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[14170] ♯98 SILENT VOICE (スクールランブル)
Name: 浅倉安雄◆8f484220 ID:dc807a2e
Date: 2009/12/13 14:59
 【まえがき】

 陵辱描写を含みますので、ご注意ください。

 ブログで公開しているものを、改訂して投稿させていただきました。




 十月のある日。

 平凡な住宅地にあり、昭和の建売住宅といった風貌と、その庶民的なたたずまいを裏切る広さ ―― 何しろ古風な蔵がある ―― を持った二階家に一人の男が訪れた。

 低い生垣に囲まれた木の門をくぐり、「塚本」と表札が掲げられた玄関の呼び鈴を鳴らす。

 引き戸を開けて現れたのは、控えめな物腰の中に独特の雰囲気を漂わせた十代の少女だった。黒いタンクトップを重ね着たTシャツと、デニム地のショートパンツから伸びた白い肢体はきゃしゃだけれど、女らしい丸みもあわせ持っていた。

 「どちら様ですか」

 物静かな当然の問いに、答えるのに不都合でもあるかのように、男は唐突に用件を切り出す。

 「塚本さん、いや、お姉さんは居ますか『天満ちゃんの妹、やっぱり美人だわ』」

 自分への賛辞など聞き飽きているであろう容姿の持ち主はけれど、一向に慣れることなく感じる戸惑いを、表に出さないように努めなければならなかった。

 それはあまり成功しなかったが、彼女が見せたわずかな恥じらいが、男が口にはしなかった考えのせいだなどと、誰も疑いはしないだろう。

 しかし少女、塚本八雲には、自分に多少なりとも好意を寄せる異性の心が視えてしまうのである。この力のことは二人暮らしの姉、天満にさえ打ち明けていない。

 屈託がなく妹想いの姉は、自分の心が読まれていると知ったとしても ―― 実際天満の心だけは同性なのに視える ―― まったく気にしないはずはないが、それでもあっけなく受け入れてくれるだろう。人見知りな妹とは対照的な社交性と、妹同様の悪意を持たない人間特有の無用心さ ―― 力のことを考えると八雲がそうなのはほとんど奇跡的だが ―― ゆえに、これまたあっけなく他人にしゃべってしまいかねないが。

 「ええと。姉は今、留守……ですが」
 「そう、ですか『まあ、留守なのは知ってて来たんだけど』」

 男は一旦ためらうふりをした上で、使い古した、いかつい合成皮革製の鞄の中、デジカメやビデオカメラの機材らしきものの間から、手紙を取り出して八雲に差し出した。

 「これ、お姉さんに渡してもらえますか」

 白い封筒の表には、「塚本天満様へ」と特徴のない文字で縦書きされている。

 「あっ、はい。分かりました……」

 言いながら受け取る八雲を尻目に、男はそそくさと立ち去るべく後ろ手に扉を探る。

 「それじゃあ、お願いします『この子、天満ちゃんのあんな写真見たらどうするかな。にやっ』」

 姉へのラブレターを言付かったつもりでいた面映さが、一瞬にして消え失せる。男が顔に出さなかった笑いには、とうてい悪戯心では済まされないよこしまさがこもっていたから。

 手にした封筒から伝わる、明らかに便箋とは違う手触りが八雲を葛藤に追いやった時、男はすでに居なくなっていた。



 翌朝、数十メートル離れた路地に身を潜めながら、塚本家をうかがう男の姿。

 その門から出てきたのは八雲ではなく、燕尾服を後ろ前にしたような裾の形のベージュのブレザーと、えんじ色のミニスカートの制服を着た少女だった。

 黒目がちな目を除いて何もかもが小作りな彼女は、身長も10センチ以上低く、年下にしか見えないが、八雲の一つ年上の姉、塚本天満である。

 何か気懸りでもあるのか、天満に普段の弾むような明るさが見られない。腰まで伸ばしたストレートの黒髪を、耳の上で小さく束ねた左右の尻尾が彼女のトレードマークだが、その尻尾も元気なく垂れている。

 天満は、心配そうに一度我が家を振り仰いでから学校へ向かった。

 それを見届け、男は再び塚本家を訪ねる。



 塚本邸の居間は昭和な外観にふさわしく、今や珍しいダイヤル式の黒電話や茶だんす、ちゃぶ台などが置かれ、まさにお茶の間である。

 平素なら空気もそうなのだが今日だけは、戸締りされた室内に、似つかわしくない緊張感をはらんでいた。

 ちゃぶ台をはさんで男と対峙する八雲の前には、開封された手紙と表を伏せた数枚の写真がある。

 『この子なんで、天満ちゃんに手紙渡さなかったんだ。どうして』

 男の考えている通り、八雲は手紙を天満に渡さずに自分で開封した。散々逡巡したが、男の邪心に気づいた以上姉に知らせる事はでき難かったし、中身を見てそれが正しい判断だったと確信した。

 「……この手紙は、どういうつもりですか」

 口調はいつも通りの静かさだったが、そこには普段の彼女からは考えられないほど激しい怒りを含む。

 「お姉さん宛のラブレター、勝手に読んだんだ」
 「なっ、ラブレターって、これは……脅迫、じゃないですか」
 「どっちにしろ読んだんだ『あん時そんなに怪しかったのか、俺』」

 手紙は、八雲の言葉通り脅迫状だった。同封の盗撮写真を公開されたくなかったら、口実を作って学校を休んで家に一人で居るようにと、持って回った表現で指示してある。慇懃な文章は、写真さえなければラブレターに見えなくもない。

 その問題の写真は、どうやったのかこの家の隠し撮りで、自室で着替える白で統一された下着姿や、風呂上りの脱衣場で湯滴に濡れる小振りで若干上向きな乳房、上気した肌以上にピンクな乳首など、天満のあられもない姿を写している。

 中でもひどいのはトイレで撮影した物で、ルックスには相応、年齢に比してはわずかに幼く閉じた陰唇と、淡い陰毛まではっきりとらえた上で、天満の顔をフレームに収めていた。

 性質が悪いことに、それは全ての写真に共通している。

 「こんな写真、どうやって」

 小さく呟いたのは質問ではなく、憤懣だ。

 「良く撮れてるでしょう『まあ、当然だけど』」

 それを知ってか知らずか、自慢げに言いながら腰を上げ、卓上に手を伸ばす男に気づいた八雲は、機先を制して写真に左手を添える。

 心情としては慌てて押さえたのだが、穏やかで無駄のない動きはそう見えない。しかし、その手はかすかに震えていた。

 怖くないはずがない。

 脅迫状の差出人と相対するのだ。まして彼女は、もともと人見知りな性格にくだんの能力が拍車をかけ、いささか男性恐怖症の気がある。にもかかわらず、戸も窓も閉め切り密室にした家に、そんな男を上げ二人きりになる状況を選択したのは、身の安全より事を表沙汰にしないほうを、つまりは自身より姉を、優先した結果だ。

 自分の左手に落としていた目を閉じる。震えが治まったのを確認して、顔を上げ、男を見据える。その視線の鋭さに、男は中腰で、右腕を伸ばしかけた姿勢のまま固まってしまった。

 『もっとおとなしい、気の弱い子で扱いやすいかと思ったのに。世間の評判とイメージ違うじゃん』

 そういう風に追いやっている自分の非道もかえりみない身勝手な思惑だが、そこに男がひるんだのが視えたことに勇気づけられ、八雲は言うべきことを言う。

 「姉の写真を全部返してください」
 「ただで?」

 嫌味な口調で返答した刹那、男の三半規管がパニックにおちいった。

 天地が逆転したにもかかわらず、ほとんど衝撃を感じなかったので、投げられたことに気づけなかったからだ。

 右手首と肘をつかみ手前に引きつけながら、可動性を奪った腕を軸にひねりを加えると、男はあっさりと背中から床に引き倒される。間髪入れず男を裏返し、左腕が男自身の下敷きになるようにうつ伏せにすると、右腕を背中で固め、腰骨に右膝をついて上に乗る。

 実に手際よく、男は四肢の動きを封じられた。

 「えっ『ええっ、どうなってるの。痛』い、ぐっ」

 身動きできないように押さえていただけの右腕を、軽く逆関節に極めると八雲はさっきの要求を繰り返した。

 「『弱気を見せたらつけ込まれる』だから、ただ、んげっ」

 先程と同じ返事に、腕を締め上げて三度繰り返す。

 「写真を返してください。でないと」
 「さもないと、何? 『痛い、痛い、痛い』腕でも折る。良いけど『良いわけないっ』君にできるの」

 天満のために必要ならできる。

 でも本当は、相手がどんな人間であれ傷つけたくはない。その優しさゆえの迷いが、締め上げをわずかに緩ませる。

 「『ふう』そんなことしたら、天満ちゃん学校で有名にしちゃうよ、それでもやる『嫌、嫌、本当に折ったら、絶対仕返ししてやる。絶対仕返し、して……折らないで』」

 余裕ぶった態度よりも、卑小な本音が八雲をおびやかす。

 「放してくれないかな『痛いから早くしろって』」

 しぶしぶ右腕を解放して、ゆっくりと立ち上がり男と距離をとる。男は、おおげさに右肘をさすりながら立ち上がった。

 「ふう『痛かった、助かった。この子むっちゃ強い。こんなの話が違う』」

 八雲は男から目を離さないが、先程までの迫力は少なからず鈍っていて、男の身勝手な心象にいくぶん接近している。

 そして、すべきではない交渉を始めてしまった。



 「どうすれば、写真を返してくれるんですか」
 「お姉さんの代わりに、お願いを聞いてくれるかな『お願い、って我ながらよく言うよ』。本当は天満ちゃんに頼みたかったんだけど」
 「何を、すれば……」
 「フェラチオしてくれる」
 「……フェラチ…オ、って?」
 「『純情ぶってんじゃないよ』俺のチ○ポを口でしゃぶって射精『は、分かるだろ』させてって、言ってるの」
 「……えっ……?!」

 長めの一呼吸を置いてから、八雲の顔が真っ赤に染まった。

 当然そっち方面の要求をされることは覚悟していたが、うぶな彼女の抽象的なそれは、具体的な行為を描写されて、もろくも崩れ去る。

 『本当に知らなかったのか。そういう子に無理強いするのも、面白いかな』

 「……それをしたら本当に、写真を……」

 常に物静かだった声音は今や、ただ弱くなってしまっていた。

 生来の受動的な性格は、姉のためなら最大限反転し、自身に関してはもろにむき出しになる。自分を守らないことが天満を守ることになる、という条件は、八雲の判断を誤らせるに足る錯覚だった。

 「最後まで、いかせてくれたらね。『とりあえず』写真はデータごと渡してあげるよ」

 男の言は当然のごとく信用しきれないものだったが、もはや後に退けない心理状態の八雲はおずおずと男に歩み寄る。

 「ああ、上は脱いでね。胸を見せるぐらい、サービスしてくれても良いでしょ」

 何がサービスなのか、軽やかにのたまう。

 「っそ、んな……」
 「やっぱり自分の、見られるほうが嫌か『そりゃそうだ』。天満ちゃんのはしょせん写真だしね。見るのは俺だけじゃないけど」

 胸ポケットの付いたジージャンを脱ぎ、タートルネックのセーターに手をやる。が、そこから先は思い切れない。

 「クラスで配ったら、天満ちゃんモテモテだろうな。烏丸くんも振り向いてくれるかも。俺がやったのを知ったら、播磨くんに撲殺されるだろうけど、写真はちゃっかり持ってくんじゃないかな」

 ストーカーが名前を挙げた二人は天満のクラスメートで、烏丸大路は天満の片想いの相手、播磨拳児は天満が片想いの相手だ。二人の共通点は、八雲に心が視えないごく少数の異性ということである。

 烏丸との接点は少ないが、たとえ多くても不可視に違いない。ひたすら無口で、とにかくつかみどころのない人だが、その分からなさが姉を惹きつけるのかもしれない。天満をどう思っているのかも完全に謎だが、最近の二人は悪くない感じのようだ。

 一方播磨は男が苦手な八雲にとって、縁あって物理的にも心理的にも一番近しい存在だが、わずかでも向けられれば視えてしまう彼女に、欠片も下心を視せないほど天満一筋だ。だからこそ視えなくても気づいたのだが、肝心の天満には、その想いはまったく伝わっていない。

 固有名詞を持ち出されたことは、八雲に脅迫の意味を現実のものとして考えさせ、目の前の羞恥よりも、「そのこと」への嫌悪を強くさせた。

 いま一度セーターに手をかけると、指先を震わせるためらいを押し殺して脱ぎ、シンプルなデザインの白いブラジャーも外す。

 左腕を曲げて隠そうとするが、きゃしゃな腕には収まりきらず、軽く押さえられて変形した乳房は逆に、豊かさと柔らかさを強調してしまっている。その丸みから高めに位置する腰へと続く稜線は、細いけれどあばらの浮かない絶妙な肉づきで、ジーパンのウエストからのぞく骨盤から連なる、もう一つの丸みの均整の取れた量感をも期待させる。肌はあくまでも、どこまでも白く、信じられない程の細やかなきめを保っていた。

 男は、言葉を失う。腕をのけるように要求することも、フェラチオを催促することも、呼吸さえ忘れて、完全に見惚れていた。

 頭の中は、膨張し激しく脈動する血管で埋め尽くされ、思考も感情も追い出されて空っぽのはずなのに、何だか訳の分からないもので満たされている。

 その訳の分からないものを、今までにない直截さで視せつけられた八雲は見られているのを実感し、褪めていた肌を再び紅潮させた。端から合わせていなかった視線を、より遠ざけるために顔を背けると、耳からうなじまでもほのかに色づいているのが男の目に入り、その艶やかさに呼び起こされた興奮が、男にいくらか知能を取り戻させる。

 「『お、落ち着け、落ち着け』じゃ、じゃあ、やってもらおうかな。まずは君の手で俺のを取りだ、出して『ど、どもってんじゃねえ』くれる」

 びくっ、と反応した八雲は、意を決してゆっくり近づくと、男の足下にひざまずいて、左手は胸に添えたまま右手をベルトに伸ばす。しかし男は自分で強要しておきながら、畏れ多いように半歩後じさり、自分の鞄に足をぶつけて今度は意識をそちらに向ける。

 「あっ、『おっといかん、忘れるところだった』ちょっと待ってね」

 手振りも加えて八雲をそのままとどめると、男は床に置いていた鞄を八雲の左側にあるちゃぶ台の上に乗せ、わざわざ向きを直して置き『これで良し』と、何かを確認して戻ってきた。

 「お待たせ。その気になってるのに水差してごめんね」

 その的外れな謝罪の皮肉さは、男が冷静さを取り戻しているのを示していた。それが自分にとって好ましくない傾向であることを悟りつつ、八雲は続きを始める。

 ズボンを下ろすと、その下のトランクスは男根の形を浮かび上がらせ、その先端から染み出した液ですでに多少汚れていた。男に目顔でうながされて息を詰めつつそれも脱がすと、立ち方も濡れ方も半端な陰茎が現れる。

 思わず目を閉じ、背けた八雲の横顔に、腰を突き出してそれを触れるか触れないかの境まで近づけると
 「ちゃんと見て、両手で握ってみて」
 朱の灯ったほほを透明な粘液でけがす。

 「じゃないと、っていちいち繰り返すの興ざめだから、言わさないでくれると嬉しいな」

 仕方なく男の物と、伏し目がちながら正対した八雲は、恥ずかしさのあまりさらに胸の辺りまで薄桃に染めて、それでも恐る恐る手を伸ばす。

 左手も胸から離していたが、少しでも視線をさえぎるように気を配って動かしていたら、それを男に見とがめられる。あきらめて脇を開くと、たわわな胸がかすかに震えながら初めてまともに男 ―― それはこの男だけを意味していない ―― の前にさらされた。

 八雲に触れられた陰茎は、小さく、しかし強く脈打ち硬度を増す。

 「なめて『なめて、なめて、なめて、なめて』」

 おずおずと舌を伸ばし、先端をほんのわずかになめる。その刺激のもどかしさに耐えきれなくなった男は、八雲の肩をつかんで腰を前に出し、逸物を艶やかな唇の端に押しつける。

 「ちゃんとなめてっ」

 抑えていた本音寄りの性急さで、繰り返し強要する。八雲は首を曲げて男の物を唇から離すと、逆らわずになめ始めた。

 根元に両手を添えて、そこからはみ出した亀頭と茎とをその境目も含めて裏側から舌でなぞる。体勢的に自然とそうなったのだが、偶然男が最も感じる場所の一つへの愛撫となった。

 男の物が大きくなり、先端からにじむ液も粘度と量を増して八雲の舌に絡みつく。

 「くちゅっ……ぴちゃっ、ふはっ……はう、くちゃっ………」

 元来他者を否定的にはとらえない八雲の善良さ ―― それは部分的には他人との衝突を避けたがる弱さでもあるが ―― は、初めて、しかも無理強いされて見る異物に対しても嫌悪はほとんど感じておらず、その心を占めているのはいくらかの恐怖と圧倒的な恥じらいだった。

 その羞恥心が感覚を麻痺させて、自分の行為をぼんやりとしか認識できないままもうろうと舌を動かし続ける。

 「ぺちゃっ、ぺちゃっ………くふっ、ふう……」

 両肘を閉じて男根をつかんでいるため、間にはさまれた乳房が持ち上げられ、大きさを誇張しながら不器用な舌使いに合わせて波打つ。

 ペニスの先端からこぼれる液が、徐々に白く濁り始める。そんな変化はおろか、自分がなめている物の味もにおいも分からない飽和状態の八雲は、物問いたげな上目遣いで男を見上げる。

 彼女にすればこの行為を早く終わらせたくて、でもどうすれば良いのか見当もつかなくて男の様子をうかがったのだが、自分の物越しに向けられた視線は、奉仕したくてお伺いを立てているのだ、との幻想を抱かせる。

 「口にくわえて。歯を立てないように」

 男の指示に、固定されていた思考が回復する。その途端、今まで脳に届いていなかったペニスのにおいと味を知覚してしまう。

 「うぷっ…」

 なめているだけでも精一杯の「それ」を、口に入れろ……と? 八雲を支配していた羞恥心を、拒否反応が上回る。

 「いや……です」

 この期に及んで物静かな口調で、しかしはっきりと拒絶の言葉を吐きつつ自分の物から顔を背ける八雲の態度は、男にいら立ちと同時に加虐心を起こさせる。

 あごをつかんで少なからず乱暴に自分のほうを向かせると、耳元に今までにない凄みを効かせてささやく。

 「警告はこれで最後だ『必要なら何度でも言うけど面倒』。これ以上逆らうと、姉さんの写真あちこちに、ばらまくぞ」
 「それ、は……」

 八雲の首筋から抵抗ではなくあきらめを感じとると、あごにかけていた手を離し、逸物を突き出し、それ以上の催促はせずに待つ。

 「……くっは……うっ………」

 苦しげな息をもらしながら亀頭を可憐な口に含む。唇の熱と柔らかさが、肉棒を心地よく刺激する。

 「し、舌を絡めて」
 「ぐぷぅ……ぐちゅ………ちゅっ」

 言われるままに舌を使い出す。八雲の唾液と、男根から染み出す粘液が混じり合ってねっとりする感触に、亀頭が充たされるように張る。

 「うぐっ…ぐっ………うう? ……ぐふっ、ごふっ」

 ただでさえ膨らんだ亀頭に圧された口内にさらに男根をねじ込まれ、むせる八雲。

 男は少しだけ腰を引いてから、そそのかす。

 「自分で出し入れしたほうが楽じゃない?」

 再び、さっきよりは軽く自分の物を押し込んで八雲が動くのを要求する。今までより深く男根を含み、刺激を与えながら頭を引く。また男根を飲み込み、その行為を繰り返して頭を前後させ続けるうちに、時折加えられる男の腰の動きにうながされてスピードを上げる。

 八雲の動きにつれて異なる快感が、裏筋に、亀頭に、先端に間断なく与えられる。

 「ぢゅぷっ、じゅぷ…ずぷっ、ぐっぅ……ちゅぷっ、ぐぷっ…ぅ………」

 八雲の口からもれる声と音と、そして自分を見上げる苦しげな目元が、男の絶頂への行程を急加速する。こらえきれなくなり八雲の頭を乱暴につかむと、新たな行為を求めた。

 「先っぽを吸って」
 「……は…いっ………ちゅう、ぢゅう…ちゅぷ、ちゅぷ………」
 「根元をゆ、指でしごいて『もっと強く速く。袋も触って欲しい。もんだり、引っぱたり優しく……』」

 八雲は右手の人差し指と親指で陰茎をしぼり上げ、速度を増しながら、左手を陰嚢に添えて軽くもむ。陶酔する男も、いっぱいいっぱいの八雲も、言葉にしていない指示にまで従っていることに、思い至らない。

 限界に近づいた男は亀頭を引き抜き、八雲の右手ごと自分の陰茎を握った。

 「っぷはぁ……えっ?! ………」
 「きつく、きつく握って!」

 八雲の唇から唾液でつながり、てらてらと濡れた亀頭がさらに膨らむ。男の手で押さえつけられた手の平を肉棒も圧迫し、内なるうずきを脈動が強く伝え陰嚢が収縮する。

 男は的を外すまいと、八雲の顔を両手ではさんだ。

 男の肉棒が一方的な欲望を、激しく噴射した。その勢いは虚ろに喘ぐ顔だけでは飽き足らず、首筋から、荒い呼吸とともにかすかに上下する豊かな乳房まで、純白を濁った白で汚す。

 快感の余韻を求めて、未だだらしなくザーメンをにじみ出している肉棒を、ほほや唇になすりつけてくる男の行為を、疲労と混乱の渦中にある八雲は、されるがままに受け入れた。

 「はぁ、はぁ……はぁ、くちゅっ…はあ………ふっ、はぁ、はっ、はぁ……」

 空気を求めて閉じ開きする唇に糸を引くザーメンは、八雲の息をより乱す。

 「………ぴちゅっ…………」

 紅い舌にまとわりつく淫猥な音。



 ザーメンをふき取り、呼吸と着衣を整えた八雲は対価を請求する。

 「姉の写真を返してください」

 どうやって出し惜しみしようかと考えたかけたストーカーは、落ち着き、強さを取り戻した視線に捕らえられ、不承不承鞄を探り、わざとらしく時間を稼いでから注文の品を取り出し、八雲に差し出す。

 プリントアウトされた十数枚の写真と、メモリーカードを受け取った八雲は念を押した。

 「これで、全部ですか」
 「ああ、『本当に』全部だよ『コピー取っときゃよかった、せっかくいい出来』」

 おもむろに裁ちばさみを持ち出してきた八雲は、写真を入念に、メモリーカードを無理矢理切断してごみ箱へ。

 『ああっ、もったいない……。でも』

 逆接の接続詞に続くのは、ゆがんだ努力が無為になるのを見せてもらったお返しに、鞄から取り出してきたビデオカメラの液晶画面を見せつける行為だった。

 (………ぴちゃっ、ぴちゃっ……ぐちゅっ、はぁ……はぁ……)

 そこには、男の物にしゃぶりついて舌を出し唇をすぼめる八雲の横顔と、水っぽい音声が明瞭に記録されていた。

 「そっ、れ…は……」

 羞恥に占められた顔を、映像から背ける八雲に追い討ちをかける。

 「これを二人だけの秘密にしておいたら、この続きをしてくれるか…」
 「警察に通報します」
 「…な『っ?』」

 寸毫の躊躇も、何ら条件提示もしない八雲の即答に、遅まきながら思い知らされる。自分の痴態を隠し撮りされているのなど、百も承知だったのだ。その保険があれば実際そうしたように、男が天満の写真をすべて渡すだろうことを見越して、気づかない振りをしていたに過ぎない。

 「これを!」

 再度カメラを八雲の目の前に突きつける。

 「皆に、クラスメートやら見ず知らずの男共に見られるんだぞっ」

 今度は視線を逸らさなかった。赤面したままではあったが、切れ長の目を画面と男に真っ直ぐに向ける。

 その凛々しさと、ほほや黒髪に残った精液との落差。

 「や『犯りたい。出直せば手はあるけど、待てない、今、犯りたい』実はお姉さんの写真、まだあるん『嘘』だけど」

 微塵もゆるがない。

 「『うっ、それにしても、本当にそうまでお姉ちゃんのほうが大事、かよ? 自、分よ…り。……にやっ』にやっ」

 何を考え出したか、よこしまな笑みを今日は表情にも出した。そしてビデオカメラを片づけ、帰り支度を始める。

 「そうまで決意が硬いんじゃしょうがない。君のことはあきらめるよ」
 「えっ……」

 その抵抗の小ささに、八雲が抱いた不安は的中する。

 「仕方がないから、このビデオを天満ちゃんに見てもらうとするよ。もともと『そのつもり』お姉さんが目当てだったんだし。可愛い妹のためなら何でも、それこそどんなことでも、してくれるんじゃないかなあ」

 「っそんな、卑怯……です」

 蒼白な呟きに、わざとらしい驚きを装って報いる。

 「まさか、今ごろ気づいたの」

 憤りに震え、唇を噛みながら身構える八雲に、胸ポケットから取り出したカメラ付携帯電話で牽制して先手を取る。そこには、ビデオと同じシーンを正面から写した静止画が、次々に表示されていく。

 「俺ケータイいっぱい持ってるんだ。もう送信済みだから、俺を投げ飛ばしてビデオを奪っても意味ないよ」

 震える長いまつ毛が影を、絶望が翳を、八雲の瞳に落とす。

 もはや隠す必要のなくなったビデオで、その憂いを嬉々として撮る男。

 「せっかく身繕いしたところ悪いけど、もう一度脱いでくれる。今度は下も全部」



 最後にストライプのパンティーを足から抜くと、八雲は生まれたまんまの姿に帰った。

 きゃしゃだけれど決して貧弱ではない肩幅、そこから爪先まで続く滑らかな曲線の完璧さは、ほんのわずか大きすぎる胸で均整を崩しているが、それは多くの男のリビドーをくすぐる誤差だ。

 ストーカーがさっきよりも冷静にその姿を眺めているのは、ビデオ越しゆえか。

 全身をなめたレンズを八雲から離さないようにちゃぶ台に置くと、何台あるのか別のビデオカメラを取り出し、背の低い茶だんすの上に据え、液晶画面に映る画を確認しながら向きを調整する。

 「ああ、これは気にしないで」

 不安げにうかがう八雲に、気安く無茶を要求して歩み寄る。

 視線を外そうとするあごを捕まえて自分に向けると、ぎゅっと目を閉じ、歯を食いしばる八雲に顔を寄せ頸動脈に舌を這わした。悪寒に身を硬くする八雲にかまわず頭を下げる。唾液で緩やかな螺旋を描きながら胸の谷間の中程に達した舌が、少女の不規則に乱れる心臓の鼓動を味わってから右乳房を侵していく。

 豊穣な弾力を力任せに感じたい衝動をこらえ、触れるより少しだけ強く乳房をもみつつ、小さめの乳輪を縁取ると、ねとつく糸を垂らしながらいったん離れる。

 恐る恐る見下ろした八雲の目に、自身のピンクの先端に舌の尖端が、じりじり近づくのが映りさらに身をすくめる。

 「ひあっ、う」

 接触に呻き思わず逃れようとする八雲の、張りのある尻の半分を右手でわしづかんでそれを許さない。

 唾液はあばらを濡らしながら、こんな細部にまで造形を整えているへそを浸食し、なお下へ向う。柔らかく、控えめな茂みの上端に達したとき、悲痛に懇願する声が漏れる。

 「……もう、やめてくださ、い」

 舌を離して顔を上げた男に油断したすきに、右手の中指が少女の秘部を襲う。

 「あああっ……」

 苦鳴をあげながら腰は距離を取るが、右乳房をつかまれ逃げ切れない。

 「い、痛いっ」

 痛みで逃走を阻止すると、胸を放した左腕で腰を固定し、改めて指を下腹部へ向わせる。中指の腹を、八雲のスリットを浅く開くように這わす。

 「ふ、ぁ…やっ、め……」

 徐々に、本当にわずかずつ、女性器への進入を深めつつ、右尻をつかんだ左手の指先を肛門に接近させるようにその周囲を刺激し、唇は乳首を吸う。

 「く、いっあ……うう」

 八雲が発するのは、ほぼ嫌悪、ややくすぐったさ、いくばくかの痛み、の声のみ。

 一方、ストーカーのおつむは女体をむさぼる欲望に支配されており、少女の反応をおもんぱかる余裕はなく、かすかに残った理性が組み立てる文字を読み取る余地は八雲側にもない。

 しなやかな脚が小刻みに震え、立っているのもままならなくなりつつあるが、男の左手の握力と、わずかでも男の指から恥部を遠ざけておきたい感情が、かろうじて持ちこたえさせている。

 その右足がつかみ上げられ、男の左肩に乗せられる。

 「えっ? ……ひ、はあっ」

 強引に開いた股間に顔を寄せ、八雲の秘所を舌で犯し始める。

 ほんの少しだけほぐれてきてはいるが、一向に湿りださない女性器の、当然の反応に業を煮やして実力行使に出たか。そんな浅はかな考えさえなく、性欲に突き動かされるままの行為か。

 体を支えるためと、男の頭部を遠ざけるため、八雲の両手が反射的に男の髪を力一杯つかむ。激痛が走ったはずだが、男は頓着せず一心不乱に舌を這わせ続ける。

 「い、ゃあ…ふぁっ……?! ぱっい!」

 少女の声に初めて微量ながら甘さが入り混じったのは、閉じた陰唇の上部、皮に包まれたクリトリスに舌先が触れたときだった。

 そのリアクションに気を良くしたのか、衝動そのままの性急さが緩和される。時折クリトリスも刺激しつつ上から下までねぶり続け、八雲の裂け目の幼い抵抗をじっくり弱めようとする。

 「はっ、はっ…はあ、ふぁ……はっあ……」

 脱力した八雲の左足は床に接しているだけで、ほとんど自重を支えてはいない。

 男は右手で軽く左の乳房をもてあそんだまま、左腕を支えに重心を後ろに傾けさせて、八雲を仰向けに寝かせる。

 「あ!?」

 ボブカットのしなやかな黒髪が、畳の上に広がる。

 左胸をまさぐる愛撫は休めることなく、首筋をなめ上げ、自らのパンツは下げる。それを八雲に気取らせないため、耳たぶを味わうついでに、偽りの優しさを込めてささやく。

 「力を抜いて。でないと」
 「はあ、はあ……ふっふう……」

 呼吸はどうしても荒くなるが、極力声を漏らさないようにこらえている。その八雲の涙ぐましい抵抗を、不意打ちであざ笑う。

 「痛いよ」
 「…あっ?! いっああ……!! やあっ」

 男の亀頭に入り口の襞を割られた痛みに、悲鳴を上げる。とっさに男の体を押し離そうと両腕に力を入れるが、それを予期していた男は持ちこたえ、逸物は八雲の膣に先端を残したまま。

 「大げさだなあ『うるさいよ』、まだほんの先っぽを入れただけなのに」

 確かにその通りだが、オナニーさえ未経験の肉体にとっては、望んだ相手を受け入れるのだとしても痛みは避けられない。ましてや心も拒絶していては、生じる苦痛は耐えがたいものへと増幅される。

 目を閉じ、歯を食いしばり、全身をこわばらせて防御姿勢をとる八雲には、男の言葉は届いていない。

 「天満ちゃん」

 にもかかわらず、ぼそっとこぼした名前にはあまりにも機敏に反応を示す八雲に、男は嘲笑を禁じえない。

 「これ以上抵抗されると、邪魔くさくなって」

 卓上のビデオカメラを一瞥。

 「天満ちゃんのところに行っちゃうよ」

 言いながら、押さえていた八雲の手首を荒っぽく握る。

 「いたっ……」

 反射的に力を入れた八雲は、男の非難がましい視線に腕を下ろす。

 「それで良い。それに、本当に力抜かないと痛いだけだし」

 男の肉棒は、八雲の内部への進攻を再開する。そのスピードが極めてゆっくりなのは、八雲を気遣っているわけではなく、膣内が窮屈で加速しがたいからだ。

 「う、くっ……い、ぅうっ……」

 必死に声を押し殺す。

 逆らうまいとする意志、好きでもない相手を受け入れたくない感情、痛みを排除しようとする生理。三つのベクトルが拮抗して、少女の両の太股は痙攣を起こしている。

 『くくっ、健気だねえ。入れてるほうが、苦しくなるほどのせまさなんだ、よっぽど痛いだろうに。そこまで、お姉ちゃんが大切かねえ。ふふっ、思わず何もかもぶちまけたくなるよ』
 「あ……うっ? ……つ、くう……っ?」

 亀頭は、慎重な侵攻さえ許さない最終防衛ラインの反発にあい、一旦停止。

 男は、自身にも多少の、相手にはそれとは比較にならない苦痛を要求する強硬突破を選択した。

 腰を思いっきり深く突き出し、八雲の処女膜を容赦なく一気に引き裂く。

 「!? ぐ、がっ…ぎあ……ふぁはっ!!」

 のけぞった八雲の口から声にならない絶叫が、よだれとともにあふれる。意識を失いそうな、いっそ失ってしまったほうがましな痛みが襲っている下腹部に無慈悲にも男根の出し入れがなお加えられている。

 「いあっ……ふっは…あ、あ、う……」

 男が股間に打ちつけるように腰を振るたびに、少しずつ前回より奥までえぐられる。陰茎が膣から抜き出される際には、八雲の血と襞を引きずりながら現れる。

 『ついに、処女を奪われちゃったよ、ははっ。自分のことを陥れてる人を守ってるつもりで』
 「……えっ?」

 八雲の脳裏に、痛みを凌駕する困惑が忍び寄る。

 『この仕打ちが、天満ちゃんの差し金だって知ったらこの子どうなっちゃうのかな。……く、くくくっ』



 ガッシャーーーンッ!!!

 八雲に吹っ飛ばされたストーカーが、思いっきりテレビに激突する。

 八雲が明確に意志、ほとんど殺意に近いそれ、を込めて力まかせに両手を突き出したのに対し、完全に意表を突かれた男は、受身も取れず無様に叩きつけられた。

 「嘘です!! そんなっ……姉さんが、そんなことっ!」

 おそらくは物心がついてから初めて発したであろう、大音声で怒鳴った。

 痛む後頭部をさすりながら、下半身丸出しで腰を抜かしている男には、まるで状況が理解できない。

 無理にかけられた腰への負荷と、下腹部の鈍い痛みによって立ち上がれない八雲は、無意識にひざを合わせて血に濡れた秘所を、自らの肩を抱く両腕で胸を、男から隠そうとする。

 そうして身を縮こめていながらも、激しい憎悪を込めてにらみつける。

 「まさか」
 「……あっ………」
 「嘘だろう?!」

 半信半疑ながら男が事情を察したのと、八雲が自身の失言に気がついたのは、どちらが先だったか。顔面蒼白にしながら口を押さえても、あまりにも手遅れ。

 「……ありえない、けど『もし、俺の心が読めるなら、いやそんなことありえない、これから考えるとおりに行動して。従わなかったら、読心能力なんてものがないっていう当たり前の理由でできないのだとしても、天満ちゃんをゆするから、そのつもりで。って、こんなこと考えてる自体間抜けだって』、でも」

 八雲は、陸に上がった人魚姫よろしくちゃぶ台に這い寄ると、ストーカーの鞄から手錠を取り出し、両腕を背中に回して自身を拘束する。

 「?! ……信じられない。じゃあずっと俺の考え、読まれてたのか『えっあ、気味…わりぃ』」

 外道の言葉にも、恐れを含んだ嫌悪の視線にも、彼女が傷つかなければならないいわれは、これっぽちもない。しかし、この力は八雲にとってそんなに軽いものでも、そういう風に割り切れる性格でも、ない。

 トラウマになりかねない心痛も、幸か不幸か、重大な疑惑の前に早々と霧散する。

 「嘘、ですよね。姉さんがこんなこと……」
 「『あー、黙ってても意味ないのか。ばれたの俺のせいじゃないし』
 君と烏丸くんが、お姉さんに隠れてつき合ってるって吹き込んだんだ。この間の無断外泊も実は烏丸くんと一緒だった、とか」
 「どうしてっ、そんなひどい」
 「そうでもしないと、天満ちゃん、こっち向いてくれないでしょう。だから密会写真をでっちあげて『我ながらいい出来だったな』持って行ったんだけど、なんだか話が思わぬ方向へ進んじゃって」

 ちゃぶ台のカメラを取り上げ、八雲の表情を追いながら続ける。

 「つまり、この映像ははじめから天満ちゃんに見せることになってるし、天満ちゃんは烏丸くんも見ると思ってる。それで二人が破局『破局?』したら、成功報酬として天満ちゃんの処女をもらえる。そのあとは関わっちゃいけない約束だけど、代わりに妹を好きにしていい、って。自分をだしに脅せば言いなりだから、なんて。それは、今日いやほど実感させてもらったけど」
 「……そん、な……」

 どこかに綻びがないか。

 「だったら、何故、姉さん宛の脅迫状を」
 「ショックを受けた天満ちゃんが、しらじらしく君の目の届くところに脅迫状を置き忘れる。あれ読んで彼女を一人残していける? 脅迫者の無茶な要求に、お互いかばいあう麗しい姉妹愛。でも実は、っていう筋書きだったんだけど。
 昨夜、天満ちゃんから、君が手紙を渡してないと連絡を受けたときは、どうしようかと思ったよ。まあ、君のつもりは見当がついたから、何食わぬ顔で登校するように天満ちゃんに言い含めて、俺が参上したわけ。
 『て、ことは天満ちゃんも知らないの。ていうか、あれっ』でも、お姉さんの心が読めるなら、この企て、ばれてたんじゃ」
 「いつもいつも視えるわけでは……」

 言いかけた言葉から、想像したくない可能性に思い当たってしまう。

 同性でありながら唯一天満の心が視えるのはおそらく、彼女が自分に注いでくれる愛情が別格だから。その想いが損なわれているとしたら、天満の心が視えなかったのも必然、なのか。

 「そんなはずない……こんな、こと、嘘…です……」
 「もちろん、嘘だよ」

 その言葉に、すがりつく八雲。

 「どうやれば嘘が吐けるのか、知らないけど」

 与えられた絶望。

 「『どうでもいいから』嘘だから、さあ、『さっさと』さっきの続き、を」

 中途半端で放り出された下半身が言わせる、欲望まみれの台詞を途切れさせたもの。あれほどの痛みにも、さまざまな恥辱にも、今まで一度も見せなかった涙が、八雲のほほを伝う。

 「ねえ、さ…ん……っ」



 抜け殻と化した八雲は、ペニスの再挿入にも抵抗どころか、生理的な反応さえ見せずされるがまま。男の動きとはまったく無関係に、時々すすり泣きをもらす以外は声も出さない。

 「これじゃ、俺がつまんないだろう」

 八雲の口と鼻をハンカチで押さえつける。

 「む? ぐう……ぐっ、ううっ」

 呼吸困難の苦しさに、視線が焦点を結びなおす。空気を求めて体が抵抗を再開、それにともなって膣に押し込まれている物への異物感もよみがえる。

 しかし両腕を封じられた上から仰向けに倒され、さらに男にのしかかられている体勢では、効果的な反撃など望みようがない。足をばたつかせ、首を左右に振って逃れようとする八雲におかまいなしに、ピストン運動を加速する男。

 「ぐ、うぐっ……うう、むぐうっ……っ」

 先程とは異なる理由で、八雲の瞳から意志が失われる直前、呼吸が自由になる。

 「がっ、がはっ…はあっ、はっ、は…はあ……!? えっ、いい、ああ……ああ、いあうっ」

 空気をむさぼって咳き込んだあと、八雲の発するのが、男根の抜き差しと連動する明らかな嬌声へと転じた。

 「なんっ…どうし、て? いい、やっ…気持ち、ああ、い?」

 当惑と快感の渦に呑まれていく。

 酸欠を免れた脳がその解放と、絶え間なく膣内に与えられる刺激を誤って関連付けたのだ。

 八雲の襞を押し広げる物を、受け入れ送り出す行為を助ける潤滑油に、彼女自身の愛液もわずかながら混じり始めた。

 「いあ、あう……ああっ、へ?! ふっ、あ、あ、な……っに?」

 腰を振るたびに少女の中心を穿ってきたペニスは、もはやフェラチオによる射精時を越えたサイズへと膨れ上がっている。自身の限界を悟ると、顔を八雲の耳元に寄せて、つまり彼女から隠して、低くささやく。

 「妹さん」

 八雲のことをそう呼ぶ人間は、一人しかいない。

 その男のことを思い浮かべてしまった刹那、下腹部に熱いものが勢いよく注ぎ込まれる。だからそのときに得た恍惚も、ザーメンを欲するように逸物に加えられた膣の締めつけも、錯覚の産物に過ぎない。

 たとえ、そうだとしても八雲は、初めてのセックス、それも強姦で、絶頂に達した。背中をのけぞらせ、乳房をつぶすように胸を押し当て、鳴き声をあげる。

 「あああああああっ……あい…はあはっ、ふぁっ……」



 『やっぱり、あんな男のことを』

 精液とともに流入された男の想念。矛盾に満ちたそれを混沌の中から紐解く糸口になったのは、八雲に向けられた理不尽な非難めいた疑念だったかもしれない。

 ともかく、自身の至った結論を言葉にして確かめる。

 「……最初から、知っていたんですか」
 「ん? ああ、力のこと『勝手に人の心のぞかないで欲しいな』」

 不必要な罪悪感にとらわれて、言葉に詰まる八雲を尻目に話を進める。

 「半年前にふった男のことなんて、覚えてないか」
 「えっ……」
 「ふられてもあきらめる気はさらさらなかったから、ストーカーに転向したわけ」

 その転身を当たり前のごとく口にされたので、おもわず聞き流すところだった。

 「………え」
 「『彼女が紅茶を注文したら声をかけよう』
 初めて君を見かけた喫茶店で、そう考えたらコーヒーを頼んだ。
 それから俺の賭けはことごとく逆目に出続ける。砂糖入れるか、とか、どっちでカップを持つか、なんて。
 落ち着かない様子の君は十分かそこらで席を立ったんで、店出たとこで声かけようと思ったら、座りなおしてお代わりを注文した。
 もちろん、偶然だと思ったけど、ストーキング開始に際して『そうじゃなかったらまずいから』実験して確かめたんだ」
 「だけど。どうやって、私を……」
 「誤魔化したか? って。
 心を読めるっていっても、表層意識の言葉で考えている部分だけでしょ。じゃなきゃ、昨日全部ばれてたはずだし『そうなったとしても、お楽しみが減っただけで、困りはしなかったけどね』。
 だったら、まあ口で吐くよりはやっかいだけど、嘘を吐けないわけじゃないよね」
 「もともと、私が…狙い、だったんですね」

 肯定方向に振られる首。

 「なのに……何故、姉さんを脅す手紙を……」
 「へ? 効果てき面だったでしょ。一応、最後の実験でもあったけど」

 困惑に眉をしかめる。

 「俺があんなこと考えてるのが分かったからじゃなくても、お姉さん宛の手紙を開けたりする人なわけ?」

 絶句する八雲の表情にフォーカスを合わせつつ、撤退の準備を整えている。相変わらず引き際が速い。

 「じゃあ今日はこれで帰るけど、また遊んでね。それと、このことは内緒にしといて。でないと俺も告げ口しちゃうよ……」

 際限のない泥沼に引きずり込まれぬよう、怯む心を励ます八雲に対して、何枚もあるカードの中から、嬉しそうに最強の切り札を切る。

 「お姉さんのこと、信じてなかったって」

 自己嫌悪と絶望にとりつかれ、うなだれた八雲を、最後の最後までカメラに収めつつ、男は塚本家を辞す。



[14170] ♭63 Friends
Name: 浅倉安雄◆8f484220 ID:3516a9ae
Date: 2011/08/21 21:18
 【まえがき】
 この話は続編ではなく、読者の指摘から着想した「八雲が手紙見なかった」場合を描いた番外編です。




 翌朝、数十メートル離れた路地に身を潜めながら、塚本家をうかがう男の姿。

 その門から出てきたのは、燕尾服を後ろ前にしたような裾の形―― 背中が開いているわけではない―― のベージュのブレザーと、えんじ色のミニスカートの制服を着た八雲だった。
 八雲のつり目がちな目は、下がり気味の眉と、ときに過ぎるほど控えめな性格を反映した仕草に緩和され、鋭角さを感じさせることはない。普段なら。
 常の彼女を良く知る者なら、そのとき彼女が周囲に配った視線に込められた攻撃性を、いぶかしんだろう。

 八雲は、心配そうに一度我が家を振り仰いでから学校へ向かった。


 それを見届け、男は再び塚本家に向かう。

 『あー、どうする、どうしよう、今行ったらやぶへびに、いや先送りにすればするほど露見しちまう可能性が、だいたいもう通報とかされてたら、そもそも俺は何であんな、盗撮だけで満足しとけば、いや天満ちゃんがあんな男に夢中なのが……』
 小心者の見本市を垂れ流しながら、門前にたどり着いた男。
 「何かご用ですか」
 「えっ? あ、な、なに!? 『びびび、ビックリしたあ』」
 自家撞着に陥っていた男は、背後から声をかけられるまで八雲の接近に気づいていなかった。
 「あ、うっ『この子学校行ったんじゃ』」
 男を見据える八雲の面には、誰が見ても攻撃的な表情が貼りつけられている。
 対する男は、最初の驚きが去ると、選択肢を奪われて決断する必要のなくなった、小心者の安堵を浮かべる。



 塚本家近くの林道、そこは住宅街にあるにしては深い木立によって、周りから隔絶されており、他聞をはばかるにはふさわしい。

 「お、お姉さんに渡してもらった手紙の中身、知ってるのかな」
 「手紙を読んだ後、姉の様子がおかしかったので、盗み視ました」
 もちろん、「心を」とは続けない。
 どうしたのかと問う八雲に対して、激しい動揺の中にあってなお、妹に心配かけまい、彼女だけは巻き込むまい、と必死だった天満の痛々しさを思い返すと、声を荒げそうになる。
 が、その怒りから逃れるように、男は唐突に地面にひざをつき、両手のひらをつき、頭を下げて土下座する。
 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
 あれは、気の迷いというか、魔が差したというか、二度としませんから許してください」
 言いながら鞄を探った男は、シール式の封を閉じていない封筒を取り出すと、うやうやしく両手をそえ、頭を下げたまま八雲に差し出す。
 「これで、隠し撮りしたデータと、写真のプリントアウト全部です『惜しいけど、本当に全部渡すんだから信じて』。
 二度とお姉さんには近づかないから、昨日の手紙はなかったことにしてください」
 「本当に?」
 恥も外聞もなく頭を上下に振りまくると、へつらった笑いを浮かべ、憐れみを乞う上目づかいで八雲を見上げる。
 「本当に全部だし、近づきません。
 自分でお姉さんに謝るのが筋かもしれないけど、とても合わせる顔がないし、俺の顔なんか見たくもないだろうし『何より目撃者を増やしたくない。幸か不幸か天満ちゃん、俺のことなんて知らないし。あれや昨日のが残るけど、他人に見せるわけにいかないから処分するだろうし。この程度のことで警察に捕まって人生狂わされたらたまんないから、ホント、二度と関わらない』勘弁してください」
 あまりの誠意のなさは、これまで天満にしてきたこと、するつもりだったこととあわせて、腹に据えかねる。だが、その身勝手さが、男を天満から遠ざけるのなら、と憤りを飲み下して答える。
 「わかりました。私から渡しておきます」
 「えーと、天満ちゃ『うっ』」
 八雲の瞳に不快を読み取った弱者の察知能力が、呼称を変更させる。
 「……お姉さんは、君が気づいてることを知って」
 「知りません」
 「じゃ、じゃあ、封筒に謝罪の手紙も入っているから、俺が昨日の手紙はなかったことにして欲しいと、謝ってたとだけ伝えて、くだ……さい」



 言いたいことだけ言って、早々に逃げ出したストーカーの、見たくもない顔を再び見るはめになったのは、五ヶ月が過ぎた頃の、駅の人ごみの中でだった。



 八雲に気づいた男は、目をそらすとこそこそと人ごみにまぎれていく。
 その場を立ち去ろうとした彼女に、男の顔以上に見たくなかったものが、視えてしまう。
 『妹、天満ちゃんの。どうせならあの子がどっか行っちゃえば良かった、俺を置いてアメリカへ行くなんて、ひどいよ天満ちゃん。さすがに追っていけないし。あれから撮りためた画像、向こうのサイトに上げたら、居づらくなって帰ってきてくれないかな』
 頭に血が上り、男に詰め寄ろうとした八雲を、さいわいにも人の波がさえぎる。いくらか落ち着いた八雲の視線は、男の行く先を追い。


 古びた二階建ての木造アパートに行き着く。

 その一室の玄関前で、男はポケットを探っている。
 八雲は、男に気づかれないように置いていた距離を、突入に備えて縮める。
 『ここ俺の部屋じゃないんだ、残念ながら』
 「え……」
 驚愕に、立ちすくむ八雲を振り返り、満面の笑みを向けるストーカー。
 「でも、お姉さん『アメリカ行っちゃって好都合』の画像、ネットに上げる準備がしてあるのは本当だから、そのことについて、『邪魔の入らない』君んちで話そうか、じっくりと」



 数週間後、八雲が通う学校の一角にて。

 「ねえねえ、最近なんか八雲の様子、変じゃない」
 「うーん、やっぱり?
 力のこと打ち明けてくれてから、何でも抱え込んじゃう傾向、減ってきたと思ってたんだけど」
 「いやいや、いきなり何もかもは変えられないよ。
 それに、変えなくても良いことだってあると思うし」
 「おおっ、それなんのドラマのセリフ?」
 「ひっどーい、何でわたしが真面目なこと言うとちゃかすかな」
 「ごめんごめん。でも普段の行いが、ねえ」
 「考えてみたら春休みに、私が同居する話断ったときから、どこかおかしかったかもしれない」
 「あー、確かに、断り方がらしくなかった、というか。
 まあ、播磨先輩居候させるってのは、さすがに無茶だったけど。でもあの家に一人は、寂しいよ」
 「ただ一人になっちゃっただけじゃなく、居なくなった人の存在がね、あまりにも大きかったもの」
 「うん……」
 「やっぱり塚本先輩すごいよね。
 好きな人追いかけてアメリカにまで行って。しかも、その人の病気を治すためにお医者さん目指すっていうんだもの。
 尊敬しちゃう」
 「そういえば八雲言ってたよ。あなたお姉さんに似てるって」
 「うーっ、それはちょっと。私の目標、沢近先輩だし」
 「それ、無理過ぎ!」
 「ひどっ、何もハモらなくても……」
 「私、八雲の家に行ってみるよ」
 「あっ、ごめん。今日つきあえないや」
 「うん、一対一のほうが話しやすいかもしれないし。今日は一人で行くわ。
 とりあえず、メール入れて、と」



 塚本家の茶の間。

 (……何の猪口才な! ふ、不埒な痴れ者めが……)
 「あっ、はああ、くふぅ、はあはあ、はあ……」

 睦まじい姉妹団らんの場だったそこに、ふさわしい音声―― 二人とも時代劇好き―― と、ふさわしからざる淫靡な声、発するはつけっ放しのテレビと、仰向けの男の上にまたがる生白き女体。

 後ろ手にされた手錠によってさらすことを余儀なくされた、豊かな乳房を弾ませながら、騎乗位でストーカーと正対する八雲の顔には、黒地のタオルで目隠しが為されている。
 彼女が身にまとっているのは、その二点のみ。
 密着した下腹部同士の間から男根が中程まで姿を現しては、再び膣内に隠されていく。それを繰り返す八雲の腰の上下動は、徐々にスピードを増してゆき、それだけでは飽き足らぬように前後左右のひねりを加え始めた。
 尻を持ち上げ、結合部を強調するように腰を左前に突き出し、さらに弧を描きながら整った柔肉の形を歪めるように、男の下腹へと押し下げる。
 それは怒張した男の物の付け根にまで快感を与え、八雲の内壁をこする角度に変化つける。
 「はっはっはっはあ、あっああっ……」
 「こっれは脅迫とか関係ないから、正直に答えて欲しいんだけど」
 「はひっ」
 「気持ち、良い?」
 目隠しからはみ出していた、目元からほおにかけての赤みが増す。
 「そ、それは……」
 返答をためらう八雲に、今まで彼女任せだった動きに、自らも腰を浮かせて激しさを付与しつつ再び問う。
 「あきゃっ」
 「答えは強要しないけど、答えるのは強要するよ?」
 どう言ったところで、結局は下衆な脅迫に過ぎないが。
 「はっ、はい、い、い……です」
 八雲の回答を合図に二人の動きが、それまでの上下幅の大きいピストン運動から、ハイテンポで細かな前後動に移行していく。むき出しになったクリトリスと小陰唇が男の根元になすりつけられ、愛液にまみれた互いの陰毛がもつれあう。
 動きの変化につれて、潤んだ唇から漏れる声も切迫したものへと変わってゆく。
 「はっ、あああああぁ、はわあ…あっあ」
 「も、もう出る…けどどうして、欲しい?」
 「あっ、き、今日は、ぁん……」
 「はっきり、答えを」
 「……今日は、大丈夫な日なのお、でな、中に、あうっ…ください」
 男が腰のグラインドを弱める。
 「ふーん。素直になったのはありがたいけど、面白みには欠ける、というか、君に飽きてきた?」
 語尾は平板。
 「ふへっ……!?」
 「だから、お友達、紹介してくんない」
 快楽あるいはあきらめに耽って、だらしなくよだれを垂らしていた口元に、拒否反応が現れる。
 「そ、そんな…ことは、ダ、メでぇ……ああっ」
 拒絶の言葉を、ストーカーの両人差し指がさえぎる。左右の乳首を乳房に押し付けると、そこだけを接点に胸を揺する。
 硬く尖ったピンクの突起は、白く柔らかなふくらみに面白いように沈み込み、そのふくらみはいびつな二つの円を描く。
 「心配しなくても、君も可愛がってあげるから」
 「あっ、そんな心配、して…わうっ……」
 「じゃ、膣内射精は、なしで」
 「あ、えっ……」
 「それじゃあ、助け舟を。
 君にはお姉さんを、俺の脅迫から守らなきゃ、っていう、立派な大義名分が、あるじゃない」
 八雲が屈したのは、どちらにだったのか?
 「サラちゃんも素敵だけど、俺は日本人が良いな。
 ストレートの黒髪でロングヘアの彼女、なんて名前だっけ」
 とうに知っているであろう友人の名を、八雲の口から吐き出させたがっている。
 「うぅっ……」
 「な・ま・え、は?」
 絶頂を堪えながら凄んでみせても迫力には欠けるが、八雲にはそれ以上に余裕がない。
 「榛名……東郷、榛名、です」
 「ふむ、榛名ちゃんか。
 黒い瞳に淑やかな立ち居振る舞い。いいねえ、いかにも大和撫子な感じで。
 その榛名ちゃんを、はめるのに、協力してくれる」
 罪悪感に、消え入りそうな声で応じる。
 「……はい」
 「ご褒美に、中出し、してあげよう」
 「あ、りがとう……ございます」
 羞恥に、消え入りそうな声。
 交渉を楽しんだストーカーは、性的なそれも堪能すべく動きを激しくする。
 「うっあああ、はあ、ああぁっ」
 「……背中、向けて」
 言われるまま、ペニスを抜かない身ごなしで半転する八雲の、充血した小陰唇には新たな刺激が生じた。
 「ふはっ」
 「ヨイ、ショっと」
 男は上半身を起こし、手のひらを埋めて余りある上気した乳房をきつく揉みしだき、グラインドのリズムを上げる。
 「あっあっあああ、あ、あうぁ」
 「だっ、出すぞ…くっ」
 「あああーーっ!」
 射精と同時に男は、手荒に輪っかのまま目隠しを引き抜く。
 八雲のしなやかな黒髪は、あるいは目隠しに引っ張りあげられ、あるいは汗で額やほおに貼りつけられ乱れに乱れ、ほお骨の上縁と耳の付け根の上端を結ぶライン上などにもタオルの名残りがある。
 最大の後遺症は、ぼやけた視界。解放からいくらかのタイムラグを置いて、まともに焦点を結び始めた八雲の眼に映ったものは。 

 茶の間から続きの板の間の、ミニテーブルに据えられたビデオカメラは想定内、けれど居間のテレビとミニテーブルの中程の床に、先にストーカーが描写したとおりの少女が、猿ぐつわに手枷足枷で転がされていたのは、そうじゃない。

 その少女の視線は紛れもなく、全裸で男とまぐわう親友の痴態をとらえている。
 「いやっ!! やめて、見ないで!!!」
 おそらくは物心がついてから初めて発したであろう、大音声で懇願する。
 けれども、ストーカーはひざ裏から抱え上げて、八雲の両足を無理やり開かせた。
 腿の付け根に抵抗する筋肉の筋が浮かび、その中央には男の逸物をしっかりとくわえ込んだ女性器が無慈悲にさらけ出される。
 「いや、いやいやい、やっ!」
 破瓜の痛みにも、数週間にわたるさまざまな恥辱にも今まで一度も見せなかった涙を、とめどなくあふれさせながら八雲は、両足でもがいて男の手をほどき、額を畳に擦りつけながらはいつくばって逃れようとする。
 彼女の苦悶を贄に、興奮を増したストーカーのペニスは、まだ精液を撒き散らし、離れゆく八雲のアナルに届いた白く濁った雫は秘所の下端へと滴る。
 さらに手錠の鎖をつかんで八雲を取り押さえた男は、中空に発射するむなしさを嫌って、柔らかさと弾力を兼ね備えた尻肉に肉棒を押し当ててザーメンを出し尽くす。
 「ふうっ」
 「いやぁ……ぅう」
 存分に余韻をむさぼった男は、お白洲に引っ立てられた罪人のごとく額づいてすすり泣く八雲を放置して、ズボンをはき榛名を見下す板の間との境に立つ。

 普段八雲が着ているのと同じ制服のブレザーとミニスカート姿の榛名、自由を奪われ直すことのかなわないえんじのスカートの捲れからは、穢れなさを連想させる汚れない肌の色がのぞく。
 大事な部分を隠すため、閉じたひざを抱え込む姿勢は、他方で張りのあるお尻から太ももにかけての曲面を、蠱惑的なものにしてもいる。
 丸みを帯びた柔肌がむき出しにされている様から推し量ると、まるで穿いていないか、かなりきわどい下着を身に着けているらしく見える。

 榛名は、蔑みを込めて男を見上げるがそれも一瞬のみ、ストーカーの存在などないも同然に、哀憎半ばする漆黒の瞳を八雲に注ぐ。
 その視線の行方を満足げに追ったストーカーは、厭らしい笑みを浮かべながらかがみ込む。
 「むが、むぐっふ……」
 「うんうん、榛名ちゃんも、お友達に言いたいことがあるよね」
 ストーカーが少女の口元を覆っていた布切れをほどき、口に詰めていた物を取り出すと、前述の疑問が氷解する。
 丸められた彼女自身のパンティが、榛名のよだれを糸引きながら現れたので。
 『八雲! 泣いてる場合じゃないよ。しっかりしなさい』
 「えっ……!?」
 泣き濡れて汚れた顔を上げた八雲は、ストーカー越しに榛名と目が合う。
 猿ぐつわのせいでむせ返っていた少女は、落ち着くと言葉をつむぎ出した。
 「ひどいよ、八雲。お姉さんのことで八雲が脅かされてるって、そう聞かされたから、おとなしく言いなりになるしかなかったのに……」
 「今日、うちに来るって、メールもらったから、代わりに返信しておいたよ。で、途中までお出迎えに行ったんだ。
 初対面の名刺代わりに、君のポートレイトを持って」
 「始めからグルになって、私を陥れるつもりだったんじゃないの。
 塚本先輩を脅迫する材料なんて端からなかったんでしょ!」
 「さあ、どうかな?」
 恨み言を友人にぶつけた榛名は、ストーカーの嫌味に、矛先を変える。
 「だったら、そんなものどこにあるっていうの」
 「それはね、って……まさかそんな誘導尋問で口を滑らすとでも、お……!?」
 言いかけたストーカーは、慌てて八雲を振り返る。
 その隙を突いて榛名は、這わされた姿勢から半回転、つないである両足をそろえて男の足を払った。

 ガッシャーーーンッ!!!

 完全に意表を突かれた男は、受身も取れず無様に後頭部を思いっきりテレビに叩きつけ、もんどりうって仰向けに倒れた。
 派手に動いて、愛らしいお尻が丸出しになるのにもかまわず、男の下半身にうさぎ跳びの要領で覆いかぶさった榛名は、八雲に選択を迫った。
 「八雲、私はこんなことに巻き込まれるのは、お断りよ」
 『あー、そう来るか』
 窮地に陥っているにもかかわらずストーカーは、他人事のように榛名の戦術を分析する。
 『俺とおんなじやり口じゃないか』
 肝心の部分が正反対だが。
 (……御用だ、悪党。観念しやがれ……)
 「ぐげっえ!!」
 鳩尾に八雲のひざを落とされた男は、泡を吹きながら悶絶する。

 後ろ手に拘束され、ひざをたたんだうつ伏せの同じ姿勢で、ストーカーの上半身と下半身に、頭は互い違いに左右から乗っかっている八雲と榛名。
 「ごめん、榛名。ごめんなさい」
 顔を伏せたまま、そう口にするのが精一杯の八雲、へ顔を向けるため首を丸める榛名。
 絹のような黒髪が、男の脚を経て畳の上に垂れる。
 「コレ、あなたの力のこと知ってるんでしょ」
 「……どうしてっ?!」
 驚いた八雲は、榛名と同じように友人の顔を見返す。
 「コレ」が八雲を顧みたのはダメ押しだったろう、けれど確信はその前からあったに違いない。
 「でなきゃ、八雲があんなこと、言うわけないじゃない」
 「は、榛名」
 「逆用されて、思い通りしゃべらされてた、ってとこでしょう」
 不自然な逆さ絵状態にもかかわらず、穏やかなとびっきりの、そしていつも見せてくれる笑顔を浮かべる親友。

 「視えなくてもそれぐらい簡単に、分かるよ」

 八雲の目頭が熱くなる。
 いきなり榛名が、上半身を跳ね起こす。
 「あーっ、この体勢でしゃべるの疲れる。
 早いとこ手錠の鍵、探そう」
 言いながら、こりをほぐそうと首をめぐらす。
 「そうだ。お尻がスースーするから八雲、下着貸してね」
 「あっ……」
 「八雲のパンツ、パンツぅっ」
 おどけてみせる友人の心づかいに、ポロポロ涙を零しながらも、本当に久しぶりの笑顔が、八雲に戻る。



 (確かに指示の場所にあった。ブツは、ちゃんと確保したよ)
 硬質な色気を感じさせる声音。
 榛名の携帯から聞こえてくるのは、その声にふさわしい容貌と性格を併せもち、八雲たち五人の担任教師だった刑部絃子のものだ。

 大人で、冷静で、同性で、さらにあまり表ざたにはできない技能まで持っている―― らしい―― 彼女は、相談を持ちかけるのに最適の相手だった。

 「ところで先生、鍵もないのにどうやって部屋へ入ったんですか」
 (本当に、知りたいのかい)
 「えーと、やっぱり知らないほうが……」
 (そう、お互いのためだ。……そんなことより、塚本くんに替わってくれないか)
 榛名は、自分の携帯を八雲に差し出す。
 「はい、替わりました」
 (刑部だ。
 君の要望どおりにするのは可能だが、本当にいいのかい)
 「はい、データや写真の処分は、私以外の人のものだけお願いします」
 (なんならそっちにあるクズごとすべて、闇に葬ってもいいんだが)
 八雲は、しばらく前の榛名と立場を入れ替えて、床に転がっているストーカーを一瞥する。
 「いえ」
 (法に則って報いを受けさせようとするなら、被害者もつらい思いをすることになるよ。理不尽な話だが)
 授業であれ、プライベートであれ、事情を知ったときにストーカーを口汚く罵ったときでさえ、常に飄々としていた口調が、厳しすぎるほど真摯なものに変わる。
 (本当に、良いんだね?)
 八雲の、携帯電話を持つ指先が、話し出そうとする唇が、小刻みに震える。
 けれど、榛名を―― そしてその向こうに榛名と同じように応えてくれるであろう人々を―― 見やって一呼吸ついた後に返したのは、同じ答えだった。
 「はい……。
 私には、支えてくれる人たちがいますから、大丈夫です」
 (分かったよ。私も出来るだけのことはしよう)
 「……ありがとうございます」
 八雲は心からの感謝を告げる。



 (……これにてえぇ、一件、あ、落ちゃッ、)
 電話を終えた八雲は、ずっとつけっ放しだったテレビの電源を切った。



[14170] ♯110 DEAD OR ALIVE Xtreme
Name: 浅倉安雄◆8f484220 ID:3d2f1ed8
Date: 2011/08/21 21:21
 校舎は夜更けにふさわしく静まり返っていたが、それは本来あるべき平穏ゆえではなかった。
 教室や廊下のあちこちに、生徒一クラス分の亡骸が転がっている。屋上では銃弾に倒れた学ラン姿を、片ひざをついて抱き上げるもう一人の少年。
 少年は、自分を撃った腕の中で力尽きた── そう敵だった、だが分かり合えたかもしれない── 者の名を叫ぶ。
 「播磨ーーーー!!!」
 ゴリッ。
 悲愴な絶叫は、後頭部に押し当てられた銃口によってさえぎられる。
 「ひたってるところ悪いダスが……」
 「西本?!」
 「ワシの勝ちダス」

 銃声───。

 「ええーっ」
 翌日、教室では女生徒達から非難の声が上がる。
 「なにか文句あるダスか。サバイバルゲームに勝ったのはワシら、水着ずもう軍ダスよ」
 「あるに決まってるでしょっ。そんなくだらないのが、うちのクラスの出し物だなんて」
 批判の急先鋒に立った女生徒は、天然物の金髪ツインテールを優雅に揺らしながら言い捨て、対する巨漢のほおを幾分ひきつれさせる。
 しかし、自分の浪漫を込めた企画をくだらないもの呼ばわりされ傷ついても、西本の仏像めいた無表情はそれ以上には動揺しなかった。
 「そういえば、ゆうべ乱入してきたゴツイ沢近さんは、お嬢様はどちらに、とか言ってたダスが、あの変態さんが探してた、お嬢様って誰のことダスかねえ」
 「ぐっ……、あの馬鹿」
 彼女にだけささやいた言葉は、てきめんに急所をとらえたらしく、碧眼の少女の口を封じる。さらに西本は、彼女以上の難敵を抑えるべく、たたみかける。
 「まさか、サバゲーで文化祭の出し物を決めようって言い出した張本人が、反対したりしないダスよね」
 矛先を向けられた高野晶は、いつものポーカーフェイスのまま
 「そうね、仕方ないわね」 と、あっけなく折れる。
 「あんた、また裏方にまわるとか言って、自分だけ高みの見物を決め込む魂胆じゃ」
 「アラ、ちゃんと参加するわよ」
 机を叩きつけるように立ち上がった長身の女生徒、周防美琴の勢いは肩すかしを喰わされる。
 「勝ち残ったら、もちろん賞品が出るんでしょ?」
 抑揚の少ないしゃべり方の中で、品、に込められた微妙なニュアンスを汲み取りつつ、西本が答える。
 「もちろんダスよ」
 期待していたスリートップの攻撃が不発に終わったことで、女生徒達の異議は停滞してしまう。自ら高野に水を向けた西本の賭けは、吉と出たようだ。

 クラス女子全員参加による、水着でのバトルロイヤル。確かに沢近愛理の言うとおり、あまりにもくだらない。けれど、そこに男の浪漫があることもあながち否定はできまい。
 不承不承とはいえホームルームで承認を得た西本達水着ずもう班は、男子生徒への裏工作を始める。担任教師は相変わらずの放任主義で口を出さないので、実に都合が良い。
 反対するであろう数人── たとえば、硬派を気取った馬鹿×2、とか── には声を掛けなかったが、意外なことに、このクラスに彼女がいる梅津は話に乗ってきた。

 そして、文化祭の当日。

 水を張る代わりにマットを敷き詰めたプールに、色とりどりの水着に身を包んだ二十人近い少女が並んでいる。文句を言いつつも見られるからには、良く見られたいというのが女心だろう。中には学校指定の水着の女子もいるが、それはそれでアクセントになっている。
 特等席のプールサイドからフェンスの外までを埋めた満員の観客は、異様な熱気をはらんだ校内外の男達が過半数を占めている。
 「負けたら一人ずつ、罰ゲームをやってもらうダスからね」
 西本の発言に、またも非難の声が上がる。
 「えー、そんなの聞いてない」
 当然、瀬戸際まで黙っていたのだ。
 「でないと、みんな真剣に戦わねえだろ」
 同じ水着すもう班の吉田山がフォローする。
 「た、たいした罰ゲームじゃないよ」
 人畜無害だけがとりえの奈良の言葉に、ざわめきが一応収まる。
 「それじゃあ始めるダスよ。プールサイドに出されたら負けダスからね」
 どこから用意したのか、ゴングが打ち鳴らされる。

 プールの底が緊迫する。結構みんな真剣なのは罰ゲームへの抵抗もあるが、どうやって資金を調達したのか知らないが、優勝賞品が相当に豪華だからでもある。
 「キャー」
 大方の予想通り、最初の脱落者は塚本天満だった。
 非力さでなら彼女以下の女生徒も少なからずいるが、天満はそのことに自覚があるのかないのか、どっちにしろおとなしくしていられる性格ではない。弱いのに目立つ、バトルロイヤルでは最悪である。
 自爆同然にプールサイドに放り出された天満を、観衆の間を縫ってクラスメイトの男子達が回収する。
 「塚本さん、罰ゲーム行きね」
 お祭好きの天満は、ノリの悪い奴と思われたくなく、「しょうがないなあ」と口調だけ不平たらしくも、おとなしく連行される。

 文化祭の陽気な喧騒を遠くに聞く教室の中。
 そこを満たす暑苦しいまでの殺気が、隅でうずくまっている天満を怯えさす。右ほほのあざ、乱された長い黒髪、ちぎられたワンピース水着の左の肩ひも、バトルロイヤルからは無傷で脱落したはずの天満の無残な姿。あるいは控えめなサイズの胸があらわにならないように、あるいは震えを押さえるように自らの肩を抱いて身を縮めている。
 「ちっ、こいつなら競争率低いと思って選んだのによ」
 互いをけん制する男達の一人が吐き捨てる。床には苦悶しながらひざをつく者や、仰向けに失神している者が大勢いるが、それ以上の人数がまだ健在で戦闘続行中である。
 敗者への、罰ゲームの行使権を賭けたもう一つのバトルロイヤル。
 この戦いへの参加料のごく一部で、豪華優勝賞品はまかなわれている。参加者は公に行われているバトルロイヤルのメンバーから一人を選んでチケットを購入し、その対象が敗退した段階で裏の戦いが開始される。
 強者を選んで優勝されたら高額の参加料を払い損だし、敗退してきても本人を抑えるのが大変だから、あるいは人気のあるチケットは戦い自体が大変になるので、という失礼な打算と、実は積極的にアプローチしないタイプが多いので目立たないが、決して低くない本人の人気のために天満の倍率は一二を争うほどに膨れ上がっていた。
 「別に、独り占めじゃなくてもいいんじゃねえ」
 あまりの人数に、天満にとって最悪の妥協案が持ち出される。
 早々に伸されて天井を見上げる奈良が「もっと早く言い出してよ」と、薄れ行く意識で思った瞬間。
 「塚本ーーーーーっ!!」
 教室のドアを開ける荒っぽい響き、続いて肉の爆ぜる音とともに魂の叫びがなだれ込んでくる。
 「はり…まく、ん?」
 天満をかばうべく男達との間に立ちふさがる乱入者。天満の惨状に播磨の怒りが軽く沸点を超える。が、天満を怯えさせないように、怒気を押し殺した歯ぎしりの間から決意を漏らす。
 「心配するな塚本。これ以上お前に指一本触れささねえ」
 圧倒的な多勢に無勢の中でもそれは、はったりに聞こえない。すでにドアと天満を結ぶ線上にいた十数人は、何の抵抗もできずに屍をさらしている。伝説の不良、播磨拳児にとっては、この程度の連中なら倍の人数でも敵ではない。
 「ありがとう。さすがは播磨くん」
 ましてや、恋しい女性を守るためである。
 「……未来の義弟だね」
 ただし、その想いはまるで伝わっていない、どころか天満は自分の妹と播磨が付き合っていると誤解しているのだ。
 「いや、塚本、だからそれはちが……」
 報われないナイトの一瞬の脱力を、飢えた男共が見逃すはずもなかった。塚本天満、本日二度目の自爆。

 「茂雄、冗談……だよね」
 別の教室では、カーテンを引いた窓際で少女が、自分を追い詰めた男達の中に恋人を見つけて呆然と呟く。
 「私のこと助けてくれるんだよね。信じてるよ」
 「俺も信じてたよ、お前は撃たないって」
 サバゲーで、敵味方だった二人。
 「っ! あれはただのゲームじゃない」
 「それでも、俺は信じてたんだっ」
 声を荒げた男の瞳は、何かを失った虚しさに濁っていた。そんな恋人達の確執に焦れた男達が襲いかかる。
 「いやっ、助けて茂雄。お願い」
 「これもただのゲームだよ」
 無茶な理屈の下に、陸上部でもトップのタイムを叩き出すしなやかな足が、容赦なく開かされ蹂躙される。
 「アンタたち、こんなことして良いと思って……ぐふっ」
 隣の教室からは、当然の正論が、ボディーブローで封じられるのが漏れ伝わってきた。

 一方プールでは、隠された惨劇も知らず、白熱の戦いが頂点を迎えようとしている。
 素人ならではの貧弱な戦いや微笑ましいまぬけさは、人数が減るごに影をひそめ、ふらちな観客にさえ露出への期待を忘れさせるほどレベルの高い戦いが繰り広げられていた。
 残り少なくなった面子は、こちらも予想通りだった。
 「はあはあ、さすがね、美琴。全然乗り気じゃなかったくせに」
 「あいつらの考えた罰ゲームなんて、ろくなもんじゃないだろうからね。絶対にお断りだよ」
 言葉とは裏腹に、もはや優勝賞品や罰ゲームなど周防の眼中にはなくなっていた。端からそんなものに興味のなかった負けず嫌いの天才少女と、幼いころから鍛えられた根っからの女武道家は、戦いに酔い始めている。
 沢近の鋭い右ハイキックを、周防が左前腕で受け止める。長身の周防の頭部を狙えば当然大きく開脚することになる。ガードと蹴りの均衡で緊張した足の付け根の筋肉の張りが、上品な着こなしゆえに感じさせなかったビキニの生地量の少なさを改めて認識させ、その布に隠された部分に意識を向けさせる。
 一度は下火になっていたエロな欲望が再燃すると同時に、戦いそのものに対するテンションも天井知らずで、闘争本能とリビドーが渾然一体となったわけの分からない興奮が観衆をあおる。
 「頑張れえ! 沢近さんっ」
 「水着むいちまえっ!!」
 「ミコちーん、みんなやっつけて優勝だあっ」
 そんな外野からの騒音は二人の耳には入っても、意識には届かない。
 汗ばむ胸を豊かに弾ませながらバックステップした周防の鼻先を、危うく沢近のつまさきがかすめていく。左右高低を問わず多彩な軌道で繰り出される連続蹴りに、さっきから防戦一方だ。
 しかし、沢近が蹴り技で攻勢をかけ続けるのは、得意だから以上に、組技がない身では、劣ったリーチを稼ぐ唯一の選択肢だった。そして周防は、打撃戦が苦手なわけではない。
 ーーーシィッ!
 鞭のような音を立てて周防のローキックが、沢近の軸足をとらえる。
 キックの始動時に合わされたので、衝撃を逃がしようがなく、その場にうずくまるのを堪え転がって距離を取っただけでも、尋常ではない反応といえた。
 「っ痛あ」
 痛みに対する生理的反射で、目尻に涙が浮かぶ。
 左ひざをつき、右足首を両手で押さえる沢近を見て周防は、「あちゃー、やり過ぎたか」という表情を浮かべ、追撃はかけない。
 友人として好もしく、時々もどかしさも覚える彼女の善良さが、今ははっきりと頭に来た。悔し涙が混ざる。
 やせ我慢に苦痛を飲み込み、呼吸を整えてひとりごちる。
 「玉砕覚悟なんて趣味じゃないけど、負けるのはもっと……」
 弾かれるように地を蹴って駆け出す。右足首を襲う感覚を無視して、一気に間合いをつめる。動きやすくポニーテールに束ねたブロンドを、この期に及んでなお優美になびかせながら。
 迷いなく突っ込んできた相手を迎え撃つべく、重心を落とし軽く曲げた周防のひざを踏み台に、沢近は飛びひざ蹴りを放つ。右ひざが、周防のあごを真正面からもろに突き刺し、鈍い音を立てる。
 卓越した才能を持つ者、沢近愛理にふさわしい名を冠された技。それを、特に修練もせず使いこなせるとは、格闘センスだけでいえば周防以上かもしれない。
 しかし実戦では、素質だけ比較しても無意味だ。周防の両腕に抱きかかえられても無抵抗の沢近は、反撃をあきらめている。あごを力点、首を支点にして脳を横揺れさすはずだった蹴りを、まともに喰らわれた時点で負けを認めていた。
 「あたたた、口ん中切っちゃったよ」
 言いながら、沢近をプールサイドに腰掛けさせる。沢近愛理敗退。
 「それは、ごめんあそばせ」
 激闘に不釣合いな気品を漂わせた笑みに、不完全燃焼はなさそうだ。
 そのとき背後に忍び寄る気配に、間髪いれず迎撃のバックハンドブローを放つ周防。
 「そうくると思ってたよ、高のおっ!?」
 隙を突いての奇襲も、反撃がかわされることも予期していたが、相手は違っていたようだ。その意外さに、一瞬動きを奪われる。
 「一条さ……」
 裏拳を空振ってがら空きの右脇に密着され、高速スープレックスに持っていかれる。
 なされるがままに投げられながら、不意打ちなんて一条さんらしくない、けど、そういえば、耳馴染みの軽薄な声がずっと自分を応援してたなあ、とか、それが彼女の想い人だったり、っていうか、このまま叩きつけられたら死んじゃうって、と思考をめぐらせた半瞬後、引き締まったウェストを完璧に捕まえていたフックが、突然力をなくす。
 いきなり解放された周防は、とっさに受身を取りながらプールの底を転がる。
 動きを止め、やっと周りが見えるようになった視線の先には、意識を失った一条かれんと、彼女を抱きとめている高野晶の姿があった。ちなみに水着は、前者がパステルカラーのワンピース、後者が競泳用でキャップまでつけ、きっちりと髪をたくし込んでいる。
 「ふう、助かったよ、高野」
 謝礼とともに周防が立ち上がろうとしたとき、バトルロイヤル中最大の喚声が沸き上がった。ひもをほどかれたビキニのトップがはだけて、大振りな乳房がこぼれ落ちそうになったので。きわどいところで、水着を両腕で抱きとめる。
 「出し惜しみすんなー」
 歓声がブーイングに変わり、そのブーイングに対して女生徒を中心にさらにブーイングが巻き起こる。
 「高野、アンタねえ」
 怒りと羞恥で声が震え、赤面したのを自覚できるほど顔が火照る。対照的に高野は、表情も口調も平板なままだ。
 「どうする美琴、水着を直す時間をあげるつもりはないけど」
 確かに、投げを放つ一条の延髄を的確に手刀で打ち抜き、返す刀で水着のひもをつまみ、周防が身を翻すのを利用してほどいた、信じがたい早業と手癖の悪さを相手に、そんな隙を見せるのは致命的だ。最悪Eカップをさらけ出しての失神KOという、おバカな男共を喜ばすだけの結末もありえる。
 「わかったよ、アタシの負けだ」
 沢近のような充足感のない幕引き。
 高野は、プールサイドで試合を見守っていた西本に向き合う。プール内に残っているのは、状況に腕を拘束された周防と、気絶した一条、無傷の高野の三人だけだった。
 「優勝は、高野晶選手ダス」
 主催者による勝者決定の宣言とともに、派手に打ち鳴らされるゴングが戦いの終わりを告げる。プールサイドに上がった高野は、何やらやけに分厚い封筒を西本から受け取ると、とっとと戦場を後にする。

 意識を取り戻した一条に、恐縮して謝られまくったあと、沢近と一緒に保健室で治療を受けた周防は、罰ゲームに赴く途中だ。
 「ったく、散々見世物にされたあげく、まだ付き合わされるわけ」
 「あれ、負けを認めないなんて、潔くないんじゃないの」
 案内役の男子の言葉は、愚直な武道家の痛いところを突く。
 「あー、しょうがないな」
 あきらめて、罰ゲームの場所に指定された教室に入った周防を、頭上から凶器が襲う。

 「ダメよ、沢近さんは重傷なんだから。罰ゲームなんてさせられません」
 保健室に迎えに来た二人の男子生徒に、不穏なものを感じた保険医の姉ヶ崎先生は、やんわりきっぱり拒絶を示す。それにかまわず保健室に入ろうとした生徒に注意を向けたことで、死角になったもう一人が取り出したハンカチに口を塞がれる。ハンカチには薬品がしみこませてあり、僅かな抵抗もできずに意識を持っていかれた。
 「どうせ、一人で相手させられる数じゃないんだ。この女も連れて行くぞ」
 ぐったりした姉ヶ崎先生を抱えた男の言葉を合図に、外に控えていた男達が保健室に入り込んでくる。
 沢近愛理と姉ヶ崎妙は、断トツの一番人気で、とんでもない人数が待つ、罰ゲーム会場に拉致されていった。


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