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[16164] BLEACH 【ブリーチ】~四楓院凰壱の日常~(現実→BLEACH転生 オリ主)
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/05 15:17

 <前書き>

 このたびは「BLEACH 【ブリーチ】~四楓院 凰壱の日常~(現実→BLEACH転生 オリ主)」を目に留めていただきありがとうございました!

 この作品は、作者の妄想を反映して作成されています。作者の性格上、不定期掲載になる恐れがありますご了承ください。

 この作品には、以下の成分が含まれるかもしれません。

 オリジナル主人公及び、オリジナルキャラ。

 オリジナル斬魄刀と能力による、死神の独自解釈。

 最強主人公。及び、ハーレム的なルート。

 原作キャラの性格崩壊(なるべく原作に近くしたいですが…)。

 少しの萌えと燃え。

 これらが含まれるかもしれない事をご了承ください。

 それでは、本作品をお楽しみいただければ幸いです。





[16164] 序章(プロローグ)
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/08 17:31
  BLEACH 【ブリーチ】~四楓院凰壱の日常~(現実→BLEACH転生 オリ主)


 序章(プロローグ)


 あー死んだ死んだ。こりゃ確定だわ。
 目の前にスローモーションで迫りくる爆風とトラックとバイクと車と電柱……あぁ、その他もろもろ…。
 これで死なないほうがむしろおかしい。
 爆風は現在進行形で、トラックの後ろからそれ自体を吹き飛ばす様に迫ってるし、それに巻き込まれる形でバイクやら車やら電柱やらが飛んできている。
 それもうまくよければ回避できる! …なんて生易しいものじゃない。それも1台じゃない。3、4台がまるで玉突き衝突のように数珠状に連なって迫ってくるのだ。
 それも四方八方から。

 そんなに俺に死んで欲しいの? オーライ分かった神様。それとも悪魔か? まあどっちでもいいや。
 その二つの差なんて、有って無きに等しいってことくらい俺にだってわかる。

 まあ何でこうなったかなんて原因を並べればいくらでもあるんだ。
 曰く、坂の上に停車中のトラックの運転手が、「うっかり」サイドブレーキ引き忘れたとか。
 曰く、たまたまどっかの工事現場に行く途中でそれらが同じ道を通行したとか。そもそも道路のキャパシティを越えてるとか。
 曰く、そんなタイミングで近くのガソリンスタンドにタンクが給油されてたり、その馬鹿運転手が、オラウータンに核ボタン磨かせるかのような無用心さで煙草に火をつけてしまったり。
 曰く…まあそんな色々。要するにそれら全部が、只今絶賛俺を殺しにかかってる最中とそういうわけだ。

 まあそんなこんなで、死のピタゴラスイッチを押した死神か、どっかの不幸体質のように死につつあるわけだ。

「まぁそれにしてもやりすぎと思うんですよね……神様よ」

 俺は誰に言う事もない呟きを、虚しく空にもらす。
 自分の絶対的死に対する感想は意外に冷静だった。
 まぁ不幸中の幸いは、隣に誰大事な人がいたり、半径数メートルにわたって人の存在しない……つまり誰も巻き込まなかった事くらいかな。

 それも、もうどうでも良い話しだ。ほら、もう目と鼻の先に鋼鉄の塊が迫ってる。
 でも……最期になってなんですが。



「あ、卵の賞味期限今日だった……」



 それが、俺の最期の言葉だった。









    完














 パチパチパチ。
 何処からか拍手が聞こえてくる。
 それもスタンディングオベーションとかじゃなく一人によるもの。

「いやぁ、いい最終回だった! 感動した!」

 なんてちょっと涙ぐんだような、それでいて無性に腹のたつ口調で聞こえてきやがる。
 どこぞの動画サイトのコメントみたいでイラッと来るな。
 んで? 何の最終回だって?

「貴方の人生のですよ、田中太郎(たなかたろう)さん」

 やや澄んだ幼さの残る中性的な響きで、俺の名前を呼ぶ声。いまだ姿は見えない。

「田中太郎、27歳。彼女いない歴=年齢の独身、童貞。大学卒業後、中堅規模の食品会社に就職。勤属年数三年四ヵ月と六日。両親妹共に健在。家族仲良好……っとつまらない人生ですね(笑)」

 大きなお世話だ! てゆか語尾に(笑)とかつけんな!
 何故か声が出せないので、心の中で突っ込んでおいた。
 それに、なんで俺の経歴から名前から知ってる? そろそろ姿を現したらどうだ!

「さっきから君の目の前に居るけど?」

 ん?なんか変なぺんぺん草が目の前でゆれてるけどこれか?

「下ですその下! まったく平凡でツマラナイ人生の人は、ボケまでツマラナイですね。あ! お脳がツマラナイからでしょうね」

 そしてちょいと下に目線をふると確かに「そいつ」は居た。
 金髪で美少年。中性的な顔つきに目の前でゆれるアホ毛。
 体つきは白いローブを着ているらしく伺えないが、背はちっさい。
 そいつが良い笑顔で俺の目の前にたっている。

 なるほど! 小さすぎて見えなかったのか! そっかそっか!
 と失礼なことを心の中で唱えてやる。

「小さいって言うな! この神様にむかってっ!」

 わはははっ! 気にしてんのか! やーい、チビチビー!
 てか神様って何よ? 頭病んでるのか? 黄色い救急車呼ぶか?

「病んでるのはお前様です。田中=キ○ガイ=太郎さん」

 だれが○チガイか! 外国人ハーフ風にミドルネームにつけんな!

「じゃあキ○ガイ太郎さんで」

 うぉいっ! 苗字を略すな!
 なぁにニヤニヤしてやがる!

「まあ、それはさておき……田中=K=太郎さん」

 はぁ……もういいよ。んで? なによ?
 俺は呆れ顔(自分がどういう状態か知らないが)で嘆息し、先を促す。

「ありがとう」

 う、ちょ、なんだよ。そんな真剣に改まって。
 神様だか何だかしらんが、お前に…感謝されるような事なんざ…な、何もやってねぇよ。

「……ツンデレ?」

 だー! もうそれはいいって! 続きよこせ!

「貴方があの場面で死ぬのは…本当は予定じゃなかったのです」

 へ?

「本来ならちょっと屈んだくらいのアクションで、全部回避できるほどの偶然が重なって、貴方は助かるはずでした。それも無傷で。」

 はぁ!? んじゃ俺無駄死にだったのか!? ふざけんなっ!
 と絶叫する俺を片手で制す。最後まで聞けってか? 分かったよ……。

「でも、貴方が助かる事であの事故を連鎖に、数十人の人が死ぬ予定だったのです。それが全員助かったんですよ」

 とやや涙ぐみながら嬉しそうに言う。

「それは賭けみたいなものでした。信じられないかもしれませんが、貴方一人の命と、事故に巻き込まれるはずだった数十人の命の重さは、あの瞬間だけ両天秤でつりあっていたんです」

 それはつまり……。

「そう、全ては貴方の微妙な行動の変化で、どっちにでも転ぶはずだった」

 ………。

「でも、あの瞬間貴方は『誰も巻き込まない事が不幸中の幸い』と思いましたね? そんな些細なきっかけですが、それれによって貴方は命を落とし、数十人の命が救われたのです。そして人というのは、得てしてそんな選択を取るのは難しいのです」

 そ、っか……。
 心がちょっと軽くなる。俺の死は無駄死にじゃなく、誰かの助けになれたんだと。
 例えコイツが神様じゃなかったとしても、こうやって人に分かってもらえるってのは……こんなにも救われるものなんだな…。

「そして、そんな運命しか用意できなかった私たち神を……どうか許してください…」

 そう言ってうつむく。白い床に、涙のしみが点々と染みていく。両の手に握られたローブのすそをぎゅっと力いっぱい握っている。
 まったく……。お子ちゃまはこれだから。
 俺は金髪の頭をくしゃくしゃに撫でて、『神様』に笑いかける。

 無意識にしろ何にしろそれは俺が選んだ結果なんだろう? お前が思い悩む事じゃない。
 俺はむしろ、そうなってよかったと思ってるぜ。

「ふぇ?」

 女みたいな涙目の顔にちょっとドキッっとする。
 だって、その……俺の人生って、ほら…平凡でつまらない人生だろ? 俺も確かにそう思ってたんだ。
 それが見ろよ! 最後の最後で数十人の命を救ったヒーローじゃねぇか! ま、まぁヒーローインタビューに答えられないのは残念だけどな。
 そう言い終わると、ちょっと臭いこといったと思い、急に照れくさくなってそっぽを向いてしまった。

「……ツンデレ」

 いや、それはもういいから……。
 ともかくだ! お前は『神様』なんだろ? 『よくやった!』とか何とか言って偉そうにふんぞり返ってろよ。

「……田中さん…生き返りたいですか?」

 ん? まぁ、そりゃ生き返れるもんならな。

「残念ながらこの世界に貴方の居場所はありません。貴方の人生はどんな結果であれ、あの瞬間に確かに終ったのですから」

 さ、さいですか……。

「でもっ!もし……この世界じゃなく…別の世界だったとしたら?」

 え? それて異世界ってやつか?

「まあどんな世界になるか行って見なくては分かりませんが……でも…」

 でも?

「私たちの子らを救ってくれた貴方を……私は祝福します!」

 ………。ふふっ、そっか。ありがとな。ありがたく受け取らせてもらうよ。

 そういうが早いか俺の周りがまばゆい光に包まれる。
 なるほど、早速生まれ変わるのか。仕事早いな。

「えっへん! なんせ神様ですからね!」

 じゃあな神様! もう会うことはないと思うけど。
 達者でな!

「ジジ臭い挨拶ですね」

 うっさい!

「あ!……あとあの卵とっくに賞味期限切れてましたよ?」

 なぬ!

「腐るともったいないので私が美味しくいただきました! それではーっ」

 ちょ! お前、最後の台詞それ!?
 というか俺のたんぱく源勝手に…・・・!



「いっちゃいましたね……まーくん」
「まーくんはやめい! 仮にも魔王にむかって……まったくぶつぶつ…」
「そんな小言ばっかりだと、禿げるよ?」
「禿げてねぇよ!……ったく何が神様だ…嘘泣きで『哀れな子羊』を惑わせおって」
「えーっ! 嘘泣きじゃないよぅ、それに感謝はしてるし祝福はするよぅ!? てゆか惑わせてない惑わせてない」
「なにが『行ってみなければどんな世界かわからない』だ。全部分かってるくせしやがって。しかも、あいつの命と数十人の命がつりあってるって?嘘ばっか言いやがって」
「ぶーぅ、うそじゃないもん。神の前では全ての命が平等なんだよ?」
「しかも何が助かるはずだっただよ? 俺でも避けられんわ。あんなの。てゆか決定事項だったろうが」
「それは本当だよぅ、ちょっと屈んだら助かったのは事実だし……音速くらいの速さでなきゃ無理だけど…」
「こんなんが祝福するんだから…あいつも救われねぇぜ……」
「こんなんいうな!」






「ほぎゃぁぁぁぁ!!(食うなっ!)」

 まったくあのヤロウとんでもねぇ……あれ?
 なんか赤ん坊の声が聞こえたような?

「あぶあぶぶあぶーぅ?……ふぁぁ!(ここどこだ?ってなんだこの声!)」

 あぁ、俺確か生まれ変わって…って何でそんな事覚えてんだ?
 いや、普通前世の記憶なんてないだろう!? どこぞの転生SSじゃあるまいし。
 そんな突込みをしゃべれない代わりに、座らない首で考えてると、突然両親らしき顔がのぞく。

「よくやったぞ。これで四楓院家も安泰だな」

 と男の声。どうやら父らしい。

「ありがとうございます、あなた。肌の色は何故か白めですが健康に生まれて何よりですわ。……私が母よ? わかりますか?」

 と女の声と共に抱き上げられる。どうやら母らしい。うわ、すげぇ巨乳美女。
 お産でやや大きくなっていることを差し引いても、この大きさは手にあまるほどだ。

「それにしてもこれほどの霊力を宿して生まれるとは……行く末が楽しみでならんな! はっはっはっはーっ!」
「まぁ、あなたったら、気が早いですわ、ふふふふっ」

 レイリョク? 何それおいしいの?
 ってなんか聞き覚えのある単語が出てきたんですが? 四楓院(しほういん)? あのブリーチとかの?……はははっそんなバ

「いずれにせよ、この尸魂界(ソウル・ソサエティ)を少なからず背負っていく事になるのだ……期待くらいさせてくれ」

 尸魂界? 何その決定的な単語を俺に聞かせて、楽しいの?

 神様……どうやら俺はブリーチの世界に…しかも尸魂界の四大貴族・四楓院家に生まれちゃったみたいです。
 いくらなんでも漫画の世界はないだろう……神様よ…。
 そんな俺の苦悩をよそに、自分の息子の行く末を嬉々として語り合う両親に、若干の不安を覚えるのだった。

 これが俺――田中太郎改め、四楓院 凰壱(しほういんおういち)の第二の人生の始まりとなったのだった。
 
 とりあえず母よ……おっぱい苦しいです。あ……だめだ窒息で落ちそう。



 がくっ……。









[16164] 第一話 「真央霊術院にて(1)」
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/05 15:22


  第一話 「真央霊術院にて(1)」


 四楓院 凰壱(しほういんおういち)。それが俺の名前だ。
 この名前になってはや十数年、いやー時のたつのは早いね。
 この尸魂界(ソウル・ソサエティ)に生れ落ちてこのかた、思う事があるんだ。聞いてくれる?


 何このチート肉体。
 走ればオリンピック陸上選手も真っ青な早さだし、拳を振ればそこらの岩なら簡単に砕けるし、鬼道?とかいうのもいきなり使えるし……。
 まだ破道の一 「衝(しょう)」だけだけどね。なんか指差した先に衝撃波が飛ぶなんて、それなんて魔法? って感じだ。
 なんか自分の体じゃないみたいだよ……神様…。こんな祝福正直イリマセン。
 俺は自分が幸せに過せれば充分なんですよ。というか、目立ちたくないのよ。
 無理なのか? 俺にはそんなささやかな幸せも許されないのですか?


 そんな俺もついに死神の学校こと、真央霊術院に入学する事になりました。
 イジメとか怖いから実力は見せないように……してもむりかなー、名前が名前だしね……。

「君も新入生かい? はじめまして浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう)だ、こっちは京楽春水(きょうらくしゅんすい)」
「はじめまして、京楽春水だ。よろしくな」

 入って早々声をかけてきたのはこの二人。っていきなり原作キャラかよ……。

 浮竹十四郎。
 今回の入学で結構高い素質で入学し、新入生代表に選ばれたさわやか青年。
 髪が白く線も細いが、意外に鍛えられた肉体のようだ。病弱らしく顔色があまりよろしくないのも特徴だ。

 そして見るからに軽薄そうな京楽春水。
 学院の白と青の装束もラフに着崩している。でもそれがだらしなく見えないのは中身が意外にイケメンだからだ。
 あぁ、コイツもてるだろうなってくらい、丹精な顔してる。
 さっきから女性がチラチラ見てるのを手を振って答えている。そして、振られた女の子は顔を真っ赤にして黄色い声を上げて走り去っていく。

 イケメンは死すべき。

 でも、なんか憎めなそうな顔してるんだよね。世渡りがうまそうだ。

「四楓院 凰壱だ、よろしく頼む」

 「俺は…」とか言いそうになったが、無難に挨拶してみる。気軽に「俺」なんていえない立場ってのは辛い。

 ざわ…ざわ…

 え? なに? もうイジメ的空気? こう見えても中身は打たれ弱いからやめてよねっ!

「驚いたな、あの四楓院家の嫡男であらせられるとは。同期で学べるとは光栄の至り」

 なんて調子のいいこといってくる春水。本心からいってないのはこのニヤニヤ顔を見れば分かる。

「こ、こら! 春水! いくらなんでもそれは失礼に当たるだろう! 失礼しました、四楓院殿」

 そう言って頭を下げるのを俺は制する。だってそうじゃない? 今から同じ学院で学ぶのに、貴族とか何とかしがらみに縛られたくない。
 俺の原作知識が間違ってなかったら、二人はそんな事関係無しに付き合ってくれそうだしね。

「いえ、いいんです。私…いや俺も軽率だったよ。簡単に四楓院家の名前なんか出すべきじゃなかったよ。せっかくの同期だ、今はそんなしがらみなんか無く、仲良くやっていこうよ」

 本心から言えたのは幸いだな。

「そして、俺のことは呼び捨てにする事さもないと……」

 ここでちょっと溜めて。みの○んたみたいにね。

「シロウちゃんってよぶぞ」

 一瞬後に教室中が沈黙。水を打ったようにとはまさにこれの事か。
 やばい、やらかした。
 二人はおろか、教室の全員が呆然としている。
 あぁ……やっぱちょっとは偉そうにして他方が良かったのかな? 今更おそいか。内心は推して知るべし。

「……っぶははははっ! シロウちゃんだってよ! こいつ坊ちゃんかと思ったら意外に言いやがるぜ!」

 え? なに? なんですか? この展開。

「はぁ……『シロウちゃん』は勘弁してくだ…してくれ…十四郎でいいだろう?、凰壱」

 よし!きりぬけたー!

「俺もいいよな?凰壱、こちらも春水でいいからな。それとも『シュンちゃん』とでも呼ぶかい?クックック…… 」

 心底笑ったって顔で肩をバンバン叩くのはやめてくれ。てか微妙に痛いんですけど。

 これが俺と十四郎と春水との最初の出会いだった。









「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!」
「破道の三十一 赤火砲!」

 燃え上がる火球が、俺の手の前から高速で打ち出される。標的となった的(まと)は黒いカスを残して消え去っている。
 相変わらずチートな俺の肉体ですが、わずか数ヶ月で中級鬼道である「赤火砲(しゃっかほう)」を覚えた。
 どうやら俺は、鬼道に関する才能に長けている傾向にあるらしい。

「ヒューゥ、さっすが四楓院家の坊ちゃんは違うねぇ、もう三十番台までいったのかい」
「誰かさんが、女軟派してる間にな」

 俺はここ数ヶ月で聞きなれた春水の軽口のあしらいにもだいぶ慣れてきた。
 気がつけば俺たちは良く三人でつるむ事が多くなっていた。
 もちろん春水や十四郎の周りには絶えず人が集まるので、三人だけというのは稀だが。

「そう硬いこと言うなって、なんなら一緒に行くか? お前なら…」
「こら春水、あんまり凰壱をからかうんじゃない。斬魄刀の解放が人より速いからって、鬼道の手を抜く理由にはならんぞ」

 きついこといいながらも、何気に春水にも面倒見のいい十四郎。
 何か歳は俺のほうが上なのに、話の分かる兄貴って感じだな。

 そう、この二人はもう斬魄刀を所持している。自分のやつね。浅打(あさうち)じゃなくて。
 かく言う俺はまだなので、浅打振り回してるんだけどね。
 時々それらしい夢は見るけどね。

「大丈夫、春水でも出来たんだ焦る事はないさ」

 って十四郎言ってくれる…んだけど……ねぇ。
 尸魂界でも珍しい、「二刀一組」の斬魄刀所持者が言っても嫌味にしか聞こえねぇ。

「まぁ斬魄刀の扱い自体は見事なんだから、そんなに気にする事ないだろう?」

 つまり剣術的なものね。
 死神の戦闘術は四つに別けられている。即ち「斬・拳・走・鬼」である。
 斬は、文字通り斬魄刀の扱い。解放やらなんやらを含めた広義の総合ではあるがな。
 拳は、これも文字通りの意味。白打(はくだ)による戦闘。
 走、これは死神特有の歩法、走法。一瞬で遠くの場所に駆ける事の出来る「瞬歩(しゅんぽ)」等の高等歩法がそれに当たる。
 最後に俺の得意な鬼、鬼道である。
 まあ例によってチートな肉体です。
 何処の御剣流かってくらいに驚くほど体が動く。
 実際技やってみたら出来ちゃった技もちらほら。
 そんなんやってたら勝手に上手い事にされた。調子に乗ってました。サーセン。

「とはいっても二人ともどれも人並み以上にこなすじゃないか」
「はぁ……鬼道の才能が桁違いのお前が言うと、嫌味にしか聞こえん…」

 十四郎が呆れる。なんか隣の芝は青いって感じだな。
 ちょっとムカついたので女性隊士の前で袴ずり下げてやった。ざまぁww

 後日同じことされて恥じかきました。モウシマセン。
 春水はゲラゲラ笑ってやがった。
 今度なんか制裁してやると、十四郎とアイコンタクトするのだった。
 イケメンはとりあえず死すべき。



 ≪春水≫

 真央霊術院への入学が決まった。俺と同じくトップ成績だった浮竹とはすぐに馬が合った。
 世間は広い。天狗になって才能に埋もれる危険性が減っただけでも、この出会いは価値のあるものだ。
 奴とは長い付き合いになるだろう。そう思った。

 そんな同期の連中の中に更に目立つ奴がいた。
 みたら分かる、貴族の坊ちゃんだ。何気なく溶け込んでるように振舞っているが、その所作の一つ一つが高貴な血を物語っているようだった。
 貴族だから気に食わない……なんて○○(ぴー)の穴のちいせぇことを言うつもりもこれっぽっちもないが、ここは坊ちゃんに世間の厳しさって奴を教えてやるか。
 そう思っていた。

「君も新入生かい? はじめまして浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう)だ、こっちは京楽春水(きょうらくしゅんすい)」
「はじめまして、京楽春水だ。よろしくな」

 浮竹もさすがに気になっていたのか声をかけたんで、便乗する事にした。
 第一印象はおよそはじめに感じたものと変わらないが、その目を見て寒気が背筋を襲うようだった。
 色白な肌に、期待を裏切らないほどの伊達男。だが、そんなものより奴の目だ。
 瞳を覗き込むと、吸い込まれそうな感覚になる。
 こりゃ女がほっとかないな。
 俺よりモテる奴は死ぬべき。
 チラチラと女生徒がコイツに熱い視線を送っていたので、俺が横取りして手を振ってやった。
 するとそいつもそっちのほうを見たので、さっきの女の子が黄色い声を上げて走り去っていった。
 ほほぅ、やるねぇ。
 次に聞いた奴の自己紹介にはさすがの俺も一瞬驚いた。

「四楓院 凰壱だ、よろしく頼む」

 し、四楓院かよ! 貴族中の貴族。四大貴族じゃねぇか!
 そんな奴が何でわざわざこんな一般の教室に収まってんだ?
 と周りの音がぴたりと止んだ。
 むりもねぇ、ここにいる奴の半数は流魂街から流れてきた奴等だ。
 貴族に対しよく思ってない奴らも中に居るだろう。
 そんな中で自分で「貴族ですが」なんて言ってる様なもんだ。
 それなのに野郎、微動だにしねぇ。しかも表情にどこか余裕すらある。

「驚いたな、あの四楓院家の嫡男であらせられるとは。同期で学べるとは光栄の至り」
「こ、こら! 春水! いくらなんでもそれは失礼に当たるだろう! 失礼しました、四楓院殿」

 このままじゃ今にも飛び掛ってきそうな奴が何人か見て取れた。
 だからわざと俺自身がそいつらを代表する形で嫌味を言ってやる。これで奴らも…少なくともこのやりとりが終るまでは無茶はしないだろう。
 それに浮竹の反応は至極当然だ。むしろ必要なくらいだ。
 これで同じ貴族出身の奴らの顔も立つってもんだ。さすがだな。

 そしたら一瞬だけ…ほんの一瞬だけ奴の顔が寂しげに笑った。

「いえ、いいんです。私…いや俺も軽率だったよ。簡単に四楓院家の名前なんか出すべきじゃなかったよ。せっかくの同期だ、今はそんなしがらみなんか無く、仲良くやっていこうよ」

 まあそれが無難な返しだな。やつもまるっきり馬鹿ってわけじゃないようだ。
 だが少々残念だ、もっと骨のある答えを期待してたんだがな。
 まぁ考えるだけ野暮だな。
 だが……。

「そして、俺のことは呼び捨てにする事さもないと……」

 ほう、そうくるのか?もったいぶってやがる。どんな無理難題を吹っかけるのか興味がわく。

「シロウちゃんってよぶぞ」

 は?
 何を言ってるんだコイツは? なんだって? シロウチャン?
 浮竹十四郎……十四郎…ジュウシロウ…シロウちゃん?
 そんな図式が俺の頭で次々と組みあがっていく。

「……っぶははははっ! シロウちゃんだってよ! こいつ坊ちゃんかと思ったら意外に言いやがるぜ!」

 思わず本音を吹き漏らしていた。
 不思議だった。もう笑いが止まらなかった。
 しかもこの爽快感。
 いいね! 気に入った! いつの間にかコイツの背中をばんばん遠慮無しに叩いていた。四大貴族? そんなの知ったこっちゃねぇ。
 コイツは面白い。それが無性に嬉しかった。

「はぁ……『シロウちゃん』は勘弁してくだ…してくれ…十四郎でいいだろう?、凰壱」

 くたびれたように浮竹が言葉を崩す。
 どうやらコイツも気に入ったようだ。それを聞くとこいつはいい笑顔で笑いやがった。
 どうやらコイツとも長い付き合いになりそうだな。
 それがコイツ――凰壱との最初の出会いだった。


 ある日、何をムカついたかしらねぇが、凰壱は浮竹の袴をずり下げやがった。しかも女の前で。
 浮竹はちょっとええかっこしいだったからな。いい気味だ。

 そのまた後日、今度は同じ事を浮竹に逆にやられてた。
 あの浮竹の珍しく子供っぽい「しかえし」に心底笑わされた。
 やっぱこいつらといると飽きないわ。

 このとき笑いすぎで、二人の不穏な視線に気づかなかった事を、後になって後悔した。







[16164] 第二話 「俺と妹と斬魄刀と」
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/05 15:16



  第二話 「俺と妹と斬魄刀と」


 今日妹が生まれました。十以上も歳が離れていますが、もうこのくらいじゃ驚かんよ俺。
 両親は今頭をひねった名前を命名しようとしていますが……なんか不安です。

「よし! 花子で」
「却下!」

 俺は原作キャラ抹消の危機を全力で回避する。
 あぶねぇ。何考えてるんだ、この親は。
 まさに神をも恐れぬ所業だな。

「仕方ないな、『夜一(よるいち)』これでどうだ?」
「一って、兄妹そろってだと変じゃないかしら?」
「いやー、夜一かぁ。いい名前だね父上!」

 ちょっと霊圧つきのガン飛ばしながら父を睨む。ナニカフマンデモ?
 そして母の台詞は全力で無視。父よ……仮にも現当主が「うっ」とか息子にひるむなよ。
 まぁ、そんな経緯があって『四楓院 夜一』は、無事この尸魂界に生れ落ちる事が出来ました。
 神様……俺…良く頑張ったよね?


 そして夜一が生まれる前日に、ついに斬魄刀が目覚めました。
 あ、これ夢だ。生まれてからずっと見ていた夢。
 無数の黄金の蝶が舞っている光景。
 斬月の精神世界のように白一色の台地にあって。その光景は一言で言うと異常だった。

 そのうち、自分が見てる光景なのか、蝶が見てる自分なのかがあやふやになる。
 いつもの夢はそこで終りなんだが、この日は違った。

 ―――。

 何か声が聞こえる。

 ―――。

 その声の方向に意識を向けると彼女は「居た」。
 黒髪と褐色の肌の女性。
 原作そのままの「四楓院 夜一」その人の姿だった。
 ただ、唯一違ったのは……その背中から広がる巨大な金の蝶の羽だった。
 彼女はニコリと笑うと。


 そこまでが夢の内容だった。
 気がつけば俺の手には、黒い鞘に金の蝶をあしらった斬魄刀が握られていた。
 妹が生まれる報を受けたのは、この直後だった。



 まぁ、そんなわけの分からない夢や斬魄刀の話しなんか、面白くないから二十行以下で充分ですよ。
 「ぼくのかんがえたかっこいいざんぱくとう」でいいじゃないか。
 それより妹きたよ! 妹!
 何でこんなにエキサイトしてるかって?
 可愛いからに決まってるじゃないか!
 可愛いは正義。
 とにかくこの「ロリ夜一さん」は、歩けるようになって以来、何処に行くにも俺の後をついて回ります。
 トコトコと。
 それはもう、水鳥のすり込み(インプリンティング)レベルで。

 しかも、言葉をしゃべるようになってからは「あにうえー、あにうえー」ですよ?
 そりゃもう、萌え殺されるしかないじゃないか!

 そんな三千世界一可愛い妹には休日ごとに会いに帰っております。


 一度春水に「最近付き合いが悪い」と咎められ、「妹離れしろ」とか言われたが気にしない。
 というか、そんな春水には側頭部に「衝」打って眠ってもらった。
 尊い犠牲だった……。
 春水……君の事は、永遠に忘れないよ…。

「勝手に殺すな!」

 ちっ! 生きてやがったか。しぶといGだ。

「Gってなんですか!? 人間じゃないよね?!」

 まぁとはいっても、俺たちはこんなやりとりが出来るくらいには親密になっていた。
 前世じゃこんな馬鹿騒ぎする仲間も、とうとう作れなかった。
 だからこの出会いには感謝している。

 まぁ、だからと言って俺と愛妹の逢瀬をじゃまするやからは例え誰であろうと……。

「ちょっ! 斬魄刀! ていうかいつの間に目覚めてんだ! こっちくんな!」

 心配するな春水。一瞬だから痛くないよ?

「痛くないよじゃねぇ! てか殺す気ですか?!」
「ま、まぁまぁ、凰壱もそれくらいでからかうのは……な、なぁ?!」

 間に入る十四郎の顔面はいつになく蒼白である。
 ちぇ、冗談だよ冗談。小粋なアメリカンジョークってやつだよ。
 と言って俺は斬魄刀を鞘に収める。
 俺ってそんなに信用ない?




 ≪十四郎≫


 今日も楽しそうに(?)じゃれ合う春水と凰壱を横目に見ている。
 上級貴族の割には破天荒な春水。
 そして、その更に上の四大貴族・四楓院家次期当主でもある凰壱。
 この二人は特に大切な俺の仲間だ。そこには身分による格差なんてないと、純粋に信じられるだけの信頼感が確かにある。

 初めてこの二人にあったときの事は割愛させてもらう。
 あれ以来なんか女性隊士の俺に対する視線が、生やさしいそれに変わった。
 まあ自分としては不本意ではあるがな。
 だからって「シロウちゃん」はないだろう……。

 それに袴を下げられるのはもう勘弁願いたい。
 おかげで、自分でも子供っぽい「しかえし」をしてしまったことは…あー…今思えば恥ずかしい限りだ。
 だがその後の春水への「報復措置」は楽しかった。
 仮にも自分より身分が上の貴族に対し、あんな暴挙に出れたのはひとえに、あの凰壱のおかげだ。
 あれは実に楽しかった。
 春水の名誉の為、詳細は伏す。

 こんな馬鹿騒ぎをやっちゃいるが、この二人の才能にはつくづく驚かされる。
 春水は俺と同じく、「二刀一体」の斬魄刀の持ち主。
 真実を見通すことに長け、こう見えてとても思慮深い。
 そして、戦いにおいては常に一歩も二歩も先を読むほどの明晰な頭脳と、行動力。
 時々女をナンパして回るのは、こいつなりの愛嬌と言うものだろう。
 もとより女性を傷つけるような奴ではないしな。その辺は心配してない。

 そしてこの凰壱。鬼道と剣術の実力は、折り紙つき。
 さすが四楓院家…なんて言ったらあいつが嫌な顔するだろうから言わないが、そういう何かを納得させるほどの腕を持っているのは確かだ。
 かといって、とっつきにくいわけじゃない、むしろあの家柄にしては砕けすぎだろうと思う時がある。

 そんな凰壱に近頃、妹君が生まれたらしい。
 よほど可愛いのだろう。休日ごとに実家に帰っている後姿は、まるで通い婚の夫の後姿に似ている。
 学院に居る間も耳にたこが出来るほど聞かされた。
 その一種の『のろけ話』は、ほどほどに願いたいもんだ。

 あ。春水が側頭部に衝撃波を受けて稽古場の端まで吹っ飛んでいった。
 凰壱は「君の事は永遠に忘れない…」とか遠い目をしている。
 春水がそれに反論の絶叫を上げる。
 最近良く見かける光景だ。

 ところで「じぃ」とはなんだろう?
 人物名ではないらしいが、何かの生き物だろうか?
 あいつの言動はいつも独特で興味深い。
 しかも、いつの間にか斬魄刀を発現させる事に成功してるようだ。
 変わった斬魄刀だな。黒一色に…あれは金の蝶の紋様をあしらってあるのか。
 まぁ、あいつのなんだから今更驚きはしないが。

 っておいおい今抜いたぞ。目も据わってる。
 いくらなんでもこれ以上はしゃれにならないので止めておこう。

 最近何だか胃が痛い。
 何かの病だろうか?

 本日の教訓。
 凰壱の妹の事には、あまり触れないでおこう。





 ≪凰壱≫

 今日宿舎のほうに実家から手紙が来ていた。
 最近字を覚えたのか、つたない筆書きでまいらぶりーしすたー・夜一が手紙を送ってくれていた。

 表には「あにうえへ」と可愛らしい文字が。
 癒される。
 これでご飯三杯はいける。


 あにうえへ

 さいきんあえなくてさみしいです。
 ははうえにきいたらしにがみのがっこうへいってるってききました。

 いつもかっこよくてやさしいあにうえはすごいです。
 わたしもいつかあにうえみたいなりっぱなしにがみになりたいです。
 そしてあにうえとけっこんしたいとおもいます。

 かぜひかないでね。
 はやくかえってきてね。

                         よるいち


「ぶっ! ふぁぁぁ……」

 俺の意識はそこで途切れ、次に目覚めたのは救護詰所の病室だった。
 





 ≪春水≫

 昼間の事をお互い水に流そうと思い、一緒に一杯やろうと凰壱の部屋に入った途端度肝を抜かれた!

「おい! 凰壱! しっかりしろ! 何があった!……誰か!救護詰所に連絡を! しっかりしろ! 凰壱ぃぃぃぃぃっ!!」

 そこにあったのはビクビクと痙攣しながら顔から血を流す凰壱だった。
 一体何があったのだ?
 賊に襲われたのか?

 凰壱は小さな手紙を握り締めて、しきりに何かブツブツと呟いていた。
 残念ながら何を言っているのかは聞き取れなかったが。



 翌日、救護詰所の病室で目覚めた凰壱は、昨晩の事を一切忘れていたそうだ。

 一体何があったというんだ……。








[16164] 第三話 「真央霊術院にて(2)」
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/08 17:30



  第三話 「真央霊術院にて(2)」


 今日は、初めての現世研修だ。
 一回生である程度の過程を習得したものたちが、六回生の引率のもと、現世に赴き死神業の実地研修を行うのだ。
 斬魄刀の発現も間に合った事だし、何より現世研修なんて普通に霊魂に魂葬(こんそう)のハンコ押すだけだからね。
 虚(ホロウ)何かでるはずもない……なぁんて…思ってた時期が、俺にもありました。

「馬鹿な! こんな所に虚が居るなんて聞いてないぞ!」

 まぁそうでしょうね…。

「大虚(メノス・グランデ)……」

 しかも大虚(メノス)ですよ? 神様? 祝福はどしたの?
 何かの手違いですか?
 何でこうなった?俺は自分の斬魄刀の柄を握り締めた。


 ここでちょっと時間をさかのぼってみる。




 俺の研修での組み分けでは、春水と十四郎とは別の班になった。
 たぶん戦力の分散なんだろうと思う。どの班も平均的になるように。

「心配すんなって、もし万が一の事があったらお前の妹……許してください」

 春水が何かさえずったので、つい手が滑りそうになった。
 最近人斬ってないから、鈍ってるんだから協力して欲しいんだけどぉ…ね☆

「こらこら、『ね☆』じゃないよそんな可愛く言いながら、どす黒い殺気を垂れ流すなって…あぁ胃が痛い…」

 と十四郎が胃の辺りを押さえる。
 大丈夫? 何か悩み事? ○露丸でもあげよっか?
 最近気苦労が耐えないって顔してるからな。親友としては心配です。

「お前が言うな、お前が」

 あーっあーっ聞こえない聞こえない。


 回想終り。

 本当にこれだけですよ? 本当だよ?
 何かフラグがあったのか、俺に是非教えて欲しい!
 とはいえこのままじゃ全員喰われておしまいだ!

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!」
「破道の三十三・蒼火墜(そうかつい)!」

 爆炎が奔流となって大虚に襲い掛かる。
 動きのそれほど素早くない、下級大虚(ギリアン)でなければ避けられてた!

「おいおい、蒼火墜でちょっと焦げただけってどういう…っ!危ねぇ!!」

 随伴の上級生は、俺たち研修組みを非難させているが、中には鈍臭いやつが混じってる。
 俺は男のほうに指を向け。

「破道の一・衝!」

 春水の要領で迫りくる大虚の白い手から逃れさせ。

「ごちそうさまじゃない!…ありがとうございます!!」

 と女の子の方に飛んで行き抱き上げて、お姫様抱っこで先輩のところまで下がる。
 お、結構でかいしやわらけぇ! 気絶してるから揉んどこう。役得役得。

「この子をお願いします!」
「他の子はもう避難終ったわ、後は君だけだよ!」
「完全撤退までまだ時間がかかるでしょう? ここは俺に!」

 俺カッコイイ!
 一回言ってみたかったんだお!

 さて、久しぶりに全力機動で何処までやれるやら…っ!
 下手に倒そうと思うな、全力で逃げ回れ、攻撃は受けようとするな、捌け。
 そんな戦闘ルーチンが頭の中で瞬時に組みあがる。

「馬鹿言わないで! 君一人に任せられるわけないでしょ!」

 そう言って最後に残った女の子の六回生が俺の横に付く。

「……足手まといになりそうだったら蹴り戻しますよ?」

 正直さすが六回生まで行った人だけあり、霊圧はさるもの。
 やや経験不足な緊張が体を硬くしているので、軽口を飛ばす。
 その軽口に先輩――仮に少女Aとしておこう―がコクリとうなずく。
 なに? ネタが古い? サーセンw
 髪は肩までで清潔にまとめられており、やや小柄だが中々の美巨乳の持ち主。
 顔も結構可愛い。帰ったらお近づきになっとこうかな? いや…俺にはマイフォーエヴァーラヴリーシスター・夜いち。

「来るわよっ!」

 先輩の声に一瞬で思考の海から引き上げられる。
 イカンイカン自重しろ俺!

「先輩は右へ」
「分かった」

 返事と同時に大虚の豪腕が飛んでくる。
 その攻撃を右と左に飛んで避ける。

「破道の三十一!赤火砲!」

 大虚の顔に向けて、詠唱破棄の赤火砲を炸裂させる。
 まだ慣れてないので多少は威力が落ちるが、ノンタイムで打って目暗ましには丁度いい。

「はあぁぁぁぁっ!」

 先輩が長く伸びた大虚の腕を真横からぶった切る。
 その後すぐさま後方に下がる。
 だが、そこにもう一方の腕も伸び。

「っ……ぐうぅっ!」

 拳で殴られて後方叩きつけられる。
 聞こえるはずのない砕ける骨の音が響いてくるようだ。

 しばらく地面を滑った先輩の体が地面の端っこに引っかかり止る。
 そこに止めを刺すように、大虚の口が大きく開けられる。
 口の直前空間に零子の光が収束していく。


 ――虚閃(セロ)!


「縛道の三十九・円閘扇(えんこうせん)!」

 とっさに先輩の居るほうに詠唱破棄の「円閘扇」を組み上げる。
 先輩の体の数メートル直前に円形の盾が出現し、虚閃の閃光を防ぐ。
 が……次第にひび割れ虚閃の撃ち終りと共に砕けて爆散する。
 やっぱ詠唱破棄はまだ無理かっ!

 視界の端に白い手が迫る!
 しま……っ!

「やっぱりお前は無茶苦茶だ。たった二人で大虚(メノス)相手するなんて、頭がおかしいとしか思えん」
「今回は俺も春水に同意だな。あんまり世話を焼かせるなよ……俺の胃の為にもな」

 お前ら空気読みすぎ。
 さすが漫画の原作キャラ!
 白く迫る巨大な大虚の拳を、二対の斬魄刀の刃が受け止める。

 俺は二人の頼もしすぎる後姿。一瞬後に閃き。

「尸魂界へ救援要請! こちら一回生第二区実習生 四楓院 凰壱です! 京楽春水、浮竹十四郎が命令を無視して合流!六回生筆頭一名が現在重症の為、現在三名で『大虚(メノス・グランデ)』と交戦中! 大至急救援を乞う!」
「あぁっ! お前それが助けに来た俺らに言う台詞?!」
「な、何で俺まで……うぅぅ、胃が…」

 報告義務、報告義務。
 それにこいつ等何かカッコよくてムカつくから。
 イケメンズは何かの罰に処されるべき。

「春水は右、十四郎は左な」
「凰壱、お前は?」
「先輩の治療という名目でおっぱ……げふんっげふんっ!」

 おっと、思わず本音が漏れそうになったよ。
 何か二人とも白い目で見てる。やめてっ!そんなに見つめられたら……っ!

「まあ、冗談はともかくとして…治癒術も覚えてるのはこの中で俺だけだろ? 救命処置しないと先輩死んじゃうだろ?」
「うぅん……何か納得いかんが…救命処置(ソレ)が終わったらお前も鬼道で援護しろよ?」
「ええぇぇぇ……」
「殴るぞ」
「あい、すみまてん」

 と言うわけで先輩のおっぱい処置担当になった俺。
 げへっへっへ…奥さん(?)、このメロンはなんですか? 二つもついてて、誘ってるのかい? 熟れてる奴がなぁ!

「おい……浮竹あいつ本当に大丈夫か?」
「ま、まぁ…あいつも口ではああ言ってるが、ま、任された事はきっちりやるさ!な、な?」

 何か気になることを言いながら、春水達が左右に散っていく。
 その動きを見るに、さすが未来の隊長各筆頭と思わざるをえなかった。
 その姿たるや『超絶逸然』という重国のじぃさんの言にもうなずける。

 さて俺は俺で先輩を死なせないように精一杯…

「凰壱ぃ! 避けろッ!!」

 カッ! という閃光がこちらに迫る前にあるものをなぎ払いながら直進してくる。
 あ、死んだかも。
 久しぶりにそう感じたのを最後に、俺の意識は深淵の底へ沈んで行った。






 白い空間。
 向こうに人影が……二人。
 またこの夢か…。二人? 夜一さん(大人バージョン)じゃなかったっけ?
 目の前の白い空間には見覚えのまったくない死神と…あれは……隠密機動の装束?
 例によって二人とも背中から金色の蝶の羽根を広げている。


 ――名を。

 声が聞こえる。前とは違って判別できる声だ。右の死神……の女性が呟いたようだ。

 ――我が名を。

 今度は左の隠密機動の女性だ……。
 そしてこちらに向き直り微笑むと。
 二人同時に。

 ――求めに、答えよ!


 その時一つの名が頭に響いた。

「―――、―――」


 次に気がつくとまたもや病室だった。
 何でもあの後、別の大虚がもう一体現れて共食いの挙句、共倒れしたそうな。
 あの先輩は奇跡的に命に別状はなく、春水や十四郎ともに無事とのことだそうだ。

 そして、いつの間にか斬魄刀の始解が解放されていた。
 むー、なんか劇的な事件とか欲しかった。前世ともにツマラン人生になりそうな予感がしてちょっと泣いた。




 後日、春水達の処分が決まったそうだ。宿舎自室にて一週間の謹慎の後、便所掃除一ヶ月だそうだ。

 計画通り……(ニヤリ)。







 ≪春水≫

 俺は自分の引付が甘かったと後悔した。
 左右に飛んだ俺と浮竹は、大虚を両側に意識を向けさせようと飛び回る。
 せめてあの先輩が動けるくらいに回復するまでは、注意をそらさないと。そう思った俺は、残った大虚の腕を切り落とした。
 それが間違いだった。

 狂ったように吼え叫ぶ大虚。
 そしてあろう事か所かまわず虚閃を撃ってきやがった!
 クソッ! 避けるので手一杯だ!

 と、その時! ようやく治療も軌道に乗ってきたアイツに向って大虚が虚閃の矛先を向けた!
 やばい!

「凰壱ぃ! 避けろッ!!」

 気がつくと力いっぱい叫んでいた。
 と同時に、凰壱に向けて突進する。
 間に合えっ!

「花風紊れて花神啼き……なんだっ!」

 斬魄刀解放を決心したその時、凰壱の周りの空間が膨れ上がり虚閃を一瞬で散らす。
 ばかなっ! あの状態からで、例え防御でも間に合わないはず!

「乱れ舞え、金凰胡蝶(きんおうこちょう)」

 それは紛れもなく凰壱の声だった。
 透き通るような力強い声。その声にふさわしい霊圧が少し離れたこちらにも、ひしひしと伝わってくる。
 何だ……この霊圧は…護廷十三隊にもましてや、隠密機動にも配属されてない、只の院生一回生のレベルを逸脱している。

 底から更に膨大な霊力が膨れ上がる!
 これは、鬼道!? 八十番台か!? そんなもん奴にできるわけが!
 ともあれ、この射線じゃ戦っている浮竹も巻き添えだっ!

「浮竹っ! 下がれ!」
「!!」

 浮竹も異変を感じ取ったのか素早く距離をとる。

「破道の四・白雷(びゃくらい)」

 霊圧が膨れ上がり、かなりの広範囲がまばゆい雷に塗りつぶされていく。
 な、何だこのでたらめな範囲は!

 閃光がしばらくの間視界を白く塗りつぶす。

 ありえない……虚閃を散らす斬魄刀の能力なんて聞いた事ない。
 ありえない……あんな馬鹿でかい範囲の鬼道があるなんて知らない。
 ありえない……しかもそれが只の一桁台の術式なんて、信じられない。

 その一撃が大虚の上半分を吹き飛ばすなんて規格外な威力、ありえるはずがないっ!!

 気がつくと凰壱の周りには無数の金色蝶と、鱗粉が舞い踊っていた。
 そして握られた、黄金に光輝く斬魄刀……。
 それを取り落とすと、凰壱の意識が喪失し、倒れ伏した。

「凰壱っ! 大丈夫か! おいっ!しっかりしろ!」

 浮竹の駆け寄る姿を見ても、俺はまだ凰壱の側に近づく気にはなれなかった。
 四楓院家の血という一言では説明できない……そんな何かがコイツにあるような気がした。

 凰壱…お前は一体……。

 尸魂界からの救援隊が来たのは、そのすぐ後だった。
 上の報告には、もう一体大虚が現れて共食いして去っていったと報告した。
 このことは、まだ俺と浮竹の心にとどめておこう。
 そう思った……。





 後日、俺と浮竹には宿舎自室への謹慎一週間と便所掃除一ヶ月が言い渡された。
 療養中の凰壱にはお咎めなし…畜生…あの野郎。
 次の宴会はアイツに全部金出させてやる、と心に誓う俺だった。






 <今日のよるいちちゃん>

 そのいち 「ふらぐ」

 4がつ3にち はれ

 きょう、くうかくちゃんと、かいえんおにいちゃんがあそびにきました。
 おやしきのにわでおままごとをしました。
 かいえんおにいちゃんが、こどものやく。
 そして、あにうえが(ここにいないけど)おとうさんです。
 そしたらくうかくちゃんが「おかあさんやくはおれがやる」って、いいました。
 でもそれだとあにうえのおよめさんになるので、そんなのいやだっておもってわたしもおかあさんになるっていいました。
 すると、くうかくちゃんが「ふたりでおかあさんやろうよ」っていってくれました。
 それはいいかんがえだとおもいました。
 あにうえのおよめさんにはなりたいけど、おともだちのくうかくちゃんともずっとなかよくしたいからです。

 そしたらかいえんおにいちゃんがしくしくとなきだしてしまいました。
 わたしたちは、きっとおなかがすいてるんだろうとおもって、ふたりでどろだんごをたべさせてあげました。
 そしたらかいえんおにいちゃんは、ぐったりしてうごかなくなりました。
 きっとすごくおいしかったんだなーとおもいました。
 きょうは3にんであそべて、とてもたのしかったです。






[16164] 第四話 「竜巻娘(ぼうそうむすめ)と護衛娘(ストーカー)」
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/17 20:47

  第四話 「竜巻娘(ぼうそうむすめ)と護衛娘(ストーカー)」


 最近視線を感じる。
 ネットリと絡みつくような……それでいて時折寒気すら覚えるほどの殺気がひしひしと伝わってくる。
 それは次第に距離を詰め…そしてあからさまに大胆になってゆく。

「な、なぁ凰壱?殺気じゃない…いや、さっきから後ろをヒタヒタついてくるあれって?」
「言うな。振り向くな。話題に出すな」

 ここ真央霊術院は、六年かけて未来の護廷十三隊、隠密機動、鬼道衆を育てる専門育成機関である。
 ここを卒業した者達は試験を受け、見事その適性を認められたものは、それぞれの部署に配属される事となる。
 つまり振り分けられる以前は、その多種多様な才能を持った若人が一箇所に集い学びあうのである。

 そしてこの春。俺は無事三回生に進級した。
 つまり俺には二回生分の後輩が出来た事になる。
 先輩である我々は、常に後輩の指針として憧れの存在であり続け、後輩はその先輩を超えるため日々切磋琢磨を繰り返す。

 ……ってのは只の建前。
 実際にはろくでもない先輩はいるし、生意気な後輩がいるわけだが…。

「さすがに、俺も限界だぞ(胃痛的な意味で)。相手してやれよ」
「言うな。振り向くな。話題に出すな」

 大事なことなので二回言いました。
 さっきからこのネットリと絡みつく視線を受けているのは紛れもなくこの俺――四楓院 凰壱です。
 しかも、長い廊下の向こう側から、色白な顔を半分だけ出して。
 うはぁ、ニヤッて笑った!
 怖えぇ!!

 ぱっと見はなんら不満のないほどに可愛い娘。
 目鼻立ちは美人の部類に入る、ちょっとキツイ目元も、やや厚めの唇も、場合によっちゃそそられるものがあって……っといかんいかん。
 細身にしては中々の巨乳で、しかし下品な大きさではない。しなやかで細い黒髪は流れるように後ろに三つ編みで束ねられていて、前髪には鳥の羽根をあしらった小さな髪飾りがゆれている。
 そんな、むしゃぶりつきそうなほどの可愛いらしい娘さんであるんだが…あるんだが…。

「はぁ……わかったよ…金糸雀(カナリア)!」
「はっ! 御呼びでしょうか、若様」

 その名前に相応しい、美しく澄んだ声が響く。

 …………。

 そんな、今お呼びによりはせ参じました…って感じで出てこられても…。
 彼女今朝からずっと俺の後方に居たし。
 その様子に無駄な気を使った春水と十四郎が。

「じゃあ、俺はお邪魔なようだから」
「後は若い二人に任せて」
「縛道の一・塞(さい)」

 素早く逃げようとする二人を同時に、鬼道で手足の自由を縛る。

「二人とも紹介するよ……『四楓院』の護衛役を代々やってる家の娘。金糸雀だ。今期の一回生として入学してきたんだ、よろしく頼む」
「まぁ、嫌ですわ若様ったら……未来の妻(フィアンセ)…だなんて」
「誰もそんなこと言ってないよね!?」

 このやりとりで二人も俺とコイツとの微妙な関係を察してくれたようだ。
 ご愁傷様って面がちょっと気に食わないわけだが。

「金糸雀と申します、京楽春水様、浮竹十四郎様。以後お見知りおきを」

 そう言って恭しく頭を下げ礼を尽くす。
 ここからじゃ表情は見えないが、二人の引きつり具合からどんな表情かは大体想像がつく。
 はぁ、なんか原作の夜一さんが砕蜂にどんな感情を抱いていたが、ちょっとは分かる気がする……。


 そう。
 よりにもよって、家の者が護衛によこしたこの娘は……護衛娘(ストーカー)だったのだ。
 そしてこの娘だけで終らないのが俺の俺である由縁だったりもするわけである。



 うん、うれしくないよ。そんな祝福。




 ≪金糸雀≫

 最初の出逢いは神との対峙のそれに等しいものだった。
 はるか上のつり橋を通る己が君主を、伏した姿勢で仰ぎ見る父上にならい、私も伏したまま仰ぎ見る。
 その光景は今もまだなお、鮮明な記憶となって心に焼き付いている。

 美しいと思った。
 きめの細かい肌、短く清潔にまとめられた黒髪。
 流麗な着物と、絢爛豪華な御輿。
 そして何より、ちらりと垣間見えた瞳に私の心は釘付けとなった。
 透き通った栗色の瞳だった。

「金糸雀、あのお方がお前が生涯使えることになる、四楓院家の若殿様だ…お前はあのお方の影となり一生を捧げるのだ」

 それが我々の家の掟だった。私の家は代々影から四楓院家の方々をお護りし、決して姿を見せない。
 そんな使命は私にはもったいないとさえ思えるものだった。
 そのために血もにじむような訓練を受けた。
 必死だった、あのお方にお仕えするためにも、自分の内なる想いを貫くためにも。


 そんな幼少の頃からの訓練が5年続いた春。私は四楓院家に呼ばれた。
 その時の当主様から聞かされた任務内容に正直困惑した。

「当家の次期当主である、凰壱を護衛するために、真央霊術院に入学すること。それが貴殿に任された任務だ」
「は! 恐れながら申し上げてよろしいでしょうか?」
「許す、申せ」
「は! 当家は四楓院家の安全をあくまで影から守る日陰の存在。かような任務であれば、姿をさらしてしまう恐れがありますが?」

 恐れ多くも当主様に向ってこのような口を利いたことに、後悔の念があったが、これは我が家の沽券にかかわる事。
 それに蜂(フォン)家の領分に踏み込むことで、無用ないさかい事は避けたい。

「先の大虚(メノス)遭遇戦事件は、耳に入ってるはずだ。その際に警備面の不備が明らかになったのだ」
「は! しかし真央霊術院は独立法権制度の適用された組織。いかに四大貴族と言えど、生徒以外の部外者の介入は、たとえ御付の護衛であっても許可されていないのでは?」
「だからこそ、貴殿の出番なのだ。幸い君と息子は歳もそんなに離れてはいない。学院側も才能ある生徒ということであれば、むげに断れまい」

 そう言ってにやりと口を釣り上げる当主様。


 そんな経緯があり、私はこの学院へやってきた。


 しかし正直戸惑っていた。
 若様との距離を測りかねていたのだ。
 不用意に近づくわけにもいかず、遠すぎてもダメ。
 そんな距離に四苦八苦しているところに……あのお方の声がかかったのだ。

「君が金糸雀だね? 父上から話は聞いている。今日から護衛という事らしいが…あまり深く考えるな、ここでの生活を楽しめ…これ命令ね!」

 一方的に告げられる待遇。正直、まともに目があわせられなかった。
 胸が激しい鼓動で張り裂けそうだ!
 私はすぐさま床に伏して低頭する。

「も、もったいないお言葉でございます! 若様!」
「い、いやぁ、ね? ほら着物が汚れちゃうから面を上げなって、ね?」

 そう言って私の手をとり体を起こしてくださるその手の暖かさに、身が蕩けそうになった。
 顔が近い。ちょ…顔が熱い。膝ががくがくと震える。
 若様の支えがなければ倒れてしまうほどに足が弛緩してしまっていたのだ。
 なんという体たらく……。私は自分をもう一度鍛えなおさなければならないらしい。
 そうしなければ…私はこの方に……見捨てられ…いや、この方は見捨てはしないだろう。
 あえて自分の責任として罪を被りすらするだろう。
 其れじゃダメだ。私はこの命をもってこの方にお仕えしなければならないのだ。
 その憧れとも崇拝ともいえる気持ちを胸に、この学院での私の生活が始まった。



 それから私は若様の学院生活をサポートするために、あの御方の生活を把握する事から始めた。
 こういうところで、我が家での特訓(はなよめしゅぎょう※本人の願望が強く反え…(ry)の成果が生きてくるわけだ。
 たとえばある一日を例にとってみよう。

 起床時刻前

 まず若様の健康チェックから。
 私は若様の安らかな睡眠を妨害する事ないように、そっと御側に近づく。
 やや寝乱れてはいるものの、清潔感のある布団に特に変わった所はない。異常なし。
 ご尊顔を拝見する。あぁ、可愛い……じゃなくて、いつも凛々しいこの方は寝姿さえもそそられ…こほん、神々しくいらっしゃる。
 おや? 枕の頭一つ分離れた場所に髪の毛を一本発見。髪質から若様の御髪と思われる、『記録』と一致。こちらも異常なし。

「うぅん……まいらぶりー……くふふっ」

 そのとき若様の口からなにやら御言葉が紡がれ、警戒レベルをマックスに。杞憂だったようだ。どうやら只の寝言らしい。
 どんな夢を見ていらっしゃるのか、穏やかな表情だ。恐らく妹君の夜一お嬢様の事だろう…親族を大切にされるこの御方らしい夢だ。
 だが…ちょっと悔しい…。いや! 私は何を考えているんだ! この方は仕えるべき主!私のような(以下省略)。

 自問自答の深みに入りそうな自身の精神を戒める。
 その後若様の脈拍、呼吸回数、肌の肌理などをチェック。特に問題はない。そして……まぁ♪何時も通りス・テ・キ(R-18的な部位) はぁはぁ……おっといかん(ジュルル)。
 そして、御起床なさる前に速やかに退室する。

 食事

 宿舎の食堂の調理場に、調理員に扮し潜入。
 この日のために、四楓院家の料理長に師事して調理を学んでいたため、特に問題はない。
 それに、三角巾とマスクのため顔の大半は隠れている。正体露見の心配はないだろう。

 若様のお越しになるタイミングを見計らい、他の調理物に紛れ込ませるように自分の調理したものを、若様専用に仕立て上げていく。
 あの御方は特別扱いされるのを良しとしない御方なので、なるべく控え目な彩り、盛り付けに偽装する。完璧だ!
 そして若様が取りに来るタイミングを見計らい、直接手渡す。

「はい、おまち!」
「あ、ありがとうございます…」

 やや引きつりながらも受け取り、ご学友の所へ引き返していく。

「な、なぁ…凰壱? それって……」
「何も聞くな。振り返るな。話題にするな」

 どうやらうまくいった様だ。もちろん昼食、夕食共にこの作業は変わらない。
 これであの御方の食事に毒などが盛られる事はない。
 毒見のため私自身が…そ、その…お口に…きゃっ☆
 か、勘違いしないでよね! これはし、仕事なんだから! べ、別にあんたと口移しなんかしたいわけじゃないんだからっ!
 次回はこの台詞で攻めてみよう!
 何でも、若様の日記によれば「つんでれ」というらしい。さすが博識でらっしゃいますぅ!

「なぁ…あの調理員のおばちゃん何くねくねしてるんだ?」
「シッ! 見ちゃいけません!」


 移動

 学舎の移動はより危険であり、これこそが私の領分だと言える。
 私は常に一定の距離を保ちながら、常に危険がないか目を光らせる。
 あぁ、後姿も凛々しくいらっしゃる……はぁはぁ…。
 それにしても……あの、よく御側にいらっしゃるご学友の方二人が邪魔ね…。いっそ亡き者に…
 いや、若様はそんな事望まれないはずだ…いや、でも万が一のことがあっては…痕跡を残さず…ブツブツ。
 そうしているある日、ついに私はあの御方にお呼びの声を頂いた。

「はぁ……わかったよ…金糸雀(カナリア)!」
「はっ! 御呼びでしょうか、若様」

 我ながら完璧な受け答えである。
 常に日陰に拝し、若様の人望をお下げする事のないように、精一杯お仕えせねば!

「じゃあ、俺はお邪魔なようだから」
「後は若い二人に任せて」

 そう言って遠慮するお二人をやんわりと説き伏せ、引き止める若様。
 正直邪魔なのだが、ご学友であれば仕方がない。百万歩くらい譲って、若様と同じ空気を吸う空間に居る事を許可してやろう。我ながら寛大だ。
 そんな私とは比較にならないほどの慈悲深さを持ち合わせる我が主。お二方も素直に従っている。素晴らしい人心掌握術です!※カナリアビジョンによる過度の…(ry

「二人とも紹介するよ……『四楓院』の護衛役を代々やってる家の娘。金糸雀だ。今期の一回生として入学してきたんだ、よろしく頼む」

 そんな……そのような丁寧な御紹介。私は……私は! 感激で胸が打ち震えております!
 私も誠意を持ってお答えせねば!

「まぁ、嫌ですわ……未来の妻(フィアンセ)…だなんて」

 未来の決定事項(未承諾)を思わず口に出す私。まぁ……我ながらダ・イ・タ・ン☆
 妻…むふふっ…妻…。




 <金糸雀 愛の○作劇場 若様と私 第112話 「愛の行き着く先」>

『今日の夕飯は、あなたに始めてお声をかけて頂いた時の…ねえ、あなた覚えていらっしゃいますか?』
『金糸雀、飯なら春水達と食べてきた。前に言っておいたろう?』
『で、でも…一生懸命作ったんですせめて一口…』
『いらない。疲れてるんだ、勘弁してくれ』

 凰壱は並べられている食事の数々を興味もなさそうに一瞥しただけだった。
 すぐにいつもの定位置に座り新聞を広げる。
 そこの夫婦の会話はない。静寂の中にカチャカチャと、食事を片付ける音が虚しく響く。
 金糸雀は溜息をついてその料理の残骸に目を落とす。
 ふと、視線を夫に向ける。何も話さないその姿に違和感を感じ、何気ないそぶりで観察する。
 赤い染み。そういえばさっきすれ違ったときに、かすかに香の匂いがした。

 金糸雀は、内からあふれ出る怒りを徐々に覚えながら、そのシミを睨むように凝視する。

(あの女とは、終ったって…そう言ったのに!)

 明らかに口紅の痕。それが何を意味するのかを雄弁に語っているかのようだった。
 その香りと紅の色に覚えのあった金糸雀は、下唇を噛締めた。

(あなたは…また私を裏切ったのですね…。何度も、何度も……もう…たくさんです)

 金糸雀は震える手をテーブルに伸ばす。
 その手が昔馴染みにもらった、安物の吟醸酒の瓶を手にとる。

(ささやかでも、穏やかな家庭を望んだのに。お酒だって高価なものじゃなくていい。そのために昔は一滴も飲めなかったお酒を飲めるようになったんですよ? そしてあなた様と一緒に食卓を囲めたら、どんな安酒も高級大吟醸に変わるわ)

 金糸雀は震える手で一升瓶を掴むと、そっと凰壱の背後に忍び寄った。
 こんなことするのは、昔以来ね……。

(あなたは私との最後の晩餐すら一緒にとってはくださいませんでした……)

 金糸雀の頬に止め処もなく涙が溢れ、その肌に何度も軌跡を描いていた。

 そして

 何も気づく事のない凰壱の頭頂部に……一升瓶を振り下ろした。

『愛しています……私の若様…』

 深紅の液体が飛沫となって前身に降り注ぎ、その中で金糸雀は何度も振り下ろしていた。

 何度も…

 何度も…。

『お慕いしております…凰壱様…』






 はっ! いけない! つい妄想に耽ってしまっていたわ。
 これでは若様の人望が…失礼のないように接せねば。

「金糸雀と申します、京楽春水様、浮竹十四郎様。以後お見知りおきを」

 そう言って恭しく礼をする。
 ここまで私が頭下げているのです……今後若様を少しでも蔑ろにするようなことがあれば…ワカッテイマスネ?
 口には出さないがそういう念を込めて、二人を見つめた。
 何か震えておいでのようですが…大げさですね…冗談だというのに……今はまだ…ネ。


 こんな具合で若様とは非常にいい信頼関係を築けていると自負している。
 これからもこの気持ちは変わる事はないそう思っていた……。


 そう……あの女さえ居なければね…。





 ≪凰壱≫


「じゃ、じゃあ俺たち次の授業があるんでこれで……」
「せ! ん! ぱぁぁぁぁぁぁいっ!」

 しまった。
 金糸雀に時間をかけすぎた! そのせいで「もう一人」に気づかれてしまったようだ。


 遠くからドップラー効果のように響き渡る声と共に、文字通り飛んでくる娘(こ)が一人。
 やっぱりか……。少々頭を抱える。
 金糸雀のせいでちょっと目立ちすぎたのが悪かったのか?
 何にせよ迫りくる脅威に俺は腰を落として身構える。
 距離…目標補足! 体勢も万全! おっしゃ来いっ!

「せんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぃ、いっ!!」
「ぐぶほぁ!!」
「わ、若様!」

 真横っ!? てかいつ方向変換した?!
 思いもよらない角度から飛んでくるタックルに、なすすべなく吹っ飛ばされゴロゴロと転げて廊下の壁を思いっきり打ち壊す。
 それでも勢いを弱める事のないその衝撃は、暴力的な奔流となって俺の体にダメージを与える。
 ちょ、すびばせん……息が…ぐふう…。




 気がつくと、未だにグリグリ俺の腹に頭をこすり付けている女の子が一人。
 よかった……どうやら気を失っていたのは一瞬だったようだ。

 するとその女の子は藍色の美しい髪を掻き分けて顔を上げる。
 少し幼さが残るものの、充分「美人」の領域に達する目鼻立ち。
 さっきの力強いタックルからは想像も出来ないほど、華奢で発展途上名体つき。
 肩で揃えられたサラサラの髪からは、不覚にもいい香りが。

「先輩! 先輩! せ!ん!ぱ!い! 何で置いてっちゃうの?」

 心外な! ただちょっと聞こえないふりをして通り過ぎただけじゃないか!

「ぶー、ぶー。こんな可愛い後輩が朝からさわやかに透き通るような声で『やぁ』って挨拶してるのに、聞こえない振りして素通り禁止!!」

 言い切るのかよ……ていうか、自分で自分を可愛いとか言うなし。
 ま、まぁ事実といえなくもないが……。
 こうなるのが嫌だから、わざと無視したんですがね!?

 そこへ、また別の気配が膨れ上がりそちらに首を向ける。
 そこには、般若の顔をした金糸雀。

「朽木さん……貴女の様なあまり育ちのお宜しくないクソ女が…我が主にどういった御用向きで?」
「あら? アナタ居たの? 影が薄くて分からなかったわ。さっすが主人をつけ回すしか脳のない根暗女は違いますわねぇ」
「フフフフフッ…#」
「オホホホホホッ…#」

 いやそんな、霊力のぶつかり合いを俺を挟んで繰り広げないで!
 朽木さん! そんなに抱きつき力強めないで! 何かでる! 中身でてしまうぅぅ!

 そして今、万力もかくやという馬鹿力で俺の体を締め付けている、この彼女の名前は――朽木白雪(くちきしらゆき)。
 こうして、毎朝犬のように懐いて(回転タックル)来る竜巻娘(ぼうそうむすめ)です。
 なんでも彼女は、現朽木家当主・朽木銀嶺(くちきぎんれい)の娘らしい。
 金糸雀とは同期で、二人そろってその年の主席入学を果たしているほど優秀である。
 特に白雪は、その有り余る霊力を筋力に変換するという器用なことをやってのけるお嬢さんでもあり、感情の起伏にあわせてその力も上昇するようで…。
 目下俺の命をリアルタイムで脅かす存在でもある。まあ本人100パーセント悪気ないんだがね。

 と言うわけで、「何故か」彼女らに気に入られた俺は、こうやって毎日もみくちゃにされています。
 これが三回生を迎えた俺の日常です。
 どうやら彼女らがここに居る限り……俺に安住の地はないようだ…。


 俺の平和な日常が……日常がぁぁ…。
 そう呟きながら本日二回目のブラックアウトの世界に旅立つのだった。






 
「なぁ、浮竹? 俺たちいつになったらコレ解いてくれんのかな?」
「さぁな…ただ…」
「ただ?」
「このままじゃ、変な誤解を受けるのは確かだな…あぁ…胃が痛い…」

 その様子を見て遠巻きに「受け」だの「攻め」だのをこそこそと話しているのが聞こえたり聞こえなかったりしたそうな。




 ※指摘していただいた箇所を修正しました。ありがとうございました。(2/17 20:53)



[16164] 四楓院 凰壱の日常外伝 「四楓院 よるいちの冒険」
Name: ピロシキちゃん◆d3002b1e ID:ceb043b5
Date: 2010/02/21 00:26



  四楓院 凰壱の日常外伝 「四楓院 よるいちの冒険」



「気をつけていくのですよ……寄り道などせずまっすぐ帰れば夕刻までには間に合うはずです」

 大好きな母上の澄んだ声が、わしの背中を押す。
 気分は今日の青空と同じく晴れ渡っていた。

「はい! おかあさま行って来ます!」

 わしの背中には大好きな兄上へと届ける荷物が、風呂敷に包まって背負われている。
 中身は知らない。でもこれを届ける時の兄上の笑顔を想像すると胸が躍る。

 今日はおつかい。
 兄上の通う「しんおうれいじゅついん」というところに、母上からの届け物をもっていくのだ。
 久しぶりに会う事になる兄上の顔を想像して、また嬉しくなる。
 それ以上に、屋敷の外にでるという冒険に対する期待感が、わしの胸を一杯にする。

「あにうえ…よろこぶかな? ふふふっ」

 兄上とわしは歳が十歳以上離れている。わしと違って白い肌で生まれた。
 前はそのことを気にして泣いたこともあるものじゃが、兄上は「何が違っても俺とお前は間違いなく兄妹だよ」と言ってくれた。
 だからわしも気にしない。
 兄上は今にきっと母上のような美人になると言ってくれた。
 えへへーっ。うれしいなぁ。

「…たしかここをこっちにまがって…いたっ!」

 何かにぶつかって転んじゃった。
 泣かないもん、すりむいてるけど泣かないもん!
 でもちょっと涙が出た。

「あら、大丈夫ですか? まぁ、転んだときにすりむいたのね」

 見上げると綺麗な女の人だった。
 白い着物を黒い着物の上には織ってる。優しそうな表情に、黒くて綺麗な長い髪を前に編んでまとめている。
 おっぱいおおきい…おかあさまとどっちが大きいかな?

「ちょっとまってくださいね」

 そういってわしのすりむいた膝小僧に手を当てる。
 あったかい…。
 そのあったかいのが終ったら、傷が綺麗に消えてた。痛みもなくなってた。

「わぁ! 痛くない痛くない! おばちゃんありがとう!」
「おば……お姉ちゃんって呼んでね?」

 にこにこしてるけど何か怖い。
 怖いからおねえちゃんって呼んだら嬉しそうな顔に戻って頭を撫でてくれた。

「次は転ばないようにね」

 優しいおば…おねえちゃんでした。背中に「四」って書いてあったけど何かな?
 あ! おつかいの続き!
 おもいだして走り出した。







 これがしんおうれいじゅついんっていう学校かーおっきーねー。
 この中で兄上見つけないといけないのか。…できるかな?

「ん? お嬢ちゃんこんな所で何してるんだい?」

 しばらくキョロキョロしていたら門番のお兄さんに呼ばれた。
 何かおっきくて怖い…。

「お父さんかお母さん、何処に居るのかな?」
「うぅ…ううぅぅ…」

 色々聞かれたけど、おかあさまが知らない人とお話しちゃいけないっていうから…でも場所分からないし…。
 うぅぅ…困った。
 そしたらお兄さんは、急に立ち上がって棒みたいに固まって動かなくなった。
 なんか、汗かいてるみたい。大丈夫かな?

 急に後ろから抱え上げられて、ふわっってお空を飛んでるみたいになった。
 気がつくと、おっきいおじいちゃんの肩に乗せられてた。すごいすごーい!

「や、山本総隊長! ご、ご苦労様です!」
「うむ、ご苦労。して? この子は?」
「先ほどそこをうろうろしていたもので…」

 ふむって言っておじいちゃんが白いおひげをなでた。
 ながいなー。触ったら起こられるかな?

「お主、名は?」

 このおじいちゃんはお名前言っても大丈夫かな? 肩に乗せてもらったし、優しそうだし大丈夫だよね?
 おかあさまが人に良くしてもらったら、お行儀よくしなさいって言ってたもん。

「しほーいんよるいちです!」

 挨拶は元気よくって、兄上も言ってたもんね!

「ほう、ほう…。お主があの悪たれ小僧の妹か! ホッホッホ、まったく似ておらんのぅ」
「今日はね、あにうえにおつかいに来たの」
「おつかいか。ようここまでこれたのう…。丁度今小僧は勉強中だからのぅ…どうしたもんか…」

 そっかー。べんきょうちゅうじゃ、兄上じゃましたくないな。
 でも、せっかく兄上に会えると思ったのに…ちょっと残念。

「そうじゃ、終るまで宿舎でまっておるがいい。身内じゃから問題ないだろう」
「あにうえのお部屋! やったー! ひげのおじいちゃんありあとう!」
「ホッホッホッホ! ひげのじいちゃんか! さすが小僧の妹じゃ」

 おじいちゃんは嬉しそうに笑ってました。
 これから連れて行ってくれるそうだ。


 わぁ! 速い速い! おじいちゃんはわしを落とさないように、でももの凄い速さで走ってる。
 今一回転した! わー! おもしろーい!
 おじいちゃんは「サービスじゃ」といって、色々なところに連れて行ってくれた。面白かった!
 宿舎に行く前に最後に行った、「そうきょく」ってところから見た景色は綺麗だった…。
 学校が豆粒みたいにみえてた。





「ほれ、ここが宿舎じゃ。お主の兄の部屋は二階の一番奥じゃ」
「ありがとーございました! また遊んでね、ひげのおじいちゃん!」
「ホッホッホ、機会があればの」

 そういうと、おじいちゃんはしゅっと消えてどこかに行ってしまった。
 速いなー。わしもいつかできるようになるかな?
 色々回ったのでもうお昼過ぎでした。さっきおじいちゃんにお団子もらったからお腹は減ってないけど。
 おかあさまは、兄上の勉強の邪魔したらいけないっていわれてるからなぁ。
 寂しいけど兄上のお部屋におつかいの荷物置いてお手紙残してきました。



 そういえば、帰ろうとしたけど道が分からない…。
 困った。急に不安になって、涙が出てきそうになった…。
 そしたら……。

「ねぇねぇ。お腹痛いの?」
「ふぇ?」

 涙が出そうになったところに、一人の男の子が心配そうに話しかけてきた。
 ボサボサ髪で、眠そうな目。下駄はいてる。
 年下の子みたいなので、泣きそうなのが恥ずかしくて無理やり笑った。

「そんなことないよ? わしはよるいち。あなたは?」
「キスケ!」

 歯の抜けた面白い笑顔で名前を教えてくれた。

「ねぇねぇ、ここから出たいの?」
「みちわかるの?キスケ」
「うん! 抜け道があるんだ!付いて来て」

 そう言ってわしの腕を引っ張っていく。
 草を掻き分け、塀を越え。
 まともな道じゃない所もズンズン進んでいくのを見て、だんだん楽しくてワクワクして来た。

「僕ときどきここに忍び込んでるんだ」
「何のために?」

 そう引っ張られながら聞くと。

「今度秘密基地作るんだ!」
「ひみつきち? なにそれ?」
「うん! 誰にもナイショの場所で、遊んだり宝物隠したりするんだよ」

 ナイショ! 宝物!? もうわしはキスケの話しに夢中になってた。
 キスケはまだナイショって言ってたけど、見晴らしのいいところに基地作るんだって。
 本当は秘密だけど、わしにだけ教えてくれるって言ってた。楽しみ!

「あ、ここさっきおば…おねえちゃんと会った所だ」
「じゃあここから帰り道分かる?」

 これ以上心配されるのも恥ずかしいのでここで言いと言って分かれる。
 キスケはいいやつだ。こんどあったらわしのほうがお姉さんだし、遊んであげよう。

「じゃあ、ここでお別れだね」
「また会えたら今度はヒミツキチ連れてってね!」
「うん!」

 わしとキスケは反対に歩いていって別れた。
 今日はいろんなことがあったなぁ。
 でも……結局兄上には会えなかった…。
 楽しみにしてたのに…会いたかったのに…。
 そう思うと、とぼとぼ歩きながら涙が出そうになった。
 もうわしお姉さんなのに! 泣いたらダメなのに!

「夜一、おかえり」
「あ」

 頭の上からあったかい声が聞こえる。
 見上げると。

「あにうえ!」
「おう! おつかい大変だったな」

 わしは兄上に抱きついて大泣きした。
 兄上は最初慌ててたけど、すぐに優しく抱っこしてくれた。
 やっぱり兄上は優しいな。
 だから、兄上は大好き!







 その後帰り道に、今日あったこといろいろ話した。
 ヒミツキチのことはナイショだけど、キスケにあったことも話した。
 そしたら、キスケと今度一緒に遊ぶときは兄上も呼びなさいって言われたよ。
 なんでだろ? 兄上もキスケとお友達になりたいのかな?

「おのれキスケ! お前の思う通りにはさせんぞ! フハハハハハハッ!!!」

 って兄上が笑ってたけど、どうしたんだろう?
 言ってることは分からないけど、楽しそうだからいいか。
 わしも兄上の真似をして夕日に向って笑うのだった。ふはははははっ!
 こうして、わしのおつかいは無事に終ったのでした。
 めでたしめでたし。






「おーぃ凰壱入るぞ……ってまたいねぇのか…」

 勝手知ったるナントヤラで、凰壱の部屋にずかずかと入る春水の手には、徳利が握られている。
 どうやら酒盛の誘いのようだが……当の部屋の主は居ない。

「ん? 何だコリャ?」

 ふと机の上に置かれた荷物に気づく。
 酒の肴にはむかないものの、綺麗に包装された手付かずの饅頭が置いてあるのを目ざとく見つける。
 その傍らには置手紙らしきもの。

「ん? なになに? 『タベテクダサイ』っか……アイツ気がきくようになったじゃねぇか。今日は浮竹とコイツで茶でも飲むとするか」

 そう言って無造作に箱ごと持ち去る春水には気づかなかった……。
 その置手紙の傍らにもう一つの置手紙があったことに。


『手をつけたらコロス! by凰壱』


 置手紙は人知れず夜風になびいていた。






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