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[14929] 習作・ネタ『とある憑依の絶対能力(レベル6)』注・最低系、多重クロス
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2010/01/02 16:19
 俺は『学園都市』にいる『とある能力者』に憑依した。

 誰だと思う?

 上条当麻? 一方通行? それとも意表を突いて御坂美琴? 白井黒子?

 答えは「NO」だ。

 主役ではない。

 主役だったら良かったなんて贅沢は言わないぜ。心の贅肉さ。

 俺が憑依した人物。

 そいつに『名前』はなかった。

 つまり、脇役だ。

 脇役に憑依したのだ。

 べ、別に上条当麻に憑依して神裂ねーちんの堕天使コスなんて望んでないから!

 不満はないのだ。

 脇役でもいい、無敵(レベル6)ならば。

 そう、俺は特典として前人未踏の『絶対能力』を手にした脇役だ!

 え? 誰に憑依したかって?

 名も無きATM強盗犯とでも言おうか。

『とある科学の超電磁砲』単行本第三巻、番外編「とある二人の新人研修」にて登場した二人組の強盗。その片割れ『絶対等速(イコールスピード)』という男に、憑依しちゃった。個性っぽい部分はない。悪役の三下って雰囲気が隠せない顔立ち。小学生の白井黒子に負けた男に、俺は憑依したのだ。

 でも、無敵(レベル6)だぜ?

 最強(アクセラレータ)より上ですよ?

「て、テメー! 裏切るのか!?」

「やめろ! やめてくれぇ!!」

「あ、がガ我ががががg………!」

 時系列は原作で強盗を犯すよりも少し前。場所は薄汚い誰かの部屋。どうやら強盗計画を企てていたので殲滅しちゃった………(笑)。

 そもそも強盗なんて格好悪い。

 原作では語られなかったが、俺(つまり絶対等速)は先輩とやらに上納金を支払うために強盗したっぽい。

 不良にも上下関係がある。むしろ不良のほうが厳しいのかもしれない。

 上納金、つまりノルマ達成のために強盗とは馬鹿としか言いようがないね。

 だーかーら。

 皆殺しってヤツですよ。

 集まった面子は俺を含めて五人。実行犯が原作にもあるように俺とニット帽の二人で、他の三人が逃走用の車などサポート。なんて計画してたのでぶっ殺した。

 ついでに先輩とやらも排除決定だ。『能力』の練習も兼ねて人間関係の清算をしなくては。せっかくの『とある魔術の禁書目録』もしくは『とある科学の超電磁砲』という世界を堪能できるのに三流の悪党なんかと連んでいたら興醒めだしね。

 俺の能力『絶対等速』は無敵だ。

 誰も俺には勝てないぜ!


………………


 最強の超能力者(アクセラレータ)は『絶対能力進化(レベル6シフト)』という計画に参加していた。

 無敵(レベル6)に成れば、少しは自分の世界が変わると思ったのかもしれないし、単純に『上』を目指しただけかもしれない。

 とにかく。

 一方通行はクローンを二〇〇〇〇人、殺害すると決めた。

 殺人を絶対の禁忌とは思っていない。

 しかし快楽殺人など反吐が出る。

 完全に悪でありながら、善とは違った『何か』が一方通行にはあった。

 これで何度目か、少なくとも百は超えただろう『実験』が今日も始まる。

 目の前に、邪魔者(イレギュラー)さえいなければ。

「………おい。この場合『実験』ってなァどォなっちまうンだ?」

 御坂美琴(第三位)のクローンを適当に嬲っていると、『そいつ』が空から降ってきた。

「よー。面白そうな場面じゃん、俺も混ぜてくれよ」

「あァン? オマエ、俺が誰だか分かってンのか?」

「サイキョーだろ? 俺ってポケモンとかもトコトン鍛えてからバトルするタイプだからさ、今日まで絶対の自信が持てるまで超能力(レベル5)には挑戦しなかったんだよ」

「あ? なンだそりャ? まるで、俺(最強)に今なら勝てるって聞こえるなァ?」

 空には月。無人の区画。殺し合いには打って付け。クローンは半死半生で一言も話せないだろう。

「オマエ、面白ェな」

 足下のベクトルを操作。砂利を『そいつ』に向けて発射する。下手な銃撃よりも厄介な散弾だ、回避は難しいだろう。普通ならば。

「あァ?」

 呆然とした。

 最強である一方通行ならばまだしも、何処の誰かも知らない『そいつ』が、自分と同じ行動をしたのだ。

 即ち、不動。

『反射』という盾がある自分(最強)ならば当然の行為。

 防御も回避も不要。どんな攻撃も跳ね返せば無害だ。

 それと、同じだった。

 発射された砂利は命中した。

 しかし、それだけ。

『そいつ』に傷はない。微動すらしていない。服に汚れもない。

 ただ、当たっただけ。

 まるで『反射』のように無力化したのだ、攻撃を。

「俺は絶対能力者(レベル6)。学園都市の番外位、『絶対等速(イコールスピード)』」

「番外位だァ? 知らねーぞ、そンなのは」

「トーゼンだぜ、自称だからな」

 殺し合いが激化した。

 砂利が効かないのならばもっと大きな物を。

 壁を破壊し、それを使って押し潰す。

 自称レベル6は平然と壁を通過して来た。漫画の表現みたいに、人型の穴を開けながら。それを確認しながらも後方の空へと飛ぶ。

「あハははははははァ!!!」

 笑う。最強に匹敵する者などいない。それを証明するために笑う。

「上空(そこ)は安全地帯じゃねーぞ?」

 空中浮遊する一方通行に、ジャンプ。

 本来ならば重力に従い落ちるはずの軌道が、真っ直ぐになる。

 明らかに自然な跳躍ではない。

 念動力(テレキネシス)か風力使い(エアロシューター)か。それともベクトル操作か。空を自由に飛べる能力は限られる。

 少なくとも大能力(レベル4)は確実だろう。

 そして、一方通行と同じく能力の応用が半端ない。

 肉体を硬化させたのか、物理攻撃が通用せず。

 跳躍すれば物理法則を無視して向かってくる。

 本当に、一方通行と同じくベクトル操作か?

「とりあえず、一発だ!」

 テレホンパンチ。右腕を大きく振り回す。

 その攻撃を無視しながら、一方通行は両手を絶対等速に突き出した。

 悪手。毒手。

 触れたら、死ぬ。

 血の流れをベクトル操作で逆流させ即死させる。

 最強にして最悪の直接攻撃。

「死ンじまいなァ!」

 激突!

 二人の攻撃は互いに届いた。

 ドッ!!

「あっは? はは。何だよそりャ」

 顔面を思いっきり殴られ、地面に落ちたのは一方通行だった。

 口からは血が出ている。唇を切ったのだ。そして一方通行の攻撃は当たったが、血液逆流はもちろん反射さえも出来なかった。むしろ突き指した。

「面白ェ。ははは。ちくしょう」

 口を手で押さえながら、立ち上がる。絶対等速はまだ上空にいる。

「最っ高に愉快にキマっちまったぞ! オマエはァ!!!」

 再び空へと舞い戻る。

 ゴッ!!

 また、殴られた。

 ガッ!!

 三度目の突撃も殴り返された。

「ちっくしょオオ!! オマエ何だよ! その変な能力はァァ!!!」

 地面に倒れ、敵を見上げるなど初体験。

「クソッ何でこっちの手はただの一発も入ンねェンだ!?」

「言っただろ? 俺は鍛えているんだ。能力に頼っているだけのオマエと、能力なしの喧嘩で経験を積んだ俺とじゃ天と地の差があるんだよ」

 こちらの攻撃が通じず、あちらが一方的に攻撃する。

 ワンサイドゲーム。

 それは、一方通行の専売特許だった。

 だった、のに。

「くかっ。くかきけこかかきくけききこくけこきかか――――」

 それが覆されようとしている。

 最強だけど。無敵じゃない。

 一方通行は初めて己の『能力』と向き合った。

 自分を孤独にする大嫌いな『能力』を。

 自分の周りを傷つける『能力』を。

 生まれて初めて心から必要とした。

 何度も「いらない」と思った。

 世界と一人で戦争ができる強大な力を疎ましく思ったのは一度や二度ではない。

 しかし。それでも。

 必要なのだ。

「風。空気。大気の流れ」

 暴風では生温い。風の暴力。

「ぎィヤはははははははは!」

 薙ぎ払う大気の反乱。

 自然災害に生身で勝てる人間などいない。

 普通の人間ならば。

「おーおー。『原作』通りじゃん。一皮ムけたな、おい」

 やはり平然と、宙に浮く無敵(レベル6)。

 一方通行もこの程度で倒せるなどと思っていない。

「いいぜェ! 愉快な事を思いついた。圧縮、空気を圧縮!!」

 光。

 光が、集まる。

 高電離気体(プラズマ)。

 風が一点に集中。

 この一帯全部を吹き飛ばす過剰暴力(オーバーキル)。

「こりゃー、ヤベーかな? さすがはサイキョーだぜ」

 余裕を崩さず、絶対等速は笑みを浮かべる。髪の毛一本すら風で揺れない。宙に浮いたまま一方通行を見下ろす。
 
 
 
「よしッ!! オマエ、俺の舎弟になれ!!!」
 
 
 
 ……………………………………は?

 思わず、プラズマが乱れた。

 風を操る計算を誤ったので、式を組み直す。

「あァ!? ンなに死にたきゃギネスに載っちまうぐれェ愉快な死体(オブジェ)に変えちまおうかァ!!」

 ブチ切れた。

 プラズマを凝縮、解放。

 世界は音と光を失った。


………………


 大爆発。

 幸いにも、その爆発で死んだのは一人だけだった。時間帯が夜で、場所が『実験』用の区画だったからだ。

 犠牲者はミサカクローンだ。もっとも、既に半死人だったのだから爆発がなくても死んでいたが。

「ちくしょう。俺の負けかァ?」

「おう。オマエの負けだ、百合子ちゃん」

「百合子って言うなァ」

 あの後。

 天地を揺るがす最強の一撃は無敵(レベル6)には効かなかった。

 つまり、絶対等速は物理的熱量的衝撃的に無敵なのだった。

「いや~。一方通行がマジで鈴科百合子だとは思わなかったぜ」

「黙れ。そして死ね」

「いいじゃん、貧乳は大好物だぜ」

「死ねェェ!!」

 無論。最強(かのじょ)では無敵(かれ)に傷一つ付けられない。

「一緒に風呂に入ったら、ビックリだったぜ」

「テメーが嫌がる俺の服を脱がして浴槽にダイブさせたンだろうがよォ!」

「思わずオマエの股間をじっくり観察しちゃったぜ。立派な女の子だったぜ?」

「死ねェ! マジで死ねェ!!」

 大爆発から10時間。

 全力を難なく防がれた一方通行は崩壊した瓦礫の中で脱力し、敗北(死)を待った。

 しかし。

「そんじゃ、師匠と弟子のハートフル入浴タイムにしよーぜ」

 などと意味不明な発言と共に一方通行はお持ち帰りされた。

 バトルの後は友情が芽生えるモン! とか。

 死闘の果てに新しい門出が! とか。

 裸の付き合いは大事だぜ! とか。

 無理矢理、服を奪われ風呂を強要された一方通行は叫んだ。


「俺はオンナだァ!!」


 無理もないだろう。絶対等速はマナーを守る男だった。

 湯にタオルを入れない。温泉のマナーだ。今回は彼の自宅にある風呂だったが。

 つまり?

 彼が彼である証拠。

 こ・か・ん。それが丸見えだった。

 最強であっても女である一方通行には衝撃だった。

 いや、最強であり孤高であったがゆえに免疫がなかった。

 初めての『おちんちん』だった。

 だから思わず自身の性別を叫んだのは詮無きこと。

「え? マジ!?」

 驚愕と共に、湯船の中で顔を背けていた一方通行の両足首を掴み、広げる。

「ぎャああァああァ!!!」

 持ち上げられた。

 足を持たれて、体が浮いた。

 絶対等速の視線が、一方通行の女の部分を貫通した。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロス」

「ごめんゴメン。ま、気にすんな!」

 そのまま強制的に一方通行は混浴させられた。

 背中を流せと言われれば瞬時に拒否。

 背中を流すと言われたら逃げ出した。すぐに捕まったが。

「ツンデレか? ツンデレだろ? はいはい、百合子ちゃんは可愛いな。ツンツンしてて。そろそろデレてもいいんだぞ?」

 無視だ。

 こんな馬鹿は無視だ。

「ちょっと全身を洗っただけで怒るなよ。そりゃあホルモンバランス崩れてて男にも女にも見える貧乳でパイパンだからって………」

「うるせェ! コロス!! ぜってェコロス!!!」

 こんな風に、じゃれ合うなんて何年振りだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。

 一方通行は怒りながらもそんな感傷があった。

 最強であるがゆえの孤独。

 孤高であるからこそ学園都市第一位。

 こんな、触れ合いなど。

 必要ない、と思っていたのに。

「ま、オマエも俺の舎弟だ。困った事があったら何でも言えよ。力になるぜ」

「はァ? 最強の俺にそンなの必要ねェよ」

 反射的に断ったが、心の何処かで喜んでいる自分がいる。

 誰かが心配してくれるなんて、懐かしい。本当に懐かしい。

 駄目だ。こんな雰囲気は自分に合わない。クローンとは言え100以上の命を奪った自分には、無理だ。一方通行は甘い誘惑のような絶対等速を恐れた。

 このままでは、依存してしますかもしれない。

(そンなアホな。俺が誰かを頼るゥ? ありえねェな)

「どーした、百合子ちゃん」

「うるせェ」

 こんな関係も、悪くない………かもしれない。

「あ、そーだ。百合子ちゃんにお願いがあるんだよ」

「百合子と呼ぶな。でェ? 俺は敗者だからよォ、ちったァそれらしくする」

「そうだな。とりあえずスクール水着を着てくれ」

「そンな代物は持ってねェよ。そもそも服を着たままでもベクトルを操作すれば泳げるぜェ?」

「俺は『萌え』と『燃え』の両方を愛する男だぜ! 別に水泳がしたいんじゃなくて、スクール水着の女の子が見たいだけだ。そして脱がせたい」

「なァ!? エロ目的だったのかよォ!!」

「スクール水着にそれ以外の用途はない!」

 力強い断言だった。

 あまりにも堂々としていたのでちょっぴり格好いいと思ったのは一方通行の秘密だ。

「ま。ジョーダンはさておき。『上条当麻』と『三沢塾』について調査してくれよ、チョーサ」

「あァ? 誰だよ、カミジョーって?」

「主人公だよ。俺的にはカミやんより一方通行のほうがキャラ的に好きだけどな」

「なァ!? す、好きとか気安く言うンじゃねェよ!」

「はいはい、ツンデレツンデレ」

「意味分かンねェぞォ!?」

 こんな。

 友人のような。そうでないような。

 この距離感は、一方通行にとって新鮮だった。

「まァ、頼まれてやるよ。俺もヒマだしなァ。『実験』も終わったしな」

 無敵(レベル6)が目前にいるのだから、わざわざ面倒なクローン殺しなどする必要はない。

 最強と無敵の違いを、存分に見てやろう。

 そんな事を思いながら、一方通行は頼まれた調査について予定を頭の中で立てる。

 まずは昼寝だな。昨夜から寝ていないのだ。時間は正午よりも少し前だが、学校にも通っていない身だ。惰眠を貪っても文句など誰も言わないし言わせない。

「ありがとう! 愛してる! 眠たそうだな? 添い寝してやるよ、そして胸を揉んで巨乳に変身させてやるよ!」

「うぜェ。何もするな」

 言いながら、無意識で添い寝を許可する一方通行の姿があったとかなかったとか。

「調査とか細かい雑用は苦手でな。オマエに会うのも一苦労だったんだぜ?」

「俺を雑用係とかァ、コロスぞ?」

 布団の中。

 まだまだ殺伐とした『じゃれ合い』は続いた。




 ………続く?



[14929] 第二話 とある緑の妄想具現化(アルス=マグナ)
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2009/12/31 02:13


 学園都市最強の超能力者(レベル5)が敗北した。

 そんな噂が流れている。

 どうでもいい、と思いながらも白髪赤目の少年――――ではなく『少女』はコンビニでコーヒーを購入していた。

 少女は『一方通行(アクセラレータ)』である。

 元々、望んで最強であったわけではない。

 最強だったからこそ無敵を望んだだけだ。

「あァ?」

 ふと、気付けば。

 男が倒れている。金属バットが地面に転がっている。複数の男共に囲まれている。どうやらケンカを売られているようだ。気がつかなかった。

「うぜェよ」

 そのまま、直進。大量にブラックの缶コーヒーが入ったビニール袋をしっかり持って、男達を無視する。

 何かを叫んでいるが聞こえない。『空気の振動』を反射して消音(ミュート)だ。

 キンッ。

 何かを『反射』した。たぶん男の攻撃を跳ね返し、その腕を折ったのだ。

 赤い炎が視界の隅に入る。能力者だ。当然、『反射』した。

 それで、終了。

 愚か者は戦闘不能になった。

 相も変わらず自分は最強(レベル5)なのだ。

 そんな襲撃を気にせず、目的地に到着する。

 ホテル。『外』の住人向けの、ハイテクではない『普通』のビジネスホテルだ。外見から内装、機能まで全てが『外』の科学技術(テクノロジー)に合わせてあるのが特徴で、学園都市の住人としては少々不便が目立つ。『外』の人間はあまりにも発達した機械は馴染めない者もいるので、意外と人気があるらしい。

 学園都市の人間は使わない、ホテル。

 そこに居を構える人物こそが、つい先日『最強』を倒した『無敵』だ。

「おい。なンだ、この『ゴミ』はよォ」

 一方通行は壊されたドアを通り、部屋の主に声をかける。

「おー、百合子ちゃん。ちょっと襲撃されちゃってさー」

 言いながら、男は『ゴミ』を蹴飛ばす。

 その『ゴミ』は生首であった。

 床は血で汚れ、窓のガラスが散乱している。武装した死体がいくつも転がっている。軍人のような格好だ。

「はっ。オマエもかよ。どこで恨みなンか買ったんだ?」

「知らねー。俺様も、いや、吾輩も一々そんな細かい事情は興味ないしなー」

 一人称を変えよう。なんて、阿呆なことを言い出したの一昨日だ。

 何でも、個性を出したいらしい。

「やっぱ『吾輩』は駄目だな、言いにくい」

「どうでもいいだろ、そンなの」

 言って、缶コーヒーを投げ渡す。キャッチしようとして男は失敗。コーヒーは血で汚れた。しかも、飲み口が。

「あー。ま、いっか」

 男はコーヒーを拾って、躊躇なく飲んだ。血液感染の病気を恐れる様子はない。

「オマエは運動神経は良くないンだな」

「人並みだよ、ひーとーなーみー」

「教えろよ、無敵(レベル6)の秘密ってヤツをよォ」

 ベッドに腰掛け、一方通行もコーヒーを飲む。

 上条当麻。

 三沢塾。

 その情報を調査する依頼を受け、一方通行は報酬として目の前の人物――――『無敵(レベル6)』の情報を求めた。

「オッケー。ミーのシークレットを教えてやんよ」

 ありゃ、『ミー』も違うな。などと未だ一人称に悩みながら男、絶対等速もベッドに座る。肩と肩が触れた。やはり、『反射』はできない。

『自称』学園都市番外位、絶対能力者(レベル6)絶対等速(イコールスピード)。

 特徴らしい特徴もない、一方通行よりも年上で悪人っぽい男。

 それが、絶対等速だ。正直、小物っぽい。

「ボクチンはー、一回死亡してー、絶対等速って脇役に憑依したー」

「………あァ? ふざけてンのか?」

「いやいや、大真面目だよん。おーおーまーじーめー。我は『前世』で二次元に行きたいという願望を胸に、とある宗教に入って殉教したご褒美としてこの世界に来たんだよん」

「マジで言ってンのかァ?」

「マジ。真実はいつも残酷なんだよ」

「………………」

 缶コーヒーを飲み終え、黙考する。

 そもそも二次元とは何だ? 線の世界? 意味が分からない。そもそも別の世界? それにヒョウイって憑依、だよな?

「で。何故、わたくしが無敵(レベル6)に成れたか、は。正直に言うと、正確には『能力』ではない」

「『能力』ではないィ?」

「おう。アッシの『力』は超能力と言うよりも魔法魔術に近い」

「また、オカルトな単語が出たなァ」

「つーまーり。某(それがし)は勝手に無敵(レベル6)を名乗っているだけって事だ」

 それは知っている。学園都市の頂点である自分が知らないのだから、非公式なのは当然だ。上条当麻と三沢塾を調べるついでに、絶対等速の調査も一方通行は行っている。精々が大能力(レベル4)止まりの能力者が、ある日突然強くなった。幻想御手(レベルアッパー)とかいう正体不明のモノに手を出したとか噂されている。犯罪組織を壊滅させたり大した意味もなく一般人を皆殺しにしたり、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)から指名手配されていたりと結構な有名人だった。犯罪者も彼の首を求め賞金まで出している。レベル6を自称する、狂気の自由人。

「だからよォ、どうして強くなれたかが知りたいンだよ」

「さっきも言ったけど、それは憑依したからだ」

「意味が分からねェな」

「たとえば。ミサカクローンは何故レベル5ではない?」

「そりゃあ、素質は同じでも環境が違うからじゃねェのか?」

「それもある。しかし、それだけではない。それは『魂』だ」

「たましいィ?」

 またオカルトだ。

「絶対等速の『魂』とアタイの『魂』が合成された事により、その『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が『他人』と共有されたのだ。そして共有された瞬間に、能力の垣根を越えて能力は能力でなくなった。この絶対等速は能力を超えた能力、『超・超能力』を手にしたのだ」

「………………」

 超・超能力。

 だ、だせぇ。格好悪いにも程がある。

「クローンには『魂』がない。だからレベル5には成れない」

「魂、ねェ。非科学的だなァ、おい」

「百合子ちゃんは科学を愛しているのか?」

「百合子って言うなァ」

「科学なんてまだまだ不完全だよ、百合子ちゃん」

「知ってンよ。そして百合子って呼ぶな」

「それで、拙者の能力は絶対等速(イコールスピード)と言う」

 二本目のコーヒーも飲み干し、三本目に突入する。

「元々は投げた物体が、『能力を解除するか投げた物が壊れるまで、前に何があろうと同じ速度で進み続ける』能力だったんだよ」

「あァン? 随分と弱そうな能力だなァ」

「まぁまぁの力だと思うぞ。スピードはなかったけど破壊力はあるし。で、今は『速度』を等しくする力だ」

「速度を等しくするゥ?」

「速度とは、時間みたいなモンだ。それを制御するのがオイラの力だ。たとえば、投げた物体の速度を一定にする。それはつまり、他の条件・環境から影響を受けないって意味だ。レベルが低い時はレールガンとかで破壊できたけど、今のレベルなら破壊不能だ。絶対に止まらない、破壊もできない無敵の力。それを自分自身に掛ければ、絶対に死なない傷つかない無敵の人間に成れるって訳だ」

「つまり、影響を受けずに進み続ける能力が進化して、何者にも干渉されない能力に成ったって訳かァ」

「そうだ。絶対等速とは現状維持という意味だ。『呼吸をしている』状態を維持すれば『呼吸できない』状態でも関係なく生存可能だし、食事も必要ない。もちろん、睡眠だってワシには無用だ」

「確かに、無敵だなァ」

「ただし、欠点がある」

「欠点? そンなのを俺に言ってもいいのかよォ?」

「別に知られたって問題ない。百合子ちゃんだって自分の超能力が誰かに知られても何の問題もないだろ? それと一緒だよ」

「百合子って言ったらコロス」

 確かに、『あらゆるベクトルを操作する』なんて知ったところで何の問題もない。

「弱点ではなく欠点。自分はあらゆる干渉を受けない。影響を寄せ付けない。物理現象だけではなく、精神でも、な」

 精神。

 先程も、血の付いた缶コーヒーに平然と口を付けていた。

「殺人に対する嫌悪感もなければ罪悪感も感じない。心に何も、響かない。このまま行けば、小生は遠くない未来に廃人と成るだろう」

 それは、そうだろう。

 喜怒哀楽は無から生まれない。外部からの刺激があって初めて反応する。反応を学習してより高度な精神活動が可能となる。

「だからオイドンは刺激を求める。最強の百合子ちゃんを倒してみたり、少しでも興味が持てたら即実行。心に響くように、行動する。でなければ、死ぬ。それが欠点であり無敵の代償だ。死ぬのは怖くない。何も怖くない。それが、『変』だと思えているうちに、心から満たされる『何か』を探さなければ。死ぬんだよ、精神(こころ)がな」

「はっ。だから妙にハイテンションなのか、オマエはよォ」

「泳ぎ続けなければ死ぬマグロのように。テンション下げたらそのまま何もしない何も考えない石にでも成っちまうぜ」

「難儀だなァ、オマエも」

「いえいえ。心が死ぬのも問題なんだけど、もっと問題があるんだ」

「なンだよ?」

「あらゆる刺激を感じないがゆえに、拙僧は『インポ』に成ってしまったんだ」

「そうか………インポにィっておォおいィ! なンだそりゃあ! シリアスな雰囲気で何を言ってやがりますかァ!?」

「勃起しないんだ………スクール水着を見ても、小学生を見ても、何をしても、もう勃たないんだ」

「いや。小学生を見て勃起するのは駄目だろォよ」

「だから朕(ちん)は、勃起するために手段を選ばない!」

「やっぱりオマエは死ねよ、マジでよォ」


………………


 三沢塾。

 緑の髪をオールバックにした、長身の男がその建物に居た。

 彼の名をアウレオウス=イザードという。錬金術師にして隠秘記録官。元ローマ正教であり『黄金錬成(アルス=マグナ)』という頭の中で思い描いたことを現実に引っ張り出す魔術を使う男だ。

 全ては禁書目録(インデックス)という少女を救うために。

 今日も『吸血鬼』を誘き出すために、

 と。

「本邦初公開! 時間の流れという影響さえもスルーしちゃう絶対等速! 時を超えてオレ見参!」

 侵入者が二人、眼前へと現れた。虚空より、前触れもなく。

 瞬時に針を首に刺し、精神を落ち着かせる。そして。

「憤然。何者だ、貴様ら」

「さあ! バトルしようぜ!」

「いや、意味分からねェよ。何がしたいンだ?」

 白髪赤目の者と、個性の少ない男。魔術師特有の雰囲気がしない。不可解な侵入者であった。

「説明しよう。我々は時間移動をして、えーと、名前は忘れたけど錬金術師のいる時間軸までワープしたのだ。絶対等速の力ならば、時間の影響・干渉すら無視して好きな時間帯に存在できるのだ!」

「あァ? ホントに何でもありだな、オマエ」

「と、言う訳で。錬金術師には絶対服従に成ってもらうぜ! インポを治すために!」

「錬金術師、かァ。本物かよ?」

「唖然。意味が分か………」

「ザ・ワールド! 時よ止まれ! そして時は動き出す!」

 衝撃。アウレオウス=イザードの意識は、そこで途切れた。


………………


 学園都市は『外』と比べて、何代も技術が進んでいる。

 洗脳技術も、進んでいるのだ。

 精神を安定させる薬物も、ある。

 中には、全能感を強制的に彷彿させハッピーに成るドラッグもある。

「目覚めよ! 錬金術師改め魔法少女・三沢ミドリ!」

 そう、私は魔法少女。

 名前は三沢ミドリ10歳。緑色の髪だから名前はミドリだ。

 妄想を具現化する魔法を使って『お兄ちゃん』の願いを叶えるのが私の役目だ!

「うん、お兄ちゃん!」

「よーし。ミドリちゃん、お兄ちゃんの病気を治しておくれ!」

「分かったよ、お兄ちゃん! 変身!

 軽快な音楽が流れ、光が私の体を包む。肌を露出させ、衣装が変わる。ロリロリでフリフリな、緑色のコスチューム。

「魔法少女アルケミーグリーン参上!」

 三沢塾の一室。呆れた顔をした白髪赤目の少女が居たとか居なかったとか。

「お兄ちゃんの病気が治れ!」

 しーん。変化は特にないようだ。

「あれ? おかしいな。私の妄想具現化(アルス=マグナ)は全能なはずなのに」

 薬物やら洗脳やらで想像できない事象を想像できないままに脳内補完して実現させる『原作』を超えたアウレオウス=イザード………ではなく三沢ミドリ(アルケミーグリーン)の魔術でも、お兄ちゃんの病気(インポ)は治せなかった。

「NO! まさか、ミドリちゃんでも駄目だったのか!」

「ごめんね、お兄ちゃん。私、役立たずで」

「いいんだよミドリちゃん! 女子小学生の妹をゲットできただけで僕は満足さぁ!」

「お兄ちゃーん!」

「ミドリちゃーん!」

 がしっ。抱擁。

 もはや錬金術師の原形は皆無だった。性別も年齢も性格も。何もかもが変わった。洗脳薬物で精神は10歳の女の子ブラコン。妄想具現化で肉体は美幼女に。

「なンだか、疲れたな。帰って寝るか」

 超展開に付いて行けず、一方通行は帰宅した。




 ………続く?


………………


 あとがき

 感想は賛否両論というか『否』が多かったけど、とりあえず無視されるよりはいいので批判も全然OKです。むしろクレーマーを大事にしてこそ、みたいな。

 ドンドンご意見待っています。よろしくお願いします。



[14929] 第三話 とあるランドセルの日常生活
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2009/12/31 18:13

 口にはジャムをたっぷり塗った食パン。

 遅刻、遅刻と小走りで走る少女。

 緑の髪をした少女。

 その正体は新本格中毒系錬金術魔法少女、三沢ミドリことアルケミーグリーンである。


 どんッ!


 お約束である。

 曲がり角にて『誰か』とミドリは激突した。

 食パンは宙に舞い、とある小学校の制服を着ているミドリは転倒した。もちろんスカートであるから、デフォルメされたカエルが描かれたパンツが露わになる。それを凝視する『誰か』――――ツンツンした黒髪の男子高校生、上条当麻。

「え、えー。上条さんはこんな使い古されたラブコメ展開なんか望んでませんよー!? しかも幼女?」

「あれ? お兄さん、ロリコンなの?」

「違うわ!! 上条さんはそんな社会不適合者じゃありません!?」

「私のお兄ちゃんは立派なロリコンだよ! お兄ちゃんを馬鹿にするな!!」

「お兄ちゃん大問題だー!?」

 妄想具現化(アルス=マグナ)と幻想殺し(イマジンブレイカー)が交差した時、新たな物語が始まる………?


………………


 本当に、曲がり角で男女がぶつかった。

 三沢ミドリと上条当麻のアホみたいな会話を『上空』で見下ろしながら、一方通行は呆れていた。

「マジで頭の悪い出会い方しやがったなァ、あの二人」

「トーゼン。お兄ちゃんには全てお見通しだぜー」

「無敵(レベル6)よォ、予知能力(ファービジョン)でも持ってンのか?」

 白髪赤目の最強と、特徴のない脇役面の男。二人は三沢ミドリを観察していた。気付かれぬように、光を屈折させ透明化までして空を飛んでの尾行だ。

「上条当麻のフラグ体質を舐めたら駄目だぜ、百合子ちゃん。彼にしてみれば、食パン銜えた女の子と曲がり角で出会うなんて朝飯前さ」

「はっ。ミドリの奴に奇妙な指示を出しているかと思えば、そンな偶然を期待してたのかよォ無敵(レベル6)。あと百合子って言うな」

「ああ。お兄ちゃんとしては上条当麻は優良物件だからな。是非とも『妹』の生活に潤いを与えたい」

「本音はァ?」

「陳腐なラブコメをリアルで見ると、どんな感じか興味津々でーす」


………………


 転校生が来る。

 上条当麻のクラスではその話題で持ち切りだった。

「あー、不幸だー。ジャム臭いし汚れは目立つし遅刻するし不幸だー」

 真っ白なシャツには真っ赤な染み。曲がり角で激突した赤いランドセルの少女が落としたジャムたっぷりの食パンを胴体でキャッチしてしまい、見事なアートが胸に展開されている。たぶん、洗濯しても完全には落ちない汚れだ。

「はいはーい、野郎ども&可愛い子猫ちゃん達にビッグニュースですー。転校生ですよー」

 担任のどう見ても小学生にしか見えない教師の言葉を聞きながら、上条当麻はそれを見た。

 ランドセル、である。

 間違っても此処は小学校ではない。低レベルながらも高校だ。

「あの、その、初めまして! 三沢ミドリと言います! 好きな食べ物はお兄ちゃんです!」

 いや、兄は食べちゃいけませんよー!? 色んな意味で!

「はーい。彼女は見ての通り10歳です。可愛いからってお持ち帰りしたら犯罪ですよ死刑ですー。じゃ、ミドリちゃんはあのツンツン頭のお兄さん、上条ちゃんの隣の席ですのでどうぞどうぞ。自己紹介とかは休み時間にでもしてくださいねー」

「先生! なぜ小学生が高校に転校したかの説明がありませんよー!?」

「上条ちゃん、小学生が高校に転校したら変ですかー?」

「変ですよね!? 変だよね!! 変に決まってますよ!!!」

「わ、私………ヘン、なの? ウルウル」

『死ね、上条死ね!』

『最低よねー、死ねばいいのに』

「クラスが一致団結した!? 嘘泣きだよね!? それ絶対に涙を流していないよね!?」

 妄想具現化。

 高校に転校するなど造作もない。

 疑問を持つのは上条一人だけであった。


………………


「いや、あれは可哀想だろ。あの男に恨みでもあンのかよ?」

「妄想具現化(アルス=マグナ)による常識操作を無効化しちゃった上条当麻には爆笑をお送りしよう。てゆーか、ミドリちゃん可愛いな」

「あン? ミドリの魔術が効かない? 説明しろよ、無敵(レベル6)。上条当麻は無能力者(レベル0)だろうがよォ」

 教室の最前列。担任の隣で、姿を隠した二人が堂々と雑談をしていた。

「上条当麻の右手には神様の奇跡さえも消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』って言う理不尽な機能が搭載されているんだよ」

「イマジンブレイカー? そういえば、第三位の超能力者(レベル5)と対等に戦っていた、なンて噂もあったな」

「それもマジだぜ。百合子ちゃんにも勝てるぜ、上条当麻は」

「あ? ふざけてンのか、オマエ。俺が無能力者(レベル0)に負けるなンて冗談にもならねェよ」

 空気の振動すらベクトル操作で調整して、二人にしか聞こえないようにしている。無敵(レベル6)に出会う以前ならば出来なかった『小細工』が、一方通行には可能となっていた。圧倒的だったがゆえに試行錯誤を知らない最強は、弱者の強味を知った。

「だったら一回バトルか? たぶん主人公パワーで引き分けくらいにはなるかもよ?」

「いいぜェ、試してやンよ。その幻想殺し(イマジンブレイカー)ってヤツをな」

 上条当麻を見る。どう見ても素人、闇を知らない、光の住人だ。


………………


 放課後。

 上条当麻は疲れ果てた。

 隣の席が小学生で、自分よりも頭が良かった。

 隣の席が小学生で、クラスメイトに何の違和感もなく受け入れられた。

「不幸だー。上条さんは常識崩壊で心身共に衰弱死しそうですよー」

「大丈夫、お兄さん? 私が常飲してる、お兄ちゃん特製『やばいくらい元気になる薬EX』飲む?」

「いや、三沢の兄貴が作ったモノは怖くて飲めないな。つーか、危なくない? それ、危ないよね?」

「危なくないよ。ちょっとお空を飛んでいる気分になれるだけだし」

「危なーい! それ、危険ですよー!?」

「このお薬がないと、私ダメなの。お薬が切れたら、暴れちゃう」

「禁断症状!? 中毒だよね!? 病院に行くべきじゃね!?」

 などと。歓談しながら、転校初日は終わった。

 三沢ミドリと別れ、学生寮へと帰路に着く。

「よォ、少し遊ばねェか?」

 男にも女にも聞こえる、声。

「なァに。俺がオマエをぶっ殺すから、適当に逃げろ」

 白い髪。赤い瞳。禍々しい殺気。中性的な体躯。

 こいつは、ダメだ。

 そんな思考が上条当麻の脳裏に過ぎる。

「は? え?」

 不幸だ。不幸だ。不幸だ。

「死ぬ気で踊れ、無能力者(レベル0)」

 足下のアスファルトが砕け、その破片が襲いかかる。

 それが、試合開始のゴングであった。




 ………………続いても、いいよね?


………………


 あとがき

 ちょっと好意的な感想が増えたような気がします。今後の展開は頭の中には一応、出来ていますので、最期まで書けたら幸いです。あくまでネタ、ギャグですので矛盾などがあってもスルーして頂ければいいかな、なんて。

 感想をくれた方々、誠にありがとうございます。



[14929] 第四話 とある最強の悪戦苦闘?
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2009/12/31 23:31

 不幸は友達を連れてやって来る。

 無我夢中で走りながら、『原作』の主人公・上条当麻は背後に迫る白髪赤目の能力者を振り返りつつ見ていた。

 初対面、のはずだ。

 あんな目立つ風貌ならば忘れない。

 男か女か。分からないが、とにかく危険だ。

 いきなり攻撃された。

「ふ、不幸だぁぁ!!」

 必死に逃げる。逃げる。逃げる。

 通行人も何事かとこちらを見るが、それだけだ。警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)に通報しているのかもしれないが、未だ助けは来ない。

「おいおい。本気で逃げるだけでェすかァ?」

 加速、した。遊ばれている。服を掴まれた。やばい。怪力。持ち上げられ。そのまま。投げられた。

「う、うおぉぉぉおぉ!!」

 受け身。それでも痛い。

「不幸にも限度があるぞ、くそ! あんなデタラメ、どうしろって言うんだよ!」

「主人公くゥん、そンな調子じゃあ、死ンじまうなァ?」

 汗が止まらない。体のあちこちに擦り傷。致命傷こそないが、致命的な状況だ。

「何ですか、何なんですか、主人公ってえぇぇ!! 上条さんは無能力者(レベル0)の一般人ですよ!?」

 できるだけ、無関係の人を巻き込まないように。無人のほうへ。どうやら敵は自分にしか興味はないようだ。一直線に向かってくる。

「知ってるよォ、無能力者(レベル0)。知った上で、試しているンだよ」

「上条さんにお試し期間はありません! 早急にゴーホーム!!」

「ガキの使いじゃねェんだよ。少しは楽しませろ」

 能力者が両手をこちらに向ける。

 そして。

「かめはめ波、ってかァ!!」

 空気が揺れる。蜃気楼のように空間が歪み、熱気が上条当麻の肌を触れる。

 空気を激しく振動させ、超高温と成った気体を光線のように。

 びゅん。

 空気中の塵を燃やしながら、発光して向かってくる『かめはめ波』。

「うおっ!」

 咄嗟に。『右手』を差し出す。長年の癖だ。

 しゅうぅぅぅ。鎮火した。

「ああン? 何だよそりャ?」

 当たったとしても重度の火傷程度で必殺に届かない攻撃だった。手加減したのだ、あの能力者は。

 しかし。

 無傷で返すつもりもないのだ。

 相手の動きを予測して、回避不能のタイミングを狙って撃った『かめはめ波(?)』を消された。

 これが、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の上条当麻。

「面白ェ。おい、もっと試させてもらうぜェ」

「ひぃぃ! 不幸だぁ!!」

 鬼ごっこは、ここからが本番だった。


………………


 空腹は最高のスパイス。

 だけど、スパイスだけでは餓死するかも。

「おなかへった」

 修道女(シスター)である。

 毎度おなじみ、禁書目録(インデックス)さんだ。

「おなかへった」

 学園都市では珍しい、宗教色の強い格好。

 彼女は完全記憶能力を持ち、脳内に10万3000冊の魔道書を蓄えた銀髪の女の子。

「おなかへった」

 魔道書を狙う魔術師から逃れるため、彼女は魔術師が入りにくい学園都市へと逃亡場所を決めた。

 それでも。

「おなかへった」

 追っ手は、来る。

 学園都市だろうが、何処だろうが。

 地獄の底にだって、来るのだろう。

「おなかへった」

 時には衆人環視の中を通り。

 時には無人地帯を駆け抜け。

 彼女は熟練の魔術師たちを出し抜いて来た。

 最強の防壁『歩く教会』と呼ばれる修道服と10万3000冊の知識を武器に。

 彼女は一人で魔術結社から逃げ延びた。

「おなかへ――――ったぁい!!」

 油断していた。まさか、白昼堂々、目撃者が大量にいる場所で背後から襲われるとは思わなかった。

 しかも、『歩く教会』の防御をぶち破って。

 魔術の気配もなく。

「不幸だー!」

 インデックスが最期に聞いた言葉は、それだった。

 建物(ビルディング)が、落ちてくる。

 ゆっくりと。

 ゆっくりと。

 死の間際、全てがスローモーションになる。

 自分に襲いかかった男の『右手』がインデックスの背中に触れ、『歩く教会』がバラバラになった。

 確実な死が近付いてくる。


 ぷちゃっ。


 何かが、潰れる、音。


………………


 窮鼠猫を噛む。

 そんな言葉のように。

 一方通行は期待していた。

「終わりかァ?」

 わざわざ建設途中のビルを投げ飛ばしたのだから、『幻想殺し』とやらで反撃すればいいのに。

 やはり、無機物に対して『幻想殺し』は無力らしい。地面に転んだ時も、負傷していた。恐らく、能力を無効化する力。直接、超能力で攻撃しても無駄なのだろう。間接的にやらなければ、ダメージは負わない。

 きっと、その程度。

「あァ。もしかしたら、俺に攻撃できれば勝ててたかもなァ」

 一方的に、終わらせた。

 距離を保ち、何もさせずに。

 もしも『無敵(レベル6)』と邂逅する前の自分ならば絶対に選択しなかったであろう戦法――――『様子見』。

 迂闊に接近しない。

 それを意識しただけで、こんなにも簡単に勝てた。

 何人か無関係の人間を巻き込んだが、どうでもいい。

 あの男(レベル6)が一目を置くから警戒していたのに。

 虚脱感が一方通行を襲う。

「ちっ。つまンねェなァ」

 満足には程遠い、戦闘。

 自分はまだまだ強くなれる。

 小細工を使い、様子見を覚え、確実に『無敵(レベル6)』へと近付いている。

 ただ能力を使うだけではなく、創意工夫と試行錯誤を繰り返し、より研鑽していく。

 いずれは絶対等速にも勝つ。

 目標は大きいほうがいい。

「まァ、何事も経験だな」

 周囲が騒がしい。当然だ。超能力者(じぶん)が暴れたのだから、必然とも言える。

「逃げも隠れも、必要ない。堂々としていればいい。何故なら俺は、最強だから」

 消音。こちらに向けて大声を出す警備員を無視する。悠然と歩いて、帰宅する。

 前に何があろうと。

 背後から何が来ようと。

 正々堂々、胸を張って歩いて行く。

 制止の声。捕獲用ネット。果ては風紀委員(ジャッジメント)達の能力。全て無視だ。

 微塵も一方通行の歩みを止めるには至らない。

 気付けば。

 誰もいなかった。

「奇妙だなァ。いくら俺が最強でも、見逃す理由にはならねェはずだ。一応は寝床にまで着いて来るかと思ったンだがな」

「人払いのルーンです、能力者」

 その声は、憎しみに満ちていた。

 女、だ。男もいる。

 ジーンズを大胆にカットして、片足を大きく露出した女。ガンベルトには日本刀まで装着されている。

 男も奇妙な格好だ。神父服で、目元にバーコードの刺青(タトゥー)。真っ赤な髪をした外人。

「インデックスの仇を」

 救われぬ者に救いの手を。

「彼女を殺した報いを」

 我が名が最強である理由をここに証明する。

 炎。

 人の形をした炎。

「関係ねェな」

 魔術。魔術師。

 自身の能力が、『反射』がそれらに対して有効か否か。

 そんなもの、これから検証すればいい。

『無敵(レベル6)』には通用しなかった。

『幻想殺し(イマジンブレイカー)』にも能力自体は無効化された。

 では、目前の二人は?

 関係ない。

 そんなの関係ねェ。

「遊ンでやるよォ、魔術師(オカルト)」

 神父服の男がカードを大量に投げた。まるで意志を持つように、アルファベットみたいなマークが書かれた紙は地面や壁に張り付く。

「――――七閃」

 目にも止まらぬ斬撃が一方通行に迫る。

 一応、回避を試みるが、失敗。能力に依存していたがゆえに、反射神経など皆無に等しい。

「はっ。効かねェみたいだなァ?」

 当たった。しかし、『反射』に問題はないようだ。

「殺れ。魔女狩りの王(イノケンティウス)」

 静かな声音だ。しかし、殺意で溢れている。

 炎が一方通行の体に激突した。

 問題ない。

 跳ね返し、余裕で反撃する。

「大した事ねェな、オマエらもよォ」

 凶悪な笑みを浮かべて。

 最強は魔術師を殺戮する。

「直接、燃やせないのなら――――ッ!」

 炎が舞う。常人ならば致死の状況でも、一方通行にしてみれば普段と何も変わらない。

 酸欠。

 一方通行の周囲を燃やし尽くす炎の目的は、酸素を燃焼して一方通行を呼吸困難で殺すこと。激しい炎はそれに向いている。

「考える事はみンな一緒ってかァ!?」

 腰に手を当てた一方通行。何もない。何もないはずだ。

 なのに。

 一方通行の手には『缶』が握られていた。

 小型の酸素ボンベだ。

 わざわざ腰に用意して、不可視化していたのだ。

 準備。備える、なんて。

 以前の一方通行にはなかった行動。

「30分程度の酸素ボンベだが、十分だろ?」

 風を、操る。

 空気を、圧縮。

 二人の魔術師。その攻撃を無視しながら。

 高電離気体(プラズマ)。

 瞬殺。

 天地を揺るがす一撃。

 防御の意味などない。

 消滅を約束する。

「さようならァ!」

 女が「唯閃っ!」とか言っていた気もするが、気のせいかもしれない。

 こうして、学園都市に潜入した魔術師が二人、消滅した。

「帰るかァ」

 憎悪も憤怒も悲哀も。

 どんな感情が向けられたって、正面から『反射』してやるまでだ。


………………


「ただいまァ」

「おーう。上条当麻はどうだったー?」

「楽勝。ぶっ殺して来たぜェ」

「あ? 殺した? マジ? マジで言ってんの? うわー、主人公不在かよ。これは予想外だな。どうだ、百合子ちゃんが主役になる?」

「うぜェ。興味ねェよ、そして百合子って言うな」

「私の手料理を召し上がれ! 悩殺クッキング! 女体盛り!」

「子供に何をさせてンだ、オマエ!」

「これも勃起のためだ。好き嫌いせずに食べなさい、百合子ちゃん」

「何で、食卓で戦闘よりも疲れなきゃならないンだよォ」

 無敵(レベル6)ならば、時間移動で上条当麻を助けられる。

 そう一方通行は思ったが、どうでもいいと無視した。本人も助ける気はなさそうだし、人助けなど性に合わない。

「上条当麻かー。結構、好きなキャラだったんだけどなー。やっぱ、心に響かない。悲しみもないなー。主人公がいない世界じゃ面白くないし、他の世界に行ってみるか?」

「他の世界ィ? 行けるのかよ?」

「まあ、理論上は可能かな?」

「まさか、俺を置いて行かねェよな?」

「百合子ちゃんは舎弟だぜ。強制連行に決まってるだろ」

「上等。オマエを倒すのは俺だ。逃がさねェよ」

「はいはい、ツンデレツンデレ」

「うぜェ。あと百合子って言うな」

「私も行くよ、お兄ちゃん! 今度こそ魔法少女の神髄を世界に示す! 全人類ロリコン計画の時が来た!」

「嫌な時だなァ、それ」

「ミドリちゃん、お兄ちゃんも協力するぜ!」

「お兄ちゃーん!」

「ミドリちゃーん!」

 裸の幼女と抱き合う犯罪者の絵。

 思わず警備員(ジャッジメント)に通報しそうになった一方通行を誰が責められるだろうか?

「そうと決まれば今すぐ行くぜ!」

「お兄ちゃん! 私の料理を食べてからにしてよ!」

「暴れるなァミドリ! 食い物はすでに床に落ちている! 全裸だぞォ!?」

「あ。サービスサービス! 私は全国のお兄ちゃんに妄想(ゆめ)を届ける魔法少女! 女の子だってエッチな事に興味あるもん!」

「意味不明な発言を不自然にするンじゃねェよ!」

 相も変わらず、薬物中毒で脳内がハッピーな幼女と常時ハイテンション男に挟まれて。

 一方通行の受難は続く。世界を代えて。世界を超えて。

 最強も形無しである。

 だが。

(それも………悪くないってかァ?)

 ミドリに服を着せようとしながら。一方通行は不覚にも、そんなことを思った。




 ………………『とある魔術の禁書目録』編、終了。次の世界へ続く………?


………………

 あとがき

 感想に「続いてもいい」とか嬉しいものがありました! 無敵の絶対等速に最強の一方通行、妄想具現化のアルケミーグリーン。このトリオを別の世界に送り込むプロローグがようやく終わりました。このまま余所の作品にお邪魔しても、いいかなー?

 まだまだ、批判も含めて感想をお待ちしています。能力の設定などは深く考えていません。原作と違っても、道理に合わなくても、無敵なら有りだろ、みたいな。パワーバランスなんて言葉は幻想です。現実は理不尽で不条理で、ご都合主義も時には有り。あくまでも、最終目標は絶対等速の『病気』を治すことです。それを承知の上で、続きを希望してくれる人………いますか?



[14929] 第五話 とある聖女の恋愛事情
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2010/01/01 23:49

 謎の発光現象。消える衣服。緑色を基調にしたフリル満載の衣装(コスチューム)が顕現する。変身、と呼ばれる場面だ。

「アルアルケミケミ、アルケミン! 妄想を現実に! 驚異の化学反応! 永遠のランドセラー(小学生の意)! 新本格中毒系錬金じゅちゅ、………錬金術魔法少女! アルケミーグリーン参上!」

 場所は、宇宙。地球を背景にして。

「お兄ちゃん! もう一度チャンスを! 今度こそ噛まずに言えるから! お願い! 不出来な私にお慈悲を下さい!」

「オッケー! 何度でもトライしようぜ!」

「うん!」

 服を元に戻し、改めて。

「世界よ、力を貸して!」

 音楽。何処からともなく『それっぽい』楽曲が聞こえる。宇宙空間という本来ならば無音の世界に。

「お兄ちゃんの妄想(おねがい)を叶えるために!」

 謎の発光現象。変身シーン。

「アルアルケミケミ、アルケミン! 妄想を現実に! 驚異の化学反応! 永遠のランドセラー! 新本格中毒系錬金術魔法少女、アルケミーグリーン参上!」

 やり切った。10歳の女の子は言い切った。何度も失敗した。それでも、諦めなかった。諦めなければ妄想は現実に成るのだ。

「やった! やったよ、お兄ちゃん!」

「ああ、見ていた。しっかり聴いていた。よくやった、ミドリちゃん。いや、アルケミーグリーン!」

「………この茶番はァ、いつまで続くンだ?」

「これでも私も、立派な魔法少女に成れるかな?」

「もう、一人前の魔法少女さ!」

「お兄ちゃーん!」

「みど、アルケミーグリーン!」

 美しい兄妹の抱擁。たとえ偽物の兄妹でも、彼らには確かな『絆』があった。

「無敵(レベル6)。そろそろ、俺の我慢に限界が来たンだけど?」

「百合子ちゃん。空気を読もうよ。何のために宇宙まで来たと思っているんだ?」

「知るかよ。俺は『世界』を移動するって聞いたから、こンな準備までして未知の体験に備えたンだぞ」

 白髪赤目、中性的な最強。その背には登山でもするかのようなリュックサックがあった。食料や酸素ボンベ缶、救急セット。ナイフや銃まである。備えあれば憂いなし。

 一方、脇役面の男と魔法少女は手ぶらだ。

 備えどころか、体一つ。通常の旅行でも支障がありそうな格好だ。

「それと、百合子って言うな」

「最強さん、お兄ちゃんを許して! 私が悪いの! 私がお兄ちゃんを………ええと、とにかく私が悪いの! お兄ちゃんは悪くない!」

「ミドリ、そンな奴を無理に擁護する必要はない。オマエは悪くねェよ、100%無敵(レベル6)の責任だろうが」

 主人公・上条当麻が死亡したので、別の世界に行こう。

 絶対等速はそう言った。別に宇宙に来る必要はないのだが、「気分の問題。新たな門出は雰囲気が大事」というよく分からない理由で三人は地球より離脱した。

「さて。立つ鳥跡を濁さず! ミドリちゃん、じゃなくて。アルケミーグリーン!」

「うん! 世界を綺麗にするよ!」

「今度は何をする気だァ?」

「アルアルケミケミ、アルケミン! 妄想は世界を救う! 妄想具現化(アルス=マグナ)発動! みんな、幸せになあれ!!」

 瞬間。

 世界は、なんか、いい感じになった(笑)。

 犯罪はなくなり。

 戦争はなくなり。

 病気はなくなり。

 事故もなく、寿命を全うする。

 事件もなく起伏もなく日常が続く。

 まるで、機械のように。

 ドラマはなく、ただ時が過ぎるだけ。

 それを、人は『幸せ』と呼ぶのだろうか………?

「さあ! ではでは! いよいよ世界の壁をぶち破るぜぇ!!」

「うん! お兄ちゃん、頑張って!!」

「やっとかよ。望郷なンて感じないと思っていたが………」

 おそらく、永遠の別れだ。一方通行の心に、ほんの少しだけ寂しさに似た感情が生まれた。

 親の顔も覚えていない。友達なんていなかった。それでも。自分が育った星だ。

「まァ、オマエとなら――――退屈はしねェよな?」

 手を繋ぐ。

 絶対等速を真ん中に、三人はしっかりと手を握った。

 世界の壁を越える衝撃に耐えるため、絶対等速の『超・超能力』を一方通行と魔法少女に使用するのだ。

「さようなら世界! こんにちは新たな世界!!」

 奇妙な感覚。

 景色が変わる。

 真っ暗に。

 え?


………………


 蜘蛛の形を模した剣。

 常笑いの魔刀シュラムッェン。

 その持ち主は決死の覚悟を持って、強大な敵に挑む。

「穢れよ、シュラムッフェン」

 蜘蛛の尾から刀身が伸びる。追憶の戦機と呼ばれる超常兵器。

「引きなさい。魔刀シュラムッフェンに勝てる人間はいない!」

 三毛猫のようなまだら色の髪をした女。彼女は『常笑いの聖女』と言われ、『竜骸咳』と呼ばれる不治の病を完治させる治療薬を完成させた美しい女だ。

 しかし、彼女は『常笑いの魔女』になり処刑される。

 罪状は世界滅亡未遂罪。

 感染病でもある竜骸咳は世界を滅ぼせる病であった。

 その治療法を知る常笑いの聖女/魔女――――シロン=ブーヤコーニッシュは病が蔓延し、特効薬が高値になるのを待って、巨万の富を得た。

 彼女に殺到する、中世の鎧を纏った兵士たちは皆どこか虚ろな瞳をしていた。操られているのだ。

 道化師の格好をした巨漢、ワイザフの手下だ。

 彼こそが、大量の死者が出ると知りながら竜骸咳を放置し金儲けに利用した張本人。シロンがどれだけ薬を売りに出してくれと懇願しても頑なに許可しなかった男。

「わたしがもっと早くこの決断をしていれば。けれど、わたしは『あの人』に愛されるのならば何も怖くない」

 常笑いの魔刀。

 因果超越攻撃。

 斬るという過程と斬れるという結果を切り離し『斬った』という事実だけを残す。

 形あるものに負けることはない。

 シロン=ブーヤコーニッシュはワイザフに勝利した。

「『あの人』の心は、どれだけお金を出しても買えないのだから」

 彼女はこれから裁判にかけられる。もちろん、死刑だ。

 ワイザフが彼女を利用したと言っても、彼女だってそれを知りながら何もできず大勢の人々を見殺しにしてしまったのだから。

「わたしは逃げるつもりも、弁明するつもりもありません。罪を償い罰を受けましょう」

 死体の中、堂々と彼女は『誰か』に話しかける。

 空前絶後の予知能力者。1000年も先の未来を見通す力。1000年後の未来から竜骸咳を治せる知識を引き出したのだ。

「きっと、『あの人』は戦うわたしに恋をしたのだから。これで、良かったのです」

 人が死ぬと、『本』になる世界。

 シロンの人生は『本』になり『誰か』に読まれる。

 その読んでいる人に、シロンは話しかける。予知能力で知っている。

「素晴らしい! 愛とはかくも尊いものだ!」

 突如。

 何もない空間から、声。

「何者ですか!?」

 魔刀を構え、警戒する。

 知らない。シロンはこんな『未来』を知らない。

「はじめまして、常笑いの聖女サマ。とりあえず、『魔法使い』とでも」

 奇妙な格好だ。今より300年後ならば普通かもしれない、衣服。特徴らしい特徴もなく、何となく端役っぽい。そんな、男だ。

「魔法使い? 何を言っているのです?」

「感動した! 猛烈に感動した!! 救ってやる。会わせてやる。デウス・エクス・マキナだ!」

 妙にハイテンションの男は両手を広げ、シロンに祝福の声を上げる。

「あ、あなたは誰ですか? わたしの予知に、あなたは存在しません。それに、救う、とは?」

「久しぶりに心に響いた。こんなのは『奇跡』なんだぜ? 幸先がいいな、おい!」

 心底、愉快そうに。しかし、どこか演技のようにも感じる。

「『病気』が治るのも、意外と早いかもな!」

「び、病気? 竜骸咳のことですか?」

「もっと酷いビョーキだよ! ぎゃははは! 常笑いの聖女サマ、どうぞ願いを言ってください、ぎゃはは!」

「おいィ! キョトンとしてンだろ!? もう少し経緯ってヤツを説明してやれよ!」

「願いを三つ、言ってごらん! 何でも叶えてあげるYO!! 魔法少女が!」

「オマエが叶えるンじゃねェのかよ!?」

 また、人が増えた。

 今度は白髪赤目の人だ。

「うん! アルケミーグリーンが何でも叶えてあげるよ! さあ、お姉さん! どんなギトギトな欲望だろうと実現しちゃう、妄想具現化(アルス=マグナ)の奇跡を見せちゃうぞー!!」

「え? え?」

 三人目。

 緑色で奇抜な格好だ。お姫様みたいな感じもするが、なんだか『眼』がおかしい。狂気染みた瞳だ。狂信者のような、殺人鬼のような。危ない薬でもしていそうな。

「え? あの、あなた達はいったい………」

「リアルで見ると違うな、やっぱり。愛する二人の超遠距離恋愛! いい表情(かお)だったぜ! 思わず下半身がちょっとだけ反応したような、しなかったような。しなかったな!」

「してねェのかよ!」

「お兄ちゃん。どいて、そいつ殺せない」

「ヤンデレ化ァ!? なに突如、兄を奪われた妹みたいに成ってンだよ!?」

 包丁を装備した少女は、怖かった。

「さあ! 願いを言え!」

 さあ、さあ、さあ。

 催促され、シロンは思わず「『あの人』に会いたいです」と答えた。

「オッケー! 出会えないという運命(げんそう)をぶち殺す! 主人公の台詞はもらったぜ、絶対等速(イコールスピード)とぉ!!」

「そこに妄想があれば元気百倍! 永遠のランドセラー、魔法処女………間違えた、てへ! 魔法少女アルケミーグリーンが!!」

 声を揃えて、

「「あなたの妄想(ねがい)を叶えます!!」」

「………いつ練習したンだ?」


………………


 250年後。

『戦う司書と恋する爆弾』開始。

 胸に爆薬を埋め込まれた人間、人間爆弾コリオ=トニスは色々あってシロン=ブーヤコーニッシュに恋をした。

 そして勇気を胸に、小さなナイフだけを武器にして、

 常笑いの魔刀シュラムッフェンを持った男に立ち向かう。

「今なんだな、シロン=ブーヤコーニッシュ!」

 嵐が止まった、その瞬間。シロンの残した予言を頼りに、長髪オールバックのスーツ男にナイフを突き刺す。

「僕の魂は神に捧げる魂なんだ。この苦痛は許されない。誰か、痛みを消してくれ」

 オールバックの男、シガル=クルケッサは呆然と、何が起きたか分からぬような状態だ。

「い、たい。ああ、これは許されない罪悪だ。この痛みは許されない、悪徳の所行だ。助けてくれ」

 刺さったナイフ。心臓だ。致命傷だろう。

「シガル君、黙ってろ」

 女。ウサギのアップリケを施された白いシャツを着た女性だ。

「幸せそうだ。とっても、幸せそうだ。君なんかより、ずっと幸せそう」

「そ、んな。ありえない。『爆弾』ごときが僕よりも………」

 女、ハミュッツ=メセタは礫(つぶて)を飛ばした。彼女の得意技。投石。指で弾いたそれは、殺傷能力抜群だ。

「おっと、失礼」

 本来ならば。『原作』ならば。

 ここでシガル=クルケッサは死ぬはずだった。

「う~ん。これも何か意味があるのかな? ま、いっか!」

 前触れもなく現れた。四人。男と女と子供と、男か女か分かりにくい白髪。

「し、シロン!?」

「え、傷ついたお方!?」

 二人は初対面にして既知の仲だった。

 ハミュッツは『本』で。

 シロンは『予知』で。

 奇しくも、顔見知りだった。

「偽物か? 誰だ、『神溺教団』の者か?」

 傷ついた体を引きずりながら、ハミュッツは戦闘態勢に入る。

 シガルを殺す凶弾を体で受け止め無傷の男。そいつは、強い。

 人は、時として理屈ではなく直感で真理に到達する。

 ハミュッツ=メセタの野生の勘は目前の人物がどれだけ強いのか、強制的に理解させる。

「ノン! 我々は愛の使者!」

 意味不明だった。

「さあ、感動の対面だ!」

 シロンの手を引き、魔刀シュラムッフェンで死体となった少年コリオに近付く男。見た目は雑魚っぽいが、能力は本物だろう。

「どうだ、嬉しいか?」

 ニヤニヤと、嫌らしい笑み。分かっている。この男は分かっているのだ。シロンが望んだのは死体ではないことを。

「あ、ああ………。わ、わたしは我欲と貪欲と、臆病、怠惰………そんなものが全てでした。でも、あなたに恋を、して。変わりました。変われ、ました」

 涙。

 聖女の涙。

 血で汚れた姿をしているが、シロンは紛う事なき聖なる者だった。

「けれど。もう一度。もう一度だけ、わがままを言ってもよろしいでしょうか………?」

 神聖な儀式のように。

 死体に跪いたシロンから、ハミュッツは目を離せなかった。警戒は解いていないが。

「お願いします、魔法使い様。彼を、助けてください」

 跪き、愛しい彼の血がシロンを汚す。それでも聖女は気にしない。ただ、真っ直ぐと男――――絶対等速を見る。

 確信があった。

 予知能力なんかよりも信じられる、恋する乙女の確信。

 この方達ならば。

 どんな願いも叶えてくれる。

「アルアルケミケミ、アルケミン! 妄想の可能性は無限大!!」

 その懇願に応えたのは少女だった。

「妄想せよ! 現実をレイプしろ! レイプレイプレイプレイプレイプレイプレイプレイプレイプレイプゥゥゥ!!」

 一秒間に10回レイプ発言した!?

「妄想に目覚めよ! 永遠の微睡みより甦れ!」

 右手を天に掲げる。

 太陽が、輝いた。

 むくり。

「あ、れ? 俺は死んだ………?」

 甦った。なんか、普通に甦った。

「あ、ああああ。ああ」

 言葉が出ない。シロンはそのまま、コリオを抱きしめた。優しく。しかし力強く。

「え? シロン?」

 意味も分からぬままコリオも抱き返す。理解できぬまま、二人は抱擁を続けた。

「パチパチパチ! 美しい絵だ。どうだ百合子ちゃん、歴史的な瞬間だな」

「百合子って言うな。そして空気を読め。邪魔だろ、俺ら」

 拍手の音を、抱き合う二人に聞こえぬよう『操作』した一方通行は優しい女の子だった。

「死者甦生? あんたら、何者?」

「いえいえ、名乗るほどの者ではありません。ただの愛の使者です」

「愛の使者、ねえ。是非とも聞きたいな、君らの事を」

 にぃ。嬉しそうに口元を歪めて。ハミュッツは獣のように地面を這う。

 力尽く。

 好きな言葉だ。

「空気読め、KYだぞォ? 空気の振動を操作すンのは結構難しいから、黙ってろ」

 白髪。赤目。中性的な体躯。こいつも、強い。強者独特の空気を肌に感じる。

「空気を、操作。風系統の魔法権利なのかな?」

「関係ねェよ。魔法権利だろうが、追憶の戦機だろうが。俺には関係ねェ」

 戦闘の、始まりだ。

「はっ!」

 投石。常套手段。距離を取って、自分の間合いで戦う。基本だ。まずは負傷した体を休めなければ――――、

「ぐ、はぁぁ!?」

 手が、弾けた。

 指が千切れ、骨が見える。

 何が起きた? 白髪は何もしていない。負傷しているとは言え、最強の武装司書ハミュッツ=メセタの一撃を回避できる者は少ない。白髪も、眼で追おうとして何もできずに当たった。当たって、どうなった?

 跳ね返って来たのか。

 まるで『反射』されたみたいに。

「あ、れ? おかしいな」

 思ったよりも簡単に、決着が付きそうだ。

「弱ェな。そこらの雑魚と変わらない。ちょっと素早いだけだなァ」

 右手。

 傷のない綺麗な手だ。

 その掌がこちらを向いている。

 空気が歪む。蜃気楼のように。陽炎のように。

 歪んだ空気が発射された。

 超高温の空気。

「ぎ。ぎゃああアぁぁ!!」

 顔が、焼けた。体が動かなかったのだ。

「念力の真似事だったンだが、思ったよりも使えるな」

 体を固定された。理解できぬ力で。

「まァ殺す必要もねェか」

 そのまま。

 白髪は特徴らしい特徴のない男の元へと歩いて行った。見逃された。

「おいィ。これからどうすンだよ?」

「うん? 飽きもせず抱き合っている二人をどうしようかと思ってな。なんか、飽きちゃった」

「ええー!? 私がシロンお姉さんの『本』を偽装してコリオお兄さんに届くように色々と頑張ったのにもう飽きたの!? 歴史を修正するのは面倒で大変なんだよ!? うわーん! お兄ちゃんのインポテンツ!!」

「シロンの魔術人形(みがわり)を作って裁判を受けさせたり、苦労してたよなァ」

「あの時は心に届いたんだけどなー。正直、バカップルなんて見たくない」

「今まで行動完全否定ィ!?」

「あー。でも、一応。おーい、常笑いの聖女サマ、略してトコワラ。最後の願いは何ですかー?」

 三つの願い。

 あの人に会いたい。

 あの人を助けて。

 最後は?

「何も。もう、何もいりません」

 決してコリオを放さず、シロンは答えた。

 コリオは苦しそうだ。胸に顔を埋めている。窒息しているのかもしれない。

「あっそ。じゃ、撤収!」

「アッサリしてンなァ!」

「もう! あんなに苦労したのに! でも私、お兄ちゃんのそんな飽きっぽいところも………好き」

 ツンデレ!?

「あ。あと彼はもらって行くぜ!」

 空気になっていた半死人、シガル=クルケッサ。マジで死ぬまで五秒前だった。妄想具現化(アルス=マグナ)で体を治し、そのまま瞬間移動する。

 残ったのは、キスまで始めたバカップルと寂しい独り身の女だけだった。




 ………………続く?


………………

 あとがき

 戦う司書で一番好きなキャラはモッカニア=フルールです。なぜ私の好きなキャラは死ぬのでしょうか? まあ戦う司書で人が死ぬのは仕方ないよね。

 感想ももうすぐ100に届きそうです。感無量です。ありがとうございます。

 色々と絶対等速について疑問があるみたいなんで裏設定を発表します。別に読まなくても問題はないつもりです。

 絶対等速の『中の人』は現実世界(?)で一般人ではありませんでした。少しだけ前述したと思いますが、とある宗教に入り、その教義に則り殉教した男です。何でも願いを叶えてくれる宗教。そのための代償として『中の人』は様々な物を払い、『二次元』に来たのです。そして、『原作』の絶対等速に憑依した。憑依。憑依とは体に入ることです。某幼女吸血鬼が言ったように「精神と肉体は作用する」ので、小学生相手に鉄球を容赦なく放つ外道な絶対等速の体は『悪』に満ちており、短慮な行動・思考をしてしまうのです。さらに『超・超能力(笑)』で絶対等速は『完成』されました。完成したがゆえに精神は成長しないので初期設定である『原作』の絶対等速が悪事を是とする精神性がそのまま受け継がれ、何だか最低っぽいヤツになりました。愉快犯ですね。力に溺れている状態でもあります。なんせ、白井黒子と組めば「無敵だろ?」なんて発言してますからね。

 また、能力については、基本は何でもありです。原型はないですね。ちなみに『幻想殺し』でも解除不能でした。また、自分で解除するのもできません。彼、もしくは『彼ら(原作の絶対等速と憑依した者)』にも罪悪感は当然あります。人を殺した事に耐えられないこともあるでしょう。だから、無意識で能力の解除を拒んでいます。もしも完全に解除したならば自殺するかも(笑)。干渉拒絶、影響無視の力であり、また世界を『超』えているので正に無敵。一方通行の『反射』や上条当麻の『幻想殺し』よりも上位に存在するので彼らの影響力・干渉力では勝てないのです。『時間』という絶対的な影響さえも無力化するので時を止めたり時間移動したり。『現状維持』すれば仙人のように何も喰わず寝ず、呼吸すら不要。無茶苦茶を極めています。他人にも触れていれば自身と同じように無敵化させれます。『原作』のように、鉄球に能力を使えば『原作』以上のスピードで撃てます。さらに破壊不能ですので、能力を解除するまで直進する最悪の砲弾です。

 何だか無秩序に書いてしまいました。意味が分からなくても無問題です。重要なのはむしろ『絶対等速』よりも『妄想具現化』ですので(笑)。



[14929] 第六話 とある『人間』の幸福不明(てんごく)
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2010/01/02 16:21

 人間とは、神の子の中の、神の最も愛した子。

 傷ついた人間は、助けられなければいけない。

 苦しむ人間は、救われなくてはいけない。

 孤独な人間は、愛されなくてはいけない。

 すべての人間は、幸福になるために生まれてきたから。愛されるために生まれてきたから。

 この世すべての幸福を、得る権利のあるもの。

 愛し、愛され、満ち足り、苦しむことのなく、至上の幸福に包まれた一生を送るもの。

 シガル=クルケッサは『人間』だ。だからこそ。

 他のすべてを犠牲にしてでも、幸せにならなくてはいけない。

「僕のことは、シガルと呼んでくれ。君たちは、何者なんだ?」

 漆黒のスーツ。黒い長髪をオールバックにした男。それがシガルだ。

「えーと、愛の使者は飽きたし………神龍(シェンロン)と呼べ。願いを三つ、叶えてやろう」

 特徴がない男だ。決して、舞台の中央ではなく端にでもいそうな、凡夫。

「ほう。やはり僕は神に愛されている。ではハミュッツ=メセタを殺してくれ。あの下品な女を屈辱的に死なせてくれ」

「そんなのでいいのか? もっと面白い願いはないのかよ?」

 人間爆弾であるコリオとか言う男にナイフで刺された傷はもうない。スーツの穴も消えた。眼前の人物が行った奇跡だ。

「神龍、だったね。なら僕を『幸せ』にしてくれるのか?」

「そういう曖昧なのは、な。もっと具体的なのは?」

「では、『天国』に行きたい。僕の魂は神に捧げるものだ」

「お。それは面白そうだな、何処だよ天国」

 凡夫が背後の少女に問いかける。緑の髪、緑の衣装。奇抜な少女は「アルアルケミケミ、アルケミン!」と謎の呪文を唱えて、「妄想は現実を凌駕する! 覗き穴(サテライト・サーチ)起動! みんなの秘密を曝いちゃえ!!」と頭の悪い発言をした。手を振り回し空気に眩い鱗粉が舞う。魔法、なのだろうか。「検索終了! 図書館の深い場所に『天国』はあるみたいだよ、お兄ちゃん!」如何なる神秘なのか、2秒足らずで『天国』の場所を探った少女は、稀代の魔法使い。

「よし。じゃあ、行くか」

 シガルの手を引き、凡夫は空を飛ぶ。そういえば、常笑いの魔刀は、何処かに落としたままだ。そんな不安を残したまま、シガル=クルケッサは寂れた宿屋を出た。安物の宿だったのが不満だが、天国に行けるのならば我慢しよう。

 生身での飛行は、心臓に悪い。

 まず地面がない。これは思った以上にストレスだ。また、無重力の感覚も慣れない。気持ち悪くなる。エレベーターに乗った時の嫌悪感が永延と続く。それでも、我慢した。シガルの手を引く凡夫はもちろん、緑の少女も、どこか不機嫌そうな白髪赤目の者も平気そうに空を飛んでいたからだ。あまりにも普通なので、文句を言いにくい。一応、命の恩人だ。多少の融通は許そう。

「あれが図書館かー。立派だなー」

 凡夫の呑気な発言を聞いて、シガルは焦った。敵地のど真ん中で、気を抜きすぎだ。

「おい。僕は武器がないぞ、大丈夫なのか?」

「そうだなー。百合子ちゃん、露払いを頼む」

「俺を下っ端扱いするンじゃねェよ。そして百合子って言うな」

『本』を集め、『本』を管理し、『本』を守るのが武装司書のお仕事。

 宙に浮く不審者を許す道理はない。

「こちらは武装司書! ゆっくりと着地してください! 指示に従わない場合は敵対行動と見なして………」

 そこまでだった。

 白髪赤目、百合子と呼ばれた者は悠然と、突撃した。

 自由落下ではなく、自らの意思で加速し、地上へと攻撃を開始した。

「武装、司書。そンで、この世界の『魔法権利』とやらも試させてもらうぜェ」

 大地に舞い降りた、その姿。まるで、死天使。

 あらゆる攻撃は通用しない。逆に、攻撃すればするほどこちらの被害が増える。

「おいおい。オマエらも同じかァ? 見せてくれよォ、マホウってヤツをなァ!」

 炎が。水が。雷が。中には巨大な鯨までもが。

 百合子――――一方通行に飛来する。

 無駄。無駄。無駄。

 全部、無為。

「戦闘にすらならねェ。いつも通り、だなァ」

「『天国』に期待だな、百合子ちゃん」

「百合子って言うな」

 バントーラ図書館が設立されて以来、初めての完全敗北であった。

 シガルは、開いた口が塞がらないを初体験していた。


………………


 天国。

 その正体。

 楽園時代の英雄・ルルタ=クーザンクーナの『本喰い』という異能。

『本』を食べ、その『本』の持ち主の能力や記憶を得る力。

 幸福な人生の『本』を得ることが目的である。

「こ、こんなモノが。『天国』だと言うのか? こんな大昔の男に喰われるのが、天国だと言うのか! ふざけるな! 僕は、そんなもののためにハミュッツと戦ったのか!?」

 見苦しい醜態を晒しながらも、シガルは樹木に姿を変えているルルタに怒鳴る。

「ああ、知っていれば。知っていれば天国などに行こうなどとは思わなかった! ハミュッツなんかと戦わなかった! 何が『神溺教団』だ! 何が『天国』だ!!」

 子供の癇癪と変わりはない。不満をぶつけるだけ、幼稚な行いだ。

「さあ、一つ目の願いは叶えた。二つ目は何だい、シガル?」

 さながら、悪魔の誘い。

 ニヤニヤと、無様なシガルを嘲る男。

「『これ』を殺せ! 一片の塵も残さず消滅させろ!!」

「リョーカイ。行くぜ百合子ちゃん、ミドリちゃん」

「百合子って言うな」

「今はアルケミーグリーンだよ、お兄ちゃん!」

 結界。

 妄想具現化(アルス=マグナ)により「逃れること叶わず」と空間は歪められ脱出不可能の檻となった。

 高電離気体(プラズマ)。

 圧縮に圧縮を重ね、ルルタ=クーザンクーナにのみ影響を与える球体。単純な熱量にて必殺。触れるまでもなく即死。蒸発するだろう。

 それでも。

 英雄は耐えていた。

 あらゆる物質が形を保てずにいる死空間にいながら、必死に抵抗していた。

 まだ死ねない。『彼女(ニーニウ)』を救うまでは。最後の最期まで諦めない。

 何よりも尊く強く高潔な意志。

 それすらも。

「必殺! レールガンッ!!」

 その辺で拾った石。奇しくも最強の武装司書ハミュッツ=メセタの得意とする礫弾という攻撃方法で。

 ルルタ=クーザンクーナは死んだ。

 無敵。絶対能力。

 無慈悲にも、2000年続いた彼(ルルタ)と彼女(ニーニウ)の物語は強制終了した。

「さて。二つ目も終わったな。三つ目は?」

 振り返り。シガルを見る。いなかった。

「あれ?」

 代わりに、焦げた肉があった。シガルである。

「ありゃりゃ。死んでしまうとは情けない」

「お兄ちゃん、甦生する?」

「んー。めんどいし、いいや」

「まだまだ俺の超能力(ちから)も不完全だなァ。あンな『木』も消滅させれないンじゃ、オマエに勝つのも遠い未来になりそうだ。クソっ」

 何気に世界を救ったのだが、三人は興味なさそうだ。

「さ。次の世界に行こうかー!」

「おー!!」

「そうだなァ。俺も新しい『可能性』を感じたし、それを試してェ」

 気配がする。大勢だ。恐らく武装司書たちが集結しているのだろう。

「なァ、ミドリの能力使って瞬間移動でもしたほうが良かったンじゃねェのか?」

「そんな地味な行動、ジミーは許しません!」

「最強さん、大暴れした癖に言い訳するの!? せっかく見せ場を作ってあげたのに! 本来なら私が可愛い殺戮魔法を連発する場面だったんだよ!!」

『可愛い』と『殺戮』が結びつかないのは一方通行だけだろうか………?

「あーあー。分かったよ。さっさと行こうぜェ。でもよォ、この世界に来た時みたいな状態はゴメンだぞォ?」

 世界の壁を越え、世界を渡った時。

 描写はされなかったが、三人は地中深くに『転移』したのだ。

 右も左も分からないどころか、上下すら不明確だった。

「忘れ物はないかー!?」

「シカト!? またあンな失敗する気かァ!?」

「あ。お兄ちゃん、ペットが欲しいよ! 魔法少女のひちゅじゅちん………ひつじゅひん、必需品! お供に一匹! バター犬!」

「それもそうだな。何か、いい動物がいないかな」

「………バター犬は駄目だろうがァ」

 そうこうしている間に。

 囲まれています。完全包囲ですね。

「百合子ちゃん、眼が赤いからウサギに変身するのはどうだろうか?」

「今の、俺の気持ちを四文字で表現しよう。『ぶっころ』!!」

 武装司書集団を完全無視。舐めている。

「ま。運命を信じよう。シガルを偶然助けたみたいに、ペットだって向こうから来るだろう。たぶん」

 250年前から現代に時間移動した時。ハミュッツの攻撃を遮断したのは完璧に偶然だった。助ける気など、なかったのだ。

 それはともかく。

 三人仲良く手を繋ぎ、転移(ジャンプ)!!




 ………………『戦う司書』編、終了。次の世界へ………行ってもOK?


………………

 あとがき

 ついに、感想が100突破しました! ありがとうございます。相変わらず賛否両論ですが、続けようかと思います、すいません。



[14929] 第七話 とあるノートの新世界
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2010/01/03 00:09

 ニュース番組。

 とある『人物』が報道されている。

 その人物――――『キラ』。


………………


 最近、ミドリの様子が変だ。いや、元々ちょっと奇行が目立つ少女であったのだが。それでも、何かを隠しているような雰囲気がある。牛乳を隠し持ち、外出する事があった。おそらくイヌかネコでも拾ったのだろうと一方通行は判断して、放置。我が家の財布はミドリが握っている。瞬間錬金(リメン=マグナ)とか言う魔術で、無限に『金』を錬成する彼女がいるから、財政難などとは無縁。犬猫の一匹や二匹は好きにすればいい。無敵(レベル6)も『キラ』とか言う犯罪者を裁く正体不明の人物に興味があるようで、ミドリに構っていない。一方通行も、『新技』の開発や研究で忙しくて会話などしていない。

 これは、ただの気まぐれ。

 決して、寂しいと思ったわけではなく。

 好奇心が少し刺激されただけだ。

「ミドリ、何を隠してンだァ?」

「ひう!? な、何も隠していませんよ!? 決して魔法少女の相棒を育ててなんかいませんよ!? アセアセ!!」

 分かりやすかった。ワザとだろ、これは。

「見せてみろよ、魔法少女の相棒ってヤツをなァ」

 乱暴にミドリの頭を撫でながら、一方通行は外出しようとしていた魔法少女と共にドアを出る。三人は、贅沢にもホテル暮らしであった。

「最強さんは意地悪です。鬼畜です。ロリコンです。私の幼い肢体に欲情して、性的な興味を覚えています。下劣です。このまま私は路地裏に連れ込まれて暴行されるんです、わくわく」

「何をワクワクしてンだァ!?」

 いつも通りの会話である。エレベーターで一階まで降り、もうすぐ4月とは言えまだまだ寒さが残る外気を受けつつ二人は路地裏へと歩く。断じて一方通行はロリコンではない。ミドリが飼育している動物が路地裏にいるだけだ。暴行目的ではない。

「モアイさん、と名前も付けました。安直なネーミングで恥ずかしいです。羞恥プレイですね、最強さん」

「意味が分かンねェよ。『モアイ』なンて変わった名前だと思うがなァ」

 イヌにしても、ネコにしても。ポチやタマよりは安直ではないと思うのだが。

「あれです、モアイさん」

 指差す先に、段ボール。牛乳を入れる平皿も置いてある。袋小路だ。人は来ない場所だ。たとえ、幼女(ミドリ)が泣き喚いても、表通りに悲鳴は届かないだろう。もしも暴行しようと思えば、可能だ。たとえ『妄想具現化(アルス=マグナ)』があろうと、一方通行ならばその発動よりも早く不意打ちして思考させる間もなく――――って、何を真面目にシミュレーションしているのだろうか………? 全人類ロリコン化計画が人知れず進行している………?

「でェ、イヌか?」

 一方通行自身は、動物の世話などしない。だが、見るだけならば別だ。

「モアイさーん! 牛乳とホムンクルスを持ってきましたよー!」

 律儀にも、ミドリは市販の牛乳パックを持ってきていた。その気になれば『妄想具現化』で造り出せるのに。

『………感謝………』

 モアイさん。

 モアイさんだ。

 どこから見ても、モアイ像だった。

 しかも、機械音声っぽい言葉を話した。

 大きさは一方通行よりも、でかい。明らかに段ボールの中に入れないサイズなのに、すっぽりと収納されていた。

「な、なンだそりゃあァァ!!」

 一方通行の絶叫は、幸いにもミドリとモアイしか聞こえなかった。

「最強さん、モアイ像も知らないのですか? イースター島にある石像遺物ですよ」

「知ってンよ。だが、動いて喋る愉快なモアイ像は知らねェなァ」

 一般的なモアイ像と違い、顔だけではなく体もある。正座している。二頭身だ。目玉が怖い。不思議な石像だ。てっきり、この世界には『魔法』とかはないと思っていたのに。

「モアイさん、飼ってもいいでしょう!? お世話はちゃんとするから! 知ってる? モアイさんは人間を食べるんだよ!!」

 言って。人造人間(ホムンクルス)を出現させ、モアイ像の前に置く。

『………馳走………』

 口、開く。大きく、開いた。丸呑みだ。グロい。B級ホラーだ。ぐちゃ。ぐちゃ。咀嚼している。血が口から零れる。ミドリがハンカチで拭いてあげている。呪われた石像と幼気な少女。いやな絵だ。

「………頭が痛くなってきたなァ。ミドリ、そのモアイ像は消滅させとけェ」

「嫌だよ! 私が魔法少女として他の魔法少女に個性で負けないためにも必要なんだよ!」

「他の魔法少女なンていねェよ!」

「いずれ出会う!! 他の世界で出会う! 私には分かる、全国魔法少女選手権とか、きっとある!!」

「ねェよ!!」

 モアイ像をお供にする魔法少女。斬新………か?

「それに、それに! モアイさんはスゴイ! 眼からビームが出るのだー!!」

「すげェ!?」

「あと、体の大きさを自由自在!!」

 だから段ボールの中に入れたのか。

「キーホルダーサイズから巨大ロボサイズまで、フォームチェンジ可能です!」

「巨大ロボ!? 見てェかもなァ!?」

 紆余曲折。

 モアイさんが仲間になった。


………………


 僕の名前は『夜神 月』。運動神経抜群で、天才的な頭脳を持つ、ただのイケメンだ。

 そんな、文武両道な僕はある日、一冊のノートを拾う。

 デスノート。

 このノートに名前を書かれた人間は、死ぬ。

 僕はデスノートを使い、新世界の神になる!

 盗聴器や隠しカメラを家中に仕掛けられたりしたけど、華麗なる機転で見事撃退した僕は東大入試に挑んだ。もちろん、楽勝さ! ただ………気になる事が一つ。受験生の中に個性的な奴がいたんだ。行儀の悪い、変な男だった。

 今日も僕は、デスノートで犯罪者を裁く。

 悪を皆殺しにするために。

 ふははは! 死ね! 死ね! 『L』も僕が必ず殺す!

「うるさいな、リューク。黙ってリンゴを食っていろよ」

 自分の部屋。夜神月しかいない。

 ただ、リンゴが宙に浮いている。透明人間が食べているみたいに。

 死神、である。

 デスノートは死神のアイテムだ。

「さ、続き続き」

 犯罪者の名前を記入していく。日課と化した殺人である。

 ――――省略。

「くそッ! やられた!!」

 頭を抱えながら、自分の勉強机に突っ伏す。

「『L』のクソ野郎が! 絶対あいつ、ロリコンだぜ!」

 私は、Lです。何度思い出しても、腹が立つ。

「それじゃあ駄目なんだよ、リューク。今、殺したら僕が疑われるだろうが」

 独白。端から見れば危ない奴だろうか。誰もいない空間へと、話しかける。

「まさか、こんな作戦で来るなんて。デスノートも融通が利かないな!」

 今日は東大の入学式だった。

 世界三大探偵とか言う全世界の警察を動かせる唯一の存在。世界一の探偵L。

 それを名乗る男が、入学式で新入生代表の挨拶を夜神月と共にした。二人とも入学試験は全教科満点だ。

 ああ、腹が立つ。

 コンコン。

「………………」

 ノック、だ。

 ドアではなく、窓から。二階だぞ。

「誰だ、非常識な」

「とりあえず、神龍(シェンロン)と名乗っている。絶対等速(イコールスピード)でもいいけどなー」

 理由はないけど、デスノートに名前を書きたくなる男だった。

 新世界の神を目指す者と、世界を超えた者が、邂逅した。


………………


 願いを三つ、叶えてやろう。

 まるで悪魔の契約だ。

「ふうん。お前が、死神のような超常の存在であるのは認めよう」

 種なしで空を飛ぶ男。何らかの力は持っているのだろう。

「だが、なぜ僕の願いを叶える? 代価は何だ?」

 椅子に座り、手を組む。相手が何を目的としているのか、見極める。

「んー。代価、ねえ。特にないよ、無償の愛だよ。そこの死神だって『面白そう』で行動しているだろ? それと一緒だよ」

 見えないけどなー。そう言って、男はベッドで横になる。図々しい。せめて靴を脱げ。

「見えない? リュークが見えないのか」

「デスノートに触ってないからな。で? 願いは何だ?」

「必要ない。不確定要素を受け入れる状況でもないし、信用もできない」

「あっそ。出番はなし、か」

 残念そうに、男は立ち上がる。

「こういう展開も、アリかなぁ………?」

 窓から、男は帰って行った。空を、飛んで。

「何だったんだ、あれは?」

 死神も分からないと言った。イレギュラー過ぎて何もできなかった。利用しようにも意味不明が過ぎる。

 忘れよう。

 これにて。

 今回の物語は何のカタルシスもなく、夜神月の人生は続いていく。



 ………………『デスノート』編、終了。次の世界へGO!


………………

 あとがき

 終わっちゃったー!? 夜神のキャラも違うし。ま、チャッチャと進めましょう。

 感想をお待ちしています。自分は『無敵(レベル6)』と違い、影響を受けやすいので励みになります。次の世界はそろそろ魔法少女モノかなぁ………?



[14929] 第八話 とある魔法少女の逆襲
Name: ミナモ◆60293ed9 ID:d020cada
Date: 2010/01/04 23:14

 喫茶店『翠屋』。

 シュークリームが美味いと人気の店だ。

 そんな、名店に奇妙な客が現れた。

「美味いは美味いけど、心には響かないなー」

「お兄ちゃん、あーん。ほら、口を大きく開けて、あーん!」

「シュークリームを口に押し込むのは、なンか、違うンじゃねェか?」

 一口で食べられる大きさではないので、シュークリームのクリームが大量に零れ、個性のない脇役みたいな男の服を汚す。それを嬉しそうに舐め取る緑色の髪をした幼女。その光景を呆れた眼で傍観する白髪で赤目の少年………だろうか、もしかしたら少女かもしれない。

「………あのモアイ像はどうしたァ?」

「モアイさんは、サンタクロースのトナカイが猟銃で撃たれたのでヘルプに行きました。きっと、ソリを引いてますよ」

「俺はツッコミキャラじゃねェンだよ。お笑い要素なンていらねェから、『今はクリスマスの時期じゃないだろ』とか、『何でトナカイの代わりがモアイ像なンだよ』とか、ツッコミはしねェ」

「百合子ちゃんは優しいな、モアイ像なんかすっかり忘れてたよ」

「オマエは薄情だなァ、無敵(レベル6)! あと百合子って言うな」

 喫茶店『翠屋』の店主、高町士郎はその三人組を不思議に思いながらも、接客を開始した。

「その制服、うちの娘と同じ学校だね。今日は平日で学校があると思うのだけれど、お休みしたのかな?」

 緑色の幼女。高町士郎の娘――――高町なのはと同じ小学校の制服だ。平日の真っ昼間。本来ならば、この子も学校のはずだ。

「ええ、私はこれより魔法少女として本懐を遂げるのです! いよいよですよ! 私が主役の日が、ついに到来です! お兄ちゃん、待っててね! 並み居る魔法少女を千切っては投げ、大活躍ですよ!!」

「ミドリちゃん、魔法少女のことは内緒にしないと駄目だよ。そんなドジっ娘なところも可愛いなぁ」

「あ、ついテンションが上がって本当のことを言ってしまいました! てへっ!」

 舌を出す幼女。

「この世界にも、『魔法』があンのか?」

 高町士郎を無視しながら、三人は話を続ける。

「うん、あるよ。海鳴市と翠屋と言えば、魔法少女だね! 百合子ちゃんはそんな事も知らないの?」

「知らねェよ、そンな定型文。あと、百合子って言うな」

「あの………この子の学校はどうしたのかな、君たち」

 異常にテンションの高い幼女に話しかけても要領を得ないので、保護者らしき二人に問いかける。

「この世界に来たばかりなので、まずはこの店に来ようかと思いまして。学校は追々、行かせようかと。えーと、高町さん。このシュークリーム、お代わり」

 若干、意味不明だが、どうやら彼らは引っ越したばかりで、学校に行くのは明日以降なのだろう。

 そう判断した高町士郎は笑顔で「毎度」と応え、お代わりを用意した。

 ただ、気になるのは白髪赤目の『百合子』と呼ばれた人物だ。

 血の匂いがする。戦闘者の雰囲気。高町士郎自身、特殊な剣術を学び、実戦を知り、SP(ボディガード)として世界中を飛び回った者として『勘』が囁く。

 強い。

 決して、肉体は鍛えられているとは言えない。

 だが、それをハンデとしない『何か』を百合子に感じた。

「はい、お待たせしました。君は、お名前は何て言うの?」

 この時間帯は暇なのだ。少し、この三人組を調べて置こう。そんな、職業病。

「私は三沢ミドリ、妄想の体現者です!」

「え、あ、そうなの………?」

「お兄ちゃんのために、呪文を唱えて乱れますよ!」

「あ、あはは。そうなんだ、お父さんやお母さんは?」

 笑顔が、引き攣る。正直、頭の痛い娘だった。

「お父さん? お母さん?」

「うん、彼らは兄弟なのかな?」

 さすがに、親子ではないだろうと判断した高町士郎。

「はい、お兄ちゃんと最強さんです! それで、お父さんは………」

 西京さん? 西京百合子と言うのか………などと高町士郎が思っていると。

「お、とう。さん………? おか、あ。さん?」

 様子がおかしい。元々、おかしな娘であったけれど。

「あれ? あれれ? お父さんは? お母さんは? ここはどこ? 私は誰?」

 きょろきょろ。首を左右に動かす。不安そうに、立ち上がる。

「ねえ、私は誰? お兄ちゃんなんて知らない、知らない!」

 兄と呼んでいた男から離れ、誰何を問う。

「私に兄なんていない! お前は誰だ!?」

 血走った眼。正常ではない。

「ミドリ、どうしたンだァ?」

「違う! 違う! 私はミドリではない、私は、私は………」

 頭を抱える。涙を流している。高町士郎はどうしたらいいのか分からず、緑色の幼女を刺激しないように距離を置く。

「私は、私は、私は………。私は、アウレオルス=イザード!」

 西京百合子が「………誰だ、それ?」と呟いていた。

「間然。一体いかなる思考にて私はあんな愚行を………!」

 幼女の体が、点滅した。

 点滅。消えては、現れ。現れては、消える。

 幼女。幼女。男。幼女。幼女。幼女。男。

 男だ。点滅しながら、時折、緑髪をオールバックにしたスーツ姿の男が現れる。

「『我が名誉は世界のために』!!」

 点滅し、不安定ながら、緑髪の男は叫んだ。

「愕然。私は何をしていた、私に何をした? 貴様、『死ね』!!」

 点滅。点滅。点滅。

 異常な光景。

「無理無理。『妄想具現化(アルス=マグナ)』じゃ、影響を与えるのは無理だねぇ」

「決然。たとえ、そうだとしても――――貴様は殺す」

 黄金の鎖。金色の鏃(やじり)。

『瞬間錬金(リメン=マグナ)』と言う凶悪なる魔術。

 少しでも傷つけたものを黄金へと変換する。

「無駄無駄無駄ッ!!」

 百を超える、千にも届く、万にも劣らぬ、数多の『矢』が出現する。

 まるで、洪水。

 黄金色の大雨。

 その一つ一つが必殺。

 翠屋を灼熱の金に錬成しながら襲いかかる。巻き添えで高町士郎は死んだ。気にする者はいない。

 しかし、『無敵(レベル6)』には通じない。「無駄」を連呼しながら殴って鏃を破壊していく。体にも当たっているが、効果はない。

「死ね! 死ね! よくも私を!!」

「あははは! 綺麗な景色だな、百合子ちゃん!」

「百合子って言うな。だが、確かに壮観だなァ」

 液体の金。

 その金で出来た、海。

 津波。

 巨万の富を凶器に。

 海鳴市は壊滅しつつある。

「どうすンだ、これ」

「洗脳した時に、『両親』を特に設定していなかった。そこから疑念を広げて、『自分』を取り戻したあいつはスゴイな!」

「半分、忘れてたなァ。元々は男だったな、ミドリ」

「『男の娘』でも、可愛ければオッケーだろ?」

「意味が分かンねェな!」

 宙を飛び、津波を回避する。最強も無敵も、回避の必要はないのだが、何となくだ。

「俺がやらせてもらうぞ、無敵(レベル6)」

「やる気だねぇ、百合子ちゃん」

「ミドリとは、一度、本気で戦ってみたかったンだよ。それと、百合子って言うな」

 最強の超能力者、一方通行。

 妄想の体現者、三沢ミドリ(アルケミーグリーン)。

 共に規格外の性能を誇る、デタラメ同士の戦いである。


………………


 黄金の海。

 煌びやかな風景とは裏腹に、すべてを焼き尽くす灼熱の黄金。

 それを操る、緑髪の幼女/男。

 点滅しながらも必殺の意を持って白髪の能力者を睨む。

「俺の超能力とミドリの魔術。どっちが強いか、試してやンよォ」

「ミドリなどと、呼ぶなぁぁぁ!!」

「そうだなァ、アルケミーグリーン!!」

「それも違う!!」

 雨のように降る『矢』。それらを『反射』しながら、一方通行は接近する。『海』の上に立つ錬金術師に向けて、上空より突貫した。

「索然。寄るな、能力者!」

 近づけない。

 空間操作。

 理屈は分からないが、どれだけ進んでも距離が変わらない。

 一方通行のベクトル操作はまず『触』れないと意味がない。

 直接的か、間接的か。

 どちらにしても、接触が不可欠。

「楽には殺さぬ」

 黄金が、吼える。

 変幻自在の純金が、一方通行に殺到した。

「溺れ死ね、能力者」

 どれだけ『反射』しても、意味がない。

 無限に沸いてくる黄金。逃げようにも、歪曲空間から脱出は出来ない。黄金の檻に閉じ込められた。隙間がない。空気が、ない。酸素ボンベは持っているが、これではジリ貧。

「はっ! 問題ねェよ!!」

 脱出不能。空気も少ない。

 意外に、ピンチだ。

 そもそも、「死ね」などと命令されたならばそれだけで終了(ゲームオーバー)だっただろう。

 しかし。それでも。

 一方通行に負ける気などなかった。

 ベクトル。

 ベクトル操作。

 一方通行を最強にした超能力。

 運動量、熱量、光、電気量など。

 それらのベクトルを観測し、変換する能力。

 絶対等速の絶対能力。

 三沢ミドリの魔術。

 異世界の魔法。

 世界の壁を越え、時間移動まで体験した。

 体験――――観測した、のだ。

「無敵(レベル6)を倒すための『新技』、オマエに試してやンよォォォ!!」

 ベクトル → ゼロ。

 宇宙は膨張し続けているように。

 惑星が、自転・公転するように。

 世界には相対的な停止はあれど、絶対的な停止はない。

 ベクトル・ゼロ。

 ありえない、現象。

 秩序(せかい)に存在しない状態(ゼロ)。

 それは――――『混沌』であり『無』であり『ゼロ』であった。

「ミドリ。オマエは『秩序』を乱し、『世界』を操る」

 両手を広げ、真っ直ぐと前を見る。黄金の壁しか見えないが、関係ない。

「つまり、世界の内側を変換して自分の都合がいいように操作しているだけだ」

 ベクトル・ゼロ。絶対停止。

 光さえも止まる。

「俺の『新技』は、逆だぜェ」

 光が停止する。つまり、光を通さない。光が、反射しない。

 即ち、黒色に見える。

 暗黒色。闇色。

 漆黒の翼が、一方通行の背中に顕現した。

「世界の内側である『秩序』をゼロにして、世界の外側――――『混沌』を生み出す」

 世界が創造される以前、その状態を混沌という。

 世界は無から生まれた。無とは混沌。

「その『混沌』に新たな『秩序』を設定する」

 かつて。

 無から世界が造られたように。

「俺の攻撃は、当たる」

 漆黒の翼が、大きく開いた。鳥が飛ぶように、広げられた羽根。

 それが、ブン、と。振られた。

「が、はぁぁぁ!?」

 伸縮自在の羽根。

 それが、黄金を切り裂き歪んだ空間さえ無視して、ミドリを吹っ飛ばした。

「オマエが操作できるのは『世界』だけだ。『混沌』までは、操作できない」

 悠然と。最強らしく。

「な、ならば『死ね』! 塵も残さぬ消え失せろ、能力者!!」

 手加減したので、ミドリはまだ『形』が残っている。

「無駄だァ。俺が新たに『設定』した世界は、オマエに従わない』

 有から無を生み、その無から再び有を取り出す。

 新たな法則を世界に認定させる。

 三沢ミドリの妄想具現化は、一方通行に通用しない。

 そんな一文を世界の法則に加えたのだ。

「馬鹿な!? たかが能力者に、私が負けるのか!?」

「舐めンな、魔術師(オカルト)。俺は最強だぜェ?」

 漆黒の翼。混沌。世界の影響を受けない、『無』。

 ベクトル・ゼロ。

「悪い子には、躾が必要だよなァ?」

 黒翼、噴出!

 一方通行の完全勝利!!


………………


 あれから。

「ごほっ、がはっ、………一発芸『テケテケ』!!」

 やり過ぎた。ミドリの体が真っ二つだ。吐血までしている。内臓が見える。

「最強さん、いくらロリコンだからって、私の下半身を盗んだら駄目ですよ?」

「余裕だなァ!? 下手したら即死だぞォ!?」

「あははは! ホントだ、テケテケだ!! 超ウケる!! ミドリちゃん、面白いよ!」

 黄金の海はミドリの制御下より離れ、流出している。被害激増だ。

「まさか私の華麗なる魔法少女ライフが、あんなオールバックの男に奪われるとは思いませんでした。しかし! 私は諦めない! 妄想は現実に成る!!」

 戻ってきた。三沢ミドリは、帰ってきた。

 理由は分からないが、アウレオウス=イザードは消えた。

「それより、体を治したらどうだァ?」

「いえ、反省中です。実は見下していた最強さんに負けるなんて、ショックです」

「ぶっ殺すぞォ!? ミドリ、そのまま反省してろ!!」

 こっちがショックだよ! なに見下していたんだ!? などと一方通行は頭痛を堪えて怒りを冷ます。能力の過剰使用で、しばらくは超能力が使えないのだ。頭痛は、その代償である。

 だから。

 仕方なく、本当に仕方なく、一方通行は無敵(レベル6)にお姫様だっこされていた。

 仕方なくだ。不本意なのだ。空が飛べなくなったから、不可抗力だ。

 黄金の海はまだ残っている。溶岩のように、ゆっくりと流れている。

「それより、この大惨事はどうすンだ?」

「放置かなー。面倒だし、次の世界に行こうぜ」

「ああ、私の魔法少女ライフが………暴走さえしなければライバルキャラとして他の魔法少女を殺戮したのに!!」

「するなよ、殺戮。ああ、クソ。頭が痛ェ。治してくれ、ミドリ」

「いえいえ、私は空気を読める魔法少女ですので」

 そのまま、お姫様だっこを続けて下さい。

 そう、眼で語っていた。

「………クソがっ」

 毒を吐いて、一方通行が上を仰ぐ。絶対等速の顔が、近い。………違う、意識なんかしていない。していないんだから!

 きらーん。

 空で、何かが光った。

 星か? 鳥か? はたまたUFOか?

 違う。

 あれは――――

「――――モアイ、だァァ!?」

 一方通行の顔面にモアイ像が激突した。忘れていた、サンタクロースのトナカイに代わり、ソリを引いていたらしいモアイさんが帰ってきた。

『………謝罪………』

 無機質な、機械音声。自由に大きさを変える不可思議なモアイ像。モアイさんの帰還。

「クソが! 鼻血が出たぞォ!?」

「おかえりなさい、モアイさん。サンタクロースの賄賂(プレゼント)攻撃はどうでしたか?」

「子供の夢を壊す発言すンじゃねェよ!! 攻撃なのか、プレゼント!?」

「どうやらサンタさんと共に、悪い子供を殺して食べていたみたいですね。モアイさん、血が滴(したた)ってますよ。ふきふき」

 サンタさん、怖っ! サンタクロースの衣装がなぜ赤いのか、理由が分かった日だった。

「そろそろ、体を治しますか。アルアルケミケミ以下省略!」

 ミドリの体が元に戻った。ついでに一方通行も能力を使えるようになった。

「あ。べ、別に呪文詠唱が面倒になったわけじゃないんだからね!」

「うぜェよ。呪文なンてどうでもいいだろ」

 と。いつもの会話をしていると、誰かが飛んできた。

 白い衣装。デバイスと言われる魔法の杖。肩にフェレット。茶髪の女の子。

 魔法少女、である。

「あ、あなた達がこんな事をしたの!?」

 杖を構え、涙目をこちらに向ける茶髪の魔法少女――――高町なのは。

「一応、そうだな。正確には、ミドリちゃんの中にいる人がやった」

「今はアルケミーグリーンだよ、お兄ちゃん!」

「なんでですか!? なんで、なんで………う、うえっ。う~~!」

 泣いている。自分の街が。自分の家が。両親が。黄金の海に飲まれたのだ。

「返してよ、返して! なのはのお母さんを、お父さんを! 返して! みんなを、街を元に戻してよ!」

 涙を隠す事なく、高町なのはは三人に対峙する。

「オッケー! アルケミーグリーン、やっちゃって!」

「了解! アルアルケミケミ、アルケミン! 妄想浸食率上昇中!! リセットボタンをポチッとな!!」

 黄金は消え、全てが元に戻った。

 お手軽である。

「え? ええ~!?」

 混乱した。当然だ。

「願いを三つ叶えるキャンペーンをしています、神龍(シェンロン)と申します。さあ、あと二つ、願いをどうぞ」

「え、あの、あれ? え~と、ジェルシードを集めて、います………?」

 混乱中。混乱中。混乱中。

「アルアルケミ(略)」

 ジェルシードはすべて集まった(笑)。

 ちなみに、時系列は金髪の魔法少女フェイト・テスタロッサに出会う前である。

 つまり、フェイトは一つもジェルシードを集められず、母親のプレシアに「役立たず」と使い魔のアルフ共々処分され、母のプレシアも程なく病死するのだが、どうでもいいか。

「三つ目は?」

「こんなに簡単に集まるなんて………。えっと、ちょっと待ってください。………うん、あなた達の事を教えて下さい」

 最後の願いのつもりで、高町なのはは「教えて」と言った。

「………はい、『ちょっと待った』! では、さようなら!!」

「ええ~~~!? ずるいよ!!」

「魔法少女は、二人もいらない!」

 突如、高町なのはの後頭部に衝撃。

「おいィ!? 何をしてンだァ!? ミドリ!?」

 まだお姫様だっこされたままの一方通行。ミドリの凶行に、思わず叫んだ。

「だって。キャラが被っているだもん」

「じゃあ、仕方ないよね」

「仕方なくねェよ!?」

 金塊で殴ったのだ。バリアジャケットを無効化して、全力で殴った。

 殺意100%であった。

「大丈夫! 札束で頬を叩くみたいなものだし!」

「金塊は立派な鈍器だろうがァ!!」

「金塊、英語でゴールデンボールですね!」

「違ェよ!」

 血で汚れた金塊。地に落ちる高町なのは。人語を叫ぶフェレット。フェレットは無視だ。

「この金塊はサンタさんのプレゼントだ! 受け取れ!!」

 高町なのはの死体に、金塊が落とされる。死体損壊である。

 どうでもいいが、主人公不在により八神はやてという少女がとある『黒幕』に永久封印されました。

「じゃ、次の世界だな」

「次こそは! 次こそは私の魔法少女ライフを!!」

「もういい。疲れた、寝る。このまま寝る」

 まだお姫様だっこは継続中。



 ………………『リリカルなのは』編終了。次の世界に行きます。


………………

 あとがき

 一方通行の『黒翼』については、適当です。

 感想、まだまだお待ちしています。どうか、お願いします。


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