  話の流れからして、あたしはサスケさんの理想の女性で有り得るはずないのに。
  ・
  ・
  ただの親切心なのかな?
  でも、悪気はないよね。
  いつも気に掛けてくれてるんだから。
  ・
  ・
  真面目に修行しようかな」


 ポケットの中から、ヤオ子はメモを取り出す。


 「新しい忍術が書いてある。
  『火遁・豪火球の術』か」


 サスケの残したメモには、新しい忍術が印と共に書かれていた。
 ヤオ子はメモを読み進める。


 「ん? また、変なことが書いてある。
  ・
  ・
  これ……。
  この前、チャクラ練ることを覚えたあたしが出来る術なの?」


 ヤオ子が顔を顰める。


 「しかも、出来なきゃ家焼くって……。
  また、このパターン!?
  ・
  ・
  これどっちなんだろう?
  本当に出来なきゃ焼くのか?
  やった努力が見られなきゃ焼くのか?
  ・
  ・
  あ~~~っ!
  分かんないっ!
  あのドSがっ!」


 ヤオ子は諦めの溜息を吐く。


 「どの道、努力した臭いを醸し出さなきゃいけないし、やってみるか……」


 ヤオ子はチャクラを練り上げ、新しい術の印を結ぶ。


 (せーの! 火遁・豪火球の術!)

 「ふーっ!」


 ヤオ子の口からは、息だけが吐き出される。


 「ホワイ?
  あたしの練り上げたチャクラは、どこいった?」


 もう一度、やってみる。


 「ふーっ!」


 しかし、再度、息だけが吐き出される。
 ヤオ子は片眉を歪め、コリコリと額を掻く。


 「これってさ……。
  練り上げるチャクラが足りないってこと?
  ・
  ・
  でも、サスケさんの言葉を思い出せば、
  『豪火球の術で家を焼く』って言ってたから、
  相当な火力エネルギーが必要だって考えられますよね」


 そうと分かればと、ヤオ子は両手を合わせて集中する。
 頭の中でイチャイチャパラダイスの上巻・中巻のエピソードが妄想により駆け巡る。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 いつも以上に禍々しいチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 (火遁・豪火球の──!?)

 「うげ~!」


 ヤオ子の口から留まったチャクラが逆流した。


 「これ……何か根本から間違ってる。
  だって、チャクラが火に変わらないもん……」


 サスケはチャクラの性質変化の事を一切メモに書いてなかった。
 そのため、ヤオ子の肺にただチャクラが留まっただけだった。


 「このまま続けても、ゲロ吐く練習にしかならないよ……。
  そんなもん見せたら、またサスケさんに殴られるに決まってる……。
  誰か教えてくんないかな?」


 ヤオ子は術の発動のヒントを求め、木ノ葉の里へと繰り出した。


 …


 ヤオ子は里の中を歩きながら、声を掛け易そうな忍者を探す。
 キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回し、やがて、ヤオ子が知っている人物を見つけた。


 「あ! あれは、シカマルさんだ!
  いきなり声掛けて、教えてくれるかな?」


 シカマルは、ヤオ子の尊敬する人物である。
 考えのニュアンスが自分に近いかららしいが、シカマル本人が知ったら間違いなく完全否定するだろう。


 「すいませ~ん!」

 「?」


 シカマルは親友のチョウジと談笑している最中だった。
 そこに現れたヤオ子に、シカマルは面倒臭そうに話し掛ける。


 「何だ? お前?」

 「八百屋の娘です」

 「…………」


 シカマルとチョウジが、ヤオ子を見て固まっている。
 一体、八百屋の娘が何の用なのか?
 この時、ヤオ子がサスケの師事を受けているなど、知る由もなかった。


 「で?」

 「突然ですが……。
  火遁って、どうやって使うんですか?」


 シカマルが面倒臭そうに話す。


 「めんどくせーな。
  そういうのはアカデミーで聞けよ」

 「教科書には載ってなかったような……」

 「そうだっけ?
  めんどくせーから覚えてねー。
  だから、帰れ」

 (さすがはシカマルさん。
  普段のあたしなら、大いに同意するところです。
  しかし、今はあたしの店が懸かっているので粘ります)

 「火遁を覚えないと病気の母が大変なことに……」

 「はいはい。
  それなら医療忍術を覚えな」

 「…………」


 ヤオ子は暫し考えると、出方を変えることにした。


 「見返りは払います。」

 「ああ? 何を?」

 「体で──」

 「帰れ!」

 「…………」


 出方を変えたのは完全な失敗だった。
 当たり前だが……。
 ヤオ子は縋る目でチョウジを見詰める。
 すると、チョウジはヤオ子を見て、気の毒に思えてきてしまった。


 「シカマル……教えてあげたら?」

 「チョウジだって分かってんだろ。
  チャクラの性質変化は、一朝一夕じゃ出来ねー。
  しかも、本人のチャクラ性質も重要な要素だ。
  ガキが覚えるなんて、まだ早ーよ」

 (チャクラの性質変化?)


 シカマルの今の言葉で、ヤオ子は大体理解した。
 サスケは、また無茶な難題を出したのだと……。


 「すいません。
  あたしの我が侭でした」

 「やけに素直だな?」

 「あたしのチャクラ性質も知らないで、
  いきなり聞いたのが馬鹿でした。」


 ヤオ子が俯いてその場を去ろうとすると、シカマルが溜息を吐く。


 「ちょっと待ってろ。
  アスマに言って、チャクラに反応しやすい感応紙を貰って来てやるから」

 「え?」

 「今の時間だと、アスマは何処に居るかな?」


 シカマルが、歩きながら町中に消えると、ヤオ子は首を傾げる。
 それを見たチョウジが、ヤオ子に話し掛ける。


 「シカマルらしいな……。
  きっと帰って来たら、
  『女の子に泣かれるのは面倒臭い』って言うよ」

 (どういうことだろう?)


 ヤオ子とチョウジが待つこと数分。
 シカマルは戻って来ると、一枚の紙をヤオ子に手渡した。


 「女に泣かれるのはめんどくせーからよ」


 そのチョウジの予想通りの言葉を聞いて、ヤオ子とチョウジはクスリと笑い合った。


 「何だよ?」

 「何でもないです」


 シカマルはヤオ子の持つ、紙を指差す。


 「そいつを握ってチャクラを練ればいいんだと。
  お前、チャクラ練れるか?」

 「はい」

 「じゃあ、やってみな」


 ヤオ子は頷き、感応紙を握ってチャクラを練り始める。
 そのヤオ子のチャクラを感じて、チョウジがシカマルに話し掛ける。


 「シカマル……。
  何で、この子のチャクラは禍々しいんだろ?」

 「知らねーよ」


 二人は知らないが、ヤオ子は精神力の変わりに妄想力を練りこんでいる。
 そして、チャクラを練って数秒後……。


 「あ! 燃えた!」

 「性質は間違ってないみたいだな。
  紙が燃えたから、お前は火の性質のチャクラだ」


 ヤオ子は燃えた感応紙を見詰め、顔を上げる。


 「……性質は合ってる。
  で、チャクラの性質を変えるには?」


 ヤオ子の質問に、シカマルが項垂れる。


 「……オイ、コイツに関わるとめんどくさいことになりそうだぞ」

 「簡単に出来るの?」

 「出来ねーよ」


 ヤオ子の質問に何だかんだで答えてくれるシカマル。
 基本、面倒臭がっているがいい人だ。
 ヤオ子は右手の人差し指を立てる。


 「変な質問なんですけど、性質変化させた術って変化の術とかより、
  やっぱり、難易度高いんですよね?」

 「当たり前だろ」

 「そこら辺。気合いで何とかなりませんか?」

 「どうすりゃ、そういう発想に行き着くんだ?」

 「チャクラ練るのって意味分からないでしょ?
  それと同じで気合いで……」

 「お前、気合いでやってるのか……」

 「気合いです」

 「…………」


 場は、一瞬、沈黙しかけたが、ヤオ子は気にせず話を続ける。


 「サスケさんも同じようなこと言ってましたよ?」

 「サスケ?
  お前、適当にあしらわれたんじゃないのか?」

 「そうなんですかね?
  ・
  ・
  じゃあ、質問ですけど、
  精神エネルギーの蓄積されたエネルギーって説明出来ます?」

 「修行や経験によって蓄積したエネルギー……だよな?」


 シカマルの返答に、ヤオ子は更に続ける。


 「その理論だと年取ってる方が精神エネルギーって多いでしょ?
  蓄積するんだから」

 「……まあな」

 「歳も取ってない、あの落ち着きのないナルトさんが、
  精神エネルギーを沢山内蔵してるって……気味悪くないですか?」


 ヤオ子は師匠だろうと平気で貶める人間だ。


 「そう言われると、教科書と一致しないな……。
  ナルトのヤロウは信じられないぐらいのチャクラを持ってたからな……」

 「でしょ?
  あたしの勘ですけどね。
  チャクラに限っては嘘ですね」

 「お前、とんでもないこと言ってないか?」

 「だって!
  納得いかないです!」

 「じゃあ、何で、嘘を教えんだよ?」

 「子供を躾けるためです!」

 「ハァ!?」

 「忍びの里の子供なんて、
  きっと、何処も手の付けれない問題児ばっかりです」


 自分達のアカデミー時代を思い出し、シカマルとチョウジは苦笑いを浮かべる。


 「でも、全員馬鹿だから忍者になりたい」


 今の言葉で、心なしかシカマルとチョウジに青筋が浮かぶ。


 「そこで、大人達は考えたのです。
  馬鹿共を躾けるためにチャクラを練る説明に嘘を入れようと。
  『修行や経験によって蓄積したエネルギー = 精神エネルギー』にしようと。
  ・
  ・
  馬鹿達は仕方なく従います。
  だって、忍者になりたいから……。
  ・
  ・
  そして、意味の分からない精神エネルギーは、躾けの度に意味が変わります。
  『落ち着きがないから、精神エネルギーが養われない』とか。
  『大人し過ぎて元気がないから、精神エネルギーが養われない』とか。
  躾ける子供に合わせてコロコロコロコロ意味が変わります」


 シカマルとチョウジが額を押さえる。


 「やべー……。
  オレ、心当たりあるわ」

 「ボクも……。
  この子の例えでナルトとヒナタが頭を過ぎったよ」

 「だから、チャクラの本質は気合いなので、
  実は不真面目な生徒であるナルトさんみたいな生徒の方が、
  チャクラを練り出す量が多かったりするのです」

 「何で、オレらは、女の子の説明に納得させられてんだ?」

 「さあ?」

 「と、言うわけで、気合いっぽい説明で教えてください」

 「…………」


 シカマルが適当に答える。


 「チャクラ練る時に熱い物でも、イメージすればいいんじゃないか?」

 「そうだね」

 「何故、投げやり?」

 「オレらは火遁を、今、覚える必要ないからな」

 「……馬鹿じゃないの?」


 シカマルのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前は、教えて貰ってる立場だろ!」

 「はは……。
  そうでした……」


 ヤオ子は笑って誤魔化すと、頭を下げる


 「色々、ありがとうございました。
  あたしのチャクラ性質は分かったんで、あとは気合いで何とかしてみます」


 ヤオ子はシカマル達に手を振ると、走り去って行った。
 残されたシカマルがチョウジに話し掛ける。


 「何だったんだ? アイツ?」

 「さあ?
  変わった子だったね」

 「名前も言わずに行っちまった」

 「でも、何と言うか……」

 「ああ。
  頭のカワイソウな奴だったな」


 シカマルの言葉に、チョウジは苦笑いを浮かべつつも納得した。


 …


 ヤオ子はサスケの修行場に戻ると、ポニーテールを右手で梳く。


 「ふっ……。
  結局、頼れるのは自分の妄想だけか……」


 多分……いや、間違いなくこれからやろうとしている方法は間違っている。
 元を正せばチャクラを練るところから、きっと間違っている。


 「熱が必要だから、今回は少しアレンジします」


 ヤオ子は両肘を腰につけるとチャクラを練る準備に入る。


 「うおぉぉぉ!  ←注:アレンジ
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子はチャクラを練りながら印を結び、大きく息を吸い込む。
 その最中、チャクラを摩擦熱で擦るように練りこむ。
 そして……。


 「あっつ!
  おえ~!
  ゲヘッ! ゲヘッ! 中で燃えた!」


 ヤオ子が喉を押さえて咳き込む。


 「危ないって!
  この術、危険!
  練習するだけで死んじゃうよ!」


 ヤオ子は水道まで走ると、数回うがいをする。


 「死ぬとこだった~……。
  これ本格的にあたしがチャクラを火に変えてたら、マジで死んでたよ……。
  ・
  ・
  サスケのヤロウ……」


 ヤオ子はここに居ないサスケに拳を握り、プルプルと震えながらメモを見る。


 「この説明が悪い!
  何だ! これ!

  『チャクラを練る』
   ↓
  『印を結ぶ』
   ↓
  『息を吸う』
   ↓
  『吐く』

  『息を吸う』→『印を結ぶ』だろ!
  吸った時に体内燃やすって、どんな自虐プレイだ!」


 ヤオ子は、一人でもテンションが高い。
 ちなみにサスケは、この手順で術が発動している。
 根本的に間違って突っ走って来たヤオ子固有の問題かもしれない。


 「あ~。
  でも、何かチャクラが熱持ったのは確かです。
  これを覚えるんですよね?
  ・
  ・
  あの人さ……。
  もっと危なくないヤツを自主練させてよ。
  生死が付きまとう術は、手取り足取り教えてよ。
  あたしが死んだら世界的な損失ですよ」


 ヤオ子の愚痴は続く。


 「大体、サスケさんは、いつ覚えたの?
  こんな危険なのって、もっと大人になってからじゃないの?
  習得にどれぐらいの期間が掛かるんですか?
  ・
  ・
  やっぱ、あの人ドSだ!
  その上、馬鹿だ!
  何だよ、このメモの間違い!
  有り得ないですよ!」


 八歳児の少女は怒り狂っている。


 「やめやめ!
  こんな危ない術を子供は真似しちゃいけません!」


 ヤオ子は修行場を後にする。
 しかし、直に痙攣が始まる。


 「何これ?
  修行終えないで離れたら凄い悪寒がする……」


 トラウマ発動である。


 「ダメです! ヤオ!
  この試練に打ち勝って、あのドSから離れるんです!」


 しかし、足は回れ右をする。


 「あ~!
  あたしの裏切り者ーっ!」


 ヤオ子は、体にも裏切られた。



[13840] 第7話 ヤオ子の自主修行・豪火球編②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:30
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 結局、ヤオ子はサスケのトラウマから逃れられなかった……。
 朝修行は手裏剣術をし、午前中は覚えた忍術のおさらいをし、そして、午後は火遁・豪火球の術の習得に精を出して、サスケの居ない日々を律儀に修行し続けた。
 ヤオ子はフッと息を吐き出し、両手を軽くあげる。


 「トラウマの克服?
  ・
  ・
  ハッ! 二時間で諦めましたよ。
  弱点がある方がいい女の条件みたいでしょ?
  ・
  ・
  決して逃げたわけじゃありません。
  サスケさんは、正面から叩き潰す!
  そして、あたしは真のトラウマを克服するのです!」


 などと鼻息荒く息巻いても、自主修行はトラウマにより続けられるのであった。



  第7話 ヤオ子の自主修行・豪火球編②



 自主修行も二週間程が経過した。
 サスケが帰らない理由が、担当上忍の写輪眼の使い過ぎなど知る由もなく修行は続く。


 「はあ……。
  サスケさん死なないかな……」


 八歳児の幼女はいきなり物騒なことを呟いていた。
 ヤオ子しか居ないサスケの練習場では、温かな日の光と枝葉が擦れる音だけが支配している、のどかな昼下がりなのに……。
 実際、そのサスケが死にかけたことなど知る由もなく、ヤオ子の独り言は続く。


 「何とか火は吹けるようになったんだけど……。
  合ってるのかな? これ?」


 実はシカマルに教わったあのデタラメな火の性質変化は、よく分からないが機能していた。
 ヤオ子が妄想力などという如何わしいものをチャクラに混ぜ込んでいるのが原因か、本当にサスケの言うように才能があるのかは分からない。
 しかし、ヤオ子のチャクラは火遁として機能していたのである。
 まあ、十中八九、妄想力の恩恵だろうが……。

 そして、火を吹けるようになったということは火遁・豪火球の術に着実に近づいている証拠である。
 だが、ヤオ子は火遁・豪火球の術を見たことがなかった。
 故に吹き出される火が、成功したものかどうか判断できない。


 「あたしは間違ってると思うんですよね。
  だって、球になってないし。
  豪火なんて大層な名前が付いてる割にはしょぼいし。
  ・
  ・
  まあ、釜戸や焚き火に着火するなら問題ないけどさ。
  忍者が人を殺めるには威力不足ですよね」


 ヤオ子は切り株に腰掛けながら印を結ぶと火を吹く。
 火は一筋に伸びるが、あまりに拙い。


 「家を燃やされるのを見とけばよかった……とは思いませんけど、
  やっぱり実物を見ないことには完成したかどうかの判断ができません。
  ・
  ・
  どうしようかな?
  勝手に改造して威力を上げるべきかな?
  サスケさんは、いつ帰って来るんだろう?
  ・
  ・
  っていうか、何故にウチハ一族居ないの?
  サスケさん以外に聞けないじゃないですか……」


 ヤオ子は溜息を吐いて、切り株の上に寝転ぶ。


 「やっぱり……威力上げようかな?
  このまま使っても、サスケさんを殺せないと思うんですよね~」


 ヤオ子の口から、また物騒な言葉が漏れる。


 「そうです!
  術見せるフリして殺っちゃえばいいんです!
  ・
  ・
  でも……。
  暗殺に失敗したら、家焼かれるんだろうな……。
  ・
  ・
  どうせなら、あたしのチャクラ性質が水なら良かったのに……。
  サスケさんに家燃やされても消火できるし、野菜だって冷やせるし、
  何かぬるぬるしたローション的なものとか練り出せそうだし♪」


 ローション使って、何をする気なのか。


 「とりあえず!
  威力を上げよう!
  ・
  ・
  いざって時にサスケさんを殺せなければ意味がない!」


 ヤオ子は跳ね起きると、真面目(?)に修行を開始することにした。


 …


 ヤオ子は目を閉じると、頭の中でおさらいを始める。
 その最中、自分の考察も含め、勝手に独自の予想を付加していく。


 (まず、問題になっているのが威力です。
  これは少し分かっています。
  あたしの術は基本気合いで補っているので、
  口から火を吐くために、術の発動を言葉に出せないのが気合いを弱くするのです。
  つまり……。
  ・
  ・
  『火遁・豪火球の術!』を叫べないためにテンションが上がらないのが原因です)


 無意味な原因である。


 (だから、ここを修正する必要があります。
  叫ばなくてもテンションを上げられるように……)


 ヤオ子は、本当に基本とずれたところで葛藤する子だ。


 (もう一つは、形です。
  吹き出す火が少ないせいもあるけど、球状になっていません。
  威力を留めるなら、ただ広がるよりも球状に留めた方が燃焼効率がいい……と思います。
  ・
  ・
  まず、威力!
  次に燃焼効率をあげる形作り!
  今のままでは、球状にするうんぬんが出来ません!)


 早速、ヤオ子は豪火球の術の独自強化を図る。
 だけど、その前に今の自分の限界を見極めなければならない。
 ヤオ子は手順どおりにチャクラを練り上げ、息を吸って、印を結んで火を吐く。
 発動した豪火球の術は、火が真っ直ぐにただ伸びて行くだけだった。


 「これがあたしの限界ですね。
  ・
  ・
  もう一つ、分かっちゃいました。
  あたし、子供だから『肺に入る空気の量 = チャクラの量』に制限があるんです」


 ヤオ子はコリコリと頭を掻く。


 「気合い以外にも、もう一工夫必要ですね」


 ヤオ子は胡坐を掻いて腕組み、目を閉じて考える。
 子供ゆえの体の大きさという問題をどう解決するか?

 ~約三十分の時間が流れた~


 …


 ヤオ子は不意に目を開けると呟く。


 「チャクラを圧縮してみようかな……」


 想い発ったが直ぐ行動。
 脊髄反射で、ヤオ子はチャクラを練る姿勢を取っていた。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 両手を合わせ、ヤオ子がチャクラを練る。
 豪火球の術の威力を上げるため、練って練って胸にチャクラを留める。


 (これ……辛い)


 まだあと少しと、ヤオ子は何とか我慢する。
 しかし……。


 「げふ~!」


 口からチャクラが漏れた。


 「耐え切れない……。
  こんなプレイ無理……。
  更に息吸い込むなんて……」


 マーライオンのようにヤオ子の口からダバダバとチャクラが溢れる。
 そして、肺に溜まっていたチャクラが全て流れ出すと、ヤオ子は空気を求めてハアハアと息を荒げる。


 「きっと、最初からチャクラを練り込み過ぎたのがいけません。
  少ないチャクラを圧縮して、徐々に増やしてみましょう。
  ・
  ・
  大人になってないサスケさんが使えるなら、チャクラの量は体の大きさに依存しないはず。
  圧縮するんじゃないなら、肺にチャクラを送り続ける長さとか、
  まだまだ試す方法はいくらでもあります。
  それに今のは失敗でしたが、無理とは思えませんでした」


 ヤオ子はチャクラを練り上げて印を結ぶと、独自にチャクラを留める方法を試みる。
 成果は直ぐには現われないが、ヤオ子は自分の体と対話をするように豪火球の術の強化を図る。
 その日、ヤオ子の試行錯誤は夕方まで続いたのだった。


 …


 二日が過ぎる……。
 ヤオ子の豪火球の術は威力を増していった。
 チャクラを練り、胸に留め、息を吸いチャクラを混ぜ合わせ、印を結ぶ。
 そして、勢い良く吐き出す。
 火の筋道のようだった術は、猛り狂う炎に変わっていた。


 「いんじゃないの?
  あたし、イケてない!?」


 ヤオ子のテンションが久々に上がっていた。
 試行錯誤の末、ヤオ子はチャクラを一点に留める──つまり、肺に留めるということを身につけたのである。
 これはチャクラコントロールの一つを身につけたということにも繋がる。

 術を発動するのにはチャクラを練り込むのは当然だが、発動する術によって練り込むチャクラ量も変わる。
 この時、体の大きさに術の強弱は依存しないことも分かった。
 つまり、チャクラというエネルギーは練ったら練った分だけ体に留めることのでき、発動する箇所に集中して力を発揮する万能エネルギーだと、ヤオ子は理解したのである。

 ヤオ子は満足気に頷く。


 「あとは、気合いの入れ具合と形態ですね。
  ここ数日は、修行しながら、頭はそっちをひたすらに考えていたんですよ。
  ・
  ・
  今こそ! 実行に移す時!」


 威力を上げた豪火球の術は、あとは球体に留めて燃焼効率を上げるだけで完成する。
 ヤオ子には変なスイッチが入り、気合いが別の方向で燃え上がっていた。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子が禍々しいチャクラを練り上げ、胸には限界まで留められるだけチャクラを留める。
 そして、息を吸い込みチャクラと混ぜ合わせ、印を結ぶ。
 ここで、キュピーンとヤオ子の目が光った。


 (豪火球の術あらため……ラブ・ブレス!)


 ヤオ子の改名が心の中で叫ばれると同時に、口から放出した火炎はハートの形を描く。
 球体の形態補助が入っているはずの印の力を妄想力で押さえ込み、発動するはアホの結晶。
 ハート型の火炎は空気を燃焼させながら空へと消えていった。


 「やったーっ! 完成ーっ!
  いや~! まさにエロカッコイイ術に生まれ変わりました!」


 敵を豪火の球体で焼き尽くすはずの火遁系の術が、ピンク色のエロ忍術に変わった瞬間だった。


 「何か威力もさっきと比べ物にならないです!
  やっぱり、あたしは、エロが絡まないと真価を発揮出来ないのです!」


 最悪の条件である。


 「えへへ……。
  これで、きっとサスケさんは、あたしのハートに釘付けですね!
  今、上手いこと言っちゃった♪」


 ヤオ子は、また一つ忍者として成長したのは間違いない。
 火の性質変化に加え、チャクラを一点に留める技術を習得したのだから……。
 だが、この成長をサスケは、どう捉えるのか?

 サスケ帰還の日は近い。



[13840] 第8話 ヤオ子の悲劇・サスケの帰還
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:31
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 豪火球の術を完成させ、サスケの課題は終わった。
 あとはサスケが戻るのを待つだけでいいヤオ子は少し楽な気分だった。


 「久々に気持ちが軽いですね。
  家を焼かれる心配もなくなったし。
  ・
  ・
  でも、サスケさんが木ノ葉に近づいている足音は、ひしひしと感じるんです。
  トラウマを理解してから、サスケさんの気配が分かるんですよね。
  到着するまで……後、一日。
  サイヤ人の来襲を待つクリリンのような気分です」


 ヤオ子にトラウマの副産物、サスケ感知の能力が追加された。



  第8話 ヤオ子の悲劇・サスケの帰還



 豪火球の術が完成しても、ヤオ子はサスケの修行場を訪れている。
 ここは何だかんだで、色々とお世話になっている場所になっていた。


 「サスケさんも明日到着ですし、綺麗にしときますか」


 『この場所に対するお礼か、愛着が湧いてきたのかもしれない』そんなことを思いながら、ヤオ子は影分身の術で四人になると辺りに散らばった手裏剣やクナイを集め始めた。
 それらを一本一本見極めて状態別に箱に詰める。
 箱に詰めるのにも、しっかりと選り分けを行なう。
  A:まだ、使える。
  B:そろそろメンテナンスが必要。
  C:ご臨終。
 そして、分割した一人の影分身は的を回収していた。


 「う~ん……。
  これは、修繕が必要ですね。
  特にサスケさんは命中率がいいですから、
  真ん中のところが穴だらけです」


 影分身のヤオ子は真ん中の円の円周の一点に穴を空けると、糸鋸を使って円を綺麗に抜き取る。
 更に抜き取った表面に鑢掛けをして綺麗にする。


 「次は、ここに嵌め込む別の木を作らないと」


 木の葉の周辺には広大な森林が茂っている。
 誰も見てないし一本ぐらいいいだろうの精神でヤオ子の影分身は手頃な木を伐採すると、鋸を引いて代用の木の円を作っていく。
 それを先ほどの的に嵌め込み、裏で固定すると的にぴったしと収まった。


 「これで、いつでも付け替え可能ですね。
  サスケさんの腕なら真ん中の円だけの付け替えだけで、
  的全部を替える必要はないでしょう」


 器用に的を直して見せたヤオ子の影分身だが、コピーの大元であるヤオ子の能力が無駄に高いお陰である。
 ヤオ子は貧乏が染み付いているので、再利用やリサイクルに対する努力を厭わない。
 故に、この程度のことは苦にも思わず、そつなくこなす。


 「さて。
  今日は、早めに帰ろうかな」


 選り分けた手裏剣とクナイの箱を積み上げると、ヤオ子はシートを被せた。
 そして、辺りを最終確認して修行場を後にした。


 …


 翌日、サスケ達第七班が木の葉に帰還し、任務の報告の後、第七班は解散した。
 そして、サスケが帰り道になる川沿いの道を歩いていると、その道の真ん中で腕組みをして仁王立ちをする少女が一人。
 サスケは、それを問答無用、無言で蹴り飛ばした。


 「何するんですか!?」

 「何故、オレの帰りが分かるんだ?」

 「それはめくるめくサスケさんとの甘い二人の時間が、
  運命という言葉で二人を縛ったからです」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
 ヤオ子は頭を押さえて、キッ!と睨み返す。


 「いったいなーっ!
  暴力以外で愛情表現出来ないんですか!?」

 「何で、そんなにテンション高いんだよ?
  オレは、任務が終わって疲れているんだ」

 「本当ですか?」

 「ああ」

 「そうですか……。
  じゃあ、これで」


 ヤオ子が踵を返すと、サスケはふと思い出す。


 「待て」


 ヤオ子が振り返る。


 「修行は、どうなった?」

 「やっぱり、聞くんじゃないですか?」

 「やっぱり?」

 「これであたしが迎えに行かなきゃ、
  また家を焼こうとするんでしょ?」

 「…………」


 サスケが顎に手を当て考える。


 「よく分かったな」

 「はい! やっぱり!
  家は焼かせません!」


 サスケは振り返ると、ヤオ子を置いて歩き始める。


 「あの……どちらへ?」

 「いつもの場所だ」

 「何で、着いて来いって言わないんですか?」

 「お前は、もう分かっているはずだ」

 (帰って来て直ぐのこの独裁者っぷりは、何?
  ふふふ……サスケさん。
  あなたは、やっぱりただのドSではないようです)


 ヤオ子も、サスケの後に続いた。


 …


 サスケの修行場……。。
 そこでサスケは少し驚いて辺りを観察し、的に手を伸ばす。


 「的が新しくなっている……」

 「ああ。
  穴だらけだったんで直しました」

 「お前が直したのか?」

 「そうですよ。
  ついでに手裏剣とクナイも回収して選り分けて置きました」


 サスケは直ぐ側にあったシートを取って確認する。


 「ヤオ子──」

 「はい?」

 (褒めてくれんのかな?)

 「──お前、本当のパシリ体質だったんだな」

 「…………」


 ヤオ子はグググッと前傾姿勢で何かを溜め込み、次の瞬間、サスケに叫んだ。


 「何ですか!? それ!?
  感謝の一つでも言ったら、どうなんですか!?
  こんな高スペックな八歳児なんて、何処を探しても居ないですよ!」

 「ん? ああ、助かった」

 「……それだけ?」


 サスケは腕を組む。


 「他に何が欲しいんだ?」

 「もっと心を込めろーっ!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前はあまり見返りを求めるから、感謝が薄らぐんだ!」

 「ううう……。
  あんまりだ……」

 (あ~……。
  本当にうるさいな……。
  折角、ナルトとサクラから開放されたっていうのに……)


 サスケは疲れた顔で、腰に手を当てる。


 「それで修行は、どうなんだ?」

 「ちゃんとやってましたよ。
  サスケさんは居なくても、あたしを縛ってましたから……」

 「ハァ?」


 ヤオ子は乾いた笑いを浮かべると沈黙する。
 自分がサスケに逆らえないなどというトラウマを知られるわけにはいかない。
 誤魔化すように、ヤオ子は続ける。


 「まあ、いいです。
  何から見せますか?」

 「手裏剣術からやってみろ」

 「はい。
  ・
  ・
  ……折角、新しくしたのにあたしから使っていいんですかね?」

 「いいから早くやれ」

 「いや、でも……。
  何かあたしが造ったものを最初に汚すのは……サスケさんであって欲しいじゃないですか」


 ヤオ子に、サスケのグーが炸裂する。


 「その変な表現は何なんだ!?」

 「そういうのって、興奮しませんか?」

 「するか!
  いいから、さっさとやれ!」

 「……了解」


 自分の崇高な趣味が分かって貰えず、ヤオ子はややテンション低めで的に向き直る。
 しかし、的を目にすれば集中力が自然と上がってくる。
 ヤオ子が手裏剣術と基本的な忍術を披露すると、サスケは腕を組んだまま動けなくなった。


 (驚いたな……。
  ほぼ的の中心に投擲出来てやがる。
  術も悪くない。
  何より凄いのが、あの印を結ぶスピードだ。
  信じられないが、カカシより早いんじゃないか?)


 その無言無表情のサスケに、ヤオ子は困っていた。


 (分からない……。
  基本無表情だから、何も読み取れない……。
  ひょっとして、また怒らせた?)


 次の指示を待つヤオ子に、サスケが先を促す。


 「最後だ。
  豪火球の術をやってみろ」

 「…………」


 その指示は、ヤオ子が一番返答に困るものだった。
 故に、ヤオ子は黙りこくってしまう。


 「どうした?」

 「あの……やる前に言いわけさせてください」

 「何だ?」

 「あたし、豪火球の術を見たことないんで、
  違うものになってるかもしれません」


 サスケは顎に手を当てる。


 「そういえば……。
  ヤオ子には見せていなかったか?」

 「はい」

 (コイツとナルトって根っ子の部分が似てるから、
  時々、勘違いするんだよな……。
  ・
  ・
  待てよ……。
  そうしたらコイツ、性質変化のイメージをどうやって作ったんだ?)


 サスケは少し疑問を持ちつつも、素直にミスを認めることにした。


 「今回は、完璧にオレのミスだ。
  失敗してもいい」

 「本当ですか!?
  じゃあ、気楽にやりますね!」

 (気楽にやるなよ……)


 テンションが上がったヤオ子はポンと手を打つ。


 「そうだ!」

 「何だよ?」

 「サスケさんのミスなんだから、
  成功したら、何か見返りをください!」

 「エロいことじゃなければ考えてやる」

 「じゃあ、本気で一発殴らせてください」

 「……いいだろう」

 「約束しましたよ!」


 ヤオ子は不適な笑いを浮かべたあと、人差し指と中指を立てて両手を合わせると集中し始める。


 「猛れ! あたしの妄想力!」

 (それ、毎回言うのかよ?)


 ヤオ子が禍々しいチャクラを練成し、最大限に胸に留め始める。
 そして、息を吸い込みチャクラを混ぜ合わせると印を結びながら、キュピーンと目を光らせた。


 (ラブ・ブレス!)


 ヤオ子の口から吐き出された火炎はハートに形成され、禍々しく空気を燃焼させる。
 威力、火炎を留める形の形成、全てが術として機能していた。


 「どうですか!?」


 テンション高めに振り向くヤオ子に、サスケのグーが炸裂する。


 「このウスラトンカチ!
  何で、お前は、いつもオレの斜め上を行くんだ!?」

 「失敗?」

 「形のことだ! 
  何だ!? あのふざけた形は!?」

 「釘付けでしょ?」

 「アァ!?」


 サスケの言葉に威圧されると、ヤオ子は萎縮する。


 「な、何でもないです……。
  ・
  ・
  え~と、形でしたよね?
  何で、でしょうね?
  あたしがやるとああなります」


 ヤオ子が嘘をついて誤魔化すと、サスケは突っ込む気すら失せた。


 「術の威力は完璧なのに……。
  いや、寧ろオリジナルより高いかもしれないのに……」


 サスケが額を押さえて項垂れる。


 「どうですか?
  サスケさん、一発殴らせてくれます?」


 サスケが溜息を吐く。


 「約束だ。
  殴らせてやる」

 「本当ですか!?」

 「ああ」


 早速と腕を廻して、ヤオ子はサスケに狙いを定める。
 当のサスケは、溜息を吐いて腕組みをしている。


 「うおぉぉぉ!
  キル! ユー! ヘル!」


 ちなみにヤオ子が言いたかったのは『Go to the hell!』である。


 「あれ?」


 殴り付けたと思ったサスケをヤオ子は素通りした。


 「終わりだ」

 「ええっ!? 何っ!?
  何が起きたの!?
  サスケさんが、一瞬消えた!?」


 波の国で、サスケはチャクラコントロールの修行をして来ている。
 それを使ってチャクラを一気に練り上げ、足に集中したのである。
 そこから生み出される爆発的なスピードに、ヤオ子は着いていけなかった。


 「もう一回!」


 ヤオ子は、何回もサスケをぶん殴ろうとする。
 徐々に殺気も込め出すが、サスケは余裕で躱し続ける。


 「はあ…はあ……。
  卑怯者ーっ!
  初めから、ぶん殴らせる気なんてないんじゃないですか!」

 「当てればいいだろう」

 「そんな界王星で修行して来た孫悟空みたいなスピードに、
  太刀打ち出来るわけないでしょう!」

 「また訳の分からない例えを……」

 「大体、目で追えないスピードって何なんですか!?
  何で、一ヵ月ぐらいで人間捨てて来ちゃったんですか!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「誰が人間を捨てた!」

 「だって~!」

 「お前にも教えてやる」

 「…………」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「えっと……。
  また、そのパターン?
  ・
  ・
  それ覚えたら、本当に人に回帰出来なくなっちゃうんじゃないですか?」

 「安心しろ。
  他にも覚えることは沢山ある」


 ヤオ子は遠い目で明後日を見る。


 「最近さ……。
  あたしも、ようやく忍者の修行って、
  健康的でいいかもって思い出したんです。
  でも……。
  さっきのあれはありませんよ。
  もう、人間じゃないですもの」

 「一ついいか?」

 「ええ」

 「口から火吐くのは、どうなんだ?」

 「…………」


 ヤオ子は乾いた笑いを浮かべる。


 「何だ……。
  あたしはとっくに人間を捨てていたんですね」

 「じゃあ、教える」

 「…………」


 ヤオ子は腰に左手を当てる。


 「サスケさん。
  波の国に行ってスルースキルでも
  身につけて来たんですか?」

 「一ヵ月だからな……。
  ナルトとサクラと……。
  そのスキルを覚えないとこっちが持たない。
  見事なものだったぞ。
  オレの担当上忍のスルースキルは」

 (と言っても、カカシは、ほとんど寝たきりだったが……)

 「何というか、苦労してますね……」


 サスケは、ヤオ子に同情される自分を何故か虚しく思った。


 …


 サスケが覚えたチャクラの新しい修行方法をヤオ子に伝えることになる。
 サスケはヤオ子を連れて木の前に立つと説明を始める。


 「オレがやって来たのは、チャクラコントロールの修行だ。
  足の裏にチャクラを集めて吸着させ、手を使わないで木登りをする」

 「それとさっきの関係あるんですか?」

 「練り上げたチャクラを必要な分だけ、
  必要な箇所に集めてコントロールする修行だ。
  足の裏はチャクラを集めるのに困難な場所らしい」

 「へ~。
  それを利用して、さっき走ったんですか?」

 「そういうことだ」

 「なるほどね~。
  でも……。
  何で、チャクラが吸着出来るの?」

 「…………」


 ヤオ子に言われて気づいたが、サスケ自身、何故、チャクラで吸着できるのかよく分からなかった。
 そこで出た言葉は完全な予想だった。


 「形態……変化じゃないのか」

 「出た……。
  また、訳の分からないチャクラの謎の性質。
  分からないけど、何か使える。
  何なんですかね?
  チャクラのこの万能性って」

 「お前、細かいな。
  使えているならいいじゃないか」

 「あたしは、サスケさんのアバウトさに吃驚です」

 「オレの家系は忍者で当たり前のように使っていたから、
  そんな疑問を抱かないんだ」

 「そんなもんですかね」

 「そんなもんだ。
  やってみろ」

 「お手本なしですか……。
  まあ、いいです。
  今ので大体分かりました。
  あたしが、ただの幼女でないことを証明して見せます。
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 両手を合わせると、ヤオ子は思いっきりチャクラを練り上げ始めた。


 (コイツ……オレの話を聞いていたのか?
  必要な分だけ練り上げなきゃいけないのに)


 ヤオ子がゆっくり木に足を掛けると、木はヤオ子のチャクラ吸着に負けてバキバキと音を立てる。
 そして、ヤオ子は、お構いなしに次の足を木にくっつけた。


 (それで、どうするんだ? ヤオ子?)

 「うおぉぉぉ!」


 ヤオ子は力任せに吸着する足を引っぺがし前進させる。
 木には引っぺがした後と新たに吸着した後が生々しく残る。
 己のチャクラ吸着と脚力の力勝負を慣行させて、ヤオ子は力任せに木を登り始めた。


 「…………」


 サスケは予想外のことに開いた口が塞がらない。
 ヤオ子は、何処までもサスケの斜め上を進み続ける。


 「うおぉぉぉ!」


 八歳の幼女の声とは思えぬ雄たけびが森に響き渡る。
 ヤオ子の足には木屑や木片が次々に吸着されて凄いことになっている。
 そして、ヤオ子は木のてっぺんまで登り切った。


 「サスケさ~ん!
  出来ましたーっ!」

 「出来てねェ……」

 「え!? 何ですか!?
  聞こえませんよ!」


 木のてっぺんから聞こえるヤオ子の声に、サスケは叫ぶ。


 「このウスラトンカチ!
  それは間違いだ!
  下りて来やがれ!」

 「…………」


 しかし、ヤオ子は一向に下りようとしなかった。


 「何してんだ!」

 「下りれません……」

 「ハァ!?」

 「何か木が凄いことになってて、
  これ以上傷つけたら倒れそうです」


 ヤオ子のチャクラ吸着のせいで、木はご臨終を迎えようとしていた。


 「ったく! あの馬鹿!
  飛び降りろ!」

 「出来るかーっ!
  十メートル以上あるじゃないですか!」

 「オレが受け止めてやる!」

 「本当ですか?」

 「任せろ!」


 ヤオ子はモジモジとしたあと、声を大にする。


 「あの……出来れば、お姫様抱っこでお願いします!」

 (余裕あるじゃねーか……)

 「行きます!」


 ヤオ子が手をクロスする。


 「アーイ!」


 右手を広げる。


 「キャーン!」


 左手を広げる。


 「フラーイ!」


 しかし、足は離れない。


 「やっぱり! 怖いです!」


 サスケは眉間に皺を寄せ、額を押さえる。
 そして、ヤオ子の足目掛けてクナイを投げつける。


 「ちょっと!」


 サスケの投げたクナイをヤオ子はジャンプして躱す。


 「あ!
  ・
  ・
  キャ~~~!」


 ヤオ子が落下を始めると、ヤオ子を捕まえるべくサスケは身構える。


 「何っ!」


 が、ヤオ子の足に吸着されていた木屑や木片が開放されると凄まじい勢いで降り注いできた。
 サスケは、思わず回避してしまった。
 そして、ヤオ子をキャッチし損ねる。
 サスケの目の前で、ヤオ子は凄い勢いで地面に激突した。
 地面には、ヤオ子の人型が出来ている。


 「し……死んだか?」

 「死んでたまるかーっ!
  何で、受け止めてくれないんですか!?」

 (ノーダメージかよ……)

 「あたしがギャグ体質じゃなかったら、
  死んでましたよ!」

 「お前……もう、何でもありだな」


 ヤオ子は穴から這い出ると、ゴキゴキと首を鳴らす。


 「大丈夫なのか?」

 「体の前面がジンジンします」

 「それだけか?」

 「それだけです」

 「…………」

 「一楽にでも行くか……」

 「あ。
  ラーメン一杯で許してあげますよ」


 サスケは安いことだと思いながらヤオ子と修行場を後にした。



[13840] 第9話 ヤオ子とサスケとサクラと
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:31
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 珍しくサスケがヤオ子に罪悪感を感じている。
 しかし、当のヤオ子は、本当にノーダメージであった。


 「たまには、いいですよね。
  一緒にご飯食べるのも」

 「ああ。
  今の時間なら、先に一楽へ向かったナルトも帰っている頃だろう」

 「会いたくないんですか?」

 「絶対にな」

 「あたしは、師匠にまだ挨拶を済ませていませんね」

 (そのナルトとの師弟関係は解消できないのか……)


 サスケは溜息を吐く。


 「そんなことより、
  今日は好きなものを食べていいぞ」

 「嬉しいんですけど、一杯でいいですよ」

 「?」

 「あまり胃が大きくなると、
  我が家の食事事情の関係で暫く辛い日々が続くので……」

 「…………」


 サスケは、少しヤオ子に優しくしようと思うのであった。



  第9話 ヤオ子とサスケとサクラと



 一楽に着いて暖簾を潜ると、客は誰も居なかった。
 サスケ、ヤオ子と奥の方から席を詰める。


 「塩ラーメン」

 「ラーメンをお願いします」


 『あいよ!』と気合いの入った掛け声が返って来る。
 二人は静かに頼んだものが来るのを待ち、直にヤオ子とサスケの前にラーメンと塩ラーメンが置かれる。
 それぞれ一啜りすると、ヤオ子がサスケに話し掛ける。


 「本当に美味しいですよね。
  一楽のラーメンは」

 「ああ、そうだな」

 「食べてる時も物静かですね?」

 「まあな」

 「素っ気ない……」


 ヤオ子とサスケが半分ほど食べ終った頃、突然、後ろから声が聞こえる。


 「キャー! サスケ君!
  今、ご飯なの!?」

 (誰ですかね?)


 ヤオ子は、サスケの後ろで声をあげている赤を基調とした服を着ている桃色の髪の女の子を見る。
 一方のサスケは面倒臭そうな顔をしている。


 (知り合いのようだから、気を利かせますか……)


 ヤオ子はラーメンを隣の席に移動し、布巾で自分の居たテーブルを拭く。


 「どうぞ」

 「ありがとう」


 女の子は、堂々とヤオ子の居た席に座った。


 (いい性格してますね。
  躊躇わずに座るとは)

 「おじさん!
  私にも、ラーメンお願い」


 さっきと同じ様に『あいよ!』と気合いの入った掛け声が返って来る。
 サスケが女の子に声を掛ける。


 「何しに来たんだ?」

 「何しにって、ここはラーメンを食べるところでしょ?」


 サスケが溜息を吐く。


 「オイ、ヤオ子。
  さっさと食べろ」

 「え~!
  もう、行っちゃうの!?」

 (相変わらずのドS体質ですね。
  何かこの女の人が可哀そうです)


 その後も女の子は、何とかサスケと話をしようとするが失敗する。
 そして、話題がなくなり掛けた女の子は、ヤオ子に話し掛けてきた。


 「私は、春野サクラっていうの。
  あなたは?」

 (ついに子供をダシに使いますか。
  仕方ない……あたしも女です。
  一肌脱ぎましょう)


 ヤオ子がグーッとどんぶりのスープを全て飲み干すと挨拶をする。


 「はじめまして。
  八百屋のヤオです」

 「ヤオ? ヤオ子?」


 サスケの呼んでいた名前と自己紹介の名前が違う。
 サクラの中で何かの葛藤が起きるが、その葛藤も直ぐに終わる。


 「よろしくね。
  ヤオ子ちゃん」

 (サスケさんに靡きやがった……)


 ヤオ子は心の中で舌打ちする。


 「ヤオ子ちゃんは、サスケ君とどういう関係なの?」

 (さて、どこから話したもんか……)


 返答に時間の掛かる幼い外見のヤオ子を見て、難しい質問をしてしまったとサクラは気を利かせる。


 「ごめんね。
  簡単でいいから」

 「そうですか?
  では……」


 ヤオ子が目を閉じて今までを思い返すと、ゆっくりと口を開いた。


 「SとMです」


 サスケとサクラが思いっきり吹く。


 「何を言ってやがる!
  このウスラトンカチ!」

 (何なの……この子?)

 (ふっ……。
  甘いですね……サスケさん。
  あたしが意味もなくサクラさんをあたし達の間に誘ったとでも思っているのですか?
  サクラさんを間に入れたのは、あなたのグーを回避するためです)


 ヤオ子が勝ち誇った目をしていると、サスケが爪楊枝を取り、ピッと飛ばす。


 「はう!」


 それは見事にヤオ子の眉間に刺さった。


 「さすが、サスケさん。
  あたしの用意した防御壁を軽がると飛び越えるとは」


 眉間の爪楊枝を引き抜くと、ヤオ子は唾をつける。


 「タフな子ね……」

 「馬鹿なだけだ!」

 「ところで。
  サスケさんもサクラさんもあたしの言葉で吹いたということは、
  変態チックな意味で捉えたんですか?」

 「ヤオ子ちゃん……。
  SとMなんて言われたら、普通そう捉えるわよ」

 「お二人は本物の変態ですね。
  サドとマゾとは……」


 サクラの額に青筋が浮かぶ。
 サスケは、更に爪楊枝を掴むとラー油をつけてピッと飛ばす。


 「ギャー!
  ワンホールショットした!
  今度のはひりひりする!?」


 眉間の爪楊枝を引き抜くと、ヤオ子は唾をつける。


 「サスケさんの無駄に高いスキルがムカつきます!」

 「お前は、もう黙れ! 行くぞ!」

 「ちょっと! サスケ君!」

 (っと……。
  このままじゃ、サクラさんが可哀そうですね)


 ヤオ子が一楽の主人に目で合図を送ると、一楽の主人は直ぐに理解した。


 「お嬢ちゃん! 奢りだ!」


 ヤオ子のどんぶりに替え玉が入れられる。


 「…………」

 (おじさん……。
  ナイスフォローだけど、スープ入ってない……)


 そして、その意図に気付いたサクラも乗っかる。


 「おじさん!
  ヤオ子ちゃんにお替わり入れてあげて!
  私の奢り!」

 「よし来た!」


 ヤオ子のどんぶりに替え玉が、もう一個追加された。


 (……これは、何て言うイジメなんだろう?)

 「ほら! サスケ君!
  ヤオ子ちゃん、まだ食べ終わってないから!」

 「チッ!」


 サスケが席に座り直す。


 (あたしは、この替え玉だけのラーメンを
  どうやって処理すればいいんだ?)

 「ねぇ、ヤオ子ちゃん」

 「え? あ、はい」

 「さっきのSとMを教えて」

 「あ~……はい。
  いいですよ。
  じゃあ、ヒントをあげます。
  サスケさんも考えてくださいね」

 「何で、オレまで……」

 「Sがあたしで。
  Mがサスケさんなんです。
  こうなるとサドとマゾの関係が成り立たないでしょ?」


 周囲の人間がヤオ子とサスケのSとMの関係など知るわけがない。
 しかし、サスケとサクラ、そして一楽の主人は考え始めた。
 その間に、ヤオ子はラーメンに噛り付く。


 (さすがに麺だけはキツイですね。
  素材に拘っている一楽の麺ですから、不味くはないんですが……)


 ヤオ子が麺だけのラーメンと格闘して数分。
 皆がギブアップする。


 「ヤオ子ちゃん、分かんないわ」

 「オレもだ」


 一楽の主人も口には出さないが、興味津々で聞き耳を立てている。
 何とか替え玉一個分を処理したヤオ子が一息つく。


 「仕方ないですね。
  じゃあ、教えます。
  マスター(主人)とスレーブ(奴隷)です」


 再び、サスケとサクラが吹く。
 一楽の主人は、気合いで堪えた。


 「この馬鹿ーっ!
  同じ意味じゃない!」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
 ヤオ子は後方に海老反ったまま頭を押さえる。


 (しまった……。
  サクラさんはツッコミ側の人間でしたか。
  サスケさんに色ボケしてたんで、てっきり……)

 「サスケ君!
  何なの!? この子!?」

 「他人だ……」

 「サスケさん……あんまりです。
  サスケさんとあたしは、完全なMとSじゃないですか?」

 「ヤオ子……。
  それ以上、しゃべるな!」

 「嫌です!
  しゃべります!
  サスケさんのドSっぷりをハードに例えるなら、
  ファイフォのライトオンリーです!」

 「また、訳の分からないことを……」

 「私も言ってる意味が、さっぱり分からない……」

 「メモリ転送しか出来ないのにファイフォのライトオンリー!
  メモリにライトオンリーの割り込みクリアのレジスタでも実装しているのかって感じです!」


 サスケが指でGOサインを出す。


 「サクラ!
  ここからじゃ届かない!
  代わりに殴れ!」

 「分かったわ! サスケ君!」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「何!? 今の共同作業は!?
  サクラさん!
  あなた、初対面の人間にグーを入れるなんて!」

 「あなたは例外よ!」


 ギャアギャアと一楽の店から聞こえた奇声は暫くして沈静化した。


 …


 ヤオ子は、何故か一楽の椅子の上でサスケとサクラにより正座させられていた。
 ヤオ子は、大人しく麺に噛り付く。


 「このウスラトンカチが……」

 「まったく……」


 サスケとサクラが軽蔑の目でヤオ子を見る。


 「さっきのあれは、何なんだ?」

 「ハードのことですか?」

 「ハードって、何なの?」

 「ハードウェアのことですよ」

 「…………」


 サクラは眉間に皺を寄せたまま質問する。


 「ヤオ子ちゃん、いくつ?」

 「八歳ですけど?」

 「お前、ハードウェアって……。
  オレでも良く分からない分野だぞ」

 「話すと長いから掻い摘みますけどね。
  うちテレビがないんです」

 「何で?」

 「ヤオ子の家は、貧乏なんだ」

 (そういう設定の子なの?)

 「で……。
  テレビを作ろうと思い立ったわけです」


 サスケとサクラが吹く。


 「馬鹿か!」

 「まあ、サスケ君。
  まだ子供なんだし……」

 「それで……。
  どうせなら最新の地デジの液晶を作ろうと思って。
  LSIのRTL設計に繋がるわけです」

 「いや、繋がらないだろ……」

 「とりあえず、Verilog-HDL言語を覚えて仕様書作成して、
  ノートに鉛筆でRTL記述を始めたんですけど……。
  途中で検証ツールのライセンス料とかが馬鹿にならないことが発覚しまして」

 「もっと別に気付く要素があったんじゃないの?
  部品とか専用の機械とか」

 「そこは落ちているものをくっ付ければ何とかなるかと」

 「ならないわよ……」

 「まあ、そこで断念したわけです。
  さっき言ったのは、その時のハードの知識とサスケさんのハードSを掛けたんです」

 「誰に伝わるんだ?
  その無駄な知識……。
  ・
  ・
  あとハードSって、何だ?」

 「八歳児の考えることじゃないわね……」

 「理解していただけましたか?」


 サスケとサクラが首を振る。


 「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが……。
  ここまでとは……」

 「八歳でテレビ作ろうって、発想は凄いと思うけど……。
  本格的にLSIとか言われると引くわね」

 「もしかしたら、あたしが就職した会社で、
  メイド・イン・ヤオの無線を皆さんが使うかもしれませんよ?」

 「「使いたくない……」」

 「…………」


 ヤオ子がやれやれと手を上げて麺に噛り付く。
 傍から見るとサスケとサクラが無理やり、麺だけを食べさせているように見える。
 やがて、ヤオ子は麺を食べ終えた。


 「行きますか?」

 「ああ。
  ・
  ・
  ヤオ子……。
  お前は、オレから離れて歩け」

 「そんな邪険にしないでくださいよ」


 サクラは、一楽を去る奇妙な二人連れを見送る。


 「何だかんだで、サスケ君といっぱいお話出来たからいっか」


 そして、サクラの前にラーメンが置かれる。
 サクラは割り箸を割る。


 「サスケ君も、あんなにしゃべるんだな。
  あの子がサスケ君の心を開いたのかしら?
  ・
  ・
  まさかね」


 サクラはラーメンを啜る。
 一悶着したせいか、お腹が空いていつもより美味しく感じる。


 「おじさん!
  とっても美味しい!」


 一楽の主人は微笑む。


 「あ!」

 「どうしたの?」

 「アイツら……代金払ってねェ!」


 サクラは苦笑いを浮かべる。
 そして、この時の代金はサクラが立て替え、後日、サスケがサクラに支払いを済ませることになった。



[13840] 第10話 ヤオ子と写輪眼
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:32
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 一楽での昼食を終えて、ヤオ子とサスケは再び修行場に向かっている。


 「サスケさん。
  まだ何かあるんですか?
  あたしの見せれるものは、
  もう、恥ずかしいコレクションぐらいしかありませんよ」

 「そんなもん……誰が見るか!」

 「きっと思春期男子は釘付けです」


 ヤオ子は卑下た笑いを浮かべている。


 (コイツ、本当にガキなのか?)


 サスケの一抹の不安を無視して、二人は修行場に戻って来た。



  第10話 ヤオ子と写輪眼



 サスケが咳払いを一つする。


 「ヤオ子は写輪眼という言葉を知っているか?」

 「しゃりんがん?
  ・
  ・
  聞いたことないですね。
  新しい丸薬ですか?
  兵糧丸みたいな?」

 「こういう字を書く」


 サスケが木の棒を拾い上げ、地面に『写輪眼』と書く。


 「う~ん……。
  もしかして……血継限界の一つですか?」

 「よく分かったな」

 「サスケさんが追加でくれた本に書いてありました」

 (コイツ……凄い読解力があるんじゃないか?
  ・
  ・
  今度、家にある本を片っ端から読ませてみるか)


 サスケのドS心に火が点いた。


 「で?
  その写輪眼が、どうしたんですか?」

 「少しだが扱えるようになった」

 「本当に人間離れして来ましたね。
  サスケさんって」

 「そういう例えはやめろ。
  写輪眼は、ウチハの家系に稀に発生する瞳術だ」

 「じゃあ、その才能が開花したんですね」

 「そういうことだ。
  ・
  ・
  そこでオレは、次の修行に入る」

 「?」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「この写輪眼を使いこなす必要がある。
  特に……。
  アイツに対抗するには必ず……」

 (またサスケさんが怖い顔してる)

 「ヤオ子……。
  実験台になれ」

 「…………」


 ヤオ子は目を座らせ、聞き返す。


 「何か、また主語が抜けた感じですね。
  今、何と?」

 「実験台になれ」

 「念のために聞きますよ?
  危なくない術ですよね?」

 「安心しろ。
  写輪眼を使った幻術を試すだけだ」

 「幻術か……。
  なら、いいですよ」


 ヤオ子は安心して返事を返した。


 「酷い時は精神崩壊を起こすかもしれんが、
  お前なら大丈夫だろう」

 「はい! ストーップ!
  今、おかしなこと言ったよ! この人!
  精神崩壊?
  馬鹿じゃないの!?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「加減すれば平気だ!」

 「何言ってんですか!?
  ドSのサスケさんが加減なんて出来るわけないでしょう!
  絶対に調子こいて、あたしを亡き者にしようとするに決まってるじゃないですか!?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ちゃんと波の国で、
  チャクラコントロールの修行を積んだ!」

 「……信用していいんですね?」

 「任せろ」


 ヤオ子がジト目でサスケを睨む。


 「……そう言って、
  さっき地面にキスしたのを忘れてないですからね」

 「…………」

 「やるぞ」

 (無視した……)


 サスケが集中して目を閉じる。
 暫くして目を開けると黒目が赤く変わっていた。


 「まだ慣れてないから、発動まで時間が掛かる」

 「カラーコンタクトみたいですね」

 「いくぞ」

 (また無視した……)


 サスケがヤオ子の瞳を覗こうとすると、ヤオ子は両手で待ったを掛ける。


 「ストーップ!」

 「今度は、何だ!」

 「どうせ掛けるなら、
  めくるめく甘~い幻術にしてください」

 「は?」

 「幻術には相手を恐怖で縛るだけでなく
  夢見心地にするのもあるでしょ?」

 (いらない知識をつけやがって……)

 「じゃあ、お願いします!
  あたしにエロい一時を!」

 「…………」


 サスケが写輪眼でヤオ子に幻術を掛ける。


 「ぎゃ~~~っ!」


 ヤオ子がバタバタと悶え苦しみ出した。


 「なんじゃこりゃ~~~っ!
  死ぬ! 死ぬ! 死んでしまう~~~っ!
  ・
  ・
  があぁぁぁ!
  猛れ! あたしの妄想力! 解!」


 ヤオ子が自力で幻術を解いた。


 (コイツ……幻術解けるのか)

 「何してくれちゃってんですかっ!?
  誰がエグい一時を見せろと言った!
  あたしは、エロい一時を見せろと言ったんだ!」

 「もう一回やるぞ」

 「やるか!
  ・
  ・
  って! があぁぁぁ!
  もう、掛けてやがる!
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力! 解!」


 ヤオ子はハアハアと地面に手を突いて息を切らす。


 「油断も隙もねーです……。
  何というドSっぷりなんですか……」

 「お前、いつ幻術の解除を覚えた?」

 「本見れば分かるでしょ……。
  また大雑把に書いてありましたよ。
  相手にチャクラをコントロールされるから、
  自分のチャクラで引っ掻き回して解けって。
  ・
  ・
  とりあえず、突っ込んどきました。
  チャクラ練ってないのにコントロールするって、どういうことだって」

 (本当に意味のないことに精を出す奴だな……)

 「しかし、ヤオ子が幻術を解く技術を持っているなら、
  オレの修行は捗るな」

 「あたし、もう嫌ですよ。
  そんな酷い修行。
  これ以上、あたしにトラウマを刻まないでくださいよ」

 「ちょっと調子に乗った……すまない」

 「…………」


 サスケは素直に謝り、頭を下げる。
 それを見て、ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「まあ、そうやって頭下げてくれんなら手伝いますけど。
  ちゃんと加減してくださいよ」

 「分かった」


 …


 そして、数分後。


 「ぎゃ~~~っ!
  この人、加減って意味を全然理解してねーっ!」


 ヤオ子の悲痛な叫びが響き渡った。



[13840] 第11話 ヤオ子の自主修行・必殺技編①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:32
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケが帰還して数日後……。
 ヤオ子は項垂れている。


 「ヤオ子です……。
  幻術が夢にまで出て来て眠れません……。
  ・
  ・
  ヤオ子です……。
  サスケさんが大量の本を持って来ました……。
  いくらあたしでも、三日で読破は出来ません……。
  ・
  ・
  ヤオ子です……。
  最近のサスケさんのドSっぷりに手が付けられません……。
  任務の内容が納得いかないからって、
  あたしに当たるのはやめてください………。
  ・
  ・
  ヤオ子です……。

    ヤオ子です……。

      ヤオ子です……」


 ヤオ子は項垂れている。



  第11話 ヤオ子の自主修行・必殺技編①



 最近のヤオ子は、少しオーバーワークで修行をしている。
 波の国から帰って来たサスケは、二日間ほどは気分が良さそうだった。
 きっと、波の国で十分な成果を得て帰還したからだろう。
 しかし、木ノ葉に帰って来て、任務をこなし始めるとどんどん不機嫌になっていった。
 どうも波の国での経験以上の成果がない任務に苛立っているようだ。
 そして……。
 その分の成果を得ようと自主的な修行の方に力が入る。


 「サスケさ~ん……。
  もう無理~……。
  チャクラが練れないから、幻術を解けな~い……」

 「ヤオ子!
  情けないぞ!」

 「そりゃあ、この修行は相手が必ず必要ですから、
  あたしの存在が有用なのは分かりますよ。
  でも、あたしはサスケさんほど体力ないから、
  身体エネルギーが底ついちゃうんですよ。
  精神エネルギーは妄想力を使うから有り余ってんですけど……」

 「チッ!」


 サスケが舌打ちする横で、ヤオ子は仰向けで息を切らしている。


 (それにしても……。
  お昼から、ぶっ続けですよ?
  この人、どんな体力してんの?)


 日が沈み夕闇に染まりだした森の修練場で、ヤオ子は空を眺める。


 「サスケさん……」

 「何だ?」


 サスケが不機嫌に聞き返した。


 「何で、そんなに強くなりたいんですか?
  あたしから見れば、波の国から帰って来たサスケさんは、
  凄い進歩を遂げて帰って来ましたよ?
  それこそ、たった一ヵ月で」

 「足りないんだ……。
  まだ、これじゃあ足りないんだ!」

 「…………」

 (男の子って、これだから……。
  もっと、別のことにも目を向けて欲しいもんです)


 サスケは、俯いて何かを呟いている。
 それに特に耳を傾けることなく、ヤオ子は立ち上がる。


 「あたしは、足手まといみたいですね。
  別々に修行しませんか?」

 「何?」

 「サスケさんに新しく与えられた課題も消化しなきゃいけないし、
  何より、あたしの面倒なんて見てたら、サスケさんの修行の邪魔でしょ?」

 「…………」

 「ただし、幻術の修行だけは付き合います。
  あれだけは、相手が必要なんで」


 サスケが苦虫を潰したような顔で頷く。
 彼自身もヤオ子に構う余裕のない自分の不甲斐なさに苛立ちを募らせているようだった。
 少しだけ気を利かすつもりで、ヤオ子は話し掛ける。


 「サスケさん。
  こんな話を知っていますか?」


 サスケがヤオ子を見る。


 「煮詰まった時には、あえてその事象から離れるんです。
  効果は頭を冷やすこととその事象に対する欲求を高めることです。
  煮詰まっている時は、大抵が頭に血が上っている時です。
  だから、少し離れて落ち着きます。
  次にお預けをして、その事象に対する欲求を高めるんです。
  そうすると冷静な頭で欲求を求めるんで、
  無駄なことを省いて事象に集中出来るんですよ」


 サスケは、一瞬固まると頬が緩む。


 「まさか、ヤオ子如きに説教されるとはな」

 「失礼ですね。
  これは、あたしの読んだ漫画から得た貴重なアドバイスですよ?」

 「ふ……。
  漫画かよ」

 「おかしいですかね?」

 「いや……。
  煮詰まっているのは確かだ。
  明日からは、夕方だけにしよう」

 「分かりました。
  じゃあ、あたしはこれで」


 片手をあげると、ヤオ子は走って去って行く。


 「チャクラを練れないとか言ってる割に
  意外と元気じゃねーか……。
  ・
  ・
  アイツ、時々ガキとは思えない言葉を使うんだよな。
  何処で覚えて来るんだ?」


 主にイチャイチャ系のエロ小説からです。
 そして、サスケの苛立ちが治まることはなかった。
 実は、この会話は難癖をつけたヤオ子のサスケ回避だったりする……。


 …


 ヤオ子は家に帰ると夕飯を平らげ、お風呂に入り、弟に五十二の関節技を掛けてストレスを解消する。
 最近、人間の道を踏み外し始めた姉に、弟は本当の恐怖を感じ始めていた。
 その後は、自分の部屋に閉じ篭り、サスケの持って来た大量の本の消化を続ける。


 「この量って、本当に洒落にならないんだけど……。
  サスケさんは、全部読んだのかな?
  何か……中には、ほとんど新品の本が混じってるんですよね。
  まあ、イチャイチャパラダイスの表現に比べたら、
  こっちの方が幾分か表現が軟らかいから読めるんですけど」


 普通は、そんな事はない。
 妄想を必要としない本は、ヤオ子に取ってワンランク下の本に格下げされているだけである。


 「これ以外にもやることがあるんだよね。
  ・
  ・
  木登りとか……。
  あれ結局、凄い間違いだったし……。
  やっぱり、何事においても例とか見本は大事だって、
  あらためて感じましたね。
  ・
  ・
  手裏剣術も練習しないと……。
  練習サボると途端に命中率下がるからなぁ……。
  きっと、筋力が落ちて狙いがずれるに違いないです。
  ・
  ・
  そもそも体力ないから、チャクラを練る限界が来るし……。
  そう考えるだけでも修行をサボれないですよね」


 ヤオ子の頭から忍者になりたくないという考えが、最近、抜け落ち始めている。
 ドSのサスケのせいで感覚が麻痺して来たのか?
 ただ単に忘れているだけなのか?
 何にせよ……ヤオ子は健康的な忍者ライフが体に馴染んで来ていた。


 「そして、本日、サスケさんから解放されました!
  あれは完璧な幼女の体力を無視したオーバーワークの原因ですからね。
  よく考えれば、幼いあたしがドSに付き合って修行するなんて凄くない?
  これで、あのことを実行できます!」


 あのこと……。
 それは……。


 「あたしだけの必殺技を作る!」


 夢見がちな子供の考えそうなことである。


 「あたしの性質は火だから、
  それに合った技を考えないとね♪」


 ヤオ子はベッドで体勢を変える。


 「明日は、久しぶりに秘密基地に行こうっと!」


 一時間後、ヤオ子は読み掛けの本を読破すると眠りについた。


 …


 翌日、ヤオ子は木ノ葉の近くの森をうろついていた。
 サスケの修行場とは違うここで、午前中は手裏剣術とチャクラコントロールの木登りをする。
 そして、お昼時……。


 「お腹減ったな。
  持って来たおにぎりを秘密基地で食べよ」


 ヤオ子は、森の奥へと入って行く。
 辺りをキョロキョロと見回し、古い巨木の穴に手を突っ込む。
 そして、中にある紐をグイッと引っ張ると巨木の幹に隙間が出来た。


 「ふっ……。
  手先の器用なあたしの手に掛かれば、この程度の細工など……」


 ヤオ子は巨木の隙間に手を突っ込み、幹を上に押し上げて中に入ると入り口を閉める。
 そして、巨木の中に作った階段を上がり窓のカーテンを開ける。


 「全部、木ノ葉の里を回って回収して作ったんですよね~。
  主にゴミ捨て場を……。
  この窓なんて力作ですよ」


 ヤオ子が自作の窓を撫でる。
 そして、振り返る。
 窓から差し込んだ光が巨木の秘密基地の中を照らし出す。


 「えへへ……」


 秘密基地の壁には色んな女性の写真の切抜きが張り巡らされている。
 そして、夥しい数の本の山。
 6:4=漫画:エロ本である。
 カーテンをしてあったのは、何気に本の日焼け防止である。


 「あたしの宝物♪」


 貧乏な家のヤオ子は、新品を買うことなど出来ない。
 全て木ノ葉の里を回って回収した。
 木ノ葉の里にゴミが少ないのは、ヤオ子の成果も大きい。
 何気にエコ。
 無駄なエロ。


 「さて、どんな必殺技にしようかな?」


 ヤオ子は漫画を読み始める。
 結局のところ、開発するのではなくパクるのだった。



[13840] 第12話 ヤオ子の自主修行・必殺技編②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:32
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 漫画片手におにぎりを食べながら、ヤオ子は読み耽る。
 そして、候補となる漫画をポンと選り分けて、次の漫画に手を伸ばす。


 「何か火炎系の必殺技って体当たり系ばかりですね。
  火を纏って突っ込むとか……。
  火を纏って突き破るとか……。
  挙句の果てに火を纏って自爆って……。
  あたしに死ねって言うのか?」


 ヤオ子は溜息を吐いて、火の属性って使えないと思い始めた。



  第12話 ヤオ子の自主修行・必殺技編②



 手に付いたご飯粒をペロペロと舐め取り終わると、ヤオ子は叫ぶ。


 「必殺技の定義は近距離だろうがーっ!」


 意味が分からない。


 「火炎系の忍術に至っては、
  ほとんど、口から吐き出すものばっかりでカッコ良くないし!
  ゲロゲロゲロゲロゲロゲロと!」


 ヤオ子は地団太を踏む。


 「あ・た・し・は!
  普通に手から必殺技を出したいの!
  雷を手に纏って切断するとか!」


 カカシの千鳥である。


 「風の刃で切り裂くとか!」


 砂の忍バキの風の刃である。


 「水龍を打ち出すとか!」


 再不斬の水龍弾の術である。


 「まあ、土遁はあたしの趣味じゃないから許すけど」


 土遁の扱いは酷い。


 「もうダメだ!
  火遁の忍術考えた奴ってセンス悪過ぎ!
  だから、ウチハの血引くサスケさんが
  センスの悪いドSな性格になっちゃうんですよ!」


 火遁と性格は関係ない。
 それを言ったら、ヤオ子も性格は悪いことになる。


 「仕方ない。
  ここはセンスの塊のあたしが、
  レボリューションを起こしてメイクするしかありません!
  ヤオ・メイクス・レボリューションです!
  Y.M.Revolutionを作るしかない!」


 ヤオ子は漫画を再び読み出す。
 そして……やっぱり、作らずパクるのであった。


 …


 ヤオ子は、数多の漫画から候補を選び抜いた。
 そして、不幸にもヤオ子に気に入られた技は……。


 「H×Hのリトルフラワー(一握りの火薬)です!
  敵が使っていたというのは残念ですが、
  必殺技のカッコ良さとしては申し分ありません!
  冨樫先生ーっ! ありがとうーっ!」


 ヤオ子は大声で叫んだ。


 「まず、術のイメージを作らないといけません。
  リトルフラワーは手を覆う(守る)チャクラの盾と
  爆発させる火力が同時に備わっていないといけません。
  この二つを両立させないといけないのがポイントです。
  ・
  ・
  まず、チャクラの盾。
  これは形態変化でことが足りると思います。
  どっかの一族では、チャクラで絶対防御なんてしてると本に書いてあったので、
  出来なくないと思います。
  サスケさんの、本を無理やり読ますというドSな調教が役に立ちました。
  ・
  ・
  次に爆発です。
  こればかりは、印の開発が必要です。
  でも、何とかなるでしょう。
  豪火球あらためラブ・ブレスの術で、大体の火炎系の印は理解したつもりです。
  エロは関わっていませんが、欲望が絡んでいるのであたしの脳はフル回転してくれるはずです」


 ヤオ子は、誰も居ないのに説明口調だ。
 こういう時は、大抵自分に酔っている。


 「練習方法の手順です。
  ハードウェアの仕様書作りが役に立ちます。
  人間、何の経験が明日を支えるか分からないものです。
  ・
  ・
  まず、チャクラの形態変化を練習です。
  これをしないとあたしの手がなくなります。
  イメージとしては掌を守るので、
  掌からチャクラを放出しなければなりません。
  ・
  ・
  どうやって?」


 ヤオ子はいきなり暗礁に乗り上げた。
 暫く停止して、ヤオ子は窓を見る。
 森の外には、夕焼けが見える。


 「サスケさんとの約束の時間ですね」


 ヤオ子は、現実逃避してサスケの修行場に向かった。


 …


 サスケの修行場では、サスケがイライラして待っていた。


 「遅いぞ!」

 「……すいません」


 サスケは、いつものようにふざけた言いわけをしないヤオ子に疑問を抱く。


 「どうかしたのか?」

 「いえね……ちょっと」

 「何かあるなら言ってみろ。
  気持ち悪い」

 「何と質問をすればいいのか……。
  サスケさんって、チャクラを放出できますか?」

 「また、藪から棒に……。
  木登りで足に出してるだろう」


 ヤオ子は顎の下に指を立てる。


 「あれも言われてみればそうか。
  ・
  ・
  でも、あれってどっちかって言うと、
  足に特殊能力付加してるイメージなんですよね。
  サスケさんが早く走るあれは足に爆発能力を付加してるようなもんだし、
  吸着は足の裏に粘着能力を付加。
  ・
  ・
  完全にチャクラを放出しているような気がしないんです」

 「純粋にチャクラだけを出したいのか?」

 「ええ」


 サスケは少し考える。


 「試してみたのか?」

 「いえ。
  あたしの術で手から発生するのはありませんから。
  ラブ・ブレスは口でしょ?」

 「ら……?」

 「ああ! 間違い!
  豪火球の術!」

 (何だ、今のは……?)


 ヤオ子は誤魔化すために慌てて質問する。


 「どうやって、修行すればいいですかね?」


 サスケは腕を組む。


 「難しいな……。
  柔拳の類になるんじゃないか? それは?」

 「柔拳?
  あ! あれですか!」

 「思い当たったか?」

 「ええ。
  言いつけ通りに、本に目を通してますから」

 (素直な奴だな……。
  この前の本に全部目を通しているのか。
  オレにも理解できないものも多いから、半分はったりで言ったんだが……)


 ヤオ子はトラウマによりサスケに逆らえない。
 しかし、そのことを、サスケはまだ気付いていない。


 「そうなると……。
  日向家の人に聞くのがベストですけど……。
  あの一族ってヤバくないですか?」

 「……ヤバいな」

 「ですよね~。
  変に聞いたら、柔拳叩き込まれて内蔵バーンでボーンすよね。
  ははは……」

 「…………」


 サスケは無言で視線を逸らした。


 「笑ってくださいよ……。
  寂しいじゃないですか」

 「諦めろ」

 「……サスケさん。
  女には避けて通れない道があるんです」

 「嘘だな」

 「もう、どっちかと言うと、
  人間には避けて通れない道があるんです」

 「嘘だな」

 「…………」

 「あたしは、欲望に忠実に生きたいんだ!」

 「それが本音か!」


 サスケのグーがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は地団太を踏む。


 「だって! やりたいんだもん!
  手からチャクラ出したいんだもん!」

 「ガキか!?」

 「ガキだ!
  ・
  ・
  あ~~~! もう!」


 ヤオ子はガシガシと頭を掻き毟る。
 そして、座った目でサスケに声を掛ける。


 「サスケさん」

 「今度は、何だ?」

 「気弱な日向家って居ませんか?」

 「そんな奴、居るか!
  ・
  ・
  いや……居たな。
  同期で一人……」

 「教えてくれませんか?」

 「お前、何する気だ?」

 「脅します」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「このウスラトンカチ!
  他の日向の奴らに見られたら消されるぞ!」

 (コイツ……。
  忍者になりたくないとか一般庶民で居たいとか言ってなかったか?
  何で、こんな危ない考えに走るんだ!)

 「チッ!」


 ヤオ子が舌打ちする。


 「危険なことしないんで教えてくれませんか?
  その日向の人」

 「お前、本当に何する気だ!?」

 「ストーキングします」


 サスケは吹いた。


 「ストーキングして、手からチャクラ出すのを観察します」

 「やめとけ」

 「断ったら、サスケさんをストーキングします」


 サスケは、再び吹いた。
 ヤオ子は、今度はサスケを脅す対象に変えた。


 「マジです。
  嘘じゃありません」

 (コイツ……。
  本物の変態だからな……)

 「…………」

 (すまん、ヒナタ。
  オレは変態に付き纏われたくない……)

 「バレてもオレの名前は出すなよ……」

 「サスケさん。
  あなたのそういう潔いいところが好きです」


 ヤオ子は満面の笑みで情報を聞き出し、ヒナタを売ったサスケは心の中で謝罪した。



[13840] 第13話 ヤオ子の自主修行・必殺技編③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:33
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 その日、日向ヒナタはいつも以上に怯えていた。
 弱気な性格で体を小さくするのは変わらない。
 しかし、さっきから自分のショートカットの後ろ髪に何かをひしひしと感じる。
 振り向くが、そこには誰も居ない。


 「ふふふ……。
  ヒナタさん……。
  何処までも……何処までも……着いて行きますよ……。
  油断した時があなたの捕食される時です。
  寝てる時も食事をしている時も油断をしてはいけません」


 ヤオ子のストーキングの開始された日だった。
 ヒナタの白いパーカーを怯えた白兎のように、ヤオ子は凝視する。


 「特にお風呂に入っている時は、油断しちゃいけません。
  あたしのエンペラータイム発動時刻です。
  ・
  ・
  ふふふ……。
  食べてしまいたいですね」


 恐怖に耐えかねたヒナタは白眼を発動した。



  第13話 ヤオ子の自主修行・必殺技編③



 ヒナタの白眼発動で、ヤオ子のストーキング行為は七分で終わりを迎えた。
 ヒナタが恐る恐る近づき、曲がり角でヤオ子に声を掛ける。
 彼女自身、ヤオ子の子供の姿に少し安心したためである。


 「あの……」

 「ギャーーーッ!」


 ヒナタの突然の声に、ヤオ子が奇声をあげた。
 ヤオ子は小学生の通信簿の先生の感想欄に『時々、奇声をあげる』と書かれるタイプの人間だ。
 ヤオ子は固まると、汗をタラタラと流す。


 (しまった……。
  いきなり姿を見られた!)

 「お嬢さん……。
  今日は、いい天気ですね?」


 ヤオ子の頭は逝っている。


 「え?
  ・
  ・
  うん、そうだね」

 「…………」


 捕食者と捕食される側の立場が入れ替わった。
 ヤオ子は観念すると、正座をして背筋を伸ばす。
 そして、体を前に倒し、肘を90度に曲げ、頭を地面に擦りつける。


 「内蔵を破壊しないでください!」

 「え!?
  ・
  ・
  ちょ、ちょっと……!
  困るよ……そういうの!」


 ヒナタは慌てて周囲を気にしてあたふたする。


 「日向の人は誰も彼もが暗殺人間で、
  姿見た人を柔拳で内蔵をぶちまけるんでしょ!?
  それこそ津村斗貴子のように
  『ハラワタをぶちまけろーっ!』って叫んで!」

 「し、しないよ! そんなこと!」

 「嘘です!
  誓いなんて嘘です!
  真っ赤は真っ赤でも、
  血塗られた悪魔の契約書による誓いなんだーっ!」

 「落ち着いて!」

 「あたしもヒナタさんのバルキリースカートとという
  柔拳技でバラバラにされちゃうんです!」

 「柔拳にそんな技はないよ!」

 「殺るなら痛くない方法で!
  苦しむ殺し方はしないでください!」


 ヒナタのグーが、ヤオ子に炸裂する。
 初対面でヒナタに突っ込みを入れさせる人間も珍しい。


 「私の話を聞いて!」

 「…………」


 ヤオ子が停止する。


 「聞いたら殺さないでくれますか?」

 「初めから、そんなことしないよ!」

 (そう言えば……。
  この人、弱気な日向家代表でしたね。
  いきなり、トチ狂う必要もありませんでした)


 ヤオ子がパンパンと膝の砂を落として立ち上がる。


 「お見苦しいところを見せて、すいません」

 「……うん」

 「あたしは、怪しい人じゃありません」


 怪しさ爆発中である。
 ヒナタは固まっている。


 (拙いですね。
  いらない恐怖心を植えつけてしまったようです。
  仕方ありません……)

 「あたしは、サスケさんの使いの者です」

 「え? サスケ君?」

 「はい」


 ヤオ子は、サスケとの約束をなかったことにした。


 「実は、ヒナタさんに聞きたいことがあるんです」

 「何かな?
  え、と……その前に」

 「何か?」

 「お名前、教えてくれる?」

 「すいません。
  死の恐怖で錯乱したため、名乗り忘れてました。
  八百屋のヤオです」

 (私って……皆に死神みたいに思われてたのかな?
  見ただけで死の恐怖を感じるなんて……)


 ヒナタは少しショックを受け、肩を落とした。


 「あの……ヒナタさん?」

 「あ、ごめんね。
  何? ヤオちゃん?」


 ヤオ子は拳を握り締める。


 「あなたが初めてです。
  あたしの名前をまともに呼んだのは……」

 「はい?」

 「すいません。
  最近、ドS的なイベントの受け身役しかしていなかったので、つい……感動を」

 (何なんだろう、この子?
  本当にあのサスケ君の知り合いなのかな?)

 「それで、ですね。
  あのドS……ではなく。
  サスケさんに頼まれて少しヒナタさんに質問したいんです」

 (ドS?)


 ヤオ子は、既成事実を捏造してヒナタに質問を続ける。


 「柔拳で使われる、掌からのチャクラ放出を教えて欲しいんです」

 「柔拳の?」

 「はい」


 ヒナタは少し考えると、ヤオ子に質問する。


 「ヤオちゃんは、経絡系のこと分かる?」

 「はい。
  チャクラを流す血管のようなものですよね?」

 「うん。
  小さいのによく知ってたね」

 「えへへ……。
  ありがとう」

 (笑った顔は、普通の子供だ。
  ちょっと安心したな)

 「それでね。
  その経絡系には、チャクラ穴というツボがあって点穴って言うの」

 「ツボ……ですか?」

 「うん。
  針の穴を通すぐらいの。
  そこからチャクラを放出するんだよ」


 ヤオ子は自分の両手を開くと、マジマジと掌を見る。


 「あたし、目はいい方なんですけど……。
  穴なんて見えないですよ?」

 「普通の人には無理だよ」

 「そうですか……。
  向こうのおじさんの黒子から出てる毛の数が
  四本だというぐらいの視力なんですがね」


 ヒナタは、ヤオ子の指差す遠くのおじさんを見る。


 (見えないんだけど……。
  ・
  ・
  白眼!
  ・
  ・
  本当だ……。
  この子、人間なのかな?)


 ヤオ子は、不思議そうにヒナタを見ている。


 (突然、白眼使ったから、吃驚させちゃったかな?)


 ヒナタがヤオ子の手を取る。
 そして、指でチョンチョンと触る。


 「ここら辺に点穴があるんだよ。
  私は、まだ正確に見切れないけど」

 「そうなんですか?
  ヒナタさんは凄いですね」

 「そんなことないよ。
  この目のお陰だよ」

 (あれが白眼ですか……)

 「その指差して貰ったところから、
  チャクラを放出するんですね?」

 「そう」

 「ヒナタさんは出来るんですか?」

 「未熟だけど……」

 「見せて貰えませんか?」

 「……どうしようかな?」


 ヒナタは恥ずかしがっているのか戸惑っているのか分からない素振りでモジモジしている。


 (気弱な日向家か……。
  この人、脅せば教えてくれるんじゃないの?
  ・
  ・
  でも、初めて会った真人間な気がしますし……。
  もう一度、土下座しますか。
  ああいうの弱そうだし)


 ヤオ子は正座をして背筋を伸ばす。
 そして、体を前に倒し、肘を90度に曲げ、頭を地面に擦りつける。


 「見せてください!
  何の収穫もなしに帰ったら、
  サスケさんにウチハ一族に伝わる四十八種の拷問技を掛けられるんです!」

 「ええっ!?」

 「特に女の子にはきついエロいヤツを!」


 ヒナタの顔が上気し、目がクルクルと回っている。
 この時、ヒナタにサスケへの変態度↑がインプットされた。


 「だから、見せてください!
  エロいことされちゃうんです!」


 ヒナタの思考回路はショートし、『きゅう~』と言って座り込んでしまった。


 「あれ?
  ヒナタさん? ヒナタさん!
  ・
  ・
  しまった……。
  本当の真人間な上に箱入り娘でしたか。
  どうしよう?」


 ヤオ子はヒナタを日陰に引っ張り、壁に寄りかからせる。
 そして、パタパタとハンカチで風を送る。


 「ヒナタさ~ん。
  大丈夫ですか~?」

 「…………」

 「さて、どうしたもんか?
  あの手でいきますか」


 …


 暫くしてヒナタが目を覚ます。


 「う、う~ん……」

 「大丈夫ですか?」

 「ヤオちゃん?」

 「はい」

 「私……」

 「あたしにチャクラの放出を見せてくれるところで、
  急に貧血に……」

 「…………」

 「そうだったね。
  じゃあ、見せるね」

 「ゆっくりでいいですよ」


 『あの手』は、悪質な洗脳だった。
 そうとも知らず、ヒナタはヤオ子のために日向流の型の構えから左手を突き出し、掌からのチャクラ放出を見せてくれた。


 「あ! 見えた!
  見えましたよ! ヒナタさん!
  確かに視認出来るほど、チャクラが出てました! 凄いです!」

 「ありがとう」

 (私、本当に見せようとしてたっけ?)


 ヤオ子はうんうんと頷いて納得する。


 「コツとかってありますか?」


 ヒナタは首を振る。


 「修行を積み重ねるしかないよ」


 ヒナタの優しい笑顔を見て、ヤオ子は納得する。
 今、見せてくれたものはヒナタの努力の積み重ねなのだと。


 「分かりました。
  あとは自分で頑張ってみます。
  最後にお願いしていいですか?」

 「うん、いいよ」

 「あたしの両手の点穴に、
  マジックで印をつけて貰えますか?」

 「え? 両手?」

 「はい、肘まで」

 「結構、あるよ?」

 「面倒臭いですか?」

 「そうじゃなくて……。
  多分、凄いことになる……」

 「?」


 ヤオ子は分からないままヒナタにお願いして、点穴にマジックを塗って貰う。
 最初は首を傾げていたヤオ子だが、直にヒナタの言っていた『凄いことになる』の意味を理解して顔を引き攣かせる。


 「そりゃそうです……。
  針の穴からチャクラ出すんだから、一個や二個のわけがない」


 ヤオ子は両手を見て呟く。


 「新手の病気みたい……」


 使ったマジックの色が緑だったから余計に気持ち悪い。


 「こ、これでいいかな?」

 「ありがとうございます。
  すいませんでした。
  ご面倒をおかけして」

 「気にしなくていいから」

 「ヒナタさんっていい人だ……。
  何だろう?
  今まで会って来た人達のキャラクターの濃度は……。
  あたしが男だったら直ぐ落ちるよ。
  こんないい子居ないって……」

 「はは……」


 ヒナタは、何故、べた褒めなのか分からない。


 「では。
  ありがとうございました」


 ヒナタは、ヤオ子に手を振る。


 「何と言うか……。
  変な子だったな……」


 ヒナタは苦笑いを浮かべた。



[13840] 第14話 ヤオ子の自主修行・必殺技編④
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:33
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヒナタに掌からのチャクラ放出を見せて貰い、また、目印になる点穴の印も付けて貰い、ヤオ子は森の奥にある自分の秘密基地に戻る。
 時間的には朝からストーキングを始めて説明が終わるまで、あまり時間は経っていない。


 「ヒナタさん……。
  あたしの捕食ランキング女の子部門第1位にランクインされました。
  お持ち帰りしたかったですね。
  ・
  ・
  ちなみに男子は年下がテリトリーですが、女子は結構範囲広いんです……あたし。
  明確には表せませんね。
  最近の女性は、歳を取っても童顔の方も居ますから。
  ・
  ・
  まあ、兎に角。
  ヒナタさんのお陰で重要なことを手に入れました。
  成功すればチャクラを視認できる。
  これは大きな前進です。
  ・
  ・
  ふふふ……見ててください、サスケさん。
  あたしのスペシャルな必殺技で、
  今度こそ『ぎゃふん』と言わせて、あなたを地面に平伏さしてあげます」


 不気味な笑い声をあげながら、ヤオ子の必殺技開発はまだまだ続く。



  第14話 ヤオ子の自主修行・必殺技編④



 秘密基地の前で腕組みをして、ヤオ子はおさらいを始める。
 しかし、おさらいを始めて直ぐに首を傾げる。


 「ところで……。
  あたしは、何処で修行に躓いたんでしたっけ?
  ・
  ・
  え~と……。
  手をふっ飛ばさないように形態変化をしようとして……。
  ・
  ・
  いきなり掌からチャクラを放出できないじゃん?
  『このヤロー』ってなったんですよね?
  ・
  ・
  何だ~。
  一番最初で躓いたんじゃないですか!
  あははは!
  ・
  ・
  って、笑ってる場合か!
  必殺技編も④になってんのに進んでいないじゃないですか!
  こんなに長々とやってたら、一番初めの構成なんて忘れちゃうよ!
  ・
  ・
  冨樫先生にも、何て言い訳をすればいいんだ!」


 ヤオ子は地団太を踏む。
 そして、冨樫先生は、何も関係ない。


 「まあ、いいです。
  チャクラ放出の修行のプランは考えました。
  ・
  ・
  ズバリ! 言っちゃいます!
  言っちゃいますよ!? 奥さん!?
  木登りで~す!
  ・
  ・
  ええっ!?
  それって、もうやってるじゃないですか!?
  どういうことですか!?
  ・
  ・
  今回の木登りは、足を使いません。
  逆立ちして、手で登るのです!
  ・
  ・
  手ですか!?
  ・
  ・
  はい! 手です!
  逆立ちしながらなら、ヒナタさんが印を付けてくれた点穴から
  チャクラが放出されているかも分かります。
  何より、足の筋力より劣る手なら、
  より多くのチャクラを必要とするわけです!
  ・
  ・
  なるほど~!
  さすがですね~!
  ・
  ・
  ……虚しい。
  ・
  ・
  一人でテレビショッピング風にやってみましたが、
  ギャラリーが居ないと、どうも……。
  ・
  ・
  まあ、数多のお笑い芸人さんも家に帰ればやっていることです。
  こういう日々の積み重ねが木ノ葉のお笑い文化を支え、
  世界に誇れるコメディアンを輩出することになるのです」


 忍者を輩出せずにお笑い芸人ばかりを輩出したら、木ノ葉はどうなってしまうのか……。
 一仕切りのネタを言い終わると、ヤオ子はチャクラ放出の修行に入る。
 ググッと右拳を握り、気合いの入った顔になる。


 「では、やってみますか。
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!
  ああ……何か久しぶりに叫んだ気がします。
  このまま、刻が見えちゃいそうです」


 ヤオ子は禍々しいチャクラを練り、両手に一定のチャクラを溜め込むと両手を握って確かめる。


 「では!」


 目の前の大きな木の前で逆立ちをすると、ヤオ子は幹に右手を掛ける。


 (そういえば……。
  あたし、この前まで逆立ち出来なかったんですよね。
  ちゃんと進歩してるんですね~)


 が、ここで予想外のことが起きる。
 木に次の左手を掛けようとするが進まない。
 右手のチャクラ吸着は間違いなく機能しているが、体を水平に支えられない。
 そして、右手を掛けたまま停止して五分……ヤオ子はチャクラ切れを起こして力尽きた。


 「これ……しんどくない?
  片手で体重支えないといけないじゃん……。
  チャクラで木登りどうこうの前に筋力アップですね」


 木の前で両足を投げ出したまま大きく息を吐くと、ヤオ子は立ち上がってお尻の土を叩いて落とす。
 その日は修行内容を変更して、筋トレと手裏剣術に費やすことにした。


 …


 夕方……。
 サスケの修行場にヤオ子が顔を出すと、サスケが苛立ち混じりに怒鳴る。


 「遅いぞ!」

 「すいません。
  ・
  ・
  ねえ、サスケさん。
  木登りの修行なんですけど、コツを教えてくれませんか?」

 「…………」


 サスケは、何か最近ヤオ子に頻繁に利用されているような気がしている。
 昨日も質問攻めにあい、写輪眼の幻術の修行を減らされている。
 それが分かっているので、本日はサスケから条件を出すことにした。


 「幻術一回につき、質問に一回答えてやる」

 「心が狭いですね……。
  ・
  ・
  でも、いいでしょう!
  掛かって来なさい!」


 ヤオ子の態度にサスケはカチンと来る。
 直ぐ様、写輪眼をヤオ子の目に合わせ幻術を掛けたが、ヤオ子は幻術が掛かったと分かると印を結び出した。


 「はい! 解!
  ・
  ・
  教えてください」

 (……今、コイツ何したんだ?
  何で、一瞬で幻術を解かれた?)


 写輪眼の幻術の精度は上がっているはずだった。
 まして幻術に特化した特別な瞳術がおいそれと簡単に破られるはずはない。
 当然、からくりがある……。


 (種を明かしますとね。
  幻術掛ける前から、お尻つねってたんです。
  痛みで意識を逸らしてました。
  サスケさんもようやく加減というものを理解し始めてくれたんで、
  最初のような強力な幻術は掛けなくなりましたし……。
  また、今は幻術を掛けるスピードに重点を置いているので、
  今の威力は、それ程でもないのです。
  ・
  ・
  まあ、気がついたら倍返しにされるんでしょうけど……)


 サスケは納得のいかない表情で、ヤオ子の質問の内容を尋ねる。


 「何で、今更木登りのコツなんだ?」

 「え~と、ですね。
  少し手の方を鍛えようとして逆立ちでやってるんですが、
  片手つけたあと、自分の体重を支えきれなくて次の手が出ないんです。
  ・
  ・
  でも、あたしは筋トレをして、
  筋力着くのを待つほど安い女じゃないんで……教えて」

 「最後の方が理解不能だが……。
  ・
  ・
 (安い女って、何だ?)
  ・
  ・
  勢いをつけて登ればいいんじゃないか?
  お前の場合……木登りを助走つけないでやってたからな」

 (あれは最悪だった……。
  あの後、修正して普通の木登りをさせたが……)

 「助走? なるほど!」


 ヤオ子はポンと手を叩くと、早速、サスケに言われたように逆立ちして助走をつけて木に向かう。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 助走の途中でチャクラを練り、木に張り付く。


 「いい感じです!」


 右手、左手とトットッと木を登り出す。
 しかし、右手のチャクラ吸着が弱くて滑った。


 「あり!?
  ・
  ・
  げふっ!」

 「…………」


 サスケはジト目で固まる。
 ヤオ子が盛大に顔面をぶつけた木にはダクダクと一筋の血が滴る。


 (期待を裏切らない奴……)


 血の止まらない鼻を押えながら、ヤオ子が振り返る。


 「サ、サスケさん……。
  これ失敗した時のダメージが大きい……」

 「……立ってる時は手で支えられるけど、
  逆立ちしてる時は、顔面が直ぐに来るからな。
  少し吸着させるチャクラを増やした方がいいんじゃないか?」

 「チャクラを増やすのは好都合です……。
  では、これで……」

 「あ、ああ……」


 ふうらふらと去って行くヤオ子の後に、点々と血が続いて行く。


 「アイツは血をぶちまけて、何しに来たんだ?
  ・
  ・
  しまった……。
  逃げられた!」


 本日も写輪眼の修行はお預けになり、サスケは『ヤオ子のヤロウ』と拳を握り締めた。


 …


 翌日から、ヤオ子は朝修行に手裏剣術、午前中と午後に手による木登り修行を始める。
 筋力が伴っていないヤオ子にとって、この修行は予想以上に厳しく、筋力で補えない分をチャクラで補うため、ヤオ子がサスケのところに行く頃は体力が低下してヘロヘロだった。
 そして、そんな修行の日々が続いた数日後……。


 「お前……大丈夫なのか?」

 「多分……」


 サスケの修行場を訪れたヤオ子を見て、サスケはどうしたもんかと腕を組んでいた。
 明らかなオーバーワークが見える。
 疲れ切っているヤオ子の両手に視線を向けると、マジックの跡に合わせてチャクラの練り過ぎで少し火傷の痕がある。
 マジックの跡も何度も書き直した跡が見て取れる。
 これは練習のし過ぎもあるが、チャクラを扱い始めたばかりのためコントロールが未熟なせいでもある。


 「お前──」

 「止められないですよ。
  ようやく経絡系の通りが良くなって来たんですから」


 サスケは溜息を吐く。


 「忍者にはなりたくないんじゃなかったのか?」

 「……あれ?」

 「お前な……」


 サスケは呆れて溜息を吐く。
 『忍者になりたくないのに、修行をする理由は何だっけ?』とヤオ子は考える。


 「おお! あれです!」

 「あれって、何だ?」

 「必殺技を使いたいんです!」

 「何だ、それは?」

 「教えません!
  サスケさんを『ぎゃふん』と言わせるのです!」

 「それだけで、やってるのか?」

 「他に理由が必要ですか?」

 「……まあ、いいんじゃないか」

 (よく考えたら、コイツはガキだし……)

 「そういうサスケさんは、何故に忍者に……。
  ・
  ・
  ああ、いいです。
  ドSだからでした」


 サスケは腰に手をあて、ヤオ子を睨む。


 「お前、今、沈黙のところで失礼なことを考えただろう?」

 「いえ、普段通りのサスケさんを思い起こしただけです」


 サスケは、本日、何度目かの溜息を吐く。


 「はあ……。
  お前、明日から好きにしていいぞ」

 「へ? でも……。
  友達の居ない根暗のサスケさんが、
  幻術掛けれる相手なんているんですか?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「言葉を選べ!
  人が気を遣ってやってるのになんなんだ!」

 「ううう……。
  了解です……」


 ヤオ子は頭を擦りながら話す。


 「じゃあ、明日から少し時間を貰います。
  必殺技が完成したら見てくださいね。
  必ず『ぎゃふん』と言わせますから」

 「期待しないで、待っててやるよ」

 (ガキの考えた忍術なんて、
  大したことのないものだろう……。
  ・
  ・
  おいろけの術に続く第二の忍術じゃないことだけを祈る)


 笑いながら去って行くヤオ子をサスケは無言で見送った。
 そして、振られるヤオ子の手の火傷の痕が再び目に入ると、サスケは『負けられないな』と呟き、修行を再開するのだった。



[13840] 第15話 ヤオ子の自主修行・必殺技編⑤
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:34
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 連日の必殺技開発のための修行で、ヤオ子の両手はボロボロになっていた。
 チャクラを扱い始めてかなりの時間は経ったが、アカデミーの生徒に比べれば絶対的な時間が足りていない。
 その未熟で足りない分を補うのは体に負担を掛ける修行方法になる。
 チャクラの練り過ぎは経絡系にダメージを蓄積させ、捻挫のように鈍痛を残すようになっていた。
 しかし、それでも頑張っていたのは、子供ながらの好奇心ゆえでしかない。

 ヤオ子がその日も遅く自宅に帰宅すると、家の中では家族の声が響いた。


 「遅かったわね、ヤオ子」

 「ヤオ子お姉ちゃん、おかえり」

 「ヤオ子。
  その手は、どうしたんだ?」


 ヤオ子の帰宅に、家族からの何気ない帰宅に対する返事が返る。
 しかし、ヤオ子は眉をピクピクとひくつかせている。


 「ちょっと待て……お前ら。
  親だからって容赦しません。
  何で、家族間で名前を間違えるんですか!」


 ヤオ子の本名はヤオである。
 昨日まで通っていた名前を間違われる覚えはない。
 弟の意見……。


 「何かヤオって語呂が悪くって」

 (サスケさんと同じ意見か……。
  でも、実の姉の名前を勝手に呼び変えるのは、どうなんだ?)


 父の意見……。


 「何でヤオなんて名前なんだよ?」

 (八百屋に因んで名付けたのは、誰だ!)


 母の意見……。


 「もう、ヤオ子に変えるように、
  役所に申請しましょうか?」

 (何? この不遇な扱い?
  ・
  ・
  サスケさんか!? サスケさんのせいか!?
  毎回毎回、うちに来ては『ヤオ子! ヤオ子!』って……!!
  あのドSめ!
  うちの家族まで洗脳してんじゃないですよ!)


 ヤオ子は家に帰ってゆっくりするはずが、ストレスを蓄積させていた。



  第15話 ヤオ子の自主修行・必殺技編⑤



 家族を無視して風呂場に直行すると、ヤオ子は顔を洗って洗髪する。
 そして、汚れた体を洗おうとして手が止まった。


 「両手に火傷の痕が……。
  これなら点穴の跡が分かるし、ガッツリ落としますか」


 ヤオ子は体の汚れを落とすのと一緒に、久しぶりに両手に付いたマジックを洗い流す。
 洗い流した後には、チャクラを練り続けることで出来た火傷の痕浮かび上がっていた。
 何というか……。


 「きも……。
  マジ気持ち悪い……。
  ヒナタさんも、これ体験したの?
  だから、『凄いことになる』だったのかな?
  ・
  ・
  でも、これで形態変化の修行終わりにしていいんじゃないの?
  あたしの場合は、一瞬だけチャクラを放出して爆発を防げばいいんだから。
  明日から、放出と爆発を混ぜてみよう。
  爆発は爆竹の威力より抑えてね~。
  ちゃんと、チャクラの盾が機能するか分かんないし」


 体を洗い終わり、プルプルと頭を振って水を弾き飛ばすと背中に掛かる茶色い髪を頭の上で纏める。
 そして、湯に浸かろうと湯船に手を突っ込み、ヤオ子は温度を確認する。


 「ん?
  ・
  ・
  何で、温いの?
  ・
  ・
  アイツら!
  何で、あたしにだけ、こんな不遇な扱いするんだ!
  あたしの一日の疲れを解消も出来ないクセに!
  お風呂以下の能力しかないのに、
  お風呂様に手を出してんじゃねーっ! ですよっ!」


 狭い風呂場で近所迷惑も考えず、ヤオ子は叫ぶ。


 「今こそ、あたしの修行の成果を見せる時!
  猛れ! あたしの妄想力!
  ・
  ・
  ラブ・ブレス! ちょいエロバージョン!」


 ヤオ子が印を結び、湯船に向かって口から火を放つと、蒸発した湯船のお湯が湯気になる。
 ヤオ子は湯船に手を突っ込み、掻き混ぜて確認する。


 「問題なし!
  忍術覚えて良かった!」


 満面の笑みで湯船に浸かると、ヤオ子は両手をマッサージし始めた。


 …


 風呂から上がり、一人遅い食事をする。
 ちなみに料理は、何故か全てレトルト。
 それがヤオ子の家の常識だった。
 ヤオ子の母親が声を掛ける。


 「ヤオ子。
  毎日毎日、何をしているの?」

 「サスケさんへの報復の訓練」


 返ってきた答えに、母親は頭を押さえる。


 「そんなことして……勉強は?」

 「多分……ガキが覚える以上のことになってる」

 「は?」

 「今、力学的エネルギーの本を恐怖によって読まされてるから……」

 「りき……何?」

 「まあ、気にしなくても、
  あなたの娘は順調に改造人間として強力な仮面ライダーになっていってます。
  ショッカーの恐怖手術によってね……ふふふ」


 ヤオ子が乾いた笑いを浮かべると、他の家族は揃って首を傾げた。
 レトルト食品を口に放り込み、咀嚼して飲み込むとヤオ子両親に話し掛ける。


 「そんなにあたしの勉強が気になるなら、
  学校に通わせれば?」

 「「金銭的に無理」」

 (夫婦揃って……。
  まあ、別にいいんですけどね)


 ヤオ子は食事を終えると、食器を台所の流しに下げる。


 「上行く」

 「え? 今日も?」

 「そう。
  気にしてた勉強ですよ」


 台所を出て二階に上がる途中で、ヤオ子は一人呟く。


 「何か、本格的にサスケさんの呪縛から逆らえなくなってきた……。
  家に帰ってまでエロ系以外の本読むなんて……。
  まさかサスケさんの幻術が続いてるわけじゃないですよね?」


 ヤオ子は部屋に入ると本の山から一冊取り出し、続きを読み始める。


 (あと少しですね)


 ヤオ子は目が疲れて眠くなるまで読書を続け、普段より早く限界が来ると電気を消して眠りに着いた。


 …


 次の日……。
 体に染み付きつつある朝修行の時間帯に合わせ、ヤオ子は秘密基地の前で新術の実験を開始する。


 「まず、爆発の印を新たに作らないと……。
  威力を調整しないといけないから、印の調整とチャクラの調整を密に。
  印は極弱、弱、中、強で使い分けるように細工を入れて……っと」


 アカデミーの教科書とサスケに読まされた忍術の本の知識を活かし、ヤオ子は珍しく真剣な顔で落ちていた木の枝を使って地面に印を書いていく。
 少し前に覚えた火遁・豪火球の術を覚えていたのも参考になっている。
 今回の術も、火遁の系列に属している。


 「よし」


 地面には忍術の知識に裏づけされた、新しい印が左から右に書き記されていた。
 チャクラを少しだけ練って、ヤオ子は地面に書かれた印を結ぶ。


 「で、チャクラの盾を同時に──って! うわっ!?」


 術はチャクラの盾を形成する前に、ヤオ子の右手でプチ爆発した。


 「あ、あっぶな~……。
  ・
  ・
  どうするよ?
  威力は遊びみたいにしてたから問題なかったけど……。
  印結んだら、即、爆発しちゃったよ」


 ヤオ子は地面の印を暫く眺めると印の一部を足の上で消し、木の枝で新しく印を書き換える。


 「時限式にしてみよう。
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 再びチャクラを少しだけ練って、ヤオ子は印を結ぶ。
 そして、突き出した左手の掌でチャクラが放出されたあと、プチ爆発が起きる。


 「まだ……タイミングが僅かにずれてますね」


 印を書き換えては試し、試しては書き換える。
 ヤオ子の試行錯誤は、午前中一杯続いた。


 …


 開発半ばのお昼時……。
 持参したおにぎりを齧りながら、ヤオ子は息を切らす。
 しかし、体は疲れても、自然と口元は緩む。


 「タイミングの調整はバッチリです。
  威力を考えなければ、形だけは出来そうですね。
  ・
  ・
  ふ…ふふ……。
  えへへ……。
  出来ちゃいますよ! 今日中に!
  サスケさんは、きっと驚きます!」


 自分で作りあげたものが形なっていく。
 チャクラの盾を作り出すところから始まり、形態を作る印の開発。
 少し前に覚えた火の性質変化に、チャクラを一点に留める技術。
 知り得る知識を総動員して、ヤオ子の必殺技は徐々に姿を見せ始めていた。

 そして、午後……。
 ヤオ子は、今、自分が絶えられるチャクラの盾の最大値と爆発の威力の調整に入った。
 そして、その威力調整も夕方のサスケの待ち合わせの時間の少し前に完成した。


 …


 夕方……。
 ヤオ子の顔は、にやけっぱなしだった。
 初めて作成したオリジナル(?)忍術に笑顔が絶えない。


 「えへへ……。
  あたしって、天才じゃないかな?
  こんな素晴らしい忍術を開発してしまうなんて」


 ヤオ子は自分に激しく酔って身悶えている。


 「後は、必殺技の名前だけです。
  これは練習している時に頭を過ぎっていました。
  あたしの忍術は気合いによる威力の上下が激しいので、
  前フリも重要な要素になります。
  ・
  ・
  行きますよ!」


 左手を突き出し、ヤオ子はポーズを取る。


 「あたしのこの手が真っ赤に燃える!」


 ここで手を入れ替え、右手を握り込み自分の顔の前へ。


 「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」


 この体勢でチャクラを練り上げ、バッと両手を突き出し印を結ぶ。


 「猛れ! あたしの妄想力!
  爆殺! ヤオ子フィンガーーーッ!」


 ヤオ子の突き出した右手でチャクラの盾が形成されると同時に爆発が起きる。
 盾で守られていても手に伝わる衝撃は、ヤオ子に感動も伝えていた。


 「ヤバイ……です。
  これ! 本当にヤバイです!
  カッコ良過ぎます!」


 悶絶打って、ヤオ子は興奮する。


 「リトルフラワーでは悪役ぽかったですが、
  名前を変えただけでこんなにカッコ良く……」


 ヤオ子が絶叫する。


 「冨樫先生ーっ! 富野先生ーっ!
  あたしは、やりましたーっ!
  ・
  ・
  早速、サスケさんに見せに行こ♪」


 ヤオ子は振り返ると、スキップしながらサスケの修行場へと上機嫌で向かった。


 …


 本来は、夕方の幻術修行の時間……。
 ヤオ子が姿を現さなくなってから、サスケはその時間を自主修行に充てていた。
 僅か数日だが、ヤオ子が居ないだけで随分と静かな気がする。
 しかし、数日続いた静けさをぶち破るあの声がする。


 「サスケさ~ん!
  出来ましたよ! 必殺技!
  お礼にキスしてください!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「何すんですかーっ!」

 「何言ってんだ! お前は!」

 「報告ですけど?」

 「最後のだ……」

 「あんなのジョークですよ。
  本当は、あたしの唇を奪いたかったんですか?」


 唇に手を当て、ヤオ子は上目遣いでサスケを見る。
 空かさず、サスケのグーがヤオ子に炸裂した。


 「言葉に気をつけろ」

 「……はい」


 サスケが気を取り直して質問する。


 「新しい忍術が出来たのか?」

 「忍術? そんな呼び方はノーサンキューです!
  必殺技と言ってください!」

 (うぜーな……)

 「いいから……。
  どんな忍術なんだ?」


 ヤオ子は溜息混じりに、左の腰に手を当てる。


 「サスケさんも大概にして人の話を聞きませんよね。
  ・
  ・
  まあ、いいです。
  サスケさんの性格が捻れたのは、今に始まったことじゃありません」

 「オイ!」

 「凄いですよ~。
  この必殺技は~」

 (もう黙るか……。
  逆上せあがって話が進まん……)

 「名前を『爆殺! ヤオ子フィンガー!』と言います」

 (と、思ったがダメだ……。
  このウスラトンカチは、突っ込みを休ませるということを知らん)


 今度は、サスケが溜息混じりに突っ込む。


 「ヤオ子……爆殺?」

 「ちっがーうっ!
  入れ替えないでください!
  それじゃあ、あたしが自爆しちゃうじゃないですか!
  何で、そんな世にも恐ろしいメガンテ技を開発するの!?
  あたしに死んで欲しいんですか!?
  『爆殺! ヤオ子フィンガー!』です!」

 「それ、忍術とは言わんだろう……」

 「?」


 ヤオ子が首を傾げる。


 「どんな術か検討もつかない……」

 「そうですか?
  流派東方不敗奥義・超級神威掌だと、
  言い辛くて、もっと分からないでしょ?」

 「超級神威掌でいいだろう……」

 「ダ~メ! 嫌です!
  カタカナが入ってないとカッコ悪い!」

 (どういう基準なんだ……)


 サスケは右手の人差し指を立てる。


 「あと……もう一ついいか?」

 「あまり変なことは受け付けませんよ?」

 「お前が言うな。
  ・
  ・
  技の名前……『ヤオ子フィンガー』でいいのか?」

 「違います!
  『爆殺! ヤオ子フィンガー!』です!」

 「そうじゃなくて……。
  『ヤオ子』でいいんだな?」

 「ヤオ子?
  ・
  ・
  あ~~~っ!
  ついにあたしがあたしを否定した!
  違う! 『ヤオ子』じゃなくて『ヤオ』!
  何故だ!? 何故こんなことに!?」


 ヤオ子が頭を抱えて悶え苦しむ。


 「皆が、ヤオ子ヤオ子って言うから!
  ・
  ・
  もう……ヤオ子でいいや。
  自分一人だけ、ヤオって言い張るのに疲れた……。
  家族もあたしを呼ぶ時、ヤオ子だし……。
  人が歩みを止めるのは絶望ではなく諦めです……」

 「…………」


 サスケは、テンションの上がり下がりの激しいヤオ子に疲れた。


 「で? その必殺技というのは?」

 「そうでした!
  見たいですか!?」

 「別に──」

 「そうでしょう!
  見たいですよね!」

 (ダメだ……。
  頭が逝ってやがる)


 早速、実行に移すため、ヤオ子は左手を突き出しポーズを取り出した。


 (何故、そんな妙な体勢を取るんだ、この馬鹿は?)


 いい予感がしないサスケの前で、ヤオ子の寸劇が始まった。


 「あたしのこの手が真っ赤に燃える!」


 ここで手を入れ替え、右手を握り込み自分の顔の前へ。


 「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」


 チャクラを練り上げ、バッと両手を突き出し印を結ぶ。


 「猛れ! あたしの妄想力!
  爆殺! ヤオ子フィンガーーーッ!」


 ヤオ子の突き出した右手でチャクラの盾が形成されると同時に爆発が起きる。
 さっき、自分で試した通りの同じ手応えをヤオ子は右手に感じる。


 「どうですか!?」


 ヤオ子は嬉しそうにサスケに語り掛けた。
 しかし、ヤオ子の必殺技を見たサスケは厳しい顔をしている。


 「あの……どうしたんですか?」

 「…………」

 「サスケさん?」

 「……ヤオ子。
  この忍術は自分で作り上げたのか?」

 「そうですけど?」

 「…………」


 サスケは無言で腰の後ろにある道具入れから、一枚の札を取り出す。


 「これが何か分かるか?」

 「確か……起爆札とかっていうヤツですよね?」


 起爆札をクナイのお尻の丸い輪に括りつけると、サスケは向かいの木に投げつけた。
 そして、起爆札は轟音を立ててクナイごと爆発する。


 「これって……」

 「先に忍具の説明をして置くべきだった。
  暫く使わないだろうと教えないのは間違いだった」

 「…………」


 起爆札の爆発は、ヤオ子の新忍術より強力だった。
 そして、起爆札があるならヤオ子の新忍術の必要性はない。
 それに直ぐ気がついたから、サスケは厳しい顔をしたのであった。
 新忍術は、ヤオ子が起爆札の威力を知らなかったために作られた忍術だったのである。


 (……体術もしっかり教えて置くべきだった。
  それに気付いていれば、近距離での忍術の開発なんてしなかったはずだ)


 忍者の近接戦闘にはクナイがある。
 クナイで相手の急所──首の頚動脈などを切り裂く体術があれば接近戦での忍術よりも中・長距離の忍術の方が重要である。
 チャクラの温存や起爆札等の貴重忍具の節約を考えるなら、近距離では体術を鍛える方が有効的だろう。
 多分、それに気付いてもヤオ子は近距離での必殺技開発をやめなかっただろうが……。


 「…………」


 ヤオ子が震えている。


 (今度は、何だ? 何ギレだ?)


 サスケが身構えると、ヤオ子は大きな声を上げた。


 「あ~~~ん!
  折角、頑張ったのに~~~!」

 「マジ泣き!?」


 ヤオ子は、常にサスケの斜め上をいく。


 「一生懸命考えだのに~!
  サスケざんを驚がぞうと思っだのに~!」

 「オ、オイ……」


 泣く子供相手にグーを入れることは出来ない。
 サスケは、本気で困った。


 (何で木から落ちても泣かないのに、こんなことで……)


 ヤオ子の大泣きの前に、サスケは困り果てて溜息を吐く。
 視線はヤオ子のチャクラの練り過ぎで火傷だらけの両手にいく。


 (コイツ……。
  こんなになるまで頑張ったんだな)


 泣き続けるヤオ子に、サスケは自分の子供時代を重ねる。


 (大泣きして困らせることはなかったが、
  アイツに我が侭を言って困らせたっけ……)


 サスケは、この時だけは憎むべき相手に自分を重ねる。


 (アイツは……。
  困らせるオレに、どういう顔をしていたっけ……。
  ・
  ・
  きっと、今のオレみたいな顔をしていたんだろうな)


 サスケは、ゆっくりと目を閉じて思い出す。
 ヤオ子の泣き声が自分を過去に引っ張っていく。


 (ああ、そうだった……)


 サスケはゆっくりと目を開く。
 そして、ヤオ子を手招きする。


 「……何ですか?」


 ヤオ子がぐしぐしと鼻を啜りながらサスケに近づく。
 サスケは、ヤオ子のおでこをトンと指で押す。


 「悪かった……。
  オレのせいだ」

 「え?」


 ヤオ子は、初めてサスケの優しい顔を見た気がした。


 「今度、一緒に改良版を考えてやる」

 「本当ですか?」

 「ああ」

 「約束ですよ」

 「ああ」


 サスケとの約束に、ヤオ子は涙を笑顔に変える。
 一方のサスケは、アイツとは違うのだから約束は必ず守ろうと心に誓った。


 …


 ※※※※※ ヤオ子の新術について ※※※※※

 このSSを書く上で困ってしまったことです。

 ヤオ子に新術を持たせたのですが、完全な独自解釈とオリジナル設定です。
 理由としては、新術の開発工程が分からないに尽きます。

 ナルトが風遁・螺旋手裏剣を開発しますが、以下の工程でした。

 形態変化を極める螺旋丸を習得。
 ↓
 風の性質変化を加える。
 ↓
 風遁・螺旋手裏剣を開発。

 何かが抜けています。
 印です。
 自来也がいくら印を覚えなくてもいいと言っても、それは螺旋丸習得までだと思います。
 その証拠にカカシが少年期に千鳥を開発したと言っていますが、ちゃんと印を組んでいます。

 さて、この印……。
 意味あるのか?

 よく分かりませんが、開発した術を印に変換する工程が本来はあると思います。
 多分、ナルトはその工程を、まだしていないだけ……。
 気長に原作で説明されるまで待つしかないと思っています。

 最近、ジャンプで掲載されているバクマンを見て、漫画の突発的なストーリー変更や設定変更があるのを理解し始めました。
 また、一週間でストーリーを考え、漫画に起こす以上、小説や不定期連載のものに比べて融通が利かず、時間が足りないのもよく分かります。
 だから、多少納得出来ないところがあっても仕方がないのだと思います。
 もしかしたら、印を組む術と組まない術の説明も、そのうちあるかもしれませんね。


 …


 ※※※※※ 木ノ葉丸君の謎 ※※※※※

 彼がいつアカデミーを卒業したかがよく分からない。

 ナルトが自来也との修行から帰って来た時は、額当てをしていなかった木ノ葉丸君。
 しかし、ペインの一人を木ノ葉丸君が螺旋丸で仕留める時の螺旋丸伝授の回想シーンでは、額当てをしていました。
 その時のナルトの姿が少年期のものなので自来也と里を旅立つ前と思われます。
 すると彼は、いつ下忍になったのか?

 ナルト自身、何回か卒業試験を落ちているというエピソードから、年齢は、それほど重要ではないのかもしれません。
 そして、三代目火影の孫の彼に素晴らしい資質が備わっていたというのも考えられます。
 ただ、あの口調からセンスがあるように見えなくなってしまう……。
 結局、よく分かりませんでした……。



[13840] 第16話 ヤオ子とサスケと秘密基地
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:34
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子が大泣きした日……。
 その日は、珍しくサスケがヤオ子の家まで付き添ってくれた。
 現在の時間は既に夜であり、ヤオ子は全ての雑事を済ませて自分の家のベッドで天井を見ていた。


 (あの時のサスケさんは、とても優しい目をしていました。
  ・
  ・
  そう感じるのは、普段のドSな一面とのギャップのせいでしょうか?
  ただ……あの目に悲しさや複雑な思いも込められていたような気がするんです。
  ・
  ・
  その目は弟や妹を見ているようでした。
  ・
  ・
  まさか……。
  妹萌えの扉を開かせてしまったとか?
  ありえませんね。
  ・
  ・
  それにしても……。
  そろそろ『萌え』と言うのは死語の類ですかね?)


 ヤオ子は鼻で笑うと、やがて新術を完成させた疲れのせいで眠りについた。



  第16話 ヤオ子とサスケと秘密基地



 ヤオ子は、久しぶりにサスケの修行場に朝から顔を出している。
 二人揃っているのも本当に久しぶりである。


 「サスケさんの修行場か……。
  何もかもが……皆、懐かしい……」

 「何だ、それは?」

 「知りません?
  沖田十三?
  偉大なるヤマトの艦長さんです」


 ヤオ子は胸を張って答えるが、サスケには疑問符が浮かぶことだった。


 「なあ……。
  ちょっと、いいか?」

 「何ですか?」

 「ヤオ子の妙な元ネタって、何処から来るんだ?」

 「気になりますか?」

 「最初は無視してたんだが……。
  頻繁に繰り返されると……気になる」

 (カカシの覆面の下の素顔のように)


 ヤオ子は顎に手を当て考える。


 「う~ん……。
  どうしましょうかね?
  サスケさんには、いつもお世話になってますし」

 「ただ答えるだけなのに、そんなに悩むことなのか?」

 「ええ。
  これは、あたしのプライバシーにも関わるので」

 (何でだよ……)

 「実は、この前の必殺技も関係しています」

 「あれが?」

 「はい。
  発想を偉大な先生にご教授して貰いました」

 「偉大な先生?」

 「はい。
  冨樫先生と富野先生です」


 ヤオ子の会話に、サスケが腕組みして考える。


 (先生って言うからには、
  アカデミーに在籍している中忍か?
  ・
  ・
  しかし……。
  冨樫も富野も聞いたことのない名前だ。
  そいつらがヤオ子に何か吹き込んでいるのか?)


 ヤオ子は目を閉じて頷て頷くと、何かを決める。


 「特別です。
  木ノ葉では、サスケさんが初めてです。
  あたしの秘密基地に案内しましょう」

 「秘密基地?」

 (そこに冨樫と富野が居るのか?
  そうなるとガキか?)


 サスケは疑問符を浮かべながら、謎のヤオ子の秘密基地に行くことにした。


 …


 三十分後……。
 ヤオ子とサスケは、森の中にある例の古い巨木の前に立って居る。


 「この木が、何なんだ?」

 「よ~く見てください。
  幹に僅かに切れ目があるでしょ?」


 ヤオ子の指差す幹に、サスケが手を掛ける。


 「確かに」


 ヤオ子が木の穴の中に手を突っ込み、紐を引く。
 すると幹に隙間が出来る。


 「その隙間に手を掛けて上に持ち上げると、秘密の扉が開きます」

 「凄い本格的なんだが……」

 「苦労しましたよ。
  秘密基地の製作期間は二週間です」

 (意外とお手軽だな……)

 「さあ、どうぞ」


 ヤオ子に続き、サスケが闇に閉ざされた巨木に足を踏み入れる。


 「暗いな……。
  灯りはないのか?」

 「今、カーテンを開けますね」


 ヤオ子がカーテンを開けると、窓から太陽の光が巨木の中を照らし出す。
 瞬間、サスケは絶句して暫く動けなくなった。
 ヤオ子は、サスケをチョンチョンと突っつく。


 「どうしました?」


 サスケは、何も言わずにヤオ子にグーを叩き込んだ。


 「いったいなーっ!
  何すんですか!?」

 「何だ!? この穢れた空間は!?」


 そう、秘密基地の中はヤオ子のお宝で溢れている。


 「ここが、あたしの秘密基地に決まっているでしょう!」

 「ふざけるな!
  何が秘密基地だ!
  何なんだ! この壁に貼ってある切り抜きと不純な本の山は!」


 サスケが指差す先には、壁のお姉さんの切抜きと大量のエロ本の山……。


 「あたしの宝物にケチをつけないでください!」

 「冨樫か!? 富野か!?
  こんなものを集めたのは!?」

 「あたしに決まっているでしょう!」

 「お前か!」


 サスケはチャクラを両手に集中して吸着の能力を付加すると、壁の切抜きと大量のエロ本を余すことなく掻き集める。


 「ちょっと!
  何してんですか!?」

 「ええ~い! どけェーっ!」


 サスケが不純物を窓の外へ放り投げると、森の中に如何わしいヤオ子の宝物が舞った。
 そして、サスケはチャクラを練り込み、印を結ぶ。


 (火遁・豪火球の術!)


 不純物が火球に飲み込まれ、空中で灰になっていく。


 「ギャ~~~!
  あたしの努力の結晶が~~~っ!」


 空中には灰が舞い散り、絶叫するヤオ子の横で、サスケはハアハアと息を切らす。


 「何をするんですか!
  人が二年も掛けてコツコツと集めたものを!」

 「お前は、今までの人生の1/4を
  あんなもんに捧げたのか!?」

 「そうですよ!
  いけませんか!?」

 「いいわけないだろう!」

 「いいじゃないですか……人が何をしようと。
  あたしは十八歳じゃないから、本屋に行っても買えないし。
  貧乏だから、お金もないし。
  木ノ葉中を拾い集めたんですよ!」


 サスケは、額を押さえて項垂れる。


 「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……」

 「そんなに怒んなくてもいいでしょ?
  あたしは、興味津々なだけなんですから」

 「もっと、子供らしい別のことに興味を持て」

 「例えば?」

 「……オレが女の趣味なんか知るか」

 「代替案も提示できないくせに……」


 ヤオ子の言葉に、サスケは、今日、すれ違った子供の遊びを何となく思い出す。


 「……あやとりなんかが、いいんじゃないか?」

 「とっくに極めちまいましたよ!」


 ポケットから毛糸の輪っかを取り出すと、ヤオ子は凄まじい勢いで指を動かす。
 そして、サスケにバッと突き出しナルトの顔を作って見せた。


 「お前……人間か?」

 「人間ですよ!
  こんなもん毎日やってれば誰でも身につきます!
  ・
  ・
  まあ、印を結ぶのに応用できたので、
  あながち無駄な遊びではありませんでしたが」

 (それで、あんなに印を結ぶのが早いのか)

 「それより、どうしてくれるんですか!?
  あたしの大事なエロ本燃やしちゃって……。
  家を燃やされるより、ショックですよ!」

 「二度と集めるな!」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 サスケが腕組みをして壁に寄り掛かる。


 「それで冨樫と富野は、いつ来るんだ?」

 「……はい?
  何を言ってるんですか?」

 「教わったと言っただろう?」

 「ああ。
  それなら、あれです」


 残りの漫画の山をヤオ子は指差す。


 「……まさか」

 「ええ。
  冨樫先生はH×Hの作者で、富野先生はGガンダムの原作者です」


 サスケは頭痛がする思いだった。
 誰に教わって忍術を開発したかと思えば、ヤオ子はただ漫画の中からパクって来ただけだった。
 とりあえず、サスケは件の本を手に取って見る。


 「木ノ葉で見たこともないんだが……。
  カバーの素材とか冊子の作りとかも……」

 「さあ?
  そこを追求されても困りますね」

 「木ノ葉のゴミ捨て場は、
  異次元にでも繋がってんのか……」

 「平行世界かもしれませんよ?」

 「本当に頭が痛くなって来た……」


 サスケは、本気で頭痛を引き起こした。
 それでも、手に取った本をパラパラと捲る。


 「詰まるところ……。
  ヤオ子は、この本を参考に技を開発したということなのか?」

 「はい。
  H×Hで技の発想を頂いて、Gガンダムで技の名前を」

 (後半いらないんじゃないか……。
  そして、パクったの全部じゃないかよ……。
  まあ、ガキの発想なんてこんなもんか)

 「最終的には『爆殺! ヤオ子フィンガー!』を
  石破天驚拳の域まで持っていくつもりです」

 「どんな技だよ……」

 「貴様に話す舌を持たん!
  戦う意味すら解せぬ輩に!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「馬鹿やってる暇はないぞ。
  あの術を改良するんならな」

 「……了解であります」


 サスケが溜息混じりにH×Hの元ネタを確認する。


 「これ……印自体は豪火球に少し変更を加えただけなのか?」

 「そうです。
  実は、チャクラもあまり使わず意外とお手軽なんですよ。
  一瞬の爆発なんで、術自体を維持する時間はありませんからね」

 「なるほどな……。
  それで手を守る盾を作るわけか」

 「ええ。
  近距離で爆発しますから」

 「そうだな……。
  じゃあ、まず時限式をやめるか」

 「でも……それだとチャクラの盾を作る時間がなくて。
  チャクラの盾は結構な量を練り込みますから」

 「豪火球の術と同じ発想でいいんじゃないか?
  あれは口から出たところを起点としている。
  それと同じ様に、手からチャクラを出すところを起点にする」

 「だから……盾は?」

 「連続で装填すればいい」

 「ん?」


 ヤオ子は首を傾げた。


 「爆発って言っても、
  チャクラが爆発するまで時間があるだろう?」

 「コンマ何秒かですけど」

 「爆発のチャクラと盾に回すチャクラを一回で出し切ればいい。
  つまり──。
   爆発の印により、チャクラ変換中
   ↓
   チャクラの盾発動
   ↓
   爆発
  ──を一連の動作でするんだ」

 「利便性を考えるとそっちの方がいいですね。
  ・
  ・
  ただ、練り込むチャクラ量が半端じゃないと思うんですけど……。
  だって、二回に分けていたのを一回に纏めるわけですからね」

 「そうだな。
  最終的な判断はヤオ子に任す。
  別の方法が良ければ、また考えよう」


 チャクラ量で悩む一方で、ヤオ子の頭の中では必殺技起動のポースが駆け巡る。


 (『あたしのこの手が真っ赤に燃える!
   勝利を掴めと轟き叫ぶ!』
   ↓
   印を結ぶ。
   ↓
  『爆殺! ヤオ子フィンガー!』
  を言うのに好きなだけ溜めを入れられる。
  ・
  ・
  サスケさんの言う方がカッコイイ……)


 結論は、直ぐに出た。


 「サスケさんの案で行きます!」

 「そうか」


 不純な動機で、改良は決定した。


 「あと……有効な使い方も考えてみた。
  確かに起爆札よりも劣るが、
  威力はこれからの修行次第で増すだろう」

 「そうですね。
  あの術、まだ実験段階で形にしただけですし」

 「これからどれぐらい威力が上がるか分からないが、
  起爆札ぐらいの威力になったとする。
  起爆札は貴重な忍具で乱発できるようなもんじゃない。
  ヤオ子の忍術を使えば、相手に誤認させることが出来るはずだ」

 「例えば、もう起爆札を使い切った……みたいに?」

 「そうだ。
  逆に乱発することで相手に起爆札を沢山持っていると疑心暗鬼にさせることも可能なはずだ。
  それにより、相手の動きにある程度制限を掛けられる。
  ・
  ・
  こう考えると全くの無駄ではないだろう?」

 「サスケさん……。
  ありがとうございます。
  何か、やっと努力が報われた気がします」

 「ああ」


 ヤオ子の笑顔を見て、サスケは少しホッとする。


 「じゃあ、外に出て改良するか」

 「はい!」


 その日の午前中に、ヤオ子の忍術は次のステップに進化した。


 …


 成果が出たことで一息つく。
 今、ヤオ子とサスケは、倒木を椅子に仲良くお昼を取っている。


 「サスケさん。
  何か随分急ぎで用事を済ませた気がするんですけど?」

 「ああ。
  明日から中忍試験が始まるんだ。
  そうすると、暫くヤオ子に構っていられないからな」

 「そうなんですか。
  じゃあ、あたしは忙しい時期に迷惑掛けちゃいましたかね?」

 「そんなことはない。
  今日は軽めの修行にするつもりだった」

 「なら、良かったです」

 「お前、ちゃんと人を気遣うことも出来るんだな」

 「失礼ですね。
  あたしだって、毎回毎回暴走しているわけじゃないですよ」

 (自覚はあったんだな)

 「サスケさんこそ、
  中忍試験で暴走しないでくださいよ」

 「何で、オレが暴走するんだ……」

 「ドSだから」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「このウスラトンカチが!」

 「やっぱりドSじゃないですか。
  ・
  ・
  ところで、何日ぐらい掛かるんですか?」

 「試験官の気分にもよるから分からん」


 ヤオ子は座った目で聞き返す。


 「忍者ってアバウト過ぎません?」

 「オレが知るか」

 「次に合う時は、中忍かもしれませんね」

 「そうだな」

 「中忍試験で死んでるかもしれませんけど」

 「…………」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前は、オレを殺したいのか!」

 「冗談ですよ」

 「洒落になってない……」


 サスケは溜息を吐くと立ち上がる。


 「まあ、そういうことだ。
  じゃあ、またな」


 サスケは、ヤオ子を置いて去って行った。


 「中忍か……。
  ・
  ・
  ん?
  下忍から中忍になるのアカデミーに居る期間より短くない?
  一体、忍者って、どういうシステムなんだろう?」


 ヤオ子の頭の中には、どうでもいいことが駆け巡った。



[13840] 第17話 幕間Ⅰ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:35
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケが去り、秘密基地の前に一人残ったヤオ子。
 少しぼーっとした後で、何をしようか考える。


 「今日は、サスケさんも軽めにするって言ってたし、
  あたしも便乗しようかな?」


 ヤオ子は立ち上がると、足を回れ右して家へと向かう。
 しかし……。


 「な~にかな~?
  この妙な悪寒……。
  サスケさんは、お許し出しましたよ?」


 トラウマ発動。


 「ちょっと!
  どうしたの!?
  怖くない! 怖くないって!
  サスケさんなんて怖くない!」


 反抗しようにもヤオ子の悪寒が取れることは一向になかった。
 ヤオ子は項垂れる。


 「とりあえず最低限のノルマだけ……」


 ヤオ子は、最低限の修行をしないと家に帰れない体になっていた。


 「誰かあたしに『シャナク』をかけて……」


 残念ながらシャナクでは呪いは解けても、トラウマは解消しない。



  第17話 幕間Ⅰ



 サスケがヤオ子と会ったのは、砂隠れの里の忍である我愛羅・テマリ・カンクロウと一悶着を起こし、カカシに受験票を貰った後であった。
 そして、ヤオ子の必殺技改良の構想が終わり、一日が経つ。
 サスケの受ける中忍試験は第一試験筆記テストに始まり、第二試験サバイバルテストへと進んでいた。
 一方のヤオ子は……。


 「これ酷いトラウマですよ……。
  呪いレベルです……。
  一日としてサボれないなんて。
  これもサスケさんが毎回毎回グーを叩き込むから!
  ・
  ・
  まあ、最近、グーがないと寂しいな……なんて思う時もあるんですけどね」


 修行を終えて、ヤオ子は愚痴を溢しながら帰宅していた。


 「明日からは、手裏剣術して……。
  筋トレを追加して……。
  木登りを足と手でやって……。
  忍術と必殺技の練習ですね。
  特に必殺技は、納得のいくレベルまで頑張りたいですね。
  ・
  ・
  あたし……。
  何やらされてんだろう……。
  八百屋の看板娘が忍術使えるって、何なのさ?
  客寄せに忍術で芸でもしろって?
  ・
  ・
  ハッ!
  馬鹿馬鹿しい!」


 ヤオ子の独り言は続く。


 「実は、このまま忍者になっちゃった方がいいんじゃないの?
  でもな~……。
  死ぬ確立が倍率アップのドーン! ……だもんね。
  ・
  ・
  デンジャーでヴァイオレンスなのは嫌だなぁ……。
  サスケさんやナルトさんは、何で忍者になりたいんだろ?
  やっぱり、木ノ葉に生まれたら自然に憧れるのかな?
  皆、夢を叶えたくて頑張ってるんだよね。
  あの歳で、もう職業を絞ってるって凄いよね。
  あたしは……ダメダメです。
  ・
  ・
  ただ……。
  最近は、サスケさんと居るのが楽しいんですよね。
  弟は、まだまだ小さいし友達は居ないし……。
  あたし、学校行ってないから」


 ヤオ子は、ここ数ヶ月を思い出す。


 「何で、楽しかったんですかね……。
  何で、一生懸命だったんですかね……。
  嫌々だったはずなのに……。
  ・
  ・
  まあ~!
  気の迷いでしょう!
  さっさと帰るべきです!」


 ヤオ子は、きっと大事なことを先送りにした。


 …


 サスケの中忍試験は、五日に及ぶサバイバルの一日目の夕刻に入っていた。
 開始数時間で天の書と地の書の巻物の奪い合いが死の森の各地で起こり、サスケ達第七班も例外なく奪い合いをすることになる。
 その経過で、大蛇丸との戦闘の末に呪印を刻まれたサスケと五行封印されたナルトは気絶。
 今は、サクラ一人で奮闘中という絶体絶命の危機を迎えようとしていた。

 一方のヤオ子は、サスケのピンチなど知ることもなく自宅にて体術の本を読んでいた。
 体術関係の本より最初に知識を優先させたため、後回しにしていたからである。


 「……体術って凄く重要じゃないですか。
  これを覚えないとあたしの必殺技は当たらないですよ。
  ・
  ・
  でも、他を優先したのも分かりますね。
  あたしは、基本が出来ていないから、
  体力とチャクラの向上を優先したに違いありません。
  だから、チャクラのスタミナをつけさせるために、
  サスケさんは必殺技開発の許可を出して好き勝手させてくれたんでしょう。
  ・
  ・
  体力の方は、手裏剣術と木登りをしてれば自然とついてきますしね。
  ・
  ・
  でも、サスケさんの体術修行か……。
  フルボッコにされるだけじゃないの?」


 蘇る写輪眼の修行の悪夢……。
 ヤオ子は忘れるようにページを捲る。


 「これを修行するなら相手が必要だなぁ。
  一人じゃ無理です。
  ・
  ・
  そんなことない……ハーレムの術!
  あれを利用して影分身で組み手すればいいんですよ!
  待て待て!
  ・
  ・
  相手役に一人。
  観察役に一人。
  計二人の影分身を出させて修行すれば……うん! 問題ない!
  サスケさんに相手して貰ったら、命が幾つあっても足りません!
  ああ……ナルトさん。
  ハーレムの術を教えてくれて、ありがとう♪」


 ヤオ子は知らず知らずに忍者の道を着実に歩み始めていた。
 そして、判断基準となる忍者がサスケしか居ないのは幸か不幸か……。


 「まずは、サスケさんにワンパンチ入れることを目標にしましょう。
  明日からは、手裏剣術の修行の半分は体術に充てます!」


 ヤオ子の一人修行の日々は続く。


 …


 次の日、早朝……。
 サクラ対音忍の戦いが始まる。
 音忍達との戦いにより、サクラの髪を切るイベント発生……。
 サスケの呪印発動……。
 木ノ葉の忍達の助太刀により、音忍を辛くも退ける。
 サスケ達のチームは、サバイバルを開始してようやく一息つける時間を確保できた。
 そして、ヤオ子は……。


 「うげ~!」


 吐いていた。
 自分の影分身とのガチンコ体術勝負。
 お互いのボディーブローが鳩尾に炸裂した。


 「……ま、間違っています。
  この修行方法、激しく間違っています。
  お互いのレベルが同じ上に思考も同じだから自爆ばっかりです。
  体術の修行無理……。
  出来ない……。
  ・
  ・
  これ先生が必要です……。
  サスケさん……早く帰って来て……」


 ヤオ子は力尽きた。


 …


 ~ 十分後 ~


 「まさか自分で自分を苦しめる羽目になるとは……。
  地味に生きよう……。
  いきなり派手なことをしようとしたのが間違いなんです。
  魚住を思い出してください。
  田岡先生に扱かれて一年目にバスケを辞めようと思ったんですよ?
  体力も何もついてないあたしが出過ぎた真似をしたんです。
  これは、反省が必要です。
  サスケさんが中忍試験から帰って来るまでは地味に生きます」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「結局、やるこはいつもと変わりませんね……」


 ヤオ子は、チャクラ吸着による木登りをすることにした。

 ヤオ子の方は、大体そんな感じで修行をしていた。
 修行を開始して数ヶ月で急激な成長など望めない。
 そもそも基となるものがない一般人が、忍者を目指していた人間と同じ体力や筋力は急に身につかない。
 ヤオ子の身につけたものは、センスの部分が大きい。
 チャクラにしても人間離れした妄想力によってカバーしている部分が大きい。


 「火力が足りない分は、気合いでカバーです」


 それで補える意味もよく分からない。
 ただ、今はひたすらに基礎力の向上に精進である。
 忍者になる……ならだが。


 …


 初日からの強敵との二連戦で大きなダメージを受けたため、サスケ達のチームは体制がボロボロだった。
 安全に休める場所の確保や食料の確保も出来ていない。

 そして、サスケ達のサバイバル試験四日目。
 ようやく体制を立て直し、本来の巻物争奪戦を行える時にはタイムリミット一日だった。
 一方のヤオ子は、いつも通りなので省略……。


 「何で?」


 やることがループするから。


 「酷くない?」


 更に時間は経過する。


 「無視しやがったです。
  もういいです……」


 サバイバル試験は、最終的には薬師カブトの助けを借りて試験をパスする。
 そして、直ぐに始まる第三の試験……予選。
 実戦形式の一対一の個人戦。
 サスケは赤胴ヨロイとの対戦で写輪眼の能力を開花させ勝利を収め、リタイアになる。
 カカシの封邪法印により呪印の力を押さえ込み、気力を使い果たしたサスケの記憶もここで途切れる。
 目覚めるのは、中忍試験の第三試験予選が終了した数日後になる。



[13840] 第18話 ヤオ子のお見舞い①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:35
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 新術を完成させ、サスケが中忍試験を受けて以来、ヤオ子はずっと放置状態である。


 「中忍試験って、いつまでやってんの?
  サスケさんと別れてから、もう直ぐ三週間になります」


 中忍試験の予選までの期間が五日。
 そして、サスケが面会謝絶の入院状態になってから二週間。
 サスケが入院したことも知らなければ、中忍試験に出ていた忍者にも会うこともできないため、ヤオ子には何の情報も入ってこなかったのである。


 「まさか……。
  サスケさん、本当に死んだんですかね?」


 『一体、どうなってんのか?』と首を傾げながらも、本日の午前中のノルマを律儀に終える。
 時刻はお昼時……。
 ヤオ子は昼食を取るため、一楽に向かうことにした。



  第18話 ヤオ子のお見舞い①



 月に何度か無性に一楽のラーメンを食べたくなる日がある。
 ヤオ子は、それが今日だった。
 本日は、お昼のお金を父親にせがんで久々の来店である。


 「先客が居る……。
  師匠とでっかいお爺さん?」


 一楽の暖簾を潜ると、ヤオ子は目的のものを注文する。


 「ラーメンを一つお願いします」

 「あいよ!」


 いつもの一楽の主人の元気な声が返ると、その声が先客のナルトにヤオ子を気付かせた。


 「あーっ!
  お前ってば……誰だっけ?」

 「酷いですよ、師匠。
  あたしのことを忘れたんですか?
  ヤオ子ですよ」

 「そうそう!
  ヤオ子!
  久しぶりだってばよ」

 「誰だ?」


 ナルトの隣に居る大柄の老人(?)がナルトに声を掛ける。


 「オレの弟子!」


 老人に対して、ナルトは胸を張った。


 「弟子ィ~!?
  お前、実力もないのに弟子がおるのか?」

 「ちょっと! エロ仙人!
  居ちゃ悪いのかよ!」


 老人がヤオ子を見る。


 「まあ、ガキ同士だからのォ。
  ちょうどいいんじゃないか?」


 ナルトがヤオ子に話し掛ける。


 「エロ仙人は、ほっとくってばよ!
  ところで、何しに来たんだ?」

 「一楽に来たら、することは決まっているじゃないですか。
  ラーメンを食べに来たんです。
  ・
  ・
  そちらは、自来也さんですよね?」


 ヤオ子の言葉に、ナルトは意外そうに自来也を見た。


 「ヤオ子……エロ仙人のこと知ってんの?」

 「ええ」

 「当然だな。
  寧ろ、忍者のお前が三忍と呼ばれたワシを知らんのが、
  どうかしとるんじゃ」


 フンとそっぽを向くナルトの横で、ヤオ子は首を傾げる


 「三忍? 何ですか、それ?」

 「やっぱ……知らねーじゃんよ」

 「…………」


 自来也は眉を顰め、頬を掻く。


 「お主……。
  何で、ワシを知っとるんだ?」

 「有名な作家さんでしょ?
  イチャイチャパラダイスの」


 ヤオ子の答えにナルトが異を唱える。


 「ハァ!?
  何言ってんだってばよ!
  あんなクソ面白くない本のどこが有名なんだってばよ!」

 「黙れ! ナルト!
  あの本は、大人が見れば価値が分かる偉大な本なのだ!」

 「ヤオ子は、オレよりも子供だっつーの!」

 「……そう言えば。
  ・
  ・
  お主、一体……」


 自来也が珍獣でも見るようにヤオ子を見る。


 「どうやらお二人は、あたしに興味が出て来たようですね」

 「まあ、今のところはただの好奇心だがの……」

 「いいでしょう!
  お答えします!
  あたしは、イチャイチャパラダイスのファンの一人です!」

 「お前……碌な人間じゃないってばよ」

 「ワシも同意じゃな……。
  十八禁の本をその歳で……」

 「ガーン!
  まさかの作者からの批判!」

 「だって……のォ。
  普通に引いたし……」

 「何言ってんですか!?
  いい本はいい本です!
  あれはいい本です!
  キシリア様に届けなくちゃいけないぐらいの!」

 「意味が分かんないってばよ……」


 ヤオ子がダンッ!と足を踏みしめる。


 「ナルトさん!
  あの本の良さが分かんなくてエロを極められると思うんですか!?
  その人は、変態界の頂点に立つキング・オブ・エロなんですよ!」


 ヤオ子がビシッ!と自来也を指差す。


 「変態……。
  最悪だってっばよ……」


 自来也が声を大に否定する。


 「娘! そういう言い方をするな!
  ワシは、変態ではない!
  ただのドスケベだ!」

 「違いがあるんですか?」

 「当たり前じゃ!
  変態とスケベを一緒にするな!
  スケベは、エロを突き詰める哲学者じゃ!」

 「そうだったんですか……」


 ヤオ子が感慨深げに目を瞑り、拳を握る。
 一楽の主人は、頭が痛かった。


 「あのさ! あのさ!
  何で、お前ってば、イチャイチャパラダイス知ってんの?」

 「そんなの読んだからに決まってるじゃないですか」

 ((読んだのか……))

 「お主……。
  あれを全部読めたのか?
  子供が読むには難解な漢字や言葉遣いもあっただろうに?」

 「エロの道を極めるためには、難解な壁であっても
  乗り越えなければならない時があるんです!
  そう!
  あたしは、エロという哲学を極めんとする探求者なんです!
  漢字も意味も全て調べ尽くしました!」

 「気に入った!」

 (ヤオ子もドスケベの仲間入りだってばよ……)


 ナルトがヤオ子に対して呆れた。
 ヤオ子……ナルト越え?


 「しかし、いかんのォ。
  子供が十八禁の小説を読むなど」

 「そんなのはエロに目覚めるのが早いか遅いかの差でしょ?
  探究心に目覚めた思春期男子なら、もう覗きの一つでもしていますよ」

 「…………」


 ナルトと自来也には、心当たりがあった。


 「まあ、今回は不問にするとしよう」

 「子供に言い負かされるなって……」

 「うるさい!
  この子は、子供ではない!
  言わば同士だ!」

 「えへへ……。
  イチャイチャパラダイスの作者さんに
  同士って認められちゃった♪」


 一楽の主人は、ヤオ子の将来にとてつもない暗雲が陰っているような気がした。


 「ところで、自来也さん。
  サイン貰っていいですか?」

 「ほう。
  良い心掛けじゃ」

 「ヤオ子……。
  間違ってるって……」


 ヤオ子は、腰の後ろの道具入れからイチャイチャパラダイスを取り出す。
 それをナルトは複雑な目で見る。


 「カカシ先生も、そこに入れてた……」


 自来也はヤオ子からイチャイチャパラダイスを受け取ると、上機嫌でサインをするためにマジックのキャップを開けた。


 「『ヤオ子ちゃんへ』でお願いしますね」

 「分かった分かった♪」

 「頭痛くなって来た……」


 一楽の主人は、ナルトが普通の人に見えて来た。
 そして、一楽の主人は、黙ってヤオ子の前にラーメンを置く。


 「ありがとう」


 ヤオ子はサインして貰ったイチャイチャパラダイスを大事そうに腰の後ろの道具入れに戻す。
 そして、改めて椅子に座り直すと、早速、ラーメンを啜る。


 「あれ?
  おじさん、スープの味変わった?」

 「分かるか?」

 「うん。
  少しコクが強くなった」

 「嬉しいねぇ。
  この違いが分かるのは、ナルトとヤオ子ぐらいだ」

 「あたし、八百屋の娘だから、
  野菜を最良に加えたスープの味は、よく分かるんですよ。
  師匠も分かったんですか?」

 「当然!」

 「さすがですね~」

 「お前も、さすがオレの弟子だってばよ!」

 「えへへ……」


 自来也は、自分のラーメンを啜りながら奇妙な関係に質問する。


 「何で、ナルトが師匠なんだ?」

 「エロ忍術の師匠です」


 自来也が吹く。


 「お前、人のこと言えんではないか!」

 「え……そう?」


 ナルトが笑って誤魔化す。


 「でもさ! でもさ!
  エロ仙人には効果抜群だったじゃん!」

 「…………」


 自来也は無言で視線を逸らした。


 「何したんですか?」

 「おいろけの術を掛けたんだってばよ」

 「自来也さん……」


 ヤオ子は軽蔑の目で自来也を見る。


 「何だ! その目は!」

 「仮にもイチャイチャパラダイスの作者さんが、あの程度の術で……。
  あれは、まだエロ忍術の初歩ですよ?
  ね、師匠?」

 「そうだってばよ」

 「まだ、上があるのか!?」

 「ありますね」
 「あるってばよ」

 「み、見せてくれんか?」

 「…………」


 自来也の期待の目をヤオ子とナルトは一心に受ける。


 「判断は師匠にお任せします」

 「ダメ!」

 「何でだ!?」

 「エロ仙人ってば……。
  全っ然! 修行を真面目に見てくれないじゃんか!
  そんな奴に貴重なハーレムの術を見せられるかーっ!」

 「何を言っておる!
  ちゃんと修行を見てやっておるだろう!」

 「いつも水着のねーちゃんばっか見てんじゃんか!」

 「それは取材だ!」

 「妙な主従関係ですね」


 『お前が言うな』と、一楽の主人は心の中でヤオ子に呟く。


 「師匠、見せてあげたら?」

 「おお!
  やはり、お主は見所あるのォ!」

 「何でだよ!?」

 「ただし、修行をちゃんと見てくれたらっていう、
  結果を出した後の条件で」

 「何っ!?」

 「おお!
  やっぱり、お前は見所あるってばよ!」

 「一件落着ですね」


 自来也はナルトを指差す。


 「チッ!
  絶対じゃぞ!
  修行が終わったら、ちゃんと見せるんだぞ!」

 「分かったってばよ。
  輸血パック持って期待しとけってばよ」

 「そ、そこまでの術か……」

 「そこまでの術ですね」

 「楽しみが出来たのォ」


 一楽の主人は、エロの三忍に溜息を吐いた。
 そして、三人の器のラーメンが半分になった頃、ヤオ子が質問する。


 「ところで……。
  師匠は、サスケさんと同じチームで中忍試験を受けたんですよね?」

 「そうだけど?」

 「中忍試験は、どうなったんですか?
  サスケさんを見掛けないんですけど……。
  もしかして、死んだの?」

 「殺すなよ……。
  生きてるから……」

 「何だ……。
  生きてたんですか……」

 「死んで欲しいのか?」

 「まあ」

 「お前って……」

 「どういう娘なんじゃ?」


 ヤオ子は、笑って誤魔化す。


 「それは置いといて……。
  あのドSは、何処に行ったんですか?」

 「入院してるってばよ」

 「入院?
  師匠の足でも引っ張ったんですか?」

 「そうなんだってばよ」

 「まったく……。
  どうしようもない奴ですね」

 「本当だってばよ」


 サスケが居ないことをいいことに、言いたい放題の二人。
 ヤオ子は『むふふ』と笑いながら手を口に当てる。


 「しかし……。
  あのドSがへばった姿を見るのも一興ですね」

 「歪んどるのォ……」

 「根暗な奴……」

 「ふふふ……。
  積年の恨みを晴らすのは、今しかないですね」

 「「?」」

 「お見舞いを装って寝込みを襲います!
  ・
  ・
  やってやりますよ~!
  あんなことやこんなことを!」

 「「最悪だ……」」

 「だって!
  普通にやったって返り討ちにあうんだもん!
  仕方ないじゃないですか!
  ・
  ・
  ふふふ……。
  やってやります……。
  絶対にやってやりますよ!」

 「この娘、どういう性格をしとるんじゃ?」

 「オレも詳しく知らない……」


 ヤオ子はグイッ!と器のスープを飲み干すと立ち上がる。


 「では、師匠。
  自来也さん、ありがとうございました」

 「ああ」

 「またの」


 手を振って、ヤオ子は一楽を去って行った。
 一楽の主人は、ヤオ子の器を下げる。


 「いいところありますね」

 「?」

 「あの子のお代。
  払ってあげるなんて」

 「何!?」

 「だって……。
  あの子……『ありがとう』って」

 「あのガキ……!」


 まんまと奢らされた自来也は、箸をベキッ!と握り潰した。


 …


 一楽でお腹を満腹にしたヤオ子は自宅の八百屋に戻る。
 そして、店番をしていた父親に話し掛ける。


 「お父さん」

 「何だ?」

 「お見舞いに行きたいんだけど」

 「誰の?」

 「サスケさん」

 「そういえば……最近、見てないな。
  入院しているのか?」

 「うん。
  さっき、ナルトさんに聞いた」

 「そうか」

 「何か持って行った方がいいかな?」

 「そうだな……。
  店のものを適当に持ってけ」

 「こういう時は、フルーツ類かな?」

 「そうだろうな」

 「じゃあ、野菜にしよう」

 「…………」


 父親は我が娘に呆れた視線を送る。


 「お前、馬鹿か?」

 「違いますよ。
  あの人、きっと顔がいいから、
  女の一人や二人、連れ込んでるんですよ」

 「連れ込むって……。
  あの子も、まだ子供だろう?」

 「関係ありません。
  くノ一に『ワー』『キャー』言われてるみたいです。
  だから、きっとお見舞いのフルーツは食べ飽きてると思うんです」

 「なるほど」

 「病院の萎れた野菜より、
  うちの新鮮な野菜を食べさせてやる方が、きっと喜びますよ」

 「そうかねぇ?」

 「間違いありません」

 「まあ、任せるわ」


 ヤオ子の父親は、再び接客に戻る。
 ヤオ子は野菜を袋に詰め、白菜を背中に背負うと自宅の店を後にした。



[13840] 第19話 ヤオ子のお見舞い②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:36
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 大きな荷物を手に持ち、背中に白菜を背負いながら、ヤオ子は木ノ葉病院を目指す。


 「サスケさんごときに、お見舞いの品を持ち過ぎました。
  凄く重いです……。
  こんな時は、何て言うんでしたっけ?
  確かⅡ世は……。
  ・
  ・
  股間にイチモツ、手にニモツ!
  ・
  ・
  この口癖はないですよね……」


 ヤオ子は白菜を背負い直す。


 「どっこいしょ。
  ・
  ・
  老人っぽいとか何と言われようと、
  この言葉が、一番力が入らなくていいですよ」


 何度か背負い直しながらヤオ子はテクテクと歩き続け、木ノ葉病院へと辿り着いた。



  第19話 ヤオ子のお見舞い②



 ヤオ子は病院に入ると、驚異的な視力で20メートルほど離れた看護婦さんの持つ病室名簿を読み取る。


 「あの角を曲がった先ですか」


 覗きで鍛えた無駄な眼力が役に立ち、ヤオ子はサスケの病室へと向かう。
 しかし、辿り着いた病室には札が掛かっていた。


 「面会謝絶?
  あのドSが、そんな大それた怪我をするわけないでしょう」


 ヤオ子が問答無用でドアを開けると、サスケが窓を開けながら片足を掛け、脱走する準備の体勢のまま固まっていた。


 「何をやってんですか……」

 「お前こそ、何しに来た……」

 「あたしは、弱っているサスケさんを嘲笑いに」


 サスケは瞬身の術で移動すると、ヤオ子にグーを炸裂させた。


 「何するんですか!?
  ・
  ・
  っていうか……何!?
  もう治っちゃったの!?
  折角、寝込みに一発殴れると思ったのに……」


 サスケが、ヤオ子にアイアン・クローを掛ける。


 「ヤオ子……。
  本当に、何しに来た!」

 「冗談です! 冗談!
  イッツ・ア・コノハジョークです!
  見てください!
  お見舞いの品を持ってるでしょ!?」


 サスケがアイアン・クローを解くと、ヤオ子は自分の顔をグニグニとマッサージする。


 「まさか会って二秒で殴られるとは思いませんでした。
  衰え知らずのドSっぷりですね」

 「まだ殴られ足りないようだな……!」

 「まあまあ。
  その辺で許してくださいよ。
  あたしに会うのも久しぶりでしょ?
  どうです? 欲情しましたか?」

 「するか!
  お前、帰れ!」

 「本当に怒ってばっかりですねぇ」

 「誰のせいだ……!」


 サスケが拳を握るも、ヤオ子は気にせずに質問する。


 「ところで……。
  退院ですか?」

 「まあな……」

 (自主的に……)

 「じゃあ、おめでとうですね」

 「ああ」

 「相変わらず暗いですね。
  あたしがギニューみたいに喜びのダンスでも踊りましょうか?
  ・
  ・
  今更ですが、髪を緑に染めてツインテールにしてネギ持って」

 「絶対にするな!」


 ヤオ子はポンと手を叩く。


 「そうそう!
  お見舞いの品を持って来たんです」

 (コイツ……。
  完全無視で話を進めやがった)

 「野菜です!
  何が食べたいですか?」

 「お前……」

 「おいしそうでしょ?」

 「オレに生でバリバリ野菜食ってろってのか?」

 「嫌ですか?」

 「当たり前だ!」

 「我が侭さんですねぇ。
  でも、そんなサスケさんのために開発した忍術があるんです」

 「は?」

 「見ててくださいよ!
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子はチャクラを練ると印を結ぶ。
 そして、黄色のピーマンを右手に握り、バフンッ!と音がすると右手から煙が上がった。
 ヤオ子は持参した皿に黄色のピーマンを置いて、オリーブ油を少しかける。


 「どうですか!?
  『爆殺! ヤオ子フィンガー!』を改造して、
  焼き野菜を作る忍術を開発したんです!
  ・
  ・
  ちなみに名前は、まだありません」

 「お前は、三分お手軽クッキングの修行でもしてたのか……」

 「そう言わずに食べてみてくださいよ。
  はい、フォーク」


 サスケは嫌々ながらフォークを受け取ると、黄色のピーマンに突き刺す。
 そして、仕方なくゆっくり口に運び、一口。


 「……凄く旨い」

 「でしょ?
  あたしも最初に食べた時、びっくりしましたよ。
  焼き野菜とオリーブ油のマッチング。
  黄色いピーマンは、自然な甘みがいいですよね」

 「確かに……」

 「次、行きますよ!」


 トマト、なす、ブロッコリー、人参……と、ヤオ子は次々に焼き野菜を作る。
 そして、ついにサスケの胃袋も限界を迎える。


 「ヤオ子……。
  もう無理だ。
  これ以上、食えん」

 「そうですか?
  しかし、困りましたね。
  白菜と春菊と椎茸が残って鍋の材料みたいです」

 (白菜丸ごとは食えんだろう……)

 「オレは、これから病室を抜けるから置いて行け。
  看護師が勝手に処理するだろう」

 「相変わらずの独裁者っぷりですね」

 「じゃあな」


 サスケが窓に手を掛ける。


 「はい! 待ってください!
  何ですか? いきなりエスケープって?
  銭形警部にでも追われてんですか?
  あんたは、ルパン・ザ・サードか!?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「また、訳の分からない例えを!」

 「だって!
  あれだけ野菜食って、お礼の一つもないって礼儀知らずもいいところですよ!」

 (半分は、お前が無理やり食わせただろう……)


 サスケは面倒臭そうに口を開く。


 「旨かった。
  ありがとう。
  ・
  ・
  じゃあな」

 「だから!
  待てと言っているんです!
  何なんですか! さっきから!」

 「オレは忙しいんだ!
  次の本戦のために修行しなくちゃいけないんだよ!」

 「あたしは!?」

 「適当にしてろ」

 「ちょっと!
  サスケさんが、あたしを無理やり引き込んだくせに!
  何なんですか!?
  この扱いは!?
  あたしを弄んだんですか!?」

 「下品な言い方をするな!」

 「あたしの体が目当てだったんですか!?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「そんなわけあるか!」

 「でも……。
  あたしも女っぽいエロボディになって来たんですよ?
  正直、お腹周りはキューピーちゃんみたいでしたけど、
  サスケさんのせいで括れが出て来たんです。
  うっすら縦の線も……」


 ヤオ子はTシャツを上に捲くりあげ、上目使いでサスケを見る。


 「どうですか?」


 サスケは窓から脱走しようと足を掛ける。


 「無視しないでください!
  女に恥を掻かせる気ですか!?」

 「恥でも何でも勝手に掻いてろ!」


 ヤオ子がサスケの足にしがみつく。


 「待ってください~!
  体術の修行がしたいんです~!
  教えてください~!」

 「ええい!
  足を放せ! このウスラトンカチ!」

 「あたしを見捨てないで~!
  体術覚えないと必殺技が当たらないんです~!」

 「あ~! 本当にしつこい!
  いいか! この病院にロック・リーという奴が入院している!
  そいつが体術の手練れだから、そいつに聞け!」

 「ロック……リー?」

 「じゃあな」


 サスケはヤオ子を蹴り飛ばし、窓から颯爽と姿を消した。


 「あーっ!
  逃げられた!
  ・
  ・
  酷い……。
  あんまりです……」


 ヤオ子は呆然と開いた窓を見つめていたが、次第に沸々と怒りが込み上げて来る。


 「フンだ!
  いいですよ!」


 ヤオ子は白菜と春菊と椎茸をサスケのベッドの上に置く。
 そして、置手紙に『お世話になりました』と一筆書く。


 「これで看護婦さんも、
  礼儀正しい青少年と思ってくれるはずですよ!
  ・
  ・
  フンだ!」


 ヤオ子は怒り心頭で病室を後にした。


 …


 そして、夜……。
 見回りに来た看護師がサスケの病室を訪れる。


 「青臭っ!」


 看護師は青臭い野菜の臭いと共にサスケが居なくなったのに気付いた。
 そして、翌日の朝食は朝から鍋だったとか……。



[13840] 第20話 ヤオ子のお見舞い③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:36
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 体術修行をして貰うはずのサスケに逃げられた翌日……。
 午前中のノルマを終えて、ヤオ子は自宅の八百屋に顔を出す。


 「お父さん」

 「何だ?」

 「お昼、外で食べたいんだけど」

 「金なら、やらんぞ」

 「うん、いらない。
  その代わり、店の野菜持って行っていいかな?」

 「どうするんだ?」

 「お見舞いに持って行くの」

 「またか?」

 「うん。
  一緒にお昼食べようと思って」

 「仕方ねぇな……持ってけ。
  原価で仕入れた野菜の方が昼飯代より安いからな」

 「しっかりしてるよね」

 「当然だ」


 店先に並ぶ白菜とエリンギと春菊をヤオ子は袋に詰める。
 そして、台所に向かうと市販の出し汁と卵と糸こんにゃくとお肉を冷蔵庫から拝借する。


 「あとは、鍋とコンロと器ですね。
  いきなり押し掛けるんだから、
  これぐらいの用意は必要条件ですよね。
  ・
  ・
  あ、箸もか」


 大きな荷物を用意し終わるとヤオ子はそれらを背負い、サスケから聞いたロック・リーに会うべく、ヤオ子は木ノ葉病院へと向かうのであった。



  第20話 ヤオ子のお見舞い③



 今日もやって来ました木の葉病院……。
 ヤオ子は病院に入ると、驚異的な視力で看護婦さんの持つ病室名簿を読み取る。


 「あっちの棟ですか」


 ロック・リーの病室へと、ヤオ子は向かう。
 そして、病室に着くとドアを二回ノックする。
 『どうぞ』という声がすると、ヤオ子はゆっくりドアを開ける。
 病室の中では左手と左足に包帯を巻いたロック・リーがベッドの上で上半身を起こしていた。


 「……誰ですか?」


 大量の荷物を持ったヤオ子に、疑問符を浮かべてリーが質問する。


 「えへへ……。
  あなたが、ロック・リーさんですか?」

 「そうですけど……」

 「あ。
  これ、お見舞いの品です」

 「……ご丁寧にどうも」

 「今、セットしちゃいますね」


 ヤオ子は手頃な台を引っ張り出すとコンロをセットし鍋を置き、手際よくすき焼きの準備を始める。


 「具は、お肉から~♪」

 「あ、あの……」

 「ん? 何ですか?」

 「君は、誰ですか?」

 「すいません。
  同じ質問を二度もさせて」

 「ああ……構いません」

 「あたしは、八百屋のヤオ子です」

 「はあ……」

 「サスケさんの紹介で、ここに来ました」

 「サスケ君ですか。
  ・
  ・
  話が見えないんですが……」


 ヤオ子は菜箸で鍋の肉をつつきながら、野菜を入れるタイミングを計る。
 鍋の中の食材が取り易いように煮え始めた肉を鍋の左端に寄せると、ヤオ子は野菜を切りながら話を続ける。


 「実はですね。
  あたし、体術を練習したいんです」

 「はい」

 「そこでサスケさんに教えてくださいと
  せがんだんですが……冷たくあしらわれて」

 「そうなんですか」

 「そうしたら、ロック・リーさんを紹介されて……教えて貰えと」

 「…………」


 リーが右手で待ったを掛ける。


 「すみません。
  全然、話が見えて来ません」

 「…………」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「あの~。
  サスケさんから、お話は通っているんですよね?」

 「いいえ」

 「…………」


 ヤオ子は額をトントンと指で叩くと、質問を続ける。


 「では、サスケさんと無類の親友同士とか?」

 「会ったのは、中忍試験の時が初めてです」

 「…………」


 今度は、ヤオ子が右手で待ったを掛ける。


 「どういうこと?」

 「さあ?」

 「…………」


 気まずい沈黙が流れる中、ヤオ子は沸々と怒りを蓄積させる。
 そして、ついにプチッ!とキレた。


 「あのドSが~~~っ!
  適当なこと言って、あたしを追い払ったのか!?」


 ヤオ子は病室で絶叫した。


 「騙されたのか!?
  じゃあ、リーさんは体術の手練れじゃないんですか!?」

 「体術には自信がありますが……。
  今は、この通り怪我をしている身です」

 「あの馬鹿は、あたしにどうしろってんだ!?」

 「…………」


 ヤオ子は鍋に切った野菜を投入すると、リーを凝視する。


 「リーさん……」

 「な、何でしょう?」



 ヤオ子は鍋に蓋をして溜息を吐く。

 「とりあえず……。
  二人の出会いを祝して、すき焼き食べませんか?」

 (何か……酷く可哀そうですね)

 「分かりました。
  お付き合いします」

 「ううう……。
  いい人だ……。
  リーさんは、いい人だ……」


 ヤオ子は感動の涙を拭うと、グツグツと音を立てる鍋の様子を見る。
 そして、頃合になるまで暫く待つと、二人分の器に卵を落としてかき混ぜる。


 「リーさんは、左手使えないんですよね?」

 「お恥ずかしい限りです」

 「では」


 ヤオ子は印を結び、影分身を一体作り出す。


 「その子に命令してください」

 「君は……影分身が使えるんですか?」

 「はい。
  ナルトさんに教えて貰いました」

 「そういうことですか。
  影分身は、ナルト君の得意忍術でしたね」

 (あれ? エロ忍術じゃないの?
  ・
  ・
  まあ、いっか)


 影分身のヤオ子がリーに質問する。


 「適当に盛り付けちゃっていいですか?」

 「お願いします。
  ・
  ・
  しかし、病室ですき焼きをするとは思いませんでした」

 「長い人生には、そういうこともありますよ」

 「はは……」


 リーは右手は使えるので影分身のヤオ子が持っている器から箸で食べることが出来る。
 ヤオ子の影分身はグツグツと煮える鍋から適当に盛り付けると、リーの前にそっと差し出す。
 リーは、その中から白菜を摘まんで口に運ぶ。


 「ヤオ子さん。
  とっても美味しいです」

 「八百屋やってるんで新鮮だからですよ」

 「はい。
  ・
  ・
  ところで……。
  ヤオ子さんは、何故、体術を?」


 ヤオ子は蓄積されたサスケへの殺意を抑え、落ち着いた口調で話す。


 「あたしは、忍術を覚え初めて間もないんですけど。
  開発した忍術が近距離でしか使い物にならなくて、
  どうしても体術を覚えないといけないんです」

 「なるほど」

 「でも、サスケさんは次の本戦の修行とか言って、
  あたしをほったらかしにして……。
  リーさんの名前を言って、どっか行っちゃったんです」

 「酷いですね」

 「そうなんです!
  あのドSは、毎回毎回!」

 「しかし、サスケ君の気持ちも分かります。
  本戦は、そう簡単に勝ち抜けるものではないでしょうから」

 「そうなんですか?」

 「はい」


 ヤオ子は腕を組む。


 「う~ん……。
  じゃあ、サスケさんに我が侭を通すのは拙いのかな?
  どうしよう?
  ・
  ・
  あの……リーさんがご迷惑じゃなければ、少し教えて貰えませんか?」

 「ボクがですか?」

 「はい」

 「しかし……。
  ボクも修行をしなくては──」

 「リーさん、怪我をしているじゃないですか!?」

 「それでもです!」


 リーの目は真剣そのものだった。


 「ボクは……まだ終わっていません」

 「……怪我は軽いんですか?」

 「いいえ……」


 口にエリンギを運びながら、ヤオ子は考える。
 そして、ピキーン!と目を光らせる。
 何かを思いついたようだ。


 「君は、青葉 茂という人物を知っているか?」


 ヤオ子は、ある漫画の金髪でグラサンをかけた赤い服の人の真似をした。
 突然の口調の変化に、リーは少し驚く。


 「知りませんが……」

 「そうか……。
  では、説明するとしよう」

 「待ってください」

 「何か?」

 「ボクの怪我と何か関係があるんですか?」

 「大有りです。
  これを聞くか聞かないかで、
  リーさんが強くなれるかどうかも関係します」

 「ボクが強く……」

 「聞きますか?」

 「お願いします!」

 「いいでしょう」


 ヤオ子は、偉そうに胸を張り講釈を垂れる。


 「彼──青葉 茂は、プロのサッカー選手です。
  コアな月刊ジャンプ読者なら知っているかもしれません」

 「月刊ジャンプ?」

 「気になさらず……。
  その青葉が、ある日怪我をします」

 「怪我……ですか?」

 「はい。
  靭帯、腱、骨、全てを損傷し、立っているのも不思議でした。
  しかし、彼は日々の特訓で鍛え上げた筋肉で立てていたため、
  自分の怪我の重体さに気付きませんでした」

 「…………」

 「そして、手術をしてリハビリを迎えます。
  足は、自分のもののように動きません。
  彼がリハビリをしている間にかつての仲間やライバルは、目まぐるしい活躍をします。
  本当に治るかどうか分からない不安。
  練習出来ず、差がつくのではないかという焦り。
  そして、彼との契約を願っていたプロチームからの契約破棄の連絡……」

 「……その方は、それから?」

 「もちろん、返り咲きます」

 「どうやってですか!?」


 ヤオ子は頷く。


 「彼がしたのは、練習や特訓では出来ないことです」

 「?」

 「彼が怪我をした一番の原因は、
  未完成ながらも身につけた特殊なドリブルでした。
  まあ、怪我のダメージが蓄積していたのは確かですが、
  最終的な引き金になったのは相手選手の反則まがいのタックルです」

 「卑怯な!」

 「あたしも、そう思います。
  しかし、彼はプロならそういう状況でも怪我をしないのが条件と努力を続けます」

 「なんて凄い人なんだ……」

 (まあ、漫画の中の話なんですけどね)


 ヤオ子は右手の人差し指を立てる。


 「彼は怪我をして動けないリハビリの間、
  何をしたと思いますか?」

 「何でしょう?
  やはり、筋トレでしょうか?」

 「何が『やはり』なんですか……。
  研究です。
  自分を見つめ直していたのです」

 「研究?」

 「はい。
  多くのプロプレイヤーのビデオを見て、
  自分との違いを研究したのです。
  つまり、リーさんも体が動かないなら、
  自分を見つめ直すといいと思います」

 「ですが……」

 「まさか、今の自分が一番だとでも思っているんですか?」

 「そんなことはありません!」

 「そうでしょう。
  リーさんにも尊敬出来る体術の達人が居るはずです。
  その人を研究して自分の技に磨きをかけるのです!」

 「なるほど……。
  確かにそういうことに時間を掛けるには
  いい機会かもしれません」


 ヤオ子は、もう一度右手の人差し指を立てる。


 「もう、一つ」

 「まだ、何か?」

 「彼は自分の弱点を克服する上で、
  狙われた足を筋肉の鎧で強化していました。
  リハビリの期間に意識して筋肉をつけたのです。
  リーさんもリハビリ中は、筋力をアップさせたいところを
  しっかりと科学的に考えるといいと思います」

 「そうか……。
  やることは、まだまだ残されているようですね」

 「そう思いますよ。
  そこで……自分を見つめ直すということで、
  あたしに体術を教えてみませんか?
  意外と人に教えることで見えないものが見えたりしますよ」

 「なるほど……。
  しかし、ボクが教える立場ですか……。
  う~ん……」


 リーが悩み出すと、ヤオ子は唇の端を吊り上げる。


 (ふふふ……。
  悩んでますね。
  心が揺れてますね。
  あと一息で教えてくれるでしょう。
  さあ! リーさん!
  あたしに体術を教えてください!)


 その時、病室のドアが勢いよく開いた。


 「お前ら!
  青春してるな!」

 「……はい?」

 「ガイ先生!」


 激おかっぱに激眉毛……。
 マイト・ガイの登場である。


 「リーよ!
  何を悩む必要があるのだ?
  いい機会ではないか!」

 「しかし、先生!」

 「あの……誰?」


 二人の視線がヤオ子に移る。


 「すまんな。
  オレは、マイト・ガイ。
  リーの担当上忍だ」


 ガイはナイスガイポーズを取り、ティーン!と歯を光らせる。


 「はあ……。
  つまり、リーさんの先生ですか。
  あたしは、八百屋のヤオ子です。
  ・
  ・
  あ。
  すき焼き食べます?」

 「おお。
  すまんな」

 「人数多い方が、すき焼きは美味しいですから」


 ヤオ子は器に卵を落としてかき混ぜ、ガイの分のすき焼きの具を器に盛る。


 「どうぞ」

 「では、いただこう。
  ・
  ・
  うん! 旨いな!」

 「ありがとうございます」

 「ところで……。
  さっきの話、実に興味深い」

 「そうですか?」

 「リーよ。
  お前は、どう思う?」

 「ボクですか?
  ・
  ・
  そうですね。
  リハビリ中にもめげない熱い心を感じました」

 「うむ」

 (そんな話じゃない……)


 ヤオ子はどこかずれた話をする師弟を見て、疲れた気分がした。


 「オレも入院中に、お前に何をやらすか常々考えていた」

 (この先生……。
  重症の自分の生徒に修行させるつもりだったの?)

 「この機会に技の確認をするのはいいかもしれない。
  例えば、知らず知らずに変なクセがついていて、
  相手に何の技が来るか悟られているかもしれない」

 「なるほど。
  さすがガイ先生です!」

 (案外簡単に教えてくれるんじゃないの?)

 「そういうわけで……ヤオ子君!」

 「は、はい」

 「リーの修行に付き合ってやってくれ」

 「あ、ええ。
  あたしの方から、お願いしたことでもありますし」

 「ハッハッハッ! ありがとう!
  君は、女にしておくのが勿体ないな!」

 (どんな理由と褒め言葉なんですか?)

 「まったくです!」

 (あ。
  リーさんも乗るんだ……。
  ・
  ・
  っていうか、この先生が来てから、
  リーさんがおかしくなった?)


 ヤオ子はコリコリと額を掻くと、鍋に目を移す。
 鍋には、まだまだすき焼きが残っている。


 「さあ、もっと食べてください。
  肉体が復讐するには、栄養は大事ですよ」

 「お?
  また、変わった例えだな?」

 「気になりますね? ガイ先生!」

 (何か……暑苦しいです。
  これは、すき焼きだけのせいではありません)

 「ヤオ子君! 続きを!」

 「ああ、はい……。
  ぶっ壊された肉体は復讐を誓うんです。
  次には破壊されないように……。
  今度、このようなことが起きた時は対処出来るように……。
  ・
  ・
  そして、復讐を誓った肉体に活力を与えるのは食です!
  喰らうのです!
  栄養を!
  エネルギーを!
  力の源を!
  破壊された肉体を再生させる材料を喰らうのです!」

 (何か違う……。
  けど、これっぽい内容だった……かな?
  あの漫画は……)


 ガイとリーが顔を見合す。


 「随分と過激な表現だな」

 「そうですね」

 「間違いはありません!
  再生させる肉体に再生させるための材料がなければ、
  肉体は復讐を果たせません!
  ・
  ・
  いいですか? リーさん……喰らうのです!」


 ヤオ子がリーにズズイ!と顔を近づける。


 「りょ、了解です」

 (何か……今、一瞬テンテンが頭を過ぎりました)

 (う~ん……。
  リーは、あの手の押し切り方に弱いからな……。
  ・
  ・
  まあ、間違ってはいないな。
  しかし、栄養か……)


 この時、ガイが漢方薬入りの団子を思いついたかどうかは定かではない。
 そして、ヤオ子はサスケの居ない期間の臨時の先生を見つけるのであった。



[13840] 第21話 ヤオ子の体術修行①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:36
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 中忍試験の本戦が始まるまでの約二週間。
 ヤオ子は基本的な体術をリーに教わることになった。
 修行内容は朝修行を手裏剣術、お昼までをチャクラ吸着による木登りと忍術のおさらいに充て、お昼をリーと一緒にしてから午後は体術の修行に充てる。
 お昼はガイも時々加わり、そのまま一緒に修行を見て貰うこともあった。

 話は、体術修行初日に戻る……。


 「問題ありません。
  綺麗に手が伸び切っています」


 ヤオ子の突きを見て、リーが感想を述べる。


 「こんな、ゆっくりでいいんですか?
  ほとんどビデオのコマ送りみたいですけど……」

 「何事も基本が肝心です。
  足運びからゆっくりと確認していきましょう」

 「分かりました」


 リーの丁寧な教えに比べて、自分の取った愚かな行動がヤオ子の頭を過ぎる。
 いきなり影分身の自分との組み手……。
 組み手開始直後に同士討ちの自爆……。


 (あれは酷かったです……)


 ヤオ子は自己嫌悪しながら、体術の基礎の足運びを復讐した。



  第21話 ヤオ子の体術修行①



 リーに体術を見て貰ってから、数十分……。
 ヤオ子は複雑な顔をして基本の動作を繰り返していた。


 「リーさん。
  体術って、こんなにめんどいの?」

 「面倒臭いですか?」

 「はい。
  だって、パンチ一発出すのに……。
  歩法、体幹、型、その他諸々の条件がいるなんて、思いもしませんでしたよ。
  はっきり言いますが、
  体を動かすより頭の方がフル回転している感じです」

 「最初は、そんなものです。
  しかし、繰り返し練習することで、それが当たり前になります」

 (……どんだけ練習すれば、
  当たり前なんてことになるの?)


 ヤオ子は直ぐに成果の出ない練習に不満を持ちつつも、一方では楽観的な考えを持っていた。


 「まあ、やってることは簡単なんで、
  全然平気なんですけどね。
  体術の修行と言うより、ダンスのレッスンみたいだし」

 「全然ですか……。
  明日が楽しみですね」


 ヤオ子の軽口に、リーは微笑んでいた。


 「さあ、基本を忘れないうちに続けましょう」

 「はい」


 その日は暗くなるまで、ヤオ子は病院の中庭で基本の動作を繰り返した。


 …


 次の日……。


 「体調は、どうですか? ヤオ子さん」


 ヤオ子はプルプルと震える右手をあげる。


 「痛いです……。
  特に体の変な箇所が無性に……」


 リーは笑いながら右手を返す。


 「ヤオ子さんは、全然筋力がありませんからね。
  普段使わない筋肉が悲鳴をあげているんです」

 「そうなんですか?
  あたし、木登りとかしてるから、
  筋力ある方かと思ってたんですけど……」

 「それは、ここ最近の話じゃないですか?」

 「ここ最近です」

 「急に筋力がついたり、
  体力がついたりは絶対にしません」

 「そうですよね……」

 (甘かった……。
  あたしは、激甘だった……。
  たった一日でサスケさんとの修行の日々を
  無に返されるなんて……)

 「では、昨日の続きをしましょう」


 体術の型をしようとして、右手の掌を向ける。


 「すいません。
  待って貰っていいですか?」

 「どうしました?」

 
 首を傾げるリーに対して、ヤオ子は腰の後ろの道具入れからメモ帳と鉛筆を取り出す。


 「メモを取らせてください」

 「構いませんが……何のメモですか?」

 「あたしの筋肉痛の位置です」

 「そんなものをどうするんですか?」


 ヤオ子はメモ帳に簡単な体の絵を書きながら話を続ける。


 「今、あたしはリーさんの基本動作を
  確認しながら修行してますよね?」

 「はい」

 「と、いうことは、あたしの筋肉痛の位置は、
  リーさんが良く使う筋肉でもあります」

 「?」

 「これをガイ先生と病院の人に見て貰って、
  リーさんのリハビリのメニューを作って貰うんです」

 「ボクの……?」

 「はい。
  あたしは専門家じゃないので、リハビリのメニューなんて作れません。
  ただで教えて貰っているわけだし、少しでも役に立たないと」

 「ヤオ子さん……。
  分かりました。
  ボクもお手伝いします」

 「じゃあ、メモを取ってデータを集めましょう」

 「…………」


 ヤオ子がメモに筋肉痛の位置を書こうと鉛筆を持ったまま止まる。


 「どうしました?」

 「結局、動かないと筋肉痛の痛い位置が分かりませんでした」

 「…………」

 (この子、的を射た事も言いますが
  何処か抜けてもいますね……)

 「で、では、昨日の続きをしながらメモを取るということで……」

 「お願いします」


 こうしてヤオ子とリーは、日々のデータを取りつつ体術の修行に明け暮れるのであった。


 …


 数日後のお昼……。
 病室には、リーの他にガイも居る。
 その病室でガイが一筋の汗を流す。


 「ヤオ子君……。
  これは何かね?」

 「野菜です」

 「これがお昼かね?」

 「ご飯は病院の調理場から拝借して来ました」

 (それは泥棒なのでは……)


 色々と突っ込みどころがあるが、ガイは話を続けることにした。
 目の前にある野菜の塊が気になって仕方ない。
 そう、お昼時の病室には大量の野菜があった。


 「私は、生野菜をおかずにご飯を食べるということを
  あまりしたことがないのだが……」

 「嫌ですね~。
  ガイ先生ったら。
  そんなわけないじゃないですか。
  これから調理するんですよ」

 「何?」


 リーが補足する。


 「ガイ先生。
  きっと、驚きますよ。
  ボクも驚かされました」

 (リーは体験済みか……。
  一体、何をする気なんだ?)


 ヤオ子が黄色のピーマンを握る。


 「あたしの右手が真っ赤に燃える!
  勝利を掴めと轟き叫ぶ!」


 黄色のピーマンを空中に投げるとチャクラを練り、印を結ぶ。
 そして、左手には皿を用意する。
 パシッ!と右手で黄色のピーマンをキャッチするとバフンッ!と煙が上がる。


 「一丁、あがりです」


 ヤオ子が皿にホカホカの焼き黄色ピーマンを置き、オリーブ油を少し掛ける。


 「どうぞ」

 「う、うむ」


 ガイが黄色のピーマンに箸を突き刺し、一口。


 「こっ、これは……!
  う~ま~い~ぞーーーっ!」

 (味皇のようなリアクションです。
  ガイ先生は期待を裏切りませんね)

 「あたしが開発した焼き野菜を
  作るための忍術です」

 「ガイ先生! どうですか!」

 「まさか野菜にこれほどのポテンシャルが
  隠されているとは思わなかった」

 「ですよね。
  あたしは八百屋の子なんで色々試すんですよ」

 「イケる……。
  確かにイケるが動物性淡白が欲しい……」

 「まあ、それはあたしもリーさんも、
  ここ数日で身に染みましたね。
  なので……ついでに調理場から肉も拝借して来ました」

 (この子、やりたい放題だな……)

 「あたしの忍術の弱点は、
  味付けしながら焼けないところなんですよね。
  仕方ないから調理済みのものです」


 ヤオ子が拝借して来た焼き肉を置くと、リーは疑問を口にする。


 「ガイ先生……。
  入院しているボクは治療費を払っているから、兎も角。
  ヤオ子さんやガイ先生が食べてるものって……いいんですかね?」

 「いけない気がする……」

 「問題ないですよ。
  ちゃんと事前調査して、
  余る分の量のご飯とお肉を拝借して来てますから」

 「そうか」

 「いや、ガイ先生……。
  そこで納得しないでください」


 貴重なリーのガイに対する突っ込み。


 「リーさんもそんな小さなことを気にして、どうするんですか?
  忍は、大胆かつ繊細な行動を要求されるんですよ。
  これは大事の前の小事。
  大胆な行動の一つです」


 リーは、しみじみと呟く。


 「ガイ先生。
  最近、ボクはヤオ子さんの言動にまったく勝てません」

 「リーよ。
  オレもだ。
  何を言っても躱される。
  悪が正義になり、白が黒に塗り替えられる。
  この腹黒さは、カカシでも手に負えんかもしれない」

 「まあまあ。
  本来なら捨てられ残飯になる哀れな食材を、
  あたし達が無駄なく処分するエコですよ。
  さっさと食べましょう」


 お昼は、複雑な心境で終始する。
 そして、リーもガイもヤオ子の勢いに飲まれるしかなかった。


 …


 昼食が終わり、午後の修行に入る前にリーがメモ帳を取り出す。


 「ガイ先生。
  少し見て貰っていいですか?」

 「うん? 何だ?」

 「ヤオ子さんと修行をして取ったデータです」

 「データ?」


 ガイがリーからメモ帳を受け取ると、目を見開く。


 「これは……!
  お前らって奴は!
  本当に青春してるなーっ!」

 「どうでしょう?」

 (ああ……。
  ここから暑苦しくなるんですよね……)


 ヤオ子は、ここ数日で慣らされたガイの欠点的性格に溜息を吐く。


 「リーよ!
  これは青春の宝の一つだ!
  努力し集めたこれらのデータは、
  きっと無駄になることはないだろう!」

 「はい! ガイ先生!」

 「オレもこういう具合に研究したのは初めて見た。
  そして、これにより新たな修行方法も思いついた!」

 「本当ですか!? ガイ先生!
  ……しかし、残念です。
  ボクは、それを試すことが出来ない!」


 リーとガイの視線がヤオ子に移る。


 「ちょうどいい!
  ヤオ子君!
  試してみないか?」

 「は?」

 「羨ましいです!
  ガイ先生、直々に教えて貰えるなんて!」

 「危なくないですよね?」

 「当然だ!
  失敗しても肉離れ程度だ!」

 「さあ! ヤオ子さん!」


 ズズイ!と迫るガイとリーに、ヤオ子は吼える。


 「はい! ストーップ!
  おかしなこと言いましたよ?
  何ですか! 今のサスケさんを彷彿とさせるノリは!」

 「だから、新しい修行だ!」

 「そうです!」

 「『肉離れ』ってキーワードは、どこいった!」

 「ヤオ子君!
  忍は、大胆かつ繊細な行動を要求される。
  これは大事の前の小事。
  大胆な行動の一つだ!」

 「さっき、あたしが言った売り文句じゃないですか!」

 「そうだ!
  自分の発言には責任を持たねばな!」


 ガイはナイスガイポーズを取り、ティーン!と歯を光らせる。


 (口は、山葵の元──いや、災いの元です……)

 「ヤオ子さん!
  頑張ってください!」

 (こっちはこっちで期待の目を……。
  ああ、暑苦しい……)


 ヤオ子はガシガシと頭を掻く。


 「分かりました!
  あたしも女の中の女です!
  やってやろうじゃないですか!」

 「よく言った!」

 「ヤオ子さん!
  青春パワーです!」


 そして……。


 「ぎゃ~~~!
  やっぱり、こいつらも加減ってもんが分かってねー!
  捻れる! 捻れ切れるって!」


 ヤオ子の凄惨な叫び声が院内に響いた。



[13840] 第22話 ヤオ子の体術修行②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:37
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ガイの提案した修行方法は、その日のうちに封印された。
 ヤオ子が涙目でギブアップしたためである。
 そのヤオ子は両手を地面に手を着けて項垂れていた。


 「あの日から泣かないと誓ったのに……。
  ううう……。
  あんまりだ……」

 「まあ、そう言うな。
  これで危ない修行だと分かったから、
  大事なリーに怪我をさせることもなかったんだ」


 ヤオ子がキレた。


 「お前、そこに直れ!
  ぶっ飛ばしてやりますよ!」

 「ヤオ子さん!
  気を付けてください!
  ガイ先生は強いですよ!」

 「リーさん!
  あなたも大概なボケ体質ですね!
  纏めてあの世に送ってやりましょうか!?」


 リーとガイの師弟コンビに、ヤオ子のイライラは蓄積されていった。



  第22話 ヤオ子の体術修行②



 ヤオ子は怒りを静めると、溜息を吐く。


 (分かったことがあります。
  リーさん一人だと、問題はないんです。
  ・
  ・
  ガイ先生です……。
  ガイ先生というオプションパーツが
  リーさんという制御回路に組み込まれると壊れるんです。
  制御回路よりもオプションパーツの優先順位が高いから壊れるんです。
  ・
  ・
  ガイ先生、リーさん、誰かで多数決をしてはいけません。
  リーさんは、必ずガイ先生に靡くのでガイ先生の意見しか通らないんです。
  肝に銘じました。
  この失敗は、二度としません……)


 ヤオ子は、リーとガイの制御方法の一つを胸に刻み込む。
 そんな目に見えない努力をしているヤオ子を置いて、ガイがリーに話し掛ける。


 「ところで……リーよ。
  修行の方は、どうなのだ?」

 「順調だと思います。
  そのメモ帳にデータが蓄積されたのも、
  ヤオ子さんの頑張りがあったからです」

 「ほう」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「えへへ……。
  褒められると照れますね」

 「では、オレと組み手をしてみるか?」

 「ヤダ」


 ヤオ子は疑いの目でガイを見ている。
 この人は信用出来ない……と。
 ガイは両手を腰に当て、溜息を吐く。


 「まだ、さっきのことを気にしているのか?
  心の狭い奴だな」

 「気にしますよ!
  打たれ強いあたしが泣きそうになったんですからね!
  あたしは、女の子なんですよ!」

 「だらしのない……」

 「何言ってんですか!?」

 「テンテンだったら、
  そんな泣き言は言わんぞ」

 「泣き言……?
  馬鹿じゃないんですか!?
  肉離れの一歩手前までいってんのに!」

 「だから、テンテンはそんな泣き言を言わん」

 「何処の変態マゾ女だ!」

 「嘘じゃありません!
  テンテンは、溜息を吐いた後にちゃんとやります!」

 「諦め癖がついてんですよ!」

 「そうだぞ。
  新しい修行も真剣に取り組み、
  怪我なんぞする前にちゃんと脱出する」

 「警戒されてんですよ!
  いい加減、気付け!
  お前らのチームはガイ先生とリーさんが延々とボケて、
  そのテンテンさんって人が突っ込み役だろ!?」


 ガイは顎の下に手を当てる。


 「う~ん……。
  言われてみれば、そうかもしれんな」

 「お前ら、テンテンさんを神として崇めろ!」

 「そこは問題ない!
  オレ達はチームだからな!」

 「はい!
  心で繋がっています!」

 (ダメだ……。
  繋がってんのはリーさんとガイ先生の頭ん中だけだ……。
  なんか会ったことないテンテンさんに
  凄く同情の念と仲間意識が芽生えた……)


 ちなみにもう一人、日向ネジという被害者も居る。


 「手加減はする。
  安心して掛かって来い」

 (その安心が、さっき根底から覆されたんですよ……)


 ヤオ子は溜息を吐く。
 きっと、この二人は分かってくれないと……。
 そして、数日の間に学んだリーとの修行を頭でおさらいする。


 「…………」


 ヤオ子は頭の中の雑念を払うと、無言で構えを取る。


 「うむ。
  基本に忠実ないい構えだ。
  本気で来なさい」


 ヤオ子は頷くと、先に仕掛ける。
 ガイの懐まで入り、突きを出す。


 (いい突きです! ヤオ子さん!)


 ガイは半身でヤオ子の突きを躱す。
 だが、ヤオ子の攻撃は続く。
 突きから裏拳へ。
 反転して下段への蹴り。
 それらを全て躱される。


 (あれ?
  変だな?
  何で、当たらないの?)


 ガイに向かうパンチも蹴りも全て躱される。
 リーとの修行で基礎が出来たはずの体術が当たらないのは納得できない。


 (基礎を覚えて、攻撃は最短距離を真っ直ぐに進んでるはず!
  目標に向かう時間だけを考えれば、明らかに早くなってるはずなのに!)


 やがてヤオ子は攻め疲れて息が切れると、両膝に手を着き頭をもたげる。


 「おかしいです……。
  体術習ったのにかすりもしない……」

 「お終いか?」


 ヤオ子は両膝にてを着いたまま、顔を上げる。


 「作戦タイムはありですか?」

 「なしだ」

 「じゃあ、ギブアップ!」

 「諦めの早い子だな」


 ヤオ子は地団太を踏む。


 「だって!
  一発も当たらないんだもん!
  こんなのつまんない!」

 (子供だな……)


 ガイは腰に手を当てリーに話し掛ける。


 「リーよ。
  フェイントの類は教えていないのか?
  まだ、筋力の足りていないヤオ子君は、
  スピードが完全ではないからオレには当たらんぞ」

 「ガイ先生。
  まだ、教えてから数日ですので基本だけです」

 「それもそうか。
  ただ、どれもいい動きだった」

 「そうなんですか?」

 「オレが簡単に躱せたのが証拠だ」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「何で、躱されていい動きなんですか?」


 ガイは腕を組んで頷く。


 「うむ。
  リーに体術を教えたのはオレだ。
  つまり、リーの体術の癖は全て把握している。
  故にヤオ子君の動きは全て予想出来る」

 「……当たらないわけです」

 「しかし、それを正しく予想出来たということは、
  リーの教えをしっかりと体現していたということになる」

 「なるほど。
  さすがガイ先生です。
  ・
  ・
  口癖が移った……」


 ヤオ子は肩を落とす。
 その前ではガイがリーに声を掛けていた。


 「リーよ。
  しっかり自分を見つめ直しているようだな」

 「ありがとうございます! ガイ先生!」

 「では、続きだ」

 「へ?」


 顔を向けたガイに、ヤオ子は顔を顰める。


 「いくらやっても、
  当たらないじゃないですか?」

 「何を言っている。
  今度は、受け側だ」

 (それを回避したいんです。
  手加減知らずだから……)


 ヤオ子が嫌そうな顔をしていると、リーがガイに声を掛ける。


 「ガイ先生。
  お願いがあります」

 「何だ?」

 「ヤオ子さんは、組み手は初めてです。
  ボクが相手を出来ないので型しか知りません」

 「そうか。
  では、防御も知識しかないのか」

 「はい。
  だから、慣れるまでは、
  普通の人でも見えるスピードでお願いします」

 「分かった」

 (……何か変な言葉が入ってなかった?
  普通の人でも見えるスピード?
  何それ?
  どういうこと?)


 ガイが構えを取ると、疑問符を浮かべていたヤオ子も慌てて構える。


 「問答無用ですか……」


 攻め手受け手が替わり、体術の模擬戦が再開される。
 ガイがヤオ子に攻撃を仕掛ける。
 上段の突き……。


 「はう!」


 拳がぶつかった後に顔面を防御。
 下段の足払い……。


 「あいた!」


 脛に当たった後にジャンプ。
 腹への掌底突き……。


 「げふ!」


 もろに入った後にバックステップ。


 「ヤオ子……」

 「……はい?」

 「この大馬鹿ヤロー!」


 ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「った~~~!
  最後のが一番痛かった!」

 「何だ! 今のは!」

 「ガイ先生の真似……」

 「ヤオ子さん……。
  全然出来てませんよ」

 「だって!
  さっき、あたしの攻撃を予想できるって!」


 ガイが呆れた顔で口を開く。


 「君は、馬鹿か?」

 「どうして?」

 「オレが予想してるのは攻撃に移る前だ!
  攻撃された後で防御して、どうする!?」


 ヤオ子は両手の人差し指をチョンチョンとくっ付け、上目づかいになる。


 「でも……。
  予想するなら、しっかり見ないと……」

 「見過ぎだ!
  君は、相手が拳を振り上げた時、どうする!?」

 「逃げます!」

 「馬鹿ヤロー!」


 ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「手で防ごうとするだろう!」

 「まあ……。
  咄嗟のことなら」

 「なら!
  何で、防御がそれより遅れる!」

 「…………」


 ヤオ子が顎の下で指を立てながら、首を傾げる。


 「そうですね?」


 ガイがリーに振り返る。


 「リーよ。
  この子は、本物の馬鹿なのか?」

 「ボクも始めはおかしいと思ったのですが、
  どうもヤオ子さんは、頭で納得してからでないと
  行動に移れないような癖があります」

 「どういうことだ?」

 「そうですね……。
  最初に突きの型を教えたんですが、
  納得いかないといつまでも同じことを繰り返します。
  壊れた鳩時計のように……。
  始めは足から腰までで、しばらく止まってました」

 「……変な子だな」

 (そして、リーよ……。
  お前は、随分と粘り強いな)


 リーがヤオ子に話し掛ける。


 「今度は、何が納得いかないんですか?」

 「え~と……ですね。
  あたしは防御の型を、
  今、頭で考えてから実行しています」

 「はい」

 「それを選択する情報を揃えているうちに
  ガイ先生の攻撃が来る感じなんです。
  それで、しっかり見て攻撃を予想するとああなります。
  ・
  ・
  ガイ先生は予想してから動いているのに、
  何で、遅れないんですかね?」


 ガイがリーの話し方を参考に質問する。


 「ヤオ子君。
  君は、オレの攻撃を突きと判断するのを
  何処で予想しているのかな?」

 「え~と……。
  腕が伸び切った時?」

 「それじゃあ、遅い。
  伸びた時は当たっている。
  肩のどちらかが下がった時までに判断してみろ」

 (……肩?
  そうか……。
  普通は、引いた方から攻撃が始まるから……)


 ヤオ子は黙って構えを取った。


 (何か掴んだか?)


 ガイも構える。
 ガイが右肩を下げ半身になり、右の拳を突き出す。


 「…………」


 ヤオ子は止まったまま避けずに、もろにおでこで受けた。
 そして、ゆっくり右手を上げて人差し指を立てる。


 「もう一回。
  今度は、足でお願いします」

 (何か……不気味だ)


 今度は同じ型から、ガイは右の中断蹴りを仕掛ける。
 ヤオ子は、またもろに受ける。


 「もう一回」

 (だ、大丈夫なのか?)


 ガイは戸惑いながら左の拳を突き出す。
 今度は、右に飛んで来る拳をヤオ子は左に躱した。


 (そうです。
  こっちの方向……。
  これなら手でも足でも威力半減の上に、
  万が一の時は右手で防御出来る。
  ・
  ・
  予測ってこういうことか……)


 ガイは続けて攻撃を仕掛ける。
 それをヤオ子は、徐々に躱すか防御することを実行し始める。


 「リーよ。
  上達しているんだが……。
  何だ? この幽鬼のような覇気のなさは?」

 「情報収拾に集中していますね。
  多分、しばらく反応が返って来ません」

 「嫌な集中の仕方だな」


 少しずつ情報を集めながら、ヤオ子の防御が上達していく。
 ガイがフェイントを入れて右肩を下げて左の拳を突き出すと、それをヤオ子は躱して見せた。


 「なんと!?」

 (この時は、射程距離で判断……。
  左の拳が届く距離なら左手の右足……。
  左が動いたら右へ……。
  右が動いたら左へ……)


 ヤオ子の目に生気が戻って来る。


 「なるほどです。
  道理で、あたしの攻撃はガイ先生はおろか、
  サスケさんにすら当たらないわけです。
  あんなに大きく振りかぶって……。
  ・
  ・
  鴨川会長……。
  今なら分かります。
  小さく鋭く早くですね!」


 ヤオ子がガイの攻撃を受ける側から攻撃する側に変える。


 「見えた! 見えたぞ! 水の一滴!
  肘打ち! 裏拳! 正拳! うりゃぁぁぁ!」

 「この大馬鹿ヤロー!」


 ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「素人が攻撃方法を叫ぶな!
  丸分かりだ!」

 (ヤオ子さん……。
  途中まで良かったのに……)


 頭を押さえて蹲りながら、ヤオ子は叫ぶ。


 「った~~~!
  でも! 戦いにおいては叫ぶものでしょ!」

 「ヤオ子さん……間違っています」

 「その通りだ!
  技の名前を叫んでいいのは技を極めてからだ!」

 「あ~……。
  極めればいいんだ……」

 「その通りだ! 見ろ!」


 ガイが全力で右拳を突き出した。
 風圧がヤオ子のおでこに掛かる髪を吹き上げると、ヤオ子は目を擦り瞬きをする。


 「見えない上に風圧が来たんだけど……」

 「極めるとはこういうことを言うんだ!」


 ヤオ子がリーに振り返る。


 「はい。
  ボクも出来ます」

 「ここにも人間を捨てた人達が……」

 「これが出来るようになるまで技を叫ぶな!」

 「え~!」

 「甘ったれるな!」


 ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ガイ先生……。
  もう拳での会話はいらない……。
  分かったから……」

 「そうか。
  聞き分けのいい子だ」

 「女子供でも容赦ありませんね?」

 「これは愛の鞭だからな」

 「当然、テンテンさんも?」

 「当然だ」

 「……今、無性にテンテンさんに会って、
  こいつらの完璧な制御方法を聞きだしたい」


 項垂れるヤオ子に、ガイは声を掛ける。


 「しかし、リーほどではないにしろ、
  中々、見込みがあるぞ」

 「はあ……。
  ありがとうございます」

 「この調子で精進するといい。
  ・
  ・
  リーよ。
  メモ帳は写しを貰って行く」

 「お医者さんに見せるだけですから、
  お貸ししても構いませんが?」

 「そのメモ帳……。
  リハビリのためのデータ収拾だけではない。
  それを見れば自分の動きが頭に浮かぶはずだ」


 ガイは、メモ帳の内容を写し終えるとリーとヤオ子に手を上げて歩き出した。。


 (これが何かの役に立てばいいのだが……)


 ガイはリーの怪我を完治させる方法を考えつつ、努力を諦めない弟子のことを思った。



[13840] 第23話 ヤオ子の中忍試験本戦・観戦編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:37
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケの中忍試験本戦が始まり、それが終わればいつも通りの生活スタイルに戻っていくはず。
 ヤオ子の体術修行は終わりを迎える。
 ヤオ子はリーに丁寧に頭を下げる。


 「リーさん。
  長い間、ありがとうございました」

 「ヤオ子さん。
  今回、教えたのは基礎です。
  そして、ヤオ子さんは絶対的に筋力が足りません。
  しっかり修行してください」

 「そうですね。
  このままでは、サスケさんを亡き者に出来ません」

 「は?
  今、何と……?」


 ヤオ子は笑って誤魔化す。


 「あはは……。
  気になさらず。
  あたしは、あのドSに一発かましたいだけですから」

 「確か……。
  まだ、一回も当てられてないんですよね」

 「そうなんですよ。
  まあ、当たった時がサスケさんの命日ですけどね」

 (『爆殺! ヤオ子フィンガー!』で……)

 (この子に体術教えちゃいけなかったんじゃ……)


 リーは体術を教えたことを少し後悔した。



  第23話 ヤオ子の中忍試験本戦・観戦編



 中忍試験・本戦当日……。
 本戦会場にて、ヤオ子は原作キャラクター達とかなり離れたところに居る。


 「サクラさんやヒナタさんに挨拶したかったんだけど……。
  凄い込み具合で離れたところに来ちゃったな」


 ヤオ子の周りには、上忍、中忍、下忍を問わずに観戦席が埋まっている。


 「しかし……。
  何で、あたしの周りには忍者しか居ないの?
  一般人は? 木ノ葉の庶民は?」


 ヤオ子がキョロキョロと周りを見回す。


 「もしかして……。
  席が空いてたのって、皆がこの人達を避けていたからでは?
  ・
  ・
  面倒臭いからって、弟を蔑ろにしなければ良かった……。
  何か一人だけ場違いなところに居る気がする」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「それにしても……。
  もう、他の選手の皆さんが集まっているのに、
  サスケさんの姿がありませんね?
  ・
  ・
  気配をこの会場とは別のところに感じます」


 ヤオ子はトラウマにより、サスケの大体の位置を把握できる。


 「きっと、ワザとですね。
  サスケさんの新手のギャグです。
  一人だけ目立とうとしてもバレバレです」


 ヤオ子が両手を膝に乗せて頬杖をついていると、本戦会場に三代目火影の声が響く。


 「えー……皆様。
  この度は、木ノ葉隠れ中忍選抜試験にお集まりいただき、
  誠にありがとうございます!
  これより、予選を通過した八名の本戦試合を始めたいと思います!
  どうぞ! 最後までご覧ください!」


 中忍試験本戦開始の演説と共に、会場に歓声が沸く。
 己が里の忍の力を見せ付けるための試合でもある中忍試験の本戦……各国から集まった人々の盛り上がりも一入力が入っていた。
 しかし、そんな事情など知らないヤオ子は、ただ三代目火影の演説だけに見入っていた。


 「優しそうなお爺さんですよね。
  あれが火影とは思えませんよ」


 感想は淡白なものだったが……。
 そして、第一試合が始まろうとしていた。


 …


 会場の真ん中には、うずまきナルトと日向ネジが残る。
 ヤオ子は、日向ネジを見るのは初めてである。


 「あの人の目……ヒナタさんに似てますね」

 「日向一族が相手か……」

 「ん?」


 ヤオ子は名も知らない隣の忍者の声に聞き耳を立てる。


 「日向一族秘伝の柔拳に、
  あの子が何処までやれるか」

 (そうです……。
  ナルトさんはアカデミーを出て数ヶ月でした。
  ・
  ・
  ただ……うちのドSが波の国から帰って来た時に、
  かなり人間離れして帰って来ましたからね。
  同じ班のナルトさんも、もしかしたら……)

 「しかも、日向の方は下忍の任務を一年こなしている。
  これだけでも経験に差がある」

 (中々の情報通ですね……隣の方。
  続きの解説をお願いします)

 「問題は日向の柔拳で攻撃される……なんだっけ?」


 ヤオ子はこけた。
 情報通だと思っていたのに、いきなり解説が途切れた。
 ヤオ子の隣の忍者Aは、忍者Bに質問する。


 「オレが知るかよ」

 「え~っと……」


 ヤオ子はイライラする。
 そして……。


 「点穴!」

 「そう! それ!」


 忍者A,Bが、ヤオ子を見る。


 「す、すいません!
  昨日、
  『日向危機一髪! 怒りのサマーソルトキック!』
  という本を見たので……つい!」

 「凄いタイトルだな……」


 ヤオ子は咄嗟に嘘をついて誤魔化した。


 「あはは……」

 (我ながら何という酷い嘘を……。
  あのタイトルのセンスはないです。
  サマーソルトキックって……。
  柔拳は、何処に行った……)


 忍者Aが続きを話す。


 「柔拳でその点穴を正確に突くとチャクラを止めることが出来るらしい。
  問題は対戦相手がどうやって防ぐかだ」

 「なるほどな」

 (なるほどです。
  ナルトさんの作戦が鍵のようですね)


 開始の合図が掛かると、ナルトとネジが少し会話をしているようだった。
 会話が終わり、ネジが構えを取るとナルトは影分身の術を使う。


 「分身か……」

 「的を絞らせない気だな」

 (ナルトさん!
  四対一でフルボッコです!)


 しかし、ヤオ子の心の声援も虚しく、攻撃を仕掛ける影分身はネジに次々に倒されていく。
 あまりにも呆気なく倒されるので、ヤオ子は忍者Aに質問する。


 「すいません」

 「どうした? お嬢ちゃん?」

 「さっきの攻撃……。
  何で、後ろからなのに躱されたんですか?
  白眼って経絡系を見極めるだけじゃないんですか?」


 忍者Aはネジを見ながら語る。


 「いや……見えているんだ。
  白眼の視界はとてつもなく広いらしい」

 「じゃあ……後ろも?」

 「多分な」


 ヤオ子もネジに視線を移すと、死角なしという状態に唾を飲み込んだ。
 そして、律儀に説明してくれた忍者Aに頭を下げる。


 「ありがとうございました」

 「他にも気になったら聞きな」

 「ありがとう、お兄さん」


 ヤオ子は大胆な(図々しい)性格で忍者Aと協力関係を結んだ。


 「それにしても、日向の体術は凄いな。
  四対一を何でもないように」

 (確かにそうなんですよね。
  影分身が消えたのは柔拳叩き込まれて
  内蔵バーンなんでしょう。
  ・
  ・
  あたしもリーさん達のお陰で、
  少しだけ動きを追えるんですが……早いです。
  そして、綺麗です。
  一直線に相手の急所を刺すみたいに……。
  ・
  ・
  ナルトさん……)


 ナルトがネジの柔拳に対抗するため、一気に影分身の数を増やす。
 忍者Bが、それを見て呟く。


 「だな……。
  四人で無理なら手数を増やすしかない」

 (凄い……。
  あんなに分身してる)

 「でも……あれ高等忍術の影分身だろ?
  チャクラは大丈夫なのか?」

 「「考えてないんじゃないの?」」


 忍者Bの疑問に、ヤオ子と忍者Aの声が重なった。


 …


 ヤオ子の目から見ても実力の差があり過ぎる気がした。
 多人数相手でも平然と動き続けるネジ。
 ナルトの囮作戦で決定的な瞬間を作るも、秘伝体術の回天で全て弾き返される。
 そして……。


 「柔拳法……。
  八卦六十四掌」


 ネジの繰り出す高速の突き。
 ナルトは柔拳により全身の点穴を突かれてしまった。


 「終わったな」

 「ああ。
  点穴を突かれた。
  もう、チャクラを練れない」

 「…………」


 ヤオ子は点穴を突かれても、尚も立ち上がろうとするナルトに声援を送る。


 「ナルトさーん!
  頑張れーっ!」


 ヤオ子の声援は、八卦六十四掌の決まった歓声に掻き消されてしまった。
 それでも何も出来ないここで、声援を送るだけでもしたかった。


 「お嬢ちゃん。
  もう、無理だと思うぜ?」

 「いいんです。
  あたしは、ナルトさんの友達だから応援するんです」

 「でもなぁ……」


 ナルトがゆっくりと体を起こし始める。


 「おいおい……。
  まだ、やるのかよ」

 「いい加減諦めろよ」


 ヤオ子はカチンと来る。
 簡単なことだが、ヤオ子はナルトを友達だからという単純な理由でしか応援してない。
 故に、勝手に自分の中で知らないネジは敵、師匠であり友達のナルトは味方の構図が出来ている。
 ヤオ子は奥歯を噛み締め、呟く。


 「まだ……分からないじゃないですか」

 「どうして?」


 ヤオ子と忍者A,Bの会話とはお構いなく、会場の中央ではナルトに問われたネジが日向の憎しみを語っている。
 その会話がヤオ子達に届くことはなかった。


 「ひ、瀕死の状態からセブンセンシズが目覚めて
  コスモが爆発するかも!?」

 「何? セブンセンシズって?」

 「あと……コスモ?
  分かんないんだけど?」

 (ううう……。
  聖闘士星矢を知らないなんて……)

 「じゃ、じゃあ……。
  怒りによって目覚めるとか?」

 「何が?」

 「……っ!」


 ヤオ子は何も言えずに押し黙る。


 (悔しいです!
  言い返したいけど何も言えない!
  ・
  ・
  ナルトさん!)


 『んで……それが何?』と、ナルトは呟くとチャクラを練り始めた。


 「……っ!
  師匠とあたしにだけあるエロパワーが目覚めんですよ!」


 ヤオ子の憤慨に忍者A,Bが大笑いする。
 その時、会場の中央でナルトは九尾のチャクラを練り始めた。


 「な、何だあれは!?」


 忍者Aが声をあげる。


 「見ましたか!?
  あれがエロパワーです!」


 大きな間違い。


 「点穴を突かれているのにチャクラが!?」

 「エロに不可能はありません!
  ナルトさん! 頑張れーっ!」


 そして、九尾のチャクラを練り終えたナルトが攻撃に移る。
 その動きに忍者A,Bどころかヤオ子も絶句する。


 「「「は……早い!」」」

 (何これ!?
  いきなり早くなった!?
  サスケさんが足にチャクラを集中させた時より早い!?)


 手裏剣が飛び交い、両者の投げたクナイがぶつかり甲高い音を会場内に響かせる。


 「これエロパワーとかじゃ
  説明つかないだろう!?」

 「エロパワーですよ!
  エロパワー以外にどうやって説明するんですか!?」

 「何にしても信じられないぐらいの
  チャクラを練り込んでいる!」


 やがて、最後の衝突が起きるとナルトとネジが弾け飛ぶ。
 その衝突で弾かれた二人は互いに地面に激突し、会場内は砂煙に覆われた。


 「……生きてんのか?」

 「……どうなった?」


 砂煙が晴れると両者ノックダウンしている。
 そして、ネジが先に立ち上がると何か呟く。
 しかし、そのネジを地面からナルトが突き上げた。
 直後、ノックダウンしたと思っていたナルトが煙となって消えた。


 「影分身だったのか……。
  日向が……負けたのか?」

 「そうなんじゃないですか?
  あの審判の人が言ってますよ」

 「凄いな……。
  結局、何が何だか分からなかったが」

 「全ては、エロパワーの恩恵です!」

 「本当か? お嬢ちゃん?」

 「はい。
  あのチャクラの感覚は、
  あたしのチャクラの感覚に通じるところがあります」

 「…………」


 この会話のせいでナルトの九尾の力はエロパワー説が一部に流れたとか流れないとか……。

 ヤオ子達の話とは別に会場は大歓声に包まれている。
 傍から見れば見応えのある試合だった。
 そして、ナルトが九尾の力をコントロールして使ったことは、木ノ葉の里の大人達を驚かせている。
 覚めやらぬ会場の中で、本戦は次の試合の準備に移行していた。


 …


 いい試合を見た後で、思わず息を吐き出す。
 ヤオ子と打ち解けてしまった忍者A,Bが会話をする。


 「いい試合だったな」

 「ああ。
  驚いたな」

 「…………」

 「どうしたんだ?
  静かになって?」

 「ちょっとした疑問なんですけど……。
  お二人は、中忍の方ですか?」


 忍者A,Bが頷く。


 「下忍であれだけの破壊力でしょ?
  お二人は、もっと凄い化け物なんですか?」

 「「一緒にするな」」

 「違うの?」

 「合格基準が毎回違うんだ」

 「そうなんですか?」

 「ああ。
  試験官も毎回違うしな」

 「何で?」

 「余所の里と合同でしているんだから試験官が毎回木ノ葉だったら、
  贔屓してるんじゃないかって思われたりするからじゃない?」

 「なるほど」

 「だから、時には戦闘能力じゃなくて
  分析能力が評価されて合格したりして要素は様々だ。
  中忍は、隊のリーダを任されることもあるから、
  リーダーとしての資質も重要視される」

 「へ~。
  もう一ついいですか?」

 「いいよ」

 「今回、本戦に八人だけですよね。
  それから、更に削られるんですよね?」

 「まあな」

 「…………」


 ヤオ子は眉間に皺を寄せて考え込む。


 「どうした?」

 「中忍試験って大名呼んだり、他国から人呼ぶのを考えると、
  年に十回も二十回もやりませんよね?」

 「当たり前だろ?」

 「…………」


 更にヤオ子は考え込む。


 「どうした?」

 「いや、素朴な疑問なんですけどね。
  忍者って死が付きまとう危険なお仕事じゃないですか」

 「そうだな」

 「それなのに中忍になる人数が
  これだけって少な過ぎません?」

 「…………」


 忍者A,Bは沈黙する。


 「だって、木ノ葉だけじゃなくて他国と合同でしょ?
  八人全員合格しても中忍増えない国もあるじゃないですか。
  しかも、合格する人数少ないし……。
  需要と供給のバランスは取れているんですかね?
  どこかでインフレが起きてんじゃないですか?」

 「確かに……。
  もし戦争でも起きて中忍が百人死んだとする。
  年二回中忍試験あったとして、合格者八人を毎回他国と取り合ったら……。
  里の中忍を百人増やして元に戻すのに一体何年掛かるんだ?」

 「でしょ?
  それだけじゃないですよ。
  毎年アカデミーを卒業する下忍は、
  中忍に合格する人数より多いはずでしょ?

   火影
   ↓
   上忍
   ↓
   中忍
   ↓
   下忍

  の三角形の下忍だけ、すん……ごいことになると思いません?
  しかも、木ノ葉だけじゃありませんよ?
  他国もですよ?」

 「……この里、大丈夫なのか?
  いや、忍者のこの構図は大丈夫なのか?」

 「不安が増すでしょ?」

 「オレ、今まであまり気にならなかった」


 ヤオ子は右手の人差し指を立てる。


 「多分ですけど……。
  きっと、裏で掴ませてますね」

 「「掴ませる?」」


 ヤオ子は指で丸を作る。


 「マネーです」


 忍者A,Bが吹いた。


 「それはない!」

 「何で?」

 「そんなことしたら他国との関係が狂うだろ!」

 「じゃあ……こっそり暗部行きですかね?」

 「「え?」」

 「下忍から、いきなり引き抜いて暗部に入れるんです。
  火影直轄だから記録も分からず真相は闇の中です。
  そして……条件はやっぱりマネーです」

 「だから……ないって!」

 「ないですか?」

 「ああ」

 「じゃあ……」

 「まだ、考えてるのか?」


 ヤオ子は頷く。


 「かつての忍界対戦の時に勢いで上忍と中忍の役職を
  あげすぎちゃってデフレ状態になってしまったとか?」

 「「は?」」

 「よく中小企業にあるじゃないですか。
  役職が微妙なところ。
  評価の対象がないから、皆、主任か副主任にしちゃうヤツ。
  もしくは、~補佐とか、~代理とか。
  あれがあるだけで月々に少し手当てがつくんですよ。
  それで会社は『勘弁してね~』ってなるんです。
  ・
  ・
  それと同じで活躍した忍者に給料払えなくなった里の上層部が、
  上忍と中忍の役職をバラ撒いて手当てだけつけたんです。
  だから、今の時代は上忍と中忍が溢れ返っているから、
  中々、中忍になれないんです」

 「世知辛いな……」

 「ああ……」

 「忍界対戦後には各里に上忍と中忍は溢れ返っていますから、
  各里共に『中忍いらねーよ』って状態です。
  そこで『合同で中忍試験やって合格の門を狭くしねぇ?』みたいな話し合いが起きて、
  今のように中忍試験が行われているのです」

 「……微妙な説得力がある」

 「……頼むから、そんな理由でないことを望む」

 「まあ、気になさらずに。
  もし、あたしが言った通りなら、
  お二人は狭き門を通ったエリート忍者ですよ。
  それこそ昔の中忍の人よりも」

 「素直に喜べない……」

 「火影様の笑顔の裏には、
  そんな腹黒い設定が……」

 「あれ?
  もう、試合終わりそうですね」

 「え?」

 「何?」


 三人が会場の真ん中を見ると、シカマルがテマリを影真似の術で拘束していた。


 「ああ……そうだな。
  もう、どうでもいいや」

 「そうですか?
  ・
  ・
  それにしても……。
  相手を影で捕まえて同じ行動を取らせるなんて、
  とても面白い術ですね」

 「あの女が馬鹿なんだよ」


 三人はシカマルがテマリを縛るまでの過程を見ていない。
 そして、シカマルが手を上げる。


 「ギブアップ」

 「…………」

 「「「何でだーっ!?」」」


 理由も何も分からない三人は、揃って声をあげた。
 一番大事なものを見逃した三人には、何が何だか分からなかった。
 そして、残すはサスケと我愛羅の試合だけになった。



[13840] 第24話 ヤオ子の中忍試験本戦・崩壊編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:38
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子はシカマルの活躍を見逃した。
 何も分からずに見逃した。
 故にいきなり『ギブアップ』をした理由も分からない。
 試合会場の真ん中を指差し、砂の忍テマリを指差しながらヤオ子は訊ねる。


 「あの女の人の幻術ですかね?」

 「違うんじゃないか?
  納得いかない顔してるし……」

 「まあ、いっか……。
  次は、お待ちかねのうちはの試合だ」

 「お待ちかね?」


 ヤオ子は首を傾げた。



  第24話 ヤオ子の中忍試験本戦・崩壊編



 ヤオ子は知識があっても、今一、ウチハ一族の価値というものが分かっていない。
 何故なら、ガイはサスケ以上の実力者だったからだ。
 つまり、一族の秘伝も一般忍者もそんなに差がない。
 使える忍術が特殊なだけ。
 それは得意なチャクラ性質が個々に違うのだから、それと同じ程度にしか考えていない。


 「何で、ドS──じゃなくてサスケさんが特別なんですか?」

 「ウチハ一族を知らないのか?」

 「知ってますよ。
  写輪眼を使えるんでしょ?
  あと……火遁が得意な一族でしたっけ?」

 「それだけじゃない」


 ヤオ子は『他にも何かあるの?』と視線を投げ掛ける。


 「木ノ葉の隠れ里のエリート一族がウチハ一族だ」

 「エリート?
  あのサスケさんが……。
  ・
  ・
  あ~。
  だから、あんなスカした陰険な態度を取ってんですか。
  道理で、どっかの惑星王子みたいなプライドの高さです。
  まあ、キュイみたいに汚い花火にされないだけマシですけどね」


 忍者A,Bは、ヤオ子の意味不明な言葉に首を傾げる。
 ヤオ子は、あれらの漫画を本当に木ノ葉の何処から拾って来たのか。


 「しかし、そのエリート忍者は何処ですかね?
  まだ、見えないようですが?」

 「まさか……棄権?」


 ヤオ子が目を閉じると、トラウマによって覚醒した副産物でサスケの位置を探る。


 「いや、もう近くに来てます」

 「分かるのか? お嬢ちゃん?」

 「ええ。
  あたしは、サスケさんの気配が分かります。
  トラウマによって……」

 ((何故、トラウマ?))


 そして、会場中央で木の葉を巻き上げ旋風が起きる。
 それを見て、ヤオ子は唇の端を吊り上げる。


 「あの派手好きが……。
  やっぱり、新手のギャグです。
  ネタ元は、あの白髪眼帯忍者ですね」


 会場中央の審判がサスケに近づくと訊ねる。


 「名は?」

 「うちは……サスケ」


 サスケの登場に、会場中が盛り上がる。


 「皆、この試合を
  目的に来たようなもんだからな」

 「そうだな」

 (何か……。
  あたしだけ勘違いしてる?
  ひょっとしてサスケさんって凄いの?
  ・
  ・
  あ、装備が変わってる……。
  黒で統一しましたか……。
  それに……何か少し姿勢が良くなった?)


 服を黒一色に新調したサスケの周りには、ナルトやシカマルも居る。
 遠目にも何か話しているのが分かる。
 会場は、熱気が覚めやらない。


 (何で、こんなに盛り上がるんだろ?)

 『オイ!
  あれがウチハの末裔か!?』

 「え?」


 ヤオ子の耳に思いもよらない観客の声が耳に入る。
 ヤオ子は忍者Aに質問する。


 「末裔って、サスケさんは一人なんですか?」

 「そうだが?」

 「サスケさんのお父さんやお母さんは?」

 「……ちょっと、辛い事件があってな」

 「あたしは……。
  ウチハ一族が全滅したっぽいのは知ってたけど。
  サスケさんの家族が居ないなんて知らなかった……。
  てっきり、サスケさんの家族は助かったものと……」

 「あの子だけが生き残ったんだ」

 「…………」

 (言ってくれなきゃ、
  分からないじゃないですか……。
  ・
  ・
  あたしは、今頃になってこんな事実を知って……。
  今度、どんな顔して会えばいいんですか?)


 ヤオ子は少し暗い気分になる。


 (だから……。
  火遁の話を聞こうとして、
  サスケさんの家族を探しても見つからなかったんだ。
  里の人に聞いても渋い顔してたし。
  ・
  ・
  無責任な人は、ああいうことを叫ぶんですね。
  サスケさんは……怒ってないように見えるけど、
  一体、どんな気分なんだろう?
  ・
  ・
  ここの人達は、最後の生き残りを見に来たの?
  サスケさんは……。
  サスケさんは見世物じゃないのに……)


 ヤオ子はサスケを見続ける。
 しかし、サスケはヤオ子の思っているような不快な感情を感じているようには見えない。


 (そうでしたね。
  あのドSは、その位のことは鼻で笑うタイプでした。
  だからこそ、あたしが一発かます目標なんです)

 「サスケさん!
  頑張れーっ!」


 ヤオ子の声援に、忍者Aが話し掛ける。


 「お嬢ちゃんは知り合い多いな」

 「ふっ……。
  あたしの色香に男共が誘われて来るのです」

 「はははっ!
  その歳でか?」

 「魔性の女というヤツです」

 「本当に面白いな」

 「もちろんギャグですよ?」

 「分かってるさ」


 忍者Aは、可笑しそうに笑った。
 そして、試合と関係ない者が去り、対戦者の我愛羅が姿を現す。


 「変わった格好ですね。
  あの大きな瓢箪は、どう使うんですかね?」

 「瓢箪ねぇ……。
  想像出来るのは液体が入ってそうな位かな?」

 「硫酸とかですか?」

 「ああ」


 ヤオ子と忍者Aの会話に忍者Bが割り込む。


 「でも、砂漠の我愛羅って字名は、
  水なんて思い起こさせないけど?」

 「そうですね……。
  水遁系の忍者なら霧隠れの里とか水関係の出身でしょう。
  砂漠なんて水の貴重な国では……」

 「じゃあ、あの瓢箪には
  何が入ってるんだ?」

 「う~ん……。
  暗器の類じゃないですか?」

 「なるほど」

 「あの形状からは何が入っているか、
  パッと見では分からないからな」


 ヤオ子達が見守る中で、試合は開始される。
 そして、ヤオ子達の予想していた瓢箪の中からは、砂が噴出した。


 「砂?」

 「あの……。
  あれ浮いてません?
  どうなってんの?」

 「砂にチャクラを練り込んで操ってるんだ」

 「変わってますね。
  狙いは目潰しですか?」

 「さあ?」


 戦いは直ぐに始まり、距離を取ってサスケが手裏剣を投げる。
 それを砂が防ぎ、砂分身となり手裏剣を掴む。


 「ただの砂じゃない。
  あれで防御しているんだ」

 「便利かもしれませんね。
  砂なら幾らでも形を変えられますし、
  圧縮すれば硬度も変わりますからね。
  ・
  ・
  まあ、使っている砂の原石にもよりますが……」


 サスケの動きが少しずつ変わってくる。
 手裏剣術をやめて体術に移行していく。


 「ん? あの動き……」


 そして、体術で我愛羅の顔面に拳を入れた瞬間、ヤオ子はキレた。


 「あのヤロー!
  リーさんの体術をパクリやがった!」


 ヤオ子が思わず叫ぶ。


 「しかも、ちゃんと使いこなしてる!
  あたしが散々練習しても出来ないことを!」


 ヤオ子は、がーっ!と吼えまくる。
 忍者A,Bは、何事かとヤオ子を見ている。


 「あの人、退院して約二週間でしょ!?
  その間にリーさんの体術をマスターしたの!?」


 ヤオ子は写輪眼の特性のコピーについて知らない。
 また、サスケが中忍試験の間にリーの体術を見ていたことも知らない。
 そして、これは受け継がれた血やセンスだけではない。
 サスケの努力があったからこそ、付いてきた結果である。


 「あ~~~! 困った!
  あたしの野望が遠のいていく!
  折角、体術覚えてサスケさんに近づいたのに!
  更に化け物みたいに早く動かれたら、
  一体、いつになったら、あたしはワンパンチ入れられるんだ!
  ・
  ・
  こんなの行動移す前の予備動作しか目で追えないよ……。
  あたし、筋力足りないから、
  絶対にサスケさんより早く動けないし……」

 「君……。
  ウチハ一族にワンパンチ入れる気だったの?」

 「そうですけど?」

 ((それは無理だろう……))


 忍者A,Bは、忍者でもない無謀な一般人のヤオ子に呆れた目を向ける。


 「君……下忍?」

 「いいえ」

 「アカデミーに行ってるの?」

 「いいえ」

 「「諦めろ……」」

 「何で!?」


 ヤオ子のことは関係なしに、試合は進む。
 サスケの攻撃に業を煮やしたのか、我愛羅が自分を砂で覆い絶対防御に入る。


 「閉じ篭もっちゃった……」


 サスケの高速体術からの突きに絶対防御からの角のような反撃が入り、サスケの左足に血が滲む。


 「自動で反撃するのか?」

 「砂の忍も凄いな」

 「っていうか……。
  あんなのどうやって壊すの?
  サスケさんのパンチなんて効いてないじゃないですか」

 「俺だったら、起爆札でも仕掛けるかな?」

 「なるほど」

 「あの防御姿勢は、動けるようには見えないからな」

 (さすが中忍の人です。
  知りたいことに、直ぐに答えが返って来ます)

 「ただ……起爆札で壊せるかだが」

 「硬そうですもんね……」


 サスケが我愛羅から離れると距離を取り、チャクラ吸着で壁に張り付く。


 「……勢いをつけて攻撃するのか?」

 「あのドS……。
  カウンター食らいますよ?」

 「写輪眼がある。
  それで動きを予想出来る」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「あの~……。
  写輪眼って、そんなに色々な機能があるんですか?
  幻術使ったり、体術見切ったり……」

 「だから、皆、うちはに興味を持つ」

 「サスケさんって他のウチハ一族と比べて、どうなんですか?
  あんな強い一族が滅んだって信じられないんですけど……」

 「う~ん……。
  比較の方は分からない。
  俺はウチハ一族を彼以外じっくり見たことがないから。
  そして、滅んだ理由は言いたくない」

 「何で?」

 「凄惨だからだ。
  君が忍者で覚悟があるなら話してもいいかもしれないが、
  一般人の子供が興味本位で知ることではないと思う。
  まあ、俺の勝手な判断だが……」

 「いえ。
  皆さん、同じ様に言いました。
  辛いことなら聞かないでおきます。
  サスケさんとは友達ですからね。
  ・
  ・
  ふふ……。
  まあ、一部は憎しみで繋がっているんですけど……」

 (本当によく分からない子だよな……)


 ヤオ子達の会話の間にサスケはチャクラを練り上げ、印を結び終える。
 そして、サスケの手からは目に見えるほどチャクラが集中し放電し始めた。


 「何ですか!? あれ!?」

 「知らない……」

 「知らない忍術!?
  サスケさん……また、強くなったの!?
  ・
  ・
  ちょっとちょっと!
  体術以外にこれも覚えたの!?
  二週間で雷の性質変化も!?
  ・
  ・
  が~~~!
  あたし、絶対に報復出来ない!」


 サスケの速度が我愛羅に近づく度に上がっていく。
 そして、我愛羅の絶対防御をすり抜けて突きが刺さる。


 「貫きやがった……」

 「しかも、素手で……」

 「…………」

 (あたし、もうサスケさんには逆らえないな……。
  だって人間じゃないもん……。
  動きは見えないし……。
  凄い硬いもの貫くし……。
  写輪眼持ってるし……。
  ・
  ・
  でも、一つ対抗出来る手段を考えました。
  サスケさん自身で自爆させるんです。
  あの早い動きでは慣性ついたら避けれないと思うんです。
  もちろん、普通にやったらぶつかりません。
  写輪眼で躱されます。
  そこで考えたのが影分身です。
  あれ近距離でですが自分の分身出す場所をコントロール出来るんです。
  ノーモーションの予備動作なしだから、突然前に現れれば回避出来ないと思います。
  印を盗み見られてもオッケーです。
  ・
  ・
  ただ……本当に効くか試す勇気がありません。
  失敗したら、きっと十倍返しですから……)


 我愛羅の絶対防御が抵抗する。
 サスケの貫いた左手を締め付け、サスケは新術の千鳥にチャクラを回し左手を引き抜いた。
 そして、手傷を負わされた我愛羅が絶対防御を解いて現れた瞬間に会場中を鳥の羽が覆う。
 鳥の羽にヤオ子は、ハッとする。


 「この感覚……。
  サスケさんの幻術の時みたいにチャクラで操られるような……。
  ・
  ・
  拙い! 解!」


 ヤオ子は幻術を解除しようとチャクラを練り上げる。


 (チャクラが足りない?
  このままじゃ操られる!)

 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子が禍々しいチャクラを追加で練り上げる。


 「再び! 解!」


 ヤオ子は幻術を解くと、大きく息を吐き出した。


 「しんど~……。
  何で、幻術なんて……ん?」


 周りの人間は、ほとんどが動かない。


 「あれ?
  ちょっと! お兄さん!」


 ヤオ子が隣の忍者Aを揺する。


 「ダメだ……。
  幻術が効いてる」


 周りでは金属同士がぶつかる甲高い音が響く。
 ヤオ子は慌てて周りの人達と同じ姿勢を取って目立たないようにする。
 そして、目だけで右を見て左を見る。


 (皆、寝てる?
  この音は鉄のぶつかる音……クナイに手裏剣。
  戦ってるのは木ノ葉の忍者と他里の忍者!?
  ・
  ・
  何で、いきなり修羅場に!?)


 何かが崩れる大きな音が試合会場の外──里のあちこちでもする。


 (拙いですよ……これは!
  あたしの城……もとい!
  店が危ないです!
  戻らないといけません!)


 既に木ノ葉の忍者と音の忍者の戦いは始まっている。
 忍ではないヤオ子がウロウロすれば、狙い撃ちされるの必至だった。


 (戦ってるの……皆、強い。
  バレないように脱出しないと。
  ・
  ・
  変化!)


 ヤオ子はチャクラを練り上げ印を結ぶと、猫に変化する。


 (便利ですよね~。
  体積無視して変身出来るんだから。
  ・
  ・
  さて、行こ行こ。
  ととっ! 四足歩行は難しいですね)


 ヤオ子は猫になり、こそこそと会場を抜け出すと自分の店へと向かった。



[13840] 第25話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅護衛編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:38
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 顔岩にある隠れ部屋へと避難移動する里の一般人と逆流して、ヤオ子は猫の姿で塀の上を走って行く。
 目的地の自宅の八百屋まで、あと少しである。


 「お父さん達は、ちゃんと避難したでしょうか?
  ・
  ・
  それよりも……。
  ちゃんと店の看板下ろしてシャッター下げたでしょうね?
  敵の目的が分からない以上、長期戦なら兵糧を潰すのが常作なんだから,

  出しっ放しだと標的にされかねません」


 猫の姿のまま走りながら、辺りを見回すと里に入った忍が幾人も目に付く。


 「あの額当て……。
  砂の忍が増えて来てますね。
  会場は確か……音の忍で、外から砂の忍との連合軍ですかね?
  何も中忍試験の時に襲わなくても……。
  各国の大名と隠れ里のお偉いさんも来てるんだから信用が落ちますよ。
  砂と音は……」


 猫になったヤオ子は走り続ける。
 そして、ヤオ子は店に戻ると変化を解いた。



  第25話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅護衛編



 木ノ葉崩しは大きく三つに分かれて進行していた。
 里の長である火影と木ノ葉崩しの首謀者の大蛇丸との戦い。
 砂の守鶴を宿す我愛羅とそれを追う木ノ葉の忍達……サスケ、シノ、ナルト、サクラ、シカマル、カカシの忍犬パックン。
 そして、木ノ葉の忍と音・砂の忍の連合軍の総力戦。

 火影と大蛇丸の戦いは中忍試験本戦会場近くの屋根にて、音の四人衆の結界内で進行中。
 我愛羅達とサスケを先行させる木ノ葉の下忍達は、未だ追跡中。
 総力戦同士の戦いは大蛇丸の口寄せ動物と思われる大蛇も加わり、終着の様子は見えそうにない。
 そして……。


 「あの馬鹿親共!」


 ヤオ子は自宅の八百屋に戻るとチャクラ吸着を利用して壁を蹴上がり、クナイで看板を支える紐を切断する。
 看板は大きな音を立てて落下した。


 「チッ!
  気付かれたかもしれませんね」


 看板を店の中へと蹴り飛ばし、更に商品を奥に押し入れてシャッターを閉める。


 「これで、ただのボロ屋になりましたね。
  後は、あたしの部屋に行って……」


 ヤオ子は二階にある自分の部屋に向かい、サスケに貰った教科書などをデイバッグに詰めて背負う。


 「おっと!
  一番大事なものを忘れてました!」


 ベッドの下のイチャイチャパラダイス中・下巻もデイバッグに突っ込む。


 「腰の後ろの忍具は……クナイ二本に手裏剣二枚。
  ホルスターがないから、これが限界なんですよね。
  ちょっと心許ないかな?
  ・
  ・
  イチャイチャパラダイスの上巻を入れて置かなければ、
  もう少し入るんですが……必需品だし」


 ヤオ子は一階に戻り、変化の術で猫に化ける。


 「さて。
  避難所に戻ろうっと」


 しかし、外に出ると、トンッとシャッターにクナイが刺さる。
 咄嗟に猫のまま印を結び、影分身を一体出す。
 影分身は石つぶてによりクナイを弾き飛ばすと、クナイは数メートル先で爆発した。


 「クナイに起爆札なんて付けやがって!
  一発でも、うちのボロ屋は崩壊の危機ですよ!
  ・
  ・
  ……って! しまったーっ!」


 ヤオ子は敵に発見された。


 …


 火影と大蛇丸の戦いは誰も近づけない状況になっていた。
 口寄せ・穢土転生……大蛇丸の忍術により初代と二代目の火影が現れ、三対一で三代目火影は戦っていた。
 初代火影の木遁忍術。
 二代目火影の水遁忍術。
 三代目火影の口寄せ、猿猴王・猿魔。
 激しい術の応酬合戦に、誰も手が出せない。
 そして、状況は徐々に三代目火影が押され始めていた。


 …


 我愛羅達の追跡はサスケが先行し、それを追跡するナルト、サクラ、シカマル、パックンは音忍に追跡される状況になっていた。
 ここで彼らが取った行動は、シカマルの囮による陽動だった。
 陽動により、音忍の追跡部隊は居なくなる。
 そして、本日の中忍試験本戦と音忍追跡部隊の足止めにより、チャクラ切れになったシカマルはリタイアになる。
 ちなみに美味しいところは、担当上忍である猿飛アスマが音忍追跡部隊を始末して持って行った。


 …


 再び、場面はヤオ子へ……。
 ヤオ子の視界には接近する砂の忍三人が目に入る。
 そして、その光景は部隊の一角を指揮する森乃イビキも確認していた。


 「何故、一般人があんなところに!?」


 潜入する砂の忍を相手にして、イビキは保護も出来ず命令も出せないことに舌打ちをする。
 一方のヤオ子は、初めての危機に焦りながらも分析を開始していた。


 (早いです! 狙われています!
  逃げれないなら戦うしかないでしょう!
  ・
  ・
  きっと、この距離で投擲がないのは忍具を温存したいから……。
  接近戦なら……!
  ・
  ・
  コイツら、サスケさんより遅い!
  しかも、写輪眼もない!
  でも、あたしより強くて早いのは明らか!)


 猫に変化しているヤオ子の本体は、影分身の足元まで近づく。


 (作戦は、サスケさんにかますはずだったもので行きます!
  普通に戦って勝てないなら、
  相手の体重と慣性を利用するしかないでしょう!)


 体格、力、スピード、全てにおいて負けている。
 サスケと比べてもアカデミーの子と比べても……そして、目の前の三人の砂の忍に比べても。
 だけど、負けないものが一つある。
 印を結ぶ早さ。
 これだけは、ヤオ子は誰にも負けない自信がある。

 先頭の砂の忍がクナイを振りかぶる。
 この瞬間にヤオ子の本体と影分身が一歩踏み込みながら印を結ぶ。
 実際の印は本体の猫。
 陽動の印が影分身。
 子供が一瞬で印を組み上げたことに、油断していた砂の忍達が目を見開いた。

 そして、鶏を締め上げるような切ない声が響く。
 そう……ワンピースのロビンがフランキーの急所を握り込んだ時のような……。


 …


 敵の忍を始末して、ヤオ子に目を移したイビキの顔がキュッとなる。


 「あれは…痛い……」


 イビキに思わず額を押さえるさせた、ヤオ子のしたことはこうだ。
 まず、砂の忍達を影分身の出現させられるギリギリまで引き寄せる。
 そこに肘を突き出したヤオ子の影分身三体をコントロールして出現させる。
 出現させたのは砂の忍達の股間……。
 効果は言うまでもない。
 砂の忍達は三人全員が白めを剥き、股間を押さえて泡を吹いている。
 その倒れた砂の忍達の前で、ヤオ子の影分身達が胸を張る。


 「あなた達が敗れた理由はイージーです……。
  『あたしを怒らせたからだ!』ではありません。
  ・
  ・
  男だからです。
  しかも、大人であれだけスピードついてればねぇ……体重×スピード×肘鉄=破壊力。
  子供を産ませられない体になってしまったかもしれませんね」


 しかし、油断していたヤオ子の影分身三体にクナイが刺さり、影分身は煙になって消える。


 「ええ!?
  ちょっと!」


 後ろで控えていた最後の影分身に、別の砂の忍がクナイを突き立てる。
 それと同時に本体の猫が距離を取る。
 砂の忍は呟く。


 「俺達は四人組で行動してんだよ……」

 「……知ってますよ。
  だから、一体後ろに下げてたんです。
  ・
  ・
  急所は外させて貰いました。
  これは、今日の本戦でナルトさんがネジさんに使った作戦です」


 影分身は印を結ぶと砂の忍に抱きつき、零距離射程でチャクラの盾なしの『爆殺! ヤオ子フィンガー!』を炸裂させる。
 影分身は砂の忍もろ共、自爆した。
 砂の忍達を倒し、本体の猫がヤオ子に戻る。


 「まともに戦うわけないでしょう。
  あたしは、か弱いんだから。
  ・
  ・
  それにしても……。
  サスケさんの本を読んでて良かったです。
  忍の小隊は四人組が基本で、それ以上は行動が遅くなるってね。
  三人は怪しいと思ってました。
  ・
  ・
  さ~てと」


 ヤオ子が次の行動に移ろうとすると声がする。


 「ま…待て……」


 砂の忍が煙をあげながら、腕を伸ばしていた。


 「まだ、意識があるんですか?」

 「お前は、一体……」

 「一般人ですよ」

 「くそ……。
  こんなガキに……」

 「…………」


 ヤオ子は煙のあがる砂の忍に近づくと仰向けにひっくり返し、容赦なく股間を思いっきり踏みつけた。
 最後と思われる砂の忍が泡を吐く。


 「お…お前の血の色は…何色だ……?」

 「多分、ショッキングピンク?」


 その答えに砂の忍は吹くと気絶した。


 「冗談ですよ?」

 「…………」


 砂の忍から返事はない。
 ヤオ子は他の砂の忍に見つかる前に、店の裏に砂の忍四人を運ぶ。
 そして、砂の忍の足のホルスターを外し、ポケット類を探った後で縛り上げると生ゴミを捨てるポリバケツに四人を突っ込んだ。


 「えへへ……。
  クナイに手裏剣がザックザクです♪
  起爆札も六枚ゲットです♪
  ・
  ・
  あとは……何ですかね? 暗号文?」


 ヤオ子はデイバックを下ろすと、強引にギュウギュウとホルスター四個を突っ込んだ。


 「バッグ、パンパンです。
  もう、お土産はいりません。
  早くデンジャーでヴァイオレンスなここを脱出しなければ……。
  ・
  ・
  それにしてもチャクラを使い過ぎました。
  影分身四人へ『爆殺! ヤオ子フィンガー!』に必要な分だけのチャクラを練り込んだから……。
  危険域ですね。
  ・
  ・
  しかし、必殺技の最初の使い方が自爆だったとは……。
  サスケさんの言った『ヤオ子……爆殺』です」


 ヤオ子が避難場所に移動しようとして振り返ると、目の前には木ノ葉の忍が居た。


 「本当にこんな子が……」


 額を押さえる木ノ葉の忍に、ヤオ子は首を傾げた。


 …


 ヤオ子の前に現れた木ノ葉の忍は、イビキの命令でヤオ子を保護しに来た忍である。
 その忍がヤオ子に訊ねる。


 「何をしていたんだ?」

 「あたしの店を破壊しようとしたんで戦闘に……」

 「それは子供のすることではない!
  コイツらは、砂の中忍以上だ!」

 「すみません!
  すみません!
  すみません!」

 「まったく……。
  イビキさんの話は半信半疑だったが……本当に倒したのか?」

 「術は使い方ですよ」


 木ノ葉の忍は溜息を吐く。


 「ところで……。
  砂の忍は?」


 ヤオ子が指差すのは、生ごみ用の大きなポリバケツ四つ。


 「まさか……」


 木ノ葉の忍は、ポリバケツの蓋を開ける。
 その何は生ゴミ特有の臭いにまみれた砂の忍が、頭から突っ込まれていた。


 「……恐ろしい子だ」

 「生ゴミを捨てただけですよ。
  ・
  ・
  あ!
  あと、これ」


 ヤオ子が砂の忍から奪った暗号文の書いた紙を木ノ葉の忍に手渡す。


 「これは……!」

 「戦利品です」


 木ノ葉の忍は捨てられた砂の忍の階級を確認して、暗号文の重要性を確認しようと砂の忍を調べる。


 「ホルスターを……していないな」

 「ねだるな、奪い取れ、さすれば与えられん……です」


 背中のデイバッグを見せたあと、ヤオ子はチョキを作る。


 「……恐ろしい子だ」

 「早く行きません?
  あたしをエスコートしてくれるんでしょ?」

 「あ、ああ……少し待ってくれ。
  これをイビキさんに確認して貰う。
  直ぐそこだ」

 「分かりました」


 ヤオ子は木ノ葉の忍に続いて、店の裏から店の前に出る。


 「…………」


 ヤオ子と木の葉の忍を覆う影に、二人の視線が上に向いた。


 「なんじゃこりゃ~~~!?」


 ヤオ子の目の前には、三体の巨大な大蛇が見下ろしていた。



 ※※※※※ ヤオ子におけるチャクラ量と影分身について ※※※※※

 このSSを書く上ではっきりさせないといけないことがあります。

 原作が週刊連載のため、後付けで付加される能力や設定が存在します。
 例えば、リーの言葉遣いが初登場とそれから数話後では違いがあるなどです。

 特に私がよく理解出来ないのが『チャクラ量』『影分身』です。
 以下、私の考察の結果(解釈?)の上で、このSSの設定を決めようと思います。

 チャクラ量:
  二種類考えられると思っています。

  まず、総量です。
  身体エネルギーMAX, 精神エネルギーMAXに依存します。

  ヤオ子の場合……。
  ヤオ子の妄想力により、精神エネルギーMAX=∞。
  身体エネルギーMAXが増えることでチャクラの総量が増えます。

  次にチャクラの生成量MAXです。
  体内に生成出来る総量です。

  第七班が最初にカカシからサバイバル試験を行わされた時、
  カカシはサスケの豪火球の術を見て中忍なみのチャクラ量が必要みたいなことを言っていた筈です。
  これは総量ではくて体内に生成出来る量を言っていると思われます。

  よって、チャクラ量については、上記二種類が修行により向上すると思われます。

  ドラクエのメラ系で例えるなら……。
  レベルが上がった!
   『最大MPがあがった=チャクラ総量が増えた』
   『メラミを覚えた=チャクラの生成量MAXが増えて使用条件が整った』
  になります(あまりよい例ではないかも)。

 影分身:
  謎多き術です。
  原作でも後付け後付けで最近整理できなくなっています。

  最初は、実態のある分身を生成するだけだった。
  ↓
  後にチャクラ量を分散することに。
  ↓
  更に経験値蓄積 etc...。

  SSを書いていて一番解釈が困るのが影分身の際に『チャクラを分散する』です。
  どう解釈していいのか……。
  単純に分散していたら、凄いことになると思います。

  例えば、ナルトが影分身を一体生成。
  この時点でチャクラの総量は1/2です。
  影分身が倒されたらチャクラ総量が半分なくなるというハイリスク。
  とてもじゃないが使えません。
  多重影分身をしただけでナルトのチャクラ総量は、1/影分身の総数+1。

  そこで別解釈する材料として水面歩行の修行をする際にエビス先生が話した説明。
  術に必要な分だけチャクラを作るというお話。

  影分身に必要なチャクラ量…■
  その影分身に持たせたいチャクラ量…▲
  とします。

  以下をヤオ子の体内生成チャクラ量MAXとします。
  □□□□□□□□□□

  例:影分身二体にチャクラ量を▲×3持たせたい。 必要な体内生成量は?
  □□□□□□□□□□
  ■▲▲▲■▲▲▲
  となります。
  影分身三体作ると体内生成チャクラ量MAXを越えて発動しないことになります。
  とりあえず、この解釈なら使い方次第かと……。

  しかし、この解釈にも疑問が出ます。
  ナルトvsネジ戦でナルトが影分身した時、ネジの白眼によりチャクラが均等になっているとネジが言ってしまっていることです。
  上記、説明の通りだとナルト本体だけがチャクラ量が違うことになります。
  苦しい解釈ですが影分身後にナルトが自ら影分身に分散したチャクラと同じ量を練ってネジの目を誤魔化したと独自解釈しました。
  真実は別だと思いますが、このSSでは上記解釈で進めさせてください。

 経験値蓄積:
  仙術チャクラを戻す時にチャクラを還元なんて言ってましたが……。
  よく理解できないなりに経験値蓄積の独自解釈で説明してみます。

  まず、ただの影分身を一体作ります。
  コイツをただ戦闘に使っただけだと体術ぐらいの経験しか蓄積出来ません。
  しかも、コイツは忍術を発動するとチャクラを消費して消えてしまう。

  ただ、何もしない時はチャクラも消費しないで存在出来るはず。
  カカシが初めてナルトと演習場で対峙した時、一分の維持がやっとと言っています。
  しかし、ペインと戦った時、スペアの影分身が戦術チャクラを吸収している時はそんなことはありません。
  そして、後の会話から集中力の関係で維持するのが大変で戦闘で使える影分身は三体までとか何とか……ナルトが言っています。
  このことから、どうも影分身の維持時間は集中力に依存するらしいと判断出来ます。
  最初の頃は、ナルトは集中力が足りなかったから維持時間が一分しかなかったと思われます。
  後の螺旋丸の修行なので集中力が培われた(?)のでしょう。

  話が逸れました。
  経験値蓄積の話に戻ります。

  何もないただの影分身……この状態を"0"と考えます。
  これに何かをすることで何でもかんでも蓄積されます。
  体術を使えば体術の経験値。
  忍術を使えば忍術の経験値。
  ただし、チャクラは増やすことが出来ません。
  何故なら、使えば消費するものだからです。
  しかし、仙術チャクラは別です。
  このチャクラだけは、外から注入出来ます。
  つまり、この時だけはチャクラが増えています。
  無理に言い換えるなら、チャクラの経験値が蓄積されるわけです。

  上記のことから、次のような応用も可能かもしれません。
  本体と影分身が居たとします。

   本体が毒を受けた。
   ↓
   その後、影分身に解毒剤を処方した。
   ↓
   影分身を解くと本体に解毒処理が働く。

  しかし、逆も……。

   影分身が毒を受けた。
   ↓
   影分身を解くと本体に毒が還元された。
   ↓
   本体は毒を受けた。

  まだまだ謎多き術です。

 結局、何が言いたかったのか?:
  グダグダと書きましたが、何を言いたかったかというと……。
  ヤオ子の影分身の設定と、今回、ヤオ子のチャクラが危険域に入った理由付けです。

  ヤオ子自身、無茶な設定ではありますが、チャクラ量は化け物ではないということです。
  普段の影分身は、余計なチャクラを付加していません。
  しかし、今回は本当の戦闘に入っているので影分身にも戦える分のチャクラを分け与えたという設定です。
  よって、四体の影分身には必殺技に必要な量のチャクラ+戦闘に必要な他のチャクラを練り込んでいたということになります。
  そのため、一気にチャクラを消費して危険域に入ってしまったということです。

  NARUTOのSSは、独自解釈をしないと難しいので大変です。
  時々、ヤオ子が突っ込むチャクラの設定や中忍の人数の設定は、仕方のないことだと思ってくれると助かります。
  このSSの説明と補足を行なっているので……。



[13840] 第26話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅壊滅編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:39
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子の前に絶望が広がっている。
 無理を承知で戦闘をして奇策で砂の忍を撃退したのに、今度は目の前に自分の家より大きい大蛇がいる。
 しかも、三体……。


 「一回の戦いでほとんどのチャクラを使うような、
  理不尽で効率の悪い戦いが終わったっていうのに……。
  ・
  ・
  何で、目の前にキングギドラがーっ!?」


 木ノ葉の忍がヤオ子の手を引く。


 「逃げるぞ!」

 「ちょっと!
  あんなのが暴れたら、あたしの店が無くなっちまいますよ!」

 「あの口寄せに対抗出来る手段はない!」

 「こっちも口寄せをすればいいでしょ!
  モビルスーツでも呼び出して、戒=紫電に戦わせるんですよ!」

 「気が触れておかしくなったか!?
  ほら! 急いで!」


 ヤオ子は強引に手を引かれてズリズリと後退して行く。
 その途中で、ヤオ子は電柱にしがみつく。
 それを木ノ葉の忍が全力で引き剥がしに掛かる。
 またヤオ子は後退を全力で拒否する。


 「離れるぞ~~~!」

 「イヤだ~~~!
  あたしの店~~~~!」


 何とも言えない絵面がそこにはあった。



  第26話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅壊滅編



 暴れる大蛇に、イビキが砂の忍と戦いながら後退する。


 「くっ……。
  手に負えん!」


 そこに声が響く。


 「忍法・口寄せ!
  屋台崩しの術!」


 暴れる大蛇の上に大蛇より大きい背中に二振りの刀を背負った蛙が現れ、大蛇を一気に押し潰した。
 イビキを助けたその人物が声を掛ける。


 「久しぶりだのォ……。
  イビキ……。
  ・
  ・
  ったく。
  成長したのは、その図体だけかァ!?
  見ちゃいられねーのォ!」


 驚きのあまり固まるイビキに、救世主は蛙の頭の上で声を張り上げる。


 「ヒヨっ子ども!
  その小せー目ェ根限り開けて良く拝んどけ!
  異仙忍者自来也の!
  天外魔境暴れ舞!」


 ダダンッと見得きりをすると、自来也はイビキと会話をする。


 「三代目は?」

 「試験会場です」

 「……そうか」


 自来也が少し物思いに耽って空を見上げる。


 「…………」


 そこにスコーンと自来也の頭に空き缶がクリーンヒットした。


 …


 少し前……。
 店の直前まで迫る大蛇にヤオ子は絶望していた。


 「あたしの店~~~!」

 「離れろ! この馬鹿娘!」


 ヤオ子は相変わらず電柱にしがみつき、木ノ葉の忍に迷惑を掛け続ける。
 そこに大蛇を押し潰して巨大蛙が登場した。


 「こ、これは……!?」

 「やったーっ!
  あたしの店が救われた!」


 しかし、蛙はヤオ子の店も押し潰した。


 「…………」


 瓦礫となった店の前で固まるヤオ子と木ノ葉の忍。
 ヤオ子は、ふらふらと幽鬼のように店に近づく。
 目の前には夢の残骸しかない。


 「う…ううう……」

 「き、君?」


 木ノ葉の忍が心配で声を掛けると同時にヤオ子は両手を突き上げた。


 「あのイチャパラ仙人がーーーっ!」


 ヤオ子は走り出すと落ちている空き缶を拾い上げ、自来也に投げつけた。


 …


 クリーンヒットした空き缶に頭を擦る自来也。
 ヤオ子は、チャクラ吸着して巨大蛙を駆け上がる。
 そして、背の高い自来也にジャンプして襟首を掴んでぶら下がる。


 「あたしの店に何してくれてんだ!」

 「店ェ!?」


 ヤオ子が蛙の下敷きになっている店を指差す。


 「お主の店だったか……。
  すまんのォ……」

 「謝って済む問題か!
  里を守らずに破壊して、どうするんだ!?」

 「まあ、里を守るための犠牲だ。
  あのまま蛇を暴れさせて置くわけにもいくまい?」

 「アホかーっ!
  格好良く見得きってる暇があるなら、
  建物の少ないところで口寄せしろ!」

 「何を言っておる。
  見得をきったのは口寄せした後だ。
  タイミングは関係ない」

 「開き直った!?」


 自来也は耳をかっぽじなりながら、面倒臭そうに聞く。


 「うるさいのォ……。
  ・
  ・
  ん? お主……ヤオ子ではないか」

 「知り合いですか?」


 自来也に無礼と粗相を続けるヤオ子が気になり、イビキも近くまで来ていた。


 「まあな……。
  口寄せした時に、この子の店も潰してしまったみたいでのォ……」

 「そうですか……。
  ・
  ・
  ん? 君は、まだ居たのか?
  部下に非難させたつもりだったが……」

 「誰ですか?
  あたしは、自来也さんに用があるんです」


 ヤオ子は座った目でイビキを睨み返す。
 それを見て、イビキは苦笑いを浮かべる。
 初対面で自分の顔の傷を見ても睨み返す子供は初めてだった。


 「オレは森乃イビキだ。
  ここら一帯を担当している」

 「そうですか。
  あたしは八百屋のヤオ子です。
  しかし、今、店が潰れたので、
  八百屋を名乗ることが出来ないかもしれません」


 自来也とイビキに乾いた汗が一筋流れる。
 そこにヤオ子を保護しようとした木ノ葉の忍が現れる。


 「イビキさん……と自来也様!?」


 自来也とイビキが木ノ葉の忍に目を向ける。


 「どうした?」

 「あ……すいません!
  この子の倒した忍が持っていました」


 部下の忍から、イビキが暗号文を受け取る。


 「暗号文か……。
  直ぐに解読できそうにないな。
  お前は、この子を連れて暗号解析班にこれを届けろ」

 「分かりました。
  ・
  ・
  行くよ」


 自来也にぶら下がったままのヤオ子が、ゆっくり顔をあげる。


 「話は終わってないんですよ……。
  あたしはね!
  このウスラトンカチに一発かましてやらないと
  気が済まないんですよ!」


 イビキのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前は、この方を誰だと思っている!」

 「アァ!?
  イチャイチャパラダイスの作者さんですよ!」

 「イチャ──何を言っている!」

 「真実ですよ!」

 (本当にうるさいのォ……)


 自来也が溜息を吐く。
 そして、面倒臭い事態を収拾しようとする。


 「イビキ……よい。
  一発ぐらい殴らせてやる」

 「しかし……」

 「ホレ」


 ヤオ子に自来也が顔を突き出した。


 「いい度胸です……。
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子はなけなしの身体エネルギーを注ぎ込み、禍々しいチャクラを練り出した。


 「ちょっと、待て!
  ヤオ子!
  お前、忍者か!?」

 「違いますよ!
  由緒正しい一般庶民ですよ!」

 「一般庶民がチャクラなど練り込むか!?」


 ヤオ子が印を結ぶ。


 「黙れ! 一回は一回!
  ・
  ・
  爆殺! ヤオ子フィンガーーーッ!」


 自来也はヤオ子の手を掴むと、爆発の方向を上に逸らす。


 「避けるな!」

 「殺す気か!?」


 イビキと木ノ葉の忍の前でヤオ子と自来也は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 それを呆然とイビキと木の葉の忍は見詰めていた。
 しかし、ものの数秒でヤオ子が腕の間接を極められて動けなくなる。


 「ううう……。
  大人はいつも子供に理不尽な暴力を突きつける……」

 「何処が理不尽だ。
  ワシを亡き者にしようとしおって……。
  ・
  ・
  しかし、アカデミーでは中々よい教育をしとるようだのォ」

 「はあ……。
  さっき、この子が砂の忍を四人倒すのを見ました」

 「ほう……」

 「チャクラさえ切れてなければ……」


 ヤオ子は間接を極められた手にもう一方の手を合わせて印を結んだが、術は発動しなかった。
 チャクラに回す身体エネルギーが足りないようである。


 「さて、こうしてばかりもいられん」

    「幼女虐待だ……」

 「はい。
  音と砂の忍はまだまだ入り込んでいます」

    「きっと、このままエロいことさせられて、
     小説の1ページのネタにされてしまうんです」

 「ワシは、残りの大蛇を引き受ける」

 「はい」

    「誰かーーーっ!
     犯されるーーーっ!」


 ヤオ子が自ら腕の間接を外すと自来也から抜け出し絶叫した。


 「うるさい!」


 イビキのグーがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は蛙の頭部に倒れ込んだ。


 「ハア…ハア……。
  黙らせました」

 「イビキ……。
  女子供でも容赦ないのォ……」

 「話が進みません!」


 しかし、ヤオ子は外した関節を入れ治すと絶叫する。


 「イビキさん!
  あなたもドSの類ですか!?」

 「……タフだのォ」

 「ええい! 本当にうるさい!」


 イビキは両手を組むと、振り下ろしてヤオ子に炸裂させる。
 ヤオ子は蛙の頭部に減り込み気絶した。


 「キュウ~……」

 「連れて行け!」

 「は、はい!」


 イビキの部下はヤオ子を抱えると、その場を去る。


 「や、やり過ぎじゃないか?」

 「あの子のタフさ加減はおかしい!
  一回目で気絶させたはずだったのに……」

 「覚えがあるのォ……」

 (綱手に殴られても気絶しないことがあったからのォ……。
  あの子もワシと同じボケ担当じゃな……)


 自来也は少しヤオ子に興味を持ち、イビキに質問する。


 「ところで……。
  あの子が忍四人を倒したのは、本当か?」

 「はい。
  この目で見ました。
  術の使い方をよく理解していましたね。
  分身で相手にカウンターを合わせてましたから」

 「ほう。
  面白い……」

 「しかも……狙いは男の急所です」


 自来也は苦笑いを浮かべる。


 「恐ろしい奴だのォ。
  ふむ……。
  ・
  ・
  しかし、カウンターを分身が取ったのなら実体があったってことだ。
  アカデミーの分身ではなさそうだな。
  印は?」

 「分かりません。
  恐ろしく早いスピードで印を結んでいたので」

 「どういう子なんだ?」

 「分かりません。
  この一件が片付いたら調べてみます」

 「頼む……。
  さて、再開するかのォ」


 自来也とイビキは、再び戦いへと戻って行った。



[13840] 第27話 幕間Ⅱ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:39
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ※ 原作と変わりありませんので、あまり読む必要はないと思われます。
 ※ 一応のために追加したジャンプ用の話です。
 ※ 簡単に言うと木ノ葉崩しが終了し、我愛羅が去るところまでです。
 ※ この話では、サスケ中心の解釈と作者自身の独自解釈が強く出ます。
 ※ よって、原作の意図と思惑に違った描写が出ることを先に謝っておきます。



 ヤオ子……気絶中。


 「…………」


 ヤオ子は木ノ葉の忍に抱えられ、顔岩の隠れ部屋へと移動中。
 今回、出番なし。

 三つに分かれた戦いの里での総力戦は、ヤオ子が居なくなったことで一時話を閉じる。
 そして、三代目火影と大蛇丸との戦い。
 残る我愛羅の追跡隊との話は、原作通りに話が進むため簡単に終わらせる。



  第27話 幕間Ⅱ



 話は三代目火影と大蛇丸との戦いに戻る。
 多勢に無勢とチャクラの残量から追い詰められ始めた三代目火影は、ある術に懸けようとしていた。

 封印術・屍鬼封尽……。
 術者の命を引き換えにする封印術である。
 その過程で術者は、魂を死神に捧げて必ず死ぬ。

 三代目火影と大蛇丸の戦いは、初代火影と二代目火影、そして、大蛇丸を封印するため、三代目火影が影分身二体と封印術・屍鬼封尽を組み合わせて戦いに望んでいた。
 その後、影分身二体に初代火影と二代目火影の魂を封印。
 そして、大蛇丸を封印し滅ぼすため、三代目火影自らが大蛇丸の封印に挑む。

 三代目火影は大蛇丸の攻撃を躱すことなく押さえつけ、封印術による死神の力が発動するのを待つ。
 その過程で大蛇丸の草薙の剣が己の体を刺し貫こうとも大蛇丸を放すことはなかった。
 そして、最後の最後で大蛇丸を完全に封印出来なかった三代目火影は、大蛇丸の両腕だけを封印する。
 これにより、大蛇丸の腕は使い物にならなくなり、印を結べない大蛇丸の術を封印したことになった。


 『大切な者を守る時……。
  真の忍の力は表れる……。』

 『木ノ葉舞うところに……。
  火は燃ゆる……。
  火の影は里を照らし……。
  また……。
  木ノ葉は芽吹く』


 かつて大蛇丸に向けた言葉と、木ノ葉の里の全ての者に向けられた言葉。
 一方は届かなかったが、もう一つは届くと信じて三代目火影は微笑んでその生涯を閉じた。


 …


 そして、サスケとナルト達の我愛羅の追跡……。
 我愛羅の追跡は、先行するサスケとサスケを追うためにカカシに編成されたナルト、サクラ、シカマル、パックンの二つに分かれている。
 うちシカマルに関しては、囮による陽動で既にリタイア。

 一方で、先行するサスケは逃走する我愛羅達に追いつく。
 尚も逃走を続けようとする我愛羅達砂の忍は、カンクロウを足止めに残す。
 ここで油女シノがサスケに追いつき、カンクロウとの対決を引き受ける。
 これにより、サスケは我愛羅とテマリを追跡。
 シノとカンクロウの戦いは、シノが一族秘伝の蟲を操り勝利するもカンクロウのからくり人形の仕込みの毒によりリタイアした。


 …


 更に進む……。
 砂の守鶴を宿す我愛羅が逃走中に目を覚ます。
 そして、テマリを振り解き、追い着いたサスケとの戦いが始まる。

 戦いの中で我愛羅の守鶴の覚醒が徐々に始まる。
 右腕から砂を媒体に寝食が進み、交わされるサスケと我愛羅の会話の中で復讐という言葉がサスケを揺さぶり続ける。


 「その殺意に満ちた目を向ける相手より、
  本当に強い存在なのか?」


 この時のサスケは、復讐する理由をこう認識していた。


 『あいつがオレを生かしたのは
  "一族殺しの罪悪感"に苛まれぬための存在として……。
  ・
  ・
  兄貴は自分を殺させるための……。
  復讐者という存在としてオレを選んだんだ!』


 何かに踏ん切りをつけ、サスケが千鳥を発動させる。
 左手に集中させたチャクラに込めたのは意地なのか? 兄への憎しみなのか?
 少なくともこの時点のサスケは、一族殺しの罪悪感に苛まれる兄を救うために復讐者になったと考えられないだろうか?

 サスケと我愛羅が交差し、我愛羅の守鶴の右腕を切断する。
 苦しみもがきながらもサスケとの戦いに生を実感する我愛羅がまた変化する。
 今度は、守鶴の尾が生える。


 「憎しみの力は殺意の力……。
  殺意の力は復讐の力……。
  お前の憎しみは、オレより弱い!」

 「黙れ……」


 我愛羅の言葉にサスケは嫌悪感を覚える。
 そして、呪印の力を使い、打てないはずの三発目の千鳥を発動させた。
 呪印は負の感情に反応する。
 でも、本当に憎しみが足りないという言葉を言葉通りにとって反応したのだろうか?
 憎しみで戦っていないという嫌悪感からではないだろうか?

 我愛羅に手傷を負わせるも無理な呪印の力の発動により、サスケは動けなくなる。
 迫る我愛羅をようやく追い着いたナルトが蹴り飛ばす。
 そして、撤退をしようとした時……。
 動けないサスケを庇って、サクラが我愛羅の前で立ち塞がる。
 これにより、我愛羅の攻撃を受けたサクラは守鶴の砂の腕で締め付けられていく。


 「オレを殺さなければ、あの女の砂は解けないぞ。
  それどころかあの砂は、時が経つ度、
  少しずつ締め付け、いずれあの女を殺す!」


 我愛羅の姿がまた変わっていく。
 人の面影は無くなり守鶴の姿へと近づいていく。
 そして、事態は悪い方へと傾く。
 人質に取られたままのサクラ、呪印の影響で満足に動けないサスケ、我愛羅の言葉に動けなくなるナルト。

 ただ一人でも戦い続ける我愛羅。
 それは同じ立場だったナルトだから分かる孤独だった。
 故にナルトは、あの辛さの中に身を置き続ける我愛羅がとてつもなく強く感じた。
 でも……今だから、それを否定できる何かが心の中にあって、何度倒されてもナルトを立ち上がらせる。

 その行動は伝染する。
 波の国以来、少しずつ認め合い始めた二人だから。


 『体が勝手に動いちまったんだよ……』


 波の国では、理由は分からなかった。
 でも、サクラがサスケを庇って、立ち向かったナルトが我愛羅にぶっ飛ばされるのをサスケが庇う。
 そして、思いは通じて信じ合い言葉になる。


 「サクラは……。
  お前が……意地でも助け出せ!
  ・
  ・
  お前ならやれる……」


 絶望的な状況で、サスケはナルトを信じる。
 そして、本音も形になる。


 「そして、助けたら……。
  サクラ担いで、さっさと逃げろ……。
  少しなら今のオレでも足止め出来る……。
  ・
  ・
  オレは、一度全てを失った……。
  もう……オレの目の前で……大切な仲間が死ぬのは見たくない……」


 サスケの素直な気持ちがナルトに気付かせる。
 何故、我愛羅に負けたくなかったのか?
 何故、何度も立ち上がるのか?

 それはサスケがナルトを大切な仲間と認めて、ナルトがサスケを大切な仲間と認めたから。
 自他共に仲間だと認めたから。

 一人の中から仲間を手に入れたナルト。
 一人になった中から仲間を手に入れたサスケ。
 そして、そんな二人を庇って傷ついてくれたサクラが居る。
 仲間の大切さを説いてくれたカカシが居る。


 『人は……大切な何かを守りたいと思った時に、
  本当に強くなれるものなんです。』


 波の国で会った少年の一言が後押しする。
 ナルトは、本当に守りたい大切な仲間のために九尾の力を解放する。


 …


 九尾の力を解放した後の戦いは、我愛羅とナルトに誰も手を出せなかった。
 守鶴の一尾の力と九尾の力のぶつかり合い。
 ナルトの多重影分身による一方的な戦い。
 直後の守鶴の一尾の完全体の発動。
 ガマオヤブンの口寄せ。

 ガマオヤブンと一尾の戦いは、嵐の様相を辺りに撒き散らす。
 そして、どちらの精も根も尽きた後に搾り出されるナルトの九尾のチャクラによる我愛羅への頭突きにより、巨獣の戦いは決着する。
 一尾は砂となって崩れ去り、ガマオヤブンも撤退する。
 残されたナルトと我愛羅……。
 最後のぶつかり合いはナルトの一撃が我愛羅に決まったあと、両者動けなくなる。


 「一人ぼっちのあの地獄から救ってくれた……。
  オレの存在を認めてくれた……。
  大切な皆だから……」


 ナルトの言葉が響く森の中で戦いは終わる。
 我愛羅はテマリとカンクロウが手を貸し、その場を去る。
 木ノ葉崩しは、木ノ葉の忍達の活躍により失敗に終わった。



[13840] 第28話 ヤオ子の新生活①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:40
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 木ノ葉崩しの計画が終了した夜……。
 非難した里の人々の居る顔岩の隠れ部屋で、ヤオ子は目を覚ます。


 「……っ! 
  あの新ドSめ……!
  気を失うほど殴りやがって……!」


 薄暗い隠れ部屋の中で、悪態をついたヤオ子にグーが炸裂した。



  第28話 ヤオ子の新生活①



 ヤオ子は頭を擦ると、父親に怒鳴り返す。


 「った~~~!
  何するんですか!?」

 「何がじゃねェ!
  お前、店に居たんだってな!」

 「仕方ないでしょう!
  大事な用もあったし……。
  ・
  ・
  そんなことより!
  何で、看板仕舞ってシャッター下ろさないの!?」

 「アァ!?
  何で、そんなことするんだ!?」


 ヤオ子は父親を指差す。
 親だろうと誰だろうと気にしない。


 「あんたは馬鹿か!?
  忍者の里に店出してるくせに、
  何で、兵糧狙われるって発想に行き着かない!?」

 「知るか!?
  頭ばかりでっかくなりやがって!
  自分の命が一番大事だろうが!」

 「そんなヘマするか!」

 「お前、気絶して連れて来られたじゃねェか!」

 「あれは味方のドSにやられたんですよ!」

 「…………」


 ヤオ子の父親が首を傾げた。


 「何でだよ?」

 「自来也さんの話に割り込んだんです」


 ヤオ子に親父の鉄拳が炸裂する。


 「自来也様に何てことをするんだ!」

 「寝ぼけてんじゃないですよ!
  あのオッサンが、うちらの店を潰したんですよ!」

 「何ィ!?」

 「馬鹿みたいな、でかい蛙を呼び出して潰したんです!」

 「…………」


 ヤオ子の父親は考え込むと、静かに確認するように話す。


 「……周りに敵は居なかったか?
  特に馬鹿でかい生き物だ」

 「居ましたよ……大蛇が」

 「なら……仕方ない。
  そのまま大蛇を暴れさすわけにはいかない」

 「うちの店は?」

 「お前にくれてやるよりマシだ」

 「オイ!」


 ヤオ子は突っ込んで見せたが、やがてホッと息を吐き出す。


 「まあ、一番オタオタすると思ってたお父さんが落ち着いているなら別にいいです」

 「お前な……」


 ヤオ子の父親が脱力すると、ヤオ子は母親に向き直る。


 「お母さんもいいの?」

 「ええ。
  私達は木ノ葉の里の八百屋だからね」


 ヤオ子の母親は穏やかに笑顔をたたえていた。


 「意外と冷静ですね……。
  ・
  ・
  我が弟よ……君は?」

 「よくわからない」


 ヤオ子の弟は首を振るだけだった。


 「尤もだ。
  君の意見が一番まともだ。
  ・
  ・
  とはいえ、明日からホームレスか……」


 ヤオ子の口から出た言葉に、家族はズーンと暗くなる。


 「まあ、金庫は持って来たし、何とかなるだろう」


 ヤオ子の父親が店に備え付けの手提げの小さい金庫を置く。
 それを見てヤオ子は辺りを見回し、背負っていたデイバックを引っ張ってくる。


 「あたしも収穫ありですよ」

 「ん?」


 ヤオ子がデイバッグを開けると、中身を両手に持って家族に見せる。


 「敵の忍者を倒してホルスター×4を奪って来ました」

 「お前な……」
 「ヤオ子……」
 「お姉ちゃん……」

 「他にも起爆札を六枚……。
  売れば幾らになりますかね?」


 ヤオ子の父親は額に手を置く。


 「何て危ないことをするんだ」

 「猫に変化してたんですけどね。
  不測の事態ですよ」

 (コイツ、いつの間に戦闘向きの忍術なんて覚えたんだ?
  サスケ君……一体、何を考えているんだ?)


 既にヤオ子はサスケの手を離れ始めているが、それを家族が知ることはなかった。

 ヤオ子談:
 更に言えば、サスケさんは何も考えていないです。
 獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす……といいますが、
 サスケさんに至っては突き落とした後にどうなろうが考えていません。
 しぶとく谷から這い上がろうが、その後は、考えていないです。
 寧ろ、ただ突き落としたいだけに違いありません。
 きっと、サスケさんは、そういうタイプのドSです。


 …


 ヤオ子、父親、母親は貧乏に対しての免疫が強いせいか、現状、それほどの危機感を感じていない。
 貧乏な日々が生活の危機と隣合わせで慣れていた。
 しかし、家族の中で唯一の思考を持つヤオ子の弟だけは、今後、どうなるかの沈黙が不安を募らせていた。
 うす暗い避難所の場に耐え切れなくなったこともあり、ヤオ子の弟が質問する。


 「このあと、どうなるの?」

 「…………」


 当然の質問に、両親は沈黙している。
 ヤオ子の両親は、今後のことなど考えてもいなかった。


 「……ねぇ、何か言いましょうよ。
  不安になるじゃないですか?」

 「お姉ちゃん……」


 ダメな両親を諦め、ヤオ子の弟がヤオ子のTシャツを引っ張る。


 「間違ってますね……この絵面。
  何故、両親は沈黙し、
  弟があたしに縋るのでしょう?」


 ヤオ子は溜息を吐くと、弟の頭を撫でる。


 「いいですか?
  直ぐにどうこうはなりません。
  周りにも同じ境遇の人は沢山います。
  きっと、暫くは仮設住宅に住むことになるでしょうね」

 「かせつ……?」

 「簡易的な家です。
  もしかしたら、あたし達が住んでいた家よりも立派かもしれません」

 「本当?」

 「はい。
  ただ、暫く八百屋の仕事を出来ないかもしれません。
  明日は瓦礫となった家から使えるものをここに運ぶので、
  ちゃんと手伝うんですよ?」

 「うん。
  お姉ちゃん」


 ヤオ子の説明で少し安心した弟。
 その二人を見て、両親は頷く。


 「さすが、オレの娘だ」

 「ええ。
  さすが、私の娘だわ」

 「あんたらは少し世間の常識を頭に詰め込んでください」


 ヤオ子は、こうして木ノ葉崩しの夜を家族で過ごしていた。


 …


 深夜……。
 ヤオ子と弟は眠りについている。
 ヤオ子の両親は、顔岩の隠れ部屋を出て夜風に当たっていた。


 「すまんな……。
  さっき、ヤオ子が敵の忍者を倒したと言った時、
  怒ることが出来なかったよ」


 父親の言葉に、母親が静かに頷く。


 「明日、怒ってくれればいいわ」

 「嬉しくなってしまってな。
  もう、忍者は辞めたのに……」

 「そう……。
  正直言うと私も嬉しかった。
  もう、くノ一は辞めたのに……」


 ヤオ子の両親は軽く笑い合うと、ヤオ子についての父親が母親に話し掛けた。


 「あの子は……ヤオは忍者になりたいのだろうか?」

 「どうでしょうね」

 「アカデミーに行きたいとは言ってないが……」

 「行きたくても言わないわ……きっと。
  優しい子ですもの」


 母親の言葉に、父親が片眉を歪める。


 「そうか?
  オレは、最近、おかしな子になって来ていると思うんだが?」

 「おかしいのは、今に始まったことじゃないでしょう?
  そして、優しいのも……」

 「そうだったな」


 ヤオ子の母親が里に目を移す。


 「大分……壊されたわね」

 「ああ。
  暗くても分かる。
  ・
  ・
  こんな時に戦えないなんてな」


 悔しそうに里を見詰める父親の背中を母親が擦る。


 「仕方ないわよ。
  あの時、背筋をやられてしまったんだから」

 「お前まで付き合うことはなかったのに……」

 「私は欲張りですから。
  欲しいと決めた男は、必ず手に入れるつもりでした」

 「いつ聞いても怖いな」


 ヤオ子の母親がクスリと笑う。
 そして、一拍空けると真剣な表情に変わる。


 「状況が変わったわ。
  里が平和なら、このままで良かったけど」

 「そうだな。
  里の力は、どれぐらい落ちたのだろうか?
  里の忍者は足りているのだろうか?」

 「…………」


 父親が母親に向き直る。


 「今からでもヤオとヤクトをアカデミーに入れるか?」

 「ええ」

 「だが……」

 「でも……」

 「「お金がない……」」


 里の状況という現実があっても、ヤオ子の両親の懐事情は切実だった。


 …


 翌日……。
 ヤオ子は弟を連れて、店のあった場所まで来ていた。
 辺りには家を形作っていた木材が散乱し、大部分はヤオ子と弟の前で無残な姿を晒していた。


 「ぺしゃんこだね」

 「でしょ?
  ここから使えるものを探すんです」

 「屋根とか普通に持ち上がらないけど?」

 「起爆札で破壊しますか……。
  いや、勿体ないです。
  そこは、後で他の人に手伝って貰いましょう。
  ・
  ・
  まあ、見たとこ。
  これ以上壊れそうにないから、物拾っても崩れないでしょう」


 弟が店先に並ぶはずだった商品のある場所へと足を向ける。


 「野菜は、ほぼ全滅だね」

 「腐ると臭いが凄いから、最後に燃やしましょう」


 弟は頷くと小さな瓦礫のある方へと歩き出だした。


 「じゃあ、ボクは使えそうな食器とか持っていくね」

 「割れてるから、気をつけるんですよ」

 「うん」


 弟が食器棚のあった台所の場所を探し、ヤオ子は自分の部屋のあった場所に向かい、本類をダンボールに詰め始めた。
 しかし、弟の声にヤオ子は直ぐに作業を中止することになった。


 「おね~ちゃ~ん!」

 「ん?」

 「全滅!」

 「…………」


 ヤオ子は弟の後ろでぶっ潰れている茶箪笥を見て、チョコチョコと頬を掻く。


 「え~と……。
  じゃあ、服類を……。
  あれは潰れても割れません」

 「わかった」


 ヤオ子は布団類を積み上げ、ダンボールにかさ張ってはいるものを探す。


 「おね~ちゃ~ん!」

 「ん?」

 「箪笥の引き出しが歪んで開かない!」


 ヤオ子は自分の作業が一向に進まないと思うと、印を組んで影分身を一人出す。


 「お願い」


 ヤオ子は影分身の一人を弟につけると、自分のものを探そうして、ふと気付く。


 「ん?
  ・
  ・
  影分身を使えばいいじゃないですか~。
  あたしのお馬鹿さん……」


 ヤオ子はチャクラを練り上げると素早く印を結び、影分身を更に四人出した。


 「じゃ、お願い」


 ヤオ子のコピー人間が瓦礫となった店に散らばると、物資の回収作業は一気に加速した。


 …


 崩壊した家でも、意外と持ち出せるものは多い。
 衣類やタオルなどの生活用品は踏みつけられても壊れないものだったので、瓦礫が貫いて破けたりしなければ、洗って再利用できる。
 また、食器類などの生活用品のいくつかも壊れないで残っていた。
 本棚の本などは表紙などが汚れた程度で、十分に使える。
 両親の箪笥は少しの破損だけで、そのまま残っていた。

 ヤオ子と弟は積み上げられた荷物を見上げる。


 「どうしよう?」

 「どうしようって……。
  持って行くしか……」

 「お姉ちゃん、さっきみたいに細胞分裂してよ」

 「単細胞生物じゃないんだから……。
  まあ、分からなくはないですけど……。
  ・
  ・
  あんたも、いらない知恵をつけ始めましたね」

 「きっと、姉弟だからだよ」

 「そうだね。
  あんたとあたしには、同じ血が流れているんだもんね。
  あたし、あんただけは、
  うちの家系の血を引いてないまともな子だと思っていたんだけど……アホで天然さんだ。
  ・
  ・
  では……。
  猛れ! あたしの妄想力!」


 本日、二度目の多重影分身を発動すると、ヤオ子が新たに四人現れた。


 「これが本日午前中の限界です。
  皆さん、頑張りましょう!」

 「「「「「しゃーんなろー!」」」」


 掛け声を張り上げた後で、ヤオ子達は荷物を運ぶ作業に移った。
 その荷物を運ぶ一列縦隊は、里の人達がみんな振り返る。
 同じ人間が五人居る光景は不気味だった。
 しかも、荷物を持っていることから、分身の術ではなく実態があるのである。


 「お姉ちゃん……。
  皆、見てる……」

 「まあ、あたしも見る方だったら凝視します。
  五つ子みたいだし……。
  ・
  ・
  どうせなら……」


 ヤオ子達は荷物を置くと、一斉に印を結ぶ。


 「変化!」


 何故か、影分身含めて全員サスケに変化した。


 「忍者じゃない人が増えるから気になるんです。
  忍者だと分かっている人なら気になりません」

 「そうなの?」

 「そうです」


 弟は半信半疑だったが、やがて効果が出て視線の雰囲気が変わり出した。


 『まあ、サスケさんが手伝ってるわ』

 『小さい子を見ていられなかったのよ』

 『優しいわね』

 「…………」


 ヤオ子は眉間に皺を寄せる。


 「何これ?
  サスケさんの評価が上がっていく……。
  シャクですね……」


 そして、そのままサスケに変化したままの状態で三往復目……。
 本人とばったり遭遇。
 サスケが六人になった。


 「ヤオ子……何をしている?」

 「あたしは、ヤオ子ではありません。
  では、アデュー!」

 「待て」


 サスケが先頭のサスケ偽の首根っこを捕まえる。


 「そこに居るのは、お前の弟だ」


 サスケ偽が頭に手を当て、笑って誤魔化す。


 「バレちゃいました?
  いや~、今日は太陽が眩しいですね!
  では、アデュー!」

 「お前の店を燃やそう……」


 いつもの脅し文句に、ヤオ子はあっけらかんに答える。


 「いいですよ、別に。
  というか、寧ろ燃やしてください」

 「何?」

 「昨日のアレで店は……ご臨終しました」

 「どういうことだ?」

 「大蛇と巨大蛙の戦いに巻き込まれてペチャンコに……。
  だから、サスケさんが燃やしたがっていた
  あたしの八百屋は、もう、ありません」


 衝撃の真実に、サスケは少し気まずい顔をする。


 「悪かった……」

 「では、アデュー!」


 が、それとこれとは話が別。
 再びサスケが、先頭のサスケ偽の首根っこを捕まえる。


 「お前の店が潰れたのは分かった。
  だが……何で、オレの格好をしている?」

 「忍者じゃない人間が増えると里の人が注目するので……。
  でも、サスケさんは有名人だから、皆、納得します」


 サスケのグーが、サスケ偽に炸裂する。
 サスケがサスケを殴るという何とも言えない絵面が作り上げられた。


 「本人の許可を取れ!」

 「じゃあ、いいですか?」

 「…………」


 サスケは周りの反応を見る。
 周りの人々は、サスケが六人居る状況を受け入れて見ていた。
 つまり、既に随分前からサスケが複数人で行動していたのを認識しているということである。


 「もう、いい……。
  後の祭りだ……」


 サスケが溜息を吐くと、そのサスケに弟が挨拶する。


 「こんにちは、サスケさん」

 「ああ。
  手伝いか?」

 「はい」

 「偉いな」

 「ありがとうございます」

 「…………」


 サスケがサスケ偽と弟を見比べる。


 「お前ら、性格は全然似てないな」

 「当たり前ですよ」

 「姉ちゃんに似なくて良かったな」

 「はい」

 「ちょっと! そこの二人!」

 「お姉ちゃんが、本……当に毎日毎日迷惑を掛けて」

 「気にしてない。
  お前こそ、毎日毎日大変だな」

 「あんたら……」

 「いえ、もう慣れっこですよ」

 「そうか」

 「ただ……最近、段々と人間の道を踏み外しているようで……」

 「オレも、そう思う……」

 「いい加減にしてください……」

 「変な奇声をあげるのは、いつものことなんだけど。
  それ以上に奇怪な行動を取るようになって……」

 「オレも変態だと分かっていれば
  関わり合いにならなかったんだがな……」

 「…………」

 「でも、ボクの負担は大分減りました。
  サスケさんが外に連れ出してくれるようになって」

 「その分、オレの負担が増えたってことだな……」

 「本当にすいません」

 「さっきも言ったが気にしてない」

 「サスケさんが真人間で良かったです」

 「オレも、お前が真人間で良かった」


 そこでさっきから沈黙してしまったサスケ偽に、二人の視線が向かった。


 「どうした? ヤオ子?」
 「どうしたの? お姉ちゃん?」


 サスケ偽はプルプルと震えている。
 そして、目が吊り上がると声を上げた。


 「黙って聞いていれば人のことを変態だ何だと!
  大体!
  あたしに忍術を覚えさせたのって
  サスケさんじゃないですか!」

 「今になっては後悔している……」

 「何!? この不遇な扱いは!?」

 「お姉ちゃんが間違ってるんだよ。
  エロ本読んでるだけでもうちの家族は頭痛いのに、おいろけの術ばっかり使って」

 「ところ構わず使うんじゃねー!」


 サスケのグーが、サスケ偽に炸裂する。


 「家以外で何処で練習するんですか!?」

 「二度と使うな!
  禁術として封印しろ!」

 「イヤです。
  これだけは譲れません」

 「そんなんだから、弟が呆れるんだ!」

 「…………」


 サスケ偽はそっぽを向くとフンと鼻を鳴らした。


 「もういいです。
  あたしの崇高な趣味を分かって貰おうとは思いません」


 サスケとヤオ子の弟が溜息を吐く。
 サスケはヤオ子の弟の肩に手を置く。


 「まあ……なんだ? 頑張れよ」

 「はい……。
  サスケさんもお姉ちゃんには気をつけてください」


 その言葉に、サスケは肩を落として去って行った。
 一方でサスケ偽はフッと息を吐いて首を振る。


 「はあ……。
  誰にあたしの崇高な趣味を理解して貰えるのか」

 「多分……誰も理解してくれないよ」


 この後、ヤオ子と弟は最後の荷物を顔岩まで運び終えた。


 …


 最後の荷物を顔岩まで運び終えた時、顔岩では同じ様にしていた人達が慌ただしくしていた。
 ヤオ子は、父親に声を掛ける。


 「どうしたの?」

 「仮設住宅が出来たんだ」

 「早っ!
  何それ!?」

 「何でも暗部の中に家を出す忍術を使える人が居たらしくてな。
  その人が長屋を作ってくれたんだ」

 「随分と便利な忍術ですね……」

 「まあな。
  荷物は、もう移した」

 「それでここにあった荷物がないんですか?」

 「そういうことだ」


 父親の説明に納得すると、ヤオ子は改めて声を掛ける。


 「ねえ。
  後で一緒に店まで来てよ」

 「何でだ?」

 「とりあえず、ヤクトと運べる物は運んだけどさ。
  下敷きになってる野菜とか……その他諸々を確認してよ。
  見落としがあるかもしれないでしょ?」

 「そうだな」

 「野菜も放っとくと腐るから、焼却しないといけないし」

 「そうだな」

 「お昼食べた後でいいからさ」


 ヤオ子の父親が頷く。


 「分かった。
  配給が向こうで始まるって言ってたから、行くか?」

 「うん」


 ヤオ子達一家は配給の列へと並び、お昼を取ることになった。


 …


 昼食後……。
 父親と一緒に店の後を確認して商品にならない野菜を焼却。
 残った瓦礫を近所の人や里から派遣された忍者の人と撤去すると、店のあった場所には更地だけが残った。


 「夢の後ですね……」

 「そうだな……」

 「保険とか下りるんですかね?」

 「まあ、自来也様が壊したって目撃証言があるから、
  近いうちに建て直してくれるだろう……。
  だが、当面の問題は、それまでの期間の生活費だな。
  その後は、店を復帰させるための用意だ。
  ザルや樽などの小物を買い揃えないといけない」

 「出費ですね……」

 「暫くは商品をダンボールに入れたまま商売だな」

 「先行き不安ですね……」


 ヤオ子の父親は腕を組む。


 「まあ、何とかなんじゃねーか?」

 「その自信は、何処から?」

 「店持つまでは、もっと酷かったからな。
  土地も買わなきゃならないし、店も建てなきゃならないしで……。
  でも、何とかこのボロ屋と土地を手に入れたんだ。
  今回は、土地が残ってるだけマシだな」

 「タフですね」

 「オレは、やる男だからな」


 その言葉にはヤオ子も納得する。
 自分の家の人間がしぶといのはよく分かっている。


 「ですね。
  うちの家族がタフだっていうのは、あたしも共通の認識です」

 「だろ?
  しかも、今、建て直して貰えれば、
  数年以内に倒れるはずだったボロ屋の建て替え費用が浮くはずだ。
  きついのは分かっているが
  今だけか後々ずっとかを考えれば、こっちの方がいいはずだ」

 「お父さんにしては、素晴らしい考えですね?」

 「母さんの受け売りだ」


 ヤオ子がこけた。


 「そうですよね……。
  お父さんみたいな馬鹿な人が考え付くわけがない……。
  ・
  ・
  そして、さすがあたしの母親ですね。
  考えがせこくて汚い。
  同じ臭いがしますよ」

 「ふっ……。
  親子だからな」


 何が親子なんだか、と、ヤオ子は溜息を吐く。


 「兎に角……当面の生活費さえゲット出来れば、
  ただで家の建て替えが出来て、
  うちは、前以上に栄えるわけですね?」

 「その通りだ」

 「手始めに、そこら辺に倒れてる敵の忍者から物品を奪おうかとも思いますが、
  もう回収されていますね?」

 「当然だ。
  忍者の体は、あまりに情報が多過ぎる。
  敵味方問わずに最優先で回収される」

 「へ~。
  その知識があるなら、
  何で、看板出しっぱなしにするか……」


 ヤオ子の悪戯っぽい視線に、父親はぶっきら棒に答える。


 「たまたま忘れたんだよ」

 (現役離れて長いんだから、仕方ないだろう)


 父親の心の声など知る由もなく、ヤオ子は両手を頭の後ろで組む。


 「明日は、どうしようかな?」

 「里をあげての葬式だ」

 「そっか……。
  沢山の人が亡くなったんですもんね」

 「それだけじゃない。
  火影様も亡くなった」

 「え?
  火影って……あのお爺ちゃん?」

 「ああ」

 「…………」

 (里は……どうなっちゃうんだろう?)


 ヤオ子の心配通りに里の力は著しく疲弊していた。
 また、火影という大黒柱をなくした木ノ葉の里は試練の時期を迎えていた。



[13840] 第29話 ヤオ子の新生活②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:40
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 里のあちこちが損壊し、大きな痛手の残る中……。
 木ノ葉崩しで亡くなった者達の葬儀が行われる。
 曇天の空からは小雨が舞い降りていた。


 「空も泣いているようですね」


 ヤオ子は仮設住宅の家の前で、降り注ぐ雨空を眺めていた。


 「ふう……。
  それにしても……。
  ・
  ・
  あたしの喪服だけ破れるとは、どんな呪いでしょう?」


 崩壊した家から回収した衣類のうち、他の家族の喪服は無事だったが、ヤオ子の喪服だけが破けてしまっていた。
 喪服のないヤオ子は葬儀に出ることを諦め、仮設住宅の家で留守番をすることになっていた。。



  第29話 ヤオ子の新生活②



 皆の集まる葬儀場の方に向かい、ヤオ子は両手を合わせて目を閉じる。


 「仕方ありません。
  あたしは、ここから祈らせて貰います」


 やがて祈りが終わると、ヤオ子は目を開ける。
 そして、頭に手を持っていき、ヤオ子は独り言を続ける。


 「しっかし、何で色の目立つ私服しか残らなかったんでしょうね?
  黒い一団の中に堂々とピンクの服とか着た頭の悪そうなガキが混ざってたら、暴動になりかねませんよ。
  さすがのあたしも、そんな服着て出る勇気ないし……。
  ・
  ・
  こういう職業の里ですから、喪服は手放せないんですよね。
  あたしの喪服も、お下がりが回って来たものでした。
  子供の成長に合わせて買い替えることはしません。
  回しっこです」


 今回の木の葉崩しの痛手は大きなものだった。
 ヤオ子の居る仮設住宅からも、その爪痕がはっきりと分かる。
 ヤオ子は居た堪れなくなると、もう一度黙祷を捧げた。


 「こういうのは気持ちです」


 両親達が戻るまでは、もう少し掛かる。
 故人を想ったり、花を捧げたり、葬儀ではやることが沢山あるのだ。
 ヤオ子は仮設住宅の家の中で待つことにした。


 …


 里全体の葬儀が終わり、窓の外にはちらほらと帰り始めた人々が見え始めた。
 ヤオ子は窓の側に近づく。


 「そろそろ帰って来ますかね」


 ヤオ子がぼーっとして窓から外を見ていると両親と弟が見える。
 いつも明るい両親も、沈んだ顔をしている。
 ヤオ子は台所の食塩を手に取ると、扉を開けて家に戻って来た両親達のところへと向かった。


 「おかえり。
  塩、ふりかけますか?」

 「ああ、頼む」


 ヤオ子は両親と弟にぴっぴっと塩を蒔く。
 喪服についた塩を払い落としながら、父親がヤオ子に話し掛ける。


 「ヤオ子。
  着替えたら、直ぐに出掛けるぞ」


 ヤオ子は自分を指差す。


 「私服でいいんですか?」

 「皆、もう帰っただろう」

 「分かりました。
  じゃあ、お父さんが着替えるの待ってるね」

 (珍しいですね。
  お父さんは、こういうことに気の回らない人間だと思っていたのに……)


 ヤオ子が父親を待って外に出ると、喪服の上だけを着替えた母親がヤオ子の隣りたった。


 「あれ? お母さんも行くの?」

 「ええ」

 「それにしても、何か二人とも暗いですね?」

 「大切な人達が亡くなったんだから、当たり前でしょう?」

 「葬儀が終わったなら、引きずらない方がいいですよ。
  あまり故人を想い過ぎると、
  想いが鎖になって天国に逝かせなくなるらしいです」

 「そうなの?」

 「そうです。
  いい思い出だけを想ってあげるといいです。
  お墓なんかで泣き事を言う人がいますが、あれはいけません」


 母親は少し頬が緩む。


 「まあ、漫画の受け売りなんですが」


 が、付け加えたヤオ子の言葉に母親はこけた。


 「あなたの言葉は、どこまで信じていいの!?」

 「話半分でいいんじゃないですか?
  でも、いい言葉も含まれてたでしょ?」

 「不覚にもヤオ子の言葉に少し感動したのに……」

 「まあまあ……。
  行きますか?」


 仮設住宅の家の中から出てくる父親をヤオ子が指差すと母親は頷いた。
 そして、両親に連れられ、ヤオ子は歩き出した。
 その時には、雨は上がっていた。


 …


 閑散となった葬儀場に着くと、ヤオ子も花を添える。
 やはり自分の手で故人に花を贈れるのは良いことだとヤオ子は思う。


 (終わりですかね)


 しかし、そのまま帰宅すると思っていた方向とは違い、両親は仮設住宅と別の方に歩き出す。


 「あれ? 何処行くの?」

 「これからヤオの将来に関わるところに連れて行く」

 「あたしの将来?
  後にも先にも八百屋にしかない気がしますけど?」

 「大事なことだから、私達も真剣にお話しするから」

 「?」


 いつもと何処か雰囲気の違う両親に、ヤオ子は疑問符を浮かべた首を傾げる。
 そして、ヤオ子が連れて行かれたのは忍術アカデミーの一室の前だった。


 …


 一室の前ではヤオ子達以外にも親子が来ている。
 かなりの人数が列をなして並んでおり、ヤオ子にはそれらの人々が何のために並んでいるのか分からなかった。
 両親に目を移せば、いつになく厳しい顔をしており、ヤオ子は押し黙ってしまった。


 (列の最後ですか……。
  結構な数ですね。
  夕方になっちゃうんじゃないの?
  ・
  ・
  それにしても……。
  他の親御さんは、うちの親と違う顔をしてますね)


 列に並んでからかなりの時間が過ぎる。
 お昼過ぎになっても列が半分ほどしか消化されていない。
 係の人らしき人が列に並ぶ親子にお弁当を配り、ヤオ子達もそれをいただいた。

 そして、ようやくヤオ子達親子が部屋の中に通された時は、日が傾き始めていた。
 中には、ご意見番のホムラとコハルの二人が居た。
 どちらもかなりの歳を取っているように見える。
 ヤオ子の父親が頭を下げる。


 「ご無沙汰しております」

 「元気にしていたか?」

 「はい」

 「お前にあの怪我さえなければ、
  未だに第一線で仕事を任せられたのだがな」

 「申し訳ありません」

 「…………」

 (お父さんがお爺さんに敬語遣ってる……。
  こんな気持ち悪い言葉遣いのお父さんは初めてです)


 ヤオ子達はホムラとコハルの向かいの長椅子に座るように促され、それぞれが腰を下ろした。
 それを確認してホムラがお茶を啜る。
 これからの長話に備えて舌を潤したのだろう。


 「今、里の力は恐ろしいほどに低下しておる……。
  その低下した力を戻さなければならない」


 コハルが補足する。


 「隣国のいずれにも木ノ葉の力が落ちたのを悟らせるわけにはいかない。
  また、悟られても著しく落ちたと知られてはならないのだ」

 「各国とのバランスが崩れるからですか?」


 父親の言葉にホムラとコハルが頷く。


 「そこで、今まで以上に中忍や上忍に難しい任務をこなして貰う必要がある。
  そうなると、各班の担当上忍と下忍三人のフォーマンセルを維持出来なくなる」

 「場合によっては優秀な下忍の居る班には、
  下忍だけで任務について貰うこともあるかもしれない」

 「しかし、それは──」

 「無論……可能性の一つだ」


 父親の言葉を遮り、コハルが続ける。


 「ただ、今まで以上に人員を割くことは出来ないし、
  里に持ち込まれる依頼もこなさねばならない」

 「そこで異例ではあるが優秀と思われるアカデミーの生徒を徴収し、
  本来、優秀な下忍が行うはずだった簡単な任務を受け持って貰いたいと考えている」


 ホムラとコハルの説明に、父親が少し考えて確認を取る。


 「つまり、今の下忍の優秀な子に難易度の高い任務を積極的にこなさせて経験を積ませる。
  そして、簡単な任務を新規に集めた子に担当させるというこですか?」

 「その通りだ」

 「里の力を取り戻させるには経験を積ませるしかない。
  経験を積ませ優秀な忍を増やさねばならない」

 「それは……分かります。
  火影様をはじめ多くの優秀な忍が命を落としました」

 「うむ」


 ホムラが真剣な目でヤオ子達を見回すと、本題が告げられた。


 「それを考慮した上で結論付けた。
  ・
  ・
  今の木ノ葉を再建するために、
  お主達の娘を木ノ葉に欲しいのだ」

 「…………」


 場が沈黙する。
 ヤオ子の両親は招集が掛かった時点で覚悟をしていた。
 故にヤオ子だけが混乱する。
 ヤオ子が手を上げる。


 「あの~……。
  あたしはアカデミーに通っていませんが?」


 ヤオ子の質問にコハルが答える。


 「知っている。
  素性は調べさせて貰っておる」

 「素性?」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「アカデミーに通っていないのに選ばれたのには理由がある。
  お主は、特別上忍の推薦なのだ」

 「特別上忍?」

 「森乃イビキ……知っているな」

 (ああ……あの新ドSですか。
  偉そうにしていると思ったら上忍だったんですか)


 ヤオ子は頷いて返事を返した。


 「イビキの話で砂の忍を四人倒したと聞いている」

 「偶然ですよ?
  あの人達、サスケさんより遅いじゃないですか」

 「サスケ……?
  うちはサスケを知っているのか?」

 「え? ええ、まあ。
  あたしの忍術は、サスケさんの修行をお手伝いするためのようなもんですし」

 「そうか……」


 ホムラとコハルは、ヤオ子の忍術の出所に納得したように頷いている。
 何故、頷いているのか分からないヤオ子は、女同士ということでコハルに質問する。


 「あの~……。
  話を続けていいですか?」

 「すまんな。
  よいぞ」

 「まず、本当のことを言うと、あたしは優秀じゃないです」

 「何故……?」

 「あたしが忍術を覚えたのは、
  多分、サスケさんが下忍になった時ぐらいです」

 (その期間の修行で砂の忍を倒したのか……)

 「それで分かったことがあります。
  忍者をするには、確実に体力と筋力が足りないんです。
  術を使う時に使うチャクラ……これは身体エネルギーと精神エネルギーを混ぜなければいけませんが、
  あたしには身体エネルギーが絶対的に足りないんです。
  ・
  ・
  故にチャクラ生成の限界が直ぐに来ます。
  また、忍に大事な体術も未熟です。
  あたしは、サスケさんに一度も攻撃を当てたことがありません」


 ヤオ子の正直な言葉に、コハルは微笑を浮かべる。
 そして、ヤオ子の両親を見る。


 「やはり、優秀なようだ。
  この歳でチャクラの分配とスタミナを理解している。
  そして、その上で自分を分析できている」


 コハルは再びヤオ子に視線を戻す。

 「ヤオ。
  一つ質問していいかい?」

 「構いませんけど?」

 「その未熟なお主が、
  どうやって砂の忍を倒したのかね?」

 「…………」


 ヤオ子は両手を返して答える。


 「力もない。
  スピードもない。
  チャクラのスタミナも足りない。
  ・
  ・
  なら、使うのはここです」


 ヤオ子は自分の頭を指差す。


 「相手は、あたしよりも大きい。
  そして、スピードもある。
  なら、これを利用するしかありません。
  物体は重いものほど、スピードが上がれば力も上がります。
  ・
  ・
  あたしは向かってくる彼等の前に自分の分身をぶつけただけなんです。
  簡単でしょ?」

 「ただの分身じゃないね?」

 「ナルトさんに教えて貰った影分身です。
  だから、実体があります」


 その場に居た者が驚く。
 影分身は、本来、上級忍術に位置づけられている忍術なのだ。
 ホムラとコハルは額に手を当てる。


 「ナルトめ……」

 「影分身は上忍が使う術だぞ……」

 「そうなんですか?
  確かにナルトさんは、高等忍術だとは言ってましたけど」

 (影分身のバーゲンセールだな……。
  こんな子供まで扱えるなんて)


 ご意見番の二人は知らないが、ヤオ子はエロが絡むと妥協しない。
 故に覚えることが出来ただけである。
 そうとは知らず、コハルが結論を言う。


 「今までの会話で知識とセンスは認めてもいいと思う。
  ヤオの気にしている体力と筋力も任務をこなせば嫌でもついてくる。
  ・
  ・
  やはり、この子は里に欲しい」

 「…………」


 コハルの真剣な訴えを受け、ヤオ子の両親はヤオ子を見る。


 「ヤオ……。
  どうしたい?」

 「へ?」

 「あなたが決めるのよ」

 「ハァ!?」


 ヤオ子が素っ頓狂な声をあげた。


 「ちょっと!
  何で、あたしが決めるの!?
  こういうのって親の意見が全てじゃないの!?
  ・
  ・
  話聞いて大体わかったけど、
  さっき、外に居た親は野望に満ちてた目をしてましたよ」


 父親が答える。


 「他の家族は、きっとアカデミーに子供を置いている。
  だから、少しでも早く下忍になれるこの機会を喜んでいるんだ」

 「うちは?」

 「お前の意思で決めていい」

 「どうして?」

 「お前が、一番大事だからだ」

 「……お父さん」


 ヤオ子は俯いて考えるが、結論は簡単に出るようなことではなかった。
 考えあぐねたあげくヤオ子が質問する。


 「ちなみに……。
  お父さんとお母さんは……。
  あたしが忍者になったら……嬉しいですか?」

 「それは……」


 父親が押し黙る。
 将来はヤオ子自身に決めて貰うのが一番だと思っていた。
 また、自分達の意見を言ったことでヤオ子が気を遣うのは間違いだとも思っていた。


 「あなた……」


 母親が父親の手に手を重ねる。


 「答えないのは卑怯だと思うわ」

 「卑怯?」

 「うん。
  ヤオは困っているもの。
  まだ、子供だし……。
  何を基準に将来を決めていいかなんて……きっと、分からないわ」

 「…………」


 父親は暫し黙ると、ホムラ達に顔を上げる。


 「ホムラ様、コハル様。
  時間を頂いていいですか?
  この子に私達のことを教えないといけません」

 「黙っていたのか……」

 「はい」


 ホムラとコハルが顔を見合わせると頷く。


 「我々もしゃべり過ぎて疲れた。
  隣の部屋で休んでいるから、結論が出たら来なさい」

 「ありがとうございます」


 ホムラとコハルは退室して行った。
 そして、部屋にはヤオ子達だけが残された。



[13840] 第30話 ヤオ子の新生活③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:41
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 アカデミーの教室では、どこか重苦しい空気が漂っていた。
 しかし、ご意見番の二人が去って暫くすると、ヤオ子の父親が息を吐き出した。


 「あ~緊張した~」

 「私も……。
  ふう……」

 (いつものだらしない両親に戻った……)


 ヤオ子は自分の将来について混乱する中で、いつも通りに戻った両親に少し安心を感じていた。



  第30話 ヤオ子の新生活③



 重い空気をいつも通りに戻したのは父親だったが、話し始めたのは母親の方だった。
 母親がヤオ子に両手を合わせる。


 「ごめんね。
  中々、言えないことだったから」

 「あのお爺さんとお婆さんが居なくなったら、
  態度でかくなりましたね……」

 「昔から苦手なのよ」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「昔からってことは、二人とも忍者だったんですね?」


 両親が頷く。


 「何で、黙ってたんですか?」


 その質問には父親が答える。


 「里が平和になったから、
  もう、戦う力は要らないと思ってな。
  八百屋やってんだし言わない方がいいかなって」

 「まあ、昨日のあれがあるまでは平和でしたけど……」


 ヤオ子の父親が服を脱いで背中を見せる。
 父親の背中には医療忍術で治しても残る大きな傷痕があった。


 「知っているだろ?」

 「ええ。
  お風呂で見ましたから」


 父親が再び服を着る。


 「これは……。
  ある事件で付けられた傷でな。
  これが原因で背筋をやられて忍者を出来ない体になった。
  忍者を辞めたのは、これが原因だ」

 「嘘でしょ?
  お父さん、重い荷物持ってるじゃないですか?」

 「お父さんは、本来もっと力持ちよ。
  背筋をやられても維持出来ているのは忍の修行の賜物よ。
  筋力が落ちても一般の人と同じぐらいだから」


 母親の補足に、ヤオ子はクラッとする。
 通りで腕力だけでいつも躾けられるわけだと、納得もする。


 「お母さんも何処か怪我したの?」

 「いいえ。
  私は、お父さんが引退する時に一緒に辞めたの」

 「何で?」

 「お父さんに惚れてたから」

 「…………」

 (惚気話を聞かされるとは思わなかった……)


 母親の言葉に、父親は少し照れているようだった。
 その父親を見てクスリと笑い、母親が続ける。


 「私達は忍者を辞めて八百屋をすることにした時、
  生まれてくる子供達には黙っていようって決めたの。
  忍者は辛いお仕事だから」

 「じゃあ、何で、忍者になったんですか?」

 「オレは単純にカッコ良かったから」

 「私はお父さんに惚れてたから」

 「…………」


 ヤオ子が眉間に皺を寄せて、右手の人差し指を立てる。


 「一ついいですか?
  ・
  ・
  お母さんって……もしかしてストーカーかなんかだった?」

 「そうよ。
  ストーカーだったわ」

 「…………」

 (言い切りやがった……)


 ヤオ子は頭痛を引き起こしそうだった。


 「お父さんも、よくお母さんと結婚しましたね?」

 「タイプだった」

 「…………」

 (まあ、あたしから見ても
  お母さんは美人ですけど……何か軽く引いた。
  母親がストーカーで、父親が平然とそれを受け入れてるなんて……)


 ヤオ子は、本当に頭が痛くなって来た。
 父親が気にせず話し出す。


 「まあ……。
  実際に大怪我して骨身に染みて、
  そういう辛いことは、オレ達の代で終わりにしようと思ったわけだ」

 「途中の衝撃の事実で、いい話のありがたみが半減です」

 「それで……。
  さっきのお前の質問についてだ」


 ようやく話は、ヤオ子の『あたしが忍者になったら嬉しいか?』という本題に入る。
 両親が少し真剣な顔になる。


 「オレは……分からない」

 「は?」

 「ヤオが砂の忍を倒したと言った時、
  昔の血が騒いで嬉しかった。
  ・
  ・
  そして、崩壊した里のあちこちを見て、
  真っ先に思ったのが里の未来についてだった。
  ・
  ・
  お前とヤクトの未来を二の次に考えちまった」

 「……正直ですね」

 「背中の傷がヤオを危険な道に踏み入れるなと騒ぐ。
  そして、忍の才能の片鱗を見せたヤオを後押ししろと
  オレの忍だった血が騒ぐ」


 父親は俯いて自分の手を握り締める。
 それを見て、ヤオ子は父親が相反する想いを抱いてしまったのだと分かった。
 母親も自分の想いを吐露する。


 「私も正直に言えばね。
  ヤオが砂の忍を倒したって聞いた時は嬉しかったわ。
  ・
  ・
  きっと……。
  お父さんも私も忍を完遂出来なかったことが、心の棘として残っている。
  そして、それをヤオに託すのが間違いだと分かってもいる」

 「…………」


 両親の正直な想いを聞いて、ヤオ子は考え込んだ。
 両親は怪我をして危ないことだと認識したからこそ、ヤオ子に忍者だったことを黙っていた。
 理由も何となく分かる。
 話せば、ヤオ子も両親も忍者に対しての気持ちを隠しては生きられない。

 『忍者にさせたくない……きっと、本音だろう』
 でも、里が襲われた。
 『何とかしたい……きっと、これも本音だろう』
 『ヤオ子の活躍が嬉しかった……きっと、これも本音だろう』


 (お父さんとお母さんの隠していた気持ちを呼び起こしちゃったのは……あたしですね。
  あたしの軽率な行動……。
  ・
  ・
  忍者になりたいか?
  危ないの嫌です。
  暴力の世界も嫌です。
  でも、両親の思いを遂げさせたいとも思います。
  ・
  ・
  そうなると安全な忍者ってことになります。
  それは間違いです。
  皆、何処かで覚悟を決めるはずです)


 ヤオ子は、今がその覚悟を決める時なのかもしれないと思う。
 ただアカデミーに通わされるのとは大きな違いがある。
 他の子と違い、両親は自分に選択肢を残してくれている。


 (忍者に……ならないといけない気がします。
  ……変態をカミングアウトされましたが、
  お父さんが好きだし、お母さんが好きです。
  そして、弟も好きなんですよね。
  里に力が戻らないと皆が危ないんです)


 ヤオ子は考えを纏めると、顔を上げる。


 「忍者になります」

 「いいのか?」

 「はい」


 両親はヤオ子の言葉を受け入れると了承の意味を込めて頷いた。
 そして、ホムラとコハルを呼びに部屋を出た。


 …


 ホムラとコハルが再び姿を現すと、ヤオ子の今後について説明を始める。
 ヤオ子達親子の前にホムラとコハルが座ると、コハルがヤオ子に訊ねる。


 「決めたか?」

 「はい。
  忍者になります」

 「そうか……」

 「これで資格を得たな」

 「「「資格?」」」


 ヤオ子達親子が声を揃える。
 てっきり、直ぐにでも下忍になれるものだと思っていた。


 「さよう。
  選ばれた子達には試験を受けて貰う。
  いくら特例とはいえ、本当に実力があるかどうかは、
  試してみないことには分からない」


 ヤオ子が息を吐く。


 「ちょうど良かったです」

 「ん?」

 「あたしの能力って未知数でしょ?
  テストしてくれて落ちたんなら危ないことしなくていいし、
  受かったんなら危ないことしても、大丈夫ってことでしょ?」

 「……違うぞ」

 「何で?」

 「あくまで現時点での能力を秤に掛けるのだ。
  それ以降、努力して力をつけなくては危険なことに変わりはない」

 「…………」


 ヤオ子は少し考えると質問する。


 「条件を出していいですか?」

 「「「「は?」」」」


 ホムラとコハルは呆れ、両親は恐れ多い態度に口が塞がらない。
 とりあえず、コハルが続きを促す。


 「い、言ってみよ」

 「忍者になれたら、次のことをお願いしたいんです。
  一つ目。
  自来也さんが壊したうちの店を建て直してください」


 ホムラとコハルが額を押さえる。


 「あやつ……。
  ・
  ・
  よい。
  それは条件なしで叶える」

 「ありがとう、お婆ちゃん」

 「おば──」


 コハルは子供相手と流すが、両親は冷や汗ものだった。
 気にせず、ヤオ子は続ける。


 「二つ目。
  里の力が戻ったら、あたしにいつでも忍者を辞めれる権利をください」

 「…………」


 ヤオ子以外が沈黙する。
 そして、父親のグーが、ヤオ子に炸裂する。
 もう、里のご意見番の前だろうが関係ない。


 「何考えてやがる!?」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「いや、途中までは覚悟もしてたんだけど、
  よく考えたら簡単な任務の補充要員じゃないですか?
  だったら、里の力が戻るまでの代理でもいいかなって……」


 ホムラとコハルが頭を押さえる。


 「やっぱり、お前達の娘だ。
  ・
  ・
  いや、母親の血が色濃く出ているようだな……」


 ヤオ子が母親を見ると、この中で一人だけ動じていない。


 (お母さんって、一体……)


 コハルは咳払いを入れると続ける。


 「よい。
  それも飲んでやろう。
  もう慣れっこだ。
  断れば暴走するのだろう?」

 「…………」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「その通りなんですけど……。
  お母さんって、どんな忍者だったわけ?」

 「これで終わりだな」


 強引に幕を引こうとしたコハルに、ヤオ子が慌てて手をあげる。


 「まだ、あります!」

 「遠慮をしろ!」


 再び父親のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「これは譲れません!
  そして、最後です!」


 ホムラとコハルが溜息を吐く。


 「もういい……言ってみよ。
  前の二つは大したことないし、構わん」


 ヤオ子は真剣な顔になると口を開く。


 「弟に……奨学金みたいの出して貰えませんか?」

 「何?」

 「弟を学校に行かせたいんです」

 「ヤオ……」

 「あたしは……学校に行ってないんです。
  やっぱり、お友達が居る方がいいですから」

 「…………」


 実質的には、ヤオ子の最初で最後のお願い。
 その願いにコハルは頷く。


 「分かった。
  お前の願いは忍者になったら全て叶えよう」

 「えへへ……。
  ありがとう」


 最後の最後でヤオ子以外が毒気を抜かれた気分になる。


 「では、試験は明日だ。
  早朝7時から行う」

 「分かりました」

 「以上だ」


 ホムラとコハルがヤオ子達を残して部屋を出る。
 そして、二人は同時に溜息を吐きながら言葉を漏らす。


 「最後の最後で恐ろしく疲れたな」

 「あの二人の悪いところだけを
  受け継いでいないだろうな?」

 「あの性格で、あの二人は手練れだったのが──」

 「もう、言うな」


 再び溜息を吐くと、ホムラとコハルは去って行った。


 …


 一方、残されたヤオ子親子は……。
 のんびりとした空気で母親が父親に話し掛けていた。


 「あなた、丸くなったわね」

 「そうか?」

 「ヤオの行動は、私達の行動そのものじゃない」

 「……そうだった」


 父親が項垂れる。


 「きっと、ヤオは私達以上の困った忍者になるわ」

 「……今から断るか?」

 「それはいいんじゃない?
  何かあれば試験落ちるでしょ?」

 「そうだな」

 「…………」


 ヤオ子は両親をジトッとした目で見ている。


 「あんた達、さっきの真面目な空気は何処へ行ったんだ?」

 「お前こそ。
  さっき言った覚悟は何処に行った?」

 「…………」

 「「「まあ、親子だし……」」」


 ヤオ子の新生活は、新たな転機を迎える。



[13840] 第31話 ヤオ子の下忍試験・筆記試験編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:41
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 早朝七時五分前、アカデミーの一室。
 玄関からの看板の矢印に従い、特例の下忍徴収の試験を受けるために子供達が集まる。
 しかし、教室の中は教壇の真ん前三列を空席にした形の異常な状態になっている。
 森乃イビキが中忍試験と同じ様に担当を勤め、無言でプレッシャーを掛けているためだ。

 そして、三分前……。
 扉が開き、開始時刻ギリギリに来る子供が一人。
 Tシャツに短パン。
 茶色のポニーテールをフリフリと揺らして教壇の一番前の席に着く。


 「お久しぶりです。
  イビキさん」


 イビキに明るく挨拶したのは、アホの子=ヤオ子だった。
 子供達は空気の読めない少女に奇妙な目を向ける。
 そして、イビキは青筋を引くつかせながら、ヤオ子にグーを炸裂させた。



  第31話 ヤオ子の下忍試験・筆記試験編



 教室が、一瞬で硬直する。
 イビキの容赦ない一撃がヤオ子に炸裂したからだ。


 「開始時間十分前には着席してろ!」

 「まだ、三分も時間あるじゃないですかぁ。
  何なら、トイレも行っていいですか?」


 再びイビキのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「座ってろ!」

 「殴らなくたっていいじゃないですか……」


 ヤオ子は舌打ちすると、席に座り直す。
 遅刻寸前に舌打ち……イビキの機嫌はどんどん悪くなっていた。
 そんなことをお構いなしに、ヤオ子がイビキに話し掛ける。


 「ところで、イビキさん。
  特別上忍なんですってね」

 「それがどうした?」

 「上忍な上に特別なんて凄いじゃないですか」

 「貴様に褒められても嬉しくも何ともない。
  それにな……。
  特別上忍は、上忍以上じゃない。
  中忍と上忍の中間に位置する専門的な任務に従事する職だ」

 「何で、そんな微妙な役職なんですか?」

 「オレが知るか……」


 ヤオ子は考え深げに腕を組む。


 「きっと、これも忍界大戦での、謎の役職手当て絡みなんでしょうねぇ。
  ・
  ・
  しかし、変なところの位置ですよね?
  上忍の中で特殊能力が秀でているなら、胸も張れますけど……。
  中忍から、専門的能力の引き抜きでょ?
  微妙ですよね~」


 ヤオ子の『微妙』の連呼に、イビキは更に機嫌を悪くしていく。


 「きっと、イビキさんはドS特性の引き抜きですね。
  一体、何の部隊ですか?
  あ、いいですよ。
  答えなくて。
  当てますから。
  ・
  ・
  ドSチックな拷問・尋問部隊でしょう!」

 「正解だ! このヤロー!」


 イビキの快心の一撃がヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は机に突っ伏した。


 「ううう……。
  まさか、本当にそんな部隊があったなんて……。
  その部隊にいつかサスケと言う若者が入るのでよろしく……」

 「知るか!」


 イビキの怒号と共に時間になり、はたけカカシ、ヤマト(本名不明のため原作と共通にします)、他に中忍三名が入ってくる。
 また、子供達の中には変化した中忍が一人入っている。
 イビキの不機嫌度MAX付近で試験は始まった。


 「第一試験担当の森乃イビキだ。
  お前らには、先日実施された中忍試験の難易度の低いものを受けて貰う。
  種を明かせばカンニング公認の筆記テストだ。
  偽装・隠蔽術を駆使して情報を得る能力を見るのが狙いだ」

 (あたし……。
  教科書での知識しかなくて、偽装も隠蔽術も試したこともないんだけど……)

 「今、入って来た五人の上忍、中忍が答えを知っている。
  そいつらから、カンニングするだけだ」

 (この試験、分かんないなぁ。
  バレたかどうかの判定は?)

 「この教室には約二十人のガキが居るが、
  カンニングがバレたかどうかは、オレと答えを書く上忍・中忍がチェックする。
  五回カンニング行為がバレたら失格。
  そして、テストは全十問のうち、五問以上正解しない場合も失格だ」


 イビキが教室全体を睨みつける。
 そこで真ん前で手をあげる人間が居る。


 「……何だ?」

 「質問していい?」

 「…………」


 空気を読まないヤオ子のせいで教室の温度が下がる。
 はたけカカシを含む他の忍者も『何? あの子?』という感じで見ている。
 イビキがヤオ子を睨みながら答えを返す。


 「言ってみろ」

 「思うんですけど。
  多分、全員合格しますよ?」

 「何?」

 「だって、カンニング行為を五回でしょ?
  そこの人達が試験用紙に答えを書いて
  一回で堂々と全部書き写せば、バレても一回で済むじゃないですか」


 教室内で『おお!』という声が上がる。
 ……が、イビキのグーがヤオ子に炸裂する。


 「そんな行為を認めるか!
  ルールの追加だ!
  一問につき一回の行為とする!
  つまり、さっきこの馬鹿が言ったことを実行すれば
  一気にカンニング十回で失格だ!」

 「何故……指摘しただけなのに殴られんの?」


 頭を擦るヤオ子を上・中忍達はクスクスと笑う。
 そして、再びヤオ子が手をあげる。


 「席変えていい?
  イビキさんのまん前なんて不利です」

 「却下だ。
  オレはお前が嫌いだ。
  一番に落とすと決めている」

 「…………」


 ヤオ子は座った目でイビキを見る。


 「あたし……イビキさんの推薦で、
  ここに居るんですよね?」

 「自来也様に頼まれて仕方なく、オレの口からご意見番に伝わっただけだ」

 「…………」


 ヤオ子は右手の人差し指を立てる。


 「ちなみにテストは解いてもいいの?」

 「解けるものならな」

 (……何? このハンデ?)


 ヤオ子の質問が終わり、誰も質問をしなくなった。
 それを確認すると、上忍・中忍達が散って席に座ろうとする。
 そこでイビキが二人の忍に声を掛ける。


 「待て。
  あと二人追加する。
  そいつらはカカシとヤマトの座る席に座らせる」


 声を掛けられたカカシが質問する。


 「じゃあ、オレ達は何処に座るんだ?」


 イビキが指差す。


 「この馬鹿の両隣だ」

 「一気に魔のトライアングル地帯に……」


 カカシがヤオ子の左隣に座りながら質問する。


 「君……何したの?」

 「こ前、自来也さんとイビキさんの会話を邪魔した……のが原因かな?
  それとも新ドSと名付けたのが……」

 「何やってんの……」


 右隣に座ったヤマトも思わず溜息を吐く。


 (イビキさんに目を付けられたら終わりだな……この子)


 イビキの口からは、更に追加の条件が出る。


 「カカシ、お前は後半の最後を除いた四問。
  ヤマト、お前は前半の五問だけを書け」


 その言葉に、ヤオ子が机を叩いて立ち上がる。


 「ちょっと!
  そうしたら、あたしは最低でも二回カンニングしなきゃいけないじゃないですか!」

 「黙れ!
  ここでは、オレがルールだ!」


 ヤオ子はペタンと着席する。


 「ううう……。
  あんまりだ……」

 (相当嫌ってんね……。
  イビキの奴……)


 隣りのヤオ子を見て、ヤマトがハンドシグナルでイビキに質問する。


 『少し甘く判定しますか?』


 イビキは首を振った。


 ((容赦ないな……))


 そして、ヤオ子に対するハードルが上がったところで、各位にテスト用紙が配られ、直ぐに合図が出る。


 「始め!」


 イビキの開始の言葉と共に、一斉に鉛筆の音がし始める。
 と言っても、動いているのは答えを知っている上・中忍だけだ。
 その中で後半だけ書けばいいと言われたカカシだけが鉛筆を動かしていなかった。
 カカシは、じっくりと試験用紙を見ていた。


 (これは、分かんないわ……。
  ナルトの奴は、さぞかし慌てただろうな)


 中忍試験中のナルトの光景を想像し、カカシは苦笑いを浮かべる。
 一方のヤオ子も試験用紙を眺めていた。


 「…………」


 その試験用紙を眺めながら、ヤオ子は額に鉛筆のお尻を当てる。


 (気のせいですかね?
  これ……サスケさんが読めって言った本に出てたのと似てます。
  っていうか、何問かは答えそのままの気がします。
  ・
  ・
  物理系の計算問題も暗号問題も解けそうですね……)


 ヤオ子がチラリとイビキを見ると、イビキはヤオ子を鼻で笑った。


 (かっち~ん……。
  頭きました。
  ぶっ飛ばします。
  絶対に恥をかかせます)


 ヤオ子は額に当てていた鉛筆を指でくるりと回す。


 (ただ解いただけではダメですね。
  いかにもカンニングするように見せないと……)


 ヤオ子が鉛筆を置く。
 そして、あから様に忍術を使いますよとアピールするためにチャクラを練り込む。
 更に見たこともない印を適当に結んで仕込むは完成する。


 (((何だ? あの印は?)))


 当然、イビキもカカシもヤマトも分からない。
 猛烈な勢いで設問を解き出したヤオ子に、最初に焦ったのはヤマトだった。


 (ちょっと……。
  追い着かれる!)


 答えを知っているはずのヤマトを追い越す勢いでヤオ子は設問を埋めていく。


 (拙いって!
  ・
  ・
  うわ! イビキさんが睨んでる!
  追い抜かれたら何て言われるか……!)


 解答用紙の前半部分。
 ヤマトはヤオ子とほぼ同時に書き終える。
 カカシに至っては、まだ何も書いていない。
 思わずイビキから舌打ちが漏れる。
 ヤオ子のカンニングを見極めるから、さっさと書けと。


 (うわ~……。
  イビキの奴、怒ってんね……)


 その隣でヤオ子も舌打ちする。


 (え?
  ・
  ・
  もう、後半まで来たの?
  ヤマトは?)


 カカシが横を見ると、ヤマトが息を切らして問いを埋めた後だった。


 (どういうことだ?)


 再び、舌打ちが聞こえる。
 前と隣から……。


 (ちょっと……オレのせい?)


 カカシが問題に答えを書こうとした瞬間、隣から鉛筆が動く音が聞こえる。


 (あれ?
  追い抜かれた?)

 (カカシの馬鹿が!
  のんびりしているから、コイツがカンニングの対象を変えたんだ!
  ・
  ・
  っ!
  一体、誰に対象を変えた!?
  そもそも印を組む以外は、何もしていないぞ!?)


 イビキがヤオ子に翻弄される。
 そして、その怒りは直ぐ隣でカンニングをさせなかったカカシへと向かう。
 イビキがカカシを睨みつける。


 (いや、だから……。
  オレのせいじゃないって……)


 カカシが二問残す間に、ヤオ子は全て書き終えて用紙を裏返す。
 そして、仕返しとばかりにイビキにガンを飛ばす。


 (このガキ……!)

 (ざまーみろです!
  解いてやりましたよ!)


 ヤオ子はイビキの上にある時計に目を向ける。


 (最後の問題まで、あと二十分ですか……。
  最後の問題は、時間が来たら発表らしいですけど)


 ヤオ子は足を組んで腕を組む。
 そして、ひたすらにイビキを睨み続ける。
 イビキのストレスは着実に蓄積され、放つ気が怒気から殺気に近いものになっていく。
 ヤオ子の隣では、カカシとヤマトがタラタラと汗を流していた。


 (何なの……この子!?
  イビキをこれ以上挑発するな!)

 (イビキさんの殺気で後ろの子供達の動きが悪くなってる……)


 ヤマトが後ろを確認した瞬間に、イビキがクナイを投げる。


 「そこのお前!
  五回目だ!」


 ヤオ子のせいでイビキのカンニング判定が厳しくなっていた。
 カカシは頭を押さえる。


 (逝っちゃってる……。
  イビキ……。
  そのカンニングは、流そうって、
  前もって決めてたレベルでしょう……)


 その後も、次々と失格者が出る。
 いつの間にか教室には、ヤオ子を含めて七人しか残っていなかった。
 カカシが時計を見る。


 (そろそろ最後の問題か……。
  大分減ったな……いや、減らし過ぎでしょう?
  ・
  ・
  ここで『この試験を受けるかどうか』を聞くんだったな。
  そして、『間違えれば一生中忍になれない』と脅しを掛ける。
  ・
  ・
  で、ナルトが言った『一生下忍になっても火影になる!』を
  潜んでいる中忍に言わせて勇気をつけさせて、
  それでも残っている奴を次の試験に進ませる……手筈だな)


 カカシがイビキを困った目で見る。


 (ただ……覚えてるかな?
  イビキの奴……。
  ・
  ・
  この子も、まだガン飛ばしてるし……)


 最後の問題の時間が近づき、イビキが時間を確認する。
 そして、定刻になると最後の問題を口にする。


 「今から最後の問題を発表する。
  ・
  ・
  まず、お前らには第十問を『受ける』か『受けないか』を選んで貰う。
  『受けない』を選べば、その時点で失格。
  『受ける』を選び正解出来なかった者は……。
  今後、永久に中忍試験の受験資格を剥奪する!」

 「…………」


 教室の中は静まり返る。
 そんな中、潜んでいた変化した中忍が実行に移そうと手をあげて机を叩く準備をする。
 しかし、その中忍にクナイが飛ぶ。


 「反論は受け付けん!」

 ((ダメだ……。
   忘れてる……))


 カカシとヤマトが項垂れる。


 「受けない者は席を立て!」


 教室の中はピリピリとした緊張感が漂う。
 一人の子がイビキの重圧に耐え切れずに席を立つと連鎖して子供達は出て行く。
 外では、何人かの泣き声が響く。
 そして、ヤオ子だけが残された。


 (意外だな……。
  この子、残らないと思ったのに……)

 (それだけの決意なのか?)


 カカシとヤマトがヤオ子を見ると……ヤオ子は、にやけていた。


 「えへへ……」

 ((やっぱり、この子の考えは分からない……))


 カカシがイビキに手を振る。


 (これ以上、無理……。
  訳が分からない……)


 イビキも溜息を吐いて悔しそうに呟く。


 「ここに残っている者を合格とする……」


 ヤオ子が質問する。

 「は? どういうこと?」

 「だから、お前は合格だ」

 「ちょっと!
  十問目は!」

 「そんなものはない。
  今のが十問目だ。
  今度、徴収される子達の覚悟を見るのが目的だったのだ」

 「ハァ!?
  じゃあ、中忍になれないってヤツは!?」

 「嘘だ」


 ヤオ子は机を叩く。


 「何で、そんな嘘つくんですか!
  あたしは、十問目を受けるつもりだったのに!」


 カカシが溜息交じりに質問する。


 「君……。
  受かったのに、随分とおかしなこと言ってるぞ……」

 「何で!?
  あたしは、担当上忍が必ずつく安全な下忍で一生過ごそうと思ったから、
  十問目はワザと間違えるつもりだったのに!」


 イビキとカカシとヤマトが、ガンと頭を机に打ち付けた。


 …


 ※※※※※ ヤマトの早期登場について ※※※※※

 大事なことを書き忘れていました。
 申し訳ありません。
 ご指摘があって、この注意事項を追加しました。

 本来、ここでは登場しないヤマトを早期登場させています。
 これは原作にはないSSならではのIFです。

 本来なら登場しないヤマトを登場させた理由は、ヤオ子と絡んで貰うためです。
 それと……突っ込みと呆れる役が欲しかったからです。
 そして、私都合ですが、本名を知らない私に合わせて、綱手に与えられたコードネームのヤマトを初登場に関わらず共通にさせていただいています。

 コミックの登場人物紹介でも、コードネームのヤマトとなっている彼。
 不遇の扱いが続いてしまいますが、許してください。
 ちなみに、このSSのこの時分にコードネームを与えたのはコハルになります。
 そして、綱手にコードネームのヤマトを与えられた時に『またか……』と思うことになります。



[13840] 第32話 ヤオ子の下忍試験・実技試験編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:42
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 イビキ、カカシ、ヤマトは、未だに精神的ダメージから立ち直れない。
 ヤオ子の考えは斜め上を行っていた。
 教壇の前で拳を握って俯くイビキが、ギリリッ!と奥歯を噛み締める。


 「この馬鹿……。
  この馬鹿……!
  この馬鹿がーっ!」


 イビキの怒号が教室に響いた。



  第32話 ヤオ子の下忍試験・実技試験編



 ヤオ子は座った目でイビキを見る。


 「何で、馬鹿扱いされなきゃいけないんですか?
  あたしは、ちゃんと試験受けたんですよ。
  ・
  ・
  ほら、回答だってバッチリ!」


 ヤオ子が頬杖を突きながら、イビキに試験用紙を見せる。


 「くそっ!
  こんなガキのカンニングも見破れんとは!」


 イビキが苦々しく呟く。


 「例え神様でも見破れませんよ。
  あたしはカンニングしないで解いたんだから」

 「「「何?」」」


 イビキ達がヤオ子を見ると、ヤマトが代表して質問する。


 「じゃあ、あの印は?」

 「イビキさんの態度が頭に来たから、
  カンニングするように思わせたんです」

 「つまり……」

 「からかってやったんですよ」


 イビキのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「大馬鹿ヤローが!
  お前のせいで受験生が居なくなっただろうが!」

 「アァ!? 何言ってんですか!?
  あたしのせいじゃないでしょ!
  失格にしたのは、イビキさんじゃないですか!」

 (あ~……。
  この空気……。
  第七班でよく流れてるなぁ……)


 ビシバシッ!と火花を散らして睨みあうヤオ子とイビキを見て、カカシは溜息を吐く。


 「で……。
  どうすんのよ? イビキ?」


 カカシの言葉に我に返ると、イビキは咳払いを入れる。


 「……明日、再試験する」

 「はぁ……。
  やっぱりね」


 ヤオ子が自分を指差す。


 「あたしも、再試験?」

 「お前は絶対に来るな!
  合格したから、次に行け!」

 「次?」


 ヤオ子が首を傾げると、カカシが立ち上がる。


 「第三演習場で
  オレが実技を見ることになっている」

 「あの……。
  あたしだけ?」

 「君のせいで他の子は失格しちゃったから」

 「やっぱり、あたしのせいなの?」

 「そりゃそうでしょう……」


 カカシがヤオ子を手招きする。


 「着いて来て」

 「は~い」


 ヤオ子がカカシの後に着いて行く。
 そして、カカシはすれ違い様にヤマトに囁く。


 「アンコ呼んで。
  試験するのに人数足りないから。
  下忍に変化して来てくれ」

 「分かりました。
  では、後ほど……」


 カカシとヤオ子が教室を出るとヤマトも姿を消した。
 残されたイビキがヤオ子の答案用紙を見る。


 「答え……本当に全部あってるな。
  何で、全部解けるんだ?」


 サスケのドS的指導のせいに他ならない。


 …


 第三演習場……。
 今日のために用意した演習場だが、ここには二人しか居ない。
 カカシとヤオ子が向かい合っている。


 「あと二人来るから、待っててくれ」

 「二人?」

 「本当は受験生同士を組ませるはずだったんだけどね。
  誰かのせいで居なくなちゃったから、代わりを用意してんの」

 「誰かって……。
  ここには、あたししかいないじゃん……」

 「…………」


 沈黙して時間を待つのもおかしいので、カカシがヤオ子に話し掛ける。


 「自己紹介してくれる?」

 「試験で普通します?」

 「一人しか居ないからな。
  それに時間もあるし」

 「別にいいですよ。
  八百屋のヤオ子です」


 ヤオ子の名前を聞いて、カカシが首を傾げる。


 「ヤオ子……どっかで聞いたような?」

 「サスケさんじゃないですか?」

 「え?」

 「名前は存じませんが中忍試験の本戦の時に、
  サスケさんと一緒に現れた忍者さんですよね?」

 「そうだけど……」

 「あたしは、サスケさんと濃密な関係で結びついてます」

 「濃密って……。
  まあ、確かにサスケがぼやいてた名かな?」

 「そういうことです。
  ・
  ・
  ところで、お名前を伺っても?」

 「ああ。
  オレは、はたけカカシだ。
  第七班……サスケの担当上忍だ」

 「サスケさんの……。
  ということは、ナルトさんとサクラさんも?」

 「そうだ。
  知ってるの? 三人とも?」

 「ええ。
  大変ですね」

 「何で、大変?」

 「あの三人……。
  キャラ濃いでしょ?」

 (……否定出来ない)


 カカシが苦笑いを浮かべた時、下忍に変化したヤマトとみたらしアンコが現れる。
 それを合図にカカシが咳払いを一つする。


 「準備出来たな。
  今から第二試験を始める。
  第二試験は、さっき言ったように実技だ」


 ヤオ子が首を傾げる。


 「三人も要らないんじゃないの?」

 「まあ、待て。
  ただ実技を見てもつまらんだろう?
  ゲーム性を持たせる」

 「よかった……。
  カカシさんは、イビキさんみたいにドSじゃないみたいです」


 カカシが腰の道具入れから鈴を二つ取り出すと、それをヤオ子に見せる。


 「忍術・体術……何を使ってもいいからオレから鈴を取れ。
  鈴を取れなければ失格だ」


 にこりと笑うカカシに、ヤオ子が鈴を指差す。


 「一個足りない……」

 「ゲーム性……。
  椅子取りゲームと同じだ」

 「…………」


 ヤオ子は視線を斜め下に向けて、腰に手を当て呟く。


 「ふっ……。
  間違いなくコイツもドSです」


 ヤオ子が項垂れた。


 「じゃあ、始めるぞ?」

 「待った!」


 ヤオ子が手を上げる。


 ((またか……))


 カカシとヤマトは少し警戒する。
 この質問攻めのせいで、イビキが壊された。


 「作戦タイムが欲しいです」

 「作戦タイム?」

 「知ってますよ。
  カカシさんが只者ではないのは。
  あのサスケさんに電気系の技を教えたんでしょ?」

 「雷な……」

 「だから、この人達と作戦を立てさせてください」


 カカシがヤマトとアンコを見て、ヤオ子に視線を戻す。


 (へェ……。
  面白いことを考える奴だな……)

 「構わんよ」

 「ありがとうございます。
  ・
  ・
  では、あっちで」


 ヤオ子の提案でヤマトとアンコがヤオ子に連れられカカシから離れる。
 ヤオ子達が離れていくと、カカシは腰の道具入れから『イチャイチャパラダイス・中巻』を出して読み始めた。
 ヤオ子は、それに気付くと唇の端を吊り上げた。


 …


 会話の聞かれない一定の距離を置くと、ヤオ子は頭を下げる。


 「あたしのために
  わざわざ、すいません」

 (謙虚な子ね)

 (さっきと様子が180度違う……)

 「お二人の経歴を教えて貰っていいですか?」

 「経歴?」

 「下忍歴XX年みたいのでいいです」


 ヤマトがアンコを見るとアンコは両手を軽くあげる。


 (適当でいいんじゃない?)

 「ボクは、下忍になって三年だ」

 「私は、二年」


 ヤマトとアンコの返答に、ヤオ子の頭で不等号が並び変わる。


 (サスケさん:下忍一年目 > あたし。
  ・
  ・
  つまり……。
  男の子の下忍 > 女の子の下忍 > サスケさん > あたし
  ・
  ・
  格付けでいうとあたしは、かなり最下層ですね。
  これはお零れを狙うしかありません)

 「お二人は、上忍を知っていますか?」

 「「……知ってるけど」」


 ヤマトとアンコに疑問符が浮かぶ。


 「間違いなく下忍じゃ、上忍に太刀打ち出来ません」

 「諦めたのかい?」

 「いえ……。
  手を組みませんか?」

 「「は?」」

 「あたしは、全く勝てる気がしません。
  しかし、あの上忍の両手を塞ぐ方法を考えました」


 アンコがニヤニヤと笑う。


 「へ~。
  面白いじゃない」

 (何だろう……。
  あんまりいい予感がしない……)


 警戒心を植えつけられているヤマトは、ヤオ子の作戦というのに同意しかねていた。
 ヤオ子が話を続ける。


 「そこで取り引きです。
  あたしがカカシさんの両手を塞いで、その隙にお二人が鈴を取れたら……。
  ジャンケンで鈴の所有者を決めさせてください」

 「そういうことね」


 アンコが軽く笑う。


 「あんた、取れる気しないから、
  私らを利用して少しでも鈴を取れる可能性に懸けるんでしょ?」

 「うっ……!」

 (せこい……)


 ヤオ子がタラタラと汗を流すと項垂れる。


 「バレた……」


 アンコは可笑しそうに笑っている。


 「ダメですか?」


 ヤオ子は駄目元で聞いてみる。


 「いいわよ。
  面白そうだから♪」

 (アンコさん!?
  カカシ先輩に確認も取らずに!)


 ヤマトはヤオ子とアンコに同じ臭いを感じて不安になる。
 一方のアンコは面白そうに質問する。


 「で? 手筈は?」

 「あたしがカカシさんの前で囮になります」

 「ん?
  どうやって両手を塞ぐのよ?」

 「企業秘密です。
  しかし、効果抜群の自信作です」

 「ヤマト。
  面白そうだからやろうよ!」

 (ダメだ……。
  手が付けられない……。
  『やろうよ』が『やるわよ』に聞こえる)


 ヤマトは無言で頷くと、ヤオ子が右手の人差し指を立てる。


 「作戦は至ってシンプルです。
  あたしがカカシさんの前で囮になって仕掛けますんで、
  カカシさんが両手を塞いだら、二人は鈴を取ってください」

 「いいわよ」

 「分かった」

 「では、お二人は開始直後に身を潜めてくださいね。
  身を潜めたら開始します。
  ・
  ・
  あと、失敗したら、あたしは無視してください。
  多分、実力からいって役に立たないんで」

 「「了解」」


 …


 長い打ち合わせの後で、ヤオ子達はカカシの前に戻る。


 「終わった?
  始めていいか?」


 三人が頷く。


 「じゃあ、スタート」


 カカシの合図に、ヤマトとアンコが姿を隠して気配を消す。
 それを見たヤオ子は動けなくなった。


 「あの人達……ほんとに凄い。
  一瞬で姿消して気配が消えた」

 (ヤマト、アンコ……やり過ぎ。
  もう少し抑えて……変化がバレるから)


 しかし、今はそのことを置いておく。
 ヤオ子はカカシの前で堂々と腕を組む。


 「いざ! 勝負!」

 「あ。
  デジャヴ……」


 カカシが本を持っていない空いてる手で額を押さえる。


 (そうだ……。
  この子、何処となくナルトに似てるんだ……)


 カカシは懐かしさを感じつつ溜息を吐く。
 その様子を見ながら、ヤオ子はカカシを指を差す。


 「その本は?」

 「下忍前のガキに本気もないでしょ?」


 カカシはヤオ子を無視して本を読み耽っていた。


 …


 アンコはヤオ子の様子を面白そうに見つめている。


 「ダメだわ。
  あの子、面白過ぎる……く…くくく」


 一頻り笑い終えると、今度は冷静になってヤオ子に監視し続ける。


 「それにしてもカカシ相手に、一体、どうするのかしら?
  幻術でも使うのかしら?」


 …


 一方のヤマトは、別の場所で頭を抱えていた。


 「おかしいよ……。
  こんな忍者いないって……」


 第一試験に続いて頭痛がする。


 「先輩相手に堂々と術なんて掛けれるわけがない」


 ヤマトは黙って様子を伺うことにした。


 …


 ヤオ子がゆっくりカカシに近づく。
 それをチラリと見ただけで、カカシは無視して『イチャイチャパラダイス・中巻』を読み続けていた。
 そして、ヤオ子が足を止めるとボソリと呟いた。
 その耳に入った言葉に、カカシがゆっくりとヤオ子に顔を向けさせられる。


 「何……だと?」


 更にヤオ子は何かを呟き続ける。


 「どうしてだ?
  どうして内容を知っているんだ!?」


 カカシの叫び声に、ヤオ子はニヤリと唇を吊り上げるだけだった。
 遠く離れているヤマトとアンコにはヤオ子の声は聞こえず、カカシの声だけが届く。


 「「まさか、幻術に掛かった?」」


 しかし、ヤオ子は印の類を結んでいなければ、チャクラを練った形跡も見えない。
 ヤオ子の呟きが続く。


 「やめろーっ!
  それを変えるなーっ!」

 ((変えるって、何だ?))


 ヤオ子が呟き続ける。


 「それ以上、主人公とヒロインを穢すなーっ!」


 カカシが思わず耳を塞いだ。


 「「あ」」


 ヤオ子の予想通りになると、ヤマトとアンコが木の陰から飛び出した。
 絶叫して耳を塞いき続けるカカシから鈴を取るのは、あまりに簡単だった。


 「やめろ~!
  やめてくれ~!」


 カカシは絶叫し続け、ヤオ子は卑下た笑いを浮かべて呟き続ける。
 ヤマトとアンコがヤオ子の言葉に耳を澄ます。
 そして、間髪入れずに二人はヤオ子にグーを炸裂させた。


 「「何、下品な言葉を囁いている!」」


 ヤオ子が地面に減り込むとヤオ子の呟き止り、カカシは額の汗を拭う。


 「何て恐ろしい精神攻撃だ……」

 「何処がですか! 先輩!」

 「そうよ!
  ガキがエロい言葉を羅列していただけでしょ!」

 「…………」


 アンコがヤオ子のポニーテールを引っ掴むと、地面から人参でも引き抜くようにして吊るし上げる。


 「あんた!
  何したの!」

 「囮……」

 「嘘をつくな!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「痛いじゃないですか……。
  鈴取れたんだし、いいでしょ?
  ジャンケンしましょうよ」

 「納得いくか!
  あんな下品な言葉で耳を汚された挙句に
  鈴が取れるなんて!」

 「カカシさんに聞けばいいでしょ?」

 「無理……。
  カカシ先輩のHPは0だよ。
  回復に時間が掛かる」


 消耗しきったカカシを見て、ヤマトはそう答えた。
 ポニーテールを引っ掴まれて吊るされたまま、ヤオ子は両方の掌を上に向ける。


 「もう、どうだっていいじゃん。
  鈴取れたんだし。
  ・
  ・
  ハウッ!」


 空中にぶら下がってんのは変わらないが、ポニーテールから顔面のアイアン・クローに位置が変わった。


 「死ぬのと説明するのどっちがいい?」

 「聞き流すの選択肢はないんですか!?」

 「ないわよ!」

 「……じゃあ、説明するで」


 アンコがヤオ子を開放すると、ヤオ子はいつものように顔を揉み解す。


 (何かこのパターン多いですよね……)

 「で?」

 「ああ、カカシさんが廃人になった件ですね?
  ・
  ・
  原因は、それです」


 ヤオ子が地面に落ちている『イチャイチャパラダイス・中巻』を指差す。


 「このエロ小説がなんなのよ?」

 「適当にページを開けてみてください」

 「イヤよ!
  こんな本!」

 「知りたくないんですか?」

 「っ! し、仕方ないわね!」


 アンコが適当に『イチャイチャパラダイス・中巻』を開く。


 「主人公は、Pi─────に
  Pi──────────をして
  嫌がるヒロインにPi─────をした」


 ヤオ子の朗読にヤマトは額を押さえる。


 (この子、何言ってんの……。
  もう、帰りたい……)


 一方のアンコは驚いている。


 「内容が…合ってる……」

 「……え?」

 「この子の言った内容と、
  この本に書かれている内容が丸っきり同じなの!」

 「嘘!?」

 「種を明かしましょう」


 ヤマトとアンコが唾を飲み込み、ヤオ子を見る。


 「あたし、『イチャイチャパラダイス』は、全部暗記しているんです!」

 「…………」


 開いた口が塞がらない。
 何という無駄な能力の使い方。
 何という無駄なメモリの使用方法。


 「だから?」

 「カカシさんが、何処を読んでいるか一目で分かります」

 「それで?」

 「カカシさんが読もうとしたところを先に朗読しました」

 「……それで先輩が驚いてたのか」

 「そりゃ驚くでしょ?
  子供が十八禁を朗読したら」

 「……いや、それだけじゃない」


 カカシ復活。
 効果は、FFのリジェネぐらい。


 「この子は主人公の気持ちもヒロインの気持ちも理解して、
  感情移入して朗読するんだ」

 「十八禁エロ小説を感情移入の上に朗読……」

 ((アホだな……))


 アンコが左手の掌を返す。


 「それだけでしょ?
  何で、耳塞ぐほど精神をやられるのよ?」

 「ここまで言って、まだ分かんないんですか?」

 「分かるわけないでしょ!」


 ヤオ子とカカシが溜息を吐く。


 「ダメだな……コイツら」

 「全くです」

 ((無性に腹が立つ……))

 「ヤオ子。
  仕方ないから、例を出して説明してやれ」

 「分かりました」

 (短い間で随分と打ち解けたじゃない……)

 (何だろう……。
  先輩が酷く馬鹿に見える……)

 「え~と……あなた!」


 ヤオ子がアンコを指差す。


 「私?
  ああ、名前言ってなかったわね。
  アンコでいいわよ」

 「分かりました。
  ・
  ・
  では、あらためて。
  アンコさんは、何が好きですか?」

 「は?
  ・
  ・
  まあ、お団子かな?」

 「団子にウスターソースをかけたら?」

 「殺すわ!」

 「…………」


 ヤオ子は顔の前で手を振る。


 「そうじゃないです。
  ウスターソースをかけた団子を無理やり食べさせられたら?」

 「殺すわ!」

 「そうじゃないです!
  食べさせられた時の気分です!」

 「殺すわ!」

 「お前、黙れ!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。
 ヤマトがフォローを入れる。


 「アンコさん。
  そうじゃないですよ。
  きっと、酷く気持ち悪いということを言って欲しいんですよ」

 「そう!
  ・
  ・
  あなたに質問すれば良かった……」

 「フン!」


 アンコはそっぽを向き、ヤオ子は殴られた頭を擦る。
 そして、説明を続ける。


 「つまり、その嫌なことをカカシさんにしたんです」

 「どうやって?」

 「あたしの分析です。
  カカシさんは『イチャイチャパラダイス』をかなり愛読しています。
  きっと、あたしと同じ位のエロレベルです」

 「エロレベルが分からない……」

 「きっと、内容を神の様に崇拝しているはずです」

 「たかがエロ小説で?」


 ヤオ子が地団太を踏む。


 「アンコさん!
  さっきから失礼ですよ!
  エロを舐めんなです!
  ・
  ・
  ちゃんとエロいところに持って行くのに練り込まれたストーリーがあるんです!
  ちゃんとした設定があるから、メインのエロいところで盛り上がり、
  読者を感情移入させ熱くさせるんです!」

 「エロ小説の長所を力説されても……」

 「まったく! さっきからアンコさんは!
  ちゃんとエロ小説を理解する気があるんですか!?」

 「ないわよ!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ヤオ子……。
  話がずれてるぞ」

 「すいません。
  大人気ないところを……」

 (((子供だけどな……)))

 「え~と……。
  だから、あたしは『イチャイチャパラダイス』の内容を改竄して、
  カカシさんに聞かせたんです」

 「…………」


 アンコとヤマトが首を傾げる。


 「それで……何で、絶叫?」

 「二次小説って知ってますか?」

 「知らない」

 「まあ、簡単に言うと原作のIFの話です。
  その中に結構な確立で嫌われるジャンルがあります。
  まあ、それが好きだという人も居るんですが……。
  ・
  ・
  良作の原作を徹底的に批判し貶めるジャンルです。
  あたしは、これを実行しました」


 カカシがシリアスな顔で語る。


 「そう……。
  それをやられたオレはあまりの酷い内容に絶叫し、
  思わず耳を塞いでしまったのだ」

 (馬鹿だ……)
 (馬鹿ね……)

 「それにしてもあの内容は酷かった……」

 「あたしも心で泣きました……とても辛かったです。
  『イチャイチャパラダイス』の原作の内容がいいだけに」

 「心で泣いていたんだな……」

 「はい。
  ・
  ・
  『イチャイチャパラダイス』に出会うまでに数多のエロ小説や二次小説を読みました。
  その中には、本当に酷いものもあります。
  怖いもの見たさで書いたようなものもあります。
  あたしは、その中でも後者の衝撃を受けた理想郷のチラシ的裏にある
  宇宙系支配者のボクっ娘系絶叫小説を掛け合わせました」


 アンコが頭が痛そうに、ヤマトに話し掛ける。


 「ヤマト……。
  私、何言ってるか分かんないんだけど」

 「ボクもです……」


 ヤマトとアンコの前では、イチャイチャパラダイスで打ち解けたヤオ子とカカシに少し友情のようなものが芽生えていた。
 そのアホな光景に水を差すように、ヤマトが訊ねる。


 「あの……。
  感動に浸っているところ悪いんですが……。
  先輩、試験の結果は?」

 「え?」

 「『え?』じゃないわよ。
  あんたが試験官で合否を決めるんでしょ!」

 「……合格になるのかな?
  オレは、してやられたし」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「鈴は?」


 ヤオ子は訳が分からぬまま第二試験もパスした。



[13840] 第33話 ヤオ子の下忍試験・サバイバル試験編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:42
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 精神的ダメージから回復したカカシが立ち上がると、カカシがアンコに話し掛ける。


 「オレとヤマトは、ここまでだ。
  この後は、明日の再試験のための前倒しの任務があるからな」

 「分かったわ。
  じゃあ、後は任せて」


 アンコが返事を返すと、カカシとヤマトが煙と共に姿を消した。



  第33話 ヤオ子の下忍試験・サバイバル試験編



 第三演習場に、ヤオ子とアンコが残される。
 ヤオ子が変化したままのアンコを見る。


 「アンコさんが試験するの?」

 「そうよ」

 「下忍でしょ?」


 アンコがにこりと笑うと変化を解く。


 「第三試験官のみたらしアンコよ」


 現れた大人の女性にヤオ子が驚く。
 そして、上から下まで舐め回すようにアンコを見る。
 ヤオ子が見る限り、ナイスバディのお姉さんだった。
 チラリズムを誘うミニスカートも高得点だった。


 「えへへ……」

 「な、何よ?」

 「何でもないです」


 アンコは分からない身に危険を感じて、少しヤオ子に後退りする。
 捕食モードを解いたヤオ子が、アンコに質問する。


 「試験って、ここでやるの?」

 「いいえ。
  私の試験は、もっと広い場所が必要だからね。
  移動するわよ」

 (ここの演習場よりも広い場所が必要って……。
  試験を受けるのも一人なのに、何するんだろ?)


 アンコに続いて、ヤオ子は第四十四演習場死の森へと移動することになった。


 …


 第四十四演習場……。
 そのあまりの大きさに、ヤオ子は呆然としている。


 「木ノ葉って土地あるんですね……」

 「何を呆けてるの?
  これから、あんたが入るのよ」

 「……は?」

 「ここは、第四十四演習場。
  別名死の森と呼ばれているわ」

 「四乃森?
  ・
  ・
  蒼紫様のことですか?」

 「誰よ、それ?」

 「御庭番衆御頭です」

 「知らないわよ!
  そもそも、あんた勘違いしてるわ!」


 アンコがガリガリと地面に『死の森』と字を書く。


 「ああ……。
  死の森か……。
  ・
  ・
  何なんですか?
  この冴えないネーミングセンスは?」


 ヤオ子の返事に、アンコがクナイを投げつけた。
 それをヤオ子はプイと躱した。
 すると、今度はクナイが二本投げつけられた。


 「ひィ!」

 「一回避けたら二本投げるから♪」

 「何なんですか!
  その心を折るような天体戦士的なセリフは!?
  『一回避けたら二回ボコるから』って、回想が頭を過ぎりましたよ!」


 アンコのクナイが再び飛ぶとヤオ子の頬をかすめる。


 「あんまりはしゃぐと死ぬわよ。
  中忍試験でも同じ様にはしゃいでいた子が居たわ。
  ・
  ・
 (死んでないけど)
  ・
  ・
  真っ先に死んじゃうわよ?
  私の大好きな赤い血をぶちまいてね♪」


 瞬身の術で姿を消すとアンコはヤオ子の背後に回り、ヤオ子の左の頬に流れる血を舐め取る。
 ヤオ子は震えていた。


 (ウフフ……。
  震えちゃって可愛──)


 と、そう思ったのも束の間。
 ヤオ子はクリンと顔を左に回すとアンコの唇を奪う。


 「ん……むう!」


 更に舌を入れた。
 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「何すんのよ!」


 しかし、ヤオ子は地面に減り込んで返事を返せない。
 アンコが例によってポニーテールを掴んで引っこ抜く。


 「この馬鹿ガキ!」

 「だって……。
  アンコさんから、いきなり積極的なアプローチを……」

 「ハァ!?」

 「思わず興奮して震えてしまいましたよ♪」

 (恐怖で竦んだんじゃなくて興奮してたのか……)


 アンコの目の前でクネクネと悶える奇妙な生物は、両手を頬に当てはにかんでいる。


 「アンコさんって美人で中々のエロボディだし。
  あたしの捕食テリトリーの住人なんですよ」


 手の中で吊るされて悶える奇妙な生き物に、アンコは背筋が寒くなった。


 「でも……。
  今、一番の狙いはヒナタさんなんです♪」

 「日向家に手を出すな……」

 「分かってますよ。
  内蔵を持って行かれたくないですからね」


 アンコがドッと疲れて手を放し、ヤオ子に奪われた唇を拭う。


 「最悪……」

 「自分から迫ったくせに」

 「もう絶対やらないわ……」

 「あたしは、いつでも準備オッケーです」

 「あんたの顔も見たくない……」

 「思い出すと興奮しちゃいますもんね♪」

 「するか!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「痛いですねぇ。
  何で、そんなにポンポン殴るんですか?
  あたしに、Mに目覚めて貰いたいんですか?」

 「それ以上、変態を極めるな!」

 「まあ、いいです」

 (流しやがった……)


 かつて、これほどまで間髪入れずに突っ込まされたことがあっただろうか?
 いや、ない……。
 その奇妙な生物はアンコに質問する。


 「で?
  何するの?」


 アンコが咳払いをして気を取り直す。
 結局、取り直せなかったが……。


 「あんたには、この森の中央に立つ塔を目指して貰う。
  当然、下忍になる前の子に到達は無理だと思っているわ」

 「どれぐらいでギブアップすると思います?」

 「いいとこ、四、五時間じゃない?」

 「そんな危険なところに
  いたいけな子供を?」

 「別にあんたは死んでも構わないわ。
  っていうか、寧ろ死ね?」

 「オイ!」

 「半分冗談よ」

 (……笑うとこなのか?)

 「監視に中忍が二人付くから、ギブアップの時は叫びなさい。
  監視役を通して私に連絡が行くから」

 「なるほど」


 その時、アンコの後ろの森の中を何かが過ぎった。
 ヤオ子は死の森を指差す。


 「何か……今、信じられないぐらい
  大きい猫が過ぎったんですけど?」

 「虎じゃない?」

 「……虎って」

 「他にも巨大ヒルとか居るから」

 「ここキメラの実験場じゃないの?」

 「大丈夫よ。
  ちゃんと監視してるから」

 「そ、そうですよね」


 ヤオ子は恐怖を笑って誤魔化す。
 そこで、アンコが何かを前に出す。


 「はい♪」

 「何ですか?
  この紙切れ?」


 ヤオ子は、それを受け取ると読み上げる。


 「同意書?」

 「死ぬかもしれないからね。
  同意を取っとかないと私の責任になっちゃうからさ~♪」


 その言葉にヤオ子はギンッ!と目を吊り上げ、問答無用で同意書を破り捨てた。


 「責任持って保護しろ!」

 「アァ!?
  あんた試験官に逆らう気?」

 「当たり前だ!
  もっと安全な演習場選べ!」

 「何でよ!」

 「前々から思ってたけど!
  お前ら、馬鹿だろ!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「何で、馬鹿なのよ!」

 「主旨を考えろ!
  今回、お手伝いの下忍を入れて、
  里の力を元に戻すために現下忍を育てるテコ入れでしょう!
  なのに!
  お手伝いする下忍を殺して……どうするんだ!」

 「も、尤もな意見ね……」

 「当たり前だ!
  お前ら忍者の頭が普通のネジを外して、
  ドSのネジを締め直して構成されているから、
  こんな単純なことにも気付かないんだ!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「あんた、言葉を選びなさいよ!
  仮にも、私は試験官なのよ!」

 「なら!
  ちゃんと、あたしを納得させてから威張れ!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「あ~~~!
  うるさいわね!
  スタートよ!
  さっさと森に入りなさい!」

 「何処から!」


 アンコはヤオ子を担ぐと、金網の上に放り投げる。


 「げふ!」


 金網を越えて落下したヤオ子が地面にキスをする。


 「はい!」


 アンコは、更に地図を放り投げる。


 「痛っ!」


 ヤオ子の頭に地図が当たった。


 「じゃあ、がんばってね~」


 ヤオ子を死の森に捨てると、アンコは姿を消した。
 試験官のアンコは死の森の塔で監視するため、ヤオ子とは別ルートで塔へ向かったのであった。


 …


 一分後……。
 ヤオ子がのそのそと起き上がる。
 そして、胡坐を掻いて地面に転がる地図を拾い上げる。


 「あのアマ……。
  いつか絶対に乳を揉んでやります。
  ・
  ・
  これが地図か……。
  塔まで10キロ……。
  どうしようかな?
  ・
  ・
  ん?
  ・
  ・
  はは……。
  考えるまでもないです。
  飲み水確保して歩くなら、川沿いしかないじゃないですか。
  アンコさんは、何も渡さずにあたしを放り込んだんだし」


 ヤオ子は近くのゲートの番号と地図の位置を確認しながら、川までの位置を導き出す。


 「時計回りに歩けば、直ぐですね」


 地図を腰の道具入れに突っ込むと、ヤオ子はテクテクと歩き出した。


 …


 監視の忍二名が距離を置いてヤオ子を観察する。
 そして、無線で連絡を取り合う。


 『どうだ?』

 『金網を時計回りに移動している』

 『塔を目指していないのか?』

 『そうだ』

 『何でだ?』

 『…………』

 『オイ?』

 『アンコさんが装備一式渡し忘れたから、
  飲み水を確保するためと思われる』

 『…………』

 『渡し忘れたのか?』

 『渡し忘れた……』

 『…………』

 『相手は、下忍でもないのに?』

 『下忍でもないのに……』

 『…………』


 木の上で溜息が二つ漏れると、監視役の忍達はヤオ子を追った。


 …


 ヤオ子は目的の川まで辿り着くと、ホッと息を吐く。


 「良かった。
  地図は本物みたいです。
  偽物の地図を渡されて『これも試験の一環』って、
  言われたらどうしようかと思いましたよ」


 ヤオ子は川岸の横に成長した木に腰掛けて地図を見る。


 「ありがたいですね。
  川沿いを歩けば迷いません。
  とはいえ、暗くなって来てるから、
  夜をこの森で過ごすのは間違いないですね。
  ・
  ・
  川沿いを歩く利点は、もう一個あります。
  野生動物なんかは、水飲み場では草食動物も肉食動物も意外と仲良くしているんです。
  きっと、本能でルールが決まっているんでしょう。
  まあ、中には水場で狩りをする専門の動物もいますけど。
  ・
  ・
  本当は、ここがパンジャの森だと一番嬉しいんですけどね。
  ・
  ・
  あと、もう一点、気を付けなければいけません。
  夜行性の動物さんです。
  これの対策を取らないと……。
  夜は火を焚かない方がいいかな?
  ジャングルなんかの原住民の一つには、
  ライオンに気付かれないように火を焚かないらしいし……」


 ヤオ子は川の流れを暫く見つめ、溜息を吐いてピョンと腰掛けていた木から下りる。


 「歩きながら考えよう」


 ヤオ子は塔を目指して川に沿って歩き出した。


 …


 監視役の忍がヤオ子を観察して二時間が経とうとしていた。


 『…………』

 『何というか……運のいい子だな』

 『ああ。
  まだ、一回も凶暴な動物に会っていない』

 『このまま夜を迎えそうだな』

 『日が完全に沈みきる前にアンコさんから、
  一度連絡が入るだろう……』

 『了解。
  では、監視を続けよう』


 ヤオ子は運良く戦闘を行なわずに先へと進んでいた。


 …


 死の森の日が暮れ始める。
 鬱葱と茂る森の中ではなく割かし開けた川沿いのため、太陽の光はまだ届いている。
 しかし、普段は夕食時、ヤオ子のお腹も鳴る。


 「お昼も食べてないからなぁ……。
  まあ、人間二、三日食べなくても平気だから抜いてもいいけど。
  夜に火使うと目立つから、暗くなる前にご飯にしようかな?」


 ヤオ子が川を見る。


 「そろそろ、お魚さんも寝る時刻ですよね。
  皆、石の下に隠れちゃう」


 川には魚の姿が見えなかった。
 ヤオ子は落ちている手頃な太い棒を拾い上げる。


 「釣り人さんが居たら、非難される外法です」


 ヤオ子は川岸から助走をつけて飛び上がり、川の中の大石を思い切りぶっ叩く。
 川には振動で気絶した魚が三匹浮かぶ。
 族に言うガッチン釣法というやつである。


 「魚と人間の知恵勝負を否定するこのやり方……。
  釣り人が怒るわけです。
  でも、あたしは生きるために魚を採らねばなりません」


 川岸の大きな石に座り、ヤオ子はクナイを取り出して取った魚の腸を処理する。


 「中には腸の苦味が好きだって人も居るんですけどね。
  あたしは苦手です」


 処理した魚を洗った木に口から刺すと、それを地面に突き刺す。
 その辺の燃えやすそうな枯れ木を突き刺した魚の前にセットすると、魚を焼く準備は完了した。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子がチャクラを練り込み、印を結ぶ。


 (ラブ・ブレス! 失敗バージョン!)


 ヤオ子は豪火球の術が完成する前のヘロヘロバージョンで焚き火に点火して魚を焼く。
 暫くすると魚は油を滴らせながら、色をつけ始めた。


 「いい匂いですね。
  塩がないのが残念です」


 ヤオ子は、こんがりと焼けた魚を食べて夕食を終了した。


 …


 監視役がヤオ子を観察して感嘆の声を漏らす。


 『大したもんだ』

 『あの子、火遁を使えるんだな』

 『一応、イビキさんの報告書にありましたよ?』

 『そうだっけ?』

 『ただ……報告書に自爆したって書いてありましたけど……』

 『じば──』

 『…………』


 沈黙したところで、監視の忍達の無線に呼出しが入る。


 『もしもし? 私』

 『アンコさん。
  塔に着いたんですか?』

 『今さっきね。
  ・
  ・
  どう?』

 『順調……なんですかね?』

 『どうしたの?』

 『距離は、もう1/3程度進んでます』

 『あんた達の位置をこっちでも確認したわ。
  随分、早いわね?』

 『ええ。
  あの子、運良く今まで獣の類と遭遇していないんです』

 『本当?
  それじゃあ、試験にならないじゃない』

 『はい』

 『まあ、不慮の危機対策はおまけだから……いっか。
  本題のサバイバルの実力は?』

 『問題発生です』

 『緊急!?』

 『いいえ。
  もう取り返しがつきません』

 『何があったの?』

 『アンコさんが装備一式渡し忘れています』

 『へ?』

 『水筒も非常食も火を熾すマッチも……。
  あと、その他諸々……』

 『……どうしよっか?』

 『我々に聞きますか?』

 『…………』

 『あの子、どうしてる?
  ギブアップしちゃった?』

 『いいえ。
  逞しくやってます。
  自分で魚採って火まで点けて焼いて食べてました』

 『……計算通りだわ』

 『は?』

 『私は、あの子の実力を見越して装備を渡さなかったのよ』

 『…………』

 『言いわけとしては苦しいですね……』

 『アァ!?
  何か言った!?』

 『……何も』

 『そうなると……。
  あの子の戦闘能力を見たいわね』

 『どうしてですか?』

 『カカシが馬鹿やって、
  実技で何も見れなかったのよ』

 『は? 馬鹿……?』

 『ああ。
  こっちの話。
  ・
  ・
  あの作戦やってくれる?』

 『正直、気が進まないんですが?』

 『川の近くに居るのよね?
  だったら、私の考えた蟹怪人で!』

 (この人……本当に面白好きだよな。
  子供脅かすために自分で怪人まで設定して徹底させるんだから)

 『分かりました』

 『じゃあ、日が完全に暮れる前に実行して!
  あと、無線は常に入れて置きなさいよ!』

 『了解です』


 無線の会話を止めて、監視役の忍の一人がアンコの考えた蟹怪人に変化する。


 『じゃあ、川上からあの子に近づきます』

 『オッケ~♪』


 蟹怪人は溜息を吐くと川上に移動した。


 …


 一方のヤオ子は、食べ終わった魚の骨を川に向かって放り投げていた。


 「臭いが残っていると、動物が寄って来るかもしれませんからね」


 続いて、焚き火の後に砂を掛ける。


 「万が一にも火が残っていたら、
  森が火事になって、ここの動物さんが困りますからね。
  旅人のマナーです」


 ヤオ子がは臭いの残る場所を移動するため、塔のある川上に向けて歩き出す。
 暗くなり切っていない今なら、もう少し移動が可能なはずだ。
 そして、少し開けたところで、ヤオ子は未知の生物に遭遇した。


 「キシャ───ッ!」


 蟹怪人が奇声をあげてヤオ子に近づく。
 アンコは無線から音を聞いて笑みを漏らしていた。


 「キシャ───ッ!」

 「…………」

 「キシャ───ッ!」

 「…………」

 「キ、キシャ───ッ!」

 「…………」

 「キシャ───……」

 「…………」

 「キシャ──……」

 「…………」

 「キシャー……」

 「…………」

 「キシャ……」

 「…………」

 「しくしく……」

 「…………」


 …


 音だけしか伝わらないアンコに疑問符が浮かぶ。
 そアンコは沈黙に耐え切れず、別で待機している、もう一人の忍に連絡を入れた。


 『どうしたの!?
  成功!?
  上手い具合に泣いてんじゃない!?』

 『ええ……。
  泣いてます……。
  蟹怪人が……』

 『へ?』

 『あの子、恐ろしく冷めた目で蟹怪人を見ています。
  まるでゴミでも見るように……。
  ・
  ・
  凄く……可哀そうです。
  あ! 動きがあります!』


 アンコは無線の音声に耳を傾けた。


 …


 テクテクと蟹怪人に近づくと、蟹怪人の肩にヤオ子がポンと手を乗せる。


 「馬鹿じゃないの?」


 ピシッ!と蟹怪人とアンコと監視役の忍が固まる。


 「そのセンスはありませんよ……」

 「…………」

 「キ、キシャ───ッ!」

 「…………」

 「もう、いいですよ。
  無理しなくて……。
  どう……せ! 馬鹿な上司にやらされたんでしょ?」


 空気が凍りつく。
 ヤオ子の直ぐ近くで。
 そして、塔に居るアンコの近くで。


 「何? このありえない形状?
  少し考えれば分かるでしょ?
  足と腕をこんなにでかくして、どうやって水中で暮らすんですか?」


 蟹怪人はバタバタと動いて見せる。


 「試しに、その鋏を口まで持って行ってください」


 蟹怪人が鋏を口に運ぶが、鋏は口を通り越す。


 「馬鹿か!
  そんなんで、どうやってエサを口に運ぶんですか!」


 蟹怪人は体を使って必死に謝る。


 「これ考えた人……超ド級の馬鹿です!」


 ヤオ子の声に塔のアンコの額に青筋が浮かぶ。


 「間違いなく!
  馬鹿っぽさの臭いから、アンコさんですね。
  全く……冗談はドSな性格だけにして欲しいですよ。
  ・
  ・


 …


 死の森の塔……。
 この後も続くと思われた罵詈雑言の音声がブチッと切れる。


 「ごめん。
  無線が壊れちゃった」


 アンコは笑顔で無線機を握り潰した。


 「新しいのに変えてくれる?」

 「は、はい! 只今!」


 塔の中では、アンコの部下が急いで予備の無線機を取りに走っていた。


 …


 再び川の近く……。
 蟹怪人が固まっている。
 無線の音声がありえない音と共に切れた。


 「アンコさんがキレた───ッ!」


 蟹怪人が言葉を発した。


 「やっぱり、人間」

 「何てことをしてくれたんだ!?」

 「は?」

 「アンコさんを本気で怒らせたら
  とんでもないことになるんだぞ!?」

 「知りませんよ。
  そもそも浅はかな考えの下で馬鹿な姿を晒したのは、あんた達でしょ?」

 「君はアンコさんの恐ろしさを知らないから、
  そんな事が言えるんだ!」

 「うるさいですね。
  大人の揉め事は、自分達でちゃんと処分してくださいよ」

 「きっと酷い目に合わされる……」


 蟹怪人が手(鋏?)を着くと涙を流す。


 「大の大人が泣くな!
  それほどか!?
  それほどなのか!?」

 「…………」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「あなた、アンコさんに逆らえないでしょ?」


 蟹怪人が無言で頷く。


 「ガツンと言ってやったら?」


 蟹怪人は無言で首を振る。


 (何で、あたしが蟹の怪人を慰めなきゃいけないんだ……。
  ・
  ・
  そもそもアンコさんは、部下にどんなトラウマを植えつけた?)

 「仕方ないですね……」


 蟹怪人が潤んだ瞳でヤオ子を見る。


 「あたしが励ましてあげます。
  普段の恨みをこれで晴らすといいです」


 ヤオ子がチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「おいろけの術!」


 蟹怪人の前で、ヤオ子は裸のアンコに変化した。


 「どうですか?」


 蟹怪人は固まっている。


 (少しアレンジを加えて励ましますか。
  多分、アンコさんはツンだから……)


 アンコに変化したヤオ子がゆっくりと近づくと、蟹怪人の頬を艶かしく撫でる。


 「ごめんね……。
  普段のあれは演技なの……。
  私……貴方が居ないとダメなの」


 ここで、ヤオ子は蟹怪人の首に手を回して胸を押し当てる。
 それを数回繰り返すと、蟹怪人は鼻血を拭いて気絶した。


 「ウブですね~」


 ヤオ子が変化を解く。


 「…………」


 目の前にはダクダクと鼻血をながして昇天する蟹怪人の姿……。
 ヤオ子はコリコリと額を掻く。


 「この人……どうしましょうか?」


 ヤオ子は蟹怪人を無視して辺りを見回す。


 「寝床つ~くろ」


 ヤオ子は蟹怪人とは会わなかったことにした。
 そして、現実逃避を含め、寝床作成のための手頃な木を集め始めた。


 …


 ヤオ子は木とツタを集めると組み合わせ縛り合わせる。
 そして、板状のものを作る。
 更に木を板に合わせ、目測で木の長さを合わせるとクナイで切り揃える。


 「材料は、こんなもんかな?」


 辺りの木を見回すと、一本の木に駆け寄る。


 「うん。
  枝も上にあるから足場もない。
  幹も割かし滑りやすそうですね」


 ヤオ子は作った材料を選んだ木の下に運ぶと、チャクラ吸着を利用して幹に吸い付いて登る。


 「ここの高さに寝床を作れば、
  夜でも動物に襲われないと思います」


 ヤオ子はクナイで木を差し込む穴を空けたりした後で材料をセットして寝床を作る。


 「簡易的なベランダみたいですね」


 作った寝床からは、鼻血を流している蟹怪人が見える。


 「動物が近寄って来た時は血の臭いに誘われて蟹の怪人から襲うから、
  あたしは二重の意味で安全ですね」


 ヤオ子は悪魔的発想をする。


 「それに川には気流が出来るはずだから、
  蟹怪人の血の臭いは川に乗って消えるはずです。
  故に動物は集まって来ないでしょう。
  ・
  ・
  じゃあ、おやすみです」


 ヤオ子は手作りの寝床で横になると眠りに着いた。


 …


 翌朝……。
 妙な息苦しさでヤオ子は目を覚ます。


 「きっつ~~~い!」


 ヤオ子が声をあげて拳を振り上げる。


 「こら! 暴れるな!」

 「ん?」


 ヤオ子の寝床には、見知らぬ忍が二人いる。


 「誰ですか?」

 「君の監視役だ!」

 「それが、何故?」

 「下を見ろ!」

 「へ?」


 ヤオ子は騒がしい下を覗く。
 下では血に飢えた猛獣が猛り狂っていた。


 「ちょっと!
  何で、こんなことになってるの!?」

 「血の臭いに誘われて来たんだ」

 「嘘!?
  だって、怪人の血は川の気流で流されるはずでしょ!?」


 もう一人の忍が手をあげる。


 「オレの鼻血……」

 「馬鹿か!? あんたら!?」

 「仕方ないだろう!
  普段、怒鳴ることしかしない美人上司が、
  いきなり優しく迫るんだから!」

 「お前らの好みにドストライクか!?
  木ノ葉の精神修行は、どうなってんだ!?」

 「そんなことより、どうする!?」

 「お前らで処理しろ!」

 「「出来るか!」」

 「じゃあ、お前ら囮になれ!
  その間にあたしが逃げるから!」

 「「ふざけるな!」」

 「下がダメなら、上は!?」

 「大蛇が居る!」

 「八方塞がりじゃないですか!?
  お前ら、バッと倒すいい術ないのか!?」

 「あんな巨大野生生物を倒せるか!?
  一体なら未だしも群れてんだぞ!」

 「もういい!
  ギブアップ!
  アンコさんを呼べ!」

 「それが……夜から無線が繋がらないんだ」

 「ハァ!?
  壊れたの!? 二人とも!?」

 (あと……。
  あたしは夜からの騒ぎに気付かなかったのか……)


 ちなみに、無線は塔で現在も調整中。
 もう少しで繋がる予定である。
 また、混乱しているヤオ子は影分身で囮を作ればいいことが頭から抜け落ちていた。


 「ええ~い!
  無線を寄こせ!
  あたしが掛ける!」

 「誰がやっても同じだよ……」

 「諦めるな!」


 ヤオ子は無線を受け取るとマイクに向かって叫ぶ。


 「アンコさん!
  聞こえてる!?
  ギブアップ!
  助けに来て!」

 「…………」


 イヤホンからは、何も聞こえない。


 「ダメだろ?」

 「壊れてんの?」

 「こっちじゃないと思う」

 「あ~~~!
  どうすれば!
  ・
  ・
  とりあえず、向こうに繋がるまで叫び続けます!」


 ヤオ子の精神はキレる寸前だった。


 …


 塔では、ようやく無線の取り替え終わろうとしていた。


 「旧式の大きなタイプの予備しかなかったので、
  付け替えるのに時間が掛かってしまいました」

 「いいわ。
  発信機の位置は変わってないし。
  多分、眠ってたんでしょ」

 「アンコさん……。
  今度は、気を付けてくださいね」

 「大丈夫。
  なるべく我慢する」

 「…………」


 アンコの部下が溜息を吐くと無線のスイッチを入れた。
 すると、直ぐにヤオ子の声が聞こえる。


 『ギブアップだって言ってんだろ!
  早く助けに来い!』


 緊急事態に塔の中がざわめく。


 『聞いてんのか!?
  ・
  ・
  この馬鹿!
  ドS!
  行き後れ!
  年増!
  アホ!
  オタンコナス!
  アバズレ!』


 ヤオ子の一言一言にアンコの怒りのボルテージは上がっていく。


 『あたしが死ぬだろ!』

 『『アンコさ~ん!』』


 無線からは、監視役の中忍の声も聞こえる。


 『返事しろ!
  緊急事態だって言ってんだ!
  大事な時に無線壊すって、どんだけ馬鹿なんだ!』

 『『アンコさ~ん!』』


 塔の中は、再び温度が下がっていく。
 そして、バキッ!という音がする。


 「直接、ぶん殴ってくる!」


 アンコが塔の一室を飛び出すと、無線機は黒い煙を上げて粉砕されていた。


 …


 三十分後……。
 驚異的な早さでアンコがヤオ子達のもとに駆けつけると、猛獣達がアンコの憂さ晴らしの暴力で次々と倒されていく。
 そして、この森の王者が誰なのかを認識させられた猛獣達は一匹残らず退散した。

 ヤオ子達は息を吐き出すと、ようやく地面に下りることが出来た。


 「重力を感じる……。
  地面って素晴らしい……」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「どういう状況だ!」

 「いったいな~~~!
  あたしのせいじゃないですよ!」

 「アァ!?」


 アンコの鋭い眼光に監視役二名の忍は、即座にその場で正座した。
 アンコがヤオ子のポニーテールを掴み、吊るし上げる。


 「何があったの?」


 アンコの顔は笑っている。


 「監視してんなら、ご存知でしょう?」

 「アクシデントで無線が壊れたの」

 「壊れた?
  壊したの間違いじゃないの?」


 アンコの顔が近づく。


 「いいえ……。
  壊れたのよ」

 「…………」


 ヤオ子はタラタラと汗を流すと、営業スマイルを浮かべる。


 「何をお聞きになりたいんでしたっけ?」

 「素直な子は大好きよ。
  ・
  ・
  蟹の怪人が出た後……。
  何があったのかしら?」

 「監視役の忍者さんが、
  鼻血を噴いて気絶しました」

 「それから?」

 「その鼻血の臭いに誘われて、
  猛獣が集まって、今に至ります」

 「ありがとう。
  よくわかったわ」

 「そうですか?
  えへへ……。
  ・
  ・
  じゃあ、開放して貰えます?」


 アンコは笑顔で首を振る。


 「まだ、監視役の忍者さんが
  鼻血を噴いて気絶した理由を聞いてないわ」

 「…………」


 ヤオ子は吊るされたまま、正座している忍に質問する。


 「……何て言おう?」

 「…………」


 アンコが笑顔でヤオ子の顔を自分に向かせる。


 「あんたが説明すればいいじゃない……。
  ありのまま……。
  包み隠さず……」

 「…………」

 「怒らない?」

 「なるべく」

 「…………」


 アンコが溜息を吐く。


 「不慮の事故でここで死ぬのと、
  話して生きているかもしれないのと……どっちがいい?」

 「……後者で」

 「じゃあ、話して」

 「怪人さんがですね……。
  アンコさんを怒らせたからって泣き出したんです。
  マジで……」

 「続けて」

 「それで……。
  あたしは仕方なく励ますことにしたんです」

 「優しいのね」

 「そこでおいろけの術を使って励ましたら、
  二人とも鼻血を出して気絶しちゃったというわけです」

 「話は、全て繋がったわ」


 ヤオ子は似非ら笑いを浮かべる。


 「ですよね?
  じゃあ、開放して貰えます?」

 「おいろけの術って?」

 「…………」


 ヤオ子が視線を背ける。


 「び、美女に化ける術です」

 「やって見せて」

 「…………」

 「早く」

 「あ!
  もう、チャクラがありません!」


 アンコのクナイが、ヤオ子の頭上を通り過ぎる。


 「今度は、額に刺さるかもね」


 ヤオ子が無言でチャクラを練ると印を結ぶ。


 「おいろけの術……」


 未だかつてないほど、気合いの入らないおいろけの術の後に裸のアンコが現れた。


 「この馬鹿ガキが───ッ!」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂した。
 ヤオ子が地面に減り込むと、それと同時においろけの術も解ける。

 アンコがむんず!とヤオ子のポニーテールを掴み、力任せに引っこ抜く。


 「何してんだ! お前は!」

 「だって~……」

 「だってじゃない!」

 「そもそも、アンコさんがいけないんですよ」

 「アァ!?」

 「あの怪人で変なことしようとしたの、
  アンコさんじゃないんですか?」

 「う……」


 正座している忍二人もジト目でアンコを見ている。


 「あんなことしなければ、
  今頃、塔に着いていたかもしれないのに……」

 「あ、あれは!
  予定内のことよ!」

 「あの怪人の何が予定内なんですか!」


 ヤオ子の逆襲。


 「そ、それは……。
  そう!
  あんたのせいでカカシの実技試験が分からなかったから!」

 「サバイバルに関係ないでしょう!」

 「う……」

 ((凄いな……))


 忍二人は感心していた。
 あのアンコにガチで渡り合っている少女に……。


 「大体、何ですか?
  あのデザインは?」

 「子供だったら、驚くでしょう!」

 「今時の子を舐めんなです!
  あんな欠点だらけの生物なんて、直ぐに見破られますよ!」

 「そんなことないわよ!」


 ヤオ子がガシガシと両手で頭を掻く。


 「が~~~! 話が脱線した!
  兎に角!
  アンコさんのせいで、
  サバイバルにならなくなったんです!」

 「違うわよ!
  あんたのおいろけの術のせいよ!」

 「アンコさんのせい!」

 「あんたのせいよ!」

 「アンコさん!」

 「あんた!」

 「あ、あの……」

 「「アァ!?」」


 声を掛けた忍をヤオ子とアンコが睨みつける。
 ビクッ!と一瞬身を引くが、声を掛けた忍は勇気を持って話し掛ける。


 「この試験は、直ぐに合否は出ません。
  他の子達との実力比較です。
  移動距離と滞在時間で判定します」

 「……そういえばそうだったわね」

 「こんなことを言ってはいけませんが、
  この移動距離と滞在時間なら、まず合格のはずです」

 「そういえば……。
  四、五時間でギブアップって言ってましたね」

 「当然よ。
  深夜の方が動物は活発に動くんだから。
  大抵の子が、そこでギブアップよ」

 「そういうことで……。
  ここは水に流しませんか?」

 「…………」


 ヤオ子とアンコが暫し睨み合う。


 「いいでしょう」
 「分かったわ」

 「…………」


 監視役の忍二人はホッと息を吐き出す。
 そこで、ヤオ子は顎の下に指を立てて呟く。


 「でも、結果的には……強制終了なんですかね?」


 辺りにズーンと重い空気が漂った。
 アンコは眉間に皺を寄せながら告げる。


 「試験は、以上よ」

 「やっと終わった……」

 「本当は、お疲れ様の一言でも掛けるべきなんでしょうが、
  非常に言いたくないわ」

 「いいですよ……別に。
  ・
  ・
  あ。
  お兄さん達」

 「「?」」


 監視役の忍二人がヤオ子に顔を向ける。


 「アンコさんの裸は、記憶に永久保存していいですよ」


 アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「するな!
  あんたらも、完全消去しなさい!」

 「「はい!」」


 こうしてヤオ子の第三試験は終了し、試験の全てが終わった。



[13840] 第34話 ヤオ子の下忍試験・試験結果編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:43
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 アカデミーのある一室……。
 再試験を含めて、受験した子供達の結果をホムラとコハルは確認している。
 この結果により、合否を決めるためだ。


 「第一試験を突破出来ない者は論外だな」

 「覚悟のない者に忍者は務まらん。
  アカデミーでやり直しだ」


 ここで最初の切り分けを行った。


 「第二試験と第三試験は、総合して考慮しよう」


 ホムラが受験生の報告書を束で掴み、パラパラと流し読みする。
 その横でコハルも一緒に目を通した。


 「相変わらず……カカシの判定は厳しい。
  チームワークのコメントがどれも厳し過ぎる」

 「また、上忍から鈴なんて取れるわけもない」

 「一名、例外も居るが……」

 「…………」

 「アンコの試験も、朝まで持った子は居ないな……」

 「一名、例外も居るが……」

 「…………」


 ホムラとコハルは、ある試験結果報告書の前で頭を悩ませていた。



  第34話 ヤオ子の下忍試験・試験結果編



 二日後……。
 ヤオ子の試験に携わった上忍・特別上忍が呼び出される。
 森乃イビキ、はたけカカシ、みたらしアンコ、ヤマトである。


 「この報告書は、何だ?」


 コハルが一枚の紙を机の上に置く。


 …


 <特例召集下忍試験報告書>  名前:八百屋のヤオ子


 ●第一試験 偽装・隠蔽術と覚悟について(担当:森乃イビキ)

  偽装・隠蔽術能力:
   詳細不明。
   (本人が答えを解き明かしたため)

  覚悟:
   詳細不明。
   (下忍にはなりたいが、中忍にはなりたくないと本人が言っているため)

  備考:
   試験問題を自力で解いたため、知識はあると思われる。
   しかし、それ以外は全く分からない。


 ●第二試験 実技(担当:はたけカカシ)

  忍術:
   詳細不明。
   (使用してない)

  体術:
   詳細不明。
   (使用してない)

  チームワーク(協調性):
   詳細不明。
   (使用したようなしていないような)

  話術(特別に追加):
   馬鹿みたいに卓越している。

  備考:
   よく分からないうちに試験が終わってしまった。


 ●第三試験 サバイバル(担当:みたらしアンコ)

  移動距離:
   四位 (1/3)

  滞在時間:
   一位 (十六時間)

  サバイバル能力:
   詳細不明。
   (途中、強制終了のため)

  備考:
   無線機のトラブルなどが重なり、詳細不明。
   滞在時間は、二位の候補者が七時間なので、タフさだけはあると思われる。


 …


 呼ばれた忍達は、全員渋い顔をしている。
 ホムラが質問をする。


 「ほとんどが『詳細不明』の理由は、何なのだ?」


 イビキの答え:
 「予想の斜め上を行くからです」

 カカシの答え:
 「嵌められた?」

 アンコの答え:
 「どうしようもないアホだからです」

 ヤマトの答え:
 「皆さんの言っていることが全てです」


 ご意見番の二人は目頭を押さえている。


 「それでは分からん……」

 「「「「我々も、分かりません」」」」

 「もうよい……。
  第一試験から聞く。
  ・
  ・
  イビキ。
  偽装・隠蔽術能力が詳細不明なのは?」

 「報告書の通りです。
  よく分かりませんが、彼女は全ての問題を自力で解き明かしました。
  故にカンニングをしていません」

 「そういうことか……。
  解けるような問題を出したのは落ち度だな」

 「…………」


 ホムラの言葉に、イビキは片手をあげる。


 「試験問題を御覧になりますか?」


 イビキがホムラに試験用紙を渡すと、ホムラは試験用紙に目を通した。


 「……これを解いたのか?」

 「解きました」

 「……では、仕方ないか。
  ・
  ・
  覚悟の方は?」

 「……………」

 「どうした?」


 イビキは苦虫を潰したような顔をしている。
 カカシとヤマトは、何となく分かる。


 ((言いたくないよな……))


 イビキは溜息を吐くと決心して話し出す。


 「彼女には、
  『受験して失敗すると一生中忍試験を受験出来ない』という
  プレッシャーを与えました」

 「中忍試験の内容と同じではないか?」

 「その……手違いで、つい」


 カカシとヤマトは内容を知っているが、アンコも何となく感づいた。


 (あの子、絶対ここでも何かしてる……)


 ホムラが続きを促す。


 「それで?」

 「はい。
  彼女は堂々と私を睨みつけ、意志を貫きました」

 「大したものではないか。
  他の受験生は、全員去ったのだろう?」

 「ただ──」

 「ただ?」

 「──報告書にも書きましたが、
  彼女は一生下忍で居るために受験したのです」

 「?」

 「つまり、ワザと十問目を間違えて、
  上忍に守って貰える下忍であり続けることを狙って残ったのです」


 事情を知らないホムラとコハルとアンコが項垂れる。


 「何だ……その理由は」

 「いや、考えられなくない。
  あの子は、忍者になったら、
  いつでも辞めれる権利をくれとせがむような子だ」

 ((((そんなことを言っていたのか……))))


 気を取り直して、イビキが続ける。


 「そういった経緯で、
  彼女は第一試験を私の意図に反した形で突破しました」

 「分かった……。
  もうよい……」

 「次だ。
  第二試験……」


 カカシが前に出る。
 多分、この中で一番説明しにくく説明したくないであろう話。
 早速、カカシは回避を謀ろうとする。


 「掻い摘んでいいですか?」

 「イビキと同じような感じか?」

 「ええ、まあ……」

 「だったら、認めよう」

 「え~とですね……。
  受験生が一人になったため、ヤマトとアンコに頼んで代役をお願いしました。
  協調性も見たかったので」

 「うむ」

 「それで……ヤオ子の体術を見たかったのでワザと隙を作りました。
  上忍が構えていたら、攻撃し難いと思って」

 「なるほど」

 「私は、本を読みながら攻撃するのを待ったのですが──」

 (この後、何て説明すればいいんだ?)

 「どうした?」

 「あ、はい!
  え~……。
  ・
  ・
  ヤオ子に、話術による揺さぶりを掛けられました」

 「?」

 (何とかしないと……。
  何とかしないと……。
  何とかしないと……)


 アンコとヤマトには、カカシが慌てふためく理由が手に取るように分かる。
 多分、そのまま話したらホムラとコハルはぶち切れる。
 故に、二人の頭にはある仮設が立つ。


 ((絶対に嘘つくな……))


 カカシの頭の中では、猛烈なスピードで偽りのストーリーが組み立てられる。


 「ヤオ子は、私の呼んでいる本の内容と
  ぴったり同じことを言い当てました」

 「何?」

 「この時点で考えられることがあります。
  私自身がヤオ子の幻術に掛けられた可能性です。
  しかし、私はヤオ子が印を結んだのを見ていません。
  だから、現実か幻術かを早急に判断しなければいけませんでした」

 (先輩……上手く十八禁の本を躱したな)

 (うわ~。
  もう、嘘だらけね。
  その時は、カカシ絶叫してたし……)

 「更にヤオ子は本のストーリーを微妙に変えて、
  より現実か幻術かの境界をぼやけさせました」

 「術も使わず凄いな……」

 (本当に嘘だらけね……。
  それにしても、カカシもよく舌が回るわね)

 「聴覚からの幻術と判断し、
  ヤオ子の幻術を止めようと両手で耳を塞いだ時にアンコとヤマトに鈴を取られました。
  ちなみに、二人は試験前にヤオ子と打ち合わせ済みです」

 「なるほどのぅ。
  それで全て『詳細不明』か……」

 「いや~。
  二人が受験生でないことを失念してしまって」

 (嘘だな……)
 (嘘ね……)

 「分かった。
  そういうことなら仕方あるまい。
  ヤオ子は頭脳戦で勝負する忍のようだな」

 「そう思います」


 カカシは息を吐いて安堵する。


 「ところで……」

 「な、何か!?」

 「何故、ヤオ子は本の内容を知ることが出来たのだ?」

 (ここに来て、まさかの質問!?)

 「それは……。
  ・
  ・
  私も気になって試験終了後に聞いたところ、
  ヤオ子は本の内容を全て暗記していました」

 「なるほど。
  記憶力もいいのか……」

 (乗り切った……)


 カカシが二度目の安堵の息を吐く。


 「何の本を暗記していたのだ?」

 (えーっ!?)

 (最後に最難関の質問が……)

 (どうするんですか!? 先輩!?)

 「…………」


 そして、暫くしてカカシから出た言葉は……。


 「……こ、孔子です」

 (丸っきり正反対の本じゃない!)

 (嘘が嘘を呼んで、とんでもないことに……)

 「ヤオ子は大したものだな」

 「まったくだ」


 カカシの隣でアンコが小声で話す。


 (どうするのよ!
  そんな嘘、直ぐにバレるわよ!
  ご意見番がヤオ子に聞いたら一発じゃない!?)

 (そうだな……。
  あの子、エロ小説しか読んでなさそうだし……。
  ・
  ・
  勢いで取り返しのつかないことを……)


 カカシは魂が抜けたようになっている。
 ここで、コハルが何かを思い出す。


 「しまった。
  ヤオ子も呼んであったのだ。
  つい、忘れていた」

 (((何ーっ!?)))

 「少し待っておれ」


 コハルが席を立って姿を消す。


 「終わった……。
  嘘がバレる……」

 「孔子なんて嘘をつくから!」

 「だって……。
  それが頭を過ぎったから……」


 カカシは放心状態で、罰が下されるのを待つ気分だった。
 その時間はあまりに短く、コハルがヤオ子を連れて現れた。


 「すまんな。
  忘れてしまって」

 「大丈夫ですよ」

 (あ~……。
  ヤオ子の笑顔が悪魔の微笑みに見える……)


 ヤオ子はカカシの様子に首を傾げる。
 ホムラがヤオ子に話し掛ける。


 「さっき、話題に上がっておってな。
  好きな孔子の言葉を言ってくれないか?」


 カカシの口から、魂が抜け出そうになる。


 「突然ですね?」

 「第二試験のカカシの話から、
  ヤオ子の知識の深さが分かって名」

 「そうですか?
  う~ん……」


 ヤオ子の口から何が飛び出して場を混沌とさせるのかと、カカシ達は気が気じゃない状態だった。


 「『君子は周しみて比らず、小人は比りて周しまず』なんて、どうですか?」

 「…………」


 イビキは純粋に驚き、カカシとアンコとヤマトは石のように固まっている。


 「意味も分かるか?」

 「立派な人は広く親しみ、一部の人におもねることをしない。
  しかし、つまらない人は、一部の人におもねって広く親しむことをしない」

 「偉いな」

 「えへへ……」


 ヤオ子は照れている。
 そして、カカシの目には涙が光る。


 「助かった……。
  何か分かんないけど助かった……」

 「嘘が本当になった……」

 「あの子、一体何なんだ……」


 イビキを除く三人は激しく項垂れていた。


 「では、第三試験についてだ」


 アンコがビクッ!とする。


 (私の時だけ、ハードルが上がった!?
  何で、この子が最初から居るの!?)


 アンコは、ご意見番をチラリと見る。


 (冷静に……。
  イビキの時と比べて、あの子の評価が上がってご意見番の気分は悪くないわ。
  いいえ、寧ろいい……。
  だったら、小手先の嘘など使わず真実を……。
  素直に語らず包み隠して話そう)


 アンコが頭の中でシミュレーションを繰り返す。
 その様子を見てカカシは思った。


 (アンコもか……)


 シミュレーションが終わると、アンコは話し出す。


 「第三試験は報告書の通りです。
  特に報告する点はありません」

 「サバイバル能力の詳細不明は?」

 「監視役の忍の無線が故障したため、
  詳細が分からないためです」

 「そうか……。
  では、移動距離と滞在時間だけで判断するしかないか」

 「この順位なら問題ないだろう」


 アンコはホッと胸を撫で下ろすが、視界の先のヤオ子を目に捉えると焦り出す。
 ヤオ子の顔が不機嫌そのもので、今にも何かを言いそうになっている。
 アンコはご意見番の死角をついて、ヤオ子にハンドシグナルを送る。


 『お願い! 黙ってて!』


 ヤオ子はハンドシグナルに気付いた。
 一方のアンコは、あることに気付いた。


 (この子……。
  ハンドシグナル分かるのかしら?)


 しかし、予想と反してハンドシグナルが返って来る。


 『嫌です。
  真実を語ります』

 『何考えてるの!
  あそこであったことを言えるわけないでしょう!?』

 『分かってますよ。
  ただし……。
  それは、アンコさんの立場的にです』

 (この子……。
  私をこの場で嵌める気ね)


 ヤオ子とアンコのやり取りを見て、カカシは溜息を吐く。


 (何があったんだろう?)


 ヤオ子とアンコのやり取りは続く。


 『下手したら下忍になれないかもしれないわよ!』

 『その時は、実家を継ぐだけです』

 『……あとで奢るから』

 (アンコの奴……。
  買収する気か……)

 『幾らまでですか?』

 (ヤオ子、乗るんだ……)

 『お団子三本!』

 『チクリますか……』

 『嘘!
  食べ放題!
  食べ放題でいいから!』

 『いいでしょう。
  余計なことを言わないと誓います。
  ついでに援護射撃もしてあげます』


 ハンドシグナルのやり取りが終わると、ご意見番が顔を上げる。


 「この強制終了というのは?」


 ご意見番の質問にヤオ子が答える。


 「あたしの不始末のせいです」

 「ヤオ子?」

 「夕飯の食べ残しを置きっぱなしにしてしまって、
  森の動物達が集まって来てしまったんです。
  明方、気付いた時には大変なことになっていました。
  あたしを庇った監視役の二名の方も血を流していて……(鼻血ですが)。
  ・
  ・
  無理に続けようとしたあたしを止めるために、
  アンコさんが強制終了をしてくれたんです」

 (この子……。
  さらっと嘘を……。
  カカシ以上に完璧な嘘を……)


 どんよりとするアンコに、ヤオ子は笑顔で頭を下げる。


 「アンコさん。
  ありがとうございました。
  ・
  ・
  あの時、止めて貰わなければ……あたし──」

 「え!?
  あ、うん!
  気にしないで!
  怪我がなくて何よりだったわ!」

 「ご苦労だったな、アンコ」

 「あ、ありがとうございます!」


 こうして嘘で固められた試験の結果報告が終了した。


 …


 ご意見番のホムラとコハルが結果を申し渡す。


 「ヤオ子……合格だ。
  明日から下忍だ」

 「ありがとうございます」

 「ついでに担当上忍も、この中から選ぶか?」

 「「「「え?」」」」


 呼ばれた全員が嫌な顔をすると、ここで進んでアンコが手を挙げる。


 「私は、嫌です!」

 「何!?」


 続いてカカシも。


 「オレも。
  うちの班はナルトが居るから、
  これ以上、トラブルメーカーはいらない」

 「は?」


 更にイビキ。


 「私も遠慮します」

 「…………」


 上忍達による申請ではなく拒否の挙手。
 ホムラとコハルとヤマトが固まる。


 「では、ヤマトにお願いするか……」

 「ええ!?」

 (しまった! 出遅れた!)

 「えへへ……。
  これから、よろしくお願いしますね」


 こうして、ヤオ子は見事(?)下忍になり、ヤマトが担当上忍になるのだった。



[13840] 第35話 ヤオ子とヤマトとその後サスケと
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:43
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 笑顔を浮かべるヤオ子に、ヤマトは呆然とするしかなかった。
 出来ることなら、自分も拒否したい。
 しかし、彼はこの部屋の上忍達の中で一番の人格者だ(多分)。
 拒否することが、いたいけな少女をどれだけ傷つけるかを考えると声が出ない。


 「じゃあ、オレら任務あるから」


 心無い上忍達は、二次災害を起こされる前に去っていく。


 「任務については、明日、紹介する」


 ホムラとコハルも退室しようと席を立つ。
 そして、去り際にコハルからヤオ子に額当てが手渡される。


 「しっかりな」

 「ありがとう。
  お婆ちゃん」


 コハルはにこりと笑うとヤオ子の頭を撫で、ホムラと退室した。



  第35話 ヤオ子とヤマトとその後サスケと



 アカデミーの一室で、ヤオ子とヤマトだけが残される。
 ヤマトは、未だに現実に戻って来ていない。


 「あの~……」


 ヤマトがハッとして我に返る。


 「な、何だい?」

 「これから、どうしますか?」

 「そ、そうだね。
  次の任務まで時間があるから、少し話そうか?
  屋上で、どうかな?」

 「いいですよ」


 ヤマトは密閉された部屋の空気ではなく、外の新鮮な空気を吸って落ち着きたかった。
 成り行きで、半ば強引に担当上忍にされてしまったとはいえ、部下を受け持つ責任を任されてしまった。
 気持ちを切り替えなければならない。
 ヤマトはヤオ子を伴って退室すると、アカデミーの屋上に向かった。


 …


 アカデミーの屋上に移動して大きく深呼吸をしたからと言って、直ぐに対応できるものでもない。
 突然の編成で作られた奇妙な関係に、ヤマトはまだ頭の整理が出来ていない。
 それでもお互いの情報は交換しておく必要があると、ヤマトは自己紹介から始める。


 「ボクは、ヤマト。
  正直に言えば、君の担当になるとは思っていなかった」

 「ですよね。
  あたしも吃驚しました」

 「正直、何から話せばいいのか……。
  とりあえず、自己紹介してくれるかな?
  出来るだけ詳しく」

 「報告書とか読んでないんですか?」

 「受験生はかなりの数だったからね。
  報告書の詳細には目を通していないんだ。
  さっきも言ったが、ボクが担当になるとも思ってなかったから」

 「分かりました。
  八百屋のヤオ子、八歳です。
  アカデミーには通っていません。
  自来也さんの推薦で、今回受験しました」

 「自来也……あの三忍の?」

 「はい」


 ヤマトは腕組みして考える。


 「君の紹介から、いくつか疑問があるんだけど……。
  質問していいかな?」

 「いいですよ」

 「まず、八百屋の子供なのかい?」

 「そうです。
  この前の騒動で自来也さんの口寄せで店が潰れました」

 「…………」


 初めての質問から、予想外だった。


 「何と言っていいか……」

 「安心してください。
  お婆ちゃんに頼んで、建て直して貰えることになりました」

 「それは良かった。
  ・
  ・
  次に君の忍者としての技術だけど、何処で覚えたの?」

 「サスケさん……。
  うちはサスケさんに教えて貰いました」

 「あの一族の……。
  知識もかい?」

 「はい。
  必要そうな本は読まされました」

 「それで筆記試験を解けたのか。
  しかし、あの問題が解けるほどの知識を覚えさせるとは……。
  サスケは教師の才能があるのかもな」


 しかし、サスケの取った方法を他の子に試せば十人が十人発狂する。
 もう少し言えば、サスケが目を通して『意味わかんねーよ』と途中で放り投げ出した本も、ヤオ子は読まされている。


 「でも、忍術を教えたのがサスケだとして、
  自来也様の推薦が貰えるのは、どういうことだろう?」

 「木ノ葉崩しの時に、
  あたしと砂の忍の戦いをイビキさんから聞いたらしいです」

 「君、戦ったのかい!?」

 「はい。
  ちゃんと勝ちましたよ」

 (道理で推薦するはずだ……)


 ヤマトは得体の知れない目の前の少女が、何故、特別枠の下忍の試験を受けれたのか、ようやく分かった気がした。
 はっきり言って、テストを受けるヤオ子を見ただけでは何も分からなかった。


 「ボクの質問は以上だ」

 「じゃあ、あたしからもいいですか?」

 「構わないよ」

 「あたし、アカデミーに通ってないから、忍者の常識がよく分かりません。
  そこら辺を質問していいですか?」

 「ああ」

 「まず……。
  呼ぶ時、ヤマトさんでいいんですか?
  ガイ先生は、先生付けなんですけど?」

 「多分、先生をつけるのはアカデミーの名残なんだろうね。
  フォーマンセルを小隊と呼ぶから隊長と呼ぶ時もあるね」


 ヤオ子はキョロキョロと見回したあと、ヤマトに視線を向ける。


 「今、二人しか居ませんね。
  ヤマト隊長にヤオ子副隊長ですか……。
  あたし、いきなり重役ですねぇ」

 「えっと……新人にそんな重役を任せないから」

 「そうですか?」

 「うん。
  突然決まった班構成だし、フォーマンセルにするために補強されるはずだ」

 「なるほどです」

 「あと、呼び方だけど、さん付けも仰々しいから先生にしようか」

 「分かりました、ヤマト先生。
  次なんですけど……。
  忍者の雑用系任務って、何ですか?」


 ヤマトには、ヤオ子の質問の意図が理解できなかった。
 故に、質問を質問で返す。


 「……何それ?」

 「聞いてません?
  里の力を戻すために今回の召集があったんです。
  現在の下忍と中忍の方々の任務の質を上げるために、
  簡単な任務をあたし達が処理するんです」

 「そういう狙いだったのか。
  ボクは忍者の総数を増やすのが目的だと思っていた」


 ヤオ子は顎の下に指を当てて、首を傾げる。


 「もしかして、あたしだけに言われたのかな?」

 「今回召集された受験生の家族には伝わっているかもね」

 「なるほど」

 「それで雑務だったね。
  下忍で誰でも出来ることなら……。
  『子守り』『おつかい』『仕事の手伝い』なんかかな?」


 ヤオ子が額を押さえている。


 「どうしたの?」

 「下忍関係ない……」

 「はは……。
  まあ、里への依頼は様々だから」

 「木ノ葉は間違った方向に手を伸ばし過ぎてません?
  アルバイトの紹介場じゃないんだから……」

 「ボクも、時々思うよ」

 「大体、おつかいなんて依頼されて受けないでくださいよ。
  忍者関係ないじゃないですか?
  おつかいで手裏剣術なんて活かされませんよ」

 「反論出来ないな。
  ・
  ・
  もしかしたら、忍界大戦後の貧困した里が受け持った仕事を
  脈々と受け継いでいるのかもしれないよ」

 「意味ありますか?」


 ヤマトは腕を組む。


 「う~ん……そうだな。
  例えば、また忍界大戦が起きたとして、里が窮地に立たされ貧困したとする。
  その時、依頼をくれるのは大戦前からも依頼を受けてくれた里か?
  大戦後、いきなり出てきた里か?
  もし、君が依頼をするなら、どっちだい?」

 「そっか……。
  信頼関係を維持して、万が一に備えているのか」

 「うん。
  ボクは、そう思うよ」

 「そうですよね。
  だったら、しっかり頑張らないと。
  また、里の力が落ちたんだから」

 「そういうことだね。
  他には?」

 「お給料の話」

 「…………」


 ヤマトが顔を顰める。


 「いきなり現金の話か……」

 「あたし、一人暮らししようと思って」

 「何で?
  八百屋は建て直して貰えるんだろう?
  ご両親と一緒に住めばいいじゃないか?」


 ヤオ子は右手の掌を返す。


 「うち……貧乏なんです。
  超がつくほど。
  実際、あたしは学校にも行ってないし」

 「嘘?」

 「本当です。
  だから、忍者で自活出来るなら、
  食い扶持ち減らした方がいいんです」

 「だったら、君のお給料を家に入れれば?」

 「それは出来ません」

 「何故?」

 「プライドの問題です。
  両親のプライドを守るためにしてはいけません。
  きっと、惨めになります。
  だから……」


 そこで言葉を止めたヤオ子に、ヤマトはこの子なりの思いやりなんだろうと納得する。


 「分かったよ。
  ボクの方で手配しよう。
  ただし、お給料の前借りは出来ないから、一ヵ月経ったらだよ」

 「月給制?」

 「他に質問は?」


 ヤオ子は暫し考えるが、これ以上は特に浮かんで来なかった。


 「……ないかな?
  明日の待ち合わせ時間ぐらいです」

 「朝八時にここで、どうかな?」

 「分かりました」

 「あと、忠告というかお願いかな?」

 「?」

 「忍者らしい格好をしよう」


 ヤオ子の服装……。
 Tシャツ、短パン、腰に道具入れ……ギリギリ。
 素足にドタ靴……アウト。


 「靴ですか……」

 「うん。
  あとホルスター」

 「…………」


 ヤオ子は腕組みして悩む。


 「どうしたの?」

 「うち貧乏なんで靴と言われても、直ぐには……」

 (切実だ……)

 「あとホルスターなんですけどね。
  四つあります」

 「何で、四個も……」

 「敵さんから奪いました。
  ちなみに、その時に起爆札も六枚」

 (追い剥ぎみたいな子だな……)

 「ただ、そのホルスター……。
  大人用で合わないんですよね……」

 「…………」


 ヤマトは何も言えなかった。


 「質屋で売って、装備を揃えますか」

 「本当に何と言っていいんだか……」

 「まあ、とりあえず何とかします」


 ヤオ子が、さっき貰った手の中の額当てを見る。


 「これも売っていいんですかね?」

 「ダメ!
  それは木ノ葉の忍者の証!」

 「そうなんですか。
  そう言えば賞状とか貰ってませんね」

 (危ないな……。
  一般人だったから何処かずれてる……)


 ヤオ子は額当てをポケットに強引に突っ込んでいる。
 それを見たヤマトは、アカデミーを出た子なら絶対にしないな……と思っていた。


 「では、ヤマト先生。
  明日から、お願いします」

 「……うん、よろしく」


 ヤオ子は手を振って去って行った。
 そのヤオ子が屋上から見えなくなるのを確認して、ヤマトは溜息を吐く。


 「はぁ……。
  もの凄く不安だ……。
  ・
  ・
  というか、ボクは暗部も掛け持ちしているのに……。
  こんなことなら、試験の手伝いなんかするんじゃなかった……。
  二束の草鞋で仕事なんて出来るのか?」


 ヤマトはもう一度溜息を吐くと、早速、ご意見番の二人のところへ相談しに向かった。


 …


 十分後……。
 ヤオ子は仮設住宅の自分の家に辿り着いていた。
 家では、母親が出迎えてくれた。


 「ただいま」

 「おかえり。
  どうだった?」

 「うん。
  受かった」


 ヤオ子はポケットから額当てを見せる。


 「よかった~」

 「明日、任務を紹介して貰えるみたいです」

 「そう」


 母親との会話も早々に切り上げて、ヤオ子は家に上がり込むと自分のデイバッグを背負う。
 中には、この前奪ったホルスターと起爆札が入ったままになっているからだ。


 「いってきます」

 「もう、何処か行くの?」

 「靴を新調しろって言われました」


 母親が玄関のヤオ子のドタ靴を見る。


 「そうだった……。
  忍者の装備は、お金が掛かるんだった……」

 「とりあえず、この前奪ったの売れば何とかなると思うんで」

 「その手があった!
  さすが、私の娘よね」

 「その反応は、どうなんですか?
  まあ、いいです」


 玄関で靴を履き直すと、ヤオ子は仮設住宅の家を出た。


 …


 家を出て通りに出ると、ヤオ子は目を閉じると集中する。
 そして、ピクリと眉を動かし、何かを察知するとゆっくり目を開ける。


 「サスケさん、み~っけ♪」


 察知したのは、ヤオ子のトラウマセンサーに引っ掛かったサスケだった。
 ただし、察知した場所はいつもの修練場と違う場所だった。


 「あっちって、何がありましたっけ?」


 分からないまま、ヤオ子は足を向ける。
 人の多い通りから離れ、修行場によく使う森とも違う場所に向かっていた。
 辺りは段々と岩場の多いところへと変わってくる。


 「何だろう? ここ?」


 そして、凄まじい掘削音がヤオ子の耳に届いた。


 「これ……中忍試験で使ってた技じゃない?」


 ヤオ子が音のする方に向かい、岩から顔を覗かせるとサスケが額に汗を流していた。


 「おやおや……。
  不機嫌が顔に表れています。
  ・
  ・
  今更、撤退も出来ないでしょうね。
  この距離ならバレてます」


 ヤオ子がピョンと岩の上に飛び乗り、猫のような座り方で片手をあげる。


 「こんにちは。
  サスケさん」


 ヤオ子を見るなり、サスケは舌打ちする。


 「随分な挨拶ですね」

 「何しに来た?
  そんなことより……。
  どうして、ここが分かった?」

 「あたし、サスケさんの場所は、
  何となく分かるんです」

 「ストーカーか!」

 (もしかしたら、お母さんの血のせいかも……)


 ヤオ子は岩の上で両足を投げ出して座り直す。


 「機嫌悪いですね?」

 「大きなお世話だ!」


 サスケはナルトと我愛羅の戦いを見てから、一種のコンプレックスを持っている。
 二人の戦いに比べて自分が酷く弱いと感じている。
 この時はまだ、体内に尾獣を宿す人柱力という言葉を知らなかった。
 その言葉は、里の中で大人達が隠していたからでもあるが……。

 ヤオ子は岩を飛び降りると、サスケに近づく。


 「どうしたんですか?」

 「うるさい!」


 サスケの振り払った手がヤオ子の額をかすめる。
 すると、ヤオ子の額から血が流れ出た。


 「あり?」

 「あ!
  ・
  ・
  すまない……」

 (おやおや……。
  このドSが素直に謝るとは……。
  相当重症ですね)


 ヤオ子が手頃な布で額を押さえると、血が布を染めていく。
 暫く押さえると血は止まった。


 「すまない……」

 「大丈夫ですよ。
  もう、血は止まりましたから」


 ヤオ子は、傷口に唾をつける。


 「少しお話ししませんか?」

 「ああ……」


 ヤオ子がサスケの側に腰を下ろすとサスケも腰を下ろした。


 「随分……出たな」

 「本当に平気ですって」

 「布もこんなに……。
  布……?
  ・
  ・
  これ額当てじゃねーか!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ちょっと!
  今は頭ダメでしょ!?
  傷が開いちゃうでしょ!?」


 サスケはハッとして自分の額に手を当てる。


 「オレのじゃない……。
  盗んだのか!?」

 「違いますよ!
  あたしも忍者になったの!」

 「……は?」

 「何ですか?」

 「どういうことだ?」

 「どうもこうも……。
  試験を受けさせられて合格したんです」

 「意味が分からん……」

 「説明しますか?」


 サスケが頷くと、ヤオ子はこれまでの経緯を話した。
 また、その過程でサスケは十三回グーを炸裂させている。


 「ハア…ハア……。
  何で、説明聞くだけでこんなに疲れるんだ……」

 「ハア…ハア……。
  何で、説明するだけでこんなにダメージが……」


 二人は何故か疲れ果てる。


 「まあ、そういった経緯であたしは下忍に……」

 「お前、相手が上忍でもからかうんだな」

 「当然です。
  アンコさんの唇もゲットです」


 じゅるりとヤオ子は唇を拭う。


 (コイツを下忍にしちゃいけないんじゃないか?)


 ヤオ子はサスケの反応を見ると、笑みを浮かべる。


 「なんだよ?」

 「少しいい顔になりましたね」

 「!」


 サスケは、してやられた気分になる。


 「チッ!」

 「何で、不機嫌だったんですか?」


 再度の質問にサスケは溜息を吐き、正直に本音を語る。


 「オレが弱いままで強くなれないからだ……」

 「は?」

 (この人、どこまで人間の道を踏み外したいんだろ?)

 「オレは弱い……。
  砂のアイツよりも……。
  ナルトよりも……」

 「よく分かりませんね?
  何で、強くなりたいんですか?」

 「…………」


 サスケは視線を下に落として答えた。


 「復讐したい奴が居る……。
  そのためには強くならなければならない……」

 「敵ですか?」

 「仇だ……」

 「仇……。
  あたしのサスケさんに対する思いと同じですね」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「そんな浅い因縁じゃねー!」

 「じゃあ、どれぐらいですか?
  ちなみに、あたしの目標はワンパンチです」

 「十分、浅いじゃねーか!」

 「『爆殺! ヤオ子フィンガー!』を一発!」

 「殺す気か!」

 「深いでしょ?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「単純なんだよ!」

 「痛い……。
  じゃあ、サスケさんの因縁は?」

 「この空気で話すのか……」

 「ひょっとして冗談じゃない?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「当たり前だ!」

 「え~!
  じゃあ、本当に闇のように暗くて、
  ドロドロと深い怨念が宿っているんですか?」

 「そうだ……」

 「茶化せないじゃないですか!?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「だから、茶化すの前提で話すな!」

 「すいません……。
  あたしは、てっきり自分に酔って
  カッコつけてるだけだと思っていました」

 「お前、最悪だな……」

 「…………」


 ヤオ子は頭を擦りながら、中忍試験での観客の言葉を思い出す。
 それが何かしら関わっているような気がした。


 「あの……。
  もしかして、一族のことと関係してますか?」

 「そうだ」

 「…………」


 サスケの肯定に、ヤオ子は俯く。


 「どうした?」

 「あたし、その話嫌いです」

 「知っているのか?」

 「詳しくは知りません。
  でも、中忍試験で……。
  皆、サスケさんを見世物みたいにして……」

 「…………」


 ヤオ子は体育座りの姿勢で眉を歪める。


 「人の不幸を見世物にするなんて
  いいことじゃないです」

 「……そうだな。
  でも、それだけウチハの名は特別なんだ。
  だから、オレはいつも背負ってる」


 ヤオ子はサスケの背中の団扇を思い出す。
 確かにサスケはいつも背負い続けていた。


 「平気なんですか?」

 「平気だ。
  いずれ一族は復興させる」

 「復興?
  復讐は?」

 「復讐を果たして復興させる」

 「そうですか……。
  それで強くならないといけないんですね」

 「…………」


 サスケは、ヤオ子の隣で胸に秘めた思いを聞いてみる。


 「ヤオ子……。
  お前は……。
  ・
  ・
  復讐をどう思う?」

 「どう?」


 ヤオ子は腕組みして考える。
 しかし、中々纏まらなかった。


 「皆、復讐を反対する……。
  止めようとする……」

 「サスケさんの場合……。
  復讐を失敗したら死んじゃいそうだから、
  皆、心配なんですよ」

 「…………」


 黙るサスケを見て、ヤオ子は自分の考えを少しずつ口に出した。


 「あの……復讐する度合いもあると思うんです。
  復讐しないと前に進めないとか……。
  その先が辛いと分かっていてもやらないといけないとか……。
  ・
  ・
  復讐する人は、復讐することが悪いことなんて知ってますよ。
  それでもやらないと、その人の心の中には棘が残り続けるんです。
  復讐を果たさないで一生を終えても胸で燻り続けて……。
  復讐を果たしても胸で燻り続けて……」


 ヤオ子の言葉を聞きながら、サスケはヤオ子を見る。
 ヤオ子は語りながら泣いている。


 「本当は悪いことをする人が居なければ、
  誰も苦しまないんです……」

 「ヤオ子……」

 「あたしは、そういうのを何度も見続けてきました。
  結局、最後はこんな悲しみだけが広がって、
  何にもならないじゃないかって……」

 「…………」

 「全て漫画の中での出来事なんですけど……」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「何処までが本気なんだ!」

 「本気ですよ!
  ほら、涙!」

 (コイツに聞くんじゃなかった……)


 ヤオ子が涙を拭うと、口調が一変する。


 「ぶっちゃけますとね。
  あたしは復讐肯定派です」

 「適当に聞くぞ?」

 「ええ、いいです。
  だってね。
  やったらやり返すです。
  ・
  ・
  『殺されたから殺して。
   殺したから殺されて。
   それで最後は平和になるのかよ!』
  って意見も十分に分かります。
  ・
  ・
  だからね。
  線引きします」

 「線引き?」

 「仇が復讐する時まで変わってなければフルボッコです。
  でも……。
  改心して温かい家庭でも築いているなら半殺しです。
  あたしは、こうします」

 「…………」


 ヤオ子の考えを聞いて、サスケの頬が緩む。


 「ふ…はは……。
  お前にかかると何でも笑い話だな」

 「そうですか?」

 「そうだ」

 「まあ、そんな感じなんで。
  あたしは、いつまでもサスケさんの味方です」

 「味方か……」

 「…………」


 ヤオ子は空を見上げる。


 「いつか……。
  里を離れるかもしれませんね」

 「ああ……」

 「もし、そうなったら……。
  あたしは、サスケさんを待っています。
  サスケさんの戻る木ノ葉の里を守って」

 「オレが戻る?」

 「復興……させるんでしょ?」

 「ああ……」

 「そして、サスケさんが帰って来た時に……。
  あたしが独身なら愛人になってあげます」


 サスケは思いっきり吹いた。


 「どうしたんですか?」

 「お前な……」

 「だって、子供作んないと、
  一族復興出来ないじゃないですか?」

 「それはそうだが……。
  ・
  ・
  お前はいいのか? それで?」

 「いや、あたしってこの性格でしょ?
  行き後れてる可能性が高いじゃないですか?」

 「お前の保身かよ?」

 「そうですよ」


 サスケは軽く笑う。


 「馬鹿らしい……。
  お前に話すことじゃなかった」

 「貴重なお話だと思うんですけど」

 「…………」


 サスケは少し気分が晴れた気がした。


 「お前、オレに用があったんじゃないのか?」

 「そうでした!
  忍具が必要なんです!」


 サスケがヤオ子の格好を改めて見る。


 「そうだな。
  全然、忍者に見えない」

 「この前、パクッたホルスターとかを売って、新調しようと思うんです。
  アドバイスしてくれませんか?」

 「ああ、いいぜ……。
  靴は、オレのお下がりで良ければ、やるぞ?」

 「貰います。
  これで靴代が浮きました。
  服も新調しようかな?」


 ヤオ子は、久々にサスケと過ごすことになった。
 中忍試験の本戦前から会っていなかったので、実に3週間ぶり近くになるのだった。


 …


 質屋に向かう前、ヤオ子はサスケの家によることになった。
 中に入るのも初めてになる。
 玄関の下駄箱を開けて、サスケは中から自分の靴より一回り小さい靴を取り出す。


 「合わせてみろ。
  あと、もう一回り小さいのがある」

 「ありがとうございます」


 ヤオ子はお古の靴を履いて、トントンとつま先を叩く。


 「丁度いいです。
  履き込んでるから柔らかいし」

 「そうか。
  よかった」


 ヤオ子はサスケの腕を指差す。


 「サスケさん。
  前にサスケさんが腕につけてたヤツもちょうだい」

 「……図々しい奴だな」

 「だって。
  中忍試験以降、服新調したじゃないですか?」

 「お前な……。
  オレに毎日同じ服を着ろってか?」

 「あたし、サスケさんのセンスは好きなんですよ」

 「服のセンスだけか……。
  じゃあ、買った店教えるから」

 「そこで服も合わせようかな?」


 続いて、サスケ行きつけの店へ向かうことになった。


 …


 ヤオ子とサスケは、まず換金のために質屋へと向かった。
 店のカウンターで、ヤオ子が質屋の店主に声を掛ける。


 「すいません。
  これ買い取って貰えます?」


 ヤオ子はデイバッグからホルスター×3と起爆札六枚を出す。
 質屋の店主は物を手に取って確認すると、電卓を弾いて見せる。


 「この値段……どうなんだろう?」


 分からないヤオ子を見て、サスケが横から口を挟む。


 「この値段ならオレが買い取るぞ?」

 「お兄さん……。
  お嬢ちゃんの連れだったのか。
  忍者なら値段の妥当性が分かっちまうな」


 店主が電卓を弾き直すと、サスケに見せる。


 「少し安いが妥当な線だな。
  どうするんだ? ヤオ子?」

 「サスケさんにお任せです。
  おじさん、この値段で買い取ってください」

 「毎度あり」


 二人は質屋を出ると歩き出す。
 ヤオ子は手に入れた現金を仕舞いながら、サスケにお礼を言う。


 「サスケさん。
  どうもありがとう」

 「ああ。
  よかったな」

 「とりあえず、ホルスターの一番綺麗なのとクナイと手裏剣は取ってあるんですが、
  サイズが合わないんですよね」

 「ホルスターは、お前の足より大きいな」

 「サスケさんのよりも、大きいですからね」

 「どうするんだ?」

 「改造するしかないですね」

 「改造?」

 「忘れたんですか?
  あたしは秘密基地を作れるほど器用なんですよ?」

 (そういえば、そういう奴だったな)

 「あとは、店に置いてある原品を記憶してサイズを合わせるだけです。
  形も参考に出来るようなら、デザインを盗みます」

 「お前、偽物とか作って販売できそうだな」

 「あれは意外と足が着くんでやりません」

 「足が着かなかったらやるんだな……」


 そうこう話しているうちに、サスケの行きつけの店に辿り着く。
 行きつけの店は質屋とあまり離れていない場所にあった。


 …


 初めて入る忍具専門店。
 ヤオ子は興味津々で店内を見回す。


 「忍具だらけです!」

 「何を買うんだ?」

 「自分の手で作れないものです!」


 サスケはガクッと肩を落とす。


 「お前、何が作れないんだ?」

 「材料は、拾ったものですからねぇ……。
  拾える材料と形状によります」

 (コイツ、忍具いるのか?)


 ヤオ子は売り物のホルスターを手に取り確認する。


 「なるほど……。
  砂のホルスターとは中身が違いますね。
  いや、この持ち主が手を加えたのかも?
  形状は、木ノ葉の方があたし好みですね」

 (職人の目をしている……)


 サスケはヤオ子を複雑な目で見ている。
 ヤオ子は形状を覚えると商品を元に戻す。


 「バッチリです。
  あとは、家で改造します」

 「今度、オレも改造して貰おうかな?」

 「おにぎり一個で手を打ちますよ」

 (安……)


 その後、ヤオ子は色々と興味がわいて店内を駆けずり回っていた。
 サスケは、それを見て一応歳相応の女の子の反応だなと思う。


 「試着していいですか?」

 「どうぞ」


 ヤオ子が物色した服を持って試着室に入って行った。
 そして、数分後に声がする。


 「サスケさ~ん!
  見てください!」

 (何でだよ……)


 サスケが面倒臭そうに試着室に近づくとカーテンが開く。


 「じゃ~ん!
  どうですか?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「オレじゃねーか!」


 藍色のTシャツに白のミニスカート。
 スカートの下にはスパッツ。
 腕にはサスケがつけていた保護する道具をつけていた。


 「変ですか?」

 「それを変だと言ったら、オレを否定することになる……。
  どういうテーマなんだ……」

 「色々パクってあります」

 「またパクリか……」

 「メインはサスケさんです」

 「だろうな……」

 「ポイントは下半身です。
  このミニスカートは、アンコさんをパクリました」

 「あのナルトに近い女か……」

 「スパッツはサクラさんです。
  色は黒のため違いますが……」

 「本当に全部パクったんだな……」

 「どうですか?」

 「直ぐにやめろ」

 「店員さん! 会計!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前、聞いてんのか!」

 「サスケさんが嫌がってる」

 「分かってんじゃないか」

 「だから、買う!
  店員さん! 会計!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前、馬鹿か!」

 「いいじゃないですか。
  あたしは、道行く人がこの姿を見て『兄妹かしら?』と言う度に
  怒り狂うサスケさんを見たいんです」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「何で、そういう発想しか出来ないんだ!」

 「血……ですかね?」

 「お前の親は変態か!」

 「少なくとも、母親はストーカーでした」


 サスケが吹く。


 「どんな家系だ!」

 「さあ?
  過去までは、さすがのあたしにも修正することは出来ませんので」

 「兎に角、脱げ!」


 サスケの言葉に、ヤオ子がクネクネと悶える。


 「え? 何ですか?
  そのエロい要求は?
  ・
  ・
  まさか、サスケさんがあたしに欲情するなんて……フフフフ♪」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「欲情するか!
  お前と同じ服を着たくないんだ!」

 「嫌です! 脱ぎません!
  どうしてもと言うなら、サスケさん自ら脱がしてください!
  あたしは、そのエロいシチュエーションで我慢します!」


 ズズイッとヤオ子が前に出る。


 「あたしを脱がしてください!
  さあ! さあ! さあぁぁぁ!」


 迫るヤオ子に、サスケが項垂れる。


 「ダメだ……変態にはなれない」

 「店員さん! 会計!」


 サスケはヤオ子の説得を諦め、ヤオ子のところには店員がやって来る。


 「いくらですか?」

 「XX両です」

 「その値段なら、予備に同じの三着追加してください」

 「畏まりました」

 「最悪だ……」


 サスケにとって、最悪な思い出が追加された日だった。



[13840] 第36話 ヤオ子の初任務
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:44
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 途中まで和やかだった久しぶりのサスケとヤオ子の時間……。
 しかし、買い物のあと、サスケは直ぐにヤオ子と別れた。
 少し前まで着ていた、同じデザインの服をヤオ子が着ていたから。


 「さて、あたしも帰ろうかな?
  ホルスターを改造しないと」


 一方のヤオ子はサスケに十分な報復もでき、忍者らしい服にご満悦。
 その日、ヤオ子は早めに帰宅し、ホルスターの改造に精を出した。
 ちなみに、今日のことでサスケによる強制修行のトラウマは、優先順位の置き換えで発生することがなくなった。
 しかし、ヤオ子はトラウマが少し解消されたことに気付きもしなかった。



  第36話 ヤオ子の初任務



 翌日……。
 朝の手裏剣術の修行を終えて、ヤオ子はヤマトと約束したアカデミーに向かっていた。
 服装は見事なまでのサスケ二号である。
 しかし、昨日仕立てた時と違い、今日は増えたものがある。
 自作したホルスターを両足に付いているのだ。


 「新しい服って嬉しいな。
  サスケさんと同じデザインだから、忍者の服装として間違いないだろうし。
  ・
  ・
  結局、ホルスターは材料余って両足に……。
  これだけが変ですね……。
  誰かにあげようかな?」


 目的のアカデミーに向けてテクテクと歩いていると、ヤオ子は後ろから声がする。


 「その髪の毛の纏まり具合……ヤオ子か?」


 ヤオ子が振り返る。


 「おはようございます。
  ガイ先生。
  ・
  ・
  ちなむに、世間一般にはポニーテールと言います。
  前田大尊もメロメロです」

 「ああ。
  おはよう。
  ポニーテールか……。
  覚えておこう。」


 ガイはヤオ子の姿を見て、両手を腰に当てる。

 「服が変わると随分と雰囲気が変わるな」

 「はい。
  気持ちも引き締まります」

 「そうか。
  今日から忍者だもんな」

 「あれ?
  知ってらしたんですか?」

 「当たり前だ!
  オレを誰だと思ってる!」

 「さすが、ガイ先生です」


 ヤオ子はガイに色んなことを突っ込んではいけないことを学習済みである。
 新しくなったヤオ子の服装を見て、ガイは首を傾げる。


 「しかし……その服装。
  つい最近、何処かで見たような……」

 「サスケさんを意識しています」

 「そうだ!
  中忍試験予選の時のサスケの服だ!
  ・
  ・
  しかし、何故?」

 「リーさんと同じです。
  リーさんが尊敬するガイ先生を慕うように、あたしもサスケさんを尊敬しています。
  サスケさんが、あたしに忍術を教えてくれたんですよ」

 「そうだったのか。
  君のような頑張り屋には、
  これをプレゼントしたかったのだが……」


 ガイが懐から例の通気性抜群の服を取り出す。


 「ガイ先生もリーさんも尊敬していますけど。
  サスケさんが悲しむので」

 (本当は、サスケさんで遊びたいだけなんですけどね)

 「いい話だ」

 「プレゼントしていただけるなら……。
  それが欲しいですね」

 「ん?」


 ヤオ子が指差したのは、ガイのレッグウォーマー(?)だった。


 「ほう。
  いいところに気が付いたな」

 「いや~。
  それほどでも」

 「よろしい!
  プレゼントしよう!」

 「いいんですか!?」


 ガイが懐からレッグウォーマーを取り出した。


 (あの懐には、一体何が詰まっているんだろう?)

 「さあ、足を出せ」

 「い、いいですよ!
  自分でやりますから!
  恐れ多いです!」

 「気にするな、ヤオ子。
  ん? お前、素足に直接靴を履いてるじゃないか。
  靴擦れするぞ?
  ちゃんとバンテージを巻いておけ」


 ガイがヤオ子の足にバンテージを巻いてレッグウォーマーを付けてくれる。
 ヤオ子の服装に、また新たなパクリファッションが追加された。


 「ガイ先生。
  どうもありがとう!」

 「な~に、気にするな!」


 ナイスガイポーズで、ガイが歯を光らせた。
 そのガイに、ヤオ子はお礼を言おうと一歩前に出る。


 「あれ? 何か足が重い……」

 「特別サービスしといたぞ!」

 「へ?」


 ヤオ子が膝に妙な感触を感じた。
 叩いてみる。


 「……金属っぽい音がする」

 「その通りだ。
  重りが巻いてある」

 「え?」

 「まあ、片方6キロだ。
  直に慣れる」

 「はい?
  ・
  ・
  そんな市販のお米並みじゃないですか!」

 「安心しろ。
  バランスが悪いからな。
  腕にもパワーリストをつけてやる」

 「いらない!」

 「大丈夫だ。
  腕は、たったの500グラムだ」


 ガイはヤオ子の腕の保護具を捲くり、装着すると保護具を元に戻す。
 筋力では、ヤオ子はガイに適わない。


 「足がドムになった気分です……」

 「じゃあ、がんばれよ!」

 「待ってください!」

 「ん? 何だ?」

 「あたし、今日から任務みたいなんで、
  リーさんのところに頻繁に行けなくなりました。
  本当は自分の口で言いたいんですが、ガイ先生からお伝え願えませんか?」

 「そうか……そうだな。
  分かった伝えておこう」

 「ありがとうございます」

 「では、今度こそ!」


 ガイは、その場から姿を消した。


 「相変わらず元気ですね。
  ・
  ・
  しかも、重りまで持ち歩くとは……。
  木ノ葉上忍のジャケットには、
  四次元ポケットでも付いているんでしょうか?」


 ヤオ子は新装備を身に着けてアカデミーへと向かった。


 …


 八時三分前……。
 ヤオ子がギリギリの時間でアカデミーの前に現れる。
 そこでは、ヤマトが腕組みをして待っていた。


 「おはようございます。
  ヤマト先生」

 「また……ギリギリだね」

 「時間には正確なんですよ」

 「決して褒めてないよ」


 ヤオ子は片手をチョイと捻る。


 「もう、先生ったら~。
  男を待たせるのは女の甲斐性ですよ。
  反対がNG」


 ヤマトは溜息を吐く。


 「随分とよく回る舌だね」

 「八百屋は客商売ですから。
  お客さんとお話出来ないと」

 「分かった。
  もういい……。
  行こうか?
  ・
  ・
  と、その前に……。
  額当ては?」


 あれだけ装備が充実したのに、ヤオ子は額だけをしていなかった。


 「額当ては、洗濯したんで干してあります」

 「何で、新しいはずだろう?」

 「血で染まりました」

 「……返り血じゃないことを願うよ」

 「安心してください。
  自分の血です」

 (……それはそれで安心できない)

 「もういい……。
  行こう……」


 ヤマトに連れられ、ヤオ子はある建物に向かうことになった。


 …


 ヤオ子の目の前には、木の葉で一番目立つ建物が目に入っていた。
 ここには他の忍達も足しげく通っている。


 「○火のマーク……。
  火影さんのアジトですよね?」

 「まあ……。
  そうとも言うのかな?
  ここの一室で任務を言い渡されるんだ」

 「へぇ」

 (そういえば……。
  ここの正式名称って何だろう?
  火影邸?)

 「本来は火影様自ら任務を言い渡されるが、
  今は緊急執行委員会が取り仕切っている」

 「へぇ」


 ヤマトの簡単な説明が終わると、二人は建物の中へと入る。
 そして、ヤマトはある部屋の前に立ち止まり、中に入る。
 ヤオ子も続いて入室する。
 目に入るのは手書きの吊り幕。


 「皆さんガンバ……。
  任務受付はこちらまで……。
  舐めてんの?」


 ヤマトは苦笑いを浮かべると、火影代理の緊急執行委員に話し掛ける。


 「本日から任務を受け持つ、八百屋のヤオ子と担当のヤマトです」

 「話は聞いています。
  まず、これを」


 担当の人間が置いた二冊の本を、ヤマトとヤオ子はそれぞれ手に取る。


 「これであなたも経理の達人?
  火の国の簿記、全て教えます?
  ・
  ・
  ヤマト先生。
  何に使うの? この本?」

 「さあ?
  ・
  ・
  任務を教えていただけますか?」

 「今回の任務は、Dランク任務です。
  XXXという中小企業の経理です」

 「…………」


 ヤマトは顔を引き攣らせた。


 「あの……人選ミスでは?
  簿記なんて、ボクも任務でやったことありませんよ?」

 「任務は午後からになりますので、頑張ってください」

 「いや……あの、ちょっと!?」

 「次の方!」

 (ヤマト先生……無視された)


 ヤオ子とヤマトが指令の巻物と簿記の本を持って、無言で退室する。
 ヤマト達は直ぐに休憩所に移動した。


 「最悪だ……。
  簿記なんて分からないよ。
  午後までに覚え切れるのか?」

 「無理だと思いますよ。
  減価償却費とか売掛金とか未払い金とか……。
  その他諸々の意味をちゃんと理解しないと会計なんて出来ません。
  しかも、電卓でそれらを手早く処理しないと時間も掛かりますし」

 「…………」


 ヤマトは不思議そうにヤオ子を見る。
 八歳児の口から専門用語が出てきた。


 「ヤオ子……。
  意外と詳しいね?」

 「うち八百屋です。
  月末近くになると木ノ葉の役所に書類提出があるんで、
  店の売り上げから利益から損失まで纏める必要があります」

 「……もしかして、何とかなりそうかい?」

 「あたしはね。
  ・
  ・
  問題は先生です」


 ヤマトは改めて渡された本を見る。


 「この本……厚いね」

 「まあ、全部は使わないでしょう。
  中小企業って言っているので、
  そこで扱う商品と関わり合う会社によって使う計算式に制約があるはずです。
  うちの場合の例ですと……うちは貧乏でしたから、減価償却するようなものはありませんでした。
  よって、減価償却費を算出することはありません」

 「ごめん……。
  ついていけない」

 「とりあえず、商売するなら必ず発生する項目をあたしが教えてあげます」

 「助かるよ」


 ヤオ子は簿記の本を捲る。


 「では、時間まで頑張りましょう。
  目次を見ると……1章から必須ですね」

 (何か立場が逆な気がする……)


 ヤマトは頭を悩ませながらも、ヤオ子の説明を聞いて必死に勉強した。


 …


 午前中の短い時間で最低限の知識を叩き込む。
 ヤマトは憔悴しきっていた。
 そして、目的のXXX社に向かう時刻になった。


 「疲れた……。
  Bランクの任務より疲れた気がする……」

 「ヤマト先生は素直でいい人ですよ。
  とっても物覚えが早くて。
  はっきり言って、うちの馬鹿親の脳みそとトレードして欲しいです」

 「ありがとう……。
  ボクも君が簿記を知ってて嬉しいよ」

 「……信じられるのは自分だけです。
  うちの親に任せたら追徴課税や過少申告加算税や延滞税とかがわんさか湧いて、
  一ヵ月分の利益が消えた悲しい過去が……。
  ・
  ・
  その時に簿記を少し覚えたんです……」

 「本当に切ないね……。
  君の過去って……。
  まだ八歳だよね?」

 「基本、うちの両親とも馬鹿ですから。
  変態としての能力は高いんですけどね。
  特に母親が……」

 「何だかなぁ……」

 「あ。
  着きましたよ」


 ヤオ子とヤマトの前に、今にも倒れそうな三階建てのビルがある。


 「幽霊でも出そうですね」

 「いや、地震でも起きたら倒壊しそうだよ」

 「…………」


 二人は暫しボロビルを見上げ続けた。


 「行こうか?」

 「はい」


 ヤオ子はヤマトに続いてビルに入って行く。
 古びた階段を上り、三階の社長室をノックする。
 暫くすると温和な老人が顔を出した。


 「お待ちしておりました。
  早速ですが、お願い出来ますか?」

 「はい」


 ヤオ子達は社長に続いて、二階の奥の部屋に入る。
 そこでヤオ子とヤマトは絶句する。


 「…………」

 「汚ねーっ!」


 沈黙の後に、ヤオ子は絶叫した。


 「じゃあ、お願いします」


 部屋を出ようとする社長の肩をヤオ子が掴む。


 「待て……。
  何ですか?
  この部屋は?」

 「保管庫です……」

 「総業何年ですか?」

 「……二年ですが」

 「ほう……。
  安ビルを買い取っての新規事業ですか……」

 「え、ええ…まあ……」


 ヤオ子は社長の肩を離すと、床を踏みつけた。


 「アホかーっ!
  何だ! この部屋は!
  領収書をただ積み上げれば、
  妖精さんが勝手に処理してくれるとでも思ってんのかーっ!?」

 「ひィィィ!」

 「ヤオ子! ストップ!」


 社長に掴み掛かるヤオ子をヤマトが後ろから押さえ込む。



 「これ任務! 任務だから!」

 「木ノ葉も馬鹿か!
  こんな自己管理も出来ない会社なんか切ったって問題ないですよ!」

 「そ、そこを何とか!
  会社の経営が傾いて経理の人材を雇えないんです!」

 「ボランティアやってんじゃないんですよ!」

 「ひィィィ!」


 ヤオ子がヤマトの拘束を振り解くと、腰に手を当てる。


 「ったく!
  ・
  ・
  何社と取引きしてるんですか?」

 「さ、三社……」

 「はぁ……。
  社長、バインダーありますか? 沢山?」

 「え、あ……ああ」

 「ヤマト先生。
  やりましょう」

 「……ああ」

 (何だったんだ?
  さっきの暴走と今の静寂は?)


 ヤオ子の剣幕に押され、社長は部屋を走って出て行った。
 その間にヤオ子は山積みでごちゃごちゃの部屋をゆっくりと回り、紙の束の一番上を確認して行く。


 (一応、規則性はありますね)

 「ヤマト先生。
  廊下に全部出します」

 「え?」

 「三社ごとの取り引きと、この会社自身の経費等で区分けしましょう。
  それを年代順に並べます」

 「最近のものだけでいいんじゃないのか?」

 「利益とか借金とかが前年度から残ってれば繰り越しますから」


 ヤオ子がチャクラを練り込み、印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 ヤオ子は二体の影分身を出す。


 「部屋には三人がやっとですから、
  ヤマト先生は廊下に並べてくれますか?」

 「今回は、君に従うよ。
  ボクの方が素人だ」

 「では、始めますね」


 ヤオ子が影分身と一緒に紙の束を持って何度も出入りする。
 外に運んだ束をヤマトが指示通りに整理する。
 外に運び終えたところで、日は傾き出していた。
 ヤオ子は溜息を吐いて、廊下に並んだ紙の束に目を向ける。


 「二年間で、何で、こんなに一杯になるんですかね?
  いくらなんでも多い気がするんですよ」

 「これのせいじゃないの?」


 ヤマトが散乱する紙を指差す。


 「ん?」

 「この会社の人達、領収書をそのまま保存して、
  一枚の紙に纏めることをしてないよ」

 「保存するのは間違いじゃないけど……。
  資料に纏めたら別で保存しましょうよ……。
  資料も纏めますか……」

 「仕方ないね」


 その後、社長の持って来たバインダーに全ての資料を挟み込む作業へと移行する。
 その間に影分身の一人は部屋を徹底的に掃除していた。


 「ちゃんと背表紙にタイトル入ってますね?」

 「ヤオ子の言う通りにしたよ」

 「あたし、今までの作業でヤマト先生と戦友になった気分です」

 「同感だ……。
  あとは、簿記の本見ながらか……」


 これからが本来の任務の開始だった。
 暗くなり始めた空を見て、ヤオ子がヤマトに提案する。


 「役割分担しませんか?」

 「ん?」

 「ヤマト先生は簿記完璧じゃないです。
  領収書の類を纏めてください。
  あ、本の例題通りで。
  あたしは役所に提出する書類を埋めます」

 「まだまだ時間が掛かりそうだね」

 「いえ、あと少しですよ」


 ヤオ子が追加で出した影分身と一緒に、椅子に腰掛けてバインダーごとの経理を始める。
 そして、電卓を弾き出すと部屋にはボタンを叩く連続音が響き出した。。


 「は……早い。
  ・
  ・
  あ! ボクも急がないと!」


 ヤオ子のスピードに合わすために、ヤマトは木分身で数を増やして対応する。


 「何処で電卓の早打ちなんて覚えたの?」

 「余裕ありますね。
  ヤマト先生」

 「分身で数を増やしたからね」

 「あたしは、家の事情です。
  親が馬鹿なんで……。
  アイツら、間違ったの気付いても突き進むんです。
  だから、一枚として正確な書類が出来た試しがありません。
  故にあたしが電卓を正しく打てるようにならなくてはなりませんでした」

 「一人暮らしして、大丈夫なの?」

 「休みを利用して処理して来ます」

 「大変だね」

 「まあ、ちゃんと纏めてれば、
  次からそれほど大変じゃありません。
  よっぽどのことがない限り、パターン化されますから」

 「なるほど」

 「さっき、社長を怒ったのは悪いことを認識させるためです。
  うちの場合は、相当口酸っぱく言って直しました」

 「本当に苦労人だね……」

 「あの社長はうちの親より気が小さいから、
  きっと、一回で直りますよ」

 (策士だな……)

 「ここまで綺麗にしておけば、もう呼ばれることもないでしょうね。
  木ノ葉の依頼が減っちゃいましたね」

 「いや、減って結構だ。
  こんな依頼、二度としたくない」

 「はは……。
  そうですね」


 その後、綺麗に纏められた書類と経理し直した結果を社長に手渡した。
 時刻は夜の八時なっていた。


 「本当にありがとう。
  これで、今月は何とかなりそうです。
  いや、それ以上の仕事をしてくれた」


 社長がヤマトとヤオ子に順に握手する。


 「もう、汚くしちゃダメですよ?
  ちゃんとバインダーに挟んだんですから、
  纏めて管理してください」

 「約束するよ」


 ヤマトが腰の道具入れから巻物を出す。


 「終了のサインをお願いします」

 「はい。
  ・
  ・
  書けました」

 「確認しました」


 ヤマトが巻物を仕舞うと、社長が頭を下げる。


 「また、お願いします」

 「専門家を雇った方がいいんじゃないの?」

 「小さい会社ですからね。
  中々、そこまでお金を出せなくて」

 「気持ちだけは痛いほど分かります。
  うちも貧乏ですから……」


 社長とヤマトが微笑む。


 「では、我々はこれで」


 軽く会釈をして、ヤオ子とヤマトはXXX社を後にした。


 …


 帰り道……。


 「ヤマト先生」

 「ん?」

 「確かに、こんなことしてたら、立派な忍者の育成の妨げですね」

 「本当だね……。
  仕事を選んで欲しいよ。
  経理できる忍者なんてそうそう居ないよ」

 「しかも、Dランク……」

 「Dランクじゃないと、
  あの社長さんは雇えなかったよ」

 「もしかして……。
  あれだけやってアルバイト並のお給金?」

 「多分ね……」


 ヤオ子が溜息を吐く。


 「しかし、今日一日で随分と簿記の力が付いた気がするんですよね?」

 「そうなのかい?」

 「はい」


 影分身を解いた時の経験値蓄積能力が働いたためである。
 ヤオ子は忍者と関係ない簿記能力のレベルがあがった。


 「でも、忍者雇う理由はありますね」

 「うん?」

 「分身です。
  一人で数人分の働きです。
  あの社長さんみたいな人が一人分で雇うには最適です」

 「そうかもね。
  ・
  ・
  そうだ。
  君が遅く着たから、言い忘れていたことがあるんだ」

 「何ですか?」

 「この小隊……暫く二人だ」

 「何で?」

 「今回の合格者の人数が一人だけ半端なんだ」

 「それで、あたし? 何で?」

 「他の子は影分身できない。
  つまり、さっき言った君の方法を取れないんだ」

 「覚えればいいじゃないですか?」

 「多重影分身は、本来禁術なんだよ」

 「……嘘?」

 「本当。
  それに誰でも出来るわけでもない」

 「そうなんだ」

 (何で、あたし出来たんだろ?
  ・
  ・
  ああ。
  エロパワーです。
  人の限界を超える力……エロパワー。
  時にそれは、人に奇跡を与える力になります。
  偉大ですよねぇ……)

 「ヤマト先生。
  そうなると、あたしは影分身で人数を補えばいいんですか?」

 「お願い出来るかな?」

 「いいですよ。
  丁度いいです」

 「丁度いい?」

 「修行時間が減りますからね。
  影分身でチャクラと術の修行になります。
  自由時間は手裏剣術と体術に回します。
  効率的でしょ?」

 「大したもんだ……」


 このあと、任務の報告を無事に済まして、ヤオ子の初任務は終了した。



[13840] 第37話 ヤオ子の任務の傾向
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:44
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子はヤマトと初任務を終えて、前回だけが特別だと思っていた。
 会社に経理の手伝いに行き、更にそこの社長に説教をかますなど、忍者と関係がないにもほどがある。
 しかし、ヤオ子の頭が痛い日々は続くことになる……。
 今日も待ち合わせ時間ギリギリに姿を現わしたヤオ子は、先に待っていたヤマトに声を掛ける。


 「おはようございます。
  ヤマト先生」


 ヤオ子の挨拶に、ヤマトは申し訳なそうな顔を浮かべる。


 「ごめん、ヤオ子。
  暫く任務で面倒を見れない」


 両手を合わせたヤマトに、ヤオ子は首を傾げる。


 「どうしたんですか?」

 「里の任務を少ない人数で回さなければいけなくて、
  どうしても外せない任務が出来てしまったんだ」

 「そうなんですか。
  まあ、ヤマト先生は上忍ですもんね」


 ヤオ子は自分を指差す。


 「あたし、どうすればいいの?」

 「上層部に相談したら、今度から直接紹介して貰うようになった。
  その時、副担当がつくと言っていたよ」

 「了解です。
  ヤマト先生も頑張ってくださいね」

 「すまない。
  時間がある時は、君を優先するから」


 ヤオ子は両手を頬に当てると、クネクネと悶え始めた。


 「照れますね。
  そんな口説き文句みたいなセリフ」


 ヤマトがこけた。


 「ヤオ子……」


 顔を上げたヤマトに、ヤオ子は『冗談ですよ』と手を振る。
 ヤマトは溜息を吐くと、瞬身の術でその場を後にした。



  第37話 ヤオ子の任務の傾向



 ヤマトが任務に向かい、一人残されたヤオ子も歩き出す。
 本日の任務を貰うため、昨日と同じ紹介場へと向かうのだ。
 何が起きるでもなく、普通に紹介場に辿り着いてしまうと、ヤオ子は任務の紹介を受けるために扉を開く。
 皆さんガンバの垂れ幕を見ると、相変わらず逆に力が抜ける気がした。


 「すいませ~ん。
  本日、ヤマト先生はいません」


 ヤオ子の声に本日担当のコハルがヤオ子を手招きすると、話し掛ける。


 「その話は聞いておる。
  そして、まず褒めておこう。
  先の任務、先方の評価は最高ランクだったぞ」

 「そうですか。
  頑張った甲斐があります」


 ヤオ子は頭に手を当て、だらしなく笑みを浮かべた。


 「ところで。
  今日の任務と副担当さんは?」

 「うむ、副担当はあれだ」


 コハルが指差す先には、疲労して壁にもたれて蹲る中忍が居た。
 頭を垂れて、ピクリとも動かない。


 「……何あれ?」

 「お前の副担当だ」

 「…………」


 ヤオ子の顔から一気にやる気が失せた。


 「お前の任務はDランクの雑用だからな。
  今後は疲弊した忍者がお前の担当となり、
  体力の回復をしながら面倒を見ることになる」

 「…………」


 ヤオ子の眉は綺麗なハの字を浮かべていた。
 そのヤオ子に、コハルが訊ねる。


 「どうした?」

 「いや……。
  どうしたって……。
  あんなのばっかり、あたしに付くの?」

 「そうだ」

 「…………」


 ヤオ子は左の腰に手を当て、右手を返す。


 「だったら、昨日みたいなのはなしですよ。
  あれはヤマト先生も一緒にやって、二人掛かりで何とか出来たんですから」

 「分かっておる。
  その時には、もう少し活きのいい疲れた忍者をつける」

 (疲れてんだか活きがいいんだか、分かんないんだけど……。
  っていうか、疲れてても働かすの?)


 ヤオ子の疑問を無視して、コハルが巻物を広げる。


 「次の任務だが……ケーキ屋に行って貰う」

 「何処の?」

 「木ノ葉の里だ」

 「お手伝いですか?」

 「そうだ」


 ヤオ子は顎の下に人差し指を立て、ケーキ屋での仕事を想像する。


 「ケーキ作りか……。
  面白そうですね」

 「では、頼むぞ。
  しっかりな」

 「はい」

 「…………」


 ヤオ子とコハルの会話は終わったが、約一名――副担当の反応がない。
 ヤオ子は副担当を指差して、コハルに訊ねる。


 「あの……あの人、さっきからピクリとも動かないんですけど……。
  もしかして、死んでませんか?」

 「仕方ない……」


 コハルが袖からクナイを取り出すと、いきなり中忍に投げつけた。
 クナイは中忍の顔の横に突き刺さり、中忍はハッとして目を覚ました。
 コハルの目が光る。


 「……さっさと行け!」


 中忍は慌てて巻物を受け取ると走って行ってしまった。


 (一応、生きてたんですね……)


 ヤオ子も仕方なく後を追い掛けた。


 …


 民無先に行き途中の道で中忍に追い着くと、ヤオ子は声を掛ける。


 「大丈夫ですか?」

 「……大丈夫じゃない。
  さっき72時間ぶりに眠ったところなんだ……」

 (おいおい……)

 「目的地まで頑張ってくださいね。
  後は、あたしが何とかしますから」

 「…………」


 中忍は無言で頷くと、ふらふらと千鳥足でケーキ屋に向かって歩く。


 (危ないって……。
  木ノ葉、マジで危ないって!)


 ヤオ子は木の葉滅亡の危機を感じていた。


 …


 ケーキ屋に着き、店主に挨拶が終わった瞬間、中忍は座った椅子の上で灰になって死んだように動かなくなった。
 燃え尽きている副担当の中忍を見て、店主の女主人がヤオ子に声を不安そうに掛ける。


 「あの――」

 「あははは!
  気になさらず!
  寝ているように見えますが、彼は眠りの小五郎と呼ばれる凄腕忍者です!
  ばっちり! あれで、しっかりと監視してます!」

 「そうなんですか?」

 「はい!」

 (何で、こんな悲しい嘘を……)


 ヤオ子は心の中で泣きながら、ヤケクソ気味にその場を勢いで乗り切ってしまおうと思った。


 「ところで!」

 「は、はい」

 「あたしは、何をすればいいんですか?」


 ヤオ子の強引な言葉運びが功を奏したのか、女主人は気を取り直して依頼を口にし出してくれた。


 「実は最近売り上げが落ちているんで、
  どうすればいいか相談をしたくて……」

 「…………」

 「聞いてます?」


 聞かされた依頼内容に、ヤオ子は震えている。


 (何これ?
  相談?
  どういうこと?
  ・
  ・
  手伝い関係ないじゃん?)


 今回の依頼は、何をするのか以前の問題だった。
 混乱気味のヤオ子に、女主人が不安そうに語り掛ける。


 「どうかしましたか?」

 「……どうかしました」

 「まあ、大変」

 「お姉さん……」

 「何ですか?」

 「あたしは、お手伝いをしに来たんですよね?」

 「知ってます。
  私が木ノ葉に依頼したんですから」

 「で。
  あたしは、何を手伝うと?」

 「最近売り上げが落ちているんで、
  どうすればいいか相談を――」

 「ストーップ! ルック ミー!
  あたしを見てください!
  ・
  ・
  何に見えますか?」

 「女の子」

 「はい! 合ってますよ、ここまで!
  ・
  ・
  では、何を手伝うと?」

 「最近売り上げが落ちているんで、
  どうすればいいか相談を……」

 (……ダメだ。
  天然さんです。
  ガツンと言わなければなりません)


 ヤオ子は咳払いを入れる。


 「あたしは、ヤオ子です。
  八歳の女の子です。
  ここには『お・て・つ・だ・い』をしに来ました」

 「はい」

 「分かりますね?
  相談する相手じゃないでしょう?」

 「分かりません」

 (天然な上に馬鹿ですか……)


 ヤオ子は額に手を置いて苛立ちを押えると、大きく息を吐き出す。


 「もういいです。
  はっきり言いますね。
  『自分の店の経営方針ぐらい自分で決めろ!』です。
  あたしは帰ります」


 ヤオ子が踵を返すと、女主人がヤオ子の足にしがみついた。


 「見捨てないでください!
  お願いします!」

 (どういう絵面なんですか……。
  八歳児に縋りつくなんて……)

 「このままじゃ、お店が潰れちゃうんです~!
  折角、開いたばっかりなのに~!」

 「……こんな店、潰れてもいいんじゃない?」

 「イヤ~~~!」


 ヤオ子がキレた。


 「あんた、ガキか!」

 「何とでも言ってください!
  藁にも縋る思いなんです!」

 「今、正に藁掴んでますよ!」

 「話だけでも!
  話だけでも聞いてください!
  聞いてくれないと放しません!」


 ヤオ子は拳を握る。


 (ここで依頼人殴ったら問題なんだろうな……。
  本当に眠りの小五郎使えないな……。
  この騒ぎでも起きないなんて……)


 ヤオ子は拳を解くと、諦めの溜息を吐いた。


 「聞いても何にもならないかもしれませんよ?
  話すだけ話してみてください」

 「ありがとう。
  ヤオ子ちゃん」


 女主人が二人分の椅子を持って来て座ると、ヤオ子も持って来てくれた椅子に座る。
 女主人は切実とヤオ子に話し出した。


 「売り上げは元から少なかったんですが、
  今までは何とか店の経営は成り立っていました。
  しかし、いきなり売れ行きが悪くなってしまったんです」

 「ライバル店でも出来たんですか?」

 「いいえ」

 「味を変えたとか?」

 「いいえ」


 ヤオ子は腕を組んで、首を傾げる。


 「じゃあ、何だろう?
  急に売れなくなるなんて。
  ・
  ・
  この店の主力メニューは?」

 「苺のショートケーキです」

 「ふ~ん。
  普通ですね。
  ・
  ・
  じゃあ、問題があるのは他のメニューですかね?
  他にどんなケーキがあるんですか?」

 「ありません」

 「……は?」

 「苺のショートケーキだけです」

 「……何故?」

 「私は、苺のショートケーキ一本で勝負したいんです!」


 ヤオ子は椅子を倒して立ち上がり、女主人を指差した。
 依頼主だろうが関係なかった。


 「馬鹿か!
  原因はそれだ!」

 「え?」

 「『え?』じゃねー!」

 「どうしてですか!?」


 ヤオ子は指を立てる。


 「いいですか?
  苺のショートケーキって、どんなイメージがありますか?」

 「誕生日とかお祝い事とかかしら?」

 「正解です。
  では、この前、何がありましたか?」

 「この前?
  ……さあ?」

 「ヒントです。
  木ノ葉崩し……」

 「?」


 女主人が首を傾げる。
 ヤオ子は一向に気付かない女主人にワナワナと拳を握る。


 「火影様が死んだのに、
  祝い事を連想させる苺のショートケーキを誰が買うんだ!」

 「そ、そういうことですか!」

 「あんたも商売人だろうに!
  気付け!」

 「で、では、死んだ記念に追悼フェアということで
  チョコレートケーキを店頭に――」


 ヤオ子はグーを炸裂させるのを必死に堪えた。


 「そんなことをしたら袋叩きにされますよ!
  そして、誰も寄り付きません!
  ・
  ・
  いいですか?
  喪が明ければ、きっと売り上げは戻ります。
  それまで暫く店を閉めるなり、作る量を減らすなりしてください」


 女主人は原因が分かると、ホッと胸を撫で下ろした。


 「ヤオ子ちゃん……。
  ありがとう」

 (はぁ……。
  こんな馬鹿みたいな依頼もあるのか……。
  いや、あの社長も馬鹿だったな……。
  うちの両親も……。
  木ノ葉の商店は、大丈夫なのかな?
  ・
  ・
  一楽があった。
  あそこは、まともだ……)


 今度こそ帰ろうとヤオ子は立ち上がる。
 精神的に酷く疲れた。
 しかし、女主人が止まらない。


 「ヤオ子ちゃん。
  売り上げが平均して伸びないのは、何でだと思う?」

 「…………」


 これ以上は関わりたくないと、ヤオ子は黙って踵を返す。


 「今度は、泣くわ!」

 (だから、何で……。
  この人、八歳児相手に何言ってんだよ……。
  これ、どういう任務だよ……)


 ヤオ子は黙って座ると、吼えた。
 既に目の前の女主人を依頼人とは思っていなかった。


 「メニューが一つしかないからに
  決まっているでしょう!」

 「だって……とってもおいしいんですよ?」

 「あんた、さっきチョコレートケーキも
  作れるみたいなことを言ってたでしょう!」

 「あれは例外です!」

 「何の例外ですか!」

 「私は、苺のショートケーキ一本で勝負したいんです!」

 「じゃあ、勝負してればいいでしょ!
  以上、あたしは帰ります!」

 「理由を聞いてください!」

 「アァ!?」

 「何で、苺のショートケーキに拘るか聞いてください!」

 「あんた、しゃべりたいだけなんじゃないですか?」

 「聞いてください!」

 (面倒臭い人ですね……)

 「何で、ですか?」

 「苺のショートケーキは思い出のケーキなんです」

 「……へぇ」

 「お母さんのお誕生日にプレゼントしたケーキなんです。
  それをお母さんは、とてもおいしいって。
  それから苺のショートケーキは、
  幸せにしてくれる魔法のケーキだと思うようになったんです」

 (頭病んでんじゃないの?)

 「だから、皆に苺のショートケーキを食べて貰おうって思ったんです」

 「いい話でした。
  天国のお母さんも喜んでます」

 「死んでません!」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「で?」

 「はい?」

 「それを聞いて。
  あたしが共感して、どうしろと?」

 「それを考慮したうえで、
  売り上げの上がる方法を考えてください!」

 (……あたしは、大人電話相談室か)

 「無理です。
  あたしには思いつきません」

 「そんなことありません!」

 「それこそ、何で言い切れるんですか?」

 「だって、私の知ってる人は、
  ここまで話を聞いてくれませんでした」

 (あたしも適当に切り上げれば良かったのか……)

 「だから、きっとヤオ子ちゃんは、何か良い案を考えてくれます」

 「何の根拠にもなってない……」


 ヤオ子は肩を落としてから顔を上げる。


 「はぁ……。
  仕方ない……」

 「考えてくれますか?」

 「はい。
  まず、あなたの思い込みから、どうにかします」


 ヤオ子は、どうしようもない依頼人のために一肌脱ぐことにした。


 「苺のショートケーキ以外のメニューを増やしたくないんですよね?」

 「はい」

 「お母さんの思い出が大事だから」

 「はい」

 「じゃあ、お父さんは?」

 「え?」

 「お父さんは?」

 「…………」


 女主人は言葉を止めた。


 「お父さんに無理を言って、苺のショートケーキを押し付けていませんでしたか?
  お父さんは、本当に甘いのが好きな人でしたか?
  コーヒーにミルクと砂糖を一杯入れる人でしたか?」

 「それは……違います」

 「そうでしょう?
  人には好みがあるはずです。
  お母さんばっかりではなく、お父さんのことも考えてあげないと」

 「ヤオ子ちゃん!
  私、どうすれば!?」

 「今度は、お父さんのためにケーキを作りましょう。
  甘さを抑えたチョコレートケーキなんて、どうですか?
  それを一緒にカウンターに並べては?」

 「でも……。
  やっぱり、苺のショートケーキが一番なんです」

 「はい。
  あたしも反対ではありません。
  苺のショートケーキは主力商品として、一番多く作ってお店で売りましょう。
  作る数は減りますが、一番多くていいです」

 「本当に?」

 「はい。
  今は悲しいことがあったばっかりですが、
  皆、生まれた日はあります。
  誕生日には必ず皆を幸せにするケーキですから、需要は常にあります」

 「ヤオ子ちゃん……」

 「そして、心に余裕が出来たら、
  家族だけに幸せになって貰うのではなく、自分も幸せにしてあげるんです」

 「私も?」

 「はい。
  季節ごとの旬の果物を使ったタルトやケーキも、いいんじゃないですか?
  自分へのご褒美です。
  そして、それを皆にちょっぴりお裾分けしてカウンターへ。
  ・
  ・
  どうですか?
  メニューを増やすのも悪くないでしょう?」

 「うん……。
  悪くない……。
  私、頑張ってみるね」

 「はい。
  応援してます。
  では、頑張ってください。
  ・
  ・
  あたしはこれで」


 ヤオ子が席を立とうとすると女主人がヤオ子の手を掴んだ。


 「今からチョコレートケーキを開発するから手伝って!」

 「…………」

 (今から任務開始?)


 ヤオ子の任務は、大体こんな感じで任されて処理することになる。
 そして、こういうことが重なり、Dランクでありながらヤオ子の指名が入るようになっていく。
 また、影分身の呪いにより経験が蓄積され、ヤオ子はどんどん忍者からかけ離れた存在になっていくのだった。

 一方、ヤオ子がケーキ屋で任務をしている頃、サスケは暁のメンバーである自分の兄に接触しようとしていた……。



[13840] 第38話 ヤオ子の任務とへばったサスケ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:45
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子はケーキの入った箱を持ちながら、暗くなりかけた道を歩いている。
 あの悪夢のようなケーキ屋の任務が終わり、家への帰宅途中である。
 報告も無事済まして、死に掛けた副担当の中忍もちゃんとコハルの前に投げ捨てて来た。


 「お礼におみやげのケーキ貰っちゃった。
  ただ試作段階だから、今度、意見聞かせてってことは、
  また、呼び出されるってことですよね……。
  あのお姉さん、悪い人じゃないんだけど……」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「遅くなって体術の修行出来なかったな……。
  こんなのが続くと修行出来ません。
  ・
  ・
  明日から、朝に手裏剣術と体術を修行しましょう。
  筋力と体力の修行は、ガイ先生の装備頼り。
  そして、チャクラの修行は現場での実行頼りになってしまいますが、
  空いた時間は、ひたすら木登りをして……。
  ・
  ・
  現状の能力が落ちないようにだけはしましょう」


 あれだけ嫌っていたはずの忍者になること……。
 ドSの洗脳の成果か、何かかは分からないが、ヤオ子はすっかり忍者の生活が身に染込んでいた。



  第38話 ヤオ子の任務とへばったサスケ



 ヤオ子は歩きながら、ふと、あることに気付く。


 「何だろう?
  サスケさんのドSパワーを感じない……」


 兄──イタチとの接触の際に、サスケは万華鏡写輪眼をかけられて精神をやられている。
 そして、ガイにより、木ノ葉病院に収容されている。
 サスケは意外と木ノ葉病院にお世話になる率が高い。
 ちなみに、彼の担当上忍であるはたけカカシも同じように、イタチにやられ入院している。
 写輪眼を持つ人間の入院率が高いのは偶然なのか? 呪いなのか?

 何も知らずに、ヤオ子は疑問を口にしながら歩く。


 「あたしのサスケさん感知能力は、結構、広いんだけどなぁ。
  だって、サスケさんが到着する予定の一、二日前から感知できるんだから。
  ・
  ・
  クリリン達みたいに気を消せない以上、絶対に位置は分かるはずなのに……。
  サスケさんからドSパワーが消えるわけありませんし……」


 現在、サスケは精神崩壊して消えてます。


 「もしかして……死んだ?」


 ヤオ子は、また物騒なことを呟く。


 「そんなはずありませんね。
  サスケさんが死んだら、情報が飛び交ってるはずです。
  ・
  ・
  となると、遠出?
  それもないですね。
  だって、人間そんなに早く移動できません。
  ・
  ・
  いや……。
  もう、人間じゃないのかも?」


 ブツブツと独り言を呟きながら歩いていたヤオ子が、仮設住宅の家に着く。


 「明日、任務のついでに誰かに聞いてみようかな?」


 ヤオ子は扉を開ける。


 「ただいま。
  これ、おみやげです」


 何も知ることのないまま、ヤオ子は帰宅した。


 …


 翌日……。
 今日も、ヤオ子は任務を貰うため紹介場を訪れる。
 そして、目の前に転がるヤオ子の副担当の中忍は、今日も死に掛けていた。


 「待っていたぞ」


 中忍を無視して、コハルがヤオ子に声を掛ける。


 「二件続けての高評価……。
  嬉しく思うぞ」

 「えへへ……。
  ありがとう」


 ヤオ子の笑顔に頷くと、早速、コハルは新たな任務を読み上げる。


 「今日の任務だが……。
  午前中を農家で草刈りの手伝い。
  午後におつかい。
  その後に水道管工事の手伝い。
  ・
  ・
  以上だな」

 「何か共通性がありませんねぇ。
  しかも、水道管工事って……。
  専門知識がいるんじゃないの?」

 「そうであった。
  これを……」


 コハルから差し出された本を、ヤオ子は黙って受け取る。


 「半年で理解できる管工事施工管理技士資格……。
  ついでに取ろう給水装置工事主任技術者資格……。
  ・
  ・
  何これ?」

 「役に立つだろう」

 「いやいやいやいやいや……。
  半年掛かるって書いてありますよ?」

 「多分、必要になるだろう」

 「そうじゃなくて……。
  今回、読む時間ない……」

 「お昼食べながら覚えれば良かろう」

 「何? このスパルタ教育?」

 「では、よいな?」


 ヤオ子の額に青筋が浮かんだ。


 「いいわけあるか!
  あたしを何だと思っているんですか!?」

 「安心しろ。
  万が一を考えて副担当の中忍は、水遁の達人を選んである」

 「じゃあ、失敗してもいいと?」

 「なるべくなら、失敗しないでくれ」

 「まあ、頑張りますけど……」

 「中忍のチャクラが回復してないと、
  術が発動しない恐れもあるからな」

 「『失敗するな!』って遠回しに
  言ってんじゃないですか!」

 「では、頑張れよ」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 ヤオ子は項垂れた。
 ヤマトのように言いくるめられまいと気をつけていたはずなのに、強引に押し切られてしまった。


 (上には上が居るようです……)


 ヤオ子は溜息を吐き、諦めて任務に向かおうと思った時、ふと思い出す。


 「あの、サスケさんって……何処いるか知ってます?」

 「……サスケは、今、入院している」

 「入院!? 何で!?」

 「…………」


 コハルが深刻な顔で考え込むとポツリと呟く。


 「色々あってな……」

 「…………」


 コハルの言い方のせいで、ヤオ子はサスケのことが気になり出した。


 「あたし、病院に顔を出してから任務に行きます」

 「無駄だ。
  面会謝絶だ」

 「面会謝絶……?
  一体、何があったんですか?」

 「大丈夫だ……。
  今、自来也とナルトが医療忍者のスペシャリストを探しに行っている。
  あやつ等が無事連れ帰れば全て解決する」

 「そうですか……。
  分かりました」


 ヤオ子は指令の巻物を受け取ると死に掛けの中忍のところに向かい、脇腹を蹴っ飛ばす。


 「行きますよ」

 「うぐ……。
  わ、分かった……」


 ふらふらと立ち上がってヤオ子に着いて行く中忍を見て、コハルは呟く。


 「上司を足蹴に……。
  恐ろしい子だ……」


 前回、クナイを投げたコハルの中では部下ならOKらしい。


 …


 農家の手伝いの最中、やはり中忍は死んだように眠っていた。
 役に立たない中忍を放置して、任務中のヤオ子は二体の影分身に草刈りをさせ、一体の影分身に故障中のトラクターの修理をさせている。
 そして、自分自身は午後の任務のために必死に本を読み込み、頭に知識を叩き込んでいた。


 「木ノ葉間違ってます……」


 分厚い本を読み込みながら、ヤオ子は呟く。


 「これ……。
  Dランクとかそういうの関係ない……。
  職業が違います。
  管工事専門職と忍者は別です」


 更にページを捲りながら呟く。


 「このままじゃ、あたしは綾崎ハヤテのような
  超人になってしまいますよ……」


 そして、溜息を吐いて半分ほど読み進めたところでエンジンのけたたましい音がする。
 ヤオ子は音のした方に目を向ける。


 「直ったのかい!?」


 農家のおじさんが嬉しそうにトラクターを修理し終えた影分身に近づく姿が見えた。


 「はい、直りましたよ。
  年数を見ても減価償却するには早過ぎると思いました。
  分解出来る範囲で洗浄して油挿したら動きました」

 「おお! ありがとう!
  これで畑を耕せるよ」

 「ちゃんとメンテナンスしてあげてくださいね。
  この子は、まだまだ現役で頑張れますから」

 「分かった。
  説明書をもちゃんと読んでメンテナンスするよ」


 ヤオ子は遠巻きに農家のおじさんと自分の影分身を見つめて呟く。


 「もう……手遅れかもしれませんね。
  自分でも、段々と踏み外しているのが分かります」


 ヤオ子は苦笑いを浮かべると項垂れた。


 …


 午後の任務の一つ、おつかいは直ぐに終わる簡単なものだった。
 結局のところ、大量の荷物を持つ手が欲しかっただけなのだ。
 故に、ヤオ子の影分身を使って一回で運び終えて、任務は終了した。

 問題は、水道工事の手伝いである。
 現場に着くと、また中忍が死んだように動かない。
 そうなれば任務をこなすのは、自ずとヤオ子だけになる。


 (悪気はないんでしょうけど……。
  腹立ちます……。
  ムカつきます……)


 現場の監督は一人だけで、否応なしにヤオ子と目が会う。
 ヤオ子は頭に手を当てながら話し掛ける。


 「あはは……。
  木ノ葉の者です。
  お手伝いしに来ました」

 「人手が欲しかったんだがな……」

 「何人ぐらいですか?」

 「五人ほどだ」

 「では」


 ヤオ子がチャクラを練り込み、印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 ヤオ子が五人に増える。


 「これでいいですか?」

 「さすが忍者!
  正直、二人だけで来た時は、どうしようかと心配したよ」

 (尤もです……。
  中忍の方は使い物にならないし……)


 ヤオ子は監督に話し掛ける。


 「で。
  あたしは、何をお手伝いすればいいんですか?」

 「オレが配管の修理をするから、二人は道具を渡すのを手伝ってくれ。
  あとの三人は向こうに積んである新しい配管を持って来てくれ。
  そっとだぞ」

 「了解です。
  ・
  ・
  あの……。
  あたしは配管の交換をしないんですか?」

 「一人で事足りるが?
  今日は、オレのところまで運ぶまでのが手伝いだから」

 「…………」


 コハルに貰った本を、ヤオ子は地面に叩きつける。


 「あたしの努力は何だったんだーっ!
  あのババア!
  いつか転がしてやる!」

 「どうしたんだ?」


 ヤオ子が地面の本を拾い上げ、監督に突きつける。


 「あたし、これ覚えたんですよ!」


 監督が本を手に取り、パラパラと流し読みする。


 「懐かしいな。
  オレも勉強したよ」

 「全く意味なかった!」

 「はは……。
  どっちにしろ資格取らないと任せられん」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 監督は可笑しそうに笑う。


 「いつか役に立つかもしれん。
  今は、しっかり手伝ってくれ」

 「は~い……了解」


 ヤオ子は少し肩透かしを食らった気分で手伝いを始めた。
 影分身の二人が配管を運び、残り二人は監督の道具を渡したり、手が足りない箇所を代わりに押えたりと本当に人手があれば足りることだった。
 そして、思ったよりも早く任務は終了した。


 「ここにサインください」

 「ああ。
  助かったよ。
  ・
  ・
  よしっと」


 ヤオ子が巻物を巻き直す。


 「また、何かあったら頼むな」

 「任せてください。
  ・
  ・
  こら! 起きろ!」


 ヤオ子が中忍の頭を叩くが、中忍はピクリとも動かない。
 ヤオ子は目を座らせると、中忍の顔面を思いっきり踏みつけた。


 「ぐはっ!」

 「は~い……。
  起きてくださ~い……。
  ・
  ・
  阿部君みたいに言ってみました」


 中忍がピクピクと痙攣しながら立ち上がると、ヤオ子は巻物を手渡す。


 「少しぐらい役に立ってくださいよ。
  それを持って行ってください」

 「…………」


 中忍はダメージが抜けきれず、返事が出来ない。
 ヤオ子は中忍の股間を思いっきり蹴り上げた。


 「ぐはっ!」

 「は~い……。
  起きてくださ~い……。
  ・
  ・
  分かりましたか?」

 「は…はい……」

 「じゃあ、よろしく」


 ヤオ子は中忍を捨てて去って行った。
 監督が鼻血を流して内股になる中忍にハンカチを渡して呟いた。


 「木ノ葉の子供は逞しいな……」


 常識のないヤオ子が例外なだけである。


 …


 ヤオ子が空を見ると、久々にまだ日が高い。
 今日の任務は数があったが、どれも短時間で終わった。


 「どうしようかな?
  ・
  ・
  一応、あんなんでも知り合いだし、お見舞いに行こうかな?
  ……というより、弱った姿が見てみたい」


 ヤオ子は陰険な笑みを浮かべると、スキップをしながら木ノ葉病院へと向かった。


 …


 ヤオ子は木ノ葉病院に着くと、いつものように巡監中の看護婦の名簿を覗き見る。


 「前と同じ部屋か……」


 目的のサスケの病室へと向かい、病院の関係者と接触することなく辿り着く。
 部屋のドアには『面会謝絶』の札が下がる。
 ヤオ子は右を見て左を見る。


 「失礼しま~す」


 ヤオ子、不法侵入。
 中ではベッドの中で動かないサスケが居た。


 「本当にへばってる」


 ヤオ子はサスケに近づくと、サスケの耳元で声を掛ける。


 「サスケさ~ん。
  聞こえますか?
  キスしちゃいますよ?」


 寝ているサスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「っ!
  ・
  ・
  何これ!?
  条件反射ってヤツ!?」


 ヤオ子が頭を擦る。


 「何か心配するほどでもなさそうですね。
  動いたし……。
  ・
  ・
  え~と……。
  お見舞いに来た時って、何すんだっけ?
  ・
  ・
  そうそう!
  ギプスに寄せ書きを……。
  ・
  ・
  ギプス……してないですね。
  仕方ない」


 ヤオ子は腰の道具入れから水性のマジックを取り出すとサスケの足元に回り、サスケの右足の裏に文字を書き始める。


 「ヤ…オ…コ…ラ…ブ……っと。
  えへへ……。
  あたしの愛で早期回復間違いなしですね。
  ・
  ・
  じゃあ、サスケさん。
  また来ますね」


 サスケの元気(?)な様子を確かめると、ヤオ子は病室を後にした。



 …


 ※※※※※ 忍のDランクについて ※※※※※

 木ノ葉のDランク任務は、変なものが多いです。
 原作を読んだところ、ナルト達は『迷い猫の捜索』や『川のゴミ掃除』なんかをしていました。
 アニメではカカシの覆面を取ろうとした時に『農家のお手伝い』なんかもしていたような気がします。
 CランクとDランクにかなりの開きがあるようです。
 そして、『子守り』の仕事なんかも任務にエンカウントされます。

 ここで思う疑問……。

 カブトの忍識札で、一年先のリーがDランク26回しかしていません。
 365日ある中の26日しか働いていない(多分、Dランクだから一日で終わると仮定)。
 そして、Cランク11回……。
 これだけ仕事しないで修行すれば、一年でも強くなるかもしれない……。
 木ノ葉は、忍者に生活保護でも出しているのか……?
 そんな中から、生まれたのが今回のSSになります。

 ===== 2009/12/6 ここまで記載 =====


 ~~~~~ 以下、感想からの追加考察 2009/12/10 ~~~~~


 ※※※※※ 影分身で新たに思ったことについて ※※※※※

 影分身は、恐らくオートで経験値蓄積が付く術と考えています。
 故にヤオ子が雑用をこなせばこなすほど、余計な能力が付加される呪いとも思っています。
 そして、経験値蓄積で一番効果が高いのは、ガイとかリーのような体術使いに威力を発揮するのでは、と思います。
 理由としては、スタミナを大きく使う大技でなければ均等に分散したチャクラが減りにくいため、持続時間が長そうなことです。
 恐らく長時間の間、修行出来るのではないでしょうか?
 そして、戦う時も威力を発揮しそうな気がします。
 分身した時に攻撃が当たらないようにするには、スピードと体術の技術が求められると思います。
 影分身の生存確率と持続時間を考えると、影分身が増えて一番効率がいいのは体術の達人ではないでしょうか?
 ナルトの影分身が全部ガイなら、凄い威力じゃないかなと思いました。
 ちなみにネジも候補に上げましたが、柔拳はチャクラを放出するのが基本のため、影分身がチャクラ切れを早期に起こしそうなので次点と考えました。


 …


 ※※※※※ 下忍の任務について(働く期間編) ※※※※※

 感想欄と重複部分がありますがご容赦ください。

 例によって、リーの一年目の経歴を用います。
 Dランク26回 Cランク11回

 ・Dランクについて
  原作通りのイメージです。
  場合によっては、一時間掛からないんじゃないかというイメージです。
  一日一個だと、全然働かないと思いました。

 ・Cランクについて
  サスケ達が波の国まで護衛するのが、本来、Cランク。
  その後、忍者が暗殺者とわかり、Bランク以上と判明。
  そして、最終的には、木ノ葉崩しの時にカカシがサクラに言った時は、Aランク。
  確かにCランクの護衛のみで考えた場合は、往復だけで1週間程度かそれ以上掛かったと思われます(1,2日で終わる可能性もありますが)。
  Cランク一回を一週間と設定して計算しますとCランク11回ですので、11週……。
  それにDランクの26日を足して……3~4ヶ月?
  土日の休暇なしで、下忍の一年の修行期間は……。

  仕事期間:3~4ヶ月 自由な修行期間:8~9ヶ月

  妥当なのかどうか?


 …


 ※※※※※ 下忍の任務について(給料編) ※※※※※

 感想欄を確認してから、色々と考えてみました。
 ネットを調べますと、ナルトの中忍試験時の任務回数は、Dランク7回、Cランク1回の計8回でした。
 そして、これだけの仕事量で自来也と綱手を捜索する時には、財布がパンパンでした。
 この事から、ナルトは給料を貰って働いていると思っていましたが、ご指摘にあった通り、ナルトの年齢は十代前半です。
 しかし、忍という特殊な職業を考えればありかもしれません。
 カカシ……6歳で中忍昇格。
 戦時中かもしれないので何とも言えませんが、幼いながらも自活できるのかもしれません。
 そして、上忍とか中忍と分けている以上、年齢給というより実力給っぽいです。

 話を下忍のお給料に戻します。
 Dランクに変な任務が多いのは、漫画で確認済み。
 下忍と中忍の間には、かなりの開きがあるように感じます。
 そして、下忍は利益を考えると足を引っ張る存在な気がします。

 もしかして……というか……やっぱり、下忍は固定給のある月給制なのでは?

 下忍のうちは、アカデミーを卒業したとはいえ、実力をつけなくてはいけません。
 任務ばっかりしていたら、実力がつきません。
 だから、里としては、利益が出なくても固定給を支払うと考え直してみました。
 そこで予想……。
 あくまで想像……。

 アカデミー:
 このSSの根本を壊してしまいますが……。
 もしかしたら、授業料を払うとかはないのかもしれません。
 木ノ葉の運営で授業料免除、もしくは、下忍前の忍者……試用期間としての賃金が支払われるのかもしれません。
 このSSでは、家庭から学費を支払われることになっています。

 下忍:
 固定給 + 任務手当て で支払われる。
 Dランクの仕事は、正直、あまり利益になるとは思えません。
 あくまで下忍に仕事を認識させるための仕事慣らしの意味合いが高いのでしょう。
 そして、アカデミー以外での忍者として必要な部分を修行する期間と考えます。

 中忍:
 中忍手当て + 任務手当て の実力給。
 恐らくこの段階から、下忍で先行投資した固定給の回収が始まると思われます。
 里に支払われる任務の報酬を『里:個人=?:?』で分配すると思われます。

 上忍:
 上忍手当て + 任務手当て の実力給。
 受ける仕事のランクも難易度も高いため、報酬も大きいと思われます。
 里に支払われる任務の報酬を『里:個人=?:?』で分配すると思われますが、里は大分差っ引いているのではと思われます。

 大名達からの援助:
 忍者の数は、恐らく下忍が一番多いと思われます。
 私の考えでは、かなりの出費が出てしまい、全てを上忍・中忍の給料で補うのは難しいと思われます。
 木ノ葉の里の商店から税金を吸い上げても、やはり難しい。
 そこで初めて国単位の考えが出ます。
 火の国を治める大名達からの援助です。
 大国である以上、国の軍事力は重要です。
 国を守る木ノ葉隠れの里を潰すわけにはいきません。
 里を維持するのに必要な援助や発展のための資金が大名達から送金されると思います。
 また、大名達が木ノ葉に援助するのは、軍事力の維持だけではありません。
 波の国のタズナの依頼を受けたように、他国との良い関係を築く仲介役にもなるからです。
 火の国は、木ノ葉を通して外交の一部をしていると考えられます。

 以上、あくまで予想という名の妄想です。


 …


 ※※※※※ ナルトとサスケの幼年期について ※※※※※

 現代では家族で暮らすのが当たり前が大半ですが、NARUTOの世界では、どうでしょうか?
 白や長門達の幼年期を読むと、孤児として生きていました(例外的な要因も多いですが)。
 NARUTOの世界では、現実は厳しいようです。
 そのため、子供でいられる期間も少ないのかもしれません。
 何度も例に出して申し訳ありませんが、『カカシの6歳中忍昇格』。
 そして、『イタチの13歳での暗部分隊長就任』。
 結構、幼い時から一人立ちや自立といったものを迎えているのかもしれません。

 では、ナルトやサスケの時代は?
 忍界大戦が終わり、安定し出した時期かと思います。
 サクラとサスケの最初の方の会話で、『親に怒られて……』なんてことをサクラが言っていますので、割りと家族と居るのが当たり前の時期と思われます。

 さて、安定し出した時期の中で幼年期のナルトとサスケは?
 二人とも家族が居なくなって、一人です。
 また、漫画の描写のところから、ナルトはアカデミーの前ぐらいには一人暮らしをしていた可能性があります。
 最近になって親が四代目と判明しましたが、特に親戚とか孤児院に預けられた描写はありません。

 そうなると……やっぱり、一人で逞しく生き抜いた?
 仮に三代目火影が面倒を見ていたら、もう少し描写が違うと思えます。
 イルカ先生もアカデミーからの付き合いな気がします。

 ナルトの一人暮らしの生活費用に関しては、問題ないと思っています。
 四代目火影の遺産が残っていると思われるので、三代目火影あたりが貯蓄を切り崩していたと想像できます。
 問題は、生活部分です。
 炊事洗濯家事掃除全般……。
 逞し過ぎる幼年期……。
 でも、また頭を過ぎる『カカシの6歳中忍昇格』。

 サスケにしても、どうなのでしょうか?
 家族が居なくなってから、一人で生き抜いたのか?
 炊事洗濯家事掃除全般……。
 逞し過ぎる幼年期……。
 でも、また頭を過ぎる『カカシの6歳中忍昇格』。

 分かりません。
 しかし、何か……独力で生き抜いた感があります。
 故に彼等は、分かりあっていたからライバルになったのでしょう……本当?
 そして、木ノ葉が二人をほっぽったままと考えるとかなりのドS主義ですが、漫画の描写を考えるとそういうところがないとも……。
 その分、イルカ先生やカカシ達は、家族で居ることの大切さを大事にしている(してくれている)ような気がします。
 そろそろコミックだけでは、分からないところが増えてきました。
 ファンブックも読まなきゃ無理かもしれないです。


 …


 ~ 『おまけ的なネタ』 番外編 ある日のヤオ子とヤマトの休憩中の会話 ~
 2009/12/6 初投稿
 2009/12/10 改定


 「ヤマト先生」

 「何だい?」

 「ガイ先生のところのリーさんって……。
  ・
  ・
  ニートなんですか?」

 「…………」

 「だってね。
  365日の中で26日しかDランクをしてないんですよ?」

 (ボクも……。
  そんなものだったような気がする……)

 「それで、お給料入るんでしょ?
  Dランクって、そんなに給料いいの?」

 (犬の散歩なんかが高いはずがない……)

 「変でしょ?」

 (激しく変だ……)

 「で、でも!
  ・
  ・
  忍者は実力をつけることも本分……のはずだよ」

 「苦しい言い訳ですね?」

 「…………」

 (言い返せない……)

 「まあ、あたしもヤマト先生を困らせるつもりで
  こんな話をしたわけじゃありません。
  理由を考えたので聞いて欲しかったんです」

 「そうなんだ」

 (ごめん……。
  君を諭さないといけないはずなんだけど……凄く気になる)


 ヤオ子がゆっくりと指を立てる。


 「きっと……ですね。
  火影さんが裏で大名から闇金を貰っているんです」


 ヤマトが吹いた。


 「そして、ドロドロとした口にも出せない闇の仕事……。
  『暗殺』『誘拐』『恐喝』なんかをしているんです!
  いわゆる必殺仕事人!
  木ノ葉の裏の黒い影!」

 「そんなことしてないよ!」

 「そうなの?」

 「当然だよ!」


 ヤマトは、頭が痛かった。


 「じゃあ、下忍の出費は出世払いですかね?」

 「……何それ?」


 質問するのも何処か疲れる。


 「Bランク以上の支払われる報酬が大幅に差っ引かれて、
  下忍の給料に反映させられるんです」

 「え?」

 「つまり、本来ならば、もっと貰えるはずの『Bランク』『Aランク』『Sランク』の報酬を
  里が黙って大幅に差っ引くんです」

 「…………」

 「それがニート同然の下忍達の給料に還元されるのです」

 (そうかもしれない……)

 「それでね……言い難いんですけど。
  ヤマト先生には、悲しい事実を伝えなければなりません」

 「何を?」

 「ヤマト先生達は……働けば働くほど損をするんです。
  だって……。
  難しい任務ほど、差っ引かれるから!」


 ヤマトは項垂れた。


 「だから!
  中忍、上忍と役職を貰えますが、
  里にとっては、金を生み出す道具なのです!」

 「ヤオ子……。
  もう、やめて……。
  働く意欲がなくなっていく……」

 「そしてね。
  もっと、怖いのが……。
  中忍試験を共同でやっている以上、
  全ての隠れ里で、皆、当然のように行なわれている事実です!」

 「やめてくれーっ!
  火影様達は、そんな黒くない!」

 「まあ、真相を知っている火影様も秘密を抱いたまま永眠されてしまったので、
  真実は闇の中ですけどね……」

 「…………」

 「どうして、君はそんなやる気を削ぐようなことを言うんだ……」

 「気付いたけど、話せる相手が居ないから」

 「それでボクが生贄にされたのか……」


 ヤオ子は笑いながら頷いた。
 そして、ポンと手を打つ。


 「そうだ!
  今度は、ヤマト先生がこの話をカカシさん達に話して、悦に浸っては?」

 「そんなことを話したら、里で内部分裂が起きそうだよ……。
  しかも、噂を流した主犯はボクじゃないか……」

 「ダメそうですね?
  ・
  ・
  では、この話は、あたしの胸に黒歴史として封印しましょう」

 「そうしてくれ……」


 ヤマトは溜息を吐いて補足する。


 「少しだけ忠告するよ」

 「はい」

 「まず、下忍の本分を忘れちゃいけない」

 「本分?」

 「そう。
  下忍は、まだまだ未熟だ。
  しっかり修行して危険な任務を
  危険じゃないようにする努力をしなければいけないよ」

 「分かりました。
  がんばって中忍にならないように、
  下忍でがんばっていきます」

 「……違うよね?」

 「…………」

 「上忍の影に隠れて
  危なくないようにがんばります」

 「……だから、違うよね?」

 「…………」

 「絶対に中忍になりません!」

 「違うよ!」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「ヤマト先生……。
  何をわけの分からないことを言っているんですか?」

 「ボクが、おかしいの!?」

 「だって、危険じゃないようにするんでしょ?」

 「そうじゃない……」


 ヤオ子が首を傾げた。


 「いいかい?
  下忍はニートじゃない。
  仕事が少ないのは、
  きっと、実力をつけるだけの時間を与えられているからだよ」

 「そうなの?」

 「そう。
  だから、ヤオ子が言ったような暗黒面ばっかりじゃない」

 「ヤマト先生も
  暗黒面を少しは感じているんですね」

 「…………」

 「下忍は実力をつけて、一人前の忍者になるための期間だ」

 (無視して締めた……)


 ヤオ子は、また口を開こうとする。


 「でもさ──」

 「ヤオ子。
  言い訳だけじゃだめだよ」

 「そうじゃなくて……。
  結局、里の力が回復するまで雑務だから、
  あたしの実力向上なんて無理じゃないですか?」

 (そうだった……)

 「しかも、あたしは中忍になりたくないし」

 (そういう子だった……)


 ヤマトは少し悲しくなった。


 「まあ、元気出してくださいよ。
  暫くは、体術と体力アップが目標ですから」

 「新しい忍術とか覚えなくていいのかい?」

 「ええ。
  忍術を使うにも、チャクラを増やさないと練習出来ませんから」

 「目標があるだけいいか……」

 「でも♪
  エロ忍術だけは開発しますよ♪」


 ヤマトがこけた。


 「ボクには無理だよ……。
  ヤオ子を立派な忍者になんか出来ないよ……」

 「では、立派なエロ忍者に……」

 「そんなの嫌だよ!
  教え子がエロ忍者なんて!」


 ヤオ子の話は、真面目なヤマトには精神的ダメージが大きかったらしい。
 数日の間、このことが頭から離れなかった。



[13840] 第39話 ヤオ子の初Cランク任務①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:45
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤマトの自宅……。
 ヤマトが暗部の面を外してヤオ子の担当上忍に戻る。


 「五日ぶりか……。
  ヤオ子は、ちゃんと任務をこなせているかな?
  ・
  ・
  試験の時の暴走を考えると不安な光景しか思い浮かばないんだよな。
  ただ、初任務の時の特異能力を考えると……」


 ヤオ子という女の子と会って数日が過ぎた。
 うち二日は行動を共にして、五日は自分の任務を優先するしかなく、担当上忍という立場でありながら接点が薄い。
 今のとこと分かっているヤオ子の個性(生体?)は謎に近い。
 初めて会った日は、自分を含め、四人の上忍を項垂らせるという地獄を見せつけたかと思えば、初任務では大人顔負けの経理能力を発揮したりと掴みどころがない。
 ただ悪い子ではない……はずとヤマトは考える。


 「とりあえず、今日はヤオ子と任務が出来る。
  紹介場で状況を聞くか……」


 ヤマトは装備を暗部のものから上忍のものに着替えると、任務後早々に紹介場へ向かった。



  第39話 ヤオ子の初Cランク任務①



 紹介場近くの休憩室……。
 ヤマトは久々にヤオ子と顔を合わせる。


 「こんにちは、ヤマト先生」

 「ああ。
  久しぶりだね」


 ヤオ子の挨拶に、ヤマトはどこかホッとする。
 長い期間、面倒を看てあげられなく、憎まれ口の一つでも返してくるかと思ったが、至って普通の反応が返ってきた。
 子供ながら懐の広いところを見せられた気がした。
 ヤマトは会話を続ける。


 「元気にしてたかい?」

 「ええ。
  あたし、生まれてから今まで、
  病院に通ったことがないのが自慢なんですよ」

 「それは凄いね」

 「はい。
  どんなヤバそうな病気も、最高でも二日でヒーリングします」

 (また人間離れしたエピソードが……)

 「まあ、一番の原因は貧乏なんですけどね。
  病院に行かずに気合いで治すのが、うちの病気の治し方です」


 ヤオ子は笑っているが、ヤマトは笑えなかった。


 「と、ところで。
  任務は、どうだい?」

 「失敗なしですよ。
  ・
  ・
  これ、今までの結果です」


 ヤオ子は腰の後ろの道具入れから、巻物をヤマトに手渡した。


 「これって担当が持つものだよね?
  何で、君が管理してるの?」


 ヤオ子は右手の掌を返すと説明を始める。


 「あたしの副担当さんなんですけど、同じ人が居ないんですよ。
  とっかえひっかえで……。
  だから、本来、担当の方が持つ管理表をあたしが持つことになったんです」

 「大変だったね。
  ちょっと、見ていいかな?」

 「どうぞ」


 ヤマトは巻物を開いて絶句した。


 「何だ……これ?」


 巻物は、いきなり継ぎ足しから始まる。
 一回の見開きで見終わるはずのものが、手の中に残る残りの巻物へと続いている。
 そして、副担当の中忍の名前を確認するとびっしりと書かれている。
 これが継ぎ足しの原因になっていた。


 「同じ人が居ないって言っても……。
  何で、こんなに人数が……。
  ・
  ・
  ボクが担当したのが一件。
  次の日がケーキ屋で一件。
  その次の日が……三件!?
  ・
  ・
  その次の日が七件!?
  増えた!?
  しかも、担当の中忍が任務ごとに全部違う……。
  四日目以降、一件ごとに担当が違う……。
  その次の日も……。
  ・
  ・
  担当した仕事は……。
  家庭教師、土木業、RTL検証、危険物除去、書籍編集、経理、惣菜料理作成 etc...。
  営業なんて子供に出来るのか?」

 「それ、大人に変化しました」

 「…………」


 ヤマトが渋い顔をする。
 本来、下忍が担当する一日の任務を大幅に超えている。


 「評価は……。
  全部最高ランクか……。
  これだけこなしているのに、失敗がないなんて凄いな」

 「えへへ……。
  頑張りました」

 (頑張り過ぎだよ……。
  この子に出来ないことってあるのかな?)


 担当上忍として働き過ぎの部下に、ヤマトは頭痛がする思いだった。
 自分がしっかりとヤオ子を看てあげられれば……と。


 「色々と任務をしているけど、
  忍者らしい仕事はないんだね」

 「ノーサンキューです。
  命が幾つあっても足りませんから」

 (いや、この仕事量も、本来、過労死するって……。
  そんなことより……。
  ・
  ・
  この子自体の忍としての能力は、どれ位なんだろう?
  試験の結果が全部詳細不明で分からないんだよな)


 ヤマトは巻物を巻き直すと、ヤオ子に巻物を返す。


 「大体、把握出来たから行こうか?」

 「はい」


 ヤマトとヤオ子は、紹介場へと向かった。


 …


 扉を開けて中に入る。
 火影不在のため、本日もコハルが担当している。


 「待っていたぞ。
  本日の任務だが──」

 「すいません」


 ヤマトが手を上げる。


 「何だ?」

 「この子に忍らしい任務をいただけませんか?」

 「どういうことだ?」

 「今まで担当した任務で個人の能力の高さは分かりました。
  しかし、肝心の忍としての能力が全然わかりません」


 ヤマトの話を聞いて、コハルが試験結果を調べ直す。
 特別召集された他の下忍の子供の試験結果は記載されているが、ヤオ子の試験結果は上忍の進言だけで空欄のままだった。


 「そうであったな。
  全部、詳細不明だった。
  ・
  ・
  しかし、今や、ヤオ子は里に欠かせない人物だ。
  見よ。
  経理に関しては、月末月初に指名が入っておる」

 (指名って……)

 「何か、あたしはホステス嬢みたいですね」

 (その例えも、どうなんだ?)


 しかし、それでもと、ヤマトは粘り強くコハルを説得する。


 「このままでは本末転倒です。
  忍の任務を請け負う時に編成することも出来ません」

 「確かにそうだが、今回の召集は雑用メインのものだ。
  他の子が出来ない任務も、ヤオ子は全てやり通している」

 「それは忍として関係のないところですよね?
  肝心の忍の能力は、試験でも分からず放置状態です」

 「お前の言うことも、尤もだ」


 ヤマトとコハルの会話を聞いて、ヤオ子が不満顔で意見を言う。


 「あたしは、今まで通りでいいですよ。
  忍らしい任務なんて危ないじゃないですか。
  しかも、そうなるとCランクでしょ?
  Cランクを八回以上こなしちゃうと中忍試験を受けれるんですよ?
  あたし、下忍で居たいからDランクだけでいいです」

 「…………」


 コハルとヤマトが額を押さえる。


 「お主の言う通りかもしれない。
  この子には、少し忍の自覚を持たせることも重要だ」


 ヤマトが腕を組んで、ヤオ子に目を向ける。


 「君は、どうも変な思考をしているね?」

 「そうですか?」

 「それと中忍試験の受験資格は、
  ランクに関係なく八回以上だったはずだよ」

 「……嘘?
  じゃあ、あたし、受験資格取らされてんじゃないですか!」

 「決して怒るところじゃないからね?」


 コハルは溜息を吐くと、今のうちに手を打っておいた方がいいと判断し、Cランクの任務を確認する。
 そして、何件か目を通し、Cランクでも難易度の低いものを見繕った。


 「これにするか……。
  この任務なら、ヤオ子はヤマトの仕事ぶりを見るだけだろうからな」

 「え~!
  Cランクやるの~!?」

 「命令だ」

 「はぁ……」


 溜息を吐くヤオ子を横目で見ながら、ヤマトはコハルに訊ねる。


 「コハル様、内容は?」

 「ふむ。
  薬売りの捕獲だ」

 「薬売りを?」


 コハルは頷く。


 「ここから歩いて一日ほどの村で、病が流行っている。
  しかし、この症状は毒薬によるもののようでな。
  医療部隊の見解から、一年ほど前から通い始めた薬売りが怪しいということだ」

 「それで、その薬売りを捕獲ですか?」

 「うむ。
  他にも村の病人……全て子供だな。
  子供の看病も頼む」

 「分かりました」

 「情報では、明後日中に薬売りが現れる予定だ。
  明日までに件の村まで出向いて、情報収集と捕獲の準備をしてくれ。
  ・
  ・
  詳しいことは、これからヤマトに話す。
  機密情報度の高いものもあるから、ヤオ子は退室して待っているように」

 「分かりました」


 ヤオ子は部屋を出ると、再び休憩室に向かった。
 そして、残されたヤマトにコハルが話し出す。


 「悪いな。
  本当は機密情報度の高いものはない」

 「?」

 「正直な話、あの子が居ると脱線するからな」

 (……そんな理由?
  普段、どんな会話をしているんだ?)


 眉間に皺を寄せているヤマトを見て、コハルは咳払いを入れる。


 「今回の任務は、難易度的には高くない。
  しかし、重要度は高いものだ」

 「もしかして、その薬売りは国中を回っているのですか?」

 「その通りだ。
  個人的なのか組織的なのかも調べ上げなくてはならない。
  そのため、先行したお主達以外にも尋問部隊と医療部隊を待機させる。
  ・
  ・  
  これが待機場所の地図だ」


 ヤマトは待機場所の地図を確認する。


 (この位置取りだと、捕獲した薬売りを尋問部隊に渡し、
  その後、医療部隊で治療するのか……)


 地図を読み取り、意図を確認するとヤマトは頷く。


 「お前達には、事前調査も頼みたい。
  今のところ、毒を飲ませた方法が分からない。
  そして、毒自体は遅効性、解毒薬は即効性で、
  薬売りは解毒薬で治療したあと、村の何処かに毒を盛るはずなのだ」

 「村の人を長く治療させるために?」


 コハルが頷く。


 「この解毒薬自体は高価なものではないため、
  被害届けが出るのが遅延したのも大きな問題だな」

 「被害届けが遅れた?」

 「提出された依頼は、約一年前に地元の大名に提出されたものなのだが、
  軽くあしらわれて、今まで先延ばしにされたようだ」

 「……酷いですね。
  ・
  ・
  しかし、何で、古い依頼が突然?」

 「この薬売りは膨大な価格をふっかけることなく、
  広く浅く手を回していたため、被害が中々わからなかった。
  しかし、さっき、お主が指摘した通り、
  国中に被害が広がって被害届けがようやく重要視されたのだ」

 「そういうことですか……。
  二次災害が広がったから……。
  ・
  ・
  薬売りは長い期間で確実に利益を得る方法を選んでいた……ということですね?」

 「そういうことだ」

 「ボクがCランクの任務を要求してなんですが……。
  この任務、ヤオ子には重過ぎませんか?」

 「薬売りは、子供の忍の方が油断するだろう。
  それに病人が子供なら、看病するのも子供の方がいいだろう」


 ヤマトは顎に手を当て考えると、頷く。


 「そうかもしれませんね」

 「お前達にはサンプルの毒薬・解毒薬と村で処方する解毒薬十人分を渡しておく。
  そして、毒薬と解毒薬になる薬草を記した本も渡しておく」

 「了解しました。
  解毒薬は足りますか?」

 「依頼の書類には、病人五人と書いてある」

 「分かりました。
  それでは、今から任務に当たります」


 コハルの用意してくれた荷物を持つと、ヤマトは部屋を出てヤオ子の待つ休憩室に向かった。


 …


 休憩室に着くと、ヤマトは頭を掻く。
 ヤオ子は、だらしなく口を開けて寝ていた。


 「…………」


 ヤマトはトントンとヤオ子の肩を叩く。


 「あ……おはようございます。
  終わりました?」

 「ああ」

 「長かったですね。
  あたし、暇で寝ちゃいましたよ」


 ヤマトは、何度目かの溜息を吐く。


 「今から、任務で遠出するから用意してくれるかな?」

 「いいですよ」

 「しっかり、額当ても持って来るんだよ。
  ボクは、君が額当てを所持しているのを見たことないからね」

 「あれって、いつも持ってるものなの?」


 ヤマトは、額に手を当てる。


 (やっぱり、この子ずれてる……。
  アカデミーを出た子は、皆、嬉しそうに着けているのに……)

 「いいかい?
  前にも言ったけど、額当ては木ノ葉の忍の証なんだ。
  だから、しっかりと身に着けておくように」

 「分かりました。
  ・
  ・
  う~ん……。
  折角、額に入れて飾ってたんですけどねぇ」

 (変な子だな……)

 「それと今回の任務に関わる毒薬と解毒薬だ」


 休憩室のテーブルの上に、ヤマトはサンプルを置く。


 「これを薬売りが所持しているんですか?」

 「そうだ」

 「ねぇ、ヤマト先生」

 「ん?」

 「何で、薬のことまで知っとく必要があるんですか?
  任務は薬売りを捕まえるだけなんですよね?」

 「その薬売りが村の人達に毒を盛っているみたいなんだ。
  だから、村に行ったらその毒を探すのも任務だ」

 「なるほど」

 「あと、君には村の子供達の看病もして貰うからね」

 「分かりました」

 「じゃあ、この薬を観察しておこう」

 「はい」


 ヤマトは毒薬と解毒薬の薬包紙を開く。


 「ヤマト先生……」

 「何だい?」

 「何か舐めてみたくなりません?」

 「ダメ!
  絶対にそんな危険なことをするな!」


 ヤオ子はコハルに渡された薬草辞典を見て、毒の効果を確認する。


 「あ。
  ちょっとなら、大丈夫です。
  問題が出るのは、その薬包紙分の量を飲んだ時です。
  いざって時も、あるかもしれません。
  味を覚えとくのもいいと思います」

 「決して興味本位からの言葉じゃないだろうね?」


 ヤオ子はパタパタと手を振る。


 「信用ないな~。
  あたしは、任務遂行の確立を上げるために言ってんですよ」

 「本当かな?」

 「じゃあ、いただきま~す」


 薬包紙の毒薬を摘まむと、ヤオ子は口に含んだ。
 一方のヤマトは、薬草辞典を確認してヤオ子の言っている事が正しいと確認してから、指にちょっと付けて一舐めする。


 「……少し苦いぐらいで痺れたりとかはないね」

 「僅かに生姜みたいな匂いがしますね」

 「そうかい?」

 「はい。
  あと……。
  あたし、この毒草食べたことありますね」

 「……は?」

 「いや、薬草辞典を見た時にどっかで見たな……と思ったんです」

 「何で、食べたの?」


 ヤオ子は指を立てる。


 「うち、貧乏でしょ?
  だから、お腹空いて雑草のごった煮を食べる時があるんですよ」

 「…………」

 「家族は食べませんよ?
  あたしが勝手に採って食べるだけです」

 (危ないな……)

 「よく平気だったね……」

 「ほら、こっちの解毒薬の方。
  これも合わせて混ぜてたんです。
  きっと、プラスマイナス0で平気だったんですよ。
  あたしの記憶違いじゃなければ、
  解毒薬の方は椎茸みたいな味がすると思いますよ」


 ヤマトは解毒薬を指に少し付けて舐める。


 「どうですか?」

 「本当だ……」

 「でしょ?
  解毒薬の方は無臭なんで毒薬の方の草と混ぜると、
  匂いと苦味が隠し味になるんですよ」


 ヤマトは額を押さえながら話す。


 「ヤオ子……。
  説明はありがたいけど、
  二度と雑草のごった煮なんか適当に調理しちゃいけないよ」

 「そうですね。
  まさか、毒薬を捕食しているとは思いませんでした。
  毒薬の方が苦味があって良かったです。
  味と匂いが逆だったら、危なかったです。
  比率的に『毒薬2:解毒薬8』ですから。
  まあ、雑草のごった煮も、去年を最後にしてませんから、
  体の中に依存することはないでしょう」

 「拾い食いなんてしてる子、初めて見たよ」

 「そうですね~。
  『お前、変なものでも拾って食ったんじゃないの?』って冗談を
  リアルに打ち砕けるのも稀ですもんね」

 「冗談じゃすまないところだったよ。
  ヤオ子と話すと、いつも驚かされるな」

 「貧乏がいけないんですよ」

 「まあ、そういうことにしておくよ」


 ヤマトが溜息を吐く。
 もう、溜息を吐くのも当たり前になって来た。


 「それじゃあ、三十分後に門で待ち合わせだ」

 「あの『あん』って書いてあるヤツですよね?」

 「そうだ」

 「じゃあ、三十分後に」


 ヤオ子とヤマトは、それぞれ遠出の準備をするために帰宅した。



[13840] 第40話 ヤオ子の初Cランク任務②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:46
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 初のCランク任務は里を離れるため、それぞれの用意を考慮して三十分の間が空く。
 そして、時間通りの待ち合わせ時簡に、ヤオ子とヤマトは門の前で落ち合う。


 「忘れ物はないかい?」

 「はい。
  着替えにお泊りセットを用意しました。
  額当ては、左腕に巻き付けてあります」

 「額にしないのかい?」

 「しません。
  尊敬するシカマルさんと同じ位置にしときます」

 「尊敬する忍が居たのか。
  どんなところを尊敬しているの?」

 「全力で最低限のことしかしないところです」

 (……この子、やっぱり忍者に向いてないんじゃないのかな)


 ヤマトは出発前から気が抜けた。



  第40話 ヤオ子の初Cランク任務②



 ヤマトは木の葉の忍が常時利用するリュックサックを背負い、ヤオ子は忍にしてはやや明るい色のリュックサックを背負って、目的の村まで歩いていく。
 木ノ葉隠れの里からは木々が道を挟んで遠くまで延びており、暫くは分岐することなく真っ直ぐな道が続く。
 目的の村の正確な場所が分からないヤオ子が、ヤマトに訊ねる。


 「どのぐらいで着くんですか?」

 「明日の朝には到着するよ」

 「そうですか。
  夜は、森で過ごしそうです。
  野宿も久しぶりですね」


 この前と変わらない雰囲気を漂わすヤオ子。
 どこか他の子と比べると、のどかな感じがして忍者らしくない。
 ヤマトは、前々から気になっていたことを質問する。


 「ヤオ子。
  君の忍術の腕前は、どれぐらいなんだい?」

 「どうしたんですか? 突然?」

 「君の実力っていうのが、この前の試験では分からなくて」


 ヤオ子は歩きながら右手の掌を返す。


 「大したことありませんよ。
  前にも言ったと思いますが、修行して数ヶ月です」

 「やっぱり、センスがいいのかな?
  自来也様の推薦なんだよね?」

 「どうなんですかね?
  よく分かりません。
  サスケさんの教え方がいいのかもしれないし」

 (それも考えられるな)


 ヤマトは質問を続ける。


 「普段、どんなことをしてるの?」

 「任務がない時は朝練に手裏剣術して、午前中にチャクラ吸着の木登り。
  両手と両足で。
  午後に使える忍術のおさらいをして、最後に体術の訓練をして終了です」

 「中々、ハードだね……。
  忍に必要な知識の方は?」

 「寝る前に眠くなるまで本を読みます」

 (……凄いな。
  ほぼ一日の全てを修行に充てているのか。
  きっと、このスパルタ的な修行のせいで飲み込みが早いんだ。
  ・
  ・
  しかし、この修行を文句を言わさずにさせるとは……。
  サスケは、どんな魔法を使ったんだ?)


 答え:恐怖で縛り付けた。


 「任務のある時は、どうしてるの?」

 「朝練に手裏剣術と体術の修行をします。
  それ以外は、任務中にですね。
  なるべく多くの影分身を出してチャクラを使うように心掛けたり、
  休み時間に筋トレ、もしくは木登りをしてます」

 (この子……。
  普通のアカデミーの子より、勤勉なんじゃ……)

 「しかし、いくら夜に本を読むからって
  アカデミーで習う知識は不足しているんじゃないか?」


 ヤオ子は眉を歪めて腕を組む。


 「う~ん……。
  どうなのかなぁ……。
  でも、アカデミーの教科書は理解したし、紹介されてる忍術は全部使えますよ?」

 (そうだった。
  本来、卒業試験は分身の術だったりするんだ。
  ・
  ・
  この子、もう全部使えるのか。
  しかし、何で、こんなに早く覚えられるんだ?)


 答え:恐怖で縛り付けた。


 「アカデミーの教科書以外の忍術は、何が使えるんだい?」

 「影分身の術と豪火球の術と必殺技。
  影分身は披露済みですね」

 「豪火球も!?
  何で、使えるの!?」


 驚くヤマトに、不思議そうに首を傾げてヤオ子は答える。


 「あたしのチャクラ性質が火だから使えます」

 「違う!
  そうじゃない!
  豪火球は、中忍の技でしょ!?」

 「……中忍?
  嘘でしょ?」

 「本当だよ」

 「…………」


 ヤオ子は眉をハの字にして項垂れた。


 「知らないで覚えたの?」


 ヤオ子は頷きながら答える。


 「だって、サスケさんが誰でも出来る……みたいなことをメモに残してたんだもん」

 「どんなメモ書きが残されていたんだ……」


 ヤマトにとっては、またヤオ子に対する新たな謎が追加されただけだった。
 そして、真相をしったヤオ子は拳を握っていた。


 (あのドSヤロー……。
  なんて無茶をさせやがるんだ。
  おかしいと思ったんですよ。
  変化の術は、簡単に出来たのに
  中々、球にならないし、威力も上がらなかったから)


 ヤオ子は拳を更に強く握りながら、震えながら歩く。
 その横でヤマトは話を続ける。


 「あと、もう一つ……。
  聞き慣れない必殺技って……何?」

 「ああ。
  サスケさんを亡き者にするために、あたしが開発した術です」

 「亡き者?
  一体、どういう関係なんだ?」

 「愛故に憎しみ合う関係ですかね?」

 「さっぱり、分からない……」

 「そうですか? 残念です」

 (あたしのサスケさんに対する愛憎が分からないとは)


 結局分からないヤオ子とサスケの関係に、ヤマトは溜息を吐く。


 「ところで。
  どんな術なの?」


 普段無視されるヤオ子の術……。
 その純粋な興味を持って聞き返される言葉は、実に新鮮だった。
 ヤオ子はヤマトに詰め寄った。


 「知りたい!?
  知りたいですか!?」

 「あ、ああ……」

 「えへへ……。
  じゃあ、見せちゃいます。
  ちょっと、危険なので離れてくださいね」


 『あはぁ~♪』と、だらしない顔になるヤオ子。
 ヤマトは術の危険性と一緒にヤオ子本人から発せられる危険性も含めて距離を取る。
 そうとは知らず、ヤオ子は深呼吸をして必殺技発動の準備に入る。


 (今日は木登りしてないから、全力でやってみようかな?
  まだ、日数は経っていないけど。
  あれから、どれぐらい成長したか……)


 ヤオ子は左手を突き出しポーズを取った。


 「あたしのこの手が真っ赤に燃える!」

 (え? 何これ?)


 術の披露のはずなのに、妙なポーズと前置きを始めたヤオ子にヤマトは目をしぱたいた。
 ヤオ子は手を入れ替え右手を握り込み、自分の顔の前へ。


 「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 (何で、印を結ばずにポーズ取ってんの?)

 「猛れ! あたしの妄想力!」

 (妄想力?)


 チャクラを練り上げ、バッと両手を突き出し印を結ぶと、ヤオ子の右腕に爆発術とチャクラの盾が装填される。


 「爆殺! ヤオ子フィンガーーーッ!」


 突き出されるヤオ子の右手。
 この時、右手にはチャクラの盾と必殺技の爆発術が装填されている。
 ……ただし、今回は全力全開だ。


 「ほへ!?
  な、何!? この威力!?」


 チャクラの盾が形成されると同時に発動した必殺技は、予想を反した威力の大爆発を起こす。
 ヤマトは半身になり、術を撃った本人は驚いて固まっている。


 「何て、術だ……」


 ヤオ子の術の威力に、ヤマトは呆れている。


 「ヤマト先生……」

 「凄い術だね……」

 「そうじゃなくて……」

 「ん?」

 「威力が強過ぎて、肩が外れた……」


 ヤマトは、こけた。


 「何で!」


 左手で右肩を押えながらヤオ子が話す。


 「いや~……。
  木登りしないでチャクラ余ってるから、全力でぶっ放したんですけど、
  予想以上に威力が強くて、初めて義手の大砲ぶっ放したガッツみたいに……」

 「ガッツって、誰?」

 「ベルセルクの主人公」

 (知らない……)


 ヤマトは溜息を吐きながらヤオ子に近づいて、肩の状態を見る。


 「痛いかい?」

 「少しだけ。
  治ります?」

 「まあ、引っ張って捻じ込めば」

 「お願いします」

 「少し我慢して」

 「はい」


 ヤマトがヤオ子の右手を捻って上に持ち上げると、引っ張りながらゆっくりとヤオ子の肩を入れた。
 入り直した右肩を廻して、ヤオ子は具合を確かめる。


 「痛くないですね?」

 「随分と柔軟な体をしてるな……」

 「腕の関節は自由に外せるんですけどね。
  多分、これでコツ掴んだんで肩も外せますね」


 ヤオ子がコキコキと右肩の骨を鳴らすと間接を外してみせる。


 「やっぱり。
  ・
  ・
  えい!
  ほら、元通り。
  コツを掴みました」

 「君……人間?」

 「便利ですよ。
  覚えると。
  これ使って自来也さんの拘束を解いたんです」

 「縄抜けの術で、時々使うよ……。
  こんな状況で覚える技術じゃないけどね……」

 (それにしても……。
  拘束されたのか……。
  一体、何をしたんだろう?)


 ヤオ子は右手を見ながら、先ほどの衝撃を思い出す。


 「しかし、あんなに威力が上がっていたとは……。
  自分でも吃驚ですね」


 ヤマトが腕を組む。


 「術の威力に体の成長が追い着いてないんだ。
  このままだと、あの威力で撃つ度に肩が外れることになる。
  新たに改良をするか、肩の筋肉をつけるしかないな」

 「改良か……。
  今度は盾を押し出す感じにして、腕への衝撃を減らすしかありませんね。
  ・
  ・
  そうなると、またチャクラの量が必要になります。
  どんどん使い勝手が悪くなりますねぇ」

 「使い勝手もそうだけど……。
  あの訳の分からないセリフは?」

 「決まってるじゃないですか。
  必殺技ですよ?
  技を繰り出す前のセリフは必要事項です!」

 「いらないって……」

 「え~!」

 「あと、技名も長い……」

 「カッコよければいい!」

 「無意味だ……」

 「まあ、ヤマト先生が使うわけじゃないし。
  ・
  ・
  それより、どうですか?
  褒めるところもあるでしょ?
  いや、寧ろ、褒めてください!」

 「…………」

 「ああ…え、と。
  凄い威力だった」

 「でしょでしょ♪」

 「その割には、チャクラを使う量が多い気がした」

 「いや、褒めてください」

 「印を結ぶスピードが人外のようだった」

 「人外って……」


 ヤオ子は項垂れた。


 「何で、そんなに印を結ぶの早いの?」

 「あたし、印を結ぶ時に印のいくつかは指を離さないんです」

 「は?」

 「ゆっくり、やりますね」


 ヤオ子が印をゆっくり結ぶと、指が有り得ない角度まで曲がって次の印に移る。


 「気持ち悪い……。
  よく折れないな……」

 「あたし、体は柔らかい方なんですよ」


 ヤオ子は分の指を摘まむと、ペタリと手の甲までくっ付けた見せた。


 「君、本当に人間!?」

 「誰にでも出来ますよ。
  ヤマト先生、指貸して。
  ・
  ・
  えい!」


 ヤオ子がヤマトの指をグイッと曲げる。


 「イタッ!
  無理!
  曲がらない!」

 「変ですね?」

 「君が変なの!」


 ヤオ子は首を傾げ、ヤマトは指を揉み解す。
 そして、二人はゆっくりと歩き出して、目的の村へと向かい始めた。


 「あたしの忍術の実力は、分かりました?」

 「分かったような……。
  分からないような……」

 「ヤマト先生って、ダメ人間?
  あたしが術まで披露したのに」

 「君が人間離れしていることが分かったせいだよ」

 「人間離れ?
  それはサスケさんですよ!」

 「何で、サスケなんだい?」

 「あのドS!
  一ヶ月で信じらんないぐらい強くなるんですよ!?
  まるで死にかけてから、強くなるサイヤ人みたいに!」

 「サイヤ人?」

 「ヤマト先生は、何も知りませんね」

 「ごめん。
  ボクは子供達の流行なんて分からないから」

 「しょうがないですねぇ。
  兎に角!
  人間でないというなら、サスケさん!
  妖怪人間サスケです!」

 「妖怪って……」

 「だって!
  変なんですよ!
  あの中忍試験の電気の技!」

 「雷ね……」

 「自分の特性以外の性質変化なんて、
  二週間で、どうこうなるんですか!?」

 「う~ん。
  それは……」

 「しかも、あのドS!
  その間に体術まで向上させたんですよ!
  おかしいって!
  あたしは血反吐吐いて体術をリーさんに教えて貰っているというのに!」


 ヤオ子はギリギリと歯を噛み鳴らす。


 「ヤオ子は、まだ体が成長してないだろう?」

 (まあ……。
  サスケも、まだ成長途中だけど)

 「そうですよね……。
  魅惑のエロボディには、ほど遠いですよね」


 ヤマトが吹く。


 「そんな回答は求めてない!」

 「え?
  そうですか?
  教え子がエロい体になったら、
  教師と教え子の禁断の領域を踏み外したいとか思いませんか?」

 「思わない!」

 「あたしは、結構、妄想しますけどね」

 (最悪だ……。
  誰か担当替わって……)

 「でも、安心してください。
  今のあたしは、年下の男性しか興味ありません。
  何かあたしをときめかせる様なことがない限り、
  ヤマト先生が捕食領域にエントリーすることはありません」

 「君をときめかせないように、全神経を注ぐよ……」

 「ヤマト先生は、シャイガイですね」

 「頭が痛くなってきた……」

 「まあ、軽く流してください。
  こんなもの目的地に着くまでの他愛のない会話ですよ」

 「ボクは、今、イビキさんが君にゲンコツを落とした意味が良く分かる。
  ボクも非常にゲンコツを落としたい」

 「これ以上、ドSを増やさないでくださいよ」


 このような会話が件の村まで繰り返され、ヤマトは任務をこなす以上に精神的疲労を蓄積させるのであった。


 …


 早朝、村に着く……。
 小さな村で決して裕福とは言えない。
 畑が広がるところから、農村であることは判断出来る。

 依頼人の村長の家も、他の家とそれほど大差がなかった。
 ヤマトが村長宅の扉を叩くと、老人が顔を出す。


 「おはようございます。
  木ノ葉隠れの里から来ました」

 「お待ちしておりました」


 村長自ら出向くと、ヤマトとヤオ子を座敷に通す。


 「さあ、中へどうぞ」

 「お邪魔します」

 「お邪魔します」


 ヤマトとヤオ子は廊下を通り、座敷の奥に案内された。
 全員が畳みの上に座ると、村長は二人にお茶を出してくれた。
 早速、ヤマトは依頼の任務を始めるため、村長に自己紹介を始める。


 「今回、担当することになったヤマトです。
  こっちは、部下の八百屋のヤオ子です」


 紹介されて、ヤオ子が軽く頭を下げる。


 「早速ですが、状況を教えてください」

 「分かりました。
  その……既に困ったことがあります」

 「何でしょう?」

 「病人の数が増えてしまったのです」

 「我々は、多めに解毒薬を持って来ました。
  全部で十人分あります」

 「足りない……。
  病人の数は、二十三人も居るのです」

 「そんなに……。
  拙いな。
  手持ちの薬じゃ足りないぞ」


 その言葉を聞いて、ヤオ子が気になったことを質問する。


 「質問していいですか?」

 「いいですよ」

 「増えた病人の方は、子供も居ますか?」

 「全員、子供です」

 「…………」


 ヤオ子は少し思い当たるところがあった。
 考え込んでいるヤオ子に、ヤマトが声を掛ける。


 「どうしたの?」

 「ヤマト先生、少しだけど薬を増やせるかも」

 「どうやって?」


 ヤオ子は薬草辞典を取り出すと、件の毒草のページを開く。


 「この解毒薬の量って大人と子供で量が違うから、子供なら2/3の量でいいんです。
  だから、五人分多く処方できます。
  つまり、この時点で十五人は、処方できます」

 「なるほど。
  あと、サンプルで持って来たものを一つ使えば、
  もう一人分確保できて、十六人分か」

 「遅効性の特性から木ノ葉に戻っても、大丈夫では?」

 「それは症状の進み具合次第だね。
  ・
  ・
  病人の症状は?」


 ヤマトの質問に、村長は首を振る。


 「皆、結構重いです」

 「となると、直ぐにでも残り七人分の薬が必要か……」


 ヤマトは考え始める。


 (木ノ葉に戻るか薬草を調達するかだな。
  薬草辞典の分布を見ると、木ノ葉に戻るよりは近いけど……。
  とりあえず、待機している医療部隊に連絡を取って、手持ちの解毒薬を譲って貰う。
  その後、ボクの調査開始だな……。
  ・
  ・
  そうなると、ヤオ子にも詳細を話さないといけないな……)


 ヤマトは作戦を練り直すと、村長に話し掛ける。


 「すいません。
  少し、この子と話をさせて貰っていいですか?」

 「ええ。
  構いません」

 「ヤオ子」


 ヤマトが席を立ち、ヤオ子を呼ぶ。
 そして、廊下の奥まで移動する。


 「君に言ってないことがある」

 「?」

 「この任務は、ボク達の他にも別チームが動いている」

 「他にも……?
  もしかして、重要な任務だったんですか?」

 「そうだ。
  君にプレッシャーを掛けないために、ボクの判断で黙っていた」

 「何となく分かって来ました。
  薬売りに気付かせないために、
  普通に看病だけさせたかったんですね?」


 ヤマトが頷く。


 「しかし、不足の事態が起きて医療部隊に接触する必要が出来た。
  ボクは、これから医療部隊の持つ薬を貰ってくる。
  その方が、木ノ葉に帰るより早いからね」


 ヤオ子が頷く。


 「君は、ボクが戻るまで看病をお願い出来るかな?」

 「はい」

 「あと、子供達と会話をして毒の混入の経緯を探ってくれ。
  村長さんの話で、病人が子供だけっていうのが気になる」


 ヤオ子は顎の下に指を立てる。


 「そういえば……。
  井戸なんかに毒を混入すれば、大人も子供も関係ないですもんね?」

 「そうだ。
  キーワードは、子供だ」


 ヤオ子が頷くと、ヤマトも頷いて返す。
 そして、村長の元に戻る。


 「すいませんでした。
  この子が看病の任務を続行し、ボクは解毒薬を確保します」

 「そうですか。
  お願いします」


 村長が頭を下げる。


 「じゃあ、ヤオ子。
  後を頼むよ」

 「はい」


 ヤマトは村長に頭を下げると、部屋を後にした。


 (一人、放置ですか。
  信用されたもんです。
  ・
  ・
  では、期待には応えないといけませんね)


 ヤオ子が営業スマイルを浮かべる。


 「あたしは、何処に行けばいいですか?」

 「今、子供達は一箇所に居ます。
  ・
  ・
  本当は自分達で世話をしてあげたいんですが、
  私達も働かないと暮らせないので……」

 「分かってますよ。
  子供たちが嫌いなら依頼も出しませんから。
  あたしは、凄い分身の術を使えるんで五人分働けます」

 「頼もしいですな」

 「えへへ……。
  子供相手だから、お話も合います」

 「では、お願いします。
  これから畑仕事がありますので」

 「任せてください」


 ヤオ子は村長の案内する長屋へと向かった。



[13840] 第41話 ヤオ子の初Cランク任務③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:46
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 道なりの進路を無視し、広大な森林を飛び進む影がある。
 ヤマトは医療部隊の待機場所へと、瞬身の術で移動していた。


 「医療部隊は、まだ到着していないだろうな。
  薬も数が足りると思っているだろうから、予備にどれだけ持って来てくれているか……。
  ・
  ・
  足りない場合は、現地で調達するしかないか」


 依頼の情報が古いために起きた食い違い。
 必要な薬は予想よりも多く必要で、患者の様態も良くはない。
 ヤマトは依頼を途中で止めていたことに苛立ちを覚えながらも、可能な限りの速さで風のように木々の間を走り抜けた。



  第41話 ヤオ子の初Cランク任務③



 一方のヤオ子は、子供達の居る長屋を訪れていた。
 子供達は布団に苦しそうに臥せっていて、ヤオ子は今回の任務がただの任務ではないことを改めて理解した
 そのヤオ子の近くに、子供達の親達が近づき声を掛ける。


 「木の葉の方ですよね?」


 親の一人は、ヤオ子の腕の額当てを見て確認を取る。


 「はい。
  依頼を受けて来ました。
  あたしの先生が、既に別行動で医療部隊の方達と接触する手筈になっています。
  あたしは、皆さんがお仕事に出ている間、代わりを務めさせて貰います」


 Dランク任務が続き過ぎたせいか、元々が客商売を生業とする家のためか、ヤオ子の受け答えはしっかりとしたものだった。
 年齢と言葉遣いのギャップがあるが、今はこの言葉遣いが村の親達を安心させた。
 子供達の親から、次々と声を掛けられる。


 「後をお願いします」

 「うちの娘をお願いします」


 ヤオ子が『分かりました』と声を返すと、大人達は仕事に出て行った。
 入り口付近に残されたヤオ子は気合いを入れる。


 (さて、掴みが肝心ですね)


 ヤオ子は土間で靴を脱いで上がると、咳払いを一つ入れる。
 ヤオ子には子供達の好奇の目が集まっていた。


 「え~。
  お姉ちゃんは、皆さんを看病するために来た忍者です。
  はっきり言って凄いです」

 「…………」


 反応は、今一だった。


 「いえ、エロカッコイイです」

 「……ふ」


 子供達の誰かが声を漏らすと、ヤオ子はここで取っ掛かりから掴みに入る。


 「というわけで見てください」


 チャクラを練り上げ、ヤオ子は印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 ヤオ子が五人に増え、同じ動きで会釈をすると、『お~』という声が響いた。
 影分身の術は、子供受けするらしい。


 「何でも言ってくださいね」


 影分身達が子供達の中に散ると、看病の任務が始まった。


 …


 影分身達は子供達のタオルを変えたり、トイレに付き添ったり、話し相手になったりと徐々に打ち解け始めた。
 やはり年齢が近い方が安心できる部分が大きいのだろう。
 大人達には遠慮して話せないことでも、ヤオ子になら話せるようだった。
 ヤオ子よりも、ずっと小さい子達は影分身のヤオ子を離さないでいた。


 (昔、弟の看病をしたのを思い出しますね。
  両親が八百屋の仕事をしている間、ずっとあたしが面倒を看たんです。
  病気になって、気が弱くなってるから甘えたがるんですよね)


 影分身のヤオ子の一人は、小さい子達に囲まれて完全に行動不能に陥っていた。
 そして、ヤオ子本体は子供達の中で一番年長の子の側に来ていた。


 「初めまして。
  あたしは木ノ葉に住む美少女、八百屋のヤオ子です」


 ヤオ子と同じ位の背に長い黒い髪の女の子は、上半身を起こすと微笑む。


 「美少女なの?」

 「はい。
  八歳です」

 「同い年だね。
  わたしは、サチ」

 「じゃあ、さっちゃんですね?」

 「うん。
  じゃあ、ヤオ子ちゃんだね?」

 「はい」


 ヤオ子とサチが笑い合う。


 「さっちゃんは退屈しませんか?」

 「病気で寝てばっかりで退屈。
  本当は、外でお花を見たいのに……」


 サチの言葉を聞いて、ヤオ子はポケットから毛糸の輪っかを取り出す。


 「こんなのは、どうですか?」


 ヤオ子の手の中で毛糸が何回か編まれると、サチに向けた掌の中に朝顔が咲いていた。


 「すごい……。
  とっても綺麗ね」

 「そうですか?
  もっと、出来ますよ」


 『フフフ……』と不適な笑い声を持たすと、ヤオ子は調子に乗り始める。
 ヤオ子の手の中で蠢く毛糸は、次々と花を咲かす。
 百合、チューリップ、薔薇、クロッカス、etc...。


 「ヤオ子ちゃんって器用なのね」

 「えへへ……。
  得意なんですよ」


 だが、この現象が起きているのはここだけではない。
 他の影分身のところでも同じ様に、あやとりに対する賛美の声がしていた。


 (やはり、同じ思考のコピー人間……。
  やるネタも同じです。
  しかし……。
  ・
  ・
  例え、影分身のあたしが相手でも!
  ここで一番の評価を得る!)


 ヤオ子の目がキュピーン!と光ると、更にグニグニと指が激しく動く。
 そして、釣られるように他の影分身四体の指も激しく動いていた。


 「さっちゃん!
  見てください!
  ・
  ・
  百花繚乱!」

 「何それ!?」

 『ストライク・フリーダムガンダム!』

 「お姉ちゃん、わからない!」

 『ネオ・ノーチラス号!』

 「それもわからない!」

 『エスターク!』

 「怪獣!?」

 『ラオウ!』

 「我が生涯に一片の悔いなし!」

 「『『『『ラオウは、知ってた!?』』』』」


 ラオウを作った影分身がガッツポーズをし、他の面々はがっくりと膝をついた。
 自分に負けたヤオ子に、励ますようにサチが声を掛ける。
 ヤオ子は励ます立場のはずだったのに……。


 「ヤ、ヤオ子ちゃん……。
  百花繚乱って?」

 「凄いんですよ……。
  季節関係なしに花が咲き乱れるんです……」


 ヤオ子が手の中のあやとりを見せる。


 「本当だ。
  桜と向日葵が一緒に咲いてる。
  ・
  ・
  何か分からない花も……」

 「ラフレシアです」

 「何それ?」

 「世界一臭い花です」

 「…………」


 サチが苦笑いを浮かべたあと、ヤオ子に手を開く。


 「私にも教えて」

 「いいですよ」


 ヤオ子が毛糸の輪っかを指から外した時、サチが咳き込む。
 ヤオ子は急いでサチの背中を擦った。


 「大丈夫ですか?」

 「……ごめんね」

 「謝らなくていいです。
  温かくしておきましょう」


 サチを寝かせて、ヤオ子が布団を掛け直す。


 「あやとり……。
  教えて欲しかったな」

 「病気が治ったら、いつでも」

 「約束ね」

 「はい。
  指切りです」


 ヤオ子が小指を差し出すと、サチは自分の小指を絡め、二人は指切りをする。
 指切りを終えるとヤオ子は辺りを見回し、他の子供達の様子を確認する。


 (さっちゃんに堰が出たということは、そろそろお薬の時間なのかな?
  容量用法っていうのがあるから、適当にお薬をあげるわけにはいかないです)


 ヤオ子はサチに訊ねる。


 「さっちゃん。
  お薬は飲んでいますか?」


 サチは、首を振る。


 「いつからですか?」

 「もう、随分飲んでないわ」

 「どうして!?」

 「薬屋さんが処方してくれた薬を飲むと良くなるんだけど、
  その薬屋さんが、1ヶ月間を空けて来てないの。
  それに薬を飲むと良くなるんだけど、
  また暫くして体調が悪くなって薬屋さんを呼ぶことになるの」

 (薬は飲んでた……。
  そして、薬売りが去ってから悪くなる……。
  ・
  ・
  それって変じゃないですか?
  だって、薬売りは居ないんですよ?
  ・
  ・
  じゃあ、村の中に仲間が居て毒を……。
  もう少し情報が必要です)

 「薬屋さんは、どんな人なんですか?」

 「初めて会う子には、お菓子をくれるの」

 「お菓子?」

 (それに毒が?
  でも……)

 「初めしかくれないんですか?」

 「うん。
  子供って苦い薬が嫌いでしょ?
  最初の……餌付け?」


 ヤオ子は項垂れる。


 「さっちゃん。
  餌付けとは言わないですよ……。
  ・
  ・
  まあ、苦手意識を取るために最初は薬とお菓子をあげると」

 「そう」

 (別に怪しくないか……)

 「本当は、お菓子も必要ないんだけどね。
  お薬は椎茸の味でしょ?
  だから、皆、飲めるの。
  ・
  ・
  まあ、中にはキノコ嫌いの子も居るけど」

 「薬屋さんは工夫しているんですね」

 「うん。
  わたしは、好きだな。
  あの薬屋さん」

 「そうですか」


 サチの話を聞くだけだと、特にその薬売りに怪しそうな点は見つからない。
 ヤオ子は、今度は病気になった時期を確認することにした。


 「ここに居る子は、皆、同じ時期に病気になったんですか?」

 「ううん。
  あたしを含めた五人が最初」

 (これが依頼書の情報源ですか)

 「次に十八人……」

 「そんなに?」

 (一気に増えた……)


 が、子供達から『ちがーう』『そんなにいな~い』という声がする。


 「何人だったっけ?」

 「覚えてな~い」

 「…………」

 (やっぱり、子供ですね……)


 サチは、結構、天然だった。
 そして、ヤオ子の情報収集は、ここで終了した。


 …


 ヤオ子の看病が一段楽した頃……。
 待機場所で、ヤマトは無事に医療部隊と会うことが出来ていた。
 今回、接触はもう少し後になるはずのヤマトを不思議に思いながら、医療部隊の隊長が声を掛ける。


 「どうかなさいましたか?」

 「ちょっと、予想外の事態になりまして」

 「と、言いますと?」

 「持参した解毒薬では足りませんでした。
  情報と違い五人ではなく二十三人もの患者が居たんです」

 「そんなに……。
  予想以上の人数です。
  コハル様に、既に二倍の量を渡していたので事足りると……」

 「では、予備は……」

 「三つだけです」

 「そうですか。
  病人が全員子供なので2/3の量でいいのですが……。
  ・
  ・
  残りの1/3個とこれを合わせて五人分追加か。
  あと二人分足りない……」

 「どうしますか?」


 ヤマトは腕を組んで、顎の下に手を持っていく。


 「木ノ葉に戻るのが早いか……。
  新たな薬草を探すのが早いか……」


 悩むヤマトに、医療部隊の隊長が意見を述べる。


 「両方、行いましょう」


 ヤマトは顔をあげる。


 「我々の部隊の一人を木ノ葉に向かわせます。
  薬草の方をお願い出来ますか?」

 「だったら、皆さんも村に──。
  そうか……急に多人数が押しかけたら、気付かれるかもしれないか」

 「はい。
  相手が本当にただの薬売りならいいのですが、
  もしも、忍だった場合は……」

 「分かりました。
  部下に影分身を使える者が居ます。
  現地で手数を増やして対応します」

 「ええ、お願いします。
  では」


 医療部隊の隊長は部下達の居る方に戻り、木の葉へ新たな薬の手配の支持を始める。
 新たな方針が決まったヤマトは、医療部隊の持つ解毒薬を受け取って村へと走った。


 …


 夕方近く……。
 村で看病しているヤオ子は困っていた。
 解毒薬はあるが、数が足りていないのである。
 均等に配れない以上、誰かに行き渡らないことになる。
 その誰かを決めることが、ヤオ子は出来ないでいた。


 (困った……。
  困りました……。
  どうしよう……。
  どうしよう……。
  どうしようーっ!)


 ヤオ子が悶絶して悩んでいると、仕事を終えた大人達が長屋へと戻って来た。
 大人達は自分達の子供のところへと駆け寄り、邪魔になると思ったヤオ子は影分身を解いた。


 「あれ?」

 (担当した子供以外の情報が頭に入ってる……。
  へ~。
  影分身ってこんな利点があるんだ。
  今更ながら、気が付きました。
  ・
  ・
  と、そんなことよりも薬!
  薬売りは、来てないし……。
  どうせ捕まえるんだから、薬売りが来れば、ふん縛って奪い取れるのに!)


 ヤオ子の考えは、山賊まがいである。
 内面で焦り、眉間に皺を寄せるヤオ子に声が掛かる。


 「今日一日、ありがとうございました」

 「ん?」


 仕事から帰った大人達が、ヤオ子にお礼を言ってくれた。


 「気にしないでください」

 「ですが……。
  何か、美味しいものを貰ったって」

 「蜂蜜と金柑を合わせたヤツをお湯でといただけです。
  堰してたから……喉痛いでしょ?」

 「効くんですか?」

 「うちの弟には効きました。
  本を見て作ってやったんですけどね。
  味は、子供好みの味なんですよ」

 「そうなんですか」

 「こうなると思って用意してたんです。
  ・
  ・
  これです」


 ヤオ子は金柑の蜂蜜漬けのビンを取り出した。


 「へ~」


 大人達が珍しそうに見る。


 「ここ置いとくんで、喉痛がったらお湯に溶いてください」

 「ええ。
  そうします」

 「うちの弟の場合ですけど、
  ジュース代わりに飲みたがるんで、嘘は見破ってくださいね」


 大人達は笑いながら了解の返事を返す。


 「では、あたしは、村長さんのところに行って結果報告しますね」


 去り際にヤオ子はサチに手を振ると、サチも手を振り返す。
 ヤオ子は、村長宅へと向かった。


 …


 夕闇が迫る中で、ヤオ子は村長宅に到着する。


 「こんばんは~。
  お邪魔しま~す」


 扉を開けて上がり込むと、朝、通された部屋までヤオ子は歩く。
 村長は笑顔で迎えてくれた。


 「おお、確かヤオ子ちゃん」

 「はい」

 「ご苦労様でした」

 「いえいえ。
  薬売り……来ませんでしたね」

 「いや、いつも来るのは夜だよ」

 「まだ夕方か……って、あれ!?
  先生は!?
  うっかり薬売りが来てたら、あたしと鉢合わせですよ!」

 「それも、予定のうちでは?」


 ヤオ子は、頭に手を当てる。


 「まあ、そうなんですけど……。
  薬売りを捕まえるのはヤマト先生なんで、
  あたしが鉢合わせても、どうしていいか……」

 「困りましたね」

 「ええ、本当に……。
  ヤマト先生だけは、
  木ノ葉でも真っ当な人間だと思っていたのに……」

 「何の話だい?」


 ヤオ子のぼやきに後ろから声が返った。


 「ヤマト先生!
  何をのんびりと!」

 「のんびりしてたわけじゃないよ。
  薬を手に入れて来たんだ」


 ヤオ子はヤマトを指差す。


 「偉い!
  それ、困ってました!
  薬をあげたくてもあげれなかったんです!
  誰にあげていいか分かんないし!」

 「それがね……。
  あと、二人分足りなくて……」

 「オー マイ ガー!
  どうすんのーっ!?」


 ヤオ子が頭を抱えて絶叫した。


 「まず、落ち着いて。
  作戦を話すから」

 「チャキチャキお願いします」

 「分かってるよ。
  そろそろ薬売りが来るしね」

 「何で、夜来るって知ってんの?」

 「ボクは依頼書を読んだんだ」

 「そこまで、あたしに隠し立てする理由ある?」


 ヤマトは溜息を吐く。


 「全部、君のせいなんだけどね……。
  君が真面目に試験を受けてくれれば、
  実力を測るための隠し立てをする必要もなかったのに……」

 「何か今回の任務って、色々と含みがありますね?」

 「予想外の事態も、君が関わったからじゃないかと思えてしまうんだよな……。
  何かを悪化させるのが君の特徴みたいだし……」

 「いや、先生……。
  そんな言い方ないですよ……。
  まるであたしが死を呼ぶ死神みたいじゃないですか」

 「そういうつもりじゃないんだけどね。
  それはさて置き、作戦を言うよ」

 「はい」


 場に少し緊張した空気が流れる。


 「まず、薬について。
  今、医療部隊の一人が木ノ葉に戻っている」

 「じゃあ、直に数は揃う?」

 「ああ。
  でも、病の苦しみからは早く救ってあげたい」

 「うんうん」

 「そこで第一に薬売りを捕獲。
  そして、薬を奪取する」

 「薬草を採りに行かないの?」

 「症状が悪化しているようなら優先するけど……。
  そうでないなら、薬売りを捕まえてから取りに行っても大丈夫じゃないか?」


 ヤオ子は不満を顔に浮かべて否定する。


 「ヤダ」

 「……何で?」

 「確実性を優先するべきです。
  万が一が起きたら、どうするんですか?」

 「じゃあ、どうするの?」

 「あたしの影分身を取りに行かせます。
  今のチャクラの残量なら、影分身は五人出せます」

 「なるほど。
  いい判断だ。
  ボクも分身を出すから、その指示に従って」

 「はい。
  ・
  ・
  あ、もう一個いいですか?」

 「何だい?」

 「影分身って術を解くと、
  その子の情報があたしに還元されるみたいなんです」

 「そうなのかい?」


 ヤオ子は頷く。


 「目的の薬草を見つけたら、現地の何処かを拠点として術を解きます。
  そうすれば、あたしの影分身の見つけた薬草の数は、あたしからヤマト先生に伝わります。
  ヤマト先生から、ヤマト先生の分身に連絡出来ませんか?」

 「なるほど。
  そうすれば、ボクの分身の見つけた薬草の数を合わせて、
  無駄な時間を掛けずに戻れるわけだ」

 「はい」

 「でも、そんな面倒臭いことしなくても無線を使えば一発だ」

 「……あたし、無線持ってないです」

 「どうして?」

 「必要ないから支給されてません」

 (そうか……。
  雑用に無線はいらないか)

 「了解。
  ボクとボクの分身で無線のやり取りは出来るから、
  ヤオ子の連絡は、さっき言った手筈で行って」

 「分かりました」

 「じゃあ、薬草を採りに行かせよう」


 ヤマトは木分身で自分の分身を作り出し、ヤオ子は影分身を五体作り出す。


 「行動開始!」


 分身達は、村長宅を飛び出して薬草を取りに向かった。
 そこでヤオ子が手を突いてへたり込む。


 「どうしたの?」

 「少し無茶しました。
  身体エネルギーが足りなくなってきました……。
  子供達の相手するんで影分身を出したり消したりしてたから」


 村長がヤオ子を見て笑う。


 「さあ、夕飯にしましょう。
  そのままだと、薬売りが来た時に何も出来ませんよ」

 「あたしは大丈夫です。
  頑張るのはヤマト先生だから」

 「君ねぇ……」

 「でも、ご飯はいただきます」


 村長は可笑しそうに笑うと、夕飯の支度を始めた。


 …


 夕飯が始まり、純和風の食事をしながら会話が流れる。
 村長は賑やかな食事に、ほのぼのと呟く。


 「皆で食事をするのも久しぶりですな」

 「村長さんは、いつも一人なんですか?」

 「もう、爺ですからな。
  妻にも先立たれて一人です」

 「そうなんですか」

 「でも、一年前まではサチと一緒に食事をしていました。
  病気になってから、村の子供達と食事をしているんで、
  私は一人になってしまいましたが」

 「さっちゃんのところへ、押しかければいいのに」


 お茶碗を片手にヤマトが横槍の質問を入れる。


 「ヤオ子には、デリカシーがないのかい?」

 「何言ってんですか?
  尻の青いガキ相手に遠慮して、どうするんですか?」

 「君ねぇ……」

 「ん? でも……。
  何で、さっちゃんは村長さんと?」

 「あの子の両親は早くに亡くなって、私が面倒を見ていたんです」

 「へ~。
  だったら、やっぱり無理してでも会うべきですよ」

 「そうかね?」

 「はい。
  村長さんに甘えたいはずです」

 「そうか……」

 「ヤオ子。
  君もそういう時期なのかい?」


 ヤマトが、からかうつもりで質問する。


 「あたしは卒業しました。
  もう、親離れOKです」

 「本当かい?」

 「ええ。
  お父さんに甘えたあげく、
  コブラツイストを掛けられて意識を失ってからは、スキンシップを辞めました」

 「…………」

 (何で、いつも予想と違う変な答えが返ってくるんだ?)

 「スキンシップを辞めたせいか、うちの親は弟に甘いですね。
  過保護と言ってもいいかもしれません。
  あたしに嫌われたもんだから、弟に媚を売ってます」

 「どんな親子関係なんだ……」

 「仲が悪いのかい?」

 「いいえ。
  一年前にちゃんと腹割って話して和解してます」

 「君、八歳だよね?
  変に大人びてないか?」

 「親が馬鹿だと、子は育つもんなんです。
  前にも、うちの親が如何にアホか説明したでしょ?」

 「…………」


 ヤマトも村長も微妙な表情をしている。
 二人を置いて、ヤオ子は大切なことを思い出す。


 「そうだ。
  情報を交換しないと」

 「何の情報かね?」

 「ヤオ子が子供達と会話した情報です」


 ヤマトが村長に補足すると、ヤオ子が説明を始める。


 「薬売りについてですが、評判はいいです。
  さっちゃんは、薬売りが好きだって言ってました。
  他の子も同じ様に」

 「そうか。
  病気になった時期は?」

 「報告書にあった五人の病人というのが、最初に毒に侵された子供の数です。
  他は子供達の記憶が曖昧で分かりませんでした」

 「おかしいな」

 「報告、変でしたか?」

 「違う。
  やっぱり、子供しか毒に侵されていないことが、だ」


 ヤオ子は顎の下に指を立てる。


 「そうですね。
  報告以外に追加で毒に侵されたのが、子供だけっていうのも変だし……」

 「毒を盛る方法で子供だけ狙うなんて出来るのか?」

 「そういえば、一つ。
  興味深いことを聞きました」

 「ん?」

 「薬売りは、初めて会う子供達にはお菓子をあげるんです」

 「お菓子?」

 「子供って、大抵、薬嫌いだから、
  苦手意識をなくすための手段の一つみたいですけど」


 ヤマトは腕を組む。


 「う~ん。
  でも、その時だけは子供達の口に入るのか……」

 「でもね。
  さっちゃんの話だと、同じように口に入る、薬売りが処方した薬を飲んで治るんです。
  そして、去って暫くして体調が悪くなるんです」

 「どういうことかな?
  仲間が居て、薬売りが去った後に毒を盛るのか?
  もしくは、薬売りが何らかの仕掛けを残して子供達だけに毒を盛るのか?」

 「前者は、無理じゃないかと思うんですよね」

 「どうして?」

 「全国を回っているんでしょ?
  他でも同じ方法を取るなら、その村ごとに同じ仕込みが必要です。
  各村ごとの村人に成りすますって大変過ぎません?」

 「そうだね。
  仕掛けがあると考えるのが普通だ」

 「そこの調査が全然進んでないんです」

 「直ぐに問題が発生しちゃったから、調査する時間が確保できていないんだ。
  それは仕方ない。
  ・
  ・
  でも、薬売りを捕まえれば全て分かるはずだ」


 ヤオ子が箸を加えたまま少し考えたあと、ヤマトに質問する。


 「今更ですけど。
  薬売りが犯人じゃないってこと……ありませんよね?」

 「どうして?」

 「いや、あたし達って里の予想の下に動いているんですけど、
  もし、それが間違いだったら、
  薬売りは無実の罪で捕まえたことになります。
  ・
  ・
  冤罪事件発生?」

 「しかし、薬売りが確認された村で、同じ症状が出るのは変だろう?」

 「分かりませんねぇ」

 「証拠も見つけないといけないしね」

 「この際、子供達が優先ですから、
  薬売りのジジイ一人、間違いで痛い目を見てもいいんじゃないんですか?」

 「君、悪魔みたいな奴だな」

 「ヤマト先生って、
  あたしの悪口ばっかしか言いませんよね?」

 「君が包み隠さずに平然と言い切るからだよ」


 村長は、ヤオ子とヤマトの会話を可笑しそうに聞いていた。


 「お二人は、変わった師弟関係ですな」

 「そうなんです」


 ヤマトが疲れた顔で答えた。
 一方のヤオ子は、ケラケラと笑っている。


 「嫌ですね~。
  先生ったら」


 ヤマトが溜息を吐いた。


 「そろそろ夕闇が降りる。
  準備をするよ」

 「はい。
  作戦をお願いします」

 「君は、看病を続ける」

 「はい」

 「ボクは子供達の居る長屋の入り口の死角──つまり、薬売りから見えない場所から木遁忍術で拘束する」


 ヤオ子が片手をあげる。


 「あの……。
  薬売りから死角になってたら、ヤマト先生も見えないんじゃ……」

 「そうだ。
  だから、君がボクの目になってくれ」

 「あたしが合図を出すの!?」

 「君、ハンドシグナルを出せるだろう」

 「何で、知ってんの!?」

 「アンコさんと話してたよ」

 (そうか……。
  あの試験の結果報告の時にヤマト先生も居たんだった……)


 ヤオ子は納得すると、改めて話を続ける。


 「ところで……。
  ヤマト先生の木遁忍術? 見せてください。
  訳の分からないものに合図なんて出せないです」

 「そうだね。
  ヤオ子には僕の木遁忍術を見せておこう。
  ・
  ・
  じゃあ、君を拘束するよ」


 印を結ぼうとしたヤマトに、ヤオ子は手で待ったを掛けた。


 「食べ終わったからいいですけど……。
  お膳を下げてから縛ってくださいよ」


 ヤマトは村長が居るのを思い出すと、照れ笑いを浮かべた。


 「そうだったね。
  忘れてたよ」


 夕飯の後片付けは、ヤオ子が三人分のお膳を台所に下げた。
 村長は『自分がやる』と言ったが、ヤオ子は笑いながら自分で受け持った。
 そして、回復した身体エネルギーを使い、早速、影分身を一体出すと洗い物を任せて戻る。


 「じゃあ、さっきの続きをお願いします」

 「うん。
  行くよ」


 ヤマトが印を結ぶと、体から木が伸びてヤオ子にからみつく。


 「おお!」


 木は意思を持つようにヤオ子の周りを一周して拘束した。


 「凄い。
  これ、後ろで手もガッチリ縛ってますよ」

 「伸びた先に対象が居れば拘束出来るから」

 「本当に合図だけで何とかなりそうです。
  木遁か……。
  あたしも覚えようかな?」

 「無理だと思うよ」


 微笑むヤマトに、ヤオ子は首を傾げる。


 「何で?」

 「まだ、早いということだ」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「サスケさんは写輪眼を持ってるし……。
  何か周りがエリートだらけで嫌になりますね」

 (君も相当特殊だと思うけどね……。
  いい意味でも悪い意味でも……)


 ヤオ子の拘束を解いて、ヤマトがヤオ子を見る。


 「じゃあ、作戦を開始しようか」

 「はい!
  ・
  ・
  村長さん、ご馳走様。
  ご飯、ありがとうございました。
  ほら、先生もお礼言わないと」

 「そうだっだ。
  ご馳走様です。
  ありがとうございました」

 「いえいえ。
  お粗末様。
  これから、よろしくお願いしますね」


 ヤマトとヤオ子は薬売り捕獲のため、子供達の居る長屋へと向かった。



[13840] 第42話 ヤオ子の初Cランク任務④
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:47
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 長屋に向かう途中、ヤオ子は歩きながらヤマトに質問する。


 「ヤマト先生。
  子供達は薬売りを好いています。
  子供達の前で捕らえるのは如何なもんなんですかね?」

 「さっきは問答無用みたいなこと、言ってなかった?」

 「あたしは、既に子供達と友達です。
  どっかのジジイよりも友達優先です」

 (言動から少し更正したかと思ったが、
  根っ子の部分は変わってないのか……)


 ヤマトは溜息を吐く。


 「じゃあ、ボクは外の瓶の中にでも隠れているから、音で合図してくれ。
  拘束したら、直ぐに薬売りを村長さんの家に移動するから」

 「分かりました。……合図は?」

 「簡単でいいよ。
  床を三回叩くとかで」

 「それだと間違いません?」

 「薬売りが来てからだから、大丈夫。
  それにあまり特徴的な動作だと、敵に勘付かれる恐れもある。
  普段する動作の中に合図は混ぜておくのが基本だ」

 「了解しました」


 ヤマトとヤオ子は、長屋の前に着いた。



  第42話 ヤオ子の初Cランク任務④



 ヤオ子は辺りを見回して空の瓶を見つけると、声を出さずに手を振ってヤマトに知らせる。
 ヤマトと一緒にその瓶を長屋の入り口近くに置くと、その中にヤマトが入り、ヤオ子は蓋をした。


 「これで準備は整いましたね。
  ・
  ・
  じゃあ、あたしは昼間の看病の続きをしようかな」


 ヤオ子は長屋の扉を開けた。


 「こんばんは」


 中に入ると子供達の何人かがヤオ子に気付き始めた。


 「また来たの?」

 「来ちゃいけませんか?」

 「ううん。
  さっきの話の続きが聞きたい」

 「『ど根性忍伝』ですか?
  いいですよ。
  では、例によって増えるんで。
  ・
  ・
  影分身の術!」


 影分身の術により、ヤオ子が四人に増えた。
 そのヤオ子達を指差し、子供達の一人が呟く。


 「昼間より少ない」

 「無理言わないでください。
  何かを得るには何かを捨てなければいけません。
  この術を使う度にあたしの体力が減ります。
  昼間から使いまくって、お姉ちゃんヘトヘトです」

 「そうなんだ」

 「はい」

 「馬鹿そうな顔してるから、分からなかった」


 ヤオ子の額に青筋が浮かんだ。


 「今、言ったのは、コウタ君ですね?
  くすぐります」


 影分身が一人の子供に近づくと、一瞬で後ろを取り、脇をくすぐり始めた。
 その行為に笑い声を上げて子供がタップすると、影分身のヤオ子は直ぐにやめる。


 「病気じゃなければ、笑い泣きするまでやるとこです」

 「じゃあ、病気が治ったら遊んでくれる?」

 「はい。
  悪い遊びも少し教えてあげます」


 ヤオ子の言葉に、ヤマトは瓶の中で溜息を吐く。
 本当に教えそうだと……。
 やがて、子供達と影分身は会話を始め、ヤオ子本体はサチの居る場所へと向かう。


 「こんばんは」

 「こんばんは」

 「薬屋さん、遅いですね」

 「うん……」


 返ってきた返事は、何処か元気がなかった。
 ヤオ子はサチの顔を伺う。


 「さっちゃん?
  顔色わるいですよ」

 「大丈夫。
  私だけじゃないから」


 ヤオ子は周りを見回すと、サチの言う通り、昼間よりも元気がないように感じる。


 (自分の病気が心配だから、皆、無理に……。
  昼間よりも顔色が悪いです。
  ・
  ・
  だけど、このタイミングで薬売りが来るのもおかしいですね。
  だって、見計らったようなタイミングです)


 ヤオ子はサチに顔を戻す。


 「何か欲しいものはありますか?
  お水でもご飯でも用意しますよ」

 「さっき、皆とご飯食べたから」

 「そうですか」

 「でも、病院食ばっかりだから、
  偶には甘いもの食べたいかな」


 ヤオ子は顎の下に指を立てる。


 「甘いものか……。
  病人にケーキ食べさせるのって、どうなんだろう?」

 「ケーキ?」

 「あたし、少しなら作れますよ。
  任務で作り方を覚えたんです。
  ……でも、材料ないか」


 サチはヤオ子に微笑む。


 「ヤオ子ちゃんは、何でも出来るんだね」

 「そんなことないですよ。
  偶々、知ってる技術の一つがそれだっただけです」

 「今度、私にもおしえ──」


 話の途中でサチが口を押えるて咳き込むと、ヤオ子は慌ててサチの背中を擦る。


 「ちょっと──。
  本当に無理してないですか!?」

 (薬が全員分揃うなんて待ってられない。
  こうなったら、もう薬をさっちゃんに……)


 その時、長屋の扉が開いた。


 「……あ、薬屋さん」


 サチの言葉にヤオ子が出入り口の扉に目を移す。
 そこには中肉中背の中年の薬売りが立っていた。
 そして、ヤオ子がヤマトに合図を送ろうとした時、薬売りが慌てて草履を脱いでヤオ子の側に駆け寄った。


 「拙い!
  症状が悪化している!」


 薬売りが背中に背負う薬箱を下ろすと、薬箱の引き出しを開ける。


 「君、水!」

 「え? あ、はい」


 ヤオ子は慌てて側の水差しを手に取り、薬売りに差し出す


 (この様子……本当に心配してる?
  ・
  ・
  じゃあ、犯人は?)


 薬売りが取り出した薬の包装を外し、サチの口に薬を運ぼうとする。


 「!」


 その時、ヤオ子は薬売りの手をしっかりと握り締めた。


 …


 ヤオ子の行動にサチが疑問の顔を浮かべる。
 ヤオ子は歯を喰いしばったあと、大きな声で叫ぶ。


 「ヤマト先生!」


 合図の方法は違うが、ヤマトは瓶から飛び出すと印を結ぶ。
 木遁忍術が発動し、ヤマトから伸びる木が薬売りを一瞬で縛り上げて拘束した。
 薬売りはがっちりと拘束され、身動き一つ取れなくなった。


 「何をするんだ!」

 「…………」


 薬売りの抗議の声に、ヤオ子は怒りに満ちた目を向けていた。


 「ヤオ子?」


 ヤマトの呼び掛けに、ヤオ子は薬売りの手から零れ落ちた薬を拾い上げる。


 「やっぱり……。
  こいつが犯人です」


 ヤオ子が薬をヤマトに渡す。


 「……ヤマト先生。
  その匂いを嗅いでみてください」


 ヤマトが薬を鼻に近づけると、木の葉であらかじめ記憶していた匂いだと気付いた。


 「ああ、分かるよ。
  この匂いは、毒薬の方の匂いだ」


 ヤマトは優先してやることがあると、薬売りの首にクナイを付き付ける。
 そして、一方の手で嘘を見破るため、薬売りの手首に指を置いて脈拍を調べる。


 「仲間は?」

 「い、居ない……。
  俺、一人だ」

 「そうか」


 脈拍から嘘を感じ取れないと認識すると、ヤマトはクナイを引いた。
 ヤマトがヤオ子に話し掛ける。


 「外で信号弾をあげるから、直に医療部隊と尋問部隊が来る。
  ボクはコイツを村長さんの家に運ぶ」

 「分かりました」

 「ヤオ子、先に彼女に薬を処方してあげて」


 ヤオ子はヤマトに顔を向ける。


 「いいんですか?
  他の子も居るのに……」

 「彼女が一番酷いよ。
  ボクにも分かる」


 ヤマトはヤオ子に解毒薬を一つ手渡すと、薬売りを連れて外へと出て行った。
 残されたヤオ子は薬包紙を一枚出し、2/3を選り分ける。


 「さっちゃん。
  このお薬飲んでください」

 「何で、薬屋さんを……」

 「理由は、後で話します」

 「…………」


 焦点の定まらないサチに視線を落とした後、再度、ヤオ子は顔を上げて話し掛ける。


 「あたしのこと……嫌いになりましたか?」

 「…………」

 「後でどんな罰でも受けます。
  今は、お薬を飲んでくれませんか?」

 「…………」


 サチは無言で頷くと、ヤオ子の水差しから水を口に含み、薬包紙から薬を飲み込んだ。
 周りでは、驚いている子供達を影分身がなだめている。


 「あたしは、木ノ葉から看病だけしに来たんじゃないんです。
  この村の毒の混入を調べることも任務だったんです」

 「毒?」

 「はい。
  さっちゃんの体の症状は、毒のせいなんです」

 「そんな……」


 真実を知って辛そうなサチの顔を見ながら、ヤオ子は話を続ける。


 「さっきのお薬……。
  今までと違っていませんでしたか?」

 「……味がちょっと。
  匂いもしなかった……」

 (混入させた経路が……。
  はっきりと分かりました……)


 サチの言葉で確信を得ると、ヤオ子はまた胸の奥の方が怒りで熱くなった。
 しかし、今はそれを押さえ込んで、子供達の看病を優先しようと努めることにした。


 「もう直ぐ、木ノ葉の医療部隊が来ます。
  そうしたら、直ぐに皆さんの症状を診てくれます」

 「ヤオ子ちゃん……。
  私達、あの薬屋さんに騙されてたの?」

 「……はい」


 サチの目から涙が零れ、手は強く握られていた。


 「あんなに優しかったのに……」


 ヤオ子は、サチの背中を擦る。


 「今は、ゆっくりしてください。
  何もかも終わったら、全部話します。
  あたしは、さっちゃんにも皆にも早く元気になって欲しいです」

 「ヤオ子ちゃん……。
  うん、ありがとう」


 そして、長屋に医療部隊の忍者達が到着した。
 ヤオ子は1/3だけ残った薬包紙を持って、到着した医療忍者に近づく。


 「あの子に2/3を処方しました。
  残りの1/3です」

 「確かに受け取りました。
  今から症状の重い順に処方します」


 ヤオ子は心配そうに訊ねる。


 「全員助かりますよね?」

 「多分……。
  残りの薬草が届けば足りるはずです」

 「二人分だから、最低でも二つあればいいんですよね」

 「はい」


 ヤオ子は頭を下げる。


 「では、お願いします。
  あたしは、結果の報告をヤマト先生にして来ます。
  急用があった場合は、影分身のあたしに連絡をお願いします」

 「分かりました」


 俯いたままのサチに視線を向けた後、ヤオ子は長屋を出た。
 そして、夜空の月を眺めて遣り切れない気持ちを一息だけ吐き出すと、村長宅へと向かった。


 …


 村長宅に到着した瞬間、ヤオ子の頭に突然薬草を見つけたという情報が入る。
 影分身からの情報が還元されたのである。
 ヤオ子は急いでヤマトの元に向かう。


 「ヤマト先生!
  影分身からの連絡!
  薬草見つけたって!」

 「了解。
  ボクの分身に無線で伝える」


 無線を使って、ヤマトは自分の分身に連絡を取る。
 そのやりとりが終わると、ヤマトはヤオ子に顔を向ける。


 「後は、ボクか君の分身のどちらかが薬草を見つけたら、
  ここに戻らせるだけだね」

 「はい。
  ・
  ・
  ところで……。
  あの薬売りは?」


 ヤオ子は少し厳しい顔で状況を伝える。


 「今、イビキさんが別室で尋問している。
  直ぐに吐くと思うよ。
  クナイを突き付けただけで仲間が居るかどうか吐いたから」

 「そうですか」

 「今、『他にどの村で毒を混入させたのか?』
  『この村に向かわされた組織の一人か?』を吐かせている」

 「ヤマト先生も……。
  もう、毒薬の混入経緯は分かったんですね?」

 「ああ。
  出発前の君の行動も考慮に入れてね」


 その場に居た村長が、ヤマトとヤオ子の会話を聞いて質問する。


 「あの薬売りは、一体、どうやって毒をバラ撒いていたんですか?」


 ヤマトは村長に顔を向ける。


 「村長さんの予想通りでした。
  あの薬売りは、黒です。
  ヤオ子の集めた情報を元に推理した話をしますと、こうなります。
  ・
  ・
  子供達に毒を盛ったのは、お菓子を配った時に間違いありません。
  そして、定期的に訪れるために薬売りは細工をしていました。
  多分、薬自体に……」

 「薬?」

 「はい。
  毒薬と解毒薬を配合していたんです。
  毒薬は、遅効性。
  解毒薬は、即効性です。
  比率を調節して毒薬を多く混ぜます。
  そうすると最初に即効性の解毒薬が効いて症状が回復したように見えます。
  しかし、その後で遅効性の毒薬が効果を表すので暫くして症状が出ます。
  ・
  ・
  つまり、薬売りは、そうやって症状をコントロールして、
  毎月、同じ日に現れていたわけです」

 「そんな……」

 「恐らくこれが真実です」


 ここで、ヤオ子の頭に更に情報が入る。


 「ヤマト先生、最後の薬草を見つけました」

 「了解だ。
  ボクの分身の方が動きが早いから、先に持って来させる」

 「はい。
  あたしの分身の残り三体は、どうしますか?」

 「予備があった方がいいだろう。
  ボクの分身に書き置きをさせるから、持って来て貰おう」

 「分かりました。
  じゃあ、そのままにして置きます」

 「どちらにしても、影分身に命令を出せないんじゃないのかい?」

 「長屋の影分身に状況を話して術を解けば、情報が行くので」

 「……そうか」


 忍者としては一分の隙もない的確な回答が返って来る。
 それは正しいことだが、目の前に居る少女は、普段と違いすぎるようにヤマトは感じた。


 (ヤオ子、大丈夫かな?
  いつもと様子が違うけど……)


 ヤオ子は厳しい顔をしたままだった。
 そのヤオ子がヤマトに顔を向ける。


 「ヤマト先生。
  さっちゃんのところに戻ってもいいですか?」

 「ああ。
  手伝って来ていいよ」


 ヤオ子は軽く頭を下げると、部屋を出て扉を閉めた。
 村長が心配そうにヤマトに話し掛ける。


 「ヤオ子ちゃん……。
  大丈夫ですか?」

 「正直、心配です」

 「そうですよね」

 「特にあの子は、今回のような任務は初めてです。
  面と向かって悪いことをする人間を見るのも初めてなら、
  それを行った現場を見るのも初めてのはずです」

 「では……」

 「着いていてあげたいですね」


 ヤマトから漏れた本音に、村長はにこりと微笑む。


 「着いていてあげてください」

 「しかし……」

 「もう、大体のことは分かりました。
  それに、ここには他の忍者の方も居ますから」

 (そういえば、イビキさんの部下も居るんだったな)


 ヤマトは村長に頭を下げる。


 「では、お言葉に甘えて少し席を外します」

 「ええ。
  私は村を回って、皆に事の成り行きを話します」


 ヤマトと村長は、ヤオ子に遅れて村長宅を出た。
 そして、村長と別れて直ぐにヤマトは自分の分身に連絡を入れた。


 …


 村長宅の一室……。
 暗い部屋に蝋燭の火が数本灯る。
 その部屋では、イビキと今回の黒幕である薬売りが机を挟んで向かい合っていた。


 「これが、お前の回った村全てか?」

 「ああ」


 薬売りは、今のところ素直に自白をしていた。
 イビキはメモを取り、尋問を続ける。


 「本当に他の仲間や組織は居ないんだな?」

 「クドイな。
  そうだと言っているだろう」

 「…………」


 イビキが鋭い視線で薬売りを睨むと、薬売りは吐き捨てるように答える。


 「嘘は言ってねぇ」


 イビキは立ち上がると部屋を出た。
 そして、部屋の前に部下の一人を呼ぶ。


 「このメモをご意見番のお二人に……。
  薬売りが毒を盛った村のリストだ」

 「確かに預かりました。
  それでは」


 イビキの部下が木ノ葉に向けて出立する。
 それを見届けて、イビキは再び部屋に入る。
 そして、再度、薬売りに向かい合って座ると、後回しにしていたことを質問する。


 「何故、このような行動をした?
  何処で思いついた?」

 「へへ……。
  捕まっちまったんだ。
  洗いざらい話すよ。
  オレの自慢話をな」


 イビキは薬売りの話し方に不快感を覚えながらも、無言のまま続きを促す。


 「最初はさ。
  真面目に薬売りをしていた。
  オレの作った薬をありがたがってる人を見るのが楽しかった。
  ・
  ・
  しかし……。
  いっつもいっつも病人が居るわけじゃない。
  オレは優越感に浸りたかったんだ。
  オレの薬でオレに頭を下げ続けさせたいんだ」

 「…………」

 「そこで考えた……。
  病人が居ないなら、作ればいいとな」


 薬売りの男の顔が欲望に歪む。


 「オレの知識を総動員して、長く優越感に浸れる方法を考えた。
  マイナーな毒薬で症状も軽くて長続きする方法を……。
  対象は、子供がいい……。
  子供は素直に感謝する。
  親も子供には敵わない。
  どんなに偉い大人でも、オレが治せば感謝する」

 「…………」

 「オレだけが治せる。
  オレだけが感謝される。
  だから、他の医者に掛からせないように毒の量をコントロールした。
  オレは、毎月、この日に感謝される」


 イビキは表情を変えずに、薬売りに質問する。


 「自分の自尊心を満たすためだけに、こんなことをしたのか?」

 「いや……。
  後は、金だ。
  定期的に必ず金が手に入る。
  ・
  ・
  ククク……。
  実にいいシステムだろう?」

 「下種が……」


 薬売りは卑下た笑みを浮かべたまま、イビキに語り掛ける。


 「ところでさ……」

 「何だ?」

 「あの子、もうダメだぜ」

 「……何を言っている?」


 イビキが薬売りの首を掴むと、薬売りは悪びれることなくイビキに視線を向ける。


 「あのサチって子さ。
  もう直ぐ、死ぬよ」

 「何だと!」

 「この毒薬だけにかけては、オレの右に出つ奴は居ない。
  マイナーだって言っただろう?
  どんな医学書にも一年以上服用したら、どうなるかなんて書いてないのさ。
  ・
  ・
  医療部隊を連れて来たみたいだが、手遅れさ。
  何で、あの子があそこまで我慢出来たのかは分からない……。
  他の村では、もう死んでたぜ?」


 イビキは薬売りの首を離して部屋を出る。
 そして、長屋に向け駆け出すと、部屋から薬売りの笑い声が響き渡った。


 …


 長屋では、ヤオ子がサチの側に居た。
 そして、サチを前にポツリと呟く。


 「嘘ついて……ごめんなさい」

 「ヤオ子ちゃん?」


 ヤオ子の目に涙が溜まる。


 「さっき、罰受けるって言ったけど……。
  怖いです……。
  さっちゃんに嫌われたらと思うと……」

 「ヤオ子ちゃん……」

 「あたし……。
  同い年の友達が居ません。
  さっちゃんが初めてです。
  ・
  ・
  だから……」


 サチが布団の中から手を出し、正座するヤオ子の膝の上に手を置く。


 「私も初めての同い年のお友達。
  ヤオ子ちゃんのこと……嫌いになってないよ。
  大好き」

 「さっちゃん……。
  さっちゃーん!」


 ヤオ子がサチの手を握る。


 「大きくなったら、結婚しましょう!」

 「ヤオ子ちゃん……。
  女同士だから無理だよ」


 後から駆けつけたヤマトは、入り口でヤオ子とサチの様子を見て息を吐き出す。


 「さっきのは、友達に嫌われるのを心配してたのか……。
  取り越し苦労だったかな?」


 ヤオ子はサチの手を更に強く握る。


 「じゃあ、お友達から始めさせてください!」

 「まるで、恋人みたいな言い方ね」

 「あたしは、どっちでもいけます!」


 ヤオ子の会話を聞いて、ヤマトは頭痛がした。
 自分の教え子が同姓に告白している……。
 しかも、奴はどっちでもいけるらしい……。

 そして、ヤマトが頭を押さえた時、自分の分身が薬草を持って現れた。
 到着が早かったのは、未熟なヤオ子の瞬身の術との差である。
 また、薬草の採取出来る場所も近かった。


 「着いたか……。
  ・
  ・
  三つあるな……。
  ボクの分身も一個見つけてたのか。
  ご苦労様」


 分身は元の木に戻りながら、ヤマトに吸収されて姿を消した。


 「さて」


 ヤマトは医療部隊の忍者に薬草を届ける。


 「件の薬草です」

 「助かります。
  では、直ぐに磨り潰して残った子に与えます」

 「薬草は粉末じゃなくていいんですか?」

 「はい。
  粉末にする時は、保存を考えた時ですから」

 「そうですか。
  よろしくお願いします」

 「はい」


 ヤマトは、再びヤオ子達に目を移す。
 二人は姉妹のように会話をしていた。


 「ねえ、ヤオ子ちゃん」

 「何ですか?」


 サチは静かな口調で語り掛ける。


 「私のことをずっと覚えていてくれる?」

 「ええ。
  あたし、記憶力がいいんです。
  さっちゃんのボディラインから、
  少し天然さんな可愛らしいところまでバッチリです」

 「ちょっとエッチな言い方ね」

 「本当は、こっちがデフォルトです」


 サチは可笑しそうに微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。


 「ありがとう……」


 ヤオ子の手からサチの手がするりと零れる。


 「え? ちょっと?」

 「…………」

 「さっちゃん?
  さっちゃん?」


 今しがたまで間違いなく握り返していた手。
 それはあっけない程、簡単に自分の手をすり抜けたような感じがした。
 ヤオ子はサチの手を握り直すと、信じられずにサチの顔を見る。


 「……な、何これ?
  脈が……。
  ・
  ・
  すいません!
  さっちゃんの様子が変なんです!」


 ヤオ子の声に医療忍者の一人が慌てて駆けつける。
 そして、ヤオ子の手からサチの手を取ると、ヤオ子の感じたものが嘘ではないと言葉にする。


 「脈が止まっている!」


 医療忍者は、直ぐにサチに心臓マッサージを始めた。
 そして、もう一人の医療忍者も駆け寄ると医療忍術を掛け始めた。
 ヤオ子は、目前に起きたことを信じられずに見続けることしか出来なかった。


 …


 医療忍者の彼は、サチの薄い胸に手を当て必死に心臓マッサージを続ける。
 額に汗を浮かべ、汗は頬を止め処なく流れた。
 彼の反対に位置する医療忍者も医療忍術を使い、必死にサチの回復に努める。
 しかし、やがて二人は動きを止めると首を振る。
 ヤオ子は這い蹲ってサチに近づくと手を取る。


 「嘘ですよね?
  さっちゃん……。
  ・
  ・
  ねぇ……。
  何で、治療をやめたんですか?」


 医療忍者の二人が顔を背ける。
 彼等も自分達の力が及ばずに奥歯を噛み締め拳を握る。


 「さっき、『ありがとう』って言ったじゃないですか!
  お薬飲んだんだし、元気になったんでしょ!
  何か言ってくださいよ!」


 ヤオ子はサチの手を両手で強く握り、そこではっきり分かってしまう。
 サチの手には自分と同じ血潮の流れがない……。
 ヤオ子の目に涙が浮かぶ。


 「さっちゃん!
  さっちゃん!
  さっちゃん!」


 何度呼んでも何度揺すっても、サチはピクリともしない。
 ヤオ子は声とも言えない声をあげ、何も言わないサチに被さる。


 「ごめんなさい……。
  あたしが……。
  あたしがモタモタしてたから……。
  もっと早く、薬草をあげてれば!
  ・
  ・
  あたしが……。
  あたしがちゃんとした忍者だったら──」

 (皆に薬草を届けられたのに……!)


 ヤオ子は初めての同い年の友達に抱きつき、泣き続ける。
 涙が止まらない。
 そこへ、イビキが走り込んで来た。


 「遅かった……か」


 ヤマトがヤオ子を気にしながら、イビキに近づく。


 「イビキさん?」

 「さっき、薬売りが吐いた。
  サチという子が、もう直ぐ死ぬと」

 「じゃあ、今の子が……」


 ヤマトはヤオ子が覆い被さっている少女に目を向ける。


 「多分……そういうことだ」


 イビキが奥歯を噛み締め、下を向く。
 ここに居る誰もが、自分の無力を感じずにはいられなかった。


 …


 他の誰よりも、ヤオ子には悔しさが駆け巡っていた。
 自分の未熟さ……。
 自分の馬鹿差加減……。
 全てが恨めしかった。
 そして、一つの思いが胸を支配し始めていく。


 (何で、さっちゃんが……。
  友達になれたのに……。
  元気になれると思ったのに……。
  ・
  ・
  あたしの処方が遅れたから……)


 ヤオ子は首を振る。


 (そうじゃない!
  それだけじゃない!
  ・
  ・
  アイツが悪いことをしたからだ!
  アイツが皆を苦しめたからだ!
  ・
  ・
  アイツがさっちゃんを苦しめた!
  アイツがさっちゃんを殺した!
  ・
  ・
  許せない……。
  許せない!
  絶対に許せない!)


 ヤオ子は歯を喰いしばり、目に殺意を宿す。
 勢いよく立ち上がると、長屋の入り口に向かい走り出していた。
 ヤマトとイビキを突き飛ばして村長宅に走る。


 「まさか……!」

 「あの馬鹿!」


 ヤマトとイビキは、ヤオ子が何をしようとするかが分かった。
 二人は直ぐにヤオ子を追って走り出した。


 …


 村長の家に入ると、ヤオ子は廊下を走って奥の部屋に向かう。
 そして、見張りをするイビキの部下が目に入ると、走りながら印を結んで影分身の術を使って多勢で押さえ込む。
 イビキの部下を置き去りにして部屋の扉を開けると、ヤオ子の目には拘束された憎い相手が瞳に写る。
 ヤオ子は腰の道具入れから無言でクナイを取り出し、力一杯握り締める。


 「お前が……さっちゃんを殺した!」


 木遁忍術で拘束された男に走り込み、ヤオ子はクナイを振り上げた。
 しかし、そのクナイが男に届くことはなかった。
 イビキがヤオ子の手を押さえていた。


 「何をしている!」

 「コイツを殺すんですよ!」


 強引に振り切ろうとした手は動かない。
 自分の力ではイビキの力を振り解けないと判断すると、ヤオ子はクナイを放してチャクラを練り上げる。
 クナイを手放した手に、もう一方の手を添えて印を結ぶと影分身が一体出現し、クナイを拾い上げて、再び男に向かう。


 「この馬鹿野郎が!」


 イビキの蹴りで影分身が消滅するとクナイは音を立てて転がった。
 イビキはヤオ子を反対の壁まで投げつけると、ヤオ子に言い放つ。


 「これは、オレ達大人の仕事だ!
  ガキは、すっこんでろ!」


 壁に打ち付けられたヤオ子は右手で顔を覆い、涙と共に嗚咽する声も響いた。
 ヤオ子の泣く声だけが響く部屋に、ヤマト現れる。
 イビキはヤマトに気付くと、苛立ち混じりに怒鳴りつけた。


 「ヤマト!
  その馬鹿を連れて行け!」

 「イビキさん……」

 「ここに居ても邪魔になる!
  早くしないか!」

 「……分かりました」


 ヤマトは壁のところで蹲るヤオ子の肩に手を置く。


 「……行くよ」

 「う…うう……」


 ヤオ子は自分を強く抱きながら顔を下に向け、泣き続けるだけだった。


 「仕方のない子だ……」


 ヤマトが無理にヤオ子を抱きかかえる。


 「失礼します」

 「…………」


 ヤマトはイビキに軽く頭を下げて、ヤオ子を抱いて部屋を出た。


 …


 部屋を出た廊下を月明かりが照らしていた。
 ヤマトはヤオ子を連れて、少し離れた縁側にヤオ子を下ろす。


 「さっちゃんが……」

 「うん……」

 「アイツが憎いんです……」


 ヤオ子が再び涙を流す。


 「アイツが悪いことをしなければ、
  さっちゃんは、今でも生きていたのに……。
  ・
  ・
  どうしてですか?
  さっちゃんは死んでしまったのに、
  何で、アイツは生きているんですか……」


 ヤオ子の問い掛けに、ヤマトは静かに答える。


 「あの男は木ノ葉に戻って、
  もう一度、詳しい取り調べをしなければならない」

 「じゃあ、それが終わったら、
  あたしにアイツを殺させてください……」

 「それは出来ないよ」


 ヤオ子は強い言葉でヤマトに聞き返す。


 「どうしてですか!」

 「尋問部隊のイビキさんの役目だ。
  それに、君は子供だ。
  子供が自ら手を血に染めるものじゃない」

 「あたしは忍者です!
  だから、殺してもいいんです!」


 ヤマトは首を振る。


 「いいや。
  君は、まだ忍者じゃない……子供だ」


 ヤオ子は前髪を振り乱し、頭を振る。


 「子供でもクナイを持てば、人は殺せます!
  あたしにだって、人は殺せるんです!」

 「全然違うよ。
  そういうことを言っているんじゃない」

 「じゃあ、誰がさっちゃんの恨みを晴らすんですか!」

 「彼女は誰も恨んでないよ」

 「そんな綺麗ごとで流せないです!」


 ヤマトはヤオ子の目をしっかりと見て続ける。


 「本当だよ。
  彼女は誰も恨んでない。
  彼女の顔は微笑んだままだったよ」

 (微笑んだままだった……?)


 ヤオ子は俯く。


 「でも……。
  でも……」

 「君は、彼女に恨みを持ったまま死んで欲しいのかい?」

 「…………」


 ヤオ子は俯いたまま、首を振る。


 「彼女は、最後に君に何て言ったんだい?」

 「……ありがとう…って」

 「そう言ってくれた彼女は、君の手が血に染まるのを悲しむよ……」

 「……でも、あたしは……忍者です……。
  きっと、いつか人を殺します」

 「そうかもしれない。
  でも、今じゃなくていい」


 ヤマトはヤオ子の頭に手を置く。


 「まだ、大人を頼っていいんだ。
  ボクを……。
  イビキさんを……」

 「でも、悔しいんです……。
  憎いんです……」

 「自分で復讐を果たすと、もっと辛くなるよ。
  人を殺すのなんて気持ちのいいもんじゃない」


 ヤオ子は自分の胸の服を掴む。


 「でも、ここが苦しいんです……。
  さっちゃんの仇を取らないと……」

 「罰は必ず下される。
  だけど、それは君がすることではない。
  苦しいのは分け合おう」

 「ヤマト先生……」


 ヤオ子が顔を上げると、ヤマトはヤオ子に頷き、頭を撫でる。


 「彼女が亡くなってボクも悲しい。
  胸が痛いよ……。
  これで半分こだ」

 「ヤマト先生……」


 ヤオ子はヤマトに抱きついて、再び泣き始めた。


 「イビキさんが、君の代わりに罰を与える。
  これで、また半分こだ。
  まだ我慢出来ないかい?」


 ヤオ子は首を振り、涙を拭う。
 それでも、涙は止まらない。
 ヤオ子は暫く涙を止めることだけに集中し、涙を拭い、必死に息を整える。
 頭の中では薬売りの憎しみとヤマトの気持ち……そして、友達の微笑んだ顔が駆け巡る。
 やがて、涙が止まるのを確認すると、ヤオ子はゆっくり立ち上がる。


 「イビキさんに……。
  謝ってくる……」

 「暴れちゃダメだよ?」

 「はい……」

 「信じてるよ」


 ヤマトがヤオ子をそっと押し出すと、ヤオ子は再びイビキの元に向かった。


 …


 廊下をゆっくりと進み、ヤオ子は奥の部屋の扉を見つめる。
 もう一度、気持ちを整えると、ヤオ子は扉を開けた。
 そこにはイビキの背中がある。
 イビキの正面に犯人の薬売りが居る。


 「……何だ?」

 「…………」


 ヤオ子は答えない。
 気持ちだけ何とか整っただけで、まだ何と言っていいかはこれから考えるところだった。
 しかし、不意打ちのように、代わって薬売りがヤオ子に言葉を浴びせた。


 「さっきのガキか。
  やっぱり、アイツは死んだんだな」


 その言葉は整えた気持ちを再び乱すのに十分過ぎる言葉だった。
 ヤオ子は歯を喰い縛り、止まっていた涙も流れ始めていた。
 胸の中では、今にも飛び掛かってしまいたい衝動が駆け巡っていた。
 しかし、それでも我慢する。
 自分の気持ちを信じてくれたヤマトのために……。
 そして、目の前のイビキのために……。
 今は自分以外の誰かに頼らなければ、心は直ぐにでも憎しみに支配されてしまう。
 ヤオ子はイビキに近づくと、イビキの黒いオーバーを握る。


 「ごめんなさい……。
  あたしは……もう少しで、一番簡単で卑怯な手段を取るところだった……。
  あたしが……。
  あたしが未熟だったから、さっちゃんを助けられなかったのに……」


 ヤオ子は目蓋を強く閉じ、目に溜まる涙を外に追い出す。


 「あたしの気持ちを……。
  貰ってくれて…ありがとう……」


 言葉を必死に搾り出し、床を涙が叩く音は誰の耳にも届いていた。
 悔しい気持ちを必死に抑えて、ここまで来たヤオ子にイビキは言葉を掛けた。


 「お前は、まだ子供で居ろ。
  しっかり、忍者がどういうものか見極めろ」

 「はい……。
  ・
  ・
  あたしの用は……。
  それだけです……」


 ヤオ子がイビキの黒いオーバーを放し、振り返るとそっと頭に手を乗せられる。


 「分かればいい……。
  お前達の憎しみは、オレ達、大人が貰っていく。
  そうすれば、お前達が大人になった時には憎しみはなくなっている。
  ・
  ・
  だけど、もし、お前が大人になった時、周りに憎しみが溢れているようなら、
  今度は、お前が子供達のために憎しみを貰ってやれ」

 「……はい」


 ヤオ子は、またグシグシと鼻を鳴らして涙を拭う。


 「イビキさん……。
  あたしを止めてくれて、ありがとう……」


 ヤオ子は静かに部屋の扉へと歩き出した。
 そのヤオ子の背中に、また声が浴びせられる。


 「木ノ葉は、忍者の質が甘いんじゃないか?
  忍が涙を見せるなんて?」


 ヤオ子は足を止め、涙が再び床を叩いた。
 だけど、今度は自ら顔を上げた。
 自分の未熟を他人のせいにするのはやめた。
 ヤオ子が部屋を出ると、イビキは薬売りに語り掛ける。


 「あれは忍者じゃない」

 「へっ!
  どうしようもないな!」

 「あの子は子供だ。
  まだ守られるべき存在なのだ。
  その木ノ葉の未来の種をお前は傷付けた」


 イビキが薬売りに視線を向けた時、イビキの部下が現れる。


 「護送の準備出来ました」

 「そうか……」


 イビキは薬売りに話し掛ける。


 「一つ訂正しておく。
  現時点で、アイツは確かに忍者ではない。
  だが、どうしようもない奴でもない。
  アイツは自分の未熟から目を逸らさず、忍び耐えることを選んだ。
  忍者になる資格は持っている」


 イビキの視線が鋭さを増す。


 「簡単に死ねると思うな……。
  お前には聞きたいことが山ほどある」


 イビキが睨みつけると、薬売りは恐怖で押し黙った。
 そして、男が護送されたことで、ヤオ子の任務は終了を迎えた。


 …


 事件のあった次の日から、ヤオ子は医療部隊の忍者と子供達の看病を行い続けた。
 サチのお葬式にも参加した。
 気が晴れることはなかったが、何かをしていないといけない気がした。

 そして、数日後……。
 ヤオ子は、友達だった女の子のお墓の前に居る。


 「お別れです……。
  さっちゃんのことは絶対に忘れません。
  あたしの初めての同い年のお友達です。
  ・
  ・
  任務で近くに来た時は、必ず会いに来ます。
  約束です」


 ヤオ子はお墓の周りを見回し、目を伏せる。


 「少し……寂しいですね」


 ヤオ子は落ちている枝を拾い集め、サチの墓の直ぐ横の地面に枝を刺すと、ポケットから取り出した毛糸の輪を枝に引っ掛け花を作った。


 「教えてあげたかったお花です。
  春になって花が咲き乱れるまでの代わりです」


 ヤオ子の肩に、ヤマトが優しく手を置く。


 「話は済んだかい?」

 「はい」

 「じゃあ、行こうか?」

 「はい。
  ・
  ・
  さっちゃん……。
  さようなら……」


 ヤオ子は少しだけ大人になり、木ノ葉の里へと戻って行った。



[13840] 第43話 ヤオ子の初Cランク任務⑤
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:47
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 木ノ葉への帰宅の途……。
 帰りは行きと違い、静かだった。
 ヤオ子は、一言も話していない。
 そして、半分以上の道のりを歩き切ったところで、ヤオ子はようやく重い口を開いた。


 「ヤマト先生……。
  任務失敗ですね」

 「どうして?」

 「…………」


 ヤオ子が言葉に出さずとも、ヤマトには察しがついた。
 今まで掴みどころのない女の子と思っていたヤオ子だが、芯の部分は責任感が強い子だった。
 今回の任務では、それがよく分かった。
 ヤマトは歩きながら、ヤオ子に話し掛ける。


 「今回の任務を、ボクは失敗とは思わない」

 「どうしてですか?」

 「君の友達が亡くなったのは悲しいことだけど、
  君のお陰で他の村の子供達は救われるはずだ」


 ヤオ子は少し間を空け、呟く。


 「……あたしじゃないです」

 「違うよ。
  君も頑張った。
  ・
  ・
  あそこに居た人達で手を抜いていた人が居たのかい?」

 「……いません」

 「だったら、皆の成果だろう?」

 「……そうなのかもしれない」


 あの色々と失った日……。
 自分は未熟だった。
 そう感じたのは、自分が取り組んでいた日々の姿勢のせいでもあった。

  忍者になりたくない。

   危険なことはしたくない。

 そのせいで忍としての修行を何処かで手を抜いていたのではないか。
 そのせいで大事な友達を失う結果になったのではないか。

 だけど……。
 あの時、あの場に居た時に手は抜いただろうか?
 全力を尽くさなかっただろうか?
 いいや、全力だった。
 それだけは嘘じゃない。


 「目的の薬売りは捕まえた。
  成果も、ちゃんとあったんだ」

 「そう……ですね。
  成果も皆で半分こですね」

 「そうだ。
  出来なかったことを受け止めるのも大事だが、
  出来たことに胸を張れなければいけないと、ボクは思うよ」

 「ヤマト先生……。
  ありがとう」


 ようやく気が緩んだヤオ子を見て、ヤマトはヤオ子に微笑んだ。



  第43話 ヤオ子の初Cランク任務⑤



 ヤマトとヤオ子は行きと同様に途中で夜を明かし、明方、木ノ葉に到着した。
 そのまま任務の報告へと足を向け、紹介場ではコハルが待っていた。
 任務の報告を受け、コハルはヤオ子に話し掛ける。


 「辛い任務であったな」

 「はい」


 ヤオ子はコハルに普段通りの声で返し、この時には落ち込んでいる素振りは見せなかった。
 コハルとヤマトは、それが気持ちを建て直そうとするヤオ子の見えない無理あることは薄々気付いていた。


 「今日は、ゆっくりと休め。
  明日からまた、いつも通りの任務を言い渡す」

 「はい」

 「では、下がってよい。
  ヤマトは残るように」


 ヤオ子はヤマトに小さく頭を下げる。


 「では、ヤマト先生。
  お先に失礼します」


 コハルはヤオ子の後姿を見送ると、ヤマトへ訊ねる。


 「お前の報告書に指示があったから、休暇を一日だけにしたが……。
  いいのか?
  明日から、任務をさせて」

 「体を動かさせてあげてください。
  ヤオ子は、その方が楽なはずです」

 「そうか……。
  お主達の任務の成果は、後日、結果が出る。
  今は各村に医療部隊を回らせておるからな」

 「はい」


 コハルが座り直す。


 「さて、もう一つの方だ。
  ヤオ子の能力は、どうだ?」


 ヤマトは右の掌を返す。


 「かなりのものだと思います。
  本人はチャクラの量や体術の欠点をあげていますが、
  比較対象は、うちはサスケのようです」

 「それでは無理があるはずだ。
  あやつは、中忍試験の本戦まで残った奴だぞ」

 「はい。
  実際、アカデミーで習う術は習得済みでしたし、
  それ以外の術も習得しています。
  それだけでなく、本人は自分の属性を理解して術の習得もしていました」

 「大したものだ」

 「しかも、オリジナル忍術まで開発して」


 ヤマトの言葉にコハルが思い出したように話す。


 「そこら辺は、母親譲りだな」

 「母親?」

 「くノ一だったのだ。
  里の『きょうき』と呼ばれたな」

 「それは……自来也様では?」

 「木ノ葉の都市伝説の方だ」

 「都市伝説?」

 「狂った姫と書いて『狂姫』として伝わっておる。
  悪い噂八割で、良い噂二割だ」

 「……気になりますね」

 「まあ、今となっては、
  尾ひれがついて全然違うものになっているがな」

 (どんな親子関係なんだろう?
  遂に親の二つ名まで出て来ちゃったよ……)

 「報告は、以上か?」

 「いえ、もう一点。
  ヤオ子には忍者としての欠点がありました。
  心の部分の成長が技術に伴っていないのです」

 「忍びとしての覚悟のことか?」

 「いいえ……。
  純粋に子供であるということです」

 「子供か……」

 「我々は大きな勘違いをしていました。
  彼女の子供らしからぬ知識や行動から、肝心なことに気付かなかった。
  そして、それはじっくりと育ててあげなければいけないことです。
  何故、忍が必要なのか?
  何故、武器を握るのか?
  彼女が子供だからこそ、しっかりと覚えさせなくてはいけません。
  彼女はアカデミーにも行っていないので、認識も成長も中途半端です」

 「そうだな……。
  未来を担う忍になるなら、しっかりと理解させないといけないな」

 「はい。
  だから、彼女には任務をさせながらも、もう暫く子供でいる時間を与えてください。
  次の段階に進む時は、ボクが判断します」

 「うむ……。
  よく分かった。
  ・
  ・
  他は、ないな?」

 「はい」

 「では、また暫く暗部に戻って貰うぞ」

 「分かりました」


 ヤマトが退室すると、コハルは椅子の背にもたれて呟く。


 「一体、どんな忍になるのか……。
  母親のようにだけはならないで欲しいものだ」


 コハルは溜息を吐いた。


 …


 任務の報告を終えたヤオ子は自宅に帰らず、そのままの足で木ノ葉病院を訪れていた。
 何故かサスケに無性に会いたかった。
 口では悪く言っても、何だかんだで最後に頼りにするのはサスケだった。

 そして、ヤオ子はサスケの病室へと歩いて行く。
 今日は面会謝絶の札は掛かっていない。
 中を見ると、寝たきりのサスケ以外誰も居なかった。

 ヤオ子は隣の面会謝絶の札を勝手にサスケの部屋の扉につけると扉を閉め、サスケの近くの椅子に座った。


 「サスケさん……。
  そのままでいいんで聞いてください」


 ヤオ子は寝たきりのサスケに懺悔をするつもりで面会謝絶の札を掛けたのだった。


 「あたし、Cランクの任務をして来ました。
  そして……。
  初めての同い年の子と友達になったんです。
  直ぐに……亡くなっちゃったんですけど」

 「…………」

 「その時、犯人を殺そうとしました。
  復讐です」

 「…………」

 「許せなかったんです」

 「…………」

 「サスケさんは、こんな辛い思いを背負っていたんですか?
  一族全員だから、もっと辛いんですか?」

 「…………」

 「あたしは復讐できませんでした。
  今でも胸には、何か晴れない気持ちが残っています」

 「…………」

 「でも……。
  きっと、この気持ちとは向き合えると思うんです。
  ヤマト先生やイビキさんと半分こしたら、少しですが楽になりました。
  一人では抱えきれなくても、あたしには一緒に向き合ってくれる人達が居るからです」

 「…………」


 ヤオ子は目を擦る。
 そして、暫く何も言わないサスケを見つめる。


 「えへへ……。
  話したら楽になりました。
  地面に穴掘って叫んだ人みたいに。
  ・
  ・
  サスケさんの気持ちも誰かと半分こ出来れば、
  きっと、少しは楽になれるのに……。
  ナルトさんやサクラさんじゃ、ダメなんですか?」

 「…………」

 「いっそのこと、カカシさんを騙して復讐する仲間に取り入るとか?」

 「…………」

 「そういうタイプじゃないですね。
  ありがとうございました。
  あたし、行きます」


 ヤオ子は窓際を見つめる。
 そこには一輪の花が花瓶に飾られていた。


 「お花がある……。
  誰かがお見舞いに来ているんですね」


 ゆっくりと立ち上がり、ヤオ子はサスケの足の方に移動する。


 「数日振りなので、インクが薄くなっているかもしれません。
  書き直しますよ~」


 ヤオ子は勝手にサスケの足の裏を確認する。


 「思ったほどでもないか。
  でも、一応。
  ・
  ・
  え~と……ヤ──」


 ヤオ子がマジックで前回の文字をなぞろうとした時、サスケの踵がヤオ子の口に突っ込まれた。


 「んむぅ!」

 (何これ!?
  起きてる!?
  起きてるって! 絶対!
  サスケさん、意識覚醒してます!)


 ヤオ子がサスケの踵を吐き出し、足の裏に目をやる。


 「ひィィィ!」


 涎で擦れた文字が『ヤオコラブ』から『ヤオコロス』に変わっていた。


 「何これ!?
  ワザと!?
  偶然!?」


 訳が分からない状態で、ヤオ子は慌ててサスケの足の裏を雑巾で拭き取る。


 「こわっ!
  何か怖い!」


 ヤオ子は、一目散でサスケの部屋を逃げ出した。
 そして、その後に訪れたサクラが数分の間だけ席を外したうちに面会謝絶の札が下げられ、パニックを起こしたとか起こさなかったとか。


 …


 数日後……。
 ヤオ子は、普段通りのDランクの雑用任務をこなしていた。
 そして、今日は任務報告を終え、久々の午後の早引きをしていた。


 「毎週金曜はケーキ屋さんのアルバイトみたいですね。
  あそこの店長、いつ自立できるんだろう?」


 ヤオ子の手には大き目のケーキの箱が二つ握られている。


 「帰り際に医療部隊の人には差し入れしたからOKでしょ。
  あたしの掴んだ情報だと、この通りをヤマト先生とイビキさんが──。
  ・
  ・
  あ! 発見!」


 ヤオ子は街道を歩くヤマトとイビキに駆け寄り、元気よく声を掛ける。


 「こんにちは!」


 ヤオ子の声に二人が振り向く。


 「どうしたんだい?」

 「えへへ……。
  ちょっとね。
  ・
  ・
  何ですか? イビキさん?
  あからさまに嫌そうな顔して」

 「これが普段の顔だ」

 「そうですか」

 (このガキ、何しに来たんだ?)


 ヤオ子に関わった下忍の試験以来、イビキは未だにヤオ子に苦手意識を持っていた。
 例え、ワンクッション挟んでヤオ子の違う一面を垣間見たとしても、それは簡単に拭い去れるもではなかった。

 そのイビキの胸中など知ることなく、ヤオ子は笑顔で持っていた白い箱を差し出す。


 「はい。
  こっちがヤマト先生。
  こっちがイビキさん」


 ヤオ子に手持ちのついた白い箱を手渡されると二人は疑問符を浮かべ、ヤマトがヤオ子に訊ねる。


 「何これ?」

 「あたしの気持ちです。
  この前、ありがとうございました」


 ヤオ子がヤマトとイビキに微笑みながら頭に手を当てる。


 「お礼は、前にも言ったんですけど、形でも渡したいな……なんて思って。
  任務で行ってるケーキ屋さんの店長に頼んで、職場と材料を借りて作りました」

 「手作りケーキか」

 「オレは、こういったものは……」


 イビキは複雑な顔をしていた。


 「はは……。
  イビキさんは、そういうの食べなさそうですもんね。
  でも、そうじゃないかと工夫しました。
  イビキさんの箱には『苦い』と『甘い』が両端についてるでしょ?」

 「ああ」

 「チョコレートケーキの甘味が違うんです。
  真ん中が普通。
  大人の男の人でも大丈夫だと思いますよ」

 「気を遣って貰って悪いな……ありがとう」


 イビキの微笑む顔を見て、ヤオ子は顎の下に指を当てる。


 「へ~。
  イビキさんって、そうやって笑うんですね」

 「まあな。
  それにしても……こんなに食べれんぞ?」

 「部隊の皆さんで食べてください」

 「ああ。
  ありがたく頂くよ」


 ヤマトも複雑な顔をして、ヤオ子に訊ねる。


 「ヤオ子……。
  ボクは、この量をどうしろと?」

 「カカシさんとか試験の時のお仲間が居るでしょ?
  種類が全部違うから、皆さんで、どうぞ」

 「そうするかな?。
  そうなるとアンコさんに頼まれてた団子は、どうしよう?」


 ヤオ子はヤマトに指を立てる。


 「あたしの勘ですけどね。
  買った方がいいですよ」

 「どうして?」

 「『団子は、別腹』って言って文句言います」

 「…………」

 「ヤオ子に従おうかな」


 そんな会話をして、三人は笑いあった。
 ヤオ子は振り返りながら手を上げる。


 「じゃあ、これで」

 「「ありがとう」」

 「どういたしまして。
  ・
  ・
  あ! ヤマト先生!」

 「うん?」

 「年上もいいもんですね!」


 ヤオ子は笑いながら大きな置き土産を残して去って行った。


 「何だ? 今のは?」


 首を傾げるイビキの横で、ヤマトは額を手で覆う。


 「しまった……。
  捕食リストにエントリー権が立った……」


 ヤマトがイビキに捕食リストの話をすると、イビキは苦笑いを浮かべた。
 しかし、ヤオ子にいつも通りの明るさが戻って来たので、ヤマトとイビキに悪い気はしなかった。


 …


 追伸1:
 その後、尋問部隊でチョコレートケーキのビター風味が流行った。

 追伸2:
 やはり、アンコは『団子は、別腹』と言い切った。
 そして、ヤオ子の通うケーキ屋に上忍の常連さんが少しだけ増えた。



[13840] 第44話 ヤオ子の憂鬱とサスケの復活
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:47
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 Cランクの任務以降、ヤオ子はDランクの任務をひたすらこなす毎日を送っている。
 それ自体は嫌いではないし、自分で望んだことでもある。
 仕事の量も多くて、必死になることで自分が頑張っていると認識出来て気持ちも楽になった。
 しかし……。


 「本当に全部受ける必要あるの~……」


 最近は、ややお疲れ気味。
 ちなみに、今日も副担当の中忍は死に掛けている。
 その中忍の首根っ子を持って、ヤオ子はズルズルと引き摺っている。


 「途中まではいいんですよ。
  あたしの1時間おきの任務が終わると勝手に交代するから。
  ・
  ・
  ただ最近、最後の中忍が末期で必ず運ばなきゃいけないんですよ。
  股間蹴り上げても動かないし……。
  休ませるなら、点滴が必要なんじゃないの?
  ここまでして任務をこなす必要があるのか……ってーのっ!」


 紹介場に着くと、ヤオ子は中忍を投げ捨てた。



  第44話 ヤオ子の憂鬱とサスケの復活



 今日の紹介場の担当は、ご意見番のホムラだった。
 中忍は床の上に死んだように転がり、ピクリとも動かない。


 「ご苦労だったな」

 「もう、副担当の中忍いらない!
  コイツら、あたしの足しか引っ張らないじゃないですか!」

 「そう言うな。
  忙しい任務で体を休めることが出来るのは、お前の担当の時だけなんだから」

 「それ……激しく間違っていません?
  他の子の担当を見ましたけど、ちゃんと動いてましたよ」

 「将来有望な忍になるかもしれんのだ。
  ちゃんとした忍を着けるのが当然だろう」

 「あたしは?」

 「いつ辞めるか分からんのだろう?」

 「今、辞めましょうか?」

 「里の力が回復してからという約束だ」


 ヤオ子は額に手を置きながらイライラを噛み殺す。
 そして、暫くして冷静になると腰に手を置いてホムラに質問する。


 「自分で言うのも変ですが、
  あたしって馬車馬みたいに働いてません?」

 「そうだな……。
  同じ同期の6.7倍ぐらいか?」

 「ろ……そんなに!?」

 「一年後ぐらいには百倍ぐらいの差が出るかもな。
  お前の仕事量は、日々右肩上がりで増えているからな」

 (笑えない……)

 「いい人材を手に入れたもんだ。
  死ぬまで扱き使ってやるからな」

 「木ノ葉って、ドSで構成されてるんじゃないの?
  バファリンですら、半分はYASASHISAなのに……」

 「まあ、いいではないか。
  ヤオ子に支払ってる額は凄いぞ」

 「ああ……。
  この前、作った通帳に振り込まれてるっていう……」

 「見とらんのか?」

 「はい」

 「では、どうやって生活しているんだ?」

 「まあ、大抵のものは任務先で拾ったり貰ったりですね。
  電化製品は、ほとんど直せるし」

 「お前は、どんどん忍者から離れるな……」

 「うち貧乏ですからね。
  冷蔵庫もラジオも風呂釜も蛍光灯も、
  皆、あたしが直した中古品でした」

 「直るものなのか?」

 「まあ、知ってる技術が応用されていれば」

 「そうか……。
  今度は電化製品の修理工の助手を追加するか」

 「誘導尋問!?」

 「とは、言ったものの……。
  最近、お前の指名が増えて来たからな」

 「木ノ葉おかしいって……。
  出来ないなら断りなよ……」

 「そうは言っても、
  大名直属の依頼も入るからなぁ……」

 「ああ……。
  この前の家庭教師ですか」

 「そうだ」

 「あれ、結局のところ、
  忍者を見たいだけでしたよ?」

 「そうなのか?」

 「はい。
  だって、『勉強したら、忍術を見せてやるからな』って、依頼主のパパが言ってました」

 「じゃあ、他の忍でも良かったのか」

 「ええ。
  簡単な因数分解が出来れば問題ありません」

 「ちょっと待て。
  変な単語が出た。
  ・
  ・
  因数分解を解けなければ、ダメではないか」

 「あんなもん。
  教科書の公式を暗記すればいいだけですよ」

 「絶対違う……。
  引き続き、ヤオ子にお願いしよう」


 ヤオ子は腕を組む。


 「あたしじゃなくてもいいでしょ?
  もっとインテリ系忍者が居るでしょ?
  日陰の忍者みたいのがさ」

 「何だ? それは?」

 「まあ、いいです。
  あたしがやりますよ」

 (気になるな……)


 ホムラは咳払いを入れる。


 「後、他にあるか?」

 「もっと、言ってもいいんですか?
  明日の朝まで、しゃべり倒しますよ?」

 「やめてくれ……」

 「じゃあ、聞かないでくださいよ。
  これ、本日の結果です」


 ヤオ子が巻物をホムラに渡す。


 「確かに預かった。
  ・
  ・
  また、巻物を新調するか。
  もう、後が書けん」


 ホムラは巻物を確認すると巻き直す。


 「では、ご苦労様」

 「はい。
  失礼します」


 ヤオ子が退室すると、ホムラは呟く。


 「本当にいい拾い物だったな。
  あれだけ働かせて発狂しないんだから」


 ホムラは巻物を置くと、椅子に深く腰掛け直した。


 …


 辺りは既に夕闇に覆われ、帰り道でヤオ子は大きく伸びをする。


 「最近、デスクワークが多くて困りますね。
  瞬身の術を使いこなすことがサスケさん打倒の鍵と踏んだんですけど、練習不足だな……。
  変わり身の術とは、また別のスキルなんですよね。
  最終的にはカカシさんが現れるみたいに、木の葉を巻き上げて現れたりしたいですね。
  一回一回煙玉は使いたくないので。
  ・
  ・
  やっぱり、早く動くにはサスケさんみたいにチャクラを足で爆発させるようにして、
  高速移動しないといけないんでしょうね」


 時期的には雑用中心の下忍になって、そろそろ一ヵ月が経とうとしている。
 ヤオ子は一人暮らしと両親の八百屋の建て直しを考える。


 「引越しは、いつにしようかな?」


 そんなことを考えているうちに、ヤオ子は仮設住宅の自宅へと帰宅した。


 …


 次の日……。
 ピーンとヤオ子のレーダーが反応した。


 (それは午前中の何ともない任務中に起きました。
  忘れていた旋律……。
  マスター・サスケのフォース……。
  そう、この背中を走る悪寒──)


 ヤオ子は半田ごてを落とし、そのせいで工場のベルトコンベアが止まる。
 隣のおじさんが半田ごてを拾いあげる。


 「どうしたの? ヤオ子ちゃん?」

 「ド……」

 「ど?」

 「ドSの復活だーっ!」

 「何!? どうしたの!?」


 工場中の職員がヤオ子に注目した。
 そして、暫し後にヤオ子は我に返る。


 「すいません。
  取り乱しました。
  ・
  ・
  半田ごて、ありがとうございます」


 ヤオ子はおじさんから半田ごてを受け取り、周りの人達に頭を下げた。
 隣のおじさんは、心配そうにヤオ子に声を掛ける。


 「しっかり頼むよ。
  熟練の技術者さんがぎっくり腰になっちゃって、
  ここの細かい半田を当てるのは、ヤオ子ちゃんにしか出来ないんだから」

 「任せてください。
  きっちりとこなします。
  ・
  ・
  それはそうと……。
  退屈な日々にも飽きていたんです。
  そろそろ真のドSの刺激が欲しいと思っていたところです」


 ヤオ子は『ククク』と凶悪な笑みを浮かべると、テキパキと流れるベルトコンベアの電子部品に半田ごてを当て始めた。


 (この子……。
  ちょっと怖いな……)


 おじさんは、幼い女の子に恐怖を覚えた。


 …


 工場のおじさん達とヤオ子の仕事が終わった頃……。
 サスケは木ノ葉病院の屋上でナルトとの一騎打ちをカカシにより、お流れにされていた。
 ヤオ子のレーダーが、更に強く反応する。
 ヤオ子は中忍を引き摺りながら、道の真ん中で立ち止まる。


 「……拙いですよ。
  目覚めたばかりなのにいきなり不機嫌になってます。
  何で?
  ・
  ・
  誰かいきなりあのドSの尻尾でも踏みつけたの?
  もしかして……あたし? あたしか!?
  やっぱり、あの時、起きてた!?」


 そして……。
 サスケはカカシの前から逃げ出したあと、ナルトの螺旋丸の威力を目の当たりにしてイライラが頂点に達した。


 「拙いよ!
  拙いよ拙いよ!
  拙いってーっ!」


 ヤオ子は、何処かの芸人のように叫ぶ。


 「と、とりあえず!
  任務を急いで報告して身を隠さなくては!」


 ヤオ子は中忍を引き摺り、さっさと任務報告を終えると街の中に消えて行った。


 …


 普段、あまり来ない餡蜜屋。
 ヤオ子は、お団子とお茶で気持ちを落ち着けていた。


 「おかしいです。
  何で、サスケさんが急に目覚めたんでしょうか?」


 答え:ナルトと自来也が綱手を連れ帰った。


 「しかも、怒り狂ってます。
  何故でしょうか?」


 答え:強さに対してフラストレーションを溜め込んでいます。


 「誰か何とかしてくれないかな……」


 カカシがサスケのところに向かっています。


 「少し冷静になるまで待ちましょう。
  偶には、お茶飲んでお団子食べて……。
  ・
  ・
  しかし、こんな雰囲気で食べたくないな……」


 ヤオ子はお茶を啜り、事態を見守った。


 …


 夕刻……。
 レーダーのドS反応が弱くなる。


 「何が起きたんだろう?
  怒りが弱くなってる気がする」


 答え:カカシの説得により、現在、サスケ思考中。


 「サスケさんの気配がウロウロしてたってことは、
  無事に退院出来たってことですよね?
  ・
  ・
  会っておいた方がいいはずです。
  今なら、前と違った会話が出来る気がします。
  前の任務の話……。
  聞いて欲しいな……。
  ・
  ・
  まあ、ドSの火種が燻ったままだから、
  油を注いでしまうだけかもしれませんが」


 お会計を持って、ヤオ子はレジへ向かう。


 「すいません。
  安い注文で長い時間居座って」

 「気にしないでいいよ。
  また、来てね」

 「はい。
  ありがとうございます」

 (今度は、いつ来れるか分かりませんけど)


 ヤオ子はサスケの元へと向かうことにした。
 しかし、同時に大蛇丸の部下である音の四人衆も動き出していた。


 …


 ヤオ子が向かう途中で、既にサスケと音の四人衆の接触は始まっていた。
 ヤオ子の視力が音の四人衆をかなり遠くから捉え、その場で立ち止まる。


 「…………」


 ヤオ子は額を押さえる。


 「何で、こんなことに……。
  あたしはサスケさんに会いに来ただけなのに……。
  サスケさんが、エロテロリストに襲われている……」


 ヤオ子は溜息を吐いて、視線を逸らす。


 「前々から、思ってたんです。
  複数いてこそテロリストですよね……って。
  ・
  ・
  ハッ!
  思わず現実逃避を!」


 ヤオ子はサスケの居る木の上を凝視すると、そこにはサスケを囲むように四人が居座っている。


 「集団リンチか……。
  それにしても、何で横一列で戦隊もののヒーローのようにサスケさんを見下しているんでしょう?
  サスケさが悪役なら、仕方ありませんけど……。
  ・
  ・
  しかし、変な人達ばっかりですねぇ。
  まともそうなのは、あの女の子ぐらいじゃないですか。
  ・
  ・
  固有名称がないと呼び難いですね。
  仕方ない借りの名前をつけるか……。
  ・
  ・
  あの手が一杯ある人をエロテロリスト・レッド(東門の鬼童丸)。
  あのポッチャリ系のモヒカンをエロテロリスト・イエロー(南門の次郎坊)。
  頭二つの根暗そうなのをエロテロリスト・ブルー(西門の左近)。
  あたし好みの女の子をエロテロリスト・ピンク(北門の多由也)。
  全員合わせてエロテロリストとしましょう。
  ・
  ・
  ヤバイです。
  敵なのに何かカッコイイ……。
  ・
  ・
  ん?
  あの人達、本当に敵なのかな?」


 ヤオ子は音の四人衆を観察する。


 「何で、同じ服のデザインなんだろう?
  兄弟なのかな?
  でも、木ノ葉も中忍以上は似たようなもんか……。
  ・
  ・
  あれ、余所の里の忍ですよね?
  額当ては……音だ。
  この前、大暴れした里ですよ」


 ヤオ子に一抹の不安が過ぎる。
 しかし、またエロテロリスト達のデザインが気になりだした。


 「あの、横綱がつけてる綱みたいの何だろう?
  デザイン的には、あたしは装備したくない類のものですね。
  色も毒々しいし……。
  装備したら教会に行かないと呪いが解けなくなるんじゃないの?
  ピンクは、絶対にあのデザイン嫌ってますよ。
  でも、妙な帽子被ってるしな……。
  実は気に入ってるのかも……」


 そして、サスケ達が少し話し合った後に戦いが始まってしまった。


 「サスケさん……。
  四対一でやり合おうなんて……。
  ・
  ・
  若気の至りですかね?
  『認めたくないものだな。
   若さ故の自分自身の過ちというものを……』とかって、
  後々、語らないでくださいよ」


 視線の先でサスケは戦いを優勢に進め、相手を投げ飛ばす。


 「やっぱ、ハンパないです。
  あのドS……。
  あたしは、もう手を出せないですね。
  ここから観戦させて貰います。
  助けに入れるレベルじゃない……。
  ・
  ・
  あれ?
  さっきの変わり身か……。
  エロテロリストもやりますね。
  ・
  ・
  ところで……。
  あたしは人を呼ぶべきなんでしょうか?
  というか、あれだけ派手な音を立てて誰も気付かないんでしょうか?」


 戦いは激化していく。
 サスケと四人衆の戦いで周囲の建物が壊れ始めた。
 そして、優勢と思われたサスケが徐々に痛めつけられていく。


 「袋叩きにされるサスケさんを見るのも悦なんですが……拙いですね。
  ・
  ・
  冗談抜きに殺されかねません」


 様子を見ていたヤオ子の顔が真剣なものに変わる。


 「初めからチャクラを練り込んで接近しますか……」


 ヤオ子はチャクラを少し練り上げ、自分の状態を確認する。
 状態は悪くない……。
 チャクラも、まだかなり残っている。

 戦いへ乱入する前に、ヤオ子は戦闘のおさらいを口にする。


 「ブルーには物理攻撃が効いていないようでした。
  何かネタがあります。
  イエローは力がありそうです。
  レッドは蜘蛛を擬人化したものでしょう。
  手の数と糸が注意です。
  ・
  ・
  ピンクは行動していません。
  止めを刺す役か、戦闘補助に使える術があるため、
  引いていると考えるべきですね」


 ヤオ子は、再度サスケを見る。


 「サスケさんは、まともな忍具すら持っていない状態です」


 両足にあるホルスターを触り、戦力の分配が頭で整理される。


 「どちらかを渡せれば……。
  ・
  ・
  まず、煙玉で視界を奪ってからサスケさんに接触しましょう。
  それからはサスケさんの指示に従います」


 ヤオ子は腰の道具入れから煙玉を取り出し、微弱なチャクラを流す状態を維持する。
 足にはチャクラ吸着による摩擦力を付加して飛び込む準備も整った。
 
 そして、行動を起こそうとした瞬間、また事態が変わる。


 「何ですか? あれは?」


 サスケを含め、全員に呪印が浮き出していた。


 「っ!
  迂闊に近づけなくなりました。
  ・
  ・
  まさか……細菌兵器でも撒いた?
  だとしたら、里全体にバイオハザード警報発令です。
  ここは一回引いて、ヤマト先生か誰かを──」


 ヤオ子が応援を呼ぼうと行動を切り替えた時、サスケと音の四人衆の会話は終わり、音の四人衆が去る。


 「どう…しましょうか……」


 辺りは閑静を取り戻し始め、ヤオ子は、どう行動をすればいいか余計に分からなくなった。



[13840] 第45話 ヤオ子とサスケの別れ道
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:48
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケと音の四人衆の争いが終わったあと、残されたサスケを見ながら、ヤオ子は困っていた。
 全てが終わって、改めて頭に思い浮かぶのは、サスケにも音の四人衆にも出ていた呪印である。
 ヤオ子は呪印のことを知らないし、知らされていない。
 そのため、呪印発動状態を毒かもしれないと勘違いしている。
 つまり、さっきのサスケ達に浮き出ていた原因が、撒かれた毒だったら一刻を争うことになると困っていた。
 あの音の四人衆が、さっさと去って行ったことが毒を撒いた証拠じゃないか……と、ヤオ子は難しい顔になる。


 「どうしよう……」


 ヤオ子は分からないなりに考えようと、冷静になるため、深呼吸を一つ入れる。
 そして、考えを言葉にすることにした。


 「まず、状況分析をしないといけません。
  でも……。
  サスケさんを含め、全員に変なのが浮き出たのをどう説明すればいいんだろう?」


 そう、状況を順に追っていけば、先に呪印を発動したのがサスケで、次に音の四人衆に呪印が発動した。
 全員に呪印が発生したため、毒だと思っているヤオ子は、毒の発生源をどう判断していいか困っている。


 「エロテロリスト達の毒に、サスケさんが侵されたとも考えられるんですけど……。
  考え方を変えれば、サスケさんが毒を撒いたとも考えられなくないんです……。
  ・
  ・
  そうなると……自爆?
  だけど、サスケさんは奥の手の電気技を持っているんだから、
  そういう戦い方をするとは思えないし……。
  第一、木ノ葉の里の中に居るんだから、
  大声出せば仲間が来るサスケさんが不利とも思えないし……」


 ヤオ子は言葉を止め、暫し考える。


 「ここからサスケさんの家まで遠くないですし、
  万が一にも毒なら、近づいたあたしが死にます。
  よって……。
  サスケさんの家の前で待ちましょう。
  サスケさんが無事に家に辿り着ければセーフ。
  途中で野垂れ死んだら、アウトということで里に報告。
  ・
  ・
  あたしのドSレーダーで生死は確認出来るので、
  サスケさん……死んだ時は許してください」


 サスケが動き出す前に、ヤオ子はサスケの家へと向かった。



  第45話 ヤオ子とサスケの別れ道



 サスケの家の前の扉に寄り掛かりながら、ヤオ子はサスケを待つ。
 そして、暫くしてサスケが現れると、ヤオ子はサスケの様子を慎重に伺う。
 サスケが健康体に見えると、ヤオ子はホッと息を吐き出した。

 しかし、毒の危機は去ったが、ヤオ子は新たに別の危機を感じていた。
 サスケの不機嫌が目に取れる。


 (何かまた、とばっちりを受けそうな気がします)


 ヤオ子が警戒する中、一方のサスケもヤオ子に気付いた。
 サスケはヤオ子の前で立ち止まる。


 「……何しに来た?」

 (怖い……)


 サスケの目は、今まで見たことがないぐらいに鋭い。


 「聞きたいことと話したいことがあって来ました」

 「…………」


 ヤオ子はサスケの視線に怯えながらも質問する。


 「あの人達は、誰ですか?」

 「見ていたのか?」

 「はい」

 「お前には関係ない」

 「答えてくださいよ」

 「オレは、今、機嫌が悪いんだ」

 「それも分かっています。
  でも、聞かなければいけません」

 「何でだ?」


 サスケが、更にヤオ子を睨む。
 しかし、ヤオ子もここは引けなかった。


 「あの人達……。
  毒を散布したんじゃないですか?」

 「毒?」

 「サスケさんとあの人達に変なものが浮き出ていました。
  細菌兵器か何かじゃないんですか?」


 サスケは溜息を吐く。
 やはり、コイツはいつも何処かズレていると。


 「そんなものじゃない」

 「本当ですか?」

 「ああ」


 嘘ではなさそうなサスケの返答に、ヤオ子は安堵する。
 緊張の原因の一つは無くなった。
 ヤオ子はサスケの横を通り過ぎながら話し掛ける。


 「じゃあ、いいです。
  何かあったら、知らせないといけなかっただけですから」

 「一端の忍者気取りか……」


 サスケの言葉にヤオ子は足を止め、左腕に巻いてある額当てに目を落とす。
 そして、それを解くと額当てを覆うように布を巻き直し、左腕に縛り直した。


 「何だ、それは?」

 「あたし、任務失敗して『忍者じゃない』って言われたんですよ。
  願懸けして忍者だって認められたら、
  額当てを晒そうって、今、決めました」

 「相変わらず、おかしなヤツだ」


 気を張った戦いの後なのに、ヤオ子との会話でサスケは少し毒気を抜かれた気分だった。
 そのサスケに、ヤオ子は足を止めたついでに話し掛ける。


 「ねぇ。
  少しお話ししたいんですけど、いいですか?」

 「ダメだ」

 「何で?」

 「時間がない」

 「見たいテレビでも?」

 「そうじゃない」

 「じゃあ、明日は?」

 「ダメだ」

 「明後日は?」

 「ダメだ」

 「じゃあ、いつなら?」

 「…………」


 サスケは目を閉じる。
 音の四人衆との会話を思い出し、一方では、木の葉で過ごしたヤオ子とのやりとりを思い返す。
 そして、質問の答えを心に用意すると返事を返した。


 「会うことがあったらな……」

 「……どういうこと?」

 「里を出る……」


 ヤオ子は、一瞬、分からないという顔をする。
 しかし、直にサスケの目的を思い出し、頭に過ぎる。


 (復讐……)

 「そんな……行っちゃうんですか?」

 「ああ……」

 「じゃあ、さっきの人達は……。
  サスケさんを迎えに?」

 「…………」

 「どうすればいいんですか?」

 「…………」

 「あたし、まだサスケさんにワンパンチ入れてないのに……」

 「…………」

 「復讐……しなきゃいけないんですよね?」

 「…………」


 サスケの目標とサスケを目標にしてきたことが、ヤオ子の頭で交錯する。
 そして、その中で強く思い出されるのが、下忍になってからサスケとした会話だった。
 ヤオ子は、あの時の通りにサスケを認める形で話す。


 「あたしの気持ちは変わっていないから……。
  ・
  ・
  頑張ってください」


 サスケは予想外の言葉に会話を止める。
 誰もがサスケの復讐を反対していたのに……。


 「お前だけは反対しないんだよな」


 ヤオ子らしいと、サスケは苦笑いを浮かべる。


 「本当は──何でもないです……」


 ヤオ子は自ら言葉を遮り、気付いてしまう。
 いつもの行動は好意の裏返し……。
 口では悪口を言っても、サスケに対して嫌悪感がないことを改めて認識してしまった。


 (だって、こんなにも行って欲しくない……)


 ヤオ子は本音を押し殺し、サスケに最後になる会話を続ける。


 「ごめんね……。
  あたし……サスケさんに色々教わったのに役立たずでした」

 「謝るな。
  そんなつもりで忍術を教えたんじゃない」

 「…………」


 ヤオ子は俯き、何も言えなかった。


 「悪くなかったぞ……。
  お前の世話を焼くのも……」


 サスケが最後にヤオ子の頭に手を置く。


 「立派な忍になれ……」


 ヤオ子は頷く。


 「約束します……。
  その代わり……。
  あの時のあたしの思いを……約束にしてください」

 「ああ……。
  ・
  ・
  何だったか忘れちまったがな……」

 「酷い……」


 大事な人が居なくなってしまう。
 二人で過ごした日々は、きっと宝物だった。


 「オレは、もう用意しないといけないからな」

 「はい……」


 通り過ぎようとするサスケを正面から止めるようにヤオ子が抱きつく。


 「今度、会うまでに腕を磨いておきます……。
  その時には『ぎゃふん』と言わせます……」

 「ああ……」


 ヤオ子は別れることが辛かった。
 でも、これ以上、引き止められなかった。


 (あたしは、サスケさんの味方だから……。
  これはサスケさんの戦いだから……。
  ・
  ・
  信じて待つしか出来ない……)

 「今日……。
  あたしは、サスケさんに会っていません」


 サスケはヤオ子の言葉の意味を汲み取り、小さく笑みを浮かべる。


 「ヤオ子……。
  縁があったらな」

 「はい……」

 (ヤオ子……。
  少し変わったな……)


 サスケの知らないところで、ヤオ子は少し成長した。
 その時、復讐について初めて真剣に考えた。
 きっと、その差が出たのだろう。

 ヤオ子は、最後に強くサスケに抱きつく。
 ヤオ子のすすり泣く声は、サスケの耳にも届いた。
 そして、暫くしてヤオ子がサスケを放す。


 「オイ……」

 「あれ……?」


 ヤオ子の顔とサスケの服の間に橋が出来ていた。
 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
 これも最後になるであろう。


 「これから出るのに鼻水をつけるな!」

 「ううう……。
  すいません……」

 (やっぱり!
  変わってねーっ!)


 台無しだった……。
 サスケが里抜けする時、服が変わっていたのは、このせいかもしれない。


 …


 用意のあるサスケを置いて、ヤオ子は自宅に向かって歩いていた。
 振り返って見えるサスケの家を見て、ヤオ子は言葉を漏らす。


 「お別れ……か。
  ・
  ・
  あっけなかったな……。
  これで……終わり?」


 ヤオ子は首を振る。


 「違いますよね……。
  でも、始まりでもありません。
  サスケさんは始めてたんです。
  そして、きっと戻って来てくれる。
  ・
  ・
  あたしだけが、何も始まっていなかったんです。
  何もかも中途半端で……。
  ・
  ・
  サスケさんが忍者の道を開いてくれた。
  ヤマト先生とイビキさんが子供でいられる時間と考える時間をくれた。
  あたしは、あたしのことを始めなければいけません……。
  ・
  ・
  きっと、あたしとサスケさんの未来は、もう一度、交わるはずだから」


 その日、ヤオ子は何もなかったように自宅の仮設住宅へと戻った。


 …


 次の日……。
 ヤオ子が目覚めた時、サスケは里に居なかった。
 そして、街をふらつくヤオ子の耳にも、サスケを追ってナルト達が向かったことが耳に入った。


 「ナルトさん……。
  サクラさん……。
  カカシさん……。
  ・
  ・
  皆、止めたんですね……。
  あたしだけが裏切り者かな……」


 ヤオ子は、サスケが向かった先を知らない。
 そして、向かった先の大蛇丸がサスケの体を次の転生の器にしようとしていることなど知らなかった。

 こうして、サスケとヤオ子の小さな物語は終わりを迎えた。



[13840] 第46話 幕間Ⅲ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:48
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 (サスケさんが去って、色々なことが分かりました。
  サスケさんを追った部隊の人達が大怪我をして帰って来たこと……。
  ・
  ・
  リーさんが、本当は忍を出来ないほどの怪我をしていたこと……。
  それでも無事手術を終えて快方に向かっていること……。
  ・
  ・
  そして──)



  第46話 幕間Ⅲ



 サスケが去って、暫くたったある日……。
 ヤオ子は自分の影分身と一緒にある一室に向かっていた。
 そして、目的の場所の扉の鍵を開けて荷物を運び入れる。


 「今日から、一人暮らしです」


 ヤオ子の両親の家──つまり、八百屋が再建築されて新しくなった。
 それを機にヤオ子は、一人暮らしを始めることにしたのだった。
 両親の説得は、思いの他、簡単だった。


 「いや、寧ろ……。
  『食い扶ち減って、乾杯!』でした」


 ヤオ子は荷物の中から通帳を取り出し、記載されている残高を見る。


 「これだけあれば余裕ですね。
  ・
  ・
  でも、まず引越ししたなら、やらなければいけないことがあります」


 ヤオ子は腰に両手を当てて鼻から一息吐き出し、部屋の中を見回す。
 ヤマトを通して紹介して貰った、一人暮らしのための部屋はアパートの一室で手狭だ。
 今の小さい子供なら十分な広さだが、ヤオ子も成長するし荷物は増えていくことになる。
 ヤオ子は、それを考えた。
 度重なる忍者以外の任務の経験から……。


 「というわけで、ビフォー・アフターをします。
  荷物が少ない今のうちじゃないと出来ませんからね」


 ヤオ子はチャクラを練り上げて印を結び、荷物を運び込んだ影分身を加えて四人になった。


 「開始します!」


 アパートの上下と四方に散る。
 ヤオ子と影分身達は、壁から天井から全ての内壁を剥がし始めた。
 埃が舞い、柱がきしむ音と剥がされる薄い薄い木材が折れる音が響く。
 引越し早々、部屋の中は滅茶苦茶の状態だが、こうすると無駄なスペースが分かる。
 ヤオ子は肩を廻し、ペロリと唇を舐める。


 「さて、本格的に壁もぶち抜いて広くしようかな。
  ・
  ・
  かつての秘密基地は一人だったので二週間も掛かりましたが、
  今のあたしには影分身の術があります。
  引越し休暇で無理やり取った三日間の休日をフルに使いますよ!」


 それから三日三晩、ご近所の騒音問題などお構いなしのリフォームが始まることになる。
 影分身の数は増え、鋸を引き、釘を打ち、耐熱耐震防音の素材を組み込み、何をトチ狂ったか溶接なんかもしてしまった。
 その結果……。
 始めはリビングと小さな台所と洗面所、トイレ、風呂場の三点ユニットバスだった部屋が、改造後は大きな台所、リビングの他に小部屋が二つ増え、洗面所と風呂場のみがセットでトイレは個室になっていた。
 そして、一番力を入れて改造した壁には各種収納機能を追加。


 「大工の任務をして、要らない工具類を貰っといてよかった!」


 ヤオ子は感動しながら拳を握る。
 無用と思っていた技術が無駄に開花し、実を結んでしまった瞬間だった。
 部屋は明らかに二倍以上広くなり、壁をぶち抜き、空中庭園よろしくでアパートの一室は外から歪んではみ出ていた。
 外から見ると長方形だった建物に歪な長方形が追加されているのは、一目瞭然だった。


 「はっきり言って違法建築ですけどね。
  強度と耐久性には、何の問題もありません。
  ・
  ・
  いや、寧ろ上がっています。
  フフフ……」


 バレなきゃ、やっていいの精神。
 木の葉は歪んだ心の持ち主に、手段を与えてしまった。


 「さ~て、次は電化製品を拾って来ますか!
  また都合よく冷蔵庫とか洗濯機とか落ちてるといいな♪」


 その後、ヤオ子は任務の度に電化製品を拾い集めて部屋を充実させることになる。
 そして、それと同時進行に魔のリフォームも続く。


 …


 その妙な改築が終わって、二日後……。
 任務に余裕の出来たヤマトが、ヤオ子を心配してヤオ子の家を訪れる。


 「…………」


 ファーストコンタクトは絶句だった。
 何か聞いていた物件と違う……。
 玄関先で固まるヤマトに、ヤオ子は声を掛ける。


 「ヤマト先生?」


 ヤマトは額に手を置く。


 「働き過ぎたのかな……。
  紹介された部屋よりも遥かに広く見えるんだけど……」


 ヤマトは腰の後ろの道具入れからメモを取り出し、住所を再度確認する。


 (間違ってない……。
  紹介したアパートの一室だ……)


 理由が分からず難しい顔になるヤマトに、ヤオ子は指を立てる。


 「ああ、内装変えたんです。
  それで雰囲気が変わって見えるんですよ」

 「そうなんだ。
  ・
  ・
  って、そんなわけないよ!」

 「時間差……。
  ヤマト先生は、レベルがあがった」


 ヤマトはヤオ子に迫る。


 「そうじゃなくて!
  この部屋、どうしたの!?」

 「例によって弄りました」

 「君が弄ると部屋が大きくなるの!?」

 「あたしのしたいようにすれば、そうなりますね」

 「そんな馬鹿な……」


 ヤオ子は腕を組んで頭を傾ける。


 「そんなに驚きます?
  ヤマト先生と野宿した時、
  家を建てた人のリアクションとは思えませんね?」

 「いや、ボクのは忍術でしょ?
  これは明らかに人の手だよね?」

 「まあ、いいじゃないですか。
  先生が家を建てて、生徒が内装を弄る。
  理想的な関係です」

 「動じないね……君は」

 「はい。
  ・
  ・
  ところで、今日は何しに?」

 「引越し祝いをしようと思って」


 ヤマトは持って来たビニール袋から寿司の折り詰めを取り出して見せる。
 それを見たヤオ子は御礼を言う。


 「ありがとうございます。
  家具とか調理道具が揃ってないんで、料理も出来なかったんですよ」

 (家具が揃ってない?)


 床に散らばる作りかけの木材を見て、ヤマトは溜息を吐く。


 「家具……明らかに作ってたよね?」

 「残骸からでも分かります?
  そうなんです。
  今さっき、本棚を作ったばっかりなんです」

 「本棚……見当たらないけど」


 ヤオ子が壁近くの紐を引くと壁がスライドした。


 「うわーっ!
  壁一面に本棚が!」


 図書館にでもあるような大型の本棚に、ヤオ子はポンと手を置く。


 「凄いでしょ?
  ここにエロ本と漫画を収納するんです」

 「エロ本はやめなさい!」

 「は~い」

 (嘘だな……。
  目がボクを見てない……)


 ヤオ子の趣味の説得は半ば諦め、ヤマトは作り掛けの木材を再度見る。


 「何を作ってたんだい?」

 「箪笥とベッド」

 (……普通、買うものだな)

 「手伝うよ」


 ヤマトは両手を合わせると、木遁忍術で残りの材料を組み上げて箪笥とベッドを作り始めた。


 「そっか……。
  自分で作らなくても、ヤマト先生に頼めばよかったんだ」

 「ボクは、自分で全て自作しようなんて人間を初めて見たよ」

 「えへへ……。
  長年染み付いた貧乏性の業には逆らえません」

 (苦労してたんだな……)


 やがて、ヤオ子の前に出来たての箪笥とベッドが出来あがると、 ヤオ子は『おお!』と声をあげてベッドを触ったり、箪笥の引き出しを引っ張り出したりして確認する。
 満足の出来に、ヤオ子はヤマトに頭を下げる。


 「すいませんね。
  来た早々にお手伝いさせて。
  上がってください」

 「気にしないで。
  ・
  ・
  お邪魔します」


 ヤマトがヤオ子宅に上がり、小さな引越し祝いが始まった。


 …


 引越ししたばかり──正確には現在もリフォーム続行中で家具がないため、床の上に直接腰を下ろす。
 ヤオ子は頭に手を当て、ヤマトに話し掛ける。


 「冷蔵庫とか、まだないんで飲み物とかないんですよ。
  お客様のお持て成しが出来なくて」

 「それも買って来たよ」


 ヤマトが、先ほどのビニール袋を見せる。


 「何から何まで、すいません」

 「冷蔵庫は作らないよね?」

 「はい。
  直すだけです」

 「……はい?」

 「落ちてるヤツを修理すればいいんですよ」

 「本当に逞しいね」


 ヤマトは紙コップにジュースを二人分注ぎ、寿司の折り詰めの蓋を取って床に広げた。


 「さあ、どうぞ」

 「いただきます」


 ヤオ子が割り箸を割って寿司を一つ頂く。


 「おいしいです」

 「よかったよ」


 ヤマトも割り箸を割って寿司を一つ摘まむ。


 「一人暮らしは楽しいですね」

 「そうかい?」

 「ええ。
  自分の城が、どんどん大きくなるみたいで」

 「一ヶ月後には、どうなっていることやら」

 「そうですね。
  予定では、その頃には完成しているはずです」

 「いや、既に完成していた物件を紹介したつもりなんだけどね」


 ヤオ子は可笑しそうに笑っている。
 そんなヤオ子を見て、ヤマトは一息つくと真剣な顔になる。


 「ヤオ子。
  二つほど、報告があるんだ」

 「?」

 「一つは、うちはサスケについて」

 「里抜けした件ですね。
  知ってますよ」

 「何と言っていいか……」

 「気にしないでください。
  あのドSは、いつかすると思ってましたから」

 「里抜けするのを知っていたのかい?」

 「いいえ、詳しくは知りません。
  ただ、『復讐するんだ』って言ってましたから。
  男の子だから、いつか出て行くんじゃないかと思っていただけです」

 「あまり、心配してないね?」

 「サスケさんは強いですからね」

 (大蛇丸のことは話さなくてもいいか……。
  そういう雰囲気でもないし……)

 「もう一つは?」

 「ボクが担当から外れる」


 ヤオ子は箸を止めると、ヤマトに向き直る。


 「何で?」

 「里が大変なのは知っているね?」

 「はい」

 「ボクも掛かりっきりの仕事に着くことになったんだ」

 「そうですか……。
  折角、いい関係になってきたのに」

 「いい関係って……」

 (何だろう?
  素直に喜べない……。
  その言い回し、捕食リストの方じゃないよね?)


 不安に駆られるヤマトを余所に、ヤオ子はジュースを飲み一息つく。
 それから二人は、少し寿司を摘まみ続ける。


 「ヤマト先生。
  そうすると、あたしはどうなるの?」

 「どうも完全なフリーランスになるみたいだ」

 「自由契約?
  ということは、担当も副担当も居なくなるの?」

 「うん。
  君、特殊だからね。
  君の技術に副担当がついていけない。
  もちろん、ボクも」

 「ふ~ん。
  まあ、いっか。
  危ないことはないんだし」

 「君は、ボクをボディガードぐらいにしか思っていないのかい?」

 「いいえ、尊敬してます。
  今のところ、尊敬出来る忍者はヤマト先生とイビキさんだけです」

 「それは光栄だね」


 ヤマトは少し照れる。


 「あ!
  あと、ガイ先生にリーさんも!」

 「そうか」

 (結構、交友関係も広いんだな)


 多分、交友関係はヤマトが思っているより広い。
 何故なら、ヤオ子は任務をこなす度に客先つながりで行動範囲が広くなり、担当する死に掛け中忍達には忘れられない個性を刻み付けている。
 まあ、あの股間を踏みつける行為が交友関係と言えるかは微妙なところだが……。

 ヤマトが話を続ける。


 「特殊な状況になるけど、変わらないことがある」

 「何ですか?」

 「担当を外れるだけで、ボクは君の指導は続けるんだ」

 「よく分かりませんね?」

 「君が成長途中なのは、よく知っている。
  それを途中で放棄するようなことはしたくない。
  つまり、君の先生で居続けるということだ」


 ヤオ子はヤマトに微笑む。


 「ありがたいです。
  あたしも、ヤマト先生の指導を受けていたいですから」

 「よって、Dランクの任務は手伝えないけど、
  Cランク以上の任務に関しては、
  担当する部隊長とボクで君の方針を決めることになる」

 「なるほど。
  でも、そうなるとヤマト先生の負担は大きくないですか?」


 ヤマトは頷く。


 「そうかもしれない。
  だけど、教え子を持つと、皆、こういうものを背負うんだよ。
  そして、それを嫌だとも思わないよ」

 「ヤバイです……。
  ヤマト先生に惚れそうです」

 「…………」

 「君のフォローの話は終わりだ」

 (これ以上は、ボクが危ない……)


 ヤオ子がジュースを注いで一気に煽る。


 「あたしは、今度、いつCランクの任務をするんだろ?
  その時はまた、ヤマト先生が担当だと嬉しいんですけど、
  今の話を聞く限り、ちょっと無理そうですね」

 「Cランクはちょくちょく舞い込むかもしれないよ」

 「え?
  何で?」

 (また、嫌そうな顔してる……)


 ヤオ子の顔を見て、ヤマトは咳払いを入れる。


 「小隊はフォーマンセルが基本だ。
  欠員が出た時に呼ばれるはずだ」

 「え~!」

 「本当にやりたくないんだね……」

 「デンジャーなのは嫌です!」

 「はは……。
  ヤオ子と組むチームは苦労しそうだ」

 (この子、前の任務で少し変わったと思ったのに……)


 あの悲しさを残した任務……ヤオ子の中に何かの転機を与えたのは確かだった。
 だけど、その内面で起きた変化が、ヤマトの目には見えなかった。
 その嫌そうな顔を浮かべていたヤオ子の顔が元に戻る。


 「まあ、Cランクが増えると言っても、Dランクが主流でしょうね」

 「どうして?」

 「Dランクは質より量でしょ?
  その量がハンパじゃないんですよね……。
  あんな量、捌いてたらCランクなんてやってる暇はありませんよ」


 ヤマトの頭でヤオ子の任務結果が過ぎる。


 「君は、本当に頑張っているよ。
  頭が下がる」

 「そう?」

 「ああ。
  此間、君より少し大きい子が泣いてたよ。
  『もう、これ以上働けません』って……。
  その後、
  『アカデミーに帰る』って……」

 「それ、分かりますよ。
  最近の捌き方、変ですもん。
  少しでも余裕を見せると仕事を詰め込みますからね」

 「下忍も大変だね」

 「まあ、こっちは命の危険はありませんから、
  終始緊張している現場より、楽ですよ」

 (楽なのか?)


 ヤオ子は紹介場でのコハルの言伝を思い出し、ポンと手を打つ。


 「あ、そういえば。
  明日から、紹介場は五代目様になるんです。
  あたし、新しい火影様を見てないから楽しみです。
  どんな人でしょうかね?」

 「多分、君好みだよ」


 ヤマトの笑いは引き攣っていた。


 「あたし好み?」

 「今度の火影様は女性だ」

 「歳は?」

 「五十……だったかな?」

 「ババアじゃん……」

 「君、間違っても言っちゃいけないよ。
  殺されるから……。
  それに見た目は、二十前後だ」

 「…………」


 ヤマトが静かになったヤオ子を見る。
 目が逝っていた。


 「えへへ……。
  ナイスバディですか?」

 「多分……」

 「やる気出て来ました!」

 「君、エロパワーで動く車みたいだね?」

 「よく言われます」


 ヤマトは、がっくりと項垂れた。
 その後、暫く話しながら食事をして、最後に引越しのお祝いをあらためて言うとヤマトは帰って行った。


 「木製の家具は、全部揃いましたね。
  明日の任務……楽しみだな♪」


 その日、ヤオ子は早く眠りに着いた。


 …


 一方、新しく火影になった綱手は、付き人のシズネと一緒に忍のリストを確認していた。


 「里の力は、随分と落ちているな」

 「はい。
  ご意見番のお二人が、
  急遽、雑務を担当する下忍を集めるほどですから」


 手元のリストを確認しながら、綱手はお茶を啜る。


 「どいつも、まだまだガキじゃないか」

 「当然ですよ。
  でも、その歳で中忍になった人も居ますよ」

 「いつの話をしている」

 「はは……」


 シズネが誤魔化し笑いをした時、一枚のリストが目に入って綱手は勢いよく吹いた。


 「ど、どうしたんですか!?」

 「これを見てみろ……」

 「はい?」

 「いいから見ろ!」

 「わ、分かりました」


 綱手から手渡される、一枚のリスト。
 それを見てシズネは言葉を失くし、ゆっくりと綱手に視線を戻す。


 「何ですか? これ?」

 「こっちが聞きたい」


 …


 <特例召集下忍試験報告書>  名前:八百屋のヤオ子


 ●第一試験 偽装・隠蔽術と覚悟について(担当:森乃イビキ)

  偽装・隠蔽術能力:
   詳細不明。
   (本人が答えを解き明かしたため)

  覚悟:
   詳細不明。
   (下忍にはなりたいが中忍にはなりたくないと本人が言っているため)

  備考:
   試験問題を自力で解いたから知識はあると思われる。
   しかし、それ以外は全く分からない。


 ●第二試験 実技(担当:はたけカカシ)

  忍術:
   詳細不明。
   (使用してない)

  体術:
   詳細不明。
   (使用してない)

  チームワーク(協調性):
   詳細不明。
   (使用したようなしていないような)

  話術(特別に追加):
   馬鹿みたいに卓越している。

  備考:
   よく分からないうちに試験が終わってしまった。


 ●第三試験 サバイバル(担当:みたらしアンコ)

  移動距離:
   四位 (1/3)

  滞在時間:
   一位 (十六時間)

  サバイバル能力:
   詳細不明。
   (途中、強制終了のため)

  備考1:
   無線機のトラブルなどが重なり詳細不明。
   滞在時間は、二位の子が七時間なのでタフさだけはあると思われる。

  備考2:
   その後、担当上忍の報告により、忍術、体力共に問題ないことを確認。


 …


 <任務報告書>  名前:八百屋のヤオ子

 Aランク:0回
 Bランク:0回
 Cランク:1回
 Dランク:148回 (XXX年XX月XX日現在)

 ※内容は、別紙にて。


 …


 シズネが綱手に声を掛ける。


 「同じ時期に召集された子は、十五、六件のDランクしかしていないのに……。
  何で、この子だけ三桁?」

 「おかしいだろう?」

 「はい」

 「しかも、試験の報告書が『詳細不明』だらけだ」

 「問題児……ですか?」

 「だったら、仕事を任せんだろう」

 「確かに……。
  ・
  ・
  そうだ!
  この子のDランク任務の報告書を見ればいいんですよ!」


 綱手がドンッ!と箱に積み上げられた巻物を置く。


 「好きなだけ見ろ」

 「…………」


 シズネはゆっくりと手を伸ばす。


 「と、とりあえず、一つだけ」


 シズネが手に取った巻物を開く。


 「…………」

 「どうした?」

 「読みます……。
  『XXX社の経理──」

 「待て!
  ・
  ・
  何だ! それは!」

 「いや、だって書いてあるんですよ!」

 「ハァ!?」


 今度は、綱手が巻物を取って開く。


 「『危険爆破物処理の助手──」

 「綱手様!
  何ですか! それは!」

 「ちが──書いてあるんだ!」

 「…………」


 綱手とシズネの視線が交差し、視線は任務報告の巻物の山に移る。


 「何なんですか……これ?」

 「気味が悪いな……」

 「何か、この巻物……。
  これ以上、開きたくありませんね」

 「ご意見番のヤツら……。
  何をやらせてんだ……」


 シズネが手を叩く。


 「そうだ!
  簡易リストがあるはずですよ!」

 「よし! 探すぞ!」


 綱手とシズネがごそごそと箱の中を捜索し、それは一番奥から出てきた。
 綱手が簡易リストを手に取る。


 「あった……」

 「何か、地獄の門を開けるみたいですね」

 「覚悟は、いいか?」

 「はい」


 巻物を開く。


 「…………」


 巻物を閉じる。


 「「聞いたこともない職業が一杯載ってる……」」


 綱手とシズネは、問題を明日のファーストコンタクトに先送りした。



[13840] 第47話 ヤオ子と綱手とシズネと
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:49
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 フリフリと腰まで伸びるポニーテールが右に左に揺れる。
 本日も、ヤオ子はサスケカラーの服を纏って、元気よく紹介場の扉を開けた。
 そこには……本当の桃源郷があった。


 「あはぁ~♪
  火影様~♪」


 一瞬で全てを忘れて、欲望が行動理念のトップに躍り出る。
 ヤオ子は綱手にダイブした。



  第47話 ヤオ子と綱手とシズネと



 付き人のシズネが固まっている。
 綱手も固まっている。
 ここまで子供に好かれた経験はない。
 否……。


 「えへへ……。
  巨乳です♪
  ボンッ キュッ ボンッ です♪」


 ただのセクハラだった。
 ヤオ子は綱手の大きな胸の中に顔を埋め、涎を垂らして両の頬を擦り付けていた。

 当然のように綱手の怪力入りのデコピンが炸裂した。


 「ハウッ!」


 入り口の扉まで吹っ飛ばされたヤオ子に、綱手はキレ気味に指を差した。


 「何だ! コイツは!」

 「や…八百屋……の…ヤオ子…です」

 「どうやら件の人物のようですね」


 綱手とシズネが新種の生き物でも見るような視線を向ける中、ヤオ子はのそのそと立ち上がる。
 そして、視線をシズネにロックする。


 「こっちの人も中々……。
  でも、火影様には適いません」


 ヤオ子は新たなリストに追加した二人に、喜びの余りクネクネと悶えていた。
 綱手は目を座らせて呟く。


 「ただの変態ではないか」

 「そうですね……」


 その言葉に、へんた──ヤオ子は憤慨する。


 「違います!
  あたしはドスケベです!
  変態と一緒にしないでください!」

 (どっかで聞いたセリフだな……)


 綱手は嫌な懐かしさを感じていた。
 そんな中、ヤオ子が綱手とシズネを指差す。


 「ところで、あの……お二人は?」

 「さっき、火影と認識していただろう」

 「すいません。
  セクハラしたくて適当なことを言いました。
  お二人が誰かなんて確証はありません」

 「シズネ。
  ・
  ・
  とりあえず、殴れ!」

 「はい!」


 シズネのグーがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は頭を両手で擦る。


 「痛いな~」

 「全然効いてないではないか。
  もっと、本気で殴れ」

 「かなり力を入れましたよ?」

 「いや、かなりいい線、いってましたよ。
  ただアンコさんは地面に減り込むまで殴りますからね~」

 「無理……。
  私には、そこまで強く殴れない……」

 (変なヤツだな……)


 ヤオ子はシズネを指差す。


 「シズネさん?」


 シズネが頷く。
 ヤオ子が綱手を指差す。


 「火影様?」

 「そうだ」

 「名前は?」

 「綱手だ」

 「覚えました。
  一生忘れません」

 「…………」


 綱手とシズネは顔を見合わせると溜息を吐いた。


 …


 綱手がシズネの淹れてくれたお茶を啜る。


 「いくつか質問したい」

 「何ですか?」

 「この報告書は、何だ?」

 「Dランク任務の報告書」

 「違う!
  そうではない!」


 ヤオ子が首を傾げる。


 「内容のことだ」

 「虐待の歴史……」

 「…………」


 綱手が紙を丸めるとヤオ子に向かって指で弾く。


 「イタッ!」

 「真面目に答えろ!」

 「真面目も何も……。
  コハルさんにでも聞けばいいでしょ?」

 「本人に聞いて、何が悪い!」

 「だって、その仕事を選択するのコハルさん達ですよ?
  あたしが、どういう意図で依頼を受けてるかなんて分かる訳ないでしょ?」

 「それも……そうだな」

 (綱手様が納得させられた……)


 綱手が溜息を吐き、リストの書類をポンと叩く。


 「このリストの仕事……。
  全部やったのか?」

 「そういう任務ですから」

 「こんなの出来るのか?」

 「一緒に本をくれます」

 「本?」

 「例えば、経理の仕事なら簿記の本とか」

 「それを見てやっているのか?」

 「まあ……」

 「よくそれで任務が出来るな?」

 「あたしも『よくこんな酷いことが出来るな』と思いますよ。
  きっと、木ノ葉の半分はドSで出来ているんです」

 「また、訳の分からないことを……。
  ・
  ・
  しかし、困ったな。
  本当にどうやって任務を与えればいいんだ?」

 「何で、悩むの?」

 「お前が訳の分からない存在だからだ」


 悩む綱手を見兼ねて、シズネが気を利かせる。


 「綱手様。
  私が、ご意見番のお二人に聞いてきましょうか?」

 「頼む」


 シズネが部屋を出て行くと、ヤオ子は綱手に近づき話し掛ける。


 「密室で二人きりですね♪」

 「その卑猥な言い方を止めないか」

 「無理!」


 綱手は溜息を吐く。


 「お前、何で、その歳で変態なんだ?」

 「変態じゃないって言ってるのに……。
  まあ、理由をあげるならば、ある名作に出会ったせいですね」

 「名作?」

 「『イチャイチャパラダイス』です!」

 「……………」

 (自来也のヤロウ……!)


 今は居ない知り合いに、綱手は拳を握った。


 「そんなくだらない本なんか読むな」

 「くだらない?
  ということは、知ってるんですね?」

 「まあ……。
  色々、あってな」

 「読みました?」

 「読むか!」

 「名作ですよ?
  試しに読んでみてくださいよ」

 「お前は、何処かのセールスマンか!」

 「任務で何件かやりましたね」

 「突っ込むことも出来んとは……」


 綱手が項垂れたところで、シズネが戻る。


 「聞いてきました。
  ・
  ・
  綱手様……。
  何か、疲れてませんか?」

 「お前がのろくさしてるから、
  ガキの相手をさせられて疲れたんだ。
  ・
  ・
  で?」


 シズネは微妙な顔で答える。


 「え~……。
  他の子が出来なさそうなのをやらせるか、
  指名が入っているのをびっちり入れろと……」

 「「ハァ!?」」

 「何だ、それは?」

 「あのお達者コンビ!
  何言ってんの!?」


 シズネはヤオ子を指差す。


 「その子、何だかんだで仕事をするらしいんで、
  多少の無理は問題ないそうです」

 「何ですか!
  その多少の無理って!」

 「壊れ難い昔の電化製品……みたいな?
  多少の荒い使い方はOK?」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 項垂れたヤオ子を見て、綱手はフッと息を吐き出す。


 「まあ、納得だな。
  さっきから会話をしているがタフそうだ」

 「そう理解できるってことは、
  綱手さんに代わっても、あたしの仕事量に変化なしってことじゃないですか~」

 「そうとも言うな」

 「シズネさん。
  あんたのご主人、あんなこと言ってますよ?」

 「いつも通りです」

 「…………」

 (この人も苦労しているんですね……)


 ヤオ子とシズネの前で、綱手が任務を見繕ってリストを作り始める。
 ご意見番の意見どおり、今ある任務の依頼の中からビッチリと本日の依頼を巻物に書き込んだ。


 「こんなもんか?
  ・
  ・
  ほれ」


 ヤオ子が受け取って中身を確認する。


 「素晴らしい適応能力ですね……。
  ご意見番の二人と寸分違わぬ仕事量です……」

 「そうか?
  人をイジメるのは慣れているからな」

 「シズネさんで?」

 「そうだ。
  ・
  ・
  ハッ!
  嘘だぞ!? シズネ!」


 シズネはズーンと黒い影を背負っていた。


 「じゃあ、あたしは行きます」

 「ヤオ子!
  貴様、最後に余計な一言を!」

 「人間油断すると本音が出るもんです。
  これからも、よろしくお願いしますね♪」


 ヤオ子はスキップしてその場を去り、扉の奥からは綱手のシズネを立ち直させる会話が響いた。



[13840] 第48話 ヤオ子と、ナルトの旅立ち
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:49
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 (サスケさんが去って、もう直ぐ三ヵ月……。
  あたしは元気にやってます。
  そう、元気に……。
  ・
  ・
  綱手さんは、ご意見番を超えるドSでした。
  最近、定時で終わってた任務が終わりません。
  そして、あたしの給与明細にだけ加わった残業手当……。
  あたしは、OLか!
  ・
  ・
  まあ、いいです。
  最近は、他の事で悩んでいるので……。
  ちなみに……。
  今日、念願の電子レンジを拾いました)



  第48話 ヤオ子と、ナルトの旅立ち



 残業を終えて、ヤオ子は帰宅する。
 部屋の扉を開けて電子レンジを床に置き、洗面所でうがい手洗いをして顔を洗う。
 そして、ヤオ子は部屋に戻り、お腹を擦る。


 「何を食べようかな?」


 今日は飲食関係の任務はなかったので、お土産はない。
 自分で料理をしなければならない。

 先日、拾って任務先の中古販売店で直した料理店にあるような業務用の冷蔵庫を開けると、中には整理された食材が賞味期限順に並んでいる。
 ちなみに、食材は滅多に買わない。
 任務先の農家や酪農関係の人達から、お礼で頂く。

 ヤオ子は冷蔵庫を漁りながら、独り言を呟く。


 「賞味期限的にはナスと卵と鶏肉か……。
  これで親子丼にするか。
  ナスは、そのままだと水っぽくなるかな?」


 ヤオ子は冷蔵庫から食材を持って、台所へ向かう。
 ナスを台所で洗うと包丁で他の食材と一緒に刻み、フライパンで親子丼の調理を開始する。
 出し汁を作り、鶏肉とナスを投下。


 「本当は、親子丼専用のものがあるんですけどね。
  自宅で、そこまで拘ることもありません。
  フライパンにそのまま卵を落として作ってしまいます。
  手抜き料理万歳」


 卵を落として数分後……。
 電子ジャーからご飯を盛り付け、フライパンからメインを落とす。


 「完成~」


 鶏肉とナスだけの手抜き親子丼の完成。
 味の勝負は出し汁頼み。

 ヤオ子はリビングに親子丼を運び、正座して手を合わせる。


 「いただきます」


 一口食べる。


 「うん、ナスの味が微妙です。
  玉ねぎを使っていないから甘味はなく、出し汁の濃さがナスの水っぽさで中和され、果てしなく薄味です。
  何で、自宅でこんな冒険をしたんだか……。
  今度からナスは漬けよう。
  ・
  ・
  誰か、ぬか床くれないかな?」


 ヤオ子は不思議な味の親子丼を食べ進める。
 今はお腹に溜まれば、それでいいような気分だった。
 そして、一気に食べ終えて丼を置く。


 「やっぱり、自然な甘味を出すなら玉葱ですよね。
  代わりにナス入れて完全な選択ミスですよ。
  調味料で誤魔化すのも限界があります。
  でも、意外と疲れている時は薄味も悪くはないかも。
  薄味好きな人には……」


 ヤオ子は食べ終わると、後片付けをして食器を洗った。


 …


 夕食後……。
 本日は、やることがある。
 向かい合うヤオ子の前には、壊れた電化製品。


 「さ~て、今週の壊れ物は?
  レンジで~す」


 電化製品の王様。
 一人暮らしの強い味方。
 使い方次第で、色んなことが出来てしまう便利アイテム。
 正に魔法の箱。
 これを手に入れるのが、ここ最近の大きな目標だった。

 ヤオ子はレンジを手に取って全体を見回す。


 「見た目、新しいのに壊れたの?」


 ヤオ子は電子レンジの蓋を開けてみる。


 「中も新品みたいなのに……。
  となると、気になるのは──」


 ヤオ子はレンジのコードを手繰り寄せる。


 「やっぱり。
  プラグが壊れてる。
  踏んづけたんでしょうね。
  この程度なら、修理も安いのに。
  どこのセレブでしょうね? まったく」


 ヤオ子は新規に増やした収納スペース(違法)から、工具箱とプラグのスペアを取り出す。
 そして、ネジを回してバリバリにヒビ割れたプラスチック製のプラグを取り外す。


 「金属部分は、そのまま使えそうですね。
  ハンダも、しっかり付いてます。
  ただ、差し込むところが曲がってしまって差し込めなくなっています。
  ・
  ・
  これだけですね……。
  壊れてもいないんじゃないの?」


 ヤオ子はペンチを使い、曲がった金属部分を真っ直ぐに戻す。


 「あとは、このプラスチック部分を取り替えて……。
  ・
  ・
  多分、電子レンジ復活。
  最後の電化製品にしては手応えありませんでしたね」


 ヤオ子はプラグを差し込み、スイッチを入れる。
 電子レンジは問題なく動いているようだった。


 「これを所定の位置に置いて電化製品コンプリートです。
  また、あたしの城が充実しました」


 台所に最後の電化製品──電子レンジが揃い、ヤオ子はだらしない顔で微笑む。


 「さて、一日の疲れを取るか」


 大きく伸びをして工具を仕舞うと、風呂場へと向かう。
 直した洗濯機に着ていた物を投げ入れて、いざ風呂場へ。


 「ここが一番充実しているんですよね。
  大きな浴槽に二十四時間風呂とジャグジーが付いています。
  正直、いらないかとも思ったんですが、
  拾って直したジャグジーの大きさに合わせて再改築したら……こんなに広く」


 栓を捻り、お湯の出る方向を蛇口からシャワーに切り替える。
 手に跳ね返る水がお湯に変わると、ヤオ子は洗髪を始めた。


 「相変わらず、長くて鬱陶しい髪です。
  うちの母親の話だと、困った時に売れるらしいから伸ばしているんですけど……」


 ヤオ子の洗髪……石鹸オンリー。
 ガシガシと男らしく洗い終わると、続いて体を洗う。
 最後にシャワーで全てを洗い流すと、浴槽へ体を沈める。


 「癒されますね~。
  気持ちいいです」


 ヤオ子は風呂場の小窓を開けて月を眺める。


 「……やっぱり、気持ち悪いままです。
  あたしは、ナルトさん達に本当の気持ちを言うべきなんでしょうか?
  サスケさんの復讐を認めていると……。
  あたしは、サスケさんを止めなかったと……」


 月は、ただ光を称えている。


 「悩むぐらいなら、話しておこうかな……。
  これからも木ノ葉の里で顔を合わすんだし……。
  そこで嫌われるんなら……それでいいです」


 サスケが去った日から、ヤオ子の胸の中にはモヤモヤとしたものがあった。
 それは自分が他の人と違う行動を取ってしまったことにある。
 また、直接的な原因に関わらなくとも、あの時、サスケを止めることが出来ていれば怪我をする人も居なかったのではないかとも思えた。
 ヤオ子は浴槽から上がる。


 「明日、ナルトさんにお話しします」


 ヤオ子は小さな決意をして、その日を終えた。


 …


 翌日……。
 任務を午前中のみにして貰うため、綱手を死に物狂いで説得して、ヤオ子は午前中だけの任務を終える。
 それは高い確率で現われるであろうナルトを、一楽の前で待つためだった。
 そして、案の定、そこにナルトが現れた。


 「ナルトさーん!」

 「ん?」


 ナルトが気付くと、ヤオ子に指を向ける。


 「お前ってば……ヤオ子!」

 「はい」

 「何?
  オレ、ラーメン食べに来たんだけど」

 「お話があるんです」

 「ダメ!
  そんなのいらない!」

 「…………」


 ヤオ子は、ゆっくりと指を立てる。


 「では……。
  ラーメンを奢ります」

 「分かった!
  お前、いい奴だってばよ!」

 (何て簡単な人なんだ……)


 ヤオ子とナルトは一楽の暖簾を潜ると、一緒にメニューを見る。


 「何にしようかな~」

 「味噌トンコツ……。
  味噌チャシュー……。
  味噌ラーメン……。
  つけ麺……。
  冷し味噌ラーメン……。
  トンコツラーメン……。
  ラーメン……。
  ・
  ・
  etc...」

 「どうしたんだ? ヤオ子?」

 「いえね。
  メニューに色んなラーメンがあるでしょ?」

 「まあな」

 「全部食べてみたいなと思って」


 ナルトと一楽の主人が吹いた。


 「お嬢ちゃん! 食べ切れんのか!?」

 「違いますよ。
  今、あたしとナルトさんの二人でしょ?
  一つを半分ずつ食べて全メニューを制覇しようかと」


 ナルトはニシシと笑いながら頷く。


 「面白そうだな」

 「でも、胃袋に限界があるから、
  味噌ラーメンと味噌チャーシューを頼むなら、
  味噌チャーシューを頼んでダブりをなくします」

 「いいねェ!
  いいねェ!」

 「やりますか?」

 「やるってばよ!」


 一楽の主人は、最初は引き攣った顔をしていたが、直にニヤリと笑う。


 「お金はあるのかい?」

 「はい」


 ヤオ子が財布から数枚の札を取り出し、カウンターに置く。


 「あたし達に至福の時間をお願いします。
  ただし、スープの味が同じ場合は、
  高いオプションが付いている方で」

 「よし、分かった!」


 一楽の主人は気合いの入った掛け声を入れると、数台並ぶコンロに同時に火を入れ、全メニューの調理に取り掛かった。
 そして、暫くしてカウンターにチャーシューメンが乗った。


 「「いただきます!」」


 ここにラーメン戦争が切って落とされた。


 …


 ~ 二時間後 ~


 一楽のメニューは次々に消化され、洗い物置き場にはラーメン丼が積み重なる。
 そして、遂に最後のメニューがカウンターに乗った。


 「味噌トンコツ! 最後だ!」

 「ナルトさん……。
  お腹の容量は?」

 「まだまだ、行けるってばよ!」

 「あたしは、もうダメです……」

 「そう?
  じゃあ、一人で食べていい?」

 「どうぞ……」

 「いただきま~す!」


 撃沈するヤオ子の隣で、ナルトは味噌トンコツを軽く平らげた。
 一楽の主人は会計の紙を見ながら、改めて二人が食べた量に驚く。


 「凄いな……。
  ラーメン類だけ頼んで三千二百両か……」


 一楽の主人が呆れながらも満足そうにしていた。
 それだけ気持ちのいい食べっぷりだった。


 「ナルトさん……。
  最後に味噌トンコツのスープだけ飲まして」

 「いいけど?」


 ヤオ子はスープを少し飲む。


 「これであたしもコンプリート……」

 「ヤオ子!
  お前、中々、やるってばよ!」

 「確かに至福の一時でした……。
  でも、暫くラーメンはいい……」

 「やっぱり、一楽のラーメンは深いってばよ。
  これだけ安くて、この旨さ!
  しかも、飽きが来ない!」

 「久しぶりにいいもの見せて貰ったよ。
  ただ券をおまけしてやる!」

 「やった!」

 「…………」

 (あたしは、もういい……)


 突っ伏していたヤオ子が起き上がる。


 「ナルトさん。
  お話があるんですけど」

 「いいってばよ。
  何でも聞いてやる。
  ・
  ・
  エロ忍術でも開発したのか?」

 「ああ。
  それなら一つ……って、そっちじゃなくて!」

 「じゃあ、何?」


 ヤオ子は店の外を指差す。


 「とりあえず、少し歩きませんか?
  あたしは、少し新鮮な空気を吸いたくて」

 「いいけど?」


 ヤオ子とナルトが立ち上がる。


 「ご馳走様でした」

 「旨かったってばよ!」

 「また、来なよ!」


 ヤオ子が料金の支払いを済ますと、ヤオ子とナルトは一楽を後にした。


 …


 ナルトが、ただ券を嬉しそうに眺める。


 「明日も一楽いける~♪」

 「あたしのもいります?
  暫くラーメンはいいから」

 「いいの!?」

 「はい」

 「これで明日は、お替わりも出来る~♪」

 (この人、栄養のバランス大丈夫なのかな?)


 ヤオ子がナルトの心配をしながら暫く歩くと、誰も使っていない演習場が目に入った。
 ヤオ子とナルトは、その小さな演習場で腰を下ろす。


 「話って、何?」

 「…………」


 ナルトの問い掛けに、ヤオ子は静かに話し出した。


 「実は……。
  サスケさんのことなんです」

 「サスケ?」


 ナルトの顔が真剣になる。


 「ナルトさん達が、サスケさんを止めようとしたのは知ってます。
  そして、大怪我したのも……」

 「オレも……。
  ヤオ子がサスケの知り合いだって知ってる……。
  連れ戻すの失敗したんだ……ってばよ」

 「…………」


 会話は暫く止まり、ヤオ子から再び会話をし始める。


 「別にそれを責めるつもりはありません。
  ・
  ・
  あたし……。
  あたしは、ナルトさん達に謝らないといけないんです」

 「何で……ヤオ子が?」

 「あたし、ナルトさん達が必死になってサスケさんを止めようとした時……。
  サスケさんを止めませんでした」

 「え?」

 「それどころかサスケさんを応援しました」

 「何で……。
  何で、だってばよ!」


 ナルトがヤオ子に強く問いただした。
 その問いにヤオ子は答える。


 「サスケさんが……一人だったから」

 「一人? 違う!
  サスケにはオレやサクラちゃん──そして、カカシ先生だって居る!
  お前だって居る!
  一人じゃない!」

 「そう思います……」

 「じゃあ、どうして止めなかったんだ!」

 「さっき、一人って言ったのは仲間の数じゃないんです。
  復讐する人がサスケさん一人しか居ないってことなんです」

 「…………」


 ナルトは少し落ち着くと、ヤオ子の話に耳を傾けた。


 「最初から変だな……とは思っていたんです。
  そして、完全におかしいと思ったのは、中忍試験の本戦の時なんです」

 「本戦?
  どういうことだ?」

 「歓声の中にサスケさんを見世物にするような声がありました」

 「…………」

 「もちろん。
  サスケさんは気にしてません。
  強い人ですから……」

 「…………」

 「でも、皆、知っているんです。
  サスケさんが一人の理由も、どういう状況なのかも。
  そして……。
  そのせいで復讐しようとしてるってことも。
  ・
  ・
  分かっているなら、何で、手伝わないんですか?
  サスケさんに手を貸して、里全体で犯人を見つければいいじゃないですか?
  ・
  ・
  だから、あたしぐらい味方になろうと思いました。
  だから、里を出るサスケさんを止めませんでした。
  サスケさんが力を求めるなら、否定できません」


 ナルトは少し目を瞑ると、やがて顔を上げる。


 「そうかもしれない……。
  でも、サスケは大切な仲間だ。
  大切な友達が大蛇丸のところに行くのを黙って見過ごせねー!」

 「大蛇丸……?」

 「もしかして……。
  ヤオ子は大蛇丸を知らないのか?」

 「ええ」

 「…………」


 ヤオ子がすんなりとサスケの里抜けを見逃した理由を、ナルトはようやく分かった気がした。
 だから、違った形でヤオ子に質問する。


 「もし……。
  サスケが里を出たら死んじまうとしたら……ヤオ子は、どうする?」

 「分かっているなら止めます」

 「……サスケは大蛇丸って奴のところに行っちまった。
  そして、大蛇丸はサスケの体を狙ってる」

 「体?」

 「次の転生の器……って言ってた」


 ヤオ子は信じられないような言葉に聞き返す。


 「転生って……。
  そんな御伽噺みたいな──」

 「嘘じゃねー……」

 「…………」


 ヤオ子は、まだ半信半疑だった。


 「本当なんですか?
  ただ、聞いただけじゃ……」

 「大蛇丸ってのは本当にヤバイ奴なんだ……。
  オレは、直に見たから分かる。
  ・
  ・
  それにエロ仙人の話じゃ、
  今の体は、昔の大蛇丸のものじゃなかったって……」

 「本当なんだ……」


 サスケが別人になる。
 それは、サスケではない。
 ヤオ子の胸が締め付けられる。


 「じゃあ、あたし……。
  サスケさんを止めなきゃいけなかった……。
  ナルトさん達を裏切っただけだ……」

 「裏切る?」

 「あたしだけが止めなかった……。
  あたしだけが……」


 ヤオ子は俯く。


 「サスケさんが死んだら、あたしのせいだ……。
  サスケさんに転生されたら、あたしのせいだ……」


 ヤオ子は、手で顔を覆う。


 「サスケさんを止めなきゃいけなかったんだ……。
  サスケさんが……。
  サスケさんが……。
  ・
  ・
  あたしが皆を裏切るようなことをしたから……」


 ヤオ子は自分を抱きしめるように蹲った。
 縮こまるヤオ子の肩を掴んでナルトが視線を合わせる。


 「裏切ってねー!
  ヤオ子は裏切ってなんかいない!
  大蛇丸のことを知らなかっただけだ!
  ・
  ・
  ヤオ子はサスケのことを知っていた!
  一人ぼっちの苦しみに気付いていた!
  里の誰も手を差し伸べない中で手を差し伸べた!」

 「でも……」

 「オレは……。
  それが……一人ぼっちが苦しいのを知ってるってばよ」

 「ナルトさん……」

 「だから……。
  後は、オレに任せればいい!」


 ヤオ子は、ナルトの言葉で破顔する。


 「あたしのせいなのに……。
  頼っていいんですか……?」

 「オレは諦めない!
  ・
  ・
  それに……もう、約束しちゃってるしな」

 「約束?」

 「サクラちゃんとも……」


 ヤオ子は少しだけ鼻を啜る。


 「ナルトさんは……優しいですね」

 「そ、そう?」

 「あたしも頼っていいんですか?」

 「ヤオ子が頼らなくても、サスケは連れ帰るけどよ」


 ヤオ子は、俯いて感情を溜め込む。


 「…………」


 そして、泣きながら叫び出した。


 「ナルトさ~ん!
  ナルトさ~ん!
  ナルトさ~ん!」

 「何だ!?」

 「ザズゲざんをー!
  ザズゲざんをー!
  ザズゲざんをー!」

 「サ、サスケが何だ?」

 「よろじぐお願いじまず~!」

 「わ、分かったってばよ!」

 「あ~~~ん!
  ザズゲざーん!
  ナルドざーん!」


 ヤオ子の大泣きにナルトは心底困った。


 …


 ~ 五分後 ~

 ナルトの前でヤオ子は、まだグシグシ言っている。
 木ノ葉丸でも、目の前でここまで泣かなかった。
 ナルトは初めての対応に四苦八苦していたが、ヤオ子のサスケに対する気持ちは嬉しかった。
 そして、ヤオ子が落ち着き出したところで話し出す。


 「オレは強くなる。
  サスケを取り戻すために。
  もう直ぐ、エロ仙人と旅立つんだってばよ」

 「旅立つ……?」

 「サスケが大蛇丸のところで強くなるなら、
  オレも強くなるしかねー!」


 ヤオ子は、真っ直ぐなナルトが眩しかった。


 「あたしは……何も出来ないです。
  ・
  ・
  でも、約束を守ろうと思います……」

 「約束?」

 「サスケさんが戻って来る時まで、木ノ葉の里を守って待つんです。
  サスケさんは、一族を復興させないといけないから」

 「そうか……。
  第七班の自己紹介の時、そんなこと、言ってたってばよ」

 「はい。
  ・
  ・
  もう一つ、理由を追加します」

 「ん?」

 「ナルトさんが戻るまで頑張ります。
  ナルトさんが戻ったら、一緒に頑張ります。
  ・
  ・
  でも、一緒にサスケさんは探せません。
  どんなに嫌われても……。
  あたしはサスケさんの味方で居たいから……」


 ナルトは静かに頷く。
 そして、ヤオ子に笑顔を向けてくれた。


 「いい……目的だってばよ!
  サスケは幸せもんだ!
  ヤオ子が待っててくれるんだから!
  そして、オレも安心して旅立てるってばよ!」

 「そうですか?」

 「いや、ヤオ子じゃ心配かな?
  綱手のばあちゃんも、だらしないし……」

 「上げて落とさないでくださいよ」


 ヤオ子とナルトが笑い合う。


 「ナルトさんに話して良かったです」

 「そうか?」

 「はい。
  サスケさんをぶっ飛ばすぐらい強くなって来てくださいよ!」

 「いや、ぶっ飛ばすのは大蛇丸だってばよ……」

 「じゃあ、ついでに大蛇丸も!」

 「順番が逆だ……」


 ナルトと話して、ヤオ子の心は晴れやかだった。
 そして、ヤオ子とナルトは小さな演習場で別れた。


 …


 ナルトが去った後で、ヤオ子は暫く物思いに耽っていた。
 ヤオ子自身もサスケに対するナルトの気持ちが嬉しくて会話を思い返していた。


 「ナルトさん……。
  懐が大き過ぎます……。
  惚れそうです……。
  ・
  ・
  捕食ランキングの順位変更が発生です」


 何故か感謝とエロが混在する。
 そんなヤオ子に声を掛ける存在が居る。


 「オイ! お前!」


 ヤオ子が振り返る。


 「ナルトのにーちゃんと、どんな関係なんだ? コレ!」

 「コレ?」


 同い年ぐらいの男の子に、ヤオ子は首を傾げる。


 「師匠と弟子ですけど?」


 ヤオ子の言葉に、男の子はショックを受ける。


 「何で!?」

 「何でと言われても……。
  あたしはエロ忍術の師匠がナルトさんってだけで……」

 「エロ忍術?
  ・
  ・
  そういうことか……。
  分かったんだな! コレ!」

 「何が?」

 「オレもかつて子分にして貰ったことがあるんだ」

 「へぇ」

 「そして、今やライバルなんだな! コレ!」

 「凄いですね。
  じゃあ、先輩ですね」

 「先輩……。
  ・
  ・
  いい!」


 男の子は気分良さそうにしている。


 「先輩。
  名前を伺っても?」

 「いいぞ!
  姓は猿飛、名は木ノ葉丸だ! コレ!」

 「あたしは、八百屋のヤオ子です。
  ・
  ・
  木ノ葉丸さ──」

 「先輩と呼べ!」

 「へ?」

 「お前の方が格下なんだから!
  せ・ん・ぱ・い!」

 「…………」


 ヤオ子はコリコリと額を掻く。


 「先輩は、ナルトさんとどういった関係なんですか?」

 「火影を目指すライバルだ!」

 「……凄いですね」

 「フフン……」

 「で、あたしには何の用だったんですか?」

 「用?」

 「はい」

 「…………」


 木ノ葉丸は腕組みをして考える。


 「なんだっけかな……コレ?」


 木ノ葉丸は見知らぬ女の子と親しく話すナルトが気になっただけで、目的は既に達成されていた。
 ヤオ子の質問には、もう返す答えはない。


 「用もないのに声を掛けたの?」

 「そ、そんなことないぞ!
  お前のエロ忍術の腕前を見に来たんだ! コレ!」


 明らかな嘘だった。
 しかし、ヤオ子の目が光る。


 「いいでしょう……。
  言わば、あたし達は戦友です。
  エロと言う名の戦場で戦い続ける同士……。
  あたしのおいろけの術を見てください!」

 「おお!」


 ヤオ子……空気の読める女。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「おいろけの術!」


 目の前に裸の美女が現れると、木ノ葉丸が感激する。


 「100点だ……コレ!
  ボンッ キュッ ボンッ だ!」

 「ふ……。
  先輩の好みは、一瞬で分析し終えました。
  ナルトさん絡みなら、この体型に弱いと」

 「恐ろしい女なんだな……コレ!」

 「ちなみに……。
  あたしのおいろけの術はここからです」

 「ん?」

 「先輩は『ぱふぱふ』って知ってますか?」

 「ぱふぱふ?」

 「かつて、武道の神様と言われた武天老子を
  鼻血で出血多量死に至らしめる寸前まで追い込んだ技です」

 「エロ忍術なのに?」

 「はい。
  エロ忍術なのに」

 「どうやるんだ?」

 「え~と……。
  『おっぱいとおっぱいの間にお顔を挟んでぱふぱふ』
  です」

 「す、凄いエロ忍術なんだな! コレ!」

 「まあ、物理接触がある時点で反則とは思いますが……。
  老若男を問わずに有効だと思います」

 「っ~~~!
  今度、エビス先生で試すんだ! コレ!」

 「失血死させないでくださいね」

 「分かったんだな! コレ!
  他にはないのか?」

 「あります。
  聞いてくれますか?」

 「もちろん!」

 「あたしの私見ですが……。
  くノ一の忍装束って、元から露出高くないですか?」

 「どういうこと?」

 「つまり……チラリズムが足りない!」

 「おお!」

 「そこで考えました……。
  そこからチラリズムを発生させる方法です」


 ヤオ子は偉そうに講釈を垂れているが、おいろけの術発動中である。


 「足なら……スリットを入れる!
  胸なら……少し膨らみが見える位置をキープ!」

 「おお!
  どうやるんだ? コレ!」

 「相手に物語を妄想させるんです。
  いいですか?
  敵にクナイを投げつけられてスリットが出来るんです。
  ・
  ・
  こう!」


 ヤオ子が、おいろけの術を更に掛ける。
 町で見掛けた紅上忍に変化して、スリットを作ってみせる。


 「おお!」

 「どうですか?
  更に戦闘力が上がったでしょう?」

 「凄いんだな! コレ!
  服着てるのに!」

 「ふ……。
  見えそうで見えない……。
  そこから覗く想像……否! 妄想!
  その過程に及ぶまでのストーリー!
  全てがあたし達、同士の力を漲らせる!」

 「そうなんだな!
  そうなんだな!」

 「見えないからいいものもあるんです!
  かつて、ある固有結界を発動した人が言ってました。
  『そもそも全裸には萌えがない!
   服を脱がしても靴下を脱がすな!』
  と……」

 「偉人だな……コレ!」

 「しかし、あたしはまだまだです。
  彼の理論で言えば動物です。
  ・
  ・
  あたしは……全裸にも欲情してしまうんだ~~~ッ!」

 「何の話……?」

 「萌え業界の鉄則に従事出来ない半端者!
  一つの事に徹底出来ず……。
  かと言って、好みを口に出す……。
  究極のエロって何なんだ~~~!」

 「壊れた……」


 ヤオ子が咳払いをする。


 「お見苦しいところを……。
  兎に角、あたしは精進中の半端者です」

 「よく分からないけど……。
  熱意だけは、伝わったんだな」

 「ありがとうございます」

 「次回は、ナルトにーちゃんとチラリズムを語るんだな! コレ!」


 接触してはいけない人物とまた接触してしまった。
 そして、数日後、ナルトと木ノ葉丸で男同士の真剣な勝負(?)がなされた後で、ナルトは木ノ葉隠れの里を自来也と共に旅立って行った。


 …


 ※※※※※ 一楽のメニューについて ※※※※※

 ナルトがよく通うラーメン屋一楽。
 実は、そのメニューがよく分りません。
 アニメを見るとラーメンと特性ラーメンぐらいしかメニューになく、ネットで調べると味噌トンコツの名前ばかり出て来ます。
 一体、一楽のメニューには何があるのか?
 今回のSSでは、何も知らない私が勝手にメニューを追加していますので信用しないでください。
 ただ、アニメでは、つけ麺なんかを新メニューで開発していたので、メニューは多いのかもしれません。



[13840] 第49話 ヤオ子と第七班?①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:50
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 (ナルトさんと話してから気が楽になりました。
  たった、あれだけで気分が変わるあたしの単細胞さにも呆れますが……。
  でも……。
  ナルトさんの言葉は、とても嬉しかったんです。
  かと言って、頼ってばかりもいられないです。
  新たに追加した目標のためにも頑張らないと……。
  目的があるかないかでやる気も違いますしね。
  ・
  ・
  しかし、ナルトさんが去って、早々に二人の居た第七班で任務とは……)



  第49話 ヤオ子と第七班?①



 約束の時間三分前……。
 また、ヤオ子はギリギリに到着する。
 そこには、短い髪が伸びて長髪になったサクラが居た。


 「おはようございます」

 「ギリギリに到着とは、いい度胸じゃない……」

 「遅刻するより、いいでしょ?」

 「まあ……。
  遅刻するよりね……」


 サクラの含みのある乾いた笑いに、ヤオ子は首を傾げる。


 「ところで……。
  あんた、何で、サスケ君と同じデザインの服を着てんのよ?」

 「下はミニスカートですけど?」

 「色!」

 「サスケさんを意識してるんだもん」

 「まさか……。
  サスケ君のこと……好きなの?」


 ヤオ子は両手をあげて溜息を吐く。


 「ハッ!
  あんなドSの何処がいいんですか?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「サスケ君の悪口を言うな!」

 (そういえば……。
  この人は、サスケさんに色呆けしてましたね)

 「あんた!
  何で、サスケ君の格好をしているのよ?」

 「…………」


 ヤオ子は口を手で押さえ、意地悪そうな顔で笑う。


 「知りたい?」


 サクラに青筋が浮かぶ。
 『別にいいわよ!』と言いたかったが……好奇心に負けた。


 「……知りたい」


 ヤオ子が口を開く。


 「妻だからです」

 「ええっ!?」

 「嘘ですよ?」


 サクラのグーがヤオ子に炸裂し、そのまま殴った手はヤオ子の胸ぐらを掴む。


 「大人しくしゃべれ!
  しゃーんなろー!」

 (キレた……)

 「必死ですね?」

 「一生、愛の人生だ!」

 「意味が分りません……。
  まあ、いいです」


 サクラがヤオ子を放すと、ヤオ子はポンポンとシャツを叩いて誇りを払う。
 そして、更に咳払いを一つ。


 「サスケさんってクールですよね?」

 「うん!
  そこがいい!」

 (逝っちゃってますね……)

 「それでいて美少年」

 「そうそう!」

 「そういう人の普段見たことのない姿を見たくありません?」

 「…………」


 サクラが固まって思考する。


 「例えば?」

 「通りがかりの人があたしを見て……。
  『妹?』とか言われて照れる姿とか?」


 サクラの髪がピーンと伸びる。


 「『ち、違う!』とか言って強がる美少年!」


 サクラの顔が緩む。


 「そして、いそいそと小さい子の手を引いて、
  早歩きで去って行くサスケさん……」


 サクラの口がだらしなく開く。


 「そういうシチュエーションに憧れて、この格好になりました」


 サクラが現実に戻って来る。


 「ヤオ子!
  結果は!?」

 「それが……」

 「もったいぶらずに言いなさいよ!」

 「サスケさんは、本戦以来、黒い服で……」

 「そういえば……」

 「その後も、入院していて……」

 「そういえば……」

 「そして、そのまま里を去りました」

 「あんた!
  期待持たせて、何やってんのよ!」

 「そう言わないでくださいよ。
  あたしだって、こうなるとは思わなかったんですから。
  ・
  ・
  しかも、同じデザインで四着も作ちゃったんですから……」

 「馬鹿じゃないの……」


 サクラは、ヤオ子に思いっきりがっかりした。


 …


 ヤオ子とサクラのおしゃべりで十分過ぎる。


 「担当の上忍さん、来ませんね?」

 「時間通りに来た試しなんてないわよ」

 「へ~」

 「前は、サスケ君とナルトと一緒に待ってたんだけどな」

 「…………」


 サクラは地面に視線を落とす。
 俯いた時に肩から崩れた髪にヤオ子が呟く。


 「サクラさん。
  また髪伸びましたね」


 サクラが肩に掛かる髪を指で弄る。


 「そうね」

 「サクラさんの髪って綺麗ですよね」

 「そう?」

 「はい。
  あたしの髪は少しパサパサしてます」


 サクラがヤオ子のポニーテールを掴むと、手に触れる感触を確かめる。


 「本当だ。
  ・
  ・
  ん?
  あまり、香りがしないわね?」

 「香り?
  サクラさんはフェロモンでも出てるんですか?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「出るか!
  っんなもん!
  シャンプーとかリンスの香りがしないのよ!」

 「サクラさんは、そんな高級な物を使っているんですか?」

 「ハァ!? 高級!?」

 「うちは、大人だけですからね。
  シャンプーとリンスを使っていいのは」

 「どんな家よ……」

 「基本、石鹸ですね」

 「石鹸!?」

 「変ですか?」

 「おかしいわよ!」

 「ふ~ん」

 「あんた、そろそろ髪質も気にした方がいいんじゃない?」

 「そう言われましても……。
  どんなのがいいんですか?」

 「あんた、本当に女の子?」

 「つい最近までTシャツに短パン、靴下なしで駆けずり回ってました」

 「何処のガキ大将だ!」

 「実は、スカート履くのこれが初めてなんですよ」

 「どんな少女時代を過ごしてたのよ!」

 「極貧?」

 「訳分からない……」


 サクラが額を押さえる。
 そんなサクラを置いて、ヤオ子は思いついた。


 「そうだ!
  今、親元を離れてるから、お金あるんですよ!」

 「何で、親元を離れるとお金が貯まるのよ?」

 「今から洗剤買いに行きましょう!」

 「ハァ!?」

 「サクラさん!
  アドバイスしてくださいよ!」

 「カカシ先生は?」

 「男なんて待たせるのがいい女の条件ですよ」

 「あんたねぇ……。
  ・
  ・
  でも、偶にはいいか……。
  私の行き付けのお店でいいわね?」

 「お願いします」


 ヤオ子は、サクラの後についてその場を後にした。


 …


 ヤオ子達が去って十分後……。
 カカシ参上。


 「あれ?
  誰も居ない……」


 カカシは頭を掻いて辺りを見回した。


 …


 ヤオ子がサクラの後に続いて商品棚を見上げる。


 「何これ?
  こんなに種類あるの?」

 「普通よ」

 「普通……。
  どこら辺が?
  これって匂い嗅がせてくれるの?」

 「無理でしょ……」

 「サクラさんが使ってるのは?」


 サクラは商品棚からシャンプーとリンスを一本ずつ取る。


 「これとこれよ」

 「へ~。
  これで美しい髪が……」

 「まあね」

 「人気商品なんですか?」

 「私は、自分の髪にあったので選んでるから」

 「他に使ってる人は居ないんですか?」

 「…………」


 サクラは視線を斜め下に向けている。


 「どうしたんですか?」

 「犬が一匹……」

 「は?」

 「犬が使ってるわ……」

 「…………」


 何とも言えない空気が流れた。


 …


 カカシは待ち合わせの演習場で座り込んでいた。
 手にはイチャイチャバイオレンス。


 「どうしたのかな……。
  サクラが約束の時間に居ないなんて」


 ページを捲る。


 「もう、二十分も待たされてるよ……」


 そこにヤオ子とサクラが現れた。


 「サスケ……の格好をした女の子?」

 「お久しぶりです!
  カカシさん!」


 ヤオ子が元気よく手を振る。


 (あの子か……)

 「試験以来かな?」

 「そうです」

 「時間……過ぎてるよ」

 「すいません。
  家の時計が壊れてて」

 「手に持ってるのは?」

 「任務に必要な物です」

 (さらっと嘘つくわね……この子)


 ヤオ子の後ろで、サクラは呆れていた。


 「まあ、いいか……」

 (カカシ先生もいい加減ね……)

 「ところで……。
  何で、サクラと一緒なの?」

 「サクラさんは人生という名の道に迷って──」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「私は、カカシ先生か!」

 「は?
  カカシさん?」

 「サクラ……。
  もういいから……。
  恥の上塗りになる……」


 ヤオ子が首を傾げると、カカシは咳払いをして気を引き締め直す。


 「え~……。
  今度の任務だけど──」

 「はい!」

 「また、君?」


 カカシが嫌そうにヤオ子を見る。
 ヤオ子は、また流れを無視して手を上げたのだった。


 「小隊は、フォーマンセルでしょ?
  あと一人は?」

 「呼んだ中忍は、昨日、コンビを組んだ下忍と一緒に試食した料理店の新商品を食べて食中毒になった」

 「偶然ですね。
  あたしも、昨日、試食したんですよ」

 「…………」


 カカシとサクラの視線がヤオ子に集まる。


 「そんな妙な任務は重ならないと思うんだけど?」

 「私も、そう思います……」

 「もしかして……。
  あたしも食べた?」


 カカシとサクラが頷く。


 「少し酸っぱいぐらいでしたけどね?」

 「「腐ってる!」」

 「賞味期限には気を付ける方なんですけど……。
  実家では、二週間過ぎまでOKでしたから」

 「おかしいよ……。
  この子……」

 「私も、そう思います……」


 カカシとサクラが溜息を吐く。


 「あらためて任務の説明をする……。
  Dランクだから、安心していいから」

 「Dランクで四人必要だったんですか?」

 「そう」


 ヤオ子が考え込むと、サクラが不思議そうに訊ねる。


 「どうしたのよ?」

 「いえね。
  人数いるだけなら、あたし一人で頼むと思うんですよ。
  でも、優秀な忍者をつけるということは、何か別の意図があるのかなって?」

 「いい勘してるな。
  今回の任務は、囮だ」

 「「囮?」」

 「要人を警護する部隊がCランク。
  囮をする部隊がDランクだ」


 ヤオ子がジト目でカカシを見る。


 「嘘でしょ……」

 「どうして?」

 「囮なんて使っている時点で盗賊とか出るでしょ!
  Cランクじゃないですか!」

 「やっぱり、バレたか……」

 「何ですか! それは!」

 「君の先生がねぇ……。
  Cランク以上、嫌がってるって」

 「…………」

 「そうしたら綱手様が勝手にランクを下げて、DランクOKだって」

 「あのババア!」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「師匠に何て口の利き方をするのよ!」

 「だって~」

 「言い訳するな!」

 「酷い……」

 (サクラ……。
  段々、綱手様に似てくるな……)


 全員、少し落ち着くことに努力する。


 「カカシ先生。
  話を戻しますけど、囮ということは変装するんですか?」

 「いや、このままでいい」

 「「?」」

 「警護対象は八歳の女の子だ。
  丁度、こちらには八歳の女の子が居るだろう」

 「…………」


 カカシとサクラの視線が、再びヤオ子に向かう。


 「それって、あたしじゃないですか!?」

 「そうだよ」

 「命狙われてるんですよね?」

 「そうだよ」

 「嫌ですよ! そんなの!」

 「我が侭、言わない」

 「一体、どういう人選で、そうなったの!?
  そんな危ないの、カカシさんがロリコンギャルに変化すればいいでしょ!」


 サクラが想像する。
 カカシが幼女に変化して女言葉を使う……。
 サクラは口を押さえた。


 「やらないよ?
  やらないけど、その態度は傷つくな……」

 「だって……」

 「好き嫌いしない!
  サクラさんは、我慢!
  カカシさんは変態になってください!」


 サクラが口を押さえる。


 「ヤオ子だったっけ?
  お前、黙ってて……。
  急激にサクラに嫌われるから」

 「じゃあ、あたしがやるの~!」

 「そう」

 「本当にどういう人選なんですか?」

 「綱手様からの推薦だ」

 「「?」」


 ヤオ子とサクラが首を傾げている。


 「『何か手裏剣刺さっても死ななそうだから』らしい」

 「ちょっと!」

 「『怪我すれば、サクラの医療忍術の練習台になるから』とも言ってたな」

 「オイ!」

 「『寧ろ、怪我しろ』とも……」

 「ううう……。
  あんまりだ……」

 「師匠……」


 ヤオ子が俯いて震える。
 そして……。


 「やってられるかーーーっ!」


 爆発した。


 「おかしい!
  おかしい!
  おかしい!
  何で、いつも不遇な扱いなんですかッ!」

 「普段の行いのせいなんじゃない?」

 「サクラさん!?」

 「お前、恨み買いそうだもんな……」

 「カカシさん!?」


 カカシが微笑む。


 「安心しろ。
  オレの部下は、誰も殺させやしないよ……」


 サクラは、今のセリフを懐かしく思う。
 しかし……。


 「信用できるか!
  カカシさんって『イチャイチャパラダイス』読んでるところと、
  今日の待ち合わせで遅刻したとこしか見せてないじゃないですか!」


 思い出粉砕……。
 サクラがジト目でカカシを見る。


 「あれ? そうだっけ?」

 「そうですよ!
  ・
  ・
  サクラさん!
  この人、本当に頼りにして大丈夫なんですか!?」

 「…………」

 「いや、サクラ……。
  即答してよ……」

 「多分、大丈夫よ……」

 「…………」

 「激しく不安です……」


 激しい不安を残して第七班(?)の任務が始まる。



[13840] 第50話 ヤオ子と第七班?②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:51
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 任務返し前、カカシが気を取り直す。
 しかし、ヤオ子とサクラから不安を拭うことは出来ない。


 (ナルトとサスケの方が扱い易かったな……。
  女の子二人がチームに居ると、こうなのかな?
  ・
  ・
  いや……。
  イビキとテンゾウの話だと、
  この子が事態を悪くする原因に違いない……)


 カカシは、任務前から疲れていた。



  第50話 ヤオ子と第七班?②



 カカシが地図を開き、任務の詳細を話す。


 「まず、地図を見てくれ」


 ヤオ子とサクラが地図を見る。


 「このA, B, Cのルートが、囮が通る道だ。
  オレ達は、このBのルートを使う」

 「三班による囮ですか?」

 「そうだ。
  敵を分散させて要人への敵を減らす。
  出来れば近づけさせない」

 「変装しないのは、木ノ葉の忍が警護させていることを印象づけるためですね」

 「その通りだ」


 カカシとサクラの会話を聞いて、ヤオ子は感心する。


 (さすがカカシさんとサクラさん……。
  阿吽の呼吸ですね。
  あたしの入り込む余地なしです)


 説明は続く。


 「出発は、A, B, Cバラバラにする。
  こうすることで、更に分かり辛くする。
  まあ、あまり間隔が空き過ぎると増援され兼ねないがな」

 「なるほど」

 「そして、実は出発時間は既に過ぎている」

 「…………」

 「「ハァ!?」」

 「君達が遅刻するから……」

 「ちょっと!
  待ち合わせ時間に居なかったのは、カカシ先生でしょ!」

 「そうですよ!」

 「でも、オレが来た時、誰も居なかったけど?」

 「カカシさんが来るまで時間潰してたんですよ!」

 「何で、そんなことするの……」


 ヤオ子はカカシを指差す。


 「サスケさんに聞きましたよ!
  カカシさん!
  あなた、三時間ぐらい遅れるのザラだったでしょ!」

 「偶には時間通りだったよ」

 「でも、今日も遅刻したじゃないですか!」

 「十分だけだよ」

 「そんなことばっかりしてるから、
  狼少年のように信用をなくすんですよ!」

 (何だろう? この絵面……。
  大人が子供に思いっきり怒られてる……)


 サクラは少し憂鬱だった。
 そのサクラにカカシが訊ねる。


 「サクラ……どう思う?」

 「概ね、ヤオ子に同意なんですけど……」

 「…………」

 「まあ、いいか」

 「…………」


 ヤオ子はサクラに視線を向ける。


 「サクラさん……。
  よく頑張ってましたね……」

 「分かる?」

 「ええ。
  これにナルトさんも加わるんでしょ?」

 「そう……」

 「そして、サスケさんが加わると、
  ナルトさんとトラブル起こすんでしょ?」

 「そう……」

 「あたし、サクラさんのために頑張ります」

 「ありがとう……。
  でも、凄く悲しいわ……」

 (何だかな~……)


 この三人……一向に出発しない。


 「いい加減、出発しようか?」

 「そうですね」

 「既にやる気ないですけど」


 三人は、『あん』の門へと向かった。


 …


 囮のルートの距離は歩いて半日程度。
 よって、リュックなどの荷物はない。
 第七班(?)は、ようやく囮任務を開始する。


 「カカシさん?」

 「何?」

 「あたしは、このままでいいんですか?
  顔を思いっきり曝してるんですけど……」


 カカシが写真を渡す。
 ヤオ子が受け取り、サクラが覗き込む。


 「それ要人」

 「「全っ然! 似てない!」」

 「これ、バレるって!」

 「大丈夫なんですか!?」

 「似てるでしょ?」

 「何処が?」


 カカシの指がヤオ子の後頭部を指す。


 「髪型」

 「「それだけ!?」」

 「まあ、いいですけどね」

 「いいの? ヤオ子?
  言いたくないけど……。
  この写真の子、凄いブスでデブよ」

 「いや、カカシさんがいいって言って、
  綱手さんが推薦したんだから、文句は言われませんよ。
  ・
  ・
  例え、襲われなくてもね……」


 ヤオ子が邪悪な笑みを浮かべる。


 「あんた、作戦をなかったことにしようとしてるでしょ?」

 「そうですよ♪」

 「そんなに似てないかな?」

 「カカシ先生、目おかしいんじゃないの?」


 カカシが写真を返して貰うと、頭に手を当てた。


 「すまん。
  これ妹の方だ」

 「「え?」」


 再び、写真をチェック。


 「今度は洒落になりません……。
  あたしにそっくりじゃないですか!」

 「本当……」

 「狙われる!
  狙われるって!」


 ヤオ子がポニーテールの紐を解こうと頭に手を伸ばす。


 「それを取っちゃダメでしょう?」


 それをカカシが手を掴んで止めた。


 「だって、暗殺されるって!
  これ、囮じゃなくて身代わりって言うんですよ!
  人身御供!」

 「難しい言葉を知ってるなぁ」

 「ギャグ漫画で散々使われたネタじゃないですか!」

 「何で、怒ってんの?」

 「死ぬかもしれないからでしょ!」

 「だから、大丈夫だって」

 「じゃあ、証拠見せてくださいよ!」

 「証拠?」

 「カカシさんが強い証拠です!」


 サクラはカカシとの初めてのサバイバル演習を思い出すと、ポンとヤオ子の肩に手を置いた。


 「ヤオ子……。
  やめた方がいいわよ」

 「何で?」

 「私、最初のサバイバル演習で、酷い幻術を掛けられたわ」

 「……ドS?」

 「ドS」

 「違う」


 ヤオ子がサクラに質問する。


 「カカシさんの口からでは信用出来ないんで、
  サクラさんの口から、カカシさんのエピソードを教えてください」

 (何で、こんなに信用ないんだろう?)

 「そうねぇ……。
  実力は信用していいわ」

 「本当?」

 「ええ。
  相手が気の毒になるぐらいボコボコにするから」

 「え?」

 (サクラ……。
  何、言ってんの……)

 「だって!
  普通、初見で!
  女の子相手に!
  気絶するような幻術掛ける!?」

 「掛けるんじゃないですか?」

 「え?」

 (意外な反応……)

 「あたしは、サスケさんとのセカンドコンタクトで、
  家を豪火球の術で燃やされそうになりましたね」

 「…………」


 カカシとサクラが固まる。


 「サスケ……そんなことするの?」

 「はい。
  三度ほど、燃やされそうになりました。
  三度目の時は木ノ葉崩しであたしの家自体が崩壊したので、
  サスケさんは家を燃やすことが出来ませんでしたが」


 サクラが頭を抱える。


 「私、過保護に育ったのかな……」

 「いや、そんなことないと思うよ……。
  それにあの演習は、サクラのことを思ってのことだよ。
  現に木ノ葉崩しの時に、経験が役に立ったでしょ?」

 「ええ、まあ……」

 「あたしのは?」

 「……ストレスでも溜まってたのかな?」

 「ストレス……。
  そんな理由……。
  まあ、明確な理由がないのも確かだと思いますけど……」

 「あんた、何かしたんじゃないの?」

 「してませんよ」


 こんな感じで、エンドレスで半日近く話しながら予定のコースを歩いた。


 …


 数時間後……。
 もう直ぐ、目的地に着くところまで進んだ。
 囮のルートにある最後の森が見える。


 「何もなかったですね?」

 「油断大敵よ。
  最後の森は、待ち伏せするには最適だわ」

 「そう。
  サクラは、いいことを言った」


 森に入り、歩いて暫くしてカカシが静止を掛ける。


 「居るな……。
  サクラは、ヤオ子を守って」

 「はい!」

 「あたしは、怯えて見せればいいんですか?」

 「普通でいい」

 「了解です」

 「森を抜けて視界が開けるまで走るぞ」


 カカシを先頭に走り出す。
 左右から飛んで来る手裏剣やクナイをカカシがクナイで叩き落とすと、ヤオ子は、それを走りながら回収する(後で売るために)。
 しかし、ヤオ子達に向かう投擲は最初こそ叩き落していたが、後半は、まともに手裏剣やクナイは届かない雑なものだった。

 森を抜け、三人が反転して相手の出方を伺う。


 「森だけじゃなく、周りにも気をつけろ」

 「「はい!」」


 しかし、何も起こらない。
 カカシが警戒を解くと、クナイを腰の後ろの道具入れに仕舞った。


 「どうやら、森の中にだけ潜んでいたようだな」

 「カカシ先生。
  どうするんですか?」

 「このまま、少し待つ。
  囮なんだから、引き付けたいしな」

 「分かりました」


 その相手の出方を伺う待ち時間……。
 ヤオ子は拾った手裏剣とクナイを確認する。


 「何か……。
  この手裏剣独特ですね?」


 カカシがヤオ子の手にある手裏剣を確認する。


 「確かに……。
  全部、種類が違う」

 「もしかして、雇われた忍者がバラバラの里?」

 「雇われたのなら、全員抜け忍の可能性もあるが……。
  暗殺をするにしては実力が低過ぎるし、仕事が事務的だ。
  ・
  ・
  これは、一杯食わされたかもしれない……」

 「どういうこと?」


 サクラがヤオ子に補足する。


 「こっちの囮の作戦に気付いていて、
  相手がワザと引っ掛かったフリをしたってことよ」

 「となると……。
  本隊に敵さんが大勢向かってる?」


 ヤオ子の疑問に、カカシが答える。


 「そういうことだ」

 「応援に行きますか?」

 「もう、間に合わないな……」

 「任務失敗?」

 「いや……。
  恐らく任務の前にバレていた」


 ヤオ子は今の状況を考え始めると、考えている最中に嫌悪感を感じ始めた。
 嫌なはずの危ない任務なのに……。
 本来なら、積極的に関わるなんてありえないのに……。

 だけど、気に入らない。

 まだ最善を尽くした気がしない。
 そのせいで誰かが傷つくかもしれないと思うと気持ちが悪い。
 言葉は、自然と口から出ていた。


 「質問……いいですか?」

 「ああ」

 (何だ……?
  雰囲気が少し変わったな)

 「あの森に居る忍者さん。
  他の仲間との通信手段はありますかね?」

 「あるだろうな」

 「ここから演技して騙せないですか?」

 「ん?」

 「あたし、似てるんですよね。
  本隊が偽物で、こっちが本物って思わせるんです。
  多少なりとも混乱しませんか?」

 「そういう手もあるか……」

 「もちろん。
  カカシさんかサクラさんが変化して代役してくれてもいいです。
  可能性が上がるなら、そっちの方がいいし」

 「いや、子供の動きなら本物の子供の方が確かだ」


 カカシは腰に手を当て、後方の森に目を向ける。


 「ダメ元でやってみるか……」

 「ダメ元って……。
  カカシ先生、どうするんですか?」

 「ここから、離れる時にヤオ子に倒れて貰う。
  それをサクラが治療するフリをする。
  オレは、サクラとヤオ子を守るフリをする。
  そして、暫くしてサクラが、ヤオ子の命が危ないように叫ぶ」

 「信用してくれますか?」

 「やってみないと分からんな……」


 ヤオ子が指を立てる。


 「サクラさんが連絡用の伝書鳩を飛ばして、
  リアリティを出すのは、どうですか?」

 「伝書鳩なんて持ってないわ」

 「影分身を一体変化させます」

 「バレるんじゃない?」


 カカシがサクラとヤオ子の視線に合わせる。


 「カムフラージュしよう。
  オレも影分身を使う。
  出現の時の煙に乗じて、ヤオ子も影分身を出して変化させるんだ」

 「やってみます。
  変化した一体は、サクラさんの影に隠れます」

 「分かったわ」

 「倒れるのは毒のせいでいい。
  さっきの手裏剣……二枚ほど毒が塗ってあった。
  ・
  ・
  じゃあ、作戦を開始するぞ」


 ヤオ子とサクラが頷くと作戦を開始する。
 全員が立ち上がるとカカシ達が目的地に向け歩き出す。
 そして、ヤオ子はふらふらとよろけ出しバタリと倒れた。


 「カカシ先生!」

 「どうした!?」

 「分りません!」

 「サクラ!
  治療を頼む!」


 カカシがヤオ子とサクラを庇うように前に出ると、印を結ぶ。
 ヤオ子もそれを確認して印を結ぶ。
 カカシの影分身が煙と共に現れる煙に乗じて、ヤオ子も一体影分身を出す。
 影分身は、更に印を結び、伝書鳩に変化した。


 (早い)


 サクラは、ヤオ子の印を結ぶ早さに素直に感心する。
 そして、治療を始めるフリを始める。


 「カカシ先生!
  毒です!
  このままだと、死んでしまいます!」

 「早く!
  木ノ葉に連絡するんだ!」

 「はい!」


 サクラが伝書鳩を飛ばすと、伝書鳩は森を抜けて木ノ葉に向かう。


 「後は、待つだけだな……。
  こんな大声でワザと臭過ぎたか?」


 ヤオ子達は、事の成り行きを待った。


 …


 にわかに森がざわめき出す。
 そして、空に黄色い煙幕が上がった。


 「掛かったか?」


 森の方から声が聞こえ始め、森の中から数人の忍が抜け出してきた。


 「掛かった!
  サクラは、ヤオ子を背負って後退だ!」

 「はい!」


 サクラはヤオ子を背負うと、予想以上の重さにふらつく。


 「ちょ……!
  あんた、重い!」

 「育ち盛りなもんで……」

 「っ!
  しゃーんなろー!」


 サクラはヤオ子を背負って走り出した。
 ちなみに……。
 ヤオ子が重いのは、ガイのプレゼントした重りのせいである。

 カカシが追って来た忍を次々に倒していく。
 どうやら本当に配置されていた忍達は、数合わせの傭兵や賊のようだった。


 (増援がこっちに少しでも来れば、本隊も少しは楽になるはずだ……。
  時間を稼ぐ上にも、倒す時間をコントロールせんとな)


 カカシは手加減しながら、襲い来る忍もどきを倒すように心掛ける。
 一方のサクラは、カカシとの距離が開くとヤオ子を下ろし、治療を続けるフリをする。


 「逃げないんですか?」

 「ワザとよ。
  『如何にも、今、死にそうです』って思わせるの」

 「作戦でしたか」

 「ほら!
  死にそうなフリ!」

 「は~い」


 ヤオ子は、目を閉じてジッとする。
 そして、後退しては治療するフリを三十分ほど繰り返した。


 …


 治療中のフリを続けていたサクラが、急にクナイを構えて振り抜く。
 甲高い音と共にヤオ子に向かった手裏剣を弾いた。


 「魚が釣れたみたいよ!」


 カカシが戦っている忍もどきとは別方向からの攻撃にサクラがクナイを構える。
 カカシも気付くと、今までとは比べものにならない早さで森からの忍もどきを倒し切る。


 「大成功だな」

 「はい」


 カカシがサクラに肩を並べる。


 「ヤオ子、もういいぞ。
  時間的にも、呼び寄せた連中が戻る頃には終わっているだろう」

 「は~い。
  ・
  ・
  多勢に無勢ですね。
  二十人ぐらい居ません?」

 「半分は、オレが片付ける」

 「じゃあ、残りの半分をサクラさんが?」

 「あんたは!」

 「我関せず……」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「じゃあ、指示ください。
  サクラさんの指示通りに動きますんで。
  あと、あたし、まだ殺しのGOサイン貰ってないんで」

 「ハァ!?」

 「まだ忍者じゃないんです」

 「よく分からないわね……。
  じゃあ、行動不能にしなさい!」

 「了解です」


 ヤオ子とサクラ、カカシで二手に別れる。
 カカシが忍体術や敵からコピーした忍術で戦うのに対して、ヤオ子とサクラは、アカデミーで習う基本忍術を利用して戦う。

 サクラとヤオ子は囲まれないように動き、分身の術で惑わせ、変わり身で更に惑わせる。
 これにより、敵が分散して囲まれない。
 そして、この戦いの中、ヤオ子はサクラの戦い方に驚いていた。


 (使用する忍術のチャクラに全く無駄がありません)


 ヤオ子も木登り修行でチャクラコントロールは上達している。
 故に無駄なチャクラは練らないように心掛けている。
 しかし、チャクラを練る際には保険を掛けている。
 ギリギリ過ぎて術が発動しないのでは意味がないため、発動ギリギリより、少し多くチャクラを練っているのだ。

 それに対して、サクラは保険を掛けない。
 精密なチャクラコントロールで無駄がない。


 (適材適所で術を使う戦い方は似ています。
  でも、こんなにも差があるなんて……。
  サクラさんを見ると、自分の忍術が雑に見えてきます。
  ・
  ・
  この人も、サスケさん達と同じです。
  凄い忍者です)


 ヤオ子とサクラが背中を合わせ、サクラが先に声を掛ける。


 「戦い方、似てるわね」

 「そう思います」

 「思考は、どうかしら?」

 「背中合わせるタイミングが同じところを見ると、
  それほど悪くないんじゃないですか?」

 「そうね!」


 二人は時計回りに走り出し、同タイミングで分身を出す。
 そして、翻弄させた相手に申し合わせたように回し蹴りを叩き込んだ。
 これで残り八人……。


 「この人達、サスケさんよりノロマです!」

 「そうね!
  私の回し蹴りが当たるぐらいだからね!
  一人ずつ、確実に行くわよ!」


 遠くでは、カカシがヤオ子達の倍の早さと強さで敵を倒していた。


 「カカシさん。
  本当に強かったんですね」

 「ええ」

 「サクラさんも」

 「修行……欠かしてないから!」


 サクラがクナイで敵の忍を斬り付けるも、躱され距離を取られる。


 「っ!
  外した!」


 ヤオ子がサクラに近づくと、声を掛ける。


 「やっぱり、女のあたし達には不利ですね」

 「そうね。
  力で、ごり押しするタイプじゃないし」

 「ですよね。
  倒した相手は、皆、急所狙いでしたからね」

 「だとしたら……」


 サクラの視線にヤオ子は頷く。


 「「頭を使うしかないでしょう!」」


 走って接近する敵に対し、ヤオ子がタイミングと距離を見計らって影分身を出す。
 影分身に正面衝突した敵の動きが止まったところをサクラが顎の先端を狙い殴りつける。
 そして、脳を揺らされ、ふらつく相手にヤオ子とサクラは顔面にパンチを叩き込んだ。
 残り七人……。


 「この作戦いいわね!」

 「ガンガン転ばしますよ!」


 ヤオ子とサクラが分身して敵に向かう。
 そして、その分身の中に、ヤオ子は一体だけ影分身を忍び込ませる。
 敵の忍は何度も本体を捕らえられずに苛立ちを見せ、予想外の女子二人の好戦に残った忍達がホルスターに手を掛けた。
 ヤオ子はチャクラを練り上げて印を結ぶ。


 「笑止! 笑止! 笑止千万!
  だから、お前はアホなのだーーーっ!」


 一斉に投げられる武器を、ヤオ子は必殺技の爆発で弾き返した。


 (この子、何て危険な術を覚えてんのよ!)

 「サクラさん! 今!」


 サクラがホルスターから手裏剣を抜き取り、残った忍達に投擲する。
 サクラの手裏剣は、残った七人のうち三人を仕留める。
 残り四人……。

 サクラとヤオ子が動き続け、残り四人を陽動する。
 しかし、人数が少なくなった分だけ、逆に上手くいかない。
 しかも、敵の忍二人はここに来てコンビプレイを見せる。
 一人が印を結び、サクラが印を見て叫ぶ。


 「火遁よ!」


 敵の忍の口から、火炎が飛ぶ。
 だが……。


 「「小さい!?」」


 もう一人の忍が時間差で風遁を使うと、炎が風の力を受けて勢いを増す。


 「っ!」

 「ヤオ子!
  さっきの術!」

 (勢いで負けます!
  でも……サクラさんを信じます!)


 ヤオ子がチャクラを練り上げて、印を結ぶ。
 そして、影分身も続く。


 「「爆殺! ヤオ子フィンガー!」」


 爆発術の二連撃。
 しかし、勢いは止まるが術の効果が違う。
 一瞬だけのヤオ子の術に対して、敵の忍の風遁は持続時間が長い。


 「まだ続いてます!」


 サクラが起爆札付きのクナイを投げると、クナイは勢いが弱まった流れの側面で爆発する。
 それにより、風の流れが変わり、火炎はヤオ子達を避けた。


 「風を読んだんですか!?」


 サクラの攻撃は、更に次に移る。
 ヤオ子も続く。


 (凄いです!
  止まりません!
  何より、次の行動への切り替えが早い!)


 分身を利用しながら忍体術を仕掛け、ヤオ子もガイ仕込みの体術を仕掛ける。
 サクラは綱手の攻撃を避ける訓練も始まっているため、忍体術というものに取り込みだしていた。
 だから、ヤオ子の体術に、今度はサクラが驚く。


 (何で、この子がここまで体術使えるの?
  この動きって……リーさんじゃない!)


 修行の成果は、二人とも少しずつ現れ始めていた。


 「しゃーんなろー!」


 サクラの拳が相手の鳩尾に入る。
 残り、三人……。


 「そろそろギリギリかな?」


 ヤオ子の影分身が敵に抱きつき、轟音が響く。


 「じ、自爆した……」


 サクラは爆風を回避するため、半身になって動きを止め、その横にヤオ子が追いついた。


 「これが確実に外さないんですよね。
  相手の瞬身の術についていけない時もあるし」

 「それはそうだけど……」

 「相手も驚くんですよ。
  だって、抱きつくなんて自殺行為でしょ?」

 「まあ……」

 「そこをついての自爆です」

 「…………」


 二人のくノ一の善戦に、残った敵の忍二人が固まっている。
 ヤオ子とサクラが残りの忍を睨む。


 「警戒されましたね」

 「そうね」


 一人は、頭脳明晰で成長株の少女。
 敵の忍達は、サクラのヤオ子への指示と的確な動きのせいで動けない。
 一人は、まだまだ発展途上だが……危ない。
 自爆した……。
 正直、意味不明なものの方が恐ろしい。

 固まる忍達の後ろにカカシが音もなく現れると、振り向く間もなく、カカシが両手に持ったクナイで一人ずつ華麗に仕留めた。


 「二人とも……。
  よくやった」


 余裕のあるカカシに対して、ヤオ子とサクラは息を吐き出して肩を弾ませながら返事を返した。
 ヤオ子は乱れた呼吸のまま、再びチャクラを練ると影分身を三体出す。


 「何するの?」

 「ふん縛るんですよ。
  皆、息あるんだから」


 影分身達は、次々と敵の忍を縛り始めた。


 「殺してないのか……。
  そんな余裕があったのか?」


 カカシにサクラが答える。


 「無理しました。
  ヤオ子が殺しをしないって言うから」

 「どういうことだ?」


 カカシとサクラはヤオ子に訊ねると、ヤオ子はイビキとの話を簡潔に説明した。


 「なるほどね。
  それで腕の額当ても隠しているわけか」

 「はい」

 「だったら、今回みたいな任務はやめるべきね」

 「あたしも選べるなら、そうしますけどね」

 「その件は、オレから綱手様に伝えておこう。
  本人がそう言うなら、
  無理やり召集したこっち側も責任があるからな」

 「助かります」

 「すまなかったな。
  こういう任務に巻き込んで」

 「何事もなかったからいいです」


 サクラは、顎に指を置いて考える。


 「でも……。
  Cランクの任務をBランクに引き上げたのって、
  ヤオ子本人じゃない?」

 「え?」

 「そういえば……。
  ヤオ子が敵を呼び寄せようとしたな」

 「……勢いで」

 「あんた、馬鹿じゃないの?」

 「言い訳できません……」

 (矛盾した行動を取るなんて……。
  何かあるのか?)


 ヤオ子の行動は、カカシとサクラに少し疑問を残させた。
 しかし、そればっかりに気を回していても仕方ない。
 カカシが、次の行動を促す。


 「じゃ、目的地に行って、この人達ををどうにかして貰うか」

 「はい。
  でも、その前に応急処置だけ。
  私の手裏剣で失血死っていうのも……。
  ・
  ・
  それに医療忍術の練習にもなりますし」

 「そうか。
  ・
  ・
  じゃあ、オレの方も頼めるか?」

 「はい」

 「少し張り切り過ぎちゃってな」


 ヤオ子が呟く。


 「カカシさんって……。
  本当に相手が気の毒になるぐらいにボコボコにするんですね」

 「そうよ。
  分かった?」


 サクラが医療忍術を掛けながら返事を返した。


 「ドSだったんですね~」

 「違うって……。
  ちゃんと生きてるでしょ?
  オレは実力差が分かってるなら、無理な殺生はしないよ」

 「そうですよね。
  死んでたら苦しむ顔を見れませんもんね」

 「だから、そんなことしないって!
  何で、ヤオ子は、オレをドSにしたがるんだ!?」

 「嫌なんですか?
  ドMがいいとか?」

 「普通でいい……」

 「なるほど……。
  ただのエロでいたいんですね」

 「……オレ、この子を制御しきれんわ。
  ナルトだって、もう少し聞きわけがあったのに……」

 「冗談ですよ?
  カカシさんをからかってるだけです」

 「大人をからかうな……」

 「じゃあ、真面目にエロを語りますか?」


 サクラの投石が、ヤオ子に炸裂した。


 「語るな!
  こっちは集中してんのよ!
  集中力を乱すようなことはしないで!」

 「少しぐらい失敗して傷が残ってもいいですよ。
  女か美少年か美男子の治療をしているわけじゃないんですから」

 「あんたねぇ……」

 「あたしの捕食対象になり得ない野郎なんて適当でいいんですよ……適当で」

 「「悪魔か……」」


 脱力しながらも、サクラは治療を完成させた。
 そして、目的地に向かうためにカカシの近くに全員が集まる。


 「ところで……。
  ヤオ子、それ何?」


 両手一杯に荷物を抱えて続く影分身について、カカシはヤオ子に質問した。


 「戦利品。
  あの人達のホルスターと忍具と金品」

 「あんた、追い剥ぎ!?」

 「ふ……。
  あたしに関わる悪党は、尻の毛まで抜かれて鼻血も出なくなるんです」


 カカシは苦笑いを浮けべ、サクラは呆れて目的地へと歩き出した。



[13840] 第51話 ヤオ子の秘密
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:51
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 目的地に着き、カカシは報告へ行っている。
 縛られていた賊も無事に連行された。


 「一件落着ですね」


 待機中の場所でサクラが、ヤオ子に話し掛ける。


 「事後報告とかで、もう夕方ね」

 「木ノ葉に戻る時は、日付けが変わってますね」

 「帰れるの?」

 「…………」


 そこに要人の結果を聞いたカカシが戻って来た。



  第51話 ヤオ子の秘密



 カカシが少し離れた宿を指差し、ヤオ子とサクラに話し掛ける。


 「今日は、あそこの宿に泊る」

 「結構、立派な宿ですけど?」

 「依頼主からのお礼も兼ねてる。
  無事に守り通せたからな」


 ヤオ子とサクラが、ホッと息を吐く。


 「じゃあ、無事に着いたんですね」

 「ああ」

 「よかったですね」

 「オレ達の作戦も役に立ったみたいだ」


 安堵の空気が漂うと、ヤオ子がカカシとサクラに話し掛ける。


 「今だから言いますけど……。
  結構、演技臭かったですよね?」

 「やっぱり?」

 「即興で演じたにしては、いい出来だと思ったけど?」

 「オレも途中、無理かと思った……。
  だって、普通、あの状況なら黙って立ち去るだろ?
  それをわざわざ森まで届く声で会話するんだから」

 「冷静に言われるとそうですね」

 「何でも、やってみるもんだな」


 三人は一頻り話し終わると、宿へと向かった。


 …


 深夜……。
 ヤオ子はサクラと同じ部屋で熟睡している。
 一方のサクラは、部屋を出てテラスから月を眺めていた。


 「眠れないのか?」


 サクラが目を向けると隣の部屋のテラスから、カカシが声を掛けていた。
 サクラがカカシの居るテラスに近づく。


 「ちょっと、月が明るかったんで」

 「ああ……。
  満月だからな」

 「カカシ先生……」

 「うん?」

 「ヤオ子って……。
  どういう子なんですか?」

 「どうしたの?」

 「ヤオ子の使った忍術……。
  アカデミーを出たばっかりの子が使うようなものじゃありません」

 「サスケにでも習ったのかな?」

 「サスケ君?
  でも、期間は短いですよ?」

 「だとしたら……。
  血筋かもしれないな」

 「血筋?」

 「あの子……。
  エリート忍者の血を引いているんだよ」

 「エリート?
  そうは見えないんですけど……。
  血継限界でも受け継いでいるんですか?
  ウチハ一族みたいに」

 「いや」

 「じゃあ……」

 「エリートと言っても色んな例えがあるでしょ?
  木ノ葉丸君を教えているエビス先生はエリート専門の家庭教師だし、
  普通に血継限界を受け継いでないエリートも居るよ」

 「そうか……。
  でも、エリートの血筋って?
  ・
  ・
  というか、何で、カカシ先生がヤオ子の素性を知っているんですか?」

 「色々とトラブルを起こすからさ。
  少し気になって調べてみたんだ。
  そうしたら、色んなことが出てくるんだ……これが」

 「色々?」

 「そう。
  ・
  ・
  血筋……。
  都市伝説……。
  恋愛……。
  変態……」

 「変なキーワードが入ってます……。
  何? 『都市伝説』と『変態』って?」

 「どこから話そうかな……。
  掻い摘めないから、初めから話すか……」

 「お願いします」

 「ヤオ子の母親は……。
  代々、優秀な忍者を輩出している家の出身なんだ。
  天才と言われる忍者を何人も出している」

 「天才……。
  天才忍者……」

 「違う。
  『天才忍者』じゃない『天才』」

 「何が違うの?」

 「身体能力は、普通の忍者と同じ。
  ここの出来が違うの」


 カカシが頭を指す。


 「どういうことですか?」

 「頭の記憶力と応用力が抜群に上手いんだ。
  あの子、サクラのやった中忍試験を解いたからな」

 「本当ですか?」

 「ああ。
  母方の家系は、十歳ぐらから脳が普通の人間より活発になる。
  そして、二十歳ぐらいまで活性化し続けるんだ」

 「変な家系ですね?」

 「まあ、突然変異みたいなものらしいが、詳しくは分からない。
  伝わっている話だと、忍の生き方のせいという線が強いな。
  例えば、忍術を理解して使えるのは早い方がいいだろう?
  術を覚えてから、使いこなすには長い修行が必要だから。
  つまり、忍として必要な知識を早期に詰め込むために進化した忍の家系なんだ」

 「ふ~ん……」

 「まあ、そういう家系だから、
  暗号解読班や医療忍者など、知識を使う忍になるのが大半だ」

 「ヤオ子って……違いますよね?」

 「母親からして違うからな。
  家系と外れて、普通の忍だったし……。
  ・
  ・
  それに、ヤオ子に至っては十歳前だしなぁ……。
  話しを聞く限りでは、あの家系はあの歳で勉強をしないはずなんだけど。
  脳も子供から大人に切り替わってないはずだし……」

 「死に関わる危機に遭遇して
  眠っていた能力が目覚めたとか?」

 「どうなんだろう?」


 正解。
 極貧状態で、時々、見せていた能力がサスケに家を焼かれそうになって開花し始めた。


 「でも……。
  ヤオ子の両親って……聞く限り馬鹿なんですけど?」

 「まあ。
  ヤオ子、本人も認めていることなんだけどね。
  ・
  ・
  母親の血筋だけはエリートなんだわ」

 「はあ……。
  ・
  ・
  父親は?」

 「大器晩成型だな。
  コツコツ積み上げていくタイプだ。
  少年時代の始めの成績は、ナルトのアカデミーといい勝負だ」

 「ナルト?
  ナルトの成績って……」

 「そう。
  万年ドベだ」


 サクラが腕を組んで考える。


 「天才と落ち零れ……。
  サスケ君とナルトみたい……」

 「でも、この二人は夫婦になる」

 「サスケ君とナルトは、夫婦になれないか……」

 (でも、ファーストキスは……)


 サクラが溜息を吐いた。
 カカシは首を傾げて、話を続ける。


 「両親の素性は、そんなところだ。
  この正反対の二人がどういった経緯で夫婦になるかは、
  木ノ葉に伝わる都市伝説をいくつか紐解くとわかる」

 「その都市伝説っていうのが気になるんですよ」

 「サクラは『里の狂姫』の伝説を知っているか?」

 「有名な二つは知っています。
  一つが愛に狂ったくノ一。
  もう一つが男に狂ったくノ一。
  ・
  ・
  あとは……世にも恐ろしい変態ストーリーで耳を塞ぎました」

 「はは……。
  ・
  ・
  実は、その『里の狂姫』が、ヤオ子の母親なんだ」


 サクラが吹いた。


 「嘘!?」

 「本当……」

 「何で、天才が変態になるの!?」

 「サクラの知ってた二つの伝説。
  その男も同一人物でヤオ子の父親だ」


 サクラが吹いた。


 「何で、被害者と加害者が夫婦になるの!?」

 「そこが世の流れの恐ろしいところだ。
  二人はアカデミーの同級生で、どっちも一人ぼっちだった」

 「一人ぼっち……」

 「ヤオ子の母親は、優秀過ぎて誰も声を掛けれなかった。
  周りの子の態度が余計にヤオ子の母親をイラつかせてね。
  遂に周りの人間を見下して生活する子になってしまった。
  一方のヤオ子の父親は、万年ドベで誰にも相手にされない。
  簡単に言うとイジメの対象で無視されたり、悪戯される対象」

 「正反対ですね」

 「ああ。
  でも、基本的にヤオ子の父親は真面目なんだよ。
  成績は悪くても、必死に修行をしていたからね。
  ただ……」

 「ただ?」

 「非常に頭が悪い……」


 サクラがこけた。


 「何ですか……それ?」

 「アカデミーの教科書の内容の十を読んで、二しか理解出来ていない」

 「重症ですね……」

 「そう」

 「で、そんなヤオ子の父親の修行風景をヤオ子の母親が目撃する」

 (この話……。
  都市伝説の男と女の最初の出会いに似てる)

 「都市伝説だと、それで女がストーカーになっちゃうんですよね?」

 「実は、これでヤオ子の母親がストーカーになっちゃう」

 「ハァ!?」

 「初めて目撃した時、ヤオ子の母親に父親が声を掛けてる。
  万年一人だったヤオ子の母親は、それだけで恋に落ちたらしい」

 「それが……何で、ストーカーに?」

 「それから、毎日、覗いてたらしい……」

 「…………」

 「それは、もう……。
  朝、家を出てから帰宅するところから風呂に入るところまで」

 「ストップ!
  最後のお風呂って、何!?」

 「それが原因で、都市伝説に変態的な話の尾ひれがついたんだ」


 サクラが額を押さえる。


 「そして、何年か経ってストーカー行為が治まって、
  ヤオ子の母親は、やっと父親に話し掛けることが出来るようになる。
  最初は、不安だったらしいよ。
  自分で壁作って誰も寄せ付けなかったから」

 「そうですよね……」

 「でも、ヤオ子の父親は普通に話に答えた。
  それこそ、何事もなく友達のように……」

 「素敵な人ね……」

 「ただ、後日談でヤオ子の父親は、
  母親の状態に気付いてないだけだったことが分かった」


 サクラがこけた。


 「何それ!?」

 「言っただろう?
  父親の方は、馬鹿だって」

 「そ、そうだけど……」

 「それで、ますますヤオ子の母親は熱をあげ、父親にゾッコンとなるわけだ。
  そして、その後が凄い。
  アカデミーを卒業する時は、母親が一位の成績で父親が二位だ」

 「何があったの?」

 「ヤオ子の母親は、少し物の感じ方がおかしい」

 「いや、もう随分おかしいですよ」

 「男の独占欲って聞いたことない?」

 「自分の彼女を独り占めにしたい……みたいな?」

 「そう。
  好きな女にネックレスあげて、
  首輪つけた気になってるようなヤツ」

 「嫌ですよね……」

 「その心理が、まんまヤオ子の母親に当て嵌まる」

 「…………」

 「つまり、『自分の男を独占したい』が、
  『自分の男と独占したい』に変わって、
  男を自分好みのレベルまで引き上げたわけだ」

 「凄まじい執念ですね……」

 「それが都市伝説狂姫シリーズ『男に狂ったくノ一』だ」

 「一体、何をしたんですか?」

 「ヤオ子の父親の筋力やチャクラ量は、勤勉な修行のお陰で桁外れにあるんだ。
  分かっていないのは、使い方……。
  つまり、体の動かし方を理解していなかったんだ」

 「なるほど」

 「ヤオ子の母親は、そこで体の使い方を叩き込むわけだ」

 「よく教え込ませましたね」

 「キーワードは『馬鹿』だ。
  ヤオ子の父親は、難しい表現は分からないが、
  子供でも分かる表現は、馬鹿みたいに早く体得出来る」

 「また、訳の分からない表現が……」

 「サクラ。
  『クナイを投げる時に頭のところで手を放す』
  これが教科書に載っていたとして、分かるだろ?」

 「はい。
  リリースポイントの話ですよね?」

 「そう。
  しかし、ヤオ子の父親は分からない」

 「は?」

 「そういう表現をするとただ手を放すもんだから、
  クナイがあらぬ方向に飛んでいく」

 「…………」

 「そこでヤオ子の母親は……。
  『スピードが乗ってる時にパッと放して、グサッて的に当てる』
  と言い換えた。
  これだけで、ヤオ子の父親は理解できて格段に腕があがった」

 「先生……。
  余計わからない……」

 「常人はな……。
  しかし、『馬鹿』は、シンプルにすればするほど理解する。
  ある日の暗号のテスト……。
  誰も解けない暗号をヤオ子の父親だけが解き明かした」

 「何で……」

 「ヤオ子の母親と一緒に試験勉強をしてた時、
  『パッとやって、ガッとして、バッとやればいいのよ』
  勢いで言ったその言葉をヒントに解いたらしい……」

 「何!?
  馬鹿って凄いの!?」

 「もしかしたら、凄いのかもしれない……。
  まあ、そんなこんなで二人の愛は深まるわけだ」

 「…………」

 「一つ……いいですか?」

 「何?」

 「ヤオ子の母親が馬鹿になる要素がないんですけど?」

 「ああ、それね。
  ヤオ子の母親の頭の中は、エリートの家系と比べて詰まっている内容が非常に違う。
  確か……変態6:忍術3:常識1だったかな?」

 「何処からの情報なんですか……」

 「都市伝説の割合を分散するとそういう割合になる。
  つまり、脳が活性化する十年間。
  アカデミーと任務で忍の知識。
  それ以外は、父親に狂っていたんだ」


 サクラが手を出して静止を要求する。


 「ちょっと待ってください……。
  つまり、ヤオ子の忍の才能は本来から高かった。
  母親の頭脳と父親の勤勉さを持ち合わせているから」

 「そう。
  忍者の親同士の掛け合わせだから、
  経絡系も普通の家の子より発達が早いはずだ」

 「ただし……。
  母親の変態さと父親の馬鹿さ加減も同時に受け継いでいる」

 「そう。
  だから、あんな妙な奇声をあげたり、変態的なことを話す……と思われる。
  しかも、生みの親が同じなら育ての親も同じだからな」

 「何か、最悪の掛け算ですね……」

 「まったくだ」

 「最後です。
  ヤオ子の両親が、今、忍をしていないのは?」

 「九尾の戦いがあったのを知っているな?」

 「はい。
  四代目が命を懸けて封印したという……」

 「その時、ヤオ子の母親を庇って父親は背中をやられた。
  忍として生きていけない傷を背負った。
  そして、二人は忍を辞めたんだ」

 「お母さんの方も?」

 「そうだ。
  勘当されて家を出た。
  そして、木ノ葉で八百屋を始めた。
  ・
  ・
  その四年後……。
  ヤオ子が生まれるわけだ」

 「いい……話ですね」

 「ああ……」

 「…………」

 「変態的なエピソードさえなければ……」

 「そうなんだよな……。
  しかも、母親の方は、都市伝説にまでなってんだから……」

 「謎が解けたのにすっきりしないなんてこと、生まれて初めてです……」

 「はは……。
  オレもだ……」


 カカシとサクラは、その後、サスケとナルトの話を少しすると眠りに着いた。


 …


 ※※※※※ ヤオ子の遺伝的能力について ※※※※※

 ヤオ子の両親の秘密を少し明かしました。
 母親の家系……『記憶力』『応用力』『変態性』
 父親の家系……『勤勉性』『馬鹿』

 何故、このようにしたか?
 実は、ヤオ子から生まれた設定です。
 ヤオ子って、どんな子だろうと改めて考えるとSSのネタになるかと思いました。
 つまり、このSSでは、ヤオ子から生まれたのが両親になります。

 まず、ヤオ子には妙な対応力をつけてしまいました。
 特別召集の試験のネタをやるために考えなしに……。
 この時点で、記憶力のいい子+応用力があると後から判断しました。

 次にご存知の欠点というか魅力。
 暴走・エロ・奇声をあげるところ。

 父親を『馬鹿』にすることは決めていました。
 そのため、母親に『記憶力』『応用力』をつけることが決まります。
 しかし、このままだと父親はどうしようもないし、母親は完璧人間になってしまう。
 そこで父親に『勤勉性』を母親に『変態性』を付加。
 多分、この組み合わせが、現在のヤオ子の掛け合わせた結果に繋がるかと思います。
 それを纏めたのが今回のSSでした。

 この話が出たから、何か変化があるのかというと……実は、何も変わりません。
 ヤオ子は、今まで通りのヤオ子だし、おかしな子のままです。
 そして、ヤオ子の母方の血の目覚めは微妙です。
 一番強く目覚めるのが、サスケに恐怖で縛られた時。
 次に誰かに任務を強制された時。
 M性の危機感が引き金になっています。
 自分で能力を自在に扱える時は、エロが絡んだ時だけ。
 つまり、ヤオ子の忍の能力は、サスケによる恐怖支配が大きいことになります。



[13840] 第52話 ヤオ子とガイ班のある一日
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:51
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 第七班(?)の任務を終えてから、ヤオ子は雑務中心のDランク任務をこなす日々が続いた。
 もう……。
 こなしてこなしてこなしまくる。
 他の同期の子を置いてきぼりで、一人だけDランクのエンカウントを増やす。
 そして、やっと休日を貰うことが出来た。


 「いや……おかしいって。
  今度、目安箱に週休二日にしてくれって投書しないと……。
  もしくは、神龍に頼むか……」


 ヤオ子はパワハラ上司に逆らえないOLのように任務をこなしていた。
 そして、やっとのお休み。


 「のんびりしてもいいんですけどね……」


 ヤオ子は、あの女の子の顔が過ぎると更なる努力を求めて、朝早くから家を後にした。



  第52話 ヤオ子とガイ班のある一日



 本日は、待ち合わせをしている。
 たまたま会ったガイが修行を見てくれると言ってくれたのだ。
 ヤオ子は、ガイ班が修行している演習場に昨晩の任務で作った蒸かし前の中華まんとその他諸々を持って、待ち合わせ場所に向かうことにした。
 そして、目的地に向かって歩く先で、お揃いの服装が見えてくる。


 「ガイ先生~! リーさ~ん!
  おはようございます!」

 「おお、ヤオ子! おはよう!」

 「おはようございます!
  ヤオ子さん!」

 「今日は、お世話になります」


 ヤオ子の挨拶にガイとリーも挨拶を返し、そのまま会話へと移る。
 ガイがヤオ子の背荷物を見て話し掛ける。


 「随分と大荷物だな?」

 「はい。
  修行を見ていただくので、お昼をご馳走しようと思って」

 「また野菜か?」

 「いいえ。
  昨夜の任務の貰い物です。
  貰い物で、すいません」

 「気にするな。
  そんな言い方は、貰った人にも失礼だぞ」

 「そうですね。
  皆さんで美味しくいただきましょう」


 ガイとリーと合流して、ヤオ子はガイ班が利用する修行場所へと向かうことになった。
 そして、本日お世話になるガイ班には、リー以外のメンバーも居る。
 修行場所に着くと、ヤオ子に気付いた日向ネジとテンテンがヤオ子を見て質問した。


 「ガイ先生~。
  この子、誰ですか?」

 「ん? そうか。
  二人は初めてだったな。
  こっちは、八百屋のヤオ子だ。
  リーが入院している時に世話になった」

 「世話?」

 「違いますよ。
  入院中にリーさんに体術を少し教えていただいたんです。
  それからガイ先生とリーさんに、時々修行を見て貰っているんです」

 「へ~」


 ネジが溜息交じりに話す。


 「勝手に入れないで欲しいな」

 「ううう……。
  すいません……」

 「ネジ。
  小さい子にそんな言い方ないんじゃない?」

 「事実を言ったまでだ」

 「お二人のお邪魔にはならないようにしますんで……」

 「……分かった」


 ネジがその場を離れて行くと、ヤオ子は庇ってくれたテンテンを見る。


 「あの~……」

 「何?」

 「実は、テンテンさんに折り入って相談したいことがあるんです」

 「相談?
  皆に話せば?」


 テンテンの言葉にリーが反応する。


 「そうです!
  一人よりも、皆で話した方が解決は早いです!」

 「リーの言う通りだ!」

 (また、この二人は……。
  何とか引き離さないと……)


 ヤオ子が頬を染め、はにかんで呟やく。


 「あの……女の子同士の大事なお話なんです」


 ガイとリーが固まると、テンテンは気を利かす。


 「そういうことなら、先生達は用なしね。
  お昼前に少し話そうか?」

 「お願いします」


 その後、ガイ、リー、ヤオ子とネジ、テンテンで別れて修行をすることになった。


 …


 ガイが、ヤオ子とリーに指示を出す。


 「では、ヤオ子のために基本の型から確認しよう」

 「リーさん、すいません。
  あたしのために……」

 「構いません!
  基本は大事です!」

 「ああ……。
  やっぱり、リーさんはいい人だ……。
  綱手さんに爪の垢でも飲ませたいです……」

 「「何故、火影様に……」」

 「あはは……。
  気になさらず。
  ・
  ・
  では、始めましょう!」


 ヤオ子の強引な勢いで修行が開始される。
 そして、基本の確認が終了すると、ガイが感想を話す。


 「二人とも基本をよく守っている。
  オレは非常に満足だ」

 「「ありがとうございます!」」


 基本、声は大きく……。

 遠くから見ていたネジとテンテンは、大したものだと感心する。
 あのノリについていけて……と。


 「ところで、ヤオ子」

 「何ですか?」

 「オレは、お前の修行を全然見てやれないわけだが……。
  何か気になることや要望はないか?」


 ヤオ子は顎の下に指を立てる。


 「そうですね~……。
  今、瞬身の術を練習していますが、上手く出来ません」

 「瞬身の術?」

 「やはり、格闘戦では、スピードがある方が有利だと思うんです」

 「何故だ?」

 「強い攻撃も当たらなければ意味がない。
  当てるにしても避けるにしても、
  スピードは重要な要素と考えます」

 「ヤオ子! お前って奴は!
  リーの次にいいところに気付くな!」

 「次点ですか……」


 リーが腕を組んで考えたあと、指を立てて提案する。


 「少し見てみませんか?
  ヤオ子さんの動きは、それほど悪いと思いませんので」

 「そうだな。
  やってみろ」

 「はい。
  ・
  ・
  行きますよ!」


 ヤオ子はシュッと音を立てると横に移動する。


 「どうですか?」

 「何か、変だな?」

 「はい」

 「変?」

 「もう一度、いいか?」

 「はい」


 ヤオ子はシュッと音を立てると横に移動する。


 「目で普通に追えるな……」

 「はい。
  ガイ先生」

 「そうなんですよ。
  サスケさんやリーさんを見ているから、早い動きは、大体、分かるんです。
  でも、自分では早く動けないんです」


 ガイはヤオ子の動きを思い出し、腰に手を置く。


 「少し分かった気がする……。
  何故、チャクラを使わんのだ?」

 「もったいないから」

 「馬鹿ヤロー!」


 ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「普段の戦闘は、どうしているんだ!?」

 「極力使わない!」

 「馬鹿ヤロー!」


 ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「痛いな~」

 「忍者がチャクラをケチって、どうする!?」

 「あれって筋力の高速移動じゃないの?」

 「違う!
  普通に考えれば分かるだろう!」

 「普通に考えるよりも節約が先に……」

 「また、貧乏性が出たか……」

 「あ、でも……。
  命の危機が絡めば使いますよ。
  サクラさんと戦った時は、使ってましたから」

 「じゃあ、出来るのではないか?」

 「ただし、チャクラ吸着で、踏み込みの摩擦力を増加しかしていませんけど」

 「本当にダメな奴だな。
  練習の時に使わないで、本番でどうやって使うんだ?」

 「じゃあ、使おうかな?」

 「思いの他、問題は早く解決しそうだな」


 ガイの言う通りに問題解決は早そうだが、リーは別のことが気になった。
 リーがヤオ子に質問する。


 「ヤオ子さんは、そもそも何でチャクラを節約していたんですか?
  貧乏性はなしで……」

 「初めは、チャクラの総量ですね。
  チャクラ吸着の木登りの後に忍術の修行をします。
  その後に体術でもチャクラを使ったら……死ぬ」

 「…………」

 「本に書いてありました。
  使っているのは身体エネルギーだから、無理して使い切れば当然死ぬと……。
  だから、体術は教わった基礎しかしていませんでした」


 ガイは腕組みをする。


 「一応、理由はあったんだな。
  しかし、チャクラの総量も増えて来たはずだ。
  そろそろ体術にも応用していいんじゃないか?」

 「そうですね」

 「それが理由だったんですね」

 「実は、あと一つ」

 「まだ、あるのか?」

 「ただ、こっちの方は理由が弱いんですよね。
  実験的な意味も多いし」

 「?」


 ヤオ子の遠回しな言い方に、今一、ガイとリーはピンとこない。
 ヤオ子が説明を含めて質問をする。


 「ガイ先生とリーさんに質問ですが、
  お二人は水上の戦闘で水面歩行をしますよね?」

 「当然だ」

 「同じく」

 「しかも、体術の達人である以上、極自然に」

 「そうだな」


 ヤオ子は指を立てる。


 「それを完全にコントロールしたいんです」

 「どういうことだ?」

 「つまり、平常時は微弱なチャクラすら流さない。
  戦闘と認識した時にだけ流すんです」

 「何で、そんなことを?
  例によって節約か?」

 「いいえ。
  幻術対策です」

 「幻術だと?」

 「まだ実験段階で試していないんですけど……。
  幻術というのは、自分のチャクラを相手にコントロールされることで掛かります。
  しかし、コントロールするチャクラさえなければ、理論上は幻術に掛かりません」

 「なるほど」

 「また、チャクラを抑えるだけでも意味はあると思います。
  相手にコントロールするチャクラを与えないわけですから、
  相手がよっぽどの達人でない限り、防げると思います」

 「面白い考えですね」

 「しかし、諸刃の剣だな」

 「どうして?」

 「戦闘中にチャクラを練るのは必然だろう。
  少しもチャクラを流していないのは、行動が遅れる原因だ」

 「そうか……」


 ヤオ子は少し残念な顔をする。


 「しかし、オレはそういう影の努力は嫌いじゃないぞ」

 「ありがとうございます」

 「それにヤオ子さんの努力は無駄ではないですよ。
  幻術を解く時には、
  一度、チャクラを可能な限り止めるはずですから」

 「「そういえば……」」


 ヤオ子とガイは、リーの一言に納得する。


 「努力が無駄にならなくて良かったです。
  そして、あたしの質問と説明は終わりです。
  ・
  ・
  瞬身の術の講義をお願いします」

 「うむ。
  では、リーよ。
  ヤオ子に瞬身の術の手本を見せてやれ」

 「分かりました」


 その後、リーの瞬身の術をお手本に練習が始まった。
 暫くして、ヤオ子は瞬身の術の個人練習に入り、ガイとリーは別メニューの修行に移った。


 …


 午前中の修行もお昼に近づき始めると、ヤオ子は皆よりも早めに練習を切り上げる。
 そして、テンテンのところへと向かう。
 テンテンはヤオ子に気付くと、修行を中断してくれた。


 「さっき言ってた、お話?」

 「はい」

 「どんなことかな?」

 「実は……」

 「ん?」

 「女の子は、あまり関係ないんです」


 テンテンが首を傾げる。


 「教えて欲しいことがあるんです」

 「私が教えられるの?」

 「多分、この班で紅一点のテンテンさんにしか相談できません」

 「何のこと?」

 「ガイ先生……」

 「?」

 「ガイ先生とリーさんの制御方法を教えてください!」


 テンテンは『あ~』と声を漏らすと額に手を置く。


 「そのことね……。
  なら、ネジも呼んだ方がいいわ……」


 テンテンがネジを呼ぶと、ネジは面倒臭そうにやって来る。


 「何だ? 一体?」

 「この子の質問……。
  ネジも答えてあげて」

 「質問?」

 「ガイ先生とリーの扱いだって」

 「う……」


 ネジが小さな呻き声を漏らした。
 そして、溜息を吐いて話し掛ける。


 「お前も被害者か?」

 「被害者……。
  ということは、テンテンさんだけじゃなく……ネジさんも?」


 ネジが頷く。


 「質問は詳しく話さなくても分かるわよ。
  要するに
  『どうやって、あのノリだけの会話をどうするか?』
  『どうやって、あのノリだけの行動をどうするか?』
  でしょ?」

 「はい」

 「オレ達も苦労している……」


 妙な連帯感が生まれる。


 「何か対策ってあるんですか?
  あたしは、さっきみたいに飲まれるしかないんですけど」

 「私達は、一人にならないことを心掛けているわね。
  二対一だと必ず押し負けるから」

 「一人の時は?」

 「一人の時は、極力暴走するようなネタを振らない」

 「…………」

 「長年付き合ってきた二人でも、回避しか出来ないんですか?」

 「それだけ濃いということだ……性格が」

 「ヤオ子ちゃんは、どうしてるの?」

 「年上なんで呼び捨てでいいですよ。
  ・
  ・
  えっと……あたしは、まだ分析段階なので、
  あえて、あのノリに乗っかって被害を減らしています」

 「乗るのか……。
  勇気ある選択だな」

 「まだ、はしゃいでもギリギリセーフの年齢ですので」

 「分析と言っていたが、興味あるな」

 「はい。
  同士のお二人には、お話しします。
  ・
  ・
  あたしの見たところ、リーさんだけなら御せるんです」

 「リーだけ?」

 「はい。
  リーさんは素直な性格で、結構紳士です」

 「そうかも……」

 「確かに……」

 「リーさんだけなら、
  あたしは強引に我が侭とか通せる気がします」


 テンテンが考え込む。


 「私も思い当たる節があるわ」

 「オレもだ。
  何だかんだで意見に乗ってくれることが多い」

 「でもね。
  ガイ先生が加わると一変するんです。
  まず、意見が通らなくなります。
  何故か?
  リーさんが、全てガイ先生の意見に靡くからです」

 「「なるほど」」

 「更にここで絶対的な不利が発生します」

 「不利?」

 「数の暴力です。
  多数決で必ず向こうが、"2"になるんです。
  これがさっき言っていた一人を避けるに繋がります」

 「中々、やるな……」

 「必死です。
  見てください」


 ヤオ子がレッグウォーマーを捲り上げる。


 「さっき……。
  重りを増やされました……」

 「それか……」

 「はい」

 「私達は、リーが身代わりになってくれたから……」

 「そうなんです。
  リーさんは、まともなんです。
  滅茶苦茶いい人なんです。
  リーさんにガイ先生が加わるとおかしくなるんです。
  ・
  ・
  リーさんはガイ先生を尊敬し過ぎて、壊れると思われます」

 「「そうかもしれない……」」

 「あたしは、リーさんの入院中にリーさんから体術を習ったんで、
  リーさんの分析は、かなり出来ました。
  問題はガイ先生です。
  あの人を分析して理解しなければ、対策が立てられません」


 テンテンがネジを見る。


 「ネジ……。
  私、何か心強い味方を得た気がするわ。
  この子となら、長年苦労していた問題を解決できるかもしれない」

 「テンテン。
  過度な期待は禁物だ。
  ・
  ・
  しかし、ガイ先生を何とかすれば、リーをこちら側に戻せるかもしれない」


 ヤオ子はネジとテンテンに指を立てる。


 「そこで、少しガイ先生を分析してみませんか?」

 「分析?」

 「あたしが思うには、ガイ先生はリーさんに偏った考えをするように見えます。
  もしかしたら、剛拳贔屓なのでは?
  ネジさんの柔拳やテンテンさんの暗器に嫉妬しているとか?」

 「「それはない」」

 「じゃあ、あの強引さと発想は何処から来るんでしょうか?」

 「難しいな……」

 「ねぇ。
  その強引さの度合いを確かめてみたら?」

 「何ですか? それ?」

 「つまりガイ先生の我が侭度をチェックするのよ」

 「面白いですね」

 「我が侭度か……」


 ヤオ子は腕を組む。


 「その度合いによって対策も変わるかもしれませんね。
  例えば、ガキ大将レベルなのか?
  大人の不良レベルなのか?
  とかですね。
  近い対象と同じ様な対策を立てられるかもしれない……」

 「でも、どのようにチェックするんだ?」

 「一つ……考えがあります。
  ・
  ・
  これを……」


 ヤオ子が蒸かし前の中華まんの入った箱を開ける。


 「まだ蒸かしていませんが、
  これをお昼のメニューに出します」

 「それで?」

 「数を見てください。
  六個あります。
  つまり、一人分多いんです。
  全員、一個ずつ食べたあと、我々は手を出しません」

 「なるほど……。
  その最後の一個をどのようにガイ先生が取るかを観察するのか?」

 「はい」

 「『これは、オレのだーっ!』とかって取ったらガキレベルね」

 「十分有り得そうだな……」

 「あたしは、これから昼食の準備に入ります。
  いきなり、中華まんを出すのも変なんで、デザートの杏仁豆腐の前に出します」

 「分かったわ」

 「了解した」

 「では、昼食が終わった後で、また作戦会議を……」


 全員が頷くとヤオ子は昼食の用意に向かい、ネジとテンテンは修行を再開した。


 …


 お昼の時間まで一時間……。
 ヤオ子が演習場の水道の近くで料理を始める。
 折りたたみ式の簡易的な机を開き、簡易コンロを二台設置。
 飯盒のお米を研いで、即席の枝で作った炊き込み用の棒に飯盒を設置して火をつける。
 そして、机の上にまな板を置くと材料を刻み始める。
 小刻みよく流れる包丁のリズムが辺りに響く。


 「ふふふ……。
  最近は、何故か中華料理屋でも働いています。
  そして、何故か綱手さんのお昼を作らされたり……。
  ・
  ・
  この前は、和食料理店でした。
  そして、何故か綱手さんのお昼を作らされたり……。
  ・
  ・
  更に前が老舗のお蕎麦屋さん。
  そして、何故か綱手さんのお昼を作らされたり……。
  ・
  ・
  綱手さんの食べたい気分で任務が変わります。
  あのババア……。
  それに同伴するシズネ女史にも腹が立つ、今日、この頃」


 材料を切り終わり、コンロに火をつける。
 ヤオ子がコンロの上で中華なべを振るって料理を始めると、辺りにはゴマ油の香ばしい匂いが立ち込めた。


 「中華なべを自在に振れるって、どうなんでしょうね?
  ・
  ・
  よっと!」


 ヤオ子がお玉で調味料を加え、手首の返しで食材がなべを滑り、宙を舞う。


 「綱手さんって自分の舌が納得するまで通わせるんだもんね……。
  いくら仕事忙しいからって、
  下忍に料理覚えさせてお昼に作らせんのって、どうなの?
  ・
  ・
  ほっ!
  一品目あがり!」


 ヤオ子は中華鍋を滑らせ、皿に青椒肉絲を盛り付ける。


 「冷ますのも何だし……。
  少し早いけど、皆を呼ぼうかな」


 ヤオ子が印を結び、影分身二体を作り出すとガイ班に昼食の伝令をお願いする。
 その間にヤオ子は、次の料理作りに入った。


 …


 ヤオ子が料理を開始して暫くすると、影分身に呼ばれたガイ達がやって来た。


 「昼食、作ったんで食べてください」


 簡易テーブルの上には青椒肉絲の他に、新たに料理した麻婆豆腐が置いてある。
 そして、人数分の取り皿と箸も置かれていた。


 「すまんな、ヤオ子」

 「ご馳走になります」


 ガイとリーが普段通りといった感じで席に着くと、テンテンが二人に話し掛ける。


 「何か……慣れてるわね?」

 「ヤオ子さんの料理は、入院中にいただきました」

 「あの時は、すき焼きだったな」

 「はい。
  あと、焼き野菜です」

 「何の話?」

 「まあまあ、気にしないで。
  ネジさんもテンテンさんも食べていってください。
  ・
  ・
  ガイ先生、あれからレパートリーが増えたんですよ」

 「そのようだな」


 ガイがテーブルの上の料理に目を移す。
 ネジとテンテンも席に座り、ガイ班全員が席に着いた。


 「ご飯物は飯盒のご飯が炊けてから調理するんで、
  それでもつつきながら、お話ししていてください」

 「ヤオ子は、いいのか?」

 「あと二、三品作ったら加わります」


 ヤオ子は、もう一つのコンロに蒸し器を置いて、件の中華まんを蒸し始める。


 (戦いの始まりです。
  ガイ先生の本性を暴きます)


 ヤオ子はクーラーボックスから家で下準備した餃子を取り出して、次のメニューの調理を開始した。


 …


 ガイ達がヤオ子の言葉に甘えて、先に料理を頂く。


 「「「「いただきます」」」」


 取り皿に麻婆豆腐取り分け、一口。


 「うまい!」

 「美味しいです!」

 「本当……。
  美味しい……」

 「凄いな」


 ガイがヤオ子に質問する。


 「いつの間に料理を覚えたんだ?」

 「任務で」

 「どんな任務なんだ……」


 すかさずネジから突っ込みが入ると、テンテンが質問する。


 「何で、任務で料理店の味まで極めるわけ?」

 「綱手さんが仕事で忙しくて出歩けないから、
  時々、出張して作るんです」

 「答えになってないんだけど……」

 「つまり、綱手さんが納得する味になるまで、任務を続けさせられるんです」

 「ああ……なるほど」

 「テンテン……。
  納得してるが、完全な職権乱用だぞ……」


 ヤオ子が焼きあがった餃子を置く。


 「そろそろご飯が炊けるんで炒飯作りますね。
  他に何か食べたいものあります?
  材料にも制限ありますけど……」

 「私、卵スープ欲しい」

 「いいですよ」


 ヤオ子は影分身を一体出し、飯盒からご飯を取り出して貰うように指示を出す。
 そして、自身は卵スープを作り始めた。


 「ネジ。
  この麻婆豆腐……絶妙ですね」

 「ああ。
  オレは、もう少し辛さが欲しかったが」

 「すいません。
  お店だと、辛さを選べるんですけど。
  皆でつつくんで平均的な辛さにしてあります」

 「なるほど。
  ・
  ・
  今度、寄らせて貰おう」

 「待ってますね」


 ネジは、結構、気に入ったらしい。
 そして、ガイ班は最近の任務の話や次の任務の話をしながら料理を摘まんでいた。
 その後、卵スープが運ばれ、炒飯が出来上がるとヤオ子も輪に入った。


 「ヤオ子は、いい奥さんになれるな」

 「イヤですね~。
  ガイ先生ったら!」

 「でも、本当にどれも美味しいです!」


 テンテンが卵スープを啜って、ヤオ子に話し掛ける。


 「この味つけってさ。
  名前忘れたけど、ちょっと値段の高い中華料理屋よね?」

 「そこで調理師が足りなくて任務していました」


 ネジが難しい顔で、ヤオ子に訊ねる。


 「その任務……大丈夫なのか?
  忍者が出来るものではないだろう」

 「あたしは、そもそも木ノ葉は、
  この手の任務を受けちゃいけない気がするんですよね」

 「同感だ。
  一体、今まで誰が受け持っていたんだ?」

 「聞いた話だと、医療部隊は薬品の調合とかしているみたいなんで、
  その中でも味覚が優れた人が受け持っていたとか」

 「いいのか……」

 「結局、料理が出来なくて怒られたみたいですけど」

 「当然の成り行きね……」

 「それを何で、ヤオ子さんが受け持つんですか?」

 「尻拭いです」

 「…………」

 ((((苦労してるな……))))

 「私だったら、絶対に断るけどな」

 「綱手さんの名言を教えて上げます。
  『家畜に選択権はない!』です」

 「迷言じゃないの?」

 「しかし、こんなにご馳走になって悪いな……」


 ガイが遠慮気味に、ヤオ子に話し掛ける。


 「気にしないでください。
  食費もそんなに掛かってませんから」

 「何でだ?」

 「任務で貰うんですよ。
  野菜とかお肉とか」

 「何でだ?」

 「貰いません?」


 ガイ達は、貰わないと首を振る。


 「農家の手伝いとか……。
  酪農の手伝いとか……。
  精肉の手伝いとか……。
  魚市場の手伝いとか……。
  ・
  ・
  しません?」


 ガイ達は、しないと首を振る。


 「そうですか?
  ・
  ・
  ああ! そうでした!
  あたしは、ガイ先生達の雑用任務をするための忍者でした。
  だから、ガイ先生達の雑用は減ってんでした」

 「例の特別に召集されたという……あれか?」

 「はい」

 「あの忍者の集まりって、そんなに幅広く展開してるの?」

 「そうですね……。
  あたしのDランク任務の数は、
  そろそろ五百近くになりますからね」


 ヤオ子以外が吹いた。


 「どうしました?」

 「「「「おかしい!」」」」

 「皆が皆、そう言いますね。
  まあ、それだけ木ノ葉は幅広く手掛けてたってことです」


 ガイが思わず呟く。


 「知らなかったな……」

 「何で、ガイ先生が知らないんですか?」

 「紹介場の任務なんて与えられる一方だからな」

 「黒歴史なんじゃないの……」

 「まあ、いいですけどね」

 ((((流すんだ……))))


 ヤオ子が食べ終わった料理を下げ、件の中華まんを取るべく蒸し器の前へ。
 ネジとテンテンにアイコンタクトを送ると、二人は黙って頷いた。


 「これがデザート前の最後の料理です」


 中華まん六個が置かれる。


 「ほう。
  おいしそうだ」

 「そうですね」


 ガイとリーが取るのを確認して、ヤオ子達も一つずつ取る。
 そして、口に運ぶ。


 「何これ!?」

 「凄くおいしい!?」

 「ふふふ……。
  これには高級食材のフカヒレが入っています」

 「道理で……」

 「といっても、スープに入れるには形が悪いものを使用しています。
  戻す前に砕けたものや粉になちゃったものです」

 「なんだ……」

 「味は同じなんですよ」


 予想外の味に、皆、完食する。
 そして、件の一個が残る。


 (どう出る!?)

 (さあ……。
  ガイ先生……)

 (全てを曝け出すがいい!)


 ガイが残りの一個に手を掛けた。


 「一個余ったな……」

 (((動いた!)))


 そして、四つに分けた。


 「お前らで仲良く食べろ」


 ガイはナイスガイポーズでティーンと歯を光らした。


 (((何ーっ!?)))

 (予想外だ……)

 (まさか、そういった行動を取るとは……)

 (これってガイ先生を試した、あたし達が悪者みたい……)


 ヤオ子が、更に半分にする。


 「あ、あたしは体積小さいから……。
  ガイ先生と半分こ……」

 ((ヤオ子が罪悪感に負けた……))


 その後、ネジとテンテンも同じ行動に出て、リーも続いた。
 ガイは感動する。


 「お前らって奴はーっ!
  今日の中華まんは、特別な味がするぞ!」


 そして、全員が食べ終える。
 ヤオ子とネジとテンテンの胸には、複雑な気分が過ぎった。


 …


 ヤオ子はクーラーボックスからタッパを取り出す。
 中の杏仁豆腐を綺麗に分け、緑の草を一輪添えて皆の前に置く。


 「この草は、何ですか?」

 「ハーブ園で任務した時に貰った種が自宅で結果を結びました。
  絶対、食べてくださいね。
  それ食べれば、匂い気になりませんから」

 「そうなの?」

 「女の子は気になるでしょ?」

 「ええ」


 杏仁豆腐を食べ終えて、ヤオ子の栽培したハーブを食べる。
 口の中に爽やかな清涼感が広がる。


 「どうですか?」

 「うん。
  気にならない」

 「いいでしょ?
  テンテンさんには、女同士のよしみで少しプレゼントします」

 「ありがとう」

 「ヤオ子のお陰でいい昼食だったな。
  ご馳走様」

 「「「ご馳走様」」」

 「えへへ……。
  お粗末さまです」


 その後、ヤオ子は食器や調理道具を洗って片付けるとネジとテンテンの元へと向かう。


 「分析の結果です」

 「…………」

 「失敗でしたね」


 ズーンと三人に暗い影が落ちた。


 「行動に悪気はないんだな……」

 「ええ。
  いいことだと思ってやってるのよ……」

 「感覚がズレてるんですよね……」

 「「「今まで通りか……」」」


 ガイ攻略はならなかったが、友情と結束が芽生えた一日だった。



[13840] 第53話 ヤオ子と紅班のある一日
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:52
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 先日食べた麻婆豆腐の味が忘れられない。
 ネジとテンテンが、ヤオ子の通っていた中華料理屋を訪れる。


 「今日は、ヤオ子は休みみたいね」

 「もしかして、綱手様の試練が終わったんじゃないか?」


 店の厨房の中にヤオ子の姿は見えなかった。
 そして、注文して数分……。
 目的の麻婆豆腐が運ばれて来た。


 …

 ~三十分後~

 店をネジとテンテンが俯いて出て来る。


 「こんなことがあっていいのか?」

 「そうね」

 「…………」

 「「何で、手伝いのヤオ子の料理の方が美味いんだ!」」


 行き場のない怒りが二人を襲った。



  第53話 ヤオ子と紅班のある一日



 この日、ヤオ子は上機嫌だった。
 遂に週休二日が認められた。
 きっと、他の子は、もう少し緩い扱いに違いないが……。


 「これで普通のOLに格上げです。
  微妙ですね……。
  これ、待遇よくなったの?
  その分、他の五日に振り分けられたなんてことないですよね?」


 ヤオ子はテクテクと目的地に向かう。


 「それにしても……。
  今日の紅班って、誰が居るんだろう?
  最近、任務の指令も、あたしだけ雑なんですよね。
  『ヤオ子ちゃん。
   お弁当を持って、そこ行ってね』って言われても……。
  突っ込まないとシズネさん答えてくれないし……。
  甘やかしたから、つけあがったのかな?」


 ヤオ子が角を曲がり、大きな木の下に出る。


 「ここだ」


 そこには、既に担当の上忍の夕日紅と部下である犬塚キバ、油女シノ、日向ヒナタが居た。


 …


 待ち合わせ時間ギリギリ。
 最早、神業の域に達し始めたヤオ子の能力。


 「時間ピッタリね」


 紅がヤオ子に声を掛けた。


 「あはぁ~♪
  紅さ~ん♪」


 ヤオ子がダイブした。
 瞬間、紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「綱手様の忠告通りね。
  いきなり跳び付いて来るなんて……」


 地面にへばり付いたヤオ子が立ち上がる。


 「っ!
  情報が漏れてたか……!」

 「何で、悔しがるのよ……」

 「あなたの乳を揉めなかったからですよ!」


 紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。
 肩で息をする紅にキバが話し掛ける。


 「コイツ、使えるんですか?
  ナルト以上に馬鹿なんだけど?」

 「心配ない……。
  何故なら、オレ達が失敗しなければいいからだ……」

 「ヤオちゃん……。
  久しぶり……」


 ヤオ子が顔をあげる。


 「あはぁ~♪
  ヒナタさ~ん♪」


 ヤオ子は、ヒナタの胸にダイブした。


 「少し成長しましたね♪」


 紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「私の教え子に何すんのよ!」

 「健やかに育っているかの検査を……」

 「あなたが病院で頭を検査して貰いなさい!」

 「失礼ですね。
  頭かっぽじてもエロいことしか出て来ませんよ」


 紅は、がっくりと項垂れた。


 「凄いキャラだな……」

 「ああ……。
  あんな紅先生は初めてだ……」

 「…………」


 キバ、シノ、ヒナタは呆れていた。


 …


 紅が咳払いをする。


 「まず、自己紹介からします。
  私は、この班を任される夕日紅よ。
  こっちが犬塚キバ、油女シノ、日向ヒナタよ」

 「あたしは、八百屋のヤオ子です。
  よろしくです。
  ヒナタさんとは、少し面識があります」

 「お前のその性格で、
  ヒナタと顔見知りって信じられないぜ」

 「そうですか?」


 紅が手を叩く。


 「お話は、そこまで。
  任務を始めるわよ」

 「任務って、何ですか?」

 「…………」


 ヤオ子以外の周りが沈黙する。
 キバが眉間に皺を寄せてヤオ子に聞き返す。


 「何言ってんだ?
  任務の内容を聞いたから、来たんだろ?」

 「いいえ」


 ヤオ子の反応に、紅が質問する。


 「どういうこと?」

 「シズネさんが『ここに行け』って」

 「それだけ?」

 「あと『紅班で任務だ』って」

 「……何で?」

 「あの人は、何も言わなければ、
  何処までも手を抜くダメ人間です」

 「…………」

 (シズネさん……)


 紅が額に手を置く。


 「じゃあ、本当に聞いてないの?」

 「聞いてません」

 「下忍に経験積ませるからって、押し込みで一人引き受けたのに……。
  こんな子が来るなんて……」

 「それ、あたしのせいじゃないですよ?」

 「それは、そうなんだけど……」

 「で?
  任務って?」


 紅は溜息を吐く。


 「探索よ。
  木ノ葉の医療部隊で使う薬草を探すの」

 「へ~」

 「うちの班員は全員感知タイプの忍だから、
  探索の仕事を任されること多いの」

 「ヒナタさんは、白眼を使えますもんね。
  キバさんとシノさんは?」

 「オレは鼻で匂いを嗅ぎ分けられる」

 「オレは蟲を操り、広範囲に情報を取得できる……」

 「凄いですね。
  あたし、いらなくない?」

 「そう。
  だから、あなたには現地についたら、
  私と一緒に薬草を探して貰います」

 「なるほど。
  つまり、あたしは本当のおまけで、
  紅さんは仕方なくお守りを押し付けられたんですね」

 「……自分を堂々と卑下するのね。
  あなたって……」

 「でも、そういうことでしょ?」


 キバがヤオ子を指差し、シノに話し掛ける。


 「変な奴だな?」

 「ああ……」

 「……………」

 (ヤオちゃん……。
  変なままだ……)


 紅班は薬草の取れる山へと、変態を一人連れて出発することになった。


 …


 忍達は、木々を飛び移りながら移動する。
 現地への移動中、ヤオ子がキバに話し掛ける。


 「キバさん」

 「あん? 何だよ?」

 「その子、何なんですか?」


 ヤオ子がキバの頭に乗る子犬を指差す。


 「オレの相棒で赤丸ってんだ」

 「へ~。
  賢そうですね」

 「分かるか?」

 「はい。
  ・
  ・
  赤丸さんか……」

 「どうした?」

 「いえね。
  犬の方が人の名前みたいで、
  キバさんの方が犬みたいな名前だなって」

 「何ィ!?」


 紅とヒナタがクスクスと笑っている。


 「キバさんキバさん。
  赤丸さんを抱かせてください」

 「お前はダメだ」

 (機嫌を損ねましたかね?)


 ヤオ子が背中のリュックから、ビーフジャーキーを取り出す。


 「キバさん。
  ジャーキーあげます。
  これで許してください」

 「お前はアホか……」

 「…………」


 ヤオ子は赤丸へと視線を移す。


 「赤丸さん。
  ジャーキーあげます。
  あたしに抱かれませんか?」

 「言い方が卑猥だ……」


 しかし、赤丸は物欲に負け、ヤオ子に跳び付いた。


 「えへへ……。
  キャッチです」

 「赤丸……」


 木々を飛び移って移動しながら、会話は続く。


 「赤丸さんって温かいな。
  ・
  ・
  ん?
  いい毛並みをしてますね」

 「そんなの分かるのか?」

 「はい。
  あたし、犬のトリマーも任務でしました」

 「その任務いいな。
  オレもやってみたいぜ」

 「赤丸さん以外に浮気ですか?」

 「違う!」


 ヤオ子が赤丸を万歳で持ち上げる。
 そして、股間に目を移す。


 「本当だ♪
  男の子じゃ、浮気出来ません♪」


 紅とキバのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「この変態が!
  二度と赤丸に触るな!」

 「無理ですね」

 「ハァ!?」

 「赤丸さんは嫌でも私に寄って来ます」

 「何でだよ!?」


 ヤオ子が、先ほどのビーフジャーキーを取り出す。


 「キバさん……。
  犬の特性は、よくご存知ですね?
  犬は食べる時『おいしかった』より、
  『いい匂いだった』の方が強いんです。
  ・
  ・
  このジャーキー……。
  あたしが貰ったものの中で一番の特注です」

 「な…に……」

 「赤丸さんの視線を見てください」


 赤丸は、ヤオ子の手にあるビーフジャーキーに釘付けになっている。


 「赤丸! 耐えるんだ!」


 赤丸は首を振った。


 「はっはっはっ!
  これで赤丸さんは、あたしの虜です!」

 「そんなもの!」


 キバがヤオ子からビーフジャーキーを奪った。


 「何するんですか!」

 「今から赤丸と二人で食い尽くしてやる!」

 「卑怯者~!」

 「どっちがだ!」


 そして、ビーフジャーキーは食べ尽くされた。
 後ろから追い掛けるヒナタは、シノに話し掛ける。


 「あの二人、意外と仲いいかもね」

 「そうだろうか……?」

 「何だかんだで、キバ君、楽しそうだよ」

 「あの子も獣に近いのかもしれん……」

 「はは……」


 紅は賑やか過ぎる移動に溜息しか出なかった。


 …


 目的地の山に到着すると、ヤオ子と紅を除く三人は直ぐに薬草探索に移行した。
 そして、残されたヤオ子に紅が不安の目を向ける。
 紅は鞄から薬草辞典を取り出し、ヤオ子に見せる。


 「この山に生えるここから……ここまでの薬草を探すから、
  形状や特徴をよく覚えてくれる?」


 ヤオ子は、薬草辞典に少し目を通すと紅に返す。


 「覚えました」

 「もう?
  じゃあ、このAっていう薬草の特徴は?」

 「葉っぱに特徴があって、先が三つに割れています。
  匂いは百合に似ています。
  ・
  ・
  そして、この季節なら水辺から少し離れたところに自生しています」

 「正解ね。
  後半の情報は、この薬草辞典に載ってないけど?」

 「ちょっと……だけ、詳しいんです」


 ヤオ子は笑って見せたが、紅は、それが少し悲しく見えた。
 ヤオ子が質問する。


 「紅さんは感知タイプの忍者さんなんですか?」

 「いいえ、違うわ。
  だから、知識を頼りに探す予定よ」

 「そうですか。
  ・
  ・
  では、あたしの影分身に散って貰ってもいいですか?」

 「独自で探すの?」

 「はい。
  人海戦術なら、数が多い方がいいです」

 「別に構わないわよ」


 ヤオ子は地図とコンパスを取り出し、位置を確認して周囲の情報を頭に入れる。


 (この条件で分布していそうな薬草を強く思い浮かべながら……)


 影分身に与える薬草の情報を強く意識し、ヤオ子はチャクラを練り上げると印を結んで影分身を四体出す。


 「よろしくです」


 影分身は四方に散って行った。


 「じゃあ、行くわよ」


 ヤオ子は紅の後に続いた。


 …


 薬草を探し始めてから僅かな時間しか経っていない。
 その変化を紅は少し信じられなかった。
 さっきから、ずっと空気が張り詰めぱなしなのである。
 張り詰めさせている原因はヤオ子に他ならない。
 凄まじい集中力が空気をピリピリとさせていた。


 (どうしたのかしら?
  薬草を探し出したら、急に集中し出した。
  さっきまでのふざけた言動が嘘みたい)


 ヤオ子が指差す。


 「あそこです」


 岩陰の脇で揺れる僅かな葉の影……。
 その死角には野草が固まって生えていた。
 紅が全体を見て、薬草を確認する。


 「間違いないわね」

 「群生していますが貴重な薬草です。
  雄株と雌株をちゃんと残して、
  次の採取の時のために子孫を残して貰いましょう」

 「そうね。
  取り過ぎは、よくないわね」

 (何処で得た知識なのかしら?)


 ヤオ子と紅は慎重に件の薬草を採取する。
 必要数の薬草が揃うと、ヤオ子は紅に訊ねる。


 「紅さん。
  他に何を取ろうとしていますか?」

 「基本的に群生している薬草ね。
  数少ない自生する薬草は、キバ達に任せているわ」

 「分かりました。
  EかGかNの薬草ですね。
  そのうち、Eは、見つけたから、GかNか……」


 ヤオ子は目を閉じ、薬草の知識を引き出すと口にする。


 「確かGならコケの多いところ、
  Nなら枯れ木の多いところを探せばいいはずです」

 「コケか……。
  じゃあ、水辺の方ね」


 紅が頭に入っている地図を確認すると移動を始め、ヤオ子もそれに続いた。


 …


 Gの薬草も直ぐに見つかり、採取することが出来た。
 予定よりも早い成果に、紅の提案でヤオ子と紅は少し休憩を入れることにした。


 「素晴らしい知識ね」

 「そうですか?
  勉強した甲斐があります」

 「でも、少し張り詰め過ぎてない?」

 「そう見えます?」

 「ええ」

 「…………」


 ヤオ子は視線を落とす。


 「頭でいくら理解しても難しいんですよね。
  このことだけは……。
  ・
  ・
  気負っちゃうんですよ」

 「何かあったの?」

 「ちょっとだけ。
  でも、これはあたしで解決しなきゃいけないことだから」

 「そう。
  ・
  ・
  じゃあ、アドバイスをしてあげる」


 ヤオ子は紅に視線を向ける。


 「それは、辛いことだったの?」

 「……はい」

 「じゃあ、同じ任務で成功した時を想像してみて」

 「成功……?」


 それは”もしも”の話でしかない。
 だけど、救えることが出来たなら、違った未来があったはず。
 もう救うことは出来ないが、同じ境遇の誰かを救うことが出来たら……。
 ヤオ子の中であの時の少女が微笑んだ気がした。
 そう感じた時、ヤオ子の頬も少し緩んだ。


 「そのために頑張るの。
  自分を追い詰める方にだけ考えないで。
  失敗したらとか……。
  上手く出来なかったら……って。
  ・
  ・
  緊張感を持たすのもいいけど、柔軟な思考に制限を掛けちゃうわよ」

 「そうかもしれないです……」

 「本来のあなたは、出発前の明るい子なんでしょう?」

 「はい」

 「変な行動は、やめて欲しいけどね」


 紅がヤオ子に微笑む。
 ヤオ子に安心感が広がり、ヤオ子は少し過去を振り返る。
 もう一度、あの女の子と居れた未来を思い浮かべる。


 (今度、出会う同じ条件の誰かとは笑っていたい……。
  それは、きっと楽しいことに違いない……)


 ヤオ子が、目を閉じて大きく深呼吸する。


 「行きましょうか?
  キバさん達よりも、多くの薬草を見つけないと」

 「ええ。
  でも、無理だと思うわよ?
  彼等は、ある場所を探ることが出来る。
  私達は、あるかもしれない場所を探すのだから」

 「必ずありますよ。
  あたし、仕事運はいい方なんです」

 「そうなの?」

 「はい」

 「じゃあ、行きましょう」


 ヤオ子と紅が、その場を後にする。
 そして、今度は張り詰める空気の中に温かさも混じっていた。


 …


 昼食時……。
 散っていた班員が集まり、それぞれが採取した薬草を見せ合う。


 「ぐ…負けた……」


 キバが呟く。


 「紅先生とヤオちゃん凄い……」

 「どんな手品を使ったのか……?」


 ヤオ子がチョキを見せる。


 「数は少ないですが、全種類コンプリートです。
  あたしと紅先生のエロパワーに掛かれば、
  キバさん達など、赤子の手を捻るようなものです!」


 紅のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「エロパワーは出てない!」


 キバ達が苦笑いを浮かべた。
 キバは、ヤオ子達が採取した薬草を摘まみ質問する。


 「でもよ……。
  一体、どうやって集めたんだ?」

 「影分身で人数増やしました」

 「なるほど……。
  探索する数を増やしたのか……。
  しかし、それでも全種コンプリートは難しい……」

 「後は、生えていそうなとこも予想していますからね」

 「ヤオちゃん。
  予想出来るの?」

 「出来ますよ。
  草の情報があればいいんだから。
  地図を見れば、季節柄の太陽の位置とかから、
  日光の当たる範囲を予想して探せばいいんですよ」

 「なるほど……。
  じゃあ、午後はヤオ子に予想して貰った範囲を探索すれば、
  オレ達のノルマ達成は早まるわけだな……」

 「いい案だな、シノ。
  ・
  ・
  いや~。
  お前がただの変態じゃなくて良かったよ」

 「キバさん……。
  それ褒めているんですか?」


 全員が笑いを浮かべる。


 「さあ、お昼を取りましょう」


 全員がリュックからお弁当を取り出す。
 そんな中、ヤオ子は更に三段重ねの御重を取り出す。


 「オイ……。
  お前、何を持って来たんだ?」

 「お弁当」

 「今まで、どうやって入ってた!?
  明らかにリュックの幅の方が小さいぞ!」

 「女の子には秘密があるんですよ」

 「そうなのか?」


 キバがヒナタに聞くが、ヒナタは首を振る。


 「少なくとも、私には出来ないよ」

 「違うじゃねーかよ!」

 「じゃあ、時空間忍術で繋がってたんですよ」

 「『じゃあ』って、何だ!?」

 「しつこいですね。
  どうだっていいでしょ?
  じゃあ、あれですよ。
  旅行バッグに意外と物がギュウギュウに入る感じ」

 「ああ……。
  ・
  ・
  やっぱり、納得出来ねぇ……」

 「キバ……。
  その辺でやめるべきだ……。
  何故なら、食事が始まらないからだ……」

 「わーったよ!」


 食事が開始され、ヤオ子は御重の一段目を開く。


 「皆さんも、どうぞ」

 「意外ね。
  家庭的じゃない」

 「紅さんまで……。
  あたし、普通に女の子っぽいこともしますよ」

 「煮物に…肉じゃがに…キンピラ……。
  ヤオちゃんが作ったの?」

 「はい。
  お口に合えばいいんですけど」

 「上手いのか?」


 キバが先行して一口食べると、鼻を引くつかせ始めた。


 「ヤオ子……。
  二段目は、オレと赤丸が責任持って処理しよう」

 「何があった……」

 「きっと、予想以上に美味しかったんだよ」

 「二段目には、何が入っているんだ……?」

 「生姜焼きです」

 「目当ては肉か……」

 「予約済みだ!」

 「皆で食べればいいじゃないですか」

 「ヤオ子。
  赤丸が腹を空かしている」

 「二人で、どれだけ食べる気ですか……」

 「オレのおかずと交換だ」

 「…………」


 ヤオ子のおにぎりの上に梅干が二個乗る。
 キバは、二段目の御重を奪った。


 「皆さん……。
  どうしますか?」

 「殴ろうかしら?」

 「蟲責めだな……」

 「柔拳使っちゃうかも」

 「…………」

 「冗談冗談……」


 二段目の御重が戻るが、全員の視線が止まった。


 「どうした?」

 「半分ない……」

 「は?」


 御重の横で赤丸が満足そうに横になり、御重の中は半分空になっていた。


 「赤丸さん! ずるい!」

 「こうなったら、キバの分は無しね」

 「何ィ!?」

 「当然だな……」

 「当然かな?」

 「ヒナタまで!?」


 その後、生姜焼きは均等に分けた。
 満足したのは、赤丸だけだったようだ。


 「ところで……。
  最後の御重は?」

 「いたらきです」

 「何だ? そのチョイスは……」

 「昔懐かしい『おぼっちゃまくん』から」

 ((((知らない……))))

 「デザートか?」

 「そんなもんです」


 そして、全て完食して昼食は終わった。


 「うまかった~!」

 「ご馳走になった……。
  礼を言おう……」

 「「ご馳走様」」

 「はい。
  お粗末様」


 ヤオ子が御重を謎多きリュックに片付ける。


 「お前、また来いよ。
  任務しなくていいから、弁当だけ持って」

 「あたしは炊事係ですか……。
  まあ、機会があれば赤丸さんのために」


 ヤオ子が赤丸のお腹を擦ると、赤丸は気持ち良さそうにしている。


 「赤丸さん。
  キバさんに愛想尽かしたら、
  いつでもうちに来てくださいね」

 「物騒なことを言うな……」


 そして、午後の任務が始まる。


 …


 午後、少し構成が変わる。
 ヤオ子とシノが一緒に行動することになる。
 シノは、午前中にノルマを達成しているので予備の薬草を確保する程度である。
 そのため、少し別行動をしてもいいとお許しが出た。


 「ヤオ子……。
  お前の知識を借りたい……」

 「いいですけど?」

 「薬草の他に、この草を探している……」


 シノの手書きの草の絵を、ヤオ子は見る。


 「薬草じゃないですね。
  確か……蟲のエサになるんじゃないでしたっけ?」

 「その通りだ……。
  午前中も探したが数が足りない……」

 「なるほど」

 「この草の生えていそうなところを予想出来ないか……?」


 ヤオ子が地図を広げる。


 「シノさんが午前中探索したのって、何処ですか?」

 「ここだ……」


 シノが地図を指差す。


 「変ですね。
  ここなら、問題なく生えているはずなのに」

 「オレも、そう思っていた……」

 「元々、あまり種が飛んでないのかも。
  ・
  ・
  となると、風が吹いても届かないのかな?
  そうなると同じ条件で少し風通しのいい……ここ」


 ヤオ子が、別の位置を指差す。


 「真逆だな……」

 「はい。
  その代わり、吹き込む風の条件も真逆ですから、
  種が運ばれる可能性は高いかと……」

 「行ってみよう……」


 ヤオ子とシノが、皆に遅れて出発した。


 …


 目的地周辺……。
 背の高さを越す草が鬱葱と茂り、辺りを見回しても見つけるのは困難な予感がする。
 ヤオ子は腰に手を当て、溜息を吐く。


 「ここからは、目が便りですね」

 「任せて貰おう……」


 シノが手を広げると服の隙間から、大量の蟲が湧き出て散っていく。


 「彼等の連絡を待つ……」

 「凄い……。
  これは影分身の比じゃありませんね」


 そして、直に一匹の蟲が戻ると、シノの指に止まった。


 「見つけたようだ……。
  やはり、相談して正解だったな……」

 「いや~。
  そんなことありませんよ」


 シノの前を知らせに来た虫が飛び、ヤオ子はシノに続いて歩く。
 そして、目的の草が山のように生えている場所へと辿り着いた。


 「ここまでの量はいらんのだが……」

 「じゃあ、必要な分だけ採りましょう。
  あたしも手伝いますね」

 「助かる……」


 二人は蟲のエサとなる草を採り始めた。


 …


 紅班、二度目の集合……。
 任務に必要な薬草は、十分。
 シノの必要な蟲のエサの草は、十二分。


 「何で、シノの私用の草の方が多いんだ?」

 「それは、たまたまだ……。
  何故なら、見つけた場所で採取した量がこれだけになるからだ……」

 「そういうことです。
  何故なら、あたし達は一箇所でしか作業をしていないからです」

 「コイツら……。
  嫌なコンビネーションを……」


 紅とヒナタが呆然としている。


 「遊ばれてますね……キバ君」

 「あのシノと打ち解ける子も珍しいわね……」


 からかうことは、まだ続く。


 「あたしとシノさんのコンビネーションは、
  赤丸さんとキバさん以上です」

 「その通りだ……」

 「あのガキ……。
  さり気なく赤丸の方を先に呼んで順位付けを変えやがった」

 「そして、蟲達もヤオ子に惚れ込んでいる……」

 「「は?」」


 シノの服の隙間から湧き出た蟲がヤオ子を覆い隠していく。
 まるで蟲が人を形作っているようである。


 「うげ~……。
  お前、平気なのか?」

 「最初は吃驚しましたけど、
  こそばゆいのが癖になりそうですね」

 「また変態的な返答を……」


 ヤオ子がヒナタの方を向くと、強引に手を取った。


 「甲子園でボクと握手!
  ・
  ・
  なんちゃって♪」


 ヒナタの腕をぞわぞわと蟲が這い上がると、ヒナタの顔から血の気が引いていく。


 「キャーッ!」


 ヒナタが倒れた。


 「また倒れた……。
  相変わらずシャイですね~」

 「シャイと違うわよ!
  また私の教え子に!」


 蟲に覆われたヤオ子が胸を張る。


 「叩けますか?
  この蟲は、シノさんのですよ?」

 「卑怯な!」

 「あたしのフェロモンに蟲もメロメロです」

 「あなた、体からフェロモンが出てるの!?」

 「そうです」

 「なんて、人間離れした奴なんだ……」

 「そんなわけがない……」


 シノが合図すると一匹の蟲がシノに戻る。
 それに合わせて蟲がヤオ子から離れていく。


 「あれ?」

 「これは奇壊蟲の雌だ……。
  雄は雌のほぼ無臭の臭いに惹かれる……」

 「タネがあったんですか。
  シノさんのギャグですね。
  えへへ……」

 「ふ……」

 「シノのギャグだったのか……」

 「あのシノが笑った……」

 「…………」


 ヒナタそっちのけで、紅とキバが呆然とする。


 「どうしたんですか?」

 「いや、シノのギャグなんて初めて聞いた」

 「そもそもギャグかどうかも怪しいわ」

 「ギャグですよ。
  あたしの電波受信機にはピピッと来ました」

 「お前、どんだけギャグの受信領域広いんだよ!」

 「何か、今のは少し新しい突っ込みですね」


 キバが、がっくりと項垂れる。


 「紅先生……。
  オレは、もう疲れました……」

 「奇遇ね……。
  私も疲れてるわ……」

 「疲れちゃダメですよ。
  誰がヒナタさんを介護するんですか?」

 「「ああ! ヒナタ!」」


 紅班……ぐだぐだのうちに任務終了。



[13840] 第54話 ヤオ子とネジとテンテンと
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:52
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 紅班がヤオ子とシノを除いて、ぐったりして木ノ葉の里に帰る。
 『あん』の門での前で、シノが右手を差し出す。


 「ヤオ子……。
  また手伝ってくれ……」

 「はい」


 ヤオ子とシノが握手する光景を見ながら、キバは疲れながら感想を漏らす。


 「あの二人……。
  本当に打ち解けたよな……」

 「シノは難しい性格をしているから、
  機嫌を損ねた時に呼びましょう……」

 (私は、ヤオちゃんのせいで気絶したのかな?
  それとも、シノ君のせいかな?
  ・
  ・
  う~……。
  また感触を思い出しちゃった……)


 明暗分かれる紅班……。
 その微妙な空気の中、ヤオ子は『あん』の門で紅班と別れた。



  第54話 ヤオ子とネジとテンテンと



 任務の報告を紅に請け負って貰い、ヤオ子は自宅に向かって木の葉の里の賑やかな通りを歩いていた。
 そして、歩き始めていくらもしないうちに、ポンと肩を叩かれた。


 「うん?」


 振り返った先には、ネジとテンテンが居た。
 しかし、肩を叩いてまでしてヤオ子を止めたのに、二人の表情は微妙だった。


 (はて?
  ネジさんとテンテンさんには、
  あれ以来、会っていないので迷惑を掛けることもないはずなんですが)


 ヤオ子は小首を傾けて訊ねる。


 「どうしました?」

 「あの店は、何だ?」

 「あの店?」

 「あんたが通ってた中華料理屋よ!」

 「何かありました?」


 ネジとテンテンが揃って溢す。


 「「美味しくない……」」

 「は?」

 「「美味しくない!」」


 ヤオ子は二人に気圧され、半身になる。
 そして、二人の言葉を反芻し、額をコリコリと掻く。


 「美味しくないわけないんですがね?
  あたしは、あそこで料理修行したんで」

 「しかし、味が劣っていたぞ」


 ヤオ子は腕を組んで考えると、心当たりを呟く。


 「もしかして……。
  あたしの腕が上回ったのかも?」

 「有り得んのか……」

 「有り得ますね。
  綱手さんは色んな国を回っていたんで、舌が肥えているんです。
  だから、今まで回った国のベスト1があたしの勤めている店じゃないと、
  あたしの腕が納得のいくレベルを超えないと任務を続けさせます」

 「綱手様……。
  ヤオ子をどうする気なんだろう……」

 「あたし、忍者と関係ないところがメキメキ成長してます」


 ネジとテンテンは溜息を吐いた。
 しかし、ヤオ子の受け持っている任務は、本来、自分達が行なうかもしれなかった任務。
 ヤオ子の姿が、もしかしたらの未来の姿かと思うと、二人は頭が痛かった。

 そのヤオ子は特に気にした様子もなく、空の暮れ具合を確認していた。


 「夕飯には、早い時間ですね。
  ・
  ・
  うちに来ません?
  あたしの夕飯に付き合いませんか?」


 テンテンが我に帰り、ヤオ子に返す。


 「うちも夕飯あるからね」

 「お二人の不満を解消しようと思ったんですけど、タイミングが悪いみたいですね。
  では、お裾分けしますよ。
  ・
  ・
  その代わり、一回ずつ手合わせをお願いします」

 「しっかりしているわね」

 「修行は真面目にすることにしているんです」


 ヤオ子の心情の変化を知らないテンテンは『当たり前のことじゃない?』と首を傾げた。


 「時間も空いてるし、相手をするには丁度いいかもね。
  でも、ネジには手も足も出ないわよ」

 「いいんです。
  柔拳の戦い方を一回体験したかったので」


 ネジが腕を組んで、付け加える。


 「構わんが怪我をしても知らんぞ?」

 「……手加減してね。
  料理出来なくなるから」


 ネジとテンテンが溜息を吐く。
 そして、ヤオ子の家の前で組み手をすることになった。


 …


 組み手の最初の相手はテンテンがすることになった。
 テンテンは巻物から棒を口寄せすると、真っ直ぐにヤオ子に棒の先を向けた。


 「棒……棒術?」

 「戦ったことある?」

 「ないです」

 「じゃあ、いい経験になるわよ」


 手馴れた手つきで棒を回転させると、テンテンはビシッとヤオ子をロックオンする。
 突き出されたの棒がヤオ子に伸びる。


 「うわっ!」


 先端しか見えない棒が突然迫り、ヤオ子はバタバタと無様に避けるだけで精一杯という感じだった。


 (話にならんな……)


 テンテンとヤオ子の実力差は大きなもののように見えた。
 何より、ヤオ子の蓄積されている経験の少なさがあから様に露見した。
 ネジが呆れるのも仕方がないかもしれない。

 しかし、誰にでも初めての体験というものがあり、それを始めから対処できるわけではない。
 ヤオ子もその大半から漏れることなく、対処が出来なかった。
 そして、そこで諦めて終わらせる子でもない。

 ヤオ子は距離を取って、練習して来た体術の型を構える。
 これが今できる最大の努力。
 微弱なチャクラを練り、体にチャクラを送り続けて全てに備える。


 「今こそ!
  修行の成果を見せる時!」


 チャクラ吸着で摩擦力を足の裏に伝え、ヤオ子が出る。
 地面を蹴る瞬間、更にチャクラを練り上げ、足全部にもチャクラを送り込む。


 「早い!」


 瞬身の術の修行成果が現れる。
 そのままのスピードを活かし、ヤオ子の掌抵打ちがテンテンの鳩尾に向かう。


 「残念!」


 しかし、棒により鳩尾への掌抵はガードされる。


 「いいえ!
  狙い通り!
  チャクラ吸着で棒を剥ぎ取ります!」


 未体験の武器に対する対処法がないなら、自分の戦える舞台を作るしかない。
 狙いはテンテンの持っている棒だった。
 ヤオ子は両手のチャクラ吸着を全開にして、瞬間的にテンテンよりも強い状態を作り出して力一杯に体を捻る。
 握力勝負で、見事テンテンから武器を奪い取る。


 「これで丸裸です。
  あたしは棒という武器を手に入れました」

 「っ!」


 ヤオ子の戦い方に、ネジは少し感心する。


 (変わった戦い方をする……。
  チャクラ吸着で武器を奪うのは使えるな)


 ヤオ子は奪った棒をテンテンに向けて構える。


 「…………」


 が、直ぐに壁に立て掛けた。


 「奪ったけど……。
  使い方が分かりませんでした」


 ネジとテンテンがこけた。


 「詰めが甘い……」


 その詰めの甘さの隙に、テンテンが再び武器を巻物から口寄せする。
 手には、クナイが指の隙間の数だけ……それを投げ付けた。


 「ちょっと!
  それ、怪我するって!」

 「もう、遅い!」


 ヤオ子は半身になり、当たる部分を少なくする。


 (これで半分外れる。
  ・
  ・
  残りは──)


 片足を下げ、チャクラを足元へ集中。
 飛んで来るクナイにタイミングを合わせ、一気に蹴り上げて体が一回転させると、左足の膝でクナイを弾き返した。


 「この足の重りは、金属です!」


 しかし、着地と同時に首に冷たい感触。


 「う……。
  クナイ……」

 「正解。
  中々、いい動きだったわよ」


 ヤオ子が空中で一回転しているうちに、テンテンの瞬身の術がヤオ子の死角に決まっていた。
 戦いの最中に一回転していたヤオ子には、当然、テンテンの姿が見えていなかった。


 「負けた……」


 ヤオ子は、がっくりと両手を地面に着いた。


 (今までで、一番忍らしい負け方かも……。
  忍の戦いにおいて、一瞬でやられるっていうのを再認識させられました。
  テンテンさんは武器の扱いに慣れているから、あたしの武器の躱し方を予想できたのかもしれません。
  ・
  ・
  派手に一回で躱すのはダメですね。
  次の攻撃に繋がらないし、相手の姿も見失う。
  次は、フェイントも入れてみよう)


 ヤオ子が反省している間に、テンテンがネジと交代する。


 「本気だったか?」

 「少し……本気にさせられた」

 「そうか……。
  動きが独特だからな。
  気をつけよう」


 今度はネジが構える。
 独特の日向流の体術の構え……。
 その姿が目に入ると、再び気が入る。
 ヤオ子はゆっくり立ち上がると、同じ構えで構え直す。


 「その構えでいいのか?」

 「この構えしか知りません」

 「オレは、その構えを知り尽くしているぞ」

 (そうでした。
  ガイ先生とリーさんは、ネジさんと同じ班でした。
  ・
  ・
  それでも、これしか知らないんですよ!)


 教えて貰う立場の身を理解し、ヤオ子から攻める。
 瞬身の術で覚えた高速移動を実行して、ヤオ子がネジに迫る。


 (真正面なんてダメです!)


 ネジの三歩手前、ほぼ直角にヤオ子が曲がる。
 チャクラ吸着で勢いを止めることの出来る忍者ならではの動きを取り入れたのだ。
 テンテンが叫ぶ。


 「フェイント!」


 更に地を蹴ってネジの真横につける。
 ヤオ子は片手と片足をしっかりと地面につけて体勢の崩れを補強すると、地面スレスレに水面蹴りでネジの足を狙う。


 「捉えた!」

 「甘い!」


 ネジの足が半回転しながら軌道を反らし、反転したネジの体がヤオ子の正面を向く。


 「まだまだ!」


 地面の石を指に挟み、ヤオ子の石つぶてが二つ飛ぶ。
 それに対し、ネジがチャクラを放出して回転する。


 「ちょっと!
  それ使うほど!?」

 「クナイなら受けられなかった」

 「そうだけど……」


 いくら格上の忍でも、今のは絶対のタイミングだと思っていた。
 それを外され、ヤオ子は、一瞬、呆けると慌てて距離を取る。


 「あれ……。
  本戦でナルトさんをぶっ飛ばしたヤツだ……」

 「今度は、こっちから行く」


 攻守の入れ替え、ヤオ子が構えて睨み返す。


 (あの子、ネジ相手に睨むなんて。
  昔のリーみたい……。
  ・
  ・
  今もか……)


 ヤオ子はネジの指と掌に集中して、いつも以上に警戒を強める。
 危険ではあるが半歩踏み込み、受ける時はネジの手首より上での接触を心掛けた。
 その動作に、ネジは放出するチャクラを意識していると気付いた。


 「お前、柔拳の出所を知っているな?」

 「突かれたら負けです。
  本戦で見ました」

 「そうか」


 冷静に言葉を返してはみたが、ヤオ子は焦っていた。


 (無理。
  もう、躱せない。
  両手で真面目に攻められたら負ける……。
  ・
  ・
  ガイ先生とリーさんのお陰で攻撃の出所は判断出来るけど、体術の動きが違う気がします。
  直線的な破壊を主とする剛拳に対して、
  流線的に当てに来る柔拳は、触られるのすら意識させられます)


 ヤオ子は、再び半身になる。


 (困った時の、この構え……。
  ・
  ・
  どうせ勝てないんだから、冒険してみよう)


 ヤオ子の左手が盾のように上がる。
 おでこより上で、腕を水平に置いて止める。


 「左手を捨てるか」

 「…………」

 (答えられない……。
  答えたら、作戦がバレる……)


 暫しの沈黙のあと、ネジがヤオ子の左手腕の点穴に右手を突き出した。
 テンテンが当たる瞬間を見極めようとする。


 (ヤオ子が動かない!
  本当に左手を──)


 ネジの右手の人差し指と中指がヤオ子の腕に当たる瞬間……。
 ヤオ子がチャクラを放出しながら、内から外に高速で腕を捻る。
 ネジの右手が弾かれた。


 (今度こそ!)


 ヤオ子の左足の中断蹴りがネジに向かう……が、、ネジはヤオ子から見て空中で反転している。
 つまり……。


 「躱された……」


 ネジの手がヤオ子の肩に掛かると、そのままヤオ子の後ろにネジは降り立つ。
 そして、ヤオ子の頭には尖った何かの感触。
 ヤオ子は両手をあげる。


 「また負けた……。
  ・
  ・
  ダメだ……。
  あたし、全然強くなってない……。
  しかも、お二人に攻撃が一回も届いてない」


 膝の上に手を着いたヤオ子に、ネジがアドバイスをくれる。


 「左足を前に出して半身になっているのに、
  左足で蹴ってもスピードは出ないぞ」

 「う……。
  右手がそこにないから防御されないと思いました」

 「あと、勝負を急ぎ過ぎる。
  何故、一回しかフェイントを入れないんだ?」

 「柔拳を使われてから、
  攻撃を防ぎ切れなくなって、一か八かの賭けに……」

 「経験が足りん」

 「申し訳ありません……。
  首を洗って出直して来ます……」


 ヤオ子は素直に頭を下げた。


 「しかし……。
  最後の受けだけは意表を突かれた。
  柔拳を使えるのか?」

 「使えません。
  真似事です」


 ヤオ子は手からチャクラを放出して見せた。


 「何故、出来る?」

 「そうよ。
  上忍でも、点穴からチャクラを放出するのは難しいんだから」

 「ある術のために手をガードする必要がありまして……」


 ヤオ子は手のチャクラを形態変化させ、前方に盾を作る。


 「あんた、そんなことも出来るの?」

 「はい」

 「驚いたな。
  ・
  ・
  しかし、何に使うんだ」


 ヤオ子はチャクラを出してない反対の手で、チャクラの盾を指差す。


 「この盾の先で爆発させるんです。
  あたし、性質が火なんで……。
  火遁って近接で使えるのが少ないから」


 チャクラの盾を見ながら、テンテンが意見を述べる。


 「何か無駄な気がするわね。
  だって、火遁の術を使って盾も形成するんでしょ?
  だったら、普通にそれに必要な分の術を覚えた方が良くない?」

 「分かってます」

 「じゃあ、何で?」


 ヤオ子はポツリと呟く。


 「カ…よか……から……」

 「え?」

 「カッコよかったから!」

 「は?」

 「術のカッコよさに惚れ込んで、利便性なんて考えなかったの!」

 (馬鹿ね……)
 (馬鹿なのか……)


 ヤオ子は、そっぽを向く。


 「いいんですよ。
  用は、あたしが化け物みたいなチャクラ量を有す忍者になればいいんだから」


 二人はやはり子供なんだと苦笑いを浮かべる。
 そして、別のこと気になったネジが質問する。


 「最後のオレの攻撃を弾いた技だが……。
  咄嗟に、オレの回天を見て思いついたのか?」

 「いいえ。
  陣内流柔術です」

 「……聞いたことないな」

 「『陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす!!』って
  漫画の中で出て来た受け技を真似しました」

 「漫画……」


 ネジとテンテンが項垂れた。


 …


 約束の組み手が終わり、ヤオ子がネジとテンテンを自宅に案内する。
 引越しして間もない広いリビングには、真新しい絨毯が敷いてある。
 テーブルは置いてあるが、ソファーがないため少し寂しい。
 ソファーは、これから拾うか作る予定だ。

 ヤオ子の自宅充実化計画は現在も進行中で、最近は天井にシャンデリアが付いた。
 理由は特にない。
 落ちていたから拾って修繕した。
 そして、その時、足りないパーツを加工した機械が無造作に置かれているので部屋の中は少し異様な雰囲気を醸し出していた。

 ヤオ子は、テーブルの前に先日作成した座布団を二人分用意する。


 「座布団をどうぞ。
  飲み物、何がいいですか?
  何でもありますよ」

 「何でもって……」


 ネジとテンテンが顔を見合わす。


 「じゃあ、ハーブティー」

 「分かりました」

 (冗談で言ったのに、本当にあるんだ……)


 テンテンの注文を聞くと、ヤオ子はベランダへと姿を消した。


 「何で、ベランダに……」


 外からカンカンと何かに上る音が聞こえる。
 そして、今度は着地する音がすると、ヤオ子が再び現れた。


 「何処、行ってたの?」

 「屋上です。
  屋上で家庭菜園をしているんです」

 「へ~」


 ヤオ子は冷蔵庫から大き目のペットボトルを取り出すと、ポットに天然水を注ぎ、コンロに掛ける。
 そして、ティーポットとティーカップを温めるためにコンロの近くに置く。
 採って来たハーブを指でちぎり、洗ってスタンバイする。

 やがて、お湯が沸くとティーポットに大目にハーブを詰めてお湯を注ぎ、砂時計とティーポットとティーカップを持ってネジ達の前に用意した。


 「砂時計が落ち切った頃が飲み頃です」

 「随分と本格的だな」

 「手を抜くと任務でも雑になっちゃうんで、普段から気をつけています」

 「根っからの職人ね……」

 「今から夕飯の準備始めちゃいますね」


 二人を置いて、ヤオ子は台所で料理を始めた。

 一方の残されたネジとテンテン。
 砂時計が落ち切ると、テンテンはティーポットから二人分のティーカップにハーブティーを注ぐ。
 リビングにはハーブティーの匂いが漂った。


 「いい匂い……」

 「オレは、ハーブティーは初めてだ。
  しかし、悪くない……」


 そして、口に含む。


 「スッキリするな」

 「本当……。
  疲れた体が癒されるわ」


 料理をするヤオ子の後姿を見て、テンテンがネジに話し掛ける。


 「あの子、何者なのかしらね」

 「よく分からんな。
  妙な特殊能力を有しているのは確かだ」

 「雑用すればするほど、
  人間離れしていくみたいだけど……」

 「まあ、そのお陰で
  こうして美味しいお茶をいただけるのだがな」


 ネジがティーカップを傾け、テンテンは、再びヤオ子に目を移す。
 ヤオ子の手元で野菜が均等に切られていき、ヤオ子が近くの紐を引くと隠し扉が開いた。
 テンテンは、吹いた。


 「何だ? 突然?」

 「あれ!」


 テンテンの指差す先で隠し扉が閉じた。


 「…………」


 ネジも沈黙する。


 「今のは、何だ?」

 「この部屋、おかしいわよ!?
  ・
  ・
  ネジ! 白眼で確認して!」

 「プライバシーというものが──」

 「大丈夫よ!
  相手は子供なんだから!」

 「いや、しかし……」

 「あ~~~!
  じゃあ、さっきの隠し扉だけ!」

 「言っても聞かないか……」

 「聞かない!」


 ネジは溜息交じりに隠し扉を白眼で確認する。


 「中華鍋、圧力鍋、フライパン、包丁、中華包丁……青龍刀!?」

 「青龍刀!? 何で!?」


 二人の声に、ヤオ子が振り返る。


 「どうしたの?」

 「何故、青龍刀がある!?」

 「ああ。
  猪とか熊を捌く時に使うんですよ」

 「「ハァ!?」」

 「使いませんか?」

 「「聞いたことない!」」

 「そうですか?
  ・
  ・
  あれ?
  何で、青龍刀持ってんの知ってるの?」

 「あ……え~と。
  さっき、隠し扉が開いた時に……」

 「そうですか」


 ヤオ子は、再び料理を始めた。


 「何か……。
  知っちゃいけないことが一杯ありそう……」

 「他に何があるんだ?」


 二人は、辺りを見回す。
 部屋には、さっき、ヤオ子が引いた紐が何本か下がっている。


 「引いて……みようかしら?」

 「やめておけ」

 「でも……。
  あの壁の先って気にならない?」

 「…………」

 「聞けばいいんじゃないか?」

 「それもそうか」


 二人が沈黙して考え込んだ時間は思ったより長かったようだ。
 ヤオ子がタッパを持って、二人の前に居た。


 「出来ましたよ。
  リクエストの麻婆豆腐。
  そして、中華風の肉団子に春巻きです」

 「こんなに作ったの?」

 「実はですね。
  一人だと夕食のおかずは一品なんですよ。
  作り過ぎても食べ切れないから。
  でも、皆で分ければ、あたしも複数のおかずを食べられるんです」

 「そうなんだ。
  でも、やっぱりこんなに……悪いわね」

 「いえいえ。
  偶には、いいですよ」

 「ところで……」

 「はい?」


 テンテンがぶら下がる紐を指差す。


 「あの紐……。
  引くと何が?」

 「ただの収納スペースですよ?」


 ヤオ子が近くの紐を引くと、壁がスライドして本棚が現れる。


 「こっちが本棚で。
  あっちがクローゼット。
  クローゼットの奥に更に仕事道具専用の収納スペース。
  更に──」

 「おかしい……」

 「ん?」


 ネジが眉間に皺を寄せていた。


 「入った時から違和感があった。
  一人で住むには広いし……。
  妙な機械とかも置いてあるし……。
  ・
  ・
  そして、部屋の中が充実している。
  何だ? シャンデリアって?」

 「凄いでしょ?
  今までコツコツと改造して来たんですよ」


 ヤオ子が拳を握る。


 「部屋を改造し!
  物を拾って直し!
  ある時は、一から作り出す!
  そして、遂に屋上に菜園まで完備しました!」

 「ここ……家賃払って借りてんのよね?」

 「そうですよ」

 「いいの?」

 「いいんじゃない?
  いざとなったら、この建物ごと買い取るから」

 「そんなに稼いでいるのか……」

 「まさか。
  これからですよ。
  こ・れ・か・ら」


 ヤオ子は、あっけらかんと笑っている。


 ((何か、本当に実現しそうで怖い……))

 「どうします?
  もう少し、ゆっくりしていきますか?」

 「いや……。
  折角、作って貰った料理を冷ますのも勿体ない。
  これで失礼させて貰う。
  ・
  ・
  料理、ありがとう」

 「ありがとね」

 「どういたしまして。
  また、相手してくださいね」

 「ああ」

 「ええ」


 そして、二人はヤオ子の家を後にした。


 …


 ヤオ子の家を出て、ネジとテンテンが少し歩いて振り返る。


 「建物の形が変わっているわ……」

 「何でもありだな……」

 「あの子、ただじゃ返さないわよね。
  いつも変な気持ちを残していくわ」

 「全くだ。
  根はいい奴なんだが……」


 本日の夕飯……。
 二人の家庭の食卓にヤオ子の料理が並ぶ。
 そして、今まで食べたことのない味に料理の出所を問われたが、二人は説明しづらい状況に悩まされるのだった。
 件の人物は、長所だけをあげての説明が不可能に近かった。



[13840] 第55話 ヤオ子とアスマ班のある一日
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:53
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 やはり、この班でも溜息が出る。
 件の人物が待ち合わせの時刻、五分前になっても現れない。
 奈良シカマルが担当上忍の猿飛アスマに不満を漏らす。


 「アスマ。
  本当に来るんだろうな?」
 「そのはずなんだが……」

 「あと三分しかないわよ」

 「遅刻かな?」


 班員の山中いの、秋道チョウジも最後のメンバーを気に掛け始めた。



  第55話 ヤオ子とアスマ班のある一日



 突然、班員の目がシカマルに集まった。
 シカマルは怪訝そうに方眉を歪める。


 「何だよ?」


 シカマルの横にヤオ子が音もなく現れたのだった。
 シカマルが班員の視線を正確に追って視線を移す。


 「ん?」

 「えへへ……」

 「うわ!」


 シカマルは驚き、ヤオ子にグーを炸裂させた。


 「ちょっと! 何ですか!?
  今のファーストコンタクトは!」

 「うるせー!
  音もなく現れるな!」

 「時間通りに、音もなく現れちゃいけないなんてルールは聞いたことないですよ!」


 シカマルが項垂れる。


 「何だコイツは……。
  うるせー上にめんどくせー」

 「シカマルさんが殴ったから、
  こんな状況になったんでしょう!」

 「ちょっと、いいか……」


 ヤオ子とシカマルがアスマに顔を向ける。
 アスマはヤオ子を指差す。


 「君が派遣された下忍か?」

 「そうです」


 ヤオ子の返答にシカマルが反論する。


 「嘘つくな」

 「嘘じゃないですよ」

 「お前、前にあった時、下忍じゃなかっただろう?
  何で、そいつが下忍なんだよ」

 「特別召集の下忍です」

 「特別……。
  あの噂、本当だったのか?」


 アスマがヤオ子を物珍しそうに眺めた。
 その視線にヤオ子は首を傾げる。


 「何で、知らないの?」

 「興味がなかったし、嘘だと思ってたんだよ」

 「…………」


 嘘だと思っていた……。
 その意味の分からない言葉に、ヤオ子がアスマに質問する。


 「どういうこと?」

 「オレも興味ないからなぁ……」

 「何? このやる気のない師弟?」

 「そもそも噂じゃ、召集した下忍は全員アカデミーに戻ったと聞いたが?」

 「は?」

 「『忍の仕事が任されないで実力が伸びない』って、
  下忍の親から猛反発があったとか……」

 「そんなの初耳ですよ?
  それにあたしは残ってるし」

 「あと、もう一つ。
  変な下忍が一人残って、後処理をしていると……」


 ヤオ子に視線が集まると、ヤオ子は咆哮した。


 「100%、あたしじゃないですか!」

 「お前、珍獣みたいな存在だな」

 「…………」


 ヤオ子はイライラを顔に浮かべながら押し黙り、代わりにいのが口を開く。


 「シカマルは、この子の知り合いなの?」

 「いいや。
  以前、いきなり声を掛けられた」

 「ボクも」

 「チョウジも?」


 ヤオ子はシカマルとチョウジの言葉に我に帰り、以前に会っていたことを思い出した。


 「あの時は、お世話になりました。
  無事に術の発動が出来ましたよ」

 「そりゃ良かったな」

 「何か、冷めてますね?」

 「大きなお世話だ」

 (本当に興味ないことには、とことん話を切りますね……)


 ヤオ子は乾いた笑みを浮かべて鼻で笑うと、この話は一端切ることにした。
 その代わり、別の獲物に目をつける。


 「ところで……。
  お姉さ~ん♪」


 ヤオ子がいのの胸にダイブした。


 「仲良くしてください♪
  こっちも、ヒナタさんみたいに成長して来ましたね♪」


 いののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「ちょっと!
  何なの、この子!」

 「変態じゃないのか?」

 「変態だと思う」

 「変態だな」

 「違います!
  あたしは、スケベなだけです!」


 いののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「それらを総称して変態と言うのよ!」

 「それらの『ら』には、一体、何が含まれるのか……」


 アスマが苦笑いを浮かべてヤオ子に話し掛ける。


 「任務の前に自己紹介してくれないか?」

 「いいですよ。
  八百屋のヤオ子です。
  ピチピチです。
  スリーサイズは──」

 「「「「いらない!」」」」

 「そうですか?
  じゃあ、そっちのダンディーなおじ様と未来のナイスバディの方……お願いします」

 「…………」


 いのが座った目でアスマに訊ねる。


 「アスマ先生……。
  自己紹介しなきゃいけませんか……」

 「名前だけでいいんじゃないか?」

 「山中いのです」

 「猿飛アスマだ」

 (何、このやる気のなさ……)


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「暗そうな班ですね?」

 「「それはない」」


 シカマルとチョウジが声を揃えた。
 二人には分かっていた。
 テンションがピーキーに入れ替わるのがいのの特徴で、それを諌めようとしないのが自分達の先生なのだと……。

 その諦められているアスマは、そろそろ締めに入ろうとしていた。


 「さて、任務だが……。
  余計なことで時間がなくなった。
  あとは、シカマルに任せる」

 「ハァ!?」

 「今回は、お前が部隊長だ。
  そして、これが任務の概要だ」


 アスマは任務の巻物をシカマルに渡す。


 「じゃあ、頑張れよ」


 そして、瞬身の術で姿を消してしまった。
 まとも(?)な上忍ばかり見てきたヤオ子には、それは信じられない光景だった。


 「担当上忍が逃げた……。
  ・
  ・
  でも……。
  何で、シカマルさん?
  一番しっかりしてそうなのはチョウジさんなのに」

 「チョウジ?」

 「ボク、あまりそういうこと、言われたことないけど?」


 ヤオ子は腰に右手を当て、反対の掌を返す。


 「だって……。
  いのさんからはサクラさんっぽい暴走しそうな臭いがしますし……」


 いのの額に青筋が浮かぶ。


 「シカマルさんは、やる気なさそうだし……」

 「否定はしねーよ」

 「故にチョウジさんしか残りません」

 「結局、余りものなのか……ボクは」


 チョウジは素直に喜べず、シカマルはどうでもいい感じ。
 残ったいのだけが、律儀に反応してヤオ子を思いっきり指差す。


 「あんた!
  どうしたら、そういう考えになるわけ!?
  この中じゃ、私が一番まともでしょう!」

 「そうなんですか?」


 シカマルとチョウジは首を振った。


 「あんた達!」

 「この班、大丈夫なんですか?
  一番、馬鹿そうですけど?」


 いのがヤオ子の首根っ子を掴んで、ブンブンと縦に振る。


 「言うに事かいて……!
  サクラの班があるでしょう!」

 「あそこ……。
  今、ナルトさん居ないから、馬鹿パワーが低下しているんですよ」

 「う!
  そうだった……」

 「カカシさんとサクラさんだけなら、かなり正常に機能しますよ」


 シカマルがいのに軽く手を上げる。


 「いの。
  反論出来ねーよ」

 「いやーっ!
  絶対に認めたくない!
  認めたくな~い!」

 「あのさ……。
  任務は?」


 チョウジの言葉に全員が任務を思い出す。
 この班……本当にダメかもしれないとヤオ子は思った。
 そして、その何とも形容しがたい空気が漂う中で、シカマルが巻物を開いた。


 「マジかよ……」

 「どうしたの?」

 「今更、農家の手伝いだ」

 「え~!
  面倒臭~い!」


 いのの反応を見て、ヤオ子がチョウジに小声で話し掛ける。


 「いのさんって、我が侭ですね」

 「そうなんだ。
  いつも苦労してる」

 「シカマルさんも嫌そうですけど?」

 「シカマルは、いつもやる気なさそうにしているよ」

 (この班、本当に大丈夫なのかな?
  つい最近まで相手にしていた、死に掛け担当の中忍といい勝負かもしれない……)


 
 ヤオ子はアスマ班と任務をするのが危険な気がした。


 …


 巻物に書かれていた農家の手伝いをするため、ヤオ子達は木の葉の近くの大きな畑まで移動した。
 だが、そこは見慣れた場所だった。
 ヤオ子は目的地の農家を見る。


 (いつものおじさんの家じゃないですか)


 ここはヤオ子がよく手伝いをする農家の家だった。
 今回は、それをヤオ子一人ではなく、班単位で行なうということなのだろう。
 故に誰でも出来るという理由で、担当上忍が姿を消したとも言える。


 (でも、逃げますかね?)


 普通の上忍なら、絶対にしない。
 ある上忍は遅刻しそうで、ある上忍は暑苦しく畑を素手で耕そうとか言い出しそうだが……。

 任務開始のため、シカマルが代表して農家のおじさんと会話し、会話が終わるとヤオ子達の元へと戻ってくる。


 「畑を耕すだけだ」

 「それが面倒臭いのよ」

 「ここの畑……。
  結構、広いよ」

 「まあ、四人でやれば何とかなるだろ?
  ほら、道具は借りられっから……行くぞ」


 下忍の時には意外と多い、忍者とは関係のない任務。
 仕方なしに、シカマル達は納屋から鍬を持って来ると畑を耕し始めることになった。
 そして、開始早々、いのがぼやき出す。


 「毎回、思ってたけど。
  木ノ葉も、この手の任務を引き受けるのやめて欲しいわよね」

 「まあ、筋肉トレーニングと思えばいいんじゃないの?」

 「そうは言ってもね……」

 「オレは、こっちの方が楽でいいけどな」

 「あんたは、隊長の仕事をしたくないだけでしょ?
  ・
  ・
  ところで……。
  あの子は?」

 「居ないね……」

 「いきなり、サボり!?」


 その時、エンジンの音がする。
 麦藁帽子を被り、首にタオルをかけて、ヤオ子はトラクターを運転しながら現れた。

 すかさずいののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何で、トラクターを運転してるのよ!」

 「だって、納屋の道具使っていいって」

 「だからって、農家のおじさんに怒られるでしょう!」

 「いいえ。
  いつも、これを使ってますよ」

 「うん?
  あんた、ここで働いたことあるの?」

 「もう、長いです」

 「いや、だからって……。
  これはないだろう……」


 いのに続いて、シカマルも呆れる。


 「運転は、結構、楽ですよ。
  教えましょうか?」

 「誰に教わったんだよ?」

 「説明書を読みました」

 「免許は?」

 「あたしの腕は、既に免許皆伝です」

 「…………」


 シカマルは頭に手を当て、表情を緩ませる。


 「まあ、いっか……。
  作業も早く終わるし……」

 「いいの!?
  流して!?」

 「いのは延々と鍬で耕すのと、
  犯罪に少し目を閉じるのと……どっちがいいんだ?」

 「…………」


 この間、約二秒。


 「何かヤオ子の乗っているものが鍬に見えてきたわ」

 (((凄い変わり身の早さだ……)))


 トラクターを導入したことで作業は早く終わることになった。
 というより、途中からシカマル達は作業をしていない。
 畑は、トラクターがほぼ全部耕した。


 …


 畑を耕す任務が終わり、ヤオ子を除く三人は畑の見える土手に腰を下ろしていた。


 「オレら、今日、ほとんど何もしてねーな」

 「そうだね」

 「ヤオ子が居て助かったじゃない」

 「そうだ。
  つまり、アイツしか働いてねー」

 「いや、だって……。
  誰がトラクターを使うなんて思うわけ?」

 「誰も想像できないね」

 「でしょ?」

 「どうする?
  午後の時間、まるまる余っちまったぜ?」

 「…………」


 チョウジが口を開く。


 「ボクは修行したいな」

 「また!?
  チョウジ……。
  最近、どうしたの?」

 「うん。
  少し……強くなりたくてね」


 サスケを追った一件以来、忍びに対する心構えが変わった。
 それは特に直接関わった者に大きく影響を及ぼしていた。
 シカマルがチョウジの言葉に微笑む。


 「午後はコンビネーションの修行でもするか」

 「それって……私も?」

 「ああ。
  オレが足を止めて、いのが心転身の術を掛ける。
  そして、チョウジが止めだ」

 「相手は?」

 「丁度いいのが居るじゃねーか」


 シカマルといのがニヤリと笑う。


 「シカマル……。
  そんな勝手に決めていいの?」

 「加減すりゃいいんだよ」

 「じゃあ、決まりね」


 ヤオ子がトラクターを納屋に仕舞っている内に、勝手に午後のプランが決定した。


 …


 ヤオ子は少し不機嫌になっていた。
 昼食のお弁当のおかずを、また差し入れした。
 それは別にいい。

 しかし、ほとんど食べ尽くされた。
 チョウジの食べるペースを知っているシカマルといのは、しっかりと自分の分を確保。
 それを知らないヤオ子だけが出遅れた。
 そして、ようやく最後に確保したおかずも……。


 「最後のひと口……。
  これがしめくくりであり、味わうべき最も価値のあるおかずになるのだ……。
  何人たりとも、この最後のひと口は渡さない……」


 と、チョウジに食べられた。
 故にほぼ炭水化物しか摂取していない。


 「何で、自分で作ったお弁当のおかずを食べ尽くされなければならないんですか……。
  ・
  ・
  アスマ班……おかしい」


 シカマル達は気にしないで話を進める。


 「そのかわりに、午後、修行を見てやるよ」

 「別にいいですよ……」

 「まあ、そう言うなって」

 「はあ……」


 ヤオ子は、自分が相手にさせられるために修行を付き合わされるとは思ってもいなかった。


 (シカマル……。
  考え方が少しアスマ先生に似てきたな……)


 チョウジは、ここには居ない担当上忍の行動が頭に過ぎった。


 …


 ヤオ子は演習場で成り行きを待つ。
 そして、ヤオ子に対してシカマル、いの、チョウジが向き合う。


 「始めるぞ」

 「何を?」

 「模擬戦だ」

 「あたしの味方は?」

 「居ない」

 「シカマルさんだけ?」

 「いや、全員だ」

 「あたしは夢でも見ているんですかね?
  それとも新手のプレイですか?」

 「じゃあ、始める」


 ヤオ子を無視して、シカマルが印を結ぶ。


 「問答無用ですか!?」


 ヤオ子は急いで距離を取り、それを追ってシカマルの影が伸びる。


 「知ってる!
  それ、知ってる!
  影縛りの術です!」

 「今は影真似ってんだよ!」

 「っ!」


 逃走を中止し、ヤオ子は反転してチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「身代わり!」


 影分身を出して身代わりに捕まえさせると、本体は影の届かないところまで距離を取る。


 「躱されたか……」


 シカマルは舌を打ち、ヤオ子は額の汗を拭った。


 「あとの二人が動いてないのが救いでしたね。
  ・
  ・
  っていうか……あの術、どうやって防ぐの?」


 ヤオ子はホルスターの手裏剣に右手を掛ける。


 「やっぱり、遠距離攻撃しかないですよね」


 左手で腰の後ろの道具入れからワイヤーを取り出し、それを手裏剣に縛り付ける。
 触れない敵を想定した戦い方、その1である。


 「行きますよ!
  ドS直伝の手裏剣術!」


 ちなみに直伝ではなく、見よう見真似である。
 ヤオ子が上空に手裏剣を投げる。


 「何だ?」


 三人の視線が手裏剣に移り、手裏剣が太陽の位置と重なるとヤオ子はワイヤーを引き絞る。
 すると、手裏剣が太陽の中からシカマルを狙って急降下した。


 「危ねェ!」


 シカマルが飛び前転で手裏剣を避けた。


 「逃げられたか……でも!」


 ヤオ子は腰の道具入れからクナイを取り出し、クナイをいのの方向に飛ばした。
 いのが回避するためにそこを飛び退くと、クナイは先ほど刺さったままの手裏剣に当たり、再び手裏剣がシカマルに向かった。
 シカマルは自分のクナイでヤオ子の手裏剣を弾き返す。


 「あのヤロウ……。
  オレを狙ってやがる!
  ・
  ・
  チョウジ! アイツを撹乱してくれ!」

 「分かった!」


 チョウジが印を結びながらヤオ子に接近する。


 「今度はチョウジさん?」


 ヤオ子が体術の構えを取る。


 「部分倍加の術!」


 チョウジの腕が大きくなり、ヤオ子に覆い被さろうとする。
 体術で受けて、どうこうなるサイズの大きさではない。
 ヤオ子は足にチャクラを集中させると、その場を瞬時に移動した。


 「あれは体術で防げないですね。
  ・
  ・
  何か、アスマ班って使う忍術が独特です」


 ヤオ子がチラリといのを見る。


 (さっきから動かないで気持ち悪いですね……)


 そして、一瞬、目を放した隙にシカマルの影が再び伸びる。


 「拙い!」


 ヤオ子はピョンとチョウジの頭に乗っかって回避した。


 「ここならあたしの影は、チョウジさんの頭の上です」

 「甘いな」


 シカマルの影がチョウジを伝って伸び、伸びた影がヤオ子を捕捉した。
 しかし、ヤオ子は影真似の術に拘束されたと気付いていなかった。


 「あれ?
  動けない……」

 「残念だったね」


 チョウジがヤオ子を頭の上で捕まえて地面に下ろす。
 その時になって、ようやくヤオ子の視界にチョウジの体を伝う影が目に入った。


 「無理……。
  この術、一対一でも躱し切れない」


 項垂れるヤオ子を無視して、シカマルが全員に声を掛ける。


 「次、行くぞ」

 「ちょっと!
  これ、何の修行なの!?」

 「突発的な戦いがあった時の対応だ」

 「本当?」

 「ああ。
  今度は、チョウジといのだ」

 (そういえば、結局、いのさんは動きませんでしたね)


 シカマルが嘘でヤオ子をあしらうと、皆から距離を置く。


 (アイツ、思ったより素早いから、いい練習相手になるな……。
  次は、どのパターンを試すか?)


 シカマルが考え込んでいる間に、ヤオ子はチョウジの肉弾戦車に追われて逃走を図っていた。
 そして、チャクラ吸着で木に駆け上がり肉弾戦車をやり過ごす。


 「油断も隙もない……。
  いや、あたしの我が侭が悉く潰されている……。
  知らないうちに、次の修行が始まってるみたいだし……」


 ヤオ子の退避している木に肉弾戦車がぶつかると、木がバキバキと音を立て倒れ始めた。


 「この威力は洒落にならないんじゃ……」


 ヤオ子が木を飛び移り、いのとチョウジの距離を確認する。


 「また、いのさんが動いてない……。
  あれ、何を狙ってんだろう?」


 ヤオ子は木の後ろに回り込み、影分身の術を二回に分けて発動する。
 一回目は、ただの影分身のみ。
 二回目は、術を使用出来るようにチャクラをかなり分け与える。
 そして、木から影分身だけを飛び出させて、いのとチョウジに向かわせる。


 「「分身した!?」」


 チャクラを持たない影分身がチョウジに迫り、印を結ばせないように両手を狙って攻撃を繰り出す。
 もう一方のチャクラを温存した影分身が、印を結びながらいのに迫る。


 (ラブ・ブレス!)


 豪火球の術のエロバージョン。
 ハート型の豪火がいのに向かう。


 「この子、こんな術を!」


 いのが瞬身の術で豪火球の術を躱す。


 「逃がしませんよ!」


 影分身のヤオ子が手裏剣を投げつけ、追撃に出るも、変わり身の術でダミーの木に突き刺さって回避された。


 「また躱された!?
  いい加減、自信失くしますよ!
  どの忍者さんも強過ぎる!
  あたしが対抗出来るのって、
  油断した相手か、修行真面目にしてない山賊まがいの忍者だけなんですか!?」


 チョウジがヤオ子の影分身を殴り倒すと、いのに加勢しに向かう。
 残りのヤオ子の影分身に向け、チョウジの肉弾戦車で突っ込んだ。


 「この!」


 ヤオ子の影分身は印を結び、地面に片腕を突き出す。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー!」


 地面が爆発の威力で盛り上がり、肉弾戦車が盛り上がった地面をジャンプ台にヤオ子の影分身を飛び越える。


 「ここで──ああ! チャクラが切れた!」


 ヤオ子の影分身は豪火球の術を発動することなく煙になって消えてしまった。
 しかし、情報だけは、本体のヤオ子にちゃんと蓄積される。


 (この世代……。
  優秀な忍者さんの当たり年なんじゃないですか?
  他の人達とも模擬戦をしましたが、まともに勝てません。
  サクラさんと任務した時の大人はボコれたのに……。
  ・
  ・
  さて、戦いに集中です。
  いのさんとチョウジさんはスピードで撹乱できないでしょうか?
  チョウジさんの攻撃は、威力が高い分だけ直線的な気がします。
  だけど、力では太刀打ち出来ません。
  いのさんは何か切り札があるみたいですが、
  そのせいで動きにムラがあるように思えます)


 ヤオ子本体が木の影から飛び出し、状況を確認する。


 「チョウジさんが居ない?」


 ヤオ子に向け、いのの手裏剣が飛ぶ。
 一枚躱しても次々に飛んで来る。


 「しつこい!
  躱しているのに何枚も何枚も!」


 そして、ここでガクリとヤオ子が止まった。
 地面から足を拘束されていた。


 「下に居た!?
  いや、誘導された!?」


 そして、いのが万を持してヤオ子に術を掛ける。


 「心転身の術!」


 いのとヤオ子の視線が合い、ヤオ子に心転身の術が掛かる。
 その瞬間、ヤオ子の唇の端が吊りあがった。
 いのが完全にヤオ子の体を支配したのである。


 「これでお仕舞いね。
  手こずらせてくれたわ」

 「結構、素早かったしね」

 「ええ。
  それじゃあ」

 ヤオ子の体を使ういのが、独特の印を結び術を解く。


 「解!」


 そして、ヤオ子がゆっくりと覚醒する。


 「あれ?
  あたし……」

 「気分は、どう?」

 「いのさん?
  ・
  ・
  そうだ……。
  いのさんの術を食らったあと……覚えてない」

 「あんたの体、借りてたのよ」

 「体?」

 「そう。
  心転身の術で、あんたの精神を支配したの」

 「ええ!?」

 「驚いた?」

 「まさか……。
  その隙にエロいこととかしてないでしょうね?」

 「するか!」


 いののグーがヤオ子に炸裂した時、シカマルがいの達に合流する。


 「コイツ、意外と使えるな。
  だから、コイツを使って、これだけのフォーメーションを試してみたい」


 シカマルが巻物に書き込んだフォーメーションをいのとチョウジに見せる。


 「分かった。
  やってみよう」

 「仕方ないわね。
  付き合うわ」

 「…………」


 自分を無視した会話が進み、ようやくヤオ子は利用されているのが分かってきた。


 「あたしの意思は?」

 「ん? ああ。
  今度は、お前、忍術は使うな。
  瞬身の術だけにしてくれ」

 「違う!
  あたしの修行を見てくれんじゃないの!?」

 「いつ、そんなこと言ったよ?」

 「一番、最初!」

 「ああ……。
  あれ、嘘だ」

 「嘘!?」

 「どうせ、暇なんだろ?
  お前も付き合えよ」

 「ノリ悪いって言われんのも嫌なんで付き合いますけど……。
  何か酷くないですか?」

 「アスマ班は、大体、いつもこんな感じだ」

 「…………」

 (何か怖いよ……アスマ班。
  嘘とやる気と化かし合いで構成されてる気がする……。
  クリリンがギニュー特戦隊を見て言ったセリフが頭を過ぎりました……)


 『コイツらのキャラがつかめない……』。
 ヤオ子は訳の分からないまま修行に付き合う破目にあうのであった。



[13840] 第56話 ヤオ子と綱手の顔岩
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:53
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 木の葉崩しから復興著しい、木の葉の里……。
 平和で穏やかな日々の中、怪しい音が数日に渡って響いていた。

 音の発信源は、深夜のヤオ子の部屋。
 時には激しく、時には優しく、時には鑢を掛けるように……。
 コツコツキンキンシャッシャッと……。


 「ふふふ……。
  この里に足りなかったものが、遂に出来ました。
  何故、今まで誰も気付かずに作らなかったのかが分かりません。
  もしかしたら、これのせいで新たな観光名所になってしまうかもしれませんね。
  ・
  ・
  まあ、隠れ里なので場所は知られていないのがデフォルトなので、
  有名な観光名所にはなりえないでしょうが……。
  ただ、サスケさんも里抜けして、里の場所の機密情報ダダ漏れですし……今更ですよね?
  それに木ノ葉で、ここが隠れ里と認識している人は何人居るのか?
  あまり多くないでしょうね」


 そして、音が止んだ三日後に事件は起きた。



  第56話 ヤオ子と綱手の顔岩



 三代目火影の眠る壮大な火をイメージしたレリーフがある。
 その横に突如として石像が出現した。
 モデルは、自来也。
 上半身の着物を荒々しく脱ぎ、右手で空を指す。
 左手には著書である『イチャイチャパラダイス』を握り、顔はムカつくぐらいにニヒルな笑みを浮かべている。


 『何の記念の像なんだ?』

 『さあ?』

 『しかし、三忍の自来也様の像だぞ?』

 『何で、火影である綱手様を差し置いて?
  綱手様から作られるべきだろう?』


 住民達は首を傾げ、直に綱手の耳にも情報が入った。


 …


 数時間後……。
 当然、ヤオ子が呼び出された。
 場所は、自来也の石像の前。
 隣には鬼の形相の綱手。


 「何だ? これは?」

 「さあ?
  見たことないですね?」

 「シラを切る気か?」

 「あたしじゃないですよ」

 「お前以外に誰がやるんだ?」

 「カカシさん!
  あの人はイチャイチャ大好きです!」


 綱手が静かな口調でヤオ子に問い掛ける。


 「ほう……。
  これは、あのくだらない本のための像か?」

 「…………」


 ヤオ子は目を泳がせ、直にパタパタと綱手に手を振る。


 「い、いやですね~。
  自来也さんの像の手元の本を見れば、直ぐに分かるじゃないですか?
  それに……この里でカカシさんほど、
  イチャイチャパラダイスの虜になっている人は居ませんよ」


 綱手は拳を握る。


 「アイツは任務中だ!
  里に居ない!」

 「う!」

 (収拾した情報に誤りが……。
  像を置くタイミングを間違えました。
  変わり身の術、失敗です)


 これ以上は言っても無駄だと、綱手は溜息を吐く。
 そして、コンコンと自来也の像を叩いて強度を確認しながら呟く。


 「まあ、いい。
  壊せばいいのだからな」

 「やめてくださいよ!
  それを作るの、どれだけ苦労したと思っているんですか!」

 「やっぱり、お前が犯人か!」

 「しまった! 使い古された姑息な手に!
  ・
  ・
  誘導尋問とは……さすが、火影様です」

 「何処が誘導尋問だ!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。
 ヤオ子は頭を押さえて言い訳を始める、


 「ううう……。
  だって、ここ暫く石屋さんで任務させていたでしょ?
  その培ったスキルを活かしたかったんだもん」

 「何で、自来也なんだ!」


 ヤオ子は頬染めてクネクネと悶え始めた。


 「だって~♪
  あたしの尊敬するエロ小説の作者さんですよ?
  里の中には、未だにイチャイチャを称えるものがないじゃないですか♪」

 「あるか!
  っんなもん!」

 「これから『イチャイチャを作った偉人の像』って、タイトルも入れた台座も彫り上げるんです。
  綱手さんは幼馴染みなんでしょ?
  それぐらい分かってあげてよ」

 「分かるか!」

 「否定ばかりしてますけど、
  この像のお陰で木ノ葉は、新たな観光名所になるかもしれないし……」

 「なるか!」

 「なりますよ。
  全国からイチャイチャに魅入られたエロ達が集まるんです」

 「木ノ葉を変態の巣窟にする気か!」

 「利益は出ますよ?」

 「いらん!」

 「でも、借金あるんでしょ?」

 「……何で知っている?」

 「シズネさんの口を割るなんて、
  HBの鉛筆を圧し折るより簡単ですよ」

 (シズネ……。
  ヤオ子にいい様にされているぞ……)

 「兎に角、綱手さんの選択肢は二つです。
  借金を返すために変態が集まるのを許可するか?
  一世一代のチャンスを棒に振り、像を撤去するか?」

 「…………」


 ヤオ子の提案に、綱手は考え込んでいる。
 借金の額の量は洒落にならない。

 だが、そんな綱手を見てギャラリーは思う。


 (考えるまでもないだろう……。
  この像で客が呼べるわけがない……)


 綱手も直ぐにギャラリーと同じ考えに達すると、首を振った。


 「考えるだけ無駄だったな。
  こんなもので利益が出るわけがないではないか」

 「こんなもの?
  ・
  ・
  あたしの信念をこんなものだと!?」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「こんなもの以外で、何て表すんだ!」

 「変態を舐めんなです!
  一体、どれだけの若者があの小説を読んで、
  人生を踏み外したと思っているんですか!」

 「踏み外しちゃダメだろう……」

 「分かんない人ですねぇ。
  きっちりと言っておかないとダメみたいです」


 ヤオ子は左手を胸に置き、右手を振る。


 「ある日、目覚めたエロへの欲求!
  ふと、本屋さんで目につくエロ小説!
  思わず手に取った『イチャイチャパラダイス』!
  視覚から伝わる脳を揺さぶる衝撃のプラズマザンバーブレイカー!
  あたし達は、あの時に覚えた感動を忘れない!
  ありがとう! 『イチャイチャパラダイス』!
  ・
  ・
  ということで、全国から必ず真の変態達が集まり、懐は温かくなります」

 「そこまでの変態は、お前だけだ!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「あたしを、そういうタイプの変態と一緒にしないでください!
  あたしのファーストコンタクトは、道で落ちてたものを拾った時です!
  今、話したような一般人的な出会いはしていません!」

 「お前は、一段階上の変態なのか!?」

 「あたしが経験していない以上、一般的な変態説は妄想ですけどね」

 「どっちでもいい!
  ・
  ・
  ったく……。
  この里は只でさえ、問題のある輩が多くて苦労しているのに……」


 綱手は額に手を置いて項垂れた。


 「問題のある輩ね~。
  ・
  ・
  例えば、公衆の面前で平然と十八禁小説を読むカカシさんとか?」

 「そう……」

 「里一番のイタズラ小僧のナルトさんとか?」

 「そう」

 「ナルトさんが居なくなっても、
  しっかりと後を引き継いでいる木ノ葉丸さんとか?」

 「そう!」

 「色ボケして暴走するサクラさんといのさんとか?」

 「そう!」

 「ノリで行動するガイ先生にリーさんとか?」

 「そう!」

 「めんどくさがりのシカマルさんとか?」

 「そう!」

 「食い意地の張っているチョウジさんとか?」

 「そう!」

 「サディストのイビキさんにアンコさんとか?」

 「そう!」

 「借金こさえて火影やってる誰かとか?」

 「そう!
  ・
  ・
  いや、それは……まあ、許容範囲だ」

 「犯罪者が、何を今更になって」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「誰が犯罪者だ!」

 「世間一般では、ワザと借金を踏み倒す人を犯罪者と思っているはずです」

 (このガキ!)

 「今、あげたのは一部ですが、
  木ノ葉の人間は、一癖も二癖もありますよね」

 「その代表が、お前だろうが!」

 「あたし? 冗談!
  こんな可憐な美少女を捕まえて!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。
 そして、自来也の像を叩きながら怒鳴る。


 「可憐な美少女は、こんなものを置かない!
  輪を掛けたような変態が!」

 「酷い言い草ですね?
  それに美少女とは見た目を言います。
  中身が変態でもいいじゃないですか」

 「いいわけあるか!
  変態の象徴の自来也の像なんか作りやがって!
  ・
  ・
  さっきから、この自来也の笑い方がムカつくんだよ!」

 「ニヒルなハードボイルド・ダンディーをテーマにしています」

 「アホか!」

 「やけに突っ掛かりますね?
  分かった!
  綱手さんも石像を作って欲しいんでしょ?」

 「は?」


 呆ける綱手のことを置いて、ヤオ子の暴走は加速する。


 「作ってあげますよ!
  立派な裸婦像を!
  像を移動すると、この自来也さんの像が綱手さんの裸婦像を抱きとめる感じになるヤツを!
  ・
  ・
  えへへ……。
  自来也さんの手が自然と綱手さんの乳へ行くようにしないといけませんね♪」

 「作るな!」


 怪力入りの綱手の拳が自来也の石像を粉砕した。
 綱手も我慢の限界だった。
 短気の綱手にしては我慢した方だった。


 「ぎゃ~~~っ!
  あたしの傑作が~~~っ!
  ・
  ・
  ううう……。
  あんまりだ……」


 ヤオ子は瓦礫になった自来也の破片を持って泣き濡れる。


 「あたしの胸板~。
  まだ十三回しか撫でてないのに~」


 事件は終わりを向かえ、住民達も去って行く。
 火影にタメ口を利く少女に疑問を残しながら。

 そして、綱手も踵を返す……が立ち止まる。


 「……待てよ。
  ・
  ・
  オイ! ヤオ子!」

 「……何ですか?」

 「お前、あれを作れないか?」

 「あれ?」


 綱手の指差す先にあるのは、先代火影達の顔であった。
 それは木の葉の何処に居ても見えるシンボルであった。


 「顔岩?」

 「そうだ。
  私の顔岩だ」

 「無理」

 「何でだ?
  ・
  ・
  もしかして、専門職ではないことを気にしているのか?」

 「いや……。
  エロが絡まないと力が出ない」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「どんな理由だ!
  白々しい嘘をつくな!」

 「本当ですよ。
  だから、自来也さんの石像は上半身裸だったんです」

 (何て理由だ……)


 ヤオ子はポンと手を打ち、指を立てる。


 「あ! 乳まで作っていいなら出来ますよ!」

 「だから、作るな!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ううう……。
  痛い……。
  綱手さんって、ワンランク上の痛さなんですよね」

 「アホなことばっかり言っているからだ!」

 「単に怪力も発動しているからでしょ?」

 「アァ!?」

 「……何でもないです」

 (何でしょうか?
  このサスケさんを彷彿とさせる懐かしさは……。
  綱手さんには突っ込みとしての素質があります。
  ・
  ・
  ふふふ……。
  見事なサスケ2号です。
  最近、少し寂しかったんですよ。
  ここまで切り返しの出来る人材が居なかったんで)


 ヤオ子がにやけていると、綱手は不機嫌そうに質問を繰り返す。


 「で、作るのか? 作らんのか?」

 「ちなみに『作らない』の選択をすると、どうなるんですか?」

 「サクラの16連コンボが、火影命令で発動する」

 「……やります」

 (この恐怖で縛り付けるところも懐かしい……)


 綱手はビシッ!とヤオ子を指差す。


 「余計なものは絶対につけるな! いいな!」


 こうしてヤオ子は、顔岩を作ることになった。
 そして、粉砕された自来也のバラバラ殺人のようになった石像も放置される。
 自来也が旅から帰って来たあと、ゴミ捨て場に自分の首が捨てられているのに気付き絶叫するのは、一年と数ヵ月後である。


 …


 顔岩は固い材質で出来ている。
 緊急時の住民の避難所が顔岩に設置されているのも、そのためである。
 そして、当然、ただ彫り易いような形もしていない。

 最初の形を決めるため、土遁を使える上忍数人が顔岩を慎重に隆起させ、そして、その作業が終わり、上忍の一人がヤオ子に声を掛ける。


 「なあ……。
  本当に一人でやるのか?」

 「そういう任務です。
  すいませんが、崩れる恐れもあるので下の通行禁止と、
  破片が飛ばないようにシートを掛けるのを手伝ってください」

 「分かったよ。
  頑張ってな」

 「ありがとうございます」


 忍達の協力で通行の規制が行なわれ、シートと足場が組まれた。
 ヤオ子の顔岩作りが始まる。


 …


 作業を行なう上で、ヤオ子と一般の職人達と違うことがある。
 影分身を使えるヤオ子には、部下への指示が必要ない。
 意思疎通が完璧に出来るため、指示を出す無駄な時間も発生しなければ間違った思惑で作業をすることもない。

 そして、顔岩を彫り続けて三日が過ぎた進捗状況は……。
 まだ大まかな顔のラインが決まっただけだった。
 これは影分身を使うことができ、デタラメな能力を有するヤオ子にしては作業がかなり遅い。
 ヤオ子は叩きのみと槌を持ったまま、チャクラ吸着で顔岩に水平にしゃがみ込んだ。
 気乗りがしない……。


 「ダメだ……。
  エロが絡まないから、本当にやる気が出ない……。
  任務と違って決まった設計図もないし、作る顔岩は自分の想像力が要だから……」


 ヤオ子は頭の近くに両手を持っていって叫んだ。


 「もう、ダメ!
  我慢出来ない!
  あたしは、想像力じゃなくて妄想力で勝負する子なの!」


 ヤオ子は計画を変えた。
 水平に立ち上がると叩きのみを強く握る。


 「胸像にする!
  絶対に乳まで作る!
  ・
  ・
  あたしのエロの境地!
  固有結界・無限の妄想を発動させる!」


 ヤオ子の集中力──もとい、妄想力という名のエロパワーを急激に引き上げる儀式。
 静かに目を閉じ、自身を引き込む詠唱を始める。
 ちなみに詠唱はパクリだ。


 「I am the bone of my eroticism.
  ────── 体はエロで出来ている

  Sexy is my body, and liquor is my blood.
  血潮は魅惑的で 心は酔っている

  I have created over a thousand delusions.
  幾たびの修羅場を越えて不敗

  Unknown to Death.
  ツッコミから 一度も敗走はなく

  Nor known to Life.
  ツッコミから 一度も理解されない

  Have withstood pain to create many delusions.
  彼女は常に独り 妄想の中で勝利に酔う

  Yet, those hands will never hold anything.
  故に 真人間に意味はなく

  So as I pray, unlimited eroticism works.
  その体は、きっとエロで出来ていた ──────
  ・
  ・
  固有結界! 無限の妄想!」


 ヤオ子の周りに恐ろしくも禍々しいチャクラが渦巻く。
 Fateのアーチャーのような固有結界は発動しない。
 いわゆる自己暗示の一つである。
 エロだけのために集中し、エロだけのために動き続ける機械になる。
 まあ、元々エロのためだけに生きているわけだが……。
 兎に角、ヤオ子は固有結界の発動により、三日三晩不眠不休でエロに従事することが出来る。


 「ふふふ……。
  体に力が漲ってきました……。
  胸像による乳の妄想があたしに無限の力を注ぎ込みます。
  もう、止まれません!」


 ヤオ子は影分身を使って人数を増やすと、一心不乱に動き続ける。
 そして、綱手の顔岩……ではなく胸像が徐々に姿を現し始めるのだった。


 …


 顔岩を作り始めてから、一週間目の朝……。
 ヤオ子が綱手の下を訪れる。
 そのヤオ子の形相を見て、綱手と付き人のシズネが驚く。


 「どうしたんだ!?」
 「どうしたの!?」


 ヤオ子はクマを作り、目が血走っていた。
 その状態のヤオ子が唇の端を吊り上げる。
 本当の変質者のようで怖い……。
 ヤオ子を見て、シズネは少し涙目だ。


 「終わりました……」

 「もう……か?」

 「ええ……。
  ここ三日間はろくに寝ていません……。
  ・
  ・
  くっくっくっ……。
  お陰で頭が変なテンションです……。
  あ~はっはっはっ……」

 ((壊れた……))

 「見ますか……?」

 「あ、ああ」

 「では、こちらへ……」


 ヤオ子はフラフラと危なっかしい足取りで部屋の外へと出て行った。
 その様子を心配し、シズネが綱手に話し掛ける。


 「だ、大丈夫ですかね?」

 「大丈夫じゃないだろう。
  ・
  ・
  アイツ、変に完璧主義者だと思わんか?
  誰が、ここまで身を削れと言った?」

 「根っからの職人気質ですからね。
  ヤオ子ちゃんは……」

 「まったく……。
  行くぞ!」

 「はい」


 綱手とシズネが、ヤオ子に続いて部屋を出た。


 …


 顔岩のよく見える少し離れた建物の屋上に綱手とシズネとヤオ子が居る。
 ヤオ子はオーバーワークなので綱手とシズネの側に居るため、シートの取り外しは、他の忍が担当することになった。

 今、綱手の顔岩はシートによって全て覆われている。
 それを上から少しずつ取り外していくのだ。

 やがて、少しずつシートが取り払われ、綱手の額が見えてくる。
 それを見たシズネが声をあげて指差す。


 「凄い!
  そっくりですよ!
  綱手様!」

 「ああ。
  大したものだ」


 綱手とシズネが素晴らしい出来栄えに笑みを浮かべる。
 そして、鼻のところまでシートが外れる。


 「……何でしょうか?
  随分と切ない目をしていますね?」

 「そ、そうだな……」

 「何というか……色っぽい?」

 「…………」


 嫌な予感が漂い始め、シートが顎下まで外された。


 「凄い……ですね。
  私、初めてですよ。
  顔岩でリップのウルルンを再現したものなんて……」

 (ふふふ……。
  少し前、幼児の間で泥団子をピカピカに磨くのが流行ったでしょう……。
  あれを応用しました……。
  故に雨が降れば、唇の光沢はなくなってしまいます……)

 「もの凄い高等技術の応酬ですね。
  職人の魂? みたいなものを感じます。
  ・
  ・
  でも、込められているものは魂じゃないですよね?」

 「そうだな……。
  ・
  ・
  出来だけ見れば文句をつけられないだろう。
  ただし、この顔岩は発注者の意図を悉く無視している」

 「ええ。
  何か……美術館の裸婦像を想像させますもんね」


 更にシートが外される。
 そこには散々注意した物体がついていた。
 木ノ葉の里全体がピンク色に染まった瞬間だった。


 「この大馬鹿ヤローが!」


 綱手のグーがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は屋上のコンクリートに減り込んだ。


 「シズネ!
  直ぐにシートを付け直させろ!」

 「はい!」


 シズネが顔岩に走った。
 綱手はヤオ子のポニーテールを引っ掴むと、コンクリートのクレーターからヤオ子を引き抜く。


 (この感触……。
  何か懐かしい……。
  アンコさんみたい……)


 そして、ヤオ子の首根っこを捕まえる。


 「お前って奴は!
  お前って奴は!
  お前って奴は───ッ!」


 ヤオ子の首が縦に高速で揺れる。


 「今回は疲れ過ぎて言い返す気力がない……」

 「お前は精も根も尽き果てて、何を作っていたんだ!」

 「ふふふ……。
  胸像ですよ……。
  三日目にエロストレスが決壊しました……」

 「何だ!? エロストレスって!?」

 「真のエロは、三日もお預けされると死ぬんですよ……」

 「いっそ、死んでしまえ!」

 「あれは、あたしのエロ技術の全てを注ぎ込み完成した……。
  我が生涯に一片の悔いもない……。
  どうとでもするがいい……さあ、殺せ」

 「どっかの魔王の最後みたいなことを言うな!
  お前は、本当に何を考えているんだ!」

 「綱手さんの裸婦の妄想……」


 綱手はヤオ子の相手をするのに心底疲れきった。


 「もう、いい……。
  ここからは正規の職人を雇って修正して貰う……」

 「乳だけは……。
  乳だけは壊さんでください……。
  あそこには……。
  あそこには……。
  あそこには、あたしのエロの結晶があるんです……」

 「あんなもん!
  今日中に爆破だ!」

 「ううう……。
  あんまりだ……。
  ・
  ・
  壊すなら顔を壊してください……。
  もう、顔がなくても乳だけあればいい……。
  顔岩じゃなくて乳岩にしましょう……」

 「この本物の馬鹿が!」


 綱手の懇親の怪力入りのグーが、ヤオ子に炸裂する。
 再び、ヤオ子は屋上のコンクリートに減り込んだ。
 八百屋のヤオ子……享年九歳。


 「し…死んでないから……」


 ガク…ピクピク……。
 ヤオ子は意識を手放した。


 …


 ヤオ子の作った、里をピンクに変えた物体は綱手自らの手で破壊された。
 殴る際には自来也とヤオ子の名前を叫びながら跡形もなく……。
 その後姿は、まるで地上最強の生物オーガのようだったとシズネは語っている。

 そして、その日のうちに正規の職人が呼ばれる。
 顔岩自体の修正は簡単だった。
 眉の角度や瞳を微修正するだけだったからだ。

 つまり、顔岩のほとんどはヤオ子が作り上げた。
 しかし、後の木ノ葉で、ヤオ子が綱手の顔岩作りに貢献したことは、黒歴史として封印されて伝わっていない。
 代わりに世にも恐ろしい変態的都市伝説が伝わっている。


 …


 ※※※※※ 顔岩について ※※※※※

 今回、顔岩について書かせて貰いました。
 実は、顔岩については、よく分かりませんでした。
 インターネットを調べるとアニメの疾風伝でエンディング後のおまけで紹介されたようですが、我が家にはデータとなるDVDやビデオはなく、詳細を知ることは出来ませんでした。
 分かったことは、とても固い材質で出来ているようで避難所が一緒にあることだけです。

 今回のSSでは、顔岩の作り方を少しだけ考えてみました。
 このSS内での作り方は、完全な想像ですので信じないでください。

 まず、顔岩を作る岩がないと顔岩は出来ません。
 つまり、削り出す出っ張りがないと顔岩のバランスが崩れます。
 粘土(?)や何かで少しずつ盛ってから削り出す方法も考えましたが、それだと固い材質という顔岩の特性が失われると思いました。
 そこでNARUTOの世界ならではの方法。
 忍術の土の性質変化を使った隆起です。
 これなら材質も変わらず、削り出しやすい岩に変化させることが出来るのではないでしょうか?
 そのような手法を取り、SS内ではヤオ子に綱手の顔岩を作らせました。


 ※※※※※ 隠れ里の位置情報について ※※※※※

 NARUTOの世界では、一国一里のシステムが取られていると、うちはマダラがサスケに話していました。
 しかし、このシステムというか隠れ里……名前だけで隠す気はないみたいです。
 冒頭でも書きましたが、抜け忍のせいで機密情報バレバレです。
 更に木ノ葉に至っては、顔岩があるから遠くからでも位置がバレそうです。
 軍事的拠点がダダ漏れ……大丈夫なんでしょうか?
 そう言えば、波の国のタズナが出て来た時も普通に奥から現れたような……。
 名前だけで隠れていないのが、NARUTO世界の常識なのでしょう。

 その後、ペイン来襲の際には結界を張っている描写があったので、隠すのを捨てて防御やレーダー(?)機能を強化したのだと思われます。
 結界に関しては、人的に行なわれていたように見受けられましたが、あの人達が疲労困憊しないかが不安です。


 …


 ※※※※※ 番外編・ヤオ子の呪い ※※※※※

 これは、サスケが大蛇丸の下で修行を開始して、まだ日の浅い時期の話……。
 あったかもしれない話……。


 …


 暗い室内に会話が響く。
 人数は、二人。


 「カブト……。
  サスケ君の実力は、如何なものかしら?」

 「まだ、ここを訪れて日が浅いですからね。
  何とも言えません」

 「そう……。
  今は、どんな修行をしているの?」

 「彼の起っての願いで、
  実験体と実戦まがいの修行をしています」

 「若いわね……。
  ・
  ・
  相手は?」

 「体感速度をコントロールする薬を投薬している者です」

 「ああ、例の……。
  まだ副作用が出るのよね……。
  ・
  ・
  今のサスケ君では相手に出来ないでしょう?」

 「はい。
  写輪眼のように視覚だけでなく五感全てにおいて、
  実験体は投薬によって相手を遅く感じます。
  故に、相手は動きについていけない。
  ・
  ・
  そして、これが副作用でもある。
  実験体は遅く感じることで、自分が速く動けると勘違いをする。
  無理をさせた肉体は壊れるだけです」

 「本来は、意識して体感速度をコントロールしたいのだけど……。
  まだまだ実験の域を出ないわね……。
  ・
  ・
  実験体の体は、まだ持つの?」

 「もう、暫くは……」

 「サスケ君の様子は?」

 「徐々にですが動きを捉え始めています」

 「流石ね……」

 「…………」


 カブトが少し複雑な顔をする。


 「何か気に掛かることでもあるの?」

 「実は……。
  何回かに一回、確実に実験体の動きを捉えるんです」

 「確実に?」

 「はい。
  そして、その後に『何かの呪い』だと呟くんです」

 「サスケ君が?」

 「聞き違いでなければ
  『ヤオコの呪い』だと……」

 「ヤオコ?
  ・
  ・
  何かしら?
  妖弧の間違いじゃないの?」

 「ナルト君に呪いを掛けるような忍術やセンスがあるとは思えませんが?」

 「確かにそうね……。
  直接、見た方が早そうだわ……」


 大蛇丸が腰を上げる。
 そして、カブトが先に部屋の出口へと向かい、大蛇丸を案内する形で暗い部屋からサスケの修行をしている場所へと移動した。


 …


 地下の闘技場……。
 その上に実験体を観察するために設けられた踊り場がある。
 そこに大蛇丸とカブトが現れる。
 闘技場では、今もサスケと実験体が戦っている。


 「ククク……。
  やはり、いい動きだわ……。
  うちはの血は、伊達じゃないわね……」

 「はい。
  しかし……いや、やはりと言うべきか。
  サスケ君の方が戦況が悪い」


 サスケは呪印の力を解放していない。
 あくまで己の力のみで実験体を制して倒すつもりでいる。
 しかし、写輪眼で相手の動きを先読みしても実験体の瞬身の術の方が早い。
 急所を狙うサスケの忍体術が悉く躱される。


 「見えてはいるのね……。
  でも、体がついていかない……」

 「実験体は無理をしていますからね。
  動きも普通の忍よりも、ずっと早い」

 「実験体相手にやられていないのは、
  サスケ君が致命的な攻撃をギリギリで躱しているからね……」


 戦いは、サスケが粘ってギリギリ続いているように見える。
 しかし、この追い込まれた条件の中から得る物も大きい。
 普段の修行で追い詰められることを経験するのは難しい。
 そして、それを乗り越える経験を得られるチャンスは、もっと少ない。
 だからこそ、サスケは望んでその条件に身を置く。


 「そろそろ終わりかしら?」

 「そうですね。
  ・
  ・
  実験体の方も、休ませないと壊れますしね」

 「代わりは幾らでも居るのでしょう?」

 「まだデータを取り終えていないんですよ」


 大蛇丸がカブトの話に唇の端を吊り上げる。
 その時だった。
 サスケのグーが、実験体に炸裂した。
 そして……。


 「くそ! まただ!
  ・
  ・
  ヤオ子の呪いか!」

 「…………」


 大蛇丸とカブトが沈黙した。
 そして、暫しの時間を置いて口を開いた。


 「言ったわね……確かに」

 「はい……」

 「何かしら? ヤオコって?」

 「分かりません。
  聞いても教えてくれませんでした」


 大蛇丸達には全く分からないが、種を明かすとこうだ。
 サスケは実験体に反応したわけではない。
 反応したのは『会話』だ。
 大蛇丸とカブトの会話が耳に入り、冗談と脳が認識した瞬間、目の前の実験体にグーを炸裂させていたのだ。
 本来なら、大蛇丸かカブトに向かうグーが届かないために実験体に向かった。
 そして、この時だけは、何故か的確に相手の頭を殴れる。


 (何なんだ? これは?
  ・
  ・
  ヤオ子のせいで、いらない冗談に無意識で突っ込みが入る!)


 ヤオ子にトラウマが刻まれたように、サスケにも突っ込みとしての条件反射が刻み込まれていた。
 故に……。


 「ヤオ子の呪いだ……」


 サスケは項垂れる。
 当然、突っ込みのグーで相手にダメージを与えられるわけがない。
 絶妙な力加減がヤオ子のせいで手に馴染んでいる。
 生かさず殺さず痛みだけを相手に的確に伝える。

 この現象は、暫く直らなかった。
 サスケは兄に復讐を果たす前に、ヤオ子に復讐したい気分だった。


 …


 ※※※※※ 番外編について ※※※※※

 やっぱり無理でした。
 本当に、一発ネタになってしまいました。
 感想欄にあったので、サスケのことを書いてみようと思いましたが、情報が少な過ぎました。

 そして、大蛇丸とカブトをギャグキャラにしたら、NARUTOの世界自体が崩壊します。
 また、この時期辺りから、サスケはギャグキャラを卒業していきますので、これが限界でした。


 …


 ※※※※※ 番外編を書く上でパロディ風に考察した大蛇丸とカブトの没ネタ ※※※※※

 死、迫る時①

 「カブト……」

 「何ですか?
  大蛇丸様?」

 「今だから教えてあげる……。
  あなたに転生しない理由……」

 「…………」

 「あなたの血液がAB型だからよ」

 「え?」


 死、迫る時②

 「カブト……。
  もう、この体も限界ね……」

 「はい……」

 「君麻呂に……転生してみようかしら?」

 「は?」

 「だから、君麻呂に転生するのよ……」

 「な、何故!?」

 「転生したら……。
  私の白蛇の力で治るんじゃないかしら?」

 「大蛇丸様!
  気を確かに!」

 「やって……みようかしら?」

 「やめてください!
  何で、いきなりそんなチャレンジをするんですか!」

 「おかしい?」

 「おかしいですよ!」


 新術と色

 「青色と黄色を初めて混ぜた者は……。
  そうして出来た新しい色を緑と名付けた……。
  私も、それと同じことをしたいだけですよ……」

 「大蛇丸……。
  最初から緑色があったかもしれんじゃろう?」

 「え?」

 「結果の名前が緑としてあって、
  偶々、青色と黄色を混ぜたら、緑色だったということだ」

 「何で、人の夢を壊すようなことを言うのよ……。
  ・
  ・
  まあ、いいわ……。
  色彩に限りなく種類があるのと同様に、
  術も数千数万とこの世にあろう……」

 「ただ、掛け合わせていくと最後に黒っぽい色ばっかだしのう。
  こげ茶とか黒っぽい紫とか……。
  あまり、いい結果になるとは思えんのう」

 「…………」

 「こんな里!
  出て行ってやるわ!」


 …


 今回、最後までお付き合い頂いた方、本当にありがとうございます。
 そして、変なネタで気分を害されてしまった方、申し訳ありません。
 ギャグなので、広い心で流してくれると幸いです。



[13840] 第57話 ヤオ子とサクラの間違った二次創作
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:54
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 注意 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 ・今回のお話は、ほとんど番外編です。
 ・NARUTOと関係のない話が、いつも以上に多数でます。
 ・三次創作の悲劇と二次創作のタブーが話のメインになります。
 ・興味のない方は、途中でスルーをしてください。
 
 また、
  『魔法少女リリカルなのは A`s』
  『DEATH NOTE』
  『ハヤテのごとく!』
  『シャーマンキング』
  『るろうに剣心』
  『名探偵コナン』
  『Fate/hollow ataraxia』
  『銀魂』
  『新機動戦記ガンダムW』
  『機動武闘伝Gガンダム』
  『機動戦士Zガンダム』
 をよく知らない方は、主人公がいつも以上に壊れていると錯覚するかもしれません。
 主人公は、いつも通りの壊れたレベルです。

 以上を踏まえた上で、悲劇の生まれる過程の一つを目撃したい方だけ……最後までどうぞ。
 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 サスケが去って、一年……。
 ナルトが旅に出て、九ヶ月が過ぎた。

 ヤオ子の木ノ葉での一人暮らしも安定し、任務も今まで以上にこなしていた。
 その間、左手の額当ては布に包まれたままで、生活に大きな変化は見られない。

 いや、大きな変化といえば、体の成長があった。
 丁度、成長期に来ている身長が急激に伸び始めた。
 背の高さは、同じ世代の子より抜きに出ている。
 その身長は、今、ヤオ子の家のインターホンを押す少女……サクラが少し見下ろすぐらいである。


 「は~い~」


 ヤオ子は家の扉を開けた。



  第57話 ヤオ子とサクラの間違った二次創作



 家の前でサクラを確認すると、ヤオ子は首を傾げる。
 本日、サクラが訪ねて来るような用事はなかったからだ。


 「どうしたんですか?
  こんな朝早くから」


 ヤオ子の疑問の答えに、サクラが紙を見せる。
 それは図書館の借りた人リストだった。


 「何ですか? これ?」

 「あんた、この薬草の本……借りたでしょ?」


 サクラがメモ用紙を手渡すと、ヤオ子はメモ用紙に目を移す。


 「確かに、あたしが借りましたね」

 「読みたいから、返して」

 「…………」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「何を言っているのかな?
  期限まで、後、四日ありますよね?」

 「私は、今日、読みたいの!」

 「何処のジャイアンですか……。
  期限以内には返しますので……帰って!」


 ヤオ子がドアを閉めようとすると、サクラがドアの間に足を滑り込ませた。


 「今日、必要なの!」

 「何で、ですか?」

 「綱手師匠に出された課題をしなきゃいけないのよ!」

 「すればいいじゃないですか」

 「それを調べるのに、あんたの借りた本が必要なのよ!」

 「あたしに譲歩を迫らないで、綱手さんに言えばいいでしょ」

 「あんたは綱手師匠の恐ろしさを知らないから、
  簡単にそんなことが言えるのよ!」

 「恐ろしさぐらい知ってますよ。
  あの乳を揉もうとして、何回生死を彷徨ったか……」

 「あんたみたいに、エロに命を懸ける人間と一緒にしないで!」

 「何だかんだで死にませんから、命は懸けませんよ。
  綱手さんは優秀な医療忍者ですし」

 「あんた、本当に死に掛けるほど殴られてんじゃない!」

 「あたし、冗談は言いませんよ?」

 「嘘つくな!」


 ヤオ子は『面倒臭いな~』と思いながら、頭を掻く。


 「まあ、いいか……。
  後、一回ぐらい読みたかったけど。
  大体、暗記したし。
  ・
  ・
  上がってください」

 「…………」

 「お邪魔します」


 サクラはヤオ子の家に上がり、ヤオ子の後ろに続く。
 ヤオ子はサクラを伴いリビングの壁際に近づくと、ぶら下がる紐を引いた。
 それと同時に壁がスライドし、壁の中に隠された本棚が姿を表わす。


 「え~と……。
  あ、ここだここだ」


 ヤオ子が件の本を取ると、サクラに振り返る。


 「後で一緒に返しに行きますか?
  それとも、今、返しに行きますか?」

 「ちょっと、待って!」


 サクラはヤオ子を押し退けると、本棚からヤオ子が取り出した付近の分厚い辞書のような物を引っ張り出した。
 その本を捲ると、サクラは食い入るように読み出した。


 「これ……。
  図書館にも置いてない高価な薬草辞典じゃない?」

 「そうですよ」

 「何であるのよ?」

 「任務で必要だったんで……買っちゃった♪
  あたし、薬草には詳しくなりたいんで」


 サクラはヤオ子の話を半分聞き流して、更に薬草辞典を捲る。


 「凄い……。
  こんなに詳しく……」

 「あの~……。
  図書館に返す本は?」

 「ヤオ子。
  ここで課題をやっていくわ」

 「は?」


 サクラはヤオ子の家の本棚の一角を手でなぞる。


 「あんたんとこの本棚。
  薬草の本だけは、図書館より充実しているのよ」

 「一種のトラウマですからね。
  薬草に関しては……。
  ・
  ・
  まあ、いいです。
  ゆっくりしていって下さい」

 「助かるわ」


 サクラは必要な薬草関係の本を数冊取り出すと、広いリビングの真ん中にある大きなテーブルへと向かう。
 そして、背中のリュックを下ろしてテーブルの上に課題と薬草関係の本を広げ始める。


 「あたしは向こうの部屋にいますんで、
  何かあれば呼んでください」

 「分かった。
  じゃあ、早速。
  飲み物入れて」

 「…………」

 「木ノ葉の女の子って遠慮がないよね。
  特に女の子同士だと……」


 ヤオ子は業務用冷蔵庫に向かい、扉を開ける。
 中からオレンジジュースを取り出し、食器棚からコップを取って注ぐと、それをサクラの居るテーブルの端に置いた。


 「ごゆっくり」


 ヤオ子は自分の作業をするため、増築した部屋へと入って行った。


 …


 お昼近く。
 サクラが綱手の課題を終了させ、大きく伸びをする。


 「ヤオ子の薬草辞典のお陰で捗っちゃった。
  ・
  ・
  お礼を言わなきゃ」


 サクラはテーブルの前から立ち上がると、ヤオ子の閉じ篭った部屋へ向かい、ノックする。
 ノックのあと、直ぐにヤオ子が顔を出す。


 「どうしました?」

 「課題終わったの。
  凄く助かったわ。
  ありがとう」

 「いえいえ。
  どういたしまして」


 ヤオ子が時計に目をやる。


 「サクラさん。
  お昼、ご一緒しませんか?」

 「そうねぇ……。
  明日、提出の課題が午前中で片付いたんだから、時間はあるわね。
  お言葉に甘えさせて貰うわ」

 「と、言っても、昨日のお夕飯の残りを温め直すだけなんですけどね。
  ・
  ・
  少し待っててくださいね」


 ヤオ子は部屋を出て、台所の方に消えた。
 一方の残されたサクラはリビングに戻り、使わせて貰った薬草辞典を本棚へ戻しに近づく。


 「綺麗に整理整頓してあるのね。
  薬草関係は……ここね。
  ・
  ・
  他にどんな本があるんだろう?
  ドラゴンボール?
  北斗の拳?
  Gガンダム?
  etc...。
  どれも聞いたことのない漫画ね……。
  ・
  ・
  ナース特集……。
  美脚…云々……。
  etc...。
  エロ本が混ざってる……。
  ・
  ・
  イチャイチャパラダイス…上…中…下……。
  イチャイチャバイオレンス……。
  etc...。
  カカシ先生が読んでるエロ小説まで……。
  ・
  ・
  同人……?
  何だろう?」


 サクラが聞いたことのない本を手に取る。


 「薄い本ね?
  何だろう?
  何かのワンシーンを書き換えているのかしら?
  ・
  ・
  意味のない露出……。
  これもエロ本の類か……」


 別の本を取る。


 「こっちは小説?
  何だろう?
  同じ本のタイトルなのに内容が全然違う」


 そして、禁断の本へと手が伸びる。


 「BL……?」


 この出会いが、後の木ノ葉丸のおいろけ・男の子どうしの術でのとんでも発言に繋がるとか繋がらないとか……。


 …


 ヤオ子が温め直したスペアリブをテーブルに運ぶ。


 「自信作なんですよ。
  値段は安く済むし、時間だけ掛ければいいお手軽料理なんで。
  ご飯は、ここに置きますね」


 ご飯を電子ジャーから盛り付け、テーブルに並べる。


 「箸でも切れるぐらいの柔らかさなんですよ」

 「…………」


 しかし、食事の用意が終わったのに、サクラからは一向に返事が返って来なかった。


 「あれ? 反応がないですね?」


 ヤオ子はサクラの様子を見ると、本棚の前で何かの本を食い入るように見ていた。


 (何、見てんのかな?)


 ヤオ子はサクラの後ろに近づき、肩越しに覗き込む。


 「あまり読むと腐女子になっちゃいますよ」


 ヤオ子の声にサクラが我に帰った。


 「ヤ、ヤオ子!?
  この本、何!?」

 「BL……Boys Love、略してBL」

 「BL……」

 「十代の少年……特に美少年同士の間での恋愛を指す言葉です。
  似た言葉に少年愛・ショタコン・やおい・JUNEなどがあります。
  清純な少女で居たいなら、その手の本は見ないことをお勧めします」

 「…………」


 サクラの視線がヤオ子の方から、ゆっくりと手元の本へと移る。


 「借りて行こうかな……」

 「え?」

 「べ、別に変な意味じゃないわよ!?
  ただ、ちょっと…気になったというか……」

 「…………」


 ヤオ子はジト目でサクラを見ると、ボソッと呟いた。


 「変態」

 「こんな本を持ってる、あんたに言われたくないわよ!」

 「あたしは、もう、オープンにしてるもん」

 「ぐ……。
  変態の強みを前面に押し出して来た……」


 ヤオ子がチョコチョコと頬を掻く。


 「まあ、ドツボに嵌らない程度にどうぞ。
  あたしは、見なかったことにします。
  親に隠れて見てください」

 (思春期男子のように……。
  そして、部屋を掃除したお母さんにバレて、
  無言で机の上に置かれるがいい……)

 「どうしよう……。
  このまま突き進んだら、ヤオ子の仲間入りしそう……」

 (サクラさんが、その本に興味を持った時点で、あたしには仲間意識が芽生えています)

 「引き返すなら、今しかありませんよ?」

 「私の中で天使と悪魔が囁き続ける!」

 「『見ちゃいなさいよ! サスケ君だってエロ本の一つや二つ見てるって!』
  『違うわ! サスケ君は清純な女の子が好きなのよ!』
  ・
  ・
  みたいな?」

 「あんたは、心が読めるのか!?」


 迷うサクラに、悪魔は冷静に話し掛ける。


 「サクラさん。
  結論言っちゃいますよ」

 「?」

 「バレなきゃいいんですよ」

 「…………」


 サクラの心が大きく傾いた。


 「そうね……」


 サクラ……ヤオ子の変態ランドに大いなる一歩を刻んでしまった瞬間であった。


 …


 一騒動のあと、ヤオ子とサクラが食事を始める。
 柔らかくも肉汁を閉じ込めた、絶品のスペアリブを食べながら、サクラが本音を溢す。


 「性格と技術は、やっぱり別物よね」

 「何の話ですか?」

 「変態でも美味しい料理を作れるってこと。
  このスペアリブ……凄く美味しいわ」

 「まあ、美人でも、どうしようもない綱手さんみたいな人も居ますし……。
  天は、二物を与えないんじゃないですか?」

 「私は?」

 「頭が良くても、乳がない時点でハンデがあります。 ね」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「失礼ね!
  しっかり育ってるわよ!」

 「あたしもセクハラする楽しみが減るので、
  大器晩成型であることを切に願っています」

 「あんたのセクハラのために成長したくないんだけど……」

 「ちなみにあたしは、既に里の女の子の六割三分四厘に手を出しています」

 「あんたねぇ……」


 妙な会話をしながらの食事は三十分ほどで終わり、ヤオ子は洗い物を始める。
 そのヤオ子にサクラが質問する。


 「ヤオ子。
  さっき、何してたの?」

 「あたしも二次小説を創作してみようと思って。
  試していました」

 「BL?」

 「そんなわけないでしょう」

 「じゃあ、何を書いてたの?」

 「見てみます?」

 「うん」


 洗い物が終わると、二人は別室に移動した。


 …


 ヤオ子の家にある別室。
 勉強机などが置かれ、主に物を書いたりする時などに使用する。
 もう一つは、謎の工作室。


 「勉強部屋?」

 「そんなもんです」

 「しかし、このアパート広いわねぇ……」

 「いい物件でしょ?」

 「うん」

 (違法で改造しまくってますから)


 ヤオ子は書き掛けの紙をサクラに見せる。


 「まだ、あらすじだけなんですけどね」

 「『魔法少女リリカルなのは A`s』……何これ?」

 「実は、原作は知りません」

 「は?」

 「うちにある本は、ほとんどが拾ったものです。
  そして、『魔法少女リリカルなのは A`s』に関しては、
  全部二次創作のものなんです」

 「一体、何をしようとしてたの?」

 「二次創作からの原作の再現ですね。
  再現しようとしたのは、クライマックスの話だけですが」

 「そんなの出来るの?」

 「出来るんじゃないですか?
  所詮は、二次創作です。
  原作ありきでやっている以上、
  統計を取って、統計の一番多い話が原作に近いと思われます」

 「なるほど」


 しかし、ここで既に間違いがある。
 拾った本である以上、捨てた人間の趣味思考が同人の二次創作では表れやすい。
 よって、統計を取っても間違った方向に100%進む。

 サクラが、あらすじを読む。


 「『八神はやてが闇の書の封印をするも失敗する』
  ・
  ・
  何? 封印って?」

 「よく分からないんですけど。
  巻物みたいものなんじゃないですか? 封印術を使った」

 「ふ~ん。
  闇の書って?」

 「『闇の書の暗部たる防衛プログラム……』って、書いてあるんですけど、さっぱり。
  多分、封印するのを邪魔する奴でしょうね。
  その邪魔者を倒してコアを消滅させる流れになって行くみたいです」

 「よく分かんないわねぇ。
  八神はやては?」

 「よく分からなかったんで、独自設定で補完しました」

 「どんな?」

 「父親が夜神月で、母親が弥海砂です。
  父親の方は、デスノートという死神のノートを使って人殺しをしていましたが、既に殺されています。
  母親の方も死神の目との取り引きにより、寿命が短くなっているので、既に死んでいます」

 「え~と……。
  分からない……」

 「そうですか?
  原作を再現しようとはいえ、ほぼ三次創作に近いものですからね。
  詳しくは、デスノートという漫画を見てください」

 「それで?」

 「死神に魅入られた両親の血を受け継いだために、八神はやてにも闇の力が備わります。
  ここで闇の書が八神はやてに取り憑きます。
  そして、闇の書を再び封印するため、巫女の巣島の綾崎はやてを訪ねます」

 「んん!?
  また、変なキャラクターが出て来たわね?」

 「綾崎はやては、女装趣味の凄腕何でも執事です。
  助手のイタコのアンナと八神はやてを特訓します」

 「……あんた、本当に原作を再現しようとしてる?」

 「さっきも言いましたが、ここは情報が少ないところです」

 「まあ、いいわ。
  続けて」

 「ここで修行をした八神はやては、オーバーソウルを使って守護騎士を召喚します」

 「また……。
  オーバーソウルって、何!」

 「過去の所有者の思いの強いものを媒介にして巫力で体を与えて戦わせるんです。
  詳しくは、シャーマンキングを読んでください」

 (何か……。
  もう、既にとんでも設定になってる……。
  これって原作じゃなくて、
  三次創作の悲劇とか二次創作のタブーを再現してんじゃないの?)

 「そして、守護騎士を呼び出します。
  逆刃刀 in 緋村剣心。
  無限刃 in 志々雄真実。
  謎の業物 in 斎藤一。
  魚の骨 in 相楽左之助」

 「魚の骨が何で媒体に……」

 「劇中で、よく咥えていました。
  詳しくは、るろうに剣心を読んでください」

 「それから?」

 「呼び出した守護騎士が暴走します」

 「何で……」

 「緋村剣心と志々雄真実は敵同士。
  斎藤一と相楽左之助も犬猿の仲です。
  このせいで闇の書を封印しようとしても出来なくなります」

 「ヤオ子……。
  八神はやてが、ただの馬鹿の子になってる……」

 「安心してください。
  ここまでは、原作が分からないところだからです。
  ここからは間違いなく原作通りです。
  『魔法少女リリカルなのは A`s』の登場人物しか出ません」

 「そうなんだ……」

 「『闇の書を退治する仲間達』のあらすじです。
  封印を失敗した八神はやてを別捜査で追っていた集団が助けます」

 「何で……」

 「名探偵コナンで、いきなりFBIが出てくるようなもんです」

 「FBI……分からない」

 「詳しくは、名探偵コナンを読んでください。
  ・
  ・
  そして……。
  『白い服の魔法少女のなのはが、ユーノ君に一緒にやっつけようと迫る』
  に続きます」

 「ん? 迫る?」

 「はい。
  なのはは、ユーノが好きで好きで堪りません」

 「何で……」

 「彼女の持つ杖。
  これが呪いのアイテムだからです」

 「何で、魔法少女が呪いの杖を持ってんのよ?」

 「杖の名前が確か……カレイドステッキ!
  世にも恐ろしいマジカルルビーという、声だけは可愛らしい人工天然精霊が宿っています。
  そして、『鈍感な意中の男性に対する素直になれないスーパーオトメ力』により、
  強制的に魔法少女にしてしまったんです。
  詳しくは、Fate/hollow ataraxiaの設定を調べてみてください」

 (何て設定だ……)

 「形状はレイジングハート・エクセリオンの型を受け継ぎ、
  マガジン型のベルカ式カートリッジシステム『CVK792-A』を搭載しています」

 「あ~も~……。
  さっぱり分からない……」

 「まあ、その杖のせいでユーノ君に秘めた思いが爆発するわけです。
  そして、嫌々ながらも、ユーノ君は強引に協力させられて、
  無事に闇の書を消滅させましたとさ……おしまい」

 「あらすじ三つしかないし……。
  最初、封印って言っていたのが消滅に変わってんだけど……」

 「そこを好き勝手するのが二次創作の醍醐味ですよ♪」

 「違う気がする……」

 「まあ、そんな感じであたしも二次創作を書いてみます。
  向こうの部屋でのんびり寛いで、後で読んでくださいね」

 「まあ、いいけど……」


 サクラが部屋を出る。
 胸には多大な不安しか残らない。


 …


 == 魔法少女リリカルなのは A`s ~最後っぽいところを再構成~ ==

 作:八百屋のヤオ子



 キラがこの世界から消え去り、数年が過ぎた。
 第二のキラ弥海砂も、この世には、もう居ない……。
 残されたのは子供だけ……。
 夜神の苗字を受け継いだだけの女の子……。

 キラを崇拝する信者達は、彼女をキラと呼び続けた。
 キラの名は、また幼い少女を縛りつけ苦しめた。

 しかし、運命は彼女を更に縛り付ける。
 平行世界を旅する巻物……闇の書が彼女の死神の臭いを嗅ぎつけて現れたのだ。
 両親が死神のノートに魅入られていたから分かる……。
 この巻物は、あってはいけない……。
 封印しなければいけない……。

 彼女の旅が始まる。


 …


 数年後、彼女は巫女の力を受け継ぐ島……巫女の巣島に身を置いていた。
 自身の力を闇から光に変え、闇の書を永久に封印するためだ。
 厳しい修行が続いた。
 島の神官の付き人のイタコのアンナの修行は、常軌を逸していた。
 頭のネジが飛んでいるのではないかと思うほどのドSっぷりだ。
 それでも、ひたすら彼女は耐え続け、遂に免許皆伝を得る。

 島の神官……綾崎ハヤテ(男)が彼女に祝福を与える。
 呪われた夜神の苗字を変え、八神に……。
 そして、自分の名前を与え、はやてと……。

 彼女は、八神はやてとして闇の書との戦いに向かうのだった。


 …


 海鳴市周辺の海上……。
 八神はやてが、闇の書封印のための準備を始める。
 巫女の衣装に身を包み、自身の巫力を高めていく。
 この封印のために方々から集めて来た守護騎士の媒体……。
 今、それに力を宿す。
 はやてが両手を突き出し、巫力を注ぎ込む。


 「逆刃刀 in 緋村剣心!
  無限刃 in 志々雄真実!
  謎の業物 in 斎藤一!
  魚の骨 in 相楽左之助!
  ・
  ・
  みんな! わたしに力を貸して!」


 媒体を中心に光が集まり、守護騎士達が姿を現し始めた。


 「成功や!
  みんな! 今から闇の書を封印します!
  ・
  ・
  力を……って、ちょっと!」


 はやての前で守護騎士達が戦い出した。


 「ここに居たか! 抜刀斎!」

 「志々雄ーーーっ!」

 「この阿呆が!」

 「斎藤! ここであったが百年目だ!」


 はやてが焦って叫ぶ。


 「待って! 話を聞いて!」

 「「「「うるさい!」」」」


 幕末の志士達の剣気に気押されて、黙るはやて。


 「何で…何でなん……。
  剣心さんぐらいは、言うこと聞いてくれると思ったのに……」


 はやての前では、延々と幕末が繰り広げられていた。


 (あの剣心さん……。
  抜刀斎の頃や……。
  頬にペケがない……)


 そして、恐れていた事態……闇の書が暴走を始める。
 巻物が黒いオーラに包まれ、勝手に開いていく。
 封印されていたものが、自身のコアを守るために防衛プログラムを組み上げて実体化していく。


 「あかん!
  早く封印せんと!
  ・
  ・
  みんな──」

 「「「「うるさい!」」」」

 「何でなん!?」


 はやてにも限界はある。
 この緊急事態に自分の守護騎士達は、一向に言うことを聞かない。
 額にはペケが浮かんでいた。


 「言うこと、聞かへん子は嫌いや!」


 守護騎士達に注いでいた巫力をカットする。
 瞬間、守護騎士達は体を失い、魂だけが残る。


 「こんなもん! いるかーっ!」


 はやてが媒体を海に投げ捨てる。
 ハアハアと肩で息をする中で事態は悪化していく。


 「あかん……。
  あかん! あかん! あかん!
  どうすればいいんや!?」


 海鳴市周辺の海上で、一人の少女が絶叫していた。


 …


 時空管理局……。
 次元の狭間から、世界が混沌に陥った時に現れる謎の武闘派集団……。
 そこの嘱託魔導士三名とBOSSが現れる。

 高町なのは(嘱託魔導士)
 呪いの杖……カレイドステッキとの契約により、誕生してしまった悲劇の魔法少女……。
 白いバリアジャケットに栗毛のちょっとツインテール。

 フェイト・テスタロッサ(嘱託魔導士)
 高町なのはに助けられて以来、カレイドステッキから流れ出る魔力の精神汚染を著しく受けてしまった少女。
 彼女は、なのはの幸せこそが第一という固定観念をカレイドステッキにより、植え付けられている。
 黒いバリアジャケットに金髪ツインテール。

 ユーノ・スクライア(嘱託魔導士)
 カレイドステッキに目をつけられたなのはの捕食対象。
 見た目、女の子っぽい男の子。

 クロノ・ハラオウン(BOSS)
 銀髪の天然パーマ。
 黒いバリアジャケットに、洞爺湖と入った木刀を腰に挿している。


 …


 はやての周りに時空管理局の面々が降り立つ。


 「もう、大丈夫だよ」


 白いバリアジャケットを着た女の子がはやての肩に手を置く。
 はやては、まるで天使が舞い降りたかのような錯覚をした。


 「一人で頑張らないで」


 少女の優しい言葉に、はやての目に涙が浮かぶ。
 誰も頼れなかった。
 誰も手を差し伸べてくれなかった。
 だけど、今は違う……。


 「わたし…わたし……。
  闇の書を封印しようとして……」


 なのはが優しくはやてを抱きしめる。


 「分かってるよ。
  はやてちゃんは、よく頑張ったよ。
  後は、わたしとユーノ君を信じて」

 「うん……。
  お願い……」


 なのはの言葉に、ユーノが固まっている。


 「なのは……。
  気のせいかな?
  『なのはと僕で』って言わなかった?」

 「言ったよ」

 「『皆で』じゃないの?」

 「何で?
  わたしは、ユーノ君と戦いたいの」

 「いやいやいやいや……。
  目の前を見てよ。
  何か『ウジュウジュ』言ってるよ。
  あんなの二人じゃ無理だよ」

 「二人の愛があれば大丈夫♪」

 (大丈夫じゃない……)


 ユーノの首にガンダム・デスサイズの釜みたいなものが伸びる。


 「ユーノ……。
  わたしのなのはに逆らう気?」

 「フェイト!?
  逆らってない! 決して逆らってないよ!」

 「なら、いいの……」

 (何だ? この状況は?)


 ユーノは頭が痛かった。
 闇の書の防御プログラムは暴走を続け、ウジュウジュと不快な効果音を発しながら増殖している。
 そして、そんな状態のユーノの肩をポンとクロノが叩く。


 「ユーノ……。
  大人になれ」

 「は?」

 「お前がなのはと恥ずかしい言葉を叫べば、全てが終わるんだからよォ」

 「いやいやいやいや……。
  そんな渋い声で諭されても、僕は困りますよ」


 はやても、頭が痛かった。
 自分の守護騎士以上に、ここは修羅場なんじゃないかと……。
 一方、なのはの様子がおかしい。
 なのはに中々返事を返さないユーノの態度に、なのはの呪いが膨れ上がっていたためである。


 「ユーノ君……。
  わたしのこと……嫌いなの?」

 「なのは?」


 なのはが俯いて呟く。


 「嫌いならそれでもいいの……。
  ユーノ君を殺して、わたしも死ぬから……」

 「ちょっと!
  何で、そうなるの!?」

 「ユーノ君が、わたしを好きじゃない世界なんて、あってもなくても一緒……。
  ・
  ・
  そうだ……。
  ユーノ君を殺す前に世界を壊そう……」

 「…………」


 クロノの膝蹴りがユーノの腿に突き刺さる。
 ユーノは、あまりの痛さに耐え切れず、なのはにしがみ付いた。


 「ユ、ユーノ君!?」


 なのはは頬を染め、空かさずクロノがフォローを入れる。


 「ユーノがなのはを嫌いになるわけないだろう!
  今だって、嬉しさの余り自分から抱きついたぐらいだ!」


 クロノがナイスガイポーズでティーンと歯を光らせる。


 「ほ、本当ですか!?」

 「ああ! 愛、故に!」


 なのはが悶えて離れると、クロノがユーノの頭を掴む。


 「いいか?
  よく聞け……このヤンキーが」

 「金髪を全員ヤンキーと言う前時代的な考えは、どうなんでしょう?」


 クロノのヤクザキックが、ユーノに炸裂する。


 「黙って聞け。
  お前に選択の余地はない」

 「時空管理局……。
  絶対に辞めます……」

 「いいか?
  なのはを制御出来るのは、お前だけなんだ。
  上手く言って落とせ」

 「健全な青少年に向ける言葉じゃありませんよね?」

 「最近のガキは……。
  ・
  ・
  分かった。
  お前にもフォローしてやる」

 「何ですか? それは?」

 「アイツは、きっとナイスバディになる」

 「は?」

 「結婚すれば、いつでもエロいことが出来るぞ」

 「真面目な顔して、何言ってんですか!」

 「そして、もれなくフェイトが付いて来る……。
  どうだ?」

 「『どうだ?』じゃねーよ!
  思わず突っ込み入れちゃったよ!
  あんた、何考えてんだ!」

 「世界の平和だよ。
  正直、あの二人……持て余してんだよ。
  馬鹿みたいな魔力を内在させててさ。
  ・
  ・
  怖いよ? 最近の子は?
  いつキレるか分かんないんだから」

 「そんな危ないのを、僕に押し付けないで下さいよ!」

 「だ~か~ら~。
  エロいことしてもいいって言ってんじゃん」

 「お前、どっかのキャッチか!
  仮にもBOSSだろ!?」

 「何?
  もしかして、お前、こっちの気があるの?」


 クロノが手の甲を頬につける。


 「あるか!
  僕は、健全だ!」

 「だろう?
  だったら、世界のために落としちゃえよ。
  ユー やっちゃいなよ!」

 「馬鹿か!?
  あんた馬鹿なのか!?」

 「それとも第三の選択肢としてフェイトに殺されるか?」

 「…………」


 ユーノが視線を上に向けると、フェイトの目が冷たくユーノを見下していた。


 「僕は……。
  僕は、何をすればいいんですか?」

 「いい子だ。
  ・
  ・
  お~い! なのはちゃ~ん!」

 「何ですか? BOSS?」

 「ユーノが、なのはの愛を受け入れるって!」

 「本当に?」

 「ああ。
  ほら、ユーノ!
  行動で示せ!」


 クロノの強力な握力がユーノの頭をがっちりと掴むと、なのはの頬に強引な口付けをする。
 なのはが、再び悶える。
 ユーノはがっくりと膝をつき、その様子をはやてが涙目で見ている。


 「じゃあ!
  いってきます!」


 なのはがユーノの手を引いて飛び立っていく。
 ユーノは抜け殻のようになっていた。


 …


 闇の書が形をなして、モンスターのように受肉していく。
 その様子を見て、ユーノは気を引き締め直す。


 (この敵も、よく待っててくれたよな……)


 ユーノは、心の中で闇の書の敵としての紳士振りに感謝した。


 「ユーノ君……。
  これを言って欲しいの……」


 敵を前に緊張するユーノの前に、なのはが照れながらユーノに紙を渡す。
 それを読んでユーノはサーッと暗くなった。


 「こ、これ?」

 「そう♪」

 『いいセリフじゃないですか。
  サクッと言ってくださいよ』

 「黙れ!
  この似非ステッキが!
  早く、なのはとの契約を解除しろ!」


 ユーノが、なのはのデバイスであるカレイドステッキを怒鳴りつける。


 『嫌ですよ。
  私は、健気ななのはさんの愛に応えただけです。
  こんな一生懸命な(おもしろい)子を
  見捨てるわけないじゃないですか。
  とことん付きまといますよ(骨の髄まで)』

 「君の言葉は、本音も漏れるんだからな!」

 『嫌ですね~。
  ユーノさんったら♪
  私は、愛と正義のカレイドステッキですよ?』

 「もういい!」

 (クソッ!
  このステッキにいつか天誅を……)


 ユーノを置いて、なのはが嬉しそうに闇の書を指差す。


 「えい♪ Bind♪」


 なのはの指先から光発色するピンクの帯が伸びる。
 それがモンスターと化した闇の書を縛っていく。
 幾重にも幾重にも幾重にも……。

 ユーノは呆然とする。
 なのはのBindに包まれて闇の書の防御壁がバリバリと砕け散っている。
 Bindは防御壁を噛み砕くように食べていく。
 そして、モンスターが丸い球状に形成されていった。


 「Bindだけで拘束した……」

 「まだまだ♪」


 Bindがギュウギュウと締め付ける。
 締め付けられる球体からダバダバと血液とも体液とも見分けがつかない液体が海に広がっていく。
 やがて球体は、バスケットボールぐらいの大きさまで締め付けられた。


 「ふふふ……。
  可哀そうな子……。
  なまじ再生力が強いから回復する側から締め付けられて……」


 バスケットボール状の球体から液体が流れ続ける。
 まるで早く殺してくれと言わんばかりに……。


 「な、な、な、なのは!
  やろう! 直ぐにやろう!」

 「本当?
  これがユーノ君との初めての愛の共同作業だね♪」


 ユーノは、なのはの笑顔が怖かった。
 それでも苦しんでいる闇の書を楽にしてあげるために決意した。

 なのはが高らかにカレイドステッキを掲げる。


 「カレイドステッキ!
  エクセリオンモード!」

 『OKです。
  いきますよ!』


 カレイドステッキが変形する。
 より強力な攻撃が出来るように……。

 そして、そこにフェイトが現れる。


 「なのは! これを!」


 ジャラッと鎖の擦れるような音をさせて、何かをなのはに投げた。
 なのはは、それをキャッチすると体に巻きつける。
 さながら、小型のシュワちゃんかランボーのようだ。


 「ありがとう!
  フェイトちゃん!」


 ファイトは微笑むと距離を取る。
 そして、弾丸……もといマガジンのカートリッジを一気にロードし尽くすとマガジンを投げ捨て連送用に付け替える。


 『なのはさん!?』

 「いくよ! カレイドステッキ!」

 『無理!
  無理無理無理無理無理無理ッ!』

 「リロード開始!」


 ガチャコンガチャコン言いながら、カートリッジが次々にロードされていく。


 『なのはさん!
  死んじゃう!
  死んじゃうって!』


 カレイドステッキの悲痛な叫びなど無視して、なのははロードし続ける。
 ユーノの天誅は、思いの他早く実現した。


 『ちょっと!
  いい加減にしてください!』


 カレイドステッキの紅玉部分にビシビシと皹が入る。


 「えい♪ 強制Recovery♪」

 『ぐあぁぁぁ!
  死にたいのに死ねない~っ!』


 カレイドステッキの紅玉部分が、夜を昼間のように照らすように輝き続ける。


 『やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!
  やめてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
  解除する! 契約解除するから!』

 (自業自得だな……)

 「ダメダメ♪
  ユーノ君とアレやってからじゃないと♪」

 『ユーノさん!
  アレやって! アレアレ!』

 「あまりやりたくないんだけど……」

 『そんなプレイいらない!』

 「ユーノ君……。
  やっぱり──」

 「違う!
  そんなことない!
  そんなことないよ!」

 「本当?」

 「もちろんだよ!」

 (ああ……。
  やるのか……)


 ユーノが溜息を吐いて決意を決める。
 そして、頬染めながら口を開く。


 「ふ、二人のこの手が──」

 「ヤダ」

 「え?」

 「もっと前から、わたしに言って!」


 ユーノはタラタラと汗を流して言い直すことを決意させられた。
 そして、手元の紙を見て感情を込める。


 「な、なのは……。
  聞こえるか? なのは……。
  返事はしなくてもいい……。
  ただ、聞いていてくれればいい……。
  ・
  ・
  なあ、僕達はこの一年間、一体何をして来たんだ?
  僕達のこの一年間は、一体なんだったんだ?
  まだ……何も答えなんか出てないじゃないか!
  それで、僕達の一年が終わってしまっていいわけないだろう?
  だから、これからも一緒でなくちゃ、意味が無くなるんだ!」


 なのはの左右の縛った髪がピンと立つ。
 『キャー』と言って更にロードする。
 ユーノは、更に顔を上気させる。


 「僕は、闘うことしか出来ない不器用な男だ。
  だから、こんな風にしか言えない。
  ・
  ・
 (ガチャコンガチャコン……)
  ・
  ・
  僕は、お前が…お前が……お前が好きだっ!!
  お前が欲しいっ!!
  なのはーーーーーーーーーーっ!!」

 「ユーーーーーノくーーーーーんっ!!」


 『ひしっ!』となのはとユーノが抱き合う。
 ちなみに、カートリッジは全てロードし尽した。
 フェイトは満足そうに頷き、クロノは裂きイカをツマミにシュガーミルクストロベリーを煽っていた。


 「ユーノ君!
  ごめんなさい……。
  でも、わたし……もう放れない!」

 「放しはしない……」

 「「ずうっと、ずうっと一緒だよ!」」


 クロノが裂きイカを噛みながら思う。


 (結構、ノリノリでやってんじゃんか……ユーノの奴)


 ユーノがなのはの肩を掴んだ。


 「最後の仕上げだ!」

 「うん!」


 ユーノが、なのはのカレイドステッキに手を添える。


 「「二人のこの手が真っ赤に燃える!」」

 「幸せ掴めと!」

 「轟き叫ぶ!」

 「「爆熱!! ゴッド!! フィンガーーーーーッ!!」」

 「石!」

 「破!」

 「「ラ~ブラブ! 天驚拳!!」」


 カレイドステッキに溜まりに溜まったエネルギーが解放される。
 Bindだけで十分に消滅出来たんじゃないかという球体にエネルギーの奔流が流れる。
 闇の書は細胞ひとつ残さずに消滅した。


 『ああ……。
  光だけが広がっていく……』


 カレイドステッキも、また消滅していく。


 『私だけが死ぬわけがない……。
  貴様の記憶を一緒に残していく……。
  高町なのはーーーっ!』


 カレイドステッキは、別の平行世界に旅立った……。
 洗脳は解いたが記憶だけは鮮明に残して……。
 こうして、闇の書事件と呪いの杖・カレイドステッキのお話は終わりを迎えた。


 …


 エピローグ……。

 その後、高町なのはとユーノ・スクライアの中に拭い去れないトラウマが残った。
 フェイト・テスタロッサも正気を取り戻し、一週間は立ち直れなった。
 ダメな大人の代表クロノ・ハラオウンだけが理路整然としている。

 そして、この事件に関わった八神はやても、時空管理局の犬になっていくのであった。


 ~ 完 ~


 …


 ヤオ子がサクラの前で楽しみに感想を待つ。
 しかし、サクラの顔は険しい。


 「どうでしたか?」

 「この話の……」

 「?」

 「この話の何処に魔法少女が居るーーーっ!」

 「それは、あなたの心の中です」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「どういうこと?」


 ヤオ子が頭を擦って質問すると、サクラは冷めた態度で質問する。


 「まず、質問します。
  これはギャグですか?」

 「違います。
  シリアスです。
  ・
  ・
  ギャグなら、ギリギリセーフですか?」

 「いいえ、アウトです。
  っていうか、全てにおいてアウトです」

 「え~!
  何で~!?」

 「一から説明しないと分からんのか!」

 「分かるわけないでしょ!
  あたしは、いいと思って書いてるんだから!」

 「まず! あらすじ!
  口頭で説明したあれは、何だ!」

 「おかしいですか?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「あらすじの役目を果たしてないでしょう!
  ほとんどがアドリブじゃない!」

 「ううう……。
  そうですか?」

 「あと、絶対に原作を読め!
  絶対にこんな話じゃないはずよ!」

 「いや、今回は、二次創作から原作を再現するのが目的じゃないですか……」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「だったら、余計なキャラや設定、台詞回しを入れるな!
  あんたの本棚を確認して調べただけで
  『DEATH NOTE』
  『ハヤテのごとく!』
  『シャーマンキング』
  『るろうに剣心』
  『Fate/hollow ataraxia』
  『銀魂』
  『新機動戦記ガンダムW』
  『機動武闘伝Gガンダム』
  『機動戦士Zガンダム』
  が混ざってんじゃない!」

 「結構、読みましたね……」

 「大体、何で、他作品を混ぜるのよ!」

 「設定忘れたから、適当に補完しました」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「それが悲劇を生む要素だと気付け!
  意図があるなら許すけど、その場凌ぎの訳の分からない設定は、NG!」

 「はい……。
  あとは……?」

 「謝れ」

 「え?」

 「原作と二次創作とこれを読んだ人に謝れ……」

 「ううう……。
  ・
  ・
  すいませんでした!!」

 「あと、私に……」

 「何で?」

 「二次創作って言うから期待して読んだのに、BLの話がないじゃない!」

 「それは初めから入れないって言ったでしょう!」

 「しかも、クロノを銀髪のオッサンに代えるし!」

 「うっさいですね!
  いつまでもサスケさんの黒髪を引っ張んなです!
  こち亀三十周年の時、新八がダメなオッサンみたいなこと言ってるけど、
  まだまだ銀さんは、二十代だ!」

 「うるさいわね!
  微妙にしかキャラ使えないなら、使うんじゃないわよ!」

 「背伸びしたんですよ!
  クロノは、もっと分かんないし!
  八神はやてに至っては、一人称が『うち』じゃなくて『わたし』だから、
  余計に扱い難いキャラだったし!」

 「あんた、何でこの作品選んだのよ!」

 「適度に短い構成だったからですよ!
  正直、今は非常に後悔しています!」

 「私の貴重な時間を!
  ・
  ・
  ・


 その後、ヤオ子の二次創作は、黒歴史として封印された……。


 DEAD END.



 …


 ※※※※※ サクラのとんでも発言について ※※※※※

 原作第二部で風遁・螺旋丸の使用でナルトが腕を怪我した後の話です。
 ラーメン屋から出てきて、木ノ葉丸の『おいろけ・男の子同士の術』が発動した時のサクラの反応……鼻血を吹いて『キャーッ! そう来るのォォーッ!!』です。
 サクラはナルトの居ない二年間に、何に目覚めたのか……。
 この前に言っていた『この変態忍者どもが!!』のセリフが霞む衝撃の一場面でした。

 今回のSSでは、そのサクラの変態としての目覚めをテーマにしました。
 サクラ自身は、結構、変態(?)に近い才能を持っていたと思います。
 サスケのファーストキスを狙っていたりしていたので。
 しかし、完全な目覚めには、何か切っ掛けがあったはずです。
 そこで、このSSではヤオ子を目覚めの原因にしました。
 多分、こうでもしないとサクラに変態としての才能は開花しない……かな?


 ※※※※※ ヤオ子の二次創作について ※※※※※

 本当は、こんなものを書くつもりはなかったのですが、サクラの変態要素開花の話を少しオブラートに包もうとヤオ子に暴走して貰うことにしました。
 そして、適当に二次創作を書かせるか……と、劇中のキャラクターに創作物を書かせるという初めての試みに挑戦させて貰いました。
 しかし、適当な二次創作を書くというテーマが難しい……。
 『適当って、何?』と直ぐに暗礁に乗り上げました。
 そこで、気晴らしにメイン掲示板の雑談を漁っていたら、『原作知識を知らずに書くな!』と……。
 『これこそが適当だ!』と投稿掲示板によくあがる『リリカルなのは』を利用しました。
 創作の材料……『wiki』『動画二本観賞』『適当さを出すために知っているアニメや漫画の知識での補完』。
 そして、生まれた混沌とした二次創作……。
 『リリカルなのは』を好きな方、本当に申し訳ありませんでした。


 …


 ※※※※※ 没ネタです ※※※※※
 ・リリカルなのは StSの混沌ネタです。
 ・ヤオ子の混沌二次創作で採用しなかった没ネタになります。

 == 中華少女りりかるカグラ 卵かけご飯  ==

 作:八百屋のヤオ子



 ここの機動六課には、魔物が住むと言う。
 場所はスバルとティアナの部屋の隣の開かずの間。
 しかし、ちゃんと住人は居たのである……。


 …


 連日連夜の練習と早朝練習。
 スバルとティアナは疲労を蓄積させながらも、明日の模擬戦で教官であるなのはに一矢報いるつもりでいた。
 しかし、二人は疲労を蓄積させ過ぎていた。

 翌朝……。
 目覚ましの音でのそのそとスバルは目を覚ます。
 疲労の蓄積で、いつも以上に頭がクリアにならない。


 「顔…洗ってこよう……」


 部屋を抜け出て洗面所へ。
 そして、顔を洗ったことで、頭が覚醒し始める。


 「ティア、起こすの忘れてた……」


 スバルは間違えて隣の開かずの間へと入る。
 鍵は、何故か開いていた。


 「ティア~。
  朝だよ~」


 いまだ眠りこけるパートナーを揺すると返事が返ってくる。


 「銀ちゃん……。
  分かったアル……」

 「早く用意してね~」


 スバルは、ぼーっとした頭で思い出す。


 「洗面所にタオル忘れた……」


 洗面所に戻るために開かずの間を出て、洗面所でタオルを確保すると、今度は自分達の部屋に間違いなく入る。
 そして、着替えを済ませると、外から声がした。


 「早くするアル」

 「ティア!?
  いつの間に!?」


 スバルは慌てて部屋を出た。
 いまだ眠りこける本物のパートナーを残して……。


 …


 (ティアがおかしくなった……。
  服装が赤いチャイナ服だった……。
  髪型もいつもと違うし……。
  何より、デバイスが傘になっていた……。
  ・
  ・
  どうしたんだろう?
  連日の疲労が蓄積して幻覚でも見ているのかな?)

 「おかわりアル」


 お構いなしに謎の人物は、スバルを上回る速度でお替りをしている。


 「ティ、ティア!
  そんなに食べて大丈夫なの?」

 「問題ないアル。
  卵かけご飯は、何杯でもいけるヨ」

 「そ、そうなんだ……。
  知らなかったよ……」


 そして、模擬戦の時間が迫っていった。


 …


 全員の目が偽物に集中する。
 午前中から居るが、明らかにおかしい……。


 「何アルネ?」


 なのはが声を掛ける。


 「本当に……ティアナなのかな?」

 「当たり前ネ。
  この胸の大きさが証明ネ」

 「胸は関係ない……」

 「兎に角、後は何するネ?
  冗談だったら、私、サッサと帰るヨ?」

 「…………」


 メンバーの意見……。


 なのは:
 (ティアナ……じゃないと思うんだけど)

 スバル:
 (先に病院へ連れて行った方がいいのかも?)

 ヴィータ:
 (前回のあたしの発言のせいだろうか?
  ティアナが、ああなったのは……)

 エリオ&キャロ:
 ((…………))


 偽物とスバルを残し、他の面々は廃ビルの上へと移動した。


 …


 なのはが複雑な気分で注意を入れる。


 「午前中の……纏めになるのかな?
  ・
  ・
  スターズから、2on1で模擬戦やるよ。
  バリアジャケット準備して」

 「はい!」

 「…………」


 偽物は沈黙している。


 「こらぁ! ティアナ!
  バリアジャケットに着替えて!」

 「何言ってるアルか!
  これが私の勝負服ネ!」

 「ティア! どうしたの!?
  真面目にやろうよ!」

 「うるさいアル!
  少し乳が大きいからって命令すんじゃねーヨ!」

 「ティ、ティア……」


 スバルはショックで抜け殻のようになりそうだった。


 「ティアナ!」

 「ぺっ!」


 偽物がなのはに唾を吐き掛けた。


 「スバル……。
  もう、いいから……」

 「なのはさん……?」


 なのはのオーラが変わった。


 「行くアルネ!
  着いて来い!
  ヒヨっ子!」

 「酷い……」


 何とも言えない空気で模擬戦が始まった。


 …


 スバルのウイングロードが伸びる。
 下準備は出来始めている。
 スバルは、いまだ勘違いしたままティアナを気遣っている。


 (私が指示しないと!)

 「ティア!
  クロスシフ──」

 「うっさい!
  お前は、黙ってアイツに『ダーティ・マネーロード』を出すネ!」

 「ウイングロード!」


 それでもスバルは言われたままにウイングロードを展開させると、偽物がウイングロードを駆け上がる。


 「フハハハハ!
  お前を倒して、明日から
  『中華少女りりかるカグラ 卵かけご飯』
  の始まりネ!」


 神楽は番傘を振りかぶり、なのはに襲い掛かる。
 完全な物理攻撃……魔力もなにもない。
 攻撃は展開されたなのはのラウンドシールドで防がれる。


 「こぉら! そんな危ない近接せ──」


 力任せに体勢が崩されると、なのはは慌てて距離を取り、バランスを戻す。


 (なんて力なの……)


 神楽が更に追い討ちを掛ける。


 「喰らうネ!」


 番傘から、マシンガンの弾が発射された。


 …


 廃ビルの屋上のヴィータ、エリオ、キャロが固まっている。
 スバルも下で固まっている。
 動いているのは、なのはと神楽だけだ。
 なのはの攻撃も段々と小技から大技に変わってきている様に見える。


 「もう、模擬戦始まっちゃってる?」

 「あ、フェイトさん」


 フェイトがティアナの手を引いて現れた。


 「ティアナ、寝坊したみたいで……。
  ・
  ・
  って、あれ?」


 なのはがスバル達と模擬戦をしている。


 「あれ、誰?」

 「「「ティアナ……?」」」

 「は?」

 「へ?」


 廃ビルの上で完全な沈黙が支配した。


 …


 上空で繰り広げられる戦いに、未だ偽物と気付かずスバルは叫び続ける。


 「ティアーッ!
  ティアーッ!
  ティアーッ!」

 「私はティアなんて軟弱な名前じゃないネ!
  神楽ネ!」

 「ティア!
  頭、痛いんだったら病院に行こう!
  私が着いて行ってあげるから!」

 「うるさい!」


 神楽がスバルに向かって、マシンガンを撃つ。


 「うわ!?」


 スバルは慌てて回避する。


 「うぐ…ひん……!
  こんなの……!
  こんなのティアじゃない……!」


 偽物です。
 本物は気付かないスバルに対して、廃ビルの屋上で拳を握っていた。
 そして、なのはの我慢も限界だった。


 「おかしいな……。
  二人とも、どうしちゃったのかな……?」

 「なのはさん!
  私は、正常です!」


 スバルの声をなのはは無視する。


 「がんばってるのは分かるけど……。
  模擬戦は喧嘩じゃないんだよ?」

 「何言ってるアルか!?
  喧嘩は、いつも命懸けネ!」

 「ティア~!
  もう、なのはさんを刺激しないで~!」


 ティアナは偽者に気付かないスバルに対して、廃ビルの屋上で拳を震わせていた。


 「練習の時だけ言うことを聞いてる振りで、
  本番でこんな危険な無茶するんなら、練習の意味……ないじゃない?」


 なのはのレイジングハートに魔力が蓄積されていく。


 「ちゃんとさ……。
  練習通りやろうよ……」

 「なのはさん?
  なのはさん!?
  ・
  ・
  ティア!
  謝って!」


 なのはのレイジングハートに、更に魔力が蓄積されていく。
 ティアナは気付かないスバルに対して、廃ビルの屋上で砲撃の準備を始めていた。


 「ねぇ……。
  私の言ってること……。
  私の訓練……。
  ・
  ・
  そんなに間違ってる?」


 なのはのレイジングハートは準備OKだ。
 ついでにティアナの砲撃の準備もOKだ。


 「少し……頭冷やそうか?」

 「なのはさん!?」

 「じっとして……よく見てなさい!」


 なのはが神楽に狙いをつける。


 「ディバイン……バスター!」


 流れる魔力の奔流。
 それに合わせて、神楽は番傘の柄を引く。
 電磁砲のエネルギーが解放され、廃ビル屋上からのティアナの砲撃による狙撃も同時に発射された。


 「     」


 辺りにクレーターが出来る。
 なのはと神楽は相殺により、ノーダメージ。
 スバルはティアナの狙撃のお陰で、吹き飛ばされて消滅しないで済んだ。


 「もう…ヤダ……」


 スバルは意識を失った。


 …


 煙が晴れて視界がクリーンになり、なのはが神楽を確認する。


 「ピュッ!」


 何かが顔に掛かる。


 「ざまーみろネ!
  主役交代の記念の醤油ネ!」


 なのはが黙ってバリアジャケットの袖で醤油を拭う。
 そして、キッ!と廃ビルを睨む。
 よく目立つ金髪発見。


 「フェイトちゃん!
  はやてちゃんにリミッター解除の連絡!」


 屋上に冬が来た。


 「「なのはがキレたーっ!」」
 「「「なのはさんがキレたーっ!」」」


 事態は最悪の方に向かっていく。
 そこに天然パーマの銀髪の男が現れる。


 「おーい、神楽~。
  ジャンプ買ったから帰るぞ~」

 「銀ちゃん!」


 神楽が銀時に駆け寄る。


 「酢昆布も買ったアルか?」

 「買うか。
  そんなもん」

 「え~!
  銀ちゃんばっかり、ずるいアル」

 「ずるくねーよ」


 置いてきぼりを食らうなのは……。
 そして、やっぱり……。


 偽物だった……。
  偽物だった……。
   偽物だった……。
    偽物だった……。
     偽物だった……。


 なのはの心の中でリフレインする。
 その日、やり場のない怒りの砲撃が天を幾重も貫いたという。
 犠牲者……スバル一名。



[13840] 第58話 ヤオ子とフリーダムな女達
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:54
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 その日、いつも通りに紹介場を訪れた。
 いつも通り、今月の木ノ葉の経理を処理する日……。
 いつも通り、ドアを開け……。
 いつも通り、セクハラしようとした瞬間に、綱手に弾き飛ばされ……。
 いつも通り、シズネの口から任務が言い渡され……なかった。



  第58話 ヤオ子とフリーダムな女達



 綱手の付き人のシズネの前に、ご意見番のコハルが居る。
 コハルはシズネにヤオ子の任務の予約リストを突き付けていた。


 「あひィーッ!」


 シズネ独特の驚いた時の叫び声が響く。


 「どういうことだ?」


 コハルが詰め寄ると、シズネはタラタラと汗を流して押し黙った。
 代わりに綱手がコハルに質問する。


 「どうしたというのだ?」

 「綱手。
  里の経理──資産管理は、どうしている?」

 「シズネから正確な情報を貰っている。
  何の問題もない」

 「では、シズネが管理しているのだな?」

 「そうだ。
  私だけで里の情報を把握しきれないからな。
  資産管理はシズネに任せて、必要な情報を必要な時に取り出している」

 「そうか……。
  本題に入ろう」


 コハルが予約リストの日付を指差す。


 「毎月、この日にヤオ子へ経理の仕事が入る。
  予約の指名をしているのは、シズネだ。
  ・
  ・
  もう、どういうことか分かるな?」


 綱手がシズネを睨む。


 「シズネ……。
  お前……里の経理をヤオ子にやらせていたのか?」

 「ア、アハハ……。
  バレちゃいましたね……」


 シズネが頭に手を当て、笑って誤魔化す。
 そんなシズネを見て、コハルが溜息を吐く。


 「綱手をサポートするために、お前が里の状態を把握しておくのも大切な仕事のはずだ。
  それをヤオ子に任せたら、把握し切れないだろう?」

 「そ、それは……」

 「大丈夫ですよ」


 ここで初めてヤオ子が口を開いた。


 「シズネさんは、そこら辺を五分で把握出来るように、
  あたしに最後に簡易リストを提出させてますから」


 綱手とコハルの視線がシズネに突き刺さる。
 シズネは、更にタラタラと汗を流す。


 「ほう……。
  いい御身分だな……。
  自分は、何もせずにヤオ子に丸投げとは……」

 「道理で、最近の綱手からの報告に一分の隙もないはずだ……」

 「だから、言ったのに……。
  予約者をシズネさんにしてたら、いつかバレるって」

 「…………」


 シズネは小さくなっている。


 「ヤオ子、この任務はしなくともよいぞ」

 「あひィーッ!
  コハル様! あの量は、一日じゃ無理です!」

 「ヤオ子の予約時間は、二時間であろう?」

 「この子と普通の人間を一緒にしないでください!」

 「シズネさん……」


 ヤオ子は項垂れた。


 「私がやったら、いつまで掛かるか分かりませんよ!」

 「明日の八時まで時間はある」

 「綱手様!」


 シズネが綱手に縋るような目を向ける。
 しかし、綱手は両手を組んで小さく息を吐き出すだけだった。


 「正直に言えば、こんな事にはならなかっただろうに……。
  里の経理が大変なのは知っている。
  しかし、自分が日々溜め込んだ仕事をヤオ子に丸投げするのは感心せんな」


 シズネに味方が居ない。
 しかし、この状況の中、ヤオ子には疑問に思うことがあった。


 「何か……綱手さんらしくないですね?」


 ヤオ子の言葉に綱手がビクッとする。


 「いつもは面倒ごとがあると、
  『ヤオ子に投げとけ』って言う人が、あたしの擁護なんて」

 「そ、そうか?
  私は、いつも優しさに溢れているぞ」

 「まあ、あたしはいいですけど……。
  次の任務まで、二時間まるまる余りますよ?」


 そこでポンとコハルがヤオ子の肩を叩く。


 「緊急任務だ」

 「?」

 「お主、マッサージが出来るそうだな?」

 「はあ……。
  任務で、マッサージ、整体、エステティシャンなんてのもしてますから」

 「今からしてくれ」

 「「は?」」


 シズネとヤオ子の声が合わさった。


 「してもいいけど……。
  三十分ぐらいで終わりますよ?」

 「ホムラもおる」

 「ホムラさんも?」


 綱手が席を立つ。


 「シズネ……。
  これから用があるから、後を頼む」


 全てが繋がった。


 「綱手様!
  綱手様もマッサージをして貰うつもりでしょう!?」

 「緊急任務だ。
  二時間で戻る」

 「時間もピッタリじゃないですか!」


 シズネの悲痛な叫びに、ヤオ子も顔を顰める。


 「いいんですか?
  里の経理より、マッサージを優先して?」

 「大丈夫だ。
  シズネは虐められて喜ぶMだ」

 「綱手様!」

 「そうだ。
  昔から、何だかんだで仕事はこなす」

 「コハル様!」


 そんな不満な目を向けるシズネに、綱手はキリリッとした顔で切って捨てる。


 「ヤオ子がマッサージの技術を習得するまで待ったんだ。
  今日だけは譲れない」

 「この時間は長かったな……綱手よ」


 いつも意見を違える綱手とコハルの息が、今日だけはピッタリだった。
 そして、綱手とコハルの会話のせいで、ヤオ子の頭を理由も分からず通っていた任務の数々が駆け巡る。


 「あ、あたしって!
  このためだけに任務させられてたの!?」

 「「そうだ!」」

 「…………」

 ((職権乱用だ……))

 「医療忍者の方が体のツボとか理解してんじゃないの?」

 「そ、そうですよ!
  マッサージなら、私が代わりに──」

 「「プロの技でなければダメだ!」」

 (プロって……あんた達……。
  あたしの今の腕は、どんだけ忍者から掛け離れてんだ……)


 ヤオ子だけでなく、シズネも項垂れる。


 「「ううう……。
   あんまりだ……」」


 紹介場にシズネを残し、綱手とコハルはヤオ子を引きずり去って行った。


 …


 夜八時少し前……。
 本日、最後の任務であるいつものケーキ屋の手伝いを終えて、ヤオ子が帰宅する。


 「う~ん!
  ・
  ・
  はあ……。
  疲れた……」


 家に着くと早速伸びをして、ヤオ子はテーブルの前に新作の試作ケーキの詰め合わせの箱を置いた。


 「お土産に貰ったけど……。
  この量だとお夕飯ですね。
  栄養のバランスが悪いけど、これでお夕飯にしちゃおうかな?」


 ヤオ子が箱を開けようとすると、インターホンが鳴った。


 「ん?
  誰だろう?
  こんな時間に?」


 更に鳴る。
 連射して鳴る。
 あまりにしつこいので、ヤオ子は玄関に走り、勢いよく扉を開けた。


 「こんな夜中に、何の悪戯だ!」


 そして、ガバッ!と抱きつかれた。


 「な、何っ!?」

 「ヤオ子ちゃ~ん!」

 「シズネさん!?」


 ヤオ子に抱きついていたのは、シズネだった。


 「全然、終わらないの~っ!
  助けてーっ!」

 「終わらない……って、朝から!?」

 「そう!」

 「どうして!?」

 「サクラといのとヒナタに助っ人して貰っても終わらないの!」


 シズネ……もう直ぐ三十路、もしくは、既に三十路。
 九歳の女の子に泣きつくの図。


 「な、何で!?」

 「ヤオ子ちゃんの処理能力が高いから、
  調子に乗って仕事量を拡大していたら……こんな事にーっ!」

 「オイ……。
  この人、今、さりげなく凄いことを白状したよ……。
  仕事する影分身が徐々に増えるから、おかしいとは思ってたけど……」

 「助けて! お願い!」

 「今からですか?」

 「そう!」

 「嫌ですよ」

 「ヤオ子ちゃ~ん!」


 シズネが泣きついて離れない。
 シズネ……もう直ぐ三十路、もしくは、既に三十路。
 九歳の女の子に泣きつくの図……継続中。

 ヤオ子は溜息を吐く。


 「分かりましたから……。
  手伝いますから……」

 「本当?」

 「はい。
  ホラ、泣かないでください」


 ヤオ子がティッシュペーパーの箱を渡すと、シズネが涙を拭いてチーンと鼻をかむ。


 (まったく……)


 シズネは、まだグシグシ言っている。


 「シズネさん……。
  ケーキありますから、食べていってください。
  これあげるから、もう泣いちゃダメですよ」

 「ありがとう……」


 九歳児に慰められる大人……。
 そこには何とも微妙な絵面があった。


 ~ 十分後 ~


 「ヤオ子ちゃん!
  これ美味しい!」

 「そうですか……」


 シズネ復活。
 そして、ヤオ子は、更なる仕事をすることになった。


 …


 シズネに割り当てられた部屋で、電卓と格闘する少女が三人……。
 サクラは勢いで必死に打ち込んでいる。
 いのは検算が合わなくて怒り狂っている。
 ヒナタは慎重に打ち込んでいる。


 「カオスですね……」


 扉を開けたヤオ子の第一声がそれだった。
 その声で気付き、サクラがヤオ子に走ってくる。


 「あんた!
  私らに何をやらせんのよ!」


 サクラがヤオ子の首を締め上げる。


 (あたしのせいじゃないのに……)


 その怒り狂うサクラをシズネが宥める。


 「サクラ、落ち着いて。
  助っ人として連れて来たんだから」

 「シズネ先輩……。
  分かりました」

 (何? サクラさんって……。
  綱手さんとシズネさんには逆らえないの?)


 ヤオ子は使えるか使えないか分からない情報を手に入れた。
 そして、シズネに宥められ、サクラの手から解放されたヤオ子は、早速、サクラに質問をする。


 「ところで……。
  捗っているんですか?」

 「1/3ぐらいね。
  このままだと朝までに終わらないわ」


 次に、いのがヤオ子の顔を捕まえて右に向かせる。


 「いいところに来たわ!
  この検算がいくらやっても合わないのよ!」

 「また、いきなり……」


 ヤオ子がいののやっていた経理の検算をチェックする。
 上から下に眺め、頭の中で数回の計算を繰り返すと、過去に蓄積されたパターンから同じ手口が頭に浮かぶ。


 「まただ……。
  ・
  ・
  シズネさん。
  この『根』って言うとこ、二重取りしようとしてますよ」

 「ええっ!?
  また!?」

 「この前も言ったじゃないですか。
  厳重注意ですよ」

 「分かったわ。
  ・
  ・
  しかし、何でまた……」


 ヤオ子がいのに振り返る。


 「いのさんのせいじゃありませんよ。
  シズネさんの注意のし忘れ……というか、根の人達のせいですね」

 「そっか……。
  しかし、そんなのどうやって判断するのよ?」


 ヤオ子が山積みされている資料をポンポンと叩く。


 「読んで系統を得る!」

 「出来るか!」

 「まあ、初心者がやるにはキツイですね」


 最後にヒナタが声を掛ける。


 「ヤオちゃん。
  こんばんは」

 「こんばんはです。
  ヒナタさんは清涼剤のような存在ですね」

 ((どういう意味だ……))

 「私……。
  あまり進まなくて……」

 「初めは誰でもそうですよ。
  恐怖と緊張で雁字搦めにされて、
  生死の堺を彷徨った後に心眼が開けるんです」

 (((そんなの嫌だ……)))

 「あたしは、そうやって技術を習得しています」

 (((何回、死に掛けてるわけ?)))


 ヤオ子が、にこりと笑う。


 「後は、あたしが引き受けます。
  皆さん、お疲れ様でした。
  ・
  ・
  これ、差し入れです」


 ヤオ子がお土産に貰ったケーキを代表してサクラに渡すと、サクラは手渡された箱を開く。


 「ケーキね。
  ・
  ・
  一個ないんだけど?」

 「シズネさんをあやすために……」

 「あ…そう……」

 (また泣いたんだ……)

 「あたしの分も残しといてくださいよ。
  夕飯なんですから」

 「夕飯って……何でよ?」

 「お土産にそれ貰って、腐らせるのも何なんで夕飯にしようとしたら、
  シズネさんが現れたんです」


 サクラは概ねの事情を理解すると頷く。


 「分かったわ。
  二つでいい?」

 「ええ。
  ・
  ・
  では!
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子が禍々しいチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 影分身が五体現れ、本体と分身が一糸乱れぬ作業を開始する。
 資料の整理、分担。
 電卓を弾く。
 結果を書き込む。
 シズネ用のリストを作成する。
 そして、ヤオ子達がテキパキと作業をする横で声があがり始める。


 「何これ!? 新作!?」

 「そうなのよ!
  さっき食べたブルーベリーソースのチーズケーキが最高なの!」

 「え!?
  そんなのありませんよ!?」

 「よく見ると全部種類が違うわ!」

 「どうする!?
  何から食べる!?」

 (イライラ……)

 「でも、ヤオ子に二つも残さないといけないのよね」

 「どれを残す?」

 「量の少ないのか……。
  今まで食べたことがあるものを残すべきね」

 「それ……。
  ヤオちゃんの差し入れなんじゃ……」

 「いいのよ。
  私らの労を労うために持って来たんだから」

 「そうよ!」

 「あそこのケーキ屋の新作を発売前に食べられるなんて滅多にないんだから!」

 (イライライライラ……)

 「でも、新作じゃないショートケーキも入ってるわよ?」

 「本当?」

 「本当だ……。
  これ、昔からあるじゃない」

 「じゃあ、これをヤオ子の分にしましょう」

 「そうね」

 「あとは……」

 「シュークリームでいいんじゃない?」

 「そうね。
  今更って気もするし」

 「じゃあ、ヤオ子には、
  ショートケーキとシュークリームで」

 (いいのかな……)

 (イライライライライライラ……)

 「いの。
  どれにする?」

 「どれも捨て難いわね」

 「ヒナタは?」

 「え?
  私は、どれでもいいけど……」

 「私は、どれにしようかな?」

 「サクラ。
  私には、聞かないの?」

 「だって……。
  シズネ先輩は抜け駆けしたじゃないですか」

 「そういう言い方ないじゃない」

 (イライライライライライライライラ……)

 「そうだ!
  四分割にして全種類食べましょう!」

 「いの!
  ナイスアイデア!」

 「そうね。
  それがいいわ!」

 「シズネ先輩は、一つ分我慢してくださいよ」

 「え~!
  私も、ヤオ子ちゃんのケーキを食べたい!」

 「皆!
  仲良くしよう!」

 「ヒナタ……。
  あなたはいい子ね」


 シズネがヒナタを撫でる。


 「ヒナタばっかり……」

 「サクラ、切ったわよ!」

 「早っ!
  あんた、無視してそんなことしてたの!?」

 「いいじゃない♪
  さ、食べよ♪」

 「「「「いただきま~す♪」」」」

 (ブチッ!)


 ヤオ子がキレた。


 「うっさいですよ!」


 全員が振り向く。


 「黙って食ってろ!」

 「うるさいのは、あんたよ!
  スイーツを前にテンション低い女の子って、どうなのよ!」

 「人に仕事させてハイテンションにしているより、
  百倍も二百倍もいいですよ!」

 「手、止まってるわよ」

 「あ、すいません……。
  ・
  ・
  って、何で、あたしが注意されるんですか!」

 「静かにして!
  じっくり味わいたいんだから!」


 ヤオ子はやさぐれた。


 「差し入れなんて持って来るんじゃなかった……。
  四人のうち三人がキレキャラだから、誰が話してるか微妙に分からないし……。
  ・
  ・
  木ノ葉の里ってボケのナルトさんが主人公だから、突っ込みの割り合いが無駄に高いんですよ……。
  そして、それがドSの増殖にも繋がっているんです……」


 ヤオ子は項垂れてブツブツと何かを呟くと、やがて仕事に戻った。
 ケーキがなくなるまでの間、ヤオ子はイライラしながら仕事をこなしていった。


 …


 夜十時少し前……。


 「終わった……」


 影分身が同じ様に項垂れて煙になる。
 静かになったサクラ達に目を移すと……。


 「寝てやがる……。
  食ってる時だけ騒ぎやがって……」


 ヤオ子はシズネに近づくと、チョンチョンと突っつく。


 「……ん?」

 「終わりましたよ」

 「……何が?」

 「…………」


 ヤオ子は拳を握る。


 「あんたが九歳児に泣きついた仕事だ!」


 シズネがビクッ!とする。


 「あ…ああ!
  あれね!
  ありがとう!
  助かったわ!」

 「まったく……。
  ちょっと、トイレに行ってきます」


 ヤオ子はシズネ用の簡易リストを渡すと部屋を出て行った。
 残されたシズネは簡易リストに目を通す。


 「さすがね。
  私達が十二時間掛けても終わらなかったものを二時間でやり切るなんて……。
  ・
  ・
  多重影分身……必須科目にすればいいのに」


 そこに扉が開き、誰かが入ってくる。


 「結局、ヤオ子に泣きついたのか?」

 「綱手様……」

 「後片付けぐらいやってやれ」

 「はい」


 頷いたシズネに視線を向けた時、綱手の目にテーブルに置かれたままの箱が目に入った。


 「ん? それは何だ?」

 「ああ……。
  それはヤオ子ちゃんの──」

 「ほう。
  美味しそうだ」


 綱手がシュークリームを手に取り、一口食べる。


 「あ!」

 「本当に美味しいな……。
  まだ、あるのか」


 そして、ショートケーキも捕獲する。


 「ああ!」

 「どうした?」

 「それ!
  ヤオ子ちゃんの分!」

 「ヤオ子?」


 そこにヤオ子が戻る。


 「シズネさ~ん♪
  あたしのケーキ~♪」

 「そ、それが……」


 シズネが恐る恐る箱を見せる。


 「空?」


 シズネの隣りでは、綱手が手のクリームを舐めている。


 「ちょっと!
  綱手さん!
  あたしの食べたの!?」

 「おまえのだったのか?」

 「そうですよ!
  あたしの夜食!」

 「シズネが食べていいと言ったのでな」

 「言ってません!」

 「どうして!?
  何で、いつもあたしだけ!?」

 「まあ、そう怒るな。
  これをやるから」

 「ん?」


 ヤオ子は綱手から何か受け取った。


 「お酒?
  ・
  ・
  未成年だ!」

 「そうか。
  それは残念だ」


 ヤオ子は地団太を踏む。


 「あったま来た!
  今、やった仕事をなかったことにする!」

 「「は?」」

 「かつてのサスケさんのように、豪火球の術で経理の記載をもや──」

 「え!?
  サスケ君!?」


 起き上がったサクラの頭突きがヤオ子に炸裂する。


 「っ~~~!
  この色情狂がーっ!
  寝ぼけるのは夢の中だけにしろ!」

 「何だ……。
  ヤオ子か……」


 サクラが、また眠りに落ちる。


 「今度こそ!
  豪火球の術で!」

 「そんな暴挙を許すか!」


 綱手のデコピンが、ヤオ子に炸裂する。


 「ううう……。
  あんまりだ……」

 「まったく……。
  ホラ、着いて来い!」

 「?」

 「行きつけの屋台に連れて行ってやる」

 「綱手さん……」

 「シズネ。
  後は、任せたぞ」

 「はい」


 綱手がヤオ子と部屋を後にすると、残されたシズネはホッと息を吐き出して焼かれずに済んだ成果を纏め始めた。


 …


 屋台に向かう途中で、綱手がヤオ子に話し掛ける。


 「なかなかいい味なんだぞ」

 「期待してますよ。
  ずーっとお預け食らってんですから」

 「ああ。
  任せておけ」


 それから、二人でおでんの屋台の暖簾を潜り、ヤオ子はお腹一杯におでんを詰め込んだ。
 ご褒美のおでんは美味しかった。
 しかし、その後、酔った綱手の介抱をすることになるなど、ヤオ子は知る由もなかった。


 …


 その頃のダンゾウ……。


 「ダンゾウ様。
  また失敗しました」

 「今までバレなかったのに……何故だ?」

 「急にシズネ女史の経理能力があがりまして……」

 「言い訳はいらん」

 「申し訳ありません」

 「下がれ……」

 「は」


 一人になったダンゾウが考え込む。


 「何故、急に伝票の細工に気付き出したのだ?
  二重三重に裏工作をしていたはずだったが……」


 裏工作失敗の裏にシズネの仕事放棄の手抜きとヤオ子の雑務能力の高さが絡んでいるなど、ダンゾウには想像も出来なかった。
 ある意味、シズネの怠惰が根への裏資金を阻止したのだった。
 そして、足が着くのを恐れた根からは二重取りの伝票はあがらなくなったとか……。



[13840] 第59話 ヤオ子と続・フリーダムな女達
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:55
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子のDランクには、月に一度、必ず例のケーキ屋の依頼が指名で舞い込む。
 あそこの女主人は、ヤオ子が居ないとダメらしい。
 新作のケーキの開発と季節変わりの旬のケーキの開発をどうしても一緒にやりたいらしい。
 実際、ヤオ子が任務で手伝い出してから木ノ葉の女の子の固定客が付き出し、噂が広まり収益も上がっている。
 そして、男性客も尋問部隊から噂が広がり、大人の苦味のあるケーキが売れている。


 「元々、利益を優先するような人じゃなくて、ケーキ作りが楽しくて仕方ないって人です。
  本当にケーキが作りたいだけなんでしょうね。
  ・
  ・
  ただ、あまりにもケーキに囚われ過ぎて、話が合う人が少ないのも事実なんですよね。
  あたしも、最初はキレたし……。
  でも、一生懸命に仕事をしている人と働くと少し元気になるんですよね」


 そして、今宵も試作ケーキをお土産にヤオ子は帰宅する。



  第59話 ヤオ子と続・フリーダムな女達



 帰宅して二分……。
 ヤオ子の家のインターホンが鳴る。


 「何ですかね?
  この帰宅を見計らったようなタイミングは?」


 ヤオ子は扉を開け……。


 「…………」


 押し黙った。


 「こんばんは♪」


 シズネが居た。
 ヤオ子は黙って扉を閉めようとノブを引く。
 前回の件から、シズネには不信感が募っている。
 この女は危険だ。


 「ちょっと!
  どうして!?」

 「シズネさんがうちを訪ねて、
  いいことなんてあった試しがないからです」

 「待って!
  待ってって!」


 ヤオ子が扉を閉めるのを止める。


 「何の用ですか?
  今日は、もう経理もやりましたよ?」

 「遊びに来たの♪」


 ヤオ子は再び扉を閉めに掛かる。
 それを阻止せんとシズネが扉を引っ張る。


 「だから、どうして!
  どうして閉めるの!?」

 「怪しいですよ!
  大人が子供の家に遊びに来るなんて!」

 「理由があるの!」


 ヤオ子が引っ張るのを止める。


 「何ですか……それは?」

 「家に上げてくれたら、話します」

 (最近、この人が子供に見えて仕方ないんですよね……)


 ヤオ子が溜息を吐くと、扉を引っ張る手を緩めた。


 「分かりました。
  どうぞ」

 「ありがとう。
  皆、いいって」

 「皆?」


 ぞろぞろとヤオ子の家に上がっていく。
 シズネ、サクラ、いの、ヒナタ……そして、綱手。


 「お邪魔します」

 「お邪魔します」

 「お邪魔します」

 「お邪魔します」

 「お前、こんな豪勢なところに住んでいるのか?」

 「…………」


 ヤオ子だけが状況を掴めない。


 「何これ?
  どういうこと?
  ・
  ・
  シズネさん?」


 ヤオ子の疑問に、シズネは指を立てて笑みを浮かべる。


 「ヤオ子ちゃん。
  今日、ケーキ屋さんを手伝う日だったでしょ?」

 「そうですけど……」

 「皆で、お土産を食べに来てあげたんです」

 「は?」

 (この人、何言ってるの?)


 ヤオ子が頭を抱える。


 「何で?」

 「この前のケーキが美味しくて♪
  ヤオ子ちゃんの任務の予約リストを見ると、
  毎月、ケーキ屋さんに通う日があるから……。
  ・
  ・
  その日に必ずお土産があると踏んだんです」

 「…………」

 「それでな。
  その日を私達の会合の日にしようと決めたのだ」

 「…………」


 綱手達はヤオ子の広い家のソファーに腰を下ろして寛ぎ始めた。
 そして、ヤオ子だけがシズネと綱手の説明で、頭が更に混乱する。


 「頭、痛くなって来た……。
  こういう問題を起こすのは、あたしの役目だったはずなのに……」


 ヤオ子は頭を抱えたまま状況を少し整理すると、綱手に向かって注意する意味で話し掛ける。


 「まず……。
  シズネさんが、あたしの任務の予約を自己目的で見るなんて職権乱用ですよ?」

 「木ノ葉の火影として許可した」

 「…………」


 ヤオ子の額に青筋が浮かぶ。
 いつもと立場が逆だ。
 いや……最近は、そうでもない。


 「トップが職権乱用に加担して、どうするんですか!?
  ・
  ・
  いや、この人、この前も職権乱用したばっかりですよ……。
  ・
  ・
  じゃなくて!
  会合してもいいけど、何で、うち!?」

 「お前の部屋は広いとシズネから聞いてな。
  本部でやると相談役がうるさいんだ」

 「だったら、やるな!
  そして、あたしのケーキに集るな!」

 「うるさい奴だな……。
  昔から言うだろう。
  『お前のものは私のもの。私のものは私のもの』って」

 「言うか!
  何処の世界のドラえもんだ!
  キャストが、全部、剛田武じゃないですか!
  映画版でもないジャイアンは、そんなにいらないんですよ!」

 「綱手師匠~。
  今日は、十二個入ってます」


 サクラが勝手にお土産のケーキを確認して状況報告した。


 「本当にジャイアンか!」


 更に綱手がヤオ子の家の業務用冷蔵庫を確認する。


 「酒まであるぞ」

 「それはヤマト先生へのお土産だ!
  触れるな!」

 「安心しろ。
  私が、直に渡してやるから」


 綱手が勝手にコップとお酒を持ってテーブルの前に座る。
 そして、容赦なくお酒を開けた。


 「オイ!
  十秒前に言ったことをリピートしてみろ!」

 「綱手様。
  お酒を飲んでくださいね」

 「そんなこと、微塵も言ってねーですよ!
  ・
  ・
  ああ……。
  ヤマト先生にあげようと、酒蔵の親方に頼んで半年掛けて作って貰ったのに……。
  あたしの銘酒コスモ・タイガーが……」

 「何で、初めて作った酒が銘酒の名を持っているんだ?」

 「そんなのノリですよ……。
  宇宙戦艦ヤマトに掛けただけ……」


 ヤオ子が泣き濡れる。
 そして、綱手に続いて、いのも行動に出る。


 「オレンジジュースでいい?」

 「ちょっと、いのさん!」

 「私、炭酸飲料がいい」

 「サクラさん!?」

 「私は、オレンジで……」

 「ヒナタさんまで!?」


 ヤオ子が、がっくりと肩を落とす。


 「ううう……。
  あんまりだ……。
  ・
  ・
  でも、何で、テンテンさんが居ないんだろう?」

 「彼女は、裏切りの星ユダだからよ!」


 シズネの力説にヤオ子は、本当に頭が痛い。


 (最近、この人とあたしの立場が逆なんですよ……。
  そして、テンテンさんがあたしの中でどんどん神格化していく……)

 「ユダ……って、何で?」

 「私の調査では、彼女はちょくちょくヤオ子ちゃんの差し入れをガイ班で頂いています。
  我々に黙っての、この行為は裏切りです!」


 ヤオ子以外の面々が頷く。


 「そんなことで……」

 「そんなこと!?
  ヤオ子ちゃんは、自分の料理の価値を過小評価し過ぎです!
  ・
  ・
  ヤオ子ちゃんの料理の腕が卓越しているのは、
  そういう風に仕向けた綱手様と私の努力の成果なのに!」

 「そんな無駄な努力より、自分で作る努力をしたら?」

 「それを事あるごとにテンテンは……!」

 (返答なしですか……。
  逝っちゃってますね……)


 ヤオ子は溜息を吐きながら、左手を返す。


 「修行を見て貰うお礼ですよ」

 「いいえ!
  許せません!」


 ヤオ子は盛大に溜息を吐く。
 こいつらには、一言言っておかないとダメだと……。


 「テンテンさんの名誉のために誤解を解いておきます。
  皆さんは大きな勘違いをしています」

 「そんなわけないわ!」

 (この人はボケキャラ一直線になっちゃいましたね……)


 ヤオ子が頭を掻いて例をあげる。


 「じゃあ、想像してください。
  いきなり、テンテンさんの代わりにガイ班に入ったことを」

 「ガイ班……?」


 全員が、何かを想像する。


 「朝から晩まで、あのノリが続きます」

 「「「「「う!」」」」」

 「朝から晩まで、あの暑苦しさが続きます」

 「「「「「う」」」」」

 「そして、ネジさんがああいう性格だから、
  一人で全部突っ込まなければいけません」

 「「「「「う……」」」」」

 「怒っても更正しないガイ先生」

 「「「「「うう……」」」」」

 「そんな中で、一人で毎日毎日……」

 「「「「「ううう……」」」」」

 「あたしは、ガイ先生の制御をするテンテンさんに頭が上がりませんけどね……。
  ・
  ・
  どうですか?」


 シズネは頭を下げる。


 「私が間違っていました……」

 「分かればいいです」

 「今度から、テンテンも誘うわ……」

 「そこは違う!
  まず、テンテンさんの認識を改め直す!
  次にあたしの部屋を会合に使わない!」

 「でも、ここ以上に広い部屋なんてないし……」

 「だったら、会合を中止しろ!」


 ヤオ子とシズネが話している横で、綱手はコップの酒を一気飲みし、サクラといのとヒナタはケーキを突つく。


 「オイ、ヤオ子」

 「何ですか!?」

 「摘みが欲しい」

 「本当に何しに来たんですか!?
  あたしは、夕飯すら食べてないのに!」

 「ついでだ。
  つ・い・で。
  摘みを作るついでにお前の夕飯を作れ」

 「だ~か~らーっ!
  何で、あたしの家に来たの!?」


 キレるヤオ子に、サクラが手をあげる。


 「ヤオ子。
  私達にも」

 「ケーキ食っただろうが!」

 「まだ全部食べてないわよ。
  小腹が空いたから、残りのケーキはデザートにするから」

 「無駄に用意周到ですね!
  何かキレキャラが定着して来ましたよ!
  ・
  ・
  もういいです!
  作りますよ!
  何がいいんですか!」

 「満漢全席」

 「…………」


 ヤオ子はサクラを半目で睨む。


 「材料が足りません。
  しかも、レシピ自体が失われたものもあるから、現在では再現できないです。
  ・
  ・
  作っても食べ切るまで数日掛かりますよ?
  似非でもいいなら、作りますけど?」

 「ごめん。
  まさか、リアルな回答が返ってくると思わなかった」


 そのサクラの横で、いのが手を打つ。


 「じゃあ……。
  オードブル…スープ…魚料理…ソルベ…グラニテ…肉料理…プティフールと紅茶…デザートで」

 「ここでフルコースを作れってか?
  あんた達、小腹が空いてるだけなんだよね?」

 「一人分を五人で分ければ問題ないわ」

 「その五人には、あたしも含まれているんでしょうね?」


 サクラが指を差す。
 綱手、シズネ、いの、ヒナタ、自分。


 「ピッタリよ」

 「だから!
  あたしだけが夕飯を食べてないんですよ!
  無駄に要らないお笑いの天丼なんて持ってくんな!
  何処で覚えたスキルだ!」

 「ちなみに、由来が天丼に海老が二本乗っているところからって、本当かしら?」

 「さあ?」

 「が~~~!
  話も逸れていく~~~!」


 ヤオ子は怒りながら頭を掻き毟る。
 そして、ヤオ子はヤケクソで料理を作り始めた。
 変にあがったテンションは、料理にぶつけるしかなかった。


 …


 四分後……。
 ヤオ子が前菜をテーブルの上に、乱暴に置く。


 「はい!
  シーザーサラダ!」

 「もっと、高価な前菜にしてよ。
  っていうか、シーザーサラダって前菜に入るの?」

 「酒の摘みが先だろう!」


 ヤオ子は台所に走ると、業務用冷蔵庫から缶詰を取り出して綱手に投げつけた。
 綱手は缶詰をダイレクトキャッチする。


 「それでも食べていてください!」

 「熊肉フレーク?
  美味いのか?」

 「…………」


 ヤオ子は無言でまな板の前に戻り、料理の続きをする。
 結局、何だかんだで全ての料理を作り切った。


 …


 四十四分後……。
 綱手達が満足する横でヤオ子は項垂れる。


 「何で、任務こなす以上に疲労しなきゃいけないんだろう……」


 ヤオ子が皆の食べ残しを処理しながら愚痴る。
 一方のサクラ達は、ヤオ子の試作ケーキを別腹に収めていた。


 「まさかヒナタさんまで、はっちゃけるとは思いませんでした」

 「はは……。
  実は、ヤオちゃんの料理を食べてみたくて」

 「何で?」

 「ネジ兄さんが、よく褒めていたから」

 「ああ。
  ネジさんもガイ先生の班ですからね。
  言ってくれれば、もう少し気持ちよく料理できたのに」

 「ごめんね。
  中々、そういうのは言い出せなくて」

 「……ヒナタさんらしいですね」

 「でも、あんたの料理を食べたかったのは、それだけじゃないのよ」

 「?」


 いのが割り込んだ。


 「あんたの通ってる店って、一般人が入るのも恐れ多い一流店ばっかりなのよ。
  大名が入るようなところばっかり」

 「だから、いつか皆でって」

 「それで、今?」

 (それもどうなんだろう?
  でも、ヒナタさんの性格じゃ、誰かの後押しがないと話せないですよね。
  そう言った意味じゃ、サクラさんやいのさんは打ってつけかも)


 ヤオ子は複雑な気持ちになる。
 褒められてんいるだか利用されているんだか……。


 「皆さんは料理しないんですか?」


 ヤオ子の質問に対し、綱手から答えが返る。


 「無理無理……。
  コイツらに同じ任務をやらせたが失敗だった。
  余計に足を引っ張るだけでな。
  私のお昼ご飯充実プロジェクトの成功者は、お前だけだ」

 「綱手さん……。
  あの数々の任務は計画だったんですか……。
  あたしのエロ計画は、散々、ぶっ潰すくせに……」

 「乳岩は壊して当然のものだった!」


 シズネが笑いながら、満足そうに口を開く。


 「でも、いいですね。
  毎月、皆で集まってお食事会を出来るなんて」

 「会合は、今日で終わりです。
  二度と入れません」

 「心の狭い奴だな」

 「綱手さん。
  そう言うなら、ローテーションにしましょう」

 「「「「「ローテーション?」」」」」

 「来週は、サクラさんの家です」

 「無理よ!
  こんなに人が入るわけないでしょう!」

 「変化の術で小さくなればいいじゃないですか」

 「却下だな。
  面倒臭い上に、お前の家以上に食材と料理道具が充実した家があるものか」

 「じゃあ、ヒナタさんの家は?
  日向宗家。
  家も広そうだし、エサも沢山ありますよ」

 「…………」


 綱手の顔が険しくなった。


 「それは拙くないか?」

 「同感……」

 「ヒナタパパの柔拳が、私達に炸裂しそうだわ」

 「え?
  最初は、グーじゃないの?」

 「多分、柔拳だと思う……」

 「…………」


 全員の目がヒナタに向かい、少し間を空けてヤオ子が口を開く。


 「ヒナタパパ怖いですね……。
  火影にも容赦なしですか……。
  ・
  ・
  じゃあ、いのさんの家は?」

 「サクラの家と同じ理由よ」

 「残るはシズネさんの家か……。
  ・
  ・
  シズネさんって、家あるんですか?
  綱手さんに飼われているから、住所不定なのでは?」

 「そういえば……。
  シズネ先輩って、常に綱手師匠の側に付き添ってますよね?」

 「はは……。
  もう、仕事場が家みたいな感じです」

 「そういうlことだ。
  シズネも私同様に騒げば、ご意見番の耳に入る」

 「…………」


 暫しのシンキングタイムのあと、ヤオ子以外が異口同音を口にする。


 「ここしかないな」
 「ここしかないですね」
 「ここしかないわね」
 「ここしかないわよ」
 「ここしかないかな?」

 「何で!?
  そもそも! この会合がおかしいですよ!
  一体、ここで何の会合があったっていうんですか!?」


 綱手が右手を振る。


 「息抜きだ息抜き。
  火影やってると疲れるんだから、私を労ってもいいだろう?」

 「ふざけんなです!
  職権乱用して、変な任務ばっかり押し付けて!
  だったら、あたしを労ってくださいよ!」

 「だから、ここで言葉の触れ合いをしているだろう」

 「いりませんよ!
  寧ろ、邪魔!
  シズネさんは揉めごとしか持ってこないし!」

 「酷い!」

 「サクラさん達はセクハラの一つもさせてくれないし!」

 「「「当たり前よ!」」」

 「一体、あたしに何のメリットがあるんですか!?」

 「善意をする時に見返りを求めてはいかんぞ」

 「善意なんて微塵もないですよ!
  寄生されて食事作らされてるんだから!
  このメンバー、何なの!?」

 「シズネは、私の付き人だ」

 「他は?」

 「弟子だ」

 「だから、皆、我が侭なのか!」


 全員のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「「「「「失礼だ!」」」」」


 ヤオ子が頭を擦りながら訊ねる。


 「で? ヒナタさんも弟子なんですか?」

 「私は違うよ。
  偶々、お手伝いをしたら誘われただけ」

 「そうですか」


 いのがヤオ子に抗議する。


 「ちょっと。
  何で、ヒナタだけに確認するのよ?」

 「お二人と違って、
  ヒナタさんは、淑女ですからね。
  綱手さんの弟子な気がしなくて」


 サクラといののグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「「どういう意味だ!」」

 「こういう意味でしょ……」


 綱手とシズネは可笑しそうに笑う。


 「ヤオ子。
  こういうのもいいと思わないか?
  身分身分と言わずに、火影と下忍、師匠と弟子の関係をなしに気軽に話し合うことが出来る。
  私は、貴重だと思うぞ?」

 「いいことを言ったつもりかもしれませんけど、
  あたしの部屋を使っている時点でアウトですからね?」

 「そう言うな。
  ほら、お前も飲め」


 綱手がヤオ子にお酒を勧める。


 「つ、綱手様!
  それ、お酒ですよ!
  ヤオ子ちゃんには早過ぎます!」

 「いや、シズネ先輩……。
  ここでは、お二人以外NGです……」

 「大丈夫だ。
  今夜は、無礼講だ。
  火影が飲んでいいと言っているんだから許す!」

 (綱手さん……。
  酔ってますね……)

 「そんなことを言っても、
  お前達だって興味があるんだろう?」


 サクラといのとヒナタの目が、綱手の持つ酒瓶に移る。


 「少し……」

 「ちょっとだけ……」

 「興味は……あるかな?」

 「…………」


 綱手はニンマリと笑うと、コップに全員分注ぐ。


 「では、乾杯!」

 「「「「乾杯!」」」」

 (一体、何回目の乾杯なんだか……。
  コスモ・タイガーは、白色彗星帝国により全滅ですね……。
  今度は、銘酒パルスレーザーを作ろうかな?)


 …


 ~ 三時間後 ~


 シズネは潰れている。
 サクラは潰れている。
 いのは潰れている。
 ヒナタは潰れている。
 全員、返事がない。
 ただの屍のように酔いつぶれて眠っているようだ。


 「まだ飲みます?
  どうせなら、贈り物以外のお酒のストックを使い切りますけど?」

 「ちょっと、待て……。
  お前、何で、そんなに酒に強いんだ?」

 「知りませんよ。
  あたし、お酒を飲むの初めてだし」

 「他の連中は、一時間前に潰れてんのに……」

 「あたしの中のエロパワーがアルコールを中和してんじゃないですか?」

 「何?」

 「酔ってなければ、全員にエッチなことをしてもバレないから♪」


 ヤオ子は動けないくノ一達を見て、『えへへ……』と漏らして悶えている。


 「そんな医療忍術の根本を揺るがすような理屈で、納得してたまるか!」

 「そう言われても……。
  それ以外に酔わない理由は分からないし」


 綱手が額に手を置く。


 「拙い……。
  私は、絶対に潰れるわけにいかない……」

 「潰れてもいいですよ♪
  あたしのエサが増えるだけですから♪
  ・
  ・
  なんてね。
  冗談ですよ」


 舌を出したヤオ子に、綱手は気分悪そうに返す。


 「お前の場合は、どっからが冗談か分からん」

 「嫌ですね~。
  綱手さんには、もうコリゴリですよ~」

 「何だ? それは?」

 「綱手さんを完全に潰すには、
  魔のレッドゾーンを越えないといけないんです」

 「何だ? それは?」

 「この前、おでん奢ってくれたでしょ?」

 「ああ」

 「あの時、あたしには綱手さんを酔い潰してセクハラするという、ささやかな野望がありました」

 「お前、本当にどうしようもない奴だな」

 「しかし、酔い潰す前に根負けしました。
  絡み酒、ヤケ酒、記憶の混濁による暴走……。
  そして、怪力の発動によるおでん屋台の破壊活動……。
  あたしは、それの阻止で気力が切れました。
  酔い潰す前のリスクが高過ぎる。
  あのおでん屋の主人の『いつものこと』って、
  笑っていられる豪快さに惚れそうになったぐらいです」

 「すまん……。
  マジで記憶がない……」

 「多分、あったら反省して禁酒していると思います」

 (そんなに暴れたのか?)

 「つまり、綱手さんを酔い潰すぐらいなら、
  いつも通り玉砕覚悟で堂々とセクハラをした方が被害が少ないんです」

 「結局、セクハラはやめないんだな……」

 「やめれません!」


 綱手は、溜息を吐いた。


 「さて、ここに死人が居ても邪魔ですね。
  変な格好で寝てるから間接がいっちゃいそうだし」


 酔いどれ狸達は脱力して潰れているので、窮屈そうな体勢で蹲っている。
 ヤオ子は人数分の毛布を持って来ると、酔っ払っているサクラを引き摺って移動させようと腕を掴む。
 そして……。


 「……乳が肘に当たった。
  ・
  ・
  あはぁ~♪」


 腕に当たる感触で顔の締りがなくなっていく。


 (見返りです!
  これが見返りだったんです!
  今までの試練は、このために違いありません!)


 その後は、ワザと胸に手を持って行く。


 「偶然、手が……♪」


 明らかな嘘だった。


 (役得役得♪)


 ヤオ子は酔っ払い達の胸を掴んで移動させて毛布を掛けていく。
 そして、酔っ払いを移動させて、十分な充電を果たすとご機嫌で綱手のところに戻る。


 「セクハラは、今のでお終いです♪
  さり気ない乳タッチで成長を確認しました♪」

 「そういうことを言わなければ褒めてやるのに……。
  それに全然さり気なくなかったぞ。
  サクラに意識があれば、今頃、墓の中だな」

 「えへへ……。
  綱手さんが皆さんを潰してくれたお陰です♪
  火影として、初めていいことをしましたね♪」

 「こんなことで褒められると思わなかった……。
  そもそも、私は火影の仕事をまじめにしている」


 ヤオ子が笑いながら食器を台所に片付けて洗い出すと、綱手は洗い物が終わるまでヤオ子の後姿を見ていた。
 そして、洗い物を終え、全てを片付けると、ヤオ子は急須と湯飲みを持って戻ってくる。


 「百薬の長と言っても、それだけだと体に悪いですからね」


 ヤオ子が綱手に熱いお茶を淹れる。


 「すまんな。
  ・
  ・
  美味しい……」

 「シズネさんに教わりました」

 「そういえば……。
  シズネのお茶にそっくりだ」

 「…………」


 二人でお茶を啜る。


 「里の力は戻って来ましたか?」

 「まだ道半ばだな……」

 「そうですよね。
  中忍試験がないと、里の力は回復しませんからね」

 「ほう……。
  どうしてだ?」

 「木ノ葉の里は経済都市じゃないでしょ?
  仕事のほとんどが個人能力に依存するんです。
  つまり、里の力は優秀な忍の数に依存します。
  だから、下忍が増えるだけではダメなんです。
  経済面にしても戦力面にしても優秀な忍が必要です」

 「なるほど」

 「更に付け加えると、仕事を請けられるランクも関係します。
  下忍では、D, Cランクしか請けられません。
  高い給金の仕事を請け負うには中忍の数を増やさなければいけません。
  五大大国が戦争を回避して平等を保っている以上、各里でも同じ条件のはずです。
  もし、ランクごとに値段が各里でバラつきがあれば、また忍界大戦になりかねませんからね」

 「よく考えてるな」

 「ええ。
  だから、コハルさん達があたしを招集したのも分かります。
  中忍の人数を増やさないといけません。
  中忍になるための修行時間を確保する必要があります」

 「ただの変態じゃなかったんだな。
  そうやって理解してくれる者が居るのは心強い。
  ・
  ・
  ただ……その分だけ、お前の修業時間が確保出来なくてな。
  その辺は悪いと思っている」

 「今は、体力強化中です。
  Dランク任務中でも、体力強化できます。
  ・
  ・
  あたし、一般人から忍者になったから、基礎体力が低いんですよね。
  ヤマト先生にも許可を貰って体力強化に努めています」

 「いい先生だな」

 「はい。
  大好きですよ。
  まあ、忙しい方なんで会う機会も少ないんですけどね」


 綱手は何処か安堵した表情で囁く。


 「ナルト達だけじゃないんだな。
  三代目の意志は受け継がれている……。
  ヒナタにしてもヤオ子にしても……。
  サクラもいのも優秀な医療忍者になりそうだ」

 「じゃあ、中忍さんも増えそうですね」

 「そうだな……。
  直々に教えている甲斐がある」


 綱手がサクラ達を見て微笑む。


 「楽しそうですね」

 「まあな。
  弟子の成長を見るのは楽しいものだ」

 「あたしも、そろそろかな?」

 「うん?」

 「いえね。
  里の力も戻って来たみたいだから、
  真面目に下忍の生活をしないとと思って」

 「そうだな。
  Cランクの任務も少しずつこなさないとな」


 再び、お茶を啜る。


 「しかし……。
  お前の場合は、予約の指名が入っているからな」

 「そうですね。
  あたし、もう忍者って言うよりも、
  木ノ葉派遣会社の特命派遣社員みたいですもんね」

 「ああ。
  『指令一本で何でも引き受けます』
  みたいになっているからな」

 「どうにかなりませんかね?」

 「難しいな。
  中忍になってアカデミーの教師にでも就職すれば、
  指名した依頼主も諦めがつくかもしれんが……」

 「いいですね。
  教師っていうのも。
  教え子に手を出し放題です♪」

 「……やっぱりダメだ。
  そっちの方の可能性を忘れていた。
  お前は、年下に見境いがないんだったな」

 「いえいえ。
  イビキさんのお陰で年上もいけますよ♪」

 (イビキ……。
  コイツに何をした?)


 再び、お茶を啜る。


 「少し変わったな」

 「そうですか?」

 「『忍者は嫌だ』って言ってたのに……」

 「そうですね。
  でも、あたしだってね……。
  大切な友達のために変わらないと……って、思う時もあるんです。
  そして、そう思うと、自然と修行を欠かせなくなっちゃうんですよね」

 「そうか……。
  だったら、その友達は喜んでいるよ。
  こうして頑張っているんだから……。
  ・
  ・
  どんなに思っても、離れてしまう奴もいるからね……」

 「昔の男ですか?」

 「違うわ!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「お前と話すと真面目な話が五分と持たんな!」

 「だって……」

 「お前は、私が三忍と知っててボケているだろう!」

 「詳しく知らないんですよ。
  確か……。
  伝説的な悪戯三人組で、各里で悪さしまくっていたんですよね?
  自来也さんが覗きをして……。
  綱手さんが借金を作って……。
  大蛇丸さんが人攫い……。
  ・
  ・
  でしたよね?」


 綱手が額を押さえる。


 「間違いじゃない……。
  間違いじゃないけど、そんな悪どいものじゃない……」

 (伝説の三忍が、どうしようもない悪ガキ三人組みみたいじゃないか……)

 「忍の三禁を破る申し子!
  『女』『金』『物欲』をトリプルで破る! ……でしたっけ?」

 「女・金・酒だ……」

 「女・金・犯罪?」

 「私ら用の三禁か……」

 「しかし、伝説の悪戯っ子って、どんな逸話があるんでしょうね?」

 「あのなぁ……。
  事実が捻じ曲がっているぞ。
  私らが三忍と呼ばれたのは、忍としての強さを認められたからなんだぞ」

 「そうなんですか?
  しかし、実際に見た三忍のうち、二人は、どうしようもない人ですからね~」

 「本人を前にいい度胸だな?」

 「もう、殴られ慣れてますからね。
  多少の体罰じゃ怯みませんよ」

 (コイツには、恐怖がトラウマになるまで躾ける必要がありそうだな……)


 サスケに続く、第二のトラウマ発生の予感……。


 「でも、そんなどうしようもない人にも弟子が出来るんだから、世の中、間違っています」

 「どういう意味だ……」

 「そして、その弟子も図々しさと神経の図太さと男を寄せ付けぬガサツさを師匠から譲り受け……」

 「お前、本当に泣かすぞ?」

 「五十過ぎまで結婚も出来ずに朽ち果ててしまいましたとさ!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「まだアイツらは、そんな年齢に達しとらんわ!」

 「はは……ですよね。
  あんな未発達な胸で」

 「セクハラもするな!」

 「綱手さんは、一体、何を言って貰いたいんですか?」

 「そんな要求はしとらん!」

 「反抗期?」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ここらでやめますか。
  酔っ払いをからかうのも飽きました」

 「お前な……」


 綱手が拳を握る。


 「弟子が溜め込んだストレスを師匠が発散させるのは当然ですよ」

 「聞いたことのない話だ……」

 「ところで……。
  綱手さんの弟子達は、どうします?
  もう、日付が変わりましたよ?」

 「連れて帰……れないよな」

 「仕方ないですね。
  今、布団出します。
  本格的に寝かしつけますね」

 「この部屋の何処に布団があるんだ?」


 ヤオ子は立ち上がると、クローゼットを開ける。


 「凄い奥行きだな……」

 「改造しました」

 (コイツ……)


 ヤオ子は綱手を無視して、三人分の布団をリビングに敷く。


 「三人分敷いても余裕があるのが、この家の異常さを物語るな……。
  台所までの距離が遠近感でも狂ってんじゃないかと錯覚するぞ」

 「綱手さんは、どうしますか?」

 「夜間まで働かせている部下もいるのに、一日中、遊んでいるわけにもいくまい」

 「ちゃんと火影やっているんですね」

 「当然だ」


 ヤオ子は台所から大き目のタッパを紙袋に入れて持って来る。


 「皆さんでお夜食にどうぞ」

 「ん?」

 「お稲荷さんです。
  あたしのお稲荷さんは、砂糖を一切使わないものです。
  男の人でも食べられると思いますよ」

 「こんなものを作っていたのか」


 綱手が紙袋を受け取る。


 「綱手さんは、火影ですからね。
  夜でもお勤めをしているんじゃないかと」

 「しっかり見抜いてたのか……。
  すまんな。
  ・
  ・
  すまんのついでに言うが……足りん。
  夜勤している部下は、もう少し居る」

 「…………」


 ヤオ子はダッシュで業務用冷蔵庫を漁る。


 「では、これを」


 綱手は追加で羊かんを三本受け取った。


 (何でもあるんだな……。
  あの業務用冷蔵庫には、一体、あと何が入っているのか?)


 ヤオ子の部屋には、謎が一杯ある。


 「では、戻る。
  アイツらを頼むな」

 「はい。
  ・
  ・
  えへへ……」

 「何だ?
  気持ち悪い……」

 「いえね。
  サクラさん達を見る綱手さんを見て思いました。
  三代目の意志も受け継がれているんですけど、
  五代目の意志も受け継がれ始めているんだなって」


 綱手はヤオ子の言葉に照れると、顔を少し上気させる。


 「ガキが生意気言いやがって」


 ヤオ子も少し照れる。


 「さっきは、ああ言いましたが、こういうのもいいかもしれませんね」

 「ん?」

 「サスケさんが居なくなってから……少し寂しかったんです」

 「ヤオ子……」

 「あの突っ込みが忘れられなくて」


 綱手がこけた。


 「あたし、自分じゃ自覚がなかったけど……。
  真正のドMなんじゃないかと思うんです」

 (また変な話になって来た……)

 「一流のお笑い芸人のほとんどは突っ込みがドSで、ボケがMです」

 (本当か?)

 「そして、サスケさんは一流のドSでした。
  そして、サスケさんは……サスケさんは……」

 「…………」

 「あたしのボケに100%の突っ込みを入れます。
  あたしは、サスケさんの突っ込みなしでは生きていけない体になってしまったんです」

 (アホだな……)

 「だから、サスケさんが去って……。
  そう……欲求が満たされていなかったんです」

 (どんな欲求だ……)

 「かつて、トークの前にこう言っている芸人が居ました。
  『実は、ボク……さっきから半立ちなんです』
  これは、これからボケて突っ込まれるために興奮していたからです」

 (そんなわけないだろう……)

 「あたしも同じなんです。
  あたしがボケるのは、突っ込んで欲しいからなんです」

 (嘘だな……)

 「だから、サクラさんにグーを入れられ、
  綱手さんにグーを入れられて興奮して喜ぶMなんです」

 (もう、何も答えたくない……)

 「どう思います?」

 「突っ込むとお前が興奮するから、何も言わない」

 「ふっ……。
  今度は放置プレイで、あたしを興奮させる気ですね?」

 「違うわ!」


 結局、ヤオ子に綱手のグーが炸裂した。


 「あれ? 興奮しない?」

 「よかったじゃないか……。
  これ以上、変態としての烙印が増えなくて……」

 「じゃあ、あたしの感じていた寂しさは何なんでしょうね?」

 「変態としてじゃなくて、芸人としての血なんじゃないか?」

 「え?
  ・
  ・
  つまり、あたしはサスケさんにMとしての性質を叩き込まれたのではなく、
  ボケとしての性質を叩き込まれたわけですか?」

 「そんなことは知らん!」

 「まあ、いいや」


 綱手が、がっくりと項垂れた。
 そして、振り返ると手を振ってヤオ子の家を後にした。


 「月一回の馬鹿騒ぎか……。
  いいかもしれませんね。
  ・
  ・
  毎回、酔わせて乳を触ろうかな?
  それにこういう騒ぎに消極的なのって、あたしらしくないですよね!」


 ヤオ子が部屋の電気を消す。
 そして、自分の分の布団を別室に敷く。


 「お風呂……。
  明日、入ろう……」


 一言だけ呟くと、ヤオ子は眠りに入った。


 …


 翌日……。
 サクラ達の二日酔いにより、ヤオ子の家は混沌とした別空間になっていたことは言うまでもない。


 …


 第58話 ヤオ子と・フリーダムな女達
 第59話 ヤオ子と続・フリーダムな女達


 CAST


 剛田 武(テレビ版/映画版)
 綱手

 剛田 武(テレビ版)
 シズネ

 剛田 武(テレビ版)
 春野サクラ

 剛田 武(テレビ版)
 山中いの

 剛田 武(テレビ版)
 日向ヒナタ

 野比 のび太(テレビ版)
 八百屋のヤオ子


 でお送りしました。



[13840] 第60話 ヤオ子と母の親子鷹?
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:55
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 任務がお休みの日の早朝……。
 ヤオ子はサスケの秘密の練習場で体を解す。
 雑務担当として就任した忍と言っても、本分は忍者であることに変わりはない。

 休日は、一日全てを修行に費やすことが多く、目下修行の内容はヤオ子本人の判断で、ひたすらに体力強化を続けている。
 言われたことを素直に──いや、アレンジを加えて修行を真摯に続けられるのがヤオ子のいいところである。
 半分はトラウマを刻み付けたサスケの影響だが……。
 そして、基礎を繰り返して来たからこそ、今、課題にしている手裏剣術で過去の思い出が蘇る。
 一緒に修行したサスケの手裏剣術が頭に焼き付いて離れないのだ。


 「ここのオールレンジの的……。
  特にあの岩の裏……」


 サスケの修行場にはオールレンジの的の他に目視できない岩の後ろの死角に的があり、そこが一番の難関になっている。
 周りの的の位置を再確認して、ヤオ子は息を吐く。


 「今日こそ、全部当てたいですね」


 ヤオ子は手裏剣術の修行を開始した。



  第60話 ヤオ子と母の親子鷹?



 両足のホルスターから手裏剣を抜き、両手に手裏剣を持つ。
 このあまり見掛けないホルスターを両足に付けたスタイルは、どちらでも手裏剣を投げられるから……と、片方だとバランスが悪いから……らしい。


 「だって、利き腕だけで投げないし、
  片方だと利き腕と逆で投げるのにコンマ何秒かですけど遅れるじゃないですか」


 ヤオ子は一人ごちると、準備が完了とチャクラを練り、足に集中させる。
 そして、やや前傾姿勢で足に力を込めると地面を蹴り上げ、高くジャンプした。

 空中で体を回転させながら、ヤオ子は的に手裏剣を投げつけていく。
 前方、後方、右方、左方……そして、問題の岩の裏をイメージする。


 「予測、完了!」


 上に向かう慣性が弱まり、自由落下に入った瞬間、ヤオ子は腰の裏の道具入れからクナイを一本取り出し、上空高くに放り投げる。
 そして、着地して少しすると、ストンと音がした。


 「この音は、ハズレではないですね」


 ヤオ子は岩の裏に向かって的を確認すると、腰に右手を当てる。


 「まだズレますね。
  15cmか……。
  直立した人の頭を狙うにはお粗末過ぎますね」


 最後の岩の死角の的の狙い方はサスケと違う、ヤオ子なりに考えたオリジナルになっている。
 サスケや兄であるイタチは投擲したクナイにクナイを当てて方向を変え、見えない的にクナイを当てていた。
 しかし、ヤオ子はそうせずに、上空高くに放り投げて、落下速度で勢いをつけて的を狙う。
 これはクナイを上空に投げることで相手の視線を釘付けにし、もし、相手が視線を逸らそうものなら、第二撃で仕留めるためだ。
 それだけでなく、視線を逸らさなければ、体術でそこに釘付けにしてクナイの時間差攻撃に応用しようと考えている。
 また、この方法は上空の死角から攻撃するということから、命中率が上がれば暗殺向きになる。
 そして、ネタ元はスラムダンクの沢北だったりする……。

 ヤオ子が手裏剣とクナイを回収してやり直そうとした時、手を叩く音が聞こえ、ヤオ子は顔を向ける。


 「お母さん」


 ヤオ子はこの場所の現れた母親に、少し驚いた。
 この場所は、ヤオ子とサスケしか知らないはずだった。


 「えへへへ……。
  後を着けちゃった」


 ヤオ子の母親は、笑顔でチョキを作る。
 その母親の緩んだ笑顔は、ヤオ子にそっくりであった。
 というより、成長したヤオ子が母親に容姿が似て来たという方が正しいだろう。

 違いは服装と、少しの身長差と髪型。
 ヤオ子がポニーテールでサスケカラーの服、母親は髪を下ろしてお店のエプロン姿。
 ヤオ子が急激に身長を伸ばしたせいで姉妹のように見えなくもない。


 「実に不気味です……」

 「何が?」

 「前々から思っていたんですけど、お母さんって、あまり年取ってないよね?
  物心ついた時の記憶と今で差分がないんだけど?」

 「お父さんに対するエロパワーのせいじゃないかしら?」

 「何で?」

 「いつまでも魅惑のエロボディで、お父さんを誘惑し続けるために……」

 (この前、綱手さんに説明した酔った時の内容に似てる……。
  親子揃ってエロパワーで解釈……)


 ヤオ子は微妙な顔つきで、チョコチョコと頬を掻く。


 「着けて来たんですか?」

 「透遁術は、私の十八番よ。
  これでお父さんを覗きまくり、色んな部分の成長を日々チェックし続けたの。
  ・
  ・
  甘く酸っぱい思い出が詰まった術……」


 ヤオ子の母親が悶える。
 ヤオ子は母親のストーカーエピソードの第二弾を聞かされて乾いた笑いを浮かべる。


 「変態エピソードをバラしに来たんですか?」

 「そんな言い方をしないで」

 「あ……。
  ごめんなさい……」

 「自慢しに来たんだから♪」


 ヤオ子がこけた。


 「ぐ……そうでした。
  相手は、あたしの母親でした。
  変態的エピソードが返って来るのは当たり前でした」

 「そんなに褒めないで♪」

 (会話が進まない……。
  あたしと会話する人は、いつもこうなのか……)

 「と、娘をからかうのもここまでにして」

 (いや、本当にあたしって、お母さんの生き写しですよ……)

 「少し真面目な話をしたいなと思ってね」

 「真面目なんですか?」


 ヤオ子の母親は笑顔で頷くと、落ち着いた声でヤオ子に語り掛ける。


 「私達の忍の技術を、少しだけ、あなたに残そうと思って」

 「忍の技術?」

 「そう。
  ・
  ・
  だから、確かめないとね」


 ヤオ子の母親がエプロンのポケットから紙を取り出し、右手の人差し指と中指で挟んで見せる。


 「それって……。
  チャクラの性質を見極める……」


 ヤオ子の母親の手で、紙は切れながら燃え出す。


 「お母さん……。
  何系の性質なんですか?
  あたしは火の性質変化で一杯一杯なのに」

 「簡単でしょ?
  これはチャクラを練った時に反応するんだから。
  練った瞬間に"火"と"風"の性質に変化させればいいだけよ」

 「簡単って……。
  ・
  ・
  二つも性質変化を持っているんですか?」

 「私の火の性質は、後でつけたものよ。
  だから、あなたには、本来の私の風の性質か、
  お父さんの土の性質のチャクラが備わると思っていたんだけどね」

 「何で、お母さんは二つも?」

 「遠距離攻撃の性質が欲しかったの。
  風は中・近距離で威力が高まるから」

 「それで遠距離攻撃が出来る火か」

 「少し遊んであげるわ」


 ヤオ子の母親が指でヤオ子を呼ぶ。
 実力を見てくれるのだと判断すると、ヤオ子はチャクラを練り、体に流し始める。


 (現役を離れていたとはいえ、
  あたしより優秀な忍者に違いありません。
  ・
  ・
  ガイ先生のように気合いを入れてみよう)


 ヤオ子の視線が母親をロックオンすると、ヤオ子はガイやリーの体術と同じ基本姿勢を取る。


 「木ノ葉の妖しきピンクの淫獣!
  八百屋のヤオ子!
  体術で行きます!」


 ガイとリーの指導により進歩したヤオ子の体術。
 加速された体の勢いをスムーズに拳に乗せる右ストレート。
 続いて柔軟な体の捻りから繰り出される左のハイキック。
 しかし、どれも確実に当たったはずの攻撃の衝撃が伝わって来ない。


 「どうなってんの!?」


 裏拳、掌抵、肘打ち、全て流された感じがする。
 連続攻撃もかなり進歩したはずなのに決定打がない。

 あまりの不気味さにヤオ子は距離を取り、母親を凝視する。
 種を暴こうにも母親は微笑んでいるだけだ。
 立ち尽くすヤオ子に母親が右手を返す。
 今は、自分の実力を少しでもヤオ子に見せることが出来ればいい……。


 「私の性質の風……。
  チャクラを部分的に風に変えて、あなたの攻撃が当たると風の風圧が私を優しく押し出す。
  私には並みの物理攻撃は効かないの」

 「至るところで部分的にチャクラを変えるって……。
  それ、柔術と性質変化の高等技術なんじゃないですか!?」


 母親は頷いて腰に手を当てる。


 「そうね。
  習得まで苦労したもの。
  的確に体の部位でチャクラを発動しないといけないし。
  オートで発動するものじゃないから、
  必ず相手の攻撃を見極めてからじゃないといけないし。
  瞬間的に練るチャクラ量の調整も必要ね」

 「全身至るところから出せるんですよね?
  どうやって習得したんですか?」

 「それはね。
  色香と幻術で日向家のお兄さんを誘惑して──」

 「ストーップ!
  それ以上は犯罪の臭いがします!」

 「よく分かったわね。
  今、その人は忍者を辞めて仏像を彫っているわ」

 (母よ……何をした?
  真相を聞かなきゃ、ダメですか?)


 ちなみにヤオ子も、ヒナタに同じようなことをしている。
 その時は、気絶させてから目覚めて意識がハッキリしない時に真実を置き換えた。

 ヤオ子は困り顔で首を捻る。


 「危ないですねぇ……。
  この人に忍術を教わっていいんでしょうか?」

 「結構使えるわよ? 私の忍術」

 「まあ、さっきの回避術は……。
  ・
  ・
  でも、あたしは風の性質変化を持ち合わせていないので、再現することは出来ません。
  他にどんなことが出来ますか?」

 「こんなの」


 ヤオ子の母親が朽ちた枯れ木を地面に突き立てる。


 「右手に火……。
  左手に風……。
  心にやましさ……。
  ・
  ・
  猛れ! 私の妄想力!」

 (そのセリフ……。
  親子二代に渡っての言葉だったんですか……)


 ヤオ子の母親がガシッ!と両手を合わせる。


 「おいろけ!
  劫火の拷問術!」


 地面を炎が走り、下から上に向かう風の流れにより、枯れ木が炎の竜巻に包まれる。

 ~ 一分後 ~

 枯れ木は炭屑に変わり、倒れながら崩れた。
 豪火球と違い、対象に風が巻きついて焼き尽くす……凶悪な忍術だった。


 「何処がおいろけだ!
  竜巻で酸素を送り込んでコンガリじゃないですか!
  エロさがなくて、がっかりですよ!」


 怒るのはそこか?


 「エロい拷問術なのよ。
  相手が美少年か美少女だと服だけ燃えるの。
  それ以外は保障しないけど。
  ・
  ・
  ちなみに、美少年と美少女の判断基準は術者の好みに依存するわ」

 「素晴らしい!」

 「でしょう!」


 親子は感動して抱き合う。
 変態達は、術の素晴らしさを分かり合ったのだ。


 「しかし……。
  何故、拷問術?」

 「心に拭えぬ傷を作り出すから」

 「……まあ、戦場で裸にひん剥かれたらねぇ。
  戦って死ぬより惨めかもしれませんね」


 ヤオ子が指を立てる。


 「ところで。
  おいろけもいいですけど、戦闘向きの火遁を教えてくれませんか?」

 「では、ラブ・ブレスという術を──」

 「それ、豪火球の術でしょ」

 「何で、知ってるの?」

 「あたしも開発しました。
  ハート型の豪火球でしょ?」

 「やるわね」

 「多分ですけど……。
  あたしもお母さんも、エロが絡まないと術を開発できないんでしょうね」

 「困ったわね。
  後は、風を使った神風の術とかしか……」

 「それって『さすがの猿飛』という漫画の術じゃ……。
  ・
  ・
  そうじゃなくて!
  お母さん、さっきと言ってることが全然違いますよ!」

 「そう?」

 「遠距離攻撃がしたいから、
  火の性質変化を覚えたって言ったじゃないですか!」

 「それでラブ・ブレスを覚えたんじゃない」

 「他は?」

 「修行時間が勿体ないから、
  火と風の合成忍術の開発に充てちゃった♪」

 「役たたず!」

 「えへへへ……。
  あ!
  風の性質変化を覚えちゃいなさいよ!」

 「お母さんは習得にどれだけ掛かったの?」

 「七ヶ月」

 「今からじゃ、直ぐに覚えられないじゃないですか!」


 母親が顎の下に指を当てる。


 「そうねぇ……。
  そもそも風の性質を覚えられるかも未知数だし……」

 「何て自由人なんだ……。
  八割方エロで、二割が勘か……」

 「まあ、いっか……。
  お父さんの忍術を教えれば」

 「お父さん?
  馬鹿のお父さんに忍術が使えるんですか?」

 「使えるわよ。
  アカデミーを出る時は、私の次の成績だもの」

 「お母さんの次?」

 「私が一番で、お父さんが二番」

 「ハァ!?
  カンニングでもしたんですか!?」

 「愛の力よ」

 (嘘くさい……)

 「でも、お父さんの性質は土なんですよね?
  また、あたしに使えませんよ?」


 母親は自信のある顔で返す。


 「お父さんの忍術はね。
  アカデミーで習ったもの意外、印を使わないの」

 「は?」

 「お父さんは一途だから、基本のチャクラ吸着を極めたの」

 「チャクラ吸着を極める?」

 「あれも一種の形態変化と捕らえて使ったの。
  見てて」


 ヤオ子の母親がチャクラを練り上げると、掌からロープ大のチャクラが地面まで伸びる。
 そのチャクラが石に触れると、石が持ち上がり手元に戻った。


 「これよ」

 「凄いのか凄くないのか……」

 「お父さんは、これを20m以上飛ばせるわ」

 「20って……どんなチャクラ量をしてるんですか?」

 「お父さんは、昔から修行は欠かさない人だったから。
  というより、やり過ぎてる人だったわ。
  その分、筋力とチャクラ量と基本動作が達人の域に達している。
  投擲の正確さと威力。
  チャクラ吸着の強さ。
  筋力のみの怪力」

 「筋力のみ?
  チャクラを利用しないってことですか?」

 「ええ。
  綱手様の怪力はチャクラを爆発させる繊細なコントロールの賜物。
  しかし、お父さんのは純粋な筋力の怪力」

 「話から想像すると、あたしに教えたいのはチャクラ吸着の応用ですか?」

 「ええ。
  あなたをいきなりマッチョには出来ないから」

 (マッチョになる気もないです……)


 ヤオ子は気を取り直し、話を続ける。


 「さっきの伸ばすヤツですよね?
  バンジーガムみたいなの。
  あれも柔拳の応用じゃないの?」

 「お父さんは不器用な人よ。
  力任せにチャクラを搾り出して飛ばしていたわ」

 (時々、馬鹿って凄いと思いますよ。
  ・
  ・
  というか、ちゃんとチャクラを練ってるのかな?)


 ヤオ子も精神エネルギーに妄想力を使っているので、父親のことをどうこういう資格はない。
 ヤオ子の心の声など分からず、母親が説明を続ける。


 「とはいえ、そんなのが出来るのはお父さんだけ。
  柔術のチャクラ放出を教えるわ」


 ヤオ子が掌を広げて、母親に見せる。


 「手だけなら放出できますよ」


 ヤオ子がチャクラを放出して見せると、母親が微笑む


 「あなた、本当に私と似た忍者ね」

 「ええ。
  怖いぐらいにね」

 「やってみなさい」


 ヤオ子は頷く。


 「行きますよ!」


 ヤオ子はチャクラを練り込み、掌からロープ大の純粋なチャクラが伸び始める。
 しかし、地面まで全然届かない。


 「これ……!
  ハンパじゃないチャクラ量とチャクラコントロールが必要です……!。
  特に放出しっぱなしっていうのがキツイです……!」

 「分かる?」

 「ええ……!
  まず、今のあたしには腕から出るチャクラ量に限界がある。
  チャクラ放出を応用するのが一瞬の盾形成だから、持続して放出なんて考えていませんでした。
  そして、無駄なロープ形成をすればチャクラが伸びない。
  吸着を付加して太く伸ばすなんて木登りと違います。
  本当にチャクラを体外に搾り出す感じです」

 「でしょ?
  私も地面までしか伸びないのよ」


 ヤオ子はチャクラの放出を止め、負担の掛かった掌の経絡系に視線を落とす。


 「これを力任せで伸ばすって……。
  凄いチャクラ量ですね」

 「お父さんは、このチャクラ吸着の先端に岩石をつけて戦っていたわ」

 「岩石……」


 ヤオ子の頭に何かが浮かぶ。


 「鉄球魔人かボルトガンダムみたいです」

 「お父さんはチャクラ吸着の先に岩石をつける時だけ、
  土の性質変化でそこら辺の物を岩石に変えていたわ」

 「とことん不器用ですね。
  しかも、力任せ」

 「でも、シンプルであるが故に威力があった気がするわ。
  チャクラ吸着で敵を捕まえて力任せに引っ張り出す。
  そして、力任せに叩き潰す」

 「シンプル イズ ベスト……」

 「これを覚えてね」


 ヤオ子の額に青筋が浮かぶ。


 「出来るか!
  お母さんも出来ないでしょう!」

 「当たり前じゃない。
  でも、あなた若いし。
  何とかならない?」

 「無理!
  ・
  ・
  だけど、チャクラ吸着の形態変化だけは練習します」

 「そう」

 「初めからロープみたいのはしませんけど、糸ぐらいのから練習します。
  より綿密なチャクラコントロールの練習になりますから」

 「あんまり役に立たなかったかしら?」

 「参考にはなりました。
  ・
  ・
  しかし、話だけ聞くと二人とも規格外の忍者だったみたいですね?」

 「ふふ……。
  二人とも中忍でお終い」

 「それだけ出来ても?
  奥が深いですね……」


 ヤオ子の母親が、近くの切り株に腰を下ろす。


 「随分、頑張っているのね。
  手裏剣術の命中率も高かったし、教えようと思った技術の半分は持っていた感じだし」

 「ええ。
  知り合った方々に色々と教えて貰っています。
  でも、まだまだ未熟ですから」

 「チャクラ量が増えないとやりたいことも試せないからね」

 「そうなんですよ。
  結局、最後は、そこに行き着くんです。
  練習するにしても何をするにしても、チャクラがないとお話になりません」

 「それで体術と手裏剣術ばかりでしてるの?」


 ヤオ子は意外そうに母親を見る。


 「あたしのやってること、よく知ってますね?
  チャクラの身体エネルギーに回す体力を強化中です」

 「いいんじゃない?」


 ヤオ子の母親は微笑んでいる。
 それにヤオ子が戸惑いながら返事を返す。


 「そ、そうですか?」


 こんなにしっかりしている母親を見るのは、久方振りな気がする。


 「お母さん……」

 「ん?」

 「後悔していませんか?」

 「後悔?」

 「お母さんは、あたしなんかよりも立派な忍者です。
  忍者であり続けたいと思いませんでしたか?
  長年積み重ねてきたものを捨てるのは、勿体ないと思いませんでしたか?」

 「…………」


 ヤオ子の母親が空を仰ぐ。


 「後悔はないわ。
  私の目的は、お父さんと居ることだったから。
  忍者をしていたのは、お父さんと居る理由でしかないの。
  だから、後悔はないわ。
  でも、自分の努力を捨て去るのは勿体ないわね。
  だから、今、あなたに少しだけ伝えに来たの」

 「残念ながら、あたしのチャクラ性質は風じゃありませんでした」

 「似たような忍者だって分かっただけで、十分」

 「お父さんには似てないですけどね」


 ヤオ子の母親は可笑しそうにしている。


 「そっくりよ」

 「へ?」

 「あなた、自分じゃ気付いていないかもしれないけど、
  その歳で、そのチャクラ量は多いのよ」

 「そうなんですか?
  しかし、サスケさんに比べると……」

 「彼はエリートの上に、努力している子。
  あなたは、ただの忍者の子。
  でも、お父さんに似てサボらないから、今があるの」

 「そこが似てると?」

 「ええ」

 「でも、皆さん修行してますけど?」


 母親が首を振る。


 「アカデミーを卒業すると、担当の上忍から彼等の能力に特化した指導を受けるものよ。
  もしくは、自分にあった能力の師を見つけるか……。
  ・
  ・
  そこで基礎修行の練習時間が減るわ。
  だけど、それでも愚直に基礎修行を繰り返す人が居た。
  それが私達のお父さん。
  今のあなたと同じよ」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「まあ……。
  あたしの場合は、担当上忍さんが休業中ってのもありますけどね」

 「今のうちにしっかりチャクラ量を増やすのを勧めるわ」

 「ええ。
  あたしも同感です。
  あたしの場合、スタミナさえあればいいですから」

 「精神エネルギーは?」

 「妄想力で補ってます」

 「……やっぱり、親子なのね」


 母親が立ち上がる。


 「お店に戻るわ。
  私達の娘が、私達の娘らしかったから安心しちゃった」

 「ええ。
  あたしは、お母さんと忍者の話が出来て良かったです」


 母親が再び微笑む。


 「また、お話ししましょうね。
  別の技術なんかも教えてあげたいわ。
  今度は、実家に顔を出してね」

 「はい。
  月の支払いの日以外に行きます」

 「電卓叩く日は、絶対忘れちゃダメよ」

 「そっちの方が優先度高いんですか?」

 「ごめんね」

 「何で、あやまるの?」


 母親は何でもないと、首を振ると再び微笑んで帰って行った。
 そして、帰り際に少しヤオ子に振り返った。


 (私が忍者を辞める時、家系の脳の活性化の期間は終わっていたの。
  そして、お父さんとずっと忍者をすると思っていたから、忍術にばっかり力を注ぎ過ぎちゃった……。
  そのせいで八百屋の商売をする知識や家事全般が疎かになってる……。
  そっちの方の才能は、本来、余りなかったみたい……。
  大人になっても努力してるけど、中々身につかないの。
  ・
  ・
  後悔があるとすれば、あなたより母親らしいことを出来ないことかな。
  いつも手伝って貰ってばっかり。
  でも、気持ちだけは母親だからね。
  頑張っているのを見守ってる。
  ・
  ・
  得意の透遁術でね♪)


 母親が去って静かになった森の中。
 ヤオ子の頭で会話が響く。
 母親と父親が忍者だった話……。


 「今日から、新しい修行の追加ですね」


 ヤオ子は指からチャクラの糸を形成する。


 「これ……。
  砂の人形遣いが使うチャクラ糸に似ていませんか?」


 似ていると言うか、まんまだった。
 それを無理矢理ロープ大にチャクラ形成させて、力で捻じ伏せていたのが父親であった。



[13840] 第61話 ヤオ子とヒナタ班
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:56
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ナルトが木ノ葉隠れの里に戻るまでの間に、主だったナルトの友人は中忍へと昇格をしている。
 そして、彼等は部隊長との資質も認められた存在になる。

 火影の仕事の合間……。
 綱手はある忍の詳細が書かれた報告書を眺め、付き人のシズネに写しを渡して話し掛ける。


 「シズネ。
  コイツをどう思う?」

 「日向ヒナタですね。
  私は、まじめに頑張っている子だと思いますけど」

 「そうだな。
  勤勉な性格から実力をつけて、先日、中忍となった。
  戦力としても貴重だ。
  女でありながら、体術に秀でている。
  これはくノ一の中でも特殊だから、特定の任務を任せることも多くなる。
  更に日向一族特有の白眼もある」

 「未来のくノ一として、期待が持てますね」

 「ああ。
  だが、ヒナタには重大な欠点があると思う」


 綱手は、ここでお茶を啜った。



  第61話 ヤオ子とヒナタ班



 シズネが質問をする。


 「欠点とは、何でしょうか?
  才能や素質、そして、今までの任務結果を見ると、非の打ち所はありませんが?」

 「そう思うか?」

 「ええ。
  組み込まれた部隊でも成果は上げていますし」

 「…………」


 綱手が報告書を置いて質問する。


 「中忍には部隊長としての素質も必要になるのは知っているな?」

 「はい」

 「ヒナタは、率先して部隊を率いるタイプか?」

 「そういえば……」

 「私は、ヒナタがあの性格でどんな部隊に組み込まれても成果を上げているのは、
  紅班の構成によるところが大きいと思っている」

 「どういうことですか?」

 「恐らく三代目が意図して班員を分けたと思うのだが、この班員は性格がバラバラなんだ。
  攻撃的なキバ。
  冷静なシノ。
  内気なヒナタ。
  一見するとバランスが取れるとは思えない」

 (確かにそうかもしれない)

 「だが、紅班は成果をあげた。
  バラバラのようだが、お互い助け合い協力し合ってな。
  そして、その経験があったからこそ、
  ヒナタは別部隊に組み込まれても上手く対応が出来たと考えられる」

 「なるほど。
  三代目は、深い考えですね」

 「ああ。
  常に里の皆を気に掛けていた証拠だ」

 (担任だったうみのイルカも、一役買っていたようだがな)


 綱手は両手を組む。


 「だが、一点だけ経験が積めないものがあった」

 「先ほど言われていた部隊長としての経験ですね?」

 「そうだ。
  性格の複雑な部隊で任務をこなせても、班員を率いる経験は少ないと思われる。
  戦うスタイルが近接タイプとはいえ、
  ヒナタの性格から考えると、一歩引いてキバやシノをサポートしていたのではないか?」

 「その可能性は高いですね」

 「三代目なら、中忍になったばかりのこの時期に、何らかの対策を取ったのではないかと思うのだ。
  そう、猿飛先生なら……。
  ・
  ・
  私も教えを貰った身だからな。
  もし、そうならば意図を汲んであげたいのだ」

 「綱手様……」


 シズネは力強く頷く。


 「私も賛成です。
  我々の手で、何とかヒナタに経験を積まさせてあげましょう」

 「そう言ってくれると助かる」


 そういうことならと、一旦、シズネは席を外し、現在ある任務を纏めたリスト表を別室に取りに行く。
 そこでヒナタが関わった任務の二年分のリストを手に入れると、シズネは綱手の居る部屋に戻ってリストを手渡した。


 「まず、与える任務を選ばないといけませんからね。
  どのような任務にしますか?」

 「そうだな……」


 綱手がリスト表を見て任務を選ぼうとして、ふと思い出す。


 「……と、その前に班員のうち二人は決定済みだ。
  それを判断材料の一つとしなくてはな」

 「決定なんですか?」

 「ああ。
  サクラといのを入れる」

 「サクラといの?
  何故ですか?」

 「いきなり見ず知らずの人間に命令は出し辛いだろう?
  かと言って紅班の班員では、今までと変わらない」

 「なるほど。
  ・
  ・
  では、女の子同士ということで、テンテンでもいいのでは?」

 「それはステップⅡだ。
  別任務で年上対策は行なう」

 「随分と肩入れしますね?」

 「そう言うな。
  誰にだって初めてはある。
  例えとして、お前の修行時代の最初の方を赤裸々に語ってやってもいいんだぞ?」

 「そ、それは止めてください!
  分かりましたから!
  私にも身に覚えがありますから!」


 綱手はシズネの反応を楽しむと話を進める。


 「さて。
  サクラといのを部隊に加える理由だが、もう一つある。
  ヒナタと親しい仲で、私とも関係が深いからだ」

 「二人は綱手様の弟子ですからね」

 「ああ。
  私の意図も汲んでくれるだろう。
  そう言った意味では、ヒナタに対するフォローや助言もしてくれると思う」

 (サクラもいのも信頼されるようになったのね)


 シズネは後輩の成長に微笑むと、次に当然出てくる疑問を口にする。


 「綱手様。
  そうすると、最後の班員はどうするのですか?」

 「実は、そこを悩んでいるのだ」


 シズネが首を傾げる。


 「どうしてですか?
  フォロー役が二人も居れば、十分だと思いますが?」

 「そうではない。
  三人目の班員には不安要素を入れたいのだ」

 「よく……分からないのですが?」


 綱手が指を立てる。


 「いいか?
  サクラやいのでは班員として優秀過ぎるのだ。
  どちらも中忍でありながら、アカデミーの成績では上位だったはずだ。
  つまり、この二人を組み込んでしまったがために、この班では突発的な不安要素が発生しにくいのだ。
  部隊長には緊急事態でも部隊員を導く、リーダーシップが必要だ」

 「そういうことですか。
  つまり、不安要素を入れることで、緊急事態の対策の経験も積ませるのですね」

 「うむ」

 「で、不安要素ですよね?」

 「不安要素だ」

 「…………」


 二人は、眉を顰める。


 「直ぐに思い当たった人物が一人……」

 「奇遇だな。私もだ」

 「ヤオ子か……」
 「ヤオ子ちゃんか……」


 同じ人物の言葉が同時に出ると、二人は悩む。
 綱手は改めてシズネに訊ねる。


 「実際のところなんだが、アイツって任務の失敗はないよな?」

 「ええ、優秀ですよ。
  特にDランク任務で誰も出来ないから、仕方なく回した任務が成功して返って来ますからね」

 「そうなんだよな……。
  ・
  ・
  じゃあ、普段のトラブルって何なんだ?」

 「任務前とか……。
  任務途中とか……。
  任務後で発覚して修正させられるエロ関係?」


 綱手が頭痛そうに、額に手を当てる。


 「それって、どうなんだ?
  ある意味、任務は全部失敗していないか?」

 「そうですよね……。
  ただ、任務の評価をするのは依頼主ですし、依頼主は結果さえ残せば満足でしょうから」

 「そうだな……」

 「ちなみに、この前の顔岩作りは、どのような評価に?」

 「…………」


 綱手は更に頭痛そうに額に置いた手を握る。


 「綱手様?」

 「あれは……黒歴史として封印した」

 「……いいんですか?」

 「……忘れたいから言わないでくれ。
  あれは、私のトラウマだ。
  特に自来也やナルトには絶対に知られたくないものだ」

 「はは……」

 (二人とも食いつきそうですね。
  でも、ヤオ子ちゃんか木ノ葉丸君から漏れそう……)


 綱手は机を拳で叩く。


 「そんなことより、三人目だ!
  誰にするのだ!」

 (半ば強引に進めたような気もしますが……)


 シズネは諦めた感じで答える。


 「ヤオ子ちゃんでいいんじゃないんですか……」

 「いいのか?
  後悔しないな?」

 「後悔しないわけないじゃないですか。
  ただ、適度にトラブルを発生させるスキルなんて、あの子以外に誰が持っているんですか?
  逆に私が知りたいぐらいですよ。
  そんな迷惑千万な能力を保有している忍者なんて」

 「……だな。
  では、三人目はヤオ子に決定だ」


 こうして、短期任務のヒナタ班が結成されることになった。


 …


 翌日の午前中……。
 サクラといのがシズネに呼び出される。
 綱手の説明に二人は快く承諾し、ヒナタのために一肌脱ぐことを約束してくれた。
 そして、ヤオ子の名前が出た瞬間に二人は頭を抱えた。


 「ヤオ子も居るんですか?」

 「そうしないとトラブルは起きない」

 「別に意図的にトラブルなんて起こさなくても……。
  数をこなせば、一回ぐらいトラブルは起きますよ」

 「それもそうだがヤオ子のトラブルなら、最悪、アイツを殴れば収まるだろう?
  それにトラブル発生率は100%に限りなく近い」

 ((そんな理由なんだ……))

 「本当の任務で緊急事態というのも大変だろう。
  リハーサルだと思ってくれ」


 サクラは溜息を吐いて、いのに話し掛ける。


 「まあ、ヒナタのためだから受けますけど」

 「本当に大丈夫かしら?」


 大いなる不安を残して任務が始まろうとしていた。


 …


 午後、事情を知っているサクラといの、そして、何も知らないヒナタとヤオ子が綱手の前に呼び出された。
 この時、全員に任務の内容は伝わっていない。

 綱手が咳払いをすると、サクラ、いの、ヒナタが姿勢を正し、ヤオ子は端から三人に目を向けた。


 「こうやって皆さんが胸を張ると、
  乳の大きさが一目瞭然に比較できますね♪」


 全員がこけた。
 早速、綱手がヤオ子を注意する。


 「ヤオ子!
  第一声がそれか!」

 「?」

 「普通、中忍が全員姿勢を正したら合せるだろう?」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「ここに全員で呼び出されるのも久しぶりで……。
  それに人に合せるなんて任務中の仕事ぐらいですから、
  あたしには、そんな習慣は元よりありません」


 綱手が額を押さえる。


 「分かったから……。
  もう、黙っててくれるか?
  お前と話すと、火影としての威厳が失われる」

 (多分、ヤオ子と関わる人、全員が威厳を失っているわね……)

 (凄いわね。
  任務前にトラブル発生じゃない。
  でも、ヒナタを隊長に任命してからトラブルを起こして欲しいわよね)

 (ヤオちゃん……。
  何で、火影様に遠慮がないんだろう?)


 ヤオ子は、やれやれと両手をあげると溜息を吐く。


 「じゃあ、あたしは静かに皆さんの胸を凝視していますね」

 「「「するな!」」」
 「やめなさい!」
 「しないで!」

 「ああ言えばこう言う……。
  じゃあ、どうすれば?」


 いのが苛立ち混じりに答える。


 「息でも止めてれば?」

 「あたしに死ねと?」


 今度は、綱手が苛立ち混じりに注意する。


 「あ~! うるさい!
  私の胸でも何処でも見ていろ!」

 「そうします」


 ヤオ子の視線は、一点に集中した。
 綱手が咳払いをする。


 「ヤオ子は無視して、任務を伝える」


 改めてサクラ、いの、ヒナタが姿勢を正す。


 「任務は、ある村を襲う盗賊達から村の娘達を守ることだ。
  任務としてはCランクだ。
  ・
  ・
  そして、この班の隊長はヒナタに頼もうと思う」

 「私ですか?」

 「ああ。
  頼むぞ」


 ヒナタは緊張し、不安な顔をした。
 早速、サクラとヒナタが声を掛ける。


 「自信を持って。
  私達は隊長としての資質も認められたから、中忍になることが出来たんだから」

 「そうよ。
  今回は、私達も一緒なんだし」

 「二人供……。
  ありがとう。
  頑張ってみるね」


 綱手とシズネが、三人の信頼関係に安堵の表情を浮かべる。


 「では、詳細も伝える。
  この村は、二年ほど前から定期的に襲われているということだ」

 「定期的に……ですか?」

 「そうだ。
  村祭りで行なう巫女役の娘達が攫われそうになっている」


 綱手の胸を見続けていたヤオ子が反応する。


 「どういうことですか?」

 「言い方は悪いが…その……」

 「その先は、いいです」

 「ヤオ子……」

 「…………」


 怒りに満ちた顔で、ヤオ子がダンッ!と踏みしめる。


 「つまり!
  そいつらは、あたしの許可もなく村の美少女達を襲ってたんですね!
  ・
  ・
  が~~~っ!
  あたしがしたくても出来ないことを!
  女の敵がーーーっ!」


 代表してサクラといののグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「「お前も敵だ!」」

 「何で?」


 綱手が溜息交じりに答える。


 「本音が漏れてたぞ……」

 「…………」


 ヤオ子は窓の外へ視線を移す。


 「今日は、いい天気ですね~。
  鳥が気持ち良さそうに飛んでいます」

 「誤魔化しても手遅れだがな」


 ヤオ子の発言に、サクラが不安を口にする。


 「ヤオ子を連れて行って大丈夫ですか?
  盗賊と一緒に襲って来ませんか?」

 「その時は、息の根を止めても構わん」

 「分かりました」

 「ちょっと!」

 「やりすぎだよ……」


 ヤオ子は感動してヒナタに目を向ける。


 「ヒナタさん……。
  あなただけです!」

 「でも、あまり酷いことした時は、気絶して貰うからね」

 「気絶?
  柔拳炸裂?」

 「痛くない方法でね」

 「…………」

 (痛くない柔拳で気絶……。
  柔拳の新技かな?
  それともバキみたいに頚動脈をそっと……。
  ・
  ・
  その最初の犠牲者にはなりたくないですね)


 ヤオ子が無言で視線を逸らすと、綱手が、本日、何度目かの溜息を入れて気を取り直す。


 「何処まで話したか……。
  ・
  ・
  そうだった。
  とりあえず、今までは、寸でのところで誘拐は阻止して来たが、今回は盗賊達も本気らしい。
  村の娘達を保護し、出来ることなら盗賊全員の捕獲を頼む」

 「「「はい」」」

 「あたしは、村の娘だけを丁重に保護します」


 綱手のアイコンタクトで、サクラといののグーが炸裂する。
 師弟の絆はバッチリだ。


 「お前、本当に黙れ!」

 「……黙ります」


 地面に突っ伏すヤオ子を無視して、話は進む。


 「オホン!
  ・
  ・
  話を戻すぞ。
  身代わりになる上で、お前達には村の娘達の代役をして貰う」

 「それって……」

 「まさか……」

 「そうだ。
  巫女の役だ」

 「「やっぱり~!」」


 サクラといのの声が重なった。


 「安心しろ。
  村の娘達も特別な用意をしたりはしていない。
  それに衣装も悪くないぞ」


 綱手が村の巫女の写真をサクラ達に向ける。


 「そうですね」

 「いい記念になるかも」

 「安心しました」

 「だろう?
  少し大変なのが、この中の誰かが村の神に捧げる歌を村人達の前で歌うだけだ」

 「「「え?」」」


 シズネが綱手に耳打ちする。


 「予想通りの反応が返って来ましたね?」

 「ああ。
  だが、身代わりをする以上は避けて通れん」


 サクラといのとヒナタが目を合わす。


 「私は、嫌よ」

 「私だって」

 「私も」

 「さっき見せた絆は、何処にいったんでしょうね?」

 「無理もないな」


 そのお互い譲り合う場の中で、ヤオ子がノソノソと復活する。


 「くくく……。
  何を今更……」

 「「ヤオ子?」」
 「ヤオちゃん?」

 「あんたら、うちのシャンデリアを剥ぎ取ってミラーボールに付け替えたうえに、カラオケの機械を設置しただろうがっ!
  今更、歌を歌いたくないなんて言ってんじゃないですよ!」

 「それとこれとは、話が別でしょ!」

 「そうよ!
  カラオケなんてのは、ノリで歌ってんだから!」

 「そ、そうだよ!」

 「よく言いますよ!
  気持ちよく『Pi───』とか『Pi───』とか、ついでに『Pi───』を熱唱してたクセに!」


 ※いのの声優さんとヒナタの声優さんが歌ったものがあるらしい……。
  『Pi───』の中身はそれです。
  残念ながらサクラの声優さんの情報はよく分かりませんでした。
  特にヒナタの声優さんは歌いまくっているので、
  それに合わせて、このSSではヒナタはカラオケで歌いまくっている、もしくは歌わされまくっている設定になっています。


 「何か途中に変なのが入りましたね?
  兎に角!
  ヒナタさん! あなたが歌いなさい!」

 「えーっ!?」

 「それがいいかもね」

 「そうね」

 「そ、そんな……」


 綱手が溜息を吐く。
 既にヒナタは班員にタジタジになっている。
 そこで、綱手からフォローが入る。


 「ヒナタ。
  嫌なら、隊長命令を使っていいぞ」

 「「「え?」」」


 サクラといのとヤオ子の立場が一気に逆転した。
 ヒナタはオドオドと全員を見たあと、そっと指差す。


 「……じゃあ、ヤオちゃんで」

 「何で、あたしなの!?」

 「このメンバーでそんな命令できるのヤオちゃんしか居ない……から」

 「いや、ヒナタさん。
  班員を庇って、隊長さんが歌ってもいいんですよ?」

 「知らない人達の前でなんて歌えないよ!」

 「…………」


 ヤオ子は頭を掻くと、溜息を吐く。


 「まあ、いいですけど。
  あたしのレパートリーは知ってますよね?」

 「「「「「アニソン……」」」」」

 「神聖な儀式の場で、熱血ロボットアニメの主題歌を歌っても大丈夫ですか?」

 「……歌うな。
  それに歌は決まっている。
  村の神に捧げる歌だ」


 綱手から出た言葉に、ヤオ子が複雑な顔をする。


 「あの……」

 「まだ、文句があるのか?」

 「もう、諦めましたよ。
  ただ……」

 「『ただ』何だ?」

 「変態が神聖な神の歌なんて歌っていいんですかね?」

 (((((ダメかもしれない……)))))


 神聖な儀式に神様も怒りそうだ。
 ……が、綱手は笑って誤魔化しながら答える。


 「む、村の人間も見た目では分からんだろう……」

 「いいんですね?
  歌うのが変態で?」

 「この際、目を瞑る。
  その代わり、村人に正体をバラすな」

 「約束なんて出来ませんよ。
  村の中にあたし好みの子が居るかもしれないし……。
  その時は問答無用で触りに行きます」


 サクラといのとヒナタのグーが炸裂する。


 「絶対に自重しなさい!」

 「木ノ葉の印象に関わるのよ!」

 「村の子に手を出さないで!」

 (やっぱり、人選を間違えたか?)

 (ヒナタには荷が重いかも……。
  敵は盗賊よりも、ヤオ子ちゃんみたい……)


 綱手が締めに入る。


 「兎に角!
  話は、ここまでだ。
  任務の内容は伝えた。
  ヒナタ班は、準備が出来次第、出発するように!」

 「「「はい!」」」

 「……はい」


 こうして、ヒナタ班は盗賊の出るという村に向かうことになった。


 …


 村までは、忍の足で走り続けて一日。
 約束の日にちまでの時間に余裕があるので、夜の移動を避けて二日掛ける。
 そして、村に到着した頃には、既に祭りの準備も終盤に差し掛かり、巫女の歌の催しを期待して村全体が活気付いていた。


 「困ったわね……」

 「ええ……」

 「村の規模が思ったより大きいね……」

 「あと少し大きければ里か町ですね……」

 ((((ここで歌うのか……))))


 村の依頼主に会う前に全員がヤオ子に念を押す。


 「ヤオちゃん!
  いい?
  絶……対に変なことしちゃダメだからね!」

 「失敗は死を意味するわよ?」

 「じゃあ、サクラさんが歌えば?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「嫌よ! 歌う役は隊長命令よ!」

 「ううう……。
  あんまりだ……」

 「絶対に恥をかかせないでよね!」

 「いのさんまで……。
  ・
  ・
  何で、一番幼い子にプレッシャーを掛けるんですか?」

 「あんたに緊張するなんて感情があるの?」

 「ありますよ。
  ストーカー行為は、いつも相手との駆け引きでドキドキです」


 全員のグーが炸裂する。


 「任務じゃ緊張しないのか!」

 「あんた、そんなことしてるの!」

 「真面目にやってよ!」

 (突っ込みが三倍で返ってくる……)


 ヤオ子は頭を擦りながら言葉を返す。


 「少し手加減してよ。
  立場は分かってますから。
  あたし、これでもDランク任務じゃ失敗なしなんですよ?
  巫女に変装して歌を歌うぐらい、しっかりやりますよ」

 「信用していいのかしら?」

 「今更だけど、歌い手代える?」

 「…………」


 ヤオ子に不安が集中する中、ヒナタは少し考えて声を掛ける。


 「ちょっと、いいかな?」

 「?」

 「やっぱり、歌い手はヤオちゃんにして貰おう。
  歌うのに集中した時は、隙が出来ると思うんだ。
  だから、中忍の私達がしっかりと警戒した方がいいと思うの」

 「確かにそうかも」

 「歌うのが嫌で、そっちまで気が回らなかったわね」

 「ダメ忍者どもが」


 サクラといののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「あんたのせいで冷静な判断力が欠如したんだろーが!」

 「言うに事欠いて『ダメ忍者』とは何よ!
  私達、これでも中忍よ!」

 「だったら、中忍らしくしてくださいよ」

 「「あんたが、そうさせないんだ!」」


 ヒナタ班、依頼主に会う前から崩壊か?
 サクラ、いの vs ヤオ子で戦いでも起きそうな雰囲気だった。


 「ちょっと、落ち着いて!
  兎に角、依頼主に会って話を聞こう? ね?」

 「そ、そうね」

 「ごめん、ヒナタ」

 (綱手師匠の狙い通りかも……。
  ヤオ子のせいで
  ヒナタがしっかりしないといけない立場になってる)

 (ヤオ子の暴走が激し過ぎて、フォローどころじゃない……。
  私達の方が掻き回されてる感じがする……)


 ヤオ子の暴走の前に、サクラといのは自分達が役に立たないかもと思い始めた。


 …


 ヒナタに続いて、村の依頼主である村長に会いに行く。
 村人達は忍の衣服に身を包んだヒナタ達を珍しそうに眺めたが、直に観光客の類と判断すると祭りの準備を再開した。
 そして、何人かの村人に尋ねて村長の居る、村の奥にある湖へと移動した。


 「すいません」

 「ん?」

 「木ノ葉から依頼を受けに来ました」

 「おお。
  美しいお嬢さん方だ。
  これなら、村の娘達の代役にぴったりですな」

 「あ、ありがとうございます」


 ヒナタは頑張って村長と話をしている。
 村長がヒナタに話し掛ける。


 「あなたが責任者ですか?」

 「そうです」

 「お若いですな」

 「そ、そういう任務だと伺ってますから」

 「そうでしたな」


 村長は笑っている。
 村長ジョークのようだった。


 「あの……早速、任務を始めたいんですけど」

 「ん? 祭りは、明日ですが?」

 「盗賊が出るかもしれないので、
  村の地形と催しの順番なんかを把握しておきたいんです」

 「なるほど。
  その通りですな」

 「あと、巫女の衣装の方も」

 「何故ですか?」

 「武器を隠せる場所があるかどうか──」

 「ダメです」

 「え?」

 「村の神の前に武器を持つなど不謹慎です」

 「そ、そうですか。
  すいません……」

 (謝らなくてもいいんじゃないの?)

 (ヒナタ、頑張れ。
  今のところ、問題ないわよ)

 (内気な女の子が無理して気丈に振舞うのって……いいですね~♪)


 村長が湖の隣に設置された小屋を指差す。


 「とりあえず、あちらに移動しましょう。
  机もありますんで、地図と催しの品目を用意させます」

 「分かりました」


 ヒナタ達は、小屋へと移動した。


 …


 小屋の中で、各々荷物を下ろす。
 ヒナタ、サクラ、いの、ヤオ子の順で座り、お茶も用意された。
 そして、早速、地図を広げて説明が始まる。


 「正直、我々は催しの品目は重要ではないと思っています」

 「どうしてですか?」

 「盗賊達は、祭りの最後に巫女が現れるのを知っているからです」


 サクラが質問する。


 「盗賊は、本当に娘達が目当てなんですか?
  村の金品を狙っているという可能性はないんですか?」

 「ないと思います。
  今まで、二度の襲撃を受けましたが娘達が襲われただけです」

 「よく無事でしたね?」

 「ええ。
  盗賊よりも我々の方が人数が多かったので。
  ・
  ・
  ところが、去年は人数が増えていたのです。
  そして、その傾向が続くなら──」

 「今年は、もっと増えていると?」

 「はい。
  だから、警護をお願いしました」


 今度は、いのから質問が出る。


 「二度、盗賊を追い払ったんですよね?
  どのように?」

 「一回目は、娘達を庇って村人達の奥へ隠しました。
  二回目は、あらかじめ武器を椅子の下に」

 (盗賊相手に戦ったのか……。
  結構、過激な村ねぇ……。
  っていうか、さっき、神聖な巫女が武器を持つなとか言ってなかった?
  ギャラリーは、いいの?)

 「その時、盗賊達は何処から?」


 村長が地図を示す。


 「最後の催しは、湖に特設の踊り場を設けます。
  周りは崖に近い岩場ですが、その湖横の岩場の上から飛び出して来ました」

 「飛び降りて来たんですか?」

 「はい」

 (派手な登場ね……)


 ヒナタが疑問を口にする。


 「今回は、どうなんだろう?
  また岩場からかな?」

 「正面突破してくるかもしれないわよ?
  村の入り口から攻めれば、湖は岩場で囲まれて逃げ場がないんだから」

 「そうだね」


 一方、静かにしているヤオ子は、別のことを考えていた。


 (盗賊さんの現れ方が紅の豚の空賊みたいです)


 考えていたのは『紅の豚』のことだった。
 ヤオ子の頭の中では、その場面での少女が空賊を説得するシーンが流れ始めていた。
 そして、ヤオ子を置いて話は進む。


 「最悪なのは囲まれちゃうことかな?
  村の方達が包囲されちゃったら、私達だけじゃ守り切れない」

 「そうね。
  岩場を背にして一方向だけに集中させたいわね」

 「そして、出来るなら安全なところまで避難して貰うか?」


 ヒナタが村長を見る。


 「避難出来そうな場所はありますか?」

 「いいえ、特には……」

 「では、私達を信じて岩場を背に移動してくれますか?」


 ヒナタは村長を真剣に見つめる。
 これは相手との意識合わせが成立しないと出来ない。
 そして、村人達がヒナタ達に疑いを持って行動すれば、警護する対象領域が増えることになる。

 また、この作戦を取る以上、ヒナタ達は盗賊を殲滅しなければいけないため、リスクも大きい。
 それでも、相手は盗賊で忍者ではない。
 故にCランクの任務。
 これは、自分達が中忍であるという戦闘能力を信じた作戦でもあった。

 村長が答えを出す。


 「分かりました。
  何より、我が村に撤退の意思はありません」

 「「「は?」」」

 「盗賊は、今回で全滅させるのです!」

 「…………」

 (((この村って好戦的だ……)))


 兎に角、作戦は決まった。
 ヒナタ達は、前回の盗賊達の行動を考え、この後、岩場の上にブービートラップを仕掛けることにした。
 そして、本日の行動が決定した頃、ヤオ子の頭の中では『紅の豚』の最後のエンドロールが流れていた。


 …


 村長との話し合いの間、静かにしていたヤオ子を誰もが任務に従事してくれていると思っていた。
 しかし、それは大きな間違いで、ヤオ子の頭の中では『紅の豚』が回想され続けていただけだった。
 故にブービートラップを仕掛ける時、理由を聞き返したヤオ子に誰もが失望した。

 こうして祭り前日が終わり、祭り当日を迎えようとしていた。


 …


 祭り当日……。
 村の娘達の代わりにヒナタ達が巫女の衣装に袖を通す。
 しかし……。


 「「「どうやって着るの?」」」


 巫女の衣装は、古代風で見たこともない作りの服になっていた。
 そのため、ヒナタもサクラもいのも衣装の着方が分からなかった。

 そんな中で軽快に衣擦れの音を響かせる人間が居る。
 ヤオ子は、いつものサスケカラーの忍衣装の上から巫女の着物を着付けていた。
 サクラが質問する。


 「ヤオ子。
  何で、普通に着れるの?
  この衣装、着こなすの大変よ?」

 「任務で七五三の衣装を着付ける仕事があって覚えたんですよ」

 「じゃあ、私達の衣装も着付けてくれる?」

 「いいですよ」


 ヤオ子は自分の衣装を着込むと、サクラにテキパキと衣装を着付ける。
 続いて、いの。
 続いて、ヒナタ。
 そして……。


 「ハッ! セクハラし忘れた!」

 「「「するな!」」」


 全員からグーが炸裂した。
 ヒナタも段々とヤオ子に突っ込みを入れるのに躊躇いがなくなって来た。


 「ねぇ、ヒナタさん」

 「何?」

 「武器を持たないのは了解なんですけど。
  靴……どうします?
  こればっかりは、戦闘に支障が出ると思うんですけど?」

 「そうだね。
  ・
  ・
  そうだ。
  ヤオちゃんは影分身を使えたよね?」

 「はい」

 「盗賊が現れたら、出せるだけ出してくれないかな?
  そこで盗賊が驚いて動きが止まったら、私達は靴を履き替えるから」

 「なるほど」

 「私達が戻ったら、ヤオちゃんが履き替えて」

 「分かりました。
  それならホルスターは兎も角、腰の道具入れぐらいは付けれますね」

 「うん。
  だから、道具入れは整理し直そうか?」


 ヒナタが全員に振り返る。


 「そうね」

 「ええ」


 サクラといのも賛成する。
 そして、各々、靴を足袋に履き替え、道具入れと靴を取り易い位置にセットする。


 「後は、待つだけね?」

 「まだだよ」

 「?」

 「髪は下ろさないといけないんだって」

 「「「そうなんだ」」」


 サクラは髪を留めていた額当てを外し、いのはポニーテールの髪を解く。
 ヤオ子は……。


 「ねえねえ♪
  見てください♪」


 ポニーテールを髪が流れるように解く。


 「どうです?
  これで男の子はメロメロです♪」


 ヤオ子が悶えるとヒナタは苦笑いを浮かべ、サクラは呆れた目を向ける。
 一方、いのだけが額を押さえる。


 「私、あんなことをしてたのか……」

 「どうしたの?」

 「いや、ちょっとね……」

 「?」


 恐らく、アスマ班とガイ班の人間しか、中忍試験中のいのの行動を知らない。
 そして、全員、巫女の衣装に着替え終わり、少し雰囲気が変わる。


 「何か落ち着いた気分になるね」

 「いい体験かも?」

 「意外と似合ってるわよね? 私達?」

 「あたしは?」

 「…………」

 「何故、沈黙?」


 サクラが腕を組む。


 「何だろう?
  髪も下ろして見た目も変わったのに、いつも通りのヤオ子だわ」

 「多分、締まりのない顔をしているからよ」

 「いのさん、酷い……」

 「試しに真剣な顔をしてみたら?」

 「やってみます」

 「…………」


 真剣な顔をしてみたらしいが、ヤオ子の雰囲気は変わってない。


 「変化ないわよ」

 「困りましたね。
  これがデフォルトみたいです」

 「じゃあ、営業スマイルでもしたら?」

 「それ得意です」


 ヤオ子の目がスゥッ流し目になり、口元が真っ直ぐに結ばれつつも穏やかな静かな笑みを湛える。
 百万ドルの営業スマイルだった。


 「「「うわ~……」」」


 大化けした。


 「別人ね」

 「何で、営業スマイルの方が凛々しいの?」

 「ヤオちゃん、変だよ……」

 「もう少し、神聖さが欲しいわね」

 「そうですか?
  じゃあ、以前勤めた尼寺の僧の雰囲気を」

 (相変わらず幅広く手掛けているわね)

 (尼寺で何をしたのかしら?)


 目じりをやや落とし、背筋を気持ち伸ばすと、ヤオ子の雰囲気が変わる。
 落ち着いた空気の中に神秘性が漂い始めた。


 「どうですか?」

 「「「誰?」」」

 「変ですか?」

 「申し分ないわ……」

 「よかったです」

 「歌もその状態で歌えば?」

 「そうですね。
  どうせ、任務だし。
  Dランクの営業だと思えばいいですね」

 (つまり、村人を騙して歌うわけね。
  特に何の感情も込めずに……。
  ある意味、プロの姿よね……)

 「ヒナタさん。
  歌詞とかあります?」


 ヒナタは、周りを見回す。


 「用意されてないみたい。
  聞いてくるね」

 「待ってください」

 「何?」


 ヒナタが首を傾げる。


 「ヒナタさんはリーダーですよ?
  そんなのは、あたしに言ってください」

 ((ヤ、ヤオ子がまともなことを……))

 「でも……」

 「あたしは、ヒナタさんのそういう優しいところが大好きです。
  でも、ヒナタさんはリーダーです。
  嫌でも班員より上の立場だと認識しないといけません。
  だから、あたし達に命令してみませんか?」


 ヤオ子がいつもの緩んだ顔でヒナタに微笑むと、ヒナタは安堵した表情で頷く。


 「……そうだね。
  適材適所に仕事を振り分けないとね。
  ・
  ・
  ヤオちゃんは村長さんにお伺いを立てて歌の練習。
  その間に私達が実際の舞台で作戦を考えるから」

 「分かりました。
  じゃあ、行って来ます」


 ヤオ子が、更衣室としていた小屋を後にした。


 「…………」


 いつもより落ち着いているヤオ子に驚いて、三人は出遅れた。
 しかし、それも仕方がない。
 ヤオ子のDランクの任務中の姿など滅多に見ない。
 それに冷静な仕事姿を見せるような任務は、大抵がヤオ子一人になる。
 今や雑務に関しては、ヤオ子の仕事に合わす忍を逆に選ぶようになっていたのだ。


 「私達も行こう」

 「そうね」

 「珍しくヤオ子がまともだしね」


 ヒナタ達は湖の特設舞台に移動し、広さや敵の見える位置を確認する。
 そして、村人達を移動させる場所を念入りに検討し始めた。


 …


 ヤオ子の歌の指導をかつての巫女だったお婆さんが担当する。
 指導は、かなり本格的だった。


 「少し違うのォ。
  そこはこう!
  ・
  ・
  ……のぉ~~~お!」

 「……のぉ~~~お!」

 「そうじゃ。
  筋がいいのォ。
  一回で修正するとは」

 「まあ、あたしは木ノ葉では千の雑務をコピーした忍者……。
  雑務版コピー忍者と呼ばれることもありますから」

 「は?」

 「あはは……。
  気になさらず」

 「よく分からん娘じゃな。
  次は、振り付けをするぞ」

 「……え?
  歌うだけじゃないの?」

 「何を言うか!
  神に捧げるのは巫女による神聖な踊りもじゃ!」

 (綱手さん……。
  これ練習期間が必要でしたよ……)


 ヤオ子はギリギリまで歌と踊りの練習をさせられた。


 …


 時間は飛び、日が傾き始め、祭りも終盤に向かう頃……。
 村人達が湖の周りに集まり始めた。
 ヒナタ達は検討した作戦を村長に伝え、村人へ移動するプランを説明して貰った。
 そして、ヤオ子がヒナタ達の元へと戻って来た。


 「遅かったね」

 「ええ。
  結構、神聖な祭りみたいで、今まで歌だけでなく踊りの指導も……」

 「あんた、踊ってたの?」

 「はい」

 「私達も踊るの?」

 「いえ。
  ヒナタさん達は供え物を持って立っているだけです。
  立ち位置は、規則性……等間隔とか三角形とかにすれば、
  今回は目を瞑るってお婆ちゃんが言ってました」


 ヒナタが頷く。


 「うん、分かった。
  じゃあ、打ち合わせ通りにするね」

 「打ち合わせ?」

 「うん。
  舞台に逆三角形にして、ヤオちゃんに真ん中で歌って貰うの」

 「逆三角形?」

 「うん。
  私は白眼があるから、後方からでもヤオちゃんを通り越して村人達を見れる。
  そして、後方の岩壁も」

 「なるほど。
  サクラさんといのさんを前面に置くのは?」

 「万が一の時に村人の近くに置くの」

 「さすがですね」

 「合図も、私が後ろから出すから」

 「はい。
  お願いしますね」


 ヤオ子は、ヒナタが少し頼もしかった。


 「じゃあ、準備を始めようか」

 「はい」


 村人達の気配を感じ、サクラが呟く。


 「それにしても、いきなり本番か……」

 「ヤオ子、大丈夫?」

 「どうだろう?
  結構、踊りは複雑だったし……。
  玄人の目を誤魔化せるかな?」

 「複雑なんだ」

 「はい。
  ・
  ・
  いや、複雑というか流線美を出すのが難しいというか……。
  兎に角、それで時間が掛かりました」

 「…………」

 (拙いかもしれない……)

 (再現出来ないんじゃないの?)

 (早く盗賊が出て来てくれるのを願うしかないわね)


 祭りの最後の催しが始まろうとしていた。


 …


 湖の前の観客席を村人達が埋め、それをヒナタ達が舞台近くの小屋で出番を待つ。


 「じゃあ、そろそろ」

 「ですね」


 サクラといのは供え物の花束を……。
 ヒナタは供え物の食べ物を……。
 ヤオ子は踊りに使う神聖な枝をそれぞれ持っている。


 「皆、最後の確認をするね。
  ・
  ・
  白眼!」


 ヒナタが周囲の状況を白眼の広い視野で確認する。
 サクラが訊ねる。


 「どう?」

 「居る……。
  正面はなし。
  岩場を囲むように近づいて来てる」

 「じゃあ、ブービートラップの餌食ね」

 「うん。
  行動は、悲鳴が聞こえてからにしよう。
  それまでは、お祭りの儀式を続ける」


 全員が頷く。


 「ヤオちゃん。
  しっかりね」

 「はい。
  ・
  ・
  ところで。
  あたしは、全力で擬態しますか?」

 「…………」


 ヒナタ達が首を傾げる。


 「何かな? それは?」

 「あたし、依頼料によって、本気出すレベルを制限しているんです」

 「そ、そうなんだ。
  いつもは、どうやってるの?」

 「綱手さんかシズネさんの指示を貰います」

 「どうしよう……」


 横から、いのが質問する。


 「一番高いランクだと?」

 「別人だって言われますね」

 「一番低いのだと?」

 「空き缶が飛びます」

 「「「じゃあ、一番高いので」」」

 「分かりました」


 ヤオ子の返事に、全員が不安を抱かずにはいられなかった。


 …


 祭りの儀式が始まる。
 サクラといのが花束を持ち、舞台前面の両端に移動し深々と頭を下げる。
 村人の間から、儀式が始まったと歓声があがる。
 続いて、ヒナタが後方の真ん中に立ち、深々と頭を下げる。
 そして、問題児の登場。


 「…………」


 歓声が止む。
 醸し出す雰囲気に静寂が支配する。
 落ち着いた微笑み。
 背筋を伸ばして優雅に歩く姿に誰もが息を飲む。
 ヒナタ、サクラ、いのは思う。


 (((確かに別人だ……)))


 ヤオ子は雑務任務遂行中モードで見事に化けきっている。
 そして、村の楽士が奏でる音楽が響き渡ると優雅に舞い始めた。
 村人の数人は、感動で涙を流し始めた。
 しかし、少女達は知っている……。


 (あの舞いには、何の感情も込められていないのよね……)

 (あの笑顔も、営業スマイルなのよね……)

 (何だろう……。
  真実を知っているから悲しい……)


 ヤオ子の歌が響く。
 清流のような旋律。
 波紋のように広がる温かさ。
 どれもこれも擬態だ。
 少女達は、涙が出て来た。


 (村人全員が騙されてる……)

 (いつものアニソンを熱唱してる声と違う……)

 (これがプロの雑務処理の仕事ぶりなのかな……)


 ヤオ子に歌と踊りを教えたお婆さんが何かを叫んでいる。


 『おお……その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし……。
  失われた大地との絆を結び、
  ついに人々を清浄の地に導かん……』

 (ナウシカ?)


 ヤオ子は歌い踊りながら、お婆さんの言動を気に掛ける。


 『また、婆ちゃんのナウシカ好きが始まった』

 『ほっほっほっ!』


 その声にこけそうになるが、ヤオ子は気合いで堪える。
 ヒナタ達も眉を顰める。


 (何なんですか! この村は!
  村長は好戦的で、お婆ちゃんがナウシカ好き!
  ・
  ・
  盗賊さん……早く襲って)


 しかし、盗賊が中々現れない。
 ヤオ子の歌と踊りは、最後の方に差し掛かる。


 (来ないのかな?)


 ヒナタが供え物で顔を隠し、白眼を発動する。


 (盗賊に動きが……ない?
  ・
  ・
  トラップは?
  ・
  ・
  作動してない。
  トラップの前で止まってる。
  何で?)


 更に白眼は、盗賊にアップする。


 (……泣いてる。
  ……盗賊も騙されてる)


 ヤオ子が絡むと予想外のことが起きる。
 盗賊の動きが止まって、ブービートラップが発動しないでいた。


 (困ったな……。
  こんなに広範囲に居られると、こっちも攻められない)


 仮に岩場の何処かを攻めれば、別の岩場から村人が襲われる。


 (これはヤオちゃんが歌い終わるまで、戦闘はないかもしれない……)


 ヒナタは動きのない今のうちに、岩場の盗賊の人数の割り振りを確認する。


 (岩場を囲んでいるなら、逆に村の入り口に誘導した方が安全だ)


 白眼の意識を後方から全体へと移動し、ヒナタは作戦を練り直す。


 (盗賊に気付かれずに避難場所を変えるには……)


 地形、盗賊の位置、安全させるのに最適な場所……。
 それらを導き出すと、ヒナタは擬態中のヤオ子に声を落として話し掛ける。


 「ヤオちゃん。
  聞こえたら合図を返して」


 ヤオ子が踊りの予定を変更して回転を加える。
 村人に背を向けると印を組む。
 すると、何かが水に落ちる音がして、ヒナタの足元からノックが聞こえる。


 「影分身を水中に落としました。
  何かありました?」

 「……影分身。
  そんな使い方も出来るんだ」

 「ええ。
  少しなら出せる範囲をコントロール出来るんです」

 「そう、助かった……。
  これなら、皆に作戦の変更を伝えられる」

 「変更?」

 「盗賊はヤオちゃんの踊りに見惚れてるの。
  だから、村人を岩場から入り口付近に移動するように変える」

 「入り口?」

 「私達が入り口に移動すると盗賊は焦ると思うんだ」

 「でしょうね。
  目的が逃げるんですから」

 「そうすると注意力が散漫になって、
  追って来た盗賊がブービートラップに掛かると思うんだ」

 (そうか。
  誘導を攻撃に利用するんだ)

 「初めからこうすればよかったですね」

 「それは結果だよ。
  盗賊が岩場から来るのは分からなかったんだから」

 「そうでした。
  ・
  ・
  では、あたしは舞台下からサクラさんといのさんに連絡をします。
  そして、猫にでも変化して村の方にも連絡します。
  最後に影分身を解けば本体にも情報が行きます」

 「待って。
  本体にも連絡。
  その後、小屋に戻って私達の荷物を持って移動して。
  十分な距離が確保できてから、装備を換えるから」

 「了解です。
  では、作戦開始の合図をお願いしますね」

 「うん。
  ヤオちゃんもしっかりね」


 影分身は舞台下の水面下を移動して、ヤオ子→いの→サクラの順番で連絡をする。
 その後、猫に変化して村長のところまで移動して作戦変更を伝える。
 この時、好戦的な村長が唇の端を吊り上げた。
 彼は、自分達も作戦の一端を担えることに歓喜したのだ。
 一抹の不安を抱えながら、影分身は小屋に辿り着くと変化を解いて荷物を纏めてヒナタの合図を待った。


 …


 ヤオ子の歌と踊りが終わり、最後に丁寧なお辞儀をする。
 その瞬間にヒナタが合図を出す。


 「作戦開始!」


 村人達が村の入り口に向けて走り出す。
 囮役のヒナタ達も遅れて走り出し、影分身は村人に紛れ込んだ。


 『バレてるぞ!』

 『巫女が逃げたぞ!』


 盗賊達が一斉に動き出す。
 瞬間、凄惨な悲鳴が響き渡る。


 「ヒナタ、作戦成功ね!」

 「うん!
  これで何割かは減ったし、動揺して動きも止まるはず!」


 影分身が荷物を持って引き返す。


 「靴と道具入れです!」


 荷物を置いて役目を果たすと影分身は煙になって消えた。
 ヤオ子を除くメンバーは、靴と道具入れを身につける。


 「あたしは、引き続き囮をします」


 ヒナタが頷くと指示を出す。


 「三方向で撃退するよ。
  ヤオちゃんは、私と中央。
  サクラさんが右。
  いのさんが左」

 「了解」

 「分かったわ」


 サクラといのが巫女の衣装を脱ぎ捨てる。


 「じゃあ、影分身を使うのはヤオちゃんだけど、私達も印を結ぶよ。
  私達が分身を出して囮を隠したって思わせるの」


 ヒナタも巫女の衣装を脱ぎ捨てると前に出る。


 「「「「影分身の術!」」」」


 ヤオ子の影分身に合わせてヒナタ達のカムフラージュの影分身のフリ。
 中央のヒナタの隣に一体。
 右側のサクラの後ろに二体。
 左側のいのの後ろに二体。
 ヤオ子の影分身が五体現れた。


 「散!」


 ヒナタの合図で三方から、盗賊撃退が始まった。


 …


 盗賊達は混乱している。
 巫女と思っていた四人のうち三人が忍者で、残りの一人も分身により本物を隠されてしまったからだ。


 『っ!
  兎に角、どれか一人が本物だ!』


 正体を曝して、ヤオ子と影分身を庇ったことで盗賊達は完全に誤解したようだ。
 村人よりも巫女の姿をしたヤオ子と影分身に視線が集中している。


 『今年の巫女は桁違いなんだ!
  失敗するな!』

 『『『『『オー!』』』』』

 「…………」

 (悲しい勘違いね……)

 (まさか巫女の正体が変態だとは思うまい……)

 (何で、この人達は女の子に……)

 (やり過ぎて、自分への危険度上げてない?)


 勘違いと狂気の中で戦いは続く。
 ヒナタの柔拳が流れるように盗賊達に当たり、一見、触れただけだがバタバタと盗賊が倒れていく。
 ヤオ子は思った。


 (ヒナタさんが通った後に道が出来たみたいです……)


 サクラの怪力が発動し、振り抜かれた拳が一人の盗賊に当たると弾丸のように吹っ飛んでいく。
 その盗賊は味方を巻き込んで岩壁にぶち当たると、糸が切れた人形のように首を折って気絶する。
 影分身のヤオ子は思った。


 (サクラさんが殴り飛ばした後に道が出来たみたいです……)


 いののクナイが華麗に振り抜かれる。
 低い姿勢で足の腱やクナイの後ろの突起部分で鳩尾を狙い撃ちにする。
 ヤオ子の影分身は思う。


 (いのさんが一番普通に見える……。
  クナイを用いた忍体術。
  そして、捕獲ということから命を奪わない。
  ・
  ・
  前の女子二人はやり過ぎの感を否めない……)


 ヤオ子と影分身は見ているだけで、やることがないといった状態だった。
 そんな中で先行しているヒナタからサクラへ指示が飛ぶ。


 「サクラさん!
  外に開き過ぎ!
  そこだと村の人に抜けちゃう!」

 「了解!」


 サクラが位置を修正し、戦線を指示された大きさに戻す。
 大多数を相手に少人数で戦線を維持するため、白眼を利用したヒナタの指示が何度か飛ぶ。
 サクラといのとヤオ子は気付き始めた。


 (((行動しやすい……)))


 白眼の視野は、ほぼ360°。
 敵の位置を把握して的確な指示が飛び、間違った情報がない。
 また、ヒナタが出す指示にもちゃんとした根拠があって、指示された側も理解できる。
 つまり、班員は安心して自分の敵と向かい合えるのである。


 (なるほどね。
  部隊長ヒナタか……。
  乱戦で戦うのに真価を発揮するのかもしれないわね)

 (敵の位置、味方の位置、全てを把握できる白眼。
  ヒナタが部隊長なら、指示が一回で済む。
  もし、ヒナタが班員なら、一度、部隊長に指示を仰がなければいけないけど、
  それは時間が掛かるし、緊急時は出来ない。
  ・
  ・
  ヒナタだけじゃない。
  部隊長に日向の人間を置く。
  これは結構、安心して戦える構成かもしれない)

 (ヒナタさんって、やる時はやるんですね。
  内気だから指示出せるのかと思っていたけど、切り替えるんですね。
  それに気のせいかサクラさんといのさんが、伸び伸び戦っている気がします)


 ヒナタが盗賊の一振りを躱すと髪の毛が数本舞う。
 それを気にせず柔拳を叩き込むと、再度、全体を把握する。


 (この人数なら……)


 ヒナタがヤオ子に指示を出す。


 「ヤオちゃん、参加して!
  この人数なら、後は殲滅戦!
  村の人まで抜かれない!」

 「了解です!」


 ヤオ子と影分身が巫女の服を脱ぎ捨てる。


 『こいつも忍者なのか!?』

 『じゃあ、今年の祭りは……』


 何故か村長が高らかに笑う。


 「はっはっはっ!
  愚か者共め!
  今年は、お前達が狩られる番じゃ!」

 ((((台無しだ……))))


 ヒナタ達は少しやる気を削がれたが、戦いを続ける。
 ヤオ子の参加で少しだけ攻める勢いが増す。
 そして、ヤオ子が参加したことで、いのの戦闘スタイルが変化する。


 「ヤオ子! 足止め!」

 「足止めって……。
  あたしだけ足袋で、若干、動きに難いんですけど……どの敵?」

 「出来るだけ一番強い奴!」

 「アバウトですね……。
  ・
  ・
  でも、期待には応えなきゃね!」


 ヤオ子の両手の指からチャクラ糸が伸びる。
 現在の限界5m。
 チャクラ糸がウネウネと拘束するための下準備の動きを始める。


 「今こそ! 貧乏少女が培ったあやとり技術を披露する時!」


 ヤオ子の指から伸びたチャクラ糸が盗賊の両手両足と近くの岩に絡みつく。
 そして、手を握り込む。


 「LES ART MARTIAUX!」


 チャクラ糸がピンと張り、盗賊を拘束した。


 「今です!」

 「何か不気味な術ね……。
  ・
  ・
  こっちも試したかった術で!
  心乱身の術!」


 いのが特殊な印を結び、術を拘束した盗賊に叩き込む。
 一瞬、盗賊は分からないという顔をする。


 「ヤオ子! 解放して!」

 「え?
  折角、捕らえたのに?」


 ヤオ子がチャクラ糸を切ると、解放された盗賊がいのの心乱身の術で同士討ちを始めた。


 「これで戦力が増えたわ」


 ヤオ子が盗賊を確認すると、盗賊は『体の自由が利かない』と叫びながら同士討ちを続けていた。


 「どうなってんの?
  幻術ですか?」

 「ちょっと、違うわね。
  心乱身の術は、秘伝忍術だからね」

 「確か心転進は精神エネルギーをぶつけるんですよね?
  心乱身の術は精神を保っていられるんですか?」

 「まあね」

 (どんな術なんだろう?
  相手のチャクラをコントロールして幻を見せたりするのが幻術。
  精神をぶつけて自在にコントロールするのがいのさんの秘伝忍術。
  幻術は、所詮、幻。
  いのさんの術は相手を操る。
  ・
  ・
  原理は似ていると思うんですよね。
  幻覚なら視覚関係の器官をチャクラでコントロール。
  いのさんの術なら、敵と認識する器官に精神エネルギーを流し込んでコントロール。
  ・
  ・
  送り込んでいるのがチャクラではなく、
  精神エネルギーというところがポイントなんですかね?
  自分の意志のエネルギーを送り込んでいるから操りやすい……。
  ・
  ・
  精神エネルギーを送り込むのは秘伝なんでしょうね。
  恐らく普通は、身体エネルギーを混ぜ合わせてチャクラにしてパワー不足を補って幻術としてしか利用できない。
  しかし、チャクラでは幻術止まりで相手を支配するところまでいかない。
  その出来ないことを出来るようにしたから秘伝忍術になる。
  ・
  ・
  まあ、予想だからここまでですね。
  あれ?)

 「…………」


 思考の途中で、ヤオ子はある事に気付き沈黙する。


 「どうしたのよ?」

 「あの……。
  その術に掛かった盗賊が味方の盗賊を殺す勢いで同士討ちを……。
  捕獲するんじゃ……」

 「…………」


 いのの視線が盗賊を追う。


 「しまった!」


 いのとヤオ子の影分身は、大慌てで暴走した盗賊を殴って気絶させた。


 「そ、その術はなしにしましょう……」

 「そ、そうね……」


 一部混乱はあったが、盗賊との戦いは順調に進んでいく。
 倒した数では、ヒナタが頭一つ抜きん出た感じだ。
 戦闘のスタイルを考えれば当然かもしれない。
 この班には全体攻撃出来るような術を持つ者が居ない。
 そして、戦闘スタイルでは、ヒナタが体術のスペシャリストで近接タイプ。
 サクラも近接タイプと言えるが、綱手直伝の怪力は一発が大きいが連続攻撃向きとは言えない。
 連続で使用すればチャクラが底を着く。
 そうなると戦い方は、基本忍体術が主になる。
 これは秘伝忍術を使わない、いのに対しても同様のことが言える。
 とはいえ、相手は盗賊で忍ではない。
 数は多くても三人で十分だった。


 「ふふふ……。
  つまり、あたしはおまけです」


 ヤオ子の見せ場はなかった。
 その分、今回はヒナタ達の戦い方が目に焼きついた。


 「あたしの基本動作とスタミナ面は問題なさそうな感じです。
  しっかりと向上しています。
  皆さんに余裕で着いて行けますから。
  ただ、その間に皆さんに置いてけぼりにされたことが明確になりました。
  ・
  ・
  個性です。
  ヒナタさんなら、白眼と柔拳。
  サクラさんなら、怪力と医療忍術。
  いのさんなら、秘伝忍術と医療忍術。
  個性が出れば、班の組み合わせの選択肢が増えます。
  ・
  ・
  あたしは、どうでしょうか?
  基本動作とスタミナ面の強化が主で個性と呼べる手段がありません。
  これは、今後の課題と言えるでしょう。
  あたしは、やっとスタートラインに立った段階です。
  ・
  ・
  でも……いえ、きっと。
  焦っちゃいけません。
  基礎が出来て初めて個性を伸ばすことが出来るはずです。
  正直、サスケさんと会ったばかりのサクラさんは、何かに特化した忍者ではなかったはずです。
  この二年半に自分の個性を身につけたんです。
  ・
  ・
  あたしは、何を伸ばすべきなのか……。
  ヒナタさんやいのさんのように一族秘伝というものがありません。
  サクラさんは、どうやって個性を磨いたんでしょう?
  これからは個性を磨かないと、 あたしは……あの人達に追いつけないし追い越せない」


 ヤオ子は盗賊達を倒し切って堂々としている少女達の背中を見て、少し悔しさが込み上げた。
 言葉にしたように理解もしている。
 生まれて来た時間も違うし、努力に充ててきた時間も違うのだ。


 「サスケさん……。
  ヤマト先生……。
  ・
  ・
  あたしは忍者として負けたくないと思い始めています。
  今更ですが、忍者を真剣に目指すというの厚かましいでしょうか?」


 ヤオ子にとっては、少し忍者としての意識が芽生えた任務だった。


 …


 村人達に歓声があがる。
 二年間、悩ませていた盗賊達が居なくなったためだ。
 盗賊達は、ヒナタ達の手で一人残らず縛られている。
 そして、怪我をした者はサクラといのの医療忍術で治療も終えている。
 全てが終わり、村長がヒナタの手を取る。


 「ありがとうございました」

 「いえ、問題がなくなってよかったです」

 「いい……戦いでしたァ」

 「は、はい?」

 「盗賊も問題でしたが……。
  あなたの戦いには血沸き肉踊るものがありました!」

 「そ、そうですか?」

 「はい!
  そして、あなた!」

 「わ、私!?」


 サクラがビクッとする。


 「いい……パンチでしたァ。
  人って、本当に飛ぶんですね」

 「あ、え、その……まあ」

 (あれはサクラにしか無理よ……)

 (もし、サクラさんがガイ先生から剛拳を覚えたら、どうなるんだろう?)

 (綱手さん、そっくりになっちゃいましたよね……)


 ヤオ子といのの視線が合う。


 「あたし達には感動しないでしょうね」

 「多分ね。
  私らは、特化した体術の技術はないし」


 案の定、村長は延々とヒナタとサクラを褒めちぎっていた。


 「少し寂しいですね」

 「まあ、私の能力が求められれば、逆の立場になるんじゃない?」

 「そうですね」


 ヤオ子は自分にはないものに胸を張れるいのに視線を落とした。


 「どうしたの?
  少し元気ないじゃない?」

 「あたしは、まだ個性がないから」


 いのがヤオ子の様子を見て微笑む。


 「生意気ね。
  もう、そんなことを考えてるの?」

 「今日、皆さんを見て感じました」

 「ヤオ子は、性格は個性的だけどね。
  ・
  ・
  多分、これから切っ掛けと出会うわよ」

 「そうですか?」

 「うん。
  私は、一族の秘伝忍術を伸ばしたいと思ってる。
  任務をこなして自分の術の重要性も理解できたしね。
  理解したのが切っ掛けかもしれないわ」


 ヤオ子は羨ましそうに、いのを見る。


 「そういうのってカッコイイですね」

 「そう?」

 「はい」

 「早く見つかるといいわね。
  ヤオ子の個性」

 「はい。
  いのさん、ありがとう」


 いのとヤオ子は微笑み合った。


 …


 任務は無事に終わり、盗賊達は連行された。
 彼等の行き先は、火の国か木ノ葉か?
 何処で裁かれるのかは分からない……。

 そして、任務を終えて綱手への報告……。
 側ではシズネも控えている。
 切り出しは、綱手の労いの言葉からだった。


 「ご苦労だったな」


 綱手が依頼主の任務結果を読むと、偏った結果の感想を漏らす。


 「ヒナタとサクラが高評価だな?」

 「その……村長さんが好戦的というか」

 「簡単に言うとバトルマニアみたいな人でした」


 サクラの補足に、綱手は苦笑いを浮かべる。


 「何か問題はあったか?」

 「いえ、特には」

 「そうか。
  では、各自休暇を取れ」

 「「「「はい」」」」


 その後、ヒナタとヤオ子と別れると、サクラといのが綱手の居る部屋へとこっそり戻る。
 早速、綱手が質問する。


 「ヒナタは、どうだった?」

 「心配するようなことは、何もありません」

 「ええ。
  ・
  ・
  どちらかと言うと、ヒナタの部隊長としての資質を見せつけられました」

 「資質?」

 「日向家特有の白眼。
  そこから下された指示されたに、安心感がありました。
  また、今回は人数が多かったので村人への被害も心配しましたが、全てヒナタが指示してくれました」

 「そうか。
  ・
  ・
  どうやら、老婆心だったようだな」

 「安心しましたね」

 「何も問題がなくて何よりだ」



 綱手は安堵の息を吐いた。
 しかし、いのが手を上げる。


 「あの……。
  問題がなかったことが問題だった……というべきなのかな?
  ヤオ子が少し静か過ぎました」

 「そういえば……」


 サクラも思い返す。
 綱手が信じられないという感じで、いのに聞き返す。


 「ヤオ子が、何も問題を起こさなかったのか?」

 「ええ。
  それどころか真剣に将来を考え始めていたというか……」

 「…………」


 いのの言葉に誰もが言葉を失う。


 「いいことだな……」

 「ええ……」

 「そうですね……」

 「…………」


 ヤオ子の性格と行動が一致しない。
 綱手は、続きを促す。


 「将来の何を考えていたんだ?」

 「忍者としての個性を見つけたいと言っていました」

 「…………」


 再びの沈黙。


 「いいことだな……」

 「ええ……」

 「そうですね……」

 「…………」


 綱手が腕組みをする。


 「もしかしたら、ヒナタではなくてヤオ子の転機になったのかもしれないな。
  今回の任務で中忍と下忍の実力差を見せ付けられたのだろう」

 「でも、ヤオ子ちゃんの目指す忍って、どんなものでしょうか?」

 「サスケ君……じゃないですか?
  あの子、サスケ君と修行していた時期もあったみたいだし」

 「本当なの、サクラ?」

 「まあ、話を聞くとサスケ君の勘違いだった節もあるんだけど、
  火遁の術とかをサスケ君から教わったみたい」


 正確には強制的に覚えさせられた。


 「そういえば、ヤオ子も火遁を使えたわね」

 「ヤオ子の目指す忍の着目点も、一応あるんだな。
  ただ、普段があれだから、まだよく分からんな」


 シズネがヤオ子のフォローを入れる。


 「ヤオ子ちゃんが変なので忘れがちですが、ヤオ子ちゃんって勤勉だと思いますよ。
  ガイ班と結構、修行していますし」

 「そういえば、アスマ班にも時々……」

 「神出鬼没ね……」

 「統計を採るとどうなるんだ?
  ヤオ子は、どんな忍びを目指していそうなんだ?」

 「ガイ班だと体術。
  紅班だとシノの秘伝忍術を観察体験……ヒナタの柔拳かキバの擬獣忍法。
  アスマ班だとシノ同様に秘伝忍術を観察体験です。
  ・
  ・
  統計なんて取れませんね」

 「じゃあ、その中でヤオ子が憧れるのは?」

 「ガイ先生……かな?」

 「やっぱり、サスケ君じゃない?」

 「……分からんな」


 結局、ヤオ子がどんな忍者を目指しているのかは見当がつかなかった。
 ここで、綱手が話を終わらせる。


 「分からないものを考えても仕方ない。
  そして、ヤオ子にいい傾向が見れた。
  課題であったヒナタの気持ちの問題もなかった。
  話は、ここまでにする」

 「「「はい」」」

 「二人とも、ご苦労だった」


 サクラといのが部屋を出た。
 そして、シズネが綱手に話し掛ける。


 「皆、大人になっていくんですね」

 「ああ。
  私達が気を遣ったのが馬鹿らしいくらいに成長していた。
  力も心も……。
  ヒナタは、一人前の忍だった。
  ・
  ・
  そして、今度は、ヤオ子が続くのだろうな。
  だから、言動に変化が出たんだろう」

 「はい……」


 綱手とシズネは、里の中で起きている小さな成長を感じ取ると満足そうに微笑んだ。
 それは二人が木ノ葉に戻って来てからの成果の一つに違いなかった。


 …


 ※※※※※ 番外編 ~IF・あの人達がヒナタにデレデレだったら~ ※※※※※


 ガイ班……上忍のガイ、原作二部で上忍になるネジ、中忍のリーとテンテン。
 上忍二人に中忍二人の班構成は、かなりの戦力と見ていいだろう。
 また、機動力と体術に秀で、ネジの白眼で広範囲の索敵が行なえるガイ班に重大な任務が任せられることも多い。
 そして、その日もガイ班では大きな任務が終わったばかりだった。
 しかし、そこに日向ネジの姿は、既になかった。


 「テンテン。
  ネジは、何処に行ったんですか?」

 「さあ?
  任務が終わったら、直ぐに居なくなったわ」


 テンテンの答えを聞いて、リーが考える。


 「何かあったのでしょうか?」

 「さあ?
  ・
  ・
  ただ、あの目は見たことがあるわ……」

 「?」

 「リーの手術結果を聞きに行くって、
  全速力で里に戻って来たガイ先生と同じ目だった……」


 ネジは、何の用だったのか?


 …


 全力で移動していたネジが、待ち合わせをしていた人物を白眼で捉えると方向を変える。
 そして、件の人物の横に到着すると話し掛けた。


 「申し訳ありません。
  任務のため、遅くなりました」

 「うむ……」

 「様子は、どうですか?」

 「大丈夫だ。
  今からだ」


 ネジが胸を撫で下ろす。


 「ヒアシ様は、お仕事の方は大丈夫なのですか?」

 「今日のために全て断った」

 「…………」


 ネジは行動の極端さに押し黙った。


 「なんせ……。
  可愛いヒナタの初隊長任務だからな」

 「…………」


 ネジは、一瞬、固まった。
 しかし、日向ヒアシの言葉にネジも本音が漏れた。


 「私も……任務が終わったあと、
  全速力でヒナタ様の勇姿を見るべく馳せ参じた次第です」

 「そうか」


 日向の宗家と分家の和解をしてから、ネジと宗家当主のヒアシはかなり打ち解けていた。


 「しかし、ヒアシ様……。
  ヒアシ様は、ヒナタ様を見限ったのではないのですか?」


 ヒアシは目を閉じ、拳を握る。


 「何処に……。
  何処に自分の子供が嫌いな親が居るだろうか?」

 「ヒアシ様……?」

 「私だって……。
  私だって可愛いヒナタにあんなことはしたくなかった。
  しかし、優し過ぎるヒナタのために身を切ったのだ」

 「『獅子は、我が子を千尋の谷に突き落とす』と言いますが……。
  それを実践されたのですか?」

 「そんなものではない。
  私は、ヒナタにもハナビにも立派な忍になって欲しいと思っている。
  だが、ヒナタは優し過ぎる……。
  自分に自信がなさ過ぎる……。
  ・
  ・
  だから、私以外に褒められるところがない宗家ではなく、下忍として修行をさせたのだ。
  家族以外の者もヒナタを信頼してくれる……褒めてくれる……。
  師が……友が……。
  そんなところに身を置き、成長して欲しかったのだ」

 「ヒアシ様……」

 「私だって……。
  私だって、ヒナタやハナビに『パパ』と呼ばれたい時もある!」

 「ヒアシ様?」

 「宗家の当主だから、仕方なく厳しく躾けているだけなんだ!
  本当は、ヒナタもハナビも溺愛したい!」

 「ヒアシ様!?
  気を確かに!」


 ヒアシは森の中で興奮して叫んでいた。


 「す、すまん……。
  つい、本音が……」

 (実は親馬鹿だったのか……)


 ヒアシが隠れている茂みに手を掛け、身を乗り出す。


 「もう少し、近づきたいな。
  だが、これ以上はヒナタの白眼の領域に入ってしまう」

 「我々の方が白眼の使い手として勝っています。
  この距離ならヒナタ様に気付かれませんし、ちゃんとヒナタ様の任務を確認できます。
  安心してください」

 「そ、そうだな。
  親として、どっしりと構えて見守らねばな」

 「はい」

 (既に取り乱した後ですが……)


 ネジとヒアシのヒナタ初隊長任務を見守る会が始まった。


 …


 ネジとヒアシが、同時に声をあげる。


 「「あ!」」

 「ヒナタ様です!」

 「ふ……。
  流石、我が娘だ。
  何を着ても良く似合う」

 (本当は、こんな人だったのか……。
  最近になって打ち解けたから、全然、気付かなかったな……)


 ヒナタの巫女の装束に、ヒアシの顔は緩みっぱなしだった。
 そして、ヤオ子が歌い舞い始める。


 「出来れば、あの役をヒナタにして欲しかったな……」

 「ええ……」


 ネジも宗家と和解してから、素直にヒナタを見守れるようになった。
 ヒナタ自身が、ネジを『兄さん』と変わらずに慕っていてくれるのが嬉しかった。
 そのせいかネジも贔屓目で見てしまう。
 さっきのヒアシの娘贔屓の意見に自然と同意していた。


 「ところで、今、舞っているのは誰だ?」

 「分かりませんね」


 ネジ、ヤオ子の擬態に気付かず。


 「恐らく村の娘でしょう」

 「そうか」

 「舞えばヒナタ様の方が可憐に決まっています」

 「そうだな」


 ネジの言葉もおかしくなって来た。
 そして、ヒナタ班の作戦が始まる。
 ネジとヒアシが固唾を呑んで見守る。


 「ヒナタ! 頑張れ!」
 「ヒナタ様! 頑張ってください!」


 ある森の一角で、男二人の応援が木霊する。
 近くに居れば、明らかに気付かれる大きさ。
 本当に日向家で良かった。

 そして、作戦は見事に成功する。
 村人達を一人残らず、安全な入り口付近に誘導した。


 「「よし!」」


 崖の上では、半数の盗賊がブービートラップに引っ掛かった。


 「やりますね」

 「うむ。
  誘導と罠の二重作戦だ。
  見事だな」


 ネジとヒアシの顔は緩みっぱなしだ。
 そして、その後もヒナタは的確な指示で隊員達を導き、村人のところまで通さない。


 「ふ……。
  圧倒的ではないか。
  我が娘の力は」

 「ええ。
  危なげなく見えます」


 しかし、次の瞬間、ネジとヒアシの顔が怒りに歪む。


 「見たか?」

 「はい」

 「あの賊……。
  可憐なヒナタの髪の毛を切りおった!」

 「許せない蛮行です!」

 「アイツらは柔拳でヒナタに触れて貰うだけでも、万死に価するというのに……!」

 「全くです!」


 文字通り柔拳で触れられ、万死に価する苦しみにもがく盗賊が転がっているが無視される。


 「どうしてくれようか?
  直接、命を摘み取るか?」

 「ここは我慢です!
  気持ちは分かりますが、ヒナタ様の晴れ舞台が潰れてしまいます!」

 「では、任務が終了して護送中に襲うか。
  不慮の事故なら誰も文句は言うまい」

 「助太刀します」


 そして、作戦も終盤に差し掛かり、ヤオ子が巫女の衣装を脱ぎ捨てて正体を曝した。


 「あの巫女……。
  ヤオ子だったのか」

 「知り合いか?」

 「ええ。
  下忍の者です」

 「さっきは、気が付かなかったな?」

 「髪と服が普段と違ったもので……。
  ・
  ・
  それにどんな服を着ても、品位が滲み出てしまうヒナタ様と比べるのは可哀相ですよ」

 「それもそうだな」


 ヒアシ納得。


 「後、数人ですね」

 「ああ。
  ・
  ・
  終わったな」


 作戦は無事終了し、盗賊達が次々に捕らえられて行く。


 「ネジ。
  さっきの盗賊だけは見逃すなよ」

 「分かっています」


 しかし、二人は世にも恐ろしいものを目撃することになる。
 ヤオ子が盗賊を縄打ちする前に、股間を踏み潰して気絶させてから縛り上げて行ったからだ。


 「……い、今のくノ一は、ああやって気絶させるのか?」

 「……少なくともテンテンはしません」


 そして、二人が目を付けていた盗賊も例外なく股間を潰された。


 「…………」


 二人の頬を冷たい汗が流れた。


 「……許してやるか」

 「……そうですね」

 「…………」


 ヤオ子の容赦ない行動は、日向の当主をも震え上がらせた。


 「ま、まあ、とりあえず……。
  ヒナタの(髪の毛の)仇を打った下忍の娘は、
  今度、家に招待して手厚くもてなそう……」

 「そうですか……」


 こうして、ヒナタ初隊長任務を見守る会は終了した。


 …


 ネジとヒアシは、のんびりと並んで木ノ葉へと向かって歩いている。


 「こうして任務を確認するのは久しぶりだったな」

 「ひょっとしてヒナタ様の初任務の時も?」

 「ああ」

 「…………」


 辺りには、穏やかな空気が流れている。
 その空気を作り出しているのは、ヒアシに他ならない。


 「ネジ。
  お前の初任務も確認したよ」

 「え?」

 「弟の……ヒザシの息子だからな。
  嫌われているのは知っていたが、
  お前のことを見守り続けることが約束のように思えていたから……」

 「……ありがとうございます」

 「尤も、お前は優秀過ぎて見守る甲斐がなかったよ」


 ヒアシの微笑みにネジも微笑む。
 二人は、空を見上げた。
 空を寄り添うように二羽の鳥が飛んでいた。
 まるで、今の宗家と分家のように……。



[13840] 第62話 ヤオ子と一匹狼①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:57
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 (不覚を取った……。
  出血が止まらない……。
  力を込めても激痛しか走らない……。
  そのくせ、体は一向に前に進まない……。
  血と共に命が抜け出るようだ……。
  ・
  ・
  ……ん?)


 彼の上に影が落ちる。


 (誰だ?
  子供?
  女?
  ・
  ・
  何しやがる!
  ・
  ・
  そいつは口をモゴモゴと動かしたあと、緑の粘液を俺に吐き掛けた。
  死ぬにしても、これはない……。
  オレは情けなくなって繋ぎ止めていた意識を自ら手放した)



  第62話 ヤオ子と一匹狼①



 (手が温かい……。
  温度を感じるということは生きている証だ。
  腕に巻かれた包帯も見える。
  誰かが手当てをしてくれたに違いない。
  ・
  ・
  思い当たるのは……あのガキだ。
  礼だけは言わなければな)


 彼は、口を開こうとする。


 「ニチャ……」


 彼の口で、何かが糸を引いた。


 (『ニチャ』って何だ……。
  オレは、介抱されたんだよな?)


 覚醒した意識に味覚が戻ってくる。


 (口の中が……。
  変な味がする……。
  粘々する……。
  意味が分からない……。
  ・
  ・
  ひょっとして地獄にでも落とされて、赤鬼とかに拷問されている最中か?
  最初は地味なところからって、口の中に得体の知れない物体を放り込まれて……。
  ・
  ・
  ないない……。
  兎に角、口を漱ぎたい……)


 そこに影が落ちる。
 彼は、影を落とした人物に目を向ける。


 「気が付いたみたいですね?」

 (あのガキだ……。
  一体、何をしてくれたんだ?)

 「分かりますか?
  あたしは、八百屋のヤオ子です。
  ヤオ子って、呼んでくださいね」

 (地獄ではないらしいが、全てはコイツの仕業に違いない)

 「洗面器に水を入れて来ました。
  口をクチュクチュしてください」

 (丁度いい。
  口を漱ぎたいと思っていたところだ)

 「死にそうだったから、無理やり兵糧丸と増血丸を流し込みました」

 「…………」

 (この口の粘りの正体は、それか……。
  飲み切れなかった丸薬が口に残ったんだ……。
  一体、どれだけ流し込んだんだ?)


 彼は、言われた通りに洗面器の水で口を漱ぐ。


 「偉いですね。
  よく出来ました」

 (その舐めた口の聞き方をやめろ)

 「包帯も取り替えますね」


 ヤオ子が彼の手を取り、ゆっくり包帯を巻き取っていく。
 直に傷口の上に緑色のガーゼが見える。


 (何だ? この得体の知れないものは?)


 ヤオ子は、彼の疑問が分かると答える。


 「傷に良く効く薬草です。
  ただ、一定の温度と唾液の中に含まれる酵素を混ぜ合わせる必要があるんで、
  口の中で噛んでから塗りつける必要があります」

 (それで昨日のあれになるのか……)


 ヤオ子が、ガーゼを剥がす。


 「凄いですね。
  もう傷が塞がり掛けています」

 (当然だ。
  オレの野性の力を甘く見るな)

 「でも、背中に刺さった手裏剣の傷は深いですからね。
  まだ無理できませんよ」

 (確かに……。
  ミリ単位で動いても痛い……)

 「とはいえ、無理にでも消毒しないといけませんがね」

 (鬼か……。
  でも、生き抜くためには、このガキの力がいる……。
  我慢するしかない……。
  お嬢ちゃん……スパッとやってくれ!)


 ヤオ子が包帯を外した後に、血と薬草に染まったガーゼに手を掛ける。


 「いきますよ。
  男の子です。
  我慢しましょう」


 ペリッと慎重に剥がした音がすると、彼に激痛が走った。


 (正直……。
  少し涙目だ……)

 「毛も少し抜けたけど、不可抗力です」

 (そうなると思ったよ……。
  しかし、思ったより痛くなかったな……)

 「まあ、縫合するのに傷口周辺は剃っちゃったんですけどね」

 (何てことをしやがる!)

 「は~い。
  我慢してくださ~い」


 ヤオ子は背中の傷口をぬるま湯で丁寧に拭いたあと、蒸したタオルで煮沸消毒する。


 (ぐあっ!)


 彼は思わず両手両足を伸ばす。
 更にヤオ子は、口に含んでいた薬草を吐き掛ける。


 「はい。
  包帯を巻き直しますよ」


 ガーゼを被せ、包帯を巻き直す。


 「おしまいです。
  腕は、もう大丈夫だと思いますが、無理は禁物ですよ」

 (痛くてお礼も言えない……)


 ヤオ子が自分の口を漱ぎに席を立った。
 直に残された彼の傷口がポカポカとしてくる。


 (気持ちいい……。
  血流が集まってるみたいだ……)


 ヤオ子が戻ってくる。


 「この薬草、本で書いてあった通りに効果は抜群みたいですね。
  ただ、口の中が凄く苦い……。
  良薬は口に苦しとはいえ、処方する側にダメージがあるとは……」

 (すまないな……)


 ヤオ子が彼の顎の下をゴロゴロと擦る。


 「う~ん……。
  子猫の病院食って何でしょうね?」

 (そう……。
  オレは、このガキに助けられた一匹狼の猫だ)


 …


 今、ヤオ子は任務で峠のだんご屋に居る。
 普段、店を切り盛りしている老夫婦の還暦のお祝いの旅行中の三日間だけ、代理の店番をするのが任務である。
 国境の峠で往来が激しいとは言えないが、だんご屋を通る旅人は、ほぼ100%腰を下ろす。
 そして、一日目の夕方、川まで水を汲みに行って、背中に手裏剣の刺さった子猫を見つけたのである。

 この子猫の容姿は、全体が灰色で黒の縞模様が薄っすらと入っている。
 特徴的なのが細く頑丈な紐で首輪をしていること。
 首輪は、後ろからは分からない。
 前部分の巻物につながっているのを確認して初めて分かる。


 「すいません。
  何が食べたいですか?」

 「…………」


 お客の居ないだんご屋で、ヤオ子が子猫に語り掛ける。


 「何でも食べるさ」

 「そうですか。
  じゃあ──」


 ヤオ子は子猫を凝視したまま、固まる。


 「猫がしゃべった……」


 ヤオ子の前の子猫は、前足を器用に返しながら答えた。


 「忍猫だよ……」

 「ああ。
  ガイ先生のところの亀みたいな……。
  あたし、忍猫さんを見るのは初めてです」

 「そうか……。
  礼を言う。
  傷の手当をしてくれて助かった」

 「あの……。
  もう、普通にしゃべれるんですか?
  死に掛けてたから、友人に頂いた丸薬で無理に命を繋いだ感じだったんですけど……」

 「野生の血のお陰だ」

 「凄いですね」

 「まあな」


 ヤオ子と子猫が見詰め合う……変な光景。


 「そうだ。
  勝手に治療したから、背中の毛を剃っちゃいました」

 「仕方がないことだ」

 「あと、縫合するんで拒絶反応を起こさないように、忍猫さんの髭を糸に使いました」

 「何っ!?」


 子猫が自分の髭を確認する。
 そこには、あるものがない。


 「馬鹿ヤロー!」


 子猫はヤオ子にグーを炸裂させたが、背中の傷に響いて悶絶する。


 「傷……開きますよ?」

 「ああ……。
  なんてことをしてくれるんだ……」


 子猫は頻りに自分の髭のあった部分を撫でる。


 「髭ぐらいで……。
  下の毛を剃られたわけでもあるまいし……」

 「お前は、猫の髭の大事さを知らない!」


 子猫は涙目になっていた。


 「そんなに気にしなくても、一ヶ月に1cmぐらい伸びるんでしょ?」

 「まあ、そんなもんだと思うけど……」

 「半年の我慢ですよ」

 「はぁ……。
  死ぬよりいいか……」


 子猫との会話を止め、ヤオ子が立ち上がる。


 「何を食べたいですか?」

 「肉……。
  魚の肉が食べたい」

 「生?」

 「焼いてくれ」

 「ご飯は?」

 「付けてくれ」

 「どれぐらい食べれます?」

 「オレの体を見て判断してくれ」

 「子猫ですよね?
  あまり多く作っても食べ切れないか」


 ヤオ子は子猫を残し、七輪を持って外に出る。
 そして、一旦店に戻ると秋刀魚の干物持ってきて、それを焼き始める。


 「生って言われたら、
  川まで獲りに行かなければいけないところでした」


 七輪の上では秋刀魚の干物がいい匂いを漂わせる。
 そこで、ヤオ子はさえ箸を使って焼き具合を確認する。
 旬の時期に干物にしたのだろう。
 油が滲み出て来た。


 「もう少ししたら、ひっくり返しますか」


 慎重に焼き加減を見ながらひっくり返す。


 「いい匂いですね……」


 そして、秋刀魚が焼き上がる。


 「一丁上がりです」


 ヤオ子は七輪の火を落として、店の中に戻った。


 …


 台所に戻り、ヤオ子は御ひつからご飯を軽く盛る。
 そして、秋刀魚とごはんをお盆に乗せて、子猫の元に運ぶ。


 「こんな感じです。
  どうですか?」


 子猫が綺麗に焼きあがった秋刀魚を確認する。


 「お前、器用だな」

 「ありがとう。
  ・
  ・
  ねぇ。
  猫って本当に熱いのダメなの」

 「そうだ」

 「この熱い秋刀魚で弱点の克服に挑んでみませんか?」

 「やるか!
  オレは怪我人だ!
  何で、そんな残酷な拷問ショーに付き合わされるんだ!」

 「やっぱり、本当なんだ。
  じゃあ、直ぐには食べれませんね」

 「ああ」

 「じゃあ、冷めるまで身と骨を解体しますか」


 ヤオ子が秋刀魚に箸をつけて身と骨を分解していく。
 分解された骨には一片の身も残らず、身の部分も型崩れしていない。


 「お前、滅茶苦茶箸の扱い慣れてるな」

 「ふ……。
  あたしの家では、肉は貴重品でしたからね。
  身の一切れだって無駄にしません」

 「変な奴だな……」


 秋刀魚が解体されると、空気に触れた分だけ冷めるのが早くなる。
 秋刀魚の身から湯気が立たなくなると、ヤオ子は指差す。


 「もう、いいんじゃないですか?」

 「そうだな」


 子猫は皿に向かって這おうとするが、痛みで前進を止める。


 「無理しなくていいですよ。
  あたしが箸で運んであげますから」

 「すまないな」


 最初にヤオ子は、子猫にご飯を運ぶ。
 それを口に入れると、子猫は細かく咀嚼して飲み込む。


 「魚、魚、魚、ご飯のリズムで頼む」

 「意外としっかりしていますね……」


 ヤオ子は言われた通りに子猫の口に運んだ。
 そして、秋刀魚の乗った器とご飯の乗ったお茶碗が空になり、食事は終了する。


 「お前、中々やるな。
  凄く美味しかったよ」

 「お粗末様です」


 ヤオ子は食器を台所の流しに下げて、洗い物をしながら質問する。


 「ところで、忍猫さん」

 「何だ?」

 「お名前は?」

 「タスケだ」

 (一字違いですね)

 「あたしは──」

 「ヤオ子だろ?」

 「聞いていたんですか?」

 「口に丸薬が詰まっててな。
  上手くしゃべれなかった」

 「そうですよね。
  ・
  ・
  あ。
  だったら、『お前』じゃなくて『ヤオ子』にしてくださいよ」

 「そうだな。
  恩人だし……」


 ヤオ子が洗い物を終えて、タスケの元に戻る。


 「タスケさんは、何で怪我をしてたんですか?」

 「情けない話だが……ドジった。
  依頼人への伝言を伝える途中にやられた」

 「相手も然る者ですね。
  忍猫を見破るなんて」

 「そこにオレも油断があった」

 「任務……大丈夫なんですか?」

 「ああ。
  ここのだんご屋で待ち合わせだ」

 「あたしに被害が及んだりしないでしょうね?」

 「大丈夫だろう……。
  お前が瀕死だと思った通り、
  追跡者も手裏剣が当たった時点で死んだと思ったはずだ」

 「そうですね。
  体の大きさを考えれば、手裏剣一枚が致命傷ですからね。
  ・
  ・
  相手は、いつ来るんですか?」

 「明日だ」

 「じゃあ、それまでゆっくりしてくださいね。
  あたしは、お客さん来たら店番をしなければいけないので、
  ずっとお世話できるわけじゃありませんが」

 「ありがとう。
  ゆっくりさせて貰うよ」


 その後、ヤオ子が店番について十人の客が訪れた。
 そして、その客に団子を出したり昼食を出したりして、本日の店番は終了した。


 …


 夜……。
 ヤオ子がタスケの包帯を替えるため、包帯を外す。


 「凄い……。
  どうなってんの?
  もう、傷が塞がってますよ?」

 「野生の力だ」

 「本当にそれだけ?」


 ヤオ子は持ってきた携帯用の薬草辞典を捲り、件の薬草を再確認する。


 「そうか……。
  この薬草は、元々は野生動物が使っていたのを人間に使ったのが始まりなんだ……。
  どっちかというと、タスケさん向けだったんですね」

 「便利だな。
  オレにも元の草を見せてくれよ」

 「いいですよ」


 ヤオ子がタスケの前に薬草を置く。


 「ふ~ん……。
  雑草みたいだな」

 「注意深く見分けないと間違いそうですね」

 「ああ」

 「タスケさん。
  抜糸しちゃいますよ?」

 「え? もう?」

 「タスケさんが凄いのか、薬草が凄いのか分からないんですけど……」


 ヤオ子が手鏡二枚でタスケの背中をタスケに見せる。


 「本当だ……。
  塞がってる……」

 「痛みは、どうですか?」

 「少しピシピシする」

 「もしかしたら、もう癒着が始まってるのかな?」

 「癒着?」

 「こんなことありえないんですけどね」


 ヤオ子は指を立てる。


 「タスケさんは治りが異常に早いんです。
  そして、癒着と言うのは治癒の過程で、
  本来は離れている組織同士がくっつくことを言います」

 「へ~」

 「それでリハビリの時にマッサージなどをして、癒着した細胞をゆっくり剥がすんです。
  完全にくっついちゃうとバリッてなるから」

 「痛そうだな……」

 「今夜から、マッサージもしましょう」

 「ヤオ子……。
  医療忍者なのか?」

 「いいえ。
  任務のマッサージでそういう人が居たんです」

 (何で、任務でマッサージ?)

 「また、我慢ですよ」

 「お手柔らかに……」


 タスケの背中の傷から抜糸をすることになった。
 見た目は治っていても、治ったばかりで新しい組織の多い場所。
 ヤオ子は慎重に抜糸する。


 「っ!
  何か抜かれる時に切ない声が出そうになるな……」

 「セクシーな声でお願いします」

 「あのな……」


 抜糸が終わると、湯たんぽを布に包んでその上にタスケを仰向けで乗っける。


 「まず、治り始めた筋肉と癒着部分を柔らかくします」

 「ヤバイ……。
  眠りそう……」

 「十五分ぐらい温めます」


 タスケは目を細めて気持ち良さそうにしている。
 そして、十五分後……。
 ヤオ子はタオルを置いてタスケの背中を上にすると、ゆっくりと揉み始める。


 「やっぱり……。
  もう治ってる……。
  この感じは、前に揉んだお兄さんと同じです」

 「痛っ!」

 「今のが、癒着が剥がれた感覚です」

 「プチッと来た!
  プチッと!」

 「じっくり行きます。
  一気に剥がれると痛いですから」

 「頼む……。
  それ以外は気持ちいい……」

 (何か、猫相手にマッサージしてると、自分が惨めに思えてきます……。
  でも、差別はいけませんよね……)


 ヤオ子のマッサージにタスケは目を細め、寝息を立て始める。


 「ZZZ……」

 「寝ちゃった……」


 その後も絶妙な力加減でマッサージは続き、ヤオ子は手に返る感覚で感心する。


 「凄いな……。
  本当に治ってるなんて……。
  もしかして、兵糧丸と増血丸と薬草がスパークでもしたのかな?」

 「ZZZ……」

 「それとも、本当に野生の力?」

 「ZZZ……」

 「タスケさん。
  少し反らしますよ」


 ヤオ子はタスケの前足を持って、タスケの背中を反らす。


 「痛っ!
  オレは、元々猫背なの!」

 「ああ、そっか!
  人間と同じつもりで!」


 タスケは前足を着けて、ハアハアと息を吐く。


 「し、死ぬかと思った……。
  ・
  ・
  でも、大分良くなったみたいだ」


 タスケは直立歩行して、体を捻る。


 「そんなことする猫、見たことない……」

 「尻尾に力が漲ってくる感じだな」

 「尻尾を立てて、ノロイでも倒しに行くの?」

 「?」


 タスケは首を傾げるが、やがて溜息を吐く。


 「はぁ……。
  問題があるとすれば、背中の禿げと髭がないとこだな……」

 「名誉の負傷と割り切れば?」

 「オレが猫じゃなければそうするよ」

 「猫も大変ですね」


 タスケは胡坐を掻いて座る。


 「完治まで……。
  後、どれぐらいかな?」

 「普通はリハビリするのに、一ヶ月~二ヶ月ぐらいですかね?」

 「そうか……。
  それまでマッサージしてくれ」

 「あたし、ここに明日までしか居ませんよ?」

 「…………」


 タスケが『え?』という顔をする。


 「仕方ない……。
  この任務終わったら、お前の家に居座るか……」

 「ちょっと、待って!
  タスケさんは、何処の里の人ですか!」

 「オレは、里に属さん。
  一匹狼だ」

 「猫のくせに……」

 「だから、お前の家で怪我が治るまで遊ばせてくれ」

 「遊ぶんですか……」

 「どうせ、明日の任務が終われば、オレは休暇だ」

 「猫のくせに悠々自適な……」

 「違うぞ。
  猫だからだ」

 「子猫のくせに……」

 「その分、苦労してるんだぞ」

 「まあ、そうでしょうけど……。
  怪我が治るまでですよ」

 「分かった。
  オレは眠いから寝るぞ」

 「はい……。
  じゃあ、また明日」


 ヤオ子はタスケを置いて、老夫婦の用意してくれた部屋で布団に入る。
 そして、深夜、ぬくぬくが欲しいタスケが熟睡するヤオ子の布団に潜り込んだ。



[13840] 第63話 ヤオ子と一匹狼②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:57
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 翌日……。
 団子屋を開店させて朝ご飯を忍猫のタスケと食べ、そして、再びマッサージ。
 手に返る感触も、他の部位も傷口付近も、それほど大差がないように感じる。


 「ヤオ子……。
  足も頼む」

 「実は、もう治ってたりしてません?」


 ヤオ子は野性の力に感心しつつ、子猫にいいように扱われている。



  第63話 ヤオ子と一匹狼②



 お昼までにお客は、三人。
 本日は、お客が少ない。
 ヤオ子は膝の上にタスケを乗せながら、待ち合わせの人物を一緒に待つ。


 「遅いですね。
  夕方には、ここのお爺さんとお婆さんが戻って来てしまいますよ」

 「大丈夫。
  来たみたいだ……」


 タスケが首を向けて、ヤオ子に知らせる。
 道の遠くに見えたのは、黒い外套に白い縁取りの赤い雲……。


 「二人組み?
  大きな物を担いでますね……。
  ガッツみたい。
  ・
  ・
  後は……。
  サスケさん……なわけないか」


 タスケが待ち合わせをしていたのは、暁という組織の忍者だった。
 そして、ヤオ子は暁という組織を知らない。
 今いる二人が、干柿鬼鮫、うちはイタチであることも知らない。
 暁の二人が店の長椅子に腰掛ける。


 「お嬢さん。
  お茶と何か簡単なものを」

 「お任せでいいんですね?」

 「ええ。
  お願いします」

 「分かりました」


 ヤオ子が店の中に消えると、タスケがイタチの肩に飛び乗る。
 そして、小声で任務を果たすために伝える。


 「岩隠れの里の……が、…………にて
  …………………の連絡を待つとのことだ」

 「了解した」


 タスケの任務が終了した。
 そして、タスケの姿が気になった鬼鮫が質問する。


 「ところで……。
  その珍妙な格好は?」

 「スパイが居てな……。
  伝えるのを妨害しようとした。
  その際に傷を負ってしまった」

 「おやおや……。
  では、サービスでその刺客達を殺しておきましょうか?」

 「来ているのか?」

 「ええ。
  エサを巻いておきましたから……」

 (コイツ……。
  初めから刺客を誘き出して始末する気だったんだ。
  オレが尾行されたわけじゃない。
  つまり、コイツのせいで傷を負ったのか……!
  ・
  ・
  だが、それでもオレに油断がなかったわけじゃない。
  そういうことをする依頼人も、忍の世界には居る。
  今回のことは、オレの甘さが原因……。
  心に刻んでおこう……)


 タスケは自分を厳しく律するとイタチの肩から飛び降り、長椅子の隅で丸くなった。
 そこにヤオ子が、お茶を持って現れる。


 「はい。
  お茶をどうぞ」


 ヤオ子がイタチと鬼鮫の横にお茶を置く。
 そして、三色団子を置く。


 「あたしのオリジナルブレンドなんですよ」

 「それは楽しみですね」


 鬼鮫が団子を一本掴み、口に運ぶ。


 「これは……美味ですね」

 「お客さん。
  いい舌を持ってますね」


 ヤオ子が鬼鮫に微笑む。


 「それほどでも……」

 「ん?」


 接客の最中、小さな爆発音が響く。
 それを聞いて、ヤオ子はコリコリとおでこを掻く。


 「どっかの馬鹿がトラップに引っ掛かりましたね」

 「トラップ?」

 「あたし、この店の老夫婦の代理なんですよ。
  盗賊対策にブービートラップを仕掛けたんですけど……。
  何で、いきなり引っ掛かったんでしょうね?」


 鬼鮫が可笑しそうに笑う。


 「ククク……。
  申し訳ありませんね……。
  私が呼んだお客さんです」

 「困りますね。
  ここで血生臭いことは控えてくださいよ。
  オーナーは老人なんですから、ショック死しちゃいますよ」

 (ヤオ子……。
  そういう問題じゃない……)

 「では、どうしましょうかね?」

 「半殺しで、どっかに捨ててくれませんか?」


 タスケは額を押さえ、鬼鮫は、再び可笑しそうに笑う。


 「いいでしょう。
  期待にお応えしましょう。
  ・
  ・
  いいですね?
  イタチさん」

 「好きにしろ……」


 鬼鮫が愛刀の鮫肌を担ぐと、一人でタスケの追っ手を倒しに行く。
 ゆっくりとお茶を啜るイタチにヤオ子が話し掛ける。


 「いいんですか?
  複数の相手なら殺されちゃいますよ?」

 「心配ない……」


 続いて三色団子を食べる。


 「美味いな……」

 (この人……。
  何なんだろう……)


 イタチは無言で三色団子を食べ続け、空になった皿を差し出す。


 「次は、別の団子をくれ」

 「さっきの方の分も?」

 「直ぐには戻らないだろう。
  必要ない」

 「そうですか。
  ・
  ・
  タスケさん。
  追っ手は、何人ぐらいでしたか?」

 「確か十五、六……」

 「じゃあ、時間掛かりますね」


 ヤオ子は再び店に戻ると、少しの間を置いて三色団子を持って来る。
 お盆の上には三人分乗る。


 「連れの方が戻るまで時間があるでしょ。
  お付き合いします。
  ・
  ・
  タスケさんも、どうぞ」


 ヤオ子はイタチの隣に腰を下ろし、イタチとタスケに三色団子の乗った皿を渡す。


 「別の団子と言ったのだが?」

 「食べてみてください」


 ヤオ子の言葉に疑問を抱きながら、イタチは三色団子を口に運ぶ。


 「味が全然違う……」

 「おもしろいでしょ。
  ちょっと、固さと砂糖と塩の配合を変えるだけで、全然、別のお団子になるんですよ」

 「確かにおもしろいな」

 「えへへ……。
  それ、サービスです」

 「ありがとう……」


 ヤオ子はマジマジと団子に口を運ぶイタチの顔を見る。
 そして、やがて確信を持つと、視線を前に戻した。


 「やっぱり、似てるけど違う人ですね」


 イタチがヤオ子の言葉に反応する。


 「誰かに似ているのか?」

 「ええ」

 「そいつのことを話してくれないか?」

 「詰まらない話ですよ?」

 「構わない」

 「じゃあ、機密事項が洩れない程度に。
  多分、名前は知っていると思います。
  中忍試験の本戦の時に観客の方は、皆、知っているようでしたから。
  え……と、イタチさんでいいんですよね?」

 「ああ」

 「イタチさんは、うちはサスケさんに似ているんです」

 「…………」


 タスケが内心で驚く。
 タスケはイタチとサスケが兄弟なのを知っていたからだ。


 「あたしは、サスケさんに会うまでは八百屋の看板娘だったんです。
  忍者じゃありませんでした。
  ちょっとしたことがあって、サスケさんがあたしに忍術を教えてくれたのが、
  あたしとサスケさんの出会いの切っ掛けです」

 「ちょっとしたこととは?」

 「知りたいですか?」

 「切っ掛けなのだろう?」


 ヤオ子は頷く。


 「え~と……ですね。
  実は、あたしは将来のことを考えて、
  道でアカデミーの子達にトラウマを刻んでいたんです」

 「トラウマ?」

 「その……ワザと苛められるオーラを出して苛めさせて、
  大人になったらあたしに対する罪悪感から、
  死ぬまであたしの八百屋に通わせようと思って……」


 イタチは意表を突かれた感じで驚いた顔を曝してしまった。
 こういう行動を取る知人は居ない。
 タスケに至っては、呆れ返っている。


 「その時、サスケさんが通りかかって、
  あたしを情けない奴と勘違いして修行をつけてくれるようになったんです」


 イタチは弟のせっかちな勘違いをした風景を想像すると、口元が自然と緩んでいた。


 「まあ、それからは任務の度に覚えてくる修行方法をあたしに無理やりやらせたり、
  必要だからって色んな本を読まされたりしました」

 (任務ということは、知り合ったのはアカデミー卒業後か……)

 「自分の修行をしないで、君に教えていたのか?」

 「いいえ。
  自分の修行はします。
  途中から、あたしはサスケさんの体のいい存在でしたからね。
  手裏剣術の時には投げた手裏剣を拾わされたり、
  秘伝の憧術が使えるようになったら、幻術を掛けられたりしました」

 「そんなことをしていたのか?」

 「酷いでしょ?」

 「ああ」

 「まあ、でも……今、思えば素直になれない人でしたからね。
  中々、人に弱みを見せないし。
  『修行を手伝ってくれ』を言えなくて『手伝え』でしたからね」


 ヤオ子は思い出し笑いをする。


 「そんな酷いことをされたのに笑っていられるのか?」

 「まあ、それだけの人でしたらね。
  言い方はあれでしたけど、
  そういう風に言える相手があたしだったと言うのが、
  あたしを少し特別な気にさせるんですよ。
  実際、凄く優しい目をすることもありましたし。
  ・
  ・
  何より、サスケさんと掛け合った言葉の一つ一つが、
  あたしの宝物のように頭の中に残っているんですよ」

 「そうか……」

 「でも、そのサスケさんも……今は、居ません」

 「大蛇丸のところに行ったのだろう」


 今度は、ヤオ子が意表を突かれた顔をする。


 「そんなことも知っているんですか?
  情報通ですね。
  ・
  ・
  それとも、有名な話なのかな?」

 「両方だ」

 「そうですか。
  知られているなら話しても平気ですね。
  ・
  ・
  本当に突然だったんです。
  サスケさんは、いきなり子供でいられる時間を放棄して、里を抜けてしまったんです。
  理由は復讐と言っていましたが、詳しくは分かりません。
  知ってても教えません。
  このことを話す資格があるのは、当事者のサスケさんだけですから。
  ・
  ・
  まあ、大雑把に言うとこんなところです。
  他にも細かいことを言えばキリがありません」

 「…………」


 イタチはヤオ子の話からはほとんど知っていることしか聞き出せなかった。
 ただ、この少女がサスケとの思い出を大事にするぐらいの関係があることだけは理解した。


 「二つほど、聞きたい」

 「いいですよ」

 「君は、サスケをどう思っている?
  里を抜けた裏切り者か?」

 「裏切り者か……。
  復讐が完全な悪って定義ならいいんですけどね。
  あたしは、サスケさんの里抜けを応援しちゃいましたし。
  そうするとあたしも裏切り者ですね」


 イタチは少し驚く。
 木ノ葉の傾向からして里抜けを許さないと思う者が大半だと思っていたからだ。


 「サスケさんが怒りを向けるのは当然なんです。
  大事な人を殺されてしまったんだから。
  寧ろ、おかしいのは周りの無責任な人達だと思います。
  中忍試験では一族を殺されたことで見世物を見るようにしたり、一緒に犯人を捕まえようとしなかったりで。
  サスケさんが困ってんだから、一緒に犯人を探せばいいのに」

 「一緒にか……」

 「はい。
  だから、あたしは里抜けも止めなかったし、一緒に着いて行くかって聞きました。
  ・
  ・
  まあ、『邪魔だから来んな』って言われましたけど」


 ヤオ子は『サスケさんのヤロウ』とぼやいた。
 それを聞いて、イタチは笑みを溢す。
 考え方は変わっているが、目の前の少女はサスケのことを思ってくれていた。


 「もう一つ。
  君は、今の木ノ葉をどう思う?
  今の木ノ葉には、どういう気持ちが溢れていると思う?」

 「木ノ葉の気持ち?
  難しいですね。
  あたし個人じゃなくて、全体的に見てってことですよね?
  ・
  ・
  一生懸命さ……かな?」

 「一生懸命さ?」

 「普通だったら、
  『平和ですよ』とか『笑顔が溢れてます』とか『憎しみに満ち溢れてます』とか
  例えて言うんでしょうけど。
  ・
  ・
  木ノ葉崩しがあったから……。
  どれだけの被害があったかは極秘情報なんで言えませんが、それの痛手を修復するのに、皆、頑張っていますね。
  そして、一生懸命を続けられるということは、里への愛着にもつながると思います」

 「どうして愛着があるんだ?」

 「どうして?
  ・
  ・
  あたしの場合は、多分、戦争を知らないから。
  里の大人達が守ってくれた平穏にどっぷりと浸かっているからですね」


 タスケが眉間に皺を寄せる。
 ヤオ子の言い方は良くない。


 「それでいいのか?
  何も知らずに与えられた平和に浸って?」

 「平和には浸っていいんです」

 「何故?」

 「あたし達のような戦争の知らない世代が平穏に暮らせるようにしようと頑張っているのが、戦争を体験した大人達です。
  そして、その平穏が広がりつつあり、
  戦争を知らない世代が平穏に暮らせているのは大人達の狙い通りだからです。
  彼らからすれば『してやったり』です」

 「……そうかもしれないな」

 「でもね。
  それだけじゃ、また、同じことを繰り返します。
  そういう過ちを犯してしまったのが人間なら、繰り返してしまうかもしれないのが人間です。
  ・
  ・
  『何も知らず』は、いけません。
  だから、本があり、アカデミーがあるんです。
  そして、出来るなら大人の人から口伝していただくのがいいでしょう」


 ヤオ子の言い方は変わっている。
 普通は『平穏にどっぷりと浸かっている』などとは言わない。
 でも、この変わった言い方だからこそ、イタチには感じるところもあった。


 「無駄じゃなかったかもしれないな……」

 「ん?」

 「何でもない……」

 「?」


 ヤオ子は首を傾げた。


 「いい教えを貰っているようだな」

 「はは……。
  歴史に関しては、サスケさんに無理やり読まされた感がありますが……。
  ・
  ・
  木ノ葉のフォーマンセルに上忍が入るのがいいのかもしれませんね。
  あたしの担当の先生は、あたしの子供でいられる時間を大事にしてくれました」

 「そういえば、君は少し幼いな」

 「はい。
  木ノ葉崩しの際に里の力を戻すために、
  現、下忍の力の底上げを考えて雑務担当で就任しました」

 「そうなのか」

 「だから、あたしは雑務をしながら子供でいます。
  もう少ししたら、担当の上忍さんから色々と教わると思います。
  技術も歴史も気持ちも……。
  気持ちは、随分といただいていますけどね」


 ヤオ子の笑顔に、イタチは少し報われた気分になる。
 かつての事件……。
 木ノ葉での一族による内乱を回避したくて仕方なく取った行動……。
 あの行動に意味があったのか?
 誰かを救うことが出来たのか?
 分からなかった……。
 だが、少なからず目の前の少女は、その起きなかった内乱のお陰で平穏に浸っていると言い切った。

 イタチとヤオ子が出会ったのは、偶然に過ぎない。
 そして、この日の出会いが、後にヤオ子にとって特別になる。


 …


 イタチの目が鬼鮫を捕らえる。
 今までの話は知られたくない。
 ヤオ子から情報を聞き出すために会話をしていたと思わせるように、イタチは急に話題を変えた。


 「上層部は、どうなっているか分かるか?」

 (あれ?
  何で、いきなり話題が変わったんだろう?
  それに質問は、二つじゃないの?
  ・
  ・
  まあ、いいや)

 「火影様が一番のままです。
  先代とシステムは変わってないと思いますよ」

 「では、『根』という組織は?」

 「あたし、下っ端だから……。
  だけど、その名前は知っています」


 イタチの目が幾分か鋭くなる。
 知らないと思って、適当に投げた質問に答えが返って来たからだ。


 「いつも経理で引っ掛かるんですよ」

 「は?」

 「いえね。
  あたし、経理のお手伝いをすることもあるんですけど、
  いっつも二重取りしようとしていて……」

 (新たな情報だが、どうでもいい話だな……。
  木ノ葉の中で経理の不正が行なわれているかなんて、何の役にもたたん……)


 イタチは、最後に肩透かしを喰らった気分だった。
 そこに鬼鮫が戻る。
 鬼鮫はイタチの会話が耳に入り、情報収集と判断したようだった。
 イタチは、ここで会話を止めた。

 一方のヤオ子は、イタチとの会話が止まったので鬼鮫に目を移す。
 そして、無傷の鬼鮫に疑問を抱き質問する。


 「あの……賊は?」

 「ゴミ箱に捨てておきました」

 「本当に捨てたんだ……。
  強いんですね」

 「ええ……。
  ・
  ・
  お嬢さん、団子の追加をお願いします。
  少し動いたら、また小腹が減ってしまいました」

 「オレにも頼む。
  久しぶりに長話しをして疲れた」

 「普段は、あまりしゃべらないんですね」


 ヤオ子が食べ終わった団子の皿を持ち、新しい団子を取りに行く。
 そして、暫くしてから団子のお代わりを持って来る。


 「今度は、みたらし団子ですか」

 「お口に合えばいいですけど」


 イタチと鬼鮫が口に運ぶ。


 「これもいけますね」

 「ああ。
  次は、醤油団子をいただくか……」

 「いいですね」

 (また追加?)

 「お嬢さん。
  醤油団子を」

 「は、はい」


 ヤオ子が店の奥に消える。
 それから……。


 「笹団子をお願いします。
  ・
  ・

 「ごま摺り団子を……。
  ・
  ・

 「蕎麦団子をお願いします。
  ・
  ・

 「ずんだ団子を……。
  ・
  ・

 「小豆餡団子をお願いします。
  ・
  ・

 「きな粉団子を……。
  ・
  ・

 「くるみ団子をお願いします。
  ・
  ・

 「全種類食べたな」

 「そのようですね」

 (この人達、一体……)

 「では、行くか」

 「はい」

 「…………」


 ヤオ子とタスケは呆然とする。
 そこにイタチが振り返る。


 「そうだ……。
  さっきのを全部包んでくれ」

 「え?
  ・
  ・
  す、少し待ってください!」


 その後、暁の二人は大量の団子を買い込んで去って行った。
 この日の暁の会合で、ヤオ子の団子が振る舞われることになる。


 「タスケさん……。
  どっかの大食い選手権の人達だったんですか?」

 「いや、そんな可愛い組織じゃ──というか、任務の内容は話せない」

 「そうですよね……。
  しかし、いい売り上げになりました」


 ヤオ子が後片付けをしていると、老夫婦が旅行から戻って来た。
 三日間の売り上げと帳簿を渡し、巻物に任務完了のサインを貰う。
 ヤオ子の任務は終わった。
 そして、お供を一人携えて、ヤオ子は木ノ葉への帰宅の途についた。



[13840] 第64話 幕間Ⅳ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 21:59
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 峠の団子屋の任務を終えて、ヤオ子は新たなお供と木ノ葉の里に戻る。
 三日では大して変化も分からないが、木ノ葉崩しの時に比べれば、里は見違えるほどの復興を遂げている。


 「問題があるとすれば、中忍以上の忍者の増員ですよね。
  この前の中忍試験で、随分と中忍になったらしいですけど」


 ヤオ子の独り言を忍猫のタスケが黙って聞いている。
 そして、任務報告のために綱手のところへとヤオ子は足を向けた。



  第64話 幕間Ⅳ



 紹介場では、ヤオ子が腕にタスケを抱えて綱手に任務報告の最中である。
 綱手は巻物を広げて、任務の報告を確認する。
 そして、確認は任務完了のサインを見て直ぐに終わる。
 それよりも、綱手も付き人のシズネもヤオ子の抱えているタスケが気になって仕方ない。


 「ヤオ子……。
  何だそれは?」

 「知らないんですか?
  これは猫という生き物です」

 「そうではない」

 「猫の種類ですか?
  毛並みは結構いいのですが、あたしも猫の種類まで詳しくは……。
  多分、色んな掛けあわせで雑種だと思います。
  灰色を基調に黒の毛の縞模様がセクシーです」

 「そうではない」

 「年齢ですか?
  年齢は分かりませんねぇ。
  まだ、子猫だということぐらいしか」

 「そうではない」

 「性別ですか?
  雄です」

 「そうではない」

 「名前ですか?
  タスケさんと言います」

 「…………」


 綱手の沈黙にヤオ子が首を傾げると、綱手が湯飲みを振りかぶり、ヤオ子に投げつけた。
 ヤオ子はスウェーをして湯飲みの慣性を額で無力化すると頭の上に湯飲みを置く。


 「突っ込み返し!」


 綱手がこけた。


 「突っ込みのキレが悪くなりましたね。
  あたしと三日会わないだけで、腕が鈍りましたよ」

 「ああ……。
  お前と会わないうちは突っ込みを一切入れてないからな……」

 「いけませんね~」

 「この三日で常人に戻れた気がしてたのに……。
  突っ込みなんて属性がついて、何の役に立つんだ……」

 「健康的です♪」

 「嘘だ……」


 綱手が項垂れる。
 そして、綱手は質問の途中だったことを思い出す。


 「そういうことを聞きたいんじゃない!」

 「一体、何が聞きたいんですか?」

 「お前が猫を持っている経緯だ!」


 シズネも口を挟む。


 「しかも、おかしな姿の猫を持っているから、余計に気になります」


 タスケがシズネを見ると舌打ちする。


 「何!? この猫!?
  綱手様! 見ましたか!?」

 「ああ……」


 ヤオ子がタスケを撫でる。


 「いい子ですねぇ。
  あの女の人は、どんどん貶していいですよ」

 「ヤオ子ちゃん!?」


 綱手が溜息を吐く。


 「その猫……。
  治療したから、毛がないんだな?」

 「そうです」

 「治療?」


 シズネがタスケの毛のない部分を凝視する。


 「本当だ……。
  縫合の痕がある」

 「タスケさんは手裏剣が刺さって怪我をしてたんで、あたしが治療しました」

 「髭がないのは?」

 「拒絶反応を起こさないように縫合の糸に髭を使いました」

 「気の回し過ぎじゃないか?
  普通の糸でも良かったろうに」

 「ブラックジャックで西表山猫を助けるエピソードで、それっぽいことを言ってたので」

 「また、よく分からないことを……」


 シズネがタスケを指差す。


 「それで拾って来ちゃったの?」

 「いえ。
  治療後のリハビリを兼ねたマッサージをしてあげようと思って」


 綱手が溜息を吐く。


 「そんなもんをせずとも、
  今、私の医療忍術で治してやる」

 「本当?
  じゃあ、お願いします」


 ヤオ子が綱手の机の上にタスケと湯飲みを置くと、タスケの背に綱手が手を置く。


 「何だ……。
  ほとんど、完治しているではないか」

 「やっぱり?
  その子、異常な早さで回復したんですよ」

 「野生動物は治りが早いというが、ここまでとはな……」


 綱手が医療忍術を掛ける横で、ヤオ子は腰の後ろの道具入れから携帯用の薬草辞典を取り出し、件の薬草のページを指差す。


 「この薬草を試してみたんです」

 「随分とマイナーな薬草だな……。
  しかし、動物との相性がいいのかもな。
  ・
  ・
  シズネ。
  忍の動物も沢山いるから、試してみてくれ」

 「そうですね。
  今後は、貴重な薬草になるかもしれません。
  調べてみます」

 「頼む」


 綱手がタスケの治療を終えると、タスケはヤオ子の頭に飛び乗った。


 「ありがとうございました。
  じゃあ、あたしは、これで」

 「ご苦労だったな」


 ヤオ子が部屋を後にした。


 「あの猫……。
  ただの猫なんですかね?」

 「どうしてだ?」

 「勘なんですけど……。
  ヤオ子ちゃんが持ってるものって、何か全部怪しく見えて……」

 「さすがに動物までは、そんなことないだろう」

 「そうですよね」


 その後、綱手は仕事の続きを始め、シズネは薬草の調査を開始した。


 …


 任務の報告も終わり、ヤオ子が自分の家に戻る。
 タスケはヤオ子の頭を飛び降りるとソファに飛び乗り、足を組む。


 「猫がそのスタイルで座っていると違和感ありますね」

 「大きなお世話だ」

 「体は、どうですか?」

 「いい感じだ。
  さすが、三忍と呼ばれた綱手様だ」

 「詳しいですね」

 「この世界、情報こそ生命線だ」

 「何かカッコイイ……」


 タスケが部屋を見回す。


 「ガキのくせに、いい部屋に住んでやがるな」

 「それこそ大きなお世話です。
  ・
  ・
  これから、どうするんですか?」

 「ん?」

 「だって、完治したんでしょ?」

 「休暇だって言っただろ?
  宿代勿体ないから、泊めてくれ」

 「まあ、いいですけど」

 「助かる。
  じゃあ、出掛けて来る」

 「どちらへ?」

 「遊びに」

 「あ……そう」

 「そこの小窓は開けといてくれ。
  じゃあな」


 タスケは台所の小窓を指差すと、瞬身の術で煙と共に姿を消した。


 「何か……。
  あたし、猫にパシリにされてる感じがする」


 実際は、そうだった。


 …


 ヤオ子がタスケを連れ帰って、更に一年が過ぎる……。
 ナルトが帰還し、自来也は自分の石像の生首を見ると叫び声をあげた。
 この時、自来也は粉砕した犯人が誰か、長年の勘から一瞬で見極めたという。
 そして、生首の凛々しい自分の顔には満点をつけたらしい。

 また、ナルトが帰還してから、顔を合わせた人間は少ない。
 それはナルトが帰還後、直ぐにカカシとサクラと模擬戦に入ってしまったためと風影奪還のために直ぐに里を離れてしまったためである。
 ヤオ子も例外ではなく、ナルトとの再会を果たせなかった。
 そして、木ノ葉ではナルトが風影奪還に一役買ったとの噂が暫くしてから流れる。

 更に時は過ぎる。
 風影奪還の際にサクラが砂のチヨと暁の蠍を倒して得た情報。

 『十日後に天地橋でスパイとの接触がある』

 この情報を頼りに、ナルト達はスパイの捕獲を目的として行動を起こす。
 そして、天地橋で大蛇丸との接触……。
 更には、サスケとの再会も果たすが里には連れ帰れない。

 この時も、ナルトは里に居た期間はわずかで直ぐに旅立ってしまっていた。
 ヤオ子は、また再会の機会を逃す。
 そして、ヤマトが再び暗部から上忍に戻ったことも知らず、ナルト達がサスケと再会をしたことも知らないままだった。

 ヤオ子は、この一年、何をしていたのか?
 ……雑用任務をこなしながら、日々着々と体力の強化に努めていた。
 周りの成長に焦りながらも、個性の成長よりも体力の強化を優先していた。
 攻撃手段の多さよりも術の発動回数を増やすことを選んだ。
 つまり、この一年、ヤマトの指導は一切行なわれていない。

 では、ヤマトは何をしていたのか?
 本来は付きっ切りでヤオ子の指導をしてあげたいところだったが、出来ない理由としない理由があった。
 まず、半分まで落ちた里の力を取り戻すため、優秀な忍であるヤマトには里のために尽力して貰う必要があったこと。
 そして、ヤオ子の子供でいられる時間を尊重してくれたこと。
 ヤオ子の口から聞いたヤオ子なりの考えを大切にしてくれたのだ。

 本格的な修行は、ヤオ子がサスケ達と同じ下忍になった歳から行なおうと思っていた。
 ヤオ子の基本が出来ていないところ……特に体力面をどうにかしないと先に進めない。
 教えてあげたいことも教えてあげられない。

 しかし、ヤマトは忘れていた……。
 ヤオ子が普通ではないことを……。

 ヤオ子は性格に多大な問題がある。
 エロが絡むと大きく成長し、大きく暴走する。
 そして、ドSと絡んでもサスケのトラウマで成長する。

 まず、確実に変態としての素質が成長していた。
 そして、綱手の任務選択のせいで忍者とかけ離れた能力も向上していた。
 その任務をこなすために、体力がイヤな感じで成長を遂げている。

 では、一体、忍者として技術は、どんな成長を遂げたのか?
 休暇を得たヤマトがヤオ子と再会を果たすところから、次回の話は始まる。


 …

 ※※※※※ 原作第二部に入り、使うタイミングがなくなってしまった没ネタ ※※※※※


 カカシの素顔①

 「ヤオ子。
  オレ達には解き明かさないといけない使命があるってばよ」

 「使命?」

 「そうよ。
  カカシ先生の素顔よ」

 「何を言っているんですか?」

 「「気にならない?」」

 「あたしは、大体わかるもん」

 「嘘!?」
 「マジで!?」

 「はい。
  きっと、Fateのアーチャーみたいな顔をしています」

 「…………」

 「「誰?」」


 カカシの素顔②

 「実際、どんな顔をしてんだろ?」

 「分からないわ。
  以前、聞いたら覆面の下に覆面だったし」

 「人間少しぐらい秘密がある方が、よくありませんか?」

 「どうしてよ?」

 「カカシさんの生態って、
  結構、オープンじゃないですか。
  堂々と自分の性癖が分かる本読んだりして。
  普通しませんよ?」

 「そうかもしれないけど……あんたが言うな。
  ・
  ・
  でも、ヤオ子の言うこともよく分かるわね。
  少しぐらい秘密がある方がいいのかも」

 「そうですよ。
  実際見たら、変装のために顔のパーツを削ぎ落としてたら、どうするんですか?」

 「ろろうに剣心の般若か!」


 カカシの素顔③

 「でもね。
  あたし、カカシさんの素顔を見たことあるんですよ」

 「何で?」

 「よく覗きをするんです」

 「…………」

 「そして、お風呂に入ってるところをバッチリ!」

 「まあ……。
  この際、不問にするわ。
  ・
  ・
  で、どんな素顔なの?」

 「それが……。
  別のところに目が行ってて覚えてないんですよね」

 「このド変態が!」


 カカシの素顔④

 「皆さん、気にし過ぎです!
  あのマスクには、意味があるんです!」

 「何の?」

 「あれは修行の一つです!」

 「「は?」」

 「いいですか?
  マスクをして運動すると酸素が取り入れ難くて、心肺機能が強化されるんです」

 「そうか……」

 「普段から修行をしてたのか!」

 「そうです。
  だから、いざとなったらマスクを外します。
  きっと、その時は凄い動きになります」

 「どんな動きになるんだろう?」

 「奇声をあげて目が血走り、
  相手が気の毒になるぐらいまで追い掛ける?」

 「暴走してんじゃない!」

 「じゃあ、違うかな?」

 「あんたの最後の考察が間違っているのよ!」


 カカシの素顔⑤

 「でも、あのマスクが弱点とも考えられませんか?」

 「弱点?」

 「あれがないと生きていけないんです」

 「どうして?」

 「霊命木で作られたマスクなので、
  あれを外すと植物超人に戻ってしまうんです」

 「モンゴルマンか!」


 即興漫才?

 「カカシです」

 「ヤオ子です」

 「「二人合わせて『イチャイチャ・ファンタジア』です!」」

 「ところで、カカシさん。
  ナルトさんのエロ度について、どう思いますか?」

 「エロ度か?」

 「エロ度です」

 「まあ、努力が欲しいな」

 「ほう。
  と、言いますと?」

 「視覚だけでなく想像力も磨いて欲しい」

 「活字に弱そうですもんね」

 「ああ。
  イチャイチャの楽しみが分かる大人になって欲しいな」

 「いいですよね。
  イチャイチャ」

 「ああ。
  最高だ」

 「でも、活字だとヒロインを想像しないといけないですよね?
  カカシさんは、どんなのを想像します?」

 「ここで言うの?」

 「はい」

 「パス」

 「意気地なしですね」

 「ヤオ子は言えるのか?」

 「言えます!
  あたしは世界のエロを目指す女です!」

 「じゃあ、言ってみて」

 「いいでしょう。
  例えば、『イチャイチャバイオレンス』。
  この本のタイトルから、少し暴力的なシーンが入ると予想できます。
  まず、間違いなくヒロインが虐められます。
  あたしは、この時点で既に2パターンのエロを想像できます」

 「凄いな……」

 「ひとーつ!
  ヒナタさんがヒロイン!」

 『ええっ!?』

 「従順で大人しいヒナタさんをエロ攻めする妄想が堪りません!」

 「君、言ってて恥ずかしくないか?」

 「ひとーつ!
  サクラさんがヒロイン!」

 スコーン

 「観客からの投擲は無視します!
  ただの暴力少女を力で捻じ伏せる快感!
  妄想が止まりません!」

 「タイトルだけなのに……」

 「あたしは、この素晴らしい妄想を掻き立てる自来也さんの作品に尊敬を捧げます!
  『イチャイチャ』こそ!
  混沌とした忍の世界に光を与える本です!」

 「まったくだ」

 「皆でエロになればいいじゃない!
  スケベに悪い奴はいません!」

 『立派な性犯罪者じゃない!』

 「観客からの妄言は無視します!」

 「ヤオ子は清々しいな」

 「ところで、カカシさん」

 「ん?」

 「このコンビ名は、何ですか?」

 「テイルズシリーズみたいでいいだろ?」

 「続くんですか?
  じゃあ、次にコンビを組む時は『イチャイチャ・ディスティニー』ですね」

 「そうだな」

 「ネタは、以上です」

 「そうか」

 「「『イチャイチャ・ファンタジア』でした!」」

 「次回、イチャイチャ・シードで会いましょう!」
 「次回、イチャイチャ・ディスティニーで会いましょう!」

 「ん? シード?
  カカシさんって、ガンダムもいけるんですか?」

 「もちろんだ」

 「何か、運命の人に出会った気がします」

 「任せろ」

 「あたし、ジェリド・メサ好きです」

 「今度、何か奢ってやる」

 「…………」

 「すいません、皆さん。
  即興で打ち合わせなしだったので、
  カカシさんとは、話が噛み合いませんでした」

 「綱手様も無理をおっしゃる」

 (シンクロ率100%越えしてたぞ……)


 駄菓子屋に封印されしもの

 「なんだろう? これ?」

 「それは随分前から売れてないジュースだよ」

 「おばゃん、こういうのは処分しなくていいの?」

 「賞味期限を見てみな?」

 「ん?
  ・
  ・
  あと二十年持ちます。
  凄いですね。
  張られたシールの方が耐え切れなくて変色してるのに。
  機械の印刷ミスじゃないの?」

 「それ一本しかないから、分からないんだよ。
  大蛇丸製菓なんて聞いたことないし。
  いつ紛れたんだか……」

 「いくら?」

 「買うのかい?」

 「はい」

 「十両でいいよ」

 「はい、お金。
  こういう得体の知れない謎の商品には、ついつい手を出したくなるんですよね」

 (この子、摘まみ食いして死ぬタイプだわ)

 「いただきま~す」

 ゴキュ

 「意外と普通の味ですね。
  しかも、炭酸」

 「ラベルに炭酸なんて書いてないけど?」

 「腐って微生物の発酵で炭酸でも出来たのかな?」

 「もう、やめなよ……」

 「そうですね。
  でも、あたしはこの体験二度目なんですよ。
  冷蔵庫に入れてたイチゴミルクが、ある日、炭酸飲料になってたんです。
  あまりに美味しくて弟と飲みまくりましたね。
  ・
  ・
  次の日、弟だけがお腹を壊しましたが……」

 (こち亀の両さんみたいな子だ……)

 「あれ?
  何か……体がパチパチする」

 「大丈夫かい!?
  直ぐに病院行きな!」

 「もう、遅いみたい……。
  ・
  ・
  ぐあぁぁぁ!」

 「…………」

 「猫耳と尻尾が生えた……」

 「これであたしも萌えキャラに……。
  って!
  なんじゃこりゃぁぁぁ!」

 「綱手様! 綱手様のところに行きな!」

 「はい!」


 …


 「綱手さん……。
  どうしよう……」

 「この馬鹿が!
  何でもかんでも口に入れるな!」

 「だって、登山家は、そこに山があるから登るんですよ?
  目の前に得体の知れない新商品があったら、
  口に入れたくなるのが消費者心理でしょ?」

 「違うわ!」

 「ううう……」

 「何を飲んだんだ?」

 「これ」

 「…………」

 (大蛇丸の作った何かの新薬じゃないか……)

 「何処で手に入れた?」

 「駄菓子屋」

 (何で、駄菓子屋……)

 「スン……。
  ・
  ・
  この臭いは……。
  安心しろ。
  一時間もすれば戻る。
  それは本物じゃなくて、幻術だ」

 「は?」

 「今、お前の体からは無尽蔵に幻覚を起こす成分が分泌されている。
  それが全ての人間に幻覚を見せているんだ」

 「へ~。
  あたし、五感のうちの味覚で幻術掛かったの初めてです」

 「決して味覚じゃないぞ」

 「しかし、いいものを手に入れました。
  それを飲めば、あたしはいつでも獣系ヒロインに変身です」

 ガチャーン

 「手が滑った」

 「ワザとだ……」


 怖い話

 「ある日、その忍具を敵から奪ってから、おかしなことが起きるようになった。
  朝起きると忍具に血が数滴ついているんだ。
  男は気のせいだと思って血を拭いた。
  でも、次の日も次の日も血は付いている……」

 「…………」

 「忍具は、何もしないのに血に塗れていく。
  ある日、男は忍具を拭くのをやめた。
  忍具も放り出したままだ。
  そうしたら、どうなったか?」

 「…………」

 「一週間目で一人の人間分の血液が染み出した。
  二週間目に一人の人間分の骨が転がった。
  三週間目に一人の人間分の内蔵が揃った。
  四週間目……そこには何もなかった」

 「…………」

 「お、男はどうなったんですか?」

 「残った……」

 「え?」

 「必要のない男の脳だけが、そこに残してあったんだ……」

 「…………」

 「じゃ、じゃあ、男は忍具に……」

 「どうだろうな。
  これが伝え聞く忍具の噂話の一つだ」

 「ねぇ……。
  まだやるの?」

 「ヒナタ。
  何、怖がってんのよ。
  カカシ先生の話は、結構、有名な話じゃない」

 「そうなの?」

 「そうだ」

 「私が話して。
  いのが話して。
  カカシ先生が話したから……次はヒナタね」

 「無理!
  私、もう聞けないし話せない!」

 「またまた……。
  純情ぶっちゃって。
  ・
  ・
  仕方ない。
  ヤオ子、あんた話せる?」

 「怖い話ですか?」

 「ええ」

 「いいですよ。
  では……。
  ・
  ・
  これは崩壊したあたしの店に伝わる話です。
  あたしの店には、開かずの間がありました。
  もともと古い民家を改築して八百屋にしたんで、建物自体が古かったんです。
  そして、物心ついたころから、ここは開けちゃダメって部屋がありました。
  でも、昔から変な気配がしていたんです。
  誰かが居るみたいな……」

 「…………」

 「ある日、弟が言うんです。
  『お姉ちゃん。
   また、あの部屋から聞こえる』って」

 「…………」

 「あたしは、興味なかったので無視していたんですが、
  また、弟が言うんです。
  『何か……引き摺ってるよ』って。
  ・
  ・
  仕方なくあたしも耳を澄ませました。
  そうすると、確かに聞こえるんです。
  扉の中で蠢いているんです。
  ・
  ・
  あたしは言いました。
  『開けて……みようか』って。
  弟は怖がっていましたが、
  あたしと二人だったので、やがて決心しました。
  ・
  ・
  あたしは、扉に手を掛けました。
  扉から僅かに振動が手に伝わります。
  少し力を入れます。
  扉はビクともしません。
  ・
  ・
  弟に振り返ると、分からないという顔をしています。
  仕方なしに両方の手を扉のノブにかけて思いっきり引っ張りました。
  ・
  ・
  すると──」

 「…………」

 「ここでやめますか」

 「ちょっと! 何でよ!」

 「そうよ!」

 「呪われるの?」

 「いいえ。
  ただ……ちょっと、思い出したくないんで」

 「もったいぶるなよ」

 「分かりました。
  続きを言います。
  ・
  ・
  扉を開けると、それはあたしと弟に絡み付いてきたんです。
  扉を掴んだ手だけじゃありません。
  足から腹から首まで全部を多い尽くされたんです。
  どんなにもがいても体中いたるところで動き続け、這いずり回り暴れるんです。
  弟は、既に見えません。
  あたしも視界が多い尽くされて見えません。
  それは家中に広がり、恐怖に支配されました」

 「死んじゃったの?」

 「あたしはここに居ます。
  死んでいません。
  ・
  ・
  その黒い波の正体は……ゴキブリだったんです」

 「「「「え?」」」」

 「想像してください。
  自分の体や服の中を大量のゴキブリが動き回るんです」

 「「「「うぷ……」」」」

 「しかも、何か脂ぎってて気持ち悪いんです。
  当然、動けば何匹か潰れてゴキブリの体液が飛び散ります」

 「「「いぃぃぃやぁぁぁ!」」」

 「怖いでしょ?」

 「怖いの意味が違うわよ!」

 「え?」

 「誰がおぞましいゴキブリの話をしろって言ったのよ!」

 「怖い話って……」

 「幽霊とか怪奇現象の話!」

 「インパクトは、十分だったかと?」

 「そんな気持ちの悪い話は聞きたくないわ!
  不潔よ! 汚い! ゴキブリ大嫌い!」

 「その後、大変だったんですよ。
  直ぐに殺虫剤を撒いたんですけど。
  ゴキブリの素晴らしい生命力のせいで、中々、収まらなくて。
  ・
  ・
  服なんかも潰れたゴキブリがくっついてたりで……」

 「やめてーーーっ!
  もう聞きたくない!」

 「まあ、その一件であたしの店からゴキブリはいなくなったんですが、
  その店も潰れてなくなってしまいました」

 「げ、原因は何だったのよ……」

 「原因?」

 「ゴキブリが大量発生した原因よ!」

 「え~と……。
  家を中古で買った時から、その部屋でゴキブリが大量に繁殖してたのは分かってたんです。
  それで両親は、臭い物に蓋をする感覚で封印しました。
  でも、八百屋をやるようになって、ゴキブリにしてみればエサが増えたことになります。
  封印後も繁殖を続けていたんでしょうね。
  遂には、何かが蠢く音になるほどでしたから。
  家を買った時に、害虫駆除はしっかりしないといけないという教訓ですね」

 「絶対に違うわよ!」  

 「ううう……。
  すいません……。
  ・
  ・
  じゃあ、口直しに違う怖い話を」

 「まともなのを頼むわ」

 「はい。
  ある日のテレビ番組の話です。
  素人がテレビに出て、どれだけ凄いかを競い合うんです」

 (今度は、まともそうね)

 「賞金が出るので出るのは貧乏学生がほとんどでした。
  そして、ある挑戦者が出ます。
  彼は、ゴキブリをおかずにご飯をたべると言うのです」

 ((((え? またゴキブリ?))))

 「彼は、見事完食して賞金を手に入れました」

 ((((また気持ち悪くなってきた……))))

 「しかし、数日後、彼は突然死んでしまいました。
  司法解剖の結果、彼の胃からは大量のゴキブリが……。
  彼は、お腹に卵を持ったメスを食べてしまったんです」

 「だから、ゴキブリネタはやめろ!」

 「ご飯が食べられなくなるでしょ!」

 「ゴキブリこわい……。
  ゴキブリこわい……。
  ゴキブリこわい……」

 (この子、ワザとやってるな……)

 「冗談ですよ。
  普通に怖い話をします」

 「本当でしょうね?」

 「今度、ゴキブリのネタを話したら、四人がかりで叩くからね?」

 (オレも含まれんのか……)

 「えっと、ゴキブリネタはフィクションです。
  あたしの嘘の想像。
  本気にしないでね」

 「もう、遅いわ!
  しっかり、頭に想像しちゃったわよ!」

 「はは……。
  じゃあ、ウォーミングアップも終わったので話します。
  あたしの怖い話は、綱手さんについてです」

 「「「「ん?」」」」

 「綱手さんは、優秀な火影様です。
  里の力を取り戻すために尽力されて、多くの中忍を合格させました。
  聞くところによると
  『ナルトさん以外の同期が全員中忍になっている』
  とのことです」

 「ええ。
  師匠の努力で大分中忍を輩出できたわ」

 「更に一期上のネジさん、テンテンさん、リーさんも……。
  そして、木ノ葉以外も中忍が出ましたね。
  例えば、砂隠れの我愛羅さん、テマリさん、カンクロウさん」

 「それがなんなのよ?」

 「どうやって、この多人数を中忍に?
  確か中忍試験は年二回のはずです」

 「「「「え?」」」」

 「ナルトさんから聞きました。
  かつての中忍試験で予選の時に審判の方がこう言ってました。
  『中忍試験規定にのっとり予選を行い……。
   "第三の試験"進出者を減らす必要があるのです』
  理由として……。
  『たくさんのゲストがいらっしゃいますから……。
   だらだらとした試合はできず時間も限られてくるんですね……』
  これから、何が考えられるか?
  中忍試験には合格者の上限が決まっていることです。
  本戦での棄権者や、サクラさんといのさんのダブルノックアウトを考えると本戦は十人が限度でしょう。
  中忍になったのは、コミック1巻でナルトさんがしょげてた時にワイワイしていた彼等ですよね?
  うじゃうじゃいます。
  どうやって、そんな多人数を合格させたんですか?」

 「それは……」

 「怖いでしょ?」

 (この子は、また変なことを……)

 「ここからは、きっと一般の忍が立ち入ってはいけない暗黒面です。
  国の安定を前提に五影達はやりたい放題です。
  五影には、小国にはないある特権があると思われます。
  中忍合格者人数限界突破です」

 「…………」

 (あ~あ……。
  怖い話が現実味をおびて、サクラ達の顔が真剣になっちゃった)

 「何故、そんな勝手が許されるのか?
  仮説です。
  理由としては、忍五大国の強さのバランスを裏で操作するためです。
  黒いです。
  はっきり言って、凄く黒いです。
  故にナルトさん帰還の数年で、火影と風影がこの特権を使ったと思われます。
  ・
  ・
  でも、何で、他の国は許したのでしょうか?
  更に仮説です。
  忍者が大勢死ぬのは、何も戦争だけではありません。
  流行り病や自然災害などが考えられます。
  しかし、忍の国の力関係は極秘なので理由は調べない聞かないが暗黙のルールになります。
  きっと、こうして裏で五影達は、忍のバランスをコントロールしていたのです」

 「…………」

 「背筋が冷えたでしょ?」

 「いや、確かに怖いんだけど……」

 「それを私らが知って、どうなるの?」

 「平和ボケしてんですか?
  カカシさんのような上忍しか知らない秘密をペーペーのあたし達が知ってしまったんですよ?」

 「どうなるの?」

 「カカシさんに犯される」

 「するか!」

 「おお……キレた」

 「当たり前だ。
  そんなことはしない。
  そもそも、その仮説が合っているかどうかも、オレには分からん」

 「隠そうとしているのが怪しいわね?」

 「確かに……」

 「本当なの?」

 「間違いありません!」

 「ヤオ子、仮説って言ってただろう……」

 「じゃあ、どうやったんだろう?」

 「綱手様の色香で惑わしたんじゃないの?」

 「それだ!」

 「「「違う!」」」

 (ヤオ子がエロくてよかった……)


 その頃のダンゾウ

 「ダンゾウ様。
  例の経理の秘密が分かりました」

 「本当か?」

 「はい。
  下忍がつきとめたようです」

 「下忍だと?」

 「はい」

 「…………」


 ダンゾウが考え込む。


 「一体、どんな下忍なのだ?」

 「現火影の懐刀と言ったところでしょうか?」

 「ほう……」

 「火影の失敗のカバー。
  シズネ女史の失敗のカバー。
  他忍者のDランク任務での失敗のカバー。
  ・
  ・

 「ちょっと、待て」

 「は」

 「何だ? その報告は?」

 「例の下忍のものですが?」

 「何故、失敗の摘み取りをしているのだ!」

 「それが……。
  別調査によるととんでもない雑務能力を持っていまして」

 「本当に忍者なのか?」

 「恐らくは……」

 「恐らく?」

 「例の特別召集で呼ばれた忍のようでして……」

 「では、雑務をしているのは当たり前だ。
  ・
  ・
  テストの試験記録は、どうなっている?」

 「……これです」


 ダンゾウが、ヤオ子の試験結果を見る。
 即、吹いた。
 そして、咳き込む。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「何だ? これは?」

 「我々も、困っています」

 「他には?」

 「今までの任務です」


 ダンゾウが、ヤオ子の簡易任務結果を見る。
 即、吹いた。
 そして、咳き込む。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「コイツは、人間なのか!?」

 「お、恐らく」


 段々、頭が痛くなって来た。


 「と、兎に角、優秀そうだな」

 「え、ええ」

 「では、根にスカウトしてみるか?」

 「火影が許しますか?」

 「どうとでもなる……」

 「あの……本気ですか?」

 「異論でもあるのか?」

 「悪い噂も……」

 「悪い噂?」

 「女性をストーカーしているとか……」


 ダンゾウが吹いた。


 「顔岩に手を入れて……。
  その……現火影の顔岩に胸を作ったとか……」


 ダンゾウは額を押さえている。


 「更に敵が男だと、急所を潰して回る悪鬼だとか……」


 ダンゾウの顔がキュッとなる。


 「変態の女王で、部下に自来也様とはたけカカシを従えているとか……」

 「どんな噂だ……。
  人物像が一向に見えないぞ」

 「調査をした私もです。
  しかも、件の人物……」

 「?」

 「九歳の少女です」


 ダンゾウは、頭が痛かった。


 「もうよい……。
  幾ら優秀でも、変態はいらん。
  この話、聞かなかったことにしておく……」

 「は」


 部下が、ダンゾウの前から姿を消した。


 「…………」

 「綱手も苦労しているのかもしれんな……。
  ・
  ・
  ただ、あの顔岩の胸はよかった……」


 ダンゾウは何かを思い出し、頬を赤くする。


 「いかん! 雑念が!」


 ダンゾウは頭を振ってヤオ子の悪夢を振り払う。
 こうして、ヤオ子の根へのスカウト計画は霧散した。



[13840] 第65話 ヤオ子とヤマトの再会
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:00
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 彼の近況を少し振り返る……。

 綱手から暗部の面を外すように命令され、再びヤマトの名を貰う。
 そして、尊敬するはたけカカシの班の隊長となり、大蛇丸とサスケとの戦闘。
 ほんの数日のことだが、重要性が高く激務だったと言える。
 更にはナルトを抑えるために、自分しか使えない秘伝の術まで使用した。
 彼は疲れていた。
 しかし、そんな彼には休暇中にどうしてもしなければいけないことがあった。


 「まだヤオ子に伝えてないよ……」


 ヤマト自身の急な任務とヤオ子の任務の都合で、彼等は未だ再会を果たしていなかった。



  第65話 ヤオ子とヤマトの再会



 ナルトが里に戻るまでの間、ヤマトは暗部に戻ったままだった。
 そのため、すっかりヤオ子との接点がなくなってしまっていた。
 それでも、時々届くヤオ子の差し入れから、ヤオ子の律儀さと変わらぬ尊敬の念を感じる。
 一方的に送られる品にお礼も返せない日々。
 そして、また担当上忍を離れてしまったこと。


 「第一声は、謝ることかな?」


 ヤマトは少し気を落として、ヤオ子の家をノックする。
 返事の後に現れたのは、見違えるほど成長した少女だった。
 服装も装備も変わっていない。
 しかし、ヤオ子の変化は一目で分かる。


 「……部屋を間違えたかな?」

 「合ってるんじゃないですか?」

 「そうだよな……。
  ヤオ子……なの?」

 「そうですけど?」

 「君……随分と背が伸びたね」


 ヤマトとヤオ子の視線の高さは、以前と大分違う位置にある。
 ヤオ子も視線の高さの違いを感じる。


 「遺伝でしょうね。
  うちの母親は身長だけは、十歳少し過ぎたぐらいで、
  今の身長と同じぐらいだって言ってました。
  それからエロいボディのパーツが発達したと」

 「この会話……。
  間違いない……ヤオ子だ」

 「そんなに驚くことないですよ。
  あたしも赤丸さんの成長には負けましたから」

 「それ、犬だろう?」

 「そうですよ」


 いつもの溜息が出る。


 「身長は、サクラより少し低いぐらいかな?」

 「はい。
  ・
  ・
  しかし、胸の成長は……」


 ヤオ子が自分の胸を揉み、勝ち誇った顔している。


 「話に変なものを挟まなくていいから……」

 「大事なコミュニケーションなのに~」

 「そんなコミュニケーションはいらないよ……」


 ヤマトのヤオ子に対する反応も変わらない。
 それが久々の会話でも、二人を安心させる。
 そして、ヤオ子は急に訪れたヤマトに質問する。


 「ところで。
  本日は、何しに?」

 「色々と報告をしたくてね」

 「報告? 何ですかね?
  ・
  ・
  立ち話も何ですし……。
  乙女の部屋に入りますか?」

 「言い方が卑猥だ……。
  ・
  ・
  君の部屋……危険じゃないだろうね?」

 「どういう意味ですか……」


 ヤオ子が項垂れた瞬間、部屋の中が見える。
 ヤマトの視線が部屋の中のミラーボールを捉えた。


 (乙女の部屋にあるまじき物が見えた……)

 「やっぱり危険な気がする……。
  演習場で話さないか?」

 「デートですか?」


 ヤマトはガンッ!と鉄の扉に頭をぶつけた。


 「報告だから……」

 「分かりました。
  行きましょうか」


 ヤオ子は靴に足を通して外に出る。


 「用意はいいのかい?」

 「これから修行しようと思っていました」

 「勤勉さは変わらないね」

 「もう、習慣ですね」

 「そうか」


 ヤオ子とヤマトは、演習場へと向かった。


 …


 演習場に設置されているベンチに腰を下ろす。
 風に合わせてヤオ子の髪が流れる。
 相変わらずのポニーテールだが、サクラに勧められた洗髪剤のお陰で以前よりも艶が出て滑らかになっている。
 顔立ちも幼さが残っていた二年前よりも、少し大人びて来た。
 しかし、ヤマトは知っている。
 さっきの会話で目の前の少女は、少女の皮を被った変態であると……。

 ヤオ子の会話で蘇った警戒心もあったが、律儀なヤマトは話さなければいけないことを優先するために会話を切り出した。


 「先にお礼を言っておくよ。
  色々と差し入れを入れてくれて、ありがとう。
  そして、お返しも出来ないままで、すまない」

 「気にしないでください」


 ヤオ子が笑顔で答える。


 「だって……妻だから♪」


 ヤマトが吹いた。
 隣では、ヤオ子悶えている。


 「愛するヤマト先生のために、一生懸命に尽くしました♪」

 「じょ、冗談だよね……?」

 「そう見えます?」


 ヤオ子の目は真剣だ。
 しかし、口元は緩みっぱなしだ。


 「そう見えるよ……」

 「えへへ……。
  バレました?
  ・
  ・
  でも、お料理にはしっかりと気持ちを込めていますよ」

 「ああ。
  どれもとても美味しかったよ。
  仲間内で食べて大評判だった」

 「そうですか?
  照れますね~。
  ・
  ・
  お酒は、どうでした?」

 「お酒?
  一度も届いてないけど?」

 「…………」


 ヤオ子には思い当たる節があった。
 額に手を当て項垂れる。


 「やっぱり綱手さんに頼むんじゃなかった……。
  きっと、全部飲まれたに違いありません……。
  よく考えれば、人んちの冷蔵庫から勝手にお酒を拝借するような人でした……」

 (一体、綱手様とヤオ子の間に何が……)

 「残念ですね。
  ヤマト先生だけがお酒を飲めなかったみたいです。
  イビキさんには直接渡せたんですけど、
  ヤマト先生には連絡がつかなくて手渡し出来なかったんですよね」

 (暗部の仕事は極秘だからね)

 「次の機会があれば頂くよ」


 ヤオ子は拳を握り、涙を流す。


 「やっぱり、ヤマト先生だけが普通の人です……。
  女の友情なんて上っ面だけです……」

 (今の会話の何処に感動するポイントがあったんだろう?)


 ヤマトは、ヤオ子の交友関係が凄く気になった。
 そして、その交友関係に綱手が加わっているのに一抹の不安を拭い切れなかった。
 そんなヤマトの不安を余所に、ヤオ子が本題を質問する。


 「そういえば、報告って何ですか?」

 「ああ……そうだった。
  上忍として、また任務をすることになったんだ」

 「あたしの?」

 「いや、第七班だ」

 「へ~。
  カカシさんとサクラさんですか」

 「ナルトも居るんだけど……」

 「ん? ナルトさん?
  里に戻っていたんですか?」

 「ナルトが戻ってから、もう随分と時間が経つけど……。
  ・
  ・
  そういえば、ナルトはほとんど里を離れていたね」

 「あたしも、最近は任務で里を離れていました」

 「そうだったのか。
  じゃあ、会えなくてもしかたないね。
  Dランクなのかい?」

 「いいえ。
  Cランクで長期のものでした」

 「Cランクもこなすようになったんだね」

 「ええ。
  これで8回目です」

 (あれ?
  思ったより少ないな)

 「二ヶ月ぐらい前ですかね?
  突然、綱手さんが慌ててCランクの任務を言い渡したんですよ」

 (綱手様……。
  ヤオ子のお土産を渡して貰った時に頼んだのに……。
  この前、ボクの顔を見て思い出したんだろうな……。
  あれだけ、
  『Cランクの任務を増やして
   経験を積めるにしてください』
  って頼んでおいたのに……)


 ヤマトは少し切なくなった。
 しかし、綱手もワザとではない。
 ヤオ子の処理能力が高過ぎて指名が入るため、Cランクを増やせなかったのだ。
 今や指名は、どうしても断れない大名にまで及んでいた。


 「相変わらず一人なのかい?」

 「そうですよ。
  第七班では二人欠員していたんで、よくお世話になりました。
  他にも欠員が出る度に……。
  まあ、ほとんどDランクですけど」

 「大活躍だったんだね」

 「ええ。
  里中がインフルエンザになっても、
  あたしだけは、何故か掛からなかったので、
  皆さんがくたばっている時も頑張りました」

 (あの大流行の時も平気だったのか……)

 「いっそ、あたしの血から血清が作れるんじゃないかと、話にあがったぐらいです」

 (何か怖いな……。
  実は、もう変な病気に感染しているから、
  インフルエンザにならなかったとかじゃないだろうな?)


 ヤオ子は少し遠い目をする。


 「でも、そろそろ引退も考えているんですよ」

 「は?
  ・
  ・
  引退!?」

 「ええ。
  里の力も戻って来たし……。
  貯金も貯まったし……。
  実家に戻ってもいいかなって……」

 「君は、それでいいのか?」

 「最近、思うんですよ。
  夜遅くまで仕事して……ただ寝るだけ。
  幸せって、一体、なんだろうって……」

 「何で、長年勤め上げたOLみたいになってんの……」

 「婚期とかを逃したわけじゃないんですけど……。
  ダメな上司の下で働くのが馬鹿みたいで……」

 「綱手様じゃないだろうね?」

 「どっちかと言うとシズネさん?」

 「本当に、その理由で忍者辞めるの?」

 「だって……。
  いくらDランクが安全とはいえ、
  エンカウント数が、14,273回ですよ?」


 ヤマトが吹いた。


 「どうなれば、そうなるの!?
  日数で割っても、一日二十件以上だよ!?」

 「え~と……ですね。
  出せるだけの影分身を出して、
  出来る範囲の仕事を調節して、
  一つこなすと三つ片付くようにしたりして……。
  細かい仕事を短時間で一気に片付ける?」

 「…………」


 ヤマトが額を押さえる。


 「さぞかし、お金が貯まっただろうね……」

 「ええ。
  通帳は初任給貰ってから一度も使っていないので、
  幾ら貯まっているか分かりませんが、多分、一財産作れたと思いますよ。
  だから、実家で緩く生きていくのもいいかと」

 (恐れていた事態だ……。
  忍者として働く誇りが消え掛けている……。
  ただでさえ、忍者を嫌がっていたのに……)

 「とはいえ、辞めさせてくれないだろうな……。
  シズネさんの経理も手伝わないといけないし。
  綱手さんの我が侭も聞いてあげないといけないし。
  コハルさんとホムラさんの整体もしないといけないし。
  指名の入っている任務も多いし。
  他にも……」

 「もういいよ……。
  全く忍者関係ないね……」

 「でも、辞めませんけどね。
  冗談です」

 「そうか……」


 ヤオ子の笑顔に、ヤマトは少し安心する。
 ヤオ子が左腕を指差す。


 「まだ、引っくり返っていないんです」


 ヤマトは、ヤオ子の額当てが布に包まれたままなのを確認する。


 「まだ……自分を忍者として認められないのかい?」

 「ええ。
  あたしは、ヤマト先生とイビキさんに認めて貰うまで忍者じゃないんです」

 (ふざけたところも多いけど……。
  こういうところは一途で頑固のままだ……)

 「イビキさんには実力を見せました。
  後は、ヤマト先生だけです」

 「…………」


 ヤオ子の目が、今の自分を見て欲しいと真っ直ぐにヤマトを見ている。


 「仮に……。
  ボクが認めたら、どうするんだい?」

 「守られる立場から守る立場に気持ちを切り替えます。
  ちゃんと中忍を目指そうと思います」

 「…………」

 (しっかりと決意をするために、ボクを待っていてくれたのか……。
  少し嬉しいな……)

 「分かった。
  この演習場で君の実力を見るよ」


 ヤマトが立ち上がる。
 ヤオ子の気持ちに、ヤマトは真摯に応えてくれた。


 「あたしは、いい先生を持ちました。
  本気で行きますね」

 「ああ」


 ヤオ子が足の重りと手の重りを外す。


 「ガイ先生には、
  『複数の守る人が居る時意外は外すな』
  と言われていますが……。
  あたしの真剣を見て貰いたいから」


 ヤオ子がゴトリと重りをベンチに置く。
 そして、手足をプラプラと振る。


 「久々に全力で戦えそうです」

 「ちなみに、誰かに勝った経験とかは?」

 「数えるほどしかないです」

 (ヤオ子のことだ……。
  ガイさんとの約束を守り通したんだろう……。
  だとしたら、言葉通りに信用しない方がいいな)


 ヤオ子が腰の後ろの道具入れからクナイを取り出し、ヤマトは自然体で構えている。


 「始めよう」

 「行きます!」


 ヤオ子が地面を蹴る。
 速度は、二年前と比べ物にならない。


 (ガイさんの教えか……)


 ヤマトが印を結ぼうとすると、ヤオ子はクナイを投げる。


 「これも早い!」


 ヤマトがクナイを屈みながら躱すと同時に印を結ぶ。


 「木遁の術!」


 ヤオ子も印を素早く結ぶ。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー!」


 ヤマトから伸びる木を突き出した左手の術で強引に破壊する。


 「木の性質を考えるなら、
  火で燃やしてしまえばいいんです!」

 「強引だな……」


 ヤマトは瞬身の術で移動するが、それにヤオ子がピッタリと着いて走る。


 (移動速度……。
  投擲……。
  移動中の術の発動……。
  しっかりと身についている。
  丁寧に時間を掛けて身につけたに違いない。
  どれも基本的な動きだけど、無駄な動きや雑さを感じられない)


 しっかりと後に着いて来るヤオ子を確認すると、ヤマトは腰の道具入れに手を入れ、煙玉を取り出す。
 そして、煙玉を使用した瞬間に木分身の術を使い二手に分かれる。

 それを見たヤオ子が止まり、暫しの間、思考する。


 「無理に追っても無駄ですね。
  あたしの力を見てくれる以上、いつか攻撃して来ます。
  その回避術を見せるのもいいでしょう」


 ヤマトは茂みに隠れたまま、ヤオ子が誘っているのを認識する。


 「度胸のある子だ……。
  でも、ボクが使えるのは木遁だけじゃないんだよ」


 ヤマトの木分身が前方からヤオ子に仕掛けると、ヤオ子もクナイで応戦する。
 クナイをクナイで受けて甲高い音が響く。


 「土遁・土流槍!」


 茂みの中でタイミングを見計らった本体のヤマトが術を仕掛ける。
 すると、岩の槍が木分身とヤオ子を巻き込んで地中から生える。

 ヤオ子は、それを垂直に飛んで躱すが、同時に木分身が木に変わりながらヤオ子の足に絡み付いていく。


 「拘束する気ですね!」


 ヤオ子が手を伸ばす。
 指から伸びるチャクラ糸が、地面をしっかりと吸着する。
 だが、吸着したチャクラ糸を引き戻し、その場を離れようとするが、木が足を放さない。

 ヤオ子はチャクラ糸を切り離すと印を結ぶ。
 そして、足の裏で爆発が起こして、拘束していた木を吹き飛ばした。


 「発想の転換だな。
  手じゃなくて足で術を発動させるとは……。
  ・
  ・
  居場所がバレたみたいだ……」


 土遁の発動でヤオ子の視線が完全にヤマトを捉えていた。
 ヤオ子は拘束から解放されて着地すると、直ぐに走り出す。
 速度は中忍試験予選の時のリーの重りを外した時とほぼ同等。


 「またスピードが上がった?
  力を抑えていたのか」


 ヤオ子が印を結び始める。


 「ヤマト先生!
  気を付けてくださいよ!
  ・
  ・
  この攻撃を甘く見ると大怪我します!」

 「そうみたいだな」

 (印を結ぶのが早いヤオ子が、まだ結んでいる。
  一体、何の術なんだ?
  ・
  ・
  でも、さっきの印と似ているような……。
  相変わらずあの指の動きは読み難い……)


 印を結び終えると、ヤオ子は体術の型を取る。


 「何で、体術なんだ?」


 ヤオ子の右ストレート……ヤマトが受け止めようとして途中で止める。
 体勢を崩して無理に避けた横で爆発が起きる。


 「やっぱり……!
  拳にチャクラが練り込まれていたのは、このためか!」


 更に反転させて左の回し蹴り。
 ヤマトが後ろに飛びながら、印を結ぶ。


 「土遁・土流割!」


 地面が垂直に隆起してヤオ子の回し蹴りを防ぐ。
 しかし、土壁ごと爆発する。


 「まるで起爆札で戦っているみたいだ……」


 ヤオ子は、更に土壁の薄いところを狙って左手の掌抵打ち。
 爆発で強烈な石つぶてが発生する。
 ヤマトはバックステップしながら回避する。
 それでも数発を貰うが急所は避ける。


 「追い討ちです!」


 高速移動でヤマトに接近して、最後の一蹴りで右足の術を地面に向かって発動する。
 地面を爆発させて最後の再加速。
 ヤオ子の肘内がヤマトの鳩尾に入る。


 「…………」


 肘は完全に鳩尾を捉えている……が、ヤオ子の目に涙が溜まり始める。


 「ふふふ……。
  まさか服の下で木遁とは……」

 「だ、大丈夫かい?」

 「いった~~~っ!」


 ヤオ子が跳ね回る。
 肘打ちは、木にマジ打ちする形になってしまった。


 「道理で、クナイを投げても怒らないはずです……。
  ベストの下に木遁を使って対策していたんだから……」

 「騙すつもりはなかったんだ。
  本気のヤオ子を見たかったから」

 「ううう……。
  今度、肘でも爆発させるようにしよう……」


 ヤオ子は蹲って肘を撫でている。
 その後ろでヤマトが感想を漏らす。


 「凄い術だね。
  連続で爆破できるなんて」

 「まあ、タネがあるんですけどね」

 「タネ?」


 ヤオ子は肘を撫でながら立ち上がると、ヤマトに向き直る。


 「あれ四回しか攻撃できないんです」

 「どういうこと?」

 「両手両足に一発ずつ。
  だから、右手に二発装填することが出来ません」

 「そういう術なのか……」

 「新しい術というわけではなく、必殺技を応用しただけなんです。
  本来は、使った後に時間があれば装填して戦うんです」

 「じゃあ、何でそうしなかったんだい?」

 「下手すると死ぬんで、初見の相手にはネタをバラすことにしているんです。
  もちろん、味方オンリーですよ」

 「確かに危険極まりない攻撃術だったよ」

 「ちなみに、本邦初公開です」


 ヤマトは術の威力と連続性を頭で思い返し質問する。


 「その術って、チャクラ持つのかい?」

 「持たせるために体力をつけて来ました。
  それに相手は触れればやられるんで、短期決戦を想定しています」

 「だろうね」


 不完全燃焼のヤオ子が構え直す。


 「じゃあ、続きをしましょうか?」

 「これは組み手を出来ないよ……」

 「じゃあ、別の戦術で」

 「まだ、あるのかい?」

 「今、見せたのが攻撃方法……と言ってもとどめ用です。
  次のが、とどめに持っていくための体術です」

 「忍術はなしでいいのかい?」

 「影分身だけはいいですか?」

 「そういえば、使ってなかったね」

 「陽動掛けると危ないでしょ?」

 「まさか、手加減されてたとはね……」


 ヤマト自身もヤオ子の実力を見るために手加減をしている。
 しかし、ヤオ子も手加減していると言われると苦笑いを浮かべるしかない。


 「う~ん……言われてみればというか自分で言ってみればですが、
  さっきの術は模擬戦向きじゃありませんでしたね。
  術の威力を加減しないと模擬戦になりません」

 「術の発動は全力でやってたんだ……」

 (当たっていたら、大怪我してたな……)

 「実のところ、術を真面目に使った模擬戦は初めてで」

 「いつもは?」

 「冷やかし半分♪」


 ヤマトが額に手を置く。


 「さて、第二回戦を始めますか!」


 半ば強引に話を進めると、ヤオ子は右手を顔の前に掲げる。


 「これを使って行ないます」


 ヤオ子の指から、五本のチャクラ糸が垂れ下がる。


 「次は、鬼ごっこです」

 「君が鬼かい?」

 「はい。
  ・
  ・
  じゃあ、用意──」


 ヤオ子はピッ!と糸をヤマトにくっ付ける。


 「あ!?
  スタート前に!」

 「スタート♪」

 「何か汚いな……」

 「十数えたら、追っかけますね」


 ヤマトが林に消えると、ヤオ子は十数える。


 「さ~て、と」


 ヤオ子の指から続くチャクラ糸が反応する。


 「修行して、かなり伸ばせるようになったんです。
  ロープにすると距離は稼げませんけどね。
  ……と、そろそろ限界です」


 ヤオ子がチャクラ糸を頼りに一直線にヤマトへ向かって走り出した。
 ヤマトは足音が近づいて来るのに気付く。


 「やっぱり……。
  この糸は追跡用だ……。
  ・
  ・
  そして、本来ならバラさずにつける糸を最初からタネ明かしして見せるということは……。
  見せ付けるつもりなんだろうな……。
  ・
  ・
  本当に可愛い子だね。
  上忍相手なのに」


 ヤマトが逃走の方法を変えるため、印を結ぶ。
 チャクラ糸の付着部分から木分身が現れ、チャクラ糸を引き受けて別れる。
 それに合わせてヤオ子が反応する。


 「お?
  質量が変わった。
  分身を出しましたね?」


 ヤオ子が印を結ぶ。


 「こっちも影分身!」


 ヤオ子の影分身が、ヤマトの木分身を追う。


 「あたしは……」


 チャクラを足に集中する。


 「多分、あっち!」


 反対方向に高速移動をして、周囲に注意を向ける。
 それほど離されていないこの距離なら、追跡のための痕跡よりも動くものの感覚を捉える方が間違いない。
 空気の流れ、視覚、聴覚を振る活用し、ヤマトの姿を追う。
 そして、木の上を走る影を捉える。


 「見っけ!」


 ヤマトが顔を向ける。


 「折角、見つけたのに声を出したら、追跡しているのがバレちゃうじゃないか……」


 ヤマトは、印を結ぶ。


 「木遁・四柱牢の術!」


 追跡するために木を駆け上がるヤオ子の周りの木が牢に変わっていく。
 ヤオ子は木製の牢屋に拘束されると、すかさず印を結ぶ。


 「変化!」


 猫に変わり、格子の間を擦り抜ける。


 「お見事……。
  焦らずにいい判断だ」


 ヤオ子は変化を解いてチャクラを練り上げるとチャクラ吸着でヤマトよりも高い位置まで駆け上がり、射程範囲内に捕捉する。
 そして、真下に居るヤマトに向かって手を伸ばす。


 「伸びろ!」


 チャクラのロープが伸びる。


 「またか……」


 しかし、今度は『糸』ではない。
 チャクラがヤマトのベストに付着すると広がり、しっかりと纏わり着いた。


 「そして、こうする!」


 チャクラ吸着でヤマトを引っ張る。
 当然、体重差でヤオ子が負ける。
 そこで足のチャクラ吸着を全開にする。


 「こっちに来てくださ~い♪」


 ヤマトの体がヤオ子の居る木の上に引っ張られる。


 「ちょ!? 
  こんな強引なチャクラの使い方は知らないぞ!?」

 「そりゃそうですよ。
  木ノ葉一の馬鹿(父親)が考えたんだから」


 ヤマトを引っ張り切ると、ヤオ子はヤマトにタッチする。


 「本来は、ここで技を当てます」

 「なるほど……」

 「どうですかね?
  初見なら、結構使えると思うんですけど?」

 「ああ。
  基本的なチャクラ吸着をこういう風に使うとは思わなかったよ」

 「あたしも初めはどうかと思ったんですよ。
  でも、よく考えたら、足で吸着して木なんかに水平に立つのは、
  自分の体重を支える以上、かなりの力なんだって気付いたんです」

 「自分の体重か……。
  そうだね。
  それはかなりの力が掛かっているはずだ。
  今まで当たり前で使ってたから、気にしたこともなかったよ」

 「あたしも言われて試すまで、気付きませんでした」

 (何処からの元ネタなんだ?
  さっきの木ノ葉一の馬鹿っていう人か?
  誰なんだろう?)


 まさか、自分の親を木ノ葉一の馬鹿と例えているとは、ヤマトは夢にも思わなかった。


 「さて。
  次は、ヤマト先生が鬼です。
  ギブアップも認めますよ」

 「随分、自信があるんだね。
  休憩は?」

 「いりません。
  まだまだ、いけます」

 (全力で走っても息も上がらない……か)


 ヤマトがヤオ子の成長具合を考えていると、ヤオ子は木の上から飛び降りた。


 「にゃ~ん♪」

 「え!? ちょっと!
  下まで何メートルあると思ってんの!?」


 勝手に鬼ごっこのスタートをしたヤオ子は、両手両足で綺麗に着地すると走り去って行く。


 「……猫か」


 ヤマトは木を何回か飛び移りながら地面に下りると、ルールに従いヤオ子を追う。


 「しかし、早いな」


 かなりの速度で走っているはずだが、中々追いつかない。
 それどころかヤオ子とヤマトの距離が切り返しの度に開く。


 「何で、あそこまで直角に曲がれるんだ?」


 普通は角を曲がると少し膨らむが、ヤオ子は膨らまないで切り返している。
 じっくりと観察すると、ヤオ子は切り返しの際に指からチャクラ糸を伸ばし、吸着で両手も利用している。


 「……四脚の術か。
  何で、使えるんだ?」


 正確には四脚の術ではない。
 指からのチャクラ糸が猫のツメの役割を果たし、ガッチリと地面を捉える。
 二足歩行しながら、切り返しの際だけ四足になる。
 ヤオ子は忍猫のタスケに動きを叩き込まれている。
 今度は、木を駆け上がる時に、手からチャクラ糸を飛ばすとチャクラ吸着を利用して木に登って行く。


 「何かもう、人間の動きじゃないんだけど……。
  空中で直角に曲がるって……」


 ヤオ子の動きは、猫と人間の動きのブレンドになっている。
 ヤマトが追ってジャンプすると、チャクラの糸で別の木に角度を変えて移動する。


 「無理だ……。
  野生の動物でも追っているみたいだ……。
  これ以上やると怪我をさせて止めることになりそうだ」


 ヤマトが地面に下りて降参を合図すると、ヤオ子が真上から落ちてくる。
 そして、また音もなく着地した。


 「人間の動きをしてないんだけど……」

 「キバさんと鬼ごっこして負けてから、タスケさんに指導して貰いました」

 「キバって……犬塚一族の?」

 「そうです」

 「タスケっていうのは?」

 「猫さんです」

 「猫?」

 「猫です」

 (遂に動物の言葉を解すように……)


 タスケは忍猫で人間の言葉を話すが、ヤオ子は大事なところを省略している。


 「タスケさんは気まぐれな方なんで、最近は会っていないです。
  あたしのご飯が食べたくなったり、暇になると来ますね」

 (猫の立場の方が上なんだ……)

 「空中の動きは、アメコミのスパイダーマンを参考に……」

 「何……それ?」

 「手からピュッと蜘蛛の糸を出すんです」

 「それでチャクラ糸を……。
  ・
  ・
  君さ……。
  ちょっと見ない間にジャングルにでも住んでたの?」

 「そういうわけじゃないんですけどね。
  タスケさんに動きを見て貰ったら、基本通り過ぎるって怒られたんです」

 「猫に怒られたんだ……」

 「それで動きに動物の動きと漫画の動きを加えました」

 「かなり独特だったよ。
  やられて困ったからね。
  人間辞めたんじゃないかって思ったよ」

 「酷いですね」

 「スタミナも凄くついたみたいだね」


 ヤオ子は右腕を畳み、左腕で叩く。


 「ええ。
  多分、馬鹿みたいについてます。
  ・
  ・
  あたしの実力は、如何ですか?」


 ヤオ子は、今の自分を出し切って満足そうにしている。
 一方のヤマトは、少し複雑な顔をしている。


 「正直、困った」

 「?」

 「動きやスタミナは問題ない」

 「おお!」

 「しかし、覚悟とかそういった心情的な成長が全く分からない」

 「……同じことをイビキさんも言ってました」

 「そうか……。
  それでボクに判断が引き継がれたんだな」

 「多分、それもあります」

 「判断しかねるよ……」

 「どうしてですか?」

 「君は楽しそうにしているから」

 「真剣でしたけど?」


 ヤマトが真剣な顔で話す。


 「そうじゃないんだ。
  どう言えばいいのかな。
  ・
  ・
  ボク達の力は凶器なんだ。
  今は楽しいかもしれないけど、厳しい状況もある。
  そういうものが自分に降り掛かる時もある。
  その時に覚悟が必要なんだ。
  ・
  ・
  まあ、君に子供でいられる時間を与えたのはボクだから、
  そこを指摘するのも筋違いかもしれないが……君は見て来たはずなんだ。
  任務で辛いことがあったことも……。
  汚い仕事があったことも……。
  だから、考えられるはずだし、それに対しての思いもあるはずだ。
  ・
  ・
  そして、君を知るために、今から少し君の心を試すことにする」

 「突然ですね……」
  
 「君も大人になるからだ。
  その段階で忍として生きるなら、
  少しずつでも理解していかなければいけない。
  ・
  ・
  少し辛い質問だ。
  だけど、忍としては避けて通れない。
  だから、真剣に考えてくれ。
  これで君の忍に対する気持ちを量る。
  ……君は、人を殺せるか?」

 「状況にもよりますけど……」

 (確かに忍について回る問題です。
  でも、何で、殺される方じゃなくて、殺す方なんだろう?
  ・
  ・
  ヤマト先生の意図があるのかもしれないけど……。
  あたしの気持ちで真剣に考えよう……。
  あたしの心が試されているんだから)


 ヤオ子は考える。
 今まで人を手に掛けたことはない。
 子供ゆえの手加減知らずで、自来也を殺しそうになったがそういうことではない。
 自らの手で命を刈り取るのだ。


 「…………」


 人を殺し殺されるのは、この世界では当たり前だ。
 戦乱が続いて国というものがなかった時は、忍を雇い戦をしていた。
 国を作り隠れ里を保有するようになっても戦乱は絶えない。
 第三次忍界大戦が起きたのも遠い昔ではない。
 そして、ヤオ子達が平和に浸って生きて来れたのは、ヤオ子以外の誰かが刃を抜いて戦って来たからだ。
 その誰かは、ヤオ子の代わりに殺して来たと言ってもいい。
 その誰かに今度は、自分がなるのだ。


 「忍者は嫌なこともしなければいけない。
  今のように楽しいだけではないんだ」

 「分かります……。
  出来るなら、忍の技を使わない方がいいですから。
  ・
  ・
  今の世界が忍の力でバランスを取っている以上、あたし達は兵器や戦力として見られるはずです。
  兵器は殺すための道具です。
  ・
  ・
  あたしは誰かを守れるなら……覚悟します。
  心が壊れるかもしれないけど……」

 「忍を続けられるかい?」


 ヤオ子は、静かに頷く。


 「力を持ってしまったから……。
  力が必要なことがあることを知ってしまったから……」

 「その力……。
  何に使うんだい?」

 「もう、言いました。
  守る立場になるために使います」

 「……いいのかい?
  本当に辛いことになるかもしれないよ?」

 「イビキさんとヤマト先生の教えです。
  その教えが嫌なら、忍者を辞めてます。
  あの時、二人は守ってくれた……。
  あたしの子供でいられる時間……。
  そして、あの時に守れなかった友人が居る……。
  この力は、今度は守れる人のために使いたい……」


 ヤマトは、ヤオ子の言葉で思い出す。
 ヤオ子は子供だけど、少しだけ忍の辛い世界に踏み込んでいたことを……。
 そして、それを忘れないで未だに心に棘として残していることを……。
 心を試す最中だが、思わず言葉が漏れる。


 「ヤオ子……。
  あれは……」


 ヤオ子は首を振る。


 「投げ出せない……。
  なかったことにしたくない……。
  あたしの初めての後悔……。
  ・
  ・
  でも……。
  だからこそ憧れた……。
  イビキさんにヤマト先生に……。
  守る力の使い方を知っている二人に……」


 再び、ヤオ子の笑顔。


 「どんなに辛くても頑張りたい。
  イビキさんやヤマト先生のような優しい忍者になりたい」


 ヤオ子の答えに、ヤマトは苦笑いを浮かべる。


 「ダメだ……。
  やっぱり分からない」

 「?」

 「覚悟を聞いたはずが、答えに希望が返って来た……」

 「え?
  ・
  ・
  あーっ!
  でも、総合すると覚悟というものは
  己のしたいことから生まれるものであって──」

 「もう、いいよ……。
  そういう風に考えられるのがヤオ子なんだから。
  ・
  ・
  ヤオ子は、ヤオ子のままだった……。
  変わってないし、変わって欲しくないままだった……」

 「成長してないと?」

 「いや、素直なままだ。
  そこを無理に忍らしくという心情を知ろうとしたのが間違いだった」

 「そうですか?」

 「自分に正直過ぎる。
  掴みどころがない」

 「貶してません?」


 ヤマトがヤオ子の頭に手を乗せる。


 「ボクは、ヤオ子を忍と認めるよ。
  辛いことや悲しいことも沢山あるけど、その時は頼ってくれ。
  そして、少しずつ成長してくれ。
  ・
  ・
  だから、今度は中忍を目指して頑張ろう。
  そのために力を貸すよ」

 「ヤマト先生……」

 「まだまだ焦る歳でもないし、じっくりと腰を据えて行こう」

 「はい!」


 ヤマトが微笑む。
 そして、ヤオ子は左腕の額当てに目を落とす。


 「もう暫くこのままにしておきます」

 「そうか……」

 (ヤオ子は、いつになったら自分を認めるのだろう……。
  もしかしたら、他の誰よりも厳しい条件を付けているのはヤオ子自身なのかもしれない……。
  心配のタネは消えないな……。
  だけど──)

 「今なら、カカシ先輩がナルトやサクラを見て嬉しそうにしている理由がよく分かるな……。
  自分以外の成長が、こんなにも嬉しいなんて……」

 「えへへ……。
  また、担当上忍になって貰えると嬉しいですね」

 「そうだね。
  でも、これからどうなるか……」

 「そうですね。
  里は力を取り戻しつつあります。
  皆さん、中忍になりましたし、ネジさんは上忍にもなりました。
  あたしは新しい世代の上忍さんの下で頑張るのかもしれません」

 「ボクも、まだまだ若いんだけど?」

 「分かってますよ。
  可能性の話です」

 「なら、いいんだ」

 「案外、気にするんですね?」

 「ああ。
  新しい顔に負けたくないからね」

 「じゃあ、出る杭を叩きますか?」

 「そんなことはしないよ」

 「えへへ……。
  やっぱり、ヤマト先生ですね」

 「何がやっぱりなんだい?」

 「秘密です」


 ヤオ子は可笑しそうに笑う。
 ヤマトも釣られて笑う。
 久々の再会であったが、そこには変わらない関係があった。
 二人の師弟の関係は、時間が経っても変わらないままだった。



[13840] 第66話 ヤオ子とイビキの初任務
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:00
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子は深夜の森を移動している。
 木々の葉に隠れ、僅かに照らされる月の灯りを頼りに木々を飛び移る。
 次の着地点の枝を慎重に見極め、他の隊員に遅れないように着いて行く。

 隊長は、森乃イビキ。
 フォーマンセルの班構成でヤオ子は最後尾を走り、他の班員二人はイビキの部下になる。


 …


 今回の任務では、イビキの指名でヤオ子は班員に組み込まれた。
 実戦経験の少ないヤオ子のために、Cランク任務をイビキが綱手に申請してくれたのだ。

 その申請してくれた理由は、あのCランク任務にある。
 イビキにとってもヤオ子にとっても苦い思い出になった任務から、イビキはヤオ子が気にはなっていた。
 しかし、耳に入るのは雑務の話ばかり。
 イビキはヤマトの前に実力を見てあげてから、ヤオ子が一人でもしっかりと修行をしているのを確認して、それからヤオ子の近況を少し調べた。

 そして、調査の結果、少し同情をした。
 ヤオ子よりも後に下忍になった子達は担当上忍の下で、Cランクの任務も多くこなしている。
 経験だけは、ヤオ子よりも積んでいた。
 その状況をヤオ子に少し訊ねたが、ヤオ子は相変わらずの態度で笑っている。
 ヤオ子は自分の役目を理解しているから僻まないのだ。

 雑務をする傍らで、忍としての努力の成果が見えるとほっとけなくなる。
 少し甘いかとも考えたが、努力をしている者を蔑ろにする方が気に食わない。

 ”今回の任務は、必ず戦闘になる。”

 そう読んだため、イビキはヤオ子を班員に指名することにしたのだった。



  第66話 ヤオ子とイビキの初任務



 任務は、尋問部隊自らのターゲット捕獲作戦。
 逃走中のターゲットを追跡してから捕獲する。
 追跡が組み込まれているのは、仲間の有無を確認するためだ。

 また、四対一の作戦のため、条件としては、こちらが有利。
 しかし、不利が分かっているターゲットがどんな行動に出るかも気をつけなければならない。
 窮鼠猫を噛む……。
 諺通りの慎重さが要求される。

 そのため、経験豊富なイビキを含む班員三人が前衛。
 サポート役としてヤオ子が後衛に配置されていた。


 …


 実は、この任務を受けた時の班員二人の反応は厳しかった。
 大事なターゲット捕獲に下忍が入るのをよく思わなかったからである。


 「イビキさん。
  下忍の子なんて足手まといになりませんか?」

 「正直、長期の追跡になった場合、
  途中でスタミナが切れたりしたら困ります」


 イビキが煙草をふかしながら笑う。
 頭の中では、先日の手合わせの光景が蘇る。


 「それはないだろうな……」

 「どうしてですか?」


 イビキは隣に居るヤオ子の頭に手を置いて、自信有り気に答えた。


 「多分、コイツは、オレ以上にスタミナがある」

 「冗談でしょう?」

 「本当だ。
  コイツは二年間──ほぼ毎日、体力向上の修行しかしていない」

 「あの……。
  それはそれで別の不安が……」

 「そんな子がサポート出来るんですか?」

 「期待はしていないさ。
  オレ達だけで何とかするつもりだからな。
  着いて来れさえすればいい」

 「経験を積ませるだけですか?」

 「そうだ」

 「なら……問題ないかな?」


 ヤオ子は項垂れる。


 (期待してないって……。
  あたし……。
  何のために呼ばれたんだろう……)


 こうして任務が始まったのだった。


 …


 追跡から二時間……。
 イビキは、未だにターゲットを捕獲する行動を起こさない。
 ヤオ子がイビキに近づき質問する。


 「捕獲しないんですか?」

 「奴が止まるのを待っている」

 「何で?」

 「もしかしたら、何かの組織が絡んでいるかもしれない。
  その時は、この任務はCランクからBランクに変わる。
  そうすれば、お前はそこまでだ」

 「そうですか……」

 「奴が一人で何処かの宿場町に泊まるようなら、単独と判断する。
  恐らく仲間も居ないだろう」

 「その宿場町で待ち合わせをしている可能性もあるんじゃないですか?」

 「事前調査では、奴が連絡を取り合う時は人目を避ける傾向があることを確認済みだ。
  人目のつく宿場町での接触の可能性は低い」

 「なるほど」

 「そして、向かっている先に宿場町がある。
  奴がスピードを落としたら仕掛けるぞ」

 「了解です。
  戻ります」


 ヤオ子がイビキ達の後ろに戻ると、他の班員達は、未だにしっかり着いて来るヤオ子に感心した。


 「イビキさんの言った通りかもな」

 「ああ。
  話し掛ける余裕があるんだから」


 班員達は、ヤオ子に目を一瞬移すと再び夜の森での追跡を続けた。


 …


 宿場町の灯りが見え始めるとターゲットがスピードを緩め、木から町を見下ろして唇の端を吊り上げる。
 そのスピードを落としたターゲットに、イビキ達が慎重に間合いを詰めていく。
 そして……。


 「何だ?」

 「音?」


 口笛の音が辺りに響き始める。
 ターゲットに気付かれたことが分かると、班員二人が前衛でクナイを構える。
 そして、二人の前でターゲットの肩が盛り上がっていく。


 「筋肉を操作しているのか!?」


 ターゲットが木を蹴り上げ、獣のように二人に迫ると一人の喉元に噛み付いた。
 肉を引き裂く音と共に班員の一人の首から血飛沫があがり、もう一人の班員がクナイを振りかぶると、ターゲットが腕を一閃する。
 その瞬間、上空に班員の両手が舞い上がった。


 …


 意識が覚醒する。
 自分の首は付いている。
 自分の腕は付いている。
 班員二人が、滝のような汗を流して現実に戻った。


 「大丈夫ですか?」


 ヤオ子が班員二人にチャクラを送り込みながら質問する。
 幻術は、幻術に掛かっている者に他の者がチャクラを送り込み、操作されているチャクラの流れを乱すことで解くことが出来る。


 「幻術か……」

 「はい。
  口笛に気をつけてください。
  聴覚を利用するみたいです」

 「隊長は?」

 「自力で解いていました」

 「そうか……。
  ・
  ・
  助かったよ……」

 「サポート要員ですからね」


 ヤオ子が班員二人に笑顔を向ける。


 「油断していると幻術に掛かりますが、それほど強くないみたいです。
  皆さんが幻術に掛かってから、あたしに効果が出るまでにタイムラグがありました。
  あたしは皆さんの反応を見てから、意識してチャクラを流すだけで幻術に掛かっていません。
  それだけで大丈夫です。
  しっかり、チャクラを意識して流してください」


 班員二人が頷くと、ヤオ子は再び下がる。
 イビキがヤオ子に声を掛ける。


 「ヤオ子。
  いいサポートだ」

 「はい。
  ただ……情報と違いますね。
  ターゲットが幻術を使うなんて情報はありませんでした」

 「そういう時もある……」


 今度は、全員が臨戦態勢でターゲットに臨む。
 班員二人は自分達がまだクナイを構えていないことに、ここで初めて気付いた。
 今度は間違いなくクナイを構える。

 しかし、目の前で再び同じことが起きる。
 ターゲットの肩が盛り上がっていく。


 「まさか!?
  また幻術に掛かったのか!?」


 班員二人が混乱している。
 そして、混乱しているところにターゲットが迫り来る。
 さっきと同様に腕が振りあがり、ターゲットの暗器が獣の爪のように見える。
 その攻撃をイビキがクナイで受け止めた。


 「落ち着け!
  相手は本物だ!
  それに……」


 イビキがターゲットを蹴り飛ばす。


 「幻術の中のアイツよりも数段弱い!」


 班員達がターゲットを冷静に確認する。


 「そうか……。
  これがアイツの手なんだ」

 「オレ達に幻術を掛けた後に、同じ動作を仕掛けて混乱させる……」

 「そういうことだ……。
  包囲するぞ!」


 イビキと班員二人でターゲットを取り囲むと、ネタがバレたターゲットに焦りが見える。
 ターゲットはホルスターから起爆札のついたクナイを取り出した。


 「拙い!」


 班員の一人が敵に迫る。
 クナイと暗器がぶつかり、暗闇に火花が散る。


 「起爆させる前に捕獲する!」


 イビキと残った班員がターゲットに向かう。
 しかし、ターゲットは後退して、起爆札の付いたクナイを投擲しようと着火の姿勢に入っていた。
 そこに暗闇から風切り音が響く。
 ターゲットの前に切り裂かれた起爆札が風と共に攫われる。


 「何だ!?」


 クナイの柄には、起爆札が半分しか付いていない。
 これでは起爆札は使えない。
 そして、ターゲットが風に攫われる起爆札の半分を目で追った一瞬に、イビキの当て身が鳩尾に決まる。
 ターゲットは、音を立てて地面に倒れると気を失った。


 「捕獲完了だな」


 イビキの言葉を聞くと、班員の一人がターゲットを縛り上げる。
 そして、ターゲットの肩口に触れると、あることに気付く。


 「何だ?
  肩に風船が入っている……」

 「これがあの筋肉の正体かよ」


 班員達に溜息が漏れる。
 そして、イビキ達の近くにヤオ子がゆっくりと近づく。


 「任務成功ですね」

 「ああ。
  助かったよ」

 「いえいえ♪」


 ヤオ子は笑顔でチョキを出す。
 そのヤオ子をイビキは複雑な表情で見ていた。


 (この少女……。
  修行不足も否めないほど雑務をこなしているはずなのに、相当の腕になっている。
  任務を一緒にして改めて分かった。
  ・
  ・
  幻術の回避……。
  分析による退避策の助言……。
  暗闇での正確な投擲……。
  そして、投擲されたクナイのスピードは、ターゲットに気付かせないほど速い……。
  ・
  ・
  下忍で収まらないのではないか?
  どれだけの努力をして来たのだ?)


 ヤオ子はイビキに向けてもチョキを出すと、イビキは我に返って苦笑いを浮かべる。


 (それだけ……。
  あの任務は、この子の気持ちに変化を与えたのだろう。
  ・
  ・
  この子の気持ちが少し分からなかった……。
  だが、任務の苦い経験を投げ出さず、
  それを糧にしたからこそ、成長したに違いない。
  そして……。
  まだ、実力の底が見えない……)


 イビキがヤオ子の左腕に包まれたままの額当てを見る。


 (今なら、その額当てをする資格があるかもしれない……)


 イビキは任務遂行のため思考を止め、気持ちを切り替える。
 そして、全員に命令を出す。


 「では、連行する!
  木ノ葉に戻るぞ!」

 「「「はい!」」」


 暗い森の中で声が響くと気配が消えていく。
 この任務を堺に、イビキもしっかりとヤオ子を忍として扱ってくれるようになっていった。


 …


 ※※※※※ 番外編 ~IF・その後のイビキの部下達~ ※※※※※

 任務が無事に終了し、ターゲットの護送も終わった。
 今回は下忍に助けられて、少しカッコ悪かった。


 「まさか、下忍に助けられるとはな」

 「人数が多かったから油断していたな」

 「でも、さすがイビキさんの見込んだ子だ。
  的確なサポートだった」

 「ああ。
  暗闇からの投擲なのに恐ろしいほどの正確さだったよ」

 「そして、その前には幻術の解除でサポートもしている」

 「…………」


 イビキの部下二人が赤くなる。


 「「それに美人だったな……」」


 ヤオ子は黙っていれば美人と呼ばれる類に含まれる。


 「それでかな?
  オレ、少しおかしいんだ……」

 「おかしい?」

 「何と言うか……。
  少し……熱っぽい?」

 「お前もか?」

 「ということは、お前もなのか?」

 「…………」


 イビキの部下二人に何が起きたのか?
 簡単に言えば……。


 「「何かムラムラする……」」


 何故、ムラムラするのか?
 原因は、幻術を解く際にヤオ子にチャクラを送り込まれたことだ。
 ヤオ子のチャクラの精神エネルギーには妄想力という危険なエネルギーが使われている。
 そのせいで、イビキの部下達はムラムラしっぱなしだった。
 決してヤオ子の魅力でメロメロになったわけではない。

 そして……。
 この日、二人の忍者が色町に消えていった。


 …


 ※※※※※ 番外編 ~ヤオ子の寄り道・実は出会っていた~ ※※※※※


 木ノ葉を離れて少し遠出の任務の時、ヤオ子は時間があれば寄り道をする店がある。
 薬屋である。
 薬草を置いている店には必ずと言っていいぐらいの確率で立ち寄る。
 一番の目的は任務先付近で取れる薬草を採取することだが、採取する薬草を手っ取り早く確認出来るのが薬屋だからだ。
 間違って採取しないためにもサンプルの確認、もしくは購入は大事なことだった。

 あの任務以来、トラウマになっていたことが、今では趣味の一環も兼ねている。
 ヤオ子は鼻歌を刻みながら、任務終了後に訪れた小さな薬屋で薬草を手に取って観察していた。


 「ふ~ん。
  沢山取れるけど、効力の低さからマイナーになった薬草も置いてあるんだ。
  このお値段なら、サンプルに買ってもいいかな?」


 ヤオ子は薬草図鑑の知識を思い出しながら、次の薬草に手を掛ける。
 しかし、手に取った薬草よりも隣が気になり出す。
 客と店主の話し声が嫌でも耳に入って来た。


 「だから、今は持ち合わせがないのよ……。
  財布がちょっと出掛けていてね……」

 「困りますよ。
  千両も負けれませんよ」

 「今、売ってくれれば、今後、贔屓にするわ……」

 「そう言われてもダメなものはダメですって」

 「そう……」


 客に殺気が篭っていく。
 店主はまるで気付いていない。
 客が行動に移るか移らないかの瞬間、ヤオ子が声を掛けた。


 「すいません」

 「何……あなた?」

 「その薬草、見せてくれません?」

 「これ?」


 客の手の中の薬草をヤオ子は凝視する。


 「やっぱり……。
  よく見つけましたね。
  あたし、実在する草を初めて見ました」

 「あら……。
  あなた、この草の値打ちが分かるの?」

 「値打ちと言うわけじゃないんですけど、
  この草って異常気象の時にしか取れないんですよね?
  しかも、異常気象が起きても必ず取れるかどうか分からない」

 「若いのによく知っているじゃない……」

 「本の知識だけですけどね。
  ・
  ・
  この草が欲しいんですか?」

 「ええ……。
  ちょっと、今、財布が出歩いているのよ……」

 (お連れさんかな?)


 ヤオ子が店主を見る。


 「負けてあげたら?」

 「ダメダメ。
  これは値引きしなくても絶対に売れる薬草なんだから」


 ヤオ子は少し考えると、客に話し掛ける。


 「お邪魔じゃなかったら、
  あたしが交渉しましょうか?」

 「得意なの?」

 「我に策有りです」

 「じゃあ、お願いしようかしら……」


 ヤオ子は、にっこりと微笑むと店主に話し掛ける。


 「このお客さんは、いくら負けて欲しいと?」

 「千両だよ」

 「そうですか……。
  では」


 ヤオ子は店に並ぶ薬草を数種類手に取って、店主の前に置く。


 「これだけ買うんで負けてください」


 客は、ヤオ子の選んだ薬草を見る。


 (随分と使い古された薬草ばかり選ぶわね……)

 「これか……」


 店主の心が少し傾く。


 「いつ売れるか分からない薬草でしょ?
  それを千二百両分です」

 「う~ん……」

 「じゃあ、これも」


 ヤオ子は、さっき手に取っていた薬草も上乗せする。


 「締めて千四百両分です。
  これであの薬草を負けても利益は出ますよね?」

 「まいったな……。
  オレ以上に値段に詳しいじゃないか。
  ・
  ・
  仕方ない。
  お客さん、負けますよ」

 「ありがとう」


 ヤオ子は客に振り返ると、笑顔でチョキを出した。


 …


 客と一緒にヤオ子も薬屋を出る。
 向かう先は、暫く一緒のようだった。
 客がヤオ子に話し掛ける。


 「助かったわ……。
  これで秘薬が作れそうだわ……」

 「えへへ……。
  よかったです」

 「ところで……。
  あなたは、いいの?
  そんな薬草を買って?」


 ヤオ子は手に抱える紙袋に目を落とす。


 「ああ……。
  大丈夫です。
  あたし、薬草を採取するサンプルが欲しかったんで」

 「そう……。
  でも、その薬草を採取するよりも、別の薬草の方がよくないかしら?」

 「おっしゃる通りです。
  ただ、あたしは未熟者なので、基礎から勉強している最中です。
  それにいざって時にこの薬草しかない時は、
  この薬草を使うしかないですからね」

 「そういうこともあるかもしれないわね……。
  ・
  ・
  そういえば……。
  お礼をしてなかったわ……」

 「お礼?
  いいですよ。
  財布もないんでしょ?」

 「借りを作ったままにしておきたくないわ……」

 「そう言われても……」


 客が不適な笑みを浮かべる。


 「何なら、あなたの嫌いな人を一人殺してあげましょうか……」


 ヤオ子はキョトンとするが、直に笑い出す。


 「冗談好きですね~」

 「冗談じゃないわよ……」


 客の笑みは、何処か冷たい。
 しかし、ヤオ子は気にしていない。


 「あたし、別のお願いをしたいな」

 「あら……殺しは嫌なの?」

 「そんなのは居過ぎて困りますよ。
  ・
  ・
  出来れば、知識が欲しいです。
  その薬草の講義をしてくれませんか?」


 今度は、客がキョトンとする。
 ヤオ子の危険な香りの冗談もそうだが、中々、薬草の話題をしたがる人間も多くないからだ。
 故に、客はおかしな少女に少し好感を抱いた。


 「面白そうね……。
  財布が来るまでの暇つぶしになりそうだわ……」


 こうして、客のヤオ子への薬草の講義が始まった。


 …


 正直、客はヤオ子には分からないだろうと思いつつ講義をしていた。
 しかし、思いの他、いい反応が返ってくる。
 そして、質問の内容も悪くない。
 久々に知識を分かり合える人間に会った気がした。


 「いい知識を持っているわね……。
  じゃあ、今度は一緒に考えてくれないかしら?」

 「いいですよ」

 「私は、この薬草とAという薬草を組み合わせたいの……。
  でも、これだと副作用が強過ぎてね……。
  もう少し押さえ込みたいのだけど……。
  何かいい知恵はないかしら?」

 「Aか……」


 ヤオ子は落ちている棒を拾い上げると、道の真ん中に件の薬草とAの薬草を記す。
 そして、その下に棒で線を引っ張り、別の薬草を書き込む。
 それを繰り返して比率を書いていくと、道の1メートルが埋め尽くされた。


 「どうですかね?
  大分、遠回りですけど、かなり副作用を軽減したつもりです」

 「なるほど……。
  この手があったわね……。
  忘れていたわ……」

 「木ノ葉のある天才が残した手法です」

 「天才?」

 「大蛇丸さんって方を知りません?」

 「……よく知っているわ。
  でも、その手法は木ノ葉に残していないはずだけど?」

 「まあ、そうですね。
  でも、天才の手法は幾ら隠しても、何処かで利用されますから。
  あたしも書庫の整理で偶然目にした配合表を見て、シズネさんに聞いて教えて貰ったんですよ。
  ・
  ・
  あ、シズネさんというのは薬学に詳しい方です」

 (独学なのかしら?
  それとも、綱手やシズネが絡んでいるのかしら?
  試してみれば分かるわね……)


 客がヤオ子の記した配合表に手を加える。


 「これを加えれば、副作用を抑えて別の効果も期待できるわ……」

 「これ毒草だ……。
  でも、確かにあたしの加えたBって薬草で毒は中和できるから有りだ……」

 (この毒草を知っている……。
  絡んでいるわね……)


 綱手とシズネは絡んでいない。
 お酒が入るとヤオ子に絡むが……。


 「それと……。
  これも加えたいわね……」


 客が更に書き加える。


 「でも、そうするとCの毒素が出ちゃいますよ?」

 「そうね……」


 客とヤオ子は意見を出し合いながら配合表を組み上げていく。
 講義は別の方向に進んでいた。
 そして、道は配合表で7メートルほど埋まっていた。

 そこに旅人が差し掛かる。


 「「通るな!」」


 旅人はビクッ!とする。
 客とヤオ子から、凄まじい殺気が出ていた。


 「それを踏んだら、殺すわよ!」
 「それを踏んだら、ぶっ飛ばしますよ!」


 客とヤオ子が目を合わす。


 「気が合うわね……」

 「そうですね……」

 「「続けましょう(……)」」


 もう講義ではない。
 客とヤオ子は憑りつかれたように配合表を作成していく。
 道は20メートルに渡ってびっしりだ。
 その間の交通規制も酷くなっていく。
 ヤオ子は豪火球の術を発動して通行人を威嚇。
 客は口から蛇を出して威嚇。
 そのせいで交通の便が悪くなり、通行人は仕方なく脇の林を通って迂回していくようになる。


 「何だ?」


 客の連れが人だかりに首を傾げる。
 そして、道にびっしりと書かれた配合表を見て絶句する。


 「一体、何をなさっているんだ……」


 主人は見たこともない少女と必死になって配合表を書いている。
 客の連れは、眼鏡をあげると溜息を吐く。
 そして、腰の道具入れから新しい巻物を取り出すと、道に書かれた配合表を写し取っていく。
 そんな連れの苦労も知らずに、客は笑みを浮かべる。


 「出来たわ……」

 「やりましたね」

 「長年苦労していた秘薬が三つも完成したわ……。
  お礼を言うわ……」

 「あたしの方こそ。
  こんな配合の秘法があるんですね」

 「あなた、見所あるわよ……」

 「ありがとうございます」

 「今度、私の手伝いをしない?」

 「いいですね。
  ・
  ・
  と、言いたいところですが、まだまだ未熟者です。
  あたしの基礎修行が終わったら考えます」

 「残念だわ……」

 「きっと、また会えますよ。
  あたし、薬屋をよく回っていますから、見掛けたら声を掛けてくださいね」

 「ええ……。
  必ず……。
  今度は、別の秘薬を解き明かしましょう……」

 「はい」


 ヤオ子と客が笑い会う。
 連れは、今まで見たことのない光景に少し身震いがした。

 客が連れに気付く。


 「遅かったじゃない……」

 「先ほどから居たんですがね」

 「気付かなかったわ……」

 「珍しいですね」


 連れが巻物を主人に見せる。


 「配合表は書き取りましたよ」

 「手際がいいわね……」


 客がヤオ子に振り返る。


 「また会いましょう……」


 客と連れが煙になった。


 「忍者の方でしたか……。
  ・
  ・
  口から蛇を出すから、大道芸人かとも思ったんですけど」


 道を振り返ると何の痕跡も残っていない。


 「秘薬ですからね。
  残しておけないですよね。
  ・
  ・
  しかし、いい勉強になりました。
  素晴らしい人でしたね」


 ヤオ子は新たな知識を手に入れ、ご満悦で木ノ葉に向けて歩き出す。
 この接触が如何に危険か気付かないまま……。
 そして、これを最後に客と二度と会うことはなかった。
 客は、もう直ぐサスケに狩られてしまうから……。



[13840] 第67話 ヤオ子の自主修行・予定は未定①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:01
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤマトに認められ、イビキに認められ、ヤオ子は忍として着実に成長していた。
 そして、今年になってから、毎日続いている待ち合わせ。
 目的の男の子にお弁当を手渡す。


 「頑張って来てね」

 「ありがとう。
  お姉ちゃん」


 ヤオ子の約束通り、弟のヤクトがアカデミーに通い始めた。



  第67話 ヤオ子の自主修行・予定は未定①



 ヤオ子がヤクトの頭を撫でると、ヤクトは不満そうに話す。


 「お姉ちゃんの背が急に伸びたから、ボクは、また子供に戻ったみたいだよ」

 「そう言われても困りますね」

 「ボクも……背、伸びるかな?」

 「お父さんに似れば普通だし、お母さんに似れば早く伸びると思いますよ。
  ただし、お母さんに似ると、漏れなく変態というオプションが追加されますが……」

 「いいとこ取りで成長したいな……」

 「そうですよね。
  どちらもリスクが高いです。
  変態か馬鹿かを選べなんて究極の選択ですよね」

 「第三の選択として、
  ダメな親を見て真面目に育つ子を目指すよ……」

 「それが賢明ですね」

 「お姉ちゃん。
  また手裏剣術見てね」


 ヤオ子は腰に左手を当てる。


 「そうですね……。
  サスケさんの練習場で鉢合わせたら……必ず」

 「分かった。
  約束だよ」


 ヤクトはアカデミーの方へと走って行った。


 「朝練は毎日しているから、その時に顔を出せばいいのに……。
  相変わらず、朝が弱いようですね」


 母親のお弁当ではなく、ヤオ子のお弁当を持っていくのが日課になっている弟を見送り、ヤオ子は紹介場の方へと足を向けた。


 …


 ヤオ子の評価が少しずつ変わり始めていた。
 今までは雑務をこなすスーパー派遣社員のようなイメージだったが、少しずつこなし始めたCランク任務のお陰でサポート上手な下忍というイメージも定着し出した。

 欠員が出る度に現れる謎のくノ一。
 リサイクルの女王。
 第二の変態……里の狂姫の娘。
 綱手様の第二のパシリ。
 イビキのマブダチ。
 猫女。
 サクラの突っ込みに耐えられる第二のナルト。
 任務より、相手をする方が疲れる。
 凄いんだか凄くないんだか。
 etc...。

 悪いイメージの方が多い?
 だけど、何故か任務は上手くいく……。
 真面目な人ほど、ダメージが大きい……。
 クセの強い人間ほど噛み合う……。
 百人聞けば、百人別の答えが返ってくる。

 ポニーテールにサスケカラーの少女は、別の意味で有名になっていた。
 そして、今日も綱手に会いに行く。


 「おはよ~ごさいま~す!」

 「元気だな」

 「心肺停止していませんから」


 綱手が机に額を打ち付けた。


 「いきなり極論を……」

 「今日の任務は?」

 「そして、タメ口……。
  お前は、何様だ」

 「名乗るほどの者ではありません」

 「知ってるけど……」

 「で?」


 綱手が溜息を吐く。


 「最近、突っ込むのも疲れるな。
  ・
  ・
  お前、そろそろ休暇を取れ」

 「熱でもあるんですか?」

 「殺そうか?」


 青筋を浮かべる綱手に対して、シズネが慌ててフォローを入れる。


 「ヤオ子ちゃん!
  今年の中忍試験!
  受けるんでしょ!」

 「そういう流れになってましたっけ?」

 「修行しないといけないでしょ!」

 「そういえば……。
  任務の回数は、とっくに規定回数に達してたんでしたね」

 「だから、しっかり修行しないと!」

 「そんなもんより、あたしに担当の上忍をつけて下さいよ」

 「…………」


 綱手もシズネも視線を逸らす。


 「何故、黙る……」

 「お前の受け入れを、皆、拒否するからだ……」

 「普段、あれだけ職権乱用してるんだから、それぐらいやってくださいよ」

 「問題発言だぞ」

 「何を今更……」


 シズネが口を挟む。


 「でも……。
  担当上忍が居なくても、ヤオ子ちゃんって勝手に修行に加わってますよね?」

 「ん?」

 「カカシ班、ガイ班、紅班、アスマ班……」

 「一体、何を考えているんだ?」

 「カカシ班で基本忍術。
  ガイ班で体術。
  紅班で擬獣忍法。
  アスマ班で特殊な忍術を使う敵の想定ですね」

 「遠慮がないな……」

 「だって、担当が居ないんだもん」

 「シズネ。
  ヤオ子の修行を見てくれるか?」


 その答えには、ヤオ子が返事した。


 「あたし、ヤダ」

 「ヤオ子ちゃん!?」

 「絶対、違うことさせられるもん。
  経理とか暗号解読の手伝いとか資料作成とか──」

 「ヤオ子ちゃん!
  ストップ!
  それ以上は、言っちゃダメ!」

 「と、まあ、他にも……」


 綱手が溜息を吐く。


 「イビキにでも任せるか……」

 「ダメです。
  今、イビキさんは忙しいはずです。
  ある組織の証人を集めているとかで」

 「お前、イビキに懐いてるよな?」

 「尊敬しています」

 「珍しい奴だよな。
  下忍は初対面で逃げ出す奴が多いのに……」

 「そうでしょうね。
  あたしは初対面でぶん殴られましたからね」

 「いや、そこまでしないだろう……」

 「自来也さんを殺そうとして殴られました」

 「…………」


 綱手とシズネが額に手を置く。


 「木ノ葉の三忍を殺そうとするなんて……」

 「きっと、自来也の馬鹿が何かしたに違いない」


 綱手とシズネから、溜息が漏れる。


 「まあ、何にせよ。
  次の中忍試験に向けて修行しろ」

 「年二回で、この前、終わったばっかりだから、半年先か……。
  半年も休んでいいんですか?」

 「それぐらいいいだろう」

 「分かりました。
  じゃあ、お休みします」

 「ああ。
  許可してやる」


 シズネが心配そうに、ヤオ子に話し掛ける。


 「ヤオ子ちゃん。
  冗談抜きで手伝いますけど?」

 「う~ん……いいです。
  休暇中は経理もお手伝い出来ないんで、
  シズネさんには、そっちをお願いします」

 「そ、そうね。
  私も頑張らないと……」

 (経理だけじゃなくて
  他の任務も何とかしないと……)

 「では。
  半年後まで」

 「ああ。
  頑張れ」


 ヤオ子が紹介場を後にすると、シズネは綱手に話し掛ける。


 「綱手様。
  随分と思い切りのいい判断ですね?」

 「ああ。
  アイツの任務の報告を見ると、このままにしておくのは勿体なくてな」

 「勿体ない?」

 「アイツも優秀な忍になれる才能がある。
  次の火影の手伝いをさせるために中忍──いや、行く行くは上忍になって支えて欲しいと思ってな」

 「ナルト君を……ですか?」

 「ああ。
  アイツが火影になったら、優秀な部下がサポートしないといけないからな」

 「はは……。
  確かに頭脳派の忍が欲しいですね」

 「だろ?」


 綱手は笑いながら次の書類に目を通し、シズネは苦笑いを浮かべて次の忍を呼び入れた。


 …


 久々の長期の自由時間。
 サスケの秘密の練習場でヤオ子は考え込む。


 「中忍試験の修行って、
  何をすればいいんだろう?」


 シズネの誘いを断わってみたものの、ヤオ子自身、何をすればいいか何も思いつかないでいた。


 「半年もあれば、新しい術を覚えられそうですね。
  ・
  ・
  そうだ!
  ヤマト先生に新しい性質変化を教えて貰おう!
  確か……カカシさんとナルトさんの修行を見ているとか」


 ヤオ子が立ち上がる。


 「差し入れ持って見返り貰おっと♪」


 ヤオ子は自宅に戻り、見返りを得るためのお弁当を作ることにした。


 …


 お昼少し前……。
 時間を見計らって、ヤオ子がヤマト達の居る修行場を訪れる。
 目の前には壮大な滝。
 それに向かってナルトが滝を切る性質変化の修行をしていた。
 ナルトの九尾をコントロールしているヤマトに、ヤオ子は話し掛ける。


 「ヤマト先生……」

 「ん?」

 「虐められてんの?」


 ヤマトが複雑な顔をする。


 「どうして?」

 「いや、何か……。
  その木に囲まれて捕まってるみたいだから」


 ヤマトはナルトの九尾の力をコントロールするため、狐のレリーフの木に囲まれている。


 「まあ、捕まっていると言えなくもないけど……」


 ヤオ子は、滝に目を移す。


 「立派な滝ですね」

 「ボクの忍術で作ったんだ」

 「どんな?」

 「土遁で隆起させて、水遁で滝を作ったんだ」

 「へ~」


 ヤオ子はいいことを聞いたと、ニヤニヤと顔を緩ませる。


 「どうしたの?
  気持ち悪い顔をして……」

 「いえね。
  時間が出来たんで新しく術を覚えようと思いまして」

 「それでボクに習いたいわけ?」

 「ええ。
  覚えるなら、土遁か水遁じゃないといけませんから」


 ナルトの修行風景に目を向けず、手元の『イチャイチャタクティクス』に目を向けていたカカシが、ヤオ子の会話に反応した。
 カカシがヤオ子達の会話に参加する。


 「興味ある話だな。
  土遁か水遁じゃないといけないなんて」

 「そういえば……」

 「オレにも理由を教えてくれないか?」

 「いいですよ。
  簡単なんですけどね。
  あたしの考えでは、五大性質は更に二分化できるんです」

 「陰と陽のことかい?」

 「いいえ。
  残るか残らないかです」

 「?」


 カカシもヤマトも首を傾げる。


 「『火、風、雷』と『土、水』で分けます。
  前者は、術者がエネルギーを放出し続けないと残りません。
  後者は、術者が術を使った後でも結果が残るんです。
  例えば、先日、ヤマト先生が使った土遁で槍を作った術……。
  前者で行う場合は放出し続けないといけません。
  しかし、土なら残るんですよ」

 「なるほどね。
  水遁なら?」

 「例えを変えなければいけませんね。
  水遁で相手に鉄砲水を与えたとします。
  敵の地面には、水が残ります。
  水遁を使う術者なら……再利用できます。
  『火、風、雷』なら?
  再利用できますか?
  あたしが言いたいのは、術発動後の再利用です」


 カカシが本を腰の後ろの道具入れに仕舞いながら話す。


 「面白い発想だな。
  属性の優劣は、よく考えるんだが……」

 「そうですかね?
  それも考えますが、次は射程とか威力でしょ?
  あたしは貧乏性なんで、次に再利用でした」

 「…………」


 カカシがヤマトに顔を向ける。


 「何か……一瞬、ほのぼのとしたな」

 「そうですね……。
  先輩……」


 ヤマトが質問する。


 「それで……。
  ヤオ子は、何の性質変化を覚えたいんだい?」

 「土遁か水遁か木遁!
  いや……寧ろ、木遁!」


 カカシとヤマトが、苦笑いを浮かべた後で溜息を吐く。


 「何?
  このリアクション?」

 「ナルトにも説明したばっかりなんだけど……」

 「もしかして……というか、やっぱり血継限界?」


 カカシとヤマトが頷く。


 「覚えられないじゃん……」

 「ヤオ子が血継限界を知っていてくれて、よかったよ」

 「しかし、何で木遁を?」

 「土と水って一長一短なんですよ。
  土だと空中戦に弱いし……。
  水だと空中で再利用し難いし……。
  ・
  ・
  でも、木はいい……。
  何処でも使えて何にでも使える……」

 「そういう評価か……」


 ヤオ子は木遁を思い浮かべてうっとりとしている。
 そんなヤオ子にカカシが質問する。


 「それで、何で性質変化を覚えなくちゃいけなかったんだ?」

 「次の中忍試験のための修行時間を、あの綱手さんがくれたんですよ」

 「あの綱手様が?」

 「そう。
  あの綱手様が」

 「何か怖いな」

 「ええ」

 (先輩もヤオ子も酷いことを言ってるな……)


 ヤマトが項垂れる。
 そして、ヤオ子が何かに気付く。


 「ねぇ。
  あたしも質問していい?」

 「いいけど?」


 ヤオ子が指差す。


 「ナルトさんは、何で寝てるの?」

 「「何!?」」


 カカシとヤマトが滝に目を向けると、カカシは慌ててナルトのところに向かった。


 …


 カカシに背負われ、修行していた滝から離れた場所でナルトは横に寝かさる。
 そして、暫くしてナルトが意識を取り戻す。


 「あれ……?」

 「大丈夫か?」

 「カカシ先生……。
  ヤマト隊長……。
  ・
  ・
  誰?」


 ナルトはヤオ子を忘れていた。
 ヤオ子が黙っておいろけの術を使って美女に化ける。


 「ああ!
  ヤオ子!」

 ((何で、今ので思い出すんだ?))

 「お久しぶりです。
  ナルトさん。
  いえ……師匠と言いましょうか?」

 「普通でいい……。
  ・
  ・
  それにしても、お前ってば……。
  凄くでかくなってない?」

 「なりましたよ」

 「何を食ったらそうなるわけ?」

 「多分……エロパワーにより、
  過剰に分泌された女性ホルモンがあたしの成長を促したんでしょう」

 「マジで?」

 ((嫌な成長だ……))


 ヤオ子が胸を張る。


 「当然、嘘ですけどね」


 ナルト達がこけた。


 「遺伝ですよ。
  母方が成長早いんです」

 「少し安心した……」

 「ヤオ子のせいで余計に疲れたってばよ……」

 「あ。
  差し入れ持って来たんです」


 ヤオ子がお重を差し出す。


 「何が入ってるんだ?」


 一段目のお重の蓋を開けると、長方形に揃えられた薄黒い物体が並ぶ。


 「ラーメンをにこごりのスープで固めたものです。
  おにぎり感覚でラーメンを食べれます」

 「おお!」

 「いや、ナルト……。
  疲れてぶっ倒れたのにこんな脂っこいもの……」


 ナルトが無視して、一つ摘まんで口に運ぶ。


 「本当にラーメンの味がする!
  何これ!? 何これ!?」

 「当然、出来立てのラーメンには適いませんけど、
  お弁当でラーメン食べたいなと思って作りました」

 「美味い! 旨い! うまい!」


 ナルトが、次々に口に放り込む。


 「吐かないだろうな……」

 「お二人も、いかがですか?」

 「カカシ先生達は、いいってばよ」


 ナルトが一段目のお重を抱えた。


 「…………」


 ヤオ子が残ったお重を差し出す。


 「普通のおにぎりですが……どうぞ」

 「有り難くいただくよ」

 「ありがとう」


 ナルトを除く三人は、おにぎりを食べる。


 「おかずもありますよ。
  切り干し大根に漬物と……ハンバーグ」

 「何で、最後だけ……」

 「弟のお弁当の残りです。
  スペースが余ったんで詰め込みました」

 「ハンバーグが異様な空間を醸し出すな……」

 「じゃあ、失くせばいいじゃん」


 ナルトがハンバーグに箸を突き刺し、口に運んだ。


 「いきなりメインが消えた……」

 「まあ、これで確かに普通のおかずになったけど……」

 「純和風でいいんでないの?」


 カカシとヤマトとヤオ子が、一緒におにぎりに噛じり付いた。


 「ヤマトは、いい生徒を持ったな」

 「どういうことですか?」

 「サクラは、あまり弁当を作って来ないからな」


 ナルトが箸をあげて、話に割り込む。


 「いや、何回かあったはずだってばよ。
  サスケに無理して作って来て……。
  サスケが口に運んで……」

 「運んで?」

 「ああ……。
  倒れたんだっけ?」

 「…………」


 ヤマトとヤオ子が微妙な顔をする。


 「思い出して来た。
  確か……。
  段々と味が良くなって来たはずだけど?」

 「サスケが警戒して食わなくなって、それっきりだってばよ」

 「分かり易いですね。
  ・
  ・
  そして、最近は集る方に移行しましたけどね。
  師匠と一緒に……」


 ヤオ子は視線を下に向けて、乾いた笑いを浮かべる。


 (((何があったんだ?)))


 妙な疑問が残ったが、特に気にすることでもないと、食べ終わったナルトが準備運動を始める。


 「ナルトさんに会うのは、本当に久しぶりです。
  何か新術を覚えましたか?」

 「ああ」

 「見たいですね」


 その要求に、ヤマトが注意を入れる。


 「ダメだよ。
  これから修行でチャクラを使うのに」

 「そうですか……。
  残念ですね。
  ・
  ・
  では、あたしが披露しましょう!
  あたしもあれから、二つ開発しました」

 「へ~」


 カカシがヤマトに耳打ちする。


 「凄い子だね。
  誰の教えもなく術を開発するなんて」

 「しかし、この前の演習では新術なんて使ってなかったけど?
  どちらかというと応用だったし……」

 「まあ、見てみようじゃないか」


 …


 ヤオ子が腕組みをする。
 態度がやけに偉そうだ。


 「ナルトさんは『イチャイチャ』好きですか?」

 「大っ嫌い!」


 ナルトが手を交差させて×を作る。


 …


 カカシとヤマトが首を傾げる。


 「何の話をしているんでしょうね?」

 「術と関係あるのか?」


 …


 ヤオ子が顎に手を当てる。


 「困りましたね」


 首を捻てカカシを見る。
 卑下た笑いを浮かべる。
 そして、手招きをする。


 「呼んでますね……」

 「実験させられるのかな?」


 カカシが腰をあげた。


 …


 カカシがヤオ子の前に立つ。


 「ヤオ子。
  どんな術なんだってばよ?」

 「『おいろけ・走馬灯の術』です」

 「オレ……死ぬの?」

 「いいえ。
  めくるめく夢の一時です。
  ・
  ・
  行きますよ!
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子が禍々しいチャクラを練り上げる。
 本領発揮である。
 印を素早く結ぶ。


 (あの印は……幻術関係か?)


 ヤオ子がカカシに優しい笑みを向ける。


 「少し心に油断を作ってくださいね♪
  怖くないですよ♪
  ちょっと、ビクッとするだけです♪」

 (オレは注射を怖がる子供か……)


 溜息を吐いたあと、カカシは言われたとおりに心に油断を作ると、ヤオ子の目が見開く。


 「おいろけ・走馬灯の術!」


 ヤオ子の目からカカシの目に術が叩き込まれる。
 すると、カカシが白目をむき、頭からボンッと煙があがり、鼻と耳から蒸気が吹き出した。


 「オ、オイ……。
  大丈夫なのか? この術?」

 「せ、先輩?」

 「…………」


 暫しの沈黙のあと、カカシが現実に戻って来る。
 そして、ヤオ子の肩に力強く手を置く。


 「素晴らしい術だ……」

 「一体、何が……」


 ヤマトには分からない。
 そんなヤマトに、ヤオ子は不敵な笑いを浮かべる。


 「ふっふっふっ……。
  説明しましょう!
  カカシさんが体験した夢の一時を!」

 「聞くのが少し怖いんだけど……」

 「この術は、走馬灯……。
  記憶を一瞬で振り返る術です」

 「意外と凄くないか?」

 「そう……。
  カカシさんは、一瞬であたしの記憶を体験したんです」

 「一体、何を?」

 「イチャイチャパラダイス 上・中・下。
  イチャイチャバイオレンス。
  イチャイチャタクティクスです」

 「…………」


 ナルトとヤマトが額を押さえた。


 「最悪だ……」

 「お前、馬鹿だってばよ……。
  ・
  ・
  つーかっ!
  こんな術においろけの名を与えるな!」


 しかし、ヤマトが冷静に考えて意見を言う。


 「でも、一瞬で相手に膨大な量の情報を渡せるなんて凄いことだよ。
  大量の資料を一人で記憶して、全員に伝えることが出来るんだからね」


 ヤオ子がヤマトに顔を向ける。


 「そんなこと、出来ませんよ?」

 「今、やったじゃないか」

 「エロいことしか伝えられません。
  だから、おいろけの名を冠するのです」

 「…………」


 ヤマトが激しく項垂れる。


 「一気に使えない術になった……。
  そもそも、どんな時に使うのさ?」

 「時間がない時に使うんです。
  任務で疲れ果てて眠る時間を確保しなければいけない。
  しかし、エロ小説も読みたい……そんな時があるでしょ?」

 「ねーよ」

 「ないな」

 「よくある」


 ナルトとヤマトが、カカシを軽蔑した目で見る。


 「影分身を一体出して、自分に走馬灯の術を掛けるんです。
  一瞬でエロ小説を満喫出来ます。
  ・
  ・
  どうですか?」

 「使えない……」

 「役に立たない……」

 「素晴らしいな」


 ナルトとヤマトが、カカシを軽蔑した目で見る。


 「これは大人の術ですからね。
  チェリーボーイのお二人には分からないのでしょう」

 「分かりたくもない……」

 「発想は、途中まではいいのに……」

 「カカシさん。
  伝授しましょうか?」

 「是非」


 ナルトとヤマトが、カカシを軽蔑した目で見る。
 ヤオ子は、印をカカシに教えた。


 「思いがけない収穫だった……」


 カカシが拳を握る。
 そして、カカシに伝授し終えると、ヤオ子がナルトに振り返る。


 「ナルトさん。
  お待たせしました。
  次が本命です」

 「大丈夫なのか?」

 「チョウジさんから、ヒントを得ました」

 「オレ……ポッチャリ系はいらないぞ?」

 「まさか。
  ・
  ・
  行きますよ!
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子が禍々しいチャクラを練り上げる。
 そして、印を素早く結ぶ。


 「おいろけ・部分変化の術!」


 ヤオ子の胸で煙が上がる。


 「どうですか?
  この戦闘力?」


 ヤオ子が自分の大きくなった胸を揉む。


 「馬鹿だ……」

 「馬鹿だな……」

 「馬鹿ですね……」

 「あれ?
  反応悪いですね?
  綱手さんのレベルまであげますか?」


 ナルトがビシッ!と指差す。


 「ヤオ子だって分かってるから、ときめかねーってばよ!」

 「そうか……では!」


 ヤオ子が術を解き、再び印を結ぶ。


 「変化!」

 「サクラちゃんになった……」

 「続いて!
  おいろけ・部分変化の術!」


 全員が固まる。


 「どうです?
  適度な大きさの戦闘力を備えたサクラさん?」

 「…………」

 「これでもダメですか?」

 「いや、もうやめろ……」

 「まだまだ!
  ・
  ・
 (ボンッ!)
  いのさんレベル!
  ・
  ・
 (ボンッ!)
  ヒナタさんレベル!
  ・
  ・
 (ボンッ!)
  アンコさんレベル!
  ・
  ・
 (ボンッ!)
  綱手さんレベル!
  ・
  ・
  フハハハハハ!
  どうですか!?」


 ナルトとカカシとヤマトが視線を背ける。


 「何で、見ないんですか?
  あの可哀そうなサクラさんの胸が変わるんですよ!」


 ヤマトの指がヤオ子の後ろを指す。


 「ん?」


 そこにはサクラが居た。


 「…………」


 ヤオ子は、何か……地上最強の生物的なオーラを感じて、タラタラと汗を流すと言い訳めいたことを叫ぶ。


 「いや~……バランス!
  バランスこそ、命ですよ!」


 ヤオ子が術を解き、ギギギとサクラに顔を向け、手を上げる。


 「コマンタレブ?」


 サクラの踵落しがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は地面に減り込んだ。



[13840] 第68話 ヤオ子の自主修行・予定は未定②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:01
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 それは素晴らしい踵落としだった。
 軽く地面を蹴り、浮き上がる体。
 柔軟に振り上がる右足。
 修行で培ったチャクラコントロールの粋を極めた怪力。
 目にも止まらぬ高速の振り抜き。

 サクラの踵落しは、ヤオ子を縦に地面に減り込ませた。
 実にアンコを怒らせて以来の出来事だった。



  第68話 ヤオ子の自主修行・予定は未定②



 地面から生えるポニーテールがピクピクと痙攣している。
 サクラを除く三人が死を予感する。


 「し、死んだんじゃないの?」

 「髪の毛しか出てないってばよ……」

 「まるで杭でも打ち込んだみたいだ……」

 「…………」


 サクラが腕を組んで吐き捨てる。


 「こんなことで死にゃーしないわよ!」

 「で、でも──」

 「この子は綱手師匠に本気で殴られてもピンピンしてんだから!」

 「サクラちゃん……。
  もう、師匠越えしたんじゃないの?」

 「それなら、確実に死んでるな」

 「…………」


 サクラが地面を蹴る。


 「いつまで、しらばっくれてんのよ!」


 サクラの態度に怯えながら、ナルトがカカシ達に話し掛ける。


 「オレ……これで生きてたら、
  ヤオ子の方が気持ち悪いんだけど……」

 「いや、でも……。
  死人が出るのは、もっと拙い……」

 「医療班を呼ばないと!」


 ヤマトの言葉にナルトとカカシがサクラを指差す。
 命を助ける医療忍者が命を刈り取った……。


 「…………」


 暫しの沈黙のあと、地面から両手が這い出る。
 さながら、墓場から出てくるゾンビのように……。
 そして、ひょっこりとヤオ子が顔を出した。


 「あ~……。
  しんど~……」

 「本当に生きてたってばよ……」


 ヤオ子がチャクラを練り上げ、印を結ぶと地面で爆発が起こる。
 それと同時にヤオ子が飛び出した。


 「あ~あ……。
  泥だらけになっちゃった」

 「あの攻撃を食らったら、そんな言葉じゃ済まないでしょ……」


 服に付いた泥を叩き落としながら、ヤオ子がカカシに答える。


 「今のあたしにはギャグ体質の加護がついているので、
  ちょっとやそっとの攻撃は効きません」

 「体が減り込むほどの攻撃の、何処がちょっとやそっとなんだ?」

 「さあ?
  それはギャグをする上での鉄板なんで、突っ込まれても困ります」

 「だから、言ったじゃない」


 フンとサクラは、鼻を鳴らす。


 「でも……いい術でしょ?」

 「アァ!?」


 サクラがヤオ子を睨みつける。


 「ブラにパット入れるよりも全然いいじゃないですか」

 「あんたね……」


 ヤオ子は地面を踏みしめ、ビシッ!とサクラを指差す。


 「まだ成長途中なんだから、夢見たっていいじゃないですか!
  サスケさんが巨乳好きなら、どうするんですか!?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「変な例えにサスケ君を使うな!」

 「じゃあ、ナルトさんが巨乳好きなら、どうするんですか!」

 「何もしないわよ!」
 「何言ってんだ!」


 ナルトとサクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。
 ナルト達を見て、カカシは苦笑いを浮かべる。


 「何か懐かしいな……。
  ヤオ子の服がサスケを思い出させる。
  ただ……。
  オレの中のサスケのイメージを、これ以上、壊さないでくれ……」


 項垂れるカカシを見て、ヤマトが苦笑いを浮かべる。


 「あの子、掴みどころがないんですよね……」

 「お前も苦労してるよな」

 「ええ。
  先輩は、ずっとですよね?」

 「ああ。
  大変だぞ……アイツらの化学反応は」

 「うちのは常時反応しっぱなしですけどね」

 「どっちがいいんだろうな」

 「混ぜなきゃいいんじゃないですか?
  混ぜるな危険ですからね」

 「アイツら、液体洗剤か?」

 「いい例えですね」

 「…………」


 目の前では、ヤオ子がまた埋まった。


 「そろそろ修行を再開するか……」

 「そうですね……」


 カカシとヤマトがナルト達に近づく。


 「そろそろ始めるぞ」

 「オウ!」

 「頑張ってください」


 地面の中から声がするとカカシは溜息を吐き、続いてサクラに質問する。


 「サクラは、何をしに来たんだ?」

 「様子を見に来たんです。
  そうしたら、ヤオ子が!」

 「サクラさんの夢を叶えただけなのに」


 サクラがヤオ子の頭を問答無用に踏みつける。


 「あなたは残虐超人ですか?」

 「まだ言うの?」

 「ヤマト先生。
  このまま土遁の地中移動術を伝授してくれませんか?」

 「性質変化も覚えずに無理だよ」

 「カカシさん。
  あなたの生徒を引き離してくれませんか?」

 「反省した方がいいんじゃない?」

 「頼りにならない大人達です。
  自分で何とかします」


 直後、サクラの足元で煙が上がった。


 「消えた……」


 そして、地面がモコモコと盛り上がり、一匹のモグラが姿を現す。


 「わざわざ土遁なんて使わなくても、変化すればいいんですよね」


 ヤオ子が変化を解いて、元の姿に戻る。


 「まあ、無駄にチャクラを使うし、実戦じゃ、何の役にも立ちませんがね」


 ヤオ子が服を叩いて、再び土を落とす。


 「やっぱり、ここで一番まともなのはナルトさんだけです」

 「ナルト?」

 「もう、修行始めてますよ。
  あんたら、何してんですか?」


 全員から、ヤオ子にグーが炸裂する。


 「「「お前が乱してんだ!」」」


 ヤオ子が頭を擦る。


 「こんな時だけ、息ピッタリに……。
  ・
  ・
  ところで。
  あたしの修行は、どうすればいいですかね?」


 サクラが腕を組んで、ヤオ子に聞き返す。


 「何?
  あんた、修行するの?」

 「ええ。
  中忍試験を受けるみたいなんで」

 「何で、言い方が人事なのよ?」

 「まだ時間あるし……。
  ・
  ・
  兎に角、修行をしようと思ってます」

 「修行ねぇ……」

 「半年近くもあるし、どうせなら性質変化を一つ増やそうかと」

 「思い切ったことをするわね」

 「そうですか?」

 「ん?
  そういえば……」


 ヤオ子の『修行』という言葉を聞いて、サクラはふと思い付いた。


 「あんた、頭いい方よね?」

 「性の知識に関しては、右に出る者はいません」

 「真面目に答えろ!」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「え~と……。
  任務の関係上、色々と覚えていますけど……」

 「ヤオ子、医療忍者目指さない?」

 「ヤダ」


 ヤオ子、即答。


 「何でよ?」

 「あんな格好悪い服なんか着たくないです!」

 「……服?」

 「何ですか!?
  医療部隊のあの全身タイツみたいな白いの!
  いくら清潔な状態を維持しないといけないとはいえ!
  あんなの嫌だーーーっ!」

 (また、何て理由よ……。
  形から入るのかい……)

 「大体、綱手さんとシズネさんとサクラさんに、これ以上、関わりを持ちたくないんですよ!」

 「どういう意味だ!」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「こういう意味だ!
  ポンポンポンポン殴って!」

 「それは、あんたのせいでしょ!」

 「ちっが~う!
  木ノ葉のツッコミの率が多いの!
  ボケが少ないから、あたし達ボケ組が苦労するんです!
  ネプチューンの逆です!」

 「また、訳の分からないことを……。
  もう、いいわ……。
  あんたは、どんな忍者になりたいのよ?」

 「ヤマト先生かイビキさんみたいな忍者」


 カカシとサクラが吹いた。


 「ヤオ子、おかしいぞ!
  何で、あのサディストが候補に入っているんだ!?」

 「そうよ!
  あたし、中忍試験で怒鳴られて吃驚したわよ!」

 「あたしだって!
  ファーストコンタクトで気絶させられましたよ!」

 「「え? それ、ありえないって……」」


 事情を知っているヤマトは苦笑いを浮かべる。
 ちなみに、ヤマトは既にナルトの九尾のコントロールに取り掛かっている。


 「でも、いい人ですよ」

 「分かんない!?
  ヤオ子の頭って、おかしいわ!」


 カカシがサクラの方に手を置く。


 「サクラ……。
  イビキは置いて考えよう」

 「そうですね」

 (先輩もサクラも酷い……)

 「とりあえず、オレ達の情報にはヤマトの情報がある。
  そこから、ヤオ子の目指す忍者を予測するんだ」

 「なるほど」

 「変な師弟ですね」


 ヤオ子は首を傾げ、カカシは指を立ててサクラに続きの質問する。


 「ヤマトと言えば?」

 「木遁忍術。
  隊長。
  冷静な判断。
  気前がいい。
  そして、カカシ先生よりも常識があります」

 「そうだな。
  最後のは少し傷ついたぞ」

 「カカシ先生が遅刻しなければ。取り消しますけど?」

 「…………」


 カカシは空を見上げる。


 「それでだ……」

 (((無視した……)))

 「今、あげた中でヤオ子が興味を持ちそうなのは?」

 「…………」


 サクラが少し考える。


 「ありません」

 「いや、あるだろう……」

 「…………」


 あらためて、サクラが少し考える。


 「そうですねぇ……。
  やはり、木遁忍術でしょうか?」

 「オレも、それが一番だと思う」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「あたし、人格的にもヤマト先生を尊敬していますよ?
  この中じゃ、一番まともだし」

 「…………」


 カカシとサクラは、空を見上げる。


 「それでだ……」

 ((無視した……))

 「ヤオ子は特別なものに憧れ易いんじゃないかと思う」

 「なるほど。
  ヤマト隊長の木遁忍術は血継限界。
  十分に有り得ますね」

 「これ突っ込んだら負けなのかな?」

 「そうなると……。
  将来的には血継限界に手を出しそうですね?」

 「そう思う。
  現に、さっき木遁に手を出そうとしていた」

 「お笑いですね」

 「何でしょう?
  ふつふつと怒りが蓄積されていきます」

 「後、絶対に触るなと言うものに触りそうですよね?」

 「そういえば……」

 「絶対に危険なものを混ぜ合わせますよ」

 「一瞬、大蛇丸が頭を過ぎったな……」

 「大変!
  このままだと第二の悲劇が!」

 「本当に突っ込んでいい?」

 「纏めると……。
  好奇心旺盛で自ら滅ぼすタイプ……かな?」

 「そんなところじゃないですか?」

 「お前ら、歯を喰いしばって並べ!」


 ヤオ子は、キレた。


 「あたしのあだ名を教えましょうか!?
  キレたナイフですよ!」

 「出川か!」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「ぐぐぐ……。
  ネプチューンは知らなかったくせに……」


 蹲るヤオ子に、カカシがパタパタと手を振る。


 「ヤオ子。
  冗談だから」

 「カカシさん。
  あなたも大概にしてください。
  教え子と一緒に仲良くからかいやがってです」


 カカシがヤオ子の頭を撫でる。


 「まあ、そこまで焦ることはないと思うぞ」

 「そうですか?」

 「ボクもそう思うよ」


 ヤマトがカカシの話を引き継ぐ。


 「焦って適当に性質変化を覚えるのは良くないよ。
  まず、自分の特性を研究してからでいい。
  そして、じっくり考えて強化するのか補うのかを考えるべきだよ」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「……そうですね。
  少し焦り過ぎたかもしれません。
  自分を見つめ直してみます」


 ヤマトが微笑む。
 その様子を見て、サクラがカカシに呟いた。


 「負けてますね……」

 「どういうこと?」

 「ヤマト隊長の方が先生しているってことです」

 「…………」


 カカシは少し切なくなった。



[13840] 第69話 ヤオ子の自主修行・予定は未定③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:02
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 結局、振り出しに戻る。
 ヤオ子の中忍試験までの修行内容は、未だ白紙状態だ。
 ヤマトの話を聞いて新しい性質変化を身につけるよりもやることは理解できた。
 しかし、中忍試験までの期間、一体、何を向上させるべきなのか?
 明確な回答を得ぬまま、ヤオ子はナルト達の下を後にすることになった。


 「困りましたね……。
  久しぶりに秘密基地に行きますか……」


 ヤオ子は、自分の練習場も兼ねる秘密基地へと向かう。



  第69話 ヤオ子の自主修行・予定は未定③



 サスケに大事なエロ本を処分され、自宅に本棚が出来てから秘密基地にエロ本は置いていない。
 代わりに、秘密基地には簡易的な生活道具などが置かれている。
 雨水を飲み水に変えるろ過装置とタンク。
 料理道具一式。
 寝袋。
 etc...。
 それが地上部分。

 地下は拡張した空間に、忍具と乾燥させた薬草の置き場所になっている。
 理由はある。
 時空間忍術で巻物を利用して口寄せするためである。
 忍具は、敵から奪ったものを整備して保管。
 薬草は、日持ちさせるために乾燥させ、地下に置くことで温度の変化に気を付けている。


 「貧乏性で捨てられないことから出来た空間。
  自宅に置いとくわけにもいかないですしね。
  そして、テンテンさんは、あの巻物の武器を何処に保管しているのか?
  ・
  ・
  まあ、どっちにしろ。
  こういう広い空間が必要ということです」


 ヤオ子は地下室に置いてある忍具を眺める。


 「手裏剣、クナイ、起爆札、炸裂弾、閃光弾、煙玉、ワイヤーなどなど……。
  これらを臨機応変に使えるようにもならないと。
  まずは、もう一度、本を読んで使い道をおさらいです」


 続いて薬草を見る。


 「遠出をする度に、地味に集めて来た薬草……。
  使ったことのないものも沢山あります。
  でも、こうして置けば、いざって時に対応できます。
  もう、あんな思いは御免ですからね」


 ヤオ子は腰の後ろの道具入れから巻物二つ取り出す。


 「これでいつでも取り出し可能です。
  ここの場所は、誰も知りません」


 ヤオ子自身、利便性優先で忘れているが、忍具や薬草を口寄せするという新しい技術をしっかりと習得していた。
 これは間違いなく、サスケが去ってから得た力だ。
 ヤオ子は自分自身について、鈍いところがある。
 そして、巻物二つを腰の道具入れに仕舞う。


 「道具は問題ないです。
  次は、基礎の確認です」


 ヤオ子は秘密基地の外に出た。


 …


 今まで得た技術を思い出しながら、ヤオ子は自然体で目を閉じる。
 自分の歩んできた日々を振り返って、現在の戦力を確認する。


 「投擲術、体術、忍術。
  大まかには、この三通りでしょう。
  投擲は毎日練習して、命中率と射程距離は、随分と上がりました。
  結構、自信あります。
  ・
  ・
  次に体術。
  これは、今や独自の複合体術になりました。
  基本はガイ先生とリーさん仕込みの体術。
  これにネジさんの柔術を少し加えました。
  腕だけの回天が使えるようになっています。
  更に直角動作を会得しました。
  これは忍犬の赤丸さんと忍猫のタスケさんを真似して、キバさんに擬獣忍法を叩き込んで貰いました。
  そして、両親の強引チャクラ吸着……。
  ・
  ・
  次に忍術。
  アカデミーでの基本忍術。
  サスケさん直伝(?)のラブ・ブレス(豪火球の術)。
  必殺技・ヤオ子フィンガー。
  おいろけの術。
  おいろけ・ハーレムの術。
  おいろけ・部分変化の術。
  おいろけ・走馬灯の術。
  ・
  ・
  やっぱり忍術だけが強化できていないです。
  増えたのがおいろけだけって……。
  あたし、何してたんだろう?
  ・
  ・
  いや……。
  身体エネルギーを向上させるために、投擲と体術に特化した修行をしていたんだから仕方ないです。
  寧ろ、今回の時間は、置き去りにした忍術に充てればいいんです」


 ヤオ子は目を開けると、ストンと腰を下ろして胡坐を掻いて考える。


 「忍術……。
  何を強化するべきか?
  何を補うべきか?
  おいろけと基本を除いて攻撃が二つしかないのが問題です。
  ・
  ・
  ラブ・ブレスは、遠距離攻撃。
  必殺技は、近距離攻撃。
  中距離攻撃がない。
  威力が中途半端。
  ・
  ・
  新たな術を加えるべきか?
  応用を加えるべきか?
  応用で四点爆撃術を追加したけど、威力は変わらないです。
  それに……火属性だけで防がれないか?
  ・
  ・
  でも……。
  そこは問題なさそうなんですよね。
  あたしの必殺技……。
  サスケさんに指摘されたけど、
  属性関係なしにダメージ与えられそうなんですよね。
  ・
  ・
  ん?
  だったら、威力を上げればいいんじゃないの?」


 ヤオ子が腕組みをする。


 「必殺技の爆発の威力を槍の射程ぐらいまで上げられれば中距離攻撃が可能になって、
  近・中・遠を全てカバー出来るんですよね~。
  ・
  ・
  距離を上げるのか……」


 ヤオ子は眉間に皺を寄せる。


 「こういう時は、原点に戻るべき。
  あたしの術はリトルフラワーを基にして、ゴッドフィンガーの名前を貰った必殺技です。
  ゲンスルーは、これを強化した技を持っていません。
  ドモンは? 東方不敗マスター・アジアは?]


 ヤオ子が跳ね起きる。


 「石破天驚拳に昇華してる……。
  そうです!
  両手撃ち!
  両手の爆撃による相乗効果を利用するんです!
  応用技で四点装填が可能なんですから、両腕の二点装填なら可能です!」


 思い立ったら、直ぐ実行。
 ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結び、両手にチャクラの装填を終える。


 「いっけェ!」


 いつもと違う片手ではない、両手の付け根を揃えて突き出す構え。
 付け根の部分の行き場をなくした爆発の威力は、前方と技を支える自身へ向かう。


 「うわ!」


 予想外の爆発の威力。
 手に変える反動は末端の足まで伝わり、足のふんばりが耐え切れずにヤオ子は吹っ飛んだ。
 そして、しこたま背中を地面に打ち付けたあと、よろよろと立ち上がる。


 「こんなに術の威力があがるなんて思わなかった……。
  威力が上がって盾の形成が弱過ぎるし、反動を押さえ切れなかった……。
  ・
  ・
  というか……。
  いった~い!
  両手を火傷した!」


 ヤオ子は俯き、両手を下げる。
 両手を襲う激痛に脂汗を流して耐える。


 「綱手さんのところに行かないと!」


 ヤオ子は綱手の元へと走って行った。


 …


 ヤオ子は綱手の火影専用の部屋を蹴飛ばす。
 両手を使えないから、何度もガンガンと蹴飛ばす。
 そのあまりに酷くてしつこい音に、何事かとシズネが扉を開けた。


 「ヤオ子ちゃん?
  どうしたの?」

 「これ」

 「あひィーッ!」


 ヤオ子の両の掌を見て、シズネが悲鳴を上げた。


 「どうした!?」

 「ヤオ子ちゃんの両手が!」

 「火傷したから治して」


 綱手が席を立ち、シズネの横でヤオ子の両手を見ると、直ぐ様、ヤオ子にグーを炸裂させた。


 「何で、午前中に休暇を貰って、
  午後になったら大怪我して来るんだ!」

 「いいから、治して!
  やたら痛いんです!」

 「当たり前だ!
  馬鹿者が! 全く!」


 綱手は医療忍術をヤオ子の両手に掛け始めた。

 ~ 数分後 ~

 ヤオ子の両手は綺麗に治り、怪我をする前と違わない状態に戻った。


 「あ~、痛かった……。
  さすがに泣こうかと思いましたよ」

 「何で、こうなるんだ!」

 「術に失敗したから」

 「少しは気をつけろ!」

 「面目ない……」


 シズネがヤオ子に質問する。


 「それにしても……。
  何で、病院に行かないの?
  あっちの方が近いから、ここまで我慢することもないでしょう?」

 「だって、医療忍者としては綱手さんが一番優秀なんでしょう?」

 「つまり……。
  綱手様を利用したんですか?」

 「その通りです。
  偶には、あたしが顎で使ってもバチは当たらないと思います」

 (この子……。
  ある意味、大物よね……)


 ヤオ子が手を上げて回れ右をする。


 「じゃあ。
  また、失敗したら来ます」

 「ちょっと、待て!
  お前、何をしているんだ!」

 「修行ですよ」

 「どんな修行をすれば、そうなる!」

 「失敗を恐れずにやるとこうなるんです」

 「…………」


 綱手とシズネは螺旋丸を習得したナルトの姿を思い出していた。
 あの時、ナルトはチャクラの練り過ぎで経絡系にとんでもない負荷を掛け、自身の両手を火傷させていた。
 それ以上に、今回のヤオ子の怪我は不注意な点が多すぎるので、比べるのもおこがましいが……。


 「ったく……。
  この世代のガキは、どいつもこいつも……」

 「そうですね」


 意味ありげな綱手とシズネの言葉に、ヤオ子は首をかしげた。


 「ほどほどにしろよ。
  治す方の身にもなれ」

 「気をつけます。
  なるべく……。
  ・
  ・
  ありがとね」


 ヤオ子は礼も早々に切り上げ、去って行った。


 「ナルトだけが特殊かと思ったが、大間違いだな」

 「ええ。
  うちはサスケ奪還の時に、皆、大怪我をして。
  風影奪還の時にはサクラも無茶して。
  今度は、ヤオ子ちゃん……。
  この里の子は無茶し過ぎです」

 「本当に……。
  でも、勇気があるとも言える……。
  ・
  ・
  まあ、無謀とも言えるものもあったがな」

 「先が思いやられますね」


 綱手とシズネが溜息を吐いた後に微笑む。
 そして、少し未来に思いを向けた。


 …


 ヤオ子は町中を走り、自分の修行場へと急ぐ。
 一度、思いついたことは、さっさと仕上げてしまいたい。
 今は好奇心によって突き動かされている。


 「さっさと中距離の忍術を完成させて、別の修行をしないと!」


 ヤオ子は民家の屋根を飛び移るり、途中、すれ違う中忍と挨拶を交わす。
 任務でお世話した駄菓子屋でお菓子を貰う。
 ケーキを貰う。
 雨樋を直すのを手伝う。
 壁板の張替えを手伝う。
 連行中の下手人の脱走追跡を手伝わされる。
 腹痛のお婆さんを木ノ葉病院に運ぶ。
 切れた電線を修繕する。
 そして、自分の修行場に戻った。


 「何これ?
  呪われているんですか?」


 ヤオ子は地面に手を着いて項垂れた。
 トラブルを引き込む、何らかの迷惑なスキルが発動したのかもしれない。


 「と、とりあえず……。
  修行の続きを……」


 ヤオ子は修行を再開することにした。
 先ほどは失敗したが、両手を使って術の威力を上げるという事実だけは得ることが出来た。
 つまり、この術の応用には先があるということだ。

 ヤオ子はチャクラを練り込み、印を結ぶ。
 両手に送るチャクラをコントロールして、術発動に使うチャクラは少なく、盾に使うチャクラは同じに保つ。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー! ×2!」


 新しい術の応用技が爆発する。
 早速、どれだけ威力が上がったか検討しようとする。
 しかし……。


 「ふ……。
  最初に技の威力を落とした必殺技を確認していなかった……」


 検討できなかった。
 比較対象の威力を抑えた必殺技の威力の情報がなかったので比較のしようがない。

 ヤオ子はチャクラを練り込み、印を結び、片手を突き出して弱めた必殺技を発動する。


 「さっきの両手うちと比較して、大体、1.7倍~2倍ぐらいかな?
  二回当てるのより、少し無駄かな?
  でも、威力だけなら……」


 そうチャクラの消費と比例していないが、威力は確実に上がっていた。

 「考え物ですね……。
  二回使うよりも無駄なんて。
  ・
  ・
  射程はクリア。
  でも、威力は二倍弱か」


 ヤオ子は、再び考え込む。
 威力を上げるために、いろいろと補強しなければいけないものが多すぎる。


 「う~ん……。
  瞬間的にでも威力が上がればいいか……。
  詰まるところ、盾の威力も二倍にすれば問題なしで使えますからね。
  ・
  ・
  でも……。
  一番チャクラを使う、盾に二倍の消費量を使うのか……。
  H×Hの制約と誓約みたいですね。
  鋼の錬金術師の等価交換は成立していませんが……」


 悩んで愚痴を言っても仕方ないと、ヤオ子は修正した応用技を試すことにした。
 チャクラを練り上げて、印を結ぶ。
 前屈みになり、両手を腰に構え、綿密なチャクラコントロールの末、盾に二倍のチャクラを装填する。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー! ×2!」


 大爆発が起きて、再びヤオ子が吹っ飛んだ。


 「また致命的な欠点が……。
  腕の補強ができたと思ったら、今度は体を支え切れない……」


 ヤオ子は立ち上がって、大きく息を吐く。


 「なら、チャクラ吸着で踏ん張りを強化するまで!」


 チャクラを練り上げて、印を結び、今度は術の発動と同時に足にチャクラ吸着を追加。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー! ×2!」


 大爆発が起きて、再びヤオ子が吹っ飛ぶ。


 「…………」


 ヤオ子は地面に手を着く。


 「扱え切れない……。
  チャクラ吸着に回すチャクラが間に合わない」


 ヤオ子はバタリと仰向けになると、空を見上げる。


 「瞬間的に発生出来るチャクラが足りない。
  だから、足に回せるチャクラが少ないんだ……」


 ヤオ子の頭には、ネジの回天が浮かぶ。


 「ネジさんみたいに全身からチャクラを噴出できるぐらいに、瞬間的にチャクラを生成できないとダメです……。
  今まで忍術を蔑ろにしてたから、術の強化を図っただけでボロが出ました……」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「あたし、思い上がってたな……。
  チャクラ量が増えて……。
  術の使用回数も増えて……。
  調子に乗ってチャクラ性質を増やそうなんて……。
  ・
  ・
  術に必要なチャクラ生成の瞬発力が疎かになっていました」

 「…………」


 暫く空を見上げて反省する。


 「ヤマト先生の言った通りです。
  見つめ直したら、早速、欠点が出て来ました。
  手持ちの術を扱え切れていないのに、次に行けるはずがありません。
  手持ちの技を納得いくまで活かせるようになってから、次のステップへと進むべきですね」


 ヤオ子は立ち上がる。


 「基本修行は、そのまま。
  ただし、時間を短縮して行うようにして、チャクラ生成の瞬発力をつけましょう。
  そして、短縮した時間の分だけ、疎かになっていた術の応用に回します。
  新しいことは、それからです」


 結局、ヤオ子の中忍試験までの修行は、内容が濃くなっただけであった。
 とはいえ、ヤオ子は、やっとサスケがアカデミーを卒業した時と同じ歳に近づいたばっかり。
 何をするにしても、まだまだ土台が出来ていない状態には変わらない。
 そして、修行の密度を濃くして数日後、訃報が届くのであった。


 …


 ※※※※※ 番外編・ヤオ子の去ったナルトの修行場で ※※※※※


 ナルトの修行をサクラとカカシは見守り、ヤマトは九尾のコントロールを継続中。
 そして、この静かになった雰囲気は、ヤオ子が去ったからに他ならない。
 故に、ヤオ子が如何に場を乱していたのかがよく分かる。
 ここでサクラにはある疑問が浮かんだ。


 「ヤマト隊長」

 「ん?」

 「ヤマト隊長は、ヤオ子に甘くないですか?」

 「どういうことかな?」

 「私達……。
  サイと揉めた時に恐怖で支配されかけたんですけど……」

 「はは……。
  あの時は、悪かったよ」

 「まあ、私達に非があったから、文句も言えないですけど……。
  ・
  ・
  ただ、何でヤオ子に同じことをしないのかなって?」


 カカシがサクラ達の会話を聞いて話す。


 「そんなことがあったのか……。
  ・
  ・
  恐怖で支配したの? お前?」

 「成り行きです!
  どうしようもないぐらいに、三人が険悪だったんです!」

 「そうなんだ……。
  だが、サクラの言う通りなら、ヤオ子もそれで制御できないか?」


 ヤマトは、複雑な顔をしながら溜息を吐く。


 「先輩達は、何も分かっていない……」

 「?」

 「あの子は、そういうの大好物です……」

 「「は?」」

 「そんなことで縛ろうものなら、どんな変態的な反応が返ってくるか……。
  ・
  ・
  『あたし、ヤマト先生のためにドMに目覚めます』とか……。
  『そういうプレイが好きなんですか? 合わせます♪』とか……。
  そういうことを言うに決まっている……」


 カカシとサクラが同情を含んだ苦笑いを浮かべる。


 「あの子と会ってから、そんなことばかりです……。
  正直、恐怖で縛ったぐらいで言うことを聞いてくれたサクラ達に感動すら覚えましたよ……」

 ((苦労してるな……))


 カカシがヤマトの背中をポンと叩く。


 「まあ、元気出せ。
  オレは、お前を羨ましいと思う時もあるんだから」

 「……本当ですか?」

 「ああ……。
  あの子、反応がいいだろ?」

 「「は?」」


 ヤマトとサクラが首を傾げる。


 「最近、ナルトとサクラの反応が悪くてな……。
  昔は、どんな些細なことにもイチイチ反応してくれる奴等だったのに……」

 (カカシ先生……。
  かまって欲しかったんだ……)

 「そういうことですか……」

 「あの子、どんな些細なことでも100%反応するだろう?」

 「ええ……。
  確かに……」

 「そういうコミュニケーションが大事だと思うんだ」

 (この二人は、何の話をしているの……)

 「でも、大変ですよ……。
  普通の返しじゃないですからね。
  四割まともな回答が返れば大成功って感じですから」

 「六割が失敗か……。
  よくそれで会話が成立するな」

 「まあ、こちらが叩きのめされた後に、用件は聞いてくれるんで……」

 「はは……」

 ((本当に苦労してるな……))


 ヤマトは少し俯いた後で、笑みを浮かべる。


 「でも、いい面もあるのは確かですね」

 「例えば?」

 「普段、鍛えられているせいか、
  ナルトとサクラとサイを相手する時に、精神的ダメージが思ったより多くないんですよ」

 「ヤマト隊長!
  私も含まれるんですか!?」

 「自覚がないってのは恐いな……」

 「カカシ先生まで!」


 ヤオ子が去った後で、こんな会話があったとかなかったとか……。



[13840] 第70話 ヤオ子と弔いとそれから……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:02
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 秘密基地の修行場で、ヤオ子は力尽きるまでやりきった。
 本日もバッタリと仰向けに倒れる。
 夕日も傾きかけて、空は夕闇が覆い始めていた。


 「か…帰らないと……。
  でも、この疲れた感じ……懐かしいなぁ」


 あの時には居て、今は居ない少年を少し思い出す。
 無理やりにやらされていたことが頭を過ぎり、自然と口の根元は緩んでいた。
 今では、そのやらされていたことを進んでやっている自分が居る。
 暫く土の匂いを間近に感じながら一息つくと、ヤオ子はフラフラと立ち上がり、里に向けて歩き出した。



  第70話 ヤオ子と弔いとそれから……



 納得のいく疲れを体に宿しながら、ヤオ子は里の大通りを歩く。
 雑用任務で、意外と修行に力を入れたいという欲求不満が自分の中に溜まっていたのを感じる。
 だから、思う存分に修行して、そのために疲れることは悪くなかった。
 しかし、そんな気分を壊すように、里に入ると直ぐに噂話が耳に入る。


 『……さんが亡くなったみたいなんです』

 『本当に?』


 ヤオ子は俯く。


 「また……亡くなったんですか。
  こういう仕事だから仕方がないとはいえ、いつまで経っても慣れない話です……。
  ・
  ・
  昔と違って『死ぬのが嫌だ』だけじゃないから、分かります。
  想いがあるから戦えるんです。
  誰も簡単に命は懸けません。
  命より大事だと思えるものが出来てしまうんです」


 ヤオ子も、何回か葬式に参列している。
 忍の仕事だから、他の職業に比べて命を懸ける場面も多い。
 死に遭遇する場面も多い。
 そして、それは突然訪れる。
 納得がいかない死も、何度か見て来た。


 『あのアスマさんが……』


 ヤオ子は、その名前が耳に入ると立ち止まる。


 「アスマ……さん?」


 ヤオ子は噂話をしていた主婦に近寄り、質問する。


 「あ、あの……アスマさんが亡くなったんですか?」

 「ええ。
  任務中に殉職したそうよ」

 「もう、葬儀も終わった頃じゃないかしら?」


 暫し呆然として、ヤオ子は主婦達の声で我に帰る。
 そして、軽く頭を下げると無言で自宅へと向かった。


 …


 自宅の扉に張り紙がある。
 張り紙に書かれていた、既に葬儀の時間は終わっていた。
 ヤオ子は張り紙を剥がして家に入ると、シャワーを浴びて汚れを落とす。
 そして、そのまま喪服に着替えて財布を持つと直ぐに家を後にした。

 途中、いのの実家の山中花店を訪れた時には、すっかりと夜になっていた。


 「いらっしゃい。
  ヤオ子ちゃん。
  喪服……まだ着てるの?」

 「あたし、今からです」

 「でも……。
  葬儀は、とっくに……」

 「ちょっと、外で修行をしていて張り紙に気付かなくて……。
  お花、いただけますか?」

 「少し待っててね」


 いのの母親が用意してくれた花を受け取り、代金を払うとヤオ子は店を後にする。
 寄り道をせずに真っ直ぐ葬儀のあった墓へと向かう。
 そして、もう、誰も居ない場所へと一人歩いて行く。
 そのつもりだったが、人影があった。


 「いのさん?」

 「ヤオ子?
  ・
  ・
  あんた……。
  顔、凄いことになってるわよ」


 いのがヤオ子にハンカチを差し出すと、ヤオ子はハンカチを受け取って涙を拭いて鼻をかむ。


 「ハンカチは、洗ってから返します」


 ヤオ子は皆に遅れて花を捧げ、お墓の前で手を合わす。
 数分して立ち上がると、いのは待っていてくれた。


 「ありがとう……。
  きっと、アスマ先生も喜んでいるわ」

 「遅れて、すいませんでした。
  朝から夜まで修行中だったんで、家の張り紙に気付きませんでした」

 「アスマ先生は、そんなことを気にしないわよ。
  それよりも……。
  ヤオ子は、アスマ先生とそんなに仲が良かったの?」

 「『そんなに』の意味が分かりませんけど?」

 「だって……。
  お墓に来る前にボロボロだったじゃない」

 「確かにお会いした回数も話した回数も多くありません。
  皆さんが中忍になってからは、お仕事もバラバラですし。
  ・
  ・
  でも、大好きでした。
  いのさん達と一緒に居るのを見るのが好きでした」

 「……ヤオ子は優しいのね」

 「…………」


 ヤオ子が拳を握り締める。


 「それに……。
  紅さんとも、やっと……」

 「そう……ね」


 ヤオ子といのは、涙を必死に堪えていた。


 「それだけじゃないです……。
  中忍試験に皆さんが受かった時、
  何度も何度も嬉しそうに紅さんに話していました……」

 「そうなんだ……。
  アスマ先生……」


 ヤオ子といのは、故人を思って涙が決壊した。


 「それを聞いている紅さんも呆れていました……。
  同じことを何度も言うから……」

 「先生ったら……」

 「でも、今度は紅さんがヒナタさん達を自慢して、
  アスマ先生が聞き役になるんです……」

 「…………」


 いのが涙を拭う。


 「それでお互い同じことを言い合ってることに気付いて、笑い合っていました……」

 「スン……。
  ヤオ子……」

 「スン……。
  何ですか? いのさん?」


 ヤオ子といのは、涙を拭う。


 「何で、私の知らないアスマ先生を……知っているの?」

 「あたし、趣味でストーキングをしているから……。
  だから、二人が育んで来た時間を知っているから……」

 「そう……」


 いののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何やってんのよ!」

 「ううう……。
  泣きながら怒んないでください……」

 「アスマ先生の思い出だけど……。
  思い出だけど!
  何で、変態エピソードが付いてくんのよ!」

 「だって……。
  気になったんだもん。
  あたしの趣味なんだもん」


 いののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「涙が止まらないのに怒りが込み上げてくる……」

 「泣くか怒るか、どっちかにしませんか?」

 「じゃあ、泣く……」

 「お付き合いします……」


 とりあえず、二人は気が済むまで泣き合った。


 …


 思いっきり泣いて、気分が少し落ち着いた。
 いのがヤオ子に質問する。


 「ヤオ子の感情移入が激しかったのって、
  アスマ先生と紅先生の関係を知っていたからなのね?」

 「はい」

 「犯罪よ……それ」

 「バレなきゃいいんです」

 「あんたねぇ……」

 (とはいえ、上忍二人が気付かない尾行術って凄いわね……)

 「あたし、かなりの期間をストーキングに費やしました。
  あたしの記憶の中では、二十二日間分のデートの記憶と総集編二つがあります」

 「もう、何も言えない……」


 いのは、完全に呆れ返った。
 呆れ返っているいのに、ヤオ子が少し真剣な顔で声を掛ける。


 「いのさん……」

 「何?」

 「あたしの記憶……。
  貰ってくれませんか?」

 「は?」

 「アスマさんと紅さんの記憶です」

 「全部しゃべる気?」

 「いいえ。
  この前、開発したエロ忍術で記憶を見せます」


 いののアイアンクローがヤオ子に炸裂する。
 現在進行形でギリギリと炸裂中……。


 「どういう意味?
  エロ忍術って?」

 「痛いです……」

 「どういう意味!」

 「あたし……。
  エロいことだけ、相手に幻術で伝える術を持っているんです」


 アイアンクローが強まる。


 「何で、エロいことだけなのよ!」

 「痛いです!」

 「答えなさい!」

 「術の種類がおいろけだから!」


 いのがヤオ子を解放して、額を押さえる。


 「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど……」

 「運良くストーカー行為中の記憶なので術を掛けられます」


 いのが手を突き出して『待った』を掛ける。


 「それ出来ない……。
  プライバシーがあるから、紅先生に聞かないと」

 「それ出来ない……。
  紅さんにあたしの犯罪行為がバレる」


 いのは頭痛を引き起こしつつも少しずつ冷静になると、ヤオ子の申し出は直ぐに答えられないと気付く。


 「……少し時間をくれる?
  シカマル達に時期を見て相談するから……」

 「時期?」

 「ええ。
  私達は、やることがある……」

 「私達?」

 「ええ……。
  アスマ班がやらなければいけないこと……」


 いのの決意の篭もった目を見て、ヤオ子は何となく察した。


 「……分かりました」


 ヤオ子が、いのの手を取る。


 「だけど……。
  必ず帰って来てくださいよ。
  その時は、あたしも怒られるのを覚悟しますから」

 「ええ」


 ヤオ子は、いの達の無事を祈り、いのは新たに誓いを立てた。


 …


 いのとお墓で話し合って数日……。
 修行をしながらも、少しずつ情報がヤオ子にも集まり出した。
 暁という組織……。
 それに対する里の対応……。
 アスマが命を落とした経緯……。

 ヤオ子は、お昼の休憩をしながら空を仰いでいた。


 「いのさん達の仇討ち……。
  でも、それだけじゃない」


 ヤオ子はおにぎりに噛り付き、お茶を啜る。


 「アスマさんを殺したのが暁……。
  暁が暗躍して各地で戦いの火種がバラ撒かれている……。
  ・
  ・
  ただし、この暁という組織は少人数ですから、
  早々に少しでも叩いて置けば、それだけで効果も大きい。
  つまり、いのさん達の行動は重要で、Sランクにも匹敵するんじゃないでしょうか?」


 おにぎりを食べ終え、ヤオ子をお茶を飲み干す。


 「いのさん達を追って、ナルトさん達も出たみたいです……。
  相手二人に対して二小隊……。
  相当強いんですね……。
  ・
  ・
  大丈夫かな……」


 ヤオ子が首を振る。


 「大丈夫に決まっています!
  ヤマト先生も居るんだから!
  それに頼りないけど、カカシさんも!」

 「…………」


 少しでも黙ると暁の噂が頭に蘇り、不安だけが広がる。


 「ダメです!
  じっとしていると嫌なことばっかり考えてしまいます!
  修行します!」


 ヤオ子は没頭するために修行を再開する。
 そして、その日のうちに暁のメンバー二人は倒されることになった。


 …


 更に数日が過ぎる……。
 暁二人の討伐を、カカシ班とアスマ班は綱手に任務報告する。
 シカマルの紅に対する報告も終わる。

 そして、いのから明かされるヤオ子の犯罪行為……。
 シカマルとチョウジは激しく項垂れつつもヤオ子の記憶を貰う事に決め、紅への了承を得る役はいのに任せた。

 夕方……。
 ヤオ子がドロドロになって帰って来ると、家の前では、いのが腕組みをして待っていた。


 「おかえり」

 「お疲れ様です。
  もう、ズタボロです」

 「何、いきなりボケかましてんのよ?」

 「はは……。
  随分前から修行の内容を濃くしたんですけど、体が耐え切れなくて疲労困憊の日々です」

 「じゃあ、明日にしようかしら?」

 「何か急用ですか?」

 「無事……終わったから」


 いのの顔に寂しさと達成感が少し浮かぶ。
 ヤオ子はいのが約束を守って帰って来てくれたのだと分かった。


 「家の中で少し待ってて貰えますか?
  この汚い格好で紅さんの家に行けませんから」

 「無理言って……ごめん」

 「気にしないでください。
  いのさん……無事に戻って来てくれました」

 「ヤオ子……」

 「それだけで嬉しいです。
  だから……」


 ヤオ子が真剣な目でいのを見る。


 「風呂上りにハグさせてください。
  出来れば乳を押し付ける形で」


 いののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「さっさと用意をしろ!」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 ヤオ子は家に入ると直ぐに風呂場に直行した。
 いのは、ヤオ子の家のソファーに腰掛ける。


 「あの子は、まったく……」


 いのは家の中を見回し、勝手知ったる何とやらで冷蔵庫まで行き、扉を開ける。


 「相変わらず、でかくて何でもあるわね……」


 コップを借りてミネラルウォーターを注いでソファーに戻ると一口飲み、手前のテーブルの上にコップを置く。


 「しかし、来る度に内装も私物も変わるわよね。
  毎回、別人の家を訪問しているみたいな錯覚をさせられるわ」


 いのの座っているソファーの生地も、前回来た時と変わっている。
 電化製品は、特に入れ替わりが激しい。


 「ヤオ子が電化製品を入れ替える度に、
  木ノ葉の何処かでヤオ子の知り合いの電化製品が増えるのよね……」


 ヤオ子の修理した電化製品は、一人暮らしを始めたばかりの忍などが買い取る。
 値段は、適当。
 言い値で売っている。
 この前は、テレビを二百両で譲った。
 ヤオ子のリサイクル製品は競争率が高く、ヤオ子の知らないところで予約が発生していたりする。

 いのがコップを口に運ぶ。


 「それに気のせいか……また部屋広くなってない?」


 錯覚ではない。
 外から見れば、ヤオ子のアパートの出っ張りは、一目瞭然ででかくなっている。
 というか、今やアパート全体に改造の手が及んでいる。


 「ガン細胞だって、ここまで人に寄生しないわよね……。
  ・
  ・
  ところで、アレなんだろう……」


 いのの視線の先には、謎の工作室からはみ出た機械が目に映っていた。


 …


 十分後……。
 ヤオ子が風呂場から出てくる音がする。
 いのが目を向けると絶句する。
 ヤオ子は高級なバスローブを着て出て来た。


 「何処のセレブよ……」

 「これですか?
  服屋さんで任務してたら、売れないからって貰ったんです。
  初めは抵抗もあったんですが、タダだって認識したら『別にいいかな~』って。
  それに少しエロいから、あたし向きかと……」

 「頭痛い……」

 「風呂上りにフルーツ牛乳飲んで、ゆっくりするまでこの格好です」


 ヤオ子は冷蔵庫からフルーツ牛乳を取り出し、一気飲みする。


 「ぷっは~!
  この一本が、やめられません!」

 「オヤジか……」

 「もう少し待ってくださいね。
  髪を乾かしたら、着替えますんで」


 フルーツ牛乳の空き瓶を分別ゴミに捨て鏡台の前に行くと、ヤオ子はドライヤーで髪を乾かし始める。


 「何か……。
  凄い違和感あるわ……」

 「何で?」

 「私、あんたの歳の時にそんな背高くなかったし、
  当然、風呂上りにバスローブなんか着てなかったわ。
  あんた、どう見ても大人の女みたいよ……」

 「成長が早いのは、我が家の遺伝ですからね」

 「そうなんだ……」

 「ええ」


 ヤオ子はドライヤーを置くと、髪を結ってポニーテールを作る。
 そして、着替えも直ぐに終わる。


 「行きますか?」

 「ええ。
  ・
  ・
  でも、その前に聞きたいんだけど……」

 「ん?」

 「あの変なの……何?」

 「んん?」


 ヤオ子は、いのの指差す方を見る。
 例のはみ出た機械があった。


 「ああ。
  何処の家にでもある機械です」

 「少なくとも私の家にはないわ……。
  何の機械?」

 「研磨機」

 「何それ?」

 「クナイとか手裏剣とか研ぐの」

 「ああ……。
  って、やっぱり一般家庭にはないわよ!」

 「あはは……。
  やっぱり?」

 「あんた、自分で整備してるの?」

 「そうですよ。
  他にも武器を製造したり、釘を打ち出す機械なんかもあります」

 「本当に使ってるの?」


 ヤオ子は顎の下に指を当てる。


 「う~ん……。
  最近は、あたしよりもテンテンさんの方が使用頻度は高いですかね?」

 「テンテンさんも使ってるんだ……」

 「ええ。
  ここで暗器なんかも作りますよ。
  この家はカラオケもするんで防音も完璧ですから、大きな音で機械を動かしても平気ですしね。
  お礼に特注のクナイを貰っちゃった♪
  ・
  ・
  テンテンさんは、よく使うんで合鍵も持っています」


 いのが吹いた。


 「ヤオ子!
  あんた、自分のプライバシーは!?」

 「いんじゃないですか?
  もう、秘蔵のエロ本を公開した時点で、あたしのプライベートで隠すものなんてないし。
  寧ろ、最近、見せる方に欲求することも多いですね」

 「この変態が……。
  更に磨きを掛けて……」

 「まあ、いいじゃないですか。
  そろそろ行きませんか?」

 「そうする……」


 ヤオ子といのは、ヤオ子の家を後にして紅の家へと向かった。


 …


 紅の家のインターホンを押すと、直ぐに扉が開いた。
 紅は、珍しい客に言葉を一拍開けた。


 「シカマル以外が訪ねて来るなんて珍しいわね」

 「今日は、紅先生にお話があって来ました」


 いのの言葉に紅は微笑むと、ヤオ子といのを家の中に通した。
 三人がテーブルの前の椅子に各々座る。
 そして、紅からいのに話し掛けた。


 「お話って、何?」

 「実は、凄く大事なことで……」

 「大事?」

 「はい。
  その……アスマ先生の思い出を貰っていいかの確認なんです」


 紅が首を傾げる。
 今一、話が見えて来ない。


 「どういうこと?」

 「ヤオ子の記憶の中にアスマ先生と紅先生の思い出があって、
  それを私達──私とシカマルとチョウジで貰っていいかと……」

 「ちょっと、待って」

 「はい」

 「疑問は、二つ。
  まず、何で、ヤオ子に私達の記憶があるのか?
  もう一つは、記憶を貰うということ」


 いのは複雑な顔を浮かべると、避けて通れないヤオ子の話をする覚悟をした。


 「最初から、お話します。
  ヤオ子……いいわね?」

 「いいですけど……。
  紅さん、お手柔らかに」

 「?」

 「まず、ヤオ子にお二人の記憶があることなんですけど……。
  この子、お二人のデートをずっとストーキングしていました」


 紅が吹いた。


 「どういうこと!?」

 「そのまんまの意味です」


 紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何てことをしてたの!」

 「あたしのささやかな趣味です……」

 「一体、何処まで見てたの!?」


 紅がヤオ子の首根っこを持つと、ヤオ子は完全に視線を逸らして呟く。


 「キス…するとことか……。
  抱き合ったりしてるとこまで……」


 いのは顔を少し上気させ、紅はヤオ子にグーを炸裂させた。


 「本物の変質者じゃない!」

 「否定はしません。
  あたしも、それを誇りに思っています」

 「「思うな!」」


 紅といののグーが、ヤオ子に炸裂した。
 いのが咳払いをする。


 「話が進まないので、制裁は後でいいですか?」

 「ええ……」

 「え?
  まだ制裁加えるの?」

 「「当然!」」


 二人の迫力押され、ヤオ子が押し黙る。


 「ヤオ子の行為は犯罪行為なんですが、
  この子、その記憶を他人に伝える術を持っているんです。
  それで……。
  その中で私達にも頂ける思い出があれば……。
  アスマ先生の思い出をいただきたいんです」

 「それで初めの『確認』に繋がるのね」

 「はい……」


 紅が溜息を吐く。


 「良いも悪いも確認してみないことには……」

 「分かってます。
  だから、ヤオ子を連行して来ました」

 「そこは、普通に連れて来たでいいんじゃ……」


 紅は再び溜息を吐く。


 「仕方ないわね……。
  私もアスマの思い出を渡せるなら、渡したい思い出もあるもの。
  ・
  ・
  その術、私も習得できるのかしら?」

 「紅さんもいのさん達に見せたいものがあるんですね?
  でも、習得は出来ないと思います」

 「何故?」

 「この術は、心にやましいことがないと習得できないエロ忍術だからです」


 紅がテーブルに額をぶつけた。


 「な、何それ……」

 「エロいことしか伝えられないんです」


 紅もいのも複雑な顔で青筋を浮かべている。


 「じゃあ、あんたしか使えないわけね……」

 「カカシさんも使えました。
  ほら、よくエロ小説を読んでるでしょ?」

 ((馬鹿にしか扱えないのか……))


 いのが気を取り直しながら、紅に話し掛ける。


 「ま、まあ、そういうわけで、紅先生にヤオ子の記憶を確認して貰ってから、
  私達にも頂ける思い出があれば……ということです」

 「複雑ね……。
  いのの気持ちは嬉しいんだけど、
  それを行うヤオ子の過程ががっかりさせるわ」

 「それは、私も同じ気持ちです」


 項垂れている紅といのを置いて、ヤオ子が紅に近づく。


 「じゃあ、始めましょうか?」

 「大丈夫なの?」

 「カカシさんは平気でした」

 「『カカシだから、平気だった』じゃないでしょうね?」


 ヤオ子が顎に指をあて考える。


 「それは考えられますね。
  普通の人間以上にエロい私やカカシさんだから耐えられたのかも?」

 (何か、段々とカカシがダメ人間に思えて来た……)

 「全二十四巻で構成されて記憶してあるんで、一巻ずつ行きましょう」

 「不安になって来たわ……」

 「この術は幻術を応用しているんで、
  精神に少し隙を作っといてくださいね」

 「はぁ……。
  分かったわ……」


 ヤオ子がチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「おいろけ・走馬灯の術!」


 紅の記憶にヤオ子のストーカー行為第一弾の記憶が加わる。
 一気に詰め込んだ前回と違い、紅に精神的負担を掛けることはなかった。
 そして、紅の瞳から涙が零れる。


 「覚えてる……。
  この場面……。
  とても、日差しが暖かかった……」

 「紅先生……」

 「紅さん……」

 「他人からは、こういう風に見えていたのね……」

 「ええ。
  とても幸せそうでした」


 紅がヤオ子に微笑むと、そのままヤオ子にグーを炸裂させた。


 「ほぼ始めの頃からストーカーしてたのね!」

 「ぐあぁぁぁ!
  こ、これって、あたしの犯罪行為の生激白じゃないですか!?」

 「ヤオ子、あんたって……」

 「と、兎に角、紅さん!
  暴力は、よくありません!
  一回一回、殴らないでください!」

 「寧ろ、一回一回、殴らないと気が済まないわ!」

 (その気持ち、分かるなぁ……)


 その後、ヤオ子は二十三回術を掛けて、二十三回殴られた。


 …


 ヤオ子が頭から煙を上げながらテーブルに突っ伏す。


 「い、以上です……」


 一方の紅の顔は上気している。
 決して殴り続けたために体が火照ったわけではない。
 ヤオ子のストーカー行為が及んだ場面の恥ずかしさのためである。


 「この子、本物の馬鹿だわ!」

 「はは……」

 (紅先生が、ここまで怒ったところなんて見たことない……)

 「やっぱり、黙って心に封印しておけば良かったかも……」


 紅が咳払いをする。


 「十八番目の思い出なら、許可します」

 「何の思い出ですか?」

 「あの人が……。
  あなた達の中忍試験を褒めてる思い出」

 「あ……」

 「きっと、素直に褒められない人だから……。
  ちゃんと覚えておいた方がいいわ」

 「何を言ってるんですか……」

 「ヤオ子?」


 ヤオ子がムクリと復活する。


 「そんな、こっ恥ずかしいこと、誰だって言えないですよ」

 「……それもそうね」


 紅が思い出に微笑む。
 いのは、紅の微笑みに大事なものを貰うことを強く認識する。


 「では、紅先生。
  その思い出だけ……皆で貰います」

 「ええ。
  大切にしてね」

 「はい」


 そして、いのはヤオ子のポニーテールを掴んだ。


 「さて、最後に大きな問題が残ったわね」

 「な、何ですか? いのさん?」

 「それは、私も気付いていたわ」

 「紅さんまで……。
  ・
  ・
  ハッ!
  さっきの制裁の件ですか!?」


 二人が首を振る。


 「「ヤオ子の頭に残った記憶の消去よ」」

 「え?
  ・
  ・
  そんなのいいじゃないですか。
  元々、あたしの記憶なんだし」

 「ダメね……」

 「何で?」

 「あんな恥ずかしい行為を覚えている人間を野放しに出来ないわ!」

 「あ、あたし、口は硬いですよ!」

 「しかも、他人に伝える術まで開発して……!」

 「そのお陰で思い出を共有できるんでしょ!」


 いのが紅の肩に手を置く。


 「紅先生……。
  いいことがあります」

 「何かしら?」

 「私達が思い出を頂いたら、ヤオ子の記憶を消します」

 「いのさん……。
  人の記憶は、そんなに簡単に消えませんよ?」

 「大丈夫よ。
  ショック療法で消すから」

 「待った!
  何!? その力任せな原始的な方法!?
  そんなの死ぬ! 死ぬって!」

 「いい考えね……いの」

 「おかしいって!
  二人とも!」

 「このガキ、絶対に他にも言えないストーカー行為をしているに違いありません!
  女の敵は、完全に記憶を失わせます!」

 「あたしも女だ!
  女の敵って、何だ!?
  亡き者にして記憶を抹殺する気か!?」

 「私も手伝おうかしら……」


 数日後、いの、シカマル、チョウジに記憶が渡った後で、一人の少女の断末魔が里に響いたという。
 そして、ヤオ子のストーカー行為は綱手の耳にも入り、おいろけ・走馬灯の術は禁術に指定された。
 しかし、それでもヤオ子のストーカー行為は治らず、日々、里には変態的な都市伝説が増えていった……。



[13840] 第71話 ヤオ子と犬塚家の人々?
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:02
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 中忍試験に向けて、ヤオ子の修行の日々が続く。
 今ある技術を最大限に活かすため、今までの忍術を見直し、応用技も少しずつ増やしていく。
 成果は急には出なくと少しずつ現われる。
 そして、そこで成果と共に問題も現われる。


 「応用するための技術を聞きたいんです。
  今回は通牙のやり方を聞きたいんですよね」


 ヤオ子は拳を振り上げる。


 「突撃! 隣の忍術一家!」


 ヤオ子はスキップしてキバの家である犬塚家へ向かった。



  第71話 ヤオ子と犬塚家の人々?



 ヤオ子が犬塚家の門を叩くと、中から返事が返り、キバの母である犬塚ツメが姿を現す。


 「こんにちは」

 「こんにちは。
  キバは居ないわよ」

 「いいえ。
  赤丸さんに用があるんですけど」

 (……この子、前から変だと思ってたけど、
  何で、人じゃなくて犬に会いに来るんだろう?)

 「赤丸も一緒に出てるわよ。
  当然だけど」

 「ですよねぇ……」

 (困ったな……。
  どうしよう?)


 ヤオ子は困り顔で頭を掻く。
 通牙のコツを四足歩行の赤丸に教えて欲しかったのである。

 しかし、そこに眼帯をした大きな黒い犬が姿を現す。
 ヤオ子は犬に向かって挨拶をする。


 「黒丸さん。
  お世話になってます」


 挨拶するヤオ子にツメの疑問は膨らむ。


 (そして、何故か犬にも敬語……。
  犬 > 人?
  ・
  ・
  忍動物とコンビネーションを組む素質があるのかしらね?)


 そして、ツメが少し考え込んでいる間にヤオ子と黒い犬の会話が始まる。
 黒丸と呼ばれた黒い犬がヤオ子に話し掛ける。


 「何しに来た?」

 「しゃべれる犬って素敵です♪」

 (この前、普通に赤丸と話していたような……。
  あの子は、人語を話していないのに……)

 「何しに来た?」

 「あ、すいません。
  実は、通牙を教えて頂きたくて」


 黒丸が溜息を吐く。


 「仕方ない。
  オレが教えてやる」

 「いいんですか?
  秘伝忍術じゃないんですか?」

 「赤丸の子分だと聞いている。
  仲間のよしみだ」

 「あたしは赤丸さんの中ではそういう扱いなんだ……」


 項垂れるヤオ子を無視して、黒丸がツメを見る。


 「構わないわよ。
  教えてあげても」

 「ありがとうございます」

 「こっちだ」


 ヤオ子が黒丸の後に続くと、ツメは首を傾げる。


 「何故か、あの黒丸も心を許してんだよねぇ……」


 そして、溜息を漏らす。


 「素質はあるけど……ダメだわね。
  あれは、犬の下僕になるタイプだわ」


 犬塚家の人々(?)の間でヤオ子の評価は微妙だった。


 …


 黒丸が家の中に入ると、日当たりのいい窓際に横になる。
 黒丸はプルプルと顔を振ると、キバの姉の犬塚ハナへ向ける。
 それに気付いたハナが黒丸に近づく。


 「どうしたの黒丸?」

 「ブラッシングの用意をしてくれるか?」

 「ブラシを用意すればいいの?」


 黒丸が頷くと、ハナが壁に掛かったブラシを持って近づく。


 「ヤオ子に渡してくれ。
  後は、いいぞ」

 「…………」


 ヤオ子とハナの視線が合う。


 「「どういうこと?」」

 「ヤオ子。
  見返りだ」

 「…………」


 ヤオ子は意図を理解すると、無言でハナに手を差し出す。


 「やらせて頂きます……」


 ハナは苦笑いを浮かべたあと、一筋の汗を流してブラシを渡した。


 (黒丸相手に大丈夫かな?)


 気位の高い黒丸を相手にするヤオ子を心配して、ハナは少し様子を見ることにした。


 …


 横になる黒丸に、ヤオ子がゆっくりと毛に手櫛を掛ける。
 丁寧に少しずつ毛並みを揃え、全身にくまなく手櫛を当てていく。
 その時間はかなり長く、ブラシを手に取ったのは暫くしてからだった。
 奇妙な動作にハナが質問する。


 「何で、手櫛を掛けたの?」

 「毛の性質を見分けました。
  性質は、一人一人違います。
  また、手は人間の万能の道具で、指より優れているものはありません。
  これにより、毛の性質、枝毛、絡み、全てを見極めます」

 「……プロ?」

 「心無い飼い主は、直ぐにブラシを掛けます。
  いけません。
  毛は、犬の命です。
  大事に──女の子にセクハラしても気付かれない手の動きでチェックします」

 (……セクハラって)


 ヤオ子がブラシを掛け始める。
 毛並みに逆らわず、綺麗にブラシが入る。


 「う、上手い!」

 「ここの犬は、皆、毛並みが綺麗です。
  毛の性質で硬い柔らかいはありますが健康的です」

 (この子……何?)


 滑らかで流れるようなソフトタッチ。
 季節の変わり目で抜け変わる毛や痛んだ毛だけがブラシには絡まり、健康的な毛には一切のダメージを与えない。
 その一振りの後は、まるで絹の川が流れたように輝いていた。

 ブラッシングが終わり、ヤオ子がブラシの毛を綺麗に取り終えるとハナにブラシを返す。
 そして、そそくさと黒丸のところに戻ると、ちょこんと正座した。


 「黒丸さん。
  見返り」

 「通牙だったな。
  通牙の何が知りたいんだ?」

 「空中での回転です。
  高速で回る時のコツが知りたいんです」

 「あれは両手の遠心力を利用するのがコツだ。
  回転する際、力を加える時に手を外。
  空気抵抗で回転が落ちるのを防ぐため、勢いが付いたら内に畳む」

 「理論は分かります。
  ただ、もう少し回転力が欲しいんです」

 「なるほど。
  体を回転させることに、何か興味があるのだな?」

 「さすがです」

 「だが、ここまでだ」

 「へ?」

 「コツを教えるまでがブラッシングの見返りだ」

 「…………」


 ヤオ子がチョコチョコと頬を指で掻く。


 「次は、何を?」


 黒丸がハナを見る。


 「例の犬が食べない薬草があったな」

 「あの臭いで受け付けない子ね」

 「ヤオ子。
  それを食べさせるようにしろ」

 「…………」


 更なる見返りを突き付ける黒丸に、ヤオ子はガシガシと頭を掻く。
 今、習得している技術だけでは、新しい術の応用は出来ない。
 ヤオ子は背に腹は変えられないと立ち上がる。


 「お姉さん。
  その薬草を見せてください」

 「え?
  ・
  ・
  ああ……これ」


 ハナは腰の後ろの道具入れから、薬草を取り出した。
 ヤオ子はジッと薬草を凝視すると頭の中の知識を引き出し、いくつかの薬草の候補を思い浮かべる。
 そして、フンフンと臭いを嗅ぐ。


 「この薬草を嫌っている子の好きな臭いは?」

 「え?
  ・
  ・
  えっと……。
  魚だったはず……」

 「魚か……。
  この薬草を食べなきゃいけないということは、胃腸を壊しているんですよね?
  そんな子に魚なんて食べさせられないから、エサに混ぜることも出来ない……。
  そして、今は柔らかいご飯類が主食ですね?」

 「その通り!」

 「やっぱり、あの薬草か……。
  台所をお借りしていいですか?」

 「え? あ、うん。
  どうぞ……」


 ハナはヤオ子を台所に案内し、必要な薬草類も用意する。
 ヤオ子は案内された台所に立つと、件の薬草の根だけを集め始めた。


 「この薬草は根に強い効力を持ちますが、それだと胃腸には強過ぎます。
  しかし、臭いだけなら、根は強くありません」

 「はあ……」

 「そこで、昔のお医者様が書き記した方法を使用します。
  根を蒸すことで効力を水分と一緒に出して、効き目を弱くします」


 ヤオ子は集めた根を丁寧に洗い、蒸し器に根を入れて蒸し始める。
 そして、その間に別作業を行う。


 「いくら蒸しても、臭いは僅かに残るので犬の鼻には感知されます。
  きっと、受け付けてくれません。
  だから、この僅かな臭いを魚の臭いで消します。
  おかゆを作る工程で昆布出汁ではなく、鰹出汁を使います」


 蒸し器の隣りのコンロを二つ使い、ヤオ子がおかゆを作る準備を始める。
 鍋に半分ぐらい天然水を張り、味付けではなく、あくまでも臭いを付けるために別の鍋で取った鰹出汁を加える。
 この時、後で加える薬草の臭いを消すため、鰹出汁はやや多く。
 そして、蒸し上がった根を透けるぐらいの薄さでスライスし、スライスした根をご飯と一緒に鍋に投入すると火を点け、蓋をする。


 「あとは、火に掛けておかゆが出来上がるのを待ちます。
  スライスした根は、おかゆとほぼ同じ柔らかさになるので気になりません」


 ヤオ子は目を閉じ、おかゆの沸騰する音を聞き分けて火を止める。
 そして、少しの間、おかゆを蒸らす。


 「あくまで犬用ですので、おかゆの水分を少し飛ばします」


 ヤオ子は清潔な手ぬぐいの上におかゆを乗せて適度に絞ると、器に盛り付ける。


 「食べ頃の温度になったら、試食をお願いします」

 「私?」

 「あなたが食べて、どうするんですか……」

 「そうよね」


 ハナは笑って誤魔化すとそそくさと退散し、暫くして問題の犬を連れて戻った。
 そして、問題の犬の前に器が置かれる。


 「…………」


 問題の犬は臭いを慎重に嗅ぎ分けていたが、直に一口だけ食べた。
 そして、安心したのか、全て完食した。


 「あたしの勝利です」


 ヤオ子がチョキを出す。
 ハナは珍獣でも見るようにヤオ子を見ると、質問する。


 「何処で知った調理方法なの?
  こんな調理の方法、聞いたことも見たこともないわ」

 「でしょうね」

 「?」

 「この調理法が書かれた本は、二十年前に絶版になっています」

 「どうして?
  こんなに素晴らしい方法なのに……」


 ヤオ子の眉間に皺が出来る。


 「それはですね……。
  この本のタイトルが、
  『わたしの大好きなワンちゃん』
  だからです」

 「は?
  ・
  ・
  獣医療の本よね?」

 「間違いなく。
  しかし、当然、タイトルを見て買うのは犬好きの人です。
  でも、内容は自分の研究成果である犬の治療方法です。
  直ぐに売れ行きが悪くなって絶版しました。
  ・
  ・
  薬学から手術式まで細かく書いてある素晴らしい本なのに……。
  そして、本当に見て欲しい人の目には触れることなく消えた幻の本です」


 ハナが額を押さえる。


 「私も目を通したかったな……。
  でも、そのタイトルじゃ、本屋にあっても絶対に買わない……」

 「はい。
  あたしのように意味の分からないものに吸い寄せられる、変態の目にしか触れないでしょうね」

 「……変態なの?」

 「変態です」

 (言い切った……。
  今、巷で噂の都市伝説の変態少女……なわけないか?)


 その変態だったが、噂が噂を呼ぶと本人を前にして分からないことがある。
 そして、ヤオ子はハナを置いてスキップして黒丸のところに向かう。


 「黒丸さ~ん♪
  続き~♪」


 ハナはヤオ子が去った後で我に返ると、ヤオ子の調理方法をメモし出した。


 …


 ヤオ子に黒丸の講義が始まる。
 黒丸は続きを話し出した。


 「当然、通牙は犬のオレでも出来る」

 「はい」

 「そして、オレ達は全て足だ。
  つまり、回転に四本の足を全て使っている。
  お前も回転を得る際に足を利用しては、どうだ?」

 「足か……」

 「人間に分かるように説明しよう。
  例えば、ヤオ子が片足で立つ」

 「はい」

 「そこで手を使わずに回転する時、どうする?」

 「バランスを取っている足を回転方向に蹴り出します」

 「うむ。
  手で遠心力を得るのと同時に足でも行ったら?」

 「なるほど……。
  でも、同時に手と足を回転させるのは難しいですね」

 「二段式にすればいい。
  足で回転を与えた後で、上半身の回転を更に加える」

 「おお!」

 「慣れれば、手だけの遠心力だけでも対応できるだろう。
  要は普段使わない方法だから、回転力が上がらんのだ」

 「じゃあ、足で回転加えるのは意味ないの?」

 「そんなことはない。
  足の回転力は、奥の手にすればいい」

 「なるほど!
  助かりました」

 「オレもな……」


 ハナは、犬と人間の奇妙な関係に不思議な気分になる。
 完全に立場が逆だった。


 「話し疲れた……」


 黒丸が伏せると、ヤオ子は指を立てる。


 「お礼に、マッサージしましょうか?」

 「そんなことも出来るのか?」

 「試してみますか?」

 「うむ」

 「では、後ろ失礼します」


 ヤオ子の手が黒丸の首の後ろに当たり、少しずつ揉み解し始める。
 マッサージする手が上下に移動すると、黒丸が目を細めた。

 その黒丸を見てハナが微笑むと振り返る……と、暫し固まる。
 ヤオ子の後ろには犬の列が出来ていた。
 どうやら、マッサージの順番待ちらしい。


 (あの子……。
  今日、帰れないかもね……)


 ハナは苦笑いを浮かべて部屋を出ると、ツメに件の犬用の薬草調理方法を報告しに向かった。



[13840] 第72話 ヤオ子とカカシの対決ごっこ?
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:03
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 暁の角都を新術の風遁・螺旋手裏剣で倒したナルトの手が完治するまでのちょっとした期間。
 木ノ葉で一人の男が悩んでいた。
 彼の耳に妙な噂──否、態度が示されたのだ。

 ただ町中を歩いていた。
 それだけなのに……指差された。
 変態だと……。
 彼は、手の中の十八禁小説を見る。


 (これのせいか?)


 そんなはずはない。
 寧ろ、この本をいきなり見て、十八禁と瞬時で見破る奴が指差すはずがない。
 それは、お仲間の類のはずだ。
 噂話に続きがある。


 『あの子と関係があるらしい……』

 (あの子……)


 カカシの頭の中に浮かぶ容疑者は、それほど多くはなかった。



  第72話 ヤオ子とカカシの対決ごっこ?



 十中八九間違いないだろうと、カカシはいきなり核心と思われる人物に接触を試みることにした。
 件の人物は、最近、朝から夕方まで姿が見えず、居所が分からないという噂。
 仕方なく、接触は早朝の彼女の家の前。
 そして、透遁術を使っての尾行を彼女は数分で見抜いた。


 「何してんですか?」

 「…………」


 正直、信じられなかった。
 カカシは、上忍である。
 自惚れているわけでもなく、気付かれない自信があった。
 仕方なく姿を現す。


 「やっぱり。
  あたしを尾行できるのは、あたし以上の変態ぐらいですよ。
  あたしは、日々のストーキング行為により、
  尾行されることには最善の注意を払っていますから」

 (何て理由だ……)


 ちなみに、ここ最近でヤオ子の尾行に成功したのは、ヤオ子以上の変態の母親だけである。
 カカシはヤオ子に向かって歩きながら話し掛ける。


 「ちょっと、話があってね」

 「こんな朝から?」

 「朝と夕方しか君を発見できないという噂があってね」


 ヤオ子には思い当たる節がある。
 現在進行形で、修行は続いている。


 「で、話の内容は?」

 「ヤオ子……。
  オレに関して変な噂を流していないか?」

 「噂?」

 「そうだ。
  オレが『馬鹿だ』とか『変態だ』とか……」

 「あと、『だらしない』とか『遅刻魔』とか『ヤマト先生に詐欺した』とか
  『入院魔』とか『変態の部下を二名飼ってる』とかぐらいしか言ってませんけど?」

 「増えてる……」


 カカシは項垂れた。


 「何か問題でも?」

 「即刻、やめなさい」

 「いいですよ」

 (やけに素直だな……)

 「言いたいことは、言い尽くした感じですし」

 (手遅れだった……)

 「この前、紅さんといのさんにも言ったばっかりです」

 (それであんなに人を軽蔑した目で……)

 「一人に話せば、拡散しますからね。
  今頃、町中に広がってんじゃないですか?」

 (ああ。
  広がってたよ……)


 カカシが額に手を置く。


 「そういうことは、よくないぞ。
  あることないことを言い触らすなんて」

 「あることあることしか言ってないんですけど?」

 「…………」


 カカシは、暫し思考して出方を変えた。


 「ヤオ子。
  君の噂が広まってないのは、何故かな?
  それは他人が悪意ある噂を流さないからだ」

 「違いますよ」

 「違う?
  どうして?」

 「あたしは、自分をしっかりと変態として受け止めています。
  ただのスケベは、とっくに捨てました」


 カカシが項垂れた。


 「そして、それを恥じることなく言ってのけます!」

 (どうなんだ? それ?)

 「そうしたら、噂話が昇華されて都市伝説になり、
  いつの間にか、あたし以外の変態が里に降臨したことになったんです」

 (ついていけない……。
  この子、オレの遥か斜め上を歩き出しちゃってるよ……)

 「これにより、あたしが本物の変態と気づいているのは、
  あたしの変態行為を見抜いた被害者だけです」

 (なるほど……。
  オレは被害者だから気付いたのか……。
  まだ人として戻れるな)

 「カカシさん。
  もう、自分を偽るのをやめて、あたしと一緒にオープンにしたら、どうですか?」

 「オレ、そこまで人間捨ててないから……」


 ヤオ子は溜息を吐いて両手を組む。


 「未練がましいですね。
  忍び耐える者を忍者とは言いませんよ?」

 「その言葉を、こんなところで使わないで欲しい……」

 「忍者とは、この世全てのエロを使いこなす者を言います」

 「言わない!」

 「冗談ですよ」


 ヤオ子は笑っているが、カカシは頭が痛かった。
 そのカカシに、ヤオ子は指を立てる。


 「要するに噂を広げなきゃいいんでしょ?」

 「何とかなるのか?」

 「簡単です」

 「何でさ?」

 「負の噂が流れたなら、正の噂を流せばいいんです。
  カカシさんの普通エピソードを流せば、プラスマイナス0です」

 「それで何とかなるのか?」

 「出所は、同じあたしなんだから、広がる経緯も同じですよ」

 (信用できるんだろうか?)

 「広める噂は、第七班の初めての演習で、ナルトさん達をフルボッコにした噂でいいですか?」

 「やめてくれ!
  ドSの変態エピソードが追加されるから!」

 「ダメですか?
  じゃあ、どんなのがいいの?」

 「え?」

 「言ってくださいよ。
  自分を過大評価して負の噂を打ち消すような、嬉し恥ずかしの赤面エピソードを♪」


 カカシが上気して戸惑い始めた。


 「そ、それをオレが言うのか?」

 「自分のことでしょ?」


 カカシは暫く思案するが、やがて何かに耐え切れなくなり、近くの電柱に頭を打ち付け始めた。


 「そんなこと、自分から言えるかーっ!」

 (ふふ……。
  困ってる困ってる……。
  ナルシストでもない限り、自分を褒めるなんて早々できません。
  しかも、変態を打ち消すほどの嬉し恥ずかしの赤面エピソード……)

 「うあぁぁぁ!」


 ガンッ!
  ガンッ!!
    ビキッ!!
     バキキッ!!


 カカシが本気で頭を打ち付け出し、ヤオ子は慌てて止めに入る。


 「ちょっと!
  それ以上は、死に関わりますよ!」

 「オレなんか!
  オレなんか!
  オレなんか居なくなればいいんだーっ!」

 「カカシさん!
  嘘!
  嘘です!
  しっかりしてください!」


 ヤオ子に後ろから止められ、カカシが頭突きを止める。


 「ハッ!
  ・
  ・
  取り乱した……」

 (もしかして、結構、酷いことをしたのかも……)

 「大丈夫ですか?」

 「分からない……」

 (精神的ダメージを蓄積させてしまったようです……)


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「仕方ありませんねぇ……。
  あたしが考えます。
  ・
  ・
  コピー忍者・写輪眼のカカシというのは、どうでしょう?」

 「もう、そう呼ばれてたり……」

 「そうなんですか?
  じゃあ、意味ないですねぇ。
  ・
  ・
  少しヒントを貰えますか?」

 「ヒント?」

 「大体でいいんで、どういう路線の人になりたいのか?」

 「普通の評価に戻るなら、何だっていい……」

 「困りましたね……。
  変態路線を強化するなら、イチャイチャの共通項があるので、何とでもなるんですが……。
  ・
  ・
  もう、あたしと一緒に二大変態ヒーローを目指しませんか?
  あたしがレッドで、カカシさんがブルー」

 「絶対、お断りだ!」


 ヤオ子がカカシの正の噂創作に悩み、カカシが落ち込んでいると、早朝の修行をしに行くサクラが現れる。
 目の前には、朝っぱらから頭を抱えて悶え苦しんでいる二人の知人。

 サクラは疲れた顔で二人を見た。


 「何……やってんの?」

 「サクラさん。
  いいところに……♪」


 ヤオ子の目が捕食者の目になる。


 「実は……。
  ・
  ・
  かくかくしかじか……。
  ・
  ・
  で、悩んでいるんです」

 (……馬鹿な上に自業自得な気がする)


 悩みの内容のくだらなさに、サクラは適当に答える。


 「ヤオ子と二人で二大変態ヒーローにでもなればいいんじゃないですか?」

 「…………」


 サクラを指差して、ヤオ子がカカシに振り返る。


 「教え子さんも同じ考えなようですけど?」

 「サクラ……。
  それ却下の方向で……。
  出来れば、変な噂を打ち消したいんだ」

 「…………」


 サクラは溜息を吐くと、腕を組んで答える。


 「ないこともないですけど?」

 「「本当?」」

 「ええ。
  至極、簡単なことです」

 「「え?」」


 カカシとヤオ子が顔を見合わせる。


 「あたし達の思考時間は、何だったんですかね?」

 「言うな……。
  ・
  ・
  それで方法は?」

 「ヤオ子が噂を流したことにすればいいんですよ」

 「?」


 振り出しに戻った?
 ヤオ子は、サクラに訊ねる。


 「どういうことですか?」

 「あんた、自分がこの里で、どういう存在か知ってる?」

 「変態」

 「そう。
  しかも、実態があるんだかないんだか分からないね。
  ・
  ・
  いい?
  あんたのやることなすことがデタラメだから、里の噂は大混乱しているのよ。
  妙に変な能力で問題解決するから、いい噂が立って。
  妙に変態的なことをするから、悪い噂が立って。
  ・
  ・
  いい噂は、ちゃんと残ってるから真人間のイメージを持つ人も居る。
  だから、そういう人達が信じられなくて架空の人物を作り上げ、
  変態エピソードが一人歩きして都市伝説を作り上げる。
  しかも、デイリーで噂が増えていってるから収拾がつかない」

 「そんなことに……」

 「コハルさんが『第二の荒波』とか溢してたわ」

 (母親も都市伝説作ってたからな……)


 ヤオ子は軽く手を上げる。


 「あの~……。
  カカシさんより、あたしの噂を放っといていいんですか?」

 「いいんだって。
  ヤオ子の噂のお陰で里に侵入したスパイが大混乱しているから、
  重要な情報が外に出ても混乱するらしいわ」

 「まさかの予防対策……」

 「十数年前に対策済みらしいわよ」

 「頭痛くなって来ました……」


 ヤオ子が項垂れて黙ると、カカシがサクラに話し掛ける。


 「紅に言われてショック受けたけど……。
  オレの噂なんて数日で消えそうだな」

 「消えると思いますよ。
  カカシ先生の噂をしている人に
  『ヤオ子が発信源です』
  って言うだけで、噂の上書きが起きて消滅すると思います。
  ヤオ子とカカシ先生じゃ、変態としての器が違うんで」

 「サクラ。
  堂々と先生を変態扱いするのは、どうなんだ?」

 「何を今更……。
  初対面で乙女の前で十八禁小説を読んでたクセに」


 ヤオ子がサクラに話し掛ける。


 「しかし、サクラさんは、やけに協力的ですね?」

 「当たり前でしょ?
  自分の班の先生が変態だって噂がいいわけないじゃない。
  その下についてる私は、どうなるのよ?
  揃って変態の烙印を押されるだけじゃない」

 「…………」


 カカシとヤオ子が見詰め合う。


 「カカシさん……。
  何か寒い時代ですね……」

 「同感だ……」

 「そういうわけだから、とっとと噂を消してください」

 「そうさせて貰おう……」


 カカシは少し安心した。
 自分に対する噂は、今日にでも消えそうな感じだった。


 …


 カカシの悩みである噂話は一段落したが、今度は、ヤオ子がサクラの話した自分の噂話に複雑な顔をしていた。


 「しかし、あたしの噂は、本人が知る以上に、凄いことになっていますね」

 「この前なんか凄かったわよ。
  あんたがシノの蟲を食べ尽くしたなんて噂が流れたんだから」


 想像したカカシがゲンナリとする。
 が、ヤオ子は小首を傾げて指を立てる。


 「あのことかな?
  任務中に両手両足が塞がってる状態でシノさんの蟲が攻撃されそうになって……。
  助けようとして口ん中に入れて攻撃回避したんですよ」

 「…………」


 カカシとサクラが嫌なものを想像した。


 「あんた、本当に食べたんじゃない……」

 「酷いですねぇ。
  食してないですよ。
  回避した後で逃がしましたよ。
  ・
  ・
  まあ……。
  その時、口から這い出る蟲を見て、
  ヒナタさんが気絶してしまったんですけど……」

 「最悪……」

 「シ、シノさんは褒めてくれましたよ!
  『命の恩人』だって!」

 「でも……蟲でしょ?」

 「一寸の虫にも五分の魂です!」

 「偉いけど……。
  私には真似できないわ」

 「ヤオ子は手段を選ばんな……。
  そんなことばかりしているから、変な噂が増えるんだよ」


 ヤオ子はフンと鼻を鳴らす。


 「サクラさん。
  他にもあるんですか?」

 「三忍の自来也様を殺そうとしたとか」

 「それ本当」

 「…………」


 サクラがカカシを見る。


 「カカシ先生。
  全部、噂じゃないのかも……」

 「そんなことはないだろう?
  これはないだろうっていうのは、何かないか?」

 「今、あげたのも既にそうなんですけど……。
  じゃあ……。
  禁術の開発に成功したっていうのは?」

 「…………」


 ヤオ子とカカシが揃って目を逸らした。


 「何をやった!?」

 「それ……本当です」

 「しかも、オレも使える……」

 「ハァ!?」

 「実は……。
  綱手さんに開発したエロ忍術を禁止させられました」

 「馬鹿か!」

 「「はは……」」

 「段々、カカシ先生とヤオ子が兄妹に見えてきた……」


 ヤオ子は両手で静止を掛ける。


 「も、もう、やめましょう!
  これ以上聞くと取り返しがつかなくなるような気がします!」

 「もう、つかないわよ……」

 「兄妹は、やめてくれ……」


 自分の噂話のせいで居心地が悪くなると、ヤオ子は慌てて走り出す。


 「あ、あたし、修行しないといけないから!」

 「さっさと行きなさい」

 「はは……。
  それじゃあ!」


 ヤオ子は逃げるように、その場を後にした。
 残されたカカシがサクラに質問する。


 「他には、どんな噂があるの?」

 「新たな禁術を開発中らしいです」

 「本当かな?」

 「分かりませんよ。
  冗談みたいな噂が、ついさっき本当だって暴露されたんですから」

 「そうだよな……。
  ・
  ・
  でも、新しい忍術か……」


 カカシが頬を掻く。


 「修行……見てみようかな?」

 「カカシ先生も好奇心強いですね?」

 「そういう、サクラは?」

 「……見てみようかな?」


 似た者師弟……。


 「場所……分かりますか?」

 「臭いで追える」

 「さすが、カカシ先生」


 二人はヤオ子の臭いを追って、瞬身の術でその場を後にした。


 …


 近い距離の追跡はヤオ子にバレる可能性が高いため、カカシとサクラは少し時間が経ってから街の外へと動き出す。
 とは言っても、木ノ葉のテリトリー内。
 鼻が利くカカシが追跡に失敗することはない。

 カカシとサクラは、ヤオ子の秘密基地のある森へと踏み込んだ。


 「こんなところで修行しているのか?」

 「演習場を使えばいいのに……」

 「道理で姿が見えなくなるわけだ」


 森の木々を飛び移りながら、カカシが鼻を引くつかせる。


 「この森は、広範囲でヤオ子の臭いがするな」

 「広範囲?」

 「きっと、森全体を修行に使っているんだろう」

 「一体、何をしてんのかしら?」


 そして、何気なく木を飛び移った瞬間、何かの切れる音がする。
 カカシはサクラの頭を押さえ、大きな枝の上で移動を止めた。


 「何!?」

 「見ろ!」


 木の下には矢が落ちている。


 「トラップ!?」

 「どうやら、森を使って罠を仕掛ける練習をしているらしいな」


 サクラが木を下りるて矢を拾う。


 「でも、殺す気はないみたいですよ」


 サクラが木から下りたカカシに矢を渡す。
 矢の先には厚い布が巻かれていた。


 「本当だ……」

 「これなら、安心ですね。
  行きましょう」

 「ああ」


 サクラとカカシが近くの木を駆け上がり、移動しようとしたが、二人は停止した。


 「起爆札がある……」

 「前言撤回ですね……」


 カカシが警戒心を強め、周りを確認する。


 「サクラ。
  よく見ろ。
  四方を囲むように配置してある」

 「真ん中に入ったら、誘爆するんですね」

 「そうだ。
  ・
  ・
  それにあの枝を見ろ。
  不自然に一本だけ残っているだろう?」

 「そういえば……。
  周りには焦げた跡も……」


 カカシの指差す先の枝は、一本残して爆破されていた。


 「きっと、正しい枝を踏まないと爆発するんだ」

 「じゃあ、誰か引っ掛かったあと?」

 「動物かもしれないな」

 「ヤオ子め……。
  何て危ないことをするのよ」


 サクラが残った枝に飛び移ると、枝は頑丈であるはずの根元から折れた。


 「キャッ!」


 空中で姿勢を立て直し、サクラは地面に着地する。


 「あのヤロー……」


 が、更に落とし穴が発動する。
 サクラが地中に消えた。


 「った~……」


 尻餅を付いた地面に紙の破れる音がすると、サクラは目を移す。


 「竹やりの絵が書いてある……。
  本物だったら死んでたってか……」


 カカシが穴の中のサクラに声を掛ける。


 「大丈夫か?」

 「ええ……」

 「さっきのは、オレ達に枝が安全であると思わせる罠だったみたいだな」

 「ムカつくわね……」

 「そして、これ……」


 カカシが、先ほどの起爆札をサクラに渡す。


 「偽物?」

 「やっぱり、殺す気はないみたいだ。
  あくまで練習の範疇だ」

 「一体、誰を狙っての練習なんですか?」


 サクラが落とし穴から飛び出て、カカシの隣に立つ。


 「手当たり次第なんじゃないの?」

 「どういうことですか?」

 「周りをよく見て」


 サクラが注意深く周囲を見ると、ワイヤーやロープや偽起爆札が散乱している。


 「こんな怪しい森はないって」

 「そうなると、ヤオ子は別ルートで目的地に向かったの?」

 「いや、新しい臭いは真っ直ぐに続いている」

 「何なの、これ?」


 カカシは顎の下に手を当てる。


 「これも修行なんじゃないか?」

 「修行?」

 「ここを通って目的地に向かう。
  罠を仕掛ける修行と罠を回避する修行だな」

 「自分で仕掛けた罠に引っ掛かります?」

 「だから、目に見えるほどの量を仕掛けてんじゃないの?
  自分が何処に仕掛けたか忘れるぐらいに」

 「徹底してるわね……」

 「いい機会だ。
  オレ達も修行に付き合うか」

 「これを抜けて行くと……。
  分かりました」

 「じゃあ、行くぞ」


 カカシとサクラは、ヤオ子の罠の森へと足を進めた。


 …


 ヤオ子の罠の森……。
 予想外に難易度は高かった。
 細心の注意で罠を発動させないで進んだが、発動した罠も多かった。
 しかし、それら全てを回避したのは、さすが上忍・中忍である。


 「いい勉強になりました……」


 サクラが息を弾ませる。


 「よく研究している……。
  古いものから新しいものまで」

 「ええ。
  驚きました」

 「ここを抜ければ、ヤオ子まで、もう少しのはずだ。
  慎重に行くぞ」

 「慎重?」

 「あの子、尾行に敏感なんだ」

 「そんなに?」

 「ああ」


 今一、サクラは想像できない一方で、カカシが風向きを確認する。


 「西から回る」

 「そこまで警戒しないといけないんですか?」

 「そうだ」

 「いっそ、バラして見学すれば?」


 正直なところ、居所の分からないヤオ子の居所さえ分かればいい。
 新しい忍術を開発したという噂も、ヤオ子本人に確認を取れば済むことだった。
 ヤオ子ははぐれメタルのように、直ぐに逃げ出すわけでもないのだから。


 「……そうするか」


 カカシが頭に手を当てる。


 「正直、ここ抜けるだけで疲れちゃいましたよ」

 「そうだよな。
  こんな罠が続くところに足を踏み入れないもんな」

 「はい。
  普通、罠に気付いたら、ルートを変えるとかします。
  罠があるのを分かって進んで、神経削りませんよ」


 意見が一致する。
 カカシとサクラは、森を抜けて少し開けた場所に出た。


 …


 異様な光景が広がっていた。
 的の変わりに使用したと思われる木にクナイが刺さった跡がある。
 しかも、上から下まで均等に抜き取った跡が残っていて、外した形跡がない。

 そして、爆発により抉れた岩。
 奇妙なのは、こちらも均等な間隔で抉れていること。

 二人がヤオ子を探して辺りを見回すと、上からヤオ子が降って来た。
 音もなく両手両足で着地すると、ヤオ子が声を掛ける。


 「何しに来たんですか?」

 「その前に何処から現れた?」


 ヤオ子が上を指差す。


 「いやいや……。
  あんな上から落ちたら、骨が砕けるわよ」

 「大丈夫ですよ。
  猫は高いところから飛び降りても平気でしょ?
  彼等より頑丈なんだから、同じ要領で着地すれば少しぐらい高くても平気です」

 「ヤオ子は猫じゃないでしょ?」

 「知り合いの猫さんに教えて貰いました」

 (ついに人間以外ともコンタクトを……)


 カカシが会話に混ざる。


 「ひょっとして忍猫か?」

 「そうです」

 「この里に居たっけ?」

 「任務中に知り合いになりました。
  時々、うちをホテル代わりにします」

 ((猫の方が偉いんだ……))

 「それよりも、本当に何しに来たんですか?」

 「ちょっと興味があってね」

 「興味?
  ・
  ・
  あたしのボディラインに?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「っなわけないでしょ!」

 「じゃあ、秘蔵のエロ本ですか?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「っなわけないでしょ!
  あんたは、変態でしか構成されてないのか!
  あんたを訪ねる人間は、全員、あんたの変態性目当てか!? アァ!?」

 「そうは言いませんけど……。
  じゃあ、何ですか?」

 「修行を見に来たのよ」

 「そんなの見て、どうするんですか?
  あたしのやってることなんて、アカデミーでもやってる基礎ですよ?」

 「そうなの?」

 「はい。
  だって、サスケさんに教わったものばかりですもん」

 「…………」


 カカシは、木の跡と岩の跡を見る。
 あれは繰り返し修行して出来た成果らしい。


 「サクラ。
  後輩指導してあげたら?」

 「え?」

 「何か懐かしくてな。
  ヤオ子の歳は、お前らが卒業した時と同じぐらいだ」

 「そういえば……」

 「コツとか教えてくれるんですか?」


 サクラが腰に手を当てる。


 「偶にはいいか。
  ・
  ・
  いいわ。
  付き合ってあげる」

 「じゃあ、手裏剣術から教えてください」

 「いいわよ」


 ヤオ子が指差す。


 「あの木と……。
  あの木と……。
  あの木と……。
  あの木と……。
  あの岩の裏の的です」

 「五箇所ね」

 「はい。
  向きを変えずに当てます」

 「……ん?」

 「じゃあ、行きましょう」


 サクラが手で静止を掛ける。


 「ちょっと待った。
  何で、向きを変えないの?」

 「正面向いてたら、当たるのは当たり前だから」

 (当たり前?)


 ヤオ子がトコトコと目標物の中心に移動する。


 「ここが真ん中になります。
  正確に前後左右に木が生えているんです。
  あたしの修行場なので、あたしからやりますね」


 ヤオ子は腰の後ろの道具入れからクナイを取り出すと、正面の木の一番上の跡に目掛けて投げつける。
 更に右足のホルスターから素早く手裏剣を取ると左の木へ。
 今度は、左足のホルスターから素早く手裏剣を取ると右の木へ。
 真後ろには首の横に手を持って行き、手首のスナップを利かして手裏剣を投げる。
 右と左で一枚ずつ。
 そして、最後の岩の後ろを狙って上空にクナイを高く投げるとストンと音がする。
 投擲物は、全て投げつけて出来た跡にジャストミートしていた。


 「こんな感じです」

 「カカシ先生……。
  普通に凄くないですか?」

 「…………」


 カカシが無言で頷く。


 「何処で覚えたんだ?」

 「サスケさんに教わりました」

 (教わって出来るものか?)

 「でも、皆、出来るんでしょ?
  サスケさんは出来て当たり前って言ってましたけど?
  ・
  ・
  あたしは物覚えが悪いんで、最近になって、やっと全部当たるようになって来ました」

 (何か勘違いしているな……。
  サスケのフカシを真に受けたのか?
  ・
  ・
  だが、サスケは幼い頃からやっていたんだろうな。
  第七班で任務をしていた時から、高い命中率だったし)

 「次、サクラさんの番です。
  あたしのクナイの一個下の跡を狙ってください」

 (……無理。
  あんな正確に当たらない……。
  しかも、左右と後ろと岩の後ろは変則投げだし……。
  何より……)

 「あんた、両利きなの?」

 「いいえ。
  右利きですけど?」

 「前から気にはなってたのよ。
  ホルスターが両足に付いているから」

 「最初は敵から奪ったホルスターが余ってたから、左足にも付けていたんですけどね。
  左手で投げる時、『取り易いじゃん』ってなって」

 「それを両利きと言わない?」

 「いいませんよ。
  あたし本来は、右利き。
  忍者だから仕方なく左手も使えるようにしたんです」

 「仕方なく……」

 (そういう発想で使えるようになるものなの?)


 ヤオ子は指を立てる。


 「ちゃんと理由もあるんですよ。
  あたしやサクラさんは、女の子でしょ?
  いつか、力は男の子に負けちゃうんです。
  ・
  ・
  だから、力で負けないように別の方法が必要なんです。
  あたし達は秘伝忍術を伝授できない普通の家系ですからね」


 カカシは、自分の班の構成を思い返す。


 (そういえば……。
  うちの班は、サスケ以外はただの忍者だった。
  アスマ班のシカマル、いの、チョウジ……。
  紅班のキバ、シノ、ヒナタ……。
  同期は、皆、一族秘伝の術を持っていたな。
  そう言った意味では、うちの班は普通の忍者が二人も居たんだな。
  ・
  ・
  いや……。
  ナルトは九尾の力を持っていた。
  そうなるとサクラだけが普通か……。
  それでも他の忍に引けを取らないのは、サクラ自身が進んで綱手様に弟子入りして道を開いた結果だ。
  やっぱり、サクラも自慢のオレの部下なんだな)

 「……と思っていたんですが。
  サクラさんは、予想を無視した男勝りの怪力忍者になっちゃたんですよね」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「怪力言うな!」

 「痛い……。
  最近、殴る時にチャクラも流してません?」

 「流してるわよ!
  あんた、痛みに対して年々鈍感になっていってんだから!」

 「いや……。
  痛覚は変わりませんよ」

 (修行の話と逸れていくな……)


 ヤオ子がパタパタと手を仰ぐ。


 「まあ、サクラさん。
  修行を再開しますんで、一つお手本を」

 「無理よ」

 「何が?」

 「私は右利きだもの。
  あんな変則的な投げ方は出来ないわ」

 「そうなんですか?
  カカシさんは?」

 「多分、出来るな。
  オレは写輪眼で左利きの人間の動きをコピーしているからな」


 ヤオ子がカカシの答えに不満顔になる。


 「前々から思ってたんですけど……卑怯ですよね」

 「卑怯?」

 「あたし、写輪眼に対してはいい思い出がないんで、
  そういうインチキ的な話を聞くと腹が立って」

 「少し分かるわね」

 「コピーして簡単に利用されると
  『あたしの今までの努力が~っ!』って思います。
  まあ、コピーされたことはありませんけど」

 「でも、カカシ先生って写輪眼を使い過ぎると動けなくなっちゃうわよ」

 「リスクもあったんですか……」

 (それで入院が多いんですかね?)


 カカシが修行に使っていた木を指差す。


 「おしゃべりは、ここまでにして。
  続き……やった方がいいんじゃないの?」

 「そうですね。
  じゃあ、続きしますね」


 修行を再開すると、ヤオ子が瞬身の術を使って、各的に刺さったクナイと手裏剣を回収する。
 そして、カカシとサクラの前で、投げては取っての繰り返しを延々と続けていた。


 「何で、ヤオ子は一回一回取りに行くのかしら?」

 「状況を想定しているのかな?」

 「疲れた時の?」

 「多分……」


 サクラは修行に励むヤオ子に目を向ける。


 「何か……こういった修行は、少し疎遠になってるな」

 「ん?」

 「綱手師匠に医療忍術を叩き込んで貰っているから、
  こういった修行が少し疎かになっているかな……って」

 「まあ、それ以外にも中忍になって、こなさなければいけない任務も増えたしな。
  隊のリーダーをすることもあるんだろう?」

 「はい」

 「アカデミーでしっかり身につけることだけど、
  偶には基礎をやるのもいいんじゃないか?」

 「そうですね」


 二人は、ヤオ子に目を移す。


 「それにしても別人の顔つきだな。
  普段の緩んだ顔が嘘みたいだ」

 「本当に……」

 「…………」


 カカシとサクラは、ヤオ子の修行風景を見続けている。
 すると、何か妙な疑問が浮かぶ。


 「カカシ先生……。
  木登りのチャクラ吸着の修行って、あんな全速力でやりましたっけ?」

 「いや……」


 ヤオ子の修行を見続けて、かなり時間が経つが、ヤオ子は休憩を入れていない。
 暫くして、修行中のヤオ子の動きに少しふらつきが出る。
 全速力で行なっているため、疲労が蓄積して来た証拠だ。


 「何かガイの臭いがするな……」

 「ガイ先生?」

 「ああ。
  きっと、ヤオ子が体力強化の質問でもしたんだろう。
  ・
  ・

  『ガイ先生。
   体力強化のコツを教えてください』

  『いい心がけだ。
   だったら、一回一回全力でやるんだ』

  『何で、ですか?』

  『これは二段構えの修行方法だ。
   誰にも言うなよ。
   ・
   ・
   まず、全力で行なうことで何事にも真面目に取り組め、
   体力のみならず、スピードも養うことが出来る』

  『なるほど』

  『更に疲れた時を想定した訓練になる。
   実戦で疲れた時の戦いをしたことがあるのとないのとでは、天と地ほどの差があるからな』

  『さすが、ガイ先生です!』

  ・
  ・
  みたいな……」

 「今、容易にその光景が浮かびました」


 案の定、ヤオ子は『青春! フルパワー!』と気合いを入れて修行を再開していた。


 「はは……」

 「当たりみたいですね」


 二人に見守られながら、ヤオ子の全力木登り修行は続いた。


 …


 木登り修行のノルマを達成すると、ヤオ子は息を切らして二人の前に座り込んだ。


 「随分とハードね」

 「身体エネルギーを……向上させないと……いけませんから」


 ヤオ子は、まだ息が整わない。


 「あと……。
  チャクラの……持続時間……。
  疲れてても練れるように……」

 「無理して答えなくていいわよ」

 「はい……」


 ヤオ子は小さく細かく息を吐き出し、乱れていた呼吸を整え始める。
 そして、息が整い出したところで、ヤオ子は立ち上がり深呼吸する。


 「よし。
  じゃあ、術の訓練をします!」


 隠れ蓑の術、金縛りの術、変わり身の術、縄抜けの術、分身の術、変化の術、etc...。
 アカデミーで習う術を確認しながら、丁寧に実行する。


 「カカシ先生。
  あの指の動きもコピーできます?」

 「あれは無理だな。
  間接が時々、明後日の方向に向いてる」

 「指が柔らかいから、印を結ぶ時に手を放さなくていいのか……。
  それで印を結ぶのが早いのね」


 ヤオ子の動きが止まると、ヤオ子は二人に顔を向けた。


 「ここから、お見せ出来ません。
  あたしの秘密の忍術です」

 「エロ忍術じゃないでしょうね?」

 「違いますよ。
  エロ忍術は使用頻度が高いから修行するまでもありません」

 「嫌な理由ね……」


 サクラに代わり、カカシが質問する。


 「新術なのか?」

 「いいえ。
  あたしの術は危険なんで、遊び半分でカカシさんがコピーすると大怪我するんです」

 「オレは悪戯っ子か……」

 「簡単に言えば必殺技なんです」

 「あんたが、よく叫んでるヤツね」


 ヤオ子が腰に手をあて、反対の掌を返す。


 「あれ、術と一緒にチャクラの盾も形成しなくちゃいけない不完全な術なんです。
  テンテンさん曰く、無駄なチャクラを使う忍術です」

 「分かってても使うんだ……」

 「術の不完全さは置いといて……。
  知らずにカカシさんがコピーしちゃうと、盾を形成し忘れて自爆しちゃうということです」

 「なるほどね」


 カカシが少し違う質問をする。


 「その不便と分かっていて、使い続ける根拠が知りたいな」

 「カッコイイから。
  慣れているから。
  何より、便利だから」

 「不便って言ってたじゃない……」

 「馬鹿と鋏は使いようです。
  一見、馬鹿な術ですがね……利点もあるんです」

 「例えば?」

 「まず、相手のチャクラ性質に火があることを見極める。
  次に術の威力を見せつける。
  ワザと印を教える。
  ・
  ・
  相手にこの術を利用させる状況を作る。
  そうすれば、相手は自爆です」

 「確かに自爆させる忍術なんて聞いたことがないな」

 「はい。
  あと、もう一つあります。
  属性は、火なんですがね。
  爆発って現象だけで考えれば弱点になる性質ってないんです」

 「確かに水の性質で術をぶつけても……」

 「はい。
  相手の術の威力や規模が大き過ぎない限り、
  相手にダメージを与えられると思います」


 ここでサクラが意見を入れる。


 「前から思ってたけど、術の形態はカカシ先生の千鳥みたいよね?」


 ヤオ子は首を振る。


 「大きく違います。
  カカシさんの術は、一定時間の効果があります。
  しかし、あたしの術は瞬間的です。
  だから、チャクラ量の少なかった頃のあたしでも開発できました」

 「ダメージの与え方も違うな。
  千鳥は腕自身を変える。
  だから、高速移動で腕を突き入れる威力を得て、術の威力を高める。
  しかし、ヤオ子の術は、その術の威力のみだ」

 「その通りです。
  この術は、豪火球の術を手の先で失敗させるイメージなんです。
  あたし、豪火球の術から入ったんで」

 「ふざけて話さないと
  それなりの術だったのね」

 「あたしは、いつでも大マジなんですけどね」

 「兎に角、オレがコピーするなら、チャクラの盾も覚えろってことだな?」

 「はい」

 「じゃあ、もう見ても大丈夫だな?」

 「ええ。
  でも、出来れば見せたくないですね」

 「何で?」

 「だって……。
  いざって時に見せるから、カッコイイじゃないですか。
  じっくり見られたら、飽きられそうで」


 悶えるヤオ子に、カカシは項垂れて話し掛ける。


 「君さ……。
  敵ならいざ知らず、仲間内で出し惜しみして、どうやって連携を取る気なんだ?」

 「最後においしとこだけ持っていく」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「それの何処が連携だ!」

 「いいじゃないですか……。
  主役は、最後においしところを攫って行くんです。
  最後にヘリから狙撃して去って行く何処かの警察みたいに」

 「何処の警察よ……」

 「西部ですかね?」

 「木ノ葉から西って何処の国だっけ?」

 「カカシ先生。
  ヤオ子の言葉なんて、まじめに聞かない方がいいですよ」

 「酷い……」

 「でもさ。
  オレが聞かないと……。
  最近、このポジションの供給が少ないと思わんか?」

 「仕方ないですよ。
  二年間の月日で大人になった設定になっているんですから、
  いつまでも、ハッチャけていられないですよ」

 「そういう設定を話すのは、どうなんだ?」

 「何の話をしてるの?」

 「…………」


 全員、頭を掻く。


 「やめるか……」

 「やめましょう」

 「ですね」


 修行は、完全に脱線していた。


 …


 ヤオ子は、改めて質問をする。


 「あのさ。
  お二人は、あたしの修行を邪魔しに来たの?」

 「私達だけのせいじゃないでしょ?」

 「…………」


 ヤオ子は笑って誤魔化す。


 「もう、どうでもいいや。
  模擬戦しませんか?」

 「また、唐突に……」

 「折角、相手居るんだし。
  どうせなら、一人で出来ないことをしたいです」

 「ルールは?」

 「対決ごっこでいいんじゃないの?」

 「「た、対決ごっこ……」」


 サクラが手をあげる。


 「私、パス」

 (逃げた!?)

 「仕方ないですね。
  カカシさん。
  お子様は置いといて対決ごっこしましょう」

 (お子様は、オレ達じゃないのか?)

 「手加減しないと殺してしまいますね~」


 ヤオ子の言葉に、サクラがニヤリと笑う。


 「カカシ先生!
  いつものセリフ!」


 カカシが苦笑いを浮かべる。


 「殺す気で来い」

 「え?」

 「そうしないとオレは倒せないからな。
  いや、それでも倒せないな」

 「…………」

 (カッコイイこと言って、
  本当に死んだら、どうなるんだろう?
  ・
  ・
  重りは、付けとこ。
  ヤマト先生より、弱かったら殺しちゃうから)


 ヤオ子の中では、ヤマト>カカシ。
 前回は、ヤマトが手加減してくれたことも認識している。


 「じゃあ、やりますか」

 「ああ」


 模擬戦を始めようと距離を取り合った二人を見て、サクラはある事に気付く。


 (イチャイチャ読まないんだ……)


 模擬戦の開始……。
 ヤオ子が両手両足を地面につけ、チャクラを練り上げていく。


 「サクラさん。
  合図をお願いします」

 「いいわよ」


 サクラが手をあげる。


 「始め!」


 合図と同時にヤオ子が仕掛ける。
 チャクラを爆発させて、両手両足で地面を一気に蹴り上げた。


 「キバの擬獣忍法!?」

 「赤丸さんです!」


 空中で印を結んだ後で体に捻りを入れる。


 「通牙か!」


 カカシが回避すると、ヤオ子は、それを目視して方向を変えるために右手に装填した術を発動する。
 爆発が起きると通牙が止まり、ヤオ子が直角にカカシに向かう。


 「ファーストヒット!」


 カカシの顔面への左ストレートが入る。


 「っ!
  浅い!」


 ヤオ子の左ストレートは、伸び切った手が軽くカカシの頬に触れただけだった。
 カカシは一歩踏み込み、ヤオ子の腰を掴むと放り投げて自分との距離を取る。


 (驚いたな……)


 カカシが、かすられた頬を撫でる。
 ダメージはないが当てられた。

 一方のヤオ子は、少しの時間でも無駄にしない。
 着地して直ぐチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
 仕掛けて来ないカカシを警戒しながら更に印を結び続け、両手両足に必殺技を装填していく。
 そして、全ての装填が終わると、再び擬獣忍法を仕掛ける。


 「黒丸さんのアドバイス通りに!
  ・
  ・
  四点装填……」


 カカシに接近するまでは、ただの直進。
 カカシが回避しようとしたところで、術を発動する。


 「酔舞・デッドリーウェイブ(再現江湖)!」


 回転は、時計回り。
 左手の裏拳による爆発。
 続く右ストレートの爆発。
 更に回転力を強めるための右足の振り抜きで爆発。
 最後に踵からの左足の爆発。
 全てを通り過ぎる一瞬に叩き込んだ。


 「爆発!」


 ヤオ子が着地して振り向き確認すると、爆散した木が粉々に砕け散った。


 「変わり身?
  ・
  ・
  あたしの流派・東方不敗が躱された!?」


 とはいえ、ここで足を止めているわけにはいかない。
 ただ足を止めれば、狙い撃ちにされる。
 ヤオ子は瞬身の術で移動して背中に岩を背負う。


 「これで後ろからの攻撃はないはず……」


 ヤオ子は、上と前、左右を警戒してカカシの出方を待った。


 …


 ヤオ子の攻撃方法に、サクラが呆れる。
 中忍試験で見たキバの擬獣忍法が、悪質極まりない動きに変わっていた。
 カカシが本を読まなかった理由も分かる。
 また、ヤオ子の術の特性も少し理解し始めた。


 「あの必殺技とか言うの……。
  一定時間、発動を制御できるようね。
  そして、チャクラの盾が張れる場所なら、体の何処でも発動できる。
  ・
  ・
  今、術のストックを貯めないのは、きっと予想通りなんでしょうね。
  時間が経ち過ぎると爆発するか消滅するに違いないわ」


 サクラの予想は正しい。
 基本は豪火球の術の応用なので、必ず吐き出す必要がある。
 そのため、一定時間以内に術を発動する必要があるのだ。


 …


 ヤオ子が警戒し続けて約二分……。
 ようやく姿を見せたカカシだったが、堂々と真正面から走り込んで来る。
 忍術を使わずに向かって来られることが、逆に不気味さを感じる。

 ヤオ子は前方の地面に左右に二本ずつクナイを投げつけ、後方の岩に飛び乗った。
 そして、両手からチャクラ糸を伸ばし、クナイの後部にある丸い穴に通す。
 気付かれないようにチャクラ糸に流す量は最小限に留め、手の中のチャクラ糸を編み込む。
 チャクラ糸は徐々に形を成し、カカシを誘い込むネットの準備が完了する。

 ヤオ子は体術の構えを取って、獲物が掛かるのを慎重に待つ。
 そして、チャクラ糸のネットにカカシが触れた瞬間、チャクラ糸にチャクラを流し吸着の形態変換を付加する。


 「捕らえた!」


 両手を握り込み、強く糸を引き戻す。
 が、次の瞬間、カカシが煙になって消えた。


 (今度は、影分身!?)


 両手でチャクラ糸を引っ張たまま印を結ぶことの出来ないヤオ子に向かって、左舷から火球が飛んで来る。


 (ラブ・ブレス!)


 そのカカシの豪火球に対し、ヤオ子の豪火球がぶつかり相殺する。
 今度は、ヤオ子が飛んで来た方向にカカシを捕らえようと移動を開始する。
 そして、カカシに追いつくと、ヤオ子は声を掛ける。


 「今度は、本物ですかね?」

 「おかしいな……。
  印を結んだ形跡はなかったんだが?」

 「さっきネットを編み込む時に印を結びました。
  あたしは印を結びながら、あやとりが出来ます」

 「やっかいだな……」


 ぴったりと着いてくるヤオ子を見て、カカシはヤオ子を分析し始める。


 (この子の戦術は、接近戦がメインだな。
  体術の技術が極めて高い。
  そして、それに合わせた自分の術を使いこなし始めている。
  この前、ヤマトと話していたアドバイスを忠実に守って応用を増やしたんだろう。
  しかし……。
  ・
  ・
  ナルト達も、最初はここまで凶悪じゃなかった……。
  サスケが教えてたんだよな?
  アイツ、まさかオレを暗殺させるために、この子に忍術を教えたんじゃないだろうな……。
  テンゾウがこういう教え方をするとは思えない……)


 一方、カカシに合わせて併走するヤオ子だが、カカシの様子を伺うも、考え事をしているカカシの表情から次の行動の予想が立てられない。


 (何を考えてんですかね?
  ・
  ・
  まあ、いいか……。
  あたしの方が格下なんだし。
  分かんないなら、行くしかありませんよね)


 ワイヤーと手裏剣を取り出し、ヤオ子は手早く手裏剣にワイヤーを結び付ける。
 そして、上空に向かって手裏剣を投げた。


 「それは、前に見たことがあるな」


 そう、手裏剣を頭の死角から狙うのが、この戦術。
 一度見せたヤオ子の戦術をカカシは忘れずに覚えていた。
 カカシが狙いを付けさせないように左右に動きながら距離を取り出した。


 「この人、対応力あり過ぎ!」


 ヤオ子がワイヤーを放すと、手裏剣はワイヤーと一緒に空へ消えた。
 そして、カカシが止まるとヤオ子は体術の構えを取る。


 (今度は、体術総武で来るか)


 カカシがヤオ子に手裏剣を投げ付けると、ヤオ子は左手を上に構え振り下ろしながら回転させてチャクラを放出する。
 簡易的な回天が手裏剣を弾いた。
 これにより、体術の型は崩れずに手が下がっただけになる。
 構えを崩さなかった分だけ、無駄なく体術を仕掛けることが出来る。

 この差は時間で言えば僅かなものだが、カカシは手裏剣を投げ終えた体勢で、貴重な先手有利の条件をヤオ子は手に入れたことになる。
 しかし、一瞬遅いはずのカカシがヤオ子の体術を綺麗に捌いて躱す。


 「体術も出来るの!?」

 「出来ないとは言ってないけど?」

 「っ!
  折角、身長伸びてリーチも長くなったのに!
  ガイ先生直伝の体術がーっ!」


 ヤオ子は叫びながら、ガイ仕込の体術をカカシに仕掛け続けた。


 …


 ヤオ子の体術は、サクラでも分かるぐらいにガイやリーの動きに酷似していた。
 それは切磋琢磨して身に付けた努力の賜物だが、サクラは思った。


 (カカシ先生とガイ先生って永遠のライバルとか言ってたから、
  ガイ先生以上の体術使いじゃないとカカシ先生に攻撃をまともに当てられないんじゃないの?
  だって、勝負事の時にカカシ先生はガイ先生の動きを頭に叩き込んでいるはずだもの……。
  ・
  ・
  写輪眼でコピーしている可能性もあるし……)


 案の定、忠実にガイの教えを守っていたヤオ子の動きは、カカシに見透かされていた。


 …


 全ての攻撃を受け流されヤオ子は歯噛みする。


 「受け流されるなら!」


 印を結び、必殺技を装填する。


 「芸がないな」


 カカシがヤオ子の回し蹴りを二回回避すると、当然、爆発も二回起きる。
 しかし、蹴りの最中もヤオ子の指は動き続けて印を結んでいる。
 更に変則な動き。
 両手で印を結び、足だけの体術攻撃。
 もう、ガイの体術の面影はない。
 怪鳥蹴り……爆発。
 回し蹴り……爆発。
 ヤクザキック……爆発。
 上段蹴り……爆発。
 中断蹴り……爆発。
 水面蹴り……爆発。
 全て躱され、ヤオ子は息を切らす。
 カカシも見たこともない足技だけの体術を躱し切った後で、大きく息を吐いた。


 「当たらない……」

 「当たり前だ……。
  当たったら、死ぬ」

 「ううう……。
  ガード不可にしたつもりだったのに……」


 カカシは腰に右手を置き、悔しがるヤオ子を見る。


 (しかし、独創性の強い攻撃をする奴だな……。
  ・
  ・
  というか、スタミナがおかしくないか?
  一体、何時になったらチャクラ切れを起こすんだ?
  あの術って豪火球を基にしてるって言ってたよな?)


 千鳥ほどチャクラを使わないと言っても、豪火球の術は、一般的に中忍が使う忍術という位置づけにある。
 アカデミーで習う、分身の術なんかよりも多くのチャクラを必要とする。
 その術を連発したはずのヤオ子は、悔しがって地団太を踏んでいる。


 (……まだ元気そうだな)


 カカシは少し戦法を変え、印を結ぶ。


 「水遁・霧隠れの術!」


 辺りに濃霧が漂い、今まで捉えていたカカシがヤオ子の視界から消えた、


 「目くらまし?
  でも、相手も見えないし……」


 ヤオ子が音を立てずに移動しようとすると、足元に手裏剣が刺さる。


 「感知された!?」

 「オレは鼻も利くんだ……」

 「余裕のネタ晴らし……。
  ・
  ・
  さっきの修行で汗を掻いたから、バレたんですね?」

 (そういうわけじゃないんだがな……)

 「ううう……」


 ヤオ子は、何かを溜め込むと叫んだ。


 「カカシさんに嗅がれるーっ!
  運動後の乙女の汗の匂いを嗅がれるーっ!」


 ヤオ子の叫び声にカカシとサクラが吹いた。
 すると、ヤオ子が音のした方に手裏剣を投擲し、カカシは頭を勢いよく下げて躱しながら思う。


 (今のは油断した……。
  位置を知るための作戦か?)


 ヤオ子は、更に叫ぶ。


 「変態に!
  変質者に!
  あたしの汗の臭いが嗅がれるーっ!
  きっと、あたし以外にも、サクラさんやいのさんやヒナタさんの臭いを嗅いでいるんだーっ!」

 「…………」

 「男なんて、皆、獣です!
  キバさんも、きっと嗅いでいるに違いありません!」

 「…………」


 濃霧の中でカカシとサクラは、頭が痛かった。


 「ううう……。
  ・
  ・
  あたしもサクラさん達の乙女の汗の匂いを嗅ぎてーっ!」


 スコーン!とヤオ子の頭にサクラの投げた棒がクリティカルヒットした。


 「それが本音か!
  この変態が!」


 ヤオ子は頭を押さえて飛んで来た方向に話し掛ける。


 「サクラさん。
  第三者の介入は控えてください。
  イノベーターがやって来ますよ?」

 「真面目にやれ!」


 濃霧から溜息が漏れる。
 その音で、ヤオ子はカカシの大体の位置を掴んだ。
 だが、ヤオ子の位置はサクラにも分かるほどハッキリしている。

 ヤオ子は、お構いなしに印を結ぶ。


 (ラブ・ブレス!)


 ヤオ子の豪火球がカカシの居た場所へ向かう。
 しかし、カカシは、既にそこに居ない。


 「当たらない……。
  それに霧が晴れない……。
  外れても火遁の上昇気流、水分の蒸発を狙ったんですが……。
  ・
  ・
  逃げても居場所がバレるし……。
  ダミーを増やそう」


 ヤオ子は印を結んで影分身を二体出し、三人のヤオ子が背中合わせに全方位を警戒する。


 「水場のないところでの水遁です。
  術の効果も直ぐに切れるでしょう。
  ・
  ・
  あとは、いつ仕掛けて来るか……」


 五感のうち、一番頼りになる耳に集中する。
 が、風切り音がすると一体の影分身がやられた。


 「ダメですね……。
  音聞いてから反応するのに慣れてない。
  必ず目が追って見えないものを探してしまいます。
  ・
  ・
  じゃあ、霧が届いてないところまで全力で逃げましょう。
  手裏剣から飛んで来た位置は分かりましたから」


 ヤオ子はチャクラを足に集中すると影分身と一緒に飛んで来た手裏剣と反対側に走る。
 動いていれば鼻が利くカカシでも、手裏剣の命中率は落ちると判断したからだ。
 左右にランダムに走り、時折、緩急を付けて狙いを付けさせないように意識しながら、ヤオ子と影分身は霧を抜けると背中を合わせて周囲を確認する。


 「森に入ってヤマト先生とやった鬼ごっこの要領で姿を隠しますかね?
  いや……。
  これは対決ごっこだから、遠くに逃げ過ぎると主旨に反しますね」


 霧が晴れてくる。
 カカシの霧隠れの術も効果を失ったようだ。


 「チャクラを使い過ぎました。
  でも、木登りと瞬身の術の修行を終えた後でも、これだけ使えるなら問題なさそうです。
  日々の鍛錬で体力の回復力も上がっています。
  まだまだ戦えます。
  ・
  ・
  大技は、そろそろ控えよう……」


 ヤオ子は、ようやくカカシの姿を確認する。


 「余裕ですね……。
  霧の中で仕掛けた回数が一回だけなんて」

 (ヤマト先生と同様に本気じゃない。
  あたしは、まだ本気を出させるほどでもないということです)

 「なら……。
  フルボッコにされても勉強させて貰いましょう!」


 ヤオ子が真正面から突っ込んだ。
 再び純粋な体術のみ。
 ヤオ子はカカシと体術を組みながら、『何故、躱されるのか?』『何故、捌かれるのか?』を考え始めた。


 …


 サクラは、ヤオ子の攻撃が体術だけになったのに気付く。


 「チャクラが切れたのかしら?
  いい体捌きね……。
  ・
  ・
  また動きが変わって来た……。
  カカシ先生の戦い方を真似し始めたんだ。
  どっちもコピー忍者みたい」


 …


 サクラの言った通り、カカシもヤオ子の動きが変わり始めたのを感じる。


 (この子、好奇心の塊だな……。
  気に入ったものや応用できるものは、手当たり次第に取り込んでいく。
  学習能力も悪くない。
  ・
  ・
  だけど、そろそろ自分の好奇心に負けて……)


 ヤオ子がカカシの拳を受ける時に手にチャクラ吸着を発生させる。


 「これで放しません」

 (やっぱり……。
  自分のスタイルを掛け合わして来た)

 「お互い片手が使えません。
  どうしますか?
  ・
  ・
  あたしは、こうします」


 ヤオ子がチャクラ吸着している腕と肩の関節を外す。


 「これで動ける範囲は、あたしの方が有利です」

 「なんてことを考えるんだ……」


 間接でロックされない分だけ、稼動範囲の広いヤオ子が少し有利に戦いを進める。
 先ほど学習したカカシの体術を見極めて、何回かに一回攻撃がカカシの体に触れる。

 それに対し、カカシが距離を取ろうとすると、ヤオ子は間接を入れ直してチャクラ吸着を強める。


 「逃がしません!」

 「こんな戦い方ってあるのか?」

 「忍術を使われるよりもいいです!」

 「危ないな……」


 ヤオ子とカカシが反対の手も合わせてガッチリと組み合う。


 「動けませんね……」

 「そうだな……」


 ギリギリと力が均衡する。


 「おかしいよな?
  女のお前が、オレと張り合っているなんて?」

 「長く続くわけないでしょ!
  無理して力比べしているんです!
  直にあたしが疲れて押し負かされます!」


 ヤオ子は歯を喰いしばり始める。


 「やっぱり、このままじゃ……!
  印も結べない。
  体術も使えない。
  ・
  ・
  だったら、言葉で揺さぶるしかありませんね」

 「言葉……?
  ・
  ・
  まさか試験の時の!?」


 カカシの頭にあの時の悪夢が蘇り、ヤオ子はニヤリと唇の端を吊り上げる。


 「イチャイチャは話しません。
  あそこに鬼が居るので……」

 「賛成だ……」


 カカシとヤオ子がサクラをチラリと見て鬼が見ているのを確認すると、視線を戻してヤオ子が揺さぶりに掛かる。


 「カカシさんの覆面……。
  色々と仮説があります」

 「ほう……」

 「その中にガイ先生好みのが一つあります」

 「ガイ好み?」

 「ええ……。
  酸素を取り入れ難くして心肺機能を鍛えるってヤツです」

 「それが、何なんだ?」

 「ガイ先生に言えば真似します」

 「何っ!?」


 ヤオ子はカカシが驚いた隙に少し押し込む。


 「カカシさんとガイ先生のペアルック……。
  非常に興味がありますね……」

 「冗談じゃない!」


 カカシがヤオ子を押し戻す。


 「さっきの片手を封じた戦い方……。
  どうでしたか?」

 「やっかいだったよ……。
  まだネタがあるのか?」

 「第二弾です。
  ・
  ・
  実はですね。
  あれ……あたしのための戦い方じゃないんです」

 「?」

 「カカシさんとガイ先生の熱い戦いの話を聞いて思い付いた、ガイ先生のための戦い方なんです」

 「何ッ!?
  しかも、またガイのネタ!?」

 「接近戦で、さっきみたいにチャクラ吸着でカカシさんの忍術を封じるのが狙いです。
  体術や力なら、ガイ先生の方が有利と見ましてね」

 「恐ろしい奴だな……。
  戦術的にも性格的にも……。
  ・
  ・
  ガイをネタに使うのが、更に凶悪だ……」

 「そして、成果が実証されたわけです。
  ・
  ・
  これらをガイ先生にチクリます」

 「な!?
  やめろ!
  また、あの暑苦しい戦いに巻き込まれるんだぞ!」

 「くっくっくっ……。
  確か次は、ガイ先生がルールを決める番でしたね?」

 「卑怯だぞ!」

 「あたしは、ここで負けるでしょう。
  しかし、あたしの復讐は、ガイ先生が必ず遂げます!」



 …


 サクラは思った。


 (何かヤオ子のセリフが、最後にやられる大魔王みたいなセリフだな……)


 …


 言葉の揺さぶりにより延長した力比べも、そろそろ限界に近づいていた。
 ヤオ子がカッ!と目を見開く。


 「あたしの最後の賭けを見るがいい!」


 両手を放して距離を取ると、ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
 両手には術が装填される。


 「二点装填!
  ・
  ・
  流派! 東方不敗がぁぁぁ!
  最終奥義ぃぃぃ!」


 前傾姿勢で盾の分のチャクラを練り上げる。
 そして、両手を突き出す。


 「石波天驚拳!!」


 中距離に位置するカカシに向けて大爆発が起き、ヤオ子は爆発の威力に耐えるために残りのチャクラを必死に足のチャクラ吸着に回す。
 一方のカカシも印を結んで術を発動していた。


 「水遁・水陣壁!」


 水の壁が爆発の衝撃を押さえ付ける。
 しかし、一点突破の爆発術は、水の壁をも突き抜ける。
 カカシに大量の熱湯が降り注ぐ。
 いや、見ていたサクラにも降り注ぐ。


 「あっつっ!」

 「キャーッ!
  熱い!
  熱いって!」


 技を打ち終わったヤオ子は舌打ちする。


 「土遁だったら、石つぶてで物理ダメージを与えられたのに……。
  ・
  ・
  でも、後ろには吹っ飛ばなくなりましたね」


 力尽きて片膝を突くと、ヤオ子は言葉を漏らす。


 「降参です……」

 「……最後の最後に火傷するとこだったぞ」

 「私を巻き込まないでよ!」

 「だって、水遁でガードするなんて知らなかったんだもん」

 「ヤオ子の術は火遁なんだから、水遁でガードするのが普通でしょ!」

 「それもそうか……」


 ヤオ子は両足を投げ出して、息を吐いた。


 「まだまだです……」

 「いいところまで行ったと思うけど?」

 「経験は、中々埋まりません……」

 「そりゃそうでしょ」

 「最後の必殺技も、体が耐えられない……。
  撃ったあと、全身が少し痺れる。
  もう少し、体の強度が必要です」


 体に負担が掛かるというヤオ子に、カカシとサクラが術の威力を思い出す。


 「もっと、普通の術を覚えたら?」

 「あたしみたいなペーペーが他の術に手を出すなんて、まだ早いですよ。
  手持ちの術すら扱い切れてないのに……。
  今は基礎を固めて、術の応用を考えます」


 ヤオ子は必殺技の反動が消え始めると立ち上がり、伸びをする。


 「お昼、食べて行きませんか?」

 「ここで?」

 「鍋を持って来るんで、火を熾して貰えますか?」

 「いいけど……」


 ヤオ子は、大木の秘密基地へ向かって歩き出す。
 しかし、残された二人は、何処かに去って行ったように見えた。


 …


 数分後……。
 鍋に出し汁と材料を入れて、ヤオ子が現れる。
 そして、石で組まれた簡易的な釜戸の火を見る。


 「いい感じですね」


 ヤオ子が鍋を釜戸の上に設置すると、鍋を見てカカシが質問する。


 「鍋は、何処から持って来たんだ?」

 「ここで修行をしているんで、近くに生活用品があるんです」

 「へ~」

 「ちなみに、お肉はありません。
  腐るんで」

 「贅沢は言わないよ」

 「さすが、カカシさん。
  大人です」


 鍋は、野菜と茸がメインである。
 暫くして鍋が完成すると、おわんに具と汁を盛り付け、各々一口、汁を啜る。


 「旨いな……」

 「いい味……」

 「ほっとしますね……。
  ・
  ・
  ガイ先生の班では、よくやるんですよ」

 「他の班は?」

 「お弁当のおかずを作っていくことが多いですね。
  ガイ先生の班は──あれ?
  いつからか、あの班だけ手料理を振舞ってますね。
  まあ、一番お世話になっていますし」

 「ふ~ん。
  ガイの奴……いい思いをしているな」

 「ガイ先生とは、意外と相性がいいんです。
  最初は、あのノリに着いていけなかったんですが、
  一度、自分のプライドを捨てると叫ぶのがクセになります」

 ((それで修行中に……))

 「最近は、あたしも叫ぶ方から叫ばせる方になっています」

 「何だい? それ?」

 「さっきの必殺技になった元ネタの漫画です。
  ・
  ・
  流派! 東方不敗は王者の風よ!
  全新系裂! 天破侠乱!
  見よ! 東方は赤く燃えている!
  ・
  ・
  これを時々、一緒に叫んでいます」

 「ガイもノリがいいな……」

 「リーさんも♪」

 「被害者が追加された……」

 「ネジさんとテンテンさんは、仲間が吸収合併されたと嘆きましたね」

 (そうだろうな……。
  3対2だったのが、2対3になっちゃったんだから。
  完全にバランスが崩れちゃったよ)


 カカシは、ネジとテンテンを思って手を合わせた。


 「他にも料理関係では、月一で女性陣の宴もしていますよ」

 「何それ?」

 「サクラさん達とあたしの家で宴をしてます」

 「そんなことしてたの?」


 カカシがサクラを見る。


 「まあ……。
  最近は暁の行動が盛んでしていませんが、綱手師匠も一緒に」

 「綱手様も!?」

 「あの人が一番暴れます」

 「…………」


 カカシが苦笑いを浮かべる。


 「楽しそうだな」

 「まあ、それなりに」


 カカシが茸を食べながら話す。


 「これだけの味付けなら、宴をする気持ちも分からなくないな」

 「ヤオ子の腕は、卓越していますから。
  前日までに皆で何を作らせるか決めるんです」

 「作らせる?」

 「あたしに自由なんてないんです。
  一番の弱者ですから……」

 「下忍だもんな……」


 ヤオ子は乾いた笑いを浮かべる。


 「ヤマトとは?」

 「時間が空いた時に修行を見て貰っています。
  でも、最近、忙しいみたいです。
  この前も任務の報告書を書きながら、無理に修行を見てくれましたから」

 「そうか」


 サクラが感想を漏らす。


 「同じ先生なのに、随分違うわね。
  カカシ先生は、任務の報告書なんて後回しにするのに」

 「オレの仕事なんて見てないだろ?」

 「ナルトから本を貰った時、本当に直ぐに報告書を書いたんですか?」

 「…………」


 サクラが溜息を吐く。


 「やっぱり……」

 「見透かされてますね」

 「付き合い長いからな……」

 「でも、あたしは気持ち分かりますね。
  新しいエロ小説を手にしたら、何より優先しますからね」

 「さすが、ヤオ子だ」

 (この二人、本当に兄妹なんじゃないの?)


 暫くして鍋は空になった。


 …


 ヤオ子の影分身が鍋を下げると食休みに入る。
 カカシがヤオ子に話し掛けた。


 「午後は、どうするんだ?」

 「今日は終わりです。
  いつも以上にしんどかったから。
  カカシさん、ありがとうございました」

 「こっちもご馳走になったし気にするな。
  美味しかったよ」


 ヤオ子は微笑んで返す。
 そして、今度はサクラを見る。


 「サクラさん。
  ちょっとだけ、午後、付き合ってください」

 「いいわよ」


 カカシは、午後の予定を考える。
 予想外に動かされて疲れた。


 (偶には休むか……。
  それに、ここからは女同士の話みたいだし……)

 「オレは、帰るな」


 カカシが立ち上がると、煙と共に消えた。


 「わざわざ瞬身の術なんて使わなくてもいいのに」


 ヤオ子は、ポツリとぼやいた。


 …


 残されたサクラがヤオ子に話し掛ける。


 「用って?」

 「え~と……ですね。
  よく考えたんですけど、
  あたし以外にも医療忍者のお二人と分け合おうかと思ったものがあるんです」

 「?」


 ヤオ子の言い回しにサクラが首を傾げると、ヤオ子は古い大木を指差す。


 「あの木が何なの?」

 「あそこにあるんです」


 ヤオ子は、サクラを秘密基地に案内する。
 大木の仕掛けと内装……サクラは、サスケと同じような反応を示した。


 「凄いわね……」

 「昔は、エロ本の隠し場所でした」

 「…………」


 一気にテンションが下がった。
 ヤオ子が地下への扉を開く。


 「地下?」

 「はい」


 サスケが訪れて以来、新たに拡張された空間。
 階段を下りると少しひんやりとする。
 地下には、部屋が二つあった。


 「一つは、忍具の隠し場所。
  もう一つが薬房になっています」


 ヤオ子が薬房の扉を開き、サクラが後に続く


 「広い……。
  それにこれって」


 土壁の中で薄っすらと分かる広大な空間。
 ヤオ子が近くの蝋燭に火を灯すと、薬房の全体が姿を見せる。

 サクラは整理されて置かれた薬包紙や乾燥して保存されてある薬草を見て回り、その後ろからヤオ子が声を掛ける。


 「木ノ葉病院ほどじゃないけど、中々でしょ?」

 「これ、どうしたの?」

 「任務の度に見つけた薬草を粉にしたり乾燥させたりして、長期間保存できるようにしてあるんです」


 ヤオ子が整理された薬包紙の下に広げてある巻物を指差す。


 「ここにある薬を時空間忍術で呼び出せます」


 ヤオ子は腰の道具入れから巻物を取り出す。


 「これです」

 「薬を口寄せするのね」

 「個人の家に置ける量じゃないんで、秘密基地の下に薬房を作りました。
  ・
  ・
  それで……」


 ヤオ子は近くの棚から巻物を二つ取り出す。


 「サクラさんといのさんにもあげます」

 「私達も薬を取り出せるってこと?」

 「はい。
  ただし、あたしの所有物だって忘れないでください。
  病院の薬房よりも充実してないし、ストックも多くありませんから」

 「じゃあ、どうしてこれを?
  大事なんでしょう?」


 ヤオ子は言葉を暫し止め、顔を上げてサクラの目を見る。


 「もし……。
  任務先で薬が足りなくなった時、使ってください。
  これで救える命もあるでしょ?」

 「……前から思ってたけど、
  何で、薬草にそこまで拘るの?」

 「…………」


 ヤオ子は、再び言葉を止めた。
 そして、ヤオ子は信頼できる関係を作ったサクラだから話すことにした。


 「……あたし、初めてのCランク任務で友達を亡くしたんです。
  あれば助かった薬草がなくて……。
  だから、それから薬草の知識だけは蓄えるようにしました」

 「じゃあ、何で医療忍者を目指さないの?」

 「やっぱり……ヤマト先生やイビキさんみたいになりたいから」

 「…………」


 サクラが溜息を吐く。
 これ以上は、追求できない。
 普段、いい加減な行動しか取らないヤオ子にも、言葉では語れない大事なものがあると感じ取ったからだ。
 サクラはヤオ子の持つ巻物二つをそっと手に取る。


 「これは、ありがたく使わせて貰うわ。
  いのにも渡して置く」

 「お願いします」

 「そして、私達も見つけた薬草は、ここに提供するわ」

 「え?」

 「一人より、二人。
  二人より、三人。
  ・
  ・
  綱手師匠やシズネ先輩にも秘密。
  私達だけの薬房にしましょう。
  それに私やいのが見つけた薬草が、ヤオ子に取って必要かもしれないでしょう?」

 「サクラさん……」


 サクラはヤオ子に笑みを浮かべた。


 「あたし達だけ……。
  いいですね……」


 ヤオ子の笑顔に、サクラは再び微笑んで返す。
 サクラはヤオ子の方から力が抜けるのが分かると、改めて薬房内を見回す。


 「それにしても薬草を磨り潰す道具とか、何でもあるわねぇ……」

 「皆、貰い物です。
  割れたものをくっ付けたり、柄が折れたのを付け替えたり」

 「ヤオ子の私物で新品のものってあるの?」

 「サスケさんの形見の服ぐらいですかね。
  これだけは、体が大きくなる度に新調しています」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「勝手に殺すな!」

 「冗談なのに……」

 「冗談でも言っていいことと悪いことがるでしょう。
  ・
  ・
  ところで……。
  この巻物って、どうやって使うの?」

 「普通は、血を媒体にするんですけどね。
  これ、印で鍵を掛けてます。
  しっかり覚えてくださいね」

 「分かったわ」


 ヤオ子は、サクラに秘密の印を教えた。


 「これで用件は、おしまいです」

 「そう。
  ・
  ・
  ねぇ。
  修行、時々、付き合おうか?」

 「どんな風に?」

 「医療忍者って相手の攻撃を全て躱し切る必要があるの。
  小隊で医療忍者がやられたら、治療することが出来なくなるから」

 「なるほど」

 「だから、ヤオ子は体術の攻撃。
  私は、ひたすら躱し続ける」

 「いいですね。
  それなら、いつでもお付き合いします」

 「ただし、あの爆発する術はダメよ」

 「分かりました」

 「さて。
  じゃあ、戻るかな」

 「はい」


 ヤオ子とサクラが秘密基地を後にする。
 空はまだ高く、濃い修行内容だったため、時間はいつもよりも多くある。
 ヤオ子は自分の気持ちを貰ってくれたサクラに、嬉しそうに話し掛ける。


 「帰りにナルトさんに遭遇したら、何か奢って貰いませんか?」

 「いいわね。
  お昼食べたから、デザートかな?」

 「あたし達の色香に掛かれば、イチコロですよね」


 その後、ヤオ子の秘密基地は、地下で発展を続ける。
 修行の方もサクラの協力を得て、少しずつ充実していく。
 そして、修行が無駄に終わらない事件が刻一刻と近づいていた。



[13840] 第73話 ヤオ子の居場所・日常編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:04
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 (色んな人に出会って、自分の小ささがよく分かります。
  任務で自分より、大きな人や大人を打ち負かして有頂天になります……。
  でも、木ノ葉隠れの里に居ると、自分が弱い存在だと打ち負かされます……。
  自分が強くなったと勘違いしていました……。
  あたしは、尊敬する人や周りの友人に勝てた例がありません。

  そう……。
  強引な方法であたしに忍術を叩き込んだサスケさんを見返したい一心で努力して力をつけたつもりだったのに、
  その差が一向に縮まった気がしません。

  理由も何となくだけど、分かります。
  この数年で強くなった他の人達に、サスケさんが負けるビジョンが頭に浮かばないからです。

  今のあたしでは、周りの皆さんの援護射撃しか出来ないでしょう。
  『サスケさんを待つ』『木ノ葉を守る』
  子供だったとはいえ、大きく出たもんです。
  約束を守る力を未だに手に出来ず、
  目標のサスケさんへのワンパンチも果てしなく遠い気がします。

  そもそも、人間って何処まで強くなれるんでしょうか?
  周りの人間のオーバースペックを見ると落ち込むことしか出来ません。

  でも、まあ……。
  周りの人間を利用してコバンザメのようにしぶとくしていれば……。
  サスケさんとの約束も守れるんじゃないでしょうか?)



  第73話 ヤオ子の居場所・日常編



 オーバーワーク気味の修行の毎日……。
 本日は、疲労のガス抜き三日目。
 ヤオ子は里を歩きながら、少しピリピリした空気を感じる。

 今、木の葉では暁という組織を追って、かなりの小隊が里の外に出ている。
 ナルト達も二小隊で、暁のうちはイタチを追って外出したばかりであり、その時、サスケの臭いを追って追跡したとも……。


 「はっきりしない噂が飛び交っていますね。
  しかも、キナ臭い……。
  暁って何なんだろう?
  下忍の知ることじゃないのかな?
  ・
  ・
  ひょっとして……。
  その暁とかいうのが活発に動き出したから、
  綱手さんは、あたしの任務を止めたのかな?
  ・
  ・
  ありえませんね。
  それなら、里の中での仕事をさせるはずだし」


 下忍のヤオ子には知らされないことも多い。
 ナルトが里に居ない理由。
 暁の行動内容の詳細。
 何も知らないまま、里での時が流れていた。
 ただ、自来也が亡くなったことは、それとなく知っていた。
 噂が耳に入った。
 まだ、葬儀は行なわれていない。

 綱手が心の整理がつかずに少し先延ばしになっているのかとも、ヤオ子は考える。
 正直、綱手が無理に気丈にしているのは見ていて分かった。
 だから、少し時間の掛かることだと思って、今は会いに行っていない。
 自来也の葬儀が終わったら、変わらずに馬鹿をやって、いつも通りのグーが飛んで来るのを願っていた。

 そして、考えことをして歩くヤオ子の背中を誰かが突っついた。
 ヤオ子が振り返ると、そこにはアカデミーに通い始めた、ヤオ子の弟──ヤクトが居た。


 「お?
  我が弟じゃないですか」

 「何? その言い方?
  相変わらず馬鹿だね」

 「実姉に向かって……。
  ヤクトこそ、何の用?」

 「もう、何週間も前に頼んだことだよ。
  投擲術を見てくれるって話……」

 「ああ……。
  言ってましたね」

 「教えてよ」

 「いいですよ」


 ヤオ子の返事に、ヤクトが振り返る。


 「皆、いいって」

 「皆?」


 ヤクトの後ろから二人の子供が現れる。


 「ボクの友達」


 男の子と女の子が軽く頭を下げる。


 「一緒に面倒を見ろと?」

 「そう」

 「…………」


 初対面のヤクトの姉に、子供達は少し不安そうにしている。
 ヤオ子は頬を少し掻くと答える。


 「まあ……。
  一人も三人も同じだからいいですよ」


 三人は嬉しそうに顔を見合わせ、ヤオ子に顔を向けた。


 「何処でやりますか?」

 「アカデミー」

 「何で?」

 「専用の練習場があるから」

 「へ~。
  そんなのがあるんですか」


 ヤオ子の初めて知ったという言葉に、女の子がヤクトに質問する。


 「ヤクト君のお姉ちゃんは、
  何で、知らないの?」

 「うちのお姉ちゃん、アカデミーに通ったことないんだ。
  特別召集の時の忍者だから」

 「あの?」


 女の子の言葉に、ヤオ子は首を傾げる。


 「どうしたの?
  『あの?』って?」

 「その時の先輩……。
  皆、戻って来たって聞いたから」

 「ああ……。
  そんなこと、言ってましたね」

 「凄いね。
  エリートなの?」

 「いいえ。
  ただの器用貧乏です」

 「…………」


 ヤオ子は子供でも容赦なく意味の分からない答えを返す。
 が、他人には意味は分からなくとも、嘘ではない。
 器用貧乏であったが故に、数々の雑務を全てこなしてきた。


 「器用貧乏……って、関係あるの?」

 「ありますね。
  結局のところ、雑用ばかりでしたから、器用さが求められます。
  本当に忍者をやりたい人には辛いんです」

 「そうなんだ」

 「はい。
  ・
  ・
  では、行きましょうか。
  案内してください」


 アカデミーに向けて、ヤオ子達は歩き出した。


 …


 アカデミーの練習場……。
 ヤオ子は初めて入る場所だった。


 「へ~。
  こんな所があるんだ」


 ヤオ子は弟達が練習している的を見て、次に自分の立っている場所を見る。


 (的……近くない?
  ・
  ・
  サスケさん……。
  最初から騙しましたね……。
  初めてをあの距離からやらせるって、どんだけドSなんですか……。
  ・
  ・
  あのヤロー……)


 眉間に皺を寄せて、頭を押さえるヤオ子にヤクトが話し掛ける。


 「見ててよ!」

 「え? ああ……はい。
  やってみて」


 ヤオ子が的から離れると、三人が手裏剣を持って的に投げつける。
 ヤクトは、明後日の方向に。
 男の子は、的の下の地面に。
 女の子は、スピードなく的に刺さった。

 ヤオ子は三人バラバラに問題点を見て、苦笑いを浮かべた。


 「はは……。
  皆、個性的ですね」

 「だから、教えて欲しいんだよ。
  この前から言ってるのに、
  お姉ちゃん、見つからないんだもん」

 「すいませんね」

 (ヤクトに秘密基地の場所を言ってなかった……)


 頭を掻きながら、ヤオ子はホルスターから手裏剣を三枚取り出す。
 それをヤクト達に見せると、座ったまま指を弾くように指の力だけで飛ばす。
 手裏剣は、全て的の真ん中に当たった。


 「「「凄い……」」」

 「コツを掴めば簡単ですよ」

 「「「教えて!」」」

 「何か必死ですね?
  でも、その前に質問です。
  ・
  ・
  教科書、読みました?」

 「「読んでない」」

 「一応、読みました」

 (さすが、我が弟……我が侭、一直線。
  我が家の新たな風を感じます。
  そして、友人の男の子……。
  二人とも読む気、一切なし。
  ・
  ・
  友人の女の子だけが希望です)


 ヤオ子がヤクト達に話し掛ける。


 「教科書ありますか?」

 「持ってない」

 「必要ない」

 「一応、持ってます」

 (男子はダメダメですね……)


 ヤオ子は女の子から教科書を受け取ると、パラパラとページを捲り、件の手裏剣投擲術のページを開く。


 「ここに投げる絵と説明が書いてあります。
  この通りにするように努力しなければいけません」

 「それは分かるんだけど……」

 「読むのだるい……」

 「一応、読んだんですけど……」

 (男の子二人は完璧に読む気なしですね。
  女の子は健気に読んでいるみたいです。
  分けて説明しよう……)


 ヤオ子が男の子二人を手招きする。


 「何で、読まないんですか?」

 「読むと分かんなくなっちゃうんだ」

 「そう!
  全部、一編にやると分からない!」

 (そういうことですか……。
  うちのお父さんに近いかな?
  それとも、体で覚えるタイプ?)


 ヤオ子が教科書の絵を指差す。


 「じゃあ、この絵の真似は出来ますか?」

 「「それだけ?」」

 「はい」


 男の子がヤクトに目を向ける。


 「簡単だよな?」

 「うん」

 「じゃあ、やってみましょう」


 ヤクトと男の子は、絵を暫く見ると練習を再開した。
 今度は、女の子を手招きする。


 「ちゃんと読んだんでしたね」

 「はい」

 「的の真ん中まで届かないのかな?」

 「はい」

 「力一杯投げてますか?」


 女の子が首を振る。


 「力を入れ過ぎると失敗しちゃう……」

 (的を大きく外すのを極度に嫌がってますね……)


 ヤオ子は女の子に指を立てて話し掛ける。


 「じゃあ、お願いしていいですか?」

 「何ですか?」

 「的を外してください」

 「え?」


 女の子は疑問符を浮かべた。


 「その代わり、力一杯投げてください」

 「でも……。
  それじゃあ、練習にならない……」

 「そうですね。
  じゃあ、一回目は力一杯外して、二回目はじっくり当てましょう。
  それを交互に繰り返します」

 「?」

 「一回目は、力一杯投げる練習です」

 「外していいの?」

 「思いっきり、お願いします」


 女の子は、よく分からない感じで練習を再開した。
 そして、一方の男の子達のために、ヤオ子は男の子二人の目に入る位置で教科書を開いて座る。
 ヤオ子が居ることで、二人は意識して教科書に目を通すようになり始めた。

 ~ 十分後 ~

 男の子達は、見違えるように的に当たるようになっていた。


 (やっぱり……。
  まだ脳が大人用に切り替わってないみたいです。
  文字で理解するより、絵で理解する方が分かるんでしょうね。
  ・
  ・
  でも、本当は絵から得られる情報の方が多いんですよね。
  それを逆に文字へと置き換えて理解する。
  大人になるとそっちの方が分かり易い時もある。
  不思議ですよね~。
  ・
  ・
  あと、ヤクトがお父さんの血を受け継いでなくてよかった……。
  絵を見てちゃんと理解してる……。
  うちのお父さんに教え込むのは不可能に近い……。
  ヤクトは、至って普通の子です。
  よくよく考えれば、教科書をスルーするのも普通の男の子らしさなのかな?
  ・
  ・
  さて、女の子の方も見ないと)


 ヤオ子が女の子に近づく。


 「上手ですよ」

 「本当ですか?」

 「はい。
  気付いたことはありませんか?」

 「何でもいい?」

 「何でもいいですよ」

 「強く投げた方が……真っ直ぐ飛ぶの」


 ヤオ子は女の子の頭を撫でる。


 「よく気付きました。
  弱く投げると狙ったところより下にずれるでしょ?」

 「うん」

 「それで狙う方が難しいんです」

 「そうなんだ」

 「はい。
  知らずに難しいことをしていたんですね。
  真っ直ぐの方が狙い易いですよ」


 女の子が手の手裏剣を見る。


 「今度は、強く投げて狙ってみませんか?」

 「やってみる!」


 女の子は今までと違い、力強く手裏剣を投げる。
 すると、手裏剣は的の真ん中近くに当たった。
 女の子が振り返ると、ヤオ子は親指を立てる。


 「いい感じです。
  それがコツです」


 女の子が少し嬉しそうに笑う。


 「じゃあ、もう少しやりましょうか」


 ヤクト達の練習は続いた。


 …


 ヤオ子は弟達を見ながら、少し自分を振り返る。
 ヤオ子の幼年期は弟達と違い、少し大人びていた。
 変態的欲求を満たすため──イチャイチャパラダイスを読むため……。

 そのため、初めて読むような難しい表現のある教科書の内容でも、手に取るように分かった。
 そして、初めての投擲は読まされた教科書を参考に、サスケに無理やりだった……。


 「懐かしいですね……。
  今も修行は続いてますけど……」


 ヤオ子は弟達を眺めながら思い出に浸っていると、男の人の声がした。


 「お前ら、何やってんだ?」


 練習場の入り口近くで聞こえた声に、弟達の視線が集まる。


 「あ! イルカ先生だ!」

 「ん?」


 ヤオ子が男の子の声で目を移す。
 そこには若い忍の姿があった。


 「中忍さんか。
  先生やってるんだ……」


 ヤオ子は木の葉のベストを見て、そう判断した。
 男の子が、うみのイルカに近づく。


 「今度の担任がさ!
  嫌な奴なんだ!
  オレ達をダメな奴だって!」

 「三人とも、手裏剣は少し苦手だもんな」

 「だから、今度のテストで一発かますんだ!」

 「かますって……。
  お前らな……」

 「ヤクトのねーちゃんに聞いたら、
  アイツに教えて貰うより、マシになったんだぞ!」

 「ねーちゃん?」


 ヤオ子が立ち上がって、イルカに頭を下げる。


 「イルカ先生!
  見てくれよ!」

 「ああ!
  分かった!
  分かった!」

 (挨拶も出来ない……。
  大人気ですね。
  イルカ先生)


 ヤクト達が自慢するようにイルカに練習の成果を見せると、イルカはヤクト達の成長に驚いて見せた。


 「本当だ。
  皆、的に当たってるじゃないか」

 「凄い!?」

 「ああ!
  凄いぞ!」


 イルカが順番に子供達の頭を撫でるとヤオ子に近づく。


 「ご面倒をおかけして……」

 「いえ。
  いつも弟がお世話になってます」

 「しかし、驚きました。
  いきなり上達して……」

 「子供って、そういうもんですから。
  ある日、いきなり出来るようになるんですよ」

 「そうですか?」

 「はは……」

 (父親が子供に近いから、
  それを少し応用しましたなんて言えないですよね)


 ヤオ子は誤魔化し笑いを浮かべると、会話を続けた。


 「あ。
  あと、敬語じゃなくていいですよ」

 「え?」

 「あたし、十一です」

 「…………」


 イルカはヤオ子を上から下まで見て、一拍開けて声を上げた。


 「えェ!?」

 「老けて見えます?」

 「そうじゃなくて……。
  背が……。
  ナルトなんて、十二の時にこれぐらいで……」


 イルカが手で空中を切って見せる。


 「母方の家系の遺伝です。
  皆、このぐらいの時に成長期が来るみたいなんです」

 「そうなんですか……。
  ・
  ・
  あのヤクトの母親というと……例の?」

 「はい、変態です。
  そして、あたしが変態の娘です」

 「…………」


 堂々と言い切るヤオ子に、イルカは反応に困る。


 「お、お姉さんは優秀なようで……」

 「無理しなくていいですよ。
  あたしは、完全に母親の血を受け継いでますから」

 「いや、初対面だし……」

 「苦労しますよね。
  初対面の生徒の姉が変態だって分かってんだから。
  先生のリアクションは、尤もです」

 (やっぱり半端じゃないな……。
  個人面談で母親にも圧倒されたけど、お姉さんも一筋縄にいかない……。
  ・
  ・
  ヤクトの将来が心配だ……)


 イルカは項垂れる。
 生徒の前で堂々と肉親を変態だとは言えない。


 「先生が疲れるんで、とりあえず猫被りますね。
  ・
  ・
  ところで……。
  ヤクトは楽しそうですか?」

 「は?
  ・
  ・
  変わった質問ですね……。
  楽しそうにしてますけど?」

 「なら、いいです」

 「普通、成績のこととか気にしませんか?」

 「成績なんて、どうでもいいです」

 (お母さんと同じことを言ってる……)

 「いざとなったら、無理やりにでも叩き込めばいいんですから」

 (お母さんの方は、そういう前科があるんだっけ……)


 父親にしている。
 イルカが咳払いをして、気持ちを入れ替える。


 「アイツら、楽しそうですね。
  まあ、的に当たるようになったんだから、当たり前ですけど。
  ・
  ・
  よっぽど、悔しかったんでしょうね」

 「今度の担任の人は、そんなにキツイんですか?」

 「優秀な忍にしたいが故ですよ。
  この仕事は、危険ですから。
  少しでも力を付けて卒業させてあげたい」

 「いい先生ですね……」

 「その分、厳しいんですけどね」

 「頭が固いのか……。
  悪戯の一つでも教えてあげましょうかね?」

 「悪戯?」

 「実は、おいろけの術というものが──」

 「やめてください!」

 「ん?」

 「その術で、私がどれほど苦労したか!
  ナルトのクソガキが、皆の前で……」

 (さすが師匠……。
  既に実行済みだったとは……)


 ヤオ子は、子供達に目を移す。


 「じゃあ、やめときます。
  ここは、あたしの縄張りじゃないんで」

 「お願いします……。
  ・
  ・
  でも、偶には顔を出してあげてください」

 「?」

 「きっと、喜びますよ」


 イルカがヤオ子に微笑む。


 「そうですね。
  お許しが出たんなら、深入りしない程度に」

 「ええ。
  私は、これで戻りますんで」

 「ご苦労様でした」


 イルカは、最後に子供達に声を掛けると去って行った。


 「イルカさん……。
  結局、最後まで敬語でしたね。
  ・
  ・
  背伸びて老けたか?」


 ヤオ子は、自分の顔をペタペタと触って確認した。



[13840] 第74話 ヤオ子の居場所・異変編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:04
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤクト達の手裏剣の練習は、一時間ほど続いた。
 こんなに投げ続けて平気なのだろうか?
 投手の投げ込みにも球数の制限が設けられているのに……。
 多分、忍者だから平気なのだろう。


 「疲れた……」

 「疲れたね……」

 「疲れました……」


 ヤオ子に手裏剣の練習を見て貰った子供達がへたり込むと、ヤオ子は腰に右手を当てて話し掛ける。


 「あんた達、偏り過ぎですよ。
  手裏剣だけ投げてへばるなんて」

 「今度、テストあるのに、手裏剣投げないのも変じゃないの?」

 「テストがあるの?
  ・
  ・
  そういえば、イルカ先生に『かます』って言ってましたね」


 とはいえ、スタミナ強化に数年費やしてきたヤオ子と違い、子供達には休憩が必要だった。



  第74話 ヤオ子の居場所・異変編



 場所は変わる……。
 いつものあの店……一楽。
 当然、ヤオ子のおごりである。


 「ラーメン四つ、お願いします」

 「珍しいね。
  子供連れなんて」

 「弟と弟の友人の方々です」

 「へ~。
  偉いね~」

 「一応、年長者なんで」


 早速、一楽の主人はラーメンを作り始める。
 その待ち時間の間、男の子がヤオ子に質問する。


 「いいの?
  ヤクトのねーちゃん?」

 「お姉ちゃんは、小銭貯め込んでるから平気だよ」


 ヤオ子の代わりにヤクトが答えると、ヤオ子はテーブルに激しく頭を打ち付けた。


 「あんた……。
  本当に摂関しないとダメですか?」

 「ここのラーメンは美味しいんだよ」

 (あたしを無視して友達とトークですか……)

 「そうなの?」

 「そうなんだ」

 (まあ、いいです……。
  本当に貯め込んでるから)


 ヤオ子を無視しての子供達の話が一段楽したところで、各々の前にラーメンが並ぶ。
 そして、談笑するヤクト達と違い、ヤオ子は、さっさと食べ終えてしまった。
 ヤオ子がお冷で舌を休めていると、一楽の主人が話し掛ける。


 「ヤオ子ちゃん」

 「はい?」

 「ナルトに聞いたんだが、携帯できるラーメンを作ったんだって?」

 「はい。
  ナルトさんに差し入れました」

 「作り方を教えてくれないか?」

 「ナルトさんにも教えましたけど?」

 「ダメダメ。
  ナルトに聞いても分からん。
  コンニャクから作ったなんて言われてもなぁ……」

 「コンニャクなんて一切使ってないですよ……。
  使ったのは、にこごりです」

 「にこごり?
  なるほど!
  スープをにこごりにして麺を閉じ込めたのか!」

 「そうです。
  ネタ元は、将太の寿司です。
  そして、ヒントは、ここまでです。
  スープの味は、お店の命なんで」

 「いいこと言うなぁ……」

 「長い付き合いですからね」


 ヤオ子と一楽の主人を見て、子供達がコソコソと話す。


 「お前のねーちゃん……。
  何で、一楽のおっちゃんと仲いいんだ?」

 「ああ見えて料理人なんだよ。
  お母さんが料理をすると変な物体が出来るから、お姉ちゃんがよく料理をしてたんだ」

 「へ~」

 「お姉ちゃんが作らないと、ほとんどレトルト。
  だから、思うんだ……。
  ・
  ・
  お姉ちゃんは誰も作る人が居なかった幼少期を、どうやって生き抜いたんだろうって」


 小声で話しても耳に入った言葉に、ヤオ子は、再び頭を打ちつけた。


 「お母さんの話だと、
  その怪しい物体をお姉ちゃんに食べさせてたみたいなんだ」

 「大丈夫なのか?
  お前のねーちゃん?」

 「ちゃんと生きてるからなぁ……」

 「何か、ヤクト君のお姉ちゃん怖い……」

 「きっと、それからなんだ。
  お姉ちゃんがお母さんに似てきちゃったのは……」

 「ヤクト君、可哀そう……」

 「お前、苦労してるな……」

 (可哀そうなのは、あたしなんじゃ……)

 「もっと怖いのがね。
  その物体を食べて泡吹いてるお姉ちゃんを放置していたことなんだ」

 (そんな話、あたしは聞いたことないですよ……。
  幼児虐待じゃないの?
  そもそも、その記憶があたしの中に残っていないってことは、
  あたし、完全に気絶してるんじゃないですか……)

 「お前のねーちゃん。
  何で、生きてんだ!?」

 (本当に……)

 「でもね。
  お姉ちゃんは、それから病気になってないんだって」

 「すげーな……」

 「本当……」

 (この世で最強の毒物でも食って、
  あたしの中に最強の免疫物でも出来たのか?
  ・
  ・
  そういえば……。
  あたし、冬でも半袖短パンに素足に靴で風邪ひかなかった……)


 ヤオ子は、弟から明かされる真実に頭が痛かった。
 そして、今度、実家に帰ったらシメルと決めた。


 …


 ヤオ子よりもゆっくりと食べていた子供達の食事も終わり、一楽でお金を払って店を出る。
 ヤオ子は、弟達に振り返る。


 「これから、どうするんですか?」

 「どうしようかな?」

 「忍者ごっこでもしようか?」

 (どんな遊びだろう?
  忍者の卵がする忍者ごっこって?)


 ヤオ子が質問をしようとした時、爆発音がする。


 「何?」


 全員が音のする方に振り返ると、遠くに居ても目に入る爆炎が見えた。
 思わず疑いたくなる光景。


 「里に攻撃!?」

 「何あれ!」


 円柱のようなものが後部から煙を出して飛来してくる。
 子供達には分からなくても、漫画を読み込んでいたヤオ子には直ぐに分かった。


 「ミサイル!?」

 (さっきの爆炎がコイツのせいなら、この子達を守り切れない!)


 ヤオ子は奥歯を噛み締めると、ホルスターから手裏剣を抜き取る。


 (少しでも遠くで爆発させて被害を減らす!
  出来ることなら空中で!)


 「皆! あたしの後ろに!」


 ヤオ子が上空のミサイルに向かって手裏剣を投げと、手裏剣は信管にヒットし、ミサイルが爆発の兆しを見せる。
 続け様に、ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー!」


 上空の爆発を必殺技の爆発で相殺し、煙が晴れると辺りを見て唖然とする。


 「じょ、冗談じゃないですよ……」


 ヤオ子達を除いて辺りが瓦礫と変わっていた。
 それは、暁のメンバー・ペイン修羅道の攻撃だった。


 …


 里に混乱が広がる。
 被害が出ているのは、ヤオ子達の居るところだけではない。
 里の人々が顔岩の隠し部屋へと避難を始めていた。
 ヤオ子達もここでグズグズしているわけにはいかなかった。


 「大丈夫ですか?」


 ヤオ子は子供達に確認するが、まだ誰もが状況を理解できていない。
 それはヤオ子も同じであった。
 しかし、僅かでも経験の多いヤオ子が子供達を誘導しなければならない。
 返事のない子供達を見て、ヤオ子は自分で判断することにする。


 (あたし達の周りだけ、地面に焦げ跡がない……。
  皆は、大丈夫のはず。
  ・
  ・
  目に見える怪我はありませんね。
  じゃあ、気持ちを回復させないと)


 ヤオ子は大きく息を吸って声を張る。


 「こんな時!
  先生は、どうしろと言ってましたか!」


 ヤオ子の声に子供達は我に返り、ようやく今することを考え始める。


 「周りを確認して……」

 「先生に従って……」

 「避難する……」

 「何処へ?」

 「「「顔岩……」」」

 「正解!」


 ヤオ子はしゃがんで、子供達の視線の高さに合わせる。


 「あたしが、先生役です。
  いつも通りです。
  避難訓練を思い出せますね?」


 ヤオ子の問い掛けに、子供達が頷く。


 「では、行きます。
  ・
  ・
  着いて来──」


 耳障りな音に反応して、ヤオ子が再び印を結び、子供達の前に出る。


 「この! またァ!」


 少し離れた場所に落ちて爆発した衝撃波を、ヤオ子が必殺技で相殺する。


 「拙いですね……」


 ヤオ子はチャクラを練り上げて、印を結ぶ。
 そして、かなりのチャクラを持たせた影分身を一体出す。


 「後ろを」


 影分身が頷くと子供達の後ろに着く。


 「一列縦隊で行きます。
  先頭をあたし。
  続いて君達。
  そして、最後をあたしの影分身。
  ・
  ・
  いいですか?」

 「「「はい!」」」


 元気よく返事を返した子供達に、ヤオ子は頷く。
 ヤオ子達は、顔岩へと移動を開始した。


 …


 里には、ペイン六道の全員が入り込んでいた。
 陽動に修羅道、畜生道、餓鬼道を使い、里の破壊。
 探索に天道、人間道、地獄道を使い、ナルトの探索。
 敵の目的が分からないまま、里は混乱を強くする。

 そして、先ほどの修羅道のミサイル攻撃の第一波で里の各所は、爆発による大ダメージを受けていた。
 更に畜生道の口寄せの術により、里の中には敵の口寄せ動物も放たれた。

 ヤオ子達は破壊された建物を乗り越え、通りに差し掛かる。
 ここには、まだ人の波がある。
 向かう方向が分かる。

 屋根の上には、人波の方向と逆に忍達が走り出していた。


 「あたしは状況を把握しなければいけません。
  そして、既に皆さんが動いています。
  ・
  ・
  君達だけで行けますか?」


 子供達の顔に不安が浮かばせるも、誰もが言葉を止めてしまった。
 アカデミーに通い、忍としての自覚が出てきたため、素直な気持ちを言えなかったのである。
 ヤオ子は、それを察すると話し掛ける。


 「不安なら不安でいいんです。
  皆を誘導することを優先します。
  それも下忍のお仕事ですから」


 女の子が呟く。


 「怖いです……」

 「そうですか」


 ヤオ子が女の子の頭を撫でる。


 「今は、それでいいです。
  あたしが着いて行くことにします。
  ・
  ・
  だけど、もう少し大きくなったら、
  今度は、あなたが小さい子の手を引いてくださいね」


 女の子が頷くと、ヤオ子は、ここで少し遅れてからの参戦開始を決めた。


 「行きましょう」


 ヤオ子達が移動を開始した時、人の波が小さくなっていた。
 そして、その人波にヤオ子達が加わって直ぐ、近くの民家が崩壊した。
 口寄せされた巨大百足の一匹が姿を現した。


 …


 ヤオ子は舌打ちする。
 このまま逃げれば追いつかれる。
 何より、逃げる先には民間人が居る。


 (あたしが足止めして、時間を稼ぐしかない!)


 ヤオ子は影分身に命令する。


 「足止めをお願いします!」


 影分身は親指を立てて、ヤオ子達に背を向けた。


 「あのポーズ……。
  自分なのに腹立ちますね。
  ・
  ・
  皆、行きますよ!」


 ヤオ子本体と子供達が移動を始め、影分身のヤオ子が巨大百足に向き合った。


 …


 影分身のヤオ子が、巨大百足を見上げる。


 「足止めを了承しましたけど……。
  チャクラに制限があるんですよね。
  援軍が欲しいところです」


 腰の道具入れからクナイと起爆札を取り出し、巨大百足に投げつける。
 爆発と共に巨大百足は、僅かに体を仰け反らすが直ぐに体勢を立て直した。


 「蟲って、やっかいなんですよね。
  表情がないから、ダメージがあるんだかないんだか……」


 続いてホルスターから、手裏剣を取り出し投げつける。
 固い外皮のせいで辛うじて刺さるものの、今度はダメージが薄い。


 「チャクラを攻撃に全部回すほかないですね」


 影分身のヤオ子が印を結ぼうとした時、そこへ一人の中忍が駆けつける。


 (増援?)

 「無事か?」

 「何とか……。
  ここの道、顔岩に続いているんで足止めが必要です」

 「そうか……。
  久しぶりに見たが、でかくなったな」


 影分身のヤオ子が、中忍の近くに移動して話し掛ける。


 「思い出せないんですけど……」

 「だろうな。
  オレは、君に蹴られた記憶しかない」

 「蹴った?
  ・
  ・
  もしかして!
  雑用任務ピーク時の死に掛け副担当さん!?」

 「そういうことだ」

 「今日は、期待していいんでしょうね?」

 「そうしてくれ!」


 中忍が印を結び、口から炎弾が巨大百足に飛ぶ。
 全てが直撃するが、巨大百足の進行は止まらない。


 「……効いてなさそうですね」

 「駆除するなら、燃やすべきだと思ったんだが……」


 巨大百足が後ろに反ると前に頭を押し出し、牙を突き立てる。
 二人は、それを左右に分かれて躱す。


 「何か作戦あるか?」

 「カッコよく現れて、いきなりあたしに聞きます?
  あたし、下忍ですよ?
  ・
  ・
  と、愚痴っても仕方ないですね」


 話しながらも、二人は再び攻撃を避ける。
 ヤオ子は中忍に話し掛ける。


 「見極めたいことが一つあります」

 「何だ?」

 「あの百足……。
  里の破壊が目的か?
  里の人の殺害が目的か?」

 「そうだな。
  それによって作戦も変わるな」

 「はい。
  前者なら、ここで必ず仕留めます。
  後者なら、囮になって増援を待つか誘導することも可能です」


 二人が巨大百足の動向を観察すると、巨大百足は人の波のある顔岩に続く道へ進もうとし始めた。


 「第三の選択……。
  より多くの人間の殺害が目的みたいだな」

 「止めるしかありませんね」

 「どうやって?」

 「百足の正しい殺し方って知ってますか?」

 「知らないな」

 「じゃあ、見た目で判断ですね」

 「だな」


 影分身のヤオ子と中忍は、手裏剣とクナイの投擲に攻撃方法を変える。
 少しでも巨大百足の注意を引きつけるために……。
 そして、弱点を探すために……。

 効果の薄い攻撃に百足は鬱陶しそうに首を振る。
 そして、百足の行動を見て、中忍が何かを思いつく。


 「やっぱり、動物である以上、
  頭と体を放せばいいんじゃないか?」

 「切断するんですか?」

 「ああ。
  それと百足って体に幾つも切れ目があるだろ?」

 「間接じゃないの?」

 「どっちでもいい。
  ・
  ・
  そこって生物共通で脆いところだと思わないか?」

 「いい考えですね」

 「頭から二番目の切れ目を狙うぞ!」

 「分かりました!」


 影分身のヤオ子と中忍の投擲が二番目の間接に集中する。
 しかし、外皮が硬く、今一、決定打にならない。


 「何て硬い外皮なんだ!」


 中忍はぼやくが、ヤオ子は狙った二番目の間接を指差す。


 「でも、悪くないですよ!
  見てください!
  アイツの攻撃は、牙を突き立てることですから、
  ダメージのある間接を庇って強く出られなくなって来ています!」


 そう。
 二人の攻撃は、少しずつだが効果を表し始めていた。
 影分身のヤオ子が残りのチャクラの使いどころを決める。


 「あたしの術でダメージを与えられるものがあります。
  囮になって貰えますか?」

 「信じていいのか?」

 「あたしの蹴りより、遥かに強力な術です」


 中忍がヤオ子に蹴られたことを思い出し、苦笑いを浮かべる。


 「分かった!
  そいつは強力だ!
  信じるぞ!」


 中忍は印を結び、再び炎弾を口から吐き出す。
 そして、投擲を続け、巨大百足の注意を引く。

 その囮になって貰っている間に、ヤオ子の影分身は印を結び、両手両足に必殺技を装填する。
 更にチャクラを足に集中し、崩壊し掛けた建物を蹴上がっていく。
 そして、巨大百足の頭の上まで駆け上がると間接に刺さるクナイを四本確認する。

 ヤオ子の影分身が落下しながら体を捻る。
 左手の裏拳が爆発と一緒にクナイをスパイクに叩き込まれる。
 同様に右手、右足、左足……。
 爆発の威力で深く突き刺さったクナイにより、巨大百足の首が地面に音を立てて落ちる。


 「術も使いようですね」


 影分身のヤオ子が着地すると、中忍が駆け寄って来た。


 「やったな」

 「間接に攻撃を絞った作戦勝ちです。
  ・
  ・
  すいません。
  チャクラが、もう切れます。
  後をお願いします」


 影分身のヤオ子が煙になって消えた。


 「影分身だったのか……。
  下忍も、中々やるな」


 中忍は微笑むと次の敵を求めて、その場を後にした。



[13840] 第75話 ヤオ子の居場所・避難編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:05
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 子供達と走るヤオ子に影分身の経験値が還元される。
 ヤオ子が走りながら、ヤクト達に経過を伝える。


 「巨大百足を倒しました」

 「?」


 子供達は、ヤオ子のことを不思議な顔で見る。
 ヤオ子の報告は、影分身の情報が還元されないヤクト達には分からない。
 ヤオ子は補足する。


 「影分身の特性です。
  術が解けると情報が本体に返るんです」

 「ヤクトのねーちゃん、すげェーっ!
  あのでかいの倒したんだ!?」

 「中忍さんが助けに来てくれました」

 「先に言ってよ……」

 「そうでしたね」


 顔岩へと走る子供達に少し余裕が戻った。
 里は、今だ攻撃を受けていたが、一番最初に刻まれた恐怖は解かれたようだった。



  第75話 ヤオ子の居場所・避難編



 ヤオ子達の後方を新たに出した影分身が警戒する。
 ヤオ子達も里の一般人に遅れて顔岩へと急ぐ。


 「里が……」


 走り続けて光景が変わった。
 ヤクトから凄惨な状態の里に思わず言葉が漏れた。
 走る先は見慣れた光景ではなく、建物には皹が入り、酷い所は崩壊している。


 「一体、どれだけの敵が入ったんだろう?」

 「うん。
  私…怖い……」


 ヤオ子は、不安がるヤクトと女の子を見る。
 そして、ヤクトの言った通り敵の人数が気になる。
 ヤオ子は自分の予想と気に掛かることを口にする。


 「敵は、多くないのかもしれませんね。
  第一波の攻撃から、同じ攻撃が来ていません。
  きっと、もう木ノ葉の忍者さんと交戦しているのでしょう。
  また、前回の木ノ葉崩しと比べて、全然、敵が見えません」

 「じゃあ、直ぐに終わるの?」

 「分かりません。
  ただ、木ノ葉の里に直接攻撃を仕掛けるのですから、個々の戦闘力が高いのかもしれません。
  さっき交戦した口寄せ動物は、かなり強かったです」


 ちなみに、そのとんでも動物をサクラは怪力で一発KOしている。


 「契約している口寄せ動物に隠し玉があるのかもしれません」

 「じゃあ、木ノ葉がなくなっちゃうの?」

 「そんなに極端に走らないでください。
  『まだまだ油断出来ないですよ』と言いたいだけです。
  ・
  ・
  あたし達は、未熟な忍者の卵と下忍ですからね」

 「そうだね」

 「忘れてた」

 「気を引き締めます」


 ヤオ子は、ヤクト達に微笑むと先に進む。
 しかし、内心は子供達同様に不安だった。
 ヤオ子自身も強がりを言わなければ不安だった。
 そして、目のいいヤオ子が先に発見する。


 (死体?
  でも、おかしい……。
  外傷がないのに死んでるなんて……。
  ・
  ・
  こんなの見せたら、ヤクト達の足が止まる)


 ヤオ子は、辺りを見回す。
 そこに巨大な石柱が四本出現し、巨大な犬のような動物を雷遁で縛った術を使ったと思われる動物の面を付けた忍が確認できる。
 ヤオ子は、ワザと指差す。


 「急いでますけど、少し注目しましょう。
  暗部の人の術なんて滅多に見れませんから」

 「お姉ちゃん……。
  そんなことしてる場合?」

 「でも、あれだけ大きな口寄せ動物を拘束する術ですよ?
  チャクラ量や規模を考えるだけでも、優秀な忍になるための勉強になります。
  忍者になった以上、上を目指したくありませんか?」


 ヤオ子は話し掛けながら暗部の忍が使った忍術に目を向けさせて、奇妙な死体の側を気づかさずに通り過ぎる。
 男の子がヤオ子に話し掛ける。


 「ヤクトのねーちゃんの術も凄かったけど。
  あんなにでかいの見せられると霞むな……」

 「そうですね。
  あたしは、あんな凄い忍術を身につけていませんからね」


 全員の視線の前で、巨大な豚をモチーフにした岩石が落ちた。


 「…………」


 全員、言葉を失くす。


 「あれ……。
  どうやって、躱すの?」

 「死ぬって……」

 「空中から落ちた……」

 「無駄な術に感じるのは、何でだろう?」

 「「「え?」」」


 ヤオ子の言葉に、ヤクト達に疑問符が浮かぶ。


 「H×Hにもあったんですけど……。
  ゲンスルーと戦う時に……。
  あんなの術に使ってちゃダメです。
  チャクラが勿体ない」

 「じゃあ、どうするの?」

 「巻物で口寄せするんですよ。
  そっちの方が楽だし。
  チャクラも、あまり使いません」

 「「「なるほど」」」

 「ただ、回避できないのは確かですね。
  あたしの術で粉砕するなら何発も撃たなきゃいけないし、
  撃ってるうちに潰されます」

 「結局、どっちなの?
  褒めてんの?
  貶してんの?」

 「どっちですかね~。
  少なくとも、あたしだったら習得しません。
  さっきの石柱も雷遁で口寄せ動物を縛ってたみたいですけど、
  雷遁と土遁の組み合わせが相性としていいか微妙です」

 「そうか……。
  術の相性で言えば、隣り合ってるね」

 「はい。
  それに昔から、雷の力は土に弱いって言うのが相場です。
  あたしは、未だに性質変化の強弱関係で、
  土と雷は逆じゃないかって思う時があります」

 「何で?」

 「スーパーフェニックスが電気の力を土に封印していました」

 「何それ?」

 「それに雷が落ちても地面に吸収される例をよく聞きません?」

 「それは聞いたことがあるかも……」

 「でしょ?
  それにイワークとピカチュウじゃ、ピカチュウの方が──」

 「お姉ちゃん!
  分からない!
  時々、変な名前が入ってる!」

 「変じゃないですよ。
  知らない?」


 ヤクト達は分からないと首を振る。


 「はて?
  そうなるとあたしの拾って来る漫画は、何処で売られてたんだろう?」

 「何でもかんでも拾わないでよ。
  恥ずかしいな……」

 「あはは……。
  ごめんね」


 ヤオ子は笑って誤魔化すと、辺りをこっそりと確認する。
 妙な死体は、もう見当たらない。
 ただ、里の壊れ方は、前回の木ノ葉崩しと大きく違う。
 木ノ葉崩しの時は、ここまで火薬は使われなかった。
 しかも、飛んで来たのはミサイルだ。

 ヤオ子は、何処か現実味のないSFの世界にでも迷い込んだ気になる。
 だけど、これは現実に起きていることなのだ。


 (この壊れ方……。
  前回よりも、嫌な感じがします……。
  子供達の手前、視線を逸らさせましたが、
  倒れている忍者さんの死に方でおかしなものが混ざっていました。
  ・
  ・
  外傷がないのに動かない……。
  口寄せする動物は、兎も角……。
  呼び出した敵には、出くわしたくないと言うのが本音です。
  あたしじゃ、相手にならない)


 ヤオ子が警戒を強める。
 そして、口寄せ動物が目に入る。


 「また百足だ!」

 「どうするの!?
  今度は、前に居るよ!」


 ヤオ子は、静止を掛ける。


 「大丈夫です。
  倒し方の分かった敵なんて、ただでかいだけです」


 子供たちを残し、ヤオ子は巨大百足に向かう。
 辺りを見回し、巨大百足の頭までの高さの建物を探す。


 (あの電柱!)


 方向を変え、一気に電柱を駆け上がり、てっぺんでクナイを四本指に挟む。
 そして、一寸の狂いもない投擲が、巨大百足の二番目の間接に刺さる。

 ヤクト達が電柱を見上げた時にはヤオ子の投擲が終わって、ヤオ子は印を結んでいた。
 そして、ヤオ子が電柱を蹴った瞬間に、再びヤクト達はヤオ子の姿を見失う。
 巨大百足の首で爆発が起こると、ヤオ子は音もなくヤクト達の前に降り立った。


 「巨大百足は見つけ次第、駆除します。
  気付いたら教えてね♪」


 ヤクト達は、呆気に取られたまま頷いた。
 男の子がヤクトに話し掛ける。


 「お前のねーちゃん……。
  本当に下忍なのか?」

 「うん……。
  本人は、いつも未熟だって言ってる……」

 「私達……。
  下忍になれるのかな……」


 下忍にしては身体能力の高いヤオ子に、忍者の卵達は自分達の将来が不安になった。


 …


 移動しながらの巨大百足の駆除。
 ヤオ子は、あれから二体の巨大百足を葬っている。
 そして、それ以外は全力で弟達と逃げている。


 「お姉ちゃん。
  倒せる敵意外は無視なんだね……」

 「当たり前ですよ……。
  何が楽しくて、あんな得体の知れない巨大生物を相手にしなければいけないんですか……」

 「さっきの術じゃダメなの?」

 「あたし達、避難しているんですよ?
  何で、積極的に関わるんですか?」

 「だって、結構、楽に倒してたよ」

 「楽じゃないです。
  中忍さんと戦って、倒し方を知っているからです。
  ・
  ・
  それ以外の口寄せ動物には対応策がないんです。
  下手に怒らせてこっちに来たら、どうするんですか?」

 「う~ん……。
  お姉ちゃんが囮になって、ボク達が逃げる?」


 ヤオ子は憤慨する。


 「却下!
  あんた、何、恐ろしいことを言ってんですか!
  ドSに目覚めたの!?」

 「いや……。
  以前、サスケさんがいざとなったらって……」

 「あの人、碌なことを教えてないですね……」

 「お姉ちゃんは、木から落ちても傷つかない鉄女だから大丈夫だって」

 「鉄女!?
  何それ!?
  聞いたことないですよ!?」


 男の子と女の子は、ヤオ子とヤクトの会話を聞いてクスクスと笑っている。
 何だかんだで顔岩が近づいて来た。


 「もう、話さなくていいです……。
  この分じゃ、他にも何を吹き込まれているか……。
  あんまり、ゆっくりもしていられないし、急ぎましょう。
  ・
  ・
  ん?」

 「…………」


 全員が立ち止まり固まる。
 何か居る……。


 「これって……」

 「いぃぃぃやぁぁぁーーーっ!」


 女の子が叫んだ。


 「あの大人しい子が……。
  まあ、分からなくもないです。
  ヤクトも友人の男の子も絶句しています」


 そこには綱手の口寄せ動物・蛞蝓のカツユが居た。
 分裂して人数分四匹。
 普通の蛞蝓に比べて……まあ、分裂しても女の子なら絶叫するぐらいでかい。
 しかし、ヤオ子は、気にせずにカツユを掴む。


 「お久しぶりです」

 「こんにちは」


 蛞蝓とコミュニケーションを図る姉。
 余り見たくない光景である。


 「やっぱりさ……。
  ヤクトのねーちゃん、おかしいって……。
  蛞蝓掴んで話し掛けてるよ……」

 「でも、ボクの聞き間違いかな?
  蛞蝓も言葉を返したような……」

 「見間違いじゃない……。
  私も見た──いや、聞いた……。
  しかも、意外と可愛い声だった……」


 ヤオ子とカツユの会話は続く。


 「この前のお野菜は、どうでしたか?」

 「新鮮で美味しかったです」

 「そうですか。
  良かったです。
  実家は八百屋なのに、農家のおじさんに貰い過ぎちゃって。
  うちに差し入れするわけにもいかないし、
  一人じゃ食べきれないから、カツユさんがお野菜大好きで良かったです」

 「いえいえ。
  こちらこそ。
  今度、お礼しますよ」


 子供達が頭を悩ます。


 「異文化コミュニケーションも、ここまで来ると何も言えないね」

 「ヤクトのねーちゃんなら、
  もう、何でも有りなんじゃない?」

 「さっきまで尊敬できるところもあったのに……。
  その人が巨大蛞蝓を素手で掴んでる……」


 ヤオ子は顔を顰めて言い返す。


 「失礼ですねぇ。
  カツユさんは凄い方なんですよ。
  戦闘も出来るし、綱手さんのチャクラを通すことが出来て治癒も出来るんです」


 ヤオ子が残り三匹のカツユの分身も抱きかかえる。


 「可愛いでしょ?」

 「…………」

 「何て言えばいいんだ……」

 「可愛いのか?」

 「何でだろう?
  ヤクト君のお姉ちゃんが普通に持ってるから、
  段々、違和感がなくなって来た……」

 「撫でてみる?」


 子供達は顔を見合わせ、恐る恐るカツユを撫でる。


 「…………」

 「意外と平気だね」

 「「うん」」


 カツユに対する不信感が取り払われたところで、ヤオ子がカツユに質問する。


 「ところで。
  何のご用ですか?」

 「うっかりしていました。
  里に敵が侵入してます」

 「遭遇しました。
  ただし、口寄せ動物さんです。
  顔岩に向かおうとしたので……ご臨終して貰いました」

 「助かります。
  相手は、暁ですから」

 「「「「暁?」」」」

 「皆さん、下忍とアカデミーの方でしたね」

 「はい」

 「じゃあ、詳細を知らなくても仕方ありません」

 「知っているのは、アスマさんの時に聞いた噂ぐらいですね。
  ・
  ・
  強いんですか?」

 「はい。
  油断できません。
  里の忍にも犠牲者が多数出ています」

 (……拙いんじゃないかな?)


 ヤオ子は軽く手を上げる。


 「質問です。
  上忍の方もやられているんですか?」

 「はい」

 「…………」


 ヤオ子は状況を考えると呟く。


 「逃げるしかありませんね……」

 「「「え?」」」

 「戦わないの?」

 「戦えないの!」

 「私も、ヤオ子ちゃんに賛成です。
  下忍では役に立ちません」

 「…………」


 役に立たないと言われ、落ち込む子供達にヤオ子が説明する。


 「前に聞いたんですけどね。
  カツユさんの術って、綱手さんのチャクラを分配するんです。
  つまり、あたし達が居なければ、中忍さんや上忍さんに、より多くのチャクラを送れます。
  そして、綱手さんを助けることになります。
  ・
  ・
  これが、今のチームワークです」

 「…………」


 ヤオ子がカツユを地面に置く。


 「カツユさん、説明しに来てくれたんですよね?」

 「はい。
  それと里に残っている人間の確認です。
  里に残っている人間に私を付けてサポートします」

 「じゃあ、あたし達は、このまま顔岩へ行きます。
  ・
  ・
  皆、いいですか?」

 「「「うん……」」」


 ヤオ子は大きく息を吸う。


 「声が小さい!
  カツユさんにお礼!」

 「「「あ、ありがとうございました!」」」


 子供達に無理やり元気を出さすと、ヤオ子はしゃがみ込んでカツユに小声で話す。


 「あたしが、このまま子供達を顔岩まで連れて行きます」

 「はい」

 「カツユさんは、他の忍者さんにより多くのチャクラを」

 「ヤオ子ちゃん……。
  ありがとう」

 「綱手さん……。
  無理してるでしょ?」

 「多分……」

 「このまま真っ直ぐの道に……敵、居ませんよね?」

 「大丈夫です」

 「なら、平気です。
  カツユさん、頑張ってね」

 「ヤオ子ちゃんも気をつけて」


 カツユが煙と共に姿を消すと、ヤオ子が振り返る。


 「行きましょうか?」

 「何か惨めだ……」

 「走りながら、話しましょう」


 ヤオ子達は顔岩へと向かう。
 走る速度は、ヤクト達に合わせている。


 「ボク達……役立たずの足手まといなんだね」

 「あたしも含めてです」

 「何か嫌だな……」

 「オレも……」

 「私も……」

 「何で?」

 「役立たずだから……」

 「暗い……。
  ・
  ・
  でも、仕方なくないですか?」

 「そうなんだけど……」


 ヤオ子は、一息つくと口調を変える。


 「まあ、今日の敵は、運が良かったと見逃しましょう」

 「運?」

 「十年後のあたし達なら、フルボッコです」


 子供達が吹いた。


 「お姉ちゃん……。
  大胆だね……」


 他の二人が頷く。


 「だって、そういうことでしょ?」

 「……そうかな?」

 「そうです。
  十年後のあたしに出会ったなら、捕獲後にイビキさん仕込みの拷問術を駆使します。
  相手が美少年か女性なら……セクハラもしちゃうかも♪」


 再び、子供達が吹いた。


 「だって、そういうことでしょ?」

 「「「違うよ!」」」

 「そうなの?」

 「カッコよく、里を守るの!」

 「そのついでにセクハラを──」

 「「「するな!」」」


 男の子が溜息混じりに言葉を漏らす。


 「ダメだな……。
  ヤクトのねーちゃんには任せられない」

 「本当だよ!」

 「私達が守るしかないわ!
  敵からもヤクト君のお姉ちゃんからも!」

 「いつの間にか、あたしも敵に組み込まれましたね?」

 「「「当然!」」」

 「はは……。
  頼もしいです。
  期待していますよ」


 顔岩までは、あと少し。


 (それにしても……。
  随分、離されましたね。
  一向に避難した人達の最後尾に追いつかないなんて)


 ヤオ子は、木ノ葉の里の民間人も凄いなと思うのであった。



[13840] 第76話 ヤオ子の居場所・崩壊編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:05
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 顔岩の避難所へ走りながら、全員が気付く。


 「音が止んだ……」


 さっきからしていた戦闘による破壊音や爆発音が消えている。
 それは、あまりに不気味で異様だった。
 ヤクトが上空を指差す。


 「人が浮いてる!」


 空には短髪のオレンジの髪に赤い雲をモチーフにした外套を着た男が浮いていた。
 そして、そこを中心に何かが噴き上がった。



  第76話 ヤオ子の居場所・崩壊編



 ペイン・天道の神羅天征……。
 強力な斥力がペイン・天道を中心に外へ広がる。
 里にある建物全てを巻き込み瓦礫と変えて……。


 「拙い!」


 一瞬の判断。
 死に繋がる直感が思考のあらゆる工程を飛ばして行動に移す。
 ヤオ子の両手から強力なチャクラ吸着が子供達に伸び、強引に引き寄せると叫ぶ。


 「あたしにしっかり捕まって!」


 ヤクトがヤオ子の腰に捕まり、男の子は右足へ。
 そして、女の子は左足へ。
 前から迫り来る衝撃波に対抗するために影分身のヤオ子が前に出て印を結ぶ。
 続く、ヤオ子も遅れて印を結ぶ。


 「耐えられるんですか!?」


 神羅天征の衝撃波とぶつかる前に飛んでくる瓦礫が襲い来る。
 影分身のヤオ子が両手に盾も形成せずに両手を合わせて必殺技の相乗効果を引き出す。
 全てのチャクラを術に還元して、大爆発のパワーに回して自爆する。
 これにより、正面の巨大な瓦礫を粉砕した。

 続いて、本体のヤオ子が術を発動する。
 自分と子供達に当たる破片を減らすべく、右手、左手と順番に必殺技の爆発を起こす。


 (破片は、どうにかなった!?)


 そして、神羅天征の直撃が迫る。
 両手を突き出したまま、チャクラの盾で直接の接触を防ぐ。


 「お姉ちゃん!
  浮いてる!」

 (力が強過ぎる!
  足が浮いて来た!
  チャクラ吸着なんかじゃ耐えられない!)


 ヤオ子と子供達三人分の体重を楽々と吹き飛ばす力。
 この力を緩和するには、まだ足りない。


 「左足にしがみ付いて!」


 ヤオ子が男の子に叫ぶと、男の子は女の子と一緒にヤオ子の左足にしがみ付いた。
 ヤオ子が右足を蹴り上げる。
 まだ飛んで来る破片をガイに貰って装備した重りで弾く。


 「ガイ先生の重り!
  本当に役に立ちます!」


 空中で何処までも飛ばされながら、瓦礫を右足で蹴り飛ばし両手のチャクラの盾で子供達を守る。
 そして、全てが弾けて視界に光が広がった。


 …


 子供達が意識を取り戻す。
 体はあちこち痛いが、どれも大怪我に繋がる感じはしない。
 そして、必死にしがみ付いていた手を放し、視界に広がる里が目に入る。


 「こんなことって……」


 辺りに見慣れた木ノ葉の里はない。
 爆発で抉れた地面が何処までも続くだけだった。
 自然と目から涙が零れる。


 「何だよ…これ……。
  何なんだよ!」


 男の子が叫んだ。
 そして、男の子が説明を求めようとヤオ子に振り返る。


 「!!
  ヤクトのねーちゃん!」


 全員がヤオ子を見る。
 ヤオ子のもたれ掛かる壁に上から血が擦れて下に続いてた。
 ヤオ子は呼ばれて、ようやく意識を取り戻した。


 「皆……。
  大丈夫ですか……?」

 「ボク達なんかよりも……。
  お姉ちゃん!
  怪我してるよ!」

 「ああ……。
  背中で受け身を取ったから……」

 「背中って……」


 ヤクトが血の付いた瓦礫を見る。
 受け身なんて取れるような平らなものではない。
 何より、崩れた瓦礫が柔らかいわけもない。


 「ボク達を庇って……」

 「ねーちゃん……」

 「ヤクト君のお姉ちゃん……」

 「何て顔をしているんですか?
  皆、生きてるじゃないですか……」


 ヤオ子が膝に手を置き、無理に立ち上がる。


 「っ!」

 (背中が……。
  それにこの濡れた感覚……。
  明らかに血……。
  ・
  ・
  でも、何で、助かったんだろう……。
  あの衝撃は死んでもおかしくないのに……)


 ヤオ子は子供達に目を向けて気付く。


 「あたし達の前に…瓦礫がない……。
  どうして……。
  盾を形成しただけなのに……」


 女の子がヤオ子のミニスカートを引っ張る。


 「私、見たよ……。
  ヤクト君のお姉ちゃんの盾が変わったの」

 「盾が……変わった?」

 「うん。
  大きく広がった盾が噴水みたいになってた」

 「噴水か……。
  盾にチャクラを無理に注いだから、
  それで飛んで来た瓦礫が盾を滑って反れたんだ……。
  ・
  ・
  この形態変化……。
  先があったんですね……。
  ・
  ・
  じゃあ、背中が完全に潰れなかったのは……?
  思い出した……。
  カウンター対策用で修行していた必殺技の応用……。
  無意識に背中で盾を形成したんだ……。
  ・
  ・
  でも……。
  盾じゃクッションにならない……。
  発生させるならチャクラ吸着だったか……。
  いや、無理です……。
  ・
  ・
  ヒソカのバンジーガムじゃないんだから……」


 ヤオ子は、ふらりと眩暈を覚える。


 「治療しないと……」


 ヤオ子が振り返り、さっきまで寄り掛かっていた瓦礫を見る。


 (この出血量……。
  もたもたしてたら、失血死ですね)

 「お姉ちゃん……」


 ヤクトが心配して近づくと、ヤオ子は無理して笑って見せる。


 (ここでこの子達を放っといたら、一生負い目に思うでしょうね……。
  なら、ここで借りを返させておきましょう……。
  言葉もいつも通りに……弱気は伝染します)


 ヤオ子は深呼吸をすると、子供達に目を向ける。


 「皆……。
  今から、治療します。
  手伝ってくれますか?」

 「うん!」

 「オレも!」

 「私も!」


 ヤオ子は腰の後ろの道具入れから巻物を取り出す。
 そして、巻物を広げると印を結び、薬草と治療道具一式を口寄せした。


 「これを使います」


 子供達が頷く。
 ヤオ子は藍色のシャツを脱ぎ、胸と背中を覆っていたサラシを外す。
 ヤクトと男の子が目を逸らすのを見ると、ヤオ子は自分の胸に目を移す。


 (普段ならエロいネタの一つでもするんですが……。
  そんなことをしている余裕もないですね……)


 ヤオ子は外したサラシを胸に抱くと、女の子がヤクトと男の子に合図を送る。
 無事に変態の仲間入りすることがなくなってホッとするヤクト達。

 ヤオ子は質問する。


 「背中……どうなってますか?」

 「石とか刺さってる……」

 「まず、目に見えるものを抜いてください。
  その後、口寄せしたペットボトルの水で傷口を洗い流してください」


 ヤクトが、そっとヤオ子の背中に刺さる石に触れる。


 「っ!」

 「大丈夫?」

 「い、一気にお願いします。
  出血を止めないと死んじゃいます」


 ヤクトが決心して石を掴み、ゆっくりと引き抜く。
 その尋常ならぬ痛みに、ヤオ子は声を押し殺して我慢する。
 一方のヤクトも見ているだけで痛みが伝わりそうで、泣きそうになるが我慢する。
 そして、目に見える石は取り除かれた。


 「血は、まだ出てますか……?」

 「うん……」

 「当然か……。
  次に口寄せしたペットボトルの水で、傷口を洗い流してください」

 「し、しみるよ!?」

 「が、我慢します!」


 ヤオ子は痛いのを覚悟して歯を食い縛る。
 そして、一拍置いて、女の子がゆっくりと水を掛けていく。


 「~~~っ!!!」


 ただ水で流しただけでも、背中に広がる痛みは声を失わせる。
 やがて、血が流されて傷口が露出した。


 「こ、細かい石の排除をお願いします!」


 ヤオ子は涙目で脂汗を浮かべていた。
 そして、子供達がピンセットで目に付いた石や破片を全て取り除いてくれた。


 「少し楽になった……」

 「血も止まって来たよ」

 「そうですか……。
  次なんですけど……」

 「……やっぱり、これ?」


 男の子が液体の消毒薬を見せる。


 「はい……」

 「じゃあ、いくよ」


 男の子が背中に掛けようとすると、ヤオ子は振り返る。


 「ストップ!
  覚悟を決めさせてください!」


 ヤオ子は数回深呼吸を入れ、握っているサラシを更に強く握る。

 「お、お願いします」


 ヤオ子は歯を食い縛る。
 そして、ゆっくりと傷口に消毒液が掛けられた。


 「~~~っ!!!
  ~~~っ!!!
  ~~~っ!!!」


 女の子が脱脂綿で流れ落ちる消毒液を拭き取り、更に届かなかったところへと塗りつける。


 「~~~っ!!!
  ~~~っ!!!
  ~~~っ!!!
  ・
  ・
  あたし、お姉ちゃんだけど……泣いていい?」


 子供達が頷くと、ヤオ子は涙を流した。


 「次にガーゼを置いて薬草を……。
  薬草は口で噛んで吐き出して、ガーゼの上に」

 「何の薬草なの?」

 「前に猫さんを助けた時に使用した薬草です。
  効き目は抜群です。
  ・
  ・
  口に入れる前に歯磨いてうがいしてね」


 注文の多い患者に子供達は素直に従い、歯を磨きうがいをすると薬草を口に含んだ。


 「苦い!」

 「不味い!」

 「キツイ!」

 「「「ウリリリイイイィィィ!!!」」」

 (ジョジョ化?)


 ヤオ子の疑問を無視して、ヤオ子の背中に薬草が乗っかった。
 ヤオ子が新しいサラシを巻き直す頃、背中がポカポカしてきた。


 「治療完成です。
  皆、ありがとう」

 「よかった……」

 「死なないよな?」

 「死にませんよ」


 ヤオ子は微笑みながら、藍色のシャツに袖を通す。


 「今のは、忍のDランク任務並みでした。
  お見事でした」


 ヤオ子の評価に、子供達が笑い合う。


 「さて。
  幸か不幸か顔岩まで飛ばされましたね」


 ヤオ子の視線に、皆が顔岩を見上げる。


 「ここから別行動です」

 「「「え?」」」


 ヤオ子は薬草を口寄せする巻物を確認する。
 巻物には本来有るべき場所にあった忍字が消え、いくつか空白になっている箇所があった。


 (あたし以外にも使ってますね。
  サクラさんか?
  いのさんか?
  ・
  ・
  だけど、ストックは、まだまだありますね)


 ヤオ子が余った薬草と治療道具を巻物を使って元に戻し、それをヤクトに渡す。


 「アカデミーの子に頼んでいいか分かりませんが、
  頼まれてくれますか?」


 ヤオ子の真っ直ぐな目に、子供達が責任を理解して頷く。


 「今から、この巻物の中身を口寄せする印を教えます。
  きっと、木ノ葉病院も壊れて薬が足りていないはずです。
  まず、顔岩の隠し部屋に行ってください。
  そして、そこの医療忍者さんにこの巻物と印を渡してください」


 子供達が頷く。


 「あたしは人命救助します」

 「お姉ちゃんも救助される側でしょ!」

 「そうも言っていられません」


 ヤオ子が爆発の中心を指差す。


 「敵とナルトさんが戦いを始めています」


 ヤオ子の指差す方に、子供達が目を凝らす。


 「よく見えるね……」

 「人が居るのしか分からない……」

 「だらしないですね。
  あたしは反対側の壁の落書きまで見えますよ?」

 「「「ハァ!?」」」

 「『伊達監督!』って書いてあります」

 「…………」


 ヤオ子の覗きで培った変態能力……白眼要らず。


 「大丈夫なのかもしれない……」

 「心配するほどのことじゃないのかも……」

 「人間じゃないからって無理しないでね」

 「人間ですよ……」


 ヤオ子は気を取り直すと、両手と両足の重りを外す。
 怪我をして体力の落ちた今、両手両足の重りは完全な足枷にしかならなかった。
 外された重りのうち、右足の重りだけは瓦礫を蹴り砕いてへしゃげていた。


 「じゃあ、行動を開始しましょう」


 男の子がヤオ子に話し掛ける。


 「ねぇ!
  あれ、しよう!」

 「ん?」

 「ホラ!
  忍者の隊長が行動起こす時にやる『散!』ってヤツ!」

 「いいですね」

 「オレ、ヤクトのねーちゃんのノリのいいところが好きだ!」

 「ノリが良過ぎる気もするけど……」


 ヤオ子が笑顔で手をあげる。


 「じゃあ、行きますよ!
  ・
  ・
  散!」


 子供達は顔岩に走って行く。
 ヤオ子は、こんな時でも明るい子供達に笑顔を浮かべる。


 「えへへ……。
  やっぱり、この里の子はいいですね。
  皆が居れば、里は復活できる気がします。
  ・
  ・
  サスケさんとの約束……守れなかったな」


 ヤオ子が頭を掻く。


 「まあ、後で建て直して誤魔化すか……。
  久しぶりに戻って来るんだから、
  里の外観が変わっても不思議じゃないし。
  ・
  ・
  大事なのは、物じゃありません!
  人です!
  木ノ葉の人!
  あたし達が居ることが重要です!
  ここがあたしの居場所です!
  決して自分に言い聞かせているわけではありません!
  言い訳じゃ、ありませんよ!」

 「…………」


 ヤオ子は、暫し沈黙するとその場を後にした。



[13840] 第77話 ヤオ子の居場所・救助編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:05
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 背中の痛みを感じながらも、ヤオ子は里の外周を時計回りに走る。
 そして、タスケの回復が早かったのは、この薬草のお陰だと再認識する。


 「しかし、この薬草は動物用だったはず……。
  何で、あたしにこれほどの効果が?」


 人間も動物の仲間だからか?
 例によって、ヤオ子のエロパワーのせいか?


 「考えても分かりませんね」


 走りながら激しくなった戦いの音の方に、ヤオ子は目を移す。
 里の中心だった場所では、ナルトが仙人モードで口寄せ動物の蛙と共に戦っていた。


 「ナルトさん……。
  凄い……。
  ・
  ・
  皆、頑張ってるんだ!
  あたしも何かをしないと!」


 ヤオ子はナルトの戦う勇姿を見ながら走り続けた。



  第77話 ヤオ子の居場所・救助編



 ペイン・天道の神羅天征の被害は里全体に及んでいる。
 その攻撃で建物が全て瓦礫に変わり、多くの忍や一般の人々が埋まってしまっている。


 「感知系の忍が居ないと探索も出来ませんね」


 ヤオ子が辺りを確認しながら走っていると、瓦礫の近くで神羅天征で飛ばされたカツユの分身を見つけた。


 「カツユさん!」


 呼ばれたカツユがヤオ子に気付く。
 カツユはヤオ子が自分の元まで来ると話し掛けた。


 「無事でしたか。
  大事な時に離れてしまって……」

 「仕方ありません。
  あれは予想できませんでした。
  ・
  ・
  あたしもあたしと居た子達も、皆、無事です」

 「消毒液の臭いがしますけど?」

 「あたしも治療済みで……という意味です」

 「大丈夫なんですか?」

 「ええ。
  走って来たでしょ?」

 「そういえば……」


 しゃべり方もしっかりしていて、何より走ってきたヤオ子に、カツユは安堵した。
 ヤオ子が話を続ける。


 「カツユさん、お願いがあるんです」

 「何ですか?」

 「カツユさんは、里の皆に付いていたんですよね?」

 「はい」

 「瓦礫の下になった人は分かりませんか?
  救助に向かいます」

 「でも──」

 「危ないことじゃありません。
  敵は、ナルトさんがやっつけます。
  だったら、里の皆を助けるのは、あたし達の役目のはずです」

 「…………」


 カツユが少し考える。


 「そうかもしれませんね。
  戦闘でないなら、下忍も役に立ちます。
  ・
  ・
  では、あちらへ」


 カツユが方向を示す。


 「暗部の人が救出活動をしています」

 「ありがとう。
  一緒に行きますか?」

 「はい。
  残ったチャクラを治療に回したいんで」

 「では!」


 ヤオ子はカツユの分身を肩に乗せると、瓦礫を飛び移りながら移動した。


 …


 カツユの示した場所では、面をつけた暗部の忍が指揮を取っていた。
 ヤオ子は瓦礫の上から、暗部の忍の側に降り立った。


 「手伝います」

 「下忍か」

 「動けない人の分まで頑張らせて貰います」

 「今は、猫の手も借りたいとこだしな……。
  さっき、小隊を分けたところだ。
  君は、オレの隊に入れ」

 「分かりました。
  ・
  ・
  早速ですが、一ついいですか?」

 「何だ?」

 「忍具は足りていますか?」

 「撤去作業に必要な忍具が不足している。
  特に瓦礫を除去するのに必要な起爆札が……」

 「分かりました」


 ヤオ子は腰の後ろの道具入れから、二本目の巻物を取り出す。
 そして、印を結び、口寄せした。


 「手持ちの起爆札です」


 ヤオ子が暗部の忍に、口寄せした起爆札を渡す。


 「凄い数だな……。
  それに里が破壊されたのに、何処から?」

 「あたしの忍具は、里の外の森に隠してあるんです」

 「そういうことか……」

 「起爆札は、全部で四十六枚あります。
  隊を向かわせる前に必要な道具を教えてください。
  必要なものを持っているかもしれません」

 「助かる……」


 暗部の忍が里全体に散る前に一次召集かけると、ヤオ子の周りには他の忍達が集まり出した。


 『ワイヤーはあるか?』

 『ロープは?』

 『ツルハシは?』


 里が崩壊し、あるべきものがある場所になく、道具が揃えられない者がほとんどだった。
 各々救助に必要な物を一片に口走る。
 ヤオ子は注文の多さに対応しきれないと判断する。


 「少し離れてください。
  全部、呼び出します」


 ヤオ子は印を結ぶと、巻物の"全"と書いてあるところに手を置く。
 瞬間、煙と共に巻物の上に種類別にドッサリと忍具やその他の道具が現れた。


 「状況に合わせて持って行ってください」

 『おお!』

 『これだけあれば!』


 救助活動に必要な道具を各々手にすると、暫くして武器以外の物が姿を消した。
 暗部の忍が手をあげる。


 「準備は整ったな! 散!」


 救助隊が方々に散ると、暗部の忍がヤオ子に話し掛ける。


 「これで作業が加速するよ。
  随分と忍具を持っているんだな?」

 「全て敵から奪った悲しき遺産です」


 暗部の忍が吹いた。


 「お、面白い子だな……」

 「行きますか?」

 「そうだな。
  一人でも多くの仲間を助けないとな」


 暗部の忍とその部下に続いて、ヤオ子も救助活動を開始した。
 ヤオ子の班は、スリーマンセルの部隊になった。


 …


 木ノ葉の長い一日は終わらない。
 ナルトとペイン達の激しい戦いが行われる中、里の中では他の忍達も動いている。
 医療忍者、救助隊、更にこの機を狙って襲われるかもしれないと警戒にあたる者……。
 役割は、それぞれ多岐に渡るが誰も足を止めない。
 里は壊れても、火の意志は消えない……。

 ヤオ子は暗部の忍の指揮の下で救助者を探し出して行く。


 「影分身の術!」


 そして、救助者を影分身で仮施設に運ぶのが、ヤオ子の主な役目だった。


 「下忍のクセにいい術を持っているな」


 暗部の部下がヤオ子を褒める。


 「ナルトさんに教えて貰いました」

 「そうか……。
  ナルトは下の者の面倒も看ているんだな」

 「そうですね。
  そして、今は里を守ってくれています」


 ヤオ子は汗を拭うと、秘蔵の兵糧丸を取り出す。


 「残り三つか……。
  皆さん、食べますか?」

 「「いただこう」」


 ヤオ子達は兵糧丸を口に含む。
 すると、かなり消耗したチャクラが少しずつ回復する感じがした。
 ヤオ子は、更に増血丸も口に入れた。


 (ちょっと無理し過ぎましたかね……)


 背中の怪我で流した分の血を補給する。


 (もう、血が止まってるから大丈夫ですよね?)


 今まで使ったことがないから分からないため、出血している時に使うのは血が噴き出しそうで怖かったのだ。
 だけど、血の止まっている今なら問題ないと、ヤオ子は判断した。
 ヤオ子は、肩のカツユに話し掛ける。


 「救助者は、まだ残っているんですか?」

 「被害が甚大でしたから……。
  しかし、救出隊の忍達は各所に散っています。
  時間は掛かりますが、後は労力を掛けるだけです」

 「そうですか」

 「問題は、今回の被害は死者も多数出したことです。
  死者だけは生き返らせることが出来ません」

 「そうですね……」

 「だから、今は一人でも助け出さなければいけません」


 カツユの言葉に、その場の全員が頷く。


 「次に行こう。
  カツユ様、お願いします」

 「あっちです」


 カツユの指示で、ヤオ子達は次の救助場所へ移動することになった。


 …


 移動中、ヤオ子の背中を見た暗部の忍が話し掛ける。


 「君は、怪我をしていたのか?」

 「治療済みです。
  アカデミーに通う弟と友人に治療して貰いました」

 「もう、大丈夫なんだな?」

 「ええ。
  今のところ、傷が開いたりはしていません。
  痛みは残ってますけど……」

 「そうか……。
  ・
  ・
  しかし、そのシャツの破れ方──」

 「何か変ですか?」

 「ウチハの家紋みたいだ……」

 「…………」


 ヤオ子のシャツは、見ようによっては団扇の形に見えた。


 (サスケさん……)

 「ちょっと、立派過ぎますね。
  写輪眼も使えないし……」

 「いや、似合ってるよ」

 「そうですか?」


 ヤオ子が照れて笑ったその時、カツユが話し掛ける。


 「そろそろです」


 全員が速度を落とす。
 そして、見えてくるのは大きな瓦礫だった。


 「辺りに人影がないということは……。
  まさか……」

 「瓦礫の下です」

 「…………」


 三人が絶句する。
 瓦礫の大きさは、人の力で持ち上がるようなものではなかった。


 「あの……。
  起爆札は、何枚残ってますか?」

 「さっき、使い切った……」

 「これ影分身で増員しても持ち上がるか──」

 「「無理無理……」」


 部下が暗部の忍に話し掛ける。


 「何か粉砕する術は?
  ・
  ・
  オレは、風遁です……」

 「私は、雷遁系だ……」

 「あたしは、火遁……」

 「「「土遁があれば……」」」


 そう、土遁があれば瓦礫ごと地面を隆起させられる。
 しかし、使えないものは仕方がない。
 何とかならないかと、ヤオ子は巨大な瓦礫を見上げる。


 「石波天驚拳で粉砕できるかな?」

 「「ん?」」


 ヤオ子の声に暗部の忍と部下が振り返る。


 「あたしの持ち技に爆発系があるんですけどね。
  それで粉砕できるかも……しれない」

 「試してみるか……」

 「でも……。
  破壊が中途半端だと下に居る人が……」


 三人が考える。
 中途半端な威力ではなく、完全に瓦礫を吹き飛ばす威力の底上げが必要になる。
 ただし、上げる威力に上限はない。
 部下の忍が指を立てる。


 「オレの風遁で強化したら、どうだ?」

 「なるほど」

 「君の忍術は、爆発するんだよな?」

 「はい」


 暗部の忍も、何か思い付いたようだ。


 「要所ごとにクナイを刺す。
  そこにオレの雷遁を流して切れ味をあげる」

 「うんうん」

 「そうすると亀裂が入るので粉砕し易くなる」

 「つまり、三系統のコラボ忍術ですか?」

 「そうなるな」


 暗部の忍が件の瓦礫を見て回る。


 「三十二本は、クナイが欲しいな」

 「オレ、手持ち七本です」

 「私は、八本だ」

 「あたし、五十六本」


 ヤオ子以外がこけた。


 「何で……」

 「さっき、口寄せしたでしょ?」


 ヤオ子が、再び巻物を広げてクナイを呼び出した。


 「便利な子だな……」


 口寄せしたクナイを取ると、各々瓦礫にクナイを打ち付ける。
 雷遁の放電範囲を考えて暗部の忍の指示の下、距離は密に……。
 下準備が終わるとヤオ子が質問する。


 「皆さんのチャクラは?」

 「安心しろ」

 「大分、残っている」

 「分かりました。
  なら、安心です。
  威力不足の時のサポートをお願いします。
  ・
  ・
  では、いきます!」


 ヤオ子の肩から、カツユが降りる。
 暗部の忍が雷の性質変化を発生させると、広範囲でクナイに帯電していく。
 部下の忍が印を結び始める。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子がチャクラを練り上げ、印を結び、両手に必殺技を装填する。
 続いて強化したチャクラの盾を装填する。


 「流派ぁぁぁ!
  東方不敗がぁぁぁ!
  最終奥義ぃぃぃ!」


 前傾姿勢で両手を腰に置き、爆発の威力にも耐えれる姿勢を作る。


 「石波っ!」


 勢いよく両手を突き出し、足に強力なチャクラ吸着が発生させる。


 「天驚拳!」


 ヤオ子の両手で相乗効果の大爆発が起こると、このタイミングで部下の風遁の術が発動する。
 突風が爆発を後押しし、酸素を多く取り入れた大爆発は、更に勢いを増してクナイを叩きつける。
 風遁が火遁に変わることで、雷遁の妨げは発生しない。

 クナイがスパイクになり、瓦礫に亀裂を走らせる。
 止まらない爆発の威力は、皹入れた瓦礫を粉砕して吹き飛ばす。


 「「やった!」」


 ヤオ子は手に膝を突いて息を切らす。
 そして、ゆっくりと顔をあげた先では、手が見える。
 暗部の忍と部下が片手を上げていた。
 それが何を意味しているのか分かると、ヤオ子は笑顔で両手をあげてハイタッチした。



[13840] 第78話 ヤオ子の居場所・死守編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:06
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 コラボ忍術で粉砕した瓦礫の下から、ヤオ子達は重傷者の三人を救出する。
 ついでにヘロヘロのカツユの分身三体も救出された。

 暗部の忍がカツユに話し掛ける。


 「カツユ様……。
  治療をお願い出来ますか?」

 「治療出来るのは、ここまでですね。
  これでチャクラがなくなります。
  それも応急処置までです」

 「構いません。
  お願いします」


 ヤオ子はカツユと暗部の忍の会話を聞いて、全員が力を出し切ってしまったことを理解する。
 そして、それを聞いてしまって、言えないことがあった。



  第78話 ヤオ子の居場所・死守編



 カツユの応急処置のあと……。
 重傷者を運ぶのに担架が必要になった。
 ヤオ子のチャクラは、影分身を出せないぐらいに減っている。

 それも仕方がない。
 影分身を使える忍がヤオ子一人だったため、救助者が見つかる度にヤオ子の影分身が活躍した。
 また、怪我と必殺技の連発による疲弊も尾を引いている。

 そして、チャクラが少なくなったヤオ子を残して人手を集めることになった。
 皆が去った後で、ヤオ子は蹲る。


 「傷口が…開いた……」


 ヤオ子の背中のサラシに血が滲み始める。


 「ま、拙いですね……。
  カツユさんの治療を受けられなかった……。
  重傷者が優先だから、思わず押し黙っちゃいました……。
  体力が回復するまでチャクラも暫く練れません……。
  出血って体力そのものが流れ出るんですかね……」


 ヤオ子は一息つくと、自分よりも酷い状態の重傷者の体を確認し始める。


 「応急処置で出血を止めただけか……」


 ヤオ子は散乱する瓦礫から棒切れを拾い集めると、怪我人の折れた骨に添え木を当てていく。
 そして、そのうちの一人に添え木を当てた時、意識を取り戻して声を漏らした。


 「うっ……」

 「すいません。
  痛かったですか?」

 「た…助かったのか?」

 「はい。
  今、担架を取りに行ってます。
  もう少し待っていてくださいね」

 「ああ……」


 怪我をした彼が横を見る。


 「他に……。
  女の子も居なかったか?」

 「いいえ。
  ここには皆さんしか……。
  カツユさんが付いていたのは、皆さんだけです」

 「それでか……。
  一般人だと思うんだ。
  近くに居た……。
  探してくれないか?」

 「構いませんけど……。
  他の方が到着したら困ります」

 「オレが伝える……。
  戻るまで十分かそこらだろう?
  それぐらいは意識を保つから……」


 ヤオ子が悩んでいると、里の外で大きな音がする。
 巨大な岩の塊が浮いている。
 ペイン・天道の地爆天星が発動していた。


 「万が一も、まだあるってことですか……。
  ・
  ・
  分かりました。
  位置は?」

 「東……。
  東に二百メートルぐらいのところに居た」

 「そこで爆発が起きたんですね?」

 「ああ……」


 ヤオ子が辺りを確認する。


 「顔岩の近くだったんですか……。
  ここから、東に二百メートル……。
  ・
  ・
  一人で巻き込まれたんなら……」


 もう……女の子は、既に死んでいるかもしれない。
 ヤオ子が首を振る。


 「諦めない……。
  これが今の最善です!」


 ヤオ子は目撃された女の子の探索へと歩き出した。


 …


 距離は僅か200メートル。
 ヤオ子は目的の場所付近で足を止め、辺りを見回す。
 目視では、何も分からない。


 「誰か居ませんかーっ!」


 瓦礫だらけの場所で、ヤオ子の声だけが響く。


 「分からない……。
  爆発が中心で起きて外に押し出された……。
  だったら、壁際の瓦礫じゃないでしょうか?」


 ヤオ子が外側に向けて歩き出したその時、瓦礫が崩れる音がする。
 ヤオ子は崩れた瓦礫の方へ顔を向ける。


 「こっち?
  何もないのに……」


 一見すると瓦礫が積み重なっているようにしか見えない。
 しかし、注意深く見ると、瓦礫には所々隙間がある。
 ヤオ子は大きな隙間のある崩れた瓦礫の下を覗く。


 「誰か居ますか?」

 「…~っ……」

 「何か聞こえる……」


 ヤオ子は瓦礫の隙間をしゃがんで確認する。


 「匍匐前進(ほふくぜんしん)なら、進めるかな?)


 両手両足を地面につけて、ヤオ子は瓦礫の隙間を進んで行く。


 「奥に続いてる……。
  這い蹲って行けますね」


 ヤオ子は瓦礫の隙間を奥へ奥へとに進んで行く。
 そして、突然、足元の瓦礫が崩れた。


 「ちょっと!」


 瓦礫が雪崩のように滑り落ち、ヤオ子はかなり下までずり落ちた。


 「っ~……。
  瓦礫の下にこんな空間が……。
  そっか……。
  大分、積み上げられていたんですね」


 瓦礫で出来た空間は、ヤオ子が落ちて来たせいで塵が舞い少し埃っぽい。
 そして、塵が全て舞い落ちて視界が広がると、ここが少し大きな空間であるのが分かった。
 ヤオ子が、立って歩ける空間を進む。
 しかし、広いと言っても瓦礫で作られた空間。
 歩いて直ぐに終点に着いた。


 「行き止まり……。
  戻るしかないか……」

 「…ん……」


 僅かに聞こえた声に、ヤオ子は振り返る。
 そして、辺りを見回し、音の出所を探す。


 「…ん……」

 「ここ!」


 ヤオ子が声のした地面に顔を擦りつける。


 「この穴からです」


 前方にギリギリ通れそうな穴が、別の空間へ続いていた。


 「途中で崩れたりしないかな?
  ・
  ・
  チャクラ……回復しててくださいよ。
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ギリギリの体力から搾り出すチャクラを使用して、ヤオ子が印を結ぶ。


 「変化!」


 変化の術を使用出来るチャクラは回復していたようだ。
 例によって猫に変化し、ヤオ子は猫の姿で穴を通り抜ける。


 「居た!」


 狭い空間で変化を解くとヤオ子は発見した女の子に駆け寄り、そっとおでこを撫でる。
 女の子の目がゆっくりと開くと、女の子は少し微笑んで完全に気絶してしまった。


 「何で!?」


 女の子は安心して気が抜けてしまったのだ。


 「仕方ない……。
  怪我がないか確認するか」


 ヤオ子は女の子の体を調べる。
 外傷のないのを確認し、骨などに異常がないかを確認する。


 「見たり触ったりした感じは問題ないですね。
  ・
  ・
  問題は、この子を連れて行けないってことです。
  この子、変化の術なんて使えないよね?」


 ヤオ子が腕組みして考える。


 「ここに居ても仕方ないし、一度出て応援を呼びましょう」


 そして、反転しようとした時、地響きがする。


 「また!? 脆くなってたの!?」


 外では地爆天星で作った巨大な岩の塊が崩れて落下していた。
 その振動がヤオ子の潜った瓦礫の下にも届いていた。
 瓦礫が崩れ始める。


 「あ~! もう!」


 ヤオ子は女の子の元に戻ると覆い被さった。


 …


 ヤオ子と女の子に瓦礫が崩れ降り注いだ。
 ヤオ子の前後左右どころか上下でも音がして揺れている。
 そして、決定的な音が入り口でした。


 「…………」


 ヤオ子は、ゆっくり目を開ける。


 「セ~フ……」


 押し潰されなかったことに、ヤオ子は安堵の息を吐いた。
 瓦礫は、ヤオ子と女の子に僅かな空間を残してくれた。


 「しかし、完璧に動けないですね。
  空気もいつまで持つか……。
  ・
  ・
  あ。
  空気は流れてる……」


 窒息死だけはなくなった。
 ヤオ子は、周りを確認する。
 ヤオ子の後ろの瓦礫が抱える女の子の後ろで大きな瓦礫に寄り掛かる形で空間を作っている。


 「拙い……。
  感知タイプの忍が見つけてくれるまで動けない……。
  それに、瓦礫に振動が伝わって倒れたら二人とも潰される……」


 ヤオ子は狭い空間でゴソゴソと動いて腰の後ろの道具入れに手を伸ばす。
 しかし、そこに異変がある。


 「裂けてる……」


 慌てて残りの忍具を確認する。


 「クナイが三本……。
  口寄せする巻物がない!
  ・
  ・
  ホルスターは!?」


 右足には何もない。


 「嘘!?
  いつ落としたの!?」


 ヤオ子は、女の子に覆い被さる時に走った右足の何かが切れる感覚を思い出す。


 「あれか……」


 幸いにも、左足にはホルスターが付いてる。


 「クナイが更に三本……。
  手裏剣四枚……。
  ・
  ・
  食べ物はなし……。
  水もない……」


 ヤオ子は溜息を吐く。
 現在の状態は、右手を下に横になって女の子と向かい合っている状態である。
 自由に動くのは左手のみ……。
 持ち物は、クナイ六本に手裏剣四枚。


 「ここで出来ることがあるとすれば……」


 ヤオ子は左手にクナイを持って、女の子の後ろに刃が当たらない方向で突き刺した。


 「後ろの壁が倒れた時に、
  この子が潰れないようにクナイでつっかえ棒を作るのみですね」


 女の子の後ろにクナイを全て突き刺して立て、手裏剣は少しでも役に立つように現在の瓦礫の根元付近につっかえ棒として固定した。


 「これで、やれることは終わりです。
  あとは、運を天に任せるのみ」


 ヤオ子は息をゆっくり吐いて、気が抜けた。


 「うっ!」


 その瞬間、忘れていた背中の傷の痛みが走った。


 「アドレナリンでも出ていたんですかね……。
  薬の効果も薄れて来たのかも……。
  ・
  ・
  開いた傷の血が止まらない……」


 背中が濡れているのが、横になっているだけでもはっきり分かる。


 「発見が先か……。
  失血死が先か……。
  ・
  ・
  もちろん、血が止まるという選択肢もありますけどね」


 ヤオ子は自分の腕の中で寝息を立てる女の子に目が行く。


 「寝息のリズムに釣られそうです……」


 いつしかヤオ子も眠りの中に落ちていった。


 …


 ヤオ子が目を覚ます。
 力が抜けて、体はぐったりと重い。
 背中の血は止まっているようだが、大分流れ出たようだ。
 思考力が低下している。

 ヤオ子は女の子の手が自分の腰にあるのに気付くと、それをそっと地面に置く。


 「倒れて来た瓦礫に挟まれるのは、あたしだけでいいです」


 思考力の低下した頭で、死を意識する。
 それでも、何故か目の前の女の子を守らなきゃと思う。


 (あたしって、自虐的なMだったんですかね……。
  ・
  ・
  喉渇いたな……。
  この子に水分を補給させてあげたいな……。
  水遁が使えれば……)


 混濁する意識の中で振動を感じる。


 (……ついに頭もおかしくなりましたか?)


 それは勘違いではなかった。
 ペイン達を操った暁のメンバー長門との決着をつけたナルトに駆け寄る足音だった。
 しかし、人々は知らなかった。
 彼等の足元にヤオ子と女の子が横たわっていることを。
 幾人もの足がヤオ子達を踏みつけていく。
 その振動でついに瓦礫のバランスが崩れた。


 …


 外での歓声とは裏腹にヤオ子は、息が切れる寸前だった。
 最悪の予想通りのことが起きた。
 バランスの崩れた瓦礫が、女の子とヤオ子に倒れたのだ。

 ヤオ子の最後の抵抗のクナイに支えられ、僅か数センチの差で女の子には、瓦礫は触れていない。
 しかし、クナイのない反対側でつっかえ棒になっているのはヤオ子の体だった。
 肩、腰、足に容赦なく瓦礫は覆い被さる。


 (っ……。
  痛い……。
  重い……。
  ・
  ・
  左足が……完璧に板ばさみになってる)


 ヤオ子が左足の指に力を込めると、指は、反応を返す。


 (神経は繋がっていますね……。
  痛みが返るんだから当たり前か……。
  でも、骨に皹ぐらいは入ってますね……きっと。
  ・
  ・
  あ……。
  折角、止まった背中の血が……)


 背中の血が再び流れ出す。


 (拙いですね……。
  痛いし…重いし…血は出てるし……。
  死ねば楽になるかもしれないけど、死ねないし……。
  あたしが死んだら、この子を瓦礫が押し潰す……。
  今、瓦礫のバランスを取っているのは、あたしなんだから……)


 痛みと重さと気を失わないように、ヤオ子は耐え続けた。
 そして、救助の来ないまま二時間が過ぎようとしていた。


 …


 夜が近づき、帳が降りる……。
 気温が下がってくると女の子が震えだした。


 (まだ……。
  助けが来ない……)


 ヤオ子が無理に左手の掌を女の子の胸に置くと、チャクラを練り始める。
 微弱に流したチャクラを掌だけに集中する。


 (温かいものを想像して……。
  熱過ぎるのはダメ……)


 ヤオ子が人の温もりを思い出す。
 しがみ付いて感じた温かい思い出……。
 最後にしがみ付いた……。


 (ふふ……。
  あの時は、最後に鼻水つけちゃいましたね……。
  でも、温かかった……)


 ヤオ子が掌のチャクラを火の性質に変える。
 温度は、人肌……。
 女の子の震えが止まる。


 (早く……)


 残りのチャクラを僅かずつ消費しながら、ヤオ子は女の子を温める。


 (目が霞んで来た……。
  どうせ使えないなら……)


 ヤオ子は目を閉じる。


 (視力か……。
  今度は、何の感覚がなくなるのかな……)


 思考が薄れて意識がなくなり掛ける中で、ヤオ子の頭に色んな人の顔が浮かぶ。


 (ヤマト先生……。
  イビキさん……。
  守れる側にはなれないみたいです……)


 今度は、女の子に触れている感覚が消えていく。


 (ヤクト達……。
  大丈夫かな……。
  ・
  ・
  サスケさん……。
  約束守れない……。
  待つことも出来ない……。
  ・
  ・
  ごめんね……。
  でも、木ノ葉の火種は残すから……。
  この子は、意識がなくなっても守るから……)


 意識が途切れる。


 (…………)


 ヤオ子は、何も分からないままチャクラを練り続けた。
 そして、今度は永い眠りにゆっくり落ちようとしていた。



[13840] 第79話 ヤオ子がいない①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:06
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 外壁以外破壊しつくされた木ノ葉隠れの里に、カカシに背負われてナルトが帰還する。
 長門の術・外道輪廻転生の術で生き返った人々が、破壊された里の真ん中で里を救った英雄に歓声を上げる。
 全てが万事解決で終わったかのように見えた。
 だけど、すれ違いも起きていた。
 長門の術が終わった後で力尽きた者……。
 ヤオ子には、術の恩恵が与えられない。



  第79話 ヤオ子がいない①



 最初に異変に気付いたのは、弟のヤクトだった。
 この歓声の中に、あの姉の声が一切しない。
 歓声に沸く人混みの中を姉を探して走る。
 そして、ヤオ子の信頼を置く人物を見つける。


 「イビキさん!」


 その声に、イビキがヤクトを見る。


 「確か……。
  ヤオ子の弟の……」

 「お姉ちゃんを知りませんか!?」

 「ヤオ子?
  見ていないが……」

 「おかしい……」

 「見つからないのか?」

 「はい……。
  こういうところに、お姉ちゃんが居ないのは変なんです!」

 「確かに……。
  あの明るいヤオ子の声が聞こえないというのは……。
  少し聞いてみよう」


 ヤクトを連れ、イビキが顔岩近くに設置された情報部の情報を確認する。
 そこにはヤオ子の行動がしっかりと残されていた。
 顔岩でのヤクトを通じた薬草と医療道具と水の提供。
 そして、ヤオ子は、ヤクトと別れてから救助活動に参加していたことが明らかになる。
 そこで救助隊に救助活動に必要な道具も提供している。


 (相変わらず用意周到な子だな……。
  あの任務以来、拍車が掛かったようだ)


 そして、ヤオ子は救助活動に入る。
 ヤオ子の影分身が仮施設に何度も顔を出しているのを確認している。


 「君のお姉さんは、救助活動に参加していたみたいだ。
  怪我人を運んで来た際のサインが残っている」


 イビキが、その時のリストをヤクトに見せる。


 「本当だ……」


 ヤクトもリストに残る、ヤオ子の筆跡を確認した。
 イビキは、その時の隊長だった暗部の忍を見つけると事情を聞く。


 「途中まで一緒だった。
  巨大な瓦礫を退かして重傷者を救出したんだ」

 「そうか……」

 「その後、重傷者の言葉からヤオ子に応援が出ているはずだが……」

 「その後があるのか?」


 イビキが情報を整理し、リストを再確認する。


 「そこで情報が切れている。
  誰も応援に行っていない……」

 「じゃあ、お姉ちゃんは?」

 「まだ、その近辺に居るのかもしれない」

 「ボク、行きます!」


 直ぐにでも走り出そうとしたヤクトの肩をイビキが掴む。


 「待て!
  感知タイプの忍も必要だ!」


 ヤクトは焦り過ぎていたことを認識する。
 そして、心配で堪らないのを我慢して声を絞り出す。


 「分かりました……」


 イビキは『大丈夫だ』と安心させるようにヤクトの頭を力強く撫でる。
 暫くすると、日向一族の忍が協力してくれることになった。


 …


 ヤオ子の捜索を始めるための捜索隊が結成される。
 イビキは情報部隊の指揮を執らなければならず、参加できない。
 それでも、万が一を考えて無理して一人医療忍者を加わえてくれた。
 捜索隊は、ヤクト、日向一族の忍、医療忍者の三人で構成されることになった。


 「イビキさん。
  ありがとう」

 「すまない。
  オレ達の情報ミスでもある」

 「誰も責めれないです……。
  特にお姉ちゃんが馬鹿してる可能性も高いから……」

 「そ、そうか……」

 (さすが姉弟だ……。
  ヤオ子の行動パターンを熟知しているな……)

 「ま、待って!」


 声の方向に皆が振り返ると、ヤマトが息を切らして立っていた。


 「どうしたんだ?」

 「どうしたじゃありませんよ……。
  任務の途中でナルトの九尾の反応があって、
  急いで戻って来たら、里は壊滅されているのに歓声があがってて……。
  何か全てが終わってて……。
  ・
  ・
  このまま終わったら、ボクが戻って来た意味が分からない……」

 (ヤマトって、そういう扱い多い気がするな……)

 「じゃあ、手伝ってくれるんですか?」

 「ああ。
  任せて!」


 捜索隊には、ヤマトも加わることになった。


 …


 ヤオ子の捜索が始まる。
 場所は、ヤオ子が女の子を捜索したと思われる場所。
 早速、日向一族の忍が印を結んで白眼を使う。


 「居ないな……」


 白眼で360度確認するが、ヤオ子の姿どころか人の姿一人確認できない。


 「やっぱり居ない……」


 ヤクトが腕を組んで考える。


 「有り得ない」

 「何で?」


 ヤマトは、直ぐに質問した。


 「お姉ちゃんって、変に完璧主義者なんです」

 「何となく分かる……」

 「だから、女の子が見つからない限り、ここに居るはずなんです」

 「しかし、何で、姿がないんだろう?
  それどころか形跡すら残っていない」

 「空かも?」

 「まさか……」


 皆が上を見る。


 「じゃあ、地面かな?」

 「まさか……。
  ヤクト君……。
  適当なことを言ってない?」

 「真剣ですよ……。
  お姉ちゃん、いつも斜め上の行動をするから」

 (家族間でも、そういう認識されてんだ……)


 しかし、日向一族の口から驚きの声があがる。


 「本当に地面に居たーっ!」

 「嘘!?」

 「やっぱり……」


 全員が日向一族の忍の周りに集まる。


 「どんな様子ですか?」

 「拙い……。
  子供を庇って瓦礫に押し潰されてる」

 「!」


 全員に緊張が走った。


 「ボクの木遁忍術で救出します。
  詳しい情報をください」


 日向一族の忍が白紙の巻物と筆を取り出すと、図にヤオ子と女の子、そして、瓦礫の状況を描き出した。


 「このクナイは、何なんですか?」


 医療忍者が女の子の後ろのクナイを指差して質問する。


 「まただ……。
  お姉ちゃんは、また庇ったんだ……」

 「庇う?」


 皆が図に目を向けると、ヤクトが指差す。


 「このクナイと自分の体で、倒れる瓦礫から女の子を庇ってんだよ。
  お姉ちゃん……。
  よく虐められたボクを庇ってくれた……。
  こういう時、いつも体を張るんだ……」

 「……分かった。
  早く助けよう」


 日向一族の指示の元、ヤマトが木遁忍術を使う。


 「木遁・四柱牢の術!」


 ヤマトの木遁忍術が瓦礫ごとヤオ子と女の子を木製の牢の中に囲み、ヤオ子に覆い被さっていた瓦礫を押し退ける。
 そして、地下から木製の牢がヤクト達の前に姿を現した。


 「お姉ちゃん!」


 木製の牢の扉からヤクトが中に入り、ヤオ子に近づくと肩を掴む。


 「あ……。
  冷たい……」

 「退いて!」


 医療忍者がヤオ子に触れると、胸に耳をつける。
 冷たくなっているのは曝されている肌だけで、心臓は動いている。


 「まだ、間に合う!
  応援を呼んでください!」

 「オレが行く!」


 日向一族の忍が走り、ヤマトが木遁忍術を更に行使する。


 「木遁・四柱家の術!」


 介抱する場所のない場所に木遁の家を出現させると、ヤマトは女の子の方を抱きかかえる。


 「こちらに!」


 医療忍者はヤオ子を抱きかかえ、ヤマト達はヤオ子と女の子を木遁の家へ運び込んだ。


 …


 ヤオ子に対して医療忍者が医療忍術を掛けるが、一向にヤオ子の顔には生気が戻らない。


 「何をしたんだ!?
  この子は!?」


 心配になったヤクトが、ヤオ子の左手を取る。


 「左手だけ温かい……」


 ヤクトが日向一族の忍が残していった図を広げる。
 図のヤオ子の左手は、女の子の胸にある。
 ヤクトが静かな寝息を立てる女の子の胸を触る。


 「おじさん……。
  お姉ちゃんは、この子にチャクラを当て続けていたんだよ。
  お姉ちゃんの左手とこの子の胸が温かい……」


 ヤクトは医療忍者の前に図を差し出した。
 図を見ると、医療忍者は声を荒げる。


 「何て無茶をするんだ!
  自分は瓦礫の下敷きになって!
  それでもチャクラを使い続けるなんて!
  ・
  ・
  力を使い切った証だ!
  この子の髪は!」


 ヤオ子の髪は、全て白髪に変わっていた。
 ヤマトは部屋の中で火を熾しながらヤオ子を見る。


 (ずっと、気にしていたからな……。
  だから、こんなに一生懸命になって……)


 ヤマトは火を熾し終わると女の子の様子を見る。


 「この女の子は、大丈夫そうですね」

 「当然だ!
  この子が命を懸けて頑張ったんだから!」


 医療忍者は、叫びながら必死に医療忍術を掛け続ける。
 そして、応援が駆けつける。
 治療をしていた医療忍者が、応援に来た医療忍者の忍達に指示を出す。


 「直ぐに点滴を!
  あと、左足と左側の腰と左肩を!」


 ヤオ子の治療が続く。
 点滴が行なわれるとヤオ子に少し赤みが戻って来た。


 「う……」


 ヤオ子が手を伸ばす。
 そして、戻った体力でチャクラを生成し始めた。


 「何をしてるんだ?」


 ヤオ子の手は、何かを探す。


 「うう……。
  ・
  ・
  あぁぁぁ!」


 ヤマトが予想を口にする。


 「女の子を捜しているんじゃないですか?」


 ヤオ子の手は女の子を求めて彷徨う。
 そのヤオ子の手をヤクトが握る。


 「……大丈夫だよ。
  心配しなくても、もう、こんなに温かいよ」

 「…………」


 ヤオ子の手は彷徨うのをやめ、チャクラを練るのもやめる。
 ヤクトがヤオ子の手を下ろすと、ヤオ子は安心したように静かな寝息を立て始めた。


 「とりあえず、ここまでだ。
  そして、絶対安静!
  ・
  ・
  他の患部は?」

 「肩は、骨に皹が入っています。
  腰は、打撲のみ。
  足は、大きく皹が入っているようです。
  どちらにしても、医療忍術で細胞を活性化させるには体力を回復してからでないと……」

 「生命維持までだな……」


 ヤクトがヤマトに質問する。


 「結局、お姉ちゃんは?」

 「時間を掛けて療養だ。
  大丈夫だよ」


 ヤクトが大きく息を吐くと、医療忍者にお礼を言う。


 「……ありがとうございます」

 「どういたしまして。
  ・
  ・
  しかし、問題もあるんだ……」

 「問題?」

 「病院が吹っ飛んでしまった……。
  お姉さんをゆっくり休ませられない」

 「……それは問題ですね」


 ヤクトが上を見て右を見て左を見る。


 「ヤマトさんに作って貰えば、いいんじゃないの?」

 「…………」


 医療忍者二人が顔を見合う。


 「「それだ!」」


 医療忍者の二人はキュピーンと捕食者の目でヤマトを見た。


 「何か…嫌な予感……」


 これがきっかけで、ヤマトは、この後、家作りの強制労働をさせられたとかさせられなかったとか……。



[13840] 第80話 ヤオ子がいない②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:07
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 少し冷たくなった風が少女の白い髪を吹き上げる。
 少し見せたおでこに優しく手が乗っかる。
 少女の母親と父親は、複雑な顔をした。

 褒めてあげればいいのか?
 叱らなければいけないのか?

 何よりも命の危険を冒した結果が自分達によく似ていた。
 女の子を庇って倒れた娘……。
 そして、母を庇って倒れた父……。



  第80話 ヤオ子がいない②



 ヤオ子を治療してくれた医療忍者が検診に訪れると、仮施設の布団の上で横たわるヤオ子の診察をする。


 「若いっていうのは驚かされますね」


 医療忍者がヤオ子の両親に話し掛ける。


 「順調なんですか?」

 「ええ。
  ・
  ・
  峠を越えてからは信じられないぐらい。
  背中の傷も足の皹も肩の皹も完治しています。
  ……異常なぐらいです」


 母親が微笑む。


 「理由があるんです」

 「え?」

 「寝ている間も、ずっと話し掛けていました。
  ヤオ子は、それに反応するみたいに元気に……」

 「そんなことが……。
  でも、意識のない人に好きな匂いを嗅がせると反応したり、
  実は、会話を聞いていたということがあります。
  そして、それが患者に活力を与えることもあります」

 「ええ。
  きっと、そうです。
  ・
  ・
  この本を音読しています」

 「本ですか」


 母親の手には『イチャイチャタクティクス』。
 そして、本を開くとヤオ子に語り掛ける。


 「主人公は、Pi─────に
  Pi──────────をして
  訝しがるヒロインにPi─────をした」

 「そんな話し掛ける医療があるか!」

 「あら?
  おかしい?」

 「おかしいです!
  そんな下品な本を延々と娘に読み聞かせてたんですか!?」


 ヤオ子の母親はパタパタと手を振る。


 「嫌ですね~。
  これは娘の所有物ですよ。
  しかも、中々の傑作」


 医療忍者は、激しく項垂れる。


 (この人、頭がおかしいよ……。
  それを聞いて回復が早まる娘もおかしいよ……)


 項垂れる医療忍者に父親が語り掛ける。


 「娘は意識が戻らないようですが、
  頭には、異常はなかったんですよね?」

 (ほっ……。
  父親は、まともそうだ……)

 「はい。
  情報部の忍の方に記憶まで見て貰いましたが、
  特に異常はありませんでした」


 ヤオ子の父親が腕組みをして言葉を漏らす。


 「なら、何で、この馬鹿は起きないんだ?
  言ってやりたいことが山ほどあるのに……」

 「長い眠りではないと思います。
  ・
  ・
  気長に──」

 「待てるか!
  ・
  ・
  オレは短気なんだ!
  今、言わないと忘れっちまう!」

 (それは短気じゃなくて……。
  馬鹿なんじゃ……。
  父親の方は馬鹿なのか?)

 「お父さんの言う通りね」

 (母親もなのか?)


 医療忍者は苦悶の表情を受かべたあと、誤魔化すように苦笑いを浮かべながら指を立てる。


 「で、では……。
  起きた時に伝えられるように手紙でも書いては……」


 医療忍者の言葉に両親は顔を見合わせ、手をポンと打つ。


 「いい考えですなぁ」

 「本当」

 「しかし、出だしは何て書こうか……」

 「果たし状よ……確か」

 「そうか!」

 「ご両親! 違います!」


 病室には、何とも言えない空気が漂っていた。


 …


 二日後……。
 ヤオ子のお見舞いにかなりの人数が集まった。
 両親、弟、ヤマト、イビキ、ガイ、カカシ……。
 ヤオ子と関わりの深い忍と班を代表して担当上忍と元担当上忍が顔を揃える。
 ちなみに、紅は妊娠中のため、欠席。
 シズネは綱手についている。

 集まった忍達と両親の挨拶。
 両親の危なっかしい容態の説明。
 それが終わって、ようやく一息つく。


 「娘のために、すいません。
  わざわざ足を運ばせてしまって」


 父親が改めて頭を下げる。


 「いつも迷惑を掛けているようで」


 母親も頭を下げる。
 しかし、他の忍達は気が抜けない。


 ((((これがヤオ子の両親か……))))


 まず、第一印象。
 父親は思ったより馬鹿じゃなさそうだ。
 母親は年齢詐称してんじゃないか?


 ((((綱手様と同じ術でも使えるのか?))))


 ある意味、伝説の生物が目の前に居る。
 里を混沌に陥れた生き証人が……。


 ((((見た目じゃ分からない……))))


 その後、他愛のない談笑の中で少しずつ花開く真実。


 「実は、うちの店の経営は、ほぼヤオ子がやっているんですよ」

 ((((ダメな親達だ……))))

 ・
 ・

 「私の料理で、何回、ヤオ子が死に掛けたか……」

 ((((日々、サバイバルか!))))

 ・
 ・

 「お姉ちゃんが仕返しに行った次の日……。
  いじめっ子の両親の会社が潰れたんだ」

 ((((何をした!? ヤオ子!?))))

 ・
 ・

 「私も、尾行するクセがありまして……」

 ((((それ知ってます……))))

 ・
 ・

 「人数が多くて暑苦しい……」

 (((((((病室に鮨詰め状態だから……)))))))

 ・
 ・


 ヤオ子は窓を開けて深呼吸していた。


 「…………」


 全員の視線が窓に移る。


 「「「「「「「ヤオ子!?」」」」」」」

 「ん?」


 ヤオ子は振り返ると、ぶっきら棒に言い放つ。


 「大人がぞろぞろと集まって気持ち悪い……」


 父親のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「折角、お見舞いに来て下さったのに!
  何だ! その言い方は!」

 「アァ!?
  知らないですよ!
  ・
  ・
  だったら、見舞い品は!?
  菓子折りの一つでも持ってきたんでしょうね!?」


 母親のグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「ねだらない!」

 「あんたの料理が食えないんだから、
  少しぐらいねだるのは自然の摂理ですよ!」


 ヤクトのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「今のは、何で!?」

 「ボク、心配したんだからね!」


 ヤオ子にヤクトが抱きついた。
 ヤオ子は首を傾げながら頬をチョコチョコと掻く。


 「心配?」


 記憶は、まだ正常に働いていなかった。


 「…………」


 ヤオ子は窓の外をもう一度確認すると、そこには破壊された里が広がっていた。


 「そうだ……。
  里が襲われたんだ……」


 ヤオ子が振り返る。


 「雁首揃える余裕があるってことは、敵は倒されたんですか?」


 ヤオ子の質問にカカシが答える。


 「ああ。
  ナルトが倒してくれた……」

 「そうですか……」


 ヤオ子は安心して息を吐くと、今度は弟を抱く体温が一緒に居た子を思い出させた。


 「あたしの……。
  あたしの側に居た女の子は?」

 「無事だよ」


 今度は、ヤマトが答えてくれた。


 「一件落着ですね」

 「いいや……」


 ガイが吼える。


 「何で、一人で無茶をしたんだ!」

 「え~と……」

 (頭が、まだ働かない……。
  いいわけが思いつかない……)

 「すいません……」

 「でも、お前って奴は!
  青春しやがってーっ!」


 ガイの暑苦しい抱擁。


 (分からない……。
  怒ってんの?
  褒めてんの?)


 ヤオ子は視線で全員に尋ねるが、全員、無言で首を振るだけだった。
 少し照れながら、ヤオ子がガイに話し掛ける。


 「ガイ先生の教えで助かりました。
  足の重りのお陰で飛んで来る瓦礫から弟達を守れました」

 「そうか……」


 ガイが腕で涙拭うと親指を立てる。


 「じゃあ、明日から重りを増やそう!」


 ティーンと歯を光らせる。


 「嘘!?
  間違ってる!
  ガイ先生、おかしいって!」


 病室に笑いが漏れると同時に、そこにはいつもと変わらない雰囲気が漂っていた。
 カカシがヤオ子に話し掛ける。


 「オレは、そろそろ行かんといけないのでな。
  元気に話す姿を見て安心したよ」

 「ありがとうございます」

 「その髪だけ……。
  残念だったな」

 「髪?」


 ヤクトが手鏡をヤオ子に翳すと、ヤオ子は鏡を覗き込んだ。


 「なんじゃこりゃぁぁぁ!」

 「チャクラを限界まで使った副作用らしい……」

 「…………」


 ヤオ子が鏡を覗き込んだまま動かない。
 心配になったカカシが声を掛ける。


 「ヤオ子?」

 「あたし……お母さんとカカシさんの隠し子だったとか?」


 カカシと母親が吹いた。
 そして、同時にグーが炸裂する。


 「ほら、息もピッタリ……」

 「私は、お父さんのものなの!」

 「オレにも選ぶ権利をくれ!」

 「違うみたいですね?」

 「当たり前よ!」
 「当たり前だ!」


 ヤオ子が下ろされた髪を手に取る。
 そして、カカシを見てから鏡を見る。
 どうやら、自分とカカシを比較しているらしい。


 「えへへ……。
  意外とイケてるじゃないですか。
  白髪も……」

 (……本人が気にしないならいいか)


 カカシは溜息を吐いた。


 「じゃあ、これで……」

 「オレもだ。
  早く元気になれよ」


 カカシとガイが病室を後にした。
 ヤオ子はヤマトとイビキへ目を向ける。


 「少し息が詰まりそうです。
  諸々の事情とかも聞きたいんで、お散歩しませんか?」

 「ああ。
  いいよ」

 「分かった」


 ヤオ子は母親の羽織っていた半纏を借りると、両親と弟に手を振って病室を後にした。


 …


 木ノ葉の里全体を見下ろせる顔岩の上。
 ヤオ子の纏められてない無造作な長い髪が風に流れる。
 伸びと一緒に髪は波のように揺れる。
 その何ともないような行動に、ヤマトとイビキは複雑な顔をする。


 「絶対安静とかって言ってなかったか?」

 「数日は……」

 「もう、回復しているように見えるのだが……」

 「ボクも、そんな気がします……」


 両親の説明には、いつも落とし穴がある。
 医療忍者に手紙を書くように言われて、他の部分が完治したことを伝え忘れた。
 逆に伝えたら伝えたで、ヤオ子の変態性がアップする。
 何より、母親の変態的な話し掛ける医療がヤオ子の回復に繋がったなどと信じたくない。

 そんな事情など、何も知らずにヤオ子は笑顔で振り返る。


 「風が気持ちいいですね」

 「そうだね」

 「里は、随分とすっきりしちゃいましたね」

 「そうでもないよ」


 ヤマトが指差す。


 「ほら。
  もう、家を建て始めているんだ」

 「本当だ……。
  ヤマト先生の強制労働の成果ですか?」


 ヤマトが項垂れる。


 「その通りなんだけどね……」


 そのやり取りに、イビキが軽く笑う。


 「まだ、終わってないんですね。
  木ノ葉の里は……」

 「ああ。
  皆、動き出している」

 「あたしも、さっさと復帰しないと。
  雑務忍者として頑張らないといけませんからね」

 「何をする気なんだ?」


 イビキの問い掛けに、ヤオ子は目を細める。


 「イビキさ~ん?
  あたしの能力を忘れていませんか?」

 「能力?」

 「ヤマト先生の術の家には配管とかが通っていないんですよ?
  あたしが任務で覚えた配管整備(水道、ガス)、電線の整備、アンテナの設置、etc...。
  それらを使って家を家らしくしなくちゃ」

 「そうだったな」

 (ある意味……。
  この子は、今、一番木ノ葉に必要な存在だった……)


 ヤオ子が体を動かして軽い体操をする。
 鈍った体に新鮮な血液が行き渡っていく。


 「大掛かりになりそうです。
  でも、遣り甲斐がありますね」

 「頼もしいな」

 「前から、木ノ葉全体に手を入れたかったんですよ」

 「「は?」」


 体操を終えて、ヤオ子が落ちている棒を拾うと地面にガリガリと簡易的な地図を描く。


 「これは?」

 「前の木ノ葉の里です。
  主要な建物だけを記しています」

 「器用だな……」

 「この地図をですね……」


 ヤオ子が地図を書き換える。


 「こういう風にして……。
  電線と地下の配管を変えたかったんです」

 「…………」


 ヤマトとイビキが沈黙する。


 「もう、プロの領域だな……」

 「そうですね……」

 「そして、この配管の隣に……」


 更に地図を書き換える。


 「シェルターを作ります」

 「…………」

 「今回の敵のような攻撃を考えると、かなり深く掘りたいですね。
  あと、地下倉庫の分配も。
  口寄せで呼び出せる道具を分配しておけば、一箇所潰されても代用が利きますからね」


 ヤオ子の説明にヤマトが慌てる。


 「ストップ!
  そんなのボク達に言われても分かんないよ!」

 「そうなの?」

 「そう……」

 「でも、里を再建するなら考えなしに再建するよりも、
  この機にパワーアップするべきだと思うんですよね」


 ヤマトとイビキが顔を見合す。


 「ヤオ子を早くそれ相応の部隊に引き渡すべきでは?」

 「賛成だ。
  ここで才能を埋もれさすのは勿体ない。
  里の再建に必要な全ての能力を持ち合わせているんだ。
  さっさと引き渡そう」


 話は、少し逸れた。
 ヤオ子の話したいことは、こういうことではなかった。


 「と、里を見て話が逸れました。
  ・
  ・
  戦いの終着と暁。
  これを詳しく聞きたいんです。
  もう、下忍だからって、黙っているわけにもいかないです」


 ヤマトとイビキに真剣さが戻る。
 ヤマトは、イビキに質問する。


 「言っていいんですかね?」

 「出来れば話したい。
  だが、言えない」

 「どうして?」

 「理由は、幾つかある。
  お前のような下忍に秘密にされていたこと。
  それの許可を出していたのが火影様だということだ」

 「じゃあ、綱手さんに許可を貰えばいいの?」

 「それがそんな簡単なことじゃないんだ」


 ヤオ子が首を傾げる。


 「何で?」

 「綱手様は、お倒れになられた。
  里を守るために力を使い過ぎたのだ」


 ヤオ子は綱手の心配をしてから質問する。


 「容態の方は、どうなんですか?」

 「昏睡状態らしい……。
  意識も戻っていない……」

 「そんな……」


 ヤオ子は目を閉じて、あの日のことを思い出す。


 「少しだけなら覚えています。
  カツユさんを口寄せしていましたよね?」

 「ああ……。
  そのお陰で被害が最小に抑えられたんだ。
  だけど、それで綱手様はチャクラを全て使われてしまった……」

 (綱手さん……)


 ヤオ子は目に見えないところで起きていた事態に、今の木の葉が、また窮地にあることを思った。
 そうなれば、自然と自分の意識がなかったところに目が向くことになる。


 「……戦いの終着を教えてください。
  里がこの状態です……。
  また木ノ葉崩しのようになったんじゃないですか?」

 「そこが謎の多いところなんだ」


 イビキが、今回の終着を話す。


 「今回、里を襲撃した六人のペインと呼ばれる者は、
  亡くなられた自来也様の弟子でもあった者が操っていた。
  そして、そのペインを倒したのがナルトだ」

 「ナルトさんが……。
  ・
  ・
  ちょっと、待ってください。
  自来也さんは、本当に亡くなったんですか?」

 「知らない者も居たのか……」

 「知っているのは噂です。
  綱手さんも、自来也さんの葬儀をしていませんし……。
  ・
  ・
  やっぱり、本当なんですね?」


 ヤマトが、ヤオ子に話す。


 「自来也様が亡くなられたのは、この襲撃の一週間ほど前なんだ。
  そして、その間に色んなことがあったんだ。
  訃報の知らせを持って来たのは、口寄せの契約をしていた蝦蟇だったし、
  そこで手に入れたペインの死体の一体を調べたり、
  次に狙われるだろう木ノ葉やナルトの対策も取らなければならなかった……。
  だから、連絡が遅れたんだ……。
  自来也様の葬儀は、また別の日に行なわれるはずだ……」

 「……色んなことがあり過ぎて分からなくなって来ました。
  でも、事の顛末だけは知っておきたいです……」


 ヤオ子がイビキを見ると、イビキは頷いて続きを話す。


 「ペインを倒したあと……。
  ナルトは今回の首謀者と会話をして、何らかの答えを導き出したようだ。
  詳しくは分からないが、相手にとっても自分にとっても……。
  その結果、首謀者の術で、里で死んだ者が生き返ったのだ」

 「生き返った!?」


 ヤオ子がヤマトを見ると、ヤマトは黙って頷いた。


 「今回の襲撃は、色んなことが入り組みすぎて──ちょっと、待ってください。
  今の生き返ったって話だけで考えさせてください。
  ・
  ・
  前回の襲撃──木ノ葉崩しに比べると、建物が壊れただけで済んだということですか?」

 「そうだ。
  だが、件の術は死者にしか効果がないようなのだ。
  お前は自力で回復していたからな」

 「そっか……。
  その術が生きている人にも有効なら、綱手さんも回復している……。
  そうなると、怪我をした人とかだけが被害者になるんですか?」

 「そうみたいだ」

 「怖い術ですね……。
  まるで生と死を区別しているみたいです……」

 「そういう術かもしれん。
  実際、戦闘中に魂のようなものを引き抜かれた者も居た」

 「信じられないことばかりです」


 ヤオ子は暁と言う組織の力が、少しだけ分かった気がした。
 そして、今回の襲撃の人数の少なさから、敵の組織が少数精鋭で成り立つ理由が分かる。

 戦いの終着はわかった。
 暁という組織は、里の噂や今回の襲撃での自分なりの考えの範囲だけで理解した。


 「イビキさん、ありがとう。
  ちょっと信じられないことばかりでしたけど、執着のの経緯だけは分かりました」


 そして、今度は自分のことを考える。
 地下で身動きが出来なかったことが思い浮かぶと、自分の足りない力と欲しい力を認識する。
 ヤオ子は、暫くして静かに口を開く。


 「ヤマト先生。
  お願いがあるんです」

 「何だい?」

 「……あたしに新しい力をくれませんか?」

 「力?」

 「あたし、さっちゃんの任務で二人に大事なものを貰いました。
  一つは思いを分け合えるという気持ち。
  そして、子供で居られる時間です。
  ・
  ・
  あの時、イビキさんがあたしを止めてくれて……。
  ヤマト先生が悲しみを半分貰ってくれて……。
  イビキさんもあたしの気持ちを貰ってくれて……。
  あたしは、忍者でありながら子供で居られました。
  それは、とても大事な時間でした。
  ・
  ・
  でも、その時間も自分で幕を引かなくちゃいけません」


 ヤオ子は拳を握る。


 「あたしには、守る力があった……。
  あたしの手から、今度はすり抜けなかった命がある。
  だから、あたしは忍者なんです。
  ・
  ・
  気持ちだけは、ヤマト先生とイビキさんに近づきました。
  今度は、実力も近づけてヤマト先生やイビキさんみたいになりたい」

 「…………」


 ヤオ子の真剣な言葉を聞き、ヤマトは真剣に考えてヤオ子に質問する。


 「確かに認めなければいけないこともある。
  ・
  ・
  何の力が欲しいんだい?」

 「土の性質と水の性質が欲しいんです」

 「二つも?」

 「はい」

 「時間の掛かることだよ?」

 「だから、早い段階からの努力が必要なんです」

 「気持ちは分かるけど……どうして急に?」

 「この数日間、ずっと考えてました」


 イビキが驚く。


 「数日って……。
  お前は、意識がなかっただろう?」

 「夢の中で、閉じ込められていたことを繰り返し考え続けていました。
  あの時、あたしに土の性質変化があれば脱出できたのにって……。
  あの時、あたしに水の性質変化があれば水分を補給できたのにって……」


 ヤマトは溜息を吐く。


 「それさ……。
  考えてたんじゃなくて魘されてたんじゃないの?」

 「……そうとも言いますね」


 ヤマトとイビキは苦笑いを浮かべる。


 「時々、心配になるよ。
  普段、あれだけ自分勝手なのに、自分以外のことにいつも一生懸命になり過ぎる」

 「でも……」

 「そこがいいところでもあるんだけどね」

 「……褒めてるの? 貶してるの?」

 「ヤオ子らしいってことなのかな」

 「どういう意味……」


 イビキは、ヤマトとヤオ子のやり取りを見て笑っている。
 しかし、ヤオ子は少し緩んでしまった空気の中でも必死に説明する。


 「でも、やっぱりこの二系統は必須なんです。
  今回の件もそうですが戦闘においても、
  いくらシミュレーションをしても切ることが出来ないんです」

 「シミュレーション?」


 イビキは少し分からないという顔をする。
 それを察して、ヤオ子がヤマトに話し掛ける。


 「ヤマト先生は、前に話したことを覚えていますか?」

 「術の結果が残るか残らないか……だね?」

 「はい」

 「何のことだ?」


 ヤマトがイビキに説明する。


 「ヤオ子は、チャクラの性質変化を自分なりに二分割して考えているんです。
  『火』『風』『雷』をエネルギー放出系。
  『土』『水』が術の結果を残す──岩壁とか湖のように……」

 「変わっているな」


 ヤマトの説明に、ヤオ子が新しい考えを説明に加える。


 「そして、今回気付いたのが術の及ぼす範囲です。
  巨大な瓦礫を手持ちの系統じゃ撤去できませんでした。
  エネルギー放出系は個体に対する威力は大きいですが、その分、範囲が小さい。
  しかし、『土』と『水』は広範囲に成果が及びます」

 「言われてみれば……。
  そういう術が多い気がする」

 「理由も考えました。
  無から作り出すのと違い、
  『土』と『水』は、そこにあるものを利用するからと考えます。
  例えば、今居るこの顔岩。
  ここで岩を利用して隆起させるのと、0から火を生成する。
  どちらがチャクラを使いますか?」

 「確かに……。
  もっと大きく考えてみよう。
  この顔岩全体に隆起させる術を施すのと、顔岩全体を多い尽くすほどの炎の術……。
  チャクラを使うのは後者だろうね」

 「はい。
  あたしは、そういう考えを持っています。
  故に土遁と水遁を覚えたいんです」


 ヤマトは、腕を組んで深く考える。
 それは土遁や水遁が簡単に身につくものではないからだ。
 それに新しい系統の性質変化を覚えさせるのが正しいのかも悩む。
 しかし、イビキがヤオ子を推してくれた。


 「教えてあげたら、どうだ?」

 「しかし……」

 「この子がカカシより才能がないとは言い切れんだろう?」

 「カカシ先輩ですか?」

 「ああ。
  オレは、アイツが複数の性質変化の術を使っていたのを見たことがある。
  写輪眼を持っていないから、術までコピーは出来ないだろうが、
  二系統の性質が身につかないとも言い切れない」

 「そうですね……」

 「何より、努力することを否定するのは苦手だ」


 ヤマトは溜息を吐く。


 「分かった。
  教えるよ」

 「ありがとうございます」

 「ただし、辛い修行だよ?」

 「簡単な修行なんてありませんでしたよ?」

 「……それもそうだ」


 ヤオ子とヤマトとイビキは笑い合う。


 「でも、ボクも忙しくなる」

 「二年掛けて戻した里が、また崩壊ですからね」

 「うん。
  だから、忙しい時は宿題を出す。
  時間があれば、修行を見ることにするよ」

 「お願いします」


 ヤオ子は深く頭を下げる。


 「頑張ります。
  ヤマト先生やイビキさんのような立派な忍者になります」


 ヤオ子は、この日を堺に大人への一歩を踏み出した。
 それは辛い修行の再開でもあった。


 …


 深夜……。
 ヤオ子は、病室の天井を眺めて思っていた。


 (サスケさん……。
  あたし、まだ待つことが出来るみたいです。
  死なずに済みました。
  ・
  ・
  いつかサスケさんが木ノ葉に戻って……。
  あたしの人生と再び交わった時……。
  サスケさんと肩を並べられるようになっているといいな……)


 ヤオ子は目を閉じる。


 (まずは、里を取り戻します。
  綱手さんも復活して、それから……。
  ・
  ・
  やることだらけで纏まりません。
  あたしの未来への切符もバッシュと同様に真っ白です)


 ヤオ子の思考が停止し、静かな寝息が流れ始める。


 (サスケさん……。
  あたし……。
  ・
  ・
  再び会えるのを待っていますよ……)


 眠気が勝ると、やがて夢の中へとヤオ子は落ちていった。



[13840] 第81話 幕間Ⅴ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:07
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤマト達がお見舞いに来てくれた次の日……。
 ヤオ子は退院の準備を始めていた。
 しかし、荷物はほとんどないが、問題があった。


 「シャツがボロボロです……」


 病院服を脱いで自分の私物である藍色のシャツを確認すると、背中に大穴と血が付着してご臨終していた。



  第81話 幕間Ⅴ



 ヤオ子は病室で頭を掻く。


 「何で、うちの人間は着替えを持って来ないんでしょうね?
  まあ、乳はサラシで隠れてんだし……いっか」


 ヤオ子はサラシにミニスカートの姿で、病室をシャツを着ずに出る。
 が、看護婦に捕まった。


 「女の子が、何て格好で歩いているの!」

 「いや、着るもんなくて……。
  大丈夫ですよ。
  ほら、乳出てないし」


 看護婦のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「露出狂の変態か!」

 「変態のところは、もう否定しないですけど……。
  服なくて……」

 「それなら、そう言いなさい!」

 (めんどいな……)


 ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「変化!」


 ヤオ子は服を着た自分に変化した。


 「これでいい?」

 「見た目は……。
  でも、根本の解決になってないんだから、ちゃんと服着るのよ。
  街中で術を解いちゃダメよ!」

 「……はい」


 ヤオ子は、ようやく解放されて里へと向かった。


 …


 向かう先は決まっていた。
 木ノ葉の外にある秘密基地。
 ヤオ子は、まだ再建途中の何もない里の真ん中を突っ切り、秘密基地のある森へと向かう。
 そして、森に到着すると秘密基地のある古い大木の中に入り、地下へと潜る。


 「まず、薬房から」


 ヤオ子は、先の戦いで使用したであろう薬草の残数を確認する。
 薬房の中を一回りすると、ヤオ子は腕を組む。


 「ほとんどない……。
  傷薬や湿布に使う薬がないのは分かるけど……。
  何で、病気で使う薬もないんだろう?」


 暫し考える。
 戦闘で消費する薬草がなくなったのは分かるが、何故、他の病気に使う薬草類までなくなっているのか?


 「そうだ。
  木ノ葉病院が壊れて薬も紛失したんだ。
  だから、足りない分を持って行ったんだ。
  ・
  ・
  まあ、いいです。
  また集めればいいだけだし」


 次に薬房を出て、武器庫を確認する。
 ここは見て回らなくても、一目瞭然だった。
 ヤオ子は腰に手を当てる。


 「ここも、すっきりしてしまいましたね。
  撤去に必要な道具を放出したから。
  ・
  ・
  まあ、いいです。
  また集めればいいだけだし」


 ヤオ子の集めた薬草や道具類は、ほとんどが使用されてなくなっていた。
 しかし、それがなければ、助からない命もあったかもしれない。
 そう思うと、ヤオ子は損失したものよりも、備えて貯めてあったことに安堵する。


 「あの時の失敗を繰り返さなかった……。
  少し心が救われた気分になります。
  ・
  ・
  また備えはしないといけませんね」


 ヤオ子は秘密基地を後にした。


 …


 里に戻る道中、ヤオ子は薬房と武器庫への補充を考えて物思いに耽る。


 (全部、ただだったから問題はないけど。
  薬草の類だけは積極的に集め直さないと……予備がないのは問題です。
  ・
  ・
  とはいえ、予備がないのは木ノ葉病院も同じか……。
  物資の確保は急務ですね)


 ヤオ子は里に入ると自分の家が吹き飛ばされたと思う方角に向かう。
 しかし、そこには少し人だかりが出来ていた。


 「何だろう?」


 ヤオ子が自分の家のあった場所へと近づく。


 『オイ。
  あの部屋……開かないらしいぞ』

 『どうして?』

 『鍵が頑丈らしい』

 『鍵だけじゃないんじゃないか?
  部屋も原型留めてるし……』

 『一体、何で、この部屋だけ無傷なんだ?』


 ヤオ子は、『自分の部屋だろうな』と思いながら、人だかりを掻き分ける。
 案の定、ヤオ子の部屋だった。


 (やっぱり……。
  違法改造を繰り返したから、
  余所の建物より鉄壁になってるんですよね……)


 ヤオ子は斜めに傾いている部屋のドアに近づくと、鍵を差し入れて開ける。


 『あの子の家か……』

 『例の変質者の……』

 『きっと、見せられないものが一杯あるから、頑丈に造ってあったんだな』

 (言いたい放題ですね……)


 ヤオ子が部屋に入っても人だかりは消えない。
 とりあえず、カーテンを閉め、ヤオ子は変化を解いてシャツを新しいものに取り替える。
 そして、斜めになっている部屋をチャクラ吸着で進み、冷蔵庫へ近づく。


 「電池に切り替わって非常電源が入ってます。
  中古販売店のおじさんの趣味で一緒に付けた機能が役に立ちました」


 続いて、クローゼットを開けて工具箱を確認する。


 「中がグチャグチャですけど、壊れたものはありません。
  こっちも問題なしです」


 最後に工作室を確認する。
 機械類は耐震の金具で固定したことと元々頑丈に出来ていることもあり、分解や破損といった箇所は見当たらなかった。
 一部、バラけたところもあったが、それは簡単に接続すれば直る程度だった。


 「こっちの機械も壊れていないですね」


 ヤオ子は窓際に近づき、カーテンの隙間から野次馬がいなくなっていないのを確認する。


 「手伝って貰うか」


 変態の家の扉のノブが回り、ヤオ子が外に出ると全員の視線が集まる。


 「すいません。
  手伝って貰えませんか?」

 「……何を?」


 ヤオ子の家の前の人だかりの一人が、変態とのコミュニケーションを図った。
 それに対し、ヤオ子ははっきりと答えを返す。


 「里の復旧に使う道具を運び出します」

 「…………」


 人だかりは沈黙する。
 少女の家に、何故か復興に必要な道具があるという……少女の家に。
 いや、変態の家に……。

 少女だろうと変態だろうと、兎に角、そんなものは後回しで、何故かここには里を復旧させる道具があるという。
 見た目は極めて普通の家に、一体、何があるのか?
 先ほどの人物が、再度、ヤオ子に訊ねる。


 「君の家には、何があるのかな?」

 「冷蔵庫の中に食料。
  それと調理器具一式。
  機械類を直す工具一式。
  部品を作る機械類」

 (何故、そんなものが……)

 「そして……」


 野次馬達が固唾を呑む。


 「あたしのコレクションである漫画とエロ本」


 野次馬達が吹いた。


 『何で、エロ本なんだ!』

 『ありえねー!』

 『里を救済する道具と一緒にエロ本!
  本当にありえねー!』


 ヤオ子は声を張り上げる。


 「うっさいですよ!
  あたしの崇高な趣味にケチをつけるな!
  ・
  ・
  そんなことより!
  手伝うんですか!?」

 「それは、もちろん」

 「なら、運び出すのを手伝ってください!」


 ヤオ子の勢いに飲まれ、人々が動き出す。
 ヤオ子の家から、最初に冷蔵庫が運び出された。
 冷蔵庫を持つ、里の人間がヤオ子に訊ねる。


 「なあ……。
  これ、何で動いてんの?」

 「電池ですよ。
  ブレイカーが落ちたら切り替わるんです。
  とりあえず、里の配給をしている料理係のところに運んでください」

 「分かった」

 「あと、非常用の電源を繋ぎ直せば動くとも伝えてください」

 「分かった」


 ヤオ子は少し考えると影分身を一体出して、調理器具一式を持たせる。


 「一緒に手伝ってください」


 影分身は頷くと、冷蔵庫を運ぶ部隊に着いて行った。


 「次は、機械類ですね。
  ・
  ・
  すいませ~ん!
  里の復興をしているとこって、分かります?」

 「オレが分かる!」


 野次馬の一人が手をあげた。


 「じゃあ、機械類を運ぶので案内してください。
  鉄を切ったり、釘を作ったり出来ますから」

 「わ、分かった」

 (この子、何者だろう?)


 ヤオ子は、再び影分身を出す。


 「工具箱を持って手伝ってください」


 影分身は頷くと、機械類を運ぶ部隊に着いて行った。
 そして、物資の運び出しと共に野次馬も居なくなった。


 「後は……。
  影分身に本類とか家の雑貨を秘密基地に運んで貰いますか」


 ヤオ子は印を結び、三体の影分身を出す。


 「よろしく」


 こうして、家の後処理を任せると、ヤオ子自身は里を回り、状況を把握することに努めた。


 …


 周囲は瓦礫の山。
 中央は更地。
 そして、少しずつではあるが復興を始めた家々。


 「ヤマト先生の木遁ですね」


 ヤオ子は家の形状から判断する。
 里が崩壊してからヤオ子が意識を戻すまでは僅かに数日、人々は必要な物資を瓦礫の中から抽出したり、瓦礫そのものを片付けたりと、里を建て直す下準備の最中だった。


 「里の改造どころじゃないですね。
  まず、雨露を凌がないと……」


 更地の中心で、まばらに集まる人の群れ。
 そのどれもが建て直しに向けてのグループである。
 ヤオ子は里全体の把握の途中で、強制労働をさせられるヤマトを発見した。
 ヤオ子はヤマトに近づく。


 「精が出ますね」

 「ヤオ子か……」


 ヤマトはチャクラを大分消耗しているようで、返ってくる言葉に疲弊が混じっていた。
 ヤオ子は笑みを浮かべて、ヤマトに話し掛ける。


 「お疲れ様です」

 「もう、いいのかい?」

 「ええ。
  今、自分の家に行って必要なものを運び出して来ました」

 「そうか。
  ・
  ・
  あ、これ」


 ヤマトが思い出したように腰の後ろの道具入れか巻物を取り出し、巻物をヤオ子に手渡す。


 「何ですか?」

 「土遁と水遁の修行方法だよ」

 「ありがとうございます!
  ・
  ・
  でも、宿題を出すということは、直ぐにでも里を離れるんですか?」

 「いや、復興作業を言い渡されてね。
  ほら、ボクの木遁は応用が利くから。
  毎日、これをチャクラがなくなるまでやらされて、
  修行を見るどころじゃないんだ……」


 ヤマトの宿題を出す理由に、ヤオ子は可笑しそうに笑った。


 「今、あたしは影分身に給仕班の手伝いと道具作りの手伝いをさせています。
  家にあった機械が無事だったんで、
  予備電源が生きていれば、釘とかを大量生産できるんです」

 「君の存在って、本当に大きいな」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「はは……。
  綱手さんとコハルさんの強制任務に感謝ですね」

 「そうだね」


 ヤマトと明るく話していたヤオ子だったが、今の何もない木の葉の里を見て声を落とす。


 「ヤマト先生……」

 「ん?」

 「……あたしは、こんなことしか出来ないですね。
  物資を提供することしか出来ない」

 「こんなことと言える君が凄いと思うけど?」

 「そうですか?」

 「ああ。
  ボクを含めて、失った者がほとんどだ。
  とても、提供できる者なんて居ないさ」

 「あたしは勝手に家を改造したんで、無事だっただけです」

 (まず、そこの認識からおかしいって気付いてんのかな?
  勝手に改造しちゃいけないし、
  あまつさえ、その改造であの術で壊れない耐久性を持った家を作るなんて……)


 ヤマトは溜息を吐き、あえて突っ込まないことにした。


 「それに君の力が必要になるのは、これからだろう?
  配管とか電線とか下水の管理まで、出来るんだから」

 「まあ、普通の忍者は出来ないことが出来ますからね。
  ……微妙な上に複雑な気分です」


 ヤオ子とヤマトは笑いあった。


 「少し元気が出ました。
  とりあえず、あたしは里を見て回ったら、出来るところからお手伝いします」

 「期待してるよ」


 ヤオ子はヤマトと別れると、里の復興部隊のところへと足を向けた。


 …


 ヤオ子が歩くと皆が振り返る。
 普段から色んな意味で目立つ存在だったヤオ子は、里では有名人である。
 そのヤオ子の髪の色が茶から白に変われば、振り返ってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。

 当の本人は、それほど気にはしていない。
 好奇な目で見られるのは慣れっこだ。
 その堂々と歩くヤオ子のミニスカートを誰かが引っ張る。


 「誰?」


 ヤオ子は振り返り、ゆっくりと視線を下へと落として確認する。


 「あ! あの時の!」


 そこにはヤオ子の助けた女の子が居た。


 「おねえちゃん……ありがとう」

 「えへへ……。
  元気みたいで良かったです」


 ヤオ子は腰を落として、女の子の視線に合わせる。


 「ごめんなさい……」


 しかし、女の子は硬い表情でヤオ子に謝った。


 (髪のことかな?
  それとも、入院したことかな?
  ・
  ・
  そういえば、入院したの初めてですね)


 女の子が続ける。


 「私のせいで、おねえちゃんが死にそうになったって……」

 「そのことですか。
  確かに、そういうこともありました。
  ・
  ・
  でもね。
  あたしは、お姉ちゃんですからね。
  小さい子を守るのは当たり前です」


 ヤオ子は、女の子の頭を撫でる。


 「だから、最初のありがとうで、お腹一杯ですよ」

 「お腹?」

 「はい。
  とらが言うんです。
  ・
  ・
  あたしも同じく感謝の気持ちで一杯です」

 「じゃあ、許してくれるの?」

 「はい。
  許しますよ」

 (まあ、許すものもないんですけどね。
  悪いのは里を壊した人なんで。
  ・
  ・
  でも、そんなことを言っても納得できないんです。
  傷付けてしまった人から、ちゃんと答えを貰わないと……)


 ヤオ子が気持ちを込めて笑ってみせると、女の子はホッと息を吐き出した。
 その女の子の様子を見て、ヤオ子は話を続ける。


 「あたしもね。
  少し不安だったんですよ。
  あなたが助かってなかったら、どうしよう……って。
  ・
  ・
  だから、お姉ちゃんも言います。
  助かってくれて、ありがとう」


 女の子はヤオ子に笑って返してくれた。


 (これで……また半分こですね)


 女の子は手を振って、その場を後にした。
 残されたヤオ子は、左腕の包まれた額当てを見る。


 「ヤマト先生、イビキさん……。
  あたし、今から忍者を始めます。
  あたしにも守れるものがあって、気持ちを分け合えることが出来たから……。
  あの時のお二人と、やっと同じことが出来たから……」


 ヤオ子は左腕の額当てを解くと包みを外す。
 そして、しっかりと額当てを見えるように結び直した。


 …


 これからヤオ子の生活は、里の復興と新たな修行に充てられる。
 木ノ葉隠れの忍として自覚を持ってから、少し変わった。
 雰囲気的には、落ち着きが出て大人っぽくなった。
 そして、前以上に修行に取り組むようになっていった。

 だけど、決して変わらないものもある。
 父から受け継いだ馬鹿さ加減と母から受け継いだ変態気質……これだけは変わらなかった。



[13840] 第82話 ヤオ子の自主修行・性質変化編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:08
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 この話から最後の話まで、2010/6/9 に打ち切りエンドという形で公開させていただきました。
 よって、修正を入れた本日までのものと、今現在も続いている原作とでは大きく掛け離れた話の内容になっています。
 また、この話から完全なIF展開に入ってしまっています。
 既に何年も前のSSになってしまっていることを理解した上で、読んでいただけると幸いです。

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ヤオ子の里の復興をしながらの修行が始まる。
 片方だけではなく、両方……というのは明らかに無理があった。
 それでもヤオ子は、短期間で二つを成し遂げようと心に決めていた。
 復興中でありながらも、修行を行なうには理由がある。


 (新しい力を手に入れなければいけない。
  サスケさんの帰るところを復興させなければいけない)


 今度、同じことがあった時、同じ失敗を繰り返さないために新たな性質を身に付けること。
 そして、サスケの帰る場所である木の葉を復興させること。
 ヤオ子は強い気持ちに突き動かされていた。



  第82話 ヤオ子の自主修行・性質変化編



 現在のヤオ子の中の大きな課題。
 里の復興と自分以外の誰かを守るための力を手に入れることを同時に行なうには、どうすればいいのか?
 数々の雑用任務で蓄積された経験を活かせる復興は、日々の努力の成果がそのまま結果に繋がる。
 しかし、新たに手に入れる力はゼロからの開始であり、手段も獲得していない。

 復興中でも修行をするため、秘密基地の前で、ヤオ子はヤマトに貰った巻物を広げる。


 「まず、力を手に入れなければいけません……」


 巻物を前にヤオ子が目を閉じると、今まで出会って来た人々の思い出が過ぎる。
 その中でもサスケとサチが心の大部分を占めているのを、ヤオ子は改めて理解した。


 「あたしに切っ掛けを与えてくれた二人……。
  その二人に恥じないような成果をしっかりと得ないと……」


 ヤオ子は自分の築き上げてきた想いのために、今やるべきことをしっかりにしなければと思う。
 気持ちを真っ直ぐにして目を空け、ヤオ子はヤマトのくれた巻物に目を通す。
 巻物には性質変化とは違う、別のことがいきなり書かれていた。


 「影分身による経験値蓄積について?」


 ヤオ子が読み進めると、ナルトが風遁・螺旋手裏剣の習得で応用した方法が書いてあった。
 しかし、 これはチャクラ量が多いナルトだから出来た方法だと直ぐに理解する。


 「それでも書いてあるということは……。
  あたしも、それなりのチャクラ量があると認めてくれたんでしょうね。
  ・
  ・
  最初の影分身の数は二体で試しますか」


 ヤオ子のプランはこうなる。
 本体は里の復興、影分身の一体が土遁の修行、もう一体が水遁の修行をする。
 ヤオ子は無理を承知で、目標を言葉にする。


 「目標は、二週間での習得です!
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 いつも以上に時間を掛けて大量にチャクラを練り上げて、ヤオ子は印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 ヤオ子から大量にチャクラを分け与えられた影分身が二体現れると、ヤオ子は影分身達に拳を握って見せる。


 「今日から、血反吐を吐いても頑張りますよ!」


 影分身は頷くと、各々里の復興と修行を開始した。


 …


 修行初日の夕暮れ時……。
 影分身の二体がチャクラ切れで消滅すると、復興の手伝いをしていたヤオ子に経験値が還元される。


 「……っと」


 還元された経験値と共に精神的疲労も還元される。
 ふらりと倒れ掛けた体をヤオ子は無理に支える。
 以前、任務を一緒にした中忍がフラ付いたヤオ子を心配してくれた。


 「大丈夫か?」

 「だ、大丈夫。
  ちょっと、精神的疲労が増えただけです」

 「何だそれ?」


 一緒に瓦礫を整理していた他の忍達も笑っている。
 ヤオ子は合わせて誤魔化し笑いをした。


 (精神的疲労も還って来るんだ……。
  でも、ちゃんと経験値も還って来た。
  ハイリスク・ハイリターンですね)


 ヤオ子は大きく息を吐き、精神状態を立て直す。


 (修行の精神負担と雑務の負担って、こんなに違うんだ……。
  ・
  ・
  違いますね。
  集中している分……。
  想いが篭もっていた分……。
  疲労が色濃く返ってきたんだ)


 ヤオ子は体も頭も疲労に浸されながらも間違っていないという確信を得る。
 疲労が濃いほど、返る経験値も大きい。
 この疲労を色濃くしていくことが、この修行の効果を最大限に引き出すことになる。

 人一倍の疲労を抱え、ヤオ子は他の忍達とその日の復興作業を切り上げて帰宅の途についた。


 …


 復興中の木の葉の里……。
 木の葉のほとんどの者が仮設住宅に暮らすように、ヤオ子も仮設住宅で家族と暮らしている。
 何と言うか……妙な懐かしさがあった。


 「「おかえり」」


 仮設住宅の扉を開けると、両親の声が掛かった。


 「ただいま。
  ヤクトは?」

 「まだ帰ってない。
  もう直ぐ帰ると思うぞ」

 「そうですか」


 ヤオ子は靴を脱ぐと家にあがった。
 父親が声を掛ける。


 「どんな感じだ?」

 「まだ撤去が終わりませんね。
  多分、お父さん達とやってることは同じです」

 「そうだよな。
  まだ下準備ってとこだもんな」

 「あと、時々専門知識が必要な時に呼出しですね。
  あたし、任務で色んなことをやったから」

 「あれか……。
  時々、聞くが半分以上が分からない職業なんだよな」

 「そうなんですよね。
  まさか、その知識が活かせる日が来るとは思いませんでした」

 「人生、何が役に立つか分からんな」

 「本当に」


 ヤオ子はちゃぶ台の前に座る父親の横に座る。


 「ねぇ。
  少し聞いていい?」

 「ん?」

 「お父さんは、どうして土遁が使えたの?」

 「どういう意味だ?」

 「だって、お父さんって細かいことは苦手でしょ?」

 「まあな。
  オレはコツを聞いても理解できないからな」

 「言い切った……」

 「ただ、信じてたな」

 「信じてた?」

 「ああ。
  オレには出来るって思い込んでた」

 「何を根拠に?」

 「アカデミーの忍術を使えたから」


 ヤオ子が首を傾げる。


 「オレは馬鹿だけど、不安になることもある。
  成果が出るのが遅かったから、人一倍自信を持てなかった。
  でも、一つでも成功したら信じられるようになったな」

 「凄い思い込みですね?」

 「でも、大事だと思うんだ。
  結局、チャクラを練って、忍術を発動させるのは自分だ。
  自分の意志が強くないと出来ないだろう?」

 「そうですね」

 「それに気持ちが昂ぶっていた時の方が土遁の効力が高かったんだ」

 (力任せの勢いだって話ですからね)

 「少し見せてやろうか?」


 父親がちゃぶ台の上に新聞紙を広げると要らない棒を握る。
 そして、ヤオ子にも伝わるほど恐ろしい量のチャクラを練り出した。


 「……ありえないって」

 「行くぞ」


 父親の握る棒の周囲が土遁の性質変化のチャクラが多い始めると、握っていた棒が石化していく。


 「非常識な気がして来た……。
  これ人間にも有効なの?」

 「人間には、あまり効果がないな。
  やっぱり、木とか土とかの方が相性が良かった」

 「そうなんだ。
  人にも試したんだ」

 「ああ。
  どうしても、母さんが前方のくノ一の服にやれって」


 ヤオ子がちゃぶ台に頭を打ちつけた。


 「それ、裸にひん剥けってことでしょ!?」

 「母さんのチャクラが切れててな。
  仕方なくやったんだ」

 「お父さん……。
  決して『仕方なく』でやるものじゃないと思います」

 「そうか?
  ・
  ・
  ただ、あの時に何か色々と言われて納得したんだが……。
  内容が思い出せなくてな」

 (悪質な洗脳じゃないの?)


 ヤオ子が項垂れていると弟が帰る。


 「ただいま!」

 「お? ヤクトが帰ったな。
  配給を貰いに行くぞ」

 「は~い」


 この一家は、精神面が打たれ強い。
 家をなくすのは二度目だが、誰もがショックを引きずらず、普段と変わらない日々に立ち返っていた。
 元々失う『物』というものが少ないせいかもしれない。

 ヤオ子達一家は、かつて慣れ親しんだ配給の列へと向かうのだった。


 …


 修行開始から四日が過ぎる……。
 本日も復興作業の任務中。
 しかし、ヤオ子の周りの人間は、一緒に働く少女が心配になって来た。


 「本っ当に大丈夫なのかっ!?」

 「何が……」

 「何が……って、クマが出来てるよ!
  寝てるのか!?」


 ヤオ子はガシガシと頭を掻く。


 「寝てはいるんですけど。
  慣れない精神的疲労が抜けなくて……」

 「そんなに里のことを思ってるのか?」

 「……ええ、まあ」


 ヤオ子は嘘をつく。
 この疲労が抜けないのは、復興作業の手伝いのせいではない。


 (裏で修行している影分身の経験値の返りは悪くないんです……。
  コツを覚える度に修行の効率が良くなりますから……。
  ・
  ・
  だけど、まだ、やっと砂遊びと水遊び程度です……。
  一体、サスケさんは、どうやって千鳥なんて技を二週間で習得したのか……。
  やっぱり、天才だったんですね……)


 水の性質変化と土の性質変化の修行の成果は、精神的疲労と比例して返って来ていた。
 そして、この精神的疲労というものが、やっかい極まりない。
 滋養強壮の栄養ドリンクを飲めば疲労が取れる肉体とは違い、精神というものに蓄積される疲労をスッキリ解消する薬がないからだ。


 (いや、あることにはあるんですけどね……。
  それって幻覚見えたり、変なテンションになる危ない系の薬なんで……。
  ・
  ・
  エロパワーでどうにかなるかと手当たり次第にエロ本読んでみたけど、効果がないんですよね……)


 当たり前である。
 エロ本読んで精神的疲労がなくなるなら、この世にうつ病や精神疾患などという言葉はなくなっているだろう。
 まあ、全てエロ方面でなんとかなったヤオ子なら、それで疲労回復しないのがおかしいと思っても仕方がないかもしれないが……。

 ヤオ子は夢遊病のような状態で復興任務をしていた。
 この日から、フラフラのヤオ子は周りから寝ないで働いていると勘違いされる。
 そして、こんな状態が一週間以上続いたため、ヤオ子は一週間寝ないで働けるという、こち亀の両さんのような新たな噂が広まってしまうのだった。


 …


 更に時間は経過し、修行開始から二週間が過ぎる……。
 精神的疲労はピーク、肉体的疲労は少し、頭の中は依然として沸騰状態が続いている。

 本日は、サスケが雷の性質変化を身に付けた期間を参考の目安として、チャクラの性質変化の成果を確認することにしていた。
 ヤオ子の目の前には、器が二つ。
 一つは水が入り、一つは土が入っている。


 「性質変化の精神的疲労の耐性はついてきたと思うんですけど、
  ここらで実戦で使えるかどうかを確認しておきたいんです。
  修行をもう一段階上げるかどうかを、今日の成果を確認して再検討です」


 多分、ヤオ子は完全なMだろう。
 精神疲労に慣れてきたところで、また修行内容を濃くしようと考えていた。


 「サスケさんは性質変化だけでなく、千鳥も身に付けていた。
  簡単に言えば、あたしはそこまでの資質がないってことです。
  ・
  ・
  ならば、足し算で足りないものを掛け算で補わないといけません」


 ヤオ子は集中してチャクラを練り、性質を変えていく。


 「よし!
  始めましょう!」


 水の入る器に性質を変えたチャクラの流れる手を近づけると、器の中の水はヤオ子のチャクラに反応し、形状を変え始める。
 器の真ん中で水が渦を巻き、水柱が上へ上へと競り出した。


 「水とチャクラのリンク完了。
  チャクラが水に作用して、水柱を操作しています」


 ヤオ子は流れるチャクラを水の性質から純粋なものへと戻すと、作用しなくなった器の水はポトンと音を立てて波紋を浮かべた。


 「次、行きます」


 水の入った器を横にずらして置き、今度は土の入る器を手前に持ってくる。
 そして、器に手を向け、再びヤオ子が集中してチャクラを練り、性質を変えていく。
 さっきと同様に器の土が動き出す。
 中心部の隆起と共に周囲の土が雪崩のように流れ落ち、中心付近で土が盛り上がった。


 「こちらも操作完了。
  ちゃんと、チャクラが土に作用してます」


 ヤオ子は土の性質を戻すことなく、チャクラを直に止める。
 器の中には、土の山が残った。

 その二つの成果にヤオ子は唇の端を吊り上げる。


 「ふ…ふふ……。
  二週間で二系統……。
  無理し過ぎですね」


 ヤオ子は大きく息を吐いた。


 (だけど、無理した甲斐はありました。
  これが出来なければ、いつまでも新しいトラウマを抱えたままでしたから……)


 新しいトラウマ……何も出来ない無力な自分を感じた劣等感。
 瓦礫の下で動くことも、喉を潤すことも出来なかった……。
 忍者なら出来る技術を持っていないがために辛酸を舐めた。
 何より、自分の側に居る命をもっと早く助け出したかった。


 「これで復興に専念できます」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「とりあえず、大きな課題の一つは終わったんですけど……。
  これを術にどうやって応用するんだろう?」


 土遁と水遁を使うのに必要不可欠な性質チャクラの性質。
 これが使えるようになっても、エネルギーがあるだけでハードが存在しないことになる。
 ヤオ子は、土遁と水遁の別の使い方を思い出す。


 「口から吐き出す……」


 そう、戦う場所に利用できるものがない時は作り出す。
 その大抵のパターンが口から吐き出すことになる。


 「そうだった……。
  あたし、口から吐くのが嫌で、
  火遁も手から出せるように必殺技にしたんだった……」


 ヤオ子は額に手を置く。


 「でも、今なら理由がよく分かるなぁ。
  だって、いっぱいチャクラを溜め込めるのって肺だもん。
  そして、放出する大きい穴と考えるなら口ですよね。
  ・
  ・
  ……やってみようかな?」


 でも、頭に浮かぶのは土遁の嫌な想像。
 口が土だらけになる。


 「水遁にしようかな……」


 更に嫌な想像。


 「口からの水遁って相手の唾液が混ざるんだよなぁ。
  汚くない?
  ・
  ・
  いや、汚いよ。
  もし、相手の水遁が歯も磨かない奴だったら……」


 ヤオ子がサーッと青くなる。


 「嫌だーっ!
  口からなんて嫌だーっ!」


 ヤオ子……こんなところで女の子らしさ爆発。


 「そうだ!
  うちのお父さんの馬鹿的忍術!」


 ヤオ子の父親は力任せの忍者だ。
 強引に手からチャクラを搾り出し、土の性質変化で対象を岩石に変える。


 「あ、あれなら!」


 ヤオ子が腕を突き出し、チャクラの盾の形態変化を作る。


 「これを土に!」


 が、土の性質変化を加えた瞬間、向かい風により、土が全て顔面に……。


 「が~~~ッ!
  目がッ! 目が~~~ッ!」


 ヤオ子はバルスの閃光を喰らったムスカのように苦しみ、今度はチャクラを水の性質変化で水に変える。
 そして、木の葉壊滅時に覚えた、盾の噴水に顔をつけて目をシパタかせる。


 「目がゴロゴロする」


 更に涙を流して砂を出すと、目の外に砂を出し終えて落ち着く。


 「痛かった……。
  でも、変化は出来たみたい。
  ・
  ・
  これを術にどうやって応用するんだろう?」


 振り出しに戻った。
 結局、新しい力を手に入れても、どういう風に活用するかの明確なビジョンをヤオ子は持っていなかった。
 ただ、新しい力を得ないことには必要な時の手段がないことだけは分かっていた。
 故にヤオ子は、今できて未来に繋がることを考えて腕を組む。


 「そもそも、印のある術を教えて貰わないと、
  試すことも出来ないんですよね」


 新しい力を試す方法……ヤオ子はヤマトと戦った時の『土遁・土流槍』の印を思い出す。
 思い出すが……。


 「途中……思い出せません。
  戦闘中で、そこまで記憶する余裕がありませんでした……」


 ヤオ子は拳を握る。


 「あの時、ヤマト先生が上半身裸っていうシチュエーションだったら、
  おいろけ・走馬灯の術で確実に思い出せたのにっ!」


 そんな格好で戦う忍者は居ない。
 忍んでないし……。
 まあ、中には居るかもしれないけど……。

 ヤオ子は溜息を吐く。


 「仕方ない。
  覚えてる範疇で、他はアドリブでやってみるか……」


 ヤオ子は両手を組み、人差し指と中指を立てて集中する。
 そのままチャクラを練り込むと、チャクラ性質が土に徐々に変化し始める。


 「土遁・土流槍!」


 記憶している印を途中までは正確に結び、あとは印の傾向を何となくで結ぶ。
 そして、地面にチャクラを流し込むと煙が巻き起り、晴れた煙の先にそこにあったのは……。


 「モアイ……像?」


 槍……ではなく、モアイ像だった。
 形態変化の印が、どうも別の物に作用したらしい。

 ヤオ子は頭を掻き毟る。


 「印を間違えた!
  ・
  ・
  思い出せない部分を補え~っ!
  強くて太くてでっかいヤツに~っ!
  ・
  ・
  確か……こう!
  土遁・土流槍!」


 再び印を結び、地面にチャクラを流し込む。
 確かに強くて太くてでっかかった。


 「が~~~!
  トーテム・ポール!」

  ・
  ・

 「が~~~!
  だるま!」

  ・
  ・

 「が~~~!
  ドラえもん!」

  ・
  ・

 「が~~~!
  ドラミちゃん!」

  ・
  ・

 「が~~~!
  鉄腕アトム!」

  ・
  ・

 「裸婦?
  ・
  ・
  エロ忍術になっちまった~~~っ!
  これはこれで……メモしとこ」


 ヤオ子は『裸婦』の印だけは、しっかりメモを取った。
 ヤオ子は新たなエロ忍術を開発した!

 ヤオ子は頭を抱える。


 「ちっが~う!
  そうじゃない!
  槍を出したいんだです! 槍!
  ・
  ・
  考えろ! あたし!
  ・
  ・
  いっそのこと、豪火球の印を混ぜてみるか……。
  せーの!」


 再び印を結んでチャクラを地面に流し込む。


 「ん? 何も起きない?」


 両手をつけたまま、ヤオ子が首を傾げる。
 と、突然地面が口を開けた。


 「へ?」


 地面はパクリとヤオ子を一飲みにして沈黙した。
 ヤオ子が食べられた。


 「…………」


 地面で爆発が起き、ヤオ子が飛び出した。
 ヤオ子は必殺技で脱出すると肩を落とす。


 「アホか…あたしは……。
  自分の術に食われて、どーする?」


 ヤオ子は服の埃を払いながら反省を口にする。


 「寅の印なんて混ぜるから、
  きっと、こんなことになったに違いありません。
  ・
  ・
  まあ、いいです。
  土遁は間違いなく出来てます。
  今度、ヤマト先生に使えそうな術を教えて貰おう。
  ・
  ・
  しかし、必殺技の改造の時には上手くいったのに、何で上手く印が作用しないんだろう……。
  火遁と土遁で形態が違うんですかね?
  少し整理しておさらいしないといけませんね。
  次は、水遁です」


 ヤオ子は土遁の確認を終え、水遁を試せる川へと場所を移した。


 …


 ~ 十分後 ~

 ヤオ子は同じ過ちを犯していた。


 「だから、印を覚えないと試せないんですよ……」


 額に手を置いた目の前には、川が静かに流れている。
 それを前に、ヤオ子は土遁の印の失敗を思い返していた。


 「一つ、試せそうなのがあるんですけど……カカシさんが使った『水遁・霧隠れの術』。
  ただ、これも印がうろ覚えなんですよ……。
  ・
  ・
  今度は、何が起きるか……。
  あんまり、いい予感はしません」


 水面歩行で川の真ん中まで歩くと、ヤオ子はチャクラを練り上げ、性質を水に変える。
 そして結ぶ、うろ覚えの適当な印……。


 「水遁・霧隠れの術!」


 水面歩行で足から川に流れ込む水遁の術。
 しかし、辺りには発生するはずの霧が発生しない。
 その代わりに発生していたのは……。


 「スン……。
  ・
  ・
  舞ってるの……霧じゃない。
  くっさ!
  臭いです!
  何これ!?」


 辺りには霧ではなく、何か生ゴミのような臭いが漂っていた。
 ヤオ子は瞬身の術を使って、その場を離脱した。


 「ぐえ~~~っ!
  最悪~~~っ!
  キバさんが居たら死んでます!
  ・
  ・
  水遁は危ないです!
  毒霧を発生させたら、命に関わります!
  水遁も問題ナッシング!
  ヤマト先生に印を教えて貰うまで、基礎修行で封印!」


 とりあえず、ヤオ子は土と水の性質変化を習得した。
 期間的に言えば、驚くべき早さでの習得になる。
 しかし、これからは使える術を覚えないと何にもならない。
 ヤオ子は、これからどのように物語に関わっていくのか……。



[13840] 第83話 ヤオ子の自主修行・能力向上編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:08
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 性質変化に一応の手応えを感じ、ヤオ子の修行に変化が表われる。
 手裏剣術、体術の徹底化に加え、木登りによるチャクラ吸着(両手両足)。
 そして、チャクラの性質変化の訓練である。


 「性質変化が出来たんなら、後は印を覚えるだけです。
  ヤマト先生が居ない以上、他を強くしないと話になりません」


 ヤオ子の修行は項目が一つ加わったことにより、更に徹底して自分を虐め抜くものになっていった。



  第83話 ヤオ子の自主修行・能力向上編



 ヤオ子の修行に大きな転機があったのは、本来であれば行なわれるはずだった中忍試験のため。
 更に追い討ちを掛けたのが木の葉の崩壊。
 そして、そこで手に入れたのが、額当てをひっくり返させた忍者としての決意。

 ヤオ子は自分の足跡を振り返る。
 こなして来た任務……。
 周りの知り合いが急激に実力をつけて置いてけぼりにされそうになっている焦燥感……。
 瓦礫の暗闇の中での無力感……。
 その中で手に入れた僅かな自信……。

 それらを糧にようやく忍としての成長――本格的な修行が始まろうとしていた。
 それは同じく忍に身を置いている者に比べては出遅れていると言っても過言ではない。
 しかし、その分に充てた基本性能の向上時間。
 見るだけで憧れることしか出来なかった理想の崇高。
 理想の体現を目指し、ヤオ子は目を閉じる。

 手裏剣術……。
 ヤオ子の頭の中では、今でも影が残る。
 どんな体勢からも正確に打ち抜く技術。


 (サスケさんのように……)


 体術……。
 ガイとリーの足運び、そこから繋がる一連の動作。


 (これは、サスケさんも中忍本戦で身につけていた……。
  多分、忍者である以上、一番大事なこと)


 木登りによるチャクラ吸着……。
 無駄なチャクラを使わない微細なコントロール修行。


 (あの日に見たサクラさんのように……)


 チャクラの性質変化……。
 練り上げるチャクラを瞬時に切り替える。
 そして、瞬間的に体の中で一気に練り上げる。


 (ヤマト先生のように……。
  巻物で丁寧に教えてくれたことを……)


 これらを全て同時に行ない、目指す忍の力を手に入れる。
 そのために必要な影分身は、六体。
 手裏剣術、体術、チャクラ吸着、チャクラの性質変化……火、水、土。
 そして、自分自身は、里を復興させなければいけない。


 「守られる立場から守る立場に……。
  あたしは、あの人達の隣りに立てる忍者にならないと」


 不安と焦燥感の大半を占める気持ちの中に、今、ヤオ子には少しの期待感もある。
 守りたい力の欠片を手に入れ、自分の中の可能性を感じることが出来たからだ。
 そうなれば、好奇心の塊のようなヤオ子が止まっているはずはなかった。

 本物の忍者になるため、ヤオ子は動き出した。


 …


 新たな力を貪欲に欲し吸収しながら、時は確実に流れる。
 復興の中で行なわれる修行が出来るのは、ヤマトの巻物に書かれていた影分身の経験値蓄積のお陰に違いない。


 (でも、ちょっと罪悪感も感じるんです。
  今、修行に充てている影分身全員を復興の手助けに回せば、
  確実に復興の手伝いをする人数が増えるからです。
  ・
  ・
  だけど……。
  あたしにも目的ができてしまいました。
  あたしも一人の忍として、一人前になりたいと思ってしまったんです」


 既に一人分の仕事量はこなしている。
 しかし、忍者ゆえに可能な方法で行なえば、その何倍もの成果を出すことが出来る。

 今できることを全力でしないのは怠慢のように感じるが、反面、やりたいことを我慢できない。
 ヤオ子は雑務任務について以来、我慢し続けてきたのだ。


 (それに今は……)


 そう、夢の途中。
 目的を持って忍者を目指している。
 納得できる力を手に入れるまで、歩みを止めることは出来ない。
 ヤオ子は強い眼差しで配電線を握る。


 「さて、その分、B地区の電力供給を今日中になんとかしますか。
  ・
  ・
  そこの暗部の人!」


 ヤオ子に指差された仮面を付けた暗部の忍がビクッ!と直立する。


 「固い岩盤砕いて、電柱指して!」

 「す、少し休ませて……」

 「甘ったれるな!
  あの巨大口寄せ動物を退治するのに比べれば、屁みたいなもんですよ!」

 「使用する回数が違うんだ!」

 「黙れ!
  忍術使える奴は、チャクラの一滴まで全てあたしのものだ!
  グダグダ言わずに働けェ!」

 「ひぃぃぃぃっ!」


 現在、電柱を立てる作業中。
 里に電気を行き渡らせるための新たな電柱の建設の一部地区を任され、ヤオ子は奮闘していた。
 使えるものなら上司だろうと暗部だろうと使う。
 そして、その影で泣いた者も居たという。


 『だけど、文句も言えないんだよな』

 『ああ。
  あの子の仕事量は、いつも軽く三人分はあるから』


 雑務任務で培われた能力と体力強化で培われてしまったスタミナ。
 そのせいで周りはヤオ子に振り回される。
 『都市伝説・鬼軍曹の変態』の生まれた原因だった。


 …


 里の復興……。
 前回の木の葉崩しよりも被害は大きいが、人員が減ったわけではない。
 かと言って、三年前の木の葉崩しで里の力を半分まで落とした多大な犠牲者が、三年で補充できるわけもない。
 犠牲者の数は圧倒的に違っても、物的被害を回復させるには前回以上の努力と時間が必要になる。

 そして、連日の復興の最中に新しい情報が流れる。
 それは突然で信じられないことだった。


 「火影様が変わったんだ……」


 里での復興中では、お互い顔をあわすこともヤマトから語られたのは、休憩中のことだった。
 ヤオ子に、それを告げたヤマトの表情は固い。


 「何で……?」

 「昏睡状態が続く綱手様の代理を立てないといけなくなったんだ」

 「その……次の火影様というのは?」

 「武闘派路線の人間だ」

 「武闘派……?」

 「ダンゾウ様という方だよ」

 「武闘派ですか……。
  今までの火影様は、そういう路線の人達ではなかったから、今一、想像できませんね」


 ヤオ子には、その火影が代わるという事態が何を招き、何を意味するのか分からないでいた。
 しかし、次の言葉で顔色が変わる。


 「武闘派ということは、強硬派ということでもある。
  その分かり易い例として、彼は既にある命令を出している。
  ・
  ・
  サスケの抹殺を許可した」

 「サスケさんの──そんなのダメです!」


 ヤマトは静かに頷く。


 「ボクもそう思うよ。
  綱手様は、ナルト達を信じてサスケの抹殺命令を出さないでいたからね」

 「綱手さんが?
  どういうこと?」

 「普通は、各里で抜け忍となったものを野放しにしておくことはありえないんだ。
  それでも、今まで抹殺命令が出なかったのは、綱手様がナルト達を信じていたからだよ」


 綱手からダンゾウに火影が代わることで分かった事実……サスケの抹殺命令。
 その命令は絶対にくだされないものだと思っていたし、考えもすることがなかった。

 ヤオ子の想いがサスケを肯定したくて抵抗する。
 復興だけのために働いていた頭が切り替わる。
 ヤオ子は指を二つ立てる。


 「二つ聞きたいです」

 (やっぱり……。
  この子の感覚は鋭いな……)


 ヤマトはヤオ子が直ぐに質問を投げ返すのを予想していた。
 ヤオ子の質問が続けられる。


 「一つ目……。
  何で、サスケさんだけ抹殺命令が出たのか?
  二つ目……。
  何でヤマト先生は、あたしにわざわざ話したのか?」


 ヤマトは腕を組んで答える。


 「後者から答えるよ。
  君なら気付くと思ったからだ。
  そして、ボクの知らないところで事実を知って、暴走するのを防ぐためだ」

 「あたしが暴走する?」

 「しないかい?」

 「します!」


 言い切るヤオ子に、ヤマトはこけた。


 「清々しいね……。
  言い切るなんて……。
  ・
  ・
  でも、話せば分かってくれるとも思ってるよ」

 「何か心を見透かされてるみたいで嫌ですね……」

 (初めてヤオ子から、一本取ったかな?)


 ヤマトは咳払いを入れる。


 「続けるよ。
  一つ目の質問についてだ。
  ・
  ・
  が、ヤオ子はサスケの動向を何処まで知っているんだ?」


 ヤオ子は右手を軽く上げて掌を返す。


 「下忍だから、情報を制限されているんですよね。
  正直、里を出てからはさっぱりで」

 「困ったな。
  ボクも何処まで話していいんだ?」

 「抹殺の原因だけでいいです」

 「え?」


 ヤマトは『それだけでいいのか?』と、ヤオ子の顔を見返す。


 「何となくですけどね。
  今度の火影さん好戦的かなって……。
  だったら、抹殺命令を出す時に理由──大義名分をつけて抹殺命令を出したんじゃないかって」

 「その通りだけど……。
  君、どっかの策士なの?」

 「いいえ。
  ただ、ヤマト先生の言い方が、今回の火影さんを少し嫌ってる感じだったので、
  あたしなりにヤマト先生の嫌いなタイプを分析して言ってみました」

 「君こそ、見透かしてないか?」

 「あはは……。
  師弟の関係って嫌ですね。
  お互い、何となく分かっちゃって」

 「そういうもんなのかな……。
  ・
  ・
  抹殺命令だったね。
  サスケは、やり過ぎているんだ」

 「やり過ぎている?」

 「実は、サスケは復讐を果たし終わっているんだ」

 「ハァ!?」

 「いや、君のリアクションも尤もなんだけど……」

 「何!? アホなの!?」

 「アホって……」

 「じゃあ、復讐終わってもほっつき歩いているから抹殺命令が出たの?」

 「そんな簡単じゃなくて……」

 (何だろうな……。
  この子に話すのは、ナルトに説明するのと別の苦労が発生するんだよな……)


 ヤマトの苦労はナルトだけではない。
 ヤオ子も十分な問題児だ。
 どこか疲れた顔で、ヤマトは続ける。


 「サスケは復讐にとりつかれているんだ。
  暁として、雲隠れの八尾を捉えてしまった」

 「何で、そうなるの!?」

 「よくは分からないが……。
  恐らく暁に利用されている」

 「恐らく?」

 「すまない……。
  これ以上は分からない……」


 ヤオ子は首を振る。


 「謝らないでください……。
  ・
  ・
  誰も分からないんですよね?
  サスケさんが復讐にとりつかれている理由……」

 「ああ……」


 この時、ヤオ子は密かに決意する。


 (サスケさんに伝えなくちゃいけない……。
  終わっている復讐なら、止めて貰わなきゃいけない……)


 だけど、顔には出さない。
 この時ばかりは自分の平気で嘘をつく性格に感謝し、決意を悟られないように嘘の約束を口にする。


 「ヤマト先生。
  あたしは待ちます。
  サスケさんとの約束ですし……。
  だから、ヤマト先生達が何とかするって信じてもいいですか?」

 (確実なことじゃない……。
  でも──)


 ヤオ子の嘘を見抜けず、頷く。


 「分かった。
  出来るだけのことはするよ」

 「ヤマト先生……。
  ありがとう」

 (そして、ごめんね……)


 ヤオ子の決意と嘘……。
 誠実なヤマトだから信じてくれた。

 だけど、抹殺命令が出て、もう止まれなくなっていた。
 一族のために復讐を誓ったサスケが、それ以外を理由に復讐をやめられない理由が分からない。
 誰も知らない。
 誰も分からない。
 なら、その理由を聞くのは自分しか居ない。

 ヤオ子の目的が、また変わり始めていた。
 守る力を手に入れることから、サスケに抹殺命令を伝えることへ……。

 ヤオ子の周りで、慌ただしく状況が動き出していた。
 そして、この数日後、ヤマトがカカシとナルトと五影会談のある鉄の国に向かう頃、ヤオ子も行動を起こすことになる。
 それまでの間にヤオ子は、更なる力を身につけなければならなくなる。
 相手に暁が絡むという可能性が出てきたから……。


 …


 翌日からの修行が常軌を逸し始める。
 サスケの抹殺命令が出たとなれば、それが実行されるのはいつか分からない。
 時間はあるのかもしないし、ないのかもしれない。
 サスケに接触するために必要な実力を身につけなければいけない。

 お昼前……
 チャクラが切れると影分身が消え、経験値がヤオ子本体に還元される。
 それに対してヤオ子は悔し涙を流した。


 「全然、チャクラが足りない……。
  こんなことじゃ、里を出ることもできない……。
  まだ修行不足だ……」


 現在、性質変化の修行は優先順位を下げている。
 必要なのは、里を出るために必要な忍者としての戦闘技術。
 基礎技術で向上させた基本性能を一つに繋げて戦闘で活かすこと。

 しかし、実戦経験の少ないヤオ子には、この全てを一つに活用するという技術が圧倒的に少ない。
 まだ全てを一つにする術を知らない。
 その知らないことを身に付けるためにもがき続ける。

 ヤオ子は涙を拭うと無理にお昼を胃に詰め込んで身体エネルギーを回復させた。
 そして、回復させた身体エネルギーをほぼ全部影分身六体に分け与える。


 「まだ足りない……。
  まだ届かない……。
  ・
  ・
  あの人達に出来たんだから……あたしにだって!」


 ヤオ子は疲れた頭と体に気合いを入れて無理に覚醒させると、復興の任務と修行を再開した。


 …


 取る、自宅にて……。
 ヤオ子は父親の強引怪力マッサージを受けていた。
 両足を開いて上半身を父親が捻る。


 「無理無理無理無理!
  それ以上は捻れない!」


 ギリギリギリ!と万力で挟んで捻られるような感覚を刻まれて、ヤオ子は叫んでいた。


 「そう思ったところから無理させないと
  体なんて柔らかくならないんだ!」

 「マッサージじゃなかったの!?」

 「変更だ!」

 「何で!?」

 「お前、強くなろうとしてるだろ?」


 ヤオ子は叫ぶのを止めると、顔を父親に向けた。


 「……どうして知ってるの?」

 「やっぱりな……」


 父親がゆっくりと捻れを戻す。


 「体が痛んでるぞ。
  無理し過ぎだ」

 「…………」


 ヤオ子の何かを押し潰したような顔を見て、父親はどっかりと胡坐を掻く。


 「まあ、悪いことじゃないから頑張れ」

 「止めませんね?」

 「オレも無茶したからな。
  何回、体をぶっ壊して作り変えたか」

 「ぶっ壊す……。
  まあ、筋肉痛はそういうもんですが」

 「体は柔らかくしておけよ。
  攻撃にも防御にも使えるからな」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「攻撃?
  防御は分かりますけど……。
  柔らかく受け止めるとか……。
  ・
  ・
  攻撃なんて、どうするの?」


 父親は肩を廻して見せる。


 「稼動域だよ。
  間接の稼動域が広がれば、加速させる助走距離が伸びるだろ?」

 「お父さんがまともなことを言っている……」

 「理由は分からんが、若い頃に母さんに言われたよ」

 「凄いですね。
  分からないでやってたんだ」

 「そうだ。
  母さんのいうことは、理由は分からんがいつも正しい」

 「いや、正しいこと言っているだけなんですよ……。
  お父さんに理解出来る頭がないだけで」

 「フッ……。
  オレは、母さんが居なけりゃ死んでるな」

 「自信満々に言うとこじゃないですよ?」

 「母さんが大好きだーっ!」

 「嫌だ! あなたったら!」


 ヤオ子の母親が悶えて現れた。


 「今日、子作りする?」

 「そうだな」

 「子供の前で、何て話をしてんだ!
  両親の子作りなんて見たくもないですよ!」

 「冗談よ」
 「冗談だ」

 (ダメだ……。
  うちの親は何処までが本気か分からない……)


 ヤオ子が項垂れた。
 そのヤオ子に母親が声を掛ける。


 「ねぇ、ヤオ子」

 「何ですか?」

 「どうして強くなりたいの?」

 「……サスケさんに抹殺命令が出たから」


 ヤオ子でも騙せない相手が居る。
 それが母親だ。
 母親だけは、どうにもならない。

 だから、母親の前では小細工をせずに正直に話した。
 そして、母親もヤオ子同様に少し斜め上の性格をしている。
 母親が普段通りで聞き返す。


 「木ノ葉の上層部を止めるの?」

 「分からない」

 「じゃあ、ヤオ子がサスケさんを止めるの?」

 「可能性は、そっちの方が高いです」

 「どうするの?」

 「分からない。
  分からないけど……間違いなく絡みます」


 ヤオ子の言い草に父親は額を押さえ、母親は笑っている。
 父親がヤオ子に訊ねる。


 「お前……サスケさんに惚れてんのか?」

 「惚れる?
  ・
  ・
  そういう感情じゃないと思います」

 「良かった……」

 「何で?」

 「母さんの行動に置き換えると、
  お前は確実にサスケさんのストーカーになるからだ」

 「ああ……。
  心配してたのは、そういうこと……」


 ヤオ子を見て、母親が溜息を溢す。


 「私は青春の一ページを思い出して懐かしかったのに。
  ヤオ子が、そこまでの決意じゃなくて残念だわ」

 「あたし、段々とお父さんが真人間に見えて来ました」


 母親は微笑んでいるが、何を考えているか分からない。
 故にあの笑顔は、酷く危ういものに見える。


 「ねぇ、あなた。
  ヤオ子は、どんな感じ?」

 「いい感じだな。
  筋力が大分あがっている。
  多分、スタミナもついてるはずだ」

 「何で、そんなことが分かるの?」

 「さっき、マッサージをしたからな。
  それで大体わかる」

 「へ~。
  女体でも分かるんですね」


 母親が両手を頬に当てて悶える。


 「だって……。
  お父さんと修行の後は、一緒に体を確認する時間だったから。
  お父さんは女体の神秘を隅々まで知っているわ」

 「だから、両親の交尾の話なんて聞きたくないんですよ!
  ちょくちょく入れるな!」

 「私は娘に聞かれて興奮する女よ!」

 「何の自慢だ!
  あんた、本当に変態だったのか!」

 「そうよ!
  同世代に私より、立派な変態は居なかったわ!」


 ヤオ子は項垂れて首を廻す。


 「お父さん……」

 「そんなところが、またいいんだよな」

 「お前ら、ダメな大人だ!」

 「愛だろ?」
 「愛でしょ?」


 ヤオ子が更に項垂れる。


 「もういい……。
  お母さんには勝てない……。
  あたしの変態レベルは、
  肉親に性癖を暴露して快感を得るまで上がってない……」

 「今のは、メラゾーマじゃなくてメラレベルよ」

 「何処の大魔王ですか……」


 母親が腰に手を当てる。


 「まあ、冗談はここまでにして。
  明日から、修行を見てあげるわ」

 「今は、エロ忍術はいりませんよ」

 「ええ。
  お父さんの見立ては絶対に正しいから、実力は認めてあげる」

 「あたしも両親の信頼関係だけは認めます」


 母親が微笑む。


 「明日から、ヤオ子に足りないものを叩き込んであげる」

 「?」

 「経験を積ませてあげる。
  本当に殺し合いましょう」

 「え?
  ・
  ・
  頭がおかしくなったんですか?」

 「いいえ。
  修行で、何度も死んで貰うわ。
  もちろん、頚動脈を切り裂いたりはしないわ。
  刃のないクナイと手裏剣を使う。
  武器には炭か石灰をつけておく。
  つまり、あなたの服についた跡が死んだ回数よ」


 ヤオ子が母親を真剣な目で見返す。


 「あたしが……お母さんを倒すかもしれませんよ?」

 「それならそれでいいけど……多分、無理よ。
  ・
  ・
  ヤオ子は自分より明らかに強い相手の本気の殺気を知らない。
  プレッシャーを知らない。
  今まで安全なところに身を置いていたツケよ」

 「そこまで……はっきり言いますか?」

 「ええ。
  明日、やりましょう」


 ヤオ子は母親に異様な気配を感じていた。
 見た目は変わらないのに品定めをされている気分だった。

 父親は、母親が本気だと分かると苦笑いを浮かべていた。


 …


 翌朝……。
 復興の任務の休日。
 ヤオ子と母親は、木ノ葉の里から離れた森で向かい合っている。
 見学者は、父親と弟。
 母親は、普段着に足だけ忍の履く靴。


 「久しぶりね。
  この靴も……」

 「忍具は、どうしますか?」

 「危なくないヤツよね?
  あなただけ持ちなさい」

 「そんなに自信があるの?」

 「まだ中忍にもなってないんでしょ?」

 「そうです」


 母親が指を立てる。


 「なら、実力を見てからね」

 「分かりました。
  先輩に従います」

 「じゃあ、始めましょう」


 自然体の母親に対してヤオ子が構え、早速、クナイを取り出して母親に投げつける。


 (この人に並みの物理攻撃は効果がない……。
  攻撃をどう受けるかで、次の出方を見ます!)


 母親は首を振り、腰まである髪が波のように揺れると髪でクナイを掴み取る。
 クナイは、母親の右手へ髪により渡される。


 「わざわざ、ありがとう」

 (しゃ、洒落にならない……。
  あたしの投擲が見切られた……)


 一動作で、実力を見せ付けられた。
 その母親の動きを見て、ヤクトは純粋に驚いている。


 「信じられない。
  お姉ちゃんのクナイは凄いスピードだったのに……。
  お母さんには見えていたんだ」

 「見えてないよ」

 「え?」


 ヤクトは父親に顔を向けた。


 「完璧に見えるのは瞳術の使い手ぐらいだろう。
  だけど、予想できるんだよ」

 「予想?」

 「ああ。
  ヤオ子の動きは基本に忠実だからな。
  オレや母さんは足の向きで、大体飛んでくるところが分かる」

 「嘘……」

 「まあ、例によってオレは理解していないんだがな。
  母さんに叩き込まれた。
  例えば、右足を出した時に移る行動を丸暗記させられた」

 「暗記なの?」

 「暗記だ。
  未だに理由は分からんが、高い確率で予想は当たる」

 (お父さんに教え込んだお母さんが凄いのか?
  素直に従って暗記したお父さんが凄いのか?
  ・
  ・
  変な夫婦……)


 ヤクトが呆れたところで、ヤオ子が動いた。
 クナイを使った忍体術。
 動きは修行に費やした分だけ早くなっている。


 (いい動きね。
  体術の先生がいいのかしら?
  動きを予想できても、連続攻撃を躱すだけは無理ね)


 クナイとクナイがぶつかり、体と体がぶつかり合う。
 一見すると実力伯仲のぶつかり合い。
 だけど……。


 (変です……。
  手と足にしか当たらない。
  当たってもクナイの刃じゃない。
  攻撃が通ってない。
  ・
  ・
  何で?)


 ヤオ子が母親に視線を合わせる。
 母親の視点は動いているはずのヤオ子を確実に追い、攻撃が加速する前の始点を捉える。

 ヤオ子は距離を取り、嫌な冷や汗が頬を流れた。


 (気持ち悪い……。
  何だろう? この嫌な感じは……)


 母親が意識して出している敵意あるプレッシャーが、ねっとりとヤオ子の足に張り付くようだった。


 「分かる?
  これが実力の上の者からの敵意よ」

 「気持ち悪い……」

 「そう。
  実力が高い者同士の戦いに必ず出てくる。
  そして、あなたが戦う相手はこういう人達よ」

 「…………」


 敵意を向けながらも、母親の視線は真っ直ぐとヤオ子を見る。



 「嫌悪感を持ってもいい。
  怖いとおもってもいい。
  でも、負けちゃいけない。
  冷静さを失っちゃいけない。
  条件は同じ。
  クナイで急所を狙えば相手も死ぬのだから」

 「はい」


 ヤオ子は息を大きく吸い、気持ちを強く持つと、もう一度、母親を見る。


 「行きます!」


 一蹴りで地面を蹴ると、母親との距離は一気に縮まり、再び忍体術の応酬が開始される。
 ヤオ子はプレッシャーの中で必死に体を動かす。


 「いい?
  もう一つ、大事なことがあるの。
  私達、くノ一は、ただの体術だけではダメ。
  力で必ず押し負けるから」


 クナイ同士がぶつかった瞬間、ヤオ子より大きい母親は強引にクナイを振り切り、自分のクナイの軌道を優先させる。


 「これが男の人は出来る」

 「っ!」

 「だから、工夫する!
  チャクラコントロールで足の吸着を同時に行なって踏ん張る!
  時には、当たった瞬間に引いて相手の体勢を崩す!」


 ヤオ子が少しだけ振り被った瞬間に母親がクナイを突き出すと、反射的にクナイを引いたヤオ子の体勢が崩れた。


 「これで一回」


 ヤオ子の首筋に刃のないクナイが当たり、目印になる炭が付いた。


 「工夫と騙し合いも覚えなさい」

 「はい」


 ヤオ子の母親は指を立てる。


 「体術の基本は、大事。
  基本を覚えて初めて戦える武器が揃ったことになる。
  だから、今度は武器を自在に扱えなければならない。
  相手の情報を得て、戦う状況の情報を得て、正しい使い方を選択するの」

 「はい」

 「戦って覚えなさい。
  私の考えていることを理解して経験を積むの」

 「はい」

 「忍術は、私に一撃を入れてから使いどころを教えるわ」


 ヤオ子は深く頷いた。


 「お母さん……ありがとう」


 忍体術の模擬戦で、ヤオ子は何十回と死を体験することになる。
 しかし、この死を意識した戦いこそ、ヤオ子に絶対的に足りない経験値だった。
 ヤオ子の中に基礎は揃っている。
 その使い方を戦いの中で理解し、知らなかったことを知るだけなのだ。


 …


 お昼時……。
 ヤオ子の体は、炭だらけだ。
 未熟なのがよく分かる。
 いや、ガイに教わった技術を活かしきれていないというのが正しい。
 理由は、身をもって体験したから口に出来る。


 「お母さんとあたしに天と地ほどの実力差があるとは思えません。
  あたしが自分の体の使い方を理解していないとしか思えない」


 ヤオ子の隣りで母親が頷く。


 「正解よ。
  本来は、順序だって教えて貰うものだもの。
  正しく言うと理解していないんじゃなくて知らないの。
  知らないものを無理に叩き込んでいるの。
  理由は、分かるわね?」

 「あたしの目指している人が……そういう実力に居るんですね」

 「そう。
  まだまだ覚えることはあるわよ。
  殺気も出していないんだから」

 (この人は、一体、どういう忍者だったんだろう?)


 午前中に相手をして貰って全力を出させていないのは感じ、並みの中忍よりも強いのではないか……と、ヤオ子は思い始めていた。
 母親が伸びをする。


 「久しぶりだから、動きが鈍っているわね」

 「あれで?」

 「ええ。
  チャクラを本気で練るのも久しぶり」

 「前に教えてくれた時は?」

 「使う忍術が決まってるし、大変じゃないわ」

 「そういうもんですか?」

 「そういうもんよ。
  実戦で練るのと平時に練るのは、ぜんぜん別」


 母親は伸びをしていた両手を下ろし、ヤオ子に微笑む。


 「ヤオ子が、ちゃんと育っててよかったわ」

 「そうですか?」

 「ええ。
  これなら、本気で虐められるわ」

 「……へ?」

 「私は、ドSだからね」

 「そうなの?」

 「でも、お父さんの前ではドMなの」

 「このアホが!
  本当は、どっちなんだ!」


 母親は笑いながら指を立てる。


 「両方いけるわ♪
  片方だけなんて勿体ないじゃない♪」

 「あまり、そうは思わないんじゃ──」


 ヤオ子と母親の会話を聞いて、ヤクトが父親の袖を引っ張る。


 「お母さん達、何を話してるの?」

 「普通の人間で居たいなら、聞くな。」

 「下ネタ?」

 「そんな言葉、何処で覚えた?」

 「お姉ちゃんから。
  説明が面倒臭いから、聞いちゃいけないのは下ネタだって」

 「半分あってるな」


 父親と息子の間には、微妙な空気が流れていた。


 …


 午後……。
 ヤオ子の術を母親が確認するところから始まる。


  ・
  ・
  というわけで、あたしの術は以上です」

 「いい術を持っているわね。
  特に必殺技と呼んでいるもの」

 「初めて褒められた……。
  皆して無駄なチャクラが発生してくだらないって」

 「効率だけを考えればね。
  でも、術を装填するんでしょ?」

 「ええ」

 「じゃあ、印を変えるだけで『土遁』も『水遁』も、弾として込められるってことでしょ?」

 「あ!」

 「いい術じゃない」


 ヤオ子は両手を合わせる。


 「初めてお母さんに感激しました」

 「そんなに喜んでくれるの?」

 「はい。
  両親に誇れるものなんてないと思っていました」


 母親は微妙な顔で苦笑いを浮かべた。


 「じゃあ、期待には応えないとね。
  スパルタで行くわよ♪」

 「は?」

 「いい?
  術の装填は、両手両足で全部別の性質変化を行ないなさい」

 (……両手両足?)


 要するに必殺技の装填に火遁以外も混ぜろということである。


 「そ、それって!
  右手で火、左手で土、右足で水みたいのをしろってこと!?」

 「当たり前!
  バリエーションを増やさないで、どうするの!」

 「血継限界を発動するわけじゃないんですよ!?
  装填は、一系統でいいじゃないですか!」


 母親は溜息を吐く。


 「あなた、自分の術の持ち味をわかっているの?
  チャクラを食うけど、利便性は高いのよ。
  例えば、爆破術を盾にカウンター。
  右足で土遁を発動すれば硬化したキック。
  水遁の鉄砲水で相手を弾き飛ばす。
  これだけで三段攻撃。
  土遁と水遁にどんな術の弾を使うかで選択肢は大きく変わるわ」

 「……そっか。
  でも、土遁と水遁の術は、一つも覚えていないんですよ。
  性質変化しか出来ない……」


 母親が腰に手を当てる。


 「そういうことね。
  でも、気にしなくていいわ」

 「何で?」

 「よく考えて。
  私達忍者は、印を結ぶ術があるでしょ?」

 「はい」

 「印って、形態変化だけだと思わない?」


 ヤオ子は忍術というものの発動を思い出してみる。
 苦労して覚えた豪火球の術には球状に放出する印が組み込まれていた。


 「そういえば……そうだった」

 「気付いたでしょ?
  術を発動するのに必要なもの。
  チャクラ、性質変化、形態変化。
  チャクラはエネルギー。
  性質変化は属性。
  形態変化は……説明するまでもないわよね。
  ・
  ・
  このうち形態変化だけは、印で代用することが出来る。
  チャクラと性質変化だけは術者が発生しなければいけない。
  だから、チャクラを練れて性質さえ変えれば、理論上は印を結ぶだけで術は発動するの。
  ・
  ・
  カカシさんを思い出して。
  コピー忍者と言われるけど、真似ているのは『印』だけのはずよ」

 「説明は納得です。
  ただ、カカシさんの術の発動の詳細までは分かりません」

 「そう?
  でも、写輪眼で真似ているのは、印とか体の動きのはずよ」


 ヤオ子は顎に指を当て、今の会話を反芻する。。


 「少し分かった気がします」

 「何?」

 「忍は、エネルギー発生源なんです。
  そして、自分の精神力で形態変化をしないのは、
  いちいち自分で形態変化させるのに余計な精神力を裂かないためだと思います。
  また、自分じゃ出来ない形態変化も、印によって代用するとも考えられます。
  ・
  ・
  もしかしたら、あたし達は共通して印を用いて術を発動することから、
  皆が血継限界を持っていると言えるかもしれません」

 「そうね。
  印を使って術を発動するのは血継限界みたいね」


 ヤオ子の目が真剣なものに変わる。


 「だから、あたしは条件だけは満たしているんですね。
  印さえ覚えれば術を発動出来るという……」

 「ええ。
  だから、使用する忍術はヤマト先生にお伺いを立てるのがいいと思うわ。
  それだけで使えるようになるはずだから。
  ・
  ・
  話をあなたの必殺技に戻すわね。
  装填する火遁は、『豪火球の術』が必殺技の基礎だったわね。
  同じにしましょう。
  土遁の何かの術と必殺技の基礎。
  水遁の何かと術と必殺技の基礎。
  これで術に少し手を加えるだけで、必殺技は変化するわ」

 「術は、一つでいいの?」

 「時間がないんでしょ?
  いつまで修行をするつもりなの?」

 「それは……」

 「だから、一つでいいわ。
  あと、装填する術を選ぶにしても、あなたに合った術を習得しないといけないわよ」


 ヤオ子は腕を組み、首を傾ける。


 「あたしに合った術か……。
  火遁の遠距離攻撃……豪火球の術。
  火遁の近距離攻撃……ヤオ子フィンガー。
  火遁の中距離攻撃……石破天驚拳。
  どれも威力が大きくて小技として使えないのが欠点です。
  ・
  ・
  で、あたしが身に付けようとしていた新しい性質の傾向jは、次の通りです。
  土遁に関しては、口から出すのはNG。
  地面を応用する術が欲しいと思っています。
  水遁に関しても、口から出すのはNG。
  水を応用する術が欲しいと思っています」

 「なるほど……。
  いいかもしれない」


 母親が指を立てる。


 「普段の術は、火遁は直接攻撃の術。
  土遁、水遁は、現地での応用攻撃の術。
  必殺技の時だけ、チャクラを土と水に変えて装填して使いましょう」

 「そうですね。
  時間を考えれば必殺技は弄らないのがいいかもしれません」

 「土遁の使いたいイメージはある?」


 ヤオ子は頷く。


 「ヤマト先生が使ってた『土遁・土流割』です。
  ヤマト先生は隆起させて使っていましたが、
  使い方によっては地面を割ることも出来ると思うんです。
  これで足止め、防御、二つが出来ます」


 母親が頷く。


 (イメージは出来ているみたいね。
  ただ、補助的な使い方がメインなのね。
  となると、水遁も……)

 「水遁は?」

 「水柱で盾を作るものです」

 (やっぱり……。
  土遁は土流割で……水遁は水陣壁ね。
  ・
  ・
  今の段階じゃ、習得は難しいかしら?
  だけど、習得しといて損はない。
  水遁の水陣壁は、チャクラを水に変化させて使うことも出来る。
  必殺技の練習にも応用できそうね。
  これで、性質変化の連度を上げることも練習も出来る。
  ・
  ・
  でも、土遁の土流割は、必殺技の装填には向かないわね……)

 「土遁は簡易版にしましょう」

 「簡易版?」

 「そう。
  ・
  ・
  で、その下準備を確認するうえで、質問。
  土遁と水遁って、どんなイメージがある?」

 「イメージですか?
  まあ、火遁や雷遁がエネルギーを練りだすものに対して、
  土遁や水遁は利用する感じです」

 「私も同じ。
  現地の土なり水を利用するの。
  必然的に印は対象に作用して形態い変化を齎すものが多くなると思わない?
  例えば、土で槍を作る」

 (ヤマト先生の土遁・土流槍だ。
  確かにそうかも……。
  対象に作用させるんだから、
  形態変化を印に詰めているって考えるのがいいのかも?
  作用させる鍵が性質変化させたチャクラなんだし)


 ヤオ子は頷く。


 「確かにそうですね。
  ・
  ・
  ん?
  ちょっと待った。
  作用する水は兎も角、土遁は必殺技に応用できるような形状がないような……」

 「気付いたみたいね。
  ヤオ子の言っていた水遁の形態は心当たりがあるわ。
  そして、この形態は水柱ってことから、必殺技の手から噴出させるのにも利用できる」

 「うんうん」

 「でも、土遁の土流割で地面を割るのを必殺技として手から出すのは無理よね?」

 「そうですよね……」

 「土遁に関しては装填する術のイメージを作ってから、習得する術を選びましょうか」

 (確かに覚える術は手持ちの必殺技と併用できるから、そっちの方が……)


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「でも、イメージか……。
  難しいですね。
  元々、装填するイメージはサスケさんにヒントを貰ったもので、
  あたし自身は好きな漫画の必殺技をパクったに過ぎないんですよね」

 「じゃあ、漫画の中で手から出す技で土系と水系は?」

 「水はありますよ。
  ウルトラマンがジャミラを倒す時に放水してたし、
  BLACK CATでは、アタッシュウェポンケースからウォーターカッターを出したりしてました」

 「まあ、水遁を必殺技に使うなら、そんなとこよね。
  さっきの説明のイメージとぴったしだわ」

 「だけど、土って……。
  出ないですよ」

 「そうね……」

 「やっぱ、硬化させるべきですかね?
  チャクラは、手の周りと足の周りに出せるんだから」

 「ただ、カッコ悪いわよね」

 「そこが一番の問題ですよね」


 難しい顔でうんうん唸り出した母親とヤオ子を見て、ヤクトが呆れる。


 「どうでもいいところで悩んでる……」

 「母さんは、昔からそうだ。
  そして、ヤオ子は間違いなく、その血を継いでるな」

 「どうなの? それ?」

 「……聞くな」


 ヤオ子と母親が悩み続ける。


 「土か~」

 「土ね~。
  ・
  ・
  選択ミスだったんじゃない?」

 「いや、術のみの使用だけしか考えてなかったので」

 「そうなの?」

 「ええ」


 母親が顎に手を当てて考え、暫くしてパッろ顔を輝かせる。


 「あったわよ!」

 「本当?」

 「ARMSのジャバウォックみたいに、岩石を加工して打ち出すのよ!」

 「おお!
  ・
  ・
  でも、それだと風遁じゃないですか?」

 「……そうね。
  岩石握ってから、風遁発動よね……」

 「「う~ん……」」


 そして、暫く考えて二人が出した答えは……。


 「「土遁は、置いとくか……」」


 先送りだった。
 更にヤクトが呆れる。


 「カッコ悪いから後回しって……。
  硬化のイメージがあるなら、それにすればいいじゃん……」

 「まったくだ……」


 父親と弟が呆れているとも知らず、似た者母子は必殺技の改良を始める。
 ヤオ子がガリガリと地面に必殺技の印を書く。


 「ここの印で手からの発動を意思決定するんです」

 「豪火球の術をアレンジしたのね」

 「そうです。
  アレは、口を起点にするんで、応用して手から出す発動にしたんです」


 母親が手を出すと、ヤオ子は持っていた棒を渡す。
 母親はヤオ子の書いた印に棒を置く。


 「そうなると……火遁に必要な寅の印を外して。
  水遁の印に書き換えて……」

 「ふんふん。
  でも、このままだと水が破裂しちゃいますよ?」

 「そうね。
  ・
  ・
  どうする?
  水圧で吹っ飛ばすのがいい?
  水圧で斬るのがいい?」

 「そうですねぇ……。
  両方は無理ですか?」

 「?」

 「これって、手から放出する量の太いか細いかでしょ?」

 「少し違うかな?
  細い時は、太い時よりも勢いを強くして切断するの。
  でも、印自体は大差なさそうね」

 「じゃあ──」

 「ええ。
  両方使えるようにしましょう。
  水遁系の必殺技は、中・近両用にね」

 「はい。
  風遁と違って相手に目で見えてしまいますが、そこは仕方ないですね」

 「そうね。
  じゃあ、印を書き換えるわよ」


 ヤオ子が手を上げる。


 「あの……」

 「ん?」

 「勝手に書き換えて大丈夫なんですか?
  火遁の必殺技の時は、サスケさんに豪火球の印を教えて貰えたから書き換え出来ましたけど、
  今度の印は、かけ離れています」

 「大丈夫。
  私が知っているわ」

 「何で?」

 「寅の印が火遁を象徴するのは分かる?」

 「はい」

 「それを水遁を意味するものに変える。
  これでヤオ子の必殺技は水遁用に変わったわ」

 「はい」

 「次に形態変化を表す印を組み込み。
  今、ここには豪火球の印の崩れたものがある。
  多分、このまま使えば水が破裂するだけ。
  だから、これを……私の知っている風遁の突風を炸裂させる形態変化に変えるわ」

 「突風?」

 「いい?
  風の通り道をコントロール出来なければ、相手に向かい風を浴びせられないのよ。
  これを応用して風の流れを水の流れにする。
  更に放出する口をコントロールすると、どうなる?」


 母親の説明で、ヤオ子の頭の中に新しい必殺技の姿が薄っすらと描きだされていた。


 「さすが……」

 「忍の知識だけは豊富にあるからね。
  それ以外は、からきしなんだけど」


 母親は可愛らしく微笑んだ。
 そして、地面に書かれたヤオ子の必殺技の印を水遁に書き換え、次に豪火球崩れの形態変化の印をエネルギーの通り道と放出口大きさに変える。


 「とりあえず、ここまで。
  威力は弱めてあるわ。
  試してみて」

 「はい。
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子がチャクラを練り上げる。
 そして、地面に書かれた印を結ぶ。


 「必殺技! バージョン・水遁!」


 チャクラを水の性質に変え、放出されるチャクラが形態を変え始める。
 ヤオ子が右手を開いて突き出すと水弾が飛んだ。


 「で、出来た……」

 「大したものね。
  一回で成功するなんて」

 「…………」


 水遁バージョンの必殺技の手応えと感触を感じ、ヤオ子は自分の両手に目を落とす。
 それを見た母親がヤオ子に訊ねる。


 「どうしたの?」

 「これ……盾を作らなくていいから、
  チャクラの量的にも使い勝手がいいかもしれない」

 「そうかもね」


 チャクラの量が少なくて済む。
 それは火遁の必殺技しかない時から感じていた、課題の一つの解消だった。


 「早速、印を換えて威力を上げてみます」


 ヤオ子は地面の印を書き換え始める。
 その新しく書き換わっていく印を見て、母親は微笑む。
 ヤオ子は母親の手助けなく、既に自分の術として扱っていた。


 (本当に大したもんだわ……。
  サスケさんと会ってから、ずっと修行を欠かさなかったのね。
  知識もしっかりしてる。
  サスケさんが、ヤオ子に大事なものを残してくれていってる。
  ・
  ・
  だから、この子がサスケさんに拘るのが少し分かるわ。
  きっと、任務の度に気付かされるはずだもの。
  サスケさんの気持ち……)


 新しく印を書き換え終わると、ヤオ子は直ぐ様チャクラを練り、印を結んだ。
 再び実行される水遁版の必殺技は、高水圧の鉄砲水ろして手から噴き出した。


 「いい感じです。
  これだけの威力なら、的確に手で届かない顎にヒットさせることが出来る。
  思いっきり殴るぐらいの威力になってます」

 「あとは、ウォーターカッターね」

 「それは直ぐ出来ると思います。
  お母さんにチャクラ糸を教えて貰ってますから」

 「チャクラ糸?」


 ヤオ子は右手の人差し指からチャクラ糸を垂らすと、説明する。


 「これが入り口のイメージであり、発射口のマーキングになります。
  ここから発射すればいいだけです」


 ヤオ子は地面の印を書き加えると、チャクラを練り、印を結んで指を突き出す。
 すると、何かが横切るような音がした。
 見ただけでは一瞬の出来事なので、今一、分からない。


 「ちゃんと出たの?」

 「ええ。
  威力を上げますよ」


 ヤオ子は、更に印を書き換える。
 そして、チャクラを練り、印を結んで指を地面に向ける。
 腕を横に動かしながら必殺技を発動すると、地面に線が刻まれた。


 「これだけじゃ、よく分からないわね?」

 「確かに……。
  ただ、地面に水滴が落ちないで、
  水圧で地面に入り込んでるところを見るとかなりの威力かと」

 「ということは、改良は成功?」

 「はい。
  ありがとう……お母さんのお陰です」


 母親は微笑み、父親に顔を向けて話す。


 「子供の成長を見るのっていいわね」

 「ああ」

 「それのお手伝いが出来るのも」

 「本当だな……」


 父親も少し嬉しそうだ。


 「これから、毎日、模擬戦を続けるわよ」

 「いいんですか?」


 母親が頷く。


 「土の必殺技と、それの応用。
  そして、忍術を複合した模擬戦は、一回もしていないでしょ?」

 「そうですね」

 「こんな現役を離れた忍者に一回も勝てなくて、どうする気?」

 「……サスケさんは、もっと?」

 「ええ。
  高みにいるでしょうね」


 ヤオ子は少しだけ俯き、改めて自分の位置を考える。
 基礎修行だけで培った技術や力の使い方が分かっていない──つまり、忍者でありながら、あまりに不完全な位置に居る。
 想いだけで、力が備わっていない状態だ。


 「よく考えれば……。
  あたしは、今、サスケさんと出会った歳だった。
  ・
  ・
  筋肉の量とか考えればガキなんだった……」


 母親が溜息を吐く。


 「分かってないわね。
  歳は、理由にならないのよ。
  ・
  ・
  ヤオ子は、他の忍が理解している、得た力の使い方を知らないって言ってるの」

 「得た力の使い方?」


 母親が頷く。


 「例えば、体術を極めるために筋トレを続けてきたリーさん。
  リーさんは筋力だけあっても体術を体現できないの。
  ガイ先生という体術のスペシャリストが使い方を教えたから、体術が使えるの」

 「それは……分かります」

 「あなたも、リーさんとは別の努力を続けて伸ばした力があるはずよ」

 「……はい」

 「先生が違うでしょう?
  リーさんは尊敬するガイ先生の下で体術を磨いた。
  あなたはヤマト先生の下で修行したんでしょう?」

 「……いえ」


 ヤオ子は微妙な顔つきをしていた。


 「違うの?」

 「教えて貰うの……これからです」

 「……そうなの?」

 「はい。
  この前、性質変化の基礎を……」

 「じゃあ、あなた……何で、先生に教わらないの?」

 「仕方ないでしょ。
  ヤマト先生は里の強制労働で忙しいんだから。
  それに一番悪いのは、サスケさんです。
  あたしの都合なんて無視して、暴走し始めたんだから」

 「暴走って……」


 ヤオ子は腰に手を当てる。


 「あの人、あれで純情な少年なんですよ。
  真面目に自分の一族のことを考えてたし。
  ・
  ・
  多分、それ関係で暴走しているんですよ」

 「……早熟なのね。
  あの年で一族の未来を考えるなんて……」

 「ええ。
  だから……成長が早かったんだと思います」

 「関係あるの?」

 「想いが強いと頑張っちゃうんですよ。
  大好きな人だと、特に……。
  サスケさんは大好きな人達だったから、きっと余計に……」


 母親は静かにヤオ子に問い掛ける。


 「ヤオ子も、そうなの?」

 「あたし?
  ・
  ・
  あたしも、多分。
  サスケさんが……大好きなんです。
  あの思い出が宝物なんです。
  ・
  ・
  その思い出を語る時に当のサスケさんが居ないんじゃ……意味がないんです」

 「大好きなんだ?」

 「ええ。
  捕食ランキング一位の座にず~っと居座ってます」

 「……何、それ?」

 「あたしがセクハラすると決めた男女達です」

 「…………」


 母親の眉がハの字に歪んだ。


 (サスケさんは、いつかヤオ子の恋愛対象になるのかしら?
  ・
  ・
  この子、まだ友達感覚なのよね……。
  ある日、友達だと思っていた友人が恋人に変わるなんてのがあるけど……。
  どう変わるのかしら?
  ・
  ・
  ある日、セクハラしようとしていた捕食ランキング一位の少年を好きになる?
  それって、ヤオ子の目的が達成されただけじゃ……。
  ・
  ・
  恋愛……微塵も関係ないわね。
  この子、私以上の危ない才能の固まりだし……)


 母親が初めて娘の将来を心配をした瞬間だったかもしれない。


 (でも、それも面白いわね。
  ヤオ子に傷物にされたサスケさんがうちの敷居を跨ぐというのも……)


 母親……大きく間違った妄想へ。


 「えへへへ……」


 母親が涎を手で拭う。


 「何か……やましいことを考えてません?」

 「妄想の中で一足先にサスケさんをつまみ食いしちゃった♪」

 「…………」


 ヤオ子がコリコリと額を掻く。


 「あたし、お母さんと同い年だったら、唯一無二の親友になれた気がします」

 「同感ね。
  でも、精神年齢は、今でも近い気がするわ」

 「同感ですね。
  でも、自分で言うのは、どうなんですか?」

 「いいんじゃない?」

 (あたしの家は、崩壊の一途を辿っているのでは?
  仮にこの人がお婆さんになって、あたしが母親になって、
  うちの家系が繁殖したら……里の危機?
  ・
  ・
  はは……。
  あたしの代で子孫を増やすのはやめた方がいいかも……)


 ヤオ子は苦笑いを浮かべた。

 こうして、ヤオ子の修行は家族ぐるみに変わった。
 かつて、九尾の妖狐が現れるまで極めて少ない期間を活躍した二人の忍の意思を引き継ぎながら……。
 ヤオ子の忍としての実戦経験は、短期間で色濃くなっていくのであった。



[13840] 第84話 ヤオ子の自主修行・血の目覚め編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:09
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 木ノ葉隠れの里がペインに襲われ、ヤオ子が退院をしてから修行を開始してかなりの日数が経つ……。
 その修行中の期間を長いと取るか、短いと取るかは受け取り方は人それぞれだ。
 だが、ヤオ子の周りで、事態は着実に動き出している。
 暁の新たな動きに加え、五影会談の日が行なわれることも決まった。

 八尾の人柱力に手を出してしまったサスケが、各国の代表する影達の議題にあがらない訳もない。
 サスケの抹殺命令が実行される前にヤオ子は動き出さなければ行けないが、未だ自分の力を自分のものとして扱えていない。
 理想とする忍としての最低ラインをクリアできていない。

 短期間で得なければいけない力を手に入れるため、ヤオ子は家族ぐるみで修行を続行中である。



  第84話 ヤオ子の自主修行・血の目覚め編



 修行中であっても、影分身六体の修行は変わらない。
 一人は、里の復興に従事。
 一人は、手裏剣術に体術。
 一人は、チャクラの木登り。
 一人は、火の性質変化の向上。
 一人は、水の性質変化の向上。
 一人は、土の性質変化の向上。
 そして、本体は母親と実戦まがいの模擬戦を実行中である。


 「っ!」


 模擬戦の最中、母親の殺気がヤオ子に容赦なく向けられる。
 更に実戦を意識した模擬戦で、最初は逃げ出したい気持ちに狩られてヤオ子は動けなかった。
 死を否応なしに意識させられたのだ。

 だけど、今は怯まない。
 お腹にに力を込め、目に意志を宿す。
 込めるのは殺気ではなく、強い意思。


 「強くなるんです!
  力も! 心も!」


 右の拳と当て身の右膝を押えられ、ヤオ子の体術が母親に受け止められる。
 しかし、二日前と違う。
 見られて受け止められたのではない。
 受けなければダメージを負うから受け止められたのだ。


 (おかしい……)


 当然、相手をしている母親が最初に気付く。
 受け止めていた拳と膝を風遁の回避術で回避すると、母親は距離を取る。


 (少ない模擬戦で、ヤオ子が順応してきている……。
  でも……一緒に修行をして、まだ二日。
  こんなことは有り得ない……)


 そう、ヤオ子の成長スピードが明らかにおかしいのだ。
 二日前まで簡単にあしらわれていたヤオ子が対等に渡り合い始めた。
 殺気を込めたのは、昨日。
 それにも順応し始めている。
 そして、今、忍術を使った──いや、使わされたのだ。
 母親は、初めてヤオ子に対して構えを見せた。


 …


 一方のヤオ子も自分の中で、何かが変わったのを実感していた。
 今日、模擬戦を始めてから、自分の中の何かが脈動しているのを感じていた。

 ”簡単に言えば、体の中の血が興奮している”

 まるで自分の体が歓喜しているような感覚だった。


 (何か……全てが理解できる。
  今までバラバラだったあたしの武器の使い方が……)


 ヤオ子の母方の家系に眠る力……。
 幼年期から青年期に訪れる脳の活性化が始まっていた。
 ほとんどの者が医療班か暗号班への就職に利用し、いつしか本来の意図と違う使われ方をされている力が開花し始めていた。


 (体術一つ取っても分かる……。
  何で、この拳が最短の距離を走って相手に向かうのか。
  何で、この拳に力と体重が乗るのか。
  何で、このタイミングで繰り出さなければいけないのか。
  ・
  ・
  実戦経験が理解させる。
  この拳の使い方を……。
  ここで繰り出す必然性を……。
  足りなかったものが補われていく……)


 ヤオ子に目覚め始めた力は、本来、長い忍の戦乱で目覚めた力だった。
 幼い時期から青年期に忍の戦い方を頭に叩き込み、無駄のない修行を行なって種を存続させるためのもの。
 しかし、いつからか医療忍術の重要性が広がると使い方に変化が起きた。
 忍の力を高めるためではなく、医療忍術や暗号解読など、知識を詰め込む方へと……。
 そして、更に追い討ちを掛けたのが、フォーマンセルの小隊に一人医療忍者を入れるという現在のシステム。
 家系の中で、遂に普通の忍を目指す者が居なくなってしまった。
 偶に普通の忍を目指す者が居れば異端視され、本来、目覚めた使い方を最後まで全うする者が消えてしまった。

 故に普通の忍であることを目指した、ヤオ子の母親は勘当されている。
 しかし、それが本来の使い方だった。


 (もっと、知りたい……。
  もっと、経験が欲しい……)


 ──血が騒いでいる。
  本来の使い方の再現者に……。
 ──血が騒いでいる。
  この力を持って、知識を己が血に変え肉に変えて成長しろと……。
 ──血が騒いでいる。
  今までの努力を──培った武器の活かし方を今こそ理解しろと……。

 母親との実戦まがいの模擬戦が、ヤオ子の血を目覚めさせていた。


 …


 母親の火遁が躱される。
 ヤオ子の瞬身の術が発動し、ヤオ子に相殺させる術すら必要とさせない。
 今は自分の武器である体術で、何が出来るか理解できる。
 ここで無駄な術を使ってチャクラを使う必要はない。
 木々を飛び移り、母親の視界からヤオ子が消える。


 (見失った……。
  ブランクで体力が落ちた肉体が、ヤオ子に着いていけない……。
  経験で補っていたものを補えなくなって来た……)


 風切り音が母親の耳に入ると、母親は瞬時にクナイを振り切り手裏剣を弾く。
 そして、次の攻撃とヤオ子の姿を探し、直ぐに構え直す。
 その気を張り詰める中で、母親の視界に手裏剣の軌道が円を描いていて写る。


 「ッ!」


 母親は思わず舌を打ってしまった。
 攻撃は捉えたものの、手裏剣の飛んで来た方向に信憑性がない。
 直線ではないため、ヤオ子が何処から投げたか予測できない。


 (これでは見つけられない)


 体が止まっている時点で、自分が追う立場でないことを理解させられる。


 「ヤオ子に仕留められる立場になったのかしら?」


 母親が大きく息を吐く。
 無駄に動けば隙が出来る。
 それこそ、ヤオ子の狙いに嵌ることになる。


 「この緊張感……。
  ヤオ子相手に、こんなに早く味わうことになるなんてね」


 影が落ちる。
 母親が瞬身の術で横に移動すると、さっきまで居た地面にクナイが落ちた。
 刃がないため、クナイは地面に刺さらず転がる。
 母親はハッとする。


 (移動させられた!?
  なら……)


 「攻撃が来る!」


 母親の右の脛に水圧が掛かった。
 それを見て、母親が二度目の舌打ちする。


 「一回ね……。
  クナイか手裏剣なら、私は行動不能だわ」


 母親は水遁の飛んで来た方向を睨む。


 (居ない!
  私が、まだ見失って捉えられない!)


 狩る者、狩られる者の立場が逆転していた。
 何とか立場を元に戻さなければ、やられることを待つだけになる。
 母親は目を閉じると、聴覚の集中力を高める。

 そして、僅かな音を聞き分け、目を見開くと僅かな影を捉えた。
 母親はチャクラを足に流して走り出し、そのままチャクラ吸着で木の上へと戦いの場を移した。
 そこで直ぐ様、火花が散る。
 影と影が交差し、クナイとクナイがぶつかった。


 「風遁!」


 母親の左手から突風が起き、ヤオ子へと向かう。
 それを一瞬の判断で殺傷能力が弱いと見極めると、ヤオ子が体を開いて全身で突風を受け止めた。
 接近していた両者の間隔に距離ができた。


 「利用された!?」


 届かないクナイの攻撃を諦め、母親の追い討ちの手裏剣の投擲。


 「そのスピードなら、チャクラ糸で回収できます!」


 ヤオ子は左腕を伸ばし手を開く。
 しかし、チャクラ糸が……。


 「あ、あれ?」


 里の復興と他の修行に振り分けた影分身のせいで、チャクラが切れ掛かっていた。
 それ以外にも模擬戦でチャクラを使い続けていた。
 手裏剣は小指と薬指の間に挟まる形でクリーンヒットした。


 「いった~~~ッ!」


 ヤオ子は体を捻って木の上の枝着地すると、その場で右手で左手を押えて蹲る。


 「~~~っ!」


 蹲るヤオ子に、母親が駆け寄る。


 「何をやってんのよ?」

 「調子に乗った……。
  何か絶好調で戦い方を理解できてたから、
  色んな戦い方を試し過ぎて……チャクラが切れたみたい」

 「そういうことは、体の感覚で理解しないと」


 母親が苦笑いを浮かべて注意した。


 「でも、どうしちゃったの?」


 母親は隣りにしゃがみ込んで、ヤオ子の鼻先を突っつく。
 ヤオ子は頭を掻くと、今自分に起きていることを正直に話した。


 「昨日の夜から、血が騒ぐんです」


 ヤオ子が立ち上がると両手を見る。


 「今まで……ずっと基礎を続けて来ました。
  体力とチャクラ量がないから、体力づくりをして……。
  筋力が足りないから、忍に必要な筋力をつけて……。
  技術がないから、手当たり次第に色んな人の修行に関わって……。
  そして、有効な使い方を理解できないまま、言われるがまま、ただ使っていました。
  ・
  ・
  でも、今なら分かるんです。
  ただのパンチとガイ先生のパンチの違いが……。
  チャクラの効率的な使い方が……。
  今日まで自分が育ててきた基礎能力の活かし方が……」


 両手を握り締める。


 「急に分かるようになったんです」

 (血が目覚め始めたわね。
  第二段階に……)


 ヤオ子の母親も立ち上がる。


 「直に私の全てを体得するわ」

 「直に?」


 母親が頷く。


 「今の状態なら理解できるはず。
  忍術も教えるわ」

 「忍術って……新しい?」

 「ええ。
  ヤマト先生には悪いけど、もう印を覚えれば術が発動するはずよ。
  私が教えてしまうわ。
  ・
  ・
  ヤオ子……。
  間に合うかもしれないわよ」


 母親の妙な確信にヤオ子は首を傾げた。
 そのヤオ子を見て、母親は懐かしさを覚えて思い出していた。


 (この感覚は、私にも覚えがあるの……。
  医療忍者だった父や母にはなかった感覚……。
  血が脈動すると言ったら怒られた……。
  父や母には、こういう形で現われなかった。
  ・
  ・
  だけど、あの人だけが信じてくれた……。
  素敵なことだと言ってくれた……。
  それが娘にも起きている。
  ・
  ・
  なら、母親として応援しなくちゃ……。
  教えてあげなくちゃ……。
  それは素敵なことなんだって)


 ヤオ子の母親が指を三本立てる。


 「三日で、私の全てと術の印を全て習得してね♪」

 「ハァ!?
  もっとスパルタ!?」


 母親は笑みを浮かべる。


 「ヤオ子の努力……きっと、実を結ぶわよ♪
  それは素敵なことだから♪」


 ヤオ子には全く分からなかったが、次の日、母親の言葉は真実になる。
 覚醒したヤオ子の血は、母親を一気に追い抜いてしまった。
 他の忍より基本性能の向上に力を入れた分だけ、覚醒して跳ね返ってきた見返りが大きかったのだ。
 そして、その日のうちに水遁・霧隠れの術、水遁・水陣壁、土遁・土流割をヤオ子は習得した。

 ちなみに、印は例によって母親の犯罪行為により取得したものであることは言うまでもない。


 …


 また日の高いお昼時……。
 母親は悔しさを少し顔に表したあと、笑顔を浮かべて空を見上げた。
 首筋、心臓、足の腱、他にも急所や体を動かすのに重要な腱や間接に炭や石灰が付いている。
 投げ出した足は、何処も彼処もヤオ子にやられた跡だらけだ。


 「あ~あ……。
  負けちゃった……」


 つい2、3日前と立場が逆転した。
 隣で見下ろしている笑顔のヤオ子は綺麗な格好なままだ。


 「少し話を聞いてくれる?」


 母親の問い掛けに頷くと、ヤオ子は母親と同じように足を投げ出して隣に座る。
 白髪と茶髪……まるで髪の色の違う双子の姉妹ようなの光景だった。
 母親がヤオ子に話し掛ける。


 「ヤオ子……。
  あなたは、どんな忍を目指しているの?」

 「前にも聞かなかった?
  ヤマト先生かイビキさんです」

 「うん。
  その二人のどんなところ?」

 「どんな?
  優しいところとか厳しいところとか……」


 母親が首を振る。


 「そうじゃなくて。
  どんなタイプの忍者かってこと。
  幻術系とか体術系とかよ」

 「ああ……。
  ・
  ・
  考えてないですね……。
  射程を考えて必殺技を近・中・遠。
  状況を考えて土遁と水遁を追加。
  それ以外は弾数を増やすために、基礎体力を上げていただけですからねぇ……」


 ヤオ子の母親が頷く。


 「そう。
  あなたは基礎と体力を徹底していただけ。
  だけど、それで私を超えた。
  ・
  ・
  今だから、言うけど。
  私とお父さんには、上忍の話もあったのよ」

 「嘘?」

 「本当……。
  だから、その私を蹴散らしたあなたは、極めて高い基礎能力があることになるってわけ」


 ヤオ子は片手を顔の前で振る。


 「いや、話を続けないでよ。
  あたしにも驚く間を提供してよ」

 「面倒臭いから省くわね。
  それで──」

 (無視して続けるのんですか……)

 「──あなたには、私の理想を継いで欲しいかな……って思うんだ」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「お母さんの理想?」


 母親がヤオ子を指して、自分を指す。


 「私達、似てるわよね?」

 「はい。
  姿形と変態性は」

 「うん。
  実は、忍者としてのスタイルも似てるの」

 「そうなの?」

 「うん。
  さっきの上忍の話、あったでしょ?」

 「はい」

 「実は断わったの。
  お父さんと一緒に」

 「何で?」

 「目標があったから。
  お父さんと、中忍までに基礎を極めようって誓ってたから」


 ヤオ子は、再び首を傾げる。


 「基礎を極める?
  分かりませんねぇ……」


 母親は微笑んで続ける。


 「どうして基礎が大事か分かる?
  忍者としての戦いをするために必要不可欠だからよ。
  特にスピード。
  これを高みに居る忍と同等まで高めないと話にならない」

 「高みに居る忍ですか……。
  例えば?」

 「暗部、上忍」

 「ハァ!?
  中忍で、そこまで持っていくつもりだったんですか!?」

 「当然でしょう。
  自分より早いものには当てられない。
  自分より早いものは躱せない。
  だから、スピードを同等に持っていくのは最低限の条件」


 ヤオ子は厳しい条件をつけていた母親が、少し信じられなかった。
 普段は、手抜き万歳で仕事をする人間だ。
 帳簿の付け方とか……。
 売れ残りの価格の再設定とか……。
 その母親が忍者としては厳しい目標を持っていた。


 「それを中忍の目標にしてたんですか……」

 「ええ。
  だから、中忍でそこまで極められるまで、上忍の話は断わってたの。
  ・
  ・
  そして、やっと納得のいく力を身に付けた時……引退したの」

 「そうだったんですか……。
  ・
  ・
  でも、話からすると……上忍になった後の、先があるんですね?」


 母親が頷く。


 「ええ、その通りよ。
  私達は、こう考えていたの。
  中忍までに基礎を極めると同時に対人忍術を覚える。
  それ以上を目指す時……。
  上忍になるなら、大軍系忍術を身につける。
  暗部になるなら、特殊系の忍術を身につける……ってね」

 「大軍系と特殊系?
  どちらも聞いたことがないですねぇ……」

 「私の考えよ。
  今のヤオ子の状態は、忍としての基礎を収めて対人の術も持っている。
  小隊に組み込まれても問題がない状態。
  でも、これだけではダメなの。
  ・
  ・
  何故か?
  大軍系の術を使われたら何も出来ないから」


 ヤオ子は顔を顰める。


 「さっきから言ってる大軍系って、何ですか?」


 母親は頷く。


 「この前の戦いで、暗部の人が使った土遁を覚えてる?
  巨大な岩石みたいなのが落ちたヤツ」

 「あれか……。
  覚えてます」

 「あれは本来、一人相手では使わず、複数人を対象にしている術。
  これが出来ないと戦いの幅が狭いの」

 「なるほど。
  ・
  ・
  でも、ラブ・ブレスは?」

 「あれは対人だと思うわ」

 「何で?
  結構な範囲ですよ」

 「あんなスピードのない術は使えないわ。
  あれは一人相手でも躱せない範囲をカバーしているに過ぎないわ」

 「辛口ですね」


 母親が印を結び、弓を引くように左手を前に右手を引き絞る。


 「見てて」


 左手の人差し指と親指を円の一部として風のトンネルが出来ると、右手の指先から小型の火球が打ち出される。
 すると風のトンネルに吸い込まれ、火球が加速する。
 火球はクナイの投擲と同じ位のスピードで打ち出された。


 「最低、これぐらいのスピードは欲しいわ。
  もしくは、躱せないぐらいの大規模範囲の術を習得するの」

 「豪火球であのスピード……。
  新術が必要です」

 「私も、そう思うわ。
  そして、これから戦っていく時、対人と大軍を使い分けて戦わなくてはいけなくなるはず。
  対人だけじゃ、いつか殺されるわ」

 「……あれだけ修行したのに?」


 母親が頷く。


 「努力も認める。
  成果も認める。
  でも、現実はそれだけじゃない。
  ・
  ・
  これは、あなただけに言えることじゃない。
  ヤマト先生だって、大軍系の術を個人に使われた時、躱せないかもしれないわ。
  なら、こちらも大軍系の術で守るか攻めるかするしかない」


 まだ足りないものを知り、ヤオ子は少し落胆すると、もう一つを質問する。


 「では、特殊系というのは?」


 母親が頷く。


 「一つは、一族間の秘術である秘伝忍術」

 「……あたしには習得できない」

 「ええ。
  この時点で私達は、既に出遅れている。
  そして、この特殊系があれば大軍系がいらなくなる場合もある。
  大軍系の術を凌駕するだけのポテンシャルを秘めているから」

 「つまり、特殊系を持っている忍は、大軍系の術を持たなくてもいい」


 母親が頷く。


 「だから、私とお父さんは目標を三段階に分けた。
  基礎、大軍系忍術、特殊系忍術。
  そのうち大軍系忍術までは、努力で何とかなると思っている。
  だけど、特殊系忍術は習得できるかも怪しいレベル」

 「……含みがありますね。
  続きを教えてください」


 母親が頷く。


 「自ら独自開発するの。
  ヤオ子の必殺技──あれの数倍悪質なものを」

 「独自開発ですか……」

 「条件も厳しいわ。
  誰も真似できない。
  これがあれば状況が逆転する。
  何より、反則と思われる性質を兼ね備える」

 「よく分かりますね」


 ヤオ子が頭を掻く。


 「写輪眼。
  白眼。
  影真似。
  木遁。
  転心系。
  他にも秘伝忍術はありますが、あげた例は反則的に悪質です。
  ただの術じゃ対抗できる気がしません」

 「そういうこと。
  どういう風に特殊になるか、自分を知らなければならないわ」


 ヤオ子は大きく息を吐く。
 自分がどう特殊かなんて分からない。

 しかし、母親の中では、出来るかどうか分からないがある算段が立っていた。


 (血継限界の習得……。
  私やヤオ子が特殊系を習得するなら、これが一番確率が高いと思ってる。
  理由は、センスと私の家系……。
  ・
  ・
  私は、同時に二系統を発動させるまでのセンスがあった。
  私に似ているヤオ子は、血継限界を発動させる可能性がある。
  一応、私も血継限界は使えるんだけど……。
  風遁と火遁の血継限界……。
  ・
  ・
  ダメなのよね……。
  おいろけ関係の術でしか血継限界が発動しなかった……。
  そもそも血継限界が発動したのは、家系より変態性の可能性が高い……。
  ・
  ・
  そして、センスが大事なのも分かったんだけど、もう一つ大事なものがあるのが分かった。
  想像力。
  術の完成系を想像する力。
  でも、私は想像力が妄想力に変わって、血継限界がおいろけでしか発動しなかったのよね……。
  ・
  ・
  そして、家系……。
  まだ先がある気がするんだけど──)


 母親が項垂れる。
 ヤオ子は、何故、項垂れたのかと首を傾げる。


 (まあ、ヤオ子も変態性が邪魔するかもしれないけど、
  漫画を馬鹿みたいに読み込んでるから、何とかなるでしょう。
  ・
  ・
  それにこの子は気付いてないけど、既に一歩を踏み出している。
  術の四点装填。
  火遁を四つ同時に発動している。
  これを合成できれば血継限界への道が開ける)


 母親はヤオ子を見ると、にやりと笑う。
 その笑顔に、ヤオ子は捕食される前の対象物になった気分になった。
 母親が続ける。


 「まあ、そこは焦らないでいいわ。
  ヤマト先生が教えてくれるでしょう」

 「本当?」

 「ええ」

 (血継限界を使える忍が居るなら、ヤオ子の可能性が分かるはず。
  そして、次に会った時は、ヤオ子の下地は完成に近づいている。
  この誘惑にそそられない先生は居ないわ)


 母親は再びヤオ子を見ると、にやりと笑った。


 …


 ※※※※※ 番外編・これからの方向性について ※※※※※


 「お母さん。
  何か説明が多い話でしたね」

 「本当に……」

 「大体、時系列も合っているんですか?
  あたしの性質変化の修行だけで二週間。
  その間、ずっと綱手さんは昏睡状態ですよ?」

 「まあ、原作も時系列がよく分からないし。
  木ノ葉が壊滅してから直ぐに、
  都合よく雲隠れの里の忍が来るのも無理があるからいいんじゃない?」

 「実に投げやり的な発言です」

 「でも、原作で波の国のイナリ君が久々に登場したでしょ?」

 「そうですね」

 「噂を聞いてから手伝いに来たんだから、
  時間的にそれぐらい流れていてもいいんじゃない?」

 「そうかもしれませんね。
  しかし、大蛇丸さんが木ノ葉崩しをした時は、
  力が落ちるのを知られないように任務を無理して受けて情報操作したのに、
  今回は壊滅したのがダダ漏れですね?」

 「そうね。
  隠せるレベルじゃないって言うのもあるけど、よく他の国が襲って来なかったわ。
  多分、兵糧の蓄えなんかの差で、木ノ葉は負けていたと思うし……」

 「同感です。
  波の国まで噂が届いている以上、各国に知られているレベルでしょう」

 「話は変わるけど、今回、私は大活躍よね?」

 「活躍かどうかは分かりませんが……。
  と言うか、こんな説明だらけのSSを楽しいと思えるんですか?」

 「楽しくないわ。
  『またヤオ子の修行かよ』って
  思ったわ」

 「そこまで言いますか……。
  でも、仕方ないじゃないですか。
  NARUTOの術や血継限界を説明すると、どうしても読者視点の想像による補足とかが必要になるし、
  wiki読んでも分からないし」

 「それは言い訳ね。
  腕のある作者さんなら、例えダラダラとした説明でも面白おかしく読者を楽しませるものだわ」

 「そんな電化製品の説明書があるなら、読んでみたいですがね……」

 「じゃあ、今回のお話のターゲットは説明書を読む人が好きな人よ!」

 「狭っ!
  ターゲット層、狭っ!
  『NARUTOが好き』かつ『SSも読む』かつ『説明書好き』。
  何人ぐらいをターゲットにしてるの?」

 「多分、七人ぐらい……」

 「ほとんどの人が楽しめない!」

 「だって、第二部になってから、ついて行けないことが多くて……」

 「どうしたの?」

 「原作が伏線張り過ぎてて、
  週刊で伏線回収しても何のことか分からない……」

 「原作批判?」

 「コミックなら、まだ分かるわ。
  ある程度、一気読み出来るから」

 「週刊誌批判?」

 「私はアニメも見ているんだけど、アニメは、こういう風に見ているの。
  原作で大ゴマ使って飛ばしてしまった戦闘シーンの補完や、
  読むと眠くなる敵の会話を声優さんの感情を込めた音読で、こういうことかと理解するの」

 「つまり、原作とアニメを纏めて一つに?」

 「その通り。
  そうしないと私には分からない」

 「本当にダメな親です」

 「だけど、これでギリギリついていけるわ」

 「そうなんだ……。
  でも、原作第二部は、結構、駆け足で進むから分からないんですよね。
  正直、コミック一冊分ぐらい丸々説明に当ててもいいんじゃないですか?」

 「コナンじゃないんだし……」

 「でも、ナルトさんのお母さんとお父さんのストーリーなんかは、結構、気になりません?」

 「う~ん……。
  それは少し……」

 「あたしは、もう少し知りたいですよ。
  いきなり攫われて助けたなんて言われても。
  当時、多分下忍だった四代目火影の実力や少しずつ築き上げられていく二人の関係」

 「もしかして、それも伏線とか……。
  カカシ外伝みたいに……」

 「じゃあ、第三部決定?」

 「う~ん……。
  じゃあ、最近のガンダムみたいに別冊コミックで──」

 「それをNARUTOでやるの?」

 「作画:鳥山明で」

 「凄い豪華ですね……」

 「もしくは、原哲夫か荒木飛呂彦」

 「その2人に書かせたら、漫画が別物になりますよ……。
  『ドドドドドド……』
  とかいう効果音の後で影分身」

 「ナルトも劇画タッチに……。
  倒された相手も『ぶばら!』とか言って倒されるのね」

 「破裂するんだ……。
  もう術じゃないよね?
  主人公もネジさんに変更じゃないですか。
  ・
  ・
  で、要するに何が言いたいの?」

 「作者が限界を感じています」

 「え?」

 「もう、八百屋のヤオ子を続けられないということ」

 「逃げるの?」

 「簡単に言えば。
  原作についていけなくて、
  このまま続けると別物になってしまうらしいの」

 「ぐは……っ!
  あたしとサスケさんのラブシーンは!?」

 「残念ながら無くなったわ。
  予定もしてなかったけど」

 「じゃあ、打ち切り?」

 「ええ。
  こうしてヤオ子は戦い続けて行くのだった……みたいに終了させる予定よ」

 「ガーン……」


 申し訳ありませんが、82話以降、強引に終了へ向かいます。
 大変申し訳ありませんが、いつまでも放置というのはいけない事なので
 ここで打ち切りにして最終話まで全部あげてしまいます。

 ここの話以降は、こういう風に持って行きたかったというプロットのような展開になり、
 原作を無視して内容も希薄なものになります。

 寛大な心で、お許しいただければと思います。
 詳細な理由は、あとがきに書かせていただきます。



[13840] 第85話 ヤオ子の旅立ち・お供は一匹
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:10
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 母親を完全に追い抜き、幾つかの術を修めて、やっと辿り着いた及第点。
 今の自分の状態から推測して、始めなければいけないことがある。
 ヤオ子は家族に話すことがあると、父親と弟が里の復興の手伝いを終えて帰ると切り出した。


 「ねぇ。
  皆にお話があるんです」


 修行中の会話に打ち込む真剣さ……。
 それを感じた母親だけは、ヤオ子の話の予想がついていた。



  第85話 ヤオ子の旅立ち・お供は一匹



 ヤオ子から、切り出す家族会議。
 実家の八百屋の経営以外で、ヤオ子が家族会議を開くのは初めてだった。
 小さなちゃぶ台に全員分のお茶が用意される。


 「話って何だ?」


 父親が促すと、ヤオ子は正座した状態でしっかりと口にする。


 「あたし、里を出ようと思っています」


 ヤオ子の答えに、最初に質問したのは弟のヤクトだった。


 「里抜けでもするの?」


 ヤオ子は首を振る。


 「綱手さんが倒れているから、シズネさんに断わってからです。
  ちゃんと了承は得ます」

 「じゃあ、何で、里を出るの?
  今、復興をしている最中じゃないか」


 ヤオ子が真剣な顔で答える。


 「あたしの予想ですが、今回の木ノ葉崩しは前回と全然違います。
  里の力は落ちていません」


 里の惨状を見て復興を手伝っているからこそ、ヤクトには分からなかった。
 前回と今回で、何が違うのか?
 大切なものを失ったことには変わりはないはずだった。

 ヤオ子がヤクトに話し掛ける。


 「木ノ葉隠れの里が忍達の力で成り立っているのは知っていますね?」

 「うん」

 「そこが重要なんです。
  前回の木の葉崩しでは沢山の忍が亡くなりましたが、
  今回は、どういうカラクリか分かりませんが、死者が生き返って忍の数が減っていないんです。
  つまり、里の力は落ちてなくて、里が壊れただけなんです」

 「でも、建物がないと困るよ」

 「それは厳密に言えば、忍の仕事ではありません。
  家を建てるなら大工さん。
  電線を通すなら、電工技師さんです。
  ・
  ・
  それは外から雇うでしょ?
  以前、ナルトさん達が任務で関わった波の国の大工さんを見掛けました。
  もう、そういった作業も進んでいます」

 「そっか……。
  でも、それとお姉ちゃんが里を出るのと、何が関係するの?」


 ヤオ子は自分の胸に手を当てる。


 「あたしは、この数日で里を出るだけの力が及第点に達したと思っています。
  ・
  ・
  だから……サスケさんの情報を集めに行きます」


 ヤオ子の言葉に、父親が待ったを掛ける。


 「力の及第点って、何だ?」


 それに対しては、母親が補足する。


 「ヤオ子は、この三日で私を越えちゃったの。
  土遁と水遁の術も幾つか身につけたわ」


 里の復興中、修行を見ていたのは最初の数日だけ。
 それ以外は母親がヤオ子の修行を看ていた。
 そう、父親とヤクトが見ていたのは、ヤオ子と母親に歴然たる差があった時なのだ。
 故にその差を埋めて追い越したと聞いて、純粋に驚いたのだ。

 だが、父親には思い当たる節があった。
 父親は、母親に顔を向ける。


 「母さんと同じ成長期か?」


 母親が無言で頷くと、父親は腕を組んだ。


 「……それにしたって異常だ。
  母さんは、もう少し緩やかだったはずだ」

 「多分……。
  揃えていた武器の下地に差があると思うの。
  ヤオ子は、基礎だけをして来たでしょ?
  礎がしっかりしていればしているほど、受け止められる応用は大きくなるわ。
  その礎が、私よりもしっかりと強固だったのよ。
  ・
  ・
  他の子が新術開発をしている時も、ずっと基礎をやり続けてきたのよね?」


 ヤオ子が頷くと、母親は再び父親に顔を戻した。


 「あなたと同じ。
  基礎をひたすらにやって来たから、応用する体術や手裏剣術に修正のやり直しがなかったのよ。
  普通は『これでいいか』って切り上げて、実戦で試して修行不足を痛感して基礎修行に出戻ることも多いけど、
  ヤオ子は、私と実戦を繰り返すまでほとんど基礎修行だもの」


 父親がヤオ子を見る。


 「お前、任務をしてたのか?」

 「ほとんどが雑務です。
  ヤマト先生があたしに子供でいられる時間を作ってくれたから。
  まだ、人を殺めることもしていません」

 「……そうか。
  本格修行は、これからだったんだな。
  それなのにサスケさんよりも、四年も早く忍者になったから……。
  ・
  ・
  それにしても、四年間も基礎修行だけを……。
  確かにオレと似てるな。
  オレも基礎修行ばかりを繰り返していた。
  ・
  ・
  だから、分かるよ。
  母さんに初めて応用を教えて貰った時に、基本がいかに大事だったか感じた」

 「お父さん……」

 「本当に見ない間に成長していたんだな」


 父親の言葉に少し照れているヤオ子の横で、今一、分からないヤクトが父親に質問する。


 「お姉ちゃんって凄いの?」

 「どうだろうな。
  優秀な忍ほど、基礎が出来ているものだし……。
  ただ、一生懸命頑張って優秀な忍になる資格を得たんだよ」

 「……難しいね」

 「ヤクトは、これからさ。
  しっかりと修行をして、アカデミーで勉強してお姉ちゃんみたいになるのさ」

 「ふ~ん」


 母親が父親に向かって話す。


 「私は、ヤオ子に及第点を与えたわ。
  一人で里を出ても大丈夫だと思う」

 「まあ、母さんを越したんならな。
  あの母さんを……」


 父親の頭の中で在りし日の母の悪行が蘇ると、乾いた笑いが漏れる。


 「母さんが手玉に取られたんなら、
  オレも認めるしかないな」


 ヤオ子が顔をあげる。


 「いいの?」

 「ああ」


 母親に振り返ると、母親も頷く。


 「……ありがとう」


 母親と父親が微笑む。
 ヤオ子は、ヤクトに向き直る。


 「少しだけ……行ってくるね」

 「無茶しないでよ」

 「ええ。
  あたしの予想じゃ戦闘はないはずですから」

 「どうして?
  サスケさんに関わっていくんでしょ?」

 「はい。
  ・
  ・
  でも、今回の目的は、サスケさんの行動を追い掛けて調査することなんです」

 「どういうこと?」

 「あたしにはね……目的があるんです。
  アホなことをしているサスケさんにガツンと一言言ってやるっていう」

 「アホって……。
  お姉ちゃん……」

 「でもね。
  話をするにしても、あたしはサスケさんのことを何にも知らないんです。
  だから、まずそれを調べるんです。
  ・
  ・
  ヤクトは何にも知らない人に、いきなり自分の行動を咎められたら、どうですか?
  コイツは、何にも知らないクセに……とか。
  何様なんだ……とか。
  ムカつきません?」

 「ムカつくかも」

 「でしょ?
  だから、あたしは外堀からサスケさんの謎を埋めて行って、
  言いわけ出来ない決定的真実を突きつけて泣かせるんです」

 「お姉ちゃん……。
  考え方が根暗だよ……」


 ヤオ子は笑って誤魔化す。


 「だけど……。
  サスケさんの人生って少し入り組んでいるから、
  それぐらい理解してあげないといけないと思うんですよ」


 ヤクトは、最後のヤオ子の微笑が少し寂しそうに見えた。


 「兎に角。
  そんなに危ないものではないはずです」


 ヤオ子は真っ直ぐに正座して頭を下げる。


 「少しだけ、留守にします」


 母親と父親とヤクトは、ヤオ子の考えと予想を理解した上で送り出すことにした。
 思えば、これがヤオ子の最初の我が侭であった。


 …


 翌日……。
 ヤオ子は、デイバッグに旅で必要そうな荷物を詰め込む。
 そして、忍具を装備して旅の支度が整うと薬草入りのお茶の入った水筒を用意した。
 これから向かうのは、綱手の居る病室だ。

 密集した仮説住宅内にある綱手の病室は、ヤオ子の家から歩いても遠くない。
 到着した綱手の病室に入ると、ヤオ子は少し暗い気持ちになる。
 そこはヤオ子の居た病室よりも酷い場所だった。


 (ダンゾウさんって人の嫌がらせかな……)


 中に入ると、シズネが付きっ切りで綱手の看病をしていた。
 ヤオ子はいつも通りの声で、シズネに声を掛ける。


 「おはようございます」


 シズネが疲れた顔で返事を返す。


 「おはよう。
  ヤオ子ちゃん」


 声は変わらない。
 だから、気丈に振舞っているのだとヤオ子は気付く。


 「シズネさん。
  大丈夫ですか?」

 「私?
  全然平気」

 「そうですか。
  じゃあ、死なない程度に無理して頑張ってください」

 「はい?」


 シズネが目を丸くし、やがて笑みを漏した。


 「参りましたね。
  皆、無理するなって言うのに。
  ヤオ子ちゃんは……」

 「えへへ……。
  逆のことを言われると、少し認識しませんか?
  自分が無理してるって」

 「……そうね」


 ヤオ子は水筒を取り出して薬草入りのお茶を注ぐと、シズネに差し出す。


 「どうぞ。
  ちょっと気が楽になりますよ」

 「ありがとう。
  ・
  ・
  ほんと……。
  落ち着く……」


 シズネはお茶を一口飲み終え、ホッと息を吐き出した。


 「自分の体調管理も大事ですよ。
  綱手さんが目を覚ました時に、我が侭を聞いてあげられるのはシズネさんだけなんですから」

 「私って、そういうポジションの人なの?」

 「あたし達ですかね?
  少なからず、あたしも同じポジションです」


 シズネから、再び笑みが零れる。
 久々に張っていた空気が緩んだ気がした。

 ヤオ子は病室の感想を漏らす。


 「病室……。
  ここでいいんですか?
  火影の居る病室じゃないですよ」

 「……綱手様は気にしません。
  寧ろ、自分の里で自分だけ豪華な病室に寝ていたら、
  起きた時に私がぶっ飛ばされますよ」

 「そういう人ですか?
  あたしの家でやりたい放題してるのに?」


 シズネが微笑む。


 「ヤオ子ちゃんだから……。
  ヤオ子ちゃんだから、心を開けるんですよ。
  火影の仕事と言っても、上層部の全員が綱手様に協力的ではありません。
  そんな中で本当に心を開ける人は僅かです。
  ・
  ・
  社交辞令もありますしね」

 「あたしって貴重な存在じゃないですか」

 「うん。
  ヤオ子ちゃんが思っている以上にね」


 ヤオ子はシズネの言葉に元気がないのを少し辛く思って話を聞いた。
 しかし、それでも本題を切り出さないわけにはいかない大事なことがヤオ子にはあった。


 「シズネさん」

 「ん?」

 「あたし、里を出ようと思うんです」

 「え?
  ・
  ・
  何か資材が足りないの?」


 現在、ヤオ子は里の復興切り込み隊長みたいな位置づけのため、シズネはそういう風に捉えた。
 しかし、ヤオ子は、そうではないと首を振る。


 「サスケさんの足跡を追うつもりです」


 シズネの顔が真剣なものに変わる。


 「ダメです!
  今、里は大事な時期なのに!
  ヤオ子ちゃんが勝手なことをするなんて!」


 ヤオ子は、シズネの側まで行って座る。


 「里は大丈夫です。
  今回は、力が落ちていません。
  死者はあまり出ていないんだから。
  ・
  ・
  あたし、一人抜けてもビクともしません」

 「確かにそうかもしれない……。
  でも、そうじゃない──そうじゃなくて!」


 ヤオ子が真っ直ぐにシズネを見据える。


 「あたしが変わったの分かりますか?」

 「え?」


 今までの会話は、あまりにいつも通りだった。
 だから、シズネはヤオ子の微妙な変化に気付かなかった。

 シズネは改めてヤオ子を見ると、確かに何か違うものを感じ取った。


 「髪の色が変わったのは知ってるけど……。
  ・
  ・
  雰囲気……。
  確かに違う……」

 「一人で外に出して心配ですか?」


 ヤオ子から視線外せず、シズネはヤオ子を見続けていた。


 (確かに違う……。
  何だろう?
  前よりも……何か、こう大きく見える)


 シズネは首を振る。


 「確かに変わった。
  雰囲気も変わった。
  でも、ダメです!」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「じゃあ、里抜けするか」

 「へ?
  ・
  ・
  えーっ!?」

 「だって~。
  あたしは健気にシズネさんにお伺いを立てて、
  『ちょっと里の外の世界を見て来ますぜ! フフン!』って、
  報告しているのに認めてくれないんだもん」

 「そんな感じじゃなかったでしょ!」

 「要約すると、そうですよ。
  それに……別に里の外で暴れてくるわけじゃないし、いいじゃん。
  認めてよ。
  ユー 認めちゃいなよ!」

 「さっきまでの雰囲気は、何!?
  ちょっとシリアスじゃなかった!?」

 「このSSは、ギャグですよ?」

 「そんなこと、知りません!」

 「まあ、そんなわけです。
  シズネさんの選択は二択です。
  『あたしに里の外へ出る許可を出すか』
  『あたしに里抜けされるか』です」

 「何!? その脅迫まがいの選択!?
  ヤマトの許可は!?」

 「うっさいですね。
  丁度、里の外に出たタイミングを見計らってるから、関係ナッシング。
  バレません。
  どっち?」

 「どっちって……。
  他の選択肢は!?」

 「却下の方向で」


 シズネはがっくりと項垂れた。


 「こんな時に綱手様が元気なら、
  ヤオ子ちゃんを殴って黙らせるのに……」

 「ふふふ……。
  鬼は寝ています」


 流されていた雰囲気を振り払い、シズネは少し冷静に考える。
 そして、堅実的な手段を口にする。


 「ここで大声を出す……と言う選択肢もあります」

 「別にいいですよ。
  ここに居るのは里一番の変態です。
  シズネさんが大声を出す理由は幾らでもあります」

 「何てことなの……。
  未だかつて犯人が大声を出されることを恐れないなんてことがあったかしら……。
  いや、それどころかそれを強みに押し出すなんて……。
  ・
  ・
  推理小説の根本が崩れ去る気分だわ……」


 ヤオ子はワキワキと両手を動かす。


 「ふふふ……。
  何なら、本当にシズネさんを襲いましょうか?
  ・
  ・
 (ワキ…ワキ……)
  ・
  ・
  その時は、大声ではなく喘ぎ声ですけどね♪」

 「……え?」

 「露天風呂で初めて生乳を揉んだ時を思い出します♪
  ・
  ・
 (ワキワキ…ワキワキ……)
  ・
  ・
  あの時の潤んだ瞳と甘い声が忘れられません!」

 「私のトラウマーっ!?」

 「シズネさん♪
  ・
  ・
 (ワキワキ! ワキワキ!)
  ・
  ・
  乳にする?
  耳の裏?
  それとも……う・な・じ?」

 「あヒィーッ!
  犯される!?
  ヤオ子ちゃんに犯される!?」


 そこに寝ているはずの綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「綱手さん!?」
 「綱手様!?」


 しかし、綱手は動かない。


 「何、今の?」

 「条件反射?
  ・
  ・
  あたし、経験があります。
  意識のないサスケさんが、あたしの悪戯に突っ込みを入れたんですよ。
  綱手さんも、ついにその突っ込みの領域に……」

 「ヤオ子ちゃんって、里の突っ込みを育ててるみたいですね……」

 「本当ですよ。
  ・
  ・
  で、何の話をしてたんでしたっけ?」

 「……何だっけ?」


 ヤオ子がポンと手を打つ。


 「ああ。
  あれですよ。
  あたしの里を出る話」

 「……そうだった。
  ・
  ・
  結局、ダメって行っても出て行くのよね?」

 「はい♪」


 シズネが溜息を吐く。


 「だったら、私のお使いってことにします。
  里抜けなんてされたら大問題ですから」

 「えへへ……。
  ありがとう。
  ・
  ・
  じゃあ、旅立つ前に情報も仕入れたいんで……教えて」


 シズネが額を押さえる。


 「教えて……って」

 「もう、いいじゃないですか。
  素直に吐かないと被害が広がるだけですよ?」

 「もう、何でも聞いて……」

 「素直な娘は大好きです♪」


 シズネは、ヤオ子に完全に捕食された。


 「何が聞きたいの?」

 「うちは一族について」

 「どうして?」

 「今更ですけど、サスケさんについて調べようと思って」

 「まさか……。
  里の外に出て、うちはサスケと──」


 ヤオ子は首を振る。


 「無理。
  あんなのと戦えない。
  あたしは情報を集めるつもりです」

 「情報?」

 「サスケさんが歪んだ考えを持った理由を知りたいんです。
  あたしの知っているサスケさんは、純粋な少年でしたからね。
  こんな風に理由もなしに暴れ回る人じゃないんですよ。
  ・
  ・
  だって、あれでスかしたことを言ってるんですよ?
  ナルトさんの話だと
  『怪我はねーかよ? ビビリ君?』ですよ?
  あっはははははは!」

 (この子、本当にサスケのことを想っているのかしら?)

 「それにね……。
  何と……サスケさんのファーストキスの相手はナルトさんなんですよ?
  それを聞いた時は、腹が捩れるかと思いましたよ。
  そんな人間が、今、ニヒルな悪役を演じてるなんてチャンチャラおかしいでしょ?」

 「ま、まあ、そんな極端な一部分だけを例に出されれば……」

 (でも、ヤオ子ちゃん……気付いてる?
  あなた『悪役を演じてる』って言ってるのよ。
  そんな言い方をしても、心で否定してる。
  信じたくないって言ってる。
  ・
  ・
  この子もナルト君やサクラと同じなんだ。
  うちはサスケが大事なんだ)


 シズネが綱手を見る。
 サクラ達が暁の蠍の部下に接触するために天地橋に向かった時、綱手はこう言っている『お前とサクラ達では違う』『強い気持ちが任務を成功に導く』と。
 ヤオ子を見る。
 ヤオ子も強い思いで動いている気がする。


 「ヤオ子ちゃん。
  敵との接触はしないと誓えますか?」

 「はい」

 「里を出て行なうのは、うちはサスケの足跡の調査だけ」

 「はい」

 「分かりました。
  私がヤオ子ちゃんに正式に情報探索の任務を与えます」

 「……ありがとう」


 シズネは溜息を吐く。


 「皆、思いが強過ぎて困りますね……」

 「?」


 ヤオ子は首を傾げた。


 「知りたいのは、うちは一族のことでしたね?」

 「はい」

 「ヤオ子ちゃんは、うちは一族を何処まで知っているの?」

 「正直……あまり知りません。
  知らないようにしていました。
  中忍試験でサスケさんを見世物にするような言葉を聞いてから極力無視をしてましたし、
  サスケさんとの会話でも、あまり話さないようにしていました」

 「ヤオ子ちゃんって、意外とそういうところは筋を通しますよね……。
  普段、あれだけメチャクチャするのに」

 「言えませんよ……。
  傷つけるだけだし……。
  サスケさんが気にしていることですもん……」

 「でも、調べるんですよね?」

 「ええ。
  あたしの我慢も限界です。
  だから、サスケさんと語る前に下準備をします」

 「下準備?」

 「企業なんかでプレゼンテーションをする時には、事前に資料を集めて理解することが重要です。
  例えば、相手の会社の商品も知らずに提供する商品の利害の一致なんて無理でしょ?」

 「本当に雑務専門のOLみたいね……」

 「ええ。
  幅広く手掛けて来ましたからね」


 シズネは雑務の話が絡むと、ヤオ子が自分より大人に見える時がある。
 何か追求するとボロが出そうなので、シズネは無理に話を続けることにした。


 「えっ……と。
  うちは一族でしたよね。
  うちは一族は、忍の中でもエリートとして認識されています。
  身体的な能力もありますが、うちは一族の血継限界・写輪眼はとても強力な力を持つからです」

 「カカシさんのコピー能力とかですか?」

 「そうです。
  聞いた話では、写輪眼は『体術・幻術・忍術』をすべて見抜くことが出来ると言われています」

 「へ?
  ・
  ・
  じゃあ、あたしがサスケさん相手にワンパンチ入れるなんて、
  最初から無理に近い目標だったんじゃないですか?」

 「正直……無謀だったと思います」

 「…………」


 ヤオ子は乾いた笑いを浮かべたあと、項垂れた。


 (サスケさんにからかわれてたんだ……)


 シズネの説明が続く。


 「そして、ヤオ子ちゃんが言っていた、はたけカカシのコピー能力。
  これは写輪眼の動体視力の高さと、視認して解析する能力によるところが大きいと思われます」

 「そんなに能力があるの?
  写輪眼って、一つだけの能力じゃないんですね」

 「嘘か真かチャクラの流れを形として視認することが出来て、
  性質を色で見分けることも可能とも……」


 ヤオ子が手で制す。


 「待った!
  それって土遁だったら黄色とかって見分けれるってことですよね?」

 「そうなりますね」

 「……そんなのと、どうやって戦うの?」

 「基本敵には戦えないですよね……。
  だけど、体は普通の人間です。
  早い攻撃を避けるのに目で追えても、体がついて来なければ避けれません」

 「なるほど。
  ガイ先生が自然と体術のスペシャリストになったのが分かります。
  カカシさんを永遠のライバルと宣言していますから、
  カカシさんの写輪眼で見切られても、
  攻撃が当たる速力やタイミングを身につける必要があるんです。
  カカシさんと戦うなら、体術のスペシャリストになっているのは必須条件だったんです」

 「少しマイト・ガイのルーツが見えた気がした……」


 ヤオ子が指を立てる。


 「もう少し予想を言いますね。
  術を発動するのには幾つかの工程が必要です。
  『チャクラを練る』『印を結ぶ』『術の発動』です。
  今のだけで3アクションです。
  まあ、『チャクラを練る』『印を結ぶ』を同時に行なえば2アクションで済みますが。
  ・
  ・
  写輪眼がシズネさんの言われた通りのものなら、かなり不利です。
  印で術の形態がバレる。
  チャクラで性質がバレる。
  チャクラ量で術の総量がバレて術の規模がバレる。
  ただ戦闘を行なうんなら、術を使うのはハンデになると思います。
  だから、術なんか使わないでガイ先生のように体術のみで戦うのが有効的だと思います」

 「……何で、そんな予想がスラスラ出てくるの?」

 「あたし、ガイ班で体術を見て貰うことがあるでしょ?
  その時、ガイ先生とカカシさんのお話を聞く時があるんです。
  そして、ネタに詰まったガイ先生から相談を受けて、カカシさんの抹殺計画を練りました。
  ・
  ・
  カカシさんに実際に試したところ、結構な有効手段でしたので、
  次回の対決の時にはガイ先生があたしの仇を取ってくれるはずです」

 「何やってるの?」

 「カカシさんを虐め抜く画策の作成」


 シズネが額を押さえる。


 「そう言った意味では、うちは一族にガイ先生を充てるのは有効な手段だと思いますよ。
  まあ、残っているうちは一族はサスケさんだけだから、有用性は低いですけどね。
  ・
  ・
  あ。
  あと、カカシさんが居た」

 「カカシは違うでしょ!」

 「そうでした」


 ヤオ子は笑って誤魔化すと、続きを聞く。


 「他には?」

 「能力については、一般的に知られているのは以上です」

 「そうですか。
  もう少しいいですか?」

 「ええ」

 「能力は隠すものでしょう?
  何で、そんなに詳細が知れ渡っているんですかね?」

 「?」


 ヤオ子が腕組みをして考える。


 「時代のせいかな……。
  まだ国に一国一里のシステムが確定する前は、忍は集団や一族で動いていたはずだし……」


 シズネはヤオ子の独り言を静かに聞いている。


 「強い一族は研究されて他の一族にマークされて、ある程度の情報が共有されて流れるはず。
  そして、国に自分の一族を売り込むなら、ある程度の情報を流すのは当然か……」


 ヤオ子がシズネを見る。


 「もしかして、うちは一族って、もう少し隠し玉を持っていませんか?」

 「どうして?」

 「情報を公開する時、全部を公開しないと思うんです。
  奥の手を持っていないと、対策を取られるかもしれませんから」

 「確かに考えられますね。
  写輪眼の使い手の中には強い瞳力を持った人が居たみたいです。
  幻術に優れていたり、催眠眼を持っていたり……。
  使う人によって開眼した瞳力に差があるのかもしれません」

 「思い当たる節があります。
  あたし、サスケさんの写輪眼で幻術の練習台にさせられていました」


 シズネが、再び額を押さえる。


 「何でかな~……。
  ヤオ子ちゃんと会話をすると、驚かされるか可哀そうなエピソードが漏れなく付いて来るのは……」

 「あたしの特性なんでしょうね。
  もう、諦めてよ」

 「ヤオ子ちゃんは、いいの?」

 「弄られる役に取って、これほどおいしいことはないと思っています。
  あたしの苦労が血となり肉となった瞬間ですから」

 「間違ってる!」

 「まあ、それは置いといて」


 ヤオ子が手で話を置いたしぐさをする。


 「写輪眼については、大体の能力を理解しました。
  次の話を──」

 「待って」

 「?」

 「もう一つ、重大なお話があります。
  今までは、一般的なことでした。
  ・
  ・
  次は、万華鏡写輪眼についてです」

 「万華鏡写輪眼?
  何それ?」

 「写輪眼を上回る写輪眼です」

 「何が出来るの?」

 「正直、詳細は分かりません」

 「は?
  ・
  ・
  どういうこと?」

 「説明がつかないんです」

 「じゃあ、何で知ってるの?」

 「万華鏡写輪眼を掛けられた者が居るからです」

 「掛けられた?
  さっき、言ってたか幻術か催眠眼?」

 「はい。
  私の知っているのは、
  うちはイタチが使った『天照』と『月読』と言われる能力です」

 「『天照』を掛けられたの?
  『月読』を掛けられたの?」


 ヤオ子の質問でシズネは少し反省する。
 ヤオ子に無理をさせないために説明を急ぎ過ぎた。
 そして、情報提供とうちはに近づく危険性を伝えるべく話を続ける。


 「少し焦り過ぎましたね。
  順番に話します。
  『天照』は、消えない黒い炎です」

 「消えない?
  ・
  ・
  消えないの!?」

 「そうみたいです」

 「…………」

 (防御不可じゃないですか……。
  髪なんかに引火したら、切り離すしかないのか……)


 そんなに可愛いものではない。
 天照は対象物を燃やし尽くすまで消えないのだ。
 しかも、視界に捉えられたものが対象になる。
 髪ならいいが、腕にでも引火したなら腕を切り離すことになる。


 「そして、『月読』……。
  自らの精神世界へ引きずり込み、
  時間や空間、質量などあらゆる物理的要因を支配します」

 「固有結界みたい……」

 「これに掛けられたのが、はたけカカシとうちはサスケです。
  ・
  ・
  ヤオ子ちゃんも知ってると思います。
  サスケとは親しかったんだから。
  一時期、入院していたでしょ?」

 「そういえば……。
  その時期なんですか?」

 「ええ。
  綱手様が治療しました」

 「逆に言うと綱手さんほどの医療忍者でなければ、
  治療できないほどの術だった……ということですね?」


 シズネが頷く。
 話を聞いて、ヤオ子は困り顔になる。
 どちらも少しでも掛かれば死に直結する。


 「触れることも出来ない相手って……。
  そういったレベルの話になっていたんだ……」


 思わず溜息も漏れる。
 そして、またまた気になることが出来た。


 「シズネさん。
  うちはイタチって、誰?」

 「それがこれから話す、うちは一族に関する重要人物です」

 「やっと、うちは一族の話ですか」

 「ええ……。
  ・
  ・
  先に言っておきます。
  うちはサスケとうちはイタチは兄弟です」

 「!」


 ヤオ子が驚いた顔でシズネを見る。


 「うちは……。
  ・
  ・
  そういえば、うちは一族って、全員苗字がうちは何ですか?」


 シズネがこけた。


 「ちょっと!
  そこは、どうでもいいでしょう!」

 「いや、ちょっと気になっただけですよ。
  ある島じゃ、全員名前が同じなんてのがあるから。
  ・
  ・
  十分、インパクトあって驚いてますよ。
  サスケさんとイタチさんが兄弟ってところ」

 (本当かな……)

 「で?」

 「また、この空気で説明させられるのか……。
  はぁ……。
  ・
  ・
  うちは一族は……うちはサスケを残して皆殺しにされたんです」

 「嘘……」

 「本当です。
  そして、それをやったのが……兄であるイタチなんです」


 ヤオ子の頭にサスケの思い出が蘇る。
 そして、中忍試験の観客の無責任な言葉が頭を過ぎると、ヤオ子は胸のシャツを握り締める。


 「……どうして?」


 シズネは首を振る。


 「理由は、うちはイタチに聞かないと分かりません。
  私は、ここまでしか知りません。
  ・
  ・
  そして、サスケが復讐を誓ったのがこの事件です」

 「サスケさんの仇は……お兄さんなんだ」

 「ええ……」

 (ヤマト先生は、サスケさんは復讐を果たしたって言ってた……。
  そうするとサスケさんは、お兄さんに手を掛けたことになる……。
  ・
  ・
  そんなの嫌だな……。
  あたしは、ヤクトを手に掛けるなんて絶対できないもん……)


 ヤオ子は俯く。


 「あたし、サスケさんに無責任なことを言ったかもしれない……。
  サスケさんを知らずに傷つけたかもしれない……。
  ・
  ・
  でも……。
  あたしの中のサスケさんは復讐だけを語らない……。
  あたしに優しい顔を向けてくれた……」

 「ヤオ子ちゃん……」


 ヤオ子が顔をあげる。


 「何で、サスケさんだけ生かしたんだろう……」

 「え?」

 「お兄さんです。
  一族を皆殺しにしたのに、何で、サスケさんだけを生かしたんですか?」

 「理由……。
  何かあるのかもしれませんね……」


 ヤオ子は、うちはサスケとうちはイタチには何かあるかもしれないと思う。
 そして、それこそが自分が調べなければいけないことで、サスケを理解することに近づくと思う。


 「シズネさん。
  そこも調べてみます」

 「そうね」

 「まず、これまで分かっているサスケさんの足跡を教えてください。
  あたしは、里抜けした後は知りませんから」

 (まあ、トラウマで大体の位置は分かるんですけど)


 シズネがヤオ子の重大なサスケ探知能力など知る由もなかった。
 今、必死になっているナルト達に、ヤオ子の能力がどれだけ重要かも気付かない。
 ヤオ子も気付かせない。
 そして、このすれ違いによって、サスケ探索は困難を極めたのである。


 「里抜けしてから、一度、サスケはナルト君達と大蛇丸のアジトで接触しています」

 「場所は?」

 「草隠れの里にある天地橋の先です」

 「あたしは、最初にそこに向かいます」

 「ええ」

 「他に情報はありますか?」

 「ないです」

 「じゃあ……」


 ヤオ子がシズネに姿勢を正して頭を下げる。


 「行って来ます」

 「気をつけてね」

 「絶対に無理はしません。
  いや、したくありません!」


 シズネはヤオ子らしいと微笑み、ヤオ子は綱手に向き直って手を取る。


 「あたしの我が侭を通して来ます。
  ・
  ・
  帰って来たら、殴ってください。
  元気になって、殴ってください」


 ヤオ子は綱手の手を最後に強く握ると立ち上がる。


 「シズネさん。
  綱手さんをお願いしますね。
  倒れる前より、凶暴になってても構いませんから」

 「どんな治療をすればそうなるんですか……」


 ヤオ子は微笑むと、綱手の病室を後にした。
 そして、ヤオ子と会話を終えたシズネは、何故か少し元気になっていた。
 きっと、ヤオ子のせいでいつも通りにさせられたからだろう。


 …


 『あん』の門の前……。
 ヤオ子はすっきりとしてしまった里を振り返る。
 里の中では、皆が復興を頑張っている。


 「…………」


 前を向く。
 自分の行く道に目を向ける。
 そして、突然、両手をあげた。
 ヤオ子の手の中で、何かが蠢いている。


 「何だ、タスケさんか」


 ヤオ子の手の中には、立派な猫になったタスケが居た。


 「よう」

 「お久しぶりです。
  どうしたの?」

 「お前が死に掛けたって噂があったから、来てやったんだよ」

 「えへへ……。
  ありがとう」


 ヤオ子がタスケを抱き締める。


 「元気そうじゃねーか」

 「ええ。
  これから旅立つ予定です」

 「何?
  ・
  ・
  オレも行く」

 「は?」

 「どうせ、暇だしな。
  死に掛け白髪少女のお守りをしてやる」

 「相変わらずの毒舌っぷりですね。
  ・
  ・
  でも、嬉しいな。
  正直、一人は心細かったから」

 「親分を慕ういい子分だ」

 「格下げされてない?」

 「初めから、お前の格付けは変わってないが?」


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「まあ、いいです。
  ・
  ・
  猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子はチャクラを練り始め、辺りには禍々しいチャクラが荒れ狂う。


 「ちょ──おま!
  いきなり、何て量のチャクラを練るんだ!?」


 タスケの言葉を無視してヤオ子はひたすらに練り続け、そして、印を結ぶ。


 「影分身の術!」


 十分なチャクラを分け与えられた影分身が五体現れた。


 「じゃあ、いつも通りの修行を移動しながら行ないます!」

 「ハァ!?」


 タスケは意味が分からず、影分身達は頷く。
 ヤオ子は母親としていた修行を実行しながら、木ノ葉隠れの里を後にした。



[13840] 第86話 ヤオ子とタスケの口寄せ契約
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:09
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 森の中を影が通り過ぎる。
 集団が木々を飛び移り、先頭の二人だけが会話をする。
 いや、二人ではなく、一人と一匹だった。
 忍猫のタスケがヤオ子に話し掛ける。


 「ヤオ子。
  何があったんだ?」

 「何がって?」

 「まず、髪の色」

 「ああ、これ?
  似合ってるでしょ?」


 ヤオ子がポニーテールを掴んでタスケに見せる。


 「全然、似合ってねーよ。
  生え際が茶色で気持ち悪りーよ」

 「似合ってるじゃないですか。
  銀髪に近い、綺麗な白ですよ?」

 「馬鹿じゃねーの?」

 「…………」


 ヤオ子は自分のポニーテールを見る。


 「そんなに変かな?
  ・
  ・
  でも、確かに生え際が茶色というのは……。
  これが伸びていって半分白で半分茶色だと、どうなるんだろう?」

 「想像したくもないな……」

 「う~ん……。
  死に掛けるほどチャクラを使い過ぎて白髪になったんですから、
  精神エネルギーのエロパワーが不足しているのかもしれませんね。
  どっかで補給して一気に髪の色を──」

 「戻るか!」

 「あはは……。
  やっぱり?」

 「当然だ!」


 先頭の本体とタスケに続いて、影分身達が一列縦隊で続く。
 天地橋に向け、一路修行しながらの移動は継続中である。



  第86話 ヤオ子とタスケの口寄せ契約



 続く影分身は三人。
 火の性質変化、水の性質変化、土の性質変化とそれぞれ修行を分担している。
 残り二体は、木ノ葉近くでチャクラ吸着の木登りと手裏剣術を修行していたりする。
 そして、本体とタスケの会話が続く。


 「お前、いつの間に強くなった?」

 「強く? なってないよ。
  タスケさんと最後に別れて二ヶ月ぐらいでしょ。
  なるわけないですよ」

 「そうか?
  木々を飛び移る間隔が半端なく広がっているぞ?」


 ヤオ子がタスケと飛び移っている木々の距離に目を移す。
 確かに少し前の自分とは、一足飛びの移動距離が違う。
 だが、使っている体力、チャクラ量に変化はない。


 「体の使い方を理解したんですよ。
  今ね。
  何でも分かる感じなんです」

 「何だ? それは?」

 「今までやってた修行が、何のためなのか分かるんですよ。
  理解して体を動かせるんです。
  ・
  ・
  そうするとね。
  パーツが揃うんですよ。
  あそこまでの枝にどう体を動かせばいいか……とか」


 ヤオ子が今までの移動間隔の二倍先にある枝を凝視し、自然な動きのように見える中で体に込める力と爆発させる力を寸分の狂いなく解放する。
 タスケの横のヤオ子が一瞬で消えると、タスケの目には前方の枝に着地するヤオ子が見えた。


 (大化けしたな……コイツ)


 タスケが速度を上げてヤオ子に追いつき、質問を続ける。


 「分かるのは体の使い方だけなのか?」

 「いいえ。
  チャクラの特性の理解も早くなりましたよ。
  でも、これも厳密に言えば、体の使い方かな?」


 タスケが後ろを見る。
 後方では移動しながらの影分身による性質変化の修行が見える。


 「この短い期間に二つも覚えたのか?」

 「ええ。
  あと、風遁と雷遁でコンプリートです」


 タスケが吹いた。


 「全部、覚える気なのか!?」

 「要領は同じでしょ?
  性質変化に大事なのはチャクラを変えるイメージです。
  チャクラの性質を火に性質変化させるのに必要なイメージは自然界にありました。
  水遁も土遁もね。
  だったら、風遁も雷遁も同じじゃないですか?」

 「理屈じゃそうだが……」

 「あたし、得意なんですよ。
  想像するのとか妄想するの」

 「知ってるよ。
  お前のチャクラの禍々しさは、精神力に得体の知れないものを混ぜているからだからな」

 「便利ですよ~。
  エロいことさえ考えればいいんだから」

 「変態にしか扱えん。
  ・
  ・
  でも、それって汚くないか?」

 「汚い?」

 「そうだ。
  普通は、精神力が減るから精神的負担が掛かる。
  しかし、お前の場合は精神負担が掛からん」

 「でも、影分身を解いた時には、頭に情報の負荷が掛かりますよ」

 「他は?」

 「え?」

 「他の場合は?」


 ヤオ子が移動しながら腕を組み、今までの経験を思い出す。


 「あまり疲れないかな?」

 「卑怯じゃないか」

 「じゃあ、変態になるのとチャクラを練る時に精神負担が掛かるのと、どっちがいい?」

 「…………」


 今度は、タスケが自分の変態になった姿を想像するために考える。
 そして、やがて溜息を吐く。


 「……リスクが大きい。
  精神負担が掛かった方がマシだ」


 ヤオ子はタスケを見て笑った。
 そして、その時、後ろの影分身が次々に煙になった。


 「いつもより早いですね」

 「動きを加えているからだろう。
  動きながらチャクラを練るのは集中力がいるからな」

 「その差か……。
  でも、いい感じです。
  動きながらもチャクラを練り続けられました」


 前方に視線を戻すと、再びタスケはヤオ子に話し掛ける。


 「……なぁ、少し間違ってないか?」

 「ん?」

 「チャクラを練るのは術の発動と高速移動を用いる時だろう?
  こんなに長い時間練り続ける状況ってあるか?」

 「…………」


 ヤオ子は顎に指を当てて考える。
 そして、暫くして緩い笑顔を浮かべて答える。


 「ない♪」


 タスケがこけた。


 「でも、やる♪」

 「何でだよ……」

 「戦い続ける間中、術を発動するんだ~♪」

 (コイツ、今度は何を考えているんだ?)


 タスケがヤオ子に溜息を吐いた時、ヤオ子が枝の上で停止する。


 「さてと。
  今日は、ここまでにしよう」

 「まだ午前中だぞ?
  移動しないのか?」

 「うん。
  野宿するから、水の飲める場所を探す」

 「そうか」


 タスケが耳と鼻をピクピクと動かし、辺りを注意深く探る。
 そして、進行方向の左を向く。


 「あっちだ」

 「さすが」


 ヤオ子とタスケは水の音のする場所へと行き先を変更した。


 …


 水を確保するために移動した場所──そこは緩やかに川が流れている河原だった。
 そして、その川の前で、ヤオ子は岩を担いでいる。


 「せ~の!」


 岩に岩をぶつける乱獲方法を実行。
 岩から水中に伝わる振動で、魚がぷかぷかと浮かぶ。


 「えへへ……」


 ヤオ子は川の流れで手元に流れてくる魚をデイバックから取り出した包丁で恐ろしいスピードで捌いていく。
 熾した火の前に次々と突き刺さる魚を見て、タスケは呆れる。


 「お前、自給力あり過ぎだろ?
  何だ? この恐ろしいほどの手際と量は?」

 「まあまあ。
  今回は塩もあるから、しっかりと味付け出来てますよ」


 タスケが魚に目をやると、いつの間に付けたのか塩が振ってあった。


 「まあ、いいか……。
  旨い魚が食べられれば。
  コイツの料理の腕は間違いないからな」

 「そうそう」


 魚を捌き終えたヤオ子がタスケの隣に腰を下ろすと、タスケはヤオ子の頭に飛び乗り、ヤオ子のポニーテールに尻尾を絡ませて遊び始める。


 「あたしの頭は特等席ですね」

 「お前の軽い頭が居心地いいんだ。
  玩具までついてるしな」

 「……ポニーテールは決して玩具じゃないです」


 暫くして目の前で香ばしい臭いが漂い始めると、両面均等に焼けるように魚をひっくり返す。


 「ヤオ子。
  これから、どうするんだ?」

 「そうですねぇ……。
  水は確保できたし、食料も確保できたし。
  ・
  ・
  午後は、修行かな?」

 「お前、真面目過ぎるだろう?」

 「そう?
  でも、今、修行するの楽しいし。
  午後から新しい修行をしようと思って」

 「新しいのか?」

 「ええ。
  さっき、影分身がほぼ同時に消えたでしょ?」

 「ああ」

 「影分身には均等にチャクラを分けたんですけど、
  それが同時に消えたということは、水遁も土遁も火遁と同じぐらい扱えたということになるんです。
  無駄なチャクラを練っていれば差が出るはずですからね」

 「なるほど」

 「だから、新しい修行をします」

 「どんな?」

 「今日は、同時に火遁と水遁と土遁を発生させる修行です。
  明日からは、移動中に火→水→土と素早く切り替える修行をします」

 「どれも高度だな」

 「ええ。
  あたしの修行も、そこまで出来るレベルに達したということです」

 「……奢ることなくいい心掛けだ」

 「えへへ……。
  ありがとう」


 ヤオ子が焼きあがった魚を火から離れたところに刺す。
 猫舌のタスケ用に冷ますためだ。


 「タスケさんは、どんな術が使えるの?」

 「オレか?
  オレは、風遁だ」

 「おお! 凄い!」


 タスケがヤオ子の頭から飛び降りて手を出す。
 爪が伸びると同時に風の刃が爪を覆う。


 「まあ、在り来たりだが、猫が戦うなら爪を風遁で強化するのはセオリーだろうな」

 「そうですね。
  素早い動きの猫なら、スピードを活かして直接切り裂くのがいいですよね」

 「そういうことだ。
  午後は、オレも久々に修行をするかな」

 「タスケさんと一緒か……いいですね。
  ・
  ・
  そうだ!
  タスケさん、風遁を教えてよ」

 「お前は、別の修行をするんだろ?」

 「影分身を修行させます」

 「まあ、いいけど」

 「そして、明日からの移動はコンビ忍術を作りませんか?」


 タスケが首を傾げる。


 「何だ? それ?」

 「赤丸さんとキバさんみたいにコンビネーションで戦うんです」

 「ヤダ」


 タスケ、即答。


 「何で?」

 「面倒臭い。
  お前が、オレの戦い方に合わせろ。
  オレが指示してやるから、オレのオプションとなって戦え」

 「何? この酷い扱い?」

 「いいか?
  オレが『火を吹け』と言ったら、火遁を使い。
  オレが『行け』と言ったら、敵に向かって行け」

 「本当にオプションじゃないですか……」

 「そして、オレが『死ね』と言ったら、死ぬんだ」

 「出来るか!
  久々ですよ!
  こんなサスケさんを彷彿とさせる独裁っぷりは!」

 「冗談だよ。
  最後のだけは」

 「最後の以外も、結構、酷いですよ……」

 「まあ、自由に生きる猫とコンビを組むというのはそういうことだ」

 「……分かったような分からないような」


 ヤオ子が時間差で焼きあがった魚を手に取る。


 「修行の話は、後にしましょう」

 「……だな」


 タスケが冷めた魚を器用に両手で掴む。


 「「いただきます」」


 ヤオ子とタスケの昼食が始まった。


 …


 午後……。
 影分身二体達が川の中にある丸みを帯びた小さめの岩の上に座っている。
 ただ、片足を川に突っ込み、片足を座る岩の上に立てて、両手を岩の上に投げ出すという奇妙な姿勢だ。
 そして、そんな姿勢でありながら集中力は極めて高く、額には汗が浮かんでいる。
 水の中の足の周りがバシャバシャと水を跳ねさせ、岩の上の足の周りでビシビシと岩に皹が入り、そして、両手では周囲の空気が温められていた。

 影分身達は、母親が言っていた同時にチャクラを発生させての三段攻撃を実現するための修行を開始していた。
 母親との修行ではチャクラの性質変化の質をあげる修行までで終わっているが、これは思ったよりも高度な技術が必要だった。
 何が難しくするかと言うと、チャクラの性質が変わり切るまでの体を通るチャクラの距離が短くなることだ。
 例えば、一つの性質変化を実行する場合。
 お腹で練り上げたチャクラが腕に到達するまでが全て性質変化として使える。
 しかし、チャクラを二つ以上使う場合は少し違う。
 お腹で練り上げたチャクラが分岐するまでの期間は、ただのチャクラ。
 分岐して腕や足に向かう所からが性質変化の期間になる。
 これを行なうと体内で性質変化させる期間が減らされることになる。
 つまり、今までお腹から腕まで100%の性質変化が出来ていたものが、『腕から50%』『足から50%』しか行なえないようなものになるのだ。

 そうなると腕や足の性質変化の質を上げて、二倍ぐらい濃い性質に変化させる必要が出てくる。
 と言っても、これはヤオ子の持つ術が体内に留める装填式の必殺技のせいでもある。
 ヤオ子自身、性質変化をさせるには幾つかのパターンがあるのは理解している。
 例えば、ナルトの風遁・螺旋手裏剣。
 これは影分身と共同作業により完成した術で、形態変化をする係と性質変化をする係に分かれている。
 そして、本体の掌の上で外から形態変化と性質変化を加えている以上、体内で性質変化しきったチャクラを加えるのではなく、術として発動したチャクラに後付けで外から加えていると言える。
 つまり、性質変化を発動するのは体内でする必要はない。
 熟練した忍なら、体内から体外に出る瞬間に切り替えることも可能になる。

 そして、今のヤオ子の修行方法はヤマトタイプと言える。
 ヤマトの木遁忍術は体内から直接発生させることがある。
 これは両手を合わせて合成する工程を省いて、体内で混ぜ合わせているからだと考えられる。
 体内で混ぜ合わせている以上、チャクラの二系統を発生させて、体内の何処かで混ぜ合わせなければならない。
 チャクラを発生させる精神エネルギーと身体エネルギーを混ぜ合わせている工程中に水遁と土遁を混ぜ合わせている可能性もあるが、それは可能性が低いと思われる。
 なぜなら、ナルトが仙術チャクラを練るのに自然エネルギーを混ぜ合わすのにアレだけ苦労するのに、同時に二系統の性質変化を加えて合成するなど、仙術チャクラを練るより難易度が高くなってしまうからだ。
 そう考えると、チャクラを発生させて術を発動させる場所までに性質変化し終えるのがチャクラの性質変化と考えられるだろう。
 故にチャクラを同時に変化させるのは奥義とも言えるものになり、それを合体させて別の性質を合成する能力は血継限界と呼ばれることになる。
 そして、そう考えると血継限界である木遁を自在に扱えるヤマトは、チャクラの扱いの達人であることがよく分かる。

 しかし、血継限界も一族秘伝のものだけではない。
 努力とセンスで発生することも、十分に考えられる。
 また、使う者のイメージや性質にも左右されると思われる。
 よって、ヤマトが使う水遁と土遁の合体を別の者が同じように水遁と土遁を合体させたとしても、必ずしも木遁が発生するとは限らないと考えられる。

 実は、ヤオ子は母親に騙されて修行をしている。
 母親は、少しヤオ子に期待を込めて遠回しに修行を進めた……必殺技の進化系であると。
 必殺技の進化系であることは確かだが、その先の血継限界の発動にも淡い期待をしている。
 当然、無理も承知だ。
 発生しない可能性の方が高い。
 真実を告げないのは、血継限界が発生しないことで落胆するヤオ子を気遣ってのことである。


 ((もっと、質を……))


 母親の思惑を知らないまま、新たな力を研磨する修行が続く。
 影分身達の集中力は増していった。


 …


 一方、別の場所では、ヤオ子がタスケの隣で禅を組む。
 風遁の性質変化の修行をおさらいしているタスケの横で、風遁の性質変化のチャクラを感じていた。


 「うん……。
  風を感じる……。
  風のイメージです……」


 タスケから発せられる風のチャクラを、ヤオ子は涼風のように感じていた。


 (草原を流れるようなイメージがします……)


 タスケが少し攻撃的にチャクラを練る。


 (荒れ狂っている……。
  強い向かい風みたいです……)


 タスケのチャクラは、更に研ぎ澄まされる。


 (風の刃……。
  鎌鼬……)


 タスケのチャクラが止まる。


 「こんな感じだ。
  イメージは伝わったか?」

 「はい」


 ヤオ子が、ゆっくり目を開ける。


 「風のチャクラは練れそうか?」

 「多分……」


 ヤオ子は手を前に突き出し、お腹から手の先までしっかりとチャクラの流れを意識する。


 「初めてだから、時間を掛けてゆっくり練ります」


 チャクラをお腹に意識する。
 ゆっくりと上ってくるチャクラの通り道にタスケが示してくれたイメージを乗せる。
 変えたいイメージをじっくりとチャクラに練り込む。

 ゆっくり……。
 ゆっくり……。
 腕まで到達するまでじっくりと練り込んでいく。

 そのチャクラを感じ、側に居るタスケは驚いている。


 (オイオイ……。
  初めて風のチャクラを練ったんじゃないのか?
  このチャクラは、確かに風だぞ。
  ・
  ・
  何なんだ? コイツは?)


 タスケがヤオ子の顔を見る。
 額に汗が浮かんでいる。
 そして、手に視線を移す。
 チャクラは、まだ到達していない。
 丁寧に……そして、確実にチャクラを練っている証拠だった。


 (分かった……。
  コイツ、ずば抜けて集中力が高いんだ。
  そして、さっきコイツが言っていたことは、本当だ。
  想像することが抜きん出ているんだ。
  だから、得体の知れない初めてのことでも、自分のもののように扱えるんだ)


 片鱗は見せていた。
 サスケに投擲を教わった時も、ヤオ子は真ん中に当てている。
 そして、考えることを止めない。
 頭の中は、常に想像や好奇心が駆け回っている。

 そして、何よりエロい事を妄想するのが大好きな変態だ。
 ないものをあると仮定したり、思い込んだりするのは常日頃から行なっている。
 今まで迷惑でしか発揮されなかった変態性の能力が、思い掛けないところで役に立っていた。


 「いける……」


 ポツリと呟くと、手から僅かな溜息程度の風が流れた。


 「ふっ…くくく……」

 「ヤオ子?」

 「何だろう?
  性質変化のチャクラを練るのが、妄想するのにそっくりに感じるんです」

 「ありえないって……」


 タスケが顔の前で手を振る。


 「やっぱり強いイメージが必要なんですよ。
  これって相性が重要かと思ったけど、そうじゃないです。
  だって、結局のところ、自分の体内にしかない物質をチャクラに混ぜるんじゃないんだもん。
  自分のイメージでチャクラを変化させるんだもん。
  ・
  ・
  よくよく考えれば、チャクラはそういうものでした。
  何で、吸着できるのか?
  何で、エネルギーに成り得るのか?
  全然、分かりませんでした。
  でも、混ぜ込んでいるのが精神エネルギーで自分の意志のエネルギーなら、
  何でも出来るし出来て当たり前なんですよ」

 「それで納得できるのか?」

 「正直、完全には理解できないけど……そういう特性がないと理解できないです」


 タスケは唸りながら考えている。


 「これなら、雷遁も直ぐに習得できるかも。
  やってみよう」

 (マジか?)


 ヤオ子が目を閉じて集中し始めた。
 しかし……。


 「…………」


 途中で止める。


 「どうした?」

 「イメージすると感電する……」


 タスケがこけた。


 「何でだ!?」

 「いや、人間って体の七割ぐらいが水分じゃなかったっけ?
  そんなもんに電気流したら……ねぇ」

 「火遁なんて、もっと危ないだろうが!」

 「……そうですよね」

 「土遁は!?
  体中砂だらけだぞ!」

 「本当だ……。
  何で、雷遁の時だけ変なイメージが浮かぶんだろう?」

 「やっぱり相性があったんじゃないか?」

 「……そうかもしれない」


 どうやら、ヤオ子は雷遁に苦手なイメージがあるようだった。
 しかし、そこは妄想するのが得意な変態。
 イメージに何度か修正を加えて対応する。
 四回ほど、チャクラを練りながら感電したが、雷遁も手の先で発生させて見せた。


 「お前、凄いな……。
  全部の系統を発生させた奴なんて始めて見たぞ」

 「多分、集中力とイメージする力が必要なんですよ。
  この性質変化ってヤツは、忍の力と少し掛け離れていますね。
  だって、戦いには予想が必要で想像はあまりしないと思いますから」

 「そうだな。
  イメージトレーニングはしないかもな。
  会う忍、そのものが得体が知れないというのが当たり前だから、
  想像なんかよりも観察する分析能力と対応能力が求められる気がする」

 「でしょ。
  あたしみたいにエロいことを想像し続けるなんてないんですよ」

 「なるほどな」

 (コイツ、戦闘中に妄想もしてるのか……)


 タスケは、そっちの方が頭に負担を掛けるんじゃないかと思ったが、黙っていることにした。
 変態の思想など、理解しても何の役にも立たないし、知りたくもない。
 その内面で微妙な気分になっているタスケに、ヤオ子が続ける。
 

 「でもね。
  変態が性質変化を習得し易いって、少し思いあたることがあるんです」

 「ん?」

 「コピー忍者のカカシさんって知ってる?」

 「ああ、有名人だ」

 「あの人も複数の属性の系統を使うんです。
  でね。
  あたしと同じで、多分、変態の類です」

 「……は? えぇ!?」


 タスケは、普段のカカシを知らない。


 「いつもね。
  イチャイチャのエロ小説を読んでます。
  きっと、ずば抜けて想像力が豊かなんです」

 「嫌だなぁ……。
  結構、尊敬したり憧れる忍者の一人なのに……」

 「でも、あたしとの共通点って、それぐらいですよ?
  そして、あたしは変態の格で言えば、カカシさん以上と自負しています」

 「嫌だ……。
  本当に嫌だ……。
  変態ほど、チャクラの性質変化に長けているなんて……」


 タスケは項垂れ、その横でヤオ子が顎に指を当てて首を傾げる。


 「でも、ヤマト先生は二系統使えるけど、
  凄い真人間でしたねぇ」

 「だろ!
  そうだろ!
  絶対にそんなわけないんだ!」

 「何か必死ですね?」

 「当たり前だ!
  お前の理論で言えば、二系統以上使える忍者は全員変態だ!」

 「えへへ……。
  そうなりますね」

 「まったく……」

 「でも、何で、そんなに必死なの?」


 タスケは溜息を吐く。


 「あのなぁ。
  オレ達、忍動物の一部は、優秀な忍と契約できることを誇りに思っているんだ。
  だから、これから会う忍が全員変態だと困るんだよ」

 「そうなんですか。
  ・
  ・
  契約って?」


 タスケが首の巻物を指差す。


 「コイツに名前と血判を押して、口寄せの契約をするんだよ」

 「へ~」

 「オレは、コイツに契約する忍を探すのも目的なんだ」

 「へ~。
  ・
  ・
  見せて」

 「これか?
  今は、何も書いてないぞ」


 ヤオ子がタスケの首輪にある巻物を手に取る。


 「こんな小さいの?」

 「何十人も契約する気はない」


 巻物を広げると小さな巻物には五人分の欄しかない。


 「五人分しかないですよ?」

 「オレの生涯仕える忍は、それだけでいい」

 「ふ~ん……。
  ・
  ・
  あたしと契約しませんか?」

 「は?
  ・
  ・
  何で、お前なんかと?」

 「この口寄せって、あたしを呼び出すことも出来るんでしょ?
  逆口寄せでしたっけ?
  子分のあたしを呼んでもいいじゃないですか」

 「なるほど。
  その手があったな。
  確かにヤオ子は、オレの子分の中で一番の雑用スキルを持つ忍だ」

 「他にも子分居るんだ……。
  ・
  ・
  っていうか、雑用スキル!?
  タスケさんは、あたしをメイドか何かと勘違いしていません!?」

 「お前、そういう忍者だって言ってただろ?」

 「言ったかもしれないけど……。
  タスケさんとは対等というか友達というか……。
  そういう関係だと思っていたのに」


 タスケがヤオ子の膝にポンと肉球をあてる。


 「お前は、そういう存在だ」

 (今、思いっきり契約したくなくなりました……)


 タスケがヤオ子から巻物を受け取り、地面に開いて書く場所を叩いて示す。


 「ほら、指切って血で名前を書け」

 「こんな感慨も何もない強制的な契約があるんですかね?
  ・
  ・
  ん? 何で、一つ開けて二番目?」


 ヤオ子が人差し指を口に運び、歯でピッと切る。
 そして、サラサラと巻物に自分の名前を書き込み、契約の血判を押す。
 タスケは、巻物を眺める。


 「お前、達筆だなぁ。
  こんな綺麗な字を書く忍を初めて見たぞ」

 「まあ、任務で書物の偽造なんかもしていますんで。
  『根』ってとこでは重宝されましたよ」

 「偽造文書まで作ってたのかよ……」


 タスケは巻物を巻き直すと、首輪に固定する。


 「これで契約は終わりだな。
  お前、口寄せしたことあるか?」

 「ないです」

 「実は、オレもないんだ。
  どれ位、チャクラを使うんだろうな?」

 「確かに。
  試してみます?」

 「オウ」


 ヤオ子が少しタスケと距離を置く。
 タスケが印を組み、地面に肉球を押し付ける。


 「逆口寄せ!」


 ヤオ子が消えると、タスケのところに口寄せされた。


 「おお! 出来ましたね!」

 「面白いな、コレは」

 「ねぇ、呼び出された人って役目終わると戻るんでしょ?
  どうやるんだろう?」

 「そうだな。
  ・
  ・
  どうやるんだ?」

 「へ?
  知らないの?」

 「知らん」

 「…………」


 ヤオ子とタスケが顔を見合わせる。


 「この口寄せって間違っていません?」

 「そうだな……」

 「多分、『解』っていうのがあるはずですよ。
  この術の元ネタは?」

 「すまん。
  口頭の口伝だったし、『解』は聞いてない」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「印を教えてください」


 タスケがヤオ子に印を教えると、ヤオ子は腕を組んで片手を顎の下に当てる。


 「この印か……。
  幻術なんかの『解』を応用して、この印用の『解』を作るか……」


 ヤオ子は、久々に印の開発を行なう。
 地面にガリガリと色んな系統と幻術の『解』の印の統計を書き込みむ。
 前回の土遁と水遁の失敗を反省してから印について、もう一度、復習し直していた。
 そして、ガリガリと長い工程を書き終え、最終的に印を導き出す。


 「多分、この印」

 「……本当か?」

 「やってみます」


 ヤオ子が印を結ぶ。


 「口寄せ『解』!」


 煙があがると、田お子は元の場所に戻った。
 少し遠くでヤオ子がタスケに手を振る。


 「アイツ、本当に凄いな……。
  ・
  ・
  いい子分を見つけたな」


 タスケはニヤリと笑う。
 こうして、ヤオ子とタスケは口寄せの契約を結んだのだった。



[13840] 第87話 ヤオ子の復活・出入り禁止になった訳
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:10
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 天地橋へ向け、ヤオ子街道を通らずに森の中を直進して進む。
 障害物の多い地面での移動を避け、成長した大木の枝しかない最短距離を飛び移る。
 忍者ならではの身体能力があって、初めて可能になる移動方法だ。

 目的地はナルト達も泊まった温泉街。
 そして、例によって移動中でありながらも修行は継続される。
 木々を飛び移るタスケの横では、ヤオ子が息を切らしていた。


 「少し休むか?」

 「っ! まだまだ!」

 (コイツ……ドMだよな)


 一緒に行動をしてから一日も欠かさず、それどころか修行の濃度は濃くなる一方である。
 血に目覚めて、追っていた人達の背中が見え始めた。
 その人達が持っている力が、何を担保に入れて手に入れたかも分かる。
 ヤオ子は動かずには居られなかった。
 そして、そんなヤオ子を見て、タスケは呆れるのであった。



  第87話 ヤオ子の復活・出入り禁止になった訳



 本体のヤオ子は移動しながらチャクラ吸着で木を登ったり、手裏剣を投げつける修行をしていた。
 数に限りのある手裏剣を無駄にしないように投げては瞬身の術で回収、投げてはチャクラ糸で回収を繰り返す。
 そして、基本動作にも磨きを掛けるべく、動物の動きを取り入れて行動を読まれないようにタスケの師事を受ける。


 「よし!
  今度は、空中で捻りを入れて勢いを殺す!
  目標は、次の枝に止まる2メートル前で捻って、一瞬、止まったように見せるんだ!」

 「了解!」


 ヤオ子の頭にタスケが飛び乗り、ヤオ子と感覚を共有する。
 ヤオ子が一段と高く踏み込み、一気に枝までの距離を詰めると、枝に止まる前に体を捻って慣性を散らす。
 着地は、余裕を持って決まった。


 「OKだ。
  大分、猫らしくなって来たぞ」

 「その言い方だと、あたしが人間を捨てて行ってるみたいですよ……」

 「気にするな。
  ・
  ・
  しかし……。
  また、変なことをするなぁ。
  影分身で修行の経験値が入るんだろ?」


 ヤオ子は枝の上で息を整えると訂正をする。


 「タスケさん。
  影分身の修行って、何でもかんでも経験値が還元されると思っていませんか?」

 「違うのか?」

 「はい」


 ヤオ子が頭の上のタスケを見ながら指を立てる。


 「いいですか?
  影分身は、ダメージが術者に還元されないんです」

 「当たり前だろう。
  そんなもんが還って来たら、使いもんにならんだろう」

 「その通りです。
  では、筋力のアップとは何でしょう?」

 「ん?」


 タスケが髭をヒクつかせた。


 「一般的に筋肉が発達するのは筋肉に損傷が発生し、
  それを回復させる時に強靭な筋肉に作り変えるところにあります。
  ・
  ・
  あたしの知識は、アイシールド21のデスマーチによる超回復の知識しかありませんが」

 「で?」


 ヤオ子は続ける。


 「筋肉の損傷を筋肉痛。
  そして、それが回復して筋力のアップと考えます。
  ・
  ・
  筋肉の損傷ってダメージですよね?
  それが還らないと肉体のパワーアップなんてないんですよ」

 「ああ、なるほど。
  ・
  ・
  ん?
  そうなると、お前の影分身でのチャクラ吸着と手裏剣術の修行は意味なくないか?」

 「いいえ。
  意味はあります。
  ・
  ・
  いいですか?
  チャクラの性質変化の修行は意味があったんです。
  これは体の使い方の経験値──つまり、知識の経験値が還元されたんです」

 「ふむ」

 「チャクラの使い方の経験値が木登り修行で還って、手裏剣の使い方が投擲修行で還ってきます」

 「なるほど」

 「でも、これだとスタミナ面と筋力面が強化できないんです。
  影分身が使えても、泥臭いことはしないといけないんです。
  本体で頑張らないと、スタミナが落ちて筋力が落ちるんです」

 「じゃあ、影分身で意味があるのは、知識で蓄えられることだけなんだな。
  体の使い方とか、情報得るとか、本を読んで知識を得るとかの」

 「そうです。
  元々、敵地に侵入したりして、情報を取得するための術とも聞いていますから」

 「そのための経験値還元か……」


 タスケが納得する。


 「ただのドM的行動じゃなかったんだな」

 「は?」

 「何でもない」

 「?」


 一息ついてヤオ子達は移動を開始し、それに影分身達が続く。
 風遁、雷遁の性質変化の質の向上に一体ずつ。
 火遁→水遁→土遁の切り替えに三体。
 移動中の修行は、一人で行なっているはずが集団で続いた。


 …


 温泉街……。
 到着すると同時に影分身達が煙と共に消え、泥臭い修行で疲労する体に精神的負担も加わる。
 ヤオ子は空を仰いで頭と体の調子を整え、しっかりと自分の経験として刻み込んでから大きく息を吐く。
 そして、まず向かう先……。


 「銀行です」

 「何でだよ」


 例によってタスケはヤオ子の頭に乗っかったまま。
 ヤオ子は視線を上へと向ける。


 「だって、働いてないんだから、お金を下ろさないと」

 「そうか……。
  じゃあ、生活費稼ぐために賞金付きの悪党退治でもするか?」

 「通帳のお金を確認してからにします」

 「ん?
  ・
  ・
  何で、入ってる額を知らないんだ?」

 「木ノ葉で生活している時は、初任給を確認してから、お金を下ろしていません」

 「また変なことを言っているぞ。
  何で、金を下ろさずに生活が出来るんだ?」

 「あたし、自給自足みたいなことをしてたし……。
  それに実家は貧乏だったから、とことん切り詰めるのがデフォルトでした。
  任務先でも、色んなお土産を貰うから食費も掛かりません。
  拾った電化製品を直した側から入れ替えるんで、
  入れ替えたものは知り合いの方に安く譲って、現金払いで買い取って貰ってました。
  ・
  ・
  簡単に言うと……給料いらなかった?」

 「お前、どんな生活してたんだ!」

 「さあ?」

 「何なの!?
  お前、何で、忍者やってるの!?」

 「さあ?」

 「生活するためじゃないの!?」

 「いや、仕事するとただで生きていけるというか……。
  そもそも忍者もノリでなったというか……」

 「ノリで忍者になった奴が、何で、あんなに真面目に修行するんだよ……」

 「あたしは、とことん突き詰める性分なんで」


 頭を掻いて笑っているヤオ子を見て、タスケは項垂れる。


 「何だろう……。
  酷く虚しい……」

 「兎に角、銀行に行きましょう」

 「ああ……」


 ヤオ子は旅の資金を下ろすため、銀行へと向かった。


 …


 ヤオ子がお金を下ろす理由は旅の資金を得ることも理由だったが、実のところ、木の葉が破壊されてしまったことが大きい。
 支援物資の配給などがあるにしても、お金を使わないわけにはいかない。
 仮設住宅の家族との生活の中で、違法改造で無事だった家の蓄えはどんどん減っていった。
 寧ろ、あの家の中にあったものは、全て放出してしまったと言っていいだろう。
 サスケの情報を得るための旅は、手荷物少な目の現地調達が決まっていたのだ。

 到着した銀行でヤオ子が通帳を開くとタスケがヤオ子の頭の上から通帳を覗く。


 「凄いな。
  初任給の入った四年前の一万五千両から、一切、記載がないぞ」

 「だって、自分で入金も引き出しもしてないもん」

 「だから、光熱費とかの引き落としも書いてないのか」

 「ええ。
  じゃあ、窓口に行きましょう」


 タスケが銀行に設置されているATMを指差す。


 「機械があるぞ?
  あっちの方が楽なんじゃないか?」

 「イヤです。
  使いません。
  窓口にお姉さんが居るのに、何で機械なんて使う必要があるんですか!
  機械は使わない!」

 「…………」


 頭の上で項垂れるタスケを無視して、ヤオ子は窓口に向かう。
 そして、だらしなく口が歪む。


 「ナイスバディのお姉さん♪
  通帳の履歴の更新をお願いします♪」

 「は?」


 窓口のお姉さんは目をパチクリとしぱたいていたが、やがて笑みを浮かべてヤオ子の通帳を受け取った。


 「四年前から使っていないのね」

 「はい。
  一応、入金や引き落としがあったと思うので、
  記帳の方をして貰ってから、引き落としをしたいんです」

 「ちょっと待ってね。
  ・
  ・
  いけない。
  お客様なのに……。
  暫くお待ちください」

 「気にしてないですよ。
  では、よろしくお願いします」


 ヤオ子は通帳をお姉さんに任せ、待合室の椅子に座る。
 そして、間もなくして、ヤオ子の目の前で行員がバタバタと慌ただしく動き始めた。


 「何があったんですかね?」

 「さあな」


 ヤオ子とタスケは人事のように見ているが、原因はヤオ子にあった。


 『何なの!
  この通帳!』

 『機械が読み取れないって!』

 『どうして!?』

 『異常な量の入金の数だぞ!』

 『じゃあ、通帳を新しいのと換えて!』

 『また機械が換えろって!』

  ・
  ・


 …


 ~ 二時間が過ぎた ~


 ヤオ子が呼び出されると、目の前のお姉さんが二時間前より老けていた。


 「お、お待たせしました……」


 ヤオ子の前にズン!と、通帳の山が積み上げられた。
 その山の高さは30センチを軽く超えていた。


 「何これ?」

 「お客様の振込みと振り落としを記帳をした結果です」


 ヤオ子が一番上に積まれている通帳を手に取り、ヤオ子とタスケが通帳を見る。


 「ああ……。
  こんな任務もしてましたね」


 四年前にこなした懐かしい任務の形跡が、電気、水道、ガスの支払いと木の葉からの振込みに紛れてちらほらと確認できる。
 雑務の振込みによって、ヤオ子の経歴が垣間見えた。


 「これ変だぞ。
  任務した日が複数に渡ってる」

 「一日、三十件以上請け負う時もありますよ。
  影分身を使えるんで、人の何倍も働けるんですよ」

 「それにしたって……。
  それに普通、木の葉からの一括支払いじゃないのか?」


 ヤオ子は難しい顔で付け加える。


 「何か、税金の支払い関係で、個人と事業主でやって貰った方がいいとかいうのがあったり、
  依頼主に気に入られて個人契約を結んだのもあるんです。
  あと、木の葉を通さないでアルバイトまがいの雑務も……。
  他にも、あたしだけの特別手当がついたり……」

 「何やってたんだ? お前?」

 「まあ、いいや。
  一番新しいのだけあればいいから、これ要らない」

 「あ!」


 思わず窓口のお姉さんが声をあげた。
 二時間掛けて記帳された通帳の山を、ヤオ子は側のゴミ箱に最新の一冊を残して全部捨てた。
 結局、確認したのは最初の一冊だけだった。


 (容赦ないな……)


 タスケも呆れる。
 そして、その横では、新しい通帳をヤオ子が確認する。


 「え~と……。
  幾ら貯まってんのかな?
  ・
  ・
  一、十、百……ん?」


 ヤオ子が目を擦る。


 「タスケさん。
  見間違いですかね?
  桁が千萬両単位なんですけど……」

 「は?
  ガキが、そんなに稼ぐかよ。
  ・
  ・
  ……桁が千萬両単位だな」

 「ですよね。
  見間違いじゃなけりゃ、
  七千七百七拾七萬七千七百七拾七両です」


 タスケが吹いた。


 「何だ! その額は!?」

 「さあ?
  道理で、記帳に時間が掛かるわけですよ。
  ・
  ・
  まあ、お金いらないしなぁ。
  すいません。
  このお金を別の口座に入れたいんですけど」

 「今度は、何を……」


 窓口のお姉さんが警戒して聞く。


 「え~と。
  一千萬両を実家に入れて、
  あたしには七百七拾七萬七千七百七拾七両残して、
  六千萬両は、シズネさんの口座にでも放り込んでください。
  里の復興に使ってくれるでしょう」

 「とんでもない額が動いてる……」


 窓口のお姉さんは乾いた笑いを浮かべている。


 「あ、そうだ。
  一萬両は財布に入れて置きたいので、引き出しで」

 「か、かしこまりました。
  額が大きいのでこちらの用紙に記入をお願いします」

 「は~い」


 やはり、ここでもヤオ子は一騒動を起こした。


 …


 銀行を出て温泉街の町中を歩きながら、ヤオ子がタスケに話し掛ける。


 「大金を持ってしまいましたね」

 「悪い……。
  さっき、適当に振り込んだ額が大き過ぎて、
  お前の手の中の金がはした金に見える」

 「そうですか?
  一萬両もあれば十分だと思いますよ」

 「もう、いい……。
  何かお前の金銭感覚についていけん」

 「そうですか?
  まあ、いいや。
  今日は、少しいい宿に泊まりましょうね」


 ヤオ子は、今晩の宿を求めて温泉街に姿を消した。
 そして、数日後、出先で通帳を見たシズネが悲鳴をあげることになる。
 実家の方は、ヤオ子と同じく貧乏性で通帳の確認などしない。
 気付くのは、数ヵ月後になる。
 ちなみに、シズネの口座番号は経理関係の任務で記憶していた。


 …


 ヤオ子は何件かの宿を訪れ、ようやく宿を決める。
 猫と一緒に泊まれるかを聞いたら、断わられ続けたからだ。
 お金を支払い指定された部屋へ向かいながら、タスケが舌打ちする。


 「オレをペットとか言ってる時点で死刑だよな」

 「物騒ですねぇ」

 「お前も、そう思うだろ?」

 「まあ……。
  そういうことに……」

 「大体、オレが親分でヤオ子が子分なんだから、
  オレが飼い主でヤオ子がペットだろう」

 「それも違う……」


 ヤオ子が項垂れながら部屋の扉を開ける。
 部屋は、和室。
 一人部屋にしては広めである。
 その部屋で荷物を降ろし、金庫に貴重品を放り込むと、早速、ヤオ子は備え付けの浴衣を手に持った。


 「行きます!」

 「何に気合いを入れているんだ?」


 ヤオ子が鼻から息を吐き出し、手を力強く握る。


 「露天風呂・女湯編です!」

 「何だ? それ?」

 「この時間帯にババアはいません!
  観光目当ての若いお姉さんで、目の保養をします!」

 「…………」


 沈黙するタスケの首根っこを掴むと、ヤオ子が走る。


 「オレ、こんな風に移動させられるの、
  子供の頃に親猫に首根っこを口で咥えられて以来だ……」


 ヤオ子は露天風呂へと走った。


 …


 タスケは呆れている。
 ヤオ子の目がマジだ。
 一分一秒を無駄にしないと物語っている。
 露天風呂の脱衣所を力強く開け、一瞬で服を脱ぎポンになる。
 タスケを脇に抱え、髪を下ろし、反対の手で力強くお風呂セットを抱えると準備OKだ。


 「いざ!」


 タスケは、もう呆れて何も言えない。


 …


 桃源郷……。
 理想郷……。
 言い方は、幾らでもある。


 「あはぁ~♪
  ここは、遥か遠き理想郷~♪」


 目の飛び込む、裸! 裸!! 裸!!!
 この時間は、ヤオ子の予想通りだった。
 ヤオ子はタスケを抱いたまま、だらしなく口を緩める。


 「もう、勝手にしろ……」


 タスケが溜息を吐くと、そのタスケの頭に雫が落ちる。


 「ん? 湯気か?
  天井から? ダラ~リと?
  ・
  ・
  ダラ~リ? 露天風呂で?」


 湯気からなる雫に粘着性など、一切、含まれない。
 おかしな感触に、タスケは上を見る。
 直後、タスケの顔にダクダクと涎が……。


 「ぎゃ~~~ッ!」


 タスケが絶叫し、ヤオ子の腕をタップする。


 「ん?
  どうしたの?」

 「涎! 涎! 涎!
  よ・だ・れ~~~っ!」


 ヤオ子は口から零れ落ちる涎に気づくと、口を拭って舌で涎を舐め取る。


 「失敬」

 「ぎゃ~~~ッ!」

 「今度は、何?」


 タスケがヤオ子を指差す。


 「涎は、止まりましたよ?」

 「それ!」

 「それ?」

 「髪!」

 「髪?」


 ヤオ子が荷物とタスケを置いて、自分の長い髪を取る。


 「何じゃこりゃぁぁぁ!?」


 ヤオ子の髪が、元の茶色に戻っていた。


 「や、やっぱりエロパワーですかねぇ……。
  久々の女湯ですから……」

 「頭が痛い……。
  しかも、訳の分からない現象が……」

 「何から紐解きたいですか?」

 「そうだな……」


 考え込むタスケに合わせて、ヤオ子もしゃがみ込んでいるが若い女性客からは注目の的だ。
 登場僅か数秒での大絶叫し、全員の目が集まった瞬間に大量の涎が滝のように流し、徐々に色が変わる髪(エロパワー充電)。
 そんな奇異の目を向けられる中で、タスケが質問する。


 「まず、何で、変態のお前が大好物の女湯に入れないんだ?」

 「あたしは、木ノ葉の温泉街の出入り禁止です。
  度重なる大絶叫と温泉客へのセクハラ……。
  決め手は、シズネさんを天国に逝かせてしまったことですね」

 「天国? 何した?」

 「何? 何ですね~。
  リアルに語ったら、XXX板に移行です」

 「…………」


 タスケは額に手を置いて、頭が痛そうな顔をしている。


 「で、髪が変わったのは?」

 「露天風呂で美女の裸を凝視し、
  徐々に失われたエロパワーが充電されたから」

 「そんなんで納得するかーっ!」

 「いや、しかし……でも、ねぇ」

 「何なんだ! お前は!?
  初めて会った時は、もっと人間らしかったぞ!」

 「こんなもんですよ……昔から。
  寧ろ、タスケさんと会った時は抑え気味というか……」

 「大体、ちょくちょく出てくるエロパワーって、何だ!?」

 「真の変態に備わるミラクルパワーです。
  大抵の不可思議なことは、これのせいです」

 「納得しねーよ?
  そんなんじゃ納得しねーからな!」

 「あん♪
  タスケさんのオマセさん♪」


 ヤオ子がタスケの顎下をゴロゴロと撫でると、タスケはヤオ子の指に噛み付いた。


 「痛っ!
  何すんの!」

 「お前こそ!
  あんな説明で納得できるか!」

 「納得納得と了見の狭い……。
  あたしは、タスケさんは、もっと器の大きい猫だと思っていました」

 「ふざけるな!
  お前の変態性の全てを理解できる器の持ち主なんぞ、存在するか!」

 「ふ~んだ。
  あたしのお母さんは理解してくれるも~ん」

 「どうせ! お前に輪を掛けたような変態だろうが!」

 「よく分かりましたね?」

 「そうなのか!?」

 「適当に言ったの?」

 「ったりめーだ!」

 「もう、いいでしょ。
  あたしは、もっとエロパワーを充電しないといけないんだから」


 ヤオ子はタスケとの会話を止め、露天風呂に振り返る。
 しかし、そこには居なかった。
 ヤオ子達の会話は筒抜けていた。


 「なぜ!?」


 当然の結果だった。


 …


 一人と一匹しか居なくなった露天風呂……。
 タスケは水を被って涎を流し、器用に前足を使って石鹸を使って泡だらけになる。


 「何で風呂来て、汚れなきゃならないんだ」


 再び水を被って泡を流すと、タスケは温泉の中にダイブして優雅に泳ぎ出した。


 「は~……。
  何か充電が不完全な感じ……」


 一方のヤオ子も、誰もいなくなった露天風呂で体を洗い始める。
 木ノ葉の温泉街でも、大体、こんな騒動が起きて出入り禁止になった。
 決してシズネを天国に逝かせたからだけではない。
 決定打になったのは確かだが……。

 ヤオ子は、温泉に浸かりながら息を吐く。


 「貸し切りみたいですね~」


 営業妨害以外の何者でもない。


 「若い子、入って来ないかな~」


 何が目的なのか?
 のんびりと浸かるヤオ子にタスケが平泳ぎで近づいて来る。


 (猫って、ああいう泳ぎ方するんだっけ?)


 違和感バリバリだ。


 「なぁ、そんなに女体に興味あるなら、
  自分の見てればいいじゃないか?」


 ヤオ子は大げさに溜息を吐いて見せる。


 「タスケさんは分かってない……分かってない!
  そもそも自分の裸になんかに欲情できるか!
  自分以外の女体だからいいんでしょ!
  セクハラだって、されるんじゃなくてするからこそ意味があるんです!
  あたしの体はエロいことしたい時に相手を魅惑できれば十分!
  あたしがあたしの体に欲情しても意味がない!」

 「さっぱり分からん……。
  男には興味ないのか?」

 「ありまくりです!
  見たい触りたい弄りたい!」

 「お前、どっちでもいけるんだな?」

 「いけます!
  いってみせます!
  例え、この道が茨の道でも進み切ってみせます!」

 「嫌な道だな……。
  それ以上、進むなよ……」

 「ふ……。
  忍者とは忍び耐える者なのです」

 「……お前、絶対に他の場面でも、それを例えているだろう?」

 「…………」


 ヤオ子が笑って誤魔化すと、タスケは何度目かの溜息を吐く。


 「お前、恋愛なんて出来ないだろうな」

 「どうですかね?
  うちのお母さんみたいに欲しい男を無理やり捕食するのも手ですしね」

 「誰だよ。
  そのかわいそうな男は?」

 「あたしのお父さんで、木ノ葉一の馬鹿ですね」


 タスケがこけた。


 「お前、家庭から崩壊しているんだな……」

 「ええ。
  でも、お父さんもお母さんも大好きです」


 ヤオ子の疑いのない笑顔。
 タスケは苦笑いを浮かべる。


 「変な奴だ……」


 タスケが目落とすと、お湯の中でヤオ子の茶色の髪が揺れている。


 「髪……元に戻ったな」

 「はい……。
  完全復活という感じです」


 ヤオ子の目に少し真剣さが浮かぶ。


 「サスケさんの情報……。
  手に入ればいいですけどね」

 「そうだな……」

 「あたし……。
  木ノ葉でサスケさんと任務したいな。
  サスケさんの居ない間に成長したあたしを見て欲しいな。
  ・
  ・
  サスケさんが変わってしまったなんて信じたくないです」

 「その変わった原因を調べるんだろ?」

 「はい……」

 「真実は辛いかもしれないぞ?」

 「はい……。
  変わった原因に納得できれば諦めもつくんですけどね」

 「納得できなければ?」

 「……いつも通りに壊そうかな?」


 タスケが笑う。


 「ああ、それでいい。
  それがお前らしい。
  ・
  ・
  そのサスケって奴が変わっちまったんなら、
  何も変わらないお前を見せ付けて思い出させてやれ」

 「いいですね。
  そうしましょう」


 ヤオ子は温泉をあがると、髪を絞る
 それにタスケが続き、何かに気付く。


 「お前……。
  背中にうちはの家紋が浮いているぞ?」

 「……怪我の痕です。
  傷口は綺麗に治して貰ったんですけど、体温が上がると浮かび上がるんです。
  お母さんが気付きました」

 「そうか……。
  刺青にしては荒いもんな。
  酷い怪我だったんだな」

 「人生で一番の大怪我ですね。
  ま、人に見せるもんでもないし……行きましょう」

 「ああ」


 ヤオ子とタスケが露天風呂を後にする。
 そして、その日は、豪華な食事に舌鼓を打ち、ゆっくりと眠って英気を養った。



[13840] 第88話 ヤオ子のサスケの足跡調査・天地橋を越えて
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:11
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 再び天地橋向け、ヤオ子が動き出す。
 ヤオ子は温泉街の宿を出ると温泉街を抜け、森に入ると地図で位置を確認する。


 「近いですね」

 「ああ」


 例によって、タスケはヤオ子の頭の上から確認している。


 「ヤオ子。
  今日は、修行はなしだ」

 「どうして?」

 「風に嫌な臭いが混じっている」


 タスケは森の中を漂う、天地橋の方から流れてくる風に目を細めた。



  第88話 ヤオ子のサスケの足跡調査・天地橋を越えて



 天地橋に向けて、本格的なヤオ子とタスケの移動が始まる。
 木々を飛び移りながら、ヤオ子はタスケに質問する。


 「タスケさん。
  さっきの嫌な臭いって、何ですか?」

 「複数の忍と思われる臭いだ。
  オレが忍犬なら、もう少し詳細な情報が手に入るんだがな」

 「あたしは、全然分からないから、
  タスケさんの感知範囲の広さがありがたいですけどね。
  ・
  ・
  それで修行をしないのと、何の関係があるの?」

 「忍との鉢合わせも考えられるということだ」

 「戦闘になるかもしれないと?」

 「ああ。
  チャクラを温存して疲れを残すな」

 「そうしようかな?」


 今一、分かっていないヤオ子に、タスケが補足を入れる。


 「ヤオ子。
  お前の向かっている大蛇丸のアジトってのは、忍に取ってはお宝のあるかもしれない場所なんだ。
  大蛇丸が色んな実験をしているのは有名だし、
  各国の大名が目をつけて取り込もうと考えるぐらいの実力の持ち主だ。
  そんな大蛇丸のアジトの一つに入れるチャンスが出来たんだ。
  名の知れない盗賊まがいの忍や各国の隠れ里からの調査隊が来ていたとしても、不思議なことじゃないんだ。
  事実、かなりの月日が経ったのに臭いが入り乱れている」

 「なるほど」

 「まあ、よっぽどのことがない限り戦闘にはならないだろうが、気を引き締めていくぞ」

 「了解です」


 タスケの言葉通りに気を引き締め直すと、移動中の会話はなくなっていった。
 警戒する森の中には、小さな動物達の息づく声だけが響いていた。


 …


 森を抜け、ヤオ子達は地図にある天地橋に到着する。
 一人と一匹は、目的の天地橋を見て呆然としている。


 「橋が壊れてる……」

 「戦闘の跡だな……」


 天地橋は両端の残骸を残すして壊れていた。
 ヤオ子が移動して橋を横から見る。


 「木遁で壊れた橋を支えた跡があります。
  きっと、ここでヤマト先生達が戦ったんです」


 ヤオ子の言葉を聞いて、タスケは考える。


 「一体、どうやって戦ったんだろうな?
  橋が真ん中から壊れるてるぞ」

 「本当だ。
  何かが爆発したみたいだけど、
  火薬の跡がないから、起爆札とか火遁系の術じゃないですね」


 傍目からは分からない。
 この惨状は暴走したナルトの九尾化で出来た跡だが、チャクラが延々と残っているわけがない。
 ナルトの仕業で橋が壊れたとは思わなかった。
 タスケがヤオ子を促す。


 「先に進もう。
  痕跡は先に続いている」

 「はい」


 ヤオ子はタスケと移動する。
 橋を一気に飛び越え、森を抜ける。
 そして、そこにあったのは……。


 「クレーター……」

 「……だな」


 ナルトが九尾化して撃ったチャクラの圧縮弾の跡……。
 地形を変え、土を抉り、広範囲に広がる。
 ヤオ子は痕跡を指差す。


 「何かビーム兵器でも撃った跡もありますよ?」

 「ビームって、何だ?」

 「荷電粒子とか中性粒子の流れで出来る兵器」

 「わっからん!」

 「ここで波動砲でも打ったんですかね?」

 「波動砲って、何だ?」

 「宇宙戦艦ヤマトに装備されている武器です。
  確か初期段階の威力は、オーストラリア大陸と同程度の木星の浮遊大陸を一撃で消滅させるほど威力でした」


 タスケが額に手を置くと、キレる。


 「だから! さっぱり分からねーんだよ!
  何だよ! オーストラリア大陸って!?
  聞いたこともねーから、大きさも分からねーよ!」

 「分からないですか?
  じゃあ、べジータのファイナルフラッシュ」

 「お前、舐めてんのか?
  わっかんねーんだよ!
  何だよ! ファイナルフラッシュって!?」

 「べジータの必殺技。
  多分、地球が消える」

 「そんな危なっかしい術があるか!」

 「術なんて呼び方は、ノーサンキューです!
  必殺技と呼んでください!」


 タスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「お前、馬鹿だろ!?
  本物の馬鹿だろ!?
  何処から得た知識なんだよ!」

 「漫画」


 タスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「漫画じゃねーか!
  そんなもんをここに持って来んな!」

 「だって~。
  他にしっくりと来る例がないんだもん」


 タスケは項垂れている。


 「もう、いいよ……。
  大蛇丸のところに着くまでに聞かせてくれ……。
  その波動砲とかファイナルフラッシュとか……」

 「気を引き締めて行くんじゃないの?」

 「もう、いいんじゃね?
  お前なら、大丈夫だよ。
  死なねーよ。
  デフォルトで緩んでんだから、これ以上、落ちねーよ」

 「投げ槍ですね?」

 「馬鹿らしくなって来た……。
  お前にシリアスなんて合わねーんだよ。
  お前、だらけてても危険察知できるようになれよ」

 「見捨てないでくださいよ。
  そんなの達人か仙人みたいな状態じゃないですか。
  あたしは下忍で未熟者なんですよ」

 「最近、少し真面目に忍者してるから安心てしたけど、
  お前、根っ子はどうしようもない性格だもんな。
  そのどうしようもないお前に正常なことを要求するのは間違いだったよ。
  どうしようもないお前がどうしようもないことをするのは当然だし、
  どうしようもないお前はどうしようもないままなんだ」

 「…………」


 ヤオ子が額に手を当てる。


 「ここまで痛烈に否定されたのは初めてです。
  あたしって、そんなにどうしようもないですか?」

 「ああ、どうしようもない」

 「即答ですか……。
  たかが漫画を読んでいるだけで、
  ここまでどうしようもない奴の烙印を押されるとは思いませんでした。
  例がないから、漫画で知ってる知識をひけらかしただけなのに……」

 「もう、いいだろう。
  ここを調べるのか?
  先に進むのか?」


 ヤオ子が先を見つめる。


 「進みましょう」

 「……分かった」


 ヤオ子とタスケは移動を開始すると、一瞬で姿を消した。


 …


 クレーターを抜けて、直ぐに森へと入る。
 ヤオ子は少し真剣な声で、タスケに話し掛ける。


 「……タスケさん」

 「何だ?」

 「少し重要なことなんですけど……」

 「何か気付いたか?」

 「そうじゃなくて……。
  宇宙戦艦ヤマトとべジータの話……どっちが聞きたいですか?」


 タスケがこけて、移動中の枝から落下しそうになる。
 それを見たヤオ子は指からチャクラ糸を伸ばし、タスケをキャッチして引き戻す。
 タスケは反動を利用して宙返りすると、ヤオ子の頭に着地してグーを炸裂させた。


 「真剣に何を聞いているんだ!?」

 「聞きたがってたじゃないですか……。
  あたしは、語る気満々なんですけど」

 「お前な……」

 「あたしとしては、タスケさんは宇宙戦艦ヤマトの方が好みかと思うんですけど」


 タスケが項垂れている。


 「本当に……どうしようもない奴だな」

 「話していい?」

 「ああ……。
  話せ話せ……」

 「じゃあ、早速。
  沖田十三が『バカめ』と相手に返信するところから──」


 ~ 十五分後 ~


 「その真田って奴は凄いな」

 「ええ。
  あたしは宇宙戦艦ヤマトの中では、技師長が一番好きです」

 「技師長って肩書きもいいよな」

 「はい」


 思いの他、宇宙戦艦ヤマトは好評だった。


 …


 宇宙戦艦ヤマトの話が延々と続き、最後の戦いの話が終わった頃、ヤオ子とタスケは大蛇丸のアジトに辿り着いた。


 「…………」


 サスケとサイの戦いで出来た大穴を確認すると、ヤオ子は少し緊張する。
 これから隔離された場所で、他の忍と接触するかもしれない。


 「なぁ。
  古代と雪は、その後、どうなるんだ?」

 「…………」


 ヤオ子は額に手を置いて項垂れる。


 「タスケさん……。
  さっき、あたしをどうしようもない奴って言ってたの覚えてる?」

 「撤回してやる。
  それで、どうなんだ?」


 ヤオ子が片眉を歪める。


 「興味津々ですね!
  そんなに気になりますか!?」

 「いいから話せ!
  気になって仕方ないんだよ!」

 「……タスケさんこそ、
  どうしようもない奴じゃないですか。
  ・
  ・
  はぁ……。
  あたしの蒔いた種です。
  緊張感も何もなくなりますが話します」


 ~ 十五分後 ~


 「スッキリだな」

 「そうですか……」


 タスケは気分爽快。
 ヤオ子はテンションダウン。
 そんな感じで大蛇丸のアジトへの潜入は始まった。


 …


 大穴からアジトへ入ると、中は通路を照らす蝋燭が消えて薄暗い。
 奥に続く通路は深く、奥へ奥へと続いている。


 「広いな……」

 「ええ
  ・
  ・
  臭いで分かりませんか?」

 「結構、入り乱れているからな」


 タスケは地面へと目を移す。


 「臭いよりも足跡を追うぞ」

 「ん?」


 ヤオ子も下に目を移すと幾人もの足跡が見えた。


 「同じ方向に続いているのが多いですね?」

 「そこが盗掘屋の目的地だ」

 「なるほど。
  あたし達の知りたい情報も、当然、そこにあるはずですね」

 「ああ」


 ヤオ子とタスケが移動を開始する。
 足跡を頼りに右折左折を繰り返し、やがて一つの部屋に行き当たる。
 部屋の中に気配はない。
 タスケが気配と臭いを嗅ぎ分ける。


 「大丈夫だ」

 「じゃあ、行きますか」


 部屋の扉は破壊されて何もない。
 ゆっくりと中を覗くと徹底的に荒らされた後だった。
 資料や本が散乱し、棚からは幾つもの何かが持ち出されている。


 「遅過ぎたな……。
  何も分からない……」

 「諦めるのは早いですよ」


 ようやく辿り着いた手がかりがあるかもしれない場所。
 ここで情報を得られなければ、サスケの情報を得る取っ掛かりすら見つからない。
 欲しいのは、サスケが何をしていたかの情報なのだ。

 ヤオ子は散乱した書類を丁寧に集め始め、脇にある机の上に資料や書類と一緒に積み上げていく。
 決して量は多くない。


 (これだけの情報では、何も引き出せないかもしれない……)


 しかし、諦めるには、まだ早過ぎる。
 ヤオ子がそれらに一つずつ目を通し始めると、タスケも机の上に座って一緒に目を通す。


 「どうだ?」

 「これらの資料は、物品の納入リストですね。
  薬草や毒草や薬品……」

 「使えないな」

 「いえ……」


 ヤオ子はデイバッグの中からノートと鉛筆を取り出し、残された物品の納入リストから何かを書き出し始めた。


 「何を書いているんだ?」

 「地名です」


 書き出していたのは納入される物品の地名先。
 物品がここへ運び込まれる経路だ。

 根気強く経路を洗い出して地名を書き出し続ける。
 そして、全ての納入リストを洗い出してリストが完成すると、今度はそれを上から下へと繰り返し読み続ける。
 すると、ある傾向が出てくることにヤオ子は気付いた。
 納入される物品が経由する地名に偏りがあるのだ。
 ヤオ子の手が止まる。


 「恐らくこの五ヶ所が重要なアジトか仕入れ先です」



 納入リストを確認して分かった経由するポイントは五つ。
 それらの地名に丸を付け、ヤオ子はデイバッグから地図を取り出して確認する。


 (大したもんだな)


 机の上の地図を覗く。


 「四ヶ所は近いな」

 「ええ。
  だけど、五ヶ所のうち、この一ヶ所だけが離れています。
  海の上にポツンとあります」

 「怪しいな……」

 「はい」


 ヤオ子とタスケは知らないが、そこは重吾の居た北アジトの場所だった。
 ヤオ子の見つけた資料は、重吾の体液の納入リストが含まれていたのだ。


 「ここを第一候補にしましょう」

 「何でだ?
  他に四つも固まっているんだから、
  情報が集まるのはそっちじゃないのか?」

 「理由はないんです……。
  ただの勘ですから」

 「…………」


 タスケは溜息を吐く。


 「まあ、どっちに行くかは最終的に勘だしな。
  大別すれば行き先は二つで、二分の一だ。
  ・
  ・
  でも、もう少し調べよう。
  何か裏づけが取れるかもしれない」

 「そうですね」


 ヤオ子とタスケが部屋を出て、別の部屋にも何かないかを探すことにした。
 ヤオ子は奥へ延々と続く廊下を見て呟く。


 「サスケさん……。
  こんなところに居たの……」


 何もない多くの部屋に、暗く長く続く廊下……。
 そこには生活の営みが感じられず寂しい。

 ヤオ子は振り返ると、タスケの後を追う。
 しかし、これと言った情報は何も見つけられなかった。
 見つかったのは、サスケがナルト達と戦った際に残した千鳥流しで放電させた焦げ跡だけだった。

 そして、ヤオ子は自分の勘に従い、二択の行き先のうち、北アジトへの移動を決めた。



[13840] 第89話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:11
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子とタスケが新たな目的地に向けて移動を開始する。
 そして、その移動中にも新しい力を求め続ける。
 本日の移動中の修行メニューは……。


 「性質変化です」

 「理由は?」

 「火遁はOKでしょう」

 「ああ」

 「土遁と水遁も、あと少しです」

 「ああ」

 「風遁は、あと一息です」

 「そんなもんだな」

 「雷遁がダメダメです……」

 「おかしいよな」


 そう、ヤオ子は何故か雷遁の上達が異常に遅い。
 他の系統は、火遁ほどの上達速度を見せないにせよ、家系の血の力もあり成果が顕著に出ているのに……。



  第89話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ①



 ここ最近の移動しながらの修行内容は……。
  午前:
   ・本体
    投擲術、体術、体力面。
   ・影分身A, B
    性質変化の切り替え(火→水→土→雷→風)。
   ・影分身C, D
    雷遁の性質変化能力向上。
  午後:
   ・本体
    チャクラの性質変化の切り替え(火→水→土→雷→風)。
   ・影分身A, B, C, D
    雷遁の性質変化能力向上。
 となっている。

 本体は、現状の基礎能力が落ちないように、技術面、体力面、経絡系を鍛える修行。
 影分身は、最近習得した性質変化に更に磨きを掛けるための修行。
 これらを徹底して、延々と同じように繰り返している。
 正直、同じことを繰り返すヤオ子に、タスケは飽き飽きしていた。


 「なぁ。
  いい加減に術も覚えようぜ」

 「いらない」

 「何でだよ……。
  新しい性質変化を覚えたら、使ってみたり新術開発したりするのが普通だろ?」


 移動しながら手加減知らずの修行を繰り返すヤオ子が止まる。
 しかし、それは投擲した手裏剣やクナイを木の幹から引き抜くためだった。
 タスケはヤオ子の肩まで駆け登ると、直立してヤオ子の頭に肉球をつけて寄り掛かる。


 「重い……。
  頭が傾く……」

 「術! 術! 術!
  新しい忍術を覚えようぜ!」

 「タスケさん。
  普段、あれだけクールなのに、今日は、どうしたんですか?」

 「お前の行動に飽きてんだよ!
  移動中、毎回毎回同じことをして!」

 「当たり前ですよ。
  一日でも欠かしたら、体力落ちるでしょ」


 タスケが溜息を吐く。


 「お前は、あれだ」

 「あれって、何……」

 「つまらん奴だ」

 「いきなり何ですか……」

 「おかしいだろ!
  普通さ!
  各系統の性質変化を全部覚えるなんて出来ないんだぜ!?
  何で、覚えたのに使わねーんだよ!」

 「意味ないから」

 「……は?」


 言葉を止めたタスケに、ヤオ子は続ける。


 「術なんてのは、印さえ知ってれば発動するんです。
  だったら、木ノ葉に帰ってから印を教えて貰えれば終わりです」


 あまりに当たり前の答えが返り、タスケは溜息を吐く。


 「……お前、どうしたの?
  もっと、馬鹿だったろ?
  犬が歩いてるだけでも、興味示して笑い転げるような奴だったじゃないか?」

 「あたしは、いかれたヤローですか……」

 「オレには、そう見えていたが」


 ヤオ子の額に青筋が浮かぶ。


 「タスケさん。
  いい機会だから言っておきます。
  あたしは変態ですけど、いかれてません」

 「変態と言い切る時点で、
  救いようがないぐらいいかれていると思うが?」

 「……世間一般的には言いません」

 「あえて世間一般を代表して言わせて貰う。
  お前は、いかれている。
  そんないかれたお前が真面目に修行をしては、ダメだ」

 「おかしいです。
  真面目に修行をして非難されるなんて」

 「いかれたお前は、新しい性質変化に『ワッキャッウフフ』して術を試しまくるぐらい軽くないとおかしい」

 「おかしいのは、タスケさんの頭の中です」


 タスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「お前が言うな!」

 「何で!?
  あたし、偉いじゃん!?
  地道にコツコツと修行して!」

 「だから!
  術を覚えよーぜ!」

 「猫って、本当に自由な生き物ですよね……」

 「そうだ。
  諦めろ」


 ヤオ子はこれ以上はダメだと折れることにした。
 仕方なしにタスケに訊ねる。


 「もう、いいですよ……。
  で、新しい術の印は?」

 「ん?」

 「だから、印ですよ。
  あたしは性質変化しか修行していないし、新しい形態変化も開発していないんです。
  だから、印が必要なんです」

 「印……知らないけど」

 「じゃあ、ダメじゃん」


 タスケがヤオ子に縋りつく。


 「嫌だ~~~っ!
  もう、お前の基礎修行なんて見たくない~~~っ!
  新しい術~~~っ!
  新しい術~~~っ!
  新しい術~~~っ!」

 「何を昔のあたしみたいにごねているんですか!
  出来ないものは出来ないです!」

 「じゃあ、術開発しようぜ! な!」

 「『な!』じゃないです。
  何の発想もなく開発なんて出来ません」

 「そこは、いつもの調子で思いつけよ。
  得意だろ?」

 「そんな都合よく思いつきませんよ」

 「気合いだ!
  気合いで何とかしろ!」

 「あのねぇ……」


 ヤオ子はタスケの態度に頭を悩ますのと同時に、サスケに対して罪の意識が芽生えた。


 (あたしは、結構、困らせてたんだな……)


 他人の恥見て我が恥じ直せ。


 「タスケさん。
  飽きたんなら、タスケさんが術を考えたら」

 「ん? オレ?」

 「そう。
  風遁の新しい術」

 「ヤダ。
  オレは、玩具のお前が色々するのが見たい」

 「玩具って……。
  じゃあ、あたしの術を考えてくださいよ。
  いい術だったら採用しますから」

 「分かった。
  こんなのは、どうだ?」

 (早……)

 「敵に抱きついて放電!
  ヤオ子・エレクトリックサンダー!」

 「ブランカのパクリじゃないですか……」

 「嫌か?」

 「そもそも雷遁が上達しないから、
  性質変化の修行をしているんじゃないですか……」

 「じゃあ……」

 (無視した……)

 「肉体を活性化させて強くなる!
  ヤオ子・マッチョ!」

 「絶対ヤダ!
  性質変化関係ないじゃん!」

 「これもダメか。
  じゃあ、空圧拳!」

 「忍空ですか……。
  タスケさんもあたしに毒されて来ましたね……。
  でも、却下」

 「何で!?」

 「至近距離の技はいりません」

 「じゃあ、波動砲だ!」

 「撃てるか!」

 「じゃあ、空間磁力メッキ!」

 「もう、術じゃない……」

 「かめはめ波だ!
  かめはめ波撃っちゃえ!」

 「出来るか!
  真面目に考えてる!?」

 「いや、技のイメージだけだ」


 ヤオ子は項垂れた。


 「タスケさん……。
  修行しながらでいい?
  移動もしたいんで……」

 「ああ、いいぞ」


 ヤオ子は少しテンションを下げて修行と移動を再開した。
 そして、結局、タスケの考案した術は全部却下された。


 …


 夕暮れ時……。
 ヤオ子はヘトヘトになりながら道を歩いている。


 「やり過ぎた……。
  町まで移動できるチャクラが残ってない……」

 「野宿だな」

 「まあ、いっか……。
  食料は、デイバッグに入ってるし」


 ヤオ子はフラフラと危なっかしい足取りで道を歩く。
 その向かいからは、旅人が歩いてくる。
 そして、項垂れて歩くヤオ子の視線は前方を見ていない。
 すれ違い様、ヤオ子の肩と旅人の肩がぶつかった。


 「あいた」
 「いてーな」


 ヤオ子は謝らなければと振り返るが、旅人に先に切り出された。


 「いてーな。
  死にたいのか?
  このやろう!
  ばかやろう!」

 「死に体なのか?
  ・
  ・
  ああ……。
  死に体ですね」

 「何!? 死にたいのか!?」

 「ええ。
  もう、身も心もボロボロの死に体です」


 タスケは額に手を置く。
 初っ端から、この二人の会話は噛み合っていない。


 「お嬢ちゃん。
  そんな若いのに死にたいとは聞き捨てならねーな。
  このオレ様が危機的に聞いてやるから話してみな」

 「嬉々的に?
  何て親切な人なんだ……。
  あたしの苦労話を喜んで聞いてくれるなんて。
  ・
  ・
  実は、修行に行き詰っていまして」

 「修行?
  それだけで、死にたいのか?」

 「はい。
  無理し過ぎて死に体です」

 「才能がないのか……。
  不憫な奴だな……」

 「そうなんです。
  随分と修行しているんですが、中々、上達しなくて……」


 ヤオ子の成長速度は遅くない。
 雷遁にしたって、一般の忍よりも習得期間は早い。
 ただ、他の系統の習得が恐ろしく早かったから、そう感じるだけだ。


 「困った奴を放っとくのもホッとしない。
  悩みを聞くのも意外といいだろう。
  ウィィィ!」

 「話を聞いてくれるんだ……。
  いい人だ……」


 そこでヤオ子のお腹が鳴った。


 「お腹減った……。
  今から野宿するんですけど、一緒にご飯いかがですか?」

 「いいな」

 「じゃあ、決まりです」


 ヤオ子は旅人と野宿することになる。
 噛みあわない二人は、勘違いしたまま食事をすることになるのだった。


 …


 ヤオ子はデイバックから小柄な調理器具を用意する。
 小さい鍋に水の性質変化を応用して水を張り、魚の干物で出汁をとる。
 続いて、手持ちの調味料で味付けをして、先ほどの魚の干物と周辺で採れた山菜をあわせた鍋が出来る。
 飯盒のご飯ももう少しで炊き上がる頃合だ。

 旅人は、まさかの温かい食事に笑みを溢す。


 「まさか、こんな山奥で食事が出来るとは思わなかったぜ」

 「まあ、これも何かの縁です。
  ・
  ・
  鍋からどうぞ。
  ご飯も、もう少ししたら食べられます」


 ヤオ子が鍋から器に適当に盛り付けると旅人に器を差し出す。


 「サンキュー。
  お嬢ちゃん」


 旅人は器を受け取ると、ゆっくりと啜る。


 「いい味だ」

 「よかったです」


 ヤオ子は旅人に微笑み、ヤオ子も自分の分を盛り付ける。
 タスケ用には冷めやすいように皿によそい、タスケの側に置いた。
 タスケは少し冷めるまで、じっと皿を見つめている。


 「旅人さんのお名前は、何ですか?
  あたしは、八百屋のヤオ子と言います。
  皆さん、ヤオ子と呼ぶので、旅人さんもそう呼んでください」

 「名乗られたなら、名乗り返すしかねーな。
  オレ様は、キラービー様だ」


 旅人は、日焼けした逞しい体にサングラスとワイルドな髭。
 そして、雲隠れの額当てをしている。
 彼こそ八尾の人柱力であり、サスケとの戦いを利用して逃走中の重要人物であった。
 しかし、ヤオ子にとっては知らないことだし、関係もないことだった。
 いや、サスケと接触しているという一点だけは重要であった。

 そんなこととは知らず、意味のないところが気になる対象になり、ヤオ子の目がキュピーンと光る。


 「何ですか!
  そのカッコイイ名前は!」

 「あん?」

 「キラービー!
  いい!
  最高にいい!」

 「そうか?」

 「最高!
  カッコイイ!
  主人公みたい(漫画の)!」

 「お前、見所あるぜ!」

 「何か運命の人に出会った気がします」

 「名前褒められご機嫌♪
  オレ様、いい加減♪」

 「特徴的な話し方ですね?」

 「これは、ラップだ」

 「ラップ?
  ブラザーソウルとかの?」

 「知ってるのか?」

 「少しだけですけど」

 「お前もやってみろよ」

 「あたしも?
  う~ん……。
  では、少しだけ。
  ・
  ・
  赤巻き巻物、青巻き巻物、黄巻き巻物!
  マキさん巻き巻き!
  巻き巻き症状!
  症状、少々緩和!
  だけど、マキさん巻き巻き!
  巻き巻き症状末期に移行!
  威光ある巻き巻き手つき!
  てっきり治ったと思った症状!
  思ったより重症!
  ウィィィ!」


 キラービーのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「早口言葉じゃねーか!」

 「違うの?」

 「違う!
  お前にはソウルが感じられんねー!」

 「初めての人間に、そんな高度なものを求められても……」


 タスケは『噛み合わねーな』と思いながら冷めた鍋の具を食べ始める。
 その後、飯盒のご飯が炊き上がり、主食も加えて食事は続く。


 「ヤオ子って言ったか?
  とても死にたいと言う人間には見えんな」

 「そうですか?
  見かけよりずっとダメージが蓄積されていますよ」

 「そうなのか?」


 噛み合わない会話にタスケがイライラする。
 二人の前に出ると、地面に『死にたい』と『死に体』と書いた。
 キラービーとヤオ子は、その字を眺める。


 「「……ん?」」


 少しずつ理解し始める。


 「お前、『死に体』って言っていたのか?」

 「『死にたい』って言ってたんですか?」


 キラービーとヤオ子が声をあげて笑う。


 「道理で、話が合わないはずです」

 「オレ様も死にたい奴が飯作ったりするから、変だと思ったぜ」


 山中に二人の笑い声が響く。


 「お前、修行のし過ぎで死に体だったんだな?」

 「はい」

 「何の修行をしてたんだ?」

 「雷の性質変化です」

 「ほう……」

 「少し発生できるようになったんですけど、全然実戦レベルで使えなくて」

 「そうか。
  だったら、少し教えてやってもいいぜ」

 「本当?」

 「ああ。
  やってみな」


 ヤオ子は姿勢を正し、両手を合わせてチャクラを練り上げると雷の性質変化を発生させる。
 そして、目の前に突き出した手の先でピシパシと音が鳴る。
 雷遁としては安定にもほど遠く、威力も今一だ。


 「なるほどな」

 「ん? もう原因が分かったの?」

 「修行方法が悪い」

 「そうなの?」

 「体で覚えるのが一番早い」


 キラービーがヤオ子の手首を取る。


 「何を──みぎゃ~~~ッ!」


 ヤオ子の体にキラービーの雷遁が流れる。


 「体で覚えちまえば問題ねー」

 「嘘!
  間違ってる!
  これ絶対に間違ってる!」


 ヤオ子の体を雷遁が駆け巡り、ポニーテールの尻尾の先はピーンと跳ね上がる。


 「ほら、さっさとお前も性質変化して体で覚えろ!」

 「誰の教え!?」

 「ブラザーだ」

 「あががががが!
  こんなドS的な方法初めて……久しぶりですよ!
  ・
  ・
  え~いっ!
  破れかぶれです!」


 ヤオ子は自分でも雷の性質変化を練り出す。
 だが、キラービーの雷遁に同調しない。


 (っ!
  何で、あたしのチャクラは──負けてるの? 違う!
  同じ性質のはずなのに違うんだ!)


 ビリビリと感電しそうになりながら、ヤオ子は文字通り体で雷遁を覚え始める。
 タスケは有り得ないようなスパルタ的な習得方に呆然としている。
 何より、この方法でヤオ子の性質変化に変化が見られるのが信じられない。


 「キラービーさんの雷遁を感じて……あたしの雷遁のイメージを変換!
  このイメージでチャクラを練り直す!」

 「ほう……」


 ヤオ子のチャクラ性質がキラービーの性質に近づいていくと、体を覆っていた放電が安定してくる。
 ヤオ子は掴まれている反対の手を見る。


 「何これ?
  電気のはずなのに痺れない……。
  あたしの体で安定してる……」


 キラービーが手首を放す。


 「出来たじゃねーか」

 「はい……」


 ヤオ子は雷遁を纏っているのを不思議に感じる。


 「これが雷の性質変化……。
  今なら、印を組めば術が発動しそうですね」


 そして、キラービーは意外なことを口にした。


 「しかし、あんなんで本当に雷遁が習得できるんだな」

 「は?」

 「実は、何となく試しただけだ」

 「……え? ハァ!?
  ブラザーの話は!?」

 「嘘だ」

 「嘘!?」


 タスケは『そうだよな……。』と、溜息を吐くと鍋から自分の皿に具を盛り付けて冷まし始める。
 タスケにとっては、どうでもいいことだった。

 ヤオ子がキラービーを指差す。


 「キラービーさん!
  その方法であたしが習得できなかったら、どうするんですか!?」

 「その時は、その時だ。
  だが、オレ様のソウルが出来ると告げた」

 「……随分と当てになるソウルですね?」

 「当たり前だ!
  このやろう!
  ばかやろう!」


 ヤオ子は頭を掻く。


 「まあ、いいか。
  習得できたんだし……」


 デタラメな方法でこそ、ヤオ子の真価が発揮できるのかもしれない。


 「でも、何で、雷遁を纏えるんだろう?」

 「その状態で動いてみな」

 「動くの?」


 ヤオ子が雷遁を纏ったまま歩く。


 「うわ!」


 雷遁を纏った状態で踏み出した足は、自分が思ったよりワンテンポ早く動いた。


 「何これ!?
  マグネットコーティング!?
  この機体、敏感過ぎる!?」


 キラービーは笑っている。


 「信じらんねーガキだな。
  ちゃんと雷遁の鎧が発動してるじゃねーか」

 「雷遁のよろ──うわ!」


 振り向いた瞬間に、ヤオ子はこけた。
 そして、覆っていた雷遁が解けた。


 「った~~~!
  今の何なの?」

 「使えても扱えなきゃ意味ねーな。
  さっきのは雷遁の応用だ。
  体に雷遁を纏うことで早く動ける」

 「……どういう理屈なんだろう?
  体を通る電気信号が早くなるのかな?」

 「多分、そんなところだろう」


 ヤオ子は腕を組んで考える。


 「それって意味あるの?
  行動的には、ワンテンポ早く動けるだけでしょ?」


 その言葉を聞いて、キラービーのサングラスが光る。


 「お前、実戦経験が少ないだろ?」

 「ええ」

 「戦闘においてワンテンポってのは大きいんだぜ。
  達人の斬り合いになればワンテンポの差が死に繋がることもある」

 「そうなんだ……」


 ヤオ子は感心して話を聞く。
 しかし、本日のチャクラ生成は限界に近い。
 体は、これ以上の無理を許してはくれなかった。


 「もっと試したいけど、今日は、これ以上無理みたい……。
  ご飯食べても体が休憩を欲しがってる……」

 「それは残念だ……。
  ライムの刻み方と一緒に色々と教えてやりたかったんだがな。
  死に体なら、しょうがねー」

 「ううう……。
  面目ない……」


 ヤオ子はゴソゴソとデイバックを漁ると、小さめの毛布を取り出す。


 「すいません。
  もう…限界……」


 そして、仰向けで手をお腹の上に重ねると死んだように眠り始めた。


 「オイオイ……。
  寝ちまった……」


 キラービーが溜息を吐くと、代わりにタスケが話し掛ける。


 「寝かしてやってくれ。
  最近、毎日が死に物狂いなんだ」

 「ん? 忍猫か……」

 「ああ」

 「しかしよう……。
  こんな歳で何しているんだ?」

 「情報収集だ。
  コイツのダチに抹殺命令が出ちまったんだ」

 「そいつは大変だな」

 「諦め切れなくて動いたんだ。
  下忍のクセによ……」

 「そうか……」


 キラービーがヤオ子の左腕を確認する。


 「額当ては、木ノ葉か」

 「ああ」

 「でも、情報収集のはずが、何で、修行もしているんだ?」

 「コイツが一番未熟なのを知っているからだろうな。
  本当は、木ノ葉でしっかり地力をつけた方がいいんだろうが、そうも言ってられなくなっちまった。
  だから、移動中も修行を欠かさない」

 「根性あるじゃねーか」


 キラービーが微笑む。
 そして、眠っているヤオ子に代わり、タスケが質問する。


 「少し質問をしたい」

 「あん?」

 「暁かうちはサスケの情報を知らないか?」

 「…………」


 キラービーの顔が険しくなる。


 「何でだ?」

 「分かるだろう?
  コイツのダチが、うちはサスケだ」

 「……知っているが言いたくねーな」

 「どうしてだ?」

 「オレは、丁度、やりあったばかりだからだ。
  あのヤローは気に食わねー」

 「そうか……。
  嫌ならいい……。
  だが──」

 「?」

 「── 一食分の借りぐらい返せ」

 「何!?」

 「ヤオ子の料理……もう胃の中だよな?」

 「な!? 汚ねーぞ!」


 タスケは知らぬ存ぜぬで、話を進める。


 「まさか、雲隠れの英雄キラービーが、そんな心の狭いことをするわけないよな?」

 「テメー!
  オレ様のことを知ってんのか!」

 「いいや、オレは何にも知らない。
  雷影との連絡網があるだけで、
  ここで遊んでいる弟のことをチクろうだなんてことは考えてもいないよ」

 「お前、オレ様の弱みも知ってんじゃねーか!」

 「さあ?
  何のことだ?
  ・
  ・
  話すのか?
  話さんのか?」


 キラービーが舌打ちをする。


 「何が聞きてーんだ?」


 タスケは鼻で笑うと、キラービーの前に移動して座る。


 「最新の暁の動向……。
  それとうちはサスケ……。
  出来るなら、うちはイタチだ」

 「三つもかよ?」

 「雷影……」

 「分かってる!」


 タスケはキラービーとの会話で、キラービーの知っている暁の情報とサスケとの戦闘の情報を得る。
 そして、サスケとの戦闘の情報を得ると顔を険しくした。


 「まずいな……。
  接触なんてしたら、ヤオ子は殺される」

 「当たり前だ。
  このやろう!
  ばかやろう!」

 「だけど……。
  コイツ、きっと突き進むぞ」

 「有り得ねーな……。
  だったら、さっきの雷遁の鎧は覚えさせろ」

 「雷遁の鎧?」

 「それぐらい早く動けないと逃走も出来ねーぞ。
  ましてや、下忍なんだろ?」

 「ああ……」

 「絶対に接触をさせるな。
  アイツは、話してどうこうなる奴じゃなかったぜ」

 「肝に銘じておく……。
  情報収集が終わったら、木ノ葉に真っ直ぐ帰らせる」

 「それがいい。
  こんなに旨い料理を作れる奴が死ぬのは勿体ねー」


 一人と一匹は、ヤオ子に目を移す。
 そのヤオ子は穏やかな顔を浮かべていた。


 「しかし、ピクリとも動かねーな?」

 「ああ……。
  いつも深い眠りに入ると寝息も聞こえなくなる」

 「生きてんのか?」

 「ああ。
  見てろ」


 タスケがヤオ子の額のT字ゾーンに足を乗っける。
 すると、ヤオ子の口がニヤけた。


 「何だ? それは?」

 「よく分からんが、この位置に足を乗っけるとニヤけるんだ」

 「おもしれーな」


 キラービーも同じ位置に指を当てる。
 すると、ヤオ子が再びニヤける。


 「他はどうだ?」


 キラービーがヤオ子の頬に指を当てる。
 変化はない。


 「妙な奴だな?」

 「ああ。
  木ノ葉で一番の変態だ」

 「さっきの場所に当て続けると、どうなるんだ?」

 「やったことないな」

 「やってみよう」


 キラービーが、ヤオ子の額のT字ゾーンに指を当てる。
 ヤオ子がニヤける。
 そして、暫くするとしゃべり出す。


 「えへへ……。
  うなじ~♪」

 「何を言っているんだ?」

 「どうも、そこに何かを当てると寝言を言うようだな」

 「ほう……」

 「ぐあぁぁぁ!
  またエグい幻術を!」

 「おもしれーな」

 「一体、どんな夢を見てるんだ?」

 「あは~♪
  サスケさん♪」


 キラービーとタスケが複雑な顔をする。
 ヤオ子は夢の中でもサスケを想っていた。


 「サスケさん……。
  お帰りなさい……」

 「…………」

 「お疲れ様でした♪
  あたしにする?
  あたしにする!?
  あたしにする!
  ベッドへゴー♪」


 キラービーとタスケのグーが、ヤオ子の炸裂した。


 「「何の夢だ!」」


 ヤオ子は夢の中でサスケを捕食していただけだった。


 「ん?」


 ヤオ子が目を擦り、上半身を起こす


 「朝? 違う?
  何か頭が痛い……」

 「気のせいだ……」

 「さっさと寝ろ……」

 「うん……」


 ヤオ子は、再び眠りに入った。


 「ありえねー……。
  寝言に突っ込まされたのは初めてだ……」

 「オレもだ……。
  T字ゾーンは、自爆スイッチだったな……」


 ヤオ子のどうでもいい生態の一つが解明された夜だった。


 …


 翌日……。
 キラービーと別れると、ヤオ子は再び北アジトを目指す。


 「目標まであと一息!
  まずは、近くの町!
  次に北アジトです!」

 「そうだな……」

 「暗いですね?」

 「何でもない」

 「そうですか?
  ・
  ・
  では、本日は雷遁をメインで!」


 ヤオ子の修行しながらの旅は続く。



[13840] 第90話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:12
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 キラービーと別れ、数日後……。
 ヤオ子は大蛇丸の北アジトへと近づいていた。
 昨日は、一番近い町で一泊して、本日は水面歩行で北アジトを目指す。
 しかし、距離は近づいたが、ここからが一番大変な作業になる。
 天地橋の大蛇丸のアジトで手に入れた納入リストからでは、北アジトの位置は大体しか分かなかったからだ。
 故に、北アジト近くの島を虱潰しに調べ上げるしかない。


 「結構、島があるんですよね」

 「アジトを隠すなら、ダミーも必要だからな」

 「そういう意味ではもってこいか。
  ・
  ・
  行きましょう!」


 ヤオ子は海岸から見える島の一つを目指し、チャクラの水面歩行により海へと歩き出した。



  第90話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ②



 探索を始め、数時間が経過する……。
 小さな島を何個か探索するが、今のところ人の気配があった島はない。
 しかし、調べた範囲を埋めていくと最終的に導き出される島群がある。


 「もう、ここしかないですね」

 「最後に引き当てるとは運がないな」

 「仕方ないですよ。
  一番なさそうなところが残ったんですから」


 そう、残った島群は大半が岩で覆われている。
 人が暮らすには暮らし難い環境だった。
 その島群へと移動し、ヤオ子は一番近くの島へと上陸した。


 …


 剥き出しの岩肌が囲む島は、砂浜と呼べるものは、一切、存在しない。
 海よりも内陸に近い場所に来ても、岩と荒野が広がるのみである。
 ヤオ子は、ここも人が住むには適していない場所にように思えた。

 それでも隠されたアジトの存在を疑い、島の奥へと進む。
 そして、アジトが見つからないまま島の奥へと向かう途中で、ヤオ子は何かを耳にした。
 破壊音、掘削音、叫び声……。
 人が居ないと思った、この島には何かがあるのは確かだった。
 ヤオ子は叫び声に耳を澄ます。


 『誇りをくれ!
  オレに最後の誇りをくれ!』


 ヤオ子は首を傾げる。


 「何のことだろう?」

 「あまり、いい予感はしないな」


 タスケに少し緊張感が見える。
 ヤオ子も、タスケ同様にいい予感はしていない。

 ヤオ子達は、叫び声のする方に進む。
 少し開けたところに出ると荒れた岩肌の大地に幾つもの墓が並ぶ場所へと出た。
 しかし、墓と言っても簡素な木に十字をつけただけのものだった。


 「何のお墓だろう?」


 ヤオ子が更に進むと、そこには異形の生物が吼えていた。
 ヤオ子には分からない生き物だった。
 だが、この生き物から発せられるチャクラは、どこか記憶に引っ掛かる。


 「サスケさんが里を出る前に接触していた人達に似てる……?」


 ヤオ子が目撃した音の四人衆が、ありありとヤオ子の頭に蘇っていた。
 しかし、目の前の生き物は、呪印が浮かんだだけの彼らとあまりに違い過ぎる。
 それは大蛇丸の開発した呪印の状態2に酷似している生き物だった。

 目の前の生き物は重吾の体液サンプルから作り出された実験体の一人であった。
 両腕が岩のように固い皮膚に変わり、突起物も沢山出ている。
 顔も人の面影がなくなっている。
 牙が生え、腕同様に固い何かになっている。
 そして、それらを動かすために体は強化され一回り大きく変わっている。

 実験体はヤオ子を目に捉えるが、無視して叫ぶ。


 「そんなものでない!
  オレの誇りを守れるのは、そんな奴じゃない!」


 ヤオ子は分からない。


 「何を言ってるんですか……」


 言葉の意味を理解しようとするヤオ子に対し、タスケは違ったところを見てヤオ子に話し出す。


 「奴は死を──誇りある死を願っているんだ」

 「死を願う?」

 「アイツの脇を見てみろ」


 ヤオ子が実験体の脇を見ると、その部分の皮膚が蒸発しているように見えた。


 「何あれ……」

 「実験体の寿命……。
  メルトダウンだろう」

 「あの人死んじゃうんですか?」

 「だから、誇りある死を望んで叫んでいるんだ。
  ・
  ・
  だが、オレ達には関係ない。
  行くぞ」


 タスケは振り返るが、ヤオ子は動けなかった。


 「オイ」

 「死んじゃう……。
  助けないと……」

 「無理だ……。
  アレがどういう体なのか分からない。
  分からないものの治療など出来ない」

 「でも……」

 「オレ達には関われない」

 「あの人……。
  放っといていいんですか?」

 「助けられないんだ」

 「……じゃあ、あの人の望みを叶えられませんか?」

 「……まさか、お前がやるのか?」


 ヤオ子は黙って頷くと、デイバックを地面に下ろした。
 タスケはヤオ子に近づくと、再び話し掛ける。


 「ヤオ子……。
  お前は、サスケの情報を得るんだろう?」

 「はい……」

 「あれは大蛇丸の実験体だ。
  無傷で勝てないぞ。
  ──いや、勝てないかもしれない。
  それに勝っても怪我が酷ければ、治療に時間を費やして情報を集めるのが遅くなるかもしれない。」

 「それでも……」

 「お前が殺される可能性の方が高いんだ。
  無視して、行くぞ」


 タスケが促しても、ヤオ子は視線を実験体から動かせないでいた。
 タスケは溜息を吐く。


 「何で、放っとけないんだよ……」

 「あたし……。
  馬鹿だから……。
  ・
  ・
  あの姿見たら……。
  必死に頑張ってた友達を思い出しちゃった……。
  皆のために頑張ったやさしい子です……。
  だから──」


 ヤオ子から殺気が漏れ出していた。
 戦うという意思を示していた。

 タスケは、ヤオ子の変化に戸惑う。
 ヤオ子から殺気が出ているところなんか見たことがない。
 そもそもヤオ子の話からは、明らかな戦闘経験不足が伺えた。


 (そんな奴が、何で殺気を纏えるんだ?)


 母親との修行で身につけた心のコントロール。
 忍として負けないために身につけたもの。
 真剣な戦いを意識してスイッチが入る。

 ヤオ子の殺気に実験体も気付く。


 「お前じゃダメだ!」


 ヤオ子の殺気を感じても、実験体は相手にしない。
 しかし、次の瞬間、駆け出したヤオ子が実験体を横切ると、実験体の右の頬をクナイで傷つけた。


 「あたしは真剣です。
  舐めていると最後の誇り……守れなくなりますよ」


 いつの間にか握られたクナイを構えて、ヤオ子は向き直る。
 実験体は斬られた頬触り、一瞬、呆気に取られた。
 目の前の状況に、タスケが我に帰る。


 「馬鹿ヤローが!
  今ので決めちまえばいいだろう!
  わざわざ相手に警告入れて、本気にさせるつもりなのか!」


 タスケの言葉通り、実験体の雰囲気が変わる。
 ヤオ子を敵と捉えて、殺気を向ける。
 殺気と殺気がどちらに気圧されるわけでもなく辺りに満ちていく。

 先に動いたのは、実験体だった……。
 巨斧のような腕を振り上げると走り出す。
 ヤオ子も躊躇わずに印を結びながら走り出す。
 そして、実験体が振り下ろそうとする瞬間、地面を蹴ったヤオ子の右足で爆発が起きると加速する。

 実験体の懐に入り込むと左足で地面を蹴る。
 爆発と同時に上へと方向を変え、今度は実験体の首の右側の頚動脈を切り裂いた。

 空中で三回宙をして距離を取り、砂煙をあげて着地をするとヤオ子は実験体に目を向ける。


 「おかしい……」


 実験体が何事もなかったように振り返った。
 実験体の首の下ではボコボコと泡を立てながら傷口が塞がっていく。


 「再生してる……」


 実験体の腕がヤオ子に向けられ、砲のような穴から何かが射出される。

 第一射を躱し、ヤオ子は走り出す。
 前後左右にフェイントを入れることで的を散らして、続く砲撃を躱し続ける。
 細かい破片が飛び交い、爆撃のような衝撃波が走り抜けるヤオ子の後ろに広がっていく。
 砲撃の射程の外まで追いやられ、ヤオ子は方向を再び実験体に向ける。


 「使う場面はないと思っていましたが──」


 ヤオ子は右手を下げて、前傾姿勢に入る。


 (この距離なら発動時間を稼げる……)


 目を閉じ、チャクラの練成に集中し始めると、下げた右手の先で陽炎が揺れる。


 (もっと……。
  もっと性質変化を……)


 徐々に形を成すと掌の先に眩い光源体が現れる。
 それは、やがて人の掌を模った。


 (準備は整った……)


 この発動時間は、戦闘を行なう上では長いものだった。
 その間、実験体が攻撃して来なかったのは、本来なら有り得ないタイムラグだった。


 (あたしを待って居てくれたんだ……。
  あたしをしっかりと敵と認めてくれた……。
  ・
  ・
  その期待には応えなくてはいけません。
  あたしは、この人に最後の誇りを守る相手だと選ばれた……!)


 リンクした光る掌がヤオ子の握り込みと同調する。


 「ヤオ子フィンガーACT2……」


 ヤオ子は走り出し、真っ直ぐに実験体へと向かった。
 それにに対し、実験体は腕を振り上げる。
 さっきの焼き回し……。

 だけど、さっきと大きく違う。
 タスケが叫ぶ。


 「馬鹿ヤロー!
  カウンターを貰うぞ!」


 実験体は、ヤオ子が印を結んでいないのを知っていた。
 故に、さっきの爆発術による加速はないと知っている。
 砲撃は完全にヤオ子を捉えるタイミングで撃ち出されていた。

 ──しかし、そこに狙いがある。

 ヤオ子は、ここで初めて瞬身の術を使った。


 「っ!」


 チャクラの爆発で加速した一蹴りが砲撃をすり抜け、実験体に一気に迫る。
 当然、実験体のカウンターは成立しない。

 そのままの勢いで走り抜けるヤオ子の右手30センチ先の輝く手が、実験体の頚動脈を掴み取った。
 ヤオ子は実験体との距離をあけて停止すると、輝く手が開かれ灰が舞う。
 今度は振り向かずに、実験体は前のめりに倒れた。


 …


 戦いを終えたヤオ子が、ゆっくりと実験体に近づく。
 前のめりで倒れた実験体は、最後の力で仰向けになると自分を倒した少女を視界に入れる。


 「誇りは……守れましたか?」


 そこにあった少女の悲しそうな顔に、実験体は毒気を抜かれた。


 「ああ……」


 ヤオ子はクナイを構える。


 「苦しいなら……直ぐにでも、とどめを刺します」


 実験体は、自分が倒れた意味を知っている。
 頚動脈を高熱で焼かれて抉られたのだ。
 焼かれた傷口は再生しない……。


 (とどめ……か)


 確かに苦しい。
 血が足りなくなって、直に思考も出来なくなるだろう。
 しかし、実験体は自分の気持ちに応えて悲しい顔を浮かべる少女と最後まで話をしたくなった。


 「少し付き合ってくれないか?」

 「……はい」


 ヤオ子は正座をすると、実験体の頭を自分の膝に乗せる。


 「あたし……。
  これぐらいしか出来ない……」


 その行為に対し、実験体は満足そうな顔をしていた。


 「忍らしい戦いだったな……。
  全部が急所狙いだった……」

 「……それが忍としての誇りだと思ったから」

 「こんな化け物みたいな姿になっても……。
  忍として扱ってくれるんだな……」


 ヤオ子は頷く。
 そして、少し間を開けてから質問をする。


 「何があったんですか?
  あんなに苦しそうにして……」

 「……皆で殺し合いをしたんだ」

 「え?」

 「オレ達は大蛇丸の実験になった時に人じゃなくなった……。
  そして、実験体としての寿命も尽き始めた……。
  ・
  ・
  でも、忍としての最後を迎えたかった……。
  だから、生き残った者同士で殺しあって、勝った方が負けた方の墓を立てて誇りを守った……。
  オレは運悪く最後まで勝ち残ってしまって、誇りを守れなかったんだ……」

 「そんなのって──」

 「仕方がなかった……」


 ヤオ子は顔を伏せると、言葉を溢す。


 「やっぱりイヤだ……」


 実験体の頬に涙が当たると、実験体は無骨な腕を伸ばし、ヤオ子の頬の涙を拭う。


 「ごめんな……。
  辛い思いをさせて……」

 「こんなのイヤです……」

 「む、胸を張って…欲しいな……。
  この島で一番強い奴に勝った…んだから……」


 ヤオ子は実験体の手を取って、力強く頷く。


 「いい子だ……」


 ヤオ子は、今度は自分で涙を拭う。
 涙は拭っても拭っても止まらなかった。


 「き、君に…何かを残したいな……」

 「……何でも受け取ります」

 「……じゃあ、術を。
  オレの術を覚えてくれないか?」

 「術?」

 「オレが居た証を君の中に……残したい」


 ヤオ子は頷く。


 「はい……。
  受け取ります……」

 「ありがとう……」


 実験体の不恰好の指が印を結んでいく。
 その指の動きをヤオ子はしっかりと記憶していく。


 「この印だ……」


 ヤオ子は頷く。


 「しっかりと覚えました……」

 「よかった……。
  本当は、もっと教えてやりたいんだけどな……。
  よく思い出せなくなって来た……」


 ヤオ子は無理に微笑む。


 「今ので、おじさんはあたしの兄弟子ですね……」

 「兄…弟子か……。
  ああ…それはいいな……」


 実験体は穏やかな笑みを浮かべていた。


 「もう、十分だ……。
  最後にもう一つくれた……。
  人として…逝ける……。
  ありがとう……」


 実験体はゆっくりと目を閉じると、静かに息を引き取った。
 それを見たヤオ子の目から涙が止まらない。
 勝っても辛くなるのは分かっていたのに……。


 「あたし…ダメダメだ……。
  辛いの分かって戦ったのに……」


 タスケが近づいて来る。


 「ヤオ子……」


 ヤオ子は目を拭う。


 「ごめんね……。
  我が侭言って……。
  でも、ほっとけなかったんです……。
  あの叫び声を聞いたら……」

 「弔ってやろう……」

 「はい……」


 ヤオ子は立ち上がり、実験体を背負う。
 そして、自分より大きな実験体を引き摺り、墓のあったところまで戻る。

 そこでヤオ子とタスケは見つける。


 「穴が…掘ってある……」

 「自分の墓穴を掘っていたんだな……」


 仲間の墓の横に、一人分の墓穴が既に掘られていた。
 ヤオ子は、そこに実験体を埋葬する。


 「この人達……。
  悲しいですね……」

 「そうだな……」


 ヤオ子は、手を合わせて目を閉じる。
 タスケも目を閉じる。
 暫くしてタスケが目を開けると、ヤオ子は、まだ手を合わせていた。


 「ヤオ子……。
  行こう……。
  満足して逝けたよ……。
  ・
  ・
  あのまま、八つ当たりして朽ちていくより良かった……」

 「うん……」


 タスケが歩き出すと、ヤオ子はゆっくりと立ち上がり、暫く墓を見続ける。
 そして、タスケに続いて歩き出した。


 …


 北アジトを探すべく、次の島を目指し、ヤオ子とタスケが海岸線まで来る。
 そこでヤオ子はペタンと尻餅をついた。


 「どうした?」

 「こ、腰が抜けた……」

 「ハァ!?」

 「あ、あたし……。
  人の命を奪ったの…は、初めてなんです」


 ヤオ子は震え出し、冷たい汗が全身を覆う。


 「あ、あたしが人の命を奪った……」


 ヤオ子は自分で自分を抱きしめる。


 「イメージトレーニングは、あれだけしたのに……」


 動けず震えるヤオ子に、タスケは溜息を吐く。
 そして、ヤオ子に右の前足を出す。


 「ほら、オレの前足を貸してやる。
  少し握ってろ」


 ヤオ子は言われるままにタスケの前足を握ると、タスケから伝わる体温を酷く熱く感じた。
 ヤオ子の手が冷たくなっているのだ。


 「少し落ち着いて来ました……」

 「そうか……。
  人間ってのは不便だよな」

 「不便?」

 「ああ。
  オレ達は、食いもん取るのにも命懸けだ。
  狩って狩られて……。
  それが常識だから悩まない。
  生と死は近くにある。
  ・
  ・
  まあ、人間の言葉を解する以上、
  他のヤツ等よりも理性があるから悩むこともあるけどな。
  お前達ほどじゃない」

 「……あまり考えて来ませんでした」

 「これからは考えるんだな。
  お前達忍は、一般人より少し外──どちらかと言えば、オレ達に近いところにいる。
  戦うことが自然なはずだ」

 「はい……」


 少し呆けているヤオ子を見て、タスケが溜息を吐く。


 「仕方ないな。
  少しアドバイスしてやるよ。
  ちゃんと大義名分を持っとけ」

 「大義名分?」

 「言い方を変えるか?
  忍の誇り。
  仕事の生き甲斐。
  何でもいい。
  要するに自分の納得する理由だ」

 「何で?」

 「大事だからだよ。
  否定しない何かをしっかりと心に持ちな。
  心が壊れちまうぜ」

 「うん……」


 ヤオ子は少し振り返る。
 何で、忍になろうとしたか。
 そして、それは最近口にして誓いを立てたばっかりだ。


 「そうでした……。
  あたしが頑張ることで誰かが守られるんだ……」

 「うん。
  忘れるな。
  大事だぞ」

 「はい……」

 「それに……さっきの戦いは、しっかり守ったじゃないか。
  お前の想いを持っていたぞ」

 「はい……」

 「じゃあ、くじけちゃダメだな」

 「そうですね……。
  ・
  ・
  えへへ……。
  タスケさん、ありがとう。
  あたし、少しだけ忍者が分かりました。
  また、先に進めます」


 タスケは軽く笑うと、ヤオ子の頭に駆け上がる。


 「さあ、北アジトに行こうぜ」

 「はい!」


 ヤオ子はしっかりと自分の足で立つと、次の島へ向けて走り出した。



[13840] 第91話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:12
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 北アジトを見つけるため、近辺の島々の探索が続く。
 水面歩行を続けるヤオ子の頭の上で、タスケが質問する。


 「なぁ。
  さっきの戦闘……いくつか質問していいか?」

 「いいですよ」


 タスケは、ヤオ子に実験体との戦闘での質問を始めた。



  第91話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ③



 タスケは、経過の順に質問をすることにした。


 「まず、何で一回目の攻撃で仕留めなかった?」

 「誇りを守るんだから、不意打ちはNGです」

 「じゃあ、あの加速の使い分けは?」

 「気になります?」

 「ああ」

 「深い理由はないんです。
  ただ、あたしはインチキをしていただけですから」

 「インチキ?」

 「はい。
  おじさんの攻撃する速度を知っていました。
  怒りをぶつけて暴れていた時の情報を持っていましたから」

 「それでインチキかよ……」

 (コイツ、しっかりと情報を収集した上で、喧嘩をふっかけてたんだな……)


 タスケは感情だけで動かされたのではないのだと思い、ヤオ子が戦略を立てれる能力を持っているのだと思った。


 「本当は、二回目で終わりにするつもりだったんですけどね。
  あの再生能力は予想外でした」

 「じゃあ、三回目の攻撃は思い付きだったのか?」

 「いいえ。
  奥の手です。
  一回目で、警告とあたしの移動速度の情報を提供。
  二回目で、あたしの加速させる術の情報を提供。
  三回目で、罠を仕掛けました。
  ・
  ・
  つまり、印を組まないことで加速がないと思わせて、
  一回目の移動速度でカウンターを合わさせたんです。
  でも、実は瞬身の術で、あたしはもう一段加速できる。
  だから、あたしの攻撃を先に当てることが出来ました」

 「なるほど……。
  お前、駆け引きも出来るんだな」

 「ええ。
  お母さんに叩き込まれました」


 ヤオ子は母親との修行を振り返ると、少しテンションが下がった。
 ドS的修行方法が頭の中を駆け巡ったのが原因だった。
 タスケが最後の質問をする。


 「最後の、あの術……何だ?」

 「あれ、術じゃないですよ」

 「は?」

 「印を結んでなかったでしょ?」

 「そう言えば……」

 「あれね。
  ただの性質変化なんです」

 「え?」


 ヤオ子がデイバッグから巻物を取り出す。


 「ヤマト先生の修行方法に、ナルトさんの術が書いてあるんです。
  まあ、ナルトさんの情報が漏れないように、簡単にですけどね。
  その中の形態変化を極めた術に螺旋丸っていうのがあるんです」

 「ふ~ん……」

 「それでね。
  あたしは、性質変化の修行中だったでしょ?
  逆に性質変化を極めると『どうなるかな?』って、修行しながら試していました」

 「うん」

 「結果、使えるのは火遁か雷遁だけでした。
  そこに留めるならエネルギー体でないといけませんから。
  でも、雷遁は未完成でしょ?
  だから、火遁を使いました」


 タスケがヤオ子の頭に寝そべって質問する。


 「でもよ。
  留めるなら形態変化が必要だろ?」

 「はい。
  だから、印を使わないこれです」


 ヤオ子の指からチャクラ糸が垂れると、タスケは首を傾げる。
 チャクラ糸は、既に一つの形態のはずだ。

 ヤオ子は五本の指からチャクラ糸を出すとあやとりの要領で形を作っていく。
 そして、さっきの戦闘で使用した掌が出来あがった。


 「これ、あたしの手の動きとリンクしているんです」


 ヤオ子の手の動きに合わせて、チャクラ糸で出来た掌が同じ動きをしてみせた。


 「でね。
  これに火遁の性質変化の極めたものを流すと……」


 熱量の制限をなくした性質変化のエネルギーがチャクラ糸に流れると徐々に輝き出す。
 瞬間的な術ではないため、熱が留まり続けているのが特徴であった。


 「こんな感じです」

 「すげぇーな……」


 ヤオ子はコリコリと額を掻く。


 「でも、あまり意味ないんですよね」

 「ん? 何でだ?」

 「これ、範囲が掌でしょ?
  相手の情報がある時とか状況が有利じゃないと使えません。
  まず、当たらない。
  それだったら、至近距離で必殺技ぶっ放した方が確実です。
  当たる範囲は必殺技の方が大きいから」

 「そうだな……」

 「今回は、忍らしく急所狙いだったので無理しました。
  そして、頚動脈を斬っても死なないって反則だったから、
  この性質変化を疲労することになりました」

 「なるほどな」

 「それに発動まで少し時間掛かるんです。
  糸状にしたら、空気に触れる分だけ温度が上がるのに時間が掛かるし、
  何かの形にチャクラ糸を編み上げるのも時間が掛かるし……」

 「微妙だな……」

 「はい。
  だから、火遁で試してある程度の成果が確認できたら、
  雷遁の熟練度を比較するのに便利でいいやぐらいにしか思っていませんでした」

 「なるほどね……」

 「ただ、名前だけはカッコよくしました」

 「は?」

 「あたし、ジョジョのスタンドでエコーズが好きなんです。
  そこから『ACT2』を貰ってカッコよくしました」

 「何の拘りだよ……」


 やっぱり、ヤオ子はヤオ子だった。


 …


 いくつかの島を巡るうち、ある島に物資が送られた形跡が目に付くようになり始めた。
 ヤオ子達はその島へと足を伸ばし、遂に目的の北アジトのある島に到着する。
 しかし、到着早々、嫌な予感がヒシヒシと伝わってくる。


 「滅茶苦茶見られてますねぇ……」

 「敵意剥き出しだな」


 上陸五分で、ヤオ子達は異形の者達に囲まれていた。
 誰も彼もが、ここに来る前に戦った実験体と似た姿をしている。


 「まず、敵対心を取らないと話も出来ませんね。
  ・
  ・
  あの~──」


 ヤオ子は緩い笑顔からの接触を試みるが砲撃された。
 足元には威嚇の意味も込めて、小さく地面を抉った跡が残る。
 これも先の戦いの時と攻撃方法が酷似していた。


 「ダメです……。
  聞く耳を持ってません……」


 ヤオ子はガシガシと頭を掻くと、少し吹っ切れた感じで叫ぶ。


 「お尋ねします!
  この中にうちはサスケさんのことを知っている人は居ませんか!」

 『うるせー!
  ここに来た奴等は、そう言って荒らしていくんだ!』

 「荒らす?」

 『ここには、お前らが欲しがるような大蛇丸の情報はない!
  オリジナルの重吾も、サスケが連れて行った!』

 「……サスケさん?
  そこを詳しく教えてくれませんか?」


 更に砲撃。


 「うわ!」


 威嚇ではない狙われた攻撃をヤオ子は体を反らして躱す。


 『帰れ!』


 ヤオ子に『帰れ!』の声が連呼される。
 だけど、帰るわけにはいかない。
 ようやく出てきたサスケの名前だ。
 ここで引くわけにはいかない。


 「大事なことなんです!
  教えてください!」

 『帰れ!』

 「イヤです!
  教えて!」

 『帰れ!』

 「っ!」


 ヤオ子が奥歯を噛み締めると、タスケがヤオ子に声を掛ける。


 「先客がコイツらに手を出したんだろうな。
  警戒している……。
  ・
  ・
  しかし、余程の手練れだったんだな。
  コイツらが、さっきの奴と同じ力を秘めているんなら、こんなに多人数は相手に出来ないぞ」

 「…っちが、下手に出ていれば……」

 「ん? ヤオ子?」

 「…にも聞かずに……」

 「オイ?」


 ヤオ子が目を吊り上げ、大音量で叫ぶ。


 「よく聞け!
  こんな可憐な美少女が質問してるんだから、話ぐらい聞け!」

 『どうせ化けているんだろ!』

 「チッ!
  いらないところだけ、忍の知識を引き合いに出して!
  一人ぐらい話を聞いてくれる人は居ないんですか!」

 『その手で仲間が殺されたんだ!』

 「じゃあ、どうすれば話してくれるんですか!」

 『話すことはない! 帰れ!』

 「が~~~ッ!
  話がループしてる!」


 ヤオ子は頭を抱えて叫んだあと、目が座らせる。


 「もう、いい……」


 ヤオ子は囲まれて不利な条件にも関わらず、チャクラを練り出した。
 タスケが慌てる。


 「お前!
  この人数相手に喧嘩吹っかけんのか!?」

 「殺しませんよ……。
  殺したら情報聞けませんからね……。
  フフフ……」


 異形の者達が警戒する。
 禍々しいチャクラを練って薄ら笑う雰囲気は、かつて自分達をこの島に縛りつけた者に似ていたからだ。
 そして、ヤオ子が印を結ぶと、ヤオ子を囲んでいた先頭の三人が大量の鼻血を吹いて気絶した。


 「くっくっくっ……。
  一度、この術を制限なしで使ってみたかったんですよ……。
  木ノ葉じゃ禁術になってしまって、こっそりとしか使えませんでしたからね……」


 異形の者達は、恐怖で硬直している。
 得体の知れない少女は、謎の術で仲間を失血死させてもおかしくないぐらいの鼻血を出させた。
 しかも、何故かやられた仲間の顔は恍惚に微笑んでいる。


 「お前ら! 一人残らずぶっ倒してやる!
  木ノ葉のピンクの淫獣!
  八百屋のヤオ子さんが、極楽に連れて行ってあげるわ!
  ・
  ・
  おいろけ・走馬灯の術!
  乱れ打ち!
  百花繚乱!」


 使ったのは『おいろけ・走馬灯の術』。
 真人間で変態性が弱い者ほど耐えられない。
 脳みそがエロの負荷要領に耐え切れずにショートして気絶に至る。
 そして、体は馬鹿みたいに血圧が上がり、血は鼻血になって解放されるのだ。


 「走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! おいろけの術!走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術! 走馬灯の術!
  走馬灯の術~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」


 多分、忍の戦いにおいて、かつてない最悪の戦い方。
 使っちゃいけない術を使われ、異形の者達は次々に鼻血を吹いて倒れていく。


 「温い! 温いぞ!
  お前らのエロさは、そんなものか!」


 そこには、正しく魔王が居た。
 スケベ大魔王が……。


 『が…がががががが……♪』

 『あ、あへ♪』

 『おっぱいが……♪
  おっぱいが……♪
  おっぱいが……♪
  おっぱいが……♪』


 全ての異形の者を倒しつくし、ヤオ子は前髪を掻き上げる。


 「ふっ……。
  また、詰まらんものを斬ってしまった……」

 「本当に詰まらない術だな……」


 タスケは項垂れ、呆れる。
 そして、ヤオ子の頭から後ろを見て呟く。


 「ここで『蝕』でも起きたのかよ……」


 タスケの目の前には、鼻血によって形成された血の湖が広がっていた。


 …


 痙攣している一番近くの異形の者に近づくと、ヤオ子はペシペシと異形の者の頬叩く。
 やがて、異形の者は意識を取り戻し、ヤオ子の顔を瞳に映す。
 そこにあったのは、天使のような悪魔の微笑み。


 「すこ~し、お話を聞かせてくださいね♪」

 「お前…なんて術を掛けるんだ……」


 異形の者は流れ出る鼻血を止めながら、ヤオ子に返した。


 「皆さんが真人間でよかったです。
  変態には効きませんからね」

 「ある意味、回避不可の術だ……。
  男に生まれた以上、避けられない……」

 「木ノ葉でも、ナルトさん、木ノ葉丸さん、カカシさんぐらいしか耐えられないでしょうね」

 「カカシ……。
  さすが写輪眼の使い手だ……」

 (血が足りなくて頭が回らないんですかね?
  写輪眼は関係ないし。
  この術に耐え切れる時点で、ダメ人間確定なんですけどねぇ)


 朦朧としている異形の者に、ヤオ子は話し掛ける。


 「ようやくお話出来ますね。
  情報を貰えませんか?」

 「お前……。
  本当に話を聞きに来ただけなのか?」

 「初めっから、言ってるじゃないですか」


 異形の者が苦笑いを浮かべる。


 「悪かったな……。
  ここも何度か悲惨なことがあったから……」

 「少し分かります。
  別の島で見て来ました」

 「そうか……。
  知りたいのは、うちはサスケだったな?」

 「はい」


 異形の者は目を瞑ると、何かを思い出しながら語り始めた。


 「サスケは、ある意味英雄なんだ」

 「英雄?」

 「大蛇丸を倒して、オレ達を解放した」

 (そういえば、サスケさんは体を狙われてたんだ……。
  大蛇丸さんを逆にやっつけたんですね……。
  ・
  ・
  相変わらずのドSっぷりです)

 「その後、各地で仲間を集めているようだった。
  ここに来た時には、既に二人居た。
  男と女……。
  そして、ここに居た重吾を連れて行った」

 (仲間……。
  小隊を組むなら四人。
  人数的には揃ったことになりますね)

 「そして、暫くして島を離れた……」


 タスケがヤオ子に駆け寄る。


 「ヤオ子。
  サスケは小隊を得たから、行動範囲を広げたんだ。
  戦力や足りない能力を補ったに違いない」

 「そっか……。
  それで各地で……。
  ・
  ・
  でも、知りたいのは他なんですよね」


 ヤオ子は異形の者に向き直る。


 「ねぇ、おじさん。
  サスケさんが大蛇丸さんのところに居た時の状況とか知りませんか?」


 異形の者が頷く。


 「噂話でもいいか?」

 「ええ」

 「サスケは……無益な殺しはしないらしいんだ。
  戦った相手を戦闘不能に陥れて決着をつけている」

 「そうなの?」

 「ああ」

 「じゃあ、今の何でも有りみたいなのは、どういうことなんだろう?」

 「どういうことだ?」


 ヤオ子は腰に手をあて、反対の手を返す。


 「何か余所の里で迷惑掛けて、抹殺命令が出てしまったんです。
  おじさんの話し通りなら、そんなことするはずないし……。
  仇討ちも終わったのに……。
  ・
  ・
  やっぱり、マダラさんに接触してから、おかしくなったみたいですね」

 「他の奴等にも聞いてみな……。
  中には手合わせしたりしている奴も居る……。
  ・
  ・
  オレが面通ししてやるよ」

 「ありがとう」


 ヤオ子は、周りを見る。


 「でも……。
  先に血を作らないと、聞けそうにもないですね」


 ヤオ子は、やり過ぎたと頭を掻いた。


 …


 岩だらけの島でリズムのいい包丁の音が響く。
 大きな鍋が三つ用意され、どれも具材がたっぷり入っている。
 ヤオ子は、まな板の上で刻んだ薬草を三つの鍋に均等に加えていく。


 「隠し味OKです♪」


 鼻歌を歌いながら、大きな釜で炊いている、ご飯の炊き上がりにも耳を澄ます。


 「もう少しですね」


 ヤオ子は、ぶっ倒れている異形達に声を掛ける。


 「ご飯できますよ~!
  鍋から、どうぞ~!」


 ヤオ子の声に反応して、異形の者達がゆっくりと立ち上がる。
 そして、直ぐに匂いが鼻をくすぐり出した。


 『いい匂いだ……』

 『久しぶりに普通の飯だ……』


 ヤオ子はにっこりと微笑むと印を結び、影分身を出して、それぞれの鍋で配給を始める準備をする。


 「勝手に皆さんの食料庫から作らせて貰いました。
  だから、遠慮しないでね」


 配給するヤオ子を見て、異形の者達が一斉に指を差した。


 『『『『『変態女!』』』』』

 「酷い言われようですね。
  まあ、褒め言葉と受け取っておきます」


 異形の者達が葛藤する。
 目の前の変態を警戒するべきか?
 食欲に負けるべきか?

 ヤオ子は左手の掌を返す。


 「どっちにしろ、血を補給しないと死に至りますよ?
  あたしは、もう一回同じ術を使うだけでいいんですから、絶対的有利は変わりません。
  毒を盛る必要もないし、不意打ちする必要もありません。
  警戒も必要ないですよ」


 それもそうかと、一人の異形の者が前に出る。


 「一杯、貰えるか?」

 「はい♪」


 ヤオ子から、鍋の具を盛り付けられた器が手渡される。
 異形の者は、慎重に一口啜る。


 「旨い……」


 そして、がっつき出すと他の異形の者達も続いた。


 「やっぱり空腹がイラつかせるんですよね~」

 「オレは違うと思うがな」


 ヤオ子はタスケの言葉を軽く受け流すと、配給に勤しんだ。


 …


 ヤオ子の料理で、異形の者達とすっかり打ち解けた。
 大蛇丸のところに居た時のサスケの情報も幾つか入る。
 ヤオ子は、この島でサスケの情報をかなり得ることが出来た。


 「少し整理が必要ですね」


 ヤオ子の状況整理は、次回……。



[13840] 第92話 ヤオ子のサスケの足跡調査・状況整理
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:13
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 大蛇丸の北アジト……。
 今、ここには新たな支配者が居る。
 悪魔の術で混沌に陥れ、下僕達の鼻血で血の湖を作った張本人。
 少女の前に異形の者達は、綺麗な整列をして話を聞いていた。


 「我々は、一人の英雄を失った……。
  しかし、これは敗北を意味するのか?
  否! 始まりなのだ!

  突っ込みに比べ、我がボケの数は1/30以下である。
  にもかかわらず、今日まで戦い抜いてこられたのは、何故か?
  諸君! 我らボケが正義だからだ!

  これは諸君らが一番知っている……」

 『知らねーよ』

 「我々は突っ込みを追われ、ボケにさせられた。
  そして、一握りの木ノ葉の突っ込みが支配して五十余年……。
  我々が自由を要求して、何度踏みにじられたか……」

 『何の自由だよ……』

 「ボケの掲げる人類一人一人の自由のための戦いを笑いの神が見捨てるはずはない……。

  私の術……諸君らが愛してくれた『おいろけ・走馬灯の術』は禁術に指定された。
  何故だ!? 」

  『当然の成り行きだな』

 「新しい時代の覇権を、選ばれたボケが得るは歴史の必然である。
  ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ。
  我々は過酷なボケ不足を生活の場としながらも、
  共に苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げて来た。

  かつて、笑いの神は、人類の革新はボケである我々から始まると言った」

 『まあ、ボケないと突っ込めないからな』

 「しかしながら、木ノ葉のドS共は、
  自分たちがボケの支配権を有すると増長し、我々に抗戦する。

  諸君のボケも! ナイスパスも! そのドSの無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!
  この悲しみも怒りも忘れてはならない!
  それをあたしは、数多のグーをもって示した!」

 『示したのかよ……』

 「我々は、今、この怒りを結集し、
  突っ込みに叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。
  この勝利こそ、寒い結果へと導かれた全ての者への最大の慰めとなる。

  立て! 悲しみを怒りに変えて! 立てよ! ボケよ!
  我らボケこそ選ばれた笑いの申し子であることを忘れないで欲しいのだ!
  優良種である我らこそ!
  人類を救い得るのである! イッチャイチャ~!」

 『この娘は、大丈夫なのか?』


 大丈夫じゃない。



  第92話 ヤオ子のサスケの足跡調査・状況整理



 ヤオ子は満足顔で演説を終えた。


 「と、これがあたしの木ノ葉のポジションです」

 『『『『『さっぱり分からん……』』』』』

 「そうですか?
  省略し過ぎましたかね?」

 「いや、元ネタが分かってねーんだよ……」

 「さすがタスケさん。
  的確なアドバイスです」

 「やっと、分かったか」

 「つまり、元ネタのギレンの話を教え込めばいいんですね」

 「違うわ!
  もう止めろって言ってんだ!
  お前の妄想を実行するな!」

 「え~。
  折角、この島で一番強い存在になったのに~」

 「お前、最悪の支配者だ」

 「まあ、いいです。
  ・
  ・
  それでは。
  皆さん、お元気で」


 異形の者達はポカーンとしている。
 それもそのはずだ。
 実は、別れの挨拶だった。


 …


 北アジトに来たヤオ子は暴走していた。
 それは激しく……。
 元々、異形の形に興味が津々だった。
 好きか嫌いかで言えば好きに分類される。

 そして、打ち解けてからは情報交換をしながら、話し笑い合っていた。
 異形の者達も久々の珍客に何処か和んでいた。
 ヤオ子の情報の引き出しにも協力したし、久々の温かい料理が嬉しかった。

 ──だが、それが悪かった。

 ヤオ子が調子に乗った。
 イチャイチャの話から、木ノ葉での都市伝説の数々……。
 そして、最後の演説に繋がる。
 ただ、それでも嵐のように暴走して去っていった少女に好感が残ったのは確かだった。


 …


 ヤオ子は水面歩行で北アジトの島を後にして、迷うことなく歩いていた。
 タスケは、それがどうも腑に落ちない。


 「なぁ。
  何処に向かっているんだ?」

 「ああ……。
  サスケさんのところ」

 「へ~。
  ・
  ・
  何っ!?
  何でだ!?」

 「色々と情報を貰ったけど、分からないことだらけなんですよ。
  直接、聞かないと分かりません」

 「分からない……確かにな」

 「少し長くなりますが、状況を整理しましょうか?」

 「ああ、頼む」

 「振り返りたいのは、大きく分けて三つ。
  『サスケさん』『イタチさん』『うちは一族』です。
  ・
  ・
  まず、サスケさんのことから振り返ります。
  木ノ葉を離れて大蛇丸さんに行ったところからです。
  予測も含まれますが、説明なので断言してしまいます。
  気になっても無視してください」


 タスケは無言で頷く。


 「北アジトで手に入れた情報では、サスケさんの根本は変わっていません。
  基本、無口でクール。
  修行に明け暮れる毎日。
  無益な殺しをしない。
  目的のためにのみ、力をつけていた感じです。
  あたしは、木ノ葉に居た時と変わっていないと思います。
  抹殺命令を出されるようなことはしていません。
  ・
  ・
  そして、無益な殺しをしないのは、
  うちは一族を皆殺しにしたお兄さんと同じ行動を取るのを無意識に嫌っているからだと思います。
  だから、お兄さんと同じような行動を取るようなことはしなかったんだと思います。
  今のは少しこじ付けもありますが、
  あたしの知っているサスケさんは、理由もなく人を殺すようなことはしません。
  まあ、ドS行為を実行する時は、容赦ない人でしたが……。
  兎に角、サスケさんが命を奪う時には、理由が必要と感じました。
  ・
  ・
  次にサスケさんの転機……大蛇丸さんの殺害です。
  自分の体を狙う大蛇丸さんを返り討ちにしています。
  あたしは、自分の体を奪われないようにするという理由での殺害と考えます。
  が……。
  ドSのサスケさんのことだから、とことん利用してポイした気もします。
  あたしが写輪眼の実験台にされたのがいい例です。
  人の許可なく、とことん利用します。
  その後、中忍試験本戦の時にポイされました。
  ・
  ・
  そして、大蛇丸さんを殺害した後がサスケさんの復讐の始まりでもあります。
  小隊を結成して、仇であるお兄さんを追っています。
  北アジトの方の情報でメンバーも分かりました。

  鬼灯 水月さん。
  大刀を所持していたとのこと。
  また、大蛇丸さんに捕まっていたとか。
  霧隠れの出身らしいので、水遁系の忍者かもしれないとも聞いています。

  香燐さん。
  女の人だという事意外、よく分かりません。
  
  重吾さん。
  異形の人達のオリジナルみたいです。
  戦闘方法は、少し戦ったから分かります。
  ただ、精神的に不安定とのこと。
  ・
  ・
  少し予想します。
  水月さんと重吾さんは、単純に戦力アップと考えられます。
  しかし、問題は香燐さんです。
  能力が不明です。
  でも、大方の予想は出来ます。
  サスケさんが、お兄さんを追うために必要な能力──感知能力です。
  キバさんの嗅覚やヒナタさんの白眼のようなものがないと追えません。
  多分、香燐さんは、そういう役目です。
  眼鏡をしてたという話もありますから、瞳力ではないでしょう。
  ・
  ・
  そして、この小隊で、サスケさんはお兄さんを倒して復讐を果たしています。
  ただ、ここからがおかしいんです。
  復讐を果たしたのに、木ノ葉に戻って来ません。
  それどころか、暁に入って余所の里で暴れています。
  人も何人か殺しているとか……。
  ヤマト先生の話では、うちはマダラという人との接触のせいらしいです。
  一体、何があったのか?
  サスケさんには、直接、ここを聞きたいんです。
  以上が、サスケさんについてです」


 タスケが頷く。


 「なるほどな……。
  確かに復讐を果たした後が、変だ。
  復讐を果たす前までは、それなりの信念や工程がある。
  力をつけたり、小隊を組んだりな。
  だけど、その後の行動がお粗末だ。
  嫌っていた兄の居た組織に入るというのもおかしい」

 「はい。
  サスケさんの心の中で何かが変わったんだと思います。
  心を変えるほどの何か……。
  考えられるのは『イタチさん』『うちは一族』です。
  ・
  ・
  別の真実があったんじゃないでしょうか?」

 「どういうことだ?」


 タスケの聞き返しに、ヤオ子は質問で返す。


 「タスケさん。
  もう話してくれますよね?
  タスケさんと初めて会った峠の茶店。
  あそこであたしと話したのが……うちはイタチさんですよね?」


 タスケは茶化すのをなしに、ヤオ子に訊ねる。


 「……いつ気付いた?」

 「里で暁の噂が広がって、暁の外套の特徴を知ってからです。
  タスケさんは任務だから依頼主のことは言えない。
  でも、依頼主は……もう居ません」


 ヤオ子の付け足しに、タスケは大きく息を吐いた。


 「ああ……正解だ。
  アイツが、うちはイタチだ」

 「やっぱり……。
  ・
  ・
  でも──いや、だから納得できる」

 「?」

 「お兄さんって……悪い人のように思えなかったんです。
  茶店で会った人がイタチさんかもって思ってから変だったんです。
  サスケさんの復讐する人が、サスケさんのことを聞いた……。
  一族を殺した人が木ノ葉を気に掛けた……。
  少しだけ見せた笑顔がサスケさんに似ていた……。
  ・
  ・
  本当にイタチさんが、うちは一族を滅ぼしたんですか?
  本当は復讐する相手が別にいて、うちは一族を滅ぼしたんじゃないんですか?
  だから……サスケさんは、木ノ葉に戻って来れない。
  お兄さんを殺してしまった後に、マダラさんに真実を聞いたから……」


 タスケは顔を背ける。


 「さあな……。
  詳しくは、分からん。
  だけど、お前の『勘』も大事だと思うぞ」

 「『勘』が大事?」

 「ああ。
  人間は、話す相手によって感情を変える。
  油断したり、警戒したり、心を開いたり、閉じたり……。
  ・
  ・
  イタチからすれば、お前以外──例えば、木ノ葉の要人には警戒する必要があるだろう。
  しかし、お前はイタチからすれば枠の外の下忍。
  しかも、子供だ。
  油断もあっただろうし、他の人間に比べて気も抜いていただろう。
  だから、お前が感じ取った感覚に真実が含まれていてもおかしくない。
  ・
  ・
  それに、お前の会話は意表を突く」

 「どういうこと?」

 「予想と違う答えが返って来るんだよ。
  波があるんだ。
  真剣な話しかと思えば脱力させられ、真面目な話しかと思えば笑い話だ。
  それ以外にも、根本から予想外で始まる話もある。
  だから、隙が出来る。
  オレから見ても、イタチの顔は予想外な回答に感情が出ていた」


 ヤオ子は複雑な顔で頬を掻く。


 「貶してるの? 褒めてるの?」

 「両方だ。
  お前の会話だからこそ、イタチは油断したはずだ。
  その会話の中で、お前が感じた感情があるなら、全部が間違いだとは言い切れない」

 「そうなんですかね?」

 「オレの経験談からすればな」

 「……少し説得力が出た。
  ・
  ・
  そうなるとお兄さんの真実が欲しいですね。
  でも、全然情報が入らないんです」

 「当然だな。
  イタチに接触した人数が少な過ぎる。
  サスケの場合、大蛇丸のところで修行をしていたから、手合わせした実験体達から情報を得られる。
  しかし、イタチは単独行動の上、暁という組織は少数精鋭で構成されていて情報が出難い。
  ・
  ・
  だから、茶店で会話をしてイタチの印象を持っているというのは、情報としては、結構、大きいんだ。
  だが、それでも情報不足は否めない」


 ヤオ子が顔を顰める。


 「う~ん……。
  お兄さんの情報は、出て来そうにありませんね……」

 「じゃあ……サスケに聞いてみたら、どうだ?」

 「え?」

 「兄弟なんだろう?」

 「はい」

 「丁度、いいじゃないか。
  もう、会うって決めちまって、他にも質問することもあるんだろ」

 「はい……」

 「それにお前……イヤなんだろ?」

 「何が?」

 「サスケの行動もイタチの行動もだよ」


 ヤオ子は言われて気付く。


 「……うん。
  サスケさんが悪いことするのもイヤだし、お兄さんも悪いことしたとも思いたくない。
  出来れば、真実が間違っていて欲しいって思ってます。
  ・
  ・
  そして、出来れば納得のいく形で、これでもかってぐらいのハッピーエンドが欲しいです」

 「それは欲張り過ぎだろ……。
  もう、結構、ドロドロした方向に傾いてんだから……」

 「じゃあ、納得する答えだけでも」

 「だな。
  ・
  ・
  でも、これ以上の情報を得るのは難しいぞ。
  さっきも言ったように、真実を知っている人間が少な過ぎる」

 「ええ。
  でも、あたしの中には情報がない。
  真実がない。
  予想しかない。
  ・
  ・
  それでも知りたいなら……サスケさんに会うしかない。
  ……シズネさんとした危ないことしないって約束は、どうしよう?」

 「危なくないように接触するしかないな」

 「危なくないように?
  でも、今のサスケさんは、狂犬のように危険です」

 「そうだな……。
  ・
  ・
  ヤオ子、こうしよう。
  もし、お前が安全に接触出来る方法を考えられたら実行する。
  考えられなければ諦めろ……。
  木ノ葉に大人しく戻るんだ」

 「タスケさん……」

 「一応、保護者だからな。
  これが最低限の条件だ」


 今の状態でも情報としては、かなり重要なものが揃っている。
 この情報を持って木の葉に帰り、改めてサスケの別情報を探るのもありだと考える。


 (でも、サスケさんの位置は、それほど離れているわけでもない……。
  それに抹殺命令が出たことを伝えないといけない……。
  そのためには──)


 ヤオ子は目を閉じて頷く。


 「分かりました。
  サスケさんと安全に接触する方法を考えます」

 「期限は、サスケと接触するまでだ」

 「はい。
  じゃあ、行きましょう」

 「ああ……。
  ・
  ・
  って、何処に向かうんだ?」

 「あっち」


 ヤオ子が行き先を指差す。


 「何で、あっちなんだ?」

 「あたし、サスケさんの居るところは、歩いて一~二日ぐらいなら分かります」

 「お前、感知タイプの忍だったのか?」

 「いいえ……。
  ・
  ・
  四年前に刻まれたトラウマで、サスケさんのドSパワーだけ感知できるんです」


 タスケがこけた。


 「何だ! それは!?」

 「あたしの悲しい過去の遺産ですよ……。
  正直、あたしだって、こんな能力いらないですよ。
  サスケさんしか感知できないって意味分かんないし」

 「本当にどうしようもない奴だな……」

 「まあ、いいです。
  今は役に立つんだから。
  ・
  ・
  接触は、明日です!」

 「じゃあ、移動しながら答えを出せ」

 「はい!」


 ヤオ子は目的地をサスケにして走り出した。



[13840] 第93話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:13
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 北アジトから歩いて一日程度の島群……。
 少し離れた無人島でタスケが待機し、側にはヤオ子のデイバッグとガイに貰った重りが転がる。

 場所は、海上。
 ヤオ子は深呼吸すると、初めて自身の全力をぶつける。
 移動中の小隊・鷹に仕掛ける準備は整った。


 「行きますか」


 腕の保護具のベルトをきつめに締め、ヤオ子は視線を真っ直ぐに向けた。



  第93話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁①



 移動中の海上を走るサスケの小隊を先回りして、ヤオ子は接触を試みる。
 ヤオ子の存在に気付いたのは、感知タイプの香燐だった。


 「サスケ!
  前方から、誰か来てる!
  かなり早い!」


 香燐の声に焦ることもなく、サスケは視線を向ける。
 その少女は、よく見知っている。


 「知り合いだ……」

 「仲間なのか?」

 「いや……。
  あれも殺す対象だ……」


 足を止めた小隊・鷹とヤオ子が相対する。

 サスケとは、久々の再会……。
 だけど、ヤオ子に向けられる視線は何処までも冷たい。
 何よりも痛いぐらいに感じているのは殺気だ。
 それでも、会話をしなければ始まらない。
 そのための作戦も考えたのだから……。
 ヤオ子は口元を強く結んだ。


 …


 1時間前……。
 ヤオ子は、タスケに作戦を伝えていた。


 「作戦は出来たのか?」

 「はい。
  タスケさん頼りです」

 「お前なぁ……」


 項垂れるタスケに対し、ヤオ子は、いつもの緩い笑顔を浮かべている。


 「タスケさんとは別行動……。
  あたし一人で話し合います」

 「お前──」


 ヤオ子が手で制する。


 「分かってます。
  話し合いで終わらすつもりです。
  ・
  ・
  だから、タスケさんには見ていて貰いたいんです」

 「見る?」

 「お話をするつもりですが、決裂する可能性も五割以上です。
  その際には、戦闘になるかもしれません。
  ・
  ・
  でも、戦闘中でも大事な会話は出来ます。
  また、そこで戦闘を回避するために会話を止めて、大事なことが何も言えないのも意味がありません」

 「その通りだ」

 「だから、あたしが殺されそうなぐらい拙くなったら……逆口寄せで強制的に離脱させてください」


 タスケは『あ』と声を漏らし、声を大にする。


 「そうか……。
  その手があった!」


 意図に気付いたタスケに、ヤオ子は微笑む。


 「戦闘になった時のプランも考えています。
  会話が出来ないなら、出来る状況を作ります。
  小隊を分断します。
  そして、サスケさんと会話をするんです」

 「方法は?」

 「奇襲です……。
  人数が違う状況で、こちらに有利なのはこちらの情報がないことだけです。
  情報を知らない状況が作れるのは一回だけです」


 タスケが腕を組む。


 「確かにな。
  小隊を相手にするなら……」

 「多勢に無勢。
  成り行き次第で戦闘も覚悟しなければなりません。
  ・
  ・
  タスケさん。
  その時は、あたしの戦いをしっかり見ていてください。
  そして、もうダメだと思ったら、あたしを引き剥がしてください」

 「ああ」

 「それじゃあ、接触までに忍具を確認して、疲れを抜いて準備します」


 ヤオ子は重りを外してデイバッグを下ろすと、ホルスターと腰の道具入れを綿密に確認し出した。
 タスケは冗談の一つもない会話にヤオ子の決意を感じた。
 だが、このヤオ子らしくない行動が正しいのか、少し疑問も残した。


 …


 再び、海上へ……。
 ヤオ子は自分に向けられる色んなプレッシャーを感じながら、サスケに声を掛けた。


 「お久しぶりです。
  サスケさん」

 「何しに来た……」


 サスケから、発せられる声は変わらず冷たい。
 しかし、ヤオ子は会話を続ける。


 「里から抹殺命令が出ています」

 「……お前が、オレを始末する役目か?」


 ヤオ子は首を振る。


 「じゃあ、わざわざ……それを言いにここまで来たのか?」

 「はい」


 そのあまりにも馬鹿正直で真っ直ぐな答えに、サスケの唇の端が吊り上がる。


 「クク……」

 「サスケさん?」

 「何処までも馬鹿な奴だ……。
  木ノ葉に居た時の言葉を信じて、ノコノコやって来たのか?
  ・
  ・
  馬鹿も、ここまで来ると笑い話だな」


 ヤオ子は目を閉じ、サスケの言葉を頭で噛み砕く。
 確かに自分のしていることは、笑われても仕方がないくらいに甘い行動だった。
 それを承知で、ヤオ子は答える。


 「ええ……。
  あたしは、一度もサスケさんの言葉を疑っていなかった。
  そして、約束を破って、ここまで来ました」

 「約束……?
  何のことだか覚えてねーよ……。
  ・
  ・
  そして、お前はここで殺されるんだ……」


 聞きたくなかった、その言葉。
 サスケが決定的に変わってしまったことをまざまざと証明する。
 ヤオ子は否定したくて、質問を返す。


 「殺される……理由は、何ですか?」

 「お前が木ノ葉の忍だからだ……」

 「…………」


 ヤオ子は感じる。
 話し掛ける取っ掛かりもない……。
 話すことが出来ない……。


 (せめて話す糸口だけでも──)


 そう、ヤオ子が思った瞬間にスイッチが入る。


 「死ね……」


 香燐の隣に居たサスケがヤオ子の隣で囁いていた。
 ヤオ子の耳に、サスケの小声がはっきりと聞こえる距離まで詰められていた。

 別の音も聞こえる。
 この弾ける音は知っている。
 ヤオ子は右足を音のする方に向けた。


 「右足を捨てるか……」


 サスケの雷遁が迸る千鳥刀とヤオ子の回し蹴りが激突した。


 …


 千鳥刀と回し蹴り……。
 本来なら、ヤオ子の足は切断される。
 しかし、刃はヤオ子に届かなかった。

 右足で厚く練ったチャクラには風の性質も練りこまれていた。
 相性で言えば、風は雷の弱点となる性質だ。
 更に、このチャクラには吸着の形態変化が付加されている。

 手と足……。
 男女の力差を埋めるには、十分な筋力の違いが足にはある。
 ヤオ子がチャクラ吸着を使用したままサスケの草薙の剣を足の振り抜き、サスケの草薙の剣を奪い取った。

 そのまま距離を取ったヤオ子をサスケは睨む。
 サスケを警戒しながら、ヤオ子は右足の裏に張り付いた草薙の剣を左手に取った。


 「何をした……!」


 サスケが、更にヤオ子を睨む。
 しかし、ヤオ子は答えない。
 答えれば戦力の情報が漏れる。

 ヤオ子は頬を左手で拭う。
 一瞬の間に起きた攻防に、ヤオ子の頬を冷たい汗が流れていた。


 (サスケさんの殺気にスイッチを入れさせられた……。
  お母さんに叩き込まれていなければ死んでいた……。
  もう、お話も出来ない……)


 ヤオ子は奥歯を噛み締め、目つきを変える。


 (戦闘は避けられない……。
  だけど、話さないといけない……。
  ・
  ・
  全力で他のメンバーを引き剥がして、状況を作るしかない!)


 ヤオ子はサスケに背を向けると、今まで培った技術を活かして草薙の剣を投げ捨てる。
 その行動に、サスケが苛立ちを顔に浮かべる。


 「っ!
  ヤオ子……!」


 草薙の剣は遥か遠くで水面に落ちた。
 向かい合うヤオ子とサスケの近くに鷹のメンバーが集まって来ると、水月が大刀を片手にサスケに声を掛ける。


 「サスケ。
  コイツ、何なのさ?」

 「…………」

 「無視しないでよ……」

 「水月……。
  草薙の剣を取って来い……」

 「何で、ボクが取りに行くのさ?」

 「水の中なら、お前がこの隊で一番早い……」

 「まったく……。
  人使いが荒いね。
  ・
  ・
  でも、コイツを殺っちゃえば、ゆっくり取りに行ける!」


 サスケと入れ替わり、水月が前に出る。
 大刀:首切り包丁を振り上げ、ヤオ子との間合いが詰まると水月は振り抜いた。
 その一振りを、ヤオ子は紙一重で躱す。


 「どうでもいいけど……。
  そんな大刀振るにしては油断し過ぎです」


 大刀を握る水月の完全に内側に入り、ヤオ子の左の裏拳を叩き込む。
 瞬間、水月の体が水化して爆ぜる。


 「残念」

 「だから、油断し過ぎなんですよ……」


 爆ぜた後も添えられているヤオ子の左手が放電している。
 水月を掴み、内で電撃を流され、水月の体が水化できなくなる。


 「コイツ……!
  ボクの嫌いな雷遁を!」


 ヤオ子は、水月を無視してサスケを見る。


 「のんびりしていると、回収できなくなりますよ」


 サスケが舌打ちする。


 「水月!
  さっさと行け!」

 「ぐ……。
  体が…まだ……」


 放電する左の手を水月に添えたまま、ヤオ子は大よその時間を計算する。


 (回収するのに、五分は掛かりますかね……)


 ヤオ子が右手で水月を軽く押し出し、左足で思い切り蹴飛ばすと、水月はヤオ子を怒りに満ちた顔で睨見み返した。
 しかし、サスケの視線を感じると、水月は舌打ちをして草薙の剣を回収に向かった。


 (あと二人……)


 今度は、ヤオ子が仕掛ける。
 しっかりとサスケ、香燐、重吾の位置を目に焼き付け記憶すると、鷹のメンバーを見据えて印を結ぶ。
 サスケが、その印を見て反応する。


 「気を付けろ!
  接近戦の術だ!」


 サスケが叫んで鷹のメンバーが警戒した瞬間、ヤオ子は、ヤオ子フィンガーを海面に向けた。
 激しい水飛沫が上がり、周辺の視界が完全に奪われる。
 ヤオ子は、更に印を結ぶ。
 記憶に焼き付いている香燐の顎の位置に右手を向け、必殺技の水遁バージョンが発動する。
 強力な水圧が寸分違わずに香燐の顎を打ち抜き、水飛沫が重力に引かれ水面に叩く音が香燐の悲鳴を掻き消した。
 脳を揺らされ、水面歩行が出来なくなった香燐が海面下に没する。

 水飛沫が治まり、静けさを取り戻した海上で重吾が叫ぶ。

 「サスケ!
  香燐が居ない!」


 重吾の声に、サスケは視線を僅かに移すと直ぐにヤオ子に戻す。
 ヤオ子は、下を指差す。


 「今度は、物じゃありません。
  ゆっくりしていると命に関わりますよ」

 「オレが行く!」


 重吾が海へと潜る。
 メンバーの切り離しに成功し、ヤオ子の望んだ状況が出来上がった。


 …


 サスケとヤオ子が、1対1の状況……。
 だけど、時間は限られている。
 やっと掴んだチャンスに、早速、ヤオ子は会話を開始する。


 「サスケさん……。
  お話をさせてくれませんか?」

 「……今更、何を話すんだ?」

 「あたしは、サスケさんのことを知りたいんです。
  何も知らないから……。
  それを知った上で、サスケさんが変わった理由を知りたいんです」

 「……知って、どうする?
  お前が、どうにか出来るのか?」

 「分かりません……。
  でも、知った上で話さなくちゃいけないと思うんです。
  だから──」

 「もういい……」


 サスケの目が赤く変わり出す。


 (写輪眼!?)


 ヤオ子は印を結び、反射的に前衛に影分身を出す。
 一方のサスケは、既に戦闘態勢に入り、左手には千鳥が迸っていた。

 サスケが高速移動してヤオ子に迫る。

 しかし、ヤオ子は背を向けると同じ速度で逃げ出した。
 同じ速度で追っても千鳥は決まらない。


 「何なんだ……」


 ヤオ子を追っていたサスケが停止する。
 千鳥を決めるはずが、差が一向に縮まらなかった。


 (追いつけない……?
  コイツ……!
  忍としての早さを完全に身に付けやがった!)


 ヤオ子は、サスケの予想を超えて大きく成長していた。
 サスケはヤオ子が自分に近い忍の域に居ると思わされた。

 ──しかし、これは半分ハッタリで形成されている。

 確かに体の使い方を理解して、忍としての身体能力は手に入れた。
 だが、ヤオ子は強力な術が増えていない。
 徹底的に伸ばしたのは、基礎のみ。
 基礎を前面に押し出して、巧みに術を見せないようにしている。
 術同士がぶつかったら押し負け、化けの皮は簡単に剥がされる。。
 だから、疑心暗鬼にさせた。

 サスケの千鳥刀相殺──。
   チャクラ吸着に風の性質変化を混ぜ合わせて雷遁を相殺し、厚めに練ったチャクラで、刃は側面から受け止めた。
 水月への雷遁──。
   実は、実戦で使える術はない。
   雷遁の鎧は実戦レベルでは、まだ使えない。
   さっきは、性質変化を水月に流し込んだだけ。
 香燐への水遁──。
   必殺技のバージョン違い。
   強力な水圧で遠距離からでも殴ったぐらいの威力のみ。
   致命傷を与えられない補助的な使い方しか出来ない。

 タネを明かせば、これだけ……。
 しかし、サスケにはこういう疑問が浮かぶ。
 ──何かの術で千鳥刀を止められた。
 ──新たに雷遁の性質変化を覚えて、術すら使わずに水月を手玉に取った。
 ──視界が奪われている間に香燐がやられた。

 ヤオ子は、警戒するに値する忍になっている。


 …


 今度は、ヤオ子から仕掛ける。
 このハッタリは、直ぐに相手にばれる薄皮のようなもの。
 防戦一方では誤魔化しきれない。
 影分身を先頭に一列縦隊でサスケに迫る。

 対するサスケは写輪眼でヤオ子の影分身を捉える。
 その影分身から繰り出される体術に驚かされる。
 写輪眼で見極めても回避できないタイミングと速度で繰り出されている。


 (コイツ……!
  ・
  ・
  なら、写輪眼で……!)


 ヤオ子に幻術を掛けようと視線を向ける。
 しかし、そこには影分身が居る。
 移動を重ね、角度を変えても、本体のヤオ子の前に影分身が居続ける。


 (間違いない……。
  この戦い方は、写輪眼を想定している!)


 サスケは、それでも無視して影分身に幻術を掛ける。
 すると、幻術で止まった影分身は、自ら術を解いて煙に変わった。


 「影分身の術!」


 ヤオ子は直ぐ様影分身を出した。
 サスケは、舌打ちする。
 この戦い方は理に適っている。


 (やっかいな術だ……。
  他人じゃないから連携に失敗がない……。
  幻術を掛けても分身じゃ意味がない……。
  しっかり、盾の役目をしてやがる……)


 しかし、ヤオ子の狙いはそれだけじゃない。
 影分身は、経験値が還元される。
 煙になってもサスケを見失わない。
 つまり……。


 (幻術を掛けられても効果のない目になる!)


 サスケが印を結ぶ。


 「小賢しいんだよ!」

 (火遁・豪火球の術!)


 豪火球の術の火球が、ヤオ子と影分身に向かう。
 ヤオ子と影分身が顔を見合わせ、頷く。
 影分身と本体の二重掛け。


 ((火遁・豪火球の術!))


 二人対一人。
 一人対一人だったら負けるかもしれない。
 だけど、二人なら負けない。
 ヤオ子達の豪火球がサスケの豪火球を上回る。

 しかし、術同士がぶつかる瞬間、一瞬の空白が出来る。
 術同士がぶつかり合えば、視界を奪われる。
 影分身とヤオ子は、サスケを見失った。


 …


 ヤオ子が心の中で舌を打つ。
 冷静に運んでいたつもりが、大きな失態。
 今のは躱さなければいけなかった。

 足を止めて警戒に移行して、まず影分身がやられた。
 ヤオ子の知らない形態変化で貫かれた。


 「刀を持っていたから油断しました。
  こんな形態変化を持っていたなんて」


 ヤオ子は印を結び、空かさず影分身を出した。


 (配分を間違えた……。
  さっきの影分身……。
  チャクラをかなり残して消えた……)


 どうする?


 (いけない……。
  目的を忘れている……。
  あたしは話しに来たんだ!)


 ヤオ子が、更に印を結ぶ。
 サスケの知らない印──いや、波の国で見ている。


 「水遁・霧隠れの術!」


 サスケとヤオ子の周りを霧が覆い出すと、サスケが足を止める。


 「水遁か……。
  雷遁も使ってたな……。
  本々の火遁を合わせて三系統か……」


 霧の中で水上を走る足音だけが響く。
 その音は一人分増え、ヤオ子が影分身を増やしていた。


 (これでサスケさんも判断が付かない!
  後ろを──)


 取ろうとした瞬間に止まる。
 分からないけど止まる。
 嫌な感じがする。
 汗が冷や汗に変わる。


 「どうした?
  来ないのか?」

 「……い、行けない」

 「その判断……正解だったな」


 霧の中で何かが揺れている。
 とてつもなく大きい。


 「ヤオ子……」


 サスケの言葉に返事が出来ない。
 得体が知れない……。


 「最後だ……。
  言い残すことはあるか?」

 (最後……?
  ・
  ・
  うん……。
  最後だ……。
  これには適わない……。
  ・
  ・
  タスケさん……。
  あたしを──)


 ヤオ子は思い止まる。
 タスケは冷静にヤオ子を見ているはずだ。
 最初のサスケの不意打ちにも、手を出さなかった。
 今、ここに居るということは、まだタスケが自分を信じてくれているということだ。


 「逃げるの?
  まだ話してないのに?
  ・
  ・
  話したかったけど、話せなかったんだから……。
  仕方ない?
  諦めるの?
  ・
  ・
  ダメです!
  これが最初で最後なんです!)


 ヤオ子は目に意思を灯す。
 ここで逃げるには早過ぎる。
 弱気を見せて戦う意思をなくせば、タスケは責任を全うするために自分を呼び戻すに違いない。


 「それに……チャンスなんです!
  ・
  ・
  サスケさんが、自ら聞いた!
  戯れかもしれない……。
  油断かもしれない……。
  でも、自分から聞いた!
  ・
  ・
  だったら、答えを返さないわけにはいかない!
  今、ここでダメでも延長戦に持ち込む!
  ・
  ・
  手駒は、お兄さんと会話をしたことだけ……。
  でも、これを使って話をする!
  今は、ハッタリでもなんでもいい!
  先に繋げるんです!)


 絶望していた目に力を込め、しっかりと口を開く。


 「二つ……聞きます。
  何で、復讐が終わっていないんですか?」

 「簡単だ……。
  木ノ葉の全てを消せば終わる……」

 「理由は……何なんですか?」

 「語る気はない……」

 「……そうですか。
  じゃあ、最後です。
  ・
  ・
  お兄さんの計画は、何処まで進んでいますか?」


 完全なハッタリ。
 サスケの変わった原因と思われるものにサスケが喰いつくのに懸ける。
 暫しの沈黙は、何十分にも感じる。
 そして、サスケが口を開いた。


 「何を……知っている?」

 「…………」

 「答えろ!
  イタチの何を知っている!」


 ヤオ子は確信する。
 サスケが変わった原因……。


 (お兄さんに間違いない!)


 更に駆け引きを続ける。
 少しでもバランスを崩せば転落する綱渡り。
 真実に近く嘘に遠い言葉を選ぶ。


 「マダラさんと違う話……」


 サスケの声が冷たく命令する。


 「話せ……」

 「…………」

 「話せって言っているんだ!」

 「…………」


 霧の晴れ始めた海上で、ヤオ子は指を差す。


 「二時間後……。
  あの島で邪魔が入らないようにして話したいです。
  一人で来てください」


 ヤオ子は、瞬身の術を使って姿を消した。
 内心、サスケが追って来た時のことを考えると、震えが止まらない。

 しかし、サスケは追って来なかった。
 サスケとの会話は、二時間後の接触に懸けることになった。



[13840] 第94話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:14
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 小隊・鷹との戦闘後……。
 ヤオ子がタスケの待つ小島に戻って来る。
 全身、海水でずぶ濡れで俯いている。
 タスケは、そっとヤオ子の足元に近づき、声を掛ける。


 「どうだった?」


 ヤオ子は強く噛み締めると泣き始めた。



  第94話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁②



 ヤオ子が搾り出すように声を漏らす。


 「変わり…果ててた……」


 目からは止め処なく、涙が流れ続ける。


 「少しは覚悟をしてたけど……。
  実際に冷たい声で話されると……心が痛い。
  木ノ葉に居たみたいに憎まれ口で話してくれるかもしれない……そう思っていました」


 タスケがヤオ子の肩まで駆け上がる。


 「そんなに変わっていたのか?」


 ヤオ子が黙って頷くと、タスケは何を言っていいか考える。
 そして、サスケと対峙する前の違和感をヤオ子に投げ掛ける。


 「ヤオ子……。
  お前は、あの会い方で良かったのか?」

 「……え?」

 「お前らしくなかったぞ。
  落ち着き払って、冷静過ぎて」

 「…………」


 ヤオ子は視線を落とす。


 「サスケさんは……あたしを殺す気でした。
  四人の中で、一番殺気が強かったんです。
  ・
  ・
  だから、あたしもスイッチが入りました」

 「それで、戦闘になったのか?」


 ヤオ子は黙って頷く。


 「本当は、しっかりお話ししたかった……。
  だから、武器を取り上げて、女の人を気絶させて時間を無理に作ったんです……。
  ・
  ・
  でも、時間が足りなかった……。
  それに……。
  あの影にあたしの気持ちも立て直せなかったし、まともに話せなかった……。
  だから、次に繋げる嘘をつくだけで精一杯でした……」


 無言で俯いて、ヤオ子は泣き続ける。
 暫く時間を空けて、タスケがヤオ子の頬に肉球を当てる。


 「第二ラウンドがあるんだろ?
  約束を取り付けたんだろ?」


 ヤオ子は黙って頷く。


 「時間は?」

 「……二時間後、ここで」

 「なら、上出来だ」


 ヤオ子がタスケに顔を向ける。


 「まず、服を替える。
  次に気持ちを立て直す。
  そして、作戦会議だ」

 「作戦……?」

 「このままサスケを放っとく気はないんだろ?」

 「……はい」

 「さっきの会話では、お前らしさが出せなかったんだろ?」

 「……はい」

 「このまま終われないよな?」

 「……うん」


 ヤオ子は涙を拭う。


 「言いたいことも、言ってやりたいことも言えてない……」

 「そうだ。
  何より、お前らしさを見せてない。
  これからだ。
  がんばれ」


 ヤオ子は微笑む。


 「タスケさん……ありがとう。
  次は、こんな無様な姿は見せません」

 「ああ」


 ヤオ子は、小島の奥に進む。
 そして、自分の持ち物から新しい服を取り出し着替えると、火を熾して体を温める。


 「今度は、あたしらしく……。
  殺気を感じても、あたしらしく……」


 ヤオ子は目を閉じながら、念入りに頭の中で自分の考えと自分の気持ちを思い返すことに集中する。
 そして、タスケは、そっとヤオ子に体を寄り添って、何も言わずに見守っている。
 ヤオ子の問題に口を出すのはヤボだと思う気持ちと、応援してやりたいと思う気持ちの取った行動だった。


 …


 二時間が経過する……。
 サスケは、約束通りに一人で小島を訪れた。
 そして、砂浜で待つヤオ子に冷たい声で話し掛ける。


 「約束通りに来てやった……。
  さっさと話せ」


 ヤオ子は、島の奥の森を指差す。


 「あっちで」


 ヤオ子が森へと歩き出すと、サスケも無言で着いて行く。
 足元が砂から土に変わり出すと、木々が重なり日を遮り出す。

 森の奥に大分来た。
 そこでヤオ子は、ゆっくりと振り返る。


 「サスケさん。
  お久しぶりです」


 そこには、いつもの緩んだ笑顔があった。
 サスケは、その笑顔に何かを感じると顔が険しくなる。

 そして、ヤオ子は自分らしさを押し出すために考え抜いた言葉を発する。
 自分らしさを前面に押し出した言葉……。


 「何も変わってなくて安心しました」


 それは、明らかな嘘だった。

 何故、嘘=自分らしさなのか?
 ヤオ子は、必死に考えた。
 そして、サスケとの思い出を必死に思い出した。
 その結果……自分は『デフォルトで嘘をついていた』に到達した。
 だったら、嘘から入るのも自分らしいと割り切った。

 一方のサスケは虚を突かれて、固まっていた。
 そして、我に返ると反論をヤオ子に返す。


 「嘘をつくな!」

 「嘘じゃないですよ。
  だって、サスケさんって、いつもこれぐらいに短気でしたよ」


 サスケは、またも予想外の言葉に固まる。
 しかし、予想外というわけでもない。
 ヤオ子がヤオ子らしさを貫けばこうなるし、前はサスケも順応できていた。

 サスケは首を振る。
 こんな話は、ここ何年かしていない。


 「真面目に話せ!
  オレは、イタチの計画を聞きに来たんだ!
  余計なことはいらない!
  さっさと話せ!」

 「ヤダ」

 「…………」


 サスケが三度固まる。
 深く俯き、額に手を置く。


 (何かがおかしい……)


 当然だ。
 サスケは、ここ何年か極めてまともな会話が出来る人間としか話をしていないのだから。

 ヤオ子も会話をしながら、自分らしいと納得する。
 だから、次の言葉も簡単に出て来た。


 「サスケさん。
  自分の立場が分かっていますか?
  あたしは、サスケさんの知りたい情報を持っているんですよ?」

 「何が言いたい……」

 「人にものを頼む態度ってものがあるでしょ?」

 「つまり……」

 「頭を下げろです」


 サスケの額に青筋が浮かぶ。
 こんな無礼な会話も久しぶりだ。
 サスケは、拳を握る。


 「ヤオ子……。
  暫く見ないうちに、随分と態度がでかくなったな……」

 「当たり前です。
  木ノ葉に居た時は、サスケさんに手も足も出なかったんです。
  サスケさんの弱みを握っている今だけしか、あたしに有利な条件はありません」

 (段々、思い出して来た……。
  コイツは、まともな会話が成立しない奴だった……。
  ・
  ・
  コイツを制御するには……)


 サスケが自分の拳を見る。
 そう、ヤオ子を制御するには宝具のグーを炸裂させるしかないのだ。
 しかし、葛藤が生まれる。


 (ここで突っ込みを入れるのは負けだ……)


 サスケは大蛇丸のところで克服した突っ込み癖を思い出す。
 そして、歯を噛み締めたあと、息を大きく吐き出し冷静になる。


 (どうせ、今だけだ……。
  嘘でも何でもいい……。
  オレは、コイツからイタチの情報を聞き出せればいいんだ……)


 サスケが少しだけ頭を下げる。


 「頼む……」


 ヤオ子はニヤリと笑う。


 「ヤダ」

 「な…に……」


 サスケが顔を上げると、ヤオ子は地面を指差している。


 「土下座です」


 サスケの中で何かがキレた。
 そして、伝家の宝刀が抜かれる。
 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「ふざけるな!
  このウスラトンカチ!」


 サスケの中に何かが蘇り、ヤオ子の頭に懐かしい衝撃が伝わった瞬間だった。


 …


 サスケは自分の手を見ている。
 完全に捨て去った感覚が残っている。


 「どうして……」


 呆然とするサスケを見て、ヤオ子は嬉しかった。
 心の中では泣いて喜びたい自分が居るのが分かる。
 でも、我慢する。
 ようやく切っ掛けを掴み掛けた。
 気持ちを強く持つ。


 「懐かしい感覚ですね」

 「思い出したくなかった……」

 「やっぱり、変わってなかったでしょ?」

 「…………」


 少し間を空けると、サスケに再び冷静さが戻る。
 自分がここに何をしに来たのかを思い出す。


 「ヤオ子。
  何度も言わない……。
  イタチの計画を話せ!」

 「無理!」


 ヤオ子が胸の前で×を作ると、サスケは腰の草薙の剣に手を掛けた。


 「だって、あたしの知っているイタチさんの計画は、半分未完成なんだもん。
  完成させるにはサスケさんから情報を貰わないと、完成しないんだもん」

 「……は?」


 また、呆気に取られる。
 もう、完全にヤオ子のペースだった。


 「どういうことだ?」


 ヤオ子は顎の下に指を立てる。


 「そうですね~。
  あまりもったいぶっても仕方ないし……。
  ・
  ・
  少しだけ情報をあげます。
  あたしの持っている情報は、
  『イタチさんの未来計画』と『イタチさん本人と会って話した会話』です」

 「そのまま、全部話せ」

 「だから、無理。
  サスケさんの補足がないと話せない」


 サスケが溜息を吐く。
 何か全てが面倒臭い。
 こういう時は、どうしていたかが無理やり思い出される。


 (オレが折れるしかなかったな……)


 サスケが仕方なしに話し掛ける。


 「分かった。
  何でも話してやる。
  何が聞きたいんだ?」

 「まず、うちは一族のこと。
  次にサスケさんの覚えている限りのイタチさんの思い出。
  うちは一族のことと合わせて話してくれてもOKです。
  その次に、うちは一族が滅ぶ原因になった事件。
  その次に……マダラさんから聞いた話」

 「マダラ……。
  お前、気付いているのか?」

 「気付いていませんよ。
  マダラさんの名前は、木ノ葉に居た時に出て来ただけです。
  ただ、単純なサスケさんをここまで歪めるんだから、
  黒幕が居るって考えるのが当たり前でしょ?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何で、オレが単純なんだ!」

 「じゃあ、純粋」

 「『じゃあ』って、何だ!?」


 ヤオ子がサスケを指差す。


 「うっさいですね!
  いいでしょ!
  そんなの!」

 「人を単純扱いして『そんなの』かよ……」

 「早く話してよ!
  こっちだって、色々と情報収集して、
  納得いかないところがあって、イライラしてんだから!
  早くスッキリキッチリしたいの!」


 サスケが額に手を置く。
 何で、こんなことになったかと……。
 そして、弥が上にも昔の自分を思い出されるヤオ子にイライラも募る。
 だから、さっさと終わらせようと結論付ける。


 (いっそ殺すか……)


 しかし、ヤオ子の情報に価値があるとは思えないが、万が一もある。
 聞かずに殺すわけにもいかない。
 それに……。


 (丁度いいかもしれない……。
  憎しみを振り返るには……。
  ・
  ・
  オレ以外の誰かの狂う反応も見てみたかった……。
  そして、オレの復讐の理由の正当性が証明される……)


 サスケは、今までを振り返ることで、自分の復讐を認めようとしていた。
 そして、その聞き役と意見を述べる役にヤオ子が選ばれたのだった。


 …


 サスケが倒木に腰を下ろすと、ヤオ子は、その隣にピッタリと腰を下ろした。


 「近い……」

 「仕方ないでしょ。
  真ん前に居ると写輪眼で幻術掛けられるかもしれないんだから」

 (その手があったか……)


 サスケは舌打ちする。


 「危ないですね……。
  この人、油断も隙もないですよ……」


 そして、仕方なくサスケの口から過去が語られ始めた。


 …


 サスケの声は落ち着いていた。
 再会した時のような冷たさがない。
 ヤオ子も少し安心した気持ちで、耳を傾ける。


 「オレには家族が居た……。
  父さん……。
  母さん……。
  兄さん……。
  うちは一族の敷地内で幸せに暮らしていた……」

 (サスケさんの家族……。
  うちと同じ、四人家族だったんだ……)

 「父さんは厳しい人で、オレは父さんに認められたかった」


 サスケは『さすが、オレの息子だ』この一言を言って欲しくて努力したことを思い出す。


 「母さんは優しい人で、いつもオレを見守ってくれていた」


 サスケは、兄ばかり褒めていた父親に拗ねていた自分を励ましてくれた優しい声を思い出す。


 「そして、兄さん……。
  オレの憧れで強くて優しかった……。
  兄さんのことはよく覚えている……。
  ・
  ・
  いや、最近になって思い出していると言った方がいいかもしれない……。
  馬鹿なオレが無理して、怪我して背負ってくれたこと……。
  その兄さんの背中の温かさ……。
  そして、忙しい兄さんに我が侭を言っては、
  『許せサスケ』ってデコを突かれていたこと……」


 思い出の中の兄は優しい。
 その兄の背中が大きく感じていた頃の記憶が蘇る。
 いつも、サスケの我が侭に苦笑いを浮かべていた。
 それは面倒臭いからの笑顔ではない。
 かまってあげられない申し訳なさだったように感じる。
 そして、尊敬できる立派な優秀な忍だった。


 「兄さんは、忍としても天才的だった……。
  子供のオレが見ても、大人の忍者より優秀だったし……。
  手裏剣術は、父さんよりも上手かったな……。
  ・
  ・
  兄さんの経歴も、七歳でアカデミーを首席で卒業して、
  八歳で写輪眼を開眼させたことが天才だったことを証明している」


 ヤオ子の眉が歪む。


 (おかしい……。
  七歳で……アカデミー卒業?
  八歳で……写輪眼を開眼?)


 サスケの話が続く。


 「十歳で中忍となり、
  暗部入りして十三歳の時には暗部の部隊長を務めていた」


 ヤオ子が、手で待ったを掛ける。


 「……その経歴って、本当ですか?」

 「ああ……」


 ヤオ子は額に手を置く。


 (あたしも大概にしてデタラメな人間(性格的に)だと思っていたけど……。
  サスケさんのお兄さんは、上を行きます。
  デタラメです。
  道理で、サスケさんが他の人よりあたしに耐性があったわけです)


 サスケは、ヤオ子を無視して話を続ける。


 「オレは……兄さんのようになりたかった。
  忍としての強さだけじゃない。
  正しいと思ったことをしっかり言える心も強かったから」


 サスケは自分のアカデミー入学の際に父親がイタチを優先しようとした時、きっぱりと自分のことを切ったことを思い出す。
 父親が来るはずの入学式に自分が出ると言った言葉。
 そして、その言葉で父親を正した強さ。

 そのことを知っていながら、起きてしまった事象に疑いも持てないでいた自分に罪を感じる。
 思い返せば納得できないことがある……。
 何で、真実を知ろうと走らなかった……。

 サスケは少し言葉を止める。
 自分以外に話すことで、より考えることになったからだ。
 相手に伝える時、言葉を選ぶ……。
 そのために伝えたいことを考える……。
 一人で、延々と考えていた時とは違う……。
 それは伝える相手が自分よりも明らかに格下のヤオ子であっても、必ず発生する作業だった。
 そう……サスケは、言葉にして話すことで考えている。


 「……でも、兄さんは果てしない壁であり続けて、どんなに努力をしても差が縮まらなかった。
  ・
  ・
  正直、嫉妬もした……。
  だけど、兄さんが自慢だった。
  兄さんの弟でいられるのが誇らしかった。
  そして──」


 サスケは、何かを思い出す。
 また話が止まる。
 今度の沈黙は長い。
 ヤオ子が首を傾げる。


 「オレは……。
  大人になったら、兄さんと木ノ葉の刑務部隊に入りたかったんだ……」

 「刑務部隊?」


 ヤオ子は、更に首を傾げる。
 うちはの家紋の入る刑務部隊の本部は、今は、もうないからだ。


 「サスケさん。
  刑務部隊って、何ですか?」


 サスケの口からは、足を怪我して兄に背負われて聞かされた言葉が漏れる。


 「うちは一族の先代達が組織した部隊だ……。
  木ノ葉の治安をずっと与り、守って来た……。
  うちはの家紋は、その誇り高き一族の証だった……」


 サスケが俯く。
 忘れていた将来……。
 兄と一緒にと夢見た未来……。
 ヤオ子には、何故、サスケが苦しそうに胸の襟を握り締めているのか分からない。


 「あの……サスケさん?」


 サスケは、続きを搾り出すように続ける。


 「今、思えば、その頃からだったのかもしれない……。
  兄さんの苦しみが始まったのは……」


 サスケが、ヤオ子に目を少し移す。


 (懐かしがってる場合じゃない……。
  コイツに話を聞かせて、オレの復讐の正しさを推し量るんだ……)


 サスケの口調が変わる。
 温かさが少しなくなる。


 「ここからは、うちはマダラから聞いた話も入る……」


 ヤオ子は黙って頷く。
 そして、ここからは辛い話と予感する。
 少しだけ気持ちを引き締め、ヤオ子は続きを促す。


 「続けてください。
  ただ、そのマダラさんって人から聞いたところは主張してください」

 「ああ……」


 サスケが話の続きを再開する。


 「その頃、オレはアカデミーに入り、兄さんは暗部入りした。
  マダラの話では、兄さんはこの時、里の二重スパイになっていた」

 「二重スパイ?」

 「ああ……。
  うちは一族は、クーデターを考えていたらしい」

 「……え?」

 「兄さんは、うちは一族からは木ノ葉の暗部のスパイとしてのパイプ役だった。
  しかし、その真実は木ノ葉の暗部のスパイだった」


 ヤオ子は混乱する。


 「な、何で?」

 「うちは一族は、里を乗っ取ろうとしていたらしい……」

 「ま、また分かんない!?
  どうして、里を乗っ取るの!?」


 サスケは目を瞑り、自分なりに話を纏めると語り出す。


 「話すと長くなるから、話は掻い摘む。
  オレもマダラから聞いた受け売りだから詳しくない……。
  ・
  ・
  遡ると木ノ葉の創立まで行く。
  初代火影の柱間とマダラが手を組んで出来たのが木ノ葉なのは知っているな?」

 「歴史の本で読んだ程度なら」

 「十分だ……。
  そして、歴史の本のように都合のいい話ばかりじゃない……。
  ・
  ・
  うちは一族は、柱間が火影になることで里の隅に追い遣られた。
  それが要因で里の利権を取り戻そうとしたのがクーデターの原因だ」

 「……大雑把ですけど、
  何となく分かりました」

 「ただ……」

 「?」

 「クーデターの話は、幼いオレには知らされていなかった」

 「そうなんですか?」

 「ああ……。
  ・
  ・
  だが、兆しはあった。
  兄さんと一族の人間が揉めているのを見ている。
  そして、兄さんはこうも言っていた。
  『オレの『器』は、この下らぬ一族に絶望している』……と」

 「下らない……」


 ヤオ子は少し思っていたイタチのイメージが違っているように思えた。
 でも、何となくだが分かるような部分もある。
 『下らぬ一族』……その言葉がクーデターを嫌悪していたように感じた。


 「そして、あの事件……一族皆殺しの夜に続く。
  兄さんは、里の上役であるダンゾウ、三代目火影、ホムラとコハルに任務を言い渡された。
  『うちは一族の皆殺しだ……』」


 ヤオ子は、何も言えない。
 呆然とする。
 真実は、幼いヤオ子に大き過ぎた。
 ホムラとコハル……この二人の名前が出たことで、心が傾きそうになる。
 今、ヤオ子が忍としてここにいるのは、この二人の誘いがあったからでもある。
 そして、この二人が関係して『うちは一族皆殺し』が行なわれたと思うと、自分も悪人に利用されて忍になったように感じる。

 でも、あの誘いのあった日……。
 この二人は、確かに木ノ葉のことを思っていた。

 ヤオ子の中で、人の黒い部分と白い部分が葛藤する。
 しかし、強く口を結ぶ。
 全てを受け入れて考えるのを意識する。
 綺麗ごとだけで、サスケの真実は見えない。
 ここで考えを止めてはいけない。
 自分の考えに情報を加えて、サスケに伝えるために相反するものを頭の中に叩き込んで考え続ける。


 「続きをお願いします……」


 サスケは、この話を聞いて辛い顔を覗かせながらも、続きを促すヤオ子に複雑な気持ちが芽生えた。


 (オレは、マダラと同じことをしている……。
  真実を聞けば壊れるぐらい辛いのは分かっている……。
  オレが、そうだったんだから……。
  ・
  ・
  それをヤオ子にしている……)


 複雑な気持ちの正体は罪悪感なのか?
 サスケは首を振る。


 (違う!
  あの話を聞けば!
  真実を知れば!
  誰だって復讐に走る!
  ・
  ・
  オレは復讐者だ!
  そして、コイツは、今のオレを推し量る器なんだ!)


 辛い気持ちを噛み殺しているヤオ子から、サスケは視線を外す。
 そして、話を続ける。


 「……マダラの話だ。
  兄さんは戦争を知っていた。
  だから、里の安定と平和を第一に考えて、うちはを裏切った。
  利己的なうちはの思想で内戦を起こせば、第四次忍界大戦の引き金になりかねないからだ。
  ・
  ・
  兄さんは苦しんでいたんだ……。
  一族を殺すかどうか……。
  そして、決断した……。
  自ら一族の幕を閉じることを……。
  ・
  ・
  ……それなのに木ノ葉の上役は、その兄さんをそのまま追い出した!
  一族を殺させて、兄さんを使い捨てた!」


 ヤオ子は、サスケの怒る理由が分かる。
 恨みが晴れない理由が分かる。
 そして、言葉の猛りから、悲しみが伝わってくる。

 しかし、心が痛い中でも考えを無理に止めないでいるから疑問が浮かぶ。
 聞けば、サスケは傷つくかもしれないようなこと……。
 でも、聞いて真実を受け入れて自分の考えを伝えると覚悟した。
 だから、ヤオ子は疑問を投げ掛ける。


 「……でも。
  ……どうして、サスケさんは助かったんですか?」


 サスケは唇を噛み締める。


 「兄さんは…オレだけは殺せなかった……」


 イタチの気持ちを考えると、ヤオ子は胸が痛くなった。
 他人の自分でさえ、胸が痛い。
 当の本人は、どれだけ辛かったのか……。


 「その後、兄さんはオレを残して里を出た……。
  里を出た後は、暁に入って里に危害が及ばないようにスパイになった……。
  そして、一族殺しの罪を背負ってオレに恨まれて生きた……」

 「イタチさん……。
  どうして、そんな辛い生き方を……」

 「ワザと仇になった……。
  うちはは、木ノ葉では滅ぼされなければいけない一族……。
  だから、殺せなかったオレを自分を越えるぐらい強くするために、オレの恨みを一心に向けさせた……。
  オレのために……。
  オレに自分の身を守れる力を与えるために……」

 「…………」


 ヤオ子は、ゆっくりと視線を落として俯いた。
 そして、事の顛末が頭を過ぎる。

 ──この後、サスケは兄のイタチを殺してしまう。

 サスケが真実を知って苦しんでいたのが分かる。
 サスケの最初の会話からおかしいと思っていた。
 サスケは、イタチを『兄さん』と呼んでいた。
 復讐する対象から、尊敬する兄に戻っていたのだ。

 サスケが続ける。


 「オレは、その兄さんを手に掛けてしまった……。
  何も知らないで……」

 「……何で、イタチさんは誤解を解かなかったんですか?
  お話ししなかったんですか?」

 「兄さんは話さなかった……。
  最後の戦いで、オレを追い込んで大蛇丸の呪印を引き剥がすために……。
  オレに最も親しい人間を殺させて万華鏡写輪眼の力を与えるために……。
  病でボロボロの体を薬で無理やり延命して、オレに殺されるために生きていた……。
  ・
  ・
  マダラは、こう言っていた……。
  『オレに殺されて一族の仇を討った、木ノ葉の英雄に仕立て上げるためだ』って……。
  ・
  ・
  それなのに最後は笑ってた……。
  『許せサスケ……。
   これが最後だ……』って……。
  ・
  ・
  これが真実だ……」

 「…………」


 ヤオ子は呆然とし、サスケは俯いている。

 殺されるために生きる……。
 殺されるために延命する……。
 愛する者のために死ぬ……。
 愛する者のために愛する者に何年も恨まれる……。
 辛い条件だけあげればキリがない。
 それでも、イタチは最後に笑っていた。


 「何で……」


 ヤオ子には分からない。
 分からないけど、そのまま投げ出してはいけない気がする。
 サスケの話に逃げ出しそうになった自分を叱咤するために、歯を喰いしばると自分の拳を額に打ちつけた。
 サスケが、その行動でヤオ子の方を見る。
 ヤオ子の顔は、今まで見たことがないぐらいに真剣だった。


 「……時間をください。
  今、サスケさんに話すことを纏めます」


 ヤオ子は目を閉じると、必死に考えを巡らす。
 自分の嘘かもしれないイタチの話を聞くために、サスケは辛い話をした。
 ここで考えを止めたら最低だと心で叫ぶ。

 ヤオ子は必死に考え続ける。
 自分の基になった考えにイタチの人間像を当て嵌めて考えを形成していく。
 そして、暫しの後にゆっくりと目を開けた。


 …


 サスケは、ヤオ子の答えを静かに待っていた。
 そして、考えの纏まったヤオ子は、サスケに視線を向けた。


 「サスケさん。
  あたしの知っている情報と考えを伝えます。
  でも、その前に一つだけいいですか?」

 「ああ……」

 「まだサスケさんが行動を止めないのは、どうしてですか?」

 「言わなくても分かるだろう……」

 「イタチさんを苦しめた上役に復讐するんですか?」


 サスケは首を振る。


 「全ての原因になった木ノ葉を潰す……」

 「……そうですか」


 ヤオ子は、そのまま話を続ける。


 「サスケさん。
  あたしの言っていた『イタチさんの計画』というのは、
  イタチさんという人を第三者の立場から見た推測です。
  そして、この推測は、イタチさんと会った時に話した記憶が後押ししたものです」

 「ああ……」

 「まず、マダラさんの言ったことは何処までが本当か分かりませんが、半分以上が真実として受け止めます。
  そして、その上で思ったことがあります。
  ・
  ・
  サスケさん。
  多分、洗脳されています」

 「いい加減なことを言うな!」


 サスケがヤオ子の胸ぐらを掴む。
 目に怒りを灯すサスケと裏腹に、ヤオ子の目は冷静だ。


 「じゃあ、サスケさん。
  少し当てましょうか?
  ・
  ・
  この真実の話を聞いた時は、イタチさんを殺した後でしょう」


 図星をつかれて、サスケの手が緩む。


 「何で、上役だけでなく木ノ葉全体が憎いんですか?
  仇を討つなら、上役で十分でしょう」

 「ダメだ!
  木ノ葉を潰して、一族の恨みを晴らすんだ!」


 ヤオ子がサスケの手を払う。
 ここは引けないと言葉に力を込める。


 「じゃあ!
  うちはマダラに協力するんですか!」

 「アイツも殺す!
  アイツも一族を殺した!」

 「何で、木ノ葉を潰して一族の恨みが晴れるんですか!」

 「木ノ葉が、うちはを隅に追い遣らなければクーデターは起きなかった!
  父も母もイタチも一族も死ななかった!」

 「違います!
  違いますよ!」

 「何が違うんだ!」

 「イタチさんは、そうしたかったんじゃない……」


 ヤオ子は、今にも泣き出しそうな顔でサスケを見ている。


 「イタチさんは……」

 「お前に何が分かるんだ!」

 「サスケさんだって……。
  サスケさんだって、イタチさんの何が分かるんですか……。
  サスケさんだって、イタチさんじゃないのに……」

 「…………」


 サスケはヤオ子から離れると座り直す。


 「お前の考えを言ってみろ……。
  納得できなければ、この場で殺す……」

 「……はい」


 ヤオ子も座り直す。
 そして、心を少し立て直して冷静になろうと勤めた後で、ゆっくりと話し始める。


 「……あたしは、まず、イタチさんのことを少しでも知らないといけないと思いました。
  何も知らずに語れないし、推測するにしてもいい加減なものになるから。
  ・
  ・
  だから、サスケさんの話を聞いてイタチさんという人が、どういう人かを考えました。
  そうするとイタチさんの中に大きなものが三つ見えて来るんです。
  『サスケさん』『うちは一族』そして──」

 「木ノ葉か……」


 ヤオ子は首を振る。


 「違います。
  『戦争』です。
  イタチさんに取って、木ノ葉というのは利用する材料の一つでしかないと思います」

 「…………」


 サスケは、口を噤む。
 最初からヤオ子の会話の予想が外れた。
 ヤオ子は根本から別の予想を立てたと判断した。


 「『サスケさん』『うちは一族』『戦争』……。
  この中で底辺になっているのが『戦争』なんです。
  ・
  ・
  サスケさん。
  イタチさんとあたし達で違うものって、何だと思いますか?」

 「『戦争』……かつての忍界大戦か」

 「はい。
  あたし達の世代は『戦争』を知らないんです。
  でも、イタチさんは『戦争』を知っている世代なんです。
  更に言えば、あたし達は木ノ葉で起きた九尾の災害すら知らないんです。
  ・
  ・
  だから、イタチさんは『戦争』に対して、トラウマに近い嫌悪感を持っていたと思うんです」

 (確か……。
  マダラも、そんなようなことを言っていたな……)


 サスケはヤオ子の話があながち的外れではないと、耳を傾ける。


 「これを踏まえて『うちは一族』についてです。
  サスケさんのお話で印象に残ったものがあります。
  『木ノ葉の治安をずっと与り守って来た刑務部隊……。
   うちはの家紋は、その誇り高き一族の証だった……』
  『オレの『器』は、この下らぬ一族に絶望している』
  ・
  ・
  サスケさん。
  イタチさんの言っている『器』って、何だと思いますか?」

 「力だ……。
  兄さんの力は、うちはの力を超えていた。
  オレにも、『己の力を量る器だ』と言っていた」

 「それ、イタチさんの嘘だと思います」

 「……何故だ?」

 「イタチさんの言っている『器』って力じゃないと思います。
  心の器量のことだと思うんです。
  『戦争』に嫌悪感を持っている人が、力を量りたがるって変でしょ?
  ・
  ・
  きっと……。
  木ノ葉の治安をずっと与り守って来た誇り高きうちは一族が、
  隅に追い遣られただけで、利権のためにクーデターを起こそうとした心の器量の狭さに絶望していたんです」


 サスケはヤオ子の説明の一部に納得する。
 しかし、分からないことがある。


 「じゃあ、兄さんは、
  何で、オレに『己の力を量る器だ』と言ったんだ?」

 「多分、イタチさんのうっかりです」

 「……は? うっかり?」

 「すいません。
  そうじゃなくて……。
  ・
  ・
  うちは一族の皆さんに漏らしてしまった言葉の方です。
  ・
  ・
  『オレの『器』は、この下らぬ一族に絶望している』
  ・
  ・
  この言葉は、イタチさんの本音が思わず漏れたものと思います。
  そして、この言葉はサスケさんに聞かれちゃいけなかったんです。
  だって、自分を憎ませないといけないから。
  心の器量の方だって気付かれたら、演技がバレてしまいます。
  ・
  ・
  でも、イタチさんは頭がいいでしょ?
  だから、サスケさんに『己の力を量る器だ』と言って、
  器を『心』じゃなくて『力』だって勘違いさせて憎しみを向けさせたんです。
  実際、サスケさんは、今も力の方だって思ってたし」

 「…………」


 サスケは、少しヤオ子に言い負かされた気分になる。
 ヤオ子の話は続く。


 「そして、最後に『サスケさん』。
  多分、サスケさんを殺せなかったのは最愛の弟だった以外に、『戦争』と『うちは一族』も関係しているんです。
  ・
  ・
  まず、『戦争』。
  イタチさんに取って、『戦争』を知らない世代がいるっていうのは特別なんです。
  何でかというと『戦争』を知らないでいて欲しいからです。
  『戦争』の凄惨さを知っている優しい人だから、『戦争』を起こさせないために頑張っていました。
  今、第四次忍界大戦が起きていないのは、イタチさんのお陰なんです。
  そして、私達『戦争』を知らない世代が『戦争』知らないままでいられたのが、
  イタチさんの選んだ茨の道の成果なんです。
  ・
  ・
  そして、『うちは一族』。
  クーデターを起こそうとしている一族の中で、
  サスケさんの言葉が嬉しかったはずです。
  ・
  ・
  『兄さんと木ノ葉の刑務部隊に入りたかったんだ……』
  ・
  ・
  サスケさんは、一族の皆が忘れていた誇りを持っていたんです。
  だから、うちはの誇りの火種をサスケさんに託したんです」

 「…………」


 ヤオ子の話は、うちはマダラと全然違う。
 イタチを中心にしか話さない。


 「そしてね……。
  あたしの確信になっているのが、イタチさんとの会話なんです。
  あたし、Dランクの任務でお団子屋さんに勤めていたんです。
  その時、イタチさんとお話ししたんです。
  その時、イタチさんは、あたしにこう質問しました。
  ・
  ・
  『今の木ノ葉をどう思うか?』
  『今の木ノ葉には、どういう気持ちが溢れていると思うか?』」

 「何て答えたんだ?」

 「一生懸命さ」

 「……は?」

 「イタチさんも、そんな顔をしていました。
  当然、補足しましたよ。
  『里への愛着があるから、一生懸命なんだ』って」

 「補足になってない……」

 「その後……。
  『どうして愛着があるんだ?』って聞かれました」

 「まあ、補足になってないからな……」

 「あたしは、
  『里の大人達が守ってくれた平穏に、どっぷりと浸かっているからです』
  って答えました」


 サスケが吹いた。


 「お前、そんなことを言ったのか!?」

 「はい。
  イタチさんは呆れていました」

 「当然だ!」

 「でね。
  『平穏に暮らせるようにしようと頑張っているのが戦争を体験した大人達で、
   戦争を知らない世代が平穏に暮らせているんだから狙い通りです』
  みたいなことを言いました。
  ・
  ・
  そして、その後でイタチさんが言ったんです。
  『無駄じゃなかったかもしれないな……』って。
  ・
  ・
  これって、さっき言ってたイタチさんが戦争を回避したことで安堵を示したことに繋がりませんか?」

 「…………」


 ヤオ子のイタチに対する変な回答のせいで脇道に逸れたが、サスケは確かにイタチの言動は戦争回避の成果に安堵したもののように感じた。
 ヤオ子は、一息つき、再び語り出す。


 「ここまでが、前提。
  これからが計画の話。
  サスケさんの話から、イタチさんにある事が発生していることが分かりました。
  ……病気です。
  ・
  ・
  実は、少し気になっていたんです。
  イタチさんはかなりの実力者だったのに、
  何で、サスケさんを一緒に連れて行かなかったのか」

 「連れて行く?」

 「そうです。
  だって、イタチさんの行動には理由があるし、サスケさんに話せば理解してくれる内容でした。
  修行だって、自らサスケさんにつけてもいいわけでしょ?
  でも、わざわざリスクの高い木ノ葉にサスケさんを残した。
  何故か?
  ・
  ・
  多分、その頃には発病していたんじゃないでしょうか?
  病気が死に至るものだったら、短い期間しか守れないですし……。
  だから、いつ死ぬか分からない自分の側ではなく木ノ葉に残した。
  普通に修行するだけでは得られないから力は、+αの行動に託したんです」

 「自ら恨まれる役を買って出た……」

 「はい。
  でも、ここで大きな誤算がイタチさんには発生しています。
  サスケさんが大蛇丸さんに呪印を植えつけられていたこと。
  万華鏡写輪眼を開眼していなかったこと。
  以上、二点です。
  ただ、後者の方は手段を選んでないんで、イタチさんに少し吃驚していますが……。
  もしかしたら、この時期に病気が一気に進行したのかもしれませんね。
  ・
  ・
  そして、月日が一気に流れます。
  多分、病気も末期です。
  サスケさんとの……戦いです」

 「…………」

 「イタチさんの計画は、大蛇丸さんの呪印除去と万華鏡写輪眼の伝授で完了したかのように見えますが、
  あたしは、そうは思いません。
  イタチさんは、サスケさんに託しています。
  うちはの火種と力を……。
  ・
  ・
  本当は、ここからサスケさんの人生の仕切り直しなんです。
  イタチさんは……。
  イタチさんは……」


 ヤオ子は俯く。
 ここからは、勝手に自分で断言してはいけない気がしていた。


 「何故、続けない?」

 「言いたくない……。
  これを言ったら、マダラさんと同じになる……」

 「……どういうことだ?」

 「サスケさん……。
  あたしの話で、考え方がマダラさんと全然違うと思いませんでしたか?」

 「……ああ」

 「あたしがね……。
  洗脳って言ったのは、こういうことなんです……。
  マダラさんの話を聞いて感じました……。
  ・
  ・
  人間の心には許容範囲があると思うんです。
  普段は、他愛のないことは冷静に取捨選択が出来るんです。
  でも、一定の範囲を超えると、心が苦しくなって救いを求めるんです。
  イタチさんとの戦いの後で、サスケさんの心は半分ぐらい埋まっていたと思うんです。
  仇討ちですけど、イタチさんとの思い出はサスケさんの大部分を占めています。
  きっと、空虚で半分以上埋まっていたはずです。
  喜びも達成感もない……。
  だって、本当は大好きなんだもん……。
  ・
  ・
  そして、その後で真実を聞かされたら、心の許容範囲なんて直ぐに決壊します。
  お兄さんは味方だった……。
  手に掛けてしまった……。
  苦しい……。
  どうすればいい……。
  何をすればいい……。
  酷い時には、死にたいと思ったかもしれない……。
  ・
  ・
  マダラさんは、この状態をワザと作り出すために、サスケさんに真実を明かしたんだと思うんです。
  救いを求めるサスケさんに新たな敵を作り出したんです。
  自分も敵と思っているもの……木ノ葉です」


 サスケが首を振る。


 「無理がある……」

 「そんなことないです……。
  さっき、言ってましたよね?
  『木ノ葉を潰して一族の恨みを晴らす』って……。
  ・
  ・
  サスケさんとイタチさんの会話からじゃ、一族の話は出ないんです。
  イタチさんが口を噤んで、サスケさんに知られないようにしていたんだから」


 ヤオ子の目に涙が溜まり始める。


 「マダラさんが一族の話をしなければ、サスケさんは何も知らないままだった……。
  イタチさんの計画の通りだった……。
  ・
  ・
  イタチさんが最後まで背負って終わりになるはずだった……。
  サスケさんの未来をマダラさんが壊した……」


 ヤオ子の目から涙が溢れる。
 サスケは、今、ヤオ子の目から溢れている涙が自分のためではないと思った。
 そう……ヤオ子はイタチに対して泣いていた。


 「どうして……。
  お前が泣くんだ……」

 「マダラさんは……。
  マダラさんは、イタチさんの気持ちを分かってない……。
  分かろうとしていない……。
  これだけ辛い思いをして、サスケさんに大事なものを残したのに……。
  絶対に話さないで、罪を背負って息を引き取ったのに……。
  ・
  ・
  最後の最後に全部暴露して……。
  あたし、悔しい……。
  ・
  ・
  だって……。
  だって……。
  英雄に仕立て上げるなんてことをイタチさんが望むわけない……。
  『戦争』が嫌いで優しいお兄さんが、サスケさんにそんなの望まない……。
  ただ、サスケさんの帰る場所を作ってくれただけなのに……。
  イタチさんが『戦争』から守ったサスケさんの帰る場所なのに……。
  ・
  ・
  それをサスケさんの手で壊させようとするなんて酷過ぎる……」


 ヤオ子は涙を拭う。
 それでも、次から次へと涙が溢れる。
 サスケもヤオ子の涙のわけを知ってようやく分かる。


 「マダラは、イタチを利用して……。
  ……それは知っていた。
  ・
  ・
  本当のイタチの計画……か」


 ヤオ子が泣きながら声を絞り出す。


 「……本当は、イタチさんの死については、あたしやマダラさんが触れちゃいけないのに……」


 ヤオ子は立ち上がるとサスケのところまで近づき、座っているサスケに土下座をするように肩を掴む。


 「イタチさんの計画は……。
  サスケさんの未来のための計画だから……。
  ・
  ・
  あたしが話すとマダラさんみたいに洗脳しちゃう……。
  だから……。
  だから……。
  だから、サスケさんが復讐だけじゃなくて自分の未来を考えて……。
  お兄さんが、何を望んでいたかを考えて……」


 サスケは、イタチを思うヤオ子に嫉妬する。
   自分と違う考えでイタチに涙を流すから……。
 サスケは、イタチを思うヤオ子を嬉しく思う。
   自分だけじゃなくて、イタチと自分を含めて涙を流してくれるから……。

 ヤオ子は誰よりもイタチを分かろうとしてくれていた。


 「ヤオ子……」

 「う…ううう……」


 サスケが左肩のヤオ子の手に右手を添える。


 「オレは……。
  兄さんの未来を受け取る資格はない……。
  兄さんの行動に、何も気付かなかった……」


 ヤオ子は重ねられていない手で、涙を何度も拭うと叫ぶ。


 「サスケさんの復讐は間違いじゃない!
  あたしは、否定しない!」

 「ヤオ子……?」

 「だって、サスケさんが復讐しなきゃ、イタチさんの計画は進まなかった!
  だから、サスケさんの復讐は間違いじゃない!」


 サスケは、一瞬、目を見開くと微笑んで俯く。


 (そうやって言ってくれるんだよな……。
  コイツは、いつも否定しない……)

 「イタチさんの思いは確かに汚されたけど……。
  こんなことじゃ、壊されない!
  サスケさんが諦めなければ、イタチさんの勝ちです!
  ・
  ・
  だから、サスケさんが……。
  サスケさんが……。
  無理にでもイタチさんの意思を貫いてあげて…よ……。
  この世界で、お兄さんの気持ちを受け取る権利があるのはサスケさんだけなんだから……。
  お願い…です……」


 サスケの手がヤオ子に重ねた手から、ゆっくりと離れる。
 そして、その手で自分の顔を覆う。


 「ウスラトンカチが……。
  これじゃ……。
  復讐を肯定できないじゃねーか……」

 「だって……。
  だって……。
  イタチさんが報われないのイヤだ……。
  サスケさんがイタチさんの思いを未来に繋げられないのイヤだ……。
  こんな辛いのに、サスケさんとイタチさんに見返りがないなんてイヤだ……」


 ヤオ子の感情が高まり、そして限界を迎える。


 「ザズゲざ~ん!
  あたじ、イヤだ~~~!
  ごんなのイヤだ~~~!」


 いつもの大絶叫。
 自分の限界を迎えると泣き叫ぶ。
 ここ暫くは、出ていなかったヤオ子の特徴。


 「お前!
  そのクセ、まだ治ってないのか!?」

 「ぞんなのじらない~~~!
  ザズゲざ~~~ん!
  イダヂざ~~~ん!」


 ヤオ子の大絶叫を聞きながら、サスケは再び顔を手で覆う。


 「馬鹿が……」

 (コイツが居ると別の可能性を感じさせられる……。
  イタチを思う……。
  父さん、母さんを思う……。
  一族を思う……。
  こんなに差があるなんて……。
  ・
  ・
  もう一度、考えてみないといけないかもしれない……。
  コイツの言う通りなら、マダラと話した時、オレの心は揺らいでいた……)


 グシグシと鼻を鳴らして涙を拭っているヤオ子をサスケは見る。
 そして、トンとヤオ子の額に指を当てた。


 「もう、泣くな……。
  約束してやるから……。
  ・
  ・
  イタチの計画は、オレが引き継ぐから……」

 「サスケさん……」


 ヤオ子は大泣きが止まったが、ダーッと涙だけが滝のように流れている。
 サスケは笑うのを堪える。
 そして、少しだけ思いに耽る。


 (何で、ナルトやサクラの声は振り切れたのに……。
  コイツの声は振り切れないんだろうな……。
  ・
  ・
  ──コイツがあの時のオレだからだ)


 サスケの心で幼い時の声が響く。


 『兄さん!』


 そして、ヤオ子の声が響く。


 『サスケさん!』


 イタチの弟だったサスケの声。
 サスケの妹のようなヤオ子の声。
 あの時と同じだ。


 『サスケ……。
  また、今度だ……。』


 イタチに押されたおでこの感触。


 『悪かった……。
  オレのせいだ。』


 ヤオ子のおでこを押した指の感触。
 全てを思い出せる。
 あの時、何故、イタチの真似をしたのか。


 (ヤオ子にオレを重ねていたんだ……。
  そして、ヤオ子は、オレのもう一つの可能性……。
  復讐をしないで育った可能性……。
  アカデミーに入る前のオレなんだ……。
  ・
  ・
  だから、イラついた……。
  オレは変わったのに変わらなかったヤオ子……。
  変わらないヤオ子が流してくれた涙……。
  きっと、あの時のオレなら、素直に泣けたんだ……。
  ・
  ・
  確かに何も知らない人間にイタチを知らないことを押し付けるのは強引だったかもしれない……。
  だけど……。
  いくらヤオ子が諭してくれても……。
  ヤオ子の言う許容範囲が心に出来たとしても……。
  許せない奴も居る……)

 「全てを納得はしていない……。
  復讐も捨てられないかもしれない……」

 「うん……。
  それでもいい……。
  ・
  ・
  サスケさんが、自分のことを考えてくれるなら……。
  ホムラさんとコハルさんを足腰立たないぐらいにするのは目を瞑る……」


 サスケの顔に懐かしい微笑みが蘇る。
 木ノ葉で過ごした短い期間。
 隣に居た変な女の子との会話の時に流れた穏やかな笑顔。


 「お前は、本当に変わらないな……。
  オレを忘れてもオレを思い出せる……。
  それが本当に──」

 「あたしは、いつでもサスケさんの味方だから……」


 ヤオ子はサスケに抱きついた。
 サスケが知っているサスケに少しだけ戻ったことが嬉しくて……。
 サスケとヤオ子の縁は、再び交わった。

 サスケの復讐は、ヤオ子の介入により方向性が少しずつ変わり始める。



[13840] 第95話 ヤオ子とサスケの新たな目的
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:14
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子が落ち着くまで、サスケは待っていてくれた。
 随分と大きくなったヤオ子だが、サスケは昔と変わらない感覚があった。


 「落ち着いたか?」

 「はい……」

 「なら、少し一人にしてくれ……」

 「……どうして?」

 「兄さんの計画を自分なりに考えたい」

 「……分かりました。
  適当な時間になったら来ます」


 ヤオ子は、ゆっくりとサスケから離れる。
 そして、サスケを残すとタスケの待つ小高い丘を目指した。



  第95話 ヤオ子とサスケの新たな目的



 この島でも、タスケの役目は変わっていない。
 何かあれば、逆口寄せでサスケからヤオ子を引き剥がす。
 そのため、島を見渡せる見晴らしのいい丘で様子を見ていた。
 タスケはヤオ子の様子を見て軽く笑うと、何て言ってやろうかと考え出す。

 そして、暫くするとヤオ子の姿が見えた。
 早速、悪態をついて皮肉をかまそうとした時、ヤオ子がタスケを抱きしめた。


 「なぬ!?」

 「タスケさん!
  何とかなるかもしれない!」


 ヤオ子は思いっきりタスケを抱きしめる。


 「タスケさんの言った通りでした!
  自分の気持ちを伝えてよかったです!」


 タスケはタップしている。


 「タスケさん!
  ありがとう!」


 タスケは、ヤオ子の胸で圧死寸前だった。
 最後の力で、ヤオ子にグーを炸裂させる。


 「殺す気か!?」

 「痛いな~」


 解放されたタスケは、大きく深呼吸した。
 そして、いつもの笑顔をしているヤオ子に溜息を吐く。


 「皮肉の一つも言えないよな」

 「ん?」

 「お前の笑顔ってさ。
  本当に嬉しそうだからさ」

 「えへへ……。
  嬉しいですね」

 「まったく……。
  ・
  ・
  どんな感じだ?」

 「今、一人で考えたいって」

 「そうか……。
  でも、復讐を諦めきれないらしいな」

 「はい……。
  でも、仕方ないです」

 「お前、復讐を肯定するのか?」


 ヤオ子は首を振る。


 「そうじゃないんです。
  お兄さんの計画にサスケさんが復讐することが組み込まれていたんです。
  変な言い方ですけど、サスケさんがお兄さんに復讐しないとお兄さんの気持ちに報いることが出来なかったんです」

 「まあ、確かにそういう事情だが……」


 ヤオ子は首を傾げる。


 「タスケさん。
  あたし達の会話……聞こえてたの?」

 「まあな。
  オレは、お前達より聴覚が発達しているからな」

 「そうなんだ」

 「ああ。
  ・
  ・
  話を戻すぞ?」

 「はい」

 「お前、復讐を肯定しないと言っておきながら、仕方ないって変じゃないか?
  理由も言ってるのに?」


 ヤオ子は腕を組んで頭を傾ける。


 「う~ん……。
  そうですねぇ。
  ・
  ・
  でも、お兄さんの計画は、自分が殺されるところで復讐は終わるはずなんです。
  それでも復讐が終わらないのは、別要因のせいでしょ?
  だから、これ以上の復讐は止めて欲しいんです」

 「そうか……」

 「まあ、仕返しはありですけどね」

 「ん? また変なことを言ったな?」

 「だって~。
  どう考えても、マダラさんとホムラさん達はやり過ぎ!
  サスケさんに土下座して、
  靴の裏を舐めるぐらいのことはしてもいいんじゃないの?」

 「靴の裏って……。
  お前、陰険だな?」

 「そう?
  今のは、あたしの考えた仕返しの中でも軽い方ですよ?」

 「お前が本気になるとどうなるんだよ?」

 「そうですねぇ……。
  例をあげるなら……。
  弟をいじめたいじめっ子の父親の会社が、
  次の日、ありもしない調書のせいで、役所から業務停止命令を出されて潰れるぐらいです」

 「お前、何をしやがった!」

 「ただの偽造文書作成ですよ。
  それを二、三枚紛れさせただけです。
  木ノ葉じゃ幅広く任務してますからね。
  それぐらい簡単です」


 ヤオ子は軽く笑い飛ばしているが、タスケは本気で項垂れている。


 「笑いごとじゃないんじゃないか……。
  木ノ葉は、こんな危ない奴を使って大丈夫なのか?」

 「大丈夫じゃない?
  もう、木ノ葉は、里が潰れて証拠もないし」

 「お前の証拠隠滅のことなんか気にしてねーよ……」

 「そう?」

 「もういい……。
  段々、お前が恐くなって来た……」


 ヤオ子とタスケの会話は、いつも通りの調子になっていた。


 …


 一方のサスケは、一人で苦しんでいた。
 長い間、復讐に囚われていたツケ……。
 サスケは、未来を考えることが出来なくなっていた。
 復讐したい相手は直ぐに頭に浮かぶのに、自分のしたいことが分からない。


 「何故だ……」


 復讐が本気であればあるほど、全てを懸ける。
 己の復讐をするために未来を捨てた。
 その先のことを考えずに、がむしゃらに力を求めた。
 その全てが成就されれば、そのために鍛え上げた時間も力も必要がなくなる。


 「だから……。
  復讐を止めれなかったのか……。
  ・
  ・
  オレは復讐を果たしたら、何もなくなる……。
  なくなるのが嫌で復讐を止めれない……。
  そして、この道に逃げ込むのは簡単だったんだ……」


 サスケは俯く。


 「未来を考える……。
  兄さんが残した未来……。
  ・
  ・
  このままじゃ、何も出来ない……。
  兄さんの計画は受け継げない……。
  ・
  ・
  オレは、どうすればいい……」


 闇の中で生きて来たサスケは、人として大事なものを欠落させていた。


 …


 一方のヤオ子は、サスケを待つだけの身。
 特にやることもない。
 とりあえず、半乾きの服を火の近くに置いて乾かしていた。
 火を熾すことで煙があがるので、サスケも考えが纏まればここに来るはずだ。


 「サスケさんの未来か……。
  あたしの未来も考えないといけないですよね」

 「お前も目先のことに囚われて動いた口だからな」

 「はい。
  サスケさんを追って、ここまで来ちゃいました。
  ・
  ・
  でも、そんなに気にしなくていいのかも」

 「何でだ?」

 「あたしは、大きな未来よりも身近な手の届く未来があればいいから」

 「ふ~ん。
  じゃあ、今の目標は?」

 「今は、中忍になりたいんです」


 タスケが軽く笑う。


 「そういう強みがあるんだよな。
  そうやって、直ぐに答えが返って来るんだよ」

 「褒めてるの?」

 「ああ。
  お前の長所だと思うぞ」

 「えへへ……。
  ありがとう」


 タスケが空を見る。
 午前中にサスケとヤオ子の接触。
 午後に話し合い。
 そして、サスケが一人になって数時間。
 まだ日は随分と高いが、もう少しすれば傾き出す。


 「遅くないか?」

 「サスケさん?」

 「ああ」

 「そう言えば、遅いですね。
  ・
  ・
  仕方ない。
  迎えに行ってあげますか」


 ヤオ子が腰を上げると振り返る。


 「タスケさんも来ますか?」

 「いや、ここから見ている。
  まだ何があるか分からない」

 「タスケさんが見守ってくれているから、安心して無理できますね」

 「出来れば、安心して見守れる行動を心掛けて欲しいものだな」

 「本当ですねぇ」

 (お前のことだ……。
  分かってんのか?)


 タスケが溜息を吐く頃、ヤオ子はスキップしながら遠くにいた。


 …


 ヤオ子は、空を見て辺りを見る。
 まだ太陽が輝いているのに暗い……。
 目の前に闇がある。


 「あ、あの……。
  サスケさん……?」

 「ヤオ子か……」

 「ど、どうしたの?」

 「……何も…何も思いつかない」

 「はい?」

 「やりたいことが…思いつかない……」

 「な、何で?」

 「分からない……。
  ・
  ・
  殺してやりたい奴の殺し方なら、直ぐに頭に浮かぶのに……」

 (危ないですね……。
  そんなこと、直ぐに思いつかないでくださいよ……)

 「オレは…何をすればいい……」


 ヤオ子は、サスケの横にちょこんと座った。


 「ず~っと悩んでいたんですか?」


 サスケは無言で頷いた。


 「考えませんよね。
  復讐中に……。
  でも、今は考えないといけないですもんね。
  イタチさんの最後の試練かもしれませんね」


 サスケは額に手を当てる。


 「何て試練だ……」

 「でも……」


 サスケがヤオ子に顔を向ける。


 「将来を考えるって、誰でも難しいんですよ……」

 「……そうかもしれないな」

 「例えば、忍者になりたいって夢が叶ったら、次の夢を探さないといけない……。
  終わりがないんですよ」


 サスケが視線を戻す。


 「だが、オレは直ぐ先の未来も考えられない……」


 ヤオ子は『肩肘を張ることじゃない』リラックスして考えることだと思うと、足を投げ出す。


 (だって、未来に起こる楽しいことを考えるんだから)


 ヤオ子は、サスケの大事な親友の名前を出す。


 「ナルトさんは凄いですよね」

 「ナルト?」

 「だって、ちゃんと昔から目標を持っている。
  そして、今でも真っ直ぐに夢に向かっている」

 「……ナルトの夢」


 サスケの脳裏に、第七班での自己紹介に語っていたナルトの姿が蘇る。


 「もう、笑えないな……。
  アイツは夢を忘れてない……」

 「サスケさんは?」

 「復讐が全てだった……」

 「違いますよ。
  あたしにも言ってたでしょ?」

 「オレが……?」

 「はい。
  ・
  ・
  あたしと子作りしようって♪」


 サスケが吹いた。
 そして、空かさずグーを炸裂させた。


 「言ってねー!」

 「いや、一族を再興するって、吼ざいてたじゃないですか」

 「誰が吼ざいてた!」

 「そのためには……。
  あたしと沢山エロいことして~♪
  子供を沢山作らないと♪」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「アホか!」

 「え~!
  サスケさん公認でエロいこと出来るのに~!」

 「お前は、何を考えているんだ!」

 「嫌ですね~。
  あたしの頭の中なんて、年がら年中、お花畑に決まっているじゃないですか♪」

 「自分で言うな……」

 「安心してください。
  サスケさんのために処女は取ってあります」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「どんな気遣いだ!
  そもそも、何で、お前と子作りするするのが前提になっているんだ!」

 「嫌なの?」

 「お前の遺伝子は、後世に残しちゃいけない類のものだろうが!」

 「あたしに一生処女で居ろと?」

 「そうしろ!」

 「ヤダ。
  サスケさんとエロいことするんです!
  サスケさんもあたしと初エッチすることを将来の目標にしましょう!」

 「どんな将来だ!
  このウスラトンカチ!
  アホか!?
  アホなのか!?」

 「至って正常です。
  変態としては」

 「異常じゃねーか!」

 「あたし体には自信があるんです!
  エロいことしましょう!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何の自慢だ!」

 「妄想して、頭に蓄積してあるテクニックも凄いですよ?」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「もっと、普通の将来を考えられんのか!」

 「じゃあ、普通の将来って?」

 「それは……」


 サスケが言い淀む。
 だけど、何かに気付く。


 「普通に……暮らせていればいいんだ。
  木ノ葉に居た時はこうだった……。
  コイツが、次の日にどんな馬鹿をするかなんて分からなかった……。
  ・
  ・
  兄さんと一緒に居た時の思い出……。
  確かに特別だけど……。
  普通の日常だった……」

 「あたしが居たのも、普通の日常の1ページですよ」

 「ヤオ子……」

 「ナルトさんみたいにはなれないですよ。
  サスケさんだけじゃない。
  あたしも……」

 「オレは……」


 ヤオ子は静かに待っている。


 「兄さんの意志を継ぎたい……。
  あの頃の日常が欲しい……」


 ヤオ子は微笑む。


 「力は?」

 「兄さんが認めてくれた……。
  もう、要らない……。
  ・
  ・
  でも、うちはの力を高めなければいけない。
  兄さんが命と引き換えにくれた力だ……。
  使いこなさなければ……」

 「新しい目標ですね」


 サスケが、ハッとしてヤオ子を見る。
 またヤオ子に乗せられた。


 「コツ……掴めました?」

 「ああ」


 サスケの返事は、少し力強かった。


 「ヤオ子……気が晴れたら、やりたいことが出来た」

 「お付き合いしますよ」


 サスケの目に力が篭もる。
 そして、口から出たことは、復讐を優先して先送りにしてしまった大事なこと……。


 「兄さんの体をマダラから取り戻す!」


 ヤオ子も力強く頷いた。



[13840] 第96話 ヤオ子と小隊・鷹
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:14
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケに、木ノ葉に居た頃の雰囲気が漂い出していた。
 長年蓄積させた負の感情を直ぐには転換できないものの、ここには強烈に変わらない人間が居る。
 しゃべる言葉も懐かしい仕草も、急速に自分を思い出させる。
 そして、年下の少女の立場が、忘れていた兄との温かい日々も思い出させる。


 (今のオレには、コイツが必要だ……)


 サスケがこの小さな島を訪れた時とは逆に、離れる時にはヤオ子の存在理由は大きく変わっていた。



  第96話 ヤオ子と小隊・鷹



 小さな島を出る影が三つ。
 サスケとヤオ子とお供の忍猫タスケだ。
 そのタスケは島を出ると直ぐにいつものポジション──ヤオ子の軽い頭の上に移動して、影は二つに減る。

 そして、海上ではサスケの小隊・鷹のメンバーが待ち構えていた。
 うち二人の機嫌は悪い。
 それも当然……さっき襲って来た少女とサスケが仲良く歩いているのだから。

 早速、大刀を背負った少年・水月がヤオ子を指差し叫ぶ。


 「どうして、そいつと仲良く帰って来てるのさ!」

 「今回ばかりは、ウチも水月と同意見だ!」


 水月に続いて怒鳴る香燐を見て、サスケは溜息を吐くと答える。


 「仲間にした」

 「「ハァ!?」」


 理由を知らなければ当然そうなる。
 そして、基本、唯我独尊なサスケは、水月と香燐を無視して自分の目的遂行のために勝手に話を進める。


 「もう、小隊はいらなくなった。
  今、解散する」

 「「ハァ!?」」


 さっきから同時に声を発し続ける水月と香燐を見ながら、ヤオ子は懐かしさを感じていた。


 (変わってない……。
  恐ろしいほどの自分主義……。
  あたしは初対面でいきなり宿題出されましたからね……。
  そして、無視したら家を燃やす……。
  ・
  ・
  この二人には、同じ被害者の匂いがします)


 サスケは用件を話し終えると、さっさと歩き出そうとする。
 変わらないことは嬉しいのだが、さすがにこの行動にはヤオ子も少し引いた。


 「あ、あの……サスケさん?
  皆さん、固まってますよ?」

 「気にするな……」

 「へ?」

 「「ちょっと待て!」」


 本日の水月と香燐のシンクロ率は高い。


 「サスケ!
  おかしいだろ!
  理由を言えよ!」

 「そうだ!
  ウチらを強引に仲間に引き込んだクセに!」


 サスケは面倒臭そうに言い返す。


 「水月。
  お前は暇だから付き合ったんだろう。
  香燐。
  お前も仕方なく付いて来ていたはずだ。
  ・
  ・
  オレが頭を下げる理由がある人物が居るとすれば、重吾だけだ」

 「「な!?」」


 サスケの物言いに、ヤオ子は項垂れている。


 (ドSな部分だけが懐かしい……。
  ・
  ・
  この二人の反応を体験した記憶があります。
  サスケさん……ハンパないです)


 水月と香燐を無視して、サスケが重吾に向き直る。


 「オレは別行動に出る。
  どうする?」


 重吾は考える間もなく、答えを返す。


 「着いて行く……。
  オレの殺人衝動を抑えられるのはサスケだけだからな。
  それに最後まで見届けると決めている」

 「そうか……。
  じゃあ、着いて来い」


 サスケが歩き出すと重吾も続く。
 取り残された水月と香燐が哀れで、ヤオ子も動けない。


 「ちょっと!
  サスケさん!」

 「何だ?」

 「『何だ?』じゃないですよ!
  何なんですか!
  そのドSっぷりは!?
  残された二人が可哀そうでしょ!」


 水月と香燐には、この時のヤオ子がまともな人格者に見えた。


 「何でだ?」

 「何でって……。
  あたしが襲った時には仲間だったでしょ!
  何で、捨てるようなことをするんですか!」

 (コイツ……)

 (意外といい奴なんだな……)


 水月と香燐は、ちょっとだけヤオ子に感動していた。
 しかし、サスケはバッサリと切り捨てる。


 「今度の目的には必要ない」

 「「「が……」」」


 水月と香燐とヤオ子が固まる。
 そして、ヤオ子がキレた。


 「少し見ない間にドSのクラスチェンジでも起きたんですか!?
  一緒に生死を懸けた場面もあったんじゃないんですか!?
  そんな言い方はないでしょう!」

 「アァ!?」


 水月と香燐が押し黙る。
 何かおかしい……。
 何故か仲間に引き込んだはずの少女とサスケが揉めている。

 何より、サスケの返し言葉が引っ掛かる。
 こんな雰囲気で『アァ!?』なんて聞き返すはずがない。


 「サスケさん!
  あったま来ました!
  あなたに称号を付けてあげます!
  世間一般のマスコミが、一昔前に視聴者がドン引きしているのに流行ってると勘違いして、
  挙って付けた寒い称号『王子』です!
  今日から、サスケさんは『ドS王子』です!」


 水月と香燐は、強ち間違いではない称号に笑い声をあげた。


 「てめェ! ヤオ子!
  ふざけるな!
  何で、そんな訳の分からない二つ名を付けられなければならないんだ!」

 「自覚がないなら重症ですよ!
  このドS王子!」


 サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「その名前で呼ぶんじゃねー!」

 「呼んで欲しくなければ、ちゃんと理由を説明してください!」

 「だから、何でだ!
  コイツらが着いて来ていた理由も、おかしいだろうが!」

 「理由?
  ・
  ・
  ああ……。
  『暇だから』に『仕方なく』でしたっけ?」


 ヤオ子は、水月と香燐に振り返る。


 「馬鹿じゃないの?」


 水月と香燐のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「お前は、ボク達の味方じゃないのか!?」

 「さっきまでの擁護は、何だったんだ!?」

 「知らないですよ!
  こっちも吃驚ですよ!
  擁護しようと思ったら、
  手持ちの理由が『暇だから』に『仕方なく』で、
  どうやって、サスケさんに一矢報いればいいんですか!?」

 「それを何とかするのが、お前の役目だろ!」

 「っなわけあるか!
  あたしは、サスケさんの態度が気に入らなくて、思わず注意しただけですよ!
  ・
  ・
  な・の・に!
  何で、お二人の小隊在籍理由が、そんな訳の分からない理由なんですか!?」


 水月と香燐が押し黙る。
 そして、仕方なしに言葉が漏れる。


 「「……その場の雰囲気で。
   ……つい」」

 「ふざけるな!
  この馬鹿ヤローどもが!」


 場は荒れる。
 激しく荒れる。
 サスケvsヤオ子の様相が、いつの間にか水月&香燐vsヤオ子に変わっている。
 もう、収拾がつかない。
 既に何が原因で揉めていたのかすら、分からない。


 「いい加減にしろ!」


 サスケがキレた。
 しかし、説得力がない。
 そもそもの原因はサスケにあり、サスケも揉めていた一人だからだ。
 ヤオ子が、サスケをビシッと指差す。


 「黙れ!
  サスケさんも注意される側の人間です!」

 「「そうだ!」」

 「お前ら……!」


 サスケが拳を握る。
 そして、本当に注意出来る者が声を発する。


 「本当にいい加減にしたら、どうだ?」


 ヤオ子の頭の上に視線が集まる。


 「「「「猫がしゃべった……」」」」

 「タスケさん」

 「「「タスケ?」」」


 水月と香燐が大声で笑う。


 「何で、猫とサスケが一字違いなんだ!?」

 「アハハハハハッ!」

 「「お前ら……!」」


 サスケとタスケが、水月と香燐を睨みつける。
 今度は、助け舟を出そうとしたタスケがふてくされる。


 「サスケ……。
  オレは、お前の味方だ。
  コイツらはいらん。
  捨てて行け」

 「分かった」

 「「オイ!」」

 「振り出しに戻った……」


 結局、揉めに揉めたあと、再び小さな島に戻って説明し直すことになった。


 …


 辺りは夕闇に浸かり、すっかりと夜……。
 焚き火を囲んで、鷹のメンバーとヤオ子が倒木を椅子にして座っている。
 そして、水月がサスケに話し掛けた。


 「一体、何があったのさ?
  コイツは、ボク達を襲って来た敵だったんだろ?」

 「その時点から違う」

 「どういうこと?」


 サスケは、どうしたものかと考えたが、隠すことでもないと話し出す。


 「ヤオ子は、オレと話しに来ただけだ。
  そして、あの場面で先に仕掛けたのはオレ達……。
  ヤオ子は、仕方なく戦闘したに過ぎない」


 水月達が昼間の戦闘を思い出す。
 確かにそういう流れだった。


 「それで話し合いに、一人でこの島に来たんだよね。
  それが小隊を解散する理由になるの?
  木ノ葉を潰すんなら、頭数は多い方がいいはずだろ?」

 「もう……。
  木ノ葉は、どうでもいい」

 「ハァ!?
  もしかして、そいつに説得されたわけ!?」

 「それも違うな……。
  今までのオレが少しおかしかったんだ。
  復讐するなら、木ノ葉じゃない」

 「じゃあ、誰なのさ?」


 サスケは、少し視線を落とす。
 正直、そこは結論が出ていない。


 「分からない……」

 「ハァ!?」


 水月の疑問は、今までの流れからすれば当然だ。
 サスケは、イタチに復讐するために小隊を作った。
 そして、マダラから語られたイタチの話に、木ノ葉を次の復讐の対象に選んだばっかりだ。
 そのために暁とも一時的に手を組んで人柱力である八尾の捕獲を実行した。
 この流れを辿っているから、鷹のメンバーは混乱する。
 そして、その中で重吾だけが混乱しないのは、彼の目的がサスケの生き様を見届けることにあるからだった。

 水月の質問だけでは理解できないところを香燐が質問する。


 「ウチが知りたいのは、チャクラの質が変わったところだね。
  サスケのチャクラは少し冷たい感じだった。
  それが生ぬるい感じになっている。
  温かいのか冷たいのか分からない」


 香燐の言葉に、今の自分を表す最もな状態だとサスケは思う。
 温かいのか冷たいのか分からない。
 復讐も中途半端に諦めきれず、兄の意志を継ごうと変わり始めている心。
 きっと、どちらも自分の中に存在している。


 「そうだな……。
  簡単に言えば、自分のためのことを考え出したら、復讐は後回しでもよくなった。
  そして、今の考えの纏まっていないオレの行動に香燐達が付き合う必要もない。
  だから、小隊を解散する」


 ようやく話の流れが分かり始め、水月が溜息を吐く。


 「それならそれでいいさ。
  でもさ。
  ボクらは少なからず命を懸けて戦ったんだ。
  労いの言葉の一つでも掛けて貰いたいね」

 「そうかもしれないな……。
  すまなかった……。
  ありがとう……」

 「……妙に素直で気味悪いな」

 (コイツは……。
  じゃあ、オレは、どういう行動を取ればいいんだ!)


 サスケは不機嫌を内面で押さえ込むと黙り込む。
 しかし、香燐が黙らせてはくれない。


 「サスケ。
  サスケは、これからどうするんだ?」

 「……イタチの体を奪い返す」

 「うちはマダラのところに行くのか?」

 「ああ。
  アイツは、オレ達との信用を得るために、不覚にもアジトの場所を教えている。
  まず、そこでイタチの体を奪い返して、オレの手で弔う。
  ・
  ・
  そこからオレは……オレ自身を始める。
  ・
  ・
  そういう訳だから、お前達にこれ以上、オレに付き合う理由はない」


 しかし、水月がニヤリと笑う。


 「でも、今度はマダラとやり合うんだろ?」

 「ああ」

 「ボクも付き合うよ」

 「ハァ!?
  何でだ!?」


 水月の言葉に反応したのは香燐だった。


 「何で、香燐が怒鳴るんだよ?
  それに当然じゃないか。
  暁には、干柿鬼鮫が居るんだから、七人衆の持つ鮫肌を奪うにはいい機会だろ」

 「ぐ……!」


 香燐が少し押し黙ったあと、眼鏡をクイッとあげて怒鳴る。


 「ウチも残る!
  マダラのアジトに忘れ物をした!
  だから、付き合ってやる!」

 「本当に?」

 「本当だ!
  コノヤロー!」


 鷹のメンバーを見て、ヤオ子は微笑む。
 この雰囲気はナルトやサクラに通じるものがあったからだ。
 何だかんだで、サスケの周りには似たような人物が集まる傾向にあるらしい。


 「えへへ……。
  じゃあ、人数が増えて戦力アップですか?」

 「フォーマンセルじゃないから、もう小隊じゃないね」

 「お前らな……」


 結局、鷹は解散せずにヤオ子が一人加わったことになる。
 今まで、黙っていた重吾が口を開く。


 「どうするんだ? サスケ?」

 「どうもこうもないだろう……。
  勝手に決めちまいやがって……。
  ・
  ・
  また改名するのか?」

 「改名?」


 ヤオ子が首を傾げると、香燐が補足してくれた。


 「ウチらは、最初『蛇』と名乗っていた。
  それから『鷹』に変わったんだ」

 「へ~。
  何かを転機に名前を変えていたんですか。
  動物を隊の名称にしていたんですね。
  蛇から鷹か……。
  ・
  ・
  うん、強くなっている気がします」

 「何も思い付かないな」

 「無理に変えなくてもいいんじゃないの?」

 「あたし、ピッタリの思い付きましたよ」


 全員の視線がヤオ子に集まる。


 「動物の名前を隊に組み込み、昇格させる意味を持たせるんですよね。
  あたしを組み込んだことで進化させた隊の名前……。
  ・
  ・
  小隊・女豹!」


 鷹のメンバー全員が吹いた。


 「「「「却下!」」」」

 「何で?」

 「動物ですらねーだろうが!」

 「女豹なんて弱くなってんじゃないか!」

 「ウチはいいと思うが、サスケにそれを名乗らせられない!」

 「コイツは馬鹿なのか……」


 ヤオ子は溜息を吐くと呟いた。


 「センスの欠片もない人達です」

 「「「「お前だ!」」」」


 こうしてイタチの体を奪還するまで、小隊・鷹での行動は続くことになった。
 ヤオ子という大いなる不安要素を加えて……。



[13840] 第97話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・マダラ接触編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:15
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ヤオ子が小隊・鷹に加わり、うちはイタチの体を取り戻すというところまでは説明が付いた。
 しかし、サスケとヤオ子の関係や鷹が八尾を捕獲した経緯などは明らかにされていない。
 新メンバーの加入により、お互いの情報交換が必要になる。

 サスケ達は小さな島で夜を明かすと、最寄りの宿場町を目指して移動することにした。



  第97話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・マダラ接触編



 その移動中の森で、鷹のメンバー香燐はご機嫌斜めだった。
 昨日加入した少女がサスケの横にぴったりと着いているからだ。


 「気に入らんな……」

 「あの子のこと?」

 「ああ……。
  ウチのサスケにあんなにぴったりと……」

 「いつ香燐のものになったのさ……。
  ・
  ・
  まあ、香燐には真似しても無理だろうけどね」

 「真似?」

 「ああ。
  あの子がサスケに合わせて木々を飛び移っている異常さがよく分かるはずだよ。
  あの子と同じことをしてみなよ」

 「珍しいな。
  サスケに手を出すと、いつも文句を言うのに。
  だが……。
  今日は、水月公認だ!」

 (誰も、そこまで認めてないよ……)


 香燐が移動速度を上げて、ヤオ子と反対側のサスケの隣へ移動する。


 「サスケェ……。
  そんなのと何を話してんだ?」

 (そんなの?
  あたし、嫌われてんのかな?)


 嫌われている。
 そして、両隣を飛び交うくノ一達の状況をサスケも嫌っている。
 サスケが無言で進行方向を変えると、香燐だけが明後日の方向に飛び出す。


 「サスケ!
  てめェ──」


 ヤオ子は、しっかりとサスケの横をキープしている。
 確かに水月が言った通り、異常だ。
 香燐が遠ざかって行く小隊を追い掛け、水月に話し掛けた。


 「異常って、このことか……」

 「ああ。
  さっきから見ているけど、サスケの動きに同調しているみたいに着いて行っているんだ。
  普通、あんな無言で曲がられれば香燐みたいになるけどね」

 「どうなっているんだ?」

 「多分、サスケの動きを先読みしているんだよ。
  どんな修行をして来たか分からないけど、体術の技術で言えば、ボクや香燐より上なんじゃないの?
  ・
  ・
  まあ、体術の高さは海上での戦闘で分かっていたけど」

 「そういえば……。
  アイツ、性質変化も幾つか使っていたな」

 「この隊には居ないタイプの忍だね。
  あの子のチャクラって、どうなの?」

 「……よく分からない。
  昨日の戦闘では禍々しく感じた。
  だけど、本来のチャクラじゃないような気がした」


 ヤオ子はチャクラを練る際に妄想を代用するので、香燐に混乱が生じている。


 「禍々しいのかよ……」

 「ああ……。
  ・
  ・
  そして、今は何も感じない。
  恐らくチャクラを瞬間的にしか出してないから、感知できないんだろうな」

 「何で、そんな変な使い方をしているんだ?」


 ヤオ子の修行の一つ。
 幻術対策用にチャクラを止める訓練……。
 貧乏性からチャクラを節約する訓練……。
 瞬間的にチャクラを生成する訓練……。
 これら三つを併用して、戦闘以外では極力チャクラを練らないようにしている。
 つまり、普段時と戦闘時の切り替えをしている。
 瞬間的にチャクラを一気に生成できるので、普段からチャクラを流しておく必要もない。

 隊員二人の謎は深まる。
 そして、サスケが止まると全員止まる。


 「よう……。
  サスケ」


 小隊が止まった原因になった人物に視線が集中する。
 ヤオ子が、初めてうちはマダラと接触した瞬間だった。


 …


 ヤオ子が初めて見る、うちはマダラ。
 それは突然現れた。


 (あたしが気付けなかった……。
  お母さん以上の忍体術か……。
  お母さんの言っていた特殊系を修めた忍。
  ・
  ・
  後者なら拙い……。
  あたしは、まだ特殊系を修めた忍に対抗できる手段を習得していない。
  大軍系の忍術の印も覚えていない。
  認められているのが、忍体術の及第点(母親辛口評価)のみ)


 ヤオ子の緊張は、サスケにも伝わる。
 だが、サスケは、それに少し安心する。
 ヤオ子は、うちはマダラの強さを瞬時に判断した。
 ヤオ子の経験値が上がっている証拠だった。
 サスケがマダラに話し掛ける。


 「……どうして、オレの居場所が分かった?」

 「オレをなめるな。
  こっちには、それなりの能力がある」


 今の少ない会話から、ヤオ子は幾つか判断する。


 (あたしどころか、サスケさんも気付かなかった。
  恐らく特殊系の忍者。
  ・
  ・
  そして、この小隊……感知されている。
  忍が気付かないマーキングがされているに違いありません。
  聞いた噂では四代目火影の時空間忍術などは、特殊な文字でマーキングしたとか。
  文字なら視認すれば気付く。
  ・
  ・
  と、なると……発信機の類。
  そんなものがあるんでしょうか?
  忍でも気付かない発信機なんて……。
  ・
  ・
  だったら、逆に盗聴も出来る?
  もう、こちらが木ノ葉への復讐をしないことも、気付かれているかもしれませんね。
  島で全てを話さなくて良かったかもしれないです。
  宿場町に着いたら、より慎重にならないと。
  この世界には知られていない忍術も数多くあるんだから)


 目の前の人物の外套は、里で目撃した外套だ。
 ヤオ子は情報を収集するために集中する。
 そして、サスケも接触したマダラに警戒し始めた。

 マダラの仮面から覗いた写輪眼がヤオ子を睨むと、ヤオ子は視線が合った瞬間に印を組む。


 「解!」


 まずは掛かっているかもしれない己の幻術の解除。
 更に印を結ぶ。
 自分の前に写輪眼の視線を入れないための影分身を一体出し、第二の目の役目をさせる。
 マダラは、その行動の早さに感心する。


 「いい手駒をまた見つけたようだな。
  写輪眼に対して警戒をするとは……。
  ・
  ・
  まあ、少し過剰な反応な気もするがな」


 ヤオ子の写輪眼に対するトラウマはハンパじゃない。
 木ノ葉で過ごしたサスケとの日々で、警戒心が強くなっている。
 修行が行き過ぎていた頃は、サスケとヤオ子は対決に近いものになっていた。
 写輪眼を試したいサスケに、写輪眼のトラウマに恐怖するヤオ子。
 写輪眼による幻術を掛けるか、掛けられないかの鬩ぎ合い。
 油断してれば写輪眼を試せない。
 油断していれば写輪眼を使われる。
 ドS vs トラウマ。

 しかし、それも今となっては思い出の一つではなく……二人の黒歴史の1ページ。
 故にサスケとヤオ子の頭に同じものが過ぎったが口に出さず、会話は進行した。
 サスケがマダラに話し掛ける。


 「……今更、何の用だ?
  オレ達『鷹』は、暁を抜けた。
  お前らに、もう用はない」

 「へ?」


 その言葉にヤオ子がサスケを見る。


 (抜けてたのーーーっ!?)

 「何だ?」


 ヤオ子は、ジト目でサスケを睨む。


 (何で、いつもサスケさんは、大事なことを言わないんですか!
  暁に入ったから、指名手配されて抹殺命令が出ていたんでしょ!
  だったら、あたしに一言あってもいいでしょ!
  心配してここまで来たの知ってるクセに!)


 ヤオ子がバリバリと頭を掻き毟る。
 ヤオ子の頭……激しく沸騰中。
 マダラは、そんなヤオ子を見て溜息を吐いた。


 (この娘は、何を怒っているんだ?)


 ヤオ子の評価を少し下げたあと、マダラはヤオ子を無視してサスケとの話を続ける。


 「暁を裏切れば、ちゃんと死んで貰うと言ったはずだ。
  お前達は、オレとの約束を裏切ったことになっている」

 「何のことだ?」

 「尾獣狩りの件だ」


 ヤオ子が木ノ葉での話を思い出す。
 サスケの追い忍の件で、一番の原因で問題。
 雷影からの手紙にも、それが記されていた。


 (そうでした……。
  暁抜けてんのはいいけど、未だに八尾誘拐の件は、どうにもなっていない……。
  この人、昔からやり過ぎなんですよ。
  普段、あれだけクールなのに脊髄反射で動くような時もあって……)


 ヤオ子が項垂れるのを無視して、香燐の反論が響く。


 「それなら、もう八尾を狩って、あんた達に渡したはずだろ!」

 「あれは変わり身だった……。
  つまり、お前らは失敗したんだ」

 「!?」


 ヤオ子は『失敗』という言葉に反応する。


 「お前らは八尾に一杯食わされたのさ。
  正直、お前らにはがっかりしたぞ」


 真実を聞いて固まるサスケ達と違い、ヤオ子の口はだらしなく緩む。


 「あはぁ~……♪」


 サスケ達が引く。
 マダラも引く。


 (((((何だ? コイツは……)))))

 「えへへ……」

 (思わぬところで拾い物が……。
  つまり、間に合うんですよ。
  サスケさんは暁を抜けてて、八尾も誘拐未遂でした。
  ・
  ・
  いいこと、聞いちゃった~♪
  まだ戻れます♪
  サスケさんは、木ノ葉に戻れるんです!)


 ヤオ子の顔は、百面相になっている。
 百のにやけ顔……。
 ヤオ子は、暫くトリップしていたが戻ってくる。
 そして、シュタッ!とマダラに手を上げる。


 「いい情報をありがとう!
  知らない誰か!」

 「何?」

 「サスケさん。
  もう用ないし、さっさと行きましょう」


 ヤオ子は目の前の人物を誰かも知らずに無視して、サスケの手を引く。
 そして、そんなことをマダラが許すはずもない。


 「待て! 小娘!」

 「ん?」

 「話を聞いていなかったのか!」

 「聞いてましたよ。
  八尾誘拐に失敗したんでしょ?」

 「その前だ!」

 「その前?
  ・
  ・
  何か言ってたっけ?」

 「死んで貰うんだ!」

 「ああ……。
  そんな冗談を言ってましたね」

 「な!?」


 マダラは怒りを蓄積させ、サスケ達は呆れている。


 (コイツ、場の空気っていうのを考えてないよな……)

 (ここまで、壮大に無視するっていうのはありなのか?)

 (冗談ってなんだよ……)

 (…………)


 サスケは溜息を吐くと、盛大にヤオ子にグーを炸裂させた。


 「お前は、黙っていろ!
  話が進まん!」

 「ぐぁぁぁ……っ!」


 ヤオ子が蹲った。


 「話を続けろ……マダラ」

 「マダラ!?」


 再び、サスケのグーが炸裂する。


 「だから、黙っていろ!」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 サスケのグーで、話は強引に戻った。
 サスケが続ける。


 「八尾を再び捕らえろということか?」

 「イヤ……。
  もう、それはいい。
  代わりに別の用をやって貰う」

 「断わると言ったら?」

 「ここでお前らとやり合うことになる。
  木ノ葉へは行けないということだ」


 サスケが暫し考える。
 今は、木ノ葉に向かう必要はない。
 かと言って、マダラの思い通りになる気もない。
 そして、何より……鷹の次の行動の詳細は未定だ。
 これから、宿場町で相談することになっている。


 (どうしたもんか……)


 マダラからすれば、少し肩透かしだった。
 サスケは、もう少し突っ掛かると思っていた。
 悩んでいるのは別のことだが、悩む姿が見れるとは思っていなかった。
 マダラは、別のカードを切る。


 「それに今更、木ノ葉に行っても遅い……。
  木ノ葉隠れの里は、もうない……」

 「何っ!?」


 サスケはヤオ子を睨む。


 (何で、その情報を言わない……!)


 ヤオ子は思いっきり目を逸らしている。
 しかし、サスケも暁を抜けたことを言い忘れている。
 この二人は、何処か似ている。

 拳を握り込み、黙るサスケにマダラが話し掛ける。


 「話していいか?」

 「……続けてくれ。
  (この馬鹿のせいで)真実が分からない」

 「そのようだな……」

 「ソコカラハ オレガハナソウ」


 新たな人物が現れる。
 木から直接生えるように現れる姿は、植物を思わせる。
 そして、その姿に香燐が思わず声をあげる。


 「何だ!? コイツは!?」

 「オレの部下だ」


 マダラの言葉があっても、怪しい姿に警戒が解けない。
 しかし、お構いなしに新たな侵入者ゼツから、木ノ葉での真相が語られた。


 …


 ゼツの説明で何があったかを語られた後で、マダラが語り出す。


 「オレの部下のペインが木ノ葉を潰した。
  しかし、やり過ぎた。
  ハデにやり過ぎたせいで五影が動き出した」

 「自業自得だな……」

 「そう言うな。
  お前の八尾の狩り方にも問題がある」


 マダラの言葉にサスケが押し黙ると、マダラは話を続ける。


 「ところで、気にならないか?
  新たに代わった火影について……ダンゾウについて」

 「?」

 「お前の兄を追い詰めた上層部の一人が、木ノ葉の火影になったということにだ」


 その言葉は、確実に引き金になる言葉だった。
 サスケの中で負の感情が膨れ上がっていく。
 隣に居るヤオ子にもピリピリとした感情が伝わる。


 (サスケさん……。
  ・
  ・
  お兄さんの死に関わる人です。
  割り切れるはずがないんだ……。
  だけど、あの目は──)


 サスケが必死にその感情を噛み殺そうとしているのが分かる。
 冷静に勤めようと、感情に流されまいと抵抗している。

 マダラが続ける。


 「そして、先の八尾の件と木ノ葉を潰したことで、五影会談が開かれる……。
  ダンゾウは、その時、火影として確実に現れる」

 「…………」


 ヤオ子はサスケの中で葛藤が起きているのを認識する。
 そして、こういう言い回しでサスケを利用しようとしていたのかと認識する。
 だから、分かった。
 この人物がマダラで間違いない……と。


 (お兄さんのことを口出ししていい資格を持っているのは、サスケさんです。
  サスケさんに考えることをさせるなきゃいけない。
  それ以外は、脇役です。
  ──あたしの役目が分かりました)


 嘘つきに対抗するには、嘘つきをぶつければいい。
 大事な人のことをサスケが考えられるように、この人物に利用されないように誘導すればいい。
 ヤオ子の頭が活発に動き出した。


 「どうする?」


 マダラの質問に鷹のメンバーは答えられない。
 全てが後手に回っている。
 目的を決める前にマダラと接触してしまったこと。
 その決定権を決めるリーダーであるサスケが不安定であること。
 今は意志を貫くにも、答えを返すにも、準備が整っていない。
 一人を除いては……。

 そして、部外者が口を挟む。


 「サスケさん。
  殺るなら五影会談にしましょう。
  ダンゾウは殺さなければいけない」

 「ヤオ子……?」


 ヤオ子はサスケと視線を合わすと、マダラから見て反対の方の目でウィンクする。
 自分に任せろと合図する。
 サスケも少し迷ったが合わせることにした。
 そして、サスケとヤオ子が木ノ葉を出て以来の共同作業を開始する。


 「マダラさんの情報は確かです。
  あたしも木ノ葉で聞いています」


 急に話し始めたヤオ子に今度はマダラが警戒し、当たり前の疑問を投げ掛ける。


 「お前は、何だ?
  新しいメンバーのようだが?」

 「サスケさんの部下──正確には、サスケさんの部下になるように命令されていたんですよ」

 「命令?」

 「うちはイタチ……。
  知っているはずです」

 「イタチか……」

 「イタチさんの写輪眼で、ある命令が刷り込まれていたんです。
  生前は、木ノ葉の情報をイタチさんに流す。
  そして、もう一つはあるスイッチが鍵でした」

 「スイッチ?」

 「木ノ葉の崩壊。
  突然、あたしがサスケさんの前に現れたのは偶然じゃないんです。
  木ノ葉の崩壊というスイッチで、サスケさんに協力するように仕向けられていたんです。
  ・
  ・
  その手の術に少し覚えがあるんじゃないですか?」

 「サソリの術を利用したか……」


 実は、ヤオ子のハッタリ。
 何でもありの忍の世界だから、通用した嘘。
 そして、ハッタリをかます上でのマダラへの期待。
 本物のマダラなら、老獪な知識を蓄えている。
 ある程度の嘘も知識が補うという敵の能力を信じた上でのハッタリ。

 案の定、マダラの知識にヤオ子のハッタリは引っ掛かった。
 しっかりとサソリという部下の知識から、該当する術を補ってくれた。

 ヤオ子は、心の中でにやりと笑うと続ける。


 「あたしは、サスケさんの望むものを与えます。
  そして、邪魔をするなら、あたしが排除します。
  ・
  ・
  今のあなたの情報は必要で有意義です。
  確実に狙える日程と場所が分かるのは、サスケさんの復讐を完遂させるのに重要です。
  ・
  ・
  特にダンゾウ、ホムラ、コハル。
  この三人は、楽には殺さない。
  自ら殺すことを懇願するまで痛めつけて殺す。
  そして──」

 「ヤオ子……もういい」


 ヤオ子はサスケを見ると黙る。
 バトンタッチ。
 ここからは、サスケがハッタリを掛けると目が訴えていた。

 ”マダラの任務へのやる気を見せる”

 サスケは、ヤオ子の狙いがそこにあると思って話を続ける。


 「マダラ。
  さっきの用件……ダンゾウの抹殺でいいんだな?」

 「五影会談でハデに暴れてくれればいい……」

 「そうか……。
  なら、協力してやる。
  ダンゾウを殺すのは、オレだからだ。
  ・
  ・
  ただし、少し時間を貰うぞ」

 「何故だ?」


 サスケは、ヤオ子を指す。


 「コイツの洗脳が浅い。
  木ノ葉で一般の忍として温い生活をしていた時と、イタチに付き従っていた時の状態が混同している。
  これでは使い物にならん。
  写輪眼で刷り込み直す」

 「使えるのか?」

 「一応、コイツと戦闘をしている。
  イタチが使っていた忍だけあって、幾つか使える術を習得している。
  ・
  ・
  最悪、術だけでも頂いて死んで貰う」


 サスケは、ヤオ子を見る。


 「オレのためなら、死んでくれるんだろう?」

 「サスケさんが望むなら……」


 マダラは仮面の中で唇を吊り上げると、機嫌よく伝える。


 「一日待つ。
  場所と日時は、その時、教える」

 「分かった……」


 マダラは空間を歪ませると、ゼツと共に去った。
 サスケも無言で移動を開始すると、ヤオ子と鷹のメンバーが続く。
 そして、宿場町までの移動で暁の尾行がないのを確認した。



[13840] 第98話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:15
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 小隊・鷹は、宿場町を目指して森の中を移動している。
 まだ町は遠く、移動速度もかなりのスピードを維持している。
 ヤオ子がサスケに話し掛ける。


 「付けられたりしていませんよね?」

 「ああ。
  そんな気配はない。
  ・
  ・
  香燐。 どうだ?」

 「近くで移動しているチャクラは、ウチらだけだ」

 「よし」


 ヤオ子はデイバッグに手を突っ込むと鰹節を取り出した。



  第98話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦編



 散々、警戒させて取り出した鰹節に全員の目が不審の目に変わる。
 ヤオ子は、更に腰の後ろの道具入れからクナイを取り出すと一振りする。
 薄くスライスされた鰹節を取るとマジックを取り出し、文字を書いてサスケに渡す。


 「何で、わざわざ……」


 サスケが鰹節に目を移す。


 『発信機か盗聴器が仕掛けられている可能性があります。
  マダラさんに感知されたのが気になります。
  一度、チェックしてから宿場町で会議をしたいです。
  会話もあまりしたくないです。
  読んだら、次の人に回してね』


 サスケは、尤もだと思うと鰹節を香燐に渡す。
 香燐から水月へ。
 水月から重吾へ。
 重吾からタスケへ。


 「なるほどな」


 タスケは鰹節を口に放り込むと処分した。
 サスケ達は鰹節を使った理由がようやく分かる。


 ((((あれなら証拠も残らない……))))


 その後、宿場町が近づくまで終始無言。
 そして、サスケの合図で木々を飛び移るのを止めて、地面に下りた。


 …


 早速、サスケはヤオ子に話し掛ける。


 「マダラへの盗聴を気にしているんだな?」

 「あの……手紙で伝えた意味ないんで、
  いきなり、そういうことを口にするの止めてくれません?」

 「構わない。
  アイツらだって『それなりの能力』と口にしていた以上、こちらが警戒するのも承知の上だ。
  だが、位置を知られるのも盗聴されるのも、今後は避けなければならない」

 「はい」

 「そこで確認するが、発信機を付けられたとすれば、ヤオ子以外の可能性が高いと思わないか?」


 水月が相槌を打つ。


 「だろうね。
  ヤオ子が入ったのは偶然だからね。
  だとしたら、その前に接触していたボクらと考えるべきだろうね」

 「ああ。
  だが、そんなものを付けられた記憶はない」


 香燐が補足する。


 「その通りだ。
  それにチャクラを使ったものなら、ウチが感知できる」

 「そうなると奴らの能力だな」


 重吾が自分の予測を言う。


 「発信機は兎も角、オレは、盗聴や監視は行なわれていないと思う」

 「何故だ?」

 「八尾が偽物と分かったのが、奴らに渡した後だからだ。
  もし、奴らに監視や盗聴といった類の能力があるなら、八尾の偽物を渡す前に気付いていたはずだ。
  そう考えると何らかの発信機とこ─もしくは、香燐のようにチャクラを感知する能力を持っていて、
  そこに向かって現れたと考えるのが自然だ」

 「なるほどな……。
  そうなると盗聴や監視を気をつけるのは、奴らが現れた時だけでいいな。
  ・
  ・
  香燐。
  任せられるか?」

 「ああ。
  任せとけ」

 「頼む。
  ・
  ・
  ヤオ子。
  これでいいか?」


 ヤオ子が頷く。


 「はい。
  安心しました」

 「行くぞ。
  宿場町に着いたら──」

 「お風呂に入りたい!」

 「ヤオ子……お前な!」

 「美味しいご飯も食べたい!
  面倒ごとは、それから!」


 サスケが手で額を覆う。


 「ウチも賛成!」

 「ボクも!」

 「任せる」

 (重吾以外は、どうしてこんなに扱いづらいんだ……。
  本来、殺人衝動を持っている重吾が、一番手が掛かるはずなのに……)


 小隊・鷹のリーダーの役割は、精神的負担が大きい役目のようだった。


 …


 宿場町に着くと早速、各々、宿屋に設けられている露天風呂へと向かった。
 そして、珍しくヤオ子は騒ぎを起こさず、皆より先に風呂を上がっていた。
 風呂上りに手に持っているのは、全員分の服である。
 タスケが服を持つヤオ子に近寄る。


 「匂いで分かりますか?」

 「ああ。
  変な匂いがあればな」


 ヤオ子が板の間に服を置くと、タスケが慎重に嗅ぎ分ける。


 「分からないな……。
  特に何かを付けられたような感じはしない。
  特殊な忍術で炙り出さないと分からないのかもしれんな」

 「特殊な忍術?」

 「ああ。
  例えば、自分以外を完全に見分ける忍術とかな」

 「何それ?」

 「瞳術なんかでありそうだな。
  チャクラを見分ける瞳術があるんだから、真か偽かを見分ける瞳術とか」

 「でも、今は手持ちに、そんな都合のいい術はないんでしょ?」

 「ああ」


 ヤオ子は諦めて溜息を吐く。


 「重吾さんの予想を信じるしかありませんね」


 ヤオ子は再び服を持つと洗面所に向かう。


 「何するんだ?」

 「洗濯」

 (マメな奴……)


 ヤオ子は全員分の服を綺麗に手洗いすると、宿の人に断りを入れて服を干した。


 …


 ヤオ子が部屋に戻り、全員が揃うことになる。
 服を干しているため、全員浴衣姿。
 今後の話をするため、輪を作って囲むと、ヤオ子は途中で購入した服の生地に少しマーキングして鋏で切り始める。
 サスケから、突っ込みが入る。


 「会議をするのに、何をしているんだ?」

 「会議は口でするものです。
  手は、何をしていてもいいでしょう。
  ・
  ・
  始めてください」


 サスケは溜息を吐くと、カーテンを締めて部屋を覗かれないようにする。
 そして、香燐に警戒を再度頼むと話し出す。


 「まず、ヤオ子のことから話す。
  コイツは、木ノ葉に居た時の知り合いだ。
  オレが少し修行をつけてやった。
  期間は極めて短い……。
  そんな短い期間の関係しかないのに、
  コイツは木ノ葉でオレの抹殺命令が出たから、心配してここまで来てくれた」


 香燐が意外そうにヤオ子を見る。


 「お前、情に厚いんだな……」

 「はい」


 サスケが続ける。


 「まあ、そんな感じの仲だ。
  そして、コイツは、ある可能性を示してくれた。
  ・
  ・
  オレは……復讐よりも優先すべきことを見つけることが出来た」

 「それがイタチの体を奪還することなのか?」


 香燐の問い掛けに、サスケが頷く。


 「そうだ……。
  イタチを汚した人物にイタチの体を預けておくわけにはいかない」


 サスケの瞳には、今までにない意思が宿っている。
 恨みや憎しみではないもの……兄への想い。

 ヤオ子は微笑む。
 きっと、これがヤオ子に会う前のサスケ……。
 兄弟が仲良く過ごしていた頃のサスケ……。


 (こっちの方がいいですね……)


 サスケがヤオ子を見ると、話し掛ける。


 「さっきのマダラとの会話……。
  意図があるんだろう?」

 「はい。
  ・
  ・
  サスケさんも気付いてるんでしょ?」

 「多分な。
  だが、お前の予想はいい意味でも悪い意味でも、時々、斜め上を行くからな。
  お前が説明しろ」

 「何で、いつも命令口調なの?」


 その質問には水月が答える。


 「サスケは、誰に対してもこんな感じだよ」

 「やっぱり?」

 「「ああ」」


 そして、肯定には香燐も加わった。


 (水月……。
  香燐……。
  随分とヤオ子と打ち解けたじゃねーか……)


 サスケの機嫌が悪くなったのを微妙に感じ取ると、ヤオ子が咳払いを入れて、切り終えた生地を縫いながら説明する。


 「では、説明します。
  え~と……。
  ダンゾウさんは、ぶっちゃけるとどうでもいいんです。
  あの会話の意図は、マダラさんを五影会談に釘付けにするのが目的です。
  マダラさんが五影会談で何かをしている隙に、
  マダラさんのアジトから、イタチさんの体を取り返そうと考えたんです」

 「やっぱりか……。
  だが、それだとオレ達が居ない時点でバレるぞ」

 「はい。
  小隊を二分します。
  マダラさんを監視する意味でも、香燐さんはマダラさんの側に置きたいです。
  そして、護衛を考えて水月さんと重吾さん」


 香燐が反論する。


 「何で、その分け方なんだ!?」

 「サスケさんは、マダラさんのアジトに行くのを外せないでしょ?
  ボディガードをして貰うのに、あたしとそっちの二人とどっちがいい?」

 「ヤオ子か……水月と重吾?」


 香燐が見比べる。


 「ヤオ子の能力の詳細が分からない以上、仕方ないか……」

 「そういう訳です。
  ただ、これだと問題もあります。
  マダラさんに返り討ちにあう可能性があります」


 水月が不満顔でヤオ子に問い掛ける。


 「ヤオ子。
  ボクを信用していないのか?」

 「いいえ。
  例え、サスケさんを向かわせても不安は消えません。
  マダラさんの能力の得体が知れません。
  突然、現れて消える。
  説明できますか?」

 「それは……」


 サスケも意見を加える。


 「それだけじゃない。
  アイツは、すり抜けた」

 「「「すり抜けた?」」」

 「恐らく奴の能力だ。
  以前、奴に仕掛けてそのまますり抜けたんだ。
  得体が知れないのは確かだ。
  この謎を解かないと倒せない」


 サスケの意見に、ヤオ子が頷く。


 「あたしも、そう思います。
  そして、そこに送り込むというのは自殺行為です」

 「お前、矛盾したことを言ってないか?
  それじゃあ、ウチは監視できないだろう?」


 ヤオ子は半分縫い終わった服を置いて、タスケを抱く。


 「そこでタスケさんの出番です」

 「は?」


 タスケが思わず素っ頓狂な声をあげる。


 「タスケさん。
  口寄せの契約をお願いします」

 「ん?
  ・
  ・
  何っ!?」

 「ちょうど、四人分空いていましたよね?」

 「待て!
  オレは自分の認めた忍としか契約しない!
  会って間もないコイツらを、どうやって認められる!」

 「困りましたね。
  タスケさんが契約しないことには作戦が立ちません」


 タスケはヤオ子をジト目で見る。


 「……お前、何を考えた?」

 「時空間忍術によるネットワーク」

 「試しに聞いてやる。
  どういうことだ?」

 「五影会談にはタスケさん一人で行って貰います」

 「?」


 全員の顔に疑問符が浮かぶ。


 「マダラに聞かれたら、こう答えてください。
  『ダンゾウを確認したら、時空間忍術でサスケ達を呼び出す』って」

 「そういうことか……」


 タスケは理解した。


 「侵入だけなら、オレ一匹の方が確実だ。
  そして、ダンゾウを確認してからが作戦の開始。
  アジト付近で……香燐だっけか?
  そいつらをオレの逆口寄せで呼び出したら、ヤオ子達がアジトに侵入。
  五影会談で、香燐はマダラを監視。
  水月と重吾は香燐の護衛、兼、暴れて時間稼ぎ」

 「さすがタスケさん。
  長い付き合いです。
  ・
  ・
  そういう訳で、契約をしてくれませんか?」


 タスケは溜息を吐く。


 「仕方ないか……。
  ただ、巻物の順番は決めさせて貰うぞ。
  一番目の空欄は、サスケだ。
  ・
  ・
  それ以外は、好きにしろ」


 タスケは首に下がる巻物をサスケに投げる。
 サスケは巻物を受け取ると、開いて中を確認する。


 「ヤオ子は、契約済みなのか。
  ・
  ・
  何で、順番が関係あるんだ?」


 タスケは耳をピクピクと動かし、サスケに視線を向ける。


 「あとで、お前には話がある」

 「ああ……」

 (何故、見知らぬ猫がオレに……。
  ヤオ子の飼い猫だからか?)


 サスケは巻物に自分の名前を書き込み、血判を押すと水月に巻物を渡した。
 巻物は、次々にメンバーに回る。


 「あの……。
  勝手に巻物渡して契約してるけど……。
  ・
  ・
  あたしの作戦で決定なの?」

 「「「「え?」」」」

 「いや、説明もまだ途中なんだけど」


 サスケが少し固まった後に口を開く。


 「その猫が巻物を投げて寄こしただろう……。
  だから……つい」

 「どうします? タスケさん?」


 後の祭りだった。
 タスケは、両手で頭を押さえている。


 「勢いでやっちまった……。
  続きを説明してくれ……」

 「そうですね。
  もう、話すしかないですね。
  ・
  ・
  え~と……。
  マダラさんのアジトでイタチさんの体を見つけたら、あたしかサスケさんがタスケさんを口寄せします。
  そうしたら、香燐さん達が逆口寄せを『解』してください。
  あとは、マダラさんのアジトの近くの作戦開始地点で落ち合って、逃走開始です」


 サスケは腕組みをして考えている。
 他のメンバーも、それぞれ頭の中でおさらいをする。
 そして、サスケが話す。


 「悪くない……。
  あとは、逃走経路さえ確保できれば……だな」

 「ボクも少しいいかな?」


 水月が軽く手を上げる。


 「ボクらは、囮でもあるけどさ。
  誘導するのも有りだと思うんだ。
  ・
  ・
  マダラの奴は、ダンゾウをボク達にやらせたがっているように感じただろ?
  つまり、ダンゾウを殺すことが目的のはずだ。
  ダンゾウをマダラに仕留めさせれば、更に時間が稼げるはずだよ」

 「なるほどな。
  その作戦も使える。
  土壇場で水月達が戦いを放棄すれば、マダラは戦わざるを得ない」

 「そういうこと」


 重吾が残った問題を口にする。


 「問題は逃走経路だけか……。
  ・
  ・
  これも時空間忍術で何とかならないか?」


 全員の視線がサスケに集まる。


 「編成を三つに分ける。
  オレは、マダラのアジトでイタチの体を取り返す。
  香燐達が五影会談。
  そして、ヤオ子。
  お前は、安全な場所で待機。
  ・
  ・
  流れは、ほとんど同じだ。
  タスケが香燐達を呼び出す。
  五影会談の場所で時間稼ぎの作戦開始。
  ↓
  オレがイタチの体を取り返す。
  この時、ヤオ子の影分身と行動を共にする。
  影分身を解いて、ヤオ子に情報が入る。
  ↓
  ヤオ子がタスケを口寄せ。
  タスケがオレ達を逆口寄せ。
  ヤオ子の居場所が安全地帯なら逃走成功だ」

 「「さすが、サスケ(さん)」」

 「なるほどね」

 「いい考えだ」


 しかし、今度は、ヤオ子が腕を組む。


 「でも、安全地帯って?」

 「結界忍術を使った、オレ達のアジトだ。
  大蛇丸のアジトをお前に教える。
  そこに結界忍術を張って行方をくらます」

 「なるほど……。
  でも、一時的でしかないですね?」

 「ああ。
  だが、次の行動を考える時間を確保できる。
  結界内なら感知されないからな。
  結界内を出て必要物資を揃える時は、発信機を付けられていないと思われるヤオ子を使う」

 「作戦は、決まりましたね」


 全員が頷く。


 「ただ、用心は怠るな。
  ヤオ子が、既に発信機の類を付けられた可能性もあるし、
  マダラが香燐のようにチャクラを感知して時空間忍術で飛んで現れているなら、
  オレ達の作戦は終了して、戦闘に移行だ。
  情報の少ないマダラとの戦いになる」


 再び、全員が頷く。


 「作戦会議は、以上だ。
  以降は、なるべく余計な会話は慎め」


 サスケは立ち上がるとカーテンを開ける。
 そして、ヤオ子の手の中でいつの間にか服が一着出来上がっていた。
 ヤオ子は、それを重吾に渡す。


 「お洗濯したんですけど、上の方がなかったんで。
  合わせてみてください」

 「オレにか?」

 「はい」


 重吾は服に袖を通す。
 しかし、かなりぶかぶかだ。


 「おかしいなぁ。
  ズボンの大きさからすると、これぐらいだと思ったんだけど」


 鷹のメンバーは思い出す。


 「「「いつ元に戻るんだ?」」」

 「分からない……。
  材料が足りないのでな」

 「元って、何?」


 ヤオ子だけが首を傾げる。
 重吾の体は、八尾と戦ってサスケを助けて以来、元に戻っていなかった。
 とはいえ、小隊・鷹はイタチの体を取り戻すために動き出した。



[13840] 第99話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・深夜の会話編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:16
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 深夜……。
 宿の屋根の上で、ヤオ子はタスケを膝に置いて座っている。
 浴衣姿で髪は下ろし、月を見上げてタスケの喉元をゴロゴロと撫でている。


 「月明かりで、こんなに明るい……」


 目を閉じると太陽の暖かさとは違う神秘的な力を感じる気がする。
 流れる風も心地がいい。



  第99話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・深夜の会話編



 ヤオ子は、サスケを待つタスケの時間潰しの相手だ。
 タスケの喉元を撫でながら、ヤオ子が質問する。


 「ねぇ。
  サスケさんにお話って、何ですか?」

 「ん? う~ん……。
  ヤオ子にも言えないことだな。
  依頼主に関係があるからな」

 「依頼主?
  また伝言のお仕事ですか?」

 「そんなところだ。
  ・
  ・
  それより、お前は大丈夫なのか?」

 「何が?」

 「サスケが、お前に大蛇丸から教わったっていう結界忍術を伝授してただろう」

 「ああ。
  さっき、試しました。
  結界内の水月さんのチャクラを感知できなくなっていました」

 「一発で成功したのか?」

 「そうなんですけど……。
  微妙ですよね~」

 「サスケの言ってた、あれか?」

 「はい。
  『心にやましいことがないと成功しない……。』
  一発で成功したあたしの心は穢れているんですかね?」

 「お前、自分の心が聖女みたいに綺麗だとでも思っているのか?」

 「思ってます。
  包み隠さない本能!
  綺麗です!」

 「隠せ。
  理性で覆い隠せ」

 「ヤダ。
  あたしから、本能を取ったらエロいことを考えられなくなる」

 「いい傾向じゃないか」

 「あたしの魅力の八割がなくなりますね」

 「……八割かよ」

 「八割です」


 タスケが溜息を吐いた時、サスケの姿が視線の隅に引っ掛かった。
 タスケは直ぐに起き上がると、ヤオ子の膝を飛び降りる。


 「じゃあ、こっからは秘密の会話だ。
  お前は、寝ていいぞ」

 「……そうします。
  ・
  ・
  サスケさん。
  明日、今日の分もお話ししましょうね。
  今日は、タスケさんに譲ります」

 「ああ」


 ヤオ子は、そそくさと撤退した。
 月明かりに照らされた屋根の上では、サスケとタスケが見詰め合っている。
 タスケはちょこんと座ると、左の前足で隣を叩く。


 「座ってくれ。
  人間の視線に合わせるのは、首が疲れて大変なんだ」


 サスケは無言でタスケの横に腰を下ろした。


 「何から話すべきか……。
  やっぱり、自己紹介からかな。
  ・
  ・
  知っていると思うが、オレの名はタスケだ。
  お前と一字違い」

 「妙な縁だ……」

 「確かにな。
  だけど、偶然じゃない」

 「?」

 「オレの名付け親は、イタチだからだ」


 サスケは、タスケの意外な言葉に驚いた。


 …


 タスケは首から巻物を外すと広げる。
 そして、サスケの名前の書いてある部分に前足を置く。


 「ここにイタチの名前があったんだ。
  オレの最初の主人だ」

 「どういう関係なんだ?」

 「それを話そうと思っていた。
  本当は、心に留めておくつもりだったが、ヤオ子を見ていられなくてな」

 「ヤオ子?」

 「ああ。
  アイツ、根が明るいから微妙にしか分からないが、少しいつもより無理しているんだ。
  お前が自分を取り戻す手助けをしようとしてる」

 「そうなのか?」

 「そうだ。
  アイツだって、お前と同じだけ歳を重ねている。
  少し大人になって馬鹿する頻度も減ってる。
  イヤでも周りの常識が入って来て影響を受ける。
  ・
  ・
  だから、お前と居るヤオ子を見ると、少し前のヤオ子が頭を過ぎる。
  と言っても、根はあれだからな。
  本当に些細な違いだ」


 サスケは少し視線を落としたあと、月を見上げる。


 「ヤオ子に心配を掛けているのか……。
  ・
  ・
  それだけ変わってしまったんだな……オレは」

 「人の生き様を否定する気はない。
  それにそうなったのは、イタチのせいでもある」

 「そういう言い方は気に入らないな」

 「そう言うな。
  復讐をさせたのがイタチなら、その後の対策も立ててあるのがイタチだろ?」


 サスケは額に手を置く。


 「何だか、兄さんに全てを見透かされてるみたいで、気味が悪いな……」

 「それだけイタチのお前に対する想いが強いってことだ。
  大事に受け取ってやればいい。
  ヤオ子の言う通り
  『イタチの想いを受け取れるのはお前だけ』なんだから」

 「……分かっている」


 タスケはサスケと少し話したことで幾分か話し易くなり、肩の力を抜く。
 警戒して話す相手ではなくなった。


 「オレが話すのは、お前にイタチの一面を伝えるためだ。
  本当は、イタチ自身に誰にも言うなと口止めされていたが、依頼主のイタチが居なくなったから話すことにした。
  これを聞いて、少しでも昔の自分を取り戻す材料にしてくれ。
  そうなることが、ヤオ子の負担を軽くすることでもあるからな」

 「ああ……」


 タスケは、ゆっくりと自分の過去を話し始めた。


 「……オレが初めてイタチと会ったのは、うちはの隠しアジトの一つだった。
  ・
  ・
  当時、オレは親猫を亡くして、自分が忍猫だとも気付かないでエサを求めて彷徨っていた。
  子猫のオレは、エサも満足に取れずに行く先も分からずに歩いていた。
  雨が降って、仕方なく雨宿りをした御堂。
  そこで疲労から眠りについた。
  ・
  ・
  そして、次に気が付いた時にはイタチの膝の上で、背中を撫でられていたんだ。
  親猫を失って、久々に感じた温もりだった。
  ・
  ・
  お腹が鳴ると、イタチは少し笑ってた。
  何かを言っていたが、分からない。
  オレに忍猫としての力が目覚めてなかったのか、言葉を理解していなかったのか思い出せないんだ。
  でも、差し出された握り飯に夢中でがっついていたのは覚えている。
  それから、暫くするとイタチは去った。
  ・
  ・
  オレは、毎日、御堂でイタチを待っていた。
  不思議とイタチの雰囲気に吸い寄せられたんだ。
  イタチは、毎日じゃないにしろ、時々、顔を見せた。
  そして、その都度、オレを膝に乗せて話し掛けていた。
  ・
  ・
  そのせいか……。
  オレは、何時しかイタチの言っている言葉を理解できるようになっていた。
  だから、ある日、話し掛けたんだ。
  『ありがとう。
   握り飯旨かった』って。
  ・
  ・
  イタチは驚いていた。
  ただの猫だと思っていたから、話し掛けていたんだからな。
  忍猫と知って、困った顔をしていた。
  ・
  ・
  イタチは、お前のことや木ノ葉のことを話していたんだ」

 「兄さんが──当然だ……。
  あんな辛いことを胸に仕舞ってなんておけない。
  何処かで吐き出さなければ心が壊れてしまう」

 「オレもそう思う。
  だから、オレはイタチと契約したんだ。
  『お前が主人になれば、誰にも話さないって』
  ・
  ・
  イタチは信じてくれた。
  そして、信頼の証としてオレに名前を付けたんだ。
  大好きな弟の名前を一字変えて『タスケ』と」

 「それで名前が似ているのか……」

 「そうだ。
  ・
  ・
  オレは、それからイタチに忍術を少し学んだ。
  簡単な基礎を教わり、風の性質変化を覚えた。
  それ以降は、動物の領域だから独自で自分の動きにしていった。
  そして、初の仕事で手に入れた金で、この巻物を買ったんだ。
  ・
  ・
  イタチに契約して貰いたくてな」


 タスケは少し照れている。
 サスケは照れているタスケを見ると、イタチが内面は変わらない尊敬できる兄のままだったんだと再認識する。
 タスケは話を続ける。


 「イタチは契約してくれた。
  オレは認められたんだと、凄く嬉しかった。
  それからはイタチの依頼で情報収集をしたり、伝言を伝えたりと駆けずり回った。
  ・
  ・
  ヤオ子と知り合ってからは木ノ葉に入る口実も出来て、木ノ葉の内情も少し伝えた。
  ヤオ子には悪いが、利用させて貰っていた。
  ・
  ・
  そして、数年後のある日……イタチの死期が近いことを知らされた。
  付き合いもここまでだと言われた。
  『許せタスケ』ってご突かれたら、どうしようもなく嫌だったが受け入れるしかないように思えた。
  ・
  ・
  巻物からイタチの名前が消えたのは、それから数日後だった」


 サスケが巻物に書かれた自分の名前に目をやる。


 「そこに……お前だったら、名前を書いてもいいと思ったんだ。
  ・
  ・
  イタチの意志を継ぐと言った……サスケなら。
  ・
  ・
  ……これが、オレがお前に伝えられるイタチの思い出だ。
  今度の戦いでは、しっかり呼んでくれ。
  イタチは契約をしてくれたが、口寄せしたことはなかったから。
  オレは、誇れる主人に呼び出されたいんだ。
  一匹の忍猫として」


 サスケは巻物を巻き直すと、タスケの首にしっかりと付ける。


 「……ありがとう。
  ・
  ・
  今度の作戦は、絶対に成功させる。
  お前もイタチの意志を継いだ者だった。
  オレ達なら出来るはずだ」

 「ああ。
  優秀なオレの部下も居るしな」

 「ヤオ子のことか?」

 「そうだ。
  あれは、オレの部下だ」


 サスケは軽く微笑むと手を差し出す。


 「これから、よろしく頼む」

 「任せろ」


 タスケがサスケの手に前足を乗せる。
 この日、イタチの意志を継ぐ者が、もう一人増えたのだった。



[13840] 第100話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦開始編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:16
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 翌日……。
 マダラとゼツがサスケ達の泊まっていた宿に現れた。
 やはり警戒していても、どのように現れたか分からない。
 チャクラを感知できる香燐も、突然、現れたようにしか思えなかった。
 マダラがサスケに話し掛ける。


 「洗脳は終わったか?」

 「ああ……。
  ほとんどすることもなかった。
  コイツは、本当にオレの犬になっている」

 「そうか……。
  では、日時を伝える。
  場所は、ゼツが案内する」


 ゼツと呼ばれる暁のメンバーは、黒と白の半身を真っ二つに裂きそれぞれ独自に行動をする。
 白い半身が拡張し、失った半身を補うとサスケに声を掛ける。


 「行こうか」


 サスケは首を振ると、タスケが前に出た。


 「潜入なのだろう?
  オレ達は、この忍猫を使わせて貰う」


 マダラとゼツ達の視線がタスケに移った。



  第100話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦開始編



 マダラがサスケに質問する。


 「どういうシナリオなんだ?」

 「会談と言うんだから、何処かの会場で行なうんだろう?
  だったら、潜入は忍猫一匹の方がいい。
  ・
  ・
  この忍猫とは契約済みだ。
  お前達がしっかりとダンゾウの近くまで案内してくれれば、この忍猫の逆口寄せで一気に仕留められる」

 「そういうことか……」

 「五影の会談だ。
  感知タイプを連れている可能性がある場所に、ぞろぞろと小隊で動けば直ぐにバレる。
  ・
  ・
  とは言え、モタモタされても困る。
  もし、そっちが手間取るようなら、香燐を呼び出せ」

 「了解した。
  ゼツ。
  その忍猫と五影会談に向かえ」

 「分かった」


 白い方のゼツが動き出すと、タスケは無言で後に続いた。
 そして、マダラも動き出す。


 「あんたも動くのか?」

 「ああ。
  少し別行動を取る。
  ・
  ・
  安心しろ。
  お前達の援護はしてやる」


 マダラとゼツの黒い方が空間へと消えると、サスケ達は視線を合わせて頷く。
 そして、小隊・鷹はマダラのアジトの場所へと移動を開始した。


 …


 マダラのアジトに向かう途中で、ヤオ子は影分身を一体出す。
 そして、本体は小隊を離れて、サスケに教えて貰った大蛇丸のアジトへと向かう。
 まず、ヤオ子の行動から追って行く。


 …


 ヤオ子は小隊を離れると、約一時間ほど走り続けた。
 位置的には木ノ葉の近くにあたる。
 この大蛇丸のアジトは固い土の山肌の中腹にあるため、徐々に草木が減り、道は土の路面へと変わっていく。
 ヤオ子が山道を上がって暫くすると道は途切れて、大小の岩肌が姿を見せる。
 その道なき道を無理に進むと大岩が現れる。

 サスケに言われた通りに、近くの小岩を持ち上げると鎖の付いた輪を発見する。
 それを引くと大岩が音を立ててズレ始めた。
 そして、人の通れる隙間が出来るとヤオ子は中に進んだ。


 「こんなものが各地に点在しているんですね」


 ヤオ子は中に入ると、壁近くにある輪の付いた鎖を引く。
 大岩は、再び入り口を閉ざした。

 奥へ進む。

 中は、かなり広く生活用品も十分にある。
 ヤオ子は、まずアジト全体を隅から隅まで走って内部の地図を頭に入れることにした。
 そして、地図を頭に叩き込むと、アジトを囲むことが出来るように円を描くように結界忍術の範囲を決める媒体である杭をアジトの各場所に打ち込んでいく。
 この杭には忍文字が書かれ、文字の媒体の炭にはヤオ子の髪を燃やした灰を練り込んである。
 杭と杭を結ぶと楕円になるように下準備を終えると、ヤオ子は楕円の中心になる場所に移動する。


 「昨日試した時よりも、かなりの広範囲です。
  練り込むチャクラも沢山必要ですね」

 (効果は、約一ヶ月……)


 ヤオ子は目を閉じると集中する。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子の禍々しいチャクラがどんどん練り上がり蓄積されていく。
 そして、サスケに教えて貰った印を結ぶと地面に両手を叩きつける。


 「結界忍術!
  蛇円封演舞!」


 ヤオ子のチャクラが印を通して出来た両手の形態変化通ると、巨大な蛇をモチーフにしたチャクラがとぐろを巻くように円を描いて広がっていく。
 杭の境界まで広がると蛇はアジト内にとぐろを巻いて埋め尽くされる。
 ヤオ子が、更に印を結ぶ。


 「起!」


 蛇をモチーフにしたチャクラは、アジト全体を包んで溶けると辺りに馴染んでいく。
 アジトは結界に包まれると、再び静けさを取り戻した。


 「成功……ですね。
  アジト内は蛇のお腹の中です。
  外側からチャクラや生命エネルギーを感知しても、一匹の蛇としか認識できません」


 ヤオ子は、一息つく。


 「あとは、サスケさんがイタチさんの体を手に入れて、
  影分身が『解』して情報が還元されるのを待つだけです」


 ヤオ子は辺りを見回す。


 「とりあえず、久しぶりのアジト訪問のようだから、お掃除をしましょうか」


 ヤオ子は、大蛇丸のアジトでの掃除を始めた。


 …


 五影会談の行なわれる侍の治める鉄の国……。
 気候は、一気に変わり冬になる。
 タスケは少しハズレくじを引いた感じを覚えながらも、白いゼツと会談の行なわれる会場付近まで来ていた。


 「付き添いが猫一匹だから、潜入は簡単だったな」

 「ここからは、別行動にする」

 「何故だ?」

 「通気口とか通る時、オレに合わせるか?
  結構、入り組んだところも通るけど」

 「……そうだな。
  ここで別れよう」


 タスケは頷くと、猫ならではの動きで屋根まで駆け上がり、直ぐにゼツの視界から消えた。


 「素早いな……。
  あれで狭いところに潜られたら分からない」


 ゼツは、そこから地面へと姿を消すと辺りには雪景色だけが残った。


 …


 タスケは通気口から会場に侵入すると、狭い梁を器用に進み、会場内の警備を確認する。
 長年続けてきた情報収集の任務の経験と勘から、梁の中央よりやや手前の死角で静かに蹲ると耳に神経を集中する。
 複数の足音を聞き分けて、今まで蓄積してきた行動パターンと照合する。


 (この階っぽいな……。
  警備の巡回にパターンもあるとなると、この先か一つ通路を挟んだ反対側か……。
  ・
  ・
  兎に角、呼び出すならここだな。
  陽動を兼ねて、一階までずらかるか。
  あとは、オレのタイミング次第だな)


 タスケは慎重にタイミングを測っていた。


 …


 一方のサスケ達は、ヤオ子やタスケが目的地に到着する前にマダラのアジトの近くに到着していた。
 皆、無駄な会話はせずにタスケの呼び出しを待っている。

 ヤオ子にとっては、作戦前でここまで緊張感が漂うのは初めての経験だった。
 下忍のヤオ子は、任務ではいつも中忍か上忍がついているので、重要な戦力と数えられることがなかった。
 また、対等ではなく守られる立場がほとんどだった。

 一応、対等の戦力として活躍した場面もあったが、それは木ノ葉崩しなどであり、突然で考える暇もなかった。
 しかし、今回は違う。
 明らかに格上で自分より強いと分かっている、正体不明の敵に仕掛ける任務なのだ。


 「影分身とは言え、
  本体のコピー人間だから緊張するんですよね」


 影分身のヤオ子の言葉に、香燐が反応した。


 「お前、緊張してんのか?」

 「はい。
  多分、一度動き出せば流れに任せるので平気だとは思うんですけど……。
  この始まる前の妙な気分が落ち着かなくて」

 「ウチも少し分かるな。
  特に今回は、ナイトが水月だし」

 「どういう意味さ? 香燐」

 「そのまんまだ。
  サスケなら頼りになるのに」


 水月と香燐が睨み合う。
 ヤオ子は、そんな二人を次のように分析した。


 「二人は、好きあってるの?」

 「「は?
   ・
   ・
   ハァ!?」」

 「喧嘩するほど仲がいいって言うし……。
  幼馴染の……ツンデレって言うんですかね?
  そういうシチュエーションを想像しますけど?」

 「「違う!」」

 「そうなの?」

 「ボクは純粋に香燐が嫌いなんだ!」

 「ウチも純粋に水月が好かない!」

 「そうなんだ」

 「「そう!」」


 ヤオ子の影分身がサスケを見る。


 「大変ですねぇ」

 「まあ、今日は、まだマシな方だ。
  酷い時は、重吾の殺人衝動を揺さぶるぐらい暴れるからな」

 「……嘘?」

 「「本当だ……」」

 「どうしようもない子供みたいですね」


 水月と香燐は、少しふてくされている。


 「まあ、今ので少し緊張が解けました。
  いつでも行けます。
  ・
  ・
  サスケさん。
  知っている範囲でいいんで、アジトの内部地図を教えて貰えますか?」

 「ああ」


 サスケとヤオ子の影分身の事前打ち合わせが始まった。
 残された水月達が、そんな二人を見る。


 「あのヤオ子って言うのは、よく分かんないよね」

 「そうだな。
  初めて襲ってきた時は、凄腕の忍かと思ったら、木ノ葉の下忍らしいし。
  会話しててもウチより格下な感じだ」

 「敬語だからな。
  少し間違った遣い方をしているが」

 「…………」


 重吾が呟く。


 「あの目だ……」

 「何さ?」

 「ヤオ子の目は、言葉以上に語る。
  襲って来た時と同じ目……。
  きっと、冗談なしに真剣だ」

 「気負っているの?」

 「そうかもしれない」

 「違うな」


 水月と重吾が香燐を見る。


 「経験不足なんだよ。
  忍のクセに経験が浅いから、変なところで緊張するし気負うんだよ」

 「経験不足か……」

 「その経験不足のヤオ子に手玉に取られたボクらは、何なの?」

 「油断し過ぎてたんだよ。
  あのガキのなりだ」

 「そっか……。
  なら、今度は真剣に手合わせしたいね」

 「ウチは、ゴメンだ」

 「重吾は?」

 「殺人衝動が表れない程度にな」

 「はは……。
  そうだね……」


 そして、暫く会話が止まった後で、水月達がタスケに呼び出され煙になって消えた。
 サスケと影分身のヤオ子がそれに気付くと、地面に書いたアジト内部の見取り図を足で消す。


 「行くぞ……ヤオ子」

 「はい!」


 サスケと影分身のヤオ子は、マダラのアジトに向けて走り出した。


 …


 五影会談の会場では、大きな音が響いていた。
 激昂した雷影が机を叩き潰した瞬間だった。
 そして、それを合図にタスケが逆口寄せをして水月達を呼び出した。


 「へ~。
  もう、会場の中だよ。
  やるねぇ、猫君」


 水月の皮肉にタスケは舌打ちすると、水月を嗜める。


 「少し緊張勘を持て。
  会議が動いた可能性がある」

 「はいはい。 で?」

 「暴れるぞ」

 「了解!」


 集まり出した鉄の国の侍達を前に水月は大刀・首切り包丁を構える。
 重吾も半分呪印の状態2まで体を変化させる。
 一方の香燐は震えていた。


 「冗談じゃないぞ……。
  五影っていうのは、こんなに大きなチャクラを持っているのか?」


 タスケが香燐の頭に飛び乗る。


 「そこまでだ。
  お前は、マダラとゼツとか言う奴のチャクラを探ってくれ」

 「あ、ああ、分かった」


 香燐が目を閉じる。
 マダラのチャクラは感じない。
 しかし、ゼツのチャクラを捉える。


 「な!?
  ゼツとか言う奴のチャクラが五影達の近くにある!」

 「!」


 既に戦闘を開始した水月と重吾は、意表を突かれた行動に一瞬驚いた顔を見せつつも直ぐに戦闘を再開した。
 タスケは舌打ちすると香燐の頭を飛び降り、チャクラを流し始める。


 「状況が分からない!
  とりあえず、暴れることだけは続けて、状況の変化を見る!
  香燐! お前は常に水月達の後ろに位置取れ!
  そこがお前の位置だ!
  ・
  ・
  水月! 重吾!」

 「聞こえてるよ!」

 「任せろ!」

 「……何だかんだで、よく連携が取れてやがる」


 タスケは水月と重吾の後ろに位置取り、打ち漏らしを狙う役目を取った。
 この作戦ではタスケも重要なキーになるため、積極的に戦うことは控えている。

 そして、五影会談では決定的なことが起きていた。
 火影であるダンゾウが右目に仕込んだうちはシスイの写輪眼を使って、鉄の国の進行役であるミフネを洗脳しようとして指摘されて信用を失い、更に次の瞬間にゼツが現れて、サスケの侵入を暴露した。
 しかし、この会場にはサスケは居ない。
 ゼツの裏をかいてマダラのアジトに向かっている。
 そして、ナルトを焚きつける会話を終えたマダラも五影会談の会場へと向かっていた。



[13840] 第101話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・奪還編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:16
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==


 巨大な生物の屍が転がる中に隠されたマダラのアジト……。
 地表に見える荒野の見た目と裏腹にしっかりとした石畳と石のレンガで造られた巨大な地下アジトである。
 サスケと影分身のヤオ子は、マダラのアジトに入り込むと直ぐにイタチの遺体の捜索を開始した。

 イタチの遺体を捜すうえで、サスケとヤオ子はある仮定をしていた。
 それは『イタチの遺体は安置所などに置かれているとは考えられない』ということである。
 忍の死体は多くの秘密を語るため、死体回収班が各里で組織される。
 故にイタチほどの忍の死体の重要性は非常に高いと言える。

 ましてや、あれほどのうちはの瞳術の使い手の死体が乱暴に扱われるなど、考えられない。
 そうすると辿り着くのは、忍の世界ならではの保存方法である。
 かつて、自来也がイタチの黒炎を封じた方法……。
 もしくは、カブトがサイのダミーを作る際に死体を取り出した方法……。
 そう、巻物に封印されている可能性が高いのだ。

 マダラのアジトを疾走しながらサスケが叫ぶ。


 「こっちだ!」


 アジトを走るサスケにはある程度の予測が立っていた。
 マダラの行動を写輪眼を通して確認した洞察力で、大事なものが置いてある場所の確信。
 サスケと影分身のヤオ子は、その部屋へと足を踏み入れた。



  第101話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・奪還編



 マダラの行動から、予測した部屋には異様な光景が広がっていた。
 うちはの家紋の下に、何かの装置に繋がったシリンダーが並んでいる。
 中に浮かんでいるのは目だ。


 「何これ……」


 影分身のヤオ子が目を背けると、サスケが、その様子を見て叫ぶ。


 「そんなものは後だ!
  イタチの体を捜すんだ!」

 「わ、分かりました!」


 手当たり次第に棚の巻物を開いていくサスケの横で、影分身のヤオ子はゆっくりと部屋を見ていく。


 (ここが大事な場所なら、物は整理して置くはず……)


 サスケが読み終えた巻物を取り、影分身のヤオ子は内容を確認する。
 それを直ぐに置くと、別の棚から一つ取っては返すを繰り返す。
 そして、ある棚の巻物で手が止まる。


 (この棚の巻物……もしかして)


 ヤオ子は棚にある巻物をごっそりと近くの机の上に置くと、巻物の一つを机の下の床に開いて手を置く。


 「巻物に鍵が掛かってないことを願います!」


 煙が上がると何者か分からない死体が出て来た。


 「サスケさん!
  この巻物が怪しいです!
  多分、死体を保存してます!」


 サスケが開いていた巻物を投げ出すと、影分身のヤオ子に近づく。


 「これか!」

 「はい。
  手当たり次第、開けようと思います。
  鍵は掛かっていません」

 「オレも手伝う!」


 サスケと影分身のヤオ子が、次々に巻物の中から死体を取り出す。
 そして、十三本目の巻物から出て来た死体にサスケが止まる。


 「兄さん……」


 サスケの言葉に影分身のヤオ子が振り返る。


 「イタチさん?」


 そこには間違いなく、イタチの死体があった。
 サスケがイタチの死体の胸に手を置く。


 「やっと……取り戻した」


 そして、イタチの顔に目が移るとハッとする。


 「目が……」


 イタチの目の辺りは窪んでいた。
 イタチの写輪眼は、マダラに抜かれた後だった。


 …


 サスケの背中が怒りで震えている。


 「あのヤロー……。
  イタチの体を傷つけやがって……!」


 影分身のヤオ子もサスケの視線から、何が変わったのか理解した。
 何と声を掛けていいか分からず、視線を逸らした先に巻物から取り出した死体が転がっていた。
 その死体も目が窪んでいる。
 目を移した他の死体の幾つかも……。

 ヤオ子は、目の前の装置に繋がるシリンダーに目を移す。


 「サスケさん……。
  もしかして……。
  ・
  ・
  この遺体の人達の幾つかの目って……」


 影分身のヤオ子の視線を追って、サスケの視線も装置に向かう。


 「これのどれかが……。
  イタチの目なのか……」


 シリンダーの数は少なくない。
 この数多いシリンダーの中から、イタチの目を見つけなければならなかった。


 …


 五影会談の会場では予想外の事態になっていた。
 雷影が水月達の戦闘に割り込んでいたのだ。
 弟のキラービーを襲った張本人を前に理性が飛んでいる。


 「あれは拙いんじゃないの?」

 「チャクラ量が尾獣並みだぞ」


 そして、何よりも拙いことがある。
 タスケが冷たい汗を背中に感じる。


 (コイツに対抗できるスピードを持った忍が居ない。
  サスケかヤオ子……どちらかが必要だ。
  ・
  ・
  仕方ない……。
  相性で言えば、風遁を使えるオレしか居ない)


 タスケが水月と重吾の前に出る。


 「オレが掻き回す。
  だが、時間潰しにしかならん。
  援護を頼む」

 「ああ!」

 「お前がやられたら、全てが終わりだからな」


 タスケがチャクラを練り上げると性質を風に変えて体を覆う。


 「行くぞ!」


 タスケは雷影に向かって走り出す。
 今は、雷影の雷遁の鎧に対抗できる忍はタスケだけだ。
 猫ならではの細かい動きで、雷影を翻弄する。
 当たったはずの攻撃がタスケの体に触れた瞬間にタスケの体が押し出される。
 ヤオ子の母親と同じ戦闘スキルをタスケは身に付けていた。


 「ちょろちょろと!
  小賢しい!」


 雷影のチャクラが吹き上がる。
 屈強な肉体を覆う雷遁の鎧が一回り大きく雷影を包む。


 「またチャクラが上がった!?」


 タスケは、更に慎重になる。
 小さい体に一発でも貰えば、それで終わりだ。
 だけど、大胆さも求められる。
 逃げているのがバレたら、折角蓄積した攻撃のパターンも変わるかもしれない。
 今は、その情報を活かしつつ、ここで釘付けにしたい。

 タスケの攻撃が始まる。
 風遁が爪に集中し、爪という動物の武器を凶悪な凶器に変化させる。
 雷影とのすれ違い様、性質の優劣から雷遁を切り裂き、同時に雷影の腕を僅かに切り裂いた。


 「この猫……風遁を使うのか!?」


 水月と重吾と香燐が呆然とする。
 目の前では目にも留まらぬ動きで細かく動くタスケと、巨体でありながらそれに着いて行く雷影。
 とてもじゃないが、援護なんて出来ない。
 特にタスケの動きは細か過ぎる。
 となると……。


 「援護しようとしている雷影の部下を相手にするしかないな」

 「ああ」

 「ウチは!?」


 水月と重吾が顔を見合わせる。


 「ボクは接近戦しか出来ないから」

 「オレが遠距離から砲撃で援護と香燐の護衛だな」

 「そんなウチを足手纏いみたいに……。
  ・
  ・
  !!」


 香燐が辺りを警戒する。
 戦闘を再開する前の水月と重吾に近づくと声を落とす。


 「マダラが来ている……」

 「そうか……」

 「じゃあ、少しリアリティを出すために本気でやるよ!
  あの人達、それぐらいじゃ死なないしさ!」


 戦闘が再開される。
 そして、何処かで見ているマダラが呟いた。


 「サスケは、何処だ?」


 マダラの誤算。
 引き込んだと思ったサスケが、ここには来ていなかった。


 …


 サスケと影分身のヤオ子が、装置のシリンダーに目を移す。
 右に左に上に下に……。


 「どれがイタチの目なんだ……」

 「どれって……。
  ・
  ・
  あれ?
  こっちの目は写輪眼ですよ」

 「何?」


 サスケがシリンダーを覗く。


 「本当だ……。
  マダラは、写輪眼を集めているのか……。
  ・
  ・
  いや、待て……。
  うちは皆殺しの夜の時の協力者がマダラだったはずだ……。
  なら、この目はその時の──そして、この死体に幾つかはうちはの!
  ・
  ・
  何を考えている……マダラ!」


 影分身のヤオ子は、少しサスケを見た後でシリンダーに目を戻す。
 そして、並ぶシリンダーの、ちょっとした変化に気付く。


 「ねぇ、サスケさん。
  埃……」

 「?」

 「シリンダーの埃です。
  イタチさんの目が抜かれたのは最近です。
  だったら、シリンダーに埃が付いているのは除外できます」

 「そうか……」


 サスケと影分身のヤオ子は、シリンダーを選り分ける。
 ここにあるのが、うちはの皆殺しの時に手に入れた写輪眼であるなら、シリンダー自体の古さからも除外できる。
 しかし……。


 「この四つが判別できませんね……」

 「ああ……」

 「いっそ、全部持って行きますか?」

 「他人の目を持って行っても仕方ない。
  それに、オレはマダラのように一族の目を利用しようとは思わない」


 影分身のヤオ子は腕を組むと、更に考える。
 どうやって、イタチの目だけを判別するか?


 「あ! 写輪眼!」

 「今度は、何に気付いた?」

 「サスケさんの写輪眼で、チャクラの色を見分けるんですよ!
  見分けられるんでしょ?」

 「確かに……。
  だが、チャクラを見極めたからといって──」

 「一番強いのがイタチさんですよ!
  だって、万華鏡写輪眼を開眼できる人って、稀なんでしょ!
  それにここにある写輪眼が皆殺しの夜のものだったら、チャクラはほとんど残っていないはずですよ!」

 「……その通りだ。
  オレの目で見極めればいい!」


 サスケの目が赤く変色し、うちはの瞳術・写輪眼が浮かび上がる。
 そして、ゆっくりと一つのシリンダーに手を伸ばす。


 「これだ……。
  間違いない……。
  ・
  ・
  写輪眼で見れば一目瞭然じゃないか……」


 サスケがシリンダーを装置から外すと、シリンダーを抱きしめる。


 「今度こそ……」


 影分身のヤオ子は想いに耽るサスケを気遣い、イタチの死体に向かい巻物に戻そうとする。
 そして、イタチの顔に目が行き、気付いた。


 「イタチさん……微笑んでいるんですね。
  サスケさんがマダラさんを騙して、してやったりって顔をしています」


 振り向くサスケは軽く笑っていた。


 「そんな訳ないだろう」


 サスケは懐にシリンダーを仕舞い、イタチの口元を確認したあと、巻物にイタチの体を封印し直す。


 「行くぞ……」

 「はい」


 サスケと影分身のヤオ子は、マダラのアジトを後にした。


 …


 五影会談の会場では、水月達が劣勢で踏ん張っていた。
 素早く動けると言っても、化け物みたいなチャクラを有する雷影と普通のチャクラ量しか持たないタスケでは、戦闘が長引くだけタスケが不利になる。
 そして、それは数で劣っている水月達も同じだった。
 更に風影になった我愛羅が加わると、形成は一気に不利になる。


 「そろそろ潮時なんだけどね……」

 「ああ……」

 「他の五影の誰かが出て来たら持たない……!」


 時間稼ぎも限界に近づいていた。


 …


 一方、五影会談の別の場所では、マダラの目がサスケを探し続ける。


 (どうなっている……。
  何故、サスケが現れない?)


 そして、他の五影達が次々にタスケ達の前に姿を現し始めた。
 マダラは痺れを切らし、小隊・鷹の誰かに声を掛けようとした瞬間、雷影とやり合っていたタスケが消えた。
 水月達が唇の端を吊り上げる。


 「「「解!」」」


 逆口寄せを解除すると水月達が姿を消し、残された五影達は呆然とする。
 そして、暫しの後、雷影は逃がした敵に激昂する。
 マダラは予定が狂ったことに少し戸惑うが、五影達の前に姿を現した。
 そして、自分の目的と第四次忍界大戦の始まりを告げるための会話を始めるのであった。


 …


 マダラのアジトの近くで、疲弊し切った小隊・鷹が息を切らす。
 サスケが労いの声を掛ける。


 「遅くなってすまない。
  助かった」

 「本当だよ……。
  正直、拙かったよ……」


 他のメンバーは、水月のように皮肉も言えなかった。
 影分身のヤオ子がタスケを抱く。


 「大丈夫ですか?」

 「忍猫が雷影の相手なんてするもんじゃねーな……。
  だが、やっと呼び出して貰えたな」


 タスケがサスケに向かって前足をあげると、サスケも軽く手をあげた。
 影分身のヤオ子は『二人の間に何があったんだろう?』と首を傾げた。


 「悪いが休憩はここまでだ。
  タスケ。
  もう一仕事して貰うぞ」

 「ああ……」


 サスケが影分身のヤオ子に目で合図する。
 影分身のヤオ子は頷くと、印を結んだ。


 「解!」


 影分身が解けると本体に情報が還元された。


 …


 大蛇丸のアジトに居る本体のヤオ子に情報が還元される。
 ヤオ子はハッとするとチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「口寄せ! タスケさん!」


 タスケがヤオ子に呼び出されて、大蛇丸のアジトに姿を現す。
 そして、タスケは空かさずチャクラを練り上げ印を結ぶ。


 「これで、今日のチャクラは空欠だ!
  逆口寄せ!
  サスケ!
  水月!
  香燐!
  重吾!」


 小隊・鷹のメンバーが姿を現す。
 そして、サスケ以外はどっと疲れが押し寄せ、へたり込んだ。


 「しんど~……」

 「ウチも逃げ疲れた……」

 「チャクラもギリギリだ……」

 「ヤオ子……。
  エサくれ……」


 サスケは、一息吐くと頭を下げた。


 「すまない……。
  協力に感謝する……」


 サスケの初めて頭を下げた行動に、小隊・鷹のメンバーは少し驚かされた。
 そして、皮肉を言う余裕が戻って来た。


 「偶にはいいね。
  サスケにお礼を言われるっていうのも」

 「本当だ……。
  毎回、こんだけ素直だと可愛げもあるんだけどな」

 「フッ……」

 「お前らな……!
  人が素直に感謝しているのに……!」


 サスケが拳を震わせると、小隊・鷹のメンバーは声をあげて笑った。
 ヤオ子はサスケの周りが、また変わった気がした。
 それは、とても嬉しいことだった。
 ヤオ子は、奥を指差す。


 「結構、生活用品があったんで、料理作ってあります。
  労いとお祝いを一緒にしましょう」


 その日、小隊・鷹とタスケとヤオ子は小さな宴を開き、イタチの体を奪還したことを祝った。



[13840] 第102話 ヤオ子とサスケの向かう先①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:17
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 マダラは激昂していた。
 口には出さないが、チャクラが物語っている。
 サスケが現れないのを疑問に思いながらも事を進めたが、結局、最後までサスケは姿を現さなかった。
 決定的だったのが、ダンゾウを追う者が居なかったことだ。
 怒りの矛先はダンゾウに向かい、ダンゾウはマダラの手によって葬られた。
 そして、うちはシスイの写輪眼を奪うことも忘れるぐらいに、マダラはダンゾウの体を叩き潰した。

 更に油を注いだのがアジトに帰ってからだった。
 イタチの写輪眼を奪われていた。
 マダラは、ここで初めてサスケの狙いに気付き、陥れていたつもりが嵌められていたことに気付いた。


 「サスケの心は闇に落ちていたはずだ……!」


 怒りがある一点を超えて逆に冷静になると、サスケと初めて会った時に居なかった少女の存在が思い浮かぶ。


 「あの小娘か……!
  いや、イタチの置き土産のせいか……!」


 どちらにしても、マダラの計画は大きく崩れ、別のシナリオで『月の眼計画』を進めねばならなくなった。



  第102話 ヤオ子とサスケの向かう先①



 大蛇丸のアジトでは簡単な部屋割りを決めたあと、五影会談で戦闘をして疲弊したメンバーが深い眠りについていた。
 その中でサスケとヤオ子だけは戦闘に参加しなかったため、チャクラを多大に残して余力を残していた。
 サスケは割り当てられた部屋で、イタチの体を封印してある巻物とイタチの抜き取られた写輪眼を眺めていた。
 心の中では少しの達成感と兄への罪悪感、これからのことが混ざり合っていた。

 そのぼんやりとした気持ちが漂うサスケの部屋をヤオ子はノックした。


 「返事がない?」


 ヤオ子は、そっと扉を開けて中を覗くと、座ったサスケの後姿が見える。


 「起きてますか?」

 「…………」


 ヤオ子は、そっとサスケに近づくといきなりセクハラをしようとした。


 「フ~ジ~子ちゃん、ダ~イブっ♪」


 が、サスケのグーが飛び掛かったヤオ子に炸裂した。


 「起きてんじゃないですか!」

 「寝てたら、何をするつもりだったんだ?」

 「エロいこと♪」


 再び、サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
 そして、グイッとヤオ子の首に腕を回すと自分に引き寄せる。


 「兄さん……。
  コイツが助けてくれたんだ……」


 ヤオ子の視線の先には、巻物とシリンダーがあった。


 「イタチさんと……お話ししてたんですね」


 ヤオ子は自分の取った行動を少し反省すると、正座をし直し、目を閉じて手を合わせた。


 「ヤオ子……ありがとう」


 素直にお礼を言われ、ヤオ子は少し頬を染めて微笑む。
 そして、サスケとイタチの手助けが出来たことを喜んだ。

 ヤオ子は首に当たるサスケの腕に自分の手を添えて質問する。


 「これから、どうするんですか?」

 「……一度、木ノ葉に戻ろうと思う」

 「じゃあ! ナルトさん達に!?」

 「しっかりと話さなければいけないと思う」

 「あたしも、そう思います!」


 サスケは嬉しそうに言葉を返すヤオ子に、また救われたような気分になる。


 (こんなにどうしようもないオレに……。
  まだ、そんな顔を向けてくれる……)


 サスケの中で覚悟が決まる。


 「木ノ葉で裁かれる……。
  オレの罪が死に値するなら受け入れる……」


 次に出たサスケの言葉に、ヤオ子は少し視線を落とすとサスケを見て呟く。


 「その時は、あたしも生きてないかなぁ」

 「何?」

 「だって、サスケさんのために、命懸けでここまで来たのにサスケさんが居なくなるんでしょ?
  あたしの努力は報われないじゃないですか?」

 「お前って、あくまで自分主義なんだな……」

 「そうですよ。
  世界は、あたしを中心に回っているんです。
  でも、それは皆が、そう。
  自分が主人公なんです。
  あたしの世界にはサスケさんが居なくちゃ、ダメ。
  ちょっと先の未来では、あたしとサスケさんとナルトさんで中忍試験を受けることが確定しているんですから」

 「中忍──忘れていた……。
  スリーマンセルじゃないと受けれないんだったな」

 「はい。
  サスケさんの同期で中忍になっていないのは、サスケさんとナルトさんだけです。
  カカシ班の中忍昇格率は、お二人のせいでダメダメです。
  ・
  ・
  そして、余り者のあたしを加えれば、ちょうど三人。
  いいでしょ?」

 「いいかもしれないな……。
  ただ、今更、中忍試験っていう気もするがな」

 「いいじゃないですか。
  あたしは、逆に楽しみですよ。
  サスケさんもナルトさんも、力を付けてるでしょ。
  どれだけのチートっぷりで受験生をボコボコにするか楽しみです」

 「お前な……。
  逆に組み合わせが悪ければ、お前とやり合うんだぞ?」

 「え?
  ・
  ・
  そうなると、あたしの再受験確定ですね……」


 サスケは自然と笑みが零れた。
 未来を考えるのは辛いことだけじゃないと思い始めていた。


 「兎に角、明日、木ノ葉に向かう。
  お前とタスケで木ノ葉まで行ってくれ。
  また時空間忍術を使って、アジトを知られないようにする」

 「木ノ葉の近くで、タスケさんとサスケさんを入れ替えるんですね?」

 「ああ。
  木ノ葉に入っちまえば、マダラも仕掛けて来ないだろう」

 「そうですね。
  今は、暁もメンバーが大分減っていますから」

 「そういうことだ」


 ヤオ子はサスケの腕を首から外すと両手でしっかり手を握る。


 「きっと、皆が待っていますよ」

 「だといいがな……」

 「あたしが保障します。
  ・
  ・
  勘ですけどね」


 ヤオ子は、ゆっくりと立ち上がるとサスケに振り向く。


 「イタチさんとの会話を邪魔して、すいませんでした」

 「いや……兄さんにお前を紹介できてよかった」


 ヤオ子は最後にもう一度微笑むと、サスケの部屋を後にした。
 そして、部屋の前で胸を押さえる。


 「お、おかしいなぁ……。
  あそこまで密着されてたら、いつもは迫ってっいるのに……。
  ・
  ・
  ううう……。
  少し顔も熱い……」


 自分の心の変化に気付かないフリをして、ヤオ子は部屋に戻った。


 …


 翌朝……。
 ヤオ子はタスケと大蛇丸のアジトを出ると、木ノ葉に向けて走り出した。
 余計な回り道をしないで一直線に木ノ葉に向かう。


 「やっぱり、あたしにはマーキングされていないんですかね?」

 「どうだろうな?
  オレにマーキングされているかもしれないし」

 「何にせよ。
  木ノ葉まで逃げ切れば勝ちです。
  マダラさんが現れても、一気に無視して木ノ葉に向かいます」


 ヤオ子とタスケが警戒する理由も分かるが、マダラが現れないのには理由がある。
 『今度は、戦場で会おう……』五影会談で、そう宣言した以上、おいそれと姿を見せることは出来ないからだ。
 案の定、ヤオ子とタスケの移動中にマダラが現れることはなかった。

 ヤオ子とタスケは火の国の問屋に寄ると、荷車と食料をこれでもかと買い込んだ。
 そして、サスケをタスケの逆口寄せで呼び出す。


 「交代だな」


 タスケが二分された食料の片方の山に飛び乗ると、大蛇丸のアジトでタスケが口寄せされる。
 タスケと一緒に食料もアジトに転送された。
 サスケは時空間忍術を手足のように利用するヤオ子に感嘆の声をあげる。


 「しかし、時空間忍術をこういう風に使うことをよく思いつくな」

 「便利ですからね。
  タスケさんがあたしと契約しなければ、考え付きませんでしたけどね。
  ・
  ・
  さて、行きますか」


 ヤオ子は荷車を引きながら、サスケに振り返る。


 「抹殺命令が出ているんで、タスケさんに変化してください。
  綱手さんを直に通せば、サスケさんと会話してくれるはずです。
  ただ、綱手さんの意識が戻っていれば……ですがね。
  ・
  ・
  意識が戻っていない時は、付き人のシズネさんを通します」

 「分かった」


 サスケはタスケに変化し、ヤオ子の引く荷車の上に飛び乗った。


 …


 久々の木ノ葉の里……。
 『あん』の門の前では、見張りの忍がヤオ子に声を掛けた。


 「久しぶりだな。
  何処行ってたんだ?」

 「食料調達です」


 ヤオ子が、後ろの荷車を指差す。


 「大量だな」

 「はい。
  今日の配給は、一品追加ですね」

 「そいつはいい」


 ヤオ子は見張りの忍に手を振ると『あん』の門を後にして、綱手の居た病室を目指す。
 サスケがヤオ子に話し掛ける。


 「随分と雑なチェックだな?」

 「はは……。
  仕方ないですよ。
  この壊れようですもん。
  警備システムが戻るのは、何ヶ月も先だと思います」

 「……そのようだな」


 すれ違う人々がヤオ子に声を掛ける様子を見ると、サスケは、またヤオ子に話し掛ける。


 「お前、人気者なんだな」

 「はい。
  雑務を幅広くしていましたからね。
  それに、この格好は目立ちますから」


 ヤオ子の服のデザインは、サスケと一緒に服を新調した時のままだ。
 サスケの着ていた服は、男の子が着るとそうでもないが、女の子が着ると白のミニスカートというのがやけに目立つ。


 「変えないのか?」

 「いえ……変えたんですけどね。
  勝手に変えるなって、怒られて」

 「何でだ?」

 「信号で『青は進め』『黄色は注意』『赤は止まれ』ってあるでしょ?」

 「ああ。
  それが?」

 「木ノ葉では『藍のTシャツに白のミニスカート』は変態に注意なんです」


 サスケが寝転がっている荷車の食料に頭を打ちつけた。


 「お前、何やってたんだ!」

 「あははは……」

 「オレの昔の服のイメージは変態を表してんのかよ……」


 項垂れるサスケを乗せたまま、荷車は目的の場所へと到着した。


 …


 元・火影の居た場所ということで警備の忍が立っている。
 ヤオ子は警備の忍に荷車を見せ、中に入る許可も一緒に得ると、綱手に会う間、荷車を見ていて貰うように話をつける。
 そして、久々に訪れた中を見回しながら進む。
 里の復興もまだまだ途中で、ここもあまり改善がなされていない。
 それでも幾分かマシになった通路を忍猫のタスケに変化したサスケを抱いて奥に進み、綱手の居る部屋をノックする。
 ヤオ子は、返事が返る前に扉を開けた。


 「ちょっと──待って……って言う前に、何で開けるの!」


 久々のシズネのお叱り。
 ヤオ子は、それがとても懐かしく感じた。


 「シズネさん。
  ただいま」

 「ヤオ子ちゃん!?」

 「えへへ……。
  ・
  ・
  本当に懐かしいですね。
  ん?」


 シズネ以外の先客のはたけカカシと、待ちに待っていた人物の姿がヤオ子の目に入った。


 「綱手さん!」


 ヤオ子はサスケを放り投げると、綱手の元に走る。


 「元気になったの!?」

 「まだまだだ……。
  体力が回復していないから補給中だ……」


 ヤオ子は綱手の周りを見る。
 空になったどんぶりや茶碗が大量に転がっていた。
 それを見て、ヤオ子は指を立てる。


 「綱手さん。
  食料調達して来たばっかりです」

 「でかした!」

 「久々に腕を振るいますか?」

 「頼む!」


 ヤオ子はチョキを出すと立ち上がる。
 そして、サスケに視線を移すと『ちょっと待っててね』と声を掛ける。
 サスケは手を振って『さっさと行け』と合図を返した。
 シズネがヤオ子に駆け寄る。


 「ヤオ子ちゃん。
  いいタイミングでしたよ。
  綱手様に食料庫の食料を空にされたばっかりで」

 「ご飯食べれる気力が回復しただけでもよしです」

 「あと、あの入金……何?」

 「復興に必要でしょ?
  それに、もう使ってんじゃないの?」

 「その……前借りということで、直ぐに調達しないといけない物資を優先して……」

 「返さなくてもいいですよ。
  里が元に戻る役に立つなら」

 「そうはいきません!」

 「そう?
  でも、いらないしな」

 「……いや、あの大金がいらないって。
  というか、あれって任務で貯めたお金?」

 「はい。
  あたし、頑張ってましたね~」

 「何かドSで、ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに謝ったシズネに、ヤオ子は大笑いしている。
 自分でドSと認めたのは、シズネが初めてだった。


 「じゃあ、お料理するの手伝ってください。
  薬膳料理を作るから、シズネさんの薬の知識が必要です。
  綱手さんに必要なものを摂取して貰わないと」

 「ええ。
  手伝わせて貰います!」

 「あ。
  あと、今日の配給を一品追加するんで、大鍋を一つ追加で」

 「復興隊長の鬼軍曹が戻って来ましたね」

 「鬼軍曹って……。
  まあ、復興の最中に暗部の人を何人か泣かすぐらいにこき使いましたけど……」


 シズネに案内されてヤオ子が厨房に入ると活気付く。
 影分身で人数を増やすと、更に活気付く。
 ヤオ子の運んで来た荷車の食料は、その日のうちに三分の一が消えることになった。


 …


 シズネとヤオ子が厨房から戻ると、綱手が満足気にお茶を飲んでいた。
 ヤオ子が頬掻きながら、カカシに質問する。


 「あの……。
  作った料理は?」


 カカシの指し示す先を見る。
 空の器が山盛りに積んである。


 「もう、食べたの!?」


 ヤオ子がシズネに振り返る。


 「まあ……。
  チャクラを回復させるためにこんな感じだったので、ヤオ子ちゃんが救いの神になりました。
  トントンの危機も去りました」

 「はい?」


 シズネに大事そうに抱かれている豚は、安堵の息を吐いた。
 ヤオ子は手に持っていたものを綱手に見せる。


 「病み上がりでよくないと思っていたんですけど、飲めますか?」


 ヤオ子の手には酒瓶。


 「飲む♪」


 綱手が酒瓶を受け取ると、酒瓶の銘柄に目を移す。


 「また、新種か?」

 「はあ……。
  途中で寄った町の酒蔵の親方が、綱手さんに合わせた酒が遂に完成したと」

 「あのコスモなんたらとかの最終形態か?」

 「名前は、あたしが付けているんで、親方のネーミングセンスじゃないですけどね」

 「だろうな。
  カタカナの酒名って意味が分からんしな。
  ・
  ・
  で、今度のは?」

 「最終形態ということなので、綱手さんに因んだ名前にしました」

 「ほう……」

 「『銘酒・魔界の独裁者』です」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「どういう意味だ!」

 「まんまです……」

 「私の何処が独裁者なんだ!
  しかも、魔界だと!?」


 ヤオ子は、シズネを見る。


 「一体、どんな治療をしたんですか?
  本当に前より凶暴化してんじゃないですか?」

 「してません!
  綱手様は、大体こんなもんです!」

 「シズネ……。
  お前も殴られたいのか……」

 「あヒィーッ!」

 「綱手さん。
  シズネさんは、裏では大体こんなもんです」

 「本当か?」

 「嘘です!」


 このどうしようもない纏まらない感じ……カカシは少し懐かしさを感じる。
 そして、ヤオ子の暴走は続く。


 「綱手さん。
  シズネさんって、結構、黒いんですよ」

 「そうなのか?」

 「はい。
  もう、言いたい放題」

 「嘘を言わないでください!
  私は、ちゃんと綱手様を尊敬しています!」

 「本当?」

 「当然です!」

 「じゃあ、綱手さんの長所を三つ答えろ。
  三秒以内」

 「え? え!?」

 「よ~い……スタート!」

 「え、え~と……。
  医療忍術と……」

 「ブ~。
  時間切れで~す。
  ・
  ・
  シズネさんの忠誠心なんて、こんなもんです」

 「そんなの急に言われたら、答えられませんよ」

 「綱手さんに対する愛が足りないんです」


 シズネは歯を喰いしばると、ヤオ子を指差す。


 「じゃあ、ヤオ子ちゃん答えて!
  時間は三秒! スタート!」

 「胸がでかい!
  唇が魅力的!
  総称して全てがエロい!」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何処が長所だ!」

 「いや、愛に溢れてるじゃないですか?
  綱手さんをここまでエロスの対照として、愛を持って見れるのはあたしぐらいですよ?」

 「もういい……。
  折角、回復して来たチャクラを突っ込みで消費する意味はない」

 「賢明な判断です」


 綱手が溜息を吐いたところで、カカシが手をあげる。


 「あの~……。
  話がないんなら、オレはこれで……」


 ヤオ子がカカシに静止を掛ける。


 「ストップ!」

 「何?」

 「大事な用があります」

 「オレに?」

 「ここに居る皆に」


 綱手とシズネの顔が少し真剣になると、綱手が先に話し出した。


 「シズネから聞いている。
  お前、サスケの情報を収集するために里の外に出たらしいな」

 「はい」

 「その情報の報告だな?」

 「はい」


 綱手がシズネを見る。


 「ヤマトとナルト達も呼べ」

 「構いませんが……サクラもですか?
  サクラにはマダラとの会話の話を伝えないことになっていますが?」

 「そうだったな……」


 ヤオ子が話に割り込む。


 「すいません。
  マダラさんの話は、あたしも興味があります。
  五影会談がどうなったのかも」

 「お前にも伝えられない」


 ヤオ子の目が座る。


 「……じゃあ、あたしも教えない」

 「何!?」

 「言いたくないならいいです。
  今や木ノ葉の情報規制はザルです。
  自分で収拾しても何とかなりそうだし」

 「無理だな。
  マダラ自身から直接聞いた情報だ。
  カカシ、ヤマト、ナルトしか知らないことだ」

 「ふ~ん……例えば?」


 綱手は、適当にあしらう。


 「うちはイタチのこととかだ」

 「本当は裏切ってないってヤツ?」


 綱手達の顔色が変わる。


 「お前、何処まで調べたんだ?」

 「だから、あたしも混ぜてくれって言ってんですよ。
  あたしだって、馬鹿じゃないんです。
  今まで知らされていなかったことを予想すれば、何処までを語っていいかぐらいの見当はつきます」


 綱手が額に手を置く。


 「何てこった……。
  ヤオ子の情報の方が重要性が高い可能性が出て来た。
  ・
  ・
  サクラを呼ぶ前に規制を掛けておく必要があるな」


 綱手がヤオ子を睨む。


 「いいか。
  うちはの皆殺しに上層部が関わっていることを下の者に知られるわけにはいかないんだ。
  分かるか?」

 「はい。
  それはイタチさんの望むところではありませんからね」

 「ん?
  ・
  ・
  お前、イタチの真意を知っているのか?」

 「まあ、想像の範疇ですけどね」

 「どうなっているんだ?
  カカシ。
  お前の言っていた情報と少し違う気がするぞ?」

 「そうですね……。
  では、ヤオ子を含めて話が終わった後で
  サクラを加えるということで、どうでしょうか?」

 「そうだな。
  ヤオ子。
  それでいいか?」

 「はい」

 「では、シズネ。
  ヤマトとナルトをここに」

 「分かりました」


 シズネが部屋を出ると、ヤオ子はサスケのところまで行ってサスケを抱く。


 「いつ話しましょうかね?」

 「全部終わってからでいい……」

 「そうですね」


 ヤオ子はサスケを抱いたまま戻る。


 「ちょっと待て!
  置いてけ!」

 「ヤダ。
  スキンシップが欲しい!」


 サスケ……ヤオ子に抱かれて強制参加。


 …


 十数分後……。
 ヤマトが駆け込んで来た。
 そして、一直線にヤオ子のところに走ってくる。


 「ヤオ子!」

 「ヤ、ヤマト先生!?」


 ヤマトはガシッとヤオ子の両肩を掴むと睨みつける。


 「どうして嘘をついたんだ!
  ボクを信じると言っただろう!」

 「……ごめん…なさい」

 「いいや! 許さない!」


 ヤオ子は、申し訳なさそうに俯く。
 だけど、言い訳はしない。


 「……言い訳はしないのか?」

 「悪いことだと、分かってやりました」

 「……そんなに信じられなかったのか?」


 ヤオ子は首を振る。


 「信じられているから、許してくれないと思いました……。
  だから、怒られるのを覚悟して出ました」

 「頭が切れ過ぎるというのも……。
  ・
  ・
  でも、罰は受けないといけないよ」

 「はい」

 「歯を喰いしばる!」

 「はい!」


 ヤオ子が歯を喰いしばると、ヤマトの平手打ちが一発。


 「もう心配掛けるのはやめてくれ……。
  もう少ししたら、ちゃんと許可を出すから……」

 「ごめんなさい……。
  でも、今回だけは止められなかったんです。
  サスケさんは、あたしに忍者の道を示してくれた人です。
  大切な人なんです」


 ヤマトは溜息を吐く。
 ヤオ子の行動はナルトやサクラの行動にも当て嵌まり、隊長としてカカシ班を受け持って体験している。
 そして、ここで割り切る。


 「叱るのは、ここまで。
  後は、ここでの話が終わったら、
  ゆっくりと話を聞かせてくれ」

 「ヤマト先生……。
  ごめんなさい……」


 ヤマトが、ヤオ子の頭に手を置く。


 「そうやって謝れる君だから、見捨てられないんだ。
  大事なことをしっかり覚えなくちゃいけないよ」

 「はい」


 ヤオ子が無理して里を出たのを改めて知ると、サスケは申し訳なく思う。
 そして、ヤオ子に対して向き合うヤマトの態度にイタチが守ろうとした里の大事さを感じる。


 (カカシもオレに大事なことを伝えようとしていたんだ……)


 サスケは、カカシをチラリと見ると俯いた。
 一方、綱手、シズネ、カカシは、別のことを考えていた。


 (ヤオ子が折れた……)

 (ヤオ子ちゃんが素直に……)

 (ヤマトは、どうやってヤオ子の制御を……)


 木ノ葉では、ヤマトは問題児の制御のエキスパートになって来ていた。
 問題児のナルトを厳しく叱りつけたこともあるし、九尾の制御もコントロールする。
 そして、今、目の前で木ノ葉で一、二を争う問題児を叱りつけて反省まで持っていった。
 綱手達の目に、ヤマトが神々しく見えた瞬間だった。
 その視線にヤマトが気付く。


 「あの? どうしました?」

 「少し優秀な部下を持った感慨に浸っていた……」

 「尊敬しています……」

 「オレにもそのスキルを伝授してくれ……」

 「どうしたんですか!?」


 ヤオ子は、何となく理由が分かった。


 「ヤマト先生の価値は、推し量れませんね……」

 「何で、君が悟ってるの!?」


 そして、その空気をタイミングよく破るようにナルトが現れた。


 「一体、何の用だってばよ?
  ・
  ・
  あ。
  ヤオ子だ」

 「お久しぶりです」

 「お前が呼び出したのか?」

 「まあ、あたしのせいで呼び出されたということですね」

 「もしかして!
  お前とやった悪戯がバレたのか!?」

 「あたしの口は堅いです。
  バレるとすれば、木ノ葉丸さんのネットワークじゃないですか?」

 「そうだな」

 「何の話だ?」

 「「何でもない」」


 妙な疑問が残ったが、綱手が話を始める。


 「では、あらためて。
  ここに居る人間の情報を統一するために五影会談の結果と経過から話す。
  いいな?」


 ナルト以外が頷く。


 「またかよ……」

 「黙って聞け!
  サスケのことも関わってくる!
  それにお前達が聞いたマダラの話も関わる!」

 「どういうことだってばよ」

 「ヤオ子がサスケの抹殺命令に納得いかずに、里を出てサスケの情報を集めて来た。
  その中にうちはイタチに関わるものもあるらしい。
  その情報を理解するために全員の意識を合わせる必要があるのだ」

 「分かった……ってばよ。
  ・
  ・
  ヤオ子、本当なのか?」


 ヤオ子はナルトに頷く。


 「期待していてください。
  有益な情報もゲットしています。
  でも、順番に話さないと分かるものも分からなくなります。
  綱手さんの話を聞いてください」

 「そうだな……。
  サスケのことを理解しようと思っているんだから、しっかり聞かなきゃだな」

 「はい。
  頭悪いんだから」

 「そうだな。
  ・
  ・
  って、一言多いってばよ!」


 場には笑い声が漏れると、全員の気持ちが一つに向いた。
 綱手の話が始まる。


 「まず、五影会談の話だ。
  最初は暁の動向の話から切り出し、五大国による忍連合軍の話があったらしい。
  しかし、ダンゾウが進行役の鉄の国のミフネを右目に移植していたうちはシスイの写輪眼を使用して操ろうとしてバレた。
  これで、木ノ葉の信用は一気に落ちた。
  ・
  ・
  とは言え、その会合では暁に関わる水影の話や土影の話で何処の国も信用を落としていたので、
  木の葉の信頼による被害は、それほど尋常なものではない」


 ヤオ子が質問する。


 「ダンゾウさんは?」

 「殺された……」

 「五影って、そんなに過激なの?」

 「経過と共に話す。
  ダンゾウが糾弾されるタイミングで、暁が乱入した。
  植物のような奴だったらしい」

 「あの棘々アロエヤローか!」
 「ゼツさんですね」


 綱手が複雑な表情でヤオ子を見る。


 「お前……一体、何処まで情報を集めて来たんだ?」

 「まあ、気になさらず。
  今、話したら確実にぶん殴られるんで、後で纏めて殴られます」

 「何で、情報収集して来た奴をぶん殴るんだ……。
  まあ、いい。
  ・
  ・
  その時、同時にサスケの仲間が暴れた。
  ……ただ、こっちは妙でな。
  死人が出ていない。
  それにサスケも姿を現さなかった」


 ナルトが同意して話す。


 「オレもそれは変だと思ってた。
  マダラの話からすると、サスケはダンゾウを狙ってたはずなんだ。
  だけど、姿を見せなかった」

 (その時点で目的が違ってますからね)


 綱手が頷いて続ける。


 「だから、実際にはサスケの仲間は囮程度にしかならず、
  マダラが第四次忍界大戦を宣戦布告する舞台を作る役にしかたっていない」


 ヤマトがカカシに話し掛ける。


 「やはり、何処かおかしいですよ。
  マダラはわざわざナルトの前に現れてサスケのことを焚きつけたのに、会場にはサスケが現れないなんて」

 「そうだな……。
  まあ、結果的にはサクラの暴走が止められてよかったんだが……。
  あの場にサスケが現れていれば、サクラはサスケに殺されていたかもしれない」


 疑問が深まる中で綱手が続ける。


 「そして、ダンゾウはマダラによって殺された。
  更にその後の五影会談で、雷影をリーダーに正式に忍連合軍が作られることになる。
  ・
  ・
  木ノ葉も、これから戦争の用意に入るだろう」


 綱手の説明に、ヤオ子が腰に手を当てる。


 「そういう流れだったんですね。
  里の復興も終わってないのに……。
  ・
  ・
  ところで。
  ナルトさん達の話の内容は?」

 「お前は、まだ話さない気なのか?」

 「あたしの意識だけ皆さんと合ってないんだから、
  ナルトさんとマダラさんの会話も聞かないと」


 ヤマトが前に出る。


 「ボクから話そう」

 「お願いします」

 「マダラはイタチの真実を語った後で、サスケの話をしたんだ。
  サスケが、本物の復讐者だって」

 「イタチさんの真実ですか。
  では、皆さんは里の上層部がイタチさんにどんな任務を与えたかも知っているんですね?」


 全員が無言で頷く。


 「ヤマト先生。
  マダラさんは、サスケさんをどんな風に?」

 「サスケが選んだ道だと……。
  サスケは、イタチを追い込んだ木ノ葉への復讐を選んだと……」


 ヤオ子の唇の端が釣り上がる。
 マダラは、完全に騙されている。


 「そして、二人の六道仙人の子供の話になぞらえて、ナルトとサスケが戦う運命だと話していた」

 「六道仙人か……。
  御伽噺だと兄がうちはの子孫になって、弟が千手の子孫になるんでしたっけ?」

 「ああ……。
  そして、この続きが五影会談に姿を現したマダラの第四次忍界大戦の宣戦布告に繋がるんだ」


 ヤオ子とサスケは、そういう流れがあったのかと心の中で思う。
 ヤオ子がサスケを見ると、サスケは何も言わない。
 全てヤオ子のタイミングで話していいと言っているようだった。
 今度は、ヤオ子が話す番だった。
 ヤオ子が全員を見る。


 「あたしの番ですね。
  まず、いくつか先に謝っときます。
  ・
  ・
  シズネさん」

 「はい」

 「ごめんね。
  外で危ないことして来ました」

 「へ?
  ・
  ・
  えーっ!?
  私との約束破ったの!?」

 「はい」


 綱手は溜息を吐く。


 「お前な……」

 「そしてね。
  五影会談で暴れたのに、一枚咬んでます」

 「!」


 綱手がヤオ子の首根っこを掴んだ。


 「どういうことだ!」

 「さっき、殴らないみたいなことを言ってませんでした?」

 「さっき、殴られるみたいなことを言っていただろう!」

 「やっぱりね。
  殴られるんだ……。
  全部話すんで、終わってから纏めて殴ってくれます?」

 「……分かった」


 綱手が手を放すと、ヤオ子は話を続ける。


 「あたしはシズネさんの情報から、ナルトさん達が戦った天地橋の大蛇丸さんのアジトを回ったんです。
  そこで物品リストを見つけて、大蛇丸さんの北アジトってとこを見つけたんです。
  そこから北アジトに向かって、
  サスケさんの大蛇丸さんのところに居た様子や実験体の人から手合わせした情報なんかを聞きました」

 「大した行動力だよ……」

 「ヤマト先生、ありがとう」

 「褒めてないよ……」


 ヤオ子はニコリと笑うと、指を立てる。


 「そうするとね。
  サスケさんは、その時点だとイタチさんに復讐したら、木ノ葉に帰って来てもおかしくないんです。
  敵にとどめを刺さなかったり、無益な殺生をしていないんです。
  ・
  ・
  では、何処でおかしくなったか?
  イタチさんとの戦闘直後です。
  この時、マダラさんに何かを吹き込まれたと推測しました」


 ヤオ子の説明に、ナルトが声をあげる。


 「ちょっと待った!
  マダラの話では、サスケはマダラの話を聞いて、自ら復讐を選んだって言ってたってばよ!」

 「はい。
  でも、おかしいですよね?」

 「何が?」

 「同時にイタチさんの話も聞いたでしょ?」

 「ああ」

 「イタチさんは、一言も木ノ葉の出来事を言っていないのに、サスケさんが木ノ葉に復讐心を持つのって。
  ・
  ・
  イタチさんが言わないのに、木ノ葉に復讐心を持たせられる人物って誰ですか?」

 「マダラ……か?」

 「そう。
  サスケさんが復讐を止めれなかった原因は、マダラさんにあるんです。
  イタチさんは、サスケさんに木ノ葉へ帰る道を残してくれていた。
  自分の死と引き換えにして」


 ナルトが更に声を大きくする。


 「じゃ、じゃあ!
  どうして、サスケは戻って来なかったんだってばよ!」

 「あたしもそこが気になりました。
  そこで本人に聞くことにしました」

 「「「「「え?」」」」」

 「サスケさんを見つけたあたしは──」

 「待った!」


 説明を続けようとしたヤオ子に、ヤマトが静止を掛ける。


 「何で、ヤオ子がサスケを見つけられるんだ!?」

 「だって、あたし……。
  サスケさんの居るとこ、大体分かるもん」

 「「「「「何!?」」」」」

 「さっきから、何なんですか?」

 「『何なんですか?』じゃないよ!
  ボク達はサスケを見つけるために感知タイプの忍も加えて大捜索をしたんだよ!」

 「そうなの?」

 「それなのに君はサスケの居場所が分かるって、ボク達の苦労は、何だったんだ!?」

 「全て徒労だったとしか……。
  言ってくれれば協力したけど、一度もそんな依頼が来てないし」


 ヤマト達がズーンと項垂れた。


 「オレ達の苦労って……」

 「そうだよな……。
  こういうデタラメな捜索でこそ、ヤオ子の真価が出るんだよな……」

 「盲点だった……」

 「続き話していい?」


 ヤマトは無言で手を振って続きを促した。


 「それで。
  サスケさんに直接会って、戦闘になって死に掛けた」


 全員が吹いた。


 「何やってんだ!?」

 「無謀にもほどがあるだろう!?」

 「ヤオ子!
  やり過ぎだってばよ!」


 綱手とシズネに至っては、体が動いてグーを炸裂させていた。
 ヤオ子は片手で頭を擦りながら続ける。


 「まあ、そんな感じで。
  二度目の接触で会話したんです」

 「よく会話できたな……」

 「イタチさんをダシに嘘ついて、会話まで漕ぎつけました」

 「何て、危ない駆け引きをしているんだ……」

 「まあ、その甲斐あってサスケさんの誤解は解けました」

 「そうか……」

 「…………」


 全員が固まる。
 誤解が解けた?


 「どういうことだってばよ!?」

 「何で、誤解が解けたんだ!?
  あれだけオレ達が説得しても聞く耳持たないサスケが!?」

 「ナルトさんもカカシさんも酷い言いようですね……」

 (全くだ……)


 ヤオ子は指を立てる。


 「さっき、言ったでしょ?
  復讐の定義。
  イタチさんだけなら復讐が終わる。
  マダラさんと接触したから復讐が終わらない。
  ここを粘り強く説得したんです。
  ・
  ・
  この情報がないから、皆さん説得できないんです」

 「待て!」


 今度は、カカシから静止が掛かる。


 「ヤオ子もイタチの情報を持っていないじゃないか?」

 「はい。
  そこは話のテクニックで、先にサスケさんにイタチの情報を話させました。
  そこから、さっきの話を組み立てて説得したんです」

 「その方法は、ヤオ子じゃなきゃ取れないよ……。
  口下手なナルトやヤマトじゃ無理だし、そういうことに卓越しているオレでも無理だ……」

 「まあ、その変は雑務で鍛え上げた臨機応変なお客様のクレーム対応の技術がありませんとね」

 「ヤオ子以外、身についてねーってばよ……」

 「以上が、サスケさんを説得するまでですね」

 「その後は?」

 「サスケさんにお付き合いしていました。
  マダラさんに『五影会談でダンゾウを抹殺しないか』と誘われましてね。
  マダラさんが五影会談に行っている間に、サスケさんとイタチさんの遺体を取り戻していました」

 「それで、あの変な行動に繋がるのか……」


 ナルトがヤオ子の前に出る。


 「じゃあ! 今、サスケは!」


 ヤオ子が忍猫のタスケに変化したサスケを地面に置く。


 「ここです」


 変化を解いて、サスケが姿を現した。



[13840] 第103話 ヤオ子とサスケの向かう先②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:17
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 姿を現したサスケは、無言で立っている。
 周りの人間も、突然の登場に言葉を失っている。
 少しの間を開けて、サスケは綱手の方へと歩き出した。



  第103話 ヤオ子とサスケの向かう先②



 サスケは綱手の前に行くと、腰の草薙の剣を鞘ごと抜き取り綱手に突きつける。


 「恥と知りつつも戻って来た……。
  そして……罪を重ねて来たのも自覚している。
  ・
  ・
  あんたの手で、オレを裁いてくれていい」


 いきなりの物言い。
 綱手が呆れた感じで口を開く。


 「開口一番がその台詞か……」

 「…………」

 「謝罪の言葉はないのか?」

 「それも含めて裁いてくれていい……」


 ヤオ子は、サスケの行動に頭が痛くなる。
 何処までも不器用な生き方と信念の貫き通し方しか知らない。
 だからこそ、心配になって目が離せない。


 (そんな会話がありますか……)


 ヤオ子は、綱手の次の──万が一の行動に備えてチャクラを練り上げ始める。
 ヤオ子のチャクラに、最初に気付いたのはナルトだった。

 ナルトは、ヤオ子の顔を見る。
 不安、必死さ、覚悟……。
 色んなものが混ざり合っている。
 その感情を何故、読み取れたのかナルト自身がよく分かっていた。


 (きっと、周りから見たら……。
  オレやサクラちゃんの顔は、こんなんだったんだろうな)


 ナルトがヤオ子の肩に手を置く。


 「ヤオ子……。
  大丈夫だってばよ」

 「ナルトさん?」

 「綱手のばーちゃんを信じろ。
  悪いようにはしないってばよ」


 ナルトは知っている。
 今まで、サスケが抹殺対象にならなかったのは綱手のお陰であることを……。
 ナルトやサクラを信じて、サスケが戻るのを待っていてくれたのを……。
 本来なら、ダンゾウのように抹殺命令を出すのが普通なのだ。
 その常識を覆して信じてくれたのが綱手だった。


 「綱手のばーちゃんは、本当の火影だ」

 「本当の火影?」

 「ああ。
  オレ達を信じてくれている。
  そして、見守ってくれている。
  ・
  ・
  里の皆を命を懸けて守ってくれた」


 ヤオ子のチャクラが霧散する。


 「はい……。
  言葉だけじゃない……。
  行動でも示してくれました。
  ・
  ・
  ナルトさん。
  ごめんね」

 「ん?」

 「サスケさんだけじゃなかった……。
  綱手さんも信じなきゃいけなかった……」

 「ああ……。
  綱手のばーちゃんは、サスケも木ノ葉の忍だって理解してるってばよ」

 「はい……。
  だから、皆、ここに戻って来たんですよね」


 カカシとヤマトが微笑む。
 少し大人になったナルトが、今度は自分よりも下の者に声を掛けられる。
 それはカカシやイルカがナルトに伝えて来たもの。
 途中で綱手やシズネやヤマトが加わり育んで来たもの。
 それはナルトから次の世代へと受け継がれていっている。

 そして、綱手がサスケに語り掛ける。


 「刀を仕舞え。
  お前が罪と感じているなら、
  私に裁かれることを望むな」

 「だが……」


 綱手がナルトの方に視線を向ける。


 「私なんかより、友に許しを貰え……」


 サスケが振り返る。


 「ナルト……」


 ナルトは頭を掻くと話し始めた。


 「言いたいことが一杯あるのに……。
  いざ、話すとなると言葉が詰まっちまう。
  ・
  ・
  オレは不器用だから上手く言えねーけど……。
  ずっと、待ってたってばよ」


 サスケはナルトの言葉に俯いた。
 しかし、ナルトはサスケを見て続ける。


 「お前を分かったつもりでいたけど……。
  分かっていなかった……。
  憎しみってのが、どんなのか分からなかった……。
  ・
  ・
  だから、オレの言葉は届かなかったんだよな」


 今のサスケは、別の答えを持っている。
 自分の貫き通した意地も、後悔も、間違いも……少なからず分かっている。
 だから、ナルトのしてくれたこと──つまり、憎しみを理解してくれるまで追い込んでしまったことに後悔がある。


 「違うんだ……。
  そうじゃないんだ……」

 「サスケ……」

 「オレが耳を塞いだんだ……。
  お前の声は聞こえていたのに……。
  サクラの声も聞こえていたのに……。
  カカシの声も……」

 「でもよ……。
  オレが分かっていなかったのは、本当なんだ……。
  ・
  ・
  この前の戦いで、長門って言うエロ仙人の弟子と戦った。
  そん時になって、初めて憎しみや受ける痛みってのを考えた。
  それまでオレは、そういうことを考えもしなかった」


 サスケが首を振る。


 「それも間違いなんだ……。
  ヤオ子に気付かされた……。
  ・
  ・
  知らない奴に理解することを求めるのは間違いなんだ。
  オレ達が……。
  オレ達が憎しみを知らないでいれたのは……。
  戦争を知らないでいれたのは……。
  戦争を回避した大人達やイタチのお陰なんだ。
  それは悪いことじゃない。
  だから、お前が言い訳をする理由はないんだ」

 「……そうかもしれねーな。
  ・
  ・
  でも、長門の言った痛みも理解しなくちゃいけねーと思うんだ」


 サスケは、ナルトの話に耳を傾ける。


 「今の忍の世界には憎しみが溢れている。
  それをエロ仙人は止めようとしていた。
  エロ仙人は、それを何とかしようとしていた。
  ・
  ・
  オレも何とかしたいと思っている」


 サスケは、ナルトの目を見る。


 (変わったな……。
  火影になって里の皆を見返すと言っていたナルトが、
  自分のためだけじゃないことに目を向け始めている)

 「オレ達は、色々と回り道をして来たけど……。
  そのお陰で、何もしなかったら見えなかったものも見えるよーになって来たんじゃねーか?」

 「ああ……。
  それは、何となく分かる……」


 ナルトが真っ直ぐにサスケを見る。


 「だからよ……。
  手伝ってくれねーか?」

 「手伝う?」

 「ああ……。
  オレとお前で、忍の世界の憎しみってのを止めるんだ」


 サスケは、ナルトが新たな道を示してくれた気がした。
 木ノ葉に戻っても、何をすればいいか分からなかった。
 裁かれることだけを優先した。
 だけど、友はそんな自分を引っ張り上げようとする。


 「オレは、また戦いたいんだ!
  あの波の国で背中を合わせて戦ったみたいに!
  カカシ先生とサクラちゃん!
  そして、新たに加わったヤマト隊長にサイ!
  第七班で憎しみってヤツと戦いてー!」


 綱手は軽く笑うと、ナルトに向かって叫ぶ。


 「ナルト!
  誰がお前のやりたいことを言えと言ったんだ?
  私は、サスケを許す判断をしろと言ったんだぞ?」

 「そうだったな……。
  でも、もうどうでもよくなっちまった。
  サスケが戻って来た。
  これで第七班は元通りだ」


 カカシが笑みを浮かべる。


 「サスケ……。
  待っていたぞ」

 「カカシ……」


 ヤマトが前に出る。


 「あらためて名乗らせて貰うよ。
  ヤマトだ。
  君の居ない間に第七班の戦力はあがっている。
  このメンバーなら、何とかなるんじゃないか」

 「ああ……」


 サスケは何とも言い表せない気持ちで胸が一杯になる。
 ここには、帰る場所があった。


 「ヤオ子です……。
  第七班ではない、あたしは?」


 全員の視線がヤオ子に集まる。


 「悪ぃ……。
  忘れてた」

 「ちょっと、ナルトさん!
  今回、一番の功労者を忘れないでくださいよ!」


 火影の部屋では、笑い声があがった。
 サスケは間違いなく、今、木ノ葉に戻って来たのだった。



[13840] 第104話 ヤオ子とサスケの向かう先③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:18
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 笑い声が収まり始めると、綱手が話を元に戻す。


 「私が火影に戻ったら、直ぐにサスケの抹殺命令は取り消す。
  分かったな?」

 「オウ!」


 サスケの代わりにナルトが返事を返す。
 だが、まだ大きな問題が残っている。
 そのことはカカシから、質問としてあがった。


 「とは言え、一度出した抹殺命令の取り消しを各国が許しますかね?
  特に雲隠れの雷影は許さないでしょう」

 「そうだな」


 ヤオ子は少し疑問に思い、質問する。


 「八尾の捕獲って失敗だったんでしょ?
  だったら、何で問題があるの?」


 ヤマトが、ヤオ子の質問に答える。


 「例え失敗に終わっても、他の里に手を出した事実は消えない。
  ・
  ・
  それにサスケは、追っ手を殺している」

 「そうなんですか……。
  ・
  ・
  ああ! もう! 馬鹿が!」


 サスケの額に青筋が浮かぶ。
 しかし、堪える。
 今回は、自分が悪い。



  第104話 ヤオ子とサスケの向かう先③



 ヤオ子は、綱手に質問をする。


 「その雷影さんを何とかすれば、サスケさんの帰還は問題なしなんでしょ?」


 綱手が溜息を吐く。


 「簡単に言うが、雷影の説得は一筋縄ではいかんのだぞ」


 ヤオ子は少し考えると、サスケに振り返る。


 「サスケさん。
  八尾さんの捕獲失敗の詳細を教えてください」

 「今か?」

 「今」


 サスケは、他のメンバーを見る。
 カカシから『別にいいんじゃないか』との声があがったので、仕方なくサスケは捕獲失敗の話をすることにした。


 ~十分後~


 「なるほどね。
  サスケさんもイタチさんとの戦いの後で完全な状態じゃないから死に掛けて、
  唯一分断した攻撃で変化されて逃げられたと。
  そして、追っ手を始末した。
  ・
  ・
  当の八尾さんは、遊び歩いているのが五影会談で発覚……か。
  ・
  ・
  綱手さん。
  こうしましょう」

 「は?」


 ヤオ子はニヤリと唇の端を吊り上げる。


 「まず、サスケさんの扱いです。
  サスケさんを追い忍だったことにしましょう」

 「何?」

 「サスケさんは木ノ葉の追い忍で、便宜上、里抜け扱いにしていたとします。
  そうすれば大蛇丸さんの暗殺も、イタチさんの暗殺も筋が通ります」

 「お前、勝手に真実を……」

 「多分、このまま話せば雷影さんは、暁に入ったことを指摘するはずです。
  そうしたら、スパイとして入っていたことにします」

 「お前、よく頭が回るな……」

 「そうすると……。
  『何故、八尾さんを襲うことを事前に教えなかったか?』
  『何故、本当に実行したか?』
  ということになります。
  ・
  ・
  そこで今度は、暁の信用を得るためと八尾さんの実力を信じていたからとします。
  いいですか?
  サスケさんが死に掛けたのは、ワザとということにします。
  八尾さんに手を出すための罪を先に清算するためにワザと攻撃を受けた。
  暁への報告のリアリティを出すための演出だった……と。
  ・
  ・
  そして、これは外交ですので下手に出なければいけません。
  八尾さんには手も足も出ないのは分かっていた。
  だから、唯一分断した行動で八尾さんが撤退したことで、
  暁にもバレず雲隠れにも被害を出さずに任務を遂行できたとします」

 「ほとんど嘘だな……」

 「そして、サスケさんに誤算があったとします。
  八尾さんが雲隠れの里に帰らずに遊びまわってしまったことです。
  ここは強調してください。
  向こうの唯一の弱点です。
  ・
  ・
  本来、ここで暁を抜けて木ノ葉と雲隠れに連絡を入れるはずが、八尾さんが雲隠れに戻らなかったせいで、
  暁を抜けれなくなってしまったとします。
  そして、仕方なく五影会談の席までは暁の情報を探っていたが限界が近づき、今に至ります。
  どうですか?」


 綱手は、本当に頭痛が起きている。


 「お前、詐欺師か何かじゃないのか?」

 「えへへ……」

 「だが、ダメだ」

 「何で?
  そんなに大きな穴はないと思うけど?」

 「それではサスケの兄であるイタチが、本当に在らぬ罪を被ることになる」


 綱手の言葉に、サスケが前に出る。


 「それは構わない。
  イタチの真実は、ここにある者の中だけにしてくれ。
  イタチについて誤解していた、今までの嘘を通してくれ」

 「何故だ?
  上層部の奴等のしたことは許されないことだ!」

 「分かっている……。
  だから、知ってて押し通す」

 「?」

 「イタチの行動は、マダラがしゃべらなければ誰も知らない。
  そして、イタチの行動もオレ達が知らなかったことにすれば、イタチの信念も決意も全て守り通せる。
  これ以上、イタチを穢させない。
  イタチの取った行動で回避した戦争だ。
  オレ達が真実を知っていればいい。
  蒸し返して、イタチが守り通した事実を壊さないでくれ。
  ・
  ・
  頼む……」

 「お前……」


 綱手は、サスケの両肩を掴む。


 「分かっているのか?
  それがどれだけ辛いことなのか?」

 「分かっている……。
  今でも上層部の奴等は憎い……。
  ・
  ・
  だが、オレ達が口を噤めば、イタチの思った通りだ。
  木ノ葉は、あの日に戦争を回避した。
  暁の動向もイタチによって、ある程度抑えられていた。
  そして、オレはイタチのお陰でここに居る。
  ・
  ・
  それが真実だ。
  マダラの言ったことは聞かなかった」

 「…………」


 綱手はサスケの肩を放すと壁まで歩いて行き、怪力を発動して壁を殴りつける。


 「私達大人は、何をしているんだ!
  若い奴等にこんな重荷を背負わせて!
  立場が逆だろうが!」


 カカシ、ヤマト、シズネと大人の立場の者は少なからず綱手と同じ気持ちになる。
 里を守るためにイタチを犠牲にしてしまった。
 未来ある若者の上に木ノ葉隠れを築いてしまった。

 サスケは目を閉じるとイタチを思う。


 (まだ守れる……。
  マダラの言葉を無視するだけで、イタチの誇りは守れるんだ……)


 サスケがナルトに振り返る。


 「さっき、ナルトが言ってた憎しみと戦うっていうのは、こういうことだろう?
  ・
  ・
  オレも戦う……。
  お前が火影になって変える手助けをする」

 「サスケ……」


 サスケは綱手に向き直る。


 「ようやく、やりたいことが分かって来た。
  イタチの意志を受け継ぐ方法が見えて来た。
  ・
  ・
  オレが木ノ葉で自由に動けるために、
  ヤオ子の方法でも何でもいいから、雷影を説得してくれ」


 綱手は静かに頷く。


 「分かった……。
  だが、一言。
  お前達兄弟に言わせてくれ。
  ・
  ・
  すまなかった……」


 綱手は深く頭を下げている。
 一瞬呆気に取られた後で、サスケは少しだけ表情を緩ませる。


 (この人が謝っても仕方がない……。
  だが、里の代表として頭を下げている……。
  ・
  ・
  兄さん……。
  これで少しは報われただろうか……)


 サスケは自分の中で整理をつけると、綱手に話し掛ける。


 「頭を上げてくれ。
  しっかりと受け取った……。
  ・
  ・
  あんたが木ノ葉隠れの火影でよかった」

 「サスケ……」

 (コイツ……。
  聞いていた印象が大分違う……。
  ・
  ・
  ヤオ子は、本当にさっき話した通りの説得をしただけなのか?)


 綱手がヤオ子を見ると、ヤオ子は首を傾げている。


 (ナルトだけじゃない。
  コイツにも、何かを変える力があるのかもしれない……)


 ヤオ子は真剣に見ている綱手に対して、ウィンクした後に緩い笑みを浮かべる。


 (ただし、ナルトもヤオ子もどうしようもない馬鹿だがな!
  きっと、馬鹿には得体の知れない力が備わるに違いない!)


 綱手は、セクハラ行為に移行しようとするヤオ子にグーを炸裂させる。


 「ヤオ子!
  さっきの話の内容で手紙を書く!
  手伝え!」

 「……はい」


 綱手とヤオ子が相談に入り、シズネはクスリと笑うと部屋の扉に向けて歩き出す。


 「巻物と筆と硯を取って来ます」

 「頼む」


 少しずつ、何かが動き出していた。


 …


 ヤオ子と綱手が手紙の文面を考えているところにサスケが顔を出す。


 「悪いが一文追加してくれないか」

 「何だ?」

 「八尾を狩る際に殺してしまった追っ手のことだ。
  彼には、何の非もない。
  オレの我が侭で殺してしまった。
  ・
  ・
  彼に対しての謝罪だけはしなければいけない」

 「そうか……。
  そうだな……。
  ・
  ・
  だが、外交上、それは不利になることだ。
  あまり強調して書けないぞ」

 「構わない……。
  その罪は、一生背負って生きていく」

 「……分かった」


 ヤオ子は腕組みをすると、綱手を見る。


 「確かにサスケさんの罪なんですけど……。
  少し釈然としませんね」

 「どういうことだ?」

 「だってね。
  マダラさんがイタチさんのことを話さなければ、サスケさんが暁に入ることはなかったでしょ?」

 「そうだな……」

 「それに八尾さんが大人しく雲隠れの里に帰っていれば、追っ手なんか放たれませんでしたよね?」

 「そうだな……」

 「あたしは、一概にサスケさんだけを責めることは出来ません」


 サスケがヤオ子の頭に手を置く。


 「それでも、オレのしたことだ」

 「……ねぇ。
  サスケさんは、いつになったら自分を許すの?
  サスケさんの今まで生きた人生は、サスケさん以外の思惑や陰謀が絡み合っています。
  そして、戦う理由はいつも誰かのためです」

 「……そうだな。
  でも、お前は自分がやった罪をそのままに出来るのか?」


 ヤオ子は、頭を掻く。


 「四割近くは放置してますね」

 「聞くんじゃなかった……。
  お前、ほとんど犯罪者じゃないか」

 「失礼ですね!
  あたしのストーカー行為は、自分からバラさない限り法に触れません!」

 (一応、それが犯罪だとは気付いているんだな……)


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「お前は、少しは罪を感じろ!」


 サスケは溜息を吐いた後で苦笑いを浮かべる。


 「マダラとの因縁が切れたら、しっかりと自分を始められる……」


 サスケは綱手とヤオ子の元を去る。
 その後ろでは、ナルト達が直ぐにサスケを捕まえていた。


 「スン……」


 ヤオ子は涙を堪えていた。


 「どうしたんだ?」

 「少し嬉しい……。
  サスケさんと再会した時は、変わり果ててどうしようかと思いました……。
  ・
  ・
  でも、ナルトさんもカカシさんも、サスケさんの帰る場所であってくれた……。
  イタチさんの作ってくれた場所は間違いじゃなかった……。
  それが嬉しいんです……」

 「その変わり果てていたサスケを連れ戻して来たおまえの方が凄いと思うがな」

 「そうですかね……。
  今思うとイタチさんの手の中のような気がします」

 「うちはイタチか……。
  計り知れない人物だな」

 「はい」


 そこにシズネが戻って来た。


 「さあ、手紙を書くぞ。
  しっかりとチェックしてくれ」

 「はい」


 こうして雷影への手紙制作が行なわれた。


 …


 手紙は、連絡用の鷹の背中にある筒に入れて雲隠れの里に飛ばすことになる。
 返事が来るのは、一、二日後だろう。


 「それじゃ遅いです!」

 「無理言うな」


 ヤオ子と綱手が睨み合っている。


 「あたしが行って来る」

 「どうやってだ?
  空でも飛ぶのか?」

 「いいですね」

 「は?」


 ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。


 「口寄せの術!」


 例によってタスケが現れる。


 「ロン!
  倍満!
  ・
  ・
  あれ?」


 牌を倒した格好で現われたタスケに、皆の視線が集まる。


 「タスケさん。
  のん気に麻雀ですか……」

 「チッ。
  ヤオ子かよ……」

 「お仕事です」

 「またか?
  お前、扱き使い過ぎだ」

 「いいから手伝って!」

 「はいはい……」


 ヤオ子はタスケを抱きかかえると、綱手の元に戻る。


 「タスケさんを使って、手紙のやり取りをします」

 「コイツ……忍猫だったのか?」

 「ええ。
  ・
  ・
  それでね。
  連絡方法です」

 「ああ……」


 綱手以外のメンバーも耳を傾ける。


 「まず、あたしの影分身をここに残します。
  ↓
  次に綱手さんの手紙と巻物に変化したあたしを一緒に雲隠れの里に送ります。
  ↓
  雷影さんが手紙を読みます。
  返事を書きます。
  あたしが預かります。
  影分身を一体出して、直ぐに解除します。
  ↓
  影分身の経験値が還元されて、こっちの影分身が準備OKを確認します。
  ↓
  タスケさんが、あたしを逆口寄せ呼び出します。
  綱手さんに手紙が届きます。
  ・
  ・
  これなら、一日で何とかなります。
  ちなみに、綱手さんから雷影返信する時は……。
  手紙をあたしに渡します。
  ↓
  逆口寄せを『解』します。
  あたしは、雲隠れの里に戻って雷影さんに手紙を渡します。
  ・
  ・
  まあ、後は繰り返しです」

 「なるほど。
  変わった使い方だが、一度、お前を送れば、後は簡単そうだな」

 「はい。
  あたしのチャクラが続く限り、手紙のやり取りが出来ます」


 ちなみに、この説明でナルトだけが分からなかった。
 ナルトは少し離れたところで、カカシとヤマトの説明を聞いている。
 こうして、雷影との手紙の会談が始まることになった。



[13840] 第105話 ヤオ子とサスケの向かう先④
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:18
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 巻物に変化して二時間の空の旅……。
 ヤオ子は雲隠れの里の暗号解読班のところで変化を解くと、拘束されて雷影の前に突き出されるハメになっていた。


 「何故、こんなことに……」


 雲隠れの里は、他国に厳しい。



  第105話 ヤオ子とサスケの向かう先④



 武器は取り上げられ、手枷にロープで縛られ正座。


 (これは、何ていうプレイなんだろう……)


 目の前には、マッチョででかいお爺さん。
 雷影……。
 滅茶苦茶睨んでいる。


 「フン……」


 雷影はヤオ子を無視すると、手紙を読み始めた。
 そして、そんな中、正座させられているヤオ子に話し掛ける人物が居る。


 「ヤオ子じゃねーか」

 「あ。
  キラービーさん。
  お久しぶりです」


 北アジトに向かう途中に会った旅人──キラービーは話を続ける。


 「お前、何しに来たんだ?」

 「手紙を届ける役」

 「ほう……」


 そんな和やかな会話をしている最中、いきなり机を破壊する音が響く。


 「ふざけるな!」


 雷影が激怒している。
 しかし、ヤオ子は別のことが気になった。


 「もう、全部読んだの?」

 「いや。
  余裕で読んでないな」

 「はい?」

 「このパターンだと……。
  手紙は、そのまま最後まで読まずに黄泉に送られるな」

 「へ?」


 案の定、手紙はビリビリに破られた。


 「な」

 (『な』じゃねーです……)


 ヤオ子は、頭が痛かった。
 これではサスケについての説得どころではない。


 「まったく……」


 ヤオ子は立ち上がると、手首をゴキンと鳴らす。
 すると、手枷が両手からストンと落ちた。
 再び、手首の間接を入れるとヤオ子は叫ぶ。


 「ルパン・ザ・サード!」


 そして、次に印を結び、小さい何かに変化して直ぐに変化を解くとロープが落ちる。
 ヤオ子は雷影に指を差す。


 「何やってんだ!
  この馬鹿が!」

 「指を差すな!」

 (コイツ、ブラザーに喧嘩売るのか?)

 「何で、手紙を読まないんですか!
  あんたは、黒ヤギか!」

 (読まずに食べてないがな……)

 「黙れ! 小娘!
  何故、犯罪者の抹殺許可を取り下げるのだ!」

 「その理由が、先に書いてあるんでしょう!」

 「読む価値もないわ!」

 「読め!
  読んでから怒れ!」


 雷影の側近のシーとダルイが呆れている。
 女の子が雷影に噛み付いている。
 ダルイがシーに話し掛ける。


 「木ノ葉って個性的な子が多いよな……」

 「他里のことを言えんがな……」


 ヤオ子は大声で叫ぶ。


 「読まないなら聞かせるまで!
  手紙の文面を読み上げる!」

 「聞く耳ないわ!」


 が、ヤオ子無視。


 「拝啓! 雷影殿!」

 「聞かんと言っている!」


 雷影が前に出ると、一瞬でヤオ子との間合いを詰めた。


 (雷遁の鎧!?)


 迫り来る雷影の攻撃を……ヤオ子は何とか回避。
 ただし、パリパリと雷遁の音を立てながら、ヤオ子の頭は反対の壁に減り込んでいた。
 それを見たキラービーは、大笑いしている。


 (アイツ、まだ使いこなせてないな。
  まあ、別れて短い期間だしな)


 ヤオ子は壁から頭を引っこ抜くと、再び手紙の続きを叫び出す。


 「この馬鹿娘が!
  まだ続ける気か!」


 雷影とヤオ子の追いかけっこ。
 逃げ回るヤオ子に雷影のフルスイングが向かう度に、雷影の部屋が壊れていく。
 壊しているのは雷遁の鎧を扱えない、ヤオ子の壁への激突も原因だが……。


 「だり~~~……。
  これ後で直すの誰だと思ってんだよ……」

 「この前の五影会談の時の壁の穴を塞いだばっかりなのに……」


 でも、止めない側近二人。
 止めることが無駄なことも熟知している。

 雷遁の鎧を使いこなせないヤオ子が壁にぶつかる度に、更に壁が壊れる。
 続けざまに雷影の拳は、容赦なく壁を突き破る。
 雷影の部屋は、ほぼ原型を留めていなかった。


 (この娘……。
  中々、やりおる……)


 雷影が感心する一方、ヤオ子は叫びながら走るので息が切れだした。


 (これ……きっつい!
  ・
  ・
  っていうか!
  このお爺さん!
  殺す気で殴ってない!?)


 それでも何とか最後まで手紙の内容を叫び切ると、ヤオ子は雷影を指差す。


 「い、以上です!
  あたしの勝ちです!」

 「っ!」


 雷影が奥歯を噛み締め、側近二人が額に手を置いている。


 「何の勝ち負けなんだ……」

 「私に聞くな……」


 キラービーだけが大笑いしている。
 そして、雷影とヤオ子にキラービーが近づく。


 「ブラザー。
  話を聞いてあげたら、どうだ?」

 「フン……。
  負けたからな……」

 ((だから、何処に勝負の要素があったんだ……))


 側近二人は項垂れた。
 ヤオ子は整い始めた息で、雷影達に話し掛ける。


 「何で、話し直すんですか?
  全部話したじゃないですか?」


 キラービーが突っ込む。


 「あんな状態で誰がお前の話を聞くんだ?
  バカヤロー。
  コノヤロー」

 「…………」


 ヤオ子は、がっくりと手を突いた。


 「あたしの努力は一体……」

 「無駄だな」


 ヤオ子にズーンと暗い影が落ちた。


 …


 側近二人が壁を直す後ろで、ヤオ子から雷影に説明が行なわれた。


 「なるほど。
  そういう事情であったか」

 「はい……」

 (何で、手紙を届けるだけでこんなことに……)


 雷影は、返事の手紙を書き始める。
 そして、手紙を書き終えるとヤオ子に手渡す。


 「確かに預かりました」

 「うむ」

 「では、少しだけ失礼します」


 ヤオ子が影分身を出して消すと、本体のヤオ子が消えた。
 雷影達は、奇妙な光景に押し黙った。


 …


 ヤオ子が木ノ葉に戻り、綱手に雷影の手紙を渡す。


 「遅かったな」

 「ええ……。
  少し殺され掛けましてね……。
  ・
  ・
  はは……」


 ヤオ子の乾いた笑いに、全員首を傾げた。
 そして、綱手が手紙をヤオ子に渡す。


 「お礼の手紙だ。
  サスケの抹殺以来の取り消しは了承された。
  それとサスケの存在は、五影と側近だけの秘密になった。
  理由は、マダラにサスケの戦力がこちらにあることを悟らせないためだ」

 「なるほど。
  でも、バレているかもしれませんよ?
  何か謎の能力で位置分かるみたいなんで」

 「ああ。
  カカシとヤマトから聞いている。
  だが、万が一知られなければ、裏をかくことが出来るかもしれない」

 「そうですね。
  ・
  ・
  じゃあ、届けて来ます。
  解!」


 ヤオ子は、再び雷影のところに飛んだ。


 …


 再び、ヤオ子が雷影の前に現れる。
 そして、綱手の手紙を渡す。


 「一体、何をしているんだ?」

 「話すと長いんですけど。
  ・
  ・
  かくかくしかじか……。
  ・
  ・
  という方法で、あたしが手紙を運んでいるんです」

 「なるほど……。
  その方法は使えるな。
  シー。
  メモしておけ」

 「はい」

 「利用するんですか?」

 「ああ。
  ある意味、これほど移動中に敵に狙われない方法もない。
  現地に部下を送って忍を直接口寄せしてもいいからな」

 「人?
  ・
  ・
  ああ。
  中忍試験で先生を呼び出したって言ってましたね」

 (だったら、タスケさんに頼む必要もなかったような……)

 「では、ご苦労だったな」

 「はい……。
  今度は、手紙を呼んでくださいね」


 ヤオ子は影分身を出して消すと、タスケの逆口寄せで消えた。


 「何とも騒がしい娘だったな」

 「ブラザーが手紙を読まないからだ」

 「そうだな。
  ・
  ・
  ところで、ビー」

 「あん?」


 雷影のアイアン・クローが、キラービーに炸裂する。


 「ジェイの死は、お前にも原因がある!」

 「ぐぁぁぁ!
  また、危機だ!
  利き腕で危機!」


 その後、木ノ葉の里と雲隠れの里では、盛大にサスケの追っ手だったジェイの葬儀が行なわれたらしい。



[13840] 第106話 ヤオ子の可能性・特殊能力編①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:18
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケが木ノ葉隠れの里に戻って来た。
 後は、成り行きに任せて時間が経つのを待つだけだ。
 タスケは『用(麻雀)がある』と、役目が終わると大蛇丸のアジトに戻った。
 少し緩んだ空気の中で、ヤオ子は綱手に話し掛ける。


 「綱手さん。
  サクラさんを呼ぶタイミングを逸したような気がするんですけど……」

 「…………」

 「綱手さん?」

 「……どうしようか」


 綱手は、額に手を置いて悩んだ。



  第106話 ヤオ子の可能性・特殊能力編①



 綱手が刺し当たっての問題を口にする。


 「サスケのことが秘密になって、サクラだけではなく他の忍にも秘密になってしまった。
  そして、第四次忍界大戦が本当に起きるなら、それに対する準備もしなければならない。
  ・
  ・
  どうしたもんか……」


 シズネが綱手に提案する。


 「サクラには知らせてもいいのでは?
  側近というのであれば、サクラは綱手様の弟子です」

 「そうだな……。
  だが、五影会談にまで出向いてしまうぐらいに、今のサクラの心は不安定だ。
  サクラだけじゃない。
  ナルト達の同期全てが不安定だ」

 「それは……。
  サイとシカマルが、サクラにサスケ抹殺の話をしたからで……」

 「分かっている。
  それに、それが悪いとは言わん。
  アイツらも大人になって、自分達でどうにかしようと行動し始めた結果だ」

 「はい……」

 「それにそういう行動を取り始めたのは、ナルトが起爆剤になっている」

 「オレ?」


 ナルトは分からないという顔をしている。


 「簡単に言えば、昔のお前に起きていることがシカマル達に起きているんだよ」

 「ハァ!?」

 「お前、アカデミーで落ちこぼれだったのを覚えているか?」

 「忘れねーよ」

 「そして、お前がカカシ班に配属されて、急激に成長したのは、何故か分かるか?」

 「オレが、実は天才だったから?」


 綱手のグーが、ナルトに炸裂した。


 「違う!」

 「って~!
  頼むから、ヤオ子と同じ要領で殴んないでくれよ!」

 (あたしならいいんですか……)

 「いいか?
  お前の成長が異常に早かったのは、サスケの実力を目の当たりにしたからだ。
  お前は、サスケをライバルと思っていたんだろ?」

 「ああ」

 「だったら、仙術を身につけたお前を見て、ライバルと思っているシカマル達は、どう思う?」

 「……あ!」

 「分かったか?
  お前がサスケの役目になっているんだ」

 「そうか」


 カカシが横から付け足す。


 「そして、このやる気を無駄にする気はない。
  そうですね? 綱手様?」

 「ああ。
  アイツらは、これからもう一回急激な成長をする可能性がある。
  そう言った意味でも、サスケのことは秘密にして修行に集中させる。
  相手が相手だからな」

 「何だか面白くなって来たな!」


 ナルトは、両手を胸の前で合わせバシッ!と鳴らす。
 綱手は第四次忍界大戦を宣戦布告されるという最悪の状況の中で、いい流れが出来てきたと微笑む。


 「さて、これからの予定だ。
  ナルト。
  お前は、雲隠れの八尾とある場所に行って貰う。
  付き添いにはヤマトを付ける」

 「ハァ!? 何で!?」

 「お前の九尾を暁が狙っているからだ!
  これは五影会談の決定事項だ!」

 「……仕方ねーな」

 「サスケ。
  お前は──」

 「大蛇丸のアジトの一つに結界を張ってある。
  そこで修行をしながら待機している」

 「……準備済みか。
  分かった。
  お前に任せる。
  ・
  ・
  他は、私の命令があるまで里で待機だ」


 ヤオ子が前に出る。


 「待ってください!」

 「何だ?」

 「提案があるんです」

 「……お前の意見は、今や無視できないからな。
  言ってみろ」

 「ナルトさんが出発するまで、日程がありますよね?」

 「ああ。
  数日だがな」

 「その日程の一日をくれませんか?」

 「何に使うんだ?」


 ヤオ子は、ナルトとサスケを見る。


 「ナルトさんとサスケさんで、模擬戦をして貰いたいんです」

 「「何?」」


 ヤオ子が綱手に向き直る。


 「この模擬戦。
  あたしの我が侭と戦力分析です。
  あたしの我が侭というのは、お二人が特殊系の忍術を身につけている忍だから。
  あたしの力をそこに持って行くための参考にするためです。
  ・
  ・
  そして、戦力分析。
  第四次忍界大戦をする時に、この二人が間違いなく木ノ葉の最大戦力になると思うからです。
  先のナルトさんの戦い……。
  誰も手が出せませんでした。
  つまり、ナルトさんを援護できる忍が、今の木ノ葉には居ないんです。
  だけど、サスケさんがナルトさんに近い力を持っていれば、
  ナルトさんを援護して、サスケさんを援護できるんです」

 「そういうことか……。
  後者は分かるが、前者は分からんな」

 「あたしの理想とする忍です」


 綱手が片眉を歪める。


 「う~ん……。
  どういうことだ?」

 「説明が長くなるので省きますが、
  これを成就するためにナルトさんが出発するまでの残りの期間……ヤマト先生と修行したいんです」


 綱手の顔が険しくなる。


 「お前、マダラとの戦い参加する気だな?」

 「はい」

 「無茶だ!」


 直ぐにヤマトからも、反対意見があがった。


 「君の力じゃダメだ。
  それに各国が連携した今、送られる忍は精鋭部隊だ。
  ヤオ子の入る隙間はない」


 カカシもヤマトの意見に賛成する。


 「オレもヤマトに賛成だ。
  ヤオ子の基本技術が高いのは知っているが、それだけじゃダメだ」

 「あたしは努力して来ました!
  手を抜いたことはないです!
  チャクラの絶対量も上げて来ました!
  ・
  ・
  あとは、術を覚えれば中忍にだって負けません!
  そして、特殊系の忍術をヤマト先生に教われば、サスケさんの側で戦えます!」


 全員が驚く。
 ヤオ子が自分を過大評価すのは珍しいからだ。
 いつも未熟であることを口にするヤオ子が、自分から前に出ている。
 綱手が溜息を吐く。


 「ヤオ子。
  確かにお前の実力は認めている。
  だから、今度の中忍試験にお前の参加を勧めた。
  しかし、いきなりお前が上忍の枠まで成長するとは思えん」

 「力は、手に入れています!」


 ヤオ子が右手を突き出す。
 親指に火が灯り……。
 人差し指に水が滴り……。
 中指で砂が流れ……。
 薬指で隣の指の砂を風が巻き上げ……。
 小指で放電する……。
 ヤオ子が右手を握ると、互いの性質同士が相殺し合い音を立てて消える。


 「上忍に必要な術の印を覚えるだけで……。
  あたしは、次の段階に行ける!」

 「馬鹿な!」


 ヤマトが声をあげた。


 「君に土遁と水遁の修行方法を教えたのは、木ノ葉が潰されて暫くしてからだ!
  一ヶ月も経っていない!
  その間で、他に風遁も雷遁も覚えるなんて有り得ない!
  ・
  ・
  ましてや同時に五つの性質変化を発生させるなんて聞いたことがない!」

 「ヤマト先生。
  こんなの出来て当たり前です。
  あたしは、必殺技を応用開始した時点で、体の四ヶ所に火遁を仕込んでいたんですから」

 「……そうだ。
  今、思えばそれもかなり異質なんだ……」

 「ヤマト先生!
  あたしも、皆さんの側で戦いたいんです!」

 「ヤオ子……」


 ヤマトだけではない。
 ここに居る誰もが異常性を感じている。
 綱手が口を開く。


 「努力でどうこうなることじゃないぞ……。
  性質を全部扱える上に、同時に発生できるだと……。
  ・
  ・
  血継限界を発動する条件が満たされているじゃないか……」


 シズネが補足する。


 「ヤオ子ちゃんのご両親は、お父さんが土遁、お母さんが風遁と火遁を現役で使っていました。
  ・
  ・
  でも、血継限界を発動したという記録はないはずです」

 「母親の家系だ……」


 カカシが、何かを思い出す。


 「ヤオ子の母親の家系……。
  恐らくその遺伝子に眠っていたんだ」

 「ヤオ子の母親だと?
  あの家系は、医療部隊や暗号解読班にばかり就職している。
  とても戦闘向きの忍ではない」

 「多分、その家系で100%能力を引き出した人が居ないんです。
  ヤオ子の母親の忍の技術は、途中で引退したから最終的にどのような忍になるか分かりませんが、
  グラフにすると明らかに異質であるのが分かるはずです」


 シズネは部屋を飛び出すと資料を探しに走った。
 ヤオ子がカカシに質問する。


 「何で、うちのお母さんのことを?」

 「君が里で問題ばかり起こすから、ご両親の調査をしたの」

 「う!」


 ヤオ子は好奇の対象で見られながら押し黙っている。
 そして、暫くしてシズネが戻る。


 「ありました!
  カカシの言う通りに変です!」

 「シズネさん……。
  『変』って……」


 綱手の近くに広げられた資料を全員が覗き込む。
 アカデミーの時期から、母親の能力値は右肩上がりで上がっている。
 そして、上忍昇格を拒否し続けている。
 その間に火遁の性質変化を身に付けた以降も、更に基本能力は上がり続けている。


 「何だこれは?」

 「成長が止まらないんですよ。
  ・
  ・
  ヤオ子。
  何か聞いてないか?」

 「う~ん……。
  あたしと『忍者としてのスタイルも似てる』って言ってました。
  ・
  ・
  あと……目標を決めていました。
  それがさっきから言ってる特殊系に繋がるんですけど、
  あたしは、お母さんの目指した忍にもなりたくて……少し真似してるかな?
  ・
  ・
  お母さんの目標は、
  『中忍までに基礎を極めよう』
  つまり、暗部・上忍と同じスピードを手に入れる。
  ・
  ・
  『上忍になるなら、大軍系忍術を身につけよう』
  つまり、複数人を対象にしている術を身につける。
  ・
  ・
  『暗部になるなら、特殊系の忍術を身につけよう』
  つまり、秘伝忍術や血継限界──ついでに言うと、それはヤマト先生に教われって言われてます」

 (それでさっきボクの名前が……。
  それにしても……)

 「「「「「「目標高過ぎ……」」」」」」

 「そうなの?」


 カカシが補足する。


 「当たり前だ。
  一体、何歳の時の目標なんだ?
  中忍で上忍と暗部と同じスピードを扱うって、おかしいだろう」

 「やっぱり、そうか……。
  お母さんは攻撃が当たんなきゃ意味ないから、
  現役の時は、そこを中忍の最低ラインにしていたんです」

 「道理で、上忍の昇格を断わるわけだ」

 「でも、この前、及第点を貰いました」

 (((((どういうことだ?)))))

 「思い当たる節がある……」


 サスケに視線が集まる。


 「コイツ……。
  オレと接触した時に、オレを含めた四人相手に立ち回りやがった……」


 ナルトがサスケに近づく。


 「お前、腕落ちたんじゃないの?」

 「大蛇丸のアジトで、オレのスピードは知っているだろう。
  そのスピードについて来れるんだ……コイツは」

 「……嘘?」

 「本当だ。
  誰がこんなことを教え込んだんだ?」



 カカシの口から予想される人物の名が漏れる。


 「……ガイっぽいな」

 「アイツか……」


 ナルトに別の疑問が浮かぶ。


 「でもさ!
  でもさ!
  ・
  ・
  性質変化は!?
  あれ……すっげェ!
  習得に苦労すんだぞ!」


 ヤオ子に視線が集まる。


 「ヤマト先生の修行方法を参考にしただけです」

 「何を教え込んだの?」


 カカシの質問に、ヤマトは答える。


 「普通のことですよ。
  土遁と水遁の基礎。
  あと、ナルトの影分身の経験値蓄積」

 「ああ!
  それでか!」


 ナルトは納得するが、カカシは顎に手を当てている。


 「……それでも計算が合わない」

 「は?
  何で、だってばよ?」

 「ヤオ子は九尾を宿していないから、ナルトと同じ数の影分身は出来ないはずだ」

 「そう言えば……」

 「そうなると、雷遁をマスターしたサスケ並みのセンスがあったとしか考えられない」

 「違いますね」


 ヤオ子は否定した。


 「性質変化に必要なのはセンスじゃなくて想像力です。
  自分のチャクラをどのように変えるか想い描く力です」


 ヤオ子はカカシを指差す。


 「カカシさんも複数の性質変化を習得しています」

 「ああ……それが?」

 「あたしとカカシさんの共通点……。
  エロ小説を読み込んでいることにあります」


 全員が吹いた。


 「日々、エロい想像が頭にあるので、想像するのは得意分野です。
  エロい想像を性質の想像に置き換えることで、性質変化の習得は朝飯前です。
  ・
  ・
  つまり、エロい人ほど性質変化の習得が早い!」


 カカシとサスケに視線が集まる。


 「「絶対に違う!」」

 「そうだよな。
  カカシ先生は、兎も角。
  サスケは、まともな人間だ」

 「ナルト……。
  凄く傷ついた……」

 「結局、原因不明か……」


 シズネが意見を述べる。


 「そんなアホな理由じゃないはずです」

 「シズネさん……。
  『アホ』って……。
  さっきから……。
  頭のネジでも飛んだの?」

 「普通に考えてください。
  どう考えても、ヤオ子ちゃんのお母さんの家系が原因です。
  私もカカシと同じ意見で、ヤオ子ちゃんのお母さんの家系は、能力が全て開花していないんだと思います。
  ・
  ・
  うちは一族に稀に写輪眼を持つ者が現れるように、
  きっと、ヤオ子ちゃんのお母さんの家系にも成長すると先があるんです。
  しかし、その先に何があるか辿り着いた人が居ない。
  つまり、今のヤオ子ちゃんが答えの一つなんです」


 再び、ヤオ子に視線が集まる。


 「そうなると、あたしには変態性以外に、どんな血が受け継がれているんですか?」

 「恐らく……。
  成長速度です」

 「いや、あたし努力を怠ってませんよ。
  他の人より努力しているつもりですけど……。
  寧ろ、その成果であって欲しいですよ。
  あれだけ頑張ったんだから……」

 「それ!
  つまり、ある一定レベル以上の修行を課さないと、成長速度が上がる条件が満たされない!」

 「何てドSな設定なんですか……。
  あたしは遺伝子の中にも、ドSに支配される要素が含まれているんですか……」

 「まあ、シズネの勝手な推測は置いとく」

 「綱手様!?」


 綱手がシズネを置いて結論を出す。


 「ヤオ子の提案は、全て許可する。
  模擬戦については、砂に連絡して砂漠で行なう。
  そして、ヤマトに短い間だがヤオ子の担当を命ずる」


 ヤオ子は嬉しそうにヤマトを見る。
 ヤマトは少し困った顔を浮かべたが、直に微笑む。


 「ヤオ子に関しては、ヤマトとの修行が終わり次第、判断を下す」

 「はい」

 「では、砂の許可が取れるまで各自に待機を命ずる」


 こうして、少しずつ第四次忍界大戦に向けて動きが大きくなっていくことになった。
 そして、ヤオ子の特殊能力が開花すれば、ヤオ子もサスケの側で戦う条件を満たすことになる。


 …


 ※※※※※ 番外編・ナルトの眠れない夜 ※※※※※


 サスケのことが、他の忍にも秘密になるとサクラやサイに話せない。
 マダラの話なら幾らでも口を閉じるつもりだったが、サスケのことはどうにも我慢できない。


 「ダメだ……。
  眠れないってばよ……」


 里の自分の家も全て瓦礫に変わり、仮施設でナルトは生活している。
 その仮施設の布団の上で額を手で覆う。


 「今まで一緒にサスケを追って来たのに……。
  これを話さないのは裏切りみたいだ……」


 ナルトは、深夜に仮施設を抜け出した。


 …


 足は何処を行くわけでもなく、適当に歩みを進める。
 そして、自然とカカシの居る仮施設に辿り着いた。
 ナルトは、ノックしようと手を上げるが止まる。


 「何て……言えばいいんだ?」


 そして、ノックをする前に扉が開く。
 カカシと視線が合った。


 「ナルト?」

 「カカシ先生?」

 「…………」


 二人は、同じような顔をしている。


 「サクラのことか?」

 「あと、サイも……」

 「まあ、上がれ」

 「ああ……」


 ナルトは、カカシに与えられた仮施設の部屋に入ると溜息を吐く。


 「我慢できねぇ……」

 「お前もか……」

 「カカシ先生も?」

 「ああ……。
  お前達が、どれだけ苦労して来たかを知っているからな」

 「そうなんだ……。
  一緒に苦労したサクラちゃんに……。
  協力してくれたサイ……。
  この二人に話すのは、ダメなのか?」

 「そういう決まりだからな」

 「だけどさ……。
  今度は、オレの方が身が入らないというか……」

 「分かるよ……」


 ナルトは溜息を吐くと、もう一つの悩みも打ち明ける。


 「……少し気落ちしているんだ。
  ・
  ・
  おいしいところをヤオ子が持って行っちまった。
  どうも、オレ達の手でサスケを取り返した気がしないんだ」

 「そうだな……。
  だけど、それは仕方がないさ。
  あの子、変な能力を持っていたからな」

 「あのサスケの居場所が分かるってヤツか?」

 「そう。
  何で、あんな変な能力が身についたんだろう?」

 「何かヤオ子だと納得しちゃうんだよなぁ……。
  まともに任務を遂行する方に疑問が浮かんで、
  変な方法で解決する方がしっくり来るんだってばよ」

 「……あの子は、そんな感じだな」

 「だろ?
  何か分からないうちに解決していて、
  後でヤオ子が絡んでるって知ると、妙に落ち着くんだってばよ」

 「本当に訳の分からない子だよな……。
  ・
  ・
  でも、そんな訳の分からない子だから、サスケも戻って来たのかもな。
  きっと、オレ達と説得の仕方が違ったんだろう」

 「ヤオ子の説得ねぇ……。
  ・
  ・
  思い浮かばない……。
  でも、何かいつもの調子で、口で誤魔化されたんじゃないかって想像できる」

 「……ナルトも騙された口か」

 「騙されたってばよ……」


 師弟は、ヤオ子に揃って騙されたらしい。
 カカシが、ナルトに話し掛ける。


 「ヤオ子にとって、サスケというのは、どういう存在なんだろうな?」

 「ヤオ子にとって?」

 「ああ。
  ナルトは、サスケをライバルと思っていただろう?」

 「ああ。
  ・
  ・
  ヤオ子にとってか……。
  ん?」

 「どうした?」

 「いや、アイツってば……。
  最初、サスケに『死ねばいい』とかって言ってたような……」

 「は?」

 「それがさ。
  アイツがサスケに修行をつけて貰ってた時、思いっきり嫌ってたんだってばよ。
  ・
  ・
  サスケの修行方針がドSで見境いないから」

 「そういえば……。
  オレも特別召集の試験の時に、忍者になるのを拒否していたのを見たような……」

 「何か変じゃないか?」

 「変だな」

 「サスケを慕う接点がねーってばよ」

 「何なんだ?
  いつ心変わりしたんだ?」


 ナルトとカカシは悩む。


 「ヤマト隊長じゃない?」

 「ヤマト?」

 「そう!
  何か分かんねーけど。
  ヤオ子は、ヤマト隊長を尊敬してんだよ」

 「分からなくもないけど……。
  ヤマトに懐いているな」

 「あと、イビキのおっさん」

 「そこが、また謎なんだ。
  ヤマトとイビキの性格なんて真逆じゃないか。
  仏と閻魔みたいだろう?」

 「確かに……。
  が~~~っ!
  どーなってんだ!?
  ヤオ子の頭の中は、さっぱり分かんねー!」

 「同感だ……」


 ナルトが話を戻す。


 「カカシ先生。
  もしかしたらだけど……」

 「何だ?」

 「ヤオ子ってば……。
  サスケのことを……れ、恋愛の対象に見てるってのは?」

 「……ナルトの口から、
  そんな言葉が出るとは思わなかったな。
  だが、恋愛対象か……。
  ・
  ・
  想像できん」

 「何で?」

 「あの子が真剣な顔をしているのは、忍術の修行をしている時だけだ。
  普段の日常で、あの緩い顔が真剣になったことなど、今まで有り得たか?」

 「有り得ねーな。
  変わる時は、邪悪な笑みを浮かべる時ぐらいだな」

 「ああ。
  ・
  ・
  ますます分からなくなった。
  何で、ヤオ子はサスケのためにここまでしたんだ?
  そもそも、あのヤオ子がどうやって説得したんだ?」

 「分かんねー!
  この里に居るヤオ子からは想像できねー!」


 まともな生態を知られていないと疑問が疑問を呼び分からなくなる。


 「もう、いいってばよ!
  ヤオ子を考えても分かんねーってばよ!
  アイツはオレ達の遥か上を行く変態なんだから、放っとくってばよ!」

 「そうだな」

 「今、一番問題なのはサスケのことを言いたいけど言えないこと!」

 「……だな。
  ・
  ・
  それって解決するのか?」

 「それを何とかしてーから、カカシ先生のところまで来たんじゃねーか!」

 「オレも悩んでたんだけど……」

 「…………」

 「「どうしよう……」」


 ナルトとカカシは、うんうん唸っているが結論が出ない。


 「もういいや……。
  綱手のばーちゃんに頼んで来る」

 「は?」

 「受け入れらんねーなら、話しちゃえばいいよ……」

 「そんなヤオ子みたいな、人を脅すような方法を!?」

 「そう……。
  ヤオ子に聞いたんだってばよ。
  綱手のばーちゃんは、意外とこの手で落ちるって」

 「碌なことを広めないな!
  あの子は!」

 「そーいうわけだから、明日の朝、付き合ってくれってばよ」

 「へ?」


 ナルトは腰をあげると、扉に向かう。


 「じゃあね。
  カカシ先生」

 「ちょ──」


 扉は、音を立て閉まった。


 「……それでオレが綱手様に怒られるのか」


 カカシは、がっくりと手を突くと項垂れる。


 「だけど……。
  これが先生って役目か……」


 カカシは微笑む。
 第七班のメンバーが全員揃うなら、この程度のことは些細なことだと。
 砂漠での模擬戦には、サクラとサイも参加することになった。



[13840] 第107話 ヤオ子の可能性・特殊能力編②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:19
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 砂の国から模擬戦の許可が下りるまで、ヤオ子はヤマトに修行を見て貰うことになった。
 タスケに変化したサスケも、ヤオ子の成長を観察することにした。


 「さて。
  君と修行をまともにするのは初めてだね」

 「はい」

 「まず、君が何をしていたのかをじっくり聞かせてくれないか?」


 里の外にあったため無事に残っていたヤオ子の秘密基地で、ヤマト達はヤオ子の現状を確認することにした。



  第107話 ヤオ子の可能性・特殊能力編②



 ヤオ子の成長に色々と驚かされる。
 今まで鍛えに鍛えた基礎能力を礎にして、母親の戦闘経験を吸収して一気に成長した。
 忍体術の実戦経験から基礎の本当の使い方を覚え、ガイの教えを忠実に守り、重りを外した時には上忍と同じスピードを手に入れた。
 そして、目覚め始めた母方の血が、性質変化をヤオ子に叩き込んだ。


 「改めて聞くと常軌を逸しているな……」


 サスケもヤオ子に話し掛ける。


 「お前、あの時、風遁と雷遁の術は持っていなかったのか?」

 「はい……。
  覚えたばっかりで、印を一つも……」

 「何の話だい?」


 サスケがヤマトに答えを返す。


 「ヤオ子は、オレの小隊に喧嘩を吹っかけたんだ」

 「何を考えてんだ……」

 「その時、オレの雷遁を風遁で相殺して、仲間の水月という忍を雷遁で縛った。
  ・
  ・
  オレは、完全に騙されていたんだな。
  風遁と雷遁を完全に身につけたと思っていた。
  ・
  ・
  それどころか……。
  土遁と水遁も覚えていたってのが腹立つがな」

 「ボクは、黙ってそんな無茶をしたのが腹立つな」

 (何か雲行きが怪しくなって来た……。
  誤魔化そう……)


 ヤオ子は慌てて先を促す。


 「ねぇ。
  そんなことより、あたしの修行は?」

 「本当は、もう少し小言を言いたいんだけどね……。
  じゃあ、まず少し試したいことがあるんだ」

 「はい」

 「水遁の新しい印を教えるから、使ってみてくれないか?」

 「いいですよ」


 ヤマトが印を教えると、ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
 ヤオ子は体に流れるチャクラの流れを感じ、手に何かが組みあがっていくのを感じる。


 (この術……。
  あたしの必殺技に近いのを感じます。
  発動は、右手で!)


 右手を突き出し、掌からは水流が打ち出される。
 ヤマトは、ある確信を得る。


 「間違いないな」

 「?」

 「ヤオ子は、カカシ先輩並みのセンスを持っている」

 「センス?」

 (あれか……。
  カカシの奴は、波の国で戦った桃地再不斬の術をコピーした……。
  今なら、奴の凄さが分かる。
  印を覚えただけで、術を発動できるというセンスを)


 ヤマトが続ける。


 「今ので分かったこと……。
  ヤオ子は、印さえ覚えれば術が使える。
  ・
  ・
  つまり、ヤオ子の言っていった通り、複数人を相手にした術の印を覚えるだけで、
  ヤオ子の基準で言えば上忍並みの力を得たことになる。
  まあ、他にも上忍になる要素はあるけどね」

 「印か……。
  直ぐに集められますか?」

 「カカシ先輩とボクが居るからね。
  禁術以外は、直ぐに集まると思うよ。
  ・
  ・
  ただ、問題は風遁の性質だ。
  知り合いに風遁を使える忍が少ないんだ。
  木ノ葉では風遁の性質を持っているのは稀だからね」

 「そうですか……。
  ・
  ・
  あ。
  そうだ」

 「どうしたの?」

 「一つ知り合ったおじさんに教えて貰った術があるんです」

 「おじさん?」

 「……大蛇丸さんの実験体だった人です。
  ……あたしが初めて殺した人」

 「ヤオ子……。
  何があったんだ?」


 ヤオ子は視線を落とした跡、少し強い眼差しで話し出す。


 「大蛇丸さんのせいで、もう命が尽き掛けていました。
  最後に忍らしい死を求めて、あたしが最後の相手をしたんです。
  ・
  ・
  その時、最後の言葉と一緒に術を貰ったんです」


 ヤマトは、少し悲しい顔を浮かべる。


 「その時、側に居てあげたかったよ……。
  忍者をしていれば誰もが通る道だ。
  しっかりと支えてあげたかった」

 「……でも、大丈夫。
  その時は、心に別の気持ちを刻んだから。
  あたしの戦う理由」

 「そうか……」

 (この子は、大人になるのも早いのかもしれない……。
  辛いこともしっかり受け止めているんだ……)


 ヤマトは、一息つくと少し暗くなる。


 「ただ、何か親離れを体験したお父さんのような感覚が……。
  ヤオ子が勝手にどんどんと育っていくのが悲しい……」

 「いや、そんな暗くならなくても……。
  ・
  ・
  ガイ先生の所みたいに激しく抱き合いますか?」

 「……それはそれでダメだろう。
  男と女だし……」

 (ヤマト先生……。
  意外と面倒臭い性格をしていたんですね……)

 (木ノ葉って馬鹿の巣窟なのか……。
  大蛇丸も暁の奴等も、ここまで馬鹿な奴等は居なかった気がする……。
  オレは、本当にここに戻って来ていいのか?)


 里の外に出たサスケは、常識が何かというのを身につけていた。
 木ノ葉の変な人率は、きっと高い。


 …


 ヤマトの調子が戻ると同時に話も戻る。
 ヤマトは、ヤオ子に話し掛ける。


 「その教えて貰った術は試したのかい?」

 「いいえ。
  でも、土遁だと思います」

 「どうして?」

 「火遁、水遁、土遁の術は試してみましたが、印を組む以上、形態にパターンがあります。
  火遁は、火を意識して熱を有効に生かす形態が多い。
  水遁は、液体ですので流動的なものが形態として含まれるパターンが多い。
  土遁は、物体を構築する形態が多い。
  ・
  ・
  そして、教えて貰った印のパターンは、土遁に該当する気がします」

 「なるほど」

 「試してみます」


 ヤオ子はチャクラを練り上げると、印を結ぶ。


 「さて……。
  チャクラを何に変化させれば……。
  ・
  ・
  って、形態変化の場所が足だ!
  でも、やっぱり土遁!」


 ヤオ子は慌ててチャクラを土に性質変化させ、足の裏からチャクラを地面に流し込む。
 そして、ピョンとその場から飛び退く。


 「あれ? 何も起きない?」

 「いや、起きてる」


 ヤマトがヤオ子の足跡を指差す。


 「撒菱みたいな突起物が出来てる。
  今度は、チャクラを多く練り込んでごらん」

 「はい」


 ヤオ子は、再びチャクラを練り込み、印を結ぶ。
 足で術を発動しながら歩くとはっきりと撒菱のような突起が現れる。


 「便利な術だね。
  これカウンター系の術なのかな?
  走りながら撒菱を時間差で発動させるんだよ」

 「そうか……。
  普通、印を組んだら足元には気を払いませんもんね。
  手で撒くよりバレないです。
  しかも、チャクラの量で効果を調節できる」

 「ああ。
  いい術だ」


 ヤオ子が顎に片手を当てる。


 「待てよ……。
  これ、思いっきりチャクラを流し込むとどうなるんですかね?」

 「さあ?」

 「試してみます」


 ヤオ子は、チャクラを練り始める。


 「猛れ! あたしの妄想力!」


 ヤオ子の周りで禍々しいチャクラがどんどん生成される。
 そして、印を結ぶと足を地面に押し付けて前方にジャンプする。


 「「うわ!」」


 ヤマトとヤオ子の前に巨大な円錐が突き出た。


 「この術……。
  使い方次第で相手を串刺しに出来るぞ……」

 「な、何か意外と凄い術ですね。
  ・
  ・
  これ術を発動しながら、壁を走れば凄いことになりませんか?」

 「ああ。
  何より足で発動するから、手が自由というのも利点が高い」

 「これ、何ていう術なんだろう?」

 「名前は聞いてないの?」

 「はい」

 「じゃあ、仮の名前でも付けておけばいいんじゃないか?」

 「そうですね。
  ・
  ・
  撒菱の菱は、入れたいですね……。
  それを撒いてないから……。
  でも、ヤマト先生の土流槍とも似てるし……。
  体の部位を入れるのもありですね……。
  足…何とか…菱……。
  穿…うがつっていうのが合うかな?
  足穿菱?
  何かカッコいいかも?
  土遁・足穿菱にする」

 「結構、適当感があるんだけど……」

 「本当は、カタカナを入れるのを堪えてますけど?」

 「善処してたんだ……」

 「あたしのネーミングセンスは、完璧に近いですからね」

 「まあ、いいんじゃないか」

 「はい♪」


 ヤオ子は、水遁・水鉢と土遁・足穿菱を習得した。


 「レベルアップした気分ですね」

 「まあ、こんな方法は、君とカカシ先輩しか使えないだろうけどね」

 「何で?」

 「おかしいと思わない?
  印を覚えただけで術が使えるって?」

 「何で?
  印って形態変化の置き換えでしょ?」

 「それを初めて使うのに利用できるって、凄いと思うけど?」


 ヤオ子は腕を組む。


 「そうかな?
  術の発動を抑えて手加減すれば、大体できるんじゃないですかね?
  要領を掴んだ後にチャクラを多く練り込んで、本当に習得の流れで。
  新規開発じゃない以上、安定は保証されているんでしょ?」

 「そんな簡単じゃないだろう」

 「う~ん……。
  でも、今まで術の習得に手取り足取り教えて貰った経験がありませんからね。
  体を通して覚えるものだと思うんですけど。
  初めての術もアカデミーの教科書見て、勝手に習得したし」

 「は?」

 「サスケさんに豪火球の術を伝授して貰った時は、紙切れ一枚のメモから自分で体で覚えたし」

 「酷い扱いだな……」


 サスケは視線を逸らしている。


 「必殺技の開発に至っては、あたしの好奇心から勝手に作っちゃいましたしね」

 「一つとして正攻法で覚えてない……」

 「あ。
  でも、影分身の術は、ナルトさんに手取り足取り教えて貰いました」

 「よかった。
  やっと、まともな人物が居た」

 「あの時は、エロ忍術のハーレムの術をしたくて、みっちりしっかりと──」

 「やっぱり、まともな奴は居ないのか!」

 (コイツ、相変わらずのノリだな……)


 ヤオ子は頭を掻いて笑っている。


 「ま、まあ、いいじゃないですか。
  ドS的指導が、何故か身を結んだ瞬間です。
  これであたしは、大軍系の術の印を覚えれば上忍並み。
  特殊系を覚えれば、ヤマト先生やサスケさんの側に居られます」

 「何だろう……。
  悲しいエピソードのはずなのに、君は軽く流すから複雑な気分だよ」

 「大丈夫です!
  ヤマト先生の、この体験は無駄になりません!
  きっと、立派な突っ込みスキルが役に立つ日が来ます!」

 「来ないよ……」


 後日、ヤマトの突っ込みスキルがナルトとキラービーにより開花する……。


 「話を戻すよ……。
  術の印の確認が取れたから、特殊形についてだ」

 「はい」

 「簡単に言えば、『血継限界』のことになる。
  口伝の秘伝忍術を持たない以上、君が言っている特殊系になるには血継限界を習得するしか有り得ない」

 「はい」

 「だが、この血継限界というのは単純なものじゃないんだ。
  1.二系統以上の性質変化を習得する必要がある。
  2.その二系統を同時に発生させる必要がある。
  3.その系統を混ぜ合わせる必要がある。
  4.遺伝による結継限界の補助が必要になる」

 「1~3.は分かります。
  必要な材料と手順ですよね?」

 「そうだ」

 「じゃあ、4.は?」


 ヤマトが両手を出す。
 右手に水遁。
 左手に土遁。
 それを合わせることで、血継限界の木遁が発生する。


 「これがどうして混ざるか分かるかい?」

 「分かりません」

 「ボクには初代火影様の遺伝子があるから、木遁を操ることが出来る。
  逆に言えば、その遺伝子がなければ血継限界は発動しないということになる」

 「じゃあ、あたしには習得できないのでは?」

 「そう思う。
  だけど、君のお母さんの家系の血が可能にするかもしれない」

 「あたしにも血継限界の血が流れているかもしれないと?」


 ヤマトが頷く。


 「色々とおかしいんだ。
  性質変化を全て習得したり、五つ全てを同時発生させたり……。
  下手したら、三系統以上を混ぜ合わせることも可能なように思えてくる」

 「はあ……」

 「兎に角、混ぜ合わせる系統は沢山ある。
  どの系統で混ざるかを探し出さなきゃいけない」

 「……かなりの量ですね。
  ・
  ・
  じゃあ、火遁から……」

 「ああ」


 ヤオ子の血継限界調査が開始された。


 …


 ヤマトが頭を悩ませる。


 「一つとして該当しない……」

 「やっぱり、あたしの家系には血継限界は含まれていないんですかね?」


 ヤマトは頭を悩ます。
 そこに猫の姿のサスケが近寄る。


 「同系列を混ぜてみたら、どうだ?」

 「同系列……。
  火遁と火遁を混ぜるのか?」

 「ああ」

 「意味あるんですかね?」


 ヤオ子は両手に火の性質変化を発生させると手を合わせる。


 「ん?」


 火遁に変化が現れる。


 「うわ!」


 ヤオ子の手の中で、火の性質のチャクラが膨れ上がった。


 「……で?」


 練り込んだ以上のチャクラが出来ただけだった。


 「ヤマト先生?」

 「ちょっとお得だな……」

 「サスケさん?」

 「何かエネルギー法則を無視したな……」

 「このチャクラ……どうしよう?」


 ヤマトが提案する。


 「そのチャクラで術を発動してみたら?」

 「何か起きますかね?」


 ヤオ子は、印を結ぶ。


 「爆殺! ヤオ子フィンガー!」


 いつもの必殺技だ。
 だが……。


 「気のせいかな……。
  いつもより少ないチャクラで、いつも通りの威力だったような……」

 「量が増えるだけの血継限界?」

 「しかも、ワンアクション増えてるから、無駄に時間を取るんですけど……」

 「それは修行次第で体内で混ぜ合わせれば……何とかなる。
  普段より多いチャクラが練れる……」

 「だけ?」


 よく分からないヤオ子の血継限界。
 サスケがヤオ子に命令する。


 「ヤオ子。
  限界までチャクラを練って、血継限界で混ぜ合わせて術を発動してみろ」

 「いいですけど……」


 ヤオ子は最大までチャクラを練り、火の性質に変えてを体内で混ぜる。
 それを豪火球の術に使用する。


 (ラブ・ブレス!)


 上空にハート型の火球が舞い上がる。
 しかし、いつもの威力ではない。
 大きさもそうだが、燃焼している火力が段違いに上がっている。


 「…………」


 全員が火球が消えるまで空を見上げる。


 「あの……。
  豪火球ってこんな凄い術でした?」

 「いや……。
  カカシ先輩のはこんな威力は出ない……」

 「ハッキリしたな。
  コイツの血継限界は、術の威力をあげるんだ」

 「つまり……」

 「五系統扱えたのは術の威力を上げる以上、その方が都合がいいからだ」

 「じゃあ、体内で同じ系統を混ぜ合わせる修行をすれば──」

 「ああ……」

 「少量で、尚、お得♪」

 「違う!」


 サスケの猫パンチが、ヤオ子に炸裂した。


 「お前の血継限界は、本来の術の威力以上の威力を再現するんだよ!」

 「……何かあまり用途がないですね」

 「確かに他の血継限界に対抗できる血継限界とは思えない」


 ヤマトが少し考える。


 「そのヤオ子のチャクラ……。
  他人が使用すると、どうなるんだ?」

 「あたしのチャクラをヤマト先生が使うの?」

 「ああ。
  例えば、水遁に君の血継限界で作ったチャクラをボクに流し込んで、ボクが術を発動するんだ」

 「幻術を破る要領でチャクラを流せばいいんですか?」

 「乱されると操れないから、ボクの流れに合わせてくれるかな?」

 「いいですよ」


 ヤオ子は、ヤマトの背中に両手を添える。


 「…………」

 「どうしたの?」

 「適度に発達した背筋に欲情しています」


 サスケの猫パンチが、ヤオ子に炸裂した。


 「真面目にやれ!」

 (サスケが居ると突っ込まなくて楽だ……。
  ヤオ子を制御できるポジションって少ないからな……)


 ヤオ子が、今度は真面目に血継限界で水の性質変化を作る。
 そして、それをゆっくりとヤマトの体に流し込む。


 「このチャクラ凄いな……。
  性質が濃いというか……。
  活性化しているというか……」


 ヤマトが印を結ぶ。


 「水遁・水鉢!」


 ヤオ子に先ほど教えた水遁の術。
 掌から打ち出される水流は、地面に着くことなく対面の木まで届く。


 「凄いな……。
  他人も使えるのか……」

 「しかし、またしても使い道が分からず」

 「そんなことはない……」

 「?」


 サスケがヤマトを見る。


 「コイツをオレにくれないか?
  マダラとの戦いまでに使えるようにしてみせる」

 「それは……。
  まあ、ボクの役目もここまでって感じだから構わないが……。
  一体、何を?」

 「マダラとの戦いに関して、ある予想がある……」

 「予想?」

 「各国の忍連合……。
  本当に纏まると思うか?」

 「それは……」

 「まず、纏まらない。
  第三次忍界対戦まで、お互いの国で戦っていたんだ。
  そいつらが各国の忍と小隊なんて組めるはずがない。
  そうなると、どうなるか?
  各国で小隊を組み、その上の隊長クラスが指揮を執る」

 「別に問題ないんじゃないか?」

 「大有りだ。
  忍五大国が性質で分けられるように、各国の有する性質もそれに偏る。
  霧隠れなら、水遁……。
  岩隠れなら、土遁……。
  みたいにな。
  ・
  ・
  こんな偏った小隊にぶつけるのは、弱点の性質を持っている小隊だ。
  だが、もっとやっかいなのがマダラの持っている尾獣だ。
  一尾を思い出してみろ。
  アイツは、風遁を得意としていた。
  もし、他の尾獣に五性質を得意とする尾獣が一匹ずつ含まれていたら、
  尾獣を適所に送られて対抗する防御壁を張れずに、一瞬で全滅だ」

 「……確かに。
  ナルトが九尾化した時に大蛇丸に放った一撃……。
  あれが性質に偏ったものなら……」

 「そういうことだ。
  考えられる対策は、二つ。
  『質で対処するか』『量で対処するか』だ。
  質なら暗部・上忍が前に出て、性質に囚われない方法で素早く対処する。
  量なら下忍・中忍で殺されても前に進んで弱点性質の尾獣に取り付き殲滅する」


 ヤオ子が頬を掻きながら、サスケに話し掛ける。


 「サスケさん……。
  それ極端じゃない?」

 「当たり前だ。
  オレは、最悪を極端に話しているんだ。
  だが、オレがマダラなら、各国で連携が取れないと見越して尾獣を配置して戦う」

 「……じゃあ、ヤオ子を使う理由は?」

 「コイツに各性質の術を出来るだけ習得させる」

 「はい?」

 「そして、チャクラの総量も更に増やす」

 「今より!?」

 「そして、コイツを遊撃的な位置につけて、各国の鍵となる忍を守らせる」

 「ちょっと待って!
  幾らなんでも、あたし一人で無理ですよ!」

 「お前、影分身を使えるだろう」

 「使えますけど……」

 「五人に分身して守れ」

 「が……」

 (これがヤオ子が言っていたドSのサスケか……)


 ヤオ子は額を押さえて考える。


 「いや、確かにこの血継限界はチャクラ量もそんなでもないし、便利ですよ。
  でもね。
  尾獣って伝説的妖魔に、あたしの術だけで対抗って……」

 「何も全員を守れとは言ってない。
  必要な忍だ。
  どうしても切り捨てなければならない場面が出る」

 「そんなのって……。
  それをあたしが決めるの?」

 「オレが決める。
  お前は、負担に思うことはない」

 「そんなのって……」


 ヤマトは、先日の綱手の怒りを思い出す。
 サスケは、兄のように全てを背負おうとしている。
 ヤオ子の負担も切り捨てられるであろう人の恨みも……。


 「サスケ。
  ボクは、反対だ。
  そんなに結論を急ぐことじゃないよ。
  ・
  ・
  それに君ばかりが背負うことでもない」

 「ヤマト先生……」

 「確かにヤオ子の血継限界が分かって、五性質の重要性からなる弱点も分かった。
  それに伴う君の考えとヤオ子の重要性も理解した。
  だけど、時間はある。
  各国の連携が取れないと諦める前に、やるべきことの一つが分かった。
  この件に関しては、ボクから綱手様に報告する。
  ・
  ・
  だから、君も信じてくれないか?
  ボク達を……。
  一緒に戦うことになる各国の忍達を……」


 ヤオ子が手をあげる。


 「あたしもヤマト先生に賛成。
  出来ますよ! 絶対!」

 「……絶対?」

 「だって、サスケさんの小隊の皆さんは、バラバラの国の忍で編成されているじゃないですか」


 サスケは軽く笑う。


 (規模が違うじゃねーか……。
  でも、コイツが信じるって言うんなら……)

 「そうだな……。
  まだ時間はある……」

 「サスケさん……」


 ヤマトは、サスケが内心で納得していないのが分かった。
 だけど、そのサスケがヤオ子の言葉で折れるのを見て、今のサスケにヤオ子が必要なのが分かった。


 (サスケは、ヤオ子を通して信じる気持ちを取り戻していっている……。
  ヤオ子とサスケの関係は、ナルト達のような関係と少し違うんだ……。
  ・
  ・
  我が侭な妹の願いを聞いてあげるお兄さんみたいな関係……かな)


 ヤマトは、自分なりに二人の関係に納得すると結論を出す。


 「ボクから、今日のヤオ子の成果を綱手様に報告するよ。
  そして、ナルトと一緒に里を出るまで、カカシ先輩と知っている限りの術を教え込む」

 「またスパルタですねぇ……」

 「得意分野だろ?」

 「ヤマト先生も言いますね。
  でも、期待には応えます」

 「頑張ってくれよ。
  カカシ先輩は、千の術をコピーしたと言われる人だからね」

 「……それ冗談じゃなかったの?」

 「試してみれば分かるよ」


 サスケが付け加える。


 「ヤマト。
  風遁の方の術も頼む」

 「ああ。
  知り合いに出来るだけ当たってみるよ」

 「ああ……。
  また、眠れない夜の予感……」


 こうして、母方……もといヤオ子の血継限界が判明する。
 ヤオ子の血継限界は、最後の戦いでどのように活かされるのだろうか。



[13840] 第108話 ヤオ子と砂漠の模擬戦
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:19
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 数日後……。
 砂の国から模擬戦の許可が下り、砂漠に張られた結界でサスケとナルトの模擬戦が始まろうとしている。
 結界内には綱手、シズネ、カカシ、ヤマト、サクラ、サイ、ヤオ子と結界を張る暗部が六人。
 ルールは殺し合いではないので、殺傷能力の高い『風遁・螺旋丸(手裏剣)』『天照』は使用禁止。
 それ以外は、基本自由にしてある。

 ナルトが笑みを浮かべる。


 「本当は、こういう風に戦ってみたかったんだってばよ。
  中忍試験の時から、ずっとはぐらかされて来たからな」

 「ご託はいい……。
  暁のペインを倒したという強さ……見せて貰うぞ」

 「ああ!」


 ナルトの影分身二体が自然チャクラを集め始め、自身にもクマドリが浮かぶ。
 戦いは、ナルトが地面を蹴って開始された。



  第108話 ヤオ子と砂漠の模擬戦



 ヤオ子の前で特殊系の力を得た者の戦いが繰り広げられる。
 ナルトの仙人モード。
 サスケの写輪眼。

 何よりも、驚かされるのがスピード。
 スピードを極めたと思ったヤオ子の上を二人は行っている。


 「あれが里を救った英雄の力……。
  そして、そのスピードのついていくサスケさんの技術……」


 サスケの体に千鳥が流れている。
 要領は、雷影の雷遁の鎧と同じで反射神経の底上げだ。


 「凄いのはナルトさんもだ……。
  仙人モードだと写輪眼がないのにサスケさんの動きについていけるんだ」


 ヤオ子の中で、雷遁の鎧の会得が必須事項に組み込まれる。
 そして、戦いは、徐々にナルトが有利に進め始めた。
 カカシが、今までの状況を溢す。


 「やはり、仙人モードがあるナルトの方が、若干有利か……」


 綱手がカカシを睨む。


 「解説をしないか!
  お前だけ写輪眼を使って、戦いを見ていてどうする!」

 「そうでしたね……。
  ・
  ・
  ただ、もう一人見えている奴が居るようですけどね」

 「ん?」


 カカシの視線の先で、ヤオ子が雷遁の鎧を発動している。
 対応し切れなくなった動体視力を補うために無意識で雷遁の鎧を利用していた。
 綱手が呆れて一言溢す。


 「あれは雷影の──まったくコイツは……」


 カカシは苦笑いを浮かべると解説を始める。


 「仙人モードで全ての身体能力が上がっているナルトが、サスケの動きを凌駕していますね。
  スピードは互角……。
  しかし、根本の力が底上げされた分だけナルトが有利に見えます。
  ・
  ・
  ただ、サスケは万華鏡写輪眼を使っていない。
  恐らくは、探りを入れている状態でしょう」

 「あれだけ立ち回ってか……」

 「サスケは、元来センスが飛び抜けていますから、写輪眼だけでも戦えるんです。
  ・
  ・
  そろそろですかね。
  お互いの挨拶も終わったところです」


 ナルトの影分身が一体消えると、自然チャクラが補給される。
 そして、サスケの両目に万華鏡写輪眼が現れる。
 サクラが質問する。


 「カカシ先生。
  サスケ君の万華鏡写輪眼って、どんな能力が?」

 「さあな。
  ただ、天照を使えないとなると、目に宿る力の一つが使えないということだ。
  ・
  ・
  そうなると反対側の目に宿る力を使うわけだが、それが何なのか分からない。
  オレの目に宿る力も、イタチと全く別の能力だったからな」

 「そう……」

 「ただ、万華鏡写輪眼は多用できない……。
  リスクが大きいんだ」


 ナルトの攻撃は、仙術を用いて激しさを増す。
 螺旋丸の連発。
 大玉螺旋丸。
 超大玉螺旋丸。
 サスケは、躱しきれなくなってくる。

 その攻防を見ながら、ヤオ子の頭の中では目まぐるしく分析が行なわれている。


 (ナルトさんの武器には近距離のものが多い……。
  でも、それを負担に感じさせないスピードと相手に当たり易くなった大きな螺旋丸。
  これで自分の弱点を補っている。
  そして、これが大軍系忍術を無視した特殊系の戦い。
  ・
  ・
  ただ、サスケさんの特殊は、まだ出ていない。
  あの戦いの時に見えた大きな影が……)


 そして、遂に決定的な瞬間が訪れる。
 ナルトの超大玉螺旋丸が、躱しきれないタイミングでサスケに向かう。
 ここであのプレッシャーをヤオ子は感じた。


 …


 サスケの両目から、血が流れる。
 そして、ナルトの超大玉螺旋丸を巨大な肋骨のようなものが防いだ。
 それと同時に肋骨が消える。

 ナルトは距離を取ると、自然チャクラを集めながら警戒する。


 「あれだ……。
  ・
  ・
  あのプレッシャー……」


 サスケからチャクラが吹き上がると、それは実態を表していく。
 骨だけの体に筋が現れ、骸骨を思わせていた顔面に人の顔が形成されていく。
 そして、面と外套を付けると左手に弓を構える。


 「あれが須佐能乎か……」


 カカシの言葉に全員が振り向く。
 綱手が質問する。


 「須佐能乎とは何だ?」

 「うちはの万華鏡写輪眼を開眼した者が扱えるという──。
  ・
  ・
  詳しくは、今度ということで」

 (カカシがはぐらかした……。
  何かあるのか?)


 綱手は戦いに視線を戻す。
 戦いは暫しの睨み合いが続いていた。


 …


 サスケは須佐能乎による副作用である全身の痛みに耐えながら、ナルトに話し掛ける。


 「ナルト……。
  これからの攻撃は加減が利かない……。
  スピードについて来れないと思った時点で、模擬戦は中止だ……」

 「それだけの技ってことかよ……。
  ・
  ・
  なら、影分身で試させて貰う!」


 ナルトの影分身が三体現れると須佐能乎に向かう。
 しかし、射出される矢を躱せずに全ての影分身が煙に消える。


 「そういうことかよ……。
  ・
  ・
  なら、量で攻めるしかねー!」


 影分身が一気に増える。
 矢で仕留めるという方法から、全てを射ることは不可能。
 しかし、弓は一点に狙いを絞る。


 「今のオレの眼は……影分身すら見切る」


 本体を狙われたと知ると影分身が集まり、盾になる。
 一気に影分身の数は減り、ナルトは仙術チャクラを集めている最後の影分身を還元する。


 「小細工はいらねー!」

 「ああ……。
  これで決める!」


 それからは、血みどろの戦い……。
 須佐能乎に何度も叩き付けられる螺旋丸。
 サスケの豪火球を受けても立ち上がるナルト。
 一見、絶対防御に守られているように見えながらも、全身の細胞に負担が掛かっているサスケ。
 消耗戦を繰り返しながら、お互いが磨り減っていく。
 綱手が声をあげる。


 「そこまでだ!」


 ナルトが尻餅を付いて息を切らし、サスケも草薙の剣を杖に息を切らす。
 サクラが二人に駆け寄る。


 「ナルト!
  サスケ君!」


 ナルトは手を振ると先にサスケを診るように促す。
 サクラは、サスケを見て驚く。


 「サスケ君……」


 サスケは目を押さえていた。


 「っ……。
  少し力を使い過ぎた……」


 サクラが振り返る。


 「サスケ君の目が!」


 綱手も駆け寄り、手で押えるサスケの目を見る。


 「……これは。
  ・
  ・
  お前、何故、万華鏡写輪眼を使った!」

 「使わなきゃ……。
  使いこなせない……」

 「このまま使えば──」

 「失明するだろうな……」


 サクラが口を押さえる。


 「そ…そんな……」


 失明という言葉に、サクラは涙を流す。


 「折角、戻って来たのに……。
  今度は、目が見えなくなっちゃうなんて……」


 ナルトもサスケに近づく。


 「お前……」

 「大丈夫だ……。
  対応策はあ──」

 「ぞんなのイヤだ~~~!」


 ヤオ子が、サスケにしがみ付いた。


 「また、お前か!
  このウスラトンカチ!」

 「イヤだ~~~!
  ザズケざ~~ん!」

 「放せ! この馬鹿!」


 サスケは、しがみ付くヤオ子の隙間に足を入れるとヤオ子の顔面に足の裏をくっつけて、引き剥がしに掛かる。


 「まず、話を聞け!」

 「そんな女を騙す常套手段に騙されません!
  サスケさんが捨てて来た女みたいに、あたしも誤魔化すつもりなんだ!」

 「そんな女は居ない!」

 「サスケさんの目で、日々、エロい体に成長するあたしを見て~~~!」

 「見るか!
  いい加減に放せ!」

 「放さない!」


 ナルトとサクラが項垂れている。


 「どんな状況だってばよ……」

 「サスケ君……。
  女の子の顔を足蹴にするなんて……」

 「お前らも黙ってないで手伝え!
  それと!
  変態に性別は関係ないんだよ!」

 「何か……。
  昔、サスケとヤオ子に何があったか分かるってばよ……」

 「日々、こんな状態が続いてたのね……」

 「だから、サスケは、いつもイライラしてたんだってばよ……」

 「そうね……」

 「お前らも原因の一つだ!
  ・
  ・
  いい加減に離れろ!」


 サスケの蹴りでヤオ子は、飛ばされると砂の中に減り込んだ。


 「容赦ねーな……」

 「これが正しいヤオ子の制御法だ!」


 綱手は納得している。
 シズネも納得している。
 カカシはサスケのドSっぷりに固まっている。
 ヤマトもサスケのドSっぷりに固まっている。
 サイは首を傾げている。
 サスケは、ヤオ子のせいで息を切らしている。

 そして、話の続きを聞くためにカカシが質問する。


 「続きがあるんだろ?
  対応策?」

 「ああ……」


 サスケは、少しぶっきら棒に話し出す。


 「マダラの話だと、
  『永遠の万華鏡写輪眼』というのがあるらしい」

 「何だそれは?」

 「万華鏡写輪眼は、一族の他者の万華鏡写輪眼を自分の目に取り込むことで、
  視力が低下しない『永遠の万華鏡写輪眼』になるらしい。
  マダラの目は、弟の万華鏡写輪眼を移植したもののようだ」


 ヤオ子が砂の中から顔を引っこ抜くと、サスケに詰め寄る。


 「じゃあ!
  イタチさんの体を取り戻した時点で、移植のことは考えてたの!?」

 「当然だ」

 「何で、言ってくれないんですか!」

 「今、言おうとして、お前が邪魔したんだよ!」

 「……まあ、いいです」

 「何で、お前が許した形になるんだ……」


 サスケは、この後、もう少しマダラとイタチから聞いた万華鏡写輪眼の話をする。
 ヤオ子は、その話を聞いて少し疑問が浮かぶ。


 「ねぇ。
  少し質問していいですか?」

 「ああ」

 「マダラさんの弟さんは、その後、どうなったんですか?」

 「さあな。
  聞いたのはここまでだ」

 「変ですね?」

 「何がだ?」

 「マダラさんのお話だと、マダラさんの弟さんがマダラさんに目を差し出したって話ですよね?」

 「あれはマダラの嘘だ……」

 「はい。
  あたしも、そう思うんです。
  だって、兄弟で交換こすれば、どっちも失明しません。
  その後、弟さんの話が出て来ない時点でおかしな気がします」

 「……言われてみれば」

 「それに移植って自分一人じゃ出来ないでしょ?
  他に移植を手助けした協力者が居たんじゃないですか?」


 ヤマトがヤオ子の意見に反応する。


 「待ってくれ。
  そうなると敵は、マダラ以外にもう一人いることになるじゃないか」

 「最低でもです。
  弟さんの目を奪い取った協力者が一人とは限りません」

 「ここに来て嫌なことが分かって来た……」

 「でも、まだ予想の範疇じゃないですか。
  だって、戦争を仕掛けたんでしょ?
  暁以外の仲間が居てもおかしくないですよ」

 「ああ……。
  その通りだ……」

 「最悪のシナリオは……。
  マダラさんの弟さんも生きている……。
  そして、この計画が
  『マダラさんと弟さんの二人の計画だった』
  ですかね?」


 ヤオ子の予想に全員が押し黙る。
 今まで、黙っていたサイが口を開く。


 「よくそんな予想がつくね?」

 「……里を出てから得た情報が、どれも予想外のことばかりなんで、あたしも予想の枠を一つ外したんです。
  ・
  ・
  そうなると最悪のシナリオってのが、少しだけ見えたんです」

 「凄いな……」

 「日々、頭ん中では妄想が駆け巡っていますからね。
  そして、見当ハズレの妄想をすることも多々あるんですけどね。
  フフフ……」

 「?」


 サイが再び首を傾げると、綱手がサスケを見る。


 「さっきの万華鏡写輪眼移植の話……。
  実行させて貰うぞ。
  うちはの力に対抗できる力は、うちはにしか期待できない」

 「そのつもりだ。
  片目しか写輪眼のないカカシでは、須佐能乎は扱えないからな。
  何より、アイツはオレの手で葬ると決めている。
  ・
  ・
  後……。
  もう一つ頼みたい」

 「何だ?」

 「手術で取り出したオレの目を……。
  イタチに戻してくれ……」


 サスケの表情が少し悲しみを見せる。
 ヤオ子は、サスケが木ノ葉に戻った本当の理由に気付いた。


 「木ノ葉に来たのは……。
  抜き取られたイタチさんの目を体に戻して貰うためでもあったんですね……」

 「……ああ」

 「天国で目が見えないと困りますもんね……」

 「……ああ」


 イタチの真実を知らされていないサクラとサイは、少し混乱する。
 綱手は、それに気付くとフォローと了承を合わせた答えを返す。


 「憎んでいても尊敬する兄だったということだ。
  イタチの体を綺麗にして、お前の目を入れてやる。
  ・
  ・
  そして、盛大にとはいかないが、ここに居る全員が葬儀に参加する。
  いいな?」

 「……すまない」

 (本当に不器用な奴だな……。
  もう少し上手く立ち振る舞うことも出来るだろうに……)


 綱手が溜息を吐く。


 「他に問題はないな?」

 「あります」

 「また、お前か?」

 「すいませんね。
  でも、忘れる前にやっておかないと」

 「何をだ?」

 「今の模擬戦の検討ですよ」

 「木ノ葉に戻ってからでもよくないか?」


 ヤオ子は満身創痍のナルトとサスケを見る。


 「それもそうですね」

 「そういうことだ。
  シズネ! サクラ!
  さっさと治療を済ませろ!」

 「「はい!」」

 「綱手さんは?」

 「移植は、私が行なう。
  だが、病み上がりなんで医療忍術に使うチャクラを少し温存しておきたいんだ」

 「なるほど。
  ただ、面倒臭がっていたわけじゃないんですね」

 「お前、一言多いな……」


 こうして、砂漠での戦いのあと、木ノ葉にてサスケとイタチの目の交換の手術が行なわれた。



[13840] 第109話 ヤオ子とイタチの葬儀
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:19
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 密かに行なわれた、サスケの万華鏡写輪眼移植の手術。
 そして、イタチへのサスケの目の移植手術。

 サスケの包帯が取れるまでの暫くの時間……。
 ヤオ子は、第七班のメンバーに気を遣って、一人復興途中の里へと向かう。
 里の中では第四次忍界大戦へ向けての動きも見え隠れする。


 「復興も道半ばなんですけどね……」


 資材調達の場所で生地を手に入れると、ヤオ子は顔岩へと向かう。
 そして、デイバッグから裁縫道具一式を取り出すと里を見下ろしながら、何かを作り始めた。



  第109話 ヤオ子とイタチの葬儀



 ヤオ子の手の中で徐々に形になっていく、それ……。
 大きさを整え、柄を整え、そして、最後の仕上げに入る。
 うちはの家紋を大きく下書きに加えると、下書きに沿って少しずつ着色して生地に染み込ませていく。


 「うん。
  いい出来です。
  服屋さんで任務をしててよかった。
  少し手作り感が出てしまいましたが、そこはご愛嬌です」


 ヤオ子は裁縫道具をデイバッグに仕舞い、色当てに使った着色料を仕舞う。
 仕上がった外套に大きく浮かぶ、うちはの家紋を見て、ヤオ子は頷く。


 「暁の外套より……いいですよね」


 ヤオ子は作り上げた外套を丁寧に畳むと、顔岩を後にした。


 …


 翌日……。
 サスケの包帯が外れる。
 医療忍術で細胞を活性化させるので、本来、ここまで慎重になることもないが大事を取った。
 サスケは、自分の視力を確かめる。


 「問題ない……。
  今までと変わりなく見える」


 サスケの言葉に、ナルト達に安堵の息が漏れる。
 そして、サスケは立ち上がると綱手を見る。


 「感謝する」

 「素直に『ありがとう』と、言って貰いたいものだな」

 「綱手のばーちゃん。
  それは無理ってもんだ。
  サスケは、昔っから歪んでんだから」

 「どういう意味だ?」

 「素直にありがとうって、言えないんだってばよ」

 「そんなことはない」

 「じゃあ、もう一度言ってみろよ」

 「……もう言った」

 「ほらな」


 周囲に笑いが漏れる。
 サスケは少し不機嫌な顔を表したあと、綱手に再度話し掛ける。


 「イタチの体は……」


 綱手が視線で手術室の一つを示すと、サスケは無言で手術室に向かった。


 「サスケ……」


 ナルトはサスケの名を溢すことしか出来なかった。
 そして、ナルトだけでなく、誰もサスケの後を追うことは出来なかった。


 …


 サスケは手術室に横たわる、イタチの顔に手を触れる。


 「兄さん……。
  ちゃんと目が入ったんだな……」


 そして、サスケは、自分の目蓋を撫でる。


 「目から兄さんの瞳力を感じる……。
  ・
  ・
  この目で終わらせてくるよ……。
  これからは兄さんの目がオレの目で……。
  オレの目が兄さんの目だ……」


 これが兄との最後だと思うと、思い出と共に涙が零れる。
 暫くの間、感情に任せるまま無言の兄と会話を続けると、サスケは涙を拭う。


 「そろそろ行こう……。
  皆を待たせてしまっている……」


 サスケは、イタチを抱きかかえる。


 「あの背中と同じぐらい大きくなったんだよ……。
  兄さん……」


 サスケは、イタチと共に静かに手術室を出た。


 …


 木ノ葉から少し離れた丘の上……。
 今回は、事情を知る者以外にタスケも居る。
 木の葉の中でサスケを目撃させないための配慮だ。

 タスケがサスケを逆口寄せすると、サスケはイタチを抱いたままで現れた。
 ナルトがサスケに話し掛ける。


 「土葬にするのか?」

 「いや……。
  火を操るうちはの者のように火葬で送ることにする……」

 「そうか……」


 ナルト達はイタチを抱く、サスケをそのままに火葬のための木を組み上げる。


 「あまり立派なものじゃないけど……」

 「気にしてない……。
  ありがとう……」


 サスケが前に進むと、ヤオ子が駆け寄る。


 「サスケさん……これ。
  手作りなんですけど……。
  着せてあげてくれませんか……」


 ヤオ子の手には、昨日作ったうちはの家紋を背負う外套が握られている。


 「うちはの家紋を背負うべき人です……。
  暁の外套は似合いません」

 「そうだな」


 サスケはヤオ子から外套を受け取ると組み上げられた木まで進み、イタチを横たえる。
 そして、ヤオ子の外套をイタチに掛ける。


 「お別れだ……。
  兄さん……。
  忘れない……。
  ありがとう……」


 組み上げられた木に火が灯され、イタチは炎に包まれていく。
 それを見ながらサスケの背中が震え、地面を涙が叩いている。


 「出来るなら……。
  遠い空から見守っていてくれ……」


 空に上がる煙と共に木ノ葉を守って、弟を愛した優しい英雄は永遠の旅路に旅立っていった。

 ヤオ子は、少ない人数でしかイタチを送れないことを悲しく思う。
 しかし、盛大に送ることはイタチの守り通した真実を世間に知らしめることになり、イタチの思惑ではないと認識している。
 だから、しっかりと胸に刻む。
 絶対に忘れないことを誓う。
 そして、安らかな眠りを心から祈った。



[13840] 第110話 ヤオ子とサスケの戦い・修行開始編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:20
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 サスケの目の移植……。
 イタチの葬儀……。
 木ノ葉で行なうことは少ない。

 サスケはナルトが出発するまでの短い期間を猫(タスケ)の姿でナルトとサクラとサイと過ごす。
 それはサスケが自分自身を取り戻すのに大切な時間であり、失っていた時間を埋めるナルトとサクラにも必要な時間だった。
 一方のヤオ子は……。


 「次の印に行くぞ」

 「ちょっと待った!
  さっきのが……。
  ・
  ・
  OK!」


 カカシとヤマトに付きっ切りで、印を暗記させられていた。



  第110話 ヤオ子とサスケの戦い・修行開始編



 本日の印の暗記も一時間を過ぎる。
 ヤマトが術の名前だけが載った紙をヤオ子の前に置く。


 「いいかい?
  よ~い……スタート!」


 ヤオ子の手がカリカリと鉛筆を動かす。
 用紙には次々に印が書き込まれ、五分後に全て書き終る。


 「採点をお願いします……」


 回答用紙を差し出すと、ヤオ子は突っ伏した。
 カカシとヤマトが丸ツケをする。


 「一問間違えたね」

 「ごめんなさい……」

 「いや、このハイペースで覚えてるのが、おかしいんだからね」


 カカシは回答用紙を、もう一度見る。


 「すまん。
  これは、オレの教え間違いだ。
  ヤオ子の答えで合ってるよ」

 「そう……。
  じゃあ、暗記し直さなくていいですね」


 ヤマトがカカシに質問する。


 「今の会話、おかしくないですか?
  何で、先輩の間違いをヤオ子が正しく用紙に書き込んでいるんですか?」

 「まあ、これだけ印を暗記させられればね……。
  少なからずパターンが出て来るんだよ。
  しかし、異常な記憶力だな」

 「……コツがあるんです」


 突っ伏したまま、ヤオ子が答える。


 「エロいものと関連付けして覚えると忘れない……」

 「最悪の発想だ……」

 「ねぇ……。
  まだ覚えるの?」

 「まあ、戦闘向きなのは、これぐらいかな?」

 「後は?」

 「今度の戦いでは威力不足な感じかな?
  オレも取捨選択して教えているから」

 「そうですか……。
  じゃあ、これで終わりだ……。
  ・
  ・
  知恵熱が出そう……」


 カカシとヤマトは、ヤオ子を見て笑う。


 「しかし、この術の傾向は何なんですかね?」

 「ああ。
  サスケのリクエストらしいが、
  アイツは火遁と雷遁だけしか使えないから、他の系統まで条件を出す必要はないと思うんだがな」


 カカシとヤマトが会話をする中、ヤオ子がフラリと立ち上がる。


 「どうしたの?」

 「出発は、午後ですよね。
  ヤマト先生達にお弁当作る」


 ヤオ子は仮説住宅に設置してある厨房へと姿を消した。
 それを見たカカシが呟く。


 「あの子、性格さえ何とかなれば、完璧なお嫁さんになれるよな」

 「はは……。
  誰もが思っていますね」

 「容姿もいいし、努力家で忍としての技術も高い。
  料理洗濯家事と、何でも出来る」

 「ええ。
  電化製品なんかも直せますし……。
  寧ろ、出来ない業務の方が少ない……」

 「一家に一人欲しいタイプだな」

 「はい……。
  だけど、セクハラされます」

 「そうなんだよな……。
  ヤオ子の家って、どうやって纏まってんだろ?」

 「踏み込んじゃいけない……」

 「ん?」

 「あの家は、ヤオ子すら恐れる変態が居ます……」

 「何かあったの?」

 「ヤオ子が母親の変態行為を注意してた……」

 「そ、それは凄いな……」


 ヤオ子の家には魔物が住んでいる。


 …


 午後、ナルトが八尾と暁の目から隠れるために出発する。
 サスケは猫の姿でナルトの肩まで駆け上がる。


 「もっと強くなっておけよ。
  九尾ぐらい自在に扱えるようにな」

 「お前こそ!
  しっかりとうちはの力を使いこなせってばよ!」


 ナルトとサスケが笑い合う。


 「「次は、戦場でな」」


 サクラは男の子同士の会話を少し羨ましそうに見ながら、微笑んでいた。


 「じゃあ、行って来るってばよ!」


 ナルトが歩き出し、それを追ってヤマトとガイも歩き出す。


 「へ~。
  ガイ先生も付き添うんだ。
  ・
  ・
  じゃあ、よっこいしょ!」


 ヤオ子が巨大な風呂敷包みを持ってガイを追う。


 「ガイ先生!」

 「オウ! ヤオ子か!」

 「餞別。
  お弁当です」


 ガイがヤオ子の背負う大風呂敷を見る。


 「何だ? この量は?」

 「雲隠れの人も居るんでしょ?
  同じ釜の飯を食べれば友達じゃないですか」

 「さすがヤオ子だ!
  いいところに気が付いた!」

 「でしょ。
  この大事な役目は、ガイ先生じゃないと」

 「うむ。
  任せておけ!」


 ガイのナイスガイポーズにヤオ子もナイスガイポーズで答え、ヤオ子から大風呂敷がガイに受け渡される。
 ガイがナルトを追うと、ヤオ子はヤマトに声を掛ける。


 「思った通り。
  ガイ先生が持ってくれました」

 「君ねぇ……。
  大人を利用するような──やめておくよ」

 「賢明です。
  ヤマト先生が背負うことになりますからね」


 ヤオ子は笑っている。


 「じゃあ、気をつけてくださいね」

 「ああ。
  行って来るよ」

 「ヤマト先生」

 「ん?」

 「あたし、頑張りますよ。
  今度は、ヤマト先生の横で一緒に戦えるように」

 「ああ。
  期待しているよ。
  君が、今、一番の成長株だからね」

 「はい!」


 こうしてナルト達は出発した。
 そして、サスケとヤオ子も大蛇丸のアジトに戻ることになる。
 こっちは、至って簡単だ。
 タスケの逆口寄せで煙になって消えるだけだ。

 しかし、タスケがまた現れる。


 「ったく……。
  ヤオ子のヤロー。
  口寄せしたり、解したりと」


 タスケは綱手を見る。


 「ヤオ子からの伝言だ。
  戦いが始まったら、
  『逆口寄せで呼び出せ』ってさ。
  あと、オレの面倒を頼む」

 「逆──なるほどな。
  ・
  ・
  それにしても……。
  アイツは、また火影を顎で利用する気だったんだな」


 シズネとサクラが苦笑いを浮かべると、綱手が溜息を吐く。


 「途端に静かになったな」

 「そうですね」

 「シズネ。
  サクラ」


 シズネとサクラが綱手を見る。


 「これから忙しくなる。
  しっかり働いて貰うからな」

 「「はい」」


 綱手達は、里へと踵を返す。
 その途中でサクラが振り返る。


 「また第七班で戦える日が来たんだ……。
  私も頑張らないと……」

 「オレの面倒もな……」


 いつの間にかタスケが、サクラの肩まで駆け上がっていた。


 「お前、旨い飯作れるか?」

 (何、この猫?)


 タスケが溜息を吐く。


 「ダメな奴の匂いがする……」

 「失礼ね!」


 それぞれの思惑を胸に、第四次忍界大戦に向けての修行が始まる。


 …


 大蛇丸のアジトに戻ると、サスケとヤオ子が絶句する。


 「何だこれは?」


 アジトの中が変わり果てている。


 「荒らされてますね」

 「ああ……」


 サスケとヤオ子が拳を握る。


 「「きったねー!」」


 辺りには麻雀牌や食べ掛けの食べ物が散乱している。
 ヤオ子が、あるものを摘まむ。


 「女物の下着だ……」

 「香燐……!」

 「で、皆さんは?」

 「知らん!」


 サスケとヤオ子が、広いアジトの中を探索する。


 「重吾さんも居ないのは変ですね?」

 「ああ!
  アイツだけは、唯一まともな奴だ!」

 (怒ってますね。
  ・
  ・
  それもそのはず……)


 歩く通路もゴミだらけだ。


 「何で、アイツら、数日の間でここまで汚すことが出来るんだ?」

 「タスケさんも不精ですからねぇ……。
  あたしは、いつも掃除してましたよ。
  イカのスルメとかに食いついて、食べ飽きると……ポイ!」

 「まあ、いい……。
  猫は許す……」

 「はは……」


 サスケはズンズンと進んで行く。
 ゴミは食料庫に続いていた。
 サスケが勢いよく食料庫の扉を開く。


 「お前……ら?」

 「何々、どうしたの?」


 ヤオ子が、サスケの後ろで食料庫を覗く。
 水月が死に掛けている。
 香燐が死に掛けている。
 重吾が元に戻っている?


 「食料がない……」


 水月がサスケの元に張って来ると、サスケの足を掴む。


 「じゅ、重吾が……」

 「重吾が、どうした?」

 「体を元に戻すと……。
  暴飲暴食を……」

 「は?」

 「食べ物をくれ……」


 サスケは溜息を吐く。


 「つまり……。
  重吾のせいで食糧危機か……」

 「タスケさんは?」

 「あの猫は、麻雀に勝って残りの食料を確保した……」

 「それで麻雀してたんですか……」

 「アジトから出ればいいだろう?」

 「このアジトの結界……。
  物理的に出れない……」

 「タスケさんは、アジトの状況を何も言ってませんでしたけど?」

 「あの裏切り者め……」


 水月は力尽きた。
 ヤオ子がサスケを見る。


 「何かカッコよく別れたけど、いきなり、逆戻りですね」

 「留守番一つ出来ないのか……」

 「大変ですね♪
  お父さん♪」


 サスケは、がっくりと項垂れる。
 ヤオ子は木ノ葉に向かうため、口寄せを行なおうとしていた。



[13840] 第111話 ヤオ子とサスケの戦い・修行編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:20
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 大蛇丸のアジトの一つで、サスケとヤオ子の修行が開始される。
 そして、数日が過ぎればヤオ子も小隊・鷹の立派な一員になっている。
 アジトの中は……。


 「ヤオ子だらけだな……」


 香燐の呟き通り、ヤオ子の影分身達が忙しなく駆けずり回っていた。



  第111話 ヤオ子とサスケの戦い・修行編



 ヤオ子の雑務能力は極めて高い。
 そのせいで、影分身は要所ごとに割り当てられている。
 ヤオ子の影分身は、多大な種類で開発されたザクのようになっている。
 家事専用ヤオ子。
 掃除専用ヤオ子。
 炊事専用ヤオ子。
 洗濯専用ヤオ子。
 鍛冶専用ヤオ子(水月の首切り包丁修復中)。
 性質変化修行用ヤオ子。
 術習得用ヤオ子。
 etc...。

 そして、本体は、更なるチャクラ量を捻出するため泥臭い模擬戦をサスケとしている。
 香燐の隣で、水月も呆れてサスケとヤオ子の模擬戦を見ている。


 「ボクさ……。
  最近、分かったことがあるんだよね」

 「何だ?」

 「サスケとヤオ子って絶対に交わらない水と油だと思ってたんだけど、
  一点だけ共通していると思うんだ」

 「ウチも分かる……」

 「あの二人さ。
  修行に関して、妥協って言葉を知らないんだよね」

 「ああ……」

 「まず、あれが拙かったよね。
  ヤオ子の方が、サスケよりもスタミナがあったこと……」

 「サスケは負けず嫌いだからな」

 「その次にサスケが千鳥を体に流せて、ヤオ子が雷遁の鎧を扱えないこと……」

 「ヤオ子も負けず嫌いだからな」

 「そのせいであれだよ……」


 香燐と水月の前で、サスケとヤオ子の動きが段々と悪くなってくる。
 そして、同時に力尽きるとバッタリと倒れた。
 水月が腰を上げる。


 「だから!
  力尽きるまで張り合うなって、何回言えば分かるのさ!」


 ヤオ子がサスケを睨む。


 「サスケさんが止めないから……」


 サスケがヤオ子を睨む。


 「このウスラトンカチに負けるわけにはいかない……」


 水月が額を押さえる。


 「違うタイプの忍なんだから、少しは譲り合いなよ!」

 「「……ここだけは譲れない」」


 水月は溜息を吐くと、香燐に振り返る。


 「香燐。
  午前中の修行は終了。
  手伝ってくれよ」

 「はいはい……」


 香燐は溜息を吐くと、サスケの方に向かう。
 これだけは譲れないらしい。

 午前中一杯、サスケとヤオ子が力尽きるまで模擬戦をするのが通例になって来ていた。
 他のメンバーはサスケのスピードについていけず、水月、香燐、重吾で模擬戦をする。
 また、二人のスタミナが上がる度に昼食は遅れていくので、他のメンバーは迷惑をしていたりする。


 …


 午後は、個人修行に入る。
 基本、サスケが、水月と香燐と重吾をドS的に扱く。
 ヤオ子は木ノ葉でサスケのドS的洗脳が完成しているので、サスケの指示で修行を繰り返している。

 そして、この修行方法は、実は注文が多い。
 カカシとヤマトから教えて貰った術に、更に精査をして各系統の術を選び抜いている。


 「印を使わないで、自分の精神力で形態変化を作る……。
  ・
  ・
  何で、こんな逆のことをやらされるんだろう……。
  余計に大変なんだけど……」


 ヤオ子は、サスケの考えが分からなかった。


 「でも、サスケさんが無駄なことをするとは思えないし……。
  それに……。
  ・
  ・
  えへへ……。
  あの男が初めて頭を下げて頼んだんですよ。
  いや~。
  気分がよかったです。
  ・
  ・
  しかし、『お前の時間をくれ』って、プロポーズみたいな頼み方ですよね?
  あはぁ~……♪」


 ヤオ子は、そんな理由で意味が分からなくても修行をすることを了承したらしい。
 そこは父親の血が禍しているのかもしれない。


 「期待には応えないとね~♪」


 ヤオ子の修行は、方向性も分からないまま進行していた。


 …


 大蛇丸のアジトは、広くて何でもある。
 そして、その一角に鍛冶場もある。
 そこでヤオ子の影分身は、日々、剣を作っている。
 今、研磨し終わった大剣を水平に持ち、出来を確かめている。


 「また駄作か……」


 そこに水月が顔を出す。


 「出来た?」

 「まだです」

 「まだ!?
  一体、いつになったら、ボクの首切り包丁は直るのさ!」

 「これを見てください」


 ヤオ子が『凶』と彫られた大雑把な作りの大剣を渡す。


 「いい出来じゃないか?」

 「本当にそう思いますか?」

 「え? うん」

 「僅かに配分が狂っています。
  もっと粘りのある製鉄が出来ない以上、首切り包丁を超えた首切り包丁は完成しない!」

 「ヤオ子……。
  何を目指しているのさ?」

 「新たに生まれ変わる首切り包丁は、今の首切り包丁を超えなければならない!」

 「誰も、そこまで望んでないよ……」

 「それまで、その駄作で我慢してください。
  重さは同じにしてあります」

 「僅かな期間でここまで作ってくれて文句も言えないよ」


 水月は、バスターソードを振る。


 「これ洋剣?」

 「FFⅦの主人公が初期装備で持っているものです」

 「あ、そう……。
  全然分かんないや」

 「兎に角!
  納得の行く一振りが仕上がってから、首切り包丁を修繕します!」

 「……なるべく早くしてね」

 「はい!
  慌てず急いで正確に造ります!」


 水月は、鍛冶場を後にする。


 「あの子、頭おかしいよね?
  一体、何を造る気なんだろう?」


 鍛冶場からは、早速、鉄を打つ音が響く。


 「この前のドラゴン殺しとかってのは、既に首切り包丁の切れ味超えてたし……。
  まあ、首切り包丁は、長年整備されてないから仕方ないんだけど……。
  ・
  ・
  ヤオ子って、本当に忍者なのかな?」


 水月はバスターソードを担いで、重吾との模擬戦に向かうのであった。


 …


 大蛇丸のアジトの別の部屋……薬房。
 ここではヤオ子の影分身が、大量に仕入れた薬草、薬品、治療道具を使って忍界大戦に必要になる道具を用意していた。
 作っているのは、兵糧丸、増血丸、緊急医療パックである。
 緊急医療パックは、カカシの所持していた使い込まれたものを参考にしている。
 これを作れるだけ作っている。
 そして、緊急医療パック作成の手伝いをさせられている香燐が、ヤオ子に訊ねる。


 「なあ。
  こんなに大量に薬品類を作って、どうするんだ?
  戦場で売るのか?」

 「そんなわけないでしょう。
  無償で配るんですよ」

 「意味あるのか?
  医療忍者も山ほど投入されるんだろ?」

 「そうですけど……。
  医療忍者の方々が、暗部の人と同等の動きを出来るかは疑問です。
  多分、戦争で戦地の奥まで──マダラさんのところまで辿り着ける医療忍者の数は少ないと思います。
  そうなると、薬品が足りなくなると思うんです」

 「そういうことか……。
  でも、それをウチらが考えることか?
  材料費だって自腹なんだろ?」

 「はい。
  でも、お金なんてあっても使わないし。
  この戦争に負ければ、お金の価値もなくなるから、全部使っても構いませんよ」

 「まあ、お前の生活力なら金銭の必要性はないからな。
  ・
  ・
  それに月の眼計画だっけか?
  無限月読とかっていうの。
  あれを使われたら、確かに金なんて何の価値もないからな」

 「はい。
  ・
  ・
  でも、恐いのって、それだけじゃないですよね?」

 「例えば?」

 「あたし達、女の子には死活問題です」

 「女?」

 「マダラさんの幻術に掛かったままトイレに行きたくなったら、どうなるんだろう?」

 「は?」

 「あたし、絶対にイヤですよ!
  人前で用をたすなんて!」

 「……お前、そんなことを考えてたのか?」

 「そうですよ!
  考えてもみてくださいよ!
  危険極まりない術ですよ!
  幻術で地上の全ての人間をコントロールするんですよ?
  人間の脳が、そんな膨大な個人個人の制御なんて出来ると思いますか!?」

 「想像すると頭が破裂しそうだな……」

 「絶対に使ったら最後、使用した人の脳の許容範囲を超えて制御できないですよ」

 「どうなるってんだ?」

 「まず、使って暫くして、マダラさんの脳が焼き切れる」

 「自爆かよ……」

 「そして、地上に残った人は幻術に掛かったまま動けないで死んでいく……。
  正にVガンダムのエンジェル・ハイロゥ!」

 「何だよ……それ?」

 「ザンスカール帝国が建造した巨大サイコミュ兵器です。
  強力なサイコウェーブで地球上の人間に闘争心を忘れさせることにより眠らせ、退化させるんです」

 「よく分からん兵器だな?」


 ヤオ子が指を立てる。


 「いいですか?
  生き物は腐るんです。
  これを使うと人は眠ったまま腐るんです」

 「怖っ!
  何だそれ!?」

 「怖いでしょ?
  同じことが起きるんです」

 「ダメだ!
  阻止だ!
  絶対に阻止だ!」

 「やる気、出て来たでしょ?」

 「俄然!」


 半分以上はヤオ子の妄想であるが、香燐には、結構、効果があったらしい。
 翌日からの修行への打ち込みようの変貌振りにサスケ達は首を傾げた。


 …


 こうして時間は流れていく……。
 ヤオ子の能力はサスケに開発され、雑務能力では鍛冶能力が飛躍的に向上する。

 そして、サスケの能力は新たに得た万華鏡写輪眼により、イタチの瞳力が加わることで更なるうちはの高みへと昇華される。
 物語は、最後の戦いへと向かう。



[13840] 第112話 ヤオ子とサスケの戦い・最後の戦い編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:21
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 第四次忍界大戦が始まる……。
 忍五大国を筆頭にうちはマダラの率いる敵との戦い……。
 マダラが戦力不足で手を組んだのは、かつて大蛇丸の部下だった薬師カブト。
 口寄せ・穢土転生で呼び出されるのは、かつての英雄クラスの忍達。
 そして、もう一つの決定的な弱点。
 薬師カブトが所持している各里の忍達の情報。
 これにより、サスケが危惧していたことが現実になっていた。



  第112話 ヤオ子とサスケの戦い・最後の戦い編



 戦場は広大な荒野……。
 先陣で指揮を執る五影のうち、火影である綱手だけは後方に配置されている。
 戦場の全体が見渡せる小高い丘に敷かれた陣地……。
 忍連合軍の要である医療忍者を多く抱える木ノ葉の重要性は高い。
 次々に運ばれる犠牲者に、既に木ノ葉の陣地は溢れ返っている。

 そして、戦場全てを見渡せる場所で綱手は、奥歯を噛み締めていた。


 「雷影は、何をしている!」


 各国の連携が取れていない。
 各性質の軍隊が固まり、それをカブトの口寄せ・穢土転生で呼び出された過去の忍達にいいように弱点を突かれている。


 「あれでは烏合の衆の集まりだ!
  ・
  ・
  ……サスケの言った通りになった。
  最初は、連携が取れていたのに口寄せされた自国の忍が投入されたことで、自分の居る里の忍に戻された……」


 そう。
 最初は忍連合軍として連携が取れ、各国の主要な忍をマダラのところまで送り届けていた。
 しかし、カブトの口寄せ・穢土転生によって呼び出された自国の英雄の出現で動きが変わった。
 ある者は、自国の英雄を他国の忍に倒されるのを嫌い……。
 ある者は、尊敬するが故に攻撃できない……。
 過去の忍達が現れることにより、忍連合軍の忍から自里の忍に戻っていく。


 「このままではナルト達に繋がる補給や増援がいつか途切れる……」


 綱手がタスケに視線を向ける。


 「本当はナルト達への道が確保できてから、呼び出すつもりだったが……」

 「ここから呼び出すのか?
  小隊一つ増えたところで変わらないと思うがな」

 「戦況が変わることなど、期待はしていない。
  今はナルト達への道が消える前にサスケを送り届けるのが優先だ」

 「……分かった」


 タスケがチャクラを練り込み、印を結ぶ。


 「逆口寄せ!
  サスケ!
  ヤオ子!」


 綱手とタスケの前で煙があがる。
 そこにはちゃぶ台があった。


 「「は?」」


 煙が晴れると胡坐を掻いたサスケと正座したヤオ子が、ラーメンの入った器を抱えていた。
 綱手の額に青筋が浮かぶ。


 「私達が必死こいて戦ってるのにラーメンを食べているとは余裕だな……!」


 サスケとヤオ子が顔を見合うと、お互いラーメンを一啜りした。


 「「食うな!」」


 サスケとヤオ子が仕方なく器を置く。


 「何だ?」

 「『何だ?』じゃない!
  サスケ!
  お前、性格変わり過ぎだぞ!」

 「そうか?」

 (ヤオ子の影響がこんなところに……)


 ヤオ子は気にせず、サスケに話し掛ける。


 「サスケさん。
  三杯目だし止めときましょう。
  何か直ぐに動かないといけないみたいですよ」

 「そうだな。
  腹八分目にしておくか……」


 綱手が額を押さえる。


 「……こんな性格の奴だったか?」

 「戦況は?」

 「ちゃぶ台に座ったまま聞くな。
  まず、立て」


 サスケとヤオ子が仕方なく立つと、イライラしながら綱手が話し掛ける。


 「戦況は悪い……。
  お前の言った通りになった」


 サスケは戦場を見下ろす。


 「やはり、こうなったな」

 「途中までは上手く機能していたんだ。
  しかし、穢土転生で呼び出された過去の忍のせいで自里の意識が高まり、連携が崩壊し掛けている」


 サスケは綱手の話を聞きながら、戦場を分析している。


 「臭いの元から絶つしかないな……」

 「薬師カブトは、水影が相手をすることになっている」

 「カブト……。
  何故、アイツが穢土転生を使える?」

 「大蛇丸の細胞を取り込んでいるからだ」

 「大蛇丸?
  あの死体から細胞を取り込んだのか……。
  ・
  ・
  オレは、どうすればいい?」

 「先行してマダラと戦っているナルト達までの道が途切れる前に辿り着いてくれ」


 サスケとヤオ子が目的地に目を凝らす。


 「遠いな」

 「そうですね」


 サスケとヤオ子が綱手と会話をしていると、後ろから声がする。


 『あの家紋……うちはだ』

 『本当だ』

 『アイツらのせいで!』


 元凶は、うちはマダラ。
 サスケの服の背にうちはの家紋があれば、誰もが気付く。
 そして、謂れのない憎しみがサスケに向かう。

 ヤオ子はカチンと来る。
 うちはマダラとうちはサスケは別人だ。

 しかし、木ノ葉の陣営だけであった憎しみは戦場に広がり、丘の上から見下ろしているサスケに突き刺さる。
 不利な戦況が誰かのせいにしたくて、サスケへと憎しみが向かう。


 『うちはが居なければ……』

 『うちはなんて一族が居たから……』


 いつもそうだった。
 中忍試験では、見世物のような扱いを受け……。
 今は憎しみの捌け口にされる……。
 木ノ葉でも一族は隅に追いやられた……。
 ヤオ子は知っているから怒る。


 「お前らに言っておくことがある!」


 ヤオ子は戦場で叫んだ。


 …


 綱手は、ヤオ子の怒る理由を少なからず知っている。
 ヤオ子は、いつもサスケの味方だった。
 酔って絡んだ時、少し本音を聞いた。
 そして、皆で口を噤んだ事実も胸に抱えている。

 ヤオ子は、サスケを指差した。


 「あれは、あたしのもんだ!
  誰も手を出すな!」


 しかし、馬鹿は斜め上を行った。


 「いいか!
  マダラさんを倒して、今回のMVPは、あたしとサスケさんがいただく!
  その時、女共はサスケさんに指一本触れるな!」


 戦場で、どうしようもない空気が流れる。
 綱手は笑いを堪えることしか出来ない。
 誰が予想したか?
 戦場での我が侭な発言を……。


 『何だあれは!?』

 『馬鹿が居る!?』

 『ふざけるな!』


 憎しみは一気に消えて、ヤオ子への罵詈雑言に変貌する。


 「やるなら相手になりますよ!
  表に出ろです!」

 「お前が黙れ」


 サスケがヤオ子を丘から蹴り落とした。


 「へ?
  ・
  ・
  なまぁぁぁ!?」


 ズーン!と地面に人型が出来ると、戦場に又もや変な空気が流れた。


 『蹴った……』

 『蹴り落とした……』

 『死んだんじゃ──』


 地面から爆煙があがると、ヤオ子が姿を現す。
 そして、サスケを指差す。


 「殺す気か!
  今、強大な戦力が一つ消えるところでしたよ!」

 『ノーダメージだ……』

 『無傷だ……』


 綱手は不思議と笑みが浮かんだ。
 確かに今、戦場で何かが変わった。

 サスケが丘から飛び降りると、ヤオ子の隣に降り立つ。


 「行くぞ……」

 「ええ」


 ヤオ子が戦闘体勢に入る。
 練り上げられるチャクラは少量。
 しかし、周りの空気が張り詰める。
 つぎ込まれるのは集中力。

 ヤオ子は、印を結ぶ。


 「変化!」


 サスケは、ヤオ子が変化した草薙の剣を握った。


 …


 丘の上で綱手が疑問符を浮かべる。


 「何だ? あれは?」

 「さあな。
  馬鹿の考えることは分からん。
  ・
  ・
  水月達も呼ぶぞ」

 「あ、ああ」


 タスケが、逆口寄せをする。
 水月、香燐、重吾が現れる。


 「さて。
  行きますか」

 「そうだな」

 「お前ら、しっかりウチを守れよ」


 スリーマンセルで戦うのは、打ち合わせ済み。
 水月達は、直ぐに戦場へと出て行った。


 「挨拶もなしかよ……」

 「な、何なんだ?」


 小隊・鷹は、自由な忍が多い。


 …


 サスケが戦場を斜めに走り出す。
 ナルト達に向かう方向とは明らかに違う。
 向かう先は間違った系統で対抗しようとしている部隊。
 雷遁を使う敵に対して、土遁を得意としている部隊に一気に詰め寄る。


 「ヤオ子!
  風遁だ!」


 草薙の剣に風の力が宿ると、一閃して風の刃が飛び出す。
 弱点を突かれた過去の忍達が両断され、手助けした部隊の状況を確認するとヤオ子の変化した草薙の剣の柄にある『兵』と書かれた印に触れる。
 そこには小瓶に入った兵糧丸が口寄せされていた。
 その動作を五回ほど繰り返すと、サスケは手助けした部隊に投げる。


 「それでチャクラを回復させろ!
  五影の指揮に戻れ!
  ・
  ・
  土遁だ!
  コイツらの苦手な敵を分断する!」


 ヤオ子の変化した草薙の剣を突き刺すと、土遁・土流割が戦場の一部を分断する。
 そして、サスケは立ち止まることなく、次の敵を求めて移動した。


 …


 綱手が戦場でのサスケの動きを理解する。
 当初取れていた、弱点を突く連携に戻そうとしているのだ。
 そのために戦場を分断し、敵の経路を絶つ。
 綱手が僅かに唇の端を吊り上げる。


 「そのためのヤオ子だったのか……。
  サスケめ……。
  こうなることを読んでいたな。
  だから、ヤオ子に術を覚えさせたんだ」


 サスケの狙いは、正にそこにある。
 そして、ヤオ子に印を使わないで術を発動させた理由もそこだ。
 変化すれば、印を結べない。
 しかし、術は印を結ばなくても使える。
 その際、印の補助がない分、形態変化を自分で制御しなければならないから、コントロールが難しくなる。
 だから、サスケはヤオ子に印を使った術を体で覚えさせた後で、印を使わないで術を発動させる特訓をさせた。

 そして、わざわざ遠回りして術を習得するこの行為は、忍に取って限りなく無駄だ。
 サスケが謝ったのはこういう使い方をすれば、ヤオ子に意味のない修行をさせると理解していたからだ。
 しかし、全ての系統を使えないサスケが、全ての系統を使うにはこの方法しかない。
 ヤオ子を変化させないでとも考えたが、それは止めた。
 ヤオ子を走らせない方が、ヤオ子のチャクラを温存できる。
 これは、二人の意志が疎通しないと出来ない戦法だった。

 そして、第二の理由。
 ナルトと一緒に戦うまで、サスケ自身のチャクラを温存する。
 ナルトに辿り着くまでは、ヤオ子のチャクラしか使わない。
 当然、瞬身の術や写輪眼など必要最低限のチャクラは使用する。

 更に第三の理由。
 巻き返す。
 戦場で一人でも多くの忍を生き残らせる。
 今は、噛み合わせが悪く不利なだけ。
 だが、もし……。
 サスケの戦いを見て、当初の戦いを思い出させることが出来れば、再び大きな戦力となり、巻き返すことになる。
 だから、一人でも多くの忍を助け、チャクラを回復させるための兵糧丸をバラ撒く。
 これの効果が出るのは、再び各国の忍が自分の役目を理解し、五影の指揮に戻った時……。
 サスケとヤオ子は、この戦場に居る各国の忍を信じて動いていた。


 …


 戦場で小さな波が大きな波紋に変わっていく。
 次々に作られる壁や川……。
 それが味方を誘導し、敵を翻弄する。
 サスケの行動が、徐々に成果を上げ始める。


 「少しは頭が冷えたか……。
  ウスラトンカチども……」


 ナルト達、先方隊の距離まで半分近くまで来て、サスケが息を吐き出す。


 『サスケさん……』

 「分かっている……。
  医療忍者の数が減っている。
  ここからは、少しやっかいになる。
  ・
  ・
  単純な系統だけじゃない……。
  秘伝忍術を会得した敵が増えている」


 後ろを確認すると僅かずつだが連携が戻って来ていた。
 それを確認すると、サスケは再び速度をあげて走り出す。


 「今度は、余裕がない!
  ど真ん中を突っ切る!」


 術の性質が分からないため、術よりも剣技が増え始める。
 そして、最初は剣技でも十分対抗できたが、徐々にそれだけでは倒せない敵が増える。


 「ヤオ子……。
  お前のチャクラ……ここで使い切るかもしれない」

 『出し惜しみして無駄に使うよりは、遥かにいいです!』

 「そうだな……。
  ・
  ・
  雷遁の血継限界を解放しろ!」

 『了解!
  猛れ! あたしの妄想力!』


 サスケの体に雷遁の鎧……。
 刀身に千鳥……。
 攻撃力とスピードを一気に上げて、力で敵を捻じ伏せる。

 しかし、剣技で倒せる敵は一体ずつ。
 進行速度は、格段に落ちる。
 それでも見たこともない秘伝忍術をスピードで躱し、千鳥刀で一刀両断する。
 そして、仲間の忍を見つけては、兵糧丸、増血丸、医療パックを口寄せして投げる。


 「千鳥刀で切り裂けない!」


 ある過去の忍を前にサスケの足が止まる。
 塵芥で出来た過去の忍は、無表情で襲い掛かる。
 千鳥刀がぶつかる瞬間に緑発光するチャクラに弾き返される。


 「何だこれは!?」

 『物理攻撃が効かないのかも!』


 サスケが、切先を敵の忍に向ける。


 「任せる!」

 『火遁・豪火球の術!』


 変化する草薙の剣の切っ先から、火球が放たれる。
 しかし、また緑発光するチャクラに弾き返される。


 「チィ!
  効いてねー!」

 『なら!
  雷遁のエネルギーを全部千鳥刀に回します!
  更に血継限界を使って、威力を二倍にまで引き上げます!』


 サスケの体に回していた雷遁の鎧のエネルギーを刀身に回す。
 更にヤオ子の血継限界で底上げすると、サスケが切先を向けて大地を蹴る。


 「貫けェ!」


 雷遁で切れ味を上げた切先と緑発光するチャクラがエネルギーのぶつかり合いで閃光を発する。
 鬩ぎ合うエネルギーの勝敗を分けるのは、貫通するために押し出される力。
 やがて、切先が僅かに緑発光するチャクラへ入る。


 「入った!
  オオオォォォ!」


 サスケが剣を押し込むと両手持ちに変え、横に振り切る。
 更に刀を返し、切り裂かれた箇所から斜め上に切り上げる。


 「次!」


 サスケは、更に先へと突き進む。
 しかし、ヤオ子が警告を叫ぶ。


 『サスケさん!
  手間取ったから、後ろから来てる!』

 「足止め、頼む!」


 サスケがヤオ子の変化した草薙の剣を大地に突き刺しながら走ると、追って来た過去の忍達に時間差で円錐が突き刺さっていく。


 『タイミング、バッチリです!』

 「修行したからな!」


 サスケとヤオ子は、敵を置き去りにして先に進んだ。


 …


 ナルト達のところまであと少し……。
 ヤオ子の変化した草薙の剣の刀身には皹が入っていた。
 サスケを覆っている雷遁の鎧も発動したりしなかったりと、チャクラ切れの様相を示している。
 ヤオ子の限界が近い。

 しかし、ナルト達の背中は見え始めている。
 サクラの姿も見える。
 そして、サクラに向かう敵の忍が見える。
 最前線で戦う貴重な医療忍者。
 絶対に傷つけるわけにはいかない。


 「ヤオ子!
  最後の敵だ!
  ・
  ・
  力を出し切れ!」

 『……はい!
  血継限界! 火遁!』


 刀身が真紅に変わり、高く飛んだサスケが力任せに敵の忍に刃を押し当てる。
 高熱を宿した刀身は敵の忍を焼き切っていくと同時に、刀身の皹を広げていく。
 そして、刀身は敵の忍を切り裂くと粉々に砕け散った。


 …


 サクラの前で敵の忍が倒れる。
 そして、粉々に砕け散った草薙の剣の刀身が煙を上げて、元に戻っていく。
 辺りには茶色い髪の毛が舞い、柄の部分のヤオ子の本体がゴロゴロと勢いよく転がった。
 ヤオ子は全身から汗を噴出し、息を切らす。


 「ヤオ子?」


 サクラがヤオ子に駆け寄ると、ヤオ子はゆっくりと腕を上げる。


 「た、確かに届けましたよ……」


 ヤオ子の指差す先に、腰の本物の草薙の剣に手を掛けているサスケが居る。
 サスケがサクラに声を掛ける。


 「待たせたな……」

 「うん……。
  待ってた……。
  第七班で戦える日を待ってた……」


 サスケは言葉少なく。
 直ぐにナルトの背中に目を移した。


 「行ってくる……」

 「うん……。
  サスケ君…がんばって……」


 サスケは兵糧丸を口に入れると走り出した。
 一方のヤオ子は、遠ざかるサスケの背中を見て呟く。


 「あのヤロー……」

 「どうしたのよ?」

 「あたしにお礼の一つもなしですよ……。
  大事なトレードマークを紛失させといて」


 サクラがヤオ子の後頭部を見ると、そこにはいつもあったポニーテールがなくなっていた。


 「髪……」

 「ええ。
  生身の部分を刀身に変えるわけにはいきませんからね。
  大事なポニーテールを刀身に変化させていたんですよ。
  ・
  ・
  しかも、チャクラも全部、あたし持ち」

 「うん……」


 ヤオ子は顔をサクラに向け、訊ねる。


 「……サクラさん。
  何で、さっきから泣いてんの?」

 「嬉しいから……。
  ナルトとサスケ君が背中を合わせて戦う姿を見れたから」


 ヤオ子も遠目からナルトとサスケが背中を合わせて戦うのが見える。
 仙人モードの維持時間が切れると、サスケが須佐能乎の絶対防御で援護している。


 「ムカつきますね。
  申し合わせたみたいに息がピッタリで」

 「何でよ?
  いいことじゃない?」

 「あそこに居るのが、あたしじゃないから嫉妬してます」


 サクラはキョトンとした後で微笑む。


 「だけど……。
  あの二人の後姿をずっと見たかったんだ……」


 ヤオ子はサクラの顔に微笑むと、兵糧丸を口に入れてガリガリと噛み砕く。
 僅かに体力が回復してくるのを感じると、ヤオ子は立ち上がる。


 「サクラさんは、あの二人をお願いしますね」

 「ヤオ子は?」

 「もう一つの約束を果たしに……。
  ヤマト先生と一緒に戦うんだ~♪」


 サクラは、また笑う。
 こんな状況なのに、ヤオ子はいつもと変わらない。


 「ええ。
  いってらっしゃい」


 ヤオ子はニッコリと微笑むと遠くに見つけたヤマトのところに走って行く。
 そして、ヤマトに思いっきり抱きつくのが見える。
 サクラは、思わず声を出して笑ってしまう。
 そして、ゆっくりと立ち上がる。


 「私も木ノ葉の忍なんだから!
  ヤオ子に負けていられない!」


 そして、数時間後……。
 変な少女の介入した第四次忍界大戦は終わりを告げる。
 この忍界大戦では親友同士の二人の少年が預けるべき背中を取り戻し、戦いに終わりを告げた。
 そして、この忍界大戦で勝ち得た各国の絆が未来を築いていく。
 このNARUTOのIFの世界では……。



[13840] 第113話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・筆記試験編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:21
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 六道仙人の御伽噺とは違う結末……。
 うちはマダラが語った最後とは反対に、ナルトとサスケは背を向けずに背を預けあった。
 この二人が第四次忍界大戦を終わらせたのは誰もが知っている。

 動き出した手を携え合う道。
 第四次忍界大戦後の中忍試験は、各国の交流を深める場にもなった。
 そして、世界を救った英雄二人が下忍であったことも世界にバレた……。



  第113話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・筆記試験編



 木の葉のアカデミーの一室……。
 ここ中忍試験の試験会場では、第四次忍界大戦を終わりに導いた二人と変態一人に視線が集中していた。
 サスケが項垂れる。


 「まるっきり好奇の目で見られている……」


 ナルトは笑いながら答えを返す。


 「仕方ないだろ……。
  今や、オレ達有名人だしよ。
  ・
  ・
  オレ、さっきサイン頼まれちゃった♪」


 その後ろで、少し伸びた髪を束ねたヤオ子が声を掛ける。


 「あたしは見られると興奮するタイプです」


 サスケは溜息を吐く。


 (人選間違えたんじゃねーか?)


 多分、間違えている。
 属性で分けるなら、ナルトとヤオ子は間違いなく同じボケに分類される。
 せめて、中立な立場か同じツッコミの人間を仲間に引き入れて、数で対等以上にしておくべきだった。
 そんなサスケが後悔する中、アカデミーの教室を利用した試験会場に森乃イビキが現れた。


 「前、受けた時と変わってねーってばよ」

 「そうだな」

 「お二人は、二回目ですもんね」


 受験生が席に着くと、イビキの簡単な自己紹介が始まる。
 そして、その後に発表される試験課題は最悪を告げるものだった。


 「では、筆記試験を始める。
  筆記試験は、三人の合計点で順位のいいチームから順に、次の試験に反映される。
  当然、落第点もある」


 ナルトが余裕で話す。


 「へ~。
  筆記試験か。
  変わってねーな。
  芸がないってばよ」


 しかし、筆記試験と聞いたサスケの顔は険しい。
 サスケはナルトの襟首を掴んだ。


 「お前、あれから少しは、頭の方も鍛えてあるんだろうな?」


 ナルトは目を逸らす。


 「バ、バッチリだってばよ……」

 「目を見て話せ……」


 サスケとナルトのやり取りを見て、ヤオ子は首を傾げる。


 「どうしたの?」

 「コイツは、筆記試験が最大の弱点なんだよ!」

 「そうなんだ。
  でも、合計点でしょ?
  大丈夫じゃないの?」


 サスケは手を緩める。


 「……そうだな。
  前回のことを考えれば、ただの筆記試験ということはない。
  何か別の要素が隠されているはずだ」


 森乃イビキが最後の注意をする。


 「では、各自個室で試験を受けて貰う」

 「「「が……」」」


 カンニング不可、完全な筆記試験だった。


 …


 筆記試験を終了してから、三十分……。
 答案の採点をする者を多く増やし、採点にかける時間を短縮して発表が行なわれる。
 アカデミーの廊下に張り出される採点表。
 その順位結果を見て、サスケがヤオ子の点数に呆れる。


 「お前、どうすればこんな点数になるんだ?」

 「満点。
  一位です」


 ヤオ子はチョキをサスケに向けた。


 「おかしいってばよ……。
  二位が七十六点だから、絶対に解けない問題があったはずなのに……」

 「これもサスケさんのお陰です」

 「オレが?
  何かしたか?」

 「何を言ってるんですか。
  サスケさんが読ませたんじゃないですか」

 「読ませた?」

 「そう。
  昔、大量に本を持って来たでしょ?」

 「……あれ、本当に読んだのか?」

 「?」


 冗談半分で読ませた本だったが、ヤオ子は全部読んだらしい。
 サスケは誤魔化すために、自分の点数を読み上げる。


 「オレは七十点だから、順位的には六位だな」

 「じゃあ、オレは?」


 ナルトの名前を探す。
 三人は張り出された上から下まで目を通す。


 「…………」


 見つからない。


 「ありませんね?」

 「張り忘れか?」


 ナルトの試験結果が見つからず、途方に暮れていると、廊下を歩くイビキをヤオ子が見つけた。


 「イビキさーん!」


 声を上げながら手を振るヤオ子に、イビキが気付いた。


 「ナルトさんの試験結果がないんですけど」

 「張り忘れか?」


 あっけらかんとしているナルトに、イビキの顔が引く付いている。


 「どうしたの?」


 ヤオ子の問い掛けに、イビキは無言で採点表の欄外を示す。


 『※一名名前なし … 0点』


 サスケとナルトとヤオ子が石になった。


 …


 サスケとヤオ子がナルトを問い詰める。


 「何をしてんだ!
  このウスラトンカチ!」

 「そうですよ!
  試験受ける前から、落第じゃないですか!」

 「違うって!
  オレは、ちゃんと名前書いたんだってばよ!
  ・
  ・
  ホラ!
  問題に答えの写しも書いてあるだろ!」


 ナルトは試験の問題用紙を見せ、サスケとヤオ子が問題用紙を見る。


 「これ見たって名前書いたか書いてねーかなんて、分かんねーよ!
  ・
  ・
  しかも、ほとんど間違ってるし……」


 イビキが手に持っていた書類からナルトの解答用紙を取り出すと、サスケ達に向けて見せる。
 そして、サスケとナルトとヤオ子の視線が一点に注がれる。


 「ホラ!
  ここ!
  ちゃんと名前を書いてある!」

 「「違う!」」

 「へ?」

 「それはサービス問題です!」

 「名前のところは空白じゃねーか!」

 「え?」

 『名前:____________

  第一問:
  第四次忍界大戦において活躍した木ノ葉の仙術を使う忍を答えよ。

  答え:うずまきナルト 』

 「引っ掛けか!」

 「「違う!」」


 サスケ達は、ナルトのせいで落第の危機に直面していた。


 …


 ヤオ子がグループごとの順位を確認する。


 「拙いですよ!
  これ落第点喰らったんじゃないですか!?」

 「兎に角、探せ!
  ・
  ・
  あった!」

 『合格:13チーム中 … 13位 うちはサスケ・うずまきナルト・八百屋のヤオ子』

 「「最下位だ……」」

 「よかったってばよ……」


 ヤオ子がキレる。


 「よくないですよ!
  何で、あたしは一位の成績取ったのに、最下位のチームに居るんですか!」

 「そうだ!
  それに次の試験に順位が関係するって、試験官が言っていただろう!」

 「う……」


 ヤオ子は、バリバリと頭を掻く。


 「ナルトさんと一緒のチームになるんじゃなかった!
  ナルトさんが居なければ、余裕で一位通過なのに!
  しかも、ナルトさんは勝手に自滅して、
  本戦にも出れないから競争率が下がったのに~~~っ!」

 「ヤオ子……。
  姑息だってばよ……」

 「こんな体動かすしか能がない忍者が、中忍になるなんてあっていいの!?
  これでナルトさんが中忍になって、あたしが落ちたら……ナルトさんを殺す!」

 「物騒だな……」


 アカデミーの一角で珍事が起きている。
 それをイビキは笑って見ている。
 ナルトかヤオ子……どっちか居れば、荒れることは分かっていた。
 それが一緒のチームに組み込まれれば、当然のことだった。



[13840] 第114話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・サバイバルレース編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:21
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 次の試験は、木ノ葉の演習場で行なわれる。
 かつての死の森よりも広大な面積の森を使用するここで、試験官をするのは砂隠れの里のテマリだ。


 「第二試験の試験官の砂隠れのテマリだ。
  早速だが、試験の説明をさせて貰う」


 そして、試験官の説明を聞く13チームの中で、既に1チームが思いっきりやる気をなくしていた。



  第114話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・サバイバルレース編



 試験の説明が終わると直ぐ、ヤオ子が文句を言う。


 「何? あのルール?
  まるっきり、あたし達を受からせる気ないじゃん?」

 「まったくだ……」

 「そんな気落ちすんなよ。
  何とかなるって」


 ヤオ子とサスケがナルトを睨みつける。
 そして、ヤオ子がテマリを指差して、ナルトに怒鳴る。


 「あのエロボディのドS教官の話を聞かなかったんですか!」


 テマリの投石がヤオ子に炸裂した。
 しかし、ヤオ子は無視する。


 「あの人、ここからゴールまで約二十四時間掛かるって言ってて、それを順位のいい順でスタートさせてんですよ!
  しかも、次のチームのスタートは一時間後!
  あたし達は、十二時間後にスタート!
  更に、上位六位までが合格!」

 「そ、そんなこと言ってたな……」

 「まだ言いますよ!
  今の時点で諦めて棄権したチームが3チーム!
  でも、その分、前倒しされないから、十二時間後のスタートは変わらない!
  これがプレイなら大喜びですけど、あのドSは前倒しを許さないんですよ!」


 テマリの投石が、ヤオ子に炸裂した。
 しかし、ヤオ子は無視する。

 サスケが溜息を吐きながら腰に手を当てる。


 「とは言え、どうする?
  十二時間──いや、六位までなら七時間か。
  その差を埋めなければダメだ」


 サスケが演習場の地図を広げると、ナルトが意見を言う。


 「なあ。
  もしかしたら、何とかなるんじゃないか?
  確かトラップや敵の忍を想定した中忍が配置されてんだったよな?
  先に行った連中がトラップとかを解除してるんだから、その分、楽に進めるはずだ」

 「だが、逆にそいつらがトラップを仕掛ける可能性もある」

 「そっか……」


 ヤオ子が地図を見ながら、正ルートを指す。


 「多分ですけど、正規のルートは、比較的トラップや配置された中忍の人が少ないんですよ。
  だから、後から出発したチームは、
  この蛇行した正規ルート以外の何処かをショートカットしなければいけないんです」


 ヤオ子は地図の蛇行部分が近づく幾つかのポイントを指で差す。


 「なるほどね。
  じゃあ、ショートカットすればいいじゃん!」

 「当然、そこにはトラップてんこ盛りでしょうけどね……」

 「じゃあ、どうすんだ?」

 「選択の余地はない……」

 「「え?」」


 サスケが地図を指で叩く。


 「オレ達のハンデの時間が大き過ぎる。
  ショートカットするところなんかない」

 「と、言うと?」


 サスケがスタートからゴールまで一直線で指をなぞる。


 「真っ直ぐ進まないと逆転できない……」

 「「マジで……」」


 サスケが頷くと、ナルトとヤオ子が溜息を吐く。


 「仕方ありませんね」

 「……だな」

 「あと十一時間ぐらいありますよ?」

 「オレは寝る」


 サスケは近くの木にもたれ掛かった。
 ナルトが頭を掻く。


 「オレも」


 ナルトは木陰のある地面にバッグを枕にして横になる。
 ヤオ子はテマリを見る。


 「時間になったら、起こしてね」


 ヤオ子は、その場で体育座りのような格好で眠り出した。
 テマリが呆れる。


 「この危機的状況に、なんて余裕のある奴等なんだ……」


 半ば諦めもあるのかもしれない。


 …


 テマリが溜息を吐くと、仕方なくヤオ子を突く。


 「……ん?」

 「そろそろ時間だ」

 「ああ……そっか」


 ヤオ子がサスケとナルトを起こすが、全員が少し寝ぼけている。


 「どうしましょうか?」

 「あっちだっけ?」

 「確かな」

 「違う! あっちがゴールだ!」


 サスケ達は、テマリに進路を修正して貰う。


 「どうします?」

 「う~ん……」

 「時間的にも、かなりのスピードで走らないと追いつけないからな……」

 「あ。
  あたし、いいこと思いついた」

 「じゃあ、ヤオ子に任す……」

 「オレもそうする……」

 (コイツら……。
  やる気あるのか?)


 テマリが合図を出す。


 「時間だ!」


 ヤオ子はチャクラを練り上げると、印を結ぶ。
 更に血継限界で土遁の術の威力を底上げする。


 「土遁・土流割!」


 ヤオ子が両手を地面についてチャクラを流し込むと、試験場の地面が隆起し割れた。
 思わず飛び退いたテマリの目には、数百メートル先まで破壊尽くされた森が写った。


 「試験場壊して、この割れ目から一気にゴールすればよかったんですよ」

 「「そうか」」


 試験場を破壊して進む……。
 最悪の発想だった……。
 ヤオ子に注意を入れるはずのナルトとサスケの思考回路は寝起きで回復しておらず、試験官のテマリが注意をしようと駆け寄ろうとした時には、三人が動き出してしまっていた。
 身体能力では及ばないテマリが三人に追いつけるわけもなく、無常にも遠くの方で試験場が壊れる音が響いていく。


 「拙い!」


 テマリは無線を使って、試験場の忍達に緊急回避の連絡を入れた。


 …


 かつて、木ノ葉の死の森よりも広大な面積を有する森の試験場があった。
 今は土遁で破壊尽くされて、柔らかい土がそこら中に顔を出す畑のようになっている。
 その畑に突き刺さる大木や倒木に紛れて、トラップも途中で配置された中忍も受験生も埋まっている。
 ゴールで待っていた試験官のシカマルの額に青筋が浮かぶ。


 「お前ら……何しやがった!!」


 サスケとナルトがヤオ子を指差す。


 「「ヤオ子がやった……」」

 「だって~。
  こうしないと試験に落ちちゃうんだもん」

 「『だもん』じゃねー!
  どんだけの怪我人が出たと思ってんだ!」

 「医療忍術があるんだからいいじゃん。
  死ななきゃ治る」

 「そういう問題じゃねーんだよ!
  しかも、アレを見ろ!」


 試験場は破壊尽くされ、ここが第四次忍界大戦のあった場所じゃないかと思わせる変わりようだった。


 「ルールに試験場を壊すなって載ってなかった……」

 「屁理屈を捏ねるな!」

 「うっさいですね……。
  もういいですよ。
  ・
  ・
  あたし達は、合格? 不合格?」


 シカマルは、イラつきながら額を押さえる。


 「コイツらを絶対に試験を受けさせちゃいけねぇ……。
  ・
  ・
  だけど、ルール上は合格だ……」

 「やったってばよ!」

 「あたしのお陰ですね」

 「今になって罪悪感が出て来た……」


 項垂れるシカマルに、ナルトがシカマル声を掛ける。


 「また振り落としの試験するのか?」

 「しねーよ……。
  今回は、少し多めに中忍を輩出する予定だから、三日後の本戦だけだ」

 「じゃあ、これで終わりか?」

 「ああ。
  帰っていいぞ」

 「ん?
  綱手のばーちゃんから、面倒臭い話を聞かなくていいのか?」

 「チームごとにゴールする時間がバラバラだから、今回は、オレが連絡を伝えて終わりだ」

 「そっか。
  じゃあな」


 ナルト達は踵を返し、帰ろうとする。
 しかし、シカマルがヤオ子の肩を掴んだ。


 「お前は、残れ」

 「へ?
  何で?」

 「壊した試験場を元に戻すんだよ!」

 「え~~~っ!」

 「口答えするな!
  全部、掘り起こして森も作っていけ!」

 「いや、あたし木遁使えないんで……」


 こうして、サスケ達の第二試験は終わった。
 そして、後始末にヤマトが借り出されたのは言うまでもない。



[13840] 第115話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・本戦編
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:22
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 中忍試験本戦……。
 新しく建築された試験会場が初めて使われ、試験会場の中には五影の姿もある。
 あの戦争は多くのものを失ったが、大事なものが何かも気付かせた。
 故に、五影が必ず顔を合わすことが条件にも加わっている。
 五代目風影・我愛羅 。
 五代目水影・照美 メイ。
 三代目土影・オオノキ。
 四代目雷影・エー 。
 その中で、主催国の五代目火影・綱手だけが肩身が狭い……。
 中忍試験において、ヤオ子がやらかした試験場破壊……。
 各国の影の名を持つ者の耳に入らないわけがない。

 早速、雷影から皮肉が飛ぶ。


 「木ノ葉では、例の娘が大暴れをしたようだな」

 (ヤオ子の奴……)

 「ワシも聞いておる。
  何でも土遁を使って試験場を破壊したようじゃぜ」

 (両天秤のジジイが……)

 「ナルト以外にも注意しないといけない人物が居るようだな」

 (その通りだ……。
  そして、今回の暴走の引き金になっているのが、ナルトなんだよ……)

 「火影様も大変なようで……。
  ただ、そのせいでうちの里の中忍試験を受けた者達が、本戦に出られなくなったことが残念です」

 (水影……怒ってる?
  青筋が浮かんでる……)


 自国で行われる中忍試験で、何故、こんなに肩身の狭い仕打ちを受けなければいけないのか。
 中忍試験開催の綱手の前説は、非常に謙虚で静かなものだった。



  第115話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・本戦編



 本戦を迎える少し前……。
 ヤオ子は安堵して、ホッと息を吐いていた。
 本戦のルールはナルト達が受けた時と同じで、その戦いぶりが評価され、勝ち進むほどアピールできる機会が増える。
 そして、トーナメント方式で、決勝まで行かなければナルトかサスケと当たらない。
 これなら、気を緩めて本戦を戦える。


 「ヤオ子。
  お前が一番手だってばよ」

 「派手に決めます!」


 気合いを入れたヤオ子に、サスケが声を掛ける。


 「やめておけ……」


 ヤオ子はサスケに振り返ると、首を傾げる。
 本戦を頑張るのが、何で、いけないのか?


 「お前、目付けられてるぞ……。
  試験場壊しって……」

 「そういえば……。
  綱手のばーちゃんも元気なかったな」


 ヤオ子は両手をあげて、首を振る。


 「高々、試験場の一つや二つで」

 「「お前な……」」

 「まあ、いいや。
  行ってくるね」


 ヤオ子は、本戦の会場に向けて歩き出した。


 …


 本戦の審判役は、キバ。
 闘技場にヤオ子が登場すると歓声が上がる。


 「お前、人気者だな」

 「よく聞いてください」

 「ん?」


 …


 『ヤオ子ちゃーん!
  がんばれー!』

 『この変態がー!』

 『サスケとその後、どーなったんだ!』

 『オレの中忍試験合格を返せ!』

 『おねーちゃん!
  がんばれー!』

 『負けちまえ!
  このヤロー!』


 …


 キバが頬を掻く。


 「……何で、罵声と歓声が混ざっているんだ?」

 「人気者は辛いです……。
  試験場を破壊した犯人だと、知れ渡ってますね」

 「あれ! お前だったのか!?」

 「えへへ……。
  意外と爽快ですよ」

 「悪役の感想じゃねーか……」


 そして、ヤオ子の相手が闘技場に現れる。
 ヤオ子とは違い、黄色い歓声だけが上がる。


 「おお、美形」

 「岩隠れの一番人気だ」

 「ほう……。
  身長182、適度な筋力、股下も長い……悪くないです。
  ・
  ・
  だけど、あたしの好みじゃないですね」

 「そうなのか?」

 「ええ。
  ワイルドなキバさんになら、抱かれてもいいですよ」


 キバが吹いた。


 「お断りだ!」

 「おや、連れない」


 相手の観客へのアピールが終わり、ゆっくりと対戦相手がヤオ子に近づく。


 「随分、若いね」

 「十二です」

 「本当に若い……?
  背高くないか?」

 「母方の遺伝です」

 「そうか。
  ・
  ・
  いい試合をしようね」


 手を差し出してくる相手に、ヤオ子は笑顔で握り返す。


 「一瞬で終わっちゃいますけどね」


 ヤオ子の言葉に相手の顔が険しくなるが、直ぐに笑顔になる。


 「いい勉強をさせてあげるよ」


 ヤオ子と相手の忍が距離を取ると、キバが手を上げる。


 「始め!」


 本戦の第一試合が始まった。


 …


 開始直後、相手の忍が印を組む。


 「迷彩隠れの術!」


 術の発動と共に徐々に姿が透け始め、相手の忍が風景に溶け込んでいく。
 ヤオ子は足元の足跡を見ながら、警戒だけは強める。


 (いい術ですね……。
  こんなに歓声があったら、足音も聞こえない……。
  ・
  ・
  写輪眼みたいな瞳術もない。
  派手な術も禁止。
  禁止されてなきゃ、囲まれた狭い空間だから必殺技を連発して炙り出すのに……)


 ヤオ子は五影の席に居る綱手を見ると、手で暴れていいかとサインを出す。
 綱手は、両手で×を作った。


 (ですよね。
  ・
  ・
  じゃあ)


 ヤオ子は、チャクラを練り上げると印を結ぶ。


 「水遁・霧隠れの術!」


 相手と同じく、視界を奪う作戦に出る。
 高い塀に囲まれた本戦会場は直ぐに霧に覆われ、逃げ場のない霧が濃霧となって溜まっていく。
 相手も見えないが、自分も見えない状況が作られる。


 「これに雷遁を流して……霧を通して感電するかな?
  でも、こんなに少ないと電導しないか……。
  電圧あげて、試してみよ」


 ヤオ子は雷遁の鎧を発動して見るが、電導率は今一のようだ。
 何の反応も返って来ない。


 「やっぱり、感電しないか」


 ヤオ子は、更にもう一つの術を使うと、霧に隠れた。


 …


 濃霧の中を相手の忍がヤオ子を探す。
 お互いがお互いを探す展開で、先に相手を見つけたのは対戦相手の忍だった。
 ヤオ子の背後に回り、クナイを振り被ると斬りつける。


 「っ!
  ・
  ・
  水分身!?」


 しかし、ヤオ子が水になって爆ぜた。
 対戦相手の忍は、その場でクナイを構え直して警戒する。
 水分身を斬らされたということは、おびき出されたということになる。

 その警戒を続ける対戦相手の忍の足元に、ソロリとチャクラ糸が伸びる。
 大戦相手の忍の下には水分身が消えた際の水溜りが残っていた。


 「雷遁発動!」


 チャクラ糸が水溜りに触れると、えげつないヤオ子の電撃攻撃が発動した。
 対戦相手の忍は、警戒してなかった足元からの攻撃に感電してたたらを踏む。


 「やっぱり、岩隠れの忍。
  性質は、土遁で正解かな?」

 「このガキ!」


 怒りに任せた相手の手裏剣の投擲をヤオ子は余裕を持って躱すと、霧隠れの術を解除する。


 (二枚目の本性が見えましたね?
  ・
  ・
  じゃあ、そろそろ……)


 ヤオ子が攻撃に移るために、構えを取った。


 …


 雷影が綱手に声を掛ける。


 「あれは、何処の一族の構えだ?」

 「そういえば、見たことがないな」


 勇ましく両手を掲げた構えに、我愛羅も興味を示す。
 しかし、綱手は、またしても複雑な顔をしていた。


 「どうした?」

 「……流派東方不敗」

 「何だそれは?」

 「あの馬鹿が読んでる漫画だ……」


 綱手以外の五影がこけた。


 「い、一見すると勇ましい構えだがな……」

 「アイツ、漫画だと動きが分からないから、
  最初に描かれてる構えだけを出だしの動きに入れているんだ」

 「本当に変な忍だな……」

 「我が里の恥だ……」


 綱手は、更に肩身が狭くなる気分だった。


 …


 ヤオ子が動く。
 体が沈み相手の足を払うと、相手が体勢を崩すと同時に印を結ぶ。


 「気絶させるのも面倒臭いんですよ!」


 倒れ掛ける相手の股間を右足で踏みつけ、究極の痛みで相手の目を見開かせるとチャクラを練る。
 そして、ここぞというタイミングで術を発動する。


 「おいろけ・走馬灯の術!」


 ヤオ子の目から叩き込まれる禁術の幻術。
 相手の忍は、鼻血を撒き散らして気絶した。


 …


 綱手が震えている。
 そして、他の五影との体面も考えずにキレた。


 「あ、あ、あ、あの馬鹿が~~~っ!
  あの術は使うなと言ったのに!
  ・
  ・
  シズネ!
  あの馬鹿をここに連れて来い!」

 「あヒィーッ!」


 綱手の剣幕に悲鳴をあげると、シズネは本戦の闘技場へ走った。


 …


 十分後……。
 ヤオ子は正座させられ、その前で仁王立ちの綱手の説教が響く。


 「何を考えているんだ!
  各国首脳の五影と大名の前で、おいろけの術だと!?」

 (何かホーク戦を終えた高村さんみたい……)

 「だって~。
  派手めの術使うの禁止だし~」

 「語尾を延ばすな!
  反省してるのか!」

 「してます」

 「嘘をつくな!」

 「そんなことより、いいんですか?」

 「何がだ!」

 「あたしがおいろけ系の術を使ったんだから、同じく刺激を受けた人物が居るでしょ?」

 「何?
  ・
  ・
  ハッ!」


 会場でナルトの声が響く。


 「おいろけ・ハーレムの術!」


 会場中に血の雨が降った。


 「シズネ!
  ナルトも、ここに連れて来い!」


 五影達は、綱手を見て心底同情する。
 似たような弟を持つ雷影には、特にその事情が痛いほど分かる。

 更に十分後……。
 ナルトが追加されて、ヤオ子と正座する。


 「お前らは、中忍試験を何だと思っているんだ!」

 「でもさ。
  綱手のばーちゃん……」

 「いい加減にしろ!
  このアナウンスをよく聞け!」

 『会場で出血してしまい、血が足りなくなったお客様は、入り口までお越しください。
  増血丸を配布しております』

 「…………」


 確かに、やり過ぎの気があった。
 このままでは綱手の沸点が下がったままだと、ナルトとヤオ子がアイコンタクトをする。


 「綱手のばーちゃん。
  確かにオレも調子に乗り過ぎたってばよ。
  でも、あんな術でやられる、相手の精神修行もどうなんだ?」

 「そうです。
  こんな子供騙しの術で倒れるのは、おかしいです」

 「何がおかしい!
  会場中の男共が軒並みぶっ倒れるほどのエロい術だろうが!
  ・
  ・
  それに!
  その言い訳は、この前聞いたわ!」


 ヤオ子がナルトに小声で話す。


 「言ったじゃないですか。
  綱手さんが前の言い訳を忘れるまで、
  三ヶ月のインターバルを開けないといけないって」

 「そうだっけ?
  この言い訳、三ヶ月経ってないっけ?」


 綱手が青筋を浮かべ、腕を組む。


 「ほう……。
  お前らは、そうやって誤魔化してたのか……」

 「いや~。
  このサイクルを見つけるまでは、本当に大へ──」

 「…………」

 「お前ら!
  ずっと正座!」

 「「え~~~っ!」」

 「ここコンクリートですよ!?」

 「そうだってばよ!
  次の試合に響くってばよ!」

 「聞く耳もたん!」


 沸点をあげるどころか、更に火に油を注ぐ結果……。
 綱手は、二人をそのままに、五影の席へ戻って行ってしまった。


 「どうすれば……」

 「影分身で身代わり作ればいいんじゃないか?」

 「なるほど」


 ナルトとヤオ子が印を結ぼうと指を合わせると、綱手の視線が突き刺さった。


 「指のささくれが気になりますね……」

 「ああ……。
  指のささくれがな……」

 ((失敗か……))


 そして、暫くして歓声が上がると、綱手の声が響く。


 「サスケのように、スマートに戦って貰いたいもんだな」

 「「あのスかしヤロー……」」


 中忍試験の本戦は、ナルトとヤオ子の大暴走。
 そして、その半面で、うちはの名は悪名から名声に変わる。


 「作戦通りです」

 「うんうん」

 「あたし達がワザとダメなところを見せて、サスケさんの評判をあげる頭脳作戦」

 「その通り!」


 などと妄言をほざく二人が居たが、簡単に無視される。
 だが、この三人が頭一つ分飛び抜けて実力が高いのは明らかだった。
 この中忍試験で、サスケ、ナルト、ヤオ子は、中忍に昇格するのだった。



[13840] 第116話 ヤオ子の八百屋
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/22 01:07
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 復興した木ノ葉隠れの里。
 そして、新しい火影。
 また訪れる中忍試験。
 各国の交流を深めるイベントは何度目だろうか。
 そして、サスケとあの少女が木ノ葉隠れの里を出て、何年経ったのか……。



  第116話 ヤオ子の八百屋



 中忍試験本戦……。
 かつて、戦っていた闘技場を見下ろし、若き火影は付き人の青年に話し掛ける。


 「ねーちゃんは、どうしてんだ?」

 「お姉ちゃんは、相変わらずです。
  ルイーダの酒場をしていますよ」

 「相変わらずか……」


 青年の返す言葉に、ナルトは可笑しそうに笑っている。


 「ホント。
  お前が、ねーちゃんと正反対の性格で助かったってばよ。
  デタラメの真逆──常識人で普通でよ」

 「その普通っていうのは、褒め言葉なんですか?」

 「褒め言葉だよ。
  馬鹿なオレが、判断の基準にするのはヤクトだからよ。
  ヤクトが難しいと思えば、上忍の任務。
  普通だと思えば、中忍の任務。
  簡単だと思えば、下忍の任務だ」

 「ボクの存在って……」


 綱手にシズネという付き人が居たように、ヤオ子の弟のヤクトは火影の付き人を務めている。
 その項垂れるヤクトに、ナルトは話し掛ける。


 「な~に、落ち込むなって。
  頼りにしてるってことだってばよ。
  ・
  ・
  それにそろそろだろ?」

 「はい。
  サスケさんとお姉ちゃんの息子の登場です」


 ナルトと顔を上げたヤクトの視線が闘技場へと向かう。
 中忍試験の本戦……そこにはサスケとヤオ子の子供が、本戦まで勝ち上がっていた。


 …


 木ノ葉の国境付近……。
 ここには八百屋がある。
 往来のあるここでは、旅人がお茶を飲んでお団子を口に運ぶこともある。
 かと思えば、雲隠れの使いの忍がプロテインを買いに来る。
 そして、人手が足りなければ、近くの村や町に応援を出したりもする。

 しかし、何でも屋以外に、他とは大きく違うところがある。
 働いている人間は、異形の者がほとんどであるということだ。
 この八百屋には、大蛇丸の実験体だった者や忍の遺伝的血継限界で姿が変わってしまった者が多く働いている。

 そして、今日も異形の者が八百屋を訪ねる……。


 「すまない……。
  ここに来れば、こんなオレでも忍として働けると聞いたんだが……」


 そう、ここは忍を諦めきれない異形の者が集う場所。
 店先でお客の相手をしていた者が、八百屋の奥に向かって大声で叫ぶ。


 「女将さん!
  また来ましたよ!」

 「は~い」


 奥から現れたのは、十代を思わせる少女だった。
 長い茶色の髪をポニーテールに束ね、黒のトレーナーにロングスカート……そして、エプロンを着けている。
 異形の者達を相手にするには相応しくない少女の姿に、異形の者は暫し言葉を失った。

 少女は腰に手を当て、話し掛ける。


 「状態的にはⅡですかね?
  木ノ葉でちゃんと診療を受ければ、元の体に戻れると思いますよ」

 「ほ、本当か!?」

 「ええ。
  綱手さんを始め、いい医療忍者が頑張っています」

 「オ、オレは忍者に戻れるのか?」


 信じられずに聞き返す異形の者に、女将さんと呼ばれた少女が微笑む。


 「今でも忍者でしょ」

 「!」


 姿を変えてから一人として認めて貰えず、自分が何者かを問い続けていた。
 だけど、少女は『今も』と疑わなかった。
 異形の者が涙を流す。


 「その言葉を…言って欲しかった……」

 「まだ、どれぐらいで治るか分かりませんよ?
  でも、頑張りましょうね。
  ・
  ・
  少しお話を聞かせてくれますか?
  木ノ葉に連絡をしないと」


 異形の者は頷き、涙を拭う。


 「女将さん……。
  あなたの名前は?」

 「ヤオ子です」


 ヤオ子と異形の者は、ヤオ子の案内で八百屋の奥へと向かった。


 …


 何故、こんなところに八百屋が建てられたのか?
 実は言いだしっぺは、ヤオ子だった。
 
 ヤオ子自身が里を出て大蛇丸の実験体を直接目にしたこと……。
 彼らが忍の誇りを大事にしていたのを知ったこと……。
 これらが大きく関わってくる。

 北アジトで会った多くの実験体は、姿は違えど、中身は普通の人と変わらない。
 それは身をもって知り、ヤオ子は放っておけないと前々から思っていた。

 そして、木の葉で
  ”自分達の里から里抜けした大蛇丸が原因になっている実験体をどうするか?”
 という議題が上がった時に閃いた。


 「全部、治せばいいじゃん!」


 医療忍者を多く育成し、綱手という医療忍術のスペシャリストの居る木の葉で治療すればいいのだと。
 そして、思い立ったら直ぐ実行。
 ヤオ子は国境に彼らが身を寄せることが出来る駆け込み寺──ヤオ子の八百屋を作ったのである。


 …


 ヤオ子は、異形の者を奥に案内する。
 店頭の八百屋を抜けると、行動生活のできる大きな旅館のような造りが店の奥へと続く。
 店の奥は清掃も行き届き清潔感があり、何より生活の匂いがある。
 そして、すれ違う者は、皆、明るくヤオ子と挨拶を交わす。


 「ここは変わっているな……。
  何処か温かい……」

 「そうですね。
  皆で自給自足しているからですかね?」


 店を抜け、裏口の垣根を越えると、今度は広大な畑が広がった。


 「やっぱり、これだけの人数ですとね……。
  大名からの援助だけじゃ生活できなくて」

 「それで自給自足の共同生活をしているのか?」

 「はい。
  楽しいですよ♪」

 (楽しい?
  こんな姿をしているのに?)

 「皆で、新鮮な野菜を作って売るんです。
  鍬なんかも自作します」

 「誰が作るんだ?」


 ヤオ子は自分を指差す。


 「あたし」

 「は?」

 「こう見えても、雑用は得意なんです。
  配管整備も出来るし、家だって建てれますよ」

 (この人、忍者なのか?)

 「ここら一帯は、あたしが造った街みたいなもんですね。
  最近は、大名の援助を加えると黒字に転換して来ました」

 「やり過ぎでしょう……」


 ヤオ子は可笑しそうに笑っている。


 「はい。
  でも、皆も成果が出るの楽しいらしいですよ?」


 異形の者は、周りを見る。
 そして、何でここが温かいのかが分かった気がした。
 この少女を中心に気持ちが一つになっているのだ。


 「一つ質問してもいいか?」

 「はい」

 「忍の仕事は、出来るのか?」

 「微妙ですね。
  依頼主がOKを出せば連れて行くんですが、依頼件数が少ないのが現状です」

 「そうか……」

 「でも、修行はしてますよ」

 「え?」

 「サスケさんが鍛えています」

 「サスケさん?」

 「ここに来る時に心配だからって一緒に来てくれた、あたしの旦那さん」

 「だ──あんた、幾つだ?」

 「幾つに見えます?」

 「十七、八?」

 「えへへ……。
  年齢は秘密です。
  女の魅力を際立たせますからね。
  ・
  ・
  でも、ヒント。
  十二になる息子が居ますよ」

 「へ~……」


 異形の者が蹲る。


 (おかしい……。
  実年齢が計算できない……)


 ちなみに、木ノ葉の実家の本店では、未だに母親がヤオ子と間違われる。
 変態の遺伝子は、老化の法則さえ超越する。

 畑を抜け、整地された屋根つき広場に、ヤオ子は異形の者を案内する。
 そこには何十人という異形の者達とサスケが汗を流していた。

 サスケの服装のイメージは、ヤオ子と違って、それ程変わっていない。
 ただ、ヤオ子の指摘で紫の綱みたいな腰紐が白の帯に変わり、上はTシャツと少し楽な格好になっている。


 「サスケさ~ん!」

 「ヤオ子か……。
  ・
  ・
  休憩にしていいか?」


 サスケが相手をしていた異形の者達に声を掛けると、異形の者の一人から返事が返る。


 「旦那さん……。
  休憩時間はとっくに過ぎてますよ……。
  いい加減、女将さんが来るまで修行を続けるクセを直してくださいよ……」

 「……じゃあ、休憩だ」


 サスケが修行の終わりを告げると、異形の者達はヘタリ込んだ。
 休憩所を兼ねる入り口近くにサスケは向かい、ヤオ子に声を掛ける。


 「どうした?」

 「新しい人。
  多分、二、三日で自分の里に帰っちゃうと思うけど」

 「そうか。
  ・
  ・
  変わったところだろう?」

 「ああ。
  正直、驚いている」

 「前は、もっと大所帯だったんだ。
  木ノ葉の医療部隊が大蛇丸の実験体の酵素を解明する度に、皆、自分の里に戻って行く。
  ここに残っているのは、重度の改造を受けた者がほとんどだ」

 「こんなところがあったなんてな……」

 「まあ……。
  街みたいにでかくしたのは、そいつだけどな。
  打ち解けたアイツらと、どんどん開拓していった」

 (本当なんだ……)

 「明日にでも、木ノ葉に行ってみてくれ。
  連絡は入れておく」

 「すまない……」


 サスケは休憩所にあったタオルで、汗を拭う。


 「案内は、息子がする」

 「息子さん?
  そういえば、女将さんも……」

 「息子は、今、中忍試験を受けているんだ」


 サスケは近くの椅子に腰を下ろすと、異形の者にも座ることを勧める。
 異形の者は勧められるまま、椅子に腰を下ろす。
 そして、サスケに扱かれていた異形の者達にお茶を入れ終えたヤオ子が、サスケ達のところにもお茶を持って来た。

 異形の者がサスケに話し掛ける。


 「中忍試験受かるといいな」


 サスケは、ヤオ子から渡されたお茶を啜る。


 「まあ、落ちないだろう」

 「そうですね」

 「アカデミーの成績がいいのか?」

 「実技以外は、満点ですね」

 「いや、実技は……」

 「真ん中ですね」

 「それで、何故、受かると?」

 「今回は、本気で戦っていいって言ってあるからな」

 「は?」

 「サスケさんは、スパルタなんです」

 「お前こそ、純真な息子を騙して」

 (この二人は、実の息子に何を?)


 異形の者に疑問が浮かんだ。


 …


 本戦の闘技場に、いかにも緊張しているのが分かる少年が姿を現す。
 今日のために母に新調して貰った服の背中には、うちはの家紋がしっかりと入っていて、服装は、父とお揃い。
 いつもと違う格好に少し照れながら、少年は会場を見回していた。

 ナルトは、その少年の姿に声をあげた。


 「はは……。
  丸っきりサスケのガキの頃だってばよ!」

 「はい。
  ただ、光の加減で、時々茶色に見える髪がお姉ちゃんを思い出します」


 ナルトは期待を込めて、ヤクトに訊ねる。


 「アイツ、どうなんだ?」

 「どう……というと?」

 「強いのか?」

 「……普通かと」

 「普通?
  ・
  ・
  何か信じられねーってばよ」


 信頼を置くヤクトが本戦までの経過を見て言うのだから、間違いはないはずだった。
 だが、ナルトには、どうも引っ掛かる。
 
 ナルトは闘技場の少年に目を移した。


 …


 観客席では、ナルトの同期の仲間も同じことを言っていた。
 シカマルが、先に切り出した。


 「何か納得いかねーんだよな。
  今までの試験もギリギリっつーか……」

 「そんな感じだね」


 チョウジが相槌を打つ。
 そして、いのが話をぶった切る。


 「そんなことより!
  何で、サスケ君とヤオ子の子供が、もう中忍試験に出てるのよ!」

 「お前、知らねーのか?
  里出て、直ぐに子供産んだんだよ」

 「おかしいでしょ!
  サスケ君は、兎も角!
  ヤオ子なんて、逆算すると未青年真っ只中じゃない!」

 「一説によると……。
  ヤオ子が夜這いを掛けたとか……」

 「何で、女の子が夜這いを掛けるのよ!」

 「知らねーよ!
  めんどくせーな……」


 同期の面々は苦笑いを浮かべている。
 ヒナタが、キバに声を掛ける。


 「キバ君。
  試験官の手伝いをしてたんだよね?
  どうだったの?」

 「あ?
  ・
  ・
  う~ん……。
  シカマルの言う通りかな?
  何か実力で切り抜けると言うよりは、ヤオ子みたいに発想で切り抜けたみたいな感じだった」

 「そうなんだ……」


 話を聞いていたシノの顔が険しくなる。


 「性格は、ヤオ子に似ているのか……。
  将来が心配だ……。
  何故なら、ヤオ子は里で迷惑を掛け続けていたからだ……」

 「シノ。
  安心しろ。
  性格は、サスケに似ているよ。
  ・
  ・
  アカデミーに入学したての頃のな」

 「そんな昔のサスケか……」


 少し離れた席で、リーがネジに話し掛ける。


 「話が聞こえて来ましたが、
  どんな忍に成長したんでしょうか?」

 「さあな。
  だが、さっき白眼で観察した感じだと、経絡系がしっかり発達していた。
  相当の修行を積んでいるはずだ」


 ネジの意見を聞いて、テンテンが割り込む。


 「本当に経絡系が発達してるの?
  だったら、今までの試験は何なの?」

 「分からない。
  実力を隠していたのかもしれないな」

 「ギリギリだったんでしょ?
  隠してる場合じゃないじゃない」

 「そうだが……」


 そして、第七班の方々の意見。
 カカシの否定意見。


 「そんなはずがない。
  あのドSのサスケが、息子に甘い教育をするわけがない」


 ヤマトが、別の意見でフォローする。


 「先輩。
  もしかしたら、ヤオ子がもの凄い過保護に育てたのかもしれませんよ?」


 サクラの反対意見。


 「それはないです。
  結局、ヤオ子はサスケ君になびくはずです」


 サイが、サクラの意見に付け足す。


 「サスケが弱点なのは、夫婦になってからも変わらないからね」


 カカシが思い出し笑いをする。


 「兎に角、これを見れば分かるさ」


 闘技場では、二人の少年が向き合っていた。


 …


 対戦者の少年から、サスケとヤオ子の子供に向けて、強い言葉が浴びせられる。
 彼は、常に木ノ葉のアカデミーで優位に立っていた存在だった。


 「イタチ。
  今日のために、そんな派手な服を着て来たのか?」

 「少し恥ずかしいんだけどね。
  大事な日だからって、母さんが作ってくれたんだ」

 「手作りかよ?
  どうせ負けるのに」

 「そうかもしれない……。
  でも、今日は本気で戦う!」

 「いつも本気だったじゃないか?」


 審判が二人の会話を止め、二人に距離を取らすと手を上げる。


 「始め!」


 イタチの友達が腰の後ろからクナイを取り出し、構える。


 「え?」


 彼は、イタチの姿を見失っていた。
 ほんの一瞬、クナイを持つために視線を外した瞬間に……。


 …


 ヤオ子がお茶を啜る。


 「サスケさんをスパルタって言ってたのはね。
  国境のここから木ノ葉まで、毎日走って通わせてるからなんですよ」

 「は?」

 「お前だって、かなりのスパルタだろう。
  『アカデミーの子は、皆、着けてる』って、
  両手両足に重り着けさせやがって。
  アイツ、本当に信じて、毎日着けてるぞ」

 「は?」

 「「どう思う?」」

 「あんたら、夫婦がおかしい……」


 異形の者の口からは、正論が漏れた。


 …


 イタチの瞬身の術に、全然付いていけない。
 イタチは体を止める動きと体を反転する動きを利用して、的確な手刀を相手の首の裏に入れた。
 イタチの友達は気付く間もなく意識を失い、前のめりに倒れた。


 「……あれ?
  受け止められなかった?」


 イタチは呆気なく倒れた友達に首を傾げた。
 重りを外した自分の速さが、相手を遥かに凌駕していることを知らなかったのである。
 審判は、直ぐにイタチの勝ちを宣告した。


 …


 僅か数秒で終わってしまった戦いに、シカマルが一筋の汗を流す。


 「オイオイオイオイ……。
  何だ? あの動きは?」

 「不覚にも見えなかったよ……」


 カカシは、シカマル達の反応を見た後で苦笑いを浮かべる。


 「やっぱり、サスケとヤオ子の息子だよ。
  あの体捌きは、サスケそっくりだ。
  相当、サスケに鍛えられている」

 「それにヤオ子の勤勉性が加わったら、どうなるんですか?」


 ヤマトの質問に、カカシは腕を組む。


 「あの調子だと、写輪眼ぐらいは使えそうだな」

 「あの子……。
  ヤオ子の血継限界を受け継いでいれば、全ての性質変化も使えるんですよね?」

 (本当にサスケの兄であった、うちはイタチの再来かもしれんな……)


 カカシは新たな世代に微笑んだ。
 そして、この日、各国にイタチの名前は知れ渡った。


 …


 夕方……。
 国境の八百屋の和室で、サスケとヤオ子は一緒にお茶を飲んでいた。
 そこに元気のいい足音が近づく。
 ヤオ子は、その正体に気が付くと笑顔で手を広げて、スタンバイOKの状態を作る。
 そして、勢いよく障子が開くと、イタチは父親であるサスケに抱きついた。


 「何故?」


 イタチ……お父さん大好き。
 ヤオ子は、体育座りでのの字を書いている。


 「優勝したよ!」


 サスケは、イタチの頭を撫でながら声を掛ける。


 「……さすが、オレの息子だ」

 (ただ、優勝という概念は中忍試験にはなかった気が……)

 「母さんが言ったみたいに優勝カップがなかったのが、不思議なんだけどね」

 (不思議じゃない……。
  アイツ、どれだけの嘘を吹き込んでんだ?
  ・
  ・
  そして、イタチ……。
  お前は、そろそろ疑うということを覚えろ)


 イタチは満面の笑みを浮かべ、釣られるようにサスケも笑顔を浮かべる。
 サスケは、イタチの背中を叩く。


 「母さんが拗ねてるぞ」

 「うん!」


 イタチは、続いてヤオ子に抱きついた。


 「やっと、あたしにもスキンシップを……。
  あん……。
  イタチさんの意地悪……」


 ヤオ子は、イタチを抱いた後で背中を向かせる。


 「やっぱり、うちはの家紋が似合っていますね」

 「そう?
  少し恥ずかしかったよ」

 「どうして?」

 「父さんみたいに立派な忍じゃないから」


 ヤオ子は指を立てる。


 「サスケさんと一緒のレベルで中忍試験受けたら、おじさんになっちゃいますよ?」

 「そっか」


 ヤオ子は、サスケ、イタチと可笑しそうに笑い合った。
 まだまだ波乱が起きそうだが、ヤオ子の八百屋では笑いが絶えることはないないだろう。
 この八百屋には、ヤオ子が居るのだから。


 …


 サスケと間違って出合った変な少女の物語は、これで終わり。
 少女は、最初から最後までサスケの味方であることを貫いた。
 だけど、結局、最後は自分の気持ちを抑え切れずに約束を破ってしまった。
 しかし、それはある意味、デタラメな少女らしいのかもしれない。

 一言で言うと……。

 本人曰く、この物語は……。
 『八百屋のヤオ子さんが、サスケさんを健気に待ち続るはずの物語』だったらしい。



[13840] あとがき
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2010/07/09 23:40
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



  あとがき



 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 そして、このサイトを管理運営してくださっている管理人さん、利用させて頂き、ありがとうございました。


 …


 NARUTOのSSを書く事の難しさを痛感しました。
 原作第一部までは、意外と楽に書けていたのですが、原作第二部に入ってから執筆が止まる事が多くなりました。
 原作第二部での伏線や原作のハイスピードの展開に着いて行けずに想像力だけでカバーする事が出来なくなってしまいました。
 その結果、原作の描かれていない裏で活躍するはずだったヤオ子の動きが、次の展開を待つまでの単調な繰り返しになっているのに気付き、自分自身でもどうにかしなければと思っても頭の中でヤオ子が動かなくなってしまいました。
 そして、このまま執筆を止めていれば二度と書けないと思い、打ち切り的ですが強引に終わりにしました。

 ただ、サスケを木ノ葉に戻す話を書いていたら、思ったより長い話数になってしまいました……。
 原作のマダラの話などで、サスケが、何故、復讐を止められないかなどを考察してたらダラダラと……。
 申し訳ありません。

 原作がある程度進んだら、手直しの修正を入れるかもしれません。
 まず、誤字脱字の報告があれば、そこから対応しようと思っています。


 …


 ここまでSSを書いた者の感想としては、SSは原作の物語が終わっていないと最後まで書けないと思いました。
 特にNARUTOの忍者の能力は少年誌という事もあり、明確な基準がわからず、何処までがOKで何処までがNGと自分で線を引くのも難しいものでした。
 第二部に入ってからは『先が読めない』『伏線が広がった』『能力の制限が何段階も解禁された』というような事を強く感じ、SSにするには少し無理がある展開になってしまいました。
 つまり、私個人の能力では、原作が終わらない限りはある一場面の短編であったりでないと扱いきれない物語と感じました。


 …


 強引にですが、SSを書き終えて新たに思ったのが、SSは、原作の知識を共有しているので作者だけでも読者だけでも存在出来ないという事でした。
 SSを書く人のほとんどは、きっと、プロではないと思います。
 趣味であったり、ぽっかりと空いた時間を埋めるのに使ったり、様々です。
 自分の人生を懸けて書く人は極僅かで、軽い気分で書く人がほとんどだと思います。

 管理人さんのお陰でArcadiaでは、ジャンルが分けられています。
 これで共有する知識を選べます。
 書く側も読む側も、手軽に選べます。
 以前、感想欄にも書いたのですが、私は、両者の"原作の補完"を持ってSSの真価(手軽さ)が発揮されると思っています。
 書き手は手抜きが出来るし、読み手は暗黙の了承で読み進められるわけです。

 例えば……。
 書き手は、登場人物の名前だけで行動を表せる。
 読み手は、詳細な情報がなくても名前だけで原作から容姿と特徴を想像出来る。
 他にも物語の背景や雰囲気を省略出来ます。
 このお手軽さがSSのいいところだと思います。

 しかし、ここが難しくしているところでもあります。
 書き手が省略し過ぎて伝わらなかったり……。
 読み手の方が知識があり過ぎて、書き手の書き方に満足出来なかったり……。
 下手すると書き手と読み手の思惑が衝突してしまったり……。

 読み手からすれば、訳の分からない事を書き手は時々します。
 それこそ、唐突に……。
 どうして? こんな場所で? という場面に……。

 私もあります。
 今、思えば……。
 思いついてしまったから。
 誰にも理解されなくても自分だけの気持ちを入れたかったという我が侭。

 このネタの……。
 この記録を残しておきたい……忘れないでおきたい……という独善。

 資材も残すための知識もない……。
 あ、管理人さんのサイトがあったという思いつき……。
 私の理由は、こんなところです。


 …


 訳の分からない事を色々書いてしまいましたが、本SSの題名になっているサスケとヤオ子について。

 サスケって、あまりに報われてないというか……。
 木ノ葉で味方がいなかった気がしました。
 確かにナルト達は、サスケを大事に思っていたんですけど、復讐に手助けしてくれなかったんですよね。
 物語の根幹に"繋がり"という大事な背景がある以上、仕方がない事ですが、誰か一人ぐらいサスケの復讐を認めてあげる人物がいてもいいんじゃないかと思ってヤオ子が生まれました。

 そして、ヤオ子が生まれたきっかけは、サスケとサクラの別れのシーンにあります。
 あのシーン……サスケの険が外れ過ぎていないか?
 『ありがとう』を言う前に何かワンクッションあったんじゃないか?
 と思いました。
 そこでワンクッション置く、ナルトに対する木ノ葉丸君のような存在が居たらなと思いました。

 そこから、ヤオ子のキャラクター作りが始まります。
 サスケにインパクトを与える存在……。
 冷静な人間? ……ありえない。
 大人しい人間? ……ありえない。
 元気な人間? ……これかな?
 強引な人間? ……これもかな?
 ・
 ・
 ナルトにサクラじゃん……。
 ・
 ・
 もっと、近いキャラはいないか?
 ・
 ・
 以前、SSで書いたデュープリズムのミントがいい。
 スレイヤーズのリナ=インバースもいい。
 根幹は、この性格にしようと決定。

 さて、主人公の性別は?
 男同士だと暑苦しいか?
 そもそも、デタラメな主人公は、前回、男で試したし……。
 女にしてみるか……。
 新たな試みを試してみるのもいいかもしれない。
 これにより、主人公の性別決定。

 歳は?
 木ノ葉丸君と一緒にしよう。
 年齢八歳で決定。

 名前は?
 そうか……。
 オリジナルだった……。
 何かないかなとテレビのチャンネルを回すとキテレツ大百科の再放送。
 ↓
 ブタゴリラの八百屋が映る。
 ↓
 八百屋で検索をかける……。
 ↓
 八百屋のヤオとは……云々。
 ↓
 これでいいや。
 女だから、ヤオ子にしよう。
 名前決定。

 NARUTOの世界観をこのキャラクターに与えるには?
 原作読み直し……。
 スケベ忍者:
 ナルト、カカシ、自来也、サクラ……。
 犠牲者(鼻血放出):
 三代目火影、イルカ先生、エビス……。
 ・
 ・
 NARUTOの裏要素は、エロだな。
 ヤオ子にエロ要素追加。

 最終的には……。
 八百屋のヤオ子 八歳 女
 ・強引
 ・意地汚い
 ・我が侭
 ・才能あり
 ・エロい
 後に綾崎ハヤテのオールマイティ要素追加。

 こうして出来たSSが本作でした。
 このヤオ子というキャラクター……思いの他、元気よく動いてくれました。
 エロ要素を加えた瞬間に別キャラクターに変貌。
 言葉遣いは丁寧だけど、キレると手がつけられない。
 というか、エロ要素が強すぎて、途中から変態に……。
 無口なサスケに十分なインパクトを与えてくれました。

 申し訳ないのは、私自身がこのキャラクターの魅力を発揮出来なかった事です。
 これは、読んでくれた方にも、ヤオ子に対しても申し訳なく思います。


 …


 SSの書き方について。

 私のSSを眺めて気付いた方もいると思いますが、小説を書く上でかなりのタブーを実行しています。
 今回、ご指摘のあった「…………。」も、そのひとつです。

 私が、SSを読む上でストレスになっていたのが横書きでした。
 特に長い文章が書いてあると非常に読みにくく感じました。
 読み慣れている小説(縦書き)などは、いくら羅列されてもストレスを感じないのですが……。
 他にも会話分に行間入れたり、"。」"と最後に"。"を残したり、"。""、"を入れないにも関わらず改行したりです。

 SSの書き方には、現状でルールといったものが存在しません。
 そこで自由な書き方が許されているSSにて、勝手に自分のルールをつけて書かせて貰っています。
 1)横書きの長文を控える事
  理由としては、先ほどあげた通りです。
  原因も考察してみました。
  ・縦書きの長編に慣れさせられている。
   先にあげた通りに小説は、大抵縦書きなので慣れてしまっているという事です。
   新聞なんかも縦書きですし。
   教科書なんかは横書きも多いですが、あれは説明するための工夫ではと思っています。
  ・横書きの短い文章に慣れてしまっている。
   全ての人には当て嵌まらないのですが、私は、かなりRPGをやっています。
   RPGの短いテキストの改行に慣れさせられて、長文にストレスを感じるみたいです。
  ・短めの区切りに慣れてしまっている。
   上記の続きですが、RPGにしても漫画にしても短めなところで区切られます。
   例えば、本来切らない"~に""~を""~から"などです。
   RPGでは、テキスト制限のためであり、漫画では、吹き出しの制限のためです。
   故にここで切る事にあまりストレスを感じなくなっていると考えます。
  ・ギャグ系のSSだから
   更に上記の続きですが、言葉に力を持たせたいと思って意識してやっています。
   ヤオ子は、結構の率で叫んでいますが、実は、説明的な文章も語っています。
   その説明的文章の後に叫ばせる時、改行なしで羅列すると威力が半減すると感じました。
   特にNARUTOは、原作が漫画なのでギャグパートでは、軽快に言葉が流れる必要があると思いました。
   そのため、長文にして眼球を移動させるよりも、一点を見つめて収まり切るように会話分には工夫をいれています。
   これは、SSでありながら、漫画を読む事に近づけるためにしている事です。
   ただし、あくまで個人の主観で勝手にやっている事なので、逆にストレスを感じる方もいると思います。
   そういう方がいた場合は、素直に謝るしかありません。

 2)会話の時の行空け
  好き嫌いが分かれるところですが、私は、読み難いと思い改行を入れています。
  他にも、二人同時に違う事を叫ぶ時に行間を埋めて意識させる事が出来るからです。
  そして、会話と地文が混ざる時は、二つ空けています。
  これについては、明確な理由がありません。
  はっきりと会話と地文を分けたいだけです。

 3)場面展開について
  人によっては空行を入れたりしますが、あくまでPCの閲覧を考えるとスクロール作業の手間は避けたいと思い、"…"で行なっています。

 4)SSとしての手抜き度
  激しく大きいです。
  私のSSは、特に読者が原作を知っていないと確実に理解出来ない作りになっています。
  故に予備知識がない方が読むとちんぷんかんぷんのはずです。
  これは、SSを書く人の好みによると思います。
  親切心で誰が読んでも、読めるようにしてくれたり。
  あくまで作者側のイメージを汲み取って貰うために詳細に書いたりです。
  私の場合は、読者側で呼び起こすイメージに多大に頼っています。
  理由としては、原作が存在しているからです。
  漫画なので林や森のイメージも視認出来ています。
  ここに作者のイメージを無理に通すと面倒臭いものになってしまう気がして、かなり手の抜いたSSになっています。
  だから、SSといいながらも会話の多いものになっていて、SSというより台本みたいになっています。


 …

 最後に。
 ヤオ子という主人公を気に入ってくれた方、ありがとうございます。
 そして、このSSを読んで、少しでも楽しんでくれた方がいれば幸いです。



[13840] 番外編・ヤオ子の???
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:23
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ・
 ・
 サスケさんの右手が、あたしの上のパジャマを少し捲くり上げ、あたしの左の脇腹に触れました。
 とても……とても冷たい手です。
 冷たい感触がおへその辺りに移動するのが分かります。

 あたしは口から漏れそうな言葉を飲み込み、目に溜まる涙を溢さないように耐えます。
 体は熱く火照り、サスケさんの手が余計に冷たく感じます。

 そして、サスケさんの親指が、再びあたしのおへそに触れました。
 あたしは、声を出さないように必死に耐えます。
 すると、サスケさんは意地悪そうな笑みを浮かべて執拗におへそを責めます。

 あたしは我慢出来ずに、小さく声を漏らしました。
 恥ずかしさに顔を背け、涙が頬を伝います。
 そして、サスケさんは満足そうに微笑むと、右手を双丘へとゆっくり──」


 ヤマトのグーが、ヤオ子に炸裂した。



  番外編・ヤオ子の???



 ヤマトは盛大に吼えると同時に、グーを炸裂させた。


 「初っ端から、いきなりXXX板に移動させる気か~~~っ!」

 「痛いですね……。
  ヤマト先生が聞きたいって言ったんじゃないですか?」

 「そういうのを聞きたいんじゃない!」

 「何か気に入りませんでしたか?
  『双丘へとゆっくり……』より、
  『膨らみ始めたあたしの柔らかい部分に……』とかの表現がよかったですか?」


 ヤマトのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「馬鹿なの!?
  君、本物の馬鹿なの!?」

 「ヤマト先生の言いたいことは、よく分かりませんね~」

 「ボク、おかしなことを聞いた!?
  久しぶりに会ったから、何か変わったことがあったか聞いただけだよね!?」

 「だから、あたしの初体験を──」

 「話すな!
  というより、その歳で初体験!?」

 「サスケさんを落とすのには苦労しましたよ。
  毎日毎日、夜這いを掛けて、ようやく実を結んだんですから」

 「ヤオ子が夜這いを掛けてたのか!?」

 「あの男、鉄の理性でガードされてて、いくら襲っても乗って来ないんですよ」


 『まったく』と溜息を吐くヤオ子に、ヤマトは項垂れた。

 「『襲う』『乗って来ない』どちらも、
  女の子の口から出る言葉じゃない……」

 「ただ、あの一回以来、抱いて貰ってないんですよね……」

 「サスケも、何をやってんだ……」

 「そうですかね?
  あたしは軽く四桁ぐらい襲っていると思うので、よく耐え抜いてると思いますけど?」

 「前言撤回……。
  サスケは、男としてよく戦った……」

 「ヤマト先生にも経験があると?」


 ヤオ子はニタ~ッと笑いながら、聞きたいと目で訴える。


 「言わない!
  絶対に言わないよ!」

 「あたしの初体験を教えますから」

 「変態のヤオ子が言いたいだけだろう!」

 「分かります?
  ヤマト先生に話して、更なる快感を得ようと思っているんです」

 「この子、もうダメだ……。
  人として引き返せないところまで突き進んじゃった……」

 「大げさですね~。
  でも、少し残念なお知らせもあるんです」

 「残念なお知らせ?」

 「あたしはエロに突入する前の過程も大事にする女なんですけど、
  どういう経緯で、サスケさんに抱かれたか思い出せないんです。
  それをヤマト先生に正確にお伝え出来なくて……」


 ヤマトが耳を塞ぐ。


 「聞きたくない!
  教え子の初体験を聞かされる先生って、何なの!?」

 「どこの班でも、同じように行なわれていますよ」

 「行なわれてないよ!
  そんな忍は、ヤオ子だけだよ!」

 「そうですかね?
  女の子同士なら、『私の彼氏ったら……』って話で、
  盛り上がるんじゃないんですか?」

 「分かんないよ……」

 「それで、今日、呼ばれたのは?」


 ヤオ子と任務をすると、任務より先に疲れが溜まる。
 ヤマトは任務開始前に疲れ切った気分だった。
 しかし、常人なら忘れられないような出来事を、ヤオ子のせいで培った精神力で一時的に忘れて自分を立て直す。


 「綱手様が、ヤオ子の様子を見るように簡単な任務をくれたんだ」

 「綱手さん?」

 「そうだ。
  任務の内容は、指名手配犯の確保だ」

 「任務を出されるからには、場所は分かっているんですよね?」

 「ああ。
  腕は鈍ってないだろうね?」

 「修行は欠かしません!」

 「相変わらずだね」

 「ただ……」

 「どうしたの?」

 「最近、どうも体が重くて……」

 「病気じゃないのかい?」

 「あたし、病気しないはずなんですけど」

 「それ間違いだから……。
  人間は少なからず体に異常を来たすように出来ているから……」


 ヤオ子は腰に右手を置く。


 「気乗りしないけど、任務が終わったら病院に行ってみようかな?」

 「健康診断をして貰うといいよ」

 「そうですね。
  ナースを見て来ます」


 ヤマトが、こけた。


 「普通に健康診断して来なさい!」

 「あはは……」


 ヤオ子が笑って誤魔化と、ヤマトは溜息を吐いて『あん』の門へと歩き出した。


 「待ってくださいよ」


 ヤオ子は、ヤマトを追って走り出した。


 …


 木の葉から忍の足で移動して、一時間ほどの街道……。
 任務が始まり、情報通りに道を歩くターゲットを木の上から確認すると、ヤオ子がヤマトに話し掛ける。


 「ヤマト先生。
  ただ捕まえるのなんて簡単でしょ?
  あたし、試したいことがあるんだけど?」

 「試す?」

 「新しい術を開発したんです」

 「どんな?」

 「土遁の遠距離忍術」

 「土遁なのに遠距離なのか?」

 「はい。
  チャクラを地面に流し込んで、20m先に落とし穴を作ります」

 「落とし穴……。
  また随分と微妙な忍術だね……」

 「でも、穴にトラップを流し込めますよ。
  水遁と土遁を使えばいいんです。
  流し込むチャクラの道は、落とし穴を造った時に用意できていますからね」

 「なるほど。
  落とし穴の土をセメント状にするのも手だね」


 ヤオ子は首を振る。


 「いいえ。
  ここは、あたしが開発した服の繊維だけを溶かすエロ忍術を──」

 「使うな!」


 ヤマトのグーが、ヤオ子に炸裂した。
 そして、グーの音にターゲットが振り返った。


 「「あ」」


 バレた。


 「ヤマト先生の馬鹿……」

 「馬鹿は、君だ!」

 「どうします?」

 「実力行使しかないだろう!」

 「ああ……。
  可哀そうな指名手配犯のおじさん……」


 木の上のヤマトとヤオ子が瞬身の術で姿を消し、次の瞬間、ターゲットを前後で挟む。


 『早い……』


 ヤマトの拳を手で覆った木遁が、ターゲットの鳩尾に向かう。
 それをヤオ子が後ろからターゲットを蹴り飛ばしたことで、ターゲットの顔面にヤマトの木遁がクリティカルヒットした。


 「ヤマト先生のドS……」

 「明らかに君が軌道を変えたよね!」


 指名手配班は鼻血を流しながら、ズルリとヤマトの木遁で覆った木から顔を滑らし、地面にしこたま顔を叩きつけた。
 本当に可哀そうな指名手配犯になってしまったターゲットをヤマトが抱え起こす。
 指名手配犯は顔面を腫らして気絶していた。


 「とはいえ、あの一瞬で軌道を変えられるのか……」

 (修行を欠かしていないのは、本当のようだな)


 ヤマトがヤオ子に目を向けると、腰の道具入れからロープを取り出してピーンと張る。
 そして、ヤオ子は指名手配犯を踏んじ張り始めた。
 ロープを背負うと、ヤオ子はズルズルと指名手配班を引き摺り始めた。


 「行きましょう」

 「信号弾を上げれば、役人が引き取りに来るよ」

 「そういうのあったんですか?」

 「今回の任務は……ってことかな」

 「別に、このまま運んでもいいですよ?」

 「まあ、予定外に前置きなしでやっつけちゃったから、
  時間も有り余ってるし……いいか」


 ヤマトが歩き出すと、ヤオ子も続く。

 「じゃあ……。
  あ・れ……?」


 ヤオ子がバタリと倒れた。
 その音にヤマトが振り返る。


 「ヤオ子?
  どうしたんだ!?」


 ヤオ子は、お腹を押さえて苦悶の顔を浮かべていた。
 汗も一気に噴き出している。


 「急にお腹が……」

 「任務前に言ってたことか?
  何か悪いものでも食べてないか?」

 「三日前……」

 「三日前?」

 「ヤマト先生にやめろって言われてた雑草のごった煮を食べました~……」


 ヤマトが吼える。


 「何で、拾い食いしちゃうんだ!?」

 「そこに本で見たこともない草が生えていたので……」

 「食べるな!」

 「お腹痛い~……」

 「……まったく!」


 ヤマトは頭を乱暴に掻くと、信号弾を打ち上げてターゲットを役人に任すことにした。
 そして、ターゲットを残し、ヤオ子を抱くと木の葉病院へと急いだ。


 …


 木の葉病院の待合室……。
 ヤマトは動かずにヤオ子の診察が終わるのを待っていた。


 (体が重いと言っていた時点で、病院に連れて来るべきだったんだ……。
  ヤオ子だから大丈夫だと思ってしまっていた……。
  ヤオ子だって、普通の女の子なんだ……多分。
  ・
  ・
  これは、ボクのミスだ……)


 ヤマトは自分を責め、強く両手を握る。
 そして、そのヤマトに看護師の女の人が声を掛ける。


 「担当の上忍の方ですか?」

 「はい」

 「もう少し時間が掛かります」

 「時間?」

 「ちょっと信じられないことが……」

 「信じられない……」

 (まさか大変な病気が……)


 そして、二時間が過ぎた。


 …


 待合室で待つヤマトの前に、ケロッとした顔でヤオ子が現われた。


 「待っててくれたんですか?」

 「ヤオ子!
  体の方は!」

 「至って健康です」


 ヤマトはホッと胸を撫で下ろす。


 「よかった……。
  じゃあ、何で、こんなに時間が掛かったんだ?」

 「子供が出来てたんで産んで来ました」

 「ああ、子供か……」


 ヤマトが固まった。


 「こ…ども……?」


 ヤオ子が頭に手を当てる。


 「あの日がないから、変だな~とは思ってたんですけど」

 「待った!
  産んだって言わなかったか!?」

 「言いましたよ?」

 「妊娠してたの!?」

 「そうみたいですね」

 「お腹、大きくなかったよ!?」

 「稀にお腹が大きくならないで産まれることもあるみたいですよ」


 ヤマトが後退りしながら訊ねる。


 「……冗談だよね?」

 「赤ちゃん、預かって貰ってますけど……見ます?」


 ヤマトは頭を抱えて蹲った。


 「産後の妊婦って、こんなに元気なのか……?」

 「忍者なんだし、こんなもんじゃないんですか?
  サスケさんに掛けられてる幻術に比べれば、あの痛みなんてプレイだと思って我慢できるレベルだし」

 「倒れるほどの痛みがプレイなのか……」

 「サスケさんは聖闘士☆聖矢のワンシーンみたいに、心臓を抉り出す幻術ぐらい普通に掛けますよ?」

 「君が言ってるドSって冗談じゃないんだな……。
  ・
  ・
  そんなことより、綱手様になんて報告すればいいんだ……」

 「病院の人達も困ってましたね」

 「赤ちゃんなんて、ヤオ子に育てられるのか?」

 「任務で担当してます」

 「……そうか。
  ・
  ・
  って、安心している場合じゃない!
  とりあえず、病院の人達に口止めして、綱手様に相談しなくては!」


 ヤマトは、慌てて病院中を駆けずり回った。


 …


 火影の部屋……。
 そこには激しく憔悴したヤマトと赤ちゃんを抱いたヤオ子。
 憔悴し切ったヤマトを見るのは慣れているが、赤ちゃんというオプションを持って現われたのは初めてだ。
 自然と綱手とシズネの視線がヤオ子の手元に集まる。


 「任務の報告は、役人から受けている。
  そして、ヤマトのその姿も、もう何も言うまい。
  ・
  ・
  しかし、それは何だ?」


 綱手の指は、ヤオ子の抱いている赤ちゃんを差している。


 「これは赤ちゃんです。
  知らないんですか?」

 「見れば分かる。
  子守りのバイトでも、途中で請け負ったのか?」

 「いいえ、任務後です」

 「任務後に請け負うな……」

 「請け負ってません」


 綱手とシズネは疑問符を浮かべる。


 「さっき、産んで来ました」

 「…………」


 妙な沈黙が流れた後、綱手が額を押さえながら確認する。


 「も、もう一回いいか?」

 「さっき、産んで来た」


 綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「嘘をつくなーーーっ!」

 「嘘じゃない……」

 「じゃあ、父親は誰だ!?」

 「サスケさんしか居ないですよ。
  あたし、サスケさんとしかやってないし」

 「や…る……?」


 綱手とシズネが頬を赤くすると、綱手は奥歯が鳴るほど噛み締めてから叫ぶ。


 「お前達、何を考えてんだ!」

 「サスケさんに罪はありません」

 「何でだ!」

 「だって、あたしの夜這いが成功したんだもん♪」


 クネクネと悶えるヤオ子に、綱手のグーが炸裂した。
 そして、ヤオ子の襟首を掴む。


 「全ては、お前が原因か!」

 「健全じゃないですか。
  悶々として想像妊娠するより、全然いいじゃないですか」


 綱手は手を放すと額を押さえて、壁に寄り掛かった。


 「コイツ、里の外に出しちゃダメだ……。
  何をしでかすか分かったもんじゃない……」

 「子供作って来ちゃうんですからね……」

 「男も作れない、お二人に言われたくないですね」


 綱手とシズネのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「ヤオ子ちゃんだって、サスケと付き合ってないでしょ!」

 「あれは、あたしが唾付けたんで、あたしのものです」

 「いつ付けたの!」

 「会って直ぐにですね。
  アイアンクローを外すために掌を舐めました」

 「本当に唾付けたんだ……。
  しかも、全然ときめかない状況で……」

 「この変態!
  一体、どうすればいいんだ!?」


 綱手は半狂乱で叫んだ。
 その姿を見て、さっきの自分と重ねたヤマトは溜息を吐いた。


 「実際、どうすればいいんですかね……。
  ヤオ子が子供を産んだなんて、皆に知らせていいのか悪いのか……」

 「めでたいことだから、言ってもいいんじゃない?」

 「拙いだろ……。
  モラルが乱れる……」

 「でも、あの大戦の後で、産めや増やせやの状況なんじゃないんですか?
  戦時中だと沢山子供を産むと褒美が出たり、手当てが厚くなったりするでしょ?」

 「そうだけど……」

 「各国、今は新たな忍者を増やすために頑張ってんじゃないですか? 子作り」


 綱手とヤマトとシズネのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「お前は、言い方が露骨なんだよ!」

 「そうですよ!
  しかも、ヤオ子ちゃんの年齢で出産なんて!
  適齢期っていうのも重要なんですよ!」

 「兎に角、ヤオ子は黙っとこうか!」

 「チッ!」


 ヤオ子の舌打ちに、綱手の機嫌は更に悪くなる。


 「暫く秘密にしておこう……。
  今は、里に余計な混乱を招きたくない……」

 「そうですか?」

 「お前、子育て出来るのか?」

 「出来ますよ」

 「お前、出来ないものなかったな……」

 「はい。
  話は、終わり?」

 「ああ。
  連絡出すまで、国境から出て来るな。
  それとくれぐれも内密にな」

 「は~い」


 ヤオ子は、手を振って出て行った。


 「頭痛い……」

 「定期健診とかどうします?」

 「それもあるな……」

 「ヤオ子ちゃん、あの歳でお母さんか……」

 「何か妙な敗北感があるな……」

 「そうですね……。
  ヤオ子ちゃんの性格から言って、男は絶対に寄り付かないと思っていましたから……」

 「捕食するという手段が、ヤオ子らしいと言えばヤオ子らしいが……」


 綱手達の頭の中では、悪魔のように笑うヤオ子の姿が思い浮かんだ。


 「サスケは捕食されたのか……」

 「四桁越えの夜這いを掛けてたみたいです……」

 「一夜に何回襲えば、そんな回数になるんだ……」

 「でも──」


 シズネの言葉に綱手とヤマトの視線が集まる。


 「サスケをその気にさせたのって、何でしょうね?」

 「ヤオ子の魅力でか?」

 「はい」

 「…………」


 何も思い当たるものがなかった。


 「大いなる謎だが、どうでもいい……。
  この始末をどうつけるかが問題だ……」

 「そ、そうですね……」


 ヤマトは項垂れて綱手に話し掛ける。


 「綱手様……。
  お願いがあるんですけど……」

 「何だ?」

 「今夜、自棄酒の飲み方を教えてください……。
  とてもじゃないけど、正常な精神状態で眠れそうにありません……」

 「私も付き合います……」

 「お前達なぁ……。
  まあ、分からんでもないか……」


 ヤオ子の???=ヤオ子の出産 は、こんな感じで周りに迷惑を掛けていたのだった。



[13840] 番外編・サスケとナルトの屋台での会話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:23
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ※ヤオ子の夜這いの話が出ていたので、少しだけ番外編を書かせて貰いました。
 ※サスケとヤオ子に何があったのか?
 ※どうでもいい秘密が明かされてしまいます。



  番外編・サスケとナルトの屋台での会話



 火影の仕事を終えて、偶には友と飲みたい時もある。
 久方振りの再会は、木ノ葉の片隅にある小さな屋台だった。
 ナルトは、ゆっくりと歩いてくるサスケに気付くと手を上げた。


 「サスケ!
  今日は、貸し切りだってばよ!」

 「屋台を借り切るなよ……。
  店のオヤジが困ってんだろ」


 屋台のおじさんは『気になさらず』と声を掛ける。
 そして、酒とおでんを適当に注文して、ナルトとサスケは一息つく。


 「何か、オレ達が酒を飲むって信じらんねーな」

 「そうかもしれないな……。
  要するに老けたってことだけどな」

 「まだ、ギリギリ二十代じゃねーかよ。
  カカシ先生なんか中年だってばよ」

 「そうなんだがな……。
  子供があんなにでかいと違和感あるんだよ」

 「お前ら、恐ろしいほど早く子供できたからな。
  一体、何があったんだ?
  噂通り、ヤオ子に夜這いを掛けられたのか?」

 「俺のことなんか、どうでもいいだろう」

 「いや、気になるって」

 「俺は、お前に二人も奥さんが居る方が気になるんだが?」

 「う……」


 ナルトはコップの酒を一気に煽ると項垂れた。


 「ヤオ子のせいなんだってばよ……」

 「は?」

 「アイツさ。
  雷影との一件を抑えてから、ある種の権力を持ってんだよ。
  ・
  ・
  要するに木ノ葉の弱みを握ってるってこと」

 「それが?」

 「それを利用して綱手のばーちゃんを脅して、
  俺が火影になるちょっと前に『火影の一夫多妻制』を組み込んじまったんだよ。
  ばーちゃんは、ばーちゃんでヤオ子に毒されてるから、面白そうだって承認しちまうし……。
  ・
  ・
  そして、当時のサクラちゃんとヒナタの修羅場をどうにかするために、
  火影就任と同時に二人と籍を入れることになったんだってばよ……」

 「あの訳の分からない結婚式の裏に、そんな恐ろしい事情があったのか……。
  アイツ、影の支配者みたいな位置付けだな……」

 「まあ、いいんだけどさ……。
  こんな妙な幸せは、絶対に味わえないし……」


 サスケは酒を一気に煽ると項垂れる。


 「何か、すまん……」


 ナルトとサスケが、店のおじさんを見る。


 「「おかわり」」


 二人のコップに酒が注がれると、ナルトがサスケに話し掛ける。


 「で? お前の方は?」

 「……話さなきゃダメか?」

 「当然だってばよ」


 サスケは、再び一気に酒を煽る。


 「オヤジ。
  一升瓶でくれ」

 「体に良くないよ」

 「シラフで話すとストレスで体調を壊すから、その予防だ」

 「珍しい言い訳だね。
  まあ、いいか。
  『魔界の独裁者』でいいかい?」

 「その酒、有名なのか?」

 「百年に一回の奇跡の製造法だって噂だよ。
  安いのに旨くて酔える」

 「アイツ、何の酒を造ったんだ?」


 サスケは、一升瓶から酒をコップに注ぐと話し出す。


 「……国境付近の八百屋に移った頃、
  ヤオ子が夜這いを掛けていたのは事実だ」

 「事実なんだ……」

 「当時は、今みたいな街みたいではなく、普通の一軒家だった……。
  まあ、その時、既に旅館ぐらいの大きさまで、
  ヤオ子の手で改造が進んでいたわけだが……」

 「アイツ、何にでも手を出すんだな」


 サスケは、更に酒を煽る。
 ナルトも合わせて酒を煽る。
 そして、サスケは、二人分、酒をコップに注ぐ。
 少し酔いが回ると、サスケは語り出す。


 「……4:4:1:1」

 「何の割合だ?」

 「夜這いの割合だ」

 「分かんねーな」


 ナルトが少しコップの酒を飲む。


 「詳しく表すとこうだ……。
  『ヤオ子が夜這いを掛ける:香燐が夜這いを掛ける:共同で夜這いを掛ける:ヤオ子の乙女
   =
   4:4:1:1』
  になる」

 「お前、365日の9割が夜這い掛けられてんじゃねーか……」

 「ああ……。
  アイツらを殴ってから寝るのが習慣になっていた」

 「凄い習慣だな……。
  ・
  ・
  で、『共同で夜這いを掛ける』ってのは?」

 「ヤオ子と香燐が同時に夜這いを掛けるんだよ。
  一人でダメだって分かって、連携を組んで襲って来るんだ。
  ・
  ・
  一度、夜這い阻止に須佐能乎を発動させた……」

 「お前、純潔を守る少女みたいだな……」

 「正直、複雑な気分だった……」

 「つーかさ。
  須佐能乎を発動させるって、何があったわけ?」

 「ヤオ子がトチ狂って、殺す勢いで襲って来た……。
  『体の自由を奪って、童貞を頂く!』って……」

 「ヤオ子……。
  サスケが通報したら、犯罪者として捕まるんじゃないのか?」

 「捕まるだろうな」

 「通報しないのか?」

 「お前だったら出来るか?
  『女の子に襲われそうなんです』って?」

 「……出来ねーな。
  そんな恥ずかしいこと……。
  ・
  ・
  それで、最後の『ヤオ子の乙女』って?」


 サスケは更に酒を煽り、コップに酒を注ぐ。


 「実はな……。
  あの滅茶苦茶なヤオ子が、年に何回か凄く汐らしくなるんだ……」

 「あのヤオ子が? 何で?」

 「……アイツ、途中の工程をすっ飛ばして忍者になっているだろ?」

 「ああ。
  アカデミーにも行ってなかったって」

 「そのせいで忍者の心構えとか心の成長とかが、凄く中途半端なんだ」

 「へぇ……」

 「だから、任務で人が死んだ時とか……。
  誰かが犠牲になった時に凄く落ち込むんだ」

 「それは……。
  まあ、分かるってばよ……」

 「そういう日にアイツ……。
  黙って、俺の布団に忍び込んで寝るクセがあるんだ」

 「……随分と可愛らしいクセだな」

 「そして、不覚にも朝起きてから、ヤオ子が潜り込んでいることに気付く……」

 「なるほどね」

 「だけど、それだけじゃない……」

 「?」

 「寝起きにアイツが捨て猫みたいな目で見てんだよ……。
  上目遣いで目潤まして……。
  そして、か細く名前を呼ぶんだ……」


 ナルトは顔を上気させて煙を吐いた。


 「凄い破壊力だな……。
  普段とのギャップが……」

 「しかも、パジャマ姿で髪を下ろして雰囲気も違う……」

 「が……」


 ナルトは酒を一気に飲むと、一息吐く。


 「少し落ち着かせてくれ……」


 ナルトとサスケは、暫く無言でおでんを口に運ぶ。
 そして、サスケは項垂れて結論を呟いた。


 「そんなことが、何回か続いて間違いが起きたんだ……」


 ナルトがサスケの肩を叩く。


 「男なら仕方ねーって……」

 「あの態度を見たら……。
  つい虐めたく……」


 ナルトのグーが、サスケに炸裂した。


 「この真正ドSが!」

 「ってーな……」

 「お前、どうしようもない奴だってばよ!」

 「仕方ねーだろ!
  アイツが、オレの弱点を攻めるんだから!」

 「ドSが弱点って、何だ!?
  聞いたことねーってばよ!」

 「黙れ!
  ウスラトンカチ!
  ・
  ・


 こうして懐かしい掛け合いが響く中で、夜は更けていった。
 そして、実は……間違いを起こしたのは、ヤオ子ではなくサスケだった。



[13840] 番外編・没ネタ・ヤオ子と秘密兵器
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:24
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ※ヤオ子がサスケを追って、タスケと一緒に旅をしていた頃の没ネタ。
 ※没ネタにした理由は忘れてしまいました。
 ※このSSでしか使えないネタなので、短い話でしたが投稿しました。



 『カチャ……』

 『パチ……』

 『グググ……』


 ヤオ子は、手の中のそれを目の側に持って来ると覗くように見る。


 「よし……。
  後は、チャクラ糸を通す穴を……」

 『キリキリキリキリキリ……』


 そして、それは出来上がった。



  番外編・没ネタ・ヤオ子と秘密兵器



 ヤオ子はタスケにそれを見せると、にやりと笑う。


 「新しい忍具です」

 「凄いな……。
  遂に新規開発かよ……」

 「見ててね」


 方膝をついて『それ』に開けた穴に、ヤオ子はチャクラ糸を通す。
 『それ』はチャクラ糸から流れる雷の性質変化を得て、徐々に回転数を上げていく。


 「スーパーアタックランディング!」


 『それ』は、地面をもの凄い勢いで走る。


 「ふふふ……。
  従来のものと違い、チャクラ糸で旋回も自由自在です」


 『それ』は、ヤオ子のチャクラ糸で前輪が右に左に動く。
 ヤオ子は拳を握る。


 「素晴らしい!
  これぞ、少年達の本当の夢!
  声をあげて自由自在に動くミニ四駆!」


 ヤオ子は、ミニ四駆を開発したのだった。
 雷の性質変化を強化することで、ミニ四駆の速度が上がる。
 旋回すると草むらに突っ込み、別のチャクラ糸からフロントに装着された金属に風の性質変化が送られ、風の刃を形成する。


 「フハハハハ!
  これぞ! リアルビークスパイダーの走り!
  ・
  ・
  フロントに付けた金属が、ちょっと高価なのが痛いところですが……」


 ミニ四駆にはアスマの武器と同じ金属が使われている。
 更にヤオ子は、チャクラ糸を操るとドリフト走行を再現する。


 「バスターフェニックスターン!」


 ミニ四駆は、土煙をあげて障害物の間をすり抜ける。


 「いい!
  すっごくいい!」


 最後に段差のある障害物から、ミニ四駆は飛び出す。


 「いけ!
  マグナムトルネード!」


 ミニ四駆は、ヤオ子のチャクラ糸の操作で回転しながら飛んで着地する。
 ヤオ子は、タスケに振り返る。


 「どう?」


 タスケは震えている。


 「タスケさん?
  どうしたの?」

 「ダメだ……。
  押さえ切れん……」

 「はい?」


 タスケは、ヤオ子の作ったミニ四駆を全力で追い出した。


 「うわ!
  どうしたの!?」

 「にゃ!」


 タスケは風の性質変化の爪で、ミニ四駆を攻撃しようとする。


 「やめてくださいよ!」

 「この形がダメなんだ!
  野生の心に火がついた!」


 ミニ四駆とタスケの追いかけっこが始まる。
 しかし、それも長くは続かなかった。
 タスケはミニ四駆に追いつくと、風遁の爪でミニ四駆を破壊した。


 「ぎゃ~~~っ!
  あたしのビークバスターマグナムが~~~っ!」


 タスケがゆっくりと戻ってくると、捕らえた獲物を咥えてヤオ子に見せ付ける。


 「捕らえた……」

 「この馬鹿猫が!」


 爆走少女!ダッシュ!ヤオ子! 完



[13840] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:25
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ※没ネタが、どんどん時間を遡って申し訳ありません。
 ※今度の没ネタは、サスケとナルトが木ノ葉を去った一部と二部の間になります。
 ※没ネタにした理由は、SSでどれだけ登場人物を入れられるか?
 ※無謀な挑戦をして、結局、登場させたキャラを扱いきれなくなり自爆しました。
 ※戦闘シーン一切無し。会話だけで進みます。
 ※少し強引に終わらせて修正しました。
 ※お暇な方は、お付き合いください。



 それは、ある日の綱手の呼び出しだった。
 呼び出されたのは、シカマル。


 「何ですか? 突然に?」

 「ちょっとな。
  折り入って頼みたいことがある」

 「面倒ごとは嫌ですよ」

 「残念ながら面倒ごとだ」


 シカマルが溜息を吐く。


 「今から読み上げるメンバーの部隊長になり、任務を遂行して貰う」


 シカマルは、前回のサスケ奪還の任務の失敗を思い出すと真剣になる。
 しかし、呼び出されたメンバーを聞いて激しく項垂れた。



  番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と①



 一時間後……。
 綱手に呼び出されたメンバーが、『あん』の門に集まっていた。
 カカシ班から、サクラ。
 ガイ班から、ネジ、リー、テンテン。
 紅班から、キバ、シノ、ヒナタ。
 アスマ班から、いの、チョウジ。
 余りに多い人数に、シカマルから溜息が漏れた。
 そして、集合時間ギリギリに一番の問題児のヤオ子が姿を現した。
 シカマルが全員居ることを確認する。


 「全員、揃ったな。
  早速だが、任務の内容を話させてくれ」


 全員が頷いた。


 「今回の任務は、結構でかい。
  この人数が集められたのは、国単位で動くからだ。
  まあ、国と言っても木ノ葉隠れの里の四倍ぐらいしかないがな」

 (シカマルさんが部隊長ですか。
  まあ、この中で中忍はシカマルさんだけですからね)

 「任務は、その国の大名から出ている領民の沈静化だ」


 ネジが質問する。


 「沈静させるなら、国の大名の役割だろう。
  何故、木ノ葉に依頼が来たんだ?」

 「尤もな質問だな。
  簡単に言うと、国民が暴徒化しちまったんだよ」

 「…………」


 全員が渋い顔をしている。
 続いて、キバが質問する。


 「それ、請け負う必要あるのか?」

 「悲しいが……ある」

 「何でだ?」

 「横長の国でな……。
  木ノ葉と砂の両里を結ぶ間にある。
  戦時の際には、どうしても利用することになる。
  その時に機嫌を損ねていると、攻めるにしても守るにしても問題になる。
  今は、木ノ葉と砂は協定が結ばれているが、いざって時に蔑ろに出来ない」

 「断れば印象が悪くなるってことか」

 「そういうことだ」


 全員から溜息が漏れる。
 簡単に言えば、今回の任務は大名の失態の尻拭いだ。
 シカマルが続ける。


 「それで今回の任務は……まず、現状を把握。
  ↓
  暴動を治める作戦会議。
  ↓
  作戦の実行になる」


 ネジが的確に指摘する。


 「その作戦実行に人手が居るのだな?
  説得するにしろ。
  暴徒を力ずくで押さえるにしろ」

 「理解が早くて助かる」


 ヤオ子が手を上げた。


 「何だ?」

 「あたしは、何で、呼ばれたの?」

 「作戦実行時の班分けで、お前が必要になったんだ」


 全員が首を傾げる。


 「班分けは、こう考えている。
  ネジ、リー、テンテンは、ガイ班で変わらない。
  一期上で経験も豊富なんで、スリーマンセルだ。
  次にオレ、キバ、サクラ、いの。
  そして、シノ、チョウジ、ヒナタ、ヤオ子だ」

 「分かりませんねぇ?
  あたしを入れた意味が?」

 「ガイ班を抜きで考えろ。
  オレを抜いて、もう一班のリーダーにするなら誰だ?」

 「あたしが言っていいの?」

 「ああ」


 ヤオ子は腕を組み、頭を傾ける。


 「う~ん……シノさんかな?
  キバさん、サクラさん、いのさんは冷静さがありませんし……」

 (カチン×3)

 「チョウジさんとヒナタさんは、進んで指揮するタイプじゃないですね」

 (がっかり×2)

 「まあ、そんなところだ。
  キバ、サクラ、いのに関しては、オレがその分を補う」

 「なるほど」

 「もう一班は、シノの指揮で問題ないと思う」

 「なるほど。
  ・
  ・
  やっぱり、あたし、いらなくない?」

 「ただし、その班は話術に問題がある」

 「話術?」

 「ああ。
  班員が積極的に交渉をするタイプじゃねー」

 「だったら、キバさんかサクラさんかいのさんと入れ替えれば?」

 「そいつらが、我が侭言った時に誰が抑えるんだよ?」

 「…………」


 ヤオ子は、顎に指を当てて考える。


 「ちょっと、キツイですね」

 (カチン×3)

 「そういうわけだ」


 サクラが意見する。


 「ちょっと、待ってよ!
  結局、ヤオ子なんて入れたら同じじゃない!」

 「そうよ!」
 「そうだ!」

 「問題ねーよ」

 「何でよ!」

 「ヤオ子は、オレらの中で一番弱いんだ。
  いざとなったら、殴って黙らせればいいんだよ」

 「「「そっか~」」」

 「シカマルさん!
  何て恐ろしいことを考えているんですか!」

 「うるせーな。
  オレが指揮任されてんだから、黙って従えよ」

 「横暴な……」

 「じゃあ、出発するぞ」


 シカマル達は、件の国へと向かった。


 …


 件の国へ着くと、早速、三班に分かれて任務を遂行する。
 ネジ、リー、テンテンの班……以降、ネジ班。
 シカマル、キバ、サクラ、いのの班……以降、シカマル班。
 シノ、チョウジ、ヒナタ、ヤオ子の班……以降、シノ班。

 ネジ班とシノ班は、情報収集を行なう。
 シカマル班は、依頼主の大名に挨拶をしてから情報収集を行なう。
 待ち合わせは、件の国の中心にある宿屋に決まった。


 …


 ネジ班は、木ノ葉から一番遠い砂に近い村に向かっていた。
 三班の中で、一番移動が速いためだ。
 木々を飛び移りながら、テンテンが話し始める。


 「今回の任務……。
  あまり、乗り気がしないわね」

 「同感だな」

 「二人共!
  どんな任務を真剣に取り組まないといけません!」

 「任務は、しっかりこなす。
  しかし、同情の余地もない」

 「確かにそうですが……」

 「大体、国民が暴徒化したって考えられないわ」

 「まったくだ」


 乗り気のしない二人に、リーは、やる気を出して貰おうと質問をする。


 「ところで。
  ネジとテンテンは、何故、暴徒化したと思いますか?」

 「そうねぇ……。
  やっぱり、不満がないと暴動なんて起きないんじゃない?」

 「そうですね。
  一体、何が不満なんでしょう?」

 「何となくだが分かるな」

 「本当ですか? ネジ?」

 「ああ。
  十中八九、大名に対してだ。
  自国の暴動の鎮圧を依頼するぐらいだらしないんだぞ?
  国民に対しても同じことをしたとしか考えられん」

 「…………」


 リーは、少し考え込む。
 今度は、テンテンがリーに気を利かす。


 「行ってみれば分かるんじゃない?」

 「そうですね」


 お互いが気を遣って少しやる気を出すと、ネジ班は目的の村へと急いだ。


 …


 シカマル班は、依頼のあった大名の屋敷へと足を踏み入れていた。
 絢爛豪華な武家屋敷に大きな庭。
 サクラといのは、感嘆の声をあげた。


 「凄い立派なお屋敷ね」

 「依頼料高そうね」

 「オイ。
  静かにしろよ」


 すかさず、シカマルから注意が入る。
 シカマル班は屋敷の一室に通され、早速、依頼主との会話が始まった。
 代表でシカマルが話すため、キバ、サクラ、いのは静かにしている。


 「木ノ葉から来ました。
  部隊長を任されている奈良シカマルです」

 「若いな」

 「まだまだ経験不足です」

 『オイ、シカマルが真面目な会話をしてるぞ?』

 『話には聞いてたけど、間近で見ると気持ち悪いわね』

 『でしょ?
  私は班員だから、結構、一緒に任務するのよ。
  初めて見た時は、病気になったかと思ったわよ』

 (お前ら……。
  全部、聞こえてるからな。
  屋敷の前で待たせとくんだったか?)


 シカマルは、渋い顔をしながら話を進める。


 「任務を行なう上で、確認しておきたいことがあります。
  暴動の沈静化は了解しています。
  暴動に至った経緯を教えて頂きたい。
  それによって、こちらの作戦も変わるので」

 「分かった。
  話そう」


 シカマル達は、この話を振ったことを後悔する。


 「そもそも!
  国民が税金を払わなくなったのが原因だ!」


 その一言から、大名は延々と話し続ける。
 今までのストレスを晴らすが如く話し続ける。
 シカマルは呆れている……。
 キバは飽きている……。
 サクラは呆然としている……。
 いのは呆然としている……。


  ・
  ・
  と言う訳だ!」


 大名は、息を切らして話し終えた。


 「わ、分かりました。
  兎に角、暴動を治めればいいんですね?」

 「そうだ!」

 「では、我々は任務に戻ります」


 シカマル達は急いで屋敷を出て、距離を取るために早足で曲がり角まで走った。
 第一声は、シカマルだった。


 「ふざけるな!
  あの馬鹿!」

 「シカマルがキレた……」

 「当たり前だ!
  あんなもん!
  アイツ、戦時の有利をたてに、任務をやらせてるだけじゃねーか!」

 「まあまあ……」


 キバが珍しく宥める。


 「それ、私達にも分かったわ!」

 「だろ?」

 「そうなのか?」

 「キバは聞いてなかったの!?」

 「途中から寝てた」


 サクラといののグーが、キバに炸裂した。


 「「ちゃんと聞いてなさいよ!」」

 「何か、ねっちこい話の繰り返しだったじゃねーか。
  真面目に聞く意味あるのか?」

 「ないな。
  オレがキバの立場なら、寝てた。
  仕方なく聞いていただけだ」

 「ぶっちゃけるわね?」

 「当たり前だ。
  くだらねー」

 「この任務、どうなるのよ?」


 シカマルは額に手を置いて溜息を吐く。


 「どうすっかなぁ……。
  まず、情報を集めねーと、どうにもならねー。
  あの大名の言ったことが真実とは思えねー」


 サクラが心配を口にする。


 「ただ、国民が情報を提供してくれるかしら?
  私達って、国民から見れば大名の犬でしょ?」

 「サクラの言う通りね」

 「でもよ、オレ達が大名の依頼を受けてるって、バレてるのか?」


 全員がシカマルを見る。


 「バレてるよ」

 「「「最悪だ……」」」

 「何で?
  バレてるの?」


 シカマルは溜息を吐く。


 「お前ら、この国おかしいと思わないか?」

 「おかしいことだらけなんだけど……」

 「そうだけどよ。
  少し考えろよ。
  ・
  ・
  忍者が居ねーんだよ」

 「?」

 「いいか?
  普通は、一国一里が忍界大戦後のシステムだ。
  なのに……この国は、忍の里を持ってねー。
  故に本来、自国の忍者がする仕事を丸投げだ」

 「…………」


 シカマル以外が額を押さえる。


 「本当にどうすればいいのよ……」

 「情報なんて集まるの?」

 「期待できねーな。
  特にネジ達の班は……」

 「何で?」

 「あそこは、常識人の班にした。
  非常識の依頼主に免疫があるとは思えねー。
  だから、国民から情報を引き出せないかもしれねー」

 「有り得そうで怖いわね」


 しかし、キバが疑問を投げる。


 「本当にそうか?」

 「何でよ?」

 「オレ、あそこの担当上忍見たけど、結構、非常識の類だと思うぞ?」

 「……希望が見えた」

 「良かったわね。
  シカマル」


 いのがシカマルの肩を叩くと、シカマルが気を取り直す。


 「とりあえず、オレ達も情報収集するぞ」

 「作戦は?」

 「最初は、立ち聞きで様子を見る。
  国民同士の会話を聞く。
  接触は、立ち聞きの情報が集まってからだ」

 「透遁術か……。
  ヤオ子は得意そうね……」

 「一番、頼りたくねー奴が切り札かよ」


 しかし、サクラが不安を口にする。


 「私は、ヤオ子がストーキング以外に透遁術を使うとは思えないんだけど……」

 「こっちは、希望の灯が消えたな……」


 シカマル達は、件の国の中心と木ノ葉の間にある大名の屋敷から、砂の方向に向かって情報収集を始めた。


 …


 シノ班は、木ノ葉から件の国の中心に向かって情報を集める。
 情報収集の一番最初に接触をする班である。


 「…………」


 最初の村に着いた。
 が、まだ誰も一言も話していない。
 ヤオ子が痺れを切らした。


 「シノさん。
  どうしますか?」

 「まず、村の状況を確認する……。
  さりげなく村を回ってみようと思う」

 「なるほど」

 「でも、シノ君……」

 「もう、村人に睨まれてるよ?」

 「…………」


 シノ達は、また沈黙する。


 「何故だ……」

 「何で、でしょうね?」

 「何でだろう?」

 「皆、これ見てない?」


 ヒナタが額当てを指差す。


 「忍者が嫌いなのかな?」

 「そういえば、あたしへの視線は若干弱いですね」


 全員の視線がヤオ子の左腕に移った。


 「ヤオちゃんは、額当てを見せてないんだね」

 「ええ」

 「何で?」

 「願懸けです」

 (((意外な答えだな……)))

 「兎に角、当初の予定通り、
  あたしが話してみますよ」

 「頼む……」

 「頑張れ」

 「頑張ってね」


 ヤオ子が手を振って村人に向かう。
 老人を避け、若い男性のところに一直線に向かう。


 「…………」


 三人に不安が過ぎる。
 ヤオ子は構わずに一人の若者に話し掛けた。


 「こんにちは」

 「余所者か?」

 「はい」

 「何しに来た?」

 「お兄さん。
  そんな怖い顔しないでくださいよ。
  あたし、子供ですよ?」


 若者は反省する。


 「そうだな、ごめん。
  少しイライラすることがあってな」

 「そうですか。
  皆さん、全員がイライラしているんですか?」


 若者の仲間が頷いた。


 「まあ、いいです」

 (((え?)))


 シノ達は、いきなり重要な話を切ったヤオ子に、更に不安が増す。


 「実は、お聞きしたいことがあって」

 (ヤオちゃん……。
  核心に行くための前フリだったのかな?)

 「この国特産のイチャイチャキーホルダーは、何処に売っていますか?」


 シノ達がこけた。


 「あのくだらない特産品か……」


 若者の言葉で、ヤオ子に青筋が浮かぶ。
 そして、ヤオ子の暴走が始まる。


 「そこに直れーっ!」


 若者達が驚く。


 「ど、どうしたの?」

 「イチャイチャの何がいけない!」

 「いや、いけなくは……。
  でも、あれ……エロ小説だし」

 「毎日、お世話になってるクセに、何て言い草だ!」


 若者達のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「お世話になるか!」

 「ハァ!?
  あんた達、エロ気ないの!?」


 若者達のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「そういうことを言うな!
  恥を知れ!」

 「恥ィ? ふざけんなです!
  そうやって体裁を気にして自分のやりたいことをしないで、後悔して死んでいくんですか?
  あたしは、嫌ですよ!」


 ヤオ子の気迫に若者は後ずさる。


 「あたしはエロいの大好きです!
  自分の好奇心に逆らいません!
  スケベで、何が悪い!
  エロくて、何が悪い!
  エロは、一瞬の恥!
  体裁を気にするのは、一生の恥です!
  ・
  ・
  そして、イチャイチャを読まないのは人生最大の後悔だ!」

 「君は、あの本が何か知っているのか!?」

 「知ってますよ!
  著作:自来也先生! 十八歳未満お断り!
  魅惑のエロ小説です!」

 「何で、知っているんだ……」

 「それは、あたしが全ての若者の同士だからです!」

 「ど、同士……」

 「そうです!
  男に生まれてきた以上、必ず通る道!
  そこで語れない奴は男じゃねェ!」

 「君は、女に見えるが?」

 「黙れ! あたしが演説中だ!」

 「す、すいません!」

 「そこのお前!
  好きなエロ小説をあげてみろ!」


 ヤオ子は、若者の一人を指した。
 若者は、直ぐに嫌な顔をする。


 「そんな恥ずかしいことを言えるか!」

 「どいつもこいつも根性なしが!
  あたしが見本を見せてやる!
  八百屋のヤオ子、九歳!
  好きなエロ小説は、『イチャイチャパラダイス』『イチャイチャバイオレンス』!
  ・
  ・
  これを見ろ!」


 ヤオ子が腰の後ろの道具入れから『イチャイチャバイオレンス』を若者に投げる。


 「いいか!
  よく聞け!」


 ヤオ子は恐ろしいほどの早口で『イチャイチャバイオレンス』の内容を叫び出した。
 この時点で、シノ達は他人のフリをしている。
 そして、ヤオ子は、二十分後に一字一句間違いなく全て言い尽くした。
 若者達も一字一句間違っていないのを必死に読んで確認した。


 「以上だ!
  お前らには、これが出来るようになって貰う!」

 「ハァ!?」

 「言い訳は許さん!」

 「暗記なんか出来るか!」

 「じゃあ、この素晴らしさが伝わるまで語り尽くす!
  三日三晩寝れないと思え!」

 「もういい……」

 「甘ったれるな!」

 「いや、そうじゃない……」


 ヤオ子が首を傾げる。
 若者達が拳を握る。


 「素晴らしさは伝わった……。
  『イチャイチャバイオレンス』は、いい本だ……」

 「ふ……。
  いつの間にかヒヨっこが独り立ちをしていましたね」

 「オレ達が間違っていたよ。
  オレ達だって……エロさ!」


 ヤオ子と若者達が抱き合う。


 「「「「「同士よ!」」」」」


 シノ達は全員地面に蹲り、頭を抱えている。


 「今日、この日を記念の日としましょう!」

 「「「「オー!」」」」

 「イチャイチャギルドの結成の日です!」

 「「「「素晴らしい!」」」」

 「いいですか?
  我々は地道に布教活動を続けて、一国に一つの『イチャイチャギルド』を作り、全世界にエロを広めるのです!」

 「「「「オー!」」」」


 話は、大きく反れた。
 情報収集がエロ集団結成に置き換わってしまった。


 …


 二時間後、完全に打ち解けたヤオ子と若者達のおかげ(?)で情報は完全に集まった。
 ヤオ子と若者達との話が終わると、シノ達は最初の村を出るまで口を利いてくれなかった。
 そして、村を出るとシノ、チョウジ、ヒナタのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何だ、あれは……!」

 「あんな恥ずかしいこと、やめてよーっ!」

 「何をしているんだよ!」


 ヤオ子は頭を擦りながら話す。


 「何って……。
  予定通りじゃないですか?」

 「「「何処が!」」」

 「あたしは、まだまだ話したかったんですよ?
  それでも任務だから、手短に切り上げたんです」

 「「「どっちが本題!」」」

 「しかし、思いの他時間が掛かってしまいましたねぇ」

 「「「誰のせい!?」」」

 「とりあえず、時間もなくなちゃったし、待ち合わせの宿に行きましょうか?」

 「「「最悪だ……」」」


 ヤオ子達は情報収集を最初の村だけで行い、他は素通りして、待ち合わせの宿に向かった。



[13840] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9
Date: 2013/09/21 22:26
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 待ち合わせの件の国の中心にある宿……。
 辺りは、夕日に染まっている。
 ネジ班は、苦渋に満ちた顔をしている。
 シカマル班は、疲れた顔をしている。
 シノ班は、ヤオ子以外の生気が抜けている。


 「…………」


 全員、無言。
 シカマルが代表して綱手の予約を入れてくれた部屋を確認する。


 「ハァ!?」


 全員がシカマルを見た。
 シカマルが苦虫を噛み潰したような顔で戻って来る。


 「男も女も他の客と相部屋だった……」

 「…………」


 もう、怒る気もしない。



  番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と②



 シカマルが、とりあえずの予定を話す。


 「夕飯だけは、宴会場でやることになってるらしい……」

 「それまでは?」

 「自由にしてくれ。
  ・
  ・
  オレは精神的に疲れたから、風呂に入ってくる」


 シカマル……投げやり。
 しかし、異論者なし。
 ヤオ子、大興奮。


 「しゃーっ!
  テンテンさんとサクラさんといのさんとヒナタさんの裸体を堂々と拝める日が来たーーーっ!」


 ヤオ子以外、全員吹いた。
 その後、全員でヤオ子を縛り上げる。


 「何で~~~っ!?」

 「お前、男も女も襲うんだってな?」

 「何処でそれを!?」

 「木ノ葉じゃ常識だ。
  お前は、全員が風呂からあがったら入って来い」

 「ううう……。
  あんまりだ……」


 その後、簀巻きにされたヤオ子を置いて、お風呂タイムになった。


 …


 ヤオ子は項垂れている。
 至福の時間は、もう戻って来ない。
 夢も希望もない。
 でかい風呂場に一人では、何も面白くない。


 「つまんない……。
  お湯で戯れる天使達の桜色の肌を観賞する、夢のような時間が本当の夢になちゃった……」


 しかし、神は変態を見捨てなかった。
 ヤオ子が向かった時、先客が居た。


 「あはぁ~♪」


 その後、ヤオ子が何をしたかは言えない。
 しかし、それが原因で再び簀巻きにされたことは確かだった。


 …


 夕飯時、宴会場では相部屋の客との夕食の準備が始まっていた。
 全員浴衣に着替えて席に着き、後は食べるだけである。
 キバが質問する。


 「シカマル。
  夕飯も、相部屋連中と一緒なのか?」

 「そうみたいだな。
  言っとくけど、宿取ったのは綱手様だからな」

 「あの人のことだと、そういうミスがあるのも否定できないんだよな」


 キバが頭を掻きながら、ぼやいた。
 懐の赤丸も『そうなんだよね』というような鳴き声を漏らした。
 シカマルが全員居るかの確認を取る。


 (何か引率の先生をさせられた気分だ……。
  イルカ先生って苦労してたんだな)


 体験して初めて分かる苦労。
 シカマルが、いのに質問する。


 「ヤオ子は?」

 「非常事態が解除されたから、野に放ったわ」

 「アイツは、獣か?」

 「獣の方がマシよ」

 「それにしても遅いな。
  もう、仲居さんが夕飯の準備し終わったのに」

 「そういえば……。
  相部屋になる客も見えないわね?」


 そこにドタドタと走り込む音が響く。
 そして、スパーン!と襖を思いっきり開ける音が響く。


 「この変態の仲間は、お前らか!」


 ヤオ子が簀巻きで巨大な扇子に吊るし上げられている。


 「「ん?」」


 シカマルと怒鳴り込んで来た少女の視線があった。


 「「何で、お前がここに居る(んだ)?」」


 相部屋の客は、砂の忍達だった。


 …


 浴衣姿のテマリに吊るし上げられているヤオ子に、シカマルが話し掛ける。


 「お前……何した?」

 「聞くな!」


 テマリが顔を赤くして止める。


 「言えないようなことをしたんだな?」

 「そうだ!
  コイツは、何なんだ!?」

 「めんどくせーけどよ。
  うちの里の下忍だ」


 ヤオ子は、シカマルを見る。


 「どうも……」

 「お前、いい加減にしろよな」

 「あたし、まだ何もしてませんよ?」

 「嘘をつくな!」


 テマリが、ヤオ子の首を絞めあげる。


 「ギブ! ギブギブギブ!」


 シカマルが溜息を吐く。


 「殺してもいいぞ。
  里には上手く言っとくから」

 「ちょっと!
  シカマルさん!」

 「…………」


 テマリは黙ってクナイを取り出した。


 「ちょっと、お姉さん!
  ジョークです!
  もう、二度としないから!」

 「あんな辱めを受けて我慢できるか!」

 「ここは平和的に話し合いで! ね!
  大人なところを見せてくださいよ♪」

 「お前、反省してないだろう?」

 「反省してますよ。
  何なら、ここで罰を受けてもいいです。
  ・
  ・
  お姉さんが相手なら、エロいことされても構いません」

 「するか!」

 「そうですか?
  じゃあ、取って置きのエロ小説を朗読しましょうか?」

 「するな!」

 「じゃあ、どうすれば許してくれるんですか?」

 「もういい……」


 テマリが根負けした。


 「じゃあ、簀巻きを解いて貰えます?」

 「ああ……」


 テマリが扇子に手を伸ばし止まる。


 「どうしました?」

 「確か……。
  その下、裸じゃなかったか?」

 「そうですよ。
  お姉さんは、あたしの裸を衆目の前に初めて曝す人になれる幸運な人です」


 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「ふざけるな!
  ・
  ・
  っ! 風呂場に戻るぞ!」


 テマリは、ヤオ子を連れて出て行った。
 場は、静まり返っている。


 「最悪だ……」

 「まったくだ。
  相部屋が砂の忍というだけでも気まずいのに」

 「ヤオ子なんて連れて来んなよ」

 「ちゃんと情報収集できたの?」

 「…………」

 「聞くまでもないか……」


 全員に溜息が漏れた。


 …


 宴会場にヤオ子が加わる。
 そして、砂の忍である我愛羅、カンクロウ、テマリが加わった。
 代表して、シカマルとテマリが取り仕切る。


 「早速だが、スマン。
  あれの管理は、木ノ葉でも困ってる」

 「もういい……」

 「本当は、この場で任務の報告会もするはずだったんだが、余所の里が居るとそれも出来ないな。
  お前らも、そんな感じなんだろ?」

 「ああ」

 「飯食う時ぐらいは、敵味方なしにしようぜ?」

 「分かった」

 「では……」

 「ああ」

 「「「「「いただきます!」」」」」


 ようやく夕飯が始まった。
 全員、早速、一口口に運ぶ。


 「…………」


 全員が箸を置いた。


 「「「「「不味い……」」」」」


 宿の料理は、最悪な味だった。


 「最悪じゃん!」

 「本当だ……」

 「…………」


 砂の忍達は、全員、口を押さえている。
 木ノ葉の忍もチョウジが葛藤している以外、同様である。


 「女将! 女将を呼べ!
  このわたしが海原雄山と知っての狼藉か!」


 ヤオ子の叫ぶ声にサクラが乗った。


 「いいこと言ったわ!」


 いのも乗った。


 「女将なんて16連コンボよ!」


 シカマルは項垂れた。


 (今回の任務、呪われてんじゃねーか?)


 キバが、シカマルに質問する。


 「飯抜きか?」

 「考えが纏まんねーよ……」

 「兵糧丸で我慢するか?
  三日は、持つはずだろ?」


 テンテンが異を唱える。


 「嫌よ! そんなの!
  今日の任務だけでストレス溜まってんだから!」

 「あれはな……」


 ネジが小声で同意を呟いた。


 「誰か調理場借りて料理して来るか?」


 キバの冗談も笑えない。


 「「「「「ん?」」」」」


 何人かが、ヤオ子を見る。


 「その目は、何ですか?」


 チョウジが、ヤオ子の肩を掴んだ。


 「行って来い……!」

 「チョウジさん?
  何かいつもと雰囲気が違いますよ?」

 「いいから、行って来い……!」


 チョウジの目が光る。


 「ひぃぃぃ!」


 ヤオ子は直感的に何かに怯え、我愛羅の砂もチョウジに反応して防御体制を取っている。


 「い、行って来ます!」


 ヤオ子は自分のデイバッグを持つと調理場に消えた。
 シカマルは、心の中でチョウジに感謝した。


 …


 ~ 10分後 ~


 お新香と海草サラダが運ばれて来る。
 それを宴会場の全員が警戒しながら口に運んだ。


 「今度は、大丈夫じゃん」

 「雲泥の差だな」

 「…………」


 砂の忍達は、安心して口に運んでいる。
 木ノ葉の忍達も安心して口に運び、次々と運ばれる料理に舌鼓しながら談笑を始めた。
 シカマルは、あることが気になってテマリに話し掛けていた。


 「独り言なんだけどよ。
  聞こえたら悪いな」


 テマリが視線を少しだけシカマルに移すと、耳を傾けた。


 「今回の任務は面倒臭くてよ。
  暴動を止めることなんだ」


 テマリの眉が吊り上がった。


 「依頼主があんな大名だから、
  もしかして、砂にも同じ指令が出ているんじゃないかと思ってな」


 テマリが少し考え込む。


 「私も独り言を言うかもしれんが、耳に入ったら謝る」

 「ああ」

 「……砂は戦時の有効性をたてに、半ば強制的に依頼を受けている」

 「嫌な予感がしててな。
  両方の里に指令が出されてたんじゃないかと思った」

 「もし、砂以外にも依頼が出ていたなら、里に対する裏切りだな」

 「…………」


 シカマルとテマリの中で結論が出た。


 「「共同戦線を張らないか?」」


 シカマルとテマリがにやりと笑う。


 「じゃあ、夕食後にここで作戦会議だな」

 「ああ」


 その後、ヤオ子の料理を堪能しながら、夕食は無事に終わった。


 …


 夕食の片付けが終わり、相部屋に戻る前……。
 宴会場では、未だ木ノ葉と砂の忍達が同席していた。
 シカマルが、ネジとヒナタに話し掛ける。


 「ネジ、ヒナタ。
  白眼を使って、この部屋が監視されていないことを確認してくれ」


 二人は無言で頷くと、白眼を発動する。


 「安心しろ。
  問題ない」

 「私も同じ」

 「了解だ。
  ・
  ・
  まず、砂の忍も聞いてくれ」


 シカマルの声に、我愛羅とカンクロウが視線を移す。


 「今回の任務……。
  砂と共同で進めたい」


 シカマルの声に、にわかにざわめく。


 「結論から、言っちまうぞ?
  この任務……砂と同じ内容だ」


 全員の視線が宴会場の中心で交錯した。


 「チッ!
  そういうことかよ」


 カンクロウがぼやいた。


 「ああ。
  木ノ葉も砂も、ここの大名にまんまと乗せられたんだ」


 サクラが意見する。


 「それって重大な契約違反じゃないの?」

 「まあな。
  でも、両里とも同じ弱みがあって断れねー。
  そこで、オレなりに今回の任務の意図を考えてみた」

 「意図?」

 「ああ。
  ・
  ・
  木ノ葉の上役も砂の上役も……知ってたんじゃねーか?」

 「「どういうことだ?」」


 我愛羅とネジの声が重なった。


 「このメンバー……。
  何か思い当たらないか?」

 「中忍試験とサスケ奪還の関係者だね、シカマル」

 「その通りだ、チョウジ」


 テマリが、イラつきながら質問する。


 「だから、何だというのだ?」

 「上役達は、こう考えたんじゃないか?
  木ノ葉と砂の協定を強くしたい。
  そのためには、共通の仕事を達成させるのがいい……ってな」

 「つまり、この任務の途中で我々が気付くのを見計らっていたのか?」

 「ああ。
  わざわざ、同じ宿の相部屋なんて都合良過ぎるぜ」


 リーは腕組みをして考える。


 「しかし、何で、そんな回りくどいことをしたのでしょうか?」

 「忍者は裏の裏を読むべし……って、カカシ先生が言ってたわ」

 「サクラさん……。
  そういうことですか」

 「気に入らんな」

 「何がです? ネジ?」

 「やり方が悪戯じみている」

 「確かに……」


 シカマルが頭を掻きながら話す。


 「まあ、尤もなんだが……。
  ここの大名を理解するには的確だった気もするな」

 「?」

 「任務も依頼主も悪戯みたいなんだよ。
  だから、オレ達の接触も悪戯じみてんじゃねーか?」

 「理由になるのか?」

 「少し対応する練習になった気がするぜ」

 「まあ、そうだな……。
  今後は、どうする?」

 「オレとしては、共同で任務を遂行したいからな。
  あちらさんの出方次第だ」


 シカマルは、テマリを見る。


 「お前達は、いいのか?」

 「ああ。
  オレが隊長だからな」

 「お前がか?」


 テマリは笑ってみせる。
 そして、我愛羅とカンクロウを見る。


 「どうする?」

 「好きにしろ」

 「オレは、賛成だ」

 「理由は?」

 「そう仕向けられてる気がするじゃん。
  この国の情報を集める手数が砂の方が少ないんなら、共同して木ノ葉の力を借りろってことだろ?」

 「なるほど。
  反対する必要はないわけか。
  ・
  ・
  シカマル。
  話には乗ってやる」

 「同盟成立だな」

 「ああ」


 シカマルが、全員を見る。


 「じゃあ、今日、集めた情報を収集する。
  人数が少ないから、砂から頼む」

 「分かった。
  と言っても、情報は少ないんだがな」


 テマリが背筋を伸ばすと、集めた情報を話し出す。


 「多分、皆、似たり寄ったりだと思うが、ここの国は忍者そのものを嫌っている。
  それは、我々が大名に依頼された時点で敵だと思われているからだ」

 「オレらも、そんな感じだった」

 「だから、今現在集まっているのは、村人の噂話や立ち聞きしたものしかない」


 テマリの話に、概ね納得の空気が流れる。
 ほぼ全員が村人との接触は失敗している。
 今、頭を抱えているシノ達の班以外は……。


 「我々、砂が聞いた印象では、問題があるのは大名の政治にあると思われる。
  不満の噂は、税の徴収量や税の使い方がほとんどだった。
  ・
  ・
  以上だ」


 シカマルが木ノ葉の仲間を見る。


 「オレの班が集めたのも同じだ。
  暴動に至ったとは言うが、結果、ストライキみたいなもんだ。
  政治を正さないと税を払わないってな。
  まだ死傷者は出てねー。
  ・
  ・
  他の班は?」


 ネジが代表して自分の班の情報を話す。


 「こちらも同じだ。
  まさか、忍者を警戒されているとは思ってなかったから、最初の接触で額当てを見せてしまい嫌悪感に気付いた。
  次の村からは変化の術も使ったが、余所者扱いされた。
  今、シカマル達が言ったように政治不信のせいで、余所者の一般人まで嫌悪感を抱いている感じだ」

 「だろうな。
  ・
  ・
  シノ。
  お前達の班は?」

 「ヤオ子が交渉に当たった……。
  戻るまで待って欲しい……」


 ヤオ子は料理作りを手伝ってから、調理場で洗い物まで手伝わされていた。
 故に少し戻るのが遅れている。


 「シノ達は、村人と交渉できたのか?」


 シノ、チョウジ、ヒナタが沈黙する。


 「オイ……」

 「あれを交渉と言うのか……」

 「暴走と言うのか……」

 「結局、一つの村しか回ってないし……」

 「すげェーな。
  一回で情報を引き出したのよ?」

 「…………」

 「だから、何で、黙るんだよ?」

 「すまん……」

 「ん?」

 「結局のところ、ヤオ子を制御できなかった……」


 木ノ葉の全員から、溜息が漏れる。


 「「「「「そういうことか……」」」」」


 テマリが、シカマルに質問する。


 「どういうことだ?」

 「簡単に言えば、お前が風呂場で目撃した暴走を情報収集任務中に発動したんだよ」

 「……最悪だ。
  お前ら、何で、アイツを連れて来たんだ?」

 「置いて来たかったに決まってんだろ。
  火影様の命令で、仕方なく連れて来たんだよ」

 「…………」


 テマリが呆れた目で、シカマルを見る。


 「そんな目で見んなよ。
  あれで役に立ったんだからよ」

 「は?」

 「さっきの夕食は、その問題児が作ったんだよ」

 「本当か?」

 「ああ。
  扱いづらいんだよ、アイツは」

 「苦労してるな……」

 「出来れば、今直ぐ隊長やめてー……」

 「オイ……」


 そこに襖が開いて、ヤオ子が戻って来た。


 「疲れた……。
  お手伝いと勘違いされて、結局、最後のゴミ出しまで手伝っちゃったよ」


 ヤオ子は木ノ葉の仲間の後ろを通り、隅の自分の席に座るとデイバッグを置いた。
 早速、シカマルから命令が出る。


 「帰って早々で悪いが、情報収集の報告をしてくれるか?」

 「食べながらでいい?」

 「ああ」


 ヤオ子は、一人で遅い食事をしながら話し出す。


 「何処から話そうかな?
  皆さんは、何処から知ってるの?」

 「何処からって、何だよ?」

 「うん?
  今の状態からか?
  暴動の始まる経緯からか?
  その前の、この国の状態からか?」

 「……何で、そんなに情報が集まるんだよ?」

 「エロパワーのお陰ですね」


 シカマルの投げた湯飲みがヤオ子にクリティカルヒットした。


 「が~~~っ!
  あたしのご飯に破片が~~~っ!」

 「真面目に話せ!」

 「嘘じゃないのに……」

 「お前、ここに来い」

 「シカマルさんの隣?
  何で?」

 (ツッコミが入れられないって言ったら来ないな……)

 「大事な話を隅でされても困るんだよ」

 「そうですか?」


 ヤオ子は、前のシカマルとテマリの横に夕食を持って座った。


 「続きを頼む」

 「分かりました。
  まず、村に入ったら警戒されましたね。
  シノさん達は睨まれちゃいました。
  でも、あたしの額当ては目に触れていないので、ただの余所者と思われたみたいです」

 「そうか。
  コイツは、第一接触からして他の奴と違ったのか」

 「お姉さん。
  コイツなんて連れない呼び方をしないでください。
  お風呂で名乗ったでしょ?
  ヤオ子って、呼んでくださいよ」

 「お前みたいな虫けらは、コイツで十分だ」

 「酷い……」

 「続きは?」

 「せっかちですねぇ」


 ヤオ子は、余裕で味噌汁を啜る。


 「あたしは、村人の中で順位の高い若者に接触しました」

 「何だ? 順位って?」

 「あたしの好みです」


 全員、こけた。
 カンクロウが声を絞り出す。


 「ほ、本当に情報を引き出せたのか?」


 ヤオ子は続ける。


 「そこで、あたしは任務を忘れてこう言いました。
  『特産品のイチャイチャキーホルダーは、何処ですか?』と」


 シカマルとテマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「「任務を忘れるな!」」

 「だって、イチャイチャ系のキーホルダーなんて、ここにしかないんですよ?」

 「もういい……省け。
  余計なことは省け」

 「そうですか?
  まあ、それを切っ掛けにエロで打ち解けて、同士になったんです」

 「何でよ……」

 「シノ達が制御できないわけだ……」

 「こっからが本題です」


 頭痛を引き起こしていた面々が真剣に聞く姿勢を取る。


 「まず、この国は木ノ葉と砂を結ぶ役割をするので、その間に工芸品を売る店や宿を置いて成り立っています。
  つまり、本来なら里どころか国同士が仲良くないと困るんです」

 「そうか。
  火の国と風の国の行き来がなくなると、収益が途絶えるのか」

 「はい。
  だから、国民としては、余所から忍者を雇うのは嫌なんです。
  だって、木ノ葉の忍が入ったら、砂の忍に取っては機嫌が悪いし、
  砂の忍が入ったら、木ノ葉の忍に取っては機嫌が悪いでしょ?
  だから、両大国に守られる道を選んで、この国には隠れ里がないんです」

 「「なるほど」」

 「そして、数年前に大名が代わってから、国民のストレスが溜まり始めます。
  国民の税金が、正当な理由で使われなくなったんです」

 「正当な理由?」

 「はい。
  人の往来を良くするために道を舗装したり、お店や宿屋に対する保障を手厚くしたりしないと困るでしょ?
  そういう国なんだから。
  でも、それがここ数年は一切なし。
  税金は、大名の武家屋敷の改装に使われちゃったりしているんです」

 「「あの馬鹿大名の屋敷は、そのせいか」」


 シカマルとテマリから、同じ言葉が口から出た。
 ヤオ子は、おかずとご飯を食べ終えると箸を置いて手を合わせる。


 「それで国の経済が傾き出したんです。
  例えば、さっきの舗装を例にすると、土木業者は、毎年発注があった案件がストップします。
  その土木業者が生活を切り詰めれば、商店街の商品の売れ行きが悪くなります。
  更に悪循環なのが、舗装されない道のせいで、
  お客が別の国を通って往来を始めて、店も宿も収益が落ちることです。
  さっきのご飯不味かったでしょ?
  厨房でお話を聞いたら、腕のいい板前さんが余所に移っちゃったんだって」

 「そういうことかよ……」

 「諸悪の根源は、依頼主なんじゃないか?」

 「頭に来た国民は、当然、税金を納めなくなります。
  これを大名は暴動と言っています」


 シカマルが腕組みをして考える。


 「この問題さ……。
  暴動を治めても解決しないぜ?」

 「そうだな」

 「本来、火の国と風の国の友好関係強固が目的のこの国が、
  進んで亀裂の入るようなことをしちまってる」

 「ああ。
  同盟国となった以上、砂もそれを望まない。
  それに力で暴動を抑えつけても、この国は滅ぶぞ」

 「じゃあ、どうすんの?」

 「オレ達だけじゃダメだな。
  里だけじゃなくて国単位で問題発生だ」

 「私達だけで何とかなる問題じゃない」

 「そうですかね?」

 「何で、そうなるんだよ」

 「忍者は、裏の裏を読め。
  まだ続きがあるんじゃないですか?
  わざわざ、両国の上役が仕組んだんでしょ?」

 「……そうだな。
  結論出すにゃ、早過ぎだな」

 「この後、会議だな。
  砂は、全員出席する」

 「そうか……。
  こっちは、人数が多いからな。
  ネジ! シノ! 会議に参加してくれるか?」

 「了解した」

 「分かった……」

 「じゃあ、これで一旦お開きだ」


 宴会場の情報報告は、これにて終了した。



[13840] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:26
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 宿では、男子部屋女子部屋の二部屋が用意されている。
 就寝するまでの時間、部屋の小さい女子部屋を会議室にして、他の面々は男子部屋に押し込まれた。
 情報収集に続いて、シカマルとテマリが指揮を執る。


 「今後のことっていうのも極端だから、皆の意見を聞いてから方向を決めたい」


 シカマルは、ネジに視線を送った。



  番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と③



 ネジが意見を述べる。


 「オレは、この任務の意図を考えるべきだと思う。
  ヤオ子の言った通りに裏の裏があるなら、それを見極めないと筋違いに走りそうだからだ。
  そして、意図も何となく分かる。
  木ノ葉と砂の同盟の強化だろう。
  オレ達が先人となって、共同で任務を解決することが望みだと思う」


 シカマルが腕組みをしてメンバーを見る。


 「このメンバーだからな。
  サスケ奪還の時のメンバーで繋がりがある。
  両里も適任だと考えたんだろうな」

 「ならば……。
  期待には応えなければならない……。
  何故なら、それがこの国の人々のためになるからだ……」

 「いいこと言うじゃん。
  そうなると、この国のためになる解決策を考えなきゃダメじゃん」

 「簡単だ」


 全員が我愛羅を見る。


 「敵は、分かっている。
  大名を討てばいい」

 「穏やかじゃねーな」

 「だが、それが正解だな」


 ネジも賛成のようだ。


 「問題は倒し方だ……。
  どういうシナリオで大名を倒すか……」


 シノも賛成のようだ。


 「その方向で決まりかよ?」


 シカマルは呆れた。


 「諦めたら、どうだ?」


 テマリの促しに、シカマルも決める。


 「……仕方ねーな」


 全員の意見が一致した。


 「じゃあ、確認だ。
  まず、国民の意見は大名への不満で一致している。
  そして、オレ達もそこは確認済みだ。
  ・
  ・
  敵も、この国の大名と決まった。
  目的は、この国を正常に戻して木ノ葉と砂との友好関係を再び築いて貰うこと。
  これが木ノ葉と砂の上層部の思惑だろう。
  ・
  ・
  本題だ。
  敵の大名をどうするか?」


 テマリとシカマルで、再び論議が始まる。


 「暗殺するのはなしだろうな」

 「ああ。
  忍者の印象が、今まで以上に悪くなる」

 「そうなると捕獲だな」

 「捕獲か……。
  今度は、大名の情報収拾だな」

 「ああ」

 「…………」


 我愛羅がシカマルに訊ねる。


 「あの娘は、大名の情報を持っていないのか?」

 「ヤオ子か……。
  呼んで来る」


 シカマルは席を立つと、隣の男子部屋へと向かった。


 …


 シカマルが襖を開ける。


 「ヤオ子、居るか?」

 「何ですか?」


 ヤオ子は、包丁を研いでいた。


 「何でだよ……」

 「料理人は、自分の包丁を持ち歩くもんですよ」

 「お前、忍者だろ?」

 「いいじゃないですか。
  明日も、朝食作らないといけないんだから」

 「まあ、いいや。
  来てくれ」

 「何で?」

 「お前が持ってるかもしれない情報を聞くんだよ」

 「そういうことですか」


 ヤオ子は包丁を丁寧に拭くと布に包み、デイバッグに仕舞った。
 そして、ヤオ子達は女子部屋へと向かった。


 …


 女子部屋に入って座ると、早速、テマリからヤオ子に質問が飛んだ。


 「ヤオ子。
  大名について聞きたい」

 「大名? この国の?」

 「そうだ。
  知っている事、全部だ」

 「エロネタも?」


 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「形式的な情報で話せ!」

 「……はい。
  ・
  ・
  え~っと、ですね。
  数年前に大名が代わったって言ったでしょ?
  普通、そんなに直ぐに代われるものじゃありません。
  じゃあ、何で代わったか?
  答えは簡単です。
  この国を仕切っている大名が少ないからです。
  全部で四十人です」

 「そんなに少ないのか?」

 「はい。
  だから、入れ替わりなんてのも簡単だったんです」


 ネジが質問する。


 「どうやって代わったんだ?」

 「力ずくだったみたいです。
  抜け忍を使って前大名を追い出したみたいです」

 「そんなことを良く許したな?」

 「大国に挟まれた国ですからね。
  火の国と風の国が、目を光らせていないと分かりませんよ。
  だけど……。
  丁度、音が砂に悪さしようとしてた時期だったから、
  風の国は注意力が散漫になってたし、
  木ノ葉にしても、九尾の事件から安定し出した気の抜けた時期だったみたいです」

 「気まずいな……。
  ・
  ・
  つまり、砂にとっても木ノ葉にとっても、
  この国の信頼を取り戻す機会なわけでもあるんだな」

 「そうなりますね。
  ・
  ・
  大名を殺しちゃうんですか?」


 ヤオ子の質問に、テマリが答えを返す。


 「いや、捕獲することになった」

 「ふ~ん。
  四十人を全員捕獲か……。
  忍者がこれだけ居れば、一人頭四人で余裕ですね」

 「多分な」


 ヤオ子は、少し呆けた顔で呟く。


 「爽快でしょうね~。
  横一列四十人の正座は」

 「捕獲するとそうなるのか……」

 「捕まえた後は、あたしも頑張ります。
  少し試したい拷問技があるんですよ」

 「……それは却下の方向で、作戦を立てようか。
  大名の住居とか分かるか?」

 「確か、シカマルさんが訪ねた近辺一体がそうです。
  あれ、気持ち悪いことに、皆、身内なんですよ。
  捕まえた暁には、一生修復できない信頼関係の破壊をしましょうね」

 「それは却下の方向で帰ってくれるか?」

 「もう、いいんですか?」

 「十分だ」


 ヤオ子は、去って行った。


 「ヤオ子は、作戦から外そう」


 全員、頷いて意見が一致した。
 そして、その夜、遅くまで会議が行なわれ、全員が就寝した。


 …


 明方、ヤオ子は目を覚ます。
 夜遅くまで会議をしていた皆を気遣い、着替えをする。
 そして、デイバッグを背負うと女子部屋を後にする。
 向かう先は、宿の調理場。


 「本当は、皆さんの寝起きドッキリの乱れた着衣を見たかったんですけど……。
  ・
  ・
  今回の任務は、冗談も出来ないんですよね。
  しっかりと食べて働いて貰わないと」


 ヤオ子は、まだ誰も居ない調理場で仕込みを始めた。


 …


 宿に朝食のいい匂いが漂い始める。
 その頃になって、旅館の代理板前達が現れた。
 そして、彼等は自分の仕事が減ったことを喜んでいた。


 (本当に無理に雇った人達なんだ……)


 ヤオ子は半ば呆れながらも、この国の惨状の酷さを再認識した。


 「皆さんは、正規の板前さんじゃないんですか?」

 「実は、オレは土木関係でな」

 「オレは、赤字の土産屋だ」

 (仕事が循環していないんですね……)

 「いっそ、見栄えを気にしない男の料理をしたら?」

 「例えば?」

 「焼肉とか。
  鉄板を用意するだけでOKですよ」

 「そういう手もあるか」

 「混ぜるだけとか焼くだけとかでいいと思います。
  その分、材料費を上げればいいんだから」

 「しかし、それだとオレ達が役立たずで、追い出されるからなぁ」

 「切実ですね。
  では、半々にしたら?」

 「うん?」

 「メインをお手軽男料理にして、主菜なんかを味が落ちても無理して作る。
  ・
  ・
  まあ、微妙なんですけどね」

 「そうだな。
  そういう工夫がいいかもな。
  オレ達は、本当は本業をしたいんだから、ここで料理の達人になっても仕方ないからな」

 「頑張らないといけないですね」

 「何で、お嬢ちゃんが?」

 「あはは。
  お構いなく」


 ヤオ子は笑って誤魔化した。


 「さあ、運ぶの手伝ってくださいね」

 「分かった」


 朝食は、宿の各部屋に配膳されていった。


 …


 ヤオ子が部屋に戻ると、既に、皆、準備を終えていた。
 昨晩、会議に出た者は、真剣さも漂っている。
 そして、全員が宴会場に移動した。


 「…………」


 襖を開けて絶句する。
 全員が立ち止まり、中に入れない。
 ヤオ子が、シカマルに質問する。


 「ちょっと、どうしたんですか?」

 「いやよ……。
  何でか知らんが、朝食が豪華なんだよ。
  昨晩のあれは、嫌がらせか?」

 「朝食も、あたしが作ったからですよ」

 「お前が作ったのか?」

 「ええ。
  朝から、またリバースしたくないでしょ?」

 「尤もだ。
  でも、何で朝から?」

 「昨日は、時間がなかったんですよ。
  今朝は作る気でしたから気合いを入れました」

 「そうか。
  任務前には、ちょうどいい……」


 シカマルは、そう言うと中に入り、他の者も中に続いた。


 …


 朝食は、大絶賛だった。
 日頃の過酷な雑務任務がいらない所で実を結んだ。
 そして、ヤオ子の評価も上がった。


 「これが、あの変態の料理とは……。
  木ノ葉は、謎が多い……」

 「テマリ。
  アイツに何されたんだ?」

 「それは聞くな! カンクロウ!」


 テマリはヤオ子のセクハラを思い出し、再び不機嫌になった。
 我愛羅は、一口ごとに驚きながら、黙々と食べ進めている。
 本当にテマリは、お風呂でヤオ子に何をされたのか……。

 朝食が終わりに近づくと、シカマルが全員に話し出す。


 「食べながらでいいから聞いてくれ。
  昨晩、話し合って、これからの任務を決めた」


 全員がシカマルの話に注目する。


 「砂の忍とも話し合って、大名を全員捕らえることにした」

 「…………」


 誰からも反論の意見は出ない。


 「反論がないことから、本当に虐げられていたのが誰かということを皆も少なからず認識していたんだと思う。
  しかし、本来の依頼と異なる行動を起こす以上、納得のいく説明が必要だ。
  それをこれから話す。
  ・
  ・
  まず、里からの観点。
  依頼主の大名は、木ノ葉と砂に同時に依頼を出している。
  これは重大な裏切りだ。
  木ノ葉にとっても砂にとってもな。
  そして、この国からの観点。
  大名の強引な交代。
  その時に使った抜け忍による忍者の信頼低下。
  税金の無断使用により、国のために税金を使えずに内部から崩壊の危機。
  ・
  ・
  総合した解決方法は、大名全員を捕獲すること。
  これにより、この国の政治を国民に戻して正常に戻す。
  更に忍者の信頼回復。
  木ノ葉と砂の同盟力の強化。
  と、まあ、こんな感じだ。 質問は?」


 全員が首を振った。


 「ヒナタさん。
  シカマルさんって凄いですね……」

 「本当だね」


 チョウジが付け加える。


 「シカマルは、前の任務の時も的確な説明をしたよ。
  リーダーとしての才能があるから中忍になれたんだ」

 「はぁ~」


 ヤオ子は、感嘆の溜息を吐いた。
 シカマルが続ける。


 「次に作戦を言う。
  依頼主の大名が親玉で、近辺に親族が居る。
  捕獲は、簡単だ」

 (言い切っちゃった……。
  凄い自信ですね)

 「だが、問題がある。
  大名を除けば国民全員が人質みたいなもんだ。
  一人でも逃げられたらダメだ。
  連絡を取られてもダメだ」

 (難しいですね……。
  そんなの出来るの?)

 「だけど、こっちに有利なことが二つある。
  一つは、人数が多いこと。
  もう、一つは白眼の使い手が居ることだ」

 (ネジさんとヒナタさんですね)

 「確実性を取って、大名の家を一軒ずつ潰していく。
  ・
  ・
  チームを幾つかに分ける。
  大名を捕らえるチーム。
  大名の護衛を倒すチーム。
  そして、大名の屋敷から逃走と連絡をさせないチームだ。
  この最後のチームにネジとヒナタを入れて、白眼で確認して貰う。
  伝書鳩や連絡用の忍等を全てチェックしてくれ」

 (そうか……。
  視界が広くて、障害物を無視して全て見渡せる白眼で確認するのか)

 「チームの編成も、昨日、決めている。
  大名を捕らえるチームは、オレとシノといの。
  オレの影真似かいのの心転身で捕まえる。
  シノには万が一の時、蟲で部屋中を占拠して逃げ道を塞いで貰う。
  ・
  ・
  大名の護衛を倒すチームは、砂の忍、テマリ、我愛羅、カンクロウ。
  言うまでもねーな。
  殺さない程度に叩きのめしてくれ。
  ・
  ・
  逃走防止チームは、二班。
  一班が、ネジ、リー、テンテン。
  二班が、ヒナタ、キバ、サクラ、チョウジ。
  どちらも、スピード重視のチーム編成だ」

 「チョウジは?」

 「大勢で来られた時に倍化の術は有効だ」

 「なるほど」

 「他にあるか?」


 ヤオ子が手をあげる。


 「あたしは?」

 「邪魔になるから来るな」

 「……殴ろうか?」

 「お前は情報収集で役立ったから、もういいんだよ」

 「酷くない?」

 「正直、場を混乱させたくねー」

 「木ノ葉なんていいです。
  あたしは、砂の皆さんと一緒に行きます」

 「来るな!」


 テマリが、即行で拒否した。


 「あたし、これでも使える女ですよ。
  テマリさんなんかより、十分に色香で相手を虜にしますよ」

 「するな!」

 「…………」

 「カンクロウさん。
  その人形……素敵です」

 「そうか……来なくていいぞ」

 「…………」

 「我愛羅さん。
  お荷物が一人ぐらい増えても平気ですよね?」

 「構わん」

 「決定!」


 テマリとカンクロウは、心底嫌な顔をした。
 しかし、二人は我愛羅に逆らえない。


 「じゃあ、終わりだ。
  任務は、一時間後に行なう。
  各自、準備をしてくれ」


 そして、任務が始まった。


 …


 砂の忍達とヤオ子は、配置に付くために大名の屋敷へと移動する途中だ。
 その途中で、早速、ヤオ子が姿を消した。
 テマリは、拳を握り込んでいる。


 「あの馬鹿……。
  無理言って着いて来たのに……」

 「怒るなって。
  居ない方がいいじゃん?」

 「まあ、それもそうか」


 しかし、直ぐに件の問題児の姿が目に入った。
 背中には大きな荷物を背負っている。
 テマリのアイアン・クローが炸裂する。


 「オイ!
  ちょろちょろするな!
  任務中なんだぞ!」

 「いや~。
  あそこの中古忍具店で訳の分からない商品が売っていたので、つい衝動買いを」

 「訳の分からないものを買うな!」

 「ぐぁぁぁ!
  痛い!
  力込め過ぎ!」


 ヤオ子の行為にカンクロウは、溜息を吐いて質問する。


 「で。
  何を買ったんだ?」

 「これです!」


 テマリとカンクロウが吹いた。
 そこには、テマリの顔のついたカラクリ人形があった。
 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「何だ! これは!」

 「売ってた中古のカラクリ人形。
  わずか十分で、テマリさんの顔に彫り変えた」

 「ふざけるな!
  何で、私の顔なんだ!」

 「そんなの決まってるでしょ。
  お風呂で出来なかったエロいことをこのカラクリ人形で試すんです」


 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「ふざけるな!」

 「名前も付けました。
  ダッチワイフ・テマリ」


 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「今直ぐに破壊する!」


 テマリが背にある巨大な扇子に手を掛ける。
 しかし、それをカンクロウが止める。


 「ちょっと、待つじゃん。
  ・
  ・
  このカラクリ人形……。
  中古のクセに凄い仕掛けだ」

 「そうなのか?」


 テマリはカンクロウの弄っている内部の仕掛けから視線が外れ、自分と同じ顔をする部分に視線が移ると怒りが再燃する。


 「カンクロウ……。
  やっぱり直ぐに破壊する……」

 「だから、待てって!
  ・
  ・
  ……やっぱり。
  首の付け根を見ろ」

 「?」


 テマリは、カラクリ人形の付け根を見る。
 そこには赤い蠍のマークがある。


 「これって……」

 「ああ。
  大収穫だ」


 ヤオ子は首を傾げて、カンクロウに質問する。


 「どうしたの?」

 「このカラクリ人形は、凄い価値があるってことだ。
  赤砂の蠍が手掛けた傑作だ」

 「へ~」

 「これを砂に持って帰って、チヨ婆様に──」

 「それはあたしのダッチワイフ・テマリです」


 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「そのふざけた名前を呼ぶな!」

 「いいでしょ。
  あたしのものなんだから、どんな名前を付けても」

 「いい訳あるか!」

 「そんなことより、これは砂の機密事項じゃん」

 「知らないですよ」

 「ダッチワイフ・テマリを譲ってくれ」

 「カンクロウ!
  お前も、その名前を口にするな!」

 「だから、嫌なの!
  あたしは、このダッチワイフ・テマリにエロいことするの!」


 テマリのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「だから、その名前を呼ぶな!
  ワザとだろ!」

 「ワザとじゃありません。
  真剣です」

 「余計ムカつくわ!」

 「これから、胸とか腰周りとかをテマリさんのスリーサイズに改造するんです」

 「させるか!」

 「ヤオ子。
  ダッチワイフ・テマリを譲ってくれ」

 「だから、カンクロウ!
  お前も、その名前を口にするなと言っているだろう!」


 ヤオ子は溜息を吐く。


 「カンクロウさん。
  ただじゃ、ダッチワイフ・テマリを譲れませんよ」

 「何が望みなんだ?」

 「……本物にハグしたい」

 「テマリ、頼む」

 「何で、私がそんな大サービスをしなくちゃいけないんだ!」

 「これも砂のためだ」

 「そうですよ。
  ちょっと乳を揉まれるだけです」

 「ふざけるな!」

 「ダッチワイフ・テマリのためなんだ」

 「私より、ダッチワイフが大事か!」

 「もちろんだ」


 テマリのグーが、カンクロウに炸裂した。
 ヤオ子は可笑しそうに笑っている。


 「もう、いいですよ。
  ただであげます。
  十分、見返りになるぐらい笑わせて貰いました」

 「本当にいいのか?」

 「ええ。
  それにそれって、ダッチワイフじゃないんでしょ?」

 「当然じゃん。
  武器の仕込みが入ってるんだから」

 「じゃあ、ダッチワイフ・テマリを大事にしてくださいね」

 「分かったじゃん。
  ダッチワイフ・テマリは、責任持って預かるじゃん」


 テマリがカンクロウの肩を掴む。


 「そんなふざけたカラクリ人形を砂に持ち帰る気か……!」

 「え? いや、しかし……」

 「今直ぐ、顔を作り変えろ!
  そして、二度とふざけた名前で呼ぶな!」

 「わ、分かったじゃん……」


 そして、遠くの方で音がする。
 ヤオ子は呟く。


 「どうやら、あたし達は出遅れましたね。
  我愛羅さんだけで戦闘を始めてますよ」

 「「拙い!」」

 「どうしたの?」

 「我愛羅は、手加減を知らないんだよ!」


 その後、ヤオ子達も戦いに参戦する。
 そして、ダッチワイフ・テマリは戦闘終了後直ぐに顔の部分を改造された。


 …


 三時間後……。
 最後の大名を前にしている。
 あっけない任務だった……。
 だらけにだらけた腐敗した大名達……。
 屋敷と私物だけが対照的に立派だ。
 依頼主の大名がシカマルに怒鳴る。


 「騙したな!」


 シカマル、シノ、いの……そして、砂の忍である我愛羅、テマリ、カンクロウが呆れている。
 ヤオ子は片付いた任務を置いて、部屋の豪華な私物に目が行っていた。
 シカマルが口を開いた。


 「依頼通りだ。
  暴動を止めたんだからな」

 「ふざけるな!
  誰が、こんなことを頼んだ!
  私は、民衆の暴動を止めろと言ったんだ!」

 「分かんねー奴だな。
  国民全員を説得するより、こっちの方が楽なんだよ。
  それに、この状況を見て何とも思わないのか?」

 「どういうことだ?」

 「ここに木ノ葉と砂の忍が居るんだぞ?」

 「お前らも騙したのか!」

 「…………」


 ヤオ子が溜息を吐いた。


 「この人、何にも分かってないですね……」

 「何だと!」

 「シカマルさん。
  少しぐらいいいですか?」


 シカマルは、黙って頷いた。
 そろそろ我慢も限界だった。
 ヤオ子は部屋の中で一番高い壷を手に取る。


 「おじさん……。
  何で、あたし達が不機嫌か分かる?」

 「知るか!」

 「そう」


 ヤオ子は、壷を手から放した。


 「何をする!?」


 ヤオ子は壷を足で受け止める。


 「ゆっくり考えてね♪
  また、手が滑るかもしれないから♪」

 (すげーな……アイツ)

 「もう一度、質問しますね?
  何で、あたし達が不機嫌か分かる?」

 「……ダブルブッキングのせいか?」


 ヤオ子は振り向くと壷を一瞬で安い壷と入れ替える。
 そして、振り向き様に地面に叩きつけた。


 「あ~!
  私の壷が!」


 大名は、入れ替えたのに気付かなかった。
 ヤオ子は、更に追い詰めに掛かる。


 「おじさん……ハズレ♪
  正解するまで、どんどん壊すからね♪」


 シカマル達が一筋の汗を流す。


 ((((((歪んでやがる……))))))


 ヤオ子が、別の壷を取る。


 「やめてくれ!
  私が悪かった!」


 ヤオ子が、再び壷を安いものと入れ替えて叩き割った。


 「謝ればいいんじゃないですよ?
  ・
  ・
  それにね。
  おじさんの財産は、全部没収ですから」

 「な!?」

 「当然でしょ?
  税金をこんな壷に変えちゃって……。
  本当は、道路を舗装しなきゃいけないんじゃないの?」

 「そ、それは……」

 「あたし達の怒りもあるんですけどね……もういいです。
  おじさんは、許します」

 「?」

 「この後にショーがあるんです」

 「ショー……だと?」

 「ストレスの溜まった国民の前に突き出すんです。
  どうなりますかね?
  袋叩き?
  惨殺?
  さらし首?
  いえいえ、一寸刻みで切りつけるか……。
  ・
  ・
  忍者ですからね。
  刃物は、沢山持っていますよ」


 ヤオ子が唇の端を吊り上げると、大名がヤオ子の足まで這い、縋りつく。


 「助けてくれ!
  何でもする!
  私達を守ってくれ!」

 「仕方ないですね。
  サインと血判を押してくれたら、助けてあげます」

 「本当か?」

 「はい」


 ヤオ子がシカマルに向かって手を出す。


 「あれ、用意してるんでしょ?」

 「お前、悪魔みたいな奴だな……」


 シカマルが紙を差し出すと、ヤオ子は紙を大名に見せる。


 「ここにサインと血判を押すだけでOK!
  万事解決!
  木ノ葉と砂の忍が、あなたを責任持って保護します!」

 「わ、分かった!」


 大名は、ヤオ子から紙を奪うように取るとサインと血判を押した。
 それを拾い上げるとシカマルに返す。


 「はい、契約書」

 「無血開城だな。
  ・
  ・
  おっさん。
  さっきの全部うそだ」

 「う……そ?」

 「当たり前じゃないですか。
  そんな非人道的なことしませんよ。
  ただ、幻術使うのも勿体ないし、おじさんを言葉で揺さぶって思い通りに手なずけただけです」


 ヤオ子が、にこりと笑って見せた。


 「これが女の武器です」

 「「そうなのか?」」


 シカマルはいのに確認し、カンクロウはテマリに確認した。


 「「違う!」」

 「それにしても、あっけないですね。
  あれだけ引っ張って、最後は手抜き感が一杯です」

 「まあ、財政を考えればこんなもんだろ」

 「財政?」

 「実力のある抜け忍を雇い続ける金がねーんだよ。
  乗っ取りが行なわれた時までしか契約してなかったんだ」

 「あ~。
  なるほど。
  道理で、戦闘が楽だったはずです。
  安い給金の下っ端忍者だったんですね。
  ・
  ・
  しかし、この任務って本当に何が目的だったんですかね?」

 「そうだな……。
  砂との同盟強化にはなったが、これほどの戦力は必要ねーな」

 「早期解決しなくちゃいけなかったんじゃないの?」

 「何のためにだ?」

 「思い付きだったんで、理由は考えていません」

 「「う~ん……」」


 シカマルとヤオ子は考え込んでしまった。
 いのが、二人を無視して質問する。


 「これから、どうするの?」

 「砂は、里に連絡を入れる。
  これ以上は、手出し出来ない」

 「木ノ葉も同じだろう……」

 「やはり、解せんな」

 「我愛羅?」

 「ヤオ子の言った通りだ。
  何か引っ掛かる。
  大掛かりなくせに、簡単に事が済み過ぎる」

 「でもよ。
  これ以上、何も思いつかないじゃん?」

 「そうだな。
  何か……この国を使って砂と木ノ葉を繋ぐ必要でもあるのか?
  いや、それならオレ達でなくてもいいはずだ」

 「周辺国……」


 テマリが思い出したように地図を開く。


 「もしかして、周辺国に何かあるんじゃないか?
  ここを繋げることで、意味があることが……。
  ・
  ・
  いや、特にないな」

 「裏工作の準備じゃないの?」

 「裏?」

 「ここの国が繋がったって、今から出来る事実でしょ?」

 「そうだな」

 「ここ以外の道は、知られてるじゃないですか。
  木ノ葉と砂は、見張られてない新たな経路を作りたかったんじゃないですか?」

 「何故だ?」

 「木ノ葉崩しで両国の国力が落ちたから」

 「!」

 「そうか……。
  他の三大国に事実を隠すために」

 「ええ」

 「でも、有り得んのか?」

 「違うかな?」

 「とりあえず、スッキリしないが、経過を見てから納得するか」

 「そうだな」


 こうして任務は、喉に骨がつかえた感じで任務は終わることになった。


 …


 木ノ葉の里にて任務報告をする。
 綱手は、任務の報告を受けると満足そうな顔をする。
 しかし、今度の件で納得できないシカマルは、綱手に質問をした。


 「すいません。
  少しいいですか?」

 「何だ?」

 「今回の任務。
  どういう意図があったんですか?」

 「意図?」

 「いや、人数の割りに大した任務じゃないし……。
  砂の忍とも話して、砂と木ノ葉との関係強化なのかとか、
  色々、思い当たる節はあるんですが、どうも納得行かなくて」

 「お前、そこまで考えていたのか?」

 「いや、忍者は裏の裏を読めって言うから、これが最善だとは思うんスけど……」


 綱手は満足そうに微笑む。


 「本当は、ここまでは期待していなかった。
  ただ、本当に武力で解決するのかを試しただけだ」

 「は?」

 「あの国が、我々強国の怠慢のせいで、おかしくなっていたのは分かっていた。
  そして、それを改善する方法を独自に考えて貰いたかった」

 「情報収集して、忍者のイメージを掴んだ上で、
  大名をなんとかするってことですよね?」

 「その通りだ」

 「じゃあ、砂の忍達が居たのは?」

 「偶然だ」

 「え?」

 「だから、ただの偶然だ」

 「冗談でしょう?」

 「本当だ。
  だから、そこでお前達が木ノ葉と砂の関係強化を意識して行動してくれたのは、
  私としては望んだ以上の結果だったんだよ」

 「マジっスか……。
  何で、こんなことに……」


 綱手は目を閉じると微笑む。


 「そうだな。
  強いてあげるなら、ヤオ子が居たせいじゃないか?」

 「ヤオ子?」

 「アイツは、生粋のトラブルメーカーだからな」


 シカマルは、一瞬、呆れるが直ぐに笑いを浮かべる。


 「そうかもしれませんね。
  何故か、その理由だと納得できてしまいます」

 「だろう?」

 「ただ……」

 「ん?」

 「オレらは、兎も角。
  砂の忍達は納得できない夜が続きそうですね」

 「そうだな……」


 綱手は、予想以上の成果に再び微笑む。
 そして、謎の任務は終わりを向かえた。



[13840] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第1話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:27
 == 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第1話 ==



 ※混ぜるな危険は、「オリ主×とある科学の超電磁砲」という実験的なものです。
 ※作者は、「とある科学の超電磁砲」に関してはアニメで見た程度なので、
 ※原作の表現ではなく、作者が聞いたアニメの声の表現で作成されています。

 ※テーマは、「変態×変態=混ぜるな危険」。
 ※とある科学の超電磁砲の白井黒子とヤオ子を合わせてみました。
 ※原作と表現が違うなど、指摘する箇所も多いと思いますが寛大な心でご容赦頂ければと思います。



 火の国、木の葉隠れの里には変態が居る。
 トレードマークはポニーテール、藍のTシャツ、白いミニスカート。
 もう少し付け加えるなら、黒のスパッツに両腿にホルスター、膝下にはレッグウォーマー。
 名前を八百屋のヤオ子。
 悪い噂をあげれば、数え切れない。
 そして、本日のヤオ子は……。


 「いや~、さすが独身の忍者の男性寮前。
  資源ごみの日は、宝の山です」


 如何わしい本を漁っていた。
 変態に備わる心眼を使い、捨てられたアレな本から自分の求める真のアレな本を見極める。
 そして、鋭い目がぽっかりと開いた謎の穴の本を掴み取った。


 「手書きのこの怪しい本!
  『お姉さまのHimitsu♪』!
  これを本日の戦利品に決めました!」


 がっしりと掴み取った、その本。
 しかし、引っ張っても取れない。


 「あれ?」


 ヤオ子は、首を傾げながらも引っ張り続けた。


 …


 学園都市には変態が居る。
 茶髪ツインテールの中学一年生。
 本人に自覚があるかどうかは不明だが、行き過ぎたある一人の友情や尊敬が恋愛感情すら掛け離れた変態の域まで達している。
 名前を白井黒子。
 ある一人……御坂美琴にセクハラを働いての電撃、格闘技のオンパレードは数え切れない。
 そして、本日の黒子は……。


 「一向に捗りませんわね……」


 学生の務め、勉強に集中出来ずに机の前で頬杖を付いていた。
 二名居る部屋の住人の一人は外出中。
 気分転換に話し掛けることも出来ない。


 「でも、お姉さまが居ないからこそ……。
  ささやかな幸せを噛み締めるとしましょう」


 手を伸ばしたのは、近くの本棚。
 タイトルは、『お姉さまのHimitsu♪』。


 「あはぁ~……」


 だらしなく緩んだ口元から興奮した息をハァハァと漏らしながら、件の本に手を掛ける。


 「ん?」


 件の本がピクリとも動かない。


 「どうなっていますの!
  ふんぬ~!」


 黒子は、両手で件の本を引っ張り続けた。


 …


 ヤオ子の目の前で、謎の穴が縮まり始める。
 ヤオ子は、焦り出す。


 「拙いです!
  この穴、時空間忍術の類に違いありません!
  このまま、穴が閉じれば腕が切断されます!」


 ヤオ子は、ギリリと奥歯を噛み締める。
 常人なら、確実に手を放して逃れる展開だったが……。


 「うおぉぉぉ!
  まだ見ぬ究極のエロ本を前に手を放せるか!」


 馬鹿だった。
 果てしなく馬鹿だった。
 そして、取った行動……。


 「腕も切断されてたまるか!」


 ヤオ子は、穴に飛び込んだ。
 考えなしに、迷いなしに、躊躇うことなく……。
 一冊のエロ本のために……。


 …


 黒子は、目を血走らせながら、件の本を引っ張り続けていた。
 自身の能力テレポートを使うのも忘れて力を込める。


 「私のお姉さまの秘密を~~~!
  お返しになりませ~~~!」


 そして、本は、抵抗をやめる。
 ガッターン! と大きな音を立てて黒子は転倒した。
 しかし、件の本から張力を感じる。


 「「ん?」」


 掴み合った本を挟んで、変態同士の目が合った。


 …


 黒子は、自分の部屋に現れた謎の少女に目を向ける。


 「貴女は、誰ですの?」

 「あなたこそ、誰ですか?」

 「私は、この部屋の住人です。
  そして、さっきから貴女が掴んでいるその本は、私のものです」

 「…………」


 ヤオ子は、黒子の言葉に周りを見回す。
 しかし、場所なんかどうでもいい。
 もっと優先することがある。


 「場所は、どうでもいいんですよ……。
  あたしは、このエロ本を見たいだけなんです。
  手を放せです」


 ヤオ子は、黒子を睨み返した。
 しかし、黒子は、澄ました表情で言い返す。


 「この本をエロ本などと一緒にしないでくださいませ。
  この本は、高貴にして崇高な……神聖なお姉さまの肢体を収めたものですの」

 「ただの写真集ですか?」

 「ただのではありません」

 「でも、写真集じゃ……。
  あたしは、思春期男子が集めた自分的ベストの切り抜きだと思っていたんですけど……」

 「貴女は、何を言ってますの!」

 「いや、だって……。
  一気に興味が失せちゃった……」

 「その言葉、聞き捨てなりませんわね……。
  私の血と汗と涙の結晶が、そこら辺の男子の趣味に負けるとでも?
  ・
  ・
  いいでしょう。
  その目で、しかと確かめなさい!」


 黒子は、『お姉さまのHimitsu♪』をヤオ子に突き付ける。


 「いえ、もういいです」

 「見なさい!」

 「仕方ありませんね」


 ヤオ子は、『お姉さまのHimitsu♪』を手に取ると捲り始める。
 そして、全て見終えると、パタンと『お姉さまのHimitsu♪』を閉じる。


 「ふ……。
  確かに予想以上ですね」

 「そうでしょう?」

 「しかし、想像以上ではない!」

 「……は?」

 「被写体に関しては、文句のつけようもありません」

 「当然です」

 「そして、盗撮という行為で素の姿を写すというのもいいでしょう。
  しかし、私なら……もっと、エロいものを撮れます!」

 「なん…ですって?」


 ヤオ子は、黒子の手を取る。


 「確かに想像以上ではありませんが認めましょう。
  この『お姉さまのHimitsu♪』には写した者の心があると」

 「貴女……」

 「この自作写真集には疚しい心が詰まっている!
  間違いなく魂がある!
  被写体の少女の全てを見たいという怨念のようなものを感じます!」

 「その通りです!」

 「是非、あなたの名前を教えてください」

 「白井黒子ですわ」

 「あたしは、八百屋のヤオ子です」


 二人は、がっしりと握手を交わす。


 「黒子さん……。
  この写真集が完成したあかつきには……。
  是非、あたしにも!」

 「いいでしょう」

 「あたしも、黒子さんに恥ずかしいコレクションを……あれ?」

 「どうしました?」

 「ここ、どこ?」

 「話が最初に戻りましたわね……」


 ヤオ子は、ようやく自分の居場所の違和感に気が付いた。



[13840] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第2話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:27
 == 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第2話 ==



 学園都市の学舎の園の外の学生寮の208号室……。
 黒子は、自分の椅子に座り、ヤオ子は、床に正座している。
 ヤオ子が指を立てる。


 「すいません。
  ここは、何処ですかね?
  あたしは、男子の独身寮の前に居たはずなんですけど?」

 「何故、そのようなところに?」

 「ちょうど、資源ごみの日でしたので、
  究極のエロ本を求めて捨てられたエロ本を漁っていました」

 「変態ですの……」

 「そうしたら、時空間忍術の空間から先ほどの本が……」

 「それで?」

 「穴が閉じようとして……。
  身の危険を感じて穴に飛び込みました」


 黒子は、額に手を置く。


 「その時、手を放すという選択肢はありませんでしたの?」

 「ありませんでしたね。
  逆に立場が逆でしたら、どうですか?」

 「逆? つまり、私が引っ張られる方の立場?
  ・
  ・
  確かに飛び込むしかありませんわね」

 「でしょ」


 そんなわけない。
 ヤオ子は、溜息混じりに腕を組む。


 「しかし、困りましたね。
  あれが時空間忍術の穴なら、何処かに飛んだことになります。
  しかも、術を使わずに勝手に開いたようですから、
  術を解するだけでは戻れません」

 「時空間忍術?
  一体、何の能力ですの?」

 「はて? 時空間忍術を知らないんですか?」

 「ええ……。
  それより、気になっているのが忍術という言葉なのですが」

 「忍術を知らない?
  しかし、窓から見える風景を見る限り、
  都会である木の葉の里よりも都会のように見えるんですけどね?
  忍術を知らないような田舎のようには……」

 「ここは学園都市。
  科学の街ですわ。
  里などという言い方の方が田舎者の気がしますけど?」

 「う~ん……」


 ヤオ子は、眉間に皺を寄せる。


 「住所とか分かります?
  ここは、火の国ですか?」

 「火の国? 日本ですけど?」

 「……日本」

 (昔に読んだ漫画の中にそんな言葉が……。
  いや、待て……)


 ヤオ子は、更に記憶を掘り起こす。


 (日本という国が存在するなら、
  あたしがゴミ捨て場から拾って来た漫画とエロ本の出所……)


 ヤオ子は、黒子に質問する。


 「ここって、漫画とかエロ本売ってます?」

 「売ってますわよ」

 「そうですか……。
  少し納得がいきました」

 「と、言いますと?」

 「先ほど、言っていた穴なんですけど、
  時々、開いていたんですよね。
  その穴から、漫画やエロ本を回収していたんですよ。
  そして、その繋がり先が日本だったと記憶しています」

 「なるほど……。
  そこまでは理解しました。
  しかし、信用出来ませんわね」

 「信用って、何の?」

 「一つ目、穴が開いたということ。
  二つ目、別の国に繋がっていたということ。
  三つ目、忍術という言葉」

 「あたしが別の国の人間であることを証明すれば、
  一気に解決出来そうですね」

 「一気に解決します?」

 「はい。
  先ほどから気に掛けている忍術を使って見せれば、
  あたしのことを信用して貰えるのではないでしょうか?」

 「そうですわね」

 「え~と……。
  漫画の中では、普通の日本人は火を吹けないはずです」

 「それは、ちょっと……」

 「何でですか?」

 「この学園都市は、総人口230万人で8割が学生。
  そして、学生のほぼ全員がなんらかの超能力に目覚めています。
  その内の6割弱は無能力者(レベル0)ですの。
  だから、火を使えるところを見せられても証明になりませんわ」


 ヤオ子は、がっくりと手を突いた。


 「どうしました?」

 「230万……。
  あたし達は、10万で戦争って言ってたのに……。
  ほとんどが能力者……。
  戦闘員が10倍以上……。
  ・
  ・
  あたしの世界が壊れていく……」

 「お話を続けていただけませんか?」

 「すいません……。
  何をすれば忍術の証明になりますか?」

 「私に聞くのですか……」

 「そもそも超能力って、何ですか?
  それの定義が分からないと、
  あたしの忍術の違いを比較出来ません」

 「一理ありますわね。
  簡単に言うと……見せた方が早そうですわね」


 黒子は、右手の『お姉さまのHimitsu♪』を左手にテレポートさせる。


 「分かりまして?」

 「時空間忍術……。
  マダラさんと同じ?」

 「これは超能力です」

 「一応、理解しました。
  見せて貰って、明らかに忍術と違います」

 「そうですの?」

 「はい。
  黒子さんは、チャクラを練っていませんでした」

 「チャクラ?」

 「はい。
  あたしの里では忍術を使う時、チャクラを練る必要があるんです。
  簡単に言うと術を使うエネルギーです。
  そして、それに必要なのが体力と精神力なんです。
  体力と精神力を練って、チャクラを作るんです」

 「では、今度は、八百屋の……さん?」

 「ヤオ子でいいです」

 「そうですか?
  では、ヤオ子さんが忍術を見せてくださいまし」

 「分かりました。
  人差し指に注目してください」


 ヤオ子が人差し指を差し出す。
 チャクラの性質を火に変えると小さな炎が灯る。


 「パイロキネシス……」

 「あたし達は、これを火遁の性質変化と言います。
  チャクラを性質変化させたんです。
  この火が灯っている時、チャクラが流れています。
  エネルギーを生成していると言ってもいいかもしれません」

 「興味深いですわね」

 (それなりの研究施設に渡した方がいいのかもしれませんわね……)


 黒子の学園都市での役割など知らずに、ヤオ子は、黒子に話し掛ける。


 「それで、信じて貰えました?」

 「え? ええ、まあ」

 「で、どうします?」

 「そうですわねぇ……」

 「どこぞの施設に連行なんて嫌ですよ?
  あたしから見たら、この街は未来都市に見えて怖いんです。
  捕まったら、改造手術とかされそうで」

 (その可能性も有り得ますわね……)

 「とはいえ、怪しい人物を匿う訳にもいきませんの」

 「230万も居るんでしょ?
  一人ぐらい怪しいのが居ても問題ないですよ。
  それに、もう匿ってる人も居るんじゃないですか?」

 「居ませんわよ」

 「じゃあ、黒子さんが原因かもしれないじゃないですか?」

 「じゃあ、って……。
  何故、私が原因なんですの?」

 「さっきの能力です。
  何かを転送するんでしょ?
  あたしがここに転送されたということは、
  黒子さんの能力に原因があるかもしれないじゃないですか?」

 「それは有り得ませんわね」

 「何で、言い切れるんですか?」

 「私の能力では知らないところから、物を持って来ることは出来ません。
  また、学園都市では、個人の能力がデータバンクに登録されていますから、
  私の能力が先ほど見せたものしかないことも証明出来ます」

 「黒子さんの能力が進歩したとかは?」

 「能力は、急に上昇しませんわ」

 「原因不明ですか?」

 「そうなりますわね。
  さて、お話はここまでに致しましょう」


 ヤオ子は、首を傾げる。


 「貴女を然るべき所に連れて行きます」

 「……どうしても?」

 「どうしてもです」


 ヤオ子は、溜息を吐くと立ち上がる。
 そして、腰の道具入れと両足のホルスターを外して、黒子の机に置いた。


 「大事なものです。
  黒子さんを信頼する証拠に置いて行きます。
  その然るべきというのが終わったら、取りに来ます」

 「分かりましたわ」


 黒子は、第177支部へと連絡を入れた。



[13840] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第3話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:27
 == 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第3話 ==



 黒子の所属する風紀委員第177支部……。
 黒子がヤオ子と別れて、二日が過ぎた夕方。
 第177支部にて、ヤオ子を引き渡した黒子にメールが届く。


 「学園都市の照合データなし。
  戸籍なし。
  身元引受人なし。
  ・
  ・
  三日後に学園都市を退去……。
  退去って、この状態で放り出しますの?」


 黒子の胸には、ヤオ子の言葉が残っていた。


 『黒子さんを信頼する証拠に置いて行きます。』

 (私は、あの方に信頼されていたというのに)


 黒子は、暫くイライラしながらメールを読み返す。
 そして、メールの末尾に書かれている電話番号に電話を掛けた。


 …


 学園都市の学舎の園の外の学生寮前……。
 黒子は、ヤオ子を連れて溜息を吐いていた。


 「どうしたんですか?」

 「私って、こんなに考えなしの人間でしたかしら……。
  幾らメールの言い方が気に入らなかったとはいえ……」


 ヤオ子は、黒子の様子を見て、にやりと笑う。


 「保険を掛けといてよかったです」

 「保険?」

 「正直、国外退去もあるかと思っていたんですよ」

 「……は?」


 黒子は、本当に意味が分からないという顔をしていた。


 「いや、きっと訳分かんない存在になるだろうなと思っていたので、
  黒子さんに迎えに来て貰うしかないと思っていました。
  そうなると黒子さんをあたしのところに来させないといけません。
  そこで、一か八か私物を人質に置いて、
  黒子さんの良心を揺さぶるしかないと……」

 「…………」

 「黒子さんが友情に熱い人で助かりました」


 黒子は、ヤオ子の襟首を掴むと縦に振る。


 「利用したのですのね!
  私の純情を! 優しさを!」

 「縋るものがなくて……。
  ただ黒子さんは、同じ変態を見過ごす人ではないと」

 「私、変態じゃありませんのよ!」

 「もう過ぎたことを言うのは止めませんか?」


 黒子のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「許し難い屈辱ですわ!」

 「まあ、落ち着きましょうよ。
  あたしは、全面的に黒子さんの言うことを聞きますから」

 「貴女が何の役に立ちまして!」

 「忍者ゆえに隠密行動が得意です」

 「だから!」

 「あの人のヌード写真ぐらい何枚でも撮ってあげますよ」


 黒子の動きが止まった。


 「……それは、本当ですの?」

 「もちろんです。
  盗遁術なら、お手の物です。
  盗撮、尾行、何ならセクハラまでしてみせますよ」

 「本当ですの!」


 黒子は、ハァハァと熱い呼吸でヤオ子に迫った。
 ヤオ子は、チョキを出す。
 黒子は、後ろを向くと咳払いを一つする。


 「……期待していますわ」

 「任せてください」


 変態同士の裏取り引きが成立した。
 取引きが成立したことで、ヤオ子が黒子に別の質問を投げる。


 「ところで。
  あたしは、どうやってここに?」

 「貴女の検査結果からは、普通の人間ということしか分かりませんでした。
  国籍、戸籍、身元引受人不明。
  しかし、私の部屋で何らかの力が働いたのは確か。
  よって、私が調査を終了するまで貴女を預かることになりました」

 「助かります。
  あたしとしても、あの部屋にしか元の場所に帰る手掛かりがないので」

 「本当に戻れるのですかね?」

 「原因は、あたしの国の力かこの街の力……。
  もしくは、その両方じゃないかと思っているんです。
  あたしの国にも転送する術がありましたし、
  黒子さんに見せて貰った力も転送するものでしたから」

 「そうですわね。
  明日、支部に寄ってデータバンクから該当する能力者を
  探してみるしかなさそうですわね」

 「それでは、暫くお世話になります」

 「ええ……。
  あ、これ仮のIDカードですの。
  持っていてくださいな」


 ヤオ子は、IDカードを受け取る。


 「では、黒子さんに預けたままの道具入れに入れて置きます」

 「そうしてください。
  ・
  ・
  問題は、お姉さまですわね……。
  同居人を勝手に増やして許してくれるか……」

 「もう、やっちゃったんでしょ?」

 「ええ、やってしまいましたわ……」


 黒子は、溜息を吐くとヤオ子を連れて寮に入った。


 …


 208号室……。
 そこには茶髪のショートカットの少女に詰め寄られる黒子の姿があった。


 「く~ろ~こ~……!
  あんた、誰に断わって勝手に同居人を増やしてんのよ!」

 「お、お姉さま?
  これには深い事情があるんですの……」

 「どんな事情があるっていうのよ!」

 「そ、それは……」


 ヤオ子は、視線で助け舟を出そうかとサインを送る。
 黒子は、もの凄い勢いで首を縦に振った。


 「あの~……」


 黒子の同居人で学年が一つ上の御坂美琴が、襟首を掴んで締め上げていた黒子からヤオ子に視線を移した。


 「あたしが全面的に悪くて、
  黒子さんは、善意でここに置いてくれただけなんです」

 「善意? 黒子が?」

 「詳しくは調査中で分かっていないんですが、
  二日前にあたしは、ここの部屋に転送されたんです。
  それがこの街特有のものか、あたしの国の力によるものか、
  今のところ原因が分かっていないんです。
  先ほど、黒子さんにお話を伺ったところ、
  街を強制退去という形になるはずだったのを黒子さんの善意で調査していただいて、
  行き場のないあたしをその間だけ保護してくれると……」

 「そういう事情だったの……。
  ごめん、黒子……」


 美琴は、黒子を解放する。


 「いいえ、お気になさらず。
  お姉さまに連絡が遅れたのは、私のミスですもの。
  急なことだったので時間がなかったとはいえ、申し訳ありませんでした」


 ヤオ子は、美琴に確認を取る。


 「え、と、誤解は解けましたでしょうか?」

 「うん。
  ・
  ・
  ところで、あなたは?」

 「あたしは、八百屋のヤオ子と言います」

 「……それ、どんな苗字なの?」


 美琴は、微妙な顔でヤオ子に尋ねた。


 「変ですかね?
  木の葉では気にしませんでしたけど。
  ウミノ イルカという人も居ましたから」

 「何それ?
  凄い可愛いんだけど?」

 「男ですけどね」

 「…………」


 少女の幻想は、打ち砕かれた。
 美琴は、気を取り直して黒子に質問する。


 「この子、どうするの?
  黒子が衣食住を面倒見るわけ?」

 「一応、支部の方から少し援助して頂けるように、
  申請を出すつもりではいますけど……。
  大した額は期待出来ないでしょうね」

 「あたし、その辺の鳥とか捕まえて食べてもいいですよ?」

 「「食べるな!」」

 「じゃあ、獣とか」

 「居ないわよ!」
 「居ませんわよ!」

 「そうですか?」

 「どんな野生児なのよ……」

 「忍者でしたので、サバイバル訓練も受けてますから……。
  ああ、川から魚を捕るという手も」

 「目立つ行動は控えてくださいまし。
  食費は、毎日置いておきますので、
  それで何とかしてください」

 「この国の通貨単位が分からないんですけど……」

 「やっかいですわね……」


 黒子は、額に手を置く。


 (どうやら、一般常識から叩き込まないといけないようですわね……。
  他にも基本的なルールなんかも……。
  私達が学校に行っている間なんか……も?)

 「が……。
  学校に行っている間……」

 「どうしたの? 黒子?」

 「お姉さま……。
  黒子は、大変なことに気付いてしまいましたわ」

 「大変なこと?」

 「寮監ですわよ。
  私達が居ない間にこの子が寮監に接触したらですわ」

 「言ってないの?」

 「もちろん、住人が一人増えることは支部を通して伝えてあります。
  問題は、この国の常識を知らないヤオ子さんが、
  何も知らずにあの寮監に粗相を働いたらということです」

 「それは大問題ね……」

 「寮監って?」

 「行けず後家のことですわ」

 「何の関係が?」

 「関係はありませんが、この寮の支配者みたいな者です」

 「支配者……」

 (綱手さんみたいな人ですかね?
  でも、生死は付き纏わないでしょう)


 付き纏うかもしれない。


 「まあ、その手の扱いには慣れています。
  大人しくしていればいいんでしょ?」

 「そうなのですが……。
  大丈夫ですの?」

 「相手があたしのテリトリー内の人間じゃなければ、
  無闇やたらに襲いませんよ」

 「……は?
  貴女は、人を襲いますの?」

 「嫌ですね~。
  ちょっと、気に入った人に愛のあるスキンシップをするだけですよ」

 「……が。
  貴女、お姉さまに手を出すつもりじゃありませんでしょうね!?」

 「え?」


 ヤオ子は、美琴に視線を移す。


 「少しだけなら」

 「お姉さまは、私のものですわよ!」


 美琴のグーが、黒子に炸裂した。


 「誰があんたのものだ!」

 「そうですよ。
  ここは、平等に皆のものにしましょうよ」


 美琴のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「あんたら、同じ思考回路してんのか!」

 「違います!
  黒子は、お姉さまだけに愛を捧げています!」

 「あたしは、テリトリー内に黒子さんのお姉さんが居るだけですね」

 「どっちも最悪じゃない!
  この部屋にただ変態が増えただけじゃない!」

 「お姉さま!
  私は、変態ではございません!」

 「あたしは、変態だって自覚してますね」


 美琴は、バリバリと頭を掻く。


 「黒子!
  この子、本当に大丈夫なんでしょうね!
  話を聞く限り、あんたより見境ないじゃない!」

 「先ほどから申してる通り、
  黒子は、変態ではありませんので分かりません」

 「黒子さんは、変態じゃないんですか?」

 「当然です」

 「じゃあ、ベッドが二つしかないから、
  変態のあたしは、黒子さんのお姉さんと一緒に寝ていいですか?」

 「ダメに決まっていますでしょうが!
  お姉さまとは、私が寝るに決まっています!」


 美琴のグーが、黒子とヤオ子に炸裂した。


 「誰が一緒に寝るか!
  あんたら、揃って危険人物じゃない!」


 ヤオ子は、頭を擦る。


 「黒子さんのお姉さんは、シャイですね?」

 「そうなんですの。
  一人寝が寂しいくせにいつもいつも……」


 美琴は、限界が近づいていた。
 無言でふらりと首を回し、バチバチと放電が走る。


 「いい加減にしろーーーっ!」


 208号室に雷が落ちた。
 黒焦げの何かが二つ転がる。


 「お姉さまのいけず……」

 「黒子さんのお姉さんは、雷遁が使えるんですね……」

 「黒子のお姉さんじゃないわよ!
  わたしには、御坂美琴って名前があるの!」

 「じゃあ、今度から美琴さんと……」


 ヤオ子は、腕組みをして仁王立ちする美琴を見上げる。


 「短パン……」

 「キャッ!」


 美琴は、制服のスカートを押さえる。


 「見せパンでしょ?
  隠さなくたっていいじゃないですか」

 「そういう問題じゃない!」

 「そうですよね。
  スカートから覗くチラリズムを無視して、
  下着を見せないという変態の純真を踏みにじったんですから」

 「変態なのか純真なのか、はっきりしなさいよ!
  っつーか! 覗くな!」


 美琴がヤオ子の顔の前をダンッと踏みつける。
 ヤオ子は、隣で黒い煙を上げている黒子を突っつく。


 「黒子さん。
  この角度からなら、短パンの隙間から下着が見えますよ」

 「ふはーっ!
  それは本当ですの!?」

 「はい。
  その位置からなら、左に少し顔を傾ければ」

 「あ、見え──」


 黒子とヤオ子にグーが炸裂した。


 「あんた達! ばっかじゃないの!」


 こうして夜は更けていく。
 黒子の机の近くではパチパチと静かに次元の穴が開いていた。
 だけど、今は、誰も気付かない。

 そして、その日、208号室に妙な同居人が一人増えた。



[13840] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第4話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:28
 == 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第4話 ==



 どんな妙な一日があっても、夜が明ければ朝が来る。
 来なくていいと思っても来てしまう。
 ヤオ子は、朝早く目を覚ました。


 「朝修行の時間だ……」


 ゴキンッと手首の間接を外し、縛られた縄に隙間を作る。
 ゆっくりと縄を外し、再び手首の関節を入れる。


 「忍者には縄抜けの術っていうのもあるんですよ。
  しかし、あの後、縄で縛られた挙げ句に床で寝かされるとは……。
  まあ、側に人肌があったから平気出したけど」


 もう一人の犠牲者は、今も悶えて眠っている。


 「ああ……お姉さま!
  お姉さまったら!
  激しい!
  激し過ぎますわ!
  縄が……。
  縄が~!」

 「どんな夢を見てんですかね……。
  縄に縛られて興奮しながら眠るなんて……」


 ヤオ子は、208号室を出た。


 …


 朝修行のために寮の入り口に向かう。
 ヤオ子の前にはインテリ眼鏡を掛けたスーツ姿の女性。


 「おはようございます」

 「おはよう。
  早いのだな」

 「はい。
  朝の体力作りが日課なもんで。
  ・
  ・
  そうだ。
  少し質問してもいいですかね?」

 「構わん」

 「外で運動しても迷惑の掛からない場所を教えてください。
  もう一つは、料理したいんで調理場を教えていただけないでしょうか?」

 「一つ目は、近くの公園でいいか?
  もう一つは、帰って来たら教えてやる」

 「親切にどうも」


 ヤオ子は、寮監の指差した公園へと向かった。


 …


 途中の道すがら……。


 「全然違う世界みたいです。
  このビルとかって高過ぎですよね……。
  木の葉にも、これぐらいの大木は育っていましたけど、
  人工物だと違和感ありますね」


 ヤオ子は、公園に着くとプランを変更する。


 「人目もあるし、公園での修行は止めよう。
  街を探索しよう」


 ヤオ子は、瞬身の術で姿を消した。
 そして、次の瞬間、ビルの上を飛び回っていた。


 …


 一方、寮の208号室……。


 「お姉さま!
  今度は、私がお姉さまを
  ぬれぬれのぐちょぐちょに!」


 まだ、寝ていた。


 …


 一時間が過ぎた頃……。
 ヤオ子は、寮に戻って来た。
 学園都市を瞬身の術を使って飛び回り、チャクラ吸着でビルや壁に張り付き、寮の近くの地図を頭に入れて来た。


 「今日の分で、街全体のどれぐらいなんですかね?
  人口230万……。
  瞬身の術を使って飛び回っても、全体を把握出来ない感じでしょうね。
  黒子さんに頼んで地図を見せて貰いますか。
  ・
  ・
  しかし、里の地図は極秘のもの。
  この街の地図は、どうなんでしょうか?」


 ヤオ子は、寮監の居る部屋に向かった。


 …


 寮監は、見た目と違い、意外といい人だった。
 一汗掻いたヤオ子に自分の部屋のバスルームを貸してくれ、洗濯機で服を洗ってくれている間に代わりの服も貸してくれた。
 少し大きめのシャツの袖をまくり、ジーンズの裾をまくり、ヤオ子は、調理場に向かった。
 ちなみに下着は借りていない。


 「支配者という感じではありませんでしたね?
  黒子さんの誇張表現だったようです。
  調理場の冷蔵庫の中身も使っていいということだし、
  お弁当箱も寮を出て置いて行った人達の残り物も使っていいということだし、
  黒子さんと美琴さんのお弁当を作って、お礼しないといけません」


 ヤオ子は、恩を返すために料理を始めた。
 ちなみに然る理由から、ヤオ子の雑務能力は無駄に高い。
 料理、洗濯、家事、経理、配管工、大工仕事、薬草の調合、etc...。
 出来ないことの方が少なかったりする。
 トラウマとドSとその場の勢いは、ヤオ子という存在に何処かの万能執事のような何かを刻み付けている。


 …


 ヤオ子がお弁当箱を四つ持って、寮監の居るところに戻って来た。


 「ご親切にありがとうございました。
  お礼にお弁当を作りました。
  朝食か昼食にどうぞ」

 「気にしなくてもいいのだがな。
  乾燥機の服は乾いている」

 「重ね重ね。
  申し訳ありません。
  この服は、洗って返せばいいですかね?」

 「白井から聞いている。
  服の替えがないのだろう?
  好きにしていいぞ」

 「くれるの?
  卸したてみたいですけど?」

 「ああ。
  朝食の代わりだ」


 寮監は、ヤオ子の持っているお弁当を一つ取る。


 「いい人だ……。
  この人、滅茶苦茶いい人だ……。
  ありがとうございます」


 ヤオ子は、頭を下げると乾燥機から洗濯物を出し、寮監の居る部屋を出た。


 …


 寮の208号室……。
 ヤオ子が戻ると、黒子と美琴が学校に行く準備をしていた。


 「お出掛けですか?」

 「ええ、これから学校ですの」

 「丁度よかったです。
  これ、どうぞ」

 「何ですの?」

 「お弁当。
  黒子さんと美琴さんの分」

 「作ってくれましたの?」

 「こんなことしか出来ませんから」


 ヤオ子は、黒子の側に近づくと声を落とす。


 「黒子さんは和食、美琴さんは洋食です」

 「それで?」

 「女の子同士、食べ比べてください」

 「?」

 「食べ比べで間接キスです」

 「か、間接キス!?」

 「美琴さんと体液交換」

 「た、体液交換!?」

 「このお弁当に黒子さんの欲望を詰め込んだつもりです」

 「さすがですわ!
  ヤオ子さん!」


 ヤオ子は、唇の端を吊り上げる。


 「健闘を祈ります」

 「頑張ります!」


 黒子は、ヤオ子からお弁当を受け取った。
 そして、ヤオ子は、美琴に振り返る。


 「美琴さんも、どうぞ」

 「私にも作ってくれたの?」

 「部屋を少なからず占拠してしまっていますし、
  料理は得意なんですよ」

 「媚薬とか入ってないでしょうね?」

 「媚薬? そんな姑息な手を使う人が居るんですか?」


 黒子は、無言で視線を斜め下の床に向けた。


 「あたしは、媚薬なんて使いませんよ。
  何が入っているか分からない危険なものを口に入れさせて、
  その人が変な病気になったら、どうするんですか?」

 (変な病気?
  ・
  ・
  ハッ!
  黒子は、あの時、飲み干して……!)

 「一昔前、目薬に入る成分で眠り薬の役があるって、
  飲み物に目薬を混入するのがあったじゃないですか」

 「ああ、合ったわね。
  そっちの国でもあったんだ?」

 「はい。
  実際には体に有害なんで、やってはいけません。
  そして、媚薬なんて、もっと危ないと思いませんか?」

 (……危ない?)

 「一時の快楽を求めるだけのために、
  子供が産めない体になってしまったら、取り返しが付きません」

 (……子供が産めない?)

 「うあぁぁぁ!」

 「黒子!?」
 「黒子さん?」


 黒子がお弁当をベッドに置くと、美琴に凄い勢いで迫る。


 「お姉さまぁぁぁ!
  黒子は! 黒子はぁぁぁ!
  あの時、全部飲み干してしまいましたぁぁぁ!」

 「あ、あの時?」

 「プール掃除の時ですわ!」

 「あ、ああ……あれね」

 (あの最悪なパソコン部品……)

 「どうすればぁぁぁ!?
  このままでは、お姉さまの子供を産む事がぁぁぁ!」

 「落ち着け!」


 美琴のグーが、黒子に炸裂した。


 「女同士で子供を産める訳ないでしょう!」

 「ここの街の機能を使えば、イケんじゃないですか?」

 「その通りですわ!
  黒子は、そういう能力者を探し出して、
  お姉さまの子を宿しますの!」

 「どんな能力者だ!」


 美琴のグーが、黒子に炸裂した。


 「兎に角、私の体はぁぁぁ!」

 「朽ちた方がこの世のためなんじゃない……」

 「冗談なんですけどね?
  そんな副作用のあるものを正規品で売ってれば、
  訴えられてニュースに流れてるはずですし」

 「冗談?」

 「美琴さんが振ったから、
  少し表現を変えて注意を促しただけです。
  まさか、黒子さんが媚薬を飲んでいるなんて……ねぇ?」

 「冗談で言っていいことといけないことがありますの!
  私は、お姉さまの子供を産めない体になったと思ったのですわよ!」

 「話が戻ってます。
  女同士で、人間の範疇を超えたことを望まないでください」

 「お姉さま!
  お姉さまも、何とか言ってくださいまし!」

 「わたしは……。
  一度だって、あんたとそういう関係を持つ気はないわよ!」


 美琴のグーが、黒子に炸裂した。


 「黒子さんって、想像妊娠とかしそうですよね?」

 「本当よ……」

 「その時に電話する美琴さんの姿が、
  ありありと想像出来るんですけどね」

 (『黒子ーっ!』
  『お姉さま……。
   じ、陣痛が……。』
  『…………。』)


 美琴は、がっくりと肩を落とした。


 「お二人共、時間は大丈夫ですか?
  朝食は、どうするんですか?」

 「「あ」」


 三人は、朝食を食べに向かう。


 「ところで、お姉さま」

 「何よ?」

 「これだけ騒いで、
  寮監が何も言わないというのも珍しいですわね?」

 「そう言えば……」

 「嵐の前の静けさでなければよいのですが……」

 「怖いこと言わないでよ……」


 話が中々進まない最初の説明の多い部分を含んだ朝だった。
 そして、寮監は、ヤオ子のお弁当に舌鼓を打っている最中だった。



[13840] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第5話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:28
 == 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第5話 ==



 忍者の姿をしないのも久しぶり。
 シャツにジーンズ。
 ジーンズの下に重り入りのレッグウォーマー。
 黒子に借りたベルト。
 道具入れにホルスター。
 靴だけは、木の葉使用。
 見た目は、どっかのヤンキーのねーちゃん。


 「額当ては、置いてこ」


 学園都市は、学生の街。
 授業を受ける学生が学校に行けば、街は意外と静かだ。
 ヤオ子は、お弁当を片手に街に繰り出す。


 「街に出れば、寮監さんに迷惑を掛けることはないです」


 目的は、特にない。
 強いて言うなら、街の調査。
 時々、目につく地図を頼りに街を駆け回る。


 「新しい出会いの予感……」


 もとい、新しいトラブルの予感。


 …


 学園都市の監視カメラが妙なものを映し続けていた。
 片方の手に弁当箱を持ち、片方をジーンズのポケットに突っ込む。
 揺れるポニーテール。
 その変な少女が一定の早さで走り続け、一定の時間で次の監視カメラに映る。
 おかしいのは、障害物を気にせずに直進しているように見えること。

 ヤオ子は、朝からの探索を引き続き続けている。


 「恐ろしいほど正確な地図ですね。
  一定の速度で走っている自信があるから、
  時間と速度で距離が分かる。
  ・
  ・
  ここにある地図は信用出来る。
  能力者が居るという割には無警戒?
  いや、ルールが違うんでしょうね。
  だったら、ここのルールに従うべきでしょう」


 ヤオ子は、一人納得すると、近くにあるはずの公園へと向かう。


 「さすが」


 正確な地図に記された公園のベンチに座る。
 時間は、そろそろお昼時。
 お弁当を食べるには丁度いい。


 「…………」


 しかし、目の前に行き倒れた人。


 「子供が死体ごっこでもしているんでしょう。
  シスターのコスプレなど。
  色も黒じゃなくて白だし。
  そんな間違いも子供らしいです」

 「…………」


 無言で視線を向けられた。
 ヤオ子は、お弁当を仕舞う。


 「場所を変えるか……」

 「無視して行っちゃうつもりなのかな?
  わたしは、助けてって視線を送ってるつもりなんだけど」

 「無視して行っちゃうつもりです。
  人間話せるうちは、まだ限界じゃありません。
  頑張ってください」

 「待つの!」


 這いずって来て、足を掴まれた。


 「何ですか?」

 「助けて欲しいんだよ」

 「立てない?」

 「お腹が減って行き倒れてるの」


 シスターの視線は、ヤオ子の片手にあるお弁当。
 ヤオ子は、指を差す。


 「見えますか?
  あれは蛇口と言って、捻ると水が出るんです。
  水を飲んで腹を膨らましてください」

 「…………」


 涙目で睨まれた。


 「あたし、お金を持っていないんですよ。
  居候の身で、お金を少し頂いていると。
  今日は、お弁当を作る機会があったので、
  お金を貰っていません。
  ユー アンダースタン?」

 「わたしがこのまま死んだら、
  あなたのせいなんだよ!」

 「じゃあ、あたしが必要不可欠の栄養を摂取出来なくて死んだら、
  あなたのせいなんですよ?
  おうちの人は?」

 「とーまは、またお昼を作り忘れたんだよ!」

 「誰?」

 「かみじょうとーま!」

 「過剰なトンマ?
  はあ、そのトンマのせいで飢えていると?」

 「そう!
  だから、お腹一杯ご飯を食べさせてくれると嬉しいな♪」


 満面の笑顔。


 「その笑顔に騙された人も多そうですね。
  しかし、その要求には応えられません。
  あたしも栄養を摂取しないといけないので、
  半分こならいいですよ」

 「うん!」


 シスターは、立ち上がるとベンチに腰掛けた。


 (意外と元気じゃないですか……)


 ヤオ子は、溜息を吐きながらシスターの隣に腰掛けた。


 …


 弁当箱の蓋を開ける。
 半分はご飯、半分はおかず……という姿を確認する前に弁当箱が消えた。


 「へ?」

 「この卵焼きは絶品だよ!」


 シスターが弁当箱を抱えていた。


 「この一口ずつに区切ってるご飯も食べ易いかも!
  この焼き魚もいい塩加減!
  和洋折衷で大満足なんだよ!」

 「あたしの分は?」

 「ご飯が半分……かも?」


 戻って来た弁当箱には、白いご飯が半分。


 「これを半分こと言うんでしょうか……。
  何をおかずに食べればいいんでしょうか……」

 「少し足りない……」


 ヤオ子は、溜息を吐く。


 「残りも食べます?」

 「いいの?」

 「ええ、まあ……」


 シスターは、残りのご飯を食べ始めた。


 「何か『朝ご飯を食べてごめんなさい』って、気になって来ました……。
  朝ご飯は、食べたんですか?」

 「時間がなかったから、中途半端だったかも……」

 「中途半端ですか?」

 「とーまは、学校に行くから、
  朝は時間がないんだよ」

 「学生さんと二人暮らしですか?」

 「スフィンクスも一緒だよ」


 シスターは、猫をヤオ子に見せた。


 「この猫に餌は?」

 「え? あ~!」

 「あたしの手持ちは、
  もう、ありませんよ?」

 「どうしよう……」


 ヤオ子は、またまた溜息を吐く。


 「ダメな飼い主に同情します。
  うちは、近くですか?
  冷蔵庫の材料を使っていいなら、何か作りますけど?」

 「ホント!?」

 「うちに入る許可と冷蔵庫の材料の使用許可を頂けるなら」

 「もちろん!」


 ヤオ子は、疑問を抱いて頬をチョコチョコと掻く。


 「少しいいですか?」

 「何?」

 「その住人の方に
  『知らない人を家に入れないように』
  と言われてませんか?」

 「言われてるけど?」

 「あたしは?」

 「…………」


 シスターは、にこっと笑う。


 「お弁当をくれた人!」

 「この人、危ないですね……。
  『お嬢さん、XXXあげるよ』って言ったら、
  確実に付いて行くタイプですよ……」

 「こっち!」


 ヤオ子が、ちょっと目を離した隙にシスターは走って行く。


 「過剰なトンマさんも大変ですね……」


 ヤオ子は、シスターの後に付いて行った。


 …


 件のシスターの住処……。
 マンションの一室だろうか?
 その一室で、冷蔵庫の材料が料理に変わっていく。
 包丁の小刻み良いリズムで適当な大きさに切られ、フライパンと鍋も同時に使用される。
 煮込みハンバーグ、野菜炒め、茸の混ぜご飯、杏仁豆腐、etc...。
 冷凍と冷蔵出来る料理を幾つか作りあげた。
 そして、猫の餌と一緒に、料理がタッパやラップに包まれる。
 ヤオ子は、使用した調理道具を洗い終えるとシスターに声を掛ける。


 「え~と、シスターさん」

 「わたしは、インデックスっていうんだよ」

 「そうですか。
  あたしは、ヤオ子と呼んでください。
  ・
  ・
  で、インデックスさん。
  電子レンジ料理を覚えてください」

 「料理?」

 「はい。
  作った料理を小分けして、タッパに入れたりラップに包んで置きましたので、
  器に移して、レンジに入れて扉を閉めます。
  そして、『あたため』のボタンを押してください」

 「それで食べれるの?」

 「ええ。
  計画的に同居している人と食べてください。
  そして、こっちは猫の餌です」


 ヤオ子が台所の床に餌を置くと、猫が餌を食べ始めた。


 「では、インデックスさん。
  あたしは、これで失礼します」

 「ありがとう。
  また、来てね!」

 「はい」

 (この地域には、二度と足を踏み入れません。
  お腹減ったな……)


 ヤオ子は、溜息を吐くと寮に戻ることにした。


 …


 学園都市の学舎の園の外の学生寮208号室……。
 そこには、黒子が床に手を付く姿があった。


 「どうしたんですか?」

 「失敗しましたわ……」

 「はい?」

 「備え付けのレンジを使った瞬間に、
  匂いに釣られて、お姉さま以外の学生が……。
  どれがお姉さまの体液の染み込んだおかずか
  分からなくなってしまいましたわ……」

 「美琴さんは?」

 「上機嫌で食べていたところまでは確認しましたが、
  それ以降は、ワラワラと……!
  私のお姉さまにーーーっ!」

 (この人、一体……。
  あたしの変態性が霞む人というのも珍しい……)


 …


 一方のシスターの一室……。
 インデックスが同居人に話し掛けていた。


 「とーま!
  わたしね、今日、料理を覚えたんだよ!」

 「料理?」

 「ふふ~ん!」

 「それは、ちゃんと食べられるものなのか?」

 「とーまは、いっつもわたしを馬鹿にして!
  許せないかも!
  ぎゃふんと言わせてあげるんだから!」

 「ぎゃふん……」


 インデックスがヤオ子に教わった通りの電子レンジ料理を披露する。
 同居人の上条当麻は、台所から響く「チン!」の音に溜息を漏らす。


 「今日は、一体何のテレビを見たんだ……」


 何が運ばれて来るかの不安が広がる中で、料理が運ばれて来た。


 「普通だ……。
  普通なのが余計に怖い……」

 「とーま、食べよ♪」

 「あ、ああ……」


 今までの数々の失敗が頭を駆け巡る。
 見た目には煮込みハンバーグ……。
 それにゆっくりと箸を伸ばす。


 「箸でも切れる柔らかさ……。
  食欲を誘う匂い……。
  ここまで、何も起きてない」


 その一切れを口に運ぶ。


 (旨い……。
  今までにないぐらい旨い……)

 「インデックス……。
  これって……」

 「美味しいでしょ。
  じゃあ、もういいよね?
  残りは、わたしの分だね」

 「え? 待った!
  俺の分じゃないのか!?」

 「ん?」

 「食べられた……。
  一口だけでお預けなんて……。
  一口も食べない方が、未練がなかった……。
  ・
  ・
  不幸だ……」


 上条当麻は、インデックスに気付かれる前に、料理の出所を発見して口に入れることが出来るのか?



[13840] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第6話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2013/09/21 22:29
 == 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第6話 ==



 学園都市の学舎の園の外の学生寮208号室……。
 就寝までの時間の出来事。
 ヤオ子は、私服の持ち合わせがないため、寮監に恵んで貰った布地と黒子に借りた裁縫道具で私服を拵えていた。
 現在までに藍のTシャツが四枚、ミニスカートが三枚、四枚目は作成中。
 ヤオ子の手の中で、チクチクと縫われている。


 「貴女、凄く器用なんですのね?」

 「はい。
  家が貧乏だったのと、
  里の復興のために雑務をこなしていたことが役に立っています」

 「里の復興というのは?」

 「木の葉崩し……。
  簡単に言うと敵が攻め込んで来て、
  木の葉隠れの里が窮地に立たされて、
  里で受け持っていた雑務を担当するお手伝いをしたんです」

 「そんなことがありましたの。
  大変でしたのね」

 「はい。
  ・
  ・
  さて、スカートもOKです。
  問題は、下着類ですねぇ」


 ヤオ子は、ミニスカートを畳んで重ねる。


 「ヤオ子さんは、普段からスパッツですの?」

 「この際、美琴さんに倣って短パンに変更しますか?」

 「真似するな!」

 「分かってますよ。
  スカートから覗くラインが見えないと、
  思春期男子は、がっかりですからね」

 「どんな理由なのよ……」

 「お姉さまも見習って欲しいですわね」

 「黒子……!」


 拳を握る美琴を無視して、黒子がヤオ子に話し掛ける。


 「で、下着はどうします?」

 「上は、サラシ。
  下は、スパッツ。
  替えが何着か欲しいですね」

 「スパッツの下は?」

 「気分によって、履いたり履かなかったり」

 「分かりますわね……。
  私も気分によって、下着を替えますから」

 「っつーか! 履きなさい!」

 「では、それも追加ですね」

 「あったま痛くなって来た……」

 「明日、一緒に買い物に行きます?」

 「適当に買って来てくれませんか?
  勝負下着でも何でもいいんで」

 「分かりましたわ」

 「勝負下着で納得するんかい!」

 「美琴さんって、素晴らしい突っ込み体質ですね?」

 「誰のせいだ! 誰の!」

 「まあ、いいです」

 (流した……。
  わたしがおかしいの?
  この流れに順応出来ないわたしが……)


 美琴は、この部屋に正常な人間が一人欲しかった。
 がっくりと肩を落とし、『変態(ボケ)2:真人間(突っ込み)1』の割合に溜息を吐く。
 そして、変態系の話にならないように話題を変えようと試みる。


 「ねえ、ヤオ子」

 「ヤオ子?
  この前まで、『ヤオ子さん』じゃなかった?」

 「ああ、格下げしたから」

 (……何故?)

 「それで、ヤオ子」

 「はい……」

 「昨日から言ってる『忍者』って、本当?」

 「え~……今更?」

 「気になるじゃない?」

 「今頃?」

 「私も、そろそろ触れなくてはと思っていました」

 「放置プレイですか。
  お二人は、ドSの資質をお持ちのようですね?」

 「持ってないわよ!」


 美琴のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「で、忍者でしたっけ?」

 「タフな子ね……」

 「忍者は、本当です」

 「…………」


 美琴と黒子は、『それだけ?』という顔をしている。


 「ヤオ子さん。
  もう少し主張してみるべきなのでは?
  たった一言で終わりにされても、
  こちらとしても反応に困ります」

 「黒子さんには忍術を見せましたよね?」

 「そうでしたわね」

 「じゃあ、いいじゃないですか」

 「わたしは?」

 「黒子さんとは根っ子の部分で繋がっているから、
  黒子さんが信じれば美琴さんも信用するシステムが
  出来上がっていると思っていたんですけど」

 「出来上がってないわよ!」

 「嫌ですわ、ヤオ子さんったら……。
  根っ子の部分で繋がってるなんて本当のことを」

 「黒子!
  いい加減なことを言ってんじゃないわよ!」

 「あたしの見解では、お二人は、
  愛し愛される仲だと思っていたんですけど?」

 「違うわよ!」
 「その通りですわ」

 「だから、一方に分からせればOK?」

 「それ違うから!
  わたしは、黒子と何も関係ないから!」


 黒子は、床に手を着いた。


 「お姉さま……。
  何も関係ないなんて……」

 「ああ~! もう!」

 「話が進みませんね?
  そろそろ、からかうの止めますか?」

 「そうして……。
  ・
  ・
  ん?」


 美琴のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「からかってんじゃないわよ!」

 「あはは……。
  じゃあ、忍者を証明しますね」


 ヤオ子は、チャクラを練り上げて、印を結ぶ。


 「変化!」


 変化の術で、美琴に化けて見せた。


 「「!」」

 「信用しました?」

 「凄い……」

 「本物……」

 「修行してますから、声もある程度似せられますよ?
  え~と……。
  ・
  ・
  黒子のことなんか好きじゃないんだからね!」

 「ムカつくわね。
  何で、選んだセリフがそれなのよ?」

 「意味はありません」


 黒子が尊敬の目で、ヤオ子に話し掛ける。


 「あの、ヤオ子さん」

 「はい」

 「私に愛の告白をして頂けませんか?」

 「黒子……。
  今日こそ、一つになろう」

 「キャーーーッ!
  お姉さま~~~!」


 黒子が変化してるヤオ子に抱きついた。
 ヤオ子は、変化を解いた。


 「この人、危ないですね……。
  偽者と分かってて飛びつくんですか?」

 「何で、術を解いたんですの?
  黒子は、お姉さまに出来ない、
  あんなことやこんなことをしようとしていましたのに」

 「するな!」


 美琴のグーが、黒子に炸裂した。


 「黒子さん。
  もっと凄い術があるんですけど?」

 「今の術以外いりません。
  私は、お姉さまを増やす術以外に興味ありませんの」

 「馬鹿か!」


 美琴のグーが、黒子に炸裂した。


 「だって~……」


 黒子は、涙目で美琴を見た。
 そんな黒子を見て、ヤオ子は、声を掛ける。


 「美琴さんを、もっと増やす術出来ますよ?」

 「本当ですの!?」


 黒子がヤオ子に迫った。


 「はい。
  ・
  ・
  影分身の術!」


 ボンッ! と煙が上がると、ヤオ子が四人に増えた。


 「続けて、変化の術!」


 ヤオ子が美琴に変化すると、黒子が鼻血を吹いた。


 「ぐふぁ~~~!
  お姉さまだらけ!」

 「最悪……」

 「ハァハァ……」


 ヤオ子は、にやりと笑う。


 「おいろけ・ハーレムの術!」


 ヤオ子の変化した美琴が下着姿になった。


 「ちょっと! 何考えてんのよ!」

 「は~フー!
  は~フー!
  は~フー!」


 黒子の呼吸がおかしくなった。


 「もっと凄いことも出来ます」

 「それ以上は、やらせないわよ!」


 美琴のグーがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子の術が解けた。
 黒子は、我に帰り、鼻血を止め始める。


 「黒子さんに申し訳ないことをしました」

 「わたしには!」

 「理想の男の子にでも、変化して欲しいんですか?」

 「そういう意味じゃないわよ!
  謝罪の気持ちはないのかと言ってんのよ!」

 「変態にそういうのを求めるのは間違っていませんか?」


 美琴のグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「この子、早く追い出さないとダメだ……」


 美琴は、本気でそう思った。
 一方の黒子は、鼻血を処理し終わるとベッドに潜り込んだ。


 「寝ます……」

 「あれ? どうしたんですかね?」

 「さあ?
  ・
  ・
  っつーか、わたしも疲れたから寝る……」

 「そうですか?
  じゃあ、あたしは美琴さんと一緒に……」

 「あっち行け!」


 ヤオ子は、黒子のベッドまで蹴り飛ばされた。


 「……お邪魔しま~す」


 ヤオ子は、黒子のベッドに潜り込んだ。


 …


 深夜……。


 「ヤオ子さん。
  ヤオ子さんってば」

 「……何ですか?」

 「さっきの凄いの続きを見せてくださいまし」

 「黒子さんも好きですね~」


 黒子とヤオ子が美琴の方を見る。
 静かな寝息が聞こえる。


 「では。
  ・
  ・
  影分身の術!
  ・
  ・
 (ボンッ!)
  ・
  ・
  続いて、おいろけ・女の子同士の術!」


 煙が上がった後、美琴同士が凄いことになった。


 「ヴァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 …


 次の日……。
 ヤオ子は、部屋の隅の床で寝ていた。
 美琴は、鼻血の海となった黒子のベッドを見て叫び声をあげた。
 そして、黒子は、満面の笑みで昇天していた。


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