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[15623] 七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)【+sts編】
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:60401914
Date: 2014/08/25 23:09
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


題材:MELTY BLOOD______魔法少女リリカルなのは(とらハも含む)

時系列:MELTY BLOOD Actress Again 七夜√ED+複数キャラ要素



~はじめに~


 この作品は―――作品と呼べないようなものは、一応MBの七夜志貴を主人公としたリリカルなのはの世界における物語にしてあります。

はじめての投稿作品なので、というよりも、能無し・七夜厨・リリカル馬鹿の作者なので、割愛ください。



~OP~

七夜志貴、遠野志貴の使われない行動原理にして、タタリの夜の悪夢。

そんな彼に劇の終幕、カーテンコール。

死の瞬間が迫っていた。

膝をつき、空を見上げる少年が一人。ボロボロの学ラン。

悪夢の時間の終わりを告げる朝日が今にもみえようとしている草原の中。




「未練は捨てた…義理も果たした……七夜の誇りも―――これで清算できた……」




紅赤朱、軋間紅摩には既にとどめを刺して、一面は血の海と化していた。

それは鬼と殺人鬼から溢れた血液であった。


服のあちらこちらには、破れた所から折れた骨が付き出ている。

多量の失血のせいで蒼く輝いていた浄眼もかすれ虚ろな状態である。






「ああ、本当に目的が無くなっちまった……志貴の後釜も考えたが、どうも俺には相に合いそうにないしな。まあ、翡翠の顔も最後に見れたし、閻魔の顔でも拝みに行くかな。」


そう思っていると、先ほどまでの夏の草原に白銀の世界を割り込ませようとする、とてもよわよわしい存在が近づいてきた。


「―――せない、な――やは、絶対に死なせない!」


「?ああ。なんだ、まだ息があったのか…ご主人様。」


 お互い生き汚いモノだな。と、言ってみるが、そろそろ声が出なくなってきた。

肺には穴が開き呼吸もできていない。

レンの純白のコートは血に染まり体中が真赤に染まっている。

紅赤朱と対峙する前に見つかり、仕方なしに屠ってしまった…はずだったが。

「いやはや、どうにも丸くなっちまったみたいだ。まさか止めを刺し切れていなっかったとは。それでこのざまだ。女子供に優しくしすぎたか。」

「お願い―――死なないでっ――――死なないで!っ七夜っ!!」

まともに動くこともできない体を無理矢理引きずり、懇願するように、

朝日が覗きかけ既に体が消えかけている七夜に、世界に叫びかける。

「お願い―――お、お願いします!!誰か、誰か七夜を助けて!!助けてよ!!」





それは少女の悲痛な願いの叫びだった。




もはや彼を助ける手段など無く、自身も数分で死ぬ運命にありながら。




それでも少女は叫び続けた。




「五月蠅いな、……猫なら叫ぶにしろ、もっと綺麗に鳴け。」

「誰!?」

「私か?そこで倒れている小僧に、私の『手足』を痛めつけられた魔術師だ。まあ、用件は依頼の品を届けに来たんだが…クライエントがまだ来ていないってところだ。」

ひとりの女性だった。茶色の髪を後ろでまとめ、眉間にしわを寄せながら煙草を吸っている。



「それで?いいかげん待ちきれんのだが?キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ」

「いやはや、気付いておるのなら隠れとる必要も無いか、蒼崎の長女。」

「!!ゼルレッチって!?」

キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ

第二魔法の使い手にして死徒二十七祖の第四位。

アルクエイド・ブリュンスタッドの後見人の宝石翁がなんでこんなところに?



「いいから早く妹の居場所を言え。その約束で私をここまで呼びつけたのだからな。」

「まぁ待て。先にこちらの要件を済ませてからだ」

「??」

混乱するレンを後目に宝石翁が最早風前の灯もない七夜に向かい口を開く。

「小僧、白き姫の連れている小僧がえらく心配しておったぞ。タタリとして現れたロアを屠り、オシリスの砂を倒し…話を聞けば、お前の行動で何人もの人が救われたそうじゃ。」

「白き姫が珍しくワシを呼びつけるから何かと思えば、その小僧が『七夜は義妹の都ちゃんを助け、シオンの話だとオシリスって奴を独りで倒し、街を救いました。その上、軋間っていう鬼まで、傷ついた体で倒そうとしています。お願いです!あいつを救ってください!』と詰め寄ってな。ブルーの教え子の片割れと聞いていたので暇つぶしに来たんじゃ。」

「爺、長話はいいが、そろそろ小僧が死ぬぞ?」

「お?それはいかん。またと無い実験材り―――モルモットが。」

「………(言い直してさらに表現が悪くなった気が…)」

「それで私の人形にタタリの魂を移し替えるというのだな?」

「そういうことじゃ。」


それを聞いてレンは七夜を見る(ああ、七夜が助かる!七夜が死なないで済む!)

しかし、七夜の魂を人形に移し替え無事に術を終わらせた蒼崎橙子は
「それで?後はこいつを異世界に飛ばせばいいという訳だな?」

「え゛?」七夜を―――何て言った?

「そうじゃな、肉体を確立してしまった以上、同一人物が世界に存在することはできん。世界がどちらかの小僧を消す前に。この小僧を異世界へ送るとしよう。」

「!?」「まって、そんなのい――――」





遅かった。レンが言葉を絞り終える前に、七夜は宝石翁が作り出す光の渦へと消えてしまった。

「っ、七夜は!?七夜は一体どこに飛ばされたの!?」

「案ずるな。奴にはもう一度新しい、まっとうな人生を送らせたいとブルーたっての頼みでもあったからの。餞別に想定できる限りの必要物をトランクに詰め一緒に送った。なに、うまくやるじゃろう。」


勝手なこことばかり言ってくれる、もしもこの体が自由に動けば後先など気にせず殺しにかかっている所だけど

「ほれ、貴様も早くワシと契約せんと消えてしまうぞ。様子を見に行くのはその傷を治してからだ。」


「え?」










~あとがき~

………色々とサーセン


続きたい

H.22 1/17
誤字を修正



[15623] 七ツ夜と魔法 第1話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:d2a5c85d
Date: 2010/01/23 10:03
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



――――物語には時として"イレギュラーなキャスト"が含まれるものだ。

―――――それは導き出すことのできない一つの可能性(未来)。

――――さあ、虚言の夜を始めよう。



~第1話「フェイト/目撃 談」~



 七夜志貴は困惑していた。

この身はタタリで悪夢、一夜の幻。

それが何故、目が覚めたら"さんさんと照らす日の下"にいるのか?



「何だ?柄にもなく天国にでも迷い込んだか?」

もしそうなら閻魔も職務怠慢だ。遠野志貴とでも勘違いしたか…?


―――――


改めて周囲を見まわす。木々が生い茂ってはいるが、人の手が入っているのだろう荒れた感じはなく、地面も歩きやすい。


(…ここは…どこかの私有地林か?確か紅赤朱と殺り合ったのは草原で、その後にレンの銀世界がきて…)


思い出せない、というよりそこから先は意識がない。それだけの重症で死んだはずだ。

そのはずなのに、驚くことに傷が無い。それどころか着ている学制服も新品同様だ。


(身体にこれといった異常は無い…いや、無いのが異常か…。さて、残るは)


足元を見ると、どこか懐かしい感じのする鞄がそこにはあった。遠野志貴を助けた魔法使いと同じ鞄。

状況を考えた結果、先生が何かやったとみて間違いなさそうだ。

ヒント、というより答えを早々に見つけても面白くないから目を逸らしていたが。


―――――――


鞄の中には学生服、ワイシャツ、その他肌着、小物……そして一通の手紙があった。


『はぁい、志貴。色々と解らないことだろうけど、そこは異世界よ。ちょっと知り合いの魔法使い爺に送ってもらったのよ。あー、体のほうは姉貴の人形をタダで使わしてもらい、………そんな訳だから、もう一遍出直していい男の子になってきなさい。』


「……」

先生、説明がかったるくなったのは解るが、此処が異世界ということしか解らなかったぞ?

しかし、今の体が人形?体に違和感は無い。後は……(浄眼も問題なさそうだ。意識で切り替えもできる。)



そこで浄眼を発動した瞬間――――――――



―――――――――――空間が変色した。

「―――っ!?」(何だ!?視覚異常じゃない―――結界か?)


近くに魔術師でもいるのか。浄眼を発動しなければこの空間の変異にも気がつくことができなかったことから、自分を対象としていないと推測できる。


辺りを注意深く探っていると、100mほど先で何かが輝くのが見えた。

虎穴に入らずんば虎子を得ず。ここは多少の危険を考慮したうえでも、この世界の情報を集める必要がある。



そこで初めて意識を戦闘状態に切り替え、制服のポケットに手を入れた瞬間―――――違和感が

―――有るはずの物が無い

何が無い?―――――

―――――!紅赤朱と殺し合った後、確かに持っていたはずだ!

――――ナイフが…無い―――――

「…なんて無様」

何故、七ツ夜が無いのかは解らないが、無いなら無いで構わない。深入りしなければ体術だけでも最悪逃げ切れるだろう。

そう思い体を弾ませ、木々を足場とバネにして最短ルートを疾走する。





そしてたどり着いた先で見たものは―――――



―――――首輪に鈴を付けた、黒でも白でも不細工でも無く…巨大なねこ


「………」

(訳が解らない…結界はこのねこの仕業か?)


ねこと正面を向き合う形で表れてしまったが、どう対処したものか。

接近したことで不思議な力を感じ取れるが、残念なことに対魔衝動は湧きあがらないところをみて、魔獣などの類ではなさそうだ。

そして浄眼がはっきりと映し出す。ねこの中に得体の知れない欠片が視え、碧く輝き魔力を発しているようだ。


―――と、その瞬間、本能的に体が回避行動をとる。

ねこが俺に興味を持ったらしく、じゃれるように近づいてきた。


「まいったね、どうも。俺は玩具じゃないんだが―――っ!?今度は何だ!!?」


今度は一層強く本能が警鐘を鳴らしてきた。遠くからだ。

急いでねこから距離を置くようにバックステップでその場を離れると、空から黄色い光の弾が飛んできて、ねこに直撃した。



「―――やれやれ…この場合、無知は罪だと改めて思うな。」

金髪の、ひとりの少女が遠くに見えた。年齢から察するに有間都古より年下であろう。小学3年生くらいか?

年齢はともかく妙に気になるのは………服装だ。形容しがたいが、敢て表現しろというのであれば遠野志貴の情報を頼りに導いて―――

――――だめだあいつでも表現できないだろう、使えん。

どうにせよ、自分かねこかは解らないが、どちらかを標的に攻撃を加えたことに変わりはない。

なら構わない。殺るって言うのなら相手になってやろう。


知るがいい―――



――――その命、あまりに無謀






――――――――――――





 フェイト・テスタロッサは月村家の敷地ぎりぎりの場所にある電柱の上にいた。

「ジュエルシード、発見。対象生物の付近に1名と1匹…」

この世界に来て初めてのジュエルシード発見。このことはフェイトにとって、表情にこそ出さないが胸が躍る気分だった。

これでやっと母のためになれる。このロストロギアを集めきれば、きっと母は自分のことをまた優しく抱きしめてくれる、母が微笑んでくれる。

そんな思いでようやく見つけたのだが、そこには他の魔導士が敷いたであろう結界が展開されていた。

それは魔力を感知できない人間にとっては気付かないもの。


――――――邪魔をされるはけにはいかない。


そう思い、牽制のつもりでジュエルシードの対象であるねこに攻撃を放った。しかし、フェイトは攻撃を放った後に気が付いた。

ねこの死角に、魔力の気配が感じ取れなかったこともあるが、1人の男性がいることに……

「っえ!?」

驚きを隠すことはできない。この手の結界は通常、魔力を持った者ないしはその存在を認知するか、対象者として設定されなければ入ることができない。

空から見るに彼は全くの一般人だ。ということは後者なのだろうか?

バリアジャケットも来ていないのがその証左だ。

どちらにせよ魔法を使うことができないとすれば、さしたる障害にはならないはず。


そう思いフェイトは足場の電柱を蹴り、月村の敷地に向かい飛んだ。





―――――――――――





 高町なのはは動揺していた。

すずかやアリサに嘘を吐いたように出てきてしまい。目の前には巨大なねこ。

ユーノが結界を張り、いざジュエルシードの封印のために前に出ようと思ったら、ねこの前には見知らぬ男性。見た目は学ランを着ていることから姉の美由希と

同じくらいの年齢だろう。

その姿にどうしていいか判らず動揺していると、今度は空からの謎の攻撃。

「!!今の、魔法!?」

「誰だ!?」

ユーノが叫ぶとそこには1人の少女がデバイスを持って樹の枝に降り立ってきた。

金髪がとても映える黒いバリアジャケット。とても深い、どこか生気の欠けた、心を殺した瞳。そして感じるのはとても大きな魔力。

突然現れた黒い少女に驚くのもつかの間。少女がデバイスを構え魔法陣が展開された瞬間。




「――――蹴り穿つ!」


「「!!?」」



何かが黒い少女を蹴り飛ばした。蹴り飛ばした何かは目にも留まらない速さで木々へ飛び移って行く。

「あぶないっ!」


なのはは、とっさに木から落ちる黒い少女が地面にぶつかるのを防ぐため、足に魔力を込め飛び出す。


地面ぎりぎりのところで何とか抱きかかえると、その場で黒い少女の安否を確認する。


「だ、大丈夫ですか?」

返事は無いが、少し唸るように身を捩ると瞑っていた目を開く。


「!!」

「気が付いた!大丈夫で―――」
バシィッ!

「きゃっ!?」

黒い少女は目を開けた瞬間、一瞬だけ動揺しなのはの顔を確認するや否や、すぐに状態を起こすためになのはを突き飛ばし、再びねこに攻撃を加えるため

飛び出していく。

「待って!」


しかし黒い少女は止まらない。無理やりにでもねこに攻撃を加えていく。それを黙って見過ごすことはできないため、なのはは黒い少女とぶつかり合う。




それは、なのはにとって初めての戦闘。人と争うことを嫌い、それでもねこを守ろうと必死になる姿に、黒い少女は。






「ごめんね……」




と、小さくつぶやくと、強力な魔力の一撃を浴びせなのはを気絶させた。










―――――――――――





「いやはや、如何やら狙いはあのねこだったか。それなら横からの誘いは無粋って奴か…」

(まあ、相手にもせず躍りを断るのは、少々淑女としての器量が足りないとも思えるが。)


閃走・六兎を受けて、なお自分を無視するとは、よほどあの欠片が大事と見える。

「この世界は飛行魔術が発達しているのか?」

あの走るような飛行速度は驚嘆せざるをえない。ものの1分ほどで姿が見えなくなるとは驚きだ。

しかし、名前はまだ知らないが、金髪の少女の瞳は見ていて酷く不快になるものだった。




面白みがない、人形のように心が視えない、押し殺している。



その瞳が―――――――――どこか翡翠に似ているのが気に入らない。




翡翠…まだ幼く、明るく、外の世界を――――翡翠の眩しい位の世界を魅せてくれた思い出がぼんやりと浮かぶ。

―――今はいい、関係無い。



今、自分がいる木の下には気絶した、金髪の少女と同じくらいの年齢の少女とイタチ?と思わしき小動物がいる。

似たような光景を最近見た気が…

「はぁ、これは―――あれか?デジャヴっていうのか?」



どうやら虎穴ではなく、墓穴だったらしい。









~あとがき~

全世界の七夜、及びなのフェイ ファンの方々にお詫び申し上げます。

ナイフなしの七夜って何だよ!?(灯油のないストーブかよ)(タイトル変えろ)
セリフ少なっ!
戦闘シーンが皆無だと!?
なのフェイの扱いが酷い!


一応ストーリーの流れで暫く七ツ夜の登場を遅らせる予定です。(タイトルも関係させる予定です)
次回は月村家で一波乱おこす予定です。

今回は七夜視点プラス客観的な文章で作りました。次は型式変えるかも…



続きたい




[15623] 七ツ夜と魔法 第2話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:faebc3ed
Date: 2012/11/19 20:42
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



蛮脳ハ改革シ衆生コレニ賛同スルコト一千年。学ビ食シ生カシ

殺シ称エル事サラニ一千。麗シキカナ、毒素ツイニ四肢ヲ浸シ

汝ラヲ畜生へ進化進化進化セシメン……!





~第2話「凶器の無い狂気が狂喜/侠気が兇器に驚喜」(訳:ナイフなしの七夜が恭也を見て大喜び/恭也は強者に驚く)~




「おやおや、こんなところにわいらしい眠り姫が。春?の日差しとはいえ風邪をひいてしまうぞ?」


(!?誰だ!!)

しまった!今は結界を解いてしまっている。

僕の隣には、なのはが気絶している。

見上げるとそこには紺色の、見慣れない制服を着た青年が立っていた。

年齢は見たところ、なのはのお姉さんの美由希さんと同じくらいだろうか。

黒い髪、鋭い目つき、釣り上った口元、そして何より恐ろしいまでの碧い眼。

その全てが怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――――――――――――!!!!

「ああ、お前が何なのかは今は訊かないでおく。今はその子を運ばないといけないんじゃないのか?」

こいつ!フェレット状態の僕の正体に気が付いてる!?

いや、さっきの女の子がジュエルシードを封印する前、黒い影が彼女を突き飛ばしていた。アレの正体がこの人か!ということは僕が言葉を発していたのも見ていたということか。

何で彼女を攻撃したかは解らないけど、確かに今は早くなのはを運ばないと、アリサさんやすずかさんが心配する。

―――でも

「あなたが、危険な事をしないという保証がどこにもない!この場から離れてくれないと、なのはを運ぶこともできない!」

「へぇ。なのはっていうのか?なに、手荒なことはしないさ。ちょっと道を訊きたくてね。人里離れた生活には慣れているんだが、今自分がいるのはどこなのかってことくらい調べておかなくちゃ、どうにも不安でね。」

…?どういうことだろうか?迷子?いや違うだろう。その年齢でそれは無いと思う。

第一此処はすずかさんの屋敷の庭だ。関係者でも無いはず。

なら、あり得なさそうな話だけど、次元漂流者だろうか?青年の体からは魔力は殆ど感じられない。

安心できる雰囲気の人なら、なのはを運んでくれるように頼みたいところだけどそうもいかない。

なにせこの青年は不審すぎる。

「いいかげんにしてください!さっきの結界は普通じゃ感知できないものです。その中に入り込んだあなたを危険じゃ無いなんて言えない。」

「ああ、この身は確かに危険だ。いや、だったものだ。どうだろうか、おれは話のできる人に会いたい。お前はその子を早く運ばなくてはならない。なら、俺がその子を運ぶ代わりに人がいるところまで案内してくれないか?怪しいと思うなら、そうだな…」



青年がごそごそとズボンのポケットに手を突っ込むと、中をむき出しにして制服の上着も脱ぎだした。


「此処に上着を置いていく。ポケットの中は見たとおり何も入って無い。草むらの向こうにはには鞄も置きっぱなしだ。信用ならないなら先ほど結界の中で使った術でも使えばいい。」


青年はさらに口元をニヤつかせながらそう提案する。





僕は―――――





「……解った。案内するから、なのはを運んでくれ。だけど変な事をするようなら――――ただじゃおかない。」







「ああ、承知したよ。――――七夜、七夜志貴だ。」



「―――――ユーノ・スクライアだ」







――――――――――――――――







 気が付いたら私はすずかちゃんの部屋で寝かされていました。

「え…っと…」

何が何だかわかりません。たしかジュエルシードを封印しようとして、

それで金髪の黒い女の子に負けて――――――

「気絶しちゃったんだ……」

…でも何でここで寝ているんだろう?

ユーノ君が誰か呼んできてくれたのかな?


部屋を見まわしてみても誰もいないし、一体どうしたんだろう?

とりあえずベッドから降りて廊下に出ると――――――




すずかちゃんのお家の廊下がメチャクチャな状態になっていた。




壁紙はそこら中が破れ、電灯は砕け、床も壁も天井も――――――全てに刀傷が付いている。

刀傷から、今日忍さんに会いにきているお兄ちゃんが心配になる。

だって!だってこの特徴的な刀傷には見おぼえがある

何で?何で?何で?

この傷と同じものはよく見ている。見慣れている。


私の家にある道場がこの傷でいっぱいだもん!


何があったの!?お兄ちゃん!!?



   バシィッ!!


!!?


小振り向くと廊下の端で太刀を振るうお兄ちゃんと、その腕を右足の裏で蹴り抜くように受け止めるワイシャツ姿の男の人がいた。



「蹴り砕く!!」
「!!――――っウ」

「お兄ちゃん!!」

お兄ちゃんの足が男の人の蹴りに耐えきれず、足が床から離れ宙へ浮く。

同時に男の人の姿が視界から消え―――――――

「!?え?」


天井に着地している。




「くそっ!なんて動きだ!!」

「おいおい、いまさらこの程度で驚かないでくれよ。こっちは穏便な話し合いをしたいんだ、が!!」

「ふざけるな!!!何故なのはに近づいた?この屋敷の監視システムをどうやって掻い潜った?その身のこなし!貴様はいったい何者だ!!」

「いたって普通の高校生だ。最近の授業じゃこのくらい必須科目だぞ?」
男の人は口元を釣り上げながら嘯く。

「くそっ!」

天井から床に向かって跳ねる姿は、重力を無視したかのような動き

落下スピードを加えた、踵落としのような蹴りを繰り出してきたかと思えば、今度は壁を走り出す。

そのどれもが限界まで姿勢を低くした体勢での高速移動




お兄ちゃんの体が一瞬残像を残すかのようにコマ送りになる

だめ!!神速は使っちゃダメ!お兄ちゃんの足の怪我は完治できていない。

「そこまでにしておけよ。ここから先は、後戻りのできない一方通行だ。」

すたっ、と男の人が私の目の前に背を向け降り立つ。

位置関係は私と男の人の視線の先にお兄ちゃんがいる。


「貴様っ!なのはから離れろ!!」

「無茶を言いやがる…オマエのその動きが失敗すれば、オレが何処にいようが確実に眠り姫を傷つけることになると思うが?」

「!?それは―――――っ!」


男の人が私のほうに向きなおる。そして――――

「痛いところはないかい?君がペットを捕まえようとして木から落ちるのを受け止め、気絶していたからこの屋敷まで運んだんだが?」
(安心しな、君の魔法はばらさないよ)



(!!?)




つまりそれは、”あの現場”に居た人だということを証明すると同時に、私を脅すのに十分な言葉

一見すれば優しい言葉だけどその眼は残酷なまでに蒼く笑っている。

ばれては拙いこと。魔法のこと。

ここは……逆らえないみたい。

「ほ、本当だよお兄ちゃん!このひと、木から落ちるなのはを助けてくれたの!優しい人だよ!」

精いっぱいの作り笑顔。自分が嫌になるくらいの嘘吐き。

家族を騙し、友だちを騙し、更に騙す。

なのはは悪い子になっちゃったみたい





――――――――――――




(さて、か弱い?乙女を脅すのは紳士としての気質が疑われるところだが、まあ次回作に期待してくれってところかな?)

平和的に事態を収め、時刻は午後6時50分。すっかり日も暮れて、今いる場所は月村家の応接室。

テーブルに着いているのは俺と、先ほどの剣士とその父親らしき大人、月村忍。

「さて、君には訊きたいことがいくつもある。」
剣士の父親がそう言葉を切り出す。が


「まずは自己紹介でもしてくれないか?こっちはもう名乗っているんだ。七夜志貴ってな。」

「……高町士郎だ。先ほど君に襲いかかったのは息子の恭也だ。」

「これでいいだろ?さっさと貴様の目的を吐け。」恭也が我慢しきれずに詰め寄る

「……目的、ねぇ。どうなんだろうな?俺には既に目的なんてものは無いんだが。」

俺の目的は既に果たされている。夢の中で志貴を殺し、タタリとして夏の夜を極彩に染め上げ、そして――――紅赤朱を殺したことで七夜の誇りも守り切れた。

たったこれだけだが、俺にはこれしかなかったが、これほどのことを成し遂げたんだ。8年以上もの空白を埋めるように伽藍の中に詰め込まれた記憶(偽り)

それが、たった一つの誇りを貫き切ったんだ。

今更やりたいことなど見つかるわけでもない。


「それは、この屋敷に入ることが目的だったのかい?」

「いいや、この屋敷に入ったのは偶然さ。でなきゃ誰が好き好んで吸血鬼の屋敷に入り込むんだ?」
「!!なぜそれを知っている!?」

その場にいた全員の空気が刃の様に凍りつく。まあ、ぱっと見ただけじゃふつうは人の姿をした人外なんて区別がつかない。しかし

「少々この手の輩と縁があってね。魔との混血や人外には反応してしまう体質なのさ。ああ、しかし偶然なのは本当だ。」

そう答えると高町士郎は少し考え込むようなしぐさを見せ―――

「龍   この言葉に覚えは?」

「…ロン?誰かの名前か?」

「知らないのならいい。忘れてくれ。」

何か事情があるようだが、俺には関係ない言葉に対して変に含みを持たせるのも変えって怪しまれる。ここは聞き流すか。

「じゃあ次の質問だ。お前のさっきの動き、あれは暗殺者の動きだ。いったいどこで覚えた。まさかこの期に及んで体育の授業で習得したとかいう戯言は無しだ。」

高町恭也と戦闘になったのは俺としても大きな誤算だったからな。

「俺の体術は小さい頃に親父や一族に教え込まれたものさ。もっとも今は俺以外滅んでしまったんだがね。」

「滅んだ?」月村忍が不可解だというような眼で訊いてくる。

「ああ、俺の一族は魔との混血を専門とした暗殺の一族でね。鬼の混血に滅ぼされちまったのさ。つい先日漸くそいつを退治できたんで一族の誇りも目的も全部終わったところだったんだ。
後は気ままに余生を送ろうと思ってね。行くあてもないもんだから、ふらふら旅をしていたところで――――――」

「この屋敷に迷い込んだという訳か…」
高町恭也も何か考え込むような表情をする。

並行世界のことは話さなかったが、この世界にも吸血鬼がいるんだ。こいつらにとっては、あながち出鱈目なおとぎ話でも無いだろう。


そこで高町士郎が確認のように切り出す。
「それで?君は忍君をみて反応するようだが、それはつまり『殺したい』と思っているのかい?」

「「「!!?」」」
全員、特に月村の関係者が体を強張らせる。

魔との混血や『人外』に反応する。その反応について。

「…確かに俺が魔に反応する感覚、いや衝動は『殺人衝動』だ。一族が長い年月をかけて近親交配を繰り返し、魔を殺すことを目的として鍛え続け、遺伝子レベルにまで刷り込まれた俺は殺人鬼さ。」

更に全員が驚いているようだ。

「人外のみを殺す殺人鬼か……時に、七夜君は行く当ては無いと言っていたが、旅を続ける気かい?」

「?ああ、丁度道に迷っていただけだからね。この町の地図か図書館、最悪人里までの道が判れば後は勝手に出て行くだけだ。」

「ならば、今言っていた君の素性が本当かどうか、はっきりするまで我が家で監視させてくれないか?」

「!?父さん!いいのか?家には年頃の美由希や戦えない母さんになのはだっているんだぞ?」

ごもっともな意見だ。こいつの父親は何を考えているんだ?

「この町にとどまることによって忍君等に危険が出るということも承知している。しかし今この場において忍君を傍に置いている彼は、殺人衝動が本当にあるかどうかは判らないが、殺そうと動いていない。
私たちを前にして出来ないでいるのかもしれないがそれも判らない。また、本当は忍君等を殺すためにこの屋敷に近づいたのかもしれない。何もかも不確定だ。
ならば我が家に置いて私と恭也で七夜君を監視すれば一先ずは忍君も調査する時間ができる。それに、何か思惑があったのかもしれないが」

そこで高町士郎は初めて表情を和らげ

「なのはを助けてくれたのは事実だからね。その恩は返さなきゃいけない。」

そんなことを言い出した。




――――――――――――




「フェイト!どうしたんだい、その痣!?」

「大丈夫だよ、ちょっとイレギュラーな事があって……上手く言えないんだけど…不意打ちみたいなのを受けただけだから。」

無事にこの世界の拠点にしている高層マンションにたどり着いた私に、出迎えてくれたのは大事な使い魔のアルフ。

時刻は19時15分 ちょっと過保護なアルフは帰りが遅いことに心配していたが、着替えの際に右肋の痣を見て更に心配させてしまった。

「どこのどいつだい!!フェイトにこんな真似した奴は!」
見つけ出してギッタンギッタンにしてやる!―――なんて言っている。

だけど、あの一瞬をどう表現したらいいのかな?

身長170センチ弱、黒髪で蒼い眼で学生服を着た魔力反応の無い男の人が、何故か結界内にいて、気が付いたら蹴飛ばされていた……

だめだ、やっぱり混乱したままだ。

幸い痣といっても相当手加減されたらしく、程度から見て放っておいても明日の夜には消えてしまうくらい軽いみたい。

念のために、戦闘時のプログラムに魔力のほかに対物理障壁を張るようにセットしておけば済む話だ。

それよりも気になるのは、あの女の子。

もう邪魔しないでくれると嬉しいけど、そうはいかないだろうな……






――――――――




「と、言う訳で今日から暫くウチで下宿することになった七夜志貴君だ。」
(くれぐれも、ウチの桃子と美由希、なのはには手を出すなよ?何かあれば即座に斬刑に処す。)

「七夜は昔両親を事故で無くし、以来天涯孤独で旅をしていたところ、偶然にもなのはを助けてくれたんだ。袖振り合うも多少の縁だ。いいだろう?」
(いいか?何か起こらなくても、不穏な行動は死につながると思え。極彩と散るまでもなく17分割してやる。)


「…………」



お父さん、お兄ちゃん……き、気のせいかな?…ものすごい殺気と副音声が聞こえるよ…

「ちょっとカッコイイかも……」

お姉ちゃんだめ!その人は実は怖い人かもしれないのに、ときめいてる場合じゃないよ。


「ご紹介に与かりました、七夜志貴です。本日より暫くの間、士郎さんの御厚意に与かり御厄介させて頂きます。」

「あら、礼儀正しくていい子じゃない。お父さんも悪い人ねぇ。美由希ちゃんのお婿さんをもう連れてきたの?」





         バキン!!





何か物凄く二人の心が壊れた音がした。




「いやいや、御冗談が上手い御婦人だ。このような魅力的なレディーに、私のような若輩者が釣り合うはずがありません。それと、

可愛らしい眠り姫がいる前で、これ以上の会話は刺激が強いかと。」
(後で話がある。しゃべるイタチを連れてきてくれないかい?)


! やっぱり見られてたんだ。お話…聞かせてくれるかな?












~あとがき~


H.22/3/2

社会福祉の実習に1ケ月ほど奮闘していた為、更新遅れました。

まずはお詫びから。
ぶっ飛んだ内容でごめんなさい。黒い七夜でごめんなさい。中途半端に切ってごめんなさい。各作品のファンにごめんなさい。
容赦ない感想を待ってます。でもちょっとは期待してます。


設定
恭也は原作の足が完治してない設定をそのまま持ってきました。OVAの最強は無いモノとしてください。


何故なのはとフェイトの七夜に対する第一印象を最悪&微妙にしたかは――――――当然だ!
好感度は初期値が低い所から始まるのが常識!そこから主人公(七夜)が奮闘して落として行くのだ(真面目にやれ

現在好感度
なのは  -10
フェイト -2


続きたい



[15623] 七ツ夜と魔法 第3話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:7de7d2be
Date: 2010/03/12 22:53
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


舞台があり、名優があり、血肉がある、
足りないものは脚本だけだが―――
なに、私は生の感情が好みでね、筋書きの無い殺戮(ドラマ)
の方が楽しめる。




~第3話「初日の日常風景/ホームドラマ」



高町なのはは夕食後に1階の和室へ向かっていた。

手にはノートと2本の鉛筆を持ち、自分の部屋を出て足音をたてないように注意しながら廊下を移動する。

止まった先は七夜が居る部屋。

肩に乗っているユーノも緊張している為か念話で話しかけてこない。




そして



「ああ、誰かと思えば眠り姫じゃないか。こんな時間にどうかしたのかい?」


部屋の中の七夜はくつろいでいる様子で、座りながら荷物の整理をしていた。


「う、うん。実は昼間のお礼をまだ言ってなかったから、ちゃんと言わなきゃだめだと思って……それと、なのはです……」

「そうか……じゃぁ、なのはちゃんでいいのかな?部屋の前で立たせたままなのも悪いから、まずは中に入りな。」

はい、となのはは返事をすると、恐る恐る足を前に出し部屋に入ると障子をを閉めた。



簡易式のちゃぶ台と座布団を出すと、二人は何も言わぬまま座った。

そしてなのははノートを出すと、1本を七夜の前に差し出し、もう1本で文字を書きながら。


「今日は本当にありがとうございました!おかげでユーノ君…あ、このフェレットのことなんですが怪我もしませんでしたし、本当に助かりました。」



と口にした。しかしノートには



『あなたは一体何者なんですか?なんで結界の中に居たんですか?』




「ああ、わざわざ言いに来てくれるなんて、ほんとにいい子だね、なのはちゃんは。」

『俺もあの場は驚いたよ、俺は少々特殊な目を持っていてね。今は黒いが、蒼いときの目は視えざるモノを視ることができるんだ。それで結界に入ってしまったんだ。』





二人は筆談を始めた。




表向きの会話は今日のお礼や七夜の身の上、なのは自身の昼間の生活、高町家の話。

ノートの上では魔法の存在に気付かれたかもしれない、と不安になるなのはとユーノ。なのはとユーノに興味を示す七夜の会話。

念話が七夜に届かなかったのは既に確認している。

七夜の隣の部屋には恭也が居る。なのはは家族に魔法の話を聞かれる事は出来ない為、このような危険な綱渡りとなっているのが現在の状況だった。









「いやいや、謙遜しなくてもいい。なのはちゃんほど可愛い乙女なら、学校では引く手数多だろう?リードする男子が少ないというのは、まだ幼さゆえってやつだ。」

『つまりなのはちゃんは、そこのフェレットにもらった魔法の杖を使って、ジュエルシードを封印するために動いているってわけか。』


「もー、七夜さんは過大評価ですよぉ。」

『そうなります。七夜さんの目や体術の事も大体は解りました。』



「ところで、なのはちゃんはこんな時間に俺みたいな男の部屋に入ることに抵抗とかなかったのかい?」

『大体の事は解った。確かに家族には内密にしておくべきだな。それで?ここまで俺に話したってことは』



「そ、それは――――」

『ジュエルシード探しに協力していただけませんか?byユーノ』


『暇なときに、近くにいればな。後は――――』



    バンっ!!!!

「なのはに手を出したらただ「にゃはは、もう寝る時間だね。お兄ちゃん、七夜さんおやすみなさい」……」


なのはは少し恥じらう様なしぐさで部屋を後にする。

「聞き耳を立てる兄というのはあれか?思春期にも満たない妹の成長を文字通り陰ながら見守るのが趣味なのかい?」

ノートは既になのはが持って行ってしまった。この場に筆談を証拠付けるものは無く、なのはとの会話は取るに足らない雑談と見ざるを得ない。

「…忘れるなよ七夜。貴様が僅かでも怪しげな行動を取れば即座に御神の剣がその身を斬り裂くということを」

そういいながらも恭也は困惑している。何故なのははこの男に、必要以上に接近したのか?七夜と自分が忍の家で繰り広げた戦闘をわずかとは言え視ていて、危険な存在だと分かっているはずなのに。

疑念は残る。本当になのはは雑談をしていただけなのか?隣の部屋から聞こえた会話は真実だったのか?

どちらにせよ今は忍の調査結果を待つしかない。そう思いながら、部屋を出る際に視線だけ後ろに向けると、未だ座り込んで胡坐をかいて口元を釣り上げる七夜が


「了解。それじゃおやすみ」


寝る気など全くないようなギラギラした眼でそんな事を言っていた。



―――――――――






「どうせ一夜限りの幻だ」


優しい顔をした眼鏡の奥の瞳は狂気

神様ですら殺せる眼

蒼く爛々と輝く眼

視界は線と点のツギハギだらけ

握る七ツ夜は血に濡れ、学生服は血に濡れ

キ、キキ、キキキキキキキキキキ――――――――――




遠野志貴トオノシキ志貴シキシキシキシキシキシキシキシキシキキキキキキキキキキキキキ――――――――







―――――――――







翌日の朝




時刻は7時を回った程




高町美由希に重大な任務が与えられた。




朝ごはんの時間だから、七夜君を起こしてきてちょうだい♪




言うまでもなく義母である桃子からの指令である。

「ど、どうしよう………男の子の起こし方なんて分かんないよ………」

年が近い恭也は毎朝自分と同じく早朝に起きて鍛錬をしている為、年頃の男子がどのような寝姿なのかいまいち想像できないでいる。

(とにかく、まずは部屋に入ろう。このまま廊下に居ても七夜君は起こせないし。)


そう思い襖に手をかけ開いた先には―――――



布団の中で死んだように眠る七夜の――――――



「――――――きれい……」

思わず不謹慎な言葉が漏れてしまう。

近くで見ればもちろん生きていて、小さいながらも呼吸もしている。

しかし、その呼吸も一つひとつが気配を極限まで押し殺したように気配を感じさせず、昨日の大人びた表情と一変し幼い顔の寝姿に――――――


「す、ストライク…」

と、その声に反応したのか七夜が静かに眼を開ける。

「ふぁっ…」

「あ、お、おおオハヨウ七夜君!よくね「―――眠い………」……」


「まったく、死人をおいそれと起こすなよ。ん?そういえば、今は生きてるか…………」

如何やら寝起きは悪い方だったらしい。

若干眉間に皺を寄せ欠伸をしながらの第一声はかなり独特なものだった。

そして、動揺を隠せない美由希に対して。

「これは失礼。淑女の前の欠伸なんて、男として失格って奴だったかな?」

「そそ、そんなこと無いよ。うん、大丈夫。」(淑女…!!)

そういいながら美由紀は七夜の横に座る。何故だか彼のそばにもっと近づきたいと思っていた。

「それは助かった。ああ、起こしにきてくれたのかい?君のような手弱女な方の手を煩わせてしまい、すまなかったね。」

いつの間にか体を起こす七夜と美由希の顔の距離は拳ひとつ挟んだ程度まで近づいていた。

美由希は今まで、男性の接近をここまで許したことは無い。

吐息がかかる距離、あと数センチ近づけば唇が触れ合う隙間。

美由希の顔が一気に赤くなる。

「―あぅっ――――ぅ――――――――ぁっ、な、七夜―――く――――んっ―――――――」




「お姉ちゃん、遅い…………よ?」


「!!?!」




美由希は心臓がとまるほど驚くと同時に背後の冷気、いや殺気の篭ったような声に全身を硬直させた。

後ろの声の主、なのはは明らかに美由希を睨みつけている。

美由希は確信する。

振り向かずとも判る。

なのはは今、自分の事を"汚物を視るような眼"ですかしている。

何故か美由希は冷や汗が止まらない。剣術を収める身を以てしてもなお耐えがたい程のプレッシャー


「……七夜さんも……早く起きてください…」

「はぁ、そうするよ。着替えてからいくんで、先に行っててくれ。」

「………」

すたすたと廊下を後にするなのは

続く美由希は、顔を真っ赤にさせながら、神速を思わせるほどの脱兎のごとく七夜の部屋を飛び出していった。






そして朝食



高町桃子と七夜志貴を除き気まずい空気を醸し出す他4名

高町士郎はいつも通りの笑顔で居るが、端の席に座る七夜を注視し

高町恭也は昨夜のなのはの行動を考えながら七夜を睨みつけている。

高町美由希は今朝の七夜との接近に今まで感じたことのない感覚を覚え、まだ顔を真赤に染め上げたまま恥ずかしがっていたいところだが、直後になのはに見られたのがとても気まずく感じている。

高町なのは、昨夜ようやく七夜を完全とはいかないが、ジュエルシード探しを手伝う約束をしてくれたこともあり、信用しようと思った今朝、義姉である美由希と小学生では表現するのにとても困難な雰囲気を作っていたことに何故か不快感を感じ、ダークサイドを展開している。

例え筆談のカムフラージュでの会話とはいえ、自分を可愛いと言ってくれた七夜が、美由希と妖しい雰囲気を作っていた事に対しての少しばかりの嫉妬なのだが
幼さゆえか、なのははまだうまく感情を呑み込めないでいる。


そんなことは露知らず、桃子は新たな生活者の七夜に質問する。

「ところで七夜君は昨日から学生服を着ているけど、どこの学校に通っているのかしら?」

「いえ、以前通っていた高校は中退してしまったんで、今は学生ではありません。この姿のままでいるのは…旅をする上でさほど違和感はありませんし。何よりお金もあまり持っていませんでしたから。」

「まあっ、そうだったの…ということ は♪七夜君」

何を思いついたのか急に桃子の視線が熱くなり、両手をポンと合わせる

「?何でしょうか?」

「ウチでやっている喫茶店で働いてみない?」




「「―――――ぶッう!!!!?」」


コーヒーを吹き出す恭也と士郎

危険人物を我が家の家計の生命線に――――

思わず二人の、特にマスターである士郎の顔が一気に青ざめる。

美由希はとたんに目を輝かせ

「いい考えね母さん!…執事服とか似合うかも」

なのはは苦笑い。もとい、顔を引きつらせながら

「七夜さんは料理とかできるんですか?」

「いいや、料理ができる男なんてのは…あれだ。ペンギンが空を飛ぶようなモノだろ?何事もそつなくこなしてきた方だが、生きていく上で最低限の物くらいしか作れないな。」

「あら~、そうなの?」

桃子は少し残念な顔をするが

「ですが、ウェイターの真似事なら経験があります。その程度で宜しいのなら、喜んで働かせていただきます。」

「助かるわ~♪丁度平日のウェイターさんが欲しかったのよ♪」「恭ちゃん!今すぐ忍さんに連絡して!七夜君に執事服!」「ほっ、本気か!?」


「お姉ちゃんが…舞い上がってるの……」

道場での鍛錬を姿からは想像もできない美由希の変わりように、なのはは更に顔を引きつらせる



七夜志貴が高町家に加わって最初の朝

家の中はいつもより少しだけ賑やかだった。







~あとがき~

H.22.3/10

コミカルなシーンを書きたかったんです。ごめんなさい。

そして、エロい七夜を演出しようとしたら、2枚目っぽくなってしまったorz

美由希の性格がいまいちつかめないでいるんですが、アットホームな女子高生をイメージしたら

七夜に対する第一印象は"ちょっと目つきが鋭くてカッコいい男子"にした方がいいのかな~、と思いました。

前回の舌の根も渇かぬ内に美由希の高感度を高くした設定は

美由希√じゃリリカルな話が進まないからです。

つまり

美由希=魅力的だけど攻略できないキャラ(涙)


好感度

なのは  -6
フェイト  -2
美由希  +5


追記.同日誤字修正
3/12 不具合修正

続きたい




[15623] 七ツ夜と魔法 第4話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:46bf9762
Date: 2010/03/29 21:18
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


魂魄ノ華 爛ト枯レ、杯ノ蜜ハ腐乱ト成熟ヲ謳イ例外ナク全テ
ニ配給、嗚呼、是即無価値ニ候…………!!!!




~第4話「Holiic/Of each」~




私立聖祥大付属小学校

通学バス

朝食後にスクールバッグを持ったなのはは、桃子に見送られ家を後にする。

最後尾の席にはいつも通りの親友

ブロンドがかかった金髪のアリサ・バニング

青みがかかった髪の月村すずか

いつもなら二人とも満面の笑みでなのはを出迎えるところなのだが、今日は少し様子が違った。


「で、一体昨日の男は何だった訳?今はなのはの家にいるんでしょ?」

アリサが訪ねてくるのは無理もない。いきなりなのはをお姫様だっこして歩いてくる不審な男が現れ、とりあえずすずかの部屋になのはを寝かせた途端

なのはの兄である恭也が真剣で男に襲いかかり、危険だということで、無理矢理家に帰されてしまったのだから。


すずかは若干顔を強張らせている。姉の忍から人外を殺す一族の人間と聞かされ、怖くて昨夜は寝ることができなかったくらいである。

そして彼は衝動を持っている。人外を殺そうとする殺人衝動。




(どうやって話せばいいのかな?)
なのはが昨日七夜から聞いた内容としては

小さい頃に両親を事故で亡くし、拾われた家で8年ほど暮らしたけど、生まれつき本来なら視えないもの(幽霊?)を視ることができる浄眼というモノを持っていた為

家では気味悪がられ続け、今年で18歳になるということもあったので全国を回る旅に出たというものだ。

兄である恭也と互角以上の戦いができた理由は、親が暗殺者で小さい頃に訓練を受けていたからとの説明だった。



確かになのはは納得できる理由だ。動き方や身のこなしが暗殺者のソレなら兄や父、月村一家が過剰に反応することもうなずける。

何せ月村は富豪の良家だ。

「昨日の男の人は七夜志貴さんって言うんだよ」

「ナナヤ?何か変った名字ね。」

「うん。なんでも、家庭の事情で今は全国を旅してまわっている途中らしいの。」

なのはは出来る限り七夜から聞き出した身の上と、なのはが出会った経緯を話し、七夜がちょっといじわるそうだけど優しい人だと説明した。




「…何だか複雑な事情を抱えてそうな人ね。おまけに性格が意地悪とか、私とウマが合わないわよ。」

「にゃはは…という訳で、七夜さんはそんなに怖い人じゃないと思うよ。昨日の夜にお話ししてみたけど、武術を習ってたことがあるみたいで、それに気が付いてお兄ちゃんが攻撃してきたみたいなの。」

「なるほど。確かにあんたのお兄さんは、すずかのお姉さんにぞっこんだもんね。過剰に反応するのは当然って言えばそうよね。」

一応アリサは納得したようだったが

「それで?何ですずかはまだ暗い顔をしてるのよ?」

すずかは俯いたまま、死にそうなほど顔を蒼くしている

「え、ぁ…ううん。大丈夫……だいじょうぶだから……」

その顔は今にも心臓が止まってしまうのではないかと錯覚してしまうほど沈んでいた。







――――――――






「いらっしゃいませ、瑞々しいお嬢様がた。ご注文はいかが致しましょうか?」

時刻は11時45分、喫茶店はそろそろ人でにぎわう時間。

執事服を着こんだ七夜志貴は持ち前の営業スマイルでウェイターをしていた。

高町家の喫茶店『翠屋』

いつもなら高町士郎はにこやかな表情でオリジナルのブレンドコーヒーを客に届けるところだが、今日は愛妻桃子に止められてしまっている。

理由は七夜を警戒してか自然と眉間に皺が寄ってしまっている為である。

個人経営の接客業、しかも喫茶店ともなれば従業員の表情や態度一つが売り上げを大きく左右する為、致し方が無いと言える。

おまけに今日は喫茶店では珍しい、執事服の見た目好青年が映えている。マスターである士郎はいつも通りのエプロン姿なので、客受けも自然と七夜に傾く。


「だけど本当に七夜君、接客が上手ね。これなら泊まり込みの従業員としてずっとウチに居てくれても構わないわ。」

桃子が士郎にとって更に表情を悪化させかねない事を言う。


そんな七夜はトレイを片手に持ちながら桃子に近づき

「いえいえ、こういった場でのお客様へのエスコートは基本ですよ。それが貴婦人の下でとなれば、手なんて抜けるはずがありません。」

そう言いながら、たまに来る男性客に対する態度が緩慢なのを指摘したい士郎だが、桃子が七夜に夢中になっていることから易々ということができないでいる。


そこで士郎はふと、今週末の温泉旅行について思い出した。七夜の騒動があり、すっかりと気持ちが醒めてしまっていたがどうしたものか。

恭也も忍君と一緒に行く為、翠屋はアルバイトのみの営業となる。


(だめだ、今七夜君から目を離すことは出来ない…いっそのこと連れていくか?…危険すぎる。月村家の湯けむり温泉殺人なんて洒落にならん…)

袋小路の考えに、せめて自分だけでも残るべきではないかと考えていると。


「そうそう、今週末私たち一家となのはのお友達とで温泉旅行に行くのよ、七夜君も良かったら一緒に来ません?」

(――――っ!!桃子、なんてことを)

「温泉ですか……とても魅力的なお誘いですが、私のような者が団欒の一時から旅行にまでお邪魔するのは申し訳ない。」

「気にしなくても大丈夫よ。もう七夜君も我が家の家族なんだから。それに美由希さんも七夜君がいればきっと喜ぶわよ。ね?あなた。」

あなた と言われて士郎は顔を青ざめながら目を白黒させる。

桃子の心が広いのも考えようだ。

恭也や美由希は桃子と血の繋がりは無い。それでも顔色一つ変えず二人を我が子として受け入れる姿勢は、まさに母性の鑑といえる。

しかしその母性が今、最も不確かで危険極まりない青年を受け入れようとしている。


それと、今ナントいった?

美由希が七夜君を?――――誤算だった。

恭也でも七夜君には勝つことができないと踏んで、不安を与えないように美由希には伏せていたが、如何せん年齢が近すぎた。

剣のことしか視ていなかった自分は年頃の娘の思考など全く考えもしなかった。


(危険だ、危険すぎる!)

そう思いとっさに出た言葉が

「美由希に手を出すようなことは許さんぞ。」



この言葉が墓穴となった


桃子の認識は

『美由希さんを俺に下さい。』『お前のような若造にはやれん!』のようなものと捉えてしまった。


それに気が付いた士郎は思い余って背中に仕込んである刀に手を伸ばすが。


「店内での抜刀は厳禁となっております。マスター?」

当然のことを七夜に指摘された。








――――――――――







それは例えるなら罅だらけの硝子



蜘蛛の子を散らすように視界を死界で埋めつくす



手に入れたのは直死の魔眼



殺したモノは"真祖の吸血鬼"(白き姫)



生きているのなら神様ですら殺してしまう魔王の眼



吾、全てを殺す者也。紅い月の契約の下、此の世の全てに貴き死を。風に此の身を、佇むは影絵の街、七ツの闇夜を。瞳に死界を。――――――さあ、殺し合おう。






――――――――






高町士郎と高町恭也は憤慨していた。



今日は楽しい、楽しみにしていた筈の温泉旅行だったはずだ。



車を運転する士郎は鼻歌交じりになり、助手席には高町桃子を乗せ、後部座席には、なのはやその友達が笑顔を絶やさなかったことだろう。

恭也は忍に運転を任せ月村家と楽しく過ごせたはずだろう。




そのはずだったのに



「眠い…」


引きつった笑顔に青筋を浮かべる士郎。隣で暇だと言わんばかりの七夜。その後ろに、手に持つ小太刀をいつ抜刀してもおかしくない恭也。状況を全く知らず舞い上がっている美由希。

人呼んで『暗殺車』と称してもいい物騒な戦闘集団がここにあった。

「ね、ねぇ七夜君。七夜君は温泉とか初めて?」

「ああ、初体験さ。生憎その手の娯楽とは無縁だったものでね。でも、一通りの作法は知識としてあるから心配はいらない。それと、何事にも初体験は思い出に残る、今日の旅行には感謝しているよ。美由希さん。」


七夜の発言でまたもや美由希は顔を赤らめテンションを上げる。


そんな美由希をルームミラーで視てしまった士郎は

「七夜君!眠いのなら寝ていて構わないよ!――――なに、着いたら起こすよ」
(貴様!!それ以上美由紀と話すな!!!―――――斬り殺されたいか!!)

合わせて恭也も

「ああ!それがいい。こんなにいい天気なんだ!七夜のおかげで翠屋も更に儲かっているし、気にするな!」
(話は聞いている…後ろから串刺しにされたくなければ大人しくしていろ。)



しかし副音声を理解していない美由希にとってみれば

「お父さん、恭ちゃん。ここのところ何だか七夜君に対して冷たいよ?なんかお店で揉め事でもあったの?」

ここ数日美由希から見た士郎と恭也の発言はKYなものが多い。主に七夜と話をしている時に限るが。


二人が秘密を言うに言い出せず、目を白黒させているのを後目に、然も気にせずいる七夜は。

(成程、移動車両の中の殺人か…面白いかもしれないな……)

机の下より難易度は高そうだ。

などど考えていた。






一方月村忍の運転する車両は、本来よりも人口密度が高くなっている中で

「いい、すずか。七夜君はケダモノのロリコンだから絶対近づいちゃ駄目だからね!」

忍はいくら可愛い妹を守るための方便とはいえ、七夜の名誉を著しく傷つける発言をしていた。

「あら~?七夜君はもしかして美由希さんよりもなのはのほうが好きなのかしら?」

「お母さん……意味がずれてるよ……」

「ろ、ロリコン!?そんな危険人物を連れてきちゃってるの!?それならすずかがこの前から暗い顔しているのも納得だわ!美少女の敵よ!!」

アリサは今の会話で七夜の人物像をかなり誤解することになるが、それは旅館に着いたときに改まることとなる。

そして

「はい、あれはロリコンです!!すずか様と忍さまを狙うぺ○フィリアです!!」

メイドのファリン・K・エーアリヒカイトは忍たちの会話の流れに乗ろうとよく解っているのか定かでない発言をした。

車内は一部を除き、一瞬ドン引き状態


流石に言い出しっぺの忍は苦笑いになり。

「え……と、…それは言いすぎなんじゃ――――」(もしもウチを狙ってきたんじゃない『只の暗殺少年』だったら、全面的に責められるの私じゃん!?)

それと、私はれっきとした成人でロリでもペ○でもない。ナイスバディなお姉さんな筈だ!と、心の中で叫んでいた。









―――――――――――






旅館について、駐車場での出来事


アリサ・バニングスは驚いていた。


「あ、あんたが七夜?話に聞いていたのと随分と雰囲気が違うわね。」

「?噂が何なのかは知らないが、そういった情報は得てして誤っているものが殆どさ。…例えるなら男は悪いイメージの噂がより強く、現実には当てはまらないことが多い。しかし女性は、見目麗しき絶世な噂は実際はそれ以上ってことがあるだろう?」

「まあ、男の場合はイジメとかにある典型よね。でも女性はそんなことあるのかしら?」

「いい質問だ。古来から女性の美貌に関するうわさは、視えないからこそ虜にする魔力があってね。しかも興味を持つ分、初見の印象も大抵は良いものだ。つまりアリサちゃんは、なのはちゃんが自慢するだけのことはある立派なレディーに視えるってことだよ。」


「――――――い、いいいいイキナリ私のことを口説こうっていったって、そうはいかないわよ!」

だけど、今の会話の流れで分かった。こいつは平気な顔をして特に気にもせずに女を"口説く"(殺す)男だ。

「ねえ、七夜君!荷物、部屋に置いたら裏手の森へ散歩に行かない?」

「構わないよ。」

そして、既に1名の末期患者が、よりにもよって美由希さんとは…

―――その時、何故か私の背後からものすごい負のオーラをまき散らすなのはが

「七夜さんっ!お散歩はなのはと行くって約束してたじゃん!」(ジュエルシードの探索にお姉ちゃんは連れて行けませんよぅ。)

!?そんな、なのはも手遅れだなんて――――たった数日でここまでの被害とは。

「えー。いいじゃんなのはぁ。」

「絶対だめぇ!!七夜さんは私の!!」『七夜さんは私(とジュエルシードの探索に行く)の!!』




どさり





後ろを振り返ると、なのはのお父さんが発狂したのか、物凄い奇声を挙げながら七夜に向かって刀を振り回している。

恭也さんは怒りのあまりに気絶して、ノエルさんと忍さんに抱きかかえられるような形になっている。


「何だかなのはの一家が壊れていってるわ…」


唯一の頼みの綱であろう、なのはのお母さんですら。

「あらあら。なのはったら、美由希さんに負けまいと猛烈アタックね♪」




「う……うう、ノエルさんーーーー!!なのはに七夜君盗られたーーーーーー」

「…………………」



「貴様ぁああああああああ!!」

「まてまて。そう事を荒らげてもいいことは無いですよ。可愛らしい乙女からの誘いに乗るのは男の甲斐性って奴です。」

ひょいひょい刀を避けながらなんか火に油を注いでいる気が…



「恭也っ、しっかりしなさい!」

「たたたたたたったったたたた大変ですぅ!??!くきゅ、救急車ーーーー」





「ああーーーーーもう、うるさーーーーーーーい!!!!」





~あとがき~

就職活動が忙しすぎる。

原作崩壊、ついカッとなってやってしまいました。アリサだけは最後の良心であってほしい。


次回予告:タタリ登場予定

何とか巧く繋げてA'sまで行きたいな…それまで高町家がどれだけ原作崩壊するか…OTL


好感度

なのは  ±0
フェイト  -2
美由希  +10



次回投稿時に『とらハ板』に移りたいと考えています。


続きたい





[15623] 裏小話その1
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:46bf9762
Date: 2010/03/30 23:03

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



さらばだ少年!
この体は少年の日が見た幻想とか妄想とか悪夢とか、そういう
もので出来ていたと思うがいいにゃー!




~裏小話その1「イロモノ猫の受難」~



「ちょっと!待ちなさいよ、この宝石爺(ジジイ)!!」


七夜と別れてから早数日。私は毎日色んな並行世界に飛ばされていた。

この世界はなんでも、石油資源が枯渇して太陽エネルギーの取り合いがドウたらこうたらで――――変なロボットがうじゃうじゃいる世界。


そして


「ぜぇ、ぜぇ、――――ほんっっっっとうに、今度こそ、この世界に七夜が居るんでしょうね!?」


現在私が居る場所は明らかに戦争のゲリラ地帯。

トラップ、地雷、散弾銃、爆撃、なんでもアリの泥沼地帯を必死になって駆け抜けている。

ズバリ、止まったら死ぬ。

なのに、この爺ときたら。

「…………どうじゃろか?」

何度目よ!!その言葉!?っていうか、一歩気を抜いたら即死っていうこの状況は、あのブサイクネコの悪戯よりもたちが悪いわ!!


「ふぅむ…さて、小僧を送った並行世界は一体どこじゃったか…」

「何で七夜を送った世界を覚えてないのよーーーーーーー!!―――――キャァ!?」

今度は戦闘機とロボットからの爆撃――――――死ぬ!流石にそれは死んじゃうから!!上空300mからの攻撃なんて、私の射程外だからーーーー!!

よ、夜になれば――――そう、夜になれば戦場の悪夢を集めに集めて、あんな奴らイチコロに―――――





ズボっ




今度は落とし穴

「もうイヤーーーーーーー!!!七夜ーーーーーー!!!」

「何を喚いとる。……ほれ、遊んどらんで、さっさと探さんかイロモノ。」

「私はイロモノじゃなーーーーーい!!」







~あとがき~

短いながらも裏話でした。

白レンが七夜の下にたどり着くまでの道のりは遠い。



続くのか?




[15623] 七ツ夜と魔法 第5話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:81898458
Date: 2012/11/19 20:44
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



黒猫、カラス、霊柩車。

ああ、柳の下を通るってのもあったっけ。

不運なのはお互いさまってコトだ。



~第5話「退魔/魔法生物」~





フェイトはジュエルシードの反応を追って、海鳴市から離れた温泉街に来ていた。

ここ数日はジュエルシードの反応も順調に捉えていて、使い魔のアルフも浮足立っている。

「アルフ、あんまり油断してたらだめだよ。母さんが待っているんだから。」

「うぅ~。そ、そんなこと言ってもさ、温泉だよフェイトォ。ジュエルシードの魔力は今夜が臨界点と踏んでいるんだから。それまでは確実な範囲は割り出せないさ。」

「確かにそうだね……でも、やっぱりぎりぎりまで探すことにするよ。そうすれば見つけて、すぐに封印できるから。」

アルフは温泉に入ってきな。と、フェイトは促す。

「!!そんな!?フェイトが頑張っているときに私がサボりみたいなこと出来ないよ!」

「大丈夫。念のため他に魔力反応が無いか調べてもらうから、集合時間は午後6時。場所は打ち合わせ通り。不測の事態があったら念話で。」


「……お、温泉饅頭買ってくるからね!」


そう言ってアルフは走って行った。だけど、気が付かなかった。

気が付けるはずが無かった。



フェイトはこの時点で一番の警戒対象をジュエルシードと位置付けていたのだ。


しかし、アルフが向かった温泉宿もまた、殺人鬼が居る危険地帯だということを知らなかった。






――――――――――






「ふぅふ~ふぅふふぅ~♪」

高町なのはは上機嫌だった。

理由は本人もあまり分からないでいる。

ただ、現在なのはと一緒に森の中を歩いているのが、七夜志貴ということである。

結局、夕方まで探し回ってジュエルシードを見つけることは出来なかったが大体の位置をユーノが絞り込むことができた。

あまり遅くなると、また恭也たちが五月蠅くなるということで旅館に向かって引き返している所で

「ねぇ、七夜さんは好きな食べ物とかってあるの?」

「そうだな、嫌いな食べ物なら幾つか挙げられるが、好きな食べ物は――――これといって見当たらないな。」(梅サンドは概念毒手だしな)

そう言うなのはちゃんは何が好きなんだい?と、七夜が聞き返す。

とたんになのはの顔が真赤になり

「えー、えーと?私は――――――――――」




「おしゃべりはそこまでだよ。」

不意に女性の声でなのはが意識を取り戻すと同時に



―――――――七夜の瞳が蒼く光る

「!?七夜さん?」

とっさのことでなのはは驚くが、次の瞬間――――


「あんただね?この前フェイトをキズモノにしたっていうのは!!」

目の前に獣の耳を生やした女性が仁王立ちしていた。



「あ、あなたはいったい…?」

なのはが不思議そうに質問する。

しかし状況は既に臨戦状態。七夜は腰を落とし、いつでも相手を向かい打てる体制。ユーノは魔法の構築イメージを固めていっている。


「用があるのは、そこの男にだ。邪魔するなら、あんたもただじゃぁおかないよ!」


アルフは以前、結界内で攻撃を受けた時のことを無理矢理聞いていた。

そして魔力反応がある1人と1匹?の傍に居ることから間違いないと判断していた。


そんな状況を冷静に分析した七夜は――――――目の前の獲物に衝動が抑えきれずにいた。

「やれやれ。男としては、こちらから手取り足とりリードしたいところなんだが、如何やら最近のレディーは積極的らしい。しかし、はしたないなぁ?自分から襲われに来るなんて。」

七夜の言葉にアルフはさらに苛立つ

「――――っ、謝っても許さないからねっ!!!」

アルフは激昂し一直線に飛びかかる。右の拳を硬く握りしめ、七夜の頬を粉砕するべく横に振りぬいた。


しかし、そこには七夜の姿は無く、振りぬいた右腕は空を切る。

「!?何処だい!!」

アルフは驚き戸惑いながらも必死で七夜を探す。そして自分の真上から―――――




アルフに向けられる、殺したくて堪らないといわんばかりの、この世の殺意を全て詰め込んだように―――――蒼い瞳



――――――吾は面影糸を巣と張る蜘蛛、



小太刀を構え、木の枝の"下に、逆さまの体勢で直立している"七夜がいた



―――――ようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ



七夜が持っている小太刀は恭也の業物だっった。体術を主とする七夜にとって、小太刀はナイフと同様に扱うにはほとんど支障が無かった。



七夜は周囲の木々を足場に目にも止まらぬ動きでアルフを翻弄する。

一閃、また一閃と小太刀で確実に殺すための斬撃を繰り出す。


対してアルフは己が持てる動物本能を最大限まで研ぎ澄まし、これを紙一重で――――避けきれず、少しずつだが切り傷が出来る。




動物が血を流す



動物にとってその事実は2択を迫られる時である


逃げるか


(出来ない、こいつは蜘蛛だ。そしてこの場は奴の巣。逃げ腰になった瞬間に惨殺される!)



戦い殺すか


(それしかない!ここで殺らなきゃ、この後に控えているフェイトにも危害が及ぶかもしれないっ!)





―――――――戦闘続行




七夜はアルフの決心した瞳を見て口元が釣り上る



水月で跳ね、


「ちょこまか動いて!!あんた、人間か!?」


七夜で薙ぎ、


「血゛っ――――つ、」 血風が舞い


木々を使いあらゆる場所から六兎で穿ち、


「っ、カハ……」
アルフは背中を蹴り抜かれ肺から酸素をすべて吐き出してしまい、よろけながらも必死で振り返り――――



死を確信した。

(―――――ああ、何さ?あたしはこんな所で死んでしまうのかい?やっぱ温泉に入りたい欲が―――――)




―――――――「無駄だらけだ」――――― 一里四辻と繋げ"八点衝"(斬刑に処す)。






ガギン!!





「七夜さん!駄目ぇっ!!殺しちゃダメーーーー!!!」


そこには七夜と向かい合い、アルフに背を向けるなのはが、必死にシールドを張っていた。
















何だよ―――――――――何なんだよ、




月夜



                      違う



誰もいなくて



                      違う!



誰も生きてなくて


                      違う!!


全てが赤くて


                      違う!!!


皆殺されていて


                      チガウ!!!!


母さんが目の前で殺されて


                      ヤメロ


俺を庇って殺されて


                      ヤメロ!!




殺したのは―――――――鬼で



                      止めろ!!!!








『俺は鬼のように――――――"■"(なのは)を殺すのか――――――?』










日は山陰に隠れかけ、辺りは黄昏から深い闇が始まろうとしていた。





――――――――――――





一方その頃



フェイトテスタロッサはジュエルシードを見つけてしまっていた。


草むらに蒼く輝く魔力光

フェイトは喜びの色が隠せない

(やった♪ジュエルシード、しかもまだ覚醒しきって無い。これなら結界を張らなくても周辺に被害は出ないし、気付かれもしないはずだ。アルフは温泉に入っているだろうし、ここは一人で封印して私も温泉街に行ってみようかな?)



油断があったのは事実


しかしそこから引き起こされる悲劇はあまりにも残酷だ





日は沈み、辺りに闇が覆い始め




フェイトがバルディッシュを振り上げ封印しようとした瞬間


「やあ、こんな所で何をしているんだい?」


「!!!?」
ビクッっとフェイトは体を硬直させ、すぐに後ろを振り向くと―――――

学ランを着た眼鏡の特徴的な少年がいた


「こんな森の中で一人だなんて……お父さんかお母さんは何処だい?逸れちゃったのなら、俺でよければ―――――」


優しい眼、どこかで見たような姿だけど……そう言えば数日前に私を蹴り飛ばした男の人。

まさか、まだネコと一緒に攻撃してしまったことを怒っているのだろうか?と考えてみたが、…眼鏡をかけていただろうか?



「――――――君をコロス」



ドクン


男の人は、ゆっくりとした動作で眼鏡を外し胸ポケットにしまう。


右手にはいつの間にかナイフが握られていて


男の人の眼は蒼くこちらを殺してくるようだった。


「だ、……誰?」


フェイトにとっては心臓が止まるほどの恐怖感の中で漸く尋ねることができた言葉だった。




そして少年は静かにゆっくりと口を開き






「遠野志貴」





――――――自らの名前を名乗った。












~あとがき~

もう少し早く更新できるように頑張りたいorz 就活ラストスパート!!

七夜のトラウマを穿り返してみました。

この度は、遠野志貴君をタタリとして登場させていただきました。

目的が無くなってしまった七夜にとって恐れるものとは何か?

七夜の"記憶"から考えてみた場合、七夜自身が七夜で亡くなる。遠野志貴になってしまうかもしれない可能性。という感じかな~と思ってみたり。


遠野志貴君にはタタリらしく、コロス形に物事が結びつくようになっているものとご理解ください。


そして、ワラキアも白レンもオシリスも居ない状況でのタタリ

こちらは七夜自身が関係しているということでストーリーを勧めたいと思います。



好感度

なのは  +5
美由希  +8(散歩に行けなかったから)
フェイト -?




続きたい



[15623] 七ツ夜と魔法 第6話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:1f52e1b8
Date: 2012/11/19 20:44
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


例外はない。

"限界"(いのち)を知れ■■■。

カタチがある以上、消え去るのが最低限の決まり事だ。



~第6話「蒼/"真実"(虚言)の夜」~



高町なのはは、必死に七夜を見つめていた。

キチギチと小太刀と魔法障壁がこすれる音の中、一目でわかる。

七夜の顔が、先ほどまでの凶悪な笑顔から、幽霊でも見てしまったかのような。青ざめた表情に変ってしまっている。

「お願い、七夜さん!殺しちゃダメ。落ち着いて話し合わなきゃ、何も解決しないよ!」

しかし、訴えかけるなのはに七夜は

「………そいつは人外だぞ?言ってしまえば魔物のようなもんだ。そんな奴が襲ってきて、殺してやらないのは礼儀知らずってもんだ。」

言い回しは普段通りのようだが、体は今にも崩れ落ちてしまいそうな位カタカタと震えていて、声に力が無い。


ガシャリ

と、ついには小太刀さえも手から落としてしまう。

「た、例え人間じゃなくても!生きているものの命を奪うなんて、そんな権利誰にも無いです!」




それを見ていた背後のアルフは

(ナンデだい?何故この子はよく知りもしないあたしに命をかけているんだい?解らないよ……男の方も、いきなり震えだして…)

そう考えていた時

『アルフっ!!!助けて!!!!』

叫び声のような念話がアルフに聞こえてきた

!!?『フェイト!!どうしたんだい!?フェイト!!!』

しかし、フェイトからの返事は返ってこない。

つまり、念話をしている余裕が無い程の緊急事態。意識を失ったか―――――

こうしてはいられない

フェイトのいるところまで、急いで移動しなければならない。

幸い男は既にこちらに視線を向けていない。

目の前の子どもも、こちらに背を向けている。



アルフは自分の持てるすべての力を振り絞り、七夜となのはに背を向け駈け出した。

そして急いでフェイトの居場所を魔力で探索する。

すると、幸か不幸か思ったより近く。

200メートルも離れていない、同じく森の中

そして、すぐにフェイトの姿をとらえることができた――――――――が、

そこは

木々がまるでニンジンがスライスされたかのように、辺りにゴロゴロと乱切り状態でで散乱し

そこに足をとられたのか、フェイトが尻持ちを着いている

右手に持つバルディッシュの切先を威嚇するように手前へ向けていて




その先には



「な!??何であいつがいるのさ!?!」



学ラン、黒髪、蒼く輝く瞳の、"先ほどまで自分が戦っていた少年"


どんなに男が早くても、最短ルートで移動しても、自分より早くたどり着くことは出来ない筈だ。

――――冷静になれ

フェイトからの念話が来たとき、男は自分の目の前に居た。

(まさか双子?)

―――――深く変えるな、余計な思考はいらない。だけど、

もしも今、フェイトの目の前に居る男が"さっきの男"と同じような奴だとすれば

森の中というこのフィールドは拙い。



そう思いアルフは一目散にフェイトに向かって飛び出し、半ば退当たり気味にフェイトを左腕で抱えると、右手にありったけの魔力を込めて



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーー!!!!」



地面を殴った




爆弾が炸裂した様な音と共に一面の土が舞い上がる

「逃げるよフェイト!!」

叫ぶようにフェイトに向かい声を掛けるが、当のフェイトは必死に男がいるであろう方向に腕を伸ばし

「―――駄目っ、まだジュエルシードがあそこにある!」


ジュエルシード!?つまりフェイトは封印作業を行うところを襲われたということだろう。

シーリングモードは無防備に近い状態だ。逃げ惑うことで精いっぱいだったようだ。


アルフは少しだけ迷い


「駄目だよフェイト。ジュエルシードがすぐそばにあるってことは、迂闊に砲撃魔法は使えないよぉ!!一旦退こうよ。空までならあいつも追っては来れない筈だからさ。」

しかしフェイトの目は強固な意志で

「…やっぱり行かなきゃ。母さんが待ってるから――――!!」

そう答えるとフェイトは自力で飛び上がりバルディッシュのモードを変え、ハーケンセイバーを打ち出す。

非殺傷設定の攻撃とはいえ、生身で受ければひとたまりもないダメージだ。



男の瞳を視る


そこで更に不安感が増す。


蒼い瞳は、まるで迫りくる斬撃を見ておらず、"斬撃の何か"を視ているようだった。

そして、ゆっくりとナイフを真上に揚げ




斬撃を"斬った"(殺した)。





「な!?」


アルフとフェイトは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

(魔力の塊を斬った?違う、斬っただけなら魔法の構成術式が崩れて、魔力が周辺に霧散する筈だ。)

今のは違う。斬られた魔法が形を失い、まるで最初っから斬撃が無かったかのように魔力さえも消滅してしまったのである。




「理解したか」


冷や汗が止まらない。さっきの、夕暮れ時に会った男のときよりも本能がデッドサインを送り続ける。


「これが」


ああ、そうだろう。その言葉が一番しっくりくる。



「モノを殺すっていうことだ。」




今度こそアルフはフェイトを抱え一目散に飛び逃げて行った。








―――――――――――――――








ジュエルシード。臨界点まであと僅か。






そこに、遠野志貴というタタリが触れた瞬間―――――――





《死徒27祖 13位 タタリ ズェピア・エルトナム・オベローン 恐怖 噂 吸血鬼 固有結界 アルトルージュ・ブリュンスタッド 契約 朱い月 白猫 悪夢 夢魔 オシリス シオン・エルトナム・アトラシア 記憶 再演 ――――――》




虚像は此処にカタチを持った








――――――――――――――








時刻は19時を過ぎたところ。




「軟弱だ!これほど軟弱な男は見たことが無い!!」




高町なのはは心底呆れていた


あれから七夜は、プツリと糸が切れた人形の様に意識を失い、なのはに覆い被さるように倒れこんできた。


「え?―――七夜さんっ!?七夜さん!!しっかりして!」


あわてて七夜を支えようとするなのはだったが


丁度その時


「なのは~?そこに居るのー?」

宿に戻ってくるのが遅いということで、二人を探しに来ていた高町美由希が


「あ、いた!い―――――――――――――…………………」


ここに二人目の、本日都合三人目の若者気絶者が出来た。



その後、なのははユーノを名犬のように使い、士郎とノエルを案内させ宿まで運び入れた。



そして、七夜が意識を取り戻してからは、士郎は今までのストレスを発散するかのように罵倒し挑発し始めて現在に至る。

そこに恭也が割って入り。

「お、俺の剣――――――御神の剣を勝手に持ち出した罪は重いぞ七夜ぁ!!」

気絶していた恭也から小太刀を拝借していた七夜は何処吹く風で。

「別にいいじゃないか?お前よりも俺の方が扱いは上手いと思うんだが?」

と、火に重油入りのドラム缶を投げ込む。



一方、美由希は意識を取り戻した後、漸く状況を理解したが

「良い?なのは。なのははまだ"ああいったシチュエーション"にはなっちゃいけない年齢なのよ。だから、明日は私が七夜君と一緒に居る番で――――」

なのはとしてはそれは拙い。ただでさえ、あれからジュエルシードの反応が忽然と消え去ってしまい、事後調査をしなければならず、森の方を美由希にうろつかれては非常に不味い。

そして、個人的感情だが何故か美由希と七夜が腕を組んでいるイメージが気に入らず


「ダメぇ!!七夜さんは私(と調査に行く)の!!」






士郎と共に、また恭也が気絶した。






こうして温泉宿での1日が終わるが







『       次のニュースです。            海鳴市で起きている連続通り魔事件ですが                   の目撃者証言では                 犯人は学生服に                     蒼い眼をした少年で                警察は                  』










~あとがき~

5月にまた社会福祉の現場実習が入るので暫く間が空きます。

個人的にはアルフのミミが堪らない。


好感度

なのは  +8
美由希  +10
フェイト -8


さぁ、ここからどうやって七夜がフェイトを落とすか考えねば!


続きたい



[15623] 七ツ夜と魔法 第7話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:c6f1147c
Date: 2012/11/19 20:45
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


…懲りない黒幕だ。

噂を助長する■■■を象どるのはいいが、

私はいささか凶暴だぞ?



~第7話「再演(再縁)/再現(際限)」~




なのはたちが温泉から帰ってきてから数日


海鳴、遠見を中心に奇妙な噂が流れていた。


『殺人鬼が出る』

ニュースで流れていたかもしれない。聞き違いかも知れない。

『犯人は高校生』

不確かな、誰とも知れない目撃証言。

『蒼い眼』

街灯の反射でそう視えたのかもしれない。



道行く誰かがこういった


『噂が"ひとり歩き"している』





――――――――――





月村忍は眉間に皺を寄せながら、海鳴一の豪邸の居間で大量の書類に目を通していた。

七夜志貴に関する調査結果がようやく出たのだ。本来ならもっと喜ぶべきなのだろうが、結果はことごとく不安を引き立てるものばかりだった。


―――正体不明――――

―――戸籍無し――――

―――来歴不明――――

―――七夜姓…該当なし――――


「これは大問題だわ…」


名前や来歴を偽っている可能性は十分考えられた。

しかし、屋敷内に落ちていた毛髪もひそかにDNA鑑定に出していたのだ。

世界中の各医療機関から取り寄せた資料と照らし合わせ、一致。或いは血縁者でも見つからないものかと躍起になったが



該当者無し



世界のどこにも彼を証明できるものが無いのだ。

正体不明どころではない―――――――"正体不在"(アンノウン)だ



そしてさらに不安に追い打ちをかけるかのように最近の噂

海鳴に出没する殺人鬼

恭也からの報告では、彼は毎晩11時には就寝して、翌朝の6時半には起きているそうだ。

特徴が一致しているが、犯人ではなさそうである。

だけど



『噂を聞いた七夜は一瞬、とても動揺する素振りを見せた』

恭也が言うのだから間違いはないだろう。噂の人物について何か知っているのかもしれない。

それにしても、あのポーカーフェイスの七夜が動揺を顔に出すとは…最初に見たときは多分、私の血に反応したのだろう。こちらを殺したくて仕方がないといわんばかりの殺人鬼の眼つきだった。

高町家に居候し始めてからは、女性陣の前では優しい好青年のようだ。

「いったいどっちが本当の彼なのかしら?」


まあ、彼のことは不安だけれども、まずは巷の殺人鬼を何とかしないといけない。高町家の殺人鬼に事情を聴いてみるとしよう。






――――――――――





高町なのはは今夜もジュエルシードを探しに夜の街へ出向いていた。

しかし今夜はナニカガチガウ。

繁華街を行く人は殆どなく。たまにすれ違う人からは噂の声。――――――――殺人鬼、吸血鬼、食人鬼、―――――死都

なのはは、だんだんと不安になってきていた。

この町で何かが起きようとしている。

なのはの肩に乗るユーノも正体の知れない不安を感じていた。

夜の徘徊に七夜志貴は同行していない。

ただそれだけのことが、今のなのはには不安でたまらない。




蒼い瞳の殺人鬼


学生服の殺人鬼

刃物を持った殺人鬼


殺人鬼




先日の戦闘、赤銅色の髪をした女の人との戦闘時、なのはは身をもって実感した。

七夜の起こした行動は最早本能のレベルだと。

道場で見る兄姉の実力を遥かに上回っている殺人技巧。

「七夜さんって、今までいったいどんな人たちと戦ってきたのかな………」

「……なのは…」

ユーノも同じことを考えていたみたいだが、考えれば考えるほど答えが遠ざかっていくようだった






気がつけば小さな公園にまで来ていた。ブランコも無く、ただ鉄棒と砂場、ベンチがある簡素な造りの広場。


街灯は電気が切れかかっているのだろう、点滅を繰り返すが

『protection』

「え?」

気がついたときにはレイジングハートが自動システムにより対物理障壁を展開していた。

次の瞬間、豪雨のような黒い雨がなのはに向かって突き刺さるように降り注ぐ。

「――――な、なに!?」

動揺するなのは。しかし、意識を黒い雨に向けると同時に

「――――――――――ひっ、、、、、、い、や、、、、、いやぁあああああああ」

雨の正体が生き物。鳥だとわかる。





生き物が死んで逝く

死ぬ

死んじゃう


なのはの中で嫌な記憶がよみがえる。

全身包帯のお父さん

モノ言わぬお父さん

泣きじゃくるお母さん

暗いお姉ちゃん

無理をして怪我したお兄ちゃん








独りぼっちの私(なのは)






いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、




いつの間にかなのはの目の前に黒い巨漢が立ちふさがっていた。


「ふむ、幼い身でありながら、内包する魔力は既に我が混沌の一撃を防ぐか………」


なのはは目の前の焦点が定まっていない。目の前の黒い巨漢を脅威と感じる力も無くなっている。

「今までに無き夜に驚きはしたが……成程、原因が第2の魔法か虚言の再演かはどうでもいい。此の身は吸血ではなく暴食を主とする無限の系統樹。衝動のままに、役割ごと喰らいつくすとしよう。」

目の前の黒い巨漢は、黒いコートの中から狼の群れを放ち襲いかかる。


「なのは!!逃げて!!」

ユーノが必死に叫び、迫りくるオオカミの群れにバインドを掛けるが、すぐに黒い混沌に溶けてしまい押さえきることもできない。

ユーノは何としてもなのはだけでも逃がしたいと考えていたが、数秒後絶望が視える。




辺り一面は獣と魔獣の黒い群れ。

空も大地も黒く染まりあがる。


「我が名はネロ・カオス…混沌の名を冠する吸血鬼だ。

――――――契約しよう――――――――その肉―――――――――生きたまま少しずつ咀嚼しよう!!」

「!!」



一斉に獣が襲いかかる




もう助からない。そうユーノが思った瞬間



無数に降り注ぐ金色の光が、獣を消し飛ばしていた。



「ば、……バケモノ……管理外世界はバケモノがいっぱいだって、リニスが言ってたけど本当にそうだったんだ!」

フェイト・テスタロッサはバルディッシュをカタカタ振るわせながら、そんな感想をネロ・カオスの真上で漏らした。

本来ならフェイトはネロに攻撃を加えようなどと考えてはいなかった。

しかし、リニスからの英才教育の賜物か、優しい性格に育った結果か、"傷ついた"(虐待をうけた)自身と重なって見えたのか、身の危険に晒されている少女を視て見ぬふりをすることがどうしてもできなかった。



「ぬ?―――――ここは何とも不思議な地よ。私が知る魔術と異なる神秘を築き上げているとは。ますます興味がわいたぞ。」

ネロ・カオスは不敵に笑いだす。


「だが!!此の身を滅することが可能な者は殺人貴のみ、貴様のような脆弱な"意志"(能力)では揺るぎもせん!」





       武装666                 




ネロ・カオスは体内の密度を高め、地を蹴り大きく跳ね上がる。


そして一瞬でフェイトとの距離を詰めると腕を大きく振り上げ          防御障壁もろともフェイトを叩き落とした。




「―――――あぐぅっ!!―――――」

受け身もろくにとれなかったフェイトは痛みでその場に蹲ってしまう。唯一救いだったのは砂場に落ちた為、骨折などは無いことだが。

その場に留まる事は致命傷だった。




「――――その肉、悉く喰い砕こう!!」

ネロ・カオスから解放される混沌の群れ

上空からフェイトに向かって一直線で迫りくる






「………けて………」










「誰か助けて!!」

それはフェイトではなくなのはが叫んだ一言


                      殺されて良い命なんてない


目の前の少女を助けてほしい。


                     純粋な、しかし奇跡のような願望など
                     
                     
                     
                     




          閃走・水月
          
          
          


「やれやれ、可愛らしいお姫様を助けるだなんて、役者冥利に尽きるところだな。」


ここに、虚像の実現者が体現して見せた。


七夜志貴がフェイトを抱きかかえ砂場を離脱していた。

「やっぱり、脳天串刺しじゃあ満足いかなかったか?ネロ・カオス」

とたんに、なのはの顔に生気が戻り


「七夜さん!」


七夜はフェイトをなのはのそばに下すと、二人に向かい


「なのはちゃんは、これといって怪我がないみたいで何より。……こっちのお姫様は……打撲が酷いがしばらく休ませれば問題ないだろう。」

そう言って学ランを脱ぐと、座り込んでいるフェイトの肩にかけ、頭を優しく撫でた。

「――――え……???………え!?」

フェイトは混乱しているようだったが、七夜は気にせずネロ・カオスの方に振り返る。

「待たせてしまったかな?」

「……成程、貴様がこの夜の中心か。」

「……?何のことだ?今はレンもそばに居ないんだが?」

「そうか、ならば13位も堕ちたものだ。まさか契約に狂いが生じていようとはな…」

「あんたとは、もうちょっとまともな会話ができるのを期待してたんだが…仕方がないな。」

「ふむ、そういうことなら既に遠慮は要らんだろう。私は喰らう者であり、貴様は殺すものだ。咬み合わぬのは当然だ。しかし、幾度の夜を血に染め上げた者同士――――」

「――――ああ、お互いの魂が極彩と散るまで、      殺し合おうか       」


七夜は小太刀をさやから引き抜き、ネロ・カオスに向かって疾走し始めた。

その姿はまるで遠野志貴とネロ・カオスが公園で殺し合った時のようだった。

ただ、違う点を挙げるとすれば



七夜の持つ獲物は小太刀であり



"直死の魔眼を持っていない"ことだった。


1度目の夜は遠野志貴のなれの果てとして有していた。


2度目の夜は遠野志貴の"使われない行動原理"として呼ばれた為有していなかった。


3度目の夜は1度目の再演だが"2度目の夜から留まっていた"為有していなかった。




迫りくるオオカミや豹の群れを斬り進んでいく



バターを斬るようには滑らかにはいかない。

それでも



閃鞘・八穿


首を刈り取り


閃鞘・六鹿


顎を蹴り砕き


同時に飛びかかってくる獣を一瞬で無数の肉塊へと斬り刻む。



「今度こそ死んでくれよ!"吸血鬼"(ネロ・カオス)!!」







――――――――――――――――









「どうして……!?」

フェイトから思わず疑問の声が漏れる。

今目の前で自分たちを守るために戦っている青年は、口調こそ違ったが先日の温泉街で戦った青年と同一人物な筈だ。

あの時の言葉―――――――『君をコロス』―――――――――

とても怖い一言だった。

次に会ったら一目散で逃げ出したいくらいだ。

でも、今の彼は心の底から優しくて――――――――温かかった。

しかしそこで、隣で未だ座り込んでいる少女の先ほどの言葉を思い出す


『ナナヤさん』


(ナナヤ?トオノシキじゃないの?)

そんな疑問が浮かんだ。


そこで、隣の少女に訊いてみた。

「あの人の名前、なんて言うの?」


「え――――――……?…――――――っ!!!?」

少女は一瞬首をかしげるように不思議そうにこちらを視たが、その後とても顔を赤くし焦ったように驚き始めた。

(…………?言語が間違ってたかな?)


その後少女はカタカタと肩を振るわせ、俯きながら。

「……は、――――の」

「え?」

小さな声で呟いているようでよく聞こえない



「七夜さんは私のなのーーーーーーっ!!!!」



「!!?」

何か盛大な勘違いをしているようである。―――ああ、私がお姫様って言われたから、彼に嫉妬しているってことなんだろう。

頭のネジがちょっと緩い気がする。




気がする―――――――けど、




(、、、、、、、、、、、、、、)



私も、男の人にお姫様だっこされたことなんて無かったんだから、責任を取ってもらわなくちゃっ。












~あとがき~

執筆遅っ!!……堪忍や…

ひとまず、書きあがったところまでを投稿します。

そして重ねてお詫びを…


月姫(メルブラ)でやれ


ホラーチックな戦闘をなのはに任せるには良心の呵責が…


個人的には、なのは「なのちゃん」の方が大好きなんですけどね。やさしい、喫茶翠屋の白い天使…可愛いじゃないですか。

頭のネジが緩いのは私の好みと、フェイトとの2度目の戦闘が無かったことから、危機感が今一つ欠けているということになります。


リリカルの世界では型月の面々は弱いのでは?という噂も聞きますが、

私は両方ともステージが変われば優劣は付けづらいと思っています。



今回の戦闘を書いてみたかった理由は、マジでダンディーなジョージが少女を襲う変tうわなにおするやめr(y…




好感度

なのは  +12
美由希  +10
フェイト  +8(仮)and-5







[15623] 七ツ夜と魔法 第8話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:777c81eb
Date: 2010/06/05 22:23
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


人間である以上、その疑問はつねについて回るのだ。

背徳、自虐、善意、博愛。

人間とはこれらの機能が付属したサルである。


~第8話「フェイト/退魔 ナイト」~



少しだけ時間は遡る

喫茶翠屋での仕事を終えた七夜は、いつも通り高町家の居間で桃子や美由希と雑談をしながら夕食を終え、食器の片付けをしていた。



「七夜君もだいぶウチでの生活に慣れてきたよね~。……その、良かったら週末に、…私と…」

美由希はさりげなく、七夜とデートの誘いをかけようとしたとき

「七夜、ちょっと父さんの部屋まで来てくれないか?それと美由希、週末は道場でみっちり鍛えてやる。」

恭也が横から割り込む。

「ちょ、恭ちゃん!?今週末はオフだって言ってたのに…!!」

「やれやれ、美由希さん。今週は俺もバイト代が入るから、宜しければディナーに付き合って頂いても良いかな?」

「――――っ!?貴様…!!」

美由希は"付き合う"という単語に、神速を開眼したかのような超反応で

「な、七夜君とディナー……デートの誘い――――――――――行くよ!!絶対行く!!」

そう言うと一目散に桃子のいるキッチンへと駆け出し

「義母さん!ど、ドレス!ウエディングドレス貸して!」

「ふふふっ、美由希ったら気が早いわね。まずは、七夜君にホテルでちゃんと口説いてもらわなきゃっ。」


女性陣が盛り上がりを見せる中で、七夜は背後からの殺気をそよ風のように受け流していた。そしてついに



「「ナーーーーーーーーーーーナーーーーーーーーーーーーーーーーやああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」


二刀小太刀を振り上げる、発狂した不破剣士の2名が七夜に襲いかかってきていた。

二人の猛攻を七夜は軽やかにバックステップでかわし



「よっと」



玄関で靴をかすめ取ると、そのまま庭に出た。


「毎度のことながら、丸腰の相手に対しての刃物はどうかと思うぞ?」

以前の七夜に対してなら、ツッコミどころ満載の皮肉である。

しかし、今の恭也や士郎にとって挑発は起爆剤となり

高速戦闘を主とする2対1の図式が出来上がろうとしたところで―――――――





―――――――――魂がタタリの夜に反応した



「!!?」


七夜は驚き、そこに隙が生じる。


棒立ちとなった七夜に恭也が一直線に飛びかかり刀を振り上げる。

「覚悟!!!」





一瞬の間、意識を手放していた七夜は―――ふと、現実を取り戻し。


とっさに



「      極死      」

手ぶらの右腕を月夜にかざし

振り下ろすと同時にその体が消える。



「――――!!何処に!?」 士郎が驚くがそのときすでに

七夜は恭也と向き合うように逆さまに跳んでいて

左手は刀の鍔に手を掛け、右手は恭也の顎に手を掛け





「      七夜      」


恭也の後頭部を地面にめり込ませる形後ろに押し倒した。


士郎は驚きが隠せない。

いくら恭也の動きが怒りで単調になっていたとしても、この実力差は出鱈目だ。

七夜が攻撃に移る瞬間、右手を挙げたのは何か業物を持つことが前提とされることを意味している。

そして、後ろに押し倒された形となっているが、本来あれは首をねじ切る為の動作。

つまり、回避不可能の無慈悲な選択を迫る技だったはずだ。


「七夜君、君は……」

「なのはちゃんを探してきます。……最近なのはちゃんが出かけているのはご存じですよね?」

「え?あ、ああ。なのはも真剣そうだったから、こちらからは何も聞いていないがな。―――――――なのはに何かあったのか!?」

「今夜は少々危険な夜だ。鬼と吸血鬼と――――殺人鬼が出る。」

「吸血鬼―――――月村家のことか?」

「いいや、そんな殺しがいのない連中じゃないさ。」

七夜は肩をすくめながら気絶している恭也から小太刀を1本取り上げ、静かに鞘へと収める。

「衝動が、頭の中でガンガン五月蠅いんだよ……殺さなきゃいけない奴がいるってね。」

人外に反応する七夜の衝動。混血を殺すことを生業とする一族。強い衝動ということは―――より、魔に近いモノを意味する。

「それなら私も――――「駄目だ」―――っ、何故だ!!」

士郎は1秒でも早く駆け出しなのはの、我が娘の下へ向かいたいというのに

「士郎さんは待っていてください。」

その表情はいつも以上に優しく、狂気を帯びていた。



蒼く輝く瞳は誰が為に――――――





「俺が必ず助け出します。」




弱き者を魔から守るため




「退魔四家が一つ、七夜の名にかけて。」




七夜は士郎に背を向けると、影絵の街へと走り出した。






――――――――――





「七夜さん!!もう止めてっ!!、これ以上――――これ以上動いたら――――――――」


高町なのはは必死で叫び続けている。

その声は後悔の念でいっぱいであった。



自分のせいだ



自分はいつも通り、塾から真直ぐ家に帰って



自分はいつも通り部屋でごろごろして



『助けて』なんて叫ばなければ――――――――


――――――七夜さんはこんなにも怪我を負うことは無かった。




七夜志貴は既に満身創痍だった。

ネロ・カオスとの戦闘が始まってから、既に40分が経過しようとしていた。

ワイシャツはに血に染まり白い所を探すのが困難なほど。

左腹部の端には鰐に食い千切られ、おびただしい程の血液が今も地面に滴り落ちている。


しかし、それでも尚七夜は襲い来る獣をひたすら殺し続ける。


オオカミの群れを細切れにし、

オオムカデを輪切りにし、

混沌とした腕は5分割、

脳天を串刺しにし――――――可能な限り混沌を一か所に集めないように斬り飛ばしてゆく。




――――右肩口が豹に食い千切られた。



小太刀を左手に持ち替え、開きにする。




――――左足首を小型恐竜に咬まれアキレス腱がぶつりと裂ける。



右足に重心を置き、すぐさま解体する。





止めどなく溢れだす血液。


最早致命傷どころの騒ぎではない。

なのに、逃げ出そうとしない。戦意を喪失しない。闘争心は膨れあがるばかりで、尚も殺害対象のみを浄眼で見据えている。







傷の状況からして、もって後数分で訪れる





























「ふっ、どうやら今夜は私の勝利で終わるようだ。しかし、皮肉なものだ。喰らい合うは虚像とはな。ニンゲンではやはり物足りん!――――――だが」

ネロ・カオスは満足のいかない顔をする。


「本体の混沌残存数―――――――108………成程、魔の殺し方は心得ていると言う訳か。」

「さて……本当は無垢な乙女に頼むのは気が引けるんだが……」

そこで初めて七夜はなのは達の方へ振り返る。

「まだ動けるなら、そこいらに蠢いている混沌の残骸を消し飛ばしてくれ――――俺は吸血鬼を殺す。」

ネロに戻っていない混沌は今にも地を這いずり一つに固まろうとしている。





体中が軋むフェイトは

「母さんが待ってる……ここで死ぬはけには、いかない……バルディッシュ!!」

座り込んだまま魔法を構築し始め、上空から無差別に閃光を放つ。




大地を焼き切る轟音が合図となり、七夜は再びネロに向かって走り出す。





「人間風情が!!調子に乗るな!!」




七夜の身長の数倍はあろう甲殻類――――昆虫にも似た大型魔獣が繰り出される。





「悪いな、――――――――――調子に乗らせてもらうぜ!!」



七夜の体が宙を舞い相手の体の節や外郭の薄い所を狙い解体しつくして行く。




残り99



「ぬあぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



ネロ・カオスは残りの命、全ての密度を高め自身を魔物へと変貌させる。



そのまま七夜に突進―――――――――――することは出来なかった。





ネロ・カオスを縛りつけるユーノ・スクライアのバインド





「このような脆弱なもので―――――――っ!!?」




確かに密度を高めたネロ・カオスに対してバインドは数秒しか持たない脆弱なものだっただろう。




しかし目の前の殺人鬼は












数秒で99の"混沌"(命)を殺しつくす。









「今回の教訓はこれに尽きるだろ……"女こどもには優しくしろ"ってね」







そう言い終わると七夜はネロの残骸の中に倒れ伏した。










―――――――――――







「すごい、あの人……」

魔法も使わず剣1本でバケモノを倒しちゃった。


黒い泥を倒すことが出来なかったみたいだから、私が消し飛ばしたけど……


本当にすごかった


でも


私に襲いかかっち来た時と同じような力で倒さなかったってことは…やっぱり別人


ちょっとややこしいけど


「………ナナヤさん…か、…まだ……ドキドキが止まらない―――――――――じゃなくって」





上手く動かない体を引きずりながら彼の倒れている所まで行くと、既に駆け寄っていた白い少女が。

「七夜さん!七夜さんっ!!いやっ!!死んじゃ嫌ーーーーーーーーーー!!」

半ば卒倒しそうな雰囲気で叫んでいた。

「なのは、落ち着いて!大丈夫だよ!この化物の残骸…たぶん命の塊みたいなものだから、こいつを上手く傷口に埋め込めば助かるかもしれない!!」


フェレットが白い少女を落ち着かせようとする。


私も無言で彼に、あまり得意ではない治療術式を使うべく魔法陣を展開する。


それに対してなのは?という白い少女はこちらの行動に気が付き。

「大丈夫だよなのは。形状から見て、たぶん応急用の治療術式だと思う。」

フェレットが私の魔法について説明をすると、一瞬頭がフリーズしたのか、白い少女は動きを止め



「あ………………、……………―――――――!…………だめ、……駄目ぇ!七夜さんは私が帰って看病するのぉ!!」



駄目だこの子…やっぱり頭のネジが緩いみたい。

それに、色々"お礼"もしたいから私の部屋に……………男の人をへや、に、………つ、つつつれ込む!!?

ああああ、アルフもいるし大丈夫!―――いや、アルフには休暇を挙げよう。ドックフード専門ショップに行かせれば2日は帰ってこないだろう。




その間2人っきり……………うん、そうしよう!!








~あとがき~


こいつら…こんなキャラだっけ?

このまま行くと、皆ヤンデレヒロインじゃないか!!

次回はまともに書きたいな、うん。

ネロ・カオスとの戦いは如何でしたでしょうか?

混沌の獣は死んで混沌(命)に戻ると、ネロ本体に戻らなければ元に戻らないという条件があったと思い

また、そうしないと、このメンツじゃ勝てないと思い、ネロさんには消えて頂きました。

美由希のドレス姿はパッケージでデフォです。



好感度

なのは  +15
美由希  +15
フェイト  +12 and-5



続きたい



[15623] 裏小話その2
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:777c81eb
Date: 2010/06/06 22:21

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


――――フ。信組の気配をたどってみれば、
待っていたのは哀れな犠牲者一人とはな。
出てくるがいい、そこの人間。



~裏小話その2-1「その頃、先生と教育ママは」~


「よくも私の事務所の住所を協会にばらしたな…覚悟は出来ているだろうな?"蒼崎青子"」

「あら~?どの口がほざいてるのかしら?…ひとの口座の残高マイナスにするまで使い込んだ"傷んだ赤"に言われたくないわね?」

蒼崎姉妹は草原で一触即発の状況だった。

「せ、先生!!?落ち着いてください!ほら、先生だって七夜の為に色々尽くしてくださって気分が盛り上がっているのは解りますが…」

「おぃ、そこの高校生。……いい眼を持ってるじゃないか……同じ顔でも、こいつはまた別格だ。イラついてる気分の憂さ晴らしだ。殺し合おうぜ。」

遠野志貴の青子に対するなだめの言葉を遮るように、着物に赤い革ジャン姿の両儀式が殺し合いへと誘う。

「あ、あんたもぶっ飛んだ思考してないで二人を止めてくれよ!~~~~あぁーーーっどうしていつも俺の周りは思考が物騒な奴しかいないんだ!!」



「私をその名で呼ぶ奴は―――――――誰であろうと"ぶち殺す"!!!!」

「私をフルネームで呼ぶなんて!――――上等っ!!私の金返せっ!!!!」










魔法使いと殺人鬼の夜は終わらない。










~裏小話その2-2「カオス再誕」~


なのは達を守りきり、七夜志貴はネロ・カオスを倒した。


ネロの残骸は殆どフェイトが消し飛ばしたが、草むらの陰に333の混沌の因子が再び集まろうとしていた。






そして






「ふぅっ、ニャる程。これが世に言うスプラッタ劇場という訳か……いゃあ、最近のCG技術は素晴らしい。まるで3Dテレビだニャ。」

「――――む?SOS信号?もしやこの世界にも"さっちん"がいるのかニャ?」

「予感としては母の愛情を求めながらも、同世代の幼女と百合ん百合んな関係に発展しそうな金髪"ツインテ"(ヤンデレ)な気がしてなぁりません。」

「まぁ、キリングフレンドにその辺は任せるとして。吾輩は早速今夜のワイフ(2次嫁)をハント(探)しに行くとするか…」









影絵の街に混沌のネコは歩きだした。







~あとがき~

短いながらも裏話第2幕でした。

OPの原因はさらっと書く程度でいいと思ったので、あと魔法使いの夜が出ていないので、こんなギャグになりました。

ネコ・カオスは…書きたかっただけです。ネロと言えばあとはギャグになってしまうので…

続くのか?




[15623] 七ツ夜と魔法 第9話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:8313d438
Date: 2010/07/19 10:26
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


オレとよく似た眼を知っている?

それはどうも。

どうせ、そいつもロクなヤツじゃないんだろ。


~第9話「Re;/paradox」~



…まったく、あっちの世界での住人とまた殺し合えるのは、嬉しい限りなんだが…

いちいち戦うのに目的が付いてくるとは、俺は正義の味方じゃぁ無いんだけどな。

ヒロインを助けて自分はデッドエンドなんて、何処の三流役者だ?

…まぁ、こんな闘いも悪くは無いか。





「ええと、包帯は取り換えたから……後は、治療術式を再構成して…」



ん?聞き慣れない声だな?眠っているのも、そろそろ限界か。



起きるとするか






眼を覚ますと、はじめに映ったものは高町家の天井では無かった。


天井が高いモダンな造りの部屋…見知らぬ部屋


場所の特定は後回しにしよう。今は自身の確認が先決。

体を起こし、ベッドから降りる。

ふと見ると上半身は裸になっていて覆い隠すように包帯がくまなく巻いてある。


骨、筋肉共に違和感はない。強いて挙げるなら、体中に巻かれた過剰ともいえる包帯の量だが…

「死を覚悟するくらいの怪我だったんだがな…どうなってる?」

なのはちゃんたちが直してくれたのだろうか?だとしたら、なんて無様だ。

守った筈の少女に命を救われるなんて、安い男なんてレベルじゃない。

七夜志貴はどんな時でも余裕の姿で瓢々としているものだ。


ああ、どうしちまったんだ…





ガチャリ


と、部屋のドアが開き、この前の金髪の少女が少し驚いた顔でやってくる。


「え……と、ナナヤさん?で…いいのかな?眼が覚めたんだ。」

彼女の両手には換えの包帯と消毒液がたくさん抱えられている。どうやらこの包帯は彼女が巻いてくれたものらしい。

「ああ、おかげでだいぶ良くなったよ。助けてもらって感謝するよ、お姫様。」

「えーと、私…そんな、お姫様じゃぁ…」

「…そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。それとも、お姫様のままがいいかい?」

「フェイトです。フェイト・テスタロッサ」

「フェイト…ああ、運命って意味か。いい名前じゃないか。」


少々からかう意味で口にしてみたが、フェイトは思いのほか顔を真っ赤に染め上げ、頭からは湯気が立ちのぼる。



「え、ええええええぇ、と、私!コンビニでお弁当買ってきます!」



そう言って包帯と消毒液を抱えたまま部屋を飛び出して行ってしまった。


「やれやれ、お姫様にはまだ刺激が強すぎたかな?」

そんな独り言を吐きながら、体の感覚を取り戻すためにベッドから降りて立ち上がる。

まずは、今いるフェイトの家を把握して、出来るだけ早くここから立ち去ることを考える。


部屋から出ると、モダンな造りのリビングへと出た。


しかし、フェイトは物欲に乏しいらしい。なのはちゃんの部屋と比べると思考が大人びているようだ。


まずは時間の把握、これは壁掛けのアナログ時計と外の様子から16時40分と判明。

日付は…確認できないがネロとの戦闘から、1晩ないし2晩は経過していると予測。

フェイトに預けた学ランは、テーブルの上にきれいにたたまれた状態で置かれていた。小太刀も同じくして隣に置かれていた。


ただ気になるのは、学ランの第2ボタンが紛失していた。


「……?まいったな。ボタンの代えはあったかどうか……」



そこでふと、棚に置かれている写真立てに眼がいく。

そこには、ひとりの金髪の少女と、ひとりの黒髪の女性の姿が映っている。

「これは…お姫様の写真かな?ってことは、隣に映っているのが母親か?……ん?」


しかしそこで、金髪の少女に違和感を覚える。

浄眼をつかい、眼を凝らしながら写真の少女を見つめる。


「……別人か?お姫様じゃないな……姉妹か双子か…?」

しかし、それでは説明がつきづらい。





姉妹にしては似すぎている。

双子だとしたら、この写真にフェイトが映っていないのは何故だ?


フェイトがひとり暮らしをしていて、そこに送りつけた写真だろうか?

だとしたら、えらくおかしな話だ。

何でフェイトしかここで暮らして居ないのか?

浄眼でフェイトを見つめたことがあるが、これといって普通の少女であり、退魔衝動も起きなかった。

彼女はまっとうな人間の筈だ。

タタリの複製者でもない。


「………」


すぐにここからいなくなるつもりだったが、気が変わった。この写真の金髪の少女はこんなにも幸せそうな顔をしているのに、フェイトは何で以前の翡翠みたいな眼をしているのか…



…まったく、自分を殺す殺人鬼を経て、雪原を守るシリウスの次は、"お姫様"(運命)を救おうとするナイトか?

何の冗談か。

しかし、悪くない。





漸く「七夜」としての人生が始まろうとしている。









―――――――








時は少しさかのぼり、ネロ・カオスとの戦闘が終わり、七夜の応急処置が終わったところで、公園で対峙する二人の少女。


「七夜さんは私の家に住んでるの!だから私が看病するの!」

高町なのはは未だに頭のネジが緩い発言をしていた。

「いやいや!!?なのは!?無理だから!どうやってこの惨劇を家族に説明するつもりだい!?」

ユーノ・スクライアは必死になのはに対しての説得を行いながら、金髪の少女に対して注意を向ける。

「ユーノ君!もしも七夜さんをアノ小に預けようとしてるなら…………」

レイジングハートの先をユーノに向ける。

「まって、なのは!?ご、ごめんなさい!!うん!ゴメンナサイ!!!」



「――――――え、と……」

対してフェイトは冷や汗ものだ。

自身の全身打撲は未だに痛みがあり、とても目の前の少女と闘うだけの体力は無い。

しかし、ここで引いたら、乙女として決定的にナニカに負ける気がする。

そう思い、ふと今、自分の肩にかかっている七夜の学ランを思い出すと


「………学ランの第2ボタンをアゲル」


「……………は?」
「…………………良いよ。その代り1晩だけだよ!」
「え?なのは!?ナニがドウなってるの!?」



ここに乙女の盟約が結ばれた。







―――――――――――






誰も居ないビルの裏路地




ヒトのいない細い通路



そこに在るのは死者


動く屍



蒼い眼が独り


右手に握るのは退魔の宝刀



無秩序な悲鳴の数多がこだまする




さぁ、虚言の月夜は太陽の浸食をハジメル





「賢者の石の再構成を開始する。基本ベースは三咲町のバックアップデータを活用。差異が発生する地点の修正演算を開始―――――――」









~あとがき~


短いです。 遅いです。 ご容赦を!



好感度

なのは  +15
美由希  +15
フェイト  +15 or -10



続きたい

H22/7/19 誤字を修正



[15623] 七ツ夜と魔法 第9-②話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:8313d438
Date: 2010/08/08 20:54
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]










~第9-②話「   /   」~


午後10時



「なのは、そろそろ本当のことを言ってくれないか?七夜君はどうしたんだ?」

なのはは自宅の前で待ち構えていた士郎につかまり、道場で折檻を受けていた。

なのはとしては1秒でも避けたい話、しかし忘れることは無く、誰にも話したくない惨劇の話。

「七夜君は…なのはを助けにいくと言っていた。つまり、なのはが危険な目にあう可能性を知り、わが身を省みず出向くほどの危険があったという訳だ。」

士郎は敢て吸血鬼という単語を避けていた。

吸血鬼…おそらく七夜がそう称した化物に遭遇した可能性は極めて高いと踏んでいたからである。

それと、吸血鬼について深く調べていけば、後々月村家の事情にも気がつき始めてしまうことを恐れてのことだった。

なのはは やがて大粒の涙を零しながら、よほど辛かったのであろう。顔をクシャクシャに歪めながら

「七夜さんは……ヒッ……グス……怪我して――――――私のせいで!!……血だらけになって……――――――た、私の………と、知り合いの!――――家で看病されてるの


私を    守って


   オオカミとか   いっぱい刀でこ――――――――――――――ヒッ!イヤ!!!イヤ!!!イヤーーーーーーーー!!!!
   
   
吸血鬼が!…黒い吸血鬼がっ!体から動物をいっぱい出してっ―――――七夜さんを襲って―――――――――」




しかし、なのはが錯乱しながら口にしたことは、士郎の知る吸血鬼とはかけ離れた、想像を絶する話だった。





黒いコートの吸血鬼

動物や化物の命を内包した吸血鬼

黒い混沌

666の命をもつ


ネロ・カオスという吸血鬼の話







「―――――何だそれは」

なのはの話がうそだとは思わない。

真剣な眼つきで、悲しそうな眼で話しているなのはを疑う士郎ではない。

「それが……吸血鬼だと!?」

「……うん、何だか七夜さんと前に戦ったことがあるみたいだったの。」

「っ!?」
士郎は言葉が出ない。

そんな不死身に近い吸血鬼――――いや、バケモノと殺し合ったことがある?

七夜はいったいどんな人生を送ってきたというのだろうか。

士郎も長らく裏の世界に身を置いていたが、そんな出鱈目な戦いは聞いたことが無い。

七夜の殺人術

そんなにレベルの高い戦闘技術を備えた彼の一族が滅ぼされるほどの鬼が存在していた事実

そしてなにより不安がつのる


『今夜は少々危険な夜だ。鬼と吸血鬼と――――殺人鬼が出る。』


吸血鬼は―――なのはが言っていたネロ・カオスという男に違いない。

鬼?……つまり七夜の一族を滅ぼしたモノと同じようなヤツがいるということだろうか?

それと


七夜と特徴が酷似した殺人鬼―――巷で話題になっている、眼鏡と蒼い眼の学ランを着てナイフを持った……


…………?    ん?ナイフ?眼鏡?


そういえば七夜はナイフや眼鏡なんて持っていたか?

なのはの話では、吸血鬼との殺し合いで使用したのは、恭也の小太刀だったそうだ。

七夜では無いのだろうか?


まあ、その話は後で月村家と話し合うとしよう。後は、なのはのことについてだ。


「なのは、次の質問が最後だ。今までは黙っていたが、何で夜中に出歩いているんだ?そろそろ話してくれ。父さんも、恭也だって心配しているんだ。」



「…それは……――――――お友達の探し物を一緒に探してるの…」


「探し物?」


「青い小さな石………」

なのはは、それ以上喋ることは無かった。





―――――――――





午後11時



士郎との話を終え家に入ったなのははリビングに居た。


なのはは精神状態が少し落ち着き、桃子が淹れたハーブティーをのんで色々あった一日の気持ちを休めていたところ

美由希がどたばたとなのはに詰め寄ってきた。

「七夜君は?ねぇ、七夜君は?今週末は二人きりでデートしてプロポーズしてホテルでディナーでいい雰囲気になって―――――ああ、なのはにはまだ刺激が強い話だったかな?とか七夜君だったらいっちゃって―――」

「………」

本当に最近の義姉はどうしたのだろうか?と、思うくらいのダメっぷりである。

今の義姉に対して最も有効的で脳髄へダイレクトで響く言葉を模索するなのは。


そしてトリガーを引いた

「七夜さんは金髪の女の子の家に泊まってるの」

なのはの口から飛び出す無常なる一言

擬音が聞こえるくらいの言葉の弾丸をもろに食らった美由希は容赦なく、無慈悲なまでのダメージによろけ膝をつくが、テーブルにしがみつきながら必死で、先ほどのなのは以上の錯乱ぷりを超える動揺を堪えつつ現実逃避をする。

「う、―――――――――――――――嘘だっ!!!!!七夜君はっ!七夜君は今週末私とウエディングで挙式でケーキ入刀は私の小太刀を使って―――」

「違うもん!七夜さんは私のっ!!!!」


「うわーーーーーーーーん!!母さん!なのはがっ!なのはが私の青春をどんどん奪っていくよーーーーー!」





―――――――――





なのはと美由希の不毛な会話が始まって30分、いつもなら血管に青筋を浮かべる恭也と士郎は高町家のリビングではなく、月村家にて事情を話していた。

「ネロ・カオス?……ちょっと待ってよ、そんな吸血鬼は聞いたことが無いわ。」

月村忍は頭を掻きながらノエルに指示をだし、世界中の情報を集めているが一致するものは一つもない。

「なのはちゃんに限って嘘ってことは無いんだろうけど……でも、こうも情報が出てこないなんて―――――」





「――――まるで七夜君みたい」




忍の愚痴るような一言

その瞬間、傍に居る全員がハッと顔を上げる

「七夜君なら知っている。もう水面下の情報収集は止めにしましょう。」

忍はそう提言する。

「あいつが素直に話すような奴だろうか?適当にはぐらかされてしまう可能性がある。」

恭也は七夜に対しての信頼はあまり持っていない。

「そうはいかないわ。殺人鬼の事件だってまだ解決してないし、類似点は彼にたくさんあるんだもの。」

そう忍が愚痴ると、テーブルの上のファイルを開く。

「さっき、また殺人鬼の情報が入ってきたの。こっちが判っていることは、学ランを着た少年・身長170センチ前後・眼鏡をかけていて殺人を行う際に外す・
瞳の色は青・ナイフで人を襲う……犯行回数は判っているだけで8件だけど『奇妙なことに海鳴市でも遠見市でも被害報告はゼロ』、そのかわり目撃者証言多数・
つまり殺しているはずなのに"誰も殺していない"」

「なんか変じゃないか?その情報…殺人被害の無い殺人犯なんて、それこそ矛盾しているだろ。」

恭也の言うことはもっともである。

まるで狐か狸に化かされたような虚言の現実。

殺害現場の痕跡や死体もない。

本当に殺人鬼が存在するのかどうかも分からなくなってしまう。


士郎は額に手をあてながら俯き

「七夜君……早く帰ってきてくれ…」

誰にも聞こえない声でそうつぶやいた。







――――――――――――――






「ふふっ、アハハッ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――」

98管理外世界とは違う次元

ひとりの魔導師の住まう庭園にて狂気の笑い声が聞こえた。


たまたま人形に任せた、ジュエルシードの蒐集状況を覗き見ようと焦りの中でモニターを映しただけだったが、"アレ"がありえない現象だということを天才的頭脳は即座に見抜いた。


「共有情報の具現化?霊子の虚像?――――――素晴らしいわ!!"アレ"を解明できれば、アルハザードに行かなくてもアリシアをっ、アリシアを蘇えらせることが出来るわ!!」


「ああ――――最高よ!最高よフェイトォ……あなたは無能のガラクタだけど、今になって漸く母さんの役に立ってくれるなんて――――――最高の"娘"(人形)だわっ!!」


狂喜の声は夜深くまで続いていた。






――――――――――――




午前0時


なのは達が離れて数時間たった後の、誰も居ない公園


そこに、居るはずのない2つの影がぶつかっていた。





―――――――――お前に何百という命があろうが関係ない



ふっ、同一でありながら別人の相手とここまで殺し合う機会など、そうそうないと思っていたが……よかろう、夜が明けるまで喰らい合おうか!



俺が殺すのは■■・■■■という世界そのもの――――――――










~あとがき~


七夜のいない一方をまとめた、9話の補足回でした。



続きたい



[15623] 七ツ夜と魔法 第10話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:b53147a9
Date: 2010/08/28 16:45
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


オレは追い出されて地下にいるんじゃねえ。

好きで地下にいるんだよ!

好きなの!

趣味なんですよ、モルグってヤツが!

……いやだねホント。

おまえも吸血鬼なら古典くらいかじっとけ。



~第10話「新たな清算」~



お姫様がコンビニから戻ってきたのは色々と思考を巡らせ終わって間もなくのことだった。時間にして15分程度といったところか?

余程急いで弁当を買ってきたのだろう、若干肩で息をしている。

「ただいま、ナナヤさん、もう起きて大丈夫なの?」

「ああ、傷もだいぶ良くなったみたいだし、性能的には問題ないさ。看てくれてありがとうな、フェイトちゃん。」

そう言いながら、今更ながらお姫様の服装を観てみると、それは年相応の可愛らしさを残したまま魅力のある姿だった。

上は黒で肩などにフリルがついたもの。ピンクのスカートは少し短めに見えるが、ニ―ソックスにより、はしたなさ等は感じられない。

「え、…と。私の服装…何か変ですか?」

「いいや、なかなか可愛らしくてね。ついつい見すぎてしまったみたいだ。確かに失礼な行為だったかな?」

「はぅうっ……」

お姫様は耳まで真っ赤になってしまう。やはり、こういった話題は少し自重した方がいいか。


「それで?わざわざ二人分の食事を買ってきたってことは、フェイトは俺に聞きたいことがあるってことでいいのかな?」










「志貴に襲われた……?」

食事を一緒に摂りながら、俺は驚きの言葉を聞いた。

遠野志貴が既にタタリとして現れていることは、連日の通り魔事件と高町士郎による話で予想はしていたが……

「よく生きていられたな。」

それが率直な感想だった。

「えっ、と…アルフも考えられないくらい怖がってたんだけど、そこまで強い人なの?」

どうやらお姫様は奴の力までは理解しきれていないみたいだ……無理もないか。アレを理解できるやつは、そもそも生命としての最悪なまでの欠陥と言ってもいい位だ。

「ああ、あいつには直死の魔眼が――――簡単に言えば視認する対象の死が線と点で視えるんだ。」

「死が…線と点…?」

お姫様は僅かに驚きながらも首をかしげる。

「万物には完全なものなど無く、誕生の瞬間から終わりへと向かう死が内包されている。」

つまりそれを線と点で認識する。

「その、……ナナヤさんは?」

「ん?何のことだい?」

お姫様は不安そうな顔で尋ねてくる。


「ナナヤさんは直死の魔眼を持っているの?ナナヤさんはあの人とどういう関係なの?」

「一つずつ答えて行くよ。」


なぜか、…何でだろうな。不思議とお姫様には嘘を吐きたくなかった。

自分の素生はタタリであること以外全て話そうと思った。

それは何故だろうか。


フェイトは寂しそうな孤独な眼をしてはいけないと思ったから――――――――











――――――――――――――









プレシア・テスタロッサは海鳴市を中心に展開されている奇妙な"現象"について、自分が知りうる限りの魔法と科学技術の全てをもって解明しようと動き出した。


"人形"(フェイト)の持つバルディッシュにハック―――――成功


1週間以内の戦闘記録―――――映像化


再生時間―――――現地標準時間18時から22時まで


フェイトのデバイスのデータをプレシアは着々と調べていく。


その中で目にとまったある戦闘記録


『やっぱり、脳天串刺しじゃあ満足いかなかったか?ネロ・カオス』


吸血鬼と謎の少年の戦闘



ネロ・カオス―――――吸血鬼


「ふふっ、本当に吸血鬼なんてものが存在するなんて……いえ、理論は以前…私も研究したことがあったわね。」

人間が人間を辞める。そんな馬鹿げたものを研究したかったわけではないが、プロジェクトFを行っていたときに副産物として出た理論があった。

しかし、それこそ欠陥理論であり、人体のDNA配列・細胞変化についていくことができず、強大な力を得ると同時に固体そのものが急速に劣化し崩壊してゆくものだった。

どうやら映像の吸血鬼も同じような理論に行きついた魔導師のようだ。

人体の崩壊を他の生命の因子を取り込むことによって防いでいると考えられる。

このことから、生命因子及び他者からの生命情報の吸収が、変異した人体の崩壊を防ぐ手段だということが見て取れる。

―――――そして気になるのが混沌と化した生命因子

この吸血鬼の体内は恐らく、一つの異界を作り上げていると推測する。

異界の形成は外界を"押し上げる"又は"塗り潰す"ことによって展開することが可能ということを以前、とある男から聞いたことがある。

この吸血鬼は異界を外界ではなく自身の内に展開しているのだろう。その方が世界の圧力の影響を最も受けずらい。





そして、そもそものこの現象も一つの異界からなるもの―――――記録の再現とでも言うべきか。

悪性情報――――無意識の集合




人々の恐怖による意識を集め具現化する。




人の意思―――――心、―――――――――――ココロ?






         心ヲ形ニ?




         
   "固有ノ心像ヲ世界ニ浸食サセル結界"





   
そうだ、それだ。私が欲しかった、望む力だ。

この現象の駆動術式を逆算――――――――不明

未知の現象…もしかしたらジュエルシードが関わっているのかもしれない。


いや…まって、先ほどの謎の少年の発言……もう少し、もう少しでいい、情報が欲しい。

その為には一度、あの少年のこちらまで連れてくるのがいいだろう。



何より、あの少年……ニンゲンジャナイ




外見はいたって普通の人間、だけどリンカ―コアどころか生命の構成型式が異常だ。

幸いなことに、現在この少年はフェイトと一緒にいる。話を聞くのも簡単だ。

そうだ、今までは散々の無能で、ジュエルシードも碌に集められていない"ガラクタ"(フェイト)だけど、丁度いい。

これを機会に"アメ"を少々与え、あの少年についているようにさせよう。









――――――――――――








「う~ん……」


とあるイケブログのわんにゃんランド

その一角にあるドッグフード専門店にてアルフは腕組をして唸っていた。

昨晩、フェイトから入ってきた念話の内容は

『今日は何となく気分もいいし、明日は少し休息を入れようと思うんだ。アルフはドッグフード専門店に行ってきていいよ。』

…そして足を延ばしたるは某都内までであった。

足元には大量に買い占めたドックフード

「あの時は、ドックフードに目がくらんで、あんまり考えてなかったんだけど……何か怪しいよ。」

わざわざ念話を使って自分を何処かに行かせるような行為。

別に主であるフェイトを疑いたくは無いが、何か事情があったのだろうか?

「……やっぱり戻るよ。」









――――――――――








ヤツが殺しそこなった?……はないな。第一、ご丁寧にも"あの野郎"が17分割にしやがったんだ。

吸血鬼■■は完全に死んだ。


となると、これは――――



…………成程、そういう事か。


この前の記録をこの土地で補完させようとしているのか。


役割も何ももう一度同じことが起きるだけだが……

そんな事象に縛られるつもりは毛頭ない。

"終わる"までとは言え、せっかくの肉体だ。

せいぜい、肉の楽しみを味あわせてもらうとするさ。









~あとがき~


好感度一覧を暫くお休みさせて頂きます。

そして、研修中なので牛歩更新は続きます。


今回のタタリ、説明すると再演による補完をテーマにしています。

一度おきてしまった事柄を、可能な限り同じキャストにより演じることによって、その土地を再現するということです。




続きたい




[15623] 七ツ夜と魔法 第11話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:00e8f240
Date: 2012/11/19 20:46
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



あんたも俺も不確かな水月だ―――





~第11話「Each/lonely night」~



フェイトはとても悲しそうな顔をしていた。

七夜志貴の過去は想像を絶する話だった。

一族郎党を鬼に滅ぼされ、忌むべき敵の家に引き取られ、やっと光を手に入れ親友と過ごした日々も、魔の血統と吸血鬼の転生によりばらばらになり。


心臓を貫かれ、一命を取り留めれば記憶を弄られ――――――――七夜志貴という人物は失われた。


新たに生まれた人物、遠野志貴。

七夜の一族が伝える浄眼は制御ができなくなり、更には死に触れてしまい"理解"してしまった為に万物の終わりが視界を埋め尽くす苦悩。

漸く記憶を取り戻し、仇の鬼を打倒し自らも瀕死の重傷を負ったところで魔法使いに助けられ並行世界にやってきたという。


そして、私が出会った遠野志貴とは悪性の噂を具現化する吸血鬼"タタリ"が引き起こしている現象であり、目的は鏡の向こう側のような"七夜志貴"を殺す存在だと。


「はぁ、そんなに悲しそうな顔をしないでくれよ。今は過去の記憶も……小さい頃のことだからおぼろげだけど、ちゃんとあるんだ。直死の魔眼は使えないけど、見えざるモノは視える。お姫様がピンチの時は必ず守ってあげるよ。」

そう言って、慣れてないのだろうか。ぎこちないながらも、心の底からの優しい笑顔を向けてくれる。

「ナナヤさんは、どうしてそこまで私に優しくしてくれるの?」

気になる

その問いかけに対して七夜は少し言葉に詰まったが。

「昔、敵の家でくらしていた時に、俺以外の退魔の血筋にいた女の子がいたんだ。」

ズキリ、となぜか胸が痛みだす。

「その女の子は塞ぎこんでいた俺の心に太陽を照らしてくれたんだ。その子が見せてくれた眩しい位の世界は、悲しみや苦しみを全て優しく包み込んでくれるようだったんだ。」


「だけど、再会した時に――――彼女は塞ぎこんでしまっていた。」

「眩しい位の笑顔は曇り、陰り、瞳は暗く、彼女が心の底で待ち望んでいたはずの七夜志貴は………いつの間にか遠野志貴にすり替わってしまっていた。」

「俺が救いださなければならなかった。俺が彼女の笑顔を取り戻してあげなければならなかった――――――――俺でなければならなかった筈なのに――――」

「―――――――彼女は遠野志貴に救われてしまっていた。」

「七夜志貴である筈の俺は既に過去に死んだ存在であり、彼女の思い人はいつの間にか遠野志貴になってしまっていた。」


同じ姿で、何も知らない人に救われてしまった。

その喪失感はどれ程のものだったんだろう。


「だから、せめてもの償いなのかな。」

「囚われの"お姫様"の心を救うことは、俺自身の人生の清算何だと思う。何より、苦しそうな目をしている娘を放っておくなんて、今の俺には出来そうにない。」


囚われている?私の…心が?

「私……苦しそうなの?」

自分でもよくわからない。

「ああ、君が何かを欲しているのは分かる。」

私が欲するもの


ジュエルシード?

チガウ、あれは母さんが欲しているものだ。

私が欲しいものは――――――

「母さんの笑顔」

そうだ、私は母さんの笑顔が欲しい。私に微笑みかけてくれる母さんが――――――――


『フェイト、母さんよ。今通信を行っても大丈夫かしら?』

!!?

突然、目の前に光のモニターが現れ、母さんの顔が映し出される。その顔はいつも私に対して接するような厳しい顔じゃなくて、とても穏やかな顔だった。

「は――はい、大丈夫…です。」

一応身なりなどが崩れていない顔確認してモニターの前に出る。

『あぁ、フェイト。そっちでの生活はどうかしら?―――ちょっとやせたんじゃない?ダメよ、ちゃんと栄養のあるものを食べなきゃ。』

その言葉に驚きを隠せない。

母さんが私を心配してくれている?いつも私を鞭で叩く母さんがワタシヲシンパイシテクレテイル

ジュエルシード探索の為に時の庭園を出てからまだ1度も報告に出向いていない。

自然と意識が不安な方向へ傾いてしまう

また怒られてしまう。まだジュエルシードは1個しか手に入れてない。

マタオコラレテシマウ―――――――


「母…さん。……その、ジュエルシードはまだ、…………、…1個……しか手に入れてなくて、――――ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!」

深く深く頭を下げてあらんかぎりの声で謝罪をする。

後ろにいるナナヤさんの悲しそうな顔が見えた気がするけど、構うことなく目を瞑り次の瞬間に来るであろう、母さんからの罵声に恐怖する。





『そうなの。でもいいわフェイト。1個でもあなたなりに頑張っているのでしょう?無理なお願いをさせているのは母さんだもの。慣れない生活で、調子もいま一つなのかしら。』

!!?

母さんが、ワタシヲキヅカッテクレテイル

『その様子だと、管理局もまだ現れていないのでしょう?焦ることは無いわ。危険があるのを知ってるとはいえ、母さんの大切なフェイトだもの、怪我もしてほしくは無いわ。』

そう言って母さんはワタシニホホエミカケテクレル





カアサンガハジメテワタシヲミテ笑ッテクレタッ、ハジメテ――――――――?――――――――カアサンガワラッテクレタ!!!

『そうそう。危険と言えば、この前あなたがジュエルシードを探している地域を調べてみたの。そうしたら、どうも大気中の魔力が所々不安定なところがあったのよ。そのことにつて色々資料を渡したいから一度こっちに戻ってきてくれないかしら?―――――あら?そういえばあなたの後ろにいる男は誰なの?』

そういえばナナヤさんのことを忘れていた。

「この人はナナヤさんっていうの。昨日ジュエルシードを探していたときに……その、吸血鬼に襲われたところを助けてくれたんです。そのせいで大怪我をしてたから、怪我の治療をするために部屋まで運んだんです。」

『あら、そうだったの。この度は娘を助けて頂きありがとうございました。お礼と言っては何ですが、吸血鬼?でしたっけ。そんな危ない生き物に負わされた怪我ならナニかと危ないでしょう。お手間を取らすようだけどフェイトと一緒に私のところまで来て頂けませんか?私のいる所ならしっかりとした治療が出来ますよ。』

ナナヤさんは少し考える素振りを見せると、チラリと私の顔を窺い

「ええ、それなら"呼ぶことにならない"。せっかくの御厚意、甘えさせていただきます。」

?"呼ぶ"って何のことだろう?その言葉に母さんとナナヤさんはお互いを見て、一瞬にやりと笑った気がしたけど、どんな意味があったのかな?

『それじゃあ、時間は今から1時間後。そちらの時間では19時40分かしら?夕食も兼ねてもてなしさせて頂きます。フェイトとも久しぶりの食事ね。母さん楽しみにしているわ。』



それでは、また後ほど会いましょう。と言って、母さんの通信は終わった。

同時に私の胸は今までにない位、高鳴りを加速させていた。

母さん―――――――――母さんっ!


ああ、これが私の望んでいた、私の願いだ。








このときは、まだ気がつかなかった






優しい嘘に居場所を見つけて、夢の中に逃げ込んでいるだなんて。




これっぽっちも考えてなかった。












――――――――――――――







遅い。



七夜さんが帰ってこない



治療にまだ時間がかかっているのだろうか?



そんな筈は無い。


一命は取り留めた筈だ。



それとも七夜さんは、なのはじゃなくて金髪の女の子と一緒にいることにしたのだろうか?



そんなの嫌だ



またなのはは独りぼっちになってしまう。



お父さんとお母さんは言わずとも。お兄ちゃんは忍さんと。お姉ちゃんは剣のつながりでお兄ちゃんと。

アリサちゃんやすずかちゃんには魔法のことなど話せない。このまま話さずに隠し通すことは出来るだろうけど、その内きっと何か隠していると感づかれて、二人は離れて行ってしまう。





もうイヤなのに、独りはいやなのに。




ミンナナノハカラハナレテユク。




アノコノセイダ




アノコヲナナヤサンガタスケタカラ…




……アンナコタスケナキ――――――――!!????


「チガウ!!!!」


今、自分は何を考えていた?!


殺されていい命なんてない。これは自分が最も尊ぶ目標であり命題だ。


それなのに何で――――



「違う、違う、違う、チガウ、チガウチガウちがうちがうちがうちがう!!!!!!」


その日は自分の考えていたことが怖くなり、部屋の片隅で膝を抱えながらよくわからない不安に駆られながら震えていた。









―――――――――――






高町士郎はある情報に目を丸くしていた。

『夜7時のニュースをお伝えします。海鳴市でまた新たな殺人です。被害者は36歳の男性会社員、○○○○○さんで――――――――』

「何だと!?」

ついに実在する被害者が現れた。

死体は全身の血が抜き取られており、所々食い千切られたような跡があったという。


「恭也!月村家に行くぞ。今回の件、如何やら相当危険なものだ。」

「ああ、本当に吸血鬼の被害が出たとなると、あっち(月村家)ものんびりしていられなくなる!」

士郎は出かける準備をしつつ、美由希に声をかける。

「美由希、ニュースを見て判るとおり、常時帯刀を許す。俺と恭也は、これから暫く月村家の方に警備で行く。留守の間はお前が桃子やなのはを守ってくれ。」

「え?え?待ってよ!私一人!?」

美由希は急な事態に動揺するが

「心配するな。ローテーションでときどき戻ってくる。後は七夜君が戻ってきたら協力してもらえ。なに、彼はこう言ったことに関してはエキスパートだ!!」

「七夜君が――――?」


彼の秘密を漏らしてしまったが、仕方がない。もしかしたら、既に何らかの形で動き出しているのかもしれない――――いや、彼は怪我を負っている。


それでも、彼の言う退魔衝動が本当だとすれば――――。







そう思いながら士郎は恭也を連れて月村家へ向かって行った。









~あとがき~



済みません許してください。なのはちゃんをあんなに壊れさせるつもりは無かったんです。

ということで、そろそろ、原作を大きく外れようかと…

自分でやっておきながらプレシアの優しさが怖い。




牛歩更新で続きます。




[15623] 七ツ夜と魔法 第12話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:00e8f240
Date: 2012/11/19 20:47
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



幻のように思えるのは、その全てだ。

どんな些細な出来事だって、思い返してみれば偶然の上に成り立っている。

呆れるぐらい同じ繰り返しの日々だったのに、同じ一日なんて一つもなかった。

なら、それは。 一つ一つがもう戻りえない、かけがえのない時間だという事ではなかったのか。



~第12話「凶ツ夜と魔法」~




「くははっ、喰い足りねぇ!飲み足りねぇ!殺り足りねぇじゃねえか!!」


時刻は午後9時50分


私立聖祥大付属小学校の屋上にてミハイル・ロア・バルダムヨォンは高らかに笑い声をあげていた。

魔術基盤の独占

タタリの再演

並行世界

そのどれもが彼にとって最大の利点を与え、彼をこの地において最強たらしめる存在とする。

真祖の姫がいない地に落胆を覚えずにはいられないが、この世界にも月とガイアの意思があるであろう。

もしかしたら違った形で巡り合えるかもしれない。

その時は今度こそ永遠を手に入れる。そうロアは考えていた。

そして、すぐれた霊脈であるこの地で城を築く。

確かに感じるのは、かつて自身を殺した気配。

志貴がこの世界にいることを証明している。

「いいぜ、いいぜぇ!これもこの体の縁だ。きっちり清算してやるよ―――――と、言いたいところだがまずはお客さんかな?」


そう言いながら振り返った先には、二人の男が屋上の入り口から飛び出す姿が視えた。

「いい動きだ、だが残念。テメェらじゃ殺人貴に及ばねぇなぁ!!」

「恭也!!一気に詰めるぞ!!」

そう言って、嘗て不破の剣を極めた士郎が前に出る。

真剣を握ることで、明確な殺害対象を認識し、自己を内面から覚醒させる。

射抜くような鋭い眼は喫茶店のマスターのものではなく、戦闘者のそれである。

その背後には息子の恭也が同じく駆けている。

実践こそ乏しいが、一瞬であれば神速を可能とする才能は七夜にも迫ることができるだろう。


士郎はロアに向かって一直線に刀を突きだす。

例え避けられたとしても自分の後ろには恭也が待ち構えており、回避や撃ち合いというしっしゅんの行動でも時間を作れば、首を刎ねることができると

そう考えていた。

しかし、ロアがとった対応は二人の予想外のものだった。



ズブリ


「――――な……!?」


ロアの胸に深々と突き刺さる刀身。悪鬼のような笑み。

「悪いがお呼びじゃねぇんだわ」


僅かに体を動かしたのか、士郎は心臓を狙った筈だったが、胸の中心に刺さっていた。

しかし通常ならこの避け方を想定する者はいないだろう。誰が好き好んで致命傷に近い攻撃をすすんで受けるものか。

「この化物がっ!!」

士郎の背後から恭也が右に飛び出し横薙ぎに一閃する。


刀身が首に届くまで残り数センチ

そこで更にロアは口元を釣り上げる。

そう、まるでこちらが無様に罠へと飛び込む様を笑う、悪戯好きの子供のように。


「金属は危ないぜ?」

その言葉が届く前に、恭也は全身に雷を浴びる。

「恭也!!」

恭也の足元を見ると、魔法陣のようなものが床に浮き出て光っている。何か罠のようなものが仕掛けてあると士郎は判断し、恭也の腕をつかみ後ろに跳びのく。

「よくこの場所が分かったな?だが如何せんっ!、オレがどういう吸血鬼なのかは調べきれなかったようだなァ。ヒャハハッ!」

二人にとって状況は最悪と言っていい。

構内には無数の魔術トラップ。その多くが雷を主体としたものだが、人間というものは些細な電流でも体が反応してしまい、強力なモノでは体は消し炭になるほどだ。

中途半端なものでも心臓が止まったり、肉が焼け焦げたりして間違いなく意識を刈り取られる。

実際、吸血鬼が小学校に居座っていると分かったのはつい1時間前の話だ。

丁度月村邸に到着したところ、監視衛星と被害者の発生情報をもとに忍が犯人がいるであろう地区を割り出し潜伏先を絞った結果、小学校の屋上に机やいすが残骸のように積み上げられている様を見れば、一目で判る話だ。

「くそ、忍君ら夜の一族が俺たち人間と何ら変わりないってことが再認識できるな。七夜君が戦ってきた化物はこんなやつらなのかっ。」

おもわず苦言を呈した士郎にロアは反応する。

「七夜?…ああ、お前ら志貴の知り合いか。」

「……ぐぅっ……キサ…マ…七夜の、事を知っている……のか?」

ロアの発言に、雷に打たれて意識が朦朧としている恭也が問いかける。

「ああ、当然だとも!なに、ガキの頃の親友でねぇ。殺し殺されの腐れ縁さ。」

「殺した?」

「―――ん?そうだぜぇ、テメーらのちんけな頭で理解するのは無理だろうが、俺も奴も既に死んでる存在なのさ。」

「馬鹿な!死んだ人間が、……お前らのような化物は知らないが、人が生き返るなんて話は在り得ない!!」

そうだろう。それこそ七夜がこいつに殺されたというのなら、伝承などにあるように吸血鬼にでもなってい限りありえない。

彼はどう見ても人間だ、日光も大丈夫だった。十字架やその他の物は確かめてすらいないから知らないが。



「確かにヤツは死んださ、今の奴は夢を見続ける亡霊ってところだろう。」

一瞬、ロアは月を見ながら遠い過去を思い出すようなな表情をしていた。

その表情はロアのものではなく遠野四季のものだったが、それもすぐにかき消え残忍な笑みに戻る。


「さて、あんまし喋ってると喉が渇いて仕方がないよなぁ?そろそろドリンクタイムと洒落込みたいんだが。」


クツクツと笑いながら迫りくる吸血鬼に、恭也と士郎は有効打を思いつくことができず、それでも小太刀を握りなおす。






―――――――――――――




七夜志貴とフェイト・テスタロッサは時の庭園へとやってきていた。


「ナナヤさん、こっちだよ。」

「ああ。それにしても魔法ってものはなんでもアリなんだな。こんな所に一瞬で移動するなんて……地球じゃないんだろう?」

「うん、母さんと私の家。時の庭園って言うんだよ。」

そう答えるフェイトは、いつもになく気分が高揚していた。

いつもなら、愛されたいと思いながらも鞭で叩かれることを恐れて、あまり母のところに積極的に出向きたいとは思っていない彼女が、ここまで楽しみになることなど初めてであった。

アルフを連れて来られなかったのが少々残念だが、向こうは向こうで楽しんでいるだろう。そう思い、あまり気にもしていない。

更に言えば、現在自身と手を繋ぎ柔らかな表情を向ける七夜に、今までにない感情が湧きでている。

フェイトにしてみれば今まで異性と話す機会など皆無であった為、さらには交友関係などアルフやリニスのみの家族同然の間柄しかいなかったからかも知れない。

七夜がいるだけで胸が高鳴り、手を握ることでアルフとは違う気持ちになることが新鮮でならない。



長い通路や階段を通り大広間を抜けると、普段は固く閉ざされている扉があけ放たれており、その先にプレシア・テスタロッサが立っていた。


「お帰りなさいフェイト。そしていらっしゃいませ。フェイトの母、プレシア・テスタロッサと申します。」

プレシアは柔らかな笑みを浮かべ、二人を迎える。

「うん、ただいま母さん。」

フェイトはその笑顔が押し殺されたものだとは知らずに幸せな気持ちでいっぱいになる。

「ああフェイト。こっちへ来なさい、もっとあなたのことが近くで見たいわ。」

そう言うとプレシアは腰をかがめ両手を広げる。


この瞬間、フェイトは母のこと以外頭の中から消し飛ぶ勢いだった。


(母さんが、母さんが母さんが母さんが母さんが、母さん、母さん母さん母さん母さん母さん母さん――――)


思わずフェイトはプレシアに向かって走り出しそして、その胸に向かって抱きつく。

初めて感じる母の温もり、記憶の矛盾から沸き起こる違和感などそっちのけで、フェイトはただただプレシアを抱きしめる。

「ふふっ、こらこら。お客様の前ではしたないでしょう。」

そう言いながらもプレシアはフェイトを抱きしめながら後ろ髪を撫でる。


「七夜志貴です。団欒の中でお邪魔してしまい申し訳ありません。」

「いえ、いいんですよ。ナナヤさんは娘の命の恩人。邪険にする筈がありません。」

そして暫く離れないフェイトを撫でながらプレシアは七夜志貴を見る。

(――――やはり人間ではないわね。かと言って、改造人間や人外、使い魔のようなものではもない。プロジェクトF.A.T.Eとはまた違ったアプローチのものかしら?)

「ごめんなさいフェイト。私はひとまずナナヤさんの体を看るから、少しの間待っててちょうだい。」

「あ、そうだったね。……ナナヤさん、母さんはとってもすごい生物学者なんだよ。」

そう言って離れたフェイトを一瞥すると、プレシアは隣の部屋の扉を開ける。

「それじゃあ、ナナヤさんの体調とかを看終わったら食事にしましょう。久しぶりに母さん頑張って料理を作ったのよ。楽しみにしていてね。」

「うん!!待ってるよ!■■!!」


―――――ドクンッ!!

と、プレシアの心像が跳ねた。

何か懐かしく、しかし聞いてはならないような言葉を聞いた気がした。

幸いなことに、言葉と心臓の鼓動が重なり上手く聞き取れなかったが、もしきちんと聞いたらプレシアは思わずフェイトを殺していただろう。



ふざけるな

何で私があんなガラクタに笑顔を振りまかなければならない。

何であんな役立たずを抱きしめなければならない。

何でアリシアでもないモノの髪を撫でなければならない。

そんな時間はいらない、必要ない、無駄だ。

全ては、アリシアさえ取り戻せばあんなガラクタ殺してやる。

ああ、殺す時間さえ惜しい。そんな暇があればアリシアと過ごしたい。

私にはアリシアしかない。

私の世界にはアリシアしかいない。

この気持ちをどう表わせばいいだろうか?

この世界をどう表現したれいいだろうか?


その鍵が、今目の前にある。


肉体から精神、記憶に至るまで、ありとあらゆる情報を七夜志貴から調べだす。

そのことだけを考えて、プレシアは七夜志貴を連れて扉の奥へと消えて行った。






―――――――――――






高町美由希は玄関先で小太刀を2本構えて立っていた。

海鳴周辺の殺人事件のため、士郎と恭也が月村家の警備に行ってしまった以上、自分が義母である桃子と義妹のなのはを守らなければならない。

大丈夫、御神の剣は守る為の最強流派だ。と、そう自分に言い聞かせる。

今まで散々義兄の恭也に指導してもらい、宗家の生き残りとしての自覚も持って修行してきた。

しかし、いざ実践となると、何もしていなくても武者震いが起きる。

吸血鬼事件――――そう巷では言われている。

そして、七夜君をその道のスペシャリストと称した義父。

自分の知らないところで何かが進んでいるのかもしれない。

そう思いはじめている。

先ほど確認したが、なのはは部屋で一人震えていた。

どうしたのか聞いてみたところ、少し錯乱していて「独りは嫌」と、まるで呪詛のように繰り返しつぶやいていた。

確かに父が大怪我で入院していた時、なのはは独りでいることが多かった。

小学校に入ってからは友達ができていたが、それまでひたすら孤独な環境にいたんだ。

自分は――――なのはの心を守ることができていなかった。

守らなきゃならない。大切な家族を、妹を。

その為の力であり、父も信用してくれたのだ。

七夜君にも早く帰ってきてほしいが、探しに行くことも出来ない。

そんな事を考えていると、ふと玄関先から見える道路に知っている人影が通り過ぎるのを見た。


学生服を着た青年。


それだけなら何処にでも見かける話だが、その姿は間違いなく七夜志貴だった。

美由希は思わず道路へと飛び出し声をかける。

「七夜君!―――良かったぁ。今話題の殺人事件の所為で今自宅を警備してたところなの。……あ、別に私がニートとか別にそういう意味じゃないよ?ほら、私が剣術学んでるのは七夜君も知っているでしょう?その関係でね。今はお父さんと恭――――」

最初は七夜の姿に安堵しつつも舞い上がっていた美由希だが、七夜の様子に違和感を覚え言葉が途切れる。

そう、よく見れば目の前にいる彼はまるで機械のように無表情で、眼鏡をかけて手にはナイフを握っている。

次の瞬間、七夜志貴は眼鏡を外し駆け出した。

ただし、すすむ先は美由希の方では無く、路地の先に見えるよれよれのスーツを着た40代も半ばの男にだ。

美由希は七夜の意図が理解できず、ただただ混乱の中にいる。

そして、男の傍に走り寄った志貴は――――一瞬で其のモノを無数の肉塊へと変えた。

「え?」

美由希の混乱が加速する。

これは何かの冗談だろうか?ナイフ1本でどのような技術があれば、あそこまで骨の多い生き物を解体できるのか。

――――――それどころではない。七夜志貴が殺人を犯した。少なくとも美由希の瞳にはそう映った。

「うそ……嘘だよ、ね?七夜…君?」

まさか七夜志貴が殺人事件の犯人なのだろうか?よくよく思い返せば、ニュースで報道していた気がする犯人の特徴は正に今相対している彼とそっくりだ。

しかし、気がつくと彼が殺した筈の男の死体が風に流され、まるで灰のように消えて行く様を見た。


「―――――俺はアイツみたいな殺人鬼じゃない。」


そこで初めて七夜志貴から言葉が紡がれたが、それは否定の言葉だった。


いつの間にか外していた筈の眼鏡を再び掛け、美由希の方を向く。




「俺は遠野志貴、初めまして…でいいのかな?とりあえず何処にでもいる普通の高校生なんだけどね。」









~あとがき~


漸く日本に戻ってきたのが年末でした。やっぱり秋入社って辛い……

海外勤務が中心になるので、日本に戻ってくるたびに1話ずつ挙げて行きたいと思います。

長い目で見てやって下さい。

確かメルブラのストーリーは弓塚さつき√の後日談だったと思うのですが、MBAAのロアは四季寄りなんでしょうか?若干混ざってるような気がするので、今回の話では凶暴性を重視してみました。

あとは固有結界、オーバーロード・ゲマトリアについてもオリジナルの設定を交えて書きたいと思います。




[15623] 七ツ夜と魔法 第13話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:eb91d28b
Date: 2011/03/05 17:32

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



━━━八年前の━━━あの夏の日。

 ああ、ひたすらに憎かった。

 怖いとか痛いとか、そんな余分なものなんてなかったぐらいに。

 そうだ。俺は、ただ、ひたすらに憎かった。

 ならばやる事は決まっている。





~第13話「仮面/反面」~



「率直に言うわ。あなたのことを調べさせてもらうわよ。」

「貴婦人からの熱烈なアプローチは嫌いじゃないんだが……お姫様の次は女王様ときたものかな?」

部屋の扉を閉めた瞬間、プレシアは先ほどまでの温かな笑みを引き剥がし、歪な狂気の笑みへと変えた。

口元は頬の筋肉をこれでもかというほど釣り上げケタケタと眼が嗤っている。

対して七夜は予めその濁った瞳を視ていた為、初めからプレシアが自分に対して何かをしかけてくることを確信していた。

その為、違和感のない動きで常にプレシアから一定の距離を保ち続けていたので、即座に戦闘態勢に入る。

「ハッ!あのガラクタがお姫様ですって?呆れて罵倒する気分にもなれないわ。」

「いやいや、こんな継母まがいな態度をとってきたあんたに対して、それこそひたむきなまでに従順にしてきた娘を見たら、シンデレラにも視えるってね。彼女にとって今のあんたは魔法が解けた後の様だよ。」

「生憎とそちらの文化には疎いの。別に知ろうとも思わないけどね――――」

そう言うとプレシアは右手を天にかざし、部屋の天井付近に巨大な魔法陣を展開させる。

対して七夜志貴は丸腰だった。

時の庭園に来るときに一応の荷物として小太刀は持ってきているが、今はフェイトに預けてしまっている。

七夜は知る由もないがプレシアはランクSSの魔導師であり、ただの人間などそれこそ非殺傷設定の制限を解除した魔法を喰らえば消し炭となるだろう。

更に言って言ってしまえば、本がタタリである魂が魔力攻撃など受けた場合、どのような影響を受けるか解ったものではない。

つまり、七夜は彼女の攻撃をただの一撃さえ化することも許されない状況にある。

かといって、七夜がプレシアに対して攻撃を加える気があるかといえば否だった。

プレシアに危害を加えることは同時にフェイトを悲しませることにつながってしまう。

それは七夜にとって望むことではない。

故にとれる行動はただ一つ


部屋の中で数多の電撃魔法をただ只管かわし続けることのみ

「こりゃ白雪姫の方だったか?独りで踊るのも悪くないが相手がいるのに手持無沙汰にさせるのは気が引けるぞ。―――――俺を調べてどうするつもりだい?」

轟音が響く中で紙一重で攻撃をかわしながら七夜がプレシアに問いかける。

「五月蠅い」

常人とは一線を画す、人外じみた動きによって縦横無尽に駆け回りながら雷撃を避ける七夜に苛立ちを覚えながら、更に攻撃の手数を増やして徐々に七夜を追い詰めて行く。

それと並行して、プレシアはさらに部屋に張り巡らせた術式を用いて七夜の解析を始める。

別に拘束する必要は最初からない。言わばこの部屋自体が解析を行う装置であってプレシアは部屋から出ることができないように足止めをしていれば良いのだ。

しかし、それだけでは何処か思わせぶりな行動をとり続ける七夜に気がつかれてしまうかもしれない。

よってプレシアは病魔に侵された体に鞭をうち攻撃の手を緩めることなく追い詰める。

その結果、自身の手により七夜の身柄を完全に拘束できればこれ以上の無駄な疲労も無くなるからだ。

何せ時間がない。

フェイトを騙し続けるにしろ七夜から情報を引き出しアリシアの蘇生を行うにしろ、この体はあと一月も持たない。

病魔の症状は自身が起こしたヒュードラの事故の時に受けた影響により、魔導師の生命線であり第2の心臓とも呼べるリンカーコアが蝕まれているのだ。

他に例えれば放射能により被曝して遺伝子レベルにまで影響が出ているようなものである。

こうして魔力行使をするだけで並みの魔導師なら血を吐き絶命するほどの苦痛を伴う状況だ。

否、いかにSSクラスの魔力を有する魔導師であるプレシアといえども血を吐き僅かでも気を緩めればその場で倒れ命を失いかねない状況にあるのは変わらない。

それでもここまで魔法を使うのは愛しい娘を蘇えらせるための執念であり、意地でもある。

ここで吸血鬼になる為の理論を用いて人外に身を落とそうとも考えたが、相手はその吸血鬼すら殺した存在だ。

更には、ミッドチルダでも吸血鬼は幻想の域に達する最悪の化物であり、そこに身を落とすのは如何に娘の為ならわが身も厭わないプレシアといえど、未だに踏ん切りがつかない一因としてあった。


と、そこで部屋全体から解析処理が終わったことを知らせるアラームが鳴り響く。

同時にプレシアは攻撃の手を治め、七夜に向かいニタリと魔法行使による苦痛と自らのデバイスに送られてきた情報に狂喜しに歪に嗤った。


(できた!出来たわ!この情報が欲しかったの。これはプロジェクトFで魂や人体構成の研究を行っていたからこそ得ることができた成果!!そうよ、努力には成果を。苦痛の先に快楽を。絶望には幸福を。運命には奇跡を!!)

「ふふっ、クふふ、ふ、アハッ、ふあはっ!アァハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!」

顔に手を当て天井を向きながら狂ったように笑うプレシア。

そこで漸く七夜も相手が自分のことを解析していたと気付く。

「まいったね、こりゃ。…いつまでお姫様を待たせる気なんだ?」

「ハハハハハ――――あぁ?     あなたはあの子のことを心配する必要はもうないわ。だってぇ――――――」

プレシアの口からゴフリっと、一つ咳き込みながら口の端に血が垂れる。



「私にとってあなたはもう玩具(ガラクタ)になるんですもの!!」



部屋の中で覆い尽くすような眩い閃光が支配した。







―――――――――――――――――――――







「ええーと……"遠野"志貴くん?」

高町美由希は混乱していた。

目の前にいる眼鏡をかけた少年はそっくりさんどころではなく、身なりからしても七夜志貴にしか見えない。

眼鏡をかければ別人ですという、新手のなんちゃって変装術か何かだろうかと一瞬思案してしまう。

「ああ、確かに俺は遠野志貴だよ。まあ、アイツとの縁も浅くは無い……っていうか一番近い気がするけどね。」

そう言って遠野志貴は柔和な顔つきで苦笑いを浮かべる。

七夜志貴とは微妙に違う、お人よしのような雰囲気がかろうじて別人だということを物語っているように感じる。

「そ、それで!……遠野君はあそこで何をしてたのかな?っと…ひとがいきなり消えたように見えたんだけど……」

最後の方を口ごもりながら美由希は遠野志貴の反応を改めて伺う。

あの動きは明らかにプロの業だ。

御神の業をもってしても太刀打ちできるかどうか微妙なまでに精錬された動きは、さながら地を這いながらも最速で獲物を仕留める蜘蛛のように思えた。

「ああ、あれなら案していいよ。あれは人間じゃなくて死者だ。」

「死者?」

「吸血鬼――――死徒って分類される奴に咬まれて、殺された人が亡者になって人を襲う姿さ。」

「ええと、それって吸血鬼に咬まれると同じ化物になって人を襲いだすってことでいいのかな?つまりさっきの人は既に襲われた人だったの?」

「その認識であってると思うよ。ああなったら残念だけど、もう助けるすべは安らかに眠らせるしかないからね。」

それは聞いていて気持ちのいい話ではない。助けられないから殺すしかない。

確かに正論っぽく聞こえるが、何処か納得できない節もある

「それに、死者が人間を襲えばそこから得た血を通して親玉に力が集まるんだ。」

「親玉って、その最初に咬みついた死徒って吸血鬼のこと?」

「まあ、そう言うことになるね。親玉を表舞台に引きずり出すには、雑兵を片付けるのが手っ取り早い手段だからね。」


――――バキン


遠野志貴がそう説明していた矢先、窓ガラスが割れる音が聞こえる。

「!!あの部屋っ――――なのは!!」

いったい何が起きたのだろうか。美由希は混乱の淵に立たされる。

吹き飛んだガラスの破片とともに上空になのはが姿を現す。

学校の制服に良く似た、それでいて所々がゴテゴテしたデザインの服であり、手には紅い宝石が先端で輝きを放つ杖。

そして瞳には明確な憎悪の炎。

「ジュエルシード確認……"殲滅対象"――――七夜さんの"ニセモノ"と確認―――――ロック。対象者の魔力による存在濃度――――91%、有効な攻撃手段は純粋な魔力による砲撃と推定。対軍戦闘用プログラムを使用、対象者以外の被害は26%カット。ディバイン・シューターを半自動追跡(セルフオート)モードへ移行。使用スフィアは8弾、内3発は完全自動追跡(フルオート)に設定。」

それはまるで機械のように無機質で、淡々とした口調で紡がれる言葉の意味はまったくといっていい程理解できないが、なのはの精神状態が普通でないことが容易に知れた。

先ほどまで震えていた筈の妹が、いつもか弱くそれでいて純真な眼をした少女が、ここまで非情な、不破の、殺す者の眼をするなんて信じられない。

「あなたを封印すれば、アノ金髪な子はやってくるのかな?そうすれば七夜さんも戻ってくるのかな?なのはは独りぼっちじゃなくなるのかな?悪いのは誰なのかな?」

ぶつぶつと、そんな言葉をこぼしたのがかすかに聞こえた。






―――――――――――――――――――――



「さあさあ!下らねぇお二人さん!いい加減学習しようぜ?流れる血がもったいないじゃねぇか。」

士郎と恭也は戦闘場所を校庭にまで移動していた。

相手の使う雷撃は相性が悪すぎる。

いくらコンビネーションを組もうとも、トラップ型のものと眼に見えるカミナリがタイミングと体の自由を悉く奪い蹂躙して行く。

何とか特攻を掛け傷を負わせたとしても、またたく間に再生し笑いながらカウンターを繰り出すのは悪夢としか言いようがない。

これを七夜は殺した?

何の冗談だ、どれだけの業と技を内包すればこんな化け物に勝てるというのか。

「そもそも不死身のようなこいつがどうしたら死ぬっていうんだっ……!!」

「あ゛ぁん?成程どうやったら俺が死ぬか知りたいと、なるほど!簡単だ殺せばいい―――――そう、"殺せば"な!!!!」

高らかに声を張り上げロアは極大の雷を上空にうならせる。

「ヒャハハッ!!今日は最ッ高に気分がいいぜ!ついつい殺り方にも粋が入っちまうじゃねぇか。」

ゾワリ、と嫌な感覚に襲われる。

低温の油が体中にこびりつくような、足がまったく別の意思に乗っ取られるような不自由な空気が辺り一帯を埋め尽くす。

「なぁ?固有結界って知ってるかぁ?」

ニヤニヤと邪悪な笑みの吸血鬼は二人に問いかける。

まるで処刑者を前にその方法を披露する、映画の中で見るような、中世の背徳貴族のように両手を広げる大仰なリアクション。

「逝っちまいな――――――――」




オーバーロード・ゲマトリア








―――――――――――――――――――――







接続――――変異魔力地帯及び固体、名称タタリ


七夜志貴を媒体としたタタリの発生体とリンク―――――完了。

これにより97管理外の海鳴を一帯とした地域の異常現象の発生源が彼であることが証明される。

七夜志貴の不在状況で展開されているタタリについて――――――不明。

人形(ガラクタ)の戦闘記録にある、七夜志貴のタタリとの遭遇がジュエルシード封印時に行われ、結果として封印をのがしている為、七夜志貴のタタリ――――自称遠野志貴に取り込まれている確率が高い。

七夜志貴を媒体に発生中の全タタリを検索―――――アクセス可能2件。

・遠野志貴――――内部に異常魔力を確認、ジュエルシードと推定。

・吸血鬼ミハイル・ロア・バルダムヨヲン


以上2名と七夜志貴の記録―――アクセス・ロード(解析開始)




プレシアは自分の持てるすべての思考力を総動員してタタリを解析していた。

魔術師たちが扱う魔術はミッドチルダやベルカの魔法とは根幹を異にするものである。

魔術回路という擬似神経により体内生成された魔力を外界に存在する魔力の呼び水とし、世界を変革させる力の一端を再現させるものが魔術。

リンカーコアという架空の心臓とも呼ぶべき魔力生成器官からあふれ出る魔力を利用し、複雑な数式により科学的に現実を改変するのが魔法。

その異なる技術である魔術をを無理矢理に魔法で再現させるために公式を頭の中で考え、狂気の渦にいた。





 死徒の広義として、生命としての後天的、或いは先天前に逸脱した存在。
 
 超越種としての魔術的、概念的等による肉体の逆行再生、復元呪詛。
 
 ネロ・カオスの死徒の王たる所以は固有結界の体内展開と復元呪詛の融合。
 
 混沌を呪詛に組み込むことで消滅前の因子はネロ・カオスという個に復元される内界因子完結型の結界とでも呼ぶべきかしら。
 
 自己の中で生命の因子を系統樹とし完結させ、混沌として溶かすことで世界を再現しそこからアルハザードへ至ろうとしたわけね。
 
 調べれば調べるほど私の上をいく世界の住人ね、こんな不死同然…そのものな存在が何故あんな少年に殺されたのか―――
 
 その結論は必要ないわ。
 
 
 
 ミハイル・ロア・バルダムヨヲン
 
 最強の真祖から力を得た死徒、無限転生者。
 
 魂の情報を解析し条件指定の転生術式。魂の汚染による転生者の強制死徒化。
 
 固有結界オーバーロード、過負荷ではなく汚染としての意味でのオーバーロード。
 
 対象者を最悪の魔力で汚染し死に至らしめる。
 
 魂の情報解析――――この技術があれば――――――彼等の中で使われる最大の神秘である第3の『魔法』にカテゴライズされるモノだけど―――私は過去と未来を同時に突き進むことでクリアして見せるわ。
 
 最強の死徒としての魂を利用した永遠(無限大)の汚染……固有結界もそうだけどコレの持つ術式技術はものすごいレベルの天才だわ。
 
 
 
 ワラキアの夜
 
 現象として現れ存在しない『タタリ』
 
 個人としての姿は無く吸血鬼の噂がある特定の地域を発生条件とする。
 
 『タタリ』という現象も発生地域を結界とし、その地域の人々の想像力をワラキアが曲解し心像風景として展開しているのね。
 
 固有結界の心像風景を他者に委ね、現象の駆動式と同化させることによってワラキア自身が固有結界になっている……
 
 そして何よりすごいのは物事を殺すことに曲解してしまうとは言え、死者の完全な人格再現――――

 一夜限りとはいえこの駆動術式を解明できればアリシアだって蘇えらせることが……!!
 
 
すごいわ、この三者は紛れもない天才
 
あの男よりも遥か先を行く成功者であり、運命に敗北した失敗者でもある。
 
そうだわ、駆動術式は私たち側の魔法にある封次結界をベースにしよう。
 
外界と内界を隔てるモノを明確にし、世界の圧力から逃れるにはこの時の庭園を利用しよう。
 
庭園内部を結界とし、扉を駆動術式に組み込む。
 
タタリの駆動術式を逆算――――高速思考、演算による未来予測に意図的なバグを作り、悪性情報を肥大させ現実を浸食させるものね。

ヒュードラの高速演算装置で代用、あれには嫌な思い出しかないけどアリシアを殺したのもこれなら、蘇えらせるのもこれの役目だ。

悪性情報を良性に変換するのはデバイスを使用し、機能の78%を当てる。

魂の情報媒体にアリシアの肉体を使用。

器には――――――甚だ不愉快だけどF.A.T.E(ガラクタ)を使用うか。

そうとなれば今まで鞭で痛めつけた傷も全て治療しなくてはならない。

術式維持に必要な魔力は――――ジュエルシードが3つあれば足りるわ。

そう、これが最後だ。残り2個でいいとなればあのガラクタも全力で毟り取りにいくだろう。

何だ、かんたんじゃない。

世界も、運命だって今の私になら覆せる。

ああ――――――その為にはまず血が必要だ。あの駄犬如きの血じゃ全然満足できない。

人間の血が必要だ、ちょっとでいい。

魔力が芳醇で濃厚な完備にして魅惑的なルビーの様に輝く血が!!!!





―――――――――――





「お願いフェイトォ、もう少しだけジュエルシードが必要なの。あと2個あれば母さんの用も事をなすし、七夜さんの容体も回復させることができるの。」

ナナヤさんの容体が安定しないから本格的に治療しなければならず、結果母さんと私の二人きりの食事となった席で、今までにない位優しい母さんの笑顔に私は心の奥底から喚起していた。

そして同時に母さんから頼まれたことに少し動揺する。

「ナナヤさん、やっぱり吸血鬼の怪我って酷いのかな……」

「ええ…――――そのことなんだけど……」

なんだろう?母さんの表情が曇り視線をそらすようなそぶりを見せている。

「母さん?」

「…その、なんて言ったらいいのかしら。七夜さんの肉体に吸血鬼の泥のようなものがこびりついているんだけど、その泥が彼のことを蝕んでいるみたいなの。」

「それって――!!?」

そのことに驚くとともに先日の白い少女に怒りが湧いてくる。

私のジュエルシードの回収を邪魔し、せっかく助けてあげれば今度はナナヤさんを苦しめる―――――初めて他人に憎悪した。

彼女の所為だ、彼女が余計な事をしなければナナヤさんは、ナナヤさんは!!!!

「ごめんなさい、本当は大事な娘をあんな危ない世界に行かせるなんてことしたくないのだけれど……」

「大丈夫っ、です!……ジュエルシードは必ず持って帰るから。母さんの役に立つから!」

そしてナナヤさんを絶対に助けて見せる。

そう深く心に刻み込み、あの白い子に復讐の刃を向けることを誓った。








~あとがき~

何処か急ぎ足のように話を勧めるのは心苦しい。

上司から韓国語話せるようにならないと出世させないといわれました。=日本に帰れない。
中国語と英語を勉強するだけで精一杯だ、ニートになりたい。
なのに次の仕事先がインドって喧嘩売ってるのかな?以上押さえきれない愚痴でした。



今回の指向としては、原作の友情ものをぶち壊して真逆にしてみよう。という感じです。

プレシアさん……ぶっちゃけ型月世界で生まれたら、ああた最強です。もうあなたが主人公でいいよ。※ヒロインは七夜です

実は何故だか分からないのですけど最終話だけ先行して書き終わりました。


続きます




[15623] 七ツ夜と魔法 第14-①話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:eb91d28b
Date: 2011/05/25 01:07

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



―――ロア、意思を殺すのが意思の力だというのなら。

   お前は一人、こっちは三人分だ。




~第14話-①「月姫/  」~



それは突然の出来事であった。

辺り一面を塗り潰す黒い渦が恭也と士郎に襲いかからんとするまさにその瞬間

先ほどまでの禍々しいイカズチと打って変わって、更に吸血鬼とは違う魔法陣が上空に現れ辺りを剛雷で埋め尽くされた。

突然の異変に吸血鬼も動揺したのか、何か行おうとした術を中断させてしまう。

「んだぁ?人がせっかく気持ちよくなってたところを萎えさせやがって。俺に雷で仕掛けるってことはアレだよなぁ?」

隅々まで犯して欲しいってことでいぃんだな?

「―――お嬢さんよぉ」


ロアは眼前の20メートル先、地上か3メートルほどの位置に浮遊する金髪の少女に殺気を向ける。

雪のように白い肌、月のように透き通る金の髪

姿こそ違えど、それは彼がかつて幻視した"永遠"と重なる。

彼を壊し彼女を壊した出会いに重なる。

追い求めたものと重なる。

だからこそ苛立つ、憎悪する嫌悪する侮蔑する軽蔑する――――――――決して許すことなど出来ない。

ナニヲ許さない?彼女の姿に似ているのが許せない。

ダレヲ許さない?そんな愚かなことを考えること自体が許せない。


「……私の永遠を汚すようなら、容赦はしない。己が生まれた意味すら理解できないようなガラクタには、相応の末路というものを教えてあげようじゃないか。」


凶暴な影が形をひそめ、聖職者のような淡々とした口調と永久凍土のような氷の瞳で静かな威圧感を漂わせる。


しかし、蛇はこの時自らのセリフとは裏腹に別の事柄を考えていた

この夜はすでに経験済みで、ただこの地に過去を再演させる為だけの舞台だということを。


自らは何故この地の学校を選んだのか。この地に"たまたま純粋な魔力の発生物質があったから"だ。

本来であれば奇跡のような偶然、或いは必然か。

そして対峙するのは白き姫に似た少女。

何の冗談だ。つまり目の前の彼女は代役ということか。

自身が様々な因縁と敗北という形で幕を下ろした劇のやき直し。映画でいえば出来の悪いリメイクだ。

ということは今度の夜はどうあがいても結局は自分は志貴に勝つことができないと言うという事実を突きつけられたような気分だ。


ここで一つの大きな疑問が生まれる。

(なら、ここにいる人間二人は何だ?)

自身の記憶にこのような人間はキャストとして含まれていない。

ならば、これはイレギュラーという存在か。

はたまた自分が勘違いしているだけで、"あの夜"とは関係のない事象に巻き込まれただけのただの偶然が重なっただけのことなのか。


―――――いいや、違うな。こいつらはアラヤにこの夜を認識させ記録させるための媒体か。

ガイア(世界)に修正事項を書き込みアラヤ(この世界の住人)の証人(目撃者)を立てる…廻りくどいが上書きの手段としては及第点か

(どちらにしても、この俺を捨て駒にあてがうなんざイイ度胸じゃないか)

ガチリと頭の中で歯車を繋げ魔術回路が再び唸り声を上げる。


まずは戦ってみなければ相手の能力を測ることは出来ない。

飛行魔術を扱うことには多少驚きはしたが、それがこの世界における神秘の上位に位置づけられると考えるのは早計だ。

もしかしたら彼女らが扱う技術ではそう難しくないのかもしれない。

魔力の質が違う所からも推察できる。

第一に金髪の少女から感じたのは"軽い"と言う気配だった。無論本人の印象では無く魔力の重みだ。

魔術師はその身を使い純度の高い魔力を生成し無色に彩を付ける。

しかし彼女の魔力には元々の色がついた状態だ。

どちらにもメリットとデメリットがある。

空を飛ばれるのは厄介だが…いやそれ以外のことも平然とやってのけるだろう。

だからこそ殺り甲斐がある。そう思ってしまう。

白き姫のキャストに納まるあの少女がどれ程のポテンシャルを秘めているのか、幾度にもわたる転生の果てでこれほど新たな興味は無い。


「来るがいい、キャスト(代理人)。その姿の意味を私に刻み込み、そして知るが良い。外れ者とは言えかつては27祖の頂点に君臨した我が魂、その猛りをとくとご覧に入れよ!」







―――――――――――――





対してフェイトは硬い意思と緊張感を持って目の前の男と向き合っていた。

一目見てこの場所が異常地帯だと判別できた。

なんで管理外世界に魔導師がいるのか?

学校という少年少女が勉学に励む為のコミュニティーの敷地に正体不明の魔力場が形成されていて、広場には無数の魔法トラップ。

そして自分と同じく電撃の魔法を使う男。


自然とバルディッシュを硬く握りしめる。慢心は無い、持つべきは氷のような冷たい思考に刃のごとき研ぎ澄まされた緊張感だ。

そしてジュエルシードがあるこの場にやってくるかも知れない、白いバリアジャケットの少女を叩き潰すことのみを考えろ。

「母さんが待ってる……ナナヤさんが待ってるんだ!あなたが何者かなんてどうでもいい。善人でも、悪人でも…魔導師でも、吸血鬼でも――――そんなの関係ない。邪魔をするなら潰します。」

宣言とともに、はためかせるマントを風に響かせるように、地を這うような低空の高速飛行で一気に男の懐に傍へと飛び込む。

バルディッシュの魔力固定噴出部分から自らの魔力によって作られた鎌を体の後ろに回し、反動とともに一気に振り抜く。

狙いは男のわき腹。

躊躇わず、戸惑わず、慈悲無く不要な心を閉じ込める。

その瞳に炎は無く氷のような瞳で死神をなす。

「型に嵌り過ぎている。一見その実力は高いように見えるが、自身(ポテンシャル)を型に押し込めるのはマイナスだ。」

目の前の男は地面を滑るように、姿勢すら変えずに後ろへ避ける。



『私がそんな硬い子に視えた?』


フェイトの魔力が一気にバルディッシュへと流れこむ。

先端の発出口はそれに応えるように金色の刃を伸ばし、デスサイズのごとく巨大な三日月を創る。


「成程、確かにこれなら"処刑人"だ。だが、死神は戴けない。それは奴の領分だ。」

迫りくる伸びた刃に男は顔をしかめると右手を大きく突き出し、バルディッシュの鎌を弾く。

男が発光部分に触れたとき、熱したフライパンにステーキをのせた時のような、肉を焦がす音が聞こえた。   目を瞑るな。

男の右手が赤黒く焼け爛れ煙を上げている。   ダカラドウシタ

相手を傷つける覚悟なんて、とうに出来ている。

男の左手が鋭いナイフのように雷を帯びた状態で突き出される。

右手を潰してバルディッシュを弾いたのもこのカウンターが狙いだ。

だけど、そんなことは既に解りきっている。


『ファイア』


そう小さくつぶやくと、予め上空に待機させておいた無数のスフィアを弾丸の嵐のように降り下す。

男もこの状況は拙いと判断したのか大きく飛び退き、そして地面を片足で大きく踏みならすと、地面のいたるところから魔法陣が出現し、そこから雷を空に向かって放つことで応戦を始める。


そんな無防備な敵を見逃す程私は優しくない。私の優しさは全て母さんとナナヤさんに向ける為のものだ。

お前になんて一秒でも気を使うか。

スフィアは元々無差別設定に降らせているから、私自身の上にも幾つかが迫ってきている。

『収束――――補充―――――集束』

左手を上へ掲げ、私の近くにあるスフィアをかき集める。

そして新たに数弾を作りだすと―――― 一点へ、私の手の上へ集中させる。

『フォトンランサー・ファランクスシフト』

放電する空気、夜の闇を蹂躙する金色の光、その全てを 今まさにあの男へ喰らわせようとする自分。

そうだ、アイツを倒してジュエルシードを手に入れるんだ。

アイツをなぎ払って奪うんだ。

アイツを消し去って、殺してでも――――コロシテ奪エ

無駄な躊躇いはいらない。

そんな心はいらない。

ただ今は、機械(システム)のように目的(コマンド)を完遂させろ。


『スパーク ――――――』


集束させたスフィアを巨大な槍へと変え狙いを定めろ

犯せ、侵せ、その手の中にある金色の輝きは魔導師の協定を破る禁忌の一撃。

ニンゲンには使ってはならないとされる、常時魔導師を縛る良心と道徳の鎖を引きちぎれ。

アイツは化物だ、吸血鬼だ。ならばこの掟は意味をなさない。ああ、そんなことはもうどうでもいい。

化物だろうが人間だろうが、本モノだろうが偽モノだろうが、私の邪魔をするのならこの世から消し去ってやる。

今まさに放たんとする一撃は―――――


『――― エンドッ!!!』


殺傷設定魔法


それを明確な殺意を持って投擲した。






――――――――――――――――





縦横無尽に地面を壁を電柱を屋根を標識を

あらゆるものを足場に遠野志貴は駆けまわり、なのはのスフィアを避けている。

限界まで体制を低くし、0からトップスピードを叩きだす七夜と同じ動き。

その動きに目が追いつく美由希となのはは人の枠組みの中でも異常な分類であろう。

特になのはなど何の武術も知らない小学生だ、その筈だ。

それが、目の前の遠野志貴と交戦し渡り合う。

空を飛んでいるだけでメチャクチャだ。

遠野志貴もなのはもお互いの姿を見据え、そして無機質の瞳で空と地面を駆けまわる。



『殲滅対象(ターゲット)行動値(アスレチック)8%修正(アハト・リセット)―――完了(ロード・クリア)。第2次開放(セカンドルート・ブーストオン)』

なのはの周りに更に無数の光球が現れ遠野志貴に向かって放たれる。

遠野志貴は攻撃のめをくぐり抜けるように動くが取り囲まれては逃げ場は無い。

ついにその足をとめた遠野志貴は、上空で砲撃魔法の態勢をとるなのはに向かい話しかける。

「なんで自分が狙われてるのかよく解らないんだけど、なのはちゃんでいいのかな?止めるならこれが最後通告だ。これから先は俺も気を使う余裕がなくなるよ。」

圧倒している筈の者向かって、暗に自身が格上だと主張するかのような言葉を吐いた遠野志貴に対してなのはは静かに激怒した。




「なに――――?なんなの?ニセモノさん。なのははこんなに強いよ?この前の化物とだって次に戦えばなのはは負けないよ?七夜さんに大怪我させるようなこともしないよ?あの金髪の子にも負けないよ?ジュエルシードだって全部集めるよ?学校にだって塾にだってしっかり真面目に行くよ?そうすればなのはは独りぼっちじゃなくなるもの。七夜さんだって帰ってきてくれるもの。体育だって苦手だけど頑張るよ?もう泣かないよ?だからあなたみたいなニセモノには興味がないの。どうせ魔力の塊を取り込んだだけの蜃気楼(ガラクタ)でしょう?壊れかけた人形みたいなあなたに何の意味があるって言うの?なのはに勝てるとでも思っているの?なのははあなたみたいな人形(ガラクタ)はいらないの。だって生きてすらいないんでしょう?命じゃないんでしょう?解るんだよ?レイジングハートは優秀だもの。あなたは人間じゃない。ただの張りぼてだもの。殺されていい命なんてないけど、あなたはただの現象だもん。消えたところで何の不都合も不条理も不幸もないでしょ?私があなたを完膚なきまでに押しつぶしてことごとくを凌駕(蹂躙)して、その存在を貶めて(殺して)あげる。」

その顔は歪(いびつ)に歪み、まるで泣いているようだった。


「…酷いいいようだね、勝つことは―――――そうだね、無理かもしれない。」





遠野志貴は魔眼殺しの眼鏡に手をかけゆっくりと瞳の青を晒す。



でも



「コロス事なら出来る。」


「こ、ろす……?あはっ。アハハハハハハッハハハハッハハハハッハハハッハハハッハハハ」

遠野志貴の言葉に何がおかしかったのか、なのはは狂ったように笑いだす。

「やっぱりあなたは七夜さんじゃない!!偽者だ!!七夜さんは誰も殺さないもの。なのはの事を守ってくれる優しい人だもの、あなたはそこに在るだけで七夜さんを侮辱する!!」

だから

「消えちゃえ」

その声とともに禍々しいさくら色の砲撃が学生服を包み込んだ。






――――――――――――――――――――






「艦長、ロストロギアの位置が判明しました。同時に魔導師の魔力反応を複数確認。―――――なにこれ!!?一部地域に解析不能の魔力力場が発生しています!!」

「ロストロギアとの関連性はありますか?」

「解りません。ですが、ミッドチルダの魔法とはまったく異なる構成の結界だと考えられます。」

「…そうですか、現地への偵察、及び戦闘には十分な警戒が必要ね。」

「艦長、ボクが先遣として現場に向かいます。管理外世界での魔法行使及び戦闘は即刻停止させるべきです。」

「まずは情報収集を最優先に考えてちょうだい。解析不能ということは何らかの特殊な空間の様になっている可能性が高いわ。戦闘の詳細地区を割り出してモニターに出して下さい。」

「了解しました―――――出ます。該当区域のうち、この世界の学校…でしょうか?モニター映します。」


「………なんだ、これは………ランクAA、いやAAA魔導師か!?こんなメチャクチャな戦闘――――ちょっと待てっ!!あの金髪の娘っ、非殺傷設定を解除しているぞ!??」

「あ、相手方の魔導師、でしょうか?こちらの打ち出している雷ですが同じく殺傷設定だと思われます。」

「ちぃっ!!今すぐ出る!!座標設定を頼むぞエイミィ!!!」









~あとがき~

自分が日本を離れている間に東北関東大震災が起こったということは現地の報道とネットで知りました。
被災し命を落とされた方々にこの場を借りてお悔み申し上げるとともにご冥福をお祈り致します。

今回はキャーネロアサーン+ヤンデルなのはを意識してみました。
ネロアさんが金髪幼女を襲う様を…もうネロアさん誤字じゃなくてもいいかも。死徒の皆さんはロリコンということで。

フェイトの性格が原作と大きく違うって?
プレシアさんの娘なんだ。一つの事に執着したり、過保護になることで病むことくらい本編でもあったような気がする。
…申し訳ない。



ヤンデル娘コワイ

続きます





[15623] 七ツ夜と魔法 第14-②話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:657d7d8d
Date: 2012/11/19 20:48
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]




踊りなさい。今宵の舞台は再劇

初公演の再演(リメイク)

開演場所は変わって三咲町から海鳴市

脚本は必要ない、既に慣れ親しんだ道。

御気の済むまま気の向くまま、しかしそれでも退場を望むのであれば、その命ご返却願います。

なお、キャストに大幅な変更が御座いますのでご注意ください。

まずは、主人公。
遠野志貴に変わりまして、七夜志貴が務めさせていただきます。

真祖の白き姫君。
アルクエイド・ブリュンスタッドに変わりまして、フェイト・テスタロッサ

鬼族の末裔遠野に変わりまして、夜の一族が末裔月村。

なお、ここからの物語は月姫では無く魔法少女のお話し。


―――――――絶望と希望が入り乱れることに変わりはありませんが――――――――




~第14話②「  /憑き緋眼」~



時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンが件の現場に駆け付けたとき、そこには1人の少女が作り上げただろう眼をそむけたくなる光景があった。


上半身が消滅した男の下半身がブスブスト黒い煤を風に漂わせている。

間違いない。殺傷設定による攻撃をこの男はくらい、絶命したんだ。

間に合わなかった。

少女は罪を犯し、法を侵し、人の道を冒した。

一人の人間として死した男を悼み、法の執行者としての無力感に思わず唇をかみしめる。

一方の彼女は丁度ロストロギアの回収が終わったところなのか、ただ俯いて小さく嗤っている。

過ぎた結果は戻らない。なら、己がとる行動はたった一つだけだ。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。時空管理局法違反――――管理外世界における密入及び魔法行使並びに戦闘行為、更に殺傷設定魔法の使用、それによる殺人―――以上の罪により君を拘束する。この状況で抵抗した場合、僕は君に向かって攻撃することになる。ああ、後は公務執行妨害及び執務官に対する殺害未遂も追加される。」

大人しく投降するのであれば僅かな希望ではあるけど弁護の余地がある。と最後に付け加える。

淡々とした口調で、怒りは隠す。

これは仕事でありこの身は管理局の執務者。ならば罪状を告げるときは機械(システム)のように余計な心を殺さなくては、押し込めなければ精神は磨り減り隙が生じてしまう。

対して件の少女はこちらを一瞥すると、なにがおかしいのかケタケタと細い首を斜めに傾け笑い声を上げる。

「フ――――クフフッ、ァハッ♪――――しちゃった……」




「私     殺しちゃったの        ?」

今にも壊れそうな笑みで問いかける彼女の笑みは、その表情に相対した経験がある。

純粋な心の持ち主が狂気に魔が差し人を殺めたとき、大切な人を殺した時、心から信じる者に裏切られた時。

そういった者たちが次にとる行動は大別して3つ。

罪の意識に押しつぶされ自壊―――自殺、或いは自滅する。

虚無感に囚われ停止―――心が壊れる。

狂気に蝕まれ襲いかかる。

このパターンを経験から予測し、直感的にデバイスを構えた瞬間


―――――ゴ!!!!!

「う――――!???ぐあ゛ぁ゛ぁあああああああああああああああああ゛ぁああああっっづ!!!!!」

光の柱が右肩から地面にかけて生えている。いや、デバイスを構え、脇を締めていたから肩が少し抉れた程度だ。そうでなければ右腕はあとかたもなく消し飛んでいただろう。

空から降ってきた?違う、その場にいきなり出現したんだ。

「私の邪魔をしないでください。あと一つ……そうっ、あと一個なんだよ♪あと一個で私もナナヤさんも、母さんだって、み~んな幸せなんだよ?やっと手に入れられる幸せなんだよ?やっと――――――?――――――シアワセナンダヨ!だから、その為なら私は何でもするよ?フェイト・テスタロッサはあなたなんか眼中にない。鬱陶しい火の粉は埋めるだけだ。私が殺したのは人じゃい!!この町に巣くった吸血鬼の亡霊だ!!人じゃないんだ!!!動物じゃなく人じゃなくて吸血鬼なんだ!!!幻想なんだ!!!現象の虚像(ガラクタ)を消して何が悪い!!!サツジン?私は誰も殺して無い!!私が欲しいのは幸せだけだ!!!私が憎いのはあの白い娘だけだ!!!邪魔をするな!!!」

今度は鬼のような怒り狂った形相で怒鳴ってくる。


「……君を拘束する。フェイト・テスタロッサ。エイミィ、名前の該当検索、及びこの容姿に該当、類似する者を一般バンクを含めたすべのミッドチルダのデータから引き出してくれ。艦長、権限の行使をお願いします。工程を飛ばして本局に直接依頼するには執務官では権限が足りません。」

『承認します、権限により本局にアクセスします。同時にクロノ執務官に命じます―――――彼女の拘束が困難な場合、一級危険対象とみなし管理局法・凶悪犯罪者との戦闘における法律・民間人保護時における戦闘の条項を適用し――――殺傷設定による魔法使用を許可します。』

「艦長ッ!?それは―――」

『判っています。ギリギリまで見極めて、それでも命にかかわるときにしてください。全ての責任は命じた私が持ちます。それともう一つ、右肩の負傷以外に"何か違和感はありますか?"』

違和…感?

ズキズキする、応急処置の治癒魔法を右肩に当てているけど、脳髄まで痺れてくるような感覚が徐々に思考を奪っていく。

ナニカ違うことでもアルカ?

脆い山肌のようにガラガラと意識が崩れていく……もやもやする。崩れた麓で巻きあがった粉塵が山頂を覆い隠すように意思が定まらず、視界があやふやだ。

――――イライラする。

こんな気分はハジメテダ、いつもはこんなことで動揺したりなんてしないのに。

いつもと違う。

違和感…………?

「…イライラ、します。」

『イライラ?………もしかしたら……――――――クロノ執務官!!彼女を出来る限り挑発しながら街を覆っている結界の外に離脱しなさい!正体不明の結界は魔導師の心理状態を乱す効果があるのかもしれません。』

!!

心理状態を乱す結界?

成程、確かにそれなら納得がいく。

しかし、恐らく彼女の魔導師としての実力は相当高い。

いくら自制のタガが外れているにしてもロストロギア封印直後にあんな高位力の牽制攻撃が仕掛けられるレベルだ。

Aオーバー、否。AA以上の戦闘技能を持っていると見て臨まなければならない。

彼女の眼光がこちらをいびつに歪めた視線で睨みつけてくる。

こんな少女がしていい表情じゃない。年齢にしてみればまだ10歳かそこらじゃないか。

何としても正気を取り戻してもらって、詳しい事情を聞くとともに心のケアが必要だ。

こんなかわいい子は笑ってなきゃ駄目だ。暗い表情や狂気の笑みなんか似合いはしない。

相棒であるデバイスのS2Uを構えありったけの虚勢を持って表情を歪ませる。

「ハッ!!この程度か?確かに魔法の威力はそれなりみたいだけど、それだけだな。ん?なんだい?スク水みたいな変態的バリアジャケットを着ているから変態的強さでも誇っているのかと思えば、ただの変態止まりの小物かよ。まったくそんなチャチなガラクタ(デバイス)にクズ同然の戦闘思考。君の周りの人間の程度の低さも窺えるというものだよ。余程馬鹿で低能な人情の欠片もない人しかいないんだな。孤独な人形なんだね君は。爪の垢くらいの同情はしてあげようか?」

艦長に言われた通り挑発をしてみたが。

ヴチンッ!!

そんな音がリアルに聞こえたのは生れてはじめてだった。

ああ、これが所謂キレた時に出る音か。噂には聞いていたけど、結構鈍い音のわりには遠くまで響くんだな。

なんて現実逃避している場合じゃない。

拙い、挑発の度合いが行きすぎたらしい。

「い、否。決して誤解しないでくれ。僕は君のことが変態的センスだとかそう言うことを言っているわけじゃなくてだね。周囲の人が変態なんじゃないのかと危惧しているわけであって、そういった家庭環境に在るのなら時空管理局としても一執務官としても見過ごせないというか――――ああ、別にこれはボクがスク水バリアジャケットが嫌いだから言っているわけじゃない、僕だってそりゃスク水みたいな艶めかしい体のラインが視えて露出のあるコスチュームを着た少女には5倍増し、いや万夫不当の魅力があると信仰しているくらいだよ。僕だってスク水美少女は大好きさ。それはもう恋人なら毎日スク水姿でいて欲しいくらいさ。だからスク水は悪じゃないのさ。しかも美少女、君のような年齢の所謂ロリータと表現される未発達な胸や臀部にフィットしている姿は堪らないと思うよ。つまりスク水とは女の子を大人とは違ったさらなる高みへ引き上げる一アイテムであり、男性を惹きつけく惑わす誘蛾灯のような玩具なのさ。これについて君の意見を聞きたいな。」

「……?………コロシマス。」

馬鹿か僕は!?いくらとっさのことで口が滑ったといっても、あれじゃ変態じゃないか。違うだろ、違うだろ。これじゃあますます相手を怒らせただけだろう。

大体、僕はスク水よりもナーs――――


無数の雷光の柱が地面に突き立てられ紙一重でそれらをかわしていく。

「エイミィ!!結界を出るまであとどのくらいだ!!?」

『……どーかね。』

なにか投げやりで冷たい反応が返ってきた。

『クロノ執務官てスク水びしょぉーじょ好きのロリコンだったんだ。むしろ私は時空管理局の名において目の前のスク水美少女よりクロノ執務官を拘束したいと思うな。』

「な!?君はこんな有事に何を言ってるんだ!??」

『ごめんなさいエイミィ……息子の教育方針を間違えてしまったみたいだわ。大丈夫よ、今度私がスク水になって彼の間違いを正してあげるから。』

ふざけるな、そんなことになったら僕は二度と管理局局内を歩くことができなくなるじゃないか。

というか、母さんがスク水だと?止めてくれ。絶対に無理だ。

母さんめ、僕をひきこもりにでもしたいのか?

「って、!そんなふざけたことをぬかしてる場合じゃない!!」

身をよじり雷光をまとった光の柱を避ける。

幾重にも降らせこちらの回避範囲を狭めてくる死神の少女。

おかしい、こんな高密度の魔力攻撃がそう何発も連続展開できるものだろうか?

目の前の少女の魔力はどんなの高く見積もってもAA~AAAだろう。

だけどこの攻撃力と咬み合わない、合致しない。


恐らくこの出力、Sオーバーの威力だ。


何かがおかしい。


他に何か補助要因があるのなら話は別だろうが――――――原因?………魔力…要因

魔力の塊

膨大な魔力

そうだ、そうだった。

あのスク水マントめ、なんてことを考え付いた!?

よりにもよって、"ロストロギアに内包されている魔力"を引き出して無尽蔵な魔力供給をしている。

つまり、今の状態は 魔導師1名(僕)VSロストロギア

という状態だ。

ただ単に覚醒しているだけの、あの程度のロストロギアなら何とか僕でも対処できただろう。

だけどそれが魔導師の手によって最大限まで魔力を引っ張り出されたら、それこそ手に負えない。

僕一人の力では対処しきれない。

何としてでも結界の外まで逃げ切るんだ!

そう心に鞭うち全速力で市街地を自身の結界で覆いながら低空飛行で逃げ回る。

本当は上空を一気に突き抜けるのが一番楽な選択だが、そんなことをすればたちまち金髪の少女は特大の投擲魔法で僕を射ち落すだろう。

何の遮蔽物もない場所で的になるより住宅街を結界で覆いながら逃げた方がまだ安全という訳だ。


ザマアみろ、僕は死なないぞ。

そう思いながら、つかず離れずの距離を保ち路地の一角を曲がろうとしたところで



「消えちゃえ」



そんな言葉とともに桃色の閃光が降り注いできた。


避けられない、止まれない。何が起きてるんだ?

そう言えばエイミィが戦闘中の魔導師が二組いるって言ってたっけ。

つまりこの攻撃はもう一人の魔道士が撃ってきたものか。

見れば目の前にはナイフを構える青年がひとり。

とっさに

「何してる!!伏せろ!!」

そう怒鳴り彼の前に飛び出て構成方式を半ば無視した力任せの魔法障壁を展開し全力で魔力をつぎ込む。

背にいる青年はその様子を確認するや否や、僕を大きく飛び越える形で跳躍すると

砲撃魔法の上を滑るようにナイフを走らせる。

すると何の冗談か、茶番劇かと疑うほどに、あっけなく、無残に、奇麗に、歪に、簡単に、理解不能なまま――――魔法が消滅した。

弧を描くように跳躍していた青年は何事もなかったようにごく普通だと言わんばかりの着地を見せると、

「ほらね、君の魔法を殺すなんて簡単さ。」

そう夜空に言葉を紡ぐ。

何が起きたのか理解でいないけど、今はそれよりもこの砲撃を行った魔導師だ。


見渡すと上空15メートル付近に佇む白いバリアジャケットを身にまとった、栗色の髪の少女がいる。

しかし残念だ、スク水でもなければナース服でもない。なんだあのゴテゴテしたデザインは?

制服か?制服のつもりなのか?だとしてもスカートが長すぎるだろう。僕はミニスカートについては容認、いや奨励していると言っていいくらい寛容なんだ。更に言えばそんな少女たちにはスパッツなんてに合わない。むしろ邪道だ。見えそうで見えない、絶対領域の先の薄布は想像と希望を詰め込んだ恥丘を隠す霞といえよう。

――――てそんな事を考えているときでもない!!

彼女も魔導師だ。なら、この結界の影響を受けている可能性がある。

甚だ不本意だけどここは心を鬼にして、腹をくくって挑発するしかない。

「おい、そこのコスプレ残念魔法少女!!悔しかったら――――」

「!!   アハッ! キハハッ!! いた! 見つけたよ! 泥棒猫!! 薄汚い売女!! ガラクタ女!! 七夜さんをどこに隠したのかなぁ? 今なら八分殺しで許してあげる! 」

ぞくり、とした悪寒が全身を硬直させる。

最早会話が通じないだとかヤンデレだとか昼ドラだとか、そんなレベルじゃない。

   殺意

一瞬でも目を逸らしたら喰い殺されてしまうような、猛獣を思わせるほどに劣悪な空気をまとったむせ返るように辺り一帯充満している彼女の魔力。

後ろから迫ってくる金髪のスク水少女の事も忘れて呆然と立ち尽くす。

何で今まで気がつかなかった?

夜空を星空のように照らし浮かぶ桃色の光弾、それも10や20なんて数じゃない。


辺り一面だ。


数えるのも億劫なほどのスフィアは何とか欠片ほど残っていた冷静さで確かめれば、こんな幼い少女の扱いきれる代物じゃないということが容易に知れた。

操作可能数を度外視、そうとしか考えられないほどの状態だ。

攻撃方法として考えられるのは数十発ずつの一斉掃射の連撃。

対空における逃げ場を残りの待機弾で防ぐ考えか。



だけど、そんな予想は次の瞬間見事に外れたと知る。



「ディバインシューター・オールデッド・テラ・ジ・エンド」



彼女の操作命令はただ一つ。

どんなに素質のある魔導師だろうと、こんな数量を扱うにはただ一つのシンプルな操作が限界だろう。むしろ操作放棄と言っていいくらいだ。

しかし、これほど凶悪な一はない。

「は、はは、この世界は……出鱈目だ。」



愚痴くらい吐かせてくれ―――――心がこれから折れるんだから。


迫りくるは桃色の光の一斉落下、勿論逃げ場もないし防ぎきる自信なんて欠片もない。


こんなときだ、一つだけ言わせてもらおうか。






目の前の少女も完全に飲まれている。






―――――――――――――――





ガリガリと響く、罅く。


五月蠅いくらいの耳鳴りが、頭痛が体の自由を奪い全身の感覚が消えうせているようだ。


血が寒い 凍えるように、凍りつくように冷えて…


自分が違う誰かに戻って、染まって逝く。


色あせてノイズが奔る記憶


俺を殺してくれよな■■。



修正開始―――――"再演を再度申請"(リテイク)し、足りない事象を再度補完する。


舞台の裏側で脚本は進む。


収録で欠けた演技は埋められていく。


白き姫は敗北する。






~あとがき~

という訳でクロノ回でした。
いつからクロノは阿良々木君になったのでしょう。
シリアスばっかじゃつまらんと思いちょっと久しぶりにギャグを織り交ぜようとしたら、とたんに変態が生まれたんだ。

なのフェイがヤンでる理由が分かった、私が病んでるんだ。
ちょっと疲れてるみたいです。成田着いた途端空港内で泣き崩れちゃったし。


続けられたら続けます。
H23.8.20 大量の誤字修正




[15623] 休載のお知らせ
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2011/10/21 19:41

タイトルの通り、真に勝手ながら本作品の一時休載をさせていただきます。

昨年の秋から海外での仕事で日本を長く離れる生活をしており、長期にわたり更新間隔を開けていたことにも大変申し訳なく思っています。

先月末、日本に戻って病院の心療科を尋ねたところ、軽い段階ではありますが鬱病と診断されたので、これも機と思い先日会社を退職しました。

語りたいことはいくつもありますが、この場でのこれ以上の記載は不適切なものとなってしまうと思いますので、控えさせていただきます。

最後に、医者の見立てでは回復にそれほど時間はかからないとのことでしたので、精神状態が安定しましたら、また「七ツ夜と魔法」を投稿したいと思います。
その時はどうかよろしくお願い致します。



[15623] 七ツ夜と魔法 第15話①【再開】
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/01/18 20:55
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


君は君自身である理由を証明できるのかい?

出来なければ答えは一つだ。


君は君ではなく君はいない。


~第15話①「正義/  」~



自称管理局の執務官を名乗る変態を追いかけて感じたのは白い少女の魔力。

見つけた、あの忌々しい雌豚を今度こそ駆逐して、数個は所持してるであろうジュエルシードをむしり取ってやる。

そう思いながら追いかけ目の前を疾走する変態を見る。

迷いなく彼女のいる方向へ進むということはこの男は白い少女と組んでいる可能性がある。

ということは彼女の前にたどり着くと同時に来るであろう奇襲は確定。

ならばこちらもと思い、

「ペネトレイト・フォト・ランサー・ロードフリーズ」

雷光の矢を幾重にも展開し待機状態のまま共に並走させる。

ナナヤさんを蝕む泥を埋め込ませたあの子が憎い。

変態が路地を曲がるのに続いて、こちらも一気にスピードを上げ正に追いつかんとする勢いで曲がり角に躍り出ると



「ほらね、君の魔法を殺すなんて簡単さ。」





「――――――え?」

聞こえてはいけない声が、


聞いてはいけない声が――――



出会っちゃいけない虚像が私の目の前にいる。


『遠野志貴に出会ったら何があっても逃げることだけを考えるんだ。
 上空に逃げるのがいい。
 絶対に反撃なんか考えちゃだめだ。
 腐ってもアイツは俺と同一の存在、それに……アイツは節操無く"何でも殺せる"。』

つい先日の悪夢がナナヤさんとの会話とともに思い出される。

全身が凍りつく程の恐怖。

死の権化。

逃げることなんか無理だ。

上空には常識はずれなスフィアの群れ。

退路を断たれた状態。


(まさか、この人たちは…)



  全員グル?




そうか、そう言うことか。だったら私も認めようじゃないか、明確に定めよう。あなた達は私の敵だと。


天を落とすが如く一斉に落下してくる光の中で




「私はっ!!こんな所じゃ死なない!!死んでやるもんか!!私は母さんの所に戻って―――――――」


「ナナヤさんを助けるんだ!!!」

空に向かって雷光の槍を打ち出す。

自分に向かってくるスフィアだけにぶつけて相殺させれば問題ない。


「大丈夫、君との再演は既に終わってるみたいだ。」

「え?」

目の前の殺人貴は近くの電柱をまるで獣のようにかけあがると、落ち行く桃色の群れにナイフを一閃。

ナナヤさんは彼の瞳が万物の終わりを見抜くと言った。

それは一つひとつの魔力球を全て切り刻み消しつくすことで、この絶対的な暴力を殺すのかと一瞬想像したが、

何の魔法か手品か、先ほどまでの暴力的なまでの光の群衆は蜘蛛の子を散らすように弾け、霧散し、終焉のスフィアは後型もなく崩れ消え去った。


その行動が私には信じられなかった。

今の魔法を"殺した"その瞳は間違いなく、私を襲った遠野志貴な筈。殺人貴な筈だ。


この事は白い少女も予想外の出来事だったのか、その光景を呆然と絶望の瞳が現実を受け入れまいと涙をにじませ、今にも零れ出しそうな大粒で視界を眩ませている。

世界はこんなにも簡単に、こんなにも無慈悲に自分を"壊す"(殺す)のかと。


「う…そ……うそ!!!そんな出鱈目!うそっ!!!あなたみたいな偽物が、七夜さんの偽物がそんな、そんなことできるわけない!!!キエロ!!皆嫌い!!!なのはから皆みんな奪っていく!!!そんなの嫌なの!!もうイヤ!!どうして皆なのはを見てくれないの?どうしてなのはに優しくしてくれる人は皆いなくなっていくの?どうして?どうして!?お父さんもお母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも!!!こんな魔法が使えるなんて秘密にしなくちゃいけないのに!!!すずかちゃんやアリサちゃんにも、友達なのに話せないのに!!!隠し事なんてしてたら親友なんかじゃないのに!!七夜さんは魔法を見ても受け入れてくれたよ?私のピンチに助けてくれたよ?七夜さんは私の前でも弱いところも悲しいところも強いところも全部見せてくれたよ?なのになんで皆なのはから奪っていくの?なんで?なんで?なんで!!!―――そんなになるなら許さない。皆みんななのはの敵だ!!!金髪のあなたも、黒服のあなたも、魔法も、七夜さんの偽物も、吸血鬼も、化物は皆いなくなれ!!!魔法だっていらない!!!こんな力に、なのはだけの力になってくれても、周りの皆が幸せになっても全然嬉しくない!!!周りは笑ってるのに、なんでなのはは泣かなくちゃいけないの?魔法ってみんなを幸せにする力じゃないの?なんなの!!!!?みんなの中に入れないのになのはが頑張る意味って何なの?誰もなのはを見てくれない!!!誰もなのはを助けてくれない!!!!!」


その出鱈目なまでのもの言いに思わず私は呆然と立ち尽くす。

目の前の少女が錯乱しているのは解っている。

支離滅裂だ。

だけど


だけど真剣に、心の底から、今までため込んでいた思いを、言葉を偽ることなく騙ることなく、これ以上ないくらいに綺麗に晒している。


…私にはできない


あそこまで――――あそこまで…………???

(あれ?)

何かおかしい――――ナニガオカシイノ?

私さっきまで――――ナニヲシテイタノ?

あの白い子を――――ドウシヨウトシテイタノ?

…吸血、鬼を――――コロシテイタノ?

アレ―――――?







――――――――――――






「………エイミィ、この2名の魔導師を僕と一緒に一旦結界の外まで転送してくれ。落ちついたらアースらまで護送する。それと艦長、転送と同時にそちらからの術式で拘束をお願いします。管理局法に則り3名を重要参考人として連行します。」

『OK。その場に留まってる今なら転送できるよ。』




「待って下さい!もしかして時空管理局の方ですか?」

その声に僕は地面に目を向けると小動物―――――に変身している魔導師と目が合った。

「きみ、は……この結界の中で"正気"なのか?!」

「結界?相異空間の結界ではなくてですか?」

気が付いていないのか?いや待て、聞いたことがあるぞ。あの手の変身魔法は極端に魔力を消耗していて、ミッド式の治療設備がない場合の、最も有効的な自己回復手段だと。

「ああ、君は魔力を消耗しているみたいだから影響がないのかもしれないが、今この町一帯にはどうやら魔導師の精神状態を乱すような結界が張られている。それと申し遅れたが、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。」

「ユーノ・スクライアです。確かに僕と一緒にいたなのは、あの白い女の子もここ数日からどうにも様子がおかしくて…」

「話は一旦移動してから聞く。その際に念のためあの白い女の子を含めた全員を一時拘束する!異存はないな?」

「っ、はい。」


『転送準備完了したよ!』


アースらからの転送が始まり、僕らは海岸方面へ移動した。



『なにこれ!?クロノ君!!結界が―――結界が移動してる!今、クロノ君がいるところが結界の中心地点になってるよ!?!』

「なんだって!?」

どういうことだ?

結界が移動するなんて、それこそ術者をそのまま転送でもしない限りありえない。

先ほど確認したが、魔法を使用しているのは白と黒の少女2名とこの淫獣だけのはず。

なら、あの青年が――――


「ああ、どうやら原因は俺みたいだね……」

悲しげにつぶやく青年は、自身の手足を見るとこちらに顔を向け。

「どうやら、俺がタタリらしい。」

「タタリ……?」

何だそれは?この結界の起点となっているのが彼だとでもいうのか?

『クロノ執務官、今映像からの解析を行ったのですが…彼の体からロストロギアの反応が2つあります……彼は、ロストロギアそのものです』

『ニンゲンではありません』

僕はその言葉に反応を示すことができない。


僕はこの職務を全うするために


彼のロストロギアを封印しなければならない。

ロストロギアそのもの?

だとすれば僕はこれから――――彼を殺すのも同然だ。

僕は出会ったばかりで彼のことを何も判らない、知らない。

そんな存在である彼を


管理局の名の下に


「殺せって言うのか?」


それが凶悪犯で牙をむく絶対絶命なら話は違う。

その場で無力化しなければ多くの命が犠牲になり、また自身の身も危ぶまれるなら、涙を流して断罪もしよう。

彼が極悪非道な心を見せるなら、心を凍らせロストロギアとみなし封印もしよう。

彼が感情の一片も見られない会話もできぬ機械の様なモノであったなら罪悪感に苛まれながらもこの手を振りおろそう。

しかし彼は話し、考え、感情を見せる、見るからにお人よしな雰囲気の青年じゃないか。

自分の正体を自覚していながらなおもそれを含めた心を露わにしている存在を



僕は殺すことができるのか?



『上空から強力な魔力反応っ!クロノ君防御!!!』


エイミィからのとっさの連絡に、突然思考を外された僕は訳が分からずシールドを張るが


見上げた空から覗く空間の裂け目から先ほど見た雷撃など比べ物にならない規模の紫電が―――雷の暴風が辺り一帯に降り注ぐ。


音が失われるほどの轟音と閃光は、仮にも全力で展開したシールドであっても1秒凌げたかどうか。

馬鹿げた魔力の暴力によってまたたく間に蹂躙され、感電のショックで体の自由が奪われる。

それは同時に、この場にいて拘束されていた人物全員が、なす術もなくこの被害を受けたことになる。

体の自由が利かず、顔から地面に倒れ込む僕の瞳に映るのは、雷撃のショックで意識を失っている青年が空へ浮かび空間の裂け目へと引きずり込まれていく様。

誰の仕業かは分からないが、彼を拉致する最大の理由にあげられるものは――――ロストロギアか。

「エ、イ……ゃ、―――く、さ…を―――」

『空間跳躍の逆算、開始します!!クロノ君、しっかりして!!』


まどろむ視界の中でクリアになっていく感情が確かに感じられた。






~あとがき~

皆様お久しぶりです。
本当に久しぶりの本投稿です。
現在、療養中&社会復帰に向けた支援サービスを受けています。
精神状態も安定してきたので少量ながらあげさせて頂きました。

前半部分は、休載前のまだ病んでた頃に打った文なので、私の病みモード全壊の支離滅裂分です。
そして、現状の牛歩更新ではきれいなストーリー投稿は無理だろうと考え、物語を色々と急ぎ足な形で端折ろうと思います。

後数回で最終話への道筋をつけて、できうる限り終わりがきれいなものにしようと思います。

七夜志貴が囚われのヒロイン化してますが、お待ちください。


続けよう




[15623] 七ツ夜と魔法 第15話②
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:49
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


死とは何であろうか?

    最期など生温い

  虫の息など慈悲深い

刹那より早く刈り取られるのは命ではない。

    意識である。

今この瞬間にある意識が消えるとして、君はその恐怖に耐えきれるだろうか?

答えは否だ、誰もがそのいつ消えるかもしれない、明日のない欠き消えた意識に恐怖し


    目を背ける。


ならば明日を目指すものと、昨日を振り返るものと、今日を踏みしめる者にはいかようにも埋めがたい差異が生じるのは必然と言えよう。

 
 


~第15話②「  //  」~
 

 

高町美由希は呆然と立ち尽くしていた。

夜の住宅街に取り残され、今まで見たこともない闘争劇。


錯乱した魔法少女スタイルな末妹高町なのは

彼女とは所謂二親等な関係ではないがとても大事な妹だ。

それが何の冗談か空を飛び魔法なる技を使い、遠野志貴なる青年を攻撃し始め、必死に後を追いかければ今度は忽然と姿を消してしまった。

美由希は知る由もないが、なのはと一緒にいたユーノが被害の拡大を危惧して相異空間の結界を張っていたのだ。

いくら強かろうが、ユーノがなのはの家族である美由希を危険な目に合わせては申し訳ないと思い、意図的に結界の侵入からはじいていた。


いくら走りまわって探そうが音一つ、気配一つ探ることなどできはしない。

姿をくらましてから優に30分は経過しただろうか、当初は戸惑い我武者羅になってなのはの姿を探したが今ではついに立ち止まって、顔を青くしている。

「なのはがいなくなっちゃった。」

その顔は自身の積み上げてきた研鑽を瓦解させる、そんな悲しみを目の当たりにした表情だ。

どうしていつも自分が大切にしていた人物は姿を無くしてしまうのかと。


ふと、その時場違いな程のファンシーな電子音が美由希のポケットから鳴り響く。

美由希も花の女子高生だ、つい最近なのはと一緒に購入した携帯電話がけたたましくその存在を主張している。

はっきり言って、美由希の携帯電話の番号を知っている人物範囲は非常に少ない。

高町家族か月村家か高校のごくごく僅かの女子のみだ。

そしてこのような事態でまず間違いなく、このタイミングでかけてくるような人物は

「恭ちゃん!なのはが!!なのはがいなくなっちゃったよぉっ!!!」

『―――っな!?一旦落ちつけ!こっちはカーステレオなんだ、少しボリュームを落とせ。今父さんと一緒に忍の車の中にいる。』

「あっと、ごめん。…その、多分荒唐無稽もいいところなファンタジックな話になっちゃうんだけど、」

「信じてくれるかな?」

『ああ、信じる!こっちもたった今そんな経験をしてきたところだ。』

「恭ちゃんの方も何かあったの?」

『…………ニュースに取り上げられていた事件の犯人と戦ったが―――人間じゃなかった。なのはが昨日父さんに話したっていう吸血鬼は本当だったんだろう。』



「――っ、こっちも多分、噂の殺人鬼だと思う人に会ったよ。名前は遠野志貴君。七夜君と瓜二な顔で眼鏡をかけていて、ナイフで吸血鬼にされた人たちを殺しまわってるって……なのはがいきなり狂ったように暴走したのも彼を見たのがきっかけだと思う。彼を襲いだして…その、なのは―――空を飛んで魔法、みたいな攻撃を始めて気が付いたら逸れちゃったの。」

信じてくれないだろう、こんな話し。しかし

「信じるって言っただろう?似たような奴を見たんだ、なのはくらいの年の金髪の女の子が吸血鬼と戦って―――魔法を使ってた。そうとしか表現しようがないくらいに大胆にだ。」

同じく挙がる「魔法」というキーワード。

これらは現在の事件において、最早無視することのできない項目だ。

「そういえば、昨日なのはが七夜君が金髪の女の人のところにいるって………」

『金髪……俺たちは七夜君が大怪我をしたって聞いてる。つまり、俺たちが会った女の子が不思議な力で七夜を治療してるのか?だとしたら彼も独自に動いて今回の件の中枢にまで迫っているかも知れない。』

恭ちゃんと一緒にスピーカーで話を聞いているお父さんが、七夜君の現状を推察を交えながら話してくれるけど、そこには今まで私が知らなかった七夜君についてのことに驚きが隠せない。

「七夜君てそんなにすごいの?」

『ああ、美由希や母さんには伏せていたけど、実はアイツは元暗殺者一族の生き残りらしいんだ。しかも、人外を専門とする退魔のだ。』

『アイツの実力は桁外れだ。油断してたとは言え、俺を一瞬でねじ伏せるくらいの技量をもってる。』

父さんと恭ちゃんのその言葉に、一瞬頭が付いてこない。

「七夜君が―――暗殺者?」

『心配はいらない。本人は既に一族の敵を打ちとったらしくて、余生を静かに暮らしたいと思っていたみたいだからな。』

「七夜君は――――なのはを助けてくれるかな………」

「……大丈夫だ、彼は自分からなのはを守ると言った。短い付き合いで、疑ってばかりだったが、約束は果たす奴だ。信じていよう。」





 
 
――――――――――――
 
 






高町なのはは振るえていた。

たった今まで自分が何をしていたのか。

何を口にしていたのか。

何を考えていたのか。

ダレヲコロソウトシテイタノカ?

「うぅ――――ぅあぁ……ぃやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

がくがくと体を震わせ、顔は青ざめ、今までの自分に恐怖するように絶叫する。

現在なのは達は正体不明の結界が突然消え去った為、一応の安全確認と事情聴取の名目で次元航行艦アースらまで来ていた。

なのははその中の医務室のベッドで膝を抱えて振るえていた。


極度の精神的ダメージがある。

それが医者の見立てであった。

それを聞いたリンディは、なのはと一緒にやってきたユーノの説明と共に今回の異常事態と照らし合わせ納得していた。

心が壊れて当然だと。

話を聞く限りでは、彼女はとても優しく思いやりがあり、責任感のある子だったのだ。

それが、アノ結界の影響によって黒く歪み、醜い面が、自分の胸から望む筈もない思いを巻き起こし、終には友達になりたいと思っていた少女すら殺そうと考えてしまったのだ。

自身の考えを歪に、自らが否定し、他人を傷つける。

これに耐えきれるほど彼女は精神的に完成しておらず、また完成していたとしても、そんなことなどお構いなしに絶望は純真を汚す。

「その、七夜志貴ってヤツの偽者がさっきの男で、ジュエルシードを取り込んでいるってことか。」

クロノ達はユーノから聞き出した話をもとに、情報を整理していく。


高町なのはとの出会い。

ジュエルシード封印の協力。

金髪の少女の介入。

七夜志貴の乱入。

高町なのはの精神状態の変化。

吸血鬼との死闘。

そして先ほどの偽・七夜志貴との死線。

「なあ、この世界には吸血鬼なんて超越種が本当にいるのか?」

俄かには信じがたいと、クロノは疑問を口に出す。

勿論疑っている訳ではないが、数多の次元を渡り往く航行艦による任務でもおとぎ話程度にしか聞かない程の幻想種族だ。

「確かに、僕もこの世界についてはそこまで詳しくは分かりません。この世界の伝承やおとぎ話等で載っている程度の、過去に存在していたとしても現在は息絶えた、人の歴史の中に掻き埋もれた存在だと思っていました。だけど、黒いコートの大男は自らを『混沌の名を冠する吸血鬼』と名乗り、そして確かに七夜志貴は言いました。」



『やっぱり、脳天串刺しじゃあ満足いかなかったか?ネロ・カオス』




「彼は以前、その吸血鬼と闘ったことがあったというのね。」

リンディの推察は誰もが納得しえる一言だった。

そして、推察から吸血鬼がこの世界に実在するという事実が出たところで、クロノはハタと気が付く。

「あの金髪のスク―――いやレオタードの娘が錯乱しているときに言っていた………自分が殺したのは吸血鬼で幻想で虚像だと……それに、あの吸血鬼を殺した後だろう、ジュエルシードを封印したと思われる発言をしていた。」

「エイミィ、高町なのはさんのデバイスからドライブレコードの映像を抽出してください。ユーノ君、貴方達がそのネロ・カオスと名乗った吸血鬼と戦ったのは2日前でしたね?」

「はい、現地時間の時間は21時ごろです。」

高町なのはから一時没収としているレイジングハートにエイミィはアクセスを開始し、ドライブリーダーへと情報を抽出し該当時間の起動記録を映像化する。



『やれやれ、可愛らしいお姫様を助けるだなんて、役者冥利に尽きろところだな。』

そこに映し出されたのは、金髪の少女を抱きかかえた七夜志貴の姿と、背後に映る吸血鬼。

「おい、こいつはさっきの――――」

「いいえ、どうやら彼が本物の七夜志貴君みたいね。」

そして止まることなく再生される、二人の"人を越えた"戦い。

「うそ……いくら人間でもあんな動き……」

エイミィが発した言葉はリンディもクロノも同じ感想だった。

「魔法もなしにあんな体勢の切り替え、凄まじい精神力と才能ね。……それよりも、この映像から吸血鬼にジュエルシードがあるか解析できますか?」

「艦長、どういうことですか?」

「彼の台詞からも分かる通り、二人は戦うのがこれが初めてではないのでしょう。」

それはここにいる誰もが推察している事柄だ。

「そして出会えばこれほどの死闘、以前に会っているなら確実に行っている筈です。」

「それは、…確かに。」

「更に言えば先ほどの脳天串刺しという彼の言葉……吸血鬼がどこまでの再生力を誇っているかは分かりませんが、彼らの戦いは前回そこで決着が付いているのではないかしら?」

それはつまり、七夜志貴が吸血鬼を殺すことで決着がついたということ。

「死者が、…いえ、吸血鬼がもしもこの地域に落下したジュエルシードを取り込んでいれば、その膨大な魔力を再生力に使い復活するかもしれないと言う訳です。」

「それなら、金髪の娘が言っていたあと一個という言葉のピースがまた一つ埋まる。つまり彼女は元々後複数のジュエルシードを欲していて、あの学校にいた吸血鬼が持っていたジュエルシードを奪ったからということか。」

「そう言えば、その金髪の女の子は何処に?」

「独房の中さ、デバイスも凍結させてある。なにより、僕らをあの時襲った雷撃の魔法は構成術式の基本ベースがあの子と同一だったんでね。電気への魔力変換資質を持った輩が横槍を入れてきて無関係だとは思えない。関連付けるには十分な材料だし、もしも黒幕が先の攻撃者で彼女はその身内とかなら、あまり使いたい手ではないけど交渉材料にもなる。」

「それに、先ほどの次元跳躍も解析して逆探知中です。相手の根城が見つかるのも時間の問題でしょう。」
 
 
 
「後は…あの二人の子たちの心の問題ね。」




~あとがき~

台詞中心になりましたが、ここまで。

本当は違う話を先に書こうと思ったのですが、どうしてもやっておきたいと思い中編としてまとめました。

ご都合的に謎を解いて1クールで物語をまとめるアニメって、実はもの凄いんだなと、今更ながらしみじみと痛感しました。

今回は③まで行きます。


何としても続けたい。



[15623] 七ツ夜と魔法 第15話③
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/02/09 23:01

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


  瞳の奥の"秘密"(嘘言)

笑顔の裏の"真実"(嘘言)

    やわらかな"愛"(虚言)



    嘘

  嘘

~第15話③「  /征偽」~



プレシアテスタロッサは一世一代の大博打を懸けていた。

吸血鬼を殺せる力を持つ遠野志貴との対峙。

掛け値なしの1対1だ。

あのままガラクタ(フェイト)も回収することは出来たが、それをしなかったのはこの戦いをするためである。

否、愛しい娘(アリシア)のためである。

ジュエルシードを取り込み"七夜志貴からタタリの主導権を奪った遠野志貴"を解析、制御下におくことができれば、これほど目的達成への近道はない。

あのガラクタはそれらに必要な器だ。

プロジェクトFの最大の失敗作にして唯一の成功品。

生命活動を行う、発育する、意思を持つ、自立する、思考する、そして何より魂を持った存在だ。

これからアリシアになる体だ。

ならば、万一にも替えの利かぬ器を命の危機にさらす訳にはいかない。

その役目はもう十二分に果たしたと言っていいくらいだ。

最早あの魂は用済みだ。

残す使命があるとすれば、それはこの戦闘が終わった後に無事な体で時の庭園に帰還することのみ。

ああ、ならばあのガラクタはもうすぐ愛しい愛しい愛娘へと孵るのだ。

あの喉が震えて紡がれる愛しい吐息。

瞳の色こそ違えど、よく見慣れたあの目つき。


何度となく打ちすえた、蚯蚓腫れ、の肌―――?

罵声を浴びせつばを吐きつけた頬?

首を締めあげ気絶させ、糞尿を撒き落とさせた時の征圧感?


―――――なんだ?

なんなのか?


何か違う


なにかが違う

違う、違う、違う?


何が違う?

今はガラクタだろう?


あの子はフェイト、もうすぐアリシア


アリシアなんだ。

あの憎々しい体はもうすぐ愛しくなるんだ。

そう、アリシアが目覚めたら、まずはあのガラクタな体を
 
 
 
"――――――コワレルマデニダキシメテ――――――"
 
 
 
「……そう、貴方のせいね。」

射抜く瞳は殺人鬼をとらえ、今にも殺さんという形相で睨みつける。

「いきなり連れ去られて、初対面からそんなに睨まれるのは初めてだ――――吸血鬼」

遠野志貴は既に眼鏡を外し、直死の世界をその眼に納めている。

真っ当な精神で彼の前に立つことなどできはしない。

そう、万一今回の計画を実行する上で、肉体が健康そのものだったらここまで焦ることもなかっただろう。

しかし病魔に蝕まれ、七夜志貴を抑え込むために乱発した魔力、死期に近づく体では、とうていこの人外を相手取ることなどできない。

遠野志貴が人外に対する殺人鬼であることも承知していた。
 
 
故に、吸血鬼に堕ちたこの身は最速にて決着をつけねばならない。
 
 
一切の容赦ない総攻撃数58の工程と、86種の多様な魔法によって殺人鬼を蹂躙する。

全方位からの殲滅攻撃を惜しみなく浴びせ、七夜志貴のときに見せたような手加減など一切掛けない。

「さあ!とっとと消えなさい!」

大理石の床が砂塵に変わる程の攻撃をこれでもかというほど雨あられと降らせその身をひとかけらも残さんと言わんばかりの―――――


「――――。」

その全てを遠野志貴は無言で殺しながら避け続ける。

それだけではない。

手足が入るか入らないかという僅かな攻撃の隙間を縫うように、じわじわとプレシアに近寄ってきている。

その瞳は無機質な虚。

醜悪なまでの気配無き殺意を振りまき、連続して起こる爆心地の最小被害地から最短のルートを無意識に、最速で見つけ出し、迫る、迫る、迫る。


ただ右手に握る七ツ夜が爆炎を閃光を、破岩をまるでその意味を終わらせるかのように欠き消し

神すら彼の前ではひれ伏すかのような、死を幻視させる。

しかし諦めるにはまだ早い、引き返すにはもう遅い。

例えこの身が殺されようと



アリシアだけは――――――
 
 




―――――――――――――――――
 
 





「ん?プレシア・テスタロッサかい?ああ、彼女は実に優秀な魔導師だと思うよ。そうだね、私が今までに出会った人物の中で4番目くらいの逸材だと思うよ。」

「それより上は誰だって?ははっ、それを君に教える必要性が私には見当たらないな。」

「そうだろう?誰だって最も信仰と崇拝の対象とするまでの人物というのはおいそれと口に出さず、ひっそりと自分の中で完全なる空想という名の偶像にとどめておくべきものなのさ。」

「それは神なのかって?」

 
「君はアレだな、馬鹿って奴かい?ああ、気を悪くしたなら落ち着いてくれ。」

「なにも君が馬鹿なのを哀れだと思っている訳ではないさ。」

「君が馬鹿になってしまった、あるいは馬鹿のまま過ごしてしまったその人生、生い立ち、環境、人間関係に対して憐れんでいるのだよ。」

「おや?何をそんなに深いため息を吐くのかい?……まあいい。」

 
 
「プロジェクトF、アレには私も半年ばかりであったが参加していたからね、当時のことはよく覚えているさ。」

「そうだな。20年ほど前のことだから、20年ほど前のように思い出せる。」

「ん?"昨日のように"ではないのかだって?」

「やはり君は馬鹿だな。私にはその、昨日のようという表現が理解し難いよ。」

「私は生れてこの方、全ての事柄を」

 
「漏らさず」

「間違いなく」

「正確に」

「鮮明に」

「余すことなく」

「色あせることなく」

「欠けることなく」

「完全に」

「完璧に」

「徹頭徹尾、己が記憶を保持し、維持している。そう、今この瞬間もだ。」

 
「ならば、全ての記憶が完璧である以上、その鮮度。質は、全くの優劣を付けることなく整然と並んでいるのだから、これでは時系列でモノを正確に表す以外不可能というものだよ。そのような比喩は私には不要さ。」

 
 
「吸血鬼?」

「ああ、もしかするとあの欠陥理論のことかい?」

「随分と古い話題だね。」

「欠陥としか言いようがないだろう?人体を構成する組織が急速に劣化し、腐敗し、他者の生命情報に依存してしまう姿は一個の生を、神が作り出した完全を不完全な悪性(神域)へと堕落させるのだから、これを欠陥と呼ばずして何と言う。」

 
「ん?私かい?」

「私は自分の体を玩具にすることはあっても、この身を堕落させることなど無いよ―――――おっとそう言えばあったね。これは失礼。私としたことが、うっかりしていたよ。」

「堕落、堕胎、……そう、堕ることならあるさ。」

「うん?それは秘密というものさ。もっと深く知りたいのならチップを要求するよ。」

「ちょうど新しい実験を始めたところでね。元気があるのなら歓迎しようじゃないか。」






―――――――――――






高町なのはが一応の形だけ取り繕った、平静な心情に回復したのはアースらに乗り込んでから、まる1日と半日が経過した頃であった。

目の周りは涙の痕で真っ赤に腫らし、睫毛の下には黒々と不健康な隈が、くっきりと浮き出ている。

そんな中、彼女はこの船の艦長、リンディ・ハラオウンに深々と頭を下げそして懇願した。

話し方は未だに心が回復しきっていない為か、言葉尻や滑舌の悪さなどがあるが、強い意志と、優しさがクロノたちの心を打った。

「……言ってくるといい。そこで傷ついても、君はあきらめないのだろう?」

「大丈夫よ、今はあなたの心は自分だけのものよ。誰にも邪魔はさせないわ。」
 
 
 
 
 
 
 
「――――――あの娘とお話してきます。」
 

さあ、この場は舞台裏だ。

存分に歌い踊れ

その劇が終焉の幕を開けるまであと僅か

少女たちの月世界は加速する。
 
 
 
 
~あとがき~
絶体絶命のプレシアさん、絶賛タタリに影響を受けています。
友情出演、インタビュー形式でした。
死徒化理論の製作者として、リリカル世界では彼がもっともその場所に近いと思い独自に入れました。
やってることはネロアさんよりえげつないですしね。


まだ続けれる



[15623] 七ツ夜と魔法 第16話①
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:51
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]


「やあ、七夜。苦しんでるかい?」


「ああ、勿体ないくらい新鮮さ。」


「そいつは重畳。死んでみて初めて気が付いたか?」
 
 
~第16話①「戟突/  」~
 



「黙ってちゃ分からないよ。」

高町なのはは金髪の少女のいる独房の中に、自ら入れてもらい顔を突き合わせていた。


金髪の少女は両の手を特殊な錠で拘束されていながらも、まるでなのはを憎んでいるかのような怨念に満ちた瞳で睨みつけ、じっと黙っている。

「私の名前は高町なのは。――――あんなこと………とっても酷い事言っちゃった後だけども……名前、教えて欲しいな。」


高町なのはの言葉に項垂れた顔のまま睨みつける金髪の少女が訳が分からないとばかりに眉をひそめる。

「……私はあなたが――――タカマチナノハが憎い」

呪詛のように暗い声でなのはを威嚇する少女。

「それは、私の暴言、に対して………?」

あれほど汚い言葉を吐いたのだ。もうこの子は自分に対して心を開いてくれることは不可能なのだろうか?

この問いに対して沈黙で返されるようなら、最早時間と根気の身でしかこの溝を埋めることは出来ないだろう。

さらに、何となく予想していることではあるが、今回の事件が終息に向かいアースラが元の世界に帰るようなら、一緒に連れて行かれるであろう彼女と会う機会は絶望的となってしまう。


「あなたがナナヤさんを……」

「――――え?」




「あなたが、ナナヤさんを苦しめたっ!!!!」


次に反応を示した金髪の少女は、まるで体が動かぬなら首だけでもその喉笛に喰らいつき引きちぎろうとする猛獣のように、明確な殺気をなのはに放つ。

対してなのはは意味が解らず動揺する。

七夜さんを私が苦しめた?

そんな、


ジュエルシードを探して町を歩き回り、その挙句吸血鬼に襲われそうになったことを挙げているのだろうか?

「あなた達がナナヤさんの傷口に植え付けた吸血鬼の泥が、あの人を苦しめてる。今も……苦しんでる!」

「そんな―――でも………」

何だろうか、この胸の奥で突っかかる正体不明な違和感は。

彼女の瞳には嘘はなく、本当に七夜志貴を心配する優しい気持ちであふれている。

なのになぜだろうか、その言葉が一つのカギになりそうな気がしてならない。



とっさになのはは念話でユーノに話しかける。
『ユーノ君、質問するよ。あのとき、……吸血鬼さんの残骸は純粋な生命力の塊だったの?』

『僕が見た限りでは方向性を失った、魔力と架空要素、原初の生命と呼ばれる海の成分に酷似したエネルギー体だった筈だよ。』

『それは……また吸血鬼になったりするのかな?』

『いや、ナナヤの体にあてたときに僕はあの泥に直接ふれたけど、あれはもう吸血鬼じゃなかった。それは僕の魔法操作に反応した時点で、完全に吸血鬼の制御下から剥離したものだと、そう認識している。』

なのはは考える。

彼女が七夜さんに対して好意を持っていて、それでいて誤った診断をしている可能性。

しかしそれでは辻褄が合わない。

吸血鬼の泥を当てても問題がないのなら、何故彼女は七夜さんが苦しんでいると言っているのだろうか?

「七夜さんは――――今、何処にいるの?」

金髪の少女は一層きつくなのはを睨みつけ

「母さんのことろで……治療を受けてる。その為にもジュエルシードは必要なんだ!!母さんならナナヤさんを治療できる、そう言ってた!」

やはり何かが胸の奥で突っかかる。


何かが決定的におかしい。


『なのは、とても言い辛い事なんだけど……』

『大丈夫、私も何となく見えてきたから』

そうだろう、これまでの情報を整理しつくせば、消去法でいけば残る人物は一人だけだろう。

『この子の母親は嘘をついている。』


「あなたのお母さんって、お医者さんなの?」

「母さんはっ――――!!私の母さんは生物学者だ。」

『生物学者――――――検索結果が出たよ。彼女の容姿に該当する人物と母親の名前が出たよ!プレシア・テスタロッサ。ミッドチルダ出身の魔法生物学の研究魔導師だよ。――――そっちの子は"アリシア・テスタロッサ"……だと、思うんだけど……』

割り込むようにエイミィから告げられた情報をなのはは聴き、同時に聞いた全員が彼女の歯切れの悪い解説に意識が向く。

『なんだ?確定情報じゃないのか?』

君にしては珍しいなとクロノがつぶやくが、エイミィが次に発した言葉は更に周りを混乱させる。

『その、……彼女は容姿、DNAの検証具合からして間違いなくアリシアって子本人な筈なんだけど、……どう見ても外見年齢が合わないし、そもそもいる筈がないんだよ。』


『そんな、それはまさか―――――』


何だかこの先の言葉を聞いてはいけない。

なのははそんな恐怖に襲われながらも呆然と目の前の少女と対面し続ける。





 
 
――――――――――
 
 






「よう兄弟、ずいぶんと楽しんでるじゃないか。」

その声が遠野志貴に届いたのは、まさにプレシアの喉元にナイフを突き刺す寸前のことだった。

体が動かない





体に自由が利かず、まるで他人の意思で動かしているかの様な、絶対的な支配による敗北感。

喉が震える様からは居に空気取り込む一動まで、最早己が意思でない。

なんとも形容し難い感覚だが、―――――成程。


どうやらこれは操られているのだろう。

まともに動くのが思考のみというのはまるで自分がそこにいないような。

映像を観賞する観客になり下がった気分だ。


「どうやら、お互い望まない舞台らしいな。」

志貴の殺気が俺へと変わったらしいが、どうにも他人事の様にしかならない。

「ふ、ハァアハハハハハ!!間に合ったわ!!これで、これでいいのよ!死人(ガラクタ)は死人らしく潰し合えばいいのよ!!―――――再演算開始。」


「バックアップ、ハッシュ照合、修正値ロード―――――リセィヴ・トライアル」




俺の体が、またも意思を置き去りにして志貴に向かって駆け出す。


振るう小太刀の軌道は紛れもなく俺が選ぶベストな太刀筋。


袈裟掛けから切り上げる動作の反動を利用し、体を地面すれすれまで体勢を落とし、足の筋力をフル活用して一足で志貴の背後へと回り込む。


「くぅっ!」

スピードについて行こうと苦悶の声を上げながらも対する志貴は、先の一太刀を逆手で構えていたナイフで上部へと軌道をずらし、反動を駆使し、背面高跳びの要領で後方宙返りを行い、上下逆さの世界で直死の目を持って背後の俺にナイフを走らせる。


「元気だなっ――――蹴り穿つ!!」


屈めていた体勢から全身をバネの様に反動を付け、大きく上方へと蹴りぬける。

「舐めるな!!」

志貴もその一瞬で危機を察知したのか、迫る蹴りに対処すべく体の態勢を空中で無理矢理変え、ナイフを突き出したまま急降下してくる。



――――――なんだ、この無様な戦い方は?


骨の軋みも、筋肉を駆け巡る圧迫感もまるで感じない。


いいや、どうやら感覚は残されているようだが、俺自らの意思で動いている時のような精錬された俊敏さ、技巧がまったく感じられない。


自分の意思で動いてないからだとは言え、不快感を抑えきれないほどに、愚鈍で見るに堪えないほどだ。

児戯にも劣る、まるで幼子の遊戯じゃないか。

こんなものは七夜志貴ではない。

こんな闘いではない。

これじゃあまるで―――――


 
「そうよ。」


 
『だってあなたは』




 
 
――――――――――――――
 
 



目の前の白い少女、高町なのは名のった少女の表情は凍りついたように私を見つめている。

憎い憎い少女は何を見て、そんな呆然としているのか。

………念話だろうか?

何を聞いているのか知らないけれど、私はこんな所にいる時間はこれっぽっちもないんだ。

早く母さんの所に戻らないと。

早く、ナナヤさんを助けないと。




早くしないと。



ジュエルシードを後一つ手に入れないと。



(――、――?)




あれ?


まって。

"ジュエルシードが後二つ必要"

待って。

母さんは遠野志貴を連れ去った。

待って!!




  遠野志貴はいくつのジュエルシードを持っているの?


「幾つ!……遠野志貴はいくつのジュエルシードを持ってたの!?」

「え?えっ、と……私と戦ってた時は二つだったよ」

二つ      ふたつ        必要な二つを



母さんは既に――――――



「あ、ああぁ、あああああああああああああああああ!!!?」

「!?っ、どうしたの!??」

白い少女が驚いて、尋ねてくる声が聞こえたが

知ったことか、そんな場合じゃない。


「放せ!放してぇ!!帰らなきゃっ!!?早く、早く帰るんだ!!!」


必死になって体を動かそうと力の限り暴れるけど、拘束装置はびくともせず、無情にも私はその場から一歩も動くことができない。

間に合わない、間に会えない。



私が、フェイト・テスタロッサはその意味を失っちゃう!!!






~あとがき~

名探偵なのは
もの凄い推理力ですね。
そして七夜の1年ぶりの出演が、なんとも半端な形で申し訳ありません。
短いながらも本人ご不満の自動バトルでした。

七夜とフェイトは己自身と、存在意義を失う。

なのフェイの青春ガチンコバトルは……やらない方向で。
OHANASHIじゃなくてしっかり話そう。


続きます





[15623] 七ツ夜と魔法 第16話②
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:53
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



誰だって一度はある筈だ。

それは衝撃的で、運命的で、残酷なまでに美しい。

どれ程おぞましくとも祝福されるものだ。

――――誕生とは。


 
 
~第16話②「  /劇突」~
 



「ふふ、アハァアハ!!」

可笑しくてたまらない。

今、この手の中に欲したジュエルシードが、正にそろったと言っていいだろう。

たった3個

本来必要な筈の数は、タタリを知ることでここまで減った。

何と愉快な話であろうか。

簡単だ、世界を覆すことも、愛娘を生き返らせることも、何もかも。

「ええ、あなた達にはとっても感謝してるわよ………"シキ"」

絶対的な立場から倒れ伏す学生服のシキを踏みつける。

ジュエルシードを全て抜き取られたせいか、その体は色あせるように少しずつ虚構に果てようとしている。

「こっちのシキも素体の器から剥がしたから、もうガラクタも同然。」

床に倒れ伏す二人の志貴。

さあ、後はゴミ掃除の時間だ。


もうすぐ。そう、すぐだ。

会える会える会える


待っててちょうだい。


「アリシア………」





―――――――――――――――




次元跳躍攻撃の場所を探知する検索システムを起動している中で、相手からの連絡が来ることはリンディも薄々予想はしていた。

『初めまして、でいいのかしら?』

赤い瞳がぎらつく紫が見の女性、プレシア・テスタロッサが管制室のモニターに姿を写したのは、丁度なのは達が金髪の少女、自称フェイト・テスタロッサの錯乱する押しに負けて提督がいるこの場所に拘束具を装着したまま連れてきたときであった。

「母さん!!」

最早フェイトにとっては、己が母は言葉では言い表すことができぬまでに、絶対的な信仰対象であった。

自分は最早母にとって用済みなのだろうか?

それとも、自身を助けるために姿を現してくれるのだろうか?

はたまた、今度こそ鞭による躾がこの身を殺すのだろうか?

そんな恐怖と希望が入り乱れる中でアースらとの会話が始まる。





―――――――――――――――――






『取引をしましょう。私は――――そうね、今こちらで預かっている少年、七夜志貴さんを無事に元の管理外世界へ送り届けて、あなた達がすぐに安全を確認できるように引き渡すわ。』

「代わりにその場で私たちが現在保護しているこの子を引き渡せと言うことでしょうか?」


リンディはモニター越しのプレシアを睨みつけ問いかける。


『ええ、彼は私の娘の大切な命の恩人ですもの、この件にはもう関わる必要はないわ。』

「それはあなたがロストロギアの違法収集をしているという発言と受け取らせて頂きます。」

『参考までに申し上げておきますと、このロストロギア。ジュエルシードは単体でも魔力衝撃が加われば暴走する危険性があります。でも、魔力ランクAA以上の封印処理を施せば至って安全なものなのよ?それこそ魔力炉の核にして永久運用できるくらいのクリーン資源なのよ。』

「それは我々時空管理局が検証して出す答えです。それと、ランクB以上のロストロギアは個人で所持することは法で禁じられています。今回は偶発的にこちらの運送時に拡散してしまったものですが、その場合所持及び拾得の報告――――は現在の交信で成立していますので移動可能範囲にいる場合、48時間以内に緊急を要する事由を例外とし、速やかに引き渡さなければいけません。」

『知っているわ。でも残念。私何分、近年体調を崩しがちなもので、でまともに外へ出ることも叶わぬ身なのです。かといって、私のいる場所は特殊な研究機材や希少な成果がたくさんあるので自立可動の魔道騎兵がたくさんいるから、ご足労を願うのも無理なの。自立システムも私が認証を解除するまでに1週間はかかるくらい複雑なものにしてあるからそれこそ再設定には莫大な費用がかかるくらい。管理局の航行艦―――艦長クラスでも異界一つにある城塞にかかる費用の設備費の申請は易々と通らないんじゃないかしら?』


これは拙い、とリンディは内心舌打ちをする。

つまりこれは、嘘であれ本当であれ、彼女自身をこちらの手の届く範囲に引っ張り出すことができなくなったということだ。


明らかな相手方の違法性についてもっとくらいつくこともできるだろうが、明確なロストロギアの引き渡しを行う意思を先に表されてしまったことに加えて、運送中の船からの漂流、拡散。この点がどうしても最期のひと押しを出せないものとしている。

ならば、この状況で無事に彼女の居場所までたどり着ける人物が、現在こちらにいる金髪の少女のみということになる。

なにより、先に提示された実質人質同然の七夜志貴さんの安全な引き渡しの条件を無視すると言うことは、彼女への接触を遠ざけることになってしまう。

さらに、金髪の少女は彼女の下に帰りたがっているのにもかかわらず拘束し続けることも難しい。

必要な措置とはいえ、現在保護という名目で拘束しているが、管理局執務官が正常な精神状態ではいられないほどの精神に異常を引き起こす結界内で起こした違法行為は、当然責任能力、正当性を欠くものであり、持って後2日で解放の手続きを踏まなければ、今度はこちらが管理局法に接触してしまう。


隠そうにも、彼女を調べるために本局にアクセスしてしまっているのだ。

彼女を保護している連絡も認証段階で行ってしまっている以上、陸の上層部はここぞとばかりにこちらを叩いてきかねない。

無視しようものなら、今度は本部から背任扱いをされ、査察対象、最悪の場合、味方のはずの別航行艦がこちらに牙をむきかねない。

管理局も一枚岩ではない以上、ときには同部門であろうと上からの命令があれば切り捨ても行われるだろう。




だったら、それを上回る一手を繰り出すのみだ。

逆転の糸口をいつだって用意してこそ、航行艦の艦長だと言うことを見せつける。



「でしたら、我々もこの娘と一緒の転送ルートでお邪魔させて頂きます。それなら、これからお邪魔しても構いませんわよね?本件のロストロギアの性質を我々は過小評価していません。したがって、例え城塞レベルの施設であっても民間の方を命の危険にさらすなんて、とてもとても……、本艦の武装隊が安全な回収に参りますので、詳しい話もその時にいかがですか?」




『―――っ、そう、してくれるなら手間が省けるわ。でも、私の大切な娘に手荒なまねは許さないわよ。』

「ええ、どうやら保護時にいた地域一帯に魔導師の精神状態を視だす結界の様な空間が出来ていたので、安全確保と自傷行為を防ぐために一時的に拘束の様な状態になっていますが、安定してくればすぐにでも拘束は解除いたします。」



『………いいでしょう。志貴さんもその時一緒に保護して頂きます。』

「!?」

しまったっ!!?

そうリンディは強く歯ぎしる。



―――どちらの志貴だ?


本物であり、先に囚われた七夜志貴なのか、全く己時姿の偽物である遠野志貴なのかこちらでは一見して判断ができない。

当然、遠野志貴はジュエルシードを内包した虚像である為、会話の流れから七夜志貴であろうことは明確。

しかし、もしも遠野志貴を前に出されたら、あの魔導師の精神が乱される結界が容赦なく武装局員を狂わす。

最悪の場合、こちらの過失―――否、故意による不祥事が起きてしまうかもしれない。

彼女は高位の魔道生物学者だ。

何かしらの自身への精神干渉を防ぐ術を編み出しているかも知れない為、彼女の錯乱を名分にした拘束も難しい。

どうせ今聞いても、真実の返答が返ってくる訳がない。

ならば本物を知っている高町なのは、ユーノスクライアに同行を頼むしかない。

民間人を現場突入に同伴させるなど殆ど例がない。

金髪の少女から確認をとるという案もあるにはあるが、彼女が管理局から受けて言う現在の処遇から考えれば、とても協力してくれるとは思えない。

ましてや、金髪の少女はプレシアの味方だ。どんな返しをしてくるか判別ができない。


ここは――――。

「それでは、2時間後にお邪魔させて頂きます。」


そう告げ、通信が切断さされると、私はすぐに金髪の少女の傍に寄りそう高町さんにに向かい、膝を折り彼女の視線に合わせ、深々と頭を下げた。

「こんな状況であなたを巻き込んでしまってごめんなさい。でも、現在のアースらにははっきりと七夜志貴くんを本人確認できる人員がいません。あなたの身の安全は私の命に代えてでも約束します。高町なのはさん、どうか突入時に同伴して頂けないかしら。」






~あとがき~

就職活動始めました。
最近はどこも世知辛いですね。

たぶんあと2、3回で最終話に逝きます。


続きます。



[15623] 七ツ夜と魔法 第17話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:54
[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



そうだ、まだ終わらない。

その白き永遠を手にかけるまでが再演だ。

ならば冒してみせよう。

汚れを知らぬ乙女こそ壊すにふさわしい絶望だ。



 
 
~第17話「アリシア」~
 



世界はいつだって残酷だ。

大好きな家族を平然と奪い、送るべき未来を壊し、心を変えてしまう。

彼女の経歴を見ればその様子がまるで見て取れた。

愛娘を自らの実験の事故で失った母親。

成程、慟哭の音叉がこだましたことだろう。

涙が涸れ果てなおも嗚咽を漏らしただろう。

だけれど禁忌にその手を伸ばすことは例え悲劇を希望に変えようとする者でも許されない。

それは有史以前から変わらぬ倫理であり、禁断の果実だ。

だから僕はその果実から零れ落ち芽吹いた目の前の少女をどうすればいいのか、未だに答えを出せずにいた。

それは勿論管理局執務官としての行動指針としてではなく、クロノ・ハラオウン個人としての感情だ。

そんな中で彼女がよりどころとしている地に足を踏み得れた時、再び襲ったあの黒い感情が僕の目の前で歪に嗤うプレシア女史の姿をとらえることで平静を維持したことは正に僥倖だった。



「約束通りあなたの娘を連れてきた。七夜志貴を解放してもらおうか。」

「人ぎぎの悪いことを言うのね。私は彼を招待し客人としてもてなしていたの言うのに。――――ねぇ?フェイト。」

「………はい」

彼女は望んでいた筈の帰還だ。

なのに何故、そんなにおびえた表情なのか?

答えはFateと呼ばれた彼女ではなく、プレシアの今の発言から読むことができた。

だったら僕ら管理局はどのように動くことが正解なのか。

分からない。

そうだろう、僕らは法の守護者ではあるが個人の味方ではない。

一つの家庭を円満に解決することなんて行き過ぎた介入だし、そんなこともままならないのが世界だ。

法に縛られず、飄々としていて僕らの細かい一動をせせら笑うように入り込める奴じゃないとこんなことは不可能だ。

なあ、そうだろうヒーロー?

レイジングハートのドライブレコードに映っていたあんたならできるんだろう?

「あなたが………七夜志貴か?」

プレシアの前で俯き表情の読むことができない紺色の制服を着た僕よりも幾つか年上であろう青年に声をかける。

何だろうか、この形容し難い違和感は。

遠野志貴に出会った時の様な怖気はしない。

かといって、映像の中で視た七夜志貴の雰囲気とまるで合致しない。

宛ら幽鬼を相手取るかのような、底知れぬ不安感が一帯を支配しているかのような、とてつもなくいやな空気だ。

「ナナヤ……さん?」

金髪の少女、フェイトという少女も彼の雰囲気の違いに気が付いたのだろうか、母親に怯えながらも不思議そうにその顔を覗き込んでいる。

「高町なのは――――」

僕は視線をずらさず白い少女へと問いかけるが反応がまるで返ってこないところを見ると、どうやらフェイトと同じ状況だろう。


「―――――どうしたんだい?フェイトちゃん。俺はこの通りなんともないよ。ああ、体のことかい?それならプレシアさんのおかげですっかり元気さ。」

「……え?」

少女の疑問の声と同時に顔を挙げた彼の瞳を見て、僕は心臓が止まるかと思った。


―――――この瞳はニンゲンヲミテイナイ。


思わず後ずさる足を必死に引き留め、目の前の大魔導師に視線を向ける。


ああ、これは拙い。


―――恐怖―――


この空気はいけない。

この空間は既に彼女のフィールドだ。


そうだ、失念をしていた。

彼は遠野志貴を回収していた。

彼を中心として展開していた結界がこの城塞一帯を包み込んでいる。



結界が彼女のために動いている。

この空間で憎悪を、敵意を、畏怖を、要らぬ感情は排除しろ。


職務を遂行する執務官であれ。

ここが完全な"異界"になる前にどうにかするんだ。


「それじゃあ、七夜志貴さんをあなた達に引き渡すわ。そうそう。彼、私たち魔導師のことなんて何も知らない一般人だから、アフターフォローもお願いするわ。」

喉がカラカラと渇く。

瞳がぶれる。

S2Uを握る手にじっとりと汗が纏わりつき滑らぬように力んでしまう。

「今度はこちらの番だ。あなたの娘、フェイトでいいのか?約束通り引き渡そう。だけど、その前にジュエルシードを前に出すんだ。拒否をした場合、法に基づき強制執行させてもらう。」

ニヤニヤと嗤うプレシアの口元が更に釣り上り、そうやって話す今も七夜志貴が近づいてくる現実。

心臓の鼓動が加速し、今にも張り裂けそうだ。

「ああ、そんなこと気にする必要なんてなくってよ。」


途端、一帯から酸素が消えうせたような錯覚が襲う。



「なに、を………」


最早言いようのない圧倒的なプレッシャーが空間を支配する。


「材料はすべて揃ったわ。」


その声を聞いたのを最後に





目の前の世界は姿を変えた






――――――――――――――――――






固有結界


術者の心象風景を現実の世界に浸食させ塗り潰す、魔術の一つの到達点。

神、或いは世界と呼ばれるモノ、真祖のみが扱うことを許された創世の力"空想具現化"

それに最も近く、魔法に最も近い妖精の秘術。

科学技術により未来への道を築き上げてきたミッドチルダの魔道。

科学は魔法を貶める。

正に今、魔術の大禁術が凡術に成り果てた瞬間がそこにはあった。

プレシア・テスタロッサは"未だに理解しきれぬ法則をそのままに"必要な材料をすべてそろえたのだ。

空間の演算制御、世界からの修正を逃れるための時の庭園内部に限定した内因完結の事象。

術式展開維持のための、魔力炉としてのジュエルシード。

固有結界"タタリ"の発生源"シキ"

悪性情報の修正変換にデバイスの機能の7割を消費。

心象風景の固定媒体にアリシア・テスタロッサの亡骸



そして、"タタリ"の発生条件としての"吸血鬼"の用意。

固有結界内におけるアリシアの情報投影に最も適した固体、FATE。


世界は様相を一変し、情景が侵される。

大理石と魔道機械にあふれていた部屋は屋内から屋外へと切り替わり、太陽のない月明かりの下に一面の花が狂い咲く草原へと誘う。



管理局員の一同に動揺が奔る。

彼らの理解の外としか言いようのない超常現象。

空間転位などではない。


純然たる未知の神秘が彼らから正常な思考を奪う。




――――― 一体何が起こっている ――――



管制モニターを見ていたエイミィは突如として通信映像が途絶えた画面に混乱し、リンディもまた急いで現場に急行しようと転位装置を操作するが、指定座標が突如としてアンノウンに変わり跳ぶことができない。





そんな中高町なのははその世界において一人の少女を探し続けた。

フェイトと呼ばれた少女。

運命の名を冠する少女。

友達になりたかった少女。

フェイト・テスタロッサ


「フェイト…ちゃん…!―――フェイトちゃん!!」

全く状況についていけない、混乱の最中においても、なのはは一人の少女を探し続ける。

傍にはクロノ執務官や武装局員も控えているが、彼らも必死に状況の確認と、七夜志貴、フェイト、プレシアの姿を確認しようと周囲を見渡す。




「ああ、!!やっと―――――――やっとだわっ!アリシア!!」

プレシアの視線の先に映るのはたった一人の愛娘。

フェイトと呼ばれていた筈の少女。

黒いレオタードスーツにピンクのミニスカート、裏地が深紅の黒いマントのバリアジャケット。

紛れもなく彼女はフェイト・テスタロッサだった筈であった。

その瞳は不思議そうに辺りを見渡し


母である筈のその姿を捉えると首を傾げ


「……ママ?」

金髪の少女の一言に違和感がクロノに駆け巡る。

(様子がおかしい……いいや、違和感がある。さっきまでは"母さん"、そして今は"ママ"何なんだいったい?)


そんな周りのことなど構うことなく、プレシアはアリシア・テスタロッサとなった金髪の少女の下に駆けよりひときは強く抱きしめる。

ただその為だけにこの世界があるような、幻想的で、感動的で、運命的で、喜劇的で、物語的で、印象的なその情景はまるでプレシア女史の心を表しているかのような一幕であった。

「アリシア――――アリシア!!もう離さないわ。母さん、ずっとこうしたかった!また会いたかった!この日を待っていたの!」

「あなたがアリシアになる日を!!」

その言葉を聞いたクロノの脳裏に"ガチリ"と何かが噛み合わさる音が響いた。

途端に彼の顔から表情が喪失する。

執務官であるその身を彼の思考はこの瞬間に放棄された。





「何をした」



重く、暗く、目の前の高位魔導師問いかける



詰問する


「その娘に、いったい何をした!!!」

「五月蠅いわ、こ蝿が」

声を荒らげるクロノに対し、プレシアは抱きしめるアリシアの頭を撫でながら余裕の表情を崩さない。

まるでこの世界では自身が王か神にでもなったかのような傲岸不遜。


エイミィからの報告を聞いたとき、回答と推察は出来ていたはずだ。

なのに、何処か心の中で否定し、先送りにしてしまっていた。

笑顔が似合いそうな少女だと言うのがクロノから見た第一印象だった。

そう、丁度こんな花畑で母の温もりに頬を緩ませ、幸せそうにしている一枚絵になりそうな、そんな尊い幻想にぴったりだったはずだ。

なのに、母たる存在は



「その娘は"フェイト"・テスタロッサだ!」


彼女を弄んだのか


「そうね、五月蠅い蠅は――――――駆除しないといけないわ」

彼女が片手を振り上げると、一陣の旋風が草花を巻き上げ両者の間で視界を遮るように吹き荒れる。

目を細めながらなのはとクロノがその中に視たのは、学生服を着た青年。

青い瞳を輝かせ、手に握るのは抜き身の小太刀。

「七夜さん!?」

なのははその小太刀が兄の恭也のものであることを即座に見抜き、先日の吸血鬼と戦った後のやり取りで学ランのボタンが一つ足りなくなっているその姿から七夜志貴と判別できた。

その眼に精気はなく、まるで


 
「そうよ。」


 
『だってあなたは』




「遠野志貴(殺人鬼)なんですもの」


「どういう、こと……?」

高町なのはは言葉の意味を理解できず呆然と目の前の人物を見上げる。


「ククッ!アハハ!なにも知らないなんてお笑いものね。」

「それは七夜志貴だったモノ、あなたの前で七夜志貴(本物)を騙っていた偽者よ。」


「――――え?」

その疑問は二人の少女から漏れた疑問の声。

しかしプレシアにそんな音は届かない。

「あなたと過ごした七夜志貴は初めから偽物だったのよ。」

一同のざわめきが止まり、静寂を作りだす中で、狂気の言葉は止まらない。

「そうね、本物は偽りの名を騙る遠野志貴の方、七夜は彼の本名」

「滑稽だったわ。偽りの名を騙る本物は記憶を亡くし、本名を騙る偽者は本来の記憶を持っているなんて……そんなの両方ガラクタなのに、それぞれがお互いを本物と認めつつ自身を偽物と認識している。」

「そしてあなた達が先日見た遠野志貴は"偽りの七夜志貴"から生まれた"偽りの遠野志貴"。七夜志貴がいずれ遠野志貴になってしまうのではないかという恐怖の虚像。」

「最高だったわ。まさか虚像とはいえ死者の完全な人格再現までやってのける現象があったんだもの――――ねぇ?あなた達にもあるんじゃないかしら?もう会えない人との再会、再生、再演。至ったのよ!私はアルハザードに行かなくてもその最奥の秘術に――――」





「――――ああ、確かにこれは再演だ。甚だ不本意なシナリオだけどな。」




ゾブリッ



プレシアの胸に真赤な血が飛び散る。

その瞳孔は限界まで開かれながら目の前の現実を拒絶する。


「理論は完璧だっただろう。相反する技術を上手く繋げたそのセンスも称賛に値する。しかし順序を間違えたな、新米死徒。補完されるべき事象を残したままにするから下手を見る。そんなに目的を達したいなら、先に媒体の躯を手にかけておくべきだったんだ。俺の代役としてな…」


現れたのは無限転生者、アカシャの蛇、27祖の番外位、ミハイル・ロア・バルダムヨヲン


現実を理解する思考が無くなったかのようにプレシアの瞳はその焦点がブレ、ただ目の前の事実を否定することさえできずに、目の前でほほ笑む愛娘を抱きしめながら。



崩れゆく"アリシア・テスタロッサ"に絶叫した。


「□□□□□□□□□□□!!!!!」

「なんで!??なんで!!どうして!!!!!」

ぽっかりと空いた空白が自分の全てを壊していく。

無情にも傍らに立つ吸血鬼、ロアは一体何故現れたのか。

『再演』

タタリとして現れた彼らが何らかのルールに従って現界していることはプレシアも突き止めていた。

しかし、プレシアはそれを吸血鬼の情報がある場所に発生する死者の再現と、殺戮による吸血と判断してしまっていた。

その推察は本来であれば正しかった。

ワラキアの夜であれば正しかった。

しかし、今回のタタリの発生主体――――原因たる七夜志貴の召喚は"再演による"出現。

冥界の鳥、オシリスの砂による出演依頼により出向いた七夜志貴。

彼らの物語を再演をする為に現れたキャストだった。

ならば、それらが演じるのは新規脚本などではなく既存の筋書きを踏襲するリメイク。

違う世界から異物を送り込まれた為、その異物を認める為に代役を立ててまで記録を作り完結させる既成事実(プログラム)。

学校でのロアの推察が正しかった。

ここは隔離された空間。

この身は一度、真祖の姫のキャストに体を潰され、自身が体を再生させ致命傷の一撃を与える。



新米死徒は読みを間違えたのだ。


終わった筈の事柄が何なのか把握できていなかったのだ。

「あ、あああああああああああああああ!!!!」

「アリシアッ!!、アリシア!アリシアアリシアアリシアーーーー!!!」

泣き叫ぶプレシア・テスタロッサは瞳を閉じて動かない少女の亡骸を抱きしめ、揺さぶり、必死に名を呼ぶが、冥った少女は目を覚まさない。



その光景を呆然と見つめているしかなかったクロノは静かにデバイスを構え、目の前の吸血鬼に問いかける。

「お前らは――――いったい何なんだ!?」

「ああ?小僧がずいぶんと威勢のいい態度じゃないか。……ふん、そうだな。言うなれば再演だ。」

「再演?」

なのはも意味が解らず問いかける。

「こことは違う並行世界において、とある町で起こった記録をこっちの世界で再現してるのさ。」

「並行世界?次元世界じゃなくてか!?」

「そうとも、吸血鬼と殺人貴が関わった記録をこの世界に植え付け消えないようにする為、必要なキャストを揃えて演じさせているのさ。もっとも、吸血鬼なんてそうそう出て来られないもんは、俺みたいにタタリとして現界しちまったみたいだけどな。」

「――――っと、話は終わりだ。こっちもそろそろ決着をつけなくっちゃなあ?」

ロアが振り向いた先には七夜志貴、否、遠野志貴になってしまったモノが無言で小太刀を構え今にも彼に襲いかかる勢いである。

「はっ、ほっんと迷惑な奴らだぜ、志貴。こんな姿にまでなっても俺たちの縁は殺し切れねぇッツぅんだからよ?」


「………」


「なぁ、七夜……」


何処か悲しい眼で見つめる吸血鬼ロア。

どうして自分たちの生死はこんなにも狂い、もてあそばれているのかと。


ガラガラと音を立てながら辺りの情景が崩壊して行く。

元々無理矢理な形で繋ぎ止めていた固有結界だ。

プレシアの心の中で完全にアリシアの現実(リアル)が死んでしまった以上、幻想の世界は成り立たない。

彼女にとって、アリシアこそがすべてだったのだ。

最早彼女は全てを失ったと言っても過言ではない

色を失った世界は罅割れるように、ステンドグラスのように空間に闇と光を呼び戻す。

その光景は銀恢色のように、色あせた幻想と無慈悲な現実が入り混じった、プレシアそのものを表すように。

その中で


ロアとシキは激突する。

まるで二人がお互いを偲ぶような、鎮魂に向けての剣戟が鳴り響く。

ナイフと小太刀が打ち鳴らす葬送の鐘の音は誰が為か。

「いい加減にしやがれよ"七夜"」

「―――――……」

「テメーの声を今も待っている姫がいて、それでも置き去りに消えるなんてのはテメーの性じゃねぇだろう?」

「………」

打ち付ける金属音に力みが入る。

「いつか言ったよな。俺を■■■てくれってよ?」


「――――」

「ほうら、これであの夜の再演は大詰めだ。なら、―――――後は判るだろうがよ。」


横薙ぎに一閃したロアのナイフは空を切り、シキの体は地面すれすれまで体を屈め、

「そうだ!次はこれだぞ!!」

雷撃を脇から放ちバックステップをする。

シキにとってそれは"知っているモノ"だ。

無機質な瞳で閃光の中を一閃し闇の中へと切り進む。



「こっちにくるのはもう少し後にしろ、テメーは"永遠"を―――――――」


ロアの胸に突き刺さる小太刀。

二人はどんなに堕ちようとも親友だ。

まるでこの一瞬にその全てを伝えるかのように、その魂は毒々しい輝きのまま極彩と散っていく。



「俺ができるのはほんの少しだけだ、後は――――テメェで救われてろ。」

果して消えうせた虚像はロアだったのか、それとも違う誰かだったのか、それは確かめようもないことだった。


 
 
 
 
 
~あとがき~
 
 
詰め込み、かっとび、独自解釈も相まって意味不明。
色々抱えて最終話まであと1回くらい。
 
 
ここで再演の経過を確認

七夜、リリカル世界へ→再演開始

七夜、フェイト(キャスト・アルクエイド)に攻撃、認証:なのは

タタリ志貴、直死の魔眼で襲った事実を温泉で補完(ジュエルシード拾得)

七夜、タタリネロと戦闘、共同戦闘、フェイト(アルクエイド)認証:なのは

タタリ志貴、直死の魔眼でネロを殺す事実を補完、認証:無し(ジュエルシード2個目を取得、事実を強制認証)

タタリロア、学校に城を作る、認証:高町士郎、恭也

フェイト(アルクエイド)、ロアと戦闘、ロアを撃破?認証:高町士郎、恭也

ロア、アリシア(更に代役のアルクエイド)の命を奪う、認証なのは、他(空想具現化の代用として固有結界が発動したことを加えて事実を補強)

シキ、ロア?を殺す←New!
 
 
 
続きます。




[15623] 七ツ夜と魔法 第18話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/05/24 20:52

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



人の一生は無価値である。

ただ何もせずとも世界は廻り

何をしようとも世界はその歯車を止めない。

そこに価値がるのではない。

そこに価値を見出しているのだ。

ならば全て事象を達成した瞬間、そこに何があるのか?

何もない。

輝いた瞬間も、成し遂げた瞬間も、幸せも、不幸も、

終わってしまえばそれまでだ。

しかし、その一瞬を世界が尊ぶのなら。

それは一つの物語(完結)ではないのだろうか。

世界は終わり、次の世界が産声を待つ。

そこに価値はなくとも――――



第18話「melty blood」


目を開いた先は月夜に輝く花畑。

そんな中に一人で佇む私の前に誰かが問いかける。

「ねぇ、あなたの名前は?」

「なまえ…あれ?」

何だっけ?


「フェイト・テスタロッサ」

思考する頭とは違い無意識のように、呼吸をするように自身の名前を吐きだす喉。

じゃない

今のは私からじゃない発音。

ゆっくりと目を開けて視界にとらえた先には、私よりも一回り小さい私の姿があった。

「フェイト、あなたの名前だよ。」

私と同じ髪の色をして私と同じ声をして、私とは違う瞳の色をした少女。

「あなたは…だれ?」

「私は――――そうね、フェイト。フェイト・テスタロッサかな?」

違う、それは私の名前だ。

「そう、じゃあなたの名前は本当にフェイト?」

「………それは……」

分からない。記憶がはっきりとしない。

「なら、あなたはアリシア。アリシア・テスタロッサ」

だったら、あなたの本当の名前は?

「どうだろう?フェイトかもしれないし、アリシアかもしれないよ。」

それじゃあまた私と同じになってしまう。

アリシアなのか、フェイトなのか。

「どっちだっていいじゃない。」

良くない。だってこの名前は母さんがつけてくれた大切な名前だから。

「私も母さんにつけてもらった大切な名前だよ。」

そうなのだろうか、これじゃあまるで同姓同名か、本物と偽者の関係だ。

「そうだね、ところであなたは本物?それとも偽物?」

私は本物だ。

そこに私の意思があり、そこに私の歩んだ軌跡がある限り、私は私。

「この世に偽物なんてないよ。」

「そうかな?こんなにも世界は偽物なのに。」

「例えにせられたモノであっても、そこから歩んだ軌跡はそのニセモノだけの真実だもの。本物はその時間、その時の気持ち、その時の世界を見ていないもの。」

「ふうん、つまりあなたは偽物は須く唯一の存在だと言いたいの?」

だってそう。

あの時の母さんの表情も、意思も、全て私に向けられた者であって本物には向けられなかったモノ。だったら、それは間違いなく私という個が本物とは違うと言うことを証明している、偽物という名のオリジナルだもの。

「うん、正解!ご褒美に魔法の言葉と、奇跡をあげるね。」

ありがとう、フェイト―――――いいや、



「ありがとう、アリシア(私)」





――――――――――――――――






「ママ?」


再び目を開けた先にいたのは大好きな母さん。



「ああ、アリシア!もう離さない、絶対に離さない。私だけのアリシア!」


だけのそのぬくもりは私じゃない私に向けた言葉。

ああ、そうか。

母さんはずっとアリシアを求めていたんだ。

あの日の笑顔も、優しさも、この瞬間のための劇だったんだ。

それでも何故か、ちっとも心は変わらない。

私は母さんが大好きだ。

其れは現れたナナヤさんの真実を聞いても同じこと。

ナナヤさんもタタリだった。

偽物だった。

だけど、そんなことは関係ない。

アリシアの偽物として作られた私の、これまでの日々は"確かにフェイト・テスタロッサ"だけのものだったんだから。

だから、自分の胸を貫かれて崩れ落ちる瞬間

『奇跡をあげる』

その言葉がどこからともなく聞こえて、全てはゼロ(元)の世界へと終息する。

崩れた世界に戻った私は生きていた。

喜びの声と共にだきつい来たのは栗色の髪の白い少女。

涙を浮かべて私の名前を呼ぶ。

「フェイトちゃん!」

と、涙を浮かべて歓喜の声をあげる。


温かなぬくもりは、同時に私が存在しているという認識に繋がる。





ああ、私はフェイト・テスタロッサだ。




――――――――――――――



「あ、あああぁ――――――」


元に戻った世界でプレシアは絶望を見る。


肉体にダメージのない、元に戻ったアリシア。



肉体情報がフェイト(ガラクタ)に戻ってしまった事実。

ガチガチと派が小刻みに震えぶつかり合う。


ガラクタが元に戻ったということは



「まさか!!!?」


管理局員など、周りの人間など目もくれず、魔力の閃光をとある一角の壁に打ち付け壊す。

そこから見えるのは


培養液のケースに真赤な血をあふれさせ漂う、

胸に大きな風穴がぽっかりと空いた、


「あ、ああああああああああああああああああ!!!!!」

少女は二度と目を覚まさない。

アリシアは二度と蘇えらない。


そんな現実がプレシアの胸に刻まれてしまった。


出来ない、
     もうどんなに
  どれ程自分の世界を映そうとも
  
 "アリシアはそこにいない"


あの花畑も、あの夜空も、皆アリシアとの再会を夢見た幻想だったのだ。


それが、アリシアの、あのぽっかりと開いてしまった穴が、全てを否定する。


「なんで!!なんで、なんで!?なんでっ!!!!」



慟哭は無情にも木霊し返ってくる返事はない。

ああ、これで本当に独りぼっちだ。

プレシア・テスタロッサには求める者が無くなってしまった。

「母さん………」

ふと、その瞳がガラクタを映す。



ヤメロ



「失せなさい」


その姿を見せないで。


「母さん。」


キエロ


お前はアリシアにすらならなかったガラクタだ。

「失せろ―――」


そうでなくてもあれだけの大規模術式を起動させたんだ、もう"持たない"


「母さん、私――――」


ああ、この手がまだあの子だった時の温もりを覚えていて手をあげられないのなら


「―――――シキに命じるわ。ガラクタを……殺しなさい。」




「………」

小太刀を持った七夜志貴が、ゆらりとフェイトの方へ向き直る。


「七夜、さん」


フェイトの隣で見守るなのはも不安を隠せない。

彼は本当に――――

「……やれやれ、別れの言葉くらいなら言えるかな?」


「なっ!?」

青い瞳を輝かせながら煮え切らない表情を浮かべるシキのそれは、先ほどまでの無機質なトオノシキでなく七夜志貴だった。

「時間はない。だから、一言だけ―――――」





『俺はお姫様に笑顔でいてほしいんだ』


その表情は遠野志貴では見せることができない。七夜志貴だからこそ、たどり着くことができた笑顔。

そっと優しくフェイトの髪を撫でて、満足したように頷いているのは、これから先の彼女に幸あれと言わんばかりの、彼が視た尊き幻想。



「そう、……あなた達は、いいえ、世界は!どんなことがあろうとも私の邪魔をするというのね!!!」

ギラギラと赤く光る怒りの瞳は七夜に向かってデバイスを構え、左手には虚空に浮かぶ魔道パネルを操作する。


「あなた(七夜志貴)なんて要らない!アリシアが死んであなたが生き返っていい道理なんてどこにもないの!」

だから


「来なさい遠野志貴!そして消えなさい!七夜志貴!」


フェイトを庇うように仁王立ちし落雷を受ける七夜志貴。


同時に姿を現す七ツ夜を握った遠野志貴。


七夜は落雷の衝撃か、もうもうと立ち込める砂埃の中で何事もなかったかのように立ち尽くしながら、しかし、明らかに失われたと判る無表情。


「ナナヤ…さん?」



彼の口が開くのがコワイ



あの数時間の共にいた時間が懐かしく感じる。

生まれて初めて男の人と接した、肌に触れた。

抱きあげられた。

頬に触れられた。

護られた。

大切にしてくれた。


その全てが再演だったなんて思えない。

その全てが、ナナヤさんの意思に反していたなんて思いたくない。

私も、ナナヤさんも、今ここに生きるのは紛れもない本物だ。


彼は―――――――

 
 

 

 

~あとがき~

最終話入ります。

もう力つきて…



[15623] 七ツ夜と魔法 最終話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/05/24 20:53

[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]



誰かを守れるってことは、それだけで誇るべき人生だ。


何かを成し遂げることは、それだけで幸福な生涯だ。


あぁ。それなら、ここに居た意味はあったんだ。


例えそれが、ごくごく短命な定めであっても。


この世界が、とても綺麗だと知ったから。




~最終話「涙の誓い」~





「遠野志貴だよ」



その視界はツギハギだらけであり、今も彼は死界の中に佇んでいる。



「アハッ―――――アハハハハァ!!!」


プレシアは成功だといわんばかりの狂気の笑い声をあげる。

フェイトの足が自身を支え切れなくなり、心と共にその場に崩れ落ちる。

両手は口元に当て、必死に嗚咽をこれ得ようとするが、涙とともに溢れ出てしまう。

心を失ったかのような瞳から溢れだすのは大粒の水玉。

『俺はお姫様に笑顔でいてほしいんだ』



(その一言が最後の言葉……?うそ、嘘だよ!)

「さあ、二人の志貴に命じるわ…フェイト・テスタロッサ(ガラクタ)を殺し(壊し)なさい!!」

二人の学生服がフェイトを挿むように反対側の位置に、まるで鏡にうつしたかのようにきっかり5メートルの位置にいる。

一人の志貴はナイフを振り上げ、もう一人の志貴は小太刀を振り上げフェイトを真直ぐに見据える。

その表情は俯いていて確認することができない。


小太刀を構え、大きく跳躍する彼の技巧は神すら墜す 閃鞘・迷獄沙門

「コロス……」



七ツ夜を構えるは、彼の一族が最秘奥

「極死――――」


「――――けて、……」

消え入りそうな声で、そして最後にはっきりとフェイトは叫んだ


「誰か、七夜さんを助けて!!」

そう、フェイトは死の間際にしても叫んだ願いは七夜の救済だった。

漸く気がついた大事な自分、大事な他人。

その全てにおいて始まりをくれた七夜志貴をフェイトが望んだのは運命だったのかもしれない。



「七夜」


その声はナイフを持っていた志貴からしか上がらなかった。

しかし確認は出来ない。       まったく同じ姿の青年が目にもとまらぬ速さで宙を交錯したのだ。どちらがどちらなど、分かるはずもない。


気がつけば一人の学生服の胸には刺し傷があり、首から上はねじ切られ頭部が根こそぎ無くなっているからだ。


そして、頭部が無くなった学生服の傍には小太刀があり、それはつまり――――

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

遠野志貴に変えられてしまった七夜志貴が無残にも首があった場所から血のシャワーを噴き上げ倒れている。



遠野志貴が七夜志貴を殺した、遠野志貴は七夜志貴からまた奪った。


いや、自分は彼を恨むことができるのだろうか?

自分だって、アリシアの居場所を奪ってしまっているのに。





叫び声を天に向かって放ちながら、半ば錯乱状態のフェイトは誰に攻撃するわけでもなく、誰を恨むわけでなく出鱈目に辺り一面に魔法陣を展開し周囲を閃光で埋め尽くす。


しかし聞こえてきた声は


「大丈夫だよ、お姫様。」


そっとフェイトを抱きしめる温かなぬくもり。



世界がはじめてフェイトの願いを聞き入れた瞬間だった。

その声は蒼い瞳の少年

それはフェイトがいつのまにか心寄せる存在としていた、七夜志貴が見せる余裕の表情。

それに驚いたのはプレシア・テスタロッサだった。

「ありえないわ!何故なの!?何でアリシアは生き返らないであなたなんかが生き返るのよぉ!!!」

呪詛のように切り出される言葉に対して、七夜は歪な笑顔で答える。

「俺も詳しくは知らないが……ほら、同じ人間が2人いるってのは矛盾しているだろ。小太刀を持った七夜志貴が意識と記憶を弄くられて遠野志貴になったっていうのなら、"殺人衝動"に"使われない行動原理"を持って動くタタリの志貴ってのはまさに俺じゃないか。」

世界の修正を甘く見すぎたな。と七夜は笑う。



「さて、吸血鬼プレシア。改めて自己紹介と行こうか?」


七夜志貴は極上にして狂喜の笑みを浮かべながらプレシアに向かって歩き出す。

「く……こ、来ないで!!」

溜まらずプレシアは雷を七夜に向かって打ち出すが

「ハハッ!」

七夜がナイフを一振りすると魔法の構成が壊れ消滅する。

「この世の魔や鬼から人々を守る退魔四家。混血暗殺を生業とする七夜が最後の一人。持つのは見えざるモノを視る眼、浄眼。そして―――――死を理解することで変化した、"直死の魔眼"」

「そして、この体はタタリの遠野志貴だったわけだが……呼び出したのはあんただよな?プレシア。」

そう、この身は殺人鬼。なぜなら

「俺は、俺を呼ぶ者を殺す存在なんだぜ?シキも言ってたみたいだけど―――失敗したな。あんたはこの計画を成功させたければ、タタリを呼び寄せるんじゃなく自分から出向くべきだった。あんたは最初の一歩を間違えたんだよ。」

ガチガチとプレシアの歯がなる。死徒となったのに、人間を超えた筈なのに、恐怖が止まらない。

「今の俺は気分がいい。志貴も殺せたし、何より七ツ夜が手元にあるんだからな。ああ、その点については感謝するよ。」

両手を広げながら迫りくる七夜。

とうとうプレシアは恐怖の限界を覚え

「うぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

残り少ない魔力をフル稼働して再び固有結界を展開させる。

モウダレモイナイ楽園ニ、ニゲコモウトスル。

その凶行にクロノが叫ぶ
「止めるんだ!!そんな幻想に逃げたって、アリシア・テスタロッサは帰ってこない!!」

「黙りなさい!!ここが私とアリシアだけの世界なの!他の人なんて、他のものなんて何も要らない、ここが私だけの世界なのよ!!」

最早そこに愛娘の姿はないのに、居ない幻想に無理矢理手を伸ばそうと、必死に虚空へ崩れゆく腕を掲げる。




しかし、七夜志貴はプレシアには目もくれない。

「――――お前がどんな魔法を使おうが関係ない。」

ドクンとプレシアは得体の知れない悪寒が全身を駆け巡るのを感じた。




「俺が殺すのは、この世界(固有結界)そのものだ。」





七夜はナイフを地面に突き立てると、周りの景色がガラスが砕けるようにガラガラと音を立てて崩れだし、再び時の庭園へと戻される。

「なんで……何で皆、私からアリシアを奪っていくの!!?アリシアが――――私が何をしたっていうの?私の願いは間違ってない!!あの子を取り戻すために人間まで辞めて、世界を創る術まで手に入れたのに!何でみんな、皆(世界)は邪魔するのよぉ!!」

もはや抵抗する力もなく、ボロボロと大粒の血涙を流し、座り込んでもなお叫び続けるプレシア・テスタロッサの言葉に、クロノは思わず顔を背ける。

世界はいつも残酷な答えしか出さない。確かにそうだろう。こんな筈じゃあなかった、なんてことは自分も母も痛いほど知っている。

もしも今回のタタリという事件が父の死後すぐに発生し発覚していれば、自分も或いは幻想の誘惑に沈んでいたかもしれない。

それでも尚、七夜志貴はプレシアを壊すには十分な絶望だ。

志貴――――管理局でもSランク以上の魔導師を総動員しなければ倒すことすらできない吸血鬼を殺してきた異端中の異端。

経歴も出鱈目じみたものであり、非業と災厄の果てに得た異常の極みともいえる存在は、一人の世界すら易々と殺してしまった。


「さて、後はあんたを解体して終わりだ。」

そう言いながら七夜はプレシアに近づく。

とっさにクロノが前に飛び出そうとするが。


「え………ふ、フェイ、ト?」

プレシアのの前でナイフを構えた七夜の腰に、フェイトがしがみついていた。

「七夜さん、……!!お願い、母さんを殺さないで!!」

その必死に懇願する姿にプレシアは困惑していた。

(何でこのガラクタは私を助けるの?―――カアサン?違うわ。私はアリシアの母さんだもの。あんなガラクタの母じゃない。なのに母でもないのに、何であの子は私を庇ってくれているのだろうか。―――――私が母さんだから?)

もしかしたら――――彼女は私が作り出したモノじゃなくて、私の娘だったのかもしれない。例えアリシアじゃなくても、違った形の、もう一人の(並行世界)娘だったのかもしれない。

と、プレシアは気が付いてしまった。

たとえ自分が腹を痛めて生んだ子供でなくても、たとえアリシアのまがい物(ガラクタ)でも、あの娘にとっての親は自分しかいないということに――――

だが後悔しても全て遅すぎた。有り余る未練を残しても今更この命はつなぎとめることができない。

だってこの身は吸血鬼。

本体だった志貴が死んだ為か、駆動式の制限時間の為か、既に体が透けて消滅を始めてはいるが、彼は退魔。

生き残る道理などあり得ない。



しかし、更に異変が起きたのは次の瞬間だった。

「っぁ、―――――めろ―――――」

七夜の表情がとたんに青ざめ、カタカタと全身を震えさせる。

「何……で―――――何で!!俺は――――違う、俺は鬼なんかじゃっ……俺は―――」

七夜志貴が錯乱状態に陥る。

以前、なのはがアルフを庇った時にも起こった七夜のトラウマであり、フラッシュバックする記憶。

自分を庇い死んだ母と殺した鬼を今の状況に重ねてしまう。

軋間紅摩を殺しても、遠野槇久が死んでも消して拭えない情景。

タタリが悪性を強要するように迫り、それを必死に拒むように苦しむ。

悲しい記憶が七夜にとって最後の足枷となり、彼はその場で膝をついてしまう。

ガタガタと止まらない震えの中で、七夜を包みこむように、プレシアから離れたフェイトが抱きしめていた。


「ありがとう、七夜さん。ありがとう。もう大丈夫だから。七夜さんは、もう誰も殺さなくていいんだよ。
 
 七夜さんは優しい笑顔のままでいいんだよ。」



嗚咽を漏らしながら七夜もまたフェイトを抱きしめる。

その姿はまるでフェイトと変わらない9歳程の少年の様で、抱きしめるフェイトの肩に涙をこぼす。

そう、七夜志貴はその人格(生涯)を9歳で閉じてしまっていたのだ。

どんなに架空の時を過ごそうと、いくらもしもの人生を経過しようと、かれはまだ、殺人鬼・七夜志貴ですらなかったのだ。



そもそも彼は殺人を犯すことなど出来なかったのだ。


「ちがう、………俺はっ、…殺人鬼なんだっ…、……誰かを、救う……なんて、出来やしない!……お姫さ……フェイトを、救うこともできない。殺すことしか出来ない、只の鬼なんだ……!!」

「ううん、七夜さんはちゃんと守ってくれたよ。ちゃんと救ってくれたよ。ほら、私も母さんも、他の皆だってちゃんと生きてる。それに、七夜さんは殺人鬼なんかじゃないよ。だって七夜さんは、今まで"誰も殺して無い"もの。」

その言葉により七夜志貴の心は開放された。救われた。

タタリの遠野志貴の肉体に摂り込まれたジュエルシードは既になく、胴体まで透け始めた身では夜明けと共に七夜は消えてしまうだろう。

すでに本人から見ても体は透けていて、手足の感覚も気薄無状態。

それでも彼の心は満たされていた。自分を想ってくれる人の、フェイト・テスタロッサの温もりを知ることができたから。

義理も、未練も、誇りも、過去も、願いも――――ここに七夜志貴の清算が終わった。



最後の意識が途切れる前に、唇に温かな感触を感じた。















~ED~









時空管理局の特別医療施設にフェイトは来ていた。

名前の通り、ここでは身体に特別な事情を持つ患者が入院している。

受付で面会手続きをとり、タンタンッと軽い足取りで階段を上っていく。

今日の服装は肩口や首回り付近にフリルのついた黒いシャツに、これまたフリルのついたピンクのショートスカートだ。

下は白いニ―ハイソックスに黒いヒールシューズ。

髪はナノハと交換した白いリボンでツインテールにし、手にはバスケットを持っている。


F-310号室

SHIKI.NANAYAと書かれたプレートが掲げられた部屋


「七夜さん…今日は起きてるかな?」

高鳴る胸を何とか抑えて扉の前で深呼吸、


うん、大丈夫。今日は失敗しない。

先日来た時は、扉の部分にある床の溝につまずいて醜態をさらしちゃったんだ。同じ轍は踏みたくない。人間は―――――そう、人間は成長する者なんだ。

軽く三度のノックをするけど、いつもの通り返事は無い。

いつも返事がないというのは、相手を堪らなく不安にさせるということを七夜さんはどうやら理解していないようだ。

暗殺者の家柄だったから、相手に気配を悟らせない習慣が身についているのかな?

そんな事を考えながら私は扉を開けると、患者服を着てベッドの中で安らかに眠る青年、七夜さんがいる。





七夜さんはあの日―――――私と契約した。



タタリが終わりを告げる時間、消え入りそうなその存在と私は口づけを交わした。

その瞬間、希薄で透けていた七夜さんの体に色が戻り、私の体から魔力が抜けて行くのを感じた。

元々私たちの世界と七夜さんがいた世界の魔法は形態が違うらしく母さんでも完全に理論を証明することは出来ないらしい。

因みに母さんはあの後ミッドチルダの裁判所で懲役8年の判決を受けた。

表向きの罪状はロストロギアの不正所持、及び蒐集・使い魔への傷害・管理局公務執行妨害・児童虐待・危険魔法使用だそうだ。

クロノの話によると聖王協会が異端審問に架けようとしたみたいだけど、管理局が母さんの技術力欲しさに対抗して何とか普通裁判のみの…しかもあれだけの事件で10年以下の判決を勝ち取ったらしい。

とはいっても、母さんは吸血鬼になってしまったわけで太陽の下に出ることは出来ず、吸血をさせない為に血液センターから月に1回輸血パックを送ってもらうことで何とかやっているらしい。

そして週に1回私は母さんの所に足を運んでいる。

あれから、母さんは私の顔を見ると喜んでくれるようになった。

優しい笑顔で、たわいもない雑談に華を咲かせる面会となっている。


本当に……本当に七夜さんのおかげだ。

私のことを救ってくれた大切な人。

だから、目覚めたときに一番最初に私のことを見てほしい。





とっても幸せな、今の私のことを。









~あとがき~

結局七ツ夜を手にしたのは最後の最後にしました。
そして、七夜のチートは直死の魔眼にあらずと思い、魔眼覚醒も最後の一瞬だけにしました。
物足りないとは思うでしょうが、それ以上やると無双になってしまうので、あくまで七夜志貴の人生はこれから始まる、のようにさせてもらいました。
今回の七夜の生き方は、遠野志貴を強く参考にしています。
大切な人を守るために、他の人間はある程度の不幸を背負ってしまうような。

√でタイトル考えるならFate√-Never Princess-(トゥルーEND)ってところでしょうか。

雑な締めとは承知していますが、一先ずこれで終了とさせていただきます。

ともあれ、ここまで長らくお付き合い頂きありがとうございました。

そして最後へ続くAnother-after(略してA's)(やらない予告企画)と、END後になるFin-epilogue future-を近々あげるのでお楽しみください。




[15623] 七ツ夜と魔法 Another-after(As)
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2014/08/14 23:20
※没企画だが、別に投稿してしまっても構わないのだろう?
 そんなやらないA's編の触りだけのものです。



[七ツ夜と魔法 Another-after]


 
 
~extra stage「終焉を防ぐ者」~
 
 



 
空に浮かぶ闇の書という絶望を前に、誰もが諦めまいとする。
 
 





 
 
     I am the bone of my sword.
 ―――――― 体は剣で出来ている。
 
 




 
 
けれども、世界はいつだって残酷だ。
 
 





 
 
Steel is my body, and fire is my blood.
 血潮は鉄で 心は硝子。
 
 




 
 
聞こえてきたのは終焉を告げる声。
 
 




 
 
 I have created over a thousand blades.
 幾たびの戦場を越えて不敗。
 
 



 
 
この世界は違う理を認識し、胎動した魔術基盤、根源への道が並行世界へと繋がる。
 
 



 
 
  Unknown to Death.
 ただの一度も敗走はなく、
 
 





 
 
現れたのは、抑止の守護者。
 
 





 
 
  Nor known to Life.
 ただの一度も理解されない。
 
 




 
 
だけど、正義の味方(そいつ)は僕たちを救わない。
 
 




 
 
Have withstood pain to create many weapons.
 彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
 
 





 
 
ああ、そいつの在り方に僕は憧れ――――――――同時に嫌悪したさ。
 
 




 
 
Yet, those hands will never hold anything.
 故に、生涯に意味はなく。
 
 






 
 
だからこそ、目の前の赤い……無限の剣が突き刺さる荒野の世界に、たった一人で立ち向かう七夜志貴(殺人鬼)の姿が――――――
 
 






 
 
So as I pray, unlimited blade works.
 その体は、きっと剣で出来ていた。
 
 


 
―――――とても、人間らしかったんだ。



[15623] 七ツ夜と魔法 Fin-epilogue future-【完結】
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:55

これは――――遠い遠い、未来の可能性の一幕



[七ツ夜と魔法 Fin-epilogue future-]



~epilogue「君よやさしい風になれ」~




それからの僕たちは、そうだね。

色々後始末に追われたというのが実際のところだ。

あの後に時の庭園を捜索したところ、フェイト・テスタロッサの使い魔であるアルフが血まみれの状態で磔にされていた。

どうやら、彼女はフェイトの知らない間にプレシアによって拘束され血の補給の餌にされていたらしい。

保護する前にプレシアから直接的な吸血でなく流れ出た血を集めて飲んでいたことを聞き、吸血鬼化していないことを聞き、慎重に確認をしながら拘束を外して救急搬送をした。

衰弱が激しかったが、適切な処置が間に合った為、事なきを得ることができ、フェイトも涙を流して喜んでいた。

今回の件をややこしくした残るジュエルシードについては、封印する為に特別捜索隊を編成し、3週間ほどかけて全ての回収を終わらせたけど、何処か僕の胸の奥は消化不良の様な胸やけ気分だった。

ミッドチルダでの保護観察が決定したフェイト・テスタロッサと別れを行った後、彼女は家族にこの一件をかあ――艦長と話に行ったそうだ。

高町なのは……偽りの再演の目撃者(記録者)である彼女はレイジングハートを胸に日常へ舞い戻ったよ。

無事に…とは言えなかった。

少なからず、なんてレベルじゃない程に彼女の感じる世界は広がり価値観や人生をがらりと変えてしまったんだから、それで変わらないほど鈍感な彼女じゃない。

高町家族は一同目を丸くして驚いていたり、男性陣は少なからず今回の件に絡んでいたのか疑問が氷解したような様子でいたという。

まあ、その説明だって、僕らもプレシア・テスタロッサから教えられなければ解りもしなかったし、理解するのにも大分かかったんだ。

むしろ、その程度で理解が得られたことに、こっちが驚くところだ。

現象となり果てた吸血鬼による、とある町の出来事の劣化再演(ワラキアの夜)。

七夜志貴―――いや、"遠野志貴と吸血鬼の物語"

高町家の一同はそれこそ僕らのときと同じように、信じ難いことを聞いた風だったそうだ。

七夜志貴の正体

海鳴市でワラキアの夜が起こる前に、別の場所で遠野志貴の写し影として呼び出された"タタリ"。

体が精巧な義肢ならぬ義体であったことから、プレシア女史は何者かが彼に七夜志貴としての体を与えて、一個の存在として確立させたと推察している。

七夜志貴という名前は僕らが目撃した、タタリの遠野志貴のオリジナルが"記憶を改竄される前の"本当の名前だそうだ。

フェイト・テスタロッサからの証言を組み合わせて導き出したことだから、大方合っているだろう。

本名を騙る偽りの存在は、本当の記憶を持ち

偽名を信じる本物の存在は、偽りの記憶を持つ

なんてちぐはぐな二人だ。

そして、偽名を騙るタタリの存在は―――。


これ以上は栓無きことだろう。

どうあれ、アースラメンバーは今回のワラキアの夜に関しては全くのイレギュラーとして割り込んだようなものなのだ。

それはまた、逆も然り。

世界にはまだ、僕ら管理局の知らない理が潜み周っている。

僕らが胸に刻みつけるべき教訓はそんなところだろう。






――――――――――――――





「リンディ提督、この報告書は何だ?まるで報告の様相を呈していないではないか。」

「弁解の余地もありません。ですが、一言だけ申し上げたいことがあるとすれば、それは"何もなかった"ということを表します。」

「ほう、アースらのドライブレコードが数日間にわたっての記録を消失しているのも"何もなかった"のうちに入ると言うのかね?」

「はい」

ドン、と怒りお露わにした拳が机をこれでもかという勢いで殴りつける。

「詳細な事実の提示がなされないのであれば、法に則り君を処分しなければならない。」

「覚悟の上です。この事件における人死者は0名、保護観察者の使い魔1体の負傷、並びに昏睡状態の使い魔が1体。以上が被害規模となっています。」

「私の方に寄越した資料で、保護観察者のみならず、加害者、被害者、関係者一同の個人情報がえらく雑なのは今回の事件と関わりがあると見ていいのだね?」

「本件の略式裁判、及び刑務処理は特別会において上認が確定されております。」

「アースらからの護送中に判決を出すとはえらく急いだ物だな。法務審議会から判決の見直しが迫られるぞ。」

「本件は聖王教会からも同様にSSの情報制限が出ています。これ以上は申し上げることができません。」







―――――――――――――――



 
 
 
――――遠い遠い、未来の可能性の一幕

 
 
 


曰く管理局には死神がいる。
 

そんな噂が実しやかにささやかれて半年が経つ。

「ね、ねぇティア。」

「五月蠅いわよ、こんな時くらい落ちつきなさい。」

「でっ…でも、さぁ……」

スバル・ナカジマとティアナ・ランスターは機動六課の入隊式において困惑で落ちつかず、声をひそめて会話をし、同じ疑問を持っていた。

隊長、副隊長。サポートスタッフのメンバー紹介。

式の一通りの流れは終盤に差し掛かり、課長の八神はやてが簡単な演説で締めに入っている中でどうしても気になることがある。

六課ロビーの一角で行われている式の隊長陣がずらりと並んでいる、その後ろにあるソファーにて、白猫を隣に置いて寝転がり爆睡している人物は一体誰なのか。

「――――以上でウチからの言葉は終いになるやけど……なんや?みんな不思議そうな顔して?」

「え、え~と……一つだけ質問してもいいですか?」

堪え切れなくなったスバルはおずおずと手を上げる。

ティアナも一瞬は止めようと思ったが、どうにも消化不良気味なこの気分は早々に解消しておきたいと思い八神課長の方を向くことで同意の気持ちを示す。

ティアナの心中は正に不安でいっぱいである。

脳筋だが伸び代が無限大な相棒。

若年の天才的チビッ子2名。

魔道士ランクが全員AA以上のエース級な隊長・副隊長陣。


部隊長のハヤテや高町教導官、彼女の目標とする執務官のフェイトなどは、それぞれが分野でSSランクの認定を受けているほどだ。

管理局の三大美災。

空を墜す『白い悪魔』

月を殺す『黒い死神』

神を潰す『歩く兵器』

そう言えば管理局には更に切り札とされる『死神』がいるとか何とか…

ともあれ、今この場にいる中で自分ひとりだけが凡才で普通だ。場違いにも程がある。

そう思わずにはいられない中で紹介のされない、式の最中に爆睡している青年だ。何か彼も特別なナニカを持ってあんな自由が許されているのではないかと不安に駆られるのは寧ろ当然の流れだった・

「あの、隊長たちの後ろで…その、ソファーで寝てる人は一体どのようなぁ………」

精一杯の取り繕った表情でスバルが指さす方向をハヤテは振り向くと「ああ、忘れとった。」と、今更な態度をとり、苦笑いしながらポリポリと頭をかく。

「ああ、七夜さん。そんな恰好で寝てたら風邪ひくから…!!」

そんな最中、青年の様子に気が付いたフェイトが、何処から持ってきたのかタオルケットをナナヤさんとやらに掛ける。



「つまりアレや。彼――――七夜志貴さんはフェイト執務官の旦那や。」

「ええぇ!!?フェイト執務官て結婚してたんですか!???」

「うそ!?……」

「ぼ、僕も知りませんでした…!?」

「わたしも……!」

どうやらフェイト執務官が保護者を務めている隣のチビッ子達も事情を知らなかったようで、未だに話しはつかめて来ない。

「あはは、ハヤテちゃん違うよ、"まだ"彼氏さんだよ。ね?」

「―――うをっは!!?なのはちゃんストップや!目がっ、目が笑ろうてへん!!?あかん、レイジングハート起動させんといて!?」

「んふふっ、七夜さん。七夜さん♪」

何やら偉大なる機動六課の三大乙女はそれぞれコントとデレモードに入っている。

「心配すんな。なのはの嫉妬はいつものことだし、フェイトのデレっぷりも慣れれば……ウザいけど、仕事はするから。」

ヴィータがフォローになっていない助けの泥船を沈めている。

「あの少年はナナヤ シキ君、フェイト執務官の恋人で、恩人で、使い魔なの。」

「恋人で……恩人で…」

「使い魔?ですか……」

シャマルの説明が入るがますます混乱する。

エリオとキャロは共に呆けたような声と共に頭の中で反復させる。

「そして普段は夜勤専属の警備アルバイトをしているのがあの少年だ。」

シグナムがそう締めくくると最早スバルは目をまわし、口から煙を吹き出しそうな勢いだ。

「えーと、つまり六課の正式メンバーじゃなくて夜勤のアルバイトだから日中は寝ているってことですか?」

「そうね、といっても彼が働く日なんてめったにないんだけどね。」

シャマルが苦笑交じりでそう答えると、ティアナはむっと、睨むような表情になる。

「それで堂々と入隊式にい眠りですか?何だか意識が低いような気がしますけど……」

「仕方がねーんだよ。アイツがいないと、いざって時に戦り辛いし、何より"あの能力"はウチらの奥の手だしな。」
 
 
 
 
「――――ふぁっ……ああ、お姫様か。今日も一日よろしくな。」

「うんっ!七夜さん!」

ヴィータ副隊長が最後に漏らした能力というのが何なのか気になる所であったが、


あんなに幸せそうな二人を見ていたら何だかどうでもよくなってきてしまいそうな、

そんな入隊式の後に目覚め、微笑ましい一幕を見せる死神の姿があった。
 
 
 
~Fin~



[15623] ある日の日常風景①
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:56
ある日の日常風景



 
~アリサ・バニングスの場合~
 
 
 
どういう訳か私の親友、高町なのはの家に居候することになった七夜志貴と温泉で初邂逅を果たしてから、私はちょくちょく彼がバイトをしている喫茶翠屋に足を運んでいた。

別に、彼がやってくる以前は足を運ばなかったのかと言えば、そんなことはなく

なのはに誘われることもあったので月に2、3回は行っていたとは思う。

しかしながらここ数日、私は翠屋に通い詰めている。

どうしてだろうか、今までの中ではあり得ない利用頻度だ。

別に私はそこまでスイーツを欲する甘党でも無ければ、友人の父親に目を輝かせる危ない趣向も無い。

そう、気になるのは今まさに私の目の前で。


「いらっしゃいませ、お嬢様(レディー)。ご注文はいかが致しましょうか?」


おもくそ私をからかっている、執事服のこいつを調べるためだったりする。
 
 
 
 

――――――――――――――
 
 
 
 

「へぇ、それは御苦労な事だね。しかし、いいのかい?小学生が放課後に買い食いなんて、あまりほめられたものじゃないだろう。」

「経歴不詳の住み込みアルバイト店員に常識を解かれると何か釈然としないものが胃の奥に残るんだけど。」

「少なくともこの店のメニューによる胸やけじゃないだろう?だとしたら、なのはちゃんの親友を名乗るのも考え直した方がいいんじゃないか?」

「営業妨害をする気はないわよ。」

そう言いながらも、こいつを向かい側に座らせ、私はミニサイズのシュークリームを一つ口に放り込む。

店内の他の若い女性客たちが、恨めしそうな視線と、羨ましそうな視線をこちらのテーブルに注いでいるのがひしひしと伝わってきている、気がする。

…うん。こいつがどこまでできるのかは知らないけれども、明らかに営業戦力を削いでいるかもしれない……。


「しかし、分からないものだな。」

「ん?なにがよ?」

「その、なのはちゃんと君が友達になった理由だよ。これまでの話を聞く限りにおいて、君はもっと傍若無人を貫いても良かったんじゃないか?」

珍しい、こいつが人間関係についてあれこれ言ってくるときは大概はぶっ飛んだ思考をしているけれど、こうやって他人の価値観を知ろうという質問はあまりしてこないはずだ。

何分、居候だと人間関係でも少々は気にかかることでもあるのだろうか?


「…なにそれ?どういう風の吹きまわし?」

「只の人間考察の一環さ。」

「ふぅん。素直に応えてあげる義理も無いけど……ま、一番しっくりくる言葉で説明するなら、いい加減私も成長しなきゃなって思ったからかしら。でも、こんなこと聞いてあんたの役に立つ訳?」

「ああ、いきなりな質問だとは思うが、一応この仕事も慣れてきたからね。そろそろ真面目に住み込みを決めようとも考えているから、その前準備ってとこさ。」

「冷静な思考と、客観的な考察にはアリサちゃんが一番参考になると思ったのさ。それに、こうやってこちらから話題を振ればなのはちゃんのことについても知ることができるしね。」

一石二鳥の講義だよ。そう嘯きながら私の注文したミニサイズのシュークリームを彼も一つ摘み口に放り込む。

おい、あんたアルバイトとは言え従業員だろ。


「ずいぶんと私のことを買ってくれているのは偏に嬉しいとも思うけれど、生憎と乙女間のポリシーやイズムを理解しようとするのは無理があるんじゃないかしら?」

「男なりの解釈があってもいいとは思うけどね。」

成程、それはたしかに一理あるかもしれない。

何気なしのなのはや、すずかとの会話でも、そこに男性の視点が混じったり、第三者からの客観的視点があるとなると、その場の雰囲気、人間関係の分析もまた変わってくるだろう。

「あんたにしては面白そうなことを言うわね。」

「お褒めに与かり光栄にございます。」

 
 
 
 
 
――――――――――――
 
 
 
 
 

「ね、ねぇ?もしかして、あの娘…なのはの友達のアリサちゃんだっけ?あの娘も七夜君を狙ってるの?」

「いや、俺に聞かれても困るんだが……」

「むぅ。七夜君て意外と幼い顔立ちしてるから年下でも親しみやすい雰囲気だし、しかも相手はハーフの美少女だし!」

「……美由希。その、言い辛いんだがな」

「何?恭ちゃん?私は今忙しいんだけど?」

「…いいや、何でもない。」

「ううぅ。この距離からじゃ何の話してるかわからない――――恭ちゃん、確か読唇術少しできたよね?」

「藪から棒に今度は何だ?まだ初歩の段階だがな。」

「七夜君達がなんて言ってるから分からないかな?」

「位置からしてアリサちゃんの表情は読めないが……七夜の方ならギリギリか。」
 
 
 

 

「オトメ――――ラ――――ジラウ―――」

 
「――ュンス――――ト――――ウン――――」
 

「――チャンガスキ――――」
 
 
 

「すまない、やっぱり慣れないからな。上手くは読み取れない。」

「恭ちゃん!最後っ!最後はなんて言ってたの?」

「うぉっ!?わかった、分かったから興奮するな。」

「後半はよく解らなかったが確か……」


「確か…?」
 
 
「アリサちゃんが好き…とか、どうとか……」

「う、ううううううっ!!」
 
「おい、美由希?」
 
「うわぁああああああん!!また年下に七夜君とられたぁああああ!!!」
 
「なっ!?何処に行くんだ!まだ仕事が―――――…はぁっ。」

 
「……………」
 

「おい、七夜。休憩はそのくらいにして仕事に戻れ。」
 
 
 
 
 

―――――――――――――
 
 
 
 


「最終的には、アリサちゃんの好きなようになのはちゃんに接してあげてくれないかな。なのはちゃんだって一個人だ。誰にだってそう簡単に他人に打ち明けず、黙って成し遂げたいことの一つや二つ、あって当然だろ?」

それを受け入れるのも親友なんじゃないかな?


そう諭す七夜志貴は全部知っているんだろう。いや、全部じゃなくても大まかにでも。

確かにこいつの言うことも尤もな意見だ。

「私にも他人には話したくない、プライドや心情、行動原理、矜持があるわ」

「そうだろうね?」

なのははそれが活動として現れただけであり、それを今までの私の接し方で迫ったからいけなかったのか。

受け止める。受け入れる。

それができてこその親友だ。

何か隠していても、それが決定的な別れになるとは限らないし、私がそうしなければいいだけの話だったのか。


すずかはこの答えにもっと早くたどり着いていたのだろう。だから私を諭そうとしてくれた。

「はぁ。結局、色々とあんたから聞き出すつもりが、逆にあんたからの御高説にすり替わっちゃってたわ。」

話を気聞けば、なのはが私との関係の悪化をこいつに相談していたとも言うし。最初っからその腹積もりだったのか。

この詐欺師め


「本日の講演は以上となります。お客様、お忘れ物のないようご注意ください。」

時計を見ればそろそろ夕暮れ時もいい頃合いだ。

「当然、アフターサービスも充実しているんでしょうね、執事さん?」

「やれやれ、そう来たか。」

そう言う訳だから、とカウンターにいる恭也さんに目配せして七夜志貴は私を送る為に席を立つ。

「車じゃなくていいのかい?」

「腕は立つ方なんでしょ?噂は聞いてるわ。」


恭也さんとガチで戦えるなんて、まるで冗談みたいな話だけれども、温泉でのあの攻撃のかわし方や捌き方を見れば多少なりとも納得したからね。

まあ、素直に今日のお礼を言うのも癪だ。

せいぜい歩きの帰り道の安全を信頼して、もう少しこいつと話しながら過ごすのも悪くない。
 
 
そんな評価が、温泉旅行を終えて数日後のアリサ・バニングスの七夜志貴に対する感想であった。
 
 
 
 
 
 

~あとがき~
と言う訳で、ネロ・カオス戦前の時間軸の一幕です。
アリサと七夜なら男女間の友情も夢ではないと思い、久しぶりの日常会を書いてみました。

再就職先が決まりました。




[15623] ある日の日常風景②
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2012/11/19 20:57
ある日の日常風景



 
~すずかちゃん反転衝動~
 
 


「血が飲みたい」


私は最近この衝動に襲われる機会が増えた気がする。

お姉ちゃんなんかはもうパートナーがいるからそんな衝動に対しても不安感など無いのだろう。

そう言えば、この突発的に起こる衝動は第2次成長期になってからが一般的だと聞いていたし、お姉ちゃん自身もそうだったらしいのだけど、

「うぅん。恐らくだけど、すずかのその弱気な性格と、あの殺人鬼君が現れたことによる不安感も関係してるわね。」

早熟なのかもしれないけれど、と付け加えながらも、前者は割と根拠があるらしい。


生命の本能が命の危機などで興奮状態や、危険状態の察知、不安感なんかが強くなると

自身の安全と生存をまず優先させる、そして次世代へ遺伝子を残そうとする本能が強くなることがある。


簡単な例をあげれば生存に関してはトカゲ、繁殖に関しては台所の悪魔だそうだけど。


「…………」

「ごめんごめん!別にすずかがそういった類の種と同類だと言ってる訳じゃなくってね?!」

例えが好きになれない、なれる訳のないものであげられると気が滅入る。


「とにかく、もうすぐ七夜君の調査結果も出るし、あんまり不安になっていてもしょうがないわよ。」

「ここのところの報告は高町家から毎日受けているけど、どうやら本当に放浪中の殺人鬼みたいだし。」

殺人鬼と言うフレーズは何処をとっても安心感につながるものではないのだけど、お姉ちゃんは割と明るそうに話して私を元気づけようとしてくれる。

「その……お姉ちゃんは怖くないの?」


「ん?七夜君のこと?それは怖いといえば怖いわよ。何せ殺人鬼と言っても"退魔"としての専門らしいし。」

そうだ、あの人は言ってしまえば私たちとは違う世の為"人"の為の殺人鬼だ。

その"人"に分類されない夜の一族は彼の一族が行う正義の殲滅対象。

人でありながら、魔を殺す程の技術を己が身だけで操る究極の人だ。


「でも、この前の温泉旅行のとき、実は彼と話す機会があったのよ。」

え?

「お姉ちゃん…大丈夫だったの?」

「大丈夫だったわよ。勿論恭也の小太刀が七夜君の首筋に当てられてる状態でね?」

「………」

それは"話す"ではなく、"脅す"時に使う手段ではないのだろうか?

「ん~。なんだかんだ言ってこっちも彼の素性を調べてる訳だし、それを了承しているなら多少危険でもじかに話してみたいと思ってね。」

「結構いろいろ聞いたわよ?七夜君、自分を殺人鬼なんて嘯いてたけど、実際は彼自身が殺したのはたった一人って言ってたし。」

「一人……?」

その一人は恐らく人外のモノなのだろう。

「本人は鬼と呼んでいたけど、実際は鬼と人間の混血種。その末裔らしいわ。山籠りをしている炎熱の鬼神だとか何とか。」

私もさっぱり分からなかった。と、夜の一族ですら知らない異形の一族がいたのは驚きだ。




負の連鎖は断ち切るか、徹底して隠匿するしか、滅びなければ終わらない。

私たちの一族が選んだのは2番目、隠匿と契約による、社会を隠れ蓑にひっそりと隠す暮らし。

確かに社会的な生活水準で言えば俗に言う良家、富豪の類に入るのだろうが、それも異能ではなく一般人と同じステージで競って築き上げてきた物だ。

尤も、常人よりも優れた特性をもつ場合が多い一族なので、堂々と胸を張る訳にはいかないだろうけど。

お姉ちゃんが工学関係でその能力をいかんなく発揮しているのと同じく、私には突出した腕力がある。


お姉ちゃんたちの前では絶対に言えないことだけど、私はこんな才能欲しくなんてなかった。

普通に生きて、普通に笑い、普通に好かれ、普通に人生を送れる存在を何度羨んだことか。

そう言った意味で私はなのはちゃんが大好きだった。

いや、憧れていた。

別に、持っている人とそうでない人、なんていう優越感や劣等感とは違う、羨望の念だ。

どんな時でも勇気を持って、普通を成し遂げる存在こそ私が憧れた天使の笑顔。

状況は違えど、クラスで浮いていたアリサちゃんとの関係を良い方向へと作ってくれた大事な友達。



そんな二人に私は感謝し―――――――同時に距離をとりたいと思っている矛盾。


このままの仲が続けば、私は何処かで吸血衝動に堕ちたときに、二人を傷付けてしまうのではないかという不安。

最近のなのはちゃんの少し余所余所しい態度はむしろ、このような私を映す鏡のように思えた。


何か悩みを抱えている、他人に知られたくない、誰にも知られずに解決し、日常に戻るんだという強いまなざし。

アリサちゃんは不満の色を隠せなかったみたいだけれども、私のような存在を深く知らないまま認めてくれている懐の深さだ。

数日もしたら、何時ものように明るくなのはちゃんに声をかけ、心配しながらも見守る姿勢に入っていた。



そんな折の放課後、アリサちゃんと塾へ向かう途中。

「ああ、その事なんだけど……そりゃ、私も悩んだわよ。なのはの原因が七夜なのかと疑ったりもしたし。」

ドクンと、彼の名前が出た瞬間に血が騒ぎ出す感覚が襲う。

ああ、これは本当に拙い。

「でもね、逆に諭されちゃったわよ。」

「え?」

「なんでも、なのはが今の状態から戻ってきたときに、日常の関係として迎え入れるのが親友って奴だろう?ってさ。」



きっと七夜志貴はそういう人間なのだろう。

人に対してはとことん優しい。

対して、人外にはこれでもかと言うほど容赦がなく。

そんなことを考えている中でも加速して行く吸血衝動。



――――ああ、ダメ…!   今はダメ


アリサちゃんがいるのに。


大切な親友がいるのに。


その首筋に、その血色の好さそうなやわ肌に衝動が起きている時だけ異様に伸びる吸血歯を突き立てて


血が飲みたい。


「すずか?どうしたのよ、何だか苦しそうだけど……」

近寄らないで……その手弱女な手を差し伸べないで……

不随運動のように、鼻がひくひくと反応する。

血のにおいをかぎ分けてしまう。

一口、一滴、その肌からの赤い雫を――――


「やあ、アリサちゃん。これから塾かい?」

ふと見れば目の前の通りからやってきたのだろう、執事服を着た殺人鬼、七夜志貴がどういった組み合わせなのか、メイド服のノエルと一緒に買い物袋を手にして並んでいた。

「ああ、七夜にノエルさんじゃない。ちょっとすずかの具合が悪くなっちゃったみたいで……ノエルさんお願いできるかしら。」

「すずか様――――難しいでしょうか?」

ノエルが困ったような表情で、座り込んでしまっている私の傍で膝を落とし、耳元で囁く。

『もうすぐ警察がこの周辺を封鎖しに来ます。すぐにお屋敷戻ってください。食事はその時に。』

「けい…さ、つ……?」

何故警察が来るのだろうか?

だけども、何かの間違いで足止めを受けて本当に理性が決壊してしまったらそれこそ大問題だ。

「アリサちゃんの家にはもう連絡がいっているみたいだから、すぐに迎えが来るそうだ。」

傍で七夜志貴がアリサちゃんに説明している。

「何かあったの?」

「昨日ここで殺人事件があったらしくてね。現場が特定できたらしくて今から捜査が始まるらしい。」

「つい先ほど判明し、学校にも連絡が回ったそうなのですが、低学年は既に下校中とのことでしたので、塾へ向かう道でのお迎えになってしまいました。」

ノエルが説明していると、アリサちゃん家の車がすぐ脇の道に停まり、執事の鮫島さんが大急ぎでアリサちゃんを連れて帰って行ってしまった。

そんな事件が起きたとなると、暫くは塾も休みとなるだろう。

「それで―――」

アリサちゃんがいなくなり他に話をきく人物も七夜志貴だけになった為かノエルの表情も少し硬く険しくなり

「甚だ不本意なのですが、買い物中に彼と偶然出くわしまして、丁度その時に忍様から事件についての連絡があったもので……」

「なに、この前なり往きとはいえ屋敷で色々壊しちまったからね。帰りの警護くらいはしようかと思ったのさ。色々あっても女性の二人歩きをそのままにするなんてできないだろう?」

そこは素直に素通りしてほしかったのだけれども、何とも間の悪い厚意だ。


「もう―――――だめっ――――」

意識が霞み、全身に力が入るのが解る。

足はおろか手の指先までを使い地面を蹴る。


一直線に飛びかかり口を大きく広げそのまま首筋へ――――――



「ほら、大丈夫だ。」


七夜志貴が買い物袋を持たない右腕で私を抱きかかえている。


「ふぇ?」

「因みに、あんたは走れるのかい?」

「はい、恭也様よりには及びませんが。」

「なら問題ないか」

七夜志貴とノエルが一瞬お互いを目配せして笑ったような気がした。


「こっちも買い物の途中でね、すぐに戻りたいから飛ばしていくぞ。」

その言葉と共に私の背中に物凄い風圧が掛る。

みれば姿勢を少し低くした七夜志貴と私の顔の距離は目と鼻の先だ。

真剣な眼つきで前を見据えて走るその瞳には今まで感じていた恐怖は湧かず、何処か安心できる勇ましさがあった。

 
 
 
 
 
 
 
 
「うわーーーーーーん!母さん!今度はノエルさんに七夜君を取られたぁーーー!!やっぱり執事服はダメっ!もしくは私もメイド服を着るぅーーーーー!!」
 
 




~あとがき~

アリサ回の数日後の出来事でネロ・カオス戦の前前日くらいの時系列でした。

一次成長期の少女が吸血衝動と異端について悩む日常回、因みにすずかにとって七夜は恋愛対象外です。

どちらかと言えばノエルの方が脈あり。

そんな全二話の番外編でした。

勤労って素晴らしい。




[15623] 七ツ夜と魔法 sts(没)
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2014/08/13 22:28
七ツ夜と魔法sts編(仮)

やる予定はありませんが、やったらこんな感じだと思います。
リリカルが怖すぎる作品です。



七夜志貴:フェイトの使い魔、直死の魔眼、魔眼殺しの眼鏡→AMF機能の赤い包帯、七ツ夜、六課のアルバイト
sts開始の5か月前に目覚める。
基本的に日常は六課のロビーで寝ている。
たまに夜勤の警備を行っているらしいが、誰も見たことがない。時給は2千円
白猫をレンと呼ぶ。
最後の対決はゼストかスカリエッティになるかもしれない。
 
 
フェイト:黒い死神、赤い月の受け皿
七夜の戦闘方法の模倣を魔法の補助で亜流にする。
七夜に言い寄る女性にはヤンデレ。
悪く言うティアナにはブチ切れる。
来年の春に入籍予定。
エリオ、キャロの保護観察者に加えヴィヴィオの親代理を務める中で、はやて以上の戦力保有を危惧される。
最終決戦では赤い月が降臨しそう。
 
 
なのは:白い悪魔、砲撃+範囲攻撃(殲滅系)
オールデッド・テラ・ジ・エンド
マジックガンナー。
生ける悪夢。七夜とフェイトの仲にシットして今日もヤンデル。でも親友。
過去に撃墜なんてなかったけど、嫉妬心解消から、教導隊に入る。
キャッチフレーズは「ギリギリまで追い込んでギリギリまで生かす。」
最終決戦は一切の容赦なしで挑む。
 
 
はやて:夜天の支配者(強化版)
どっかの正義の味方の魔力も蒐集してしまった為に攻撃力はチートレベル。
扱えないけど固有結界まで本に記載されてたりする。
やっぱりイロモノキャラだったりする。
ナンバーズ攻撃時に危うく殺しかけたりする。
 
 
ボルケン:抑止の守護者のコピー、足りなかった複製
ガイアの魔犬を御するために制作を試みられたが、書のスペックでは5体しか納めることができず、アプローチ変更となり闇の書になった経緯がある。
 
 
ヴィヴィオ:聖王のクローン、古代ベルカのアルティメットワン
鋼の大地みたいなことになりそう。もうなんでもアリ。
 
 
アリシア:月蝕の姫
 
プレシア:死徒
 
ティアナ:でふぉ
 
 
スバル:タイプゼロ
六人姉妹の途中作
 
 
ギンガ:アーキタイプ
卵と鶏の関係。クイントの遺伝子が元になったのではなく、ギンガのデータによって遺伝子操作されたクイントが生まれた。
スバルはクイントノ遺伝子から作られたギンガの"戻し"。
六人姉妹になる筈だった成功作の1人目
 
 
エリオ:抑止の守護者候補
世界から誘われる。
 
 
キャロ:妖精郷からの帰還者
何処かが欠落してしまっているが、本人は気がつかない。
 
 
スカリエッティ:無限転生、第六の探究者
最終決戦では七夜かフェイトと戦うはず。
 
 
ナンバーズ:六人姉妹の失敗作
 
 
ゼスト:劣化英霊
死体に英霊の座についたゼストを入れている。
 
 
ルーテシア:でふぉ
 
 
アギト:精霊種
 
 



[15623] 七ツ夜と魔法 As①
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:ea30df88
Date: 2014/08/14 23:19
※時系列はA'sのクライマックス、闇の書との戦闘場面から


-雪の降る町-


-夢で会えるなら-

     -5月の再来-

   -広まる噂-

――鈴の音が聞こえる――

     -雪原の夜-

-少年を探す-

-月に問う-

     -殺人貴はどこ?-

-問いかけ留める-

        -一緒に探して-

   -白猫が囁く-

 -君を呼ぶ-

 
-例え■されようとも-
 

 
 
七ツ夜と魔法 A's ①「Unlimited Blade Works」
 
 



名もなき黒翼を背に伸ばす闇の書の完成人格

銀の髪に赤の憎悪を宿らせた瞳には、この世界を憎むべきものだと認識させた。


主は泣いていた。この世界の理不尽を、この世界の悪意を、この世界の不都合を、この世界のあらましを、この世界の焦燥を………悲しんでいた。

ならば、我が敵は世界。

秩序の騎士は我が誕生の贄とさせられ、勇名を駄将へと換えたその不敬は許しがたき蛮行である。

ならば、主と冥府の友に手向けるのは静かなる眠り

永久なる静寂こそ子守唄にふさわしい。

「さあ、終焉の詩を紡ごう。」


片手に携え開かれし闇の魔道書より"破壊の導"(呪文)を謳う。

「風・波・光・理(オワリ)――――我が手の上で弾けよ」

天空を見上げた一同に、回避不可能な死の現実を突きつける。


輝く星星の光は無数に増え、―――――やがて、闇を覆い尽くさんばかりに膨れあがる

高町なのは春の事件をこの時程呪ったことは無い。

「オールデッド……」

一つの惑星(セカイ)を犠牲に全てを殺す。

極大の殲滅呪文は、既にオリジナルを扱うなのはが防ぐことができる範囲をとうに超えている。

更に、付け加えるならその輝く一つひとつがフェイト・テスタロッサの使うファンクランスへシフトされている。

貫通性能

それは、この町に敷かれた結界も諸共消し去るだろう。

そうなればどうなる?

海鳴も、遠見も日本も―――――この星も

ただの塵芥と変えるであろう。

「あ、ああぁ………」

ガチガチと二人の少女が震えた声を上げる。

勝てない

こんなものは戦いでも殺し合いでもない

虐殺でも殲滅ですらない

もっと強大な力が行う途方もない何か(滅亡)だ。

だからこそ、少女たちは己の命を燃やしつくすかのように、喉が潰れんばかりの雄たけびを鼓舞するように上げ、すくんだ足のまま、絶望のまま、闇の王が放つ絶望の光へと立ち向かう。

今宵、其の命 極彩と散る。

「うわあああーーーーーーーーー!!!!」

たとえそれが誘蛾灯に引き寄せられるかのような、儚い輝きだったとしても、彼女たちは止まらない。




もっと力が欲しい。

自分じゃなくてもいい。

ちょっとでもいい。

誰でもいい。

何でもいい。

今、ここで

     、誰かを守ることができる。

誰かを救える。

皆を救える。


 
 
未来を切り開く(終焉を防ぐ)大きな力(救世主)が欲しいっ!!!
 
 


 
『I am the bone of my sword.』
 


その言葉がなのは達に聞こえたとき、一筋の剣が何の前触れもなく闇の書の管制の腹部を貫いていた。


螺旋のように描かれる大気の軌跡は容赦なく辺りを巻き込み、軌道上の物体を衝撃波で切り刻んで往く。



 
『Steel is my body, and fire is my blood.』
 


続く詩は彼方から無数の剣の群を呼び、夜空を埋め尽くす光球を悉く爆散させる。

黒翼を広げわき腹を抑えながら遠方を仰ぐ。

闇の書の管制人格が初めて見せた表情の変化は苦痛にゆがんだものと、まるで予期していたかのように前方を剥き出しの殺意で睨みつけることであった。

「邪魔をするな、抑止の守護者よ!」

怒気をはらんだ声はその場にいた全員を硬直させる。


なのはもフェイトも訳が分からず、ただただ天の絶望が消えていくことを眺めるが、それは新たな恐怖を生む。

そして、アースラから映し出すモニターを特殊な通信機材を用いてミッドチルダから状況の確認を行っていたプレシア・テスタロッサは、管制室機材を介して通信機能をもぎ取り彼女らへ叫ぶ。


「二人とも!すぐにその場を離脱なさいっ!!!!」

 
『I have created over a thousand blades.』
 

「プレシア!?それはどういう――――」

管制室にいたクロノが驚きの声をあげるが、異にもせず叫び続ける。

「いいから逃げなさい!!その場にいたら命がありません!!海鳴……いいえ他県までっ、―――――その一帯は消滅します!!!」

だったら、今すぐにでも二人をこちらの艦に転送して―――

そう考えたエイミィは手元のコンソールを操作するが、座標指定を行うとけたたましく鳴り響く『Error』の文字がそれを不可能だと告げる。


「―――私からもお願いするわ!その場は危険です、すぐに離脱を!!」

「母さん!!―――っ、聞こえたとおりだ!今は指示通りにしてくれ。」

クロノが二人を促し、モニターで確認すると、現場のユーノが移動しながらも「冷静になってください。そして簡潔な説明をお願いします」と問いかけてくる。

「……抑止の守護者(カウンター・ガーディアン)」


「あの吸血鬼たちの情報を調べたときに、その存在を知ったわ。1つの世界で外的要因で滅びが起きるときに発生する抑止力の一つよ。」

「人類の滅びにつながる場合、その要因を周辺一帯丸ごと消滅させることにより人類を守る世界る力……100を守るために10を消す。それが抑止の守護者よ。」


其の通信を聞いたユーノ達は顔を青くする。

「そんな――――それじゃあこの町はっ!?」

ここには魔法と無関係な住人が溢れるほどいて、この事件なんか知らずに平和に暮らしているのに

「1だけを切るなんて器用な真似は出来ないわ。……残念だけれども残りの9は道連れよ」



『Unknown to Death. Nor known to Life.』


「手立ては…無いのですか」

リンディは怒りに震える声でプレシアに問いかける。

「世界の力が働いた時点で手おくれよ。アレが動いたということは――――もう、そうしなければ滅びが確定してしまうという状況が起きてしまったという証拠ですもの。」

プレシアはそして推測する。

ロストロギアがつくられた世界などは、きっと"世界"によって滅んでしまったのだと。

ならば、最悪のケースは――――その場にいたモノを一人たりとも生存させないことだ。


 
『Have withstood pain to create many weapons.』
 


「――――出来ないよ…」

急になのはが立ち止まり。それに続いてフェイトも動きを止め、大量の剣群と応戦している闇の書の管制人格の方へ眼をやる。


「フェイト!?何してるの、逃げなさい!!逃げてちょうだい!!!」

プレシアは必死になって声をかけるが、二人の眼にはすでに覚悟の炎が宿っている。

「この町にはお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん…大事な家族、友達がいるの」

「母さんごめんなさい、多分初めての我儘を言います。―――――絶対に負けられない!!」


「止めるんだ!プレシアが言っただろう!!もう間に合わないんだ!!」

クロノが必死になってモニターに向かって叫ぶ。

もうだれも犠牲にさせない。その為に鋼の意思で執務官にまで上り詰めた自分は何故、あの場で少女たちを助けてやれないのか。

抑えきれない涙は溢れだし、真の絶望を待つしかないというのに何故、あの少女たちはそこまで強くいられるのだろうか。

 
『Yet, those hands will never hold anything.』
 



「――――やっと見つけた。」

突然、後ろから声を掛けられたことにフェイトは動揺し、振り返るとそこには時部よりも幼いであろう少女が独り。

白い雪のような少女。

響いたのは場違いなまでの優しい鈴の音。

見ればあたりに雪が降り出し、その姿は雪原にこそふさわしい。


訪れたのは並行世界の戦場

 一つの世界の終焉の地

妖しくも怪しい夢魔の白猫は白き姫を演じた少女に問いかける

場違いなまでに落ちついて、場違いなまでに何の脈絡もなく

 
『So as I pray, unlimited blade works.』
 


「七夜(殺人貴)はどこ?」



それは一筋の希望だった。



~あとがき~

久しぶりにと思い、ダイジェスト版を投稿。
仕事も精神状態もうまくいっています。

リィンさんの呪文をメルブラの姫様の台詞にしてみたら、個人的に違和感がなかった(笑)

世にリリなのクロスで、アーチャーさんが大活躍なものは数多なれど、英霊エミヤが抑止の守護者として呼び出されるものは見たことがなかったので、やってみると楽しい感じでした。

また暇ができたら②をあげたいと思います。



[15623] 七ツ夜と魔法 As②
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:12bfa523
Date: 2014/08/14 23:20
君は待つ。

どんなに時が過ぎようとも、愛しい一人を待ち続ける。

これは、想い待つ少女たちが見た一夜の幻。

夢のような、彼の夢。



七ツ夜と魔法 A's ②「赤銅の月夜」



赤銅の荒野に誘われたのと、雪原の少女が現れたのはどちらが先であっただろうか。

白い少女は姫の代役に問いかける。

「七夜はどこ?―――あなたから七夜のラインを感じ取れるわ。」

対してフェイトは動揺する。

この状況、こんな世界の終りに等しい場面において、明らかに場違いな空気を出す眼前の白き少女に、いきなり場違いな質問をされれば無理もないだろう。

しかしながら少女の質問はどこか、この危機的状況を打破しうる可能性を秘めた、希望を映し出すかのような意思があった。

「ナナヤさんは……こことは違う次元の病院で眠っています。私と契約して半年間………」

唇をかみしめ、俯きながらフェイトは答える。そして同時に湧き上がる疑問。

この子は一体、そして七夜志貴との関係は。

「眠ってる……なら、好都合だわ。――――あの道楽爺からの伝言だと、"己が力を示せ。世界を変えるだけの力(奇跡)は、いつだってヒトの内に秘められている"そうよ。」

それは、覆すことなど不可能な現実を塗り替えて見せろという、無慈悲な挑発にも聞こえた。

「私たちがしなくちゃいけないことは、抑止の守護者を足止めして、その間にアレを殲滅させること。」

「そんな、無理だよ。闇の書だけでも手いっぱいだったのに、守護者まで抑えるなんて―――――」

フェイトは少女の提示した打開策が、まるで実現不可能なことと位置付け諦めを滲ませる。

「不可能じゃないわ。あなた"真祖のキャスト"でしょう?」



――――――ドクンッ



胸に響き渡る異物の警鐘

こことは違う理の歯車がギシリ、ギシリと軋みをあげる。


知らない筈の、見たこともない誰かが、器の奥底から囁き声が聞こえる。


『我が掌の上で踊るか?幼き役者よ。』



―――――――――



アースラの管制室は抑止の守護者が展開したと見られる結界―――否、異界ともとれる異様な空間をサーチャーで確認し、その光景に目を奪われていた。



一面を覆い尽くす剣の大地

 赤銅の地面に突き刺さる、無限ともとれる剣群は宛ら古の戦士たちの墓標にもみえる。

  そのどれもが名剣・聖剣・魔剣の類だと一目で分かるほどの異質なオーラ(魔力)

   しかしながら、その担い手は群ではなく個

  たった一つの伝説が、数多の武装を己が独りが担い手だと


「これが、世界の……人間の意思の産物(総意)だって言うのか!?」

クロノはモニターに映し出される人の世(世界)が行う正義に向かって叫びつける。

これほどの正義(チカラ)にもかかわらず、なぜ世界はほんの僅かな人間に絶望を抱かせるのかと。

この異界には覚えがある。

全く違う世界ではあったが、クロノは理解できぬまま分ってしまった。


「固有結界」


半年前にプレシア・テスタロッサが何を犠牲にしてでも、一時のことであったが辿り着いてしまった、こことは違うコトワリの再秘奥。

アレが人類が選び出した抑止の契約者の心象風景だと?

あんな絶望と終わらぬ争いに摩耗しきった剣の墓場が世界の守り手の心だと言うのか?

認めない、

  認めてたまるか。


僕たちだって世界の安寧の為に生きる人類の一人だ。

それの理想系、最果てがあの世界だというのなら僕は否定してやる。


アレは正義の心なんかじゃない。

 独りよがりな、正義の味方ごっこの自己陶酔だ。


僕らは大切な人を守るための正義だ。


ならば、アレとは相容れることなどできはしない。




『貴女まさか、七夜志貴の夢魔(使い魔)!?』


管制室のスピーカーに接続されたままのプレシアの声が、フェイト達のいる場に投げかけられた音声がけたたましく響く。

その声は嘗て七夜志貴の全てを覗いた彼女だからこそ、驚愕と希望をにじませた娘と世界を救う奇跡を起こす準備を始められる材料が整ったと言わんばかりの意思がこもっていた。

「アースラの艦長、取引よ。越権行為であろうと違法手段であろうと――――何でも構わないわ。私をあの場に、何としてでも送り込みなさい。」

そう、崩壊してしまったとはいえ彼女は固有結界の顕現がどういうことなのかを知っている。

故に、あの場に広がる異界が固有結界だと、世界の抑止力として扱われる力の果てだと理解できていた。

ならば、あそこならば今一度扱えるだろう。それがどんなに人間には不可能なことであろうと。

成し遂げて見せよう、愛しい2番目の娘の為に。




  この身は吸血鬼なのだから。







―――――――――――




『起きなさい…』


だれ………?


『さあ、こっちよ』


だれなん?


真っ暗でなんもわからん――――


でも、誰かが呼んでる…


目を開いても周りは真っ暗。


一歩を踏み出そうにも足元すら視えない。


そんな中でどんどん遠くなっていく声。


――――ああ、忘れてた。

そんなことを考えなくても、脚は動かないんだった…



なのに、鈴の音のように声の主は謡う様に私の心を急かす。

その先に何があるのか、その向こうに誰がいるのか。


逢わなければいけない。


別に運命を語るつもりなんてない。


だけど、10年近くも私のそばにあり続けた、大切な家族を放っておいて、ひとりのうのうと眠っているなんて、私らしくないじゃないか。

必死になって片手を伸ばしてみる。


――――やっぱりなにもつかめない。


それでも諦めきれず今度は反対の手を前へ手突き出す。



何度でも



交互に、振りぬくように、走るように





鈴の音が近くなる



「はっ、―――っは、っふ!!――――っぜぇ!!」



いつの間にか駆け出していた先に光が見える。





『さぁ、ここはあなたに任せるから。夢から覚めたらお茶とケーキでも用意していてよね?』




―――――――




そこに佇む一つの顕現に誰もが見入っていた。


熱風に流れる白い髪はこの世の全てに絶望したかのようであり、褐色の肌はまるで焦げ付くような戦場をいく度も越えてきたようだ


黒いボディーアーマーはその光沢からも見て取れるように、決して折れぬ意志を感じ

極めつけの赤い外套は今まで世界を救ってきた成果(流血)を見せつけるようだった。


それは人類の無意識

 全ての霊長の意志の総意である

終焉を防ぐモノ

 抑止の具現

守護者

 世界

 座


フェイトはひとり杖を強く握りこむ。


「真祖のキャストは抑止の守護者を――――」


なんて理不尽な采配だろうか。


ここを止めるのは、あろうことかただ一人。


なのはは闇の書の管制人格を七夜志貴の登場まで相手取ると言っていたが――――


いやな気持を振り切る。


そうだ。どちらにいても絶望的な生存率だ。


このまま無間の闇に取り込まれるか、赤い荒野に貫かれるか、はたまた両者の戦禍によって塵と消えるか……


そんなことは些末事のようなぜいたくな悩みだろう。


今、この瞬間を生きる結界の外の人間はこんな状態を露とも知らず幸せなひと時を過ごしているはずだ。


その世界は幸せでなくてはならない。

なのはやアリサ、スズカがいる世界。


自身が夢見た光景をいつかかなえるための世界。


ならば、後は往くのみ。








自然




体は軽やかに地面を離れ リンカーコアから魔力を溢れさせる

赤銅の王は自然体でこちらを見据え、鉛色の瞳が射抜くような鷹の目でフェイトを正確に視認している。

それに表情はない。抵抗者が現れたというのに世界の守護者は攻撃をするわけでもなく、ただじっと黄金の役者を待ち続けている。

「バルディッシュ――ザンバーフォーム」



奇しくもその姿がまったく違う者と重なる



正義の味方の鮮烈な記録に該当する。



しかしながら錬鉄の主は微動だにしない。



ただそこにある墓標が魔弾となって黄金の意志に襲い掛かる。



その数は眼前を覆い尽くすほどに一斉であり、尽きることのないならまさに無限と言えよう。

彼の者こそ、その無限の根幹。剣の担い手でありニンゲンの在り様を体現する模倣者。

欠陥だらけの人の在り様。

欠けているものが多すぎて、誰とも重なり、誰よりも誰にも似ている。



魔弾の嵐はその一つも外れることなく、正確にフェイトを貫く軌道。


ならば、全てがフェイトに命中する軌跡を通るというのであれば―――――



撃ち払うのもまた容易い。



そんな思考の結論など本来のフェイトであれば至らない。


だが、この場において真祖の代役を担う彼女であるならばそのような常識外に至るのは必然と言えよう。


握るのは新世界ではない。


されどこの窮地を涼しげに躱す奇跡を成し遂げられず何が代役(キャスト)と言えようか。



―――――――――――――――――――――――――――――――



「悪いな、なのはちゃん。―――それと久しぶり。」

その姿は半年前と変わらず学生服に身を包み、少女を抱きかかえる瞳は吸血鬼の夜の時と同じく、絶対的ななのはの味方の蒼き輝きを放っていた。

白猫の夢想は雪を降らせ、深々と積もる夜に彼を幻界させた。

一夜限りの幻であることは判りきっている。

今も本人はミッドチルダの特別病棟で覚めぬ夢の中にいる。

なら、これは七夜志貴にしてみれば夢の出来事。

現実の事象なれど、その存在は希薄であり判然としないのは当然であろう。

―――それでも七夜志貴は高町なのはを助けた。

抱きかかえ、窮地から救い上げて見せた。

いつか、高町志郎と約束し、果たせなかった約束。

「まあ、少なめに見積もって、及第点ってところかな。こんなありきたりな筋書き、今どきの女の子には物足りなだろう?」

「そんなこと、ない……よ。……とって、も…」


途端、なのはの瞳から涙がこぼれる。


そんなことない、と。

戦闘のさなかであるにもかかわらず、涙を抑えることはできない。


「さぁっ、それじゃあこんな夢はさっさと終わらせるとしようか。――――なに、さっきからやけに衝動が高まってるんだ。」



「あんたが、その根源かい?どうにもこの手の状況は俺向きじゃあないんだけどな。――――扇情的な色気を出されちゃこっちも引くに引けない。」





その言葉がお互いが動き出す合図となった。

宙を駆ける黒翼は赤く輝く光の槍を七夜がいる地上に一斉掃射し、大地に轟音が響き渡る。

その隙間を縫うように蒼い眼光は舞い上がる土の一粒まで正確に見分け最短距離で標的まで接近する。


「足場、任せる!」


轟音に負けないくらいに七夜が叫んだのはなのはに向かって


七夜志貴がなのはを頼ったのは初めてのことだ。


最初は魔法を知られて、脅し紛いの要求だった。

だけど今、彼はその足を彼女に託した。


信じてくれている。


七夜志貴が踏み出す一歩を。その道を任された。


「―――やるよ、レイジングハート」


彼女の声にまた相棒たる魔導杖も不屈の心を震わせる。


「奇跡を望むか、人間!!」

「あいにくと軌跡には事欠かない配役だ。ここまでくれば王道だろう!」




――――――――――――――――――――――――――――――――


『また、逢ったな。―――殺人貴。』




少女の目覚め(覚醒)によって滅びの危機は防がれた。


しかしながら、赤銅の大地は消えることなく彼女らの前に姿を現したままであった。

墓標のように突き刺さる剣は未だこの場にいるモノを滅しなければ役割を終えぬという。


八神はやてに固有結界の魔力は二割方奪われた。宝具もその制御権を四割失った。

プレシアの魔法によって固有結界の心象風景の三割が書き換えられ、灰色の空と宙に浮かぶ巨大な剣の精製歯車が月の夜空になった。


しかし、それまでだと。


なのは、フェイト、はやて、クロノ、ユーノ、リンディ、プレシア


七夜志貴

一人としてこの地から帰す者は無い。



赤い守護者は表情も変えることなく、しかしその瞳は懐恨を映すように七夜を見つめる。

『おいおい、勘違いはよしてくれ。』

一方の七夜はそれがいつか、遠野志貴が出会うのであろう関係を意味していると悟り、守護者の言葉を否定する。

『俺はもうあいつとは別人だ。言っちまえば、それこそ兄弟みたいな関係さ。』

それでも人類の代弁たる男はお前は志貴だと定義する。その瞳は変わらない。

仕方なし、と七夜は一息肩を落とし口を開く。 己はまだ遠野志貴なのか。 否、これは延長戦みたいなものかと。

『にしても、まだ世界に絶望するなんて…そんな簡単な迷路をさまよってるのかよ、お前。』

頑固な機械は嫌われるぞ。と軽口を交えポーズで目を閉じ―――――


それはいつか何処かで会った未来、志貴と正義の味方が交差した運命が無限に連なる平行世界のどれか一つにでもあったというのなら……

きっと志貴はこいつに呆れ、良き友のように多くを語らず、幾度も死線の夜をともに越え、剣戟を打ち合い……きっとこの結論は変わらないだろう。

だからこその、いつか何処かでの焼き直しだ。


故に、次にゆっくりと開いた瞳は――――


直死の魔眼をもって衛宮を視る。




「さあ、こっから先は遠慮なしだ。脳髄がとろけちまうくらい、殺し合おうぜ。」



その言葉を最後に七夜志貴は走り出す。


その姿を見守るなのはたちには、殺人貴として世界に立ち向かうその姿が―――――とても、人間らしく映った。







あとがき

実に、約2年ぶりです。
仕事も順調、結婚もしました。
そんななかでふと思い出したかのようにぶつ切り、細切れ、ダイジェストでのA's編でした。
長い間SSも書いていなかったので、リハビリ調の拙いものですが、どうかご容赦を。
気が付けば、りりなのも10年という後押しも相まっての投稿でした。
以下、蛇足
・七夜が現界したのは白レンの能力(この時点で00の世界やらなんやら色んな悪夢をかき集めていたため力は最強クラスだった)
・七夜VSリィーンフォース(勝者、七夜。お互いピンチ気味のところをはやてが覚醒、七夜が死の点を突き彼女は亡くなる寸前に主から名前をもらい、笑顔の内に消滅した)
・UBW(プレシアがリンディから血をもらい、UBWの法則を一部乗っ取る。これにより綻びが生じた隙を突きはやてがUBWを展開する魔力を一部収集する。)
……書けよ、と思う方。ごめんなさい。



[15623] 七ツ夜と魔法 sts第0話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:12bfa523
Date: 2014/08/25 23:09

さて、ここまで退屈な映像をご覧いただいた観衆に、私は心から侮蔑の言葉を贈ろうとしよう。

君たちの時間は有限だ。この1分1秒を無駄に過ごすということは何にも代えがたい損失と言えるだろう。

これは10年も前に過ぎ去ってしまった記録に過ぎず、君たちはその10年前の一時の出来事を現在という時間を使って確かめた。

その間にも刻まれる歴史が、君たちの人生があったというのに、過去の記録の再生の為にその時間が不意になってしまたんだ。

無駄になってしまったんだ。これを損失を言わず何と言おうか。


―――――ああ、失礼。

人間は無駄を極めた生物だったね。

だからこそ憧れるのだろうさ。

あの何にも侵されることのない極致―――――――永遠に。


未だ繰り返される人生の中で、いったい私は何度彼女と巡り合うのか






七ツ夜と魔法sts
第0話「19」





私こと、ティアナ・ランスターが機動六課入隊前に耳にした、とある人物の噂話はそれこそ眉唾物のネタであった。

過去形であるのは既にその話を聞いていた、ということもさることながら――噂が本当のことだということを理解してしまい、ネタでもなんでもない事実だと知ってしまったからである。


この部隊の隊長陣は化け物だ。


マジックガンナー、オールデッド、悪魔、と物騒極まりない異名を持つ、絶対的サディストな教導官 高町なのは 一等空尉 魔導師ランク・空戦S+

彼女に教えを受けた士官候補生達はその多くが心身を追い詰められ、現場を諦め事務方に転向するか、どのような状況でも不屈の心を持ったストライカーとなり、出世街道を驀進するエリートになるかのどちらかだと。

扱う魔法の中の切り札は2つ

彼女の二つ名にもなっている範囲殲滅型の地獄絵図―――オールデッド・テラ・ジ・エンド

桃色の魔力光球が上空半径500メートルに出現し、一斉に振り下ろされる無慈悲な号令

光球は半自動追尾型(セルフオート)であり、一発でも喰らい対象が動きを止めれば残りの光球が一斉に命中する、防御もしきれないオーバーキルな殲滅技


もう一つは全力時は星をも破壊するのではないかと噂される、マジックガンナーと呼ばれる所以――――スターライト・ブレイカー

魔法戦闘により拡散する魔力素をかき集め、自身の魔力に上乗せして放つ極大の砲撃魔法


何より恐ろしいのは、先に述べた殲滅魔法オールデッドとのコンボ展開ができることだ。

殲滅魔法をよしんば凌いだとしても、そのころには彼女の狙いは定まっている。

必要な拡散魔力は十分に辺りを満たしているため、相手に次の手を与える暇を許さない。

大技の連続であるにもかかわらず、あの人は特段疲れなど顔に見せず、あろうことか口元に残虐な笑みすら浮かべる―――――

「さあ、名前を聞かせて?君の名前を……君自身を教えてくれないかな?」

恐怖に塗られた相手は懺悔のように自身の名を名乗りながら潰される。


でないと、そこに自分がいると認識できないくらいの絶望だから…………


と、高町一等空尉の恐怖話はこのくらいにしておかないと、スバルから後で何を言われるかわからないから、このくらいで区切っておこう。




次なる、化け物・月よりも紅い夜に輝く閃光の蜘蛛……私が現在最も人間関係の中で苦慮している隊長、月を殺す執務間―― フェイト・テスタロッサ 魔導師ランク・空戦S+

私の目標とするべき役職を持ち、それに見合う実力と実績を残す、私生面が見えなければとても尊敬したい人物。

彼女が解決してきた大事件はそれこそ管理局の歴史に残るようなモノはこれと言ってないが、それでも詳細を紐解けば歴史に乗らないのは納得できるくらいの異端なものが大半だ。


曰く、全くの詳細が不明な六連男装の討伐、高町一等空尉の故郷で起き管理局と聖王教会からSS級非常事態宣言も出されたA・B事件の終結、執務間となる前には特秘事件認定されている闇の書解決にも貢献しているとのこと。

そのどれを見ても異端の戦果であり、異形との戦禍を超えてきた経歴の持ち主だ。

しかしながら当の本人は「そんな戦果なんて関係ない。」と、謙虚でいるのは彼女の性格からも納得できるものかと思いきや………


「きいて、ねえ聞いてっ!――――来春、結婚式に着るドレスのカタログ見てるんだけれど、ティアナはどんなのがいいと思う?七夜さんは『お姫様が着るんだ、シンデレラだって見とれるくらいの画になるだろうな』って言ってくれたの!やっぱり白を基調としたものにしようかな?それともちょっと違った雰囲気を出して黒にするか、情熱的に好きって気持ちを前面に押し出して赤にしてみたりして――――――」


……はっきり、正直に言ってウザかった。


普段だったら、多少の不満は飲み込んでしまう性格だと自覚していたけれど、このとき思わず漏れた本音が彼女の導火線に火をつけた時は非常にまずかった。

人間の、魔導士も含めた身体の能力による移動方法を完全に超越した戦闘技法。

彼女ののろけ話の中にもあった七夜という男が使う体術・歩法を魔法のアシストを使って再現しているとかで、普通の生身じゃ絶対に扱えない類の技術らしい。

それを、表情の消え失せた、瞳から光沢が失われた目で見つめながら迫ってくるのだから怖くていられない。



それに、あの言葉はいったい何を意味しているのか………





『世界はね、死で満ちているんだよ―――――それでも私は綺麗だと思う。だって私自身やなのは・はやて・皆も世界を構成するピースの一つだし、何より私はキャスト(代役)だから……』




最後はこんな際物揃いな新人である私たちを含め、個性の強い部隊をまとめる機動六課の課長 

歩くロストロギア、無限の剣製、夜天の支配者、等々――――最早、常識企画な別名が存在しないお方、性格も関西弁?とかいうなまりのある二等陸佐 八神はやて 魔導師ランク・総合SS

あの人は何というか、本当によくわからない。

いつも部隊の訓練はなのはさんや、ヴィータさんに任せているから、これといって私たちにちょっかいを掛けてくる機会も少ない。

それは、彼女の階級は私がこの先十年頑張っても絶対にたどり着けない位置にいて、その職務内容は知略、戦術を巡らせることが必須のものなのだろう。

重要な事項が増えればそれだけ周囲との折衝も必要となるだろうし、下々の部下に構う暇もなくなるのも当然だ。

それでも彼女の才能―――――そう、才能には嫉妬を覚えざるを得ない。

幼いころからの絶対的魔導士の資質、魔導士として覚醒したその時から既にランクS+の判定を受けた寵児、現在は管理局でも10人程度しかいないSSランクに到達した、最年少。

そして扱う魔法はミッド式でも、現代に復刻させたベルカ式とも異なる、古代ベルカ式

更には異端の術式を彼女のデバイス「夜天の書」が納めているという噂もあり、過去に一度フェイトさんと同じくA・B事件に赴いた際には一時的に世界をも書き換える大魔法を行使したともされる。

それに、各分隊の副隊長やサポートメンバーの4人は彼女の所有物という何処か危ないにおいの話も聞く。


それに、一度だけ見てしまった。


訓練場でうめき声をあげ、髪の毛が灰色に落ち、肌が浅黒くなりながら、断末魔のような詠唱を行う――――吐血したかのような赤い外套に身を包んだ彼女の姿を………


『―――――― I am the bone of my sword.』


あの年齢で……いや、あり程の才能を持ちながら、なおも上を目指そうとする彼女にはいったい、何の目標が見えているのだろうか。

年齢だってそこまで離れているわけじゃあない。なのに人知れず血反吐を吐くような訓練をやめない。

どちらにしたって普通じゃなさすぎる。





――――――――っと、日記を書くのもこのくらいにしないと、スバルがシャワールームから戻ってくるころ合いだろう。


私もとっととすませてしっかりと今日の疲れを取らないといけない。

そんなこんなで




いけない、一つ重要なことを書き忘れていた。


シキ・ナナヤ

フェイト執務間の婚約者、6課のアルバイト、夜勤警備(不定期)、ロビーのソファーの占領者。昼寝魔。エロ魔人。フェイトさんのいないところでスバル落としかけたやつ。

むかつく。思い出しただけでもむかつく。

なにが「もうちょっとおしとやかにならないとな」ってスバルの顔を撫でてオーバーヒートさせてんのよ。

あのキザ男。

私たちと同い年くらいで蒼い瞳でそりゃあ顔は割と幼い風だから初対面であんな風に接せられたらちょっとは動揺しちゃうのかもしれないけれど。

それでいてやけに、ちびっこ2名からは慕われているし、スバルはしょっちゅう顔赤くしてるし、ほんっとうに乱れているっていうか、なんというか―――――



今日はここまで。なんだかあいつのことは書いていたら止まらなくなりそう。本当にむかつく。









~あとがき~

人物紹介のようなティアナの日記帳でした。
やっておいてあれなんですが、六連男装は特に深い意味も何もありません。型月クロスの意味合いも含めて。
A・B事件?表記なんて適当ですよ。あえて挙げるなら2の舞台だったり。
設定膨らませた回でした。



[15623] 七ツ夜と魔法 sts第1話
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:12bfa523
Date: 2014/10/06 23:06


飽く程の生の果てに、君が見た風景はいったい何だったのか

宙をみる目はいつも虚でいた


ああ、ならばこれは嫉妬だろう。

あの月を我が手に貶めてこそ、初めて君は私に振り向いてくれるだろう。

そこで初めて始まる。初めて繋がる。

代役の君と、私、その接点はようやく生まれるのだ

じっくりと育もうじゃないか。

其は世界を超えて尚、途切れぬ永遠の鎖なのだから―――



七ツ夜と魔法sts
第1話「運命」



退屈な日常ほど幸せな時間はない。この言葉を俺に投げかけたのは時空管理局の人間だったか、それとも聖王教会の人間だったか。

何にしても穏やかでいられるならお姫様も笑顔な毎日だ。続くのならそれが一番いいんだろう。

けれども異端や異常、"目立つ存在"ってやつはそこにあるだけで他の異物を引き寄せる。

この場合は俺なのか、それともお姫様か――――果てはあの猩々か


「なーにまた寝たふりしとるん。昨日もそうやけど、半分はわざとやってるんは知っとるんよ?」

「なんだ、半分は本気で寝ているのを知ってるんじゃないか。多忙な課長の手を煩わせないためにも、ここは平和でいるべきだろう。」

「自分が動くのは有事の際、だから動いていない今は平和っちゅう、お得意の命題?」

「ご名答。それに、厄介ごとが舞い込んで来たら二もなく勇んで向かっていくよ。―――――どうも、新人の子たちからはあまりいい評価を得ていないようだからね。」

「んふふっ。なんや、やっぱり七夜さんも気にしとったんか。」

それはそうだろう、このまま彼女らがロビーを通る度に奇異の目を向けられるのもうっとおしい。

好きで寝ているのであって、邪魔されるのは御免だ。

「ちょうど、その件なんやけどな、この前の訓練でとうとう新人から声が上がって『七夜志貴はつよいんか?』っちゅう話題になったんよ。」

それは何とも、まるで話をそっちにもっていったのが自分だと宣言しているかのような話の流れだ。

「そこで、午後の模擬格闘で俺が新人の内のスバルあたりと殺りあうことにでもなったのか?」

「字がちゃう、闘るや。因みに業物は木刀でよろしく。」

ああ、面倒だ。

大体、魔法なんて使えない俺が、それこそ魔導士に勝つには様々な条件が付き、それらが整っていなければ到底不可能だっていうのに。

「やれやれ、それじゃあ手当は弾んでくれよ。舞台は郊外廃墟・状況は潜入掃討―――――ヤルならそれこそ4対1が丁度いい。」

目を丸くして固まるはやての顔を見ながら体を起こし個別訓練室へ足を向ける。

この後を考えれば少しは体を動かしておきたい。どうせこの時間だ、シグナムかヴィータでもいるだろう。

久しく見ていない魔法の発動から展開について再度頭に叩き込んでおこう。


魔眼は使わないんだ、そのくらいの事前準備があっても不公平じゃないだろう。




――――――――――――――――――――――――――――――




「ヴィータ副隊長、今日の午後の訓練場所って未定になってましたけれど、結局何処になったんですか?」

―――そう切り出したのは新人メンバーの中でもリーダー的役割を担うティアナであった。


今の時期、日々機動6課が使用する訓練士場所は他の部隊から借用申請が来るほど混雑はない。

そりなりに管理局の所有する訓練施設は複数ある。何処かでの大規模演習や合同演習で空きができればその際に申請が来ることがあっても実際に私たちにはそこまで大きな訓練を行うまでの域にないはずだ。


「ああ。場所自体はいつもの海岸演習所だよ。今日はAMF下での戦闘時における実技訓練だ。」

「AFM―――魔法が使いえない場合の戦闘、ですか?」

たしかに、犯罪者が魔法力をジャミングする結界を使う場合、管理局の魔導士というものは格段にその戦闘能力を下げてしまう。

つまり、ストライクアーツの実技訓練ということだろうか。

「んー今日はそんな大それたことはやらねぇよ。むしろ、今日のメインはどうやって戦うか、じゃぁなくてどうやっても逃げ切るかだ。」

「逃げる…ですか?」

横にいる面々も、普段からは想像もできないという表情をする。

しかしながら、副隊長はまるでふざけてなどいない。


「まあ、あいつ相手に一人でも逃げ切れたら満点―――――は無理だろうから、今日は"5分間" 全滅しなけりゃ合格にしてやるよ。」

それは今の私たちには、"戦って"ではなく"逃げ"に徹してでも、その5分間はつらいものだということだ。

思わずスバルへと顔を向けると案の定、副隊長の発言が気に入らないのか、不満そうな顔をする。

もちろん私も同じ気持ちであり、エリオやキャロも顔を見合わせ副隊長の発言の意図をつかみかねている。


「えっと、僕たちがにげるってことは―――――誰から逃げるんですか?」

エリオの質問がそんなに待ち遠しかったのか、ヴィータ副隊長はニヤニヤとした表情を少しした後、いやらしい眼差しを一同に向け

「今日の鬼ごっこの鬼役はお前らのお待ちかね……夜勤担当のアイツだよ」

アイツという単語から夜勤というフレーズが重なることで導き出される名前はただ一人。


機動6課の夜勤警備アルバイト、自給2000の居眠り男(ゴクツブシ)

フェイト執務官のヒモ

シキ・ナナヤ

「わ、すごーい!ナナヤさんだよ!?ナナヤさんが訓練に来てくれるんだよ!?ティア!」

「煩い、もう!言われなくても聞いてるわよ。」

とたん、横ではしゃぎだすスバルを鎮めようと試みるが2秒で諦めが入る。

全身おバカのこいつはいったいあのキザ野郎のどこがいいというのだろうか。


だいたい、普段私たちの訓練メニューにすら顔を出さないアイツが何故こんな鬼ごっこに―――――


「待ってくださいヴィータ副隊長。まさか私たちはシキ・ナナヤ夜勤担当にAMF下では5分、戦闘どころか逃げることすらできない。―――そう評価されているのですか?」


「ああ、無理だな。目標5分だけれど初回だし―――それこそ1分くらい持てば上出来だ。」

私から納得がいかないという空気がにじみ出ているのにもかかわらず、まるでヴィータ副隊長は想定していたかのように意地悪な顔で笑いながらそう返す。

「そんな、こっちにはスバルさんだっているのに……ナナヤさんはそこまですごいんですか?」

エリオも普段眠りこけているアレに興味があったのだろう。まあ、仮にも代理保護監査人であるフェイト執務官の恋人だ。最近スバルと同じく脳筋になりつつあるからか、物事を強さで見ようとする悪い癖が見え始めてきている。

「うーん……そこまですげーかって言われると、アタシも答えずれぇんだよな。基本空戦はできないやつだし。魔導士でもねーからバリアジャケットの代わりに普段の服をフェイトが魔力コーティングしてるだけだし。」

それじゃあ腕の立つ一般人ではないか。

魔法が使えない空間で、鍛えている男が有利なのは当たり前だ。

「ふん、みんな。倒してやろうじゃない。あの居眠りジゴロの醜態を晒してフェイト執務官を正気に戻してあげましょう。」

「えっと……お、おー?」

疑問を残したまま返事をするエリオや今からそわそわしだしているスバルを見ながら、作戦を組み立てていく。

そんな中でヴィータ副隊長は小さく嗤う






「ま、すぐにわかるよ。………アタシやシグナムですら防戦になるんだからな。」





――――――――――――――――――――――――――――――




「それじゃあ、準備はいいかな?これから5分間、この廃墟エリアではみんなは魔法をつかえなくなります。」

「七夜さんはどこからか君たちを見ていて、全員の行動不能とティアナが持った赤い石を奪いにくるから。君たちのミッションは5分間、その石を守りながらこの廃墟エリアの何処かにある脱出口へ移動すること。―――OKかな?」



高町一等空尉が確認をとる中、漸く頭の中が冷静になってくる。

今回の訓練は言ってしまえば退避・撤収の要素を鍛えるためのものだ。

たとえば、何時だって任務の目的をその場で果たしても。その後に必ずある残りの任務というのは"その場から帰ってくる"というものだ。

ましてや、私たちが後々経験していくであろう任務には違法組織と相対する場面も出てくるであろう。

そうなった際に、どうしても付きまとうのは帰り道、撤収時だ。

重要な物を持ち帰る際、主犯・重要人物を同行させる場合においてもあり得る、敵対側が刺客、追っ手を差し向ける場合だ。

基本的に追跡者のホーム戦となるため、こちらでは撤収者は著しく不利な状況を強いられる。


そして隊長陣が経験させたいのは、それらの難しさを身をもって知ること、各自が指示・行動系統をしっかりと把握し連携をとること―――――

「と、まあ…こんな感じだと思うの。だけど、みんなは当然やるからには成功させたいでしょう?もともと最終的にはこの課題だって失敗じゃなくって、成功に至る過程の行為なんだから目指すのは当たり前。そして、それを考案するのは私のポジション。みんなはどう?初回だからって失敗を前提に課題探しするのと、全力で成功を探しながら進むのは―――――どっちが好き?」

「うん、やるからには全力!全開!じゃなくっちゃ!」

スバルはいつだって元気いっぱいだ。ちょっとおバカだけれど機転も利くし、何より爆発力がある。

「ぼくだって何もする前からあきらめたくありません!」

オチビの特攻隊隊長・エリオもやる気十分。これなら行けるはずだ。



『それじゃあ始めるよ――――――――GO!』



現在地は標的から奪取したロストロギア(赤い石)をもって撤収用のAMFフィールド内部に特殊設置された空間転送施設を探すため、また敵からの目視発見を防ぐため廃屋の内の一部屋に皆で集まっているという設定。

シキ・ナナヤはどこに転送施設があるか知っているし、こちらが今現在どこにいるかまでは知っている。だけど、開始の合図とともに私たちが動き出してしまえばどこにいるかまでは判らないはずだ。

これは狩る側の技巧と、逃げる側の頭脳の勝負でもある。

初回とはいえ、ヴィータ副隊長の言から察するに、夜勤警備の特性を考えると、彼の技能は索敵・気配察知、そして瞬発性のある接近戦闘だろう。


「全員、ばらばらにならないで四方を注視。少しでも目視で気になったことがあったらデバイスを指先の爪で2回たたいて音で報告。」





「――了解。それじゃあ、こんな感じでいいのかい?」


コンコン


エリオのデバイスから響く金属と爪が奏でる軽い音。



それは必要な時に、標的と思わしきモノが見えた時に鳴らせと指示したはずだ。


ああもう、本当にこれだから嫌なのだ。


ガキのお守しかり、スバルのめんどう然り―――――――






「な……なによ、………こ、れ……」


振り向いた先に赤茶色の髪の元気な少年は見えず。ただ黒い髪に、私たちとは違う制服。

いつもロビーで眠りこけていてフェイト執務官のみならずなのはさんや他の女性局員にも甘い声で囁いている女たらしで


いまは訓練の敵役で今から私たちはこいつから逃げなきゃいけないのにエリオのペアはあいつの足元に転がっていて――――

「スバル―――!!」


声をかける前から相棒は既に動き出していた。

振りかぶる拳を体重と回転を乗せ、その一撃は魔法なんかなくても十分に通じるだろう―――――アイツが相手でなかったのなら


「遅い」


その一言を残しスバルの前からアイツが消える。


私もスバルも一瞬も目を離してなどいなかったのに、視界から見失って


カツン



と、音がした方向に首を向けて、なのにそこにアイツの姿はなくて

再びスバルに視線を戻そうとしたら


「模範演技終了――――ここはまだ稽古場だぞ。」



――――そこにはシキ・ナナヤしかいない









「本日の戦績結果、28秒。うん、最初だしこのくらいかな。」

上空でタイム計測するなのは小さく頬を緩めながら、幼き日のヒーローの姿に満足そうに笑みをこぼした。


――――――――――――――――――――――――――――







「なんだよ、なのはが最初にやった時は10秒切ってなかったか?」

「なはは、結局最後まで残れたのがザフィーラとシグナムだけやったもんな。」

「ああ。先程、ヤツと試合ってきたが、一段とキレが増していた。最早ヒトの目では追うことすら困難だろう。」


「さて、みんな目を覚ましたところで、反省会だよ。」


フェイトが声をかけた先には

ふてくされたように立つティアナ、自分はいったいどこでやられたのかイマイチ思い出せていないスバルとエリオ、キャロ

「襲い掛かってきた気配も、隣にいた仲間がいつ戦闘不能にさせられたのか、全く気が付かないまま、どんどん冷静な思考を奪われていきました。」

納得がいかないような顔をしていてもそこはやっぱりティアナだ。

冷静な分析はできている。

「私もエリオがいたはずの場所にナナヤさんがいて、私の拳を身を屈めて避けたってところまでは見えたんですけれど……」

「ごめん。私、もうそこから見失ってた……」

「ティアは悪くないよ、私だってギリギリだったし。―――それで、ティアの後ろで物音がして視線を移そうとしたときに目の前に逆さまの手が見えて―――」

「そのまま音もなく押し倒されたってことね。」

「にゃはは……本当に一瞬だったね。」


それぞれが状況を振り返る中シグナムが一歩前に出て口を開く

「今回の訓練目的は撤収時の危険性、奇襲を仕掛けられた際の模擬演習だ。判ったかと思うが、犯罪者…とりわけ闇に通じる者ほど暗殺技術に精通した刺客を出す。我等の中では七夜が一番その技術を持っていたから、危険性を教えるためにも今日の役を引き受けてもらった。」

つまりそれは普段の夜勤警備に暗殺者を配置しているということだ。

知られてはいけないものを秘匿するために、蛇の道は蛇のごとく―――闇に紛れる陰には影を、毒には毒を……

だけど、それでも今日の状況はAMFでの対峙だ。平時ならばとティアナが考えたところで

「制限のねー場所なら勝てるって思うのは勝手だけどな。それでもやっぱり今のお前らじゃナナヤには勝てないよ。」



『誰が、アイツが一般人だって言った?―――あいつはウチ等6課の中でも例外中の例外なやつなんだからな』


またこれだ。とティアナは唇をかみしめる。

例外、特例、特別、――――――才能。


特殊な力、強大な能力を持つ者ほど優遇されるこの世界。


なぜ、才能がある人たちは…………



「――ア、ティアってば!」


「え、ごめんっ!それで、どうしたのスバル?」

「もう、いい加減お腹減ったから早く食べに行こうよ。ほら、ご飯食べながらでも反省会はできるできるでしょう?」


「ああもう、わかったわよこの馬鹿スバル!食事の時くらい私を悩みから解放させなさい!」










~あとがき~

今回はホラーにしようかどうか迷い、一瞬で終わった
という結果を強調してみました導入回です。

前書きは誰なのかって?そんなの秘密です。

台風で半休状態な日でしたが皆様のご無事を
願います。




[15623] 七ツ夜と魔法 sts ―裏話①―
Name: モンテスQ◆b121c041 ID:12bfa523
Date: 2014/11/26 18:57

だから奪ったんだ

この記憶の中になる君ともう一度逢うために

未だ私は巡り合えていない

逢ったことがるのに、この脳裏にはいささかも色あせず鮮明に焼き付いているのに

だからこそ強欲な今の私は欲する、求める、追求する

たとえこの感情、思考、意志がまったくの違う誰かのものであったとしても

私はそれすらまとめて欲するだろう

確信する、これは私の欲望

故に私だ





七ツ夜と魔法sts
裏話「開始前」






規則正しく電子影のキーボードをタッチしていく音は軽やかなリズムをとっているようでありながら、その打鍵の強さはまるで憎悪を向けた唯一人を追い詰めて刈り取らんとするかのような冷酷な感情もくみ取れる。

フェイト・テスタロッサはひとり電子資料室のアーカイブから該当の情報をリズムを崩すことなく検索し、閲覧していく。


「ウィリアム・コンラッド……オッド・ボルザーク……カール・アマデウス・モルド……」

展開していく情報は全てSSランクの秘匿設定がされた異端有識犯罪者たち。


「これも違う。」


情報を見ながらつぶやく。

なかなかたどり着くことができない。

ハヤテが魔術を使えば、こんな膨大なデータですら容易く踏破してしまうだろう。

だけどもこれは私の戦いだ、たとえ親友だろうともこのヤマにはに踏み込ませるわけにはいかない。

膨大な文字の羅列を流しながらふと、とある項目でスクロールを止める。

「――――――ジェイル・スカリエッティ……………」


みつけた

間違いないだろう、根拠なんて何もない。裏付けさせる情報もない。犯罪歴だって、それこそ内容は決定づけるモノには程遠い。

しかしながら、彼が彼であることを、この眼が―――――魂が訴えかける。


キャスト――――否。これは次の彼だ。

19度目の彼。

そうだ、母さんが言っていた通りだ。

10年前のタタリの――――ワラキアの夜に、ただ一人その仕組みを理解し、私が殺そうとも修正力を利用し復活して見せた本物の吸血鬼。

アカシャの蛇、無限転生。



ミハイル・ロア・バルダムヨヲン


無限の欲望と称される犯罪者は間違いなく、今代のロアの転生先だ。


時間軸など、どれだけ矛盾していようが、すでに関係がないほどに解っている。


これは、遠野志貴の物語でも、七夜志貴の物語でもない。


これは、事の始まりを終わらせるための物語だ。


彼の人の予想通りにことが進むのであれば5人目は既に現れている、されど第6は―――――

「フェイトちゃん、あんまり混詰めると体に毒だよ。」

「―――っあ、…なのは?」

何時の間に資料室に入ってきていたのか、私の顔を覗き込むようになのはは湯気の立つコーヒーカップを両手に前かがみでポーズをとっている。

「ご、ごめん。つい資料整理にに熱が入っちゃって…。」

取り繕う様にモニターのスクロールを再開し、違う犯罪者の項目画面へと移行させる。

「隊長の仕事しながら、個人的にも執務官業務をするのはすごいし偉いと思うけど、大変だったら一声かけてほしいな。私たち親友でしょ?」

「うん。…ありがとう。でも本当に大丈夫、それに丁度さっき、レリックの情報だって拾い上げたところだし、今開いてるディレクトリで最後だから、ちょうど一息つこうと思ってたところだよ。」

平静を装いながら、ひとまずの成果を伝えると、なのはも途端に表情が仕事の時の鋭い目つきに変わる。

「見つけたんだ。裏は?」

「昨年8月のA-304アーカイブから、列車貨物の輸送コンテナが紛失した事件。目撃情報は少ないけれど、攪乱交じりの証言が大半だったから、気になって調べてみたら――――」

「この人に行き着いたんだね?」

なのは持ち込んでいた分厚いファイルのなかから迷うことなくとあるページを開き、一人のプロファイルを見せる

「――――は、はは。やっぱり、なのはには全てお見通しなんだね。」

「何年親友やってると思ってるの?敵を知りて己を知れば、だよ。七夜さんを射るならまずはフェイトちゃんを、そして何をしているのかまで調べつくして、それでもまだ足りないくらいだよ。」

ああ、やっぱりなのはは手ごわい親友(強敵)だ。

まともに戦えばそれこそ私に勝ち目はないほど力をつけて、それでも足りないと、守護者の力に踏み込んでいるハヤテを超えようと日夜努力しているのは彼女の不屈の力(心)が為せる業か。






最後のピースを埋めるのは―――――――――






――――――――――――――――――――――――――――――――――







「――――同調開始(トレース・オン)」



――――基本骨子、解明


―――――構成材質、解明



夜天の書をめくりながら暴れ回る魔力の洪水を制御する。


「――っ、―――次…」



一歩でも間違えればその瞬間、この身は全身の血液とともに爆散するであろう。


それこそシャマルの治癒など間に合う間もなく、一瞬で。


「――――投影、開始(トレース・オン)」

けれども、ここであきらめれば――――そこには「死」しかない

「――――創造理念、鑑定」

管理局は10年前、闇の書を持った私を、守護者の力の一部を書の中に収めた私を―――――――――

「――――基本骨子、想定」

だから、これは毎日がギリギリの綱渡りだ。

「―――仮定完了(オールカット)。是、即無也(クリア・ゼロ)」


現れた聖骸布の外套は私の体に自然と巻き付きその罪を癒す様に目の前の標的に晒しだされる。


『さあ、今日こそ殺せるように。』


構える先には最強の親友。


不屈のエースオブエエース


星を墜すマジックガンナー


高町なのは一等空尉がいるのだから。


「ほんなら、今日もいっちょ死ぬ気でいこか!」

両の手に握る干将・莫邪を彼女に向けて走りだす。


――――今夜もどうやら、生き残ってしまいそうだ。






~あとがき~

今回は導入部分、フェイトとはやてのstsとしてどういった状況にあるかをさわりだけ書いてみました。
え?はやてがなんだって?
FateUBW始まって毎週楽しみにしてますよ。
フェイトが呟いてる人物名は私の趣味です。


続きます。


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