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[15764] メタルクエスト LV.0 ~竜王はとんでもないものを造ってしまったようです~(転生 DQっぽい世界)
Name: 文屋◆e1f384db ID:bfbf77e3
Date: 2010/01/28 20:17
 この光景を見るのは何度目だろう。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 既にそう自問するのも馬鹿馬鹿しい程に繰り返している。

 今、僕の目の前には。

「おお······コーイチよ。死んでしまうとは情けない」

 などとのたまい、額に手を当て嘆く竜王様がいた。


メタルクエスト LV.0 ~竜王はとんでもないものを作ってしまったようです~


 僕は元々、日本の大学に通う、普通の学生であった。

 ある日の大学の帰り道、トラックに轢かれ、気付けば今の身体に。
 ······何というテンプレか。
 あまりのテンプレっぷりに、いつの間にか僕は厨二病を発症していたのではなかろうかと、あの時は内心恐怖したほどである。

 しかし、それ以上の恐怖が目の前にあった。

 そう。
 それが竜王様であった。

 僕が気が付いた時には、目の前に竜王様がいた。
 玉座に座る竜王様はまさに魔王。今まで威圧感や覇気などというものを感じたことがない僕でさえ、それをすぐに感じ認識した。
 混乱と恐怖で身を強張らせる僕に、竜王様が声を掛けてくる。

「ついに目覚めたか、キングスライムよ」

 その言葉に思わず自分の身体を確認した。
 そして感じた、二つの強烈な違和感。
 今までの身体とは明らかに違う、丸っこい形、頭の上に何か重い物が乗っている。手も足もないのに、それがあるようで、ないような、不思議な感覚。たぶん今まで気づかなかったのは、それを認識することを僕が無意識の内に避けていたのだろう。

 そして、もう一つの違和感。
 ······僕の身体、銀色なんですけど。これ、キングスライムじゃなくて、メタルキングでは?

 僕がその疑問をぶつけると、竜王様は眼を反らした。冷や汗を掻いているように見えるのは気のせいか?

「な、何を馬鹿なことを。私が、この私が、間違えることなど、あるわけがなかろう」

 徐に玉座を立ち、僕の目の前までやって来る竜王様。そして、僕の肩らしき部分を思い切り掴んだ。

「お前はキングスライムなのだ、決してメタルキングなどではない! 目覚めたばかりで勘違いをしているだけなのだ、お前はキングスライム、スライムの王、キングスライムなのだ!!」

 竜王様が、肯定しろと言わんばかりの鬼気迫る表情で僕を見つめる。捕まれた肩がものすごく痛い。身の危険を感じた僕は、必死で頷いた。

 それを見た竜王様は再び玉座へと戻る。

「ふむ。解ったならばそれでよい。私が何故、お前を造ったのか、説明しよう」

 今現在の僕の身体、つまりメタルキングの身体は、竜王様が造ったらしい。大陸中のメタルスライムを集め、幾度となく実験を繰り返し、出来たのが僕。そして、その僕を造った理由。それを聞いて僕は妙に納得してしまった。

 誰でも一度はやったことがあるであろう、ドラゴンクエストシリーズ。
 そのドラゴンクエストシリーズに出てくる主人公達、彼らを見て誰でも一度は思ったことがあるはずだ。

 いくら死んでも次の瞬間には安全な場所で復活なんて、どんだけチートなんだよ、と。

 味方にすれば頼もしいことこの上ないだろうが、敵にすれば堪ったものではない。

 だから『勇者の敵』はそのチートなシステムを畏怖し、こう名付けたのである。

 『勇者システム』、と。

 そして、竜王様は思い付いた。なら、こっちも使っちゃえばいいじゃん、と。そのためには、一からモンスターを作る必要があり、僕を造ったそうだ。
 ちなみにキングスライムを選んだ理由は、ベホマ、ザオリクなど便利な魔法を使える、勇者システム仕様キングスライムを大量生産すれば、邪魔者どもなど容易く殺せるはずと考えたかららしい。まあ、それは置いといて。

 つまり、僕はいくら殺されても生き返る、呪文の効かないメタルキングということか。
 僕の中二病は既に末期らしい。
 でも! これほどのチートならば僕の妄想の中だったとしてもいい、僕の天下だ!!

 何か言っている竜王様を無視して、僕は笑いながらその部屋から出る。

 そして、肩慣らしにすぐ側にいた悪魔の騎士らしきモンスターに戦闘を仕掛けた。

「喰らえ!!」

 突貫!


 そして――僕は豪快に地面にぶつかった。

 ······何で? ヒョイスカッ、ヒョイスカッ、ってなったよ!?

 僕が呆然としていると、後ろから殺気が。見ると、先ほどの悪魔の騎士らしきモンスターが、剣を構えていた。

「えーと······平和的に話し合わない?」

 咆哮と共に剣が振り下ろされる。最後に聞こえたのは、自分が真っ二つに裂ける生々しい音だった。


 はっ!! ここは!?
 僕が周りを見渡すと、そこは先ほどの竜王様の部屋。意味がわからず、おろおろしている僕に竜王様が声を掛ける。

「おお······キングスライムよ。死んでしまうとは情けない」

 手を額に当てて嘆く竜王様。
 僕、死んだのか······。
 あの時に感じた強烈な痛み、何かを失ったような喪失感。今思い出すと、身体が震えてしまう。

 僕はこれが妄想でも夢でもないことを思い知った。

「ふむ。落ち着いたようだな。次にお前の名を決めねばならん。何か希望はあるか?」

「それではコーイチで。コーイチでお願いします」

 竜王様はその名前に怪訝な顔をしながらも、引き受けてくれた。
 コーイチは僕の昔の名だ。鈴木幸一。もう僕が使うことはほぼないであろう名前。
 僕には死んだからこそわかってしまった。僕が元の世界に帰ることは難しいであろうことを。僕はおそらくトラックに引かれた時に一度死んだのだ、と。未練がましいことは解っていても、どうしても前の世界との繋がりを保っていたかった。
 だから、僕はこの世界でも生きていく。
 いつか、元の世界に帰れることを願って――

「ふむ。ではこれがお前のパラメーターだ」

 僕は竜王様の言葉で、現実に引き戻された。
 渡された書類にはこう書かれていた。


種族 スライム
分類 誰が何と言おうとキングスライム

親 実験途中にできたどろどろのメタルスライムっぽいもの×2

LV.1

HP 4
MP 30

攻撃力 13
防御力 32
賢さ 25
素早さ 30

次のLVまであと100

 ・・・・・・。

「竜王様!! どこでもいいですから僕を他の場所へ飛ばしてください!! ルーラかバシルーラを使ってください!」

「バシルーラ? 何だそれは? そんなもの知らん。それにルーラを使ったところで着くのはここだろうに。他の場所には自分の足で行くがよい」

 ああ、そうか。DQ1にバシルーラなんて魔法ないし、ルーラ使っても戻るのは最初の城だもんね。
 その時の僕はさぞかし遠い眼をしていたに違いない。

 ・・・・・・これ、何て無理ゲー?

 やっぱりお家に帰りたい。


お·ま·け

 私はいつになく混乱していた。
 キングスライムではなく、メタルキングだと? バカな! スライムの王なのだから、キングスライムなのだ。メタルなど関係あるまい!!

 コーイチが出ていった後、側近どもも部屋から出ていかせる。

「何処だ!? どこに書いてある!?」

 本棚から参考にした書物を抜き出すべく、本を豪快に退かしていく。
 そして、本棚の奥にある本を震えた手で取る。

 スライム百科事典 ~これで貴方もスライムますたー~

 それがこの本の題名。
 私のようなスライムファンには垂涎物の逸品である。
 あの素晴らしきやられっぷりには、心が癒されることこの上ない。
 本を手にした私は、直ぐ様メタルキングのページを探す。
 白黒の巻の一番最後のページに、それが載っていた。


種族 スライム
分類 メタルキング

沢山のメタルスライムがより集まって出来た、メタルスライムの王。
ほぼありとあらゆる魔法を無効化するメタルな体、更に鉄壁の防御力、豊富なMP、強力な魔法。やや、HPに難が有るものの、素早すぎて攻撃が当たることが少ないので、たいした問題ではない。
スライムの中でも特に強力なモンスターである。
メタルキングに初めて出逢った者は笑うしかないだろう。
『何コイツ? マジパネェンダケド』と。


 今現在、この大陸で一番厄介なスライムであるメタルスライムを使うべきではなかった。
 パネェか。よくは知らんが、スライムの欄にもやられっぷりがパネェと書いてあったな。

 ・・・・・・私は無言で本を閉じた。

 ――コーイチが強くなったらサラッと殺られるかもしれん。

 どうやら、私はとんでもないものを造ってしまったようだ。

 この本があの伝説のっ、伝説のカラー版ならば、こんなことには。
 せめて、観賞用があればなあ・・・・・・。


後書き

 主人公、ラスボス付近からスタート。
 つい先日、突然思い付いた。
 モンスターが死んでも勇者のごとく復活させたら面白いのでは?と。
 そんでもってメタルでありながら、チートではない、というよりもならない。強くはなりますが。
 そして、書いているうちに思った。
 これ、勘違い物にもできそう。
 文章量が少なかった場合についてはお許しを。今現在パソコンが使える状態にあらず、携帯で投稿しておりますので。

 ちなみに主人公はDQMのテリーのワンダーランド仕様。
 レベルが上がれば親の魔法も使える。

 ちなみにこれはDQっぽい世界であり、完全なDQ1の世界ではない。
 つまり、出てくるのが1のキャラだけとは限らない。



[15764] メタルクエスト LV.1 ~メタルの道は非常に遠く~
Name: 文屋◆e1f384db ID:bfbf77e3
Date: 2010/01/21 19:29
 ○月○日
 城から強行突破を試みた。
 あっさりと悪魔の騎士に斬殺された。

 ○月×日
 城からこっそりと出ようと試みる。
 モンスターの群れに見つかった。サラッと殺られた。

 ○月△日
 通路を彷徨いていたドラゴンに不意討ちしてみた。
 全く効いていない。怪訝な顔をしている相手に咬まれた。やっぱり死んだ。

 ○月□日
 竜王様に側近を紹介された。
 悪魔の騎士のアックンと、ドラゴンのドラン。
 ちなみに、この二人、既に僕を殺したことがある。何か複雑だ。
 そして城から出ようとしてやっぱり殺された。
 アックンと酒を飲んだ。いい酒飲み友達になれそうだ。


正正正正正正正正正¯ 計 46回


 僕はメタルキングになった翌日からつけている日記を確認しながら、絶望していた。
 既に46回も脱出に失敗している。何故か、日に日に城のモンスターのレベルが高くなっているようだし、何か出る方法を考えねば、ますますここから出にくくなりそうだ。
 竜王様に僕を攻撃しないようモンスターに言ってほしいと頼んだのだが、断られた。本能のままに生きるモンスターの世界は、弱肉強食。モンスターは互いに殺し合ったり、人間を殺したりして、強くなるのである。

 何かいい案はないものか?


 メタルクエスト LV.1 ~メタルの道は非常に遠く~


「おお・・・・・・コーイチよ。死んでしまうとは情けない」

 僕の目の前ではお馴染みの光景。もうウンザリではあるが、城から出られない以上はしょうがない。

 ステータスが通常のメタルキング並みに高ければ良かったのだが、勇者システムを使うためにはレベルを1から始めないといけないらしい。その代わりに、際限なく強くなれるそうだ。
 簡単にいえば、レベルアップしなければ単なる雑魚だが、それさえすればとてつもなく強いモンスターになるということだ。
 なら、たぶんドラゴンクエストモンスターズのように、成長率が異常に高いに違いない。一つレベルが上がれば、防御やMPのステータスが10とか20とか上がる感じで。そうだ、そうに違いない。そう思わなければやっていられない。

 僕が竜王様の部屋から出ると、悪魔の騎士のアックンがいた。ちなみに彼は、僕を一番最初に殺したモンスターであり、僕の最近の酒飲み友達でもある。

「お前も毎日毎日、大変だなあ」

 僕の背中をアックンはポンポンと叩いて慰めてきた。彼は非常にいい人、もとい、いいモンスターだ。彼は竜王様にいつも振り回されて苦労しているらしい。

「ここから出られれば何とかなると思うんですけど・・・・・・外への抜け道とか、ないですよねえ」

「聞いたことはないな」

 やっぱりそんなうまい話はないか・・・・・・。わかってはいても、少し気落ちしてしまう。

「よし! ここは俺に任せろ。友のために一肌脱ごうではないか」

 自分の胸を叩きながら、豪快に笑うアックン。ここは彼に頼ることにした。



 右を見、左を見、身を隠しながら僕を招き寄せるアックン。僕は素早く彼の傍に寄る。

 アックンの作戦は実に単純である。彼が身を隠しながら先行、見つかったら彼が相手をし、僕は逃げ隠れる。

 既にいくつもの階層を抜け、出口は目前。アックンには感謝してもしきれない。持つべきものはやっぱり友である。

 僕らがしばらく移動すると、洞窟の中に眩い光が射し込んでいるのが遠くに見えた。

「あれが出口か!」

 僕は、はやる気持ちを抑えられず、全力で駆け出した。

 そこに黒い影が立ち塞がる。悪魔の騎士だ。

 ソイツは剣を勢いよく振り上げ――振り下ろす。

 僕は衝撃に備えて眼を瞑ったのだが、いつまでたっても痛みが襲ってこない。恐る恐る眼を開けてみると、アックンが悪魔の騎士の剣を受け止めていた。

 アックンと悪魔の騎士は激しい鍔迫り合いで火花を散らす。これが、強力なモンスター同士の戦いか。僕は思わず見とれてしまった。
 そんな僕にアックンが声を荒げる。

「ここまで来てまた死ぬ気か! 早くこの城から出やがれ!! 強くなりたいんだろ!」

 ・・・・・・いかん。少し涙が出そうになった。何ていい人、もとい、いいモンスターなのだろう。

「わかった! ここは任せるよ!!」

 そして、僕は再び出口へと駆け出した。

 そういえば、敵方の悪魔の騎士が、俺のレベルを逃がしてたまるか! とか言ってたけど、どういう意味だろう?



「眩しいなあ」

 出口から出た僕から思わず漏れ出た言葉。
 小鳥のさえずりが耳に心地好く聞こえ、久々に浴びる日の光が眩しい。この体になってからは初めてだけど、それらがひどく懐かしく感じる。

 そして、僕は魔王城から大陸へ渡ることにした・・・・・・って橋がない!?

 DQ1て勇者がアイテム集めて、ローラ姫が橋を創るまで往き来する方法がなかったんだ。

 しょうがない。最終手段を使うか。


 泳ぐ。ただそれだけだ。
 モンスターには明確な体力はない。HPはあっても、動いただけでは減ることはない。まず減るんだったら、僕死んでるし。

「さあ大陸へ、いざ行かん」

 僕は思い切り海へ飛び込んだ。

 ・・・・・・のだが、手足が掻けない、泳げない。
 当たり前である。メタルキングに手足はないのだ。

 意外とメタルキングの体のメタルは、体積が小さいのか水に浮いた。・・・・・・防御力が低いせいだったりして。

 海面に漂い続ける僕の近くに黒い影が近付いてきた。動けない僕にはどうすることもできない。ただ、見続けるだけだ。

 眼前に水飛沫が上がる。そこから触手のある、少し黄色みがかった透明な体を持ったスライムが現れた。そのスライムの眼は鋭く、両目の間についた傷は彼の風格を漂わせている。

 これってしびれくらげ? 1には出てこなかったはずだけど。

「おいてめえ、誰だが知らねえがこのシビシビ様のシマに入るたあ・・・・・・」

 そこまで言ったしびれくらげ驚愕に見開かれた。
 触手を震えさせながら、僕を指し示す。

「そ、その銀色に輝く体躯、ふくよかな身体、全身から滲み出る仁徳、頭に煌めく王冠・・・・・・あ、貴方は・・・・・・スライムの王が一人、メタルキング様じゃあ御座いませんか!?」

 その言葉を肯定した僕に、しびれくらげは感涙しながら先を続けた。

「おお、最後にスライムの王を見てから、いったいどれほどの時が経ったのだろうか? 再び見れる時が来るとは思わなかった。それで、どうしてこんなところにおられるので?」

 僕が彼、シビシビに事情を説明すると、僕を大陸まで送ると言ってくれた。全く幸運としか言い様がない。もちろん、僕は送ってもらうことにした。

 それからの道中には特に問題なく、快適に進めた。ただし、昔は良かっただの、今のスライムは王も歳上を敬わんだの、シビシビのくどい昔話がなければ。

 別れ際にシビシビが、何かあればいつでも力になります、と言っていた。覚えておいて損はないだろう。


 そして、やっと大陸への一歩を踏み出した僕であるのだが。その僕の目の前に、オレンジ色のスライム、スライムベスが立ち塞がった。

「な、何だ、お前は!? メタルスライムか!?」

 スライムベスはおどろきとまどっている。
 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。そりゃあ見たこともないメタルな巨大スライムが現れたら驚くよなあ。
 とにかくここは先手必勝。僕はスライムベスに体当たりした。

「グハァ」

 簡単に吹っ飛んでいくスライムベス。こんなに弱かったっけ? もしかしたら、このスライムベスは戦いなれていないのかもしれない。
 とにかくこれはチャンスである。僕は止めをさすべく、スライムベスへと走る。

 再び体当たりするが、避けられる。逆に攻撃を仕掛けられてしまう。
 突撃してくるスライムベスを避けられず、僕はまともに攻撃を受けてしまった。

「しまっ・・・・・・あれ?」

 自分の身体を確認してみる。当たったときチクリとしたが、何ともない。
 勝てる。これは勝てる!!
 僕は勝利を確認しながらスライムベスへと迫る。対して、スライムベスは俯き何かを呟いている。

「・・・・・・るか。殺られてたまるか!」

 スライムベスが先ほどとは比較にならないほど、凄まじいスピードで突撃してきた。それも回転つきで。
 既に避けられないことを理解した僕は迎え撃つ。
 自分もスライムベスのように突撃する。

 そして、衝突。僕とスライムベスは互いに拮抗・・・・・・しなかった。僕がいとも簡単に吹き飛ばされたのだ。

 あれ? おかしいなー。さっきは何ともなかったのに。
 なるほど、そうか。
 ――これが痛恨の一撃、ってやつか。
 僕の意識は薄れていった。



 はっ、ここは?

「おお・・・・・・コーイチよ。死んでしまうとは情けない」

 振り出しに戻った。
 いつになったらここを出れるかな・・・・・・。

 うちひしがれる僕の前にドランさんがやって来た。
 相談してみると、顎で上の方を指し示す。そこには巨大な天窓があった。竜王様や、飛行できるモンスターが移動するためにある窓だ。

「僕は飛べないんで意味ないんですよね」

「なら、俺が送ってやろうか?」

 ドランさんは大陸の洞窟の門番をすることになったそうで、ついでに乗せていってくれることになった。
 悲しいことに、僕とアックンの努力はあまり必要なかったようだ。

 ちなみに、ドランさんはローラ姫がいる部屋の門番になるらしい。


 ・・・・・・お元気で。貴方のことは忘れませんよ。


お·ま·け

 俺の目の前で倒れるゴールドマン。まさか、倒せる日が来るとは。

 あの銀色の巨大な王冠を被ったスライムを倒した日から、俺の生活は一変した。

 弱かったあの頃とは違う。沸き上がるような凄まじい自身の力を感じるようになった。
 俺は、強くなったのだ。


 俺の名はイムベス。スライムベス一族の中で最弱だったモンスターである。



後書き
 主人公、振り出しに戻る。人生そんなに甘くない。
 いろいろ名前つきキャラを出した。彼らはさまざまな場面で活躍してくれるはず。
 橋がないため、主人公はまた死んだら城に完全に閉じ込められる。
 既にモンスターのとてつもないレベルアップが開始している。勇者よりも竜王の方がピンチかも。

 次回、勇者登場。



[15764] メタルクエスト LV.2 ~勇者はとんでもないものに出逢ってしまったようです×3~
Name: 文屋◆e1f384db ID:bfbf77e3
Date: 2010/01/22 13:45
 ドランさんのおかげで大陸へと到着。
 ラダトーム付近なので危険なモンスターは、まず出ないはず。これからやっと本格的なレベル上げができそう。

「本当にありがとうございました。これでやっと強くなれそうです」

「いや、気にしなくていい。お前には早く強くなってもらわねば、困ることになるのだからな。俺は竜王様に忠誠を誓っている身なのでな」

 あの馬鹿は気づいてないようだがな、と付け加え飛び去っていくドランさん。僕も早く強くならないと。

 それにしても、ドランさんは翼がなく、ドラゴンというよりはデカイとかげっぽいのにどうやって飛んでいるのだろう? 最近とある事情により、急激にレベルアップしたおかげで飛べるようになったらしいけど。

 四本の足を必死でバタバタさせながら飛んでいくドランさんを見てそう思った。


メタルクエスト LV.2 ~勇者はとんでもないものに出逢ってしまったようです×3~


 今俺は、ラダトーム城の玉座の前で立て膝をついている。

「おお・・・・・・勇者アギトよ。死んでしまうとは情けない」

 ラダトーム王がいつもの決めポーズで嘆きながら言った。確かに三日間で二度も死んでしまったのは、我ながら情けないと思うが、あんな化け物を相手にしたのだからしょうがない。

 あれは俺がローラ姫が捕らえられているという、沼地の洞窟へ行くために草原を歩いていた時のことだ。

 俺の前方にスライムベスが現れた。こちらには気付いておらず、周囲の警戒など全くしていない。更には、

「おーれはイムベース最強さ~」

などと鼻唄を歌っている。

 俺はあまりのことに絶句した。こいつ、間違いなく馬鹿だ。これほどまでに無防備なスライムベスなど、いや、今まで倒したモンスターを入れても絶対にいないだろう。

 軽く首を振り、気持ちを引き締める。スライムベスに気付かれないように剣を構える。

 そして、俺はスライムベスに斬りかかった。

「はああっ」

 しかし、剣は空をきる。振り下ろしたそれは地面を抉っただけだった。

 確かに俺は、奴を捉えていたはず。そう。俺の剣は奴の目前まで迫り、それは避けることができない位置まで達した。その時のことだ。俺は見た。奴が、忽然と姿を消したのを。

 ――有り得ない。
 その思いが心を占めるが、現実を否定できるはずがない。
 そして、後方から感じる威圧感。背中の冷や汗が止まらない。間違いなく、こいつは格が違う。

「お前、何者だ? 俺を狙うとはいい度胸してるじゃねえか」

 恐る恐る後ろを向けば、こちらを睨み付けているスライムベス。

 俺は一歩足を退いた。こいつはやばい。逃げようとした時にはもう遅かった。

 奴が動いたと思った次の瞬間には既に俺の懐。下から回転しながら顔に当たられた。

 回転しながら吹き飛ばされる俺。頭から地面に激突した。

 最後に聞いたのは

「てーん下無ー敵のスーライムさ~」

鼻唄の続きだった。


 その後ラダトーム城にいつものごとく飛ばされた俺は、再び沼地の洞窟へと向かった。
 敵に見付からないように必死で移動する。スライムベスらしき影を見たら、全力で逃げながら。

 ここまでスライムベスを警戒したのは生まれて初めてだ。

 必死の思いで到着した洞窟を、松明を灯しながらスライムベスに見付からないよう、進んでいく。

 その時、洞窟の奥にオレンジ色の影が見えた。俺は直ぐ様物陰へと隠れ松明を消し、息を押し殺す。

 ズルズルと引き摺るような音がゆっくりと近付いてくる。止まらない冷や汗、激しく警鐘を鳴らす胸。思わず唾を呑んだ。
 そして、その物体と眼が合う。
 ――オレンジ色のスライム、スライムベスである。

「ぎゃあ~!」

「うわぁ~!」

 余りの恐怖に大声で叫んでしまった。俺が尻餅をつくと同時に、スライムベスが逃げていく。
 俺はそれを見て、あいつじゃなかったのか、と安堵の溜め息をついた。そこへすぐ近くから声がかかった。

「ゆ、勇者様? そこで何をやっていらっしゃるので?」

 そこにいたのは松明を灯した商人らしき人。今にも吹き出しそうな表情である。

「い、いや、何でもない、気にするな」

 俺は逃げるようにその場を後にした。しばらくして、先ほどの男らしき笑い声が聞こえた時、俺の顔は真っ赤になっていただろう。

 そして、俺はようやくここに着いた。目の前にはドラゴン、その奥には分厚い扉。あの奥に姫がいるのは間違いない。
 だが、あれは何だ。

「よく来たな、勇者よ。俺が相手をしてやろう」

 俺の視線は、扉に赤い血で書かれた文字に釘付けになる。少し字が垂れぎみなところが生々しい。

「ちょっと待て!! それは何だ!」

「そ、そんなことはどうだっていいだろう。さっさと掛かってこい!」

 いいわけがない。そこには、こう書いてあったのだから。


『ローラ姫は俺の嫁 by竜王』


「ぐっ・・・・・・来ないならこっちから行くまでだ!」

 ドラゴンが思い切り口を開いた。たぶん、噂に聞いた火の息だろう。

 俺はドラゴンから何がきてもいいように、後ろに飛ぶようにして距離を取った。

 案の定、ドラゴンの口から炎が沸き上がる。
 俺は剣を構えた。あれを避けて奴を斬る。そう、あれを避け、て・・・・・・ってどうやって?

 ドラゴンから放たれた激しい炎は、狭い洞窟内全体を這うようにして迫ってくる。あれでは、虫の通る隙間さえないだろう・・・・・・ってええ!?

「えええーーー!?」

 そして、俺は一瞬で消し炭になった。


 それが、この三日間で俺が二回も死んだ理由である。あんな化け物どもの相手をできる奴がいるならば、お目にかかりたいものだ。

 城から出て、町中を歩いていると町娘に声を掛けられた。

「勇者様! 私の話を聞いてくださいまし!」

「いったい、何があったんですか?」

 町娘から聞いた話によれば、見たこともないモンスターがこの近くで大暴れしているそうだ。

 俺は直ぐ様現場に向かう。そして、俺は固まった。自分の顔が引きつるのを止められない。

 そこでは、変な王冠を被った銀色の巨大なスライムが、スライムを虐殺していたのだ。

 水色の液体の塊が、あちこち点在し、異様さを引き立てている。
 どれだけのスライムを殺れば、こうなるのだろうか。

 不意に、そのスライムと眼が合った。

「何かあったんですか? 顔が引きつってますが」

 爽やかな笑顔。頬に着いた水色の液体が生々しい。親しげに聞かれても、どう答えればいいのか全く解らない。

 だが、俺はびびるわけにはいかない。俺は勇者なのだ。

 俺は巨大なスライムから距離を取る。今回は不用意に近づく真似などしない。俺が使える最強の魔法を放つ。

「喰らえっ。ベギラマ!!」

 ドラゴンの炎には敵うわけはないが、それでもスライム一匹には十分な魔法。
 巨大なスライムが炎に包まれる。俺は安堵の息を吐く。しかし、いつまでたってもスライムが倒れる様子がない。

「ちょっと止めてくださいよ。熱いじゃないですか」

 巨大なスライムはそんなふざけたことを言う。
 ベギラマの炎が消えると、そこに現れたのは無傷の銀色の巨大なスライム。むしろ、付着していた液体や汚れが焼けたことで、光沢が増している。

 ――嘘だろ!? こんなことあるわけがない!

 ベギラマはこの大陸最強の魔法なはず。効かないことなどあるわけない! 俺は必死で魔力を練り直す。

「ベギラマ! ベギラマ! ギラ! ベギラマ!!」

 俺は全ての魔力がなくなるまで魔法を打ち続けた。

「ハアハア・・・・・・」

 全力の魔力消費に剣に手をつき膝をつく。これで駄目なら、玉砕覚悟で突貫するしかない。

「あれ? もう終わりかい? 大したことないんだねえ」

 立ち上がろうとする俺に、声が掛けられた。

「止めときなよ。そんな体じゃ僕には勝てないよ」

 俺は呆然としてしまった。あれほどの魔法、あれほどの炎を身にまとっても、目の前の巨大なスライムは無傷だったのだ。むしろ、銀色の光沢が前にも増して輝きを放っている。

 圧倒的な敗北感。俺は力なく膝をつく。

 その俺に見つめられながら、悠々と去っていく変な王冠を被った銀色の巨大なスライム。
 俺はそのスライムに思わず聞いてしまった。

「お前の名は?」

 そのスライムがこちらに振り替える。

「僕の名はコーイチ。メタルスライムの王、メタルキングのコーイチだ!」

 ちなみに今はわけあってキングスライムと名乗っているけどね、と付け加えてコーイチは去っていた。

 ――見逃された。
 俺は思い切り地面を殴る。ここまで悔しかったのは初めてだ。こんな敗北の仕方は初めてだ。
 そして、俺はこの三日間で戦った強敵どもを思い出す。

 比類無き速さと力を持ち、『俺はイムベース最強さ~』とどこぞのガキ大将っぽい鼻唄を歌う、スライムベス。
 全てを燃やし尽くす炎を放ち、血文字で書かれた『ローラ姫は俺の嫁 by 竜王』を背に戦うドラゴン。
 そして、俺の最強の魔法が効かない変な王冠を被った銀色の巨大なスライム、メタルスライムの王、メタルキングことコーイチ。

 ・・・・・・もうやだ。何この魔王軍。

 そして、一つ思った。メタルスライムって何だろう?


お·ま·け

 ラダトーム付近に着いた僕の前に現れたのは、スライムであった。

 僕は細心の注意を払いながらもそれを押し潰す。

 ついにこの僕にも経験値が!
 スライムだから貰った経験値は1だけど、嬉しいことに変わりない。これで地道にやれば、レベルアップは目前だ。

 次のレベルまでの経験値を紙で確認する。この紙は竜王様の力で、僕のステータスがいつでもわかるようになっているそうだ。

次のレベルまであと99

 ・・・・・・99?

 そういえば、そうだったね。僕はメタルキング。レアで強い魔物。それって、竜王様とかの魔王並みに育ちにくかったんだよね。

 ここは、安全策でいこう。スライムあと99匹か。
 そして、僕は行動を開始する。ひたすらに、スライムを追い、潰し、経験値を得る。顔に着いた液体を取ることもせずに。

 そして、それが三日間続いた頃、ついに僕はレベルアップした。
 紙から流れる、お馴染みのファンファーレにテンションが上がる。
 僕が喜んでいるところに、誰かがやって来た。テンションが高い僕は、爽やかな笑顔で問いかける。

「何かあったんですか? 顔が引きつっていますよ」

 それは一人の少年だった。彼は不意に魔法を放ってくる。

「喰らえっ。ベギラマ!」

 少年の魔法を身体で受け止める。やはり僕に魔法は効かないようだ。
 ここは一度、平和的に話し合うために抗議しておくか。

「ちょっと止めてくださいよ。熱いじゃないですか」

 あ、何か身体の汚れが取れて光沢が増したような。少年が酷く驚いた顔をしている。

「ベギラマ! ベギラマ! ギラ! ベギラマ!!」

 少年が連続で魔法を放つ。大陸最強の魔法を連続で放てるのは凄い、というかまさか勇者?

 斬られたら終わりだよ!? 突撃してこられたら一巻の終わり・・・・・・ここはやるしかない。
 どうやら相手はメタル系の特性をどうやら知らないようだ。だからこそ――ここは騙しきる!

「あれ? もう終わりかい? 大したことないんだねえ」

 口調を変え、強気で言い放つ。
 煙でよく見えないが、勇者らしきシルエットが剣を持つのが見えた。ヤバイヤバイヤバイ。

「止めときなよ。そんな体じゃ僕には勝てないよ」

 そこで勇者は膝をついた。
 そして、僕が一刻も早くこの場から去ろうとすると、勇者が僕の名を聞いてきた。そして、僕はこう答えたのである。

「僕の名はコーイチ。メタルスライムの王、メタルキングのコーイチだ!」


後書き
勇者はまだメタルスライムにあっていなかったり。
もうそろそろ板変更してみたい。
次回 再び振り出しに戻る



[15764] メタルクエスト LV.3 ~コーイチはとんでもないことを知ってしまったようです 前編~
Name: 文屋◆e1f384db ID:bfbf77e3
Date: 2010/01/29 02:10
 勇者に逢ってから一週間。
 既に僕のレベルは3に上がっている。スライムを殺し続けたかいがあった。
 メタルキングの成長率は異常。もう素早さや防御力、MPに関しては、レベル1の時の1.5倍以上になっている。やはり、DQMと同じ成長率らしい。これならすぐに強くなれそう。

 それはともかく。僕は今日ドランさんに逢いに行くため、草原を走っていた。
 走っていく必要はないのだが、これも素早さに慣れるためだ。だって素早さ元の1.5倍を越えてるんだよ。すぐに慣れるわけがない。

 やっと、ドランさんがいる沼地の洞窟が見えてきた。周りに禍々しい色の地面があるが何だろう?

 その地面の上に差し掛かった。足取りが急に重くなる。目眩がした。血を盛大に吐いた。動けなくなった。意識が遠くなってくる。

 ――そうか、これが毒の沼地ってやつか。

 僕、まだHP4なんだよね。
 薄れていく意識の中でそう思った。

 はっ。ここは?

「おお・・・・・・コーイチよ。死んでしまうとは情けない」

 お馴染みの光景を見ながら考える。ここには一度も戻っていないと。つまり、冒険の書に書き込みをしてもらっていないと。何か嫌なものが背をつたう。

 ビクビクしながらステータスの出る紙を見る。

 全てが振り出しに戻った。
 ・・・・・・引きこもろうかな。


メタルクエスト LV.3 ~コーイチはとんでもないことを知ってしまったようです~


 僕は今日も今日とて勢いよく死んでいた。

「おお・・・・・・コーイチよ。死んでしまうとは情けない・・・・・・というか死にすぎだ!!」

 竜王様が大声で叫ぶ。さすがに今までの合計が60回を越えれば言いたくもなるよね。
 でも、しょうがないんだ。レベル1のモンスターがラスボス付近の敵を一体で倒せるわけがない。当然だ。一体で倒せたらそんなのおかしいよ。そう、一体で・・・・・・一体? これだ!

 今まで気付かなかった自分が口惜しい。

「今だにLV1はないだろう。早く強くならんか。そうしなければ他の大陸の・・・・・・」

「竜王様!! お話があります!」

 何やらぶつぶつ言っている竜王様を無視して、詰め寄る。これならいけるはず。

 僕の提案に竜王様はひどく驚いていた。それもそうだろう。今のこの世界においてその概念はない。

 敵も味方も一対一。それが、DQ1のこの世界の常識。僕はそれを覆す提案をした。

 ――魔物の群れの提案である。

 アックンに外へ出してもらった時とは違う。あれはただ、一緒に行動していただけ。
 竜王様がステータスの出る紙に細工をすることで、いくつか条件があるものの、群れの仲間と経験値が山分けできるようになった。これでようやく安全な経験値稼ぎができそうだ。

 早速、アックンの居場所を竜王様に聞き、訪ねることにした。



 目的地に着いた僕は驚愕した。
 僕の前方には鉄でできたドアがあり、そこにドアノブらしき物がついている。そしてドアの上には、よれた字でこう書いてある。

『アッ クソのへや』

 アックソって誰さ? それにいくらなんでも、この隙間は・・・・・・。

 それにしても専用の部屋か。羨ましすぎる。僕が持っていれば一生自宅警備、もとい、自室警備するのに。ビバ引きこもり的な。

 とにかく気持ちを切り替えよう。
 僕はドアを開けようとした。
 が、手がない。背がない。ドアノブ届かない。

 ・・・・・・これ、どうしろと?

 僕がドアに体でノックしてみると、普通にアックンが開けてくれた。

 部屋の中に入る。中にあるのは、岩でできた一つのイスとテーブルと岩でできたベッドらしきもの。
 後で聞いた話によれば、この部屋はアックンお手製らしく、この城では彼と竜王しか部屋を持っていないそうだ。

「それで何のようだ?」

 アックンが奥のベッドに腰掛け、足に肘をおき指を組む。
 渋い。ポーズをとる甲冑の騎士。なかなかに絵になる。
 アックソのへやの住人だとは思えない。

 僕が事情を説明すると、アックンはすぐに、いいぞ、って言ってくれた。なんていい人、もとい、いいモンスター。字を間違えるけど。
 僕は早速紙を取りだし、記入してもらう。ちなみにこの紙は僕のレベルとステータスが出ている紙である。この紙に名を記入してもらい、そのモンスターと共に戦うことで経験値を山分けできるそうだ。

 つまり、アックンが必死に敵と戦い、僕は必死に逃げ回る。そして、勝つと経験値山分け。

 ・・・・・・何て素晴らしいシステム。

 しかし、世の中そんなに旨い話などあるわけなかった。



 何故だろう? 敵のモンスターが尽く僕を狙ってくる。というか、僕を見かけた瞬間突撃してくるのだ。そのほとんどが、『俺のレベルー!!』とか『経験値! 経験値!』とか言って興奮しているのだ。
 そういえば前にもこんなことがあったような。今まで瞬殺されてたから気付けなかったが。

 でも、今はそんなことはどうだっていい。本当の恐怖はそこにはない。あのことは今考えてもおぞけと寒気と・・・・・・吐き気が。


 モンスターの中に重厚なハスキーボイスで『私のレベルさん待って~』とか『あれが経験値なのね!』とか言って襲ってくる奴らがいたのだ。僕が今まで生きてきた中であれほどの恐怖はなかった。
 アックンに聞いたところ、あれがモンスターのメスらしい。
 ――つまり、あんなのがいっぱいいるということか。
 それを聞いた僕の顔色が悪くなっているのに気付いたアックンが、僕の肩に手を置きいつもより優しい声音で語りかける。

「コーイチ。さっき見たことは忘れろ。あんな奴らはいなかった。声を聞くな、耳を塞げ、奴らが口を開く前に殺せ、そして奴らの存在を忘れろ。そうすれば夢の中でうなされることなどないはずだ」

 グッと親指をつき出すアックン。何ていい人、もとい、いいモンスター。でも君にとって彼女達は夢の中でうなされるほどのトラウマなんだね。



 それにしても、レベル、経験値、そしてメタルキングか。
 何やら嫌な予感がするが、DQ1は成長限界が30だったはず、だから大丈夫・・・・・・たぶん。


 それから一週間。何回か殺されたものの、前回の失敗を生かしこまめに冒険の書に書き込みしながらレベル3まで上げた。

 そして、今日も今日とてレベル上げ。しかし、今日は一つだけおかしなことが起きた。

 アックンが敵の悪魔の騎士と戦い、僕が後ろで待機していた時のことである。
 敵方の騎士の動きが突然止まった。訝しんだのであろうアックンは僕の隣まで後退した。すると、突然悪魔の騎士に異変が起こる。

「ガ、ガアアアアアアッ」

 先程とは比べ物にならないほどの気迫、赤黒く盛り上がる筋肉。悪魔の騎士が凄まじい雄叫びを上げる。

 ――狂戦士(バーサーカー)
 その言葉が僕の脳裏に浮かんだ。
 狂戦士が前に出ると同時に、アックンが斬りかかった。しかし、簡単に受け止められ、逆に吹き飛ばされてしまう。
 力がさっきより遥かに上がってる。僕が狂戦士の一撃を受ければ確実に殺られてしまうだろう。

 狂戦士と僕の眼があった。雄叫びと共に突撃してくる。

 僕は全力で逃げ出した!!
 しかし、回り込まれてしまった!

 ・・・・・・ゲームの中ならば簡単に逃げられるだろうが、これは現実である。僕以外のメタルと名のつくモンスターならば素早いから逃げられるだろうけど、素早さのない僕は逃げ切れるわけがない。

「オレノレベルゥー!!」

 狂戦士が剣を振るう。地面が砕けた。再度、振るう。壁にヒビが入った。
 僕はそれらの狂戦士の攻撃を必死で避け続けた。アックンが戦っている間、ずっと逃げ続けていたおかげで避ける技術だけが向上していたらしい。全く嬉しくないけれど。

 しかし、ここは狭い通路の中。いつまでも避け続けることができるわけがなく、僕は壁際に追い詰められてしまう。
 左右を見ても逃げ場所はない。

 僕の目の前で狂戦士が剣を振り上げる。

 だが、その時。僕は見た。僕が狂戦士の剣が降り下ろすのを見ていることしかできず、ようやく立ち上がったアックンがこちらに駆けつけようとしている時。

 狂戦士の降り下ろした剣が――狂戦士の腹に突き刺さった。そして、倒れる狂戦士。彼は二度と動くことはなかった。

 あれ? おかしいなー?

「大丈夫か? コーイチ」

 駆け寄ってきたアックンが声を掛けてくる。
 僕はアックンに向き直り、口を開く。

「大丈夫だけど、アックン、まさか彼は・・・・・・」

 そう。間違いなく、彼は。

「究極の自虐プレイに目覚めたんだね」

「それは違うぞ」

 速攻で否定された。

「この騎士はみなごろしっていう特技を使ったんだよ」

 み·な·ご·ろ·し。
 あの自分自身を含め誰に当たるかわからない代わりに、攻撃力が通常よりも高いという博打的な特技か。
 この世界では、誰かに攻撃が当たるまで理性を失うらしい。しかし、そんなものを使えばこの狂戦士のように、自分が死ぬ可能性があるから使う者は滅多にいないそうだ。
 やっぱり彼は自虐プレイに目覚めていたんだね・・・・・・。

 いや、今はそんなことはどうだっていいんだ。やはり、何かがおかしい。
 DQ1には特技などというものはなく、ましてや、みなごろしなど存在してしない。

 なら、何故彼は使えたのか。そもそもここはDQ1と全く同じ世界なのか。すぐに調べてみる必要がある。

 その前に一つ確認をしてみようと思う。アックンのステータス。それを確認すれば何かわかるかもしれない。
 確か僕のステータスが出ている紙の、仲間の名前部分を押せば表示されるらしい。

 ポチっとな。

 表示された。さすがアックン、高いステータスだ。さて、レベルは?

 あれ? おかしいなー?

 手がないため、眼を擦る代わりに眼を瞑って頭を振る。

 もう一度、見た。

 あれ? おかしいなー?

 ――LV.52

 それがアックンのレベルであった。

 ・・・・・・これってまずくないかな?



お·ま·け


 最近、モンスターの様子がおかしい。
 キングスライムの、キングスライムのコーイチを造ってからか。

 モンスターには仲間という概念がないため、通常ならば常に一人で行動し誰の指図も聞かない。
 しかし例外として、私のような魔王の称号と突出した力を持つ者には従うのだ。

 ところが、私が何か命令を下すと、モンスターたちがあからさまに嫌な顔をするようになったのだ。

 先ほど食事を持ってくるように指示を出したドラゴンなどは、舌打ちまでしたほどである。

 理由はわからない。だが、このまま舐められ続けるわけにもいかないだろう。

 今一度、私の力を示さねばならぬようだ。

 ・・・・・・とその前に、提出されている魔物の群れ申請書を片付けねばならんな。

 コーイチもなかなか良いことを思い付く。魔物の群れとはまさに盲点だった。

 これでモンスターの連携も良くなるに違いない。強敵も倒しやすくなるだろう。

 本当に素晴らしいシステムだ。コーイチには感謝せねばな。


後書き

やっと主人公はまともなレベル上げができるようになりました。ただ逃げているだけですが。
ちなみにモンスターの魔法、特技などはDQMを参考に若干の変更をしています。
後は冒険の書について。
ここはさんざん迷ったのですが。
主人公に関しては書き込みしないとその時点までレベルが逆戻りするようにしました。
勇者と違ってお金とアイテムもない主人公が差し出すコストであると同時に、セーブ=バックアップという設定です。
そうじゃないと本拠地の意味があまりないですし、冒険の書の機能がないなと思ったからです。

次回、後編。いろんな秘密が明らかに。

それと最後に。板変更しようとおもうのですが・・・・・・いいでしょうか?


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