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[15483] 運命王女(Fate×怪物王女)
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/23 23:41
 どうもPナッツです。

 前作の反省を活かし、オリジナル要素の強いクロスオーバーに挑戦してみました。

 まんまなタイトルですが、本作はFateと怪物王女のクロスオーバーとなります。


 異世界トリップものではなく、両作品の設定をすり合わせたものになります。
 そのため、あえて設定を改変をしている場合がありますのでご了承ください。




[15483] prologue
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/11 09:55
「ここが笹鳴町か……」

 そう呟いた言葉は誰に向けた訳ではない。ただ、己自身に言い聞かせるように確認しただけだ。
 ここは笹鳴町。都心からやや離れたところに位置し、それなりに町は栄え、それなりの人が住む、よくある平凡な町だ。
 行き交う人々や車、町の喧騒、どこを取ってもおかしな点は見当たらない。
 ただ一つ、あることを除いては――。

 留学先の倫敦から久し振りに故郷へと帰る際に、笹鳴町という町に関する妙な噂を聞いた。
 そのどれもが、霊安室から脱走した死体や、夜の町を徘徊する吸血鬼など、どれも眉唾物の他愛もない噂だ。
 しかも、どの噂も実際に被害が出たという話しは聞かなかったので、別に放置しておいても問題はなかった。
 だが、それでも一つだけ気になることがあった。

 それは、それらの噂があまりにも多すぎるということだ。
 一つや二つ、三つや四つならまだわかる。それぐらいの噂、どんな街にだって幾つかあってもおかしくはない。
 だが、笹鳴町の妙な噂は一つや二つどころか、両手では数え切れない程あるのだ。
 この町には何かある。そう考えても不思議ではない。
 勿論、思い過ごしということも十分に考えられる。だが、一度気になってしまったことは自分の目で確認しなければ、気が済まない性分なのだ。
 幸いにも、笹鳴町は空港から故郷である冬木市へのほぼ通り道と言って言い場所に位置する。寄り道ついでに笹鳴町へ寄って行ったとしても、大した時間も取らないだろう。
 何もなかったならなかったで、いい土産話になるかもしれない。
 そんなごく軽い気持ちで衛宮士郎は笹鳴町を調査することにしたのであった。



 とある昼下がりの午後。ここは笹鳴町の丘の上にそびえるお屋敷。つい最近までは人が住んでさえいなかったのだが、今はどこぞの令嬢とそのお手伝いたちが住んでいるといないとか。
 その噂の令嬢たちは屋敷のバルコニーで優雅なティータイムを過ごしていた。
 お茶会の参加メンバーは噂の令嬢こと、あらゆる異形のものどもの頂点に君臨する怪物の王女である『姫』と、その従者のフランドル。そして、ひょんなことからその姫に仕えることとなった中学生の日和見日朗だ。
 もっともフランドルと日朗はお茶を飲むと言うより、姫に付き添って傍らに立っているだけなのだが。

「魔術師?」

 日和見日朗は会話の中で唐突に出てきた、魔術師という聞きなれない単語に首を傾げた。
 彼はある事情によって半不死身となり、普通の人間とは一線を画する存在なのだが、その中身はその辺の中学生となんら変わらない。よって魔術師なんて言われてもいまいちピンとこない。

「そう、魔術師だ。令裡の話しによれば、この町に魔術師が潜入しているらしい」

 カップをソーサーに戻した姫は冷静な声で言った。すると視線の先に蝙蝠が集まりだし、徐々に人型を象っていく。その人型は黒いセーラー服を纏った少女――嘉村令裡となる。

「ええ。魔術師の詳しい目的は不明ですが、この子たちの情報は確かですわ」

 まあ、その後は撒かれてしまったようですが、と言いながら、令裡は腕からブラ下がる蝙蝠を指であやし始めた。
 吸血鬼である彼女は、蝙蝠との意思の疎通が可能なのだ。

「ふふん。優秀な霊脈もなく、魔術師が好みそうな物もないこの町に、奴が来る目的など一つしかなかろう」

 まったく困ったものだ、と付け足しているが欠片も困っているようには見えない。
 優雅な仕草で紅茶に口をつける。
 
「姫さま、もしくは私といったところでしょうね」

 自分が狙われているかもしれないと自分自身で言っておきながら、楽しげに微笑むことが出来るのは強者の余裕故だろうか。
 
「……ね、ねえ。魔術師なんてホントにいるの?」

 先ほどから二人の会話に全くついていけない日朗が、たまらず質問をする。

「今更何を言っているんだヒロ。お前は今まで、様々な怪物どもを見てきただろう」

 呆れたような表情で姫は日朗の方に目をやる。

「で、でも、魔術師って聞くと怪物というより、人間ってイメージがあるんだけど……」

 例えば童話に出てくるような魔女。大きな釜で怪しい液体を似ている老婆。
 魔術師というより魔女だが、彼にとってその二つの違いに大差はない。
 とにかくこれが、彼の思い浮かべる魔術師のイメージなのだ。
 そんな日朗の言葉を聞き、姫の眉間にしわがよる。

「先ほどから何を言っているんだ、ヒロ。魔術師は人間に決まっているだろう」

「まあ、姫さま。オモテの世界で生きていたヒロがそのようなことを知る由もありませんわ」

「それもそうだな。フランドル、紅茶のお代わりを」

「ふが」

 フランドルと呼ばれたメイド服の少女は、ティーポットに入った紅茶をカップに注ぐ。
 実はこの妙に小さなメイドの正体は王族付きの人造人間だったりするのだが、その話しはまた別の機会にするとしよう。
 すっかり思考が停止していた少年が、そろそろ再起動する頃だ。

「……ええええええええっ!?」

 最近おなじみになりつつある絶叫がお屋敷に木霊した。


 魔術師。それは探求者。
 分野、種別を問わず、魔術という学問を修めようとする者。
 科学が未来に進むための学問とすれば、魔術は過去に遡る学問である。
 故に彼らは現代社会とは相容れない存在であり、その身を隠しながら魔術を研鑽していく。
 その在り方は異形の怪物たちと似通っている部分もあるが、両者が積極的に関わるということは殆どない。
 
「その魔術師が何で姫や令裡さんを狙うの? お互いに干渉をしないようにしていみたいだけど」

 落ち着きを取り戻し、魔術師についての説明を受けた日朗がある疑問を口にする。
 話しによれば一種の不干渉を貫いている魔術師が姫たちを狙う理由がわからないのだ。 

「我々が魔術師と関わらないのは不干渉のルールがあるからではない。単にこちらが魔術師と関わらないようにしているからだ」

「そうなの?」

「ああ。奴らは利己的な人間でな。吸血鬼なんかよりも信用がならないと言われているぐらいだ。まあ、その吸血鬼が魔術師だっていう場合もあるのだがな」

 姫はその秀麗な眉を僅かに顰める。
 彼女と長いこと接している者ならばわかるが、これは珍しいことだ。
 基本的に物事に対し動じにくい性格をしており、例え不測の事態が起きようとも表情を殆ど変えることのない姫が眉を顰めたのだから。
 それだけ魔術師という者に対し、良くないイメージを持っているということなのだろう。
 
 怪物と魔術師、両者が関わり合うことがないというのは正確に言えば語弊がある。
 なぜなら、魔術師の方は別に怪物と関わりを持つことには、何の抵抗もないのだから。
 神秘の研究が本分である魔術師にとって怪物は、十分に興味深い研究対象足りえる。だが、魔術師ににとっての研究は被験者の生命など関係のないように扱うというものだ。
 魔術師が一般的な倫理など持ち合わせている筈もなく、研究のためならばいとも簡単に被験者の命散らす。生かしていたというなのら、それはただ単に生かしておかなければならない理由があったというだけなのだろう。
 そんな相手にのこのこと近づく愚か者はいる筈もない。例え向こうから近づいてきても、決して信用をしてはいけない。
 笑顔で近づいて背後から刺す、彼らにとってそんなことは呼吸をするかの如く、何ら造作もないことなのだから。
 それが魔術師なのだ。
 
「あら、姫さま。その信用のならない吸血鬼がいるというのに随分ですわね。それと、あんな紛い物を吸血鬼とは呼ばないで頂きたいですわ」

 心外ですわ、と令裡が言う。
 語調から察するに、まるで信用のならないものの代名詞として例えられたことよりも、姫がその後に続けた言葉に気分を害したようだ。
 これも、いつもは飄々とした令裡にしては珍しい様子である。

「ふふん。それはすまなかった。だが、あくまで一般的に言われていることを話したまでだ。他意はないから気にするな」

 姫はそう言いながらも悪びれた様子も見せない。
 そして、一度紅茶に口をつけ、言葉を続ける。 

「話しが逸れたな、ヒロ。つまり、こちらからは魔術師に対し不干渉だが、理由さえあれば魔術師はこちらを狙うこともあるということだ。刺客ということは考えにくいが、王族に吸血鬼なんて、奴らからしたら垂涎ものの研究対象だろうな」

「じゃ、じゃあ、早くこの町に潜入した魔術師の対策を立てないと!」

 はっとしたように日朗が叫ぶ。
 だが、姫は余裕の表情を崩さない。

「おそらく今は無駄だ。魔術の存在をひたすらに隠蔽する魔術師は昼間に行動をすることはない。魔術師を見つけるなら、それは――――」
 
 姫は町の方へと鋭い目を向ける。
 それはこの町のどこかに潜むという魔術師を睨むかのように。
 決して逃がしはしないとでも言うかのように。
 件の魔術師に宣誓するかのように。

「――――夜だ」

 物語の序幕を告げるかのように凛とした声が響く。




続け

 
 怪物王女において魔術師という単語自体は出ているのですが、キャラクターとしては出てないことで思い立ったクロスです。
 自分は単行本派なので、もう出てるよという場合はご容赦ください。

 結構見切り発車なので、更新は亀の歩みになるかと思います。
 そもそもこのクロスに需要があるかどうかも謎ですが。

 



[15483] 日常境界
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/16 11:17
 正義の味方。
 それは誰もが一度は夢見て、いずれは絵空事と忘れてしまう存在。

 だが、ある一人の男の場合は違った。
 彼は正義の味方なんていう途方もない夢を抱き、そしてこれからも抱き続けるだろう。
 彼はその夢のために魔術を習い、身体を鍛え、そして世界を渡り歩いたのだ。
 零れゆく命があるならば、それを救うために奔走した。時にはその身体、その精神、その命をなげうってまで。
 そして、これからも彼はこうして生きていくのだろう。

 ――なぜなら。

 それが、衛宮士郎が持つ唯一の夢であり、かつて大切な人たちに誓った理想だからだ。
 彼が止まることは決してない。



 雲ひとつない空はどこまでも澄んでいる。
 青空は太陽一人のオンステージと化している。
 だからだろうか。打ちつけられる日差しがいつもより強く感じられるのは。

「熱い……」

 額の汗を手の甲で拭う。
 今日が真夏日になるとはニュースで聞いていたのだが、まさかこれほどとは。
 まだ五月の中旬だというのに、俺の肌をじりじりと照りつけるそれは、真夏の時と何ら遜色はなかった。

 笹鳴町の噂を確かめるならば、昼よりも夜の方がいいだろうということはわかっていた。
 ああいうオカルトな類のものは大体、太陽が沈みきった後に起こるものなのだ。
 こんな青空の下を走る死体や吸血鬼がいるなら、それは怪談ではなく喜劇になるだろう。
 
 だから俺はこの昼の調査で何か異常が見つかるとは考えてはいなかった。
 今闇雲に歩き回っているのは、噂の調査というより、なれない土地の地理感覚を補うことに重きを置いている。
 だが、この炎天下の中で歩き始めてから既に三時間は経とうとすれば、さすがにくたびれてくる。
 今もこうして詮無いことを考えてしまうぐらいには。

「少し休憩するか」

 すぐ近くには丁度いいことに、喫茶店があるではないか。
 あそこで少しばかり休憩を取ってから再び調査を再開しよう。

「いらっしゃい」

 扉を開くと出迎えの声と共に、カランコロンというどこか懐かしい音が響いた。
 店内はどこか洒落たアンティークな雰囲気が漂っている。
 どうやら今は混雑する時間帯ではないようで、客はまばらだ。

 とりあえず、隅の席に座る。
 どうしても日本人にしては珍しいこの白髪は、人目を引くからだ。
 席に置いてあるメニューをぱらっとめくってみる。
 一般的な喫茶店とさして変わらないものだ。
 店員を呼び、コーヒーと軽食を頼む。

 ふと、店内に入ってから気になっていた、ある席に座る人物に目を向ける。

「あれってメイド服だよな……?」

 そう。メイド服を着た女性がパフェを食べているのだ。
 それはもう、大変幸せそうに。
 それはいい。女性とは甘いものが何よりも好きな生き物なのだ。イチゴパフェをおいしそうに食べていても、何ら不思議ではない。
 
 だけど、なんでメイド服なのさ。
 この場に客としてくるには、あまりそぐわない格好だと思うのだが。
 周りの人たちもそう思っているらしく、パフェを食べているメイドを凝視している。

 ――いや、あれは違う。
 メイドを凝視しているのは店主含む男性ばかりで、視線の先はメイド自身というより、そのたわわな胸に注がれている。
 確かにあの胸は凄い。
 メイド服という露出の少ない服を着ているにも関わらず、その存在感を存分に撒き散らしている。
 でも、女性の身体をやたらと見つめるのはどうかと思うぞ。
 
 しかし、メイドさんはメイドさんで、そんな男共の視線など気にした素振りも見せずにパフェを食べている。
 いや、あれは気にしていないというより、気付いていないだけか。
 そんな無防備さが男共の視線を更に釘付けにしているのかもしれないな。

「お待たせいたしました。コーヒーとサンドウィッチです」
 
「――――っつ! ああ、はい」

 不意に声を掛けられ、心臓が飛び出すかと思った。
 どうやら、女性店員が頼んでいたものを運んで来てくれたようだ。
 慌てて、メイドから目を逸らす。

 女性店員は注文の品を置くと、そそくさとカウンターの方へ戻って行ってしまった。
 俺を見る目に少しだけ、軽蔑の色が含まれていたことは気にしない。
 ちくしょう、誤解だ。
 その後は意地でも、メイドさんには目を向けないことにした。

 十分な休憩を取った後に店を出て、しばらく調査をしたのだが、芳しい結果得られなかった。
 夜の調査に備え、一旦町外れにあるホテルにチェックインを済ませ、そこで昼間歩き回った疲れをとることにした。



 夜空には下弦の月。
 時折どこか遠くから、犬の遠吠えが聞こえる。
 並んで建つどの家にも明かりが灯っており、それぞれが団欒の時を過ごしているのだろう。
 そこには、どこの町でも見られそうな、日常の風景だけがあった。
 こうして町を歩いていても、時折残業帰りであろうサラリーマンとすれ違うのみで、霊安室から脱走した死体や吸血鬼には未だ出くわしていない。

 昼間行った調査と同様に異常は見られず、それならばと夜に行った調査もご覧のとおりだ。
 やはり噂は噂だったのか。

「――いや」

 そう決め付けるのは早計だ。
 まだ調査をしていない所もあった筈だ。

 ふと丘の方へと目を向ける。そこにはひっそりと佇む洋館が見える。
 オカルトな噂に洋館、なんともよく似合う組み合わせだ。
 歩く死体や吸血鬼があそこに住んでいたって不思議ではない。
 
 今考えてみると奇妙だ。
 どうして今まで俺はあそこを調べようとしなかったのだろうか。
 あの洋館はまるで俺が認識したことで、初めて存在を得たかのようだった。

「とりあえずあそこに行ってみるか」

 目的地を定め再び歩き出す。
 ここから大分離れてはいるが、問題はない。
 ――夜はまだ長い。


 
あとがき

 紗和々は結構好きなキャラなのですが、あまり出せなかったことが残念です。
 機会があれば、ちゃんと登場させたいですね。

 少し区切りにこだわりがあったもので、短めになってしまいました。

 次はもう少し長くなると思います。
 



[15483] 邂逅
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/24 10:00
「――――」

 妙な胸騒ぎがする。
 どこをとっても平凡な町。
 だというのに、この辺りだけは何かが違う。
 言葉では説明することは出来ないが、異常に対する察知能力にはそれなりの自身がある。
 
 日常に溶け込む非日常。
 そんな矛盾を平気で孕む地点。
 それがあの洋館の本質なのではないだろうか。
 そんな取り止めのないことをぼんやりと考えていた。

 ――だからだろうか。
 一人の接近に気付くことが出来なかったのは。

「お前が例の魔術師か?」

 突如掛けられた声にはっとする。
 声のする方に目を向けると、一人の女の子がいた。
 
 高校生ぐらいの年齢だろうか。
 意思の強そうな目、おそらく地毛であろう赤い髪は短く切られている。
 タイトな黒いシャツは丈が短く、腹部が見えており、動きやすさを重視したカーゴパンツと相俟って活発的なイメージを連想させられる。

 そんなことよりも重要なのは、この娘が発した言葉だ。
 その口で確かに魔術師と言った。
 彼女はこちら側の人間だということなのだろうか。

「――さあな。そう言う君は何者なんだ?」

 嘘をつくのは苦手なので、下手に答えはしない。
 相手の情報を少しでも得ようと試みる。
 すると、彼女はめんどくさそうに髪をかき上げた。

「あー、答えるつもりがないなら、答えなくてもいい。あたしにはどうせ臭いで大体わかるんだ。一応確認のために聞いたんだが、それだけ狸が出来れば十分だろ」

「――――」

 息を呑む。
 急激に空気が重くなったように感じた。

 向かいに立つ女は、自身の目の前で両手を交差させ、そして宣誓する。

「あたしの名はリザ・ワイルドマン。偉大なる戦士、ヴォルグ・ワイルドマンの娘。――いくぞ、魔術師」

 そう言うや否や、こちらに向かい一気に飛び掛る。
 常人では捕捉することさえ不可能な踏み込み。それとともに繰り出される腕。

「――なっ!」

 咄嗟に後ろへ飛び引いてかわす。
 完全に見切っていたわけではない。殆ど直感に近い反応だった。

 先ほどまで俺がいた場所からは、土煙がたちこめている。
 目にもとまらぬ速さで繰り出された腕は、アスファルトをいとも簡単に砕いてみせたのだった。
 あんなものが直撃していたらと思うと、背筋が凍る。

「よくかわしたな。魔術師にしちゃいい反応だ」

 たちこめた土煙が徐々に晴れていく。
 そこにはまるで獣のような腕をした女がいた。
 今しがたまでは普通の女の子に見えたそれは、ヒトではない別のナニカになっていた。
 あの腕は、まるで狼のそれと似ている。

 そして、あること思い出す。
 野犬を引き連れて町を彷徨う人狼がいるという噂があったことを。

 この女がその人狼なのかはわからない。
 だが、この町の噂について何かを知っているだろうということを、ほぼ確信した。
 出来れば無傷で制圧し、噂について聞きだしたいところだが、それが出来るほど生半可な相手ではなさそうだ。

 撃鉄を起こすイメージと共に起動させる。
 衛宮士郎を異端者至らしめる魔術回路を。
 そして、描く。一組の双剣の設計図を。

「――投影、開始」

 慣れ親しんだ始動キーを紡ぐ。
 手にはずっしりとした感触。それを確かめるように握り直す。
 そして、不敵な笑みを浮かべている敵をしっかりと見据える。
 
「へえ。どこから取り出したのかは知らないけど、魔術師にしては珍しい武器をつかうんだな。いいね。こういうのは嫌いじゃないぜ」

 そいつはどこか嬉しそうな声でそんなことを言った。

 干将莫耶を構える。
 こちらから攻めるのではなく、相手がどう出るかを伺う。

「オラァ!」

 それに対し、相手がとったのは真っ向勝負。
 咆哮と共にその鋭い爪を振るう。
 それは最早爪というより、刃と呼んだ方がしっくりとくる。

「ふっ!」

 弾く。
 干将を叩きつけ、迫りくる凶刃を逸らす。
 それとほぼ同時に、空いた胴を莫耶で切りつける。
 それは攻防一体の、回避どころか防ぐことさえ不可能な筈の一撃。

 だというのにそいつは、あっさりとその一撃を防いだ。
 驚異的な反射神経で、もう片方の爪を使い迎撃してみせたのだ。

 だが、驚いている暇などない。
 迎撃だけにとどまることを知らない凶刃は、すでにこちらへ迫っているのだ。

「ぐっ!」

 剣を盾代わりに、疾風の速度で放たれた刃を受け止める。
 だが、その一撃を真正面から受け止めるには、あまりにもこちらは脆すぎた。
 靴底を削りながら、後ろの方へと押し込まれる。

「はっ、はっ……。は――!」

 だらしなく息が漏れる。 
 そんなものは切り捨てて、踏み込む。
 話された間合いを一息で詰め、右手に握られた干将を叩きこむ。

 甲高い音と共に、打ち下ろしが弾かれる。
 渾身の一撃さえも、たやすく受け流されてしまう。
 ならば次はと、莫耶で薙ぎ払う。

 それも防がれる。
 一振りで届かぬならば二振りでと放たれた攻撃さえも完全に流したそいつの爪が、俺の喉元を狙う。
 
 速い。
 今までのどの一撃よりも速い。
 見える、見えないではない。
 ただ単純に速すぎて、体がついていくことさえ難しい。

「は――、あああ!」

 だが、防ぐ。
 これが初見の一撃ならばこうもいかなかっただろう。
 ただ偏に、敵のある程度の攻撃を知っていたが故の反応だ。

 次々に凶刃が放たれる。
 それをただひたすら防ぐ。
 先ほどとは打って変わっての防戦一方だ。
 ただ打ち込まれるだけの中で、必死に勝機を探す。

 こちらとは桁違いの身体能力。魔力を通した体でもついていくのがやっとだ。
 相手もそれを解っているからか、繰り出される猛攻に技巧はない。
 ただ力任せに振るわれる凶刃。

 つけいるならばそこしかない。
 身体能力で勝てないのならば、技量で勝ればいいのだ。
 ただそれだけのこと。

「く――!」

 だというのに、反撃することが出来ない。
 スペックの差が大きすぎるのか、俺の技量が足りないからか。
 
 いや、技量自体はこちらが勝っている。
 防げぬ筈の速さで放たれる一撃を一回切りではなく、既にこれだけ防いでいるのだ。
 最初は偶然。しかし、後の猛攻を防ぎきったのは必然。
 反撃が出来ないのは、ただそれ以上に相手の身体能力が化け物じみているというだけ。
 
「っ…………!」

 弾き落とされる干将。
 その反動を利用するように、後退する。
 そんな僅かな後退など関係ないといわんばかりに、鋭い爪が迫る。

「あ――づっ!」

 身体を捻り、かわす。
 直撃こそ避けたものの、その一撃は掠っただけで肉が抉れる程のものだった。
 致命傷ではないが、決して無視出来る程ではない傷。
 仕切り直すために、なりふり構わず更に背後へ跳ぶ。

「はっ、はっ、はあ……」

 呼吸を整える。
 身体中が熱い。
 まだ手に握られている筈である、莫耶の感触が酷く希薄だ。
 
「はあ――ふ――」

 徐々に落ち着く息。
 離せた間合いは僅か。
 いつでも戦闘を再開できる距離で敵を見据える。
 敵あれだけ激しく打ちあっていたのが嘘のように、平然と立っていた。

「あたしの爪を受けても壊れないなんて、結構頑丈な武器だな。でも、それを使うお前自身がついていけていないじゃ、ダメだ」

 女は本当に関心したような声で述懐する。
 鉄塊をさえも砕くことが可能な宝具なのだから、頑丈なのは当前だ。
 そして俺自身の能力では、その宝具の力を引き出せないというのも、悔しいが事実だ。
 そんなことは判っている。

「……くそっ」

 だが、それを認めるわけにはいかない。
 認めてしまったらこいつには勝てないと思った。

 それに、俺が使いこなせないというのならば、引き出せばいいだけのこと。
 思い出せ。
 衛宮士郎ならばそれが出来る筈。

 唯一残った干渉を破棄する。
 そして、双剣の設計図を再び頭に描き、呪文を唱える。

「――――投影、開始」

 いつだか夜のグラウンドで、冬の城で、垣間見た双剣。
 それを見たのは瞬きのような時間だったが、今でも鮮明にイメージすることが出来る。
 ならば、後はその剣の経験を読み込むだけ。

 脳が沸騰するように熱い。
 判っている。
 担い手の経験を読み込むなど、衛宮士郎には過ぎた能力であるということは。
 それでも、どうしても、必要なのだ。

 頭が痛い。
 まるで万力で締め付けられているみたいだ。
 何も深奥まで読み込む必要はない。
 アイツの剣技の一端さえ引き出せれば、
 敵との身体能力の差を埋められる剣技、
 それだけで十分なのだ。

「――憑依経験、共感終了……!」

 手には干将莫耶。
 かの名工がその妻を代償にして創り上げた陰陽剣。
 互いにひきつけ合う性質を持つ夫婦剣。

 心臓が絶えずトップスピードで脈打っている。
 頭の中を流れる情報を必死に処理する。

 点滅する視界。
 重心を落とし、腕の力を抜く。
 いかなる攻撃にも対処可能な構えをとる。
 これが基本形。 

 喉からこみ上げてくるナニカを必死にこらえる。
 敵は面白いものを見るように、こちらの様子を伺っていた。

「同じ武器か……? まあ、そんなことはいい。第二ラウンド開始ってところか」

「ああ、そういうわけだ」

 余裕のある相手に少しでも対抗するために、せいぜい強がってみせる。
 勝負はまだこれからだ――。


あとがき

 誰にでも善戦し、誰にでも苦戦する、この作品の士郎はこんな感じの強さです。





[15483] そんなこともありました
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/17 09:59
   それはどこにでも溢れていて、
   だからこそ大切にしたい。
   そんなありふれた出会い。


 姉から頼まれたお使いも終わり、その帰路につく途中のこと。
 彼が今朝観た天気予報の通り、容赦ない太陽の光が地面を照り付けている。
 そんな炎天下を歩く中、少年はふとどこからともなく聞こえる鳴き声に気付いた。

 鳴き声の主は子猫。
 にゃーと鳴くそれは木の枝に、必死にしがみついているではないか。

「降りられなくなっちゃったのかな?」

 猫とは本来、多少の高いところから落ちようが、平気な生き物だ。
 ならば、このままこの子猫をほっといても問題はない筈である。
 だが凡庸ながらも、優しさは人並み以上に持つ少年には、見逃せないことだった。

「少し、待っててね」
 
 そう優しく語り掛けると、子猫を助ける算段を立て始めたようだ。

 まずは子猫との距離を測る。
 建物にしたら三階ぐらいの高さだろうか。
 結構な高さにいる子猫は、手を伸ばしたぐらいではとても届きそうにない。
 ならば、木を登って助けるのがベストな選択ではないだろうか。

 少年もそのように考えていたようだ。
 まず、手に持つ買い物袋を地面に置く。
 そして、足を掛けられそうな場所を見つけるために、木の幹をざっと見渡している。

「……よし!」

 足場が見つかったのか、気合を入れて、手足を木に掛け始める。
 救いが来たことを理解しているのか、にゃーと鳴く子猫の声もどこか弾んで聞こえる。

 だが、悲しいかな。
 木登りというのはそれなりに体力や経験が必要なものだったりするのだ。
 少年はお世辞にも運動神経が良いとは言えない。むしろ、平均的な中学生よりも少し劣っていると言ってもいい。
 しかも、木登りなんて小さい頃から、一回も経験したことがない。
 そんな少年にいきなり木登りをしろと言う方が無茶なのだ。

「あー、やっぱりダメか……」

 殆ど木を登ることも出来ずに、ずるずると幹から落ちていく。
 にゃーと鳴く子猫の声も、少し残念そうに聞こえる。

「何か別の方法を探さなくちゃ」

 それでもまだ、子猫を助けようとしているのは、少年が余程のお人好しだからなのだろう。
 そして、彼がそんなお人好しだからこそ、この出会いがあったのだ。

「どうかしたのか?」

 背後から声が掛けられる。
 少年が振り向くと、一人の青年がそこにいた。
 少年と言うには成長し過ぎていて、大人と呼ぶには何かが足りない、そんな青年だ。

 格好は白いロングのTシャツに、ジーパンと決して着飾ったものではない。
 顔立ちを見るに、日本人のようだ。
 だが、その髪は日本人でこの歳にしては、珍しい白髪をしている。
 しかし、その髪に脱色したような不自然さはないのだから、おそらくこれが地毛なのだろう。

「あっ、はい! 猫が木から降りられなくなっちゃったみたいで……」

 いくら珍しい髪の色をしているからといって、まじまじと見つめるのは失礼だと思ったのだろう。
 慌てて、上を指しながら現状を説明する。

「ん、なるほどな。ちょっと待っててくれ」

 その言葉は簡潔でそっけなく、ぶっきらぼうにも聞こえた。
 だけど、どこか優しさの篭った声だった。

 青年はそう言うと、木を登り始めた。
 先ほど少年が挑戦した時は少し登るだけでも苦戦したというのに、その青年はいとも簡単に木を登っていく。
 おそらく、普段から身体を鍛えているのだろう。もしくは木登りが趣味とか。

 青年はあっという間に、子猫がしがみついている枝の近くまで登っていった。
 だが、子猫がしがみつく木の枝は細く、ここからは腕を伸ばすしかなさそうだ。
 左手で幹を掴み、右手を子猫に伸ばす。

「ああ、惜しい!」

 青年の手は子猫までもう少しというところで、僅かに届かない。
 傍から見たらなんとも歯がゆいだろう。
 成り行きを見守っていた少年の声に力が篭るのも頷ける。
 
 しかし無常にも、青年の手はこれ以上伸ばせそうにないように見える。

「って、危ない!」

 思わず少年が叫ぶ。
 それもそのはず。なんとその青年は、自分の体を唯一支える左手を離したのだ。
 成程、確かにそうすれば子猫にだって手が届くだろう。
 だが、そんなことをすれば、木から落下するのが道理だ。

 案の定、青年は木から落ちている。
 少年は無意識に目を瞑る。
 あんな高さから落ちたら、怪我をしても不思議ではない。

 だというのに、落下の音はなんとも軽いものだった。
 見れば青年は、二本の足をしっかりと地面につけていた。
 それは落下したと言うより、着地したと言う方がしっくりとくる。

「……よっと、ほら」

 青年の声はえらく落ち着いている。
 そして、その手に抱えたものを丁重に少年へ手渡す。

「え?」

 手渡されたものは、先ほどまで木の枝にいた子猫だった。
 子猫故に人懐っこいのか、少年の腕の中でにゃーにゃーと鳴いている。

 既に青年はやるべきことはやったとばかりに、ここから去ろうとしている。
 一言、二言ぐらい何か言えばいいものを。

「あっ、待ってください!」

 青年があまりにも呆気なく去ろうとするものだから、少年は慌てて、引き止める。
 
「どうかしたのか?」

 それは奇しくも、青年から少年に対しての第一声と同じものだった。
 不思議そうな顔で少年を見つめている。

「あのっ! 僕は日和見日郎って言います。い、いや、そうじゃなくて! 子猫を助けて下さってありがとうございました!」

 深々と頭を下げる。猫もそれに合わせるように、にゃーと鳴いた。
 少年の中でも何を言うのか、まとまっていなかったらしく、なんとも滑稽なお礼になってしまった。

「…………」

 青年は虚をつかれたようで、そんな少年を黙って見つめる。
 何かを考えているようだ。
 そして、ゆっくりと口を開く。 

「衛宮士郎だ」

「え?」

 自分でも今のお礼は失敗したと思っているのだろう。
 軽い自己嫌悪に陥っている中で、返ってきた意外な言葉に素っ頓狂な声を出す。

「いや、そっちが自己紹介してくれたなら、こっちもしないとなと思って。それと、猫のことなら気にしないでくれ。俺が勝手にやったことなんだから」

 やはりぶっきらぼうに。
 だけど、照れくさそうにはにかむ青年の顔は、まるで少年のようだった。

 じゃあ、と言いながら青年は去って行ってしまった。
 残されたのは、少年こと日和見日郎と、子猫だった。

「良い人だったな……」

 日郎は段々と小さくなる背中を見ながらポツリと呟いた。
 子猫もその意見に同意するように、にゃーと鳴いた。

 それはもう少しで、夕方にさしかかろうとしている時間の出来事だった。

あとがき
 なんか書き始めたら意外と早く書けちゃいました。
 



[15483] 反撃
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/24 09:57
「それにしても、あの牝犬はどこをほっつきあるいているのかしら。あの血気盛んな性格はきちんと躾けておくべきだと思いますわ」

「いきなり飛び出しちゃって、リザは大丈夫かな?」

「ふふん。魔術師が相手なら心配は無用だろう」

「ふが」

「でも……」

「案ずるな、ヒロ。これからリザのところに向かうところなのだから」

「姫さま」

「どうした、令裡」

「あの牝犬が魔術師と交戦中のようですわ」

「姫!」

「ふふん。――少し急ぐか」



 絶えず交差する二つの影。
 一人は笹鳴町に潜入した一人の魔術師。
 そしてもう一人は、人狼と人間のハーフ、半分人間であるリザだ。
 双剣と剛腕より繰り出される爪は火花を散らしながら、均衡を保っていた。

「ふ――――」

「オラッ!!」

 先ほどまで防戦一方な戦闘だったとは思えぬ程の、息つかせぬ攻防。
 両者その気になれば必殺足り得る一撃を際限なく振るう。
 鉄と鉄が打ち合うかような音が辺りに響き渡る。
 それはまるで、良く出来た乱舞のようであった。

「っ――――!」

 リザの表情が僅かに歪む。
 この戦いを通して初めての事であった。

 そして迫りくる黒い短剣。
 紙一重で弾く。

「ぐっ――――」

 二度目の苦悶が漏れる。
 それは均衡を保っていた天秤が、徐々に魔術師へと傾きつつあることを表していた。

 魔術師の動きが見違えるようになったのは、仕切り直しの後からだ。
 それまで魔術師の実力は、そこそこ出来る剣士程度のものであった。

 それが今の動きはどうした。
 純粋な身体能力には何の変化もない。
 ただ剣筋、足捌き、状況判断能力といった剣術が全て別人のそれとなっているのだ。
 
 いや、別人と言うと語弊がある。
 それは別人というよりも、先ほどの魔術師を更に昇華させたような動きなのだ。
 まるで未来の自分から、剣術の一端を借り受けたような――――。

「は――――!」

「――が……っ!」

 白い短剣がリザの脇腹を掠める。
 ただそれだけだというのに、出来た傷は決して浅くない。

 人狼は頑丈な種族である。
 頭蓋はそこまでではないものの、身体の頑丈さだけは折り紙付きだ。
 並大抵の刃物に刺されたぐらいでは、刺した刃物の方が折れてしまう程である。
 それは半分人間であるリザも同様だ。
 完全な人狼には多少劣るものの、それでも普通の人間とは比べ物にならない強度を誇る。

 そんな身体をいとも容易く斬ったのが、あの双剣。
 リザの爪と打ち合えることから、頑丈だということは分かりきっていた。
 ただあの双剣はそれだけに飽き足らず、人狼の皮膚まで切り裂いたのだ。
 頑丈なだけでなく、切れ味も相当なことが窺える。

 だが、そんなことをリザは、とっくに気付いていた。
 それは本能でもあり、経験からくるものでもあった。
 初めて目にした時から、双剣の切れ味をある程度は見抜いていた。

 故に普段得意とする拳ではなく、爪を振るっていたのだ。
 そんな慣れない戦闘スタイルにも関わらず、最初は魔術師をあそこまで圧倒したのだ。
 リザがいかに優れた戦闘者か推して知るべしだ。

 それが今はどうだ。
 今もこうして手数が増していく魔術師に対し、リザは防御の姿勢を取ることが増えつつあった。
 完全に流れは魔術師に向いていた。

 それはリザ自身も感じつつあったのか。
 そんな考えは振り払わんとばかりに、力の限り爪を振るう。

「はあああ――――!!」

「あ、く――――!」

 一際甲高い音が響く。
 火花が舞い散る。
 その衝撃に合わせるように、魔術師が後退する。
 振るわれた渾身の一撃を、渾身の二振りによって相殺しようとしたらしい。
 しかしそれも敵わず、やむなく後退を余儀無くされたのだ。

「――は、は。いくら動きがよくなっても、力はあたしの方が上だな」

「――はっ、はあ、は……。ち、まだそんな力を残していたのか」

 リザは大分荒くなった息を吐きながら、どこか勝ち誇った様子だ。
 それに対し、肩で息をする魔術師は、忌々しいとばかりに吐き捨てる。

 離れた距離は五メートル程。
 幾分か余裕のあるリザに対し、魔術師はボロボロだ。
 まともな攻撃は食らっていない筈なのに、傍から見ても分かるほどの満身創痍。
 それはおそらく、人の身にして怪物と打ち合った代償なのだろう。

 動いている間はまだよかった。
 一度回り出してしまえば、止まることのない独楽のように戦えた。
 だが、こうして一度でも動きを止められてしまっては、また先ほどのように打ち合うのは難しいだろう。

「――――」

 故に魔術師は次の一撃で決着をつける覚悟をしたのだろう。
 呼吸を整えた魔術師は、次に放つ一撃に全てをつぎ込もうとしていた。

「――――」

 それを感じ取ったリザも、来たるべき一撃を全力を持って迎え撃たんと構える。

 両者の感覚が研ぎ澄まされていく。
 しかし、それはあくまで相対する敵にのみ向けられたものだ。
 そこには余計な外敵など、どこにも存在はしない。




「この音は……?」

 どこからともなく、鉄と鉄が打ち合うような音が響く。
 それはまるで剣戟。

「……近いな。行くぞ。そこにリザがいる筈だ」

 先ほどよりも急ぐように、姫は歩きだす。

「う、うん」

 日郎も慌ててそれについて行く。
 激しさを更に増していく剣戟の響きに心が急かされたようだ。

「まあ、あの牝犬なら心配は要らないでしょう」

 そんな二人に対し、令裡はいつも通りのマイペースだ。
 それはリザと令裡が犬猿の仲だからというより、リザの実力を信頼してのことなのだろう。
 もっとも本人は否定するだろうが。

 もうじき、彼らと魔術師は出会うことになる。
 運命の歯車はゆっくりと、確実に廻り始めている。


あとがき
 士郎反撃するの巻。
 次話でやっと、ちゃんとした邂逅が出来そうですね。

 これが最初に考えていた話しを変更して、最初から書きなおした話しだったりします。
 ですので、もしよろしければ、意見、感想を聞かせて頂きたいです。



[15483] 運命
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/24 10:00
 剣戟を頼りにリザを探し初めてすぐに、その音の発生源は見つかった。
 丘のふもとから少し歩いた先に建物はなく、道路の脇には木々が立ち並んでいる。
 そこで姫たちと馴染み深い人物が、戦っていた。
 
 その光景を見て思わず全員が立ち止まった。

 人気も街路灯もないそこを照らすのは弦月の僅かな光のみ。
 そんな僅かな月光が、ささやかな舞台を演出しているようだった。
 舞台の中心では二つの影が舞っている。

 その内の一人はリザ。
 姫たちと行動を共にする頼もしい仲間だ。
 数多くの武勇を誇る彼女は半分人間ながらも、生粋の人狼にも引けを取らない程の実力を持っている。
 そんなリザに真向勝負で敵う魔術師など、余程の例外を覗いては殆どいない筈だ。

 ならばこの光景はなんだと言うのだ。
 リザと戦っているのは、この町に潜入してきた魔術師ではなかったのか。
 その魔術師が、人狼の血を半分引くリザ相手に互角の戦いを繰り広げているのは何故なのだろう。
 まさかこの魔術師が、余程の例外だということなのか。

 魔術師は白髪の男だった。
 二十歳を越えたかどうかといったぐらいの年齢だろう。
 白いロングTシャツにジーパンと、この場にはそぐわないように思える程ラフな格好。
 そんな男がリザと互角に打ち合っているのだ。
 
 打ち合っているといっても、魔術師の身体能力がリザと互角なわけではない。
 魔術師の身体能力は、怪物と真向から打ち合えるほどのものにはとても見えない。
 そんな差を全力で打ち込むだけではなく、技巧と武器をもって埋めている。

 魔術師の武器は一対の剣。
 中華風の短剣だ。
 それに対し、リザはいつものように拳を振るう戦闘スタイルではなく、鋭利な爪を用いたものだった。
 相手の武器が剣だということに合わせたのかもしれない。

 リザが爪を振るい、魔術師がいなし、そして反撃の一撃を入れる。
 それをリザが化物じみた身体能力を持って、防ぎ必殺の一撃を叩きこむ。
 そんな攻防を先ほどから繰り返していた。
 言葉にしてしまえばただそれだけ。

 だが、それが常人の域を超えたレベルで行われれば、一種の芸術となる。
 芸術といっても決して華麗なわけではない。
 両者が力の限り打ち合うだけのそれは、ただひたすらに見るものの心を揺さぶる。

 それが、姫たちが思わず足を止めてしまった理由なのかもしれない。
 
 だが一人だけ、それとは違う理由で足を止めた少年がいた。
 少年の名は日和見日郎。彼は魔術師とリザによる戦いにではないものに、目を奪われたのだ。
 日郎の視線は双剣を振るう魔術師にのみ、注がれていた。

 燃え尽きた灰のように白い髪、
 あの意思の強そうな瞳、
 洒落っ気の無い服装、
 間違いない、
 あれは少年が今日の午後に出会った青年ではないか。

 リザと戦っているということは、あの青年が笹鳴町に潜入した魔術師ということなのか。
 彼が己が目的のためならば、如何なる犠牲もいとわないと言われていた魔術師なのか。
 まさかあの時の出会いも、何か目的があってのことだったのか。
 色んな考えが頭の中を右往左往していく。

 痛みに耐えているのだろうか。
 青年は必死に歯を食いしばり、眉間に皺を寄せながら戦っている。
 そんな表情は昼間出会った青年には、とても似つかわしいものではない。
 
「どうして……」

 だから呟いた。
 だが、疑問が解消されることは無い。

 そんな従者の異変を察知した姫は尋ねた。
 その目はしっかりと日郎を見つめている。
 
「どうした、ヒロ」

「あの男の人を見たことがあるんだ」

「ほう」

「ほら、今日僕がおつかいから帰った時に話したでしょ? あの人が木から降りられなくなっていた子猫を助けてくれたんだ……」
 
 日郎を見つめる姫の表情は淡々としていた。
 しかし、そこには全てを包み込む包容力のようなものが感じられる。
 少年は少しずつ、ゆっくりと、胸の内を語る。

「あの人は姫が話していたような魔術師とは全然違って、本当にいい人だったんだよ」

「魔術師のことだ。何か魂胆があったのかもしれない」

「あの人はそんな人じゃないよ!」

「今の魔術師を見てみろ。あれは間違いなく、私たちの敵だ」

「でも……!」

 それは日郎の中で繰り返した自問自答と同じものであった。
 堂々巡りするばかりで、答えが出ることはない。
 
「ならばどうするのだ、ヒロ」

「――――え?」

 だがそれも、少年が一人だけだった場合のみの話し。
 今この場にいるのは、日郎だけではない。
 ならば答えだって見つかる筈だ。

「お前はあの魔術師を信用するに足る何かを持っている。その上でどうするのかと、聞いているのだ」

 一際甲高い音が響く。
 そして、静寂。
 魔術師とリザは間合いを僅かに離し、睨み合っている。

「行くなら早く行った方がいい。このままではすぐに決着がついてしまうぞ」

「……僕、行くよ」

 そう言って駆け出した少年の顔は決然としていた。
 見つけたのだろう。
 彼なりの答えを。

 姫は駆け出した日郎を、ただ黙って見送った。
 決心を固めた少年にかける言葉など、何もいらない。それを判っていたのだろう。

「姫さまは随分とお優しいんですわね」

 背後から成り行きを見守っていただけの令裡が囁くように語りかける。

「ふふん。これも主の務めというやつだ」

 姫は後ろから掛けられた声に、振り向きもせずに答える。
 舞台を静観する観客のように、ただ少年が向かっていった先を見つめる。

 


 形勢は逆転した筈だった。
 担い手の経験を読み込むことにより、飛躍的に向上した技術。
 そんな反則を惜し気もなく使うことにより、確実に敵を追い詰めつつあった。

 均衡が徐々にこちらへ傾いていった時点で、勝利は揺るぎないものになっていた筈。
 それは詰め将棋じみた予定調和。
 敵は段々と増えていくこちらの手数に対抗も出来ず、決着がつく筈だった。

 だが、一撃。
 こいつはたった一撃で、こんな不利な状況を打破してみせた。
 ただ力任せに振るわれただけった。
 だがそれは、今までのどの一撃よりも重かった。

 甘く見ていたのかもしれない。
 その一撃を渾身の双剣をもって相殺しようとした。
 だが、化物じみた強打は相殺なんて生易しいことなど、決して許さなかった。
 一方的に後退させられる体。

「――は、は。いくら動きがよくなっても、力はあたしの方が上だな」

 そいつはどこか勝ち誇った表情で、そんなことを言った。
 息だって大分荒くなっているし、脇腹には決して浅くはない傷を負っている。
 だが、こちらの状態と比べればお釣りがくるほどに、余力は残っている。

「――はっ、はあ、は……。ち、まだそんな力を残していたのか」
 
 決定的な一撃は悉くいなしきった筈だった。
 それなのに俺の体は既に満身創痍。
 体中の筋肉という筋肉が悲鳴を上げている。

 俺の体は、アーチャーの動きを模倣するにはあまりにも脆弱過ぎた。
 やはり担い手の経験を読み込むなど、衛宮士郎には過ぎた能力だったのだ。

 全ての筋肉が断裂しかかっているかのような痛み。
 頭の中を駆け巡った膨大な情報が、脳を焼き尽くすかのような感覚。
 それが、人の身を越えた英霊の剣術を模倣した代償。

 あのまま押し切ってしまえば、なんとかなったのかもしれない。
 勢いに身を任せて、戦い続けることも可能だった。

 だがそれも今では不可能。
 一度静止した状態からまた動きだすには、それなりのエネルギーが必要なのだ。
 今の状態なら仮に動き出せたとしても、もう先ほどのように戦うことは出来ない。

 まだ十分な余力を残した敵と、この状況で戦ったらどうなるのか。
 そんな判りきったことを語る必要はない。

 甘く見ていた。
 敵の化物じみた身体能力を。
 過信していた。
 所詮、借り物に過ぎない剣術を。
 全ては俺の状況判断ミスが招いた結果。

 いや、そんな過ぎたことを今気にしても仕方がない。
 後悔ならいつだって出来る。
 今は今しか出来ないことをせねばなるまい。
 戦い続けることが不可能ならば、一撃で終わらせればいいだけ。

「――――」

 呼吸を落ち着かせる。
 軋む骨格など、無視する。
 次に放つは全身全霊の一撃。

 命を刈り取るのではなく、決着をつける一撃。
 あくまで欲しいのは情報であって、命ではない。

 だが、相手はこちらの命を散らすことに何の躊躇もしないだろう。
 少しでも気を抜けば、待ち構えるのは死。
 
 随分と難題な気もするが、不可能なわけじゃない。
 正義の味方を目指すのなら、これぐらいこなしてみせよう。

 視線を目の前の相手へと向ける。
 オーバーフローを起こしそうな脳に渇を入れる。
 そして、自己に意識を埋没していく。
 衛宮士郎が挑むのは常に自分自身。
 外敵など他には存在しない。

「――――」

 相手もこちらの決意を感じ取ったのか。
 俺が次に放つであろう一撃に備えている。

 ならば、遠慮はいらない。

「――――は!」

 合図もなしに飛びかかる。
 神速の踏み込みをもって、干将を袈裟に振り抜かんとする。

 ――それは突然だった。

「――――なっ!」

 ナニカが立ち塞がった。
 俺と敵の間にナニカが入り込んだ。
 このままではそのナニカを斬ってしまう。

 止めなくては。
 だが、既に斬りかかろうとしている腕は、完全に止められない。
 それでも、止めないと。

「ぎぃやあああ――――ッ!」

 耳をつんざく悲鳴。
 飛び散る血飛沫。
 それらは、目の前に突然現れたナニカから、生じたものだった。

 そのナニカは、昼間に出会った少年のように見えた。

 何故ここにあの時の少年が、と考える間もなく双剣を投げ捨てる。
 すぐ目の前には敵がいるだとか、そんなことはどうでもよかった。

「おい! 大丈夫か!?」

 最早崩れ落ちるような格好で、少年に呼び掛ける。
 そんなことをしても無駄だと、頭の中の冷静な自分が言っている。
 いくらか勢いを弱められたとはいえ、宝具による一閃を胸に受けたのだ。
 それが直撃でなくとも、常人ならば十分に死へと追いやることが可能である。
 助かる道理はない。

 そんなことは判っている。
 だとしても認められる訳がない。
 せめて応急処置を試みようと、少年の傷を見る。

「――――っ! これは……」

 それは異常な光景だった。
 宝具により斬られた筈の傷口が、有り得ない速度で治癒されていっているのだ。
 いや、それは治癒ではなく、再生と言ってもいい。

 心臓にさえ達していたであろう傷が、その心臓ごと再生されいく。
 こんなこと、魔術でも可能かどうか。
 最早魔法に近い、大魔術の領域。
 
 そんな光景を呆然と見ていた。

「――よか、った……」
 
 再生されていく体と共に、薄っすらと意識を取り戻した少年が発した言葉だった。
 今の俺には、その言葉にどれだけの想いが込められているのかも判らない。
 色々と訊きたいことがある筈なのに、それさえも判らない。
 考えることがひたすらに苦痛だ。

「ち、気概が削がれた」

 先ほどまで俺と戦っていた女が、つまらなさそうな表情で立っている。
 その腕は既に、普通の人間のそれに戻っていた。

 そうだ。
 失念していた。
 こいつの存在を。
 立ち上がらなくては。

 だというのに、ちっとも動かない体。
 まるで自分の体ではなくなったみたいだ。

「そんな顔すんなよ。あたしにその気があれば、お前はとっくに死んでいるんだ。まあ、お前がまだやる気だっていうなら別だけど」

 それは事実。
 こいつがその気になれば、先ほどの間に俺などいくらでも殺す機会はあった。
 だというのに、敵はそれをしなかった。

 だがそれが、これからも続く保証はない。

 立ち上がらなくては。
 不思議と体はどこも痛くはない。
 どこかが痛かった筈なのに、そんな感覚さえ置き去りにしてしまったみたいだ。

「……おい。お前本当に大丈夫かよ?」

 はっきりと言葉は聞こえているのに、その意味が判らない。
 ただその言葉に、気遣いのようなものが感じられた気がする。

 今にも断線しそうな意識を保つのが辛い。
 気を抜けば一瞬で体が崩れ落ちてしまいそうだ。

「ふふん。成程、それがリザと真向から打ち合えた代償、という訳か」

 鈴の鳴るような声。
 ピンと張り詰めた糸のような、どこかで聞いたことのある声。
 その言葉に、声に、全意識が持っていかれる。

 俺が思い描いた姿とは違う。
 初めて見る少女だ。
 
「――あ、セ……」

 あれは違う。
 そう判っている筈なのに、落ちていく意識の中で、あいつの名前を呟いた。



 意識を失い、倒れこんだ魔術師がいる。
 目立った外傷自体は殆どないが、筋肉や骨格、内臓といった器官に深刻な損害を負っているのだろう。
 それは先ほどの戦闘での動きを考えれば明白なことだった。

 このままではいずれ、魔術師は命を落とすだろう。

「で、こいつはどうするんだよ」

 そんな魔術師を指差しながら、リザが尋ねる。
 この男の生死には、何の興味もないように見える。

「屋敷に連れていく。色々と訊きだしたいこともあるからな。それに、治療も出来る」

 どうだ一石二鳥だろう、と言わんばかりに姫は微笑む。

「げっ、本気かよ」

 リザは嫌そうな表情を隠しもせずに、言葉を漏らす。

「ああ、本気だ。フランドル、その魔術師を屋敷に運べ」

「ふが」

 フランドルは命令が下されると共に、魔術師の襟首を掴む。
 小型な彼女がこのまま運べば、引きずる形になってしまうのだが。
 まさか、本当に引きずって運ぶつもりなのか。
 そんな当たり前の疑問を口にする者は、今はいなかった。

 そういったことを一番気にするであろう少年は――。

「リザはヒロを運んでくれ。まったく、復活してそうそうに気を失うとはな」

 困ったものだ、とため息を吐きながら、姫は気絶してしまった日郎に目を向ける。

「……たく、しょうがねえな」

 リザはめんどくさそうに頭をかき揚げながら、少年を背負う。

 そして、フランドルに襟首を掴まれた魔術師を一瞥する。
 
「あと、そいつを引きずるのは不味いんじゃないか?」

「ふふん」


あとがき
 難産でした。
 Fateの映画観た勢いで書いてみました。
 期間を空けた割には、量も前よりは少しマシになったかなという程度です。
 すいません。




[15483] 没ネタ
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/23 23:57
 本板移動記念ということで、以前少しだけ触れた、書き上げたのに没となったネタを投稿してみました。
 今書いてる作品とは関係のないものになっていますので、ネタとしてお楽しみください。



 眼前に蠢くは亡者共の群れ。
 もうとっくに死んでいる筈なのに、それでも現世に留められてしまった者達。
 どこからともなく洋館の前に現れたソイツ等の正体は死者。死徒と呼ばれる吸血種に、血液を送るだけの傀儡である。

「気をつけなさい、ヒロ。せいぜいそこから動かずに、姫さまをお守りしていなさい」

 令裡はそう言いながら、亡者共から姫たちをかばうように前へと出た。

「う、うん。令裡さんも気をつけてね」

 手斧を構えた少年の声は震えていた。
 それでも姫を守るために、しっかりと敵を見据える。
 命じられなくとも判っていた。
 それは血の戦士としての本能であり、紛れもない日和見日郎の本心なのだ。

「ふふん。まさか魔術師だけでなく、死徒までこの町に潜り込んでいたとはな」

「ふが」

 悠然と、それでいて屹然と、敵を睨み付けるのは姫。
 その細腕で軽々とチェーンソーを構える。
 そして、そのすぐ傍らに佇むフランドル。

 亡者共は唸り声を上げ、令裡に狙いを定めている。
 決して姫たちに眼中が無い訳ではない。その眼は確実に令裡以外の三人も捉えている。
 ただ彼らは本能の赴くままに、一番近くの生物の血肉を貪ろうとしているだけ。
 傀儡に過ぎない彼らは複雑な思考は持ち合わせていないのだ。
 
 そんな彼らの性質を理解しているからこそ、令裡は前に出た。

「では、いきますわよ」

 宣言と共に、令裡は亡者の群れへ突っ込む。
 まずは近くにいた死者の頭を砕く。
 こちらに向かってくる死者の胴を打ち抜く。
 襲い掛かる腕ごと吹き飛ばす。

 その脚で、腕で、爪で、次々に亡者共を壊していく。
 それはまさしく、強者による一方的な蹂躙。
 
 亡者共もただ一方的に攻撃を受けているわけではない。当然のように反撃をしている。
 脳が抑制することを知らない彼らの一撃は、人間離れした速度と威力を持っている。
 そして、その一撃の代償に皮膚がめくれ、筋が切れ、骨が砕けるのだ。

 そんな文字通り渾身の一撃を令裡は悉く躱す。
 まるで舞うかのように。
 重力さえ感じさせない動きで反撃を躱し、あまつさえ必殺の一撃を放つ。
 最初は二十から三十はいたであろう死者たちも、その数を見る見るうちに、その数を減らす。

「がああああああああああ!!」

 それは発声器官から発せられただけの、ただの音。
 令裡による蹂躙から逃れた一人の亡者が姫へと襲い掛かる。
 蹂躙から逃れたと言っても、勿論無傷ではない。

 腕は飛び、膝は抉れ、胴には穴が開いている。
 だが、あの凄まじい蹂躙を受けてなお、人としての形を保っていられるのは、この上ない僥倖なのだ。
 だが、そんなことを気にする理性すらない彼らは、ただ襲い掛かることしか知らない。

「ふが」

 それもどこか間の抜けた声と共に吹き飛ばされる。
 人の形を保つのがやっとであったそれは、ただの残骸に成り果てる。

 フランドル――王族付きの人造人間だ。
 小柄な体躯とは裏腹に強固な装甲、並外れた動力、圧倒的な重量を武器に彼女は戦う。
 その凶悪さは徒手空拳であろうと十分に発揮される。
 掴み、投げる。技巧も速さも無い、ただの一連の行動でさえも、ある種必殺の一撃と成り得るのだ。
 人造人間が鉄壁と称される由縁である。

 一方的な蹂躙に鉄壁の守り。
 この二つにかかれば、死者が殲滅されるのも時間の問題だろう。



「ま、ざっとこんなものですわね。結局、親玉は現れませんでしたけど」

 令裡は最後の一体となった死者が土へと還るのを見ながら、忌々しげに呟く。

「それにしても、あの牝犬はどこをほっつき歩いているのやら。やはり犬に単独行動はむかないのかしら」

「おそらく、こちらと同様に襲撃に遭っているのだろう。リザならば心配はいらないと思うが、一応探しに行くぞ」

 姫は令裡の軽口にも、あくまで冷静に応える。
 そして、実質的には参加していなかったものの、戦闘が終わったことに安堵の息を吐く日郎に目を向ける。

「ヒロ。聞きたいことがあるのなら、その道中に聞くぞ」

 姫はそれだけ伝えると歩きだす。
 いかにも彼女らしい、淡々とした行動だ。
 だが、その言葉にどこか労いが含まれているように聞こえたのは気のせいじゃない筈だ。

「あ、待ってよ。姫!」

 少年は慌てて、姫を追いかける。
 それは先ほどまでの戦闘が嘘のような、いつも通りのペースだった。



 それは突然の横槍だった。
 睨み合う俺たちに向けられた、第三者による殺気。
 殺気のする方に視線を向けると一人の男がいた。

 背の丈は平均的な成人男性ほど。
 黒い髪、全身を覆う黒い外套。
 全てが黒に包まれているのに、その目だけはただひたすらに紅い。
 それはまるで、血のように。
 そいつは僅かに覗く月明かりをスポットライト代わりにして、佇んでいた。

「――――っ」

 こいつは危険だ。
 本能で直感する。
 少なくとも今まで俺が対峙していた娘よりも、その性質が凶悪だということは判る。
 無意識の内に身構えていた。
 
「何もんだてめえ!」

 女が叫ぶ。
 彼女の意識は既に俺ではなく、突然の乱入者に向けられている。
 先ほどまで戦闘をしていた者がいるにも関わらず、そこまで隙を晒すのはどう考えても危険な行為。 
 だが、そんな理性的な思考を破棄してしまうほどに、あの男が危険だと感じたのだろう。

 その方針には俺も同感だ。
 最低限の奇襲に対する警戒はしながらも、突然現れた男を見据える。

 二人の視線を受けている男は泰然と立っている。
 こちらの警戒心など、どこ吹く風のように受け流している。
 そして、今まで閉じられていた口が、ようやく開かれようとしていた。

「失礼。邪魔をしてしまったようだ。でも、解って欲しい。極上のメインディッシュを食べに来たら、なんとも美味しそうな前菜を見かける。そんな状況になったらついつい、つまみ食いをしたくなるものです」

「は?」

 思わず声を上げたのはどちらだったのか。
 そんなことはどうでもいい。
 今この男は何と言ったのだろうか。
 あまりにも抽象的過ぎて、何が言いたいのか理解に苦しむ。

「ふざけてんのか、てめえ」

 隣の女が怒気を孕ませた声を上げる。

「ふむ、少し解りづらかったかな? 怪物の姫君の血を頂く前に、そこの青年と少しばかり戯れたくなったのですよ」

 男の舌が上唇を舐める。
 それは毒蛇を思わせる動きだった。
 男の視線は俺に向けられている。

「――何?」

 何故、俺にだけ視線が向けらるのか。
 心当たりが全く無い。
 そもそも、怪物の姫とは何のことなんだ。
 訝しみの目を向ける。

 そして気付いた。
 あいつが見ているのは俺ではない。
 俺が手にする双剣にその全ての視線が注がれていることに。

「それは、干将莫耶だね? だけどそれは本物じゃない」

 心臓を鷲掴みされた気分とはこのことなのだろう。
 何故コイツは俺の干将莫耶が贋作だと気付いたのだ。
 俺の投影はあまりにも特異過ぎるが故に、例え直接魔術行使を目撃されたとしても、これが投影によって編み出された物だと気付く者など殆どいない。
 それをコイツはこうもあっさりと見抜いたというのか。

「何故解った、って顔をしているね。ふふ、簡単なことだよ」

 男は本当に嬉しそうに微笑む。
 それはいたずらの種明かしをする子供のように。
 そして、全身を覆う外套から何かを取り出す。

「あれは……!?」

「――――っ!」

 隣の女も思わず驚きの声を上げる。
 それも当然だ。

 細部の作りは俺が知っているものとは違う。
 だが、あの外観、あの武骨さ、あの在り方は間違いなく、俺が知るものだった。
 見間違える筈が無い。

「――干将莫耶。世界に現存する数少ない宝具の一つだよ」

 真正の尊い幻想がそこにあった。


あとがき
 相変わらずの短さです。
 オリジナルの干将莫耶を持つ敵を出してみたかったのですが、こいつを出したら怪物王女側の存在感が薄くなりそうなので、没となりました。
 いつか違う作品で出してみたいネタですね。



[15483] 対話王女
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/01/30 08:14
 これは夢。

 何もかもが吹き飛んだ山頂は荒野のように。
 地平線からは朝日が差し始めている。
 黄金の朝焼け。

 彼女の体が揺れる。

「最後に、一つだけ伝えないと」

 強い意思が籠められた声。
 まっすぐな瞳。
 流れる金紗の髪。
 はためく蒼のドレス。

 例え衛宮士郎が地獄に落ちようと、この光景だけは忘れないだろう。

「シロウ――貴方を、……」

 夢の中で自由に動けないのは、ありがたかった。
 俺が彼女の誇りを汚すことはないだろう。
 せいぜい、強がっているだけでいいのだ。

 これで夢は終わり。

 後悔がある訳じゃないし、未練もない。
 だけども、この一時をもう少しだけ、噛み締めていたい。



「…………、ん」

 ぼんやりと目を開く。
 カーテンの隙間から刺す光が、俺を起こしてくれたようだ。
 
 体を起こそうとしたが、止めた。
 まるで深海に沈んだように、体が重たい。
 仕方がなく、首だけ動かして辺りを窺う。
 次第に周りの輪郭がはっきりとしてきた。

 随分と飾り気のない部屋だ。
 アンティークな調度品なんかを置いたら似合いそうな、高級感のある洋室。
 だというのに置かれているのは机と椅子の一式と、俺が今寝ているベッドぐらいだ。

 それにしても、ここは一体どこなのだろう。
 何故俺はこんな見覚えのない部屋で寝ていたのだろうか。

 痛む頭を堪え、記憶を遡ってみる。
 俺は笹鳴町に数多く存在する怪奇な噂を確かめにやってきた。
 そして、昼の調査では成果を得られず、夕方はホテルで休息を取った。
 その後、再開した調査では、丘の上の洋館を調べることにしたのだ。
 ――その道中、俺はあの女に出くわした。

 思い出した。
 あの夜に起こった出来事を。
 覚えている。
 異能の力を持つ女と戦ったこと。反則技によって、そいつと互角に打ち合えたこと。
 突如飛び出してきた少年を斬った時の感覚。その後に見た、異様な光景。
 忘れはしない。
 訊き覚えのある、あいつの声に似た誰かの声を聞いたこと。

「い……、っつ!」

 掛けられた布団をはねのけ、起き上がる。
 それと同時に襲う全身の痛みに、思わず顔をしかめる。
 まるで体のあちこちを内側から、鈍器で叩きまわされているようだ。

 そうだ。無理な剣技を模倣したために、俺の体は満身創痍となっていたことを今になって思い出す。
 今もこうして五体満足であるということ自体が不思議だ。
 誰かが俺を治療してくれたのだろうか。
 見れば、体のいたるところに包帯が巻かれているのが判る。

 たまたま通りかかった人が俺を俺を助けてくれたのだろうか。
 いや、それはないかと、頭の中に浮かんだ考えをすぐさま否定する。
 たまたま通りがかったような一般人が怪我を負って倒れている人間を見つければ、普通は救急車でも呼ぶ筈だ。
 
 だが、俺が今いるのは病室ではなく、どこかの洋室。
 俺を病院に連れていくのは適切でないと判断した誰かが、ここまで運んでくれたのだろう。
 そんな判断が出来るのは、常識の理から外れた者のみ。

 では一体誰が。
 まさかあの夜に邂逅した誰かが、俺を助けてくれたのか。
 それは無意識の内に考えていなかった、最も可能性の高い答え。
 だとしても、何故。

 そんなことを考えていると、ドアの外からこちらに近づいて来る気配を感じた。
 思考を中断する。
 どうやら俺の疑問を晴らしてくれる者の方から、こちらに来てくれたようだ。

 一応、いつでも動けるように身構える。こんな体ではまともに動けないだろうが、何もしないよりはマシだ。
 もうすぐそいつが入ってくるであろう扉を注視する。
 そして、ガチャリと音を立てながら、ドアが開かれる。

「あら?」

 そいつの第一声はなんとも間の抜けたものだった。

「……え」

 こちらが発した声も、負けず劣らずの間の抜けた声だ。

「もう起きて大丈夫なんですか?」

 だって仕方がないだろう。
 まさかここでこの人が出てくるなど、誰が想像出来ようか。

 面識があるわけではない。
 しかし、あの家政婦やメイドが着るような服。
 その存在感を十分に巻き散らす胸。
 それは間違いなく、俺が喫茶店で見かけたメイドさんじゃないか。

「……あー、あなたは一体……?」

 何でこんなところにいるのでしょうか。
 言葉が上手く出ない。

「あら、ごめんなさい。そういえば、自己紹介もしていませんでしたね」

「いや、そういう訳では……」
  
「私はこのお屋敷で家政婦を勤めさせて頂いております、紗和々です」

 ぺこりと丁寧に頭を下げる紗和々さん。
 それと同時に胸からぽよんという擬音が聞こえた気がするのは、おそらく気のせいだろう。

「……あ、俺は衛宮士郎です」

 あまりにも礼儀正しく自己紹介されたものだから、思わずこちらも名乗ってしまう。
 決して胸にみとれてボーっとしていた訳ではない。考え事をしていたのだ。

 正直、紗和々さんがこちら側に関わりのある人間には見えない。
 いくら魔力感知が苦手な俺でも、一般人とそうでない者の判別ぐらいは出来るようになったつもりだ。
 そういったことを抜きにして考えても、この人が身に纏う雰囲気は、まさに日常そのもの。
 
 そんな人が何故、俺をここに運んだのだろうか。
 それとも、紗和々さんとは別の誰かがやってくれたのか。
 暫し沈黙の時が流れる。

「昨晩、衛宮さんは道端で倒れていたところを、たまたま散歩に出ていたお嬢様たちが見つけて、このお屋敷まで運んで来たんですよ」

 この沈黙をどう受け取ったのか。
 紗和々さんは沈黙を破るように話題を切り出した。

「お嬢様?」

「はい。私がお世話になっているこのお屋敷の主ですよ」

 紗和々さんは、にっこりと微笑みながら答える。

 おそらく、そのお嬢様はこちら側の世界を知る者なのだろうと確信する。
 そして、昨夜に邂逅した中の一人が、その人だと考えていいだろう。

「そうだ! 今からお嬢様を呼んで来ますね。衛宮さんはここで……」

「その必要はないぞ」

 待っていてくださいね、とでも言おうとしたのだろう。
 だが、紗和々さんがそう言い切る前に、凛とした第三者の声が響く。
 声のしたドアの方へ目を向けると、一人の少女がいた。

 真直ぐと、長く伸びた艶のある金髪。 
 そこにあしらわれたティアラ。
 黒で統一されたゴシックなファッションに身を包む美少女。
 あの夜に出会った少女だ。

 あいつによく似た声だが、こうやって冷静に聞けば別人のものだと判る。
 あの時の俺は無理な魔術の行使で、頭がどうにかしていたのだろう。

「君は……」

 驚きはしなかったのは、予感めいたものがあったからなのかもしれない。

「紗和々、すまないが紅茶を淹れてくれ。客人をもてなさなくてはな」

「はい、お嬢様」

 一礼して、紗和々さんは部屋から出て行く。
 残ったのは俺と、一人の少女だけ。



 
 少女に促され、俺は部屋に置かれた椅子に座った。
 机には先ほど紗和々さんが淹れてきた紅茶が湯気を立てている。
 紅茶の心地よい香りが鼻腔をくすぐる。おそらく良い茶葉を使っているのだろう。

 まずは互いの自己紹介から始まった。
 俺に対面するように椅子へ腰を降ろした彼女は、自分のことを『姫』と名乗った。
 勿論本名ではないだろう。だが、そんなことをいちいち気にしていては話しが進まないので、今はそれで納得することにした。

「では衛宮士郎、まずはこちらの質問に答えてもらう」

 紅茶の入ったカップをソーサーに置き、鋭い目をこちらに向ける。
 それに対し俺は、頷くだけの返事をする。

「お前が魔術師だということに間違いはないな?」

「ああ、間違いない」

 向こうはこちらが魔術師だということは既に気付いている。これは念のための確認。
 ならば、余計な考えを巡らせずに、答える。
 ここまでは予定調和の出来事だったのだろう。
 彼女は間髪入れずに、次の質問を投げかける。

「では、この笹鳴町にはなんの目的があって来た?」
 
「この町に関する奇妙な噂を聞いたんだ。その一つ一つはどんな町でもありがちな怪談話だった。だけど、この町の噂はあまりにも――」

「――多すぎるか?」

「……ああ」

 姫は不敵に口元を吊り上げる。
 まるで、その噂に心当たりがあるような――。

「ふふん。それで、この町の調査にでもやってきたという訳か」

「…………」

 まるで心の中を見透かされたような目に、言葉が詰まる。
 姫はそんな俺を楽しむように観察しながら、優雅な仕草で紅茶に口をつける。
 音も立てずにカップをソーサーに戻した少女が、再び口を開く。

「では、もう一つ尋ねる。仮にその噂が事実だとしたら、お前はどうするのだ?」

 どうするのか。
 そんなもの、とっくに決まっている。

「――決まってる。それがが人々に害を成すものなら、止める。それだけだ」

 訳もなく苦しんでいる人がいるならば、見過ごせない。
 それが正義の味方ってものだ。
 絵空事だってことは判っている。
 それでも止まることが出来ない理由がある。

「……それは何らかの依頼があったからか?」

 姫は少し考えこんでから、再び問いかける。

「……もちろん、自分の意思でだ」

 もしかしたら、この想いは俺自身から零れ落ちた願いではないのかもしれない。
 誰もが救われなかった地獄から、唯一自分だけを救い出してくれた人が語ったユメ。
 俺はそれにただ憧れただけ。
 だけど、そのユメを綺麗だと思ったのは、紛れもない本心。
 ならば精一杯胸を張って答えよう。

「…………」 

 俺の答えを聞いた姫が虚を衝かれたような表情を浮かべる。
 それは、少女が初めて見せた年相応の表情だった。

「成程。ヒロの言うとおり、魔術師らしからぬ魔術師だ」

 少女はどこか楽しげな表情で、独り言のように呟いた。 
 これで向こうからの質問は終わりなのだろうか。
 暫し、沈黙で時間が流れる。

「ふふん。こちらが尋ねたいことは大体聞けた。では、これからお前が最も気になっているであろう話しをしよう」

「――――」

 息を呑む。
 まさかこちらから尋ねることなく、話しを聞けるとは思ってもみなかった。
 
 俺の無言をどう受け取ったのか。
 少女はゆっくりと言葉を紡ぎだす。 
 
「そのためにはまず、『怪物』について話さなくてはならないな」



 にわかには、信じがたい。

 それが、姫から話しを聞いた率直な感想。
 怪物、王族、血の戦士、そして王族の血を分かつ兄弟姉妹たちによる争い。
 それらの内容はこの世の異端である魔術を知る俺でさえ、簡単に鵜呑み出来るようなものではかった。
 いや、むしろ異端を知るがゆえに、それ以上の異端を認めることが出来ないのかもしれない。
 
 己の内心を推察するように瞑目し、眉間にしわを寄せる。
 少女に聞かされた内容を鵜呑みにしてもよいのだろうか。
 だが仮に、彼女が話したことが事実だというのならば、俺は――。
 
 ふと、自らを怪物の王の娘だと言った、姫へと視線を向ける。

「――――」

 本日二杯目となる紅茶を優雅に口にしている。
 自分から話すことは、もうないといわんばかりに。

 ちなみに、おかわりの紅茶を運んできたのは紗和々さんではなく、フランドルという名の小さな女の子だった。今は姫の傍で、従者のように佇んでいる。
 彼女はただの童女ではなく、王族付きの人造人間らしい。だが、どこからどう見ても人間にしか見えない。
 いや、今はそんなことなど、どうでもいい。
 脱線しかかった思考を復旧させるべく、視線を姫へ戻す。

「――ふふん」

 目が合った。しかも笑われた。
 
「言っておくが、私が話したことは全て事実だぞ?」

 だが、どこまでも平静で、気心の強さが窺い知れる彼女の言葉は、素直に信用できると思った。

「ああ、わかっている。少しだけ、気持ちの整理が出来なかっただけだ」

 力強く頷くことで、こちらの決心を伝える。
 気持ちの踏ん切りはついた。
 今しがた聞かされた話しを信じることだけではない。
 これから自分は何を成すのか、ということを含めてだ。 
 
「一つ、訊いていいか?」

 そのためには、一つだけはっきりさせなければならないことがある。

「ああ、かまわない」

「君は兄弟との殺し合いを望んでいるのか?」

 姫はこちらをじっと見つめている。

「私は王座になど興味はない。……だからといって、死ぬつもりもないし、生きるために刃をむけることは、あるかもしれない」

 落ち着いるが、どこか力の篭った声。
 それは彼女の言っていることが、全くの本心であることを表しているようであった。

 安心した。その言葉で全てを決心することが出来た。
 深く息を吸い込む。
 そして、俺が成すべきことを言葉にする。

「君が争いを望んでいないって言うのなら、俺は王座を巡る兄弟姉妹同士の殺し合いなんて、そんな馬鹿げたものを止めてやる。その争いで関係のない人々が巻き込まれるかもしれないのなら、なおさらだ」

「――そうか。ならば、私と行動を共にするがよい」

「……え?」

 俺の決意に対して、返ってきた言葉は突拍子もないものだった。
 思わず、聞き返した。
 
「争いを止めたい、余計な被害者を出したくはないと言うのならば、王族である私と行動を共にした方が効率的だろう?」

 確かにそうだ。
 それはこちらにとっては願ってもみない提案だ。
 争いの中核にあたる王族の人間と行動を共に出来れば、何かと動きやすくなる。

 だが、向こうはそれで良いのだろうか。
 俺は彼女の仲間を二人も傷付けた。しかも、怪物にとって魔術師とは決して信用のならない存在だと聞いている。
 自分で言うのもなんだが、そんな奴と行動を共にするメリットなど何もないように思える。

「いや、でも……。いいのか?」
 
「いいのだ」
 
 逡巡する俺に対し、姫は間髪いれずに言葉を投げかける。

「私は衛宮士郎という、一人の人間の人となりは信用するに値すると思ったのだ」

 これが彼女の結論。
 相変わらず整然とした声からは、揺ぎ無い想いが感じ取れる。
 そういったところは、あいつによく似ている気がする。
 
 未だに口をつけていなかった紅茶を一気に飲み干す。
 すっかり冷め切ったそれは、俺の意識をはっきりとさせてくれた。
 姫に改めて向き直り、己が意思を伝える。

「俺は――」



 ここは笹鳴町。都心からやや離れたところに位置し、それなりに栄え、それなりに人が住む、よくある平凡な町。
 そんなどこを取っても平凡な笹鳴町には、ただ一つ非凡なところがあった。
 それは平凡な町に似つかわしくない、奇妙な噂の数々。
 しかも、その噂は一つや二つなどではない。霊安室か抜け出した死体、犬を引き連れる人狼、夜の町を徘徊する吸血鬼など、その全てを挙げていけば、両手で収まらないほどの噂が存在する。

 最近、そんな笹鳴町にまた新たな噂が加わったという。
 それは困っている人がいれば、どこからともなく現れる。
 そして、何も言わずに助けてくれたと思えば、いつの間にか去ってしまう。
 そんな白髪の青年の噂だ。


あとがき
 これも難産でした……。
 クロスの難しさを実感させてくれるような話しでしたね。
 どちらかの原作を知らなくても、楽しんでいただけるようなものを書きたかったのですが、今回はそれが出来ていないのではないかという不安が。
 でも、士郎と紗和々を絡ませることが出来たので、満足していたり。

 感想に対する返信は今日の夜に行います。



[15483] Very short stories
Name: Pナッツ◆2d5af022 ID:71df3da6
Date: 2010/02/13 11:56
■セカンドコンタクト

「……あ」

「……げ」

 さすがお屋敷というだけあって、無駄に長い廊下を歩いていたところだった。
 年齢はおそらく高校生ぐらい。ショートに切られた髪、活発さを窺わせるような服装、そこから覗く引き締まった肢体。
 あれは紛れもなく、あの夜に対峙した女の子だ。
 そんな彼女とのセカンドコンタクトはなんとも気まずいものであった。

 姫と名乗る少女との対話によってしばらくの間、この屋敷に住まわせてもらうことが決まったのだが、一つ大きな問題があった。
 それは、もともとの屋敷の住人と良好な関係を築けるかどうかということだ。
 姫の話しによれば、俺を抜いた屋敷の住人は五人だという。
 しかも、その全員が俺と面識があるという。
 まず、姫、紗和々さん、フランドル。この三人については、特に問題はない。まだろくに言葉も交わしていないが、そういったことは徐々に行っていくものだ。焦る必要もないだろう。
 なんといっても一番の問題は、残りの二人なのだ。

 そして今、問題となっている二人の内の一人と対面している。

「…………」

「…………」

 互いに見つめ合ってどれぐらいの時間が流れたのだろうか。
 見つめ合ってといっても、それは恋人同士のような甘い一時ではない。
 言うならばハブとマングースの睨み合い。
 いや、俺としては別に睨んでいるつもりなどないのだが、相手は物凄い嫌そうな顔でこちらを睨んでいるのだ。
 そういった意味ではハブとマングースというより、蛇に睨まれた蛙という言葉の方がしっくりとくる。

 何にしても、このまま黙っていたのでは何も始まらない。
 それに、言わなければならないこともある。

「……ごめん」

「は? 何だいきなり」

 相手は突然頭を下げられて、困惑した様子だ。

「あの時、きちんと事情を把握していなかったとはいえ、俺は君を傷付けてしまった。だから……」

 続けようとした言葉は、俺の前に突き出された手によって止められた。

「――あたしは名乗りをあげ、戦いを始めたんだ。それは人狼の戦士にとって名誉ある戦いだ。その名誉を汚すような真似だけは、絶対にすんじゃねえ」

「――――」

 強い意思の籠められた声。
 思わず、ぐっと息を呑み込んだ。
 
「まあ、そういうことだ。それに、あの時の戦いにはまだ決着が着いていないってことを忘れるなよ」

 そう言うと、彼女はくるりと踵を返した。
 そして、俺と語るべきことなど何もないといわんばかりに歩きだす。

 俺は小さくなっていく背中をただ見ていることしか出来なかった。
 彼女の言葉は俺を信用していないということを如実に表していたからだ。
 ならば、今はそれ以上の言葉は彼女に届くことはないのだろう。
 それに、人狼である彼女が、魔術師である俺を信用出来ないってのは当然のことだ。

 俺は怪物や王国なんてものについては何も知らなかったが、この世に異形の者が存在するということは感知していた。
 そしてその異形の者が、魔術師にとってどのような存在かということかも理解している。
 そういったことを考えれば、彼女の対応も十分に納得が出来ることだ。

 だが、それでも――。  

「……俺としては、もう戦いたくはないんだけどな」

 呟いた言葉は、彼女に届くことなく消えていく。

「あ、そういえば」

 そして、すっかり失念していたことを思い出す。

「まだちゃんと自己紹介もしていないじゃないか」

 いつか彼女と折り合いをつける時はくるのだろうか。
 いつになるかはわからないが、やがては必ず――。
 もう彼女の背中すら見えなくなった廊下を眺めながら呟く。

「……とりあえず、名前で呼ぶことから始めた方がいいんだろうか?」




■セカンドコンタクト2

「ごめん」

 そう言って深々と頭を下げる。
 謝罪の相手は日和見日郎。俺があの夜に傷付けてしまった少年だ。

「そんな……。頭を上げてくださいよ」

 少年の申し訳なさそうな声。
 彼はあの夜の出来事を不問にすると言ってくれている。
 だが、それでも譲れないものがある。

「いや、あれは俺の不注意が招いたことだ。こうでもしないと申し訳が立たない」

 いくら戦いに集中していたとはいえ、少年の接近をあそこまで気付かなかったのだ。
 その全ては衛宮士郎の未熟さが起因だろう。
 聖杯戦争を経て、あれから少しは成長していたと思っていたが、結局はあの頃と変わらぬままだったということだ。 
 なんという無様。思いあがりもいいところだ。
 そんな不甲斐なさを噛み締めながら、頭を下げる。

「ほ、ほら! もう傷だって塞がってますし。それに僕は半不死身ってやつみたいで、あれくらいの傷ならなんともありませんよ」

 そう言われたところで初めて顔を上げる。
 見ると少年はもう大丈夫だといわんばかりに、干将によって斬られた胸部を叩いてみせた。
 その様子からは、心臓にさえ達する一閃を受けたとは、とても考えられない。
 しかしあの時の一撃は、確かに心臓をも切り裂いた筈だ。それは揺ぎ無い事実。
 だが、この少年は今も確かに生きている。

 怪物の王族の血を飲むことによって得られる、驚異的な不死性。そんな異能が少年の命を救ったのだった。
 
 助かる筈のない命が助かる。それは喜ばしい奇跡の筈だ。
 しかし、そんな奇跡を良しとしない自分がいることに気付いた。


『助けて、助けて、助けて、助けて』

 教会の地下。
 そこには、■■士郎が辿っていたのかもしれない末路があった。
 ただ魂を搾取されるためだけに存在する彼らに残されたのは頭と胴体だけ。
 そんな唯一残された部位でさえ、枯れ果てて生気を感じさせない。

 だが、彼らはそんな姿になりながらも、確かに生きていた。
 そして、もう人としての機能すら満足に備わっていないそれらは、全てのやり直しを渇望していた。
 
 それは衛宮士郎も心のどこかで望んでいた願い。
 だけど、そんなことは出来ないのだと、諦めていた。

『おまえが望めば、おまえだけではない。ここにいる者も、十年前に死んだ者も、そして、おまえが殺した者も、全て、――――救われる』

 しかし、そこにはそれを可能とする奇跡があった。
 その奇跡ならば、あの火災を全てなかったことにし、誰もが幸福な生活を送っていたあの日に戻れるのだ。
 迷うことなど何もない筈だ。

 でも――――。

『――――いらない。そんなことは望めない』

 目の前に差し出された奇跡さえ拒絶してなお、貫いた理想。
 置き去りにしてきた者のためにも、曲げることの出来なかった信念。
 それが答えだった。

 しかし、少年の半不死身という能力は、そんな答えを否定しかねない異能だ。
 俺があの時、少年の傷が異様な速度で治っていくさまを、ただ不気味に感じたのはそのためなのかもしれない。 

 だが、彼の異能を否定するということは、同時に彼の存在を否定することと同義だ。
 紛れもない自分というものを確立した少年の存在を否定することなど、誰に出来ようか。
 想いは曲げたくない。だが、あの少年の存在を否定することは出来ない。

 そんな矛盾した思考をどう処理すればよいのかも判らず、ただ少年を見つめる。

「……あのー」

 俺の視線に気がついて、少年の瞳がこちらを覗く。

「とにかく。これぐらいのことだったら、気にしないで大丈夫ですよ」

 そして、もう一度胸を軽く叩いてみせた。

「じゃあ、改めまして、日和見日郎です。これからよろしくお願いします」

 二度目の自己紹介。
 これからこの屋敷で暮らしていくための通過儀礼。

 あの矛盾した感情をどうすればよいのかは、今はまだ判らない。
 だが、この少年と良好な関係を築きたいと考えているのは確かなことだ。
 
「衛宮士郎だ。よろしく、日郎」

 だから、まずは名前を呼ぶことから始めることにしよう。



■ファーストコンタクト

 自動ドアが開かれると同時に、熱気が一気に押し寄せてくる。
 思わず空を見上げると、そこにはギラギラと地面を照りつける太陽があった。
 まるで梅雨を飛ばして八月がやってきたような暑さがこうも続くと、さすがに参ってくる。

「よっと。まあ、これで買い物は終わりかな」
 
 手に提げられた買い物袋をしっかりと持ち直す。
 これで紗和々さんに頼まれていた買い物も全て済ましたので、さっさと屋敷に戻ることにしよう。

「ん?」

 ふと視線を向けた先に、ふらふらと歩く人影を見つけた。
 どこかで見たことのあるような、ないような少女だ。
 セーラー服に身を包んでいるということは、このあたりの学校の生徒なのだろうか。
 まあ、それはいい。問題なのは、彼女の足取りがなんとも心許ないというところだ。
 このままでは、今にも倒れこんでしまいそうな――。

「……あ」

 咄嗟に走りだす。
 突如少女が、糸の切れた人形のように倒れてしまったのだ。
 
「おい、大丈夫か!?」

 俺が駆け寄り、声をかけた頃には、少女は既に自力で起き上がろうとしていた。
 とりあえず、大事には至っていないようで、安堵した。

「え、ええ。大丈夫ですわ。あの忌々しい太陽に、少しあてられただけですから」

「ちょっと待て。貧血で倒れたんだ。少し休んだ方がいい」

 先程貧血で倒れたばかりなのに、もう動きだそうとする少女を引き止める。

「いえ。よくあることですから、大丈夫ですわ」

 少女は俺の方を見向きもせずに、答える。

「体が弱いんだったら尚更だ。休んだ方がいい」

「いえ、ですから……あら?」

 ここでようやく俺の方を向いた少女が、なんとも不思議そうな声を上げた。

「ん?」

「貴方は……」





 嘉村令裡。それがこの少女の名だ。
 長い黒髪に、黒いセーラー服を身にまとった少女は、日郎が通う笹鳴学園の高等部に所属しているらしい。
 その美貌、上品な物腰は、かつて俺が学園に通っていた頃に憧れていた遠坂を思い出す。
 学園に通っていた頃の遠坂と言えば、全生徒の憧れの的で、俺もその例に漏れない学生の一人だった。
 そんな遠坂と同様に、これだけの美貌を持つ嘉村も学園中の多くの生徒から慕われているのだろうな、と勝手に憶測する。

「ええ。確かに、私を慕ってくれる可愛い子羊たちはたくさんいますわ。それが多少無理をしてでも、私が学園に通う理由でもありますからね」

「へえ、やっぱりな。…………って、俺が考えていることが、なんで判った?」

「そりゃ、それだけ読みやすい表情をしていれば、誰だって判りますわ」

「む……」

 思わず自分の顔に手を当ててみる。
 あの頃よりは多少、思ったことをすぐ表情に出すってことはなくなったと思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。

「ほら、そういうところが」

 俺を指差しながら、楽しげに嘉村は微笑む。

 少しドキリとしてしまった。
 大人びた物腰かと思えば、突然見せる歳相応の少女のような仕草。
 やはり美女の突然の不意打ちってやつには、どうしたって慣れないものだ。
 見た感じの年齢は、嘉村より俺の方が上に見えるというのに。

「はあ……」

 自分で自分が情けなくて、思わずため息が出る。

「あら、どうかなさいましたか?」

「いや、別に。ちょっとした自己嫌悪に陥っていたところだ」

「そうなんですか」

 嘉村は納得したのかしてないのか、微妙な返答をする。
 こうやって可愛らしく小首を傾げる仕草は、どこからどう見たって普通の女の子のそれだ。

 だが、今こうして俺の隣を歩く少女、嘉村令裡は普通の人間ではない。
 彼女の正体はなんと、廃教会に住まう吸血鬼だと言うのだ。

 吸血鬼といえば真祖ないし死徒のことを指すのだが、彼女はどちらかとうと真祖の方にあたるそうだ。
 死徒が後天的に誕生した吸血鬼だとすれば、真祖とは生まれながらの吸血鬼。
 精霊寄りの存在で、空想具現化という超越的な能力を有する正真正銘の怪物。
 それが今、俺の隣を歩く少女の正体だと言うのだ。

 そして、あの夜に気を失った俺を屋敷まで運んでくれたのが、この嘉村令裡だったりする。
 だから先程、彼女は俺を見て不思議そうな顔をしたという訳だ。

 世界は広いようでいて、狭いんだなあと実感する。

「ところで、衛宮さん」

 嘉村に声を掛けられ、思考を中断する。

「ん?」

「こんなところまで、私に付き添って頂けたのはよいのですが、
貴方には何か用事があったのではなくて?」

「――あ」

 忘れていた。
 紗和々さんに買い物を頼まれていたこと。
 貧血で倒れた嘉村に駆け寄った時に買い物袋を放り出したことを。
 
 まだ買い物袋はあの場に置いてあるだろうか。
 いや、例えあの場に残っていたとしても、こんな炎天下に食材を放り出しっぱなしにすれば、とっくにダメになっている筈だ。

 ということは――。

「買い物のしなおしだな、こりゃ」

 しかも自腹で。
 まあ、それは当然のことか。

「あらあら」

 嘉村が他人事のように笑う。
 まあ、彼女にしてみれば実際他人事なんだろうが。

「悪い、嘉村。俺はまた、あのスーパーに行かなくてはならなくなっちまった」

「ええ、いってらっしゃい。もう日も大分沈んできましたし、私にはこれ以上の付き添いは結構ですわ」

 嘉村の言うとおり、空には朱が射し始めていた。
 彼女の足取りも先程と比べれば、しっかりとしている。
 これなら後は一人でも自宅へと向かえるだろう。

「すまん」

「いえいえ。また近い内にお会いしましょう」

「ああ、そうだな」

 じゃあ、と手を振ると踵を返して、進行方向を先程通った道に変更する。
 早歩きで、目的のスーパーへと向かって行く。
 


「行ってしまいましたね……」

 白髪の青年が去って行った道をぼんやりと見つめる。

「それにしても、噂に違わぬ魔術師らしからぬ魔術師でしたわ」
 
 魔術師のくせに、こちらが心配してしまう程のお人好しだというのはどうなんだろうか。
 先程の青年とのやり取りを思い返し、思わず苦笑してしまう。

「また近い内にお会いしましょう……ね」

 自分でも何故あのようなことを言ったのか判らない。

 同胞のキニスキー公に刃を向けた罪で、吸血鬼の社会から追放された私に制裁が加えられるのは時間の問題だろう。
 そうなればあの青年と会うことなど、もう二度とない筈だというのに。

 すっかり伸びきった自分の影法師が、あたりがすっかりと夕日に染まったことを告げる。
 そこでようやく、あの青年と別れてから大分時間が経ったことに気付く。

「まあ、これもいつもの気まぐれでしょう」

 いつまでも、こうして詮無いことを考えるのはやめることにした。
 吸血鬼というのは、いつだって移り気な一族なのだ。
 今回もその癖が働いただけなのだろう。
 嘉村令裡は、そう結論付けることにした。
 


あとがきという名のいい訳

 この作品において、完全な真祖はアルクだけですが、低純度の真祖が数多く存在するという設定をとらせてもらっています。
 低純度の真祖は通常の死徒が弱点とする日光などは克服しているものの、空想具現化といった強力な真祖特有の能力は使えません。
 令裡はそんな低純度の真祖にあたります。
 士郎は真祖というものがなんなのかは知っているものの、完全な真祖と低純度の真祖がいるということまでは知らず、令裡について少し勘違いしています。

 苦しい設定だとは思いますが、クロスオーバーという性質上、致し方ない部分もあることをご了承いただければ、幸いです。



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