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[15492] ファンタジー 迷宮物
Name: K.Y◆4f5df61f ID:7900bcbf
Date: 2010/03/27 21:14
前置き



初めまして、もしくはお久しぶりですK.Yと申します。

迷宮物を色々読んでいて書いてみたい衝動に襲いかかられた為に書き始めました。

色々と迷宮物を読んでおり、自分ならこうするのになぁと思って書く所もありますので○○という作品に似てる!!という箇所は出てくるだろうと思いますが温かい目で見て頂けたら幸いです。

ですが、このシーンはあんまりだろう!という箇所がありました是非指摘をお願い致します。

尚、この作品には以下の成分が含まれる、もしくは含まれていく予定です。



・主人公が強い
・ご都合主義が出てくる
・ヒロインが一人ではない
・なかなか話が進まない
・お話のテンポが悪い

これらの成文に拒絶反応を起こす方は読まない方が吉です。


この作品は、一度投稿し改めて改訂している作品です。

前の時に説明が多く、テンポが悪いという意見が少なからず出ております。
合わせて展開が遅く、なかなか話が進まないという意見も多く出ております。

ですが、作者としてはこの作品の色々な事を理解して貰いたいと思って書いております。
できるだけ読みやすくしたいと努力はしていますが、イライラするかもしれません。
また、そう言うのを受け入れられない方は読まない方が良いと思います。

ですが、余りくどいだろうという場合は指摘して頂ければ考えさせて頂きます。





[15492] プロローグ
Name: K.Y◆4f5df61f ID:7900bcbf
Date: 2010/01/17 20:39


 
この世界は神により生み出された。
 
それが、この大陸ガイアテラの常識であった。
 
それには勿論理由がある。
 
未だに誰もが作れないような『神の遺産』とも言われている建物が世界各地に残されているからである。
 
『神の遺産』は未だ解明できない不思議なチカラを数多く宿し、多くの国がそこを起点とし国を興した。
 
その様な『神の遺産』の中で異端とされるモノがあった。
 
『神の遺産』の殆どは同じ大きさの神殿であったのだが、その中の一つのみ規模が違ったのだ。
 
長き間人々から「暗黒神殿」と呼ばれる大神殿である。
 
「暗黒神殿」と呼ばれる理由は当然ながら、ある。
 
この世界には魔物・モンスターと言われる全ての種族に敵対する生物がいる。
 
モンスターは世界各地に存在しているのだが、そのモンスターの生まれる場所と言われる洞窟が大神殿の付近に存在したからだ。
 
その為この地は長い間、人のいない荒れた大神殿とモンスターの生まれ出るといわれる洞窟のみが存在する不毛の大地であった。
 
しかしある時、領地としてその場所を所有する国の王によりその場所に人が派遣される。
 
 
「危険である物をそのままにしておいて良い訳が無い
それにあの地にあれらが存在するのも何か理由があるからに違いない・・・かの地の全てを解き明かせ」
 
 
王のその言葉に従い不毛なる大地に人の営みが築かれていく事となる。
 
最早その王はおらず、その国すらも存在はしていない。
 
が、不毛なる大地であった土地は見事に姿を変え、各国が注目し一目置く都市となった。
 
迷宮都市『スカンディア』
 
この地より、この物語は始まる。
 
 
 
 
 
 
 
「くぅっ!!」
 
 
ブロードソードを持ち、皮の装備を身に着けた青年-アズライト-は、自分に襲いかかって来る鈍い輝きを必死の思いで横に跳ぶことで躱す。
 
そのまま体勢を崩し、何度か転がりながら距離を取ると立ち上がり、自身の身体に付いた埃や汚れを払うこともせずに剣を構えて相手を睨み付ける。
 
コボルド、それがアズライトに向かって攻撃を仕掛けてきた相手である。
 
犬をそのまま大きくし、人間のように手足を進化させた二足歩行のモンスターだ。
 
 
「グガァァ!!」
 
 
アズライトによって傷付けられたのだろう、体のあちこちを赤く染めながらも瞳に怒りを宿し、此方に剣を振り上げ襲いかかって来るコボルド
 
 
「しっ!」
 
 
相手との距離を見極め、アズライトは姿勢を低くすると短く息を漏らしながらコボルドの横を駆け抜ける。
 
と、共に剣を横に構え、此方の行動にまだ対処できずがら空きになっている脇腹を切り裂く。
 
 
「ギャイン!?」
 
 
ズシャ!という肉の避ける音と感触を感じながら、コボルドの上げた悲鳴など気にせず直ぐさま体を反転させ前に見えるコボルドの背中に向かってジャンプする。
 
いきなりの反転に足元が滑りギャリっと耳障りな音を立て体にも負荷が掛かるものの力を入れて無視し、思わぬ反撃に体を前のめりにうつむかせているコボルドの背中を思いっきり踏みつける。
 
 
「ギャッ・・・!」
 
 
ドシュッ!
 
 
そのまま背中に馬乗りとなり、 両手でしっかりと握りしめた剣を相手の首めがけて振り下ろした。
 
断末魔の叫びすらまともに上げることすら出来ずに、コボルドは何度か体を痙攣させると、体全体から力が抜け事切れたことをアズライトに伝える。
 
 
「・・・ふぅ」
 
 
戦闘が終わった事を感じた彼は、少しばかりの疲労感と共に思わず溜息をはき出した。
 
 
「ぉっと!?」
 
 
そのままの体勢で息を整えていたアズライトだったが、コボルドの死体が光り出し、光りの粒となって消える。
 
後に残るのは薄紅色の小石のみとなり、座っていたモノが無くなった事により彼は体重を支えきれず思わず尻餅をついてしまった。
 
 
(うわぁ・・・格好悪いなぁ・・・)
 
 
痛みを訴える尻をさすりながらも体勢を整えると思わず周囲を見渡す。
 
 
「ははっ」
 
 
誰も見ていないことを確認できた彼は、安堵と気恥ずかしさにより軽く笑い声を漏らすと、その場に残った薄紅色の小石、血晶石と呼ばれる小石を腰に装備した何も入ってないような小さい麻袋に入れる。
 
その後、その麻袋を親指で撫でるように擦ってやると不思議な事に麻袋の表面に文字が浮かび上がる。
 
黒のインクが滲み出るように浮かんだ文字は『薄紅色の血晶石 17コ』と書かれていた。
 
 
「今日は・・・これぐらいでいいか」
 
 
その文字を読み、軽く頷いた後そう独り言を漏らすと、アズライトはこの場所より脱出する為に歩き出した。
 
ファーストダンジョン地下三階、そう呼ばれる場所から出る為に。
 
 
 
 
 
迷宮都市『スカンディア』
 
そこは世界で唯一この場所にだけ存在する迷宮と呼ばれる場所がある都市である。
 
現在は『ニブルヘルム』と呼ばれ迷宮となった場所であるが・・・この場所は元々、モンスターの生まれる場所といわれる洞窟だったのだ。
 
モンスターは世界各地にいると説明したが、それはモンスターが世界各地に常に存在しているというわけではない。
 
場所柄にも寄るが、一年中モンスターが居る地域などはなくその被害に怯えずに暮らせる時期もある。
 
だが、『ニブルヘルム』は違う。
 
モンスターが常におり、なおかつ奧に行けば行くほど強力なモンスターが出現するのだ。
 
それだけならば、荒れることはあっても発展することは無いように思えるだろうが、モンスターはある特色を持っていた。
 
モンスターを倒すと、血晶石と呼ばれる紅い石を残しその身は消え去るのである。
 
この血晶石、そのモンスターの命を凝縮しているのか多くの人を魅了し最初は宝石として売買されていた。
 
しかし、その後色々と加工、調合できる事が解り病気の治療や、武器や防具等に魔力や魔法を宿すときの繋ぎ、宝石や装飾品の価値を高める為の素材等様々な利用価値があることが解った。
 
そして多くの人物が夢見る奇跡『不老不死』その劣化板とも言える『老化の遅延、及び延命』
 
この効果を持つ薬の開発に成功したのだ。
 
この為、血晶石を得る為にモンスターが常にいるニブルヘルムは、世界中の注目を浴び人々が集まりだした。
 
そして『ニブルヘルム』の近くにあった暗黒神殿と呼ばれていた大神殿。
 
今は『バルドゥル大神殿』と名称を変えているのだが、この大神殿が他に点在する神殿とは比較にならない神秘を持っていることが解ったのである。
 
これらの『ニブルヘルム』と『バルドゥル大神殿』により、この地は発展を続け一都市ながらも世界的に有名で一国と同じ扱いを受ける自治権を持った大都市となったのだ。
 
そしてその『バルドゥル大神殿』を本拠地として活動しているのが、迷宮都市支援ギルド『ノルン』である。
 
基本的に支援しているのは冒険者であるが、冒険者支援では無く迷宮都市支援とされてるのには理由がある。
 
この世界にはクラスシステム(職業選択)というものが存在するのだ。
 
人やエルフやドワーフなどの知識や歴史を積み重ね文明を築く事ができる存在は、生まれた瞬間からノービスというクラスが与えられる。
 
ノービスは「何者にもなれるが何も極められないクラス」と言われており、経験を積めば他のクラスになれるがクラスとしては最弱と認定されているのだ。
 
経験を一定以上積み、神殿に行けばレベルアップ(地力上昇)という加護が得られる。
 
その名の通り体力や耐久力、力や敏捷性などの身体能力が上がる加護のことであるが、ノービスはこの身体能力の上昇値がもっとも低いのである。
 
だがノービスでレベルを上げ、尚かつ自分の就きたい職業に関することを指導・独学問わずに行っていると別のクラスになることができる。
 
冒険者としてのクラスだけでなく商人や鍛冶師、農民というクラスも存在するため迷宮都市に関する全ての人間がお世話になる場所、それがノルンでありその為に迷宮都市支援という肩書きを貰っているのだ。
 
尚、一度クラスを変えたらそれよりも上級のクラスにはなることが出来るが、他のクラスに変えることは不可能となってしまう。
 
つまり商人が農民になりたいと思っても不可能なのだ、もちろん畑を耕したり作物を育てたりすることは出来る、が『商人』に適した成長をする様に体がなってしまっている為『農民』のクラスを持つ人ほどの成果を上げることは出来ない。
 
この様な事情があるために、様々な職業になれるが殆ど身体能力が上昇しないノービスは「何者にもなれるが何も極められない」と言われている。
 
もっとも、スカンディアに一番多いのはやはり冒険者である関係上、商人などの一般職スキルと呼ばれるクラスになる人は少ないため、広大なる大神殿の端の方にしか受付が無いのだが。
 
結局のところ迷宮都市支援となっているが、大神殿にお世話になっている者達の八割以上が冒険者であり、実質的には冒険者支援ギルドと言ってしまっても過言ではない。
 
 
 
 
 
ファーストダンジョンより無事に脱出できたアズライトは、今日獲得した血晶石の換金とステータスの確認の為に大神殿の中央入口に来ていた。
 
空が茜色に染まりきりもう一時間も経てば夜と断言できるような時間帯であったが、周りには多くの冒険者が絶えず行き来していた。
 
 
「・・・・・・はぁ」
 
 
後少し歩けば大神殿内に入れるという位置で、アズライトは大きく溜息を漏らした。
 
自分の行動が招いている事とは言えこれから投げ掛けられるであろう言葉に気持ちが沈んだ為だ。
 
何度も投げ掛けられている為に慣れてしまった部分も大きいが、それでも気分が良くなる訳では無い。
 
しかし、このまま佇んでいてもどうしようもない為に、少しばかりの気合いを入れると入口の方へと歩いていく。
 
入口を抜けると休憩所と呼ばれる椅子とテーブルが並べられただけの場所に出る。
 
ここはクラスチェンジやレベルアップの順番待ち等の冒険者や、ノルンに対して用事のある者、ただの待ち合わせ等といった全ての人が利用して良い場所となっている。
 
もっとも、冒険者用窓口が近いために冒険者以外の姿は全く見当たらないが。
 
余談ではあるが、万人が利用して良い場所ではあるが大神殿の中である為に酒や嗜好品・賭事の類は全て禁止されている。
 
破れば勿論注意を受け、罰金を課せられる。
 
その上、悪質だと判断された場合にはノルンより支援停止を言い渡され、血晶石の換金はおろかレベルアップ・クラスチェンジもして貰えなくなる。
 
その為に気性が荒かったり、短気で暴力的な者が多い冒険者達でも殆どの者がこのルールは守っている。
 
アズライトは、各々のテーブルにて話に花を咲かせている冒険者達に目もくれず、歩調を早め窓口の所まで真っ直ぐ歩いていこうとしていた、が、そんな彼の姿を見つけたある冒険者が声を掛けてくる。
 
 
「よう!ファーストマスター!!」
 
 
その声に、少しばかり辺りが静かになると次いで大小の笑い声があちらこちらから漏れた。
中には態と聞かせるような大音量の笑い声までも。
 
 
「今日の成果はどうだった?」
 
 
「・・・別に、何時も通りだったよ」
 
 
その笑い声にイラっとしたアズライトであったが、声を掛けられた手前無視することも出来ずに、そう言葉を返す。
 
 
「ははっ!!何時も通りか、ホントにファーストマスター様は薄紅色の血晶石が大好きですなぁ!!」
 
 
すると、その言葉を聞いた別の冒険者よりその様な言葉が投げ掛けられる。
と、共に辺りから更なる笑い声が巻き起こる。
 
アズライトは、その言葉にも笑い声にも反応はしなかったものの、思わず強く強く拳を握り締める。
 
 
「くくっ、あ~申し訳なかったなぁファーストマスター呼び止めたりしちまってよ
俺はただ単純に調子を聞きたかっただけなんだ」
 
 
最初に声を掛けてきた白髪・茶眼で中肉中背の冒険者は、笑みをかみ殺しながらも眼では笑いながら、口だけの謝罪を言って会話を打ち切った。
 
アズライトも、なんの返事を返すことなく、冷めた表情のまま足早に窓口の方へと向かっていく。
 
その後もしばらくの間は、休憩所から笑い声は絶えなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
 
どうもK・Yです。
 
新年あけましてごめんなさい。
 
作者としても、ああいった手前どうにか12月中に更新したかったのですが・・・年末年始ってホント忙しいよね!!
 
どうにか時間が出来たので書きましたが・・・1月半ばですね・・・
 
改めまして、今年も作者とこの「ファンタジー 迷宮物」をよろしくお願いします。
 
 
 



[15492] 第一話
Name: K.Y◆4f5df61f ID:7900bcbf
Date: 2010/01/17 20:40
 
 
 
「あ~、結構大きな笑い声が聞こえたから何事かと思ったら、君だった訳かぁ」
 
 
「・・・アズライト=ノール、状態確認と換金に来ました」
 
 
窓口の所まで来たアズライトは、掛けられた言葉に何も返さず、自分の用件を告げる。
 
アズライトに声を掛けてきたのは、ノルンの職員でありこの窓口の担当をしている受付嬢ディアンナ=ベルリアであった。
 
身長は150cmと小柄で、体系もそれに合わせたようなスレンダーだが成人であることを示すように丸みなどは余りなく、スラリとした体つきだ。
 
茶色の髪と茶色の瞳、肌も少しばかり褐色で髪は胸元まで伸びている。
 
赤いスーツを身に纏い、アズライトよりも五つ程年上の女性である。
 
 
「ん~・・・今回も態度が冷たいねぇ、結構言われてるんだが気にしなきゃ良いのに・・・
というか、原因は君にあるんだから嫌ならさっさとクラスチェンジしちゃえばいいじゃない」
 
 
アズライトの態度も気にせず、ニコニコと笑顔のままでそう言い放つディアンナ
 
その言葉に、アズライトは思い切り溜息をついてしまう。
 
 
「いやぁ・・・自分でも気にしないようにとは思ってるんだけど、どうしても頭に来るんだよね」
 
 
後半の言葉は意図的に無視し、苦笑を漏らしながらそう返答するアズライト
 
ディアンナも自分の言葉が一部無視されたことに気付き、アズライトを睨み付けるが、少しばかり意地の悪い笑みを漏らす。
 
 
「まぁ、しょうがないよ
 
約一年半もノービスのままなんて君以外いないんだからさ!・・・っと、ごめんごめん、今空いてるボックスと担当官の状態を調べるね」
 
 
反撃とばかりに言葉を紡いでいたディアンナであったが、自分の仕事が疎かになっていることに気付き、直ぐさま自分の仕事に取り掛かる。
 
こちらに軽く頭を下げた後、自分の前に置かれている開かれた大きな辞書の様な装置に手を当て、なにやら操作を始めた。
 
それを見つめながらも、アズライトはここに来た・・・いや、迷宮に挑戦しに来た初めの頃を思い出していた。
 
 
 
 
 
アズライト=ノール、17歳
 
身長は175cm程度で肌は白いが、病的という事はなく色白で説明がつくぐらいだ。
 
黒髪・黒眼で髪は短めながらも前髪が視界に掛かるので邪魔にならないように上に上げて固めている。
 
体系は痩せすぎとまでは言わないが標準よりも痩せており、細身である。
 
生まれも育ちもスカンディアではあるが、両親の事は顔すら記憶にない。
 
15年前まで大陸全土で戦争が起きており、スカンディアは中立という立場を貫いたものの、他国より侵略行為を受け戦火を免れることは出来なかった。
 
アズライトの両親はスカンディア防衛の為に戦争に参加し、そこで二人とも命を落としたと聞いている。
 
父も母も冒険者だったらしく、戦場に行く前にこの都市にある孤児院の一つにアズライトを預けていったそうだ。
 
その時アズライトは1歳にもなっておらず、後からそのことを聞かされ、両親との思い出が全く無いのも当然だと納得したものだった。
 
ここスカンディアでは16歳より独り立ち、つまり成人が認められる。
 
それまでは常識や基本的な学問、この都市の仕組みや決まり事等を学校や孤児院等で教えられる。
 
逆に言えば16歳になれば余裕のない家庭や孤児院の者は、強制的に社会へと追い出されていくとも言えるのだ。
 
孤児院も都市からの支援金やギルドからの補助があるとはいえ、いつの時代も孤児院に子供がいないと言うことはない。
 
アズライトは戦争孤児と言うことになるが、戦争が収まった現在でも孤児院の前に捨てられていく子供というのは存在する。
 
孤児院にも入れず、奴隷として売られる子供も決して少なくないのだ。
 
故にアズライトも16歳になったら卒院式を迎え、強制的に独りで生活をしていかなければいけないものなのだと思っていた。
 
そして独り立ちする為に、自分がどの様な職業になるか、アズライトは数ある選択肢の中から冒険者を選んだ。
 
昔からアズライトの心を振るわせたのは英雄達の冒険譚だったし、孤児院の教育方針でもあるだろうが『独りで生活していく』という意識が強かった為でもある。
 
同期の仲間の中には、商人や職人の元に住み込みで弟子入りという形で巣立っていく、そういう者も少なくはなかった。
 
最後の決め手となったのは、両親の形見として院長より渡されたマジックアイテム『偉大なる麻袋』であった。
 
不思議な名前であるが、これは見た目が小さい麻袋ながらも、マジックアイテムである為に中に入る容量は背負い鞄よりも断然多いのだ。
 
冒険者が好んで使い、二流以上の冒険者なら必須と言われているアイテムでもある。
 
ノルンや、マジックアイテムを扱う職人に頼めば許容量を増やすことも出来るという優れものだ。
 
冒険者に限らず十分役に立つアイテムなのだが、どうせなら一番活用できる冒険者になろうと改めて心に決めたのだ。
 
そしてその『偉大なる麻袋』と都市からの自立支援金である金貨3枚を握り締めて、孤児院を後にしノルンへと直ぐさま向かったのであった。
 
それが約一年半前のことであり、ディアンナはそれ以前より受付嬢として窓口に立っていたために、お互いに軽口を言い合えるぐらいの仲になっている。
 
 
 
 
 
「お待たせしました、6番ボックスが空いております
 
担当官のフィーメリアさんも空いておりましたので6番ボックスでお待ちになっております」
 
少しばかりぼぅっとしていたアズライトは、その声を聞くとディアンナへ「ありがとう」と言ってから6番ボックスへと向かう。
 
アズライトが言った状態確認とは、レベルアップやクラスチェンジ申請、もしくはステータス確認の事である。
 
冒険者は基本的に自分のステータスは隠す、教えてもせいぜいがクラスとレベルぐらいでそれもきわめて親しい関係の者にしか話さないのだ。
 
冒険者係と呼ばれる、この大神殿の機能を用いて冒険者のステータスを教える者もこれは見ることはできない。
 
クラスチェンジもそれ専用の施設に行き、その場で本人が何のクラスになるか伝えるといった徹底ぶりであった。
 
故に、ステータスを確認するのにも一つ一つ狭いながらも部屋があり、その中で係の者と二人のみの空間で行われるのである。
 
6番というボックスのナンバーを確認すると、アズライトは少しばかり気持ちを落ち着ける為に呼吸を整えた後、ドアノブに手を掛け中に入る。
 
 
「あっ、アズ君お久しぶり、今日もよろしくね」
 
 
「あ、はい、お久しぶりです、こちらこそよろしくお願いします」
 
 
中にいた人の笑顔にホッとした表情を浮かべた後、アズライトは顔を染め迷宮に潜るときとは別の緊張に、体を硬くしつつも椅子に座る。
 
フィーメリア=シセイ=ドリアドネ
 
水色と紫が混ざった淡い群青色をした髪を腰まで伸ばし、瞳は海を想わせるような深い青。
 
ディアンナとは違い自身の色に合わせるような青いスーツを着こなし、その上からでも解る膨らんだ胸部とくびれた腰、そして透き通るような肌が彼女に神秘性を与えていた。
 
そして人と決定的に違うのはその耳が尖っていることであろう。
 
彼女は人間とは別の種族、エルフと呼ばれる種族なのだ。
 
エルフ・・・基本的には森に住み、人より優れた身体能力と美男美女が多いことで知られる種族。
 
人間との間に様々な問題は残しているものの、現在は友好的に付き合っている種族である。
 
 
「それじゃあ始めるから少しばかり待っていてね」
 
 
アズライトのその様子も何時もの事なのか、柔らかい笑みを浮かべたまま、フィーメリアは自分とアズライトの前にある直径が30cm程の大きな水晶に左手をつけ、右手で彼女側にのみある幾何学的な模様の描かれた30個前後のボタンをいくつか押していく。
 
そうしていくと段々と水晶の中に黄色い光が輝き出す。そして全てのボタンを押し終えたのだろう彼女が手を止めると水晶は別の宝石のように黄色く光り輝いていた。
 
 
「どうぞ」
 
 
それを確認した後、アズライトへと視線を向けてそう促した。
 
 
「ありがとうございます」
 
 
そういってアズライトは右腕の皮のアームガードを外す。するとその手首には太めの真っ黒の腕輪が巻き付いていた。
 
しかも手の内側、つまり血管の所でその腕輪は途切れ腕と一体化しているように内側へと溶け込んでいるのである。
 
これがこのスカンディアの冒険者の証、ヒルドの腕輪と呼ばれるものであった。
 
これはノルンの人間も全員つけており。フィーメリアも腕輪をつけている左手を水晶に当てたのだ。
 
このヒルドの腕輪をつけて初めて、ステータス確認やクラスチェンジ申請・レベルアップ等を行えるこの水晶を扱う事ができるのである。
 
ちなみにこの腕輪は国でそれぞれ違い、腕輪を見ればどの国の所属か解る仕組みになっている。
 
腕輪の取り替えも、腕と一体化している為に、神殿でしかおこなえず、各国の入門時のチェック対象となっているのだ。
 
そしてアズライトが右手を水晶に当てると水晶の中より一枚の石版のようなモノが出てきてアズライトの目の高さにて静止する。
 
空中にありながらも質量すら感じるような石版にはアズライトのステータスが浮かび上がってくる。
 
 
 
『アズライト=ノール
 
職業:無職(ギルドに加入)
 
クラス:ノービス
 
Lv:43
 
レベルアップ:可能
 
クラスチェンジ:可能
 
戦士:クラスチェンジ可能
 
剣士:クラスチェンジ可能
 
騎士:クラスチェンジ可能 』
 
 
 
そう映し出されたステータスを見て、アズライトは改めて重い溜息をついた。
 
現在無職・・・そう、ノービスのままだと職業としてすら、冒険者として認められないのである。
 
そして冒険者のクラスであるが、戦士・剣士・騎士の三つの他に二つ、合計五つが今の所発見されている全てである。
 
一次職という意味でではあるが。
 
ちなみに戦士にはレベル10、剣士にはレベル15、騎士にはレベル20でクラスチェンジ可能となる。
 
剣士と騎士にはレベル以外にもクラスチェンジに必要な条件があり、それを満たさないとクラスチェンジできないが。
 
つまりアズライトはクラスチェンジを申請すれば、すぐにでも一次職の最高位と言われてる騎士に挑戦できるし、一次職になれば無職でも無くなるのである。
 
後、これは冒険者の特色であるが、冒険者はクラスチェンジをするとレベルが十分の一に落ちる。
 
これは戦闘用に体を作りかえる為の加護の負荷が大きい為だとも言われている。
 
故に冒険者はクラスチェンジを申請したとしても、クラスチェンジ時の痛みに耐えきれずに気絶すれば、クラスはノービスのままレベルが十分の一に落ちるのだ。
 
もっとも死ぬ事は無いし痛みに対する耐性が刻まれ、クラスチェンジの成功率は上がるのだが・・・
 
そしてノービスのままでは大きなデメリットが一つあるのだ、迷宮『ニブルヘルム』の探索禁止という大きなデメリットが。
 
それが先程、休憩所で言われた『ファーストマスター』という名称に繋がるのだ。
 
アズライトが先程まで探索していたのは、ファーストダンジョンと呼ばれている迷宮である。
 
地下五階までしか無い小さなダンジョンで、世界にはファーストダンジョンとニブルヘルムの二つしか迷宮が存在しない。
 
ファーストダンジョンは、ニブルヘルムの同階と比べて敵も弱く、敵の種類も五種類のみと確認されている。
 
故に初心者用の迷宮と言う意味で『ファーストダンジョン』と名付けられたのだが。
 
その代わり、モンスターが尽きないという特色がある。
 
ニブルヘルムも常にモンスターはいるのだが、その階のモンスターを狩り尽くすと六時間前後モンスターが出現しなくなるのだ。
 
だがファーストダンジョンにはそれがない、幾ら狩ってもモンスターが尽きることがないのである。
 
しかし、敵が弱いからなのか血晶石の質が悪く、赤みが薄い為にニブルヘルムの物よりも半値以下で取引されるのだ。
 
そんな特性上、レベルアップをしても殆どステータスが上がらないノービスの訓練用としてはこれ以上ない練習場だった。
 
故にノルンはこう定めている。
 
『ノービスの冒険者はファーストダンジョンにて経験を積み、クラスチェンジに成功しなければニブルヘルムの探索は認められない』と
 
余談ではあるが、ファーストダンジョンにノービスの冒険者が居る期間は、2週間から3ヶ月と言われている。
 
これは戦士を目指すか騎士を目指すかにもよって変わるし、知り合いの冒険者に手伝って貰うかソロで挑むかの差もある。
 
しかしアズライトはギルドに登録してから一年半、クラスチェンジもせずにファーストダンジョンにずっと潜り続けていた。
 
だからこう呼ばれるのである「ファーストダンジョンの主」つまり「ファーストマスター」と。
 
つまりは、ベテランの初心者という意味の不名誉きわまりない言葉なのだ。
 
 
 
 
 
アズライトは石版から目を離すとフィーメリアへと視線を移す。
 
 
「レベルアップをお願いします」
 
 
(やっぱり、かぁ・・・)
 
 
その言葉を予想しては居たのだろうが、フィーメリアは軽い溜息をつく。
 
 
「レベルアップだけで良いの?そろそろクラスチェンジの申請をしてみない?」
 
 
半ば返答を確信していながらもそう聞き返した。
 
 
(ああ、やっぱりな)
 
 
「あはは・・・それはまた今度でいいです」
 
 
フィーメリアの溜息や、少しばかりこちらを攻めるような眼差しに、言われるだろうと察していたアズライトだったが、愛想笑いを浮かべそう濁すしか無かった。
 
 
「じゃあ、レベルアップの儀式を行います」
 
 
もう一度今度は重い溜息を一つつくと、フィーメリアはそう言ってまたボタンをいくつか押す。
 
すると水晶の中の黄色い光が一欠片タンポポの綿毛のように外へと現れアズライトの頭上へと跳んでいく。
 
 
パアァァァァン
 
 
少し甲高い音と共に弾けアズライトの体に黄色い光の粉が付着していく、そして全てが付着すると一瞬だけアズライトの全身が光り。
 
『レベルアップが完了しました
 
レベルが44になりました、体力が2上昇しました』
 
アズライトの脳内に無機質な声が流れた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
 
どうも、K・Yです。
 
久々にフィーメリアさんかくとやっぱり色々嬉しい・楽しい作者ですw
 
今回の一応の大きな変え所は「偉大なる麻袋」
 
というのも作者の気のせいかも知れないけど意外と前の名称を使ってる小説とか見掛けたので、捻くれ者の作者としては「名称変えなきゃ、なんかスッキリしない!!」とかって思ったわけですよ。
 
・・・でも正直、こんな早くこのアイテムの名前出してること忘れてましたがねw
 
もう2.3話後で出してた気がしてたのに全然早かったwww
 
 
 
 



[15492] 第二話
Name: K.Y◆4f5df61f ID:7900bcbf
Date: 2010/01/21 21:44
 
 
 
『レベルアップが完了しました
 
レベルが44になりました、体力が2上昇しました』
 
体力が2上昇、これがノービスがレベルアップした時に得られる全てである。
 
特殊な装備品の能力を引き上げる『攻力・防力』、攻撃力が上がる『力』、防御力が上がる『耐久力』、行動・命中・回避に関わってくる『敏捷』等と言った他のステータスは、ノービスでは上がることは無い。
 
確かに、尽きれば死に至る為、もっとも重要だと言われている『体力』が上がるのはありがたい。
 
が、しかし、それだけしか上がらないのであれば、敵の攻撃に耐えられる時間が延びるだけで、敵を打倒するチカラを得ることは出来ない。
 
つまり、ノービスの間は最弱と言われるファーストダンジョンのモンスターすら弱く感じることが出来ず、常に死と隣り合わせでレベルアップに励まなくてはいけないのだ。
 
しかし、一次職に転生してしまえばガラリと変わる。
 
一番簡単だと言われている一次職、戦士でさえレベルアップはノービスの約10倍の加護が得られると言われているのだ。
 
故に、短時間で条件がクリア出来る戦士が一次職中では一番多く、一番時間が掛かる騎士が一番少なくなっている。
 
 
「どうも、ありがとうございました」
 
 
レベルアップの光りに目をやられないよう閉じていたアズライトは、何時もと変わらない声に軽い落胆の溜息を落とすと、目を開きフィーメリアへ視線を移し改めてお礼を述べる。
 
 
「ううん、これがお仕事だしね」
 
 
フィーメリアはそう返した後、表情を曇らせたまま聞き辛そうにしながらもある事を尋ねた。
 
 
「・・・・・・その、何度も聞いて悪いとおもうけど、何でクラスチェンジしないの?いつも『また今度』って言って・・・そのままだよね?」
 
 
「そ・・・れは・・・」
 
 
今まで色々な人よりされた質問、それこそ冒険者となってすぐにお世話になった人や、顔も知らない冒険者、ノルンの職員からも聞かれたことがあった。
 
しかしアズライトは、その問いに一度もしっかりとした返事を返したことはなかった。
 
 
「もしかして、特別なスキルが手に入るとか言われたの?でもノービスでは例外である1つのスキルを除いてスキルを得たって話は聞かないんだけど・・・」
 
 
フィーメリアも、アズライトの言い辛そうな表情を察するが、彼女にも色々と思う所があるのだろう、さらに尋ねてくる。
 
 
 
『スキル』
 
 
 
レベルアップを神よりの加護だとするならば、スキルは神の恩恵だと言われているモノである。
 
経験を積めば条件が満たされるレベルアップと違い、スキルはその冒険者の行動によって舞い降りてくる。
 
つまり、自身の冒険の成果の一部だと言えるものなのだ。
 
多種多様なものがあり、メリットがあるモノやデメリットがあるモノもある。
 
しかし、スキルは選ぶモノではなく与えられるモノ。レベルアップ、もしくはクラスチェンジの時に自動的に付与されそれを消すことは出来ない。・・・全ては己の行動の結果、得るモノだからだ。
 
 
「あ、それはないです。俺も素質に関係無くノービスで得られるスキルがあるなんて、聞いた事無いですから」
 
 
フィーメリアのその言葉に、俯いていた顔を上げると苦笑と共に首を横に振り否定する。
 
スキルもまた、一つの例外を除きノービスで得たと言う話は聞いたことがない。これもスキルを得られる程の下地が、ノービスでは出来てないからだろうと言われている。
 
だから、もしそんな眉唾どころか十中八九嘘であろう情報に踊らされているのならばと考えての問いであり、あり得ない事を言われた為の否定だった。
 
 
「そっか・・・そうだよね、流石にそれぐらい知ってるよね。それに・・・冒険の仕方は人それぞれだものね」
 
 
(やっぱり・・・どうしても話してくれないんだ・・・)
 
 
「はい・・・すみません」
 
 
フィーメリアはアズライトの言葉を受け、今回も引き下がることにした。
 
今まで何度か似たようなやりとりをしている為に、それにこの重い雰囲気を変える為にも。
 
そして、それを察した為にアズライトからも謝罪の言葉が出て来たのだ。
 
 
「今日も、どうもありがとうございました」
 
 
「ううん、それじゃあアズ君またこうして会えるの、楽しみにしてるから」
 
 
その微妙な空気に急かされるように立ち上がると、アズライトは今日の用件はこれで終わりとの意味も込めて頭を下げる。
 
それを座ったままながらも、彼女なりの『死なないで』という思いを込めた笑顔で部屋を出て行くアズライトを見送る。
 
そして扉が閉じた後、少し悲しそうに扉を数秒見つめると彼女も席を立ったのだった。
 
フィーメリアが強くクラスチェンジを勧める理由、それは冒険者の死亡率に関係がある。
 
二つ、という言い方もおかしいが、冒険者の死亡率が高い時期がある。
 
それが、ノービスの期間中と、一次職へとクラスチェンジしてすぐなのだ。
 
ノービスの期間中は、幾ら敵が弱いファーストダンジョンとはいえ自分自身も体力しか上がらない上に、戦闘・・・つまり殺しに慣れておらず、怯えや緊張に縛られ殺されてしまう事が多い。
 
もっとも、剣士や騎士を目指そうとし、ステータスはほとんど上がっていないのに戦闘行為に慣れてしまい、深追いしすぎて死ぬというケースも少なくないのだが。
 
一次職へのクラスチェンジしてすぐ、というのは、自分の強さを過信してしまうからである。
 
幾らノービスでなくなったとはいえ、レベルは1か2に落ちているのである。
 
故に、金銭的に余裕があれば装備を新調しニブルヘルムへ挑むか、もしくは、今一度ファーストダンジョンに戻り、レベルを上げ直し、資金を多少なりとも増やしてから挑むのが正しいとされている。
 
だが、ノービスからクラスチェンジできたことに舞い上がり、まだ育ててもいない強さを盲信し、自分の力を試したいと、新しい力を感じたいと・・・ニブルヘルムへクラスチェンジしたその足で向かってしまう者も、少なくないのである。
 
もっとも、死亡の比率で言えば7:3程で圧倒的にノービスの期間中が多いのであるが・・・
 
だからこそ、未だに死亡率の高いノービスであるアズライトの事を心配し、クラスチェンジを勧めるのである、が・・・今回のように結局、お互いがお茶を濁す感じで終わってしまうのだ。
 
 
「・・・・・・はぁぁぁ」
 
 
六番ボックスより出て来たアズライトは、中では抑えていた溜息を外に出るなり吐き出していた。
 
それは何もフィーメリアの質問に対しての鬱憤や、余計なお節介だと感じて出たものではない。
 
自分がクラスチェンジをしない理由、それを答えられないからだ。
 
というのも、アズライトがクラスチェンジをしないのは具体的な目標があるからではないのだ。
 
ノルン独特のシステムの一つに「ベットシステム」というモノがある。
 
ベットシステム、それは冒険者として登録する時にノルンより提案される特典であり、賭け(ベット)の事である。
 
冒険者として登録したら、担当官というノルンに関わる様々な事を受け持ってくれるスタッフが就くのであるが・・・ベットシステムはこの担当官をリストの中より選ぶことができる。
 
すると、その担当官に見合った条件が提示され、それをクリアすれば担当官を自分の物とできるのである。
 
これは、ノルンが冒険者に少しでもやる気と、ギルドに対して良い印象を持って貰おうと定めたもので、その効力はかなり大きい。
 
当然、担当官として就職しているスタッフは、背景がどうあれ、全員これを承知して就職している。
 
もっとも、奴隷として買われた者は強制であるし、スタッフのほぼ全員が何らかの事情があったり、このシステムを目当てとして就職している者すら居るのだが・・・
 
突然ではあるが、スカンディアは都市である為に王はいない。
 
その代わりに、この都市を治めているのがノルンの運営陣と、貴族連合と言われる、貴族の中より選出されたメンバーである。
 
主にノルンが迷宮や、冒険者などを含めた都市民や流通関係を取り仕切り、貴族連合が、外交や取り決め等を仕切っている。
 
つまり、スカンディアの頂点にあるノルンの取り決めは、想像以上に強いのだ。
 
担当官を自分の物とできる、とあるが、これは準奴隷という立場で譲られる。
 
同居人や、相棒、使用人ですらなく準『奴隷』としてである。
 
これは、生殺与奪権までとはいかないが人権まで譲られる。
 
殺せば殺人罪が適応されるが、極端な話、ペットのように扱っても、腕や足が無くなっても、生きていれば罰されないというものだ。
 
もっとも、条件を達成するまで、レベルアップやクラスチェンジ等と色々お世話になった相手でもある。
 
譲られたとはいえノルンの職員であったことは変わりないし、職員でなくなったからと言って完全にノルンとの関わりが消えると言う事でもない。
 
それに冒険者とノルンの関係は途切れないの上に、理不尽なことばかりしていればノルンもその冒険者には非協力的になる。
 
それは実質的にスカンディアでは生きていけないのと同義でもある。
 
なにも、スタッフを不幸にするために作ったシステムではないからだ。
 
それなのに譲ったスタッフに不幸が訪れたのならば、ノルンとていい顔をするわけがない。
 
だが、そういう点を差し引いても理不尽が通る決まり事なのだ。
 
ノルンもスタッフの恋愛事情に対してまでは口は出さないし、結婚も自由である・・・が、結婚していたとしても冒険者が条件を満たしたならば、強制的に離婚が適用され冒険者へと譲られる。
 
夫が異議申し立てをしようと聞き入れられず、取り返しに行き殺されようが相手は無罪とされ、取り返せたとしても誘拐・拉致監禁などの罪で逆に裁かれる事となる。
 
故に、スタッフの多くは結婚どころか恋人すら作らない、が、スタッフは容姿などでも選ばれるため告白や求婚などは少なくない。
 
そういう点も割り切って一夜限りの付き合いや、交際などをするスタッフもいる。
 
もっとも、割り切っていたつもりでもその場面となると割り切れず、問題となる事もあるのだが。
 
しかし、その立場さえ受け入れてしまえば、将来有望で一般職よりは危険も多いが収入も多い男と一緒になれ、その上大事にされる可能性も極めて高いのである。
 
だから、このベットシステムに目を付け楽に、もしくは楽しく優雅に暮らしたいと就職を希望したスタッフも少なくはない。
 
肝心の条件であるが、クラス・スキル・寄付金の三つが基本的に条件として提示される。
 
そして、クラス・スキル・寄付金の順に重要視され、優先度の高い順番となる。
 
寄付金は、もちろんノルンに対する、純粋な寄付として払う金の事であり、クラス・スキルはそれぞれ、取得人数や取得難易度の関係がある。
 
それを達成できれば、担当官を貰えるのである。
 
尚、寄付金については一度の金額上限と、再度支払い可能となる期間が設けられている。
 
これは、貴族や金持ちが容易かつ、短期間で担当官を得るのを避け、一般的な冒険者の割り込む余地を造ると共に、本当にその担当官を欲しているのかを見る期間としても設けられているのだ。
 
あと、このシステムは冒険者として登録するときに一名だけ指名するものではあるが、一人が一人の担当官を、と言うものではない。
 
冒険者が指名できるのは一人であるが、他人が決めたからと言ってそのスタッフを指名できないというわけではないのだ。
 
つまりは、100人が同じスタッフを担当官として指定している場合もある。
 
そして、指名する冒険者が多ければ多いほど、その担当官の条件は厳しくなっていくという仕組みになっている。
 
なお、条件が厳しくなった場合は、窓口にて受付嬢より条件の変更が伝えられる。
 
以上がベットシステムの簡単な説明となる。
 
それで、アズライトがノービスのままでいる理由であるが・・・アズライトの担当官は先ほど別れた、フィーメリア=シセイ=ドリアドネである。
 
彼女はエルフという種族の中でも特殊な、ハイエルフと言われる種族である。
 
ハイエルフという種族はエルフと違い、殆ど人間と関わった事が無い。
 
エルフと人間は前に戦争を起こしたこともあるが、ハイエルフとなると歴史を紐解いても、人と関わったのは50人にも満たない数なのだ。
 
エルフという種族は人間よりも長寿であることで有名で、フィーメリアもその外見からは予想ができない期間、30年ほどノルンの職員として働いている。
 
その30年という期間、全てではないが大半を担当官として勤めてきた。
 
彼女は、エルフ種族のみが有するスキルと、その美貌で多くの冒険者より担当官として指名されてきた。
 
中にはもう死んだ者もいるが、ベットシステムは死んだ者がいたとしても、一度上がった条件を下げることはない。
 
故に、彼女の条件は最高難易度のものとなっている。
 
『・クラスによる条件は、新たなるクラスに足を踏み入れた場合譲渡する
 ・スキルによる条件は、新たなるスキルをその身に刻んだ場合譲渡する
 ・この者については、寄付金による譲渡は一考すらしない事とする』
 
これは実質的にノルンが金銭では彼女を譲らず、偉業とも呼べるほどの事を達成する者にしか譲渡しないという事である。
 
尚、この条件というのもは事前に尋ねれば教えて貰える。
 
故に、担当官が欲しいのならば、自分の好みとその担当官の条件を照らし合わせていき、手に入れられそうな担当官を指名する。というのが一般的である。
 
だが、中には一か八かに賭ける者、どうせ手に入らないのなら他人の手に渡らないように条件を吊り上げてやろうと考える者、そしてただただその人を欲しいと思ったから指名する者等がいる。
 
そしてアズライトは最後の、ただただその人を欲しいと思ったから指名した人間であった。
 
それはまさに初恋であった。リストの中の顔写真を見た瞬間から脳に焼き付いた。だから衝動的に指名してしまった。
 
初めて対面したときに、実際に生きて目の前にいる彼女に、更に恋に落ちた。
 
もしかしたら、年齢的なモノもあり恋に恋しているだけかもしれないが、その感情は抑えられるようにはなったものの、純度は全く落ちていない。
 
少なくとも抱いた気持ちは変わっていない、とアズライトは信じているのである。
 
しかし、それと同時に気付いてしまった、この恋を実らせるには到底不可能と思われる条件を達成するしかないと。
 
告白をしても応えてくれるか解らない、恋人となっても結婚してもらえるかわからない、結婚しても条件を達成した冒険者が彼女を奪っていってしまうかもしれない。
 
多感な時期であったのも影響したのだろう、悪い事を考えては良い事を妄想し、最良を考えては最悪が頭に浮かび落ち込む。
 
一人芝居も良いところであるが、事実ではあった。
 
だが、最後のスキルが発見されたのが約50年前、最後の一次職である騎士が発見されたのが約300年前で、もっとも新しく発見された三次職のクラスですら、発見されたのは約100年前なのだ。
 
その上、アズライトはようやくスタートラインに立ったというのに、彼女を欲している冒険者達は・・・その最前線はどれ程の高みにまで上がっているのか。
 
実際には確認できる事ではないのだが、勝手に想像を高めては、勝手に落ち込んだ。
 
そしてその結果たどり考え付いたのは『普通の冒険者として進んではダメだ』という思いであった。
 
そして、その頃にはもう窓口にて受付嬢をしていたディアンナに聞いた所、ノービスで最も高いレベルまで上げた者は28まで上げたという記録が残っているとの事だった。
 
10・15・20というレベルでそれぞれクラスが見つかったのだ、25で新たなるクラスがあると思ったのだろう、しかし未だに新しい一次職は発見されていない。
 
だが、諦めきれずに28まで粘ったのだろう。
 
『しかし、28でだめだったのなら、自分は30まで、それでもダメならば35まで上げてみよう。』
 
それがアズライトの当初の目的だったのだ。
 
そしてアズライトは35まであげれば何かしらの変化か、発見があるだろうと思っていた。
 
しかし、いざ35まで上げても、何の変化も無かったのである。
 
つまりアズライトは冒険者の一歩目から思い切り躓いてしまう事となった。
 
そういうのはよくある事であるが、彼は若いという事もありそうは思わなかった。
 
『自分の周り全てが・・・世界が自分を嫌っている』と、若い時によく陥る考えにはまってしまったのだ。
 
そして浮かんでしまったのは最悪のヴィジョン、自分がこうして無意味に足踏みしている間に、誰かが新たなるスキルかクラスを発見し、彼女を自分から奪い去っていくというヴィジョンである。
 
何十年と出来ていない事を簡単にできるわけはない。
 
それに確かに指名者数では一番はフィーメリアであるが、なにも新たなるスキルやクラスを発見した者が彼女を指名している冒険者だとは限らない。
 
しかし、だからといって彼女の事を諦めることは出来なかった。まだ誰の物にもなっていないし、条件を満たす者が出たわけでもない。
 
だが、彼女を欲している冒険者と今更普通に競い合っても、勝ち抜けると思えなかった為にこうしてノービスのままレベルを上げているのだ。
 
故に、彼は考えるのを止め、惰性で今まで通りノービスでファーストダンジョンに潜りだしたのである。
 
もちろん彼も成人している為、生活していかなければいけないという思いもあったが・・・
 
そんな生活を初め、しばらく経った時にある考えたが浮かんだ。
 
それは他人から見れば優柔不断で消極的極まりないものであった。
 
『このまま何か変化があるまでレベルを上げ、その間に彼女が奪われるような事になったら、冒険者を諦め別の職業を目指そう』
 
ノービスという、「何者にもなれるが何も極められないクラス」であったが故に浮かんだことであろう。
 
冒険者として登録はしたが、ノービスならば別の仕事に就くことも可能なのだから。
 
しかも彼はこの考えを、前向きに考えた結果に出た結論だと思い悲壮感など無く、悩みから解き放たれた晴れ晴れとした顔でダンジョンへと向かっていったのである。
 
もっとも、今となってはなんと後ろ向きな考えだったのだろうかと反省している、が、ならばどうすべきかという結論はやはり出せずに、考えぬようにしたまま惰性でファーストダンジョンへ潜り続ける。
 
つまり、どうしてクラスチェンジしないのかと、なにか理由があるのかと聞かれても、答えられないし、こんな心情を伝えたくもない。
 
結局のところ、なぜクラスチェンジせずにノービスのままなのかというと、希望と惰性と諦めが混じり合った為であり、明確な目的などは無い。
 
そして、何らかの要因か変化がなければこのままノービスのままであろうと言う事もうっすらとではあるが頭には浮かんでいた。
 
 
「どうにか・・・したいんだけどなぁ・・・」
 
 
換金所のことを忘れ、そのまま出口に向かいながらアズライトはそう呟いた。
 
 
 
 
 
後書き
 
どうも、K・Yです。
 
迷宮物と銘打っておきながら・・・迷宮潜ってないねw
 
・・・作者としてもさっさと潜らせたいんですが、一時こういう説明多めで進んでいきます。
 
いあ、作者としては設定も楽しく書いてますのでいいんですが・・・読者の皆様には「我慢してね☆」としか言えないなぁ・・・楽しんで頂けたら勿論嬉しいですがw
 
 
 



[15492] 第三話
Name: K.Y◆4f5df61f ID:7900bcbf
Date: 2010/01/31 20:17
 
 
 
『もしかして、特別なスキルが手に入るとか言われたの?でもノービスでは例外である1つのスキルを除いてスキルを得たって話は聞かないんだけど・・・』
 
 
アズライトの頭には先程言われた言葉が蘇っていた。
 
その言葉に彼は噂でも聞いたことがない、そう返したのだが・・・
 
 
「自分で・・・確かめたもんなぁ・・・」
 
 
過ぎ去った事だからだろう、苦々しい笑みを浮かべてそう一言呟いた。
 
『レアスキル』という言葉がある。
 
これはノルンが使い始めた言葉であるが、所持者人数が100人に満たないスキルの事を指す。
 
そして、そのスキルの中に『百戦練磨』というスキルが存在する。
 
取得条件は『一日の間に単独で100体の敵に打ち勝つこと』
 
追加条件として『同等以上の敵である事、パーティを組んでなくてもアイテム等を譲渡される・支援を受ける、預けていた分を返して貰う等の行為も単独では無いとする』という厳しいものもある。
 
それ故に条件を満たす事が難しく、レアスキルとなっているわけだが。
 
 
『このまま何か変化があるまでレベルを上げ、その間に彼女が奪われるような事になったら、冒険者を諦め別の職業を目指そう』
 
 
そう決めた後に変化を起こす為に行った事、それがスキルの獲得であり、狙ったのが百戦錬磨のスキルであった。
 
彼なりの考えがあったからだ、同等以上の敵とされているがノービスの状態では同等以下と言えるモンスターがいない、と考えたからである。
 
しかし、懸念が全く無かったか、というとそうでもない。
 
レベルである。
 
ファーストダンジョンの適正レベルは、10から20とされている。クラスチェンジ可能となるレベルの関係だ。
 
だが、アズライトはこの時にレベルが30以上となっていた。
 
経験値というものはレベルが低ければ低いほど多く、レベルが上がれば上がるほど低く得られるようになっている。
 
これはノービスとて例外ではない。
 
事実、レベル1のノービスは5体程倒せばレベルアップできるが、レベルが10ともなると20体倒していてもレベルアップできるかは解らない。
 
しかし、レベルが30だからといってファーストダンジョンのモンスターが弱いかと、同等以下かと聞かれると、答えは否である。
 
故に彼は諸々の道具を揃え、準備を整え100体斬りを達成しようとした。
 
『一日』という定義が、自分がダンジョンに入ってからなのか、その日の内なのか、それともモンスターと戦闘に入ってからなのか解らなかった為、万全を期して日付が変わってすぐにダンジョンに入り挑戦する、という事まで行ったのだ。
 
もっとも、後々『冒険者がダンジョンに入ってから24時間以内』という意味での『一日』であると解ったのだが。
 
100体斬りというのは、途轍もなく大変であった。
 
それを証明するように、アズライトは三度の失敗を経てようやく成し遂げることが出来た。
 
消耗品が足りず、集中力と緊張感が足りず、体力的に保たず、と、失敗を重ね、どうにか達成したのだ。
 
もっとも、達成した後は疲労と、筋肉痛にあわせ倦怠感等で一週間ほどファーストダンジョンには立ち寄りもしなかったが。
 
どうやって100体倒したかの確認は、血晶石の数である、血晶石の数=敵を倒した数であるため、間違うことは無い。
 
偉大なる麻袋は、表面に中に入っている物のリストと個数が浮かび上がる。その為、数え間違えるという心配もない。
 
レベルアップも、この時の為にと行わずにおいていたのだ。
 
そして意気揚々とノルンへと向かったが、結果として、百戦錬磨のスキルは得られなかった。
 
ノービスである為に得られなかったのか、懸念した通りレベルが高かった為に得られなかったのかは解らないが、原因がなんであれ得ることができなかったのである。
 
その時の落ち込み様は見ている者も悲しくなるほどであった。その時はフィーメリアは別の冒険者の対応をしていたため、空いているスタッフが担当していたのだが、アズライトとほぼ初対面である彼女が慰めの言葉を思わず掛けてしまうほど落ち込んでいた。
 
余談ではあるが、経験値が多く溜まっている時にレベルアップを行うと、一気に適正となるレベルまで上がる。
 
つまり、37から41へといきなりレベルアップすることも可能であり、この時にアズライトは41というレベルまで上がった。
 
この様な経験があるために『ノービスはスキルを得られない』と言う考えに至っており、事実ノービスの間にスキルを得たと言う話は例外を除き聞かないのである、どんなに難易度が低いスキルだとしても。
 
 
「ちょっと!!アズライト君!!換金は!?」
 
 
「えっ!?あっ!!は、はい!!」
 
 
少しばかり思考に捕らわれていたアズライトは、無意識の内に出口の方へと歩いていた。
 
それを、窓口にいたディアンナが気付き、思わず声を掛けたのだ。
 
 
「もう・・・何か考え事してたのか知らないけど換金を忘れるなんて・・・それに、換金しないにしても、せめて一言あってもいいんじゃない?」
 
 
「あ~・・・いや、その・・・ゴメンナサイ」
 
 
ディアンナのその声に、ようやく我に返ったアズライトは何も反論が出来ず、素直に頭を下げる。
 
アズライト自身も、換金をしなければいけないとは思っていたがすっかり忘れていた為だ。
 
 
「全く・・・換金所も今は人いないみたいだし、さっさと行ってきなよ」
 
 
「ああ、本当に声を掛けてくれてありがとう」
 
 
なにやら小言を漏らしながらも、ディアンナは手元の装置を何やら操作するとアズライトにそう言う。
 
換金所の様子を調べてくれたのであろうと察したアズライトは、それも含めて感謝の言葉を言うと、換金所へと足を向ける。
 
換金所の前に大きな待合室があるのだが、ディアンナが言ったとおりそこには一人の冒険者も居らず、そのまま続く扉を開け中に入る。
 
 
「すみません、換金をお願いします」
 
 
「また懲りずに薄紅色のを持ってきたのか・・・ご苦労なことだ」
 
 
雑貨屋という感じで物が乱雑に置かれ、一件の大きな店と同じ規模を誇る部屋。
 
それが換金所であった。
 
アズライトの言葉に皮肉な言葉を返してきた男、ベベス、彼がこの換金所のスタッフであり凄腕の鑑定士兼鍛冶師でもあった。
 
年齢は六十後半から七十前半と言った所で、背はそこまで高くなく160半ば程だろう。
 
体型はガッチリとしており、その肌は褐色だが、日に焼けた黒さが滲み出ていた。
 
髪の毛は年齢のせいか、元々かは解らないものの白一色であり、瞳は金色と見間違えそうながらも黄色である。
 
目つきは鋭く、掛けている眼鏡がその眼光を遮る要素とは全くなっていない。
 
その言葉に苦笑しか浮かべられず、黙ってカウンターの上へと換金して貰う品物を置いていく。
 
偉大なる麻袋は、袋の中に手を入れ、出したい物を思い浮かべるといつの間にか手に握られている、という方法でアイテムを取り出せる道具である。
 
故に、整理したり、探し出したりする必要もなく、今も売り払う物だけをスムーズに取り出していく。
 
薄紅色の血晶石×17個・錆び欠けた剣×2本・棍棒×3本
 
これが今日換金して貰う品物であり、血晶石以外のアイテムは敵が消えた後にも残っていた、いわゆるドロップアイテムである。
 
 
「何時も通り、剣・棍棒は一つ10銀貨だ
そして血晶石はファーストダンジョンの物だから半値の50銀貨・・・いいな?」
 
 
「はい、お願いします」
 
 
並べられた品を一別した後、ベベスはそう尋ね、返事を貰うと直ぐさま確認の為の鑑定を行っていく。
 
 
「後血晶石が二つあれば、金貨だったのにな、尤も本来なら金貨二枚分に近いってのにな」
 
 
「あはははは・・・」
 
 
その言葉に乾いた笑い声を返し、差し出された銀貨を偉大なる麻袋へと入れる。アズライトは財布も兼用して使っている。
 
こうすれば所持金もわかりやすいし、セキュリティの面でもマジックアイテムである為普通の財布を持つよりもしっかりしている。財布を持つよりも安全性が高いのだ。
 
ちなみに、基準となる一番小さな貨幣が1銀貨であり、1銀貨・10銀貨・100銀貨とある。
 
1000銀貨で1金貨となり10金貨・100金貨・1000金貨とある。ここまでが丸い形をした貨幣で、10000金貨で1金板となる。
 
この金板は長方形をした貨幣で、一番上の貨幣となっている。
 
ちなみにそれぞれ、銀貨(シルバー)金貨(ゴールド)金板(プレート)と呼ばれている。
 
 
「早く、小っこいままでも良いから真っ赤な石を持ってこい
いい加減薄紅色の石は見飽きた」
 
 
お礼を言い、部屋を出ようと扉を開けたアズライトの背中にそんな声が掛けられた。
 
 
「・・・・・・すいません」
 
 
それがベベスなりの心配からの言葉だとは解っている。だが、それにまだ応えられない為に顔を向けられないままに頭を下げ謝る。
 
 
「・・・ったく」
 
 
それに応えるかのようにベベスの口より漏れた、トーンは変わっていないものの気落ちしたような声を聞いてしまい、それ以上何も返せず静かに部屋を出た。
 
その後は、今すぐ結論が出ないことを理解しているアズライトはベベスとの事を考えないようにし、今度こそ用事は終わったとディアンナに一声掛けて外へと出るため出入り口をくぐる。
 
先ほども見た、外庭と呼ばれる空間、そこには不思議な物が建っていた。
 
高さ5メートル、幅2メートル、厚み90センチほどの黒曜石のような、真っ黒な長方形の石柱であった。
 
それは大神殿を丸く囲うように等間隔で並んでいる。
 
元は同じ形であったのだろうが、罅が入っている物や欠けてしまって長方形でない物、半分や半分以下に割れている物も多くある。
 
アズライトはその石柱を複雑な目で見た後、そのまま自分の寝泊まりしている宿へと向かっていく。
 
この石柱はモノリスと呼ばれる物で多くの物は黒一色だ。
 
だが、100以上並んでいる中に幾つかだけ白い文字が浮かんでいる物がある。
 
それらにはそれぞれ別の事が書いてあり、この書かれた内容は全て神託(オラクル)と呼ばれている。
 
『クラスネーム:戦士
必要レベル:10
必要条件:なし』
 
『クラスネーム:剣士
必要レベル:15
必要条件:獲得経験値の10%以上を単独で獲得』
 
『クラスネーム:騎士
必要レベル:20
必要条件:獲得経験値の20%以上を単独で獲得
    :一度の探索での戦闘回数20回以上』
 
そう、モノリスには戦闘職のクラスチェンジに関わる事項が記されているのだ。
 
ノルンの歴史書にはこう記されている。
 
『モノリスは神託を広めるもの、神託を知るものが増えればモノリスにもより多くの事が記されていく』と。
 
何故かは解らないが、このモノリスは一般職等は記されていない。冒険者に関わる戦闘職だけが記されているのだ。
 
で、このモノリスであるが、そのクラスになった者が増えれば増えるほどその内容が記されていく。
 
具体的に言うと、初めてそのクラスになった者が出たときにモノリスにクラスネームが記され、三名になったときに必要レベルが記される。
 
そして、10名を超えたときより必要条件が記され、11人目、12人目とさらなる条件が記されていくのだ。
 
つまり、このモノリスに新たなる文字が刻まれた時、フィーメリアを獲得する権利を得た者が現れるかもしれない為に、アズライトは複雑な目を向けたのだった。
 
そして、アズライト自身も無自覚であろうが、自分自身が新たに記すのだと言わんばかりの熱く鋭い視線も含まれていた。
 
 
 
 
 
宿屋「生み卵」
 
ここはノルンと特別契約を結んでいる宿屋で、ノービスの間は宿泊費の割引が受けられる。
 
余談であるが、宿の名前はノルンとの特別契約を結んだ時に変えられている。
 
初心者、つまりヒヨッコの為の宿であることを前面に押し出そうとして、この様な不思議な名前となったのだ。
 
ノービスであるアズライトもその恩恵を受け、一年半ずっとお世話になっている所でもある。
 
ちなみにここは、ほぼノービス専用となっているために、ノービスでなくなったら出て行くのが暗黙の了解となっている。
 
立地的にも他の宿屋より不便が目立つ位置、ファーストダンジョンには近いが商店街等には遠い為に、クラスを得たら出て行く事に不満を告げる者は殆ど居ない。
 
ノービスでなくなれば割引が無くなる上に、ノルンからの勧告もあるからだ。
 
 
「お疲れさん、晩ご飯はもう部屋に運んでるからね、しっかり食べて明日に備えるんだよ」
 
 
故に他の冒険者が泊まる宿屋と違い、客の回転が速い、だから宿屋の従業員も客の顔をあまり覚えないのであるが、アズライトは一年半の長期滞在者であり不名誉ながらも有名人でもあるために、名前と顔を覚えられている。
 
 
「ありがとうございます」
 
 
その、少し乱暴ながらも暖かい言葉に笑顔を返し、自室へ戻るとまだ湯気を立てている夕食を頂き、頃合いを計って食器を下げに来た女将さんにお礼を告げ、探索の為の準備を済ませると装備品を脱ぎ去り、ベッドへと横になる。
 
 
「明日も・・・頑張ろう」
 
 
ギルドに行き、色々な人に心配されたり、声を掛けられたためであろう。
 
フィーメリアやベベスの顔と共に、心の中に浮かんできたモヤモヤしたものを抑えるよう、そう呟くとそのまま眠りについた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
 
どうも、K・Yです。
 
とりあえず、今回のお話でチュートリアル的な部分は終わったかな?
 
ひとまず、冒険後の流れと基本的な事は書けましたねぇ、これからも随所に説明は盛り込んでいきますが・・・
 
次回よりは、ようやく迷宮部分を書いていけるはず!!
 
 
 



[15492] 第四話
Name: K.Y◆4f5df61f ID:48e96a2e
Date: 2010/03/27 15:45
 
 
 
「はい!小瓶回復薬が10に毒消しが5つ、麻痺消しが5つっと、何時も通りの揃えておいたよ」
 
 
「マールさん、今、店に入って来たばかりなんだけど・・・」
 
 
道具屋『トールハンマー』武器屋の様な名称だが正真正銘の道具屋で、アズライトが冒険者として登録した頃より愛用している店である。
 
迷宮に潜る前に消耗品の補充をしようと考えこの店に来たのだが、扉を開け中に入った途端にカウンターの上に並べられる、自分の買おうとしていた品々、そして先程の言葉だ。
 
 
「いいのいいの、きにしない」
 
 
苦笑を漏らすしかないアズライトに向けて、そう言い放ったのはこの店の店主兼売り子である、マール=ディカーテであった。
 
一年以上通っている事もあり、アズライトとは顔馴染みで、この頃はこの様なやりとりから始まる事が多々ある。
 
金色の、腰よりも長い髪を後ろで縛りポニーテイルにし、緑色の瞳と少し日に焼けた肌、服装は上は白いシャツと青い上着を肘まで捲り上げている、下も上と同じ色の青いロングパンツ。
 
年の頃は20代前半と言う所であろう。
 
服が男物だからだろうだぼっとした、ゆとりある服装で仕事柄か化粧はなどはしている様には見えなかった。
 
 
「まぁ・・・いいけどね、でもさ、もし違ってたらどうするの?」
 
 
アズライトはその様な事を言いながら、カウンターの上に並べられた小瓶回復薬・毒消し・麻痺消し、つまり何時もファーストダンジョンに持って行く道具類の数を一応の為と確認する。
 
 
「あっはは、そんな事言ったって、君がこの時間帯に来て買う物なんて殆どがこの探索用のセットで、たまに食料を買うかどうかじゃない、というわけで300銀貨ね~」
 
 
そんな言葉にも、明るく笑顔のまま返答すると、手のひらを突き出しながら代金を要求する。
 
 
「仰るとおりです・・・それじゃあ、行ってきます」
 
 
事実を指摘され、適わないなぁという表情を浮かべた後、代金を手渡すと道具類を麻袋にしまい込み、まるで当たり前のように挨拶をすると道具屋を後にした、そう、まるで家から出掛けるように。
 
 
「はいよ、気を付けてね~」
 
 
それに当然のようにそう返すと、アズライトの背中へと手を振る。
 
そしてアズライトが出て行ったのを確認すると。
 
 
「さてと、弟君も仕事に行ったし、私もお仕事お仕事、っと~」
 
 
そう楽しそうに言いながら、奥の作業場へと姿を消していった。
 
マール=ディカーテ、勿論アズライトとの血縁関係など全くなく、知り合ったのも彼が冒険者となってからであったが、どうも、彼女の中ではアズライトは弟という位置付けにされているようだ。
 
 
 
 
 
スカンディアは迷宮『ニブルヘルム』を中心とし、円形に形作られた都市である。
 
バルドゥル大神殿もニブルヘルムの近くにあり、高名な貴族の住まいや、一流と言われる武器屋・防具屋・道具屋等も大神殿を中心として店を出している。
 
後は東西南北とエリア事に居住区や工房等と、大まかに分けられている。
 
そして北のエリアに、ファーストダンジョンは存在していた。
 
 
「やぁ、アズライト君、君を待っていたんだ」
 
 
慣れ親しんでしまったくすんだ銀色の入口を抜け、地下一階に続く階段とテレポーターがある場所へと向かう。
 
テレポーター、これはファーストダンジョン・ニブルヘルムともに存在が確認されている神の遺産で、文字通り冒険者を指定した階へと運んでくれる装置である。
 
しかし、指定できる階はその冒険者が行った事のある階で、これはパーティを組んでても適応される。
 
つまり、パーティの中の一人が20階まで進んでいたとしても、当人以外の冒険者は20階で降りることができない。なぜか、出入り口で外に出るのを弾かれてしまうのだ。
 
だからパーティを組む時には何階まで降りれるか聞くのが普通であるし、不揃いの場合は一番浅い階層より始める事となる。
 
尤も、アズライトはその目的と、孤児という事もあり冒険者との繋がりが無い為に、殆ど単独で潜っているのだが。
 
そして、アズライトに声を掛けてきた青年、銀髪の髪に細目の為に殆ど見る事はないが銀色の瞳、身長はアズライトよりも高く180cmぐらいであろう。
 
年齢は、アズライトの一つ上である18歳である。
 
雰囲気的には華奢だが、鉄の胸当てや、ガントレット等の防具に身を包んだその姿に非力さを感じる事は無い。
 
 
フリードリッヒ=ガラン=ガーディー
 
 
スカンディアでも有名な中堅どころの貴族、ガーディー家の次男である。
 
余談ではあるが、一般人はセカンドネームまでである、サードネームまである人は王族や貴族等の、高貴な生まれか、何らかの特別な地位に居ると見て間違いはない。
 
そしてこのフリードリッヒ、彼はあまり冒険者とは縁を作らぬアズライトにとっては珍しい、あまり頭の上がらない人物であった。
 
 
「お久しぶりですフリードさん、どうしたんですか?いまさらこんな場所に来て」
 
 
「うん、実は君に頼みたい事があってね」
 
 
いつものように柔和な顔を浮かべている彼が、自分の名の呼んだ事から自分に用があるのだろうと言う事は理解していた。
 
しかし、呼びつけたり、宿の方に尋ねるのではなく、ファーストダンジョンで待っていたと言う事を不思議に思った為だった。
 
 
「今、私の家にね、別の国よりこの地に移住してこられた方々がいてね、落ち着いた生活が出来るまで案内や説明も兼ねたお世話をしているんだが・・・」
 
 
フリードリッヒはそこまで言うと、自分の後ろに控えたまま、一言も喋っていない人物を紹介する。
 
 
「この都市に来たからには是非、冒険者として活躍したいと言ってね、見ての通り今日初めてファーストダンジョンに潜るんだが・・・」
 
 
「初めまして、ユウキ=ベルケルドと申します。よろしくお願いします」
 
 
どこか冷たい表情を浮かべているユウキは、そう挨拶すると頭を下げた。
 
髪も瞳も黒で、色白の肌、特徴は自分と同じながらも、髪には艶があり、肌も透明感があった、特徴が同じであろうともアズライトには無い華やかさがあり、その顔立ちも女性と間違えてもおかしくない程、中性的なものだった。
 
そして、装備品も自分と同じ皮でまとめられた防具を全身に身につけ、ブロードソードと思わしき剣を腰に下げている。
 
それらの装備は新品で傷一つ無くぴかぴかと光りを照り返していた。
 
フリードリッヒが言った「見ての通り」という言葉は、この装備の事を指している。
 
というのも、実は冒険者にはそのクラスに応じて装備品に制限があるのだ。
 
ノービスの装備できる防具は皮や布といった、一般的な物ばかりで金属を用いた防具等は装備できない。
 
武器も棍棒や木刀等の非金属品か、ナイフなどの簡易な短剣、そして神の慈悲かは解らないが例外としてブロードソードのみが剣でありながら装備できる様になっている。
 
戦士は軽鎧と武器全般、剣士は軽鎧と一部特殊な防具と剣全般、騎士は鎧全般と武器全般、と、クラスの難易度が上がるにつれて、装備できる品物の幅が広がっていく。
 
そしてこの装備制限、なにも販売制限とか、能力値的に無理の無いように制限されている訳ではなく、装備ができないのだ。
 
というのも、自分のクラスに合ってない物を使おうとすると拒絶されるのだ。
 
違和感がずっと付きまとい、静電気のような微弱な電気が絶えず流れるのである。
 
そのような物を装備して探索に集中できる訳もなく、敵に集中できる訳もない。
 
故に、装備品からクラスの推察が可能となっている。尤も騎士でも軽鎧を好んで着る者もいるし、戦士でありながら剣士が持つ様な武器を持つ者もいるので当然ながら絶対ではないのだが。
 
しかし、新品の皮の防具を身にまとっていれば初心者のノービスで殆ど間違いはない。
 
ちなみにアズライトの装備であるが、レザーメイル・皮のアームガード・皮のバンダナ・皮のレッグガード・ブロードソード、である。
 
この装備は、金貨一枚でセット販売されており、まず初心者が初めに買う物であると言われている。
 
もちろん多少の割引がされており、全てを単品で買い揃えると金貨一枚以上の出費となるのである。
 
武器がブロードソードと決まっているのは、他の物ならば簡単に用意できるし、なにより攻撃力が一番高いからだ。
 
 
「でね、アズライト君、すまないがこの子に君の戦い方を見せて欲しいんだ」
 
 
「えっ!?・・・でもフリードさんがいるなら、俺とパーティを組んでも意味なんて無いと思いますが・・・」
 
 
アズライトはそのフリードリッヒの発言に不思議そうにそう返答する。というのも、このフリードリッヒ、アズライトが初めてファーストダンジョンに来たときにはもう剣士にクラスチェンジしていたからだ。
 
改めてレベルを上げる為にファーストダンジョンに来た時、初めての探索でガチガチに緊張していたアズライトに声を掛け、右も左も解らないアズライトに基本的な事を教えてくれた人物、それがフリードリッヒなのである。
 
だからこそ頭があがらない人物でもあるわけだが。
 
しかし、なればこそ未だノービスで他人の事まで気が回せない自分よりも、剣士として十分経験を積んだであろうフリードリッヒが一緒にいる方がよっぽど効率が良いと思ったのだ。
 
 
「いや、パーティを組んで欲しいとか、そういう事ではなくてね?この子の面倒は僕がきちんと見るから、ただ純粋に、君の戦闘の仕方を見せて欲しいんだよ」
 
 
「はぁ・・・フリードさんがそこまで言うなら、別に構いませんけど」
 
 
その言葉を聞き、ほっとしたものの、自分の戦闘なんかを見せてどうするんだろうという考えが浮かぶ。
 
 
「そういう事なら、一階から行きますね」
 
 
「うん、申し訳ないけどお願いするね」
 
 
そう思いながらも、自分には解らないが何か考えがあっての事だろうと、考えるのを止め、そのまま一階への階段へと向かう。
 
フリードリッヒとユウキもその後ろを付いてくる、ちなみにユウキは二人の会話の最中は口を挟まず、観察するような目つきでずっとアズライトの事を伺っていた。
 
おそらくはフリードリッヒからなにか聞いてたか、ファーストマスターという呼び名を知っていたか、はたまた両方か・・・どのみち不当な評価を聞き、それを見極めようとしていたのだろうと考え、アズライトは別段何も声を掛けなかった。
 
 
「あ、一応の確認ですけど、リトルバグとブラッディバットが出て来ますが、毒消しと麻痺消しの用意は大丈夫ですか?」
 
 
「うん、大丈夫だろうとは思うんだけど・・・自分だけじゃあないからね、用心の為にとそれぞれ20個づつ用意してるから、逆に分けられるぐらい持ってるよ」
 
 
「そうですか、解りました・・・余計な心配でしたね」
 
 
「いやいや、そういう把握も大事な事だからね、気にしなくて良いよ」
 
 
アズライトは、少しばかり申し訳なさそうにそう謝ったが、フリードリッヒは逆に機嫌を良くするとそう返す。
 
 
(ふんっ、最初から状態異常になる事を前提として考えるなんて、なんて弱気な・・・)
 
 
しかし、それを側で聞いていたユウキは、視線に少しばかりの呆れを含ませてアズライトを見つめていた。
 
そして、三人は地下へと続く階段へと進んでいく。
 
 
 
 
 
ここで、このファーストダンジョンに出現するモンスターについて説明しよう。
 
リトルバグ、ファーストダンジョンの1.2階に出てくるモンスターで、50cmぐらいの緑色の虫、体長が小さい為に気を付けていないと足元から忍び寄られる。
 
その噛み付き攻撃には毒性があり、毒消しを持っていないと探索はかなり厳しいものになり、最悪の場合死に至る・・・もっとも、一週間なにもしなかったら死ぬというぐらいの毒性なので、死ぬのは希ではある。
 
ファーストダンジョンにはこのリトルバグを始めとして4種類のモンスターが出てくる。
 
ブラッディバット、ファーストダンジョンの全階に出てくるモンスターで、こちらも50cmぐらいの血吸いコウモリである。
 
リトルバグとは逆に、天井に待機している為に上の方に注意を向けておかなくてはいけない、その牙には麻痺毒があり、麻痺を受けると普段よりも行動が鈍くなるので注意が必要なのだ。
しかし、こちらは感染力が弱く、10度噛み付かれて1度掛かるか掛からないかの為に過度の心配は必要ない、しかし、全階通して出現する為、麻痺消しを持たずに戦うのはかなり危険な行為だ。
 
コボルド、ファーストダンジョンの2.3.4階に出てくるモンスターで、犬の顔を持つ二足歩行のモンスター、身長も人と変わらず160~180cmぐらいである。
 
毒や麻痺はないが、人型モンスターの為、リトルバグやブラッディバッドよりも高い攻撃力を持つ。
 
コブリン、ファーストダンジョンの3.4.5階にでてくるモンスターで、緑色の肌、人型ではあるが小柄で100~130cmぐらいの身長である。
 
手には棍棒を持ちコボルドと同じように高い攻撃力を持つ、コボルドとの違いは体力の多さである、コボルドよりも体力が高いために倒すのに時間がかかってしまう。
 
尚、『ゴブリン』でなく『コブリン』である、姿形はゴブリンと同じなのだが、こちらの方が弱い為か、それとも若いのか肌の色がゴブリンよりも淡く、その身長も若干だが低いと言われている。
 
以上がファーストダンジョンのモンスターである、人型モンスターに上空からの敵、そして下方向からの敵、と、モンスターの種類は少ないものの前後左右に上下と、冒険者は全方位に注意を向けていなければならず、まさに冒険者としての基本を鍛える為のダンジョンとなっている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
 
どうも、K・Yです。
 
・・・迷宮部分、書けたけれども潜ってないわ敵との遭遇もしてないわ・・・
 
ま、まぁ、ようやく他の冒険者とかも出ましたし、次からですよ次から!!うんうん!!
 
しかし、ようやく登場ユウキ君、前読んでた方は色々思う所・・・思う所?、うん、とりあえず、新たに読んでくれてる人もいるみたいなので今更ながらですが、ネタバレとか、先の展開とか控えめでお願いします。
 
控えめと言ってるのは、後書き読んでなかったり、つい書いてしまったりとかがあると思うからです。
 
荒れる要因になってもいやですからねぇw
 
 
 



[15492] 第五話
Name: K.Y◆4f5df61f ID:48e96a2e
Date: 2010/03/27 15:46
 
 
 
自分の約3メートル後ろを付いてくる二人に、少しばかり意識を裂きながらも、アズライトは探索を進める。
 
普段はその時の気分で行く階を決め、そこを中心としてモンスターと戦っているのだが、今回はユウキの見学も兼ねると言う事で一階からとなった。
 
フリードリッヒの戦闘を見せたい、と言う言葉に合わせるようにその階で5回戦闘を行ったら次の階に行く、という方法を取り現在は地下三階であった。
 
そして、ここまで淡い笑みを浮かべたままのフリードリッヒと、視線と態度が段々鋭く、冷たくなっていくユウキとの会話は殆ど無い、と言うよりも後方にいる為に会話自体が余り生じなかったのだ。
 
もっとも、アズライトがその事を気にするあまり気を散らすと言うことは無かった。
 
というのも、基本的に全方位に注意して居るからだ。
 
頭上・足元・前後左右、その階の形状にも寄るが全方位に注意を向けていないと奇襲を受け、命に関わる為である。
 
もう三階なので足元から襲ってくるリトルバグは用心しなくてもいいものの、頭上より攻撃してくるブラッディバットは存在する。
 
1・2階は極端な事を言えば『田』の形の様な注意すべき箇所が決まっていたり見通しもある程度良い構造であったが、3階からは少し複雑な構造となっており、行き止まりなども存在し始める。
 
だから、今回はフリードリッヒが後方にいる為に気にしなくても良いかもしれないが、バックアタックや頭上・左右よりの挟撃等と、あらゆる方向に気を向けていなくてはいけない。
 
余談ではあるが、兜の様な頭部全体を金属等で保護する防具は殆ど存在しない。というのも、そのような防具を身につけると直感や、感覚が鈍くなり死亡率が高くなるという統計が出ている為だ。
 
何故、死亡率が高くなるかは解っていないが、神は我等を遙かなる高みより見ていらっしゃる。だから、神が最も見るであろう頭部を隠すという事は神の恩恵を損なう事になるのでないか?というのが俗説的ながらも最も受け入れられている説である。
 
 
 
 
 
あまりの会話の無さにフリードリッヒは剣士とノービスの格差を見せる為に来たのか、とか、いつまで経ってもノービスでいる俺を反面教師として見せるためにユウキを連れてきたのか、等とネガティブなことを考え出していた時、足を止め前方に意識を集める。
 
 
 
「ギシャア!」
 
 
それから五秒ほど後であろうか、一体のモンスターが棍棒を振り回しながらこちらに向かって来る。
 
緑色の肌をもち、毛が数えられるほどしか生えていない頭部、縦に細い瞳を目一杯開いて赤く長い舌を出している小柄な者、コブリンだった。
 
 
「っふ!」
 
 
コブリンがある程度近づいてきた所で、こちらからも走り寄る。右手に持った棍棒を横殴りしてきたタイミングで、一歩バックステップを踏みその攻撃を空振りさせる。
 
 
「ギィ!?」
 
 
空振りしたために伸ばされたままの右腕の手首を狙い、構えていたブロードソードを振り上げ斬り付ける。
 
手首の痛みの為に悲鳴を上げたのを聞きつつ、視線がこちらに戻ってないのを確認し、一歩踏み込んでから今度は首を狙いブロードソードを走らせる。が、
 
ガッ!!
 
 
「ちぃっ!!しまっ!!」
 
 
ドゴスッ!!
 
棍棒を間に入れられ、棍棒には傷を付けたものの、首への一撃か完全に防がれてしまう。
 
その上、剣を弾かれ体勢が整っていない所に振り戻された棍棒が、横腹へと叩き付けられる。
 
このままではまずいと感じたアズライトは、痛みを無理矢理無視し、後ろへと下がる。
 
 
「ゲシャシャシャシャシャ!!!」
 
 
「っふっふっふっふっふ・・・・」
 
 
こちらに手傷を与えたからであろう、笑い声を上げるコブリン。それに若干の苛立ちを覚えながらも痛みを抑えるよう浅い呼吸を繰り返すアズライト
 
数秒ほどそうして痛みを紛らわすと、改めてコブリンへと駆けていく。
 
 
「ゲキャア!!」
 
 
それを、今度は棍棒を上段に振り上げて迎え撃つコブリン。
 
 
「ギギャア!!」
 
 
ゴッと鈍い音をたてて床に振り下ろされる棍棒、アズライトは自分に向け振り下ろされた棍棒と接触する前に後ろへと大きく跳び躱す。
そして着地した足が後ろへと滑るのも気にせずに大股で前へと走り、先ほども傷つけた右手首へと斬撃を落とす。
 
ドシュ
 
 
「ギッ!」
 
 
その勢いを殺さぬまま、左足でその右手首を思い切り踏みつけると、直ぐさまブロードソードを両手で構え、そのままコブリンの首目掛けて突き入れた。
 
短い断末魔の悲鳴と共に、口よりゴボリと血を滴らせたコブリンは、その数瞬後に光りの粒となり、棍棒と薄紅色の血晶石を残し消え去ったのである。
 
 
「んっ・・・・・・ふぅ・・・」
 
 
棍棒と血晶石を偉大なる麻袋の中に入れ、それと交換するように小瓶回復薬を取り出したアズライトは、蓋を開け一気に飲み干す。
 
先ほどから感じる軽い疲労と、激しい横腹の痛みが薄れていくのを感じ思わず溜息をついていた。
 
その後、その場で後方の二人に許可を取り、軽い休息を取るとまた先を進みだす。
 
 
 
 
 
「どうかな?ユウキ君」
 
 
今までずっとアズライトの様子を見ていたフリードリッヒが、横にいるユウキに声を掛けた。
 
 
「どうといわれましても・・・正直、落胆していますね」
 
 
その問いに、硬い表情と冷たい視線をアズライトに向けたまま、ユウキはそう答えた。
 
 
「と、いうと?」
 
 
「・・・彼がファーストマスターとか言われてる変人だとは知ってます
ですが、ここまで無様な戦い方しかできないとは」
 
 
「無様な戦い、ねぇ」
 
 
こちらに視線を向ける気配すらないアズライトを鼻で笑う。
 
そんなユウキに冷たい視線を一瞬だけ向け、反対も肯定もせずにフリードリッヒは口を閉じる。
 
ユウキにとってはアズライトの戦闘の仕方は、無様な戦いそのものであった。
 
1.2階で出て来たリトルバグは態々蹴り上げて、ひっくり返り藻掻いている所に剣を突き刺していた。
 
ブラッディバットに対しては向かってきた所をしゃがみ込んで躱し、回り込む、もしくはそのまま下より斬り付けていた。
 
今のコブリンにしてもそうだ、武器を持つ手を狙いあまつさえその傷口を踏みつけて倒すなど、ユウキの考える戦闘とはかけ離れていた。
 
戦いというのもはもっと、正々堂々と相手を打倒するものである。
 
戦いというものはもっと、正面より受け、返し、相手を圧倒するものである。
 
戦いというものはもっと、優雅で綺麗なものである。
 
こそこそと足元より襲ってくるのであれば、剣を振り下ろし断ち切ればいい。
 
こちらの死角を伺って襲ってくるような奴は真っ向から立ち向かい、一刀両断にすればいい。
 
武器を持ち、襲ってくる奴にはこちらも武器で応じ、上回って勝てばいい。
 
これがユウキの考える戦闘であった。
 
ユウキの家は、元々はサードネームを名乗れる貴族、それも騎士団の一つを任されるような家だった。
 
しかし、不手際があり家もサードネームも財産も無くし、今は亡き祖父のつてを頼って訪れたのがスカンディアであり、救いの手をさしのべてくれたのがガーディー家である。
 
幼い頃から騎士のなんたるか、貴族のなんたるかを教えられ、冒険譚に心振るわせ、英雄に憧れた。そんな生活を過ごしてきた。
 
そんなユウキにとって、誇りと象徴とも言えるサードネームを奪われ、己の輝かしい未来の職場であった騎士団での地位は奪われ、尽くす様いわれた国すら奪われた。
 
だが、ここスカンディアには冒険者達がおり、クラスとして『騎士』がある。
 
それを目指す事はユウキにとって当然の事だった。
 
もう名乗れぬはずの騎士を名乗り、サードネームはなくとも貴族のような暮らしもできる、その上、機会があれば国こそ違えどもまた貴族となれる。そう考えたのだ。
 
新天地での生活であったために安定するまで時間が掛かり、17歳からのスタートとなったが、ユウキは焦りなどはなく、自信があるのみだった。
 
自分は血筋にしても知識にしても一般の者達とは違うのだと、自分が冒険者になればそこら辺にいる冒険者達なんぞはすぐに追い抜ける、それが当然であると。
 
何の確証もない自信だったが、ユウキにとっては疑うべくもない確信だったのだ。
 
そして、その思いを増すように、フリードリッヒが自分の初探索に付いてくると言ったのである。
 
剣士が、初心者のノービスの探索についてくる。
 
それは自分に早く騎士になれと、強くなれと言ってると同じではないか。
 
そう思ったのだ。
 
そして今朝、紹介したい人がいると、その人の探索の仕方を見て欲しいと、言われた。
 
その相手がアズライト=ノールであった。
 
ユウキはその名前を聞き、軽く落胆した。
 
フリードリッヒが紹介してくれる人ならば素晴らしい人に違いない、自分の役に立つ人に違いない、そう思ってたからだ。
 
ユウキとて、今まで何もしてこなかった訳では無い、空いた時間に冒険者としての知識を集め、自分の知識との違いを埋め、実際の冒険者がどのようなものか伺う為に酒場へと行った事もある。
 
余談ではあるが、スカンディアは成人した16歳より飲酒が許可される、つまり16歳以上なら酒場に入っても何の問題も無いのである。
 
そして耳に飛び込んできた、ファーストマスターという変人の話。
 
曰く、騎士にすらなれるレベルなのにノービスを続ける愚か者。
 
曰く、ファーストダンジョンに一年以上通うベテランノービス。
 
そして、アズライトがノービスであり続ける理由を言わぬ為に広がった、悪意のある噂。
 
あいつは臆病者である、強い敵の出るニブルヘルムに潜りたくないためにノービスのままなのだ。
 
あいつは守銭奴である、冒険者の義務としてノルンに納める上納金を満額納めるのが嫌な為、上納金が少なくてすむノービスのままなのである。
 
それらの話全てを、ユウキは鵜呑みにしてしまった。
 
その噂の矛盾を全く考えもしなかったのである。
 
強い敵と闘いたくないのなら、クラスチェンジしてからファーストダンジョンに通えばいいのである。
 
ノルンは、クラス持ちのファーストダンジョンの探索を禁止していないのだから。
 
なにより、ノービスなのだから別の職業に就けば敵と戦う必要すらなくなる。
 
守銭奴であるというならば、クラスチェンジしてニブルヘルムに潜ればいいのである。
 
敵の落とすアイテムの質は上がるし、血晶石の買い取り額が二倍になるのだから。
 
ユウキはそれらの噂を疑うだけの経験をもっていなかったのである。
 
ちなみに上納金というのは正式名称ではなく、ノルンは毎月「大神殿施設利用費」と言うものを冒険者より徴収する。
これを一般的に上納金と言っているのだ。
 
払えなければ大神殿への立ち入りを禁止され、三ヶ月滞納すれば冒険者の資格を剥奪される。強引に。
 
一次職は月に金貨5枚で、二時職・三次職は更に増える。
 
だが、ノービスは月に金貨3枚を納めることとなっているのである。もちろんノービスは収入が少ないための措置である。
 
 
 
 
 
しかし、フリードリッヒが紹介してくれる人なのである、なにか意味があるのだろうと思って黙って見ていたのだが、結局は何もならなかったと、ただただ噂通りの人物であったのだとさらに落胆したのだ。
 
もしかしたら、この様な冒険者にはなるなと、そう言う意味合いがあって今回の様な事をしたのかもしれないと、そのような考えすら浮かんでいたのであった。
 
もちろんそれは勘違いである。
 
フリードリッヒは、理想の騎士という偶像に憧れるユウキに現実を見て欲しかった。偶像は偶像でしかないと知ってほしかったのだ。
 
たしかに「いつかは」理想とする騎士となれるかもしれない、だが「今は」理想の騎士ではないのだと、目指せる立場でもないのだと、そう解って欲しかったのである。
 
もちろん、このたった一回の見学で劇的に変わるわけではないだろうが、何か感じて欲しいと、理想と現実の間にある矛盾に少しでも気付いて欲しいと思ったのだ。
 
それと同時に、同等以上の敵との戦いというものを知って欲しかった、モンスターと戦うというのがどういう事なのか感じてほしかった、フリードリッヒはユウキの事を危ういと感じている。
 
というのも、ユウキは負けを想定していない、その上、逃亡すら想定していないのである。
 
いつでも自分が勝つと、どんなに苦戦しようとも五体満足で勝つと思い込んでいるのである。
 
ここ、ファーストダンジョンのモンスターといえども、どれだけノービスだと苦労するのか、慣れた者ですらどれだけ苦労するのか、それに気付いて欲しかったのだ。
 
だが、それらを察した様な気配は全くない、これは下手すれば直ぐに死ぬかもしれないと思ったが、そんな考えは一言も口に出さなかった。
 
フリードリッヒにとって、ユウキはどうでも良い人物だったからだ。
 
父から言われた為に面倒を見てはいるが、恩を与えた覚えはあっても、恩を貰った覚えなどはない。
 
これからの付き合い方で変わるかもしれないが、現状ではユウキの事を手間の掛かる客人としか思ってないのである。
 
それとは逆に、アズライトに対しての印象はより良いものとなった。
 
最初は気まぐれだった、右も左も解らない初心者と一目でわかったが、気になる事があり思わず声を掛けた、それがアズライトであった。
 
しかし、彼には見栄や欲望が見えなかった。それは貴族として様々な人と付き合ってるフリードリッヒにとってとても新鮮に映ったのである。
 
孤児院育ちと貴族、その大きすぎる育ちの差がみせた新鮮さだったのかもしれない、だがアズライトは物覚えが良かった。
 
アズライトとしては、フィーメリアを担当官とした事もあり少しでも早く冒険者として上に行きたいと思ってた所に運良く現れた『先生』だ。
 
知りたい事、知らない事、気付いてもいなかった事を教えてくれたのだ、感謝し、教わった事を真剣に必死になって覚えるだろう。
 
その後、何度かファーストダンジョンを故意に訪れ話をしたが、どれだけ経っても尊敬の念を薄れさせずに慕ってくれるのだ。
 
だから、フリードと、愛称で呼ぶことを願ったのである。
 
そして先ほどのコブリンとの戦闘、あれは普通のノービスではまだ気付けない位置からコブリンに気付いていた。
 
一瞬、百戦錬磨のスキルを得たのかと思ったが、それには到底及ばないし、何よりまだノービスではないかと苦笑を零しもしたのだ。
 
百戦錬磨、その効果は感知距離の延長、直感・第六感の上昇、そして疑似数値で敏捷の200アップである。
 
なお疑似数値というのは平均的な成人男性の能力値を100として、レベルアップでだいたいどれぐらい強くなったかを知らせるためにノルンが開発した数値である。
実際に計ることはできないが、基準を作り擬似的に数値化したものであり殆ど実際の成長値との誤差は無いと言われている。
 
百戦錬磨を得ているとすれば、先ほどの戦闘ももっとスムーズに進んでいるためだ。
 
敏捷が上がっていればあんな大降りの攻撃はくらわない。もしくは、直感によって身体が自然と避けていたかもしれないが、それは百戦錬磨のスキルを持たぬフリードリッヒには思いも浮かばない事であった。
 
実際に百戦錬磨のスキルを持つ冒険者の戦闘を見た事があるために、アズライトの敏捷性が変わってないと解ったのであるが。
 
 
(あれぐらいなら、百戦錬磨じゃなくて十戦錬磨ぐらいかなぁ)
 
 
等と考えて微笑みを浮かべていた。
 
もちろんの事だが十戦錬磨等というスキルは発見されていない。
 
しかし、ノービスの身で多少とはいえ感知距離を延ばすのがどれだけ大変なことかは、剣士となった自分でも苦労している事なので、想像すらできないものだ。
 
だからフリードリッヒはファーストマスターと呼ばれてるアズライトを馬鹿にしたりしないし、ある種の尊敬の念を抱いている。
 
故に、彼はアズライトの知り合いとしては珍しくどうしてクラスチェンジしないか?と尋ねない人物であった。
 
冒険の仕方は人それぞれだと割り切っているし、彼ならば何かしてくれるのではないかと微かに期待しているために。
そして、自分にはできぬ事をやっている彼を尊敬しているために。
 
そんな、それぞれ違った方向に物思いにふけっていた二人であったが、フリードリッヒの感覚に触れるものがあった、こちらに向かって飛んでくるもの、つまりブラッディバットがいることに気付いたのだ。
 
隣のユウキを伺うが全く気付いていない、それも仕方ない事と溜息を一つつくと腰の武器へ手を伸ばし接近するのを待つ。
 
 
「フリードさん!!」
 
 
アズライトがブラッディバットの接近に気付き、慌てて振り向きながらこちらに向かってくるが
 
「大丈夫だよ」
 
 
一言そう告げたフリードリッヒが腰の武器、特殊剣ドウジギリ(量産型)を振り上げ、一瞬にして真っ二つにした。
 
 
「はい、君も気付いてたし、僕はいらないからね」
 
 
「え!?あ、ありがとうございます」
 
 
今のアズライトの反応でやはり感知距離が延びていることを確認したフリードリッヒは、表情は変わらぬが心の中でも同じように微笑みを浮かべ、ご褒美だともいわんばかりに血晶石とコウモリの牙をアズライトへと渡したのだった。
 
こちらに頭を下げてくるアズライトへと向ける笑顔を深くして。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
 
どうもK・Yです。
 
約二ヶ月も音沙汰無しですみませんでした。色々と忙しかったもので・・・
 
やっぱり三月に近づくと忙しくなりますねぇ。
 
でも、四月になったら落ち着く訳でもない・・・不思議!!
 
これからも時間が空く事はあるかも知れませんが意欲は失ってないので、見捨てないでもらえるとありがたいです。
 
コンゴトモヨロシクw
 
 
 



[15492] 第六話
Name: K.Y◆4f5df61f ID:48e96a2e
Date: 2010/03/27 21:14
 
 
 
「・・・ふぅ」
 
 
ファーストダンジョン五階、その半ばでアズライトは重い溜息を漏らすと思わず壁に背中を預けてしまった、疲労からだ。
 
と、いうのも今日のアズライトの戦闘回数は22回。
 
騎士にクラスチェンジする条件に『一度の探索での戦闘回数20回以上』というのがある。が、これは一度でも達成すれば条件を満たしたものとされる。
 
つまりは、戦闘回数20回ですら気合いをいれなくては達成できないものなのだ。
 
100回の連続戦闘を達成しているアズライトではあるが、それは準備と心構えがあったために達成できた。
 
普段は15回前後の戦闘をすれば引き上げるアズライトにとっては、久々の長丁場となっていた。
 
しかも、今回は二人の観察者が居るため、集中力が切れる事はなかったが、どうしても気疲れはあった。
 
これがアズライト一人であれば、疲れはあっても壁に寄り掛かるというような事は無かっただろう。
 
 
「ああ、すまなかったね」
 
 
フリードリッヒは、その疲労感を隠せなくなったアズライトの表情をみると内心で舌打ちをしつつ、そう声を掛けた。
 
というのも、フリードリッヒは一年以上ニブルヘルムに潜っている。
 
その為、ファーストダンジョンには全く脅威を感じられず、散歩をしているも同じ感覚だった。
 
なのでアズライトの疲労に気付けず、その随所に見える洗練された動作と成長に感心しながら見守っていたのだが。
 
 
(まったく、アズライト君も少しぐらい弱音を零してくれればいいものを・・・
まぁ、できる内はギリギリまで何とか頑張るヤツだからなぁ・・・)
 
 
自分と一緒に潜っていた頃から変わらぬ性格に、今度は見える形で苦笑を浮かべたフリードリッヒは、アズライトに近寄るとその肩に手を置く。
 
 
「少し、交代しようか」
 
 
そう言うと、アズライトもまだ気付けぬ位置にいる敵の気配を察知し、量産型ドウジギリを抜き放ち自然体のまま先の通路を見据える。
 
たったそれだけの動作ながらも、空気が引き締まる様に感じたアズライトも、ブロードソードへと手を伸ばすが、肩に置かれた手によって後方へと下がらされる。
 
 
「そういえば、報酬とか何も考えてなかったからさ」
 
 
アズライトは、思っても居なかったフリードリッヒの行動に驚きの表情を浮かべるも、フリードリッヒは何時もと変わらぬ表情を向けながら言葉を紡ぐ。
 
 
「しばらく交代して、その間に得たアイテムと血晶石を報酬にしようと思うんだけど、いいかな?」
 
 
「えっ!?そんな報酬なんて!!」
 
 
アズライトにとっては、冒険者としての基礎を教えてくれた相手である。
 
これぐらいの事で役に立つのならば報酬など貰わなくても良い、そう思っていたのだ。
 
それに普段からしている事に、二人傍観者が増えただけのようなものなのだ。それだけで普段より疲れてしまった自分に、心の中で叱咤している所ですらあった。
 
 
「いやいや、ギルドを通してないとはいえ、クエストを受けて貰ったようなものだろう?
少し疲れている様だし、休憩もかねて、ね?」
 
 
「えっ!?あ、う、フリードさんがそこまで言うなら、解りました」
 
 
そのフリードリッヒの思わぬ言葉に、驚愕した後、嬉しそうな表情を零した後照れくさそうにしながらそう言うと、フリードリッヒに言われていたのだろう。後ろに居たユウキの方へと下がっていく。
 
クエスト、それはギルド、もしくは馴染みの店より頼まれる『依頼』である。
 
その内容は様々で、今回の様に初心者の手助けをして貰いたい、もっとも普通はパーティを組むのであるが。といったものや、ダンジョンの中にのみ生えている植物が欲しい。
特定の敵からドロップできるアイテムを何個欲しい。等といった依頼人の願いを叶え、報酬を貰うというものである。
 
アズライトが思わず嬉しそうな顔をした理由は簡単で、クエストはどんな簡単なものであろうとも、ノービスでは受けられないからだ。
 
故に、フリードリッヒが冒険者扱いしてくれたことに驚き、その後嬉しくなった為にその喜びを隠そうとしながらも言うことを聞いたのである。
 
 
「・・・まったく、本当に情けない」
 
 
そのアズライトの表情を見ながら、ユウキは聞こえるか聞こえないか微妙な声でそう呟いた、アズライトはまったく気付かなかったようであるが。
 
ユウキとしては、フリードリッヒのその行動が気に入らなかったのである。
というか、結局はアズライトにさらに落胆したわけだが。
 
 
(初めて迷宮に入った僕でも疲れていないと言うのに・・・普段から体を鍛えたりしていないのか?)
 
 
初心者である自分ですら、あまり疲労せずにここまで来ているのに、慣れているはずのアズライトが疲労をあからさまに見せるとはどんな鍛え方をしているのか・・・
 
そう考えていた為である。
 
まだ、初戦闘すら体験せず、フリードリッヒが近くに居たために戦闘の空気すら感じなかったユウキは、これぐらいのことで疲れるアズライトにも、そのアズライトに優しくするフリードリッヒにも、大きな憤りと小さな疎外感を感じていたのだ。
 
そして呆れた様にアズライトを見つめていたユウキだったが、直ぐさま別の方へと視線を向ける。
 
アズライトの方も、同じ方へと視線を向け、かなり集中している。
 
 
「グォ・・・」
 
 
「ふむ、これほど柔らかく感じるれる様になっていたとは」
 
 
その二人の視線の先には、一撃でコボルドを倒したフリードリッヒが相変わらず自然体のまま立っていた。
 
フリードリッヒが行った事は単純な事であった。
コボルドを視界に捉えると、走り寄り剣を一閃しただけである。
 
アズライトでもできる事、それが唯々早く、鋭かったのだ。
 
 
「まぁ、それにアズライト君はまだクラス持ちの戦闘とか見たことないだろう?
 
私のが参考になるか解らないし、それぞれのクラスで戦い方は違うけど見ていて損をする事は無いしね、それに今までは私たちが見学させて貰ってたし、今度は見る側にでも回っててよ」
 
 
緊張感や気負うものすらなく、フリードリッヒはそう軽く言い放つ。
 
「はい、ありがとうございます」
 
 
言われた通り初めて見る事となるクラス持ちの戦闘に、まだ気を取られながらも何とかそう返答する。
 
同じような表情を浮かべて見ていたユウキは、そのアズライトの様子に気付くと我が事の様に得意げな顔をすると、改めて尊敬の念の籠もった眼差しでフリードリッヒを見つめた。
 
フリードリッヒは、その両者に何も言うことなく、柔らかい表情を浮かべたままアズライトが帰ってくるのを待ってから、五階の探索を再開した。
 
そこからは見事なものだった。
 
フリードリッヒは、アズライトの様に時間を掛けること等無く、また素早く敵を察知すると一閃でその命を奪っていく。
 
 
「・・・すごい」
 
 
ユウキは、そのフリードリッヒの姿に、やはり騎士という物はこうでなくてならないと、否、剣士であるフリードリッヒがこうも戦えるのなら、騎士はもっと素晴らしく戦える物なのだろうと、夢想を始めてしまう。
 
 
「・・・・・・・・」
 
 
アズライトは、代わり映えしない様な戦闘を全て真剣に見つめ続ける、なにか一つでも自分のモノとする事ができれば自分の何かが変えれるのではないか?
変えれなくとも戦闘がより良いものになるのではないか?と一挙一動を真剣に見つめる。
 
フリードリッヒは、その二人の様子に、落胆と喜びを感じながらもそのまま敵を狩っていく。
 
ギルドでは、依頼者にもよるが初心者手助けの報酬は、大体金貨3枚程度である。
 
だが、アズライトの性格から考えてそんなに受け取る訳がない、と言う事もフリードリッヒは理解していた。
ならば金貨2枚程度・・・つまり薄紅色の血晶石40個が自分の譲れる限界と言ったところだろう。
 
そんな事を考えながらも、フリードリッヒは敵を探す。
 
剣士というのは、敏捷に特化するクラスである。
 
戦士は体力、騎士は他のクラスに比べて全体的に能力が上がるが、耐久力に特化する。
 
故に剣士であるフリードリッヒは、素早さを活かし一閃一殺を行っていってるのであるが。
 
その動作を、自分の中に少しでも溶け込ませようと集中している時にアズライトは、フリードリッヒの武器、量産型ドウジギリを見ていて、あることを思い出す。
 
 
「そうか・・・スキルで更に敏捷を上げてる訳か・・・」
 
 
「え?それってどういう事?」
 
 
そのアズライトのつぶやきに、ただただ感心して見つめていたユウキは問いを返す。
 
 
「ああ、各クラスにはそれぞれそのクラスだけの専用スキルってのがあるんだ」
 
 
ユウキのその問いかけに、今までの態度など気にもせずに返答する。
 
 
「剣士の場合は『剣客上昇』って、専用スキルがあってそれは特殊剣を使っていたら敏捷が上がるって効果があるんだ」
 
 
『剣客上昇』剣士の専用スキルで、特殊剣を装備していた場合、敏捷が1.2倍になるという効果を持つ。
 
他に、戦士の『生存特化』騎士の『騎士道精神』といった専用スキルがあり専用スキルはそのクラスになった時に獲得する事ができる。
 
 
「へぇ~・・・」
 
 
当たり前の様にそう返答するアズライトに、少なくとも知識面は優れているのだな、と少しばかり感心する。
 
もっともアズライトは、そんなユウキの視線に気付く事もなくフリードリッヒの方をずっと集中していたが。
 
そして、フリードリッヒが敵を狩りだして、28匹目。
 
ようやくアズライトは、その武器の扱い方を少しだけ理解できた。
 
どのように武器を振るい、どのように力を入れ、流し、どのように敵を断つのか。
 
もちろん剣士どころか、戦士程にも扱えないだろう、ノービスなのだから。
 
だが、それでも多少は腕が上がるだろう、そしてその『多少』が馬鹿に出来ないこと、下手すれば生き死にの差を別つかもしれない事も、アズライトは理解していた。
 
もちろん、その様な思惑を別にしても初めて見る圧倒的武力に心が震え、それを真似したいという想いを強い抱いたというのもあるわけだが。
 
 
「さてと、報酬としては少ないかもしれないけど・・・これぐらいでどうだろう?」
 
 
きっちりと40匹のモンスターを狩り終えたフリードリッヒは、アズライトの方を振り返りながら血晶石と、その課程で得たドロップアイテム全てを差し出す。
 
 
「いえ、これで十分です、ありがとうございます」
 
 
結局、完全に自分のモノにすることは出来なかったが、フリードリッヒの戦いから得た武器の扱い方をその胸に秘め、自分のモノにすると強く想いながら、差し出されたアイテムを受け取った。
 
 
「いや、こちらこそいきなりな頼み事だったのに快く受け入れてくれてありがとう」
 
 
フリードリッヒとしては、この血晶石達を受け取らせるのにも一悶着あるのだろう、と思っていたが、アズライトが自分の中に生まれた技術に意識を傾けていた為だろう。素直に受け取ってくれた事に軽く安堵し改めて礼を述べる。
 
 
「それじゃあ、今日はこれぐらいで・・・ユウキ君、時間も時間だしそろそろ戻ろうか」
 
 
「あ、はい解りました・・・今日は、どうもありがとうございました」
 
 
時刻で言えば、夜の七時といった時間になろうとしていた為に、切り上げる旨を伝える。
 
ユウキもそれに気付き、冒険者としてはともかく、知識と人柄は悪くないな、と評価を付けながら礼儀としてアズライトに頭を下げる。
 
 
「いえ、俺の方こそありがとうございました、勉強させて貰いました
 
ユウキ君、あまり頼りにならないかもしれないけど、何か困ったことがあったら解る事は教えるから、まぁ、フリードさんが近くに居るならそんなことは無いと思うけど・・・」
 
 
アズライトの方もそんな二人へと礼を返す、そして狙ったかのようにテレポーターの前にいる為、三人一緒に一階まで行くと、軽く挨拶をしてそれぞれ別の方へと足を進める。
 
 
「ユウキ君、私の戦い方はどうだったかな?」
 
 
「本当に凄かった!素晴らしかったです!!」
 
 
「・・・そっか」
 
 
「はい!!」
 
 
フリードリッヒは、アズライトが自分の戦い方を見て何かを掴んだことを何となくだが察していた。
そのため、ユウキも何か得る事はあったのかと思い、そう問いかけたが、自分の望む様な返答は返されなかった。
 
これが経験の差か、と思いながらそのまま帰路へとついた。
 
 
 
 
 
「これを、自分のモノにするまで、またダンジョンが楽しくなりそうだ」
 
アズライトは、自分の中に燻ってる何か熱のような物を感じ、そう呟いた。
 
いくら自分が行っている行動とはいえ、何回も往復し、各階の道順を暗記できそうなほど通ったファーストダンジョンである、やはりどうしても飽きはあるのだ。
 
だが、フリードリッヒのお陰で目的が出来た、また、ワクワクした気持ちでダンジョンに挑めるだろう。と、ノルンへと続く道を歩みながら、アズライトは瞳を輝かせていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
 
どうも、K・Yです。
 
本日は二回目となりましたが、二ヶ月お待たせしてしまいましたので時間がある時に出来るだけの事はしたいと思ったのでw
 
しかし・・・今回の話はやっぱりフリードさんが主役っぽいなぁw
 
でも、こういった主人公が教わる、技を盗むというイベントとかも大好きです。
 
 
 


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