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[15304] メノス・ワールド(迷宮世界)現実→*異世界*TSもの(R-15)
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2013/04/18 21:09
初めに

ネタ多目です。感想他、何かあれば突っ込み等頂ければと思います
題名の通りです。TS,現実→異世界、ローグライクな迷宮ものです。なんか天使とかそんなのも出ます。
難しい素材の組み合わせですが、上手く調理できればいいなと考えています。

とりあえず書きたいものを書いてみた。そんな感じ。

2010

1/21
ちとピョンピョン飛んで解りづらかったので色々手直ししました。
ついでにプロットも組み直してみました
2/11
少し書き忘れてた項目があったのでコマンドヘルプに若干追加
3/2
一章終了。ついでにチラ裏から移行。
3/4
二章開始

2013
4/6
非常に申し訳なく思いつつ、酒盛り追加。以後の文章を加筆修正
4/18
読み返してみると結構どぎつい表現が多々あったので全体的にR-15表記にしておきます
ついでに「暗い迷宮の中へと」に置いて地図が抜けてたのを今更気がついたので修正



[15304] 導入(プロローグ)
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/01/21 01:13




 ……めなさい。ざめなさい。えーじ。さぁ、目を覚ますのです……





 階段を降りると、そこは一面の砂景色であった。
 一瞬呆け、慌てて後ろを振り向くと、既に降りてきた階段は無くなっているわけで。

 不意にポンと、ウィンドウが空中にポップアップする。



 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ようこそ迷宮世界へ!
 多くのスリルと溢れかえる未踏のダンジョン、それに数々の特色を備えた国々は、必ずや貴方の探究心と冒険心を満たすことでしょう。

 現在 あなた の居る場所のエンカウント率は 稀 です。
 ≪警告≫ 
 あなた は職に就いていません。
 職に就いていない状況での戦闘は決して安全であるとは言えないため、早急に職に就くことをお奨めします。

 まずは近くの町や村、都市等に向かうといいでしょう。
 それでは迷宮世界をお楽しみください。
 あなた に幸あれ!

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------






 「町?……町ってどこだよ」
 と、俺は呟いた。

 空を見上げればカンカンと照らす太陽。ぐるりと周りを見渡しても、そこには砂景色が広がっているだけで。
 果てさてどうしたものかと餞別にもらった銅の剣を片手に立ち尽くすこと暫し。

 「こういうのは町に近いってものが筋であろうに」
 そう俺は独りごち。いや、もしかすると近かったりするんだろうか。見渡しても砂だらけで、地平線の彼方にもそれらしきものが見えないわけだが。

 「砂平線なんてお目にかかることは無いと思ってたんだが」
 しかしまぁ、ずっとこのまま突っ立っていても仕方あるまい。とりあえず太陽に向かって歩くことにした。
 今が午前か午後かも分からないが、とりあえず一定の方向に歩いていればいつかはどこかにたどり着くはずである。きっと、多分。




 ふぅっと、溜息。

 ……結構歩いたかな。

 そう思って自身の腕時計を見てみれば、まだ三十分ちょいぐらいしか経ってない有様で。
 もっとも、三十分以上砂漠を歩き続けるというものは、存外にこたえるものであるが。
 ズボリ、と歩くたびに足が地面へと沈む。最初はその奇妙な感触に新鮮味を覚えたものであったが、それは短時間であればこそ。
 「畜生」
 足をとられ、一瞬身体が傾く。砂漠とはこんなに歩きにくいところなのか。

 そう妙なところで感心しつつ、それでも初めてこれがファンタジーな世界で助かったと思ったのは、砂漠特有の異常な温度を体感しなかったことだ。
 カンカンと照りつける太陽は肌をじりじりと焼いているが、気温自体は暑く感じない。
 もっとも、実際の砂漠を俺は体験したことが無いわけだから、自身が想像するほど暑い場所ではないのかもしれないけれど。

 しかし太陽に向かって歩いたのは失敗だったかもしれないと思う。
 何故なら長時間眩しさを堪えるというのは中々に鬱陶しいものであって。無論、方向を確実に知ると言う意味ではこれがベストだと思うのだが。

 
 若干身体に疲れが出てきたため、少し足を止めて一息。
 とはいえこのまま留まっているわけにもいかないと俺は叱咤し足を進め……そこでふと、斜め前方にポツンと何か青いものが動いているのが見てとれた。
 念のために足を止める。その影は少しずつ動いている。

 人だろうか。ココに来て初めて出会うかもしれない人間という期待に、俺は元気を取り戻した。
 足を進める。そこで動いてるのは確かに人であるらしい。最初は青い点にしか見えなかったが、近づくにつれて次第に輪郭を帯びてくる。
 こちらの姿に気がついたのか、向こうもこちらへと進路を変えた。

 段々とその人物の衣装が見えてくる。
 その人間は全身を青い何かで覆っている。日光を妨げるためのローブか何かであろうか。
 背中には随分と大きな荷物を背負っているように見える。キャンプ用の大きなリュックを想像させた。

 やがて互いに姿を確認できるようになり、その人物は足を止めた。俺は手を振って、そちらへと近づこうとする。

 「止まれ」
 完全に姿を確認できる距離になった後、青いローブのようなものを着込んだ人物が言った。
 しわがれてはいないが威厳を感じさせる声であり、青いフードに覆われて顔は見えないものの、どこか初老の老人を思わせた。

 俺は困惑し、足を止める。

 「はてさて、これは一体どういうことであろうか。この様な場所を徒歩でうろつく物好きがわし以外にいるかと思えば」
 一旦言葉を切り、
 「随分と軽装だな。とてもここを越えようとする格好には見えぬ。しかも若い女子ときたものだ」

 むむ。確かに怪しくはある。しかし、俺だってこの様な事態は想定外なわけなのだし。しかし女子。女子か…と若干うなだれつつも、
 「うーん、言われてみればそうなのかもしれませんが。私だって別に好き好んでこんな場所に居るわけでは無くてですね」
 そう言って、俺はその人物に向かって再び歩き出し、
 
 「止まれ!」
 男が声を荒らげる。

 俺は足を止めた。
 見れば、何時の間に取り出したのか、その人物は指揮棒(タクト)のような物をこちらに向けている。
 待て。……いや、おそらくアレはそのようなものではなく、

 「…ふむ、そうだな。一応わしなりにお主の正体を考えてみたわけだが」身じろぎせずに男が言った。

 「正体?」
 正体ときたか。異邦人であることを認めるのは吝かではないのだけれど。

 「そう、正体だ」 
 と、その男は頷きつつ言った。
 「まず一つ目はわしと同じ魔術師であること。それならばお主の格好にも一応の説明はつく」

 魔術師。魔術師か。成程、ファンタジーである。ならば先ほど俺が思ったとおり、あの男が構えているのは杖なわけで。
 なりはしょぼいが必殺の武器だぜ。ということなのだろうか。

 「もっとも、お主を見る限り、同業者が自ずと纏う力のベールを感じぬ。
 では、この地に住まう未知の部族であろうか? それならばお主の珍妙な格好にも一応説明はつけられよう」

 俺からしてみれば、アンタの格好の方が珍妙に見えるわけなのだけれど。

 「もっとも、そのような種族が居ると聞いたこともなし、ましてや未開とは言えぬこの場所だ。未だ発見されておらぬというのは信じ難いことであるな」
 そこでははっとその男が笑う。にしても随分と回りくどい芝居がかった言い回しだなと俺は思った。
 「答えは自ずと一つ。―――お前の正体は砂漠にうろつく存在を捕食する魔物であろう」
 と、その男が断言する。もっともそれは全くの見当外れなわけで。

 「いやいや」
 俺は苦笑した。
 「折角の名推理に水を差すつもりは無いのですが、全くの勘違いです。大体俺も好き好んでこんな場所にいるわけでは無いのでして」


 果てさて、どう説明したものか。
 一瞬こんな状況に陥った原因の少女の微笑が頭を巡ったわけなのだが、それを馬鹿正直に話したところで理解はしてもらえまい。
 ていうか俺なら間違いなく信じない。
 何時の間にやら変な場所に居て、それから妙な説明を受けた挙句、砂漠に放っぽり出されたなど誰が信じると言うのだ。
 ましてやその原因が。。。。。。いや待て。

 そこでふと俺は思い直した。
 天使は言っていたではないか。即ち、この世界は多くのプレイヤーを呼び込む世界であると。

 だとすれば、この妙な出来事も良くあり得る話なのかもしれない。
 大体、そう大体だ。
 この世界はファンタジーなのだから。


 では、と意を決し、俺は警戒し、こちらへタクト(おそらく杖のようなものか)を向けている男を見つめた。
 もっとも、頑固そうであるからどこまで信用してくれるかはわからないが。
 そう思いつつも口を開こうとして、……不意に男の後ろに何かが見えた。
 目を凝らす。妙なモノがそこに居た。彼の後ろにいつの間にか居る黄土色の奇妙な生き物。

 「おい! アンタ、後ろ!」
 咄嗟にその姿を見て叫んだ。蠍だ。子供ぐらいはある非常に大きな蠍。

 「何を言うかと思えば、そんなありふれた誤魔化しに引っかかるわしでは…うおっ!」
 音も無くいつの間にか近くに寄ってきたその非常に大きな蠍は、杖を構える男の背中に向かって、ヒュンと尾っぽを振るった。

 咄嗟のことにその男は背中を押さえながら地面を転がり、
 瞬間、巨大な火の玉がその男の手元から生まれ、そのままその蠍の全身を炎が包んだ。
 パチパチと燃え盛る火炎に包まれ、巨大な蠍は身をよじるような仕草をした後、崩れるように身を横たわらせた。

 「馬鹿な。何故こんなところに。しかもこいつは……」
 背中を抑えながら男は呟き、
 「―――しまっ……」
 抑えてた手を胸元に入れ、崩れるようにうつぶせに倒れる。


 静寂。


 「えっと……」
 果てさてどうしたものか。


 更に数刻。


 いやまぁ、このままここにじっとしていても仕方あるめぇ。大体、何時あんな脅威が襲ってくるとも限らないわけだし。
 エンカウント率は稀とか書いてあったが、こう遭遇した以上安全であるとは言い難い。
 稀によくあるという言葉もあることだしなと苦笑。

 一息。意を決し男へと近づく。
 恐る恐るその青いローブを纏った男を鞘にいれた剣でつつく。

 身動きすらない。

 むむむ、と呟きつつ、その男へと近づき、仰向けにひっくり返す。
 フードをめくる。

 おや。意外にも若い。しかし、その瞳孔を開きながら倒れてる顔はとても正視に耐えずらかったので、俺は再びフードをかぶせてやり、
 それから首元へ人差し指をあてる。

 うん、まぁ。それは想像していた通りではあったのだけど。
 「マジか」





 男は死んでいた。
 ああ、と俺は空を仰いだ。








[15304] チュートリアルその1
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/01/21 01:08




 目覚めなさい。えーじ。私の声が聞こえますか? さぁ、目を覚ますのです―――


 どことなく幼いような、そんな甘い響きの声に促され、俺は目を覚ます。
 ぼんやりと見えたものは真っ白い天井。はて、俺の部屋はこんな感じだったろうか。未だ夢見心地で働かない頭を動かしつつ、

 「よくぞお目覚めになられました。えーじよ。私の声が聞こえていますね?」

 ぼんやりと声の方向を見、
 「……は?」
 間抜けな声をあげつつ俺は固まった。

 そこにいるのは真っ白い翼を生やした少女の姿。頭上には輝く輪っかのようなものが浮かんでいて、

 俺の驚いた顔にしたり顔で頷き、その天使、そう天使だ。その天使は俺を見て言った。
 「初めまして。私はルーエル、貴方のBET者です。あるいは雇い主、もっと違った言い方をするなら契約者でもなんでもオーケーですが」
 そしてその少女はにやりと笑った。
 「貴方は一度死にました。よって、その命をどう使おうと私の自由です」

 ……はい?
 思考が一瞬止まる。
 どこかで聞いたような台詞。それは一瞬にしてとある漫画を想起させ、どくどくと心臓が高鳴り、


 「……というのは半分冗談ですが」
 と、わざとらしく舌を出した。その仕草はその姿に合っていて、酷く可愛らしい……ではなくて、

 「え、半分?」
 固まった思考のまま、俺は呟く。

 「ええ。……一応聞いておきますと、貴方はここで目覚める前の出来事を覚えてます?」

 その少女の言葉に従って、俺は頭を巡らせた。
 えっと、確か……あの時は数うちゃ当たる戦法で立ち寄った家の一つで何とか契約を取ることができて、
 一心地と立ち寄ったコーヒーショップでアイスカフェオレを飲んで、それからその店を出て、えっと、それから……

 「飛び降り自殺です」

 「いや待て」
 俺は突っ込んだ。如何して俺が自殺せねばならんのだ。

 「何をですか。ああ。違います違います。貴方ではなく……」
 コホン、とその天使は咳払いし、
 「貴方の上に自殺者が降って来まして」

 「……え?」

 「あ、矢張りその辺のことは覚えてないです? てまぁ、そもそも即死ですし、思い出したくもないよね」
 その下敷きになって頭がコンクリートに思いっきり叩きつけられてグシャリだなんて。と、微笑みながら天使。
 何この天使、怖い。

 つまるとこ、俺の上に自殺者が降ってきて、俺はそれの下敷きになってぺしゃんこ。そういうことなのらしい。

 
 「いやいやいや」 いやいや妖夢。

 「なんですか」
 首を傾げながら天使。

 「いやいや、その、な……いやこれ夢?」
 夢……だよな。夢だったらいいなぁ。

 「現実を見ましょう」
 微笑みながらこちらを見つめる天使。やっぱりこの天使怖い。

 「俺は幻覚を見ている気分でいっぱいなんだが」

 「天使とかいるし?」

 「天使とかいるし」

 うんうん、と二人して頷く。

 「ところがどっこい、これが現実!……これが現実!」

 「あんた、本当に天使か」 
 随分とフランクな天使だ。

 「正確には私天使じゃないけど。言ったじゃない。BET者って」

 「ベットで眠れば現実に戻れるだろうか」

 「夢の中で更に夢を見ることって結構ありますよね」

 「まぁいい」 本当はあんま良くないけれども。 「で、ここは死後の世界ってことか?」

 「正確には」 指をちっちっちと動かしながら天使。 「死ぬ前に私が呼び寄せました」

 「死ぬ間際の夢?」 と俺は尋ねた。

 「それも決して間違っては居ないですけど、ファンタジー的に言うなら新たな世界へようこそという奴かしら」

 「わーお」 異世界へようこそですか。

 「ゲーム的に言うなら勇者えーじよ良くぞお目覚めになられましたでもいいんですが」

 「いやいやいや」

 「でもでもでもですよ。本来なら問答無用で新たな世界への説明を始めるところなんだけど……一つ、手違いが」
 そこで、天使の顔がむむむっと真剣味を帯びる。

 「手違い?」
 なんだろう。嫌な予感がしてきた。

 「手違いは言い過ぎました。これは仕方の無いことでした。いや、そもそもですね」
 むむーと腕を組みながら天使。
 「こう、プレイヤーを呼び込んでBETするためには本来死すべき存在でないものを見つける必要があるのです。
 で、運良くというか、運悪くというか、とにかく本来死ぬはずの無い二つの存在を見つけました。
 一つは貴方、そしてもう一つは、自殺した女の人です」

 「ちなみに、本来ならその自殺者を引っ張ってくる予定だったとか?」
 手違いと言うのはそういうことなのだろうか。

 「いえいえ、自殺者にはこのルールは適用されないのです。そもそも本来の輪から外れちゃってますからね。
 別にルールは遵守しなければいけないということもあるのですが、対面的に。後自殺するような人は何かと……いやまぁそれはいいでしょう。
 それで完全に死ぬ前に貴方を呼び寄せたかったのだけど」

 「だけど?」

 「そのですね。貴方は即死だったわけなのですよ」
 コホン、と天使。
 「百聞は一見にしかずという名台詞もあることですし、見てもらった方が早いでしょう」

 パチンと指を鳴らす天使。と、同時に鏡の板が俺の眼前に現れ、
 「ちょ……」
 一瞬呆然とし、それから確認するように自分の胸に手をやる。もにゅもにゅと、柔らかい感触。なんとなく心地良い感触である。

 いやいやいや。
 そこではっと気がつき、股に手をやる。 真逆! ああ、そんな真逆!


 俺は愕然とした。無いのだ!

 無い。
 ないない。ちんこがない。俺のちんこが……俺のペニスがぁ! …嗚呼……俺のちんちんが……。


 
 「えっと、まぁ、そういうわけでして。でもでもでもですね、そう悲観することでもないですよ。
 この世界には女性専用装備と言うものがありまして。男性に比べてそれはそれは様々な恩恵が……」



 「うるせぇ、黙れ」
 あまりのことに怒気を込めて俺は呟いた。




 ……ああ。こんな馬鹿な。夢なら覚めてくれ。  







 数刻。


 
 「えと…その……落ち着きましたか?」 感情を伺うかのような天使の声。

 「……ああ、まぁな」 気分は最悪なまでに沈んではいるけれど。

 「良かったです。まぁ、生殖器の一つや二つ変わったところで特に大したことでも」

 「大したことあるに決まってるだろうが! この馬鹿天使っ!」
 あまりのことに怒鳴ってしまった。

 「ひっ……ご、ごめんなさいです」
 慌てたように謝る天使。
 「えっと、その…すいません。配慮が足りませんでした」

 「うるせぇ。お前に俺の哀しみの何が分かるってんだ。クソ」
 畜生。姿形が美少女でなかったらもっと悪態もつけるってのに。


 「えっと……その…続きを話しても?」
 恐る恐る天使。

 「ああ……」
 俺は溜息を吐きながら頷いた。

 「えとですね。見て分かるとおり、その身体は貴方のものではなく、自殺したその人の身体を用いています」
 改めて鏡を見つめる。鏡には見も知らぬ若い女性が映っている。美人ではないがブスと言うわけでもない。
 それなりに可愛い顔ではある。俺の美的感覚では及第点だ。
 「でもでも、これも正式なルールからは多少逸脱しているのですよ。ですから、貴方には選択肢があるわけなのです」

 「選択肢?」

 「そうです。即ち――このままこの世界を冒険するか。それとも元の場所に帰るかです」

 「冒険?」 冒険か。それは若干心躍る言葉だったけれども。「いやまて。その戻る場合、俺は元の身体に……」

 「即死でした」
 無慈悲に天使は言った。
 「でもでも、その犠牲のおかげで、その身体は無事です」

 「男には戻れない?」
 いや、つまりその場合俺はこの身体の主として戻るわけで、

 「ファンタジーじゃないんですから」
 苦笑しながら天使。

 「既にこの状況がファンタジーだろうが!」
 俺はおもわず突っ込んだ。

 そうでした、と天使。
 「とは言うものの、それはここがファンタジーな部分だから多少の無茶も効くわけでして」

 戻ってもファンタジーだろうが。……いや、待て。
 「ん?てことは、ここに残れば男に?」
 戻れるのだろうか。

 「然り」
 にやりと天使。というかこいつもしかすると悪魔なんじゃないだろうか。
 「この世界はファンタジーです。ですからもし機会があればきっと貴方は男になることもできるかもでしょう」

 「待て」

 「なんですか?」
 首を傾げながら天使。

 「今、きっと、と言ったか?」 確かめるように俺は尋ねた。

 かも、とも言いましたね、と天使。
 「確かに、この世界にはその為のものが存在します。しかし、それを見つけられるかは貴方次第と言ったところですかな?」

 「ですかな? じゃねぇよ。 大体、今。そう今だ。今性別変えてくれたっていいじゃないか。元は男なんだ」
 俺は一縷の望みをかけて言った。結構必死だ。

 「申し訳ないですが、それはルール違反に抵触するので」

 「いやいやいや。あのー既に逸脱してるって言ってましたけれど?」

 「うー、それはそうなんですが。でもでも元々あるものをそのまま使うのと、元々あったものを大幅に変革するのは大違いと言いますか……」
 困ったように天使。

 なんとなく小さな女の子を虐めているような気がして、大人気ない自分を感じること暫し。
 てかこいつ多分見た目だけで実際はババァだようなぁとかそんなことを考えつつも、姿と言うのは重要なわけで。

 「ああ、わかったわかった。見つければいいんだろ。見つければ」
 もういいや。ああ、なんとかなるだろ。糞。

 「はい。そうしてくれると私は助かりますわ」
 悪びれなく天使。畜生。でも可愛いな。糞。
 「……ではとりあえず、この世界のことを説明しましょうか」

 「頼む」
 どうでもいーような気持ちで、俺は促す。

 頷き、天使は人差し指を立てて言った。
 「それではまずこの世界のことを説明しましょう」
  
 


 始めに迷宮があった。迷宮とは試練の場である。
 迷宮には様々な人ならざる怪物――モンスターが住み着き、同時に多くの財宝が埋もれている。

 財宝とは金銭だけではない。力自体も得られるものとして迷宮に蓄えられていた。
 迷宮は巨大な修練場であり、財宝のありどころなのである。

 人々は自然に迷宮へと集まっていった。集落ができ、やがて国が生まれた。
 迷宮無き国も存在したが、迷宮を抱える国の戦士達によってそのほとんどは滅ぼされた。
 更なる利権を求めようと、迷宮を抱える国同士で大きな戦争が起こったこともあった。

 今ではそれは緩やかになり、各国に平和協定のようなものが結ばれているが、迷宮に挑む戦士達の心は変わらない。
 数々のマジックアイテムを手に入れようと思うもの、富を得ようとするもの、名声を得ようとするもの、力を得ようとするもの、闘いを切望するもの……、望みは色々あれど、人々は数々の魅力に惹きつけられ、日夜様々な迷宮へと挑むのである。
 勿論、その過程で物言わぬ躯となり、生涯を終えるものも数多く存在するのだが。

 幾つかの迷宮は踏破と共に消え、そして新たな迷宮は際限なく、世界に生まれ出づる。
 世界は迷宮で出来ている。
 天使が話したこの世界とはそのようなものだった。









 迷宮世界









 ギフト。一般に贈り物と呼ばれるそれは、迷宮に置いて得られることの出来る技能のことである。
 それは試練を乗り越えた者達に与えられる神々からの恩恵とも呼ばれているが、定かではない。

 「ギフトには三種類あるのですよ」
 と、天使が言った。
 「ある種の条件によって得ることの出来るギフト。条件が分かるだけに容易く、万人が得やすいのです。
 次は財宝と共に入手できるギフト。これを見つけるのは運に左右されます。確率はそこらの宝物以上! 非常にレアなのです。
 世界一般にはユニークスキルと呼ばれたりもしますね。効果、能力も様々で、非常に強力なのもあれば宴会芸に役立つネタスキル等、様々です」

 へそでお茶を沸かせる技能もあるですよーと天使。そんなモノを貰ったら喜びより憤死しそうだなぁとも思いつつ。
 
 「それで三つ目」
 天使が人差し指を立てた。
 「それは私達案内者やこの世界で信仰されてる神々が与えることの出来る能力のことです。
 正直こちらが本来のギフトに一番近いと思うのですけど、そこらへんどうかしら? えーじ」

 「知らんよ」
 と、俺は溜息と共に答えた。何しろ、そのときの俺は未だにショックを引きずっていたわけであって。

 「いけずですー」
 と、口を尖らせながら天使。
 「うーまぁ、そういうわけで、私は私の一部を代償に、能力を付与するわけですの。
 もし貴方がこの迷宮世界で活躍していただければ、私の力も増しますです。逆に貴方が簡単におっ死んじゃうと、私の力は回収されないまま消えちゃいます。
 この辺がBET者だとか雇い主だとか契約者だとか自認する要因なのですけど如何?」

 「あ? つまり……」
 なんだかそれを聞く限り、まるで……
 「……なんか俺がお前のゲームの駒のように聞こえるわけなんだが」

 そう言うと、にっこり天使が微笑んで、
 「言い得て妙なのです! 私は貴方という駒へ助言を与え導いていくプレイヤーな訳ですね! ん……? おお……私って天使っぽい?」

 「そうですか……」
 なんだろう。このやるせ無さは。
 「まぁ、あれだ。その駒を作り出すためには代償が必要で、それを回収するためにはある程度の戦果が必要ってそういうことか?」

 「すごいですえーじ! 予想以上に頭がいいです!」
 キラキラした瞳で俺を見つめる天使。なんだろう。この褒められてるのに馬鹿にされた気分は。
 「つまり…私は貴方に賭けているのですよー。ですから簡単に死んでしまっては困るのです。そのためのギフトです」

 「はぁ……」
 そのための…ときたか。

 「そういうわけで、私は貴方の技能を正確に知る必要があるのですよ」
 そういうわけで、と天使がふわっと浮かび上がり、俺の唇に、天使が唇を合わせた。




 ……は?



 「っ……」
 突然のことにカチンと固まってしまう。
 その固まった思考の最中にも天使の舌が口内を探るように動き回り、何か電気のようなものがびりっと。


 「ふむ……」
 そんな声と共に天使の唇が離れる。

 一方、俺はといえば、
 「え……あ……」
 と今何が起こったかを考えるのに精一杯なわけで。顔が熱いような気がしなくも。

 「うん?……あらあらまぁまぁ。恥ずかしがることは無いのですよ。初心なネンネじゃあるまいし。
 まったくこんな姿に欲情するのは趣味がいいとは言えません」

 「いやいや……いきなりキスされたら……っと、待った。この身体処女じゃないのか?」
 誤魔化すために、ちと聞き捨てならない言葉へと突っ込む。
 
 「非処女ですよ。何しろ、その本来の持ち主は脅迫されて……」

 「待て待て待てっ! STOPだ! STOP!」
 知りたくないことを知ってしまった感が否めない。

 「自身のことを知っておくことは重要だと思うのですけど……」
 と、首を傾げながら天使。てかこいつずっと思ってたけど天使じゃねぇ。
 「ふむ……童貞と非処女。合わせて半人前と言ったところか……」

 「うるせぇよ……」
 上手いこと言ったつもりになってんじゃねぇぞ……

 「そんな貴方が如何して男に戻りたいのか甚だ疑問なのですけれど……まぁ、いいでしょう」

 「うるせぇよ!」
 恥ずかしくなって怒鳴った。

 「おお怖い怖い」
 うぜぇ。
 「まぁ、それはいいでしょう。それで、貴方の技能なんですけど……うーん。どうにもルーエルちゃんとはフィーリングが合わないというか」

 「は?」

 「いやルーエルちゃんの能力は戦闘より知識方面に突出しているわけでして。
 それもこれもアリスちゃんの恩恵の賜物でもあるのですけど……うん、それはさておきましょう。考えてみればえーじが新たな私を目覚めさせてくれるかもしれませんし」

 厨二っぽい言い方だな等と思いつつ、
 「つまり何だ?」

 「専門的知識が無いってことです。こういうのは迷宮世界に置いて武器になるのですよ。
 他にもこの世界にコンバータされた時に魔力が付与されることもあるのですが、残念ながら貴方にその能力は皆無なわけでして」
 
 「エクセルとワードの資格ぐらいは持ってるが」
 後、漢字検定。

 「プログラムぐらい組めるようになってから言ってください」

 手厳しいなと苦笑。

 「でも貴方が剣道と居合いの経験者だってことは唯一の素敵要素ですね。
 こういう戦闘技能は迷宮世界ではプラスになりますから」

 「そうなのか? 言っておくが、やってたのは中学校から高校までだぞ?」
 しかも高校時代はどちらかといえば、打ち合ったりする剣道ではなく、実践の無い型だけの居合いにのめりこんでいたわけなのだし。

 「知っています。でもでも迷宮世界では、そういう『経験』こそが何よりも重要なのですよ」

 「ということはあれか。型だけしかやってなかった居合いでも十分渡り合えるってことか?」
 これがファンタジー補正か。と俺は思った。

 「真逆」天使が首を振った。「貴方の実力はそのままです。でもでも、それによって貴方の職の幅が広がるのです」

 「職?」
 
 「ですです。とりあえずは職につくことが重要なのです。そうすれば貧弱一般人から屈強な戦士へと進化!」
 うんうん、と頷きながら天使。
 「とりあえず剣士職にはなれるんじゃないかしら。ただルーエルちゃんのギフトに戦闘技能はないのですよね……」

 「職……ねぇ」
 成程、ゲーム的だ。

 「勿論、職に就き始めはそれほど目に見える効果は無いですけれど、
 迷宮にはびこる怪物を倒しているうちに、いつの間にか異常な戦闘力になっているはずです。スカウターボンです」

 「スカウターボンもいいんだが」
 なんとなく実感も沸かないのだし。
 「とりあえず、ギフトというのは?」

 「あっ、そうでした」
 なにやらポン、と手と手を天使が合わせる。
 「先ほども言いましたが、私は戦闘職に必要な技能を渡せないのです。そのための力が無いと言いますか……」

 「あー……つまりあれか。あまり能力の高いBET者ではない…と」


 「ななな何をおっしゃいますか! えーじっ! ルーエルはBET者の中では結構な地位にはいるのですよ!
 いいでしょう。そこまで言うならルーエルの役立つ素敵なギフトを渡してやろうじゃありませんか!」

 「あ、はい」
 その……別に煽ったわけじゃなかったのだけれど。

 「なんですか。その態度は。……まぁ、いいでしょう。ということで」
 そう言って、天使が拳を振りかぶり、
 「てりゃ」


 ガン、と俺の顔を殴った。




 「痛えっ」
 反射的に右頬を抑える。じんじんと頬が熱を帯びる。
 「いきなりなにすんだ」

 「貴方が悪いのですよ。大体、今のはおともだちパンチです。親愛の証なのです」
 よく見れば、親指は四本の指によって包まれていた。それは本来全力で殴るはずの力は微妙に緩和されていることはわかる。わかるのだが……

 「痛いものは痛えよ!」
 俺は怒鳴った。結局のところどんな名前で取り繕うが、ただの顔面パンチに変わりはないのであって、

 「まったく……」 天使が呟いた。

 「俺の台詞だ」 と俺は言った。まだ頬が痛い。

 「とりあえずギフトは渡したので、ギフトの説明です」 そんな俺に構うまいと天使が言う。

 「あれがギフトの渡し方なのですか……」


 「貴方が悪いんです。ふーんだ」
 天使はそう言って、言葉を続けた。
 「渡したのは言語スキルです」

 「言語スキル?」

 「なのです。この世界は貴方の住んでいた世界とは異なった文化圏なのです。よって、言語も違います」
 ここまでは大丈夫ですよね?と、天使が尋ねた。 俺は頷いた。
 「ですから、貴方がこの世界でも問題ないよう、私は言語スキルを授けたわけです。勿論、これは必須といってもいいギフトです。
 大抵の契約者はこのギフトを授けることを慣例化しています。生存がダンチですからね」

 俺は頷き、先を促した。

 「ですが……」 
 と、天使が親指で自分を指した。
 「私はそこらの凡百の契約者とは違います。正真正銘ギフトです。貴方は知識ある様々な種族との会話を不便なく果たすことができるのですよ!」

 つまりこういうことか。俺は英語や日本語だけでなく、ドイツ語やフランス語、果てはラテン語やらエスペラント語やらまで習得したということなのだろうか。

 「確かに……いい能力だな」
 俺は頷いた。確かにそれは認めざるを得ない。元の世界でこんな能力があればどんなに良かったことか。

 「でしょう? ふふん。もっと私を称えなさい」

 「まぁ、でも確かに戦闘には役に立たないな」
 俺がそういうと、天使の微笑が凍りついた。

 「いいでしょう。そこまで言うなら貴方にもう一つギフトを贈ろうじゃありませんか」
 そう言って、何やら剣呑な雰囲気でふわっと浮かび上がる天使。

 俺は引きつった笑いで応じた。この能力は素晴らしいと心底思っていたし、別に揶揄しようとは思っていなかったからだ。

 「待て、話せば分かる」

 「問答無用」
 天使のおともだちパンチが、先ほどとは、逆の頬へと閃いた。







 後書き
 チュートリアルは次の話まで続きます





[15304] チュートリアルその2
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/01/26 01:21






 「しまった……。ルーエルちゃんとしたことがBETし過ぎた……」
 人の顔をぶん殴った後、何故かorzとうな垂れている天使がそこに居た。

 「……人の顔ぶん殴っておいてなんだそれは」
 と、俺は微妙な気分で言った。何かしらのスキルを貰えた事は嬉しいのだが、殴られた頬はじんじんと痛むわけで。

 「英雄クラスの人ならまだしも、こんな一般人クラスに……ルーエルちゃん不覚です………」

 「おい!」
 と、俺は怒鳴った。何やら馬鹿にされたように感じたからだった。

 「あうあう。仕方ありません。こうなってしまった以上、えーじにはしっかりと成果をあげていただかなくては」
 と、溜息と共に天使が顔を上げた。
 「とりあえず説明を続けますです……」


 俺は多少引きつった顔をしながらも、先を促した。


 「まずは自身の能力を知ることが大切でしょう」
 と、天使が言った。

 「はぁ」
 と、俺は応じる。

 「この世界には自身を鑑みるためのコマンドが存在しています。迷宮の中では生死を分けるほどの重要な要素となるかもしれません」

 成程、それは重要ごとだ。俺は思った。
 「そのコマンドというのは?」

 「コマンドは、この世界自体に存在する特殊な呪文です。まぁ、やってみればわかるでしょう。この場合はとりあえず『コマンド・ステータス』と」

 「コマンドステータス?」
 復唱するかのように俺は呟いた。
 「おおぅ」 と、おもわず一声。不意に目の前に何かポップアップのようなものが飛び出したからだ。




 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 0

 筋力  5 Great
 耐久  6 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 11 Great
 意思  4 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 10 Good

 クラス   無し
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.0 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.1
 状態異常  この場所は女神の恩恵を受けている(生命に5を加える)
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 
 
 「解りますか?」 と、天使が言った。
 
 「大体は」
 と、俺は応えた。もっとも、これが果たして強いのか弱いのか判断は出来なかったのだけれど。
 「この筋力とかの数字の横にあるやつは?」

 「それは潜在能力ですね。職によって多少の変化はありますけれど、Greatならかなりの伸びしろがあるということです」
 天使が腕を組みながら答えた。
 「にしても……筋力5は流石に低い方ですよ。もうちょっと鍛えた方がいいです」

 「そうするよ」 俺は素直に応じた。こちとら現代人だったわけで。

 「交渉レベルはそれなりにありますし、習得自体も高いようですから、とりあえず相場さえ覚えればそう生活自体は送れるでしょう。これは利点ですね」
 天使がにっこりと微笑む。
 「考えてみれば、補助的な面でのサポートは出来るわけですし、それほどフィーリングが合わないわけでも無いかもしれませんね」

 「それは重畳」 俺は一息吐いた。
 
 「状態異常は何か具合が悪かったり違和感を感じた時に役立つです。
 その情報を知るか知らないかでたまに大きいことがありますので、普段からステータスを見る癖をつけていたほうがいいでしょう」

 「成程」 俺は頷いた。「しかしこれだと毒殺だとかそういうこともなさそうだな」

 「そんなことは無いのですよ」
 天使が応じた。
 「即効性の毒なら回復をする前に倒れますし、遅効性ならステータス異常に出るまで時間がかかりますです……まぁ、感覚があがれば気づきやすいですけどね」

 感覚ねぇ……どうあげればいいものなのだろうかと思いつつ、
 「ところでアイテム鑑定スキルと言うのは?」
 俺は少し気になって尋ねた。こんな能力があるわけないのだし、さては先ほどのギフトだろうか。

 「あ、そうでした。それこそが先ほど与えた二つ目のギフトです」
 天使がえっへんと胸を張った。
 「自然鑑定自体は誰にでもありますけど、こう任意でスキルを使えるのは中々だと思うのですよ」

 「言語レベルがMaxってこと考えるとどうしても見劣りはするなぁ……」
 俺は素直な感想を言った。

 「えーじは知らないだけだと思うから言っておくのだけれど」
 と、天使が言った。
 「その能力結構レアなんですからね。本来スキルレベルは使いつつ伸ばしていくものなのです」

 「一理あるが、言語レベルはMaxな件について」

 「それはそれ。ルーエル自体は元々それ系統の発現ですし。
 だからそれMaxまで上げてもBet量はそれほどでもないのですよね……でもアイテム鑑定あげたのはやりすぎだったなぁ……」
 溜息を吐く天使。なんだか変な空気になったので、

 「いやいや。これが便利なことはまだ実感できてないけど、確かに役に立つ能力だと思う。感謝してる、うん」

 「お願いですから、無理してすぐに死なないようにしてくださいね……」

 「いやいやいや」
 言われなくても死にたくないです。



 「ん……こんなところでしょう」
 と、天使が言った。
 「とりあえずは町へと向かって職に就くことが大事です。町へと向かえばどこで職に就けるのかは解るようになっています」

 「はぁ」
 と、俺は若干不安になりつつ頷く。


 「では餞別にこれをどうぞ」
 そう言って、天使が指を指した先には、大きめの箱があるわけで。

 俺はガチャリと箱を開ける。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は 宝箱を開けた。
 中には 銅の剣 と 50G が入っている

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ポップアップが飛び出した。
 内容に苦笑し、俺は剣を手に取る。少し重い。

 入っていた巾着袋に手を伸ばすと中身がふわっと融けるように消え去った。残っているのは袋だけである。
 俺は後ろを振り向いた。

 「驚きました? お金は別途保管されるようになっていて、貴方は使いたいとき思うだけで取り出すことが出来るのですよ」

 「スリには合いそうに無いな」と俺は苦笑しながらポケットに巾着袋をしまった。

 「それはどうですかねぇ」 にやりと笑いながら天使。 「相手がそういう技能を持っていたら関係なく盗まれますから注意してくださいね」

 「成程」 それはゲーム的である。 


 「それでは貴方の活躍を祈っています。御武運を」
 そう言って天使が指を鳴らすと、目の前に下り階段が現れた。

 少々不安に思うところはありつつも、俺は階段へと足を進め、
 「何かアドバイスはあるか?」
 と、階段に一歩目を踏み出したところで言った。

 「そうですねぇ……」
 と、天使が少し首を傾ける。
 「補助職を選べばより充実するでしょうが、迷宮探索は厳しいものとなるでしょう。とりあえずは戦闘職薦めときますです。私の可能性も広がりますし」


 「なぁ」俺は少し疑問に思って言った。

 「なんですか?」

 「迷宮って行かなければいけない場所なのかね?」 いやほら、現代人の俺としては危ないところはなんとなく忌避するところなのだけど。

 天使が引きつった笑いに変わり、
 「やめてください!そんなことしたら私のBETしたギフトが死にスキルになるじゃないですかっ!」

 そういうことなのらしい。









 * * *










 新たな旅路は、まず一人、砂漠を歩くことから始まった。
 ゲームの序盤でいきなり行き倒れるほど馬鹿な話はあるまいし……等とゲーム脳さながらの希望的観測で方角だけを頼りに歩いたわけである。

 さて。そしてその顛末といえば。


 「お、この青い液体は回復ポーションか……何という青。これは間違いなく癌になる。
 で、この緑色の液体は毒消し…毒消しか。返って毒に侵されそうな色だ……」

 そういえばこの人が倒れる瞬間、胸元に手を突っ込んでいたのはこれを取り出すためだったのだなぁと物思いに浸ること暫し。

 「この宝石は……鑑定鑑定鑑定って駄目か」


 死人に口無し。正直呪われそうな気配はぷんぷんするけれど、自分の命には代えられない。
 何しろ俺の持っているものといえば天使からもらった銅の剣と、50G。読み方はゴールドなのかギルなのかは不明だが。
 それから向こうで身に着けていたスーツとネクタイ。露店で購入した2000円の腕時計である。

 そういえば、この身体は本来の身体よりも明らかに小柄である筈だが、どうしてぴったり合ってるのだろうか。
 等と、新たな疑問が出たわけだが、その疑問から自身が既に自分ではない何かに変わってしまったという事柄を連想し、軽く落ち込んだ。

 「そう。これもこれも皆、俺が俺を取り戻すため……」
 男に戻ったところで自分自身には戻れるわけではないという本質には目を瞑りつつ、俺は倒れ伏している男の荷物と懐を探る。
 「お……これは」



 砂漠をうろつき、その果てには決して友好的ではなかった男の死体漁り。もしかしてこれは追い剥ぎではなかろうか。いやいや。

 もっとも、微かな罪悪感は男の荷物から移動用のスクロールを見つけた瞬間、消滅したのだけれど。



 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は 冒険者の死体を漁った。
 あなた の カルマが2下がった。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 そんなポップアップも気にしないでおく。




 後書き
 色々と手直し




[15304] ようこそ迷宮都市へ
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/01/23 23:39






 スクロールとは様々な魔術の込められた巻物のことだ。
 それらは魔術師達には勿論のことだが、魔力を持たない一般の人々も利用することが出来る。
 何故ならその巻物自体に魔力が込められているからだ。
 魔力を持たない身で魔術を使えるというのは非常に魅力的で、冒険者達必須の品といってもいいものなのだとか。
 俺が今使おうとしてる移動用のスクロールは、そのなかでも特に需要が高いもので、少々値段が張るものなのらしい。

 らしいというのは、そもそも情報としてそれがあるだけで、俺自身がまだそういう様々な物事をわかっていないからなのだけど。



 スクロールの使い方は色々だが、魔力なんて怪しげなものを持ってない俺にとってみれば、使い方は一つしかない。
 スクロールに込められた魔力をそのまま開放するのである。


 俺はスクロールを開き、両手で持った。
 勿論、限定的ではあるが初めて経験する不可思議な魔法行使という事柄に、俺はワクワク感を隠せない。

 「んー」
 さてどんな感じなのだろうかとスクロールを見つめ、
 「てぃっ」
 そのまま声と共にびりっと引きちぎった。




 世界が歪む。

 ふわっと身体が浮かび上がるような感覚。

 周りの景色がぐるぐると回転。中心に向かって収束し、そのまま裏返るかのように再び焦点を結ぶ。

 先ほどの肌色の砂景色は瞬く間に消失し、彩色が増えていき、



 そして何処か見知らぬ人工物の上に立っていた。見ればなにやら正方形の台に立っており、足元には奇妙な文字が描かれている。
 文字を読み取ろうとしたところ、何やら奇妙なものがぐるりと頭の中を巡り、ズキリと痛む。



 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ここ は グラフーインのポータルです。番号は7番です。
 あなた は 初めてグラフーインを訪れた。
 グラフーインへようこそ! この都市の説明を見ますか? Y/N

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 そんなポップアップが浮かんだ。

 「Y」と、俺は頭を抑えながら呟いた。 

 






 迷宮世界







 迷宮都市グラフーイン。そこはとある特異なダンジョンを目的に多くの人が集まり出来た都市である。
 様々な人種や種族が入り乱れる場所であり、かくいう今、目の前を重そうな鎧を着け、斧を担いだ二足歩行の蜥蜴面――おそらくはリザードマンか――とすれ違った。

 「成程、ファンタジーだ」
 俺は呟いた。これならきっとエルフやリアル猫耳少女とかも居るに違いない。そんなことを考えつつ、俺はウィンドウの地図を頼りに歩いていた。

 このウィンドゥは便利なもので、しっかり自身の位置と、地図が表示されるのである。
 ナビ機能もつけば完璧だなと思いつつ、俺は職を得られるという場所に向かっていた。

 問題は、ここが都市と言われるだけあり、想像以上に広かったことである。

 「タクシーとか電車とかそういう交通機関は無いのかよ……」
 道は石のタイルのようなものでしっかり整備されており、間はコンクリートのようなもので固められていた。
 こういう技術があるならファンタジーといえどもあっておかしくはないと思うのだ。
 ほんの少しばかりの期待を込めて交通機関を地図で探してみる。

 結論から言うと無かった。ただ馬やら奇妙な生き物に乗った人は居たため、そういうタクシー的な何かは一応あるのかもしれない。


 もっとも、自身が持つ50Gは決して大金とは言えず、そういうものを軽々と利用できる立場に無いわけで。


 歩いていると若干の喧騒と良い香りが漂ってきた。突如意を得たとばかりにくぅとお腹が鳴る。
 そういやぁこの世界に着てからというもの何も食べていなかったなぁと思うこと暫し。
 ふと思いついて俺は呟いた。「コマンドステータス」


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 50G
 カルマ -2

 筋力  5 Great
 耐久  6 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 11 Great
 意思  4 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 10 Good

 クラス   無し
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.0 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.1
 状態異常  腹へり
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 こういうものまで表示されるのかと思わず苦笑。
 勿論、こんなもので確認しなくても、酷く食欲をそそられるその香りに俺が耐えられるはずは無かったのだけれど。


 ふらりと入り込んだその店の中では、冒険者だと思われる鎧をつけた様々な人々――緑色の肌をした人間や、全身に毛の生えた獣人と思われる人も居た――が酒盛りを開いていた。
 外はまだ明るいものの、中は若干薄暗く、それを補うためか燭台のようなものが設けられ、ゆらゆらと炎が揺れている。
 猫耳少女は居なかった。

 居酒屋みたいな場所であろうか。俺は少々空気に当てられて、入り口で立ちつくした。

 「よう、お嬢ちゃんいらっしゃい。何にする? メニューはそこだよ」
 声の方向を見れば、何やら本を両手で開きつつ、肩から生えた『三本め』の腕で壁を指差す男の姿。

 若干引きつりつつも方向に従って目線をずらせば見たことの無い文字。もっともそれは何故か意味の解るもので。成程、これが言語スキルの恩恵かと思いつつも、
 クレムッソスの炒め物とかギルビスの串焼きだとか馴染みの無い食材ばかりであって。

 「とりあえずエールと何か適当に串のお奨めを」

 とりあえず酒でも飲んで今の状況を少し忘れようと思った。うん、それが良い。


 あいよっと男が立ち上がる。おそらくはここの店主だろうか。
 奥に向かって「エールと適当に舌触りのいい串――そういやレンバスの切り身あったな。あれ出してやってくれ」
 そのままガチャリと箱の中からビンを三本めの手で取り出し、木のジョッキへなみなみと注ぐと俺の前にどかっと置いた。
 レンバスとはまたどこかで聞いたことのある名前だなぁと思いつつ。もっとも、串にするのだから実態は違うだろうが。
 名前からして魚みたいだなぁ。バスだし。

 「あいよ、お嬢ちゃん」

 お嬢ちゃんと呼ばれるのを否定したくなったが現実は非常である。
 若干溜息を吐きつつもとりあえず俺は取っ手を掴み、匂いを嗅ぐ。はて。異世界のビールとはどのような味であろうかと思いつつ、こくりと飲む。
 冷たい。美味い。体に染み渡る。ビールはビールだなぁとそんなことを思いつつも、俺は一気に喉の奥へと注ぎ込んだ。

 ふぅっと一息。
 メニューのエールは3Gと書いてあったから、もう一杯くらい飲んでも大丈夫かと、
 「もう一杯」
 そう言うと、店主は「あいよ」と、笑った。
 手が一本多いだけで、随分と愛想がいいじゃないかと俺は気をよくする。

 「よう嬢ちゃん!良い飲みっぷりじゃねぇか。良かったらこっちに混じんねぇか?」
 酒盛りしていた集団から声。見れば、ジョッキを持ち上げながらこちらを見ている鎧を着けた男。

 俺は苦笑した。
 「いえ、生憎少し飲んだら出る予定なので」
 大体嬢ちゃんじゃねぇよ。糞。

 そう言うと、
 「つれねぇなぁ」
 と、声が上がり、笑い声が後ろから響いた。

 二本目のエールと共に、串が出てくる。串は一本なのだが、サイズは妙に大きい。
 早速手を伸ばし齧り付く。途端じゅるりと肉汁が飛び出す。思ったより癖が無いなと思いつつ、エールを口に含む。味は淡白だが、妙に舌触りがいい。
 しかし魚とは違うなぁと俺は思った。どんな姿なのだろうか。ここの特産品がダンジョンから取れるその他諸々だったから、何かしらのモンスターなのかもしれない。
 まぁどんな姿であれ、これは覚えておこうと思いつつ、しかしこう一人で飲むのもいいものだ。
 飲んだりするときはこう誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。 独りで静かで豊かで……。まぁ大勢でやるのも悪くないんだが。
 等と奇妙な感慨に浸ること暫し。

 気がつくと二本目も空になっていた。肉はまだ残っている。

 「もう一杯いくかい?」 店主が尋ねた。


 「お願いします」 俺は答えた。

 初の異世界の食事なのだし、少しくらい飲んでも罰は当たるまい。








 * * *







 「お嬢ちゃんまたよろしくな」
 そんな声を後ろに、再び俺は職を得られる場所へと向かって歩き出した。なかなか良い店だったなぁ。お嬢ちゃんは勘弁だけども。

 早速15Gほど散財してしまったが何とかなるだろう思いつつ。
 にしても、なんと多様なことよ。
 ごったがえす人ごみは随分と異質である。俺と同じような姿の人間もいるが、先ほどのリザードマン然り。ゴブリン然り。
 翼を生やした人もいる。その翼自体も色々と特殊で、鳥の羽毛のような翼に始まって、小人のような人が生やしている昆虫のような透明な羽根、勿論色も多種多様だ。
 マンウォッチングをしつつ、まだ酒が残っているのかルンルン気分で歩いていると、一つ目を惹かれる人物とすれ違った。

 ……真逆、あれは――っ!
 慌てて振り向く。
 例え俺で無くても、見ればおもわず興奮してしまうに違いない。
 背格好は今の俺よりも小柄で、頭部は幾分大きい。大きな黒い目。何より全身灰色の肌。それが鎧を着け、ガチャガチャ鳴らしながらながら歩いているのである。
 「……宇宙人までいるのか」
 果たして、その人種を宇宙人と呼ぶのが正しいかは不明だけれど。


 

 歩いて歩いて、ようやくその場所へと辿り着いた。
 途中多くの人種とすれ違ったものの、残念ながら猫耳少女とは出会えなかった。ルー・ガルーは居たが。

 時計を見るに店を出てから約一時間半である。
 入り口にはオブジェクトなのか柱のみが並ぶように立っており、それはまるで神殿のようだったが、中に入るとそこはどこか銀行や郵便局のような雰囲気で、受付と順番待ちのための椅子が置いてあった。
 もっとも、待つというほど人数は居ない。というか皆無であった。
 奥では数人の従業員が何やら作業をしている。着ている服自体に共通点は無い。奥の従業員の頭を確認したが、望むものはついていなかった。


 「転職をご希望ですか?」
 どこか柔らかな微笑を浮かべつつ、受付嬢――合ってるかどうかは知らないけど――が尋ねた。
 服自体はだぼっとしたローブのような感じだったが、胸には何やら『γγ』といったワッペンがつけられている。
 ちらっと他の人の胸を確認したところ同様に同じワッペンらしきものが見えた。
 特に意味を感じ取れないことから思うに、これはただのマークでこれが制服の代わりなのかもしれない。

 種族的な姿自体は俺と同じような感じだなと思った。やっぱり猫耳はついていなかった。
 「いえ、職を得に」
 俺がそう答えると、


 「まぁ」
 と、驚いたような顔をした。そして彼女は尋ねた。
 「その格好ですし、てっきり……いえ、失礼しました。では手数料として30Gほど頂きますが、よろしいですね?」




 てっきりなんなのだろう。こういう格好をしている職業か何かがあるということなのだろうか。
 少し考えた後、俺は言った。



 「15Gにまかりませんか?」









 後書き
 えーじは猫好き。







[15304] 職を得るために
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/01/26 01:23






 金が無かった。
 いやあるにはあるが、ここで30Gを払ってしまうと俺に残るのは5Gだけである。

 勿論、5Gあれば食事はできるだろう。
 エールは3Gだったが、他の料理そのものはそれほど高くなかったからだ。
 しかし、宿代となるとわからない。俺は少しでもお金を持っておきたかったのである。

 「えと……」
 パチクリと瞬きをしながらその受付嬢が言った。
 「困ります……」

 「そこをなんとかっ!」
 俺は土下座をした。これで少しでも手元にお金が残るのなら安いものである。


 「えと、あの。でも、その……」
 うろたえながら彼女が言う。
 「やめてください。顔をあげてください」


 俺は顔を上げなかった。ここで上げてしまったら同意を引き出せないと思ったからだ。
 「お願いします」


 「如何しました?」
 新たに声。目の前の彼女がほんわかした感じなら、その声の持ち主はきびっとした感じだろうか。

 「主教様」

 その声に、俺は顔を上げた。
 その女性は先ほど俺が頭を下げていた女性よりも随分と小柄で、ふと後ろの景色が僅かに偏光していることに気がついた。
 目を凝らす。

 「実は……」
 ぼそぼそと話し始める二人。

 よくよく見れば、主教様と呼ばれたその背中には二対の透明な羽根がついていた。
 ここにくる途中にも何人か見たなぁと思い出すこと暫し。
 話している二人から目を逸らしたところ、奥で作業している一人がこちらを伺うかのように見ており、ついぞ目線が合ってしまい、さっとその女性は目線をずらした。
 ……微妙に気まずい。
 俺は再び二人へと目線を戻す。

 「成程」
 と、主教様は頷き言われた。
 「経緯は把握しました。えと、貴女は……あら。貴女の名前は?」

 「えいじです。主教様」
 と俺は頭を下げ、慇懃に言った。しかし入り口で神殿のようだと思ったのは間違いではなかったのだなぁとそんなことを思う。
 胸のワッペンは同じく『γγ』であったが、位の違いは外面からはどう見分けるのだろうか。

 「えーじさんは随分と礼を尽す方なのですね」
 くすりと笑い、
 「ですが駄目ですよ。そう女性の方が頭を地面につけるの等という真似は」

 「あ……はい」
 俺は微妙な気持ちになった。

 「えっと、コホン」
 と咳払いをして、主教様が言った。
 「つまり――お金が無いのですね?」

 「恥ずかしながら」 俺は答えた。

 「最初は『観光客』が職を変えに来たのかと思いましたが――」
 と、彼女が主教に……って彼女の役職はなんなのだろうか。

 「そうですね。貴女のその服はここではなかなか見ないものです。
 職を持たないままその剣一つでここまで辿り着いたのは評価に値しますし、勇気あるその選択はきっと私達の女神様の気にいるところでしょう」

 「では……」
 と、俺は主教を見た。

 すると彼女は人差し指を揺らし、
 「いえ、見方を変えましょう。お金がなければそれに代わる何かを収めてくれれば良いのです」
 と微笑みながら言った。

 「成程」
 俺は頷いた。盲点だったからだ。
 そういうことなら、と俺は男から頂いたリュックへと目線をずらした。あの中には幾つかのスクロール、それに指輪がある。
 相場はわからないが、30Gには十分届くことだろう。

 「……あら。その腕輪はなんですか?」
 リュックを開けようとした俺に向かって主教が言った。

 「腕輪?」
 俺は両腕を確かめた。勿論、腕輪など……って、ああ。
 「時計のことですか?」

 「時計!」
 と、主教が言った。
 「時を計るのですか!」

 何やら食いついた主教へと俺はチャンスと思いつつ、
 「えと、気になるなら見てみます?」

 「ええ、宜しければ」

 その声に従い、俺は腕時計を外し、彼女へと渡した。
 彼女はマジマジとその腕時計を見ている。

 これで応じてくれそうだと思いつつも、いやまて。と少し不安に思いつつ尋ねた。
 「ここでは……」
 と、言いかけたのを言い直す。
 「この国には時を計るものは無いのですか?」
 もしかすると、貴重なものなのかもしれないなぁと思いつつ。大体その時計は現代世界への形見のようなものでもあるのだし。
 最初は手放す気満々だったのでこういうのもなんだが。

 「真逆」
 と、主教が言った。
 「小さなものなら砂時計もありますし、数字を変化させて時を刻む魔道具も少々高価ですが存在しています。
 しかしこの様に精巧で魔力を感じないものを見るのは初めてです。針を動かして時間を知らせるこの円形の造りも面白い」

 成程。時間を知らせるものはあるのかと一息。
 しかしデジタルはあるのにアナログが一般的でないというのも変わってるなぁとか思ったり。
 あいや、ステータス画面と魔法などというものがあるのだから、そこに行き着くのはそう難しいことではないのだろうか。

 「それを対価の代わりにできますか?」
 そう言うと、主教があら、と一声。

 「高価なものなのでは?」

 「ええ、確かに」
 俺は嘘を吐いた。
 「それは私がかつて住んでいたところでも決して安いものではありませんでした。
 でも見ての通りそれは精巧な造りです。大きな衝撃があっては壊れてしまいますし、私がこれから向かおうとする場所のことを考えたら手放しても。
 ……いえ、区切りのようなものをつける為にも手放した方が良い気がしています」

 そこで息を吐き、目線をずらす。
 まぁ、高価という点に目を瞑れば嘘ではない。

 そんな俺の仕草に何を感じ取ったのか、


 「貴女の選択と勇気に敬意を」
 主教が左の親指を右手で握り、こちらへと頭を下げ、そして背中を向けた。
 「さぁ、いらっしゃい。儀式を始めましょう」

 窓から入ってきた光に、背中の透明な4枚の羽根がきらめいた。













 迷宮世界












 主教の背中を見ながら俺は歩いていた。
 後ろからは最初に俺に声をかけてくれた司祭。いや、主教だから主祭になるのか?シスターは違うだろうしなぁ。
 にしても前をいく彼女の身体は随分と小柄で、まるで少女にでも案内されているかのような不思議な気持ちになったのである。
 勿論、この世界はファンタジーであるのだから、見た目と年が一致しないのであろうことは分かっている。何しろ種族が違うのだから。


 「さて」
 と、主教がきびっとした声で言った。
 「着きました」


 その場所は神々しいという雰囲気とは少し違っていた。
 まずでかい地球儀のようなものが目に付く。壁にはどこかの地図――多分この世界のだろう――が張ってあり、床には二等辺三角形のような測量器具のようなものの図が描かれていた。

 主教が足を進め、俺は後ろから着いていく。
 彼女の小柄な身体を目線で追い越しつつ前を見れば、何かを置く台のようなものがあり、その四隅にはラミエルのような正八面体の石がどういう原理か宙に浮き、青く発光していた。


 「少しお待ちを」
 そう主教に言われ俺は立ち止まる。

 彼女は先ほど俺が渡した腕時計をその台に置き、跪き、祈るように左親指を右手で掴んだ。


 降る様な光がその場に満ち、次の瞬間その台にあった腕時計は姿形無く消えていた。
 俺はその光景に感嘆し吐息を漏らした。

 「ふふっ」
 と、主教が子供のように笑った。
 「随分とお喜びになられたようでした。これは少し後でお返しをしなくてはなりませんね」


 その言葉には少し聞きたいところはあったのだけれど、そこで一つある感覚が襲ってきたのである。


 「さて、貴女の番です。跪き、道を示さんと祈りを捧げるのです」


 それはある種の緊張した雰囲気に身体が反応したのかもしれないし、ここに来る途中に飲んだアレが今更主張し始めたのかもしれない。
 てか多分後者だ。


 その声に、俺は躊躇いつつも、言った。とある感覚はさらに増してくる。
 「すいません。本当に申し訳無いのですが」

 「如何しましたか?」
 主教が怪訝そうに言った。

 「そのですね」
 俺は言った。
 「花摘みに行きたいのです」


 「花摘み?」
 怪訝そうな顔をしながら主教が言う。


 む。ニュアンスは伝わらないのかとそんなことを思いつつ。
 「その、つまり、トイレです」
 と、俺は言った。



 少ししんとした空気が流れ、



 「……くっ」
 と、どこか笑いを堪える声を聴き、俺は後ろを振り向いた。
 「くっ……くく」
 先ほどのどこかほんわかとした女の人だった。



 「あはっ。あっはははははっ」
 と、そこで無邪気で盛大な笑い声が起こり、俺は後ろを振り向いた。

 主教様が無邪気に可愛らしく笑っておられました。
 俺は少し顔を熱くしつつ、その姿を見る。

 「ふふっ、ふふふふっ……ミュレン、ねぇミュレン! 案内して差し上げて。うふふふふふっ。な、何を言うかと思えば……あははははは。面白い人ね、貴女」

 「えと」
 俺は言いかけたが、何を言うべきか迷い、言葉を失う。

 「ふ、ふふふふふ。ご、ごめんなっさいっ、えーじさん。あ、あの、こちらへ」
 口をVの字に歪めながら彼女が言った。 


 「にしても花摘み。ふっふふふっ。花摘みね。随分と詩的な表現ね。私も使おうかしら」
 そんな先ほどのキリッとした声とは違った無邪気な声を後ろに、俺はミュレンと呼ばれた柔らかな雰囲気の彼女の背中を追いかけた。



 




 * * *









 唐突であるが、何かしらの困難、あるいは壁のようなものにぶつかったことはあるだろうか?


 俺も僅かではあるが、人生の壁というものにぶつかったことがある。
 幾つかは乗り越えることが出来たが、幾つかからは回れ右をして諦めたこともある。
 しかし今回のこれに関して言えば、避けては通れないことであった。

 「……さて」
 と、俺は呟いた。
 「どうしたものか」

 どうしたもこうもやることは一つなのだが、どうにもこうにも思い切ることが出来ないわけで。

 ここはトイレである。
 目の前には便座がある。
 だが俺はその便座に腰を降ろすことを躊躇っていた。

 しかし、こうしている間にもあの感覚が押し寄せてくるのである。
 俺は諦めてズボンのベルトを緩め、チャックを開け、それから、……ああ。それからはいていたパンティを降ろし、便座に腰掛けた。


 そして俺はそこでかつてないほどの虚無感というか遣る瀬無さを覚えたわけである。
 つまりはおしっこである。


 当たり前のことだが、俺が女性のおしっこの仕方など知っているわけが無い。
 男の場合は長年そうだったわけなのだから分かっている。尿意と共にホースを手で持ち、目的のところに発射するだけでいい。
 しかし、女性の場合はそうではない。

 まじまじ自分の身体を見てみるのだが、ぷくっと膨らんだ豆のようなものには穴は開いていないし、そもそもどうやって出すのかさえわからない。
 だがもはや俺の尿意は限界だった。

 ままよっと俺はその尿意に従ったわけなのである。
 そして……あ。と思ったときには何かが開くような感覚と共にシャーとおしっこを出すことが出来たのである!

 俺はそこで少々感動を覚えた。何しろ初めての経験である。そこにはそこはかとない充足感が存在していたのだ。
 そしておしっこが終わり、そんな充足感を得た後に感じた情けなさときたらなかった。

 おしっこが終わり、パンティをあげようとして、そこで一つのことに気づいた。
 再度言おう。男にはホースがある。だから不必要に撒き散らす心配は無い。しかし女性には無いのである。いやもしかしたら女性には女性のやり方があるかもしれない。
 しかし、女になってしまって一日目の俺にはその方法はわからなかった。身体が覚えてるだとかそんなファンタジーの欠片は存在しなかった。
 そのぐっしょりとした感覚を打ち消すために、俺は自分の尻ごと揺らして水気を切ろうとした。しかしどうにも不潔感がぬぐえない。


 トイレの紙を探し、そして気づいた。
 トイレの形は馴染みの深い、便座に腰掛けるタイプのトイレだった。だが、そこには文化のギャップというものは確かに存在していたのだ。
 「紙が……無い?」
 トイレットペーパーというものはそこには無かった。あるのは右についている小さな蛇口であり、その下にはその水を逃がすための排水溝があった。

 成程。この水を手で掬い、綺麗にするのであろう。
 そう気づき、俺はチョロチョロと水を出し、手で掬って股を洗浄し始めた。

 そこまでは良かった。良くはないけどまぁ、いい。問題はその最中にあるものに手が触れた時である。
 一瞬びくっと刺激のようなものが走って、それから何か勃起のようなあれを最小限に押し留めたようなそんな感覚を確かに股から感じたのだ。
 俺は見た。
 姿形はさっき見たときとはあまり変わっていなかったように思えたけれども、確かにそれは主張していたのである。それがわかってしまった。

 俺は少し考えた後、人差し指でそれへとチョンと触れた。
 「……あ」
 ぞくっとした。それから俺は我に返って、尻を揺らして水気を切ると、そのままパンティを上げ、チャックを閉め、それからベルトをした。

 奇妙な感覚が身体を駆け巡っていた。そしてあまりにも自分が変わってしまったことを自覚したのだ。 
 
 「あー……、あああうあうん!」 
 小さな声で奇声をあげ、気持ちを落ち着けようとした。 


 何かが終わってしまったような気がした……いやまぁ、これから始まるのだけど。


 泣きそうに思いながらも、 俺は決意した。
 絶対男に戻ってやるんだから―――っ!



 もっともその直ぐ後で、何故か視界がぼやけるなぁと手を顔にやったら泣きそうじゃなくて泣いていたことに気づいたのだけれど。









 後書き
 この物語のテーマはTSと異世界と迷宮です。
 だから最後のこれは必要なことだと思って書いて書き終わってからわたしはこう思いました。
 わたしは何を書いているんだろう。





[15304] 職業選択
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/01/26 01:24









 「すいません。お待たせしました」
 と、俺はトイレの前で待っていてくれたミュレンさんへと言った。

 「いえい…え?」
 と、何かに気づいたのか、ほんわかとした雰囲気が消え、マジマジとこちらの顔を見てきた。

 ?
 急にどうしたのだろうか、等と首を捻ったものの、特に心当たりは無いわけで。
 「どうしました?」

 「あ、いえ、あ、その、」
 と、何故か慌てたように言葉を発し、
 「……失礼しました。では祭壇に」
 等と誤魔化すかのように前を足早に歩いていく。

 ?と再び思ったものの、特に追求する気にもなれなかったので、俺はそのまま後ろを追いかけた。



 沈黙のまま歩き、祭壇へと戻ってくる。
 そこで見たものは、主教様が跪き、先ほど時計を置いた台に両肘を置いている姿だった。
 小柄な背中の透明な羽根が小さくたたまれているその姿は妙に愛らしく、どこか幻想的な雰囲気をふりまいている。

 「交信してらっしゃるのですね」
 と、ミュレンさんが言った。

 「交信?」
 祈りではないのだろうかと思いつつ、言葉を返す。

 「はい、主教様はよく……」
 そこでミュレンさんが何かを言おうとしたところ、

 跪いていた主教が不意にくるっと振り向きながら立ち上がり、
 「それではえーじさん、儀式を始めましょう」
 と、俺がトイレに行っていたことは無かったかのように言葉を続けた。
 「祭壇の目の前で目を瞑り、己の選択を為さんと念じるのです」
 そのまま斜め横へとずれ、例の台へと向かうよう誘った。


 しかし祭壇かと俺は認識を変えつつ、その台に向かって歩いていく。
 そして歩きながら、
 「お待たせしました。すいません」
 と、謝罪を述べておく。

 「いえいえ」
 にっこりと微笑する主教。

 俺はそのまま祭壇へと足を進めた。妙に緊張する。しかし、その直ぐ前の出来事を乗り越えた俺にとっては、これくらいの緊張など無いようなもの。
 そんなことを思いつつ心の中で溜息。祭壇の前で片膝をつき、そして両手を組んで祈る。

 ――どうか、俺に職をください。目的を果たすために。戻るために。どうか職を、、、、、

 不意に自身の内面が揺らいだ。
 はて、と思ったのも束の間、ぐるぐると内側が回りだす。
 何がどうなっているのだろう、と少し怖くなり、目を開こうと……「しては駄目よ」

 え?

 不意に聞こえてきた言葉に、俺は躊躇する。
 瞬間揺らぎが激しくなり、渦巻状になり、内側から自身を飲み込んで、
 ポンとそんな感じに裏返ったかのような感触を覚えた。

 「もういいわよ」
 声が言った。

 俺は目を開けた。















 迷宮世界















 目を開けると、そこには逆さになった見知らぬ女性の顔が目と鼻の先にあった。
 「バァ」
 と、その女性が言った。

 パチパチと俺は瞬きし、それから「え?」とまぬけな声を出し、それからその顔の下、つまり目線を上にあげ、首の下には何も無いことを確認し、
 「うおわぁっ」
 という驚きの声と共に頭を後ろに引き、尻餅をついた。

 「……ぷっ。くすくす」
 と、途端に笑い始める顔。

 固まりつつもふと目線をずらせば、周りは先ほどの少々乱雑な資料室のような場所ではなく、何も無いシンプルな青い部屋であって、
 地面と壁が僅かに発光しており、どこか3Dのヴァーチャル空間に入り込んでしまったかのような、そんな奇妙な感覚を覚えた。

 「ごめんごめん」
 その声と同時に顔は逆さのまま、浮かび上がるかのように身体が現れ、それからくるっと横に回転し、地面へと足を着ける。

 俺は目を見張った。何故なら猫耳こそないものの、お尻には優雅で美麗で、それでいてふさふさした長い尾っぽのようなものがあったからなのだ。
 「……驚きました」
 と、俺は言った。

 「驚いてくれたのならやったかいがありました」
 少し微笑しながら彼女。ついでに感激しました。

 ところで、彼女はいったい誰なんだろうか。そんなことを考えていると、
 「ようこそプレイヤーえいじ。私はナヴィ。司るものは選択と測量。私は貴方を計り、貴方が進まんとする道を示すものです」
 最初のお茶目な雰囲気を変え、シリアスに言った。


 そんな彼女に若干ぽかんとしつつも、
 「え?ってことはもしかして……」

 「如何にも。私はかの神殿の支配者であり、この世界の神の一人である。さぁ、称えなさい」

 「いやいや」 いやいやいや。

 「何よ、もう」
 と、肩を竦めつつ女神。
 「偉いんですからね」

 俺は苦笑した。
 「ところで、やっぱりプレイヤーとかってわかるものなのですね」
 ルーエルの話によれば、送り込む人数なんてのは本当稀で、そのほとんどはこの世界の生まれの人が迷宮に挑んでる的な話だったが。

 「勿論ですよ」
 頷きながら女神が言った。
 「貴重であることも勿論ですけど。だから直々に私が案内をしにきたのですよ。素敵なものも貰ったところですしね」

 そう言いつつ、掲げられた腕を見れば、そこには先ほど消えた時計が女神の腕にあるわけで。
 成程。ってことはあれは捧げ物ということだったのだなぁとそんなことを考えつつ。

 「それは光栄」 なんだかなぁと思いつつも俺は言った。

 「宜しい。礼儀正しい子は大好きです私」
 声と共に、ふわふわな長い尾っぽがゆらゆらと揺れる。
 「にしても面白いですわね、これ。内部機構のリズムに何を使っているのかと思えばクリスタルを使ってるだなんて。
 デウスがアレほどまでに機械に拘る理由も分かる気がしますわ。まぁ、私が面白いと思うのは貴方の世界の時間を計れるから、なのですけど」

 「俺の世界の?……ってことは、やっぱりこちらの時間は?」
 あの時計クォーツだったのだなと今更ながらに気づいてみたり。

 「違いますわ。貴方の世界随分と一日が早いのですね。こちらでは一回りしてもまだ半分くらいですよ」
 と、女神が言った。ただ、それは少し間違いであって、

 「いえ、その……一回りは一日の半分です。午前と午後に分けてるので」
 と、訂正する。

 「…あら、そうなの。これは失礼」
 コホン、と咳払いをしつつ女神。
 「成程……、24分割という点では同じわけですか」

 「それでやっぱり違うんでしょうか?」
 と、気になって俺は尋ねた。

 「そうね。この世界の一時間をこの時計で示すなら、約一時間11分23.56秒になるのかしら」
 と、さらりと女神が答える。

 成程、測量の神というだけあってこういうものはお手のものなのかと感心する。
 しかし11分24秒長いのか。1時間と見れば些細だが、一日と考えれば結構なものであって。

 「折角のプレイヤーですし、もう少し話していたいところなのですけど」
 と、女神が腕時計を見ながら言った。
 「少々時間もおしてきてますので早速職業案内に入らせていただきますね」


 「あ、すいません」

 「いえいえ」
 と、その言い方はどこかデジャブを感じるもので。

 はて、どこでだろうかと考えてみれば、先ほどの妖精主教様を思い出すこと暫し。


 突如ウィンドウが俺の眼前に表示。


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 しかし、その画面にはまだ何も書かれていない。

 「では」
 と、女神が一声、そのまま俺の頭に手を触れる。ゆらゆら揺れてた長くふさふさの尾っぽが、ぴたりと動きを止める。
 「現在、貴方の選ぶことの出来る職業は……」

 その声と共に、ウィンドウが4つに分かれ、それぞれに内容が書かれだした。


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 職業:観光客
 条件:無し
 特典:交渉、サバイバル、旅歩き技能が僅かに上昇。魅力潜在、運も微々だが上昇
 概要:世界の国々を見て回りやすい職業。戦闘は惰弱であり、向いていない
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 職業:剣士
 条件:2~3年程度剣を学ぶこと。あるいは同期間剣と共にあったこと。
 特典:剣術技能の上昇。力、耐久、器用、感覚、意思の潜在増加。
 概要:バランスの取れた近接戦闘職。
 
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 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 職業:商人
 条件:交渉Lv.2以上
 特典:交渉、旅歩き、自然鑑定技能の上昇。魅力、耐久、感覚の潜在増加。
 概要:国と国との交易に向いている。戦闘は期待できないが、動き方によっては補助職として役に立つことも可能
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 観光客はともかく、他の二つは俺の経験がしっかり活かされたものとなっていた。
 成程、天使の言っていた経験とはこういうものだったのかと考えること暫し。

 確かに、迷宮に潜るにおいて、一番いい職業がどれかといえば剣士であろう。
 同時にかつての自分を思い出すことも出来る職業であり、男に戻るという点において、いっそうのモチベーションを感じさせてくれるに違いない。

 しかし、もう一つの職業を見たところ、俺は不覚にも迷ってしまったのであった。


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 職業:アイテム師
 条件:自然鑑定Lv.20以上、又はアイテム鑑定技能、又は鑑定魔法の取得。
 特典:自然鑑定技能、アイテム鑑定技能の上昇。耐久、器用、感覚の潜在増加。アイテム効果の増加。
 概要:アイテムを用いて闘う補助職。通常アイテムの他、魔具の使用においても効果を発揮する。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 概要から見るに、如何にも上級職めいたものを感じさせるものであって。


 「珍しい職が出ましたね」
 と、女神が言った。

 「珍しいんですか?」
 俺は尋ねた。

 「少なくともプレイヤー云々に関わらず、最初に出る職ではありません。随分と便利なギフトを頂いたのですね。
 きっとかの女神も期待なされているのでしょう」
 と、女神が言う。

 いやいや。売り言葉に買い言葉のようなそんな感じではあったなぁと思いつつ。


 さて。
 どうしようか。

 俺はゆらゆら揺れる女神の尾っぽを目の端に捉えながら考えた。







 後書き
 どっちの職がいいかなぁ。






[15304] 職と信仰
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/08 00:13







 「参考までにお聞きしたいのですが」
 俺はアイテム師の項目を見ながら言った。
 「アイテムを使わないアイテム師自体の強さってのはどんな感じなのですか?」

 例えばアイテムを使えない状況に陥った時どうなるのかと思ったのだけれど。

 「そうねぇ」
 女神は少し考えて、
 「それは剣を使わない剣士ってどんなものなのかって聞くようなものだと思うのだけれど……」

 「むむ」
 その上手い例えにおもわず感心してしまったりして。

 「でもあえて言うならそこそこじゃないかしら。主能力が耐久器用感覚と揃ってますから」

 「ありがとうございます」俺はお礼を言った。

 「いえいえ。……それで、決まりましたか?」
 女神が言った。
 
 「後ちょっと」
 俺は答えた。何しろ命の大事に関わるかもしれないことであって。

 「少しプレイヤーである貴女にアドバイスしますと」
 苦笑しつつ女神が言った。
 「大事なのはスキルであって、職ではありません。自身の能力を見つつ、どのスキルを重視するのか。それで職を選んでいくと良いかと」

 「成程」
 俺は頷いた。

 もっとも、頷いたからと言って特に決まったわけでもなく。
 しかしバランスなら剣士なんだよなぁ。主能力とか5つもあがるし。

 むむむ、と唸りつつ。先ほど土下座までしたってのにこんなに迷ってるのもなんだかなぁと思いつつ。
 いや待て待て。最初は剣士になる気満々だった癖に何をこんなに考えることがあるのか。ここは男らしくスパッと……って今俺は、
 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 ふぅ。よし、思考が変なところに飛びそうだったのを無理やり修正しつつ、そこでふと頭に過ぎるものがあって、
 「一つ質問いいですか?」

 「はいはい何でしょう」
 しっぽをゆらゆら揺らしながら女神が言った。

 「転職についてお聞きしたいのですが、あれって任意にできるものなんですか?」

 ようは剣士になって剣術を多少身につけてからアイテム師に移行ってのもありかなぁとか思ったのであって。
 もっとも、剣士のままいく可能性も無きしにも非ずではあるのだけど。

 「いいところに気が付きましたね」
 ふふんと笑みを浮かべながら女神が言った。
 「剣士になって特典の剣術ブースト。剣術スキルを多少身につけた後、別の職に移行……そう考えたのですね?」

 頷く。もっとも、何故そんなににんまりと微笑んでいるのかというかという事柄に不安は感じるのだけど。

 「勿論、それは可能です。可能なのですが……」
 こほんと咳払いをしつつ女神が言った。
 「一度職に付いた後、次に転職できるようになるまでは一定の条件が必要になります。
 人によってはその条件を数ヶ月でこなす様な凄い方もいらっしゃいますけど、まぁ……大抵は数年かかるのが普通ですね」

 「把握しました」
 俺は言った。
 「ところでその条件というのは……」

 「秘密です」

 ですよねー。なんとなくレベルの概念とか気になるところではあるのだけど。
 しかしこうなってくると、矢張り最初の選びが重要となってくるなぁと思いつつ。

 「コマンドステータス」

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 35G
 カルマ -2

 筋力  5 Great
 耐久  6 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 11 Great
 意思  4 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 10 Good

 クラス   無し
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.0 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.1
 状態異常  この場所は女神の恩恵を受けている(生命に5を加える)
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 改めて自身のパラメーターを確認しつつ。
 ここは矢張り無難にいくべきなのかなぁと思いつつも、自身の能力に不安を感じるのは仕方ないことであって。

 「剣士にしようかと」
 俺は唸りつつ言った。

 「あら無難ね」
 女神が言った。
 「でも確かにパーティーを組まずにソロで潜るならそれが一番かしら」

 「パーティー! そういうものもあるのか」
 思わず俺は声を出した。盲点だった。
 「成程。別に一人で突っ込む必要もないんですよね。いやいやそれなら話は別です……アイテム師で」
 いやまぁ、そもそもなんていうか自分の剣術というものにイマイチ自信が持てないのであって。

 そう言った俺に何を思ったのか女神は、
 「ふ、ふふふふふふ。面白い人ね、貴女」
 とくすくす笑った。

 何かおかしいことを言っただろうかと少し考えつつ、特に何も言ってないようなぁとか考えたりして。

 「コマンドプロトコル」
 突如その考えを打ち切るように女神が言った。
 「対象指定プレイヤーえいじ」

 「コマンドぷろとこる?」 
 その言葉はどこかで聴いたような響きがあって。

 その疑問に自分で答えを出す前に、女神の手が伸びてきて、空間が真っ白にうm



































 「終わりました」 と、女神の声。

 はっと俺は我に返り、ぱちくりと瞬きをする。
 「えっと……?」

 「これにて職の儀式を終了します。お疲れ様。そして健闘を祈っています……と、普段ならここで終わるところなのですが」

 「はぁ」
 と、俺はまぬけな声を出した。というのも、何か奇妙な場所というか世界というか、そんな場所に行ったような気がするからであって。
 しかしその記憶がぽっかりと無くなってる様なそんな奇妙な感覚を覚えつつ、

 「さて、プレイヤーえいじ。物は相談なのですが」
 何やら真剣な面持ちで女神が言った。

 「はい?」
 はてなんだろうか。

 「どうです?私を信仰してみませんか? 今ならお試し期間もサービスでつけちゃいますよ。先ほどの捧げ物も無駄になりませんし」

 俺は苦笑した。
 「考えておきます」


 「よろしくお願いしますね。初心者に優しい神ですのよ、私」
 女神はしっぽをパタパタさせながら言った。
 「改めてようこそ。プレイヤーえいじ。貴女の健闘を祈っておりますわ」



 その声と共に、自身の胸の内側が押しあがるような感覚を覚え、それは次第に強くなり、ぐるぐると世界が回りだして、


 「お疲れ様、えーじさん」
 凛としたその声に、はっと俺の意識が覚醒した。











 迷宮世界










 パチクリと瞬きする。
 まるで先ほどの出来事が夢であったかのように、俺は祭壇に跪いていた。

 奇妙な感覚を味わいつつ立ち上がり、後ろを振り返る。

 「如何でしたか?」
 小柄で可愛らしい主教様が、微笑みつつ尋ねた。

 「奇妙な経験でした」
 俺は答えた。まるでというか夢を見ていたような気分であって、 

 「我が主は?」

 その言葉に、最初の一場面を思い出し、
 「お茶目な方ですね」

 「そうなんですよ!」
 と、何故か嬉しそうに言った。
 「そこも魅力なんですけどね」

 「確かに」
 魅力的ではあった。主にしっぽとか。

 「そうそう。それはそうとえーじさん、物は相談なのですが」
 主教様が真剣な面持ちで言った。

 はてなんだろう。と、どこか奇妙なデジャブを感じつつ、

 「如何です? ナヴィ様信仰してみませんか? 迷宮に潜る際にも非常に役に立つギフトも頂けますよ!」
 どこか嬉しそうに言う主教様に、


 「考えておきます」
 苦笑しながら俺は答えた。



 「貴女の選択を待っています」
 左親指を右拳で包み一礼。
 「それでは私はここで。ミュレン、後はよろしくね」
 そのまま足早に去っていく背中を目で追いつつ、


 「お疲れ様でしたえーじさん」
 その声に、目線をずらす。そんな俺の仕草にくすっとミュレンさんが笑い、
 「可愛らしい方でしょう?」

 「ええと、はい」
 盛大に笑われましたし。

 「でも迷宮に潜ると怖いんですよ。主教様」

 「成程、迷宮に……って迷宮?」
 驚きつつ言った。というのも、こういう神職についてる方々は、争いとは無縁な気がしたからであって。

 「ええ。迷宮に潜り、地図を埋めるというのはナヴィ様が喜ぶことですから」
 そう言って、ゆっくりとミュレンさんが歩き出した。

 「成程」
 後を追いつつ俺は言った。
 「……ってことはミュレンさんも?」

 「勿論です。それにMAPを埋めるっていう作業も楽しいものですよ」

 それはなんとなく分かる気がするなぁとかそんなことを思いつつ、

 「そういえば、えーじさんはどの職に就かれたのですか?」
 思い出したようにミュレンさんが言った。

 「えっと、アイテム師ですね」 俺は答えた。 

 「まぁ」
 と、驚いたような声でミュレンさんが言った。
 「珍しい職ですね」

 「そうなんですか?」
 俺は尋ねた。

 「魔術師の二次職だと思ってました。初期選択にも出る職なのですね」

 成程。そういや、鑑定魔法とかそんな条件が出てたなぁと思うこと暫し。

 「魔術師の方々は大抵別の職に就かれますけどね」

 アイテムを使わなくても色々対処できそうだしなぁ、魔術師。しかし哀しいかな。自身のパラメーターは魔力0なのであって。
 あ、そうだ。

 「コマンドステータス」
 ぼそっと呟く。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 35G
 カルマ -2

 筋力  5 Great
 耐久  6 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 11 Great
 意思  4 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 10 Good

 クラス   アイテム師
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.0 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.1 アイテム効果上昇
 状態異常  無し
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 おや、と、そこでパラはすぐに職に就いた瞬間すぐに変動するわけではないのだなぁとそんなことを思いつつ、

 「ところでえーじさん」
 こちらへと振り返り、ミュレンさんが言った。
 「もし宜しければ明日一緒に迷宮に潜ってみません?」










 後書き

 アイテム師ってそんなに難しかったかなぁ、でも無難に剣士の方が話はつくりやすいだろうか。
 ↓
 迷ってるなら実際にちょっとプレイして感じを掴んでみればいいじゃない
 ↓
 プレイ
 ↓
 なんかelonaやりたくなってきたな
 ↓
 新バージョンが出てるだと…!
 ↓
 ちょ、狂信者wwwwなにこr
 ↓
 …………(黙々とプレイ)
 ↓
 何か忘れてるような気が・・・あ。/(^o^)\

 お待たせしました。
 結局プロットの通りに行くことにします。
 とりあえず次回で序章終了してようやく迷宮に入れそうです。



[15304] ゆめのなかへ【序・終】
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/11 22:15






 「……疲れた」
 ベッドへとうつぶせにぼふっと倒れこんで俺は言った。

 目を瞑りつつ、今日の出来事を回想する。
 勿論、この異世界に降り立ってからの目まぐるしく変わった事柄である。

 にしても何故自分は迷宮に潜る気満々だったのかしらん?
 等と今更ながら自問すること暫し。

 ベッドに倒れこんでぼーとしていたらどっと疲れが出たのか身体が休眠を訴えたが、それはまだ先のことである。
 まずは明日のための準備をしなくては。

 億劫だと思いつつもよいしょと起き上がり、自身の頂物の中身を探ることにする。
 時にこのバックパック自体も普通の品ではなく、その大きさ以上のものを積める事が出来るという魔具であったりした。
 無論制限はある。大きさ自体は問題ないのだが、80種類までしか積める事が出来ないのだ。
 まぁ、80種類も入れることが出来るなら十分なのではないかと思ったりもするのだけど。
 その制限自体もアイテム師という職に就いた途端、1.5倍に膨れ上がったりしたようで中に入れるということだけは困ることはなさそうだ。
 あくまで積む事だけは、であるが。

 というのも、積む事はできても、肝心のそれを持ち上げる力が無ければ何の意味も無いからだ。
 現にリュックは持ち上がらず、入っていた鎧兜類はバックパックから取り出し置いてきたのである。
 これをフルに使いこなせるようになるまでどれくらいかかるのかなぁ等と考えること暫し。

 さておき、俺はある事に気がつき、一つのローブを取り出し、ベッドに広げた。
 未鑑定のままだった筈なのだが、どういうわけかこのローブがどういうものなのか判ってしまったのであって。
 砂漠では鑑定を連呼しても、

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 アイテムの正体を看破できなかった。より上位の鑑定を実行する必要がある
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 というポップアップが開くだけで、何がどうなのか良くわからなかったのだが。
 勿論、置いてきた鎧兜類や幾つかの宝石や指輪腕輪類にも言えることではあるのだけど。

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 ☆艶やかなる法衣『さようなら現世』 [7,0]

 それは布で出来ている
 それはDVを7あげ、PVを0減少させる
 それは習得を維持する
 それは体力回復を強化する*
 それは剣術の理解を深める**
 それは重装備での行動を阻害する****
 それは盲目を無効にする
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 重装備での阻害はきになるものの、今の俺には重装備できるだけの力があるとは思えないのであった、まる。
 にしても一番気になってるのは「銘が酷いなぁ」ということなわけで。
 もっとも、今の状況を認識させられるという点では大いに素晴らしい銘なのかもしれないなぁとか考え直してみたり。

 まぁ、その点に目を瞑れば中々なのではないだろうか。
 他に入ってる衣服を見てみたのだが、☆がついてるのはこのローブのみだったりする。未だ未鑑定の宝石や腕輪等はわからないが。

 しかしそこで一つ大きな問題に気づいてしまった。
 このローブ、手にとっても分かるぐらいにぶかぶかなのである。
 もっともローブなんて着たことは無かったのだし、ぶかぶかでゆったりしているように感じるのは別に変な事では無いのかもなぁとか思うものの、
 最初に会った人の服装はそんなことなかったなぁとか少々前のことに頭を過ぎらせること暫し。
 大体これ地面引きずりそうだよなぁ。

 なむーと心の中で呟いた後、とりあえずスーツの上から装着してみることにした。
 
 はてさて。そこで俺は一つ不思議なことに気がついた。
 なんと明らかにぶかぶかであったそれが、着終わってみればぴったりとサイズが合っているのである。
 どういうことだろうと奇妙に思いつつも、再び脱ぎ、それを手にとって見れば、

 「縮んでる?」 そう俺は呟いた。明らかにサイズが違う。

 もしやこれが魔法の衣服であるから、それ故にサイズがぴったり合うようになっていたのだろうか等と思ったりもしたが、そこで待てと思い直す。
 考えてみれば、今着ているスーツがぴったり今のこの身体に合っているのも、少しおかしな気がしなくもない。
 このスーツは確かに俺が仕事で着ていたものだったのだから。

 では、と試しに別のぶかぶかのローブを着てみれば瞭然。確かにサイズがぴったりと変わる。
 ふむこれはなんと便利な。サイズ違いという概念自体がこの世界には無いのかもしれないなぁと感心しつつ、ローブを脱ぎ、整理を再び開始した。

 そのおかげで思いがけない武器を発見したりしたのだが、驚いたり感心するよりも今の俺にはもっと重要なことが生まれていたわけで。
 即ち、強烈な睡魔である。

 それに耐え切れず見つけた思いがけない武器をバックパックに戻し、そのままベッドにダイブし、まどろみに身を任せることにした。










 迷宮世界










 ぼーっとしながら目を開き、俺は呟いた。
 「……知っている天井だ」

 人工でつくられたその白い天井と蛍光灯は、俺の住んでいるアパートのもので。
 それに気がつき、俺ははーっと安堵の溜息を漏らした。

 「なんだ、夢だったのか」 そう俺は呟いた。

 考えても見れば、随分と脈絡の無い夢だった気もする。いきなり死んで、迷宮にもぐってこいとかどういう理不尽さだよ。大体――、
 そこで俺は自分の手を胸にあて、なにやらもにゅっとした感覚に、

 「え?」
 と、声を出し、
 「え。嘘。え?」
 等と焦った瞬間、

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 ルーエル>見えてる?
 
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 不意にポップアップが開いた。

 「おっかしいなぁ。なんでこの夢覚めないんだろ」
 そんな事を溜息とともに呟いたりして。

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 ルーエル>見えてる?

 ルーエル>私現実を見るって大事なことだと思うの
 
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 「うるせぇな……んで見えてるよ。で、なんなんだ、これ」
 俺は部屋を見渡しながら言った。というのも、その風景は住んでいた場所にそっくりな見慣れたものであって。

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 ルーエル>見えてる?

 ルーエル>私現実を見るって大事なことだと思うの

 ルーエル>ちょっとしたルーエルちゃんからのサービスです。住んでいた場所が恋しいかと思いまして。夢の中だけでも、とちょっと再現を
 
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 余計なことをと思いつつ、
 「それ、嘘だろ……」
 この性悪天使のことだから、なんかこの状況での俺の反応を楽しんでるのではないかと思っちゃったりもして

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 ルーエル>なんで分かったんですか!? ……まぁ、それはいいでしょう。てことで改めてチュートリアルクリアおめでとうございます。
      いやいや、飛ばされた場所が場所だったんで、ちょっとルーエルちゃん焦っちゃったですよ?
 
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 やっぱりかよ……にんまり微笑んでる天使の顔を想像してみたり。にしても……、
 「随分酷いチュートリアルもあったものだ」
 苦笑して俺は呟いた。いきなり魔物呼ばわりされたあげく、死んだ男の荷物を奪うとかどんなチュートリアルだ。

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 ルーエル>そうかしら? 世の中には食事の取らせ方を教えるために人肉を食わせようとしたり、
      壁を掘らせて金塊を発見させて喜んだのも束の間、それがまったく価値のないものだと分からせてほくそ笑んだり、
      呪われた武器を解呪するためのスクロールを渡しておきながらそのスクロールが呪われてたり、
      結局解呪できず呪われた武器を装備し続けることになったり、
      仕舞いに戦闘の仕方を教えるために懐いてたモンスターを3匹けし掛け死闘をあじあわせてニヤリと笑うようなそんな人も世の中にはいるんですよ?
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 「ねぇよ」
 俺は突っ込んだ。なんだそのありえないシチュは。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ルーエル>事実は小説より奇なりという名台詞がありまして。……まぁ、それはいいでしょう。
      ところで職ですけどアイテム師ですか。正直ルーエルちゃんその発想はなかったのですよ。
 
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 「やっぱ剣士の方がよかったのかな?」
 俺は天使に尋ねた。なんだかんだで、それは気になってる事項であって。

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 ルーエル>んー、どうでしょう。確かに剣士の方が色々対処できますけど……最初から上級職というのも面白いかもしれません。
      パラメーターの伸び方はダンチですから。遺産もありますしねー
 
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 てか思ったんだが、
 「一応聞くけど、あの男殺したのルーエルじゃないよな?」

 何故か、一瞬チャットが止まり、

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 ルーエル>禁則事項です。って変なこと言わないでくださいえーじ。ぷんぷんなのですよ。
      ルーエルちゃんみたいなピュアな存在がそんな非道なことするわけないじゃないですかっ

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 やっぱりこの天使怖い。

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 ルーエル>とりあえず話を戻しますと……剣術はちゃんと鍛えてくださいね。折角スキルがあるんですからそれ鍛えないと勿体無いですよ?
      アイテムだって無限じゃないんですからね?
 
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 「その辺については分かってる……つもりだ」
 俺は答えた。流石に毎回アイテム使える状況になってるとは限らないわけだし。

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 ルーエル>そういえばナヴィに誘われてましたけど、あれもありっちゃありかもですね。
      特に迷宮世界に入りたてのえーじにはナヴィの信仰特典は結構便利なんじゃないかしら?
      個人的には仲良いしヨグ信仰を勧めたいところですけど……えーじは魔力が無いからなぁ
 
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 「そういやあの信仰ってなんなの?」
 何ていうか、住んでいた場所が場所なのでああいう勧誘みたいなものには少々忌避感みたいなものがあるのだけど。
 その点、何でも許容できる神道は素敵である。ビバ神道。

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 ルーエル>そう深く考えることもないのですよ。その神様がくれるギフトと恩恵。また奉納しやすい神様選んでもいいかもですね。
      ギフトもらったら改宗するのもありです。
 
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 「そんなんでいいのか?」
 何ていうか、そうコロコロ変えるのはどうにも節操が無いような気もするのだけど。

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 ルーエル>いいのですよ。
      この世界の神様との在り方はギブ&テイクです。その神様の気に入るものを奉納し、それで対価を得る。
      まぁ、奉納し続けることでその神様と距離感が深まり、恩恵自体はより強くなるので、改宗しあぐねる場合もありますけど。
      あるいは単純にその神様気に入っちゃったとか。
      長い眼で見ればギフト取ったら別の神様行っちゃった方がいいとルーエルちゃんは思うのですけどね。
 
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 「ふーん」
 成程、随分とドライな関係でいいのだなぁと思うこと暫し。

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 ルーエル>まぁ、色々他にも言いたいことはありますけど、その辺はがんばってしたためたマニュアルを見てもらうということで
 
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 「マニュアル?」
 俺は尋ねた。そんなものがあったのかと思いつつ。

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 ルーエル>ですです。コマンドヘルプを解除しておきました。目が覚めたら確認してみてください。
      ……ああ、そうそう。これは言うべきか迷いましたが、重要なことなので教えておきますです。
      偶然そのコマンドを実行して、その選択肢に「y」と興味本位で答えた瞬間、全てが終わりますので
 
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 「ん?」
 と、俺は促した。

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 ルーエル>コマンドQというものがあります。いいですか。このコマンドだけはどんなことがあっても実行しないでください。
      ましてや「y」等と答えるのは絶対にいけません。―――いいですね? 言いましたからね!
      たまに居るんですよね……実際。
 
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 「ん、まぁ了解」
 良くはわからないのだけど。

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 ルーエル>てことでまた会いましょう、えーじ。また夢の中で
 
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 「ん、あ?もう終わりか?」
 奇妙なことにどういうわけか寂しさのようなものを感じてしまったりもして。

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 ルーエル>大丈夫よ。えーじ。私は貴女を大事に見守っています
 
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 「……どうでもいいが、いやよくないから言うんだが」
 俺は多少の怒りを込めて言った。
 「その漢字はわざとか?わざとなんだな?」

 
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 ルーエル>てへっ☆
 
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 等というチャット画面を最後に、視界がフェードアウトし、






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 好感度 の 変動 がありました。
 ナヴィの主教 リエンザ の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【好意的】 です。
 ナヴィの修道騎士 ミュレン の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【好意的】 です。
 九連の塩冷亭の店主 スパルミエッサ の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【普通】 です。

 あなた は 夢の中で神に会い その信仰 を深めた。

 能力 の 変動 がありました。
 あなた の 意思 が 1 上がった。

 あなた は 身体を休め1% の 潜在能力 をアップさせた。

 あなた は 10時間眠り 十分な睡眠 を取った。
 おはようございます! プレイヤー えいじ
 
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 目を覚ます。そのままがばっと起き上がり、きょろきょろと周りを見渡す。何か奇妙なログを見たような気がしたのだ。
 ところが確かに見たはずのログは何処にも開かれていない。

 「スパルミエッサって誰だ……」
 そんなことを呟きつつ、俺は夢の会話のことへと頭を巡らした。


 さて、まずは……
 「コマンドQ」


 呟いた瞬間、ポップアップされたメッセージを見て、俺は背筋が凍った。

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 本当に生きることを放棄しますか?             y/n
 
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 その短い言葉に戦慄を覚えつつも、もしここで『y』と言ったらどうなるのだろうかとそんなことを思う。
 大抵、こういう場合『y』と言っても、こういう重要な項目は二度聞きなおしがあるものなのだ。

 ごくりと唾を飲み、そのスリルを味わうため、俺は口を……


 「『n』」
 勿論、言うわけが無かった。てか忠告は聞いておくものだと思いつつ、良い目覚ましをしたところで、本来言おうとしていたコマンドを告げる。


 「コマンドヘルプ」











 後書き
 てことで序章終了なのです。
 さてようやく迷宮が書ける!




[15304] 【コマンドヘルプ】
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/11 22:26



 ルーエルちゃん極秘マニュアル

 外秘



 始めに
 ルーエルちゃんが愛しいえーじの為にしたためたマニュアルです。
 色々と独断と偏見で書かれてる箇所もあるので基本的に外に漏らすの禁止。


 主能力について
 筋力 力です。攻撃力全般に影響したり、アイテムを運搬したりまぁ、見たままそんな感じ。えーじはもっと鍛えるべき。
 耐久 生命力です。これがあることでダメージを食らっても死ににくくなります。一番重要。スタミナやアイテム運搬にも影響します。
 器用 命中力や生産での成功確率、また敵からのダメージ軽減に影響します。
 感覚 回避力や直感、遠隔武器のダメージや、クリティカル率に影響します。また、呪いや早期異常の発見にも影響します。
 習得 知恵です。主にマナ運用の最大量をあげたり、スキルの取得や成長に影響します。
 意志 そのままです。精神系のステータス異常の抵抗や、マナ運用の最大量、またスタミナに影響します。意志力で身体を動かせみたいな。
 魔力 えーじには必要の無い説明ですよね。
 魅力 容姿や人を引き付けたりするオーラのようなものです。交渉をあげたりえっちなことすると上がりますよ


 スキルについて
 スキルは使用するものと、能力としてあるものの二つが存在します。
 使用スキルも能力スキルと同じく、使うことで習得度が上昇します。
 使いどころは限定されますが、能力スキルと比べ上がりやすいです。

 新スキルの取得方法
 ギフトと呼ばれ、三種類あります。
 一つ目はある種のものを満たすと、自動的に習得されるスキル。
 二つ目は迷宮内で宝物として取得することで取得できるスキル。
 三つ目は神々によって与えられるスキル。一番ギフトのあり方に近いと思うです。


 魔法について
 魔法には攻撃手段として精神系統に影響を及ぼすものと、直接的に攻撃するものとあります。
 魔法に対抗する手段としては沈黙のポーションを投げるほか、魔法への耐性をあげる方法があります。
 魔法の中でも火の魔法は持ち物を燃やされたり、また森型の迷宮で使われると大火災に発展しかねないので注意が必要。
 上位になると空間移動を用いたり、他にも様々な冒険を楽に出来る術があるため、魔法使いはPTに一人は居ると便利。


 耐性について
 耐性が上がると、その攻撃手段のダメージを劇的に減らす他、引き起こす状態異常も緩和できますです。
 例えば電撃属性への耐性を上げれば麻痺しにくくなります。


 装備品について
 DVは回避力を高め、PVは防御力を高めます。
 ☆『 』は何かしらの恩恵が強く込められた装備品であり、貴重です。
 ☆《 》は強力な恩恵が込められた装備品であり、非常に劣化しにくく、更に貴重です。
 ★は神々によって創られた特別なアイテムであり、劣化はしません。
 装備品によっては祝福されていたり呪われていたりするものがあります。
 呪われていると装備を外すことができない他、様々な異常を引き起こすため、注意が必要です。


 職業について
 職に就くことによって、自身の主能力やスキル成長にボーナスを加えます。
 ある意味種族の枠組みを超えることのできるシステムであったりもします。
 本来人間がオーク以上の力を持つことは出来ませんが、狂戦士等の大幅に筋力成長率の高い職に人間が就いた場合、
 オークの戦士の筋力を上回るケースも少なくありません。
 なお、成り立てはスキル取得以外の変化はありません。


 カルマについて
 善行と言い換えても○。基本いいことや人が喜ぶことをすればあがり、不道徳なことをすると下がります。
 世の中にはアライメント判断という魔法や道具が存在しまして、カルマが低すぎると『悪』と表示されます。
 国によっては入国拒否されたり、問答無用で攻撃されたりする場合も少なくないので、下げすぎないようにするのが懸命です。
 あと、カルマが下がりすぎると運が悪くなるといわれていますが、正直眉唾だと思うです。


 信仰について
 この世界の神々を信仰することによって、ある種の恩恵を神々から受け取ることが出来ます。
 基本は一人一つの神様しか信仰できませんが、神々同士の親交によっては二つ以上信仰し、同時に恩恵を受けることも可能です。
 奉納――物品だったり、行動だったりします――を満たすことで、その神との距離を縮められます。どの神も共通してるのはお金やモンスターの死体等です。
 ある程度の奉納を満たすと、数段階にわたってギフトが授けられます。目的のものを頂いたら改宗お奨め。怒られるけど。
 ちなみに改宗した場合、前の神から天罰という名の呪いを受けます。呪いは守護する神によって変わりますが、一ヶ月もすれば呪いは消えます。

 神々について
 信仰の参考例としてルーエルちゃんが多少知ってる神々を独断と偏見で書いていきます。

 光の神
 ヤーウェとかアッラーとか呼ばれたりもするけど、基本名前も形も無い神。
 ルーエルちゃんも良くわかりません。強大な力を持ってることは分かるんだけど……。もしかするとかなりの高次元存在なのかも。
 奉納として善行を好みます。
 全ての主能力に影響あり。ギフトとして祝福されたアイテムが得やすくなります。

 混沌神
 同じく名前も形も無い神。
 得体がしれないという意味で、ルーエルちゃん的には一番怖い神様です。
 奉納はなんでも。とは言え多く渡せばよいというのでもないらしく、なんていうか奉納点を上げにくい神様です。
 全ての主能力に影響あり。ギフトとして呪い無効を得られます。

 デウス
 機械の神。とある機械が自己進化を果たし、高次元存在になっちゃったらしい。
 ユーモアに富んでいて、人の手によって造られる機械を好むです。くだらないものも複雑なものも単純なものも愛しています。
 面白いゲーム教えてくれたりデータを見せてくれたりと、とっても魅力に溢れています。
 器用、感覚、習得、工作、機械の扱い、探知に恩恵があり、罠解体のスキルをギフトとして得られます。

 ラプラス
 確率の神。ギャンブルだとかそういうものを好む人々に愛される神様です。
 ゲーム全般大好き。ルーエルちゃんともよく色々ゲームやるのですよ。どのゲームも強さはパネェですけど。
 奉納としてはゲーム類、カード、他色々。
 器用、感覚、特に運に強い恩恵があり、更に運気アップのスキルをギフトとして得られます。
 強い装備も手に入れやすいです。

 ナヴィ
 案内と測量の神。ルーエルちゃんとは親交がないのでイマイチよくわかんねーです。今度デウスに聞いてきます。
 奉納は地図や測量器具、又はダンジョンの地図を埋めること。隠し部屋とか見つけるとポイント高いらしいです。
 ちなみに職業の神は他にも居ますが、グラフーインにおいては大元の迷宮の特性上、ナヴィ信仰されたと見て間違いないと思います。
 
 エルアライラー
 知恵と策略の神。北欧神話で言えばロキ。もし神々同士で戦争が起こったら発端は間違いなくコイツ。
 悪戯を好み、人を嵌めたりと迷惑ですが、味方につければ頼もしい神様です。
 器用、感覚、魅力、交渉、窃盗に恩恵があり、幻惑への耐性と幻惑効果を及ぼすギフトを得られます。
 ちなみにコイツとゲームやると間違いなくイカサマするので、別の意味で注意が必要。

 ファウストゥス
 魔術の神。魔術の中でも特に錬金術や召還術に恩恵があります。
 一言で言えば頑固で欲望に忠実という近寄りがたいジジィでしたが、仲良くなったら興味深い事象や話、魔具などをみせてくれたりと良い神様でした。
 上記のほか、魔力や魅力、習得等に恩恵があり、何かしらの秘術をギフトとして得られるそうです。

 ヨグ
 知識と時間と空間の神。
 かつては近寄りがたく知性に溢れ偉そうなおばあちゃんだったのだけど、気がついたら幼女になっていた。
 何を言ってるかわからねーと思うがルーエルちゃんもわからなかった。正直思考が止まりそうになった。
 でも今のあっぱっぱーになった彼女とはゲームやらアニメやらで盛り上がれるのでこっちのほうが好き。
 魔力、習得、耐久に恩恵があり、ギフトとして何かしらの秘術を渡してくれるんだそうですが、この辺どうなってるんだろ。
 もしかするとウムルさん辺りが代行してるのかもしれないです。あ、ウムルさんってのはヨグの付き人のような神のことだけど。


 他にも多数居ますけど、ルーエルが多少知ってる神々はこんな感じです。 
  

 
 種族について
 この世界には様々な知的種族が存在します。
 そのほとんどは二足歩行型ですが、中には四足歩行だったり地面を這いずる怪物としか思えない知的生命体も存在します。
 この辺は別世界からプレイヤー呼び込む以外にも 迷宮世界という特色上、様々な形で種族が進化を遂げた結果だったりするのです。
 種族の特色は色々ありますが、偏見で嫌悪したりすることの無いようお勧めします。
 以下に、この世界で多い基本的な種族を紹介します。

 人間
 凡庸でありながら、様々な可能性に満ち溢れた種族です。
 てかえーじもこれですし説明とか不要だと思うの。

 狼人
 狼としての瞬発力と牙を持った種族です。戦闘は苛烈で、基本的に近接職が多いです(何処にでも例外はいる)
 そのほとんどは二足歩行ですが、種族によっては四足歩行の狼人も存在します。
 似たような種族で猫人と呼ばれる種族も存在しますが、基本勝手気ままで群れを大きくすることは無いため、数は少ないです。

 オーク
 非常に腕力があるものの、性格は愚鈍で正直言って能無しです。
 それゆえ、ほぼ間違いなく近接職でありリーダーには向いていません。
 性格も容姿も下品で粗雑なのが多いです。豚とか言うとぶひぶひ怒るのでやめましょう。君子危うきに近寄らずという名台詞もあります。

 森人
 みんな大好きエルフです。人間よりも非力ですが魔力に長けています。何故か美形が多い。
 木々から生命とマナを吸収できるという特性もあるため、迷いの森等の木々によって作り出される迷宮は随分と楽になること請け合い。
 黒いのも白いのも居ますが、基本エルフはエルフです。あとなんか偉そう(笑
 我々から見ればみんな…ってこれは失言ですね。
 ちなみに、火の魔法を使ったり、デウス信仰するようなエルフは本当稀です。

 小人
 小さい人。こう呼んでも怒られたりはしません。向こうも大きい人とか言いますし。別名はハーフリング。
 身長は60~120cmくらい。手先は器用ですが、反面力は人間に比べ大きく劣り、近接系統の職を満たせる小人は少ないです。
 小人の中でも一番特色があるのは何と言ってもホビットでしょうか。有名ですし。
 他と違ってホビットだけは足裏の皮が厚く、毛に覆われているので、靴をはくことはありません(他の小人は靴をちゃんと履いています)
 基本的に好奇心旺盛で、小人の中には気がついたら店から何かを盗んでいたという事柄も少なくないため、小人は盗人という偏見で見られることが多いです。
 でもPT組むことになったら注意した方がいいですよ!悪気が無いだけ始末が悪い。

 ドヴェルグ
 別名ドワーフ。ずんぐりむっくりな体型。大きな力と器用さを併せ持っています。
 典型的ドヴェルグは鍛冶屋や細工屋を営んでおり、地下に住むことを好みます。
 男のドワーフはその立派な髭を惜しみなく見せてくれることでしょう!

 翼人
 翼を持つ人間です。
 大きく分けると二種族あり、蝙蝠のような羽と鳥のような翼に分かれますが、種族の性能としての違いはありません。
 翼だけでなく、身体も羽毛や毛に覆われている場合もあります。
 体重は軽いですが力が無いということは無く、戦士としての力も十分発揮できることでしょう。しかも飛べる。ずるい。

 蜥蜴人
 こう呼ぶと怒られるのでリザードマンと言ってあげましょう。
 人間が猿というかそこから進化した動物であると同様、こちらは恐竜から進化した種族です。
 表皮は堅い鱗に覆われているため、他の種族に比べて頑丈です。 
 寒がりですが、別に温度を調節できないとかそういった事柄は無いようです。
 稀に翼を持ち、非常に大きな魔力を秘めた個体が生まれることもあります。
 また、小柄な蜥蜴人のことをコボルトと呼びます。

 ゴブリン
 鱗を持たない蜥蜴人であり、最も人間に近い凡庸さを誇ります。
 正直いって人間とかわんねーです。

 頭人
 種族的には蜥蜴人と同様の進化の過程を持った個体です。
 頭が大きく、灰色の肌に覆われています。その身体の構造からか頭が良く、魔法使いや機工師等に向いています。

 妖精
 透明な四枚羽根を持つ種族であり、小人と同様か少し低いぐらいの小柄な身体を持ちます。
 非常に非力で、近接職を満たせる妖精はほとんど居ないでしょう。
 反面魔力に優れており、妖精のほとんどが強力な力を持った魔法使いになることが多いです。
 体重は軽く、背中の羽根を震わせて空中に静止することも可能です。


 プレイヤーについて
 えーじの他にも僅かですがプレイヤーは存在します。
 親交するのもいいかもですね。他と違った特殊なスキル持ってること多いですし。
 ただし、プレイヤーキラーとなったプレイヤーも勿論居るので注意。
 プレイヤーキラーには二種存在し、装備目的と、相手の肉体目的とあります。奴隷的な意味でも性的な意味でも食事的な意味でも。
 属性アライメント判断が有効となるので、お金に余裕が出来たら買っておくといいでしょう。


 迷宮について
 この世界には数々の迷宮が存在し、深層には強力なボスモンスターが待ち構えています。
 10階に満たない場合がほとんどですが、それ以上に深かったり高かったりする迷宮も存在します。
 基本的に迷宮は踏破されると暫く残った後忽然と姿を消しますが、中には踏破後も残り続けるダンジョンもあります。
 例として、グラフーインの大迷宮なんかもそんな感じです。
 以下に、基本的な迷宮の形を紹介します。

 迷いの森型
 木々が迷宮をつくっているもの。
 とにかく広く、階層があったとしても浅い。
 食料は得やすいが、火の道具や魔法を使って大火災を引き起こし、自らの炎で焼け死んだ冒険者も少なくないです。

 塔型
 塔の迷宮。通常は登っていくタイプだが、外見は飾りで地下へと潜っていくケースもある。
 迷宮内で食料を得ようとは思わないほうがいいでしょう。

 洞窟型
 最も基本的な迷宮であり、地下へと潜っていく迷宮。

 砦型
 塔よりも広いが、階層は少ない迷宮。
 幾つかの小部屋が連なっており、中にはモンスターがぎっしりと詰まったモンスター部屋に遭遇することも少なくない。
 あと塔と同じく食料はと思いきや、以外と発見することも多い。生ものは腐ってるかどうか確認してから食べましょうね。

 ポータル型
 入り口に立つことで転送され、迷宮へと送られる。
 上記のどれにも属しない迷宮である可能性もあり。

 迷宮のランクについて
 迷宮にはそれぞれランクが存在し、それに応じた接頭がつけられます。
 基本高いランクの迷宮に自身がいたっていない場合警告メッセが出るのでそれを参考にすると良いでしょう。
 まずは無理をせず、最初の、始まりの、安全な、初心者の、初級のから始めて次第に難しいのに挑戦していけばいいと思うです。
 とにかく無理をしないことです。大事なことなので二回言いました。

 迷宮のお得な使い方
 迷宮内では排泄行為が省略されます。
 これを利用して腹を壊した冒険者が迷宮に駆け込み、少し経ってから外に出るなんて使い方をする冒険者も!
 ちなみに省略されるのは排泄行為のみであり、食事を取らないと普通に餓死するので注意。餓死は正直一番かっこ悪い死に方だとルーエルちゃん思うです。


 コマンドについて
 この世界で使うことのできるコマンドです。条件を満たすことで増えていきます。
 表示されたウィンドゥは人に見せることが出来ません。
 以下、基本的なものを記します。

 コマンドステータス
 自身のステータスを見ることができます。もっとも重要でもっとも大事なコマンドです。

 コマンドタイム
 時間を知ることが出来ます。とある魔具を入手後、ロックが外れます。

 コマンドマップ
 地図を見ることが出来ます。とある魔具を入手後、ロックが外れます。

 コマンドタウンガイド
 町でのみ実行可能なコマンドです。その町での情報や各種募集、また依頼等を確認することができます。
 町によってはこのコマンドが使えないところも存在します。

 コマンドヘルプ
 ルーエルちゃんの極秘マニュアルを開くことが出来ます。

 コマンドQ
 自身に向けた核ミサイル発射ボタン。押したら死ぬ。使用禁止。


 もし何か疑問があれば、以下の書き込み欄に書いておいてくれると助かります。
 確認次第項目を追加しておきます。
 でもあんまり基本的な事柄を質問君されますとルーエルはぐぐれって返しますので多少は調べてくださいね。
 愛を込めて。








 後書き
 こういう設定つくりって疲れるけど楽しいですよね。




[15304] はじめてのめいきゅう
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/18 01:20





 「ふむ」
 と俺は呟き、多少突っ込みどころのあるマニュアルに一通り目を通した後、ヘルプ窓を消した。

 にしても核ミサイル発射ボタンときたか。使った瞬間転移スクロールでも破けば凶悪攻撃できるんじゃね? 等と妙案を浮かべること暫し。
 もっとも普通に比喩表現だと思うので、それを行おうとした瞬間、普通に死ぬだろうけど、と自問自答しつつぼふっとベッドへ倒れる。

 ごろりごろり。ごろごろ。

 流石に二度寝する気にはなれなかったので、起き上がり、昨日中途であったバックパックの整理を再び開始。
 とそこで昨日取り出したローブの存在を思い出し、スーツを脱いでローブを装着。

 これしわにならないかな、とそんな考えに自身でも苦笑しつつ、スーツをバックパックへと仕舞う。

 にしてもまだかなぁ。と俺は思った。
 まだかなというのは昨日の約束のことである。
 未だこの辺の地理がわからないので待ち合わせはどうしようかと言ったところ、ミュレンさん曰く、では私が朝方迎えに、とのこと。

 そういうわけで宿から出るに出られないわけである。
 何しろ、何時来るかわからない状況なわけで。
 再びぼふっと仰向けにベッドへと倒れる。

 「コマンドタウンガイド」
 暇つぶしに町専用のコマンドを実行。その項目の中の一つ、『提示版』を実行する。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 1.依頼
 2.募集
 3.雑談

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 「2」
 更に選択実行。すぐさまウィンドゥが複数に分かれ、様々な募集情報が書き込まれた後、俺の周りに表示される。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 急募)不帰の迷宮内にて、魔法耐性を持つゴーレムと遭遇。対抗できる攻撃力の高い近接職を至急求む

 求む)こちら冒険の塔探索程度の実力です。同じくらいの方、初心者の迷宮に飽きてきた方、一緒に如何ですか?

 急募)一週間後のパーティーのために、とにかく美味しいお菓子をつくれる職人を探してるんだ。我こそはと思う方連絡を

 募集)とある迷宮内において、意思を判別するためのルーンを鍵とした扉を見つけた。おそらく40以上で開くと思うが定かではない。
    40以上且つ、一緒に潜ってくれる方連絡を。

 募集)迷宮内において数分の間幾つかの敵を無力化する技術――所謂クラウドコントロールの可能な術者を探している。
    実力は不問だが、迷宮内に何度も潜った術者であることが望ましい。

 急募)イエーイ!のってますか? 私はいつになくハイテンションですわよ!
    近く開くパーティーの席で楽しませてくれる芸人を募集してるわ!
    見事パーティーの席を盛り上げることが出来たら幾つかの報奨金を支払いますわよ!イエーイ!

                                                               (次

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 最後のテンションの高い書き方は何だと思いつつも、他の募集要項へと目線をずらし、

 コンコンとノック音。
 「私です、ミュレンです。えーじさん起きていらっしゃいますか?」

 「あ、はい」
 そう応えて、俺はベッドから跳ね起き、ロックを解除し、ドアを開ける。

 「お待たせしました。……あら、それがえーじさんの探索用の服装ですか? 昨日今日ですというのに随分と新鮮な感じを受けます」
 開口一番に、ミュレンさん。
 「可愛いです」

 「こちらこそ、随分と予想外というか新鮮な感じを受けますよ」
 苦笑しつつ、俺は応える。

 というのも、ミュレンさんの全身は頭以外頑丈な鎧に包まれていたからであって。
 
 にこっとミュレンさんはその格好にそぐわない柔らかな笑みを浮かべると、
 「それじゃあ行きましょう。迷宮の方は迎えに来る途中予め調べてきました。そういえばえーじさん食料の方は?」

 その質問に、はっとヘルプ項目の一つを思い出し、
 「そういえば忘れていました。迷宮内は食料の問題もあったのですね」
 
 「そうです。冒険者の中である程度場数をこなした人でも、場合によって苦しむ事が決して少なくないのが食糧問題ですからね。
 ……と言っても、今回に限るならば駆け出しの冒険者のための迷宮なので階層はそんなに多くないですし、大丈夫かとは思いますけど」
 そう言ってウンウンとミュレンさんは頷き、
 「余分に持ってきましたから私のを分けてもいいんですけど、こういうのは最初が肝心ですからね。適当に買いだしに行きましょう」


 その提案に俺はこくりと頷き言った。
 「はい、よろしくお願いします」










 迷宮世界








 食料はなるべく腐りにくいものを選ぶと良い等と幾つかのご教授を得、食料を買い込み店を出た後、

 「コマンドマップ」
 と、ミュレンさんが呟いた。
 「初心者の塔、るーとかく……ってあら」

 「どうしたんですか?」
 俺は尋ねた。

 「あ、えっとえーじさん。そのですね」
 コホンと咳払いをしてミュレンさんが言った。
 「見つけておいた迷宮ですけど既に踏破されちゃったようです。ちょっと検索しなおすから待っててくださいね」

 そう言って、なにやら呟く。
 「検索条件初級、迷宮。グラフーイン近辺」

 「コマンドマップってそんなこともできるんですか?」
 少し驚きつつ俺は尋ねた。というのも、そんな検索機能があるとは思ってなかったからで。

 くすりとミュレンさんが笑い、
 「便利でしょう? この地図拡張機能もナヴィ様の恩恵でして。検索した後そこの場所への案内もしてくれるんですよ」

 もしかしてナヴィって名前はナビゲーターからきてるのかなぁ等と今更思い当たってみたり。

 「近辺該当までのルートを……ってあらやだ。これも踏破済みじゃない。えっと検索条件初級、未踏破、迷宮……」
 等と呟くミュレンさんを眺めていると、

 「あの……」

 「ん?」
 突如かけられた声に振り向く。

 「お姉さん冒険者ですか?」
 見ればそこにはとても綺麗とは言い難い身なりの男がいて、

 思わず触れられたくないと半歩後ろに下がり、
 「あ、まぁ」
 と、戸惑いながらも応じる。

 「お願いです。お金が無くて今日食べる食事も無いんです。どうか、どうか少しでもお金か食料を」

 さてこの人はなんだろうかと、少し考える。おそらくでもなく乞食だろうなと認識。
 にしてもわざわざなんで俺に向かってきたのだろうか。お人よしそうな顔でもしていたかしらん?
 残念ながらお金は逆に貰いたいところではあるのだし、この食料自体大事なものであって。

 等と考えつつも目線をずらせば、道行く人に何かを言いながらついていく小汚い人をぽつぽつ見ることができ、別に俺だけではないみたいだと確認できた。
 「ごめん、悪いけど」
 そう断りつつ、未だ虚空に向かって操作をするミュレンさんへと目線をずらし、

 「お願いです。少しで……少しでいいんだ」
 等とローブを掴んでくる乞食の男。

 面倒くさいことになったなと思いつつも、ほんの少しの食料ぐらいなら……と、思い直した直後、

 「お待たせしましたえーじさん……って何を遊んでいるんですか?」
 俺に縋る乞食を見て、首を傾げるミュレンさん。何時の間にやら長い槍を手に持っており、

 「いやーそのー」
 見てその通りの状況かと。

 「お姉さんお願いします。ほんの少しです。ほんの少しでいいんだ。ほんの少しのお金で……」
 そう言って、乞食の男は俺のローブから手を離し、矛先をミュレンさんへと変える。

 まぁ、ミュレンさん雰囲気柔らかいし、なんとなく恵んでくれそうなオーラでも感じ取ったのだろうか等と考えつつ、

 ミュレンさんは少し困ったような顔をして、
 「あの、邪魔です」
 眉一つ変えずにその槍の柄部分で乞食の頭を払った。

 「ぎゃっ」
 見た目より込められた力は強かったようで、吹っ飛ばされ、乞食はそのまま倒れ、動かなくなる。

 うわー。

 ちょっと予想外のことが起こった為、少々思考停止しつつ、倒れ伏した乞食を見つめる。

 「んー、少し遠いですね。馬でも借りていきましょうか。そういえば、えーじさん馬にはのれますよね?」
 何事も無かったかのようにミュレンさんが言った。

 「え?あ、あーあー、えっとすいません。乗れないです」
 と、戸惑いつつも俺は答えた。てかなんなの。この世界ってああいうの普通なの?怖いよ!

 ところが俺の言葉に少し不思議そうな顔をして、
 「それでどうやってここへ? 少なくともえーじさんの私服姿って少し遠出してもみないものでしたけれど」

 どうやら、馬に乗れないというのは非常に予想外であったらしく、
 もっとも謎の魔法使いのバックパックを丸ごと分捕ってきたとは言い辛いわけで。

 「あー、えっと、その」
 俺は少し考えて、
 「バイクってわかります?」
 さて、バイクをどう説明したものかと考えていると、

 「あ、成程。えーじさんはそちらの出身ですか」
 何やらわかったのかにこっと微笑み、
 「生憎グラフーインではバイクは流通していませんので……仕方ないですね。ちょっと力のありそうな馬を借りて二人乗りで。行きましょうか、えーじさん」  
 
 それに頷き、ちょっと心配になって目線をずらしたところ、
 ふらふらしながらも離れていく乞食の後姿を見て、ほっと胸をなでおろした。







 * * *








 顛末。

 「もう少しでつくっぽいです」
 そんな声の後、パカラッパカラッという音と大きく激しい揺れは次第に緩やかになった。
 想像以上に馬って振動が激しいのだなぁと思いつつ、ぎゅっとミュレンさんの固い鎧にしがみついていた自身の身を少し起こし、景色を眺めた。
 するとそこには低く露出した崖のようなものがみえていて。

 その崖沿いにゆっくりと馬が足を進める。
 はたして少しばかりざりっざりっと音を聞きつつ馬に乗っていると、ぽかっと空いた迷宮の入り口を見つけることが出来た。

 迷宮とはどんなにおどろおどろしいものなのであろうかと色々想像していたのだが、
 その入り口といえば前から存在していたかのような、特におどろおどろしさは感じない普通の洞穴であって。

 ただこの世界の迷宮はふとした瞬間にいつの間にか現れるもののようで、
 だからきっとこの洞穴も最近、それこそ先ほどミュレンさんが検索した数分前にできたものなのかもしれない等と不思議な気持ちに浸ること暫し。

 「それでは早速行きましょう。準備はいいですか?」
 そんなミュレンさんの言葉に頷き、洞穴へと足を踏み入れようとして、


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ここ は 初級の洞窟です。
 この迷宮 は 既に踏破済みです。それでも構いませんか?

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 「あ、あら? もー折角馬まで借りたのに……」
 そんなことをミュレンさんが呟き、
 「仕方ないなー。ま、目的は地図埋めとえーじさんの迷宮講座ですし」
 そしてにこっとこちらをみて微笑み、
 「踏破されちゃったのは残念ですけどでは改めて頑張りましょう。えいえいおー」

 「え、えいえいおー」

 なんて可愛らしい激に応じつつ、俺は迷宮へと足を踏み入れた。









 後書き
 技(ネタ)を借りるぞ天津飯!
 もとい、次回迷宮探索です。





[15304] 暗い迷宮の中へと
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2013/04/18 21:05



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 あなた は 暗い迷宮の中へと足を踏み入れた。
 
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 一瞬奇妙なログを見た気がしたのだが、生憎それは気のせいのようだった。
 はて、と思いつつも、先を行くミュレンさんの後へと続く。

 洞穴の地面は何かに整備されたかのように平らな道であり、
 成程。この洞穴はまさしく自然にできたものではないのだなぁと感じること暫し。

 入り口から離れるにつれ、光源は遠くなり、次第に周囲は暗くなっていく。
 こんな場所で探索できるものなのかと疑問を抱いた瞬間、

 「迷宮の中でも」
 足を止めてミュレンさんが言った。
 「洞窟型の迷宮には光源がないことが多いです。そういう自体に遭遇しても問題の無いよう、予め光源となるようなものを買っておくといいですよ」

 こんな感じに、とミュレンさんが何かボールのようなものを上に放り投げた。
 その何かはある一定の位置で空中に留まり、

 ぽわっと光を灯した。

 「それなんですか?」 俺は尋ねた。

 「ランタンです」
 ミュレンさんが答えた。
 「他にも幾つか光源となるようなものはありますけど。私はこれが一番お奨めかも。ほら、松明と違ってそうそう切れることもないですし」

 俺の知ってるランタンとは随分形が違うなぁとそんなことを思いつつ。

 「後、迷宮内では常時地図を出しっぱなしにした方がいいですよ。こう見ての通り、何の目印もありませんから」

 地図?
 「えっと、それはもしやコマンドのことですか? それだと私はまた使えないんですけど……」

 「え? あ。あ、あ、あ、あ、ああ!……えっとごめんなさい、えーじさん。すっかり忘れてました」
 そう言って、くるりと人差し指を回し、


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 ミュレン からトレードの申し込みがありました。


 奇妙な砂時計

 真っ白な地図


 こちらからの提示はありません。この条件で宜しいですか? y/n
 
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 不意にポップアップ。

 「えっと。これは?」
 俺は戸惑いつつ尋ねた。

 「時の砂時計と探索者の地図。……主教様から差額、だそうです。あ、一応これも」
 その言葉と同時、

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ミュレン からトレードの申し込みがありました。


 時の砂時計

 探索者の地図

 ランタン


 こちらからの提示はありません。この条件で宜しいですか? y/n
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 先ほどのは未確定名称であったのか、修正。ついでにもう一つアイテムが追加された。
 「『y』」
 呟くと同時、ポップアップが消える。

 「えっと。それで多分ロックは外れると思いますけれど」
 ミュレンさんのその言葉に従い、
 
 「コマンドマップ」
 と俺は呟いた。
 

 ---
 % +#####@F##
 ---


 一瞬奇妙な記号が見えたが、それは気のせいだったようで。
 改めて地図を確認。

 ―――
    |――――――

        
    |――――――
 ―――

 青い囲いの左端に水色のがあり、その青い囲いは僅かに右に伸びており、その途中で緑色のと黄色のが連なっている。
 この水色のは入り口か。で、この青いのは探索済みの場所で、この緑が俺、で、黄色のがミュレンさんかな。
 成程トルネコやシレンのような地図なのだなと、ふと懐かしいゲームのことを思い浮かべること暫し。

 残念ながらこれは現実なわけで。
 これがVRMMOとかだったら興奮したのになぁと溜息を吐いた。

 「コマンドタイム」
 さて、もう一つのコマンドを使ってみれば、

 ▽
 ■
 △

 こんな感じの形の砂時計が空中に投影された。
 真ん中の砂は大分残っている。おそらく今は昼に入ったばかりと言ったところか。
 迷宮生活なんかしてると時間の概念なんてこんなものでもいいのかもなぁ等と思ってみたり。

 「ありがとうございます」
 俺はお礼を言った。

 「お礼なら主教様に。あ、でもランタンの分は受け取っておきますね」
 えへっとくすぐったそうに微笑んだミュレンさんに多少見とれつつ、俺達は再び足を進めた。










 迷宮世界










 「にしても」
 暫く歩いた後、俺は言った。
 「モンスターとか出ませんけど、こういうのって普通なんでしょうか」

 なんて退屈なところなんだ。
 そんなことを思ってしまったのも仕方のないことだと思う。

 迷宮の中というものは非常に危険な場所で、歩いていればすぐ様モンスターと遭遇する。そんなことを考えていたのであって。

 「真逆」
 と、ミュレンさんが言った。
 「おそらくこのダンジョンが踏破済みだからでしょうね。踏破されるとモンスターの沸き方は激減しますし。
 とは言っても油断は禁物ですよ! 一瞬の油断が命取り。迷宮はそんな場所なんですから」

 確かにその通りだとは思うものの、こう何もなくては気が緩むのも仕方のないことであって。
 だから、

 不意にカチャッと何かスイッチのようなものを踏みつけ、
 「え?」

 「あ」
 そんなミュレンさんの呟きを聞き、


 一瞬にして真っ暗になった。


 見えるものと言えばポップアップされてる地図と空中に浮かぶ砂時計だけ。
 少し焦りつつも地図を見れば、先ほどとは全く違う場所にいることを確認。
 階段や青いマップは見えるものの、ミュレンさんを表す黄色のは見当たらない。

 どうやらテレポートの罠にでも引っかかったようだとそんな事を思いつつ、
 『壁の中に居る』状態にならなくてよかったとほっとすること暫し。流石にそんな凶悪なテレポは無いと信じたいが。

 とりあえずランタンをバックパックの中から取り出す。
 奇妙なことにドラちゃんよろしく、整理した後のバックパックからは『あれ』を取り出そうと思うだけでそれを取り出すことが出来るようになったのだった。

 こうして触ってみるとランタンはつるっとしていてガラスの球体の様な感触で。
 とりあえずポンと上に放り投げ、光を求める。

 うおっ眩し。

 真っ暗の中で突如光が生まれたせいか、一瞬目が眩んだ。
 目を閉じ、光を馴染ませ瞳を開ける。気のせいか、ミュレンさんのランタンの光よりも明るい気がしなくもない。
 そこで自身の能力を思い出し、ああ成程と頷き、

 「ゴァァァァァァァァッ」
 と、そんな唸り声を聞いた。

 ハッとしてその声の方向へと振り向く。
 そこに居たのは二足歩行の奇妙な小柄の生き物だった。
 全身緑色の肌。よくよく見れば鱗のようなもので覆われており、それ自体は町で見たリザードマンに多少似ているかもしれない。
 耳は俺と同じところから生えているものの随分と長い。顔自体もひょろりと長く、頭だけならまるで犬のようにも見える。
 その姿は何処か愛嬌があるもので。

 「グゥゥゥゥゥ」
 と、唸る。

 こちらを見つめ、背中を丸め、僅かに唾液がこぼれる。
 愛嬌があるとは言ってもそんな仕草はどこか怖さを感じさせるもので。俺は少し後ろへと後ずさりしてしまった。

 「グフ」
 と、そんな俺を見てその生き物は笑い、こちらへと歩き出す。

 「待て。落ち着こう。まず大事なのは話し合うことだ」
 後ずさりをしながら宥めるようにその生き物へと言ったが、

 「グルァ」
 生憎通じていない様で、その生き物は牙を剥き出し、速度をあげ、こちらへと向かってくる。

 「糞」
 俺は一声上げ、剣の柄へと手をかけた。

 噛みつき、引き裂かんとばかりに剥き出しにされた牙と爪。
 その生き物が飛び掛るように俺へと走る。既に剣を抜いている暇はない。

 ならば、と俺はそのまま、
 「ヤッ!」
 と胴を斬り払うように剣を抜く。

 随分と年月は空いていたものの、咄嗟に上手くいった自分の居合いに忘れないものだとどこか心の片隅で思うこと数瞬。
 ざくりと剣がその生き物の腹へと達し、

 その生き物の勢いに負け、ぐるりと自身の身体が回り、その力に右手だけでは耐え切れず、剣はそのまま右手から離れてしまった。

 「ギャイン」
 と、犬のような悲鳴をその生き物があげる。

 カラン、と剣が落ちる音。
 しかしその一撃は致命傷とまではいかなかったらしく、その生き物は爛々とした瞳で俺を見つめてくる。

 手元には武器がない。不味い、と俺はローブの胸元に手を入れ、咄嗟に試験管に入った毒薬を取り出し、投擲。

 試験管は*ガシャン*と音をたて、そのままモンスターの斜め横へと落ちた。
 俺の馬鹿。

 そいつの後方にある銅の剣を見ながら、俺は回るように後ずさる。
 どうにかしてあそこまでいけないものか。
 
 カチャリ、と何かが踵に当たる。
 おもわず目線をずらす。

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 青銅の剣が落ちている。
 
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 しめた、と俺はその剣を拾う。

 それを好機と見たか、単に背を屈めたことで弱くなったと感じたのか、
 「グルゥアゥアアアアアア」
 と、強い叫び声をあげ、その生き物が再び向かってきた。

 一瞬その声に寒気を覚えたが、俺は心を落ち着かせ、剣を正眼に構える。
 自身の剣先が緊張で震えるのが見える。落ち着け落ち着け落ち着け。緊張を抑え、揺れを留める。
 敵が間合いに入、
 「突きぃぃぃぃぃぃっ!」
 そのまま相手の喉元へと剣を突き出した。

 ズニュッと柔らかな何かを突き通すようなその気色悪い感覚を感じ、

 コヒュッコヒュッと、突き刺さった喉から吐息を漏らす奇妙な生き物を見て、

 まるで悪夢でも見ているかのよう。そんなことを思い、


 「はっ」
 と俺は吐息を漏らした。

 次の瞬間その生き物は砂のように崩れ、空中へと溶けていく。
 *カラン*と音を立てて、何かが落ちた。

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 金属の腕輪が落ちている。
 
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 それを拾い、乱れる吐息を抑え、胸の中を巡る気色悪さを抑えつつ、「鑑定」と呟く。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は 銅の腕輪 であることが完全に判明した。

 銅の腕輪 [0,1]

 それは銅で出来ている
 それは酸では錆びない
 それはDVを0あげ、PVを1上昇させる
 
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 少しは足しになるらしいと俺は腕輪を身につけ、銅の剣を取りに行く。
 青銅の剣を地面に置き、銅の剣を取ろうとして、

 あれ?
 奇妙な違和感。

 青銅の剣を置こうと手を離したのだが、それは手にくっ付いたかのように離れない。

 「真逆」
 俺は焦りつつ呟いた。
 「鑑定」

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は 呪われた青銅の剣 であることが完全に判明した。

 呪われた青銅の剣(2d5+1)

 それは青銅で出来ている
 それは酸では錆びない
 それは呪われている
 それは(2d5+1)のダメージを与える(貫通率5%)
 それは習得を3下げる

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 「嘘だろ」

 そんな俺の焦った声はむなしく洞窟に響いた。


 

  







 後書き
 間違って書いたの一回消しちゃったい><
 2013 4.18
 今更ながら地図が抜けてたの気がついたので追加しておきますね



[15304] エンカウント
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/18 01:54






 どうしよう。
 どうすればいいのだろう。

 正直頭の中はいっぱいいっぱいである。何しろ手から剣が離れてくれないというのは現代人であった俺にはより焦りを呼び起こすもので。
 左手を開けたまま軽く手を振る。だが剣は左手に吸い付いているかのように離れることはない。
 ひんやりとした冷たさが、左手へと伝わる。

 一応、柄を持つ位置は変えることができるらしいが、左手から右手に持ちかえるということはできない。
 剣の持ち方的に、左手に装備されたと認識されたのだろうか。両手から離れないという事態にならなくて良かったと少しほっとする。
 鞘に入れてみればなんとかなるかもと思いつつ、腰に差してた鞘へと入れてみようとしたが、合うわけも無く(服は縮んだのでもしやと思ったのだが)、
 無論、例え入れることが出来たところで手が離れる保障などどこにもないのだけど。

 ちなみにこのアイディアはアヌビス神のワーンシーンが頭に過ぎったので、もしかしたらと思ってやってみたのである。そもそも鞘が合わなかったのだが。
 閑話休題。

 「どうすんだよ……これ」
 あまりのことに俺は呟いた。

 洞窟から出た後もこのままなのだろうか。抜き身の剣を見ながら俺は考える。
 だとすると日常生活で不便を強いられると言うのは想像に難くないわけで。

 「コマンドヘルプ」
 呟き、マニュアルを開く。前見た時と文面は同じようで呪いへの対処法は書かれていない。
 マニュアルの最後の書き込み欄へと人差し指を触れ、「呪いの解き方」と呟く。

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 「呪いの解き方」 この文面をマニュアル管理者へと送りますか? Y/N

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 「『Y』」と俺は言った。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 送信は無事行われました。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 そんなポップアップを見つつ。そこでようやく落ち着きを取り戻す。
 まぁ、やってしまったものは仕方ない。性能は習得が3下がるってこと以外ならそれほど悪くはないのだし。
 勿論、習得の重要性がよくわからんってのもあったけれども。
 等と前向きに考えつつ、俺は溜息を吐いた。「コマンドステータス」

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 所持金 15G 45S
 カルマ -2

 筋力  5 Great
 耐久  6 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得  8 Great
 意思  5 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 10 Good

 クラス   アイテム師
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.0 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.1 アイテム効果上昇
 状態異常  なし
 
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 おや、装備の呪いは状態異常として表示はされないのか。
 ちらっと右手に持つ銅の剣を見る。

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 祝福された銅の剣(2d5)

 それは銅で出来ている
 それは酸では錆びない
 それは祝福を受けている
 それは(2d5)のダメージを与える(貫通率5%)
 それは運勢を2上げる

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 軽く両手の剣を振ること暫し。叩きつけることはできそうだが、どうにも威力は心細いもので。
 流石に二刀流は無理だなぁ。やったことないし。重いし。
 銅の剣を鞘に収め、バックパックの中へと仕舞う。

 まぁ、呪いのことは後で考えることにしよう。考えてみればこういうのは教会で治せるものだと相場が決まっているものだ、等と楽観的に考えつつ、
 何はともわれとりあえずミュレンさんと合流しなくては。

 地図を見たところ、マップが埋まってるのは入り口から少し歩いたところまで。
 対して、今の俺はといえば左端にある入り口から随分と下の位置である。

 とりあえず入り口に戻るように歩いていれば合流できそうだ。
 そう当たりをつけ、とりあえず方位を確認しようと地図を見ながら少し歩く。
 そこでふと地図の右上に、ゆらゆら揺れている4を逆にしたような矢印のようなものを確認した。もしかすると方位磁石のようなものだろうか。
 そんな事を思いつつ矢印の位置に身体を向けて少し歩いてみれば、がちゃんと上のほうに動いてくれた。

 それに気をよくして歩き始める。
 と、そこへ。

 ドン、と何かボールのようなものが身体へとぶつかってきた。

 「―――っ」
 多少の痛み。それほど強くはなかったものの、びりっと肩が痺れる。

 *チチッ*と音。
 見れば大きな蝙蝠が俺を見定めるように旋回しており、

 再び俺へと向かって突進する。
 「ちょ」
 一声上げ、それを避けるように半身をずらす。

 だがその大きな蝙蝠は起動をずらし、
 「うっ」
 *ずん*と左脇腹へとぶつかった。

 拳で殴られたかのような痛みに、若干顔を顰める。
 蝙蝠は再び空中を旋回。
 「なめんな!」
 再び突進してくる蝙蝠に向かって剣を構える。

 突進してきた蝙蝠へと一足踏み込み、叩き落そうと剣を振る。
 ジャストミート!そう思った瞬間、

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 青銅の剣 は突然軌道を変えた。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 
 「え、ちょ」
 不意に剣が横にずれる。

 当然蝙蝠は剣に触れることなく突進し、

 がいん☆ と星が見え、尻餅をついた。
 蝙蝠が俺の顔面へとぶつかったのだ。

 顔を押さえ、立ち上がる。 
 なにやら鉄の味。見れば赤い液体が手にこびりついてるのを確認した。
 どうやら今の体当たりで鼻血が出たらしい。

 「のやろぅっ」
 と俺は空中に旋回する蝙蝠をにらみつける。

 再び蝙蝠が突進。
 俺は激情のまま、先ほどと同じように一歩踏み込み、手首を搾り、小さく剣を振るう。

 ざくりという感触。そのまま蝙蝠は地面へと落下。
 「キキッ」
 と蝙蝠が地面でのた打ち回る。

 「このっ!このっ!このっ!」
 俺はそのまま三回ほど足でその大きな蝙蝠を踏みつけた。

 それがとどめとなったのか、ふわりと蒸気のようなものをあげ、蝙蝠は跡形もなく消え去った。
 鼻を抑える。
 くそっ。ティッシュを。
 そんなことを一瞬思ったものの、ティッシュ等というものがないことに気がつき、

 あ。
 そういえばとローブの右胸にいれてある試験管を取り出す。
 栓を抜き、中に入っている液体を顔面から浴びせるように垂らす。

 効果は劇的だった。
 一瞬にして鉄分の味は消え、心地良い冷たさを感じた。
 しゅうっと蒸気。どうにもこの薬は空気にふれると一瞬にして気化するらしい。
 慌てて残った薬を右手へとかける。

 僅かにすりむき血が出ていた右手は一瞬にして綺麗な手へと戻る。
 軽くぎゅっぎゅっと手を握る。
 ファンタジーだなぁそんな事を思い、それから左手の離れない剣を苦々しげに睨みつつ、俺は再び歩き始めた。





 ***





 次に遭ったモンスターは大きめの蛇であった。
 長細い洞窟を歩いていたところ、その通り道にとぐろを巻いた大きめの蛇が鎮座していたのである。

 *シュー*と音を立てながら、その蛇はちろちろと舌を覗かせた。
 それはなんとも嫌な感じを与えるもので。

 俺は警戒しつつ剣を構えながら足を進める。次の瞬間、
 「うおっ」
 咄嗟に俺は払いのけるように剣を振るった。

 俺へと向かって飛び跳ねるように、蛇が空中を舞ったのである。
 だがそれは反射的に振った剣によって切断され、そのまま煙をあげて消え去った。

 「てかあれもモンスターか」
 俺は呟いた。

 ああいうのばかりだと良いんだけれども。
 もっとも、毒ぐらいは持ってそうだなぁ……ていうか持ってるだろうなぁ。
 そんなことを思いつつ、足を進め、

 そこでふと、遠くに明かりが見えた。
 この洞窟の中での照明は空中に浮かぶ奇妙なランタンのみ。

 だとすれば必然的にそれは誰かが居ると言うことで。
 もしかしなくてもミュレンさんだろうか。

 俺は若干顔を綻ばせ、僅かに見える明かりへと足を進めた。










 後書き
 呪われた武器とか装備してるとご飯とか食べずらそうですよね 
 




[15304] 取引
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/22 07:11





 *チチッ*と音。
 その声に反射的に剣を構える。そこにいたのは先ほど俺を苦しめた大きな蝙蝠だ。

 ここであったが100年目とばかりに俺は睨みつけ、剣を構える。
 蝙蝠は空中を狙いをつけるように旋回し、
 そしてスピードをあげ、俺に向かって突進する。

 それに応じて俺はその蝙蝠の軌道を叩き落すように剣を振るおうとしたが、

 蝙蝠はひらりと一回転。叩き落す筈の剣の軌道は僅かに逸れ、蝙蝠の身体を掠めた。
 しかし、それは蝙蝠の攻撃にも影響を与え、俺の右肩を掠めるように蝙蝠が飛んでいく。

 「うざいな、糞」
 空中を再び旋回する蝙蝠。
 そして再度突進。それに応じ、こなくそっと剣を振るう。

 ざくり、と今度はちゃんと命中。そのままべしゃっと地面に落下し、煙をあげ始める。
 ふぅっと溜息を吐いた瞬間、


 「グルゥア」
 と唸り声。

 「千客万来だな。糞。なんでミュレンさんと一緒の時は来ないんだよ」
 等と愚痴りつつ、剣を上段に構えた。

 そこに居たのは犬のような頭部を持った二足歩行の蜥蜴の怪物である。
 考えてみれば、こんな状況に陥ったのは全て――いや、俺が罠踏んだせいだな。
 等と自身で怒りを抑え、迎え討つ。

 「ゴアアアァアァァァ」
 と咆哮をあげ、突進。

 しかし哀しいかな。それはあまり迫力の無いものであって。
 なんてことを思いつつ、牙と爪を剥き出しにした怪物を視界で確認。
 いやそうでもないな、と若干恐々としつつ、
 「めぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
 と、裂帛の気合と共に渾身の力を込め、剣を振るった。

 それは相手の頭へ真っ直ぐに振り下ろされ、

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 青銅の剣 は突然軌道を変えた。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 不意にかかった右横へのベクトルに、剣はその怪物の肩へと軌道を変える。
 「う」
 その急激な変化に、自身の身体も僅かに横に。

 ざくりという感触。
 渾身の力が込められたそれは途中で止まらず、相手の左腕を断ち切り、剣の重さに身体は前へと傾く。

 ドン、と相手の身体が俺の肩へとぶつかる。
 その勢いに若干俺はよろめいたものの、身体が前かがみとなっていたため、転倒は免れた。

 だが小柄な怪物はそうもいかなかったらしい。
 その衝撃にバランスを崩し、ぐるりと回転しつつ、俺の左斜め後ろへと仰向けに倒れた。

 「グギァァァァ」
 と、気味の悪い声をあげながら、地面をのた打ち回る。

 俺は苦々しげに自身の持つ青銅の剣を一瞥した後、
 そのまま肩を抑えながら倒れている怪物へと、無言で叩くように剣を振り下ろした。

 ザクッ、ザクッ、ザクッ
 そんな感触を三回ほど感じ、そこでようやく怪物から煙が噴出し始める。
 なんで俺はこんなことやってるんだろうか等と、岸の向こうの自身を見るような感覚に若干陥りつつ、

 *チャリン*

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 75S が落ちている。
 
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 それを拾い、ふぅっと吐息を吐く。
 そして次の瞬間、*ポン*という音が鳴り、

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 呪いの解き方

 どうしてアイテム師なんて職業に就いてながら呪われてる剣をえーじが装備してるのかまったくもってルーエルちゃんには理解不能です。
 えーじなら呪い装備して自滅することもないだろうなって安心していましたのに。
 ……まぁ、それはいいでしょう。とりあえず現実的な案を簡単に書いておりますね。

 1.迷宮内。あるいは魔法屋で解呪の巻物、もしくはワンドを見つける
 リアルラックになりますけど、一番楽な解呪方法です。強い呪いですと抵抗されたりしますけど。
 見たところそれほど強い呪いでもないようですし、アイテム師のスキルもありますからまず間違いなく解呪出来るでしょう。
 当然の事ながらそれを見つけるために何度か迷宮内に潜ることが必要になります。ワンドは結構レアですが、巻物ならなんとか。
 解呪の巻物はレア度はそれほどでもないですが、需要は高いので魔法屋なんかだとふっかけられますので注意。

 2.高位の魔術師に呪いを解いてもらう
 解呪出来る職は魔術師などの魔法を使える職業のみです。故に、誰かそのような人を紹介してもらうことになるでしょう。
 もっとも可能性としてはどうなんでしょう。何せ解呪の魔法はかなりの魔法の習熟を必要とする魔法です。
 故にそこそこ高位の魔法使いが必要となるのですが……そもそも解呪するためだけに応じてくれる高位の魔法使いなんているんですかね。
 あいつら基本的に傲慢だったり、興味の無いことには振り向かなさそうだし。って魔術の神を見ていて思いました。
 あ、でも金で引き受けてくれる貧乏魔法使いとか中にはいるかもですし、根拠の無い事柄には口を噤んでおきますね。

 3.自身が信仰する神に祈る
 もし十分な捧げ物を行ってる等、奉納点が溜まってる状態で祈ると、その神が浄化してくれたりするやもしれません。

 いっときますけど教会で呪いとか解いてくれたりはしないので。そこだけ予め。
 てことでえーじの幸運を祈っています。愛を込めて。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 突如ポップアップが飛び出した。
 内容を見て仕事が早いなと感心したものの、中身は明るいとは言えないもので。

 溜息。
 となるとリアルラックに掛けるしかないというのか。ただここは踏破済みなわけで、先に潜った人が居るというわけで。
 だとすると今回に関していえば見つからなさそうだなぁ。
 そしてじっと左手の剣を見る。
 少しだけ長い付き合いになりそうだなぁ相棒。頼むからちゃんと言うこと聞いてくれよ?等とわけのわからないことを考えること暫し。

 そこではっとあることに気づく。
 てか俺アイテム使ってねぇよ。


 段々と明かりが近づいてくる。遠くに僅かに見えていた光は、もはやすぐ傍のようだ。
 少し広い空間に出た。ほんのり開放感を感じつつ、

 とそこで分かれ道。前方が大きな石の壁によって塞がれていたのだ。光が見えるのは右の道かららしい。
 「ミュレンさん?」
 俺は彼女の名前を呼びつつ、右の道へと足を進めた。

 暫く壁に沿って歩くと、再び分かれ道。
 右への通路と、なにやらぐるっとまわるような左への道である。
 もしかしなくてもどっちの道を行っても同じことだったのかなと思いつつ、足を進めようとしたのだが、明かりが見えない。
 おや?と思って後ろを見れば、俺が先ほど通ってきた道から光が漏れているのが見えた。

 おかしいな。どこかに明かりのようなものでもあっただろうか。
 俺は道を引き返す。

 そういえば、と空中に浮かぶランタンへと目を向け、右手を伸ばす。
 するとそれを察したかのようにランタンは高度を下げ、俺の右手へと乗り、明かりが消えた。
 なんとも便利なものだ。てか、
 「これランタンじゃないだろ……」
 と、俺は呟いた。もっと別の照明器具である。魔法というかSFというか。

 照明が無くなり、辺りは闇に覆われた。
 と言っても真っ暗闇ではない。何故なら光源があったからだ。
 そう、直ぐ傍の右の*石の壁の中*から。

 「もしかして……」
 俺は呟き、光が漏れている壁へと手を触れ、押す。

 すると壁は僅かに後ろへと沈んだ。
 「やっぱり」
 と俺は呟いた。

 あの明かりは壁の中から漏れていたらしい。所謂隠し扉と言うやつである。
 ってことはここは隠し部屋だろうか。


 若干わくわくしつつそのまま力をこめ、体重をかける。
 「おわっ」
 壁はぐるりと回転し、勢いあまって倒れこむように俺はその中へ身体を入り込ませた。










 迷宮世界










 さて、結論から言えばそこに財宝のようなものはなかった。
 あるのは沢山の燭台であり、その一つ一つに火が灯っていた。随分と明るい。
 その中心に何やら物を置く台のようなもの。
 よくよく見ればその台自体が薄く発光している。

 はて、と思いつつ、俺はその台へと近づく。

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 ドルーグの祭壇が据えられている。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 「ドルーグ?」
 俺がそう呟いた瞬間、

 「《如何にも》」
 そんな声が頭へと響き、俺の意識が暗転した。






 * * *





 はっと目を開けると、そこは異質な空間だった。
 何か人工的なもので造られたと思える地面と壁。ごおんごんという機械音。*じゃらりじゃらり*という鎖の音。
 鎖は何かの動力であるのか、たえず動いている。

 その中心に、鎖にぶら下げられた奇妙な生き物が居た。
 肌は薄く紫がかったピンク色。頭とお腹は丸く身体は大きい。そのくせ、手足は棒のように細かった。
 その姿は何処と無くスプーキーEを思い起こさせたが、更に特徴的なのは眉毛のように飛び出た白い角である。
 
 その生き物がぎらりと光る赤い瞳でじっとこちらを見ていた。
 俺はその眼光に押され、一歩後ずさる。

 「ようこそ。プレイヤーとは珍しい」
 ニヤリと笑ってその生き物が言った。

 「プレイヤー?ってことは貴方は」

 「如何にも」
 と、彼は言った。
 「私はドルーグ。商売を生業としている神だ」

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 ドルーグ
 武器商人の神。司るものは交渉と商品。信仰時には力と魅力、交渉にボーナスを加える。
 自身もまた商人であり、遭遇した場合強力な武具を手に入れられる重要なチャンスとなるだろう。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 不意に出たポップアップに目を通しつつ、神にも色々な姿があるのだなと思うこと暫し。

 「えいじです」 俺は名乗った。

 「ふむ。時に困っているようだね。どうだろう。もし良ければその剣と君の持つ銅の剣をセットで引き取って差し上げるが」

 「引き取る?」
 俺は尋ねた。

 「然り。その剣の呪いを解く*代価*として、その剣と君の銅の剣を頂こう。如何かな?」
 と商売の神が言った。

 呪いが解ける…だと。一瞬嬉々としてそれに承諾してしまいたくなったが、

 「そうしたいのは山々なのですが」
 と、俺は言った。
 「しかしそれをしてしまうと自身の武器が無くなるわけで」
 流石にこの洞窟の中を武器無しで動き回りたくは無い。

 「確かにそれは由々しき問題だな」
 と、商売の神が言った。
 「ではどうだろう。代わりとなる武器を進呈するというのは」

 その声と同時、俺の目の前に一振りの剣が出現する。

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 鉛の刀(4d3)

 それは鉛で出来ている
 それは錆びにくい
 それは(4d3)のダメージを与える(貫通率20%)

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 その性能は、自身が持つ銅の剣や青銅の剣よりも僅かながら強く感じるように見えるもので、

 「ただし、鞘は無いがね」
 と、商売の神は言った。

 むむ。確かに抜き身で持つというのは些かきつい感じがするものではあるのだけど。
 そう思いつつ俺は左手から離れない青銅の剣を見る。
 生憎この状態を維持するよりは何百倍もマシであって、

 「それで構いません」 と俺は言った。

 「宜しい。商談成立だね」
 商売の神はそう言って、鎖にぶら下げられたままこちらへと近づいてきた。

 俺の左手にくっついた剣を持ち軽く引っ張る。
 それだけで、いとも容易く俺を悩ませていた剣が左手から離れた。
 
 「ではこれも」
 商売の神の手には、いつのまにか鞘に収められた銅の剣も握られている。

 俺は地面に置かれた鉛の刀を拾い、軽く素振りをする。
 その刀の形状はどこか馴染みの深いもので。

 「時にプレイヤーえいじ」
 と、商売の神は続けた。
 「ついでに何か買っていかないかね?」


 果たして商売の神が提示した商品リストには、


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ☆異光を放つライトセイバー《久遠の落日》     4378902G
 ☆永遠なる光子銃《終わりの無双》          3282761G
 ★神龍の卵                       9989898G 
 ☆赤く煌くパワードスーツ《紫金のうめき》      4887212G

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 とてもじゃないが手を出せないものばかりであって。

 「申し訳ないですが」
 と、俺は言った。
 「お金が無いので」
 提示されたインチキ性能の武具達は見るだけで眼福にはなるかもしれないが。

 すると商売の神はニヤリと笑い、
 「何も全て金銭で取引しようなどと考える必要はないぞ」

 その言葉の後、発光する円形の物体が彼の右手に出現した。
 「支配の首輪という」
 ふわりとその物体が浮かび、俺のすぐ目の前へと滑るように流れてくる。

 反射的に俺はそれを受け取った。


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ★支配の首輪

 装備させた存在を従属させ、自身の意のままに操ることが出来る

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 「どうかね」
 と、商売の神は言った。
 「もし君が今組んでいる仲間を*売り渡して*くれるなら、神龍の卵以外の商品を一つ君に送ろうと思うが」

 
 え?

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 クエスト 仲間売買 を受注しました。

 武器商人の神ドルーグから取引を持ちかけられた。
 もしも今現在組んでいる仲間に支配の首輪を装備させ、
 引き渡してくれるなら提示されている商品の一つを褒章として貰えるという。

 このクエストを受けますか?         Y/N

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 「え?」
 と俺は困惑の声をあげる。


 そんな俺を観察するかのように、商売の神の赤い眼光が俺を見つめている。










 後書き
 無事呪い解除の巻。
 もっとも本来なら序盤に呪われるとなかなか解呪できずに苦しんだり面倒だってことでQy@しちゃうんですけどね!



[15304] 承諾
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2013/04/18 20:57




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 ☆異光を放つライトセイバー《久遠の落日》(2d6)

 それは水晶で出来ている
 それは(2d6)のダメージを与える(貫通率100%)
 それは首狩りを発動する****
 それは筋力を維持する
 それは感覚を維持する
 それは魅力を維持する
 それは剣術への理解を深める**
 それは槍術への理解を深める*
 それは周りの時間を遅くする***
 それは稀に時を止める*****+
 それは魔力を12上げる

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 永遠なる光子銃《終わりの無双》(2d20+11)(3)

 それはエーテルで出来ている
 それは攻撃修正に3を加え(2d20+11)のダメージを与える(貫通率5%)
 それは炎では燃えない
 それは酸では錆びない
 それは魔法属性の追加ダメージを与える*****+
 それは耐久を維持する
 それは感覚を維持する
 それは魔力を維持する
 それは魅力を維持する
 それは射撃への理解を深める*
 それは体力回復を強化する**
 それはマナ回復を強化する*
 それは周りの時間を遅くする*

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ☆赤く煌くパワードスーツ《紫金のうめき》[12,81]

 それはルビーで出来ている
 それはDVを12あげ、PVを81上昇させる
 それは炎では燃えない
 それは酸では錆びない
 それは筋力を維持する
 それは耐久を維持する
 それは感覚を維持する
 それは炎への耐性を強める*****+
 それは冷気への耐性を強める**
 それは雷への耐性を強める****
 それは盲目を無効化する
 それは毒を無効化する
 それは麻痺を無効化する
 それは筋力を31上げる
 それは生命を3上げる

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 チートな商品に目を通しつつ、考える。
 ミュレンさんとの付き合いは短い。
 何しろ会ったのは昨日であるのだし、ここでミュレンさんを渡したところでそれほど……いやいや待て。
 会ったのは確かに昨日だけれど、こんな風に一緒に潜ってみないかと誘われたのは彼女からの好意であるし、迷宮への心得なんかも教えてもらった。
 そんな親切にしてくれた彼女へと悪意溢れる行為で返すのは如何なものだろう。

 しかし、この武具は欲しい。なんというかこうジェダイなりマスターチーフなり、そんな武具を身につけるのは男の浪漫であって。
 にしてもライトセイバーやらレーザーガンやらパワードスーツやらそんなSFチックな装備品もあるのだなぁと感動すること暫し。

 「少しお聞きしたいのですが」
 俺は考えつつ言った。

 「何かね?」

 「この商品とミュレンさん……俺の仲間は釣り合ってるのですか?」

 「さて、そうだな」
 商売の神が言った。
 「お前の仲間の冒険者としての強さ、純粋な能力、受けているギフト、それに魅力の高さ。性別。様々な要因はあるが―――」
 口元を歪め、続けた。
 「私がそこに何らかの価値を見出したとして、それがお前の価値と結びつくとは限るまい。
 これは取引だ。もし私が提示した商品がお前の持つ商品に比べ魅力的に思うのなら、応じるのは吝かではないと思うのだが」

 「確かに」
 俺は頷いた。言っていることは悪魔ちっくな誘いではある。しかし、蜜はとても甘そうだ。

 もし渡したとしてどうなるか。俺は考える。
 ミュレンさんの行方を尋ねられるかもしれない。例えばあの可愛らしい主教様はミュレンさんと俺が今日一緒に潜ったことを知っている。
 それを問い詰められたら……いや、考えすぎかな。
 第一、俺は職に就いたばかりの一般人であったのだし、そんな俺がミュレンさんをどうこうできるとかは思われないだろう。
 別れた後は知りませんと、とぼければ、特に何というわけでもなく誤魔化すことができそうではある。

 そんな事を考えつつ、俺は尋ねた。
 「ちなみにこの首輪の使い方は? 見た感じでは、止め具とかついてなさそうですが」

 「使い方は簡単だ。相手の首に掛け締まれと思うだけで良い」
 商売の神が言った。

 「成程、簡単ですね」
 俺は頷いた。それならちょっと冗談めかせば掛けることもそう難しいことでもない。

 にしてもこんなことを考えてる自分は我ながら酷いやつだなとかそんなことをふと思いつつ。
 「もし失敗した場合は? 例えば首輪を取り上げられてしまったり、誤って紛失してしまった場合とか」

 「有り得る事柄ではあるな。その場合はその首輪の補填分として、我が元で働いてもらうことになるが」

 「働く……ですか。ちなみにどのような?」

 「そう難しいことでもない」
 ニヤリと笑って商売の神が言った。
 「私が渡す商品をお前に売ってきてもらうだけだ」

 そこには何処と無く不安めいた要素があったのだけれど。
 しかしその条件は特にデメリットを感じさせないものであって。

 「どうかね? 決して悪い条件ではないと思うのだが」
 商売の神が言った。

 俺は頷いた。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 クエスト 仲間売買 を受注しました。

 武器商人の神ドルーグから取引を持ちかけられた。
 もしも今現在組んでいる仲間に支配の首輪を装備させ、
 引き渡してくれるなら提示されている商品の一つを褒章として貰えるという。

 このクエストを受けますか?         Y/N

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 確かにその通りである。
 条件は破格と言ってもいいくらいだ。
 『Y』へと俺は指を近づけ、




 「だが断る」
 そういつかは言ってみたかった台詞を言って、俺は『N』を押した。










 迷宮世界










 「ふむ」
 商売の神が唸った。
 「理由を聞いても?」

 「いや、そのですね」
 俺は苦笑しながら商売の神へと言った。
 「実は俺はこの世界にきて日が浅いのですが」
 そう言いつつ、商売の神を見る。赤く光る眼光が俺を射抜く。俺は目を逸らして続けた。
 「……で、その、ここまでの案内だとか全部ミュレンさんに任せてたのですよ。
 まぁ帰る方角は特に問題ないと思いますけど、ここまで借りた馬で来たわけなのでして。
 で、その借りた馬をどこに返せばいいのかも良くわかりませんし、何より一番重要なのは」
 コホンと俺は気まずげに咳払いをして、言った。
 「俺馬に乗れないので、ここまでミュレンさんが馬を操ってきたわけで。……で、ミュレンさんを渡しちゃうと…その…帰るの面倒になるなって」

 「クッ」
 と、商売の神が笑った。
 「クククッ。成程。確かにそれは由々しき問題だな」

 俺は曖昧な笑みで応じた。特に面白いことを言ったつもりはなかったのだけど。
 いやまぁ、大体ああいう風に親切にしてくれた人を売るとかそんな非道な真似ができる筈もないのであって。
 ほんのちょっとだけ心が揺れたのもまた事実ではあるけれど。

 「仕方あるまい。君と私の商品の価値観が同じであったことは少し残念ではあるが」
 笑いを抑え、特に残念そうでもなく商売の神は言った。

 いや別にミュレンさんの方が商品価値が高いとかそういうつもりで断ったわけではないのだが。
 そんなことを思いつつ、

 「では取引は終わりだ。次に遭うことを楽しみにしているよ」
 そう言って右手をあげ、
 「おっと忘れていた」

 そんな言葉と共に、俺の持っていた支配の首輪はスルリと手から飛び出し、「うむ」と商売の神が呟き、ピタリと空中に静止する。

 「にしてもお前には中々センスがある。これも何かの縁だ。我が信徒となり商売の片棒を担ってみる気はないかね?
 承諾してもらえるならこの支配の首輪は君に差し上げるが」

 商売には人手が要るからな、と商売の神。

 俺は苦笑しつつ、何度か言った台詞を言おうとして、待てよ、と思い直す。
 神を信仰するというのは特にデメリットがあるわけでは無い。

 だとするならばここは承諾し、あの首輪を得ておいた方がいいのではないか。
 そんなことを考えつつ、

 「ギフトや恩恵など、詳しい概要をお聞きしても?」
 俺は尋ねた。

 「そうこなくては」
 若干嬉しそうに商売の神が言った。








 * * *








 「えーじさん」
 ふと呼びかけられた声に、はっと意識を取り戻す。
 「もう、焦ったじゃないですか。結構探し回ったんですからね」

 気がつくと、俺は先ほどの部屋に戻っていた。
 燭台に灯る火が揺らめき、目の前には何時の間にやらミュレンさんがちょっと怒った顔でこちらを見ている。

 「すいません」
 俺はもーっていう顔で文句を言うミュレンさんを少し可愛いなと思いつつ謝った。

 「いえ、こちらこそ交信の邪魔をしてすいません。……ご無事で何よりでした」
 そしてぐるりと見渡す。
 「うん、でもこんな場所を見つけたえーじさんの手柄に免じて帳消しにしますね」

 「手柄ですか」
 俺は苦笑した。

 「お手柄です。隠し部屋を含んだ地図の奉納点は通常と比べて随分高くなるので」
 嬉しそうに弾んだ声でミュレンさんが言った。

 「あれ?そういえばミュレンさんはここすぐわかったんですか?」
 まぁ、真っ暗な中での明かりは結構目立つものなのかもしれないが。

 「いえ。えーじさんがここに居ましたから」
 と、ミュレンさん。
 「ナヴィ様の恩恵を得ていると仲間の位置も地図で教えてくれるんですよー。探索済みの場所限定ですけど。
 実を言うと、私ちょっとだけぐるぐる回っちゃいました。えーじさんの印は出ているのにその場所に行けずーって感じで」

 そんな茶化したようなミュレンさんの言葉に、俺はあはっと笑ってしまう。
 うん、やっぱりこんな人を売るとかできる筈もない。しかも美人だし。
 ふと、考えてみればナヴィの恩恵を得ていた方がよかったかもしれないなとちょっとだけ思う。

 「そういえば」
 俺は尋ねた。
 「ナヴィ神の恩恵ってどんな感じなのですか?」

 「あら、えーじさん興味が?」
 少しだけ嬉しそうにミュレンさん。

 「えっと、まぁ」
 俺は目を伏せつつ答える。

 「そうですね。あのー、能力への恩恵はえと習得と感覚があがるだけですけど」
 ミュレンさんは一指し指で軽く虚空を叩きながら言った。
 「ギフトとして得られるスキルは素晴らしいものがありますよ。
 地図の詳細データや逸れてしまった時の仲間への位置。迷宮や食事処や施設などの条件検索。
 えと、後は……あ、自分の能力に応じた迷宮の検索なんてのも出来るみたいですね」

 「随分と便利なのですね」
 迷宮内だけでなく、日常生活にも悪くなさそうだなと思うこと暫し。

 「便利です。後、信仰が深くなると迷宮内の階段の位置や敵、それにアイテムの位置もわかるらしいのですけど……
 私はまだそこまでは至っていません」

 「成程」
 俺は感心しつつ頷く。予想以上に便利なスキルを得られる神様だったようで。

 「で、どうですか?」
 ミュレンさんが尋ねる。

 「そうですね。もう少し考えます」
 俺は答えた。流石に今さっき信仰する神を決めたとは言えないわけで。

 にしてもなんでしっぽが可愛い美人の女神様じゃなくて、あんな神を信仰してしまったのかって決まってるよな。
 俺は支配の首輪のことを思い浮かべた。

 「しかしドルーグの祭壇とは……この迷宮が踏破済みであることが少し惜しいです」
 と、少し残念そうにミュレンさん。

 「どうしてですか?」
 と、俺は尋ねた。

 「ドルーグ神の扱う商品は強力なものが多いと聞きます。高いことでも有名ですが」
 僅かに首を傾げ、
 「その強力な武具を得るために熟練の冒険者、あるいは大金持ちなんかが交信できる場を求めていることが多いのですよ。
 その情報を売りつければ多少のお金にはなりますし」

 成程、と俺は頷く。

 「ただ残念なことにこの迷宮はもう、入り口は消えているでしょうね」

 「それじゃ入れないわけだ……って俺達はどうやって帰るんだ?」
 そんな俺の驚いた声に、

 「それ、えーじさんの素ですか? 不思議と男言葉合いますね」
 くすりと笑いながらミュレンさんが言った。

 「どうやって帰るんですか?」
 俺は言い直した。

 「言い直さなくても」
 ミュレンさんが笑った。
 「大丈夫です。もう入れないというだけで、戻ることはちゃんとできますから」

 そういうものなのかと俺は少し安心しつつ。

 ミュレンさんがドルーグの祭壇を見つめ、
 「でも一応見るだけ見てきます」
 そう言って、祭壇前へと歩き、跪く。

 一瞬ぽわっと祭壇が煌く。

 そして数分も経たないうちにミュレンさんが立ち上がった。
 「高い」

 「ですよね」
 俺は同意した。





 * * *




 隠し部屋を出て、ミュレンさんと共に洞窟を歩く。
 何か忘れてるようなと少し頭を捻りつつ、ああ、そうだと思い出し、

 「時にミュレンさん」
 俺はバックパックからランタンを取り出して言った。

 「はい?」
 こちらへと首を動かしたミュレンさんを確認しつつ、ランタンを右手で上に放り投げる。

 明るい光が洞窟を照らし始める。
 その光の強さは、もう一つのランタンと比べるまでもなく。

 「はー……成程。これがアイテム師の能力なのですね」
 感心したように言って、ミュレンさんが自身のランタンへと手を伸ばす。

 ランタンは高度を下げ、ミュレンさんの手へと収まり、明かりを消した。
 「結構用途広そうですね」

 「そのようです」
 俺は頷き、立ち止まる。

 どうやらその先は行き止まりだったようで。 
 くるりとミュレンさんが引き返し、俺も後へ続く。

 「うん、とりあえず一層は全部埋まりましたんで、次行きましょう」

 「はい」
 と、俺は頷き、ミュレンさんの先導の元、階段を目指した。











 後書き
 ちなみにクエスト承諾ルートも考えたんだけど、気がついたらえーじがミュレンさんを脱がしていた。
 何を言ってるのかわからねーと思うが……ってそうでも無いか。
 もっともプロット自体に影響は無い(どちらにしても売ることは無い)のですけど、
 ミュレンさん支配すると後の話が非常に作りにくくなるなと感じたため没になりました。



[15304] 第二層
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/02/22 07:26





 二層目の入り口。
 それはこの洞窟内の何処よりも異質で。成程、これは本当に自然のものではないのだなと改めて納得させるものだった。
 階段は開けた場所の真ん中にあり、しかも洞窟を掘って階段の形にしたというよりは、階段そのものをどこからか持ってきたかのようなそんな造りだったからだ。

 「二層目から」
 と、ミュレンさんが言った。
 「モンスターの種類も大幅に増えます。一層目と同じだと思って進んで死んでしまう探索者も結構多いと聞きます。
 ……かく言う私もその、ちょっと危ない目に遭いまして」

 「そんなに違うんですか?」
 俺は尋ねた。

 「かなり。……あ、そういえばえーじさんはあの後モンスターに?」
 階段を降りながらミュレンさんが言った。

 「はい、二足歩行の蜥蜴と蝙蝠と、あと蛇かな」
 俺は思い出しながら言った。
 「ちょっと酷い目に遭いました」

 ふぅんとミュレンさんは頷き、
 「それでもちゃんと撃退できてたみたいですね。最初に潜った探索者はスモール・コボルトには結構苦しめられるのですが」

 俺は頷いた。てかあの蜥蜴はコボルトであったのか。
 「むしろ蝙蝠に苦しめられました」
 一番苦しんだのは呪いの剣だった気もするけれど。

 「すばしっこいですからね」
 ふふっと笑ってミュレンさんが言った。
 「攻撃は駄弱ですけど」

 「ですか」
 苦笑しながら俺は言った。結構痛かったのだけど。

 「です」
 と、ミュレンさんが断言した。
 「迷宮の中には同じ蝙蝠でも鋭い牙を持ってたり、耳障りな強い音を発したり、こちらの血を吸うような蝙蝠もいるんですから」

 俺は呟いた。
 「迷宮怖い」

 「慣れれば平気ですよ」
 くすっと笑いながらミュレンさんが言った。

 ぽっかりと広い空間に出る。
 階段を降りきった後、後ろを振り向く。随分と大きく立派な階段だなぁ。そんなことを考えつつ、

 *ポン*と音。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた と その仲間 はこの迷宮の最深階へと到達しました!

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 「はぁ」
 と、ミュレンさんが呟いた。
 「攻略早いわけだ」

 「通常はどんなものなのですか?」
 俺は尋ねた。

 「4~5くらいですかね。冒険者に成ったばかりの人向けですと3階ってことも珍しくはないのですけど」
 と、少し間を置き、
 「2階層っていう迷宮はあまり……てか私自身初めてかもです」

 「成程」
 俺は頷いた。
 「レアですね」

 「そうですね」
 何故か苦笑しながらミュレンさんが言った。
 「確かにレアです」

 うん、とミュレンさんはこちらを見て頷き、
 「よし、それじゃあ地図を埋めてきましょう。
 たった二階で踏破済みとは言っても最深階ですし、倒し損ねやアイテムの取り忘れもあるかも」

 期待はしないようにしよう。と冷めた思考で俺は考えつつ、
 「はい」
 と、返事をした。





 




 迷宮世界










 階段のある広間を後ろに、通路へと進む。
 通路は階段の正面と右横に二つほどあったが、
 「とりあえずこちらから行って見ましょうか」
 と、虚空を見つつ(きっと地図をみてるのだろうなと思いつつ)、正面を指した。

 俺は頷き、ミュレンさんに続いて通路へと入る。
 その通路は随分と狭く、並んで歩くことはできそうにも無い。

 ミュレンさんの背中を見ながら歩く。
 道は少しずつ広くなっていき、窮屈な感じでもなくなったかなと思った後、ぴたりとミュレンさんが足を止めた。

 どうしたのだろうかと思いつつ、口を開こうとして、

 「厄介なのが居ます」
 と、ミュレンさんが言った。

 俺はその声に前方へと目を凝らす。
 何やら黒い靄のようなものがあるのを確認。

 「引き返しましょう。地図的には迂回できそうですし」

 良くはわからないが、迷宮探索の先輩であるミュレンさんが言うならそうなのだろうなと思いつつ、俺は後ろを振り向き、
 
 「きゃっ」
 *ガチャン*と金属が地面に当たってこすれるような音がした。

 俺は振り向いた。

 「不覚」
 とそんなことを呟き、こけてしまったミュレンさんが立ち上がり、

 ふと黒い靄のようなものが近づいてくるのが見えた。

 「なんか迫ってきてますけど」
 俺は言った。

 「え? あ、えっと一応言っておくけど私が転んだのとあのモンスターが近づいてきてるのは関係ないですから」
 と、少し慌てたようにミュレンさん。

 とりあえず追求はしないようにしようとそんなことを思いつつ、
 「で、あの黒いもやもやなんですか?」
 俺は尋ねた。

 「むしよ」
 と、ミュレンさんが言った。

 「むしよ?」
 はて、と頭を捻りつつ、*ぶーん*とどこか耳障りな音が耳に届く。

 「あれは見た目こそ群体だけど、一つの生き物って認識でね」
 そう言って、ミュレンさんが槍を構えた。

 黒いもやが近づいてくる。そこで、俺はそのもやの正体を知った。

 成程。虫か。
 沢山の蚊のような虫が、編隊を組み、こちらへと近づいてきたのだ。俺は唾を*ごくり*と飲んだ。


 *ひゅん*と風を斬ってミュレンさんの槍が振るわれ、もやの中心へ。
 その衝撃に虫達はのけぞるように後退し、それから空中で再び編隊を組み直し、ミュレンさんを飛び越え、俺へと向かってきた。

 それはどことなく嫌悪感を及ぼすもので、
 「くんな!」
 俺は叫びつつ、袈裟懸けに剣を振るう。

 しかし虫達はするりと空中で形を変え、それを避けつつ、俺へと迫る。
 斬れたのはわずかにその一片であり、

 これにまかれては溜まらないと、俺は仰け反るように後ろへと後退し、
 *ビュッ*と風を斬る音。
 ミュレンさんの持つ鋭い槍が虫達の中心を貫き、

 次の瞬間、多量の虫が地面へと落下。一部俺の身体へと降りかかり、それを手で払う。
 そして一斉に蒸気のようなものを吹き上げ始めた。

 成程、一つの生き物ね。俺は心の中で納得しつつ、
 「えーじさん!」
 と、強く呼びかける声に、ミュレンさんへと首を動かす。
 「あの、私の髪とかに虫の死骸とかついてませんよね?」

 「いや、死んだら消えるんじゃ?」

 「甘いです」
 と、強い声でミュレンさん。
 「全部が全部消えるわけじゃありません」

 そして座り込み、地面を指差す。
 俺も座り込み、指の方向を見れば確かに少しだが、蚊のような小さな虫が、ぽつぽつと地面に落ちている。

 とりあえずミュレンさんの髪をみつめ、そういうのはいなさそうだなと思った後、
 「大丈夫です。てか、俺の髪にむしろついてませんよね」
 ちょっと降り注いだし。少し気になって自分の髪を弄った。



 とりあえず大丈夫だったらしいので先へと進む。
 てか厄介ってのは虫の死骸が髪につくからってことじゃあるまいな。なんてことを考えつつ。
 ちなみに虫の大群は速度が速く、中級者程度の探索者でも全速力で離脱しないと追いつかれるのらしい。
 まかれたとしても死ぬことは無いらしいが、非常に鬱陶しく、刺されるとじくじく痛むのだとか。

 それは勘弁だなと思いつつ歩いていると、
 視界が開ける。どこか広間のような場所に出たらしい。

 「チュー」
 と、鳴き声。

 見れば人間の足くらいはある大きな鼠がこちらを伺っている。
 あれもモンスターだろうか。てかあのでかさ的にそうだよなと思いつつ、俺は剣を構える。

 と、そこで伺っている大鼠は一匹だけでなく、もっと多いことに気がついた。
 更にその後ろから、二足歩行の蜥蜴――スモール・コボルトが、二匹、唸り声をあげつつ走ってくる。

 「下がって!」
 ミュレンさんが一声。

 俺はその声に応じて、先ほどきた通路へと避難。
 襲ってきたスモール・コボルトと同時に、「チュー」と声をあげ、5匹の大鼠がこちらへと突進。

 ミュレンさんの身体がくるりと回転し同時に*ヒュン*と槍も回転。一匹のコボルトを斬り払い、そのまま突進してきた一匹の大鼠も同時に斬り払わられた。
 遅れて突進してきたコボルトを柄の部分で一突きし、動きを止め、更にもう一匹の鼠をどすっと貫く。
 大鼠を貫いたまま動きを止めているコボルトへと向きなおり、そのまま刺し貫かれた大鼠ごと突き出し、コボルトの胸を突き通す。

 槍が引き抜かれ、大鼠とコボルトの身体が地面へと落下。

 「うふふ」
 と、ミュレンさんが笑い、大きく跳躍してきた鼠を振り向き様斬り払う。

 そんな無双をしながら微笑むミュレンさんに少し見とれつつ、
 こりゃたまらんとミュレンさんをすり抜け、こちらへと向かってくる大きな一匹の鼠。

 俺は刀を構える。
 跳躍し跳びかかる大鼠。俺は半身ずらし、胴を打つ要領で斬り払おうとしたが、若干軌道がずれていたらしい。
 互いに攻撃が当たることなく、すれ違う。

 地面に着地した大鼠はこちらへとひるがえり、再び突進。
 今度こそは、と俺は刀を下段に構え、迎えうつ。

 跳躍。
 ここだっ。と俺は真っ直ぐにジャンプしてきた大鼠へと手首を締める。
 振った距離は僅かであったが、それは見事に当たり、大鼠は地面へと落下。
 弱弱しく立ち上がろうとしたところを、俺は急ぎ刀を振ってトドメ。「チュー!」と断末魔の鳴き声をあげる。

 鼠の癖に生意気だとそんなことを思いつつ、
 振り返るとミュレンさんがこちらを見ており、にこりと微笑む。
 「お見事です」

 「まぁ、鼠ですし」
 苦笑して俺は言った。
 「そんなこと言うならあんだけのモンスターを一瞬にしてやっつけたミュレンさんのほうが凄いと思いますけど」

 「えーじさんも潜ってればすぐこうなりますよ」

 「だと良いんですけど」
 そうかなぁと思いつつ、俺は言った。

 「あ、落ちてるお金はえーじさんどうぞ」

 「有難うございます」
 感謝しつつ落ちているお金を回収し、
 「あれ?」
 そこでふと人影。

 その声にミュレンさんが首を動かし、同様に確認すると、こちらへと振り返り、人刺し指の先を自身の口へとあてる。

 少し怪訝に思いつつも、まぁ迷宮の中で冒険者同士が遭遇することもあるだろうななんてことを思いつつ、

 そのまま無言で歩く。向こうも気がついたのか、こちらへと近づいてくる。
 慎重は低く、子供のようだと感じたが顔は随分と大人びているように見える。小人という種族なのだろうか。マニュアルを思い出しながら観察。
 靴を見るとしっかり履いており、残念ながらホビットではないようだった。

 随分と軽装だな、そんなことを考えているとその人物は剣を振りかぶり、
 「ウオアァァァァア」
 と、どこか獣を感じさせる声で、その小人は走ってくる。

 「え?」
 と、俺は一声。

 ミュレンさんが槍を構え、*ビュッ*と風ごとその人の胸を貫いた。

 「グ…ガ……」
 と、パクパクと口をその人が開ける。

 「う」
 と俺はその光景を見て、少し気分が悪くなる。 

 ミュレンさんが槍を引く。
 血がどくどくと空いた穴から流れ出し、その人は剣を持ったまま崩れるように倒れた。

 「わぁ」
 と、俺は一声。何と言っていいものか。胃の辺りがムカムカし、俺は軽く右手で胃の辺りを抑える。  

 蒸気のようなものが、その人から溢れ出した。というか、

 「これもモンスターですか……」
 俺は呟いた。

 「えーじさんはまだ人を斬ったことが?」
 と、ミュレンさん。

 「ええ、無いです」
 正直に俺は答える。いやあったら逆に問題のような気もするなと思いつつ。

 「迷宮内では見てすぐわかるようなモンスターだけでなく、
 このように小人だったりコボルトだったり、あるいは私達のような姿を模したモンスターも出現します。
 ただ彼らは基本的に人語を解しません。獣と同じです」

 その言葉に俺は頷く。先ほどの小人も剣を振りかぶったとはいえ、どこか獣のようであった。
 
 「だから姿だけで油断しないように。それに、」
 とミュレンさんが続けた。
 「冒険者の中にも同じ冒険者だと知った上で攻撃を仕掛けてくる輩も居ます。
 特に…えーじさんみたいな可愛らしい人だと」

 「いや、えっと…」
 俺はどう否定するべきかと少し考えつつ、

 くすりと笑いながらミュレンさんが言った。
 「だから決して迷宮内で会ったばかりの人を信用しては駄目です。
 そんな目に合わないためにも属性アライメント判断の魔具あるといいんですけど……ちょっと高いのが問題なのよね」

 「それ聞いたことあるのですが」
 と、俺は続けた。
 「高いんですか」

 「まぁ、暫く迷宮潜ってれば溜まるぐらいの値段ですけど」
 と、ミュレンさんが続けた。
 「持っとくのは一個だけでいいですし、お金が溜まったら買うことをお奨めします。なのでどうぞ」

 「勉強になります」
 俺は頷きながら先ほどの小人が倒れていた場所に転がっていたお金を回収する。


 「てことで次人型のモンスターが出たらえーじさんにお任せしますね」

 「えー」
 俺はやだなーと思いつつ言った。

 「潜りたての冒険者が同種族のモンスターへの攻撃を躊躇して殺されるってこともあるんですよ。だから、ね?」
 と、宥めるようにミュレンさん。

 「いえ、わかってます。大丈夫」

 にしてもミュレンさんのその宥め方は子供に言うかのようで。

 「時にミュレンさん」

 「はいはい、なんでしょう」

 俺は少し考えた後尋ねた。
 「お姉ちゃんみたいって言われたことありません?」

 ぷっとミュレンさんが吹き出し、
 「なんですかもぅ……」
 何故かそわそわと落ち着かなくなる。

 「いえ、そのなんとなく」
 何処となく過保護のようなそんな感じが。 


 「も、もぅ。変なこと言ってないで行きましょう」
 と、早歩きで前を行くミュレンさんを可愛いなと思いつつ、

 「あ、ちょっと待ってくださいよ」
 と、俺はその後姿を追いかけた。











 後書き
 一部の行動(敵と対峙した時の戦闘風景とか)は考えるの面倒なのでサイコロ振って決めてるのですが、
 虫からの離脱の時、真逆ミュレンさんがファンブル出すとは思ってもいませんでした。



[15304] 探索終了
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/03/02 00:07







 胸がムカムカする。
 最初に斬った人型のモンスターは小人だった。
 脳天をかち割られ、苦悶の表情で倒れる顔は絶対に夢に見そうだなとかそんなことを思ったりもして。

 二人目も同様に小人であったが、そこであることに気がついた。小手を狙うのは得策ではないということだ。
 何故ならそこを斬ったところで剣は振り下ろされるし、一方の手を使えなくしたところで、もう片方で剣を振ってくるからである。
 剣道のような小手の打ち方だと骨に遮られて斬り落とすことができないってのもあるし、他にも力を込めるなら別の場所を狙った方がいいってのもある。
 最も、一番の原因はドクドク流れる血に構わず剣を振り上げる姿はどうにもスプラッタで俺自身が耐え切れなかったというか。


 叫び声をあげ、剣を振り上げて突進してくる男。それは先ほどのような小人ではなく、俺と同じ人間のモンスターである。
 種族が変わったと言っても、体格が多少小人より大きくなっただけで、攻撃やら何やらは特に変わるわけでもない。
 勿論、心情的な面を除けばであるが。

 俺は八相に刀を構えて応じる。

 ただ振り上げ、走ってくるだけの姿は随分と隙だらけであると感じたが、そいつの人相に、俺は少しだけ刀を振っていいものかと躊躇。
 何故ならそいつの顔が俺の従兄弟のゆうと君に似ていたからで。

 もっとも、顔を歪ませ、血走ったその姿はとても刀を振らなくてもどうにかなるといった感じではなく、
 どこか恐怖のようなものが全身を駆け巡り、それを打ち消すために、
 「イヤッ!」 と一声あげて、袈裟懸けに刀を振り下ろす。

 ざくり、と嫌な感触を感じ、ずずずっと刀が沈んでいくかのような感触を覚え、
 ごつりと刀が相手の斬り裂いた中心部分で何か硬いものに遮られ、止まった。

 やば。と思ったのはその刹那である。
 明らかに致命傷。相手の動きが止まるかと思いきや、そのまま剣を振り下ろしてきたのだ。

 俺は止まった刀を持ちながら、左足を踏み込み、対角の右前へと進む。
 刀はしっかり相手の身体に挟まっているようで、つるり、と柄が手からすべり、俺は刀を放す。

 そのまま相手の横を抜ける。 

 「あ・・・はぅ・・・あ」
 と、その男は吐息を漏らす。

 刀は相手の身体の肩から中心部分まで裂き、留まっている。

 俺は右ポケットに手を入れた。
 今俺の手に武器は無い。だからそれに変わるものとして麻痺薬の入った試験管を手に持ち、構える。

 男は振り返り、そのままこちらへと一歩踏み出し、

 そのまま前へとうつ伏せに倒れた。


 蒸気が噴出し、流れ出した血液は蒸発し、男の身体は砂のように崩れていく。

 ふうっと一息。
 胃の辺りを右手で抑えつつ、蒸気を上げ消えようとしている男へと近づき、留まったままだった刀の柄を左手で掴み、引き出す。
 すぐ先ほどは相手の肉に挟まったような抵抗があったが、砂と化し始めてるせいかスルリと刀を抜くことが出来た。

 一瞬俺と一緒に笑いながら話すゆうと君の顔を思い浮かべ、胃を抑えたまま俺は洞窟の壁へと背中を預けた。

 気持ち悪い。本当に気持ち悪いのだ。今斬った種族は俺と同じ人間、しかも日本人のような顔で、さらにゆうと君に良く似ていたからだろうな。
 等と考えつつ、この胸のきゅーと締められるような感覚を少し軽減しようとしてみる。

 「大丈夫です?」
 ミュレンさんが言った。

 「いえ、あの。あまり大丈夫ではないような」
 俺は深呼吸して少しだけ気持ちを落ち着けた。

 「少し休んだほうが……」
 警戒するようにぐるりと部屋を見回した後、心配そうにミュレンさんが言った。

 「そうですね」
 と、俺は言った。
 「ちと吐きそうなのでご飯にしましょう。小腹も空きましたし」


 「え?あ、はい」




 ちなみに例え調子が悪くてもご飯だけは欠かさないのが俺である。










 迷宮世界






 



 「慣れません?」
 タコスのようなものを一緒に食べながら、ミュレンさんが言った。

 「慣れません」
 俺は一口だけ齧ったタコスのようなものを見つめながら言った。
 「でもまぁ、躊躇するってことは無さそうです」
 死にたくないし。

 「それならまぁ……いえ、矢張り慣れた方が。
 迷宮内には知恵あるユニークモンスターなんてのも居ますし」

 「ユニークモンスター?」
 俺は尋ねた。

 「神々の恩恵を受けた同じものが居ないモンスターのことです。
 対峙すればこれは違うものだってわかりますよ。
 人語を話したり、魔法を使ったり、武具を身につけていたり、身を隠すように潜伏したり……色々です」

 「流石に逃げたり意思が通じ合えるようなのとは闘いたくないな」
 俺は苦笑する。

 「人型で人語を解し、それでいてしっかり理性を持ちつつこちらを攻撃してくるようなのも居ます」

 「……ああ、成程」
 そういうのとは遭いたくないなぁと思いつつ。

 気分が多少落ち着いてきたので、タコスのようなものをハグハグと口に含む。

 「先ほども言ったような気がしますけど、同じ冒険者を襲う冒険者も居ます。
 迷宮内ではそういうのもモンスターのようなものです」

 「はぁ」
 と、溜息。ふと乞食を槍で殴り倒したミュレンさんを思い浮かべること暫し。

 「いやですか?」

 「気持ちのいいものじゃないですね」
 俺は苦笑する。
 「でも、早く慣れようと思います」

 タコスを食べ終わり、俺は立ち上がって伸びをする。

 「コボルトとかは特に問題ないんですけどね」
 多分リザードマンとかそのへんも大丈夫そうだ。多分触れ合っていないからだろうなーなんてことを思いつつ。





 ***





 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 緑色ににごった薬が落ちている。
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 試験管に入った薬をミュレンさんから受け取る。
 コボルトが落としたものだ。

 「要ります?」という言葉に、「あ、ください」とそんな感じで受け取り、なんかこの色俺の持ってる毒薬に似てるなぁとか考えつつ、

 「鑑定」と、呟く。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は 毒薬 であることが完全に判明した。

 使用した対象に毒ダメージを与え、毒に侵す
 もし店で売れば 3G ぐらいになるだろう
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 やっぱり毒薬かーと考え、ドルーグの恩恵を確認しつつ、そういや、トルネコも武器商人だったなぁ等とゲームを思い出すこと暫し。
 ちなみに持っている中で一番高い薬は体力回復ポーション(75G)であったり。

 あの魔術師の遺産を恩恵で確認しながら売り払えば、それなりに生活の足しになりそうだなんてそんな事を思いつつ。

 「便利そうですね、アイテム師」

 「便利です」
 アイテム鑑定自体は別にアイテム師になったことで身についたわけではないのだけれど。

 「ところで」
 ミュレンさんが多少広々とした洞窟の空間を歩き回りつつ、うつむいて言った。
 「地図が埋まりました」

 「そのようで」
 俺もうつむきつつ(というのも地図を見ているからなのだが)応じる。

 「微妙に探索したりない感じもしますけど」
 苦笑しつつミュレンさんが言った。
 「仕方ないですね。帰りましょうか」

 「いえ、でもありがとうございます。勉強になりました」

 そう言うと、神殿で会ったときのように柔らかな笑みで、
 「いえいえ。こちらこそいいものを見つけて頂きまして」
 と、応じた。






 


 ***







 

 一層へと戻り、それから真っ直ぐ入り口へと戻る。
 敵とは遭遇せず、逆にあれだけ残ってたのが珍しいことだったのかなとかそんなことを思い、
 そういや最下層では結局アイテム落ちてなかったなと考えること暫し。

 「そういえば」
 ふと疑問に思ったので尋ねる。
 「どうしてミュレンさんは俺と一緒に迷宮潜ろうと思ったんです?」

 「えっとですねー」
 うーんと考えるような仕草をしつつ、
 「迷宮初心者を案内すると奉納点がもらえるってのもあるんですけど」

 「あら。私だからってことじゃなかったんですね」
 苦笑しつつ言った。まぁ、そんなものだろう。

 「いえいえ」
 くすりと笑いつつミュレンさんが言った。
 「えーじさんだから案内しようと思ったのですよ」

 「え、あ。それは……」
 そんなものでもなかったらしい。
 「……光栄です」

 「ふ、ふふふ」
 何故か笑いつつ、
 「そういう可愛らしいえーじさんが気に入ったからですよ」

 可愛らしいときましたか。
 「あ、はい」

 「あら?お世辞なんかじゃないですよ」
 その俺の返事に思うことがあったのかつけ足す。

 「あ、いえ、なんていうか……」
 可愛らしいと言われるのはその、ね。


 そんな事を話しつつ、洞窟の外へ。
 結構時間が経ったのか、外は薄暗く、星が見えていた。

 「コマンドタイム」

 ▽
 □
 ▲

 空中に投影された砂時計を見ると、真ん中の砂は随分と減らしていた。
 なんだかんだで長い間潜っていたのだなぁと感じつつ。

 そして後ろを振り返り、成程。もう入れないってのはこういうことかと俺は理解する。
 というのも、外に出た瞬間、今出てきた迷宮への入り口が、幻だったかのようになかったからで。

 少しばかり先ほどまであった場所の位置を手で触ること暫し。
 ひんやりとした石の冷たさが手へと伝わる。

 「不思議ですか?」
 とミュレンさん。

 「妙な感じですね」
 振り返り、ミュレンさんへと歩き出す。

 待機していた馬の背中へと俺が乗り、それからミュレンさんも飛び乗るように馬の背中へ。

 「ではしっかり捕まっててくださいね」

 「りょうかい」
 と応じ、ミュレンさんの腰へと手を回す。

 「ではしゅっぱーつ」
 そんな声と共に、馬は駆け出し始めた。












 後書き
 初めての迷宮探索終了のようなそんな感じ。
 次章から本格的に迷宮の厳しさみたいなものをかけたらいいなぁとか思いつつ。



[15304] *R指定*夜、熱に襲われる【一章・終】
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2013/04/12 02:57






 町へと戻り、まず俺が最初に望んだことはお風呂に入ることだった。
 洞窟内での出来事やらなにやらそういうものを解消するにはまずぽかぽかした心地良い空間が必要だったからである。
 勿論それだけでなく、二日分の汚れを落としたかったというのもあるのだけど。
 当然のことながら昨日の安宿には風呂などという洒落たものはなかったのであって。

 しかし、そんな俺の質問にミュレンさんの答えといえば、
 「風呂? なんですか、それ」
 であった。

 真逆……この世界には身体を洗うという習慣が存在しないのだろうかと一瞬考えたが、
 いやいやそんな馬鹿なと思い直し、
 「えと、お湯を貯めて身体を浸かったり、とか、そういう場所のことですけど」
 と、詳しく説明してみた。

 「お湯に?」
 ミュレンさんは首を傾げつつ、
 「水ではなくてですか?」

 「え、こちらではお湯で身体を洗ったりしないのですか?」
 俺は慌てて尋ねた。流石に水風呂はやだなぁと思いつつ。

 「沐浴の後にぬるま湯を浴びたりってことはしますけど……」
 んーと、ミュレンさんは人差し指で自分の左手を叩きつつ、
 「えーじさんのところでは沐浴は水ではなくお湯で行うのですか? 清涼感がなくなりそうですけど」

 「水よりもぽかぽかして気持ち良いと思うんですけどね」
 まいったなと思いつつ言った。

 「そんなものですか。一応沐浴場なら案内できますけど……あとは宿についてるシャワーぐらいかな。水は貯められませんけど」

 「……ちなみにそのシャワーはお湯出たりします?」
 俺はあまり期待せずに尋ねた。

 「でますよ。小型の沐浴場みたいなものですからね」

 出るらしい。にしても、
 「どうしてそれで湯浴みという文化が発生しないのかな」
 そんなことを疑問に思いつつ呟く。

 「私としてはお湯だと身体が清められたって気がしないんじゃないかなって思うんですけど」

 むー文化が違~う!
 と叫びたい気分に襲われ、ふぅっと溜息。それはそれとしてシャワーのあるお奨めの宿を尋ねる。

 「えと、でもちょっと高くなりそうですけど……」
 虚空を叩き、ミュレンさんが検索。
 
 そしてナヴィ検索の元に出た宿の値段は12Gとのこと。
 昨日の宿の倍以上という値段に少し考えつつも、

 「えとお願いします」
 早速案内を頼みつつ、
 「あ、その前に、そういえば換金とかってどこでやるんでしょうか」
 と、尋ねた。

 今の俺は金欠だが、あの魔法使いの遺産を売り払えば当面は生活できそうだなぁと思ったからであって。
 だからこそ最低限の贅沢ぐらいは切り詰めなくてもいい筈だ、等とそんなことを考えつつ。
   
 「……少し思ったのですけど、えーじさんって良く此処までこれましたよね。
 それでいて手も身体も汚さなかったというのはある意味奇跡のような」
 と何故か感心される。

 もっとも、
 「いや、身体については」
 処女じゃねぇとか天使がいっていたような気がしたなぁとか少し思い出しつつ、

 「え?あ、いえ、その……」
 と、何故か慌てるミュレンさん。

 はて、と少し考え、それから自身の言動を思い出し、ああ、成程……と納得し、
 いや待て。
 「あ、え、違う。違いますから。今のノーカンですよノーカン」
 と、慌てて訂正する。

 「…………」
 「…………」
 何故か少しばかり無言タイム。何この微妙な空気。マジ簡便なんだけど。
 しかしその空気を解消する言葉は喉の奥に引っかかって出ては来ない。まいったな、と俺は思った。


 「あ、あの」
 と、その気まずい空気を切り出すかのようにミュレンさん。

 「な、なんでしょう」 
 若干どもりつつも俺は応じる。

 「何かあったら相談に乗りますから! 遠慮なく言ってくださいね!……勿論、えーじさんが良ければですけど」
 と、元気付けるかのようにミュレンさん。


 「……ありがとうございます」
 なんだろう。暖かい心遣いが逆に嬉しくない。










 迷宮世界









 
 シャワーを浴びる。
 ちゃんと石鹸があったことに安心し、身体の汚れは気分良く落とせたのだが、残念なことにシャンプーは存在しなかった。
 仕方ないので石鹸で代用する。水洗いよりはマシだ。

 温かい湯は荒んだ気分を癒し、冷たくなった心を溶かしてくれるそんな瞬間である。
 等と二日間の鬱屈した気持ちをお湯で洗い流すこと暫し。

 にしても……
 「なんてーか本当女だな、俺」
 等と、改めて確認し、

 「ふむ」
 もみもみと自身の胸を揉む。

 なんていうか揉み心地いいなぁと感動しつつ、湯を浴びながら揉む。

 もみもみもみもみもみ……。
 その心地良い感触に少々満足しつつも、そこでふと疑問が飛び出す。

 手の感触は気持ち良いけど、胸は特にそういうのないなぁ、ということだ。
 胸だけでイッちゃうとかそういうのってなんだろうな、とかそんなことを考え、若干ちょっと興奮しつつ胸を揉む。

 「まぁいいや」
 胸を揉むのに飽きたのでシャワーを止め、バスタオルで身体を拭く。

 あーそういや洗濯とかってどうしてんのかな。
 洗濯機なんてのはないだろうし、自分で洗うのかなーとかそんなことを考える。
 何しろ今日の冒険の時着ていたローブは人様が使ってたものをそのまま着ているからであって。洗ってさっぱりさせたい。気分的に。
 そこらへんのことも、ミュレンさんに聞いておくべきだったか。

 下着やらYシャツやらはまぁ我慢しようかとか思いつつシャワー室から出る。




 さて。
 ベッドへと脱ぎ置いたYシャツを再び着ようとして、ふとベッドの前に設置されている姿見に自身が映る。
 手に取ったYシャツを再度ベッドへと置き直し、鏡へと近づいた。
 マジマジとその姿見を見つめる。

 真っ裸の女がそこに居た。
 少なくともその顔は俺ではないし、身体も男ではない。
 慣れ親しみのない裸の女がそこに居たのである。しかも若い女である。

 その姿を眺めつつ、俺は自分の胸を揉む。
 すると鏡の中の女も胸を揉み始める。酷く艶かしい。

 「ふ、ふふふ」
 と、何故か気分が高揚。

 自身の胸を揉んだところで快感は覚えなかったが、見知らぬ女性がうっとりした顔で胸を揉んでる姿を見て高揚しない男は居ないと思う。
 妙な気分である。すごく、とても。
 俺が手を動かすと、鏡の女性も手を動かすのだ。
 「よう、ビッチ。恥ずかしくねぇのか?」と鏡の中の女を罵る。
 勿論、鏡に映っているのは自分だということはわかっていたが、そんなことは正直どうでもよかった。

 身体が熱を帯び、自身の乳首が立っているのがわかる。
 乳首をつまむ。
 微妙にくすぐったさを感じ、俺は身体をぶるっと震わせる。
 もっとも快感とは呼べないもので、また電気ショックのような感覚やらは感じず、やっぱり胸でイクって嘘だろとかそんなことを考え、

 顔を鏡に近づける、何故かどきどきしつつ*ちゅ*と鏡に口付け。あはは、ナルシストかよ。

 うっとりした女の顔。鏡の中の女性に親愛と滅茶苦茶にしてやりたいといったそんな感情が溢れる。
 自分のアレが勃っている感覚をふと覚える。だがそれはなんというか酷くもどかしいもので。

 ゆっくりと股の間に手を伸ばす。
 淫蕩な顔。舌なめずりしているのが見える。*ゴクリ*と唾を飲み込む。

 トイレでのあのびくっとした感覚が頭に過ぎる。
 ドキドキと心臓は高鳴っている。意を決し、小さくなってしまったそれを摘む。

 「あ」
 声が出た。射精し、敏感になった自身のそれを触っているかのような感覚だった。

 摘み、すりあげるように行為を開始する。
 鏡に映っているその女性は酷く気持ちよさそうで。

 「あ、あっ、あ…」
 と、途切れるかのように声を漏らす。

 声を抑えつつ、快感を覚えつつ、その行為を続ける。
 手を動かしてるのは俺で、気持ちよさを感じてるのも俺。でも鏡に映ってるのは俺ではなく。
 どことなく奇妙な気分。淫靡な顔。鏡の中の女性は俺によって犯されている。

 立ってするのは疲れたのでベッドへと腰をおろし、そのまま仰向けに倒れる。
 若干頭をあげる。裸でだらしなく寝そべる鏡の中の女を確認。
 その姿を網膜に焼付け、目を強く瞑り、行為を再び開始。

 声をださず、目を瞑り、口をパクパクとさせながら繰り返す。

 徐々に何かが股の間から昇ってくるような感覚を覚え、
 そしてある一定のところに来たところで、それは収束する。

 射精する時にも似た感覚。
 股をキュッと締め、全身を強張らせる。

 何かが弾けるような感覚。網膜がスパークした。
 びくんびくんと神経が収縮し、

 ふぅっと溜息を吐く。若干その心地良い感覚に身を委ねること暫し。
  
 「あー……」
 次第に身体全身を巡っていた熱気のようなものが冷めてくる。先程までの感覚は嘘のよう。

 所謂賢者モードである。こういうのは女性も変わらんのかもなぁとか思いつつ、
 むくりと気だるい身体を起こすと、鏡の中の女性も冷めた顔をしていた。

 「何やってるんだか、俺は」
 呟く。なんだかやるせない気持ちがぐるぐると胸の中を動く。

 股に挟み込んだ自身の手に少々湿り気のようなものを感じた。手を動かすと少々心地良い。
 「あー」
 と声を出し、そんな感覚に溜息を吐き、 
 「最低だ、俺って」
 そんなことを呟いてみたら、不思議なことに少々気分がよくなった。
 はははと俺は笑う。

 とりあえず情けないような良い気分のような微妙な心持のままバスタオルでそれを拭い、
 それから置いてあったYシャツを着て、パンティを履き、そして再びベッドへとダイブした。
 先程の行為でどっと疲れが出たからである。

 なんていうかとても眠い。俺はそのまま目を瞑り、その気だるさに身を委ねた。









 ***







 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 好感度 の 変動 がありました。
 ナヴィの修道騎士 ミュレン の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【友好的】 です。

 あなた は 剣術 の 理解 を深めた。
 あなた は アイテム鑑定 の 理解 を深めた。

 能力 の 変動 がありました。
 あなた の 力  が 2 上がった。
 あなた の 耐久 が 1 上がった。
 あなた の 魅力 が 1 上がった。

 あなた は 身体を休め3% の 潜在能力 をアップさせた。

 あなた は 9時間眠り 気分をリフレッシュさせた。
 あなた は 目を覚ました。
 おはようございます! プレイヤー えいじ
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 奇妙なログを目覚める前に見ていたような気がするが、どうにも思い出せない。
 はて、と働かない頭で考えること暫し。

 考えても全く意味がないようなので、起き上がり、腰を捻って軽くストレッチ。


 さて、今日はどうしようか。
 若干動いてきた頭で考えつつ、
 そこでふと自身の財布の中身を思い出すこと暫し。


 「とりあえずは換金だな」
 と呟き、

 ついでに着替えと下着も買わないとなーとかそんなことを考えて、溜息を吐いた。






 ステータス

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 6G 75S
 カルマ -2

 筋力  7 Great
 耐久  7 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 11 Great
 意思  5 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 11 Good

 クラス   アイテム師
 信仰神   ドルーグ
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.1 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.2 アイテム効果上昇
 状態異常  なし
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 装備

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 鉛の刀(4d3)

 それは鉛で出来ている
 それは錆びにくい
 それは(4d3)のダメージを与える(貫通率20%)
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆艶やかなる法衣『さようなら現世』 [7,0]

 それは布で出来ている
 それはDVを7あげ、PVを0減少させる
 それは習得を維持する
 それは体力回復を強化する*
 それは剣術の理解を深める**
 それは重装備での行動を阻害する****
 それは盲目を無効にする
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 布のズボン [3,0]

 それは布で出来ている
 それはDVを3あげ、PVを0減少させる
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 皮の靴 [2,4]

 それは皮で出来ている
 それはDVを2あげ、PVを4上昇させる
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 銅の腕輪 [0,1]

 それは銅で出来ている
 それは酸では錆びない
 それはDVを0あげ、PVを1上昇させる 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------











 後書き
 書いてたらなんか文章が乗ってしまわれた……。
 ちなみに最初書きあげた文章の表現は明らかにやばかったため、ちょっと柔らかくしました。
 うむ。これくらいならR指定ぐらいで問題ない筈。
 てことで一章終了です。



[15304] ------【一章までの設定など】------
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2010/03/04 22:14






 【始めに】

 一章までの設定資料のように見えなくもないもの。まだ語られていない話は省いてあります。
 元ネタやら、世界背景、また本文中で特に語る必要性のない人物背景やらをのせています。
 見る必要性はありませんが、暇つぶし程度にどうぞ。こっそり反転文字なんかも使ってます。

 あ、それと一章までのネタばれを多く含むため、見るのは一章までを読んだ後にして頂ければ幸いです。
 












【世界観について】
 迷宮世界です。
 世界には様々な種族が溢れており、本来なら存在しなかったであろう恐竜人やらなにやら色々ごちゃまぜです。
 また文化も場所によって異なります。
 機械文明が発達している場所もあれば、魔法の技術が発達している場所、あるいは未発達で牧歌的な場所等、様々です。
 もっとも迷宮内でそれらの武具やら何やらは得られるため、高度な機械や魔法を使ったところで神様扱いはされません。
 種族の進化体系についてはPC98版の46億年物語が根幹になってる気もします。

 【迷宮について】
 迷宮はこの世界の様々な場所にいつの間にか出現し、最深階まで辿り着きそこを守るボスを倒すことで踏破されます。
 踏破後、しばらくすると迷宮は跡形もなく姿を消します。
 元ネタはelonaの迷宮群。

 【ダイス】
 武器の攻撃ダメージを示した値。3d6なら6面ダイスを3つ振った値の合計になります。
 戦闘の細かい展開なんかは考えるの面倒くさいので振りながら書いてたり。

 【神々】
 そこに居るとする、居るかもしれない、ではなく、
 実際に居て信託やら恩恵やらギフト等を与えてくれる、迷宮世界に多数存在する高次元存在の総称のこと。

 【プレイヤー】
 迷宮世界以外の場所から連れられてきた知識生命体のこと。@とも略されます。
 選ばれ方は、本来まだ死ぬべき時でなかった、あるいは既に死んでいたはずの人物が大分後になって死んだ時、そこに高次元存在が居合わせた場合。
 後者は英雄などと呼ばれたりもします。
 元ネタは北欧神話等から。

 【契約者】
 BET者とも。
 死ぬ予定ではなかった人物のエーテルが流れ出す前に素材を与えて蘇生させ、己の力を分け与えて迷宮世界を探索させ、徴収する。
 与えた力は元には戻らず、強い力であればあるほど自身の力を失う。取り戻すには己の力を分け与えたプレイヤーに頼るしかありません。
 取り戻し方は色々ありますが、代表的なものとして、プレイヤーによるダンジョン踏破、モンスター退治、プレイヤーキルなどがあります。

 【*勝利*】
 目的を達成すること。契約者の場合は主にBET分以上の力を受け取り、己の位を上げることが*勝利*条件のような気がする。 
 えーじの場合は男に戻ること。


 【グラフーイン】
 原っぱの町の意。アイルランド語だったかその辺だったような。
 とある大迷宮を中心に大きくなった迷宮都市。
 ナヴィの恩恵が都市全体に及んでおり、都市マップで行きたい場所の位置の検索も可。
 


 【人物設定】
 以下、一章までに出てきた人物名を書いていきます。


 【アリス】
 ルーエルの契約者。詳細不明。


 【えいじ】
 主人公。男。身長は177cmぐらい。23歳。童貞。一人っ子。ルーエルの契約者。猫好き。
 映字と書く。名前は両親が映画好きだったからなのらしい。
 中学時代は剣道部に所属。最高は個人での三回戦突破。
 高校時代も当初は剣道部に入る予定だったのだが、気がつくと居合道部に入っていた。
 組抜刀試合や型試合は得意だったが、実際に巻き藁を斬る抜刀斬り試合は苦手だったり。大学に入ってからは特に竹刀やら刀やらは握っていない。

 新米訪問販売員。
 大学卒業後、就職先が決まらずうろうろした結果がこれであった。
 契約をとってコーヒーショップで一息つき、休憩を終え、店を出て暫く歩いた後、屋上から飛び降りてきた女性の下敷きになって死亡した。
 その後ルーエルによって飛び降りてきた女性の身体を使って再構成され、今に至る。
 性と文化の違いに戸惑いつつも、今日も頑張ります。早く男になりたい。
 実はヒロイン役も兼ねている。
 ちなみに一章終了後、ルーエルからメッセージが一言送られてきた。『ゆうべはお楽しみでしたね』


 【えいじの身体】
 故人。女。身長は156cmぐらい。18歳。高校生。
 本文中では自殺者、脅されて身体を云々としか語られることはなかった存在。

 日々の受験勉強に疲れ、柵を乗り越え、ぼーっと屋上で下の景色を眺めていたら、吸い込まれるように身体が傾き、下に落ちた。
 受験を苦に自殺というよりは、なんとなくだとかいつの間にかといった感じで、死のうとか思っていたわけではなかったりする。
 今際の言葉は「……あれ?」だったりするけどこの辺は割とどうでもいい。

 学校の屋上でレディコミを読んでいたところ少々えっちな気分になり、誰も居ないと思ってオナってたところを携帯カメラで撮られた。
 それを種に脅され、すったもんだの挙句処女を散らし、更にもっと酷い写真を撮られたりした。
 割と絶望していたのだが、行為を続けている内に、なんだか気持ち良いし、脅してる人物も変な顔じゃないし、
 以外と優しいしとかポジティブに考えてる内にどうでも良くなり、進んで身体を開いていき、
 最終的に立場を同等にさせるためにその男を縛っておったててるところを写真に収めるというドラマがあったりするのだが、
 正直本編とは何の関係もない。

 脅された男とは最終的に恋人関係になってたり、その男は彼女の自殺のショックでかなり荒れたりしたのだが、やっぱりこれも本編とは何の関係もない。
 あ、でももしえーじがメノスワールド行きを拒んでたらその辺のドロドロしたTSものが書けたりしたのかなとか思ってもみたり。
 書いてたとしたらおそらくXXX行きになってそうだ。



 【スパルミエッサ】
 冒険者用の居酒屋、九連の塩冷亭の店主。右腕が二本ある。
 迷宮内で取れるモンスターの肉を使った料理が名物。素材を持っていくと調理してくれたり、値段を安くしてくれたりする。
 いつか伝説の生物『ヒモジ』に出会い、調理することを夢見ている。


 【ドルーグ】
 武器商人の神。死の商人とも。
 司るものは交渉と商品。信仰時には力と魅力、交渉にボーナスを加え、恩恵として鑑定済みの品の相場がわかるという能力を得る。
 客として訪れた冒険者へ強力な武具を販売する。まれにクエストを与えることもある。
 なお、ドルーグの祭壇は迷宮内のみにしか存在しない。
 元ネタは3DOの名作スターコントロール2から。容姿なんかはまんまだったり。


 【ナヴィ】
 案内と選択と測量の女神。職業案内を担う神々の中の一人。
 信仰時には習得と感覚に影響を与えるのみだが、迷宮内だけでなく様々な場所の検索等、非常に便利な恩恵を与えてくれる。
 美しくふさふさした長い尾っぽがチャームポイント。ちょっとお茶目。
 グラフーイン内では彼女の信仰が盛んであり、強い影響を持つ。
 

 【ミュレン】
 ナヴィの修道騎士。女。人間。身長は168cmぐらい。19歳。
 普段は神殿内にておしゃべりやら職業案内やらをこなしつつ、迷宮内を探索している。柔らかな雰囲気が特徴。
 主人公に土下座され、割と困っていたところを主教によって助けられた。

 主人公への第一印象は困った女の子。それが面白い子に変わり、本編でトイレを出た際に目が赤くなってることに気がつき、心配な子に変わった。
 主人公の容姿を見て自分よりかなり年下だと思っている。
 色々と主人公を勘違いしている気がしなくもない。実は勘違いものだった。そんな。


 【リエンザ】
 ナヴィの妖精主教。女。身長は125cmぐらい。年齢不明。
 自身が信仰するナヴィへと深く傾倒しており、ナヴィが喜ぶ顔を見ることを日々の生活の糧としている。
 悪戯や噂話が好き。優しく容姿が可愛らしく、無邪気に見えるため人気がある。
 だがミュレン曰く、迷宮内では同行者さえも恐怖させるらしい。

 永遠の魔法少女。
 変身の呪文は「リリカルトカレフキルゼムオール」で、セフィーロと呼ばれる異世界から衣装とカラスの装飾の絵柄のカードを召還し、様々な呪文を用いる。
 必殺技はカードシンクロによるスターライトブレイカーとトラップカード聖なるバリアミラーフォースブリザードと青マナ2つを使っての対抗呪文。



 ルーエル
 天使。案内役。えーじのBet者。年齢不明。
 8~12歳ぐらいの美少女。背中には大きな白い翼と、頭上には輝く輪っかが浮かんでいる。
 一応女神の中の一人であり、この世界でも少数ではあるが信仰されている。司るものは言語と翻訳と魔術。
 ルーエルの交友関係が知の神々に偏ってるのはそのため。

 性格は天真爛漫を装った何か。
 人を虐めたり嫌がらせしたり退屈しのぎに破滅へと導いたりする……あれ、こいつにゃるらじゃね?


 【二章以降に登場予定の人物やアイテム】

 あくまで予定であり、未定です。


 【エルメス】
 NT専用サイコミュ搭載兵器。空を飛ぶものを指す。宇宙用MA。
 キノの相機。化学・物理学などの科学知識が豊富。間違った諺を使ってキノを茶化すことを好む。

 【キノ】
 《謎の美少女ガンファイターライダー》の異名を持つ冒険者の一人。女。観光客。愛機はエルメス。
 同名のギャンブルゲームがあるが、特に関係はない。
 武装は『森の人』と呼ばれるホーミングつき拳銃、『カノン』と呼ばれる44口径拳銃、『フルート』と呼ばれるビームライフル等。全て神器。
 同じ町には3日以上居ないという信条を持っており、それは迷宮探索に置いても発揮され、探索はラッシュによって行われる。
 PTを組むと大抵キノに置いていかれるため評判が悪い。でも一人で踏破する。お前観光客じゃねぇだろ。


 【ガラハド】
 《世界でも最も偉大な騎士》という異名を持つ聖騎士の名前。男。
 なにをするきさまー。

 【グラットンソード】
 《世界でも最も偉大な騎士》ガラハドが持っていた伝説の剣で尖った部分が多くあの部分でさらに敵に致命的な致命傷を与えられる
 色も黒っぽいのでダークパワーが宿ってそうで強いしかもダークパワーっぽいのはナイトが持つと光と闇が両方そなわり最強に見える
 暗黒が持つと逆に頭がおかしくなって死ぬ
 これ奪ったやつ絶対忍者だろ……汚いなさすが忍者きたない

 【聖杯】
 ガラハドが主君であるアーサー王に命じられ、生涯を賭けて探索し、ついに迷宮内で入手した伝説の願望成就器。
 入手後、それを聞きつけた様々な存在に狙われる原因となった。
 (一例として:VIVITと呼ばれる謎のメイド型決戦兵器によって襲撃されたり等)
 なにをするきさまー。



 後書き
 二章までの繋ぎに一つ。



[15304] 二章導入
Name: ru◆9c8298c4 ID:4ac5bc85
Date: 2013/04/12 02:55







 「おー、いらっしゃい姉ちゃん。はちみつ酒でいいかい?」

 薄暗い店内、カウンター席へと腰を降ろすと、店主は指で虚空を叩きつつ、俺へと尋ねた。

 コクリと頷くと店主は立ち上がり、ガラスの瓶から木のコップへと注ぎ、俺の前に置く。
 手に取り、*ごくっ*と少量喉に含む。
 甘い酸味とアルコール特有の熱が身体へと広がり、俺は至福の吐息を漏らした。

 「カナブキとバインハムのセットで」

 「あいよ」
 という声と共に、店主が奥へと引っ込む。

 「コマンドタウンガイド」と呟き、タウンマップを選択。
 何故なら一人で何もせず料理を待っているのは暇過ぎるからであって。
 
 にしても美味いなぁ、はちみつ酒。
 酒の美味さにぼーっと浸り、地図を動かしつつ、日々の生活こんなんでいいのかなぁとふと思いを巡らした。




 最初の迷宮探索を終え、役に立ちそうにもない魔術師の遺産を売り払い、当座の資金を手にした俺がまず最初にしたことは、
 美味しい料理屋やら酒場を探すことだった。

 日々のやる気やら何やらは美味しい料理と酒によって出されるからである。等と理論武装で身を纏いつつ。
 単純な話、以外と金になったため、少しだけ贅沢をしたかったからであって。
 



 そんなことを考えていると、*コトリ*という音と共に、大きなパンとハムとチーズとレタスが置かれる。
 これがまた腹も膨れるし、最初に頼んだはちみつ酒ととても合うのだ。

 早速平らげつつ、はちみつ酒をお代わりし、いい気分になって店主だったりいつの間にか隣に座ってた客としゃべりつつ、
 ウィスキーやら何やら飲みまくってたら、くらくらと周りが歪んできた。

 少し飲みすぎたかな、と若干の眠気が漂う頭で考えること暫し。
 水を飲んで多少アルコールを落ち着かせ、勘定をすませ、立ち上がり、出口へと向かう。

 微妙に足がおぼつかず、一瞬視界が回り、ふらっと倒れそうになった。
 おっと、とふんばったところで、不意に右腕を掴まれる。

 「嬢ちゃんふらふらじゃねぇか。送ってってやろうか」
 首を巡らし見れば、先程隣で何やら色々話した冒険者の男。

 「大丈夫だ。後、嬢ちゃんって言うな」
 と、俺は抗議した。女扱いされるのは仕方ないにしても、子ども扱いまでされたくはないからであって。

 「ああ、すまんな。えーじちゃん」

 「ちゃん付けもヤメロ」
 俺は少々苛立ちつつ、掴んでいる腕を払う。
 「あーでも気持ちだけ貰っとく。ありがと」

 そう言うと男は照れたように笑い、
 「気をつけて帰れよ」
 と、一言。

 なんか変なフラグが立ったような気がしたが、酒の迷いだと思いつつ、そのまま外へ。


 「毎度。またよろしく」
 という店主の声が背中へとかかった。






 どうやって帰ったかは覚えていないが、気がつくと俺は宿のベッドの前へと辿り着いていた。
 そのままベッドへと倒れこみ、目を瞑る。
 ふわふわ浮かんでいるかのような気分だ。なんとなく今夜はいい夢が見れそうである。










 迷宮世界










 「起きなさい、起きなさい、えーじ」

 どこかで聞いたような、優しく甘い響きを持った女の子の声。
 そんな声に促され、俺は目を覚ます。

 見覚えのある可愛らしい顔。その後ろは淡く白い空間が広がっている。
 「……ルーエル?」
 と、俺は呟いた。この世界にくる原因となった天使の顔。それが目の前にあったからである。

 俺がそう言うと、天使はにこりと見惚れるような微笑を浮かべ、

 「ねこパンチ!」
 *バン*と招き猫のような手で俺の顔をぶん殴ってきた。

 「てっ、いきなりなにすんだ!」
 俺は顔を抑えつつ、起き上がった。酷い不意打ちだ。

 天使は起き上がった俺から離れるように空中で身を引き、
 「それは私の台詞なのですよ、えーじ」
 と、不機嫌そうに言った。

 「何がだよ」
 俺は殴られた頬を右手でこすりつつ尋ねる。

 「何を?何をと言いましたですか?えーじ。 ここ最近のあなたの生活を思い出して欲しいものですね」
 と、腕を組みながら見下ろしつつ天使。

 「あー……」
 と、俺は呟く。
 「いやまぁ、少し自堕落のような気がしなくもなかったけどさ」

 折角暫く何もしなくても良さそうなだけのお金が入ったのだし、ちょっとぐらい休んでもバチは当たるまい。
 それにまだたった二週間ほどであって。

 ふぅっと天使が溜息を吐き、真っ白な地面へと降り立ち、座り込んでいる俺を冷めた目つきで見つつ、
 「私は豚にBETした覚えはありません」
 と、冷たい声で言った。

 奇妙なことだが、その言葉に何故か俺は怒りよりぞくぞくとしたものが身体へ走り、
 「いや待てって。今はちょっと英気を養ってるだけなんだって。もうちょっとしたらさ、」

 「ニートは皆そう言うんですよ、このかたつむり野郎。明日やるではなく今やりなさいなのです」

 現状が現状なだけにちょっとばかり胸が痛い。
 俺はふぅっと溜息を吐き、
 「うん、わかった」

 「わかってくださいましたか!」

 「後ほんのちょっとだけ異世界の生活を楽しんだら、」

 「だめだめです! えーじ」
 と、天使は頭を抱え、
 「それともなんですか。夜中に一人アンアン喘いでるせいで本来の目的すら失ってしまいましたか?」

 「ちょ、てめ」
 その言葉は今までのどの言葉よりも響き、俺は恥ずかしさに顔が熱くなる。

 「豚ではなくメス豚だったのですね。ルーエルちゃん間違っちゃったですよ。あははー」

 「おいルーエル」

 「なんですか?」
 その天使の顔は今まで見た中でも一番楽しそうで、

 「お前あれだろ。楽しんでるだろ」

 「えへへー……って何を言わせるんですか、えーじ! こんな変態な言葉をルーエルちゃんに言わせるだなんて」
 と、何故かにらみつける天使。

 「全部勝手にお前が言ったんじゃねぇか!」

 「まぁ、それはいいでしょう……仕方ありません、本来なら言いたくはなかったのですが」
 と、不意に神妙な顔つきになる天使。

 「なんだよ」
 と、俺は空気を感じ取り尋ねる。

 「もしこのまま迷宮に行かず、のんべんだらりとした生活を続けているとですね、」

 「うん」

 「死にます」


 え?
 「え、ちょ、マジで!?」

 「マジです。後三日で死にます」

 「ちょ」
 いくらなんでも短すぎるだろ……。俺は少し焦り、
 「それはどういった理由で死ぬんだ?」


 「え? えっと……あ、そうそう! プレイヤーにはある一定の準備期間みたいなものがありまして。
 それを過ぎると死んでしまうのですよ」

 ん?と微妙に違和感を感じつつ、
 「で、なんで今までそれを言わなかったんだ?」

 「それはですね……」
 と、黙り込む天使。

 「それは……?」
 と、俺は促す。

 「……えっと…そうです! ほら、やっぱりルーエルちゃんとしてはえーじの自主性に任せたかったのですよ。
 ほら、強制的に行かなくてはいけないという鎖に縛られてる気分ってあまり良くないじゃないですか」
 と、もっともらしいことを言う天使。ていうか、

 「それ嘘だろ」

 「な、な、なんて事を言うんですかっ。このウスラトンカチは! この清廉潔白なルーエルちゃんに向かってなんたる暴言!」

 「おめーもさっきから暴言吐きまくりじゃねぇか!」
 俺はおもわず突っ込んだ。誰が清廉潔白だ。誰が。

 「……まぁ、いいでしょう。とにかく私としては私の駒が簡単に壊れてしまうと困ります。
 とにかく三日以内になんとしてでも迷宮に、」

 駒言い切りやがった。てか、
 「いやルーエル。死ぬっても嘘だろ」
 俺がそう言うと、

 天使は俺から顔を逸らしつつ
 「ソンナコトナイデスヨ」
 と、言った。

 「なんで片言になるんだよ」

 *コホン*と天使は咳払いをしつつ、
 「そんなに信用できないなら私の目を見てください。ルーエルちゃんはBETした契約者に嘘は吐かないのですよ」

 そう言ってこちらをみつめる美少女。
 瞳はきらきらしていて一片の邪気も感じられない。のだけど、


 「いやいやいや」
 と、俺は首を振った。

 「何ですか……まぁ、いいでしょう。
 とにかく、私は伝えました。少しは危機を持ってえーじが迷宮に挑んでくれることを望んでいます」

 「あー、はい」
 と、俺は頷いた。

 「わかっててくれて嬉しいのです。えーじが死ななさそうで、ルーエルちゃんとしてもハッピーです。
 でももし万が一、私のことも信用せず、このまま自堕落な生活を続けるようでしたら、仕方ありません。
 諦めの境地でえーじにこう言わさせて頂きますです」

 「はい?」

 「豚は死ね」
 その言葉と共に、何故か笑みを浮かべながら震える天使。

 何この天使怖い。


 そんなことを考えていると、風景が霞み、次第に意識が浮き上がっていき、 





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 好感度 の 変動 がありました。
 流々の冠亭の店主 ラウス の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【好意的】 です。
 冒険者 モルディア の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【好意的】 です。

 あなた は 夢の中で神に会い その信仰 を深めた。
 あなた は 身体を休め1% の 潜在能力 をアップさせた。

 あなた は 8時間眠り 十分な睡眠 を取った。
 あなた は 目を覚ました。
 おはようございます! プレイヤー えいじ
 
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 目を覚まし、身体を起こす。
 ぼーっと天使の言葉を考えること暫し。

 「ま、あんなの嘘に決まってるさ」 と俺は再びベッドに倒れこんだ。









 * * *









 数時間後、俺は高く聳え立つ塔の前に居た。
 いや万が一ということもあるのだし。

 あの時はミュレンさんが居たけど今回は自力で探すのか、見つかるかなぁという感じで地図を見たところ、
 地図には幾つか赤い矢印のようなものが記されていた。
 その赤い矢印はどうやら迷宮を示しているらしく、その中の赤い矢印の一つを指で触ったところ、『初心者の塔』というテキストが飛び出した。
 成程、こうやって探すのかーと思いつつ、それを頼りにおそらく30分程歩き、やっぱ馬とか覚えた方が良さそうだなぁとか考えながらも、無事辿り着いたのだった。

 何はともわれ、そのまま入り口の扉へと向かい、
 *ポン*とポップアップ。

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 ここ は 初心者の塔です。
 この迷宮 は 既に踏破済みです。それでも構いませんか?

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 「ありゃ」
 と、俺は呟いた。

 町から出てすぐ表示されるような初心者用の迷宮に向かうのは得策ではなかっただろうかとか思いつつ、
 いやいや、今回は隣にミュレンさんは居ないのだし、まずは自力で探索してみよう、本番はそれから! とポジティブに考えつつ、俺は塔へと入った。

 
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 あなた は 迷宮の中へと足を踏み入れた。
 
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 ん?と一瞬変なポップアップを見たような気がした。そういや前もそうだったような、と思いを巡らせつつ、
 おっと、忘れるところだった。「コマンドマップ」 と、地図を表示させる。

 ランタンのことも頭に浮かんだが、洞窟と違い光源が存在するようだった。
 壁には一定の間隔で設置された燭台に蝋燭の炎が灯っており、頼りなさげに揺らめいている。

 使用すれば更に明るくはなるだろうが、視界には全く問題なさげだったので、そのまま探索を開始。



 「しかしあれだなぁ」

 *キキキィ*とガラスを引っかくような耳障りな音と共にこちらへと体当たりを仕掛けてきた蝙蝠を刀で斬り払う。
 どうにもなんていうか現れるモンスターが前よりも弱くなっているような気がするのだ。

 もしかすると俺が強くなってるのかな。等と考えつつ、咆哮と共に向かってきたスモール・コボルトの喉を突き刺し、
 そのまま足で蹴り飛ばしつつ刀を抜く。

 いや、やっぱり多分俺が強くなってるんだろうな。何せ転職してから二週間以上経っているのだし。
 迷宮に潜ったのはミュレンさんと一緒の時のみだけど。

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 無色の薬が落ちている。
 
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 ふと部屋の片隅に、試験管を発見。とりあえず「鑑定」を実行。

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 それ は 睡眠薬 であることが完全に判明した。

 使用した対象を眠らせる。
 もし店で売れば 1Gと75S ぐらいになるだろう
 
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 あー睡眠薬かーと納得しつつ、俺はローブの右ポケットへと入れる。

 そのままマップを埋めつつ、遭遇するモンスターを難なく仕留め、螺旋階段を見つけ、
 なんだ楽勝じゃないかと階段を登り始めた。










 ***









 舐めていた。
 あの時ミュレンさんにも言われてたじゃないか。

 階段を昇り、通路にいた大ネズミをなんなく斬り払い、順風満帆と進んでいたのだが、一つ目の部屋に入った瞬間、俺はかつてない窮地に陥った。

 そこに居たのは足が大きく、靴を履いていない、小柄の小人――ホビットだった。
 初めてのホビットの出会いに少し感動したものの、それはモンスターだったようで、こちらを見つけるなり咆哮をあげ、走ってくる。

 俺は刀を構え、迎えうつ。
 種族が変わろうがやることはかわらない。ただ持っている剣を振り上げ、愚直に突進してくるだけである。

 が、

 不意に*どん*と脇腹を殴られ、俺は痛みに顔を顰めた。そして原因を探るため、首を動かした。
 そこにいたのは一匹の大ネズミである。

 このっ、と俺は刀を動かし、ふと近くに気配。
 あ、と慌てて首を動かした時に見えたものは、こちらへとむかって振り下ろされる剣だった。

 咄嗟に身を引いたものの、そのホビットの剣は*ザシュッ*と俺の左肩の付け根部分を斬り開いた。
 
 「え?」
 と、呟く。

 血が流れ出し、ズキリという痛みが左肩を侵し始める。
 「ぐ、この」
 痛みに耐えつつ、再び刀を構えようとして、
 
 じくりと今度は左足首に痛み。
 見れば先程の大ネズミが噛み付いていた。

 このっと空気を蹴るように左足を動かす。
 *ぶちっ*と肉を千切られるかのような感覚の後、ネズミは俺の足から離れる。

 ズキリ、と左肩が痛む。じくじくと左足が痛む。
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 痛いよぅ。

 ホビットが剣を振り上げる。

 「ひっ」
 と俺は怯えつつ後ろに下がる。

 *ガチャン*と振り下ろされた剣が地面に当たって音を立てる。

 死にたくない。死にたくない。死ぬものか。
 俺は泣いてその場に倒れこみそうになりながらもそれを堪え、痛みを我慢し、後ろへと飛びのき、刀を構えながら牽制し、先程きた通路へと後ずさる。

 ホビットによって斬られた傷は深いのか、血がどくどくと流れている。服の中から血が伝い、ぬるりとした液体が左手に垂れてくる。
 やばい。左の感覚がなくなって来た。
 もっともまだちゃんと左手で剣は握れているから、痛みで麻痺しているだけのような気もするが。

 じくじくと左足が痛む。ズキズキと左肩が痛む。

 「ゴアアアアアアアァ」
 ホビットが再び剣を振り上げ、こちらへと突進。

 「調子にのんなああああこの野郎っ!」
 俺は手に力を込め、相手のがらあきの胴を斬り開いてやらんと左足を踏み込み、

 ズキィッという強い痛みによってバランスを崩す。

 しまっ―――

 刀は僅かに相手の左脇腹を掠め、斬り開いたが、それは致命傷というには程遠い。
 俺は咄嗟に右へと転がるように倒れこみ、そのまま立ち上がろうとして、

 がん☆
 と、頭に衝撃を受け、倒れた。

 *カラン*と刀が転がる。
 
 畜生。今ならドラえもんの気持ちが良くわかると泣きそうな頭で思いつつ、慌てて転がり、

 *ガチャン*と先程までの場所に剣が振り下ろされていた。

 ぞぞっという悪寒を感じつつも転がりながら立ち上がり、咄嗟に右ポケットへと手を突っ込む。
 再び咆哮をあげ、突進してくるホビット。

 右ポケットに入っていた試験管を投擲。
 *ガシャン*と、ホビットへ見事に命中し、そのまま一歩、そして二歩目にうつ伏せに倒れこんだ。

 「は、はは」
 と、俺は笑った。なんだよ、このあっけなさ。

 「チュー」と鳴き声。

 その鳴き声に反応し、左へと首を巡らす。
 「このネズミがぁっ」
 と、俺は突進してきたネズミへ向かって左足を後ろに振り上げ、そのまま蹴り飛ばす。

 左足が捩れるような感覚と同時に強烈な痛みが走り、
 「ぐにあうっ」
 という意味不明の奇声をあげる。

 しまった。怪我してる方の足だった。
 「畜生」
 俺はあまりの痛さに足を抑え、倒れこむ。

 蹴り飛ばされた大ネズミが壁へとぶち当たり、弱弱しく立ち上がるのを確認。
 俺は涙を流しながら痛みに耐え、胸ポケットから毒薬を取り出し、座り込みながら大ネズミへと投擲する。

 *ガシャン*と命中し、緑色の液体がネズミへと降りかかる。

 それにも構わずネズミはこちらへと足を数歩進めた後、そのままもだえ苦しむように倒れ、シューと青い蒸気を噴出し始める。

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。ローブが血で汚れている。
 「痛い。痛い。ひっく、痛い」
 俺は泣きながら肩を抑える。全身がしびれ、激痛が絶えず流れている。
 そこでふと、あることに気がついた。左肩の付け根部分を剣で斬り裂かれた筈なのだが、それが塞がっていたのだ。
 魔法の衣服の効果だろうか。そんなことを考え、はっと気がつき、内ポケットへと手を突っ込み、青透明の液体が入った試験管を取り出し、肩へとかける。

 しゅうっという蒸気と共に、焼かれているかのような痛みが走る。
 「ぐうっ」
 と、我慢。次第に痛みが治まってくる。

 中身の液体が無くなったので再び別の試験管を取り出し、今度は左足へ。
 こちらはすぐにえぐられていた傷も痛みもひく。
 まだ左肩がずきずきするので三本目を左肩に少しかけ、それから浴びるようにあたまから振りかけた。
 
 「がーっ、ごーっ」
 という唸り声。

 はっと俺は我に返り、毒薬を胸ポケットから取り出しつつ、その音源を確かめる。
 それは倒れ伏しているホビットからだった。俺は安堵の息を吐き、転がっていた刀を回収し、そのまま眠っているホビットの顔に向かって振り下ろす。

 *じゃきっ*という手応えと共に、刀はホビットの顔を両断。同時に蒸気を吹き上げ始め、その姿が砂となって崩れていく。
 俺は壁へと寄りかかり、安堵の息を吐いた。先程まであった激痛は欠片もない。ファンタジーな薬だなと苦笑する。

 ローブを見ると、こびりついた筈の血がなくなっている。
 果たしてこれは魔法の衣服のせいなのか、迷宮のせいなのか、それとも先程の回復ポーションのせいなのか。


 ふと一番最初の迷宮――ミュレンさんと入った迷宮で、コボルト二匹と数匹の大ネズミが同時に襲ってきた場面を思い出し、


 「そうだ、パーティー探そう」
 俺は呟いた。









 ステータス

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 336G 72S
 カルマ -2

 筋力  7 Great
 耐久  8 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 12 Great
 意思  5 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 12 Good

 クラス   アイテム師
 信仰神   ドルーグ
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.1 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.2 アイテム効果上昇
 状態異常  なし
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 装備

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 鉛の刀(4d3)

 それは鉛で出来ている
 それは錆びにくい
 それは(4d3)のダメージを与える(貫通率20%)
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆艶やかなる法衣『さようなら現世』 [7,0]

 それは布で出来ている
 それはDVを7あげ、PVを0減少させる
 それは習得を維持する
 それは体力回復を強化する*
 それは剣術の理解を深める**
 それは重装備での行動を阻害する****
 それは盲目を無効にする
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 布のズボン [3,0]

 それは布で出来ている
 それはDVを3あげ、PVを0減少させる
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 皮の靴 [2,4]

 それは皮で出来ている
 それはDVを2あげ、PVを4上昇させる
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 銅の腕輪 [0,1]

 それは銅で出来ている
 それは酸では錆びない
 それはDVを0あげ、PVを1上昇させる 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 翡翠の指輪 [6,0]

 それは翡翠で出来ている
 それは炎では燃えない
 それは酸では錆びない
 それはDVを6あげ、PVを0減少させる
 それは生命を5上げる
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
















 後書き
 二章スタートですが、ちと出張のため続きはほんの少し遅くなりそうです。
 てことで今回は長めに一つ。
 どうでもいいけど投擲ちゃんと成功してよかった。



[15304] PTを組むこと
Name: ru◆9c8298c4 ID:7a6be6f7
Date: 2013/04/06 02:31







 仲間を探すといっても、俺が当てに出来る人物は限られているわけで。
 一瞬ミュレンさんのことが頭に思い浮かんだけれど、すぐにかの提示版を思い出し、

 「コマンドタウンガイド」
 と呟き、ポップアップされた項目の一つである提示版をタッチする。

 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 1.依頼
 2.募集
 3.雑談

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 
 随分と便利だよなぁと、件のしっぽの美しい女神の姿を思い出し、
 やっぱり早まったかなぁと少々自身の信仰する神の姿を思い浮かべつつ、募集をタッチ。
 とりあえずはドラゴン退治やら塔の攻略やらのベテラン的な募集を目で流していくと、一つの募集が目に当たった。

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 攻略始まりの塔等。経験不要。後衛職求む。前衛でも応相談。

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 少々考えつつも、こういうのは度胸、ええいままよという感じで申し込みボタンを押す。

 これで果たして申し込んだことになるのかしらと初めて使った機能に若干不安を覚えつつも、
 不意に*ポン*という音と共に浮かび上がったポップアップに、安心しつつも苦笑。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ルイミスがあなたをチャットへと招待しています。部屋番号は49371番です。
 招待に応じますか?              Y/N

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 ヴァーチャルリアリティなゲームでもやってるのだと錯覚しそうだな、そんなことを思いつつ俺はYを押した。



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 ナヴィ : エイジさんが入室しました

 べバス : お

 トーレル : む

 ルイミス : こんちゃー

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 さて、チャット画面に入れたのはいいのだけれど、問題はどうやって入力するかが分からないのである。
 新たにポップアップしたもう一つの画面に発言、退席、というボタンがあるのを見るに、こちらに書くのであろうか。
 というのも、そこにはキーボードも文字入力システムも見当たらないのであって。

 「どうやんだろ」
 と、呟く。

 瞬間、『どうやんだろ』と、もう一つの画面に表示。

 「音声入力とは……」
 感嘆しつつ呟く。

 とりあえず、『どうやんだろ。音声入力とは……』というのをクリアし、


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 ナヴィ : エイジさんが入室しました

 べバス : お

 トーレル : む

 ルイミス : こんちゃー

 エイジ : こんにちわ。これで入力されんのかな?

 ルイミス : おや、チャットは初めて?

 エイジ : 最近きたもんで

 べバス : なれりゃ便利さ

 トーレル : 小難しいこともないしな

 ルイミス : うんうん。で、とりあえず職業は?

 エイジ : アイテム師かな

 べバス : アイテム師だぁ?聞かねぇ職だな。

 ルイミス : え?てことはもしかして結構熟練者?

 トーレル : 職人って可能性もあるが。

 べバス : なんでおまえら知ってんだよw で、どんな職なんだ?

 エイジ : いや、まだ2~3回しか潜ってない初心者だよ。

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 にしてもこれ本当に向こうでやってたチャットと変わんないなぁと思いつつ。声に出さなければいけないのが面倒だが。


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 ルイミス : あれ?アイテム師って魔法職の二次じゃなかった?

 エイジ : とりあえず未鑑定のものを鑑定できる。ただ始めたばかりなので効果はお察し。

 トーレル : 目利きが出来る商人から派生することもあるらしいとか耳に挟んだことはあるがな

 べバス : まぁ、便利そうだな。いいんじゃね?

 トーレル : こちらも構わん

 ルイミス : むしろありがたいよ。鑑定代も馬鹿にならないからね

 エイジ : 成ったばかりだし、あんま期待されても困るがw

 ルイミス : あ、ちなみに後衛?

 エイジ : あーえっと、薬代も馬鹿にならないからな…普段は剣で闘ってる。

 ルイミス : ってことは前衛か。前衛過多ですなぁw

 べバス : その辺のことは潜ってから考えりゃいいさ。どうせ行くのはゆるいダンジョンだろ?

 トーレル : わしも同感だ。深く考えることでもあるまい

 ルイミス : 確かにそうなんだけど。とりあえず実際にあって話そうか

 べバス : 新入りの歓迎に酒でも飲もうぜw

 トーレル : お前さんもたまには良いことを言う。

 べバス : うっせwww

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 とりあえず待ち合わせやら何やらを話し、チャットを閉じる。
 なんていうか随分とゲーム感覚的にPTは結成できたもんだが、問題は現実に会った時だなぁとそんな事を思う。
 ベッドにごろんと横になりつつ俺は呟いた。
 「あー緊張する」











 迷宮世界










 「にしても」
 と、俺は馬車に揺られながら呟いた。

 今自分が居るグラフーインは迷宮『都市』と言われるだけあり、それなりに広い。
 大体東京3~4区ぐらいだろうか。だからこそ移動手段が面倒になってくるわけで、そろそろ乗馬を覚えないといけないなぁとそんなことを思う。

 「どうした、お客さん」
 俺の呟きを聞きつけたのか、運転手が……って馬車も運転手とか言うんだろうか等と、少し疑問が浮かんだ。

 「いや後どれくらいでつくのかと思ってね」

 「そうだな……後20分かそこらって感じじゃないかい?」

 「ありがとう。ぼんやりと外を眺めてることにするよ」
 俺はそう呟いて、ぼんやりと景色を眺める。

 多少の日にちは流れたものの、こうやってゆっくり町並みを眺めるのは、初めての経験だからであって。

 グラフーインの交通手段として一番メジャーなのがこの馬車タクシーというものなのらしい。
 よくよく見ればそこかしこにある同じ色――青い衣装を着せられた馬を見ることができた。

 ファンタジーなのにファンタジーじゃないなぁとそんなことを思いながら町並みと行き交う様々な種族を眺めていると、
 不意にがくんと、馬車が止まった。


 「着きましたぜ。フェルグ中央公園はこの階段を上がったところだ」

 「ありがとう」
 感謝と共に提示された料金を支払い、そのまま軽く手を振って、階段を登る。

 「コマンドタウンガイド」
 呟き、ポップアップされた項目からメール送信を選択。対象はルイミス。


 ついたよーとだけ呟き送信。

 果たして数分も経たないうちに*ポン*と音が鳴り、

 『今行く。こちらドワーフと鎧を着けた戦士とつけてない戦士。時計台周辺にて待ってくれると分かりやすいです』

 その返信に従って首を巡らす。
 公園内には誰も居なかった。あるのはまるでLEDのような赤い文字で時間を知らせる上に細長いデジタル時計。
 近くへと足を進めた。

 アナログじゃないだけで随分と違和感があるなぁとそんな事を思いながら、刻まれていく時間をぼーっと見ていると、

 *ガチャっ*
 
 という金属が触れ合う音に加え、なにやら話し声のようなものが聞こえてくる。

 そちらを見れば一目でドワーフと分かるずんぐりむっくり、大きな斧。そして長い髭である。そしてその横には鎧を着た大柄な人物と、軽い軽鎧を身に着けた人の姿。

 俺はそのまま軽く手を挙げ、その3人組へと足を進める。

 それに応じ、手を上げたのは大柄な男。そのまま互いに足を進め、

 「えいじです。よろしく」

 「トーレルだ」
 と、ドワーフが言った。
 「とりあえず酒でも飲んで……どうしたお前さん方」

 後ろを振り返った後、訝しげにドワーフがたずねる。

 俺も俺で首を傾げた。というのも、なんか二人が固まっているかのように見えたからであって。

 「いや別に。別にどうもしてないさ。べレスだ。じゃあさっそく酒飲みに行こうぜ。えーじちゃん」
 ぐふっとどこか下品に笑いながら大柄な男が言った。
 よくよく見れば大柄というより太っているという感じで、顔はとても見目麗しいとは言えないもので。

 「あーいや。どうもルミウスです。えいじさんって女の人…だったんですね。男だとばかり」
 まぁこちらも見目麗しいとはとても言えないが、豚のような顔のべレスに比べればかなりマシだなぁとかそんな失礼な事を思いつつ、
 
 「性別なんてどうでもいいと思うが」
 と、呆れたようにドワーフが言った。

 「はっ、これだからドワーフってやつは」
 と、べレスが肩をすくめる。

 「お前さんが過剰すぎるんじゃ」

 「はぁ。どうでもいいがいきなりちゃん付けはヤメロ」
 なんていうか肌がざわつくからであって。

 「かてぇこと言うなって。ほら、酒飲みにいくぞ」
 親しげにその大柄な腕を俺の肩へと乗せ、首を後ろに巡らし言った。



 その重みに苦笑しつつ、「ああ、そうだな」と、俺は頷いた。









 後書き
 前のPCは書き溜めてたデータごと壊れましたが新しいPCはきっと上手くやってくれるはずです。
 正直二週間ぐらいで次をアップする予定でしたがいつの間にかものすごい月日が流れてました。
 申し訳ありません。そしてこれからもよろしくです。
 凄い久々に書いているせいか、文章に齟齬のようなものを感じなければ良いなぁと少々不安。



[15304] 酒盛り
Name: ru◆9c8298c4 ID:7a6be6f7
Date: 2013/04/13 01:29






 『土竜の尻穴亭』

 一体どういうセンスでここの店主はこんな名前をつけたのだろうか。
 そんなことを思いつつ、物静かな酒場へと足を踏み入れる。

 「よう、相変わらずここは客がいねぇな」
 ドワーフのおっさんが、カウンターに向かって呼びかけた。

 見ればトーレル以上の長いひげがカウンターを覆っている。
 どうやらここの店主は彼と同じくドワーフのようだった。

 「あ?」
 ぶるりとひげが震え、木のコップを倒す。
 「大きな世話だ、トーレル。さっさと注文を言え」

 「注文なんざ聞くからこの店ははやんねぇんだ。最初に飲むもんはエールと相場が決まっておる」

 「そうかい」
 舌打ちしながら店主が言った。
 「適当に座ってな」


 ベレスに促され、腰をかける。
 俺は酒場の様子を見渡した。ずいぶんと薄暗く、乱雑としている。
 奥には誰かが飲んだと思われる木のジョッキが転がっていた。

 4つのジョッキがテーブルへと置かれ、*ドン*と酒樽を乗せ、
 「後は勝手にやんな」
 と、一言いってカウンターへと戻っていく。

 なるほど、これは流行らないだろうなぁ。と、納得しつつも、一番の原因は名前だろうなとかそんなことを考えつつ。

 「さて、何はともわれ新たなメンバー。エージさんの加入を祝いまして」

 「ま、よろしくな」

 「よろしくやってこうぜ、えーじちゃん」

 木のジョッキを掲げてる三人に合わせてこちらもジョッキを上げる。

 「ナヴィのめぐり合わせに」
 3人の中では一番普通な彼が声をあげ、酒盛りが始まった。

 ちなみに俺ははちみつ酒を最初に飲みたかったが言い出せなかったことを付け加えておく。









 迷宮世界









 「確かにナヴィ様様だな」
 ぐふふっとこちらを見てベレスが笑う。その顔はどこか愛嬌があるもので。

 ていうか今更だけど、こいつ人間じゃないよな。流石にちょっと人間と呼ぶには酷すぎる面構えだ。

 もしかしてこれがオーク?か。 
 なんてことを考えながらふと豚という言葉が禁忌なんだっけ?等とルーエルの説明書文を思い出していると、

 「おう、お前さん、ジョッキをよこせ」
 と、ドワーフのトーレルが手を差し出した。


 手に持ったジョッキの中身はいつの間にか無くなっている。
 飲み終わった空のジョッキを渡すと、酒樽の中に直接ジョッキを入れ、そのまま俺のほうへと差し出した。
 その豪快さになんとなく楽しくなりつつも、こちらをじっと見つめるトーレルに、ほほう。これはそういうことか。ニヤリと俺は笑った。

 そのままジョッキを傾け、中身を流し込む。
 どうだ、とトーレルを見れば、そんな俺の様子に笑みを浮かべてジョッキを呷り、俺のほうへと手を差し出した。


 「おー、やるなぁ」
 ふと豚面が感心するように言った。ふふん、だろう?

 なんだか気分は最高にハイであり、俺は勧められるまま杯を呷る。




 ***




 そしてなんだかふわふわ気分。
 酒を繰り返し呷りつつ、ぐるぐるしてきた天井を見て楽しむ。

 「ちょっ、ちょっとエージさん。そろそろやめたほうが」

 うるさい。せっかくいい気分だっていうのに邪魔すんなっての。こちとらそんなにやわな身体はしてませんですー。

 「そうだぜ、リーダー。えーじちゃんも乗り気なんだ。ほら、酒の席でくだらないこといいっこ無しさ」

 おお、お前なかなかいいこと言うな。やっぱ人間容姿じゃねぇな。中身だな。

 「お前さんもわかってきたじゃねぇか。ほれ、お前さんも飲め。このままじゃとわしとこの娘で全部飲み干しちまうぞ」

 うはは。よーし俺様全部飲み干しちまうぞー。

 「おうおう。なかなか豪快じゃな。わしには敵わんがな」


 にゃにおう!

 *ごくり*と甘露を味わいつつ、


 って、



 ん?



 あれ


 …………。



 ふわふわ気分でぐるぐる?




 「……から、言ったのに」



 「……んじゃ。…だ始まったばかりだってのに」



 「……ぁわかってたけどな。どれ、休むか?」


 え?あ、うん。大丈夫だって。なんかぐるぐるしてるだけだしぃ?


 「ああ、ふらふらしてんじゃねぇよ。仕方ねぇなぁ。えーじちゃん宿何処だい?」

 やどぉ?なんだってそんなこと聞くのさぁ?

 そんなことよりなんかぐるぐるして面白いよ?ちょっと歩きたい気分。っと、おや身体がふわり。


 「わかったわかった。俺が付き合ってやるよ」


 別にいいのに。あ、でもこの状態でちょっと外歩きたいかも?


 「じゃあなおさらだな。ここら辺の地理ないだろ?」


 確かにそうだけど、でも迷惑じゃない?


 「仲間だろ。迷惑じゃないさ」


 おーそっかー。仲間かぁ。うへへ。いいやつだなコイツ。



 よーしじゃあちょっとだけいこっかぁ。
















 後書き
 なんか気がついたらこの文章を書いていました。
 そういやこれ酒飲んで乱闘シーンとか書いてたの没にして別なの書こうとしてたらそのままお流れになってたんだっけ。
 てなことで、再開ついでにそんな最初の仲間との会合シーンを一つ。



[15304] 色々初体験なこと
Name: ru◆9c8298c4 ID:7a6be6f7
Date: 2013/04/06 02:19





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 好感度 の 変動 がありました。
 冒険者 べレス の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【好意的】 です。

 冒険者 トーレル の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【普通】 です。

 冒険者 ルミウス の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【普通】 です。

 あなた は 身体を休め2% の 潜在能力 をアップさせた。

 あなた は 4時間半眠った。あなた はリフレッシュした。
 あなた は 目を覚ました。少し頭痛がする。
 おはようございます! プレイヤー えいじ
 《言語と書物の女神》ルーエルが冷たい声で呟いた。「貞操観念くらい持ちなさい。豚同士の交尾なんざ見たくありません」
 
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 気のせいかルーエルに罵られたような気がする。
 はて、と思いつつもベッドから身体を起こし、ズキリという頭痛に頭を抑える。

 見知らぬ部屋だった。少し首を巡らし、状況を把握しようとする。
 毛布と思って身体を包んでいたのはどうやら自身のローブらしい。つまりローブを脱いで掛け布団代わりにしていたということであって。

 ベッドは随分と大きい。枕が二つあるにダブルベッドであろうか。
 どういう状況だ、とローブを上に被せたまま、*ぽふっ*と後ろに倒れ、そのままもぞもぞとベッドの中に潜り込む。
 なんとなく使わないまま出るのは勿体無いような気がしたからである。

 酒のせいで倒れるように眠ってしまったのだろうか等と、少々ズキズキする頭を巡らせながら思い出すこと暫し。
 そういやなんかドワーフのおっさんの勢いと雰囲気に勧められて飲みまくってふらふらになったような気もするなぁ。

 そんな事を思い出しつつ、そういやふらふらになって誰かに肩を貸してもらっていたようなとそんな事柄を思い出していると、吐息のようなものが耳へと入る。
 はて、と思いつつベッドに入ったまま身動きせず、耳を澄ました。

 それは静かな吐息だったが、確かにこの部屋のどこかで聞こえてるとそんな確信を持つに至り、
 とりあえず靴を履こうと*ごろり*とベッドの中で左右に転がりつつベッドの下を確認。靴は見つからない。

 むむっと唸りつつ、仕方ないので靴下のまま足を降ろし、頭を抑えつつもそのまま靴を探そうとして、

 そこで俺は足を止めた。

 「は?」
 おもわずあげた自分の間抜けな声を第三者の出した声のように感じつつ。


 なんとそこには大柄な男が地面に横たわっていたのだ!


 「いやいや」
 どういう状況ですか?これ。

 少し近づきつつ、と、そこで脱ぎ散らかされていた自身の靴を発見し、とりあえずその大柄な腹がどっぷり出た男を見降ろしつつ、靴を履き、

 「えっと、なんだっけ。そうそう。べレス」

 その豚面を確認し、昨日肩を貸してもらったのはこの男だったのだなぁと考えつつ、どういう状況になっているのかと思い巡らすこと暫し。


 「あれ?」


 なんだろう。なんか忘れてる気がする。
 この奇妙な事柄には多分俺が関わっているよなぁ、と、ズキズキする頭を巡らせる。

 「コマンドステータス」

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 所持金 325G 84S
 カルマ -2

 筋力  7 Great
 耐久  8 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 12 Great
 意思  5 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 12 Good

 クラス   アイテム師
 信仰神   ドルーグ
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.1 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.2 アイテム効果上昇
 状態異常  二日酔い
 
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 あー成程。この頭の痛みはやっぱ酒のせいかーと改めて確認しつつ、
 どういう状況でこの宿に入ったのかを思い出し、

 そこでなんかほら着替えるぞー服脱げるかーとかなんとか言われたようなそんな記憶が無きしにも非ずっていうか、それからなんかあうあうあー、

 っ。


 「うわぁ」
 そんなことを呟いて、件の豚を見降ろしつつ、口を人差し指と中指で抑える。
 「ありえねぇ・・・」


 「んんー」
 と、ベレスが気だるそうに呟き、ごろんと地面で寝返りを打った。


 俺は溜息を吐いて、そのどっぷりとした腹をベッドに座ったまま足で軽く踏みつつ、ローブから麻痺薬を取り出し、息を短く一息。

 ベッドから立ち上がり、足を振り上げ、その豚面をサッカーボールのように、

 「起きやがれ、この豚野郎っ!」

 蹴飛ばすのはなんかやりすぎなような気がしたので、拳を縦にしてそのままそのよく出た腹へと落とした。ぼにょんとした。











 迷宮世界











 待ち合わせの場所とやらに、ベレスを道案内に話をしながら歩く。

 「つーことでさー。その最下層に居たのはハーフリングの弓使いだったってわけ。今まで出てきたやつらはただ近づいてくるようなやつだったから戸惑ったのなんの」

 勿論昨夜衝撃な事柄があったわけで。
 少々警戒してたものの、その警戒がすぐに霧散してしまったのはどうにもこのなれなれしい豚面をにくめないからであって。

 「遠距離攻撃かー。まだ会ってねぇな。ってことはもしかして後衛募集ってそのことがあったり?」
 後衛求むの募集を思い出しつつ尋ねる。

 「まぁ、それが切欠だわな。なにが面倒ってそいつ近づかれないように逃げんのよ。追いかけてる間にも迷宮の怪物共は寄ってくるしな。
 それで足を止めてるとあの野郎嬉々とばかりに撃ってきやがる。糞が。あのにやけ面思い出すだけで腹が立ってくるぜ」

 「難儀だな。まぁ、そういうやつが出てきたら俺はお前を盾にするよ」
 そんなことを冗談交じりに言うと、

 「ぶはは。任せろ。お前に矢が届く前に俺がぶった斬ってやんよ」
 なんか得意げに言われた。

 良くわからんが頼りにはなりそうだなぁ、とそんなことを思いつつ歩いていると、ふと昨日見た顔を見つける。

 俺が軽く手を上げると、ドワーフが斧を担いだまま右手をあげた。

 一瞬ルミウスの目線が俺の横にとび、
 「大丈夫だった?」
 それから俺へと目線を合わし、小声で尋ねる。

 「頭が痛い。飲みすぎた」
 俺は頭を抑えながら答えた。

 「情けないな。うちの女共はわし以上に飲むぞ?」
 と、どこか茶化すような声。

 「ドワーフの誘いに乗せられた自分を反省するよ」

 「トーレルのおっさんに付き合おうとはどんな酒豪かとは思ったもんだがな」
 ぐふっとベレス下品に笑う。

 「うるせーな」
 俺はおもわず苦笑。

 ふとなんか変な目で見つめられてたので、俺はルミウスへと目線をずらした。
 「どうしました?」

 「いや、なんか随分と仲がいいようなと思っただけで」

 「そりゃ一晩一緒に過ごした仲だしな」
 ニヤリと笑ったベレスに対し、

 「あ、ああ、そう」

 と、そこでなにやらベレスへと近づき、小声で何か言っているそのPTリーダーを見つつ、
 そこでふとどういう状況かをようやく理解し、俺は気持ち悪いことになってるなと思いつつ冷めた心で言った。

 「一応言っておくが、何も無かったからな? 変な勘違いしているような気がするから言いますが」
 まぁ睡眠薬ぶっかけなけりゃ色々やばかったかもしれないけれど。


 キスはされたような気もするが夢だ夢。ありえん。









 * * *





 



 ああ、ここは日本ではないのだなとそんなことを改めて風景を見ながら思う。
 まるで西部劇の荒野のようだなとそんなことを感じつつ。

 しかしなんでこんなに時間が経っているというのに、未だにどこか現実ではないように感じているのかなー。
 まぁ、そのこと自体はどうしてもかつての過ごしてきた景色が心の根幹にあるからなのだけれど。

 目的地の迷宮は半日ほど荷馬車でいったところにあるらしい。

 この荷馬車は借り物なのかなと思ったが、どうやらこれはリーダーことルミウスの持ち物のようだった。
 なんていうかリーダーという割に遠慮がちで引っ張っていくようなリーダーシップは感じられないのだけれど、
 ちゃんとしているとこはちゃんとしているのかもしれないなぁとそんな事を思いつつ。

 「ていうかやっぱナヴィの信仰便利そうですね」
 なにやら空中で操作をしているルミウスへ話しかける。どうやら目的地の迷宮が未だ踏破されていないかどうか調べているらしい。

 「あ、そーか。えいじさんはここの生まれじゃなかったんだよね。
 他の神信仰に切り替えられないほどの便利さはあるからね。例えギフトをもらってもやめられないかもしれないなぁ」

 「こいつがPTリーダーなのはそれもあるな。ほら、俺とおっさんはナヴィ信仰してねぇし」

 なるほどなぁ、となんでこの人がリーダーやってるんだろという疑問が一つ解消。
 ベレスはといえば、ふわっと暇そうにあくびなんかしている。
 ってかこいつにしてみりゃ面倒ごとの押し付けみたいな感じな気がしなくはない。
 いざ俺がそういう立場になったとしてもやりたくないしなぁ。

 「そういや詳しく知らないんですが、ナヴィのギフトってどんなのですか?」
 ふとそういやコマンドヘルプには乗ってなかったなーと思いつつ尋ねる。

 「え?あ、えーと、迷宮内のマップに階段が表示されるようになるらしいと。そんなことを聞きました」
 どこか目線を逸らしつつ、答えた。


 そりゃ確かに便利そうだなぁ。攻略がかなり楽になるなぁ。


 「ところで、本当に昨夜は何も?」

 「何も無かった。てか思ったんだが、絶対何かあるって思ってただろうになんでこいつを送らしたんだ?」

 「あ、いや、それは」
 と、どこか気まずそうに言葉を濁す。


 まぁ、なんでそんなことを聞かれるかといえば要因があるわけで。 
 つまりだ。

 「時にベレス」

 「あ?」

 「なんでお前は俺の胸を揉んでるんだ?」

 話の最中になんか急に揉まれたわけである。
 いやなんていうかあんまりにも自然に揉まれてたので特に不快でもないし放っておいたわけなのだが。

 「いやー俺もなんで揉ましてくれてるのかわかんなかったけど」

 「お前があまりに自然に触ってきたからだよ。不快でもなかったし。で。どうだ?」

 「なかなか良いがもうちょいでけぇほうが俺好みだな。手伝ってやんよ」

 「自分でもなかなかの感触だとは思うが、俺はこれ以上大きくはなってほしくないな」

 そんなことを会話しつつ、もちろんもにゅもにゅとそんな会話の最中ももまれつつ、ふぅと溜息を吐いて、ふと目線は下へ。
 そこでふと何かテントのようなものが張っていることに気がつき、俺はそこで初めてぞぞっとして、その手を払い、距離をとる。
 で、その行動に何を思ったのか、

 「たまんねぇな、お前」
 何故かぐふふと笑いながら迫ってくるベレスに対し、

 「あの、べれs」
 「いいとこだから邪魔すんなよリーダー」
 馬のたずなを握りながらふりかえったルミウスに対し、そう一言。

 おいおい。と、心の中で思いつつ、

 「どうでもいいが、昼からさかるな。やるなら迷宮の後にしろ」
 非常にどうでも良さそうに言われたドワーフの一言に、ぴたりとベレスの動きが止まる。


 ふぅっとドワーフを見ながら溜息を吐き、
 「それもそうだな」
 それで先ほどまでの剣呑な空気は霧散し、よいしょっと腰を降ろす。
 「悪かった。なんもしねぇよ」
 ニヤリとしながら言ってくるベレスに、俺は溜息を吐いた。

 そういや向こうはおそらく俺に性欲沸かしてると思うわけなんだが、なんであんま不快感ねーのかなーとか少々考えること暫し。
 ましてや不細工な面である。人間離れした豚面と言っても良いわけで。
 ああ、つまるところはそのせいか等と疑問を解消。



 「そういや、トーレスはなんで迷宮に?」

 「わしは迷宮内で取れる鉱物に興味があってな。
 勿論職人として店を構えてるのもいいんじゃが、大抵希少な金属はもっと腕のいい職人に流れてしまうんじゃ。
 それならわし自身が自分で取りに行くしかないじゃろ? 細工用の宝石も手に入るしな」


 そんな他人の迷宮話を色々聞きつつ、少々周りも薄暗くなってきたところで、荷馬車が止まる。


 「ってことで無事着きました。早速いきましょう。先に入った探求者もいないようですし」
 見ればそこには高くそびえる塔。

 「おう。おつかれ。んじゃさくっと踏破すっかー」

 「鉱石類はわしによこせよ」

 と、荷馬車を置いたまま前を行く三人に、このままで大丈夫なのかなと馬を繋いでもいない荷馬車を見ていると、

 「なにやってんだ? 置いてっちまうぞ」
 そんなベレスの言葉に、これはそういうものなんだなと憂いなく早歩きで向かう。


  
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ここ は 初心者の塔です。
 この迷宮 は まだ誰も訪れていません。
 
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 そういや未踏破のダンジョンは初めてだなぁと初めて見るそんなポップアップに少々胸が高鳴りつつ、3人に続き、扉の中へと入った。




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 あなた は 迷宮の中へと足を踏み入れた。
 
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 後書き
 次回は再び迷宮探索です。
 そういやPTメンバー自体のパラはやっぱりサイコロで決めたのですが、
 なんかベレスの魅力が最高値をたたき出した為、
 結果マイナス補正入れても魅力がこのPTメンバーで一番高いという(えいじを除く)。オークなのに。



[15304] 初心者の塔・第一層~
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/13 01:31





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 あなた は 迷宮の中へと足を踏み入れた。
 
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 扉が閉まる。暗い。見渡す限り真っ暗闇だ!

 塔の迷宮というものは洞窟型の迷宮と違い、明かりがあるはずなのだが、入った先はどうにも光源が見当たらず。
 ならば、と、俺は光を求めて手探りでバックパックから灯篭を取り出そうとして、

 *ボッ*

 そんな音が複数暗い空間に響き、それと同時に塔中を照らす光が生まれた。
 見れば壁に一定の間隔で設置された燭台に蝋燭の炎が灯っており、頼りなさげに揺らめいている。

 その光景は一見原始的にも見えるのだが、このように人が入ってきて自動的に火が灯るという仕掛けはどうにも近代的な要素を感じさせるものであって。


 *カサカサカサ*

 不意に枯れ葉が地面をかき鳴らすような音。

 「くるぞ!」
 ルミウスの声に気を引き締め、
 見れば人の膝くらいはあろうかという大きな蜘蛛。
 それが数匹こちらへと這い寄ってくる。その光景はどうにも嫌悪感を呼び起こすもので。
 
 慌てて剣を構える。だが次の瞬間振り下ろされたドワーフの斧が風を斬り、*グチュッ*とその大蜘蛛を潰し、ミンチに変えた。


 「ぶった斬ってやるぜぇ!」
 威勢の良い声と共に、ベレスが突進する。力任せに剣を振り回し、寄ってきた二匹の大蜘蛛を斬り飛ばす。


 蒸気のようなものを*シュー*と噴き出す大蜘蛛。
 それを横目で見つつ、遅れてこちらへとゆっくり這い寄ってくる大きな巻き殻をつけたかたつむりのような魔物に注意を払う。
 ずりずりと這い寄るその大きなかたつむり。蜘蛛ほどではないものの、あまり目に優しいものではない。
 そういやこれ効くかもしれないなぁとふと思いつき、白い粉の入った試験管を取り出し、投擲。
 *ガシャン*と音を立て、中に入っていた白い粉末がその大カタツムリへと降りかかる。


 次の瞬間*キキー*と声。反射的に顔を向ける。
 「ふっ!」
 空気を吐き出すようにルミウスが剣を振るい、近づいてきたこうもりを斬り落とした。


 再びかたつむりに目を向ける。見事に試験管の当たったそいつはのた打ち回り、もがき苦しんでいるように見えた。そのまま蒸気を噴き出し始める。

 「なに投げたの?」
 ルミウスが蒸気をあげて消えていく大かたつむりを見ながら尋ねた。

 「いや、真逆本当に塩で溶けるとは……」

 何に使うか分からない塩の入った試験管をふと思い出して思いつきで投げただけなのだけれど。


 「塩?……ああ、そういやなめくじ系のMOBには効くんだっけ」

 ちょっともったいないけれどね!
 とは言え近づくのも気持ち悪いし、今度多めに買っておこうかなとか思ったりもして。











 迷宮世界











 「頼む」
 ベレスからポイッと投げられた不思議な光沢の服を受け取り、「鑑定」と呟いた。

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 それ は 紙の服[5,0]であることが完全に判明した。
 それ は DVを5上げ、PVを0減少させる。
 もし店で売れば 1Gと24S ぐらいになるだろう
 
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 何かと思えばこれ紙かーとか意外と丈夫そうだなとかそんなことを思いつつ、
 「紙でできた服だって。1Gくらいなら売れるかも」
 と、報告。


 「エール一杯分にもならんな」
 ぼそっと、ドワーフが呟いた。

 「どうする?」

 「いるやつがいねぇなら捨ててこうぜ」

 そんなことを呟く三人。とは言ってもここにはちょっとでもお金になるものは取っておきたくなる性分の俺が居るのであって。
 ささっとバックパックの中に仕舞いつつ、
 「じゃあ私が貰っておく」


 「うん、了解」
 どこか苦笑めいたような笑みを浮かべながら、
 「とりあえず信仰も上げたいしマップを全部埋めてから進んで行こうと思うのだけど構わないかい?」
 手元の何も無い空間を見ながらルミウスが言った。おそらくマップを見ているのだろう。

 それではっと思い出し、自身でも「コマンドマップ」と呟いた。


 「いいぜ、任せる」

 「異論は無い」

 「特に問題ないです」

 俺が最後にそう応えると、こくっとルミウスは頭を下げた。
 「それじゃ気楽にがんばりましょう」

 「おうともよ」
 どこか不敵に笑いながらベレスが応え、

 「まぁ、気は抜かんようにな」
 と、ドワーフが引き締めるように注意を促した。

 「足を引っ張らないように頑張りますよ」
 若干自信がなかったのでそんな感じに応える。というのもベレスの大きな剣やトーレルの大きな斧を見ているとどうにも力の差を感じてしまうのであって。

 「俺を床下に転がしてベッドを占拠してた女が何を言ってやがる」
 ニヤリと笑いながらベレスが言った。

 「へぇー。そ、そうなんだ」
 なんか感心したような声。見れば若干引きつったような笑みはなんなんだろうなと思いつつも、

 「生憎俺はお前に比べれば非力だよ」

 「ふぅん、まぁ、そうかもな」
 と、どこかご機嫌に応え、


 *チュー*


 不意に聞こえた鳴き声に、俺は一歩声の方向から反射的に後ずさった。
 走りよってくる大きなネズミに少しばかり前に噛まれた足の痛みを思い出したりして、

 *ビュッ*と薙ぎ払うように振るわれたベレスの剣に巻き込まれ、大ネズミが空中を舞い、そのまま蒸気を上げ始めた。

 勿論、俺にはそんなことはできないわけで。頼りになるなぁと思いつつ、

 「そうだとも」
 と、頷いた。



 「お、階段だ」
 部屋の中央にある螺旋階段を指差す。


 「ここに階段っと。それじゃさくっと埋めてしまおう。……っと、」
 身を屈め、地面に落ちている何かを拾い、
 「あ、これお願いするよ」
 ルミウスから抜き身の剣を受け取る。ふとなんか変な感じのする剣だなぁと思いながらも「鑑定」と呟き、

 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は 呪われた鉛の剣 であることが完全に判明した。

 呪われた鉛の剣(2d5)

 それは鉛で出来ている
 それは錆びにくい
 それは呪われている
 それは(2d5)のダメージを与える(貫通率5%)
 それは筋力を1下げる

 もし店で売れば2Gと12Sぐらいになるだろう。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 放り投げた。

 放り投げた剣はそのままルミウスへと向かっていき、

 「え、ちょ」
 どこか慌てたような声と同時、剣が回転しながら僅かに彼のの真横を通り過ぎる。

 「どうした?」

 「ご、ごめん! 呪われてて思わず」

 「呪われた武具の判別できるのはありがたいの」
 寡黙なドワーフが感心したように呟き、もしや褒められた?と、なんだか少し照れちゃったりして。

 「……気をつけてください」

 照れは一瞬で吹き飛び、すいません、と俺は謝った。



 * * *






 自分よりも遥かに手馴れた様子で魔物を屠っていく三人の姿を後ろから眺めつつ、やはり仲間とは頼りになるものだと鑑定しながら落ちている武具や薬を回収。
 そんなことを繰り返していると、


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は よりアイテムへの造詣が深まった。

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 不意にそんなログがポップアップ。
 もしやと、「コマンドステータス」と呟く。


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 所持金 314G 37S
 カルマ -2

 筋力  7 Great
 耐久  8 Great
 器用  7 Great
 感覚  5 Good
 習得 12 Great
 意思  5 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 12 Good

 クラス   アイテム師
 信仰神   ドルーグ
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.1 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.3 アイテム効果上昇
 状態異常  なし
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 おーやっぱ上がってるなーとそんな事を確認していると、


 「それじゃ次の階に行こうか」
 と、リーダーが若干弾んだ声で言った。

 どうやらマップが全部埋まったようだ。


 先ほど見つけた螺旋階段へと向かう。引き返す途中に魔物とは出会わなかった。もしかするとこの階の魔物は一掃したのかもしれない。
 そんなことを考えながら、何事も無く階段へと辿り着き、昇って上の階へ。

 そのまま第二層の探索を続けようと少し歩き、

 「ん?」
 何かがうずくまっているのが眼に映った。
 すわ、もしや新手の魔物かと一瞬心の中で身構えたものの、そんな気配はまるでなく、ましてやその物体はぴくりとも動かない。


 なんだろうと感じつつ近寄る。どうにもそれは人間のようだった。鎧を着ているのを見るに冒険者だろうか。

 更に近づきよくよく見れば、それは赤黒い水の中へ突っ伏すように倒れている。

 いや、それは、もしかして*血なんじゃないか*とそんなことを今更の様に考えつつ、どこか非現実のような奇妙な感覚に囚われる。


 ベレスが近づき、倒れ伏している身体をひっくり返す。

 まず目を惹いたのはその男の顔だった。
 顔は真っ赤に染まっており、その表情はどこか恐怖にひきつったような、泣きそうな顔に見えて、
 右手は左肩を押さえている。当然だろう。なぜなら左肩から先は無く、おそらくは、そのために、彼は、




 「死んでるぜ」

 淡々とした声でベレスが言った。










 後書き
 PCが泊まってた宿ごと水没した事件もありましたが私は元気です。
 とりあえず加筆修正。ちょっと後に直そうと思ってた雑な文を3年近く晒してたことに・・・。
 なんてことだ。

 以前のような更新速度は望めない気がしますが、
 書き溜めてからとか考えてると何時投稿できるかわからんちんなので自分を叱咤する意味でも一つ。

 とりあえずこの冒険のリザルトはネタノートに残ってました。
 ちょっとやりなおそうかとおもったけどめんどいのでそのまま書いていきます
 



[15304] 初心者の塔・第二層~
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/13 01:32






 「どうする?」

 ベレスの問いに少し混乱する。
 どうする、とはどういうことなのか。その開ききった瞳孔は既に生死を確認するまでもなくわかることで。
  
 目線を追えば、すぐ近くに血染めのショルダーバック。
 ああ、成程、と最初の魔法使いを思い出すこと暫し。

 「こいつの身なりじゃあんま期待できそうにないが、それでも多少の足しにはなるだろうよ」


 「どちらでもいい、任せる」
 トーレルが周りを警戒しながら応えた。


 「そうですね、、、いえ…、埋葬しましょう」
 埋葬!
 リーダーの返答に、ちょっと衝撃を受けてしまった。


 そうか、埋葬か。
 信じられないことに、その選択肢を俺はまったく思いつくことができなかったのだ。
 どうにも最初の死体漁りがあまりに印象深かったせいだろうか。

 これはいかんなと、自分の思考に活。
 己の無神経さをののしりながら、こちらへと振り返ったルミウスに向かって頷く。

 ベレスを伺うと、肩を竦めながら応えた。
 「ああ、俺もそっちでいいぜ」


 そんな意外とも思える言葉に、いや、これは偏見だな、と反省。
 どうにもオークはそういう埋葬などの習慣とは無縁であるという先入観があったようだ。


 うん。ああ、そうか。
 どうする?という問いは漁るか漁らないかではなく、漁るか埋葬するかということだったのかも。


 それにしてもこのPTは善人ばかりなのだなと感心すること暫し。
 少なくとも見知らぬ冒険者を埋葬してやろうだなんて行動は余程の善人でない限り出ない発想だろう。


 ベレスが死体を引きずり、片隅へと移動させる。
 ルミウスが布をかけ、呟いた。
 「この魂がナヴィの導きに従い、迷うことなく辿り着けますように」
 
 俺も軽く目を瞑り冥福を祈っていると、不意にウィンドウがポップアップ。




 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は 冒険者の遺骸を埋葬した。
 あなた の カルマが5あがった。

 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 
 …………、カルマ、カルマね。
 なんつーかこんなダンジョンの中で見知らぬ人の埋葬を行ったのはそういうことかとちょっと納得した。

 






 迷宮世界









 埋葬と黙祷が終わり、続く静寂はすぐにドワーフによって打ち破られた。
 「さて、わかっているとは思うが」
 
 「ああ。リーダー! 奉納点貯めんのは後回しでいいな?」

 「踏破した後だと低くなっちゃうみたいだけど仕方ないね」
 溜息を吐きながら頷く。
 「マップは後にして先に踏破しよう」


 わかったかのように話を進めていく3人。
 俺はといえば、なにゆえ先にクリアしようなんていう方針に急遽変わったのかわからないのであって。

 「何故マップを後回しにすることにしたの?」
 若干早足となったパーティーへと尋ねる。


 「新しい死体があったじゃろ」

 「そういうこった」


 首を傾げつつ、ルミウスを見れば、うん、と頷く。
 「この塔は僕たちが最初だった。けど、さっき死んだばかりの冒険者を見つけた。つまり――」

 「あ、うん。わかった。そういうことか」
 我ながらどうにも察しが悪い。


 「基本早い者勝ちだからね。特に初級の迷宮は急がないと」


 「おい、階段あったぞ」
 ベレスの先導にしたがって階段へと向かう。


 早足だったはずが何時の間にか小走りになっていることに気がつき苦笑。
 さもあらん。

 そこでふと、そういやここの階でモンスターとは出会わなかったな、なんてことを思った。




 * * *





 3階へと昇った瞬間、ちっという舌打ちが聞こえた。

 「ウーズだ」

 警戒するようなルミウスの呟きに、俺は身を引き締める。
 見れば緑色のどろどろしたなにかが部屋に蠢いていた。

 その形状は通常ファンタジー世界では”雑魚”と揶揄されるべきモンスターを想像させる。
 けれどその3人の表情は俺の想像にそぐわない、どうにも苦々しいものであって。

 「ウーズ用の武器は持ってるかい?」
 小声でルミウスが尋ねた。


 ウーズ用?
 はてなんのことだろうと思いつつも、

 「わしが持ってるのはこの斧だけだ」
 
 「新しい武器がもてるほど潜っちゃいねぇよ」

 「同じく」
 とりあえず心の中で首を傾げつつも同意する。

 「じゃあさっき適当に拾った武器を使うしかないか」

 「片手剣は使い慣れてねぇんだがな」
 ベレスが大剣を見ながら掲げる。


 「あいつを切って獲物をダメにするよりマシさ」


 その言葉でスライムが女性の服を溶かすシーンが何故か思い浮かび、ああ、と頷く。
 おそらくウーズ用というのは酸性に強い武器ということなのかも。
 ん、いや、待てよ。

 「あ、そういや俺、今の武器鉛に変えたんだった」
 というか変えられたんだけれども。

 そう言うと、おお、と声が何故かあがり、訝しげに見つめると、さっと視線を逸らされた。
 

 時に拾った剣は二つしかないわけで。ということはトーレルさんは自然見ているだけということになるわけなのだけど。
 そこでふと思いつき、

 「ねぇ」

 その声にばっと同時に二人が振り向く。
 それに若干びびりつつ、俺は提案した。

 「あれ、塩で溶けないかな?」

 いやほら、同じ軟体だし。
 もしかしたらいけるんじゃないかと思ったわけで。


 ルミウスがベレス、トーレルと二人の顔へ首を巡らし、頷く。


 「試してみよう」






 * * *







 結論から言えばウーズは塩で溶けなかった。

 








 後書き
 ぶっちゃけ溶けそうだよね!
 とりま書けたのでさくっと更新。前の文章との齟齬がなければいいのだけれども。



[15304] 初心者の塔・第三層~
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/13 01:33






 *パリン*

 投げた試験管が見事に命中し、中身がウーズへとぶちまけられる。


 「どうだ?」
 トーレルが身を乗り出し尋ねた。


 部屋に蠢く緑色のどろどろした物体がぶるりと震え、ぐにょんぐにょんと形を変え、奇妙な動きを始めた。


 「効いたかも」
 俺が答え、しかしそれと同時にウーズはずるりとこちらへにじり寄ってくる。

 その移動の動きはなんとも奇妙なもので。


 「本当かぁ?」
 ベレスは既に先ほど拾った銅の剣へと獲物を変えている。


 「た、多分!」
 もしかしたら効いてなかったのかもしれない、と思った。



 「行きましょう!」
 声と同時、ルミウスが飛び出していく。

 ウーズの動きは見かけによらず速い。
 部屋の隅にいたはずのその物体は、既に5歩の距離。


 「おうよ!」
 ベレスが応じて飛び出す。

 俺も慌てて飛び出した。


 先頭を行くリーダーが剣を振るった瞬間、ウーズはうにょんと形を変え、鞭のように振るわれる。
 「はっ!」
 声と共に一閃!
 振るわれたウーズの手は、ルミウスの身体に触れる前に斬り離された。

 が、
 「つっ」
 苦悶の叫び。


 身体は斬り離されたものの、残ったゲル状の肉片がルミウスへと降りかかったのだ。
 じゅうっと煙が立ち昇り、ウーズの身体が強い酸でできていることを証明する。

 剣を振り抜き、動きが止まるルミウス。
 身体を斬られ、一瞬奇妙な動きを見せたウーズだったが、再び形を変え、近くのルミウスへと身体を伸ばす。

 しかしそこで、
 「おらおらぁ!」

 威勢のいい声とともに振り回された剣がウーズの身体を真っ二つにした。

 *がきん*

 振るわれたベレスの剣はそのまま塔の石畳にあたって動きを止める。


 二つに分かれたウーズがぶるりと震えた。

 まだ動くか!?
 そう思いながら走りこんだものの、次の瞬間べちょっと地面に沈み、*シュー*と煙を噴出し始めた。


 「っと失敗失敗」
 苦笑しながらルミウス。見れば手袋と鎧の間、剥き出しの腕の部分が火傷したかのように赤くなっている。


 「これだからウーズはいやなんだ」
 ベレスが己の剣を見ながら苦々しく呟いた。

 「ルミウスさん大丈夫ですか?」
 俺は右懐に入れてある傷薬用の試験管を取り出しながら尋ねた。


 「大丈夫大丈夫。……ああ、その薬はもっと大きな怪我をしたときにとっといてくれ」


 「その通り。あんなもんほっときゃ治んよ」
 ぐいっと俺の肩に手を回しながら言うベレス。
 「ほら、いくぞリーダー!」


 「あ、ああ。わかってるよ」


 とりあえず俺は回された腕を引き剥がした。










 迷宮世界









 再び早足で足を進めていると、三匹のコボルトが吠え声と共に走ってくるのが見えた。
 以前見た固体よりも心なしか大きい気がする。

 むむ、と剣を構えたものの、
 
 「どれ、さっき働けなかった分、ここは任せい」
 そう言ってトーレルが飛び出していく。

 「あ、ずるいぞ」
 そう言って追いかけたのは既に元の獲物へと戻したベレスだ。


 「うおおおおっ!」
 薙ぎ払うように振るわれた斧は三匹もろとも切り刻みながら吹き飛ばし、少し離れた壁に叩きつけた。

 叩きつけられたコボルトはそのままばったり倒れ、*シュー*と煙を立ち昇らせ始める。
 なんという馬鹿力。トーレルの腕と自分の腕の太さをふと目で測ってみたり。


 「すまんすまん」

 「しょうがねぇなトーレルのおっさんは。次は俺にやらせろよ」


 「わかっとるよ。お、これはわしがもらってもよいな?」


 見れば先ほどのコボルトのいた場所にはきらきら輝く白い石の塊が落ちている。


 「うん?ああ、ミカか。いいよ。約束だしね」


 「何に使うんです?」
 疑問に思い、尋ねる。


 「主に装飾品じゃな。ミカで作った装飾品は幸運のお守りとしてなかなか人気があるんじゃ」

 「へぇそうなんですか」
 幸運のお守り。女の子に人気がありそうだな。なんてことを考える。

 「冒険者にとって運は大事じゃからな。ああ、そうだ。今回の探索が終わったら一つ作ってやろうか?」

 別に女の子用ではなく冒険者用だったようで。それはそうと、
 「えっ、いいんですか?」

 「折角じゃしな」

 おおー。やったー。

 「良かったですね。ドワーフの装飾品といえば見事なものだって聞きます」

 「買いかぶって貰っては困る。腕のいいドヴェルグならこんなところに潜っておらんよ」
 
 「おっさんってそういう装飾品とかつくれるほど器用だったんだな。てっきり武具専門かと思ってたぜ」


 確かに。先ほどのように吹き飛ばすような膂力に加え、その大きな手を見るとあまり向いてないような気がしなくもない。


 「それこそ偏見じゃな」
 ふふんとどこか小馬鹿にするように応える。
 「武具も装飾も同じくらい器用でなくてはできんよ」


 そういうもんなのかね。
 とは言え、出来上がりを素直に楽しみにしておこう。

 っと、
 
 そんなことを考えてると、なにやら前方に影。


 「あ」

 「あ?」
 俺の声に反応し、通路の前方を見つめるベレス。

 近づくにつれ、その正体は明らかになり、

 「ほれ、約束通り次はお前さんに任せるぞ」

 「ちげぇよ!俺がぶった斬りたかったのはあんなウネウネしたやつじゃねぇ!」
 そう言って、再び先ほどの片手剣を取り出し、右手でぐるぐる振り回す。
 

 その声に我らのリーダーは苦笑して、俺に尋ねた。
 「折角だからもっかい試してみる?」


 頷き、答える。
 「やってみます」








 結論から言って、やっぱりウーズに塩は効いてないかもしれない、と思った。









 * * *







 群がるウーズを蹴散らし、再び階段を見つけ、更に上へ。
 一体このダンジョンは何階まであるのだろう。

 そんなことを思った瞬間、不意にウィンドウがポップアウトした。


 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 気をつけろ!この階は『ナーガ』によって守られている!


 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------












 *ルーエルちゃんのワンポイントアドバイス*


 ウーズはドロドロしたゲル状の生物です。
 伝統的なRPG雑魚モンスターと侮るなかれ!
 その身体は強い酸性で、金属と布を腐食させ装備を容易く劣化させます。
 恐怖も混乱も効かず、また睡眠も必要としません。
 魔法に耐性を持つ個体も多いです。
 また放っておくといつの間にか増えています。

 基本的に避けることができねーので、冒険者の嫌われ者です。
 低い階層のウーズはあんま強くねーけどウーズはウーズ。厄介です。







 後書き
 46億年物語でスライムに進化したときは下品ですがちょっと興奮しちゃいましてね……まぁバッドエンドなんですが。
 あ、PC版のほうです。



[15304] 初心者の塔・第四層~
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/13 01:35


 


 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 気をつけろ!この階は『ナーガ』によって守られている!


 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 「ナーガですって!?」
 ルミウスが焦ったような声をあげる。


 その声は未だ彼からは聞いたことの無いものであって。


 「どうしたリーダー。何か問題があるのか?」

 「……いやほら、エージさん以外には話したと思うけど、以前中級に挑戦したときの話」

 「ああ、命からがら逃げ出したときの話じゃったか。もしやその時のモンスターというのが」

 「その通り。ちょっと見惚れていた俺たちの心境を知ってか知らずか、気がつくと囲まれてしまいまして」


 「見惚れる?」
 疑問の声をあげる。綺麗なモンスターなのだろうか。


 「ああ、えっといや……実にエージさんには言いにくい話なんだけど、
 ナーガってのは女の人間の上半身と蛇の下半身を持ったモンスターでして。つまり……」

 ああ、うん、そういうことね。
 「成程ね。そりゃ仕方ない」
 俺が頷くと、

 「成程、そりゃあ仕方ねぇな」
 「馬鹿じゃな」


 両極端の感想を返す二人。

 確かに何を呆けていたのかと言いたくなるところだろうが、しかし仕方ないだろう。
 裸の女性が迫ってきたらなかなか男には対抗できないものなのだ。


 「で、肝心の強さはどうなんじゃ?」

 「少なくとも俺のパーティーは全滅した。でも、、、
 一体だけなら多分問題ないと思う。ダンジョンボスってのが気になるところだけど……」


 ぐふっとベレスが笑った。
 「んじゃまぁ、リーダーが据え膳から尻尾巻いて逃げ出した情けない失敗談を聞いたところで、やり損なった女を見に行こうぜ!」

 「べ、別にやるとかやらないとかの話じゃないんだけど……」


 どことなく嬉々としたベレスに、まったくこいつはと苦笑した。










 迷宮世界








 最上階とは言っても、特別な作りをしているというわけでもなく、基本的な作りは今までの階層と変わらないようだ。
 地図を埋めつつ、探索。
 途中襲ってきたホビットとコボルトを特に問題なく始末する3人の動きを後方から見つめる。

 「えーじさん、これお願いします」

 渡されたのは木でできたステッキだ。

 「了解、鑑定っと」

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は 透明物体感知の杖(残り:3)であることが完全に判明した。
 それ は 魔法の篭った杖だ。
 それ は 近くの透明なモンスター感知する。
 もし店で売れば 419Gと33S ぐらいになるだろう
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 !俺の全財産より高い!これは素晴らしいものを手に入れたみたいだ。そんなことを思いながら答えると、

 「……今のわしらには無意味な品じゃな」
 と、溜息と共にトーレル。

 「でも今回はこれだけで充分元が取れたね。後で換金しよう」

 「後はナーガちゃんが何を持ってるかだな」


 そういや俺、戦闘面ではほとんど役に立ってないなと思うこと暫し。
 鑑定という仕事はあるものの、なんとなく役に立ってないという焦りを少し感じる。


 通路の途中で新たな扉を見つけ、ドアを開く。
 「しっ」
 と、そこでルミウスが人差し指を口に当て、囁くように声を発した。
 「居た」


 静かに扉を開く。
 さてどんなものかと目を凝らして見つめる。
 部屋の中では長い赤髪の女性が長い蛇の尻尾をくねらせながら動いているのが見える。

 その上半身は少なくとも何か纏っているようには見えない


 ラミアだ!
 俺はその初めて見る新たなファンタジー種族に少しばかり興奮しつつ、心の中で舌打ち。


 「見えねぇ」
 ベレスが呟く。

 その通り。ナーガちゃんのプロポーションは素晴らしいということはわかるものの、肝心のおっぱいがまだ見えていないのだ。

 「ちっ。おい!いくぞ!」
 舌打ちの後、ベレスが声を張り上げる。


 「折角気づいていないのに……」
 リーダーの呟く声が俺の耳へと届く。

 
 瞬間、どこかリラックスしているかのように思えたナーガちゃんがびくっと震え、後退りしながら尻尾をぐるぐると巻いていく。

 「おほっ」
 ベレスが下品な声をあげた。

 
 ナーガちゃんは惜しみなくその素晴らしい身体を俺たちに見せ付けたのだ。
 なかなかにでかい。その弾む胸に、若干心を奪われてしまう。

 ちらりとベレスを見れば下半身がこんもりと立っており、まったくこいつは仕方の無いやつだなぁなんてことを思いつつ、
 再びナーガちゃんへと目を戻せば、とぐろを巻いているような姿勢へと変わり、こちらを警戒するように伺っている。

 成程、こんなやつが複数いたなら確かに全滅しそうになるのも当然だろう。
 そんな馬鹿なことを考えていると、

 「油断しないでください、来ます!」
 ルミウスの声がはっと俺を現実に戻した。


 彼女が地を這うように地面を滑る。手には鋭い爪。一直線にベレスへと向かっていく。
 「はっ!」
 ルミウスが迎撃するように剣を振るった。

 *ギィン*

 金属音。ナーガの爪はルミウスの剣を弾き返し、そのまま尻尾で彼の身体を弾き飛ばす―――

 *ゴン*

 と壁に当たる音と同時、彼女が再び腕を引き、そのままベレスの首へと爪をつきたてようとする。

 慌てて剣を上げるベレス。
 しかし、その動きは彼女の動きに比べ大分のろく、手遅れといわんばかりであり、


 「ピギャアッ!」


 彼女が鳴いた。
 あとちょっとでベレスに身体が届くかといった瞬間、トーレルの斧が彼女の尾の下部分を断ち切ったのだ。



 「馬鹿者!なにをやっている!」


 「すまん!おっさん、助かった!」


 
 ベレスが剣を振り上げ、止めをささんと彼女へ剣を振るう。
 しかし彼女は素早く後退り、ベレスの剣は風を斬った。


 彼女の長い尾っぽの一部はトーレルに断たれたものの今だ顕在であり、再びとぐろを巻きこちらを伺っている。
 既にその顔は獣のように牙を剥き出され、先ほどの美しい顔は見る影も無い。


 壁に叩きつけられたルミウスが少しずつ彼女の背中から近づこうとするものの、くるりと向きを変え、*シュー*と威嚇するように吐息を発する。
 
 トーレルが斧を肩に担ぎ、じりじりとつめていく。
 ベレスがその横から回るように警戒しながら近づく。

 彼女は三人に対応できるようとぐろを巻いたまま身体を動かしている。
 ぶるりとその大きなおっぱいが揺れた。





 あれ?これってチャンスじゃね?



 不意にそんなことを思い、俺は左胸に入れてあった試験管を取り出した。


 「えいっ」


 *パリン*
 試験管が彼女に当たる。彼女がこちらを向いた。



 それを好機と見て、ベレスが踏み込み、


 そして彼女はベレスが辿り着く前、どさりと崩れるように倒れた。




 しんと、静まり返る。



 「……何投げた?」



 「睡眠薬を少々」



 トーレルが眠っている彼女の頭を斧でかち割る。

 *シュー*と青い蒸気を噴出し始めるナーガちゃん。
 心の中でそっと手を合わせつつ。


 「やっぱ怖え女だな。お前」
 ベレスが楽しそうに笑った。


 「しかしこれでクリアじゃな。いやなかなか素晴らしい一投じゃった」
 座り込みながら笑い声をあげた。


 褒められるのは嬉しい。いいぞ、もって褒めろ、と少しばかり調子に乗りつつも、

 「いやいや」
 と、表面上は謙遜。


 「さて、報酬は……」
 ルミウスが蒸気を噴き出す彼女の身体を見つめる。


 と、


 *ドン*


 遠くから奇妙な音。



 「ん?」

 「なんじゃ?」


 *ドォン*


 音は段々とこちらへ近づいてくる。


 *ドォン*

 再び何かが崩れるような音。
 大分近い。


 「違う!」
 不意にルミウスが声を上げた。

 何事!と彼を見れば既に彼女の姿は消え去っており、彼は剣を音の方向へと構えながら叫んだ。


 「これは攻略目標じゃない!」




 *ドゴン!*




 壁が破壊される。



 ずるりと何かが入ってくる。



 壁の向こうから美しい黒髪のナーガが、その白い肌を艶かしく見せ付けるように姿を現した。











 後書き
 なんとか寝る前に書けた!やったー!
 でももうちょっとだけ続くんじゃ



[15304] 頂上にて
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/13 01:46





 砕かれた壁の奥からずるりと新たなナーガが入ってくる。
 肌は雪のように白く、長い黒髪はビロードのよう。

 乳房は先ほどのナーガちゃんよりもつつましいものだが、それはより彼女のスタイルの良さを強調する。
 まるで人形みたいだ。そんなことを思う。

 彼女は俺たちの姿を確認し、嫣然と微笑んだ。
 そのまま静かにこちらへと近づいてくる。

 腕は細く、どこに壁を破壊する力があったのだろうと一瞬そんなことを考える。
 ズルズルと這う巨大な尾っぽは綺麗なグリーンであり、より彼女の魅力を引き立てていて。


 嫣然として彼女は足を進める。
 既に剣を伸ばせば届く距離。

 誰も動かない。

 皆、彼女の美しさに見惚れているのだ。 



 彼女が止まり、それからゆっくりと静かに手を伸ばす。
 その先には、口を開け、ボーっと彼女を見るトーレル。



 何かおかしい!


 はっと我に返る。
 不意にそんな警告めいた衝動に突き動かされ、俺は睡眠薬の入った試験管を取り出すと、すぐさま彼女に向かって投擲した。

 *パリン*

 試験管が割れ、中身の薬剤が彼女に降りかかった。












 迷宮世界












 時が動き出したかのようにトーレルがバックステップ。
 ドワーフの身体のどこにそんな敏捷さがあったのかとそんなことを思いつつ。

 同時、ベレスとルミウスも動き出した。剣を振り上げ、手を伸ばしたまま固まっている彼女を斬らんとする。


 が、


 彼女の尾っぽが跳ねるように動き、彼ら二人を弾き飛ばした。


 効いていない!?


 彼女がこちらを見る。先ほどまでの微笑は消え、親の敵と言わんばかりの表情。

 俺はたまらず後ずさった。



 なんで?今まで効かなかったことはなかったのに。先ほどの子には効いたのに。
 そんなことを思いながらも、俺は新たに試験管を取り出し、投げる。


 *パリン*


 焦りが出たのか、試験管は彼女の前に落ちた。

 試験管から睡眠薬がこぼれ、小さな水溜りを作る。
 しかし彼女は構うことなくその水溜りに足を進めた。

 ここの薬は流石ファンタジーということで、飲んでもかけても効果は発揮される。
 だからその薬に触れた彼女は眠っていなければおかしいのだが、薬の効果は発揮されない。


 「フォースアロー」


 姿には不釣合いなしわがれた声で、彼女が叫ぶ。


 同時、空中に紫色の光が生まれ、それは曲線を描きながら、向かってきた。

 咄嗟に身を翻す。
 が、その光はぐにゃっと曲がり、


 「ぎっ!」


 そのまま右横腹から背中へと突き抜けた。

 転がりながら腹を押さえる。


 「エイジ!」
 トーレルの声が響く。


 声の方向を見れば斧を担ぎながら彼女へと向かっていく姿。

 「おおおぉっ!!」

 気合と共に真っ二つにせんと振り下ろす!


 *ガキン*


 「なっ」

 だが彼女はその轟雷のようなトーレルの一撃を片手で受け止め、

 「んじゃとっ!?」

 鞭のように尾っぽをしならせ、ドワーフの短い足を払った。

 転倒するトーレル。しかし、彼女はそんな倒れた彼に見向きもせず、俺へと目線を合わせた。


 なんでだ。俺、なんかしたか。


 そんなことを思いながらごふっと咳。赤いしぶきが飛び散る。

 えっ? と脇腹をみれば*どくどく*と血が流れていて。


 まずい。
 懐に手を入れる。

 瞬間、彼女が矢のようにこちらへと向かってくるのが見えた。

 咄嗟に右懐から左懐へと手を移し、薬の確認もせぬまま、試験管を投げた。


 *パリン*

 糞。

 咄嗟に投げた試験管は彼女から逸れ、地面に当たり割れた。


 既に目と鼻の先。

 彼女が腕を振りかぶる。
 その右手はあのトーレルの斧さえなんなく受け止めた凶悪な爪。

 俺は迎撃せんと鞘を走らせ、そのまま刀を振りぬいた。

 「ヤッ!」

 最速で振りぬかれた刀は彼女が腕を振りおろすよりも速く、その白い肌へと向かう。

 我ながら完璧な一振り。 

 ざくっという肉の感触を刀を伝え、


 そしてわずかに沈み止まった。


 
 そんな。


 悲痛な声が心から漏れる。俺の力では彼女に致命的な傷を与えられない。

 だが、その一振りは彼女にとっても予想外だったらしい。
 彼女は振り上げた腕を降ろさず、その長く太い尾っぽで持って、俺を弾き飛ばした。


 *パリン*


 と、懐に入れてあった試験管が衝撃で割れる。

 しまった!

 身体は宙を舞い、そのまま壁へとぶち当たった。

 「痛っ」

 おもわず声。
 何が割れた、焦りながら懐に手を入れた。

 懐に入れていた攻撃用の試験管は4本。
 それが無事だというのを確認。同時にじわんじわんという痛みが急速に引いていく。


 これは運がいい、と思いつつも、さてどうするかと試験管を取り出した。


 試験管に入った薬の色はにごった緑。
 それは毒薬であるというのを確認し、今だ目標に定められてる彼女に向かって投擲する。


 *パリン*


 投げつけられた試験管を彼女がその凶暴な爪で打ち払う。

 しかし、中身に影響を及ぼすことはなく、そのまま彼女を濡らした。

 「ピャッ!」

 しわがれた声で彼女が鳴く。


 「ピギャアッ!」

 反応は顕著だった。その液体を流さんと、左手で肌をこすり、尾っぽの先はピチピチと跳ね、おっぱいがぶるんぶるん揺れた。


 効いた!


 「よしっ」



 「エージさんナイス!」

 復帰したルミウスが薬に気を取られている彼女の背中へと走りこむ。


 そしてそのまま突き出された剣は特に妨害されることなく、腰から腹へと突き刺さった。


 ぱくぱくと彼女の口が開く。

 やったか!?

 そんなことを思った瞬間、彼女の尾っぽが跳ね、ルミウスを跳ね上げる。

  
 「フォースアロー」


 今だ空中に跳ね上げられているルミウスへと追撃の魔法の矢が飛んでいく。


 「調子に乗ってんじゃねぇぞ!糞アマァァァァァ!!」


 同時、ベレスの剣が彼女の太く長い尾を断ち斬った。

 悲鳴もあげず、彼女はぐるりと回転し、左手でバックナックル。
 その細腕から繰り出された一撃はまるで赤子のようにベレスの巨体を吹き飛ばした。


 「ウオオオオオッ!」

 同時、トーレルが獣のような吠え声をあげ、突進する。



 その声に彼女が振り返る。
 既にトーレルは3歩の距離。彼女は弱弱しく受け止めんとその腕を上げる。


 さっきと同じ結果になるのでは、と俺が思った瞬間、トーレルが跳んだ。

 「オオオオオオッッ!!」

 そのまま裂帛の気合と共に斧を振り下ろす!


 彼女の爪と、トーレルの斧が触れた。
 しかし先ほどとは違い、斧の勢いは止まらず、彼女の腕を弾き飛ばし、左肩を割り、背骨を割り、勢い止まらず両断した。


 信じられない! という顔で彼女は何事か呟くと、そのまま崩れ落ちた。


 青い蒸気が彼女の身体から噴き出し始める。


 「オオオオッ!」
 トーレルが勝鬨をあげた。 


 「よっしゃああ!」
 ベレスが剣を突き上げる。

 「勝った?」
 俺は呟き、不意に腰の力が抜け、へたり込んだ。


 


 「ルミウス!」
 ベレスが叫ぶ。


 はっと首を巡らせれば、ルミウスは苦痛をこらえるように顔をゆがめており、肩膝をつきながら腹を押さえている。
 しかし出血はおさえられるものではなく、更にどくどくと血が湧き流れ出ているのが見えた。

 慌てて、活を入れて立ち上がり、小走りで向かいながら傷薬を取り出す。
 キャップを抜き、そのまま振り掛けた。

 「大丈夫!?」

 「いや、なかなかきっついね」
 そして破願した。
 「でも勝てた」


 「おう。勝ちだ。勝ったぞ。俺たちの勝ちだ」


 「そうじゃ!わし達の勝ちじゃ!」
 トーレルがそう言い放った瞬間、フラッシュのような光がたかれた。


 慌てて首を巡らす。

 先ほど、肩から両断された彼女―――それと入れ替わるように豪華な箱がいつの間にか鎮座されていた。








 後書き
 とりあえず一段落!
 お楽しみはこれからだね!
 流石に連日更新きつくなってきたかもなので次回はちょっと日にち置くかも




 ちなみに今回のサブタイトルをおっぱいにしようかと一瞬思ったのは私と君だけの秘密だぞ!






[15304] ダンジョン探索は帰るまでがダンジョン探索です
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/13 01:49





 「それじゃ開けるよ」

 ルミウスが鎮座された大きな宝箱に手をかけた。

 箱には装飾がしてあり、金の模様が描かれている。その豪華さは中に入ってるものをいっそう期待させるものであって。
 

 箱は特に音も立てずに*パカリ*と開いた。

 トーレルが覗き込むようにつま先立った。

 
 「どうだ?」 ベレスの声も若干興奮しているように聞こえた。


 箱の中には銀白色の塊と、先が針のように尖った透明な短剣、蛇の皮のような模様が表面に張られた丸い盾、
 それに加え幾つかの金貨が入ってるのが見て取れた。

 「おお」
 トーレルが感嘆めいた吐息を漏らす。


 ルミウスは空中になにやら指を滑らせると、不意に手元から皮袋が出現。
 その皮袋に金貨を入れ始めた。


 「全部で43Gですね。この前のより20Gも多いです」


 「おお。ってぇことはこれらのアイテムも期待できそうだな」
 ベレスが愉しげに言った。


 「前回は何が出たの?」


 「弓と矢ですね。前回の主は弓使いだったもので。あっちもこっちほどじゃないにしろ苦労はしたんですが」

 「その話なら町出る前に話しといたぜ。な」

 頷くと、何故か俺のほうに手を差し出した。
 差し出された手には銀白色のリングが乗せられている。

 受け取りつつもはて、と頭を捻ること暫し。

 「売り飛ばした箱の中身なんざどうでもいいわい」
 トーレルが興奮したような声で続けた。
 「そんなことよりも早くこの鉱石を鑑定してくれんか?」

 「今回は鑑定屋どもに儲けを差っ引かれなくてすみますね」
 

 「えーじちゃん頼むぜ」

 
 ああ、そうだったと自分の技能を思い出し、
 「鑑定」
 では指輪から、とスキルを発動させた。










 迷宮世界









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 アイテムの正体を看破できなかった。より上位の鑑定、もしくは再びスキルを実行する必要がある
 
 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 初っ端から躓きつつも、他のアイテムは無事鑑定することができた。



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 それ は 玉鋼 であることが完全に判明した。

 腕の良い鍛冶屋なら質の良い武器を作ることができる。
 もし店で売れば 247G ぐらいになるだろう

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 それ は ☆転生せし皮の丸型盾『獣のような皇女』[2,5]であることが完全に判明した。

 丸い盾だ
 それは蛇の皮で作られている
 それはDVを2あげ、PVを5上昇させる
 それは筋力を維持する
 それは体力を維持する
 それは感覚を維持する
 それは魅力を維持する
 それは射撃の理解を深める*
 それは心眼の理解を深める**
 それは幸運を4上昇させる
 もし店で売れば 612G ぐらいになるだろう

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 それ は ☆透き通ったリターニングスローナイフ『エンジェルモメント』(1d20)(11)であることが完全に判明した。

 投擲用の短剣だ
 それは硝子で作られている
 それは炎では燃えない
 それは投げた後手元に戻る(100%)
 それは武器として扱うことができる(1d20 貫通 15%)
 それは攻撃修正に11を加え、ダメージを0増加させる
 それは電撃属性の追加ダメージを与える***
 それは魅力を維持する
 それは裁縫の技能を下げる***
 それは音への耐性を授ける**
 それは速度を4上昇させる
 もし店で売れば 3257G ぐらいになるだろう

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 3257G!?
 その金額は現在の俺の全財産の10倍であって。
 売れば1年間は何もしなくても暮らせるなぁとか思ってみたり。

 試しに投げてみると、地面に突き刺さった瞬間手元に現れる。
 成程、これは面白い。
 


 「おお、これが玉鋼か!」

 歓喜してるトーレルを横目に、俺は口を開く。


 「あの……」

 ん?と鑑定し終わった3つの品を眺めていたルミウスが顔をあげる。

 「私、これ欲しいかも?」


 要求したのは勿論、透明の短剣だ。
 硝子でできているという素材は壊れるのではないかと思いがちだが、そこはファンタジー。
 先ほど穴が開いたこの法衣も既に穴は塞がっている。
 なお、当然のことだがこのナイフの値段は告げていない。


 「いいよ」
 即答である。


 「やった!ありがとっ!」
 おもわずガッツポーズ。

 「エージさんのスタイルにもあってると思うしね。でも……」

 ん?と首を傾げる。

 「ちょっと投げさせてくれる?」
 どこかきらきらした眼差し。

 ちょっと笑って俺が差し出すと、ありがとっと受け取った。


 「なぁ。リーダー。それでこれどうするよ」
 掲げたのは蛇の盾である。

 貴重な品であることは確かなのだが、俺は刀、トーレルは斧、そしてベレスとルミウスは両手剣と、盾を使う人がいないのであって。

 「やっぱ売るしかないかな」

 「勿体無いきもすんだけどなぁ。えーじ、これいくらよ」

 「612Gだって」

 おお、と息を呑む二人。

 「売ろうぜ」

 「そうだね」

 二人はコクリと頷き、そのままルミウスはバックパックへと盾を仕舞う。

 「そういや、さっきの指輪は?」


 ああ、そうだ。ナイフに興奮しちゃって忘れてた。

 慌ててポケットに入れてた銀白色のリングを取り出し、

 「鑑定」

 スキルを発動しようとして、

 ズキリ、と頭に痛み。

 咄嗟に頭を抑える。


 「エージさん!?」

 「どうしたえーじ」


 「いえ、なんでも」
 そう応えて、再び指輪を見つめ、
 「鑑定」


 ズキリ、と再び頭に痛み。
 くらっと眩暈が起き、

 「おい、えーじどうした!?」

 崩れ落ちる前にベレスに抱きとめられる。

 「なんじゃ、何がどうした?」
 トーレルが慌ててこちらにやってくるのが見える。


 「いえ、鑑定を発動しようとしたら」
 不意に眩暈が起こったわけなのだが。


 「もしかすると……」
 何やらルミウスが呟き、
 「前にこういったことはありました?」


 「頭痛のこと?特に……あ、いや、」
 そういやグラフーインの魔方陣を読もうとしたときにそんなことがあったような。


 「その時、鑑定スキルを沢山使用していませんでしたか?」


 ……!
 そういや、そうだった。だとするとこの痛みは鑑定スキルを多用しすぎた弊害なのかもしれない。
 俺が頷くと、ルミウスは「やっぱりね」とドヤ顔。

 「それならその指輪はエージさんが預かっててください。ゆっくり休んだ後によろしくお願いします。
 ……そういうわけで今日はもう鑑定スキルは使わないように」


 成程なぁ。やっぱ便利なだけじゃないよな。
 そんなことを思いつつも、

 「ありがとう、もう大丈夫。離していいよ」

 「遠慮すんな、えーじ。ほら、肩貸してやるよ」
 そう言いながら、もにゅもにゅと胸を揉んで来るベレス。

 「ちょっとやめろよ」

 そう言ったものの、ベレスは手を離さない。
 流石になんていうか苛立ってきて、

 「離せって言ってんだ!この豚!」
 ちょっと怒鳴りながら足でベレスの足を踏みつけると、

 「いって」
 ようやく笑いながらベレスが俺の身体から手を離した。
 「ったく口が悪いよな、お前」


 「誰のせいだと思ってるんだ誰の」

 そんな俺の言葉にベレスは肩を竦めて応じた。

 ったく。
 でもなんか憎めないんだよなぁ。

 そんなことを思いつつ。
 






 * * *






 

 帰り道のダンジョン地図埋めは中止となった。
 当たり前のことではあるが、踏破したことで一刻も早く休みたいという感情が沸いたのであって。

 ちなみに言いだしっぺのルミウスもそうしよう、と満場一致ですぐ戻ることとなった。


 「それにウーズの階とか歩き回りたくねーしなー」

 そりゃまったくだと頷きつつ、一度ウーズに遭遇した後三階から二階へ。


 そして二階に着いたとき、うん?とベレスが小さく呟いた。

 見れば豚鼻をひくひくさせており、

 「どうしたの?」

 「いや、なんか……」

 要領を得ない答えだなと思いつつも、そのまま足を進める。

 二階と三階の階段はちょっと遠い。
 部屋を二つ抜ける必要があるのだ。
 ちょっと疲れてきたなと思いつつ、一つ目の部屋のドアを開ける。

 「みゃー」
 鳴き声。

 見れば白い猫が二匹、部屋の真ん中で毛づくろいをしているのが見て取れた。

 「あー成程」
 ルミウスが得心したように頷いた。


 「猫が居たんじゃな」
 トーレルも頷く。


 「どういうこと?」
 俺が尋ねると、


 「ほら、この階MOBが出てこなかったでしょ。それはつまり……」

 「こいつらが狩ってたんじゃろうなぁ」
 ちちちっとトーレルが舌を鳴らすと、

 「うみみゃ?」
 と二匹の白い猫が寄ってくる。


 「おお」
 この二人の反応から察するに、猫は友好的な動物なのかもしれない。

 そんなことを思いつつちょっと大丈夫かなと思ったのは、今までダンジョン内であったものは動物も含めて敵対的であったからで。

 トーレルの手へ擦り寄ってきた猫へ、俺も人差し指を出すと、猫が*すんすん*と匂いを嗅ぎ、そのまま擦り寄ってくる。

 かわえええ!

 今日の精神的疲れがこの一瞬で癒えていくのを感じた。

 「珍しいな」

 「何が?」

 「ダンジョン内の動物はヒューマンにはあんま慣れないはずなんじゃが」

 んん?と首を傾げつつ、見れば、確かにルミウスが触ろうとすると避けるように逃げているのがわかる。


 「おい。トーレルのおっさんもえーじも猫なんかに構ってないで早く出ようぜ」

 「わかったわかった。元気でな」
 トーレルがそう告げると、

 言葉がわかったのかどうか、「にゃおん」と鳴いて、離れていく。


 ちょっと名残惜しつつも、「またね」と告げると、白猫は「みゃ」と同様に返してくれた。



 二つ目の部屋へと向かう。
 どうにもベレスの様子がおかしいなぁとそんなことを思いつつ、二つ目の扉を開けようとして、


 「あああああっ!や、やめろっ!た、y、助け、」


 不意にそんな悲鳴。

 顔を見合わせる。
 先ほどの癒しが一瞬で消え、気が引き締まる。

 静かにドアを開ける。


 そこには大型の鎌を持った何かが立っている。


 地面は真っ赤な水。
 その足元では首を切断された死体があって。


 咄嗟に俺は左懐に手を入れる。


 「うみみゃ?」

 その人物が猫のような鳴き声を鳴らし、こちらを向いた。
 はっとそこで気づく。人間にはない獣耳と尻尾。
 猫!猫だ!猫娘だ!


 「あら、こんにちわ」

 少女のような涼やかな声。
 猫と人間の中間のような、そんな顔。
 身体は肉感的で、よくよくみれば大きな二つの胸の下に、もう二つほど一回り小さくなった丸い膨らみがあるのが見てとれた。

 アタゴオルというより、楽園少年の猫様に似てるとかそんなことを考える。

 しかし、話しかけてきたということはダンジョン内のモンスターではないのかもしれない。

 そんなことを思いつつも、下へと目線を移せばその死体は消えていない。つまり、冒険者と思われるものであって。


 「ちょっと来るのが遅かったみたいです」
 そう言って、はにかんだ。

 そのはにかみは素晴らしく、おもわず俺は心のシャッターを切る。


 「そりゃ残念だったな」
 ベレスが答えた。
 「踏破されたダンジョンなんざ長居するもんじゃねぇ。じゃまたな」

 
 そう言って、通り過ぎようとする。
 ベレスにしては珍しい反応だと思いつつも、もうちょっと話したかったなと思いながら後に続く。

 「そうじゃな」
 トーレルも頷き、後に続く。その反応もどこか硬いように感じた。


 なんてことはない。二人とも彼女を警戒しているのだと気づく。
 まぁ死体とか転がっているし!


 「あ、ちょっと待ってくださいよ」
 彼女が呼び止めた。
 「ここであったのも何かの縁です。我が神フリージアはそういうのを大切にするんですよ?」


 少女がそう告げると、ルミウスがばっと振り返り、呟く。


 「フリージア?悪意の……種子?」


 不意にポップアップ。


 「あら、神様のことご存知でしたか」



 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 逃げて!

 今すぐ逃げるのです!えーじ!
 その娘はかの悪名高きPK専門のBET者、《鮮血》のフリージアのプレイヤーです!

 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 えっ、と思った瞬間、猫娘は既にルミウスの近くまで翔けており、


 「ではその血肉、我が神フリージアに捧げなさい!」

 振るわれた大鎌の一閃は、容易くルミウスの右腕を斬り飛ばした。














 後書き
 こんにちわ!死ね!

 ということで変愚ではなんどもお世話になったフリージアさんをリスペクトして一つ。
 そういやなんか最近気づいたんですが、8年ぶりに更新されてましたね。
 この話考えてた3年前はもう更新ないだろうなとかそんな風に考えてたなとか懐かしむこと暫し。
 この小説一段落したら久々にやりたいなぁとか思ってもみたり。



[15304] 逃走劇
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/18 20:26





 「えっ」
 呆然としたようにルミウスは自分の右腕を見つめ、

 「っあああああああっ!!」
 悲鳴をあげた。


 咄嗟に懐から試験管を取り出す。
 大鎌は振りきられており、若干姿勢が崩れている。

 投擲。

 「うみみゃっ!」

 だが猫娘にとってそれは特に問題なく、試験管は引き戻された彼女の獲物によって切断された。

 あれが間に合うのか。そんなことを驚愕しつつも、


 *パリン*


 しかし問題はない。試験管の中身は猫娘へと当たり、彼女の身体を濡らした。


 ふらりと、彼女の身体が傾ぐ。


 よし、と心の中で手を握り、


 *パァン!*


 乾いた音が響く。

 猫娘が自分の頬を咄嗟に張ったのだ。

 傾いだ身体は元の位置に戻り、収まる。


 そんなことで薬の効きを抑えられるのかと驚愕しつつも、

 
 「ね、眠くにゃい」
 と、どこか堪えるような声。


 まったく効いてないということはなかったようだ。
 その眠さをこらえたような声にちょっと萌えつつも、


 「逃げんぞ!」


 ベレスによって引っ張られる。
 確かに。ぼーっとしてる場合じゃない。



 「逃げちゃうんですか?殺しちゃうよ?」


 「っ、あ、ああああああああっ。足っ、俺のあ」
 ルミウスの悲鳴。

 咄嗟に振り向く。



 ルミウスが血を噴出しながら、倒れている。。

 その近くには切り離された手と足が無造作に転がっていて。


 「無理だ」


 ベレスがそう言って引っ張った。

 その通りだ。あれはもう無理だ。そう自分で頷く。
 あの小癪な天使も逃げろといっている。ならそうするのが正しいのだ。

 俺はその凄惨な光景から目を逸らし、走る。


 「おい!待って!待ってくれ!ベレス!トーレル!
 仲間だろ!助けっ!たすけてっ」


 「リーダーすまん!預けてある報酬は全部やるから許してくれ!」
 そう言って俺の手を握りながらベレスは駆け出した。


 それに従って俺も駆け出す。

 助けを呼ぶ声。
 ほんの僅かな付き合いとは言え、一緒に戦った仲間。

 その声に耳を背け、逃げ出すように走る。


 そこで不意に追従していたトーレルが止まった。


 「トーレル?」
 俺は足を止めて振り向く。

 ベレスに引っ張られ、ちょっと転びそうになる。

 トーレルは斧を担ぎ、ルミウスの元へと戻っていく。


 「おっさん、無茶だ!」
 ベレスが叫んだ。


 「わかっとる!」
 トーレルが止まり、叫ぶ。
 「けどわしは*わしの名にかけて*逃げるわけにはいかん!」

 そう言い放ち、にやりと笑う。

 「お前さんらは逃げろ。ベレス、達者でな。お前さんは稀有なオークじゃった。
 エイジちゃん、ペンダント作ってやれなくてすまんな」


 「あ」
 何かを言おうとして、

 「おっさんの馬鹿め!」
 ベレスの声にそれは掻き消される。


 「うおおおおっ!!」

 トーレルが雄叫びをあげながら走っていく。

 咄嗟に俺は試験管を取り出した。
 少しでも助けになりたかったのだ。


 トーレルを迎え討とうと構える猫娘に狙いを定める。

 若干遠い。けど大丈夫だ。当たるはず―――!


 そして俺は振りかぶって投擲しようとして、

 「え?」

 試験管は不意に手からすっぽ抜けるように飛んでいき、


 *パリン*


 猫娘は目と鼻の先。

 今にも斧を振り下ろさんとしているトーレルに麻痺薬は命中した。




 トーレルの首が舞った。











 迷宮世界











 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は重大な失敗をし、それを深く心に刻んだ。

 スキル《投擲》を習得しました。

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 そんなメッセージを見るも、背筋はこわばり、空間が乾いているかのようなそんな空気。
 口は開きっぱなしになり、身体は呪縛のように固まって動かず、俺は空中を飛ぶボールのようなものを目で追った。


 「いくぞ!」
 ベレスに手を引かれ、身体の呪縛は解除され、走り出す。

 
 それでも走りながらも気分は夢でも見ているかのようなそんな感覚で。
 ふわふわ、ふわふわ、と揺れる。

 ドアを開け、部屋を出て、


 「うああああああああああっ!!トーレル!許してくれトーレ……」
 
 
 嘆くようなルミウスの声が不意に止まった。


 

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は罪悪感を感じた。

 カルマが1下がった。 

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 ポップアップが、俺の胸をえぐる。
 気持ちが悪い。

 どうしようもないほどの吐き気。胸が苦しい。

 あの時俺があんなことしなければ、もしかすれば助かったかもしれない。
 そんな可能性は無さそうだったけれど、万が一にはあったかもしれないのだ。


 ベレスに手を引かれながら俺は走る。
 未だ頭はぼんやりとしていて。


 「おい、えーじ」
 走りながら唐突にベレスが言った。
 「もし無事に帰れたら抱かせろ」



 「えっ」


 ……なんだか変な言葉を聞いたような気がした。
 あまりに変な言葉だったから、胸を覆っていた吐き気が止まってしまう。

 いや、もしかすると聞き間違いかもしれない。
 何故ならその言葉はあまりにこの状況に即してるとは思えないからで。


 「えっちぃことしようぜって言ってんだよ。いいだろ?」

 
 「え、や、やだ」
 咄嗟にそんな言葉が出た。

 
 「はぁ!? おい、てめぇ!そこは承諾するところだろ、普通」


 「なんでそう思ったんだよ! やだよ!」
 

 「ああ、うっせぇ! てめぇがなんて言おうが犯してやるからな!覚悟しろよ!」
 そう言って、ぎゅっと俺の手を強く握り、足を早める。


 その熱を帯びた手は不思議と暖かく安心感を感じるもので。
 この手に引かれていけば無事生還できるようなそんな感じがした。


 てかこいつ本気かな。だとしたらここから出た後やばいかもしれないなぁ。
 なんてことを感じつつ苦笑。

 「やってみろよ」

 そん時はまた睡眠薬ぶっかけてやればいい。


 「おお?確かに聞いたからな!」

 ったくこいつは性欲のことしかないんだろうか、なんて思いつつ。

 そこでふと気がついた。
 先ほどまで自分を襲っていた気持ち悪さはもう感じない。




 部屋の扉が見えてくる。
 展開してある地図によればあそこが一階への階段だ。


 ベレスが体当たりするかのように扉を開ける。


 その瞬間、



 「危ねぇ!」

 繋いだ手を思いっきり引っ張り込んだ。



 身体がぐるりと回転する。

 瞬間、そこに見えたのは大鎌を振り下ろす猫娘の姿であり、

 「っう、あ、べ」

 そんな咄嗟に漏れた自分の圧縮言語であり、


 遅れて左腕を断ち切られるベレスの姿だった。


 咄嗟に試験管を左胸から取り出し、投げようとして、身体が固まる。
 何をやってるんだと叱咤した瞬間、猫娘がこちらへと翔けてくるのが見えて、


 その瞬間*ビュッ*と風を斬り、大きな剣が彼女の進路を塞ぐ。


 *ギィン*


 刃鳴りが部屋に響く。

 塞いだのはベレスの大剣。
 ベレスは右手に剣をぶらさげている。



 「べ、ベレ……」
 咄嗟に俺は名前を呼ぼうとして、

 「逃げろ、えーじ」
 声を遮られる。


 「で、でも……」

 「俺は死なねぇ」

 そんな言葉に突き動かされ、俺は振り返り、階段へと走る。



 「*誰も*逃がさない」
 

 「うるせぇ!糞猫ォ!てめぇはここで死ねっ!」



 そんな言葉を後ろに聞きながら、俺は階段を跳ぶように降りる。








 * * *







 一階に降りた後も、安心はできなかった。
 何時あの子が階段を降り、こちらへやってくるのかわからないのだ。


 そのまま後ろも振り返らず、途中のネズミに握り締めていた試験管を投擲し、相手にもせず、出口へと走る。


 そうして外に出て、ちゃんと残っていた馬車へと辿り着き、、


 「ああああああああっ!! うわああああああああっ!!」


 大声を上げる。
 逃げ切った!俺は逃げ切った。……けれど、


 死なない、とベレスは言った。
 でも生きているはずがない。


 こんなことなら、抱かれてもいいと、言うべきだっただろうか。
 なんてことを一瞬考え、

 いや、やっぱそれは無理だ。と、考え直す。




 不意にそこでポップアップ。





 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 馬車を手に入れたようですね!おめでとう、えーじ!
 馬車は町へと戻ればちゃんと預かってくれるはずなので安心してくださいね。

 それに初踏破おめでとうですよー。これでルーエルちゃんの力がまた一つ戻りました。砂粒程度ですが。
 しかし最初は皆こんなものです。
 えーじはまだ潜り始めたばかりですからね、この深く果てしない迷宮を。

 追伸:フリージアのプレイヤーについては運が悪かったとしか言えません。
    でもえーじは助かりました。仲間も生きていますよ。貴女の心の中で。

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 「ルーエルぅ…」

 天使の姿を思い浮かべ、どうしようもない感情が沸き起こり、ぐにゃぐにゃぐちゃぐちゃと像がぶれた。













 後書き
 やったね!えーじちゃん!ぶじせいかんしたよ!

 今回のノートに書かれてたリザルト。
 2以下でフリージア出現。出目2
 遭遇判定4以下で遭遇。出目1
 奇襲判定ルミウス失敗。

 トーレル戻って戦闘。
 えーじ投擲。命中判定2d6。9以上で成功。出目1,1。ファンブル。投擲習得。

 階段部屋奇襲判定。
 ベレス成功。えーじ失敗。

 ラスト投擲判定。
 2d6。6以上で成功。出目2,3.失敗。


 oh,,,

 三年前のサイコロのせいです。*私は悪くない*

 追伸:ちょっと変愚やるので更新ペース少し遅くなるかもです



[15304] *R指定*一夜明けて
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/18 20:30



 
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 能力 の 変動 がありました。
 あなた の 筋力 が 1 上がった。
 あなた の 耐久 が 1 上がった。
 あなた の 器用 が 1 上がった。
 あなた の 意思 が 1 上がった。

 あなた は 身体を休め12% の 潜在能力 をアップさせた。

 あなた は 16時間眠り 心身の疲れ を取った。
 あなた は 目を覚ました。
 おはようございます! プレイヤー えいじ

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------





 目を覚まし、ぼーっと天井を見た後、身体を起こす。
 窓からはオレンジ色の光が入ってきていた。

 「まだこんな時間か」
 そんなことを俺は呟き、一回ベッドへと倒れた後、なんだか違和感に襲われ呟く。
 「コマンド、タイム」

 砂時計を見れば、一番下へ零れ落ち始めたところだろうか。

 つまり今は夕刻。
 どうやら随分と眠ってしまったようだと思いながら天井を見つめること暫し。


 こうして天井を眺めていると、いつもと何も変わらない気がしてくる。
 昨日の出来事は本当にあったことなのかな。
 ぼんやりと考える。 

 頭に浮かぶのは助けを呼ぶルミウスであり(まぁ、俺の名前は呼んでなかったが)、
 俺のミスによって首を狩られるトーレルであり、
 俺を生かしてくれたベレスの姿だ。

 「ベレス……」
 呟く。

 愛嬌のある豚面が浮かび、
 そういや出会ってほんの二日しか経ってないのだよなぁ。
 一緒に酒飲んでパーティーを組んだ最初の一回目。それだけの間柄だ。

 そう思っても、「逃げろ」というベレスの声を思い出す。

 俺の手を握っていた手の感触と熱さを思い出す。
 もしあそこで俺が何もしなければベレスは助かったかもしれない。
 もしあそこで俺が投げるのを躊躇しなければベレスは助かったかもしれない。
 俺はじっと自分の手を見つめながら、

 「あれ?」
 不意に顔を伝うなにか。

 ぽろぽろと、それは洪水のように流れ出してきて、
 「なんで」

 止まらない。頭の中は何故かあの豚面のことでいっぱいになってきて、
 「馬鹿馬鹿馬鹿っ。馬鹿め。ベレスの馬鹿が」

 悪態をつきながらも涙が止まらず、わんわんと泣き出してしまった。



 ようやく泣き止んだ後、ふたたびベッドに寝転び、天井をぼんやりと見つめながら、

 「あー結構俺、アイツのこと好きだったのかもなぁ」

 勿論、恋愛だとか恋だとかそういうものでは微塵もないが。
 そんなことを思っていると「抱かせろ」とベレスの声が聞こえた気がした。

 

 なんだか熱っぽい手を見つめ、それから起き上がり、鏡へと向かう。
 そこには女の子が泣きそうな表情でこちらを見ている。

 俺は目の前の女の子がベレスに蹂躙されるのを想像してると、なんだか彼女も熱っぽい顔つきになってきて、それにちょっと興奮しながら鏡にキス。
 残念だけど、この身体は俺だけのもんだ等と妙な独占欲を感じ、再びベッドに戻り寝転ぶ。

 
 既に慣れた作業。ピカーっとスパーク。
 一分もかからず事を終えると、俺は「はぁはぁ」と吐息を漏らしながら、昇った身体が落ちていく感覚を味わう。
 その強い気持ちの良い感覚は段々と収まっていき、やがてゆらりとした波に浮かんでるような感覚へと変わっていく。 

 不意にお腹が*ぐー*っと鳴った。

 そうだ、ご飯を食べよう。
 俺は起き上がると服を整え、そのまま部屋を出た。 








 

 
 迷宮世界











 「お。姉ちゃんいらっしゃい」

 流々の冠亭。既に常連となっていた俺に店主のラウスが声をかけた。

 「や」
 俺は手をあげると、そのままカウンターへと座り、
 「とりあえずいつもの」

 「あいよ」
 そう言って、はちみつ酒の入ったガラス瓶から木のコップへと注ぎ、俺へと差し出した。

 *ごくっ*と少量喉に含む。甘い酸味とアルコール特有の熱が身体を満たす。
 満足感を味わい、はふぅと吐息を漏らした。

 「……何かあったのかい?」

 ん、と見ればこちらを見つめる店主の姿。
 首を傾げると、人差し指で自分の左眼を指差した。

 ああ、と俺は頷いた。
 「何でもありません」
 残りのはちみつ酒を一気に飲み干す。
 「……ただ、ちょっと、PTが全滅したくらいです」


 「…そうか」
 ラウスが布を差し出した。
 「悪いことを聞いたな」


 はて、この布はなんだろうかと思いつつも、瞳がぼやけているのを感じ、
 「いえ、すみません」

 顔を拭う。
 それにしても変な気分だ。
 先ほど大泣きしてすっきりしてもう大丈夫なはずだったのに。

 自分はこんなに泣き上戸だっただろうか。


 「ありがとうございます」
 そう言って、布を返す。


 「……いや。長かったのか?」


 「いえ、一回組んだだけの間柄だったんですけどね」
 そう言って笑うと、

 店主ははちみつ酒を俺のコップに注ぎ言った。
 「酒はただにしておくよ。ところでご注文は?」


 軽いものが食べたいな。
 「カナブキとバインハムのセットで」


 「あいよ」
 店主が厨房へと戻っていく。






 * * *





 美味しい食事を堪能し、酒が程好く回った後、俺は酒場を出た。

 ゆらりゆらりと気持ちよい風に当たりながら歩いていると、ドン、と何かにぶつかった。
 俺は尻餅をついた。

 「気をつけろ」

 「すまん」
 謝り立ち上がる。見上げればそこにはどこか見慣れた顔。豚のような顔があって。


 「ベレス?」
 立ち上がり詰め寄る。

 「ベレスぅ?」
 彼はそう言ってマジマジ俺を見た後、ぐふっと下品に笑い、
 「まぁなんでもいいか」
 そう言って、俺の手を掴んだ。


 ぞわぞわとした不快感が、身体中を満たす。
 心地良い酔いが覚めていく。

 よくよく顔を見ればあの愛嬌のある顔ではなく、醜悪で下品な豚面で。

 全然ベレスと違うじゃないか。なんでこんなのと間違えたんだ、と心の中で舌打ち。
 「おい、放せ」

 「あ?」
 そう言って、にやにや笑う豚に俺は耐え切れなくなって、

 「放せって言ってんだ。この豚」


 瞬間、スパークが迸った。
 *パァン!*という音がそこに響く。


 なんだ、何が起こった?
 俺は混乱する。

 景色がぐらぐら揺れ、頬にじんわりと熱とともに痛みが浮き上がってくる。


 「おい、女。今何て言った?」


 身体が持ち上げられる。
 俺は咄嗟に右手を懐に入れて、

 「放せって言ってんだよ!豚っ!」

 そのまま薬の確認もせずに投げつける。


 *パリン*


 「ぶひゃ」
 中の液体がオークへと降りかかり、手が離れる。
 俺は背中から落ち、痛みに顔を顰めた。

 豚に眼を戻す。
 身体はぐらぐらしており、今にも倒れんばかり。

 「へめぇ……」
 と、豚は憤りこちらへと一歩進み、ストンと崩れるように膝をつく。

 そのまま顔面をぶんなぐる。じぃんと拳が痛む。
 ダメージを与えられたかどうかはわからないが、その衝撃でオークの身体がよろめき仰向けに倒れた。


 「ひぇめぇ、にゃににゃがらった」
 呂律の回らない口で何事かしゃべる。

 麻痺薬だったかと納得した後、左懐から試験管を取り出し、蓋を抜いて目を瞑り顔に振り掛ける。
 途端、泣きそうなじわじわする痛みが消失する。


、俺は鞘から刀を抜き、そのまま豚をしとめんと歩く。
 俺は刀を振りかぶった。

 「にゃ、にゃめ……」

 「死ね」
 そのまま振り下ろす。


 鈍い音が響く。オークが呻き声をあげた。

 「安心しろ、峰打ちだ」
 そんな言ってみたかった台詞を言いつつ、そのままボカボカと身体中に刀を振り下ろした後、どこかすっきりした気分で、

 「てめぇの豚面に免じて今日は許してやんよ」
 何か言いかけたそいつの顔を軽く峰でぶっ叩き、
 「次はねーかんな」

 刀を鞘に納め、倒れる豚面は放置。
 ちょっと上機嫌で鼻歌なんか歌ってみたりして。


 ふと、可愛らしい男の子が、どこか熱っぽい表情でこちらを見ていた。
 鼻歌聴かれてたのだろうか。ちょっと恥ずかしい。そんなことを考えていると、たたっと駆け寄ってきて、

 「お姉さん強いんですね。凄いです。あんなに大きな人を倒すだなんて」

 どうやら全部見られていたらしい。
 若干照れて、「まぁね」と応えつつ、その場を去ろうとして、

 ふと手を掴まれる。はて、と首を巡らせば、

 「あの、ちょっと一緒にどこかでお話しませんかっ」
 どこか天使のようなキラキラした瞳の少年。

 「ごめん、手放して」

 「あ、ごめんなさい」

 この純真そうな少年には悪いが、今日はもう宿でごろごろしたいのであって。
 「今日はもう休みたいんだ。次の機会にね」

 「そうですか……」
 しょんぼりと肩を落とす少年。

 申し訳ないけど君が女の子ならワンチャンあったかもしれないなぁと思いつつ。

 「それじゃね」
 手を振ると、少年も手を振り返してくれた。


 すっきりした気分で俺は宿に戻った。



 * * *



 シャワーを浴び、ベッドに倒れこむ。

 そういえば、と思い出し、バックパックから指輪を取り出し、
 「鑑定」
 スキルを発動。


 
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 アイテムの正体を看破できなかった。より上位の鑑定、もしくは再びスキルを実行する必要がある
 
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 そんな小窓が再び出現。
 リベンジとばかりにスキルを繰り返すと、四回目にやっと成功する。


 
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は ☆シルバーリングフォースアロー『影に潜む一家』であることが完全に判明した。

 指にはめる輪だ
 それは白銀で作られている
 それは炎では燃えない
 それは魔法フォースアローを秘めている(1h1)[最大2発]
 それは運勢を維持する
 それは旅の熟練をあげる*
 それは体力回復を強化する**
 それは暗黒の耐性を授ける**
 それは呪いの言葉から保護する*
 もし店で売れば 1476G ぐらいになるだろう

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



 魔法!
 俺は鑑定を成功させると、その指輪の驚くべき力を読み取ることができた。

 この指輪を身につけると、どうやらあのナーガが使っていた魔法を使うことができるようだ。
 それは1時間に1回自動的にチャージされ、最大2発まで放つことができるらしい。

 何だかんだ言って魔法に憧れている俺は早速身に着けると、

 
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆シルバーリングフォースアロー『影に潜む一家』

 指にはめる輪だ
 それは白銀で作られている
 それは炎では燃えない
 それは魔法フォースアローを秘めている(1h1)[最大3発]
 それは運勢を維持する
 それは旅の熟練をあげる*
 それは体力回復を強化する**
 それは暗黒の耐性を授ける**
 それは呪いの言葉から保護する*
 もし店で売れば 1476G ぐらいになるだろう
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 なんか最大チャージ数が増えた。すわこれがアイテム師の恩恵!等と興奮すること暫し。
 早速明日はこの指輪と手に入れたナイフの効果を試してみようと、俺は目を瞑る。





 ちなみになんだか興奮して寝付けなかったので何時ものアレを行い、無理矢理身体を睡眠モードに移行させた。





 
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 好感度 の 変動 がありました。
 流々の冠亭の店主 ラウス の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【好意的】 です。
 オークの冒険者 ザージ の 好感度 が下がった。
 現在 の 好感度 は 【うざい】 です。
 男娼 アベルス の 好感度 が上がった。
 現在 の 好感度 は 【普通】 です。

 能力 の 変動 がありました。
 あなた の 魅力 が 1 上がった。

 あなた は 身体を休め2% の 潜在能力 をアップさせた。

 あなた は 8時間半眠り 身体の疲れ を取った。
 あなた は 目を覚ました。
 おはようございます! プレイヤー えいじ

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 ステータス

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 所持金 297G 81S
 カルマ 2

 筋力  8 Great
 耐久  9 Good
 器用  8 Great
 感覚  5 Good
 習得 12 Great
 意思  6 Good
 魔力  0 Nothing
 魅力 13 Great

 クラス   アイテム師
 信仰神   ドルーグ
 獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.1 言語Lv.Max 投擲Lv.0 アイテム鑑定Lv.3 アイテム効果上昇
 状態異常  なし

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 装備

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 鉛の刀(4d3)

 倭国に伝わる由緒正しい細身の剣だ
 それは鉛で出来ている
 それは錆びにくい
 それは(4d3)のダメージを与える(貫通率20%)
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 ☆艶やかなる法衣『さようなら現世』 [7,0]

 僧侶用の服だ
 それは布で出来ている
 それはDVを7あげ、PVを0減少させる
 それは習得を維持する
 それは体力回復を強化する*
 それは剣術の理解を深める**
 それは重装備での行動を阻害する****
 それは盲目を無効にする
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 布のズボン [3,0]

 下半身を守る服だ
 それは布で出来ている
 それはDVを3あげ、PVを0減少させる
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 皮の靴 [2,4]

 足先を守る靴だ
 それは皮で出来ている
 それはDVを2あげ、PVを4上昇させる
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 銅の腕輪 [0,1]

 腕にはめる輪だ
 それは銅で出来ている
 それは酸では錆びない
 それはDVを0あげ、PVを1上昇させる 
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 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 翡翠の指輪 [6,0]

 指にはめる輪だ
 それは翡翠で出来ている
 それは炎では燃えない
 それは酸では錆びない
 それはDVを6あげ、PVを0減少させる
 それは生命を5上げる
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆シルバーリングフォースアロー『影に潜む一家』

 指にはめる輪だ
 それは白銀で作られている
 それは炎では燃えない
 それは魔法フォースアローを秘めている(1h1)[最大3発]
 それは運勢を維持する
 それは旅の熟練をあげる*
 それは体力回復を強化する**
 それは暗黒の耐性を授ける**
 それは呪いの言葉から保護する*
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆透き通ったリターニングスローナイフ『エンジェルモメント』(1d20)(11)

 投擲用の短剣だ
 それは硝子で作られている
 それは炎では燃えない
 それは投げた後手元に戻る(100%)
 それは武器として扱うことができる(1d20 貫通 15%)
 それは攻撃修正に11を加え、ダメージを0増加させる
 それは電撃属性の追加ダメージを与える***
 それは魅力を維持する
 それは裁縫の技能を下げる***
 それは音への耐性を授ける**
 それは速度を4上昇させる
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 後書き
 次回は手に入れた武器の検証です。



[15304] 入手品を試すのこと
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/04/26 02:35






 一晩明けて妙にすっきりした俺は、早速手に入れたアイテムの効果を確かめるため、近場のダンジョンへ行ってみることにした。
 勿論、一人でいくのは不安だが、初心者用の1階程度なら大丈夫だと思ったからであって。

 そこで準備中に攻撃用の薬が尽きそうだと気づいたのだった。
 なお薬の概要は麻痺薬1、睡眠薬2、傷薬4、毒治療薬6。これが全てである。

 「そういえば換金も済ませないとなぁ」

 とは言うものの、換金できそうなアイテムはほとんどが雀の涙のようなもので。
 うーむ、と手に嵌めた銀の指輪とガラスのナイフを見つめること暫し。

 確かめてから!とそんなことを思いながら、タウンマップを動かし、宿近くの薬屋を見つける。

 身支度をして、向かうことにした。




 * * *




 『毒薬60G』
 『麻痺薬50G』
 『睡眠薬60G』
 『火炎瓶80G』
 『硫酸170G』


 ―――高すぎる。

 最初にその薬屋に入って思ったのはそんなことだった。


 「ちょっと待てよ。なんでこれがこんなに高いんだ?」

 暴利である。特にドルーグの信仰を得ている俺にはその薬の相場がわかるのであって。
 勿論、わかるのは売却価格、つまり仕入れ値ではあるのだが、流石に仕入れ値1Gとか高くても10Gはいかないアイテムを10倍以上で売るのはと文句も言いたくなる。

 「うちは適正だよ」

 「適正?これが?」

 なおも問い詰めると、薬屋の販売員はふぅ、と溜息を吐いて、
 「そうとも。大体こんな危ないもの、なんだって欲しがるんですか?
 勿論、お客さんが真っ当に生きていることはわかりますがね」
 

 そう言って、ひし型にカットされた透明な石を俺に見せた。
 その石は薬屋の手から宙に浮かんでおり、微かに輝きを放っている。
 某RPGゲームのクリスタルのようだと思いつつ。


 なんだろう、と鑑定を発動。


 
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 それ は ☆アライメント判断石であることが完全に判明した。

 それは特殊な宝石だ。
 それは対象者のアライメントを判断できる。
 もし店で売れば 400G ぐらいになるだろう

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 ああ、成程。これが前にルーエルが言っていたやつなのだな、と思うこと暫し。
 もしかしてこれ、カルマが低いとまともに店で買い物することすらできなくなるんじゃないか。と少々恐々したりして。

 「そんなの迷宮で使うに決まってるじゃないか」

 俺がそう答えると、薬屋はちょっと驚いたような顔をして、

 「探索者?お嬢さんが?」

 「そうだよ」 

 「やめとけやめとけ。あんな物騒なところにいくもんじゃないよ。そりゃ薬があれば多少はなんとかなるでしょうが……うーむ一つぐらい…いや、」
 薬屋は少し考え込むようにして、
 「……いや、やっぱ駄目だな。お嬢さん、傷薬とかなら適正な値段です。そいつを買っていったらどうです?」

 
 『傷薬8G』
 『毒治療薬12G』

 こっちもちょっと高いが、確かに暴利というわけでもないなと頷く。って、

 「やっぱ暴利なんじゃないですか」

 「おっと、口が滑った」

 苦笑する販売員を苦々しげに睨みつつ、
 「もういいです。コマンドタウンマップ」
 地図を開き、

 「むくれないでくださいよ、お嬢さん。ここではどの店も全部この価格です。この都市の管理者がそう決めていますからね」

 その言葉に、えっ、と俺は地図から薬屋に目を移す。

 「お嬢さんが本当に探索者だって言うならまず*ギルド*に入ってからです。
 そうすれば本当の適正価格で入手できますよ。もっとも……」

 彼は俺をじろじろと見て、

 「やっぱ真っ当に生きるべきだと思いますけどね」







 余計なお世話だ、と思いつつ、他の薬屋に行ってはみたものの、最初の薬屋とまったく同じ値段であって。
 ぶっちゃけ買うのも癪だったので、ご飯の用意を済ませて、地図を見ながら近場の迷宮に向かうことにした。


 かっぽかっぽと馬のロシナンテの手綱を握りながら荷馬車に揺られること暫し。
 そういやあの時はルミウスが―――なんてことを考えると暗くなるので何も考えないことにする。

 それにしても大人しい馬だ。ロシナンテを見てそう思う。
 しかし主人が変わったら何か反応があるのではと思うのだけど、特に変化はない気がする。

 馬が止まる。目的地に着いたのだ。
 馬から降りて、迷宮へと向かう。


 
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ここ は 初めの洞窟です。
 この迷宮 は 既に踏破済みです。それでも構いませんか?

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 ちょっと気になって俺は振り返ったが、ロシナンテはじっとそこに佇んでいる。
 やっぱり奇妙だと思いながら、俺は洞窟の中へと入り込んだ。

 
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 あなた は 暗い迷宮の中へと足を踏み入れた。

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 迷宮世界







 暗くて中は何も見えない。
 俺はバックパックからランタンを取り出し、上に軽く放り投げる。

 ほうら明るくなった。

 そんなことを思いながら足を進め、程なくして階段を発見。
 踏破済みだからなのか敵に出会うことはなかった。

 勿論、目ぼしいアイテムも見つけることはできなかったが、

 「鑑定」

  
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 それ は いい感じのほうきであることが完全に判明した。

 それは掃除道具だ。
 もし店で売れば 1Gと34S ぐらいになるだろう。

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 こういう多少の雑貨は落ちているのだった。
 回収し、敵も見当たらないのでそのまま階段を降りる。



 そのまま二階を探索。
 相変わらず敵は見当たらない―――と、そこで地面を蹴るような音が耳に届いた。

 ん、と見れば一匹のわんこ。
 それが牙を剥き出しながらこちらへと駆け寄ってくる。

 「えいっ」

 ちょっと怖かったので、そのままナイフを投擲。
 しかしナイフはわんこから外れ、地面へと突き刺さる。
 ちっと心の中で舌打ちするものの、すぐ様手元にナイフが出現。再度投擲する。

 「ギャンッ」
 悲鳴を上げるわんこ。見事命中したナイフは一瞬スパーク。
 ――よしっ!
 わんこはびくびくと身体を震わせ、足が止まる。

 おお。
 
 これが雷属性かと感心しつつも、既に新たなナイフが手に握られており、そのまま三投目。
 再度命中したナイフが再びスパークすると、*シュー*と蒸気が噴出し始めた。


 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆透き通ったリターニングスローナイフ『エンジェルモメント』(1d20)(11)

 投擲用の短剣だ
 それは硝子で作られている
 それは炎では燃えない
 それは投げた後手元に戻る(100%)
 それは武器として扱うことができる(1d20 貫通 15%)
 それは攻撃修正に11を加え、ダメージを0増加させる
 それは電撃属性の追加ダメージを与える***
 それは魅力を維持する
 それは裁縫の技能を下げる***
 それは音への耐性を授ける**
 それは速度を4上昇させる
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 俺はナイフを見ながら微笑んだ。
 これは強いかもしれない。



 * * *



 さて。
 再び下への階段を発見。敵はさっきの野犬以降、現れない。

 「も、もう一階ぐらいなら」
 どこかで、まだいけるは危ない、というフレーズが思い出されたものの、気にせず降りることにする。

 勿論、指輪をまだ試してもいないし、踏破済みということでボスが現れないという安心要素もある。
 ちょっと猫娘のことを考えたが、あんな運の悪いことは続けて起こることはない、その筈だ。

 ぶっちゃけ不安で心細くなったものの、ええいと気を引き締める。



 *ザリッ*
 砂を噛む音。
 見れば剣を構えた小人――靴を履いてるからホビットではない――がこちらへと走り込んで来るのが見えた。

 右手をかざし、指輪へと意識を向ける。

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 ☆シルバーリングフォースアロー『影に潜む一家』

 指にはめる輪だ
 それは白銀で作られている
 それは炎では燃えない
 それは魔法フォースアローを秘めている(1h1)[最大3発]
 それは運勢を維持する
 それは旅の熟練をあげる*
 それは体力回復を強化する**
 それは暗黒の耐性を授ける**
 それは呪いの言葉から保護する*
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 指輪をはめた人差し指が熱くなってくるのを感じる。

 「フォースアロー」

 瞬間、人差し指から何かエネルギーのようなものが飛び出すのを感じた。
 紫色の光が迸り、光は一直線に小人へと向かっていく。

 「ぶばっ」
 命中した瞬間、奇妙な声を小人があげた。

 光はその小人の身体を突き抜けると、そのまま地面に当たり、消滅する。
 小人は仰向けに倒れた。そして*シュー*と蒸気。

 「おおおおお」
 テンション上がった。

 なんと言っても最初に見た魔法はあの黒髪のナーガさんが初めてなのだ。
 そしてその魔法を自分が使っているというのはなんとも感慨深いものがあって。

 「よし!」

 俺は再び獲物を探すことにした。
 今宵の俺は血に飢えている。







 三層目は一層、二層と違い、敵がまだ結構残っていた。
 段々とナイフ投げのコツのようなものを掴み、指輪の魔法にテンションを上げる。
 手に入れた装備の強さを堪能しつつ、うろつき回ること暫し。

 三層目は結構探索不足だったのか、それなりの防具を見つけることができた。

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 鉄の軽鎧 [2,10]

 軽い鎧だ
 それは鉄で出来ている
 それは炎では燃えない
 それは火炎への耐性を授ける*
 それはDVを2あげ、PVを10上昇させる
 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 いやまぁぶっちゃけ使わないんだけど。
 流石に今着ている『さようなら現世』の銘からは離れたくはあるのだが。


 とりあえず幾つかの使えない武具やガラクタ。それに貴重な麻痺薬を回収し、再び階段。

 「も、もう一階ぐらいなら」

 そう一人ごち。とは言え、不安も流石に大きくなってきて。



 「よし!」

 俺は階段を見つめ、


 「おうちに帰ろう」
 そのままくるりと身を翻し、入り口へと戻ることにした。








 後書き

 もう一層進んでたら面白い展開になりそうだったんだけどえーじ(サイコロ)が嫌がるので仕方ないね。
 次で二章は終了の予定です。

 追伸:名も無き@は呟いた「こんなに難しかったかなぁ……」



[15304] 行きはよいよい帰りは~~
Name: ru◆9c8298c4 ID:8a8c7330
Date: 2013/05/06 02:27






 既に迷宮は踏破済み。
 故に、特に波乱無く戻れる予定だったのだが、どうにも物事というものはふとした拍子に落とし穴があるもので。


 帰りがてら、どこかに獲物がいないかと探したのだが、矢張り殲滅済みなのかそうそう遭うことも無く。
 少し残念だと思いつつ二階へ。

 
 もう一匹ぐらい倒して行きたいなとか一瞬思ったのだけれども、
 最初に来たときのことを考えるに、敵は見つかりそうにないなーと諦めムード。

 真っ直ぐ帰ることにする。
 部屋を抜け、マップを見ながら1層目の階段へ向かおうとして、


 「えっ」
 あまりのことに声が漏れる。


 不意に誰かが部屋の電気のスイッチを切ったかのよう。
 視界が唐突に暗闇へと包まれた。








 迷宮世界








 な、なんだ?どういうことだ?

 何も見えない。
 突然の暗闇現象に焦りつつも、パニックを起こさなかったのは空中に浮かぶマップとステータスがあるからだ。
 宙に浮かぶステータスとマップは普通に見ることができるようで、安堵する。
  
 だが、何が起こったのかとステータスを見るものの特に異常は無く、マップにも変化が無い。

 *ゴトリ*と、何かが落ちる音。

 何の音だと警戒しつつも、宙に浮かぶ地図とステータスの僅かな灯りが、その正体を教えてくれた。


 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 使用済みのランタンが落ちている。
 
 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 今更ながら、この便利明かりアイテムに使用時間とかあったのだなぁと思うこと暫し。

 救いは空中に浮かぶマップとステータスだ。
 周りはほとんど見えないものの、空中に浮かぶマップとステータスの僅かな光で、自分の足元ぐらいは確認できる。
 もしこれが無ければ自分は暗闇の中で朽ち果てていたかもしれない。そんな想像にぞっとする。
 突然灯りが無くなってしまっても多少の救済はあるのだと、この世界に優しさのようなものを感じた。

 
 とは言うものの、

 *ごつり*

 「痛っ」
 どうにもマップの空間が上手く把握できず、壁に頭をぶつけてしまう。


 「むぅ」
 ぶつけた頭を抑えつつ、左手を前に出し、恐る恐る歩く。

 一階への階段がすぐ近くであったことは幸いだったなぁと思いつつ。
 四層目に行っていたらどうなっていたことやら。そんなことをふと考える。
 引き返して正解だった。


 地図を見ながら手探りでドアを開ける。
 そのまま地図に従って階段へ進もうとして、

 *カチリ*

 「ん?」
 何かスイッチのようなものを踏んで、


 突然、身体に衝撃が走り、一拍後、壁に背中から叩きつけられた。

 「―――っ!」

 パクパクと口を開く。
 不意な衝撃に身体が驚いたのか声が出ない。鈍い痛みが身体全身を覆う。

 そのまま崩れ落ち、痛みを和らげようと身体を丸める。


 罠か。一体なんの罠だ。
 焦りながらも、ステータスを確認。異常は無い。
 身体全身に広がる鈍い痛みに少し泣きそうになったものの、特に致命的な罠ではなさそうだと安堵。

 地図を見れば壁際に自分が移動していることがわかる。
 丸太でも飛んできたのだろうか。
 

 「ハッハッ」

 じっとして身体の痛みが引くのを待っていると、動物の息遣いのようなものが聞こえた。

 思わず息を殺す。
 こんな真っ暗闇では投げエンジェルに頼れそうも無い。


 早いとこ一階へ行こうと再びマップを見ながら階段へと進もうとして、足を止めた。
 何しろこの真っ暗闇。一体どこで自分が罠を踏んだのか良くわからないわけで。

 耳を澄ます。
 息遣いと地面を噛む音が聞こえる。

 心臓が高鳴る。
 なるべく自分の吐息を聞こえないように、抜き足で音から離れる。


 その後マップを見ながら回り込むように階段へ。

 無事辿り着き、ほっとしながら階段を登ろうとして、

 「あいたっ!」

 若干焦りがあったのか階段を踏み外してしまい、うつ伏せに倒れる。

 身体を押さえていると、

 「ウォン!」

 と、吠えるような声。

 俺は慌てて一階へと登った。 




 * * *



 ばくばくと心臓の鼓動音が響いている。
 暗闇とは随分と心を不安にさせるもののようだ。

 一階層といえどまったく安心できず、そのままひたすら地図と足元を見ながら出口へと進む。
 例えネズミであっても、この暗闇状態では遭いたくない。


 祈りが通じたのか、それとも既に殲滅され切っていてモンスターが居なかったのかはわからないが、出遭うことなく、明かりへと辿り着いた。

 やっとそこで俺はほっと胸を撫で下ろし、明かりへと足を進める。
 地図を見た。出口はもうすぐだ。



 * * *


 外の眩しさに目を手で覆う。
 目を慣らし、手の保護を外すと入り口のすぐ傍で佇んでいる馬のロシナンテを発見。

 俺の姿を見つけると、こちらに向かって「ブルリ」と鼻を鳴らした。







 後書き

 なかなか踏破できなくて必死で頑張ってたらちょっとエタりそうになった。反省。
 短いですがここまで。この先機会がなさそうだったので、入れようか迷ってたイベントを一つ入れました。
 予定がずれることはよくあることだね!
 じ、次回こそ二章ラストの予定です。


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