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[14056] 【ネタ】ご主人様が世界を回す(oblivion二次創作・原作崩壊)
Name: かぼ山◆3115d816 ID:62489b3f
Date: 2009/11/19 21:24

言い訳まみれの注意事項。
よくお読みください。





1、これはThe Elder Scrolls IV オブリビオンの二次創作になります。
2、が、その原作をぶち壊す!! 繰り広げられるのは世界観だけ借りたようなどうしようもないギャグ補正全開ほのぼの話。
3、しかも原作を知り尽くしていなければ分からないようなネタばかり。つまりは作未経験者にはさっぱりな話。
4、ネタばれ? 何を言ってるんだ。
5、作者の息抜きに作った本当にチラ裏に書くような話。
6、鎮静効果の自己魔法を覚えていると、安心して読めるよ!





3回読んだ方からどうぞ。



[14056] 第1話 「ご主人様とメイド ~スキングラードの生活編~」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:62489b3f
Date: 2009/11/23 16:58


「ここが俺の住む家なんだけど」

「そうですか」


私の隣にはどこか申し訳なさそうにこちらに向いて苦く笑う男の前。そして目の前には一件の高級住宅。
別に選り好みするってわけじゃないけど、やっぱりボロ家よりだったら高級住宅に住む方が精神的にもいいわけで。
25000ゴールドものの大金をそれこそ帝都下の下水道にぶちまけるようにしてオークのシャム・グロ=ヤラクに叩き付けたらしいけど、この人はどこで稼いできたんだか。
そういえばあのオークの執事って結構な頻度で城へ続く橋下で気絶している噂を聞くんだけどホントかしら?
やっぱり人前に姿を現さない城主の執事なんかストレスがアレで堪らないのかもしれない。
頭がおかしいと評判のグラアシアも街中をうろついているし。
見回りの憲兵さん、さっさとあいつをしょっ引いてくれないかしら……。


「まぁ、よろしく頼むよ」

「分かりました、ご主人様」


まぁ、今シロディール内は皇帝暗殺だかで荒れているらしいけど、こんな豪邸のメイドになれたのは幸運かもしれない。






いっちょ私も親元を離れて一念発起してみるかとシロディールに来たものの、アンヴィルじゃ仕事はないっていうし、クヴァッチはなんか燃えてるし。
道中の街や村に立ち寄ってはみるものの、どこいっても不景気で仕事云々よりも明日のご飯すらままならない自分に涙したのも最近のこと。
途中で襲ってくる野盗や山賊の装備をかっぱらって売っていった方がウハウハになれるんじゃないかと思ってしまった私に罪はあるまい。
でもそんな一寸先は闇なんて生活とてもじゃないけど続けられない。
……結局襲ってきた山賊たちには真っ裸になってもらったけど。

結局ダラダラとスキングラードまでやってきてしまった私は既に心が折れかけていた。
そんでもって友愛の心で譲ってもらった装備品を売りながらその日その日をため息に混じりに過ごしていたんだけど。
日々のやるせなさを道具屋の経営をしているガンダーに愚痴り続けて幾星霜……ついに私に救いの手を差し伸べてくれる方が現れたのだっ!!
ガンダーの話じゃ全身をミスリル鎧で包んだこのインペリアルの人は、大きすぎる自宅の管理に四苦八苦しているらしい。
まぁ、あとはトントン拍子に仕事のない私と人手が欲しいご主人様の間でめでたく契約が結ばれてたわけである。
その家に取り付けるであろう召使いの区画の手配を受けるガンダーと共に「計画通り!」とにやり笑ったのはここだけの話。
だってあんな高価すぎる家を買うなんて人は、このスキングラードでもそれなりに有名だったもの。




回想終わり。




で。
これからお世話になったりお世話したりするご主人様の家に入って、まず私は感嘆の息を漏らした。
なにこれー、なにこれー?
360度見回しても一級の調度品やら家具やらばっか。
入り口に置いてあるお出かけ用とも見れる革靴でさえやけに光って見える。
暖炉の前に置かれている趣のあるテーブルとかワイングラスとかどこの絵本の世界ですか。


「……気に入った?」

「え、あ、はい! もちろんです」


おっと危ない。
あまりの豪華さに隣のご主人様が空気になってた。

後はご主人様から中をしっかり案内してもらう。
にしても案内されたって目に入るのはふかふかの絨毯だったり、銀一式の食器だったり、相手がいるのかどうかは知らないがとにかくでっかいダブルベッドだったり。
もう、ここに住むことができるなんてメイドの身分でありながらも舞い上がっちゃうくらい。
私が住む召使い区画は地下の倉庫を半分に分けられた場所なんだけど、ベッドもメイドに与えるには随分と質のいいものだし、持ってきた荷物全部を収納できそうな箪笥があったりと良待遇。
もうやばいです。ここに来る前に野営地で見た星空が記憶から抹消されそうです。


「それでなんだけど、俺以外に住んでいる人がいなくてね。管理とか一人に任せちゃうけど大丈夫?」

「ええ、もう任せてください! こんな豪華な家に住まわせてくれるだけでもう、ご主人様には感謝感激ですよ!」


ああ、もうシロディールにいる名前も覚えらんないような多くの神様なんかどうでもいいよ。
私の目の前で笑ってくれるご主人様だけが私の神様です!
でもこの人って冒険家って言ってたけどこんな家買うにはそんな職業じゃ釣り合わないのよね。
帝都お抱えのトレジャーハンターだったりするのかしら。









なんて疑問から出たご主人様の答えに、私はどうにもならなくなった運命を呪ったわけで。









「戦士ギルドのマスターに」

「えっ」

「あとアークメイジだろ」

「えっ」

「まぁ他にも人には言えないギルドのマスターとか」

「えっ」

「あとブレイズもやってる」

「えっ」

「ああ、それと本棚にある魔術書とか弄らないようにね。取り込まれるから」

「えっ」

「あと錬金術用の管理棚も開かない方がいいかも。反抗的な植物とかあるし」

「えっ」

「薬瓶も丁重に扱うこと。割れたりして中身が飛び散ると街単位で危険だから」

「えっ」

「あと興味本位で展示箱の武器とか振り回さないでね。家壊れるから」

「えっ」

「たまに身の程知らずな死霊術師とかどっかの信者とか、よくわかんない賊とかもカチコミかけてくるから気をつけてね」

「えっ」

「それじゃ頑張ってね」













えっ?

























<あとがき>


話の主人公のメイドさんはオリジナルキャラだよ!!
原作のメイドさんはキャラ的にアレだからなかったことにして差し替えすることにするよ!!
更新頻度なんて信用ならないよ!!
俺得。



[14056] 第2話 「ご主人様と洗濯」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:62489b3f
Date: 2009/11/23 16:57
メイドって言うからにはご主人様のために粉骨砕身の心で日々を過ごさなくてはならないわけで。
それは一般的に知られるメイドのそれっぽい仕事だけでなく、ご主人様のその日その日のスケジュールをよく確認したりだとか、ご主人様を尋ねる人達の応接だとか、なんというか本来は執事がやりそうなこともやらなければならない。
最初はちょっとしたお金持ちだと思っていたんだけど、シロディールの最重要人物に近い人だなんて聞いてないわよ……。
というかそれでなんで私だけがメイドをやっているのかが理解できないし! 頼むから他にも雇ってください。

といっても私が担当するのはご主人様の私生活における衣食住を完璧にするということだけ。
ギルド云々とかに関わることはない。というか関わったら後ろから刺されそうで怖い。
ここらへんはきちんと線引きをしてくれた理解あるご主人様に感謝。
スケジュールの管理なんていうのも、どちらかといえば私のためのようなものなのよね。

で、いきなり仕事をうまくやれというのもちょっと厳しいものがありまして、異常すぎるご主人様の身の回りに驚いたり戸惑ったり死にかけたりするうちに一週間が経った。
まぁ一週間も経てば最低限くらいの仕事もできて、自分の生活リズムも決めることができる。
メイドって言うからにはまず最初にその日の朝食の準備やら、洗濯物の準備やらとごく一般の家事をするんだけど――――。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま」


3日に1回は朝帰りするその滅茶苦茶な生活リズムをどーにかしてください。
私の生活リズムがまるで無駄です。










「朝食はどうなさいますか?」

「ん、何があるんだ?」

「軽めならパンとスープを。でなければシチューを煮込んでありますが」

「じゃあシチューで」


なんて会話をメイド服の私と、ミスリルフルメイル装備のご主人様とで交わす。
ちょっと血の匂いがきついです。またどこかの遺跡にでも潜ってきたらしい。
こんなときはまず朝っぱら一番の湯浴みを勧める。
一応メイドなんだからご主人様には家の中で気分よく過ごして頂くことを前提とするわけだからね。


「では、ごゆっくり」

「ああ、ありがとう」


にっこり笑ってくれるのはいいですけど、とりあえず頬に付いた血痕を落としてください。どーせご主人様の血じゃないんでしょう?
ちなみに、本来は湯浴みの時もご主人様の傍で色々とお手伝いしなきゃいけないのかもしれないけど、ご主人様はそういうところはとにかくルーズみたい。
別段メイドって職業に経験があるわけじゃないからなんとも言えないけど、私の立場は一般のそれよりも緩いのは間違いない。
アレなところだと夜伽とかさせられることもあるらしいしね。どっかの本にそんなことが書かれてたかな?

ガッシャンガッシャン音を立てながら地下へと降りてゆくご主人様の背後でペコリと一礼。
うむむ、それなりにメイドをやれてたかしら。





まぁ、あとは普通の一日、とういう感じ。
そりゃギルドマスターやらアークメイジやらって聞いたからには多忙なご主人様の手伝いでもするのかしら、って思ったけどそうでもない。
私が家事やらなんやらをやってる間にご主人様は本を読んだり、武具の手入れをしたり、地下室に篭ったり。
ちなみに私の部屋は地下室だけど、ご主人様の秘密の部屋はさらに下の地下二階。
この部屋ばっかりは私が入ることを禁じられた。
正直な話、お願いされても拒否するつもりでいました。
物騒な武具とか危険な錬金品とかが普通の部屋に置いてあるのに、それ以上の危険物って何ですかご主人様。

とにかく、家にいる限りは本当に一般的なものみたい。
でもって私がこの家に慣れるにはやっぱり時間が掛かりそうなのである。
なんてったってこの家は25000ゴールドの価値がある高級住宅。
別に私の実家だって貧乏だったってわけじゃないけど、この煌びやかさにも似た内装は結構精神的にきつい。
埃がちょっとでも溜まれば気になっちゃうし、箪笥に小指をぶつけては箪笥の方を気にしちゃうし、とにかく神経質になってしまうのだ。

だからこそ、ちょっとだけご主人様との間で意見が分かれちゃったりする。
普通だったら自分の意見を通そうとしただけでクビよね。


「干す場所?」

「ええ、今まではどちらに?」

「うーん…………」


おいおい、まさか今まで洗濯したことがないっていうんですか?
洗濯用具ならきちんと地下室に用意されあったじゃないですか。
顎に手を当てて考え込むご主人様の姿にちょっと不安が。


「適当だったからな。大体は部屋干しだったが……」

「そ、そうですか」


なんでそんな覚えがないみたいな言い方なんですか。洗濯は人として必ず通る道でしょうに。
というか部屋干しというのがどうも私は我慢できない。
何回も言うようだがこの家は高級住宅なのだ。故にだだっ広いベランダもしっかり取り付けられている。
故にもったいない。ああ、実にもったいないぞご主人様っ!


「ベランダがあるからには、そこで干すべきです」

「そうか?」

「そうです」

「そうか」


自分でもメイドの分を超えていると思うけど、そこで納得していいのかご主人様。
まぁ、優しいご主人様で嬉しい限りですけど。


「しかし、外から丸見えだぞ?」

「一般家庭ならば当然です」

「この家、商店通り沿いにあるけど」

「あ」


……忘れてた。
確かにこの家はいい。それはもうこれ何度目よって話なほどに。
だが立地がどうにも良くない。
このスキングラードって街は二つの区画を城壁で囲い、その二区画帝都への街道で分けているんだけど、我らが家は何故か商店側の区画に建てられている。
住宅街側だったならベランダに干そうが道行く人に、あらあらおほほ、おはようございますなんてご近所付き合いの挨拶を交わされるだけかもしれない。
だがしかしここは錬金術店を隣にした商店側通りにポツンと建てられた馬鹿でかい家。


――――ねーねーママー、あれ何屋さん? パンツ屋さん?――――

――――あれはね、普通の洗濯物なの。見ちゃ駄目よ。今頃家の人の顔真っ赤だから――――


いやだぁぁぁああぁぁぁ!!
しかしっ! ベランダがあるならばっ! 干したいっ! 豪華な内装の家の中に、物干し竿を立てるだなんて暴挙、私には出来ないっ!


「よし、任せろ」

「へっ?」


頭を抱えて不審な動きをする私に何を思ったのか、ご主人様は自分の部屋に戻ると大量の巻物を持ってきた。
それがこの問題をどうにかしてくれるのかしら。





「洗濯物全部に不可視の呪文をかけよう」





ごめんなさい、やっぱいいです。
大量の魔法の巻物越しに満面の笑みを浮かべる我がご主人。
確かに名案かもしれないけど! ご主人様の作った巻物なら一日効果が保つかもしれないけど! 確かにそれなら問題ないかもしれないけど!
そこまでやられるとさすがにこちらの気が引けますって。
魔法店とかにある不可視の巻物がいくらすると思ってるんですか。
軽く2、3週間はご飯食べられる値段ですよ!






なんて弁明してはみるもののご主人様は私の話を聞いてくれるでもなく。
ご主人様本人もベランダで洗濯物を乾かしたことがなくて、初めてのことにわくわくしていたらしい。
さすがは好奇心溢れる冒険者とでも言えばいいんですか。












その日、ベランダで洗濯物を干すパントマイムをするメイドの姿が見られたとか。

どういうことですかご主人様。


























<あとがき>

不可視って便利。



[14056] 第3話 「ご主人様と夜」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:62489b3f
Date: 2009/11/19 16:50






ご主人様の経歴を詳しく聞きだすようなことはしなかったけど、自己紹介の時に注意されたことを羅列すればどれくらい危険人物……いや、重要人物なのかは分かる。
でもってそんな家だからそれなりな防犯設備がついているわけで。
各扉についている鍵は魔術を併用させたがっちがちの錠前だし、ご主人様の話じゃ家の中に安易な敵意を持った魔法なんて物の役に立たない結界を張っているらしいし。
確かどこの町にも必ずある教会の祭壇を参考にして、家全体に優性のエンチャントを施したとかアカトシュの加護がどうのこうのって言ってたけど。
もうワケワカンネ。

まぁこんなことからも分かるようにご主人様ってば魔術に対する才能やら認識の仕方が一般のそれより飛びぬけてアレみたいらしい。
こんな人がアークメイジをやっていいの? 別に魔術師たちの常識なんて知らないけど。
そういえば私がここに来る前は貴重品とかのチェストに麻痺効果のエンチャントを仕掛けてたらしい。
あなたが開ける時はどうするんですかご主人様、なんて聞いてみれば「大丈夫。全魔法効果完全吸収の指輪持ってるから」と笑いながら言われた。
もうそれ大古の遺産レベルの品なんですけど。

そんな家での生活を常とすることになる私にとっては、いつそんな致死性の防犯が私に作動しないか戦々恐々である。
一応家の主と認識させるブレスレットは頂いたけど、やっぱり怖いものは怖いってば。
誤作動とかないよね? ナイヨネ?

天国のおばあさん、私は今日も元気です。









そういえば今日も帰りは朝になるって言ってたなと思い窓を見れば街の明かりも見えなくなった夜。
耳障りよくパチパチと木々が弾ける音が暖炉より聞こえるまったりとした時間。
そろそろ深夜を過ぎるのかななんて欠伸をしながら目元を拭けば、心地よい眠気が襲ってきた。
ホントこの家ってば極楽だわ。
……うん。極楽なんだってば。

ちょっとした現実逃避と共にベッドに潜ろうかな、と地下室への扉に手を掛ければ、私が扉を開くより前にどこかから軋む音が聞こえた。
確かに聞こえた不審な音。相変わらずパチパチと音を立てる暖炉は健在だが――――やば、暖炉の火消すの忘れてた。
なんて緩いことを自分に言い聞かせても早まる心臓の鼓動は止められない。


(誰か、来た? この時間に?)


防犯にはこれ以上ないってくらい気を使っているから(主に私の身の安全のために)それらを突破して中に入っているとは思えない。
とすれば入り口かもしれない。寝る前だったからまだその扉だけには鍵かけてなかったし。
……鍵もかけ忘れてるじゃない。
やばいやばい。ちょっと気が緩みすぎてた。

舌打ちと共にゆっくりゆっくり入り口まで歩を進める。
自然と抜き足差し足になるけどもズカズカ行くよりかはマシなはずだ。
頭の中に浮かぶのはご主人様の言葉。


――賊とかカチコミかけてくるかもしれないから気をつけてね――


うああぁぁぁ……ホント勘弁してください……。
最悪の展開が頭を過ぎるが、手を拱いても仕方ない。
玄関近くの柱に取り付けられた蝋燭台に手を掛ける。
これも防犯の一つで力尽くで押し入ってきた人間を撃退するミニ発火装置。
ご主人様はその仕組みをオブリビオンの門の中のをどーのこーのとか言ってたけど、今はそんなことどうでもいい。

汗で手がびっしょりと濡れるのを感じながら、目前の扉に目を細める。
確かにカチリと回るドアノブ。
木製の乾いた軋みを立てながらゆっくりと開く大扉。


(ノックもしないのね……)


もう破裂するくらいにバクバク鳴ってる心臓が酷く鬱陶しい。
賊か、客か。

扉から現れたのは全身黒のローブに身を包んだ男。
フードでその顔全体を見ることは出来ないけど、蝋燭の明かりに照らされたそれはちょっとだけ皺が入っている。
こんな夜中に全身黒尽くめのおっさんがノックもせずに人の家に侵入するってことは。


(決定ーーーーーーーーー!!)


確信と共に柱の蝋燭台に力を込めようと――――したところでおっさんの妙な表情に目が付いた。


(なんでそっちがびっくりしてるのよ)


フードからチラチラ見えるおっさんの顔は確かに私に驚愕の表情を見せていて。
なんかその間抜けな姿がどうにも怨みつらみをぶつけてくるような賊には見えなかった。
客? まさか。こんな礼儀知らずの客がいるわけが……うぅ、ご主人様の経歴だとなんか否定できない。
なんてモタモタしていたら黒おっさんの方から声が掛かった。


「……見えているのか?」

「……は?」


ポカンとしてしまったのは仕方がないと言いたい。
















なんか知らないけどこのおっさんの……いやいや、ダンディーなおじ様の名前はラシェンスというらしい。
で、こちらを見て驚いていた理由なんだけどどうやらこのおじ様、常に自分の身体に不可視の魔法をかけているらしくてあっさりとその姿を見られた私に驚いたらしい。
ていうか私じゃなくてここの家の防犯がそういうものなんだけど。
というか常に不可視の魔法をかけるってなんですか。


「私とてこの家の留守を預かる身です。いくらご主人様のお知り合いとはいえこのような入り方をされると困ります」

「む、確かに、シシスの祝福を受けていない輩に我らが律を強要するのは正しくはないか」


で、それ以上の問題としてこのおじ様、言動がやばい。
口を開けばシシスだとか夜母だとか、なんか腰にはギザギザした短剣チラつかせてるし、もう何なのよ。
早く私を平和な日常に戻してっ!


「しかし奴が……失礼。主がいないとなれば困ったものだな」

「何か言伝があれば伝えておきますが」

「いや、夜母の言葉は本人の心に聴かせねばならんだろう」


何? じゃあ帰ってくるまでこのアレなおじ様を家に留めておいた方がいいの?
やばい、何がやばいって……よくわかんないけど絶対やばい。
というか夜母っていう度に恍惚な表情浮かべるんだけど、どういうことよ。



「心配するな。お前の夜を濫りに荒らすような真似はしない」

「お心遣い、感謝いたします」


こちらの願いが届いたのか、不適な笑みを湛えるおじ様。
黒曜の瞳がギラリと光って背筋が冷えた。
もう何なのよ。人を威嚇しながらでしか話せないのかしら。


「しかし主の道には困ったものだ。我らが闇と交わることが少ない」

「何か御無礼でも?」


ため息一つ、目を伏せるおじ様。
その仕草はとても似合ってるんだけど口から出る言葉の数々がもう台無しです。


「いや、主が夜を行く度に我が身を消して近づいているのだがな、どうにも彼は我らの道と交わることを嫌っているらしい」


……今、なんて言った。
え、何? 夜になる度にご主人様に姿を消しながら近づいてるの?




…………ストーカー?




「我らが夜母は彼の心に冬を灯すことを望んでいるというのに……シシスの怒りを買わねばいいが」


見た目はダンディーなおっさん。
言動がちょっとどころでなく、病気レベルのアレ。
恐らくは頭の中もちょっと可哀想なことになってる。
そして夜になる度に、ご主人様を姿を隠してまで付回す。
夜母夜母って言ってるからには……マザコン?




…………。




「これ以上お前の夜を乱すわけにはいかないな。私は今夜も彼の残滓を辿るとしよう」

「は、はい……その、あの」


ガチガチ鳴りそうな歯を懸命に食いしばりながらも、どうにか言葉にしようと力を込める。
もうどうしたってアレな方にしか見えない。
その黒ローブの下が全裸のおじ様の幻影とか見えてきてる……。


「そう闇に怯えることもないだろう? シシスは、夜母は常に我らを愛してくれる」


そうニヒルな笑みを残しながら黒のローブを翻す姿はまさに、アレで。
そのまま振り返ることなく去っていく後姿を見ながら私は見送りすることも忘れて居間の椅子にしがみ付いていた。


「お前にも夜母の祝福があらんことを」


いらねぇよ!!!!
そう叫びたい内心を押し殺して、私は人生の中で一番に歪んでいただろう笑顔で見送った。

どっと汗が出た。
腕がもう、鳥肌だらけ。
口の中がカラカラ。

ご主人様、ご主人様。
確かにあなたの仕事関係とか友好関係に口を出そうとは思いません。


ですが、あの、あの、あの――――






頭がアレで、ガチホモで、ストーカーで、マザコンのおっさんだけは止めておいたほうがいいです。

ホント、切実に。



















<あとがき>


全クエスト完了ってわけではないですね。
そこらへんはまぁ自由に。



[14056] 第4話 「ご主人様と暇」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:8ad9f6f5
Date: 2009/11/20 18:13







アレなおじ様と遭遇してしまってから数日。
一応ご主人様にそのことを報告しておいたけどやっぱり「また来たのか……」なんてうんざりした顔を見せた限り、中々におじ様からのストーキングは続いているらしい。
ということはまたこの家に来るのかしら、と考えれば条件反射のように腕に鳥肌が立った。
ご主人様、このまま放っておくとたぶんそのうちすんごいことになりますよ。
だからってそのうち全身をおじ様の血で濡らしながら満面の笑みを浮かべるご主人様もそれはそれで怖いんだけど。

で、それからは別段何事もなく一日一日を過ごしてるんだけど、どうにもメイドっていうのは暇ができる仕事だ。
そりゃ多分ご主人様の慈愛に満ちた心と、実質私の上に立つ人間がご主人様だけってのが原因だと思うんだけどね。
大きい家ったって掃除に3,4時間もかけないし、住んでる人もご主人様と私だけだから食事の仕込とか買出しとかも随分楽。
その上私が触れることのできない物や、入ってはいけない部屋とかもあるもんで家の中で手を出せるものも限られてくる。
しかも時たまご主人様が帰らない日があるっていうんじゃどうしても堕落した生活を送りそうで困る。
なんとか時間を潰せて尚且つ有用な何かにでも取り組まなきゃなーなんて思ったりもしてる。

まぁ色々あるけれど、それなりにこの生活に満足してる私です。

でも時間が経つにつれてご主人様が抱える問題っていうのもそれなりに見えてくる。
就いている仕事はそれこそ世界を回すにふさわしいものだし、収入も一般人のそれを隔する。
でもってその人柄もいいし、顔だって帝都辺りでもそうそう見かけることができないだろうかっこいい部類に入るものだし、腕っ節だって毎回血だらけ(敵の)で帰ってくる当たり強いに決まってる。
……あれ? 何この完璧超人、って思うけども行き過ぎはどんなことにおいてもいけないと思う。
完璧を行き過ぎてちょっとした変人に見えるくらいですから。

でもそんな上辺だけの印象も2週間ほど一つ屋根の下で共に暮らしていけばそれなりに粗は見えてくる。
私とか一般人に部類される人の粗なんてものは普通の状態でも目立つものでもないから別段気にするわけじゃいないけど、ご主人様みたいな人の粗だとそりゃ目立つ。
一つくらいは欠点あったほうがいいんじゃない、とも思うかもしれないがここは人間の傲慢なところ。
その欠点を直した方がいいなんて欲張ってしまうのだ。













「おかえりなさいませご主人様」

「ただいま」


もはや慣れてしまった朝帰り。
普通だったら「昨夜はお楽しみでしたねフフフ」なんて言ってやればいいんだろうけど、どう見ても血痕が目立ってます本当にありがとうございました。
遺跡潜り=山賊やらモンスターやらとの小競り合いってんだから仕方ないかもしれないけどね。
冒険者なら仕方ないわよねって自分に言い聞かせてます。

で、いつも通り湯浴みを勧めて、朝食を頂いて、そしてあとはまぁ普通に。
本来ならばいつも通りじゃんなんて言われるかもしれないが、問題はそんなことじゃない。
ご主人様が遺跡潜りをした後の後始末がこれまた大変なのだ。

そりゃ冒険者っていうんだからその目的は宝探しだったり、新たな神秘の発見だったり……まぁご主人様はその余り溢れる好奇心に突き動かされてる感があるんだけど。
どっちにせよ冒険者の遺跡潜りに対する達成目標っていうのは『戦利品』や『発掘品』の取得に寄るところが多い。
それはご主人様も同じで、朝帰りするたびに背負ったズタ袋の中に大量の武具やら調度品やらを詰め込んでくるのだ。

そう、その戦利品やら発掘品が問題なのだ。
いや、その、根本は危険性とかじゃなくてね……そういうのはもう慣れちゃったから。

実際問題単純な話でこのご主人様、物の管理が本っ当になってないのだ。
特別じゃない限り家中にあるチェストや展示箱にぶち込むし、その入れ方も適当で種類に分けているとかそういうものじゃ決してない。
前なんて台所にあった空の小麦粉入れ袋からアイレイドだかの彫像が出てきたときなんてびっくりした。
他に入れるとこあるでしょーに。

というわけでこの家では物の整理をすることに一番手間隙掛けなきゃいけないはずなのだ。
なんだけど……。


「私だってアンヴィルからスキングラードまで身一つで旅した経験があります。武具の扱いも不器用なわけではないんですよ? ですから」

「うーん。俺の持ってきた武具ってほとんどエンチャントされた危険なものばかりだよ? やっぱり女の子には触らせられないよ。調度品だってたまに呪われてるものもあるし」

「だからといってそこら中に置かれても困ります! 昨日は何故湯浴み場にクレイモアが落ちてたんですか!? 何に使ったんですか!? あともう女の子っていう年じゃありません!!」

「まだ20になってないんでしょ? それじゃまだまだ女の子だよ」


今はそういう話してるんじゃないのですご主人様。
うぁぁ、そんな微笑ましいみたいな目で見るな……っていうかホントにそんな話じゃないんですよ!
なんて言い合いをしてるんだけど結局話は平行線。
というか私の身を案じているならばそれこそ物の管理はきっちりしてくださいよ。
台所で呪われるとかどんな状況ですか……。

ってなわけなんだけど、どうあってもご主人様は私にそういったものを触らせてくれないのだ。

そこで気になったのはエンチャント武具の管理の仕方。
確かに調度品とかの目利きなんかは私には無理かもしれないけど、武具の管理くらいなら私にもできる。
実際ご主人様の持ってくるものって8割が武具系のものばかりだし。

話は変わるけどエンチャント武具ってのは武具そのものに魔力を込めた、つまりは物理的以外の効果を齎す魔法武具のこと。
エンチャントってのはその名の通り、魔力を物に付加するってことね。付呪なんて言われることあるらしいけど。
結構珍しい感じがするかもしれないけど、エンチャント武具っていうのは玉石混合なものなのよね。
それこそ古代の武具なんてものは山のような金が動く場合もあるし、そこらの山賊の持ってるものは街の武器屋でも気軽に買える。

価値の定義がすごく広いんだけどご主人様の持ってくるものは軒並みその効果が高い。
いや、威力とかは見たことがないけど聞く限りだとかなり高い。
でもってそんな高魔力がエンチャントされた武器がそこら中に転がっているのだ。



…………火薬庫かよ。



私はご主人様の制止を振り切って、とは随分な不敬なんだけど、内緒でスキングラードにある武具屋にお邪魔することに決めた。
武具の取り扱いなら本職の人に聞いた方がいいしね。
いくら戦士ギルドと魔術師ギルドの頂点に立つお方だからって、家を火薬庫にするのは勘弁してください。
というか仕事場が鉄火場だからこそ、家の中は平穏であるべきだ。
そうに違いない……よね?













というわけでご主人様がまたもや出かけた後にきちんと仕事を終わらせて、いざスキングラードにある武具屋に!
まぁ、そのそのお目当ての『ハンマー・トング武具店』ってこの家のお隣さんなんだけどね。
日中に金床をハンマーが叩く音がしたりするし、店の裏庭には鍛冶道具っぽいものが置かれている。
ハンマーの音って結構小気味よくて好きだったりします。

では突撃。

ちょっとの決心と共に店の扉をくぐれば、客の来訪をしらせる鐘が澄んだ音を鳴らした。
店の中には大槌やら片手剣やらが展示されてるのはもちろんのこと、武具屋ならではの鉄臭い匂いが漂ってきている。
店主はどこかと見回してみれば入り口横のカウンターで、私に気づくことなくうな垂れていた。

店主の名前はノルドのアグメットさん。
彼女っていっつも頭痛に悩まされているらしく、『悩める者』なんて呼び名までつけられてるくらい。
それが偏頭痛の類とかなら同情の余地さえあるんだけど、実のところスキングラード名産のワインによる二日酔い。
確かに此処のワインってばシロディールでも有名なんだけど、仕事に差し支えるまでに飲むのはいかがなものか。
腕は確からしいんだけど。


「こんにちは、アグメットさん」

「……はぁい? あら、隣のメイドさんじゃない。って頭痛い……」


こめかみを押さえながら起き出した彼女に苦笑。
まぁ悪い人じゃないしお隣同士ってわけでそれなりに仲良くしてるから別にいいんだけどね。
でも此処のワインってそんなにおいしいものなのかしら? まだそんな贅沢に手を出すこともできないから飲んだことないのよね。
家の備蓄にはそれなりにあったけど、メイドが勝手に飲むわけにはね。


「いい加減ワイン控えたらどうですか?」

「痛たたたた……冗談じゃないわよ。あんなおいしいものを奪われるくらいならあなたの家でメイドをする方がマシだわ」


どういう意味だコラ。
実際ご主人様の持ってくる武具の売買とかにアグメットさんが贔屓にしてもらってるらしく、家の状況を知ってもらってる数少ない人だ。
そのせいでいつ隣が爆発でもするんじゃないかって一時期胃痛持ちにもなったって話だけど。
ご主人様自重してください。


「にしてもメイドさんが店にまで来るなんて珍しいわね? 何か頼まれごとでもあった?」

「実はですね」





かくかくしかじかまるまるうまうま。





「というわけなんですよ」

「……引っ越そうかしら」


気持ちは分かりますけど。
やっぱりご主人様の放置癖にはアグメットさんも呆れたらしく、ますますこめかみを強く抑えた。
あぁ、ごめんなさいごめんなさい。


「何か私でもできるような保管方法があればいいんですけど」

「んー……確かに私も付呪武具は扱うことが多いのよね。あなたのご主人様絡みで。……うん、いいわ。特別に教えてあげる」

「本当ですか!?」

「一応お得意さんだしね。ハンマー・トング独自の方法だけど、そこらへんは勘弁して頂戴ね」


やっほい。なんとか聞き出すことができそうだ。
店とか自営業を営む人の経営に関わることを聞き出すなんてちょっとあれだけども、ここはその好意に乗っからせてもらおう。
ていうか実際のところアグメットさんも危険だし。
いつあの家が火属性エンチャントの影響で火事になってもおかしくはない。


「付呪武具の保管方法だけど、特別な方法で作られた布を巻いておけばいいだけよ」

「布、ですか?」

「そ。シュタケっていうキノコがあるんだけどその黄色のかさの部分をすり潰して水に溶かしたものに一日布を漬け込んでおくのよ。あれって魔法反射の効能がある錬金術の材料だしね。でも反射してもらっちゃ困るから水100にシュタケ1くらいの割合に薄めるの。後は乾かした布で武具を包むだけ。魔法を吸収するでもなく反射するでもない特別製の保管布の完成ってわけよ」


おおっ……ってえらく簡単な気が。


「でも長く保管するならシュタケは合わないかもね。あれって一ヶ月しかもたないから。あの人って溜め込むタイプでしょ?」


アグメットさんの言う通りでございます。
ていうかおそらく自分でも管理できないほどに溜め込むからこんなことになったのだ。
ちょこちょこ売っているって言っても大量に溢れる武具のほんの一部にすぎない。
それを一つ一つ作った布で巻くようじゃ……むぅ、ちときつい。


「1年単位で持たせるなら、ウォルオ・ウィスプが落とす発光する塵だとかね。でもあれって一つ40ゴールドするのよねぇ」

「そ、それはちょっと」


むむむむ、こんなに管理だけでお金がかかるなんて思いもしなかったかも。
今回の管理云々ってば私の独断によるものなので、いくらご主人様のためとはいえ家のお金を持ち出すわけにはいかない。
というかまずは私が武具に触ることを了承してもらわなくちゃね……。
さすがに外まで行って材料を取ってくるのは危険すぎるし。


「ちょっと無理な話だったかしら?」

「……すみません。方法さえ分かればと思っていたんですが」

「謝ることは……って一応隣人なんだからちょっとは気にして欲しいわね」


ぐ、ぐうの音も出ません。


「ま、彼のことなんて今更な話だし、そう気負うこともないわよ? 私からも武具の取引を増やすように頼んでみるわ。なんだかんだ言って儲けさせてもらってるし」

「気を使わせてしまってすみません」


苦笑するアグメットさんがやけに光って見えるぜ……。
といっても私ができることなんてやっぱりないのね、って少し残念。
確かに危険だからって理由もあったけど、暇を潰すって意味もあったからなぁ。
とりあえずは武具の手入れくらいを手伝えるように認めてもらうしかないのかな。
なんてちょっと悩んでいれば、アグメットさんがこちらをジロジロと見ていた。


「何か、私に?」

「いえね、あなたのそのメイド服、だっけ? 中々にいいデザインだと思ってね」


何かと思えば服の話ですか。
確かに私が常日ごろ着ているメイド服はご主人様より渡された、たぶんシロディールでも珍しいかもしれない。
足は出てるし、白いし、フリフリだし。
街中じゃ浮いてるっちゃ浮いてるかもしれないけど、まぁ、実際のところかわいい服だと思うので文句はないです。
……着られてなきゃいいけど。


「ちょっと恥ずかしいんですけどね。でも有難く着させてもらってます」

「へぇ……ご主人様に礼を言っておいたらどうかしら? それも一応付呪されてるものみたいだし」

「は?」


何それ、えっ、私も火薬庫の一部だった!?


「それ、体調整えてくれたり疲れを溜め難くなったり健康面に関する付呪が凄いわよ? 優しいご主人様でよかったわね」


にやり顔を向けてくるアグメットさんに対して特に反論することもできなくて、ちょっとなんだか違った意味で恥ずかしかった。















またお越しくださいませ、なんてどう見てもからかいの意味を込められた言葉を背後に店を出た。

帰る家なんてすぐ隣なんだけど、私の足取りは右足が軽くて左足が重いような、なんか変な気分だった。




なんかちょっと頑張る方向違うな、と帰り道に思ったのは内緒の話。

時間を潰すんだったら、明日の朝食の仕込みにもっともっと時間かけようかと思った夕暮れ時のことでした。





朝帰りのご主人様は相変わらず大量の戦利品を持って帰ってきたけど。




















<あとがき>

メイドさんの容姿とかは各々想像でどうぞ。


『メイド服』 持久力 上昇 20pts
       気力  上昇 20pts
       運   低下 10pts 

 



[14056] 第5話 「ご主人様と執事」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:ec884e3a
Date: 2009/11/21 16:00




相変わらず正午を過ぎると暇ができてしまうメイドだけど、ご主人様の機嫌を悪くするような粗相は今のところやってないし、それなりに街に溶け込めている日々を過ごしてます。
でもメイドっていう職業柄、街のどこかで知り合いと和気藹々にお喋りする暇はないし、自分の趣味の時間を見つけることもできないのよね。
基本家の中の仕事だから外に出ることっていったら、相変らずのベランダ不可視干しの時と、消耗品の買出しと、ご主人様の見送りって感じ。
案外メイドって引きこもりな仕事なんだなぁ、って実感してる。
ご主人様が外出したときは教会にでも行って旅のご無事を祈ろうかなって思ったけどそこまで信心深くもないし。

人に傅く仕事ってやっぱりいろいろと難しいなぁって思うことが多くなってる気がする。
結局のところいい家に住めてもそこは所詮居候。敷地内にある全てのものはもちろんご主人様のものであり、唯一私が自由にできるのは宛がわれた地下室の一室だけ。
ベランダに花でも置いて世話でもしようかなって思ってもやっぱりお金は掛かるし、勝手に場所を取るのはいけないし。
ご主人様っていつも優しいんだけど、どこまでメイドの身で踏み込んでいいのかさっぱりわからないのよね。

そういう部分で言えばご主人様は捉えどころがない風のような人なのだ。
シロディールの重役、苛烈な冒険家、優しい主、だらしない男の人。
どれが本当のご主人様なのやら……。
物の片付けもできないだらしない男の人が本当のご主人様だっていうんなら――――ちょっとは我がまま言ってもいいのかしら?












そろそろ食べ物がなくなってきたなーなどと思い、ご主人様と出会ったコロヴィア商店へ。
今の時期だったらクロイチゴが売ってるかもなんて淡い期待を持つのは間違いじゃないはず。
あれって甘酸っぱくておいしいけどあんまり店とかで見れないのよね。
まぁ食料品に限ってだけはそれなりに金銭の管理を任されているので少しくらいの贅沢なら許してもらえるし。
ふと空を見上げれば雲行きが怪しいみたいだし急いだ方がよさそうだ。

コロヴィア商店の場所は商店街入り口からの大通り一番奥。
私もスキングラードに来た当初はいろいろと店主のガンダーにお世話になってたこともあって、街ではそれなりに気を許せる仲だったりする。
まぁ20代後半の歳でありながら呼び捨てで呼んでもいいなんて言ってくれる辺り、下町の気のいい兄ちゃんという感じ。
時たま儲け話で腹黒くなったりするのが玉に傷だけど、商人なら当たり前か。

では突撃。


「いらっしゃい……ってお前かよ」

「お客様に向かってその態度はいけないんじゃない?」


暖炉の前の商品が満遍なく並べられたカウンターの前。
私に向けたガンダーのとびっきりの営業スマイルは即座に崩れてしまったわけで。
全く、こっちは客だっていうんだから公私の分別くらいしっかりして欲しいものなんだけど。
でもいつも通りの彼でそれなりに気が緩めることができた。


「食い物か? だったら今日はコメかジャガイモが買い時だぜ。珍しいもんだったら錬金術店だけどな」

「ジャガイモかぁ。コメはー……うーん最近パン食だったしね」


客と店の会話とは思えないとても緩くて軽い言葉。だけどやっぱり居心地はよくて。
いつもだったらそんなこと気にしないんだけど、こんなこと考えてしまう辺りやっぱりストレス溜まってるのかしら。
まぁ、そんなことおくびにも出さないけどね。


「ま、カレーでも作ろっか。リンゴ、ある?」

「おお、あるぜ……ってリンゴォ? まぁいいけどよ」

「隠し味ってやつよ」


商品棚にリンゴはなかったらしく、カウンター奥の樽の中をがさごそ漁っているガンダーの後姿を見ながらぼんやりと暖炉の火を見ていた。
まぁ、別段世間話するような話題もないし。
と、その時に店の扉が開いた鐘の音。
誰かが入ってきたらしく、ガンダーはリンゴ片手にやっぱり営業スマイルで。
どうにもまともな態度を取られていない私からすればこの上なく胡散臭く感じてしまった。


「いらっしゃいませ! っと、ヤラクの旦那じゃないですか。どうしたんです? こんな店に」

「精が出ますな、ガンダー殿」


入ってきたのは緑の体色が目立つ初老のオーク。
この街の統治の総括を担っていると言われる伯爵執事のシャム・グロ=ヤラクさんだった。
結構な頻度で街に降りてきては人々の生活を見て回っているっていう街の人にも人気がある人って話なのよね。
荒くれ者が多いオークと言われる種族の中でもヤラクさんは執事の中の執事っていう評判で、彼のおかげでオークに対する偏見もこの街ではかなり少ない。
まぁ、影では『橋下のヤラク』って言われることもあるんだけどね……。


「まぁこれでも商人の端くれですからね。城の取引にも一つ噛ませてくれないかと企んでるところですよ」

「はははっ、それはこちらも油断なりませぬな。よい商品が流れてくるように期待していますよ?」

「こりゃこっちも本気ださないといけませんね」


一人その会話を聞いていた私はなんだか除け者にされたような近視感にちょっとだけ眉を顰めた。
あぁん? こっちが客だろうがさっさとその右手のリンゴを渡せぇ。
と思わないでもなかったが、二人の会話はどことなく商人と執事のそれというよりは大人と大人の会話。
ちょっとだけ羨ましいなぁと思ったりもする。


「こちらの方は?」

「ローズソーン亭のメイドに就かせてもらっている者です。ご高名は聞き及んでおります、ヤラク様」


余計な説明をされる前にスカートの裾をちんまり摘みながら華麗に一礼。
一度はやってみたかったけど、夜な夜な練習していた私に不備はなかったはずだっ!
ガンダーが吹き出しているような気がしたが無視。後で覚えとけ。


「ヤラクで構いませんよ。たかだか執事の私にそこまで礼儀を取ることはありません。にしてもローズソーン亭と言えば……」

「ほら! あれですよ。旦那からそこを一括で買い取った客ですよ!」


顎に手を当てて思い出すように虚空を見上げたヤラクさんに、ガンダーがここぞとばかりに口を挟んだ。
商売の匂いでもしたのか。
でもやっぱり25000ゴールド一括払いは有名だったらしく、はっとなったヤラクさんはマジマジと私の姿を見つめ始めた。
な、なんか粗相でもしたのかしら……。


「となれば、両ギルドマスターの?」

「は、はい。確かに主はその立場に就いておりますが」


ありゃ、やっぱ街の統括に携わっている人には知られてるか。
にしてもご主人様の知名度ってびっくりするくらい低いのよね。
ギルドの人だったらたまに挨拶されているのを見かけるけど、普通の一般人には豪邸に住む人くらいにしか知られてない。
やっぱり敵が多いから、軽々しくその立場を知られるわけにはいかないってのが私の持論なんだけど。


「いや、これは僥倖。さきほどそちらのお宅へお邪魔させてもらったのですが家主がいないようでしてな」

「それは、申し訳ありません。今朝から明日の朝から昼にかけてまで主は家におりませんので……」


どうやらご主人様に用があったらしい。
となればこの店に来たのもご主人様を探してたのかしら?
でなければこんな店にヤラクさんが来るわけないもんね! ガンダー、少し空気になってろ。 
納得した顔で一つ頷いたヤラクさんの表情は、どこか私を観察するようなちょっと物騒な視線があって。
やっぱりあのご主人様のメイドってだけでいろいろとやばいのかもしれない。
いや、あの生活を見てればそれ以外に理由なんてないし。


「明日の朝、ですか……そうですか、わかりました」

「は、はぁ」


なんかちょっと危ない雰囲気になってきてるんですけど。
でもこちらから不躾に聞きだすのはさすがにあれだし。


「ガンダー殿、来た手前申し訳ありませんが用事ができてしまいましたので……金銭すら落とさずに去ること、どうかご勘弁を」

「いやいや、力に慣れたのならそれで構いませんよ」

「代わりといってはなんですが、街の取引にコロヴィル商店の名前を出しておきましょう」

「本当ですか!?」


あとはなんだかわからない商売の話をしてヤラクさんは颯爽と去っていってしまった。
ていうか私にあって用事ができたってどういうことよ……。
やばいくらいに不安なんですけど。


「いやー、嬢ちゃんのお陰だぜ! 今回はリンゴ、タダにしてやる。持ってけ!」


こっちの不安も知らずに新しい取引だかなんだかでテンションが上がってるガンダーが酷く癇に障った。
まぁ、タダにしてやるってんだから他のものにも交渉吹っかけて全部低値で買っていってやったけどね。



















でもって夜。
ヤラクさんに言った通りに相変らずご主人様は出かけていて今夜も一人。
今日はちょっとだけ寒くて、暖炉前の応接用のテーブルと椅子に腰掛けて眠気が襲ってくるのを待つ。
やることがないってもんだから、ご主人様の蔵書の中から読んでいいと言われたものを惰性のままに捲っていた。
本の題名は『ジール城の恐怖』っていう芝居の本なんだけど……なんか魔術の解釈とか書かれてるのはどういうことか。

惰性で読めばなんでも読めることができるようで気づけば夜の11時を過ぎようかという頃。
そろそろ寝ようかと本を閉じれば、ふと家の扉をノックする音が聞こえた。
小気味よく叩かれたノックの音に、ぼんやりとしていた目も冷めた。
今頃、誰だろ。ていうかなんでここを訪れるっていうと夜なの?

まぁ開けないわけもいかないので扉を全開することなくゆっくりと顔を覗かせるように開いた。


「……ヤラク様?」

「夜分、すみませんね」


そこにいたのは暗がりの中でも相変らず目立つ緑色の顔。
ちょっとだけ怖いと思って扉を閉めようとしたけど私は悪くないはずだ。うん。
またどっかのアレな人かと思った手前、ちょっとだけ安心した私は控えめに開けていた扉をきちんと開けた。
そしてそこには黒のフードを被ったもう一人の誰かがいた。
顔を隠すようにしたそれはアレな人と同じだったけど、着ている服がこれまた見たことがないようなもので。
なんか内側はもっこもこしてそうな黒地に赤の紋様が入ったコートだとか。高級な皮で作られたようなズボンだとか。
とにかく偉い方なんだな、というのはなんとなくわかった。



ん? 偉い?

ヤラクさんと来て、偉い?

偉い。

ヤラクさん。

上司?

ヤラクさんは執事。

執事の、上司。

上司じゃなくて、主?

主。

伯爵?

確か、スキングラードの伯爵は、人前に姿を現さないことで有名な。






「あ、あの、それで……」

「ああ、押し入るようで申し訳ありませんが、少し中に入らせて貰えますでしょうか?」

「は、え、はい。その、あまり満足に持て成すことはできませんが」





これ以上ないってくらい焦りやらなんやらで慌てふためく私の言葉に一つ頷いたヤラクさんは、後ろのその御方に声を掛けた。






「構いませんよ。よろしいですね? ジェイナス様」

「構わん」





単純で、短い受け答え。





現スキングラード伯爵。

ジェイナス=ハシルドア様だったわけで。






一介のメイドに何やらせる気ですか。

ていうか何かやらかしたのはご主人様ですか。

もう夜そのものがトラウマになりそうです……。



















<あとがき>


もうオブリビオンっていうか、スキングラード集中型SSじゃね?

そう思った方はたぶん間違いじゃない。


『ジール城の恐怖』 破壊 上昇 1pts 

        



[14056] 第6話 「ご主人様と伯爵様」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:777fa4a0
Date: 2009/11/22 15:15





人は極度の緊張に陥ると、頭がそのあまりの圧迫に耐え切れずにおかしくなるのだとか笑い出したりするのだとか、とにかくなんらかの異常を示す場合が多い。
私はと言えば急に笑い出したり狂ったりすることはなかったけど、動きはカクカクするし頭の中はごちゃごちゃしっぱなしだし言葉うまく出てこないし酷い有様だ。
それはというのも私の目の前で一言も話すことなく佇んでいるジェイナス・ハシルドア様のせいに他ならない。

ヤラクさんと伯爵様を家の中へ招いた手前、もうこれでもかって神速で暖炉前の応接用テーブルの上を片付けた。
うあああ、寒いからってここで本なんて読んでるんじゃなかった。
しかも先に伯爵様を座らせてから気づいた。
椅子が2つしかねぇ!!
やばっ、隣から椅子を、いや、自分が立ってりゃいいじゃん!!


「あ、私は結構ですよ。もう一方にはメイド殿に座ってもらえれば」


ヤラクさんの気遣いに心の中で涙した。
しかしっ! まだ問題は片付いてないっ!!
しかしっ! お出しする御持て成しなんて全然用意してないし、今すぐ出せると言えば紅茶くらい。
しかしっ! 寒い外を歩いてきたお二人にはホットティーが合うのは必定。
しかしっ! 伯爵様の舌を唸らせるようなものなんて私には無理。


「あ、紅茶も私には結構ですよ。もしよろしければジェイナス様にはワインをお出しして頂ければよいのですが」

「ワ、ワインでしょうか?」

「ええ。少しだけジェイナス様の趣向は変わっておりますので。構いませんね? ジェイナス様」

「構わん」


ヤラクさんのフォローに心の中で涙した。
ワインっ! 伯爵様の舌に合うような高級ワイン。
ワインっ! だがしかしご主人様のワインに対する募集はあまりに絶望的。地下のワインセラーは薬瓶入れに変わってしまっている。
ワインっ! しかし、確か台所のチェストには一本だけタミカさんから貰った399年もののワインがあったはずだっ!!

見苦しくなりそうな慌て方と共にバタバタしながら台所へと駆け込む。
相手が伯爵様な限りこれ以上無様な真似なんて見せたらどうなるかわかったもんじゃない。
とにかくワインだ。今私はワインを早急に欲しているのよおおぉぉぉ!!

勢いよく開かれた食料品専用チェスト。
開けると同時に中から転がり出てきた大量の盾とか剣とか。
錆びた螺子のように首だけ回してお二人の方を見れば、ヤラクさんは苦笑してて、伯爵様は呆れてて。



……あぁ……ヤラクさんと一緒に城前の橋上から飛び降りる仕事が始まるお……。



なんて絶望感のまま足元に転がったエンチャント武具を片付けた。



ご主人様は死ね。



呟いた私に罪はない。
















途切れ途切れに弾ける暖炉の薪の音がひどく鬱陶しい。
というかここには3人の人間がいるというのに、ローズソーン亭の中に広がっては消えていく音の類はこれだけ。
暖炉の火に照らされた伯爵様の顔は片面が照らされ片面が暗がりと、異様なコントラストを表わしているようで酷く直視しずらい。
後ろに控えているヤラクさんも目を閉じたまま、私か伯爵のどちらかが声を出すのを待っているようで助け舟を出してくれるような気配さえない。
1分? 10分? 30分?
とにかく無言の相対はどこまでも長く感じていた。



ていうか誰か助けてえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!



もうなんなんですかこの重すぎる雰囲気。
そこの自殺オークっ、説明しやがれ!!
そこの引きこもり伯爵っ、何か喋れよ!!
なんて口に出す度胸も権利もない私は、伯爵様の熱視線を通り越した殺視線を浴びるばかり。
そんな伯爵様をまじまじと見ることもできず、私は傍から見たらおずおずしてるに違いない。
もうおずおずとかまじまじとか鬱陶しいわっ!

なんて内心はおくびに出さず私の視線はヤラクさんにいってみたり伯爵様にいってみたりで挙動不審この上ない。
握り締めたスカートの裾なんて皺くちゃだし、掌から伝わる汗でなんだか気持ち悪い。
何ですかこの拷問。私から何か言った方がいいんですか!?
もう、なんでもいいからいっそ一思いにやってください……。


「ふむ……」


もうぶっ壊れかけてきた私に伯爵様が頷いた。
というか唯一内心の焦りを顔に出さない私には拍手と賞賛を送ってやりたい。
人生最後の賞賛にならなきゃいいけど。


「奴の従者というからにはどんな変人かと思ったが……珍しいこともあるようだ」


ナニソレ。
とりあえず長い静寂が酷く重く感じていた私には天より一声だったけど、いまいち言ってることの本意が分かりにくい。
変人っていうのはたぶんご主人様でいいはずだ。うん、これは間違いない。
でも珍しいって何かしら?


「え、っと、その」

「そう怯えるな。別にお前の主の不貞を正しに来たつもりでも、お前が何か仕出かしたからというわけでもない」

「はぁ……」


マジですか!? なんて返すことはしない。
いや、それくらい明日の私が保証されたのは嬉しかったけど。
というかご主人様の不貞って……何やらかしたんですか。


「いやな、奴が従者を従えるなどあり得ないと心得ていた手前、なんともお前という存在は珍しいものなのだよ」

「私が、でしょうか?」

「奴と同じ家に住むということがどういうことであるか分からぬほどの能無しか? ならばそれはそれでまた珍しいと言わざるを得ないな」


ぐ……よく分かんないけど腹が立つ。
ていうか、何、ご主人様って伯爵様と知り合いだったの?
そりゃ立場から言えば会うことはあるんでしょうけど、それでメイドの私がこんな目に会う意味がわからないわよ。


「ジェイナス様。この者はまだシロディールの情勢を知らない他国の者。現状を知りえぬのも仕方のないことかと」

「ほう……だからこそ巻き込んだ、か? 何とも奴もまた相変らずだな」

「え? え?」


ヤラクさんの言葉に納得する伯爵様だけど、こっちとしては何を言っているのかさっぱり。
ていうかなんで私が他国から来たって知ってるん……って確かガンダー辺りには自分がアンヴィルへは船で来たって言ったこともあったわね。
まぁ別にやんごとなき身分でも追われる様な身分でもないから別にいいけど。


「ならばこれも奴の気まぐれか? ヤラク、面白くなってきたな」

「お戯れを。しかし現状を知るならば……雲王の神殿に伝えを送れば、自然と」

「ふっ……許可する。そうだな……ボーラス辺りならばすぐにでも飛んでくるだろう」


…………意味不明。
目の前でこれでもかってほど説明しろオーラを出す私を無視して、二人は悪巧みなんだかよくわからないことを話始めて。
ていうかわからない単語とか出されると本当に話についていけないんですけど。
すでに敬いの態度なんて薄れてきてつい半目で伯爵様を見てたんだけど、楽しそうにヤラクさんに向けていた瞳が私を射抜いた。
どこまでも吸い込まれるような真っ赤な瞳。


「従者」

「……なんでしょうか」

「楽しめ。私から言えるのはこれだけだ」

「……よく、理解できませんが……その言葉、しっかりと」


本当に理解できない。
でも伯爵様に言われるでもなくそれは人生において心がけているつもりだ。
にしても自分が知らないところで何かが勝手に動いているというのは、これ以上ないくらいに不快。
味方と思ってたヤラクさんも申し訳なさそうにこちらに笑いかけながらも、どこか楽しそうだし。
なんなの?


「いや、しかし、この従者の服も中々に可憐だな。城の奴らにも勧めてみるか? ハル・リューズなどどうだ?」

「それこそお戯れを」


あとはもう話についていけなくて、思考を手放したってことくらいしかあまり覚えていない。
後は嵐のように二人とも去っていっちゃったし。
それでもいろんな意味でその日の夜はあまり眠れなかった。
なんだかよくわからないことが多すぎるし、そもそも伯爵様て人前に出ないんじゃないの?
あとはそーでもないこーでもないと悩んだ挙句、結局何かの答えを得ることも出来なかった。
まぁ何が疑問なのかもよくわからないし。

一つちゃんとした疑問だったのが、伯爵様が出て行く時にかすかな鉄の匂いがしたってことくらい。
あれ、なんだったのかしら。










結局次の日の朝にはいつも通りご主人様は帰ってきたんだけど、何を報告していいのかわからなくて何も言ってない。
ご主人様じゃなくて私に用があったって感じだったし。










そしてその次の日。

確かに私は伯爵様が何を言いたかったのかを理解した。










……楽しめるか、ボケ。





















<あとがき>


次回、スキングラード編、完結。
といってもなんだか不穏な雰囲気がするのも次回まで。
息抜きやらチラ裏っても適当に書きすぎてるかなー。


『タミカ399年もの』 
体力  上昇 16pts 240sec
敏捷性 低下 5pts 120sec
知力  低下 5pts 120sec



[14056] 第7話 「ご主人様と世界を回す ~スキングラードの生活編・完~」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:390342bc
Date: 2009/11/24 20:23




昨日の伯爵様のご来訪は確かに度肝を抜かれたが、本来は此処に訪れる客人は非常に少ない。

ご主人様の立場上どうしても知り合いは多いんだろうし、多かれ少なかれそういった人達の応接とかにも応対するんだと思ってたんだけど。
私がメイドの立場についてから来た客人といえば……思い出したくはないがあのおじ様と伯爵様の二人だけだったし、どうにもご主人様の仕事って本当なんだろうかと疑ってしまう。伯爵様のことだってあるし。
そういったことにもご主人様と話したほうがいいかしら、と思うんだけどどうにも聞きづらい。
そもそも遺跡潜りって言っても1、2日で帰ってこれるような場所ばっかりなのか疑問に残る。
結構ご主人様って謎が多いのよね。知る気になれない私が言うのもなんだけど。


そんなご主人様を横目に見ながら食事の後片付けをする。
ちょっと頑張って作ったポルシチを完食してもらったけど味はどうだったのかしら。
ご主人様って必ず私の作ってくれた食事においしいって言ってくれるんだけど、どうにも今日のは違う意見が聞きたい。
後で聞いてみよう。

まぁそんな食後のひと時だったんだけど、どうにもこの家に住む限りトラブルやらには事足りるようで。
銀の食器がぶつかる音と、流し台の流れる水の音だけが聞こえる中で、何かを蹴りつけたようなけたたましい音が鳴り響いたのだ。
驚いて音の方へと走っていけば、案の定外からやってきたお客様だったようで。

赤茶色の皮製っぽい装備に見を包み、右手には物々しく頑丈そうな盾。
腰にはアグメットさんの店でも見られないような細身の剣。
肩で息をしながらも椅子に座ったまま気まずそうな表情をしているご主人様を睨みつけているのはどういうことだろうか。
ご主人様の表情からしてまたしてもアレな知り合いなんだろうかと考えたが、頭にあの不適な笑みのおじ様が浮かんですぐさま頭を振る。

一人悶える私なんて眼中にないようで、その人は唐突にご主人様に向けて怒鳴り声を上げた。


「デイドラの秘宝はどうしたぁ!!!!」


このレッドガードのボーラスさんの来訪のせいで、伯爵様が言っていた事を理解できてしまった。

















「お前はいつになったらデイドラの秘宝を持ってくるんだ!?」

「いや、なんで俺に言うんですか。俺以外のブレイズだって暇でしょ?」

「マーティン様をお守りする義務があるから動けんのだろうが! いいから早く持ってきてくれ! もうマーティン様も待ちくたびれているんだぞ!?」

「嘘言わないで下さいよ。前に手紙が来ましたよ? もう読む書物がなくて暇だって。アルゴニアンの侍女送ってやりましたけど」

「お前ええええええぇぇ!!!!」

「いや、他にもいろいろ送りましたよ? グレイフォックスの盗み技術が書かれた本とかも送りましたし」

「お前か! マーティン様が近頃人の後ろを付回しているようになったのはお前のせいか!! たまに私の剣が無くなっているのもお前のせいか!」

「というか実際のところそんなに急いでないでしょ? 一応俺もしぶしぶシロディール中の門を閉めまわってますし」

「しぶしぶ言うな! そこまで暇があるならさっさと秘宝を探せばいいではないか。最近なぞ深遠の暁からブレイズに寝返る奴が出てきたんだぞ!?」

「いいじゃないですか。たぶん今頃キャモランなんか涙目ですよ? 新しく開く門の片っ端から印石奪ってますし」

「確かに寝返った奴からキャモランが柱に縄を吊り始めたという情報は聞いているが!! 根本の解決には至らんだろうがっ!」


いつまでこの口論は続くんだろうか、とうんざりしてしまうのは仕方ないわよね?
というかそんなに大きな声を出されると隣のアグメットさんの頭痛が酷くなるんで静かにしてください、ボーラスさん。
つい最近手を貸してもらった立場としてあまり機嫌の悪くなるようなことしたくないんで。
と、咎めるような視線を向けてみるものの一切無視。
いや、まぁ、話を聞いてるとどう考えてもご主人様が悪いんだろうけどさぁ……。

どうにも聞いた話じゃ皇帝暗殺の事件はこの世界、タムリエルを滅ぼそうとしているなんとかキャラモンやらの仕業らしい。
でもってその裏にはデイドラの王子のメェ……メエルー……デイ、ダイゴン? ……あーもうとにかくその大根とやらがいるらしい。
ご主人様はその事件やら何やらに関わってるらしくて、本当ならそんな世界滅亡の危機を阻止するためにブレイズに入ったってことみたいだ。
で、紆余曲折あって今はギルドマスターやらアークメイジやらの職を持った気ままな冒険者をやっているんだって。
意味不明です、ご主人様。


「いいか? 確かにキャモランは自殺寸前の鬱病らしいが、本当に危険なのはデイゴンなんだ!」

「あー、他のデイドラの王子もドン引きなくらい頭が痛い子らしいですからね、デイゴンって」

「お、おまっ、お前! どこからその情報を!」

「他のデイドラたちが愚痴ってましたから。だってタムリエルに過去三回侵攻して全部返り討ちらしいですし」

「……え、ホント? ホントなの?」


ボーラスさん、キャラ、キャラ崩壊してます。
にしてもここまで来るとご主人様の正気が疑われるんですけど。
ご主人様の話じゃ別に大丈夫みたいな話ですけど、タムリエルの危機だっていうのは初耳だ。
確かに皇帝暗殺のせいでなんとなく世界に暗雲が立ちこめている雰囲気はあったんだけど、クヴァッチが解放されたって話が出てからそうでもなくなったのよね。
へ? クヴァッチ解放? ご主人様が? ……いや、もう驚きませんけど。


「いや、え? 俺が焦ってるのは空気読めてないのか? 焦ってるのは俺だけなのか?」

「たぶんボーラスさんだけだと思いますよ?」

「…………」

「大丈夫ですって。たまに街中で深遠の暁の信者っぽい人と会うと露骨に目を逸らしてきますし。ホント、襲ってくる人なんて半ば自棄になった人だけですよ?」


徐々に白くなっていくボーラスさんが酷く儚げに見えたのはたぶん気のせいじゃないと思う。
結局、真実に落胆したのか、それともご主人様に言いくるめられたのかは分からないけども、ボーラスさんはおぼつかない足でそのまま去っていった。
紅茶も碌に出せずにお帰りになっちゃったけど良かったのかな。
今回はめまぐるしく変わる話の展開にメイドとしての仕事なんて何も出来なかったんだけど。
ていうかこんな話私が聞いてもいいの? 一応次期皇帝が生きているのってまだ秘密なんじゃないの?

湧き出る疑問に対する答えなんていろんな意味でおそろしくて聞けなかったけど、さすがにご主人様の世界の危機に対する態度はやばいと思う。




















さすがに私もこのことについては無関心、なんて言えるわけもなく、恐る恐るご主人様に聞いてみた。
この機に乗じて他にもいろいろ聞きたいことあるし。


「あの……よろしいのですか?」

「ん? 世界が滅亡するってこと? さすがに俺だって全く気にしてないってわけじゃないよ」

「何故、と聞いてもよろしいでしょうか?」

「まぁ、簡単に言えば、シロディールのため?」


は?
え、いや、世界滅亡の危機を止めないのがシロディールのため?
すいません、さすがにそういうことを言われると辞表届けを書く準備をしなければならなくなるのですが。
ポカンと口を開けっ放しの私に、ご主人様は笑いながら答えてくれた。


「ほんとはね、俺も普通の冒険者やって世界中を飛び回れたらいいなーって思ってたんだけど、あれよあれよとギルドマスターやらブレイズやらと面倒くさい立場に就いちゃってね」

「め、面倒、ですか」

「うん。しかも実のところ両ギルドなんて最近のごたごたのせいで今にも解体しちゃいそうなくらい安定してないし、ブレイズなんて皇帝暗殺でしょ? まぁとにかく面倒なことには変わらないわけなんだ」


いや、面倒って問題じゃねええぇぇぇ!!
いくらなんでも責任感なさすぎですご主人様。


「それでちょっとシロディール滅亡のことは置いといてギルドの話をするんだけど」

「いや、優先事項が」

「それでね」

「聞けよ」


私の言葉なんて聞かずにべらべら喋り始めたご主人様だったんだけど、その話の内容は深刻そうでその実あまりにぶっ飛んだ話だった。
とりあえずご主人様の優先事項って冒険、ギルド、世界平和の順になってるらしくて……いや、まだ突っ込んじゃいけない。
とにかくいくら面倒くさがりのご主人様とはいえ、シロディールに来た頃からお世話になった魔術師ギルドと戦士ギルドには恩を感じているらしく、どうにかして再建の兆しまでは漕ぎ着けたいそうだ。
ちなみになんで皇帝暗殺云々とかに消極的かっていうと……。


「いやさぁ、俺も最初は帝都について一花咲かせるぞって思ったんだけど、ふと立ち寄った店で店内に落ちていた展示品を拾っただけでスタァァァァァァップとか言われてさぁ」

「…………」

「こっちは善意で拾ってやったのに衛兵から強引に牢屋へ叩き込まれてね。しかもそこであの皇帝のじじいに会うし、勝手に世界存続の危機に巻き込まれるしさぁ。俺としてはさっさと帝都なんか滅んじゃえって思ってるんだよね」


だ、そうだ。
……すごいわよね。ご主人様ってば。
シロディール滅んだらギルドとか関係ないじゃん。

だからご主人様が優先するのって自分が冒険するのとギルドの再建だそうで。
でもってギルドの運営はオレインさんとボラスさんて人に任せているらしくて、ご主人様が担当してるのは主に資金面ってことらしい。
けど資金ていったってたかだか一人の人間が集めることの出来る金なんてギルドを動かすには値しないだろうに。

そこでご主人様が目をつけたのが昨今のシロディールを騒がせて『いた』オブリビオンの門。
過去形になっちゃってるのは、ボーラスさんと話してた通りにご主人様がフルボッコにしてるからだって。
だったらさっさと世界を救ってからギルド再建に取り掛かればいいのに、って思ってるんだけどこれこそがご主人様が変人って言われる証だった。


「オブリビオンの中ってさーもう、タムリエルでは見られないような文化やら物資やらで溢れててさ。お金っていう面で考えるともの凄い価値がある場所なんだよね」

「世界平和は……?」

「もう植物なんて新たな錬金術の発展が見込めそうなものばっかりだし、掘り起こせる鉱物はレアメタルばっかだし、立ってる塔の建築様式なんてそれこそ見たことないようなものばっかりだしさ」

「世界平和は?」

「最初はシロディール内の遺跡品とかを金に替えてたんだけど、さすがに罰当たりすぎるかなって思ったからね」

「世界平和は!?」


もう目をキラキラさせながら語ってゆくご主人様なんだけど、これ絶対にギルド云々とか考えてないよね?
もうこの人自分が冒険したいから適当に理由つけてるだけだよね?
すでにご主人様を見る私の目はこれ以上ないくらい濁っていたに違いない。


「だからもうちょっと深遠の暁には頑張ってもらおうかなぁって。だけどさっきのボーラスとか帝都側がうるさくってさぁ。こっちはちゃんとバランスが保てるように調整してるのにねー」

「ねー、じゃねぇよ」

「まぁ、そんなこんなで世界を回ってるんだけど、どうしても一人じゃ難しくってね」


んなもんギルドの連中に頼めばいいじゃないですか。
もはや私の言葉なんて意図的に無視し始めたご主人様は、その眩いばかりの光を湛えていた瞳をこちらへ向けた。
その瞳にはさっきみたいに冒険に胸躍らせた少年のような光はなくて。
っていうか……あれ? なんか、寒気が。


「資金面調達に減少したギルドの連中を使うわけにはいかないしさぁ、帝都の連中は当てにならないし、シロディール在住の人間だとどうしても不安とかが募っちゃって使い物にならないんだよね」

「あの、ご主人様?」

「今のところ俺に向かってくる人間は確かに少ないけど、無駄に身内を使って弱みを作られるわけにもいかないし」

「……すみません。実家の母が危篤らしいので……」


もうこれ絶対やばい。
早く逃げろ、ここが日常と非日常を分ける境目だ。
この悪魔に足を引きずりこまれるぞ。
誰だ、このご主人様のことを優しいなんて言ってたのは。
真っ黒じゃねーかっ!!





「いやーホントいい人材に会えてよかったよ」





そうにっこりと笑うご主人様を背後に、私は荷物を置いてある地下室へと足を向けた。





「一応待遇はシロディールの中でも一番の待遇にするからさー。俺の持ってるエンチャント技術とかあれば、門の中に放り込んでも傷一つ付かないし」





悪魔のような、それこそ話に出た大根なんかよりも遥かに恐ろしく優しげのある声が背後で聞こえていて。





「まぁ、ここまで話したらどっちにしろ逃がせないけど」





その言葉と共に私の冷えに冷えた二の腕はがっちりと掴まれてしまったわけで。





「一蓮托生ってことで。よろしくね、メイドさん」





とりあえず私はこれ以上ないくらい力を込めて、その満面の笑顔をぶん殴ってやった。



























<あとがき>


なーんかそれっぽい理由付けたけど、こんなん適当です。
オブリビオンというゲームは「ぼくのかんがえたしゅじんこう」どころか「ぼくのかんがえたおぶりびおん」まで出来る自由度が魅力的。
もちろん、あまりにやりすぎれば拒否反応が出る読者の方がいるのも当たり前。そこらへんのさじ加減が気になるようでしたら感想の方でご指摘頂ければ幸いです。
作者の欲望と読者の意見を踏まえた上で……やっぱり作者の欲望が9割示すようなSSにしていけたらなと思います。
結局自己満足ですし。更新もこれからはのろのろし始めますが、これからもどうぞよろしくお願いします。
次回から常識崩壊編。





オリジナルクラス 『傅く者』
専門スキル 隠術
メジャースキル 運動 格闘 変性 幻惑 軽業 軽装 話術



速度、魅力特化のキャラになってしまった……。





[14056] 第8話 「メイドとオブリビオン ~常識崩壊編~」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:11d3fa3f
Date: 2009/11/24 20:21


結局逃げ場を失ってしまった私だが、だからといって不貞腐れていても仕方がない。
いや、三日間くらいベッドの中で涙を流し続けたり、ご飯を要求されるたびにあの忌まわしい優顔にスイカを投げつけてはいたけど。
でもそんな泣き寝入るような真似は私の柄でもないし、このまま腹黒ご主人様の言いなりってのも気に食わない。
もはやご主人様への敬意なんて一欠けらも無くなってしまった私だけど、これからも強かに生きていかねばならなきゃ。
……誰かこんなに早く立ち直った私を褒めてくれないでしょうか。

まぁ巻き込まれた、とは言うものの逆にこのシロディールにおける騒乱の実状を知ることも出来たし、先が見えているっていうのも心強い。
そしてある意味私の生活やら行動においては、この最強ご主人様がバックに付いてるってんだからこれ以上の安心はないはずだ。
ぐふふ、こっちこそ利用してくれるわ! 人としての一線は越えないつもりだけどね。

んでもってご主人様の手足にさせられると言われてまずしなきゃならないってったら……実はこれといって言われるようなことはなかった。
一応ご主人様の敵と言われるデイゴン(元、大根)とかにおけるデイドラ関連の知識は頭に叩き込まれたけど。
オブリビオンってのはタムリエルとは別次元の世界のこと。デイドラってのはそこに住む生き物のこと。
ちなみにデイゴンはオブリビオンの一部を治めるデイドラの王子であり……ってここらへんからはどうでもいい話なので割愛。
シロディールの各土地が力を持った伯爵の手によって治められているように、オブリビオンも幾人かのデイドラ・プリンス達によって治められているって感じ。
今回のシロディールにおける騒動は、そのデイゴンが自分の配下を引き連れてシロディールに侵攻しようとしているのが大本だって話だ。

で、一応深遠の暁を率いているのがマンカー・キャモランって奴らしい。
何を思ってただの人間がデイゴンと結託してシロディールを滅ぼさんとしているかは、そりゃ本人に聞かなきゃ分からないけども、その心情を理解することは無理だと思っていいだろう。
そもそも神とかデイドラとか……そんな別次元にいるもののことなんて理解できるはずもないっての。
でも聞いた話じゃデイゴンは破壊とか革新だとか直接的なものを司るデイドラらしく、そんな奴と結託するなんてさすがに世界のためにーってわけじゃなさそうだ。

ちなみにシロディールではデイドラに関する信仰は基本的に自由みたい。
信者の彼らは森の奥深くか山の頂上に自分の崇めるデイドラの石像を作っては、デイドラ談義を醸し出したり一心不乱に祈ってみたりしているそうな。

まぁそんな狂信者が目下我々の敵なんだけど、どう見てもご主人様の敵じゃないみたいね。
まるで意に介していないっていうスタンスを取っているのもまた……むしろ食い物にしてるし。
長くご高説頂いたものの「デイドラも大変なんだよ」ってどこか自分がデイドラかのように呟くご主人様が印象的だった。

で、朝から日が暮れるくらいにいろいろな話をしてくれたご主人様は、一息つくとなんの脈絡もなく言い放ったのだ。


「じゃあオブリビオン行こうか」


ばーか。



















視界に入る全てのものは血の様に染まった赤の空によって食い潰され、瞬きを忘れてしまえばすぐにでも目が解け落ちてしまいそう。
タムリエルではエメラルドグリーン一色に染まったかもしれない海も、オブリビオンでは地獄の釜のような溶岩が煮えたぎるばかり。
雑草のように生え散らかっている草花のそれも、シロディールで見れるそれらと比べ随分と禍々しい。
申し訳程度に続く道の途中には、生贄だったのか、裸体を晒した人の無残な姿が道端の石ころのように転がっている。
こんな世界が今もシロディールを埋め尽くさんと迫る。
まともな人の思考には恐怖しか植えつけない、それこそ異常な光景。

メエルーンズ・デイゴンが領地、破壊のオブリビオン。

確かにここは、人がその生を持って否定すべき地獄の地だ。

そう、地獄の地なのだ。

地獄の……地獄の…………。


「それではこれからオブリビオン体験学習を始めます」

「うおらあああぁぁぁぁ!!!」


未だメイド服のスカート姿にも関わらず、構え、脱力、踏み込み、インパクトの順を持って放たれる私の回し蹴り。
しかし鉄をも凹ませる勢いを持って放たれたその攻撃は、ご主人様の纏う特別製ミスリル装備には何の意味も齎さなかった!


「まぁ、そう異次元の世界を見れたからってはしゃがないでよ」

「はしゃいでなんかないですっ! 馬鹿か!? 馬鹿なんですか!?」

「まぁその気持ち分かるけどね」

「耳付いてるんですか?」


もうこの人でなしをすぐそこの溶岩の海へ叩き込みたくて仕方がない。
ちょっと私の慈愛に満ち溢れていた日々を見てくれていた九大神の神様、聞いてくれますか?
この男、いきなり何をトチ狂ってんだと唖然顔になった私に向けて麻痺魔法をぶっ放しやがったんですよ!?
しかもそのまま人攫いのように私を担ぎ上げ、スキングラードの外へGO!
もうガックンガックン揺らされながら朦朧とする意識の中で見えたのは燃えるような真っ赤な門。
「あー、これがオブリビオンの門かー」なんて思ってたら、この馬鹿ご主人様、飄々としながら突入しやがった。
あぁ、多分この人がデイゴンなんじゃねーですか……誰か、誰かこの男を……。


「感動で咽び泣く気持ちも分かるよ、うん」

「ちょっと黙っててくださいご主人様。今現実逃避の真っ最中なんで」


腰に両手を当てたまま、どうだってばかりに胸を張るご主人様。
もうこっちなんか地面に両手をつけたままうな垂れる有様ですよ……。
あ、地面が暖かいです。


「にしても今の回し蹴りすごいねー。格闘でもやってたの?」

「戦力の把握もせずに引きずり込んだんですか」


勇猛と猪突の境目をふらつきながら結局猪突でいくご主人様の疑問には、ごく当然の指摘を。
いくらあなたじゃここは楽園でも、私にとっては地獄の一丁目です。一丁目って何だ。
……まぁご主人様の疑問どおり、ちょっとくらいなら格闘に自身はある。
ていうかシロディールに身一つで来たっていうんだから、少しくらいは護身の心得がなくちゃすぐに屍さらすことになるっておじいちゃんが言ってたしね。
剣とか斧とかは重量の関係で持てないし、弓矢とかも才能がなくてアレだったけど、こと格闘とナイフの扱いについてはそれなりに自負があるってもんよ。
……なんか傾向が暗殺者みたいね。ナイフよりも包丁持ってた方が楽しいけど! アハハハハハ!


「でも軽めの手甲もないですし、人一人切れるようなナイフなんて持ってないですよ?」

「はい」


そういってご主人様がどこかから取り出したのは、ご主人様のそれとよく似た手甲と足甲。
どっから取り出した。
まぁ疑問はともかく、有難く頂戴したそれはご主人様のミスリル製よりも軽め薄めに作られたような超軽装防具。
……まさか事前に用意したんじゃないでしょうね?


「し、しかし相手がデイドラの類だと言うならば、私の力など」

「困ったときのエンチャント」


せっかく渾身の反論をしてやったというのに、このご主人様の笑みは崩せない。
ていうかやっぱり血生臭いこととか私にもやらせるんだ……もうこれメイドっていうかただの奴隷じゃね?
もう胸が陥没するくらい肺の中の空気を吐き出してため息に変えた私は、しょうがなくその防具を取り付けることにした。
あん? 誰の胸が陥没してるって? ……大丈夫、私は落ち着いてる。















場面転換。


「その植物危ないから気をつけてね」

「……絡め取られてから言われても困ります」





また場面転換。


「その植物毒ガス吐くから」

「お前採取させようとしただろ」





さらに場面転換。


「ご主人様! 炎の玉がっ!!」

「打ち返すんだ」






しつこく場面転換。


「あれ、何ですか? あのトカゲみたいなの」

「あぁ爪のことね。名前は覚えてないけど」






飽きずに場面転換。


「ワニはいらないね……そぉい!!」

「溶岩の中にデイドラを投げ込んでる件について」






いい加減に場面転換。


「地雷見っけ」

「回収すんな」


















もはや生死を懸けた戦いというより、本当に体験学習をしているってどういうこと?
そりゃ私の視界に入る光景はどっからどう見ても地獄そのものなんだけど、このどこまでもボケたご主人様のせいでどこかがおかしい。
ご主人様の背負ったズタ袋なんて戦利品やら採取品やらでパンパンになってるし、私はこれといった戦闘にも参加してないし。

でも襲ってくる化け物はやっぱり怖い。
人の姿を取っていても憤怒の表情を貼り付け、見たこともないような赤黒い鎧を装備し人語を解する化け物、ドレモラ。
炎を放ってくるインプと人間を組み合わせたような異形、スキャンプ。
私の拳なんか絶対に通らなそうな鋼の鱗を纏ったトカゲやワニのような巨大な化け物、爪とワニ。

どれもこれもがご主人様から貰った防具がなきゃ、私なんて一瞬にしてただの肉塊に変えられてしまうのは間違いないのだろう。
まぁその化け物の多くがご主人様の姿を見るなり、逃げ腰になるのがなんかシュールだけど。
どっちにせよただの人間の私にとっては、ご主人様に軽口で反論するくらいでしか気を紛らわせる方法がない。
今回私たちが出会ったデイドラたちはどうも弱い部類に入るらしいけど、私の足を震わせるには十分だと思う。
……泣き出さないだけ、立派だよね?


「よーし、塔まで付いたね。これ凄いと思わない? どうやって作るんだろうね。見たこともない歯車式の大きい門もあるしさー」

「私としては一刻も早く帰りたいのですが」


相変わらずワクワクという言葉が似合う表情だけが、この地獄において『普通』を表わしているようで。
むしろ私が一番此処では普通をやっているのになって思ったけど、その表情にちょっと……ほんのちょっとだけ安心してしまうのは何故なんだろうか。
なんかご主人様のその行動全てがとても卑怯に思えた。


「ん? どうしたの?」

「……いえ、別に」


あー……もう、ホント腹立つ!!
この人がこんなふざけた場所に連れてきた張本人だってのに、頼るのがこの人しかいないってホンット腹立つ!
もうさっさと帰りたい! クロイチゴ食べたい!


「ならいいけどね。んじゃちょっと制圧しに行こうか」

「制圧と探検を一緒にするのはどうかと」

「一緒みたいなものだよ」


やっぱりその笑顔が崩れないご主人様は卑怯だ。
まぁ、とりあえずは此処にいる限り守ってもらおう。
塔の入り口に入るなり、門番をしていたドレモラさんの目下に光る何かが浮かんでいたのは忘れるとして。

















<あとがき>

最初にオブリビオン見たときは気持ち悪かったなぁ……。
クヴァッチ開放がメイン無視の影響で鬼門になるのはデフォ。


『クロイチゴ』
・スタミナ 回復
・電撃耐性 アップ
・上昇 持久力
・マジカ 回復


いろいろと修正。
んー……深いね、オブリビオンって。



[14056] 第9話 「メイドと印石」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:11d3fa3f
Date: 2009/11/25 17:01





ご主人様ってば基本的に武器は持たない。というか私の目の前で戦っているのは今回が初めてだからそうも言えないんだけど。
といっても持ってないと言っているだけで使わないというわけではない。
ちょっと混乱する言い方だけど、これはご主人様に限った話ではないのよね。
おそらくは魔術師の人たちにもこういうことは言えるかもしれないし。

話の正体は『武具の召喚』っていう魔法。魔術師の間じゃそんなに高度な魔法でもないみたい。
別に難しい魔法じゃなくて、マジカを消費することによって魔力で編まれた防具武具を召喚する魔法なんだけどご主人様はこれを戦闘に用いる。
魔術云々はご主人様の口から語られたものばっかりだから、ちょっとばかり魔術師の常識と照らし合わせる必要がありそうな気もするけどね。

でもその召喚された武具って普通のものより頑丈で質がいいだけで、何かしらのエンチャントが付いてるってわけでもないみたい。
まぁ……普通は1分くらいで消えてしまう召喚武器がいつまで経っても消えなかったり、それでデイドラたちをボッコボコにしてるご主人様はやっぱり異常なんだろうけど。
なんにせよ重たい武器を背負う手間を考えるとそっちの方が楽なのだそうで。


「エンチャント武器使うほどの敵もいないしねー」


とはご主人様の言葉。
なんとも頼もしい話で、と半ば投げやりになっちゃったんだけどいちいち驚いていたら気が持たないし。
ちなみに武具云々の話をしたけど、ご主人様が放った雷撃魔法がデイドラをバラッバラにしてたのはここだけの話。
ミスリルフルメイルの癖に主力にしているのは破壊魔法だったらしい。
誤射されないことを切に祈る。

















「これ、何なんです?」

「んーこれは未だ予想の域を超えてないんだけどね」


オブリビオンの中にあった馬鹿でかい塔を目指して爆進してきたわけなんだけど、そこに近づけば近づくほどにその高さを思い知る。
シロディールの中心とも言える帝都の建物とかはまだ見たことがないけど、おそらくそこにあるどんな建物よりも大きいんじゃないかしら。
といっても外壁は赤黒のごつごつした岩肌ようなものだし、外見も刺々しいオブジェクトがあったりでそこに美的感覚を要求することはできなさそう。
こんなんが家の隣に立ってたらすぐに逃げ出したくなるもの。

でもって中に入ってみればこれまた暗いのなんのって。
デイドラたちってなんでこんな不気味で気味の悪い内装なのかしらって思ったんだけど、ご主人様の話じゃ全部がこんなおどろおどろしいものじゃないみたい。
オブリビオンの中ってそこを治めるデイドラ・プリンスの傾向がほどよく反映されるんだとか。
世界に反映……ってねぇ。やっぱり別次元のお話だ。


「炎が……上に、ですよね?」

「うん。この世界をタムリエルに繋げるためのエネルギーなのか、頂上にある印石に直結してるんだよ」


暗がりの中でもその塔の中心を貫く真っ赤な炎。
弱まる気配さえ微塵も見せずに上へ上へと昇っていくその様は不思議、と言う他ないもので。
私の見る限りじゃただ塔の真ん中を炎が頂上へ昇っていくようにしか見えないんだけど、ご主人様はこれにエネルギーやら門やらと詳しいようで。
ま、世界の仕組みなんかよりも今この瞬間の自分の命の安全の方が私にとっては重要だ。
でもちょっとだけ気になることがある。


「印石ってどんなものなんですか?」

「あ、やっぱり興味ある? そりゃそうだよね。この世界を」

「そういうことではなくてですね」


ちょくちょく自分の体験談と感動を押し付けるのは勘弁してください。ご主人様が特殊すぎるだけなんで。
でも私の言葉にご主人様はちょっと機嫌が悪くなったようで、不愉快そうに眉が垂れ下がってしまった。
やばっ、ちょっと調子に乗りすぎたかも。


「あの、その印石には興味があるもので、つい」

「そういうことにしておいてあげる」


ここでご主人様にへそを曲げられちゃ私の生存率が軒並み下がってしまうので注意せねば。
で、私が印石について何が聞きたかったっていうと別にこの世界の成り立ちがどうのってことじゃない。
それを奪えばこのオブリビオンはタムリエルから離されるらしいけど、そんな平和的な目的で印石を集めているんじゃ絶対ないし。
その印石が何の役に立つのか、ってことが聞きたいのだ。


「エンチャントの仕組みって分かる?」

「魔法生物や野生モンスターの魂を魔法の形態に変化させ、その効力を武具に付加する、でしたか?」

「だいたい合ってる。まぁ魂っていうよりも霊力ってほうが一般的かな」


確かご主人様の蔵書にあった本の中にそんなことが書いてあったような、なかったような。
どちらにせよこの人のメイドをするにあたり、エンチャント関係の知識はどれだけ合っても無駄にはならないだろう。たぶん。


「どうやらその霊力が込められた魂石と似たような傾向が印石にはあるみたい」

「ということは印石にも?」

「おそらくはね。たぶん世界を繋ぎ止めるっていうんだからそれなりに濃密な……おそらくは人間の魂とか。一人二人じゃ決してないだろうさ」


うぁー……じゃあ道中に見せ付けるように転がってた人間のそれってその成れの果て?
ご主人様の様子から世界滅亡なんて、って侮っていた感じもあったけどやっぱりそのキャモランって外道なんだ。
いや、デイゴンが命じている可能性もあるけど。
ということはご主人様はその強力な印石をエンチャントに活用するってわけね。
なんだか危険そうな気がしないでもない。


「でも実際生贄って深遠の暁信者から出てるらしいんだよね。たまーに分塔みたいなところの頂上に嬉しそうな顔で死んでる信者とかいたもん」

「……狂ってますね」

「いいんじゃない? 余計な犠牲者は出ないし、俺は此処に来れるし、信者は減るし。いいこと尽くめだね?」


あぁ、はい、それでいいです。もう。
結局は何もかもが不透明なままだけど、ご主人様の目的は変わらないようで。
なんかシビアな世界のはずなのに、どうにも間抜けに思えてきてるなぁ、私。
誰が一番間抜けなのかって話は置いておくことにして。

とりあえず私は、手に持ったメイスをぶんぶん振り回して威嚇するご主人様の後ろにこそこそとついて行くことにした。

















酷い話だよね。何が、とは言わないけど。

首が痛くなるほど見上げる高さの塔を登るっていうのは存外きつい。
頂上へ行くための道なんて階段一つ見当たらない急な傾斜が螺旋状に続くだけ。
お年寄りや子供を尊重しない作りじゃ、人も寄り付かないよ? いや、人なんて来ないけど。
ステップ混じりで飛び跳ねるように駆け上っていくご主人様の後ろを、私はゼーハーゼーハー言いながらついて行ったわけなのですよ。

もちろんその道中に襲い掛かってくるデイドラたちはたくさんいた。
でもちょっと目を放した隙に急な傾斜の道をさっきまで襲い掛かってきたデイドラの撲殺死体が転がってくるっていうんだから、何回腰を抜かしそうになったことか。
即死? 瞬殺? なんでもいいけどご主人様とデイドラの戦いはかねがねそんな感じで進んでいた。

ちなみご主人様といえば武具の回収とかがどうしても連想されちゃうんだけど、ドレモラの武器などはよっぽどのことがないと回収しないらしい。
なんでもデイゴンのオブリビオンにある武器関連のものはあまり質がよくないらしい。
施されたエンチャントもエグイ効果ばかりらしくて、時にローブを来たドレモラさんの持ってる指輪やネックレスを奪うくらい。
一応おしゃれする気はあったのね、ドレモラさんって。

にしてもここまでご主人様の無敵っぷりが披露されると、こちらとしてはデイドラ側に申し訳ない気がしてくるわけで。
もはや特攻部隊と差し支えない勢いで向かってくる敵に対して、飄々としながら塔の仕掛けのギロチンを起動させるご主人様。
なんでその罠を知ってるんですか?
急激に破壊魔法を際限なく放ち始めれば、傍にあったマジカの噴水と言われる場所から失ったマジカを補給する始末。
「俺ってマジカ回復しないからさー」なんて笑いながら言われてもこっちとしては苦笑いするしか出ないです。

ああ……こうやって毎朝血に塗れながら帰ってきてたんだな、としみじみ思う今日この頃。


「こ、ここは通さんぞっ! シェ……」

「うるさい」


ああ、また一人哀れなドレモラさんが挽肉にされてしまった。
おそらくは印石を守る最後の砦であったろう敵をたった一言の下、倒してしまったご主人様は一息つくと持っていたメイスを消した。
黄色の靄がかかったようにご主人様の右手の中で霧散していく召喚武具。
ってことはもうここが頂上ってことでいいのかしら。
はっきり言ってご主人様の後をついて行くのが大変で、周りなんか見てられないし、どこまで登ったのかも実感がない。
うぇっ……吐くかも。


「ほら、これが印石」

「う、は、はい?」


膝に手を当てていかにも苦しそうっていう雰囲気を醸し出している私に、ご主人様はふと目の前を指差した。

そこにあったのは丸いナニカ。
遥か下から登ってきた燃え盛る炎を全身に受けながらも、その球体はどこまでも黒く、薄く張った緑の光が霧のようにかかっている。
低く唸るような轟音を立てながらも燃え尽きることなく、不自然な鼓動を鳴らすこの球体が印石。
……だ、そうだが。


「じゃあ、これで、帰れるんですね!?」

「……感想がそれ?」


印石? もう知らねぇよそんなもん。
こんなわけのわかんない場所に連れてきて、従順なメイドに修羅場を潜らせて、そしてその最後の目的がこの石っころ?
早く家に帰せ。


「あの、すみ、ません。ホント、限界なんで」

「うーん、やっぱり辛かったかな?」


当たり前だろーがっ!!
今にも叫びたかったけどそんな気力もなく、力なく地面に座り込むばかり。
さきほど倒されたドレモラさんの視線が、どことなく可哀想な人を見る目でこちらを見ていた。
あぁ、やっぱりあなたもそう思いますか……。
確かに私はこの地獄の中でかけがえのない友を見つけたのだ。相手死んでるけど。


「しょうがないなぁ。それじゃさっさと回収するね」

「もう、早く……」


朦朧とする視界の先で、ご主人様はその燃え盛る炎の中に何の躊躇もせず手を入れた。
熱くないのか、なんて疑問が浮かび上がる間にご主人様が引っ込めた手の中には真っ黒な印石が既に納まっていた。
そこまではなんとか見て取れたけど、徐々に暗くなっていく私の意識は最後まで保てなかったようで。

最後に見れたのは燃え盛る炎をバックににっこりと微笑むご主人様の姿だけ。


「お疲れ様」


なんだか口の動きがそう見て取れたのは、たぶん私の妄想だったんだろう。

















<あとがき>

なんだかつまらない感じになった。
オブリビオンの門の中って4、5度目になるとつまらなく感じてしまう。
設定は捏造多し。きちんとした設定が存在する場合はお手数ですが感想にてご一報くだされば幸い。
ネタとしてどこまでうやむやにしていいやら。
資料多すぎやー。



『超越の印石』
負担  100pts 20sec 
軽量化 125pts



[14056] 第10話 「メイドと夢」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:11d3fa3f
Date: 2009/11/26 17:50



夢ってすごく便利だと思う。
ありえないシチュエーション、完璧な自分、思い通りになる未来。
そりゃ毎回眠りに入る度に夢を見ることはできないし、時には寝覚めの悪い夢だって見ることもある。
だけどそれも全部目が覚めてしまえば終わってしまい、記憶に深く残ることもないとても都合のいい世界。
大体はいいところで目が覚めてしまうっていうのがよくあることなんだけどね。

日常が地獄の私としては、夜になる度にせめていい夢をなんて願っちゃったりしてたりする。
ご主人様の蔵書の中に幻覚魔法がどうのっていうのがあったけど、そんなことで得られる夢は絶対楽しくはない。
幻覚と夢。別にそう変わりはないのかもしれないのにね。
なんだか強制的に見せられるのと、自然に見るものじゃやっぱり自然の方がいいと思ってしまう。

そういえば夢を見ているうちに、そこは夢の世界だったんだって理解することってあるのかしら。
大体は目が覚めてから、あれは夢だったんだって理解することが多いからね。むぅ……夢の内容をちゃんと覚えておければいいのに。


「って私は思うわけなんですよ、ミルナさん!」

「う、うむ……我も同感だ」


どうやら私の鬼気迫る持論に心から賛同した様子ではないようで。
そんな世辞で騙されるほど私は軽くはありませんよ、ミルナさん。

















私とミルナさんが向かい合って話しているのは真っ暗な空間。
真っ暗、っていうよりも絵の具の黒を一面にぶちまけたような感じ。
明かり一つ遠目に見ることも出来ず、それでも私とミルナさんの姿はその輪郭が切り取られたようにしっかり見える。
ちなみにミルナさんの姿は教会のシスターに見られるような聖堂服からフードを取っ払った感じ。
腰まで垂れた漆黒の髪はポニーテールのように纏められ、お顔は絶世の凛凛しい美女って感じで、この黒の空間の中で輝くそれはまるで夜空の――――ってポエムっぽくする意味もないわね。
まぁとにかく綺麗なおねえさんってな感じで、もうよしよしって撫でてもらいたくなるくらいだ。

で、ここはどこかっていうとこれまた驚いたことに私の夢の中らしい。
本来であればそのあまりに馬鹿馬鹿しい話を鼻で笑ってやるところなのに、ミルナさんの口から出たその事実は私の胸の中をストンと落ちて行った。
んー……いくら非常識ご主人様の傍にいるからって、自分だけは常識人だと思っていた手前なんとも悲しいものだ。

しかーし、ここで私はへこたれる女じゃない。
此処が夢の中だって言うのなら何をしようが私の勝手であり、それもすぐに忘れるということだ。
ならば私が常に望んでいたこととは――――。


「どう思います!? いたいけな女性をオブリビオンの中まで誘拐して探検ごっこするって! 馬鹿ですよね!?」

「その、だな……」

「分かってます、わかってますよミルナさん! 女性としてそんな男には天罰を与えるべきですよね!? っていうか人間として天罰を与えるべきです!」


愚痴らせてくれ。
これが今の私が願うたった一つのことだった。
いやだってさ、もう私の苦労を感じてくれる人っていないのよ?
隣のアグメットさんは元々頭痛持ちで相談なんかできないし、ガンダーなんて聞き流す程度だし、ヤラクさんにはそんなことできないし。
あれ? 私ってあんまり知り合いいないの? ……へこむわぁ。

だったらこの夢の中でくらい愚痴らせてくれたっていいよね?
ていうか夢の世界だって理解できるのって珍しいい気がする。普通だったら目が覚めてからあれは夢だったって気づくもの。
ということは夢の中にまで求めるくらい私は愚痴る場所を求めていたってわけだ! そうに違いない。
だったら目の前で笑うミルナさんが包容力100%配合の綺麗なおねえさんになるのも納得だ。


「ううぅ……ミルナさぁん……ミルナさんだけが私の味方です……」

「……というよりもこの世界が我の世界でな……」


もう何言ってるかわかりませんけど、今だけは泣かせてください。
あぁ、ミルナさんあったかいわぁ……腰に抱きついた私をミルナさんは愛でる様にして柔らかく撫でてくれる。
なんで此処がいつかは覚めてしまう夢の中なのか残念すぎる。
でもまたこんな夢がまた見れたら私も頑張れるかもしれない。
夢の世界を愚痴り部屋にするってのもあれだけど。


「む……少女よ。そろそろお前の世界に帰りたまえ」

「……ていうことは一応私も生きてるんですね」


笑顔の陰に残念そうな感情を込めながらミルナさんは呟いた。
正直な話ここが夢の世界っていうのは嘘で実は天国なんじゃないかっていう考えもあったんだけどね。
たぶん私はあの印石を取った後に気絶したんだろうし、それから無事に帰れなかったっていう可能性もなくはない。
本当だったら真っ暗な空間は地獄を連想させるかもしれないけど、私が地獄に行くなんてあり得ないはずだ。
だってこんなに頑張ってるもの。うん、頑張ってるもの。


「また、ミルナさんに会えますか?」

「夢であれ、悪夢であれ、お前が我が庭に訪れる時は祝福しよう」


夢なんだとわかっている癖に、どっかの芝居でもありそうなくさいセリフ。
いや、夢だとわかっているからこそ私は何一つ誤魔化すことなく願った。
不安そうに見上げた私の顔を、その頬を撫でながらやっぱりミルナさんは笑ってくれる。
ミルナさんの手はその笑顔に似合わずびっくりするくらい冷たかったけど、なんだか心地がよかった。


「しかし、お前の主にも困ったものだな」


出てきたのは今は思い出したくないご主人様の話。
いや、別に嫌ってるわけじゃないけど今だけは勘弁して欲しいなぁ。
でも徐々に薄くなっていく視界からは確かに現実からの足音が聞こえてきそうで。
もうちょっとだけって後ろ髪引かれる思いもあるのだけど、まだ無事に生きているっていうのなら私の仕事はご主人様に仕えることには違いない。

苦笑したミルナさんの表情を最後に、私は完全にその意識を閉じた。
夢で気を失うって変な感じね。












――――我が世界を愚痴の部屋とするとは――――




                      ――――新たな狂気の王子と似て剛胆な者だ――――




   ――――彼奴の従者を名乗るというのなら――――



                                 ――――良き悪夢に呑まれることもあるまい――――
















…………身体が痛い。
足はまるで棒のように張って少したりとも動かせないし、腕も重しを乗せてあるかのようにピクリとも動かない。
腹筋に力を入れようと思えば激痛が走るし、唯一自由に動かすことができるのは首から上くらい。
ここまで身体中が筋肉痛で苛まされるなんて、おじいちゃんに格闘術の初歩を教えてもらってから何年ぶりかってレベル。
メイドになってからも運動関連は欠かしたことはなかったのになぁ。

目が覚めればそこはいつも私が使っていた地下室の天井が見えていて。
それを見た瞬間、無事に帰れたんだってすぐに自分の状況を理解してちょっとだけ涙を流してしまった。
といってもすぐに体中を走った激痛でそんな涙引っ込んじゃったけどね。
おそらく、というか考えるまでもなくあの後ご主人様によって私はここまで運び込まれたのであろう。
よくよく考えればただの小娘がよくあそこまでついて行ったものだと拍手を送りたいくらいだ。

ていうかなんか変な夢を見ていたんだけど気のせいかしら……?
首を捻っては思い出してみるものの、目を覚ましてすぐっていうのに見たはずの夢は全く思い出せなかった。




でもって一階に行くこともできずにベッドの中で蠢くこと数分。一階から降りてくる誰かの足音が聞こえてきた。
まぁご主人様なんだろうけど。
大きくなる足音が私の近くで泊まり、ゆっくりとその方を向けば、いつものご主人様の姿があった。


「起きた?」

「つい先ほど」


確認の会話は短く。
心配はしてくれたのか一つ息を吐いてご主人様は近くにあった椅子に腰を下ろした。
ていうかご主人様が気絶した私をここまで運んでくれたのよね?
むぅ……どう考えてもご主人様のせいだけど一応礼は言っておく。


「あの、ありがとうございます」

「何が?」

「ここまで運んで頂いたことです」

「……どういたしまして」


ここは「俺が悪かったんだし」くらい言えよ。くそー、その崩れない笑みが憎たらしい。
それにしてもこの身体じゃメイドとしての仕事なんてできそうもないんだけど、どうしよう。この痛みじゃ1、2日で引くようなものでもなさそうだし。
なんて不安をよそに、ご主人様は一本の薬瓶をベッド脇にある小さいテーブルに置いた。
紫色の綺麗なガラス瓶の中には当然のごとく液体が入っているようで、置いた衝撃に中身がゆらゆらと揺れていた。
なんだろ、これ。


「え、っと……」

「俺特製の疲労回復薬。材料はハム、オニユリの花蜜、クロイチゴ、シュタケの黄色いかさ」

「…………」


何そのゲテモノ。ハムって何。
普通薬の中身とかって飲ませる人に言う必要ないんじゃない? ただ身体にいいですって渡せばいいじゃん!
というかクロイチゴ? そんなもんハムと混ぜるなんて……そこに直れっご主人様!
ひょっとしたら殺気まで混ざっていたかもしれない視線を送るも、ご主人様は逆に胸を張っているようで。
何だ、この薬の自慢でもしたいのか。


「今日一日は無理だけど明日には動けるようになるよ。味も一応調整しておいたから。良薬口に旨し、って薬だね」

「……ありがとうございます」


どう調整したっておいしくなさそうだけど、私のために作ってくれたっていうのは揺るがない事実。
不満はあったけど、頭を下げることもできない私は感謝の言葉を言うだけ。
なんだかんだ言ってオブリビオンの中でもずっと守ってくれたし、こうやって気遣ってくれるし、こっちがイライラしても馬鹿みたいだ。


「んじゃ、これからの話とかはまた明日にでもするから。今日は俺も家にいるから、用があったら呼んでね」

「はい」


まるでご主人様と私が逆の立場になったような状況。
やっぱりやってることは非常識だけど、メイドの身分としてはこれ以上ない良待遇なんだなってふと再認識。
むむむ……声高に糾弾する機会を率先的に潰されているようで釈然としない。
ま、こう言ってくれるんならお言葉に甘えるとするか。甘えるしかできないしね。

結局その日は何もすることができなくて。ちょっと睡眠を取っては本を読んで、また寝ては本を読んで。
そんなことを繰り返しながら身体を休めていた。




ちなみに薬は死ぬほど不味かった。















<あとがき>

夢の中でミルナさん(仮)と話す。
この方、本来は老婆の姿をしているらしいですが、まぁ、そこはノリで。
夢よりか、悪夢の方が好きらしいですしねー。

もう神様とかにもギャグ補正とかつけ始めた件について。
TES世界に詳しい方、このSSを見ても怒らないでください。


『ご主人様特製疲労回復薬』
・スタミナ 回復
・持久力  回復
・持久力  上昇





[14056] 第11話 「メイドとお願い ~常識崩壊編・完~」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:11d3fa3f
Date: 2009/11/27 18:43





朝。
一日中ずっと寝ては起きての生活を過ごしたから感覚的にはっきりとはしてないが、時計を見るからには朝の八時。
此処が地下室じゃなかったのならまぶしい朝日で目が覚めるんだろうけど、あいにくここは地下一階。
薄暗い中、私は緩慢な動きで上半身を起こした。


「…………あれ?」


そう、緩慢ではあるが確かに私は身体を起こすことは出来たのだ。
どうやらご主人様から貰ったあのクソ不味い薬はその不味さに反比例して、身体の痛みを引かせてくれたらしい。おっと乙女が使う言葉じゃなかった。
というかあれでなんの効き目がなかったら、痛む身体を引き摺ってでもご主人様に一矢報いてやらねばならない。
……まぁ、直ったんなら感謝するけど。

暗がりの中で傍にあった蝋燭台を手探りで探し、そして火を付けた。
ぼうっとした明かりと共に照らされる地下室。
実のところこの地下室全部が私の私室ってわけじゃなくて物置と私の部屋を敷居で分けて折半している感じ。
だから部屋全体で見れば樽やチェスト、木箱が重なってあったりで女性が住むような所には到底みられない。
まぁ食料品の管理も一緒に出来るから都合がいいと言えばいいんだけどね。
ネズミや害虫一匹寄せ付けないような管理をしているから、部屋そのものとして見るにはひょっとしたら上の階より綺麗かもしれないし。
……ホントのところこの部屋に一番時間を掛けて掃除しているのは秘密。

一つ、ため息か欠伸か区別のつかないものしながら身体を力いっぱい伸ばした。
朝起きたら誰でも必ずやる行為も、昨日一日体が動かなかったせいもあって文字通り随分と骨がなる。
起きたばっかりだけど十分な睡眠は取っているので眠くはない。

だったら、私のやることはいつも通りに戻るわけだ。
それじゃ、メイドの仕事でも始めましょうか。
















一応看病(?)された手前元気なさそうに出て行くのは気が進まない、といつもより1、5倍増しで元気に挨拶をすればご主人様は一瞬驚いたような顔をした。
ぐふふ、理由はわからないけどなんかしてやったりでいい気分だ。
でもってそれからはいつもの日常……って思ってたんだけど、そういえば朝食の仕込みができていなかったことに気づいた。
そりゃ身体が動かせなかったって言ってもねぇ。
なんて幸先悪いスタートなんだって思ったけど、なんと朝食はご主人様が作ってくれてました。
昨日の薬の残りなんだか、ハムとトマトとレタスのサンドイッチ。
……まぁ、味はやっぱり私が作った方がおいしかったけどね。でもこれぞ男料理って感じに豪快大雑把に作られたサンドイッチは初めてだった。
オゥフ……量が多すぎです。ご主人様。

そういえばオブリビオン帰りということもあって……やだな、オブリビオン帰りって言葉。
とにかくそういうわけで洗濯物とかもそれなりに溜まっているのだ。
朝食後ちょっと遅い時間帯だけど洗濯をしようと思って外を見れば、その空は灰色の濃い曇天。
際限なく水の跳ねる音を遠くに聞けば、確かな雨。
どうやら今日は本格的にメイドの仕事がなくなってしまったみたい。
むぅ、掃除するにしても時間掛からないしなぁ。

まぁそんなこんなでどうやら今日は緩い一日を過ごせそうだった。
そういえば思い出したけど、これからの私のことについてもご主人様から話があるって言ってたしね。


(私が、このご主人様の陰謀に、かぁ……)


相変わらず家にいるときは本を読んでいるご主人様に目を向ける。
大体ご主人様がそうやっている場所は二階バルコニー入り口横にある、一階の食事場所を吹き抜けから見下ろせる踊り場。
私はもっぱらその食事場所に居座ることが多い。まぁここならすぐにご主人様の呼び掛けがあっても対応できるし。

見上げるようにしてその踊り場の手摺隙間からご主人様の顔を覗き見れば……まぁ別段普通の顔。
まったくいつになったら私の進退に関わる話をしてくれるのかしら。
呆れるように息を吐けば、ご主人様の視線が私と合った。
にっこりと笑って読んでいる本をパタンと閉じ、徐に私に向かって手招きをした。


「そろそろ話、する?」


待ってたっての。
とりあえず私は一礼した後、紅茶を入れてご主人様の下へ向かった。









「で、どこから話そうか」


ご主人様と対面するような形でテーブルを挟んで座る私。
どこからと言われても残念ながら私は何一つ把握できていない。ホント、残念だけどね。
わかっているのはご主人様のやっていることと立場と、あとシロディールの実状くらいのもの?
ほとんど『他』のものばっかり私自身に関係するところは不明のまま。


「そうですね……私の役目、を話して頂ければ」

「そっか」


私の今後の疑問とか不安を吹き飛ばすにはこれ以上ない質問のはずだ。
そもそも暗躍する舞台が世界そのものってだけで私には何をしていいのやら……舞台観劇のチケットは世界破滅の危機だって言うし。
私の質問に紅茶を一飲み。ご主人様は話し始めた。


「簡単に言えば雑用、かな?」

「雑用、ですか」

「うん。何かの交渉を頼むかもしれないし、隣町までのお使いを頼むかもしれない。ひょっとしたら遺跡に潜れって言うかもしれないし、ただ留守を頼むかもしれない」

「…………」


うぁ……もうメイドじゃねぇ……。
ホントに私のこと手足のように使う気なんだこの人って。
自然と眉を顰めてしまう私に対し、ご主人様の表情は変わらない。


「簡単に言えば俺の手が届かない細かい仕事をやってもらうってことかな? だから大変かもしれないけど重い話になるようなことじゃないと思う」

「あの、十分に重いんですけど」

「んー……言い方はあれだけど俺の頼むことはほとんどお使いみたいなもんだよ? そりゃシロディール中を駆け回ることになるんだろうけどさ」


いや、だってねぇ……。
世界滅亡の危機を操ろうとする人のお使いなんて絶対一般から見て軽いものじゃないって決まってるもの。
確かにシロディール中を回るのは大変で……ちょっとだけ憧れるかもしれないけど、私が欲しいのは変わらない日常なんだ。


「世界を回るって楽しいものだよ? 君もシロディールに来たときはワクワクしてたんじゃない?」

「いや、それは、否定しませんが……というかご主人様の雑用というのがですね」


むむむ、なんかこれじゃあ往々の話になってしまいそうで終わらなそうだ。
というかどっちにしろご主人様って私のことを逃がす気はないんだよね?
……あ、そっか。逃がさないって言ってもここでメイドの仕事で完結させるか、さらに深いところまで行くかで変わるんだ。
ぐぬぬぬぬぬ……ん? じゃあなんでオブリビオンに連れてったんだろ。


「あの、オブリビオンに無理やり連れてったのは」

「んー、度胸試しと慣れさせるため? あの中に行かせるような仕事は頼まないけど、あの修羅場を経験したら山賊の10人や100人なんてなんでもないかなって」


そりゃ分かるかもしれない。あまりに強引なのは否めないが。
あの場はご主人様がいてくれなきゃ本当に心も身体もバラバラにされそうな地獄だったんだもの。
あんなところを経験したらそこらの馬鹿なんか、怖くもなんともないって思ってしまう。
実際あしらえるかどうかは別として。


「確かに荒事はあまり頼まない。でもこのご時勢度胸とか心構えをきちんと固めておくのは大事でしょ? あの光景を踏まえた上で、俺は君に軽い仕事を頼みたいんだよ」

「…………」


迷う。
だって今までのご主人様を思えば、ここまで真剣に話してくれたのは初めてだ。
本来であれば私がここで暮らしているのも、まぁ打算があったとはいえご主人様のお陰だし、この人のバックがあるっていうのは大きい。
そりゃ悪い虫を余計に集めちゃうかもしれなけど、そういう危険に対してのご主人様の対応は非常に堅実で信頼できる。
だったら最後の質問だ。


「もしここで私が協力を申し出たら、最初に何を頼みますか?」

「言えない。確かにお使い程度のことだけども、はっきりと協力を申し出ない人には言えない」


うん。こういうところは本当に真面目だ。
というかちゃんとこういう対応もできるんじゃんか。
よくよく考えればこの人のメイドになった時点でもう巻き込まれてるようなもんだし、ここで妙な感情を持たれてもしょうがない。
これが、本当に最後の質問だ。


「ご主人様が本当に私のことを、私の平穏を守ってくださるというのなら……協力するのも吝かではありません。既に雇用されている身ですが」


一番重要なこと。
何より、ご主人様の庇護を受けられなくなる状態になってしまうこと。
親鳥から見放された小鳥は、あまりに無力だろうから。
ここまでご主人様と関わって、それで関係がないと切り捨てられるようではすぐに私は狙われるかもしれない。
もはやここまでくれば運が悪かったと諦めるしかないなら、自分の価値を十分にご主人様に示しつつ世界を自由に生きるしかない。


「今までの生活で君がだいぶ使える人間って知ってるから……内心の黒さは評価できないけどね」


初めて見る半目のご主人様に冷や汗が一筋。
ちっ、ばれていたか。ていうか一番腹黒いのはご主人様じゃないですか!
そんな私の内心の反論はどこ吹く風。
ご主人様はその滅多に見せない真剣な表情を見せながら私の問いに答えてくれた。


「うん。この地が平和になるのはすぐかもしれないけど、君が望む限りその平穏を守るよ。絶対」


別に勇ましい口調でも、厳かな雰囲気を漂わせることなく出た誓いの答え。
それでもその言葉の節々にこれ以上ないくらいの誠意を込めて、ご主人様は答えてくれた。
今にも見惚れてしまいそうなご主人様の表情がふと崩れ――――。


「俺たちらしくないね」


苦笑したその言葉に私はちょっとだけ恥ずかしくなった。何を真面目にやってるんだか。
たぶんわけわかんない状況になっても、結局はこのご主人様が鼻歌交じりでどうにかしてくれるんだろう。

後は軽い談笑。
外に聞こえる雨音を調べにして、おそらくは初めてだったかもしれないご主人様との取り留めのない会話を楽しんだ昼だった。










その後。








「それで、まず私は何をすればいいのでしょうか?」

「帝都へのカチコミ」

「…………」

「前にも言ったとおりデイゴンを放ってる俺のことを議会連中はよく思ってないからさぁ、小言を聞きに行くのもやなんだよね」

「だ、だから」

「これからの計画書とか渡すから総書記官のオカートに渡してきて。絶対歓迎されないけど。むしろ監禁されるかもしれないけど」

「やっぱご主人様は死ね」










もう少しくらい体が痛みで動かなければって思った。




















<あとがき>


真面目な話。
実際オブリビオンほど人が死ぬゲームってないと思うんだ。
だからってイベント進行のNPCとか死ぬのは勘弁な! 訓練師関連でよく死亡者出てるけど!

次回からは帝都カチコミ編。
舞台がようやくシロディール全域に変わりますよぉ。
そういえばバニラの状態でも時計ってあったかなー? 砂時計ならたくさんあったけど。


『サンドイッチ』
・スタミナ回復
・生命探知
・負担


追記
ふと思いついて修正したけど『サンドイッチ』なのか『サンドウィッチ』なのか。



[14056] 第12話 「帝都へ向かう ~帝都カチコミ編~」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:11d3fa3f
Date: 2009/11/28 18:52






ご主人様から正式にその手足となって働くことを言い渡されたことで、私の生活もここでがらりと変わるのだろう。
このローズソーン邸でご主人様のメイドとして働くのが基本にはなるんだろうけど、とうとうその域は家を越え、スキングラードを越え、世界にまで広がるってやつだ。
交渉、探索、戦闘、諜報、雑用なんでもござれ、世界をまたにかけてご主人様に傅く『スーパーメイド』なのだ。


「…………無理」


ベッドの上に寝っ転がり、これから私のやっていく仕事の数々を思い浮かべては言葉が漏れた。
いや、だってさぁ……どう考えても一人の女ができる範囲を超えているもの。
よくよく考えてみれば、ご主人様が私を守ってくれるって言ってもそれは安全の面において、だ。
強力なエンチャントが込められた防具や装飾品。もしものために便利な魔法を書き込んだスクロール、ちょっとの病気ならすぐに治すことができる特効薬。
金銭の価値にしたらどんだけよってくらいのものをご主人様は用意してくれたし、もし私がこれ以上の我侭を言っても何かしらの対策はしてくれるんだろう。

でもね。


「帝都議会って……」


ご主人様から言われた言葉を思い出して、魂は抜け出るくらいに息を吐いた。
最初の仕事。シロディールそのものの統治を担っている議会に計画書とやらを渡し、無事に帰ってくること。

どう考えてもおかしくね?

だってさ、計画書って言ったらたぶんこれからのデイゴンへの対策とか、ギルド再建の計画だとかそういうものでしょ?
そんなシロディールの未来そのものに関わることを紙切れ一枚に書き記して、議会に叩きつけてこいって言ってるようなもんだ。
普通だったら議会にご主人様本人が出向いて、議会の人たちと討論しながら進めるものじゃないの? そもそもギルドマスターだってその運営に携われるかは疑問だもん。
どんだけ帝都議会を蔑ろにしてるんですか、ご主人様。

しかも持っていくのが一介のメイド?
そりゃご主人様も「無事に帰ってくるように」って念を押すわよ……。
ご主人様の下で動くってことはただ身の安全面に気をつければいいってもんじゃなかった。
礼節には気を使わなきゃなんないし、議会ってことで最高権力が相手なわけだし、ある意味周りは敵ばっかりだし。

うぼぁ……胃が溶けそうだ。



















で、そのまま熟睡することもできなかった次の日の朝。
まだ見ぬ街に行くことができるってだけで妙な高揚感はあるけれども、それ以上に『始まるんだ』っていう漠然とした不安が私のはある。
不安っていうか『始まっちゃうんだー……』っていうげんなりした感じもあるんだけど。

とにかく今日は私の門出を祝福してくれているのか、昨日の雨の様子を全く感じさせない快晴。
あぁ……普通にメイドやってりゃ今日は洗濯日和なのに。
本来あったであろう極普通の生活に後ろ髪引かれる思いだけども、ここまで来てうだうだ言っても始まらない。
こうなったら新たな旅路に思いを馳せ、全力で楽しんでやることにする。涙は流れてないぞ。うん。

家の入り口にて、いつもとは違う見送りの形で相対する私とご主人様。
昨日一晩でご主人様と旅の支度について余計すぎるほどに吟味したのだから、忘れ物一つないはずだ。
最後まで私の服装については激論を交わしたけど。

結局私はこうやって帝都まで行くっていうのに相変わらずのメイド服のままだ。
そりゃお腹から垂れ下がるように掛けられていたエプロン部分や、ちんまい翼のように付いていた肩のヒラヒラも取り外してあるが、それ以外はほとんど変わっていない。
新たに頑丈な布生地で作られた胸当てはサスペンダーによって固定され、旅仕様に作られたブーツも蹴っても安心歩いても疲れないっていう謎仕様。
ご主人様が言うには「ワニの牙とトカゲの鱗を下地にミスリルメッシュを編みこんだ」って言ってたんだけど、もしかしてオブリビオンのあれ?
見た目は普通の黒白メイド服であんな土の色をしているような感じじゃないんだけど。
あ、ちなみに言うまでもなく全部何かしらのエンチャント済みだ。詳細は以下略。

でもってもしものために作られた篭手は――――なんか普通の黒一色皮手袋だった。
最初はこんなんで殴れるかって思ったけどさぁ、ご主人様が持ってきた極一般の鉄製ショートソードを叩きつけたら剣が砕けた。
折れた、じゃなくて砕けた。
「これだったら振り下ろされた剣も掴めるね」って笑顔でご主人様は言ってたけど、そんなこと怖くてできるか。

後は私が背負っているバックパック。
旅人御用達のこれは見てくれは普通のもの。人の胴体くらいの大きさにアタッチメント的な多くのポケット。
メイド服には似合わないなーなんて思ってたけど、このバックパックの性能はそんなとこじゃない。
どうやら私が連れて行かれた印石のエンチャントを施しているらしく、その軽さが台所のフォーク並みなのだ。
むしろ背負った方が身体も軽くなるっていう不思議仕様。
ていうかこれを媒介にしてオブリビオンの門が開いたりしないよね? 大丈夫だよね?

ま、私の見てくれはこんなもんだ。ちなみにメイドのヘアバンドも着用している。

んでもって何について激論を交わしたっていうと、メイド服ってところなのよね。
だってこれからシロディール中心に乗り込むっていうのに、人に傅く職業の服なんてあまりにアレだもの。
旅のことを考えればドレスよこせなんて言わないけど、これはちょっとって思ってしまう。

が、よく考えればこの服装をメイドが着る服だって分かるのは実のところそんなに多くないのだ。
そもそもこの服の考案はご主人様らしく、思い出せば伯爵様もこの服について珍しそうに見ていたっけ。
ならば自分から言わない限りこれがメイドの服だなんてばれることはないのだろう。たぶん。
それにご主人様から聞いた限りじゃ帝都って多くの冒険者とか魔術師とか戦士とか、とにかく多くの人間が集う場所だから服装の乱れなんてあってないようなものらしい。
私のメイド服に比べれば、物騒な感じの防具に身を包む戦士や、露出度の大きい衣服を着込む女魔術師の方が目立つんだって。

以上、回想並びに説明終わり。


「それじゃ、気をつけてね」

「……善処します」


快晴の下、その腹黒さは際立つばかりの笑顔を向けて手を振るご主人様に吐き捨てるように一言。
気をつけなきゃなんない場所に送り込むのはどこの誰なんだっての。
とにかく見送ってくれるご主人様に一礼。
背負ったバックパックをがっさがさ揺らしながら私は、石畳の続くスキングラードの道を後にした。
門番さんが私の姿を見るなり、どこか可哀想な目で見てきた気がしたけど無視することにした。悲しくないもん。


















シロディールって地はちょっと歩けば街があるっていうところではなくどちらかというとアンヴィル、スキングラードといった大きな街は非常に少ない地域だ。
もちろんのこと帝都を中心に西へスキングラード、クヴァッチ、そして最西端アンヴィル。
北西の山脈方向にはコローラがあり、北にはブルーマ、東にはシェイデンハイル。
んでもってニベネイ川に沿うようにして南へブラヴィル、レヤウィンといった感じだ。
つまりは9都市。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれかもしれないけど、この広大なシロディールにしたらやっぱり少ないんだろうなと私は思う。
まぁ全部卓上旅行で計算したことだからどうでもいいことだけど。

で、私が向かうのはちょい北の東の方向にある帝都。
地理的に見ればスキングラードもシロディールの真ん中くらいあっていいと言っても過言ではないから、帝都への距離はそれなりに近い。
それでもここから帝都まで徒歩で行くには、なんと丸一日掛かってしまうのだそうで。
……馬でも乗れればいいんだけどね。

どっちにしろ帝都に着くまででもそれなりに苦労しそうだった。




スキングラードを一歩出ればそこは草原広がり木々が生い茂る大自然。
まっすぐに伸びた木々の間から遠くに廃墟となった砦とかも見ることは出来るけど、基本的に目の前に広がるのは整備された道と自然だけ。
別に見惚れるほど珍しい光景でもないのでずんずん進む。

道端に咲くアルカンナやオダマキの花びらには昨日の雨の雫がまだ付いているようで、石畳の間から見える土の色も随分と濃い。
ちょっとだけ寒い気がしたけども、雲ひとつない太陽の光のおかげで随分と暖かい感じ。これが冒険日和っていうのかな。
足を進める気分はあんまり乗らなかったけれども、目に入る景色を見ていたら自然とその歩みも軽くなってきた。大自然の癒しって素晴らしい。
すれ違う蝶々さんたちを見かけてはメルヘンチックな気分に。「蝶々さん」……なんて乙女な響き。

でもやっぱりそんな楽しいことばかりでもないわけで。
スキングラード付近の地形は小高い丘が連なっているということもあり、歩く道は上がったり下がったり。
別段息切れするほどってわけじゃないんだけど、目の前の道に傾斜が見れればちょっと眉を顰めるくらい。
帝都に着く頃には私の足が大根みたくなってなければいいけど。

まぁそんなわけで女性が担ぐには大きすぎる荷物をゆっさゆっさしながら道を進む。
地図から見ればここから当分先までは基本的に一本道だし、もし地図にもない分かれ道があっても各街への方向を示す立て札があったりで問題はない。
立て札が示す矢印が微妙すぎて迷うこともあるけど。
もっと矢印らしく向ける方は尖ってろよ。そんな矢印ただの長方形にしか見えねぇぞ。

と、ここで目の前から何やら人影が見えて。
もう野盗なんかが出てくるのかとちょっとだけ警戒を強めれば、徐々に見えてくるのは馬に乗った帝都兵の姿。
守られるべき一般市民の味方と言わんばかりに威風堂々歩く姿は頼もしい。
……あれにほとんど敵対関係でいるのが私の主というのがなんともまた。
私だけよくしてくれるなんてことないのかしら? ほら? 私ってか弱い女性だし。

なんてことを考えればもうすぐ目の前に兵士の方が。
ゴマすっとこ。


「ご苦労様です」

「ん? 構わんぞ、市民よ」


なんだその呼び方って思ったけど顔にはおくびにも出さない。
溢れんばかりのスマイルでシロディール全土を回っている巡回兵の方を労ってやるのだ。
にこっ。


「……にしても女の身でありながらそのような大荷物……冒険者か?」


あ? え、本当に言ってるの?
若くてか弱い女性で、メイド服で、にっこり笑顔なのに、扱いが冒険者?
せめてこの大荷物を見れば商人くらいが関の山でしょうに。ていうか知らなくてもこのメイド服を旅人が着るような服に見えるわけ? 
でもまぁ余計なことになるよかマシだし適当に話を合わせることにする。


「ええ。少々帝都の方へ行こうかと」

「ほう、そうか。私も今日の朝に帝都を発してここまで来たのだがな、道中の魔物は須く殺してきたぞ! 安心して旅を続けるがいい」

「有難うございます。今日も兵士様のおかげでこうして先へ進めます」


殺してきたぞって……いや、まぁ嬉しいのでそれなりの社交辞令を言っておく。
単純なのか、気にしてもいないのか、馬上の巡回兵は一つ頷いた後にスキングラードの方面へと走っていった。
にしても同じ朝に出発したってのに、もうあっちの方はここまで来てるのかー……。


「ったく……その馬で帝都まで連れてけよ」


既にその姿さえ見えなくなってしまった遥か向こうに吐き捨てるように呟いた。
ご主人様ほどってわけじゃないけど帝都兵っていうのは私もあんまり好きじゃない。
まだメイドじゃなかった頃、アンヴィルからスキングラードへ行く道中にも帝都兵に会ったことはあったんだけど、これが酷いのなんのって。

彼らって山賊とか魔物とかを見ると狂戦士のように突っ込んでいくのよね。
んでもって「ハハーッ!! 死ね!」なんて叫びながら暴れるもんだから、たまたま出くわしてしまった私にはとんだ迷惑。
それに怯えた山賊の一人が私に助けを求めようと近づいてくるし、それに巻き込まれて私も帝都兵に殺されかけるし。
あいつらって『帝都兵』っていう免罪符で好き勝手やってるんじゃないでしょうね? そりゃ平和に全力を注ぐのはいいけどさ。
ご主人様の話と合わせれば平和馬鹿? 正義馬鹿? まぁ好きなほうで呼べばいいか。

まぁすれ違っていったあの兵士が道中の敵を倒してくれたっていうんなら有難く通らせてもらおう。
そもそも帝都に行く道の脇には、廃棄された炭鉱とか魔物の洞窟とかもあったりで物騒だし。
一応今日の夕方くらいには帝都に着く予定なんだし、ちょっくら先を急ぐとしましょうか。

あーあ……これが普通のハイキングとかだったら楽しいのになー。






















<あとがき>

まぁメイドさんの基本設定を紹介するような話。展開はないです。
そういえばMODの方にもメイド服ってありますので気になる方はどうぞ。ていうか今でもDLできんのかな?
実のところPC版は既に起動できる環境になく、SSを書く際はPS3版をプレイしながら書いてます。
既にPC版から放れて一年。今はどんな状況なんでしょうかね?
最近のMODとかは自プレイ以外の方法で情報を集めたりしてます。

ああ……忍者刀が懐かしい……。





『特製ブーツ』
重さ 1
強さ 5
・上昇 速度 10
・上昇 格闘 15



[14056] 第13話 「帝都は目の前」
Name: かぼ山◆3115d816 ID:11d3fa3f
Date: 2009/11/30 17:03





帝都巡回兵と別れてからただ目的地に向かって黙々進む。
雲一つ見当たらないどこまでも続く蒼の空も、道端に鮮やかに咲く様々な花々も、大自然が織り成す澄んだ空気も、昼を過ぎる頃にはもう飽きた。
メルヘンだなぁなんてハイキング気分だったのも、午前を過ぎてからはなんで馬がねぇんだとやさぐれ始める始末。
ちょっと脇道に逸れて新たな発見に心躍らせようかとも思ったけど、魔物云々時間云々やらであえなく断念。
……あえなく? いやいや私は冒険者なんかじゃなくてただのメイドなんだ。発見なんてノーサンキュー。

太陽が真上を過ぎる頃にはスキングラードと帝都の真ん中くらいに広がるグレートフォレスト入り口に到着。
その時間帯まで休むことなく歩き続けたんだけど、そろそろ服が汗ばんできてなんとなく嫌な気分。
グレートフォレストはまぁ名前から連想できるように、木々が密集した森林地帯。
密林とまではいかない森林地帯にはそれなりに珍しい植物が生えているらしいが……お花摘みなんて行く余裕もないわね。
熊も出るって話だし。

とにかくお昼時を過ぎちゃったけども、休憩場所に小高い岩場を選んでそのうちの一つに腰を降ろす。
バックパックを下ろせば、それまで担いでいた影響なのかちょっとだけ痛んだ肩が随分楽になった。
いくら軽量化のエンチャント付きでも、こんだけ担ぎっぱなしじゃさすがにきつかったみたい。

密集した木々のお陰で降りかかる陽光は文字通りに木漏れ日って感じ。
私一人で食べる昼食はなんだか寂しかったけども遠く近く聞こえる鳥の囀りがすごく心地いい。
昼食はまたもやサンドイッチ。うむ、繊細な味だ。誰かのと違って。
本当だったらこんなところで喰ってりゃ魔物が集まりそうなんだけども、こんなに気持ちがいい中ではそんな危機感も薄れてしまう。
近くにいた鹿の群れに残りのサンドイッチを食べさせようとしたけどすぐに逃げられちゃった。ちくせう。

もっともっと堪能したい気分だったけども、これ以上長居するとホントに森の熊さん状態になるので早々と撤退。
再びバックパックを背負ってみたが、これだけの休憩でも随分と楽な感じ。

うんざりし始めていた自然の景色も歩けば歩くほど様変わりするものだし、ここからは森林浴でも楽しみましょうか。

なんだかんだ言って楽しめてるのは僥倖だ。













「…………でっか」


鬱蒼と茂るってほどでもないが、先の景色をそれなりに遮られるグレートフォレスト。
どこまでも青々とした木々が続くなーなんて思い始めてきたんだけども、ちょっとばかり傾斜のきつい坂を上りきればそこから見える景色は絶景だった。

海なんじゃねーのかって勘違いするほどに広大な湖、ルマーレ湖。
シロディール北部の山脈の水源から流れ出る川が集結して出来たその湖は、遥か南のニネベイ川へと流れていく。
水のある場所には人が集まるっては聞くけども、その豊富な水源は視覚で感じられるほどに十分だ。
そんなルマーレ湖の中心に浮き島のように存在するシロディール中心の都市、インペリアルシティ。
長いし意味は変わらないしで『帝都』って呼ばれ方が一般だけども、なるほど、こりゃ確かに中心だわ。

私のいる場所が結構小高い場所だったのか帝都全景が僅かに見えるけども、それがまた帝都の凄さを思い知らせる。
どんだけ計算されて建てられたんだっていうくらいに左右均等歪みない円形状の街。
その中心に聳え立っている塔なんて雲にも届かんがばかりの高さ。
デイゴンさん、たぶんあんたの世界のは負けてると思う。

地図から見た限りでは6つくらいに区画が分かれてた気がしたけども、ここから見える限りじゃその分けられた区画も等間隔っぽい。
遠くから見えるでっかい神殿っぽいのとでっかい石像っぽいのと……あとは、いんやとにかくでかい。すごい。


「…………」


そりゃ帝都ってんだから多少のことは想定してたけどこの雄大な街は予想外だった。
どんだけ人が住んでるのかしら? なんか迷子になりそう。
とりあえず唖然としているだろう私の頭を振って、また一歩踏み出す。
いやー……ホントすごいね。何度も思うけど。








ぼーっと帝都を眺めていたのもちょっとだけ。
そろそろ日も水平線の彼方に沈み始め、蒼を誇っていた空も次第に茜色に変わっていく頃だった。
この調子だったら完全に暗くなる前に帝都に着くことが出来るみたい。さすがに夜中に歩き回るのは物騒極まりないしね。
ちょっとだけ足も痛くなってるし疲れによる全身の気だるさを感じるけど、少しだけ足を速める。
空だけじゃなくて道端の草花も、遠くに見える帝都の姿も、そして私の姿でさえ茜色一色に染める光景はなんだかいつも見ている夕方とは違うように思えて。
さっき見た帝都のことでは無意識にはしゃいでるつもりなのかしら。


「…………あ」


なんてちょっとセンチメンタルな感情を抱きかけたところで思い出した。
確か、ご主人様から今日の泊まる場所について色々と言われていた気が……。
確かな記憶の下に、背負ったバックパックから一枚の羊皮紙を取り出した。



『  
       ――――帝都での動きについて――――

  
  到着する頃には日が沈んでるだろうから、帝都波止場地区か帝都大橋の前にある宿屋ウォーネットに宿泊すること。
  高級ホテルに泊めてやりたいんだけど、信用できる所も多くないのでこのどちらかに泊まることをお勧めするよ。
  ウォーネットの店主にはワイン関係でいろいろと繋がりがあるから、そこらへんをうまく使ってね。
  波止場地区については俺の庭のようなものだから、あまり気にしないで。メイド服の女の子にはよくしてやってって言ってあるから。

  で、次の日の午後二時に帝都王宮にてオカートとの会合を組み込んであるので、一応遅れないように。ちょっとだけならいいけど。
  あそこの衛兵には俺の持たせた手形を見せれば中に入れてもらえるから。
  おそらく見せた途端に対応が悪くなるからそのつもりで。

  オカートに計画書を見せたら後は自由にしていいよ。
  1週間くらいなら滞在していいけど、それ以上はちょっと寂しいかな。

  ちなみに何かしらのトラブルに巻き込まれたら、波止場地区にいるアミューゼイっていうアルゴニアンに助けを求めること。
  「影、狂気に呑まれぬことを」って言えば分かってくれるから。

  まぁ基本そんなにスケジュールを詰め込んだわけではないので、気楽にね。
                                                                               』   

 
暗くなる前になんとか見れてよかった。
男のものにしてはやけに綺麗な字で書かれた内容はこんな感じ。
色々と突っ込む所はあるけれどあえてスルー。いちいち気にしてたらそれこそ日が沈んでしまう。

とりあえずここからでも分かるのはウォーネットかしら。
遠目に見える帝都大橋の入り口にポツンと立てられた2軒の家。
おそらくあのどちらかが件の宿屋なんだろう。

でもってもう一つが波止場地区だっけ? 
ていうか私の記憶では帝都の波止場地区ってスラムよろしく、あんまりお金のない貧乏な人たちが住む区画だって聞いてるんだけど。
そりゃ帝都の港口だからそれなりに宿泊施設は整っているかもしれないけどさ。

むむむ……どっちにしようか。
と悩むんだけどもあっさり答えは決まる。


「行ってから考えよ」


結局あのウォーネットの前は通るんだし、先に部屋が開いてるかどうか聞いてからでもいいや。
どうせどっちに泊まっても変わらないだろうし、ご主人様の知り合いだっていうんなら信用できるんだろうしね。
……変人じゃなきゃいいけど。

ちょっとだけ不安はあるけども、まぁ急ぐとしましょうか。












と、軽い考えを持ってたんだけど、すぐ目の前にあるはずの帝都の大きさは一向に変わらない。
いや、変わっているんだけど、グレートフォレストから帝都までの距離がこれ半端ない。
夕暮れには着くかなって思ってたんだけど、今じゃほとんど日の光も見えないもの。


「……こりゃ帝都の中までは入れないな」


夜遅くに帝都の門を叩いて不審者扱いされるのも真っ平ごめん。
なんとかウォーネットの宿屋に頼んで宿泊させてもらうしかないようだ。
もうちょっと歩けば着ける距離にあるし。


ということで急ぎ足で宿屋に到着。
看板としてぶら下げられた月の絵が確かに宿屋のそれを表わしている。ウォーネットに間違いないようだ。
でもって部屋が開いていることを期待してノックを二回。
別に叩く必要はないかもしれないけど、ちょっと遅い時間帯なので一応のため。


「あら、いらっしゃい」


出迎えてくれたのは宿屋の店主にしては珍しいのかもしれない女将さん。
ワイン関係って言ってたから初老の男性とかを予想していたんだけど。
そんな私の内心を気にすることなく、女将さんは私をカウンターまで案内してくれた。


「それで、宿泊ってことでいいのかしら?」

「ええ、まだ部屋が残っているならば明日の朝まで一泊頼みたいのですが」

「それじゃ、二階の奥の部屋ね。はい、これがその部屋の鍵」


なんとも流れるような会話と共にとんとん拍子で宿泊が決定。
あまりに予定調和染みた女将さんの対応にちょっと疑問を感じるんですけど。
こんな服の人が来るだとか、女の身で大荷物だとか、か弱い女が夜遅くとか。もっと何か聞くことがあるでしょうに。
そこらへんは営業の基本でお客さんに深く聞くことはないのかしら。


「それで、一泊……」

「いいわよ、話は聞いてるから。あなた、あの人のメイドさんなんでしょう?」


……どこまで手を伸ばしてやがるご主人様。
予想していなかったようでちょっとだけ頭の片隅にあったことを、笑いながら言われてなんとも微妙な気分に。
ここまで来るとびっくりするよりも呆れてくる方が早い。
しかし、いくらなんでもその好意を受け取るのはなんだかまずい。


「いえ、いくらなんでもそれは」

「いいの。私もあの人にはお世話になってるからね。これくらいしなきゃ罰が当たるってものよ」


ウィンク一発、頼もしい女将さんの笑顔に屈服。
なんでこんな素晴らしい方がご主人様の知り合いやってるんだろ。
なんか弱みでも握られてるんだろうか、なんて疑問も今の言葉にゃ合わないし。


「で、では、その、お言葉に甘えて」

「はい、そういうことにしておきなさいな。夕食はどうする? おいしいワインがあるわよ?」


うおーい!? この人、人がよすぎるぞ。
ていうか私に確認を取っていたようだけど、メイドを語った別人だたらどうするつもりなんですか女将さん。
何で判断したんだろ? ……あぁ、この服か。



でもって結局女将さんの好意に甘えまくっておいしいお肉料理と赤ワインをご馳走してもらった。旨し。
あ、ちなみに女将さんの名前はネルッサさん。
どうやらご主人様との繋がりはネルッサさんのワイン集めという趣味であるらしく、各地の砦や遺跡に眠っているという『影滅のワイン』の取引をしてるんだって。
なんとも伝説チックなロマン溢れる代物なんだそうで、ご主人様が関係してるのもなんか納得。
にしてもワインセラーを薬入れに変えているご主人様にワイン集めを手伝う気概があったとは。
ちょっとくらいタミカさんやスリリーさんのワインを買ってやったらどうなの? あの人たち残念がってたわよ?

あとは適当にご主人様の話やらを聞くなりなんなりの談笑。
途中からウォーネット真向かいにある家に住むご老人、エイルウィン・メロウォルドさんもやってきて3人でおしゃべり。
エイルウィンさんもまたご主人様にお世話になったって人みたい。
どこまで繋がってるんだ、私のご主人様は。


「でね、私もいい年だから隠居するためにお金を稼ごうと思ってねぇ。その時にお世話になったのが君のご主人なわけさ」

「あのご主人様が、ですか?」


ワインを傾けながらご主人様とのエピソードを話す私とエイルウィンさんのそれは、なんだか孫娘に話をするおじいさんみたい。
ネルッサさんも半ば聞き手状態だしなんだか居心地のいいような悪いような。
にしてもご主人様が掛け値なしの善行に励むとはっ! いや、ちょっと待て、最近ご主人様への評価が酷すぎるぞ私。
「曇りなき眼で見つめよ」っておじいちゃんも言ってたはずだ。


「その時はこのルマーレ湖に住むスローター・フィッシュの鱗が必要だったんだけど、どうにも運が悪くてねぇ。足を怪我しちゃったのさ」

「そう、でしたか……今は大丈夫なのですか?」

「そりゃもう漁師の真似事をすることはできなくなったけど、こうやってワインを飲むには何の問題はないよ。ハハハッ」

「エイルウィンさん? ただじゃないんですからね?」


なんだろう、この心癒される感じ。
酒場のマスターよろしく優しく嗜めるネルッサさんが美し過ぎる。


「で、その時会ったのが彼だったのさ。いや、あれには驚いたね。橋の途中で襲ってきてた野盗の輩を湖に投げ込んでいたからねぇ」

「あ、あはは……そうでしたか」

「まぁ自業自得というかなんというか……でもあの光景は凄かったわよ? もう人が水切りのように水面を跳ねていったもの」


あぁ……前から人間を辞めていたんですね、ご主人様。
ていうかそれだと逆にご主人様が帝都兵に捕まりそうなんですけど。


「それでねぇ、なんだかそこでピーンと来てね。あの人だったら獰猛なスローター・フィッシュ相手でも余裕なんじゃないのかって」

「その時のエイルウィンさんたら随分と慌ててたのよ? 家から家宝のルマーレの指輪を持ち出してから、必死に頼みこんで」

「いやぁ……あの時は怪我したのが悔しくてねぇ。それにもう少しで隠居できる金が集まる感じだったからさ。余計に、だよ」

「あぁ、なるほど」


ご主人様はひょっとしたらその指輪に釣られたのかもしれない。
いや、逆にそのスローター・フィッシュの鱗とやらに興味を示したのかも。
なんて考えが回ったけどご主人様の行動を予測すること自体無駄だったので、お二人の話に耳を傾ける。


「でね、彼は快く引き受けてくれたのさ。まぁ……その後はちょっとやり過ぎたけど」

「あれはねぇ……」


急にその表情に苦笑を浮かべたお二人の姿に、冷や汗がたらり。
何だ、何しでかした。


「いきなり湖に向かって雷を放ってねぇ……あれって雷撃魔法って言うのかい? まぁすごかったよ」

「水面に光が走ったと思ったら、次々にスローター・フィッシュが浮いてきたものね。マッドクラブとかもいたけど」

「…………」


うわぁい。さすがごしゅじんさまでございます。
ていうかそれもう完全に生態系破壊なんですけど。


「本人が言うには力を抑えたから大丈夫って話だったけどねぇ」

「元漁師から言わせればあれはもう乱獲だよねぇ」


文字通り息が合ったようようにため息を吐いたお二人になんとなく心の中で頭を下げた。
たぶんこの人たちもある意味被害者だ。


「まぁなんとか誰にもばれずに鱗は回収できたからよかったけど」

「あの後波止場地区からも何の話も出なかったわよね。彼の言うとおりになんともなかったみたい」

「あ、あははは……」







なんてご主人様も犯罪履歴やら武勇伝やら区別のつかない話を聞きながら夜は更けていった。
まぁ聞けた話はちょっと苦笑ものかもしれないけど、まるでおじいちゃんに暖炉の傍で昔話を聞かせられるようなあの時間はよかったな。
時間がゆっくりと流れるような穏やかな時間。
いつまでもそんな時間を楽しみたかったけど、明日には王宮突撃。
なんとも振り幅の大きい旅だな、なんてふかふかとは言い難いけどもそれなりのベッドの中で思ったりした夜だった。
















<あとがき>


のんびりまったり。
チート主人公の足跡を追うってMODないのかしら。
全イベント消化の人物が物語の一つとして語られていたなら、これほど興味深い人物はいないのに。




『ルマーレスローター・フィッシュの鱗』
・減退 気力
・水中呼吸
・体力減退
・水上歩行


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