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[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 【完結】
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/03/17 00:03
※BLACKLAGOON×CANAANのクロス作品です。









「我々の次なる作戦のためにあれは不可欠なのは重々わかっています、それは勿論、可能です……。経路からして、あの場所に、あれがあるのは確実です。た、ただし、武器獲得に関しては、いささか街のルールに沿うということになります。なので……」

 眼鏡をかけた城髭の中華系の男は、歯に何かが挟まったものいいで、話を続ける。ここまで、長い船旅、ただでさえ疲れているのに、男の話を聞いているだけで余計に疲れが増す。片腕の女は、サングラスをとると、案内役の男を見る。その目は、銃を向けられてもいないのに、男を殺すほどの殺気に満ちていた。男は額から汗をダラダラ流しながら、唾を飲み込むと頷いて

「金額的なものなどは、すべて、現地の武器売買を行う店が取り仕切っています」
「……それは、武器の買値は不明ということか?」
「は……はい。申し訳、申し訳ありません!!」

 片腕の女の隣にいた白髪の女は銃を案内役の男に向ける。
 案内役の男は、『ヒィ』と声にならない声で、その場に腰を落としてしまう。

「やめておけ」
「……だけど、彼に対する命令は、この場所での補充のための経路確保。彼はそれを達成できなかった」
「だから殺すのか?」
「結果だけが必要だと言ったのは貴方」

 黒い長い髪を片腕で纏めながら、片腕の女は笑みを浮かべる。

「従順だな?だが、まだ利用価値はある。この街の案内は必要だろう?」
「うん……」

 片腕の女の前に広がる、街の明かり。
 だが女が注目したのはそこではない。この街には匂いがする。そう、まるで死の匂い。とても面白いことになるかもしれない……。片腕の女、国際テロリスト『蛇』の大首領である通称アルファルドは、口元を歪ませながら、歩き出す。

 港に掲げられた名前

「ロアナプラ……」






BLACK LAGOON
×
CANAAN


第1話 遭遇







『渋谷事件は、多くの被害者を出しながらも、その犯行を止めることに成功しました』

『死傷者は不明でありますが、現在、感染の疑いがある人たちに対して日本政府は、引き続き、治療薬を配布し、救命活動を行っております』

『このウイルスはウーアウイルスと呼ばれ、感染後約12時間以内に体中から血液を放出し死亡するものであります。この脅威のウイルスは……』

『犯人グループの組織は『蛇』と呼ばれており、現在国際指名手配を受けたテロリストであり……』

『上海で開かれている対テロリスト国際会議にて、テロ事件が発生しました。各国首脳が人質ととられており、犯行グループは、渋谷で事件を起こしたテロリスト

『「蛇」ということで…』

『現在、治療薬を持って大沢氏が、上海に治療薬を移送中ということで……』

『死傷者は各国官僚11名にのぼっており、まだ増えると思われています。ですが、各国首脳に被害がなかったことが……』

『依然として、国際テロリストである『蛇』の足取りは掴めておらず、ウーアウイルスの再度のテロを阻止すべく……』






「こちらが……」
「知らない顔でもないだろう。ミスター張。久し振りだな?」


 白髭の男を無視し、話を切り出した片腕の女、アルファルド。

 黒いサングラスをかけた、身を整えたミスター張はアルファルドを見てその襟首に掴みかかる。背後で大人しく見ていた白髪の女が銃を抜こうと腰に手をあてる。張の背後でも、それに敏感に反応し銃を抜こうとした部下。アルファルドは白髪の女に銃を抜かないよう、手で合図をする。張は余裕を見せるアルファルドに顔を近づける。

「何をしに来た!?いや、そんなことはどうもいい。今すぐ此処から出て行け」
「何をそんなに動揺している?」
「此処はお前達が簡単に足を踏み入れていいほどの場所ではないといっている!」
「それがどうした?」
「お前はここの連中がどういった奴らか知らない!ここにはここにやり方があり、その上で成り立っているんだ。お前らのような余所者が来て、ガソリンに火をつけられる訳にはいかないんだ!」

 張は、アルファルドの襟首を離す。
 アルファルドはソファーに倒れ、大きく息を吐く。

「私が欲しいもの。それさえ手に入れればここから発つ」
「ああ、さっさと出て行ってくれ!」
「武器商を探している」
「……わかった。お前達には宿屋を用意させる。そこから一歩も外に出るな」
「わかった」

 アルファルドと、その連れは、そういって部屋を出て行く。

 張は、息をついてヤレヤレといった形だ。あれだけの有名人が、なぜこんな場所に…。武器が目的とか言っていたが。こんなところでドンパチされた日には叶わない。それに、あの女は、危険だ。普段冷静であるが、その心の底は、まるでテロを起こすことにのみ執着した狂人だ。故に、その心は読めない。

「やれやれ、居心地がよすぎる街と言うのも、問題だな」

 張は、溜息混じりにソファーに寝そべって告げる。

「……あのまま、放っておくのですか?」

 張の配下の男が問いかける。張は、溜息混じりに天井を眺めながら、彼女の表情を思い出す。相変わらず冷たい顔。彼女と会ったことがあるのは、一度か二度くらいだが、何も変わらない顔だ。あの女は、中国のマフィアとも癒着のある存在。隠れ蓑であるダイダラ社(民間軍事会社)とは、自分たちも何度か武器調達などで世話になったことがある。しかし、その隠れ蓑であったダイダラ社も以前の国際会議でのテロ行為での姿が露骨になり、解散させられたと聞いた。資金不足における武器調達?

「……ダメだ、全然。こんな発想は、そこらの中途半端なテロリストの考えることだ」

 起き上がる張は、部下のほうを見る。

「奴らの動きは2人一組で監視を続けろ。何かあればすぐに俺に連絡するんだ」
「わかりました」
「くれぐれも変な考えは起こさないことだ。アイツに勝てるのは、地球上探してもそうはいない」

 張は、そういって部下を見送ると、テーブルに置かれた電話を見る。
 彼の脳裏に浮かぶのが、このロアナプラを取り仕切るものの1人、『ホテル・モスクワ』を指揮する軍人崩れのロシア人女である、バラライカ……。彼女に伝えるべきことか否か、張は、タバコに手をかけると火をつけ、大きく息を吐いた。





 車に乗り込んだアルファルドたちは、ロアナプラの町を眺めながら目的地の宿まで向う。その古びた町並み。活気のあるその場所……。だが、その町並みには、どこか懐かしさを感じる。これは最初に訪れて感じた死の匂いに他ならない。

「何か感じるか?」

 隣に座る白髪の女に告げるアルファルドに、白髪の女は頷き

「皆、無色に見える」
「無色?」
「うん、ここの人間たちには、まるで色がない。死んでいるみたいだ」

 アルファルドは、その言葉をどこかで聞いたことがあった。

 そう、思い出した。

 あれは、あの女…カナンが言っていた言葉だった。
 自分を死んでいるといったのだ。亡霊に取り付かれ、足掻いている孤独な私を、彼女は既に死んでいるとそう断言した。思い出すとどうにも笑いがこみ上げてくる。そう、自分もここの連中と一緒ということだ。

「フフフ、アハハハハ……。無色の町か。なるほど楽しめそうだな?この街は」

 アルファルドはもう一度、外の町並みを眺めながら告げる。これからの舞台となる場所。ただの場所では面白くない。




 暫くして、車が到着し、アルファルドが白髪の女とともに、外にと出る。目の前にあるのは、このロアナプラでは1番にいいホテルである。この街の一番となれば、ある程度の場所ではあるが。それでも、港のほうに行けばいくほど貧困街であるこの場所では、かなり山のほうにとなる。

「張のところの車のようだけれど……張はいないのかしら?」

 車から降りた運転手が、現れたロシア人女に対して頭を下げる。アルファルドと白髪の女が、声をかけてきたロシア人女を見る。顔に火傷のあとが目立つ、その女。ロシア人女は、アルファルドの元にと近づいてくる。

「見たことのない顔ね。張の女といったところかしら?お嬢さん」

 ロシア人女は、手を出して自己紹介の握手をしようとする。アルファルドは、己のない片腕を見せる。女は『失礼』と言葉を零し、反対側の手を差し述べる。アルファルドは、ロシア人女と握手をし、相手の顔を見る。

「初めまして、バラライカっていうわ。よろしく」
「初めまして。アルファルドという。」

 バラライカは、その名前を聞いて一瞬、目の色が変わる。だが、すぐに表情を戻し、手を離すと、傍にいたポリスとともに、近くに止まっていた自分達の車にと戻っていく。アルファルドは、自分の横を通り過ぎていったバラライカを見ることもせずに、張の配下に案内されるがまま、ホテルにと入っていく。


「軍曹」

 車に乗り込んだボリスに問いかけるバラライカ。
 ボリスは後部座席を鏡で見ながら、車のエンジンをいれる。

「はい?」
「あの女、アルファルドといったな?」
「はい」
「今の女の顔と名前、よく覚えておけ。いずれ、合間見えることになるかもしれない相手だ」

 バラライカは葉巻を加えながら、先ほどの女…アルファルドを思い出す。片腕ではあるが、あの目つき、そして染み付いた戦いの匂いは消えるものではない。只者ではないことは明らかだ。張がホテルにまで用意させる相手……興味が湧くじゃないか。バラライカは、口元を歪めながら、新たな戦場の予感に、胸を躍らす。





「……ここが、ロアナプラ」

 車ら降り立った白髪の少女が、地図を見ながら街に入る。

 車の運転手は、駄賃を貰えば、そのまま、別の道にと走っていってしまう。東南アジアということで赤道も近いということで、やはり暑い。少女は、そんなことを感じながらも、街に足を踏み入れる。昼間のロアナプラは、活気な町だ。様々なところで人が商売をしたり、店を営んだりしている。少女は地図に書かれてある一軒の居酒屋を探す。どうやら、そこで情報がいろいろと集まっているようだ。確か名前は…イエロー・フラッグとかいったかな。ここまでくるのには、結構時間がかかった…。



 1週間前……。

「何度か聞いたことがあるね、その名前」
『はい。東南アジアでも裏稼業を勤めるものでは有名な場所です。麻薬、武器売買が横行し、情報工作員なども多数潜入している危険な場所です』
「なるほど、あなたがいうのならばきっとそうなんだろうね」
『念のために、現地の知り合いに声をかけておきました。きっと手助けをしてくれるはずです』
「了解。何かあったら連絡するよ」


 これだけなんだから、後は送られてきたものを見て、ここまできたわけだ。まったく、あの人も人使いが荒い。


「おいおい、見慣れない顔だな?」
「お嬢さん、折角だから街案内してやろうか?」

 ふと気がつけば、路地に入ったところで、目の前に何人かの男が、自分を取り囲んで声をかける。どうやら、自分はこの街では目立つようだ。彼らは、腰にある銃を握りながら、自分にと近づいてくる。

「なあ?黙ってないで、いいだっ、ぬわああああ!!!」

 近づいてきた男の手を掴んで、一回転して投げる。続いて近づいてきた男の足をなぎ払って、胸に足を踏みつけ、気絶させ…最後の驚いて呆然とする男の頭に銃の握りの部分で叩き、意識を失わせる。無駄に命を奪わない……、これはマリアとの約束だ。

「ひゅ~~、強いね?お嬢ちゃん」
「ああ、だけど、場所をわきまえねーとな」

 そこには、数人の男たちが銃を握り、自分にと迫っていた。残念ながら早速約束が破られてしまうかもしれない。少女は、溜息をついて、銃を握る。

「やっちまえ!!」

 狭い路地で銃を抜く男達に対して、少女は、その目を光らせる。彼女に備わった『共感覚』聴覚・視覚などの五感覚をひとつとして感じることができる彼女の力は、人よりも優れた感覚で、戦いを繰り広げることができる。銃を撃つ彼らの動きを捉えながら、狭い、挟まれた壁の路地を片方の壁に飛び、さらに反対の壁に飛ぶようにして、銃を避ける。そして彼女はそのまま、男達の真上を飛び越え、振り返ると、銃を放つ。その弾道はすべて男達の銃を握る手に集中される。

「ひぃ!?」
「ば、バケモノだ!!」

 男たちはその圧倒的過ぎる強さに、悲鳴を上げながら、逃げていく。
 少女は銃を仕舞い、元来た道に戻ろうと振り返る。

「やるじゃない?お嬢ちゃん?」

 顔をあげた白髪の少女の前にいたのは、黒髪の中国系の女。
 彼女は白い歯を見せて、こちらにとやってくる。

「この街になにかようかい?もしあれだったら……案内してやろうか?」

 彼女の色が変わる。

 少女は、即座に銃を抜くと、相手に瞬時に近づいて、体勢を低くし銃を握り、下から上に突きつける形となる。中国系の女もまた、相手の動きに合わせて、二挺拳銃を、少女にと向けていた。

「オーライ、本当にやるな?誰だ、お前?」

 彼女は、そういって両手を上げて銃を離す。
 少女もまた息を吐いて、銃を仕舞う。

「私はここにある用があってやってきた。きてみれば、だれかれ構わず銃を向けられる」
「アハハハハ、それは仕方ないぜ?この街に来る奴って言うのは、みんなカモられるか、または、逆にカモる奴かのどっちかだからな」

 中国系の女はそう笑いながら、少女のほうを見る。
 この街はどうやら、銃が物を言う世界であるらしい……。

「レヴィ!なにやってんだよ?」

 男の声に中国系の女が振り返る。
 どうやら彼女の名前は『レヴィ』というらしい。

「なんだよ、ロック。買い物はお前に任せたはずだぜ?」
「違うよ、もう終わったんだ。だから…次の、ん?誰だい?彼女?」
「ああ、いまさっき、会ったばかりの奴だ。だけど、こいつ強いぜ?あたしに迫る勢いを感じる」
「初めまして、僕はロック。君は?」
「……私は、カナン」

 この男性からは、曖昧な色だ。レヴィと呼ばれた女と違って、戦いに染まっていない色。だけど、半分染まっている。中途半端なわからない色。

「よろしく。見かけない顔だけど、なにかあったのかい?」
「またでた、ロックの偽善者ぶりが……」

 レヴィは溜息をつきながら、肩をすくめる。

 こうして、変な遭遇から……カナンは、ロックとレヴィとともに、イエローフラッグにと向うこととなった。イエローフラッグ、この街の中立地点であり、そして情報が集まる場所。私達の遭遇は、必然だったのか……。この出逢いが、新たな戦いの幕開けになるとは、私達は、まだ知らなかった。


















[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第2話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/02 20:56



ロアナプラ。


東南アジアにある港町。
その実体は、様々な国際犯罪組織が入り乱れた火薬庫。
だが、火薬庫にはしっかりと鍵がされ、そこを守る番人が存在している。
よって、その場所にはそう易々と火薬が爆発をすることはない。

ロアナプラなりの規律と法律がそこではまかり通っている。
無論、普通の世界では通りもしないことだが。
それらを全員が理解をして、そして今まで成り立ってきた。
如何なるイレギュラーがあったとしても、すべてクールに……。

「なんだ、レヴィ。今日は珍しいお客も連れてるのか?」

 日も落ちたイエローフラッグに、レヴィとロックとともにやってきたカナンに対して、店主は声をかける。彼としては新たな客を歓迎する気持ちと、この客が新たな災難を持ち込んでくるんじゃないかという、2つの気持ちの狭間で揺れ動いている。どちらかといえば、後者が強いわけだが。

「私が連れてきたわけじゃねーんだけどよ?でも、コイツ、すげぇーんだぜ?」
「……人を探してる」

 レヴィの自慢話を置いて、カナンが店主に声をかける。
 店主は、顔をあげてカナンを見る。
 カナンの隣にいるロックもまたカナンの話を聞いていた。


「三合会の張維新を探してる」







BLACK LAGOON
×
CANAAN


第2話 蛇






「ぶうううううう!!!」
「さ、三合会!?って、張さんって、あのミスター張か!!」


 ビールを飲んでいたレヴィが噴出し、ロックが驚きながら、その言葉が本当なのかどうか確認のために再度問いかける。カナンは、頷いてロックとレヴィを見る。その表情は先ほどとなんら変わりはない。

「2人とも知ってるの?」
「知ってるも何も、ミスター張は、このロアナプラを取り仕切るマフィアの1つのボスだ」
「これだから新参者は……。だいたい、張の旦那にあってなにをする気だ?」
「ある女の居所を掴み、打ち倒す」

 カナンの口から飛び出す言葉にレヴィとロックはよく事情が飲み込めない。ロックはなんとか理解をしようとカナンにさらに話を聞こうとする。

「カナン、君はある女を探している。そして、そいつを知っているのは張さんだけだっていうことかい?」
「うん。そういう話らしい」

 カナン自身、これは自分に指示を出す彼女からの話だ。だが、どうやらレヴィ達のリアクションを見るに、割と有名人らしい。ロックはカナンに顔を近づけ…。

「張さんに会いたいなら…」
「おい!ロック!お前コイツの話をまともに取り合う気か?」
「人捜しなら別に問題はないだろう?」
「バカ!こいつが、嘘をついてたらどうするんだよ?!」

 レヴィがカナンを指差してロックに怒鳴りつける。ロックはレヴィに怒鳴られながら、カナンを見る。カナンの澄んだ目……とてもじゃないが、彼女が嘘をついているようには見えない。その目は、言葉では言い現すことができないものを感じ取れる。

「カナン、もう少し詳しい話を聞かせて欲しいんだけど……」

 ロックの問いかけに、カナンは店主から渡されたグラスを見ながら

「これ以上は、いえない。貴方達を巻き込みたくない」

 かつて、巻き込んでしまった数々の人たちと同じようなことを、彼女たちに与えてはいけない。これは自分だけの戦いであるのだから……。

「ありがとう、ロック、レヴィ。ここに張維新がいるということを聞けただけで助かった。後は私だけで……」

 立ち上がるカナン。
 それを制止しようとするロックの肩を掴むレヴィ。

「レヴィ!?」
「へい、ロック……。立ち入りすぎだぜ?この女は私達の知らないところで、私たち以上にヤバイことをやっているんだ」
「どうして、そんなことがわかるんだ?」
「……腕を見ればすぐに分かるさ。あんだけの運動神経と勘、修羅場を潜り抜けなきゃ、あーはならない」

 ロックは、立ち去ろうとするカナンに対して言葉を出すことが出来ない。そう、結局はこの街に訪れるものは、皆そうなのだ。あの双子も、メイドもみんなそうだった。此処に来る目的はひとつ。戦いを行うためだ。何も変わらない……彼女もまたそうであったということだけ。

「そして、彼女の前には戦いしか現れない」

 ロックの言葉どおり、カナンが立ち上がり出入り口に向おうとする際、彼女の前に立ちふさがる1人の女。それは、長髪の背中にまでかかる髪に、中華系の顔立ち、そしてスタイル抜群の身体を併せ持ち、獲物であるナイフを持つ美女……シェンホア。

「面白い話きかせてもらったね?張の旦那に会いたいっていうウスラトンカチはお前ですか?」

 レヴィは、カナンという女の運の悪さに同情をする。
 シェンホアの実力はかなりのものだ、この街でも上位に位置するハンター。しかも彼女は三合会に雇われている。彼女が張に会うと言うことになれば、おそらくは張を暗殺。そうでも感じ取ったか。

「張維新から、人を探しているかを聞くだけなんだけど?」
「あんたみたいなどこの馬の骨かわからない、会わせられますか?」

 カナンに対して、シェンホアは、縄を片腕に巻きつけ、その縄に繋いであるナイフを握り、カナンに対して既に戦闘態勢にはいっている。周りにいた客は突然の戦いの場とかした、その場所で巻き込まれないように2人から離れる。

「随分とここの人たちは喧嘩っぱやいよね?」
「うるさい、ですだよ!」

 シェンホアは、長い片足をあげて、相手に対してナイフを構える身体をカナンに向け、横にと体勢を変える。相手に対する攻撃の面を最小限に抑え、なおかつ足で、身体の胴となる部分の攻撃を抑える。実に有効的な構え方だ。カナンは、相手の構えに対して、目を紅く灯らせる。

 そんな2人の女の戦いに、周りの男たち…そのほとんどが、賞金稼ぎであったりならくれものである彼らには、いいショーとなっていた。賭け出す奴でさえ、出始める。一気にイエロージャックは興奮と、歓声の場所と化す。それらを眺めるレヴィとロック。

「……結局こうなるのか」
「仕方がねぇーだろ。ここはロアナプラだぜ?ロック」

 レヴィは笑いながら、近くを通りかかった賭けに対して金を渡す。





 イエローフラッグで戦いが今まさに始まろうとしている中、ロアナプラにある通称暴力教会では、アルファルドが姿を見せていた。彼女は、部屋に連れである白髪の女とともに案内されていた。教会のシスターであるヨランダと、レヴィの悪友であるエダが対峙する形で、部屋にと入る。ヨランダは、前にいる2人の女を見る。立っている白髪の女のほうの目はまるで何も知らない、子供のような目。ボディーガードのつもりなのだろうか。ヨランダの百戦錬磨の戦った経験と、武器商人として様々な人間をその隻眼で見てきた、その肥えた目で見る限り、この白髪の女よりも、座っている片腕の女のほうがよほど、目が恐ろしい。


 深淵……。


 まるで飲み込まれてしまいそうな闇だ。

「こんな夜中にやってくるなんて、あんたが、三合会の知り合いでなければ通さないところだけどね……」
「すまないな、幾分急いでいる」

 アルファルドは、無表情で告げる。ヨランダは紅茶を飲みながらアルファルドの言葉に耳を傾ける。部屋の灯りに照らされるアルファルドは、ヨランダを見る。

「欲しいものはひとつ、核兵器だ」

「なっ!?」

 思わず声を上げてしまうエダ。
 彼女の言葉があまりにも突拍子もないことだったからである。核兵器!?そんなものをどうしようというんだ。エダは、声をあげ、そのまま視線をアルファルドにと向ける。

「そんなものはないね」

 ヨランダは、アルファルドの言葉に対して、眉1つ動かさずに言う。アルファルドは、ヨランダの言葉を聞きながら口元を歪ます。

「最近、とあるテロリストの車両団から核兵器の一部が強奪されるということがあった。なんとも情けない話だが、強奪した犯人は後に確保、東南アジア人であり、彼はそれを売ったと言った」

 彼女の言っていることは本当なのか嘘なのか。エダは視線を前の2人に向けたままヨランダの次の言葉を待つ。

「とにかく、私は知らないよ。他をあたることだ。それに、あんまりこんなところで、時間をかけていると、張がくるよ?」
「……」
「そりゃーそうだろう。こっちもこういう商売だ。相手の素性だって調べる。三合会の知り合いであることは張も認めてたがね。あんた達の自由な旅行は認められていないといっていたよ?」

 アルファルドは、ソファーにもたれながら、クスクスと微笑む。

「だから言っただろう?時間がないと……」






 ナイフをこちらにと向け、投げつけるシェンホア。

 カナンは、投げつけられたナイフを背中を反らし、瞬時に交わす。だが、交わしたと思いきや、シェンホアは、ナイフに繋がったロープを巧みに操り、カナンの首を狩ろうと狙う。カナンは一度避けたものが戻ってきたことに、床を、ころがり避けると動じに、銃を先ほどシェンホアがいたところにと向ける。だが、そこには既に姿がない。気配を感じ、上を見れば、天井に舞っていたシェンホアは天井に足を着けて勢いよく、ナイフを握り突っ込んでくる。カナンは銃を向け、放つ。

「!?」

 シェンホアは、相手の隙を突いたものの、まるで最初から動きを知っていたかのような適応の早さに、違和感を覚える。床に刺さった割れたナイフの変わりに、別のナイフを取り出し、割れたナイフを繋いでいたロープを、カナンに投げ巻き付ける。

「っく!?」
「これでもう逃げられないよ」

 シェンホアは、相手との距離を捕らえながら、互いを繋いだロープを手繰り寄せながら、ナイフを片手にして、その場を回る。どこからどう攻めようか考えているのだ。一方のカナンも銃を握りながら、片手に巻きついたロープに引っ張られながら、銃を握り、隙をうかがう。

「あんた、なかなかやるね?」
「貴方も……」

 ぐるぐると回りながら、二人は冷戦を続ける。
 相手の隙をうかがい、首を狩るのか、銃弾を打ち込むのかのやり取りは、実際の戦いよりも神経を使う。考えるよりも動くレヴィでは出来ない戦い方だ。

「張の旦那にあってなに聞くつもりですか?」
「……ここに、危険な奴が来ている。そいつを止める」
「危険?ココいつも危険満載ですだよ。たった一人危ない奴きても、あんまり変わらない」

 カナンは、確かにそうかもしれないと思う。
 ここに来て僅か半日でもう3度も戦っているのだ。
 しかもみんな手だれた人たちばかり…これならもしかしたら、あの片腕の女と並ぶかもしれない。だけど、彼女には、ここにいる人たちとは違うものを持っている。いや、逆に持っていない。彼女の心は既に死んでいる。死んでいるものは、生きるものの気持ちはわからない。だから出来るのだ……、人間には出来ないようなことを。考えもつかないようなことを、やってのける。

 なんの罪もない人間を、簡単に殺害する。
 それも顔色1つ変えずに…。

「貴方の一番怖いものはなに?」
「え?」
「……彼女は、それだよ」

 カナンは、銃を握りシェンホアに向けて放つ。場所は彼女の重心である腰の部分だ。シェンホアは、カナンの言葉に瞬時に反応できなかったが、それでも再度、空を舞う、だが、彼女の動きは、縄で繋がったカナンにより、上手く飛べない。カナンは腕を引っ張られながらも、逆に相手を引っ張り自分の下に引き寄せる。シェンホアは、カナンの背後に降り立ち、ナイフを構え、カナンにと放つ。カナンは、ナイフを頭のスレスレで交わしながら、床に倒れるように滑って、銃をシェンホアの胸にと押し当てる。

「BAN」

「どうして撃たない?」
「私は、貴方を殺すつもりはないから」

 カナンの言葉にシェンホアは微笑む。

「あんたみたいなバカ最近増えた。いつかお前死ぬよ」

 シェンホアの脳裏に浮かんだのは自分を助けた、ロットンなんとかだ。この街、ロアナプラにあんなバカが2人もいるとは思わなかったが。

「っしゃああ!!!私の勝ちだぜ!」

 レヴィが立ち上がると、声を上げる。ロックは周りで歓声をあげる客達を見ながらも誰も死傷者が出なかったことに安堵するばかりだ。

「これで、今日は朝までコース決定だなロック?」
「な、なにいってんだ!?明日は仕事あるだろ?」

 そんなやりとりの最中、大きな爆音が、響きわたる。

 レヴィは、その音に何かいやな予感がして、店の外にと飛び出す。どこか遠いところから聞こえた。この街での爆音は今に始まったことではない。だが、それはいつもでは聞こえないところから聞こえてきたのだ。それが一大事であることを彼女は知っていた。

「レヴィ!?」

 ロックも彼女を追いかけて、外にと出る。そこでロックは暗い夜の街で、赤く輝く光を目にする。その方角に何があるのかロックは知っていた。

「まさか、あっちの方角は!?」
「ああ……」
「ロック!車を回せ!!」




 暴力教会が燃えている。




 炎が燃え広がる中、その炎の影を見つめる男。

 三合会の張は、溜息をつきながら、恐れていたことが起こってしまったことに、これも仕方がないことなのかと割り切ろうとしていた。相手は、『蛇』世界のテロリストの中でももっと現在活発的に動き、危険なものだ。

「連絡会メンバーに緊急招集をかけてくれ」

 部下に伝える張、部下は頷き、車の中にと戻っていく。張は、アルファルドの表情を思い浮かべる。あの女が、この街でなにをしでかそうとしているのかわからない。だが、彼女の行動で、この街はあの双子の事件以来の動きを見せるだろう。張は悟ったようにタバコを地面に落として踏み潰した。














[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第3話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/06 00:05

燃え盛る炎。

武器を唯一売る事を許可された教会、通称暴力教会が今まさに炎に包まれていた。
イエローフラッグからロックの運転の元やってきたレヴィたちは、その炎を見て呆然とする。先に姿を見せていた張は、溜息をつく。

「よぉ、二挺拳銃」
「よぉ、じゃねぇよ!張の旦那!これは一体どういうことだ!?」

 今にも飛び掛ってきそうなレヴィに対して、張はサングラスを直しながらレヴィを見る。

「見ての通りだ」
「誰がこんなことしやがったんだ!?こんなことしてただで済むとは…」
「思ってはいないだろうが、俺達にも覚悟が必要だ」
「旦那には、心当たりがあるのか?」

「……アルファルド」

 振り返るレヴィ、そして顔を上げる張。
 ロックは背後からカナンを見つめる。
 彼らの姿が、炎の影に揺れる。








BLACK LAGOON
×
CANAAN


第3話 宣戦布告









「……見ない顔だな、お前は誰だ?」

 張の問いかけ……カナンは、張を見上げる。

「私はカナン。彼女を止めに来た」
「……なるほど、あいつの組織と対抗する奴がいるとは聞いていたが、それがお前か」

 レヴィは、張とカナンを交互に見る。
 張は車にと戻っていく。

「カナンといったな?俺もお前に話がある。この後、俺の事務所まできてくれ」

 カナンは黙って、そう告げる張を見送る。
 レヴィは、炎を見つめ何も言葉がなかった。ロックもまた、顔をあげて炎を見つめる。何かが始まる狼煙の炎……そして、これはこの悪徳の街、ロアナプラを巻き込む大きな事件となることは明らかだった。カナンという少女、彼女は、その事件の中枢となるべき存在となるだろう。自分たちは、今、彼女に何をしてやらなくてはいけないか。彼女しか知りえないことを、手に入れておくこと。それが、この新たなロアナプラという戦場で優位に立つために必要なことだ。

「カナン、話をしてくれないか?」
「ロック」

 レヴィは、ロックが彼女に同情をしてまた、厄介なことに巻き込まれることに対して、怒りの声を上げる。だが、ロックは違う。これは同情などではない。これは新たな戦いのための前哨戦だ。

「レヴィ、もう俺たちもただの部外者じゃないはずだ」
「……」
「カナン、ここは僕らの町での唯一の武器商人の場所。そこが封じられた。これが何を示すかはわかるはずだ」

 それは、武器の弾薬を止められたのと同じ。
 今ある銃のものしかもうないということだ。

 アルファルドは、この街の凶暴性を知っていて、こんなことを行っているというのか。カナンは、彼女の目的がわからないでいた。だが、ロックがいうとおり、これはもう自分だけの問題では収まらないだろう。

「……彼女の名前は、アルファルド」
「張の旦那も言ってた奴だな」
「……彼女は」

「テロリスト、蛇……聞いたことある?」

「蛇!?」
「おいおい、蛇ってまさか……あの国際会議でウイルスばらまいた奴らか!」

 カナンの言葉にレヴィと、ロックは目を見開く。
 知らないはずがない……この偏狭の地であるロアナプラでさえ、その事件には興味を示したのだ。ひとつは、日本での渋谷で行われた病原体による、通称ウーアウイルスによる無差別バイオテロ。それは渋谷だけではなく、テロリスト撲滅を掲げる国際会議でも、その名前を表した。

「……彼女はその首謀者だよ」
「おいおい、マジかよ?!どうしてそんな奴がここにいるんだ?」

 レヴィは顔を青ざめさせながら告げる。
 戦うことに関しては、レヴィは問題はない、むしろかかってこいといったところだが、恐るべきは、そのウイルスにある。彼女は見たのだ。テレビで血を身体中から流し死に絶えるものの姿を。

「冗談じゃねぇ!そんな奴を野放しにしておけるか!」
「でも、おかしい。そんなものを持っている彼女たちがどうしてこんな場所に……」

 ロックに浮かぶ疑問。
 この場所にそれほどの価値があるのか。

「武器が必要だったんだろう?今はそんなことを考えてる場合じゃねぇよ」
「あ、ああ…カナン、君も」
「私は」

 カナンは彼女たちを巻き込まないように断ろうとしたが、そんなカナンの腕を握り車に乗せるレヴィ。カナンはレヴィを見つめる。

「今更、自分だけでっていうのはなしだぜ?これはでかい仕事になりそうだしな」
「でも、私は……」
「君の力が必要だ、そうだろう?君だって1人では闘えない」

 カナンは、彼女達の言葉にただ流されるがままに、車にと乗って、その場から離れていく。燃え上がる炎だけが、その光と音を奏でている。

「待てぇ~~~レヴィ!!!」

 その声にバックミラーに目をやると、そこにはシスター服を焦がしながら、ヨランダを肩にかけ、そして血にまみれた教会のリカルドともに手を振っている姿が目に入る。レヴィは、彼女達の姿を見ると車を止める。

「ふぅ……ま、数は多いほうに限るし。エダぁ~?3:7だぞ?」
「かまわねぇ!!教会潰した奴を血祭に上げられるならなっ!!」

 エダは、なんとか身体を引きずるようにして、レヴィのもとにと向う。エダは、脳裏に焼きつく、あの邪悪な女に己の弾丸をこめかみに撃ち込むのを想像しながら、薄れいく意識で、歩き続ける。






 車に乗り、連絡会の現場にと向う張…。

 アルファルドが、まさか、この敵地のど真ん中で、行動を起こすことはないと括っていたことが災いしたのか。張は、彼女の出方を考える。どちらにしろ、武器屋を襲った以上、彼女は目標のものを手に入れたと考えるべきだろう。ならば、それを持ち運び逃げ出すこととなるはず。

「そのまま、出て行ってくれるに越した事はないが……」

 車内に鳴り響く携帯の音。
 張は、手に取り、耳に当てる。

「俺だ」
『……やぁ、張』

 この声は……、忘れるはずもない。警備に当たらせていた部下を全員殺害し、あまつさえ、己のロアナプラの立ち位置さえ揺るがしかねないことを平然と行った者。

 張の目の色が変わる。

「アルファルド、自分がなにをしたかわかっているんだろうな?ここの連中は、お前を追っているCIAより、よっぽどたちが悪いぞ。……生きてこの街から出れるとは思わないことだ」
『私は目的のひとつを達成した。次の攻撃を仕掛けるのは、お前達のほうだ』
「わざわざ、チャンスをくれるとはうれしいな」
『一方的な戦いは面白くない。どうせなら、私を楽しませてくれ』
「アルファルド……何を考えている」
『さぁな、私を退屈させるなよ?張』

 電話が切れる。
 張は、掴み所のない彼女にどう攻めようかを考えていた。この戦いは、ロアナプラとそして蛇のボスである、アルファルドとの戦い。

 車が止まり、張は車を降りると、そこには、様々な組織の部下が待っている。張はそこで、武器を渡すと、連絡会のメンバーが待っている部屋にと入っていく。連絡会メンバーは張がやってくると、その視線を向ける。そこにいるのは、イタリアマフィア、コロンビアマフィア、そして、ロシアマフィアであるホテルモスクワで構成された連絡会において、三合会である張は、立場を明確にしなくてはいけない。

「遅かったな?張」
「ああ、熱心な祈りを捧げた教会をご丁寧に天高く吹き飛ばした様を見てきていた」

 張は、大きく溜息をつきながら前にいる者たちを見る。

「同情はしないぜ?張。今回はあんたが誘い込んだものだ」
「わかっている。だからこそ、自分のケツは自分で拭く為に、こうしてきたんだからな」
「対象の情報が欲しい」

 既に、ホテルモスクワ…バラライカの目は戦場にいる目になっている。それもそうだろう。彼女にとっては待ち焦がれた戦争だ。しかも相手は中途半端なマフィアなどではない。実戦経験豊富のテロリストだ。

「対象は、蛇……日本の渋谷、そしてこの間は、国際会議にてウーア・ウイルスをばら撒いたテロリストの首謀者、アルファルド・アル・シュヤ」

 テーブルに置かれた、その写真の女。バラライカは目を細める。それは、以前ホテルの前であった片腕の女。やはり、目論見の通り、彼女は只者ではなかった。バラライカは血の滾るのを感じる。それこそ、自分が生きているという証だ。

「彼女に賞金をかける」
「以前の、双子のときの再来だな」
「……ああ、だが、奴は双子のように感覚で動くものではない」

 バラライカもそれには同意だ。
 以前、このロアナプラを襲った、双子。子供でありながら、類稀な殺傷能力持ち、このロアナプラで、ホテルモスクワで二名、他の組織でも複数の死傷者、イタリアマフィアのヴェロッキオファミリーは壊滅するという被害を齎した。彼女達の強さは、その子供ながらの危機察知能力にあった。だが、このテーブルにおかれた女はちがう。バラライカと、張はあっているからこそわかる。彼女の危険性を…。彼女は理性的に動いてくるだろう。

「気をつけてもらいたいのは、彼女には、おそらくウーアがあることだ」

 張の言葉に周りのメンバーは黙る。

「感染者は、12時間で骨と骨格筋以外のすべての部分から血を流し、死ぬ。致死率は100%、逃げることは出来ない」
「マジかよ!」
「下手をすれば、ロアナプラが全滅するってことか」
「恐れるなら、帰ればいい」

 バラライカは、歩き出す。
 
「単純な話だ。一匹の獣を殺し、報酬貰う。何も変わりはしない、単純明快だ」
「そうだな、ああ、そうだ。何も問題はない」
「ああ、ここは俺達の大切な街だ。他所のものに潰されてたまるか」
「張、報酬金額が分かり次第、連絡をくれ」

 連絡会で決議がでた。それは人狩り……ロアナプラ全域に、その大号令がだされることとなる。双子のときと同様にして、ロアナプラでは、様々な賞金稼ぎたちが集まりアルファルドという名前と、その姿を印刷された写真を元に、追い詰めようとしていた。だが、彼らには、知らされていない。ウーア・ウイルスのことは。広まればパニックになるだろう。そう考えての連絡会の総意によるものであった。

 かつての、双子のときのように。それはすぐにレヴィとカナンたちの下にも知らせが入る。負傷したリカルドとヨランダ、そしてわーわー喚いていたエダはまとめて病院に連れて行かれることとなった。




「それで、お前は鉄の闘争代行人として、ここにきたと?」

 黒人でスキンヘッドの大柄の男であるダッチは、タバコを加えながら、カナンの話を聞いていた。既に、ロアナプラの街では、人狩りで盛り上がっている中、カナンの知っているアルファルドの話を聞いたダッチは、噂で広まっている人狩りとの話の知らされていない部分の多さに、思わず溜息を漏らす。

「ダッチ、このまま放っておく気かよ?」
「焦るなレヴィ。今回は以前の双子のときの件とは訳が違う。これは人狩りでも、なんでもない。戦争だ。おそらく、バラライカはそう思っているはずだ。敵の勢力は未知数。しかも、奴らにはロアナプラを百回以上壊滅できるような極悪な兵器を持っているとする」
「ああ、カナンが言うには、彼女もまた、相当の腕前らしい」

 カナンは、そんな風に悩んでいる一同を見つめている。
 結局巻き込んでしまった……、だが、今はそんなことをいっている場合ではない。アルファルドの目的がわからない以上、攻めに転じなくては……。彼女も、この全員が敵となったこの場所から早々と逃げ出すことは出来ないはずだ。

「カナン、どうする?」
「ん?なにが……」
「バカ、分け前だよ、分け前!」
「わ…けまえ?」

 カナンは、ポカーンとしながら、レヴィの話に耳を傾ける。ロックは笑いながら

「いちお、アルファルドに賭けられた賞金は、双子のときと同じ金額だからね。こういうのは、しっかりしとかないと、後で揉めるから」
「私は別に、そういうのは……」
「おいおい、カナン。そんな偽善者的な考えは、ここでは通じないぜ?」

 レヴィが顔を近づけてカナンを睨みながら言う。カナンとしては、本当にいらないので、なんとも困惑した表情である。そんなカナンにダッチは面白そうにしながら…。

「いいだろう、情報提供に加えて共同戦線を張るんだ。6:4で手を打とう」
「おいおい、ダッチ。私達はこれから、ウイルス相手に戦うんだぜ?」
「ふん、そんなものは、全員が同じ条件だ。それに、連中も自分達がいる中で、ウイルス兵器をぶちまけはしないだろう」
「オーライ、それで手を打つぜ。それで……どこから探る?」
「……探す必要はないよ」

 カナンは、レヴィを見る。
 ダッチは、彼女の言いたいことを察知すると、立ち上がる。

「ロック、車を回せ。始まるぞ?」






 イエローフラッグには、三合会から出された賞金目当てに、様々な賞金稼ぎが夜も深くなり始めて尚、顔を現していた。ここにて、彼らは情報共有し、そして、盛大な人狩りを行うという算段である。双子のときと同じく、彼らは、自分の獲物を見せて、共同戦線を張るもの、逆に利用してやるものなど、多種多様のやり方で、人狩りを楽しもうとしていた。店主は、そんな話を聞きながら、やってくる客に酒を振舞い、賞金といわずとも、多額の利益を手に入れることが出来ていた。

「マスター……」
「はいよ、なに飲むんだ?」

 店主がやってきたもののほうを振り返った矢先、そこに座っていたのは、どこかでみたことのある女。すぐに思い出し、思わず後ずさる。

「あ、あんたは……」
「この街ではすっかり有名人のようだな。これでは、ろくに話も出来ないか」

 彼女の背後にて、アルファルドの姿に気がついた賞金稼ぎたちが立ち上がり銃を握る。賞金稼ぎ達にしてみれば、それまさに、炎に集まる虫のようなものだ。彼女はわざわざ死ににきたということだ。

「お姉さん、随分とこの町では有名だぜ」
「ああ、そりゃーもう、テレビでストリップやっている奴なんかよりぜんぜん……」

 アルファルドは、振り返り男達のほうを見る。既に男たちは銃を抜いてアルファルドに向け、狙いを定めている。アルファルドは、笑みを浮かべる。銃を構える男達の背後、誰かがイエローフラッグの中にとやってくる。店主は、カウンターから顔をだし、やってくるものを見た。それはどこかで見たことのある女。そう、シェンホアと戦っていたあの白髪の女……。

「感謝することだ」

 アルファルドは、男たちを見つめつぶやく。男たちは、アルファルドが何を言っているのか理解が出来ていない。

「お前達は、実験体の被験者第一号だからな」

 白髪の女が銃を抜き、アルファルドを囲っている男の1人の頭を撃ち抜く。男たちは、その銃声に、白髪の女に目をやる。そこにいたのは、シェンホアと戦っていた者と同じ容姿をした…赤い目をした死神だった。














[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第4話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/10 23:33





アルファルド


 かつて、カナンと呼ばれた彼女は、その類稀な運動神経と反射神経を併せ持ち、圧倒的な強さで自分の前に立ちはばかるものを、抹殺していった。彼女は、その己の力を、個人で用い、野望を抱くことになる。カナンの名前を捨て、アルファルドとして彼女は蛇の首領となり、世界をただ破壊し、混乱させることとなっていく。


 彼女の師であり、超えるべき存在であったシャムを殺害してからも、彼を超えるべきものとして追い続け、テロリストとしての立場にいる。カナンに告げられた、『既に死んでいる』その言葉は、彼女の何かを壊させた。シャムを追い続けた自分は既に壊れていると。



「……」

 グラスを置き、硬貨をカウンターに置くアルファルド。

「あ、ありがとうございました……」

 怯えながら店主がそれを受け取る中、アルファルドは、振り返り血まみれになった部屋を見つめる。そこにたつ、顔に返り血を浴びながらも、己の身体は少しも傷ついていない白髪の女を通り過ぎイエローフラッグを出て行く。白髪の女は、銃をカウンターに向ける、店主は、震えながら、カウンターに隠れる。

「やめておけ」
「だけど……」
「お前には、倒さなくてはならない敵がいるはずだ。そいつのためにも、余計な力は使わないことだ」
「……」

 アルファルドは微笑みながら歩き続ける。白髪の女は追いかけながら、イエローフラッグを出て行く。



「ううっ…」

車に乗り、街を探索するレヴィたちだったが、カナンはそこで頭に痛みが走るのを感じる。

「どうしたんだ?カナン」

 ロックの言葉を聞きながら、まるで蛇が頭をのた打ち回るような痛み。
 カナンは、その痛みの場所になにかがあることを知る。そう、きっと彼女がそこにはいる。

「ダッチ……私の行く先に向ってくれないか?」
「ダッチ!」
「ああ、わかってる」

 ダッチはアクセルを力強く踏みながら、カナンの指示するほうにと走り出す。







BLACK LAGOON
×
CANAAN


第4話 人狩






 イエローフラッグから出てくるアルファルドと白髪の女。イエローフラッグの前には車が止まっており、そこには覆面をした、蛇の工作員達がいる。彼らは、アルファルドを出迎える。そんなアルファルドたちに聞こえてくるエンジン音と勢いよく向ってくる車の音。アルファルドは察知すると、車体を壁にして、隠れる。

「おらおらぁ~~!!!!」

 レヴィは二挺拳銃、カトラスを握り、そしてダッチもまた愛用のS&W M29を握り、運転をしながら連射する。車に撃ち込まれる弾丸の嵐。アルファルドは、車体から離れると、車の奥にある森に姿を隠す。車に空いた穴から流れ出すガソリンに火がつきそのまま大きく爆発する。爆音と供に火が巻き上がる。

「っしゃあ~~!!どうよ」

 車は、爆発した車体から離れたところで、止まる。まだ確実にしとめたわけではないが、それでも奇襲は上手くいったようだ。ロックは後部座席にて頭を痛めているカナンを心配する。

「大丈夫か?」
「う、うん……平気」

 カナンは目が赤く輝く。何かがいることを察したカナンは、車から飛び出す。レヴィは、突然のことに驚くが、カナンは炎の中を見つめる。


「来ていたか」


 炎の中、現れる女……アルファルド。

 青いコートに身を包み、そのコートの片方の腕は風で舞い、腕がないことを示していた。アルファルドは、カナンを見つめる。

「貴方も元気そうでなによりだよ」
「そうか、お前に心配されるとはな。……私はすべてを壊すぞ」
「貴方らしい」
「止めれるかな?」
「止めて見せるよ……」

 アルファルドは銃を握りながら、カナンと対峙する。
 だが、銃を握ったまま、顔をうつむけるアルファルド。カナンはそんなアルファルドに対しても、躊躇せずに銃を向けたままである。アルファルドは、微笑んだまま、背後からやってきたものに道を明け渡す。

「なっ!?」
「!?」
「おいおい、こりゃーどうなってるんだ」

 車に乗っていたレヴィ、ロック、ダッチの3人は、現れたその白髪の女に驚きの声をあげる。それはカナンも同じだ、目を見開き、目の前にある鏡を見つめてしまう。相手もそうなのだろう。同じように驚きの表情を見せている。只1人、アルファルドだけが、そこで笑みを浮かべたまま、立っている。

「これが私の結果、シャムを超えた結果だ」

 アルファルドは、白髪のカナンそっくりの少女の周りを回りながら説明する。

「さぁ、カナン……お前の倒すべき敵だ。お前がお前であるためには、目の前の己自身を葬らなくてはいけない」
「……ああ、わかってる」

 アルファルドの前にと出る白髪のカナン瓜二つの少女。カナンは銃を握ったまま、彼女と対峙する。レヴィは、あまりにも瓜二つなその2人に、どっちを加勢していいかわからないでいる。溜息をつきながらも、本当の狙いであるアルファルドに目をやるレヴィ。

「カナン、そいつは任せたほうが良さそうだな。間違えてお前を撃ちかねない。私は、あいつをやるよ。先にやっつけちまっても僻むなよ?」
「レヴィ!アルファルドには……」
「オーライ、わかってるよ。お前こそ死ぬなよ、お前とは決着をつけなくちゃならねぇーんだからよ!」

 レヴィはダッチとともに、アルファルドを追いかけるために車で走り出す。カナンは、走り去る彼女たちを見送りながら、その場に立つ己自身を見つめる。

「……変な気分だ」
「私もだ」

 炎が燃え盛る中、2人のカナンは、銃を握り、対峙したまま相手を見つめる。赤く目を輝かせ、相手の動きを色で感じ取る。彼女達の背景にある車が大きく爆発する……と同時に、2人のカナンは、銃を握りながら、正面にと走っていく。
 目の前の鏡に向けて銃を両手で握り、撃つ。互いに放ったその銃弾は、まっすぐと目の前の同じ勢い、そして、同じ口径の弾丸を正面から潰し合う。弾丸同士が大きく潰れ合うと同時に、勢いよく走りこんできた、2人のカナンが滑り込むようにして、相手の顔面を捉えるように長い足を叩き込もうとするものの、それは相手も同じで、足は大きく交差し、ぶつかり合う。
 目が合う2人は、瞬時に距離をとりながら、銃を握り、発射する。至近距離でありながら、身体を捻り回避するカナン。目の前のもう1人の自分は、銃を避けられたことをさもわかっていたかのように、カナンの重心が置かれている、腹部に膝を入れる。思わず、目を見開くカナン。もう1人のカナンは身体をくの字とした、彼女の背中に、肘を叩き込むと地面に両手をついて倒れる。そこをもう1人の自分は銃で狙いをつける。だが、狙いを定めた彼女のバランスが崩れる。四つんばいになったカナンは銃で自分を狙う彼女の両足を、体勢が低くなったことで、足を伸ばし、地面に引きずるようにして、もう1人の自分の足を払ったのだ。引金を弾いたもう1人の自分の銃弾は宙を舞う。地面にお尻をついて倒れたもう1人の自分だったが、倒れながら、後ろにでんぐり返しで回転すると、両手で力をこめて、最初の位置に、両足をつき、立ち上がる。

 僅か数秒の攻防。

「フ……」
「面白いの?」
「自分と戦うなんて出来ない経験だからね」
「偽物の癖に、随分余裕だね?」
「そういう、貴方も……口が笑っているよ」

 もう1人のカナンはそこで、気がつく。

 自分は目の前にいる偽物だといわれている自分と同じく、この状況を楽しんでいるということに。この胸の高鳴り……己に走る共感覚が、この状況に興奮というものを告げている。銃の弾を補充する二人。

「「……さぁ、行くよ」」

 2人は、銃を握りながらも、今度はそれを使わずに肉弾戦に挑む。銃をまるで拳のように扱いながら、相手の目の前にと突き出す。互いの腕が交錯する、顔を背け、顔の横で放たれる銃声を聞きながら、絡み合った肘を軸にして、相手の身体にあてようと至近距離で撃ち合う2人。バランスを崩そうと、片足で、相手の足に絡ませ、押し倒そうとするものの、空いているもう片方の足に体重をかけ、倒されることを拒否する。2人は、銃を放ちながら、ぐるぐるとその場を回転する。

「どうして、私を殺そうとしない?!」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ!」

 2人は軸足で飛び上がり、互いの腹部を蹴り上げる。痛みを感じながらも、2人の絡まった腕は離れ、相手の蹴りの勢いに、2人は身体を回転させる。宙を回る中、2人は銃を、相手の顔にと向けた。同時に放つ二人。それは、間一髪、避けるものの、カナンの横腹を掠める。まるで、かまいたちが走ったように、そこからは赤い血が滴る。

「「はぁ、はぁ……」」

 汗が流れ落ちる。
 これが共感覚同士の戦い……自分の動きが全部見られている。さらにいえば、相手が自分と同じだけあり、自分の弱点などがイヤでも見えてくる。身体的な疲労より、どちらかといえば、精神的な疲労のほうが大きい。

「まだやる?」
「当然」

 2人はもう笑顔を隠しきれないでいた。

 これは何の感情なのだろうか……自分たちは命のやり取りをしている。だけど、その反面、これはまるで大沢マリアと楽しんでやっていた『あやとり』と同じだ。そういえば、あのシェンホアと戦っていたときもそうだった。彼女も、自分と戦っているとき、とても楽しそうにしていた。アルファルドとは違う…別の戦いの仕方。


 この街は、新しい発見をさせてくれる。






「HEY、待ちな」

 車で先回りをして、アルファルドの道を塞ぐレヴィたち。アルファルドは、前に現れた車を見つめる。車から降り立つレヴィ。アルファルドは、別段慌てる様子もなく、現れたレヴィと対峙する。ダッチもまた車から降りて、レヴィの邪魔をしないように、距離を置く。

「レヴィ、変にかっこつけるなよ……そいつは」
「わかってるさ、ダッチ。こいつは賞金だ。かっこつけるまでもなく、しとめてやるよぉ!!」

 レヴィは、両手にレヴィの愛用銃カトラスを握り、正面に立つアルファルドを睨みつける。その目は、さっきまでのものとは違う。狩人の目である。ダッチとロックは固唾を呑みながら二人のやりとりを見ている。

「どうみるロック」
「あのアルファルドっていう女……冷静で隙がない割に、なんだろう、違和感」
「お前もロアナプラで色々な人間を見てきて、読めてきているようだな」

 ダッチは車の外、銃を構えながらつぶやく。
 アルファルドという片腕の女、只でさえハンディがあるというのに、隙がないどころか、物凄い威圧感だ。彼女がここまでどんな修羅場を潜り抜けたというのかはわからないが、こういったものは、相応の場所でしか手に入る事はない。

「行くぜ、そのマネキンみたいな顔を、踏み潰してやるよ」

 レヴィが両腕を伸ばし二挺拳銃を放つ。アルファルドは、レヴィの弾幕の嵐から苦れ、地面を転がりながら、片腕で銃を放つ。レヴィはそれを避けながら、一方的、徹底的な攻撃を仕掛けていく。

「おいおい、どうしちまったんだ?避けてばかりじゃあたしは倒せないぜ?」

 すると、アルファルドは、着ていたコートをレヴィに向って投げる。それはレヴィの視界を妨げる。レヴィは突然の目隠しに驚きながら、二挺拳銃で撃ち抜く。だが、衝撃は真下から来た。アルファルドは、コートを目隠しにし、そこに意識を向けながら、がら空きとなったレヴィの足を狙った。スライングするようにして、レヴィの足をけり、彼女のバランスを崩し後に倒すと同時に、馬乗りになり、アルファルドはその銃をレヴィの頭にあてる。だが、レヴィも咄嗟に、両手に握られた銃をアルファルドに向ける。

「どうした?本来なら死んでいるぞ」
「……情けのつもりか」
「フ……面白い街だ。お前達のような奴らが何の目的も、理由もなく存在しているとは」
「うるせぇ女だ!!」

 レヴィは、アルファルドの頭に目掛け、思いっきり、頭をぶつける。頭突きだ。さすがのアルファルドも、このレヴィの奇策には思いつかなかったようで、思わずレヴィから離なれながら、銃を撃ち込む。レヴィは、その銃撃を背後に下がりながらかわしていく。アルファルドは頭をさすりながら、レヴィを見る。

「ざまぁーみろ」

 レヴィは中指を立ててアルファルドを挑発する。アルファルドは、相変わらず冷静な表情だ。そんな彼女の背後、幾つもの光が、姿を現す。それは車のライトだ。降り立つ兵士達が、レヴィ達に銃を向ける。

「おいおい……」

 アルファルドは、レヴィたちを見ながら、黒いランニング姿を晒している。

「もう少し遊んでいたかったが時間がなくてな」
「てめぇ!!逃げるのかよ!」

 アルファルドは何も言わずに、車に乗り込むと、部下と供に、その場から走り去る。レヴィは、悔しそうに、地団太を踏みつける。

「はぁ……よかった見逃してくれて」

 ハラハラしていたのは、ロックたちのほうである。あれだけの数を相手にするには少しばかり荷が重い。それにしても……先ほど、アルファルドを庇っていた者たちは、テロリストの仲間ではなかったみたいだ。見知った顔もちらほらいたような気がする。ダッチは何かいやな予感を感じ取る。

「レヴィ!」

 それはカナンである。
 カナンは、まるで運動をした後のような清清しい表情…悔しさを見せているレヴィとは大違いだ。

「なんで、そんなに楽しそうなんだよ!お前は?!」
「ロック、アルファルドは?」
「あ、ああ……仲間を連れて逃げていったよ」
「蛇の仲間がいるのか?」
「いや、そういうわけでもないみたいだけど……」

 どこか歯にものが挟まったような言い方のロック。
 ダッチは、状況を確認をするために、車にカナンたちを乗せるとエンジンをかける。

「ダッチ、どうした?!」
「何かいやな予感がする。こういうのは、あたるもんだ」

 ダッチは車を勢いよく走らせる。
 普段は静かな夜なのに、今日はどこか喧騒さがあり、そしてどこか血生臭い匂いがしていた。







 賞金は賭けた。それだけで後は放っておくつもりなどない。葉巻をくわえながら、ホテルモスクワであるバラライカは次の手を考える。アルファルドを打ち倒すのは容易い。犬畜生ほどのテロリストなどに自分は負けるつもりはない。厄介なのは、彼女の持つウーア・ウイルスである。

「軍曹。ウーアの情報は手に入ったか?」
「はい。ウーア・ウイルスは、12時間を過ぎると発症するウイルス兵器でで、骨と筋肉以外からのすべての部分から出血し、致死率は100%。今現在、これに対処できるのは、日本政府が隠し持っているとされる抗ウイルス薬のみとされています」
「……ウーア・ウイルスか」

 バラライカの前に置かれた資料。

 そこには日本、渋谷で起きた事件と国際会議でのインターネットで配信された映像を見ながら、その凄惨な光景を確認していた。血にまみれ、そして青い痣ができるのが特長らしい。

 電話が鳴り、それをとるボリス。

「ああ……わかった」

 一言、そう告げると、ボリスはバラライカを見る。

「アルファルドが、連絡会メンバーに対して、賞金をかけました」
「なんだと?」

 バラライカは、立ち上がりボリスを見る。連中に金があるのはわかってはいるが、ここに新しくやってきたものに、周りの賞金稼ぎたちが同調するとは思えない。彼女には、そういったことはわからないのか…。

「報酬は、抗ウーア・ウイルスワクチンです」














[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第5話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/15 22:52



「くそったれ、マジでふざけやがって、あのアルファルドっていう女、犯してぶっ殺してやる、絶対にだ!絶対にやってやるからな」


 荷物を纏めながら港に集まっているのはグスターボである。彼はロアナプラの連絡会に属するコロンビアマフィア『黄金夜会』の1人である男だ。髭顔の彼は、自分達が一方的に駆り立ててやろうとした矢先の、アルファルドの逆に人狩の対象となったことに驚き慌てふためいていた。しかも、連中はウーア・ウイルスなんていう危険な代物を持っているという。これでは話にならない。

「お前らはやく荷物をまとめて置けよ!ボスに伝達して、はやいとこ病原菌の街からは……」

 そんなことをつぶやいている矢先、港にあった船が遠くからのRPGにより、爆音と供に吹き飛ぶ。

「なにっ!!?」

 その音供に、銃撃音が聞こえてくる。
 どうやら、それはアルファルド尻尾を振った賞金稼ぎたちだ。グスターポは、慌てて荷物を握り締め、車にと乗り込む。

「クソったれ!!一体どうなっちまってんだ!!ロアナプラは」



 彼の悲鳴が港に轟く中……アルファルドは、部屋の一室に居座っていた。そこには、最先端の通信機器が配備されており、蛇の数人のメンバーが出入りしている。

『街の全域に、アルファルド様のお話は伝達されました。既に、かなりのアウトローが、こちらについています』

 イスにもたれかかりながら、アルファルドは天井を見る。この街の構図は大抵理解した。至って単純な連中……。ならば、同じような手段を取るだけだ。飢えた獣達には、もっと大きな餌があったほうが喜ぶ。それも、金という誰もが持っているものではないものに。

「……こちらの次の手はうった。もう少し楽しませて欲しいものだな、車を回せ」

 彼女は部下につぶやきながら、時間を見つめる。








BLACK LAGOON
×
CANAAN


第5話 対峙









「大尉」

 ボリスが現在の戦況の報告をしに来る。電気を止められてしまったが為、部屋灯りは、非常用のランプのみである。既にボリスの姿は軍服に身を包み、実戦体勢となっている。だが、それもそのはずだ。バラライカは、その威厳と恐怖により、このロアナプラを支配していた。だからこそ、この街は、ある種の規律を持っていたといっていい。だが、それはアルファルドという外来種により、崩されそうになっていた。

「戦況は、どうだ?」
「現在、遊撃隊に、6人交代、24時間体勢で建物を見はらせています。既に、外では複数のものから攻撃を受けています。こちらの死傷者はなし。敵は既に4人ほど撃退しています」
「……上出来だ軍曹。だが、防衛は好かんな。他は?」
「三合会や黄金会メンバーも狙われており、情報共有は出来ていますが、どこも対象であるアルファルドを追尾し、狙うものは出てきていません」
「雑魚も集まれば厄介だということか。一気にこちらから打って出るか」
「このままでは消耗戦です」
「やってくれるよ。あのアルファルドという女。教会を吹き飛ばしてくれたおかげでこちらは、今ある武器でのみ戦うしかないからな」

 バラライカは思わず、相手を褒める。向こうもプロだということの証。ならば。こちらもプロらしく戦わなくてはいけない。アルファルドという女を屈服させるために。

 葉巻をくわえながら度々聞こえてくる単発の銃声が聞こえてくる。すると、大きな爆発音が聞こえ、一気に場が慌しくなる。バラライカは静かに目を開ける。

「軍曹、私の武器を」
「はい」
「己の身分を弁えないハイエナ共には調教してやらなければな」

 バラライカは、銃を握り、壁に隠れながら窓の隙間から外の様子を伺う。そこには車が、炎上している。どうやら、どこかの奴が、建物の一回に車をぶつけたらしい。建物1階からは黙々と黒い煙があがっている。

「ちっ……面倒なことをする」

 バラライカの事務所の前に集まる、賞金稼ぎたちはその数を増やしていく。ただでは、倒れることがないだろうホテルモスクワ。ならば、数で相手を圧倒するしかない。再び、新たな改造された車両が、姿を現す。ガラスをコーティングし、速度を上げて、バラライカの事務所にと目掛け突っ込んでくる。遊撃隊がすかさず反応して、車を止めようと銃撃するが、改造されたその車両は、動きを止めない。運転手が飛び降り、そのまま、再度、事務所にぶつかり、爆発する。

「軍曹、ここから離脱するぞ。ここにいるのは危険だ」
「わかりました、遊撃隊に伝達します」

 ボリスは、そう告げると各部隊伝達のために、部屋を後にする。
 バラライカは、悔しさをあてるように葉巻を握りつぶす。

「この恨み……死を持って償わせてやる」


「誰の死だ?」


 その声に前を見ると、そこに立っているのは片腕の女。
 そう、あのホテルで出会った女……アルファルドが立っていた。

「……まさか、こういう形で会うとは思わなかったな。アルファルド」
「ああ。そうだな……」
「私の部下はどうした?」
「今頃、私の優秀な部下と、賞金稼ぎたちが足止めをしてくれていることだろう」

 その声とともに、部屋の外から銃撃音が聞こえてくる。すぐ近くでだ。どうやら、既にここには侵入されていたということのようだ。防衛ということを考えていなかったわけではないが、それでも、この街でこういった状況に会うことなどなかった。こうまで簡単に侵入を許したのは、車での突撃……。あれに目や注意が言ってしまったのが問題だったか。

「私はお前と話がしたくてやってきた」
「……抗ウイルス薬で、お前に尻尾を振れというのか?」
「統率された動きだった。私はお前達のような動きをしているものを見たことがある」

 アルファルドは、壁にもたれながら話を続ける。それを黙って聞き続けるバラライカ。

「軍隊の動き……それが、なぜこんなところでマフィアごっこをしているのか。大方、戦争という異常な混乱の中に身を浸しすぎて、元の生活に戻ることが出来ないといったところか」
「……」
「常に混沌と狂乱がある空間にいないと己の居場所がなくなると思っているのか?」
「…黙れ」
「国のために戦っては見せたものの、国はお前達に何も与えはしない。使えなくなれば、そのまま捨てる。まるで玩具。哀れな軍隊だな」
「黙れっ!!!」

 バラライカは銃を抜き、アルファルドに向けて撃つ。弾丸は、アルファルドの頭の横を掠める。彼女は微動だにせず、バラライカに視線を送り続ける。バラライカは銃を握ったまま、大きく息を吐く。

「1つ、忠告をしておこう……」

 バラライカは目を細め、銃を握ったままアルファルドを睨みつける。

「私達の戦争は決して終わってはいない。そして、私達は国に捨てられようとも、魂こそは軍隊だ。我々は遊撃隊だ。如何なる困難な作戦も完遂し、勝利する。これを侮蔑し、踏みにじるものは誰であろうと叩き潰す!」

 アルファルドはもたれた壁から身体を起こすとバラライカに近づく。バラライカは、目の前に立つアルファルドを睨んだまま動かない。

「ならば、その場所を私が提供しよう」
「!?」
「私達はテロリストだ。そういった舞台なら幾らでも用意できる。どこがいい?お前達の宿敵である星条旗がいいか?それとも、お前達を捨てた赤旗がいいか……こんなところで燻ぶる必要はない。居場所とは待つものじゃない。作り出すものだ。違うか?」

 アルファルドの言葉に、バラライカは口を閉ざす。
 建物の周りから聞こえる銃声の音……。
 2人の女は沈黙を続ける。







「どけどけっ!!!」

 ダッチが運転する車が、賞金稼ぎ達に囲まれている三合会事務所に車で突撃をかけるレヴィとカナンたち。車で一気に包囲網を吹き飛ばして、三合会の防衛内にと入り込む。銃声を鳴らしながら、レヴィとカナンは、銃を撃ちながら、アウトロー連中を怯えさせるのには十分な効果があった。

「随分と苛立ってるね?」
「ああっ!?そりゃーお前と違ってこっちは、煮え切らない戦いさせられたからな!!」

 レヴィはカナンに怒鳴りつけながら、車を降りる。

 防衛網をつくっていた三合会の部下達は突然の来訪者に防衛網を吹き飛ばされたために再度作り出すためとなる。そして、やってきたレヴィたちもまた、張の首を狙うものと、判断され、三合会の部下達に銃を向けられる。

「ちょ、ちょっと待て!俺達はお前達を助けるためにだな?!」

 この扱いに、レヴィは周りにいる者たちに怒鳴りつける。

「誰かと思いましたら、あんた達ですか」

 黒服の部下達がその声に、道をあける。それはシェンホアである。ナイフを握りながら、こちらにと近づく。カナンは、もしものために、銃に力を入れる。

「こいつら敵じゃないね。人を殺せないバカがいる奴に、張の旦那殺す勇気ありません」
「あ、ありがとう……」
「あんたのため違う。ここであんた達と戦っても、得ないからですだよ?」

 シェンホアはカナンに告げると、彼女の耳元に顔を近づける。それは中国語での話…カナンから顔を離すとシェンホアは笑顔を向ける。

「約束ですだよ?」
「うん……でも先に約束している人がいるから」
「あっちのアバズレですか?」
「最初に街で会ったときにね」

 カナンは、背後で喚いているレヴィを見る。シェンホアは溜息をつきながら、レヴィを見る。

「まったく、だれかれ構わず喧嘩売る。まるでチンピラよ」
「だが、それがこの街だ」

 シェンホアが振り返った先、そこにいるのは張である。

「……遅かったじゃないか、カナン、ダッチ、ニ挺拳銃」
「ん?旦那の知り合いね?」
「とにかく、中にはいれ。ここでは何かと物騒だからな」

 事務所内に案内されられたレヴィ、カナン、ロック、ダッチは、建物内の物凄い警備体制に、目をやる。それもそのはずだろう。もはや町全体が彼らの敵となっているのだから。張もまさかこのような事態になるとは正直思って居なかった。アルファルドという女に対して決して油断をしていたわけではない。だが……。

「ミスター張、奴らは……」

 ダッチは早速この騒動について切り出す。

「ああ、アルファルドという女に手のひらを返した連中だ。アルファルドは今から1時間前に、街のいたるところでウーアウイルスのことを告げ、そして12時間以内にウーアは発症し、この街を死の街にすると言い出した。そしてワクチンが欲しい奴は、連絡会メンバー、俺達の首を差し出せといったんだ」
「……なるほど、アルファルドっていう女は、ただの銃だけの女じゃないってことだな」
「まさか、同じことをやり返されるとは正直思っていなかったからな。この様だ」

 部屋に入れば、そこにもかなりの部下が立っている。
 張は、彼女たちをソファーに座らせる。物々しい雰囲気でとてもリラックスとはいかないが。

「さて、何から話したものか……」

 タバコに火をつけ、張は前にいるラグーン号のメンバーと鉄の闘争代行人であるカナンを見る。戦力的には申し分ない勢力であるといえる。既にここにいるシェンホアや、一部の精鋭の賞金稼ぎとあわせれば、この押し込まれている状況を打破することが可能かもしれない。

「勿体つけないで行こうぜ、旦那。私達はある程度、カナンに聞いて話はわかっているんだ?」
「なるほど、説明する手間が省けるな。それでは、本題から……」

 張がカナンのほうを見る。

「嫌な噂を耳にしている。東南アジアを移送中だった車両から、アトミックボムを強奪した東南アジア人の話だ」

 ダッチとレヴィの目の色が変わる。
 カナンは、黙って張の話を聞いている。

「あくまで噂だが、その東南アジア人たちは、それを高値で武器商人に売りさばいたらしい。奴らのその後は不明だが……」
「おいおい、張さんよ。冗談話にしちゃ、少しどぎつくはないか?」
「あくまで、噂だぜ?ダッチ。俺達もそんな話が本当であるとは思ってはいないさ。あのアルファルドっていう女が唯一、ここで認めていた武器屋である暴力教会が吹き飛ぶまではな」

 核兵器を輸送していたのは、蛇
 強奪した東南アジア人たちは、それを高値で暴力教会に売買し
 蛇はそれを取り返しに乗り込んできた。

 話としてはこんなところだ。

「さて、ここで俺からの質問なんだが、アルファルドっていう女を殺すにはどうすればいい?」

 サングラスを直した張は、カナンに問いかける。
 ここまで無茶苦茶にされたのだ。
 平然とした表情を見せる張とはいえ、頭にきているに決まっている。だが、相手は蛇であり、アルファルドである。彼女の腕は張にも負けずとも劣らない。そして、彼女にはウーア・ウイルスがあるという。ウーアに取り付かれたアウトローたちも駆逐しなくてはいけない。張としては、戦ったことがある人間の情報はなによりも欲しいものだ。

「こっちの戦力としては、お前達と下にいる精鋭のアウトローと俺の部下。後は、黄金夜会と、ロニーのところ、そしてホテルモスクワだ。これらが協力をして、アルファルドを駆逐する」
「戦力的には十分だがよ、細菌兵器はどうするんだ?」
「自分達がいる状態で使用するとは思えない。おそらくははったりだろう…」

 ダッチの言葉に張が頷く。

「あの能無しのバカ共は、それもわからずにウーアにビクついていやがるのさ」
「なら、急いだほうがいい。アルファルドがここを脱出すれば、使用する可能性がある」
「面白くなってきたじゃねぇーか、ロアナプラを仕切るマフィアが手を組んで、巨悪をやっつけるっていうんだからな」

 レヴィは迫る戦いに、ウズウズしながらつぶやく。
 カナンは、レヴィとは反対にいやな予感が頭を過ぎっていた。アルファルドの目的は、ただ単に核だけとは思えない。自分の複製を作り出している彼女が核に固執するだろうか。このロアナプラを使用した自分の複製の実験場……。彼女ならやりかねない…。

 ロックもまた考えていた。アルファルドという女……このロアナプラを引っくり返そうとする女が、アウトローだけで、それを可能と思っているのだろうか。三合会の巨大さも彼女ならわかるだろう。やはり目的は、核の奪還と、それを運び出すための時間稼ぎなのか。


 そこに血相を変えた黒スーツの張の部下が走ってくる。

「どうした?」
「ほ、ホテルモスクワが……」
「なに……?」

 張が立ち上がり、部下を見る。







 バラライカは、腕を組みながら、タバコから口を離す。彼女の前に並ぶホテルモスクワの遊撃隊たち。夜の闇の中、バラライカは大きく口を開ける。

「……我々の次なる目的は、三合会だ。目標を速やかに駆逐せよ!!」

 その言葉に、隣にいたアルファルドは口元を歪ます。















[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第6話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/18 23:11





「遊撃隊、三合会に集結。攻撃を開始しました」


 アルファルドに伝えられるホテルモスクワ攻撃の詳細。アルファルドは、バラライカと対面を果たした際、彼女が戦争を望んでいることを知った。彼女の燻ぶる顔にたぎる炎は未だに消えていない。アルファルドはバラライカのような人間を幾度ともなく見てきた。彼らは、皆病気だった。戦争を止めるために戦場に向ったものの、戦争という麻薬に囚われ、平和という世界に戻れないでいるのだ。彼らに手を差し伸べるものはいない。彼らのような人間達を救うものはいない。だから、彼らは狂う。戦争を求める。

 アルファルドは、そんな彼らに手を差し伸ばしてやった。
 彼らに居場所を提供した。

 彼女の国家の信念や、忠誠などもすべてを捨てさせ、そして堕落させる。彼女が求めるべく戦争という甘美な麻薬のためなら、彼女はそんなものは捨てるだろう。燃え滾る彼女の心をアルファルドは満たしてやったのだ。

「本当にお前は私達に戦争を与えるのか?」
「……」
「私達に、生きる価値を与えるというんだな!」
「すべてはお前次第だ」

 アルファルドの前に近づくバラライカ。

「いいだろう。私達、ホテルモスクワは、蛇と共同戦線を貼り、戦争を継続する」
「ああ、それでいい……」

 ホテルモスクワ、いや、遊撃隊に与えた命令は、自分達に仇名す組織の徹底的な破壊。

「最初の任務にしては酷だったか?仲間を攻撃するのは……」
「なかま?私に仲間などというものはいない」
「ほぉ」
「……見ていろ、私たち、遊撃隊の力を」

 バラライカはそういって部屋を出て行く。
 アルファルドは、戦争狂の背中をみながら、声を殺して微笑んだ。
 その姿は、あまりにも……あまりにも……。

「……無様」

 アルファルドは、車両に乗り移動しながら吐き捨てる。彼女の隣に座るもう1人のカナンは、アルファルドのほうを見る。相変わらず彼女の色はない。死人の色……自分はどうなのだろうか。自分は、もう1人の偽物と同じ色をしているのだろうか。心動く彼女を乗せて、車は、港にと向う。








BLACK LAGOON
×
CANAAN


第6話 二挺拳銃









「兄貴!奴らが責めてきました!」
「バラライカの奴、敵も味方もわからなくなったのか?誰だ、あいつに酒なんか飲ませた奴は…」

 タバコに火をつけてもらいながら、彼もまたレヴィと同じく二挺拳銃を構える。部下を一度建物内に戻したことで、敵を迎え撃つこととする。ホテルモスクワ、いや、遊撃隊はその名の通り、軍隊である。統率と、目的のためなら躊躇しない心が、奴らの最大の武器。

「だが、そこに奴らの付け入る隙がある」

 窓をソファーや棚で固定させながら、レヴィたちを連れ出す。ホテルモスクワたちは作戦を考えているのだろう。こっちの動きが読めない状況にすれば奴らも迂闊には手が出せない……といっても、時間稼ぎにしかならないが。

「お前達には、この街の火を消してもらうとする。修羅に墜ちたフライフェイスを止めれるのはおそらく俺だけだ」
「張の旦那、俺も手伝わしてもらう……真っ赤になったバラライカに水をかけて目を覚まさせられるのは俺だけだろう」
「だったら、私も!」

 レヴィが自分もこの戦場となるべき場所に残り戦うと言い出すレヴィ。だが、張は首を横に振ると、レヴィを見つめ。

「俺達はディフェンスだ。お前の凶悪性は防御には向かない。だったら、俺達がやられる前に、あの蛇を噛み殺せ」
「……」
「おいおいレヴィ。ここはお前が乗ってくるところだ。お前を追い詰めた敵を葬れるんだからな?」
「……ちっ、わかったよ」

 レヴィは、溜息をつきながら、渋々頷く。
 廊下を歩き続けていた張の足が止まる。

「こっちの壁の向こうに、緊急脱出用の地下通路がある。ここからなら、奴らの目を掻い潜り、外に出れるだろう」

 かつて、事務所を襲われたときがあった三合会としては、新たに事務所を作る際に築き上げた、緊急脱出用の抜け道である。彼としてはまたあのような悲劇はゴメンであるということからだろう。まあ、今回はここを使うことさえ許されない状態ではあるが。

「……旦那、ダッチ。この山が片付いたら、たらふく酒を飲まさせてやるぜ」
「ああ、期待させてもらおうレヴィ」
「おいおい、賞金を出しているのは俺達だってこと忘れてないか?」

 やれやれといいながら、レヴィたちを送り出す張。先に回転ドアになっている壁にと入っていくレヴィ。

「カナン……」

 振り返ったカナンは張を見る。

「奴は危険だ。俺達ロアナプラも危険さで言えば相当のものだと自負していたが、奴はそのバランスを崩す。仕留められるのは、おそらくお前だけだろう」
「……彼女は手ごわい、約束は出来ないけど……やってみる」

 カナンもまた、レヴィの後を追う。
 残されたロックは張とダッチを見る。ダッチは、ロックの肩に手を置く。

「ロック。レヴィとカナン……奴らはお前の銃だ」
「俺の…銃」
「ああ、銃はまっすぐに飛び、目標物を破壊する、だが、銃が幾ら優れていたとしても、撃つものが無能であれば、それは宝の持ち腐れだ。お前なら、あの銃を使いこなすことができるはずだ」

 ダッチはロックの肩をたたくと、彼から離れる。ロックは張とダッチの背中を見ながら頷くと、レヴィたちの後を追おうした。そこで彼は振り返り、張のほうをみる。

「ミスター張」
「なんだ?ロック」
「バラライカさんは、彼女は戦争という居場所に取り付かれているだけだ。だから……」

 ロックの言葉、それはバラライカを倒す=殺害することを危惧しての言葉だった。ロックは察していた、バラライカがここで行動を起こすはずがない。おそらくは、アルファルドとなにかがあったからだろう。そう考えれば恐ろしい。彼女は、アルファルドはバラライカを、まるで操り人形とするようなことをしたということだ。戦争という人間の暗黒面を見てきた彼女よりも、恐ろしいアルファルド……彼女はどこまでの地獄を垣間見たのだろうか。

「ロック……」
「ロック、お前も知ってのとおりフライフェイスは、凶悪だ。だから約束は出来ない」
「……」
「だが、努力はしよう」

 張の言葉に頷いたロックは、そのままレヴィたちを追いかけて走っていく。
張は、タバコを床に落として踏みつけながら、微笑む。

「……二挺拳銃っていうのは面白い言い方だな?ダッチ」
「張さんや、レヴィが二挺拳銃を使うように、ロックもあの二挺拳銃を上手く使いこなせるかどうかが、この勝負の鍵となるでしょうね」
「そういうことだな」

 2人はそういうと、天井に銃を向け放つ。
 それとともに、天井から落ちてくる賞金稼ぎの一味。まずは雑魚からはいりこんできたようだ。ホテルモスクワたちはここからくるだろう。まさに、戦争が今まさに始まろうとしていた。





 張から教えてもらった通路を通り抜け、ドアを開けるレヴィたち。そこからは海の潮の香りがした。どうやら随分と地下を通ってきたようだ。振り返ったレヴィ。この先では、バラライカと張たちが今まさに死闘を繰り広げようとしているのだろう。後ろ髪を引っ張られるような思いだったが、ロックはそんなレヴィを察してか、彼女の肩を掴む。

「行こうレヴィ…俺達には俺達のやることがある、そうだろう?」
「……わかってるさ、ロック」

 気の利いたことに車が用意してある。レヴィは張の優しさに感謝しながら、彼の無事を祈りつつ、車にと乗り込む。ロックとカナンも乗り込み、エンジンをかけて走り出す。


 アルファルドを探し出す。

 そして……。


「ぶっ飛ばす!」

 レヴィはアクセルに力を入れて、車の速度を上げながらつぶやく。

「ここからはカナン、君の仕事だ」
「うん。アルファルドは……私のクロ、いや、彼女と一緒のはずだから、その色を探す」

 カナンは集中して、街の中にある複製された己の色を追っていく。彼女の色の残光が、残っている。それを追い求め続け、そして場所を見つけ出す。

 カナンは目を開ける。


「場所は、教会だ」


 レヴィとロックは頷き合い、猛スピードで教会を目指す。






 アルファルドたちは、焼け野原とかした暴力教会の場所にといた。彼女たちは核兵器を持ち出したわけではなかった。重くて、そして危険な類だ。ここに置いておき、このような持ち運ぶ時となったら持っていく算段であった。奴らも、まさかこのまま放置されているとは思わなかっただろう。

「どうした?先ほどから様子がおかしいぞ?」

 車から降り立ったアルファルドは、車内でぼーっとしているカナンの複製を見つめ問いかける。彼女は、はっとして車を降りる。

「い、いや、なんでもない……」
「自分の偽物と戦って何か収穫はあったか?」
「……彼女は危険だ。私を惑わす」

 あのイエローフラッグで戦ったとき、偽者のカナンは、自分に問いかけた。貴方には迷いの色を感じると。そして、記憶がしっかりとあるのか?と問いかけてきた。自分には記憶もあるし、迷いなどないと信じている。だけど、そう信じれば信じるほどに、自分の記憶に曖昧なものを感じるのだ。自分の頭にある記憶は、ずっと書き続けられてきた本ではなく、コピー紙のように軽く感じられるのだ。そんなバカなことはない……。もし、そうであるのなら、自分が偽物ということになる。

「お前は私の銃だ。しっかりしてもらわなくては計画が頓挫する。頼むぞ?」
「はい……」

 トラックがやってくる。
 蛇のメンバーのものたちだ。重武装の格好をした彼らは、ここにいるアウトロー連中とは訳が違う。プロの殺人集団であるといえる。アルファルドが見えている中で、核兵器を、軍用トラックにと積み込むための作業にと入る。そんな中、もう1人のカナンが、頭に過ぎる痛みを感じる。

「……くる」

 アルファルドがその言葉を察して、こちらにと向ってくるのであろうものたちが誰かを悟る。三合会にはバラライカたちをあてつけた。それを凌いでやってくるのは、あのイエローフラッグで現れた女賞金稼ぎと、カナンか。

「カナン」
「?」

 顔を上げる複製されたカナンに、アルファルドは近づき、錠剤を手渡す。

「今日の分だ」
「……」

 複製されたカナンはその錠剤を受け取り、飲み込む。

「恐らくは、その来る者の中に、お前の偽物もいるのだろう」
「うん、いるよ…彼女の色がわかる」
「そうか……」

 アルファルドは、核兵器の搬出を急がせる。
 カナンは近づいてくる色を見つめる。彼女も自分を察しているのか…頭の痛みが強くなる。自分は、偽物ではない、本物だ……本物だからこそ、ここでやられるわけにはいかない。こんなところで、自分にはまだやらなくちゃいけないこと……やらなくてはいけないこと?それはなんだ。私のやらなくてはいけないこと……。

 炎の中……カナンは自分に問いかけた。

 最初に戦ったときに、偽物であるカナンが自分に問いかけた言葉を、自分の口で言う。

「貴方は、誰か大切な人がいる?」

 私にはいる。私の記憶の中には、アルファルドがいつも一緒だったから。自分をこうして強く育ててくれた彼女が、私の中の支えであり、彼女のために戦える。記憶はある。そうだ、だから私は負けない。負けるわけには行かないのだ。

「……」

 目を閉じて、車が向ってくる道に仁王立ちして、銃を握る。
 車両の音が聞こえる。
 ゆっくりと目を開ける彼女の目は赤く輝く。
 そして、銃を向け、放つ。

 正面に迫る車が爆発し吹き飛ぶ。それはもう1人のカナンの頭上を勢いよく宙を飛び、越えて、彼女の後ろでつぶれる。炎の影に揺られながら、複製されたカナンは前を見続ける。彼女にとってはもはや、己の偽物以外との決着は興味がなくなっていた。

「……待っていてくれたんだ」

 カナンは、夜の闇から姿を現して、彼女に告げる。

 間一髪だった……カナンが『飛び降りろ』といわなければ今頃全員があの車の中でお陀仏だろう。

「敵襲!」

 蛇の構成員達の叫び声と供に銃声が響きわたる。闇から飛び出してきたレヴィは、奇襲攻撃を敢行し、蛇の構成員達を次々と葬っていく。
 
 そのなか、アルファルドの前で対峙するもの……それはロックだ。彼自身、アルファルドに興味があった。この悪徳の町をここまで派手に緻密に破壊を企てた彼女。その彼女の闇とは何か。双子のときもそうだった。この街に訪れるものは、皆、闇に満ちている。だからこそ、彼女たちを救えるのは、死でしかない。だが、本当にそうなのだろうか?死でしか人は助けられないのか。メイドのときは違った……助けられた。それが彼女達にとって、幸せな結末だったかはわからない。だが、自分はあの絶望的な状況下でそれを行えた。やり遂げたという気持ちがあった。これはちっぽけな自己満足に過ぎない。褒められるものでもないし、そんなものは望んでいない。自分は、あるべきところにあるべきものの姿をただ、おきたいと考えているだけだ。

「……アルファルド」
「日本人か」

 アルファルドは、縁があると思う。
 カナンの連れの女も日本人であったように……自分の運命はやはりあの国にあるのかと感じ取る。

「見たところ、お前は戦う人間ではないようだが、なぜここにいる?」
「戦うだけが、この世界のすべてではないだろう?貴方こそ、どうしてそこまで戦いを求める?」

 目を細めるアルファルド。

「かつて戦争に巻き込まれ、そのときの狂気から逃げられない……とか、そういった答えを求めているのか?」

 バラライカのことをいっているのか……ロックは、馬鹿にした様な言い方をするアルファルドに怒りを覚えながら彼女の言葉に耳を傾ける。

「奴らは単純に己の居場所を欲している。だが、私には自分の居場所が……ないのさ。この世界のどこにも」

 彼女の表情は冷静であるが、ロックはそこに狂気を見た。バラライカは、雰囲気こそ狂気に満ちているが、彼女には理性が残されている。彼女の中の戦争の中の理性。アルファルドは一見、冷静で理性的に見えるが、彼女の中には狂気しか存在しない……。自分たちは彼女を見誤っていた。彼女には人間に必要な心がない。

「ロック!!」

「だから、私は……自分の居場所をつくることにした」

 レヴィの声と供に、銃声が響きわたる。












[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第7話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/23 00:47






「さて、ここからは大人の時間だ」

 張は事務所内にバリケードを張りながら、銃を握り、部下達を配置する。事務所内の建物の上では既に、物音がしており、アウトローか、遊撃隊が攻撃を行おうと蠢いている。敵がどう攻撃をしてくるか……。

「どうするんだ?張さん……もう逃げ道はないぞ?」
「なに、ダッチ。俺に考えがある」

 張はサングラスをかけなおしながら、笑みを浮かべてダッチとともに部屋にと入っていく。



 一方、事務所内の様子を双眼鏡で見つめているのは軍服を身につけたバラライカである。戦争という果実…自分達の生きがいであり、そして果たすことが出来なかった夢の場所にと再び舞い戻る。燻ぶる火を、大火にして……この顔に宿る炎を、燃やしてやろう。バラライカは、腕を伸ばして指示を出す。

 彼女の命令を狼煙にして、一気に物音もたてずに、まるで蟲の様に蠢きながら、夜の闇に紛れ張の事務所内にと忍び寄る遊撃隊。バラライカは、いつの日かのことを思い出す。それは、自分と張たちが抗争を始めたときだ。あのときは、既に張がロアナプラを手中に納めていたときに自分達が介入した抗争である。双方に甚大な被害を与えながら、最終的な決着は、自分と張で決着をつけた。

 あのときの戦いが再びできるとは。

 いや、いつかはやらなくてはいけなかったことだ。馴れ合いだけの世界に自分はきたのではない。それを彼女は教えてくれた。自分が求めるものは戦争であるということを。

「…大尉」
「なんだ?」
「全員、所定位置につきました」

「……作戦を開始する!」








BLACK LAGOON
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CANAAN


第7話 居場所








「戦いは作り出すもの」

 バラライカは、自分に迫ったアルファルドを見つめる。彼女の目は深淵を感じ取れる。戦争を知っているものの目ではない。もっと深いもの…彼女には本来人間が持ちえているものが、ないように感じ取る。

「お前のように第三次世界大戦を待っているようでは、戦いは訪れない。朽ちるだけだ」
「……お前は私達になにをさせたい?何をくれる」
「お前の求めるものを」
「私の求めるものを……」

 アルファルドは、バラライカを見つめ告げる。
 戦争という名の、甘い言葉をバラライカは飲み込んだ。




 張の事務所に遊撃隊の武装集団が取り付き、窓ガラスに催涙弾を投げ込んでいく。煙と供に、ガスマスクを被った遊撃隊たちが2人一組で窓柄を突き破り入り込んでいく銃を握り、彼らは速やかに行動をしていく。アウトローたちは、その催涙弾で、戦闘不能の状態だ。遊撃隊にとって彼らは邪魔でしかない。

「きたな……フライフェイス」

 あちこちで聞こえてくる銃撃音を聞きながら、部屋内で張とダッチはソファーに座っていた。部下達には指示を出してある。この戦いは無益な戦いであると。一銭の価値にもならない。彼女の、戦争という麻薬に魘された彼女の1人舞台であると。

「なあ、ダッチ。戦争って言うものは、そこまで人間を変えちまうものなのか?」

 かつて、ベトナム戦争というものを経験していると告げているダッチに張は問いかける。ダッチはタバコの煙を吐きながら、サングラスの向こうにある目が遠くを見る。

「殺し合いという事実に置いては、それは何も変わらない。だが、殺すことがすべてである戦争という極限生活は人間の心を蝕むだろう。誰しもが皆、普通の人間だった。それがたった一発の銃弾で、かわっちまう。しかも、それをしなければ、自分がお陀仏なんだからな」
「バラライカもまた、その犠牲者というわけか。わからないな、その反面、テロリストだなんていうものが存在する」
「そういえば聞いていなかったな?張さん。張さんは、アルファルドという女を知っているようだったが?」

 張はソファーによりかかり天井を見る。

「ああ、数年前だがな。奴は、突如現れた……」



 彼女は、俺達の組織の取引相手だった。取引相手だったというだけで、名前は『蛇』ということ以外さっぱりだったが……そんな折だった、彼女は突然現れた。組織の本拠地でのことだ。本拠地の高層ビルの最上階、ボスにあって、部屋を出たところだった。俺は戻ろうかというときに奴は姿を現した。青いコートに腕に刺繍をした女だった。明るい廊下を前にして、俺達は目が合う。

「……」

 若いというイメージが最初に出た。
 なんせ、まだ学校にでも通っているような感じだったからな。それでも彼女の匂いからは、血の匂いがした。どれだけの血の場を潜り抜けてきたかわからないほどにな。

「なにか用ですか?」
「おっと、これは失礼。あまりにも綺麗なお嬢さんで。つい目がいってしまった」

 俺は、彼女に手を差し伸ばす。
 彼女もまた手を伸ばして、俺達はその手を握った。

「張維新だ。ミスター張とよんでくれ。お嬢さんは?」
「……アルファルドだ。ミスター張」
「アルファルド……いい名前だ」

 手を引く俺達。
 アルファルドは、俺の横を通りすぎていく。
 彼女の背中は、暗く感じた、あの女は、人間なのかと思うほどに。

 それが最初の出会いだった。彼女は警備会社という名前を表に立てて莫大な金を動かし、そして金を持っている組織であるということを俺は後から知ることになる。それからは何度か武器の売買で顔をあわせることになるんだが。

「……約束の金だ」
「張。お前はこんなことで何を得ている?」

 突然の質問に、俺は逆に聞き返してしまった。何を言い出すんだ?と。アルファルドは、俺を見ながら、まるで夢心地に聞いてきた。

「おかしなことを聞く奴だな?これも一種の仕事だ。どこかの会社員となんら変わりはしない。朝飯を食べて、仕事場に向かい、帰宅する。帰りにワインや女が待っていればラッキーといった程度の極自然な仕事だ」
「……私は時折あるよ、この空虚な現実感に耐えられなくなるときが……」

 最初は薬でもやっているんじゃないかと思ったんだがな。その言葉は、今思えばウーアでの日本での無差別テロに、国際会議でのテロにも通じるものがあるのかもしれないな。

「バラライカもそうかもしれないが、あいつにとっても、戦闘とか、そういった世界に己がないと、まるで生きているとかそういった実感が湧かないのかもしれないよ」
「アルファルドという女もまたそうだというのか?」

 ダッチの問いかけに頷く張。

 銃声の音が近くなってくる。数のほうでは三合会のほうが上だ。だが遊撃隊は軍隊崩れの部隊だ。質で言えば遥に向こうが勝る。よって、この勝負は消耗戦にしかならない。しかもこの戦いは、張にもバラライカにも、恩恵はない。あるのは双方の消耗だけ。そして、それに喜ぶのはあの蛇女だけだ。



「大尉、事務所の最上階から5階までは制圧に成功しました」
「遅いな、何を戸惑っている」
「敵のアウトローたちが抵抗を試みているようです」
「張に笑われるぞ。私も前線で指揮をとる。軍曹、お前は下の階から奴らを追い込め」

 バラライカは指示を出すと、軍服に身を包み歩き出す。
 かつて、三合会との戦いで、互いに与えた銃弾…本来なら死んでいるであろう、弾丸を受けながらも自分たちは生きている。ならば、ここで決着をつけよう。ここを出れば、新たな戦場がそこには待っている。軍人崩れとしては、それが立派な柩となるはずだ。省みられることがなかった自分達の居場所……。

 軍服にて、部下と供に、建物内を歩いていくバラライカ。
 この戦いは狼煙だ。
 新たな闘争のための…狼煙。

 アウトローたちの抵抗は凄まじかった。なんせ、相手が遊撃隊と言うこともある。普段、力を合わせることなどない彼らでさえ、協力をして戦闘を行っている。シャエンホアや、ソーヤたちも、また同じように敵を近づけないようにさせていた。シェンホアの類稀な運動神経と、その身軽で動きの素早い攻撃は、ロシア人の武装では相性が悪い。

「なるほどな、厄介な奴をよこしたものだ」
「敵の獲物はナイフですが、ワイヤーがついていて、飛距離は30メートル以上近づけません」

 現れたバラライカに、遊撃隊の部下が声をあげる。
 手榴弾を試したものの、こちらに来る前に斬られてしまうということだ。こう狭い部屋の中では、ある程度戦いが限定的にされてしまうのは、仕方がないことだ。そこでの手榴弾はかなりの効果があるが、それでも、近づけなくては意味がない……。

「……やれ」

 バラライカの背後で準備をしていた遊撃隊が、RPGを持ち、膝立ちとなってバランスをとると、発射する。煙と音と供に、廊下をまっすぐ飛んでいく。ソファーや机などのバリケードでつくられたそこから、三合会メンバーからの銃弾が飛び、RPGは着弾する前に爆発する。だが、その爆風は、建物の廊下の両端にある壁を破壊するほどの勢い、それだけではない。煙が、三合会とアウトローたちの視界を遮る。だが、聞こえてくる。遊撃隊の足音が。

「きてるぞ!撃て!近づけるな!」

 視界不良のまま防衛ラインを守ろうとして三合会メンバーが銃撃を行う。だが、このようなときのために、彼らは、最新鋭のゴーグルを持ち、それでもってバリケードを破壊して、突破する。銃を握る彼ら、遊撃隊は目の前の敵を躊躇なく攻撃する。血の匂いと聞こえてくる火薬の匂い、そして銃撃音。

 これが戦争?

 バラライカの脳裏に浮かぶ言葉。
 自分たちが居場所としてきた戦場というのはこういうものだっただろうか。確かに三合会との戦いは心躍るものだった。だが、今、その心躍る気持ちはあるだろうか。この気持ち悪さはなんだ。なぜ、なぜ拭いきれない、歓喜の声をだすことができない。バラライカは頭を抑える。これは戦争ではないのか?私たちが望んだものではないというのか。

『お前達の居場所は戦場だろう?』

 アルファルドの言葉……私の居場所は戦場ではないというのか。
 違うというのか!?
 ならば、私の居場所とはどこだ。



 煙が晴れて来る。


「状況を報告せよ」
「何も変わらない。クールなものさ」

 その声に、遊撃隊のものたちが、振り返り銃を向ける。そこにはサングラスを直す張と、ダッチが立っていた。バラライカはゆっくりと振り返り、銃を張にと向ける。

「どうした?フライフェイス……お前が銃を向ける相手は俺達じゃないはずだぞ?」
「私達は、戦争という名の居場所を作り出す事が出来た。それを邪魔するものには容赦はしない」

 バラライカの顔を見るダッチ。
 彼女は相変わらずの軍人の目をしている。
 だが、ダッチもそして張もわかっていた。今のバラライカは今までの彼女ではないということに。戦場では決して見せてはならない動揺・困惑を感じることができる。

「アルファルドが何を言ったかはわからないが、このまま俺達とお前達が戦えば、結果として、このロアナプラは、全滅する。全員、誰ひとり例外なく、老若男女、全員が、あのアルファルドによって殺される」
「……それがどうした?奴がその気なら、私達は全力で奴を仕留めるだけだ」
「バラライカ。アルファルドに、利用されていることを、お前がわからないわけじゃないだろう?」

 ダッチの言葉にバラライカは黙る。
 それはわかっている。わかっているが、それでも、自分達の存在を否定されたことが、どれだけ屈辱的なことか。あのアルファルドの言葉は、自分達の存在を否定し、侮辱し、汚した。軍隊崩れであろうとも自分たちには誇りがある。ならな、それを持ってして存在をはっきりと明示すること。それをアルファルドに示す。

「私は、私のやり方を通すだけだ……」

 大声で怒鳴るバラライカ。
 張は、溜息混じりにバラライカを見る。

「なら、仕方がないな。決着をつけよう。簡単な方法だ。どちらかが最後まで立っていたほうが勝ち。どうだ?わかりやすいだろう」
「……何を考えている、張」

 張は不適な笑みを浮かべる……と、同時に建物が大きく揺れるのを感じた。バラライカは足を踏ん張り、揺れる建物の中、張に目をやるやいなや、銃を放つが、張は、ダッチとともに部屋に戻り、それをやり過ごす。

「大尉!」
「ちっ……」

 この建物を破壊するという策を張は考え付いた。自分達の大きな勢力での潰し合いは、双方に打撃を与え、そして結果的にはアルファルドに勝利を与える。それならばと…考え付いたのがこの策だ。轟音と供に建物が崩れ始める。バラライカは、兵達に脱出命令を与える。建物が崩れ落ちていく。折角事務所も、新しく立て直したというのに……災難だとばかりに頭をかく張。

 部屋の窓から脱出をした張とダッチは、崩れていく建物を見つめる。アウトローたちも、呆然と眺めている。遊撃隊たちもまた、バラライカの生存を信じるしかない。先ほどから、無線は使えなくなっていたためだ。

「大尉の作戦は続いている。我々は、三合会を殲滅し……」

 ボリスが、バラライカの作戦遂行を行おうと崩れる事務所の前で立っている張に銃を向ける。

「待て、軍曹」

 その声に、軍曹は声のほうを見る。そこには、バラライカが立っていた。彼女は、服に被った埃を払い、張を見る。

「張、勝負は最後まで立っているというものだったな?」
「ああ。そうだ」

 バラライカと張は同時に銃をぬき、止まる。
 彼らを周りで囲む遊撃隊とそしてダッチ、シェンホアたちアウトロー、三合会のものたち。彼らが見つめる中で、バラライカと張が銃を相手に向けて放つ。銃は2人を掠めながら交錯する、バラライカは、二挺拳銃を用い、視線を低くして狙い打とうとする張に対して、相手に攻撃をさせまいと銃をまるで拳のように打ち出しながら、放つ。銃撃の音が響きわたる。

「バラライカ、お前の居場所はここだ。この腐った悪徳の街、ロアナプラだ」

 張の言葉に、バラライカは目を見開く。


 二人の動きが止まる。


 ダッチはタバコに火をつけながら、そのやり取りを見ていた。そうだろう、張のいうとおり、彼女の居場所はここだ、軍人崩れであり、戦争狂かも知れない彼女も、以前とは違う顔をここではみせるようになっていた。レヴィやロックにはいい姉御として接し、自分にも仕事をくれるというビジネス的な顔を見せるようになっていた。彼女は、自分が最初に出会った頃の戦争にすべてを潰されたときとは違う。彼女の居場所は、ここなのだ。戦場でもどこでもない。それを彼女はわかっているはずだ、ただそれを認めたくないだけだ。

「……張、偽善は嫌いだな。ならば、私を倒して己の正当性を示せ」
「そうだな、それが、この街のルールだ……」

 緊迫した雰囲気が場を覆う。

 2人は視線を絡ませ、そして銃撃音が響きわたる。

 全員が見つめる中、彼らの腕は、相手には向いていなかった。彼らの腕は、目の前にいるものではなく、別の方向を示し引金を弾いていた……その先にいたのは、周りを取り囲むアウトロー達に紛れた1人の男。男は、そのまま地面にうつ伏せに倒れる。取り囲んでいたアウトローたちが、声を上げて、そこから離れた。

「やはり、ここで動きを見せたか……」

 バラライカは溜息混じりにつぶやきながら、自分たちを狙った刺客に目をやる。この街を指揮している者たちを一挙に殲滅する作戦であったのだろう蛇。だが、自分はそこまでバカではない。外から来たものを全面的に信用する『訳』がない。確かに自分は、軍人としての居場所を、蛇に求めた。それは事実だ。だが、彼らの居場所とはやはり自分たちは違う。相容れない……それが、今、はっきりとわかった。

「テロリストごときに我々の魂がわかるはずがない!」




「旦那、こいつ普通じゃないね」

 シェンホアの言葉に張が血の池に溺れる死体を見た。
 そこには、コート着た、腕が三本あり、首筋に不気味に浮かび上がる紫の痣の死体がそこにはあった。そのおぞましい姿に、さすがに張も思わず顔を背ける。

「それが……ウーアウイルスの新たな進化形です」

 張とバラライカが顔を上げる中、そこに立っていたのは眼鏡をかけた日本人女性。彼女は、この街を取り仕切る2人に対していささかの恐怖も、緊張もなく告げる。


「初めまして、対蛇特殊部隊諜報部の夏目といいます」














[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第8話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/02/25 22:19




 暗闇の中、聞こえてくる声……。

「お聞きの通り、蛇は核兵器を用いた作戦を行おうとしているようで、東南アジアにて、核の強奪を行おうとしています。また未確認情報ですが、この場所には、ウーアウイルスもあるとの情報があります」
「……なるほど、ウーアか。あれがばら撒かれれば、日本や香港の二の舞だ。それに核となれば、速やかな行動が求められる」
「現在、我が陸軍特殊部隊グレイフォックスが現地ロアナプラでの任務に当たっています」
「グレイフォックス?不正規特殊部隊に、この大任が可能なのか?」
「しかもロアナプラといえば、様々な国のマフィア組織が暗躍するという危険な場所だろう?」
「彼らには戦歴があります。なによりも……」

 部屋の影に映る、それは星条旗…。
 部屋にいる、軍服姿のものたちは、スクリーンに映し出されたウーアウイルスでの感染者の写真を見ながら報告を聞いている。

「彼らは、唯一このロアナプラで作戦を遂行し帰還した部隊です」




「ロック!!」

 アルファルドの握る銃が引金に手をかけたとき、その前に聞こえた銃声。アルファルドは銃声のほうに目をやる。現れたのは覆面をした数人の兵士だ。アルファルドは、その銃を握った兵士達が、自分の部下を殺害していく姿を見て目を細める。レヴィとしては、突然現れた奴に、呆然としてしまう。

「久し振りだ……ロックといったか」
「あなた達は……」

 1人の兵士が覆面を取る。
 それは金髪のアメリカ軍人、そしてロックは彼を見たことがある。メイド事件で、自分たちが助けたアメリガ軍人の1人。シェーン・J・キャクストンといったか。

「話は後だ。我々は作戦を遂行する」
「おいこらっ!!勝手なこと抜かすな!あいつは私の獲物だって言ってんだろうがっ!!」

 レヴィが怒鳴り散らす中、アルファルドの背後のトラックの扉がゆっくりと開く。







BLACK LAGOON
×
CANAAN


第8話 花







 炎が渦巻く中、対峙する2人のカナンは、銃を握りながら互いを見ている。
赤い共感覚の目で相手の音・匂い・姿を視覚・嗅覚・聴覚で感じながら、すべてを一つに纏めて認識する。自分との戦いなど、経験したことがないものだ。しかも、カナンにとって、これは共感覚同士の戦いとなる。

「貴方は、私に問いかけた。私に大切な人…光を与えてくれる人はいるかって」
「……」
「私にはいる!だから、私は本物だ。貴方のような偽物に、私は負けない」

 彼女はそういうと、銃を放つ。

 銃の弾道……カナンはそれを色で感じ取り、瞬時に頭を下げ回避する。そのまま転がり込むようにして、相手の距離を縮めて銃を放つ。もう1人のカナンは、滑り込みながら、自分に向けて銃撃する相手に対して、鳥のように飛ぶと、空中で膝を丸めて回転し、滑り込んだカナンの頭の上を飛び越える。即座に、2人のカナンは、相手に向けて振り返り、銃を向け合う。

「貴方がどうやって生まれたかはわからない。だけど、私は、貴方を死なせたくない」
「偉そうなことを言うなっ!」

 勝手なことを言うなとばかりに、もう1人のカナンは銃を放ち、カナンもまた銃を放つ。2人の放った弾丸は、まっすぐ弾道を描きながら進んでいく。それらを回避しながら、次々と弾道を描く弾丸を放っていく。2人は、まるで踊るように、背中を反らし、足を大きく開きながら、相手と戦闘を繰り広げていく。

「「はぁ……はぁ……」」

 2人のカナンは互いに背中合わせになりながら、銃の弾倉を交換する。

「今度こそ逃がしはしない」
「前は楽しかったのに、今日の貴方は迷いと怒りに満ちている」
「!」
「……戦いも楽しいけれど、もっと楽しいことがある。貴方は知っている?」
「戦っている最中に、何をいっているんだ?」
「アヤトリっていうんだけどさ……きっと、貴方もやれば楽しい」
「ふざけるな!」

 背中合わせになっていたもう1人のカナンが先に彼女から離れる。
 2人は同時に身体を反らして振り返り、相手に目掛けて銃を向け放つ。2人はバランスを崩すように倒れながら、何発もの銃弾を撃ち込む。

「くっ!?」

 数発の銃弾の反発かは、同じ相手からの銃弾とぶつかり合うが、そこから伸びてきた銃弾の一部が自分の身体……肩を掠める。思わず、歯を食いしばる。2人は尻餅をついて、相手に銃口を向けたまま、止まる。流れ出る血……。

「……ようやくダメージを与えられたと思ったのに」
「お互い様だね……」

 相手の肩からも、同じように血が流れている。
 だが、あの至近距離からの銃撃でこれだけしかダメージを与えられなかったのは、与えたのは、幸運であり、不運であろう。


 2人は暫くそのまま互いを見ていた。


 まるで鏡のよう、双子といってもここまでは似る事はないだろう。
 カナンは、銃を握りながら、その目の前のもう1人の自分と視線を重ねていた。
 偽物といえ、彼女は何も知らないのだ。自分がどうして生まれたのか、自分が何なのかもわからないのに……そんな彼女の生を誰が奪う権利があるのだろうか。

「同じ人間が2人もいるわけにはいかない」
「どうして?」
「どうしてって……」

 その言葉にもう1人のカナンは動揺する。
 なぜ?なぜなんて考えたことがなかった。それはすべてアルファルドがそうしろといっていたから。だから、自分はそれが正しいと思って。

「アルファルドが、そうしろと言っていたから?」
「……ちがう!私は……」
「もし、貴方が本物のカナンであるとしたら、人に言われたことだけを考えるのじゃなくて、自分で考えて自分で判断をする。すべてをありのままに、受け止めて……」

 かつてシャムが自分に言った言葉だ。
 もう1人のカナンは、目の前の自分の言葉の真偽を確かめるべく、共感覚を用いて、彼女の色を感じとる。嘘をついていれば、汗や、匂いで感じ取れることができる。

「貴方が嘘をついていれば、私は貴方を殺す」
「私は嘘なんかついていない」

 カナンの言うとおり、彼女の色に変化はない。
 だけど、これでは……まるで、アルファルドが、ただ目の前の彼女を殺したいという、ためだけに私を利用していたみたいじゃないか……それは、自分が目の前の彼女の複製だから?

 頭に過ぎる黒いもの。

「本物も、偽物も関係ない」

 カナンは疑心暗鬼に陥りそうな彼女に言葉をかける。

「……」
「貴方は、貴方。私は私。それでいい……」

 思わずうつむくもう1人のカナン。
 負けた気がしたのだ……この目の前の自分の心の広さ、いや、余裕というべきか、それが自分には持てない。自分はアルファルドに言われるがままに、ここまでやってきた。そんな自分には彼女のようなことができない。

「……ねぇ」
「うん?」
「あやとりってなに?」

 彼女の問いかけに、カナンは笑って見せた。もう1人のカナンはその目の前の彼女の表情に驚きを隠しきれなかった。自分にはあんな顔ができるのだろうかと、そう思った。あんな笑顔を……私はしたことがあっただろうか。


「ここを、こうやってね……」
「う、うん……」


 炎が、背景として光を放つ中、2人の少女が赤い糸を使ってあやとりをしていた。それはまさに、違和感のあるものだったが……。カナンにとって、今の世界は銃弾が飛び交う世界ではなく、大沢マリアとともにいれた世界となっていた。マリアに教えてもらったように、赤い毛糸を両手で輪にして、そこから指を器用に使い、形を作っていく。

「これが、エッフェル搭」
「凄い……こんな糸だけで、どうやるの?」

 きっと、マリアがいればもっと上手く教えてくれるのかもしれない。今の彼女は、かつての私だ。だからこそ、マリアのような光がいてくれれば……。

「これでいいのか?」
「ああ、そして、その指をこっちに……」
「難しい……」
「私も最初は指がつりそうになったから平気」
「なら、私は貴方より先にできるようになるよ……」
「楽しい?」

 その問いかけに、もう1人のカナンはカナンのほうを見る。カナンは笑顔で、見つめていた。

「貴方、凄く楽しそう」
「……そんなこと」

 思わず否定しようとしたもう1人のカナンだが、その表情は以前までの緊張と不安・戸惑いに満ちたものから解放たれ、1人の少女としての顔となっていた。あやとりをしながら、私達は、戦いのない世界に浸れることが出来た。もう1人のカナンは、そこで戦いだけがこの世界のすべてではなく、もっと別の世界があることを知った。

「私は……何も知らなかったんだな」
「今から、知ればいい……」
「何もまだ始まっていないし、終わってはいないのだから……」


「カナン!!」


 その声に、カナンともう1人のカナンが顔を上げる。そこからやってきたのは、ロックだ。ロックは目の前で何かをしている2人のカナンに一瞬言葉を失うが、すぐに指を後に差して……。

「レヴィたちが!」

 カナンが立ち上がり、銃を握る。
 現実に戻されたもう1人のカナンは立ち上がることが出来ない。自分は彼女達の敵であると教えられた。だけど、今はもう戦う気持ちにはなれない。そんな彼女の気持ちをカナンは察する。カナンはもう1人の彼女を見つめ

「待っていて」

 それだけ告げると彼女は、赤い共感覚の目を輝かせながら走り出す。



 カナンの視界に広がる光景。

 そこには、米軍と戦闘を行っている一般市民。イヤ、違うこの不快感は……。あのファクトリーでみた光景だ。

 アルファルドは、中国西部の砂漠地帯にて、ウーアを用いた人体実験を行っていた。彼らは、ウーアを用い、死に至ることなく、身体に驚異的な能力を身につけることを可能させていた。その能力は心臓を二つにする。身体の機能を強固にするといったもなど様々ではあるが、それらのウーア感染者は、蛇から支給された薬を用いなくては死に至る。よって彼らは蛇に逆らうことは出来ない。しかし、そのファクトリーは、カナンたちの襲撃と、自分に指示を出す彼女の要請をした中国軍の攻撃により壊滅したはずだ。

 米軍は、銃撃を行いながら、異常な身体能力を身につけているものたちに対して必死の抵抗を試みている。

「なんなんだこいつらは!?」
「銃弾を受けても襲ってくるぞ!少佐っ!」

 こんなバケモノたちと戦闘をしたことはない彼らにとってみは未知の領域である。カナンは銃をぬくと、米軍と戦闘を行っている、ウーアウイルスにより変貌したものたちに対して走りながら銃を放つ。カナンの撃つ場所は頭である。そこを撃ち込み敵の身体的命令を発している場所を潰す。それを見ていたキャクストンは、部下達に指示を出す。

「全員、敵の頭を狙え!他の部位への攻撃は無意味だ」

 キャクストンは、パニックに陥る部下達に指示を出して、部隊をばらけさせないように、纏まりながら攻撃を行う。ウーア感染者の異常な身体的能力を持ったものたちは、驚異的な跳躍力や、4本になった腕などを用いて攻撃を行っている。カナンは、それ対して共感覚をもってして、敵を撃ちぬいていく。

「ちっ、この街には、悪魔か何かが取り付いているしか思えないな」

 キャクストンは銃撃を行いながら、時計を見る。

「時間があまりないというのに……」

 吐き捨てるように言うキャクストンの正面前…。
 目標であるアルファルドと戦っているのは、あの二挺拳銃の少女の1人。自分たちは、それを眺めることしか出来ないのか……キャクストンは苦々しく思いながら、敵をひとりひとり、正確に殲滅していくしかない。




「……ようやく辿り着いたぜ。蛇女、再戦と行こうか!」

 アルファルドと対峙するレヴィはソードカトラスを握りながら、告げる。イエローフラッグでは、相手に諭されてしまうほどの余裕を見せ付けられてしまった。これは彼女にとっては屈辱以外のなにものでもない。これでは、自分の二挺拳銃としての名前が泣くというものだ。

「今度は絶対に逃がさねぇ、蛇の酒は精力が倍増になるっていうからな、たっぷり食わせてもらうぜ!」
「懲りない女だ」

 レヴィは、二挺拳銃をアルファルドに向けると正面、アルファルドに向けて走りながら、撃ち込む。アルファルドは、それに対して身体を反らし、軽くかわすと、蹴りを打ち込んできたレヴィの足を身体で受け止め、空いている腕で握られた銃をレヴィの顔に目掛け撃とうとする。レヴィは『ヤベっ』といいながら、頭を後にそらし、相手からはなれながら、さらに弾を撃ち込む。アルファルドもまた、銃弾を放ち、二人の弾は交錯する。レヴィも、アルファルドの弾丸も、相手からは僅かに外れる。

「お前はどうして私につかない?金だって命があればこそだろう?」
「ふざけるな!この仕事はビジネスで成り立ってるんだ。2日、3日でここにきた奴のいうことを聞くなんていうのは、よほどのお人好しか、政治家くらいだぜ!」
「フ、同意見だな」

 アルファルドとレヴィは、再度対峙をしながら、互いに銃を握り、相手に対して狙いを付ける。

 レヴィにはどうでもいいことだったのだが、アルファルドの背後にあったトラックが動き出していた。キャクストンはそれを追撃すべく、部隊を動かしたかったが、敵のウーア感染者は量も多く手ごわい。このままでは……。キャクストンの腕にある時計、それが刻一刻と、秒数を重ねていく。





「作戦は、A案とB案で行く。まずは特殊部隊での核兵器奪還を目的とする。奪還失敗、もしくは規定時刻を過ぎた場合は、B案を採用する」

 暗闇の会議室の中、聞こえてくるのは米軍の国防長官のものである。

「B案は、ロアナプラに対して、空爆を敢行する」

 彼のロアナプラ殲滅の言葉は、米軍軍部関係者、閣僚によって拍手喝采で温かく迎え入れられた。














[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第9話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/03/03 22:52






夜が更ける中、赤い炎が立ち上っている。
その影に照らされている1人の少女。

もう1人のカナンは座り込んでいた。

自分はどうすればいいのか、わからなかったから。
この炎の向こうでは、カナンとそしてアルファルドが戦っているのかもしれない。
そのとき、自分はどちらに加勢をすればいいのか。
私は私……彼女はそういった。
私はアルファルドに、こんな楽しい遊びを教えてもらった事はない。

「あやとり……」

アルファルドが教えてくれたのは戦うこと。
そして、私には偽物がいて、そいつを倒すことで私は本物になれるということだけ。

「……知らなくちゃ駄目だ。このまま、ここにいても、私は何にもならない」

もう1人のカナンはあやとりを握り締め、立ち上がるともう片手に銃を握り締め走り出す。
アルファルドがいる場所か……。
もう1人の自分がいる場所か……。

私の本当の居場所はどちらかを見出すために。








BLACK LAGOON
×
CANAAN


第9話 制限時間









「おらおらっ!!」

 ソードカトラスから放たれる銃弾が、アルファルドを狙う。アルファルドは、至近距離での攻防にこだわり、レヴィに好きなように攻撃をさせない。相手は二挺拳銃。そしてアルファルドは片腕である。只でさえハンデがある中でも、決してアルファルドはレヴィに負けてはいない。至近距離での戦闘では銃は、相手を逆に狙うことが出来ない。しかも下手をすれば自分に被弾ということがありえる。レヴィも相手と距離をとろうとするが、アルファルドはそれを許さない。

「くそったれ!離れやがれ、お前は私のストーカーかよ!?」
「フ…、私の趣味じゃないな?お前は」

 しかも相手はまだあんなふざけたことをいってのける余裕がある。こっちは相手を剥がし取るのに、体力を使っているというのに。相手は自分お動きについてきて、格闘戦を仕掛けてくる。相手は片腕であるが、それをフォローするように、足を上手く使ってこっちのバランスを崩しにかかる。

「ちっ!!」

 レヴィは、カトラスをしっかりと握り、バランスを崩されようとも手から離れないようにはしてはいるが、これでは攻撃するタイミングがつかめない。

「遅いな。それに、武器に固執して攻めきれていない」
「うるせぇ!蛇女!お前なんかに説教される覚えはないぜ」

 アルファルドの動きが止まる。
 彼女の握られた銃が、レヴィに向けられている。自分もまた同じように地面に倒されながらもしっかりと銃をアルファルドに向けている。だが、この状態ではアルファルドのほうが有利であることに変わりはない。これで二敗目……?アルファルドはレヴィの悔しそうな表情を見ながら口元をゆがめる。

「しつこい野犬には、お仕置きが必要だ」

 レヴィに対して、アルファルドは銃を向けられているとは思えない余裕の表情をレヴィに見せつける。レヴィは、苛立ちを隠しきれない。確かに相手は強い。だが、それでも相手は片腕だ。片腕の奴に負けるほどの自分は弱いのか。

「お前にも、私が居場所を提供しようか?」
「なんだと……」

 アルファルドの言葉にレヴィは、問いかける。互いに銃を向けたままの状態で、周りからは銃声が聞こえてくるはずだというのに、今のレヴィには、どれが遠くに感じられた。

「お前の内部に潜む獣を解放てる場所を」
「なにいってやがるんだ?ヤクのやりすぎで頭がおかしくでもなっちまったのかよ?」
「気づいていないなら、仕方ないな……」

 アルファルドは立ち上がると、レヴィから離れて歩き出す。レヴィは何をアルファルドがしようとしているのかよくわからなかった。アルファルドは歩きながら、その視線にあるものを捕らえる。それはロックだ。アルファルドは、戦場に巻き込まれないように、米軍の兵士達と一緒にいる。アルファルドはそれをただの障害としか見ていないように、銃を向けた米軍兵士の顔面を撃ち抜く。彼らはウーアの変異体に集中してしまい、アルファルドの突然の攻撃に抵抗ができなかった。

「あいつっ!!」

 レヴィが、アルファルドの目的を察した瞬間、レヴィは目を見開き、アルファルドに銃をむけ走る。そこに襲い掛かるウーアの変異種。だが、今のレヴィにとっても彼らはただの障害物でしかない。カトラスを握り、飛び掛る変異種二体の脳天に狙いをつけ、腕を交差させて、撃ち抜く。

「邪魔だっつってんだろうがぁ!」



 銃弾と血が飛び散る中、レヴィの前には、ロックに狙いをつけるアルファルドの姿があった。ロックは死体として横たわる米軍兵士を前にしながら、アルファルドを見る。

「貴方は、自分の居場所が、本当につくれるとおもっているのか?」

 ロックの言葉にアルファルドは答えることなく首をかしげる。ロックはアルファルドに対して怯むことなく、口を大きく開けて言葉を吐き捨てる。

「答えはNOだ。アルファルド……お前のような死人が望む世界は永遠に訪れない」

 アルファルドは銃の引金を弾く。一発の銃声がロックの至近距離で響く。その銃声に、カナン、そして米軍のキャクストンが目をやる。ロックの身体から赤い血が飛び散る。アルファルドは、ロックを見ながら、杜息を漏らす。

「知ったようなことを言うな」

 レヴィの目の前で、後一歩というところで……彼女の走っていた足が止まった。レヴィは、地面に目をやる。その目には光がなかった。感情も何も…彼女の今まであったものが、そこで一瞬、すべてが消えた。

 アルファルドが振り返り、レヴィのほうを見る。
 レヴィもまた、顔をゆっくりと上げる。

 そこで垣間見せた表情……。そこには、すべてから解放された一匹の獣がいた。彼女は、二挺拳銃を握りしめ再度まっすぐこちらにと走ってくる。銃をこちらにと向けた彼女に対して、アルファルドは、彼女が今までのパターンで銃を撃ってくるであろうということは微塵も思わなかった。彼女は今までの彼女ではない。自分は彼女に会いたかった。レヴィは、全力で走りながら、こちらに飛び蹴りをかましてくる。アルファルドは横に飛び、地面に転がりながら、銃を向け放つが、そこには、既にレヴィの姿はない。アルファルドは瞬時に、上を見る。そこには、夜の闇に目を光らせる獣が銃を握り、こちらにと撃ち込んで来る姿だった。アルファルドは、片手を地面につけ、己の胴体を宙に浮かし、彼女の射撃の目標から身を避ける。片手であるが故に、回避に腕を使えば、彼女に反撃することはできない。レヴィは、地面に降り立つと同時に、二挺拳銃を構えて、離れたアルファルドに対して弾丸の雨を降らせるはずだった。アルファルドは、回避せず、レヴィの懐に飛び込んだ。

「……」

 沈黙をし、感情さえ表にださず、まるで壊れた機械のように、アルファルドの命だけを奪うことに執着したレヴィ。普通の人間ならば、攻撃から逃れるためには、離れては回避するはずである。だが、アルファルドはそれをしなかった。彼女から距離をとることは即ち、彼女の二挺拳銃の弾丸の雨を受けることになるからだ。アルファルドは彼女の懐に飛び込むと、肘をレヴィの腹部に打ち込むが、それは彼女の腕によって封じられる。さらに、そのまま、足をすくおうとしたアルファルドの足も、レヴィの強い足の踏ん張りに、崩すことが出来ない。レヴィに背中を向けているアルファルドに対して、レヴィはもう一方の空いている銃を握っている腕を振り下ろし、アルファルドの頭に打ちつける。アルファルドは、その攻撃を受け、さすがの痛みに彼女から身を離す。レヴィは二挺拳銃を用い、アルファルドに弾丸の雨を降らす。だが、アルファルドを守るべく現われた蛇のテロリスト部隊によって、それを阻まれてしまう。レヴィは責めようとするのだが、彼女をカナンが留めさせる。

「今いっても、あの攻撃じゃ近づけない!」
「……」

 レヴィにはカナンの声が聞こえていないようだった。
 アルファルドは、頭に手をあて、離してみれば、そこから赤い血が流れていることを知る。アルファルドは明らかな苛立ちの表情を見せる。まさか、あの女がここまでの力を隠し持っているとは思わなかったからだ。

「アルファルド様、お時間です。搬出部隊は無事に脱出できました。我々も急ぎましょう」
「……二挺拳銃と闘争代行人……」

 アルファルドを匿うようにして、部隊は撤退していく。
 それを追いかけるべくキャクトンたちは残りの変異体を攻撃していくが、急に彼らの動きが止まり、そのまま変異体の全員が倒れる。キャクストンはその突然の活動停止に、何が起こったのかわからない。

「……おそらく、薬がきれたんだ」

 レヴィを抑えるカナンはふと彼らを見て思い出す。ウーアの突然変異体は、薬が必要であるということ。それは香港で出会ったユンユンもまたそうだった。要するに彼らもまた、それが必要であり、そのために蛇にしたがっているということ。

「……」

 レヴィは、カナンを振りほどくと、その銃口をカナンたちにと向ける。カナンは咄嗟に銃をレヴィにと向ける。キャクストンはなにがあったのかわからずに、二人を交互に見る。カナンは、目の前のキレたレヴィに対しての色を見て恐怖する。彼女の色は様々な色が混濁しているのだ。哀しみ、憎悪、怒り、苦しみ、歓喜……こんな色は見たことがない。カナンは冷や汗をかきながら、目の前のレヴィと対峙する。

「レヴィ、おちついて!」
「……」

 レヴィはそれでも、動きを止めない。彼女を覆うのは完全な破壊衝動。レヴィを止めれるのは自分しかいない。カナンは覚悟を決めて、銃を握る。レヴィは二挺拳銃を構えて、銃を握る腕をあげて銃を放つ。カナンはそれをかわし、レヴィにと近づく。だが、彼女はそれをわかっているのか、後に飛び距離をあける。カナンは目を赤く灯しながら、共感覚の能力を用いて、彼女の動きを読む。

「くっ、近づけない!」

 カナンは、相手を傷つけないようにしようと試みているが、どうやらそんなことを言っている余裕も無いらしい。カナンは、それでも、相手に近づいてレヴィの動きを止めようとする。レヴィの弾丸を掻い潜りながら近づくカナンに対して、レヴィは動きを止める。カナンは彼女が次の行動に出ることを察する。近づくカナンに対して、レヴィは、姿勢を低くして走ってくるカナンの足にスライングをしてくる。カナンは瞬時に彼女の真上を飛ぶ。地面を滑るレヴィと空中を飛ぶカナンの視線が重なる。

「……」
「…レヴィ」

 2人はすれ違いになり、カナンは地面を転がり瞬時に後ろを振り返り、銃を向ける。レヴィもまた、同じように銃を向ける。すると、目の前のレヴィが崩れ落ちるように倒れる。カナンはレヴィの背後から近づいてくるキャクストンを見た。

「すまない、異常事態だと判断をして介入させてもらった」
「……いいえ、感謝します」

 カナンは、レヴィに近づき、目を閉じ眠っている彼女を見る。

「麻酔銃だ。1時間くらいは大人しくしているだろう」
「はい。ところで貴方達は……」
「少佐!目を覚ました!!」

 キャクストンの背後から声が聞こえる。キャクストンが振り返り、走り寄るそこには、ロックがいた。カナンもまた、ロックの元にと駆け寄る。

「ロック!!」
「カナンか……俺は、死んではいないんだな」

 ロックは己の身体を見る。彼の負傷した部分は腕の部分だ。肩を弾丸が貫通しており、怪我自体はそこまででもないだろうとのことだ。キャクストンが衛生兵を連れていたのが不幸中の幸いであったといえる。

「レヴィは?」

 カナンは眠るレヴィのほうを指差す。

「彼女はロックが撃たれたと思いきや、アルファルドに飛び掛っていったよ。彼女の迫力は凄い……きっと、彼女の中には物凄いものが潜んでいるんだろうね」

 ロックとしては喜んでいいのか、どうしていいのか、よくわからない。ロックはキャクストンのほうを見る。

「貴方達がここにいる理由を、教えてもらいたいのですが」

 それはカナンも知りたい。米軍である彼らがここにいる理由は蛇。そして彼らのさきほどから時計を何度も見る素振りは、カナンにいやな予感をもたらす。キャクストンは頷いて立ち上がる。

「私も軍人だ。だから細かいことは話せない。だが、ひとつだけいえる事があるとすれば、残り8時間13分21秒で作戦を完了させなければ、この一体は焼却処分される」

 キャクストンはそれだけ告げると、部下と供に、夜の闇の中に消えていく。カナンはそれだけで、彼らがなにをしようとしているのかがわかる。それは、国際会議にて、米軍が人質にとられた首脳陣たちに行おうとしたプランBのことだ。核に、ウーア、確かに奪還できなければいっそのこと破壊してしまったほうがいいことなのかもしれない。

「ロック、一度、私達はダッチたちのところに戻ろう。今は戦力を整えて」
「戦力ならあるよ、カナン……君とレヴィで、俺の戦力は十分だ」

 ロックは、肩の痛みを感じながらもポケットからとったタバコをくわえて、火をつける。





「……アルファルド」

 トラックの積荷部分にて、多くの精密機械が置かれたその場所で、アルファルドは包帯を頭に巻かれていた。彼女としてはどうでもいいことだったのだが、得点稼ぎの白髭の男が勝手にやっているのだ。そんなアルファルドの前に現れる複製のカナン。

「どうした?お前はカナンを抹殺するんじゃなかったのか?」

 アルファルドの問いかけにもう1人のカナンは、自分の思いをぶつける。自分は自分で考え、そして発言をする。アルファルドの言いなりなどではない。それを実践するために。カナンは、アルファルドの冷たい眼を見つめながら問いかける。

「彼女と、戦う必要はない。彼女は、私たちを受け入れてくる。だから、もう戦う必要はない、アルファ……」

 そう言葉を告げた瞬間、カナンのお腹に蹴りが突き刺さる。アルファルドはイスから立ち上がると、蹴りの痛みに蹲るもう1人のカナンの身体を踏みつける。アルファルドの表情は先ほどと何一つかわらない。ただ無心に彼女を蹴り続けた。

「はぁ、はぁ……」

 大きく息をするもう1人のカナン。

「ど、どうして……アルファルド?」
「所詮は、お前も失敗作か」
「し……っぱい……」

 アルファルドは彼女を見下しながら、溜息を漏らす。

「ああ、お前は私たちが作り出した共感覚の実験の末に生まれたカナンの複製だ。共感覚に適応した者を作り出すために、高い金をかけて遺伝子からなにから摸写し、偽りの記憶と使命を与えたな。お前はその中でもプロトタイプの成功作だった……と思ったんだがな」
「そん……な……」
「銃はただ引金を弾いて弾を撃てればいい。それが自分勝手に考え出されれば使い物にならない」

 アルファルドから飛び出してくる信じられない言葉に、もう1人のカナンは何も言葉が出てこない、信じていたものが次々と崩れていく。自分にとって大切だったものは幻だった。そして、あのカナンこそが本物であるということに……自分は何のために生まれてきたんだ。何のために……。

「お前に最後の仕事を与えてやろう」

 走るトラックの扉が開く。風がはいってくるなか、彼女はそのまま引きずられていく。心の中にぽっかりと穴が空いたようで抵抗も出来なかった。彼女はそのまま、放り投げられる。地面に転がるもう1人のカナン。地面に転がりながら、カナンは何も考えられなくなってしまっていた。自分は……、なんのために、ここにいるのだろうと。

自問自答をする彼女の上からは大粒の雨が降り出していた。

「……最後に薬をやってから、何時間立つ?」

アルファルドの問いかけに、兵士が時計を見る。

「5時間34分ほどに…」
「……最後は、手榴弾として大きく散ってもらおう」

アルファルドは微笑む。















[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第10話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/03/08 00:00





「急に降ってきたな……」

 雨に打たれながら、ロックとカナン、そして彼女が担いでいたレヴィの3人がイエローフラッグにとやってくる。この時間帯では、店も混雑しているであろうと思ったロックだったが、店は誰もいない。それどころか店に入ると、そこからは異様な匂いがする。

「よぉ、ロックじゃねーか……」

 店主であるバオは自分で作った酒を飲みながら、モップと大量の水の入ったバケツを置いていた。彼は酒を一気に喉に通すと、カウンターにと置きロックを見る。ロックは負傷しているようでどこか怪我をしている。それよりも視線にはいったのは、あの白髪の女だ。

「ひゃあああ!!!お、俺を殺しにきたのか!?」
「?」

 カナンは驚き慌てふためくパオを見て不思議そうに首をかしげる。パオは再び店のアウトローを皆殺しにした白髪の女=複製されたカナンが戻ってきたのだと思いカウンターに隠れる。ロックはよくわからず事情を聞こうと話を切り出す。

「ったく、人騒がせな奴だな……似た女がいるなんてよ」
「私のせいじゃない…」

 カナンはぼそぼそと文句を言いながら、だされた飲み物を飲む。隣ではいまだに意識が戻らないレヴィが眠っている。

「それにしても、この街はどうなっちまうんだろうな……」

 バオは電話をしているロックを見て、視線を再び自分が飲んでいた酒にと戻す。
 カナンは、アルファルドというものが現れたことでこの街に多大な影響を与えていることはわかっていた。だからこそ、はやく彼女を止めなくてはいけない。彼女は、シャムから解放された。だが、彼女はまだ私という存在を追い求め続けている。彼女の研究はやがてすべてを破壊する。

「……私が、彼女を止めます」

 カナンはバオに対して強くそういい放つ。

「!?」

 そんなカナンの脳裏に痛みが走る。それは、もう1人の自分を感じたときに現れる兆候。彼女はあの戦場からいつのまにか姿を消していた。再び自分のもとにと向ってきている……カナンは覚悟を決めて立ち上がる。隣で眠っているレヴィの目がそのときうっすらと開かれる。







BLACK LAGOON
×
CANAAN


第10話 反撃









「ダッチ、聞こえるか?」

 ロックは、イエローフラッグの建物からの電話を使いダッチの携帯電話に電話をかけていた。ダッチがでれば、彼は生きていると言うことになる。遊撃隊相手に生きているとなれば、それは自分の想像通りで行けば事態は好転していると考えるべきだろう。

『聞こえるぞロック。お互い、なんとか首を胴体とつないでいるようだな』
「ああ、状況は?」
『そうだな、ロアナプラに病原菌が撒かれる前に、死ぬことはないようだ』
「そうか。よかった……」
『だが、いけ好かない奴が来ている』
「ん?」
『そいつは、蛇を対処するために来た女だと抜かしてる。今、バラライカと張と話をしている最中だが……どうにもタイミングが気に入らないな』
「俺達も、さっき米軍を見た」
『本当か!?どうやら、事態はロアナプラだけでは収まらないところまできているようだな。張の核兵器の話というのもまんざらでたらめでもないようだ…』
「ダッチ。よく聞いてくれ」

 ロックは、そこで自分の考えを切り出す。これまではすべて相手の攻撃に対してすべて後手で回っていた。しかし、蛇は核兵器を強奪しなおかつ、暴力教会を吹き飛ばし、ロアナプラを引っ掻き回した。このまま黙って彼らが脱出するのを放っておくわけには行かない。無論、彼らがこの地にとどめる以上は、米軍の攻撃もあるものだと考えるべきだろう。アルファルドのウーアウイルスの危険性もある。だが、それでも……。

『もう一度、ロアナプラ全体に命令を出すんだ。今度は賞金なんてものじゃない。この街を取り仕切る三合会、ホテルモスクワたちの威厳と恐怖をしっかりと思い出させるんだ』
「……何を考えている?ロック」
『ダッチ。これは戦争だよ。今まで俺達はそれをマフィア間の抗争と同じにしか考えていなかった。だからここまで押し込まれたんだ。これは俺達ロナアナプラと蛇の戦争だ』

 ダッチはロックの言葉に耳を傾ける。
 ロックから飛び出してくる言葉に、ダッチは口元をゆがめて、興味に引かれながら彼の話を聞いていく。メモをとりながら今後の行動をどうしていくべきかを話し合う。

『米軍は、蛇を生け捕りにして核を強奪するためにいる。そして、時間内にそれが出来なければ、ステルス爆撃機がこの一体を灰にする』
「なるほどな。そいつは随分とクールな話だ。奴らは人の家に土足に入り込んだ挙句、目的のものが手にはいらなければ、家ごと爆発させる。どっちがテロリストかわからないな。いや、無差別爆撃なんかするほうがよほどふざけている」
『ああ。米軍の狙いは核だ。米軍に核兵器を渡すことで、彼らの攻撃は止まる』
「……」
『この街を知っているのは俺達だ。だから、ここにいる全員の力が欲しい』
「できるのか?この街に連帯感など皆無だぞ?」
『だから言っただろう?そのためのホテルモスクワ・三合会だって……』

 ロックとの電話を切ったダッチは、スキンヘッドの己の頭を撫でながらロックという男の異常さを改めて知る。とてもじゃないが、ついこの間まで平和な国であったものの考えではないといったところか。

「ダッチ?ロックはなんだって?」
「なんだ、聞いていたのか?」
「別に盗み聞きしようと思っていたわけじゃないわ。貴方が、集中していて気がつかなかっただけでしょ?まるで子供のような目でね」

 バラライカは葉巻を加えながら、ダッチに告げる。ダッチは自分がそんな風に話を聞いていたとは思いたくなく、サングラスを直しながら、彼女を見直す。

「ふぅ~~長くなりそうだな。あの女の話は。今、黄金夜会と話をしているところだが、どうした?こんなところで」

 そこにやってきたのは張である。彼も大きく背伸びをしてこの一連の騒動で眠っていないこともあり、眠そうな表情をさせる。ダッチは揃ったこの街の二大巨頭にロックのプランを話し出す。

「アハハハハ、ロックの奴、面白いことを考えるな。今までの鬱憤を晴らせそうだ」

 張はクスクス笑いながら、答える。その隣ではバラライカが葉巻を口から離して、煙を吐く。

「本来なら、こんなことはしないが。蛇には貸しがある」

 2人はそういうと、左右別々の廊下にと歩き出す。彼らの協力は取り付けた。この調子なら、黄金夜会に、イタリアンマフィア連中ものることになるだろう。なんせ連絡会メンバーが今回の最大の被害者なのだから。ロックのいうとおりに自分も行動をしなくてはいけない。時間はあまりない……。





「さて、後は俺達も……あれ」

 電話を終えてバーに戻ってきたロックだったが、そこには眠っているレヴィといるはずのカナンの2人がいない。

「あれ?2人は?」
「さあ。1人は突然走り出して…レヴィはなんだか酔っ払いみたいに歩いていったぜ?」






「はぁ、はぁ……」

 カナンは雨に打たれながら走っていく……すると、そこには地面に倒れているもう1人のカナンの姿が。雨に打たれながら、彼女はまるで死んでいるように生気を感じられない。それどころか、カナンは彼女の色に纏わりつく青い花の色を見る。カナンは彼女に駆け寄り抱き起こす。

「しっかりして!!目を開けて!」
「……貴方は」

 ゆっくりと目を開ける彼女の目には、自分がいた。いや、本物のカナンの姿だ。自分は複製であり偽物である。カナンは彼女を抱き起こしたときに、首の裏に、青い痣を見つける。彼女はウーア・ウイルスの感染者……彼女の色がある以上、まだ発症はしていないとはいえ……カナンはうつむいて歯を食いしばる。そんなカナンの頬に手を触れるもう1人のカナン。

「私を殺せ」

 もう1人のカナンの言葉に、カナンは目を見開く。彼女は疲労困憊の表情でカナンを見つめる。

「……私は、アルファルドに作り出された複製。貴方の偽物だ。私は、貴方にとって邪魔でしかない」
「そんなことない!貴方は、偽物でも複製なんかでもない!貴方は貴方だ……だから、諦めるな!」

 カナンの言葉にもう1人のカナンは彼女を見つめたまま、弱弱しく言葉を続ける。

「貴方にも分かっているはずだ。私の中にはウーアがある」
「……治る。マリアにいえば、薬はあるんだ!だから、治る。大丈夫だから!」

 カナンはもう1人のカナンを見つめたまま強く言い放つ。そうだ、あの人に言えば薬が手に入る、そうすれば、彼女は助かるんだ。薬さえ手に入れば……。

「ありがとう……」

 もう1人のカナンはカナンの優しさを知った。これはアルファルドでは決して知ることのなかったこと。最初から自分は間違っていたのだ。アルファルドの銃弾として自分は何人の人間を殺してきたのか。それならばこのウーアとしての罪も仕方がない。彼女はあーいうが、わかっている。ここに薬はない。時間がないからだ。

「感動の再会をしているとこわりぃが……」

 カナンともう1人のカナンがその声のほうを見る。そこには、まだどこか本調子ではなさそうな雨に打たれるレヴィがいた。麻酔は確か、1時間ほどといっていたが…思ったより早い起床のようだ。彼女は銃を握りながらそれをもう1人の倒れているカナンのほうにと向ける。カナンはレヴィの行おうとしていることの意味がわからない。

「な、なにをして…?」
「なにって……わからねぇのか?……お前の一存で全員の命を決められるわけには行かない。そいつがスパイでないと……どうしているんだ?……敵は、しかもウーアなんていう殺人ウイルス持っているような奴を生かしておいてどうするんだ?」
「彼女は利用されていただけだ!」
「……カナン、敵に同情するほど私は甘くない……ここでこいつを撃たなければ、私が撃たれるかもしれねぇんだからな」

 もう1人のカナンは、レヴィを見つめる。彼女の言っていることが正しい。正論だ。カナンには悪いが自分はやはりここで死ぬべきだ。そうでなければ、カナン自身にも迷惑をかける。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。

「やっぱり私は……」

 そうもう1人のカナンが告げようとした瞬間、目の前のカナンは銃をぬき、レヴィにと向ける。レヴィは冷めた目でカナンを見ていた。

「どういうつもりだ?敵を庇い、味方に銃を向けるなんてどういう了見だ?」
「……彼女は、アルファルドのところにいた。彼女の計画の一端を知ることができるかもしれない……」

 カナンは銃を握ったままレヴィにと告げる。レヴィは、カナンを見ながら、銃の引金から手を離すと、銃を仕舞う。カナンはレヴィを見つめたまま動けないでいた。彼女の色は確かに殺気だった。いつ撃ってもおかしくないという表情。

「カナン、ひとつだけはっきりさせておこう」

 レヴィは振り返り、その冷たい表情を見せる。

「私は、偽善者は嫌いだ。そんなものは家畜の糞並みに汚ねぇし、政治家の言葉並みに信用できない。……今回はお前の説明で納得してやる。でも、そいつが妙な真似をすれば私は容赦なく撃ち殺す」

 カナンは何も言わずに頷く。
 彼女の言葉は的を得ている……でも、自分の気持ちは偽善なんかじゃない。彼女には、かつての自分を見ている。そして、彼女には幸せになってほしい……せめて、生きているという意味を知るってもらうまでは、彼女を失いたくない。もう1人のカナンを強く包みながら、カナンは、気持ちを新たにする。残された時間は少ない……。


「レヴィ、カナン!なにしてんだよ、時間だぞ」


 遠くからロックの声が聞こえてくる。レヴィはロックの声のほうにと振り返り、声を上げる。

「オーライ、まだ頭がガンガンするけど…大丈夫だぜ」





 ロアナプラでは、多くのアウトローたちが三合会、そしてホテルモスクワに対しての襲撃の計画を立てていた。ホテルモスクワも三合会も潰しあっていると聞いている。この気を逃さずに、徹底的に叩きのめしてのし上がろうとするものたち…。そして、彼らは蛇の元に付き従い、上手くいけば、部下にしてくれると言う言葉を信用していた。ウーアという危険な病原菌を前にして彼らは、蛇に従うことを最善策としたのだ。命がなければ金があっても意味がないのだから。

「連中は疲弊している」
「ここで、奴らを一網打尽にすれば……」

 暗闇の中語っていた彼らの前に光が差し込む。アウトローの一味は、光を眩しそうに目を細めながら、光を見る。そこに映る影。

「ここで、私達につくのか?それともここで殺されるか選択するですだよ?」

 男たちは、光の中こちらにと歩いてくるシェンホアを見て目を見開く。彼女はロアナプラでも上位に位置するハンターだ。それがまさか、こうして自分達に元に現れることになるなんておもってもいなかった彼らは、手を上げることしか出来なかった。

 ロックの提案

 連絡会合同での蛇に尾を振った者たちに対する処罰。自分達につかなければ、今ここをもって、その命を絶つというものだった。まさしく恐怖政治であるといえるだろうが、このまま連絡会の地位の失墜に繋がれば、それこそロアナプラは舵を失った暴走船となるだろう。だからこそ、今蛇によって失墜した連絡会組織の再度の脅威を全員に見せつける必要があったのだ。

 ホテルモスクワの仮事務所内では、連絡会メンバー組織からの報告が入ってきていた。ありとあらゆる場所からのロアナプラ脱出を防ぐために、協力して当らしている。敵は核兵器を持っている。重量はかなりのものであるとして、トラックであることを確認している。この街ではトラックは目立つ。そう簡単に逃げられないだろう。

 さらには、あの夏目という話では、東南アジア全域に日本政府からの抗ウーア・ウイルスが届くという話を受けている。これで、当分の危険性はなくなったといえる。そうはいっても、バラライカは夏目という女を信用などはしていない。ウーアの抵抗薬も協力したものには差し出すとアウトローにはいっているが……。

「陸上からの脱出はこれで不可能になったな」
「米軍が動いている以上、彼らも逃げられないでしょう」

 ボリスの言葉にバラライカは頷く。

「あのアルファルドという女、追い詰めればなにをしでかすかわからん。遊撃隊はアルファルドの追跡に全力を向けろ。雑魚は放っておいて構わん」
「はい」

 すべての組織が動き出しロアナプラはまさに今までにない協力という名の下で蛇狩りを開始した。蛇に手を貸したものは、吊るし上げにされるということを受け、誰もが手のひらを返した。協力していたものから情報が転がり込んでくるが、今後の参考になりそうな情報ははいってこない。

「……」

 夏目はまるで軍の前線基地のような部屋から外に出て、雨の降るその光景を眺めながら、歩き出し、止まっている車に手をかける。そんな彼女の背後から声がかけられる。

「買い物ならいい場所を教えようか?ここなら上手い寿司だったか?食べられるかもしれないぞ」
「……なにかようですか?」

 ダッチの言葉を無視し夏目は淡々と答える。

「この話はまだバラライカや張にはしていないんだが、お前が対蛇特殊部隊であるというのは嘘なんじゃないかという話を聞いてな」
「……なにをいっているのかわかりかねますが」

 ダッチは夏目をサングラスの中から睨みつける。

「ロックは米軍を見ている。米軍は核兵器奪還を目的としているのだろう。話としては実に分かりやすい。だが、お前の目的はなんだ?どこの国から派遣された?米国は既に部隊を派遣しているというのに……」
「……忠告しておきます。好奇心があるのは結構ですが、藪を突いて蛇をだすこともありますよ?」
「なら、俺からも忠告だ。藪をつついて出てきたものに関しては銃で撃つ。それがこの悪徳の街のルールだ」

 夏目は微笑むと、そのまま車に乗り込み、エンジンをかけ、走っていく。ダッチはタバコをくわえると、頭をかきながら、そのまま彼女を黙って見送る。そんなダッチの背後にて、シスター服を着たサングラスの女がその車を追いかけるようにバイクを走らせたことに彼は気がつかなかった。















[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第11話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/03/10 22:21




部屋には地図が開かれている。

それは、ロアナプラの町の全域を指し示しているものである。それを見つめるバラライカ、張の連絡会幹部たち。あちこちで、蛇の逃げ場を奪い袋のネズミとしていく。敵は逃げ場を失い、このロアナプラの街という泥沼の中で自沈していく。彼らを救うものは誰もいない。神にでも祈ることになるだろう……もっとも彼らを救うことなど神にさえできはしないのだが。

「……」

 事態は終息に向かいつつある。
 だが、バラライカはその戦争屋としての表情を崩してはいなかった。なぜならば、彼女にとっては、蛇という組織などどうでもよかった。彼女の狙いはただ1人である。自分を利用した張本人である女……アルファルド。あの女の首を手に入れるまでは、この戦いは終わりではない。

「……米軍と遭遇した場合は、奴らに道を譲れ」

 張としては、米軍と遊撃隊との交戦を避けるためには、彼女と遊撃隊がアルファルド追撃に当たるのは賛成としていた。これで余計な戦いは巻き起こらず、米軍は核を奪取し、アルファルドは遊撃隊に捕縛されるか殺されるかすれば、すべてが丸く収まる。

「このまま、ハッピーエンドとなれば、万々歳なんだがな」

 張は、夜が明け始めている窓の外を見る。
 長いような夜もこれで終わる。



 同じ光景をアルファルドも眺めていた。
 彼女はジープに乗りながら、数人の部下と供に見えてくる雨がやみ、光が差し込み始める海を見つめる。









BLACK LAGOON
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CANAAN


第11話 対決









 ロックと2人のカナン、そしてレヴィを乗せた車は、街の中にと入っていく。レヴィは、時計を気にしながら、助手席にて、背後の息を切らしているもう1人のカナンを見る。ロックは、渋い顔をしながらも、カナンには何も聞かない。

「……アルファルドは、色がなかった」

 後部座席にてもう1人のカナンが告げる。カナンは彼女を膝枕させながら、その言葉を聞いている。

「だけど、彼女は私に色々と教えてくれた……今思えば、それはすべて嘘だったのだろうけど。それでも、記憶のはっきりしない私には、彼女しか頼れる人がいなかった」
「……」
「……愚かだと笑う?」

 カナンを見るもう1人のカナンの言葉にカナンは首を横にと振る。

「貴方が、生まれてきたことを私は無意味にはしない。絶対に」
「……」

 レヴィは、そんなカナンの言葉を聞きながら、目を細める。カナンにはわからないのかもしれないが、生まれてきたことを否定されることは、この世の中あたりまでのように起こっている。そして、何のために生まれたかも分からずに死ぬ奴も腐るほどいる。だから、彼女もまたそれと同じだ。培養液で勝手に作られて、自分の意志もないままに戦わされ、用無しとみなされれば、薬物により、殺される。

「ちっ……」

 わかってはいるが、やりきれない。
 ロックも同じ気持ちだ、これはまるであの双子のときと同じだ。彼らもまた自分の臨まぬ成長を促され、挙句、生き抜く術を身につけたかと思いきや、殺された。それが普通の人間とは違ったからだ。

「ロック……急げ」
「ああ、わかってる!」

 アクセルを踏み、もう見えてきたロアナプラの町並みにと車を走らせるロック。




 夜明け前の海辺に、止まっているジープ。大きなトラックでは目立つということを逆手に取りダミーとしたのだ…そこから降りて来るアルファルドと数人の部下。アルファルドは、部下に大きなボストンバックを持たせ歩いていく。既に夜の闇も開け始めている。彼女は、港を歩きながら己の船に、荷物を入れるよう指示をする。荷物を船に載せる……と同時に、彼女は桟橋の下に蠢くものがいることを知った。アルファルドはその場から飛び、自分がいた場所から離れる。すると桟橋の下から銃撃が放たれる。

「……バラライカの部隊か」

 アルファルドの部下達は武器を持ち、桟橋の下に銃撃を放つ。銃撃音が響きわたる中、数人の部下の足に鎖が巻きつかれ、そのまま桟橋の下に引きずりこまれる。アルファルドは、遊撃隊の恐ろしさを改めて知る。さすがは軍隊というべきだろう。次から次へと鎖で桟橋の下にと引きずりこまれていく。アルファルドの足元にも鎖が投げつけられるが、アルファルドは、その鎖の動きを見切り、足を離して、鎖を踏みつけると真下に向けて銃を放つ。

「邪魔だ」

 アルファルドの近くにある船が爆発し、そのまま、沈んでいく。これは追っ手をこれないようにするためのものだ。しかし、今はアルファルドの部隊を打ち倒すための手段ともなるだろう。海の中での逃げ場を失わせる。次々と船が爆発しそのまま沈んでいく。

「溺死するか、でてきて殺されるか、選ぶがいいさ」

 アルファルドはそういいながら、桟橋の下に銃を撃ち込み続ける。突如、音が聞こえる。それは桟橋の向こう、車から身を乗り出したレヴィがこちらにとRPGを持ち狙いを定めている。アルファルドは握っている銃を捨てて、マシンガンにと持ち変える。RPGが放たれると同時に、マシンガンを放ち、アルファルド目掛け突き進むRPGの弾が爆発する。煙があたりを包み込む。

「しつこい連中だ!」
「アルファルド様、はやく乗船してください」

 アルファルドは、煙が晴れはじめるなかで、その場にいる者たちを見つめる。レヴィ、ロック、そして……カナン。

「……お望みどおり、私はこの街から離れることにするよ」

 アルファルドの言葉に車からレヴィが身体を乗り出す。

「ふざけんな!こっちはまだお前との勝負がついてねぇーぞ!それに……」

 カナンの横で大きく息を吐くカナンの複製に一瞬目をやる。

「おめぇには、賞金がかかってんだ。このまま逃がしてたまるかよ!」

 アルファルドは余裕の表情を浮かべながら、こちらをジーっと見つめるカナンを見つめる。彼女の目にあるのは、悲しみか?怒りか?アルファルドには判断がつかない。どちらにしろ、もうここに用はない。アルファルドは踵を返し、小型の船にと乗り込もうとする。

「アルファルド!」

 それはもう1人のカナン……彼女はアルファルドに大声をあげる。カナンは、彼女をしっかりと抱きしめ、変な気を起こさないように見張っている。アルファルドは、口元をゆがめ微笑みながら、船に乗り込む。

「ロック!船のドックに戻るぞ。あれで追いかける!」
「ああ、捕まってろ!」

 ロックは車のエンジンをかけて、自分達のドックにと向う。




 一方、夏目の乗った車は、街の境界を向けようとした直前、回りこんできたバイクによって止められる、夏目は銃を握りながら、車を降りる。バイクに乗っていた女はシスター服を着込みながら、ヘルメットを後に投げ捨てる。そこにいたのは、金髪の長髪の女だ。夏目は、シスターでありながら、まったく異なった行動をする彼女に違和感を覚える。

「なにかようですか?」
「ようならあるな」

 サングラスをかけなおしたシスター…エダは夏目の前で仁王立ちをする。

「シスターにかかわるようなことはしてはいないですが…私は仏教ですし」
「表はな……」

 その言葉の意味に、夏目は感づいたのか。腕を組んで彼女を見つめる。

「おかしいと思っていたんだ。蛇なんていう巨大な組織…核なんていうのは容易に手に入れることが出来るはずない。それ相応の護衛をつけるだろう。それを掻い潜って手に入れた奴ら…しかも奴らは使うまでもなくそれを売り払った」
「……」
「私はそこであることを推理した」

 エダは、夏目にゆっくりと近づきながら言葉を続ける。

「誰かが協力をした。しかも協力者はかなりの力を持っているものだってな。そうだな、例えば国の力だ」
「……」

 夏目に顔を近づけながらエダは強く彼女に叩きつけるように告げる。

「なら、次に考えるのはどの国がこんなことをして喜ぶかと考える。この地域は現在北米型自由貿易のために政府内で動き始めているところ。それを忌み嫌う国っていうのは、ひとつ。東南アジアに多額の援助金を与え、東南アジアでの自国の権益を守るためには合衆国の手が入られると困るといったところかな」
「……なるほど。随分な推理のようだけど、少し違いますね」

 夏目は眼鏡を直しながらエダを見る。彼女の表情に変化は見えない。

「ウーアウイルスの薬は、我が国だけでいい。現在、我が国は東南アジア諸国に、この街にウーアウイルス感染の疑いがあることを告げ、薬を輸送する用意をしています。米国は、これが伝わる前に爆撃を始めるでしょう。そうなれば……米国の東南アジアでの力は失墜する。ウーアの守護者である我が国は、外交でその力を発揮するでしょう」
「……過激な考えだねぇ」

 エダは淡々といいながら次の瞬間、夏目の頭の額に、己の額をあてる。エダは鬼の形相で夏目を睨みつける。

「星条旗を舐めるなよ?!同盟国であれ、私達の鷲は、お前の国を潰すことなんて容易いんだからな」
「フ、幾ら強がろうが…もうこの国にはステルス爆撃機が向っています」

 夏目はエダの言葉にも屈せず、言葉を続ける。

「貴方の国の敗北です?自業自得ですね。テロには屈しないとのたまっていた国が、蛇を利用し、今度はその蛇によって喉元をかまれる、傑作ですよ」





 車から降りて、ドックに駆けつけた先、そこには既にダッチがいた。彼以外にもそこには、バラライカに張たちもいる。ダッチは待っていたとばかりに、船にと乗り込む。レヴィとカナン、ロックも急いで船にと乗り込む。そんな一行を見つめるバラライカと張。

「二挺拳銃、こうなったからには連れて帰って来いとはいわないわ……しっかり仕留めなさい」
「俺の出した賞金でば~っと遊ぶんだったら、五体満足でしっかりと帰ってくることだ」

 彼らを見ながらレヴィは、ニカッと笑顔を見せる。バラライカと張としては彼らに託すことしか出来ないのが悔しくてたまらないところだ。しかし……今は託すしかない。海上での攻撃手段を持たない彼らには……。

「なぁ、バラライカ……1つ聞きたかったんだがいいか?」
「なにかしら?」
「お前、本当にあいつと一緒に戦争を作り出そうとしていたのか?」

 張の問いかけに、バラライカは何もいわずに、振り返り張の隣を通り過ぎ、自分の乗ってきた車にと戻っていく。

「張、私達は、戦争の亡霊。同じ亡霊同士惹かれあうものはあったのかもしれないわね」
「……女というのは怖い生き物だ」

 張はタバコに火をつけながら、背後で聞こえるバラライカの足音を聞きながら、大きく煙を吐いた。




 ラグーン商会の船である魚雷船は、アルファルドの船を追うべく速度をあげる。ダッチは船を操作しながら、ロックとレヴィが船上にてアルファルドの船を捜す。途中まで車でしっかりと視認をしていた。

「ベニー……見つけたか?」
「ああ……おそらくはこれだな。なんとか追いつきそうだ」
「追いつかなきゃ困る。俺の後ろにはバラライカと張がいる。下手をこけば、俺があの2人に殺されかねないからな」

 ダッチはそういいながら、2人のカナンがいるであろう背後の部屋を見る。普段は荷物置きになっているだが、今回は違う。かつてあの双子の片割もあの部屋においたように、今回はカナンたちがそこにはいる……広い部屋の中、カナンともう1人のカナンがそこにはいた。もう1人のカナンは、ウーアの病原菌に体を蝕まれ……発症までは、時間はない。もう1人のカナンを海上に連れて行くのは、彼女が発症した際、その感染を防ぐための措置だ。

「貴方は助ける……」

 広い部屋、壁際に取り付けられているイスに座るカナンの言葉に、隣にいるもう1人のカナンは何も言わない。ただ、隣にいる彼女の手をしっかりと握るだけだ。

 時間はない。
 薬もなにも……。

「……だけど、私は貴方を助けたい。貴方の居場所をつくりだしたい」

 そういってうつむくカナン。

「……」

 もう1人のカナンは大きく息を吐きながら、カナンを見つめ、ポケットから赤い毛糸を取り出す。それは、カナンが渡したあやとりの毛糸だ。もう1人のカナンは、カナンを見つめ、目の前であやとりをやってみる。彼女は、カナンから教えてもらったものを作り出していく。

「これが……エッフェル搭」
「凄い、よく覚えたね?」
「……形があるものをつくりだしていくのは楽しいから。それに私は貴方。貴方が覚えれることだから……」

 もう1人のカナンは寂しく微笑みながら告げると、あやとりをやめて、カナンのほうを見た。

「私の居場所……見つけたよ」

 彼女は小さな声で…でも、その部屋の中ではよく聞こえた。言葉の意図がわからない中、もう1人のカナンは彼女にそう告げると立ち上がる。

「くる」

 カナンは彼女が何を感じ取ったかを悟った。自分もはっきりとわかる。それは死人の色をしたもの……自分の居場所をつくりだすために、ありとあらゆるものを破壊し、そしてカナンの複製を作り出した……彼女。



 海上を走っていく小型船の真横につくように魚雷船であるダッチの船が迫る。ぶつかればアルファルドの船は木っ端微塵だろう。アルファルドは、船上に隠れるようにしながら、銃を撃つ。しかし、ラグーン号の魚雷船の船は大きい。彼女の銃では歯が立たないだろう。それを悟ると、アルファルドは、操縦席にいる白髭の男に声をかける。

「船を近づけろ!」

 白髭の男は頷くと、自らその船を魚雷船にと近づける。ダッチは敵がなにをしようとしているかわからなかったが、チャンスだとばかりに、小型船に船体をぶつけて沈めようとする。だが、誰かが船体に飛び移った音をダッチは聞いた。

「まさか……」

 ダッチは操縦席から身を隠す。
 操縦席のガラスに向けて放たれる銃声…ガラスは割れ、舵から手を離してしまったダッチ。そのままダッチは船体に頭を打ちつけ意識を失う。魚雷戦は、進路を失い、海の上をふらふらと走っていく。アルファルドは片手で銃を握りながら、船の前方にて潮風に髪の毛を揺らして立つ。

「逃げ場所はねぇぞ……」

 レヴィが船上にて、アルファルドに声をかける。

「……アルファルド、貴方の道はここで阻む」

 反対側からはカナンが姿を現す。

 アルファルドは現れる二人を交互に見ながら、一度銃をしまうと、別のものをポケットから取り出す。それは何かの注射器のようなものだった。レヴィは不思議そうな表情をしながらアルファルドが何をするのか見守る。カナンは何かを察知し銃を向ける。

「アルファルド!それは……」

 アルファルドは口元をゆがめる。

「さすがの私も片手でお前達を相手するのには少し骨が折れるからな……」

 彼女はそれを首元に押し当てる。
 すると、顔を船体の床にと落とす。カナンの視界には彼女の色がはっきりとかわっていくのがわかる、それは。透明な色から黒い色となっていくことに、カナンの額に汗が浮かぶ。レヴィはなにがなんだかわからないが、カナンの怯えように、ヤバイと察すると、銃を撃ちこむ。近い距離での銃の弾丸・・・それをアルファルドは身を捩りかわす。アルファルドはゆっくりと顔をあげた。

「……」

 その目を見てレヴィとカナンは驚愕する。
 彼女の目はカナン同様赤く輝いている……。


「これが、共感覚か……」
















[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 第12話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/03/14 21:32

「これが……共感覚か」

 アルファルドの目が赤く輝く。
 レヴィはアルファルドの隙だらけの姿を見て二挺拳銃を構え、撃つ。だが、それらの銃に対して、アルファルドは、まるで頭に目があるかのように、それらをかわしていく。アルファルドはゆっくりと顔をあげる。

「素晴らしいな……まるで、すべてのものに魂が宿ったかのようだ」

 アルファルドは赤い目ですべてを見通しながら、周りを見渡す。

「アルファルド……」

 その声に顔を向けるアルファルド。
 彼女はカナンのほうを見つめる。アルファルドは微笑みながら、銃を握った腕を上げる。






BLACK LAGOON
×
CANAAN

第12話 光







「この薬は、カナン。お前を研究した1つの成果だ。成果といってもこれはお前の力の十分の一程度の効力しかないがな」

 アルファルドは、周りを見渡しながら共感覚の力を噛み締めながら、微笑む。これほどの力を発揮してもそれはカナンの能力には到底追いつかない。かつてリャン・チーが、プロトタイプを服用した際、彼女はその能力に飲まれて死んだ。彼女の人体実験を元にして、能力を押さえることとなったのだが……。

「それでもここまでの力を発揮できるのなら十分といえるか」
「……それがなんだ!!」

 銃を撃ち、アルファルドを狙うレヴィ。アルファルドはまるでその場で華麗に舞うようにして、その銃を避けていく。アルファルドは余裕の表情を浮かべる。弾道が見えるのだ。それこそ空気が、それを教えてくれる。

「ちっ!!」

 レヴィは舌打ちをしながら、二挺拳銃を構えてアルファルドに対して銃撃を行う。アルファルドは、足場の悪い船の上で、それらの銃撃を隙のない動きで回避していく。まるで銃弾が彼女を避けているかのように。レヴィは、冷や汗をかきながらも、それでも攻めを緩める事はない。カナンは、アルファルドのその共感覚を得た力に恐怖を抱いていた。彼女は共感覚を持っていないにもかかわらず、その色の薄さと人並みはずれた能力で自分を圧倒していた。それが共感覚さえ手にしてしまえば……。

「お前には借りがあったな」

 目の前に迫ったアルファルドにレヴィは、彼女が大きく見えた。

「舐めんなぁああああ!!!」

 レヴィは、アルファルドに殴りかかろうとするが、それさえもアルファルドはまるで闘牛を嘲笑う闘牛士のように避けると足を引っ掛けてその場に転ばせる。そしてそのままアルファルドはうつ伏せになったレヴィに銃口を向ける。

「アルファルド!!」

 カナンはレヴィの危機を知り、恐怖に怯えながらも銃を放ちアルファルドをレヴィから離そうとする。アルファルドは、カナンのほうに視線を移して微笑む。

「フ、フフフ……私が怖いか?カナン」
「……貴方は、哀れだ」
「私が哀れだと?」
「こんなあてもない自分探しをし続けたとしても、貴方にあるのは孤独だけ……」

 カナンはアルファルドにはっきりと告げる。今のカナンには、敵に対する憎悪はない。憎悪を持って戦ったところで、何も得れるものはない。

「私に説教でもするのか?お前は」
「違う!私は、貴方にこれ以上苦痛を与えたくないからだ」
「知ったことを……言うな!」

 アルファルドはカナンに銃を向けて放つ。カナンはそれを避け、アルファルドの懐に飛び込もうとする。アルファルドは、カナンの動きを読んでいたかのように、懐に入り込もうとするカナンの後頭部に銃を叩きつける。カナンはその衝撃にそのまま崩れ落ちる。それはアルファルドがレヴィにやられたことと同じだ。

「お前の始末は後だ。実験材料として使わせてもらうからな」

 倒れるカナンを横目で見ながら、アルファルドの正面に敵意を感じ取る。アルファルドは身構えながら、放たれる銃の弾道を読み取り、それを船の上で、宙を飛び、回避する。まるで曲芸師だ。

「はぁ、はぁ……参ったなこりゃ。私が戦ってるのは、蛇なんて類じゃねぇ。バケモノだぜ」

 レヴィは、大きく息を吐きながら、船体の壁に隠れながら、アルファルドと自分の対角線上で倒れているカナンを見つめながら、銃を強く握る。今までの連中とは明らかに違うその腕前。ここで負けたらバラライカの姉御や張の旦那に顔向けできない。レヴィは、二挺拳銃に映る己の顔を見る。そこに映るのは、まるで映画に出てくる泣き叫ぶヒロインのような顔だ。レヴィは船体に頭を叩きつける。血が滲み、それをレヴィは舌で舐めとる。頭に熱いものを感じながら、再度、銃に映る己を見る。

「なにびびってやがるんだ?ここは楽しむところだぜ……レヴィ。私は二挺拳銃……、相手は誰であれ、その脳天をぶち抜く」

 レヴィは、壁から、顔を出し、アルファルドのいる場所にと銃を放ちながら近づく。二挺拳銃の特性である、弾幕の嵐。相手がいかほどの能力であろうとこの嵐から逃れられない。

「お前は何かを勘違いしているようだが」
「!?」

 相手が隠れているであろう船体の後方にと銃を向けたレヴィの背後から声が聞こえる。そこには、アルファルドが銃を向け立つ。なぜだ!?なぜ自分の背後に回って……。レヴィは目を見開き呆然とする。

「片腕であっても、船の組み手を握り、船上に飛びださないようにすることはできる」

 それはアルファルドが船の取っ手を握り、海に投げ出されないようにしてレヴィから身を隠していたことを示していた。その間、彼女は銃を口でくわえながら、レヴィが迫ってくるのを今は遅しと待っていたのだ。

「どこまでもふざけた奴だ……」
「お前には用はない、ここで死んでもらう」
「出来るかな」

 レヴィは目を細める。この絶対的な相手の有利な状態こそ、敵の隙が生まれる。なによりもこうして近づけたことが自分の勝利に近づくことができるチャンスだといえる。レヴィは、背後にいるアルファルドの身体を足で蹴り上げ、彼女を踏み台にして、その場で宙を回転する。振り返った先、バランスを崩すアルファルドに向けて宙を回転したレヴィは、空中でアルファルドのほうに顔をむけることとなる。それを待っていたとばかりに、銃をアルファルドにと向けた。

 弾丸の音が激しく響きわたる。




「……」

 太陽の日差しが少しずつあたりを輝かせる中、エダと夏目は対峙している。東南アジア諸国での勢力圏拡大を狙う米軍に対して、蛇を利用した米軍の力の排除。そのために、蛇からの核兵器強奪に端を発した、今回の事件。夏目の考える計画とは、米軍がここを爆撃することに意味がある。

「……!?」

 夏目は時計を見る。
 時間的には爆撃が行われても間違いはないはずだ。なぜ爆撃が起きない。なぜ爆音と炎が湧き上がらない。夏目は、時計を見つめながら、動揺を隠しきれていない。エダはサングラスをとり、夏目をみる。

「爆撃は起きない」
「な……んですって」

 エダは、大きく息をつくと、ポケットから小型の電話のようなものを出す。

「だからいったでしょう。星条旗を甘く見るなと……。私たちみたいな奴にはね?こういったものがあるんだよ」

 それは小型の通信電話の類。これで米本国に今の会話を聞かせたのである。米本国の頭の固い連中にはこういったのが一番良く効くであろう。爆撃という最悪のシナリオはこれで排除することが出来た。エダにとっては、彼女から会話を聞きださせるために、一芝居をうつ必要があったわけだが。こっちは、この街にもぐりこんで何年もスパイ活動を行っているベテランだ。日本という諜報部の未発達な国にはまだまだ遅れを取らない。

「なるほど…私としたことが最後の最後で」
「ああ。まったくだ。お前達の国の計画は失敗だ」
「……そうでしょうか?」

 夏目は青い空を見上げながら、エダに問いかける。

「我が国は、東南諸国に薬を輸送するのは決まっています。米軍の出番は残念ながらなくなりましたが、これで彼らがテロというものから守ってくれるのは、我々であるということをはっきりとわからせることができました」
「……」
「貴方も分かっているとは思いますが、この勝負は元々、この地域に核を持ち運んだ時点で決着がついているのです」
「とても、平和の国とは思えない発言だな?」
「平和を作り出すための血の滲むような努力といってもらいましょうか」

 夏目はそれだけ告げると、エダに背中を向けて車にと乗り込む。エダは、彼女を撃つ気はなかった。撃ったところで事態は変わらないし、日本国はしらを切るだけだ。夏目は車にと乗り込むと、窓ガラスをあけて、彼女を見る。

「1つ、教えておいて上げましょう。東南アジアでの核強奪を手伝ったのは我々だけではありません。貴方達の国もまた…一部勢力に我々に協力するものがいます」

 夏目はそれだけ告げると車のエンジンをかけて走り去る。エダはサングラスをかけなおし、青い空を眺めた。後は……レヴィたちの仕事だ。

「……負けたらただじゃすまさねぇーぞ……」





「はぁ、はぁ……」

 大きく息を吐くレヴィ。
 船の上に、落ちるのは赤い血……。
 レヴィは肩の上を抑えながら、片方の手で握っていた銃を落としてしまう。荒い息と供に、レヴィは負傷した肩の部分を庇いながらも空いている腕で目の前に立っているアルファルドに銃口を向けている。アルファルドは、レヴィの銃撃を見切り、彼女の攻撃をかわしていた。あの至近距離であったとしても、アルファルドの共感覚の力の働きかけがアルファルドを守っている。

「なかなかの機転だったが、それでもお前では私には勝てない」
「そんな台詞を吐くのは私を殺してからにしろよ、蛇女」

 レヴィは船の壁にもたれ掛りながら、告げる。流れ出る血は、なかなか止まらずに腕を赤く染め上げる。アルファルドは目を細めると、銃をレヴィにと向け引金を弾こうとする。

「ああ、そうさせてもらう」
「……彼女から離れろ!アルファルド!!」

 アルファルドは次から次へと邪魔が入るなと思いながらも、彼女が誰なのかは見る必要もなく察することが出来た。この周りの空気がそれを教えてくれる。死の匂いを……。

「まだ生きていたのか」

 振り返った先に立っていたのは、ウーアに蝕まれるもう1人のカナン。彼女は銃を握りながら、アルファルドの背後にと立っている。

「お前が幾ら足掻いたところで、クローンであるお前に居場所はない」
「居場所なら見つけた……」

 もう1人のカナンは、あやとりをその手で握りながら、はっきりと告げる。

「私の居場所をお前に奪われるわけには行かない!私を殺すことは貴方には容易いだろう……だけど、私を撃てば、その血からウーアが感染する」

 もう1人のカナンの最後の策といっていいだろう。自身に宿されたウーアのウイルスを武器として、この目の前の悪魔を葬らなくては、レヴィだけじゃない。カナンさえも殺されてしまう。そんなことは絶対に止めなくてはいけない。これは自分の罪滅ぼし、そして、自分の居場所を守る為にも……。

「バカ……そいつが、そんなので止まるかよ」

 レヴィはもう1人のカナンに告げながら、肩を抑えながら、残った片方の腕でアルファルドに銃を向けようとする。だが、アルファルドはそんなレヴィに対して、今度は、足を撃つ。銃声と供に、レヴィは、その場に崩れ落ちる。もう1人のカナンはその音供にアルファルドに銃を撃つ。だが、アルファルドに弾は当たらない。アルファルドは背後にいるもう1人のカナンなどいないものとして、目の前にいる、倒れて蹲るレヴィにと近づき、血が流れている足を踏みつける。

「ぐうっ!!!」

 声をかみ殺し絶叫する声を止めようとするレヴィ。

「愚かな女だ。お前は良くも悪くも普通の人間に過ぎないな。私やカナンの足元にも及ばない。それがどうしてここまで抵抗をするのか、理解に苦しむ」
「へ、へへへ……」

 レヴィは突然笑いながら、アルファルドを見る。アルファルドはレヴィを見つめる。レヴィは血まみれの中で、白い歯を見せてアルファルドに中指を立てた。

「私は普通の人間でいい、普通の人間で十分だ!このバケモノめ!」

 アルファルドは再び引金を弾こうとした。今度はレヴィの脳天だ。すると、急に船体が大きく揺れる。アルファルドは、足を踏ん張り、船の急な動きの変化に、驚く。誰がこんなことができるのか。船首にいた男は、負傷させたはずだ。

「へ、ロック……少しばかり遅いぜ」

 レヴィがつぶやく中、船首部分ではロックが舵を握りながら、船体を揺らしていた。船体の後方では確かにアルファルドとカナン、レヴィが戦っている。自分はただ黙ってみているわけには行かない。気を失っているダッチの代わりにも、銃を握れない自分の方法で戦うのみ。ロックはラグーン号を激しく動かしながら、この荒波での戦いに不慣れなアルファルドを揺るがすつもりで攻撃を始める。

「お前はこの船ではなれないだろう。海に投げしちまえば、それで終わりだ」

 レヴィは、アルファルドに告げながら、怪我により意識を失いかけていた。そしてなによりもアルファルドの背後にいるもう1人のカナンもまた銃を握りながら、アルファルドを狙う。銃声とともに、もう1人のカナンの銃弾がアルファルドの身体を貫く。思わずよろめくアルファルド。この大きく揺れる中で、能力に集中など出来なかった。アルファルドの着ていたコートが風邪に飛ばされ、彼女の頬から血が流れる。しかし、もう1人のカナンにとってもその揺れでは、正確に狙うことが出来ず、かすり傷程度にしかならない。

「くそ!」

 レヴィは悔しそうな声をだしてアルファルドを見る。アルファルドは己に流れる血を手で拭う。すると彼女は、目を赤く光らせ、船体を見る。

「!?」

 レヴィは彼女がなにをしようとしているのかわからなかった。アルファルドは、大きく風に揺られながら、足でバランスをとり、銃を船体部分にと撃ちこむ。何発も……。レヴィにはなにをしているのかさっぱりわからない中、もう1人のカナンはなにをしているのか悟った。

「しまった!!」

 すると、突然暴れ狂っていた船の動きが一定の動きにと変化をする、まっすぐに進み始めたのだ。しかもその動きも遅くなり始めている。ロックはまったく舵が言うことを効かなくなってしまったことに慌てるが、何もすることが出来ない。

「……こういった機械は少しでも配線が狂えば動かなくなるものだ」
「そういうことかよ……」

 折角の考えもこれでパー…レヴィは、痛みを堪えながら、反撃のチャンスを再度失った。だが……。

「だけど、時間は稼いだぜ」
「なに?」
「いつまで寝てるんだ?いいかげんにしねぇーと、海に叩き込むぞ?カナン」

 振り返ったアルファルド。
 そこには先ほど、アルファルドにより頭を叩きつけられ意識を失っていたカナンがそこにはいた。彼女は、もう1人のカナンの横に立ち、しっかりと銃を握って。

「寝ていればよかったものを……」
「さてと、勝負の仕切りなおしだ。いくぜ……」

 レヴィは、そう告げ、痛みを堪えながらも、二挺拳銃を構えて、アルファルドを狙う。二人のカナンもまた共感覚を使ってアルファルドを狙おうとした。アルファルドは、前後に挟まれながらも、瞬時に、姿勢を低くして、こちらにと攻撃を繰り出す、レヴィの銃弾をまず避け、カナンともう1人のカナンに対して、まず最初に攻撃を繰り出してきたカナンの腹部を強く蹴る。船の手すりにと、ぶつかったカナンに対して、アルファルドは銃を構え撃つ。バランスを失ったカナンに対して、その銃弾を避けることは出来ないと、共感覚で悟った。一瞬の脳裏に浮かぶ、大沢マリアの姿……。そんな彼女の前に飛び出す影。カナンはそれが誰かがわかり、目を見開く。


「……」


 大の字になり、カナンを守るその背中……。
 銃声が重なる中、もう1人のカナンはゆっくりとカナンを見つめる。
 その目は優しい…。

 膝から崩れ落ちたもう1人のカナンをカナンはすぐに駆け寄り抱きしめる。
 溢れ出る血……それがウーアのものであろうカナンには関係がなかった。彼女を強く抱きしめ、その真っ赤に流れ出る血の中で、彼女を見つめる。カナンにとって、彼女は、最初から敵には思えなかった。彼女は過去の自分……まだなにもわからなかった自分自身。だから彼女とであって、大沢マリアが自分に接したように、彼女に接していこうとして。孤独だった自分に家族なんていう言葉が生まれるかもしれなかった。そんな夢みたいなことを胸に秘めて……。


「うああああああああ!!!!!」


 船の上で声にならない絶叫が響きわたる。












Next last episode



[16070] BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ 最終話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2010/03/17 00:00




青い空の下……その眩しい日差しの中、漂うのは生臭い血の匂い。
光り輝き、あたりを照りつける太陽の日差しを見つめる一人の少女は、その日差しの中、覗き込む少女を見つめる。

「……よかった、無事だったんだね」

身体が勝手に動いていた。
アルファルドの銃弾が彼女を貫く前に……そう思ってしまえば、もう何も頭には残らなかった。自分がウーアに感染していることも、複製である偽物であることも何もかもを忘れて、ただ彼女を守りたかった。それだけ……。

「どうして……どうして……」

 さけぶ彼女の頬に触れる。
 顔を上げる彼女……やはり、彼女は、私ではない。私はこんな風に誰かのために泣いたことがない。誰かのために、こうして心を震わすことが出来ない。

「……自分の居場所を守りたかったから」

 私は、彼女にそう告げる。

「ただ、それだけ……」

 流れ出る血を感じながら、彼女に言う私の表情はどこか安心した表情だった。彼女は、そんな私を見ながら、ゆっくりと頷く。私は、そこで彼女の表情を見つめる。彼女は、太陽の日差しで影になっていたけれど、私にとっては同じくらい輝かしい黄金に光となってみることができた。誰にも感じたことのない輝きの色を彼女は持っていた。これが、誰かを大切にするという気持ちなのだろう。ようやく見つけることが出来た。

「生きて……カナン」

 そこは自分の居場所だから。

 私はゆっくりと目を閉じる。潮風の心地よさとカナンの温もりに抱かれながら……。









BLACK LAGOON
×
CANAAN

最終話 二挺拳銃×闘争代行人










「やってくれたな。これで全員仲良くウーア感染者となったわけだ」

 アルファルドは流れ出る彼女の赤い血を眺めながら溜息をつく。レヴィは、そんなアルファルドを見ながら、大きく息を吐き……流れ出る汗を感じながら、アルファルドに銃だけをつきつけている。それがあたることは今までの流れでいっても難しいだろう。だがそれであったとしても、このまま、やられ放題でいるわけにはいかない。

「カナン……」

 レヴィの言葉にもカナンは、亡骸を力強く抱きしめたまま、動こうとしない。アルファルドは、微笑む。

「カナン、私が憎いだろう?お前の怒りを私にぶつけてみろ……」
「……」

 アルファルドの言葉に、カナンはその表情をアルファルドにと向ける。彼女は、涙を流しながら、銃を強く握り締めて、アルファルドのほうを見る。レヴィは、アルファルドの背後でその様を見ながら、普段冷静であるカナンが、ここまで感情を露にした姿を始めてみた。カナンは、血まみれの彼女を、ゆっくりと船の床に横たわらせて、立ち上がる。

「アルファルド!!!」

 カナンは、彼女の元にと銃を向けて撃ちながら走る。アルファルドはカナンの弾丸を避け、走りこみ、彼女の飛び蹴りを、片手で受け止める。地面に降り立ったカナンは、今度は姿勢を低くして相手の軸足を、腰を落として足蹴りする。アルファルドの身体がガクっと崩れ落ち、視界が青空を映し出す。そんな太陽を影にしてカナンが、アルファルドに対して強い敵意を向けながら、銃を向け撃つ。アルファルドは至近距離であるのにもかかわらず、それをすれすれで回避する。銃の音と、弾痕が彼女のすぐ隣に形成される。逆に、カナンの胴体をアルファルドは足を丸めて蹴り上げる。カナンは勢いよく、船の床を転がりながら、前を見る。アルファルドはカナンに銃を撃ちこむ。カナンは避けようとしたが、それはカナンの身体に命中する。血が彼女の足から溢れる。その場でカナンは、俊敏な足を使えなくなってしまっていた。

「アルファルド……」
「そうだ、それでいい……お前の、もがき苦しむ姿は見ていて楽しい」

 レヴィは舌打ちをしながら、分の悪さを感じていた。彼女の能力は冷静であるからこそ使えるらしい。今のカナンは無茶苦茶だ。ただがむしゃらに腕を振っているだけだ。

「わかるぞ、お前の怒りを……」

 アルファルドの目にははっきりとカナンの感情を感じ取ることが出来ていた。カナンはアルファルドに見下されているのが我慢ならなかった。刺し違えてでも彼女を止める。そう思って、カナンは動きの悪い足を引きずってでも動こうとした。だが、そんなカナンの前、一発の銃声が、カナンの顔の真横を通り過ぎる。その音にカナンとアルファルドが同時に銃声のなった音のほうを見た。そこには、レヴィがいた。

「……ふぅ、人のことをいえたもんじゃないが……頭に血が上りすぎだぜ」
「レヴィ……」

 カナンに対してレヴィは、大きく息を吐きながらカナンを見る。

「そいつは、お前になんていった?」
「……」

 レヴィの問いかけに、カナンはもう一度倒れている彼女を見つめる。


『生きて……カナン』


 彼女はそう告げた。

「……てめぇが、そんな怒りに我を忘れちまって、いきなり遺言忘れちまうようじゃ、報われないな」

 レヴィは苦笑いを浮かべながら、タバコを取り出して、一本口にくわえて吸う。カナンは、レヴィの言葉を聞きながら、自分の怒りを押さえ込み始める。『感情を感情で挑んではいけない』それは、自分の師であるシャムの言葉だ。自分はそれで、一度大切な存在であるマリアを失いかけた。また、ここで感情に先走れば、今度はレヴィが……。

「邪魔をするな。お前には私達の戦いの場に入ることは出来ない」

 アルファルドはレヴィに銃を向ける。そんなアルファルドに飛び掛るカナン。アルファルドは、カナンの動きに気がつかなかった。カナンは、怪我をした足を庇いながらもその俊敏な動きで、アルファルドに銃を放つ。アルファルドは身体を回転させ、カナンと立ち位置を逆にする。

「大丈夫?レヴィ」
「見ての通りだぜ相棒。ったく……こんだけやられたのは久し振りだ。張の旦那には治療費別途で報酬をもらわねぇーとな」
「ふふ。それだけ悪態をつければ十分だね」

 レヴィはカナンが冷静さを取り戻したことに安堵しながら、目の前のバケモノをどう退治するかを試行錯誤していた。

「それで……どうする?悔しいが、あんまり私は動けないぜ」

 レヴィは血がなくなりしぎたためか、少しばかり眩暈がしている。カナンは、そんなレヴィの隣で銃の弾を変えながら、アルファルドを見つめる。

「二挺拳銃ってどういう風に普段は使うの?」
「……ひとつは威嚇射撃。相手の動きをそれで止める。もう1つが本命だ。狙いすまして相手の脳天をぶち抜く」
「なら、私が威嚇射撃を……レヴィが撃ち抜いて」
「簡単にいってくれるな?さっきはそれで駄目だったんだぜ……」
「大丈夫。レヴィならできるよ……」
「……」
「信じてるから……」

 カナンはレヴィを横目で見つめて微笑む。レヴィは、タバコを吐き捨てると、残った弾を確認し、口元をゆがめる。

「行くぜカナン!」「行くよ、レヴィ!」

 目を赤く、共感覚を再び集中させたカナンが、アルファルドに銃を撃ちながら、至近距離での攻防にと入る。アルファルドの蹴りの隙間を動き、銃をぶつけ合わせながら、アルファルドとカナンが対峙する。互いに相手の動きは共感覚で熟知している。その中で、2人は、攻撃を加熱させる。その隙のない動きはまるで舞っているよう。しかし、足を怪我しているカナンには、少しばかり動きが鈍くなる。アルファルドが、そこを逃すわけもなく、2人の至近距離での銃の撃ち合いは、アルファルドに時間が長くなればなるほど有利となる。レヴィもそれは見ていてわかる。だからこそ、早く、決着をつけなくてはカナンも自分もやられてしまう。

「信じてくれたんだからな……きめてやる」

 レヴィは、目を凝らして二人の動きを見る。だが、どうしても隙が生まれない。あったとしても、そのときにはカナンとアルファルドの身体が重なってしまう。本来ならカナンごと撃っても仕方がないのかもしれない。だが……レヴィの手がそれを拒否する。目の前でカナンの複製に遺言を聞かされ、信じてるなんて相棒に言われてしまえば……。

「どうした?動きが鈍いぞ。いや、私の共感覚が研ぎ澄まされているのか」
「……」

 カナンの攻撃に対してアルファルドは、余裕をだしながら攻撃を回避していく。このまま、カナンに止めを誘うとした瞬間、急に何かに引っ張られるような感覚がアルファルドを襲う。アルファルドは、何事かと思い、足元を見た。そこには、血まみれに人間が自分の足を引っ張っている。

「なんだこれは……」

 アルファルドの異変に、カナンは彼女に対する攻撃の動きを止めた。かつてカナンも今のアルファルドのような錯覚を味わったことがあるからだ。それは共感覚だからこそ、見えてしまうもの。

「貴方にはわからない?共感覚っていうのは……見えないものを見えるようにする。それは、様々なものに魂を宿らせる、……死んだものにさえ」
「バカな!なにをいっている?」

 彼女の足元に何か重いものがさらに張り付いてくる。亡霊の数は、さらに増え続ける。アルファルドは完全に動きが封じられてしまっていた。

「死人が、生きる者の邪魔などできるはずがない!!決定権は生きるものにしかない!」
「……貴方の言うとおりの決定権は生きるものしかない。だけど、死んだものの意志は引き継がれる」

 それぞれが悲鳴のような声を上げながら、アルファルドにと這いずり、掴みかかってくる。アルファルドは、動揺しながら、その亡者達に銃を撃ちこむ。だが、それらは銃を受けたところで、まったく効果はなく……銃を撃ち続けたアルファルドの銃の弾はなくなってしまう。

『お、おねえさま~~どうして、どうして私を見捨てたのですかぁ??』

 口から血を吐きながら、しがみつくのは自分のかつての配下であったリャン・チーまでもがいる。カナンはそんなアルファルドを哀れな目で見つめる。自分かつて共感覚で同じような幻想を見たことがある。あれが幻想かどうかは定かじゃない。自分もまた同じように殺したものの、亡霊を共感覚で見てしまった。それを打ち砕いたのは、黄金の輝きであるマリアと、そしてシャムの言葉。アルファルドには、そういった支えがない。己の欲に狩られた彼女には……人を道具としか見ていない彼女には。

「離れろ!私の邪魔をするな!」

 アルファルドはカナンを見る。カナンの隣には自分が撃ち殺したもう1人のカナンがそこに立ち、彼女を包むようにしてこっちを見ている。アルファルドは亡霊など信じない。これも何かのまやかしとしか思えない。だが、この不快感に、この現実的な亡霊たちは……。

「……アルファルド、私は、貴方を哀れに思う」
「ふ、フフフフ……アハハハハハ……」

 アルファルドは、亡霊に引きずり込まれながら高らかに笑った。
 そんなアルファルドの姿をレヴィは見つめる。彼女にはアルファルドがどうなっているかはわからない。だが、カナンの言葉どおり、それは哀れな姿だった。手足をばたつかせながら、もがき苦しむ姿。居場所をなくしたものの末路というのは……。レヴィはふと自分がアルファルドと同じなのかもしれないと思う。それを引き止めてくれているのが、ダッチやロックにベニーなんだと。アルファルドには自分とは違いそういったものがいなかったのだろう。

「あばよ、蛇女。出来れば……もう少し話をしてみたかったぜ」

 アルファルドに向けて銃を撃つレヴィ。
 撃ち抜かれたアルファルドはそのまま、前のめりに、倒れる様にして、船の手すりを越えて、海にと落ちる。レヴィは、その顛末を見届けると、その場に腰を落とす。慌てて駆け寄るカナン。

「レヴィ!」

 レヴィは目をうっすらとあけてカナンを見る。

「……なにしたんだ?」
「何もしてないよ。ただ……彼女が人を愛そうとしなかっただけ」

 青い海に潮風が漂う中……。
 2人はその場で大の字になり、空を見上げていた。
 長い長い夜がようやく終わりを告げた瞬間だった。






 一ヵ月後……。

 最初に一週間は、まさに怒涛の日々だった。米軍の介入と、日本政府による治療薬の散布。前もって話が来ていたのかと思うほどの、素早い対応にレヴィは驚いていた。自分としては、その混乱からロアナプラのアウトローたちの姿が一瞬で消えたのが、また驚きだった。また、その混乱の元凶であった蛇は、核兵器を無事奪還。しかし肝心の頭領である、アルファルド・アル・シュヤの遺体は米軍の懸命の捜索があったということだったが、その遺体はいまだにあがっていないそうだ。一方の……レヴィとカナンは、怪我にウーア感染に災難だったようだが、病院での生活もほとんどすることなく、街にと戻ってくることとなる。そのときには、もう街は普段の平穏を取り戻し…いや、平穏ではないか。普段どおりの混乱にと戻っていた。今、思えばあの出来事はなんだったのだろうかと考える余裕も生まれた。

「ロック、カナンの奴はどうした?」
「ああ、墓地にまだいるよ」

 ロックは墓地のほうを見ながらレヴィに告げる。

「今回は酷い目にあったよ……最悪な一週間だったぜ。二日酔いより目覚めが悪い」
「お、エダ!無事だったのかよ?今回はお前なんにも出番なかったな?」
「はぁ~~、一番の苦労人なんだぞ、私は?」

 エダは頭を横に振りながら溜息混じりに告げる。レヴィはエダの言葉に首をかしげながら、いまだ戻らないカナンのいるであろう墓地のほうを見る。


 教会の再建が始まる中、張からだされた報酬でカナンはここに墓地をたてることとした。ここからの空の眺めは最高だろうという場所に、カナンは墓地の場所を択んだ。もう1人の自分とあまり話すことはできなかった。それでも、彼女がいた形跡はしっかりと残っている。カナンは墓地の前で、あやとりを握りながら、墓地の前に立つ。

「……貴方の居場所、守るよ」

 カナンはそれだけ告げると、ふと声が聞こえた気がした。カナンは後ろを振り返るが、そこには当たり前に誰もいない。カナンは、微笑みながら、大沢マリアに会いたくなっている自分がいることに気がつく。今度、少しばかり手紙でも出してみようか…と、そんなことを思いながら、カナンは墓地から歩き出す。

 カナンが戻ってくるとき、そこにはレヴィとロックたちが待っていた。

「少し時間がかかったが、しっかりとした墓になっていたかい?」

 シスターであるヨランダが、カナンに問いかける。カナンは頷き感謝の意を伝える。ロックはカナンを見つめ、

「これからどうするんだ?もし君が望むなら……」

 ロックの問いかけにカナンはロックのほうを見て

「また、別の場所で仕事があるからね…」
「残念だ。折角いい相棒が出来たと思ったのによ」

 レヴィはカナンを見つめて、車にもたれるようにして言う。カナンもレヴィとロックを見つめて微笑む。この僅かな時間、彼女たちと一緒にいれたことで、自分はいろいろな経験をした。それは決していいものだけではなかったが……それでも、世界の現実というものを目にしたつもりだ。私はまたここに戻ってくるかもしれない。ここには私の居場所があるから……。レヴィやロックといった彼らと一緒にいることができる場所があるから。

「帰りはどうする?今ならダッチに頼んで船で送っていっても」
「ありがとうロック。でも、大丈夫だよ……。それに、まだやり残した事があるから」
「やり残したこと?」

 ロックの問いかけにカナンは頷く。
 カナンは歩きながら、一定の距離をとり足を止める。ロックが不思議そうな表情を浮かべている最中、隣にいたレヴィが同じように歩き出し、そして足を止める。ロックはなにをするのかということを察知して慌てながら、距離をとる。カナンとレヴィが対峙する中、まるで見学するかのように、様子を伺うエダ、そしてシェンホア……。そして後から車でやってきたのは、バラライカと張である。彼らも見たいのだろう、今回の騒動を沈黙させた二挺拳銃の強さを。

「随分と待たせたね?レヴィ、怪我のほうは大丈夫?」
「人の心配をするより、自分の心配をしたほうがいいぜ、カナン?」

 潮風が2人を包み込み、レヴィは両手を愛用の二挺拳銃のソードカトラスに、そしてカナンもまたベレッタPx4を握り、銃を抜く。



 銃声が青い青い空のロアナプラの街に轟く。









End







※最終話となります。様々なご感想をお待ちしております。今まで読んで下さった皆さんありがとうございました。


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