※BLACKLAGOON×CANAANのクロス作品です。
「我々の次なる作戦のためにあれは不可欠なのは重々わかっています、それは勿論、可能です……。経路からして、あの場所に、あれがあるのは確実です。た、ただし、武器獲得に関しては、いささか街のルールに沿うということになります。なので……」
眼鏡をかけた城髭の中華系の男は、歯に何かが挟まったものいいで、話を続ける。ここまで、長い船旅、ただでさえ疲れているのに、男の話を聞いているだけで余計に疲れが増す。片腕の女は、サングラスをとると、案内役の男を見る。その目は、銃を向けられてもいないのに、男を殺すほどの殺気に満ちていた。男は額から汗をダラダラ流しながら、唾を飲み込むと頷いて
「金額的なものなどは、すべて、現地の武器売買を行う店が取り仕切っています」
「……それは、武器の買値は不明ということか?」
「は……はい。申し訳、申し訳ありません!!」
片腕の女の隣にいた白髪の女は銃を案内役の男に向ける。
案内役の男は、『ヒィ』と声にならない声で、その場に腰を落としてしまう。
「やめておけ」
「……だけど、彼に対する命令は、この場所での補充のための経路確保。彼はそれを達成できなかった」
「だから殺すのか?」
「結果だけが必要だと言ったのは貴方」
黒い長い髪を片腕で纏めながら、片腕の女は笑みを浮かべる。
「従順だな?だが、まだ利用価値はある。この街の案内は必要だろう?」
「うん……」
片腕の女の前に広がる、街の明かり。
だが女が注目したのはそこではない。この街には匂いがする。そう、まるで死の匂い。とても面白いことになるかもしれない……。片腕の女、国際テロリスト『蛇』の大首領である通称アルファルドは、口元を歪ませながら、歩き出す。
港に掲げられた名前
「ロアナプラ……」
BLACK LAGOON
×
CANAAN
第1話 遭遇
『渋谷事件は、多くの被害者を出しながらも、その犯行を止めることに成功しました』
『死傷者は不明でありますが、現在、感染の疑いがある人たちに対して日本政府は、引き続き、治療薬を配布し、救命活動を行っております』
『このウイルスはウーアウイルスと呼ばれ、感染後約12時間以内に体中から血液を放出し死亡するものであります。この脅威のウイルスは……』
『犯人グループの組織は『蛇』と呼ばれており、現在国際指名手配を受けたテロリストであり……』
『上海で開かれている対テロリスト国際会議にて、テロ事件が発生しました。各国首脳が人質ととられており、犯行グループは、渋谷で事件を起こしたテロリスト
『「蛇」ということで…』
『現在、治療薬を持って大沢氏が、上海に治療薬を移送中ということで……』
『死傷者は各国官僚11名にのぼっており、まだ増えると思われています。ですが、各国首脳に被害がなかったことが……』
『依然として、国際テロリストである『蛇』の足取りは掴めておらず、ウーアウイルスの再度のテロを阻止すべく……』
「こちらが……」
「知らない顔でもないだろう。ミスター張。久し振りだな?」
白髭の男を無視し、話を切り出した片腕の女、アルファルド。
黒いサングラスをかけた、身を整えたミスター張はアルファルドを見てその襟首に掴みかかる。背後で大人しく見ていた白髪の女が銃を抜こうと腰に手をあてる。張の背後でも、それに敏感に反応し銃を抜こうとした部下。アルファルドは白髪の女に銃を抜かないよう、手で合図をする。張は余裕を見せるアルファルドに顔を近づける。
「何をしに来た!?いや、そんなことはどうもいい。今すぐ此処から出て行け」
「何をそんなに動揺している?」
「此処はお前達が簡単に足を踏み入れていいほどの場所ではないといっている!」
「それがどうした?」
「お前はここの連中がどういった奴らか知らない!ここにはここにやり方があり、その上で成り立っているんだ。お前らのような余所者が来て、ガソリンに火をつけられる訳にはいかないんだ!」
張は、アルファルドの襟首を離す。
アルファルドはソファーに倒れ、大きく息を吐く。
「私が欲しいもの。それさえ手に入れればここから発つ」
「ああ、さっさと出て行ってくれ!」
「武器商を探している」
「……わかった。お前達には宿屋を用意させる。そこから一歩も外に出るな」
「わかった」
アルファルドと、その連れは、そういって部屋を出て行く。
張は、息をついてヤレヤレといった形だ。あれだけの有名人が、なぜこんな場所に…。武器が目的とか言っていたが。こんなところでドンパチされた日には叶わない。それに、あの女は、危険だ。普段冷静であるが、その心の底は、まるでテロを起こすことにのみ執着した狂人だ。故に、その心は読めない。
「やれやれ、居心地がよすぎる街と言うのも、問題だな」
張は、溜息混じりにソファーに寝そべって告げる。
「……あのまま、放っておくのですか?」
張の配下の男が問いかける。張は、溜息混じりに天井を眺めながら、彼女の表情を思い出す。相変わらず冷たい顔。彼女と会ったことがあるのは、一度か二度くらいだが、何も変わらない顔だ。あの女は、中国のマフィアとも癒着のある存在。隠れ蓑であるダイダラ社(民間軍事会社)とは、自分たちも何度か武器調達などで世話になったことがある。しかし、その隠れ蓑であったダイダラ社も以前の国際会議でのテロ行為での姿が露骨になり、解散させられたと聞いた。資金不足における武器調達?
「……ダメだ、全然。こんな発想は、そこらの中途半端なテロリストの考えることだ」
起き上がる張は、部下のほうを見る。
「奴らの動きは2人一組で監視を続けろ。何かあればすぐに俺に連絡するんだ」
「わかりました」
「くれぐれも変な考えは起こさないことだ。アイツに勝てるのは、地球上探してもそうはいない」
張は、そういって部下を見送ると、テーブルに置かれた電話を見る。
彼の脳裏に浮かぶのが、このロアナプラを取り仕切るものの1人、『ホテル・モスクワ』を指揮する軍人崩れのロシア人女である、バラライカ……。彼女に伝えるべきことか否か、張は、タバコに手をかけると火をつけ、大きく息を吐いた。
車に乗り込んだアルファルドたちは、ロアナプラの町を眺めながら目的地の宿まで向う。その古びた町並み。活気のあるその場所……。だが、その町並みには、どこか懐かしさを感じる。これは最初に訪れて感じた死の匂いに他ならない。
「何か感じるか?」
隣に座る白髪の女に告げるアルファルドに、白髪の女は頷き
「皆、無色に見える」
「無色?」
「うん、ここの人間たちには、まるで色がない。死んでいるみたいだ」
アルファルドは、その言葉をどこかで聞いたことがあった。
そう、思い出した。
あれは、あの女…カナンが言っていた言葉だった。
自分を死んでいるといったのだ。亡霊に取り付かれ、足掻いている孤独な私を、彼女は既に死んでいるとそう断言した。思い出すとどうにも笑いがこみ上げてくる。そう、自分もここの連中と一緒ということだ。
「フフフ、アハハハハ……。無色の町か。なるほど楽しめそうだな?この街は」
アルファルドはもう一度、外の町並みを眺めながら告げる。これからの舞台となる場所。ただの場所では面白くない。
暫くして、車が到着し、アルファルドが白髪の女とともに、外にと出る。目の前にあるのは、このロアナプラでは1番にいいホテルである。この街の一番となれば、ある程度の場所ではあるが。それでも、港のほうに行けばいくほど貧困街であるこの場所では、かなり山のほうにとなる。
「張のところの車のようだけれど……張はいないのかしら?」
車から降りた運転手が、現れたロシア人女に対して頭を下げる。アルファルドと白髪の女が、声をかけてきたロシア人女を見る。顔に火傷のあとが目立つ、その女。ロシア人女は、アルファルドの元にと近づいてくる。
「見たことのない顔ね。張の女といったところかしら?お嬢さん」
ロシア人女は、手を出して自己紹介の握手をしようとする。アルファルドは、己のない片腕を見せる。女は『失礼』と言葉を零し、反対側の手を差し述べる。アルファルドは、ロシア人女と握手をし、相手の顔を見る。
「初めまして、バラライカっていうわ。よろしく」
「初めまして。アルファルドという。」
バラライカは、その名前を聞いて一瞬、目の色が変わる。だが、すぐに表情を戻し、手を離すと、傍にいたポリスとともに、近くに止まっていた自分達の車にと戻っていく。アルファルドは、自分の横を通り過ぎていったバラライカを見ることもせずに、張の配下に案内されるがまま、ホテルにと入っていく。
「軍曹」
車に乗り込んだボリスに問いかけるバラライカ。
ボリスは後部座席を鏡で見ながら、車のエンジンをいれる。
「はい?」
「あの女、アルファルドといったな?」
「はい」
「今の女の顔と名前、よく覚えておけ。いずれ、合間見えることになるかもしれない相手だ」
バラライカは葉巻を加えながら、先ほどの女…アルファルドを思い出す。片腕ではあるが、あの目つき、そして染み付いた戦いの匂いは消えるものではない。只者ではないことは明らかだ。張がホテルにまで用意させる相手……興味が湧くじゃないか。バラライカは、口元を歪めながら、新たな戦場の予感に、胸を躍らす。
「……ここが、ロアナプラ」
車ら降り立った白髪の少女が、地図を見ながら街に入る。
車の運転手は、駄賃を貰えば、そのまま、別の道にと走っていってしまう。東南アジアということで赤道も近いということで、やはり暑い。少女は、そんなことを感じながらも、街に足を踏み入れる。昼間のロアナプラは、活気な町だ。様々なところで人が商売をしたり、店を営んだりしている。少女は地図に書かれてある一軒の居酒屋を探す。どうやら、そこで情報がいろいろと集まっているようだ。確か名前は…イエロー・フラッグとかいったかな。ここまでくるのには、結構時間がかかった…。
1週間前……。
「何度か聞いたことがあるね、その名前」
『はい。東南アジアでも裏稼業を勤めるものでは有名な場所です。麻薬、武器売買が横行し、情報工作員なども多数潜入している危険な場所です』
「なるほど、あなたがいうのならばきっとそうなんだろうね」
『念のために、現地の知り合いに声をかけておきました。きっと手助けをしてくれるはずです』
「了解。何かあったら連絡するよ」
これだけなんだから、後は送られてきたものを見て、ここまできたわけだ。まったく、あの人も人使いが荒い。
「おいおい、見慣れない顔だな?」
「お嬢さん、折角だから街案内してやろうか?」
ふと気がつけば、路地に入ったところで、目の前に何人かの男が、自分を取り囲んで声をかける。どうやら、自分はこの街では目立つようだ。彼らは、腰にある銃を握りながら、自分にと近づいてくる。
「なあ?黙ってないで、いいだっ、ぬわああああ!!!」
近づいてきた男の手を掴んで、一回転して投げる。続いて近づいてきた男の足をなぎ払って、胸に足を踏みつけ、気絶させ…最後の驚いて呆然とする男の頭に銃の握りの部分で叩き、意識を失わせる。無駄に命を奪わない……、これはマリアとの約束だ。
「ひゅ~~、強いね?お嬢ちゃん」
「ああ、だけど、場所をわきまえねーとな」
そこには、数人の男たちが銃を握り、自分にと迫っていた。残念ながら早速約束が破られてしまうかもしれない。少女は、溜息をついて、銃を握る。
「やっちまえ!!」
狭い路地で銃を抜く男達に対して、少女は、その目を光らせる。彼女に備わった『共感覚』聴覚・視覚などの五感覚をひとつとして感じることができる彼女の力は、人よりも優れた感覚で、戦いを繰り広げることができる。銃を撃つ彼らの動きを捉えながら、狭い、挟まれた壁の路地を片方の壁に飛び、さらに反対の壁に飛ぶようにして、銃を避ける。そして彼女はそのまま、男達の真上を飛び越え、振り返ると、銃を放つ。その弾道はすべて男達の銃を握る手に集中される。
「ひぃ!?」
「ば、バケモノだ!!」
男たちはその圧倒的過ぎる強さに、悲鳴を上げながら、逃げていく。
少女は銃を仕舞い、元来た道に戻ろうと振り返る。
「やるじゃない?お嬢ちゃん?」
顔をあげた白髪の少女の前にいたのは、黒髪の中国系の女。
彼女は白い歯を見せて、こちらにとやってくる。
「この街になにかようかい?もしあれだったら……案内してやろうか?」
彼女の色が変わる。
少女は、即座に銃を抜くと、相手に瞬時に近づいて、体勢を低くし銃を握り、下から上に突きつける形となる。中国系の女もまた、相手の動きに合わせて、二挺拳銃を、少女にと向けていた。
「オーライ、本当にやるな?誰だ、お前?」
彼女は、そういって両手を上げて銃を離す。
少女もまた息を吐いて、銃を仕舞う。
「私はここにある用があってやってきた。きてみれば、だれかれ構わず銃を向けられる」
「アハハハハ、それは仕方ないぜ?この街に来る奴って言うのは、みんなカモられるか、または、逆にカモる奴かのどっちかだからな」
中国系の女はそう笑いながら、少女のほうを見る。
この街はどうやら、銃が物を言う世界であるらしい……。
「レヴィ!なにやってんだよ?」
男の声に中国系の女が振り返る。
どうやら彼女の名前は『レヴィ』というらしい。
「なんだよ、ロック。買い物はお前に任せたはずだぜ?」
「違うよ、もう終わったんだ。だから…次の、ん?誰だい?彼女?」
「ああ、いまさっき、会ったばかりの奴だ。だけど、こいつ強いぜ?あたしに迫る勢いを感じる」
「初めまして、僕はロック。君は?」
「……私は、カナン」
この男性からは、曖昧な色だ。レヴィと呼ばれた女と違って、戦いに染まっていない色。だけど、半分染まっている。中途半端なわからない色。
「よろしく。見かけない顔だけど、なにかあったのかい?」
「またでた、ロックの偽善者ぶりが……」
レヴィは溜息をつきながら、肩をすくめる。
こうして、変な遭遇から……カナンは、ロックとレヴィとともに、イエローフラッグにと向うこととなった。イエローフラッグ、この街の中立地点であり、そして情報が集まる場所。私達の遭遇は、必然だったのか……。この出逢いが、新たな戦いの幕開けになるとは、私達は、まだ知らなかった。