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着意事項
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この作品では「自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」に登場するキャラの一部が、箱根の温泉旅館山海楼閣でまったりと過ごす情景を描いています。と言うことで起承転結なんて、まったくありません。
しかも『フルメタ温泉描写方式』を用いて懇切公平慈愛心を持って、キャラの赤裸々な姿の描写を試みております。そのために……これに限った話ではありませんが……本作品では読者の皆様の喜怒哀楽を含めた様々な情緒が、いろいろな形で刺激される可能性がとても、とても、とっても大きいと思います。(あるいは、盛大に滑って寒くなるか…)
さらに、本編と繋がらないことをいいことに、作者は相当ふざけて書いてます。本編ばかり書いていると、精神とか肩とかのいろいろが凝り固まってきて疲れるのです。そこで、いろいろと発散させたかったのです。
今や、「勢いに任せて書きました。だが後悔してません。ぞれどころか非常に満足している」って感じです。
こうした作者の一方的な都合とか、表現に不快感を感じる傾向がある方や、劣情を催された上にそれを適切な手段で自己処理スッキリすることの出来ない方、法やルール、道徳、モラル、マナー、エチケットなんか知らないといった方は、お読みになることを、どうぞお控えになって下さい。
年齢的には、精神年齢15歳以下の方はお控え下さいってところでしょうか?
万が一これを読んだことで、精神的な外傷を負われたり、不快感を感じられたとしても、例によって作者は一切関知しません。
マッチで火傷すれば、使用者のせいです。マッチが製造中止になったりしません。
包丁で手を切れば、やっぱり使用者のせいです。包丁の生産中止になったりしません。
餅を喉に詰まらせたら、やっぱり食べる側の不注意です。餅の製造販売が中止になったりしませんよね。
なのに、なんでコンニャクゼリーは製造者責任が問われて販売が中止になるんでしょうね?不思議です。
ちなみに、厚労省の『窒息の原因となった食品』(2006年版)によると、餅169件、パン90件、米飯89件、あめ28件、団子23件、カプセルゼリーはたったの11(コンニャクゼリー含む)だったりするそうです。
従ってコンニャクゼリーが窒息の原因になると言う理由で製造販売が駄目と言うなら、お餅は製造中止、パンも製造中止、お米も製造中止、あめも製造中止、団子も製造中止にしないといけない、と言うことになるんだけどねぇ。
更に言うと、いろいろと裏がありそうです。消費者行政担当相の後援会に(ry
おっと、政治ネタが『また』過ぎたようです。
でも、こうした劇・毒物的表現を含めて、きちんと噛んで飲み下し、喉に詰まらせたりするようなことのない方のみ、どうぞいろいろと想像したりニヤニヤして楽しんで下さい。
よろしいですか?
まきますか? まきませんか?
じゃなくて…。
「読みたいですか?」
「引き返すなら今ですよ」
そう言えば…「画像が見たければ、自分が馬鹿であることを証明せよ」って某所での誰かの書き込みに対して、応えようとした人が「We are fool.」って書こうとて「Our fool.」って書き込んでしまい、以来「Our fool.って書けよ」転じて、「わっふるわっふると書き込んでください」になったそうですね~。(世間話)
え、早くしろ?
かしこまりました。では、参りましょう。
とどく=たくさん 拝
番外篇 自衛隊 彼の地にて、斯く戦っちゃってます。
-湯煙温泉篇-(15禁相当)
Wikipediaなどの資料を調べると、温泉の利用形態は大きく分けて①「入浴して体を休める」②「入浴して療養する」③「入浴して楽しむ(泳ぐなど)」④「飲む」⑤「蒸気を利用する(サウナ・蒸し風呂)」に大別されるそうである。
欧米では温泉は、②や④の利用法が基本であり、医師の処方をもらって飲用したり、療養するのに用いると言う。①や③の利用法は、日本独特の利用法と言っても良いのかも知れない。
さて、『特地』に住まう女性達にとって『入浴』とは、美容や各種の理由によって、悩ましいことの一つである。別に『特地』に限った話ではないのだが、天然の温泉等は火山地帯などに集中して稀少であることから、身体の清潔を維持しようと思うと、どうしても河川、湖、泉、井戸の水等を用いるしかなくなってしまうのである。
ただ、それらを入浴に適した温度にすることは、多量の薪と労力を消費するが故に、非常に贅沢なことと見なされている。要は冷たい水を直接浴びるしかないと言うことだ。
で、いくつかの問題が発生する。
その一つが『のぞき』である。
説明の必要はないと思う。
こちら側だって、ギリシャ神話などを紐解けば、乙女や処女やニンフ、ああっ女神さま等々が泉や河川で水浴をしているのを「つい、うっかり」覗き見て、酷い目にあった男の逸話が出て来るくらいなんだから、それくらいに多い事だったと言える。
男側からすれば、そんなところで水浴びすんなとか、各種の言い分もあるんだけれど、とりあえずはまぁ偶然の事故とか、未必の故意というか、不幸とか、様々な理由でのぞきが発生する可能性があって、女性としてはおちおちと肌を晒すことは出来ないのである。
「ちなみに、ロゥリィはどうしてる?」
栗林のした問いかけの末尾が「た?」の過去形ではなく、「る?」の現在進行形であることに、是非ご留意頂きたい。
「あらぁ。そんな不埒者にはお仕置きに決まってるわぁ。過失の可能性もあるから、極刑に処すってわけにはいかなかったけれどぉ」
あまりにも「お仕置き」などと軽く言うから、どれほどのものか「具体的には?やっぱり、神様だけなに下手人を馬に変えたり、蜘蛛に変えたりとか?」と、ついうっかり尋ねてしまった。
「そうねぇ。ハルバートでちょんぎって、犬狼に喰わせるぅ?そんなに見たいならいくらでも見ていろと、瞼を切り取って目を閉じられないようにしてあげるとかぁ…」
思わず想像して、悪寒に襲われてしまった。
女の身であるから、ちょんぎる云々のあたりの想像は無理だが、瞼を切り取ってからの下りは、思わずぞっとしてしまう。
「こ、ここは安心していいわ。この温泉宿の山海楼閣では大浴場は当然のこと、露店風呂も四方は生け垣とか壁で仕切ってあって、少なくとも偶然とか、なんかの間違いで覗いてしまいましたってことは、ほぼあり得ないから。あ、みんな、脱いだ服は、それぞれにロッカーにしまってね。ほら、そこ。脱衣所の床に脱いだ物を散らかさないっ!」
「つまりぃ、確信犯以外あり得ないって事よねぇ。当然、極刑よねぇ…」
フリル黒ゴスのリボンを弛めつつも、大きな窓の外に見える山々へと視線を向けニィと微笑むロゥリィは、やっぱり恐かった。頼むから覗きなんかすんなよ、と心の奥で伊丹や富田に釘を刺す栗林だった。
草むす山林の中。木の葉や草花が大地を覆い尽くしている。倒木や岩、そして日の当たらないところには苔やキノコ類が繁っている。
こんな風景を指さして「人がいるぞ」と言われても、素人は信じないだろう。
人の姿らしきものなど、全く見られないからだ。
だが、目線を向けるべき所について経験を積むと、自然の風景の中に漠とした違和感を受けるようになってくる。
例えば、疎であるべきところが密になり、密であるところが疎であったり。陽の当たらないところに、日光を好む植物が生えていたり…。
そんな場所を見つけたら、光の当たるところ、影の所をよっく見比べる。そうするとつや消しをした塗装や、迷彩柄の生地が見えてきたり、緑や濃緑のドーランを塗った人肌を発見することが出来る、『かも』知れない。
そうすると、どうにか人の形をしているものが隠れているのを発見できるわけだ。
この辺りが、初級編である。これが出来るようになり、様々なことに応用できるようになると……
君は、敵の待ち伏せを見破ることに成功した!!
生存力がレベル1向上した。
観察力がレベル1向上した。
危険察知力がレベル1向上した。
隠蔽応用力がレベル1向上した。
対のぞき技能がレベル1向上した。
地雷的『なにか』発見技能レベルが1向上した。
おれおれ詐欺看破力 C+が追加された。
スコッパー初級から中級へとレベルが向上した。
とにかく1向上した。そう、レベルが上がるのである。
とは言っても、当然のことながら中級以上になると、敵は隠蔽しようとする場所の植生、地形、地物に応じて常にカモフラージュを更新するようになる。従って、さらなる観察力を磨かなければならない。何しろ、敵はジャングルに居るばかりではなく、我々の日常生活から匿名掲示板等、様々なところに潜んでいるのだから。是非頑張って貰いたい。
さて、中級を越えて、上級と言うほぼ完璧なカモフラージュをして隠蔽していたとしても、不用意な動揺は背景から人の姿を浮き彫りとさせてしまうので、絶対に避けなければならないとされていてる……の、だが。
「……うっ」
『アーチャー。どうしました?心拍数が跳ね上がりましたよ』
『アーチャー』というコードネームを持つ赤井弓人三等陸尉は、思わず身を揺るがせてしまい自然にとけ込んでいたはずの我が身を暴露してしまった。
特殊作戦群の実働部隊は、現在マスター・サーヴァント制をとっている。これによってサーヴァントたるコマンド要員は、後方のマスター(担当指揮官)によって心音モニター、バイタル等が常にチェックされているのだ。彼の心拍数の激変は数値として表記される。
「今、対象Bと視線が合った。すげぇ殺気だった」
M95対物狙撃銃の照準眼鏡にうつった黒ゴス少女の刺すような視線がこちらを睨んだのである。
だが、狙撃銃の対物レンズが太陽光などを反射しないようなフィルタ処理を施すこと最早常識レベルの問題で怠るはずも無く、きちんと隠蔽している限り、察知できるはずはないのだ。
『あり得ません。直線距離で450メートルも離れているのですよ。たまたま視線が貴方の方に向いただけです』
「いや、絶対に察知された。俺の勘がそう言っている。このまま監視を続けると、何かヤバイ。絶対にヤバイ」
『了解しました。では、速やかにポイントKへ移動してください。浴場及び脱衣所の監視は、内部協力者にお願いすることにします』
「ああ頼む。俺はこれより移動する」
赤井は、死神ロゥリィの殺視線をうけ、全身が微妙に震えて冷や汗を掻いていることをこの時初めて気付いた。彼は誰も知らないところで、生と死の狭間を超え、今まさに生き残るための重要な選択をしたのであるが、当の本人もそれを知ることはなかった。
さて、
「あんた達はどうしてた?」
恐い雰囲気を祓うようにして栗林は話を皆に振った。
ちなみに昔の日本では、覗きを避けようと思えば、自宅に水をえっちらおっちら運んで、たらいに水を張って、それで肌を洗うしかなかった。これを行水(ぎょうずい)という。
誰の家にも入浴施設があるようになったのは昭和も末期近くになってからだ。浮世絵などにも、井戸端の沐浴風景などが描かれていて、おおらかだった古き時代を感じさせるが、当の本人達にとっては、「ちょっちねぇ」といった気分だろう。
「誰も入って来られないような、深い森の奥に泉を見つけて使っていたわ」とテュカ。
「妾は…宮殿に浴室があったから。軍営中では、歩哨がついていたし…」とピニャ。
「騎士団の男連中との壮絶な戦いは筆舌に尽くせぬものがありますわ。覗こうとするわたくし達と、防ごうとする彼らとの戦いは、騎士団史として残しても宜しいのではないですか?」とボーゼス。
ここで、栗林がフリーズする。翻訳のミスかと思って「はい?覗かれたんではなくて、覗いた?」と尋ねなおした。
ボーゼスの回答「殿方らが互いに友誼を確認しあう姿を見ることは、わたくしのこの上ない喜びなのです」というものだった。
「うむ。その為に、騎士団を設立したとは言わぬが、望外の収穫ではあったな。くっくっくっ」とピニャ。
こうして栗林は、背筋に汗を掻きつつ呻いた。覗く方も覗く方だが、男の方も男の方である。戦国時代、古代ヨーロッパ、中世ヨーロッパ等々と、こちらにも男色はあたりまえの時代はあったのだが、遠い過去のことだけに別の世界の話として感じていたのである……が、それらが突如身近に感じられて、栗林は鳥肌の立つような感触と共に押し殺すように呟く。
「く、腐ってやがる」と。
「あまり気にしたことはない。いつも井戸端」と、非常に剛毅なことを言ったのはレレイであった。
井戸端というのは、その地域の人が水を汲みに集まるところであることは『井戸端会議』などという言葉が存在することからもそれが知れるだろう。つまり、人目が大いに存在する場所なのだ。
コダ村とは、いろいろとおおらかな所だったのかも知れない。
「義姉が水を浴びていると、家の中でも覗きが出没して退治するのが大変だった。けれど、私はその点、楽だった。井戸端でも覗かれたことはない。たまたま人が来ても、じろじろ見たりせずそのまま用を済ませて通り過ぎていく…」
「……………………」
「……………………」
論評に困る発言である。
それはよかったわねと言って良いのか、それは残念ねと言って良いのか…女性としては、沽券に関わる部分もあるように思えるのだ。
そう、残念ながらレレイの身体的な性徴は始まったばかりなのだ。
レレイ・ラ・レレーナは、実年齢は特地歴で15才。だが見た目はもう少し幼く見える。体躯が小柄なのもあるから、電車の切符なら子供料金でもいけるかもしれない。
カトー老師はちゃんとレレイを食べさせていたのだろうか。コダ村での栄養状態があまりよくなかったのか本人の偏食が原因か、その体つきはいささか細かった。
そのせいで女性としての成熟もこれからである。
そう、これからなのだ。最近では栄養状態も改善されたから、それなりに丸みを帯びてくることは間違いないと思いたい。今後の期待にかけたいところである。
髪は白銀…いわゆるプラチナブロンドをショートにしている。ここで瞳が紅いと一部のマニアには喜ばれるかも知れないが、残念ながら黒みがかったグリーン(緑色)。冷ややかな印象を周囲に与える無表情も、細い眉や、ゆるやかな曲線が美しい鼻梁とか、薄目だけど柔らかみを感じさせる唇とか、シャープな顎のラインで彩られてフィギュアモデルのようだ。
彼女の魅力は、ほっそりとした項(うなじ)から、背中にかけて伸びる滑らかなラインであろう。緩やかな曲線が、ちょっと骨っぽい肩胛骨の段丘へと続いている。そこがまた良いのだ。もうちょっと痩せすぎると、骨っぽさが際だちすぎて醜いし、もうちょっと肉が付いているとこの魅力は消えてしまいかねない。なんとも絶妙な感じである。
さらにつづく背中はゆるやかに流れるようにして腰のラインを形成している。それがあるために、その下のヒップは小ぶりでも、全体のバランスから見ればちゃんと女性性を強調しているのだ。
浴衣なんか着せると、そりぁもう映えるだろう。
「気にするな、あたしと比べれば15才の君には、まだまだ未来があるぞ」という祈りを込めて梨紗は、レレイの白い背中をポンと叩いた。同病相憐れむとも言う。
また、世には「微乳がよい」という男もいるのだとレレイに言って聞かせた。
ちなみに、梨紗の前の亭主は「有れば良いが、ささやかなら、それはそれでまた良し」という種類の男であった。おかげで、あんまりな劣等感を抱かずに済んだのである。そんな梨紗の慰めをレレイはうんうんと聞いて、大いに参考にしたようである。何の参考かは、ここでは語るまい。
さて、そんな微乳同志の傷の舐めあいを余所に、女性方の視線は、もっぱら栗林の爆弾級巨乳へと集まっていた。
「これって、どうなっているのでしょう?」
「う~む」
特に、ピニャとボーゼスの関心が何に向いているかを「ああ、ブラね」と察した栗林は、下着を外して見せることとした。
特地における文化の調査で、女性用の下着にブラジャーに相当するものがないという事実は確認されている。日本でブラジャーが一般に普及したのが第二次大戦後、洋装が一般化してからだから、二人が珍しげに関心を持つのも当然のことかも知れない。
ところが、いろいろと忙しかったピニャとボーゼスを除いた他の女性衆はと言うと、原宿や下北沢で大いに買い物を楽しんでいる。その購入品目のリストには洋服や小物以外に、下着というものがあったわけで、皆それぞれに入浴を終えたら試してみる気満々で、着替えの中へと忍び込ませている。
だから、テュカとか、ロゥリィとかレレイの視線はブラなんかよりも、栗林の巨乳に注がれていた。
「これぇ、どうなってるのぉ?」
「中身が詰まっているのか疑問。通常は重みに従って垂れる」
「中身が空気だったりしないわよね。逆に筋肉だって可能性も」
これを受けて、ピニャとボーゼスも参加する。下着も興味深いが、栗林の乳房も非常に興味が注がれるものであったからだ。
「いずれにせよ、触ってみればわかるであろう。筋肉なら、きっとかっちんこっちんだ」
「では、わたくしが…」
ボーゼスが、すっと手を伸ばしてくる。
その感触はサイズこそ違うが、例えるに新品の軟式テニスボール(ゴムまり)だろうか?弾力に溢れ、はち切れそうなほどであった。形状は半球型。ジェルバッグでも入ってるんじゃないのか?と思うところだが「へへへ、天然物だよ~ん」ということである。位置も、強固な大胸筋によって上胸部に維持されていて、のど仏の下の窪みと両の胸のトップが見事に正三角を描いている。
それが滑らかな肌の感触と、比較的小さめの突起で可愛らしくデコレートされている。小麦色に日焼けした周囲の肌とちがって、常に隠されているその部位については産まれたままの薄桃に近い肌色をしている。
そして身体の方はと言うと、ボディビルの不自然なそれとちがい、野生の猫科の動物のようなしなやかな筋肉が肌の下に隠されている。肩回り、首、胴回りともに光の当たり加減では、その段丘が見える程だ。
でも、彼女の肢体を眺めるならば、立ち止まった姿よりも、動いている時の方がよいかも知れない。躍動する筋肉とか、きゅっとしまったお尻とか、揺れたりする「何か」とかきっとその目は釘付けになるに違いない。剛と柔、小柄な体躯と巨乳、肌の白さと日焼けの黒さというコントラストは、はっきり言わせてもらえば、非常にエロい。
非常にエロぃのだ。
大切なことだから二度言いました。
「で、殿下。信じられません。非常に素晴らしい感触です。酒を入れた革袋のような、弾力のないフニャフニャした感触を想像していたのですが、これはまるで赤子の頬のようでいて、しかもしっかりと中身が詰まっています」
「ほほう?」
「ふ~ん?」
「学術的にも、興味深い」
こうして、四方八方から伸びてくる手によって栗林は、暫くの間文字通り「揉みくちゃ」にされたのであった。
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CMです。
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CM--01-- 15秒
平成××年、突如として東京銀座に、異世界への門が開かれた。
中からあふれ出る怪異達。阿鼻叫喚の地獄絵図。
陸上自衛隊は、これを撃退し、門の向こう側、『特地』へと足を踏み入れた。
『自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』
異世界ファンタジーと、現代日本の接触を描いたオリジナル小説、宜しくお願いします。
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CM終わり。
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さて、次にあるのが『水』の問題である。
勿論、『特地』に限った話ではない。こちら側でも日本を除いた多くの国がそうなのだが、…『特地』の水の多くは、いわゆる「硬水」であった。
硬水は入浴には適さないのである。
髪はごわごわになるし、肌は突っ張った感じになるばかりか、荒れたりするそうである。従って清潔を保ちたいという衝動と、美容のためにはあまり水に触れたくないという気持ちの中間点で揺れ動いて、妥協点を見いだすしかないのだ。(ヨーロッパの人があんまり風呂に入らないのもそのせいらしい…)
ところがである。
ここは日本。箱根の温泉旅館。
彼女らの眼前に広がる、巨大露天風呂。
室内は湯煙漂う桐の浴槽。北欧式サウナにジャグジー、ジェットバス等々。
これらを充たす、無尽蔵なまでの温。
その効能たるや『美人の湯』とまで言われ、肌がスベスベになるばかりか、美容の敵たる冷え症、肩凝り、腰痛、神経症、各種アレルギーにまで効能があると、保健所の効能書きまでついている。
そして、入浴を徹底的に楽しむために作られた設備の数々。露天風呂でありながら、周囲に(一応)張り巡らされた目隠し塀。その開放感と安心感。
これらを産まれて初めて見た、特地の娘たちの心境を是非想像せよ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「凄ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
「す、素晴らしい。これほど画期的なものが、この世にあったとは…」
「なんということでしょう!!なんということでしょうっ!!是非、みんなを連れてこなければ…」
「……………………………(感涙)」ポロッ
「へへへ、凄いでしょ」
栗林は我が手柄のごとく胸を張った。その巨乳には無数の赤い手形がついていたが。
1番手、ロゥリィ・マーキュリー
彼女は、かけ流しの湯を指先でツンツンと触れてみて、ちょびっと口に運んだ。
今度は、浴槽に手をつっこんで、その充分なまでの温かさを堪能(作中では冬です)すると、その瞳を輝かせた。そしておもむろに、初めて公衆浴場に来た外国人っぽく、いきなり浴槽に飛び込むという暴挙に及ぼうとして、栗林に羽交い締められた。
「これっ!!まず身体を洗いなさい!!」
「おっ、おっおっ…おおっっ!!」
ずりずりと引きずられていくロゥリィ。
親から引き離される幼稚園児の如き悲しげな表情で、温泉に手を伸ばすが離されていくばかり。さらには、栗林の二つの巨乳の、弾力に富んだ感触を後頭部に感じて、なんだか悔しい。とっても悔しい気分である。
ちなみに、彼女の肌はまるで白磁のごとくであった。それが湯煙の温かさからか、それとも生来のものか、薄紅色に染まっているから、なんとも言えない艶気がある。そんな彼女の肌に、水滴がちりばめられていたり、湯気で湿気を充分に含んだ漆黒の髪が、乱れ髪のごとくぺたっと張り付いている姿を想像してよ。どうだい?みんな。
亜神たる彼女は、外傷を負ったとしても、その再生能力で常に完全修復されてしまうから傷一つ無い。シミ、そばかす、擦り傷や日焼けの類も、完全修復されてしまう。自分で望んだ外傷であったとしても、完全修復である。だから、耳にも臍にもピアス穴をあけられない。(刺しっぱなしにしておくことは可能)刺青の類も不可能。いくら食べても太らない。肉の身体を捨て去るその日までは、この姿のままである。
では、そのスタイルについてなんだが、出るところについては確かに控えめだ。微乳である。しかし、しかしである。「そんなものは飾りです。エロいひとにはわからんのです」と言うではないか。(元ネタ/あっちこっちにありすぎて、よくわからん)
実際小さくても良いものは良いのだ。
ロゥリィの胸は微乳であるが美乳でもある。ささやかではあるが、その形状は品よし、形よし、張りよしなのだ。しかもである、その突端はイチゴミルク系のあめ玉のようなピンクである。これはもう、芸術品と言っても過言ではない。いや、芸術品その物だ!!(断言)
さらに、出るところがささやかである代わりだろうか、引っ込むところは見事なまでに引っ込んでいるのだ。ぎゅっと締まった腰回り、首、くるぶしから足首の細さはそこらで見られるようなものではない。
そう、ロゥリィは幼児体型ではないのである。強いて言うならマイクロサイズのデルモ体型とでも言えばよいだろう。
この直後、第二のカルチャーショックがロゥリィを襲う。
問答無用とばかりに、栗林に頭からお湯をザバッとかけられた後に、ピュピュと浴びせられたやや白濁した液体…それに一瞬、何を連想したかは秘密だが「酷ぉぃ。顔にまでかかっちゃったじゃないぃ!!」と抗議する間もなく、ヘチマタオルでごしごしと擦られ、身体は自分で洗えと手渡されて驚く。
その泡立ちというか、クリィミィな感触と香りのボディソープに、思わずうっとりである。ロゥリィ・マーキュリー961才にして、石鹸というものを知った瞬間だ。
『特地』にも、獣脂にアルカリ灰を混ぜて作る石鹸らしきものは一応あるのだ。だが、その品質はあまり良いとは言えないものだ。前述したような水の問題もあるから、脂分を肌から奪う石鹸をやたらと使うことも出来ないということで浴用として用いられるのも一般的ではない。だから、このグリセリン分を大いに含んだ『すべすべっぬるぬるっ』とした感触は石鹸について言えば、ロゥリィは初体験なのである。
えっ?石鹸以外は何かって? そりゃ、あれでしょ……おわっ、聖下様っ!!お許し下さいっ!!ぎゃぁ………
「くすくすくすくすぅ。血ぃの感触ってぇ、とってもぉ、すべすべぇぬるぬるぅしてるのよねぇ」
しばらくお待ち下さい。
作者、再生につきしばらくお待ち下さい。
2番手、ピニャ・コ・ラーダ。
彼女は、先達たるロィリィの暴挙が、栗林によって阻止されたのを見て、後に続こうとしていた我が身を振り返った。
「こほん」と咳払いを一つしてこの場にいる全ての女性に率先し、自ら身を清めることとしたのである。
栗林がロゥリィにさせているのを真似てカラン(お風呂場の蛇口のこと)の前に品良く片膝をついてすわり、身体に巻いたタオルを解こうとして思わず絶句。
巨大な鏡。
横に長大な鏡。
湯気で曇っているが、巨大な鏡。
ひずみも無く、着色もなく、こちらの姿を寸分の狂いもなく、正直に映し出す鏡。(脱衣場にもあったはずだが、気付かなかったということにしておいてほしい)
帝国では、鏡は青銅や鉄を磨いて作るものである。
そのために、サイズもそう大きなものは作れないのが現状であった。
ひずみがないような鏡は、ドワーフ、しかもドワーフの中でも「あなたがネ申か?」と問われる程の者にしか作れないと言われている。
しかも、作れたとしてもそのサイズには自ずと限界があった。それが、これほどのサイズで、しかも水っけの多い浴室などに(帝国の鏡は金属製であるが故に、錆びたり腐食しやすいので水気は厳禁である)…。
思わず、我が身に見入ってしまう。
本当の自分の姿。
口から漏れ出てしまう。「これが妾か?」と。
一糸まとわぬ自らの裸体が、鏡の向こう側にいた。それはゆがみがないが為に、赤裸々に自らの正体を映し出す。そう、初めて見た嘘偽りのない己の姿に衝撃を受けていたのである。
チラと栗林を見やって、その双丘を自らのものと見比べてしまう。
栗林に髪を、がっしがっしと洗われて黄色い悲鳴を上げているロゥリィが目に入り、そのきゅっと締まったウェストと、しなやかな手足を自らと見比べる。
思わず、沸き上がる劣等感。
皇宮の鏡は、これまでピニャにおべっかを使っていたという事実に初めて気付く。帝国では、鏡に歪みがあるのは当然であったがゆえに盲目となっていたようだ。
おそらく彼女の部屋にある鏡は、全体的に横に細く、それでいて、胸部あたりは豊かに見えるような歪みがあったのに違いない。そう。特地の貴婦人達は鏡を求めるに当たって、自分が美しく映るようなゆがみをもった鏡を探すのだ。全体の傾向としては少しばかり細く映るような歪み方をしているものが喜ばれる。その意味では、現代日本ではゲームセンターなどにあるプリクラがそうである。
「なんと言うことか…」
思わず両手を浴室の床について、失意のポーズをとってしまう。ちなみに浴室なので裸である。
「どうしました?殿下」
打ち拉がれているピニャの姿を見慣れつつあるボーゼスは、あまり深刻にとらえず、ちらと尋ねるだけで自分の身体を洗っていた。『こっち』に来てから、ピニャが受ける衝撃にいちいち気を回していたらきりがないのだ。
「ボーゼス。真実というのは過酷だな」
「はぁ…」
これにはボーゼスも、なんとも答える言葉がなかった。
ピニャ自身は劣等感を感じているようだが、男たる筆者に言わせて貰うと彼女の肢体はそれほど卑下したものではないからだ。
要は、比較の対象が良くない。この場における『最大級』とこの場における『最細級』と比べてどうしようと言うのか。こういうことはバランスなのだから。
ピニャの裸体を一言で評するなら、調和が取れているという表現が適しているだろう。
栗林ほどではないとしても、その肌の下にはしなやかな筋肉がある。すべすべでまろみを感じさせる肩の線。それに張り付く燃えるような紅の乱れ髪。
それはまさに、『洋もの』女性の裸身であった。
張りのある二つの双丘は桃のような形状でツンっと上を向いて自己主張。その下には、ゆるやかな曲線でくぼみの織りなす腹部が広がって、真ん中に臍がある。乗馬によって引き締められたヒップは緩みたるみが一切なく、そこから伸びる大腿は緊張感に溢れている。ふくらはぎからくるぶしにかけてのラインは、若鮎のようで実に美しい。肉感的とはピニャのためにある言葉かも知れない。
もし、傍にいたら思わず手を伸ばしてしまうたくなりそう。
こちら側で産まれ育ったら、きっとモデルか芸能界…いずれにしても、引く手数多だろうに、そんな肢体を有する皇女殿下は持たなくても良いコンプレックスに苛まれて、「うう、鏡は正直のほうがよい」と、自室の鏡を新調することを誓ったのでした。
3番手、テュカ・ルナ・マルソー。
彼女は、浴室の壁面にある木製の重厚なドア……洞窟内部とかダンジョンの宝物庫につけられているような…の前に立っていた。
それは、いわゆるサウナであった。
扉に触れてみて、その熱さにここは何だろう?と首を傾げる。
ちょっと戸を開けてみる。中から溢れ出るむわっとした熱気に、思わず、ぴっくりしてしまった。
ちなみに、ハイエルフは種族的に自然児に近いので、裸になるべき場所では裸になることに抵抗がない。ということで裸身での立ち居振る舞いも堂々としてて、タオルを巻いたりして隠すこともしない、しない、全くしないのだ。
『上』も『下』も当然のことながら澄んだ蜂蜜のような金髪。(えっ、『下』?…もちろん眉毛のことだ。なんだと思ったんだね?某に出てくる似非金髪博士とは違うことを強調したかったのだよ、くっくっくっ)
彼女の容姿を描写するとすれば、ちょっと人間の範囲を超えているなと思えてくる線の細さが特徴的かも知れない。痩せぎすなわけではない。手足が絶妙なまでに長くて綺麗なのだ。まさに黄金律の美しさである。肌の色は、ボーゼスやピニャに比べて東洋人に近くて肌理が細かいが、梨紗と比べれば白い方と言える。例えるに精巧な金細工だろう。
胸の双丘について言えば、サイズについては平均的と言えば平均的なんだけど、メリハリのあるお椀型をしているので、栗林に匹敵する質感がある。しかもその尖端はローズピンク。腰回りも柳腰という表現がふさわしいスリムさ。問題があるとすれば、神秘的で妖精的なだけに、女々した色気に欠けてしまうところかも知れない。男的に言えば、見て欲情するより先に「おわっ、すっげぇ綺麗」と感心してしまうという感じである。ちょっと手を出しにくい。
「何してるの?」
梨紗が背後から声をかけると、テュカはわりと上手な日本語で応じて来た。
「ここって、何?」
「ああ、サウナよ。熱気で汗を絞るところ…ま、こんな解説よりは、試してみることよ。試して、試して…」
こうして、そう言う梨紗に手を引かれ、テュカはサウナへと入っていった。
およそ、5分後
バンっとドアを開けて真っ赤になったテュカと梨紗が飛び出して、梨紗にひっぱられるようにして水風呂に頭から飛び込んだ。
「あ、熱っち、あっち、暑っち~!!」
二人を追いかけるようにして高温の蒸気が浴室に吹き出して来た。
「いったい、何をしたのよっ!!
「あんまり暑いから、つい水の精霊を呼び出してあの熱い石に…」
北欧式のサウナは乾式といって、室温は80~100度近くになる。それで火傷しないのは、空気が乾燥しているからなのだ。これをいきなりスチームにしたら、全身が熱傷を負ってしまうだろう。下手をすれば死ぬ。
呼び出された水の精霊も、災難だったろうが、梨紗のほうがもっと災難だ。高温の蒸気で危うく蒸し焼きになかけた梨紗は、おおきなため息をつくと、こんこんとサウナについて説明するのであった。
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CMです。
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CM--2-- 30秒
コダ村からの避難民達は、自衛隊の援助で細々と生活をしていた。
だが、勤労意欲に富む彼らは、ただ他人に養われていることを由とはしなかった。
そんな彼らが選んだ自活の道は、翼龍の鱗を掻き集め売ることだった。
評判が評判を呼び、各地から押し寄せるように集まる商人達。だんだんと発展してしまうアルヌスの難民キャンプ。目新しい商品との出会い。馴れない料金交渉と為替相場に困惑する少女達に取り入って一儲けをたくらむ悪人柳田。そして金の臭いに群がる泥棒する奴と特殊作戦群との壮絶な戦い。
こっちの常識とあっちの常識の違いから生じる様々なドタバタ喜劇。
番外篇 自衛隊 彼の地にて、斯く戦っちゃってます。
-商売繁盛篇-(15禁相当)
「さぁ、はじまるでざます。逝くでガンス。Wonがぁ……先生!!助けてくださいっ!!こすぴちゃんが息してないんですっっ!!!」
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CM終わり。
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どんなことにも一番というのは、なんとも言えない爽快感があるものだ。
温泉に入るのだってまたしかり。一番風呂なんて言葉もあるくらいなのだから。
身体の隅々を石鹸を用いてピカピカスベスベになるまでしっかりと洗い、髪まで綺麗に洗らわれた今、彼女を妨害する者はいない。マナーに従って、髪を湯面に漬け込まないようにたくしあげ、ターバンのようにタオルで包みあげて準備も万端。
栗林も「うん、よし」告げる。
意気込んだロゥリィは浴槽の淵に立って、今からこれから入ろうとして『湯』を感慨深く見つめていた。
どういう訳か自分達以外には客もなく、浴槽は広くて、さらに湯はどこまでも透き通っている。そしてふわふわと沸き立つ湯気によって、そこはあたかも幻想郷のように感じられた。
その湯面…というより水面は、ピニャが魅入られて動かなくなってしまった鏡のように平らで、外の風景を映し出している。
そこに、ロゥリィは、ちょっと足先をつけてみた。
ぱぁっと広がる同心円の波紋が、なんとも美しい。
波紋が広がりきるの待って、いよいよこの平らかな水面を自分が掻き乱すのだと思った瞬間、隣からテュカがざぶんと入った。
「えっ?!」
気分的には、足跡のない綺麗な雪面にこれから足跡を残すのだと思って、一歩を踏み出そうとした瞬間、別の誰かが飛び込んできてあたり一面を掻き乱したような感じと言えるだろう。
「くっ、テュカぁ……」
しかし、ロゥリィの胸中なんて誰にも察することが出来るはずがない。テュカに続いて、レレイもピニャも、ボーゼスも、梨紗も栗林もどんどん入っていく。
「何してるの?さっさと入りなさいよ」
栗林の声に、誰にも判らないように涙を流して握り拳するロゥリィであった。
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露天風呂に浸かって首だけ出す。
湯の温かさと、冬の外気の冷たさが巧みにマッチする。頭が冷えて体が温まる、頭寒足熱を絵に描いたような状態だ。
「ふぁぁぁ」と、思わずため息が出てしまうのはどうやら日本人だけではないようで、そこかしこから小さな、あるいは大きく大胆なため息が聞こえたりする。
ゆっくりのんびりと、これぞ極楽。
とは言っても妙齢の女性達が集まって、ただじっとしているというのも詰まらないと言う意見が、誰からともなく出てきた。
湯の中でする娯楽というものは無いのか?とテュカは尋ねる。これが泉とか川なら、泳いだりして楽しむという選択肢がある。水を浴びせあったり、潜ったりと楽しい遊びがいっぱいだ。
が、それは温泉のマナーには反しているということで栗林は固く禁止を言い渡した。
じゃぁ何がある?騒ぐのも駄目。泳ぐのも駄目。何も楽しめないではないか?という意見が次々と出る。
ただ、湯に浸かることそのものを楽しむというワビサビは異世界ファンタジーの人にはちょっと通じないのかなぁと思いつつ、栗林が思い浮べたのが、舟盛りの刺身料理をお湯に浮かべて、お酒を呑むというものだが、実はこれは都市伝説らしい。無理に頼めばやってくれる旅館もあるかも知れないが、湯船に料理をばらまいたり、お銚子と言えども瀬戸物であるが故に浴室で割ったりしたらその破片でお客が怪我をする可能性もあるということで、いい顔されないのが現実だ。
悩む栗林に、湯船の中で助け船を出したのは梨紗であった。
「こう言う時は、恋話(コイバナ)をするものよ」
「なるほど、男連中もいないし」
と言うことで、一同ボーゼスへと視線を集めるのであった。関心がないのか、レレイだけは、ちょっと離れたところで、魔法を使って水玉にしたお湯を空中に浮かべて遊んでいた。
「な、な、なんでしょう?」
浴びせられる視線の迫力に圧されて、ボーゼスは後ずさる。
一同を代表して栗林が、ボーゼスに迫った。
「富田ちゃんが、どうもボーゼスさんをお気に入りのようなのよねぇ。ボーゼスさんとしてはどうなのかなぁ?と思って…」
「え、あ、それは…」
「当然、気付いてたでしょ?」
女性は、男性の好意が誰に向けられているかを察するのに敏感だという。だが当事者になるとそれが判らないと言うのは良くある話だ。他人事だと冷静になれるのに、自分のことだと色々な思惑が入ってしまうからである。
とは言っても富田が、何かにつけて自分に対して気遣いを見せてくれていると言うのはうすうす感じていたようで、それが好意なのかなぁ、それとも単なる気遣いなのかなぁと思いめぐらせていたのだ。それが今、周囲から指摘されたので「やっぱり、そうか」と理解したのがホントのところ。
「ボーゼスさん的には、富田はどうなのかなぁ?」
「騎士団では男女間のその手のことは、き、禁止になっていますので、それに家柄とか、身分とか、ゴニョゴニョ、ぶくぶくぶく…」
顔の下半分をお湯に沈めて俯くボーゼス。ぶくぶくと言葉を気泡にして、顔を紅くするのはお湯のせいか、それとも別の理由か?
「うわぁ!!前時代的!しかも、同性同士はよくて異性は駄目ってどういうモラル?」
「そ、そうは言いましても」
ボーゼスの視線は、騎士団の最高指揮官たるピニャへと泳ぐ。
「ボーゼス。こういう場で、そう言う無粋なことは言わないようにするがよい。実際に交際するとか、そういうのではなく、話の上でのこととして、皆はどう思うかと尋ねておるのだ」
ピニャはボーゼスにゆっくりと近づくと、逃がさないようにその背後をとった。
「で、殿下」
「さあ、白状するがよい。妾もボーゼスがどのような男を好むのかには、興味津々だ」
ピニャに、背後からその胸を鷲掴みにされて逃げ道を失ってしまうボーゼス。まさに絶体絶命のピンチ。髪を湯につけないようにまとめたタオルもはずれて彼女の豪奢な金髪がはらりと落ちた。
「お、おねぇさま。ご勘弁下さい」
「お、お姉さま?!!」
周囲から上がる驚きの声。そこには、なんとも百合な気配が漂って見えた。
「だ、男色の上に百合かよ……どういう騎士団だあんたらは」
「誤解のなきように申しておくが、我らは姉妹銘を交わした仲であり、断じて皆が怪しむような不謹慎なものではないぞ」
姉妹銘、それは騎士団内で年長の者が年下の者を教え導くと言う関係を、兄弟姉妹に例えてちぎり結んだことから始まるのである。
「ま、マリ○て、かよ」
「………マ○見てとは?何かな?」
「いや、こっちの話…」
「ならばいい。さて、ボーゼス白状しろ。さもなくば…うりうり」
「いや、お姉さま、そこは駄目です。いや、あっ、まって、あっぁぁぁ」
行為が言葉を裏切っているとはこのことだろう。
一同、黙って見ていることにした。
こうして、背後から魂の姉に責め立てられるボーゼス嬢は、誰からの支援もないまま孤立無援の状態で敵に蹂躙されてしまうのである。
さて、ボーゼス嬢がピニャ殿下に、程良くいじられている間に彼女についての描写をしてしまおう。やはり、ボーゼス嬢は縦巻きロールの金髪がトレードマークである。とは言っても、テュカのような澄んだ蜂蜜色と違って、レモン色のような黄色分の強い金だ。
その髪を振り乱して、ピニャの責め苦に悶えている姿は、どう遠慮して表現しても「えっちぃ」としか言い様がない。
しかも、その肢体は、ゆったりとした柔らかさを感じさせる。とは言っても、ぽっちゃりタイプにならないのがさすがに鍛えている女性騎士だ。しっかりと締まるところは締まっているのだ。が、端々に女性的な丸みとふくよかさがあって、ピニャに揉みくちゃにされている胸はツンっと突き出た釣り鐘型である。
腿はムチムチ感があるし、お尻もぷっくりとしてまるみがあって、大変美味しそう。
「…………………………、と、トミタ殿は」
ピニャの責め苦に耐えかねたボーゼスは、ようやく口を割ろうとした。
周囲の女性達は耳を寄せる。
レレイはやっぱり関心が無いかのように魔法をつかって、水玉を人の頭ほどのサイズに成長させたまま、ふよふよと浮かべて遊んでいた。
「トミタ殿のことは憎からず思っております」
ニヘラッとした空気が周囲に満ちた。
これは当然の事ながら、後で富田をからかってやらねばならないだろう、ということで一同合意を見たのである。
ところが場の雰囲気を破るかのように「そんなことより…」という感じでロゥリィが湯面を叩いて日本語で話しかけた。
「わたしぃは、リサに尋ねたいわぁ。イタミとどうなってるのかぁ?」
何がどうしたと言うのか、レレイの作り上た水玉が割れた風船みたいに弾ける。
頭からお湯を浴びたレレイの緑瞳が中空を泳いだ。
「リコンしたって言ってたけど、それって自衛隊の人は偵察とかの意味で使ってない?」
テュカの翻訳にロゥリィは、ぶんぶんと首を振った。
「それだと意味が通らないわぁ。リコンっていうのは別れたって意味だと思うんだけどぉどうなのぉ。それにぃ、別れた割にはぁ、仲良しな感じだけどぉ」
「うぐっ」
「そもそもなんだってあんなのと結婚したんです?やっぱり同じ趣味だったからなんですか?」
これは栗林だ。
「いやぁ、そのぉ」
梨紗としてはそれは恥多き過去であった。いや、伊丹と夫婦だったことが恥というわけではない。そうではなく…結婚するに至った理由と、離婚に至った理由が問題であった。
「まぁ、端的に言えば、貧乏していたので養ってくれと泣きついたわけでして」
「養ってくれと…」
「いろいろとあって喰うに困っちゃって、たまたま側にいて安定収入をもらってる先輩が妙に眩しく見えたって言うかなんて言うか…」
日本語を解さないピニャやボーゼスは梨紗の説明が理解できず、通訳を求めてレレイへと近づいた。
先ほどまで無関心を装って独り遊びしていたレレイも、何故か耳を傾けている様子が見受けられる。少しばかり梨紗に近づいているようにも見えたので、声をかけて通訳を頼むと淡々と梨紗の言葉を翻訳した。
「なるほど。梨紗様は堅実なお方なのですね」
ボーゼスの評は少しばかり持ち上げすぎというものだ。が、現実的に見れば養って貰うために男性と結婚するというのも、別におかしな話とも言えないのである。貴族社会でも、生活に困窮した貴族の娘が、身分に劣るけれど財力のある家に嫁ぐというのはよくある話だからだ。こちらはお金を、先方は名誉と女を手に入れることが出来る。いわゆるどっちも利益があるという取引だ。
「それの何処が問題で?」
「『養ってください、その代わりに結婚してあげます』ってセリフがいつまでも尾を引いちゃって」
「げっ」
「もしかして、そのセリフを直で言ったとか?」
女性衆もさすがにそれはどうかと梨紗に詰め寄った。いくら本心と言っても、それを直に言って良い場合と悪い場合がある。あなたには養って貰うために結婚しますと言われて、男だって気分がよいはずないだろう。下手すりゃ愛情の欠片もない、冷えた夫婦関係に陥れかねない。
「と、言うか、それがプロポーズの言葉でした………はい」
栗林は肩を竦めた。
ロゥリィもさすがに口をあけたまま閉じられなかったし、レレイは通訳を中断してしまってピニャにつつかれ、テュカは瞼をぱちつかせた。
「そ、それでよく結婚したもんだ。あの男は」
栗林は感心したように呻いた。よっぽどの大人物か、馬鹿のどちらかであろう。
「先輩とは中学時代からのつきあいだったから、胡座かいちゃったところもあって…その後は、まったく話題にもならなかったし、結構仲の良い夫婦をやってたと思ってたんだけど……銀座事件の二重橋の戦いって、結構危なかったんでしょ?無事に帰ってきたのでホッとした時に気が緩んじゃって、なんでわざわざ危ないとこに行くのよって詰っちゃったら、『何かあっても保険金出るから、心配するな。生活に困ることはないよ』とか言われて、ガツーンと来ちゃって。この男、あたしが好きなのわかってないって気づいちゃったのよ…だから仕切なおさないとって、思って…」
「それで離婚を」
「なるほどぉ、でもリコンしちゃったんなら、もぅ他人よねぇ」
ロゥリィはそう呟いたりするのである。
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CMです。
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CM--3-- 30秒
少年、ロイド・フロイトの夢は兵士になることだった。
煌びやかな鎧で身を固め戦友達と戦列を組み、国や故郷のために勇猛果敢に戦う。
そんな英雄物語を読むたびに彼の胸は熱く躍り、十五才の秋に商店を営む両親に別れを告げると故郷を飛び出した。
あこがれの軍隊に入隊することは、さして難しくなかった。
彼の国レムスは、いつもどこかで戦争をしていたから、常に兵士の募集が行われていたのだ。
こうして彼は夢を適えた。適えたはずだった。
貧弱な体格ながら一生懸命剣や槍、弓の稽古に励んで、それなりであったとしても「まぁ努力は認める。邪魔にならないように隅っこにいなさい」と言われる程度には受け容れられて、十六才の夏に初めての実戦を体験することとなったのである。
だが彼の初陣は、後にアンティウムの大敗北と呼ばれるものとなる。
多くの戦友を失いつつも命からがらなんとか生き延びることが出来たが、小隊軍曹からは軍を去るように勧められてしまう。
「なんで僕が、辞めなければならないのですか?」
多くの僚友を失った今、軍の再建は残された者の使命。これまで以上に頑張らなくてはならないはずである。彼にはその自覚も覚悟もあった。
だが小隊軍曹は、無情にも告げた。
「あえて言おう、お前は軍隊に向いていない」
このまま軍に残っていれば、お前程度でも小隊の指揮官になれてしまう。そうなったら、お前の部下になる奴が苦労する、とすら言われてしまったのだ。
居場所を失った彼が、次に目指したのは影の世界、国の密偵組織だった。
軍隊にいて実戦経験もあるという経歴が幸いして、採用されるのは容易かった。そして国の密偵や暗殺者としての訓練を受けることになったのである。
そしてやはり一生懸命訓練に励み、一年半ほど頑張って、どうにかやっていけるかもと思った頃合いに上司から呼び出されこう告げられた。
「君はこの仕事に致命的に向いてない」
本来なら、こうした影の世界に触れた者は、陽の当たる世界に出ることは許されないはずである。抜けようとすれば罰され、逃げ出そうものならどこに逃げようとも、櫨櫂の及ぶ限り終生追われ続けることになるはずであった。
彼はそのように言い聞かされていたし、彼自身も一生をこの仕事に捧げる覚悟を抱いていた。ところが何故か皆からは祝福され、いつも恐ろしそうな表情しかしていなかったはずの上司は、気味が悪くなるような満面の笑みでこう言ったのだ。
「私が思うに、君は戦いよりも、人を助ける仕事が向いているのではないだろうか?例えば聖職者とか、医師とか……」
そして驚いたことに「これは少ないが……」と餞別すら差し出したのである。
こうして彼は、陽の当たる世界へと追い出されることとなった。
だからロイド・フロイトは、医師を目指すことにしたのである。
医療がまだ未発達の世界で、奮闘する若き医師のメディカルファンタジー。
『偏歴医(へんれきい)ロイド・フロイトの診療記録』
ただいま連載中
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CM終わり。
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温泉旅館での娯楽設備と言うと、卓球だったり、地下とかに置かれた20年くらい昔のゲームだったり、大規模な高級旅館とかになると、なんでか知らないが「カラオケルーム」とか、「ディスコ」(←客が居るのを見たことがない。それとも季節によっては利用する人がいるんだろうか?)なんてものまであったりする。
でも、山海楼はそこまで大規模な商業的施設ではないから、温泉に漬かったらノンビリしてくださいという感じで、その手の施設は設けていなかった。
だからと言うわけでもないのだろうが、その代わりとして料理に力を入れるという方針らしい。
だけど…こう言っちゃ何だけど、それもありがちな感じだった。
だって、どれほど板前さんが腕を振るっても、結局の所メニューには、お刺身をつけることになるし、冬場だと固形燃料であっためる小さな鍋料理、魚の焼いたもの、茶碗蒸し、土地で取れたものと称して山菜……。ちょっと奢るなら海老とか蟹ってことになる。それが『定番』とされているからだ。
この定番から外れると、変な話だけど評価はぐっと下がってしまう。「ええっ!美味いジャン」と思っても駄目で、お刺身がつかないと貧相な感じと言われてしまうし、卓上で温めたり焼いたりして食べる鍋、あるいは網焼きの類がないと、高級感に欠けるとされてしまう。どっちかという食べる側の食に対する感性の貧困さが原因だと思うのだが、世の中そういうことになっている。
だから、どこの温泉旅館も冒険しない。ということで、どこへ行っても似たような彩りの料理が出てくることになっているのだ。温泉旅館のホームページとか、旅行のカタログを取り寄せてみれば、みなさんもこの意見には同意してくれると思う。
このあたりの事情は、伊丹も大人として弁えているから「お座敷の支度が整いました」と仲居さんに言われても、過度の期待を寄せるようなことはなかった。
ま、不味くなければいいや、という感じである。富田と栗林は、腹がふくれて酒が呑めればいいやって感じだった。梨紗は、ここしばらくの間続いた粗食のせいで、どんな料理が来ても豪華に感じてしまうと言っている。
問題は、その後ろにぞろぞろと続く特地3人娘+2淑女が、料理に非常に期待感を抱いていることであった。特に3人娘は、古田からいかに日本料理が素晴らしいかを吹き込まれていたから、本場でどれほどのものが食せるかと、わいわい言いあっているのだ。
「そんなに、フルタと申す者の料理は凄いのか?」
ピニャの問いに、テュカは大いに頷く。ロゥリィも大絶賛だ。
「ならば是非味わってみたいものだ。そんなに素晴らしい腕前の料理人が、兵士をやってるとは日本という国は、どういう国なのか?」
「店を開く資金を貯めるために自衛隊に入ったって言ってましたよ」と説明するのは富田である。
親が店を持っているという場合を除いて、料理人が独立して店を持つには、大きく分けて三つの道がある。一つは、自己資金を貯めて開店するというもの。コツコツと働いて資金を貯めて小さくても自分の城を持つ。こういうタイプの人間は、足を運んでくれるお客に満足してもらえればいい、という感じで堅実に仕事をしていくし、腕前だけが勝負という感じになる。
これに対して自己の腕前を、金持ちにアピールして出資させるという方法で店を構える者がいる。この場合は、お金を持っている人に、自分に出資してくれたら儲けさせますよと言う意味でも、料理の腕前とは別に、自分を売り込んでいく才能も必要となるのだ。
出資者を儲けさせるためには収益を高めなくてはならないし、その為には単価の高い高級料理をつくらなくてはならない。そうなると、金払いの良い上客に来て貰いたくて、それにはマスコミに宣伝して貰って、よい材料を仕入れるためには……ということで積極的に他人と関わっていく才能を併せ持つ必要があるのだ。
最後の一つが、師匠の店から「のれん分け」 してもらうというやり方となる。これは師匠がもっていた人脈とか、仕入れ先とか、店の信用とか、知名度を分けて貰う形をとるので店の経営がしやすいという利点がある。
古田陸士長は、この最後のコースに乗っていた。が、師匠と喧嘩してしまい、店を飛び出してしまったので、仕方なく自分の資金で店を開くことにして金を貯めるために自衛隊に入ったというわけである。ちなみに師匠は料理界のドンと言われているような人らしく、別の店で働くことはとても難しいと言う。かと言ってその辺の街の食堂で働くのはプライドが許さないと言う事情らしい。
「あんまし、期待しない方がいいよ」
旅館の仲居さんや板前さんには失礼とは思いつつも、富田はそう告げた。
「食べる人の顔を見て、その人のために、と古田が材料から吟味して腕を振るった飯と、毎日毎日やって来る顔も知らない客に出す、決まり切ったメニューを作らされる板前さんの料理とでは、比較すること事態、間違いだからね」
板前さんの腕の良し悪しではなく、それはもう大量生産の量産品と、一点物の違いとでも言うべき問題なのだと説明する。もちろん旅館の板前さんは「そんなことはない」と言うだろう。だが、腕前が同程度であれば、大量の作業の中でつくられる宴会料理の方が、質的に劣ると言うことは誰にでも理解できる話だ。
こう言われてしまえば、テュカもロゥリィも先ほどのような高テンションを下げざるを得ない。やや、期待値を下げて、晩餐の席に着こうとした。
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伊丹は見た瞬間、「へっ?」と首を傾げた。
そこには西洋料理の数々が並んでいたからだ。
思わず、仲居さんに「こ、これですか?」と尋ねる。
「はい。申し訳ないんですが、板前さん盲腸炎になってしまいまして、板前さんの息子さんに来てもらったんですが、それがフレンチレストランのシェフでして。お客様には、今晩は、こちらをご賞味下さい」
旅館の浴衣を着て、畳の部屋で、お膳に並ぶのがフレンチ?
なんとも予想の斜め上を行く事態である。温泉旅館の定番からは大きく外れたために、意表をつかれてしまった。
ちなみにメニューは、以下の通りである。
前菜は、人参ムースとコンソメジュレ うに添え
メインデッシュは、和牛の赤ワイン煮込み ジャガ芋のエカゼと野菜添え
デザートに、柚子風味のブランマンジェ 黒胡椒風味のクレームグラッセ添え
ワインは、シャルル・プジョワーズ(赤)であった。
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「あの肉が、凄い。非常に軟らかかったぞ」
食後のデザートをつつきながらピニャは反芻した。
分厚い肉を葡萄酒で煮込んで、プリプリとした食感を残したまま葡萄酒の味がしみこんでいてしかも、口の中で溶けるようにほぐれていく感覚はある種の陶酔感があった。
「前菜もよかったですわ」
ボーゼスも賛同するが、それは決してお追従などではなかった。
二人とも特地の王侯・貴族階級属する身だ。庶民では味わえないような贅沢な料理を日常として食べている。が、こちらと比較するとやはり料理の技術や調味料といった食材には格差があることを知ったのである。
こんな時、人間の対応は大きく二つに分かれる。
どこぞの卑屈な人達みたいに「自分の物の方が素晴らしい」と言って欠点にもならないような粗を探して貶したり、それが言えないとなると「自分の方にこれの起源がある」と声高に主張したりする卑小な対応と、優れたものを優れているとして、ただ素直に賞賛し讃えると言うものだ。
二人とも、やはり高貴な育ちをしているためか、気高い精神性をもっていた。仲居さんを通じて料理長を呼んでもらい、その見事な仕事を褒め称えようとしたのである。
一方、シェフの方だが、父親の代役として料理をすることは引き受けたが、あくまでも一時しのぎと考えていた。明日からは別の日本料理の板前に来て貰うようにして、自分はそれまでのつなぎと位置づけていた。あくまでも父親の職場の窮状を救うための臨時だ。大体日本料理が定番の温泉旅館で、日本料理の食器や漆器にフレンチとはちょっと合わなさ過ぎだろう。お客だってびっくりした筈だ。ただし最高の仕事をしたから味で文句を言う客は居ない。そう考えていたのである。
だから、お座敷のお客様に「会いたい」と呼ばれて何事かと思った。
日頃働いているレストランなら、食通ぶった成金野郎が挨拶をしたいと尊大な態度で呼びつけて来るのはよくあることだ。一応商売だから、機嫌を損ねないように対応するのだが、胸中では「味もわからん癖して」と舌を出している。
が、今夜に関しては場所が場所だけに、その手の苦情はありかもしれないと思った。
そもそもお座敷だと、どう挨拶したものかと思ってしまう。やはり正座して頭を下げるべきなんだろうか…と思いつつ、挨拶の声をかけて襖を開いた
すると目の前にいたのは、燃えるよう赤毛の美女と、豪奢な金髪美女の持ち主だった。
浴衣を着ているのはここが温泉旅館だから不思議ではないが、物腰というか落ち着きというか、有無を言わせない上から目線なのにそれを納得させられてしまうある種の威厳を備えていて、その傍らにはえらく綺麗な美少女達がいて、なんだかパッとしない日本人と、えらく巨乳の日本人女性と精悍な男がいたりする。
まるでどっかの王様の治める国からお忍びで日本に来ている王女様とそのお付きの侍女達。それと木っ端役人に男女のガードマンという、実際には間違っているが、概ね間違っていない印象をシェフは抱いた。
赤毛の美女が喋っている。金髪の美人が繰り返すように語る。
それは何処の国のものとも判らない言語だったが、賞賛されているのはわかった。そのためにシェフは笑みを浮かべてしまった。美人で、しかもそれなりの地位にある人から誉められるのは、やはりいい気分なのである。
見た目もぱっとしない木っ端役人の通訳など耳に入らないぐらいだった。
「ここまで、喜んでいただけるなら、明朝も腕を振るいましょう」
こうして初志に反して、シェフは明日の朝食に腕を振る決心をしたのである。が、残念ながらその朝食を彼女たちが食べることはなかった。彼女たちは、夜も明けないうちに旅館を出発してしまったからである。
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温泉街のハズレにあるコンビニで、栗林と梨紗は、買い物籠をビール缶や各種缶チューハイ、缶カクテル等の酒類で満たしていた。
食事が終わって静かにくつろいで、その後ただ眠るだけなんて、詰まらない。やっぱり酒盛りだろうと言うことで、と買い出しにやって来たのである。
「梨紗さん、こんなに買ってお金は大丈夫ですか?」
「大丈夫、アレから財布ごと奪ってきたから…」
梨紗が見せたのは伊丹の黒革の財布だった。
財布ごと奪った上に、それで山ほど買い物をするという大胆さに、栗林は唖然としてしまう。けれど、伊丹のことだから、不機嫌そうにブツブツ言いながらも容認してしまうんだろうなぁとも思えた。伊丹が、この手のことで怒ったりする場面が思い浮かばないのだ。それに梨紗も梨紗でさりげなく値段の安い酒を選んでいて、それなりの遠慮をしている様子を横目で確認できた。
「でも、梨紗さん。ホントによくぞアレと結婚しましたね」
「ん?……妙にこだわるのねぇ?もしかして結構気になってるとか?」
酒類の冷蔵庫の前で、商品を吟味しながら梨紗は口だけで尋ねた。
ワインのハーフボトルを籠の中に入れる。
「か、勘弁してくださいよ。ただ、隊長云々と言うより、結婚そのものに興味があって」
栗林は、おつまみの『あたりめ』を商品籠に入れた。柿のタネもはずすことは出来ないだろう。
「ああ、そう言うことね。栗林さんは結婚がしたいのか」
「そうですよ。明るく清く正しい家庭を築くのが夢だったりします。その為の相手を探してます」
探す必要なんてないんじゃないかなと梨紗は栗林の胸を見て思う。結婚したいと一言言えば、立候補者が群れをなして押し寄せてくるんじゃないだろうか。
すると「胸見て寄ってくるような男は、回し蹴りです」と栗林は言う。
巨乳には巨乳の悩みがあるのかも知れない。だが、それは恵まれた者の贅沢な悩みとしか梨紗には思えなかった。
「確認して置くけど、伊丹みたいな駄目?嫌いなの?」
「嫌いか好きかと問われれば、嫌いじゃないですよ。一緒に戦っている仲間ですから。けど、男としては、ちょっと遠慮したいなぁ」
「ふ~ん、じゃぁ富田君みたいなタイプは?」
「あれは近すぎて、もう友達感覚ですね。それに彼奴の好みは、ボーゼスさんみたいなタイプですし」
梨紗は、ポテチを籠に放り込むとずしりと重い買い物籠を「ふんっ」と持ち上げてレジへと向かった。
二人で手分けしてコンビニ袋を抱えて旅館へと戻る。その帰路においても話は止まない。というより、二人きりだからこそ出来る話というのもあった。
「で、あの、テュカって娘はどんな感じ?」
「まぁ、彼女も普通の女の子ですね。耳が尖ってるだけですよ」
「黒ゴスと銀髪の二人は…」
梨紗は栗林に、特地の女性について尋ねていた。その嗜好とか、気質とかである。
「ロゥリィは時々恐いですよ。あの顔でバンバン人に斬りかかってました。ある意味ヤンでるんじゃないかと。レレイは教室に一人は居るお勉強が得意で引っ込み思案なタイプですね」
自分だってロゥリィの隣に立って、盗賊相手に銃剣突撃かました身である。それを棚に上げて、言いたい放題の栗林であった。栗林の人物評はある意味一面的に過ぎるきらいがあるが、逆にそれだからこそ特地3人娘に気兼ねなくざっくばらんなつきあいが出来るとも言える。対人関係に置いて繊細なタイプはそれはそれでいいが、雑なタイプにも良いところがある。それかこう言うところかも知れない。
何しろ相手は…
「何考えてるか判らない魔法少女に、齢900才を越えるロリ婆さんと、金髪エルフかぁ」
…なのだから。繊細なだけだったら、近づくことも出来ないかも知れない。
「特地には、天然物のウサ耳もいましたよ。猫耳もいたし、髪がウニョウニョ動く見た目幼女っぽいのとかもいたかなぁ」
「うわっ……もしかしてメデューサ?それともシャンブロウ?」
梨紗は羨ましさのあまり頭を抱えた。
2次元の世界にしかいないと思っていたが、それが現実にいるとなればどうしたって気になる。是非見に行きたい、行ってみたい。
もし、犬夜○みたいなのが居たら、マジ萌える。
今からでも自衛隊に入ろうかと頭の片隅で思ってしまうほどだ。まぁ無理だろうが。
そんな会話をしながらの帰路、街のあちこちに妙に外国人の姿を見かけた。
箱根の温泉も国際的になったんですねぇと言い合っている二人であった。
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さて……
温泉旅館に来て、一度しか風呂に入らない人間は、どれだけいるだろうか?
筆者だと、到着してすぐにお湯に漬かって、朝起きてからと併せて2回は入りたいと思うところである。
特に、深酒した翌朝なんかは、サウナでじっくりと汗を絞りアルコールとホルムアルデヒドを排出して、体内の水分を清いものと交換したい。
可能なら、陽の出の前あたりに露店風呂に入り、太陽が昇るのを風呂の中から拝みたいと思ったりする。実際に実行したこともある。ただその時は、時間を間違えて日ノ出の30分以上も前に風呂に入って、湯あたりしてしまった。
伊丹の場合は、これに加えて『寝る前のもう一回』が加わる。皆がいないような頃合いに、一人で、ゆっくりしたかったのだ。
湯に浸かって国会でのバタバタや、その後の騒動を思い出す。
いや、それ以前に、特地ではボーゼスにぶん殴られたり、死にそうになるまで走らされたり、はっきり言って心身共に結構負担を感じていたのだ。
それでも保ってるのは、嫌々ながらも仕事だからと続けていた体力錬成(たいりょくれんせい)の成果かも知れない。
露天風呂に肩まで浸かってため息をひとつ。身体の力をそっと抜いていく。
すると、身体の隅々にまで血液が行き渡りどんどん癒されていく、そんな愉楽を感じた。
一般幹候として久留米で訓練で時間的に追いまくられ、精神的に張りつめた毎日が続いた時に、ほんの2~3分、何もしなくて良い時間が出来た時がある。それが非常に快感として感じられたものだった。ゆっくり出来ると言うことは、時として快楽となりうるのだ。
それを今、伊丹は追体験していた。しかも珍しく周りには誰もいないし。
栗林と梨紗は買い物。富田はピニャとボーゼスを案内して、旅館の周囲を散策している。ロゥリィ達はテレビの操作法を教えてくれと言ってきたので、懇切丁寧に教えてやった。
操作リモコンの一部を指さして「このボタンはなんだ?」と尋ねてきたので、成人番組を見るためのものだと説明したら「成人番組とは何か?」としつこく聞かれて閉口してしまった。が、「教育上、子供に見せることは不適切とされる番組だ」と説明してやったから、深意を理解して決して見ていないと思う。
そう、絶対に見てない筈だ。きっとも、多分、おそらく…。
「ま、見てもいいけどねぇ」
最年少のレレイだって15才だ。しかも特地では15才は立派に成人だと言うから、いいんじゃないかなぁと思ったりした。
「明日には戻らないといけないのかなぁ?」
出来ることならもう一泊ゆっくりしたいところだった。
休暇とは言うが、今回は全然休暇になっていないのだ。本来なら国会で参考人招致を終えて、その後から休暇だったはずなのだ。それが泊まったホテルは火事になるわ、全員引き連れて梨紗の家に避難する羽目になるわ、散々である。これは是非とも、休暇の取り直しを認めて貰わなくてはならないと思うところである。もちろん、日程は12月の29日、30日、31日である。
伊丹は、両腕をう~んと延ばすと、戻ってから檜垣三等陸佐(伊丹の上司である)と交渉する決意を高めていたのである。
一方、ロゥリィとテュカ、レレイは…。
テレビの画面を、あんぐりと口を開けて見入っていた。
いったいどんな番組が流されていたかは秘密であるが、ある種の心理的な衝撃を受けて凍り付いていたのは確かである。
「うわぁ……こんなことするんだ?」
「……………」
「……………」
かろうじて声を出すことが出来たのはロゥリィだけで、テュカは顔面を完全に紅潮させ、レレイに至っては瞼をばちくりさせて「あうあうあう」と呻いている。身じろぎ一つすることは出来なかった。
結局の所、栗林と梨紗の二人が帰って来るまでの約40分間を延々と「教育上、子供に見せることは不適切とされる番組」を見続けてしまうこととなったのである。
この後、どうなったかについてはどうぞ本編をご参照いただきたい。
ふぅ、疲れた。